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「ただいま、まりさ。ゆっくりしてたかな?」 ゆっくりまりさは透明な箱の中から人間を見上げた。 野良ゆっくりである自分が人間の手の中にあるという事実を再認識する。 どうしてこんな事に。 なぜ、こんな事に。 さかのぼる事約10時間前。 お兄さんが朝のゴミ出しから帰ってみると、家に居るはずの無い、黒いとんがり帽子を被った喋って 跳ねるという饅頭と遭遇した。 そいつはちゃぶ台の上に乗り、お兄さんの朝食の残りを口に蓄えようとしている最中だった。 まさにばったり、といった効果音が聞こえてきそうな位だったが、まりさが振り向いて お互いの視線が交差するやいなや。 「ごめんなざいごめ゛ん゛な゛ざいぃぃぃぃぃぃぃ」 口から食べ物をこぼしながら、バスケットボール大の侵入者はそう謝りながら全力で駆け出した。 なんとか人間の脇をすり抜けて元の入り口から逃げ出そうというのだ。 しかし、お兄さんの背後にある勝手口が完全に閉じていることを視認すると、パニックに陥り Uターンして家の中をデタラメに跳ねまわり始めた。 3分後。 あっさりと捕獲された。 「おねがいです!みのがしてくださぃぃぃ。さいきん全然ゴハンがたべられなくて 家族みんながゆっくりできないんですぅぅぅぅ」 会社に遅刻寸前だったことを思い出したお兄さんは、髪をつかまれて吊り下げられて喚くまりさを 手際よく透明な箱にいれて急いで出かけていった。 最近、数が増えすぎた野良ゆっくりの食糧事情は深刻になっていた。 この野良まりさの家族も例外ではなく、番のれいむも子ゆっくりたちも常にお腹を空かせていた。 まりさは家族の長としてそんな状況をどうにかしないと、と責任を感じていた最中に開けっ放しの勝手口に遭遇したのだ。 そろーりそろーりと中を覗くが、人気は無い。 少しだけ。少しだけでいいから食べ物を貰って急いで逃げよう。 家族が大喜びする姿を想像し、行動にうつってしまった。 「寝坊したのも、開けっ放しにしたのもボクが悪いんだけどさ、泥棒は良くないよね?」 まりさの入った透明な箱を両手で運びつつ、中身に話しかけるお兄さん。 「たべものが欲しかっただけなんです。もうしませんからまりさを許してくださいいぃぃぃぃ」 「ダメだよまりさ。悪い事したらさ、罰を受けないと」 廊下を移動した先、ドアを開けるとそこはコンクリート土間の無機質な拷問室。 運の悪いことに。 お兄さんは虐待お兄さんだった。 部屋に唯一あるテーブルの上にまりさ入りの箱を置き、カセット式コンロを用意し始める。 「じゃあ始めようか。足をこ~~んがり焼こうね」 コンロから立ち上る青い炎を目にし、まりさは絶句した。 これからこの炎であんよを焼かれる!? 「やめでぐだざい!ぞんなごどされだら゛もう狩りがでぎなぐなっでじまいまず! 家族が死んじゃいまずぅ゛ぅぅぅ」 ガタガタと箱の中で暴れて抗議するが、お兄さんはどこ吹く風。 慎重に箱のフタをあけると、まりさの髪を鷲づかみにしてコンロの上へ。 「あづいぃぃぃぃぃぃぃ!れ゛い゛む゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 最愛のゆっくりの名を叫びながら底部を焼かれるまりさ。 なんとか熱から逃れようともがくが、お兄さんの両手ががっしりとそれを阻む。 やがて叫ぶ気力も無くなったのか、目をひん剥いて歯を食いしばり、うなるだけに なった頃、まず底部の右半分がすっかり黒焦げになった。 一旦炎の上から離され、お兄さんの目線の高さまで持ち上げられる。 「よしよし。まず半分が終了だ。もう少しだから頑張ろうね」 お兄さんの励ましの甲斐なく、空ろな目をしたままのまりさ。 反応が無いのでつまらなそうに、お兄さんはゆっくりと再びまりさを灼熱の上にかざすと 後半戦の開始の合図が響く。 「いじゃあああああああああ!あづい゛のは、もういじゃああああああああ」 ものの10分程だったろうが、当のまりさ本人には数十時間にも感じられた。 底面を全て黒焦げにされ、ゆぅゆぅと息も絶え絶えになり机の上でぐったりするまりさに 希望が投げかけられる。 「よく耐えたね、まりさ。これで罰は終了だよ」 目線をあげて、お兄さんを仰ぎ見るとそこには爽やかな笑顔。 これで無事開放されるのだろう。 家族の元に帰れる。 しかし。 「でも、まりさは家族の為に泥棒に入った結果こんな酷い目にあったのに、元凶の奥さんや子供が何の咎めも無いなんて… これは連帯責任を負うべきだよ」 まりさにお帽子をそっと被りなおさせて、その上から優しく撫でながら。 「だからまりさ、家族の元に案内してくれないかな。みんなにも罰を受けてもらおう」 自分に対してこんな事をする人間だ。れいむや子供たちには一体どんな罰が与えられるというのだ。 「ぞんな゛事でぎるわ゛げないでじょぉぉぉぉぉ」 即座に拒絶され、まりさを撫でていた手がぴたりと止まる。 「どうしてさ?まさかそんなゲスなゆっくりどもを匿うというのかい?」 「れいむや子供たちの所にお兄さんを連れて行くなんて絶対にしないよ!」 これが先ほどまで息も絶え絶えだったゆっくりだったとは誰が想像もできるだろうか。 その目には家族を守るという強い意志が宿っていた。 お兄さんの笑顔が完全に消え、完全なる虐待おにいさんの容貌へと変化する。 「じゃあゲスゆっくり隠匿の罪でまりさに罰を与えまーーす。案内をしてくれるなら罰は終わるから いつでも言ってね!」 罰だの責任だのともっともな言葉を使ってはいるが、お兄さんはまりさを、いやゆっくりをとにかく 苛められればそれでよかった。 まりさが耐え切れずに家族を売り渡せば一家まとめてヒャッハーー!!だろうし、そうでなければ まりさの精神と肉体が完全に壊れるまでいたぶるつもりなのだ。 机の上にまりさを残し、いそいそと部屋の隅の工具箱から『道具』を用意し始める。 「今回のアイテムはこれに決定」 片手にプラスドライバー、もう片手にはジャラジャラと音のする木の箱を持ち、虐待お兄さんは 戻ってきた。 「刑の執行を開始しまーす」 箱から取り出されたのは長さ約10cm、ねじ径7mmの特製のステンレス木ねじ。 その半ばのあたりまで螺子が切ってある。 「一本目~~」 尖った先端をまりさの左頬に軽くプスリと刺す。 軽い痛みと金属の独特のひんやりとした冷たさに、思わず目をぎゅっと閉じるまりさ。 お兄さんは左手でねじを支えつつ、ドライバーで少しずつ、少しずつ回転を加えていく。 「ゆ゛っ!ゆ゛ぎい゛っ!ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っゆ゛ゆ゛」 ねじは見る間に真ん中までめり込んでいく。 目と歯を固く閉じたまま、ひたすら激痛に耐えるまりさ。 中枢餡に傷が付かない限りはほぼ死の危険が無いゆっくりにとって、一定の長さのねじは苦痛を 与えるだけの実に都合の良い道具だ。 「これじゃあバランスが悪いから、逆の側にも一本追加するね」 わざわざそう言うと右頬にもねじを当て、じわりじわりとめり込ませてゆく。 「ゆ゛ゆ゛っ……ゆ゛ゆ゛っっぅ~~」 涙と涎でグチャグチャになったまりさに口調だけは優しく問いかけるお兄さん。 「うわ~~、痛そうだね。どうかな?家族を許せなくなったでしょ?こんな目にあってるのはキミ だけのせいじゃ無いんだし。責任を一人で背負い込む事は無いんだよ?」 「ま゛り゛ざはれ゛い゛む゛もこども゛達もう゛ら゛んでま゛ぜん。悪い゛のはま゛り゛ざだけ でず」 「ゲスゆっくりたちをまだ庇うなんて、罰が全然足らないみたいだね」 やれやれと大げさに両手を上げて首を左右に振るジェスチャーをすると、お兄さんはねじを更に合計で6本 まりさの頬にめり込ませた。 まりさは途中何度か白目を剥いて気絶したのでそのつど作業は中断し、ペットボトル入りの オレンジジュースを頭のてっぺんからぶっかけられては覚醒した。 30分後、まりさの頬には4対の突起がまるでヒゲのように誕生した。 「ぷっ。くっ、あはははは、ゴメンゴメン。まるでネズミさんのようだったから。チュウまりさとでも呼ぼうかなあ」 相変わらず軽い態度をとるお兄さんをなんとかに睨み返すまりさ。 足は焼かれ、顔にネジが埋め込まれ、それでもまりさの心は折れなかった。 「今日の所はボクの負けさ。それではまた明日、おやすみ。まりさ」 お兄さんは部屋を出て行き、照明が落とされて暗闇に取り残される。 「おちびたち…お腹を空かせているだろうね…ごめん。れいむ、おちびたちをゆっくり頼むよ」 まりさは残してきた家族のことばかりを心配をしていたが、極度の疲労のためか間もなくまどろみに 落ちていった。 「ゆっくりただいま!みんなおかあさんの言うことを聞いてよい子にしてたかな?」 「おとうしゃんゆっくりおかえりなさい!かえってくるのがおそいから、おかあしゃんがとーーってもしんぱいしたんだよ」 「ゆゆ!?ごめんねれいむ…。でもゆっくりできるゴハンがたくさん取れたよ!」 「今日もゆっくりお疲れ様、まりさ。おちびちゃんたちがかたつむりさんが一杯居る場所を見つけてくれたんだよ。」 「ゆっへん!いもうとたちとみんなで、がんばってとってきたんだよ!」 「すごいね!かたつむりさんがこんなに!?こんな豪華な夕飯は生まれて初めてだよ」 「さあ、みんなお父さんの取ってきた分も合わせて分けたらゆっくりいただきましょう」 「「「むーしゃ、むーしゃ。しあわせ~~~~~!」」」 きっとこれからも何度と無く繰り返されたであろう団欒の風景。 きっともう戻れないであろう幸せの風景。 夢であっても見れたのは正に幸運であったろうか。 次にお兄さんが部屋に来たのは翌日の夜だった。 「遅くなってごめんね。お腹空いただろう?なにか食べるかい」 お菓子やらパンやらの入ったビニール袋を掲げて見せるが、まりさは拒絶する。 「ゆうぅ…なにも食べたくないよ」 「そうかあ。まりさのむーしゃむーしゃ、しあわせ~、を見てみたかったなあ」 がっかりした表情で袋を部屋の隅に置くお兄さん。 「…そのうち出来なくなるんだし」 幸運な事に、ボソリと出た言葉はまりさには届かなかった。 次の瞬間には何事も無かったのごとく明るい表情になるお兄さん。 「じゃあ今日は、熱いのとねじねじとどっちにしようね?」 部屋にある棚から道具を選択しながらの質問。 「どんな事をされてもまりさは負けないよ!」 自分はどうなろうとも、家族の元に虐待お兄さんを連れて行くわけにはいかない。 まりさの覚悟は固いままだった。 「案内したくなったらすぐに言うんだよ?じゃあ、今日のメニューはこれ」 右手にはドライバー、左手にはアルコールランプが。 「熱くてネジネジ♪」 仰向けに寝かされたまりさはベルトで机に固定され、微動だに出来なくなった。 お兄さんはアルコールランプの炎の先がまりさの左右の『ステンレスのおひげ』の先に うまく当たるように位置を調節し、点火した。 熱がねじを伝わり、やがて餡子に到達する。 「ゆ゛あああああぁぁあづい゛あづい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」 皮膚を炙られのとはまた別の、直接餡子に熱が襲う激痛が始まる。 じたばたともがこうとするが、しっかりと固定されたベルトの所為で身動きは取れない。 「針灸みたいで、なんか餡子のめぐりが良くなって健康になりそうだね。これじゃあ 罰にならないかなあ?」 熱くて、が完了したのでネジネジの準備をしながら暢気な感想を述べるお兄さん。 「まずは下ごしらえをしないとね」 手にしたのは裁断用のハサミ。 慣れた手つきで金髪をバサバサと切り落としてゆく。 「あのね、まりさ。誤解してるみたいだけど、なにもまりさの家族を殺しちゃうわけじゃないんだよ?」 ジョキジョキジョキ。 「悪いことに加担したのは確かだけど、なにも泥棒しただけで死刑にはならないさ。 それに、ここにキミが来てから丸2日。最初からお腹を空かせていたんなら、もう すごく心配になってるんじゃないかなあ」 ジョキジョキジョキジョキジョキ。 まりさはただ歯を食いしばり、餡子を蝕む熱に耐えるしかなかった。 「だからさ、意地を張らずに家族に会いに行かないかい?」 ジョキジョキジョキ。 まりさの周辺にきれいな金髪だったモノがうっすらと降り積もった。 お兄さんはハサミをしまいに行き、代わりに3面鏡を抱えて持ってきた。 「チャームポイントのおさげだけ残してみました。お気に召しましたでしょうか」 横たわるまりさに見えるように開いた3面鏡が、熱さに悶えるまりさに変わり果てた姿を映す。 「ま゛り゛ざの髪の毛がぁぁぁぁああ」 3方向から文字通りつるつる饅頭が映し出された鏡を両手に、お兄さんはニコニコ笑顔のままで。 「安心してねまりさ。これから素敵な髪型にしてあげるよ。 ああでも、かっこよくなり過ぎて家族にまりさがわからなくなっちゃうかもね!」 いそいそと鏡をドライバーとネジに持ち替えヘアセットを開始する。 …30分後、まりさの頭部には銀色に輝く直毛がまばらに生えていた。 「こんな感じになりましたけど、いかがでしょうかお客様?ってまた気絶してる」 許容量をはるかに超えた苦痛で、とっくにまりさは口から餡子を吐いて白目を剥いていた。 お兄さんはめんどくさそうに餡子を口に入れなおし、オレンジジュースをドボドボと流し込む。 無理矢理現実に引き戻され、ゲホゲホと咳き込むまりさ。 「どうかな?ここまでされても家族を庇うのかい?」 まだ視界がぼんやりとしたまま、昨夜見た夢を思い出す。 まりさはただ黙ったまま、弱弱しくもお兄さんを睨み返した。 「明日も仕事だし、ここまでかなあ。ホンっトまりさは頑張るね!」 アルコールランプの火を消し、新たな頭髪が植えられた頭部にもオレンジジュースを たっぷりとかけてから。 「今日もまりさの勝ちでいいよ。ゆっくりおやすみ」 拘束しているベルトはそのままに、お兄さんは部屋を後にした。 明かりが落ち、再び暗闇に支配される部屋。 頬のねじを熱せられたことで内部の餡子に軽いヤケドが出来たようで、体の内側から ジンジンと痛みが自己主張を続ける。 頭部のねじの痛みはオレンジジュースでかなり緩和されていたが、餡子まではその効果は あまり届かなかったようだ。 まりさは一晩中、鈍痛でうなされ続けて夢を見るどころか一睡も出来なかった。 「ゆっくりおはよう、まりさ。よく眠れたかい?」 「………」 翌日の晩、お兄さんが部屋に入ってきて声をかけてもまりさは無反応だった。 疲労、睡眠不足、飢え、そして痛みと積み重なってきた『ゆっくりできないこと』は 確実にまりさの精神を蝕んでいった。 「無視するなんてひどいなあ。でも今日の罰も気にせず開始するからね」 昨日髪を無残に切り落としたハサミを再び手に、拘束されたままで動けないまりさの前に現れるお兄さん。 ハサミを持たない方の左手でそっとまりさの口に人差し指を突っ込むと、次に親指とで上の唇をつまむ。 次に何をされるかと想像し、必死に顔を逸らそうとするが既に上唇はガッチリとつままれ 皮がビロンと伸びるのが逆に滑稽だった。 「じゃあ今日の罰のまずは下ごしらえ。まりさの唇を奪いまーす。っていってもチュッチュするわけじゃ ないんだけどね」 鼻歌まじりに、摘まんで伸ばした上唇に遠慮なくハサミを入れていく。 ジョキジョキジョキ。 「ねえ、キミの家族ってさ、帰ってこないお父さんの事を自分たちを捨てたって考えて 怨んでるかもしれないよね?」 まりさは目を見開いたまま何も答えない。 その視線は眼前のお兄さんを捉えているわけでも、何かを見ているというわけでもなかった。 無反応のまりさにつまんないなー、とつぶやきつつも作業を続ける。 元々は饅頭の皮なのだから唇はみるみる切り裂かれて、とうとう上半分が取り除かれた。 「歯も歯茎もむき出しで、おおきもいきもい。では続いて下半分もいっちゃおー」 もう何をされてもまりさはなすがままだった。 このまま、まりさは嬲り殺しにされるだろうね。 別に好きにすればばいよ、生きてここを出る事は諦めちゃった。 ただ心残りは残してきた家族の事だけ。 帰ってこない父親を怨んでいるかもしれない。 既に自分の事など忘れてしまっているかもしれない。 それでもとにかく…無事に皆でゆっくりしていてくれればそれでいいんだ。 「はい。これで上手にごーくごーくも出来ないし、ちゅっちゅも永遠に出来ないまりさの完成でーーす」 切り取った皮を無造作に背後にポイと投げ捨ててお兄さんが宣言する。 「でもこんなのはあくまで準備なんだよ。これからまりさには永遠にむーしゃむーしゃ、しあわせー が出来なくなる事をしちゃうんだけど、何か言うことは無いかな?」 ここまでやっておいて、ここまでされても家族のことを言わないまりさに敢えて聞くお兄さん。 こんな風に全身をメチャクチャにされて、もはや自分は『ゆっくり』と言えるのだろうか。 「殺じで……さっさとま゛り゛ざを殺ぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」 「ああ残念。ボクが聞きたかった言葉とは違うなあ」 片手に愛用のドライバーと、もう片手には今度はヒゲや頭髪に比べて細くて短めのネジを。 「では邪魔な唇も無くなったし、歯にねじねじしようかなあ。うんうん、虫歯は無いようだね感心感心」 コツンとネジが前歯に当てられ、グリグリと先端で傷を付けて中心を定める。 ネジ頭にドライバーをあてがい、お兄さんの腕にぐっと力がこもる。 ギギギギ、ギリギリ。 ゆっくりの歯は飴細工で出来ているという。 ステンレス製のねじは多少の抵抗を受けつつも、やすやすと貫通していく。 ギリギリギリギリギリ。 わざとらしく、じわりじわりとしかドライバーを回さない。 「ゆぎぃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ殺ぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛殺じでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」 4cmほどのねじの丁度半分が歯を貫いたところで1本目の処置が完了した。 歯の厚さを差し引いた分、口の内側に銀色の先端が姿を現している。 唇が無いのでよだれが周辺に飛び放題になり、お兄さんの服にもシミを作ったが、大して気にも留めても居ない。 今は虐待という世間一般には絶対に知られてはならない趣味を全身で堪能しているからだ。 このまりさの、この悲鳴は2度とは奏でられない。 全身全霊をもって発せられるこの音を、一秒たりとも聞き逃す事なんてどうして出来ようか? 「んー。全体のバランス的に考えて、それぞれの前歯に1本ずつで8本。今日はあと7本ねじねじって所かな 時間もあんまり無いしどんどん行ってみよ~!」 ギリギリギリギリギリ、ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。ギリギリギリギリギリ。 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛ 痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛ も゛う゛や゛だお゛う゛ぢ帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅう……」 5本目の途中でガックリと気絶したまりさ。 既に傍らに準備されていたオレンジジュースで、間髪入れずまりさの意識を引き戻すお兄さん。 「やあ、おかえりなさい。まりさ」 笑顔のお兄さんの優しい言葉にまりさは。 「ゆ、ゆっくりただいま…。れいむっ!?」 ほぼ数秒意識が遠のいたときに、家族の元に帰れた幻影でも垣間見ていたのであろうか。 だが幸せなひと時も一転、まりさは自分の置かれている状況を再認識して絶望する。 「ゆ゛んやぁぁぁぁぁああ!ま゛り゛ざ帰る゛の゛!お゛う゛ぢ帰る゛の゛ぉぉぉぉぉぉぉ」 もはやただの駄々っ子と化したまりさに、容赦なくお兄さんは残りの作業を開始する。 途中、一旦入ったねじを逆回転させて戻してからまた入れてみたりとか散々したために、全部の前歯にきれいな ねじ頭が生えた頃には用意したオレンジジュースがほとんど無くなってしまうのだった。 翌日、お兄さんが虐待部屋に来たとき、まりさはうっすら開いた目で天井をぼんやり眺めたまま 「帰りたい」とブツブツ呟くだけだった。 「おうちに帰りたいなら連れてってあげるけど?」 というお兄さんの問いかけにも完全に無反応。 はたして、泥棒してしまう前にかえりたい、こんな姿になる前にかえりたい、という意味だったのか もしれない。 お兄さんはため息一つ、固定していたベルトを外しはじめた。 「ごめんね、まりさ。調子に乗ってやりすぎちゃったみたいだ。しばらくゆっくり休もうね。 あ、そうだ。まりだとは別のゆっくりと今暮らしてるんだ。その子たちに会わせてあげるよ。 すごくゆっくりしたいい子ばかりだから、きっとまりさとも仲良くしてくれるよ」 『ヒゲ』や『頭髪』そして『歯の一部』が邪魔なので透明な箱に入れるわけにもいかず、底面を両手で そっと持ち上げてまりさを運ぶお兄さん。 この悪夢の出発点、台所のある部屋に待っていたもの。 「「「「むーしゃむーしゃ、しあわせーーーー」」」」 「おいちいね!すごくおいちいね!」 「ほらほら、あんまりがーつがーつしちゃ駄目だよ」 床に置かれた皿に山盛りのゆっくりフード。 それを囲んで堪能する成体サイズのゆっくり1匹と4匹の子ゆっくり。 お兄さんが部屋に入って来たことに気づくと、一旦食事を中断して振り向いて。 「「「おにいさん、ゆっくりいただいてます!」」」 それまでブツブツと繰り返していたまりさは、その顔を見てガクガクと震え出した。 自分が死ぬ間際に夢を見ているんだろうか? 見間違えることがあるはずのない、愛しいれいむ、子供たち。 どうして今、このお兄さんの家に? 「あれ?どうしたのまりさ。この子達と知り合いかな?」 自分を抱きかかえたお兄さんの言葉にはっと我に帰る。 まずい。知られてはいけない。 絶対に知られてはいけない。 「し、知りません。ぜんぜん知らないゆっくりだよ」 「あ、そう。じゃあこれから紹介するけど…」 先ほどまで団欒していたゆっくりの親子を見ると、まりさを凝視したまま固まっていた。 飾りのおぼうしも無く、髪も無い。 銀色のヒゲに頭髪。 唇も無く剥き出しの歯からはネジが生えている。 なんなのだろう?一体、全然ゆっくりできない。 「これはボクの家に泥棒に入ったゆっくりなんだ。しかも他に仲間がいるらしいんだけど そいつらのことを教えろって言っても庇うゲスなんだ。 だからたくさん罰を与えた結果、こういう姿になっちゃんだよね」 親子はお兄さんの説明を受けても、これが自分たちと同じゆっくりだとは到底信じられないと いった表情だった。 「そしてこのれいむ親子は3日前だったかなあ。朝仕事に行こうとしてたら、すぐそこの所で 行き倒れになってたんだ。 一旦家まで連れてきて、ゴハンだけあげて急いだんだけどまた遅刻で大目玉さ。 で、帰ってきてから事情を聞くと、お父さんゆっくりが狩りに出たまま一晩戻らなかったって。 お腹を空かせたまま夜明けを待ち続けて、それからずーーっとこの辺を探して回ったって」 今度はまりさに親子の事情を説明するお兄さん。 これで納得がいった。 帰らない自分を心配して一家総出で探しにきたのだ。 結果、数日間まともに食べていないゆっくりが遭難するのは当然のことであろう。 ゆっくりの行動範囲は実際は大して広くは無い。 お決まりの狩り場、というのを探そうとすればこのお兄さんに遭遇するのも仕方が無いこと だった。 「じゃあ、みんな一緒に生活するんだから仲良くしていってね」 まりさを大皿の脇に置いて親子の食卓に参加させるお兄さん。 れいむ達はおぞましい姿のゆっくりが改めて間近に来てビクっとしたが、お兄さんが笑顔のまま 一度だけうなずいて促す。 「で、ではあらためて…」 一匹を新たに加えて食卓を囲む一同が声を合わせて。 「「「「ゆっくりいただきます」」」」 まりさは複雑な気持ちだった。 家族全員無事だった事。 ここならなに不自由なく暮らせるだろう事。 しかし、自分が父だと言い出せない事。 さらに、この人間が本当に家族を飼いゆっくりとしてゆっくりさせるだろうかという事。 「「「むーしゃーむーしゃ、しあわせーーー!」」」 ゆっくり特有の習性。 皆が声を揃えて幸せな気分を表現する。 しかし、まりさには出来なかった。 団欒の中でまりさだけが出来なかった。 物を噛むと歯に激痛が走るからだ。 仕方なく少しずつ舌でペロペロとすくいとり、口に運ぶと噛まずに飲み込むことしか出来ない。 今まで味わったことの無い甘味が口内にしっとりと広がるが、何故かしあわせー、な気分に なることは出来ない。 それでも、再び家族とこうして一緒に居られるなら。 そこがまりさのゆっくりプレイスなのだから。 ゆっくりたちのそれぞれの食事の風景を、目を細めつつ見守るお兄さん。 その胸の内では、次はなにをしよっかなー、と無邪気な虐待魂を燃え上がらせていたのだった。 その日の晩、お兄さんも自分の寝室に行き、親子ゆっくり達もゆぴゆぴと安らかな寝息を立てた頃。 「れいむ起きて。ねえ、れいむ。ゆっくりしていないで起きて」 まりさの少し潜めた感じの呼び声で母れいむは目を覚ました。 「だいじなお話があるんだ。まりさは実はれいむのまりさなんだ。みんなのゴハンを集めなきゃって このおうちに入っちゃってこんな事に……。 ここのお兄さんは全然ゆっくりできない人だから、お願いだからゆっくりしないでここから出て行ってね」 まりさはれいむにだけは真実を話しておこうと思った。 れいむは賢く、冷静なゆっくりだからばれる前に子供たちをつれて上手く脱出できる方法を考えてくれるだろう。 「いきなり何を言ってるの!?そんなこと言われてもゆっくり信じられないよ」 れいむのこの答えも当然だった。 目の前のボロクズのような、ゆっくりとさえ言えない様なモノにいきなり旦那宣言されたのだ。 そこでまりさはれいむとの過去の出会い、永遠に一緒にゆっくりする事になったきっかけや 子供たちが生まれてからのことを出来るだけ細かく思い出しながら説明した。 そこまでされてようやく、れいむは探し続けていた夫を見つけることが出来たのだった。 それと同時に、行き倒れていた自分たちを手厚く保護してくれた同じ人間が、ゆっくりに対してこのような 虐待を行うことが出来るのかと戦慄するのだった。 「ゆぁぁ…まりさ…どうしてこんなことに」 「れいむ達が無事で良かった…頑張った甲斐があったよ…」 れいむがまりさの頬にすがりついて今までの分も含めて思い切りす~りす~りをし、2匹はしばらくそのままで 涙を流すのだった。 ようやく落ち着いた後、しばらくお互いに知らないフリをしてチャンスを伺う事にした。 れいむはまた元の子ゆっくりたちが一かたまりになって眠っている場所に戻っていった。 「ゆっくりおやすみ、れいむ」 「ゆっくりおやすみ、まりさ」 ドア一枚向こうのお兄さん 「ゆっくりおやすみ」 2?に続きます。
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キャラクター CVは一部ダメ絶対音感によるものなので完全に確定はしていませんが キャラクター名の横に声優名があるものは公式・雑誌などで確定済みのものです。 ムービーの呼び方を統一させます 初期PV(ファミ通付録DVD) OP(公式オープニングムービー) ラッシュPV(公式ラッシュムービー) PV A(プロモーションムービーA) PV B(プロモーションムービーB) メインキャラクター主人公(CV:浪川大輔) 花村陽介(CV:森久保祥太郎) 里中千枝(CV:堀江由衣) 天城雪子(CV:小清水亜美) クマ(CV:山口勝平) 巽完二(CV:関智一) 久慈川りせ(CV:釘宮理恵) 白鐘直斗(CV:朴璐美) ベルベットルーム関係者イゴール(CV:田の中勇) マーガレット(CV:大原さやか) サブキャラクター堂島遼太郎(CV:石塚運昇) 堂島菜々子(CV:神田朱未) 足立透(CV 真殿光昭) コミュキャラクター海老原あい(CV 伊藤かな恵) 一条康 長瀬大輔 小沢結実(CV 伊藤かな恵) 松永綾音 キツネ 上原小夜子 南絵里 その他諸岡金四郎 柏木典子(CV 大原さやか) 祖父江貴美子 柊みすず 生田目太郎(CV 服巻浩司) 久保美津夫 伏見千尋(CV:前田愛) 江戸川先生 シャドウ陽介の影(CV:森久保祥太郎) 千枝の影(CV:堀江由衣) 雪子の影(CV:小清水亜美) 完二の影(CV:関智一) りせの影(CV:釘宮理恵) クマの影(CV:山口勝平) 美津夫の影 直斗の影(CV 朴璐美) グラフィックなしガソリンスタンド店員(CV:浪川大輔) 河野剛史 南勇太 中村先生 メインキャラクター 事件に挑むペルソナ使いたち 主人公(CV:浪川大輔) 初期ペルソナ:イザナギ アルカナ:? 武器:長剣 高校2年生の少年。 都会で生まれ育つが、ある日両親がそろって海外へ赴任することに。 言葉も通じない土地に移住するよりはと、母方の親戚を頼って稲羽市へと移住してきた。 親戚の家に居候しながら八十神高校に通うことになる。 彼はこの田舎町で、数々の冒険や戦い、 そして大切な仲間たちとの出会いを経験していくことになる…。 ひそかに手品が趣味らしく、菜々子が落ち込んだ時などよく見せている。 前作同様、女たらしの面もあるものの前作主人公ほど神経は図太く無い。 説明書内部のゲーム画面では、「月森 孝介」とされている(詳細はパロディの項を参照)。 クリティカル演出は横薙ぎ→振り下ろし→ジャンプ斬り上げ。 召喚演出はペルソナカードを握りつぶす。 花村陽介(CV:森久保祥太郎) 初期ペルソナ:ジライヤ アルカナ:魔術師 武器:短剣 主人公の同級生。 もとは都会育ちだが、親の転勤にともない半年前に稲羽市へ引っ越してきた。 父親は市内にオープンしたスーパー「ジュネス」の店長。 陽気な性格だが、実は腹を割って話せる友達が少ない。 地元商店街にとってライバルとなる、スーパーの店長の息子だということが大きく影響しているようだ。 女好きで、お調子者的な側面もあるパーティーのムードメーカーで、 なんやかんやといいながら面倒見が良く、協調性に富み、人当たりも良いため、 顔には出さないが、色々と苦労を背負い込みがちである。 とあるきっかけで事件を解決しようと決意し、 その手立てを持つ主人公に、リーダーとなって自分たちを率いてくれるように頼みこむ。 赤いヘッドホンがトレードマークで、のど飴が好きらしく、いつもポケットに持ち歩いている。 クリティカル演出は右袈裟斬り→左袈裟斬り→ジャンプ斬り上げ。 召喚演出はペルソナカードをアクロバティックな斬り上げで斬る。 追撃は自身をコマのように高速回転させて「クリティカルヒット」。 里中千枝(CV:堀江由衣) 初期ペルソナ:トモエ アルカナ:戦車 武器:靴 主人公の同級生で、小学校、中学校と地元で過ごしてきたごく普通の少女。 行動的でよく喋る、人懐っこい性格で、主人公が転校してくる前から、 無用の反感を持たれている花村とも偏見なしに友達付き合いしていた。 押しの強いタイプだが、切迫した状況に立たされると弱腰になる場面もある。 カンフー映画のマニアで、我流の足技を習得してるようだ。 成績は中の下程度。雪子ほどでは無いにせよ割と美人で性格もいいので校内での人気は高い。 よく体を動かしているせいか、食欲旺盛で、特に肉類が好き。 成龍伝説というDVDを大事にしている。 クリティカル演出は二段踏み蹴りからの飛び蹴り(浴びせ蹴り?)。 召喚演出はペルソナカードを後ろ回し蹴り。 追撃は気合を入れたミドルキックで遥か彼方まで吹っ飛ばして「即死」させる。ラッシュPVで見せていた蹴り飛ばしがコレ。 天城雪子(CV:小清水亜美) 初期ペルソナ:コノハナサクヤ アルカナ:女教皇 武器:扇子 主人公の同級生。 稲羽市で老舗高級旅館として知られる、天城屋旅館の女将の娘。 里中千枝と仲が良く、行動を共にすることが多かったが、現在は女将修行の真っ最中。 頭の回転は速いが、周囲の空気を読むのが苦手であり、やや天然ボケな面も。 外見、性格、成績等が軒並み高レベルであり、校内一の人気を誇っていると言っても過言では無いほど。 そのため通称「天城越え」と呼ばれる現象も起こっている。 脂身の多い肉類は苦手だが、カップラーメン、特に赤いきつねのおあげには目がない。 クマからは「ユキチャン」と呼ばれてる模様。 救出後は、ありのままの姿を見せるようになり、よく食べ、よく笑い、たまに暴言も吐く、普通の少女(少し変わっているが)になった。 