約 1,243 件
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/3919.html
前の回 一覧に戻る 次の回 ゼロの飼い犬3 微熱の唇 Soft-M ■1 「……な〜んか、おかしいと思わない? あの二人」 あたしにとっては退屈でしかない、ミスタ・コルベールによる炎の魔法の講義の最中。 ふたつ前の席に並んで座っているピンク髪と黒髪の二人の後ろ姿を眺めながら、 隣で黙々と授業を受けている友人に小声で聞く。 「……授業中」 話しかけた相手、子供みたいな外見のタバサは、ちらりとあたしの視線の先へ 目を向けてから、すぐに講義を聞くことに興味を戻した。 ホントに生真面目ね、この子なら、授業の内容くらい本で読んでとっくに知ってるでしょうに。 小さく息をつくと、あたしは自分の燃えるような紅い髪を一房、手で摘んで弄ぶ。 タバサの同意は得られなかったけど、あたしはほぼ確信してる。 あの二人……ヴァリエール家の三女にして魔法の才能0なゼロのルイズと、 その使い魔で、平民なのにメイジのギーシュを剣ひとつでやっつけたヒラガサイト。 つい先日までしょっちゅう喧嘩してた二人だけど、恐らく……最近、”何か”あった。 なぜって、ここ2、3日のゼロのルイズってば、妙に血色が良く、ツヤツヤした様子なのだ。 逆にサイトの方は目の下にくまなんて作ってげっそりしてる。 彼に興味がある、この微熱のキュルケにとっては、見逃すわけにはいかない事態。 「(あのルイズが挙動不審な様子で、あたしに話しかけてきた翌日からなのよねー…)」 数日前、ルイズは唐突にあたしがしていたエステの話に乗ってきたんだけど、 どうも何かすれ違いがあるような感じだった。あの二人の様子がおかしくなったのはその日から。 「ここはそろそろ、ツェルプストーの女らしい所を見せないとね」 口の中だけで呟き、頭の中で計画を立てる。 面白くなりそうな予感に、口元が自然と持ち上がるのがわかった。 その日の放課後。あたしは時間を見計らって、使用人宿舎の近くにある水場へ足を運んだ。 この時間、ルイズの使い魔さんがここで干し終わった洗濯物を取り込んでいるのは確認済み。 傾きかけた日差しの下、珍しい黒髪に黒い瞳、それにこれまた変わった上着を着込んだ男の子が、 物干し用のロープからルイズのものらしい服を外している姿が目に入った。 「……ちょっと、いいかしら?」 「ん?」 呼びかけると、彼はあたしを振り向く。 その表情には平民特有の、貴族にへつらい、機嫌を伺う色が見えない。 それでいて、級友の貴族の男子があたしに向ける、見惚れるか……あるいは品定めするような色もない。 やっぱり、この男の子は、今までにあたしの身の回りにいた男とは、何かが違う。 「あ、えーっと……キュルケ。微熱の」 「覚えててくれたのね、嬉しいわ」 「そりゃ、まぁね」 そういったサイトの口元には、苦笑が浮かんでいた。まぁ、あたしが彼と初めて会ったとき、 あたしは彼とそのご主人様のルイズを思うさま嘲笑ったんだから、そんな反応も当然かも。 「で、何の用? ルイズはここにはいないけど」 「用があるのは、あなた」 そう言って彼に近付くと、サイトは洗濯物が入ったかごを抱えたまま一歩後じさる。 「俺に用? どんな?」 「ま、後で良いわ。今はあなたの仕事を先に片づけちゃいましょう。手伝うわ」 ウインクを見せて、ロープにかかっていたルイズのソックスを取り、カゴに入れる。 サイトは「あ、サンキュ」なんて呟いて、腑に落ちない顔をしながらあたしと一緒に残りの洗濯物を片づけ始めた。 ■2 「悪いね、わざわざ運んでまでもらって」 「気にしなくていいのよ、このくらい」 けっこうな重さになった洗濯物カゴを、あたしは『レビテーション』で浮かせて運んであげた。 学生寮のあたしやルイズの部屋がある階まで来た頃には、もうサイトはあたしへの印象が随分良くなった様子。 「それで、結局俺への用事って何なんだ?」 「んー……あたしの部屋で話すわ。入ってくれる?」 そう言って足を止め、ルイズの部屋よりも手前にある、あたしの部屋の戸を開ける。 「あ、だったら、洗濯物をルイズの部屋に置いてから」 「部屋にルイズがいるかもしれないでしょ。そうしたら、また何か言いつけられるかもしれないわ」 そう言って、あたしは魔法で浮かせた洗濯物カゴをさっさと部屋の中に入れてしまう。 サイトは、まぁそれもそうか、といった顔をして、あたしの後ろをついてきた。 洗濯物を机の上に下ろして、あたしはベッドに腰掛ける。サイトは、珍しそうに部屋の中をきょろきょろ見渡していた。 「そんなところに立ってないで、こっちにいらして」 「え? あ、うん」 言われるままに近寄ってきたサイトに、ベッドの、あたしが座っている横を手のひらで軽く叩いて示す。 サイトは、あたしが叩いた所よりも少し距離をとって、浅く腰掛けた。まだちょっと警戒してるのね、可愛い。 「それで、用って……」 「ふう……ちょっと暑いわね」 あたしはサイトの言葉を遮ると、髪をかき上げて後ろに流し、ブラウスのボタンをひとつ外す。 わざと少し小さめのサイズを選んでいるシャツから、胸が今にもこぼれ落ちそうになる。 あたしの横で、ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえた。 さぁ、ここからが微熱のキュルケの本領発揮よ。 「で、俺への用……」 「まだわからないのかしら? ひどい人」 ぐいっ、と上半身を彼の方へ寄せて、その顔をのぞき込む。彼の目には上目遣いの私の顔と、 強調された胸の谷間が映り込んでいるはず。この距離なら、香水の匂いにも間違いなく気付く。 サイトが目を白黒させ、その頬がみるみる赤くなっていくのがわかる。 いわゆるハンサムとは言い難いけど、結構童顔で可愛い顔をしてる。 この男の子が別人のように凛々しくなってギーシュに啖呵を切り、目にも止まらない速さで ゴーレムを次々に切り捨てた姿を思い出し、胸に熱いものが灯った。 上辺だけだったり、過剰に調子に乗ってる貴族の男とは、明らかに異質な人。 彼が、”女”の前ではどんな顔をするのか。どんな声を聞かせてくれるのか、知りたい。 そして、今だったらそれがたやすく可能だという自信が、あたしにはあった。 「キ、キュルケ……?」 「ええ、キュルケよ。あなたが心に火をつけてしまった女」 サイトの首筋から耳の裏に手を回すと、そのまま一気に顔を寄せる。 彼を半ば押し倒すようにして、その唇に唇を重ねた。 「んむっ!? んんーっ!!」 あたしを押しのけようとする彼の体に、ぎゅっと乳房を押しつける。この体を本気で拒絶できる男なんて 今までに一人も知らない。サイトの抵抗は、すぐに形だけのものになった。 「……っは、はぁ、はぁ……」 唇を離すと、すぐ目の前には、当惑が半分、陶酔が半分の色をした瞳。あたしの口付けによって、 彼にも情熱の火種が灯ったことがわかる。 「あなた……あのご主人様に良いようにされて、不満なんでしょう?」 「え……?」 「最近のあなたとルイズの様子を見てて、何となくわかったのよ。男のことが何もわからないルイズに 使い魔にされて、見返りも無しに無茶なことばかり要求されているんでしょう。……可哀想。あたしが、満たしてあげる」 これが、自信の理由。サイトは、使い魔である前に人間の、男性。 そのことが全くわかってないルイズからなら、彼を奪う事なんていとも簡単。 あたしは言葉に詰まっているサイトの唇を、再び奪った。 ■3 唇の間を、舌でつつく。開いて、というジェスチャー。サイトは最初は拒む様子を見せていたけど、 あたしが執拗に舌でくすぐると、少しずつ開いてあたしを受け入れた。 キスっていうのは、相手を憎からず思っているというのが前提だけど、男にとっても女にとっても気持ちが良い。 気持ちが良いというのは、最大の毒であり呪い。すぐに体も心も縛り、逃れられなくする。 胸を押しつけ、首筋を指で撫でると、サイトの体からは目に見えて力が抜けていく。 この様子だと、彼、女を知らないのかな。それはそれで、魅力的。あたしだけの色に染めることができる。 より深く唇を重ね、舌を差し入れるために顔を傾けると――先に、サイトの舌があたしの中に入ってきた。 「んっ……!? んぅっ、ちゅ……」 サイトの舌は、蛇のようにあたしの舌に絡みついてきた。擦るように、撫でるようにあたしの口内が愛撫され、 逆にこちらの体から力が抜けていく。 舌だけじゃない。サイトの指はいつのまにかあたしの顔と背中に回されていて、耳の裏と、背筋までくすぐられる。 嘘、何これ、上手い。ついさっきまで遠慮がちだったのとはまるで別人。どういうこと……!? 応戦しようとして、あたしの方からもサイトの舌に舌を絡ませるけど、それを逆手にとったみたいに サイトはあたしから快楽を引き出す。頭の中がとろんとして、このまま彼に身を任せたいなんて気分になってしまう。 こんなにあからさまに主導権を握られることなんて、滅多にないのに。 あたしとさほど身長が変わらないはずのサイトの体が、やけに大きく、包み込んでくるような気がした。 ∞ ∞ ∞ 「………遅い」 窓の向こうの、山の稜線に沈み始めた夕日を見ながら、わたしは呟く。 放課後、洗濯物を片づけたらすぐ帰ってくるはずのサイトが遅すぎる。 まさか、どこかで食べ物でも漁ってるんじゃないでしょうね。最近はご飯を抜いてもけろりとしてるから、怪しいのよ。 わたしは部屋着の上にマントを羽織ると、部屋を出た。とりあえず、思い当たる所を見て回ろう。 サイトが居そうな所はどこか考えながら廊下を歩いていると、一室のドアが薄く開いていることに気付いた。 そこは、ツェルプストー家のキュルケの部屋。あいつの男性との交友関係と一緒でだらしないわね、と思いつつ、 一応閉めておいてあげようかと近付く。すると――。 「はぁっ、はぁ……んっ……ちゅ、ちゅぐっ、ちゅる……」 「んっ…ふ、くちゅ、ちゅぷ……じゅるっ……」 部屋の中からは、キュルケ一人が出しているとは思えない、よくわからない音が聞こえてきた。 キュルケの事だから、男子を連れ込んでヘンな事してるのかも。 ウンザリした気分になって、ドアをそのままに立ち去ろうとしたとき。 「ぷはっ……は、ぁ……サイト……」 かすかな声だけど、その名前がわたしの耳に飛び込んできた。キュルケのやつ、サイトって言った!? この学園にサイトなんて珍しい名前の人間、わたしの使い魔以外に聞いたことがない。 わたしはぞくりと背筋が寒くなるのを感じながら、咄嗟に扉の隙間から部屋の中をのぞき込んだ。 「――っっ!!」 危うく、大声を上げるところだった。キュルケの部屋のベッドの上では……見紛う筈がない、わたしの使い魔の サイトと、キュルケが重なり合うようになっていたのだから。 ちょっと前までのわたしだったら、そこでカッとなって部屋の中へ飛び込み、サイトを怒鳴りつけただろう。 でも、その時、わたしは……全身が凍りつくような感覚に囚われて、その場に釘付けにされた。 ■4 「はぁっ、ふ……いいわ……じょうず、サイト……んっ!」 サイトは、キュルケにのしかかられるようにされながら、体を触っていた。 足や、背中も触ってたと思う。でもそれだけじゃなくて、耳とか、首とか……むむ、胸とか。 わたしが最近、サイトにさせているマッサージで触らせてるところよりも、もっと色んな場所を。 サイトの手や指が動くたびに、キュルケは体を震わせて、髪を振り乱す。それが気持ちいい時の 反応なんだってことを、わたしはついこの間知った。 それに、それに……キュルケの方も、サイトの体を触っていた。左手は背中に回して……右手は どこにあるのかわからない。胸とか、お腹の方? よくわからないけど、確かなのは、キュルケが手を動かすたびに、サイトの方も体をよじらせ、 息を荒くしているということ。 その光景を目にして、怒るとか、そういうのより先に……気持ち悪い、と思った。 嫌だ。やめて欲しい。そんなことしないで欲しい。止めて。不愉快。 わたしは、心臓がばくばく高鳴っているのに妙に冷えている心を不思議に思いながら、 その、半開きになっていたドアを開け放った。 「……何してるの」 こんな状況で自分の口から出たということが信じられない、冷静な……冷たい声。 さほど動じた様子もなくキュルケはわたしの方に目を向け、サイトはびくっと体を跳ねさせるように 顔をわたしに向けた。 「あっ……あ、ルイズ、これは……!!」 「……は、ぁ……何してるのも無いもんだわ。気遣いまでゼロのルイズ」 慌ててキュルケの体から手を離すサイトとは裏腹に、気だるげに髪をかき上げるだけのキュルケ。 サイトの反応よりも、そのキュルケの目。とろんと潤んでいるのに、わたしへの確かな侮蔑…… 普段わたしを小馬鹿にするときとは明らかに違う、本気の蔑みの色を浮かべた瞳が気になった。 「ひとの使い魔に勝手に手を出さないで。帰るわよ、サイト」 「あ、うん…」 その目を見るのが嫌で、サイトに声をかける。サイトは、もぞもぞと身を動かしてキュルケの下から 出てきた。キュルケは、それを止めようとしない。嫌にあっさりと、サイトの上から身をどかす。 「ルイズ、あなたそれでいいの?」 キュルケは、顔色のわかりにくい褐色の肌にも明らかな上気した頬のまま、わたしにそう言ってきた。 その言葉に疑問が浮かぶ。そんな台詞を言うなら、わたしではなくサイトに対して言うべきなんじゃないのかしら。 「言っておくけど、あたしは完全に無理矢理彼を求めたワケじゃないわよ。 彼の方からも、少なからずあたしを求めてきた。どうしてだと思う?」 「知らないわよ。こいつが犬だからじゃない?」 「違うわ。サイトは、あなたに対して不満があるから。あなたが使い魔の主人として足りていないからよ」 キュルケの言葉が胸に突き刺さる。なにそれ。何をわかった風なこと言ってるの。馬鹿にしないで。 「サイト、これだけは忘れないで。……あなたが満たされずにいて可哀想だと思ったの、本当だから」 わたしがサイトの袖を引っ張って部屋を出て行こうとすると、キュルケはサイトにそう言った。 もう嫌。ここにいたくない。サイトをここにいさせたくない。 開きっぱなしのドアから外に出ると、キュルケに『レビテーション』をかけられたらしい洗濯物カゴが わたしたちの後を追って廊下に飛んできた。「忘れ物よ」なんて言葉と一緒に。 最後まで、嫌な奴だった。 ■5 サイトを引きずるようにして自分の部屋に戻ると、それまで抑えられていた怒りが一気に湧き上がってきた。 サイトが、あの女と。憎きツェルプストー家のキュルケと。その光景が蘇って、頭にカーっと血が上る。 「何考えてんのよ! 犬! ありえない!!」 「ご、ごめん」 「謝るくらいだったら、何であんなことしたのよっ!」 サイトの顔を睨みつける。ばつが悪そうに目を逸らすサイトの唇に、紅いルージュのうつった跡が見えて、 さらにわたしの怒りに油を注ぐ。 「信じられない……! わたしに許可もなく、あんなことっ……!」 何だか、感情が高ぶりすぎて、涙が出そうになってきた。こっちも目を逸らして、文句だけ続ける。 「そこまで言うなら聞くけどさ……なんでお前の許可が必要なの?」 サイトは、うんざりした口調でそう聞いてきた。何その質問。ばっかじゃないの。 「当たり前でしょ! アンタはわたしの使い魔なんだからっ!」 「使い魔が女の子と仲良くしちゃいけないって決まりでもあんの?」 「知らないわよ。わたしが許さないって言ってるんだから駄目なの!」 言い放つと、サイトは諦めたのか、深いため息をついた。そして、もういいや、といった態度でくるりと 踵を返す。 その態度が、とても嫌な感じがした。冷静に考えると、わたしも勢いで酷いことを言った。 サイトにうんざりされても仕方が無いことを。 「あ……ちょっと言い過ぎたわ。別に、アンタが女の子と話そうが構わないけど、キュルケとだけは駄目。 あと、体に触るのもだめ……それ以外ならいいわ」 譲歩の台詞を言ってる最中に、自分で気付いた。わたしは、サイトが”キュルケと”ヘンなことをしていたからと いうより先に、わたし以外の他人の体を触っていたこと、他人に体を触られていたことを不愉快だと思ってたことに。 「あ、そ。ありがとうゴザイマス。寛大なご主人様のお言葉にこのサイトめは感服の至りです、っと」 サイトはもうわたしの方を見ようともせずに、洗濯物を片付け始める。怒っているというより、冷めている様子。 急にサイトが遠くに行ってしまった気がして、辛かった。 不意に、さっきのキュルケの言葉が思い出される。サイトは、わたしに対して不満を持っている。 だからキュルケなんかにほいほいついていくし、わたしを苛立たせることばかりする。 そう考えてみたら……わたしは、サイトに何か報いることをしただろうか。文句をいいつつも 一応はわたしが言いつけた仕事はするようになったし、最近はマッサージまでしてくれるようになったサイトに、 主人として相応のご褒美とか、ねぎらいの言葉をかけていたかしら。 わたしが使い魔の主人として足りない。キュルケはそう言っていた。 そうなの? サイトが使い魔として駄目なんだってばかり決め付けてたけど、わたしにも責任があった……? 急に不安が襲ってきた。もし、そうなら。わたしのせいで、サイトがわたしに従わないんだとしたら。 サイトはまた、キュルケとかの所へ行ってしまうかもしれない。また、さっきみたいなことを……。 嫌だった。理屈じゃない。認めない。許せない。それを考えると、気持ちの悪いモヤモヤが胸の中で 膨らむ。サイトにマッサージされた時のような気持ちのいいモヤモヤとは、全く逆の不快感。 「サイトッ!」 わたしは、深く考えないでサイトに呼びかけた。 「はい?」 「け、剣を買ってあげるわ。あんた、剣士でしょ。自分の身くらい守れるように、剣を持たせてあげる」 唐突な提案に、サイトは目を白黒させた。「そりゃ、ありがと」なんて返事したけど、嬉しいというより 戸惑いの方が大きい感じだった。 わたしも、自分で言った事ながら、何か違うと思った。サイトに剣が必要だと思ってたのは確かだけど、 これじゃ、物で釣ったみたい。使い魔に報いるご主人様の行動としては、二流もいいとこ。 「え、えっと……それだけじゃないわ。サイト、ベッドに横になりなさい。 わ、わわわ、わたしが、その……マッサージしてあげるわ。特別に。感謝しなさいよね!」 ■6 もうひとつ、咄嗟の思いつき。どうしてそんな言葉が出てきたのかといったら、たぶん、さっき キュルケがサイトに触っていたときの、サイトの様子が目に焼き付いていたからだと思う。 サイトは、気持ちよさそうだった。キュルケに触られて。 そりゃ、当たり前ね。わたしがサイトに触られて、あんなに気持ちいいんだから。サイトだって同じはず。 だけど、サイトがあのキュルケに触られて……いや、気持ちよくされてたって事が、気に入らない。 気持ち悪い。許せない。思い出すだけで、胸に嫌なモヤモヤが溜まっていく。 だったら、わたしがしてやるわ。そうしたらわたしに感謝して、わたし以外の女に尻尾振ったりしないでしょ。 「お前が、俺に? 熱でもあんのか?」 「失礼ね、他人の好意は素直に受け取りなさいよ」 わたしはサイトのところにつかつかと近寄る。その唇にまだキュルケのルージュの跡が残っているのを 思い出して、サイトがとり込んできた洗濯物の中からハンカチを一枚掴みとり、サイトの顔にごしごし擦りつける。 「うわっ、何!?」 「口紅で汚れてるのよ、さっさと拭きなさい!」 「わあった、自分でやるから!」 サイトにキュルケの痕跡が残ってるのが、気に入らない。自分でも不思議なくらいムカムカしてる。 完全に口紅の跡を消させたあと、サイトをベッドに俯せにさせた。ちょっと気に入らないけど、床に寝かせるのも 可哀想だし今回は特別に許すことにする。良い主人は使い魔にも寛容なのよ。 サイトはまだ半信半疑な様子で、居心地が悪そうにわたしを見上げている。 「……ルイズの匂いがする」 「嗅がないでよ馬鹿っ! あとそんなこと思っても言わない!」 枕に顔を埋めているサイトが言った言葉に、顔が一気に熱くなる。なんでこういつも一言多いのかしら。 サイトの横まで移動して座り込む。マッサージなんてやったことないけど、あんなに上手だったサイトだって 素人だと言ってたんだし、そんなに難しいものじゃないはずよね。 サイトにされたことを思い出しつつ、ふくらはぎの辺りに手を持って行く。ここら辺では見たことがない生地の ズボンの上から、サイトの足をぎゅっと掴んでみた。 「うひゃひゃひゃひゃ!!」 「なっ、何よ!?」 サイトはぞわぞわと足を震わせて、珍奇な叫び声を上げた。 「くすぐったい! それ、くすぐったいから」 「失礼ね、ちょっとぐらい我慢なさい」 その反応にムッときて、思いっきり力を込めてサイトの足をぎゅうぎゅう押す。サイトは身を縮こませて、 逃げたり吹き出したりするのを我慢している様子。 「何よ、気持ちよくないの?」 「いや、そもそもルイズの力が弱いから、効く以前にくすぐったいだけで…」 サイトはわたしに触られてるのに、本当にあんまり良さそうな感じじゃない。 どうして? サイトがわたしにするのと何が違うの? キュルケに触られてた時は、あんな反応してたくせに……! 悔しくて、いらいらして、わたしは体勢を変えることにした。サイトの両脚を跨いで、足首の脇に膝を下ろす。 そこから、体重をぜんぶ乗せるようにして足を揉んでみる。 「ちょ、ルイズ!?」 「じっとしてなさい! ほら、いいでしょ! 気持ちいいって言いなさい!」 自分でもヤケになってる気がしなくもないけど、必死になってサイトの足に力を込める。こうして触ってみると、 サイトの足って結構筋肉がついてて固い。 サイトがこの格好でわたしにマッサージする時は、本当に乗っかったらわたしの足が壊れちゃうだろうから 跨るだけで腰は浮かせてくれてる。けど、わたしがサイトにするなら、足の上に座り込んでも全然大丈夫。 サイトは普段あんまり体型がわからない服装をしてるけど、やっぱり、わたしとは全然体つきが違う。 それを意識したら、なんだかどきどきしてきた。よく考えたら、この格好って、ものすごく恥ずかしい。 男の人をベッドに横にして、その上に乗っかってるなんて……他人に見られたら、絶対ヘンな誤解される。 ■7 「あの……ルイズ?」 わたしが急に湧き出してきた恥ずかしさに戸惑っていると、サイトがおずおずと話しかけてきた。 「な、なによ?」 「その、もういいや。十分ルイズの気持ちは伝わったから。あんがと。もういいよ」 その言葉に、落胆する。気持ちよくないから、もうやめていいって事じゃないの。 「……わたしじゃダメなの? サイト、良くならないの?」 「いや、もう十分良かったから。満足満足。だからどいて、マジで」 じわっと目頭が熱くなった。何それ。良くないなら良くないってはっきり言いなさいよ。 お世辞まで言って機嫌伺うことないじゃない。 自分が空回りしかしていなかったことに、涙まで零れそうになる。どうして? わたしには何が足りないの? 「なんでよ……なんでダメなのよ!」 「あー、うー、その、つまりだな、大変言いにくいんだが、俺の足にルイズのお尻が……」 …………。 「は?」 「あーもう! お前の尻が俺の足の上に思いっきり乗ってるの! このままだと大変な事になるから さっさとどけって言ってんだよ! 気付け馬鹿!!」 サイトは堰を切ったように一気にまくしたてた。わたしはその言葉で、わたしがサイトの体に触れているという事は、 サイトもわたしに触れていることになるんだという事実に、ようやく気付くことになった。 一気に頭が沸騰する。 「ば、ばかーーっ!! 早く言いなさいよ!!」 「だから遠回しにどけって言ってやったろ! 俺の気遣いを無下にしやがって!」 わたしは跳ねるように立ち上がる。お、おおお、お尻。サイトにお尻を乗っけるどころか、 体重をかけてぐいぐい押しつけるみたいな事までした。頭も体も熱くなりすぎてぐらぐらする。 「ばかっ! ばかっ! ばかっ! いぬっ!」 「痛っ! いたいってば! ってか俺悪くねーだろ!?」 自分でも何をしてるのかわからないまま、足下に寝ころんでるサイトの背中を思うさま蹴りつける。 もう、もう! 何がマッサージよ! こんなやつ、足で十分よ!! 「んくっ!」 わたしがサイトの背中の一カ所にかかとを落としたとき。サイトはそれまでの悲鳴とは、微妙に異なった響きの 声を上げた。その声に、思い当たるところがある。 わたしは少しだけ冷静になると、サイトがその声を上げた場所を、今度はゆっくり、ぐりっと踏みつける。 「うっ…く、はぁ……」 サイトは身をよじらせたあと、ため息に似た深い息をついた。あ、これ。ひょっとして。 「……ひょっとして、気持ちよかった? 蹴られて? 踏まれて?」 恥ずかしさよりも勝る、好奇心。手で触った時には鈍かった反応とは、全然違う。 「よ、良くねぇよ! いいからもうどいてくれ……」 今、慌てた。嘘ついてる。わたしの口元が自然に持ち上がりそうになる。 「嘘ね。良いんでしょ。手でやってもさっぱりだったくせに踏まれたら気持ちよくなるなんて、変態なんじゃないの」 ぐりぐりぐり。さらに力を込めると、サイトは絞り出すような声を上げて身悶えた。 これよこれ。こういう反応が見たかったの。 「ちっ…げぇよ、足でされたからってより、お前の手の力が弱すぎるから、足でやってようやく効いたんだよ。 俺も、小さい頃に父ちゃんに背中に乗ってマッサージするの頼まれたことあるし……」 ふ、ふん。もっともらしい言い訳までしちゃって。でも今、サイトは面白いことを言った。 ■8 「なに? じゃあ、踏むだけじゃなくて乗っかってもいいの?」 「はい?」 思いついてしまったら、もう我慢できない。わたしはサイトの返事を待たずに、サイトの背中を両脚で踏みつけて その上に乗っかった。 「ぐっ……う、あぁ……」 サイトは変な声を漏らしたけど、本気で苦しんでるって感じじゃなかった。むしろ、サイトの言う”効いてる”って風。 「ほ、ほら、どう? いいんじゃないの? いいでしょ?」 「くっ……ふ、んくっ……う……!」 力を込めるたびに小刻みに震えるサイトの背中から落ちないように注意しながら、ちょっと後ろに下がったり また前に戻ったりする。 心臓がばっくんばっくん言ってる。頭の中に霧がかかったみたいになる。よくわかんないけど……楽しい。 わたしがサイトに乗っかって、踏みつけて……それなのに、サイトが”良さそう”になってる事が、嬉しい。 ――わたしの方まで、気持ちいい。 「あ……嘘だろ、これ……やめ、ルイズ、マジでやめて……」 ぎゅっとわたしのベッドの布団を握りしめるサイト。その反応がホントに嫌なわけじゃないってこと、知ってる。 「やめない。やっとサイトが良さそうになったんだもの。やめるわけないでしょ」 腰の方をかかとでぐりぐりすると、サイトは切ない声を上げた。その声。キュルケに触られてた時より良さそうな声。 その声を聞く度に、他人の手垢がついたサイトが綺麗になり、わたしのものに戻っていく気がする。 「あっ、だめ、やばいって、だめ、ほんとにだめ……!!」 「え……え?」 サイトの声に、切羽詰まった色が混じる。身のよじり方も、さっきまでとは違う。本気で、わたしを 振るい落とそうとしている様子。 あ、もしかしたら、気持ちいいのが溜まりすぎて、苦しくなった時の。だったら、尚更止めるわけにはいかない。 だって、それが溢れた時が、一番気持ちいいんだから。 「こ、こらっ! 暴れないでよっ!」 「ルイズこそ動くなっ! こればっかりは本気でマズいから……!」 逃げようとするサイトの上で、バランスをとることができない。後ろに倒れ込みそうになって、 慌てて足の踏み場をずらす。 ずぼっ。 あれ、変な感触。足が沈んだ。咄嗟に確認すると、サイトのお尻のすぐ下、太股の間あたりに つま先が入り込んでしまったらしい。ぎょっとしてその足を引き抜こうとしたら――。 「う……あ、ああぁ……」 サイトはとろけたような、絶望したような、よくわからない声を上げた。サイトの体がびくんびくん跳ねる。 ひょっとして、一番気持ちいいのになった? 足の下でサイトが震えるのを感じながら、期待する。 それから、何十秒かして。ぐったりしてしまったサイトの喉から漏れてきたのは、 「……どいて……」 という、妙に冷えた声だった。さっきまでの懇願とは違う、淡々とした声。 「あ……うん……」 なぜかその静かな声に気圧されて、わたしはサイトの上から降りる。サイトはゆっくりと身を起こすと、 これまた静かな動きでベッドから降りた。 「あ、サイト。そ、その……良かった?」 聞くと、サイトはわたしの方を向き、……笑いかけた。感謝の笑顔とはほど遠い、自嘲みたいな引きつった笑み。 「サ、サイト…?」 なんだか、致命的に悪いことをしてしまった予感がする。それが何なのかはわからないんだけど。 サイトはそのまま、ふらふらと変な歩き方で部屋から出て行った。 どこに行くのか聞きたかったけど、その背中が『何も聞くな』と語っているような気がして、声がかけられなかった。 後に、わたしはこの日の出来事を思い出す度にごろごろ悶え転がることになるのだけれど、それはまた別のお話。 つづく 前の回 一覧に戻る 次の回
https://w.atwiki.jp/fate_overheaven/pages/53.html
アラもう聞いた? 誰から聞いた? メアリーさんのそのウワサ 綺麗な綺麗な女の子 ワンコと一緒の外人さん 午後十一時に現れて 遊びませんかって微笑むの! 悪い大人はにっこにこ メアリーさんの手を引いて アンナコトやコンナコト ホテルに泊まってお楽しみ! だけど朝になったらメアリーさん どこを探しても見つからない なにをしたかも覚えてない メアリーさんがいた証拠 それはたった一つだけ 鏡にルージュの伝言が残ってるって 見滝原ではもっぱらのウワサ! ワタクシザンコクデシテヨッ! 今夜この場で誰よりも幸運だったのは床で転がっている男だ。 そして誰よりも幸福だったのは『彼』と、彼女だ。 ――深夜、見滝原市繁華街のホテルの一室。 床の上に青ざめた顔で横倒しになっているのは、ショウという名前のホストだ。 深夜の公園でぽつりと一人佇む少女を見つけ、声をかけ、ホテルに連れ込んだ顛末については特に語るまい。 彼の目論見は明白であったし、それが果たされずに終わったこともまた明白だからだ。 故に見るべきは、その少女。 浅黒い肌の上にふわりとした白いドレスを纏った、儚げとも、蠱惑的とも呼べる少女。 夜の世界に迷い込んだという風にも見れるし、彼女こそ夜の住人なのだとも思える彼女。 その彼女は今、一頭の犬を背に庇うようにして脅威と対峙していた。 たとえ建前にしろ何にしろ、愛の営みを行うためのホテルには似つかわしくない者だ。 男は時代錯誤な長ぞろい外套を着こなした紳士然とした態度で、にんまりとその顔に厭らしい笑みを浮かべた。 「メアリーさん。ははは、この都市伝説を聞いた時にピーンと来たんだ。 おおかた外国人の家出少女じゃないか? どこにでもある都市伝説だ? ふふふ、とんでもない!」 「……」 少女は答えない。ただ背後で牙を剥き唸る犬を気遣い、ただそれを守ることにだけ意識を集中しているようだった。 男はその見るも哀れな様を小馬鹿にしたように鼻で笑い、袖口から――とても中に収まるとは思えない!――杖を抜く。 こつり、こつり。毛足の短い安物の絨毯を杖で叩きながら、男は転がされたホストを軽く小突いた。 「実は私はある者を探しているんだ。ここだけの話、合衆国に関係ある人々が、高い懸賞金をかけていてね。 ちょっと特殊な能力を持った女の子なんだ。不思議な、そう魔法みたいなことのできる――いやいや、嘘じゃあない」 こつり、こつり。 そうして男が一歩ずつ近づいてくる度、娘の背後に控えていた犬の唸り声が低くなる。 それは明確な敵意の表明――いや、そもそもからしてこの男の全身から匂い立つ、殺意への反応なのだろう。 鬱陶しげに顔をしかめた男は、わざとらしく目を見開いて言った。 「ほう、シベリアンハスキーか。茶色の毛並みとは珍しい」 「……っ」 わずかに娘の表情が強張ったのを、男は見逃さなかった。 見ればむしゃぶりつきたくなるような、瑞々しい果実を思わせるような容貌である。 ふわりと薫る甘い匂いは、緊張から滲んだ汗のそれだろう。 男は自身の内側で、むくむくと欲望が隆起する感触に気がついた。 「名前はスミレ、と聞いていた……」 そしてそれに抗おうかと一瞬考え――……すぐにそれを投げ捨てる。 「――そういえば、君の髪や瞳は綺麗なスミレ色だねぇ」 「ダメです、お待ちください……っ!」 その時、男の言葉を理解したかのように、一声吠えて犬が床を蹴って跳び上がった。 太い手足は男を簡単に組み伏せるだろう。 鋭利な牙は男の手足を縫い止めるだろう。 鋭い牙は容易く男の喉笛を引き裂くだろう。 人と獣の力の差は明白だ。人は獣に勝てない。 ――だが、それは男がただの人であればの話だ。 「あぁ……ッ!!」 「しつけのなっていないケダモノめ……! 主の質もこれではしれたものだ!」 娘の悲鳴が寝室に響き、ギャンという動物の鳴き声が上がる。 男の振るったステッキから不可視の力場が放たれ、哀れな犬を致命的なまでに打ちのめしたのだ。 念動力! すなわちサイコキネシス!! 意思だけで見えざる力を生み出し物体を操作するという超能力ッ! 数十年の修行を積んだインドの修験者の中には、ヒマラヤを転がり落ちる巨石すら止められる者がいるという! 犬は天上に叩きつけられて骨と内臓の砕かれる音を立てた後、ゴミを投げ捨てるように壁へ放られる。 安っぽいホテルの壁に当たった犬はそのまま床へ落ち、ボロ布のような有様で身動き一つすらしていない。 ――疑いようの余地なく死んだ。生命活動が停止したのだ! 「獣をしつけるにはこうするのが一番だ。なに、お前も素直に言うことを聞くのならば可愛がって――――……」 ――――その時、男は気づくべきだったのだ。 娘の瞳が、今まさに襲いかかろうとする自分ではなく、ただまっすぐに床へ落ちた犬を見つめていることに。 そしてその犬に起こった現象に。 わずかに聞こえた異様な唸り声に! 明らかに死んだはずだった。内臓はぐちゃぐちゃに潰されたはずだ。 だが生きている! 呼吸もしている! 青く変色した体毛を逆立てながら、犬がゆっくりと立ち上がる。 いや! 「それ」はもはや犬とは呼べまい! 瞳孔散大! 平滑筋弛緩! 細胞組織が変化! 皮膚は特殊なプロテクターに変わり、筋肉・骨格・腱に宿るのは強力なパワーッ! 額には赤い瞳の如き触角が輝き、金色の目は射抜くように男を睨むッ! バ ル ッ これがッ l| l| ll ll ll ll ll ll ll ll ll ll ll ″ " ,〃 ゞ’ ,〃 こ れ が ッ _ _ | || | | \ _| _|| _| | \ _ | | | | | | | | _ _ / | | | ./ | | レ'i | _|| _| |\ 《 __| |_j / _/ 《__/ / |  ̄ ̄ / /  ̄ こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ ! ! ・ ・ ・ .・ ・ ・ .・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ そ い つ に 触 れ る こ と は 死 を 意 味 す る ッ ! ! rー-- / / / / __,、 / / ャ――z / 廴丿  ̄ ̄ ̄> / / / -≠ミ ζ lー ''''" ̄ ̄"  ̄ ̄`'、 / / / / ∠,,、 -z ,r――― ''" ¨´ ./ / 、 '"´,、ィ / ./ / 、 '" ,、 '" ツ / |^l r<  ̄ ̄ ̄7 ´ ̄ 、-' ,、 '´ / / /'''',,,," 彡 | / | ,、 '´ / / `゙^ _,| │ |^l | / l ̄7 '´ / /l/ .,/,_ | ;‐i /'''',,,," 彡 | / ./ / // l_,'" | .| lニ ニl ;‐i `゙^ _,| │ | / ./ / l_,l゙ .〈/!_| lニ ニl .,/,_ | | ムイ / 〈/!_| l_,'" | .| | l {_,l゙ . | ィニ7 〉 l>'"´ .|L_ソ 「!? 第48の男ッ!!」 「御意ッ!!」 この異常事態に対して、男はもちうる手段の中でもっとも的確なものを選択した。 男は賢明だった。愚かではなかった。この奇妙な状況を冷静に判断したのだ。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ これはヤバイ――俺以外のヤツをぶつけるべきだ。 男の声に応じて、その傍らに立つパワーあるヴィジョンが生み出される。 影が滲むようにして現れたそれは、紛うことなき鎧武者であり、ゆらりと下げた刀を即座に振りかぶる。 その姿を頼もしげに眺めながら、男は己の杖を振り回して声高に叫んだ。 「第48の男! 優れた鍛冶師が魂を込めて鍛え上げた武具には、念が宿り、力あるヴィジョンを作り出す! 数ヶ月前に東北である組織の研究所が崩壊した! こいつはそこから私が拾い上げたものだ! 人間のベテラン兵士ですら現役で戦える期間は二十年から三十年程度! しかし第48の男の戦歴は数百年! 殺した数も2500人はくだらん! 命を持たぬが故にいかなる攻撃も無意味! 