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前ページ次ページ鋼の使い魔 トリステイン魔法学院の敷地内で、もっとも広い中庭に集められた生徒達が、それぞれに整列して、教師達を待っている。 やがてそこに学園長オールド・オスマンを筆頭に、教師達は生徒に対面するように並んだ。 オスマンは拡声の魔法をかけた杖に両手を乗せて、集まった二百人近い生徒達に向かって声をかける。 「諸君。本学院の今年度上半期の学期は、本日の正午をもって終了し、ふた月ばかりの休暇に入るわけだが、本年度は隣国との紛争などもあり、領地に帰っても休まらない生徒もおるだろう。 そこで儂は、通年確保しておる夏季休暇中の在学許可の枠を広げ、例年より多くの生徒や教師が学院に残れるように準備しておる。勿論、係累等後見人の承認は要るがの。 この休暇をどのようにつかうのも諸君らの意思次第である事を言っておこう。避暑に赴くもよし、独自に何がしかの研究に励むのもよいじゃろう。しかしこの学院の責任者として、 諸君らが壮健であって次学期を迎えられることを切に願っておる。 ふた月後にまた会うとしよう」 生徒側から感謝の拍手が送られ、次に教師達を先導とした移動が始まる。移動は学院の内壁正門で止まり、再び整列する。オスマンはそこで正門に向かって杖を構え、魔法で厳重な鍵を掛けた。 この鍵は原則、次学期の始業式まで掛けられたままになっている。裏門や脇の出入り口がいくつかあるから、学院に残る者たちにとって不便というほどでもない。 祭事の時に鳴らされるいつもとは少し違った鐘の音が学院に響いた。 終業式が終わり、生徒達は各々の予定に従って行動しはじめる。既に学院の裏門の前には生徒達を迎えに来た大小の馬車が並んで待っているのである。ルイズ・フランソワーズはまず、私物をトランクに詰め込むところから始めた。 「といっても、大したものはないのよね。姉さまのところに大体揃っているし」 ルイズの夏季休暇は、王都トリスタニアでアカデミー研究員をしている姉エレオノールが住むヴァリエール家所有の別宅で過ごす予定である。暫くの寄宿だが昔から使い慣れた勝手知ったる場所で、 わざわざ持っていかなければならないものはそれほどない。 したがって、ルイズの手荷物は貴族の旅荷としては比較的軽量な規模に収まった。 それを運んだシエスタ曰く、 「えぇ。ミス・ヴァリエールのお荷物はとてもよく纏められていて、他のお嬢様達が大型トランクを三つはお使いになるのに、ミス・ヴァリエールはお一つしか使われてませんでした」 人一人は優に入るトランクを引っ張るシエスタを連れて、ルイズは学院の本棟から少し離れた小塔に向かう。そこはコルベールが自分の為に学院で用意した研究室だ。 塔の脇に建てられた小屋からは細く煙が煙突より伸びている。ルイズが小屋の中に入ると、壮年の男が小屋の奥に作られた炉の火を落としているところだった。 「早かったじゃないか。手伝いに行こうと思ったんだが」 「煤けた格好で手伝いに来られても迷惑だわ」 「聞いたかい相棒、嬢ちゃんは使い魔である相棒の手なんて借りたくないってさ」 「それは困ったな。明日から職の手を探さなくちゃならないな」 「あんた達……!」 ルイズの癇癪が弾けると同時に炉の中に残っていた小さな火がかっと燃えて弾けた。溜まった煤が炉口から噴き出して二人と一振りに降りかかる。 二人は盛大にせき込んで、ルイズは息を吐いた。 「まぁいいわ。あんたはもう準備できてるの?」 「そこに置いてある荷物で全部だな。あとはコルベール師に挨拶して終わりだ。あの人は休みの間も学院にいるらしいな」 「休暇の時くらい家に帰ればいいのにね。何処の出身なのか知らないけど」 壮年の男は己の荷物が入った背負い袋を身体にくくりつけた。月日に焼けた金髪を長く後ろに撫でつけ、その動きは実年齢よりもいくらか若々しい。身なりからみて貴族ではない。しかし平民らしからぬ振る舞いに、 どこか気品がにじみ出ていた。 コルベールは自室に居た。窓の少ない塔の中は、埃っぽさと熱気が入り混じって、入ってくるものを立ち竦ませる不快さを感じさせた。 しかし塔の主人はそんなことはまったく気にしておらず、訪問者を快く迎え入れてくれる。 「おや、ミス・ヴァリエールにギュスターヴ君。今日は何か……?」 「はい。私はルイズについてここを離れますので、その間小屋の管理をお願いしたいのです」 自分の使い魔はこの禿頭の教師と仲が良いな、とルイズは前から思っている。趣味が合うのだろうか? そんな少女の呟きも知らず、コルベールは壮年の男――ギュスターヴの要請を聞きいれてくれた。 「ではお二人とも、休暇の間息災で」 「ありがとうございます。では」 「そう言えばシエスタは休まないのか?」 「メイド仲間のうちで何人かはこの機会に帰省するみたいですけど、私は残ってお仕事しますよ。お手当ても出るんですから」 「学院長も太っ腹よね」 裏門までの道でそう話していると、三人を誰かが呼びとめる。 振り向けば、赤髪の娘と青い髪を短く刈った少女が木陰から手招きしていた。 「ハァイ」 「なによキュルケ。私達急いでるんだけど」 赤髪のキュルケと言われた娘はルイズの険のある言葉に肩を竦ませた。 「ちょっと声掛けただけじゃない。もう少し肩の力抜いたら?」 「どうでもいいでしょう。で、何か用?」 「私達休暇中も学院に居るんだけど、何か休みの間予定があったら教えて頂戴、遊びに行ってあげるから」 「遊びに行って『あげる』ですって?」 ルイズのこめかみがぴくぴくと動いているのがギュスターヴから見える。この娘は感情の波が激しいことこの上ない。それを知っているくせに、キュルケはこう言い放った。 「だって貴方の事だもの。どうせ帰っても相手してくれるのがギュスだけじゃ、流石にギュスがかわいそうでしょう?」 「そ、そんなこと……」 「そんなことは、ないさ」 言いよどみかけたのを遮って、ギュスターヴは自信満々といった風に言った。 「俺たちはトリスタニアに行くんだ。ヴァリエールの末娘なら顔くらい見たい貴族だっているだろう。それほど暇じゃないかもしれないぞ」 「そうかしら?」 「そうさ。……だから遊びに行きたいなら素直にそう言ったらどうだ?」 「う……」 口ごもってキュルケは隣に居て沈黙を守る青髪の少女タバサに向けられた。 見返すタバサの目に表情はない。それが鏡を覗きこむような気分にさせた。 「……そうね。実はねルイズ。寮に残るのは女生徒ばっかりで男が全然いないの。当然よね、戦争になりそうなんだもの。だから退屈になったら、貴方のところにいってもいいかしら?」 ルイズは煮えかけた頭がだんだんと冷めてくるのがわかった。要するにキュルケは寂しいから構ってくれと言っているのだ。そう思えばほんの少し、自尊心がくすぐられる。 「来てもいいけど、姉さまも一緒にいるから居心地は保証しないわよ」 「あのお姉さんはいじり甲斐がありそうでいいわね」 キュルケの答えにルイズはさらに頭が冷めていくのであった。 寄越した馬車に乗せられたルイズとギュスターヴが到着するのが見えて、エレオノールは階下のロビーに降りることにした。 ヴァリエールの別邸は、王都の高級住宅街に数ある貴族の邸宅の中でも、上から数えた方が早い位に豪華な屋敷である。勿論ヴァリエール領にある本家と比べれば慎ましい出来であるが、調度品や建築の見事さは是非に及ばない。 ロビーでは使用人に荷物を託したルイズと、使用人について屋敷の奥へ行こうとするギュスターヴの後ろ姿があった。 それがちらっと見えただけでエレオノールは胸の奥がかっと熱く打たれてしまうのだ。 (あぁ、あの人もここで過ごしてくれるのね……) 一目会ったその日から、密かにエレオノールはギュスターヴへ思慕の情を募らせており、一時期は暇さえあればギュスターヴが立ち上げた百貨店に通いつめて、ギュスターヴの姿が無いか歩いたものだった。 ……その姿は周囲から「貴族の婦人が通い詰めるほど百貨店は良い店なんだ」というというように見られていたりする。おかげで店を切り盛りするジェシカは右肩上がりの左団扇である。 「……姉さま?」 出迎えに来てくれたらしい姉があらぬ方を見たままぼうっとしてるので、ルイズは手持無沙汰のままロビーに立たされる羽目になったのだった。 正気に戻ったエレオノールはルイズを連れて談話室に入ると、テーブルで薬湯と菓子を啄みながら学院での生活について事細かに聞き出し、オスマンが休暇中の寮滞在を認めた話を聞いて関心していた。 「よくそんな財布の余裕があったものね。アカデミーなんて予算を削られてしまうんじゃないかって汲々としてるのに」 「どうして?」 「軍備に国費がかかるからよ。アルビオンの奇襲で軍艦はほぼ全滅で、タルブでの合戦では勝ったけど王軍も被害甚大だそうだから」 そういうエレオノールに相槌をルイズは打てない。王軍の被害の一端は自分が行った虚無の発動が原因やも知れないから。 「王軍はタルブ戦役で功あった傭兵部隊を正規軍に組み入れたと聞くし、トリステインの格が落ちるというものよね。アンリエッタ女王には頑張ってもらいたいわ」 「姉さま、陛下を助けるのが私達貴族の義務でしょう?」 「当然よ。現にヴァリエール家は王家に資金と人足を供出したし、私もアカデミーでアルビオン軍が残した船から見つかった、砲弾の解析に駆り出されてるもの。うちで何もしてないのはあんたとカトレアだけよ」 「……仕方がないでしょう、まだ学生なんだもの……」 だがルイズは先日、内々にアンリエッタから彼女直属の女官としての権限を与えられているのだ。