クリティカル演出は扇を左右に振って斬りつける→ジャンプ斬り上げ。 召喚演出はペルソナカードを扇で浮かせてから回転斬り。 追撃は集中、狙いすまして扇を放ち「クリティカルヒット+気絶付着」。攻撃時の台詞はドスが効いてて怖い。 クマ(CV:山口勝平) 初期ペルソナ:キントキドウジ アルカナ:星 武器:拳・爪 テレビの中の異世界に、一人で住んでいる謎の存在。 少なくとも人間ではなさそうだが、その正体が何であるかは全く分からない。 クマ自身も自分が何なのか分かっておらず、よく一人で頭を悩ませている。 可愛らしい着ぐるみのような姿をしているが、 その中身は空っぽという、よくよく考えると不気味な存在だ。 また、チャックが付いていると思いきや別にチャックを外さなくても頭が外れるという意味不明な構造。 ナビと戦闘にも参加している。ペルソナを会得した事によって戦闘に参加するようになる。 見た目モチーフはハンプティダンプティ? 語尾は「クマ」。後に特訓の末ちゃんとした身体を手に入れるが、やっぱり語尾は「クマ」。 ただし女を口説くときは語尾からクマが消え、声のトーンも変わる。 寂しん坊ならぬ「寂しんボーイ」らしい。 臭いでシャドウやクマの世界に迷い込んだ人間を感知できる。 クリティカル演出は右手で突き→回転切り→ジャンプ切り上げ(着地時に尻もちをつく)。 召喚演出はペルソナカードを回転切りをする。 追撃は飛んで相手に頭を向け回転して「クリティカルヒット」なぜかキメポーズをする。 巽完二(CV:関智一) 初期ペルソナ:タケミカヅチ アルカナ:皇帝 武器:鈍器(PVではパイプ椅子を装備) 八十神高校の生徒で、主人公よりも一つ下の学年の一年生。 "中学時代に一人で族を潰した"と噂されており、札付きの不良として稲羽市にその名を轟かせている。 しかし、その噂からも分かるように徒党を組んで悪さをするようなタイプではない。 今どき珍しい、硬派な不良のようだ。よく間違えられるが暴走族の類ではない。 逆に、騒音による不眠症で悩む母親のために暴走族を潰したという猛者である。 長身に鋭い目つき、鼻ピアスといったゴツイその外見に反し、一般的にいって女性が嗜好する趣味・趣向を持っている、いわば「オトメン」。 幼い頃は野球等のスポーツよりおままごとを好み、女性以上に裁縫や絵画が得意なため、 それをからかわれ続け、周囲から孤立し、シャドウを産み出してしまう原因となってしまう。 その趣味は現在も変わるどころか、さらに高いスキルを持っている。 クマやキツネなどのふさふさした可愛いものが好きな、動物好きでもある。 完二本人はホモというわけではなく、見た目とギャップのある趣味を馬鹿にする女性を嫌い、 男といたほうが楽、けれどそれもやはり、本来の姿をひた隠しにしての結果であり、 ありのままの自分を周囲に受け入れてほしいという、抑圧された意識と上記の事情からあのシャドウが生まれてしまった。 歳相応の男子高校生らしく、エロスな事柄には鼻血を出す事も。 女性に対しては雪子や千枝には好意的な反応を示す反面、近所付き合いのあるりせとは腐れ縁的な関係のためか、反応が薄い。 しかし、直斗のこととなると時折、超反応を返すほど。 シャドウの時のことをネタに延々と陽介にいじられては、豪快にキョドり、暴走して結果自滅する。 千枝、クマ同様の大食。 どうやらそれは、常に食卓に五人前以上の料理を満載する母親の影響らしい……。 女手一つで育ててくれた母親に対して、人前では強がるが、実は全く頭が上がらず、 たった一人の肉親ということで、ことのほか大事にしている。 ……同時に、素行の良くない自分のことで迷惑をかけていることで後ろめたく思っている部分も。 クリティカル演出は近距離で武器投げ→ケンカキック→スマッシュ。 召喚演出はペルソナカードを武器で薙ぎ払う。 追撃はジャンプして地面に衝撃を与えて「敵全体にクリティカルヒット」。 ペルソナのデザインは「感電によるレントゲン状態」というコンセプトだと思われる。 久慈川りせ(CV:釘宮理恵) 初期ペルソナ:ヒミコ アルカナ:恋愛 全国区で名前が売れている、人気絶頂の準トップアイドル。 数年前に芸能オーディションで優勝し、彗星の如くアイドルデビューを果たした。 都会で活動を続けていたが、突如八十神高校の一年生として転校してくる。 テレビCMにも起用され順風満帆だった彼女に、どのような事情があったのかは一切不明だ。 実は、稲羽市出身らしい…。 スタイル抜群で、いわゆるアイドル体系である。 そのペルソナは、呪術に優れ、未来を予見したという邪馬台国の女王の名を冠しているためか、 その役割は直接戦闘ではなく、探索補助・索敵等のナビゲーションである。 救出後、主人公に好意をもったらしく、ことあるごとに積極的にアピールしてくるため、 他の女性キャラ(特に千枝)からはやや危険視されている。 職業柄、鬱積したものが多く、酔うといろいろ危険なカミングアウトを始めてしまう。 ちなみに彼女の料理は通称「溶岩」。 本人の嗜好がそうなのか、とにかく辛くて鈍痛がするらしい。 アイドル業の時とは異なり、実家である豆腐屋の店番をしている時は割と地味、 そして意外にも生真面目で、自分の家の豆腐に誇りを持っている。 白鐘直斗(CV:朴璐美) 初期ペルソナ:スクナヒコナ アルカナ:運命 武器:銃 高校1年生。 連続怪奇殺人事件への捜査協力を求められ、定期的に稲羽市を訪れている。 そのためか、事件にまつわる場所で、何度も主人公たちと出会うことになるようだ。 どうやら事件の核心につながる手掛かりをつかんでいるようだが、その詳細は謎である。 大正時代から名探偵を輩出してきた名家・白鐘家の若き5代目(携帯用公式ページ情報)。 テレビで「探偵王子」と呼ばれて取材を受けるほどの有名な探偵少年らしい。 探偵として5代目なのか、単に家の跡継ぎとして5代目なのかは、現時点では不明。 持っている銃(形状からしておそらくニューナンブ)が、法的に認められているのかどうかは不明。 セリフの端々から、一匹狼タイプの匂いがうかがえる。 ズボンの裾を折り返していたり、底の厚い靴を履いていたりと、チビキャラ疑惑が濃厚。 寒がりなのか、冬はコタツとホットカーペットを同時に使うらしい。 クールなキャラを装っているが、実は内心どうにもならない悩みを抱えてたりする。 クリティカル演出は銃撃しながら接近→標的を蹴り上げてダウン。 召喚演出はペルソナカードを銃で撃ち抜く。ある意味で前作の召喚演出に近い。 ベルベットルーム関係者 導き手たち イゴール(CV:田の中勇) シリーズでお馴染みの老人、ベルベットルームの主である謎の人物だ。 主人公は、このイゴールの力を借りることでペルソナの合体を行う。 今回はタロットカードで主人公の運命を占ったりしている。 今回のベルベットルームはリムジンの中。 3に比べてよく喋り、よく笑うようになっている。 マーガレット(CV:大原さやか) アルカナ 女帝 イゴールの助手。 マーガレットは、生み出したペルソナをリスト化し、 お金と引き換えにいつでも呼び出せる"ペルソナ全書"を管理している。 主人公の心そのものであるペルソナに乗りたいがために「炎をぬるく」しようとしたり、全く掛かってない謎掛けをしようとしたり、 即興でいい話を考えて披露するも肝心な所で噛んで拗ねたりと 前作のエリザベスに負けず劣らず天然なところがある。 「ペルソナ アインソフ」にも出張中 元ネタはエリザベスと併せ「若草物語」と思われがちだが イゴール・エリザベス・マーガレット全て映画「フランケンシュタイン」「―の花嫁」である(出典:ペルソナ倶楽部3) サブキャラクター 主人公の周辺関連 堂島遼太郎(CV:石塚運昇) アルカナ:法王 主人公の母の弟で、娘の菜々子と二人暮らし。 仕事一筋で眼光鋭く、口調もややぶっきらぼうだが、 両親の仕事の関係で、環境が突然変わった主人公を温かく迎え入れる。 職業は刑事。 年齢は定かではないが、主人公とはそれほど年が離れているわけではない(兄貴というほうが近い)そうなので、 おそらくまだ30代と思われる。 職業柄、不良少年の完二のことには詳しい(少年課の刑事ではないが)。 捜査において、物事を「偶然」で済ませないことをポリシーとしているらしく、 時期や交友関係から主人公を疑わざるを得ない状況に悩んでいる。 服のセンスはイマイチで、菜々子は面白がり、主人公はやや閉口気味なようだ。 家事はほとんどできないが、コーヒーを入れるのだけは一家で彼の役目らしい。 堂島菜々子(CV:神田朱未) アルカナ:正義 堂島 遼太郎の娘で、小学一年生。 主人公の従妹にあたり、やや人見知りはするが、素直で純粋な性格。 まだ幼いが、仕事が忙しくてしょっちゅう家を空ける父に代わり、家事をこなすしっかり者。 が、1人で料理は危ないからとの理由で朝食の目玉焼き程度の物意外はお惣菜などを買っている。 近頃、市内にオープンした大型スーパー「ジュネス」に興味津々。 クラスのブームであるジュネスのテーマソングを特に好み、ことあるごとに歌う癖がある。 彼女のジュネス好きは店長の息子・花村をも感動させる。 ゴールデンウィークをきっかけに、主人公の仲間たちとも親しく付き合うように。 …実は非常に感覚が鋭く、彼女の何気ない言葉が、後に真相を暴く手助けとなる。 足立透(CV 真殿光昭) 堂島の部下の新米刑事。 死体を見て、吐いてしまったりするあたり、あまり気の強いほうではなく、 捜査情報を一般人に漏洩しまくり、よくジュネスで一息ついているなど、 職務にあまり熱心な方ではない。 その辺、仕事一筋で家庭をほとんど顧みようとしない、堂島とは対照的。 度々、堂島宅に上がって主人公達と一緒に夕飯を食べる事もある。 今年、本庁から転勤してきたらしい。 コミュキャラクター 絆を育む人々 海老原あい(CV 伊藤かな恵) アルカナ:月 運動部マネージャーだが、それは単位のためで、実質活動はしてくれない。 今時の遊んでる女子高生です的な外見。素行不良でよく授業を抜け出している。 実はあるトラウマを抱えており、彼女の過去は今の姿からは想像できないほど酷い物だったらしい。 庇ってもらったことをきっかけに、運動部の2人のどちらかに好意を抱くが……? 一条康 アルカナ:剛毅 バスケ部部員でスポーツ万能なだけでなく、顔もよく頭もいいという 要領のよさで、女生徒たちにモテモテ(ただし、本人曰くいい人どまり)。 人当たりが良いため、男子生徒の友達も多い。 …顔が広いせいか、よく合コンなどをしているようだが、 実は、主人公もよく知るある人が本命。 バスケに対する意識は高く、用具の手入れなどもきっちりしており、その真摯さがうかがえる。 やる気のない他の部員たちに頭を悩ませているが…? 実家は名家だが、実は後継ぎとして孤児院から引き取られた養子。 長瀬大輔 アルカナ:剛毅 サッカー部部員。 才能はあるが、どうも全力を出し切っていないようで、 用具の手入れや後片付けなどもかなりいい加減な模様。 一条と合わせて、女生徒に人気があるが、女性嫌いの硬派で有名。 …むしろ、女性を避けているようにさえ思える、冷たく透徹した態度には訳があるようだが…。 小沢結実(CV 伊藤かな恵) アルカナ:太陽 演劇部部員の2年生。 部内では群を抜いて演技力があり、そのためか非常に自信家で、馴れ合いの多い部内のムードを嫌っており、 部長の彼女というだけで副部長になっている1年先輩の女生徒に対しては、挑戦的な態度を取ることが多い。 その陰には、「自分以外の人生を送りたかった=自己からの逃避」というジレンマを抱えている。 松永綾音 アルカナ:太陽 吹奏楽部部員。 演劇部と二者択一。 いつまで経っても演奏が上手くならず、全く活躍出来ず、 雑用に徹してばかりの自分に不満があったが、才能のなさを理由にずっと逃げている。 演奏会への出演者に選ばれたことをきっかけに、そんな自分を変えようと努力し始めるのだが、結局……。 キツネ アルカナ:隠者 辰姫神社で出会う謎のキツネ。 どうやらボロボロになった神社を再建したいらしく、お金(お布施)を必要としている。 目つきが非常に悪いが、仕草はとても可愛い。 何故か不思議な力を持つ葉っぱを多数所持しており、ダンジョンにも現われ、 回復係として、主人公たちの手助けをしてくれるようになる。ただしきっちり有料。 また、コミュランクが上がれば回復料金も安くなる。 ……が、動物らしく、非常に気分屋。 上原小夜子 CV 村上仁美? アルカナ:悪魔 稲羽市立病院で働く看護士。 妖艶な女性で何かと主人公を色仕掛けで誘惑してくる。 ある条件を満たさないとコミュは発生しない。 南絵里 CV 村上仁美? アルカナ:節制 夫の連れ子である義理の息子との付き合い方が分からないらしい。 また主人公と同じく、都会からやってきたことと、後妻という立場から、 周囲から馴染めずにいる。 その他 八十神高校関係者 諸岡金四郎 CV 龍谷修武 主人公、花村、里中、天城の担任。 "えんえんと長い説教をする先生"と有名。 かなり石頭で、高圧的な説教はもはや毒舌の域。 担当教科は倫理。 主人公の部活を「出会い目的」と認識しているが、 実際そのとおりなので言い返せない(コミュ的な意味で)。 生徒間でのあだ名は「モロキン」。 生徒達を容赦なく罵倒したり死んだ人間の尊厳を傷つけたり、 「腐ったミカン帳」なる反抗的な生徒のリストをつけていたりと、人間的にも救いようが無い。 後にこれが、最悪の事態を引き起こす事となる(言ってしまえば、自業自得ではあるが)。 曰く、主人公は都落ちした落ち武者。 余談では女好きで、天城雪子に目をつけ、久慈川りせの写真集なども買っていた。 …どうやら、未だに独身のようだ。 柏木典子(CV 大原さやか) 7月11日から担任となる先生。 若い子を目の敵にしている、少々自意識過剰な女性 地味に40歳を越えているらしいが… 大谷と仲がいいようだ 祖父江貴美子 八十神高校世界史教師。 エジプトのファラオみたいな被り物(メネス)をしている。 一人称が「わらわ」。 見た目に反し授業内容はかなりマトモで、生徒への態度も丁寧なのでウケは悪くない。 生徒間でのあだ名は「カーメン」 趣味はダウジング。 実は3に登場したある人物と非常に深い関係がある。 事件関係者? 柊みすず 演歌界の若きプリンセス。 生田目太郎(CV 服巻浩司) 市議会議員。昨年柊みすずと入籍した。 稲羽市に移り住んだようで、商店街では度々姿を見かける。 久保美津夫 他校の男子生徒。物語序盤で雪子にいきなり告白、そしてあっさり振られ勝手にキレて去って行った。 根暗で、引きこもりがちな生活のためか肌は真っ白、目は全体的に黒目勝ちで焦点が合っていない印象がある。 大きな事ばかり周りに吹聴するも、その実、自分は何もできず、それでいて周りを完璧に見下していると人間的にも救いようが無い。 物語中で起こすある事件から、主人公達に関わる事となるが…… 旅先で出会う人々 伏見千尋(CV:前田愛) 修学旅行で出会う私立月光館学園の生徒。 雑誌による前情報では「利発そうな女子生徒」との紹介であったが、 陽介曰く「一番の眼鏡美人」で完二すらはっきりと「可愛い」と言った。 が、しっかりしてると思いきやどこか抜けてる所はあまり変わってないようだ。 公式仕掛けのマヨナカテレビ7/8分の発表で千尋である事が確定。 江戸川先生 修学旅行で特別授業を受け持つ私立月光館学園の保険医兼科学教師。 女神異聞録ペルソナの黒瓜に引き続く、アトラス社員をモチーフにしたキャラクター。 「ヒヒヒ……」という笑い声が特徴で、オカルトに精通している。 P3では体調が悪い時か風邪の時に尋ねると、実験台にされるというステータス上げイベントがあった。 シャドウ 異形の存在たち 陽介の影(CV:森久保祥太郎) 名前通り陽介のシャドウ。変化前は目が不気味に輝き、いつもとは違い邪悪な笑みを浮かべていた。 暴走形態はジライヤが大型化したような姿で、下半身が大蝦蟇。 陽介が抱える「退屈なものを破壊したい」という感情が具現化された姿。 弱点が電撃系統。戦闘は主人公一人で行うが、ジオを当てれば全く相手にならない。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウ陽介」という名だった。 千枝の影(CV:堀江由衣) 変化前は千枝そのものだが、口調がやや高圧的。 影の様な外見になった千枝から鎖が伸び、その上に鎖を握った女王の様な立ち居振る舞いのトモエが座る。 千枝の抱える「雪子に頼らせたい」という欲望が具現化された姿。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウ千枝」という名だった。 雪子の影(CV:小清水亜美) 変化前は豪華なドレスに身を包み多少過激な性格を出していた。 下部に蝋燭が灯されたシャンデリアのような豪著な鳥籠に、雪子の頭部をもった赤い巨鳥が入っている。 その姿はまさに、「籠の中の鳥」と言えるだろう。 胸部に白い部分があり、ハート型になっている。 雪子が抱える「役目から逃避したい」という願望が具現化された姿。 完二の影(CV:関智一) 変化前は褌姿で顔を赤らめ、口を尖らせながらレポートをしているどう見ても「ソッチの人」な外見。喋り方もオカマ臭い。 首の代わりに沢山の薔薇の花を咲かせた、肉団子のような白黒の巨人から完二の上半身が生えている姿。 横にガチホモブラザーズ(ナイスガイ、タフガイ)を引き連れている。二体とも地味に強い。 一度倒されても、なおも「男」に受け入れてもらおうとした。 完二の持つ「誰にも拒絶されたくない」というトラウマが具現化された姿。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウ完二」という名だった。 りせの影(CV:釘宮理恵) 変化前は水着姿でツーサイドアップの髪型で、本人よりスタイルがよくなっている。 ポールダンスをするストリッパーの様な極彩色で、頭にりせの髪があるヒミコの顔をした女性型シャドウ。 HPが一定以下になると「マハアナライズ」という専用スキルを使い、 以降は一切攻撃が通用しなくなる恐るべき敵。 最終的にクマの特攻で倒された。 りせの持つ「誰も本当の自分を見てくれない」という悩みが具現化された姿。 クマの影(CV:山口勝平) 変化前は少し巨大なクマそのものだが、目が不気味に鋭くなっている。 クマが大型化したような感じで、腐ったパンダみたいな姿。 そのひび割れた顔の奥から、青く不気味に光る眼を覗かせている。 すごくドスの利いた声で喋る。クマとは違い、ネガティブな言動が目立つ。 クマの中にある不安感を象徴したものと言える。 クマの持つ「本当の自分などいるのか」という疑念が具現化された姿。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウクマ」という名だった。 美津夫の影 変化前は美津夫そのもの。シャドウになってもやっぱり根暗。本体よりちょっと悟った事を言うがそれでも根暗。 自らを「自分には何も無い、カラッポだ」と言う。 大きな白い赤ん坊の頭の周りに文字化けした文字列が回っているシャドウ。 その姿は、精神的な幼稚さ・何もかもが未熟で「無」でしかない美津夫自身を大きく表していると言える。 開始直後に「キャラメイク」という技で速攻引きこもる。シャドウになってもやっぱり(ry 最後まで美津夫に受け入れてもらえず、消滅した。 美津夫の持つ「大きな虚無感」が具現化された姿。 直斗の影(CV 朴璐美) 変化前は袖が余った白衣を着て、直斗自身の二面性を象徴するかのように泣きじゃくったり急に冷静に核心を突いたことを言う。 直斗がそのままアニメのロボットの様な姿になったシャドウ。 直斗の持つ「カッコいい大人の男になりたい、見られたい」というどうしようもない願望が具現化された姿。 なお、完二の影と同じく、倒されてからもセリフがあった。 グラフィックなし 稲羽市の住人たち ガソリンスタンド店員(CV:浪川大輔) 堂島、菜々子に引き続いて、稲羽市にやってきた主人公を出迎えてくれた人物。 非常にフレンドリーな性格で、主人公をスタンドのバイトに誘いつつ、握手を求めてくる。 その後も、雨の日の街に出現する。 河野剛史 戦車コミュに登場する、里中千枝の幼馴染。 千枝からほのかな想いを寄せられているが、本人は全く気付いておらず、天城雪子に憧れている。 千枝をダシに雪子に近づこうとする、テンプレートなタイプで、 ある意味、千枝のコンプレックスを生み出した原因とも言える。 千枝とは幼稚園から中学校まで同じ学校だったが、現在は他校に通っている。 外見からすでにチャラ男で、どこか人を小馬鹿にしたような物言いをしながらも、 主人公にそれを一喝されると慌てたり、カツアゲされても手も足も出ず、 おまけに庇ってくれた千枝を置き去りにして逃げ、その後、全く悪びれないで姿を現すなど、 ともかく情けない言動が目立つ。 最後には、雪子に対する不用意な発言で、千枝からも見離されてしまう。 はっきり言って、自業自得である。 南勇太 節制コミュに登場する、南絵里の義理の息子。 主人公のバイト先である学童保育に通っている。 周囲の談によれば、成績も悪く、粗暴で、問題行動が多く、 自己中心的なところがある、かなりの悪童だが、根は悪くない。 絵里に対して、態度が悪いのも、子供なりに気を使っているからである。 中村先生 勇太の担任。 父兄には良い先生として評判がいいらしいが、 勇太に手を焼かされているのと、継母である絵里への偏見からか、 かなり失礼な物言いをする、底意地の悪そうな女性。 ◆声優 服巻浩司 福原耕平 伊藤かな恵 吉川未来 臺奈津樹 龍谷修武 坂熊孝彦 遠藤智佳 島田知美 高橋剛 村上仁美
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田所実徳は手に負えない学生だった。 「つまんねぇなぁ……」 自分の机の上に足を乗せ、心底退屈そうに椅子を揺らしていた実徳の一言だけで授業中の教室の 空気が一変する。黒板に板書をしている途中だった老教師はピクリと肩を震わせ、殆どの生徒達は 関わり合いは御免だとばかりに背中を丸めて教科書で顔を隠し、同世代の少女の『突然の引っ越し』を 何度も経験した女生徒達に至っては恐怖で全身を硬直させる。 そして実徳の取り巻きを自称する数人だけが目を輝かせ一斉に腰を浮かせた。 「だよなぁ、気晴らししようぜ!」 「じゃあ、この前の店とかどうかよ?」 「行くよな? なっ?」 口調こそ対等っぽいが、彼らの声色は皆一様に実徳に媚びるそれだ。地方都市とはいえ繁華街周辺の 土地の利権を握る大地主(儲けのために金に物を言わせ、自分の土地に駅を誘致したとも言われている)で、 叔父が市会議員でもある田所家の一人息子の側で機嫌を取ってさえいれば遊ぶ金に困ることもないし、 上手くいけば何の苦労もなく田所の会社の一つにでも入れるかも知れない。 そして、そこで実徳の名前を使えば生涯安泰も夢ではないだろう。 勉強をする気も無い彼らが毎日マメに登校しているのも、出席日数でも勉強でもなく実徳との接点を 持ち続けて濡れ手に粟を狙っているからであり、こういう機会があれば我先にと実徳に便乗して只で 遊ぶために他ならないのだ。 「そうだなぁ……」細面で全体的に華奢な実徳は、靴の踵でドンドンと数回机を叩いた後に大きな音で 席を立ち、大袈裟なほどの動きで肩を怒らせ教師の存在など気にもしていない大股で教室の外へと向かって 歩き出した「……じゃ、ちょっくら顔でも出してみっか。もう開いてるんだろ?」 「お、俺オーナーに電話してみるよ!」 「じゃあ、俺は一年に招集かけっから!」 おう、と取り巻き連中の慌ただしさに満足そうな声を出す実徳。 実徳自身、不良を気取ること以上にチヤホヤと持ち上げられ御山の大将気分を味わうのが好きなのだ。 そんな自由奔放な日々を親の金と七光りで謳歌していた実徳だったが、とある週明けの早朝に彼の 人生は一変してしまう。 「あ~眠ぃ」 「ンだよ、もうこんな時間かよ」 「学校、どうする?」 「お前らだけ行ってこいよ、俺は帰って一眠りしてから考えっから」 行きつけのバーで夜が明けるまで騒いだ実徳は眩し過ぎる朝日に目を細めながら大あくび。遊び 疲れた所為で煩わしくなってきた取り巻きを学校に行かせ、タクシーでも捕まえようと重い足取りで 大通りへと一人で向かうことにした。 「田所実徳さん、ですよね?」 だが数歩も進まないうちに横合いから声を掛けられ足を止められた。 「あぁ!?」 実徳の出した声は返事ではなく威嚇である。この界隈で有名な田所の御曹司に大した用もなく声を 掛けたり、ましてや寝不足で疲れた所に邪魔をするような無知な輩など存在するはずなどないと思って いたのだから、不機嫌さを隠そうともしないのは当然だ。 「貴男に非常に大切なお話があって、お待ちしておりました」 「…………あぁ?」 次に実徳の口から出たのは何とも間も抜けた声だった。 彼が振り向いた先に立っていたのは彼自身より少し上らしい年頃の、しかも裾も袖も長い西洋の 給仕服を着込みカチューシャまでつけた場違いにも程があるメイドだったのだ。 そして彼女の後ろには黒塗りの高級車がアイドリング状態で控えている。 「ンだよ、朝っぱらから新手の客引きか?」睡眠不足な頭でどんなに頑張って理解しようとしても、 精々その位しか解釈のしようが無い光景である「うぜぇから消えろっつんだよ! つか俺が誰だか 本当に分かってンのかお前!?」 「ですから最初に確認させて頂きました。田所実徳さんで間違いないと存じますが?」 荒げた声に全く動じる気配を見せず話す冷淡な口調だけでも腹立たしいが、それ以上に女が自分に 向けて来ている汚物を見るような視線が逆鱗に触れた。 「だったらなんなんだよ、あぁん!?」 怒気も露わに、アルコール臭い息を吐きながらメイド少女に詰め寄る実徳。 「失礼ですが、耳がお悪いのでしょうか? それとも残念なのは頭の中身ですか? 大切なお話が あるのでお待ちしておりましたと先ほど……」 「舐めてんのか、このアマぁ!!」 男と女では体格が違う。年齢では負けていても背丈で勝っている自分にゼロ距離で怒鳴られても 微動だにしない女の胸ぐらを掴んで吊し上げようと腕を伸ばす実徳だが。 「……どうやら、本当に残念な頭しかお持ちでないようですね」 はぁ、と目の前の女が呆れ果てた溜息を漏らすと同時に実徳の視界が反転して…… 「……ちゃったんじゃないんですか?」 「そんなことは……が……て……普通に……」 「でも、全然目を……………様に……」 「その必要は……不足とお酒……から大丈夫……」 自分を囲んでいる複数の気配と、姦しい話し声で実徳の意識が浮上してきた。 「…………くそっ!」 それと共に後頭部の鈍痛を感じ、目を開けるより先に腹立たしげに頭を振るう実徳。 「あ、動いた!」 「だから言ったでしょう? この男の鍛え方が足りないだけなんですよ」 「でもぉ、アスファルトに叩き付けるなんて少しやり過ぎな気もぉ……」 「先に手を出した訳ではありませんから正当防衛です」 「……確かにいい気味だとは思いますけど、傷物にしちゃったら……」 「その程度の分別はあります。か弱い女性に問答無用で手を上げる輩には丁度良い薬と……」 「……るっせぇなぁ、頭に響く声で何騒いでンだよ……っ!」 痛む後頭部を手で摩りながら上半身を起こすと、実徳は見慣れない部屋で数人のメイド服に囲まれ 見下ろされていた。 「目を覚まして早々、悪態がつける程度の元気があれば心配は要りませんね。間違っても歓迎は いたしませんが、とりあえず儀礼的な挨拶だけはして差し上げます。いらっしゃいませ」 その中の一人、気を失う直前に実徳が掴みかかろうとした女が汚物を見下すような目で感情の欠片も 篭もっていない声を掛けてきた。『いらっしゃいませ』と言われたと言うことは、この女の家か関係先に 担ぎ込まれたらしいが、それ以外は訳が分からないことだらけだ。 まだ完全には回復しきっていない頭を回転させながら改めて周囲を見渡すと、実徳いる場所は 四畳半程度の質素な洋室だった。自分を取り囲んだメイド達の隙間から見える室内には小さな衣装箪笥と 簡素な机と椅子のセット以外の家具はなく、綺麗に磨かれたフローリングの床の輝きと相まって生活臭を 微塵も感じさせないモデルルームかビジネスホテルの一室のよう。 あと分かることと言えば唯一の窓から覗く景色と日差しのお陰で部屋が地上階ではなく、かつ南向きで 比較的過ごしやすいらしいということだけだった。 「ンだよ、ここは?」 「そのアルコール漬けで空っぽ同然の頭では理解できないと思いますが、一応は尤もな疑問なので 親切に教えて差し上げます」と口を開いたのは、やはりあの女「勿体なくも貴男如きとご学友であらせ られる新庄政幸様のお宅の空き部屋です」 「……新庄? 誰だよそれ?」 「えぇっ?」 「知らないって……自分のクラスの委員長の名前も知らないとか……」 「わかってたつもりだけど……流石にありえないよぉ!」 と、一斉に騒ぎ始める実徳と同世代っぽい他のメイド少女達。 「ごちゃごちゃ言うなっ! 知らねぇモンは知らね……っつぅ……!!」 大きな声を出すと頭が痛む。 「聞きしに勝る放蕩ぶりですね。まだ野生の猿の方が文明的に見えるほどです」 他のメイド達も同様に感じているのか、皆一様に冷めた視線を実徳に注ぎつつ黙ったまま。 「な、なんなんだよ、なんなんだよこれ……くそ……っ!」 ずっと太鼓持ちという壁に守られ煽てられる人生だけを送り敵地という存在とは長らく無縁だっただけに、 到底好意的とは言い難い目を四方八方から向けられた実徳の気迫は見る見る萎んでしまう。 まるで丸裸にされてしまったかのような居心地の悪さに俯き、口の中で悪態を繰り返すのみ。 「お、覚えてやがれ……あとで、必ず……」 メイド達のリーダーらしい生意気な女はおろか、他の少女達の顔すら怖くて見ることが出来ない。 「うわ、かっこ悪ぅ~!」 「女の子相手に『覚えてろ!』なんて、ヘタレすぎだよぉ……」 「本当に見た目倒しなんだ。政幸様の方が数倍は男らしいです」 心が折れそうな実徳の背中に容赦ない言葉が次々と突き刺さって胸を貫通する。 「うるせぇ……うるせぇ……ここを出たら、後で纏めて犯してやる……」 頭痛が収まって、この家を出たら必ず仕返ししてやる。仲間を集めて手籠めにして輪姦して写真を 動画を世界中にバラ撒いてやる。もちろん、ここにいる女全員だ。二度と表を歩けなくなる位に汚して 孕ませて腹を蹴って…… 「残念ですが、もはや貴男には後も先もありません。反吐が出そうなほど見苦しい現実逃避も大概に して頂けませんか?」 「ぐあっ!?」 茶髪を掴まれ引っ張り上げられた実徳の口から情けない声が漏れる。数に頼っている時ならいざ知らず、 弱い相手を痛めつけた事は数知らずあっても自分より強い者から苦痛を与えられた経験など無いに等しい 実徳は、まるで牙を爪を持たない小動物の様に無意味に藻掻くだけ。 「いかに政幸様のご所望とは言えど我慢にも限度があります。私の見立てで五体満足と判断させて 頂き、このまま政幸様の御前に引っ立てて参ります!」 「は、はいっ!」 リーダーの怒気に恐れをなしたメイド少女達はモーゼの海割りのように慌てて道を作り、中の一人が 弾かれたように廊下に続く扉に駆け寄って恭しく腰を折りながら開く。 「あなた達も一緒にいらっしゃい。政幸様の御前で、この屑に身の程という言葉の意味を徹底的に 叩き込みます」 はいっ! と恐ろしいほど見事に揃ったメイド少女達の返事。 そのままゴミ袋か何かのように廊下を引きずられ、自分の足で立ち上がる暇も与えられず階段を引っ張り 上げられ、全身を汚され服をボロボロにされブチブチと髪を何本も引き抜かれながら生意気なメイド女の 細腕一本で実徳が連れてこられた場所は二階の一室だった。 ドラマかで見かける学者か医者の書斎を思わせる本棚だらけの広い部屋。飾り気こそ無いが高級そうな 木製の家具に囲まれた室内の一番奥で、これまた年期が入っていそうな大きな机でペンを走らせていた 少年は、ボロ雑巾のようになってしまった実徳の姿に驚きもせず穏やかな笑顔で顔を上げた。 「ご苦労様でした、佐久間さん」 いや、それどころか実徳の姿など眼中に入っていないようにメイドの方へと労いの言葉を掛けた。 「勿体ないお言葉でございます」 「っつっ!?」 深々とお辞儀をしながら無造作に髪を解放され、床で頭を打った実徳の口から呻き声が漏れる。 そして、そんな実徳を佐久間の後ろに控えたメイド少女達がクスクスと嘲笑う。 「て、てめぇら……!!」 