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前ページ次ページ重攻の使い魔 第3話 『決闘未満』前編 ルイズが教室を爆破したことで、せっせと後片付けをする羽目になっていたその頃、トリステイン魔法学院図書館、フェニア・ライブラリ内において、一心不乱に書物を漁る人物がいた。始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来の、全ての歴史が納められたこの図書館は非常に広い。高さが30メイルにもなる書棚が所狭しと屹立している様は圧巻の一言であった。 その中でも、機密性の高い書物や、著された時代が非常に古く、固定化の魔法を施してなお劣化を止める事のできない書物のような、貴重な書物が収められているのがフェニア・ライブラリである。教師以外の立ち入りが禁止され、その教師ですらそうめったには足を踏み入れないエリアにて、しらみつぶしに書物を調べていたのはコルベールだった。 なぜ彼がそのように必死になっているのかと言うと、昨日ルイズが召喚したゴーレムの左拳に現れたルーンが気に掛かって仕方がなかったからである。ルーンは珍しいものであったが、スケッチを取ったその時は思い出すことができなかったのだ。その後、非常に古いルーンだということは思い出したのだが、細かいことはやはり記憶の霞の向こうにあった。 幸い今日、彼の受け持つ授業は午後からであったので、こうして朝食も取らずに日が昇る前から探し続けているのである。9時間ほど探しているのだが、中々お目当ての書物を見つけ出すことができず、昼食の時間も迫りつつある。流石に昼食まで抜くわけにはいかないため、後1冊調べて駄目だったら明日に回そうと最後の書物を手に取り、なんとも幸運なことにその書物こそがコルベールの探していた書物だった。 その書物は、始祖ブリミルとその四体の使い魔たちについて記された古書だった。あるページにてコルベールの手が止まり、そこに記されている一節と図説に目を通すと、彼の顔に驚きと納得の二つの表情が同居した。コルベールは軽く始祖ブリミルに感謝の言葉を述べると、件の書物を抱え、学院長室へ向かって急いで走り出した。 コルベールが本塔最上階に位置する学院長室の扉を叩くと、室内から重々しい声で入るように告げられた。扉を開き室内に入ると、正面の学院最高権力者に相応しい調度が施された机に立派な白髭を蓄えた老人が座り、その傍に緑色がかった金髪の女性が控えていた。 「失礼します、オールド・オスマン。少しばかりお耳を拝借したいのですが」 「おやコルベール君ではないか。要件は手短にな。わしは昼食を取らねばならんからの」 「は。できればミス・ロングビル……人払いを願えますか」 古書を抱え、かしこまったコルベールの態度にオスマンは感じる所があったのか、昼行灯とした表情から一転、他人に何事も言わせぬ雰囲気を纏った。オスマンは傍に控えていた秘書のロングビルに退室を命じ、室内の会話を聞くことを禁じた。ロングビルは特に渋る様子も見せず、素直に学院長室を出て行った。 「して何事じゃ。なにやらただならぬ雰囲気じゃが」 「これをご覧下さい。このページです」 コルベールは先程のページをオスマンへと見せる。 「これは『始祖ブリミルと使い魔たち』ではないか。また古臭い文献を引っ張り出してきおったな。これがどうかしたのかね?」 「実は昨日、ヴァリエール公三女の召喚の儀式に立ち会いまして、その時に召喚された使い魔に刻まれたルーンに関してお伝えせねばならないと思い立ち、こうしてお時間を頂いているのです」 ブリミル教の始祖に関する書物、そしてそれが関係するルーン。予想される結論に、オスマンの顔は一段と険しい表情となり、コルベールへと先を促す。 「詳しく説明するのじゃ。ミスタ・コルベール」 ルイズの錬金失敗による爆発により、瓦礫の山となった教室を片付け終えたのは昼休みの直前だった。キュルケは最初こそルイズを見張っていたが、どうにも退屈で仕方なかったのか、気が付けば姿を消していた。ルイズはこれ幸いとばかりにゴーレムを使って瓦礫の片づけを進めることにしたが、それでもなお瓦礫の量は膨大であり、結局昼食の時間を過ぎてしまった。もしゴーレムなしで片付けていたら夕方になっても終わらなかったに違いない。ルイズは普段犬猿の仲のキュルケが姿を消してくれたことに心底感謝した。あの気に食わない女でもたまにはいいことをするものだ。 いい加減空腹を感じていたので、昼食を取ることために食堂へと向かう。昼食の時間は過ぎてしまったが、無理を言えばおそらくありつけるだろう。ルイズはゴーレムに労わりの言葉を掛け、次いで自分を抱えるように命じた。ゴーレムは素直に厳つい左腕を差し出し、その上にルイズが腰掛けると、静かに立ち上がり食堂へ向かってのしのしと歩き出した。 「なにかしら。食堂が騒がしいわね」 食堂の前に着くと、なにやら室内でヒステリックに怒声を上げる男の声と必死で謝っている女の声が聞こえてきた。ルイズは男の声に聞き覚えがあり、なんとなくだが怒りの原因も推測できた。 ぴょんとゴーレムの腕から飛び降りると、ルイズは食堂の扉を開いた。すると目の前で長身金髪の優男が顔を真っ赤にしながら、使用人の少女を激しく叱責していた。優男の顔が真赤になっているのは怒りだけが原因というわけではなかった。その端正な顔の両頬には鮮やかな紅葉が咲いていたのである。 「申し訳ありません、申し訳ありません! わたくしはただ落し物をお渡ししようと思っただけなんです!」 「それが余計なことだというんだ! 君の浅はかさのために二人の女性の心が傷付いたんだぞ! そしてこの僕の名誉も傷付けた! この責任、どう取るつもりなんだ!?」 「も、申し訳ありません、申し訳ありません! どうか、どうかお許し下さい!!」 顔面を蒼白にしながら必死で許しを請う少女に対し、優男は糾弾の手を緩めることはなかった。何が何でも少女を許すつもりはないらしい。