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「鉄ちゃんさぁ…。最近、元気無い?」 ワシに背を向けてブラジャーを着けながら、律子が呟いた。 煙草を銜えたままでのその動作は酷く緩慢で、気怠げだ。 「んぁ…?何言っとんね、おみゃあ」 温くなった枕元のビールを呷って、ワシは不機嫌に返事した。 最近、律子の様子がおかしい。 ワシとこうしてセックスする時の反応が、変わってきたのだ。 女の事はよく分からないが、ワシも経験は豊富なクチで、女が満足しているか否かが分からないほど青くは無い。 だから、ワシの責めに対して律子がどのように感じているのかが、分かってしまうのだ。…つまり、本当にイッたのかそれとも演技をしているのか、と言うことだ。 最近の律子の反応は、明らかに後者だった。 どんなに突いても、別の場所に挿れても、手マンをしても。鈍い反応しかしてこない。 むしろ、明らかに演技と分かる素振りで、ワシにもっと強い刺激を与えろとせがんでくる。さっきも、イッたばかりのワシのチ○ポをくわえて、早く元に戻れと責め立ててきたのだ。 「…ふぅん。ま、いいけど」 攣れない素振りで律子がワシを一瞥し、ブラジャーのホックに手を回す。 その態度が気に食わなくて、ワシはリナの髪をひっ掴み、無理矢理ベッドに引き倒した。 「やっ、ちょっと…!痛いから止めてよ!!」 律子がワシの手に爪を立てるが、お構いなしだ。ワシは毟り取るようにブラジャーを奪うと、律子の体を組み敷いた。 豊満とは言えないが、やや釣り鐘形の胸が目に飛び込む。腰に突いた星の刺青と相俟って、豆電球の光に反射したそれは、酷く淫らに見えた。 「こんダラズがぁ…。何ね、そん態度は」 「何ぁん?ムカツいてんの、鉄っちゃん」 「……!!ホンマ、こんダラズがぁッ!!」 一発、二発と律子の顔にビンタを喰らわせた。激しい音と共に律子の胸が揺れ、ベッドがギシギシと軋む。 ギロリと律子はワシを睨んだ。力では敵わないことを知っているためか、唇を噛んで、睨み続けている。 嗜虐心をそそる良い反応だ。ワシはチ*ポが硬くなっていくのを感じた。 「そおりやぁぁぁッ!!」 その硬くなったチ*ポを律子のマ*コに付き挿れる。不意を突かれて律子が叫び声を上げるがお構いなしだ。 何度も腰を振って、自分自身がイクためだけに、叩き付ける。ぴちぴちという肉同士がぶつかる音が、酷く耳障りだ。 「あぁんっ♪鉄ちゃん、激しいっ☆」 胸をたぷたぷと揺らして、リナが叫ぶ。 クソっ、クソっ、クソっ、クソッ……!! 何だよ、その声は。まるで自分は気持ち良くないのに、早くイッてほしいとばかりの演技じみた声はよオォッ…! もう、ワシは出すことしか考えていなかった。オ*ニーと同じ、自分が気持ちよくなるためだけの単純な動作。 「く、くおおおおお。うりゃぁぁぁ…」 しばらくして、精子を吐き出す。女がどういう状況であろうとも、一定の刺激があれば達してしまうことに、ワシは男の空しさを感じていた。 「ああんっ☆鉄ちゃん。イイよォ…」 ニヤリと、醜悪な笑顔を浮かべて、律子が脱力する。まるで自分がイッていないことを告げるように、その声には感情が無かった。 やめろ、こんダラズが…。ワシに、そんな顔を、見せるな…。 「クソっ、ムカつくのぉ…」 数日後、ワシは一人で興宮の商店街を歩いていた。 6月というのにまるで真夏のような日差しだ。アーケードの有線から流れる音楽も耳障りに聞こえる。 吐息のように抜ける高い歌声。危険地帯だったか停戦地帯だったか、最近流行りのバンドだそうだ。 しかし、今のワシにとっては只の騒音にしか聞こえない。とにかく苛立ちを押さえる為に街に出てきたはずなのに、さらに苛立ちが加速する。 腹立ち紛れに、目の前に路上駐車してあったバイクを蹴飛ばす。すると、ドミノ倒しのように隣のバイクもろとも派手な音を立てて倒れた。 「ああんっ!ナンじゃぃ、ワリャァァ!!」 同時に、バイクの側でウンコ座りをしていた学ラン姿の男達が立ちあがった。ツッパリの歌を歌っているなんたら銀蝿みたいな頭の、世間知らずそうなクソガキだ。 「ナンね!何か文句あんのかぃ、オドレらぁああ!!!」 生意気にもメンチを切って来たこのガキどもに、ワシはホンマのメンチというものを教えてやった。 一気に距離を詰めて、腹からの声をぶつける。怒声と言うものに慣れていない素人ならば、至近距離で鳴り響くドラ声にまず間違い無くビビる。 