「さてと……」安っぽい恫喝など聞くに値しない、とばかりに遮って実徳の同級生らしい新庄政幸と 思しき少年が眉一つ動かさず実徳を見下す「……いま詳しい説明をしても聞く耳は持たないっぽい様子 だし、結論から先に言わせてもらうけど……田所君は僕の所有物になったから」 「はぁっ!?」 痛む節々に顔をしかめながら床に立ち上がろうとしていた実徳の動きが途中で止まる。 「要するに売り飛ばされたのですよ貴男は。本当に察しが悪い屑ですね」 「な、な……!?」 「と言うわけで僕なりに田所君の処遇について色々考えたんだけど、とりあえず新人のメイドとして 使ってあげるのが一番良いって結論に達したんだ。だって田所君、他に何も出来ないだろ?」 「め、め……メイドって……何言……」 「僕の話はこれで終わりだから。田所君をお願い出来ますか、佐久間さん?」 「……私に一任して頂けるなら……」 「もちろんだよ。使えるようになるまで存分に躾けてやって構わないですから」 「そう仰って頂けるのでしたら、必ずご満足頂けるよう仕込んで見せます。あなた達にも協力して 貰いますよ?」 きゃ~~っ、とメイド少女達が小躍りしながら控えめに歓声を上げる。 言うまでも無く、全てが実徳の頭上を素通りである。 「お、おいっ! ンだよそれっ! 訳わかんねぇだろ、ちゃんと説明ぐわっ!?」 「お目通りは終わりです」細い指で手首を掴まれ軽く捻られただけで、耐えがたい激痛が実徳の 全身を麻痺させる「いまから貴女は新入りの見習い。つまり下働きの中の下働きとして私たち全員の 教育下に入りました。以降、許可が無い限りプライベートはおろか寝食の自由すら与えられないものと 心得て精進して下さい」 その日、町一番の問題児が忽然と姿を消した。 その日の空は、果てしなく青く澄み切っていた。 遙かな上空を緩やかに漂う綿雲と、程よい暖かさを与えてくれる日差し。 清々しい大気を切って流れ星のように視界を横切るヒヨドリの鳴き声も何処と無く楽しそうで、 この世界の広さと美しさを改めて実感させて、 「誰も休憩して良いなんて言っていませんが? 只でさえ手が遅いというのに、サッサと片付けないと 昼食の時間を削りますよミノリさん?」 「うぐっ!?」 布団たたきで文字通りに尻を叩かれた実徳の口から小さな悲鳴が漏れ、慌てて窓拭きの続きを再開する 背中に、これ見よがしの忍び笑いが幾つも浴びせかけられる。 言うまでも無く、実徳を監視しているのは佐久間とか言うメイド。 そして、心底面白そうにクスクスと笑っているのは常に実徳の無様な姿がよく見える場所で掃除を しているメイド少女達である。 更に実徳自身もメイド姿だ。 もちろん好きこのんで小間使いの格好をしている訳ではない。他に着る物を一切与えられていないので 選択肢がないのだ。この屋敷に拉致監禁された日、有無を言わさず放り込まれた浴室でシャワーを浴びて いる間に衣服はおろか下着から所持品まで全てを奪われ隠されしまったのだからやむを得ない。 「携帯電話は解約済みですしカードも止められています。持っていても意味が無いでしょう?」 そう言いながら浴室に押し入ってきて実徳を羽交い締めにし首を絞め意識が朦朧としている間にメイド服を 着せ錠前付きの首輪をはめ、そこから伸びる金属製の鎖を握られ衣食住の全てを掌握されてしまっては、 これはもうメイド達に従うしかない。 いずれ脱出して仲間と共に報復するにしても、いまは機を伺うかがって耐えるしかない。 この生意気な女達を犯し尽くす日を夢見ながら。 「……まったく、掃除はおろか雑巾の絞り方一つ知らないとは使えないにも程があります。まだ 小学生の方が数倍はマシでしょうね」 「小学生以下だって!」 「ありえないし~!」 「そ、そんなに笑ったら……うぷぷっ」 「………………馬鹿みたい」 「お前ら丸聞こえなんだよっ! 俺を扱き使いながらサボってんじゃあぐぅっ!!」 「先輩達に向かって、その口のきき方はなんですか。あと粗暴な男のような下品な言葉遣いも直しなさいと 言ったでしょう?」 存外に分厚く、重いメイド服越しでも叩かれて痛くないわけがない。下手に動こうとする度に鎖を引っ張られ、 喉が締まりうずくまってしまう。 いまの実徳は、まるで奴隷だ。 屋敷の外はおろか、常に鎖で繋がれ邸内でも限られた範囲での移動しか認められない。女に引きずり回され 監視され、辛うじてプライバシーが守られるのは入浴とトイレくらいである。 もっとも、それすらストップウォッチで時間を計られながらであるが。 そして朝から晩までの労働。 勤労経験皆無な実徳に出来るのは簡単な掃除くらいだが、恵まれた環境で温々と暮らしてきた実徳にとっては 下働きの仕事自体が苦痛であり屈辱以外の何物でも無い。 「くそっ……くそっ……!」 苦しんでいる自分の視界の隅、和気あいあいとしながらも手際よく仕事を片付けてゆく他のメイド少女達の 姿を恨めしげに睨む程度のことしか出来ない。 「メイド以前に女の子が『くそ』なんて言葉を使うなど言語道断です。ここまで物覚えが悪いとは、どこまで 頭の出来が残念な屑なんですか貴女という人は」 「ひぅっ!?」 ひゅん、と背後で布団たたきを振り上げる気配。思わず竦み上がってしまう実徳。 「次に下品な言葉遣いをしたら、今晩の入浴の時間を半分にしてしまいますからねミノリさん?」 「は、はぃ」 「……何も聞こえませんね。もう一度お願い出来ますか?」 「はは、はいっ!」 「やはり何も聞こえませんね。私の耳が悪いのでしょうか?」 「す、すみません! もう下品な言葉は使いませんっ!!」 「貴女達はどうですか? 私には風の音しか聞こえませんが?」 「「「なにも聞こえません~ん!」」」 「………………ま、ません……」 この時を待ち構えていたように声を揃えるメイド少女達(約一名を除く) 「ぐぅっ!」歯ぎしりする実徳。露骨に弱者をいたぶる集団的な悪意に心が折れてしまいそうだ「げ、下品な 言葉遣いはっ! 二度とっ! 使いませんっっ!!」 全身から火が噴き出しそうな羞恥に耐え一言一言、腹の底から声を絞り出して叫ぶ実徳の情けない姿を冷淡に 見下ろす佐久間と、底意地の悪そうな笑みで鑑賞する他の少女達。 「……結構です。ただし昼食は窓拭きが終わるまでお預けにしますが、宜しいですね?」 「はいっ!!」 ビクン、と弾かれたように姿勢を正した実徳は慌てて作業を再開した。 そして、やっと迎えた就寝の時間だが…… 「んちゅ、んちゅ、ちゅ~~~っ!」 「はぅん! あん! んん~~~~っ!」 新入りの実徳に個室など与えられる筈もなく、女物の上下の下着のみを着せられ部屋の両側に二段ベッドが 鎮座する相部屋に押し込まれる。 しかも実徳の反対側のベッドではメイド少女が二人、まるで実徳に見せびらかすように全裸で絡み合い、 隠す気など微塵もなさそうな音量で乳繰り合っている。 「み、未玖ちゃん……それ、強すぎるよぉ……!」 「だって静っちは少し痛いくらいの力加減で前歯で乳首を甘噛みされるのが好きでしょ? それから歯が食い 込んだ跡を舌で優しく……れろれろれろっと」 「そ、それは感じすぎるから駄目ぇぇぇ!」 ほぼ毎晩、この調子である。 恐らくだが、この二人と相部屋にしたのも『わざと』だろうし、二人が実況さながらの説明を聞かせながら 耽っているのも実徳を苛める為だろう。 何故なら、ベッドの中の実徳は後ろ手に両手の親指を拘束され鎖の先端を丈夫な鉄柱に固定され目の前で 痴態を繰り広げている二人に襲いかかることも、自分を慰めることも出来ないのだから。 「ほらほら静っち、次はどうして欲しい? このままクリトリスをコチョコチョしながら乳首噛まれる だけで良いのかなぁ?」 「そ、それは……その………………れて、欲しい……」 「ん? ん~ん?」 「だ、だからっ! 未玖ちゃんの指で私のおま……お腹の中、掻いて欲しいの……っ!」 「だよねっ、そうこなくっちゃ! じゃあ静っちも私のアソコ、思いっきり恥ずかしい音を立てながら たっぷり啜ってくれる?」 「う、うん……」 背を向け、見ないようにしていても何をしているのか分かってしまう。最初の数日こそ怒鳴って脅かして 止めさせようとしたが、それが負け犬の遠吠えで手も足も出せないと熟知している二人が聞き入れてくれる わけもなく、それどころか安全な観客である実徳に全て晒す事で更に燃え上がるという新たなプレイに 目覚めたらしく、以前にも増して大きな音を立てるようになってしまったのだから始末に負えない。 「うわぁ、静っちの中トロトロでキツキツだよ。どう、私の指、美味しい?」 「くぅん! い、いいけど……もっと奥……それに一本だけ……足りないよぉ……」 「おっけおっけ! じゃあ二本で一番奥をぐちゅぐちゅしてあげるね」 「ひぅっ! ひ、ひぁぁぁぁぁぁっ……!」 「静っちの中、超熱いって! ねぇ、私の方も早くくぱぁってして! じゅるじゅる吸って!」 「う、うん……ちゅっ、ちゅるっ……ちぅぅぅぅぅっ!」 「あはっ! 静っちのバキューム最高だよ、感じるゥ!!」 「わ、わらしも未玖ちゃんのちゅうちゅうしながら指れされるの……幸せらよぉ……」 四人用とはいえ所詮は狭い部屋だ、たちまち少女達の淫臭が溢れだして部屋を満たしてしまう。 そして元々は男を興奮させる為の濃厚なフェロモンを問答無用で嗅がされ吸わされた水っぽい音を 聞かされ実徳の体が反応しないはずがない。 「ぐっ……!」 ここに監禁されてから一度も発散させたことのない実徳の性器は瞬く間に充血し、ジンジンと痛みすら 感じるほどに張ってしまう。 だが目の前でドロドロに濡らしているだろう女達を犯して胎内にまき散らす事は叶わない。 思う壺だと知りつつ、自分の手で鎮めることも不可能だ。 「う……うぅっ……」 勃起がムズムズと疼き、とても眠れそうにない。 少女達の嬌声が否が応でもセックスを連想させて射精への欲求も高まるばかりだ。 (くそっ! 出してぇ出してぇ、誰でも良いから女に突っ込んで射精してぇよぉ!!) 犯した女、金で買った女、行きずりの女。 多すぎて顔も覚えていない女が殆どだが、その味は全て肉棒に刻み込まれている。その愚息が空気も 読まず女体に挿入する快楽を脳に反芻させるのだから、それこそ溜まったものではない。 (ヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇ!!) 「ほらほら見てよ静っち。アイツ、シーツを相手にヘコヘコ腰振ってるじゃん!」 「…………知らないもん。興味ないもん……」 「そんなこと言わないで見てみてよ。面白いからぁ!」 「……………………気持ち悪いだけだもん」 「あはははっ、女物の下着で床オナとかマジカッコ悪ぅ! 猿みたい!」 「くっ……!!」 嘲りの視線と嫌悪の視線をチクチクと感じながらも、他に性欲をいなす方法を知らない実徳は 女物の下着姿でひたすら腰を揺らす。 「もぅ未玖ちゃんってば……じゅじゅじゅっ、じゅるるるぅ~~~~!!」 「ひぁんっ! な、なに? そんな急に激……きゅぅぅぅぅん!!」 「私としてるのに……あんなケダモノのこと……未玖ちゃんの馬鹿っ!」 「え? なに、ヤキモチ? ごめん! もう余所見しないから待って! ちゃんと静っちのこと 気持ちよくしてあげるから……って中をウネウネ舐めながら両手でお尻の穴引っ張らないで前歯で クリ苛められたらイグぅぅっ!!!」 「ちゅっ、ちゅっ、ちぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~!」」 「いぃ、イッてるのぉ! イッてるからぁ! イッてる最終に強く吸わないでぇ!!」 (くそっ! くそくそくそくそくそっ!!) 射精することも出来ないまま、疲れ果てて眠りに落ちるまで実徳は無様に腰を振り続けた。 そして翌朝の食堂。 「……それでね? 朝起きたら凄い臭いがして、アイツってば半泣きになってんの!」 「そんなに臭いんだ?」 「しかもパンツどころかシーツまでドロドロにしちゃってさ、もう最悪って感じ!」 「腐った牛乳みたいで気落ち悪かった……」 「あの年で夢精とか、最低ね」 「まだオシッコの方が可愛げがあるよねぇ?」 「どっちもどっちでしょ? もう終わりだよね、男としては」 意識を失うまで擦っても出なかった精液が、寝てる間に残らず漏れ出して下着を寝具をドロドロに 汚してしまった。しかもそれを未玖と静江に見つかってしまったのだ。 実徳に聞こえる音量で話に花を咲かせているメイド少女達の明け透けな物言いもさることながら、 上から目線で笑われ小馬鹿にされ何も喉を通らない。 正に針のむしろである。 「ところで、本日のミノリさんの仕事についてですが」 「……はい」 淡々と朝食を摂る佐久間は知らん顔。普段なら口五月蠅くメイド少女達を躾けている彼女が、 何故か朝食の席に相応しくない話題を遮ることもせず少女達を放置している。 「状況を鑑みた結果、洗濯の仕方を覚えて貰いたいと思いますが異論はありませんね?」 「……くっ!!」 「ありませんね?」 「…………………はい」 暗に、夢精で汚した物を自分で洗濯しろと言われているのだ。 「はいは~い!」その会話を耳に挟んだ未玖が元気よく挙手する「佐久間さん! 私と静っちの シーツと下着も洗濯して貰っても良いですかっ?」 憎たらしほど爽やかな笑顔の未玖が言う洗濯物とは、まず間違いなく夕べのレズプレイで汚して しまったものに違いない。散々見せびらかした挙げ句に、後始末をしろと言っているのだ。 「くっ……!」 「構いませんよ。仕事を早く覚えるためにも量は多い方が良いでしょうし」 「だったら私の洗濯物もお願いしても良いですか? 少しオリモノが多いですけど……」 「当然、手洗いですよね? だったら私もっ!」 「靴下とかも良いですか!?」 「じゃあ私も溜まってる下着を全部!」 「女同士なのですから遠慮は無用です。私が監視して全て手洗いさせますから、綺麗にして 欲しい物があれば籠に入れて廊下に出しておいて下さい」 悔し涙を浮かべ体を震わせる実徳の姿を横目でチラチラ見ながら、メイド少女達は我先にと 楽しそうに食堂を飛び出して洗濯物を出しに言ってしまった。
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Phalaenopsis -愛しいきみへ、愛するあなたへ- ◆6XQgLQ9rNg ◆◆ 落涙していた。 目の前に立ちはだかる男は、その双眸から、滂沱の涙を流していた。 何かを告げるべく口を動かそうとするが、濡れそぼった吐息が苦しげに吐き出されるだけで、何一つ意味のある言葉にはならないでいる。 整ったその顔は、えずきを堪えるように酷く歪んでいて、愛する女性の声を聴いたことによる喜びの表情とは程遠いものとなっていた。 胸の内を荒れ狂う辛苦を抑えきれず、ピサロの表情に現れているようだった。 今しがたのロザリーのメッセージによれば、かつてロザリーは、憎しみに突き動かされるピサロを止めたという。 ならば、ロザリーの言葉はピサロに届くという証だ。 しかしながら、ピサロは武器を収めない。 ロザリーの意志を無視してでも、彼女を蘇らせたいと願うからか。 ――きっとそれは間違いじゃない。でも、それだけじゃない。 それだけならば、こんなに苦しみを飽和させるはずがない。 みっともないほどに涙して、それでも戦おうとする理由が、他にもあるはずだ。 アナスタシアはロザリーのメッセージを思い返す。 同時に、夜雨の下で目の当たりにしたピサロの様子を想起する。 すぐに、ピンと来た。 ピサロは深い憎しみを抱き、人間の敵となった。 その原因は、ロザリーを人間の手によって殺されたからだった。 ならばつまり、ピサロが抱いた憎しみというものは、深い愛情の裏返しなのだ。 ロザリーを傷つけた者を許せない。 ロザリーの命を奪った者を、許せない。 「貴方は……」 だからこそ。 「貴方は、誰よりも自分を傷つけたいのね……」 ◆◆ 痛みを求めていることに気付いたのは、余計な負の感情を捨て去り、ただ愛だけで心を満たしてからだった。 自覚できていないだけで、きっと今までも、そうだったと思う。 ロザリーを蘇らせるためという目的意識を壁にし、自分以外をも憎悪することで憎しみを分散させていた。 その結果、復讐心を細分化し無意識の奥底に押し込めて、見えないままでいられた。 ピサロは、憎しみを糧に絶望感を燃やし、純粋な愛を錬成した。 その愛は汚れのない鏡面のような輝きを放つ。 怨まず、憎まず、絶望せず。 されど消えない傷跡は、じくりじくりとピサロを苛むのだ。 疼きのような鈍痛は止まらない。 しかし、足りない。 その程度の痛みでは駄目なのだ。 耐えられる程度の痛みでは、ロザリーが受けた苦しみには届かない。 もっと強い苦しみが必要だった。更に強い痛みを渇望した。 ロザリーを殺した者<ピサロ>に、復讐をしたかった。 ピサロはロザリーを想う。 誰よりも深く、何よりも愛しく思う。 彼女の優しさは知っている。争いを望まぬ気持ちを理解している。共存を願う意志を熟知している。 その気高い尊さこそ、ロザリーという女性そのものなのだ。 そこから――ピサロは目を背ける。 ロザリーの全てを理解したいと、受け入れたいと切望しながらも、決して彼女の手を取らない。 想っているのに優しさに目も暮れず、大切にしたいのに争いを望まぬ気持ちを無視し、愛しているのに共存を願う意志を置き去りにする。 そうやって騙して、裏切って、茨まみれの道を行き、返り血だらけになって、ロザリーが心より忌避するほどの身になって。 ようやく、ロザリーの命へと至れるのだ。 とても辛いことだった。 とても苦しいことだった。 とても痛いことだった。 これ以上の復讐は、存在しなかった。 そうしてピサロは、ロザリーを蘇らせるために武器を振るい、無意識下で自身への復讐を続けてきた。 復讐の念があったからこそ、ロザリーの意志を無碍にして彼女を蘇らせようと決意できた。 たとえロザリーのメッセージを受け取っても。 この島にいる全ての者へと発信されながらも、ピサロを想う気持ちがいっぱいに溢れるメッセージを聞き届けても。 それすらも裏切り、痛みに変える。 ロザリーの声を、願いを、想いを、祈りを、愛を。 夢ではなく真正面から受け取り、その上で取り入れず捨てるのは、感情が振り切るほどの激痛だった。 だから、涙が飽和した。心が深手を負った。 それでも、まだ。 強い純愛を抱く故に、ピサロは自傷行為を止められない。 無様に涙するほどに心が悲鳴を上げる。言葉を放てないほどに心が痛みを訴える。 それこそが望みと言わんばかりにピサロは戦う。 その果てに、最愛の女性が蘇ると信じて前へ行く。 全てを捨て去り純粋な愛だけを燃え盛らせるがために表面化した痛みを求め、更なる先へ。 滲む視界の先、アナスタシアの姿がある。 痛みを抱きながらも涙を振り払い、ピサロは、バヨネットの切っ先を敵へと突き付ける――。 ◆◆ 本当は、救いたいと想った。 だから、アナスタシアは一人でピサロに対峙した。 それでも叩きつけられたのは無力さで、救えないと実感し、怒りを以ってピサロと戦った。 結局、アナスタシアはピサロを救えないのだと思う。 どんなに頑張っても、どんなに言葉を練っても、女神を覚醒させた愛の化身には、手が届かない。 だが、よくよく考えたらそれは当然なのかもしれなかった。 たった一つの最愛を胸に抱く男の心を、何処の馬の骨とも知らない女が動かそうなどと、おこがましい思い上がりだ。 それでも。 それでも、心の片隅でやっぱり止めたいと思ってしまうのは。 彼が愚直にまで闘う理由の一端を、垣間見てしまったからか。 彼を愚直にまで愛する女性の声を、受け取ってしまったからか。 「馬鹿だわ」 男も女も本当に馬鹿だ。 馬鹿でなければ、女への愛を抱き自身を痛めつけられるはずがない。 馬鹿でなければ、身だけではなくココロまで傷つけられても、男を好きでいられるはずがない。 だが、もしも。 本気で恋をすれば、馬鹿になってしまうというのなら。 なってみたいと思う。 そんな恋愛をしたいと、アナスタシアは心の底から強く深く激しく思う。 「ほんッとうに――羨ましいくらいの純愛だわねこのバカップルがッ!!」 両手で握り締めたアガートラームを、掲げる。 これはラストチャンスだ。 頑固で馬鹿な男を止めるための、ラストチャンス。 アナスタシアは集中する。 アガートラームはただの武器ではない。人々の想いを束ね、繋ぎ、未来へ進むための鍵である。 そのイメージを強く持ち、意識を聖剣へ注ぎ込む。アガートラームが輝きを放ち始める。 白く眩い光は広がり、周囲の想いを集めていく。 光を通し、アナスタシアは想いを感じる。 拡散していくロザリーの想いを、だ。 あのメッセージは、何らかの方法で生前のロザリーが残したものなのだろう。 それは記録に過ぎない。けれど、そこに込められた想いは本物だった。 その想いを、もう一度カタチにする。 記録だけではなく、ロザリーの想いを、ここに形作る。 こんな芸当は、アガートラームの力だけでは到底不可能だ。 だがここには、ラフティーナがいる。 愛する想いと愛される想いを、きっと彼女は祝福してくれるはずだ。 想いを、アナスタシアはかき集める。 最愛を胸に抱く男を止められるのは、最愛を胸に抱く女だけなのだ。 輝きは次第に強さを増し、世界を覆い尽くしていく。白が広がり、想いを集め、剣へと収束させていく。 もっと、もっと。 もっと輝け。 消えゆく想いを繋ぎ止め、ここに想いを成すために。 分からず屋の男へと、一人の女の想いを届けるために。 光は広がる。 何処までも何処までも広がる。 その輝きが、周囲を埋め尽くした瞬間に。 愛の奇跡は、果たされる。 ◆◆ 世界が白い。 果てがないような白さが、ピサロの視界を埋め尽くしていた。 自分の姿と輝き以外が見えない世界で、ピサロは足音を聞く。 小さな足音だった。 それは丁寧な足運びを思わせる足音で、アナスタシアが立てる粗雑な音とは全く異なるものであった。 音は近づいてくる。白の世界に、人影が浮かび上がる。 ピサロは意識を戦闘状態に切り替え、魔法を詠唱し始め――。 『よせ。彼の者は敵ではない』 ラフティーナの制止に、ピサロは怪訝さを覚えながらも影へと目を凝らす。 深い霧を思わせる白の中、人影が鮮明になっていく。 その華奢なシルエットを、ピサロは知っている。 またも目を剥き、息を呑んだ。 一瞬、幻術かと疑う。 だが、愛の貴種守護獣は一切の警戒を見せてはいなかった。 その間にも、人影は、ピサロが視認できるところまで、やってきた。 極上の絹糸を思わせる桃色の髪。 髪の合間から存在を主張する、整った形をした尖った耳。 一流の職人が作り上げた陶磁器よりも白い肌。 錬成に錬成を重ねた紅玉にも勝る美しい瞳。 「……ロザリー……?」 震える声で名を呼ぶ。 対し、彼女は嬉しそうに目を細め、頷いた。 「はい。ロザリーです。またお会いできて嬉しく思います、ピサロ様」 清らかな声は心地よく鼓膜を震わせる。 こうしてロザリーに会えた喜びよりも、ロザリーと対面している事実を、ピサロは信じられなかった。 このロザリーが、幻でないとすれば。 「夢でも、見ているのか……?」 いいえ、とロザリーは首を横に振る。 「私は、死んだのか……?」 違いますわ、とロザリーは首を横に振る。 「ならば、君は……」 このロザリーが、幻でもなく、夢でもないのなら。 この白の世界が、死後の世界でもないのなら。 「君は、蘇ったのか……?」 ピサロの希望は、しかし、もの寂しい表情で、そっと否定される。 そうではありません、と、ロザリーは首を横に振る。 「私の想いを集めてくださった方がいました。そして――」 形のよい唇が、言葉を紡ぐ。 「ピサロ様が、私を強く深く愛してくださいました。だから、私は今、ここにいられます。貴方に想いを、届けられます」 呆然とするピサロに、ロザリーは歩み寄り、手を伸ばす。 細く綺麗な手が、ピサロの頬に触れ、汚れきったピサロの頬を撫でる。 その手は、温かかった。 「こんなに――」 否定しようもないその温かさは、ピサロの胸を解きほぐし、曇りを拭い取り、疑念を完全に取り払う。 ロザリーだ。 目の前にいるのは、本当にロザリーなのだ。 「こんなに、傷だらけになってしまわれたのですね」 ロザリーの瞳に雫が溜まる。雫はすぐに溢れ、輝かしいルビーとなり、零れ落ちていく。 それを見るのが辛くて、ピサロは慰めるように返答する。 「大した傷では、ないのだ。まだまだ、全然痛くなど、ない」 「嘘を、つかないでくださいませ」 「嘘ではない。私は、嘘などついてはいないよ」 「では、どうして――」 ロザリーは悲しげに、自分の左胸に手を当てる。 「私のココロは、これほどまでに痛いのですか?」 「……ッ!」 返答に詰まるピサロの胸へと、ロザリーは飛び込んでくる。 ロザリーの両腕が背へと回され、優しくピサロを抱き締める。 ピサロに刻まれた無数の傷を確かめ、癒すように。 「貴方の傷は私の傷。貴方の痛みは私の痛み。貴方の苦しみは私の苦しみ」 ロザリーの香りが鼻孔をくすぐる。ロザリーの柔らかさを全身で感じる。ロザリーの体温が肌に伝わってくる。 ロザリーは、震えていた。 「痛いです。苦しいです、ピサロ様」 ピサロは動けない。 武器を握った手をだらりと下げたまま、ピサロの胸に顔を埋めるロザリーを見下ろすしかできないでいた。 「ピサロ様が私を想い、私の命を願ってくれるのは大変嬉しく思います。 ですが、痛みと悲しみの果てにある命なんて、私は、いりません」 ロザリーが、顔を上げる。 濡れる真紅の瞳が、ピサロを捉えていた。 「ピサロ様ならば、分かってくださいますよね? 私を喪い、あれほどまでに悲しんでくれたピサロ様ならば、命を奪うという行為がどれほどの痛みと悲しみを生むのかを。 あのような痛みと悲しみが広がっていくのは、辛いです。傷つく人が増えるのは悲しいです」 ロザリーは優しいから、殺戮によって生まれる痛みと悲しみを感じ入り、自分のことのように苦しむだろう。 蘇った後もきっと、その痛みと悲しみに苛まれることだろう。 分かっていた。知らないはずがなかった。 それでもピサロは、殺戮を続けてきた。 殊に、ピサロが奪ったのは、ロザリーの命だけではない。 「もう、遅いのだ。私は……君の友を殺めた。君の友が愛した人をこの手に掛けた」 魔法使いの少女と暗殺者の少年の姿を思い起こし、告げる。 背中に回された腕の力が、強くなった。 「過去はもう、戻せません。できるのは、未来へ伸びる道を歩むことだけです。 過ちを繰り返さず、償いを果たしてくださいませ。殺めた貴方が行うべき償いを、果たしてくださいませ」 忘れないでください、と締めるロザリーに、ピサロは口籠る。 生きて、償う。 それは、ロザリーを蘇らせるという終着点にはたどり着けない道だった。 示された一本の道筋を前で、ピサロは立ち尽くす。やはりピサロは、希わずにはいられないのだ。 身勝手で醜悪で無様な言い分だとしても。 他者を顧みず無数の運命を蔑ろにする、罪深い欲望だとしても。 ロザリーの命を今一度、望まずにはいられない。 「それでも、私は、君に……」 弱音めいた口調が、零れ落ちた。 それをロザリーは、宝物のように掬い取る。 「逢えます。私が貴方を愛する限り、貴方が私を愛している限り、いずれ、必ず」 断言には揺るぎがない。 お互いに想い合う気持ちさえなくさなければ、絆はきっと引き寄せられると、ロザリーは告げている。 ですから、とロザリーは続ける。 「ニノちゃんが伝えてくれた私の想いを、もう一度、私の言葉で伝えます」 毅然として、堂々と。 「もう、お止めください。私の命を願い息づく命を奪う行為など、私は、決して望んではおりません。 その果てに蘇ったとしても、私は」 それでいて、ひどく痛そうに、とても苦しそうに、見ていられないほどに辛そうに。 「貴方を、愛せません……ッ」 断言する。 「どうか、私にくださる想いやりを、少しでも他の方に向けてあげてください。 罪を思い、償いを成し、そして――ご自身を大切になさってください」 お願いです。 「どうかこれ以上、貴方を傷つけないで。私を、苦しめないで……ッ」 深い吐息を挟み、ロザリーは、想いを吐き出した。 「ずっとずっとずっと、貴方を、好きでいさせて……ッ!!」 責められても仕方あるまいと、憎まれても言い返せまいと、怨まれて当然であると。 嫌悪され、唾棄され、侮蔑され、憎悪され、忌避され、厭悪されるであろうと。 思っていた。思い込んでいた。 そうあるべきだと独りよがりに信じていた。だから躊躇わず、ロザリーの想いを裏切ってきた。 そんなピサロのココロに、ロザリーの震えが、嗚咽が、切なる願いが突き刺さる。 ピサロの傷がロザリーの傷ならば、ピサロの復讐は、ロザリーをいたずらに痛めつける行為でしかなかった。 自傷行為が愛する者を傷つける行為に繋がるというのなら。 この復讐は、二人の傷を深めるだけで、決して終わらない。 ピサロはロザリーを三度殺した。 それだけではなく、殺した後も、その高潔な想いを冒涜し続けた。 「すまない……。本当に、すまない……ッ!」 見て見ぬふりはもう出来ない。ロザリーの傷を目の当たりにしても復讐を続けられるほど、ピサロの愛は歪んでいない。 謝罪の気持ちが溢れ、またも涙が視界を滲ませる。 「抱きしめて……くださいませ……」 変わらず両手を下げたままのピサロを、ロザリーは、潤んだ瞳で真っ直ぐに求めてくる。 泣き声の彼女に、ピサロは、歯を食い縛って首を横に振った。 「私の手は血塗られている。罪に塗れている。そんな手で君を抱き締めるなどと――」 言い淀むピサロへと、ロザリーは繰り返す。 ルビーの涙を流しながら、ピサロを真正面から見据えて、繰り返す。 「抱きしめて、くださいませ。私を抱き締めるのは……お嫌ですか?」 問いかけと呼ぶには生易しい強さを孕むその言葉は、ピサロの想いの確認だった。 言い訳がましい否定よりも、逃避めいた理屈よりも、ただ、愛おしさが勝る。 もう、裏切るのは止めにするべきだと思った。騙すのは止めにしたかった。 大切な女性の願いたった一つを叶えられないというのなら、そこに愛は、きっとない。 ピサロの手から武器が落ちる。 空いた手で、代わりに。 愛しき身を、抱き締めた。 腕の中にある肩はとてもか細い。 この細い肩は、どんなことがあったとしても、絶対に傷つけてはならないもののはずだったのだ。 その根本にあった誓いを押し出し、内省へと繋げ、傷ついたロザリーのココロを撫でるように抱き締める。 「愛している。未来永劫、本当に君を愛し続けると誓うよ、ロザリー」 「私も、愛しています。貴方の愛に負けぬほどの、心よりの想いを、貴方に注ぎ続けます、ピサロ様」 どちらともなく、見合わせた顔を、ゆっくりと近づける。 想いを確かめ合うように、二人は口付けを交わす。 その口付けは、最高に甘かった。 ◆◆ はぁ、と溜息を吐いたのは何度目だろう。 この短時間で、アナスタシアはもう一生分の溜息を吐いた気がする。 うっとりしているわけでは決してなく、ピサロとロザリーの想像以上のいちゃつきっぷりに呆れ果てていた。 奇跡の立役者として立ち合う権利くらいあるだろうと言い訳をし、出歯亀根性に従ったのが間違いだった。 一部始終を見物したのはいいが、これほどまで見せつけられるとは全くもって予想外だ。 脚本も台本もない生のラブロマンスは、完全にアナスタシアから気勢を削いでいた。 ――なんかもう……どーでもいいわ。色々と。 怒りが失せて毒気が抜け、代わりに壮絶な疲労が全身に圧しかかって来る。 立っているのも億劫になり、大の字に倒れ込んで、横目でピサロとロザリーを窃視する。 まだ、ちゅーちゅーやっていた。 さすがに見ていられなくて、アナスタシアは目を逸らし、もう一度盛大に溜息を吐く。 信じられないくらい体中が痛むのは、あのアツアツっぷりが目に毒だからに違いない。 ――いいなー。いいなあー。わたしも素敵な彼氏がほしいなあー。 ヤケクソ気味な欲望を声に出さなかっただけ、自分を褒めてあげたいとアナスタシアは思う。 再度の生を得て、仲間が出来て、少しくらいは満たされたと思っていた。それは確かだ。 けれど人の欲というものは果てを知らない。 ましてやアナスタシアは、ルシエドを従えるほどに欲深いのだ。まだまだ乾いている箇所はいくらでもある。 もっと生きたい。生きてやりたいことは山ほどある。欲しいものだって星の数ほどある。 まだまだ欲望の火種は、アナスタシアのココロで燻り脈打っている。 だから、アナスタシアは安心できた。 ――まだ、わたしは“わたし”でいられるのね。 その安堵はすぐに、強烈な眠気へと変わる。 瞼が重い。とんでもなく重い。 耐えられず、アナスタシアは目を閉じた。 心地よいまどろみの中で、素敵な男性のことを夢想し、アナスタシアの意識は消えていった。 ◆◆ 腕の中の温もりが消えていく。唇に触れる湿っぽい柔らかさが遠ざかっていく。 目を開ければ、もはや白の光はなく、荒れ果てた地が目に入った。 甘い奇跡の時間は終わった。 