周囲の生徒は面白い捕り物でも眺めるかのように、遠巻きにはやし立てていた。 ルイズはうんざりとした表情を貼り付けながら、優男に話しかける。 「ちょっとギーシュ、なにぎゃあぎゃあと喚いてんのよ。みっともないったらありゃしないわ」 背後から声を掛けられたギーシュと呼ばれた少年が振り向くと、憤然やるかたないといった顔をしていた。みっともないと言われたことで更に怒りを加速させたようで、ルイズに傲然と噛み付く。 「ふん、ゼロのルイズじゃないか。魔法も使えないメイジが僕に声を掛けないで欲しいね。みっともないのは君の方じゃないのか?」 「魔法が使えないからってなんだってのよ。あんたみたいに逆らえない女をいたぶる趣味の男の方がよっぽど格好悪いわよ。どうせ二股がバレて引っ叩かれたんでしょう。ほんと学習能力の無い男ね」 「……口には気をつけたまえよ。君がヴァリエール家だからといって、ここじゃ特別階級じゃないんだ。何かあっても生徒間の問題で済むからな」 ギーシュの二つの紅葉を咲かせた顔は更に赤く染めあがり、見るからに怒りは頂点に達していた。その口はどうにも穏便ならない言葉を抑えきることはできないようで、感情に任せるままに言い返す。 「なに? それでわたしを脅してるつもりなの? あんたがその節操のない下半身をどうにかすればいい話でしょう。誰彼構わず突っ込んでんじゃないわよ」 ルイズの軽蔑を込めた揶揄に、ついにギーシュの怒りが炸裂したようだった。一段とヒステリックな怒声を上げる。 「いいだろう! ここまで僕を侮辱すると言うことはそれなりの覚悟があるんだろうな!? どちらが上なのか分からせてやるよ!」 ギーシュは胸のポケットから花を一輪取り出すと、さっと振り上げ声高に宣言した。 「決闘だ!!」 最後にヴェストリの広場へ来いと言い放ち、ギーシュが憤然と食堂を飛び出していくと、ルイズは思わず溜息をついた。怒りで周りが見えなくなっているらしいギーシュは、扉の外に立っていたゴーレムにすら気が付かなかったようだった。ルイズは何となく悔しい気分になっていたが、まあどうでもいいことであった。床にへたり込み、すんすんと泣き続けている少女に、とりあえず声をかける。 「あのさ、あんたなにやらかしたの? あいつが二股ばれたってのは間違いなさそうだけど、なんであんなに怒ってたのよ?」 「み、ミス・ヴァリエール……。その、実は……」 少女ははらはらと泣きはらしながら、訥々とこの騒ぎの原因を語り始めた。少女の話によると、ギーシュが香水の入った瓶を落とし、それに気付いた少女が拾い上げて渡そうとした。そのときギーシュは友人に異性関係を尋ねられ、何とかはぐらかしている最中だった。少女が拾った香水はどうやらモンモランシーと呼ばれる少女のものだったようで、それに気付いた友人達がモンモランシーと付き合っているのかと囃し立てた。運の悪いことにその場には二股相手のケティと呼ばれる少女が居合わせていたらしく、涙目でギーシュに詰め寄ると、別れの言葉と平手を叩きつけ、走り去ってしまった。更に今度は二股を知り怒り狂ったモンモランシーが、有無を言わさずギーシュに絶縁状を叩き付けた。そして一連の痴話喧嘩のきっかけとなった少女を糾弾していたと、そういう訳であった。 「ほんとに馬鹿じゃないのあいつ。全部あいつの自業自得じゃない」 少女の話を一通り聞こえると、ルイズは心底呆れ返っていた。 「わ、わたくし、もうどうすればいいか分からなくて……うくっ。い、一体これからどんな目に遭うのか……ひぐっ」 使用人の少女は尚も青白い顔のままぶるぶると震えていた。使用人、いわば平民は貴族に対し抗うことはできない。たとえ理不尽な糾弾だったとしても、平民はそれを受け入れるしか選択はないのだ。貴族と平民。その間には社会的地位や魔法の有無など、厳然たる壁が立ちはだかっている。 一介の平民がそのような貴族の怒りを買うということは、すなわち死を意味する。魔法であっさりと殺されるか、拷問にかけられて殺されるか。しかも酷い時には自分ひとりではなく、一族郎党処刑されることもありうる。もしくは殺さずに人身売買にかけられ、どこかの好事家の貴族に売り飛ばされてしまう。死なないにしても、人生と言う意味では死に等しい。使用人の少女は、自らの暗い未来に絶望し、恐怖に震えているのだ。 ルイズは別にこの件に関わる必要などなかったのだが、ゴーレムを使い魔としたことで気が大きくなっていることと、教室爆破の事後処理で不機嫌になっている所にギーシュの馬鹿げた怒りを目にしたことで、つい売り言葉に買い言葉で決闘騒ぎにまで発展させてしまった。とはいえ特にルイズは決闘の心配などしておらず、それよりも空腹が気になって仕方がなかった。 「あーもう、もう泣くんじゃないわよ。決闘を申し込まれたのはわたしだし、そもそも悪いのはあいつなんだから」 「で、でも……」 「デモもストもないわよ。いい加減あいつの馬鹿面には辟易してたところだし、わたしがお仕置きしてやれば少しはおとなしくなるでしょ」 実の所、ルイズとしてはこの決闘は願ったり叶ったりだった。私闘は規則で禁止されているものの、自分を馬鹿にしてくる連中を黙らせるのには丁度いい機会だ。一度のお咎めで今後の雑音を排除することができるのなら安いものだ。ここいらで自分の使い魔に戦わせてみよう。 「でさ、あんたなんて名前なの? まだ聞いてなかったけど」 「す、すいません。わたくし、シエスタと申します……」 「そ。ならシエスタ、今回は特別にあんたの厄介事をわたしが引き受けてあげるわ」 貴族であるルイズから発せられた言葉にシエスタと名乗った少女も含め、周囲は騒然となる。みな貴族が平民に肩入れするとは信じられないと言った表情であった。シエスタはかけられた救いの言葉に感極まったようで、手を胸の前に組みながらルイズに感謝の言葉を述べる。 「ほ、本当ですか!? あぁっ、ありがとうございます!」 「本当よ。ただわたしお腹すいてるから、昼ごはん持ってきてちょうだい。