「え、あ、あっ、うぉ…」 この馬鹿どもも例外ではないようだった。当たり前だ。自分よりも弱い奴にしか凄んでいない奴が、恐喝を本職としているワシのメンチに耐え切れるはずはない! 「おおぅ!?何なぁ、ソン目はァ!!ワシに文句があるんかィ、コラァ!!」 「い、いや、そんな、ことは」 「じゃったらぁ、ナンねアン態度は!!オドレらよりもワシは年上けんねぇ、クチの聞き方知らんのかこんダラズどもがァァ!!!」 「ひ、ぃ…。す、すいません!すいません!!」 最初の威勢はどこにいってしまったのだろうか、ガキどもはすっかり震えあがっていた。ふん、もうこっちのものだ。 ワシはガキどもを見定めた。金は・・・持っていそうに無い。 それならばバイクでも売らせてオトシマエを付けさせるか、それとも女友達をワシに献上させるか、はたまた北○鮮産の白い粉でも買わせるか。 あれこれとこのガキどもから搾り取る算段を考えてながら、ワシは周りを見渡した。怒声によって多くの人間がこちらを遠巻きに見ているが、ワシと目が合えば誰もが視線を反らす。良い気分だ。 その中で、ワシと目が合っても反らさない奴が居た。いや、正確には二人。ワシを見て笑っている・・・? 見覚えのある顔だった。当然だ。ワシを見て笑っている人間の一人は、律子だったのだから。 (り、律子ッ!?) 思わず叫びそうになって、ワシは思いとどまる。律子の隣には男の姿が、仲が良さそうに腕を組んで笑っている男の姿があったからだ。 趣味の悪い白色のスーツに原色のワイシャツ、成金趣味のような金縁眼鏡に、指には見るからに高そうな宝石の指輪。 葉巻を吸い、ニヤけた目でこちらを見ているその様は、どこかの勘違いした田舎者が精一杯の自己主張をしているようにも思える。 この、ワシと同じチンピラの臭いのする男には見覚えがあった。 男の苗字は竜宮。女房に捨てられた、雛見沢に住んでいる甲斐性なしの男のはずだった。 律子が計画を持ちかけてきたのは、数ヶ月前のことだった。 「鉄ちゃん、聞いてよ~。アタシね、また新しいカモ見つけちゃった~☆」 丁度前の美人局でせしめた金も底を付きかけていた時だった。スナックに来た客の中に、良いカモを見つけた律子は、とても上機嫌にその男の事を話していた。 興宮に在る小さな服飾会社の二次会だったらしい。辛気臭い数人の男達が店にやってきた時に律子が接待した男が、その竜宮だった。 女に免疫が無いのか、竜宮は終始丁寧に女の子に接していたらしい。そういった男の心得方を十分に知っている律子は上手く振る舞い、わずかな時間で打ち解ける事が出来たそうだ。 その男はかなり酔っていて自分から身の上話を振って来たそうだった。 女房に男を作られて捨てられた事、娘と二人で逃げ帰るように故郷へ帰ってきた事、友人のツテで服飾会社に再就職した事…。 中でも、「秘密だよ」と言って律子に打ち明けた話が、金になる話だった。 何でも、離婚の手切れ金として女房からかなりの額を貰っており、今は娘の進学資金等のために貯め込んでいるとのことらしい。 「それがねぇ、本当に結構な額なんだってぇ~♪」 金の話になると、嫌になるくらい律子の顔は醜く歪む。だが、それはワシも同じ事だった。 「ね~ぇ、鉄ちゃん。良いでしょ?」 美人局をするには、女が獲物とネンゴロになる事が必要だ。つまり、律子が他の男に抱かれるという事を意味する。 まぁ、自分の女が他の男に抱かれて良い気分をする奴は居ないが、ワシも夢見る童貞少年からは想像も付かないくらい汚れている。だから二つ返事でOKを出した。 「も~ぅ、少しは悩んでよ。何ともないのぉ?」 「馬ぁ鹿、ワシ以外で律子を満足することの出来る奴なんておらんからよぉ…」 律子はこちらも驚くくらいに貪欲である。並の男ならその「おねだり」に耐え切れず、律子を満足させてやることなど出来ない相談だった。 だが、目の前の竜宮と腕を組んでいる律子を見ると、まるで恋人同士が寄りそっているように見える。ワシにも見せたことのない、その、言葉に出来ない色気を隣の竜宮に振りまいているようで…。 「!!」 呆然と律子を見ていたワシは、そこで信じられない光景を見た。 律子が竜宮の唇に顔を近づけて、…キスをしたのだ。 キスをされた竜宮も竜宮で、恥ずかしがる事無く律子の頭に手を回し、ディープ・キスを楽しむ。まるで、このワシに見せ付けるかのようにッ…!! 「お、オンドりゃあぁぁぁ!!」 ワシは叫んだ。「ひっ!」とガキどもが悲鳴を上げて竦むが、お前等にじゃない。あそこにいる二人にだ。 