いざ王女からの命令があれば一目散に駆けつけなければならない。 その時は意外に早く訪れるのだが、ルイズとギュスターヴが別邸に着いたその日の夜、ギュスターヴはあてがわれた部屋で背中を伸ばしていた。 部屋を見渡すに一応、使用人用の部屋らしい。質素なベッドと椅子、テーブルと小さな衣装箱が一つだけ置いてある部屋だ。 「あまり歓迎されてないようだな、俺は」 独り言に答える声が荷物から帰ってくる。 「まぁ、仕えてる貴族のお嬢様がどこの馬の骨ともしれない男を連れてきているんだから、歓迎はされないわな」 答えたのは荷物に収まっている一振りの剣だった。知恵ある魔剣インテリジェンス・ソードの一つであり、古の虚無の使い魔『ガンダールヴ』が使っていたと自ら主張するデルフリンガーである。 「時に相棒よ。あんたはこれからどうするんだよ?お嬢ちゃんはひと夏ここで過ごすわな。その間それにつきあっているつもりかい?」 「そこなんだ、デルフ」 ベッドから起き上がって荷物からふた振りの剣を引っ張りだすと、それぞれをテーブルに乗せた。一方はデルフだが、もう一方は石でできた長剣だ。 「俺がルイズにアニマの使い方を教えたのは、一つにはそれがルイズの未来につながるものだと思ったからだ。この世界ではアニマの術を使えるものは居ない。ただ一人のアニマ術師になる。 あとはそれを自分で使いこなせるだけの精神を持っていれば自由に生きられるだろう」 世間知らずでわがままなルイズだが、ギュスターヴはそれが出来ると信じている。 「一つってことは、もうひとつあるんだな」 「始祖の祈祷書とやらが変化した卵型のクヴェルが気になる。鉛の箱にしまってあるが、あれは尋常な代物じゃない」 「アニマとやらが無い相棒に解るのかよ?まぁ、俺っちもありゃやばい代物だと思うどな……」 虚無に使われる立場のデルフから見ても、卵形と化した祈祷書は異常な存在なのだという。 「もしあれを再びルイズが手にする時があれば、ルイズ自身で制御できるようにならなきゃいけないだろう」 「それまでの訓練、ってことかい?」 「そんな時が来ないに越したことはないんだがな……」 ちらりと目が白い石剣を映す。 「嬢ちゃんに対する理由はそれでいいとして、あんたはその、なんだ……サンダイルってところに、帰りたくないのかい?」 「……帰りたいさ。帰って友人達に謝りたいな、黙っていなくなって済まないってさ」 「相棒は妻子居ないんだろ?その年でやもめたぁ、寂しいよなぁ……」 そこまで言って、デルフは何か閃いたようにカタカタと鳴った。 「解ったぜ、相棒がこっちに後ろ髪引かれて元の世界に帰る方法を探し渋っている理由。あんたは嬢ちゃんを自分の娘か何かみたいに思えて仕方がねぇんだ」 「ルイズが娘だって?」 「そうさ。手元で大事にしたいって気持ちがあるんだろ。だから離れるのを渋ってるのさ」 得意そうに魔剣は笑った。 だがそう指摘されたギュスターヴは、怒るでも笑うでもなく、むしろ神妙に表情を暗くして考え込んでしまうのだった。 「ど、どうしたよ?」 「……これが親の気持ちという奴のなのか?」 「いや、そうなんじゃないかって思っただけだよ。実際のところは知らないね」 そう言ってやるとギュスターヴはますます悩み深げにうつむいた。 皺を寄せて黙っている相棒をどうしたものかとデルフが考えていると、夜更けだというのに部屋を尋ねる者が居た。 「客だぜ相棒」 ノックにギュスターヴが答える間もなく訪問者は勝手にドアを開け部屋へと入ってくる。 部屋着に着替えたルイズだった。ルイズは部屋を一瞥し、自分の使い魔の境遇に文句をつけた。 「こんな貧しい部屋がこの屋敷にあったなんて知らなかったわ。私の使い魔に相応しくないと思うの」 「それで嬢ちゃんはどうするのよ?」 「明日から家令に言いつけて他の部屋を用意させるわ」 「別にこの部屋でいいだろう。気を使われると居づらくなる」 「あんたはそれでいいかもしれないけど、それで召使たちに舐められているんなら許しがたいわ」 部屋にやってくるなり青筋立てて息を巻くルイズに、先程まで考えていた事を頭に押しやり、ギュスターヴは言った。 「わざわざこの部屋に文句をつけにきたのか?」 「あっ、そうだったわ。姉さまと夕食を済ませた後、私宛に手紙が来たの」 これよ、とルイズが懐から出したのは小奇麗な封筒だった。送り主の名前はなく、ただ宛名だけが記されている。しかし、封蝋等の格式から見て、貴族の使う梟便で運ばれたものらしい。 「梟便?」 「伝書用に調教された梟に手紙を持たせて送るのよ。貴族の屋敷なら梟を受け入れる鳥小屋が天井裏にあって、そこに手紙を持った梟が入ってくるのよ。学院には何十羽も入ってこれる梟小屋が置いてあるわ」 「わざわざ梟に持たせるなんて手間暇かけるもんだな」 「中には自分の使い魔にやらせる人もいるけど……って、そんなことはいいのよ。問題はこの中身よ」 言ってルイズは剥がされた封蝋の下から便箋を取り出して見せた。その様子なら既に中身は確認済みなのだろう。 「読んでも構わないか?」 「汚さないでよね」 ギュスターヴは受け取ると、便箋に目を走らせる。ジェシカと手紙のやりとりをするようになって、一応日常の読文に支障はない。 「なんて書いてあるんだい?」 「かいつまんで言えばお茶のお誘いさ」 「茶ぁ?」 「もっと上品に言ってくれる?陛下からわざわざ謁見に来るようにという申し渡しよ。内々に送ってくるところを見ると、何か任務を与えられるんじゃないかしら」 一見、そう冷静にルイズは言っているが、内心では働ける事に喜んでいるに違いないと、ギュスターヴは思った。この娘のアンリエッタ女王への尊敬とトリステイン王国への忠誠は揺るがないものらしい。 「この手紙の日付を見ると明後日になっているな」 「そうよ。それまでに身の回りの物をそろえなくちゃいけないわね。明日は忙しくなるわよ」 「どうして?」 「休み一杯任務に費やすかもしれないから、明日のうちにめいいっぱい遊んでおくのよ。あと、買い物とか」 にひ、と意地の悪い顔をするルイズを少し疲れた気持ちでギュスターヴは見た。女の買い物に付き合うのはいつ何時でも大変なのだから。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ蒼炎の使い魔 翌朝、学院長室ではそれはもう大変な事になっていた。 「土くれのフーケ! 宝物庫を荒らした盗賊が!」 「随分とナメた真似をしてくれる!!」 「衛兵達は何をやっていたんだ!!」 「平民なんぞ当てにはならん!」 ワーワーギャーギャーと教師連中は大声を上げる。 そんな大騒ぎの中、ルイズと使い魔のカイト、 そしてギーシュ達3人と今朝、生徒の話を聞いたコルベールは呆気に取られた表情でその光景を見ていた。 昨晩の事を報告しに学院長室に来たと思ったらこれである。 朝からテンション上がりまくりの教師陣は更にヒートアップしていく。 (あ、倒れた。) とうとう、頭の血管でも切れたのか教師の一人がドサリと倒れた。 しかしその教師は生徒のルイズに影口を叩くような人間だ。 別にいいかと思いながら、皆が冷静になるのを待っている。 さて、この教師陣は一体何をしてるのかというと… 「当直は誰だったんだね!?」 「ミセス・シュヴルーズ! 貴方ではありませんか!」 所謂責任の擦り付け合いである。 こんな事をしてる暇があればさっさと何らかの対策を立てればいいのに。 ルイズはともかくギーシュまでもがそう考えていた。 ミセス・シュヴルーズという女性はあまりの剣幕に泣きながらも謝罪の言葉を述べる。 ギーシュがそれを見て足を出そうとしたが、それはルイズによって止められた。 「何をするんだ?」 「オールド・オスマンが来たわ」 ルイズの言うとおり、奥からオールド・オスマンが登場した。 彼はこの学院の最高責任者だ。 決めるときには決める。 決まらない時はエロイ。 きっとクーンが年を取ったらこんな感じになるのではないだろうか。 …多分。 そんなオスマン氏は今は決まっているらしく、騒ぐ教師陣を宥めはじめた。 そして、昨夜の状況をルイズたちに聞き始めた。 「お主達じゃな、土くれのフーケを目撃したのは。」 ルイズは答える。 「はい、正確に言えば私とギーシュの2人だけですが。」 「ん? 使い魔の…カイト君はどうしたのかね?」 オスマン氏はカイトを不思議そうに見ながらもルイズに問いかけた。 「用事があったとかで一緒には居ませんでした」 ルイズの言葉に周りの教師陣の様子が変わる。 彼女は少し失望した。 何が何でも今のうちに責任者を見つけたいのだろう。 ルイズは小さくため息を吐いてカイトに話しかけた。 「ほら、あんたも言いなさい。」 カイトはその言葉にコクリと頷いて背中からデルフリンガーを取り出した。 「…ハアアアアア」 「ん、ああ。 えっと、自分は昨夜はシエスタって言うメイドの所へ行っていた、ってさ。」 「「なっ!」」 ルイズとギーシュは同時に驚愕の言葉を出した。 「ふうむ…、ならばミスタ・グラモンの方は…?」 突然話を振られたギーシュは驚きつつも努めて冷静に言葉を返した。 「ぼ、僕の使い魔は昨夜は寝ていました。」 オスマン氏はその言葉を聞いてそっと目を閉じる。 そして、謝罪の言葉を2人に掛けた。 「ふむ、すまんかった。疑いを掛けるような真似をして。」 オスマン氏の言葉に2人は頷く。 ルイズは握りこぶしを作っていたが… きっとその握りこぶしはカイトに対する物に違いない。 室内に沈黙が下りる。 そこでふとコルベールが、思い出したかのように口を開いた。 「そういえば…ミス・ロングビルは?」 言われてみれば彼女がいない。 