決闘するにしてもその後よ」 「は、はい! ただいまお持ちしますぅ!!」 シエスタは一目散に厨房へと走り去っていく。その後姿を眺めた後、ルイズはゴーレムを呼び、自分の席へと向かう。ゴーレムが食堂にのそりと入ってくると、扉付近に群がっていた生徒達は雲の子を散らすように逃げていった。昨日の夕食と、今朝の朝食で、もうすでに2度、目にしているはずなのだが、未だ慣れないらしい。遠巻きにひそひそと囁きあっているのが見える。 シエスタが昼食を運んでくると、有象無象の囁きなど気にもしないといった態度で、ルイズは食事を始める。このゴーレムがいる限り自分はゼロのルイズじゃない。ルイズにとってゴーレムとは自信の象徴だった。 ヴェストリの広場とは、魔法学院の敷地内『風』と『火』の棟の間に位置する中庭のことである。ここは学院の西側に位置するため、日中でもあまり日が差すことはなく、薄暗く常にひんやりとした広場だった。先程食堂で怒りを振りまいていたギーシュはここを決闘の場と決めた。 ギーシュは不機嫌の絶頂にあった。あの後、ギーシュの後を付いてきた友人達が脂汗を浮かべた顔でしきりに決闘するのはやめておけと言うのだ。ヴァリエールの使い魔のゴーレムは普通ではないと。 (この僕がゴーレムでの戦いで敗れると思っているのか!?) そう、ギーシュは『土』のメイジであり、ゴーレムを駆使して戦う人間だった。その彼がゴーレムでの戦いで勝ち目がないと言われれば、プライドを傷つけられるのは想像に難くなく、事実ギーシュは友人達に抑えきれない怒りをぶつけていた。 (今までゴーレムを使ったこともない、落ち零れのゼロのルイズめ。偶然高位のゴーレムを召喚したからっていい気になりやがって! あんな図体がでかいだけのウスノロゴーレムなんてワルキューレでズタズタにしてやる!) ギーシュは怒りで平静を失ってはいたが、自らの使うワルキューレ単体であのゴーレムに勝てるとは思っていなかった。自らの戦いの極意は7体のワルキューレによる波状攻撃。それならば、あの見るからに鈍重そうなゴーレムを屠ることなど容易い。ギーシュはそう考えていた。 昼食を取り終え、食堂を出て指定された広場に向かう間もシエスタはルイズとゴーレムにぴったりとくっ付いてきた。先程からいつまでもありがとうございます、このご恩は忘れません、だのとしつこく感謝の言葉を掛けてくるので、ルイズはいささかげんなりとしていた。貴族の少女に巨大なゴーレム、そして使用人の少女という酷く不釣合なトリオを組みながら決闘の場へと足を進める。 「諸君、決闘だ!!」 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はゼロのルイズだ!」 どこから聞きつけたのか、ルイズ一行が広場に到着すると、そこには人だかりができていた。ギーシュの宣誓に盛り上がる観衆の声がルイズの鼓膜を震わせる。ギーシュはルイズの方向を向くと、怒りで歪んだ剣呑な表情を見せた。 「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてあげようじゃないか」 「誰が逃げるってのよ」 ゴーレムを引き連れて現れたルイズは、何を馬鹿なことをと言わんばかりの態度で応酬する。 「さて、観客を待たせるのも申し訳ない。今すぐ始めようじゃないか」 ギーシュはそう言うと、やはり胸ポケットから一輪の薔薇を取り出し、さっと優雅に振り上げた。7枚の花びらがはらりはらりと宙を舞ったかと思うと、瞬時にして女戦士を象った人形の姿となった。 「『青銅』のギーシュ・ド・グラモン。7体のワルキューレでお相手する。君の使い魔もゴーレム、僕が使役するのもゴーレム。よもや数が不平等だなどとは言うまいね?」 ギーシュは挑発するが、ルイズはどこ吹く風であった。メイジと使い魔は心で繋がるもの。このゴーレムの心を感じることはできないが、強靭な体から力が発っせられているのを感じる。教師も力があると認めた使い魔だ。こんな優男ごときに負けるはずがない。根拠は薄いが、ルイズは自らの使い魔の勝利を確信していた。 「さあ、あの馬鹿を死なない程度に懲らしめてやりなさい!」 ルイズはゴーレムへと威勢よく命令する。主人の命令を受け、ゴーレムの瞳がにわかに明るくなる。ゴーレムの肉体に秘められた力の一端が今、解放されようとしていた。 前ページ次ページ重攻の使い魔
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――アルビオン軍、その数7万。 対するは一騎。虚無の守護者。虚無の盾。ガンダールヴ。 勝ち目なぞ、最初から無かった。 自明の理だ。ゆえに、後悔は無い。 突貫し、暴れまわり、少しでも長く敵をひきつける。 捨て駒だ。 自覚していた。 自覚した上で、それを――。 それを、彼女に任せるわけには、いかなかったのだ。 傷ついた身体をひきずって、少年は立ち上がる。 怪我をしていない場所を探すほうが大変なありさま。 あちこちに矢が突き刺さり、剣で切り裂かれた傷もある。 そして何より、魔法の直撃を受けた腹部。 ロクな医療知識なぞない、彼でもわかった。 そこから流れ出た血は、もはや致命的な量に達している。 ――だけど。 「おでれーた!凄い眺めだなぁ、相棒。 この数相手に一騎駆けなんざ、古今東西、どんな英雄もやった事ァ無いぜ! 「……なんで俺、こんな事やる嵌めになっちまったんかなぁ」 「そりゃおめぇ……言っちまったんだろ? 好きだって」 「……まあな。 なあ、デルフ。……俺、死ぬよな、これ」 「多分な。まず間違いなく」 「だよなぁ……」 「ま、どーせなら格好つけようぜ」 「……そーだな。勿体無いもんな」 「そーだ。勿体無いぜ」 ――だけど、愛剣と軽口を叩いて、少年は笑った。 その身を犠牲にしても、守るべき大義のある男の顔だった。 覚悟を完了した男の笑みだった。 魔剣を握る。 遥か昔、恐らくは同様の気持ちから主人を守ったのだろう男の持っていた武具。 