「おお、こわ」 声は聞こえないが、キスを終えてこちらを見ていた律子で口元がそう言っていた。同時に、隣の竜宮が律子の肩を抱き、ワシに背を向けてその場から足を踏み出していった。 「ま、待てぇ、ダラズがァァァ!!」 ガキどものことも忘れ、ワシは二人を追いかけるために後を追った。余程血走った目をしているのだろうか、まるで十戒のように人ごみがさっと二つに分かれる。 二人はすぐ脇の路地に入っていった。確かそのまま抜けるとセブンスマート近くの県道に抜ける道だ。 走って路地へ入ると、二人の背中が少しずつ近づく。歓楽街の路地には人気が無く、こいつらを問い詰めるのにはもってこいの場所だった。 美人局で獲物と恋人ごっこをする事は分かる。しかし、さっきのリナの態度は何だ…! 湧き上がる怒りにまかせ、ワシは何度も路地のわき道に入る二人を追いかけた。あと数歩で手が届く距離にまで追い詰めた気がする。 その時、不意に竜宮がワシへと振り向いた。 (笑っている!?) 嫌な予感がワシの脳裏を掠めた。瞬間、鈍くて強い衝撃が、ワシの頭を襲った。 視界が暗転し、急速に意識が失われる。まるで鉈で峰打ちされたように、頭が割れるような痛み。 「あは、あはははは。鉄平さん、お~持ちかえりぃ~☆」 律子とは別の女の、奇妙なほどに明るい声が聞こえた。 声の主は誰なのだろうか、考える前にワシの意識は、途切れた。 「んっ…。あふぅ…」 頭が痛い。 まるでガキの頃にかかった熱で寝こんだ時のように、痛い。 「はぁ、はぁ、ああ、あああっ…」 苦し気な声。やめてくれ、こちらまで苦しくなる。 「ひゃっ、ひっ、は、はぁぁぁぁぁっ」 くそ、やめてくれ。いや止めろ、止めろと言っているだろう…!! 「だ、ダメっ、い、イッちゃううぅぅぅん!!」 一際大きな叫びに、ワシは目を覚ました。 同時に、手足に鈍い衝撃を覚える。 「な、なんねぇっ、こりゃぁ!!」 ワシの手足、そして腰に自由は無かった。荒縄で縛られて、ベッドの縁らしきものに縛り付けられていたためだ。 そして、ワシの全身は何も来ていない状態で、文字通りすっ裸となっていた。肉厚なワシの胸板の、腕の肌色が見える。 「く、クソっ!こ、こりゃあ、一体!?」 自分を襲った突然の事に、ワシは叫んだ。全身を動かすが、きつく縛られているためかベッドが軋む程度にしか動かない。 「よぉ、お目覚めかい…?」 誰かがワシに声を掛けてきた。しかし、縛られたワシからは木造の天井と蛍光灯の豆電球しか見えない。 「おい…」 声の主が何事かを指示するのと同時に、ワシの髪が乱暴に掴まれ、首の下に太い枕らしきものが差しこまれた。自慢のパンチパーマが抜ける感触と同時に、頭への鈍痛が戻ってくる。 「なッ!!」 痛みに閉じていた目を開けた瞬間、ワシの目に信じがたい光景が写った。 目の前には肌色の塊があった。重なるように引っ付き、奇妙な前後運動を繰り返している。良く見ると、その塊は二つの同じような物体が重なりあい、そこから肉のぶつかり合う音が聞こえていた。 時折、悲鳴のような声が漏れる。まるで、それは。 「以外に遅かったな、先にイッてたぜ」 塊がワシに声を掛けた。間違い無い、こいつは竜宮だ。では、もう一方は…。 「ほら、お前も挨拶してやれよ」 「はう、あ、ふぁ、ひい…」 繋がっていた部分を外して、竜宮がそれを、いやそいつの体制を入れ替える。 「律子っ!!」 濁った目をワシに向けたモノの正体は、律子だった。何も着けていない状態で、胸が、細い腰が、星の刺青が、丸見えになる。 「あ、鉄ちゃん、お久しぶ、りいぃぃぃっっ!!」 呂律の回らない声を出していた律子が、突然叫ぶ。それほど太いとは言えないが、黒光りする竜宮のチ○ポが、律子のマ○コを一気に突いたのだった。 「はふ、あぅぅ、パパぁ、酷いぃ…」 「挨拶が長ぇよ、そら、お仕置きだ」 見せ付けるように、竜宮が腰を振る。後ろから律子を抱きかかえる、いわゆる背面座位の形になっているため、繋がっている部分が丸見えになっていた。 「聞いたぜ。てめぇ、リナと組んで俺をハメようとしたんだってなぁ」 上下運動を繰り返しながら、竜宮がワシに向かって話す。話しながらも指は律子の胸を鷲掴みにし、もう片方は内腿の部分をリズミカルに触っていた。 「美人局かぁ、テメェ上等抜かしてくれるじゃねぇか。なぁ、リナぁ」 「ふぁ、ふぁぃ、パパァ…」 「リナのマ○コで俺をハメるってか、ハハハ、確かにリナのマ○コにゃ、ハメられてるなぁ、気持ちイイからなぁっ!!」 