どうしたのだと話を始めた矢先に、扉が開いた。 「土くれのフーケの所在が分かりました!」 それはミス・ロングビルだった。 その瞬間カイトの様子が変わった。 「…!」 いきなり警戒の姿勢になったカイトを横の2人は不思議に思う。 そして、右腕がスーっと光り始めた。 ルイズは慌てながら、カイトを止めた。 「ちょっと馬鹿! 何やってるのよ!」 飽くまで小声でカイトの腕をつかむ。 カイトは少し黙った後、腕の周りに浮かび始めていた光を消した。 そんなやり取りをしてる間に、教師陣の様子が変わった。 「では土くれのフーケはそこに…」 「はい、証言者の話を聞けば間違いないと思います。」 「それでは、早速王室に報告に…」 「しかし、それでは逃げられてしまうぞ!」 騒がしくなってきた教師陣をオスマン氏は止める。 「おほん!!」 そして、ある策を出した。 ならば、こうしよう。 学院内の不始末は学院でつけると。 だから、こちらから少数で奪還しよう。 オスマン氏はそう提案して、有志を募る。 「では、これから捜索隊を編成する。自分がというものは杖を上げよ! 貴族として名を上げたいと思うものはおらんのか!」 オスマン氏が声を出しても教師連中は顔を見合わせるだけだ。 ルイズはそれを見て、杖をあげた。 「ミス・ヴァリエール! ここは教師に「誰も上げないじゃないですか!」…っ!」 堂々と言い放ったルイズにミス・シュブルースは口を閉じた。 そしてそれを見て、ギーシュも杖をあげた。 「ミスタ・グラモン! 貴方まで!」 「な、何考えてるのよ!」 ルイズもこれには戸惑うばかりだ。 ギーシュはその言葉を聴いて、堂々と反論する。 「僕はミス・ヴァリエールとその使い魔君に多大な借りを作ってしまった。 だから、僕は彼女達に力を貸したい!」 本当は名も上げたいのだが、そこら辺は流石に空気を読んだらしい。 ギーシュの顔は所謂、漢の顔になっていた。 「ふむ、では頼むとしようか。」 オスマン氏は志願した2人(カイトは強制)を捜索隊に編成した。 だが、それに異を唱えるものがいた。 コルベールである。 だが、オスマン氏はコルベールを含め全ての教師に口を開いた。 先の決闘でギーシュとカイトの実力は知っている。 圧倒的に負けたとはいえ、あの時のギーシュの力は教師陣に引けを取らないほどの強さだったのだ。 それに、メイジの価値は使い魔を見よという言葉があるように、またルイズの力も未知数だ。 そんな3人相手に勝てる者はいるのか? そう言えば、異を唱える者は誰も居なかった。 「ふむ、ミス・ロングビル。3人を手伝ってやってくれたまえ」 ミス・ロングビルはそれに頷いて、部屋から出て行った。 「さて、決行は今日の夕方じゃ。ミス・ロングビルに迎えに行くように指示を出しておく それと今日の授業は休んでよい。 ただし、準備を怠らずにの。」 授業免除を受けても3人の顔は真剣そのものだった。 オスマン氏はそれに満足げな顔を浮かべると、解散の言葉を放った。 「では、これにて解散じゃ!」 数十分後… 「サボってるみたいで気持ち悪いわね…」 ルイズは学院の外にある野原に座っていた。 部屋にいると落ち着かないのだ。 そんな彼女に一緒に居たギーシュは声を出す。 「まあ、たまにはいいんじゃないかな。」 ギーシュは寝転んで学院を眺めている。 そんなギーシュに彼女は当然の疑問を出した。 「でも、なんであんたまで?」 「決まってるだろ? ここで逃げたら名が廃る…ってね」 彼は命よりも名を惜しめと教えられてきた。 しかし、今の彼にとってそれは言い訳だった。 「僕は力を手に入れて調子に乗った。 それを止めてくれたのは君たち二人だ。」 「…」 「だから本当は、君たちに力を貸したい。 ただそれだけの事だから安心してくれ。 僕だって戦えないわけじゃない。女性を傷つけるのは流儀に反するからね」 それは何時ものような口説きの姿勢ではなく、社交辞令的なものだった。 何時も女性の事と自分の名誉ばかり考えているわけではないらしい。 彼女もそれに好感を覚えたのかギーシュに言葉を掛けた。 「ま、期待してるわ。」 「任せたまえ。」 さて、と2人が立ち上がったのはほぼ同時だった。 2人は後ろの人物に目を向ける。否、睨んだ。 カイトはその様子に?マークを頭に浮かべた。 「さ~て、カイト。少し聞きたいことがあるんだけど。」 「ああ、僕も聞きたいことがあったんだ」 「…?」 「あんた、何でシエスタのところに行ってたのよ!」 「そうだ! 僕の方が先に君と約束しただろう!!」 「それに、あんた何でミス・ロングビルに攻撃しようとしてたのよ!!」 あまりの剣幕にカイトは一歩後ろに下がった。 作戦まであと7時間… 本当に大丈夫なのだろうか… 前ページ次ページ蒼炎の使い魔
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第五話 浅倉が広場を後にした、ちょうどその頃。 本塔最上階の学院長室では、魔法によって映し出された広場の光景に、二人の人物が見入っていた。 「オスマン殿、やはり彼は……」 「……概ね間違いはないじゃろう。」 一人は、サモン・サーヴァントの際にルイズたちの監督をしていた、禿げた頭が特徴のコルベールという男。 もう一人、コルベールにオスマンと呼ばれたその人物は、白い髪に白い口髭の年老いた男。 彼こそが、この学院の学院長である。 そんな二人が、なぜこんなことをしているのか。 それは、ギーシュと浅倉が決闘を始める少し前。 コルベールが慌てて学院長室に入ってきたのが始まりである。 コルベールが手にしていたのは、珍しい形のルーンが描かれた一枚のスケッチ。 サモン・サーヴァントの際に騒動を起こした、ルイズの使い魔の平民のものであるという。 コルベールはそれを、伝説の『ガンダールヴ』のものと一致した、と言った。 「なるほど……。じゃが、たまたま似た形のルーンが現れただけかもしれんぞ?」 「しかし、オスマン殿……」 コルベールが言いかけた時、部屋のドアがノックされた。 「失礼します、オールド・オスマン」 入ってきたのは、オスマンの秘書であるミス・ロングビルであった。 「なんじゃね?」 「ヴェストリの広場にて、生徒が決闘をしているようです。」 オスマンが呆れた顔をして、やれやれと呟く。 「して、誰が決闘をしておるんじゃ?」 「一人は、我が校の生徒、ギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」 「もう一人は?」 「ミス・ヴァリエールの喚んだ、平民です」 その言葉に、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。 「噂をすれば、ですな。」 「全くじゃ。……丁度いい。様子を見てみるかの。」 そう言うとオスマンは魔法を唱え、広場を映し出した四角い画面を眼前に出現させた。 「駆けつけた教師たちが、『眠りの鐘』使用の許可を要求しておりますが……」 尋ねてきたロングビルに、オスマンは映像を見たまま、振り返らずに答えた。 「平民相手なら使わずとも十分じゃろ。そう伝えといてくれ」 「……分かりました」 失礼します、と一礼すると、ロングビルは映像に夢中な二人を残し、部屋を出ていったのだった。 そして、現在に至る。 決闘の結果は圧倒的なものであった。 様々な武器を自在に操り、瞬く間に敵を蹴散らして退けた、あの平民。 これなら、彼が『ガンダールヴ』だというのも頷ける。 (それにしても……) 窓際に移動し、オスマンは考える あの平民が持っていた、紫色の奇妙な箱。 色や描かれた模様は違えども、この学院に存在する『破滅の箱』と形状が酷似している。 つい最近手に入れた、手にした者は呪われるという秘宝…… 彼なら、何か知っているかもしれない。 (あとで尋ねてみる必要がありそうじゃのう……) 「ところでオスマン殿。この事を王室に報告しないのですか?」 オスマンの思考が一段落した時、コルベールが思い出したように尋ねた。 「なに、あんなやつらにわざわざ報告せんでいい。そんなことをしたら、彼の身が心配じゃ」 「それもそうですな」 コルベールはそう応えると、そろそろ授業がありますので、と言い部屋を出ていった。 (最近は奇妙な出来事が多いのう……) そう考えながら、オスマンは白髭を撫でながら、窓の外に広がる空を見上げた。 晴れ渡った青空の中に、幾ばくかの薄雲が漂っていた。 その日の夜。 「ねえ、昼間のあの変な格好、何? あ。あと、あのでっかい蛇! 教えなさいよ!」 ルイズは自室で浅倉を質問攻めにしていた。 「うるさい奴だ。俺はもう寝る」 そう言うと、浅倉は部屋の隅で寝転がった。 両手を頭にあて、すぐに目を閉じる。 「ち、ちょっと待ってよ! せめてあんたの名前くらい教えなさい! それぐらいならいいでしょ!?」 「浅倉だ」 目を開けずに、浅倉は答えた。 「アサクラ? アサクラね。それと……」 「じゃあな」 「あああ待って! 最後に一つだけ!」 浅倉が目を開け、ルイズを睨む。 「しつこい奴だ。そんなに俺をイライラさせたいのか?」 その形相に、ルイズは思わずひっ、と声をあげた。 「ほ、本当に最後よ! ……あんた、私のことどう思ってる?」 真剣な目付きでルイズが問う。 浅倉はしばらく天井を見て考えると、目だけをルイズの方に向け、答えた。 「この生活は悪くない」 「え? それってどういう……」 ルイズが言い終える前に、浅倉は再び目を閉じた。 (結局、よく分からなかったわ……) 満足のいく答えを得られなかったルイズは、両手で頬杖をつき、ふぅ、とため息を吐いた。 