高度な知性に加え、殺すことをためらわない残忍な性格! ちょっとでも気を抜けば私だとて危ういが――――しかし頼もしいヤツよ!」 男たちには、目前でバイクのエンジン音が如き唸りを上げる「それ」が何であるかなど理解できなかったろう。 秘密結社ドレスに所属する天才科学者が作り出した生物兵器。 動物は危険が迫ったりケガなどをすると、副腎髄質という内蔵器からアドレナリンという物質を分泌し、体を緊張させる。 このアドレナリン量を感知し、脳に寄生する「バオー」は宿主を生命の危険から守るべく無敵の肉体に変身させたのだ。 それこそが地球上で最も生命力のある究極の生物「バオー」であるなどとは、男にはわかるわけもない。 そしてそれは「バオー」にとっても同じだった。 「バオー」には男たちが何者であるかなど関係なかった。 ただ生きるために戦う「バオー」には、視覚も聴覚も嗅覚も意味がない。 額の触角が「バオー」の全ての感覚を担うのだ。 バオーは男たちの発する危険な「におい」を額の触角で感じ……その「におい」が大嫌いだった。 恐怖の「におい」! 憎しみの「におい」! 殺意の「におい」! 敵の「におい」だ! バオーは思った! こいつらの「におい」を消してやるッ!! 「ウオオォオオォオムッ!!」 「怪物め……ッ!!」 吐き捨てるようにおめいて刀を振りかぶる第48の男の目前で、バオーは跳躍した。 第48の男はすばやくその動きに応じて刃の軌跡を宙に描く。 鎌倉時代に鍛えられた無銘の業物。退魔の剣。第48の男が頼みとする、唯一無二の武具! これにて討ち果たせぬ怪物はいない。第48の男は心からそう確信していた。 だが! 「な……ッ!?」 バオーの四肢から伸びたきらめく光刃が、その刃をすぱりと切断し、ナンバー48の篭手を切り落とす! ――――バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン! それはバオーの力によって皮膚を硬質化し、刃に再構成する武装現象(アームド・フェノメノン)! 硬質化して刃と化した皮膚の表面では、サメの牙の如く生え揃った微小な棘が高速で動き回っている。 光の乱反射を伴うその切れ味はダイアモンドカッター以上! 自分の失われた腕を、刀を、第48の男は信じられない思いで見つめる。 たとえどんな剣豪や英傑であろうとも無視できない、その一瞬の驚愕。 それが致命的だった。 次の瞬間、第48の男の視界一杯に、バオーの大きく開いた顎が迫っていた! 「バルバルバルバルバルバルバルバルゥッ!!!!」 「がッ!?」 第48の男の頭は何百年も及ぶ戦いの中で幾度となく刀で、槍で、銃で! 攻撃されて尚健在! 鍛え抜かれた鋼鉄のその体は、およそ獣の牙など文字通り歯が立たないものである。 にも関わらず音もなく第48の男の兜は噛みちぎられ――いや! いや、これは違うっ! 牙や唾液によって溶解され、そのままに断ち切られたのだ! ――――バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン! 体液を強酸性のものに変化させて分泌、体外へと放射する武装現象! バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノンと組み合わせれば、この世のあらゆる物を切断する! 頭部を失った第48の男の甲冑が、影が光へ溶けるように消えていく。 「ドッゲエーッ!? 第48の男ォッ!?」 だが男は一声大声で喚いたかと思うと、それ以上感傷に浸ることなく脱出行動を開始していた。 ホテルの一室。選択肢は二つ。窓かドアか。窓ははめ殺し。ドアだ。 男は自らの念動力を身にまとって身体強化を施しながら、脱兎のごとくドアに向けて走り出した。 あの怪物は戦闘直後で即座に反応はできまい。後はあの小娘以上の速度を出せれば生存は確定する。 この場を切り抜けさえすれば、後はどうとでもなるのだ。戦力を整え体勢を立て直しての逆襲。あるいは見滝原からの逃走。 「申し訳ありません。……ここで果てていただかないと、困るのです」 だが、男の喉にするりと腕が絡みついた。ぎくりと体が強張る。 耳をくすぐる甘やかな声。振り返ってはいけない。鼻に薫る甘やかな香り。振り返ってはいけない。 だが、男の意思に反して首が巡る、体が動く。わずかに眉を下げた、幼ささえ感じる少女の顔。スミレ色の瞳。 そして僅かな隙間からちろりと舌が覗き、軽く唇を舐め、そして――口吻。 その瞬間、男の全身を文字通りの意味で絶頂的な快楽が貫いた。 「お、ああ、、あ、あ、あ、あ、、あああ、あ、あ、、あ、あ!?」 男は意味不明な言葉を喉から絞り出しながら、全身からありとあらゆる体液を吹き出し、病的な痙攣を繰り返し崩れ落ちる。 病的な体の震えは男の四肢を捻じ曲げ、引きつったように動かし、男の体を床の上でのたうち回らせた。 それはまさに死の舞踏(ダンス・マカブル)。 やがて男の肉体はじゅうじゅうと煙を上げながら腐敗し、ドロドロに融け、やがて床の上の黒いシミへと成り果てた。 「ご無事ですか……! 良かった……」 少女はそう言って、腐食性の黒いシミが広がる床を物ともせずに跪き、バオーへと頭を垂れた。 いや、青い毛並みは元の茶色へと戻りはじめているから、それはもうバオーではない、『彼』だ。 先ほど内臓を叩き潰されたはずなのにも関わらず、もうそのような痕跡は一つもない。 精悍な顔つきこそ変わらぬものの、そこにいるのはもはやただのシベリアンハスキーだった。 「どうやらサーヴァントやマスター、ではなかったようですね。 NPCというのでしょうか。……奇妙な存在が多いのは、今に始まった事ではありませんけれど」 少女は自らの指にはめた銀の指輪をそっと撫でてそう呟き、次いで物憂げに眉を下げた。 それは親に怒られて家の外に放り出される事を恐れる、今にも泣き出しそうな子供のような顔であった。 「マスター……。申し訳ありません。これではどちらがマスターでサーヴァントなのか、わかりませんね」 ジール……いや、アサシンの英霊ハサン・サッバーハは、そう言いながら恐る恐る『彼』へ手を伸ばした。 『彼』はためらうことなく鼻面を押し付け、頬を擦りつけ、ばかりか躊躇うことなくその手を舌で舐めたではないか。 毒の手。触れることは死を意味するその手。しかしバオーと『彼』は彼女の「におい」が好きだった。 なんて悲しい「におい」だろう! なんて優しい「におい」だろう! それはバオーとその宿主である『彼』が、あの冷たい研究所で常に感じていたものだった。 そして『彼』とバオーには終ぞ与えられることのなかった、心地のよい温もりだった。 「ああ……っ」 アサシンの顔が陶然と緩み、その瞳が情愛の涙で潤む。 他の者が見たら嘲るだろうか。犬畜生に媚を売っているなどと指差すだろうか。 初代様がこんな浅ましい自分を見たらどう思われるだろう。きっと首を差し出さねばなるまい。 ――――そう、この一頭のシベリアンハスキーこそが、サーヴァントとして召喚された彼女のマスターだった。 出会ったのは霊地でも何でもない、薄暗い路地裏。 恐らくは巻き込まれた者に召喚されたのだろう。聖杯から与えられた知識は彼女にそう囁きかける。 だがそれでも構わなかった。 アサシン、暗殺者たる彼女は神と主君に忠実にあり、そのためにこそ振るわれる刃であるべきだから。 跪いて頭を垂れ、口上を述べることにいささかの躊躇もなかった。 懸念はただ一つ。近くに人の気配が一切感じられないことだった。 そしてだからこそ、その違和感こそが幸運だったと言っても良い。 「――――? あ……っ!?」 不意うつように、彼女の頬を何かが舐めたのだ。 それは薄汚れた一頭の犬で、不覚を取ったこと以上に彼女の心は千々に乱れた。 彼女は自分がどれほどの「毒」であるのかを理解している。 一瞬後にはこの犬が内臓から何から腐り果て、死んでしまう姿がありありと思い描けた。 だが、そうはならなかった。 そうはならず、『彼』は彼女と共に在る。 契約によって繋がった魔力のラインも、そこを通じて流れ込む『彼』の気持ちも。 全てが『彼』こそが自分のマスターであると示していた。 これは奇跡のような出会いだ。 恐らく何千、何万回、英霊として顕現しようとも、掴み取れる機会は数えるほどしか無いだろう。 他の霊基でどのような巡り合わせがあるにせよ、今この場にいる彼女は、まさに運命に出会ったのだ。 それに比べれば、たかだか異形に転じてサーヴァントとも互角に戦えることが何だというのだろう。 静謐のハサンと呼ばれる彼女にとって、そんなことは些事に過ぎなかった。 「……では、マスター。今日はもう休みましょう。 戦闘に感づいたものがいたとしても、我々はすぐに移動したと考えるはず。とどまっていた方が安全です。 それで、その……」 少女はその浅黒い肌をわずかに羞恥から紅潮させながら、手を自分の首筋へ伸ばし、服の紐をするりと解いた。 白い衣装は音もなく彼女の足元へと落ちて蹲り、一糸まとわぬ彼女の――柔らかで美しい稜線が露わになる。 「よろしければ、今夜も褥を共にしては頂けませんか……?」 『彼』は一声吠えて、そこが自分の居場所であるとでも言うようにベッドへ上がって丸くなった。 その姿を認めた彼女は、そっと頬を緩めて寝台に上がり、『彼』の傍らへと身を侍らせる。 それは最愛の伴侶を見出した牝の顔でもあり、同時に大好きな犬を抱きしめて眠る少女の顔でもあった。 今夜この場で誰よりも幸福だったのは『彼』と、彼女だった。 ――――そして何にせよ、今夜この場で誰よりも幸運だったのは床で転がっているホストだ。 夢と現の区別もつかず、財布の中身も抜き取られ、散々な一晩だったと考えるのだろう。 きっと自分が生きていることがありえないような状況にあったなんて、思いもよらないだろう。 『彼』と彼女に触れることは死を意味するというのに、生きていることがどれほど幸運かなんてわからないだろう。 ショウという名前のホストは朝起きて、鏡を見て、その時に気づくのだ。 鏡に描かれたルージュの伝言に。 『 The Visitor for "Over the Heaven"!』 【クラス名】アサシン 【真名】静謐のハサン@Fate/Grand Order 【性別】女 【属性】秩序・悪 【パラメータ】筋力D 耐久D 敏捷A+ 魔力C 幸運A 宝具C 【クラス別スキル】 気配遮断:A+ サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。 完全に気配を絶てば発見する事は不可能に近い。 ただし、自らが攻撃行動に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。 単独行動:A マスターからの魔力供給を絶ってもしばらくは自立できる能力。 ランクAならば、マスターを失っても一週間は現界可能。 【保有スキル】 変化(潜入):C 文字通りに変身する能力。自在に姿を変え、暗殺すべき対象に接近する事が可能になる。 ただし、変身できるのは自分と似た背格好の人物のみ。 この条件さえ満たしていれば、特定の人物そっくりに変身する事も可能。 多少の体型の違いであれば条件に影響はないため、異性への変身も可能である。 投擲(毒の刃):C++ 短刀を弾丸として放つ能力。 毒ステータスを対象に付与するという付帯効果を持つ。 楽園への扉:B+ 魔性の美貌と毒により異性・同性を問わず惹きつける。 ランクBではほぼ対象の意思を無視して精神を支配する。 毒による効果が伴うため、対魔力スキルでは抵抗できない。 【宝具】 『妄想毒身(ザバーニーヤ)』 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人 猛毒の塊と言えるアサシンの肉体そのもの。触れるすべてを毒殺し続けた彼女の在り方が宝具化したもの。 爪、肌、体液、吐息さえも“死”で構成されており、全身が宝具と化している。またあらゆる毒を無効化する。 宝具ではない武装であれば、瞬時に腐蝕させることも可能。武装を腐食させるかどうかは任意に決定できる。 しかし生物に対しては「加減」することができないため、触れた相手を必ず殺してしまう。 この毒は幻創種すら殺害するほどの威力であり、特に粘膜の毒は強力。 人間であればどれほどの者でも接吻だけで死亡し、英霊であっても二度も接吻を受ければ同じ末路になる。 二度の接吻に耐えたとしても、合計三度の粘膜接触で大抵の存在は絶命する――例外も存在するが。 これは自分の意志では完全に制御することは出来ず、触れた者に無差別に作用してしまう。 さらに犠牲者の体にまで毒は残留し、遺体に触れた者にも被害が及ぶ。 『静寂の舞踏』 宝具『妄想毒身』を用いた範囲攻撃。 静謐のハサンの踊りは毒を振りまき、対象を弱らせ、宝具の効果を確実なものとする。 汗を揮発させることで密室に毒を充満させたり、風に毒を乗せて万軍をを葬り去るなども可能。 ただし範囲が拡大される反面、毒の強度という意味では粘膜接触には劣ってしまう。 一度きりの奥の手として、至近距離で自身の肉体を四散させて大量の毒を浴びせるという隠し技も持っている。 【Weapon】 『ダーク』 投擲用に調整された黒灰白三色の短剣。 宝具ではなく補充ができないため、戦闘の度に回収が必要。 【人物背景】 髑髏の仮面を被った、瑞々しくしなやかな容姿の少女。 暗殺教団の教主「山の翁」を務めた歴代ハサン・サッバーハの一人。 伝説上の存在「毒の娘」を暗殺教団が再現し、暗殺の道具、兵器として作り上げたもの。 彼女の肉体は毒の塊であり、爪はおろか肌や体液さえをも猛毒へと変化させている。 その美貌を活かして異性を誘惑、理性を失わせ、褥に誘っては毒で暗殺するという手法を最も得意とする。 しかし誰とも触れ合うことができない孤独感は生前から彼女を苛み、その精神を軋ませていた。 直接戦闘は得意ではなく、純粋な暗殺者として優れた力量を発揮する。 そのため現在は「ジール」を名乗り、主の寝床を確保するためホテルを転々としている。 幸いなことに主が殺戮を忌避することから粘膜接触は避け、誘惑された人々は昏倒で済んでいるようだ。 バオー犬は触れても死なないため、彼こそが自身の望んでいた相手だと認識している。 その感情は依存、服従、忠誠、恋慕の全てが入り混じったうえで、その全てを凌駕するもの。 【聖杯にかける願い】 主に全てを捧げ、願わくば共に生きる。 【マスター名】バオー犬 【出典】バオー 来訪者 【性別】オス 【能力・技能】 シベリアンハスキー ツンドラ地帯を原産とする大型犬。 多くは白黒の毛だが、この個体は茶白である。 一般的に強靭な体力・持久力を持ち、知能も高い犬種とされている。 自ら威嚇することのほとんどない穏やかな犬種だが、頑固で意思が強い。 一度共同体とみなした仲間を守るためなら勇敢に立ち向かう。 寄生虫バオー 秘密結社ドレスが作り出した生物兵器B.A.O.H。 極限の環境に晒し、適応した動物を交配させる「人工進化」によって誕生した「新生物」。 血管を通じて脳に寄生し、宿主は寄生から数日ほどでバオーの分泌液で皮膚がただれ始める。 バオーは宿主へ恐ろしいほどの再生能力を与え、脳を完全に破壊しない限り宿主は消して死なない。 この再生力は分泌液に由来し、バオーと宿主の意思が一致したなら、飲んだ者の致命傷すら癒やす薬となる。 レーザーや火炎放射などの高熱が弱点であるとされるが、それに対してすら異様な耐久性を発揮する。 また水中などで肺呼吸が完全に遮断されると仮死状態となり、この間は老化も一切進むことがない。 そしてバオーは生物として常に学習・成長・進化を続けており、その終着点は未だ誰も知らない。 武装現象(アームド・フェノメノン) 危険に晒されたバオーが、分泌液によって宿主を瞬時に戦闘形態へと変態(メタモルフォーゼ)させる現象。 宿主は身体能力の大幅な増強をはじめ完全に変化して、地上で最も生命力のある生物へ変貌を遂げる。 これがッ! これがッ! これが『バオー』だッ!! 発現時には全身の体毛が青く変化して逆立ち、額には第三の目を思わせる赤い触角が発生する。 武装現象発現中はこの触角で全感覚を賄うため、通常の五感はバオーにとって無意味なものとなる。 バオーは触角で「におい」を察知して行動し、特に邪悪な「におい」すなわち自身への殺意の「におい」を最も嫌う。 この「におい」を察知すると、バオーは即座にこれを排除すべく行動を開始する。 主に宿主と自身を守るために発現し、発現中はバオーが肉体の制御権を得るが、宿主の意思を尊重することもある。 そのため宿主の意思での発現も可能だが、基本的にバオーは生物としては穏やかであり、無意味な殺戮を行うことはない。 バオーを完全に宿主の制御下へおくためには、宿主の理性とバオーの本能が一致しなければならない。 また武装現象発現中、バオーは「バル!」「バルバルバルバル!!」「ウォォォ――ム!!」など異様な咆哮を轟かせる。 《バオー・アームド・フェノメノン》 バオーが最初に発現させる第一の武装能力。 痛覚を遮断、瞳孔散大、平滑筋弛緩、細胞組織が変化。 皮膚は特殊なプロテクターに変わり、筋肉・骨格・腱には強力なパワーが宿る。 加えて以下の武装現象を自在に発現させ、使いこなせるようになる。 《バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン》 体外に排出されると強力な溶解液へと変わる分泌液を放射し、標的の肉体や金属などを融かす武装現象。 噴射の際に自身の体組織も溶解させるが、同時に新たな皮膚を生成・再生するため、事実上のダメージはない。 またこの溶解液と前述の再生能力を組み合わせ、「生きた生物の中に潜り込んで身を隠す」なども可能とする。 《バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノン》 皮膚組織を再構築し、硬質化させて刃物状にする武装現象。 刀身の表面でサメの歯のような極小のトゲが高速で動き回り、光の乱反射を起こしつつ標的を切断する。 柱の男たちが振るう光の流法「輝彩滑刀」と同質のものであるとされる。 切り離して発射することで、飛び道具としても使用可能。 《バオー・シューティングビースス・スティンガー・フェノメノン》 体毛を硬質化して射出する武装現象。 この体毛は体温の伝導などで一定温度に達すると発火し、突き刺さった標的を焼き尽くす。 発火自体も脅威的だが、体毛の鋭さも凄まじいものがある。 《バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン》 体細胞から発生される生体電気を直列にして放出、放電する武装現象。 デンキウナギと同様の原理だが、バオーの筋肉細胞は一つ一つが強力なために60,000ボルトの高圧電流となる。 直接放電する以外にも機械などへ電力供給を行うことも可能。 【人物背景】 研究機関ドレスの実験体としてバオーを寄生させられた茶毛のシベリアンハスキー。 既に寄生から一ヶ月が経過しており、バオーとしての完成度は高い。体毛で隠された肉体はただれている。 秘密結社ドレスでは出資者へのデモンストレーションに用いられ、改造を施された虎との戦闘を強制された。 頭部を砕かれた直後に武装現象を発現、一瞬の内に虎を葬り去り、出資者へバオーの恐ろしさを見せつけた。 しかしバオーの殺害方法を説明するためにレーザー照射で脳を破壊され、焼却処分されてしまった。 施設から脱走することができたのか、処分寸前にソウルジェムを手にしたのか……。 そしてマスターがこの犬なのか、それとも寄生しているバオーなのかすらさだかではない。 【聖杯にかける願い】 生きる この少女を守る 見滝原に満ちる「嫌なにおい」を消してやる 【ソウルジェム】 透き通った青の中に赤が滲むもの。 指輪型でバオー犬が所持できないため、普段はアサシンが管理している。 首輪を手に入れることができらバオー犬に持たせられるかもしれない。 【方針】 専守防衛 無害な「大型犬を伴った少女」を装って見滝原を探索し、襲撃者を排除する 主にC3公園からB3-4駅付近のホテル、あるいはC6繁華街のホテルを転々とする 男を誘って昏倒させる都市伝説『メアリーさん』の噂は広がっているかもしれない 【把握資料】 アサシン(静謐のハサン) 『Fate/Grand Order』および『Fate/prototype 蒼銀のフラグメンツ』 本編中のマテリアルなどを参照のこと。 バオー犬 『バオー 来訪者』文庫版およびOVA版 バオー犬は序盤に登場、バオーの説明をするためのデモンストレーションで殺処分となった。 バオーそれ自体の戦闘能力は、本編主人公「橋沢育朗」のものに準拠する。 原作コミックスでは「バオーは寄生から一定期間で成体となり、宿主を食い破る」設定があるが、 OVA版ではカットされているため、このバオー犬についても同様に時間制限は無いものとする。 .
https://w.atwiki.jp/moedra/pages/225.html
「何?もうあの雌火竜を手懐けたと申すのか!?」 翌朝僕の報告を聞いた時の王女の喜びようは、とても言葉では言い表せないものがあった。 「はい・・・ですが彼女・・・レイアとの信頼をより深めるには、あの口輪をも外してやる必要があります」 「なんじゃと?ならん!それはならんぞ!万が一にもまた暴れられてはかなわぬからな」 「で、ですが・・・」 だが王女は言いかけた僕の言葉を手で制すると、椅子からピョコンと飛び降りていた。 「くどいぞ。前の雄火竜などは口輪をつけなかったせいで取り押さえられず、結局死なせてしまったではないか」 確かに僕がこの王宮で職についた直後、今のように頑丈ではない庭園の小屋で小柄なリオレウスが飼われていたのが記憶に残っている。 だが小柄とはいえ流石は飛竜の王というべきか、甲高い咆哮を上げながら小屋を破壊し辺りを飛び回る雄火竜に手を焼き、結局数人のハンター達を雇って討伐したという事件があった。 それなら最初から飛竜など飼わなければいいだろうという声が聞こえてきそうだが、その点については王女はなんら見直すつもりはないらしい。 「しかし・・・雄よりも気が荒いと言われる雌火竜をこうも容易く手懐けるとは、そなた一体何をしたのだ?」 「僕はただ・・・レイアに餌をやり、鎖を外してやっただけです」 「ふん・・・それで口輪も外してやろうと考えたのか?まあいい・・・わらわはレイアの様子を見に行くぞ」 王女はそう言うと、王や第二王子の心配そうな眼差しを振り切って庭園へと飛び出していった。 一緒に行ってやらなくても大丈夫だろうか・・・? あのリオレイアが今更人間を襲うようには見えないが、それでも何となく嫌な胸騒ぎがする。 だが王女の後を追おうとした僕を、その場にいた王が引き止めた。 「行かせてやるがいい。お前が必要ならその時は、衛兵が呼びにくるだろう」 「・・・はい」 庭園を小屋に向かって駆けていく王女の後姿を回廊の窓から見つめながら、僕は胸に手を当てて何事も起こらないことを祈っていた。 ガラ・・・ガララ・・・ 逸る気持ちを抑えながら小屋の扉を少しだけ開けて中を覗くと、奥の方で巨大な雌火竜が地面の上に蹲っていた。 ここへ来た時は壁から垂れ下がっている鎖に全身を雁字搦めにされていたというのに、今やその神々しいまでの姿態は何の束縛も受けずに悠然と小屋の中で佇んでいる。 飛竜特有の高い治癒力が全身の傷をみるみる癒していったようで、あれ程手酷く痛めつけられて傷だらけだった顔も翼も、既に元の刺々しさを取り戻しつつあった。 流石に切断された尾だけは修復に時間がかかるらしくまだ傷口を分厚い肉膜が覆っているだけだったが、他の生物なら命に関わるようなあんな深手でさえ、数ヶ月もあれば完全に元通りの姿を取り戻すのだろう。 わらわは高鳴る胸に手を当てながら小屋の中へと足を踏み入れると、放し飼いにされた雌火竜の動向を注意深く見守りながらそろそろと近づいていった。 「グル・・・?」 いつもと違う人間の気配を感じて、私は浅い眠りを中断して頭を持ち上げた。 見れば、年若い1人の娘が目をキラキラと輝かせながらこちらへと近づいてくる。 一体誰だというのだ? ハンターの仲間ではないようだが、小屋の入口からハラハラと落ち着かない様子でこちらを窺っている数人の男達を見る限り、この娘は人間達の中ではいささか身分の高い者なのだろう。 本人はどうか知らないが、私から見ればあまりにも無防備に近づいてくるその娘の様子から、どうやら私は相当に甘く見られているらしい。 私の縛めを解いてくれたあの男に気を許したことがどうにかしてこの娘に伝わったのか、まさか私が危害を加えるとは微塵も思っていないようだった。 面白い・・・陸の女王たる私を軽く見るとどういうことになるのか、その身にたっぷりと思い知らせてくれる。 「グルルルル・・・・・・」 私はここしばらく胸の内に押し留めていた溢れんばかりの殺気を辺りに巻き散らすと、尾を引くように長い唸り声を上げて小さな娘を威嚇した。 鈍感な娘もこれには流石に身の危険を感じたのか、半ばニヤついていた顔から一切の笑みが消えていく。 だが既に単身小屋の中程までやってきてしまっていた娘に、私から逃げ切る術など残されてはいなかった。 突然雌火竜が上げた恐ろしげな唸り声に、わらわは思わず足を止めていた。 真っ直ぐにわらわの顔を睨みつけているリオレイアの眼から、はっきりとした敵意が見て取れる。 「う・・・な、なんじゃ・・・レイアを手懐けたのではなかったのか?」 ポツリと漏らしたその言葉に反応したのか、リオレイアが突然その巨体を持ち上げた。 同じ種の中でもとりわけ異常な程に大きな体躯を誇るキングサイズのリオレイア・・・ その握り拳よりも大きな爛々と輝く瞳に射抜かれ、恐怖に魅入られた本能が激しく警鐘を打ち鳴らしている。 「グルルル・・・」 やがて低く唸りながら身を引いた雌火竜の様子に、わらわは踵を返すと全力で逃げ出していた。 「グオアアアアアーッ!」 「ひいぃぃぃぃ!」 次の瞬間、地響きのような振動とともにリオレイアがこちらへ向かって突進を始めていた。 あまりの恐怖に心の余裕がなくなり、フラフラと足元が縺れてしまう。 ガッ だがグラリと傾いだ視界にあっと思ったその時には、わらわは自らの足に躓いて地面の上に激しく転倒していた。 「ああっ!」 無様に転んで地面に強かに打ちつけた胸の痛みに呻く間もなく、背筋を凍らせるような飛竜の足音がすぐそこにまで迫ってきている。 ドドドドドド・・・ 「だ、誰か・・・!」 「お、王女様!」 わらわの助けを呼ぶ声に小屋の外から様子を見守っていた数人の衛兵達が一斉に中へと雪崩れ込んできたものの、なぜかその足が急にピタリと止まった。 ふと気がつけば、あれほど盛大に鳴り響いていた足音は何時の間にか消え、辺りを不気味な静寂が覆っている。 ズシッ・・・ だが何事かと思って衛兵達が見つめている視線の先を追おうとしたその時、うつ伏せに倒れ込んだわらわの背の上に何か巨大なものが乗せられる感触があった。 それがリオレイアの脚だと理解するのに、パニックに陥った頭が数秒の時間を要する。 「な、何をするのじゃ・・・誰か助け・・・あぅ・・・」 巨大な飛竜に踏みつけられた割にはなぜかさほど苦しくはなかったものの、一切の抵抗が封じられてしまう。 そしてそこから逃れようともがくわらわの生白い首筋に、おぞましいリオレイアの舌が這わせられた。 シュルッ・・・ペロ・・・ペロペロッ・・・ 「ひっ・・・よ、よせ・・・よさぬかぁ・・・」 首筋にたっぷりと塗りたくられた唾液がリオレイアの生暖かい吐息でゆっくりと冷やされ、わらわの心を徐々に恐怖で蝕んでいく。 「おい、早く・・・早くあの男を呼んでこい!」 「あ、ああ、わかった!」 慌てた衛兵達が小屋の外で何やら話している声が聞こえたが、わらわは必死に目を瞑って拳を握り締めたまま飛竜の女王の拷問に耐え続けていた。 ドタドタドタッという酷く慌てた足音を立てながら2人の衛兵達が城の中へと駆け込んできたのを目にすると、僕は嫌な予感が的中したことを確信していた。 「す、すぐに来てくれ!王女がレイアに襲われているんだ!」 襲われている?それならもう手遅れじゃないか。 それとも、あの狭い小屋の中でリオレイアを相手に鬼ごっこでもしているというのだろうか? だが息を荒げた衛兵達はこれ以上にない程激しい焦燥感に満ち満ちてはいたものの、とにかく王女の方はまだ生きているらしい。 とりあえず、呼ばれたからには行ってやるとしよう。 「待て、ワシも行く」 僕が2人の衛兵達について王の間を後にしようとすると、王が慌てて後をついてきた。 普段は冷静な王も流石に自分の娘が飛竜に襲われているとあっては、心配で心配で仕方がないのだろう。 やがて庭園に辿り着くと、相変わらず数人の衛兵達が小屋の外から小さく開けた扉の中を覗き込んで何やら騒ぎ立てていた。 その喧騒の中に飛び込むようにして、僕も小屋の中を覗き込んでみる。 そこでは、リオレイアに踏みつけられた王女が体中をペロペロと舐め回されては泣きながら助けを求めていた。 「ひ、ひぃ・・・」 「グオアッ!グルルル・・・」 だが周囲を取り囲んでいる衛兵達が少しでも彼女に近づこうとすると、途端にそちらの方をギラリと睨み付けては頻りに唸り声を上げて威嚇している。 なるほど・・・多分、リオレイアは最初から王女を殺すつもりなどないのだろう。 ただ王女の振舞いか、或いは言葉を交わさずとも読み取れるその他者を見下したような高圧的な態度にか、誇り高い彼女が何らかの原因で腹を立てたのは確からしかった。 「おお!なんということだ・・・おい、早くなんとかせぬか!娘を助けてくれ!」 少し遅れて小屋の中を覗き込んだ王が、慌てて僕へと掴みかかってくる。 だが僕は王の肩に手を添えると、彼を落ち着かせようと努めて穏やかな声をかけた。 「大丈夫ですよ。落ち着いてください。あれは襲っているのではなく・・・その、ちょっとしたお仕置きですよ」 「お、お仕置きだと・・・?何を言っているのだお前は!?」 「きっと、王女がレイアをどうにかして怒らせたのでしょう。ですが、あれに飽きれば勝手に離してくれますよ」 だが王は先程より多少落ち着きを取り戻したものの、依然として娘の身を案じて心配そうな表情を浮かべている。 「し、しかし・・・これ以上は見ておれん。すぐに止めさせてくれ」 「・・・わかりました」 僕はそう小さく頷くと、衛兵達を押し退けて小屋の中へと入っていった。 そして入口近くの壁際に山と詰まれている生肉の塊を2つばかり手に持ち、それを振りながらリオレイアに近づいていく。 彼女は人間達の群れの中に僕の姿を見付けると、少しだけ穏やかな表情を見せた。 「もういいだろ?王女を離してやってくれ」 そう言いながら手にした肉をポイッと口元に投げてやると、彼女はもう口輪の存在など意に介していないかのようにパクリと肉に食いついた。 それで僕の意図を読み取ったのか、彼女が踏みつけていた王女からようやく足を離す。 王女があまり苦しんでいなかったのを見ればさして体重をかけられていたわけではないのだろうが、仮にも国王の娘が地べたの上に大の字で転がっている様は、僕にはいささか憐れに見えた。 「それじゃあ、王女を頼みます」 「あ、ああ・・・わかった」 皆一様にホッと安堵の息をついた衛兵達に王女の世話を任せると、僕はリオレイアを小屋の奥へと誘った。 よほど楽しいガス抜きになったのか、彼女の顔に満足げな笑みが浮かんでいるようにすら見える。 そのまま彼女が地面の上に蹲ったのを確認すると、僕は彼女の巨大な顔をそっと撫でながら衛兵達や泣き腫らした娘を伴った王が小屋から出ていくのを静かに眺めていた。 「全く・・・お前は自分が一体何をしたかわかっておるのか!?」 「・・・はい・・・父上・・・」 衛兵達の目に付かぬようにして娘を寝室の中へと連れ込むと、ワシはまだグスグスと目を擦っている娘を大声で叱りつけていた。 「あの男のお陰でリオレイアの方に殺意がなかったからよかったようなものの・・・少しは自分の立場を弁えろ」 こやつがいくらワシの言うこともロクに聞かぬじゃじゃ馬娘であっても、いずれはこの国の中枢を担うべくして世に産まれた王女の身分なのだ。 それが飛竜をペットにしたいなどと戯けたことを目論んだ上にその飛竜に危うく殺されかけたというのだから、ワシの怒りはしばらくの間容易には収まりそうになかった。 だがまあ、今回のことは娘にもよい薬になったことだろう。 これを機にもう子供っぽい駄々を捏ねるようなことがなくなってくれれば、それに越したことはないのだが・・・ 最早十分に反省したのか、ベッドの上に腰掛けて視線を落としたまま無言で鼻を啜り上げている娘をその場に残すと、ワシはそっと寝室を後にした。 そして近くにいた1人の衛兵を小声で呼びつけ、寝室の扉を見張らせる。 「晩餐に呼ぶまで、娘が部屋を出ないようにここを見張っていてくれ」 「はっ、かしこまりました!」 よし、これでいい・・・後は・・・あの男にも、いずれ改めて礼を言わねばならぬだろうな・・・ 昼下がりの陽気に明るく照らし出された回廊を歩きながら、ワシはぼんやりとそんなことを考えていた。 その日の夜、晩餐を終えてようやく寝室への監禁から解放された王女が、丁度前を通りかかった1人の衛兵を呼び止めた。 「これ、そこの。1つわらわの頼みを聞いてほしいのじゃが、よいか?」 「は、はい!何でしょう・・・?」 そして怪訝そうな表情を浮かべて改まった衛兵に、王女が長い間握り締めていたのか手汗でじっとりと湿ってしまった1枚の羊皮紙を手渡す。 「これを今すぐ、ハンターズギルドへ届けてもらいたいのじゃ」 「これは・・・?」 だが衛兵がそこに書いてある内容を確認しようと羊皮紙を広げかけた途端、王女が慌てた様子でそれを制止する。 「待て、見てはならん!」 「し、しかし王女様・・・」 「ええい!そなたは黙ってこれを届ければよいのじゃ!よいか、決して中を見てはならんぞ!」 次々と大声で捲くし立てる王女の剣幕に押され、衛兵は思わず頷いてしまっていた。 「は、はい・・・確かに承りました!」 ハンターへの密かな依頼を託した衛兵の姿が見えなくなると、わらわは自室のベッドの上にドサリと倒れ込んだ。 わらわにあのような屈辱的な仕打ちをしたリオレイアを、これ以上生かしておくことなどできない。 あやつがあの雑用係の男にしか懐かぬというのなら、最早わらわのペットとしては何の価値もないのだ。 だがこれで、あろうことかこのわらわを踏みつけにしたあの憎き雌火竜の命も精々明日の夜明けまでだろう。 そんな歪んだ復讐の喜びが顔に表れそうになるのをグッと堪えると、わらわは漆黒の闇を映す大きな部屋の窓をほんの少しだけ開けた。 そして微かに部屋の中に吹き込んでくる生暖かい風に衣服を揺らしながら、首にかけていた小さな鍵を手に取る。 「・・・ふん・・・これももう、わらわには必要ないわ」 誰に言うとでもなくそう独りごちると、わらわは手にしたそれ・・・ リオレイアの口輪を唯一外すことのできる鍵を、眼下を流れる水路目掛けて放り投げていた。 ドンドルマの街の夜・・・大人数を収容できる大闘技場前の広場では歌姫の幻想的な歌声が辺りに響き渡り、命がけの狩りに疲れたハンター達に一時の憩いの場を提供している。 そんな心落ち着く静かな空間とは対照的に、酒場では新たに届いた王女の依頼に大勢のハンター達が名乗りを上げていた。 しかめっ面をしながらマスターが娘に手渡した羊皮紙に書かれていた依頼は、王宮の庭園に捕らえたリオレイアを討伐すること。 咆哮も上げられず火球も吐けぬ雌火竜など、熟達したハンター達にしてみれば正に達磨同然なのだ。 これ幸いにと酒場のカウンターに差し出された受注の希望に、娘は小さく溜息をつくしかなかった。 コンコン・・・コンコンコン・・・ 深夜の城内に突如響いた、眠りを妨げるドアのノック音。 僕は手放し難いまどろみに埋もれながら、目を閉じたまままだ見ぬ訪問者を誰何した。 「・・・誰だい?」 「開けてください。お話があります」 男の声だ。多分、衛兵の1人だろう。いや、つい最近どこかで聞いた声のような気もする。 僕はふうっと息を吐き出すと、ベッドから這い出して扉の鍵を開けてやった。 「一体どうしたんだ?こんな夜中に・・・」 「失礼します」 扉を開けて中に入って来たのは、昼間王女の助けを求めて城の中に駆け込んで来たあの衛兵の1人だった。 その衛兵が、たかが雑用係を相手に妙に畏まっている。 だが彼は僕が勧めた椅子に座る時間も惜しいといった様子で、すぐに用件を切り出していた。 「あのレイアが殺されます」 「え・・・?」 「晩餐が終わった後、私は王女に呼び止められました。そしてギルドにある依頼を届けてくれと頼まれたのです」 眠気でぼーっと靄のかかっていた頭に、彼の言葉が突風のように吹き荒ぶ。 「そ、それで?」 「決して中を見るなと言われましたが、ギルドの情報屋のもとへ向かう途中でつい堪え切れなくなって・・・」 なるほど・・・どうせ王女に懐かぬのなら、昼間の腹いせに殺してしまおうと考えたというわけか。 あの王女らしいといえばらしいが、リオレイアの気持ちを考えれば、それだけはさせてはならない。 「ありがとう、よく知らせてくれた。それで、ハンター達はいつこっちに着くんだ?」 「恐らく夜明け前には・・・ああ・・・情けない話ですが、一体私はどうしたら・・・」 僕は王女を守る立場であるはずの衛兵が何故こんなことで悩んでいるのか不思議だったが、やがてある前提がその問を答えに導いた。 