空になった掌に、ピサロは目を落とす。 そこにはまだ、温もりが残っている。温かい残滓を逃さないように、ぐっと握り締める。 手の甲を目尻に押し当て、流れる涙を思い切り拭き取る。 息を吸い込む。 肺に満ちた埃っぽい空気を、長く吐き出した。 目元を擦り深呼吸を繰り返す。 膿を出し澱を抜くように、体内に淀む空気を入れ替える。 愛する者を痛めつけ続ける不毛な復讐の念を、外に放り出す。 悲嘆と殺戮の果てに愛する者の命を求める旅路は、もはや歩めない。その旅の果てに、ロザリーの姿はないと知ってしまったから。 行くべきは、ロザリーが示してくれた別の道。 過ちを繰り返さず、罪を償い、ロザリーを決して裏切らない道のり。 その方向へ、ピサロは、自らの意志で踏み出すのだ。 ピサロがこの手で奪った命に、ピサロ自身の想いを以って償うために。 一歩を行く。 何ができるか分からない。何をすべきかは定まらない。だが、やると決めたのだ。 ならばもう、迷ってはいられない。 ピサロはバヨネットを拾い上げる。意志を貫くための、力とするために。 やけに重く感じる武器を持ち上げ、天へと翳し、目を閉じる。 ――ニノ。そなたに宣言した約束を反故にすることを詫びる。 ――そして、不実を承知で頼む。これからも、ロザリーの傍にいてやってくれ。 引き金を引く。 打ち上げられた魔力が、天空で爆ぜる。 ――ジャファル。ともすれば、ラフティーナを呼び覚ましていたのは貴様だったやもしれぬ。 ――貴様の至った境地、立派だったと今にして思うぞ。私が次に道を踏み外そうものなら、その手で我が身を裁いてくれ。 撃鉄が落ちる。 舞い上がる魔力が、蒼穹を彩る。 ――ロザリー。何度でも、何度でも言わせてくれ。私は君を愛している。いつまでもいつまでも、愛している。 ――私は、君を傷つけず苦しめない道のりを辿るよ。その果てで必ず君に、逢いに行く。 ――だから今は、どうか。 ――どうか、安らかに。 魔砲が、唸る。 迸る魔力が高く、高く、高く昇り上がり、ソラを染め上げた。 ピサロは忘れない。この想いを、決して忘れない。 見送りを終えて、砲を降ろす。 耳にあるのは残響と、少し遠くから響く戦闘の音。 奇妙なほどに静かで、ピサロは怪訝さを表情とし、あたりを見回し、見つける。 大の字で地面に倒れ込むアナスタシアを、だ。 近づいてみるが、彼女は目を開けない。動かない。 「おい」 呼びかけてみる。 「おい!」 だが、返事はない。 呼んでも、答えは返ってこない。 顔を覗き込み、少し声を張り上げ、 「おい……アナスタシア・ルン・ヴァレリア!」 初めて、その名を呼ぶ。 「……ふにゃー、そこは、駄目よぉ……」 寝言が返ってきた。それも、口端から涎を垂らして、だ。 殺してやろうかと、本気で思った。 沸々とわき上がる黒い感情を、ロザリーの顔を思い出して必死で抑える。 本当に、この女は気に入らない。 粗雑で下品でやかましく欲深い。ロザリーの慎ましさを少しくらいは見習うべきだとピサロは思う。 だが不本意ながら、アナスタシアには借りができてしまった。 彼女がいなければ、ピサロはロザリーを傷つけ続けるだけだっただろう。 「全く……」 呆れるように呟き、ピサロは手を翳す。 癒しの光がたおやかに輝き、アナスタシアへと降りかかる。 「……そ、そこ、いいわぁー。気持ち、いー……」 お気楽な寝言を零すアナスタシアに肩を竦めたとき、ふと、ピサロの手から回復魔法の光が消えた。 全身から、力が抜ける。 膝をつくだけの気力も絞り出せず、ピサロはアナスタシアの隣に倒れ込んだ。 またも、魔力切れ。 更に、感情が揺れ動いたことによる心労が、ピサロの魔力をより早く枯渇させていた。 強烈な睡魔が、意識を侵食してくる。 眠るな、とピサロは思う。 まだ戦いは続いている。仲間のいないピサロにとって、今この場で眠るのは危険極まりない。 なんとか起き上がろうと手を地面につけたとき、声が響いた。 『案ずるな。汝に危機が迫りしとき、我が汝を呼び覚まそう』 音なき声は、ピサロの頭に直接届く。 『二人の愛がある限り、我が力は不滅。愛しき者を想い、今は休むがよい』 愛のガーディアンロードの囁きは優しく、穏やかで。 ピサロは、身を委ねるように目を閉じる。 ◆◆ かくして、魔王と恐れられた男と、英雄と称えられた女の喧嘩は終わる。 神聖さも荘厳さも大義も野望もない、感情と意地と欲望のぶつかり合いの果てで、二人は並んで眠りにつく。 そこには、あらゆる戦場と切り離されたかのような静けさが満ちていた。 【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 昼】 【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】 [状態]:ダンデライオン@ただのツインテール ダメージ(大) 胸部に裂傷、重度失血 左肩に銃創 リフレッシュの連発とピサロの回復により全体的に傷は緩和。爆睡中。 精神疲労(超極大) 素敵な彼氏が欲しい気分 [装備]:アガートラーム@WA2 [道具]:感応石×3@WA2、ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式×2 [思考] 基本:“自分らしく”生き抜き、“剣の聖女”を超えていく。 1:まだまだ生きたい。やりたいこと、たくさんあるもの。 2:ジョウイのことはとりあえずこの場が全部終わってから考える 3:今までのことをみんなに話す [参戦時期]:ED後 [備考]: ※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。 ※アナスタシアの身にルシエドが宿り、聖剣ルシエドを習得しました。大きさや数ついてはある程度自由が利く模様。 現在、セッツァーが欲望の咢を支配しているため、剣・狼ともどもルシエドを実体化できません。 【ピサロ@ドラゴンクエストIV】 [状態]:クラス『ピュアピサロ』 ダメージ(大) ニノへの感謝 ロザリーへの純粋な愛(憎しみも絶望感もなくなりました) 精神疲労(極大) 魔力切れ 熟睡中 [装備]:クレストグラフ(5枚)@WA2 愛のミーディアム@WA2 バヨネット [道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実 点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石) 天罰の杖@DQ4 [思考] 基本:ロザリーを想う。受け取ったロザリーの想いを尊重し、罪を償いロザリーを傷つけない生き方をする 1:償いの方法を探しつつ、今後の方針を考える [参戦時期]:5章最終決戦直後 [備考]:*クレストグラフの魔法は、下記の5種です。 ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン *バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます *ラフティーナの力をバヨネットに込めることで、アルテマを発射可能です。 時系列順で読む BACK△147-1Aquilegia -わたしの意地、私の意地-NEXT▼148 オディオを継ぐもの 投下順で読む BACK△147-1Aquilegia -わたしの意地、私の意地-NEXT▼148 オディオを継ぐもの 147-1 Aquilegia -わたしの意地、私の意地- アナスタシア 149-1 魔王様、ちょっと働いて! ピサロ ▲
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谷口「皆さんは人の生命という物を、どうお考えですか?」 谷口「人道的な意味でいうならば、大切な物。生物的な意味でいうならば、自己維持や増殖の総称」 谷口「倫理的な観点から言えば、人の命とは何よりも重要なものであり侵すべきではない絶対的なもの、ということでしょう」 谷口「命は大事なもの。だからそれを維持し、支える物も全て大事で重要なもの」 谷口「食料であったり、それを手に入れるためのお金であったり、あらゆる行動を執るための手足であったり」 谷口「もっと直接的なものを言うならば、臓器なども」 谷口「たとえば肝臓。肝臓をなくしてしまうと体内の毒素を分解できず、人は徐々に生命を失っていきます」 谷口「食料。金銭。四肢。臓器。それらに執着を持つことは生命の保持に執着する生物として当然の欲求です」 谷口「では人が生命への執着を捨て、死を望んだなら。やはりそれら全ては不要なだけの物になり下がるのでしょうか?」 谷口「今回ご紹介するお話は、そういった類のお話です」 谷口「ふほほwww」 鶴屋「うるさいにょろ! 誰だか知らないけど夜中に人の部屋でなにをごそごそと……って、なんであんたが私の部屋に!?」 谷口「へひん、やべえ、こそこそ忍んでたのにとうとう見つかってしまったにょろ!」 鶴屋「人のキャラ作りパクルな! 『にょろ』 は私が10年の苦心の末に編み出したアーキタイプの集大成なんだ! 安易にマネしたら訴えるにょろよ!」 鶴屋「って、おま、なにやってんの!? 夜中に人の部屋に忍び込んでると思ったら私の下着かぶってやがる!」 谷口「ああん、僕のひそかな楽しみが鶴屋さんに知られてしまった! 恥ずかしい! ゲスゲスゲスwwww」 鶴屋「てめぇ、ちょっと尻出せ!」 ~~~~~ 冷たい風が俺の頬をなでていく。世知辛い世の中に適応できなかった俺をあざ笑い厳しい言葉をぶつけるように肌を打つ冬の風が俺の涙までも奪い去っていく。 ぽっかりと風穴が空いた胸の中心をもえぐりとるように、空っ風は吹きつける。 くすんだ色のビルの屋上。暗い灰色の曇り空。その狭間で柳のようにゆらゆらと揺れながら立ち尽くす俺は、ぼーっと、呆けたように、目もくらむ眼下の光景を眺望していた。 ここから飛び降りれば、きっと俺は楽になれるんだ。きっとすごく痛いだろうし、それに、とても恐ろしい。でもそれは一瞬のことだろうし、これからも何十年もだらだらと続いていく苦難の人生に比べればはるかに楽なことで、慈悲深いことなのだろう。 心だけでなく身体からも芯が抜けてしまったかのように、おぼつかない足取りで俺はビルの屋上の端に立った。 遺書をそろえて靴を脱いだ。花束を墓前に供えるようにそうすることが自殺者のこの世で最期の礼儀作法に違いと思ったから。俺はテレビや漫画なんかを見よう見真似で、そっと靴を揃え、その上に白い封筒を載せた。 自分の魂が一足先に身体から抜け出し、天使の輪っかが頭上に浮遊するようにその場でゆらゆらと漂う感覚。ふわふわと魂が、今の俺の行動を逐一見下ろしている。 自分で自分の行いが客観的に伺える。これからビルの頂上から飛び降りようという直前に自分の靴を神経質なまでに整理する自分が、とても滑稽だった。 「よし」 自分を鼓舞するように小さくつぶやくと、俺はコンビニで買ってきたウィスキーの小瓶をぐっとあおり、のどの焼けるような痛みをこらえながら空を見上げた。 この世の見納めがこんな曇天なんて。ついてない。まさに俺の人生そのものじゃないか。いや、だからこそ、こんな空模様の下で逝けることが幸福なのかもしれないな。 思えばついてない人生だった。誰かのせいというわけじゃない。全ては俺自身のせいなんだ。自業自得ってやつさ。 苦しいとか辛いとか、嫌だとか面倒だとか。そんなことばっか言って非生産的で怠惰で反社会的で周囲を気にしない馬鹿な生活を送ってきた俺にふさわしい人生の終焉だ。 目を閉じれば家族や仲間たちのまぶしい笑顔、暖かい体温が記憶の断片からよみがえってくる。それらを思い出すたびに飛び降りを思いとどまりそうになる。 しかし無残で無慈悲な冷たい風が、そんな俺の甘えた思考をねじり取り、吹き飛ばしてくれる。 俺は目を開けた。 いい感じで酔いが回ってきた。頭の奥のあたりがヒリヒリと恍惚感に熟れている。悪くない。今なら気分よく死ねそうだ。 迷いはない。未練はあるが、もういい。もういいんだ。ショートカットの女の像が俺の頭の中で何事かを呼びかけていたが、それも俺の耳には届かなかった。 さあ。飛ぼう。 「お待ちください」 突然のことだったので、ひどく驚いた。不意をつかれたとはいえ、誰もいないと思い込んでいたビルの屋上に俺以外の人間がいたなんて。意外だった。 「どうも。お久しぶりです。僕のこと、覚えておいでですか?」 肩越しに振り返った俺は、わずかに酔いが醒めていくのを感じた。このにやけ顔には覚えがある。 お前……古泉か? 「はい。あなたの高校時代からの友人にして、つい先日まで同じSOS団の団員だった古泉一樹です」 グレーのスーツを肩にかけ、ダブルカフスのカッターシャツ。地味な色合いのネクタイに光る控えめな銀のネクタイピン。その商社マンのような姿が、不思議と古泉には似合いすぎるほど似合っていた。 「……何か用か? 残念だが、俺は忙しいんだ」 しばらく互いに視線を交し合った後、俺は苦笑まじりにそう言った。別に忙しくはないが、今この決意を誰かに抑止されるのはとても不愉快なことだと思った。 てっきり古泉は俺の飛び降りを思いとどまらせようと現れたのだと思っていたのだが、どうやら俺の予想は外れていたようだ。 「そう警戒しないでください。別に僕はあなたの決意を覆そうと思ってここにきたわけではありませんよ」 何の企みもないといった様子で、古泉はつかつかと俺の目の前まで歩み寄ってきた。 古泉に無理矢理屋上の中心まで引きづられるかもしれないと懸念したが、それは杞憂に終わった。古泉は胸ポケットから取り出した一枚の紙切れを俺の眼前に差し出した。 「あなたがそこから飛び降りようと思ったのなら、あなたの中に、それに見合う都合があってのことでしょうし、僕にそれを否定する権利はありません」 慇懃な態度の古泉の手から、俺は紙を受け取る。長方形のそれは厚紙で作られた、ごくごく一般的な名刺だった。 そこには、少しばかり格式ばった字体で古泉の肩書きが記されていた。 「……総合、プランナー?」 満足げに、古泉はそれを肯定してうなづいた。 「はい。今僕は、あらゆる物事をプロデュースさせていただく、トータルプランナーを生業とさせていただいております」 プランナー? 企画者? 確か、披露宴とか葬式とかの進行を企画する人のことだったっけ。 「その通りです。さらに私どもトータルプランナーは、あらゆる物事をよりすばらしいものに演出するお手伝いをさせていただいております」 ふん、と鼻を鳴らして俺は古泉に名刺をつき返した。そのプランナーが、これから飛び降りる俺に何の用があるってんだ? 金ならないぜ。 そう。金がないんだ。俺は自嘲気味にそう繰り返した。 俺は定職に就くこともなくふらふらし、ずっとニートやってきたボンクラだ。収入がないから貯金なんてありゃしない。 それだけならまだしも、中学の頃の友人である国木田が会社を興す時に借りた借金の連帯保証人になっちまって。今じゃ会社の経営に失敗して夜逃げした国木田の多額の債務を肩代わりする身だ。 家族に迷惑かけてる身で、さらにいわれのない、目が飛び出るほどの借金を作っちまったダメ男。 こんな俺に何を期待する? 生きていれば生きているだけ、蔓延する厄病のように害をまきちらす腐れ人間だぜ? 取り柄といえば健康なことくらいだ。学も無いコネも経験もない。俺には何もない。人様に役立てることなんて何もないんだ。 「だからいいのですよ」 俺は一瞬言葉につまり、ムッとした表情で古泉を見返した。世に絶望して死を決意した俺でも、こう言われると腹が立つんだな。 「身体は健康そのものなんでしょう? だったら何も言うことはございません」 どこからともなく取り出した電卓をタンタンと叩き、素早い手つきで古泉はそれを俺に見せた。 「この金額です。あなたの抱えている負債。あなたがご家族に抱いている後ろめたさを払拭するに値する金額。そしてあなたのご家族が今後何不自由なく暮らしていける額。これだけの額をご用意させていただきます」 唖然とする俺に向かって、古泉は感情の読めないニヤニヤ笑いを浮かべたままささやいた。 あなたの臓器を買い取りましょう。 目が覚めると、そこは白い壁に囲まれた病室だった。薬品くさい布団から身を起こすと、浅黄色のカーテンが風に翻った。 「お目覚めですか? ご気分はいかがです?」 とても爽やかだ。いい気分だぜ。 「それはよかったです。これから人生にピリオドを打とうと言う大切な時に気分がすぐれないのでは、未練が残りますからね」 部屋の隅のクローゼットに自分の衣服が収納されているのに気づき、俺はシンプルなガウンを着替えた。 「お約束通り金融会社には僕から負債を返金しておきますし、ご遺族にも残金をお渡ししておきますよ。あなたは、何も思い残すことなく気の済むように命を絶っていただいて結構ですよ」 目はすっかり冴えてしまった。しかし未だに夢の中にいるような心地だった。 いっそのこと、手術が終わった時点で安楽死させてくれりゃ、俺も楽でよかったのに。 「はっはっは。勘弁してくださいよ。臓器摘出だけでも危ない橋だというのに、その上、自殺幇助にまで手は出したくないですよ」 言えてるぜ。ま、自分の死に場所くらい自分で決めるさ。 俺と古泉は静かに窓外に目を向けた。空は、もうすっかり晴れていた。 「キョン! キョンじゃないか! こんなところにいたのか、探したよ!」 またあのビルに向かおうと思い、街道をふらついていた時のことだった。まるでテレビかラジオの向こう側の音のように身近に感じられなかった町の雑踏から、俺のあだ名を呼ぶ声がする。 俺のあだ名を指名してくるってことは、昔馴染みの知り合いか。この面倒な時に、一体誰だよ。 「ごめんね、本当に、ごめんね!」 息を弾ませて俺の背に追いついてきた人物を見て、俺は驚いた。そこにいたのは、俺に多額の負債をおしつけて蒸発したと思っていた中学時代からの知人、国木田だった。 生に執着を失い全てのことに無関心になっていた俺の心に、懐かしい感情、怒りが湧いてくる。こいつさえいなけりゃ、こいつさえいなけりゃ……! しかしその憤懣も、汗だくで微笑む国木田の笑顔の前に霧散してしまった。 「会社を立て直すための資金を集めるために金策にあちこち駆け回ってたんだ。キミに連絡するのをすっかり忘れていてね。ずいぶん迷惑をかけちゃったんだじゃないかと思ってる」 申し訳ないという様子で、国木田は荒い息を整えようともせずに背負い袋から茶封筒をひとつ取り出した。 「こんなのでキミにかけた迷惑を償いきれるとは思っていないけど、せめて僕にできるお詫びだよ。とっておいて」 茶封筒をあけると、そこには札帯のついた札束が5つほど入れられていた。 ……く、国木田? おま……これは? 「迷惑料だよ。とっといて。キミには本当にすまないことをしたからね。例の借金は、全部僕が自分で返したから。もうキミに心配はかけさせないよ」 何がなんだか分からず、俺はさっきまでとは違った意味で呆け、目を点にして立ち尽くしていた。 「僕の狙い通り、我が社で作った商品が市場で大きな反響を得てね。特需といってもいいくらいの莫大な資本ができたのさ! そのおかげで会社は軌道にのるし、株価も跳ね上がるし。いいこと尽くめだよ!」 これも全ては僕の会社興しに賛同して借金の連帯保証人になってくれたキミのおかげだよ!と言って、感極まった国木田は観衆の視線も気にならないという感じで男泣きに泣いた。 「だからね。そんなキミに、是非ともうちの会社の副社長になってもらいたいんだ!」 真っ青な空の下、俺の頭はますますシェイクされたようにこんがらがっていった。 俺はなりふりかまわず走っていた。身体がだるい。やはり臓器摘出の影響だろうか。息が上がるのが早い。 借金持ちだった俺は携帯も解約してしまっている。だから古泉に連絡をしようと思えば家に帰るか、最近じゃさっぱり見なくなった公衆電話を探すしかないのだ。 ようやく緑電話を発見した俺は、ふるえる手で10円玉を2,3枚投入し、焦りながら番号をプッシュした。 『もしもし、あなたの生活をきらびやかに彩るトータルプランナー、古泉一樹でございます』 こ、古泉か!? 俺だ。 『おやおや。どうされましたか? ずいぶんと慌てた様子ですが』 単刀直入に言おう! お前に出してもらった金はそっくり返すから、俺の臓器を返してくれないか!? 『唐突なお話ですね。一体何があったのですか?』 少し困惑気味の古泉に、俺は最初から事情を説明した。最初からといっても、偶然国木田と再会して借金を返す目処がついて就職先も決まったから死にたくなくなったってだけの説明内容だが。 俺が全てを話し終えてからも、古泉はしばらく電話の向こう側で黙りこくっていた。 『あのですね。あなたのおっしゃりたいことも分かりますよ。死ぬ意味が全て帳消しになったから、死にたくなくなった。だから生きるために臓器を返してもらいたくなった、と言うのでしょう?』 その通りだ。都合の良いことばかり言って申し訳ないんだが、腹に脱脂綿の詰まっている俺の身体じゃ、長くは生きられない。早いところ臓器を元に戻してもらいたいんだ。 『無理を言わないでください。僕も趣味でこんなことやっているわけじゃないんですよ。ちゃんと需要があって、その希望にあった物を用意して品を揃え、信用の名の下に取引する。返してください、はいそうですか、で通用することじゃないんですよ』 予想外の古泉の反応に俺は狼狽した。いや、よくよく考えてみればそれが当然なのかもしれない。臓器の密売なんて一般人の俺でも知ってるレベルの重罪だ。そこに個人の私情など挟めるはずもないに違いない。 いかに相手が長年の友人である古泉であっても、たかが友情ごときでどうこうできる問題じゃないのだろう。なんせ、下手を打てば手が後ろに回ることになりかねない事なのだから。 「それでも、それでも俺は生きたいんだ! 頼む古泉、俺の内臓返してくれ!」 ふぅ。と受話器越しに古泉のため息が聞こえた。あきれてるんだろうな。あきれればいいさ。とにかく俺は生きていたんだ。輝かしい未来が突然やってきたんだ。こんなところで死ねるかよ。 『あれはまっとうな取引じゃなかったことくらい、あなたも承知されているでしょう』 ああ。臓器密売なんて公にできる話じゃないしな。 『ですから、返してほしくなったから返してね。であっさり済ませられる話じゃないんですよ。僕にも顧客からの信頼というものがありますし』 お前には悪いと思ってる。本当にすまない。だが、俺だって命にかかわる一大事なんだ。引けないことは分かるだろ? 『仕方のない人ですね。まったく。それじゃ、こうしましょう。あなたが顧客として、自分が売りに出した臓器を買い戻す。客として商品を買う分には、問題ありませんからね』 ああ。古本屋に本を売ったけど、やっぱり手元に置いておきたくなったから改めて買い戻すみたいなものか。分かった。買おうじゃないか。 ふぅ。と、また古泉のため息が電話の向こうから聞こえてきた。 『あなたね。簡単にそう言いますが、分かってるんですか? 臓器各種はけっこうな値がするのですよ?』 お前から受け取った俺の腸、肝臓、膵臓、腎臓などの代金は、合計1億だったな。それを全部つぎ込むぜ。 『1億で買った物を1億で売ったら、純利益がないじゃないですか。手間賃や手術料、そっち方面への上納金などを含めても、1億ぽっちじゃ到底及びませんよ。話になりません』 じゃ、じゃあ、いくらあったら足りるってんだよ? 一応、国木田から500万もらったから、1億500万までなら出せるぜ。 『庶民にとっては大金でも、500万なんて屁の一発でふっとぶ端下金ですよ。そんなの、業者に払う手間賃にもなりません』 そ、そんな……じゃあいくらならいいって言うんだよ!? 『1億5000万。あなたと僕の仲です。割引に割引し、さらに勉強して、その値段で結構ですよ』 ば、馬鹿な! ニートで中流階級家庭の俺に、あと4500万も用意できるわけないじゃないか! 『1億500万なら、そうですね。肝臓と小腸大腸くらいは売ってあげられそうですよ。何せ若い男性の最高に健康な臓器ですからね。もっとも需要の高い、値段の張る商品なのですよ』 足が、ふるえる。頭からサーっと血が引いていくのが感じられる。受話器をつかむ指先も、5本全てがわなわなと痙攣している。 頭が痛い。耳が痛い。指が痛い。首が痛い。胸が痛い。腕が痛い。腹が痛い。内臓が痛い。足が痛い。きりきりと痛い。 体中から血が噴出しているような幻想にとらわれ、俺は力なく両膝をついた。 『死ねばいいじゃないですか』 笑いをこらえるようなくぐもった声で、古泉はそう言った。 死ぬ? 俺が? 何で? どうして? 死ねばいい? いやだ、死ぬのは、いやだ! 生きたい! 俺は、生きたい! あの日、ビルの上で死のうとしてたのは、あれはただの気の迷いだったんだ! そう、ヤケ酒を飲んで酔って、ついついあんな馬鹿げたことしちまっただけなんだ! 俺は死にたくないんだ! あなたもつくづく、調子の良い人ですね。と古泉が哂った。 ニートで負債をかかえて家族に迷惑をかけたから死ぬ、止めてくれるな、と喚いていたのは酔った勢いなのですか? 酔いが醒めて冷静になっていれば、事態を好転させられるだけの良案が思い浮かんでいたというのですか? 確かに死んで責任をまっとうしようなんて言い逃れは酔いのもたらす逃避思考だったのかもしれませんが、結局はなんとかしようと思えば、今のように身体を売るかそれに準じる何かをしなければいけなかったわけじゃないですか。 むしろあの場に僕が現れてあなたに臓器提供の話を持ち込んであげたから、本当に本当のバッドエンドにならずに済んだんじゃないですか? なのに、その臓器を買い戻すために大枚をはたく? また新しい負債を発生させようと言うのですか? ふふふ。結局は、ほら。あれですよ。あなたが死ねば万事解決するんですよ。 「それでも俺は、死にたくないよ!」 あらん限りの力を振りしぼった俺の声は、料金切れで自動的に通話の切れた受話器の向こうには届いていなかった。 俺は、人目もはばからず声をあげて泣いた。 まるで曇り空のあの日に逆戻りしたようだ。ゆらゆらと、さながら幽鬼のような足取り。呆けた頭。だらしなく弛緩した腕。 生に絶望してビルを登ったあの日。しかし、今は違う。死に抗うため、生に執着して、でもそれが叶わなくて、力およばず、力なく。ふらふらと。 気づくと、俺はあの病院の前に立っていた。斜陽が、まるで病院の白亜を巨大な地獄への門のように彩っていた。 ここで俺は臓器を抜き取られた。変わりに脱脂綿を腹の中に詰められた。まあ、それは俺が自分で望んだことだから誰にも文句は言えないのだが。 きっともうここには俺の内臓も、古泉も、いないだろう。ここに来たからといって奴の足取りが知れるはずもない。でも、再度古泉に連絡をとる勇気もなく。 ああ。腹が痛い。 「おや? どうされましたか?」 頭上から聞き覚えのある声がふってきた。それも、ごく最近聞いた声。この声は…… 「ずいぶんとしょぼくれて、どうされました? もうとっくにお亡くなりになったとばかり思っていたのですが?」 病院の2階の窓から、夕日に溶暗したように黒々とした古泉の顔がにゅっと突き出されていた。 突然、俺の身体に底をついていたはずのエネルギーが蘇ってきた! 腕に、足に、腹に、頭に、爆発しそうなほどの熱が、沸騰する! 気づくと俺は駆け出していた。病院の扉を突き飛ばすように開き、獣のような勢いで階段を駆け上る。痛みなど感じない。ただ、狂おしいほどの何かが、俺の内部で渦を巻いて猛っていた。 「古泉!」 視界が狭くなるような幻覚の中、俺は古泉がいたであろう部屋の前まで駆け上っていた。そこは大きな会議室のような部屋であろうと、閉じられた扉の規模からして想像がつく。 金属製のドアノブを乱暴にゆすってみるが、しっかり施錠された扉は容易には開かない。 『どうされました? 忘れ物ですか?』 扉の向こうから古泉の声が聞こえる。間違いない。古泉はここにいる。ということはもしかして、俺の身体の一部もこの向こうにあるのか!? 「頼む古泉、開けてくれ! 助けてくれ!」 あらんかぎりの声を張り上げる。死ぬか生きるかの瀬戸際だ。世間体なんて微塵も感じない。 『臓器の件ですか? それについては電話でお話していた通りですよ。1億5000万はご用意できたのですか?』 「ない。そんな金、逆さに振ったって出てきやしないさ。でも、それでも、俺の臓器を戻してくれないか?」 『おやおや。ずいぶんなことをおっしゃられる。代金もないのに、商品をよこせと? これは恐喝か強盗と解されてもしかたないことではないでしょうか?』 「違うな。俺はクーリングオフに来たんだ。強盗じゃなくて客だ」 『またまた。うちは取引から7日過ぎていなくても、クーリングオフは受け付けていないのですよ』 「なら力づくでもクーリングオフさせてもらうまでだ」 『ここへ押し入るつもりですか? 馬鹿な真似を。たとえここへやってきて臓器を取り戻したとしても、それをあなたの体内へ戻す医師がいなければ意味がないでしょうに』 「それでも、俺はやる! その時はその時だ! 臓器を取り戻すことで少しでも生きることへの可能性が生まれるのなら、俺はなんだってやってやる!」 『………。やれやれ。あの日、ビルの上に立っていたあなたはあんなにも弱弱しくて、ビルの上から飛び降りなくても死んでしまいそうな外見をしていたというのに。今はこんなにも生き生きと、生を望んでいらっしゃる』 「ああ、そうだ。あの時の俺はどうかしていた。絶望っていう一過性の毒にやられて、完全に頭がいっちまってた。だが、今なら言える! 俺は生きていたいんだ、と!」 しばらく、俺と古泉は、扉をはさんで黙り続けていた。こうしていると、目の前の分厚い扉も紙のように薄っぺらく、まるで手を差し出すだけで突きやぶれそうな気がしてくる。 『覚悟はあるのですか? もう、絶対に自殺などしない、寿命が尽きるその日まで、あがき続けると』 「ああ! もちろんだ!」 渾身の力をこめた俺の主張。最高に熱のこもった、熱をこめた声が、扉のむこうへ浸透して行った。古泉にその叫びは……伝わっただろうか。 『……分かりました。その言葉を、信じましょう。さあ。こちら側へいらしてください』 静かな古泉の声とともに、すっと巨大な扉が開いて行く。 ああ……明るい……白く、明るい光が……開き行く扉の向こうからさしてくる……まるで、そう。俺を別天地へといざなうかのような………え? 扉が完全に開ききったところで、パンッ!と乾いた破裂音がした。俺の頭上に、火薬くさい紙の束がふりそそぐ。 「遅かったじゃないの! まったく、なにやってたのよ、待ちくたびれちゃったわ!」 そこには、クラッカーの筒を持ったハルヒが立っていた。え? ハルヒ? なんで……ここに? よく見るとハルヒだけじゃない。俺のよく知っている人たちが大勢、大挙して扉の向こうに立っていた。 「もう、死ぬなんて軽々しく言っちゃダメですよ!」 朝比奈さん? なんで、これ、え? パーティー会場? え? え? 「死というものを曖昧にしか実感していなかった彼に時間を与え冷静さを取り戻させ、改めて明瞭な死を感じさせる。そこでクランケ自らに生への執着を抱かせる。見事な演出。さすがプランナー」 長門? なに言ってんだ、古泉の隣で? 扉の中から押し寄せる知人や家族たちに率いられ、放心状態の俺はパーティー会場の中へ連れ込まれる。 200人規模で会議が開けそうな広い部屋に、「生還おめでとうパーティー」 とヘタクソな字で書かれた大きな垂れ幕が吊り下げられている。 ここに至って、ようやく薄ぼんやりと俺は事の次第を理解し始めたのだった。 「いかがでしたか? プランナー古泉の企画は」 何故かお神輿の上にかつがれて上下に揺さぶられている俺は、どっと疲れが出たのを露骨に顔に出しながら、「最悪だったよ」 と答えてやった。 しかし内心では、まんざらでもないな……と少し思っていた。 「分かっているとは思いますが、安心してください。全ては僕の企画したプランです。あなたの内臓を摘出したというのも嘘ですよ。あなたのお腹の中には脱脂綿ではなく、ちゃんと自慢の臓器が詰まっているのでご安心を」 もうそれが分かっただけでも十分だよ。さっさと帰らせてくれ。今日はとっとと眠りたい気分だ。 「まあまあ、そういわず。全てが僕のプランだったわけですが、ひとつだけ真実もあるのですから」 そう言う古泉の隣で、はにかみながら手を振っていた国木田を見て、俺も思わず笑い返してしまった。これからよろしく頼むぜ、社長。 なんだかんだ言って、楽しいひと時だった。結局途中から俺の生還パーティーではなくただの同窓会になってしまったのだが、それはそれで文句ない。 古泉にずいぶん酷いことを言ってしまったが、悪かったな。騙されてたとはいえ。 「いえいえ。気にしていませんよ」 こんな時は、古泉のこのニヤケ顔もありがたく映る。そう言ってもらえると助かる。 「さてさて。これで僕の今回の仕事は完了です。それでは、最後にこれを」 そう言って、古泉は一枚の紙切れを俺に差し出した。以前同じように差し出した名刺よりも、薄く、大きな紙だ。 「今回のプランの総額ですよ。いろいろと手間がかかってしまったので、この金額になってしまったのですが、まあいくらか引かせていただいているのでご心配なく」 再び俺の腹に、きりきりとした鈍痛が走る。……え、これ、俺が払うの? その請求書に書かれていた金額を見て、また死にたくなってきた。 ~~~~~ 鶴屋「尻出せや!」 谷口「ほひぃん! かかか鰹節だけは、鰹節だけはッ!」 鶴屋「往生せぇやあああぁぁああぁぁ!」 谷口「アッー!」 おわり