もう一度、寝ている浅倉を見る。 「でも、私と一緒にいるのは嫌じゃないみたいだし……大丈夫、かな」 そう自分を納得させるように呟くと、ルイズは浅倉から視線をずらし、窓の方へと目をやった。 雲に覆われた二つの月が、その隙間から弱々しい光を放っていた。 所変わって、部屋の片隅に大きな置き鏡がある、学院のとある一室。 その鏡の中に広がる虚像の世界に、銀色の鏡のような空間が出現していた。 それは少しずつ大きくなっていき、しばらくすると、人型の白い物体を四つばかり吐き出した。 吐き出すと同時に、謎の空間は跡形もなく消滅した。 二メイルほどもあるその四つの物体は、しばらくすると不気味な呻き声をあげながら、ふらふらと立ち上がった。 鈍重な動きで顔を動かし辺りを見回すと、おぼつかない足取りでどこかへと去っていく。 後には、何事もなかったかのように部屋の様子を映し出す、その大きな置き鏡があるのみであった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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何時もの夢。 何時か見た戦場の光景。 何時か嗅いだ血と硝煙の臭い。 何時かの断末魔の叫び。 どれもこれも、俺が銃で作った物だ。 「=%&¥%&‘()?」 その見慣れていた世界に、見慣れないピンクの人影が現れた。 ―殺セ ―殺セ殺セ ―殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ 彼女は何か叫んでいる様だが、耳鳴りの所為で全然分からない。 何を言っているのか近付いて尋ねたいが、体が自分の意志で動かせない。 機械仕掛けの人形の様に俺は少女に銃の狙いを付け……引き金を引いた。 【青い鬼火の使い魔】『Cold Maid』 普段通り目覚めは最悪だ。 しかも、今日は寒気までする。 何かこう……腰から膝の辺りまでがスースーしている気がする。 「お目覚めになりました? ああ、此処は魔法学園の医務室です。 使い魔さんが突然倒れられたので、皆さんが運び込まれたんです。」 目を開けると、黒髪のメイドさんがいた。 片手には尿瓶を持っている。 もう一方の手は、俺のズボンとパンツをずり下ろしている。 そして、淡々と状況を説明している。 検査とかで下着姿を見られた事はあるけど、それでもこれは恥ずかしい。 そもそも、催してないし。 一先ず何としてもズボンを引き上げようとする。 流石に話し掛ける時にこんな格好はイヤだ。 「ねぇ、メイド!! わたしの使い魔、まだ眼を……覚まさな……いの……?」 丁度パンツを引っ張り上げた所で、あのピンク髪の女の子が部屋に入って来た。 顔が真っ赤だけど、俺の方も顔の温度が上がってるのが分かる。 そんなにマジマジと見ないで下さい。 そう言えば、何時の間にか俺にも女の子は理解出来る言葉で喋っている。 俺の方をちらちら見て『一本ダタラ』とか変な事を言っているけど、 一先ずさっきまでの『理解以前に聞く事自体が不可能な言葉』とは違う。 俺が帝国の人間と分かったから言葉も切り替えたのかと思ったけど、 さっきのは良く考えてみたら俺じゃ無くてメイドさんに話し掛けていたみたいだし。 「ああ、ミス・ヴァリエール。 丁度良かった。 代わりに採尿して下さいます? やっぱり使い魔さんにはご主人様の方が。」 『は?』 尿瓶を渡されて固まる女の子と淡々と使い方を説明するメイドさん。 あのメイドさんは多分、 キスの手伝いとか言って人の頭をグリグリと押したりした事とかがあるに違いない。 正直、リアクションに困る。 呆気に取られた俺は、メイドさんがお辞儀をして出て行くのを止められなかった。 女の子に至っては、尿瓶を片手に視線を虚空を彷徨わせてる。 オーランドですが、医務室の雰囲気が最悪です。 See You Next Time!
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ディシディアデュオデシムファイナルファンタジーより、シャントット&プリッシュ召喚 ヴァナ・ディールの使い魔-00 ヴァナ・ディールの使い魔-01 ヴァナ・ディールの使い魔-02 ヴァナ・ディールの使い魔-03 ヴァナ・ディールの使い魔-04 ヴァナ・ディールの使い魔-05
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前ページ次ページサイヤの使い魔 悟空とギーシュの決闘が始まる数分前、空きっ腹を抱えて食堂へやってきたコルベールは、食堂に残っている生徒がごく僅かで、その中にミス・ヴァリエールの使い魔は含まれない事に気付いた。 そして、遅めの昼食(材料が足りないのか、何故か賄いで出るようなスープとパンが少しだった)を採っている最中耳にした生徒の会話から、件の使い魔がヴェストリの広場でミスタ・グラモンを決闘を交えようとしていることを知った。 昼食を喉に詰まらせて激しく咳き込んだコルベールは、皿に残ったスープの残滓を急いで飲み干し、再び学院長の元へと駆け戻った。 学院長室の入り口の前で、ミス・ロングビルにばったり出くわす。 「ごきげんよう、ミスタ・コルベール。凄い汗ですが、急いでどちらへ?」 「実は、生徒たちが決闘を行おうとしているので、その件で報告をと」 ミス・ロングビルの顔色が変わる。 「ミスタ・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔ですね?」 「ご存知でしたか?」 「私もその件で報告をしようとしていたところです。宜しければ一緒にどうですか」 「是非に!」 ミス・ロングビルが扉をノックし、一言二言会話を交わして学院長室に入る。コルベールも後に続いた。 「なんじゃ? 二人揃って」 「ヴェストリの広場で、決闘をしようとしている生徒がいるようです。大騒ぎになっており、止めに入ろうとしている教師がいますが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」 「まったく、暇をもてあました貴族ほど、たちの悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れおるんだね?」 「1人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あの、グラモンとこのバカ息子か。オヤジに輪をかけて女好きじゃからの、おおかた女の子の取り合いじゃろう。まったく、あの親子は。相手は誰じゃ?」 「ミス・ヴァリエールの使い魔です」コルベールが口を挟む。 「…それは本当か、ミスタ・スポック」 「コルベールです。って、いきなりそんな突拍子も無い名前が出るのは非論理的です」 「そういうお前さんだってちゃっかり返してきとるじゃないか」 「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 「アホか。たかが子供のケンカを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」 「判りました」 ミス・ロングビルの退室を見届けると、オスマンはコルベールに目配せした。 「さてと、ミスタ・コルベット」 「コルベールです。さっきよりマシですが、微妙に間違ってます」 「件の人物が本当にガンダールヴの幽霊かどうか、確認する機会が訪れたようじゃな」 オスマンが杖を振るうと、壁にかかった大きな鏡に広場の様子が映し出された。 ヴェストリの広場は、重苦しい沈黙に包まれていた。 ギーシュのワルキューレから繰り出される攻撃は、当たり所によっては一発で人間の骨くらい簡単にへし折るほどの威力がある。 それを何発も、しかも数分に渡ってその身に受け続けた男は、骨折どころか擦過傷すら負った様子が無い。 ミス・ヴァリエールの使い魔は化け物か。 物言わぬ彫像と化したギャラリーは、あれが「天使」という言葉だけでは説明できない「何か」である事を薄々感じ始めていた。 そしてギーシュは、この化け物に対し最も適切な自分の行動を、女性に浮気がバレた時の言い訳を考える時よりも遥かに速い速度で考えては没にしていた。 ワルキューレを再構築して戦う――精神力が保たない。それに、さっきの攻撃の結果から、徒労に終わるのは目に見えている。 自分が戦う――ワルキューレより遥かに劣る自分の攻撃が、この男に通用するはずが無い。 逃げる――有り得ない。貴族が決闘の最中敵に背を向けるのは、敵に倒されるよりも屈辱的な事だ。 降参する――尚更有り得ない。他に選択肢が無いとしても、グラモンの家名を汚したこの男にだけは。そう自分のプライドが言っている。 その他――考えろ、考えるんだギーシュ・ド・グラモン。この状況を打つ手を、1秒でも早く、考えろ……! 聞こえてきた足音に、ギーシュは我に返った。 ミス・ヴァリエールの使い魔が、こちらに向かって歩いてくる。 ギーシュは立ち上がろうとした。だが、腰が完全に抜けてしまって足に力が入らない。 やがて、悟空がギーシュの眼前に立ちふさがった。 こちらに手を伸ばしてくる。 止めを刺されることを悟ったギーシュは、生まれて初めて心の底から震え上がった。真の恐怖と決定的な挫折に……。 恐ろしさと絶望に涙すら流した。 これも初めてのことだった……。 ギーシュは既に戦意を失っていた…しかし、それは悟空にとっても同じだった。 既にギーシュからは闘志が失われているのを悟空は感じていた。 