つまり・・・彼もまた、昼間の一件で王女を懲らしめた粋な雌火竜に傾倒してしまったのに違いない。 それ程にあの王女は人遣いが荒く、それでいて他人の迷惑を省みない困った性格なのだ。 更に言えば、また火竜を飼うからと言ってあんな小屋を急遽作らさせられたのは他でもないこの衛兵達だ。 王女が殺されると思ってリオレイアを牽制していた時は必死だったのだろうが、後になって何と言うかこう・・・胸がスカッとしたのだろう。 だがこうなってしまったら、僕の取るべき道はもう1つしかない。 「いや、あんたはもうこのまま知らない振りをしていた方がいい。後は僕が何とかする」 「レイアを・・・逃がすんだな?」 「そうだ。夜明けも近いし、もうそろそろハンター達が到着してもおかしくない」 だが心得たとばかりに頷いた衛兵の顔には、まだ不安の影が見え隠れしている。 「どうかしたのか?」 彼の心境を読み取って投げかけたその質問には、すぐに答えが返ってきた。 「他に、私にできることはないか?」 「それなら、王女の部屋を見張っていてくれ。僕の邪魔をするとしたら、王女以外にいないからね」 「ああ、わかった。まかせてくれ」 今度は歯切れの良い返事を返した衛兵が王女の部屋の方へと走っていくと、僕は着替え終わった服をベッドの上に放り投げて庭園へと急いだ。 東の稜線のすぐ向こうに朝日の気配を感じながら小屋の前までやってくると、僕は小屋の扉を一杯に開いた。 奥で眠っていたリオレイアがその音で目を覚まし、不思議そうな顔でこちらを眺めている。 そしてようやく彼女も通れそうなくらいの入口を確保すると、僕は急いで彼女のもとへと走っていった。 「グルルゥ・・・?」 まだ夜も明けきっていないこんな早朝から一体何事かと訝るように、彼女が困惑した唸り声を上げる。 「早く、ここから逃げるぞ!」 僕はそう言いながらなかなか動こうとしてくれない彼女の顔に生えた刺を力一杯引っ張ってみたが、所詮人間の力では彼女を力尽くでどうにかなどできるはずがない。 「レイア!ハンター達が来るんだ!お前を殺しに来るんだぞ!」 それでも、彼女は動かなかった。 なんてことだ・・・こんなところでぐずぐずしていたら、きっと彼女なんてあっという間に殺されてしまうに違いない。 本来ならリオレイアの一番の武器である毒刺の生えた尾は途中からぷっつりと切断され、口輪のせいで火球も、咆哮も、あまつさえその巨大な牙までもが無力なものとして封じられてしまっている。 王女がハンター達に彼女の討伐を依頼したのだとしたら、きっとこのこともハンター達に知られているだろう。 「グオッ・・・?」 その時、彼女が突然顔を持ち上げた。 まさかと思って彼女の視線の先・・・大きく開けられた小屋の入口の方へと目を向けると、ゴツゴツしたシルエットを纏った数人の人影が立っている。 飛竜の甲殻で作られた防具を纏う、手練のハンター達だ。 「くそっ!間に合わなかった・・・」 だがそう毒づいた僕の様子で、彼女は己の身に差し迫った事態を察したらしかった。 のそりという静かな音とともに巨大な緑色の山が動き、数日振りに現れた彼女に敵対する人間達を怒りのこもった眼で睨みつける。 「だめだよレイア、まだ戦えるような体じゃないだろ!?」 見上げるような高さにまで立ち上がった彼女の脚に縋りながら、僕は必死で声を張り上げていた。 「グルル・・・」 突如目の前に現れた憎きハンター達に敵意を燃やしながらも、私は足元で必死に何かを訴えかけている人間に視線を戻した。 恐らく彼は、この私に逃げろと言っているのに違いない。 確かに今の私の体は、とてもではないがあの人間達と戦えるような状態ではなかった。 いや、寧ろ満身創痍といっても過言ではないだろう。 しかしいくらこの身が傷ついていようとも、あの者達に一矢報いずに逃げることなど到底できそうにない。 「頼むよレイア・・・僕・・・お前を失いたくない・・・」 だがいざハンター達を蹴散らそうと突進を始めかけたその時、私は足元の人間の声が急にくぐもったのを感じた。 見れば、人間が私の脚の爪の上に突っ伏して泣いている。 何故だ・・・?何故、この人間は私の身を案じて涙を流すのだ? それ程までに私を気遣わなければならぬ、一体どんな理由があるというのだろう? 「グルルルル・・・」 私は本当に、このままハンター達と戦うべきなのだろうか・・・ 逡巡している間にも徐々に近づいてくるハンター達を鋭く睨みつけながら、私は激しい葛藤に苛まれていた。 「レイア・・・うぅ・・・お願いだよ・・・」 半ば絶望に近い黒々とした悲しみに嘆いていたその時、突然僕の耳に生暖かい風が吹きつけられた。 それとほぼ同時に、涙で濡れた頬を彼女の大きな舌がペロリと這い上がっていく。 「う・・・レイア・・・?」 鼻を啜り上げながら顔を上げると、彼女は武器を構えながらじりじりと近づいてくるハンター達には目もくれずにじっと僕の顔を覗き込んでいた。 そしてその巨体を深々と沈め、まだ切断されたままの尻尾を曲げて僕の前へと近づけてくる。 何をするつもりだと思ってもう1度彼女の顔に視線を戻すと、僕はようやくその意図を悟ることができた。 「ああ、わかった」 次の瞬間、僕は大きく頷くと眼前に差し出された尻尾を伝って彼女の体を攀じ登り始めた。 そして何層もの分厚い甲殻で覆われた彼女の背中に跨り、翼の付け根をしっかりと掴む。 「いいよ、レイア」 「グルッ」 ようやく、彼女は逃げる決断を下してくれたのだ。 僕の声に返事をするかのように小さい唸り声を発して、彼女がゆっくりと溜めを作るように体を引く。 やがてリオレイアの突進の予兆を読み取ったハンター達が身構えたのを確認すると、彼女は大きく開けられた小屋の入口へ向かって全力で走り出していた。 「グオアアアアアアアアーーッ!!」 禍禍しい凶器を構えようとするハンター達を威嚇するかのように精一杯の雄叫びを上げながら、傷ついた雌火竜が敵を殺すためではなく、無事に生き残るために疾走していく。 そして海が割れるかのように左右に分かれたハンター達の間を突っ切って小屋の外へと抜け出すと、彼女はそれまで畳んでいた翼を大きく広げて羽ばたき始めた。 バサッバサッという空気を叩く音とともに庭園に植えられた草花が靡き、飛竜の巨大な体を宙へと浮かせていく。 「ぐ・・・」 予想以上に凄まじい振動と衝撃に、思わず翼の付け根を掴んだ手が離れそうになる。 だが必死に力を入れて何とかそれを堪えると、僕は後を追ってくるハンター達の方を振り向いた。 その内の1人が、手にした大きなボウガンを構えている。 パシュン!カキン! 「うわっ!」 小さな火薬の爆発音と空気を切り裂く音、それに速度を失った弾が彼女の鱗で跳ね返る音が連続して聞こえ、僕は思わず悲鳴を上げて身を伏せた。 だが、なかなか2発目の弾が飛んでこない。 不思議に思ってもう1度背後を振り向くと、先程のハンターが別の弾をボウガンに装填しているところだった。 待てよ・・・あの黒と茶色を基調にした複雑な形状・・・確か、タンクメイジという名のボウガンだ。 となれば恐らく、今装填しているのはタンクメイジが最も得意とする弾種・・・散弾に違いない。 「レイア、早く!もっと高く飛んでくれ!」 だがそう叫んだ僕の背後から、ボウガンを構えるガシャッという音が聞こえてくる。 バシュッ!ビシッビスビスビスッ! 「うああっ!」 次の瞬間、ボウガンから撃ち出された弾が火薬の爆発と風圧によって四散する。 その容赦のない一撃で、無数の竜の牙の欠片が凶器と化して僕とリオレイアに襲いかかった。 逃げ場のない弾幕に曝されて腕と背中に数発の弾が食い込み、痛みと衝撃が全身を駆け巡る。 僕の悲鳴を聞き取った彼女が、激しい憤怒の形相を浮かべて眼下のハンター達を睨みつけた。 だが傷ついた僕の様子にここは逃げるべきだと判断したのか、ギリッと音がする程に食い縛った牙を剥き出しにしながらも彼女が顔を前に向ける。 「くそっ、逃がしたぞ!」 地上でハンター達が毒づくのが聞こえると、彼女は十分に稼いだ高度を生かして水平飛行を始めていた。 「よ、よかった・・・逃げ切れたね・・・レイア・・・」 顔に叩きつける涼しい風を感じながら小声でそう呟くと、僕はしっかりと彼女の背にしがみついてはいたものの、激しい痛みと出血でフッと意識を失ってしまっていた。 「グルル・・・グルルル・・・」 おのれ・・・許せぬ・・・あのハンター達め・・・八つ裂きにしてやっても飽き足らぬぞ・・・! 私の背に乗った人間が見えぬわけはないというのに、彼にまで危害を加えるとは一体どういうつもりなのだ! 気絶した人間を落とさぬようにゆっくりと森の上空を飛びながらも、抑え切れぬ怒りが今にも爆発しそうになる。 かつて感じたことのない大切な他者を傷つけられたことへの憤りを抱えながら、私は森の中にぽっかりと空いた水飲み場へと静かに滑空していった。 森と丘の中心にある、木々に囲まれた薄暗い天然の回廊。 その一角にある小さな広場が、私のお気に入りの水飲み場だった。 食事をするときも水を飲むときも、時には眠りにつくときも、かつてここへ足を運ばなかった日は1日としてない。 燦燦と辺りを照らし始めた太陽から隠れるようにして泉の辺へと着地すると、私は人間の安否を気遣った。 堅い鱗越しに暖かい体温と呼吸の波が感じられ、思わずホッと安堵の息を漏らしてしまう。 不思議なものだ。1度は殺そうとしたこともあったというのに、今ではこの人間が堪らなく愛しい。 できる限り身を低くしてそっと人間を背の上から振るい落とすと、私は地面に転がった彼の体を見回した。 背中と右腕に尖った牙の破片がいくつか突き刺さっていて、彼の衣服を血に染めている。 私はその光景に一瞬驚いたものの、傷そのものは比較的小さいようだった。 舌の先で傷口をなぞってやると、思いの外簡単に弾が抜けていく。 助けられるかもしれないという希望が胸の内を満たし、私は一心不乱に人間の体を舐め回していた。 「う・・・うぅ・・・レ、レイア・・・?」 全身に感じられる鈍い痛みと微かな快感に、僕は何とか意識を取り戻した。 王宮の庭園とは違う固い土と岩で覆われた大地の上で、彼女がひたすらに僕の背中を舐め回している感触がある。 「うぐ・・・く・・・」 軋む体に力を入れてゴロリと寝返りを打つように仰向けに転がると、彼女が心配そうな眼差しを僕に向けていた。 その顎には、今もまだ王女の呪いのように頑丈な口輪がはめられている。 「レイア、ごめんよ・・・その口輪・・・外してやれなかった・・・」 「グル・・・ルル・・・」 彼女と会ってからのこの数日間で初めて聞いた、穏やかで優しげな唸り声。 「許してくれるのか・・・ありがとう・・・」 ポツリと呟くようにそう漏らすと、僕は近づけられた彼女の顔を両手で抱き締めていた。 数ヶ月後、ドンドルマの街には不思議な噂が広がっていた。 森と丘を散策していると、稀に口輪をはめられた巨大なリオレイアを目にすることができるのだという。 その雌火竜はハンター達を見ても決して戦おうとはせず、すぐにどこかへと飛び去ってしまうらしかった。 中には、空を飛ぶリオレイアの背に人間が乗っているのを見たという者までいるという。 しかしやがてその人間と雌火竜が王女のもとから逃げ出した"あの"1人と1匹だということが知れると多くのハンター達は彼らに同情し、ハンター達もまたそのリオレイアに敵意を向けることはなくなっていった。 美しい木々に囲まれた森と遥かな絶景を望む緑の丘。 その自然の懐で、今日も1人の元ハンターとかつての陸の女王が仲睦まじい一時を過ごしている。 無惨にも切断されていた巨大な尾はすでに元通りの再生を果たし、今や顎にはめられた口輪だけがかつての屈辱と、そして甘酸っぱい人間との邂逅を雌火竜の脳裏に去来させていた。 「レイア・・・僕・・・これからもずっと、お前のそばにいていいかい・・・?」 くすんだ緑色の山に背を預けながらそう話しかけた人間を、飛竜の大きな翼膜がそっと包み込む。 数十年後死が彼らを別つまで、人間と飛竜はお互いに同族の誰もが経験したことのない数奇な、それでいて幸福な生涯を送ることになるだろう・・・ 完 感想 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1372.html
今日の訪問者 - http //blog.zaq.ne.jp/osjes/article/57/ 藤岡先生意見書2(大阪高裁提出資料)1/2 意 見 書(2)1/2 平成20年8月28日 藤岡 信勝 意 見 書(2)1/2初めに、この意見書(2)に至るまでの経過をまとめておきます。 第四 記録社ビデオ証言との食い違いについての分析 第五 宮城晴美陳述書の問題点 第六 被告側準備書面(2)への批判1 宮平秀幸の母の手記との食い違い(1) (2) (3) (4) (5) (6) 意見書(2)2/2第六 被告側準備書面(2)への批判2 宮平秀幸のビデオ証言との食い違い 3 本田靖春に対する宮平秀幸の話との食い違い 4 宮平春子証言などとの食い違い 5 宮城初枝の証言との食い違い 6 伝令ではなかった 7 宮平秀幸の信用性 第七 証言者としての宮平秀幸の人物像 初めに、この意見書(2)に至るまでの経過をまとめておきます。 私は、原告側弁護団の依頼を受け、7月28日付けの意見書を提出しました。その中で、座間味島在住の宮平秀幸(78歳)が今年の1月~3月に、私(藤岡)や鴨野守、産経新聞、チャンネル桜などに対して行った一連の証言(以下、カギ括弧付きで「宮平証言」と略称する)を紹介しました。「宮平証言」のポイントは、(1)昭和20年3月25日夜、本部壕前で梅澤隊長と村の幹部が会見した際、梅澤が「自決するな」と制止し、自決するために集められた村民の解散を求めていたこと、(2)それを受けて村長が忠魂碑前で村民に解散を命令していたこと、の2点に要約されます。 また、私は上記意見書の中で、沖縄タイムスの記者たちから指摘された、宮平の証言の信憑性を揺るがすと記者たちが考える二つの資料、すなわち、①『座間味村史(下巻)』(1989年)に掲載された宮平秀幸の母・貞子の証言、②『小説新潮』1987年12月号に掲載された本田靖春のルポ「座間味島一九四五」、の両者について詳細な検討を加え、それらの文献に記載された内容と、「宮平証言」とが食い違う理由を分析しました。 その分析によって、貞子証言は虚偽を含み、本田ルポは話の構成に錯誤があること、そうなった根本原因は、忠魂碑前で村長が解散命令を出していたことが村当局の厳重な箝口令の対象となり、村民が真実を自由に語れないという状況にあったためであることを明らかにしました。こうして、二つの文献の存在によっても「宮平証言」の信憑性は少しも損なわれないことを論証しました。 その後、私の意見書が原告側代理人から貴裁判所に提出される前に、7月31日、被告側代理人から乙号証108~110と、準備書面(2)が提出されました。乙号証の中には、宮平秀幸が出演した市販ビデオ「戦争を教えて下さい」(1992年、記録社制作)のDVDとその反訳、上記本田ルポ、宮城晴美の陳述書などが含まれていました。被告側の主張の骨子は、(1)『座間味村史』の貞子証言、(2)『小説新潮』の本田ルポ、(3)「戦争を教えて下さい」のビデオ、が今回の「宮平証言」と食い違うから「宮平証言」は信用できない、とするものでした。 しかし、このうちの(1)と(2)については、7月28日付けの私の意見書ですでに分析を終えておりました。私の意見書は被告側の論点をあらかじめ反論していたことになります。沖縄タイムスの記者たちが指摘した論点は、いずれ法廷に持ち込まれるであろうとの想定のもとに私は意見書をまとめたのですが、まさにその通りの展開となりました。 そこで、この意見書(2)では、まず、最初の意見書でふれていない、(3)の「戦争を教えて下さい」のビデオと「宮平証言」との食い違いの理由を分析し、次に宮城晴美の陳述書の誤りを示したあと、被告側準備書面(2)が提示している論点について全面的に批判・反論することとします。この部分がこの意見書(2)の主要な内容を構成します。最後に、証言者としての宮平秀幸の人物像について私見を述べ、結びとします。この意見書(2)は、7月28日の意見書の続編であるので、小見出しのナンバリング(「第一」、「第二」など)は通し番号としました。 第四 記録社ビデオ証言との食い違いについての分析 記録社が1992年に制作したビデオは「戦争を教えて下さい・沖縄編」というタイトルで、その中に渡嘉敷島の金城重明と座間味島の宮平秀幸が60分ずつ登場します。私はこのビデオの存在を、宮平秀幸と今年の1月26日に偶然出会ってから1週間後、秀幸本人から電話で教えられました。そこで早速市販のビデオを購入し、視聴しました。 私は、2月10-12日、座間味島に裏付け調査に出かける予定を立てましたが、宮平秀幸が果たして証人として真実を語っているのか十分慎重に取り扱わなければならないと考えておりました。1月26日に出会ってから、彼の証言を私は直ちに百パーセント信じたわけではありません。人間の記憶には思い違いや記憶の変容ということがあります。それで、できるだけ彼の既存の証言記録を事前に検討しておこうとしました。そして、到底信用できない人物であると判断できるなら、裏付け調査を取りやめることも視野に入れていました。 そうした姿勢で上記ビデオを検討した結果、1月26日に語ったこととの食い違いの理由は証言時の状況などによって十分合理的に説明できるものであると判断しました。もちろん、ビデオの中で秀幸は今回の「宮平証言」の重要なポイントには全くふれておりません。それは当然のことです。また、盛んに「皇民化教育」が集団自決の原因であると力説していましたが、それは解釈に属することで事実の証言とは位相を異にし、問題とする必要はないことでした。ちなみに、今でも秀幸は「皇民化教育」の影響についてはビデオ出演当時とあまり変わらない認識を持っているようですが、「皇民化教育がなくなったから、戦後は道徳が滅びた」とも述懐しています。 今回、被告側がこのビデオを証拠として、反訳まで添えて提出したのは、ビデオで語られていることと食い違う「宮平証言」は虚偽であると主張するためです。反対に私は、ビデオの証言こそが真実を語れない制約のなかでなされたもので、虚偽を含み、この度の「宮平証言」は勇気をもって真実を語ったものであると主張します。以下、それを論証します。 第一に、ビデオ収録が村の当局の監視下で行われた事情は、秀幸の8月7日付け陳述書に詳細に述べられています。村長の妻が母・貞子に集団自決の真実を語ることのないように圧力をかけ、それを受けて貞子と秀幸の妻の照子が付きっきりで撮影が行われた状況がつぶさにのべられています。私はそれに付け加えて、次のような事情もあったことを明らかにしておきたいと思います。 記録社の撮影が行われたのは1992年の夏と推定されますが、その前年の1991年6月23日夕刻、大阪の読売テレビの取材陣が秀幸の家にやってきて、集団自決に関わる忠魂碑前の出来事についての証言を求めました。すでに日没後で、民宿を経営していた秀幸は泊まり客から細長い筒状の水中用懐中電灯を借りて忠魂碑前に取材陣を案内し、そこで電灯を付けながら証言しました。その中で、秀幸はうっかり、しゃべってはいけないことをテレビカメラに向かって話してしまいました。それは、忠魂碑前で村長が解散命令を出したという事実です。階段の上から二段目に立って村長が解散命令を出したことを、現地に立った秀幸は、話すつもりはなかったのに、つい口をすべらせて語ってしまったのです。 この取材後、何日か経ってから、秀幸は田中登村長に激しく叱責されました。「あんなことをしゃべっちゃいかん」というわけです。なお、私は、放送を録画した古いビデオが秀幸の自宅の倉庫にあったのを送ってもらいチェックしました。「戦後なき死」というタイトルで放映された番組の中に、忠魂碑前での秀幸の短いコメントが入っていましたが、村長の解散命令の部分はカットされていました。テレビ取材陣が裏付け取材をする過程で村当局がカットすることを求めたためかもしれず、その経緯の詳細は不明です。 いずれにせよ、そういうことがあった後ですから、再度の失敗は許されないことでした。記録社のビデオ出演で秀幸が極度に緊張して語っているのは、そういう重圧のなかで撮影が行われたからです。しかし、真実を隠して話したことによって、ビデオの内容は矛盾を含んだものになっています。その典型的な事例が、秀幸も陳述書で述べている、整備中隊の壕を回って自家の壕にたどり着くまで、秀幸の家族7人が、歩行が困難な祖父母をかかえながら一晩中村の中を徘徊したことになるという点です。 忠魂碑前で村長の解散命令が出て、さてこれからどうしようかという時、秀幸の家族が結果として、自家に寄宿していた気心の知れた兵隊さんたちを頼って整備中隊を訪ねたことは前回の意見書で述べました。この時の家族の心理について付け加えて言えば、タテマエは貞子や千代の主張どおり「どうせ米兵に殺されるのだから、親しい日本の兵隊さんに殺してもらったほうがよい」ということだったとしても、ホンネとしては、訪ねていけば家族はそこで保護されるだろうという期待があったはずです。甘えの心理です。整備中隊に着いてみると、「ここは米軍が上陸し、戦場になるから逃げなさい」と諭され、どこまでも生き抜くようにと励まされ、ひと月は家族が食いつなげると思われる食料まで与えられました。 日本兵と住民とのこのような心理的なつながりと愛情に満ちた人間関係を理解しなければ、家族がなぜ困難を押して整備中隊を訪ねたか、到底理解できるものではありません。しかし、記録社のビデオ作品は、村の箝口令のもとで撮影され、「日本軍悪玉説」に基づいて制作されたものですから、日本兵に「生きのびなさい」と励まされたとか、日本兵に食料をもらったなどの、軍に好意的な発言はできない状況でした。そこで、外形的にのみ秀幸の家族の行動が語られたため、忠魂碑の西方にあるシンジュの自家の壕に帰るのに、わざわざその反対の東方2.5キロメートルの距離にある整備中隊の壕を迂回して帰還したことになってしまうのです。これは絶対に説明のつかない非合理的な行動であり、記録社のビデオ作品が真実を語ったものではないことの動かぬ証拠です。被告側の、ビデオ証言と食い違うから「宮平証言」が虚偽であるとの主張は、以上のような事情に照らしてみれば完全に崩壊します。 第五 宮城晴美陳述書の問題点 宮城晴美は母・初枝の遺言を実行して『母の遺したもの』を2000年に出版し、初枝との約束をはたしました。同書の最大のポイントは、梅澤隊長が自決命令を出さなかったという事実の暴露にありました。ただし、そのポイントは、『座間味村史(下巻)』(1989年)に掲載された初枝の証言の中ですでに述べられていたものです。晴美はそのことを、村史という入手しにくい形ではなく、単行本という形で世に知らしめた功績があることになります。 ところが、梅澤を原告とする訴訟が始まると、晴美は梅澤の無実を証言するのではなく、反対側の証人に立ち、さらには、前著と正反対の結論を導く目的で、「新版」を2008年に出版するにいたりました。晴美は、こうして母を裏切っただけでなく、今度は、叔父を誹謗する陳述書を提出しました。晴美にここまでさせる背後の勢力に対し、私は怒りを禁じ得ません。 晴美の陳述書の問題点については、秀幸の陳述書で十分明らかになっています。特に、秀幸が軍の伝令ではなかったという発言についても、完璧な反論がなされています。それに付け加えて、2点ほど補足をしておきます。 第一は、昭和20年3月25日夜の本部壕での村の幹部と梅澤隊長との会見に関する争点です。 晴美は 、「村長がいなかったことは母の話ではっきりしていますし、梅澤さんも村長がいたとは言っていません」とのべ、秀幸証言が虚偽である根拠の一つとしています。この点についての考察は、雑誌『正論』4月号の拙論「集団自決『解散命令』の深層」(甲B110号証)で述べたので繰り返しません。私の結論は、村長がそこにいた可能性が極めて高く、そのことは通信隊の長島義男の手記によっても裏付けられる、というものです。 次いで晴美は、「この夜の助役と梅澤隊長とのやりとりについては、母から繰り返し話しを聞いていますが、母の異母弟である秀幸がその場にいたという話はまったくありませんでした。秀幸がその場にいたのなら、母は当然彼がいることはわかったはずですし、そのことを自分の手記に書くか、あるいは私に話すなどしたはずです。何よりも秀幸自身が、重要なできごとを戦後60年余りも胸に秘めていられるような性格ではありません。彼の話し好き、マスコミ好きは島でも定評があります」と書いています。これはまったく成り立たない議論です。 秀幸がその場にいたことを初枝が知らなかったのは当り前です。秀幸の立ち位置は、初枝からは死角になっていたからです。その事情を、秀幸からの聞き取り調査をもとに、以下に再現します。 3月25日夜、整備中隊にいた秀幸は、艦砲射撃が激しくなる中、兵隊たちに説得されて、いったん自家の壕に帰ることにしました。ひとりで高月山の頂上近くまで登ってきたところ、折しもものすごい艦砲射撃が始まり、前に進むことができません。そこで、高月山の稜線を南に進み、本部壕のわきに転がり込むようにしてたどり着いたのです。本部壕は外からそれと分からないような偽装がほどこされていました。入口は、琉球マツの枝で覆われています。見ると、そこに乾パンが一袋、引っかかっていました。秀幸は急に空腹を覚えて、その乾パンを食べ始めました。すると、壕の入口の方から、人の声が聞こえて来ます。何事かとマツの枝をそっと広げてみると、宮里盛秀助役が梅澤隊長に盛んに何かをお願いしているところでした。秀幸は、そっと近づいて聞き耳を立てました。入口には水に濡らした毛布が何枚も掛けられています。艦砲弾や火炎放射器で壕が火事にならないよう、防火のために掛けていたものでした。秀幸はその毛布の陰に身を潜めました。秀幸と梅澤隊長との距離はわずか2メートル程度しか離れていません。しかし、毛布がちょうど遮蔽物となって、秀幸の姿は、梅澤隊長からも盛秀助役からも見えません。こうして秀幸は、その場の話の一部始終を聞いてしまったのです。 戦後2年ほど経ったころ、初枝を含む村の女子青年たちが畑仕事の合間に、戦争体験の自慢話のようなことをしていました。初枝は25日の夜、本部壕に行った時のことを話しました。そばにいた秀幸が、「姉さん、僕もその場にいたんだよ」と言いますと、初枝は驚いて信じられないような顔をしますので、秀幸はその場にどんなものがあったか、どんな植物が生えていたかなどを具体的に語りました。初枝は、「やっぱり、あんたもいたんだ」と納得していました。 以上の通り、初枝は秀幸がその場にいたことを事後的に知っていました。初枝がそのことを晴美に話さなかったとして、そのことに特に理由があるのかどうかわかりません。しかし、初枝が知り得たすべてのことを晴美に話したという前提も成り立たないでしょう。 晴美は、「何よりも秀幸自身が、重要なできごとを戦後60年余りも胸に秘めていられるような性格ではありません。彼の話し好き、マスコミ好きは島でも定評があります」とも書いています。晴美の人間観察は極めて浅薄です。秀幸が口の堅い人物であることを私はこの間、実感しています。 一例をあげます。1月26日の野外での会見の際、秀幸は、座間味の人が集団自決を推進したと言い、これは村の者は皆知っていることだが、その人物の子供が数人、今も那覇で重要な社会的地位にあるので名前は言えない、と言っていました。 つい最近、秀幸はその実名を明かしました。昭和20年3月26日の早朝、第二中隊の壕から出てシンジュの壕に向かって歩き出した秀幸の家族は、軍服を着て刀を振り回す、兵隊らしき人物に出会いました。「玉砕命令が出ているのに、お前たちはまだ死ねないのか。殺してやるからこっちに来い」といって、家族を皆殺しにしようとします。この人物が、国民学校の教頭・山城安次郎であることを、秀幸はごく最近、私に伝えたのです。長い間隠していてすまなかったという趣旨の謝罪の言葉も添えられていました。 このとき、祖父が山城教頭に口答えして、「先生、夕べ、自決するからといって忠魂碑の前に集まったら、軍が弾薬をくれないから自決はしない、解散だといわれてきたのに、また、先生はここで玉砕せよという。それは誰の命令ですか」と質問しました。すると、山城は、「玉砕命令は梅澤隊長の命令ではない。昨日(3月25日)の昼過ぎ、村長、三役で決め、郷土防衛隊長(宮里盛秀)の命令として出させたものだ。各自、個人個人の壕を回って、軍の命令だと言って忠魂碑の前の広場に集合させなさいと伝達させたのだ」と答えました。秀幸の家族の壕などに「軍の命令である」と言って住民を集めたのは、軍の名前を騙ったものであることを、秀幸はこのとき、はっきり知ったのです。 この一事を見ても、秀幸が、晴美の観察とは異なって秘密を守ることのできる人物であることがわかります。しかし、梅澤隊長に無実の罪をなすりつけることと比較して、迷った末に山城の名前を公表するつもりになったものと思われます。 晴美は、「彼の話し好き、マスコミ好きは島でも定評があります」と書いていますが、外部のジャーナリストや研究者に親切に対応することで人格的に非難されるとしたら、晴美の母・初枝は、その百倍も非難に値することは晴美もよく知っていることです。いずれにせよ、このような無意味な人格攻撃までしなければ秀幸証言の信憑性を否定できないところまで、被告は「宮平証言」によって追い詰められているのでしょう。 第二は、「自決」という用語の問題です。 晴美は、秀幸が「自決」ということばを使っていることについて、「「自決」は戦後使われるようになった用語で、あの夜のできごとを話す住民証言はすべて「玉砕」です」と述べています。晴美は、「自決」と「集団自決」とを混同しているようです。「集団自決」は確かに戦後使われるようになった用語のようですが、「自決」は当時も使われていました。盛秀の妹の宮平春子は、被告側が提出した陳述書の中で、「いさぎよく一緒に自決しましょう」と盛秀が言ったと証言して、「自決」の語を使っています。晴美は、ほかならぬ春子の新証言に接して自分の見解を変えたと述べていますが、「宮平証言」が信用できない理由に「自決」の語を使っていることをあげた晴美は、同じ「自決」の語を使った春子証言の信憑性をも否定しなければならないハメになりました。私は、3月7日、春子に面会しましたが、その際、確認のために、「自決」ということばを盛秀が本当に使ったかどうかを尋ねました。盛秀は子供に向かって「みんなで自決しましょうね」と言っていたとのことです。晴美の陳述書は、「自決」の語について一知半解の議論を振り回しているにすぎません。 以上の通り、晴美の陳述書は、全く説得力のない、証拠価値ゼロの証言に過ぎません。 第六 被告側準備書面(2)への批判 被告側が7月31日付けで提出した準備書面(2)(以下、「被告書面」と略称する)では、原告側控訴理由書の「第4 宮平秀幸証言」について、7点の理由を挙げ、「まったく信用できない」としています。しかし、これら7点はことごとく成立しない理由であり、反対に「宮平証言」の信憑性をかえって裏付けるものとなっています。以下、被告書面が挙げた論点ごとに反論します。 1 宮平秀幸の母の手記との食い違い 被告書面は、秀幸の母・貞子の行動として、次のように述べています。 「昭和20年3月25日は、70歳前後の夫の父母、23歳の長女、15歳の三男(秀幸)、5歳の娘、3歳の息子をひきつれて自分の壕に隠れており、夜になって米軍の艦砲射撃が激しくなり、前の壕の人が、「お米の配給を取りにくるように伝令が来たので、行こう」と合図に来たので、家族全員で壕を出て移動し、整備中隊の壕、御真影避難壕、第三中隊の壕などを逃げ回り、3月26日の夜明けに自分の壕に戻ったものである。この間、三男(秀幸)は祖父母の手を引くようにして歩いた。貞子たちの壕は奥まっていたため、伝令は来ず、忠魂碑前に集まれという指示は知らなかったので、忠魂碑前には行っていない。」 これは被告による貞子証言の要約とみることができます。貞子証言については、7月28日付け意見書で詳細に分析しましたので、その成果を前提として、被告による上記引用部分を対象に、その記述の内在的矛盾(人間の行動として現実には絶対にあり得ないことが書かれていること)を明らかにします。 (1) 被告書面は、お米の配給を取りに行こうと前の壕の人から合図があって、「家族全員で壕を出」たと読み取っています。秀幸は、今年の3月10日、那覇の県庁記者クラブで記者会見し、「証言・座間味島集団自決の『隊長命令』について」という3ページの文書を公表しましたが、その後、村史の貞子証言を読み、その間違いを指摘するため、3月14日、「証言・座間味島集団自決の『隊長命令』について(補足)」という文書を、「新しい歴史教科書をつくる会」を通じて公表しました。その「補足」文書の中で、秀幸も同じ読み取りをしており、貞子証言の文脈では、そう読むのは自然なことです。しかし、この行動こそ、当時の実情に即すると極めて不自然で、絶対にあり得ない行動なのであり、貞子証言が明白な虚偽を含んでいることの何よりの証拠です。 村当局が備蓄していた米は、産業組合の壕に保管してありました。ジンジュの宮平家の壕と産業組合の壕との位置関係については、甲B110号証、229ページの航空写真にプロットした地図を参照していただきたい(宮平家の壕は⑬、産業組合壕は⑥)。配給の米を取りに行くということは、シンジュにある宮平家の壕から産業組合の壕に行き、配給の米を受け取って、またシンジュの壕に戻ることを意味します。その目的のために「家族全員」で出かける必要はまったくありません。誰か大人が一人行けばよいのです。被告書面は、壕の中に家族7人がいたとしています。このうち、秀幸は実際は壕にはいなかったのですが、かりに秀幸が壕にいたと仮定しても、米をとりに行くべき人物は、貞子、千代、秀幸の誰か一人であるべきです。昌子と秀頼はまだ小さすぎて、この任務を課すには無理であり、70歳前後の祖父母は、単に高齢というだけでなく、二人とも足が悪く、容易に歩けない状態にありました。被告がこの度提出した本田靖春のルポにも、祖父の次良について「リュウマチを患っていて、両脚を前へ投げ出した形でしか坐れず、歩行に困難が伴っていた」(「座間味島一九四五」163ページ)と書いています。このような祖父母を含む、「家族全員」で弾雨の中を配給の米を取りにいかなければならない理由などあり得ません。被告書面は、こうした矛盾を含んでいることにすら気付かずに、貞子証言を絶対化しています。 (2) それでは、米を取りに行った家族は、その後、どうしたのかと続きを読むと、産業組合の壕に行ったことが全く書かれていません。これは奇妙なことです。この矛盾にも、被告書面は全く気付いていません。実際は、秀幸が忠魂碑前で家族と再会したあと、家族から詳細に聞き取ったとおり、米は取りに行かなかったと考えられます。秀幸は、3月14日に発表した「証言・座間味島集団自決の『隊長命令』について(補足)」の中で、この間の事情を次のように書いています。 「夕方、村の役場の職員が伝令で来て、お米の配給を取りに来るように言いました。私の家の壕には木炭はありましたが、七輪はありませんでした。お米の配給をもらってもご飯を炊くことは出来ません。それでも、姉がお米をもらいに出かけようとしましたら、祖父が「千代、行くな。艦砲が激しいから、行ったら帰ってこれなくなる。飢え死にしてもいいから行くな」と止めました。」 実際は、千代が米をとりに行こうとしたのを、祖父が止めていたのです。だから、産業組合の壕に米をとりに行った者は宮平家にはいません。貞子証言に産業組合の壕に行ったことが書かれていないのは当然のことです。以上のことからだけでも、貞子証言と「宮平証言」のどちらが真実を語っているか、あまりにも明らかです。貞子証言には決定的な虚偽が含まれています。 (3) 被告書面は、「貞子たちの壕は奥まっていたため、伝令は来ず、忠魂碑前に集まれという指示は知らなかったので、忠魂碑前には行っていない」とのべています。貞子は壕が奥まっていたから伝令は来なかったとし、それを家族が忠魂碑前に行かなかったことの理由にしています。 しかし、第一に、宮平家の壕が奥まっていたから伝令が来なかったというのは、極めて考えにくいことです。伝令の恵達は、60あまりもある各家の壕を回るのに急いでいたことは確かですが、だからといって特定の家を省略するとは考えられません。まして、伝令の内容は部落全員で自決しようという村当局からの重大な呼びかけですから、ますます考えにくいことです。 第二に、「私の壕はシンジュの上のほうにあって、奥まっていた」(貞子証言)ということは、恵達たち伝令が秀幸の壕に来なかったとか、伝令が来たことに家族が気付かなかったとかいう言い訳にはならないことを指摘しなければなりません。シンジュの壕の配置について筆者(藤岡)が秀幸から聴取したところによれば、畑に沿った土手に宮平初枝(結婚後、宮城初枝)の家の壕があり、そのすぐ上の段、初枝の壕から2メートルの高さのところに秀幸の壕がつくられていました。初枝の壕から秀幸の壕まで、歩くと5~6メートルの距離がありましたが、下の家の壕を訪ねた人の声は上の壕にも筒抜けに聞こえていましたし、その逆も成り立っていました。 秀幸の壕は幅1.5メートル、奥行き3メートルほどの広さで、たいていは入口に貞子と千代が布団をかぶって寝ており、中間に祖父母、奥に小さな子供二人が置かれていました。恵達が来た時のことを秀幸が祖父から聞いたところによれば、恵達は秀幸の壕の入口までやってきました。壕の扉は、養蚕に用いる「まぶし」に木の枝を差した簡単なもので、恵達が外から扉をガタガタ揺すったので、内側から止めていたひもをはずし、祖父が顔を出して恵達と話をしました。 貞子は忠魂碑前に行かなかったことの口実として、シンジュの壕の配置に言及しましたが、それは実態に照らすと全く説得力のないものであることが、以上の2つの理由から明らかになりました。 (4) 貞子の、忠魂碑前に行かなかったという証言は、8月14日付けで提出された秀幸の妹・昌子の陳述書によって、直接反証されています。昌子陳述書は次のように述べています。 「暗くなってから、私たちが入っている防空壕の前へ大人二人が来て、一人はおじさん、もう一人は女の人でした。「マカー(忠魂碑のある地名)の前へきれいな着物を着て早く来なさい」と呼んでいました。おじいさんも、おばあさんも、私も弟も、きれいな着物を着けて、お母さん、お姉さんも着けて、マカーの前に行きました。マカーの前には人がいっぱい集まっていました。私と弟を、母と姉がおんぶして連れて行きました。おじいさんとおばあさんは杖をついて行きました。私たちはマカーの広場のそばの小さなみぞに座っていました。秀幸兄さんが来ました。「千代姉さん」と呼んでいました。兄さんはおじいさんとお母さんに話をしていました。少したってから、大人の人たちが集まるように大声でみんなを呼びました。大人が「解散、解散」と言っておりました。」 ここで、(1)家族の壕に伝令が来たこと、(2)家族が全員正装して出かけたこと、(3)忠魂碑の前で秀幸と家族が落ち合ったこと、(4)大人が集まるように呼びかけられたあと、「解散、解散」と言っていたこと、が証言されていますが、このうち④は村長の解散命令に対応することは明らかで、ここで表現されている出来事の骨格は秀幸証言と完全に一致しています。 (5) 貞子の証言が、(1)(2)のような内在的矛盾を含み、伝令が来なかったから忠魂碑前に行かなかったという言い訳は壕の配置の実態から見て成り立たず、昌子の陳述書の証言とも食い違う虚偽を含んでいるのは、村史編集の過程で、集団自決が軍命によるものであったという余地を残すため、軍命によるという説を明確に否定することになる、「忠魂碑前での村長の解散命令」を何としても隠蔽しておかなければならなかった村当局の意向によるものだと考える他はありません。 この点について、秀幸の陳述書では、「母はテープに証言を吹き込むとき、「そこはストップ」、「はい、戻って」などと繰り返し指示され、終わって帰ってきてから、「ああ、疲れ果てた」とこぼしていました。母の証言で私の家族が忠魂碑前に行かなかったことにしたのは、村長の解散命令をかくすためであったと思われます」と述べています。被告書面によれば、村史を編集する際に、「宮平貞子から戦争体験を聴取したのは宮城晴美であった」とのことですから、晴美は村当局の意向を受けて貞子の証言を操作したのかもしれないという疑いを生じるところであり、この点からも晴美陳述書が信憑性を失うのは明らかです。 (6) 以上のような虚偽の内容を含む貞子証言を根拠に、本部壕で梅澤隊長と村の幹部の話を聞いたとする「宮平証言」を否定することはできません。 意見書(2)2/2 第六 被告側準備書面(2)への批判 2 宮平秀幸のビデオ証言との食い違い 3 本田靖春に対する宮平秀幸の話との食い違い 4 宮平春子証言などとの食い違い 5 宮城初枝の証言との食い違い 6 伝令ではなかった 7 宮平秀幸の信用性 第七 証言者としての宮平秀幸の人物像 次へ | 沖縄集団自決訴訟第2審