「ひゃうああぁッ!!ダメぇ、クリちゃんいじっちゃダメええッ!!」 「残念だったな、テメェ。リナはテメェのチ○ポよりも、俺の方がイイってよ!ヒャハハハッ!!」 「う、うんっ、パパの、パパのチ○ポの方が大っきくて、太くて、ひもちイイのォォッ!!」 「あぁ~。痒い、テメエのそのド外道な企みを考えると、首が痒くなるぜ…」 時折、竜宮は律子から指を離すと、首筋をボリボリと掻いていた。 掻くというよりも、爪で掻き毟ると言った方が正しいか。首筋の皮が破れて赤い血が滴り落ちている。 「リナもダメな奴だなぁ…。こんな奴の言い成りになっちまって」 「ご、ごめんなふぁぃ、だって、パパのこと知らなかったから、ひゃぅぅっ!!」 「だから教えてやってるんだよ、俺のことを、リナの身体中隅から隅までなぁっ!」 「あはああぁぁっ!!そんなに、奥にぃ…!」 「見てるか、テメェ。リナはもう俺のモンなんだよ。そら、リナ。お前からも言ってやれ」 「は、はい、パパァ。り、リナはぁ、ぱ、パパのものです…」 律子から告げられる残酷な言葉。自分が竜宮のモノであると何の澱みもなく告げたその目に、ワシの姿は写っていなかった。 「違うなぁ、リナ。こうだろ?『はしたないリナは、パパのオマ○コ奴隷です』だろ?」 「ひぁ、はぁ、ふぁ、ふぁぃ。はひたなひ、リナはぁ、パパのオマ○コどれひです…」 「良く言えたなぁ、リナ。こいつはご褒美だッ!!」 「ひっ、ひはぁぁッ!!う、うれひぃっ!パパのオチ○ポが、いっぱいぃぃっ!!」 「オラオラ、そろそろイクぞ、全部ぶち込んでやるから受け止めろォッッッ!!」 「ふうあああっっっ!!パパのが、パパのがリナのオマ○コの中にぃぃぃッッッ!!」 一際大きいピストン運動の後で、律子の身体が痙攣し、果てた。しばらくして繋がった部分から大量の精子が零れる。 律子が、汚されてしまった。当の昔に失ったはずの感情が何故か甦り、ワシは無言のまま涙を流した。 「はぅぅ~。パパぁ、リナさんだけ、ズルいよぉ…」 その時、ワシの頭の上で声がした。 見ると、律子達と同じく裸の少女が、物欲しげな目で二人の様子を見ていた。 「おお、ごめんな、礼奈。ほら、おいで。」 脱力した律子からチ○ポを引き抜いて横たえ、竜宮が手招きをする。赤茶色の髪をした少女は嬉しそうに駆け寄り、胡座をかいたその足の上に、ちょこんと座った。 「まずは、綺麗にしてくれないかな?」 「はぅ~パパのオットセイ☆くん。頂きぃ~」 礼奈と呼ばれた少女は、あっという間に竜宮のチ○ポを口に咥えた。慣れているとしか思えない手付き、舌使いで、見ているだけでそそり立つようなテクニックをしている。 「随分、上手くなったな。最初の頃とは、段違いだぞ…」 「んっ…。らって、リナひゃんが、おひえて、ぐっ…。くれたもん…」 「おやおや、俺が知らない間に、リナとも仲良くやっているようだな~。お父さん嬉しいぞ」 な、なんじゃあ、そりゃぁ…?お父さんだって…? ワシはこいつらの言動に目眩を覚えた。こいつらの言っていることが本当なら、こいつらのやっていることは!! 「最初は嫌がっていたもんなぁ、『お父さん、嫌だよッ!!こんなお父さんなんて嘘だッ!!』なんてなぁ…」 「うん、らってレナはお父さんの娘だし、間違っへるほ、思っへはから…」 「でも、やってみたら気持ちよかったろ?この気持ちよさに比べたら、モラルなんて薄っぺらいモンだからな」 「そうだね…。段々とひもち良くなって。ん…。今じゃお父さんと繋がってひなひと、嫌だよ…」 「俺もだ。どら、もうイイぞ礼奈。そこで横になりなさい」 「はぅ…。お父さんのオットセイ☆くん。おっきくなってる…」 十分に硬さを取り戻した竜宮のチ○ポを、礼奈と呼ばれた少女は名残惜しそうに口から離す。後を引く唾液と精液の雫が、妙にエロティックだ。 礼奈は竜宮の言いつけどおりに床に身を横たえる。律子好みの高級な南国柄の絨毯の上だ。 年にしては育っている胸が仰向けになった瞬間に揺れる。髪の毛が床へと下がり、首筋が顕わになった。 竜宮と同じように、血で真っ赤に塗れている。こいつも痒いのだろうか、しきりに首筋に手をやっていた。 「おっ、もう十分に濡れているな。これなら挿れても大丈夫だな…」 「はぅ~。お父さん、指なんかじゃ、ダメだよ…」 「わかっているさ、礼奈。そらあっ!」 「はっ、はううぅぅ~ッ!!」 一気に竜宮が礼奈に腰を突き出した。ビクンと礼奈の体が跳ね、高い叫び声が聞こえる。 「はぅ、はぅっ、お父さんッ!