戦いとは、双方の実力が拮抗してこそ面白いものだ。 今のように、自分より遥かに力量の劣る相手と戦ったところで、悟空には面白くも何とも無い。 彼は常に、互いに全力を出し切って戦うことを望む男であった。 「立てっか? 手貸してやるから、つかまれ」 「は、はえ?」 涙と鼻水にまみれた顔のギーシュが、情けない声をあげる。 「今のおめえじゃオラには勝てねえ。多分さっきのがおめえの目一杯だったんだろ?」 見透かされていた。 その上、敵に情けをかけられた。 ギーシュは夢遊病者のように、無意識に悟空の手を取った。 悟空に手を引かれ、震える足腰に活を入れて立ち上がりながら、自分のプライドがズタズタにされているのを感じた。 ついさっきまで殺されることをあれほど怖がっていたのに、今はむしろ死んでしまいたい。 「悪かったな、おめえの家名に泥塗っちまって」 「え…?」 「ルイズに聞いたんだけどよ、名前間違えるってのはこっちじゃ誇りを傷つけることなんだってな。本当に悪ぃ事したな」 「あ…ああ」 誇りを傷つけられるのが我慢できないのはどうやらルイズだけではなく、この学院の生徒、いや、貴族というものは総じてそうらしい。 悟空は、貴族とは要するにベジータみたいなヤツなのだと結論付けた。 そして、自分にサイヤ人であることの誇りを教えてくれた男に、密かに感謝した。 「だからよ、今度からギーシュって呼んでいいか?」 「な、何だって?」 「オラあんまり長い名前だと覚えてても言い間違えちまいそうだからさ、単純に最初の名前でなら呼べると思うんだ」 「あ、ああ、それは構わない」 「じゃ、宜しくな」 使い魔が手を握手の形にして差し出す。 ギーシュは考えた。 この男は何なんだ? あれ程攻撃を加えた自分に対し、反撃してくるどころか手をとって立ち上がらせ、挙句自分の非を詫びてきた? 食堂での一件を差し引いても、自分の非を詫びるのは普通、敗者の行いだ。 それをこの男は…。 少しの間迷った後、ギーシュはそれに応えた。 「まったく…君は色々と凄い奴だな、参ったよ。よければ名前を教えてくれ」 「オラ悟空。孫悟空だ」 「珍しい名前だな。ゴクウと呼んでいいかい?」 「ああ」 「改めて自己紹介させてもらう。ギーシュ・ド・グラモンだ。呼び方はさっき君が言ったとおり、ギーシュでいい」 「わかった」 「それと、僕からも宜しく」 握った腕を軽く上下に振る。 ギーシュは悟空の手を離し、ハンカチで涙と鼻水を拭き取り、晴れ晴れとした顔でギャラリーに向き直った。 「この決闘、ギーシュ・ド・グラモンの敗北をもって終了とする!」 ギャラリーのそこかしこからぽつぽつと不満の声が聞こえてくるが、ギーシュにはこの上ない完敗であった。 だが、不思議と悔しさは無かった。 「なあ、ギーシュ」 「何だい?」 「おめえが修行してもっと強くなったらさ、もう一度戦おうぜ。今度は決闘じゃなくて試合がしてえんだ」 ギーシュは苦笑した。そして清々しい気持ちで一杯になった。 「はは、僕が君と対等に戦えるようになるまではずいぶん時間がかかりそうな気がするね。…でも悪くない提案だ。僕が今以上に強くなったら、その時はまた手合わせ願うよ」 「ああ! …あ、そうだ」 悟空は腰に巻いた帯の隙間から小瓶を取り出した。 食堂でギーシュが落としたものだ。 「よかったー、割れてねえや。これ、おめえのだろ?」 「…これは……。ありがとう。さっきは無視して済まなかった」 「何だ、やっぱり無視してたんか」 悟空からギーシュに手渡された小瓶を見た生徒――ギーシュの取り巻きの一人だ――から声が上がる。 「おい、あれはモンモランシーの香水じゃないか?」 その一言は、池に投げ入れられた小石が立てる波紋のように周囲に影響した。 「そうだ、あの鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「ギーシュ、お前モンモランシーと付き合ってたのか!」 沸き起こるギーシュに対する追求の中から、栗色の髪をした少女が歩いてきた。 目には涙を浮かべ、わき目も振らずギーシュの元へと歩いてくる。 「ギーシュさま…やはり、ミス・モンモランシーと……」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ…」 ケティと呼ばれた少女がギーシュの頬に張り手を食らわす。 「その香水を貴方が持っていたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 少女は涙も拭かずにその場を去った。 ギーシュが赤くなった頬を擦っていると、更にもう一人、金色の髪を巻き毛にした少女が歩いてくる。悟空はそれが件のモンモランシーだと理解した。 ギーシュが必死に弁解する。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」 首を振りながら言いつつ、冷静な態度を装っているが、冷や汗が額を伝っているのが目に取れた。 氷のような目つきでモンモランシーがギーシュを見つめる。 「やっぱりあの一年生に、手を出していたのね?」 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」 「ふん!」 電光石火の速さで振り上げられたモンモランシーの右足が、寸分違わぬ正確さでギーシュの股間に深くめり込んだ。 『オウ!!!』 悟空を除く、その場の♂がギーシュを含め一斉に苦悶の表情を浮かべて股間を押さえる。 ギニュー特戦隊も驚きのチームワークがそこにあった。 「うそつき!」 怒鳴るように吐き捨て、その場を立ち去るモンモランシー。 白目をむき、冷や汗を脂汗へと変えながら前のめりにうずくまるギーシュ。 辺りにはギーシュの鳥を絞め殺したような呻き声と、呆れ顔の悟空がギーシュの腰を叩くトントンという音だけが聞こえる。 やがて、顔面蒼白になりながらフラフラと立ち上がったギーシュが、首を振りながら芝居がかった仕草で肩をすくめる。 「あ、あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解してないようだ…」 「ははっ、おめえ、ヤムチャみてえなヤツだな」 「うぐ、何だかよくわからないがひどく馬鹿にされてる気がする……」 「まあ、後で謝りに行ったほうがいいんじゃねえか?」 オスマンとコルベールは顔を見合わせた。 「あれのどこが決闘なんじゃ」 「座っているミスタ・グラモンをあの使い魔が立たせて、二人が握手したと思ったら…今度は痴話喧嘩ですか?」 「まったく人騒がせなヤツらじゃわい」 ミス・ロングビルとの会話のせいで、二人は肝心の戦闘を見過ごしていた。 「しかし、やはりあの使い魔のことは王室に報告すべきではないかと…」 「いや、仮にあれがガンダールヴの幽霊だったとしてもまだ時期尚早じゃ」 「何故です?」 「頭の眩し…ゲフンゲフン、頭の固い王室のクソッタレどもが幽霊の存在なんか信じると思うか?」 「言われてみれば……」 「お前さん、その反応じゃとまだあの使い魔にその辺訊いておらぬな?」 「ごもっともな事で。申し訳ありません」 オスマンは杖を握ると窓際へと向かった。遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。 「ふう~。…伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……。一体どのような姿をしておったのだろうかのう…」 「『ガンダールヴ』あらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとありますから」 「…そういえば、あの男武器を持っとらんかったな」 「あ」 昼休みがそろそろ終わる。 決闘が終わったヴェストリの広場には、まばらに生徒が残っていた。 大多数の生徒は次の授業のため、教室へと移動している。 「本当に勝っちゃったわね…。…ていうかあれ、勝ったの?」 「負けてはいない。それに、実力では彼の方が上」 「そうね。本当、タバサの言うことは正しいわね」 賭けの配当金で懐が暖かくなったキュルケは、うっとりした顔で悟空を見やった。 「それにしても、改めて見るといい男よねえ…。あたし強い男って大好き」 タバサは一瞬読んでいる本から目を離してチラリとキュルケを見たが、何も言わず再び視線を本に落とした。 「正直言って、あんたがあんなに強いとは思わなかったわ」 「見直したろ?」 「…まあね。使い魔としては結構いいセン行ってるかしら。ところで教えて欲しいんだけど」 「何だ?」 「あんたがそんなに頑丈なのって、死んでるから? それとも、元々?」 「元々からだ」 「…マヂですか」 ルイズが悟空のことを彼女なりに褒めていると、顔を輝かせたシエスタが走ってきた。 「ゴ、ゴクウさん凄いです! 貴族相手に決闘して、勝っちゃうなんて! 私あんなに強い人見たの初めてです!!」 「死ななかったろ?」 「はい! 」 悟空の冗談はシエスタに気付かれなかった。どうやら、未だに悟空の事を「もの凄く強い天使」だと思っているらしい。 「シエスタ、っていったっけ」 「はい、ミス・ヴァリエール」 「わたしたち、授業があるから」 「あ、そうですね。私も料理長にこの事を報告しに行きたいので、これで失礼します」 ぺこりと頭を下げて、立ち去ろうとするシエスタに悟空が声をかける。 「シエスタ!」 「何でしょう?」 「今朝の洗濯物、いつ取りに行きゃいいんだ?」 「あ、私がミス・ヴァリエールの部屋に届けますから大丈夫ですよー」 「わかった。