https://w.atwiki.jp/moedra/pages/125.html
春の明るい朝日に照らされた古めかしい城壁。 かなり小さな国ではあるものの、この国を治める父には子供の私から見ても王らしい威厳と風格が備わっている。 だが20歳の誕生日を迎えたある日、私は突然父の寝室へと呼び出された。 「なあ娘よ、お前ももう今日で20歳だろう?もうそろそろ誰かと結婚してもいいのではないか?」 「あら、ちょっと前までは迂闊に結婚などするなと言っておりましたのに、一体どういう風の吹き回しですの?」 「ふぅ・・・ワシも正直、求婚のため連日この城を訪れてくる男達の相手に疲れてしまったのだよ」 父はそう言うと、普段国民の前で保っている威厳に満ちた表情を崩した。 「腕の立つ者、頭の賢い者・・・お前が望むのなら、いくらでも素晴らしい男と結ばれることができるのだぞ?」 「どうせ王家の地位と財産が目当てで表面だけを取り繕った方達なのでしょう?それに・・・」 少し迷ったが、私はなおも結婚を勧めようとする父を牽制するために少し声を高くした。 「そんな政略結婚紛いの結婚など、したくはありませんわ」 「ワ、ワシはそんなつもりでは・・・それに、年頃の娘が毎日森の中で遊び回っていてはワシも心配なのだ」 「知りもしない男達と話すより、森の中で涼しい風に当たっていた方がずっと健康的というものですわ」 それだけ言い置くと、私はいつものように出掛ける準備をしようと父の部屋を出た。 「お、おい、また森へ行くのか?」 「どうせ他に行きたい所もありませんから」 「・・・暗くなる前に戻ってくるのだぞ。この季節は獣どもが繁殖する時期なのだからな」 その声に私は閉まる扉の隙間から後ろ手に父へ向けて手を振ると、自分の部屋へと駆け込んだ。 「さて・・・今日はどこに行こうかしら?」 澄んだ水を湛える湖、遥か遠くまで見渡せる断崖、涼しげな飛沫と水音を振り巻く大きな滝・・・ 父は知らないのだろうけれど、この国を取り巻く森の中には実に美しい自然が満ち満ちているのだ。 身分のせいか気さくに話し合えるような友人ができることもなく、私はいつからか1人で森の中を散策するのが日課になっていた。 それにもう何年も森の中を歩き回っているが、これまで大して危険な目に遭ったことはない。 森をうろつく獣達は下手に刺激しなければ襲ってくることはないし、毒蛇や毒虫の類など見たこともなかった。 今日は、まだ行ったことのない西の方の森へ行ってみることにしよう。 険しい山々が連なっているせいか、西側の森には全くと言っていいほど人の手が入っていないのだ。 きっと今まで以上に原型を留めた自然の景色を見ることができることだろう。 木々の枝や葉で傷を負わないように少しだけ厚手の服を着ると、私はそっと城を抜け出して西へと向かった。 1時間も歩けば、もう国境が見えてくるような小さな国なのだ。 やがて何の躊躇いもなく草木の生い茂った森の中へと足を踏み入れると、薄暗くなった辺りの様子を見回す。 これまでの見慣れた景色とは違い、初めて見る濃い青と緑と茶色の世界に私は胸が躍った。 知らない誰かと気を揉みながら会話を交わすよりも、ずっと素晴らしい体験が待っていることだろう。 やがて獣道らしい草木が避けて通ったような細い道を見つけ出すと、私はそっと茂みを掻き分けながら森の奥を目指して歩き続けていた。 歩き慣れない道を歩いているせいだろうか、私は時折自分の進んでいる方向がわからなくなることがあった。 いや、そもそも草木が勝手に形作った道を辿っているだけなのだから、単純に森の中を適当に歩き回っているに過ぎないのかもしれない。 それでも、私はこれまでよりも一層濃い森の空気を味わえることに嬉しさを感じていた。 ガサ・・・ガサ・・・ 「ふう・・・やっと抜けたわ」 やがて短く生い茂っていた茂みの海を抜け出すと、そこから先はいつもと変わらぬ黒土と木々のトンネルに囲まれた薄暗い風景が広がっていた。 目に見える範囲には鳥や獣の気配は感じ取れなかったものの、これまでとは違うピリピリとした空気が辺りに流れている。 子供を守る母親が周囲を威嚇する時に発する殺気のようなものが、時折風に乗って届いてくるような気がした。 何とはなしに早くなった鼓動を抑えながら更に森の奥へと踏み込んで行くが、初めて味わう不安についキョロキョロと辺りを見回してしまう。 「グルルル・・・」 とその時、突然通り過ぎた大きな木の陰から獣の唸り声が聞こえてきた。 それに驚いてビクッと足を止め、恐る恐る背後を振り返る。 「あ・・・」 そこには、産まれたばかりの2匹の子供に乳をやりながら私の方をギラリと睨みつける1頭の雌の虎が身を伏せていた。 そっとその場を離れようにも、突然出くわしてしまったためあまりにも距離が近付き過ぎている。 「お、落ち着いて・・・私は何もしないから・・・」 私は両手を前に突き出すようにして宥めるようにそう呟いたものの、その虎は鋭い爪の生えた手で子供をそっと押し退けるとほんの少しだけ腰を浮かせた。 明らかに、私に向かって飛びかかるために身構えている。 だがなるべく虎を刺激しないように少しずつ後退さったその刹那、私は地面から突き出ていた岩の角に躓いて後ろへと倒れ込んだ。 「きゃっ」 「ガアァッ!」 短く漏らしてしまった悲鳴を好機と受け取ったのか、それとほぼ同時に虎が私の上へと飛びかかって来る。 そして200キロ以上もある巨体で固い地面の上へと組み敷かれると、私はあっという間に身動きを封じられてしまっていた。 「だ・・・だれか助けて・・・」 恐怖に蒼褪めた私の顔を覗き込んだ虎の口からトロリと唾液が一筋垂れ落ちると、恐ろしい牙を生やした顎がガバッと大きく上下に開けられた。 「きゃ、きゃあああああああっ!」 突如目の前に出現した鋭利な牙の森に、恐怖で意識が遠のいていく。 だが唾液に濡れ光る尖塔の先が私の細い首筋に突き立てられようとした瞬間、何か黒っぽいものが白濁した視界の中からドンという衝撃とともに虎の姿を消し去った。 「あ・・・う・・・」 そして何が起こったのか分からず辺りを見回そうとしたものの、私はそのままフッと気を失ってしまった。 「うう・・・ん・・・」 土の上とは違うゴツゴツした地面の上に寝ている感覚に、私はぼんやりと意識が戻ってくるのを感じていた。 薄っすらと目を開けてみるが、真っ暗で辺りの様子はほとんど見えない。 私は一体どうしたのだろう?確か大きな虎に襲われて・・・それから・・・? ハッと起き上がって自分の体をまさぐってみるが、別にどこも怪我はしていないらしい。 ただ固い岩の地面に寝ていたせいか、体中の関節がギシギシと軋んだ。 「・・・怪我はないかい?」 その時、暗闇の中から誰かの声が聞こえてきた。 聞いたことのないようなくぐもった、それでいてどこか暖かみを感じる声・・・ 「どなた?」 声の主を探して周囲に視線を巡らしてみるものの、誰の姿も見当たらない。 だが、自分がこの声の主に命を助けられたのは確かだった。 「朝になったら姿を見せよう。それまで、ゆっくり体を休めるといい」 どうやら、今の所身に危険はないらしい。 私は暗闇の中にいるというのに心を落ち着けると、再び固い地面の上に横になって目を閉じた。 よほど疲れていたのか、私はあっという間に再び眠りに落ちると翌朝に目を覚ました。 淡い光が瞼越しに入ってきて、陽光から顔を背けるようにして目を開けてみる。 そこは、高い天井に囲まれたどこかの洞窟の中のようだった。 何故私はこんな所に寝かされていたのだろう? 私を救ってくれた人は、家ではなくこの洞窟に住んでいるとでもいうのだろうか? その時、私は不意に誰かの気配を感じておもむろに背後を振り返っていた。 そして昨夜の声の主を目の当たりにして、思わずゴクリと息を呑んでしまう。 「あ・・・あなたは・・・」 そこにいたのは、全身を黒っぽい灰色の体毛で包んだ大きな蜥蜴のような生物だった。 いや、丸まった背中から生えた1対の巨大な翼が、それが紛れもなくドラゴンであることを示している。 「怖がらないでくれ。君に危害は加えないから・・・」 本能的な恐怖に引き攣った私の顔を見て焦ったのか、ドラゴンは申し訳なさそうに顔を垂れてそう言った。 「ご、ごめんなさい・・・私を救ってくれた方だというのに・・・」 得体の知れないものを見てしまった驚きを何とか抑え込むと、私はドラゴンの姿をまじまじと観察した。 全身を覆う鱗の代わりに灰色の体毛が生えてはいるものの、所々毛が抜け落ちているのか白っぽい皮膚が覗いている。 大きく広げられた翼の縁や裏側にも同じように疎らな毛が生えていて、その色気のない粗雑な様子に私はドラゴンにしてはどこかみすぼらしいという印象を受けていた。 「フフフ・・・醜い姿だろう?」 「い、いえ・・・そんなつもりでは・・・」 「いいんだ。こんな姿のせいで、僕は仲間達からも蔑まれてるんだから。お前なんかドラゴンじゃない、ってね」 ドラゴンはそれだけ言うと、小さく息をついて私から少し離れた所に蹲った。 「少し、僕の話し相手になってくれないか?後で町まで送ってあげるからさ」 「え、ええ・・・」 無事に帰れる・・・その言葉に、私はホッと胸を撫で下ろすと地面の上に足を投げ出して彼の言葉に耳を傾けた。 僕はできるだけ彼女を怖がらせないように体を低くすると、組んだ両手の上に尻尾の先と顎を乗せた。 「なんで君みたいな女の子が1人で森の中を歩いていたんだい?それも、1年で1番危険な繁殖期に」 「それは・・・森で遊ぶのが私の日課ですもの。親しい友人なんて1人もいなくて・・・退屈凌ぎですわ」 その返事に、僕は驚きに眼を見開くと少しだけ顎を浮かせた。 こんなに綺麗な女性だというのに、友人が誰もいないなんて信じられない。 少なくとも周りの仲間達から貧相な外見を揶揄され続けてきた僕に比べれば、ずっと幸せな人生を送ってきた様に思えるというのに。 「友人がいない?そんな・・・すごく綺麗な人なのに・・・」 「あら、ありがとう。ドラゴンさんに綺麗って言われるなんて思わなかったわ」 思わず漏らしてしまった本音を軽く受け流すと、彼女は寂しそうに顔を俯かせた。 「私、これでも王族なの。とっても小さな国だけど、私が王族というだけで周りの人達は距離を取りたがるのよ」 「そうなんだ・・・それなら、僕と友達になってよ。それとも・・・ドラゴンの友達は嫌い?」 予想外の提案だったのか、彼女は僕から外していた視線を元に戻すとちょっとだけ顔を赤らめた。 「そんなことないわ。父以外の方と話したことなんて今までほとんどなかったから、そう言ってくれると嬉しい」 「じゃあ、お互いに初めての友達だね」 「初めて?じゃあ、あなたにも友達がいないの?」 そう言ってから、私はなんだかこのドラゴンに対してひどく失礼なことを言ってしまったような気がした。 「こんな情けない姿だからね・・・僕には、産まれた時からもう母親がいなかったんだ」 一体どれくらい前のことなのか分からないが、ドラゴンが遠い昔を思い返すように洞窟の天井を見上げる。 「だから、母がどんな姿をしていたかもわからないんだよ。僕と同じような醜い姿だったのか、それとも・・・」 「醜いだなんてとんでもないわ。確かに毛は綺麗に生え揃ってはいないけれども・・・立派なドラゴンよ」 口にこそ出さなかったものの、ドラゴンは私に向けた視線に感謝の色を滲ませた。 「だから僕はツヤツヤの鱗に覆われていたり、フサフサの毛を伸ばした仲間が羨ましかったんだ。でも・・・」 うなだれるように組んだ両手と尾の上へ顎を乗せると、ドラゴンは目を閉じて先を続けた。 「彼らにして見れば僕なんて一族の恥だったんだろうね。だって、僕には誰かに誇れるものなんて何もないもの」 「それは違うわ!」 「え・・・?」 突然声高に叫んだ彼女に驚いて、僕は思わず弱々しい声を出していた。 「あなたは虎に襲われた私を助けてくれたんでしょう?それに・・・あなたと話してると私、凄く心が落ち着くの」 僕は今までそんなことを・・・それも人間に言われたことなどなかった。 「見た目がどうだっていいじゃない。あなたの優しさは十分に誇れるものよ」 「・・・ありがとう。それじゃあ、そろそろ町へいこうか。心配している人がいるんだろう?」 僕は体を起こすと、高く昇った太陽が照りつける洞窟の外まで彼女を連れ出した。 そして翼を広げて地面の上へと屈み込み、彼女を背に乗せる。 「ちゃんと掴まっててね」 やがて長く伸びた首を抱き締める力が強まったのを確認すると、僕は彼女を乗せたまま晴れ渡った大空に舞い上がった。 眼下を埋め尽くした深緑の絨毯の向こうに、ぽっかりと穴が空いたような人間達の町が見えてくる。 そして人目につかないように高く聳え立った城の裏側へと飛び込むと、僕はそっと彼女を地面に降ろしていた。 「ありがとう」 「また会えるかな?」 「ええ、会いに行くわ。私達、もう友達なんですもの」 満面の笑顔を浮かべた彼女にそう言われて、僕は嬉しさのあまり勢いよく飛び上がった。 「うん、待ってるよ」 町から離れるごとに彼女の姿はどんどん小さくなっていってしまったが、彼女は僕からも見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれていた。 森へ帰るドラゴンを見届けてから城の正面へとまわると、予想以上に大勢の人々が騒いでいた。 まあ、一国の王女が行方不明になったのだから当然といえば当然なのかも知れないけれど・・・ やがて城門の前にいた兵士の1人が私の姿を見つけると、何やら大声を上げながら駆け寄ってくる。 「ご無事でしたか姫様!父上がいたく心配されておりますよ。ささ、早く城の中へ・・・」 そして促されるままに父の寝室へと通されると、兵士は安堵の表情を浮かべた父に向かって一礼して部屋を出ていった。 「お父様・・・」 「ワシがどれほどお前のことを心配しておったかわかっているのか?一体今まで何をしていたというのだ」 「森の中で・・・子連れの虎に襲われましたの・・・」 その瞬間、父の顔にこれまで見たこともないような驚愕の表情が浮かんだ。 「それで・・・け、怪我などはなかったのか?」 「寸での所である親切な方に助けて頂いたのですわ。それで、一晩だけその方の所にお世話になったのです」 まさか相手がドラゴンだなどと言うわけにもいかず、私は慎重に言葉を選んで先を続けた。 「とても優しい方で・・・私に友達になって欲しいと言われましたの」 「そ、そうか、それはよかった。森に住んでいるとは少々風変わりだが、お前がそう言うのなら間違いなかろう」 娘に友達ができたという安心感からか、父はそれ以上のことを深く聞いてこようとはしなかった。 「いずれワシにもその者を紹介してくれんか?」 「ええ・・・いずれ・・・」 私は言葉を濁して父の寝室を出ると、給仕に頼んで遅い朝食を摂った。 今日はもう休んだ方がいいだろう。 疲れた体を大きなベッドの上に横たえ、そっと目を瞑ってみる。 たったそれだけのことで、外はまだ昼だというのに私は深い夢の世界へと吸い込まれていった。 気がつくと、私は暗い森の中をあてもなく歩き回っていた。 どっちにいけば城に帰れるのか、それさえもまるでわからなくなっている。 「ガルルルル・・・」 その時、私は背後から獣の唸り声が聞こえてきたのに気が付いた。 恐る恐るそちらを振り向いてみると、真っ暗な暗闇の中に血走った黄色いネコ科の眼が2つ、不気味に揺れている。 「ひっ・・・」 突然の事態に驚いてドスンと尻餅をついた途端、その恐ろしい影が私に向かって一気に飛びかかってくる。 「きゃあああっ!」 だが悲鳴を上げたその刹那、灰色がかった翼が視界を埋め尽くしたかと思うと私に飛びかかってきていたはずの影が跡形もなく消えていた。 「はっ!」 身の竦むような恐怖と混乱に、私はガバッとベッドから飛び起きていた。 「夢・・・?」 辺りを見回すと、窓の外にはすでに夕焼けの赤い手がかかり始めている。 全身にはじっとりと嫌な汗をかいていて、私は荒い息を整えるのに必死になっていた。 また、あの方に会いたい・・・ 薄れ行く意識の中で目に焼き付いたドラゴンに命を救われた瞬間の光景が、今も鮮明に残っていた。 そうだ、今からでも会いに行こう。 恐ろしい目に遭ったせいだろうか。悪夢が怖くて、とても1人きりで眠ることなどできそうにない。 彼に、あのドラゴンに、そばにいて欲しかったのだ。 私はベッドから這い出すと、急いで出かける支度を始めた。 服を別のものに着替え、そっと廊下の様子を窺ってみる。 父を含め城の者達はみな大食堂で晩餐を囲っているらしく、西日の差し込む回廊に人の気配はなかった。 そして食堂や城の入り口に立つ衛兵達に見つからぬようにそっと裏口から抜け出し、西の空を仰いでみる。 そこには、真っ赤に燃えた太陽が山の稜線の陰からほんの少しだけ顔を出して辺りを朱に染めていた。 町の中を走り抜ける私の耳に、時折食卓を囲む人々の笑い声が聞こえてくる。 昨日までの私ならそんな幸せそうな声に己の境遇を呪っていたものだが、今日はなぜだか違っていた。 私にも、待ってくれている者がいる。 外見は多少醜いかもしれないけれど、あの心優しいドラゴンの姿を思い出すだけで私は胸がスッと軽くなるのを感じていた。 「何?また娘がいなくなっただと!?」 晩餐を終えて部屋に戻ったワシは、守衛の報告に驚いて娘の部屋へとやってきた。 整然と片付けられた部屋だというのに、ベッドの上に先程まで娘が着ていた服が無造作に脱ぎ捨てられている。 その上開け放されたクローゼットには焦って何かを物色したような痕跡も残っていて、ワシはすぐに娘の行き先に思い当たった。 「あのお転婆め・・・また森に行きおったな」 これはすぐに娘の後を追ったほうがよさそうだ。 「これ、兵どもに娘の後を尾けさせい」 「し、しかし、どちらの方角に向かったのかもわからないのでは・・・」 「ならば森中を隈なく捜させるのじゃ!娘が無事ならばそれでよいが・・・」 きっと娘は虎から命を救ってくれたという者のもとへと向かったのだろう。 娘の見込んだ男なのだからそれについてはさして心配するほどのことではないのだが・・・ 夜になれば獣どもが活発に活動を始めるし、その上森の中は月明かりさえ届かぬ真っ暗闇になる。 とても若い娘が1人出歩いてよい場所ではないのだ。 命令を受けた兵が行った後も、ワシは落ち着きなく娘の部屋の前で腕を組んだままウロウロと歩き回っていた。 昨日と同じように背の低い茂みの海を抜けた頃には、もう辺りは真っ暗になっていた。 淡い銀色の月明かりまでもが厚く生い茂った木々の葉に遮られ、視界のほとんど全てを漆黒の闇が埋めている。 ロクに物が見えなくなったせいなのか、研ぎ澄まされた聴覚が私に周囲で発せられる様々な音を拾い始めていた。 葉の擦れあう音、風の吹き抜ける音、遠くで鳴くフクロウの声、枝の軋む音、小動物が足元を走り回る音、獣達の息遣い、そして・・・闇の恐怖に負け早鐘のように打ち始めた己の鼓動も。 「早く・・・私を見つけて・・・」 うわ言のようにそう呟きながら、私は一寸先も見えぬ黒塗りの世界の中を手探りでさ迷い続けていた。 夢で見た暗き森の様子が、徐々に徐々に私の不安を掻き立てていく。 だが夜の森に踏み入ったことを半ば後悔し始めていた時、頭上から大きな翼を羽ばたくようなバサッバサッという音が聞こえてきた。そう、朝にも聞いた、あの方の優しげな翼の音。 「お嬢さん、何か探し物かい?」 おどけた様子でかけられたドラゴンの声に、いろいろな感情の混ざった涙を目に浮かべながら木の上を見上げる。 暗すぎてよく見えなかったが、そこには確かにあの灰色のドラゴンが断続的な羽音を響かせながら浮かんでいた。 「あなたに会いたかったわ」 空を飛ぶドラゴンの暖かい背中に揺られて洞窟へと向かう途中、私は満面の笑みを浮かべながら彼に抱きついた。 「こんな夜中に森の中をうろつくなんて危ないよ」 「・・・私、夢を見たの。とってもとっても恐ろしい夢。その夢の中でも、あなたは私を助けてくれたわ」 彼は前を向いたまま特に何の反応も示さなかったものの、私の話に耳を傾けてくれていることは感じ取れた。 「でも・・・私はもう怖くて眠れなかった。だから夜が来る前に、またあなたに会いたかったの」 「ははは・・・本当のことを言うとね、僕も君を探してたんだ」 「え?」 予想だにしなかった彼の一言に、思わず呆けた声で聞き返してしまう。 「まさかこんな時間に君がくるはずなんてないと思ったんだけどね・・・僕も、きっと寂しかったんだと思う」 照れ臭さを隠すように、ドラゴンが一層力強く羽ばたきながらグッと頭を下げた。 「これでも、僕は80年以上も生きているんだ。いろんな物を見てきたし、いろんな経験もしてきた。でも・・・」 突如眼下に覗いた森の切れ間に向かって、ドラゴンが降下を始めた。 そのすぐ目の前に、彼の棲む洞窟の入り口が見える。 「孤独を癒してくれたのは君だけなんだ。僕からこんな事を言うのはなんだけど・・・一緒に暮らさないか?」 それは紛れもなく、ドラゴンからのプロポーズだった。 これまでにも私は数多の男性に甘い声をかけられてきたというのに、これほどまでに素直に、そして切実に話を切り出されたことはいまだかつて1度もなかったのだ。 「ええ・・・いいわ。どんな男の人よりも・・・私、あなたなら信じられる」 やがてドーンという大地を揺らすような轟音とともに洞窟の前へと降り立つと、彼は背中から降り立った私にそっと大きな口を近づけてきた。 大きく見開かれた彼の眼に、期待と不安の灯かりがゆらゆらと揺らめいている。 私は一瞬戸惑ったものの、彼の意図を察すると自らの小さな唇を彼の閉じられた巨口に重ね合わせた。 20年余りの人生で初めて味わう、長い長い竜との口付け・・・ 胸の内に幸福の波が湧き上がり、それが体中に、手足の指先にまで広がっていくような気がする。 ついに自分で自分を抑え切れなくなり、両手で彼の顔を掻き抱くようにして更に強く唇を押しつける。 それに応えるように、彼の方も大きな手で私の体を抱き抱えるとゆっくりと地面の上へと寝かせ始めた。 なすがままに湿った黒土の上へと仰向けに倒されると、彼が顔を離して切なげな視線を投げかけてくる。 "いいわ" 声に出さずとも、彼は私の目から肯定の意思を受け取っていた。 ゆっくりとスカートの内側に差し込まれたドラゴンの指先が私の下着を捉え、少しずつ少しずつ秘所を覆うシルクの布を引き下ろしていく。 やがて純白に輝いていた下着が完全に取り払われると、彼は恥ずかしさを隠すようにそっと自らの股間へと手を伸ばした。 灰色の体毛に覆われた下腹部に走る、1本の割れ目。 その割れ目の間から隆起した大きな桃色の肉棒を目の当たりにして、私はドラゴンに処女を捧げるという背徳的な興奮に身を震わせていた。 ドラゴンは私の上にそっと覆い被さると、厚手のスカートの裾を捲り上げた。 既に露わになっていた秘所が湿った外気に触れ、ヒクヒクと痙攣を繰り返しては熱い濃蜜を滴らせ始めている。 彼は初めて見る人間の膣にゴクリと唾を飲み込むと、真っ赤に開いた花びらの中にそそり立った肉棒を少しずつ押し込み始めた。 ズニュ・・・グニュ・・・ニュ・・・ 「ううっ・・・」 優に私の数倍はあろうかという巨体にもかかわらず、ドラゴンが挿入の快感にブルルッと身震いする。 それ以上奥へ押し込んでもいいものか思案しながらも、性の欲求に目覚めた本能が彼の腰を後押しする。 徐々に太さと固さを増していく竜の雄に膣を拡げられていく感触を、歯を食い縛ってグッと堪える。 「だ、大丈夫かい・・・?」 私が余程苦しそうな顔をしていたのか、彼は唐突に腰を突き出すのを中断するといつもの優しげな声でそう問いかけてきた。 「い・・・え・・・大丈夫・・・よ・・・」 円錐状に尖った彼の肉棒は、まだ半分程度しか膣の中に収まってはいなかった。 これから、更に倍近い圧迫感が襲ってくることだろう。 けれどもそこには、苦痛に対する不安や恐れの感情は微塵も根付いてはいなかった。 未熟な膣壁を擦り上げるドラゴンの肉棒に与えられた快感が、そんな些細な感情の起伏を削り取っていく。 フウフウと荒い息をつきながらも先を続けるように目で訴えると、彼は再び少しずつ肉棒を熱い肉洞の中へと沈めていった。 永遠にも思えるようなじれったい快楽の悪戯に耐え続けると、やがて雄々しく聳え立っていたドラゴンの巨根は根元まで私の中へと埋もれていた。 ギチギチに張り詰めた肉棒から伝わってくる脈動が、なおも切ない快感へと変換され続けている。 処女膜を破られた痛みなど、彼の慈悲深い眼差しの前では蚊に刺された程度の痛みにすら感じられなかったのだ。 私とドラゴンはお互いに息を整えると、そっと相手の体を揺すってみた。 シュルッ・・・ 「あっ・・・」 前後へ擦れ動いた肉棒の摩擦に反応し、愛液を滴らせる膣壁がキュッと収縮する。 「あうっ・・・」 初めての経験なだけに最初のうちは恐る恐る相手の反応を窺っていただけだったのだが、慣れてくるにつれて私達は激しく相手を求め合った。 短毛に覆われた彼の巨体を抱き締めた拍子に、彼の巨大な舌が私の口の中へと入り込んでくる。 その肉塊をしゃぶるようにして応えると、彼はようやく口を離して呟いた。 「本当に・・・いいのかい?」 「もちろんよ。ドラゴンであるあなたを受け入れる覚悟は・・・もうできてるわ」 彼は私のその返事に大きく頷くと、次の瞬間恍惚の表情で天を仰ぎながら身を震わせた。 「うああっ!」 「ああ~~~~~っ!」 震えとともに熱く滾った雫が私の中へ放たれ、その衝撃に私自身も至福の絶頂を迎える。 お互いにめくるめく激しい快楽の余韻に浸った後、彼はスッと身を起こして肉棒を膣から引き抜いてくれた。 そして洞窟の固い地面の上に並んで寝そべり、彼のボサボサの腕に頭を預ける。 心地よい夜風が洞窟内にそっと寄り道した直後、私とドラゴンはほとんど同時にフッと深い眠りに落ちていた。 翌朝、私は後頭部に当たる不思議な感触に目を覚ました。 ゆっくりと体を起こし、枕代わりに腕を差し出していたドラゴンの様子を窺う。 そして、私は目に飛び込んできた光景にハッと息を呑んだ。 「これは・・・」 ドラゴンの全身を覆っていた灰色の短毛は全て地面の上に抜け落ちていて、代わりに洞窟内に差し込んでくる朝日をキラキラと反射する艶やかな藍色の長毛がその巨体を包み込んでいる。 何の特徴も無かった彼の頭からは乳白色の雄々しい1対の角が後ろに向かって突き出していて、首の周りから靡いている玉虫色に輝くマフラーのような尾状の毛が美しいアクセントを加えていた。 所々毛が無くてみすぼらしかった彼の翼にも、濃い橙色の羽毛のように柔らかな毛がびっしりと隙間無く生え揃っている。 これが・・・私を助けてくれたあのドラゴン・・・? 私はあまりの驚きにしばし声を失っていたものの、やがて彼のそばに座り込むと肌触りのよいフサフサの毛に覆われた頭をそっと揺すってみた。 「う・・・ん・・・どうしたの・・・?」 まだ自らの身に起こった変化に気付いていないのか、彼が寝ぼけた声を漏らす。 だがそこにあるはずの無い角に触れられた感触に、彼はガバッと飛び起きた。 「えっ?えっ?・・・なんだ・・・これ?」 戸惑いを隠せぬ様子で長い首を巡らして自分の体を眺め回しながら、ドラゴンが呟く。 「きっと・・・それがあなたの本当の姿なのよ。あなたの母親も、そんな風に美しい姿をしていたんでしょうね」 「は、ははは・・・こんなに嬉しいことはないよ。君のお陰だ・・・ありがとう」 彼は表情をいつも私に向けていた穏やかな笑顔に戻すと、洞窟の外に向かって歩き出した。 きっと、あの生まれ変わった姿で思う存分空を飛んでみたいのだろう。 「待って、私も行くわ!」 期待に満ちた顔で晴れ渡った空を見上げていた彼に追いつき、広い背中の上へと攀じ登る。 彼の背を覆った滑らかな長毛の海は、城にあるどんな高級な絨毯も敵わないほど心地よかった。 「しっかり掴まっててね」 その言葉に太い首をギュッと抱き締めると、彼は一気に大空へと舞い上がっていた。 「申し訳ございません・・・朝まで森中を捜索致しましたが、姫様の姿はどこにも・・・」 「そうか・・・もうよい。ご苦労だった」 報告にきた兵長が申し訳なさそうに寝室を後にすると、ワシは再び娘の部屋の前へとやってきた。 昨日と変わらぬ部屋の光景が、ワシの胸にぽっかりと穴を空けてしまったような気がする。 娘が無事であればよいのだが・・・ だがちょうどその時、回廊の柱の隙間から差し込んでいた陽光が何か大きな影に遮られた。 「お父様ーーー!」 同時に聞こえてきた娘の声に耳を疑って外へと目を向けると、深い藍と橙色に染め上げられた艶やかなドラゴンが空を舞っている。 「私はこの方と共に暮らしますわ。私の命を救ってくれた方ですの」 そのドラゴンの背に乗った娘の姿を認め、ワシは驚きの声を上げていた。 「おお・・・なんと・・・」 だが大きな角の生えたドラゴンの凛々しい顔には、確かに心和む穏やかな表情が現れている。 ワシは一瞬迷ったものの、意を決して娘とドラゴンに声をかけた。 「お前が自分で選んだ道だ、止めはせぬ。ドラゴンよ、娘をよろしく頼むぞ」 父であるワシに認められた嬉しさからなのか、ドラゴンが満面の笑みを浮かべながら雲1つない快晴の大空へとフワリと浮き上がる。 そして娘とともに西の森へと飛び去っていくドラゴンの後姿を見つめながら、ワシは愛娘を手放した甘い切なさに1人胸を痛めていた。 完 感想 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gumdamblackcat/pages/434.html