うあぁぁ…。大きいよお…ッ!!」 「くぅっ、いい反応だッ。どんどん、イクぞぉ!」 竜宮は深く礼奈の膣内を抉るため、礼奈の片足を自分の肩にかけてピストン運動を開始した。いわゆる松葉崩しの体勢だ。 「ふああっ、ふああっ!凄いよ、お父さんの、お父さんのがレナの奥までえっ!!」 「おいおい、まだまだこんなもんじゃないぞ。おおおっ!」 「や、やだぁ、レナ壊れちゃう、壊れちゃうよぉ…!」 「そうだ、壊れてもいいんだぞ、礼奈…。いっそのこと、何も考えられなくなってしまえ!!」 「はぅぅっ、はぁぁうぅっ。レ、レナ、もう、もうっ…」 「くううっ、そうだ、締め付けろ。俺をもっと、締め付けろおっ…」 登りつめようとする親子は完全に男と女だった。いや、自分達が親子だということすらも、快感にしようとしている。 そうだ、裏ビデオで良くある近親相姦モノだ。ワシにそのケは無いが、ああいうジャンルがたまらないと言う奴は以外に多い。 こいつらも、そのクチなのか?いや、それ以上にこいつらは壊れているのか?ワシには全く理解出来なかった。 「あぁん、パパぁ、礼奈ちゃあん…。ワタシも、欲しいよぉ…」 竜宮が娘とイこうとしているその時、床で放心していた律子が二人の元へ近づいていった。 だらしなく開いた口元、とろりと淫らに濡れた瞳。ワシにも見せない色気を持った間宮律子がそこには居た。 「おお、ほったらかしにして悪いな。礼奈、お前も良いか?」 「うん、レナも、リナさんと一緒が良いよ…」 「嬉しい…。ありがとう、礼奈ちゃん」 ああ、もうわけが分からなくなってきた。竜宮も、律子も、礼奈も、こいつらはもう人間じゃない、まるで昔読んだエログロな小説に出てくる陰獣のようだ…! 「はは、ははははははははっ!」 狂った獣達の世界で、竜宮が笑う。それはまるで映画の中の怪物の笑いのようで、酷く現実離れした笑いだった。 「リナも礼奈も仲良くなって、俺は嬉しいぞ…!礼奈、もうすぐ俺とリナは結婚するからな、新しいお母さんになるんだぞぉ!」 「お母さん?新しいお母さん…?」 「えぇ、そうよ、礼奈ちゃん。ワタシね、パパしかもう見えないの、礼奈ちゃんのパパが好きなの。・・・ワタシじゃダメかなぁ?」 「お母さん…。レナのこと、お父さんのこと捨てたりしないかな、かな…?」 「当たり前よ…。ワタシ、もうパパ以外の人じゃダメなの。もう、すっごくて、あなたのお母さんが捨てたことが信じられないッ…!」 「…そうなんだ、あは、あははははっ!それじゃあ、あのお母さんは嘘のお母さんだったんだ。これからは、リナさんが本当のお母さんになるんだ…ッ!」 「そうよ、パパと同じように、ワタシも礼奈ちゃんが好きよ。んんっ…」 「はぅ…。礼奈も好き、好きになれるよ。んっ、お母さん…」 律子と礼奈、女同士のキス。百合というのだろうか、その光景は現実離れしていて滑稽にも思えた。 それはそうだ、ここは陰獣の世界なんだ。だから何が起こっても不思議ではない。 「よし、じゃあリナはここ、礼奈の上になって、礼奈はここでリナを可愛がれ」 竜宮がリナの体を礼奈の顔面の上に持っていく。丁度マ○コの部分が礼奈の口元にやってきて、舌で刺激が出来る状態だ。 「礼奈が潰れるから、腰は上げとけよ、リナ。じゃあ、続きだッ!!」 宣言と一緒に、竜宮が再びピストン運動を始める。同時に礼奈がくぐもった声を上げ、律子が刺激で顔を反らした。 「こりゃ、いいなあ…。礼奈の胸じゃ、まだまだ物足りないから、良いカンジだぜ。礼奈のキツマ○コとリナの胸、たまらねぇッ!」 腰はしっかりと礼奈を貫き、手は強く律子の胸を揉みしだく。竜宮に抱かれる二人も、懸命に動いて快感を貪っていた。 「むっ…。はぅ…。すご、いっ…!お父さんの、良くて、リナさんの、おいしいッッ!!」 「ひゃっ、ひゃぁぁ!パパァ、先っぽはダメ…。あうううっんんッ!!礼奈ちゃんの舌、そんなところにイッッッ!!」 「おおおっ、そろそろイクぞ…。まずは礼奈の膣内にだな」 「あはぁっ、パパぁ、お願い。パパの濃ゆいのワタシにもちょうだい…」 「ああ、この次にな。おらっ、出すぞ!!」 「はぅ、ふぅぅ~。出すの?お父さんの、白いの、出すの?」 「そうだ。白いのを出してやるからな。たっぷりと、妊娠するまでなぁ!!」 「あ、あはは。お父さんと、レナの赤ちゃん…」 「ああ。リナにも出してやる。リナと礼奈の赤ちゃんは可愛いだろうなぁ!」 「はぅ~。赤ちゃん、かぁいぃよぉ…」 その瞬間、竜宮の体が震えた。