サンキュー」 午後の授業の後、ルイズはコルベールに呼び出された。 「君の使い魔の件だが…。彼に何でもいい、武器を与えてやってくれないか?」 「構いませんが…どうしてですか?」 「ちょっと思うところがあってね。とりあえず資金の幾分かは私が出すよ」 そう言って、ルイズにエキュー金貨20枚を手渡す。 「何分安月給なもので、これだけしか渡せないのが申し訳ないが」 「お気持ちだけで十分です。これは取っといて下さい。それに、わたしもあいつに武器を持たせたらどうなるか、ちょっと興味が出てきました」 「ありがとう。武器を与えたら教えてくれ」 「わかりました。明後日の虚無の日に街へ行ってみます」 「宜しく頼むよ」 「よう、待ってたぜ、『我らの拳』!」 夕食時、厨房に入ってきた悟空を、マルトーが抱きつきながら出迎えた。 「うわっ、何すんだ、気持ち悪ぃ! 我らの拳って何のことだ!?」 「あんたは俺たちと同じ平民なのにあの偉ぶった貴族の小僧に拳骨ひとつで勝ったんだ。我ら平民の誇り、我らの拳だ」 どうやら、マルトーは悟空を平民だと思っているらしい。 ふとシエスタの方を見ると、「忘れてた」といわんばかりの表情を浮かべて悟空とマルトーを交互に見つめている。 スキンシップを終えて満足したマルトーが厨房の奥へ引っ込むと、シエスタが謝ってきた。 「ご、ごめんなさいゴクウさん、私料理長にゴクウさんが天使だって事言うのすっかり忘れてました」 「オラも言うの忘れてたんだけどよ、本当はオラ、天使じゃねえんだ」 「へ?」 「話せば長くなるんだけど、とりあえずはその『平民』って事にしてくれてもいいぞ」 「は、はい!」 自分たちと同じ平民だと聞かされ、シエスタの笑顔がいっそう明るくなった。 やがて、悟空に食べさせるためのスペシャルメニューが運ばれてくる。 食器の数は減ったが、量は昼に勝るとも劣らない。 「見た目は少ないかも知れねえが、量は昼とあまり変わらねえはずだ。思う存分食ってくれ!」 「サンキュー! じゃ、いただきまーす!!」 惚れ惚れする勢いで料理を胃袋に収める悟空。 そしてそれを惚れ惚れと見つめながら悟空におかわりを注ぐシエスタ。 そんな二人を惚れ惚れと見つめるマルトー。 満腹の者が見てもまだ空腹を覚えそうな、見事な食べっぷりであった。 「なあ、お前どこで修行した? 一体どんな事をしたらあんなに強くなれるのか、俺にも教えてくれよ」 「別に特別な事はねえぞ。毎日ひたすら修行するだけだ」 悟空の言葉は嘘ではない。 今日見せた強さは、あくまで氷山の一角であり、日頃の鍛錬で十分に出せる実力の範疇であった。 「お前たち! 聞いたか!」 マルトーは厨房に響くような大声で怒鳴った。若いコックや見習いたちが、返事を寄越す。 「聞いていますよ! 親方!」 「本当の達人と言うものはこういうものだ! 大事なのは日々の積み重ねだ。見習えよ! 達人は怠けない!!」 コックたちが嬉しげに唱和する。 『達人は怠けない!』 「やい、『我らの拳』。そんなお前がますます好きになったぞ。どうしてくれる」 「あひふふおああんへんひへうえお」 「何だって?」 ずぞぞぞぞ、と口に含んだヌードル状のものを啜り込み、そのまま飲み込む。 コックから、「おい、今の量一食分はあったぞ…」とか、「ちゃんと噛めよ…」などと呟きが漏れた。 「抱きつくのは勘弁してくれよ」 「そうか、そりゃ残念だ。じゃあお前の額に接吻させてくれ」 「もっと嫌だ! オラそういう趣味はねえぞ!」 「がはは、冗談だ。おい、シエスタ! 我らの勇者に、アルビオンの古いのを注いでやれ」 「はい!」 先に食事を終えたルイズは、そっと厨房の中を覗き見、自分の使い魔が厨房の皆と打ち解けているのを見て少し嬉しくなった。 強い、素直、人望がある。宇宙人の使い魔も結構悪くない。 翌朝、昨日の宣言通りに自分で洗濯をこなしてきた悟空をルイズはとても褒める気になれなかった。 靴下やブラウスなど、それなりに強度があるものは一応綺麗に洗ってある。 だが、肝心の――ルイズのお気に入りである――シルクの下着がひどい有様だった。 恐らく他の衣類と同様にジャブジャブと水洗いしてしまったのだろう、よれたりところどころ破れたりしていて、もう二度と履けない。 「……あんた、これ見なさい」 「わ…わりい。慎重に洗ったつもりなんだけど、どうしても布地が戻んなかったんだ」 「あんた、シルクの下着洗ったことある?」 「ねえな」 「…はあ、やっぱりね……。いい? シルクは水洗い厳禁なの。ぬるま湯で2、3回押し洗いするの。揉み洗いだとすぐに繊維が駄目になってしまうわ」 「へえ」 「そして、洗った後は軽く絞って陰干し。軽くよ。いいわね」 「難しいな…。自分から言っといてなんだけどよ、やっぱシエスタに頼んだ方がいいんじゃねえか?」 「なんで? 他のはちゃんとできてるじゃない」 「いや、力加減が難しくてよ、実を言うとあっちだっておっかなびっくりだったんだ」 そう言って、手際よく洗えている靴下を指差す。 悟飯が小さい頃は悟空も洗濯を手伝っていたが、人造人間と戦うための修行の頃から、だんだん洗濯中に服を破いてしまう事が多くなって、チチに洗濯はもういいと止められていたのだった。 「…まあ、あんたがシルクの洗濯をマスターするまでに何枚もわたしの下着が駄目になる可能性を考えたら、確かにそっちの方がいいかもね」 ルイズは妥協すると、悟空を連れて朝食へと向かった。 前ページ次ページサイヤの使い魔
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【作品名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 OP 【曲名】I SAY YES 【歌手】Ichiko 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 ED 【曲名】スキ?キライ!?スキ!!! 【歌手】ルイズ(CV 釘宮理恵) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD1 ルイズ 【歌手】ルイズ(CV 釘宮理恵) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD2 アンリエッタ 【歌手】アンリエッタ(CV 川澄綾子) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD3 シエスタ 【歌手】シエスタ(CV 堀江由衣) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【作品名】ゼロの使い魔 〜双月の騎士〜 キャラクターCD4 エレオノール カトレア 【歌手】エレオノール(CV 井上喜久子) カトレア(CV 山川琴美) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【詳細】各キャラクターCDは1曲のみ収録
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(豪三郎先生の声で) ハイ 295続きぃ 「その言葉、忘れんなやぁ!!!」 雄叫びと共に超巨大ウツボを屠った瀬戸豪三郎が、脱いだ羽織を永澄に放る。 それを受け取った満潮永澄は、そういえば今日他に託されたものがあったことを思い出した。 『……はいこれ。巡の靴下。イザというときに使ってね』 あの時は全く意味が解らなかったが、イザという時があるとすれば、それは今ではないだろうか。 ポケットをまさぐり、黒いソックスを取り出す。どう使うのか一瞬思考を巡らせた永澄は、 豪三郎から受け取った羽織に袖を通すと、転がっていた瓦礫から手頃な石を掴んで走り出した。 魚 (←区切りでごぜぇやす) 「――こんなウゼェ女だとは思わなかったぜ、もう死んでくんねぇ!?」 正気を取り戻し、啖呵を切った燦に、義魚が豪華な装飾を施された拳銃を向ける。 そこに永澄が燦を庇うようにして割って入った。 「女の子になに向けてんだよ……! 燦ちゃんに、なに向けてんだよぉぉッ!!!」 「永澄さん! いま英雄の詩を――」 永澄に力を与えようと、人魚古代歌詞『英雄の詩』を唱えようとする燦。 だが、遅い――義魚はニヤリと笑った。詩で力を与えるまでの間隙を狙うべく引鉄を引こうとする。 ――しかし。 がしゃっ 拳銃が弾き飛ばされ、大理石の床に音高く跳ねる。 呆然とした義魚は、どこか焦点の合わない瞳で赤く腫れた手の甲を見た。 ゴツッと音を立てて、永澄の手に握られていた即席のブラックジャックが落ちる。 ただの人間に出し抜かれて硬直する義魚。そして燦の英雄の詩が発動して――決着が訪れた。 魚 十字架のシルエットを浮かべる瓦礫の下で寄り添う燦と永澄。下では留奈や豪三郎が騒いでいる。 戦いの余韻と愛しい人の触れ合いに浸っていた永澄は、ふと思い出して歩き出した。 銃を叩き落した即席のブラックジャックを拾い、石を取り出して、ただの使用後の黒ソックスに戻す。 「永澄さん、それなに?」 「ああ、これは巡が持たせてくれたんだ。イザというときに使ってくれって。おかげで助かったよ」 「はぁー、さすがお巡りさんじゃー。なんでもお見通しやんねー」 婚礼衣装のような白いドレス姿で、いつものように天然の感心と笑顔を浮かべる燦。 それを見て、永澄は本当に大切なものを取り戻すことができたのだと実感する。 (……靴下、これからはちゃんと裏返して洗濯に出さないとな) 永澄はそんなことを思いながら、手を繋いで皆の元に降りて行った。 魚 『翌朝ぁ』 (←チビッこっぽい声で) 川に架かる橋で潜水艦に乗った永澄を敬礼で送り出した翌日、銭形巡は困惑していた。 やたら逞しい超戦士状態のガッチリした幼馴染、満潮永澄から深い感謝と共に靴下を返されたからだ。 しかもその隣には彼が昨日連れ戻したであろう、親戚にして同居人の少女、瀬戸燦の姿もある。 「ムゥ、巡、これに危ないところを助けられた。深く感謝する」 「巡ちゃんありがとー。ちゃんと洗ってきたきん。安心してな」 薄い水色の小さな紙袋に入った靴下を、呆然としたまま受け取る。 巡にはさっぱりわからなかった。 『靴下を貸したことを感謝された』ことがではない。 『燦と共に返しに来た』ということが、だ。 続き→靴下の使い方・2