リビアでは、ブラックハウスとヒップギグが闇夜の中で南進を始めようとしていた。この広い砂漠のどこにロンメル隊が潜んでいるのか、全くわからなかった。だが間違いなく敵はいるのだ。 ブラックハウスはヒップギグに先行し、フェンダー級のそれより強力なレーダーを駆使して警戒に当たっていた。だが砂漠地帯のミノフスキー粒子濃度は意外に高く、レーダーはほとんど頼りにならなかった。 それでもブラックハウス隊は砂漠を進む。夜が明ける頃には、二隻の船はロンメル隊の懐深くに入り込んでいたのだった。 「レーダーに微弱な反応!9時の方向、距離8000にMSがいる模様です。数は3、接近してきます!」 朝日が差し込む艦橋では、今日もまたカントーが接敵を報告していた。クルーの視線が一斉に左舷に向けられる。起伏がある地形のためMSの姿は確認できないが、敵が移動したためにあがったらしい砂埃が見えた。 砂埃はかなり大規模に上がっていた。 「三機のMSだけとは思えません。かなりの大部隊と思われます。」 双眼鏡を覗いていた京があずにゃんに言った。あずにゃんも同感だった。少なくとも戦車が10輌はいそうだ。さもなければあれほどの砂塵が舞い上がることはないだろう。 「ロンメル隊は私たちが思っているよりも強大なものなのかも知れません。先手を打って攻撃します。MS隊発進準備!」 あずにゃんはそう言うと受話器をとり、ヒップギグを呼び出した。艦橋正面のモニターにヒップギグのリツが映し出される。 「リツ先輩、左翼の敵に攻撃をかけます。ヒップギグは艦砲射撃で支援をお願いします。ブラックハウスはこのまま敵に向かいます!」 「合点承知だよ!ミオ、左翼の敵に主砲全力射撃用意!!」 「まず副砲で距離を測った方がいいんじゃないか?」 「チマチマしたのは嫌い!」 通信が切れ、アークがあずにゃんに報告を上げる。 「ブラックサンとマスパは発進準備完了、ヤラナイカも間もなく出られます!BlackCatはジャイアントバズの最終調整がまだ終わりません!」 あずにゃんはそれを聞くと今度は艦内通信を開いた。 「ハルヒさん、ジャイアントバズの調整はまだかかりますか?」 「わからないけど、5分でなんとかしてみせるわ。」 「4分でお願いします。」 「やってみる。ユキ!手伝ってちょうだい!」 通信が切れ、あずにゃんは再び受話器を置いた。丁度その時、後方のヒップギグが全砲門を一斉に開いた。 ロンメルは自ら砂漠仕様のザクを駆り、最前線で指揮をとっていた。だが、彼の指揮するMSは自身のものを含めて3機しかいなかった。カントーの報告は正しかったのである。しかし、MSに付随して走るトラックがいた。 トラックの荷台には航空機用のプロペラエンジンが回っており、これが砂塵を派手に舞いあげていたのである。これこそ、ロンメルが得意とした砂漠ならではの欺瞞作戦であった。彼はこの他にも農業用の犂のような装備も用いていた。 これはプラウと呼ばれ、トラックの両サイドに取り付けられていた。プラウからは数本の爪が伸び、これが地面を引っ掻いて舞い上がる砂塵を倍増させていたのである。 ロンメルは少数の部隊を大部隊に見せかけるこうした手段によって、物量に勝る連邦軍に何度も手痛い一撃をくわえていたのだ。しかし彼の作戦の真の意図は単に部隊を大きく見せることではなかった。 ロンメルを含めた三機のザクはあくまでも囮であった。彼は自分の位置からブラックハウス隊を挟んだ反対側、つまり西の方向に部隊の主力を配置していたのである。 この主力部隊、砂漠仕様のザク15機は、砂漠の稜線に隠れながらゆっくりとヒップギグに近づきつつあった。 ヒップギグは囮役であるロンメル達に熾烈な砲撃を繰り返していた。ロンメルはザクを細かく機動させながら直撃をさけ、チャンスを伺っていた。主力部隊がヒップギグのすぐ近くまで接近した時、彼らは一斉に突撃をかける算段になっていた。 しかしそれを待つ間にブラックハウスからMSが発進してきた。マスタースパークはブラックハウスの甲板上にあがり、100mmマシンガンを握ったヤラナイカと相変わらず素手のブラックサンが展開しながらロンメルの方に向かってくる。 ロンメルの周りには二隻の戦艦から発射される無数の砲弾が次々に降り注ぎ、砂塵をさらに巻き上げてロンメル達の機体を隠してしまった。ロンメルはプロペラエンジンを積んだトラックに後退を命じた。 すでに敵はこちらの全容を確認することはできないだろう。トラックの役目は終わった。ここからはMSの仕事だ。 † † † † † わたしとシンはマスパの援護射撃の下をゆっくりと進んでいた。マスパが載っているブラックハウスはわたし達すぐ後ろにいて、さらに後方4000mに砲撃を続けるヒップギグがいた。着弾地点はもう目の前だ。 かなり激しい砲撃だが、敵がこれをしのいでいる可能性は十分ある。あたりは砲弾の爆発が舞い上げた砂塵のせいで視界が悪い。わたしは通信でブラックハウスに言った。 「敵の位置を確認するからヒップギグに砲撃を止めさせて。これじゃなんにも見えないよ。」 間もなくヒップギグが砲撃を止め、徐々に視界がクリアになってきた。 「気をつけてシン。何機の敵がいるかわからないよ!」 「わかってますよ!」 シンが答えた時、遥か後方、ヒップギグの背後に一発の信号弾が上がった。 「なんだ?あれ…」 シンのヤラナイカが後ろを振り向いた。その瞬間、砂塵のベールを振り払い、一機のザクがヤラナイカに襲いかかった。 「シン!後ろッ!!」 わたしは慌ててヤラナイカの元へ駆け出した。その途端、今度は遠くのヒップギグで爆発が起こった。艦尾が炎と黒煙に包まれ、今にも艦橋が飲み込まれそうだった。 そして正面に視線を戻すと、ヤラナイカとザクが取っ組み合って地面を転がっていた。 「シン!今行くよ!!」 だが、わたしの進路を阻むように、新たなザクが飛び出して来た。ザクはマシンガンをブラックサンの足元に撃ち込み、砂埃がもうもうと舞い上がった。 「こいつッ、目潰しのつもりか!!」 わたしはブラックサンを一歩下がらせ、見えなくなった敵を探した。劣悪な視界状況の中、わたしは背後に敵機の影を見た気がした。 「そこかッ!!」 振り向き様にブラックサンの右腕を繰り出し、確かに何かを掴んだ。だがそれはバイタルチャージを起動する前に弾けてしまった。 「風船ッ?!ダミーか!」 刹那、わたしの直感が真後ろにいる敵を察知していた。すぐさまもう一度振り向こうとするが、わたしの操作に機体の反応がついてこない。ブラックサンは振り返る前に強烈な衝撃を受け、地面に押し倒された。 見上げると、ヒートホークを振り下ろそうとしているザクの姿が目に入った。 † † † † † 「艦尾に被弾!ヘリ格納庫より出火しています!!」 「ザクが突撃してきます!!」 ヒップギグの艦橋では、突然現れた新たな敵を前にクルーの焦っているような報告が飛び交っていた。 「両舷全速前進、取り舵いっぱい!ブラックハウスに合流してから反撃に移るよ!」 リツが素早く命令を下し、動き出したヒップギグの行く手に一機のザクが立ちはだかる。 「主砲!当てなくていいからザクに砲撃!」 リツの命令が直ちに実行され、第一砲塔の3門の40.6cm砲が同時に火を吹いた。砲弾はほぼ水平に飛翔し、ザクを飛び越えてその後方に着弾したが、爆風はザクを後ろから吹き飛ばしザクの機体はすくなくとも100mは飛ばされて地面に激突した。 ようやくザクが立ち上がった時には、今度は副砲の12.7cm砲が正確に照準を測ってザクを撃ち抜かんとしていた。発射された砲弾は主砲のそれより速い初速でザクを捉え、機体は胴体を爆散させながら崩れ落ちた。 しかしその間に他のザクはヒップギグに追いすがり、至近距離から後部第3砲塔と撃ち合いを演じていた。戦艦の主要部分は「自艦の主砲攻撃に耐えうる防御力」を持つよう設計されている。そして各砲塔の正面防盾もその例外ではなかった。 第3砲塔はザク・マシンガンの弾丸をはね返し、逆にザクに40.6cm砲弾を叩きこんだ。あまりの近距離のため、砲弾の芯管は作動せず、直撃を受けたザクは胸に巨大な貫通痕をつけて倒れた。 しかしロンメル隊主力のザクはヒップギグを追うのをやめようとはしなかった。ヒップギグはすでにブラックハウスからさほど離れていない場所まで来ていた。ブラックハウスの後部ミサイルが発射され、群がるザク13機が一斉に回避行動を取る。 ミサイルが地面に着弾し、またしても砂塵が舞い上がって視界を奪った。 この隙にヒップギグはその船体をブラックハウスの横に並走させた。二隻の戦艦の目前では、ロンメルを含む三機のザクと黒猫のブラックサン、そしてシンのヤラナイカが入り乱れて戦っていた。 黒猫とシンは不慣れな砂漠に足を取られ、機体がもつ起動力を生かしきれていなかった。一方のザクは砂漠戦に熟練しており、わざと砂塵を巻き上げ黒猫達を翻弄しつつ、はるかに高性能なはずの連邦のMS相手に善戦を続けていた。 † † † † † BlackCat の修理を手伝っている最中に、オレは一人の整備兵からパイロットスーツを手渡された。小柄で寡黙なその女性整備兵は黙ってスーツを差し出してきたのだ。胸のプレートの文字は「ユキ・ナガト」と読めた。 たしかSOS団の整備兵で、専門はコンピュータの筈だ。今まで話したことはなかった。 「あなた、私と同じ感じがする。何故?」 ナガトはオレに向かっていきなりそう言ったのだ。戦闘中なのにオレたちの周囲はやけに静かで、オレたち二人だけが別世界にいるような気がした。オレは驚いたはずなのに妙に落ち着いて答えていた。 「確かに、オレたちは似ている気がするな。でも違うのは、これまで誰と出会い、どう生きて来たかってこと。お前とオレは似てるけど、同じじゃないよ。」 「そう…。…頑張って。」 ナガトは無表情のままそう言うと、足早にオレのもとから去っていった。再び周囲が騒がしくなり、ハルヒの声が聞こえて来た。 「ナガモン中尉!もうすぐ修理が終わるわ!さっさと着替えなさい!!あんたたち、中尉の着替え覗いたら承知しないわよ!!」 減るもんじゃなしに、別に構わないと思うのだが。 † † † † † ブラックハウスの射撃指揮所では、砲術長のトレインがやきもきしながら戦闘を見守っていた。すぐにでも主砲のレールガンでザクを撃ち抜いてやりたかったが、 MSは互いにもつれあうようにして戦っており、味方を撃ってしまう危険があった。 悔しいが黒猫達を支援することはできない。トレインはそう判断すると、艦内通信を艦橋に繋いだ。 「艦長!ブラックハウスは黒猫達の方を向いてたって役には立たない!後方のザクを狙うから船を反転させてくれ!!」 「正気ですかトレインさん?!戦闘の真っ最中ですよ!」 あずにゃんはトレインの突然の提案に思わず大きな声で反応していた。だが、確かに今のMS戦闘を支援することはブラックハウスには不可能だった。魔理沙まで「トレインの言う通りだぜ!」と通信を入れてきた。 その時、アークがあずにゃんを振り返って叫んだ。 「BlackCatの発進準備が完了しました!」 これを聞いた瞬間、あずにゃんはトレインの提案をのむことに決めていた。 「BlackCatは直ちに発進してください。BlackCatの射出後、ブラックハウスは180度回頭、後方の敵を叩きます!!」 「いいぜ艦長。あんたはいい!」 トレインはそうひとりごち、BlackCatの発進を待った。 「シン・ナガモン、BlackCat、イきます!!」 カタパルトからBlackCatが飛び出し、黒猫とシンのもとへ向かって行く。直後にブラックハウスが超信地旋回し、後方にいたザクに狙いを定めた。レールガンが射撃を開始し、ヒップギグの砲撃と相まって猛烈な弾幕が展開された。 一方のザクも残る全機が直撃を避けながらマシンガンを乱射し、二隻の戦艦の周囲に無数の弾丸が撃ち込まれた。両者の射撃戦は激烈を極め、一機のザクが直撃を受けて大破したが、他のザクはひるまなかった。 ブラックハウス甲板上でマスタースパークを操る魔理沙は、目の前で展開される猛烈な弾幕に心奪われていた。そしてその中に飛び込んで行きたい衝動にかられた。 マスタースパークは自身の機体とブラックハウスとを繋ぐエネルギーケーブルをひきちぎり、濃密な弾幕の中へと突進していった。決して移動速度の速くないマスタースパークだが、魔理沙は際どいタイミングで弾幕をかわしながら走った。 星屑のような弾丸がマスタースパークを掠めて飛んでいき、ブラックハウスのクルー達はその光景に息をのんだ。だが、魔理沙はあくまで弾道を見切り、一発の直撃弾もくらわなかった。 そしてマスタースパークは、ついに敵のザクすべてを射程に捉えた。ここからなら敵の12機のザク全てを狙える。 「弾幕ごっこはこれで終りだぜ!マスタースパァァァァァァァク!!!!!!」 まばゆい光とともに、魔理沙の渾身の一撃が放たれた。4機のザクが瞬時に消滅し、5機のザクが慌てて地面に伏せたが、それらは地面ごと粉砕された。残る3機のザクはどうにか魔理沙の攻撃をよけ、取り乱しながら退却を開始した。 トレインのレールガンが一機を瞬殺し、その砲弾が舞い上げた砂埃で敵は見えなくなった。 一方、MS同士の戦いは未だに混戦状態のままだった。ナガモンが黒猫とシンに合流し数の上では互角になったものの、やはり彼女も砂漠戦は初めてだった。 アームストロング砲に代わって取り付けられたジャイアントバズーカを使おうにも、彼我の距離が近すぎて味方を誤射してしまう可能性があった。 やむなくビームサーベルを使っても、軟弱な地面のため大きな太刀筋でそれを振るうことはできず、斬りかかったところでヒートホークにあっさりと弾かれてしまうのだ。 「ブラックハウス、冗談じゃない!MSだけじゃ無理だ!一度敵から離れるから支援してくれ!!」 シンがそう叫び、弾がきれた100mmマシンガンを敵に投げつけた。シンと戦っていたザクはヒートホークでそれを真っ二つにし、シンのヤラナイカにとびかかった。だが、その足元に芯管を抜いた砲弾が着弾した。 ヒップギグの12.7cm砲だった。ザクは一度は退いたものの、再びヤラナイカを追撃しようとした。だが、ロンメルのザクがそれを制した。 「隊長?!」 「これ以上は無駄だ、シュトライヒ。退却するぞ!本隊がやられたのだ!!体勢を立て直して、再び攻撃にでる!」 ロンメルのザクは自分の足で砂を巻き上げ、それに隠れて退却を開始した。しかし、ナガモンは経験と勘で敵機のおよその位置をつかんでいた。ナガモンは敵の進路と速度を計算し、狙いすました一撃を放った。 「そこぉ!!」 BlackCatのジャイアントバズーカがついに火を吹き、ロンメルの隣を行くザクが背中に直撃を受けた。ロンメルの耳に部下の断末魔が無線を介してはっきりと聞こえた。 「ぎゃあぁああぁぁあ!!!!」 「シュトライヒ!!」 ザクの内部から炎が上がり、ロンメルの部下は生きながらにしてその身を焼かれた。しかし、ロンメルにはどうすることもできなかった。ぐずぐずしていては自分も同じ運命を辿るだろう。 「この恨み、決して忘れんぞ!ガンダム!!」 ロンメルはそう叫び、戦場から離脱していった。 「敵のMSは全て退却していきます。」 ブラックハウスの艦橋ではカントーがほっとしたような口調で報告していた。 「船体で被弾した箇所の確認を急いで下さい。しばらく戦闘体勢を継続します。アークさん、MS隊に着艦するように伝えて下さい。ヒップギグの被害は?」 あずにゃんがてきぱきと指示を飛ばし、京に尋ねた。 「艦尾の火災はおさまりつつあります。敵の規模からすれば軽微な被害です。ヒップギグの練度はかなり高い。」 京がヒップギグのほうを見ながら言った。 「今回の勝利の立役者はヒップギグと魔理沙さんですね。」 「たしかにそうですが、彼女の判断は賢明とは言えません。ただでさえ動きの鈍いマスパで、あの弾幕の中に突っ込んでいくなんて、狂気の沙汰としか言いようがありません。」 そのマスパは今、砂漠の軟弱な地面に足をとられて動けなくなっていたのだった。 「助けてくれ~!!」 魔理沙の慌てた声が通信から聞こえて、シンのヤラナイカがマスパのもとに向かった。ヤラナイカは半ば砂に埋まりかけているマスタースパークを助け出し、ブラックハウスの所までエスコートしてきた。魔理沙はシンに通信を入れる。 「ありがとな、シン。」 魔理沙はシンににっこりと微笑んだ。シンはモニターに映る魔理沙の笑顔を見て、なんだか気恥ずかしい感じがして思わず視線をそらした。 「…別に、これくらいな。」 その様子を見ていた黒猫がシンを茶化す。 「あれれ、シン・アスカくん、ひょっとして照れてるのかな?」 「なっ!!違いますよ猫さん!」 「みんな~シンは魔理沙にありがとって言われて照れてますよ~。」 「そんなんじゃないって!魔理沙もなんとか言えよ!」 シンは魔理沙に自分を擁護して欲しかったのだが、魔理沙はそれとは全く違う言葉を口にした。 「私じゃ、ダメなのか?」 「はぁ?!」 ちょっと伏し目勝ちな魔理沙の言葉に、シンは何と答えればいいのかわからなくなってしまった。もっとも、当のシン以外はみんな魔理沙がふざけているだけなのを知っていた。 「妬けるなシン。お幸せにな。」 「ナガモンさんまで!やめて下さいって!」 「わたし達は先にブラックハウスに戻ろっか、ナガモン。」 「そうだな。」 ブラックサンとBlackCatはヤラナイカとマスタースパークを残して行ってしまった。モニターの魔理沙を見ると、彼女はやけに楽しそうに笑っていた。 「…それじゃ、帰ろうか。」 「おう!」 シンがおずおずと尋ねると、魔理沙が元気よく答えた。ヤラナイカはマスタースパークが足を取られないようにその機体をそっと支え、ブラックハウスに向かって歩き出した。その様子は後ろから見ると、まるで寄り添い合う恋人同士のようだった。 「二人とも、さっさと戻らないか!まだ戦闘体勢なんだぞ!まったく…」 突然京が言った。京は何故か自分の頬を赤らめていた。こういう場面には弱いらしい。 ブラックハウスがMSを全機収容したあと、リツとミオが作戦会議の為にやってきた。両艦の艦長と副長、そしてパイロット達と整備班からMKⅡが士官室に集まった。今回は乃人も一緒だ。 「MS戦力が一機欠けた状態での戦闘だったわけですが、現状の戦力ではかなり苦戦を強いられそうですね。」 まずあずにゃんがそう切り出した。ナガモンも同意する。 「数の上でも劣勢だし、それにもまして敵は砂漠での戦いに熟練してる。数値化できない不安要素があるよ。」 「乃人准尉の容体はどうなんだ?」 ミオが乃人に尋ねた。 「自分ではたいしたことないと思ってるんですが、阿部さんから絶対安静だと言われてます。」 乃人がすぐにでも出られると言わんばかりの口調で言った。しかし、彼女の淡い期待は京大尉の言葉によって断ち切られた。 「アベ軍医のいいつけは守らなければなりません。乃人准尉は出撃させられません。」 京がきっぱりと言い放つと、黒猫が手を上げた。 「ブラックハウスの格納庫に、予備のコアファイターがずっと置いてあるけど、あれは使えないの?」 黒猫の質問にMKⅡが答える。 「もちろん稼動状態にしてあるよ。だけどパイロットがいないんだろう?」 「MSならともかく、コアファイター単体なら動かせる人いるんじゃない?整備兵さんとか、整備ができるなら動かせる人もいるんじゃない?聞いてみる価値はあると思うよ。」 黒猫がそう言うと、一同が顔を見合わせた。黒猫の言葉にはやけに説得力があった。案外あっさりと見つかるのではないか? 「だあ~!議論してても始まらない!!今から格納庫行ってきいてみようよ!」 リツが立ち上がってそう叫んだ。反論するものはいなかった。MKⅡ曰く彼女の班にはパイロット候補はいないらしい。となると、候補はSOS団から探すことになる。 一同が左舷格納庫に来ると、ハルヒが大声で作業の音頭をとっていた。 「たかが砂ごとき、なんとかして見せなさい!!このSOS団の名にかけて!」 整備作業は機体のあちこちに入り込んだ砂粒によって難航しているらしい。シンのヤラナイカなどは敵と取っ組み合いながら地面を転がったのだから無理もない。 ハルヒはあずにゃん達に気がつくともう一度檄を飛ばした。 「ほら!艦長達が見に来たわよ!!麗しの美少女たちに、いいところを見せてやりなさい!!」 整備兵たちに気合いが入り、作業効率が上がり始めた。 「それで?」 ハルヒがあずにゃんのほうを向いて言った。 「なにか用かしら?」 「ハルヒさん、実は今コアファイターを操縦できる人を探しているんです。SOS団の皆さんの中にはいませんか?」 「そうね…、キョンは操縦できたけど、入院中だし、コイズミ君は阿部さんと一緒にキョンの治療に当たってるからダメ、みくるちゃんも乗れるらしいけどやめたほうがいいわね。ユキはわからないけど…みんなに聞いてみるわ。」 ハルヒはそう言って団員たちのほうを向くと、再び大声で叫んだ。 「みんな、手を休めずに聞きなさい!この中にコアファイターを操縦できる人がいたら挙手しなさい!ただの整備兵には興味ありません!!」 一瞬の静寂のあと、再び作業が再開された。この中にはいないらしい。と、一同はシンがおずおずと手を挙げていることに気づいた。黒猫が笑いながらシンにいう。 「シンがあげてどうするんだよー。戦力を増やそうって話なんだよ?」 一同が爆笑し、シンが決まり悪そうに手を下げる。 「どうやらコアファイターは使いようがないみたいですね。とりあえずのところは現行の戦力でやるしかありません。元々ブラックハウスだけだったわけですし、先輩達が来てくれただけでもありがたいです。」 あずにゃんが明るい口調で言った。確かにその通りだった。元々ブラックハウス単独での作戦だったところに、ムスカの尽力のおかげかはわからないが、とにかくヒップギグが応援に来てくれた。前途を悲観するには早すぎる。 現に今日の戦闘では魔理沙の大活躍もあり13機もの敵MSを葬った。この仲間とならやれる。そんな希望がわいてきたのだ。だが、一同の中でただ一人、そう簡単には楽観的になれない者がいた。 ブラックハウス副長の京大尉その人である。彼女は内心に漠然とした不安をいだいていた。もし次に今日と同じ規模の敵が襲って来たら、今度こそ無事ではすまない。 今日の戦闘はたまたま魔理沙が被弾しなかったから勝てたものの、その幸運がいつまでも続くとは思えない。 彼女は自分が少しネガティブになりすぎだと思った。無理もない。ブラックハウス内の風紀は乱れに乱れ、それを注意する者は実直な京くらいだったのである。更に、先日のあずにゃんとの不和が京の心を未だに締め付けていたのだった 。自分の意見が間違っていたとまでは思わないが、辛い立場はあずにゃんも一緒なのに、ついきつい言い方をしてしまった。しかし京はそのことをまだあずにゃんに謝っていなかった。 だが、素直に謝ることもできる気がしなかった。どうすればいいのだろう…。その時京の頭に、ふとアベ軍医のことが浮かんだ。彼なら相談に乗ってくれるかもしれない。 作戦会議はその場で解散となり、一同は三三五五散っていった。京はその足で医務室へ向かった。医務室に入ると、アベはいつものように白衣ではなく青いツナギを着て部屋の中のベンチに座っていた。 医務室の中に公園にあるようなベンチがあるのはいかにも不自然だが、今さら驚く京ではなかった。しかし真面目な京なので服装だけは注意した。 「その格好ではダメだと何度言えばわかるんですか、アベ軍医?」 「入ってくるなりお小言か大尉?まあ座ったらどうだ?」 京はアベの示した椅子に座り、彼と向かいあった。 「それで用件は?わざわざ服装を注意しにきたんじゃないだろ?」 「…実は相談に乗ってほしくて来ました。ブラックハウスのこれから、不安なことが色々あって…」 「そんなことをフォイフォイ俺に相談しちまっていいのか?まぁ話は聞かせてもらおうか。」 アベがそう言うと、京はコクリと頷きいま自分の胸にある不安を順に喋り始めた。艦内の風紀の乱れ、上層部からの無茶な指令、あずにゃんにきつく当たってしまったこと、そして戦力が足りないこと…。 アベは黙って聞いていたが、京が一通り話終えると言った。 「最大の問題は戦力不足だな。そのことが一番のストレスになって、いろんなことを悲観的にしか見られなくなってるんだ。はっきり言って軍事に関しては素人だが、他の問題はそれ自体はたいしたことじゃない。」 「そうですか…。しかし困りました。一番解決が難しい問題が原因なんて…」 「なんなら俺が力になってやろうか?」 「と、いいますと?」 「戦闘機は無理だが、MSなら操縦できる。」 「本当ですか?!」 「もちろん本格的な格闘戦なんかは無理だけどな。マシンガンくらいなら撃てるぞ。」 「そのこと、艦長はご存知ですか?」 「まさか。今初めて人に教えた。あまりあてにできないかもしれないが、戦闘に出る覚悟ならあるぞ。」 「さっそく艦長に報告してきます!!」 京は言うなり医務室を飛び出していった。彼女の心はすでに晴れやかだった。アベはほんの少し話しただけで、京の悩みを吹き飛ばしてしまった。 「本当にいい男なんだな…」 艦橋へと走りながら、彼女はそう呟いた。 艦橋では、あずにゃんがムスカと映像による通信を行なっていた。 「さらに増援が来るんですか?」 「そうだ。もっともMSが一機だけだがね。到着予定は明後日、ミデア輸送機と陸上巡洋艦一隻が一緒に来る。これらはブラックハウスへの補給完了後ただちに帰投させるが、また君の顔馴染みだよ。楽しみにしていたまえ。」 「はあ…」 「明後日までは今ある戦力で持ちこたえるのだ。その頃までにはクリミアの敵は二海峡打通作戦を開始しているだろう。そう長い戦いにはならない筈だ。期待しているぞ。以上だ。」 ムスカは一方的に通信を切り、はちゅねが接続を解除した。 「艦長、新たに増援が来るのですか?」 「京さん、いつの間に。そうですね、MSが一機だけらしいんですが。」 「実はアベ軍医がMSを操縦できるとのことで、出撃してもいいと言っています。シンをコアファイターに乗せて、軍医にはヤラナイカに乗ってもらえば、戦力は増強できます!」 京にしては珍しく、興奮した口調だった。あずにゃんは一瞬あっけにとられたが、我に返ると言った。 「私は阿部さんと直接話してみます。ヤラナイカに乗ってもらうかどうかはそれから私が判断します。副長はブラックハウスをヒップギグと共に100km南下させて下さい。今の通信で敵がここを察知したかも知れません。ここの指揮はまかせます。」 「了解しました。」 あずにゃんが医務室に向かって歩き出し、艦橋から出ようとした時、京は突然あずにゃんを呼び止めた。 「あの、艦長!」 あずにゃんが振り向く。 「なんですか?」 「その…あの…」 「?」 「このあいだは、すみませんでした。上官である艦長に対して、失礼なことを言ってしまって…」 あずにゃんは少し考えるようにして天井を見ると、ひらめいたようにこっちを見て言った。 「あのことなら全然気にしてません。京さんのことはいつも頼りにしてますし、いつも助けてもらってばかりです。それより、いいニュースを持ってきてくれてありがたいございました。」 あずにゃんは京に優しく笑いかけた。京のほうも微笑みを浮かべた。あずにゃんが行ってしまってから、京は考えるのだった。 もし自分が艦長になるとき、足りないものがあるとしたら、それはきっとあずにゃんの持つような優しさだろう。もっと艦長を見習わなきゃ。 あずにゃんはアベにシュミレータに乗ってもらい、戦闘シュミレーションを行った。聞けば、アベの実家は作業機械の修理とメンテナンスを行う会社だったらしい。 いつも着ているツナギはその頃の名残だそうだ。アベがシュミレーションを終えると、あずにゃんはアベに向かって言った。 「すごいです阿部さん!これなら本当に実戦にでてもらえます!…でも、絶対にやられないでくださいね。阿部さんがいないと怪我を治してくれる人もいなくなっちゃいますから。」 「大丈夫だ。」 「明後日には新しい増援が到着するはずです。この作戦中の特例として、阿部さんにヤラナイカパイロットの任を与えます。」 あずにゃんが表情を引き締めてそう言い、アベに敬礼した。アベも手馴れた敬礼を返した。 ブラックハウスとヒップギグはすでにサハラ砂漠の奥深くに入り込んでいた。昼間は骨の髄まで溶かしそうな灼熱の砂漠も、夜になるとセーターがほしくなるほどに冷え込むのだ。 星が広がる空の下、二隻の戦艦が並んだまま停泊している。ブラックハウスの左舷格納庫では、ようやく出番が来たコアファイターにシンが乗り込んでいた。 「コアファイター発進準備完了。いつでも行けます。」 艦橋でアークが報告する。 「先輩たちによろしく伝えて下さい。行ってらっしゃい。」 あずにゃんがモニターの中のシンに微笑み、シンはぎこちなく頷いた。 「シン・アスカ、コアスプレンダー、いきます!!」 シンのコアファイターがカタパルトから飛び出して行くが、京が眉をつりあげて言った。 「コアスプレンダー?」 「コアファイターです。」 はちゅねが訂正すると、ジョーンズが意味深な言葉を口にした。 「彼は時代を間違えている。」 彼の言葉の意味は誰にもわからなかったが、とにかくシンは飛び立った。舞い上がったコアスプレンダーはすぐに反転して勢いを殺すと、ヒップギグの艦尾へと向かった。 先の戦闘でヒップギグは艦尾の格納庫を損傷していたが、すでにコアファイターの受け入れ準備は完了していた。艦尾飛行甲板上には、艦長のリツと副長のミオがわざわざシンを迎えに来ていた。 コアファイターは推進ノズルを真下に向けて空中に静止すると、そのまま下降してきた。甲板上を強い風が吹き荒れる。 「うわっ!!」 突然ミオが悲鳴を上げた。強い風で彼女の儚いスカートがめくられそうになったのだ。ミオは両手でスカートを必死に抑えつつ、リツと一緒にコアファイターに近づいていった。 リツはスカートの下に長いジャージをはいていたのでへっちゃらだった。 「おやおや~?ミオ中佐、何を慌ててるのかな?」 リツが意地悪な口調で言った。 「う、うるさいな!慌ててなんかない!!」 そんなやり取りをしているうちに、コアファイターがスムーズに着地し、シンが降りてきた。 「シン・アスカ、ただ今コアファイターとともに着任しました!」 シンが元気よく報告してから敬礼し、二人も敬礼を返す。 「ご苦労!ヒップギグに歓迎するよ!改めて、艦長のリツ・タイナカで~す!」 「ミオ・アキヤマだ。よろしく頼む。さっそく船を案内するよ。ついてきてくれ。」 そう言って歩き出した瞬間、ミオは何かにつまずいてしまった。 「うわぁっ!!」 ド派手な音がして、ミオが前のめりに倒れこんだ。その後ろにいたシンとリツの視界に、水色と白の縞々模様が飛び込んできた。 「縞…パン…」 リツがぽつりと呟いた。シンに至っては突然の出来事に目を見開いて呼吸するのも忘れてしまっていた。一瞬の静寂の後、ようやく我に返ったミオが慌ててスカートを抑え、涙ぐんだ目で叫んだ。 「み、み、見るなあああああああ!」 ミオは顔を両手にうずめた姿勢のまま、全力疾走で艦内へと入っていった。あとには未だに唖然としているシンと、カメラがなかったことを悔しがるリツが残された。 「くぅ~、カメラがある所でやってくれればなぁ…」 リツが言ったが、シンはまだ固まってしまっている。 「シン?どうした?お~い?」 リツがシンの顔の前で手を振ると、ようやくシンの意識が戻ってきた。 「あっ、すいません。びっくりして…」 「ふふ~ん、ミオの縞パンに見とれて声も出せなかったか。若いねぇ。」 ここを編集
https://w.atwiki.jp/sakaki-gunparade/pages/18.html
榊版に登場する用語の一覧です。 ガンパレード・マーチ (突撃行軍歌)黒い月 芝村一族 《日本自衛軍》階級比較 編成兵種等 艦種等 【人名】ヌマリコラ・ブータニアス シオネ・アラダ 祇園童子 (ぎおんどうじ)他 【用語】 絢爛舞踏イ号作戦 ソックスハンターくすぐり大王吊り橋理論 湯けむりロマン 他 【軍事・政治】シビリアン・コントロール(文民統制)プロパガンダ 国家反逆罪国家機密 申し送り事項 無防備都市宣言(無防備地区宣言) 軍産複合体(武器商人)クーデター 戒厳令 挙国一致内閣査問委員会(軍人予審裁判所) 市街戦 撤退戦ヘリボーン 死守 ロジスティクス(兵站) 漁師の罠 暗号 戦場神経症ホワイトアウト 裏の戦争 他 SWEETDAYS ガンパレード・マーチ (突撃行軍歌) その心は闇を払う銀の剣 絶望と悲しみの海から生まれ出て 戦友たちの作った血の池で 涙で編んだ鎖を引き 悲しみで鍛えられた軍刀を振う どこかの誰かの未来のために 地に希望を 天に夢を取り戻そう 我らは そう 戦うために生まれてきた それは子供のころに聞いた話 誰もが笑うおとぎ話 でも私は笑わない 私は信じられる あなたの横顔を見ているから はるかなる未来への階段を駆け上がる あなたの瞳を知っている 今なら私は信じられる あなたの作る未来が見える あなたの差し出す手を取って 私と一緒に駆けあがろう 幾千万の私とあなたで あの運命に打ち勝とう どこかのだれかの未来のために マーチを歌おう そうよ未来はいつだって このマーチとともにある ガンパレード・マーチ ガンパレード・マーチ 「オール ハンデッド ガンパレード! オール ハンデッド ガンパレード! 例え我らが全滅しても、この戦争、 最後の最後に男と女が一人ずつ生き残れば我々の勝利だ! 全軍突撃!どこかの誰かの未来のために!」 黒い月 1945年、月と地球の間24万kmの距離に、月を隠すように突如現れた黒い天体。 全ての光・電磁波等を吸収する為詳細不明。 芝村一族 ここ数十年で勃興した、「世界征服」を標榜する、 全世界の政治・経済・軍事・化学に大きな影響力を持つ新興名族。 血族意識は皆無で、能力と志を持つ者を吸収する結社の様な存在。 昂然とした覇気の持ち主だけが加入。 強くあらねば芝村ではなく、無意味な死こそ最も反芝村的。 戦場で友を見出すのが伝統。最後には必ず勝利するのが流儀。 異質な存在を許容し洞察するのが特徴。 織田有楽斎の血統? 固定観念に縛られた者では彼らには勝てぬ故 彼等は勝ち続け、何れ七つの世界を尽く征服する。 迎えてくれた人類に恩義を感じており、共に生き、最後まで看取ると決めた。 彼等は戦いの中で生を享け、戦いの中に死んで帰る。 彼等は友も恋人も信頼もここで得た。 彼等が選ぶ道は戦いの道。彼等が戦って死しても守るべき誇りはそこにある。 地獄は彼等の故郷なれど‥ 彼等の伝説は言う。 竜は唯の蜥蜴だが、空を飛ばねばならぬから空を飛ぶ。 火を噴かねばならぬから火を噴く。 最強でなければならぬから、最強なのだと。 《日本自衛軍》 黒い月出現以降の終戦経緯の違いから、 基本的に旧軍の組織と人材、動員体制を継承しているが、 志願制の導入や女性兵士の戦闘兵科配属等、時代に応じて部分的に変化。 肥大し日本最大の組織となり腐敗が進み、 指導者層が政治に明け暮れ派閥同士の思惑がぶつかり合う伏魔殿。 勝利に関しては結果論で済ませ、 敗北という「可能性を秘めた事象」を嫌い 恥と考え目を背け責任を押し付け合い、その研究を怠る。 役人根性に浸かった紙面上だけの秀才は、 自分の見たい現実を尤もらしく正当化する事が得意。 情報を独占し手柄を立てたがるのは官僚主義的軍人の性。 過酷な競争社会であり、軍人は出世が正義。 学兵は未だ徴兵制だが[[自衛軍]]は志願制(本来は逆) 大陸・八代で将校・下士官を大量に喪失、 有能下士官を取り立てて凌いでいる。 半島撤退の際は歯止めとなる隊が存在しなかった為悲惨な結果に。 軍紀が厳正に保たれるのは勝っている時か平時だけ。 水際迎撃が強迫観念。 九州では学兵を囮とすることで被害を抑えていた。 (少年兵を動員した大人の責任に思い当たる軍人はごく希) 此処迄の戦争で負け方を学習した。 九州奪還戦に参加した将校の中では和平を望む者が多いが 参加しなかった者の中には主戦派となり軍産複合体の手先となっている者も。 決戦の連続の結果上層部には、 部隊を持てぬ、議論の為の議論に飢えたヒマ将官(口先だけの強硬派)多数。 エリートは誰もが国を憂い、背負う気概を持ち、重責を担う事を名誉に思い、 有能で問題意識を持った軍人ほど"屈辱"には敏感。 出しゃばらず静かに有事に備えるのが本来の在り方。 現状では20万の維持が限界。陸戦兵器が中心。軍医・看護師は全て将校待遇。 旧軍の解体は徹底されていない。 階級比較 大将 → 中将 → 少将 → 大竜師(准将・警視監) 竜師(大佐・警視長) 準竜師(中佐・警視正) 上級万翼長(少佐・警視・軍医・看護師長) 万翼長(大尉・警部・軍医) 千翼長(中尉・警部補) 百翼長(少尉・巡査部長) 十翼長(准尉・巡査長) 戦士(軍曹・巡査) → 伍長 → 兵長 → 上等兵 → 一等兵 → 二等兵 「自衛軍指揮の下、学兵を使う」という前提の為、自衛軍が上位。 軍曹は下手な大卒より給料が良いらしい。 編成 自衛軍の平時からの常備部隊は、基本的に旧軍の配置を継承。 戦時に師団・連隊を緊急に増設する場合は、 常備部隊の司令部から人員を割愛し、 新規召集兵(概ね学兵)で不足人員を満たす。 この方法で編制された師団は、基本は親師団の番号に100を付けた番号になる (熊本第106師団、広島第105師団、青森第108師団)が、 九州から撤退した常備部隊を組み込んだ京都第116師団、 戦中から居座ったままと思しき小笠原第109師団、 ほぼ全員学兵からなる第58師団といった例外も豊富であり、一概には言えない。 総軍 戦域を統括する最上級単位 方面軍 複数の軍を束ねたもの。複数集まって総軍。 師団 一正面の作戦を遂行する最小単位。 2~4個連隊又は旅団を基幹とし、諸兵科を連合。6千~2万人。 師団長は主に少将。幾つかの師団が集まって軍団等。 *甲編成(戦略機動型) 戦時編成の一種 人員約二万 至れり尽くせりの攻撃的編成 *完全機械化二個師団(約4万人)の補給には 6~7百両以上の輸送車両が必要(補給線が遮断されると脆い) 旅団 連隊同等又は上。1,500~6,000名。 旅団長は主に准将又は少将だが大佐の場合も。 連隊 約3,000名。連隊長は主に大佐又は中佐。 大隊 単一兵科。隊長は主に中佐か少佐。2~6個中隊から編成。 独立した活動を行う最小単位。通常は師団・旅団・連隊の一部。 中隊 歩兵なら約200人、砲兵は4門か6門 小隊 2~4個の分隊で編成。30~50人。 指揮官は少尉か中尉、又は曹長に当たる上級下士官。 分隊 小銃を主力とし、軽機関銃又は分隊支援火器、軽迫撃砲等を装備。 10名前後。 班 4~6人程度。2~3人程度の組に分ける事も [戦闘団]諸兵科連合部隊。主に連隊規模。必要に応じ柔軟に編成 [支隊・分遣隊]諸兵科連合部隊 特別任務に基づき独立行動。 [督戦隊]士気向上手段 自軍を後方より監視し、独断での退却・降伏者を攻撃 (常に編成する事は非効率で機動性も悪く反感を買う為、 命令によって臨時的に充てられる) [懲罰大隊]懲罰者が配属される部隊の総称 生餌任務に回され生還者皆無 階級及び武器剥奪の上、高死亡率・不人気な3K部署に配置 (死体処理・地雷撤去・非常時に矢面等) [山岳部隊]・車両を持たない言い訳 ・登山家、クライマーを集めたプロ集団 ウォードレスの筋力補正により一人200kg以上の弾薬を運搬 兵種等 ・将校(士官) 士官学校で養成される、少尉以上の職業軍人(管理職) 兵を効率的に死なせるのが仕事だが、 先頭に立って死ぬ事も職務。 部下の死に一喜一憂する指揮官など戦場ではお荷物。 ・参謀 高級指揮官の幕僚として作戦計画・立案をサポートする将校。 徹底して疑う事が基本。 指揮官の見解に対する反証、作戦地図・事務処理他、 雰囲気を盛り上げ、士気を高める事も職務。 向上心のある軍人にとって魅力的な仕事。 スタッフ要員であり、通常、部隊指揮権はない。 ・戦車随伴歩兵 戦車を守り、共同して戦う為、 強靭な肉体・的確な判断力が必要であり、速成教育は困難 ・工兵(施設科) 土木建築等の技術に特化した部隊。 敵陣・自然障害の破壊、野戦築城・道路建設、爆破工作、 塹壕掘り、地雷原敷設等の能力を持つ。 任務は陣地建設から歩兵支援まで多岐 各師団には400人~1,000人程度の大隊、連隊等。 旅団、連隊が各自中隊を持つ事も。 主な装備は掘削車、ショベルカー、クレーン車等の工事車両 攻勢時は敵地雷原・鉄条網等破壊の為、最初に行動 「決めつけるな。なんとかする。」が合言葉 ・輸送科(輜重兵) 大型車両等により人員・装備の輸送、統制、 ターミナル業務、道路規制等を行う後方支援職種。 誘爆を避ける為、弾薬は集中して積載 無いない尽くしで何とかするのが男輸送屋 ・衛生兵 医療業務を行う戦闘支援兵科。 負傷兵への応急処置、後方での傷病兵看護・治療、 部隊の衛生状態維持を担当。 寒冷地・熱帯地等では予防医学、防疫等を担当。 師団中約2~5%の人員により大隊を編成 医療知識・取り残された兵を救出する体力・フィールドワークが必要 ・炊事班 大人数の食事を用意する為屈強な体格。包丁を自在に操り気が荒い 炊事班とだけは喧嘩するな(植村中隊先任) 艦種等 DDH ヘリコプター搭載護衛艦 複数ヘリ運用 DDG ミサイル護衛艦 長射程防空ミサイル運用 DD 汎用護衛艦(駆逐艦、フリゲート) ・GFCS(射撃指揮装置) 方位盤、測距儀、レーダーを備える艦の目 【人名】 ヌマリコラ・ブータニアス 数千年を生きる猫神族の英雄にして最後の戦神。王にして将軍(長靴の国より来る客人神) 巨大化し空を飛ぶ、古くからの人類の盟友。推定5000歳。 