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前ページNameless Archives/2ちゃんねる・エロパロ板/スーパーヒロイン系・総合スレ 題 無題1 作者 117(ID nN5Kl1J9,kaCWjEGf,wfKiSqv/,gUy+Dgrb) 取得元 スーパーヒロイン系・総合スレ,http //pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1071976937/ 取得日 2007年11月04日 タグ cb 概要&あらすじ バーンフォウスの戦いは続く…… ページ 1-2 ご注意:以後の作品の著作権は、作者(書き込み主)にあります。 148 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 55 ID wfKiSqv/ 143 私立世衣木高等学校。現在四限目数学の授業、残り時間十三分。分かりやすく言えば 十二時三十七分である。 グラウンド側の席でぐっすり熟睡しているのは兵藤涼。すぐ隣では穂村煉が迷惑そうで 心配そうな、だがやはり迷惑な顔をしていた。気持ちよさそうな寝息が授業に対する彼女 の集中力を乱していた。 宿題の写しを授業開始直前に終え、それからたっぷり熟睡中。本当なら煉が叩き起こし てもいいのだが、寝ていてくれればまた宿題を見せてくれと頼まれる……。それが嬉しかっ たりする。 ブルッ―― 「ッ――! 先生、トイレ行ってきます」 挙手すると同時に煉は席を立ち、教師の言葉を待たずしてすたすたと教室のドアに向か った。 「ん? おお、いっといれ」 薄ら寒いギャグにあちこちから失笑ともとれる笑い声が起こった。いつものことだが、その 教師のギャグに背筋が震えるのを感じながら彼女は教室を後にした。 149 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 56 ID wfKiSqv/ 足音を立てずに走るのは彼女の特技である。誰もいない廊下を疾走し、女子トイレの前 を素通りし、階段を長いストライドを生かして軽く六段近く飛ばして駆け上がる。左胸ポケッ トにまるで束縛されているかのようにぱっつんぱっつんに収められていた折り畳み式の携 帯電話を手にすると、それを開き耳に当て、 「私です」 ボタンを操作することなく会話を始めた。よく見るとその携帯電話にはボタンの類はなく、 上部に全面を覆う画面と通話に必要な部位しかない。そもそも彼女は授業中に携帯を鞄の 中に――しっかり電源まで切って――しまっている。 『こんにちは』 電話から聞こえてきたのは幼さを含む女性の声。日本防衛企業特務課のオペレーターの 女性である。何度か面識もあり、歳もあまり変わらない。 『エビル・ネイションの攻撃が確認されました』 「場所は」 『世衣木高校から南南西に五十五キロ。臨海都市予定地域周辺が被害を受けています』 「直接向かいます」 『気を付けて』 屋上へ通じる扉を開け放つと上方に跳躍し、給水タンクの上に着地し首を巡らす。 (南南西……五十五キロ……) 携帯電話らしきものを胸ポケットに戻し、受けた情報を頼りにその方角を視認する。身体が 次第に熱くなる。戦闘に向けて力が漲っていく。 「――見えた」 壇ッ、左足で踏み切ると、先程とは比較にならない跳躍を見せた。 「炎武ッ――」 振りかざす右腕に炎が蛇……いや龍のように渦を巻き、 「――超甲ぉぉッ!!」 炎龍が煉の頭から爪先までを見事に覆いつくす。 「っはぁ!!」 掛け声とともに火球から常識離れしたスピードで飛び出して行ったのは、紛れもなくバーン フォウスであった。一条の紅い線が世衣木高校上空数百メートルから南南西へと尾を引き、 瞬く間に消え去った。 150 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 57 ID wfKiSqv/ それはまるで重戦車を髣髴とさせた。 「…………」 一見しただけでも分かる強固な外穀。ヒトに例えると頭部の、額に当たるところから生える 長大な角。さながらカブトムシである。 「…………」 エビル・ネイションの怪人は本能の趣くままに生きている。一匹一匹それぞれが曲者揃い であるが、圧倒的な『力』の元で怪人どもは統率・管理されている。 「…………」 そんな怪人の中で黙々と破壊を行うこのカブトムシは、特殊といえばそうである。だが、こ いつの後ろは灰塵となり、押し潰された人間の亡骸が電光に集まり死んだ小虫のように点在 していた。 「――そこまでだっっ!」 「…………?」 カブトムシ怪人の聴覚が遠方より迫り来る声を、見上げた視覚が紅く輝く光点を捉えた。 「バァァニングゥゥッッ」 バーンフォウスの拳から生じた炎が再び空を真っ赤に灼く線を創り出す。 「ナァァァァッッッックゥゥ!!」 マグマの熱を凝縮したような超高熱を誇る拳が怪人の角を瞬時に粉砕、蒸発させる。 ピキッ 「なにッ!?」 今までの戦闘からその結果を確信していた煉は状況が不利と判断すると背後に大きく飛び 退いた。 151 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 58 ID wfKiSqv/ 「ちぃっ」 バーンフォウスの右手甲には小さなひびが走っていた。対して怪人の角は未だ健在。奇襲 からの懇親の一撃にも拘らず、だ。 (あ、でも奇襲は違うか。だって私から叫んでたし) などと呑気に考えている場合ではない。これは敵の硬度がバーンフォウスの超甲より勝って いるということを知らしめている。 「向こうは私を調べてる……ってことか」 そのせいで今回の怪人は苦戦しそうだと煉は直感した。が、彼女はできる限り早く始末し学校 に戻るつもりである。四限目終了まで、後十分。 「ッんぁ――ッッ!?」 バーンフォウスの身体が後方に弾け飛ぶ。勢いはひどく、一度後転してしまってから二つの脚 でようやく制動をかけた。粉塵を巻き上げ数十、百メートルいやそれ以上の距離を慣性に従い 飛ばされた。 「っっっ痛ぅ……、何を……」 されたかは至極単純であった。怪人の体当たりである。顔を上げた煉は先程まで自分がいた 位置に甲骨をまとう怪人がいるのを目にした。 「馬鹿っ速いじゃないか」 気を抜いていたわけではない。しかし距離を詰められた瞬間を目で捉えることができていなか った。 「…………」 「?」 絶対的に優位にいる怪人が自分を見据えたまま巨角を指で示すのを怪訝な表情――顔は 超甲で覆われて見えないが――で見返していると、 「…………」 「ッ――!」 バーンフォウスに、いや煉に対して中指を突き立てる仕草をして見せた。それはつまり、 あの角で煉の女性を貫くというやつなりの挑発であった。 「――――下衆が」 腹の深奥で何かが熱く滾った。超甲をまとい始めて数ヶ月も経たない煉はいとも簡単に理性の 箍が外れ、本能に任せるだけの攻撃的な戦闘スタイルにシフトした。 152 :名無しさん@ピンキー:04/02/09 23 59 ID wfKiSqv/ ――憎い 『……ん』 ――父を殺したあいつらが 『れ……ん』 ――母を殺したあいつらが 『煉……』 ――やつらを殺すことだけを考えているのに 『煉さ……』 ――さっきから耳に張り付く雑音は、何……? A.呼びかけに答える B.呼びかけに答えない 155 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 42 ID ri/YzF8D 152 「――ダメです、応答ありません!」 オペレーターの叫びが防衛企業特務課作戦司令室に木霊した。 「トランス状態に堕ちました!」 報告を受け、社長の顔が険しくなる。こうなってしまうと戦闘を終えるまでこちらから できることは皆無である。煉を信じて待つしか、彼らにはできない。 今までも何度かトランスに陥っていたが、その都度危機を脱している煉の実績は驚嘆に 値するが、今度の相手は闘争本能に任せた戦い方では勝てないかもしれないと彼は考えて いた。 「社長。先程からの戦術兵器開発部の轟博士のエマージェンシーはどうされます?」 「私が出よう」 戦闘中に煉へ呼びかけたのは、轟博士が緊急に煉と連絡が取りたいと要求があったから である。攻撃が通用していないと兵器開発部へ即座に報告したところ、すぐさま返事があ った。 『そんなこともあろうかとこいつを開発しといたのじゃ』 最強の台詞とともにバーンフォウスの新型兵器のデータが送られ、いざこれから……と いう時になってのトランスであった。 煉の動向を見守りつつ、最悪の事態に備え何か手はないかと思案していた。 156 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 43 ID ri/YzF8D 「はああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」 愚直とも思えるほど煉は真っ直ぐ突っ込んだ。カブトムシ怪人はその巨体に似つかわし く緩慢な動作で腕を振り上げ、煉が交差する一瞬を待った。 紅い弾丸が目にも止まらぬ速さで距離を詰める。タイミングを見計らう敵の腕が、まだ 待ち、待ち続け、そして、 「っ――」 轟音を上げ空気を切り裂き、いや空を切った。 「遅い!」 声がしたのは背後。踏み込む左足。捻る腰。振り返る暇も与えず力を込めた渾身の右拳が、 甲殻に覆われるカブトムシの背に突き刺さる。 「…………く」 突き刺さったと思われた拳は、怪人の固い外甲の表面で止められた。超甲に入る亀裂が 音を立てて一段と大きくなる。 もしその怪人が表情を浮かべるなら勝ち誇った笑みを顔中に滲ませているだろう。――が。 「うおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」 止められた動きを強引に再動させる。左足はコンクリートを踏み砕き、腰は限界まで捻り回す。 「――」 怪人は微かな呻き声を残し、振り抜かれたバーンフォウスの右腕から弾け飛んでゆく。大地を 転がる巨躯を立て直して顔を上げると、そこには始めと同じく炎塊が弾丸のように迫っていた。 怪人が腰を落とし一撃に備えるのと、一撃が腹を捉えたのはほぼ同時だった。 確実な手応えが豪拳に伝わる、勝利を手にしたと確信した瞬間、右腕全体に亀裂が拡がった。 「な……っ!?」 驚愕。そして一瞬の隙。刹那、バーンフォウスの胴を怪人の腕が締めつける。 「かはっ――」 肺の中の空気が絞り出され頭が真っ白に塗りつぶされる。意識が途切れかけるが、ぎりぎりと 締めつけられる背部の鈍痛がそれを許さなかった。 「くぁ……、はっぁ」 鯖折りから逃れようとするも右腕は戦えるだけの力がない。左腕だけで外せるほど敵の力も弱く ない。 157 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 44 ID ri/YzF8D この時、煉はトランス状態から回復していた。一瞬意識が遠のいたために興奮状態が 醒めていた。そして、自分の愚かしさを激しく悔やんだ。一時の感情に任せたための失態、 しかも今回は致命的な結果を招いている。 「く、そぉぉ……っ――!」 己の愚行に打ちひしがれるのに追い討ちをかけるように、煉の腰が鈍い音を立てた。 (背骨が、砕けた……?) 自覚するが、不思議と痛みは感じられなかった。だがこれでもう戦えないかもという絶望 の感が煉に重く圧し掛かった。 怪人が腕の力を緩めると、煉の身体が面白いように力なくコンクリートの大地に崩れ落ちた。 転がる煉を足蹴にして仰向けにさせたカブトムシ怪人は、まるで値踏みでもするかのように ねちっこい視線をその身体に落とした。その目に頭が熱くなるが、今度はぶち切れたりはしな かった。代わりにどうすればこいつを倒せるか、それだけを考える。 右腕は使い物にならない。下半身も、腰から下は動かないかもしれない。本当に感覚がない 気がする。残されたのは……左腕。 (どうする? これだけで、どう戦う?) いかにシミュレートしても有効な手は思い浮かばない。心は焦れ、自然と左拳に込められる力 も増し、それは見逃されはしなかった。 重量級の怪人の右足がコンクリート諸共煉の左腕を踏み砕いた。 「……はっ――」 一瞬間の後、断末魔の叫びが一帯の大気を震撼させた。 158 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 44 ID ri/YzF8D その悲鳴に司令室の多くの者――特に女性は耳を塞ぎ、モニターに映る凄惨な光景から 目を背けた。 「ぐ……っ。せ、戦闘時間、五分突破。右腕、腰部中破。左腕……大破」 ざっくばらんにスーツを着こなす青年がいち早く気を持ち直し、現在の煉の状態を苦しげに 報告する。 「社長! これ以上は生命に危険が」 「分かっている。木崎くん、轟博士に繋いでくれ」 「あ……は、はい!」 社長の一声がきっかけとなり全員が気を取り直した。新人ばかりのこの課において、今しがた の映像は衝撃が大きかった。しかし、慣れてもらわなければ、困る。 「轟博士。例のあれは準備できましたか?」 『おお。ばっちりじゃ。今すぐにでもかっ飛ばせるぞい』 「頼みます」 それだけで通信を切る。司令の目はすでに正面の大画面モニターに映し出される怪人と煉の 姿に戻されていた。 「煉くん、あと少し……あと少しだけ耐えてくれ」 159 :名無しさん@ピンキー:04/02/16 01 45 ID ri/YzF8D 「――があああっっっっ!! っっっあああ!!」 左腕に走る激痛。頭を振り乱す煉の姿がその凄まじさを物語っている。 「……」 足元でもがき苦しむ彼女に向けられる視線はひどく落ち着き払っていた。冷静に煉のもがく 様を見ている。 「……」 ようやく動いたカブトムシ怪人の手が煉の腰、無数に亀裂が走る超甲へ伸ばされた。亀裂の 隙間に指を捻じ込み、力任せにそれを剥ぎ取った。 頼りない音を立てて剥ぎ取られた装甲が大地を転がる。白日の下に晒されたのは、女性らし い艶やかな肌をした。首から上で醜く騒ぎ立てる女性とこの肌の持ち主が同じだというギャップ。 その差が怪人の変態的な欲情を駆り立てる。 「……」 腰から下を覆う装甲に手をかけ飴細工のようにそれを容易く剥ぎ取ると、薄い恥毛が茂る女性 が現れた。 「あ……っ、あ、……」 そんな辱めを受けても、煉は苦しげに呻くことしかできない。左腕から全身に広がる痛苦に犯さ れ、もはや虫の息、といったところだ。 そんな状態に構うことなく、怪人の無骨で醜悪で汚らわしい指が彼女の女性部に這わされた。 撫で、さすり、強く抓りあげられようが煉の身体はまったく反応を示さなかった。 「……」 手を離したカブトムシの股間から長い肉塊がじゅるりと粘液を垂れ流しながら飛び出し、その身 を太く固く剛直にしていく。 未だ超甲に包まれる煉の脚を大きく開脚させ、すでに限界まで充血したものを彼女の秘孔へと 近づけた。 162 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 02 ID 8DzCZU3B 159 (私……どうなった、の?) 霧散する意識。白く染まる視界。左腕を締めつける激痛……いや痛みは感じなくなり 始めていた。まるで肘から、肩から先までが消失してしまったような感覚に蝕まれ、彼女 は堕ちていく気分に襲われた。 (――あ。触られてる……) 闘争心の剥げ落ちた頭が、今何をされているのかを冷静に伝える。まだ誰にも晒した ことのない純潔な箇所をどんなに弄られても、闘う意思を忘却した彼女は立ち上がること ができなかった (……やだな。こんなところで終わるなんて) 心が拒んでも、身体がついてこない。敵に対する憎しみも、何もかもが消え失せていた。 しかし、せめて自分のバージンをここで喪失してしまうならいっそ、左腕と同じく何も感じな ければいいのにと心の片隅で願った。 (………………あ、れ……) そこで体感していることの喰い違いに気が付いた。左腕は潰された。だからあんなに痛か ったのに、じゃあどうして腰は痛みを教えてこないのか。 「――――ッグ」 痛くない……なら、動くんじゃないのか。鈍い音を聞いて腰が砕けたと思い込んだだけ じゃないのか。 「っあ、……く」 手にした一縷の望みは、彼女を奮い立たせるには十分すぎた。彼方に飛ばされた意識を、 闘うための勇気を引き寄せる。 163 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 03 ID 8DzCZU3B 「くっ、ど――」 一度は死んだ心が甦った時、彼女の腰から下は思い通りに動いた。太腿の間に身を割り 込ませていた甲殻生物の腹回りに両足を絡ませ、 「退けええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」 「……!」 腰を巧みに捻り、脚に挟んだ怪人を開放し竜巻のように吹き飛ばした。超速で身体を弾き 出された甲虫は地面を削りながら欠損した道路をどこまでも転がっていった。 息を荒げる煉は立ち上がり、腰に小さな痛みを感じながらもまだ動くことをようやく意識した。 右腕だって超甲が損傷しただけだ、動かせる。左腕も力強く握り締める。 「――ぁああっ!!」 まだ動くじゃないか!痛みを感じる、神経は通ってる。……闘える! 「はっ、はは……はははっ」 彼女は笑った。痛みで気が触れたわけではない。まだ闘えることが、人のために闘える ことが、私怨を晴らせることが嬉しかった。 今度は感情に囚われない。溺れない。クールに冴え渡る意識に身を委ねる。ようやく自分 を取り戻したのと同時、通信が入った。 『煉くん』 聞き慣れた渋い男の声。戦闘中に聞くのはこれで何度目かである。 「社長!」 『説明している暇はない。轟博士に代わる』 『……よお煉くん、苦戦しとるようじゃのお』 「用件は何です? 急いでください」 『いやいや何とも魅力的な格好しとるじゃな』 「殴りますよ?」 『冗談じゃ。さて、そろそろ君の元に新たな力が届くはずじゃ』 「力……?」 164 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 04 ID 8DzCZU3B 轟博士の言葉どおり、それはすぐにやってきた。彼女の聴覚が、遠方から聞こえてくる 甲高い音を捉え、次第にそれが近づいてくる。耳を劈くほどの音響をともなった時、彼女 の前にそれはを大気を振動させて落ちてきた。というより地面に突き刺さった。 「な……っ?」 銀色に輝く物体。高出力のブースターによって強大な推進力を得たそれは未だに火を噴 き出し、その先端……ではなく本体は高速で回転している。螺旋を描いて刻まれた溝が円 錐状の体に巻きつくその様はまさに、 「――ドリル……?」 『そうじゃ! これこそ敵の装甲を貫く破壊力と男のロマンを兼ね備えた最強の兵器・ブース タードリルじゃ!』 熱弁する轟博士に対し、いつもなら少し呆れ気味になる煉だが、今は心底感謝していた。 「これは……使える。ありがとう、博士」 目の前ですでに回転を止めたドリル、後部に取り付けられている火の噴きやんだブースター。 その中央に空けられている丸い空洞にひびだらけの右腕を突っ込んだ。中に挿し込んだ腕 が種々のケーブルに絡めとられ、きつく締め上げられる。 「んくっ……! き、つい……っ」 強度を失った超甲では耐え切れずに苦しげに漏らすが、腕を引き抜こうとは考えもしなかった。 完全に接続が終了した時、彼女の脳裏にこの兵器を扱うためのマニュアルが焼き付き、同時 に欠損、欠落していた超甲が活性化し、瞬時に再生していく。左腕の神経深くまで染み込んだ 痛み以外、違和は感じられない。 「セット!」 ドリルを装着した腕を振り上げて叫ぶと、一瞬にしてドリルが秒間五千回転という阿呆みたい な最高回転速度に達する。 「行くぞぉ……っ」 今しがた吹き飛ばしたばかりの敵めがけ、煉は勢いよく突き進んだ。 165 :名無しさん@ピンキー:04/02/20 01 05 ID 8DzCZU3B 「……」 どうにか体勢を立て直したカブトムシは、こちらに一直線に迫り来るバーンフォウスの姿を 捉えた。直線上から逃れようと身体を動かすが、思うように動かない。吹き飛ばされた衝撃で 身体の機能が狂ってしまったらしい。こうなってしまえば、後は自分が信じる強固な装甲で身 を守るしかない。 「……」 両腕を身体の前で交差させ、敵がどこを狙うのか確実に見極めて防ぐつもりだ。 「はあっ――」 引き絞られたバーンフォウスの右腕が突き出される。ドリルの切っ先、そこが狙っているのは ……胸。 「……」 冷静に対処する。切っ先が身体に触れる寸前、強靭な外穀に覆われる両腕を二人の隙間に 滑り込ませ、ドリルを完全に受け止めた。 瞬間、怪人の肘から先は粉砕された。 「……!」 「甘いっ!」 凶悪な回転を続けるドリルの先端が怪人の胸に捻じ込まれる。茶色がかった汚物が無数に 飛び散る。 「バーストッッ!」 怒号とともにドリル本体が爆炎に包まれる。貫かれた傷口が香ばしい音を立てて焼け爛れて いく。バーンフォウスの能力を生かした獄炎の味である。 「ブーストォッッ!」 再びブースターが火を噴き始める。その威勢は飛んできた時の倍、数倍以上に膨れ上がっ ている。 「吹き飛べ!!」 ブースタードリルは怪人の身体を貫いたまま、バーンフォウスの腕から飛び離れた。凄まじい 音を轟かせ空気を切り裂くその勢いに、強靭な外骨格に覆われていた怪人の身体は無残にも 粉となり、塵と化した。 「…………」 空に捧げる右腕に舞い戻ってきたのは、妖しいほどに光を放つ銀色の凶器だけだった。 168 :名無しさん@ピンキー:04/03/03 00 50 ID gUy+Dgrb 165 空が橙色に染まるかという時刻、煉は自宅へ帰り着いた。 戦闘終了後、本部に向かってから体の熱を鎮め、負い過ぎた傷の治療をしてもらった。 「……」 左腕は肘から先まで包帯が巻かれている。外傷はほとんど癒えているが、神経が未だに 悲鳴をあげていた。数日はこのまま過ごすようにと念を押されて注意された。 「…………」 ひどく反省していた。今回もなんとか切り抜けたが、もしあの兵装が間に合っていなければ 自分は犯され、生命も奪われていただろう。 「はぁ……」 もっと自身の感情の制御を上手くしなければ……それが彼女の最大の課題である。 自室に入るとベッドに大の字に寝っ転がった。 「――あ」 そこで鞄を学校に置きっ放しであることをようやく思い出した。午後の授業を欠席してしまっ ていたことも同時に。 「……参ったな」 これから取りに行こうかとも考えたが、すでに帰りのホームルームも終わっている時間だ。 今からのこのこと学校に出向くのも気が引けるし、何よりベッドに横になった瞬間から下腹部 がまた疼き始めていた。 「……ほんとに参った」 鞄は明日でいいか。今は腹の底で蠢く不快な欲求を解消しなきゃ――解消したい。 身体を丸め、水色縞柄のショーツを膝まで下げると、玄関からチャイムの音が聞こえてきた。 「――!」 さっとショーツを上げ制服の乱れを正すと、太一の部屋の前を通り階段を駆け下り玄関の 戸を開いた。 顔、ちょっと赤くないかな?という思いがよぎった時にはすでに戸を開け放っていた。 169 :名無しさん@ピンキー:04/03/03 00 51 ID gUy+Dgrb 「よう」 煉の前に立っていたのは、肩を上下させ額に汗を浮かばせる涼だった。彼の熱気が彼女 の鼻腔をくすぐった。 どうして彼がここにいるのか分からない彼女が目を丸くさせていると、視界が真っ暗に覆 われた。 「お前の鞄。持ってきたぞ」 「え……、あ、うん」 突き出されたのは煉の鞄だった。おずおずといった風に両手で受け取った。 「早退すんのはいいけどな、鞄忘れていくなんてポカやらかすんじゃねえよ」 「ご、ごめん」 「……いいけどさ、別に」 存外に素直にしおらしく謝られ、居心地の悪さを感じた涼が言葉を付け足した。 「でも今日は部活があるんじゃないの? 持ってきてくれるなら涼が帰る時でよかったのに」 「ん? ああ、まあ……うん」 困ったように目を泳がせる涼を不審に思い見ていたところ、彼の目が鞄を手にする彼女の 左手で留まった。 「その手どうした?」 「これ? ちょっと捻っちゃって」 「気を付けろよな。どれどれ」 「あ――」 涼が煉の手を取ると、不意のことに驚いた彼女はその手を振り解いた。 「わ、悪い! そんなに痛がるって思わなかったから……」 「ちっ、違……」 歯切れ悪くもじもじと黙り込み、気まずい沈黙が数秒だけ流れた。 170 :名無しさん@ピンキー:04/03/03 00 53 ID gUy+Dgrb 「俺……部活行くわ」 「う、うん……行ってらっしゃい」 じゃあと言い合い、煉は振り解いてしまった左手を振って涼を送り出した。彼が角を曲がり 完全に見えなくなったのを確認してから、煉は玄関の戸を閉めて家に戻った。 「はぁっ」 途端に腰が砕け、扉に背中からもたれかかった。最早立っていることさえ困難な状態である。 「やだ……」 スカートの中ではショーツがぐっしょりと濡れ、粘液が膝まで伝い流れていた。頭の中まで 刺激するような彼の汗の匂いと触れられた手の温もりが彼女の理性をがたがたにしてしまった。 自身の制御――を誓ったはずだが、これは、この想いだけは抑えることはできそうになかった。 今にも倒れそうな危な気な足取りで自室へと戻った。 (太一……帰ってこないよね?) 沸騰し蒸発し霧散しそうな意識の中で最後に思ったことは、唯一の家族にだけは自分の卑し い姿を見せたくないな。という顧慮であり、そう思ってもやめることのできない自分への蔑みの 念だった。 前ページNameless Archives/2ちゃんねる・エロパロ板/スーパーヒロイン系・総合スレ Counter today - ,yesterday - ,summary - . 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826. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 22 48 54.53 ID ilK9qszfo 2日目:開始 直後コンマ:夢判定 827. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 22 49 00.74 ID uZB2ALhYo おk 828. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 22 55 19.28 ID ilK9qszfo 827 判定:4 結果:失敗 ―――ここは? カーテンから刺さる日光を感じて、貴方は意識を覚醒する 見覚えのある天井 どうやら、ここは自分の泊まっているホテルだ 貴方は、昨夜のことを思い出す ―――ッ! 途端に感じるのは頭蓋が焼けるような痛み …そうだ、自分は――― 『ライダー』との対戦で貴方は マスターの葛木宗一郎に手酷いダメージを負った 身体を動かすたびに鈍痛が全身を襲う ここ2日間は…痛みが響くだろう セイバー「お目覚めになったのですね、マスター」 貴方の覚醒に気付いたのか、椅子から立ち上がる『セイバー』 セイバー「少々お待ちください。ただ今、水を持ってきます」 貴方の行動選択 1.身体を休める 2.学校へ行く 3.自由安価 ↓3 829. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 22 55 56.98 ID uZB2ALhYo 1 830. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 22 56 01.80 ID pd4pp9Vzo 1 831. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/16(火) 22 56 48.33 ID lz6rkRJp0 1 833. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 03 32.56 ID ilK9qszfo 831 選択: 貴方はベッドの上で身体を休める 正直言えば、身体が動かない ―――葛木宗一郎 貴方の担任にして、『ライダー』のマスター 彼の拳はあまりにも奇怪なものだった 宝具と化した自分の武器でさえ砕き、貴方を一撃で昏倒させた 独特の構えから放たれた剛拳 敢えて言うのであれば『蛇』 全く、軌道を読むことさえも叶わず、的確に貴方の身体と脳の命令を断ち切った 驚愕と言うしかない… 神秘の庇護も魔術師でもない人間が、己の武だけで神秘へと行き着くものなのか… あながち自分の『伝承』もそういったものなのかもしれない セイバー「どうぞ、水です」 貴方は『セイバー』に身体を起こしてもらって水を飲む 貴方の会話選択 1.昨日は助かりました 2.あれが私の『宝具』です 3.自由安価 ↓3 834. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 03 59.82 ID oz9tdoie0 1 835. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 04 29.84 ID MeskILIDO 1 836. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 04 30.67 ID pd4pp9Vzo 1 837. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 12 57.47 ID ilK9qszfo 836 選択: 冷たい水が全身に潤いを与える 貴方は、水を飲み干し身体を休める 『セイバー』もベッドの隣に座り貴方を見ている …あまりじっと見られるのは恥ずかしいかもしれない 「昨日は助かりました。ありがとうございます」 恥ずかしさを誤魔化すために貴方は、『セイバー』に感謝を伝える セイバー「そう思うのであれば、今後は無謀な行動は控えてください」 軽く釘を差す『セイバー』に貴方は苦笑する だが、そうとも言っていられない 無言でその意を伝える貴方に『セイバー』は溜息を吐く セイバー「なら、少しでも早く、回復してください」 貴方の昼の行動 自由安価 ↓3 ※貴方の行動が制限されます ※『セイバー』の行動を安価指定できます 838. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/16(火) 23 14 33.54 ID lz6rkRJp0 申し訳なさそうに家に有るインスタント食品を食べるよう言う 839. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 15 37.81 ID pd4pp9Vzo 申し訳なさそうに家に有るちくわを食べるよう言う 840. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/16(火) 23 18 15.45 ID OjPl8Mn80 セイバーで 疑問を聞いてみる? 842. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 23 34.53 ID ilK9qszfo 841 選択: こーいう意味ですか? 