それは出会ってから数ヶ月しか経過していないというのに、少年の手にも良く馴染んだ。 ――それで十分。 後ろには守りたい奴がいる。 目前には倒すべき敵がいる。 傍らには一緒に戦う相棒だ。 文句なぞある筈もない。 だから、平賀才人は笑った。 それが恐怖をこらえた為に引き攣った顔でも。 怯えを押さえ込めず手が震えてしまっていても。 それでも。 ――それでも。 世界中の誰だって、彼を笑うことはできないのだ。 「――今夜は、死ぬにゃあ良い日だ」 たった一騎。七万へ挑む、少年。 彼の周囲を包囲した魔法使いたちが、致死的な威力を持つ光を杖に灯し、それを彼目掛けて放とうとする。 ――その、刹那。 「……なんだ、アレは!」 アルビオン軍に、戦慄が走る。 轟音。爆音。風を切る唸り声。 そう、覚えている。 彼らは、その身をもって味わった。 そうだ、あの時の大敗は覚えている。 「龍の、羽衣? いや……だが、この音は――」 <<よう、サイト。――まだ生きてるか?>> ……………数時間前。 「撤退、ですか」 「……はい、陛下。 このまま正面からぶつかっても、我々に勝ち目は――」 「その為に一人の少年を犠牲にして」 「……彼はガンダールヴで、そして平民ですよ」 「その平民に総てを託さねばならない。 ――挙句見捨てたとなれば、末代までの恥。 貴族としての誇りを失うことは、死も同然ッ」 幕僚からの報告を聞いていた王女は、なおも言い募る彼を視線一つで黙らせる。 かつて姫殿下と呼ばれていた頃とは、まるで違う、剣呑な瞳。 そう、彼女は今までずっと、夢を見ていたのだ。 幻想の中にいた。 それが赦されていた。彼女の周囲の世界は優しかったから。 ――だが、それができなくなった。 いつからだろう。 自分が政略結婚をしなければならないと悟った時か。 淡い恋心を抱いていた相手が死んでしまった時か。 それとも。 それとも――親友の想い人が、たった一人で死地に挑むと知った時か。 覚悟というものは人を変える。 それは、たとえ王女といえど。 「――私が、総ての責任を取ります。 ……魔法学園に、連絡をとってください」 ――トリステイン魔法学園。 この学園には、古くから伝わる、ある伝統があった。 魔法使いが一生を共にするパートナー。 俗に使い魔と呼称される存在を、生徒に召還させるのである。 無論、通常は小動物をはじめとする小さな生物であり、 極稀に稀少種族が召還されることがあるが、 それだとて”奇妙”と思われるようなことはありえない。 だが、今年の使い魔召還は、確かに”奇妙”といわざるを得なかった。 ――召還されたのは、人間だったのだ。 ”ゼロの”ルイズと呼ばれる劣等生の少女。 後に虚無の使い手と判明する彼女が、 サイトという平民を召還したのは良い。 だが、他の生徒。 一年生58人全員が人間を召還するなどというのは、 魔法使いという概念が生まれて以来、前代未聞の珍事である。 それも、ただの人間では無かった。 彼らは「騎士」だったのだ。 敵味方に別れていたとは言え、同じ戦場で戦った英傑たち。 平穏の時代が過ぎ去り、戦乱が世界を覆い尽くした今。 この学園を「学園」と呼称する人間は少なくなった。 ある者は尊敬をこめ。 ある者は畏怖をこめ。 ――「円卓」と呼んだ。 ≪管制塔了解、至急応援部隊を送る≫ ≪ガルム隊、以後は空中管制機の指示に従え≫ ≪撤退は許可できない≫ ≪だろうな、報酬上乗せだ≫ ≪お財布握って待ってろよ≫ ≪姫様からの伝言。アルビオンの財布から支払う、とのこと≫ ≪姫さんも随分性格変わりましたね。まぁ良いや、さあ行くか!≫ ≪で……どうしてもついてくる気か、PJ?≫ ≪あいつ、学園に恋人がいるんスよね。帰ったらプロポーズするって言ってたんだ。花束も買ってあったりして≫ ≪仕方ないな。……落ちるなら俺の眼の届かない場所で頼む≫ ≪了解!≫ ――アルビオン戦争には謎が多い ≪ロト1より各機へ≫ ≪アルビオン狩りだ≫ ≪全部落とすぞ≫ ≪ラージャ≫ 誰もが正義となり 誰もが悪となる そして誰が被害者で 誰が加害者か 一体『平和』とは何か ≪俺たちがこの世界に呼ばれたのは、この時の為だったか≫ ≪アルビオン軍を確認。合計7万≫ ≪ソーサラー1から全機へ、最大推力であたれ≫ ≪サイトを無事に連れ戻してやる≫ ≪本物の「魔法使い」とはどんなものか、連中に教えてやれ≫ 有り得ない出会い ≪シュヴァルツェ1より各機。まさか「ハゲタカ」にまでお呼びがかかるとはな≫ ≪隊長が魅惑の妖精亭でバイトしてたルイズちゃんに手ェ出したからでしょ≫ ≪まったく、胸にチップいれようとするから……≫ ≪良いんだよ。可愛い子を泣かせたりは、したくないだろ?≫ 変わる運命 ≪状況を確認≫ ≪こちらグリューン2、相手は七万だ≫ ≪……楽しませてもらおう≫ 変われない世界 ≪ゴルト1より各機、状況を開始する≫ ≪国境は要らない。――境界を無くせば世界は変わる≫ ≪アルビオンの奴らに我々の正義を示すぞ≫ ――その中にあって ≪シュネー1より各機、敵戦力を確認した≫ ≪アルビオンの竜騎士を蹴散らす≫ ≪全機、槍を放て≫ 彼らは飛び続けた。 ≪ゲルプ2。不愉快なアルビオン軍を食い止める≫ ≪私たちは、その為にこの世界に来たのですから≫ ――全ては ≪インディゴ1より各機≫ ≪アルビオン軍を確認≫ ≪敵航空戦力は微少、対地攻撃に集中≫ ≪攻撃を開始する≫ 一人の英雄と ≪戦場が混乱しています≫ ≪私の生徒を救出する、ついてこい≫ ≪了解、ボス≫ 一本の魔剣と ≪こちらウィザード1、アルビオンが網にかかった≫ ≪ウィザード5了解≫ ≪目標補足、その数七万≫ ≪前方より接近中≫ ≪問題ない。オメガ大隊よりは少ない≫ ≪では始めよう≫ 一人の少女の為に ≪受け入れろよルイズ、これが戦争だ≫ ≪ガンダールヴがなんだ!俺がやってやる!≫ ≪生き残るぞ、ガルム1!≫ ――――人は彼らを『円卓の騎士』と呼んだ Servant Of Zero Not Coming Soon!!