その言葉に神韻を感じさせる、日本国首相推薦の世界最強の猫神。 動物連隊(動物神) ・リスの副王(中国地方) ・イタチの左大臣(九州) ・モモンガ大王(南九州) ・ツバメの少将 ・ネズミの中納言 ・カラスの王 ・ムササビの王 ・カモメ族の王 ・大東京ネズミ連合 霞ヶ関の親分 等 英雄精霊とは本来毛むくじゃらであり、種族によっては本来は冬眠。 北海道にて雪豹型が配下に加わった模様。 裏の仕事で"色男"と行動を共にするが、新司令も"研究する権利"を主張。 闇深ければそこに輝く星あるように。太陽が沈めば人を見守る星が出るように。 人類発祥時から本来幻獣と戦うのは彼ら。 正義を嘲笑した者には、それに相応しき最後を。 シオネ・アラダ 至高の戦士(又は歌い手)の意。主に女性。 人族の代表として神々との仲立ちをする巫女。究極のシャーマンキング。 術・歌・踊りの卓越した技量、人心を掌握するカリスマ性。 先代は史上五指に入る最強のアラダであり無私無欲の優しい女性。 しかしその力を恐れた同族により幽閉された。 祇園童子 (ぎおんどうじ) 先代のシオネと共闘した、仏法の守護者にして女子供の守り神。 彼女の言葉を信じ精神寄生体として永い時を生きている。 後に熊本の祇園山(花岡山)に奉じられた。 残酷な運命により"猫"の口から伝えられた言葉は 「生きて。そしてまた、会いましょう」 他 ・フランソワーズ茜 人工筋肉と関節工学の権威にして、士魂号開発の責任者。 茜大介の母親であり、原の師匠。現在行方不明。 ・シーナ カーミラの上司?本来は平和主義者らしい ・サンタクロース アメリカで開発された空飛ぶ新世代 ではなく、 良い子の元にはクリスマス前夜にプレゼントが配布されるという伝説。 子供の頃に聞いた、おとぎばなし。 ・カスター将軍(ジョージ・アームストロング・カスター中佐) 南北戦争にてインディアン戦に従事し、 無抵抗和平派部族を皆殺したパフスカ(長髪野郎) リトルビッグホーン川にて無謀な攻撃を慣行し、乱戦の中で銃弾を受け戦死。 ・久坂玄瑞 高杉晋作と並ぶ、松下村塾の双璧。 長州藩における尊皇攘夷派の中心人物(萩藩士) 1864年(元治元年)7月19日、蛤御門の変に於いて敗北し自刃。享年25歳。 ・高杉晋作 久坂玄瑞と並ぶ、松下村塾の双璧。 奇兵隊等を創設し、長州藩を倒幕に方向付けた尊王攘夷志士。 肺結核の為、大政奉還を見ずに逝去(享年29) 墓所は下関市 ・大村 益次郎 幕末期長州藩の医師、西洋学者、兵学者。維新の十傑の1人。 ・ファウスト 16世紀南西ドイツの医師・錬金術師・占星家として知られた人文学者。 悪魔と手を結び魔法に身を委ねたという伝説が出来、 ゲーテの大作にもなりヨーロッパ中で有名に。 ・メフィストフェレス(メフォストフィレス) ドイツに伝わる悪魔。 見えない所から人を誘惑し悪徳へと導く地獄の大公。 演劇「ファウスト」内にて「紙幣」発明。 ・ジャンヌ・ダルク フランスの国民的英雄にしてカトリック教会の聖人。 百年戦争においてフランスの勝利に貢献した「オルレアンの乙女」 後、コンピエーニュにて捕虜となり、異端者として火刑に処される。 【用語】 絢爛舞踏 舞う様に死を与える存在。 強く成り過ぎた故に人でなくなった、世界で最も新しい伝説。 新しい神。英雄の妖精。悪しき夢と戦う者。人類の守護者。 ほんの少しだけ普通より武器を使い分け、 ほんの少しだけ普通より移動して、 息をするように世界で一番幻獣を殺した人間。 イ号作戦 慢性的部品不足を補う為に物資集積所・補給基地等で決行される強奪作戦 (人型部品の生産は町工場注文のみ⇒正規手段だけでは間に合わない) 隊の運用・維持に貢献しているが、 憲兵隊・鉄道警備隊にマークされ、その度責任者が謝罪。 逮捕⇒処罰・懲罰・刑務所。射殺の可能性も。"有力者御曹司"は盾代わり。 強制はしないが拒否すると人間関係や友情にヒビが入るかも。 3/31(火)夜半 "一介の十翼長"獅子奮迅 深夜2時 熊本駅物資集積所 最後の作戦は関連部品の総浚い "一介のサラリーマン"に助けられた"作戦参謀"が 「策一つで千人の憲兵を総退却させた」と吹聴するのは別の話。 ソックスハンター 紀元前から連綿と続く人間のウラ趣味として、地下で追究されてきた快楽。 使用済み靴下の臭いに悦びを覚え、個人で楽しむ為に収集したり、 裏のマーケットで高値で取引を行ったりする変態達。 特殊で傾向的な紳士の嗜み。得意技は「足指占い」 歴史上どの国家にも王朝にも弾圧され、 忌み嫌われ異端視され常識を疑われ時には石もて故郷を逐われ、 ローマ時代は地下闘技場にてライオンと対決させられた、 永遠に市民権を得る事は無いであろう趣味。 (具体的には風紀委員女子学兵戦闘員により迫害・受難 闇に潜りつつ抗争中) 生徒会連合会則百八条補足十七号に抵触する為、 逮捕されると市中引き回しの上、踏み靴下の刑。 現役により数名が勧誘されたがロボは囚われた後、彼女達の密偵役に。 逆に新井木が買収されてハンター達の手先に。 ハンターは死しても尚ハンターであり、たとえ其の身が滅びようとも 魂魄となって可愛いソックス達の所へ戻ってくるという‥ 彼等にとってソックス1tの価値は金塊1tにも勝るのだ!! (例え戦友の屍を踏み越えても先に進まねばならない) 宿命に苦しむロボの向上心は理解されるが、連合の乱入により計画破綻。 バトラーの部屋の隅には段ボールに詰められタグがつけられた純白ハイソックス 15分毎に"気分転換"→パラデソ+鼻血 午後の伯爵邸で長老達や政府高官を交え"茶会"が行われたが、 "スウィーパー"の訪れと共に断末魔の叫び テントの片隅では3人の「趣味の仲間」が暑っ苦しく手を取り合う 5月の昼下がり「世の中には知らなくても良い事が有るんだよ」 ロボは死にステルスは飛ぶ事なく終わった。 警戒中の南関ICにてギャルソーンのシナプス結合は妄想に満たされたが、 転びハンターから先生の自宅用ピンクソックスを受け出血。 ポシェット内はきっと匂いでいっぱいに。 主な銘品 ○▲×から戴いた純白の足袋 小さく可憐な伝説の「ピヨ一文字」 S・Mのイニシャル付の綿の横縞ソックス 労働の汚れに塗れたニーソ ・風紀委員会 1976年、激増する被害に憂慮した女子高生達により結成。 各学校に配置された秘密委員がハンター達をつけ狙い、 戦闘部隊が地下組織化したグループと死闘。 くすぐり大王 素朴にして健全、教育委員会も泣いて喜ぶシンプルな遊び。 大王は家臣から一斉にくすぐり攻撃を受ける。 いくら笑っても構わず、逃亡は任意。 より長く逃げ続けたものが賞賛と尊敬に値。 限界を感じた際は地面を叩いてギブアップし退位、次の大王を指名。 派生形として"くすぐられ大王""仮装くすぐり大王"等 吊り橋理論 身の危険を感じる等の生理的な興奮を恋愛感情と誤認し、 付近の異性を意識してしまう というもの 長続きしないのが通例らしいが例外もある様子 湯けむりロマン やらないと女子のプライドを傷付ける、 清く正しい、本能に忠実であるべき男の義務にしてお約束 奇襲攻撃にこそ意味がある 山征かば草むず屍 想像・妄想中の女神が神秘性を失い無神論の混迷中に投げ込まれる為、 原は"彼等"の讀神行為を断固として阻止 他 ・ヘタレ 情けなく臆病ですぐに泣き言を漏らす、弱々しい人 ・天の岩戸 日本神話に登場する洞窟 スサノオの乱暴に怒った太陽神アマテラスが引き籠った為、世界が真っ暗に ・欧亜(おうあ) 欧羅巴(ヨーロッパ)+亜細亜(アジア)=ユーラシア大陸 ・「貧すれば鈍する」生活が貧しくなると、利口な者も精神が愚鈍になる 【軍事・政治】 シビリアン・コントロール(文民統制) 近代国家の基本方針「軍隊は政治家によって統制されなければならない」 但し、暴力を後ろ盾として発足したものは既に死んでいる。 プロパガンダ 特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する宣伝行為 国家反逆罪 政府及び全ての国民に対する裏切り行為。有罪=死刑 国家機密 法律に基づき政府が公表しない事実。法的に判断され政府に承認されたもの。 申し送り事項 後任者に伝える、事務・命令等の内容。 無防備都市宣言(無防備地区宣言) ジュネーブ諸条約追加第1議定書第59条に基づき 地域の無防備を宣言し戦闘を回避する、都市単位の無条件降伏。 自治体単独では効力はないが、政府及び統制軍の承認を得た場合は発効。 占領・占領行政は可。 軍産複合体(武器商人) military industrial complex 軍事予算に軍需産業が群がり結合、政府に働きかけ予算拡大を企図。 政策を歪め、民主主義社会を脅かす脅威。 軍需産業は工場ラインの民生転換が困難な為、 終戦が成った際、最も困窮するのは彼等(理想は一進一退) 輸出産業でなくなった以上は国を食い潰す巨悪 一部の腐敗した高級軍人・単純素朴な軍人を踊らせている模様。 ・軍事評論家 地下で暮らしていた為、 冬でも威勢よく鳴く軍需産業の太鼓持ち? クーデター 武力を以って国家中枢を制圧し権力を非合法に奪取する、民主主義否定行為。 最高責任者を拘束し、[[民間人]]を巻き込んでの軍事クーデターなどは 本分を逸脱しており正義など無い。発生した時点で負け。 国を憂えていれば何をしても許されるのか? 戒厳令 一時的に統治権が軍隊に移行、通常の市民の権利も制限。 戦・災害等で通常の統治機構が機能しない際、占領軍による統治の際等に発動。 挙国一致内閣 国家・政党内閣の危機に対し、対立政党をも包含して作られた内閣。 (戦時等に於いて政党同士が闘争していると危機に対応出来ない為) 軍部出身者が首相になる事も多く、一党独裁・ファシズムの危険あり。 戦争を効率良く進める為の挙国一致体制は、軍人が最も陥りやすい罠(山川) 番犬はその家の主ではない。 査問委員会(軍人予審裁判所) 士官・法律顧問から成る事実解明の為の軍事行政機関 召集権者の指示に応じ意見を述べ勧告を行なう 内容は一語一句正確に記録 未来を奪い死へと追いやった責任をいったい誰が取るのか?(善行) 市街戦 迷宮中の大規模殺戮劇場 複雑閉鎖空間での小規模戦闘の連続 無数の火点を立体的に設定出来る為戦闘車両の投入が困難=歩兵が主役 明確な戦線が存在せず事前の作戦・兵站計画立案が困難な為、流動的に対応 地理・地形に通じた防御側が交通路遮断・陣地構築に関し有利だが 迂回されると孤立して篭城戦や飢餓耐久状態に 撤退戦 敗北決定状態における損害抑制が課題。何れにせよ損害は出、得るものはない 出血前提であり、腕の一本位躊躇わず切り捨てる覚悟が必要 理由の如何を問わず足を止めてはならない(草食獣の逃走) 戦術的にも精神的にも非常に困難。 ・殿(しんがり) 限定戦力で追撃を食い止める最危険任務。 ・機動防御戦 敵に自軍を捕捉させずに出血を強い遅滞行動を行う、 撤退戦における理想的な戦闘行動。 引く兵の機動力・撤退を支援する火力・防衛ラインを見極めるセンスが必要。 足の遅い兵を遅滞行動に使う=見殺し ヘリボーン ヘリコプターを用いた派兵戦術。護衛を受け敵地に侵入し、目的地を制圧。 ・空挺降下 兵員・車両・物資等を飛行中の航空機より降下。 陸上移動が困難、近隣に飛行場がない、 急展開の必要がある際等に実行。 降下中は無防備な為、素早い着地が必要であり、 降下速度は着地できる限界速度に設定され、 ほぼ墜落同様(要訓練)。 死守 撤退・移動を禁じた全滅覚悟での抵抗。共産主義国軍、敗色濃厚軍で乱発の傾向 頑強化の反面、戦力浪費の可能性あり。 ロジスティクス(兵站) 生産地から消費地までの全体最適化。 物の流れ・保管・サービス・関連情報を計画・実施・コントロール。 ・連絡線(兵站線) 前線と根拠地を結ぶ交通路 遮断されると部隊の維持・増強が妨げられる。 漁師の罠 囮役が敵を引き付け、漁師役が削り、向かってきた所を番犬役が迎撃 番犬役は優先フェイズが警戒・戦闘・護衛と頻繁に変わり、 判断の連続の為、高難度 暗号 意思の疎通を行う際に、第三者の傍受による情報漏洩を警戒し使用される符号 小型幻獣:ハゼ 中型幻獣:ウツボ [[幻獣共生派]]:ハツカネズミ 小隊:サーカス団 司令:銀やんま オペレータ:モギリその1 一番機:黒ノミ 二番機:赤ノミ 三番機:青ノミ パイロット:青ノミ1 連絡員:宅配便の荷物 整備主任:ピエロ大 整備員:ピエロ1 戦車:熊 歩兵:ウサギ 作戦:曲芸 照明弾:くす玉 ファントム シェパード 白蟻 ドール ボイルドエッグ スクランブルエッグ 星114 スキピオ 鮟鱇の肝には毒がありますか? など 戦場神経症 戦闘がもたらす有害な心理反応 主に睡眠不足が原因 攻撃衝動、アルコール依存、不安、鬱、自己嫌悪、無感動、現実逃避 飲食障害、嘔吐、疲労感、集中力低下、記憶障害、言語障害等の症状 激戦が五日~十日間続いた部隊は食料・睡眠等が十分でも精神的に不安定化 しかし追い詰められ逆境に立った者は、 ストレス・PTSD等の忌々しいものを引きずってなお、 悪鬼の様に戦い続ける ホワイトアウト 雪・雲等により視界が白一色となり、方向・高度が識別不能となる現象。 雪原と雲が一続きに見え、太陽位置か判別不能となり、天地識別が困難に。 航空機墜落の原因にも。 ・吹雪や地吹雪によって雪が舞い上がる ・降雪自体が視界を遮り、白色を反射 ・雪表面・雲の乱反射等で視界が悪化 等 視界不良の為行軍速度が低下し、車両事故・遭難の懸念あり。 余程、地形把握・土地勘・情報収集に自信が無ければ戦闘は見送られる為、 吹雪下での戦闘は戦史上稀。 裏の戦争 憲兵・警察・軍情報部等による、破壊工作等の未然阻止。 国民に息苦しさを感じさせずに戦う裏の世界の住人達は優秀。 他 ・全体主義 個の全ては全体の利害に従うべきとする思想・体制。 1個人・党派・階級により支配され、国民の全てを規制。 マスコミや大衆組織を通じ隅々迄権力が浸透し得る状況下で生まれる、 閉鎖的で自己完結した一枚岩的統制。 ・閨閥(けいばつ) 婚姻関係を結び互いの家の繁栄を図る ・社交界 閨閥を作る為に欠かせぬもの(芝村中佐) 権力と金を持った悪党・其の子供達が、なよなよくねくねと親睦を深める場 ・政治的配慮 "国民の動揺を抑える為"という名目で、真実を隠し嘘をつく事 ・ブラフ はったり 威嚇 こけおどし ・桶狭間 侵攻を開始した今川軍に対し織田軍は少数精鋭を以て本陣を強襲、 総大将・義元を討ち取った ・「時は今 雨が下しる 五月哉」 「時」=「土岐」、「雨が下しる」=「天が下知る」の意とされ 「土岐氏一族出身の光秀が天下に号令する」という意味と言われる ・「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂」 吉田松陰 獄中の句 この様な結果になる事は解っていたが、 国の行く末を思えばこそ、やらずにはいられなかったのだ、日本の男として ・「おもしろき こともなき世に おもしろく すみなすものは 心なりけり」 高杉 晋作 辞世の句 面白いと感じるか感じないかは心の持ち方次第 ・「海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍 大君の辺にこそ死なめ 穏には死なじ」 大伴家持 大君の為なら例え屍を海水に浸し、山の草に埋めようとも後悔は無い 唯大君の辺にのみ命を捨てよう。犬死はしない 軍の鎮魂歌として採用され第二国歌として歌われた ・「安禅必ずしも山水を用いず、心頭滅却すれば火も亦た涼し」 禅を行うのに場所は関係なく、 無念無想の境地にあればどんな苦痛も感じない(一点の曇りもない心) 甲斐国の住職、快川紹喜が、 織田軍から武田方の武将を匿い焼き討ちに遭った際の辞世の句 ・「多くの人は自分が見たい事しか見えず、聞きたい声しか聞こえない」 ローマ共和国執行官 ユリウス・カエサル「内乱記」 見たい現実を見て、見たくない現実は見ない。それが人間。 二千年前からずっと。 ・蟷螂の斧 己の力量を顧みない、強敵に対する儚い抵抗 狩りに向かう斉の荘公の車の車輪に 蟷螂(カマキリ)が腕を振り降ろそうとした という逸話から ・君側の奸 君主を操り悪政を行わせる奸臣 ・常在戦場 「参州牛久保之壁書」に書かれている、 長岡藩の藩風・藩訓であり、長岡藩士の精神規範。 「常に戦場にあるの心を持って生き、ことに処す」の意。 ・戦場の霧 敵情は常に流動的な為、状況を完全把握出来る事は稀であり、 兵が多い程に様々な混乱・勝負の綾を齎す ・シーレーン 通商・戦略上、重要価値を有す、有事の際確保すべき海上交通路 ・ピケットライン 前哨線又は警戒線 ・パンツァー・カイル(楔形陣) 勇壮だが複雑地形では整然運用は困難 重装甲を先頭に突撃し敵陣を一挙に突き崩す最も攻撃的な蹂躙突破陣形 中央に軽装甲車両、左右後方に支援車両 要の先頭が脱落しない事が肝要 ・稜線射撃 起伏ある地形に車体を隠蔽し砲塔のみ露出して射撃 被発見率・被弾率低下、生存率上昇 ・塹壕 砲撃・銃撃から身を守る為の穴または溝。 個人用はタコツボとも呼ばれる。 形式は自然地堀拡、土嚢等で掩体を設置、断崖等の自然地の利用等 砲弾等の被害を食い止める為、ジグザグに掘削。 簡単に造った陣地は簡単に破られる ・トーチカ(特火点) 鉄筋コンクリート製防御陣地 機関銃、自動火器、小型高性能火砲を用い小規模単位で敵を阻止 円形又は方形で、全長数m~十数m 銃眼以外は壁で保護され、榴弾の直撃にも耐えうる 構造の大部分が地下で、溝や地下道により他のトーチカや後方に接続 死角を補う為複数を設置し、十字砲火を形成 ・会戦 敵を圧倒殲滅することを狙い、大規模戦力を以て行われる戦闘 複雑な地形では戦闘展開が困難 ・機動戦 高機動力により敵に不利な体勢を強要し主導権を獲得 ・橋頭保 敵地等、不利な地理的条件に於ける作戦有利化の為の前進拠点 ・敵前逃亡 戦時に於ける兵士の脱走。利敵行為と並ぶ重罪であり極刑。 「兵から兵に伝染し隊を蝕み士気を崩壊させる危険分子 軍に対する最大の罪」(鉄道警備小隊長) ・二階級特進 縁起でもない ・大本営発表 = "全く信用出来ない虚飾的公式発表" ・弾屋 輸送隊の府庁(悪習) 弾薬専門の車両・兵 新規補充兵・低階級者・年若い者から成る ・スリーパー 諜報員・工作員の通称 ・ラインとスタッフ ライン=現場監督・その上司。作業を指示・管理し、指揮・命令を末端迄流す スタッフ=現場の調査・助言を行いラインを補佐・促進(人事部・総務部等) 声が大きく押しの強い"スタッフの親玉"が主導権を握る="組織の官僚化" ライン責任者の責任 リーダーシップ不在の為ジワジワ負け戦に ・兜割り 鉄兜を日本刀で斬りつける試斬 剣の道に男女の隔てはありません 貴方は間違っておられます! ・テルモピレーの戦い スパルタ兵300対ペルシア軍100,000。 山と海に挟まれた街道にてスパルタ兵はファランクスを形成し防壁と連動、 敵を引き込んでの正面攻撃により大量出血を強いるも全滅。 しかしペルシア軍を3日間に渡って食い止めた。 ・ゲティスバーグの戦い 交通の要衝「ゲティスバーグ」を巡り、 合衆国軍・連合軍双方が総力を結集して行われた、南北戦争最大の激戦。 ・アラモ砦の戦い テキサス側200弱対メキシコ正規軍3,000~6,000。 メキシコからの独立を掲げ教会に立て篭もるテキサス側は13日後全滅するも、 正規軍に戦死1500を強いる。 その後の戦いで彼等は独立を勝ち取り共和国が成立。後、アメリカ合衆国に「加盟」した。 SWEETDAYS 原作ゲーム「ガンパレードマーチ」のEDテーマソング 榊ガンパレ作中では、流行歌としてそれなりの人気・知名度があったようだが 作中で時間がたつにつれ、「懐かしの歌」になっていっている模様。 雨上がりのSunday 街はロマンティックなときめき めぐりあいはOneday 愛し合った天使の約束 もっと深く恋に落ちましょ Don't Worry Be Happy Yeah! あなたと私 グレイの空を飛び越えて あなたと私 見つけた午後はマスカット あなたと私 たまにブルーになるときも あなたと私 映画のようにくちづけて 未来はバラ色 好きになるとLonely それは神のヒップないたずら 嘆かないでDarlin 明日も愛を信じていきましょ この世界は愛で生まれた Don't Worry Be Happy Yeah! あなたと私 胸に聞こえるラブソング 自由な二人 街の噂もとどかない あなたと私 瞳の奥の流れ星 二人がいれば ほかになんにもいらないわ 夜空もバラ色
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8410.html
前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) その日。トリステイン王国の南の国境クロステルマン伯爵領は静寂に 包まれていた。 昨日行われた熾烈な戦闘もその影を潜め、虫の声すら聞こえない。 嫌に鮮やかな色合いを放つ花々が小山に咲き乱れているのがその残滓で あることすら、やがて昔話となるはずだ。 その小山に一組の男女の姿があった。声を潜め、物音も立てず。 二人はゆっくりと小山を調べていった。 「……あなた、どう?」 女が先に行く男に声をかける。視線の先にいる男は、整えられた口髭を はやした口元を優しく緩めた。 「ああ、マリー。やっぱり思った通りだよ。『キョウリュウ』の心臓は 完全に鉛になっていない。ごらん。まだ熱い部分がある」 男――トリステイン王国王立魔法研究所、通称『アカデミー』の主席 研究員であるピエール・キュリーは、小山の裂け目から、月明かりに 照らされて銀白色に鈍く輝く熱を帯びた塊を取り出す。その輝きに、 妻のマリーも知的好奇心に満ちた笑みを浮かべた。 二人は、いや、ハルケギニアの人間は、それが何であるかを未だ知らなかった…… 『聖地』付近に出現以来、ガリア、ゲルマニア両軍を退け、トリステインに 迫り来た鉄の竜――『キョウリュウ』にトリステイン・アルビオン連合艦隊が 多くの犠牲を払いながらも勝利したとの報は、瞬く間にハルケギニアを 席巻した。 特にトリステイン王国の王都トリスタニアに凱旋した連合艦隊は持ち帰った 『キョウリュウ』の右腕を王都の郊外に降ろし、厳重な監視の下で民衆に 公開した。本来ならば中央広場に安置したかったのだが、『キョウリュウ』の 毒――すなわち、ハルケギニアの人間にとって未知の害毒である放射能――に まみれているとあかぎに指摘されたためだった。 そして……トリステイン王国魔法衛士隊統合参謀長サンドリオンは、 必死の形相で馬を走らせていた。向かう先は王都郊外の小高い丘にある サナトリウム。今回の戦闘で重傷を負った将兵はここに隔離されていた。 サンドリオンが急ぐ理由。それは魔法衛士隊マンティコア隊隊長である カリン・ド・マイヤールがここに収容されていると聞かされたからだ。 しかも、カリンの騎獣であるマンティコアのジョエが療養中とのことで 隊長権限で騎乗した老マンティコア、アテナイスが帰還途中に原因不明の 急死を遂げたとあれば、馬の尻にむち打つ手にも自然と力がこもっていた。 「……バカ野郎が。無茶しやがって」 手綱を緩めないままサンドリオンは何故すぐに会いにいかなかったのかと 己を責め、独りごちる。ここに帰還するまで、そして帰還してからの数日で、 多くの将兵、特に『キョウリュウ』と間近に戦った竜騎士隊や魔法衛士隊の 隊員が多数命を落としているとの報を受け、彼は焦っていた。 聞けば、事前に指揮官に配給された毒消しを飲まず、配分されなかった 隊員に与えてしまっていたらしい。その上、最終的に『キョウリュウ』の 足を止めたのはカリン本人だったというから、どれほどの無茶をしたのかは 聞くまでもなかった。 サンドリオンがサナトリウムの前に到着したとき、そこにアルビオン空軍の 士官服を着た男女の姿を認めた。二人はサンドリオンに気づくと、 敬礼して彼を出迎えた。 「トリステイン王国魔法衛士隊統合参謀長のサンドリオンだ。きみたちは?」 「アルビオン王国王立空軍、巡洋艦『イーストウッド』搭載竜騎士隊、 ガーネット小隊のグレッグ・アーウィン少尉です」 「同じく、巡洋艦『イーストウッド』操舵長、アルビオン王国王立婦人 補助空軍のリネット・ビショップ少尉です」 ああ、とサンドリオンは思った。ここにはあの戦いで傷ついたアルビオン 将兵も収容されている。状況が思わしくなく、本国への帰還が叶わない 彼らの見舞いに来たのだろうと。 そんなサンドリオンの思いを感じたのか、グレッグが彼に問いかける。 「……もしかして、魔法衛士隊マンティコア隊のド・マイヤール隊長の お見舞いに?」 サンドリオンが肯定すると、グレッグは手にしていた包みをサンドリオンに 手渡した。 「……これは?」 「タルブのミセス・あかぎからあずかったものです。ド・マイヤール隊長の 分ですから、あなたにおあずけします」 「タルブの?」 その言葉に、サンドリオンは包みの中を改める。そこには精緻な木彫りの 額に納められた、モノトーンで描かれた精密な絵があった。まるで時間を 封じたかのようなそれに、サンドリオンは思わず左目のモノクルをかけ直し、 目を見張った。 「あの戦いの後、ミセス・あかぎの『キャメラ』という東方の道具で 描いた絵です。ほとんどの人が嫌がったんですけれど…… 魂まで封じ込められたくないって」 そう言ってリネットが微笑む。なるほど、絵の中のカリンは、妙に緊張 しているのがありありと分かる。また虚勢を張ったのだな、と、 サンドリオンは思った。 「わかった。これはあずからせてもらう。ところで、きみたちは大丈夫なのか?」 「自分は、なんとか。ただ、仲間を多く失いました」 「私は『イーストウッド』の指揮所にいましたから……もう少しで仲間の 後を追うところでしたけれど」 サンドリオンの問いかけに、二人はそう答えた。その顔に一抹の寂しさが 去来しているとサンドリオンが感じたのは、間違いではなかった。 この戦いに参加したアルビオン艦隊は三隻の巡洋艦のうち、二隻を喪失。 その人員と搭載竜騎士隊のほとんども戦死を遂げた。艦はどちらも爆沈と 自爆のため、彼らの遺品すら満足に回収できなかったという現実を、 サンドリオンは二人に見た気がした。 サンドリオンと別れたグレッグとリネットは、その足をサナトリウムの ある一室に向けた。女子区画にあるその部屋には、『アルビオン王国王立 空軍中尉 ミネルバトン・ライナグラム』の名札がかかっている。 リネットが扉にノックをして中に入ると、そこは広々とした個室。 やや遅れてグレッグがリネットに促されてから中に入ると、窓際のベッドには、 ゆったりとした病人服に身を包んだミネルバ中尉が横たわっていた。 「ライナグラム教官。アーウィン少尉がお見舞いに来てくれましたよ」 リネットがミネルバ中尉に話しかける。彼女がミネルバ中尉のことを 『教官』と呼ぶ理由は、婦人補助空軍が創設されたときに空軍ほぼ唯一の 女性士官であるミネルバ中尉が教官として出向したことに由来すると グレッグは聞いた。たいそうな鬼教官だったそうだが、今でもこうして 信頼のまなざしが向けられると言うことは、それだけミネルバ中尉の 教え方がうまかったのだろうとグレッグは考えていた。 その婦人補助空軍も、第一期生五四人中三十人が今回の戦闘に参加し―― 二十人を失っていた。リネット以外の『イーストウッド』指揮所要員 九人は戦友たちの最初で最期の戦場となったクロステルマン伯爵領に 戻り今も戦友の遺品を捜索しているが、成果は芳しくなかった。 リネットの言葉に、ミネルバ中尉はゆっくりと目を開ける。一目で 分かる倦怠感。皮膚は艶をなくして赤く腫れ上がり、出血を抑えるための 包帯が痛々しい。髪も折れるように抜け落ちてしまったため、グレッグが 入る前にリネットが帽子をかぶせていた。そこからわずかにこぼれる 金髪がくすみ、グレッグにはかける言葉が見当たらなかった。 「……グレッグか」 「あ、ああ。ミセス・あかぎから、あのときの絵ができたって……」 咳き込み、かすれたミネルバ中尉の声に、グレッグは何とか平静を 保ちつつ手にした包みを開けて絵――この世界には未だ存在しないはずの モノクロ写真――を取り出して見せる。多くの犠牲を払いながらも任務を 完遂した、つかの間の勝利の瞬間。それを見て、ミネルバ中尉は小さく 息を吐いた。 「……何か、もうずいぶん昔のような気がするよ。 マービィ隊長も、ジャーバスも、みんな先に逝ってしまったしね……」 「ミネルバ中尉……」 グレッグも、もちろんリネットも、マービィ大尉とジャーバス少尉が 昨夜ヴァルハラに召されたことは彼女に告げていなかった。二人とも 全身が腫れ上がり、出血が止まらないまま死んだ。おそらく、そのときに 院内が騒がしくなったことから、直感的に悟ったのだろう。 そんなグレッグたちの視線に、ミネルバ中尉はふっと笑う。 「……あたしにそんな目を向けるのはあんたたちくらいだよ。あたしら エリン出身者は、昔から差別されてきたからね」 エリンはアルビオンが浮遊大陸になったときに一緒に舞い上がった 『島』の中でも最大のものだ。『虚空の道』と呼ばれる細い断崖絶壁で 繋がれたそれらの島々は、あるいはかつてアルビオンの一部だったものが 崩れ落ちずに残ったものとも言われている。同時にエリンは始祖ブリミルが サウスゴータの地に降り立つ前からアルビオンに住んでいた先住民の 末裔たちが住む島であり、真っ先に始祖に従ったアルビオン人からは 常に差別されてきた歴史がある。 そして、ミネルバ中尉や、マービィ大尉、ジャーバス少尉らエメラルド小隊は、 エリン出身者ばかりが集められた部隊でもあった。彼らは差別をはねのけるために 強くあり続け、その勇猛果敢さをもって自らの存在価値を明らかにして いたのだった。 「そんなことありません。ライナグラム教官が私たちに教えてくれたことは、 そんなことじゃなかったはずです」 「そうだよ。第一、うちのカニンガム隊長から俺たちまで、そんな目で 見たことあったかよ?毒で気が弱くなったじゃないか?ミネルバ中尉」 ミネルバ中尉の気弱な発言を二人は即座に否定する。その様子に、 ミネルバ中尉はふうっと息を吐いてベッドに横たわる。 「……グレッグ、リーネ」 「え?」 「何ですか?」 「……くやしいけど、あたしの戦争は、ここで終わりみたいだね……」 それだけを言い残して。ミネルバ中尉は静かに目を閉じた。容態の 急変に二人が慌てて立ち上がる。 「ライナグラム教官!?」 「誰か!早く来てくれ!ミネルバ中尉が!」 グレッグがベッドに備え付けられたベルを鳴らす。にわかに騒がしくなる 部屋の主は、もうその音を聞くこともなかった。 それから少し時間をさかのぼり――サンドリオンは受付で聞いたカリンの 病室に足を向けていた。面会謝絶で最初は断られたのだが、魔法衛士隊 統合参謀長の肩書きで強引に場所を聞き出したのだ。だが…… 「……ここ、女子区画だよ、な?」 まさか、子供扱いされてここに入れられたのか?間違えたかと思った サンドリオンの前に、一人の女性が姿を現す。 鮮やかなピンクブロンドの髪をショートカットにした、柔和な面持ちの女性。 どことなく自分は彼女を知っているような気がしたサンドリオンは、 思わず足を止めた。 「……失礼ですが、ここにどのような御用で?」 女性にそう声をかけられて、サンドリオンはここが女子区画だと改めて 思い出した。不審者だと思われたのかと思い、内心冷や汗をかきながら 何とか平静を保つ。 「あ、いや……わたくしはトリステイン王国魔法衛士隊統合参謀長の サンドリオンと申します。 マンティコア隊隊長のカリン・ド・マイヤールの部屋がこちらだと 聞いてきたのですが、間違えたようだ」 そう言って引き返そうとするサンドリオン。それを女性が留めた。 見ると、女性の顔には驚きと安堵の色が見えた。 「あなた様が……是非妹に会ってやって下さいな。今を逃せば、 もう会えないかもしれませんよ」 「妹?」 思わず聞き返したサンドリオン。その意表を突かれた顔に、女性は 静かに告げる。 「はい。カリン・ド・マイヤール…… いいえ、私の妹、カリーヌ・デジレ・ド・マイヤールに」 カリンの個室は、面会謝絶の札が掲げられた向こう側にあった。 間違いなく王の計らいだろう。女人禁制(かつて魔法衛士隊総隊長代理だった ヴィヴィアン・ジェーヴルのような『やむを得ず一時的な』例外こそあれ)な 魔法衛士隊の最強部隊の『伝説』が実は女だと知られたら、確かに一大事ではある。 カリンの姉が扉をノックする。返事はない。そこに彼女が声をかけた。 「……カリーヌ。魔法衛士隊統合参謀長のサンドリオンさまがお見舞いに いらっしゃったわよ」 とたんに中からドタバタと何かをひっくり返すような物音がした。 思わず溜息とともにこめかみに人差し指を当てる姉。 そのとき、サンドリオンがあることに気づいた。 「姉君、もしや、その髪は……」 サンドリオンは気づいた。カリンの姉の髪が、昨日今日切ったかのような 雰囲気なことに。それを指摘されたカリンの姉は、優しく微笑む。 「ええ。妹のかつらに。妹の髪は綺麗なピンクブロンドでしたのよ」 「ええ。よく知っています」 サンドリオンはそう言うと、促されるままに部屋に入った。 そこはかなりの格がある貴族向け宿の個室のような部屋だった。 サナトリウムの最上階にあり、大きく開けられた窓からはトリスタニアの 全景が見える。その窓際の大きなベッドに、カリンはいた。 「……いったい何をしに来た?」 カリンはゆったりとした病人服に身を包み、つばの広い婦人用の 真っ白い帽子を目深にかぶって、サンドリオンをにらみつける。 その様子に、サンドリオンは深く溜息をついた。 「まだそうやっておれに悪態つけるようなら大丈夫だな」 口ではそう言うが、サンドリオンはカリンの様子がただ事ではないことくらい すぐに分かった。病人服から見える肌は火傷のように赤く腫れ、包帯で 隠されず見えている箇所はところどころ鬱血している。帽子から見える 髪が少ないのも、姉君の言葉を裏付けるには十分だ。 サンドリオンはベッドの傍らの椅子に腰掛けると、カリンに向かい合った。 姉君の姿はもうない。二人きりにしてくれた配慮を、サンドリオンは 言葉に出さず感謝した。 「用件は二つ、いや三つある。一つはお前の見舞い。それから、入り口で アルビオン空軍のアーウィン少尉からこれをあずかった。 タルブのミセス・あかぎからだそうだ」 そう言って、サンドリオンは入り口でグレッグから預かった写真の額を カリンに手渡す。 実はあかぎとサンドリオンは王宮ですれ違っていたのだが、これについては 何も言われなかった。先にグレッグに渡していたためか、サンドリオンが カリンのところに行くことを知らなかったのか。 サンドリオンにとっても、あかぎという女性はつかみどころのない存在だ。 三十年前に夫や協力者のアルビオンの女メイジとともに秘薬『ミジュアメ』を 生み出した、トリステインの香料・医薬ギルドと険悪な仲である東方出身の 商人であると同時に、冒険者としての腕も立つばかりか医学や薬学にも 長けており、本人の年齢も不詳。夫たちとは違い年を取らないその姿から 東方の伝説の仙女という噂さえある。 だが、彼女が知る高度な知識、特にハルケギニアのどの国よりも進んだ 簿記を学びたいと、ギルドの手前非公式にタルブを訪れる者は少なくないと聞く。 余談だがこれについてはいくら金子を積まれても彼女は首を縦に振らず、 現在まででこの技を習い得たのは個人的な交流から『ミジュアメ』の 卸を引き受けているクロステルマン伯爵夫人だけだという。 それを使えば資産から借金の利息まで即座に分かるというが、経理に 詳しくないサンドリオンには眉唾としか思えなかった。 「あかぎから?」 カリンは包みを受け取ると、すぐに中を見た。出てきた精緻な彫刻が 施された額に納められたモノクロ写真に、カリンはぽつりとつぶやく。 「……何か、もうずいぶん前の事みたいだ」 「言うな。無茶をしたのはお前だ」 サンドリオンは冷たく言い放った。 その言葉に、カリンは頬をかこうとして……痛みに顔をしかめる。 「まったく。病人はおとなしく寝ていろ」 サンドリオンはそう言って優しく布団を掛ける。そうしてカリンに 触れようとして……痛みに怯えるその姿につい手を引っ込めた。 そのままどれくらい時間が過ぎたか。カリンがぽつりとサンドリオンに 話しかける。 「……何も、言わないんだな」 「お前が女だったことか?驚きはしたが、おかげでおれに少年愛の気が ないと一安心した」 「お前はひどいやつだ」 「ああ。おかげで本来予定になかった三つ目の用事ができた」 カリンの恨みの視線をサンドリオンは真っ正面から受け止める。 そして……言った。 「三つ目の用事だ。……カリーヌ。おれと……一緒に来てくれないか? これから、ずっと」 真顔で言うその言葉に、カリンはあっけにとられた。どういう意味か 考えあぐね――それに気づいたとたん、顔を真っ赤に染める。 「ななななな……さ、サンドリオン?!っつ……」 身をよじろうとして痛みに顔を歪ませるカリン。 その小さな体をサンドリオンが優しく包み込む。そのままカリンの耳元で ささやいた。 「ピエール。ピエール・ド・ラ・ヴァリエール。それがおれの本当の名前だ」 カリンの目が驚きに見開かれた。その家名を知らぬ者はトリステインには いない。王家の庶子をその祖とする大貴族、ラ・ヴァリエール公爵家。 