『セイバー』は椅子に座り、『マスター』である貴方の看病を続ける しかし、貴方は手間が掛かるわけでもなく、 大人しく体を休めているために、『セイバー』としては手持無沙汰だ 「私のことは気にせずに」 どうやら、自分の手持無沙汰に気付いたマスターに気を遣わせたみたいだ けが人のマスターに気を遣わせるわけにも行かない 丁度良い、『セイバー』も聞きたいことがあったのだ 少しでも話し合うことは重要だ 『セイバー』の会話選択 1.敬語は入りません 2.マスターの魔力について 3.マスターの宝具について 4.自由安価 ↓3 843. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) 2012/10/16(火) 23 24 02.45 ID lz6rkRJp0 3 844. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 23 25 43.05 ID uZB2ALhYo 1 845. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 25 45.21 ID pd4pp9Vzo 3 846. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 33 16.55 ID ilK9qszfo 845 選択:3 結果:そんなに地雷の上でダンスをしたいのですか 『セイバー』は昨日の戦闘を思い出す 自身と同じように風を纏い魔力で武具を編んだこと 濃密な魔力に指向性を持たせたこと それこそ、『セイバー』に宿る魔力炉心たる竜炉と同じ働き だが、彼女にとってそれ以上に気になったのは彼の『業』だ その手に持ったあらゆるものは宝具のような輝きを持つ 否、あれは間違いなく宝具だった 信じられない、ただの木の棒が貴方が持てば宝具と化す だが、自分はそれを知っている… それを担う男を知っている セイバー「マスター…貴方は私の子孫ではないと言いました」 ―――貴方は、ランスロットの血族なのですか? 直後コンマ:貴方の感情判定 1-3:全く持って忌むべきものです 4-6:私の『宝具』です 7-9:私の誇りです 847. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 33 27.25 ID pd4pp9Vzo ほい 850. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 44 27.34 ID ilK9qszfo 847 判定:5 結果:普通 『セイバー』の言葉に貴方は事務的に答えた 「はい、私の先祖は湖の騎士『ランスロット』です」 貴方の一族が持ってきた魔術回路とは異なる魔術特性 それは、一つの時代で無双を手にした英雄の『業』そのものを『伝承』として保管してきた 簡単に言えばウイルスだ。 一族の血を苗床にして、共生し続ける 単に、貴方達の血族が、共生に適していたともいえる 貴方は生まれた時から、その菌を保有し続けた そして、菌が持ち続けた『伝承』は貴方の全身に行き渡され、 『伝承』は『宝具』と化した セイバー「…そうですか」 『セイバー』はどこか気を落としているように見える 貴方は考える 『セイバー』にとって『ランスロット』は自身の国を滅ぼした要因だ そんな男の子孫に出会ったのなら、それは胸中穏やかではないだろう ―――サー・ケイやガウェインの子孫と名乗った方が良かったのかもしれない 貴方は、そんな的外れなことを考えていた 貴方:【普通】取得 貴方の夕方の行動 自由安価 ↓3 ※貴方の行動が制限されます ※『セイバー』の行動を安価指定できます 851. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) 2012/10/16(火) 23 47 19.23 ID qesyix4Wo セイバー:ご飯作る 852. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/16(火) 23 47 50.94 ID oz9tdoie0 出前で食事 セイバーにリクエストがあれば聞いて 853. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/16(火) 23 49 14.96 ID uZB2ALhYo セイバーにリクエストを聞いてルームサービスを頼む 854. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/16(火) 23 54 15.43 ID ilK9qszfo 853 選択: 気付けば、日も暮れている 貴方はルームサービスを頼むことにする といっても、自分は食欲はそこまでない スープなどがあればいいが… 貴方はメニューを開ける ビジネスホテルのルームサービスだ 期待するようなものではない だが、貴方の懐的には多少はありがたいだろう 直後コンマ:『セイバー』判定 偶数で「私は牛ステーキセットを」 奇数で「マスターからの魔力供給は問題ありません」 855. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) 2012/10/16(火) 23 54 30.21 ID g7uGWhCjo つ 856. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/16(火) 23 58 09.21 ID OjPl8Mn80 リリィちゃんマジ最優だな 気は効くしマスター助けるし 食費も掛からない 857. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 00 04 17.97 ID k2vY55pdo 855 選択:奇数 貴方は『セイバー』にメニューを渡す ずっと看病をしてくれたのだ。小腹も空くだろう だが『セイバー』は柔らかく首を振る セイバー「マスターからの魔力供給は問題ありません」 霊体化出来ないからといっても『セイバー』はサーヴァントだ 魔力供給さえ保てれば、自身の竜炉で魔力を無尽蔵に回復できる 貴方としても、これほど運用に適したサーヴァントには助かるばかりだ そうして、運ばれたルームサービス 貴方は食事をする ―――少し困ったことがあるとすれば セイバー「好き嫌いはいけません!」 セイバー「食べ残しはいけません!」 セイバー「そんな小食では治る怪我も治りません!」 少し、甲斐甲斐しすぎるところだろうか ―――ブロッコリーは好きじゃないんだが… 貴方の夜の行動 自由安価 ↓3 ※貴方の行動が制限されます ※『セイバー』の行動を安価指定できます 858. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/17(水) 00 06 04.89 ID /bzJTIqb0 昔話を聞く 859. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) 2012/10/17(水) 00 06 50.18 ID Y8x5h7eyo 襲撃を警戒しつつセイバーと話す 860. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 00 07 39.30 ID GnuY2Cu30 互いに身の上話 862. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 00 21 24.52 ID k2vY55pdo 直後コンマ:身の上話判定 偶数で貴方の身の上話が主体 奇数で『セイバー』の身の上話が主体 863. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 00 21 39.49 ID gOd5F8TKo ほい 865. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 00 28 44.27 ID k2vY55pdo 860 選択: 貴方は夕食を済ませる頃には完全に日も暮れてた しかし、寝るにはまだ、早い 貴方と『セイバー』は、無言で時を過ごしていた だが、そんな無言の状態は貴方の一言で終わる 「『セイバー』にとって、『ランスロット』とはどんな人物でしたか?」 貴方の持つ伝承を聞いた後、気を落としていたように見える『セイバー』 貴方は、少し気になっていた 裏切りの騎士 『ランスロット』を一言で表せばこれに尽きる 円卓最強の騎士にして、アーサー王の唯一無二の友であり同胞 そんな男に裏切られた やはり、何世紀経った今でも、その怨恨は拭られないものであろう ―――だが『セイバー』の口から聞いたランスロットという人物は、貴方の知らない男であった 続く 本日はここで終了します お疲れ様でした。 ※『セイバー・リリィ』&『ランスロット』開放によりIFフラグが立ちました ※貴方の身の上は夢イベントにでもしようと思いましたが、安価選択すれば確定します 888. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 28 55.63 ID k2vY55pdo それは物語に綴られた話とは差異があった 召使だった少年が『選定の剣』を抜いた時、その物語は始まった 一〇の歳月をして不屈 一二の会戦を経て尚不敗 その勲は無双にして その誉は刻を越え不朽 そう…アーサー王物語 ただ、一つだけ史実と…物語とは違うこと それは、召使は少年では無く少女だったことと キング・アーサーではなく、 クイーン・アーサーであったことだ ―――私は、自分の身を偽ることなく王として駆け抜けました 貴方は、その言葉に少し驚きを感じた 事実は小説より奇なりというが あまりにも、奇天烈ではなかろうか 周りの人間は反対しなかったのですか―――? 貴方の質問に彼女は答えた ―――あの時代は、王を求めていました ―――故に、王の資格を満たした者であれば、誰でも良かったのでしょう どこか、苦笑交じりの声 ―――ですが、私がいつまでも少女のままだった所為か…臣下達は割と過保護でしたね 特に、サー・ガウェインとサー・ランスロットは凄かったらしい その他にもサー・ケイ、サー・ベディヴィエールの話も、物語でも味わえないような不思議なのに真実だと感じてしまう 貴方はその感覚を楽しんでいた ―――ランスロットの事ですが… 何故か、『セイバー』は貴方の顔を一瞬だけ見て伏せ目がちになった ―――彼は、何も悪くないのです。彼に落ち度はありませんでした。 それから、始まったのはランスロットとギネヴィアの物語 王の為に女の喜びを捨てたギネヴィア王妃を、誰よりも親身に接してくれたのがランスロットだ ギネヴィア王妃との逢引でさえ、『セイバー』にとってはその気持ちを肯定したかった 『王』としてではなく、『女王』として生きて来たからこそ――― セイバー「私は、ランスロットを裁いてしまった」 セイバー「そして、私は彼に罪を負わせてしまった」 セイバ-「ギネヴィアと共に去れと…ギネヴィアと幸せを得るまでは…この地を踏むことは許さんと」 それは、どの物語とも違う顛末 『女』王であったが故に感じた怒り ランスロットとギネヴィアを真に想っていたからこその裁き…そして彼に負わせた罪 ―――それからは史実の通りです その後円卓は分裂し、キャメロンにて息子であるモルドレッドの反乱を起こし、そしてブリテンの落日 セイバ-「きっと、貴方にしてみれば私は先祖の敵でしょう」 セイバー「今更、このような事を申すのは筋が違うと思いますが」 セイバー「どうか、彼を…貴方の先祖を誇ってほしい」 ―――彼は、誉ある円卓最高の騎士であり、私の親友でした 貴方の会話選択 1.彼も貴方を誇りに思っていた 2.彼は自分を悔やんでいた 3.自由安価 ↓4 889. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 29 29.82 ID GnuY2Cu30 880 このスレではいつものこと 890. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2012/10/17(水) 20 31 02.42 ID fX7e2nzwo 2 891. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 32 30.69 ID gOd5F8TKo 1 892. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 32 34.62 ID VgyBqAHDO 1 894. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 47 32.25 ID k2vY55pdo 892 選択:1 結果:フラグ解放条件1達成 ―――きっと、彼は私を恨んでいたでしょう そういって、自嘲する『セイバー』 貴方はその『セイバー』の憂いを帯びた表情を見たとき、どうしてだろうか… 胸が…焼けるように熱かった そして、とても…申し訳ないとそう想ってしまった だから、その焼ける思いを口にしてしまった ―――彼女のその想いはその後悔は違うんだと言えないとしても… 「それは…違います」 貴方から発せられたのは否定の言葉 それは貴方の口から『セイバー』に向けられた言葉 彼は、最後まで『セイバー』を…アーサー王を案じていた 例え、円卓が分裂しても、例え誰もが自分を肯定しても否定しても 顧みず、彼は王の元へと戻りたかっただろう 裁いてくれたのが貴女だったから 罪を与えたのが貴女だったから そして…贖罪を求めることが出来たのだから だから、彼は恨んでなどいない そして、彼も貴女のことを――― 「彼も、貴女を誇りに思っていました」 それは、根拠はないが、確信だと感じている セイバー「え…?」 「彼は貴女を誇りに思っています」 ―――だから、どうか…自分を責めないでください 貴方はそう言って目を閉じた 口下手な自分にとっては少し話し疲れたのもあるが 彼女の頬に伝わる涙を見ることはいけないと…勝手に思ったから それに…貴方は彼女に【真実】を告げることが出来なかった 彼は贖罪を求めたが結局見つけることは出来なかった そう…それは運命の歯車が狂ったのか、それともそれは避けようがない運命だった為か 彼が自分を許せなかった理由を… 彼の心が、ギネヴィアの心が追い込まれてしまった本当の理由を… ―――自分と言う存在が知っている ―――自分と言う存在がそれそのものが償えない【罪】なのだ 『セイバー』【友好】取得 二日目:終了 895. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 51 03.72 ID k2vY55pdo 1日目の情報が更新されました 貴方はその血に宿すものは異質にして異端故に魔法使いの家系に生まれ(家系判定 0) その才覚は魔法使いに及ばぬものの、神童と謳われた(才能判定 8) 才覚故か、特性の偏りは持たなかった(特性判定 失敗) 保有スキル: プライマリ:【伝承保菌者】 『宝具』を付与 家系値によって扱えるランクが異なる セカンダリ:【竜の因子】魔力不足による-補正を受けない。 竜に所縁のある英霊をサーヴァントにした場合、戦闘直前に判定 成功で補正:+1 【伝承保菌者】専用スキル:『騎士は徒手にて死せず』 戦闘補正:+1 手にする武器によって補正値変動 エクストラスキル:【破綻者】 破綻者専用スキル:【人の心が解らない】 感情による補正を全て無効 【友好】以上を取得出来ない(例外有り) 貴女の性格:中立・虚無 貴方の現状:戦闘により重傷 徐々に回復中(ダメージ補正:-1) 貴方のサーヴァント 白き百合騎士【感情:友好】 クラス:『セイバー』 対魔力(A):魔術師スキルの補正無効 魔術攻撃による攻撃判定:7以下まで無効 直感(A):奇襲攻撃の補正を完全無効 宝具:風王結界 攻撃判定:成功(大)以上で補正:+1追加 :??? ??? 貴方視点の感情一覧 『セイバー』:無関心 NPCマスター一覧 『アーチャー』:黄金の甲冑を身に纏った男 マスター:??? 『ライダー』 高潔で弱者をいたわる武人 マスター 葛木宗一郎 『バーサーカー』 巨人と見紛うほどの巨躯を持った、巌(いわお)のような男性 マスター ??? 『キャスター』 妖艶な半獣の女性 マスター:??? 『アサシン』 中華の武術家の服装の男性 マスター ??? 『???』 マスター:トワイス・H・ピースマン 脱落: 896. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 54 46.07 ID k2vY55pdo 各陣営行動判定 直後コンマ:『アーチャー』陣営 成功で活動開始 慢心:-3 ↓2『バーサーカー』陣営 活動判定 成功で活動開始 失敗でマスター生存判定 ↓3『アサシン』陣営 活動判定 成功で活動開始 897. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 55 05.48 ID gOd5F8TKo ほい 898. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 55 19.97 ID GnuY2Cu30 そい 899. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 55 48.37 ID gOd5F8TKo ほい 901. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 20 58 53.74 ID k2vY55pdo 897 判定:5 結果:活動開始 898 判定:7 結果:活動開始 899 判定:7 結果:活動開始 皆、アグレッシブやでぇ…! 直後コンマ:『キャスター』陣営 活動判定 成功で陣地作成完了 クリティカルで敵陣営行動捕捉 902. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 20 59 13.32 ID gOd5F8TKo ほい 904. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 21 00 52.70 ID k2vY55pdo 902 判定:2 結果:イチャイチャなう☆ 直後コンマ:敵マスター感情判定 成功で友好 失敗で嫌悪 クリティカルで… 1で… 905. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2012/10/17(水) 21 01 07.72 ID yUSzs+20o あ 906. ◆1Pf/z5mQfA 2012/10/17(水) 21 05 24.44 ID k2vY55pdo 905 判定:2 結果:嫌悪取得 2日目は如何でしたでしょうか? 1日中、コミュニケーションしても友好までしか上がらない貴方まじシャイな子 きっととても緊張しているのでしょうね 活動判定に『ライダー』が無かったのは初日で遭遇しているので活動済みになっています 3日目:いくかい? キャラメイク/一日目/二日目/三日目/四日目/五日目/六日目/七日目/八日目
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プレダトリー・カウアード 日常編 03 「――――何?」 吸血鬼は、この家へ来て、初めて目を見張った。 一人の少年、彼の獲物になるはずだった少年の身体を、一本の巨大な腕が、貫いている。 ……一体、いつの間に。 つい一秒前まで、そこには何もなかった。 何の予備動作もなく、現れた腕。 吸血鬼にはそれが、まるで瞬間移動でもしてきたかのように、見えていた。 「馬鹿な。誰だね、私の今日の夕飯を横取りしたのは」 腕からの返答はない。 それどころか、ずるずると、少年から腕が抜けていく。 少年の後方、吸血鬼から死角となった空間へ腕が抜け切ると、少年の腹部から、夥しい量の血が流れ出した。 血が、あたり一面を赤で染め上げる。 雑誌も、霊装も、教科書も、床に散らばったものは全て等しく、赤に、緋に、色を奪われる。 支えが消えると、少年はそのまま重量に引かれ、崩れ落ちる。 少年の背後へと抜け落ちたはずの腕は、どこかへ消えていた。 ここへ来てから、ずっと吸血鬼の顔に張り付いていた笑みが、消える。 「ああ、ああ…………なんと、もったいない」 吸血鬼は総じて誇りが高い。 その中でも特に、この吸血鬼は、自尊心で己を固めていた。 いざと言うときは輸血パックで、なんて真似は決して行わないし、一度でも外気に触れたら、その血すらも飲む気が失せる。 地面に這いつくばってまで血を吸うような存在に成り下がるつもりなど、彼には一ミリたりとも、なかった。 少年の前に、吸血鬼が片膝を立てて座る。 せめて、少年の体に残った僅かな血だけでも、絞り取って「あげよう」 傲慢にもそう思い、吸血鬼は少年の身体へと、手を伸ばして―― 「――――っ!?」 ――しかし弾かれたように、その手を引き戻した。 驚愕に顔が染まる。 別に、何かが起こったというわけではない。 少年が突然動き出したわけでも、先ほどの巨大な腕が再び現れたわけでもない。 ただ、彼の本能が、その行為、少年に触れる行為を、咄嗟に止めさせたのだ。 ――――決して、触れてはならない。 困惑とも、錯乱とも取れる奇妙な感覚が、吸血鬼の身体を支配する。 「何だ……何だというのは、これは」 わけの分からない巨大な腕、わけの分からない少年への恐怖。 そう……恐怖だ。 生まれて初めて、吸血鬼はその感情と出会った。 恐怖とは己を超越する「何か」に出くわした時、初めて芽生えるもの。 これまで、如何なる都市伝説相手にも、そのような感情に捕らわれたことなどなかったのにも関わらず、彼は少年を、何の力も持たなかったはずの少年を、恐れた。 ――――本当に、わけが分からない。 この少年に、一体何があるというのだろう。 失策を重ね、吸血鬼の前にただ怯える事しかできなかった、こんな少年に、一体何が。 「…………いや、いや、全く。何だろうね」 不愉快だった。 こんな少年に恐怖を感じる、己が。 そしてそんな状況を作り出したあの腕が、この少年が、不愉快だった。 不愉快で、そして、怖かった。 ……逃げたい。一刻も早く、この場から、この少年の傍から、離れたい。 しかし、吸血鬼は誇りと自尊心に満ちていた。 そんな行動は、彼と彼のこれまでの人生が、許さない。 「ふむ、ふむ。ならば答えは一つしかあるまいに」 引けないならば、向かうしかない。 元凶を、この少年を「きっちりと」殺せば、きっとこんな薄気味悪い感情からは解放されるだろう。 一歩引いた足を、再び少年に近づける。 こんな瀕死の、ひょっとしたら死んでいるかもしれない少年など、誰にだって殺せるに違いない。 一動でその命を刈り取る事など、容易いはずだ。 ――――では、この身体の震えは、何なのだろうか。 手が、震える。 それでも強引に、力でそれを押さえつけた。 肩を上げる。指先を整え、貫手の構えを作る。 狙うは喉。平時ですら死へと追い込む一撃を以って、少年を沈めよう。 ゆっくりと息を吐いて、吸う。 冷静に、冷徹に。 今まで何度も行ってきた事だ。今更何を怯える必要がある? 吸血鬼には、プライドがある。 そう――――そうなのだ。 決して後退の余地など、残されては、いないのだ。 「――――シッ」 小さく息を吐いて、腕を撃ち抜く。 吸血鬼の腕力で放たれた掌は、一本の黒い線と化して少年へと向かう。 重症の少年に、その一撃を止められるはずなど、ない、 止められるはずなど――――ない、のに 「…………何故だ」 ――――その手は、少年の差し出した手の平に、包まれるようにして、握り込まれていた。 動かないはずの少年。動かないはずの手。 それが、吸血鬼を止める。それが、吸血鬼を恐れさせる。 「何だと、言うのだ」 力を入れる。しかし手は動かない。 少年が何かした雰囲気はない。 ただ、握るだけ。 それだけで、吸血鬼の腕は、その用を成していなかった。 「一体、何だと――――」 「そう急くな、若僧」 ――――声。音源は下。少年の口。 顔が引きつるのが、分かる。 違う。この声は違う。 こんな重低音ではなかった。こんな聞くだけで身体が震えるような声では、なかった。 あの少年の声では……なかった。 ……呼吸を、整える。冷静に、出来るだけ冷静に、相手へと語りかける。 「……君かね、私の『食事』を邪魔したのは」 「いかにも」 「……君かね、今私を、止めているのは」 「いかにも」 「……君かね、私をここまで――――怯えさせるのは」 「いかにも、そうだ」 「そう、か――――」 一呼吸、間を置いた。 心を、身体を、落ち着かせるために。 「――――君は、何だ?」 「我か? いや、残念だ。その問には答えられそうにない」 くつくつと、少年の身体をした「何か」が、笑う。 ――答え、られない? どういう、ことだ。 それ程高名な都市伝説で、弱点すらもその名と同時に知れ渡っているような都市伝説であると、そういう事だろうか。 それなら、いい。相手はただの都市伝説だ。どんなに強大であれ、それは変わらない。 しかし……しかしもし、そうでなかったのなら―――― 「我に名はない。人に語るべき名など、何も、持たない」 ――――「コレ」は一体、何だと、言うのだろうか。 焦燥。困惑。恐慌。震撼。狼狽。 そのどれともつかない感情が、頭の中で渦巻く。 捕まれた手を、振り払った。 一歩、二歩。よろめきながら後ずさる。 目をドアへ、窓へと走らせる。 この部屋の出口は、その、二つだけ。 「――――退却は、恥だろう? 吸血鬼よ」 声と同時に、閉じる。 窓が、ドアが、この部屋に残されていた退路が、閉ざされる。 それだけではない。 閉じたそれらを、そしてこの部屋の四面上下全ての壁を覆うように、淡く青い光が、この部屋を囲んだ。 ――――本能で、悟る。 この部屋からの退避など、不可能。 ここから立ち去りたければ、生きて帰りたいのなら―――― 「我が主の初舞台だ。興のないことなどしてはくれるな」 ――――目の前に横たわる「コレ」を倒さねば、殺さねば、ならない。 ***************************************** 「我が『主』……?」 「貴様の前にいるだろう。我の声がするだろう。『ソレ』だ。『ソレ』がこそ我が主」 「何を、たわけた事を」 既に死に体の少年が、主? 笑おうとした。笑おうとして――――気づいた。 少年の身体。傷つき、血を流していた少年の腹部が……治りかけて、いる。 赤く、丸く開いていた「穴」は消え、 その内臓が、その皮膚が、再生して、いた。 吸血鬼は、知っている。これが一体、何を示すのか。 「『契約』かね? 己で害した人間を、己が契約して助けると、そういうことかね」 『契約』。人と都市伝説の間に絆を作り、それを媒介にして双方に力をもたらす行為。 人からは都市伝説に見合った「器」を、都市伝説からは器に見合った「力」を、それぞれ提供する。 そうする事で人は人外の力を手に入れ、都市伝説はその名を知られぬ土地での活動を許される。 吸血鬼は、知っている。 知っているからこそ、安堵する。 未知が既知へ。闇に光が照らされる事で、吸血鬼の怯えは、恐れは、消えていき―――― 「『契約』? 我が、主に対して力を貸し与える? 馬鹿な。何故、そんな非効率な事をしなければならない?」 されど安堵は、裏切られる。 笑っていた。強者が、弱者を、無知を、笑っていた。 「貴様ら吸血鬼とて、我と同じ事をするだろうに。何故、気づかない? 何故、分からない?」 ――――同じ事? 吸血鬼は、知らない。そんな方法など、知らない。 しかし「コレ」は言う。知っているはずだと、知らないはずなどない、と。 では……では――――? 「――――まさか」 ある。確かに、あった。 契約以外、それ以外で、人間に力を与える方法が、あった。 「そう、そうだ。分かっただろう?」 吸血鬼は、人間の血を吸って生きる。 そして、伝説の中には、ある。確かに、ある。 「今の主は、我と同じ――――」 その人間が、血を吸われた、人間が―――― 「――――『都市伝説』だ」 ――――その者と同じ、吸血鬼に、都市伝説になることが、ある。 ***************************************** 「う…………ん…………」 目を、開ける。 真っ先に目に入ったのは、青く発光する天井だった。 あれ……? 僕の部屋の天井って、青かったっけ……? というか、こんなに派手に光ってたっけ……? 頭がぼんやりとしている。 手を頭に当てながら、身体を起こす。 青く輝く、僕の部屋。 次に僕が見たのは、部屋の壁際、クローゼットの前で、呆然と立っている…… 「うわっ!?」 そうだ。そうだった。 明滅を繰り返していた思考がクリアになり、記憶が蘇る。 家に帰ってきた時のこと、居間で吸血鬼と、二つの骸があったこと。 僕は逃げて、でも追い詰められて、妙な「声」がして それで――それで…………? 僕は、死んだ――――? 慌てて僕は腕の生えていた、何者かによって刳り貫かれたはずの腹を見る。 服が綺麗に、丸く破けていた。 血で下半身が、赤く濡れていた。 ……けれど、それだけだった。 大きな腕も、飛散った内臓も、グロテスクな穴も、ない。 ――僕は、生きていた。 どういう、事だろう。 夢? そんなはずはない。 破れた服も、血もある。ないのは傷だけだ。 じゃあ、これは……? ≪目が覚めたか≫ 頭に、声が響く。 さっきと同じ、声。 僕を殺した、声。 ≪体調はいかがかな。不快な所、吐きそうな気配、どこかしらの痛み。あるならすぐに、どうにかした方がいい――――≫ 疑問が、あった。 この声は一体、何なのか。 何故、僕を殺したのか。 何故、僕は今、生きているのか。 たくさん、たくさん、聞きたいことが、あった。 ――けれど ≪――――あちらは既に、動き始めているからな≫ 拳で身体を思い切りぶん殴られて、質問の一つも、口から出す事は許されなかった。 治ったばかりの腹に拳がめり込む。海老反りのように身体が湾曲する。 吹き飛ばされた先は青く輝く壁。見事に背から突っ込んだ。 身体に激痛が走る。 痛い。一歩間違えればまた死んでいたかもしれない。 「いや、いや、驚いた。てっきりまた受け止められるものだと思っていたのだが」 手についた血を拭い、青い光を携えて、吸血鬼が首を傾げる。 「さて、さて。先ほどのはまぐれだと、そういうことかね」 ――――先ほど、といわれても。 僕にはあんな攻撃を止めた記憶なんてない。 口に競り上がってきたすっぱい物を強引に飲み下して、僕は吸血鬼と対峙した。 僕が死ぬ前にはなかった青い「何か」が、吸血鬼の身体から立ち昇っている。 部屋の壁を覆う光と、同じ色だ。 ではやはり、それもこの吸血鬼が行った事なのだろうか。 「ああ、ああ。手加減ならしなくていいよ。先の一連では驚いてしまったが、もう割り切った」 歩く吸血鬼の足元で、ぺきぺきと、潰された雑誌の付録たちが悲鳴を上げる。 「君を殺せばいい。それで丸く収まるんだ」 丸く収まる。その意味が分からない。 吸血鬼の様子を見る限り、僕が「死んで」いる間に何かあったらしいのだが。 「せいぜいあがいて、死んでくれ」 その「何か」を声の主に聞こうにも、吸血鬼がその時間を与えてはくれない。 速かった。 これまでの穏やかな、のんびりとした動作が嘘であるかのように、吸血鬼は速かった。 僕の目は、一つとして吸血鬼の行動を見切れない。 タコ殴りだ。 殴られ、蹴られ、また殴られて 血塗れになりながらも、僕はしかし――――倒れなかった。 ――――おかしい。 身体が、熱い。 殴られた箇所、蹴られた箇所は幾百。しかしなぜか、殴られた次の瞬間には身体が既に元の綺麗な状態へと戻っていた。 出血も、痣も、骨折も、その全てが負った傍から癒えていく。 殴られるのは痛い。蹴られるのも、突かれるのも、痛い。 けれど、痛みさえ我慢すれば、それさえ我慢すれば、僕の身体が倒れる事は、ない。 「……ふむ、ふむ。なるほど、回復系だと、そういうことだね?」 幾ら殴った所で無駄だと悟ったのか、吸血鬼がその攻の手を緩めた。青の揺らぎも同時に、止まる。 「死んだ」後に見た、狼狽の色はもうない。 全き平静さで、あいつは僕を、細めた目で見ていた。 「いや、いや、死にかけた、或いは本当に死んだ状態から蘇生したのだ。これくらいは想像していたさ」 吸血鬼から発せられる青い輝きが揺らぐ。