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前ページ次ページお前の使い魔 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『いい知らせだぜ相棒』 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 仮面の男の魔法を受け、崩れ落ちたダネットに向かって、必死に呼びかける声が一つ。 「しっかりしろ嬢ちゃん!」 「…………かはっ! あぐぅ……」 ダネットは、雷を背に受けながらも生きていた。 だが、強烈な電気と熱による痺れと傷で、立ち上がることも出来ずにいた。 「おいワルドとかいう貴族の兄ちゃん! 嬢ちゃんまだ生きてるぞ! 助けてやってくれ!」 ダネットが生きていることにほっとしながらも、脅威はまだ去っていないとばかりに叫ぶデルフリンガーの声が響く中、ダネットを冷ややかに見つめる瞳が二つ。否、四つ。 デルフリンガーの言葉に、ワルドの眉がぴくりと動き、気絶させたルイズを傍らに寝かせた後、ゆっくりとダネットへと歩み寄ってくる。 「なにチンタラやってんだ! 早くしねえとあの仮面付けたメイジが!!」 しかし、ワルドの歩調は変わらない。そして、ダネットの背に雷の魔法を浴びせた仮面の男は動かない。 「おい……おめ、何するつもりだ?」 ワルドの様子に違和感を感じたデルフリンガーが、いぶかしむ様に尋ねる。 「何をするというと……例えばこんな事かな?」 「お、おい! おめ何を!?」 夜明け前の船着場の下で、一際大きな破裂音が響いた。 「お別れだ、ガンダールヴ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 『そろそろ時間切れだ』 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 頭がぼんやりする。 景色は見えるけれど、どこか現実感が無い。 「起きたかいルイズ?」 誰かがわたしに話しかけてる。 「実は……彼女は……」 誰かがわたしに話しかけて、返事もしていないのに勝手に話を続ける。 「そうか……強いなきみは」 そうだ。わたしは強くなった。 前みたいにゼロだと思い悩んだり、苛立ったりする事が少なくなった。 「じゃあ僕は行くよ。もう少しだけ手伝ってこないといけないんだ」 前みたいに一人で泣かなくなった。心細くなくなった。 貴族足れと入れていた力が抜けた。学院で笑っている時間が増えた。 何故? 何故わたしは強くなれたの? 「さぁな。いいから寝てな」 ……あんた誰? 「俺か? 俺は――」 私はどうしたのでしょう? 頭の中に霞がかかったような感じです。 目を開けると、何かが私の周りをドタバタと走り回っていました。 「……! …………!!」 誰ですか耳元で騒ぐのは? うるさくて寝てられやしません。 「……そいで! 早……!! …………!!」 ちょっと注意してやります。私は眠いんです。 「…………ひゅー……」 あれ? 声が出ません。おかしいですね? 「喋ら……で!! あぁも……! 急……!!」 眠いです、うるさいです、声が出ないです。 「駄……よ! 目……開け……!!」 知ったこっちゃないです。もう寝ます。だから騒がないで下さい。 「ダネ……! ……ネット!! しっか……!! 目を開……!!」 ああもう、騒がしいです。 ほっといて下さい。私が寝たら誰かに迷惑でもかかるんですか? 起きたら聞いてやりますから、今だけは寝させて下さ―― 「あんたが死んだら誰がルイズを守んのよダネット!!」 ルイズ……? 守る……? そうでした。私はルイズを守らなきゃいけないんです。 こんなとこで寝てる暇なんて無いんです。何故ならルイズは……。 「る……い…………ず」 「そうよダネット! あんたが守るの! だから……だから目を開けなさい!!」 朦朧とした意識の中、ぼやけた景色がわたしの目の中に飛び込む。 どこよこれ? パーティー会場? 誰かがわたしに話しかけている。誰だろうこの人? 「気分でも悪いのかな?」 「いえ。お気になさらずに」 わたしに話しかけた誰かの質問に誰かが答える。 はて? どこかで聞いたことがある声だけど誰の声だっけ? 誰かと誰かの話は続き、目の前の誰かががこう言った。 「ただ、こう伝えてくれたまえ。ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。それで十分だ」 ウェールズ? 誰だったかしら。どこかで聞いたことが……駄目だ、思いだせない。 話が終わったのか、ウェールズという人が離れていった後、彼と話をしていた誰かがボソリと呟いた。 「ゴミむしの考えってのはアホらしいぜ全く。相棒もそう思うだろ?」 思い出した。この声は……わたしの―― ようやく容態の落ち着いたダネットを見て、あたしは自慢の赤い髪をかき上げほっとした。 そんなあたしを気遣うように、タバサが声をかけてくる。 「お疲れ様キュルケ」 無表情だが、流石のタバサの表情にも疲労の色が見える。 傭兵と土くれのフーケを撃退しただけでなく、あんなことまであったのだから疲れもするだろう。 「ほんと疲れたわ。治療費やら何やら含めて、後でルイズに請求しなきゃね」 最初、ダネットを見つけたときは流石に血の気が引いたのを思い出す。 全身に火傷を負い、虫の息だった。 もしあたし達が見つけるのが少しでも遅れたら確実に死んでいただろう。 急いでダネットを連れて戻り、街中の水のメイジを呼び集め、必死に治療を行った結果、どうにかダネットは息を吹き返した。 そう、『どうにか』なのだ。恐らくは彼女はもう戦えないだろう。生きているのが奇跡のようなものなのだ。 だからこの先の戦いには連れて行けない。 「じゃあ行きましょうか」 「頼む。早くしねえと娘っ子の命があぶねえ」 桟橋で何があったのか教えてくれたデルフに声をかけ、タバサと顔を合わせ頷くと、横で変なポーズを取っていたギーシュがこける様な仕草をした後に慌てて横やりを入れる。 「ぼ、僕を忘れないでくれたまえ! 全く、誰がそのインテリジェンスソードを見つけたと思っているんだ」 確かにお手柄といえばお手柄だ。 ただし、お手柄なのはギーシュではなく 「ヴェルダンデでしょ? ほんっといい子よねー。隠されてたデルフを見つけてくれたもの。後でお礼をあげるからよろしくいっててね」 「ちょっと待ちたまえ! 確かに見つけたのはヴェルダンデだが、僕の使い魔だぞ!?」 慌てるギーシュを見てくすりと笑ったあたしは、ギーシュの額をツンと突いて微笑んだ後、表情を正してタバサとギーシュに向かって言った。 「冗談よ。じゃあいきましょ。時間は無いわ」 こくんと頷くタバサと、勢いよく頷くギーシュ。 目指すは、浮遊大陸アルビ―― 「待ってください」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 私は見覚えのある湖の上の小船に乗っていました。 「ここは……」 確かこの船の上には、彼女がいるはずです。 しかし、船の上にいるのは私だけ。 「はて? 散歩にでも行ったんでしょうか?」 でも、散歩と言っても周りは水ですし、泳いで岸にでも向かったのでしょうか? そう考えた私が岸辺を見ると、見覚えのある桃色の髪が見えました。 「そんなとこにいたんですか。おーい! お前ー!」 しかしルイズは振り向きません。もしかして聞こえていないんでしょうか? 「お! ま! えー!!」 かなり大きな声で呼びましたが、相変わらず反応がありません。 むぅ、無視でしょうか。もしそうなら、後で首根っこを…… 「こんなとこにいたのかい。僕のかわいいルイズ」 どこからか、聞き覚えのある嫌な声がしました。 確かこの声はあいつです。 術を受けて倒れる私を見て、私以外の誰からも見えないように笑っていたあいつです。 「エロヒゲ! どこですか!? 姿を現しなさい!! 私が首根っこへし折ってやります!!」 ですがエロヒゲの姿は見えず、変わりに、岸辺にいたルイズがふらふらとした足取りでどこかへ行こうとしています。一大事です。 「お前! 行っちゃ駄目です! エロヒゲは悪い奴です!!」 ようやく私の声が聞こえたのか、ルイズはくるりとこちらに振り返りました。 「良かった……。さぁ、こっちへ――」 ルイズの髪はいつの間にか真っ赤に染まっていました。 いえ、髪だけじゃありません。服も、手も、足も、顔も真っ赤でした。 近くまでいかなくてもわかります。錆びた鉄のような臭いがここまで漂ってきます。 「お前……」 私が声を失っていると、血にぬれたルイズはニヤリと笑い、顔をそむけようとしました。 