同時に、礼奈の体も痙攣し、上に乗った律子が竜宮を抱きしめて、果てた。 本当に、娘に膣内出ししやがった…。 俺は悪夢を見ているのだろうか。この狂った陰獣の世界が夢ならば、覚めてしまうことを強く願った。 しかし、その願いは空しく、最悪な形で破られることになった。 「さて、と…」 脱力した二人を尻目に、竜宮が立ち上がる。何度も出したにも関わらず、そのチ○ポが萎える雰囲気は一切無かった。 「よお、チンピラ野郎」 いきり立ったチ○ポのまま、竜宮はこちらに振り向いて近づいてくる。 下卑た笑いを浮かべて、そう、まるで抵抗出来ない女を自分のモノにするようなヤクザ者のように・・・!! 「おやおや、こんなにしちまって」 竜宮はワシの元に近づくと、さっきまでの光景を見て、不覚にも反応してしまったワシのチ○ポを眺めた。 「お、オンドれぇっ!さっさとほどかんかい!!」 精一杯の虚勢を込めて、ワシは叫んだ。 しかし、竜宮はそれを意に介することなく、ワシの、股の間に腰を沈めてきた。 「ひっ!!」 意図を察知して、今度は悲鳴を叫ぶ。 そう、ここは陰獣の世界。 何が起こっても不思議では、ない…。 「そろそろあいつらのマ○コもユルくなってきてなぁ。刺激が足りねぇんだよ…」 「わ、わりゃぁ!何を考え、がっ!」 思い切り顔面を殴られて、ワシは仰け反った。一回り小さな竜宮の体とはいえ、抵抗できないこの体勢では、痛みが倍増する。 「一度ケツってモンを試してみたくてな。なぁに、リナだってヤッちまえばメロメロになったんだ。テメエもその内気持ちよくなるさ」 竜宮がワシの膝を割り、硬いものがケツの穴に触れる感触があった。 「や、やめろ、やめてくれッ!それだけは!!アッーーーー!!!」 竜宮からの返事は無かった。 聞こえてきたのは不快な笑い声だけ。 その笑い声が止んだ瞬間に襲ってきた痛みが、ワシが人間として残った最後の記憶となった。 おわり
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前ページ次ページベール=ゼファーの休日 カウント6 昨日より今日、今日より明日 前からにやにや笑いと共に放たれる直射型の光の矢。 体の痛みを無視して、右前へと跳んでかわし――― 侵魔が、左の人差し指を引く。 ―――かわそうとした時、月匣にあらかじめプログラムされていたシステムが発動。着地予定地点から鉱石じみた槍が突き出される。 悪い予感を感じ取ると同時に空中で何とか身をひねり魔剣を下に向けて振りぬく。がぎんっ、と硬質な音が響き、串刺しを狙う槍から何とか逃れ――― 侵魔が、くるりと人差し指を回した。 ―――逃れて、完全に空中で体勢を崩した柊を、同じく鉱石に似た、彼の横合いからいきなり出現した人ほどの太さはある柱が、ビリヤードのキューのように打ち抜く。 なんとか魔剣を盾に体をかばうが、圧倒的な質量による衝撃までは緩和できない。空中では踏ん張ることもできず、成す術もなく吹き飛ばされる。そこへ。 侵魔が、再び光の矢を解き放った。 あまりの衝撃に手放しかけた意識を意思で強引にねじ伏せ、魔剣を振るう。 頭に直撃する軌道の光の矢を、先端が当たるのを感じてそのまま首を振って受け流す。 心臓を撃つ光の矢を、魔剣を振るって弾き散らす。 わき腹を貫く光の矢の軌道を、魔剣でそらす。 しかし、それが限界だ。 急に変質した体の感覚と、元のままの頭の感覚がかみ合わない。空中で体勢は最悪。そんな状態で雨のごとき掃射から逃れきるのは無理に過ぎた。 光の矢が、肩を、腕を、足を貫く。一つ一つの傷は小さく、焼きぬかれているため血も出ないが、確実に動きが鈍くなっていく。 「ぐ、ぅ……っ!」 光の矢に撃たれたことでさらに体勢を崩し、背中から地面に叩きつけられた。 すぐさま立ち上がろうとして、意識がぐらりと揺らぐ。 さすがに首の動きだけで光の矢を受け流すのは無理があったのか、軽い脳震盪を起こしたようだ。 起き上がることはできても立ち上がるのは難しく、魔剣を突き立て膝をつきながら、それでも敵の動向だけは見逃さぬよう目線だけは侵魔を見据える。 そんな様子を見て、侵魔は嘲った。 「くくく。なかなか不様な姿じゃないか、柊蓮司」 「……ガキ相手じゃなきゃ、強がれもしねぇ弱小エミュレーターが。フルネームで、呼ぶなっつーの」 「なんとでも言え。お前がここで死ぬことに代わりはない。それどころか、今の貴様は私に一太刀すら浴びせることは叶わん」 「たいした自信じゃねぇか、勝負に絶対はねぇんだぜ?」 