それから少し遅れて、吸血鬼が再度行動を開始した。 黒い影としか捉えられない吸血鬼の一撃は、腕を突き出した僕の抵抗空しく、最初同様に僕の腹を歪める。 リピートのように僕は飛び、壁に激突し、そして起き上がった。 その様子を見て、どこか満足そうに吸血鬼が頷く。 「なるほど。なるほど。そうか、よく分かった。君に物理的な打撃は効かないらしい」 口から垂れてきた血、僕はを拭う。 今ので内臓のどこかが破裂し、そしてまた再生したのだろう。 想像すれば気味の悪い光景だが、それが今は僕を救ってくれている。 「しかし、君の側にもまた、私に対する有効打がないらしいね?」 その通りだ。 今の戦いの最中無茶苦茶に振り回した腕は、相手に当たるどころか掠りすらしなかった。 「ふむ、ふむ…………」 一歩。跳躍して、吸血鬼が僕の眼前に迫る。 じっと僕の顔を、舐めるように見る。 「いや、いや、それならば――――」 そしてその視線は、僕の首筋で、止まった。 「――――君を、永遠に私に血を与え続ける『餌』にすればいいと、そうは思わないかね?」 「なっ…………」 避けようとするが、もう遅い。 既に動き始めていた吸血鬼の刃、その犬歯は、抵抗する暇すら与えず、僕の首へと飲み込まれた。 ぞわり、と奇怪な感覚が背筋を走る。 ――血を、吸われている。 吸血鬼の喉が動いた。 一度、二度、三度。 そして―――― 「ぬ、ぐ、くはっ…………」 ――――苦しそうな、声。 上げたのはしかし、僕ではなかった。 「…………なんだ、コレは」 吸血鬼が、僕を突き飛ばす。 首筋から歯が抜け、鮮血が舞う。 僕自身も一瞬浮遊感を覚え、しかしそれでも、今度は壁に追突するような事はなかった。 明らかに、吸血鬼の力が弱い。 一体何が起きたのかと、首筋に手をあて、僕は吸血鬼へと視線を向けた。 「……不味い。ああ、ああ、なんという不味さだ。君は本当に人間かね?」 …………ちょっと、へこんだ。 そう、そうなのか。僕の血は不味いのか。 意識した事はなかったが、やはり冷血な人間ほど血が不味くなったりするのだろうか。 ≪――――我が主の血肉を啜るか。愚かな≫ ……そして、その時になって、ようやく――――本当に、ようやく、あの「声」が戻ってきた。 戦闘とも言えない一方的な虐激の最中、ずっと沈黙を守っていた「声」 この、身体。 不気味な程に丈夫なこの身体を作っただろう当人に対して聞きたいことが、聞かなければならない事が、幾つもあった。 ≪さて、如何にするや? 主よ、そろそろ『掴めて』は、来たのだろうな≫ しかし、「声」は疑問を許さない。 一方的な会話だ。 「声」の主は、僕にただ答える事だけを要求してくる。 ≪見えたはずだ。感じたはずだ。何度奴の拳を受けた? 何度奴へと接触した? 分かっただろう? 気づいただろう?≫ ――――僕にはまだ、分からない。 「声」の主の目的も、「死」のことも、この身体のことも。 ≪理解すべき事がある。理解する必要のないことがある。主よ、目的があるだろう。我ではなく、主に、目的があるだろう?≫ ――――そう、それは、分かる。 「死んで」尚、僕の頭は、目的を、やらねばならない事を、その内へと留めていた。 ≪そうだ、それでいい。主よ、目的は何だ。我の事でも、彼奴の事でも、「死」でもない。主の目的は、何だ≫ ――――姉ちゃんを、救うこと。 ≪そう、それだ。では、主よ、その為に主は一体、何を為す?≫ ――――あいつを、吸血鬼を、殺す。殺さなければ、ならない。 ≪目的は定まった。主よ、分かるか。分かるだろう。『やるべき事』は何だ。『理解すべき事』は、何だ≫ それ、は―――― 「――――さて、さて。どうしたのかね? 呆ける余裕が、君にはあったのかね」 ――――前方で、青い光が、爆発的に膨れ上がった。 ≪主よ、分かっているだろう。分かっているはずだ。考えろ、主が見てきたものを、感じたものを、考えろ≫ 吸血鬼が、地を蹴る。 ≪やれるはずだ。出来るはずだ。既に主はそれを『経験』している≫ 三度、腹に鈍痛。 今度は脚だ。吸血鬼の右足が、僕の腹部に炸裂している。 ≪後は主よ、己で探れ。全て、何もかもが、揃っている≫ 脚と腹部とが反発する。脚に身体が押し込まれる。 ≪さあ――――≫ 身体が、浮いた。 ≪――――やって、みろ≫ しかし――――しかし、それだけだった。 身体は浮かされ、飛ばされかけ、それでもその先へは進まない。 「…………ふむ」 ――――僕の腕が、吸血鬼の脚を、腹へと入ったその脚を、上から抱え込んでいた。 衝撃はある。飛ばされる事で消費されるはずだった吸血鬼の力が全て、僕へとのしかかる。 しかし、耐えた。 痛みになら、慣れたのだ。 「は、は…………」 僕の口から、乾いた笑いが漏れる。 そうか、分かった。 すべき事が、理解すべき事が、分かった。 「分かった。そうか、『掴んだ』ぞ」 「ふむ、ふむ。それは良かった」 抱えた吸血鬼の脚に、体重が乗る。 それにつられ、前へと引っ張られた身体に、横から衝撃が襲った。 捕まった右足を支点にしての、左足の蹴り。 今度こそ、僕は宙を舞った。 「それで? 離してしまったようだがね」 床に落ち、何度も転がる僕へと、吸血鬼が声をかける。 黒いマントには傷一つない。対して僕の身体には傷こそないが、既に服はボロボロだ。 これが、僕とあいつとの、違い。 しかし「これまで」の違いだ。 「これから」の違いではない。 立ち上がった。 肩にかかった埃を、手で払い落とす。 「さて、さて? 一体何を、してくれるのだろうね」 吸血鬼が、黒い弾丸になる。 今までは全く見えなかった、速度。 ただの「黒の塊」としか認識できなかった、速度。 いや、それは今も変わらない。 あれはまだ「黒」にしか、到底僕には、見えない。 それでも――――それでも、だ。 ――――その「進路」だけなら、僕にも、見える。 脚に「力」を込め、横へと身体を飛ばす。 間一髪。「進路」を直線に進んだ吸血鬼の打撃から、その身が離れる。 「――――ふむ」 繰り出した拳。当たらなかった拳。 吸血鬼は不思議そうに、そして興味深そうに唸った。 「いや、いや。今のが偶然でない事を願うばかりだよ」 二度目の追撃。 「進路」はまだ見える。 わざわざ飛び退る必要もない。 今度は余裕を持って、僕は右へ、追撃の届かない範囲外へと、逃げる。 「――――ふむ、ふむ」 当たらない。 これまで必中を誇っていた拳が、脚が、当たらない。 吸血鬼の表情が変わる。 今度こそ初めて、「僕」に対して吸血鬼は警戒を、見せた。 ――――青い輝きが、見える。 今までは吸血鬼の気かなにかだと思っていた「青」 しかし、違った。 見えていた「青」は、吸血鬼の闘気でも、なんでもない。 「力」の流れだ。 あいつが動くたび、「力」はそれに先立って動く。 そして、それだけでは――――ない。 地を蹴る。今度は僕が。 この「戦闘」で初めて、僕は攻勢に出た。 「愚かな」 奇しくも先ほどの「声」の主と同じ言葉を、吸血鬼が吐いた。 そう、確かに愚かかもしれない。 僕の拳はのろい。あいつからしてみれば、止まったようにすら見えるのだろう。 吸血鬼が、心もち首を傾ける。 それだけで、僕の拳の直線状から、吸血鬼の身体は消えていた。 けれど、それでいい。 僕の狙いは、あいつの身体ではない。 あいつの身体を覆うようにして、青く発光している―――― 「…………ぬっ!?」 ――――「掴んだ」。青い輝きを、青い力を、この手で。 吸血鬼には見えない青い「力」。 けれど「何か」されている事は分かったらしい。 「一体、何を…………っ!」 捻じ曲げる。 強引に、掴んだモノを、捻り上げる。 一体だった「力」に、皹が入る。 僕の掴んだ部分だけが、「青」から離れる。 「止めッ――――」 吸血鬼が、僕を脚で僕を跳ね飛ばす。 しかし、遅い。 既に僕の手中には、青い輝きが残されていた。 輝きは、僕の掌の中へと吸い込まれるようにして入って、消える。 「あ、く、何だ、君は、一体、何をした……?」 吸血鬼が、苦痛で身体を歪める。 一見すれば、身体に異常などない。 当たり前だ。僕が攻撃したのは「内」であって「外」ではない。 僕が強奪したのは「内」の力。詰まるところの「存在基盤」そのものだ。 ――――身体が、熱い。 分かった。何故僕の身体が死んでしまわないのかが。 僕には「力」が見える。恐らく、都市伝説にとっての根源的な、その有無で「存在」そのものが揺らいでしまうような「力」が、見える。 そして今の僕の身体は、その「力」で構成されている。 つまり、相手と同じ、都市伝説。 相手と違うのは、僕がその「力」を奪い、それを身体へ取り込めること。 相手が触れるたび、僕を拳で殴るたび、触れた箇所から、殴られた箇所から、相手の「力」を奪い去る。 傷ついた分だけ、害した分だけ、僕の身体は相手の「力」を奪い、そして僕の身体は相手の「力」によって再構成される。 分かった。分かってしまった。 僕は、再び吸血鬼へと向かって走る。 「くそ、くそ。そうか、吸収。ドレイン系の都市伝説か」 ≪ドレイン? 異な事を言うな、若僧≫ 走りながら、脳内で、そして今度は部屋にも、吸血鬼にも聞こえる声で、「声」の主が言った。 ≪我が主が行うのは、そんな愚劣なものではない≫ 先ほど取り込んだ「力」を使って、脚を強化する。 あいつにさえ匹敵するように、速さを、どこまでも速さを求めて、強化する。 ≪これは、慈悲も、慈愛も、仁慈もない、ただの――――≫ 景色が流れる。青が背後へと消える。 吸血鬼が回避の動作に入った。 しかし、遅い。今の僕を前に、あいつはあまりに、遅すぎた。 「力」を、吸血鬼の「存在基盤」を、掴む。 吸血鬼が、顔を恐怖で見開くのが、青い輝きの中に、見えた。 ≪――――『捕食』、だ≫ ***************************************** 「はっ……はっ……」 全てを終えた、部屋。 既に部屋を覆う青い輝きは消え、血の赤だけが蔓延する空間へと成り代わっていた。 その部屋の中央、今にも崩れて消えそうな吸血鬼を前に、僕は粗い息を繰り返していた。 ボロボロになった襟を握り、吸血鬼を引き寄せる。 「姉ちゃんは、どこだ…………」 吸血鬼は、答えない。 いや、答える気力が、最早残っていないのかもしれない。 「答えろ。姉ちゃんは、どこにいる…………?」 やり過ぎた。分かってる。 もう少し、死ぬ一歩手前で、止めるべきだった。 吸血鬼が、輝き始める。 先ほどまで部屋を覆っていたのと同じ、青い光。 吸血鬼の崩壊が、始まった。 「くそ…………」 掴んだ襟から流れ出た光が、僕の身体へと飲み込まれていく。 崩壊は止まらない。 襟が消え、僕の手から吸血鬼が離れる。 後方へと倒れこむ、吸血鬼の身体。 それが完全に地面へと着く前に―――― 「くそっ!」 ――――その身体は、消滅した。 立ち上がる。 あいつからは聞き出せなかった。しかし、姉ちゃんは階下にいるはずだ。 「声」の主に聞こうかとも思ったけれど、やめた。 戦いが終わり、部屋に満ちた青い光が消えてから、声の主は一言も発していない。 そしてなにより、自分で探すべきだとも、思った。 ――――身体が、熱かった。 歩くたび、身体が右へ左へとふらふら揺れる。 どうして、僕の身体はこんな事になっているのだろう。 極限まであいつの「力」を奪い去り、その全てを僕へと継ぎ足した、はずなのに。 ふらり、ふらり。 一瞬でも気を抜けば、床に顔面から落下しそうだった。 駄目だ、まだ倒れるな、僕。 姉ちゃんが生きてるかどうか、確認するって決めたじゃないか。 それまでは、何があっても、倒れ、ら、れ―――― 視界が反転する。おかしい。さっきまでドアへ向かって歩いていたはずなのに、どうして窓の方を向いているのだろう。 ≪……ふむ。駄作だったか≫ 声が、脳に響く。 なにを、言っているのか、よく聞き取れない。 くそ、どうしちゃったんだよ、僕の身体。 進めよ。やり残した事があるんだ。やらなきゃいけないことがあるんだ。 なのに、どうして、どうして僕の周囲が、暗く、なって…………? ≪主よ、しばし休め。後は我が担おうぞ≫ ――――僕の意識が、闇に飲まれる。 最後に聞いた声は、何を言っているか分からなかったけど それでも、少しだけ――――安心、した。 【Continued...】 前ページ次ページ連載 - プレダトリー・カウアード
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BRAVE SAGA『未来』 ◆0zvBiGoI0k ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 「……やはり質量と材質の差は覆らんか」 忌々しげな口調で荒耶は機体を見上げる。言葉の通りに衝撃を受けた装甲は、少なくとも見かけ上は損害はないようだ。 「それでも支障はない。肉(そと)は無事でも臓(なか)が耐えられぬのは人も機械も同じであろう」 だが、装甲は無事でも内部の精密機械、特に中にいる人間(グラハム)にとっては十分効果がある。 中の操者を仕留めた後にコクピットのコンソールのひとつでも砕けば、それでこれはただの動かぬ的に成り下がるだろう。 「…………………………………………」 視界の外で蠢く雑音に、意識を引き戻された。 蜘蛛の結界に囚われた枢木スザクを横目に見る。 動力を停止されて縛られなおその目には生存を諦めていない。 ルルーシュ・ランペルージが宿した隷属の魔眼ギアスにより受けた「生きろ」という命令。 尋常ならざる身体能力を誇るスザクとはいえ、ここにはそれをしのぐ猛者がひしめいている。 決して少なくない戦闘を経験して生き残っているのはその力によるところが大きいだろう。 他を潰し、倫理を捨てででも生にしがみつく。ある意味、それは荒耶の憎む人類の性。 だが、どう足掻こうが既に糸に絡まれた身。人の範疇でこれを破ることは叶わない。 ここでこの兵器を砕き、その次にスザクを落とせば前準備は成る。 荒耶が信長と相対する式を放置しスザク達へ近づいた目的は自ら口にしたように手に入れようとした機動兵器の破壊だ。 ただしそれはあくまで前段階、両儀確保のための露払いだ。 この機械人形を参加者の手に渡すのは危険過ぎる。主催に反攻を志す一勢の戦力になるというだけではなく、混乱を招来するものとして。 これらの性能は計り知らないが超巨大な人形―――ゴーレムとすれば対人においては無類無敵なのは揺るぎない。 ただ乱入されるだけでも計画に支障が生まれる可能性は十分以上にある。 そして可能性があるというだけでも、抑止力はそれを現実に引き出してくる。 式と信長との決着には短いながらも猶予はある。その間にこうして出向き一片の可能性を摘みに来た次第だ。 枢木スザクとグラハム・エーカー。人形に搭乗さえさせなければ二人同時でも負けようのない相手だ。 懸念といえたギアスによる超反応を持つスザクもこうして抑え込んだ。どれだけ潜在能力を引き出そうとあくまで人の身、 機先を制すれば遅れを取る道理もない。 補足を付けるのならば、今このとき式が敗れてもそれは好都合でもある。 荒耶に必要なのは「両儀式」の肉体。脳が潰れても数分程度ならば許容できる。その間に自らの首を挿げ替えれば根源へは通じる。 代償として荒耶は死ぬが目的が叶う以上問題などあろうはずもない。そもそも一度死んだ身なのだ。何を躊躇うことがあろうか。 危惧するのは魔王の発する瘴気で跡形もなく消滅することだが、式の持つ直死の魔眼の性質上そこに至る心配は低い。 真剣での唐竹割りで両断されることについては……それこそ天運に託す他あるまい。 世界を憎む男が最後に神頼みとは嗤える話だが、翻せば、そうならなければ抑止力が荒耶を阻めなかったひとつの証明もなる。 そういった意味で、荒耶にとってこの戦場は正念場といえた。 そう、荒耶はこの戦場に全てを賭けたのだ。 近辺に戦場に加わっていないほぼ隔離された空間。敵戦力とのバランス。地形。全ての条件がクリアされている。 参加者の残数から、これ以上の望むべく状況は恐らく来ない。 ならば、ここで全霊を尽くすのみ。 螺旋(セカイ)の果てを目指す魔術師は己が悲願へ一歩一歩近づいてることを感じながらも、高揚もなく次の手を動かす。 機動兵器さえ潰せれば良いが数を落とすに越したことはない。まずは機動兵器を先決し拳を開こうとした。 それを、緋色の意思が阻む。 すぐ傍で何かが動く振動がする。荒耶の目に映るのは墓標の如く沈黙していたモビルスーツの腕。 それはそのまま―――荒耶目掛けて振り下ろされた。 「――――――!」 反応はどうにか間に合い拳に潰される真似は避ける。だが人間を覆い隠して余りある巨人の腕だ。飛散するコンクリートも存分に凶器として機能する。 それを防ぐため、地に平行して展開されている結界を全面に出す。結界を貫くだけの硬度がない破片は砂に散っていく。 続けて、結界の位置を変えたため戒めを逃れただろう枢木スザクを見る。 運良く破片群に巻き込まれなかったのか、もしくは自力で回避せしめたのか、その肉体は未だ壮健だ。 「―――潮時か」 ひとつの決意を込め、荒耶は意識を傾ける。 そうして、音も前触れもなく魔術師は姿を消した。 ◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 「消えた……!?」 風景に溶けるように消えた魔術師を探すも姿は見つからない。 この場を不利と思い離脱したのだろうがまだ近くに潜んでいる危険はある。 すると背後から機械の駆動音が鳴る。振り返るスザクの前には、ナイトメアをも超える機械の騎士。 「グラハムさん、無事ですか!?」 「ああ問題ない。Gには慣れているからな……」 スピーカー越しにグラハムの声が聞こえる。コクピットの中にいるため姿は見えないがどうやら無事であるようだ。 「……君も機体に乗りたまえ。生身よりはそこの方が安全だ。私の機体なら抱えて運ぶこともできるだろう」 「はい、わかりま―――」 グラハムに促され自分も残った機体へ近づこうとしたその時、異変は起こった。 地震。それもかなり大きい。 コンクリートの大地に亀裂が走る。 まるでこの区画が大きな力で握りつぶされるように、軋みを上げていく。 「これは、何が――――――」 「―――急げ、スザク!!」 世界が、崩壊を始めた。 ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 眼に映るのは、彼方の光景。 空より自分へ堕ちていく瀑布の周囲、この戦場に充満するおぞましい声。 死ね。死ぬ。殺す。殺せ。 音として耳に入るものでなく、脳内へ直接這いずり回っていく。 暗く昏いその死を、かつて知っている。 生きる誰もが還る場所。死者しか到達しない世界。生者では観測できない根源。 光も音も、闇さえもない海の中。底はなく、果てもない「」の風景。 けれど、其処と違って是には見えるものがある。 何時かの何処か。誰かの何か。 人も街もガレキのカラクタ。空さえ焼け焦げた世界。 原因はきっと、天(ソコ)に浮かぶ黒い太陽。 夜なのに太陽があることも、太陽が黒いのも疑問には思わない。 所詮幻視だ。幻想にすら劣る妄想に理屈も意味もないだろう。 脳があてられたのか、それともこの声(のろい)が行き着く場所なのか。 分かるのは、「死」が起きるとしたらこんな風になるのだろうということと。 あんな場所に逝くのは絶対に御免だということくらい。 それは普通のことだ。生きてるものなら誰だって死が恐い。 死が視えようが視えまいが、死を望まないなんてのは当たり前のことだ。 当たり前なら考えることなんてないはずなのに私は考える。 死にたくないと生きたいは違う。 死ねない、死にたくないとは思っても、私は生きていたいとは思えない。 夢は、人が生きていく根源になるという。 どんなに小さいものでも、ユメのためなら人は強く生きていけるという。 私の中にも夢があった。なんでもない、普通の日常を暮らす夢。 それは式の陰の人格、殺人鬼という縛りを持つ両儀識がいる以上、決して叶わない夢だ。 誰かを傷つけ、否定して、殺すことでしか識は存在できなかった。それが彼の生み出された理由だからだ。 けど、識も夢を見ていた。私と同じ、けれど彼にはどうしても望めない幸せなユメを。 やがて夢が黒桐幹也という現実になって表れた時、識は自ら消えることを望んだ。 否定しかできない彼(シキ)が、好きな彼(ユメ)を殺してしまうことのないように。 シキに幸せになって欲しくて。なにより自分のユメを守りたくて。 そのユメもここで失くしてしまった。 殺し合いという狂ったセカイで、彼は命を落とした。 おそらくは、傍にいた誰かを捨てきれなくて当たり前のように前に立ち、当たり前のように死んでいったのだろう。 絶対に口にしたりはしないけれど、 そんな彼を、シキはずっと好きだったんだから。 けれど、ユメは私を置いて去ってしまった。 ユメを奪われた人はどうすればいいのか。殺した奴を殺し返すのか。 確かに、彼を殺した奴が眼の前にいれば、私はそいつを許せないだろう。 それで色々なものを無くしてしまうとしても、手に持つ刀に躊躇いは生まれない。 それが終われば、それで終わりだ。 あいつがいなければ―――私は生きてさえいられない。 だというのに、私は生きている。 死ねないと思うのは本当だ。このまま死ぬのは嫌だった。 何も得られず、何も変われず、何もなく死ぬということが許せなかった。 しかも、ここで会った人はみんな奇妙だ。 殺人鬼の私に構って、助けて、友と言って、「許さない」と言って。 幹也でもないのに、その言葉は私を縛り付ける。 胸の穴は消えないけれど、 穿たれた私が壊れないように周りを補強してくれる。 頼んでもないし、勝手とも思う。 ただ―――求めてないとは、断言し切れない。 ユメをみることは苦しいけれど。 ユメをみない、というコトの方はどれほど感情のない事なのか。 今の私は識の見るユメだ。シキが幸せに暮らしている未来。 同じシキである私もそのユメを壊したくなかった。 2度と叶わないユメを、彼はずっと夢見ている。 私が生きているのなら、彼の夢はまだ死んでないといえるのだろうか。 問いかけても答えは返らない。 けれど、それは確かめる価値のあることだ。 だから、今は生きていよう。 罪を省みて、夢を見直す時間は、きっと残されているから。 頭上の死を見つめる。 空を覆い隠す泥のその先にいる武者を透視する。 織田信長。 奴は殺人鬼じゃない。そして荒耶とも、近似しながら大極だ。 あれは人が死ぬ意味を愉しんでいる。死体の山を築き上げその頂きに足を乗せることを是としてる。 荒耶は人間への憎悪で動いてるが、こいつは人間へ純然たる殺意を抱いてる。 表現するとしたら、やはり魔王という言葉が一番しっくりくる。 “けど―――私の死は、お前なんかじゃない” 脳が蕩けるような熱を感じる。漏れ出た熱は両眼から溢れてくる。 それだけで、鮮やかにおぞましく視えていく。 汚濁した空に伸びる線、悪意すら殺す死を、初めて式は綺麗に思えた。 ◆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 唐突に、泥塊が弾け飛んだ。 地面が押し潰されることもなく、まるではじめからなかったかのように消滅する。 その様を、上空から睥睨する信長が瞠目する。 渾身ではなくても致命を確信して放った瘴気の大波。それが跡形もなく吹き飛ばされたのだ。 景色が晴れた先には、相対している和服の少女。 蒼い両眼からは、涙のように血が流れている。 両儀式が、死に誘う魔眼を以て、凄絶に魔王を見上げていた。 数秒経って、地上に降り立つ。それと同時に、死神が駆ける。瞬く間に縮む互いの間合い。 馬(あし)は着地の衝撃で動き出せない。先手は式が握った。 「うつけがぁっ!!」 ただしそれが信長に攻め手を失わせることにはならない。纏う瘴気を地に這わせ、影のように地を走る。 染められた大地から飛び出す剣山。信長の前方を針の山が覆い尽くす。 だが式は足を止めることをせず、むしろより勢いを込めて針山地獄へ飛び込んでいく。 自殺志望では断じてない。ただそれが自分の命を脅かすでも、障害にもならなかったからだ。 刀を地に突き立て、払う。それだけで事は済んだのだから。 事もなげに消し飛ばされる剣の山。それどころか背中まで覆っていた瘴気すらもが霧散していく。 一度理解出来た以上、死の想念を宿す瘴気は式にとってむしろ見やすい部類ですらある。 遠距離の反撃を封じ馬も膠着状態。距離を詰め切れない要因を全てクリアし遂に式の斬撃の間合いに入る。 それでもなお、慮外の反撃を受けても信長は的確だった。 信長の瘴気による攻撃を悉く消し去る小僧―――上条当麻との戦いを経験してるからこそ反応できたことだ。 馬上目掛けて飛びこむ式。それを止める信長の腕の方が速い。 瘴気によるアドバンテージなど、彼にとって強さの一要素に過ぎない。剣のみによる斬り合いでも、魔王の力量を知らしめるには十分以上だ。 だから防御が間に合わなかったとすれば、それは別の要員によるものでしかない。 「ぬおおっっ!!」 突然起こる異変。視界が揺れ、手元が狂う。 跨る軍馬が全身を震え喚き散らしたことだと信長は即座にわかった。 この期に及んで疎意を起こした?あり得ない。畜生如きにそのような気概も知恵もあるはずがない。 そしてその原因を探る余裕も、あるはずもない。 眼前で、死神が首を刈り取る様を見せつけられていては。 斬、という音が響きわたる。 過不足なく、振り切られる両腕。 死を意味する線を、鮮やかに刀が通り抜ける。 切り取り線が付いていたかと思えるほどに、野太い首が落ちる。 動脈どころか全ての筋を断たれて噴き出す血飛沫に濡れる者はいない。 何故なら両儀式は次なる目標を見定め既に駆けだし、 馬の頭を斬られる寸前に織田信長は再び空へ逃れていたのだから。 ずん、と地を踏みしめる音がする。 馬を失い自らの足で立つ第六天魔王は不動の位で首のない死体を見下ろす。 憐憫の類は毛頭ない。あの時に突如発生した謎の行動の意味を探ろうとしたに過ぎない。 程なくしてその理由も目に入った。 筋肉で固められた強靭な腿に深々と突き刺さる簡素な小刀。 現代で市販で売られているペーパーナイフだということに露知らず。 名称などどうでもいい。知るべきは因果の源、この小刀を飛ばした下手人の姿だ。 即ち、信長の背後にいる白井黒子に他ならない。 討ち漏らした。黒子の内情はそのようなものだった。 身体的には並みである黒子があの戦闘に割り込める機会というのはそう多くない。 自分が手を出したとて、式が刃を切り込むための隙を作ることはできない。 よって、式が作った隙を更に広げることこそが己の役割だと決めた。 戦いの佳境で敵が大きく飛び立った瞬間。そこなら付け入れられると思った。 自分がそう思った以上、前線の式ならより的確に気付くだろう。 滝のような大津波に飲まれた式を見た時、若干の不安があったが波を食いしばった。 むしろそんなとこで溺れてないでさっさと出てきなさいコンチクショーなくらいの気概だった。 自分でも滅茶苦茶で杜撰と思ったが相手も滅茶苦茶なのだ。それ位で丁度いいと疲弊し切った頭で考えてた。 そして期待(?)通りに復帰した式の姿を確認し次第、テレポートで接近をかける。 動き始めたてからでは遅い。その間に式と敵との距離は詰められてるだろうから。 敵との距離が25メートルに達したところで、手をかざす。手中には小さなペーパーナイフ。 テレポートの凶悪な使い方に「生物の体内に転移させる」というものがある。 ジャッジメントとしての黒子の活動で使った事はない。必要性がなかったし、そこまで殺意を向ける対象もいなかったからだ。 今は、いる。敵意というよりは、戦い、勝ち、打ち破るべき存在に。 距離が離れ過ぎ、制限もあることから正確に敵の心臓を潰せるとも限らない。 黒子の脳が痛む。万力で頭蓋を締め付けられるような鈍痛が絶え間なく続く。 それでも集中を切らさない。そんな痛み、行使を止める理由になどならない。彼なら、「正義の味方」なら、こんな程度で弱音を吐くものか。 式と敵との交差が起きる直前を見計らって、ナイフを飛ばす。 下の馬に刃が突き刺さる。敵の背中には当たらなかったものの、式に誤射されなかっただけ及第といえよう。 なにより、大きな隙を曝け出せたのなら自分の役割は終えた。 勝利を確信した瞬間、だが現実はより過酷に立ちはだかる。 これ以上ない、最高のタイミングに関わらず、相手は式の刃を抜けたのだ。 馬を潰すという一定の成果は上げたものの、会心の一撃と思えた攻撃の結果としては余りに少ない損傷。 戦力を削れたのは疑いないが、それでも今の敵と自分達の間にどれだけ力の開きがあるか……。 戦慄に身を震わせながらも、武者震いと誤魔化し敵を見据える。 「……賞美を受け取れ。小娘の分際で我にここまで粘りおるとはな」 野太い、威厳と傲慢が混合した声が伝わる。 その貌は健闘を称えるものとしては謙虚さが欠如しているが、それでも織田信長は彼女らのあがきを称賛した。 思えばこの戦場でまみえるのは殆どが女子供の群れであった。 偉丈夫共が闊歩する戦国の世においては当初は失望の念があったがいずれも脅えず従わず反抗する者ばかり。 そしてこのように己と切り結ぶ骨のある者までもいる。 油断はない。慢心も抱いてはいない。だが力を出し惜しんではいた。 疲労だの先の戦いだのを見据えて目の前の戦いが疎かになるなどうつけよりなお愚かの極み。 力を築き、覇を唱え、天下を治める。その障害は幼童だろうが老人だろうが皆殺す。 そこに貴賎はない。そこに慈愛など不要。加減など侮辱にほかならない。 それが悪鬼住まう戦乱で戦う武士への唯一の、そして絶対の礼儀だ。 「是非もなし。我は第六天魔王織田信長、うぬら寡兵が如何に群がろうと必滅は免れぬ。 ―――天下布武、阻めるものなら阻んでみせい!!」 宣戦と共に湧き上がる覇気。紅黒い影は魔王と呼ぶに相応しい恐怖と災厄の象徴。 前の式と後ろの黒子の間に立ちその支配を強める。 自分には届かないと分かりつつも後退していく黒子。見ているだけでも臓腑を掴まれているような悪寒を憶える。 対して式はより一歩を踏みこむ。信長の後ろの黒子が見えてないのか一瞥もくれない。 頬を血で濡らしながらも衰えなく、躊躇いなく、眼前の敵を注視する。 「ハッ!」 破顔一笑。韋駄天足をもって踏み出す信長。先か後か式も構えを取る。 二人が撃突しようとするのを黒子は眺める。 戦況が式に傾くように随時差し込んでいけばいい。 自分に凶刃を向けてくるのならもうけものだ。その分式が切り込む隙になってくれる。 当然、捨て駒になってやる気もない。 裁断官が見届ける中、魔王と死神がぶつかりあう。 魔王の心臓が貫かれるか、死神の首が落とされるか。 結末は2つに1つ。覆らない取捨選択。 だが。 「「「―――――――――――――――!!!?」」」 あまりにも唐突に、破滅が訪れた。 ◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 荒耶宋蓮は、このエリア一帯を圧縮した。 自らの構築した術の中で最後の手段として用意されていたものだ。 かつて、小川マンションでの戦いで式を斃すために、マンションそのものを倒壊させる手に打って出た。 結果としては失敗に終わったが、マンションと違い逃げる場所のないこの会場なら成功率は高いものと見ていた。 当然、自ら会場を破壊するという行為を帝愛が認めるわけもない。 この会場が荒耶とは異なる魔力源で機能してるのも、そうした自爆行為を防ぐための意味もある。 だが、どれだけ手を加えようとここは荒耶の造った世界なのだ。抜け道など如何様にも用意できる。 確かに会場全域を潰すには届かないが、特定の1エリアを潰す分なら支障なく行使が可能だ。これなら式がどこにいようと使用に踏み切れる。 そうして、混乱の極みにある戦場で会場を壊し、その隙に乗じて式を殺害する。 式を捕らえるにおいて何十種も構築したパターンの中ではかなり追い詰められている状況での戦略だったが、だからこそ効果も高い。 あとはここから式の居場所へ転移して肉体を奪えば荒耶の悲願は成るのだが―――魔術師は動かない。 「……どういうことだ」 崩壊の規模が、緩い。 本来なら五分と経たずエリア全域の地面が倒壊する規模での圧縮だったはずだ。 なのに崩れる建築物が少な過ぎる。じょじょに、予定よりも遥かに遅いペースで地盤が沈んでいっている。 これでは、万一といえど逃げ延びられる危険がある。 何を誤った?何が原因か? エリア内に不備があったのか。否、短時間ながらも工房内で最終調整も行った。 ありえるとすれば血脈に手を加えて計算を狂わせたとことだがそんな真似ができる参加者はキャスター以外に該当は―――――― 「―――――――そうか」 雷鳴のような衝撃が、確信となって荒耶を駆け巡る。 この会場は荒耶の製作物だが完全に独力ではない。 