何となく、ここで見送っちゃいけない気がしました。 「駄目です! 行かせません!!」 船から飛び降りた私は、必死になって泳ぎました。 泳ぐなんて初めてでしたが、この時はそんなこと考えてもいませんでした。 だってルイズは……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「冗談よ。じゃあいきましょ。時間は無いわ」 目を開いた私の耳に、最初に飛び込んできたのは乳でかの声。 続いて、身体中に走る痛みと痺れ。 思わず声を上げて泣きそうになりましたが、ここはぐっと我慢です。 「待ってください」 自然に口が動いてそう言っていました。 私の声に驚いた乳でか達がこっちを見ました。 「あんた目が覚めたの!? 驚いた……どんな生命力して――」 「そんな……事は……どうでもいいです。……乳でか、ルイズを……助けに行くのなら……私を連れて行きなさい。」 乳でかの声を遮って言いました。 口を動かすたびに痛みが全身に走りますが、今はそんなもん無視です。 「はぁ!? あんた何言ってんの!? 自分がどんな状態かわかってんの!?」 「……わかっています。骨は……折れていません。息もして……います。だから……連れて行きなさい」 少しでも身体を動かすと痛みが走ります。身体に巻かれた包帯が擦れるたびに飛び上がりそうです。 でも生きています。だったら私がやる事は一つです。 「ふざけないで! 死ぬわよあんた!」 「ふざけてなんかいません。……連れて……行きなさい。もし乳でかが……断るなら……タバサに頼みます」 私の言葉を聞いた乳でかは、頭をガシガシと掻いた後、タバサを見ました。 「だってさ。あんたからも言ってやってよタバサ」 「連れて行く」 「はぁ!?」 てっきり断られると思っていましたが、タバサはあっさりと承諾してくれました。 ちょっとびっくりです。 「ちょっと本気タバサ!? 下手したら向こうに付く前に死んじゃうわよ!?」 「断ったら他の誰かに無理矢理頼みにいこうとする。だったら私たちが連れて行ったほうがいい」 またびっくりです。タバサは私の頭の中が読める術でも使ったんでしょうか? そしてタバサは言葉を続けました 「それに、時間が無い」 乳でかは難しい顔をしていましたが、諦めたのかまた頭を乱暴に掻いた後、少し眉を上げながらいいました。 「全く。死んでも知らないわよ」 乳でかの言葉に私は力強く頷きました。 「おーい、僕は無視かーい? ……うう、ヴェルダンデ……お前だけだよ僕を慰めてくれるのは……」 目指すは、浮遊大陸アルビオン。 前ページ次ページお前の使い魔
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前ページウサギの使い魔 「……え?」 ルイズがサモン・サーヴァントの呪文を唱えた後に現れたのは、ターバンを巻いた金髪の少年だった。 「ルイズが平民を召喚したぞ!」 「いやいや、さすがはゼロのルイズ。まさか平民を召喚するとはな」 「ちょっと失敗しただけよ!」 「失敗っていつもの事じゃないか」 とまあ、召喚された当人はそっちのけで話が進む中、その当人は少し困惑していた。 「おいおい、いったいどこの田舎に上がっちまったんだ? 約束の時間に間に合わないぜ」 そう、この少年は友人達との待ち合わせの場所に行く途中だった。 本来なら、いや“いつも”なら街中に現れるはずだったのだが、それがよくわからない城の様な建物の前に現れてしまった為に、その“移動”に失敗したのだと思ってしまった。 と言っても、彼はこういう事態には割りと慣れている。 すぐさま周囲を確認し、現在位置の確認をしようとした。 「はぁ~、俺もまだまだ未熟……え…………ええええぇぇぇぇぇ!?」 その少年が空を見た瞬間、突然叫び声を上げた。 その声に周囲の人々もまたその声に驚き、ビクっと体を震わせて彼の方を見た。 「ビ、ビックリするじゃないの! いきなり変な大声出さないでよ!」 「おい……嘘だろ?」 ルイズの声も今の彼には届いていない。 彼が驚いている理由は二つ。 一つは、そこにあるはずの物がなく、ないはずの物があった事。 もう一つは、そこにあるものがありえない状態になっている事。 「どうして月があそこにあんだよ……しかも……二つも!」 まず一つ、彼がいた場所から見えるのは月ではなく地球のはずだった。 彼のいた場所こそが月であるはずなのだ。 そしてもう一つ、月は二つも存在しない。 ここが地球だとするのなら、見える月の数は一つしかないはずだ。 だがしかし、確かに空には二つの月が浮かんでいる。 「じゃあ、ここはどこなんだよ……」 と、本人が悩んでいる間に、ルイズの方もまた悩んでいた。 「ミスタ・コルベール、召喚のやり直しをさせてください! こんな変な奴が使い魔だなんて絶対に嫌です!」 「ミス・ヴァリエール、我侭を言ってはいけません。サモン・サーヴァントのやり直しが出来ない事はあなたも知っているでしょう」 そう言われてルイズは口をへの字に曲げて「むぅ~」っと唸った。 一度召喚した使い魔は死なない限り新しい使い魔を召喚することは出来ない。 それは授業で散々言われた事だ。 不愉快な顔をしながらも納得したルイズは彼の前に立った。 「ねえ、あんた名前は」 「あぁ?」 彼がルイズの方に振り向いた。 (!か……かわいい……) 「いやあ、ごめんごめん。驚かせちゃったかな。つい取り乱しちゃってね」 と、急にさっきまでとは打って変わってキザったらしい口調に変わった。 この少年、可愛い女の子には目がないのである。 「ああ、もういいわ。とりあえず契約だけすませるからちょっとしゃがみなさい」 「契約?」 頭に?をつけたまま、その少年は顔を彼女と同じ位置まで下げた。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」 呪文を唱えたのち、その少年はいきなり唇を奪われた。 (……え?) 少年の顔が一気に赤くなる。 そのキスに耐えれなかったのか、少年はルイズを突き放した。 「いいいいいいいやいやちょっと! こういうのはまず友達からはじめ……うっ!?」 突然、少年が左手を抑えて蹲った。 「な……なんだこれ……ぐっ!!」 「大げさよ。すぐ終わるわ」 ルイズの言った通り彼の左手に走った痛みはすぐに引いた。 が、その後には焼印で押し付けられたような文字が手の甲に残っていた。 「なっなんだこれ!? クソっ! こすっても取れねえぞ!」 「当たり前じゃない、使い魔のルーンがそんなんで取れるわけないでしょ」 「つ……つかいま?」 「そうよ、あなたは私の使い魔になるために呼ばれたの。つまり私に一生仕えるのよ」 「はぁぁぁぁぁ~~~~~~!!??」 少年の顔が怒りに歪み、口調も乱暴なものに戻る。 「ふざけんな! とっとと元いた所に戻しやがれ!!」 「それが出来るならとっくにやってるわよ!」 「んな勝手な事があるか!」 「私だって出来る事ならあんたみたいなのを使い魔なんかにしたくなかったわよ!」 「んだとぉ~!」 「何よ!」 売り言葉に買い言葉を何度か繰り返していくうちに取っ組み合いに発展していき、もはやただの子供の喧嘩になってしまった。 「おいおい、自分の使い魔と喧嘩するなよ」 「はは、使い魔とのコミュニケーションもまともに取れないのかよ」 「所詮ゼロはゼロだな」 周囲の野次を気にする事なく、二人の喧嘩はさらにエスカレートしていき、お互い涙目になりながら頬を抓ったり引っ張ったりしている。 「ひいはへんにひうほほをひひなはいよ!(いい加減言う事を聞きなさいよ!) 「ひいははほえをほほのはひょにほほへ!!(いいから俺を元の場所に戻せ!!) と、その喧嘩の最中にルイズが彼のターバンを掴んで、そのまま引っ張って外してしまった。 その刹那、周りの野次がピタリと止んだ。 「……あ」 「あ」 「あ」 「あ」 「あ」 「あ」 「あ」 「「「「「「「「「「「あああああああああああああああ!!!!」」」」」」」」」」」 周囲の生徒達、およびコルベールはそのターバンが外された頭を見て仰天した。 「うわ、しまった!」 ターバンを取られた少年が頭を押さえた。 最も、手で押さえただけで完全に隠せるほど“ソレ”は小さくはないのだが。 「あ……あんた亜人だったの!?」 「へ?」 亜人とは、ハルケギニアの世界において人に似た人間以外の種族の者達の事を言う。 彼の場合、この世界ではまさにその部類に入るであろう。 なにせ、そのターバンに隠されていた頭部には両の耳とは別の『ウサギの耳』があったのだから。 「亜人って何だ?」 「あんたみたいなのの事よ。う~ん、ウサギ耳の亜人だからウサギ人間かしら?」 「ウサギ人間って言うな!」 と、少年は叫んでその呼び名を否定した。 「何よ、ウサギの耳だからウサギ人間でいいじゃない」 その言葉を聞いたとき、その時少年は奇妙な違和感を覚えた。 (コイツ、ウサギ人間って呼び方自分で思いついたのか?) 彼の様な者をウサギ人間と呼ぶ人々は彼のいた世界にも存在した。 むしろ彼が行くはずだった場所ではそちらの呼び方でしか呼ばれないのだが。 が、少なくともウサギ人間を亜人などと呼ぶ人間は一人もいないはずだ。 (ってことはウサギ人間って呼び方の事も俺達の事も本当に知らないのか? どうにもコイツはややっこそうだぜ) そう結論付けると、少年は「はぁ」と一呼吸置いて、そしてぶっきら棒に言い放った。 「いいか? 俺は耳長族のラビってんだ。よ~く覚えとけ」 ラビルーナでの長い生活は、彼に耳長族としての自覚をしっかりと植え付けた様だ。 前ページウサギの使い魔