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私には関係の無いイベントだと思っていた《フリッグの舞踏会》――― あいつとは如何するんだろうか。 あまり騒ぐタイプではないのは間違いないけど。 仕方が無い。私が踊ってあげるしかないわね。 宵闇の使い魔 第捌話:万媚 学院長室で事の顛末を聞いたオスマンは、フーケ自身を捕えられなかった事を惜しみながらも、 「まぁ、なんにせよ――良く《破壊の杖》を取り戻してくれた」 といって、一人一人の頭を撫でた。 勿論、虎蔵は別だが。 ルイズは「もう使えなくなってしまいましたけど――」と申し訳無さそうにしていたのだが、コルベールが彼女をフォローした。 「もしこれがフーケに使われでもしていたら、魔法学院の面子が潰れる所ではなく、大変な責任問題になっていたでしょう。フーケに使われなかっただけでも十分な結果です」 「たしかに、アレが一発あればちょっとしたフネ程度なら落ちかねませんものね」 その威力を間近で見たキュルケが肩を竦める。 オスマンはそれに頷くと、 「君たちの《シュヴァリエ》の爵位申請を出しておいた。ミス・タバサには《精霊勲章》を。フーケは取り逃がしてしまったのは事実であるから、確実に受理されるとは限らんが――その場合でも学院からの褒美は保障しよう」 と告げる。 それを聞いたルイズとキュルケは顔を輝かせた。 ――完全に隠蔽すると思ったがな―― 虎蔵はそんなことを重いながら、オスマンの言葉を聴きく。 まぁ、あそこまで派手に盗まれてしまったのだから、潔く認めた上で奪還した功績をアピールするのが得策といったところだろうが。 「あッ――あの、オールド・オスマン―――トラゾウには何もないのですか?」 ルイズが相変わらず壁際に突っ立って、退屈そうにしている虎蔵をちらりと見る。 ゴーレムの拳から逃れられたのも、《破壊の杖》を使うことが出来たのも彼のお陰なのだ。 オスマンもこれまでの話から彼の功績が一番であるということは理解していたが―― 「残念ながら、彼は貴族ではないからのう」 と、立派な白髭を撫でながら言う。 それにはルイズだけでなくキュルケやタバサも残念そうな顔をするが、 「金くれ、金。危険手当みたいなもんだ。金ならそう面倒な記録も残らんのだろ?ついでに秘書のねーちゃんにも出したれや」 虎蔵自身はあっけらかんと言ってのけた。 彼にしてみれば、称号など貰った所で厠の紙程度の役にも立たないのだから、その方がよっぽどありがたい。 地獄の沙汰も何とやらと言うくらいなのだ。 「ふむ。それくらいなら、ま、良いじゃろう。ミス・ロングビル、君もそれで良いかね?」 「私は特に何もしてないのですけど――」 オスマンが鷹揚に頷き、ロングビルにも問う。 彼女は少し困ったように頷いた。 オスマンはそれに「では近いうちに用意させよう」と答えると、パンパンと手を打つ。 「さて、今宵は《フリッグの舞踏会》じゃ。この通り《破壊の杖》も戻ってきたことであるし、予定通り執り行うぞ。今日の主役は君たちじゃからな。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのだぞ」 オスマンに言われれば、三人は丁寧に礼をしてドアに向かった。 だが、虎蔵は壁際に立ったままだ。 ルイズがそれに気付き振り返るが、彼は「先に行ってな」と手を振った。 オスマンと話でもあるようだ。 恐らくは彼の故郷の武器であるらしい《破壊の杖》についてだろう。 「ふむ――で、何か話でもあるのかね?ミス・ヴァリエールの使い魔よ」 「あるにはあるが――そっちからで構わんぜ」 オスマンはドアが閉まるのを確認すると虎蔵を促すが、虎蔵は肩を竦めて答える。 「どうせその方が話が早い。違うか?」 と、互いを牽制するように睨み合う二人だったが――― 「ふぅ、まあその通りであろうな―――では、ミス・ロングビル。君は――」 オスマンがため息をついて頷いた。 そしてロングビルに退室を促そうとするが、 「秘書のねーちゃんも居て良いと思うぜ。ルイズ達にだって後で話すことだからな」 「ふむ。まぁ、学院側にも事情を知ったものが数人は必要か――では此処に居たまえ」 虎蔵に言われて考え直すと、ロングビルにも同席を許可した。 「さて、まぁ――お主の事だ。聞かれることは解っているとは思うのでな。端的に問う」 そういって一度黙り、重厚な机に肘を突いて目を閉じる。 次に目を開いたときには、その年に似合わぬ迫力、威圧感を宿している。 ロングビルとコルベールはそれに息を呑んだ。 「お主、何者じゃ」 「見慣れぬ服装、異常な身体能力、魔法も使わずに何も無い所から武器を取りだす業――そして何より、《破壊の杖》の使用方法を知っているということ」 オスマン以外の二人も小さく頷いた。 そう、ただの平民ではないことは勿論、仮にメイジだったとしても何から何まで―― 「異質なのだ。本音を言えば、私は《土くれ》などよりよっぽど君の事を警戒していたのだよ」 そういってため息をつくと、ゆっくりと椅子の背凭れに身体を戻した。 虎蔵はそれを聞くと「随分と正直なこったな」と笑う。 「あんた、異世界って信じるか?」 「異世界――じゃと?」 「そのまんま、此処とは違う世界って事だがね。俺は其処の人間で、その《破壊の杖》もその世界ではかなり量産されている。パンツァーファウスト言うてな」 虎蔵の説明を聞くと、オスマンはふむと声を漏らして白髭を撫でながら考え込み、ロングビルとコルベールは話の壮大さ――というよりも、荒唐無稽さに顔を見合わせている。 暫くするとオスマンはため息をつき、ゆっくりと話し始めた。 「《破壊の杖》以外にも我々の知る歴史の中で作られたとは考えにくい物が、世界には幾つかあってな。なるほど、異世界から漂着した物であると言うのならば頷ける」 「ほう――」 虎蔵は何か思う所でもあったのか、僅かに目を細めて頷く。 「それに、《破壊の杖》も――そう、30年も昔の事になるか。森の中を散策していた私は、ワイバーンに教われてな。そこを助けてくれた人物の持ち物じゃった」 「そいつは?」 「死んでしまったよ。その時既に重症でな――今際の際に「帰りたい、帰りたい」と言っていたのはそういう事だったのか――」 遠い目をして語るオスマンに、誰も声をかけずに静かに時が流れる。 暫くすると、オスマンはため息をついて、 「まぁ、その時使った《破壊の杖》の一本を彼の墓に、そしてもう一本は形見として宝物庫に――という事じゃ。年寄りの長話をしてしまったが、なに、お主が異世界から呼ばれたと言うことは信じよう」 と告げる。 「しかし、その世界ではお主のような実力が普通なのかのう?」 「いや、大抵はこっちの平民と似たようなもんだ。極稀に突き抜けちまってのが居るって位だな」 もっとも、その突き抜け具合が半端無いのだが――そこはまだ告げる必要は無いだろう。 「なるほど――確かに彼は、持っていた物以外は普通の人間じゃったな――まぁ、私が聞きたいのはこのくらいだが、おぬしからも何かあるのじゃろ?」 