その補助員として帝愛の雇われとして遣われた男がいた。 軽薄な態度で底の見えない怪しさを持つものの、結界の構築の手腕は確かなものだった。 そうだ、あの男なら。荒耶が帝愛から密かに機巧を仕込んだように、こちらを妨害する仕掛けを施すのも不可能ではない。 あるいは東横桃子により一度死んだ一瞬の隙に、術の働きを遅らせる細工を違和感のない程度に弄っていてもおかしくない。 そして何より、帝愛から要請され、このバトルロワイヤルのための会場の製作に着手する初期からこの男がいたことを思えば。 ここまでにあった全ての邪魔にも、説明もつく。 「貴様が此度の抑止力であったか……忍野メメ」 全人類六十億を憎むのと同規模の憎悪を以て、荒耶は己の真の“敵”を認識した。 ◇――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◇ 本当に、脚色なく、世界が終ったと思った。 地震は止まず、地面は至る所が罅割れ、隆起し、崩れていく。 衣を抱える阿良々木のいる場所もその例外もない。 身を隠そうと工場地帯に入ったのはむしろ失敗だった。地盤沈下に耐えられなくなった工場が次々と倒壊していく。 「っ!!……あああっ!」 頭上から降ってきた身長ほどの瓦礫をぎりぎりでかわす。 何処へ行こうと何もかもが壊れていく。 逃げ場なんて、どこにもない。 「くそっ!ふざけんなあ!!」 叫ぶ。叫んだところでどうにもならないなんて分かってても叫ぶしかない。 死にたくない。死なせたくない。生きてるんだったらそう思って当たり前だ。 だから叫ぶ。 それくらいしか今は生きてる実感を持てそうにない。 だが運命サマは、ここで自分を殺しにかかってきたらしい。 ぎぎぎぎ、なんていう破滅の音がまたしても頭上から聞こえてくる。 気にせず走る。見た所で意味もない。 けどがっしゃあああああ!!なんて音が聞こえたなら、見上げちゃうだろ、普通。 大雨警報。瓦礫のスコール。致死率100パーセント。 あ、やばい。 頭に浮かぶ今までの思い出。 駄目だ。まだそっちに行きたくない。 生きているのに。助けられたのに。 負けて死ねとばかりに慈悲なく雨は降り止まない。 せめて、腕に抱える子だけでもどうか助かってくれるように抱きしめて――――。 「………………………………は?」 唖然とする。 するしかない。 夢オチかと疑いたくもなる。 自分めがけてまっしぐらに降ってきた瓦礫の雨を、巨人の腕が守ってくれるなんて。 腕の伸びる先を辿って見る。 そこにいたのは、正に巨人。 鎧を纏って、翼も生えて、色合いもなんだかダークっぽい。 阿良々木の主観でいえば、主人公機よりもボス格のマシンの方がイメージ強い。 その中で、ただ一人がその威容に友の姿を見た。 視界は霞む。耳は遠い。肌は冷たい。 そもそも見えるのは機械の巨人のみで操主の姿は隠されて一切見えない。 にもかかわらず、天江衣は答えた。そして言い当てた。 「……グラハム?」 天江衣の声に呼応するかのように巨人は膝を屈み、胸部のコックピットが開く。 予見の通り、居座る戦士はグラハム・エーカー。 空翔ける翼を手にした、阿修羅すら凌駕する男。 「―――待たせたな、天江衣!」 ◆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆ 紅き翼が翻る。流線形のそれは、圧倒的な巨体と色合いとを併せて悪魔の翼を思わせる。 そのイメージは半分は正解といえよう。これに乗ることは悪魔の同伴を許すのと同義だ。 この機体に乗って勝者になってはならない。この機体を産み出した男はそう言った。 悪魔の誘いに屈すればそこに残るのは意味のない勝利。ただ殺し、破壊したというだけの結果しか生まない。 それは兵器にして兵器にあらず。勝者となった人間にこの機体に乗る資格はない。 だが、誘惑を断ち切り、悪魔を御する駆る戦士が乗り込めば、それは本物の騎士へと姿を変える。 それらの総称である称号。武力による戦争根絶、歪みを孕みながらも人類の革新のために存在してきた天上人の剣。 明日を目指す戦士のための、未来を切り拓く力。 冠する名は次世代。人心なき大量破壊兵器が跋扈する戦争、人間の介在しない無味乾燥な戦場を憂いた男の精神の象徴。 迷える戦士へ回答を指し示す道標。 称号の名はガンダム。 象徴の名はエピオン。 歪んだ世界を破壊し、未来を再生する力―――ガンダムエピオンは、確かにグラハム・エーカーの手に託された。 時系列順で読む Back BRAVE SAGA『死踏』 Next BRAVE SAGA『螺旋終落』 投下順で読む Back BRAVE SAGA『死踏』 Next BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『絶望』 荒耶宗蓮 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『死踏』 白井黒子 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『死踏』 阿良々木暦 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『絶望』 グラハム・エーカー 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『絶望』 枢木スザク 291 BRAVE SAGA『螺旋終落』 291 BRAVE SAGA『死踏』 天江衣 291 BRAVE 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パウル=ミュンツァー、本編以前のエピソード0的な何か SSスレに投下したものを一部修正したものです 「ショーダウン……フルハウス!」 響く歓声が、場に走ったカタルシスの大きさを端的に表していた。煌びやかな空間に、割れんばかりの拍手の音が続く。 取り繕いきれない渋面のジェントルマンの手から、ジャラジャラとチップが『勝者』の手へと渡されていった。 「っへへ……最後に大事になってしまったけど、結局勝つのは、女神様に愛される男って事だな」 テンガロンハットを微調整し、金髪の男は愉快気に葉巻を一息吸い込む。手元に残ったのは、換金すれば約400,000程にはなろうかと言う、カジノのチップ。 そのうち半分は、この勝負に自分の手元から出したものだから、200,000の勝ちと言う事になる。 ドレスアップした紳士淑女のひしめくこの場において、Yシャツにスラックスと言う、風采の上がらない男の大勝利は、場を沸き立たせるのに十分な出来事だった。 ――――夜の国の某大型カジノホテル。勝利と敗北、欲望と諦観が交差する、大人の遊び場にして、金の伏魔殿。 そこから勝利を拾い上げた男は、ちょっとした札束を手に、御満悦の様子で退出する。あちらこちらから立ち上る熱気の気配を背にして。 「今日はツイてた、いつも以上にツイてた。……どうやら今日は、ご機嫌みたいじゃないの……女神様?」 今日はあえてドレスアップせず、普段着のままで『勝負』に挑む事に決めたのだが、どうやらそれが良いゲン担ぎになったらしい。 すれ違いざまに、時折向けられる奇異の眼も、胸元に押し込められた札束に、跳ね返されてしまう。 勝利の夜と言うのは、やはり気分が良い――――強運に身を任せる、自分の判断の正しさの証明と言う意味もある。 幾重もの愉悦を身に纏いながら、男は自室へと足を向ける。 「おっと、おにーいさん! その様子じゃ、良い感じに遊べたみたいだね! どう、この後であたしとも遊ばない?」 「ぉ、目ざといなぁ……随分フランクじゃないか。良いよ、気に入った。で、いくら出せば良いんだ?」 金と服装、2つの意味で目立つ男は、程なくしてコールガールに声を掛けられる。 質素ながら扇情的なドレスに、肩から少し下がるくらいの眩しい金髪、透き通るような大きく青い瞳――――結構な『上玉』だ。 「部屋は取ってあるんでしょ? じゃ、そっちにお邪魔して60,000! あと、晩御飯も食べたいなぁ」 「良いぞ、この際野暮は言いっこなしだ。パッと明るくやろうじゃないか……!」 商談はあっさりと成立し、男は女性の腰に手を回して抱き寄せ、歩調を合わせて廊下を進む。 ――――こういう『商売女』に対して、値切りなど絶対にやってはならない。見せ金があるのなら、尚の事だ。 自慢げに歩く男の姿は、正に『勝者』のそれだった。 「おにぃさん、どんな感じで勝ったの? これだけ行ったからには、一発モノにしたんでしょ?」 「お、聞きたいのか? んじゃ教えてやるよ! 今日の俺はポーカー一本でいこうって決めてたんだよなぁ……」 (――――どこで聞いたんだったかな……「恵まれない分には、腐っちまうのもしょうがない」って……全くその通りだ、俺もそう思うよ) 既に軽いトークでじゃれ合いながら、男の胸中に、ふと思い出された言葉があった。 ――――自分の強運に自信のあった男は、賭場と言う運の戦場に足を踏み入れ、そして勝利を引っ提げて生還した。 もしもこれが、ツキの無い奴の行動だったなら、そいつは何もかも失っていたはずだ。 金だけならまだ良いだろう。運と言うのは馬鹿にならない。下手をすれば、こんなままならないモノのおかげで、命を失う事だってあるのだ。 (ま……俺ほど運に恵まれてる奴も、そうそう居ないだろうよ……なんせ、今の今まで生きてこれたんだからな……) そんな感慨なんて今まで無かったはずなのに、ふと体に残る古傷が疼く様な気がした。恐らく気のせいだ。 気のせいながらも――――男はふと、己の運に対して思いを馳せる。今まで何度も、死んでもおかしくない目に遭ってきた。 それでも、こうして五体満足で生きているし、金を稼いで旨い物を喰い、時には良い思いをしている。 だからこそ――――この男は戦うのだ。世間に背を向けて、高いオッズに手を伸ばすべく。 信じるのはただ、己自身の運と、女神の祝福だけ。それ以外、彼には何もいらないのだ――――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「おーいパウル! 試験明けの打ち上げ、お前も来るだろ!?」 「おぅ、今度は誰んちに集まるんだ!?」 ――――昼の国。 夜の存在しない、太陽とリゾートの国にあっても、学生と言うのはやはり、他の国と大差ない存在で。 それが学生の本分と、勉学に明け暮れる者もいれば、仲間たちと青春を謳歌する者、流れる日々をただモラトリアムとして過ごす者、様々だ。 とは言え、大多数の彼らは、ごく当たり前の目立たない存在。学生の内から一味違う存在など、そうはいない。 「やっと全教科終わった訳だけどよ、パウルお前、出来の方はどれくらい自信あるんだ?」 「あぁ、今回は良い感じだ。ひょっとしたら学年トップ10、いけるかもな?」 「あぁ!? お前いっつも遊んでんのに、なんでそんなに自信あるんだよ!?」 「バーカ、お前ら授業の時、ちゃんと目ぇ開いてんのか? ちゃんとノート取って集中してりゃ、家の勉強時間なんて短くて済むだろ。授業は昼寝の時間じゃねぇんだぞ?」 「いやー、あんな詰まんない授業、よく集中してられるよね。あたしいっつも眠くなっちゃうんだけど……」 「そういやお前、先週も涎垂らして爆沈してたっけな?」 「うっ、うっせ! 人の寝顔見て喜んでんの!? 変態なんだパウルー!」 ――――その『学生の頃から一味違う』存在を連れた一団が、校門から開放される。 ある種のタレント性とでも言うべきか、いつでも仲間内の輪の中心にいる存在。そんな風に日々を過ごしていれば、畢竟、目立つ事になる。 成績が良く、交友関係が広く、ノリも良い。絵に描いたような、青春の若者の周りに、やはり友人は引き付けられるのだ。 「あっ、悪いちょっと待っててな――――おーい!」 「……なんだパウル」 一団から離れた少年は、1人足早に帰り道を行く級友に声をかける。うんざりした様子で、彼は振り返った。 「いや、3日前掃除当番変わってもらっちゃって、悪かったよ。どうにも約束断り切れなくてよ」 「……別に良いよ、あいつら強引だもんな。1回ぐらいなら、別に……」 ぶっきらぼうに答える級友にめげず、少年は自分のカバンの中を漁る。 「んな訳で、埋め合わせって訳じゃないんだが……ほらこれ、あの時のお礼にと思って。助かったよ」 「え……これは、明日発売の『怨念戦記』39巻!? ど、どうして……」 「お前のキーホルダーが見えたの、覚えてたんだよ。それ、怨念戦記の愛羅姫だろ? だったら、読んでんじゃねぇかなと思ってさ。 知り合いの、本屋のおっちゃんから、今朝無理やり買い取ってきたんだよ。いよいよ最終章突入だし、早めに読んだ方が良いだろ?」 「……パウルもこれ、読んでたのか。なんか意外だな……」 「……けど、俺は謝瑠姫派だな」 「……へぇ」 「おっと、一家言ありそうだな。けど、積もる話はまた今度って事で、それじゃな、本当にありがとよ!」 どこかリアクションに乏しい、それでも何か言いたげな級友に対し、最後まで笑顔で語りながら、少年は仲間の輪に帰っていく。 「パウルお前、漫画まで詳しいって知らなかったぞ……」 「どんな漫画なの、あれ?」 「お前らが読んでも面白いとは限らねぇぞ。櫻の国を舞台にした、ホラー伝奇超能力バトル漫画だからなぁ、ありゃあ漫画慣れしてる奴が読むものだよ」 「お前は分かってるって事は、結構なもんじゃねぇか! 読んでんだろお前!」 ガヤガヤと盛り上がりながら、一団もまた学校を後にする。 単行本を渡された級友は、少しだけ羨ましそうに、その背中を見つめていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「さーてね……っと、来た! やったよ2等、大当たりだぜ! 後で親父に換金してもらって――――」 夜の無い部屋で、少年は籤券を前にほくそ笑んでいた。 夜の無い国と言えども、人々には相応の生活リズムというものがある。窓の外を見れば、今の通行はまばらだ。 風を求めて開け放たれた窓には、寝るときの為に陽の光を遮光する、分厚いカーテンが掛けられている。 その窓から入り込んでくる、温かい光と風を満身に感じながら、少年は会心の笑みを浮かべていた。 ――――第72回昼の国産業振興記念くじ、それで当選金1,000,000を引き当てたのである。 「っと、それは良いとして……そろそろ、先生から頼まれたアレ、片付けとかないとな……」 小躍りしたいほどの喜びが胸に溢れてくるが、そればかりに浮かれてもいられない。学校の先生からの頼まれごとを、少年は抱えていたのだ。 机の上を片して、紙とペンを用意すると、少年はじっと思索を重ねるために動きを止め、時折ペンを紙に走らせていく。 ――――彼にとって、こうした事は珍しい事では無かった。これまでの生活の中で、何度かあった事に過ぎないのだ。 ――――文武両道、才色兼備、更に類まれなる強運に恵まれている。「天は二物を与えず」と言う言葉は、彼には当てはまらない様だった。 誰彼構わず交友関係が広く、目上の人間からの信頼も厚い。そうした周辺の期待に応えられるだけの能力も持ち合わせている。 誰もが人生の主役、という様な言い回しがあるが、正に彼は、自らを中心にして人生が回っていく、その中核に存在するものだったのだ。 「――――うん、良い感じだ。これで、次回の集会発表も、お願いするけど良いよな?」 「勿論ですよ先生。もう読み方の練習まで始めちまってますよ。任せて下さいって!」 「……本当にお前、やるもんだなぁ……」 翌日には、少年は教師と打ち合わせ、片付けた頼まれ事を仕上げた事を報告する。受ける教師の表情は、完全にシャッポを脱いだものだった。 何でも卒なくこなす彼にとっては、この程度は片手間だったのだろう。事前に知らされていないオプションまでつけて、見事にうならせていた。 「……そうだ、面倒ついでにもう1つ、お願いしても良いかな?」 「何ですか、改まって?」 「お前、6組のカルロス達ともそれなりに親しいんだろ? あいつらに、いい加減他所との喧嘩は止めろって、言ってやってくれないか? よその生徒に怪我でも負わせたりすると、色々と問題なのだが……どうも聞く耳持たんで、上手く行かなくてなぁ……」 「先生そりゃ、頭ごなしに「止めろ」って言われたら、反発もしますって。そういうの、あいつら一番嫌う事ですからね 上から目線だって思われたら、終わりなんですよ。ちゃんと理路整然って奴を貫徹しないと あいつら、馬鹿じゃないですから。話してる相手が「こっちをチンピラだって見下してる」っての、ちゃんと見抜いてきますよ ……まぁ、地雷原を歩くような話ですけど、そこら辺の加減を間違えなきゃ、案外話は通じますって」 「そ、そうか……」 「まぁ、俺の口から伝えてはみますよ。でも、それで俺がぶん殴られても、それでまたオイコラって向かっちゃいけませんからね?」 通常、教師が生徒にする範疇の相談を超えてなお、少年は涼しい顔で答える。既に彼は、能力的な範囲に留まらず、『自己』を確立し始めていたのだ。 モラトリアムと言う事は、もはや彼には当てはまらない。その中で、少年は精一杯、青春を楽しんでいた。 「……で、顔に青あざ作って帰ってきたと」 「――――我慢するからお前をぶん殴らせろってね……ちょっと言い方不味かった。まぁ、約束は取れたから良かったよ……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――あーあ……ツイてねぇな。つまらねぇ……」 ――――個室型の病室で、少年は1人、ため息を吐いていた。 急病に倒れて入院。しかもその為に、修学旅行への参加を断念せざるを得なかったのである。 学生生活最大級のイベントを堪能できない――――常に楽しく過ごしてきた少年の落胆は大きかった。 「今頃みんなは、風の国の大山脈ツアーかよ……はぁ、高原チーズ、俺も食いたかったよチクショウ……」 せめて染みの数でも数えてやろうかと天井を見上げても、そこには綺麗な白しか広がっていなかった。 思うままに体を動かす事も出来なければ、自分の生活リズムで、いたずらな夜更かしをすることも出来ない。 持ち込んだ漫画も、他にする事も無いので、もうすぐ3週目に突入してしまう。ひたすらに気だるかった。 これ幸いに骨休め、などという疲れた感性とも無縁だった少年は、完全に時間を持て余してしまったのである。 「かと言って、昼間はマシなテレビなんてないんだよなぁ……ニュースもすぐに同じ事ばっかりで慣れちまうし…… 国会中継って言ったって、テロ対策か馬鹿な質疑応答しかしないし……ある意味面白いけど……」 あと、日替わりでランダムな話題を持ち込んでくれるものと言ったら、病室備え付けのテレビしかなかった。 ぼんやりとつけっぱなしにしたテレビに見入る。なんだか、自分の頭が鈍化して行く様な感覚に、少年は囚われていた。 「やぁパウル君、相変わらず暇そうだね。検温と……どうだい、体調は?」 「あぁ先生……ま、腹の奥に、相変わらずの鈍痛はありますけど、熱は特に……それよか、早く起きたいですよ 旨いもの食べたいし、外を歩きたいし……はぁ……」 「ま、1ヶ月ほどの我慢さ。君なら、勉強の遅れを取り戻すのも楽だろうし、その体力なら病状も悪化しないだろうしね」 検診に来た医者と、他愛ない会話を交わす。これもまた、少年の数少ない心の慰めとなっている、今の日常だった。 ――――その終わりを知らせたのは、つけっぱなしにしていたテレビである。 『――――番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします 本日、午前11時27分頃、昼の国太陽航空、第245便旅客機が、「エンジントラブルに見舞われた」という通信を最後に、グランツ北東400㎞沖合の海上に墜落したとの情報が入りました』 「!? おいおい……飛行機の墜落かよ……」 「……大変な事が起きてしまったね……」 『この、245便には、修学旅行中の高校生を含む、377人が搭乗しており――――』 「――――ッ!?」 キャスターの、緊迫した言葉が、原稿のその場面を通り抜けた時、少年の頭は真っ白になった。 「ぱ、パウル君……!?」 「ちょっと待てよ……まさか、まさかみんな……!? 先生、ちょっと、確かめてくださいよ……俺の友達、これに乗ってたんじゃ……!?」 「お、落ち着くんだ。興奮は、腹の病変に悪いって分かるだろう?」 「だから、ちゃんと確かな事を知りたいんですよ! 教えてください先生! 俺の代わりに調べて!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「……みんな……みんな……なんでだよ……」 果たして、墜落した飛行機は、少年の学友たちが乗っていた航空機だった。そして当然――――飛行機の墜落で、乗客乗員全員死亡は、当たり前の話である。 少年は、親しい友人たちを、大人たちを――――かけがえのない日常を、一気に失ってしまったのである。 (ツイてないって思ったけど、俺だけ生き残ったのか……でも、これでツイてるって言えるのかよ……!) 急病で修学旅行に参加できない事は、全くの不運だと思っていた。だが、その為に彼は生き残り、学友たちは全滅してしまったのだ。 現実味の無い事実を突きつけられて、少年の思考は空転し、同時に混乱に見舞われていた。起こった出来事を、受け止めきれなかったのだ。 さしもの少年も、こんな急転直下の事態を、どう受け止めれば良いのか、それに答えを出せるだけの人生経験を積んではいなかった。 これから自分はどうなるのか、今ここに自分がいるのはどういう事なのか、少年の意識は、取り留めなくそんな疑問を見つけては、有耶無耶のまま霧散してしまう。 ただ、友人たちの死を悼む事くらいしか、病人の身である彼にはできなかった。 「……なんで俺、のんきに寝てるんだろ。みんな……凄い怖くて、最後の瞬間に痛い目見て、死んでったんだろ……?」 飛行機内のパニックに、思いを馳せる。友人たちはきっと――――どうなってるんだと叫び、死にたくないと叫び、そうして死んでいったはずなのだ。 いや、それは友人たちだけに留まらない、先生だって、そして他の乗客たちだって。地獄みたいに、恐怖と振動に振り回された挙句に、死んでいったはずなのだ。 ――――それを思うと、病を患いこんな所で伏せっている我が身が、たまらなく腹立たしく、情けなく、悔しかった。 「……俺1人生き残ったんだったら、生きてかなきゃいけねぇな。身体治して、弔わなきゃ……」 しかし、こうも考える。自分1人が生き残る巡り合わせにあったと言う事は、そこに何らかの意味があるんじゃないか、と。 別に道徳教育を尊ぶつもりはないし、運命論者になった覚えもない。ただ、何かしらの意味と言えるものは、そこに確かにあるのではないか、と。 その手始めとして、まずは死んでいった知人たちに、ちゃんと冥福を祈り、ちゃんと遇する礼を尽くさなければならない。 明かりを消した暗がりの中、ベッドに横たわりぼぉっと天井を見上げていた少年は、どうにか自分の感情にケリをつけることが出来た。 ――――眠りは、深かった。重く、昏く、熱く。 ――――ずるい……ねぇか ――――なん……お前だけ…… ――――こっ……一緒……来なってば…… ――――1人だ……不公へ……! 「――――っぅ、ぐ……ぅぅぅ、ぅ……!」 ――――お前も、俺たちと一緒に死ねよ……! ――――勝手に腹壊したとか言って、死ぬのさぼってんなよ……! ――――命を抜け駆けなんて、冗談じゃないぞ……! ――――来いよ、お前もこっちにッ! 「――――っぐぁぁぁぁぁ…………ぁ、ぐ、っ……!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――しっかりしなさい、大丈夫か!?」 「っぐ、ぐ、うぅ…………」 ――――深夜、個室のドアが開け放たれる。少年の個室に足を踏み入れてきたのは――――見知らぬ老人だった。 「おい、おい! 私の声が聞こえるか!?」 「ぎっ……は、腹が…………ッ、あ、熱い……ッ、焼ける……!!」 「生まれたばかりの悪霊共が……引きずり込んでいくつもりか。そうはさせん!!」 少年は、腹部を抱え込む様に抑えたまま、うずくまっている。呻きながらも、意識は朦朧としている様で。 ――――老人はそれを悪霊の仕業と見切り、すぐさまその手で、少年の額と腹を押さえつける。 青く澄んだ光が掌に集い、少年の体に衝撃が走る。がくんと少年の体が跳ねる様にのけぞった。老人の白髪も、白髭も、空気の振動にそよぐ。 「がぁっ!?」 「我慢しなさい……自分を失うなよ……!」 「ぐあっ、はがぁ!!」 ドクン、ドクンと、鼓動の様に衝撃は連続する。少年の口から苦悶の悲鳴が漏れ、塊の様な空気が絞り出される。 ガクガクと体は痙攣し、それも老人の手に抑え込まれる。まるでAEDを行使される様に、ビクビクと身体は跳ね上がった。 「ぼ、っふぁ……ッ!?」 「出たな、死霊の呪いが……もう大丈夫だ」 何度目かの衝撃で、少年の口から何かが吐き出された。空気だけではないそれは、黒い煙のような物で、中空に漂う。 それを視認して、老人は少年から手を放し、その黒い塊に向けてかざして見せた――――青い光が、眩く光度を上げる。 ――――なんでよ……ひどいじゃない…… ――――なんで、なんで俺らだけよぉ…… ――――恨むぞ……お前を一生……! ――――俺たちが死んだから、お前が生きた様なもんだろ…… ハッキリと、2人の耳に恨みの声が聞こえてくる。光に当てられて霧散していくその黒い煙は、最後に恨み言を残して消えていった――――。 「ハァ、ハァ……い、今のは……?」 「……どうやら事故で死んだ、君の知り合い達の霊魂の様だ。それが君の病気にとりついて、死の道連れにしようとした様だね…… ……未練が残るのは当たり前と言え、逆恨みも良い所だろう。だからこそ悪霊になってしまったのだろうが」 「――――ひどい、ひどいぜ、みんな……」 異変が収束し、少年は埋火の様に熱を残す腹部を抑えながら、老人の言葉に俯く。自分は恨まれ、呪われる存在なのか、と。 彼らの死に、思うところはあったが、それがこんな形で跳ね返ってくるとなると、少年の胸にもやりきれない思いが込み上げてくる。 何かのせいにしなければ、彼らの無念が浮かばれないのは勿論なのだろうが、その矛先が、自分に向けられるとは……。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――しかし、君は運が良かった。隣の病室に寝てたお陰で、気が付けたよ……じゃなきゃ、君は急な病変と言う事で、死んでいただろう……」 「……!?」 ホッと一息ついて、老人はポツリと呟く。どうやら霊能力者らしい彼の手によって、少年は救われた訳だが、その言葉が胸に刺さった。 (……運が良かったって? そりゃ、みんな死んだ事に比べたら運が良かっただろうよ……でも、それで良かったのか……?) 不運に巻き込まれて死んだ友人たちに比べれば、病気の為に墜落する飛行機に乗らずに済んだ自分は、確かに運が良い。 だが、それは果たして本当の幸運なのか――――本当に運が良ければ、そもそも友人たちも死なずに済んだのではないか? (こうやって、呪われて殺されかかっても生き延びたって事で、運が良いって事になるんだろうけど……でも、本当にそうか? これは本当に運が良いのか? 悪運ってだけじゃないのか? ……運が良いの悪いので、こうまであっさり運命じみたものが決まってしまって、いいのか?) 我が身に起こった出来事に、実感が沸かないのだろう。窮地を2度も偶然で生き延びた少年は、「運が良い」の一言の為に、思考の沼に陥っていた。 ――――人生と言うのは、運の良さだけで、こうもあっさりと片付いてしまう程に儚い物なのだろうか。 自分の身を守ったこの『運』と言うのは、そういう性質のものなのだろうか。 だとしたら――――結局、全てはそれで片付いてしまう事になる。人生がどうのこうの、なんてレベルではない、この世界のすべてが――――。 (――――もし、本当にそうなのだとしたら――――) 「……どうしたね、まだショックか? まぁ、放心してしまうのは分かるが……」 「いや――――これからどうしようかって、思ってたところです。これでもう、学校にも帰れなくなりましたし 俺は……これから、自分の力で生きてかなきゃならないなって……あ、そういえば……ありがとうございました」 「……何を思いつめたか知らんが、今はゆっくりと休みなさい。君のその病気も、これで快方に向かうだろう」 少年の瞳に、ハッキリとした光が宿る。彼は、何か得心が入った様子で、老人に頭を下げた。 ――――腹の中に、まだわずかに燻る熱と、先ほどの呪いの声の残響を聞きながら――――。 ――――足元で死んでいる両親を見下ろす。退院して真っ先に行った事が、それだった。 考えに考えた手はずで襲う。悲鳴をあげさせもしなかった。恐らく外に今の事態は漏れていまい。 金を都合し、家に火を放ち、姿を消す――――全ては、思いの外上手く行った。両親は死亡、自分は行方不明。だが、事件はそれ以上の進展を見なかった。 「……ツイてる。やっぱりそうなんだ。俺にはツキがついてる。そして、あいつらがくれたこの呪いが…………ッ」 両親の魂が、腹の中で泣き叫んでいる事を、少年は感じている――――あの呪いの残滓は、身体に焼き付き、魂を縛る力場として機能していた。 ――――これが、運の力なのか。因果応報など嘘八百だと、少年は確信した。全ては運、善悪など関係ない――――。 やけっぱちで起こした行動が、悉く運に恵まれた事で、少年は己の人生を確信した。 ――――そして、彼は世界に対して「逆」を行くという、一生をかけたギャンブルに身を投じる――――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (――――ま、こんなもんよな。人生は結局、勝つか負けるか、それだけよ……) 隣で寝ている女の息吹を感じながら、男はその裸身をシーツにくるみ、ぼぉっとテーブルの上の食事跡を眺めていた。 今では、カノッサ機関のナンバーズ。それを話しても、この女は驚きこそすれ、むしろ興味をもって身を乗り出してきた。 ――――ひと時の濃密な時間を過ごして、古傷だらけの体は充足感に満ちていた。 「――――随分、ご機嫌ね……」 「ん……なんだ、起こしちまったか?」 眠っていた金髪の女が目を覚ます。ぴったりと身を寄せ合って、その温もりを感じ取る。 「いいえ、ずっと起きてたの……――――あなたがこんな所で息抜きをしてるから、ちょっと揶揄ってあげようってね」 「は……!?」 だが、男は肝を冷やした――――女は己の首を、左手でむしり取ったのだ。同時にその体は輝き、姿を変える。 そこには――――黒い髪にすっきりした目鼻立ちの、先ほどとはまた違ったタイプの美人が、勝気な笑みを浮かべて横たわっていた。 「あ、殺狩!? ……お前、さっきの変装かよ!!」 「えぇ、あなたが遊びにうつつを抜かしているって聞いたから、ちょっと揶揄ってあげようってね でも、相変わらずねぇ……こんな所で賭け事して、好い気になって遊んでるなんて」 「あー、あぁ……あー……勿体ねぇ。それであの娘殺してなり替わったのかよ……結構な上玉だったのに」 「随分余裕じゃない? ……あたしの目の届かないところで女遊びなんて、少し調子に乗り過ぎてるんじゃないかしら?」 「良いだろ別に。そこんところ、お前はそううるさくなかったと、思ってたんだけどよ」 「うるさくするつもりはないわよ。でも、だからって野放図を認めるつもりも、無かったんだけどね?」 ――――ベッドの中の痴話喧嘩。しかしてそれを繰り広げているのは、≪No.21≫と、機関の頭領の1人。 世界にとっての恐怖の象徴の様な2人だが、今はただの個人に過ぎなかった。 「まぁ良いさ。俺は女神様に、まだ懇意にさせてもらってるっての、分かったからな。そこは収穫だよ」 「……露骨に話を逸らさないでくれるかしら?」 「で、だ――――お前とも、懇意である事を確かめさせてもらいたいんだけどな?」 「……そうやって誤魔化すつもり? 少しは捻りなさい、芸が無いわよ」 「必要か? お前だって乗り気だったんだろう? わざわざ姿を変えてまでな」 「そう面と向かって言われると、冷めちゃうのよ……全く、そこら辺がさつな人ね……」 「……でも、実際悪くないだろ。飾らないって言うのも、偶にはな――――」 呆れた様な笑みを浮かべながら、男は女の白い肩に手を回す。眉を顰めながらも、女はその身を男へと預けた。 ――――そっと唇が重なる。クールダウンしていた体が、再び熱を帯び始めた。 ――――幸運の女神と死霊の呪いは、今も男の体を包み、渦を巻いている。 男の行き先は、流れ流されて、ただ雲水の如く――――。