「勝負になるのならな。 しかし、これは確定した未来だ。貴様は私に触れることすらできずに負ける。 これはすでに確定していることだ―――これまでの貴様の全てを知っている私には、貴様のあがきなど無駄にしかならん」 絶対の優位を確保した侵魔は、笑みをたたえたままそう告げた。 柊は体がいまだうまく動かないことを確認してから、時間稼ぎの意味も含め、侵魔にたずねる。 「確定した未来? 笑わせんな。『日記』でも持ってるってのかよ。 あと―――てめぇが俺の何を知ってるって?」 眼光は鋭く。 まさに射抜くという表現に相応しく、貫くような瞳に睨まれた侵魔は無意識に一歩退る。 それに気づいた瞬間、彼は顔を紅潮させ、ふん、と余裕を見せ付けるように鼻をならし胸の内の動揺を隠すようにしゃべりだす。 「ク―――強がるのもそのあたりにしておけ。 貴様は『逆巻凌』の影響下にある。貴様の肉体がこれまで体験してきた経験は私の手の中にある。 次の行動など手に取るようにわかるのだ、動きの全てが読まれている状況では何をしても無駄と知れ」 「俺の経験……? なんだそりゃ。別に今までのことなんて忘れてねぇぞ」 その言葉に、侵魔は笑みを深くする。 「は。なんだ、噂は本当のようだな。柊蓮司、貴様は本当に頭が―――」 「悪いって言うんだろうがっ!? お前みたいのまで知ってるってどんだけその噂広まってんだっ!? 裏界中か!?」 「当たり前だろう。今更何を言っている」 「今更ってなんだよ今更ってっ!?」 閑話休題。 侵魔は笑みを深めたまま答える。 「冥途の土産に一つ講釈をしてやろう。人間というのは、我々とは異なり肉の器(外)と精神(中)、魂(本質)を持つ。 我々は肉の器を持たない。もともとが精神体だからな、そんなわずらわしいものを持とうとすら思わん。 ともあれ。 通常は、外と中と本質は一つとなって人間を形成し、時を重ねていく。貴様らの言葉で言うところの経験や成長といったところか。 『逆巻凌』は外・中・魂のうちの肉体の経験のみを奪い、戦闘力を奪う魔道具だ」 「あ? お前が言うには体と心と魂ってのは一つなんだろ、その中で肉体の経験だけなんて奪えるのかよ」 「それを成すのが魔導具の魔導具たる所以だ。貴様の体から経験、すなわち成長そのものを奪い私の手にする。それが『逆巻凌』の力だ。 我々は肉の器を持たないゆえに実感としては理解できんがな。 人間は『体が覚える』という表現を使うらしいではないか。経験からくる、肉体がとる反射行動。 考えるでなく感覚が捉えるでもない完全なる反射行動。それは肉体に蓄積された経験からくるものだろう」 つまり、と侵魔は答えを口にした。 「これまで貴様が経験した戦闘において成された肉体の行動経験、それは全て私の手の中にある。 それさえあれば、貴様がどのように動くかを逆算し、あらかじめ月匣に仕掛けを作っておくことなどたやすい。 体が小さくなったのは、いわば副作用にすぎん。お前が頭で考えた行動も、お前の体の経験あってこそだ。 これまでの経験全ての記録があるのなら、貴様が次にどのような行動をとるかなど手にとるようにわかる。わかったか? ―――貴様に勝ち目など、万に一つもないということを」 要はこれまでの体の受けた経験を奪うことで、そのデータを解析してどういう時にどういう行動を取るかを知られている、ということだ。 相手が次に何をしてくるかがわかるのなら、いかに戦う力に差があろうともそれに対して対処ができる。 まして、この月匣のルーラーは侵魔である。先にトラップや仕掛けを作っておくのは造作もない。 そんな話を聞きながら、ようやくある程度体が動くようになったのを確認し、柊は立ち上がって大きく深く息をつく。 「……なるほどな、タネはわかった。土産ついでにもう一つ聞くぞ、そのなんとかって魔導具は。お前を斬れば、効果なくなるのか?」 「今の保有者は私だからな。 逆に言えばそれ以外に解除法はない、なんとかここから逃げ出して、守護者にでも連絡をつける気かも知れんが……そんなことを許すとでも思うか?」 「は。バカ言うな、あいつに今の姿さらすくらいなら異世界すっ飛ばされて魔王ぶった斬るほうが気が楽だぜ。 それに。 ―――勝ち目が0ってわけでもないしな」 大きく腰を落とし。大きく右足を後ろに退り。両手で魔剣を握って体よりも後方下段に構え。ただ強く侵魔を射抜く瞳とともに。 ―――まるで会の時を待つ矢のように。 言葉と立ち居振る舞いからは、相手は傷だらけの子供には見えはしない。 