「ああ、そだ。これだよ、これ」 虎蔵はすっかり忘れていた、といった様子で彼らに左手を見せる。 使い魔のルーンだ。 「なにやらこれが付けられてから、随分と身体の調子が良くてな。困ることでもないんだが、気になるといえば気になるんでね」 「ガンダールヴの印――ありとあらゆる《武器》を使いこなしたという伝説の使い魔の印です」 その疑問には、最初にそのルーンに気付いた人物であるコルベールが答えた。 恐らく、今まで使ったことのない武器でも扱えるようになっているとの事だが、それ確かめる機会はあまり無さそうだ。 だが、調子の良さはこのルーンによる物だろう。 もしかしたら、デルフの言っていた《使い手》というのも関係がある可能性はある。 ――気が向いたら聞いてみるか―― 「なるほど―――しっかし、なんで俺がそんなご大層な物になってんだかなあ」 「残念ながらなんとも―――異世界から来たということと関連がある可能性はありますが」 ぷらぷらと左手を振る虎蔵にコルベールが答えると、 「自分の理解の及ばん所で色々起こるってのは、なんともシャキッとせんね」 彼はそういって肩を竦めるのだった。 「ところで―――帰る方法はあるのですか?」 それまで黙って話を聞くに留めていたロングビルが口を挟むが、その問いにはオスマンもコルベールもすぐには答えられなかった。 「一度呼び出した使い魔を送喚した事はないし、するという事態は想定されて居ない」 「そもそも人間を召喚したことが初めてですからな」 二人がそう答えれば、ロングビルは「そうですか――」とだけ答えたのだが、 彼女に何度かアピールを試みているコルベールには少し違って見えでもしたのか、 「あーいえ、しかしですね。召喚が出来て、送喚が出来ないということは無いと思うのですよ。私は。ですから時間をかけて研究すれば―――そもそも召喚のプロセスというのは―――」 と自らの薀蓄を語りだしたのだが、 「あー、そいつは――帰り方については気にせんでええよ。知り合いに、あんたらとは毛色の違う魔法使いが居てね。そのうち向こうから呼び戻されんだろうから」 と虎蔵に遮られてしまう。 しかし、その内容はロングビルに自分の知識をアピールできなかった事よりも衝撃的だったようで、オスマン共々驚きをあらわにした。 「自ら狙って異世界からの召喚が可能な者までおるのか!?」 「なんとも恐ろしい世界ですな――」 実際のところ、虎蔵にはその魔法使い――麻倉美津里にそれが可能であるか、可能であったとしてするかどうかはわからないのだが――― 「そうならなかったとしても、ま、別にたいして問題はないしな。どうしても帰らにゃならん理由も無い」 と肩を竦める。 それを聞いたオスマンはははっと楽しげに笑って、 「なるほどなるほど。確かに、それも悪くは無いじゃろう。住めば都というしな。なんなら嫁さんも探してやるぞ?」 と言ってくる。 虎蔵は「そいつは結構」と肩を竦めて、割と本気で拒否したのだった。 数時間後。 《アルヴィーズの食堂》の上にあるホールは大いに賑わいを見せていた。 着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。 虎蔵はバルコニーの枠にもたれては、のんびりとウイスキーを味わっていた。 何処から《破壊の杖》奪還に虎蔵が大いに貢献したことを聞きつけたマルトーが持ってきた最高級の物だ。 「ま、娯楽が少ねえもんなあ――」 虎蔵の視線の先で、誰も彼もが今宵を謳歌している。 キュルケは何人もの男子生徒からのダンスの誘いを捌くのに手一杯になっている。 タバサはあの小さい体の何処に入っているのかという勢いで只管に料理を食べている。 そのテーブルに何往復もして料理を運んでいるメイドはシエスタのようだ。大変そうだが、生き生きとした表情をしている。 モンモランシーがギーシュの腕をがっちりと掴んでは、他の女を口説きに行かないようにキープしているのも見えた。 他にも名前も知らない生徒が、教師がこの《フリッグの舞踏会》を楽しんでいた。 此処で一緒に踊ったカップルは結ばれるという逸話だか噂だかがあるらしく、各所で恋の華が咲いたり散ったりしている。 だがそこで、ホールの一部がざわついた。 グラスにウイスキーを注ぎながらちらりと視線を向ける。 そこには、幾人もの教師の誘いを断りながら――中にはコルベールもいたようだが――こちらへと向かってくるロングビルがいた。 黒を貴重としたシンプルなドレスだが、深めのスリットに大胆に開いた背中から覗く素肌が艶かしい。 ドレスの生地を押し上げる双丘も十分すぎる程に男の視線をひきつける。 総じて"良い女"、であった。 更に数人の生徒や教師からの誘いを断って、ロングビルはようやくバルコニーにたどり着いた。 流石に彼女が虎蔵の前で足を止めてしまえば、誘いの言葉が聞こえてくることは無くなった。 「もてもてやな」 虎蔵がからかうように笑うと、彼女は近くには誰も居ないことを確認した上で、 「こまったものよ。馬鹿ばっかりでね。誰も彼もだまされて――」 とロングビルとフーケの間くらいの調子で答える。 「またぶっちゃけたな―――諦めたのか?」 「諦めるも何も、無くなってしまったものは盗めないわよ」 虎蔵が僅かに呆れたように言うと、彼女も肩を竦める仕草をして見せた。 バルコニーには誰もやってこない。 二人の雰囲気――色っぽい物でもなければ深刻そうなものでもない、独特の雰囲気に気後れするのかもしれない。 ロングビルは彼と同じように枠を背にして「何時から?」とだけ問いかける。 「夜に会ったときかね―――それに翌朝のもタイミングが良すぎるし、パッと見だと解らんが、ただの秘書がんなに引き締まった身体してるのも変だしな」 「――最後のは兎も角、もっとじっくりとやるべきだったか―――」 虎蔵の言葉を聞くと、はぁっと深いため息をついた。 もっとも、ルイズの魔法による皹が修復される前に実行したかったのだから、仕方が無い所もあるのだが。 「それで、如何するんだい?」 「つーと?」 「惚けないでほしいもんだね―――」 「怒んなよ―――しかしまぁ、どうしたもんかな」 ロングビルにすれば最も警戒していたことをどうでも良さそうに答えられて、ムッとした表情を見せる。 虎蔵はその表情を見るとニヤニヤと笑って、 「いやいや、実際本当にどうでも良いんだよ。貴族でも学院生徒でもなけりゃ、この世界のもんでもないんだからな」 「―――そう言う割には、最後には随分と煽られた気がするけど」 「面白かったもんでな」 と言い切った。嘘をついている様子は無い。 ロングビルは僅かに頬を引きつらせながら、ぐっと手を握る。 殴りたくて仕方が無い。 だがそれすらも虎蔵はニヤニヤと笑って眺める。 ―――なんて性質の悪い!――― ロングビルは思わず口に出しかけるが、ぐっと堪えた。 オスマンのセクハラもだが、この男と正面から向き合うのも胃を悪くしそうだ。 