王国でも三指に入る名門だ。 「ラ・ヴァリエールって……!?サンド……ピエール?」 「不肖の親不孝さ。カリーヌを失って、父上に反発して。灰をかぶって 名前さえ捨てた。けれど、今日きみのことを知って決心がついた」 思わず大声を出すカリン。『カリーヌ』が自分を指すものではないことは 分かっている。サンドリオン――ピエールと一緒に暮らしたあのとき、 眠っていた彼の口からこぼれた名前。同じ名前だから?いや、そうでは ないことをカリンは知っていた。 カリンの返事を待たず、ピエールの指がカリンの細い顎の稜線をなぞり、 ゆっくりと唇が近づいていく―― そのとき。突然どたーんという音ともに扉が開かれ、複数の人間が 部屋になだれ込んでくる。反射的に離れる二人。見れば簡素だが貴族らしい 質の良い衣装に身を包んだ老紳士を下敷きに、困った顔をした長いピンク ブロンドの髪を美しくまとめた中年の貴婦人。それに同じく困った顔の カリンの姉。 どうやら部屋の外で盗み聞きしていたのが、あまりのことに扉を破って しまったらしい。 老紳士は女性たちにしかれたまま、わなわなと震える指をピエールに向ける。 「ま、まさか……。サンドリオン、いやピエールどの。あなたは本当に ラ・ヴァリエール公爵閣下の?」 「ええ。ミスタ・マイヤール。不出来な息子です」 思わぬことに落ちかけたモノクルを直し、未だ起き上がれぬカリンの父と 目線を合わせるようにかがみ込んでピエールは言った。 そして、肩をすくめる。 「ま、父上に焼かれることは覚悟の上ですが。それでも決めた以上は たとえ父上と対峙することになってもカリーヌを妻とし、家督を継ぐ 所存です」 「しかし、我が家では格が違いすぎるのでは?」 「たとえカリーヌが平民の娘であったとしても、わたくしは同じ事を 言いますよ。義父上」 その言葉にカリンの父は号泣する。 「わ、わたしを義父と……。あの、女だてらに騎士になるんだと屋敷を 飛び出した、おてんばな放蕩娘が……こんな素晴らしい婿殿を見つけて くるとは。ううっ」 「あなた、せめて起き上がってから……」 「うるさい!それならさっさとどかんか!」 上に乗っかったままの妻と娘を押しのけるようにカリンの父は立ち上がる。 起き上がると同時にピエールの手を取るカリンの父。 その様子に、カリンはぽつりと言う。 「……そうやって。わたしをからかってるんだ?わたしがもうすぐ死んで しまうから」 「カリーヌ……」 カリンは泣き笑う。カリンの両親も姉も、現実に引き戻されたかたちに なって言葉を失った。 そこににわかに廊下が騒がしくなる。それを聞いてカリンは言った。 「ほら、また誰か死んだ。次は、わたしかな?」 しかし、ピエールは静かに言う。 「いや。まだだ。今毒にやられた人間を治すため、あるメイジを招聘すべく 外交交渉が秘密裏に行われている。 治し方だけならミセス・あかぎが知っているが、彼女一人ではできないらしい。 必要な道具も彫金や細工に長けたメイジや平民の細工師を集めて大車輪で 制作中だ。 光栄に思えよ。陛下はお前を治すためなら国庫が空っぽになろうとも 領土を失おうともかまわぬとおっしゃった」 あまりのことに驚きの声を上げるカリンたち。カリンは思わぬ展開に ピエールに問いかける。 「……いったい、それ、どこと?」 「ガリアだ」 ピエールの言葉に、再びカリンたちは驚きの声を上げた。 ピエールのその言葉から少し時をさかのぼり――トリステイン王国の 王都を象徴する王宮では、国王フィリップ三世にあかぎが謁見していた。 武装を外し、千早と袴姿のあかぎは、その容姿とともにここでは異彩を 放っている。 「そちの言うとおり、打てる手は打った。 烈風カリンのみならず、一人でも多くの人間が救えるのであれば、 あのルイめが法外な対価を要求しようとも、我が領土を切り取ろうとも 惜しくはない」 玉座に座する王の顔には疲れが見えていた。 カリンやミネルバ中尉たちの症状から被曝による急性放射線症だと 知ったあかぎは、すぐに王に理解できる形でそれを知らせた。だが…… 「それにしても、恐ろしく、情けない事よ。 あの『毒』が生き物の体を形作る設計図と呼ぶべきものを破壊する ものだったとは。 なるほど、死んでいった騎士たちを見ればよく分かる。体毛は伸びる ことなく折れるように抜け落ち、爪も抜けるようにはがれ落ちた。 火傷のようになった肌すらも、垢とともに新しい皮膚ができることなく 消え去った。目をやられ、血を吐き、もはや言葉にならぬ苦しみの果ての 死を迎える余の騎士たちを慮れば、胸が張り裂ける思いだ」 「陛下……」 あかぎは苦悩する王にどう言葉をかけて良いものか迷った。 実際、あかぎが提案した治療方法を、トリステインの『水』メイジたちは 異端の恐怖としか受け取らなかった。 そこに代案を提案したのがタルブ領主アストン伯だった。彼は噂で 聞いたガリアの若き天才『水』メイジ、南薔薇花壇騎士ラルカスならば、 その奇想天外とも言える治療法を喜んで実行するだろうと。 だが、今回の『キョウリュウ』の一件で、ガリアも多くの犠牲を払って いることは明白だ。そうたやすく応じてくれるだろうか……そう考えたとき、 王は言った。 「かまわぬ。あのルイめに金でも領地でも好きなものをくれてやると言え」 その言葉が天の声となって、王都へ帰還途中のトリステイン艦隊旗艦 『ラ・レアル』から、最速の風竜を駆る竜騎士が飛び立ったのだった。 同時に、王の命令書を携えた別の竜騎士が王都へ飛ぶ。そして王の後詰めとして 王都にいたサンドリオン――ピエールが急ぎ精密加工を得意とする 『土』メイジや平民の職人を集め、あかぎが描いた設計図に従った道具を 製作し始める(要求されるあまりの精度と想像を絶する短納期にメイジたちが 心折れそうになり、平民の職人たちが気合いを入れたのは余談だ)。 また、ピエールは王の命令書に書かれていたとおり、今回の戦闘に参加した 将兵たちの家族を集めるよう各地へ使いを飛ばす。彼はそれをもう先がない 将兵たちへの手向けだと思った。 そうして王らが王都トリスタニアへ凱旋したときには、すでにカリンらが 発症してから三日目の朝を迎えていた。しかも、さらに二日が過ぎた 今になっても返事がない。あかぎは内心焦る気持ちを何とかして抑えることに 必死だった。 「……今回は時間との闘いです。陛下。ド・マイヤール隊長たちは、 保って二週間。 いえ、昨夜までで、ド・マイヤール隊長より『キョウリュウ』の心臓近くにいた アルビオン空軍のドナヒュー大尉とドルトムント少尉が亡くなられました。 もう時間がありません」 あかぎの言葉に嘘はない。放射線障害は時間との勝負だ。しかも、 恐ろしく分の悪い。加えて、あかぎが知る治療法も、かつて帝国海軍の 研究所が小規模の臨界事故を起こした際の犠牲者から判明した、理論先行のもの。 それでも、あかぎはこれに賭ける価値があると確信していた。 そこに、トリステイン魔法学院の学院長、オールド・オスマンが現れたことを 告げる声が響く。王が謁見の間にオスマンを通すよう告げると、同時に 退出しようとするあかぎを引き留めた。 「そちにも聞いてもらいたい。意見を求めることもあるかもしれぬ」 「かしこまりました」 トリステイン王国の貴族の子女たちを多く引き受ける魔法学院。 その歴史ある学院の当代学院長であるオスマンは、齢三百歳とも噂される 貫禄と、『土』メイジとしての卓越した伎倆から『偉大なる』(オールド) オスマンと称されていた。 だが、その容貌は、整えられた銀髪と綺麗に剃られた口元から、 壮年の域にしか見えない。そして、オスマンは子供たちを預かる教育者の 立場から、学院への政治的、軍事的介入を嫌い、また生徒の学徒出陣には 徹頭徹尾反対の立場を貫いている。そのため、今回の戦いにも自ら参加する ことはなかった。 オスマンは謁見の間に通されたとき、そこにいる意外な人間に目を細めた。 だが、それも一瞬のこと。次の瞬間にはそれを霧消させ、オスマンは 王に向かい合う。 「トリステイン魔法学院学院長オスマン、お召しにより罷り越しました」 「今回は余の命に逆らわなかったな。オスマン」 「わたしがいなくなっては、王政府の横紙破りを阻止できる人間がいなく なりますからな」 「そちの言い分も理解できるが、何分にも我が軍は常に人手不足だ。 国の大事に優秀な人材であれば欲しいと思うのは道理ではないか?」 「学生の本分は勉学でございますれば。人殺しの訓練は卒業後、彼らが 望んでからで十分でございましょう」 王の言葉に、オスマンは一歩も引くことがない。王はそれに怒りを 見せることもなく、淡々と告げる。 「『虚無』を捜せ」 「は?なんとおっしゃいましたか?」 突然のことにオスマンも我が耳を疑った。王は続ける。 「余はこのトリステインのどこかにいる『虚無』を捜せ、と言った。 これは命令だ。たとえ余が始祖の元に召されようが、撤回されることはない」 「いやはや……。しかし『虚無』とは……。伝説の彼方の系統を、 どのように判断せよ、と陛下はおっしゃいますかの?」 「少なくとも三十年前、そして今このとき、このトリステインのどこかに 伝説の使い魔『ガンダールヴ』を使役する『虚無』が存在する。そちは それを捜すのだ」 「何故そのようなことを?」 オスマンは問う。王はあかぎに視線を向けた。 「そちはこの者を知っておるか?」 王に促されて、オスマンはあかぎと視線を合わせる。にっこりと微笑む あかぎに、オスマンはさしたる興味も示さなかった。 「東方より来たる仙女の噂も高き御仁ですな。以前お目にかかったことも ありますかの」 「ええ。二十年前に。こちらはよーく覚えていますわ」 その言葉には軽く非難の意が込められていたが、オスマンは意にも 介さない。その様子に、王は軽く溜息をつく。 「……どうやら双方とも思うところがあるようだな。まぁ余の与り知る ところではない。 オスマンよ、この者が『虚無』の使い魔『ガンダールヴ』の右手の槍の 一人だと余が言えば、そちは信じるか?」 「これはまた……。伝説の武器がこのようなおなごの姿で現れるとは。 しかも『一人』ということは、他にもまだおりますようですな」 王の言葉にオスマンは感心したような視線をあかぎに向けた。王は続ける。 「そうだ。この者だけではない。そして、先日このハルケギニアに大いなる 災厄をもたらした鉄の竜、『キョウリュウ』もまた、その一つだったのだ」 「なんと!」 あまりのことに思わず声を上げるオスマン。その様子を見て、王は 玉座から立ち上がり、オスマンの目の前に立った。 「だから余は『虚無』を捜さねばならぬ。この国に、未だ目覚めぬ 『虚無』がいる限り、『聖地』に召喚されし『槍』はこのトリステインを 目指す。己を手にする伝説の使い魔と、その主の許へな」 「しかし……。陛下は『虚無』をその手に収めた後、いかがなさるおつもりか? 始祖の系統たる伝説の『虚無』と、千の兵を相手に一歩も退かぬとされる 伝説の使い魔をその手に、このハルケギニアに覇を唱えるおつもりか?」 「余を見くびるでない!」 突然の王の叱責に思わず一歩後ずさるオスマン。王はその目前に 指を突きつける。 「余は『虚無』をもってしてまで戦がしたいとは思わぬわ! いいかオスマン、余は国を安んじるために『虚無』を捜せと命じたのだ。 伝説の『虚無』の居所さえはっきりしておれば、このような無用な戦は 起きぬ。故に、余はそちに命じるのだ!」 「……私たちは出会えませんでしたけれど、三十年前、そして今―― このトリステイン王国のどこかに、私たちが出会うべき『虚無』がいる はずです。捜し出してもらえませんか?もうこんなことが起きないように するためにも」 王の命だけでなく、あかぎも祈るようにオスマンに懇願する。 その様子に、オスマンもようやく折れた。 「……やれやれ。わたしをここに呼んだのは、わたしがこのトリステイン 王国の名だたる貴族の子女たちを預かる魔法学院の学院長という地位故 ですか」 「否定はせぬ。だが、そちが余など比べものにならぬほどの永き刻の 移ろいを見、そして見聞を広めたことを知らぬとでも思ったか。 そちが分からぬのであれば、他の誰が『虚無』を捜し出せようぞ」 「御心のままに」 オスマンは臣下の礼をもって王の言葉に応える。そこに取り押さえようとする 魔法衛士隊を振り切り、息も絶え絶えな竜騎士が飛び込んできた。 「何事か!」 王の一喝に、竜騎士は懐から書簡を取り出し王に捧げる。 「へ、陛下。ガリア王が……ガリア王が……」 そこまで言ったとき、竜騎士は不意に意識を失った。 一睡もせずガリア王国の首都リュティスからこのトリスタニアまで強行軍を 続けたのだろう。王とあかぎがすぐさま竜騎士の許に駆け寄り、疲労困憊で 意識を失った以上の別状がないことを確かめた。 竜騎士が身命を賭して持ち帰った書簡。そこには確かにガリア王国 王家の花押が捺され、それが紛れもないガリア王ルイ一三世からの書簡で あることを証立てている。 王は封蝋を破り書簡に目を通す――そのとき、多くのものを巻き込みながら 歴史の歯車が一際大きく音を立てて動き始めたことに気づいた者は、 まだ誰もいなかった。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/1250.html
第255話 潜入する者達(後編) 1485年(1945年)10月25日 午前0時 シホーアンル帝国ヴェナバシェク沖190マイル地点 米潜水艦フラックスナーク艦長、クロック・ノヴォトニー中佐は、潜望鏡深度である深度10メートルまで艦を浮上させた後、浮上前に 周囲を警戒するため、潜望鏡で敵の有無を確認しようとしていた。 「潜望鏡上げ!」 ノヴォトニー艦長が命じた直後、司令塔内にある潜望鏡が、駆動音と共にするすると海上に上げられて行く。 程無くして、彼の目の前にペリスコープが現れた。 ノヴォトニーは潜望鏡の上昇が止まった直後、制帽のつばを後ろに回し、取っ手を掴んだ後、両目でペリスコープを覗き込んだ。 潜望鏡から見える夜の海は、漆黒の闇に包まれていた。 波は穏やかで、水上機を発進させるには最適だと思われた。 ノヴォトニーは、潜望鏡をゆっくりと回転させた後、周囲に船らしき物が居ない事を確認する。 「よし、潜望鏡を下げろ。潜望鏡収納後はすぐに艦を浮上させるぞ。」 ノヴォトニーは、隣に控えていた副長のヴェルキン・ティルクロット大尉に2つの命令を伝えた。 「アイ・サー。」 ティルクロット副長は頷きながら答え、部下達に艦長の発した命令を伝えて行く。 それから10秒後、フラックスナークは潜望鏡の収納を終え、バラストタンクに残っていた海水を排出しながら海面に浮上して行く。 艦はほぼ水平の状態で浮き上がりつつあり、やがて、艦首が海面から姿を現し、それから艦橋、格納庫、甲板と言ったペースで洋上に姿を現した。 海面に姿を現したフラックスナークは、電気推進からディーゼルエンジンに切り替え、時速12ノットに増速し始めた。 司令塔に洋上で監視にあたる水兵5人と下士官2人が、下の発令所から上がって来た。 そして、そのまま司令塔を素通りして、ハッチに繋がる梯子をそそくさと上って行った。 「副長、俺も上がるよ。」 「わかりました。」 ノヴォトニーは抑揚の無い口調でティルクロットに言い、ティルクロットも短い言葉で返した。 2週間以上もの活動で、すっかり伸びた無精ヒゲを撫でながら、ノヴォトニーは梯子を上って行く。 艦橋に出た彼は、冷たい風に体をはたかれながらも、新鮮な空気を力いっぱい吸い込んだ。 (空気の濁った艦から出て来ると、外気は美味く感じるな。) ノヴォトニーは幾度となく繰り返した言葉を、心中で呟いた。 狭い艦内に乗り込む潜水艦乗りにとって、外の空気を吸う事は数少ない楽しみの一つである。 既に甲板に出た見張り員達は、暗闇の向こう側を眺め回し、いつ来るかわからない敵に備えていた。 それと同時に、艦橋に設置されているレーダーも回転し始めていた。 ノヴォトニーは空を見上げた。 潜望鏡からは真っ暗に見えたが、艦橋から出て見ると、雲の間からこの世界特有の2つ月が覗いていた。 (先程は真っ暗闇だった筈だが、あれは月が雲に覆われていたせいだな) 彼は胸の内でそう思った。 2つ月は、その名の通り、夜空に浮かび上がる月が2つある事から名付けられており、形も元世界の月と比べて大きく感じる。 この2つ月は、1つが手前に、もう1つがその後ろにと言った具合に位置しているため、後ろ側にある月は手前側にある月に左側3分の1が 隠れた状態で見える。 その為、手前の月が満月であるにもかかわらず、後ろ側の月は常に三日月状態、という風になるが、ノヴォトニーは、この2つ月が見せる 様々な姿が好きであった。 ノヴォトニーが艦橋に陣取ってから1分程たった後、伝声管から声が響いて来た。 「艦長!こちらレーダー手です。本艦の左舷1000メートル方向に微かな反応があります。恐らく、シーダンプティの潜望鏡かと思われます。」 その直後、左舷側見張り員からも報告が入る。 「左舷方向に潜望鏡らしき物!」 ノヴォトニーは左舷側方向に顔を向け、双眼鏡で潜望鏡を探した。 潜望鏡を除き始めてから5秒後に、フラックスナークの左舷側に1隻の潜水艦が浮上した。 フラックスナークと同様に、アイレックス級潜水艦の特徴である艦橋と一体化した格納搭に、従来の米潜水艦とは一線を画す、一際大きな艦体。 それが僚艦、シーダンプティである事は、誰の目から見てもわかった。 「一足遅れて来たな。」 ノヴォトニーは小声でぼやきながら、伝声管の向こう側に居るレーダー手に向けて問い質した。 「レーダー手。敵影らしき物は見当たらんか?」 「いえ、今の所、レーダーにそのような反応はありません。」 ノヴォトニーは頷いた後、次のステップに移る事に決めた。 「水上機発進準備!急げ!」 彼の命令が下るや、艦橋前に取り付けられている水上機格納搭が開かれた。 左右に開かれた丸い格納搭から、翼を折り畳まれた水上機が引き出され、機付き整備員達が機体の周囲に取り付き、素早い動作でチェックを行って行く。 「艦長、シーダンプティより通信。我、今より艦載機の発艦準備を行う、との事です。」 新たな報告がノヴォトニーの耳に響く。 彼は了解と答えつつ、左舷方向に目を向ける。 うっすらとだが、左舷方向にシーダンプティの艦影が見えた。 今頃は、シーダンプティを指揮するブラトリスク艦長も、部下達に指示を飛ばしながら艦橋でこちらを眺めているのだろう。 「艦長。ヴェストレンネ氏とルヴィシレス氏が艦橋に上がりたいと申しておられますが。」 伝声管から副長の声が響いて来る。 「見送りか?」 「は。そのようです。」 「……いいだろう。」 ノヴォトニーは2人の希望に応える事にした。 1分後、足元のハッチからヴェストレンネとルヴィシレスが上がって来た。 「ふぅ~、これは素晴らしい!外の空気がこんなにも美味いとは!!」 「同感ですな。先輩。」 2人は艦橋に上がるや否や、妙に驚いた様な口調で言い合った。 ヴェストレンネとルヴィシレスは、出港以来、艦内に引き籠りっぱなしであった。 「おお。これはノヴォトニー艦長。」 「ヴェストレンネ族長、顔が緩んでいますぞ。」 ノヴォトニーは、嬉しさの余り笑みをこぼすヴェストレンネに苦笑しながら言う。 「おお、本当だ。ただでさえだらしないツラが余計にだらしなくなってやがる。」 「そういう先輩こそ、鼻の下が伸びておりますぞ。貴方も人の事言えませんよ。」 2人の魔道士が和気藹々と話すのを尻目に、ノヴォトニーは艦橋前の格納搭に目を向けた。 格納搭から引っ張り出された水上機は、既に折り畳まれていた翼が展開され、機付き整備員がコクピットに乗って最後の整備を行っていた。 その時、格納搭から新たな人影が3つ現れた。 3つの人影の内、前を行く2つの人影は、最後尾を行く1人に、幾度か体を振り向けていた。 飛行服に身を包んだレイリーは、前を行く偵察員のヴィッキーニに半ば驚きの混じった口調で質問を受けていた。 「いやぁ、本当にグリンゲルさんなんですよね?」 「勿論本人だよ。俺としては、特徴的な部分が“無くなった”だけで大して変わらないと思うんだけどな。」 レイリーは心中でしつこいなとぼやきつつ、右手でポニーテール状に結った黒い長髪に触れた。 「……確かに、人相は変わらないですね。でも、エルフの特徴とも言える長耳が無くなり、肌の色がガラリと変わったのを見ると、誰が見ても 『貴方は誰?』と思っちゃいますよ。」 「そりゃそうだね。」 レイリーは苦笑しながら答えつつ、胸の内では、初めて使う変身薬の効果に驚きを隠せなかった。 彼は潜水艦が浮上する2時間前に、本国で手渡された変身薬を服用している。 この変身薬は、魔法で作られた特注の魔法薬である。 大元は2年前に、カレアント軍の魔道士であり、現在は同軍の機械化師団で戦車長をしているエリラ・ファルマント少尉(当時は軍曹であった) が手違いで、空母エンタープライズ所属のパイロットの性別を一時的に変えた魔法薬を、ミスリアル側がサンプルとして貰った物だ。 人間の体を当人以外の者に変身させる魔法技術はミスリアルにもあったが、この類の魔法は効果の持続時間が短く、実際の戦場では廃れていた物であった。 だが、エリラの作った性転換薬は、長年の懸案であった持続時間の調整を行う必要が無く、魔法の効果を打ち消す薬を飲めば、ほぼ自由に姿を変えられる事が 出来る物であった。 それから半年後、カレアント側からこの魔法薬の改良型のサンプルを譲り受けたミスリアル側は、それを元にミスリアルの魔法技術の粋を集めた変身薬を開発し、 レイリーに渡している。 今回、レイリーが飲んだ薬は、元の薬と同じく、服用から1時間で効果が表れ始めた。 ダークエルフであるレイリーは、銀色の長髪に浅黒い肌、長い耳と言う姿だが、これから潜入するシホールアンル帝国は、普通の人種に見られるような、 淡い肌色に黒い髪(それ以外の風貌も多いが)という外見が多いため、レイリーの姿もそれに準じた形となっている。 顔の形はあまり変わらないが、長い耳は短くなり、肌の色も浅黒さは消え失せ、銀髪も黒髪に変わっている。 傍目から見ても、彼がエルフである事は全く分からなかった。 この外見の急激な変化は、彼を送り届ける役を受けた2人のパイロットを大いに困惑させたが、何はともあれ、レイリーは敵地への潜入準備を整えたのである。 「レイリー!」 彼が苦笑しながら後頭部を掻いていると、後ろから誰かに呼び止められた。 艦橋からルヴィシレスとヴェストレンネが降り、彼の側に歩み寄って来た。 「ほほう。飛行服姿もなかなかサマになってるじゃないか。」 ヴェストレンネが腕組みしながら言う。 「こうして見ると、シホールアンルに亡命するアメリカ兵みたいだな。」 ルヴィシレスは毒のある言葉をレイリーに吐きかけた。 それを聞いたレイリーは、思わず噴き出してしまった。 「師匠………いくらなんでも、今の言葉は無いんじゃないかと……」 「いや、ただのジョークだよ、ジョーク。アメリカンジョークって奴さ。なぁ、族長殿?」 ルヴィシレスは爽やかな笑顔でヴェストレンネにそう言ったが、彼はわざとそっぽを向いた。 「適当な事言ってごまかさんで下さいよ。」 レイリーは冷たい口調でそう言いつつ、内心ではひでえ師匠が居るものだと思った。 「本当に、師匠は変わりませんな。貴方に影響されたのか、私はルヴィシレスの息子とまで言われていますよ。」 「それはお前が悪い。人の良い所だけじゃなく、悪い所まで取るのはまだまだ未熟な証拠だぞ。」 ルヴィシレスはややきつめの口調で言った後、右手でレイリーの肩をポンと叩いた。 「何はともあれ……もう、俺から言う事は無い。後はお前次第だ。」 「師匠……湿っぽくなるのは嫌なんで言いたくはありませんでしたが、やっぱり、言わせて貰います。今まで、ありがとうございました。」 レイリーは張りのある口調でそう発してから、深々と頭を下げた。 「全く、柄にもない事をしやがって……まぁいい!レイリー。荷物の中身だが、忘れ物は無いな?」 「はい。全て準備しました。」 「……ヴェストレンネ。お前から何か言いたい事は無いか?」 「俺からは余り無いですが……まっ、マイペースでやればいいさ。あと、女遊びはするな。」 「まぁた……族長と一緒にしないでください。自分の中で、愛すべき女は既に決まっていますよ。」 レイリーはヴェストレンネに苦笑いを振りまきながら、右手を差し出した。 ヴェストレンネはそれに応え、無言で握手を交わす。 その次に、レイリーは自らの恩師に向けて、右手を差し出す。 「……シホールアンルの連中に、ミスリアルの魔道技術の凄さを見せてやれ。そして、ミスリアル一と呼ばれたお前の腕前を、存分に発揮して来い。」 「ええ。勿論ですよ。」 レイリーは不敵な笑みを浮かべながら、ルヴィシレスと固い握手をかわした。 自ら乗り組む水上機に歩み寄ったレイリーは、偵察員のヴィッキーニに自分の乗る場所を教えられた。 「グリンゲルさんが乗る場所はここです。」 「ここか……今は見えないが、想像していたよりも狭そうだな。」 レイリーは、ヴィッキーニが指差す方向を見るなり、自分の体が入れるか不安になった。 「大きさは問題ないと聞いています。ささ、荷物をここの奥に押し込みましょう。その次はグリンゲルさんの番です。」 「わ、わかった。」 レイリーは頷くと、左手に持っていた革製の袋をヴィッキーニに渡す。 ヴィッキーニはそれを、レイリーの座る座席の奥に押し込んだ。 「さあ、上がって下さい。」 ヴィッキーニは手を差し伸べた。 その後ろでは、パイロットであるグラハム中尉と整備兵が話し合いつつ、整備兵が操縦席から降り、グラハムが入れ替わりに座った。 レイリーはヴィッキーニの左手を掴むと、ヴィッキーニが体を引き上げ、レイリーは水上機の左主翼の付け根に立った。 「フラップに気を付けて下さい。」 「ああ、わかった。」 ヴィッキーニの注意を受けつつ、レイリーは偵察員席の横にある足置きに左足を乗せ、そのままひょいと体を浮かし、機内に滑り込んだ。 「かなり狭いが……一応は入れるんだな。」 レイリーはこじんまりとした穴の様な座席部分に腰をおろし、そのまま蹲った。 ヴィッキーニとグラハムも搭乗し、2人は各種計器の最終点検を行い始めた。 レイリーは、首の後ろに下げていたヘアキャップを被る。それを見計らったかのように、ヴィッキーニが体を振り向けた。 「レイリーさん。飛行中に話すときは、側に付いているハンドマイクを使って下さい。」 「ああ、これか。」 レイリーは、顔の側についているマイクを見つけ、それを手に取った。 「話したいときは、ボタンを押しながらマイクに向かって喋って下さい。会話はヘアキャップの耳に付いているレシーバーから聴き取れます。」 「……飛行中はエンジン音がやかましいから、こいつを使うと言う訳だな。」 「その通りです。」 ヴィッキーニは軽く頷いた。 「わかった。何か起きたらこいつを使わせて貰うよ。」 レイリーの返事を聞いたヴィッキーニは、右手の親指をピンと伸ばした。 それから彼は前に振り向き、再び計器の点検に戻った。 「ヴィッキーニ!エンジンをかけるぞ!」 操縦席に座るグラハムがレシーバー越しに声をかけて来た。 「了解です!」 ヴィッキーニの返事が聞こえた直後、機首のエンジンが唸りを上げ、プロペラが回り始めた。 最初はゆっくりと回っていた3枚のプロペラは、エンジン音が高まると共に回転速度を上げていく。 エンジン始動から1分後、レイリーの乗機は轟音と共にプロペラを回し、発艦前の暖気運転を開始していた。 時折艦が揺れるが、波が穏やかな事もあって、動揺はあまり大きく無い。 「はい。こちらスカイスナーク……わかりました。あと5分ですね。ええ、予定の時刻までには間に合うと思います……」 操縦員のグラハムは、レシーバー越しにノヴォトニー艦長とやりとりを行っているが、その声はエンジン音に掻き消されてレイリーには聞こえなかった。 「レイリーさん。聞こえますか?」 唐突に、耳元のレシーバーからヴィッキーニの声が響いて来た。 レイリーはマイクを掴み、すかさず言葉を返した。 「ああ。聞こえるよ。」 「そろそろ発艦です。ベルトを締めて下さい。」 「わかった。」 レイリーはマイクを置いてから、ヴィッキーニの言われた通り、腰のベルトを締めた。 (くそ、きついな……今は陸地から100ゼルド(300キロ)程離れているから、この飛行機のスピードからして、1時間で現地に着くと言われている。 これは、人生の中で最もきつい1時間になりそうだ……) レイリーは心中でぼやきながら、発艦の時を待ち続けた。 待つ事しばし……耳元のレシーバーにグラハムの声が響いた。 「レイリーさん!今より発艦します。衝撃に備えて下さい!」 「わかった!」 レイリーはグラハムの言葉をしかと聞き、張りのある声音で答えた。 機首のエンジン音がこれまで以上に無いほど唸り上げた、と思った直後、何かの炸裂音と共に機体が急激に加速した。 (!?) 初めて体験するカタパルトの射出に、レイリーは思わず面喰ってしまったが、それも急に訪れた浮遊感によって和らいでいく。 (遂に発艦したか………) レイリーは内心安堵したが、同時に、これから向かう現場に思いを馳せ始める。 (敵国本土へ潜入か……魔道学校で潜入工作の訓練はみっちりとやらされたし、実戦も昔経験しているが………シホールアンル本土へ潜入するとなると、 やはり緊張してしまうな。現地で待つグレンキアのスパイ達とは、果たして、上手くやって行けるかな……) レイリーの胸中に、不安とも期待ともつかぬ思いが次々と湧き起こる。 彼は蹲っていた姿勢をやや起こす。その時、彼の乗機がゆっくりと左旋回を始めた。 レイリーは風防ガラスの左側から外を眺めた。 今は夜間であるため、視界が暗い事には変わりないが、それでも、月の光は漆黒の闇に僅かながらの明かりを差し出している。 そのため、夜の洋上は、上空から降り注ぐ2つ月の光によって、微かながらも青白く見えた。 その薄明るい闇の中に、レイリーは黒っぽい影を見つけ、それが何かを射出した瞬間を見る事が出来た。 「シーダンプティも艦載機を発艦させたな。」 レシーバーからグラハムの声が聞こえて来る。 (あれがフラックスナークの僚艦、シーダンプティか……と言う事は、あの艦から発艦した機に、クサンドゥス中尉は乗っているんだな) レイリーは、この作戦で行動を共にする相棒の事を考えつつ、これから合流するグレンキア軍のスパイ達とどう行動するか考え始めた。 程無くして、シーダンプティから発艦したシーラビットがレイリー達と合流を果たした。 「こちらスカイスナーク。スカイダンプティへ、状況を知らされたし。」 グラハムは、フラックスナーク機との連絡を取り始めた。 「こちらスカイダンプティ。機体の状況は良好、燃料もフルだ。お客さんの状況は……まぁ良好だな。」 「こちらスカイスナーク。今の間はなんだ?」 「いや、別に大したことじゃないよ。ただ、お客さんがさっきまで、船酔いで伸びちまってただけだ。まっ、じきに直るさ。」 「了解した。現在の時刻は午前0時40分だ。約束の時間まではあと1時間程しかない。今すぐ目的地に向かうぞ。」 「こちらスカイダンプティ、了解。先導を任せる。」 シーダンプティ機との交信は、僅か2分足らずで終わった。 「ヴィッキーニ!これよりヴェナバシェク海岸に向かう!針路は245度だ。」 「針路245、アイサー!」 ヴィッキーニの返事と共に、機体が左に傾き、緩やかに旋回して行く。 フラックスナーク機を先導役に定め、右斜め後ろを行くシーダンプティ機が、翼端灯の光を頼りに随行して来る。 2機の水上機は、時速210マイル(336キロ)、高度1000メートルを保ちながら、冬も差し迫った、冷たい洋上を目的地目指して飛び続けた。 同日 午前1時30分 シホールアンル帝国ヴェナバシェク 母艦を発進した2機の水上機は、風が程良く追い風となったため、会合予定時刻の午前1時45分よりも早い、1時30分に目的地に到達した。 「見えた……陸地だ!」 グラハムは、暗闇の中にひっそりと見える稜線を確認するや、マイク越しにそう伝えた。 「!!」 それまで、窮屈な姿勢で蹲っていたレイリーがはっとなり、俯いていた顔を上げる。 この時、グラハム機は陸地まで20キロの地点に到達していた。 それから5分後……陸地のとある部分から、点滅する光のような物を視認した。 「レイリーさん!陸地から光が点滅している!」 「何回だ?」 レイリーは即座に聞き返した。 「……5回です。5回連続で点滅してはそれの繰り返し。」 「ああ、間違いないな。」 レイリーは頷きながら言う。 ミスリアル本国で行われたグレンキア側との打ち合わせでは、首都より出向いたスパイが回収予定地点で待機し、水上機の接近を察知した場合は 光を5回ずつ明滅させて敵味方の確認を行う手筈となっていた。 水上機に向けて点滅を繰り返すそれは、紛れも無く、現地の協力者が発する合図であった。 「レイリーさん。これより、着水に入ります。しっかり構えていて下さい!」 「わかった。任せるよ!」 「ヴィッキーニ!こんな“北の果て”に連中は居るとは思えんが、念のため、周囲を警戒しておけ!」 「OKです!見張りは任せて下さい!」 ヴィッキーニの返事を聞いたグラハムは、ニヤリと笑いながら後続のシーダンプティ機に指示を飛ばした後、愛機の高度を下げ始めた。 それまで、高度1000メートルを維持していたシーラビットが機首を下げていき、機体の高度計の針が、数字の低い方向に向けて回転していく。 増速しているのか、エンジン音の唸りが高まっていた。 到達地点と見られる海岸部は、2つ月の光があるにもかかわらず、ほぼ真っ暗だが、光の点滅は止まる様子が無く、尚も合図を送り続けている。 そのお陰で、着水地点の大体のアタリを見出す事が出来た。 グラハムは、グレンキア軍スパイの献身的な働きに感謝しながら、愛機を海岸部へと進めて行く。 高度が100メートル、90メートル、80メートルと下がって行く間、眼前にうっすらと見える小さな浜辺との距離も縮まって行く。 グラハムは、細心の注意を払いながら、愛機の速度を落として行く。 浜辺に近付く際は、海面から浮き出ている岩礁に気を付けなければいけない。 今は夜であるため、見分けのつけにくい岩礁を発見するのは難しく、通常は一度、着水地点をフライパスして安全を確認しなければならない。 だが、現地の協力者は、点礁の少ないと言われているこの海岸を選んだ上に、現在の時刻は満潮時であるため、そのまま着水に移る事が出来た。 海岸との距離が、目測で2キロを割ったと判断した時、彼の愛機はフロートを海面にこすりつけた。 着水の瞬間、鈍い音と共に突き上がる様な衝撃が伝わった、と思いきや、幾度かアップダウンを繰り返した。 グラハムの操る水上機は、陸地との距離を慎重に見定めつつ、エンジン出力を調整しながら滑走を続けて行く。 グラハムの駆るフラックスナーク機が着水し、海岸付近に到達する間、一度は様子見のため、海岸部をフライパスしたシーダンプティー機が、やや遅れて着水した。 シーダンプティ機が海岸部に向けて滑走し始めた頃には、グラハム機は海岸より200メートル沖合で停止していた。 待機していた人影3名が、予め用意していたと思しきボートに乗り組み、3人中2人がオールを漕いで向かって来た。 「ヴィッキーニ、用意しとけよ。連中が偽物だったら、お前の持っているトンプソンを撃ちまくって逃げる。」 グラハムが、やや重い口調でヴィッキーニに言う。 「海岸にも敵さんが居たら?」 「両翼の12.7ミリを一連射してトンズラだ。」 「わっかりました。レイリーさん、確認の方は任せました。」 「了解。」 レイリーは短く返答してから体を浮き上がらせ、風防ガラスから顔を覗かせた。 ボートは、水上機の右斜めから接近しつつあった。 程無くして、その手こぎボートが水上機の右側に近付き、そして停止する。 ヴィッキーニが風防ガラスをスライドさせた。外から冷たい空気が吹き込み、レイリーは顔をしかめるが、気を取り直して体を乗り出した。 ボートには、頭に布を巻き、口ひげをはやした男と、オールを持ちながら短髪で鋭い目を光らせる男、同じく、オールを両手にレイリーを見つめる ショートヘアの女が乗っていた。 「合言葉は!?」 レイリーは、大声で彼らに問い質した。 出力を弱めてあるとはいえ、辺りには水上機のエンジン音が鳴り響いているため、1度言ったただけでは聞き取れないかと、レイリーは思った。 だが、言葉は通じたのか、口ひげを生やした男がレイリーの問いに応えた。 「ブロンギル伯爵のシーツは紅白色に星模様!これでいいか!?」 「……ああ。」 レイリーは小声で呟きながら、2度頭を頷かせた。 「あなたがグリンゲル魔道士ですな!?」 「そうだ!」 口ひげ男の問いに、レイリーも答えた。 「さあ!こちらに移って下さい!」 口ひげ男が右手をボートにかざしながら言う。 レイリーは頷くと、座席から体を起こし、背中に押し付けていた荷物を手に取り、コクピットから翼に足を乗せようとする。 「レイリーさん!翼は濡れているから滑り易くなっています。気を付けて下さい!」 「ああ……」 レイリーはヴィッキーニのアドバイスを聞きつつ、ゆっくりと翼に乗った。 ボートに乗っている口ひげ男が立ち上がると、レイリーに何かを手渡そうとした。 「これを飛空挺の乗員に渡して下さい!重要な情報が入っています!」 それは封筒であった。 レイリーは男から封筒を受け取ると、翼の上を歩き、ヴィッキーニに渡した。 「レイリーさん!これは何ですか!?」 「詳しくは分からんが、重要な情報が入っているらしい。