ふぅ、と大きくため息をついて気を取り直すと、 「まぁ、その辺りは良いんだけどね―――私としては余計な借りを作っておきたく無いんだよ」 「貸しを作ったつもりは無いが、まぁその気は分からんではないな」 「じゃあ何とかしておくれよ」 そう言って虎蔵の手からグラスを奪い、一口。 虎蔵が腕を組んで「うーむ」と考えていると、先程学院長室で《破壊の杖》――パンツァーファウストの来歴を聞いたときに僅かに気になったことを思い出した。 そう、この世界に来ているのが自分だけではない可能性である。 別に重火器やらなんやらが来る分には一向に構わないが――― 「そうだな―――ちょいと頼みがあるんだが、今此処で話す事でもないんでね。後で話しに行くわ。部屋は?」 虎蔵がそういうと、ロングビルは自室の場所を伝えて「―――一応、人に見られるのはよしておくれよ。変な噂が立っても困るからね」と言ってグラスを空けた。 その時、ホールの中からおぉと歓声が聞こえた。 視線を向ければ、ホワイトのパーティードレスに身を包んだルイズが注目されている。 胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていて、隣のロングビルとは見事に対照的だった。 ロングビルはそれを見ると、「お姫様が来たみたいだね―――それじゃまた」と言って去っていった。 ロングビル同様、やはり幾つもの誘いを断りながら虎蔵の前へとやってきたルイズは、ややムッとした様子でロングビルの後姿を眺めてから彼へ声をかけた。 「お楽しみみたいね。邪魔しちゃったかしら」 刺々しい。 虎蔵は軽く肩を竦めて「別に。ちょっとした世間話だ」と答える。 そして「そういうお前こそ、随分と誘われてたじゃないか」と言ってからかおうとするのだが、 ルイズはその言葉を「五月蝿いわね。別にどうだって良いのよ、あんなの」とバッサリ斬って捨てると、彼に向けてすっと手を差し伸べた。 「でも、折角だから―――踊ってあげても、よくってよ」 目をそらして、僅かに浮かぶ照れを何とか隠そうとしながら言う。 虎蔵は思わずニヤニヤ笑いを浮かべてしまいながら「へいへい、お供するさ」と言って手を取った。 二人がバルコニーからホール入ってくるとすで楽師達によって音楽が奏でられていた。 ルイズは虎蔵の手を引いてフロアに飛び込み、音楽にあわせて優雅にステップを踏み始める。 虎蔵も見よう見まねでそれにあわせる。 「今日は色々と助けられたわね―――その、ありがとう」 ルイズは踊りながら、視線を合わせないようにしながらぼそぼそと感謝の言葉をつげた。 虎蔵は――なんとも素直になれん奴だな――と思ったのだが、 「それが使い魔の仕事なんだろ?」 といって笑うのだった。 しかし、後にこの虎蔵の言葉が、彼女の心に深く突き刺さってくることになる――――
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トイレから部屋に戻ったルイズは、昨日呼び出した使い魔について考えていた (朝食は抜いた、死体は芯まで凍っていた為、血こそ飛び散らなかったものの食欲が消えるには十分だった 粉々になった死体は部屋に戻ると昨日の様に消えていた、消えて無かったら今頃いい感じでスプラッタだったろう) おかしい、落ち着いて考えてみると確かにおかしい 死体が消えるのもそうだけど、死んだ筈なのに再び召喚されるっていうのは如何考えてもありえない 死んだ、自分の目の前で死んだ、なのに召喚されて動いて喋っていた 屍生人?吸血鬼?アヴドゥル?どれも違うように思える それよりも「死んでも召喚されれば生き返る」のではないか? そう思えた もう一度呼び出してみれば分かるかもしれない 疑問を確かめるべく、三回目の召喚を行う これであの男が出てくれば確定だ、自分が呼び出したのは只の平民などではない 何か力を持った存在なのだ、馬鹿にされる様な使い魔等ではないのだ そう思うと落胆していた気持ちが高揚していくのを感じた 「あらためて、アンタ誰」 「…ディアボロだ」 過去2度の召喚と同様に杖の先に現れた男は落ち着いていた 絶え間無く周囲を見回し警戒していること隠さなかったが、こちらを見て怯えるということは無かった ディアボロの落ち着きを見て取ったルイズは ディアボロを召喚したこと、ディアボロが使い魔であること、使い魔とは何であるかを説明した 「自分の置かれた立場が分かったわね」 「じゃあ私の疑問に答えて貰えるかしら 彼方は何故生き返ったの? 前に呼び出した時は確かに死んでいた筈だわ 甦る力があるの?それとも死んでいなかったの?」 ディアボロは警戒を解かぬまま口を開く 「…私はある戦い以来、何処から来るか何時来るか分からない死に襲われ続けている」 「一度死んでもそれで終わりではない、場所が変わり時が変わりまた死が襲ってくる」 「…まるで死の呪いね」 「ルイズ…だったな」 「お前の話は理解できた、だがそれはお前の都合であり私には関係の無いことだ 使い魔が欲しいのなら別のを探すんだな」 この男の言葉には凄みがある、言葉を裏打ちするだけの力を持っているのだ 逃す訳には行かない ここで逃せば自分は本当に何も無い「ゼロ」になってしまう しかしこのままでは引き止められない ルイズは何かこの男を留めて置けるなにかはないかと必死に頭を働かせた 力?金?カラダ?いや違う 男の喋った言葉の中にあったそれに気付く、思いつくままに口を動かす 「死ぬ度に時間と場所が変わる、そう言ったわね」 「それならばあれほどまでに周りを恐れていたのは分かるわ」 「何も分からぬままいつまでも流され続ける、これほどの恐怖は無いものね」 「でも、今の彼方は落ち着いている、死を恐れているものの落ち着いているわ」 「それは安心したからじゃあないかしら、状況が理解できる範囲にあることに」 「私に呼ばれてから別の場所で死んだことはあった?無いんじゃないの?」 「それは契約を結んだことで呪いに変化があったと考えられるわ」 「だから私の元を離れたり、私を殺したりすればその安心は失われるかもしれないわよ」 「何処とも知れぬ場所で永遠に死に続ける、そんなのに耐えられるかしら」 一気にまくし立てたルイズは息を整え、最後の決め手と言わんばかりに言い放った 「これは機会よ!慈悲深い御主人様が与えた最後の機会! 逃したならもう二度と救われることは無いわね」 ディアボロがルイズを見る 「よく喋る口だ…つまり利害が一致した訳だな、お前は使い魔が欲しい、私は平穏を必要としている いいだろう、使い魔になってやろうじゃあないか」 ルイズは笑みを浮かべた やった、ほとんどでまかせだったがこの男は使い魔になると言った ディアボロの言葉遣いや態度は気に入らないが、とにもかくにも使い魔を得ることが出来たのだ 「じゃあ行くわよ、ついて来なさい」 「何処にだ」 「教室によ、使い魔は主と行動を共にするものよ」 教室は大学の講義室という風だった 何か異なることといえば生徒達が皆何かしら生き物を従えていることだろう 道すがら見かける様なものもいれば、動物園で目にするようなものもいる ディアボロの目を引いたのは中でも物語の中でしか存在し得ない筈の生き物達だ (ここでは幻獣と称するらしい、ルイズの話の中で出ていた) (イタリアではないことだけは確からしいな) この小娘に出会ってから2度死んだ、死んだ次の場面は2度とも小娘の前だった 今までこんなことは無かった、時間も場所繋がり無く変わり訳も分からぬまま死を繰り返した 小娘のでまかせを思い出す 確かに以前の状態に戻らないという保証は無い 認めたくは無いが自分はあの小僧に破れ絶頂から転げ落ちてしまったのだ 今は崖に生えた細い枝に服が引っ掛かった様な極めて不安定な状態だ 少しでも重心を崩せば再び奈落の底へと転落してしまうだろう しっかりと三点確保を維持しながら崖を上らねばならない 迂闊な行動は出来ない 絶頂であり続ける為には… 「コッチヲ見ロォ~~ッ」 「ん………?」 顔を起こしたディアボロに散弾の様な石の破片が突き刺さり、ついで爆風が体を粉々に吹き飛ばした ■今回のボスの死因 ルイズの失敗魔法の巻き添えで爆死
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「機神飛翔デモンベイン」より、二闘流&アナザーブラッドを召喚 二闘流とアナザーブラッドの本名は『大十字 九朔』となりますが 完全同名で混乱を招きますので二闘流を『九朔』、アナザーブラッドを『紅朔』と表記して分けております 汝等、虚無の使い魔なり!-01 汝等、虚無の使い魔なり!-02 汝等、虚無の使い魔なり!-03 汝等、虚無の使い魔なり!-04 汝等、虚無の使い魔なり!-05 汝等、虚無の使い魔なり!-06 汝等、虚無の使い魔なり!-07 汝等、虚無の使い魔なり!-08
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autolink AB/WE10-04 カード名:“神の使い”天使 カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:1 コスト:1 トリガー:0 パワー:7500 ソウル:1 特徴:《死》?・《生徒会》? 【自】このカードが手札から舞台に置かれた時、あなたは自分の山札の上から1枚を公開する。そのカードが《死》?のキャラでないなら、あなたのアンコールステップの始めに、このカードを控え室に置く。(公開したカードは元に戻す) ノーマル:無粋ね パラレル:オーバードライブはパッシブだから レアリティ:R illust. 11/08/19 今日のカード。 ABを象徴するカードのうちの1枚。 絆に対応している1/1/7500。CIP能力でデッキトップをめくり、それが《死》?を持つキャラでないとアンコールステップ開始時に控え室に置かれるというデメリットを持っている。 ネオスタン構築においては特徴が統一されるためデメリットは回避しやすいように見えるが、ABにはオペレーション・トルネード、歌いたかった歌という強力なイベントカードが存在しており、それらも採用するとクライマックスと併せておよそデッキの1/5がキャラでなくなってしまうため効果が発動してしまう可能性が増す。戦線への勧誘 ゆりなどを併用して確実に場に残るようにしたい。 最悪効果が発動してしまった場合でも、皆を見送る役目 かなでのアンコール付与で回避は可能だがABは手札の増強をこのカードの絆とゲートトリガーに依存してしまっているため自ターンで1枚消費する事は避けたいもの。状況や相手のパワーラインなどを考慮して取捨選択をしていこう。 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 鼓動の記憶 音無 0/0 1000/1/0 黄 絆
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ULLA うら 暗闇の魔女の手下。その役割は夢。あらゆるものに姿を変化させ漆黒の闇の中に魔女の望みを描き出す。 暗闇の中では強大な力を誇るが、街灯や月明かり程度のわずかな光があればその力を半減できる。 概要 暗闇の魔女・Suleika(未登場)の使い魔。 第3話冒頭にて、巴マミのティロ・フィナーレを受けて倒される。 その後、「使い魔はグリーフシードを落とさない」ことが説明される。 出番が一瞬であるため、本編では多くを語られない。 公式ガイドブックによれば、コンテ段階ではもっと戦闘シーンが長かったものの、尺の都合でカットになったとのこと。 イメージ画では、エッシャー風に変形したジャングルジムの上に佇むUllaのイラストがみられる。 本来ならばこのような結界の上で戦うはずだったのかもしれない。 なお、イメージ画「第3話」の項に描かれている手下はまったく違う姿をしている。夜空に映る白っぽい影のような使い魔で、ずっとダンスをしているらしい。 劇場版では未登場で本来登場するはずのシーンはカットされた。 名前 コメント
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そなたそ講座NORMAL編一覧 第一章 各レーンの特徴とロール 第二章 チャンピオンの性能と弱点 第三章 買い物上手になろう おまけ ビルドサイトの使い方 第四章 便利ツールで差をつけろ 第五章 レーン戦で勝利せよ 追記1 レーンの基礎知識 追記2 ヘルスマナ経済理論 追記3 Junglerをやろう 第六章 集団戦で勝ちに行け 第七章 タブーから学ぶ 第八章 よそみをするなMAPを見ろ 第九章 腕を上げずに強くなる方法 Hi!Neetの皆は元気かな?今回は英語が大嫌いな新規ちゃん向けにビルドサイトの使い方と良いビルドの探し方を解説するよ!つーか普通なら必要ないガイドだから読み飛ばしてくれても構わないよ! 目次 Solomidの場合 Mobafireの場合 コメント欄 Solomidの場合 SoloMidのトップへ チャンピオン名を入力するとガイド一覧へ飛ぶ。 FEATUREDかAPPROVEDの中から選ぶと良い。しかし、Last Update(最終更新日時)があまりにも古い物はオススメできない。 Mobafireの場合 Mobafireのトップへ Mobafireは見やすいが時々とんでもないビルドがあったりするのでSolomidの活用を薦める。 オールチャンプスからチャンピオン一覧へ。そこからガイドのページに飛べる。 各ガイドページのサイドバーからも検索できる。 ビルドガイドの他にビデオガイドなども見られる。カウンターチャンプ情報なども若干載っている。 ガイド検索などの便利ツールに関しては 第四章 便利ツールで差をつけろにて後述するのでそちらをどうぞ コメント欄 名前 コメント
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