あちらさんは、これを持ち帰って有効活用してくれと言いたいようだ。」 「わかりました!」 ヴィッキーニは頷くと、レイリーから封筒を受け取った。 頷いたレイリーはコクピットから離れ、下で待っているボートに歩み寄った。 翼からボートに降りようとする前に、レイリーはコクピットに向けて振り向く。 ヴィッキーニとグラハムは、無言で彼に敬礼を送っていた。 「……ありがとう。気を付けて帰ってくれ!」 レイリーは慣れないながらも、2人に答礼を返した。 体を振り向かせると、レイリーはボートに飛び乗った。 その時、もう1機の水上機が轟音をがなり立てながら接近して来た。 水上機はボートの左手前100メートルで停止し、そのコクピットが慌ただしく開かれた。 「さあ、こちらに座って。もう1人を回収次第、浜辺に戻ります。」 レイリーは口ひげ男の指示に従い、短髪男の前に座った。 ボートはもう1機の水上機に接近した後、相棒であるクサンドゥス中尉を回収した。 「よし!急いで浜辺に戻るぞ!今頃は敵の駐屯部隊も目を覚ましている頃だ!!連中が準備を整えるまでにここからずらかるぞ!!」 口ひげ男は爆音に負けじとばかりに、大音声で仲間に指示を送った。 ボートが反転し、2機の水上機から離れ始める。 程無くして、水上機が動き始めた。 先に着水したグラハム中尉の機体が緩やかに反転した後、エンジン音を発しながら水の上を走り、離水して行く。 次に、2番機がグラハム機と同様に踵を返し、エンジンを全開にして滑走し始めた。 水上機の巻き上げる水しぶきがフロートから吹き上がり、機体が緩やかな並みに揺れて行く。 暗闇の中であるにもかかわらず、その黒っぽい機影が白波を蹴立てながら滑走して行く姿は壮観であり、暗闇の中から浮かび上がる両翼の翼端灯が、 小振りながらも、その壮観さを一層際立たせていた。 2番機は200メートルほど滑走してから離水し、1番機を追うように東の空に向かって行った。 「あれがアメリカという国の飛空挺か……水の上でも飛べるとは、凄い。」 レイリーは、オールを漕ぐ短髪男が、どこか感嘆したような口調で呟くのを耳にした。 4分後、ボートは浜辺に到着し、レイリーとクサンドゥスは初めて、シホールアンル本国の土を踏んだ。 「ようやく、敵国本土に上陸ですか。」 クサンドゥス中尉は、青い顔を浮かべながらレイリーにそう言った。 彼女の顔と、口調からして、船酔いは完全に直っていないようだ。 「これからは大変でしょうね。」 「なに、我々が居る限りは大丈夫ですよ。」 口ひげ男がレイリーに話しかけてきた。 「ささ、今はこの場から離れましょう。森の中に馬車を隠しておりますから、そこで自己紹介を行います。と、その前に……」 口ひげ男は、短髪男に目配せした。 頷いた短髪男は、砂浜に置いてあった袋から、2人分の衣服を取り出した。 「お二人には、こちらの服に着替えて頂きます。今着ている服はすぐに処分させていただきますが、よろしいですね?」 短髪男の言葉に、2人は無言で頷いた。 服を受け取った2人は、別々の場所で素早く着替えた後、脱いだ飛行服を協力者に手渡した。 飛行服は口ひげ男の手によって、森の物影で焼却処分された。 2人は3人の協力者達に連れられ、浜辺の近くの森の中分け入っていった。 時刻が午前2時20分を過ぎた頃、2人は協力者達と共に隠していた馬車に乗り組んだ。 「全員乗ったな。出発だ!」 口ひげ男は、御者台に乗った短髪男にそう告げると、馬車はゆっくりと動き始めた。 「……紹介が遅れましたな。」 口ひげ男は、2人に対して申し訳なさそうに言う。 髭を生やしている割には、顔は若く、レイリーやクサンドゥスと大して年は離れていないように思えた。 「私はハヴィス・クシンクと申します。こちらは私達の仲間である、レビンケ・ヒセクヴェスです。」 「初めまして。この度は勇敢なるお二方を出迎える事が出来、光栄に思えます。」 レビンケと名乗るピンク色のショートヘアの女性が、慇懃な口調で2人に言う。 「御者台に座っている仲間はフトヴィ・ヴァキンシュと申します。僕達の中では最も頼れる男です。」 「……それにしても、遠いアジトから、600ゼルド(1800キロ)も北の僻地まで迎えに来て下さるとは……重ね重ね、苦労を掛けます。」 レイリーは平身低頭しながら、礼の言葉を述べる。 「礼の言葉など、我々にはもったいないぐらいです。ですが、その気持ちは素直にお受けしましょう。」 ハヴィスは爽やかな笑みを湛えながら、レイリーに向けてそう言い放った。 「我々はこれから、1週間かけてウェルバンルに戻ります。ウェルバンルに戻った後は、郊外のアジトに案内します。他の仲間とはそこで会いましょう。」 「1週間ですか。意外と早いですね。」 クサンドゥスが首を捻りながらハヴィスに聞く。 ハヴィスの代わりに、レビンケが答えた。 「ここから100ゼルド(300キロ)南に行けば、ウェルバンルに繋がる鉄道があります。そこを通る急行列車に乗れば、2日程度でウェルバンルに戻る 事が出来ますよ。」 「鉄道ですか……シホールアンルもなかなか、交通網が発展しているようですな。」 レイリーの問いに、ハヴィスが頷いた。 「ええ。このお陰で、シホールアンルの連中は遠距離からの兵力転用も、比較的短時間で行えるようになっています。」 「全く、羨ましい物ですよ。」 レビンケが苦笑しながらレイリーに言う。 「……連中の鉄道網がどんな物なのか、楽しみですね。」 それに対して、レイリーは何かを比べたいと言わんばかりの口調でそう言い放った。 「楽しみですか……そう言えば、グリンゲル魔道士は以前、アメリカという国にも行かれた事があるとか。」 「ええ。行きましたよ。」 レイリーはしたり顔で頷く。 「……もし、シホールアンルの連中がアメリカ本土を見ていたら、この戦争も長くは続かなかった。そう思うほど、あの国は凄いと思わせられました。」 レイリーは、長旅の疲れもそっちのけで、自らが体験した事をハヴィス達に話し始めたのであった。 それから1週間後。レイリー達は首都ウェルバンル郊外にあるアジトに無事到着し、工作活動を始めた。 潜入作戦に参加した2隻のアイレックス級潜水艦は、敵の哨戒網を巧みに避けながら危険海域を脱し、11月6日にはアッツ島基地に無事入港を果たした。 その後、フラックスナーク搭載機が持ち帰った情報は、入港から3日後に太平洋艦隊司令部に届けられ、翌日の夕方にはワシントンDCに送られた。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/37355.html
登録日:2017/07/31 Mon 23 12 23 更新日:2023/05/25 Thu 17 06 25 所要時間:約 22 分で読めます ▽タグ一覧 UFO UMA お妙の得意料理 アニヲタ未確認動物園 エイリアン カンガルー コヨーテ チュパカブラ チュパカブラス ドラキュラ ニワトリ ヒツジ ブレドラン ミュータント ヤギ ヴァンパイア 不可能殺人 吸血 吸血鬼 未知との遭遇 未確認生物 狂暴 生物兵器 皮膚病 遺伝子操作 概要 チュパカブラとは、プエルトリコ、チリ、メキシコ、ブラジルなど、 主に南米大陸の国家を中心に目撃されている未確認生物。 UMAとしてはかなりメジャーな部類で、その知名度はネッシーやビッグフットにも次ぐ。 そのクリーチャー然とした異様な形態から海外での人気は非常に高く、 オカルトを取り扱ったドラマや映画の題材には頻繁に取り上げられ、 海外のUMAサイトを少し検索すれば、力の入った解説サイトやイラスト画像が大量にヒットする。 にもかかわらず、チュパカブラが最初に目撃されたのは1995年前後と比較的最近。 それまでは原住民の言い伝えや伝説にも登場せず、 未確認生物としては新参者のチュパカブラがここまで知名度を上げたのは、 目撃例の多さ、現地の人間やその生活に甚大な被害を与えているに他ならない。 初の目撃以降、現在に至るまでチュパカブラに関する報告は全く衰えておらず、 目撃者・発見者も多数いることから実在する可能性の高いUMAとして名前が上がる事も多い。 チュパカブラという名はスペイン語で「ヤギの血を吸う者」を意味する。 この名前は、ヤギをはじめ羊や牛、鶏やアヒルなどの家畜を襲い、その血液を吸い取ってしまうことに由来する。 形態 体長は諸説あるが90㎝~2m 体型は全体的に華奢でほっそりとしているので、外見は実際の体長より幾分か小柄な印象を受ける。 体格とは裏腹に大きく幅広い卵型の頭部には、つり上がった大きな赤い目と鼻孔らしき2つの小さな穴がある。 口には鋭い牙が上下2本突き出ており、口腔には伸縮自在で先端が尖った舌が畳まれているという。 全身には短い柔毛が生えているが、目撃者によっては硬そうな剛毛が密生しているとも言われている。 体色は黒から茶褐色、白みがかった灰色など様々なバリエーションがある。 カメレオンのように体色を周囲の環境に合わせて変化させる能力を持つと推測する研究者もいる。 背中には薄い膜のようなもので繋がったトゲと思しき器官があり、 チュパカブラの意思で逆立てたり畳んだりすることが可能であるという。 前足は短く、指が3本あり、先端には鋭い鉤爪がついている。 後ろ足は前足に比べて遥かに長く、 爬虫類のように細かったり四足動物のように筋肉質だったりと報告によってバラバラだが、 足指は3本で先端にはやはり鉤爪がついている。 前足には翼のようなものが付いていたという報告もあり、実際に空を舞うチュパカブラの姿が目撃されたこともある。 後ろ足は非常に強靭で、普段はカンガルーのように跳ねて移動し、 時には一跳びで数メートルもジャンプすることもあると言われている。 鋭い鉤爪や目付き、口から突き出た牙といった見た目が表すように、性質は極めて獰猛かつ残忍。 神出鬼没で、夜な夜な農場や牧場に侵入しては家畜を襲い、血液を吸い尽くしてしまう。 一晩で10匹近い家畜が餌食になることも少なくなく、多い時には50頭に達する犠牲が出ることも。 時には人間にも躊躇なく襲いかかり、実際に鋭い爪や牙で重篤な怪我を負わされた人も多数確認されている。 画像検索で出てくるチュパカブラのイラストやスケッチは、描いた人によってカッコよかったりグロかったりするが、 その姿は犬のようだったり、爬虫類然とした姿だったり、獣人のような毛むくじゃらの人型だったりと安定しない。 上記のように外見の特徴が目撃報告によってまちまちで安定しないことに加え、 不明瞭な部分も少なくないため、描いた人の想像で補完しているものと思われる。 そもそも前述した外見の元ネタはUFO雑誌への投稿であり、投稿した人はこの生物を宇宙人と見なしており、 「目撃した場所は確かに事件現場近くだが、口の構造からみて吸血生物ではなさそうなのでチュパカブラとは違うだろう」と言っているとか……。 勃発する家畜惨殺事件 チュパカブラに惨殺された家畜を数多く検視したプエルトリコの獣医カリオス・ソトはその結果について次のように語っている。 死骸の首や顎の下には直径6mm~1.2cmほどの穴が開けられており、それ以外の傷跡が見当たらない。 既知の肉食獣ではこのような穴を開けるのは不可能だろう。 何か先端が鋭利で、尚且つ柔軟性に富んだ器官が開けたとしか考えられない。 そのうえこれらの穴は、顎の下から体の奥深くに向かって、正確に貫通しているのだ。 比較的高度な知能を持つ生物しか、このようなことはできないだろう。 普通の肉食獣であれば、襲われた獲物は肉が千切れ、骨や皮が飛散した見るも無残な有様となるのが普通だが、 チュパカブラの場合は傷口はごく小さな穴のみ、それ以外は一つの外傷もない状態で獲物は死んでいるのである。 更に獲物の肉や内臓には殆ど手を付けず、血液ないし体液のみが一滴残らず身体から抜き取られている。 このような捕食方法は肉食獣はおろか、地球上の生物としても極めて奇怪かつ異様。 曖昧な外見的特徴も相まって、チュパカブラの謎めいた形態を一層深めている。 アイスピックのような舌 1996年の1月中旬、非常に精緻なチュパカブラの目撃事件が、プエルトリコ北東部のカノバナス村で起きている。 目撃者は地元の警官エリゼール・リベラ・ディアス。 午後9時ごろ、友人と共にドライブをしていたディアスが深い森にさしかかった時、彼は闇の中に光るものを認めた。 車を止め、2人はその光るものに近づいた。そこで、彼らは不気味な怪物の姿を見たのである。 光るものはその怪物の目だったのだ。 華奢な身体に比して異様に大きな頭、赤く光る大きな目、横に大きく避けたような口、 顔の中央に穴が開いただけのような鼻孔、前肢の指は3本で鉤爪が付いている。 ディアスと友人が接近すると、怪獣は地面に身をかがめた。 更に近づくと、背中から薄い膜で繋がったトゲのような突起を突き出した。 開いた口からは、舌と思われる太いケーブルのような器官が出入りしている。 暗闇で見ると、その器官はおよそ30cmほどあり、しかも先端がアイスピックのように尖っていた。 怪物の頭部は目測で幅20cm、奥行きが15cmほど。長さ30cmもの器官を収めるには小さすぎる。 おそらく、この舌のような器官は伸縮自在なのだろう。 ディアスらの目の前で、怪物の背中から出ているトゲのような突起は色を変え、 ブーンと低く唸るような音を立てながら、左右に大きく揺れた。 やがてトゲの反復運動が速くなったと思うと、怪物は夜空へと舞い上がり、闇の中へと消えていったのだ。 この目撃報告により、チュパカブラの持つ特徴に「空を飛ぶ」という要素が加わったことになる。 これに加え、怪物の口から現れたアイスピックのような「舌」に関する彼らの目撃証言も、注目に値するものだった。 前述のように、犠牲となった家畜の首や下あごには、必ず穴のような傷が残されている。 しかも、解剖してみるとこれらの穴は筋肉を貫いて体の奥深くまで達していたのである。 カルロス・ソトが語った「先端が鋭利で、しかも柔軟性に富む器官」という指摘は、 そのままディアスらが見た、怪物の口から突き出たアイスピックのような舌の存在へと結びつく。 つまり、犠牲となる家畜の体内に入ったチュパカブラの舌は、うねるようにして体内を進みながら、 目的の臓器に到達し、そしてその臓器から栄養分を吸い取る。 そして、そのまま逆戻りして、再び首の穴から抜け出すと考えられるのだ。 その際、チュパカブラは長く鋭利な舌をまるでストローのように使いながら、家畜の血液や栄養分を吸い取いとるのだろう。 農夫を襲った翼ある魔犬 チュパカブラが空を飛ぶという目撃事件は、先のディアス達の報告だけではない。 2004年7月8日のチリ、パーラル近郊でも空を飛ぶ異様な姿の怪獣が目撃されているのだ。 この日の夜、農夫のホアン・アキュナは自らが所有する牧場の見回りをしていた。 犬に似た顔をしていたが、耳がなく、らんらんと光る眼はそれ以外の動物であることを示していた。 宙を飛んで襲ってくる怪獣たちに対してアキュナは抵抗を試み、ついには格闘となった。 だが、その果てに彼は怪獣の背中に翼があることに気が付く。 空中に浮いている相手には分が悪いと見て、アキュナは逃走をはかった。 しかし、怪獣達は空を飛び、執拗に彼を追ってきた。 逃げ惑ううち、アキュナは牧場に沿って流れる水路に転がり込んだ。 すると、彼らは水が苦手なのか、水中までは追ってこなかったのである。 怪獣達はアキュナの頭上をしばらく旋回した後、あきらめたのかゆっくりと飛び去って行った。 何とか窮地を脱したアキュナだったが、 怪物の鋭い爪が食い込んだため両腕に、怪物の牙で噛みつかれたため足に、それぞれ深い傷を負っていた。 パニック寸前だったアキュナはすぐに病院に駆け込み、医師の手当てを受けた。 医師はアキュナの生々しい傷を見て「野犬にでも襲われたのか?」と質問した。 しかしアキュナは、「野犬には耳があるし、第一犬には空を飛べる翼なんて持ってない。自分を襲った奴らは空から追ってきたんだ」 と答えるしかなかった。 チュパカブラと機密組織 MIBがチュパカブラを捕獲した? チリのカマラ地区といえば、UFO、そしてチュパカブラの多発地帯であり、今や世界中で注目されている。 特に同地区のヴィラ・サン・ラファエル村では、近年、後者との遭遇事件が目立って増えているのだ。 2001年5月4日午後7時過ぎ、同村に住むフリオ・マルティン家の台所で、飼っている2匹の犬が吠え始めた。 彼が台所をのぞくと、そこには異様な姿の怪獣がいた。 体長は約40cm、アーモンド形をした黒い大きな目には瞳がない。 手足の指は細長く、尖った爪が生えている。 犬に吠えられ、怯えていた怪獣は、マルティンを見るなり、救いを求めるような鳴き声をあげた。 開いた口からは上下2本ずつある鋭い牙がのぞき、 奥から長い舌が現れた。その長さはおよそ25cm。ヘビのように先が二股に分かれている。 口の中は濃い緑色をしていた。 更に、その全身には新生児の産毛のような柔らかそうな短毛が生えていて、股間には何かの液体が充満した小さな陰嚢がぶらさがっていた。 辺りには、まるで下水道から出てきたかのような異臭も漂っている。 その時の隙をついて、イヌが怪獣の足に噛みついた。 怪獣は金切り声をあげて、台所のあちこちを飛び跳ねながら逃げ回る。 そして、開いていたドアから出て行ってしまった。 実はこの事件の2日前、マルティンの母親が、家の屋根や洗濯質の裏で、ピョンピョン跳びはねる謎の生物を見かけたという。 そして、母親の言葉を実証するかのように、屋根には何かの体毛や、点々とどこかへと続く足跡が残っていたのだ。 マルティンからの通報を受け、カマラUFOセンターの代表ハイメ・フェレイラ達が調査のためにマルティン宅に向かった。 するとマルティン宅から約50mほど手前の道端に、白いヴァンが停まっていた。 車の外には、全身黒ずくめの二人の男がいて、何かを捕まえようとしている。 やがて一人が、地面から小さな生き物をつかみあげた。 生き物は、男の腕の中から逃げ出そうと、足をばたつかせてもがいていた。 彼らに気付いた男たちは、生き物をヴァンに乗せた後、車を急発進させてその場を去った。 残されたフェレイラは、生き物が拉致された現場で、皮膚片らしきものを発見し、 更にマルティン宅の台所からも体毛を採取した。 明るいところで見ると、皮膚片はオンドリの羽毛、もしくはヒツジの足の裏の皮膚に似ていた。 ちなみに、マルティンが描き、フェレイラに見せた怪物のスケッチは、身体こそ一回り小さく、 トゲや翼のようなものこそ無かったものの、まさしくチュパカブラそのものとでもいうべき姿をしていた。 この件について、フェレイラは、「マルティンと母親が目撃したのは、チュパカブラの幼獣だった可能性がある。」と語っている。 なお、採取された体毛と皮膚片のサンプルは、 既に研究機関に回され、分析・研究されているはずなのだが、その結果はいまだに公表されていない。 このカマラ地区の事例に関しては、公表されていない分析結果だけでなく、新たな疑惑が生じている。 マルティン宅の前でチュパカブラの幼獣を拉致した男たちが、のちにアメリカのある秘密情報機関に属し、 常にブラックスーツを着ていることから、MIB(メン・イン・ブラック)と呼ばれる存在であることが判明したのだ。 アメリカの秘密情報機関とチュパカブラ。 両社の接点がどこにあるのか、その謎は解けていない。 すり替えられた白骨死体 チュパカブラと秘密機関にまつわるきな臭い噂は、他にも存在する。 2000年8月、ニカラグア、レオン州のサンロレンソ牧場で、わずか数日の間に60頭以上のヒツジが殺される事件が発生した。 22日の夜、農場主のホルヘ・ルイス・タラベラが、見回りを行っていたところ、 全長1mほどの奇怪な生物がヒツジを襲っているところに遭遇、持っていた猟銃で銃撃したが逃げられてしまう。 3日後の25日、牧場から100mほど離れた地点の上空をハゲタカの群れが舞っており、 不審に思ったタラベラが駆け付けたところ、茂みの中に謎の白骨死体が横たわっていた。 身体に比して大きな頭、鋭い牙と爪、ヒレかトゲのように大きく隆起した背骨… 残された身体的特徴の数々が、悉くチュパカブラに該当することを物語っていた。 「怪生物チュパカブラを射殺した!」 衝撃的なニュースに地元のマスコミや野次馬が押し寄せ、周囲は騒然となった。 死体の調査を依頼された地元の獣医師マリア・パエース博士は取材陣に対し、 これは非常に奇妙な生物です。 我々がいつも目にしている種類の生物とは明らかに異なります。 と、死体が未知の生物であることを示唆するような発言を行ったのである。 死体は後にニカラグア大学へと搬送され、より生物学的な詳しい鑑定を受けることになった。 鑑定作業中の写真も撮影されたが、その結果は イヌの骨 であった。 謎の生物は農場周辺で死んだ野良犬の死体だった…これで騒ぎは収束すると思いきや、今度は鑑定結果に疑惑の声が多数寄せられるようになった。 発見当時の白骨死体と、鑑定作業中の白骨との間には、見た目に異なる点が数多く見受けられたのである。 まずは、頭蓋骨の形状。 前者は鼻先が長く突き出ているのに対し、後者は短く寸詰まりになっている。 また、後者は骨が段差のように窪んでいるのが確認された。これはストップと呼ばれ、イヌ科の動物には必ず存在する器官である。 しかし、前者には、写真を見る限りそのような窪みは見られない。 次に、前足の有無である。 発見当時の死体を撮影した写真からは、後ろ足はハッキリと存在するものの、 前足は極端に短いのかはたまた何者かが持ち去ったのかは不明だが、前足の存在は確認できない。 しかし、鑑定を受けている白骨の写真からは、ハッキリと前足が写っている。 これらに加え、明らかに高く突き出た背骨や肋骨の本数の違い、 何より 「犬なら日頃から見慣れているはずのパエース博士が、発見当時の死体をイヌと見間違えるのは有り得ない」 という指摘もあり、 2枚の写真は別の生き物を撮影したものである という見方が濃厚になったのである。 では、発見当時の死体はどこへ行ったのか? 研究者の間では、搬送される途中で、誰かが死体を持ち去った可能性が浮上している。 つまり、チュパカブラの存在を知られると都合の悪い何者かが、 あらかじめ用意しておいた犬の骨格と謎の生物の死体とをすり替え、死体の正体がバレるのを防いだというのだ。 しかしながらこちらも怪生物と犯人との接点・詳細は一切解けていない。 すり替えたのは誰なのか、何の目的があったのか、そして 謎の白骨死体は本当にチュパカブラだったのか など、 多くの謎を残したまま、 主な目撃と遭遇の歴史 1995年3月11日 アメリカ自治領の島、プエルトリコで家畜のヤギ8頭が殺害されているのが発見された。 当初、犯人は野生動物かと思われたが、殺され方が奇怪なため、その説はすぐに否定された。 殺されたヤギの体内からは血液が完全に抜き取られ、 齧られたり引き裂かれたりした外傷の痕跡は全く見当たらなかったのである。 1995年8月 プエルトリコの主都サンファン南東に位置するカノバナス村で、 主婦のマデリン・トレンティーノが家畜虐殺犯と思しき奇怪な生物に遭遇。 これがチュパカブラ目撃の最初の報告となる。 この後、同村付近で、ウシやヒツジなどの家畜が次々と血液を抜かれて殺される事件が相次ぐようになった。 1995年11月16日 プエルトリコ南西部のサン・ヘルマンにチュパカブラが出現。 3匹の雄鶏が争っているのを今にも襲い掛からんと睨みつけていた。 楕円形の頭にアーモンド型の目を持ち、肩から突き出た腕は小さかったという。 1995年11月28日 プエルトリコ北部のベガ・バハで、手形とも足跡ともつかない謎の生物の痕跡が発見された。 6本の指ないしつま先のようなものが確認できたという。 1996年3月 アメリカ、フロリダ州マイアミ近郊の農家で、 飼っていたニワトリやヤギが全身の血を抜かれて死んでいるのが発見された。 事件の直後からチュパカブラの仕業との噂が流れ、騒ぎが広まった。 1996年5月2日 メキシコ、ハリスコ州トラジャムルコに住むホセ・アンヘル・プリドーが、 背後から大きな頭をした謎の怪物に襲われた。 とっさに応戦したものの、恐怖の余りすぐに家の方向へ逃走した。 プリドーは1度だけ怪物の身体を叩いたが、その時に咬まれたのか、右腕には牙が刺さったような2つの深い傷跡があった。 格闘中に触れた怪物の身体は毛がなく、「袋に入ったゼリーを触ったような感触」だったという。 1998年11月 アメリカ、ネブラスカ州で奇妙な生物のミイラが撮影された。 このミイラは、軍事施設跡地のミサイル格納庫から、ネズミやトカゲ、ヘビなどの死骸と共に発見されたという。 その経緯から、チュパカブラは軍の生物兵器として造られたという噂が流れた。 2000年4月12日 チリのトゥカペルに住む農夫H.ピノが、自分の農場で奇怪な生物と遭遇。 体長1.5m、赤く血走った目、ねじれたような形の長い腕、大きな牙が口から突き出し、背中には翼が生えていたという。 2000年4月19日 チリのコンセプシオン近郊の町ウエピルで、農夫ホセ・イスマエル・ピノが、 チュパカブラと思しき謎の怪生物が犬の群れと戦っているのを目撃。 体長1.5m、長い爪のある手、口から牙が突き出し、全体的にサルによく似ていたが、背中には翼があった。 ピノが犬の群れを呼び戻してみたところ、内1匹は首回りが血まみれになっていたという。 2000年5月2日~4日 2日にアメリカ、テキサス州サンタフェで、妊娠中のメスの羊8頭が、何者かに襲われて殺された。 この地域には肉食獣が生息していないため、住民たちはチュパカブラの仕業だと噂した。 翌日の3日、付近のコラグーナ・レドンダ地区に住む女性が、体長2mで翼のある怪物を目撃。 更に翌日の4日、同地区の裏通りで、喉に二つの穴を開けられ、 体から血液を抜き取られた野犬の死体が見つかった。 2001年5月 チリのカマラ地区の民家にて、謎の生物が目撃される。 それは体長約40cmほとで、目はアーモンド型で釣り上がり、背中にはトゲのようなものが生えており、チュパカブラそっくりの姿をしていた。 生物は飼い犬に吠え立てられて怯えていたが、しばらくして犬が足に噛みつくと、キーキーと鳴き声をあげて逃げ惑い、開いていたドアから脱走した。 姿形はチュパカブラによく似ているが、体が小さかったことから、一説にはチュパカブラの子供ではないかと言われている。 なお、謎の生物が目撃されたこの家では、体毛や足跡らしきものも見つかっているという。 2003年11月 チリ、コンセプシオンで骨だけの怪生物の死体が発見された。 ネコ科動物を彷彿させる丸みのかかった頭蓋骨からは、長く鋭いキバが生え、眼窩は人間のように正面を向いている。 前足がなく、胴体が異様に長いうえに肋骨の数が非常に多いのが特徴。 2005年8月 アメリカ、テキサス州の農場経営者レジー・ラゴーが、 夜な夜なニワトリが殺される事件に遭遇し、対策として罠を仕掛けたところ、奇妙な生物がかかっていた。 死体は写真に撮られ、そこから読み取れる特徴は、体色は白っぽく、鼻先は長く耳が大きい。 前足と比較して後ろ足と尻尾が非常に細長いのも特徴的である。 生物は既に死んでいたが、地元では「チュパカブラを捕らえた」と大ニュースになり、広く報道された。 しかし、実際はラゴーは夜間の見回り中にニワトリを襲う謎の生物を直接目撃し、持っていた猟銃で即座に射殺。 後で保護動物か何かだったのではないかと思い、法律に触れるのを恐れて死体を破棄してしまったという。 そして地元のマスコミには「罠を仕掛けたらたまたまかかっていた」「死体は州の野生動物管理局に送り届けた」と嘘を付いていた。 トウキョウトガリネズミの生体の発見などで知られる動物学者の今泉忠明氏に写真を鑑定させたところ、 死体は一見するとカンガルーもしくはコヨーテに見えますが、 カンガルーは腿の筋肉が発達して足が太い。写真の生物は後ろ足が細すぎる。 また、尻尾が外側に沿っているカンガルーに対し、この生物の尻尾は内側に丸まっています。 コヨーテだとしても、尻尾が余りにも長すぎる。コヨーテの尻尾はこの半分ぐらいの長さしかないんです。 結論として、謎の生き物ですね。 と、既知のカテゴリーには収まらない動物であることを結論付けた。 2006年1月 アメリカ、テキサス州サンアントニオの南東エレメンドルフで、アヒルが殺害される事件が多発。 現場近くでは後ろ足が極端に長い奇妙な生き物2頭の目撃が相次ぎ、1体が射殺された。 死骸は鋭い牙を持ち、鼻先が異様に細長かった。 専門家は野犬とコヨーテの雑種としている。 2006年1月24日 テキサス州ディケンズで、部活帰りの少女がゲートポストの上に佇む奇妙な生物を目撃。 目撃した道路は地元住民が「シチメンチョウ通り」と呼ぶほど野生の七面鳥が多く見られる場所だったため、 最初はシチメンチョウが止まっているだけかと思ったが、 その頭は人間のように丸く、顔には鼻のような小さな丸い穴と口のような裂け目が見られたという。 目は黒く吊り上がり、前足は翼のようになっていたという。 体長は1mほど、皮膚には短く柔らかそうな毛が生え、生まれたばかりのコウモリを髣髴させた。 2018年3月 チリ南部のクリチバにある鳥小屋にて、60羽の鶏やアヒル、ガチョウが何者かによって殺害されるという事件が発生。 殺された鳥たちの胸や首のあたりには、何かを突き刺したような丸い穴が開いていた。 また、鳥小屋の主人によると、鳥たちはいつもは人間が近づくと騒ぐが、このときは誰も鳥が鳴く声を聞かなかったという。 正体の考察について ミュータント説 チュパカブラの正体は、人間のテクノロジーによって生み出された突然変異体、すなわち ミュータント とする説が囁かれている。 一見、荒唐無稽な説にも思えるが、むろん根拠はある。 実はチュパカブラ騒動が起きる5年前の1990年、プエルトリコ、セイバ・ノルテ村のハグア地区で、 ヘビに似た頭部と翼をもつ怪生物が、地元住民によって捕獲されたことがある。 しかし、その怪生物は、「タクスフォース」と呼ばれるアメリカの秘密調査チームによって強奪されたというのだ。 タクスフォースは、アメリカ政府のメンバーが中心となって構成された組織で、 プエルトリコ東部のルーズベルト・ロード海軍基地の一角に遺伝子工学研究所を運営しているといわれている。 そのため、住民が捕獲した怪生物は、彼らの実験物が研究所から逃げ出したものであるという可能性が示唆されているのだ。 アメリカの自由連合州であるプエルトリコには、かつてアメリカの実験場として利用され、 経口避妊薬や殺傷能力の高い薬品兵器の開発が行われていたという歴史がある。 過去にこうした暗い事実がある以上、チュパカブラがアメリカ人の手による、 何らかの遺伝子操作によって生み出されたミュータントである可能性も、あながち否定することはできないのだ。 宇宙からの来訪者説 実は怪生物が捕獲されるさらに6年ほど前の1984年2月、 プエルトリコ、カノバナス村の近郊にあるエル・ユンケ山の熱帯雨林に、UFOが墜落する事故が発生したという。 UMA研究者の中には、このUFO墜落事件とチュパカブラ騒動に何らかの因果関係があると主張する人もいる。 ペンシルバニア州のジャーナリスト、スコット・コラレスは、 チュパカブラ騒動を取材する傍ら、このUFO墜落事件の調査を独自に行った。 その結果、次の2点が明らかになったのである。 1.1984年2月19日、エル・ユンケ山で確かにUFOの墜落事件があった。 2.アメリカ軍が、その墜落現場を含む一帯の産地を閉鎖し、外部からのアクセスを完全に遮断、事件関する情報すべてを機密扱いにした。 更に奇妙な事実として、UFO墜落事件が起きた後、それまで緑色の稜線の美しさで有名だったエル・ユンケ山の風景に突如として霧がかかるようになってしまったのだ。 それに加えて、、正体不明の奇怪な生物が山の周辺に跋扈し始めたという。 ここで、、上述したディアスの目撃した舌を突き出すチュパカブラや、マルティンの描いたチュパカブラの幼体を改めて見てみよう。 ほっそりした体つき、巨大な卵型の頭、大きく真っ黒でつり上がった目…その顔つきは最も浸透している宇宙人として知られるグレイ型のエイリアンそのものである。 実際に、空に浮かぶ謎の未確認飛行物体に、チュパカブラと思しき謎の生物が吸い込まれていくのを目撃した、 という信じがたい目撃報告もわずかであるが確認されている。 ところで、1995年10月1日、カノバナス村で起こったチュパカブラとの遭遇事件は、思わぬ副産物をもたらした。 チュパカブラが血液を残していったのである。 この日、パトロール中の警官が村の近郊で犬を襲おうとしていたチュパカブラを発見し、銃撃。 怪獣は結局逃亡したが、2日後、現場近くの農場のフェンスに、血液が付着しているのが見つかったのである。 採取された血液はアメリカの棒機関でDNA分析を含む可能な限りの検査を施された。 そして検査未了ながらも、以下の4つの途中経過報告が出されている。 1.サンプルの血液は、既知のいかなる動物のものとも合致しない。 2.人間の血液と比較すると、マグネシウム、燐、カリウムの含有率が極めて高い。 3.人間の血液と比較すると、単純タンパク質の一種であるアルブミン/グロブリン比率の数値も非常に高い。 4.以上の分析で得られた数値および結果を、地球上に存在する既知の動物の血液と比較するのは不可能である。 途中経過とはいえ、血液を残していった生物は、 地球の環境では存在しえない血液組織を持った未知の動物、もしくは非常に高度な遺伝子操作によって創造された存在、 そのいずれかである可能性が示唆されたのだ。 ところが奇妙なことに、結局、検査の最終結果は報告されなかったのである。 一説によれば、アメリカ政府から圧力がかかったともいわれているが定かではない。 病気に罹った在来動物説 ミシガン大学の動物学者バリー・オコナー教授は、 「本当に恐ろしいのは鋭い牙で家畜を襲う毛のない動物ではなく、健康な野生動物をそのような姿に変えてしまう8本足の生き物である。」 と主張し、ダニを介した皮膚病を患ったコヨーテや野犬こそがチュパカブラの正体であると提唱する。 疥癬と呼ばれるこの皮膚病は、ヒセンダニというダニの一種に感染することにより引き起こされる。 ヒセンダニは動物の体毛に好んで寄生するが、 体毛が薄い人間、家畜歴が長く徐々に耐性を身に付けていった牛やヒツジ、イヌなどはヒセンダニに対する耐性を持っており、 寄生されても多少のかゆみを感じる程度で重篤な症状に陥ることは少ない。 しかし、野生で生活している故にヒセンダニへの耐性が少ないコヨーテやキツネなどは、 一度ヒセンダニに感染すると症状が悪化することが多く、死に至ることも少なくないという。 疥癬に罹ったコヨーテは、毛嚢への血液の供給が遮断されてしまい、毛がごっそりと抜け落ちてしまう。 また、皮膚が炎症を起こして分厚く膨らむため、その外見はゴワゴワした醜い姿に変貌してしまう。 これは毛がなく醜い容姿をしているとされるチュパカブラの特徴に見事に一致している。 また、家畜を襲う原因についても、病気のコヨーテは健康で動きも素早い野生の草食動物を捕らえる程の体力が無いため、 人間に飼い慣らされて警戒心が薄く、動きも鈍い家畜を襲うようになると考えれば説明はつく。 ただし、これは犬型のチュパカブラにはほぼ該当する強みがある一方、 完全二足歩行型、卵型の頭部にアーモンド形の目を持つチュパカブラには合致しない。 何より、翼が生えていたという目撃報告も多いチュパカブラに対し、コヨーテには翼など存在しない。 全てのチュパカブラをこの説だけで片付けてしまうのは無理があるようだ。 追記、修正はチュパカブラの正体を解き明かした人がお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] コメントが多いという依頼によりリセット -- 名無しさん (2017-09-18 10 04 01) 因みにIDが被る理由としてはホテルや駅のような利用者が多くてWi-Fiが繋がっている機関からコメントを書き込んだというのがある。 -- 名無しさん (2017-09-18 16 36 39) 鬼灯の冷徹では出稼ぎで獄卒やってる。忘年会でいろんな血液型の血を飲んでたw -- 名無しさん (2019-05-30 10 00 51) 犬型・人型・有翼型を全部一緒くたにするのは無理がある。「そのあたりで目撃された未確認生物を全部まとめてチュパカブラと呼んでいる」というだけで、正体は別だと考えるべきだろう。犬型に関しては最後の「皮膚病にかかった犬」でいいと思う。 -- 名無しさん (2020-09-17 21 37 39) 最近は崖を登ってるらしい -- 名無しさん (2020-09-17 21 44 23) 登山する習性があるのか・・・ -- 名無しさん (2022-10-28 18 13 59) 断崖絶壁……ハードコアテクノ……生配信投票……うっ頭が -- 名無しさん (2022-10-29 16 44 17) 「未確認生物」と言われると得体の知れない不気味さがある(幼少期に特命リサーチ200Xで見た時はマジで怖かった)のに、「吸血宇宙怪獣」と思って聞くと何とか倒せそうな気がしてしまうのは自分が特ヲタだから? -- 名無しさん (2023-04-13 21 14 45) 名前 コメント