侵魔は魂を鷲づかみにされる悪寒を味わい、しかしその悪寒を彼は首を振ってそれをなんとか引き剥がす。 声を張り上げることで、自身を鼓舞し、魔法を放つ。 「なにを馬鹿なことをっ。貴様の動きの全ては私の手の中だっ、勝ち目など与えんっ! 死ね、<マテリアルシュート>っ!」 同時。 侵魔の前に生まれるのはダーツほどのサイズの鉱石の矢。数は15。それらが柊目掛けて一気に飛来、襲いかかる。 15本の矢は結構な間隔をあけて放たれた。群れを方向を変えることでかわすよりも、自身に当たるものだけを弾き前に進むと予測は答えを出した。 魔剣を跳ね上げた瞬間に地面を隆起、槍と成して貫く仕掛けの起動準備を整える。 しかし。 柊は、魔剣で矢を弾くことはしなかった。ただまっすぐに進んだだけ。 体を貫く鉱石の矢。 動きに支障がでる箇所だけ斜線からずらす。 矢の先端がもぐりこみ、発射の勢いのまま体内を抉り、同じように体の中をくぐりぬけて貫ききる。 ぱたぽたと血が雫となってこぼれて跡を刻む。痛みを飲み込みながら、前へ。 ごくり、と侵魔の喉が鳴る。 悪寒。そうとしか思えぬものが背筋を這い上がる。 歯を食いしばり、まだ無駄になったわけではない仕掛けを発動する。 その仕掛けの一歩前で、彼は体一つ分横へ飛び、槍は空を貫いた。 まるで罠が見えているかのようなその動きに、悪寒が再燃する。 柊は別に罠が見えているわけではない。 これまで放たれてきた仕掛けが設置型のものであると侵魔自身が言ったこと、そして仕掛けは侵魔がトリガーを引かない限り発動しないとこれまでの戦闘で理解している。 この月匣におびき寄せられてから、幾度となくいくつもの仕掛けを受け続けたのだ。仕掛けの配置と種別程度は理解している。 あとは最短のルートで考える時間も与えぬまま叩き斬るだけ。 経験とは今この瞬間も積み重ねられるものだ。 昨日より今日、今日より明日。今までの自分を奪われたのなら、今からの自分を叩きつけるだけ。 前へ、前へ、前へ、もっともっと、前へ。 その意思だけを目に宿し、ただ全力で走り抜ける。 こ、の。と呟いて、侵魔は剣指を振り下ろす。 「潰れろっ!」 言葉と同時に柊は上に視線を向ける。 頭上には、巨大な鉱石の槌。柊はこの距離まで侵魔に近づいたことはない。初見の仕掛けだ。 一つ舌打ち。 プラーナを解放、さらに加速。槌の範囲から逃れた。 侵魔まではすでに数歩の距離。たとえ動きを読まれていたとしても先に到達しさえすればそれで勝てる。 実のところ、柊の方もほとんど余裕はない。 最初の鉱石の矢を魔剣で受けなかったのは、『いつもの自分ならする行動』をしないことで相手の目を撹乱するため。 これまで何度も何度も魔法を受け、鉱石に打ちのめされてきた。子どもの体で魔剣を振り回し続け、体力もとっくに限界を迎えている。 これ以上のダメージを受ければ再び立つのも難しい。回復手段を持っていない以上、この交錯で決めなければならない。 今の槌は相手がご丁寧にも上からくるということを宣言してくれたからこそ回避できた一撃。そう何度も幸運は続かない。 それがわかっているからこそ、彼も一刻も早く決着をつけるために、わき目をふる余裕もなく、駈ける。 侵魔は猛烈な悪寒に襲われる。 彼を恐れさせたのは、彼があらかじめ作っておいた仕掛けをことごとく柊がかわしていくことだ。 まさか相手はこちらが何をするか読めているのではないか? なまじ自分が読めるがゆえに生まれる疑念。 ありえない、と理性が叫ぶ。しかし一度生まれた疑念は雪だるまのように膨らんでいく。 彼は圧倒的な恐怖に心を鷲づかみにされながら。この抵抗さえも無駄なのではないかと恐れながら。それでも、その圧倒的な恐怖と疑念から逃れるために、叫ぶ。 「ち、近づくなぁっ! <ラグナロック、ライト>ぉぉぉぉっ!」 侵魔が目を閉じたまま、破れかぶれに放つのは属性融合高位魔法。 目を灼くほどの陽光よりもなお強い光と、地獄の底からあふれでたような深遠なる暗い闇が渾然となった光の玉が放たれ―――はじける。 爆光。 あまりに至近距離で放たれたため、柊は完全には反応しきれない。できたことといえば光に目を灼かれぬように隠し、ありったけのプラーナを放出すること。 反射的にそれらができただけ、彼は膨れ上がる光に飲み込まれた。 焼かれる。切られる。貫かれる。砕かれる。打たれる。 ありとあらゆる方向から放たれる圧力によって、絶叫すら消し飛ばされる。 どこが痛いのかもわからない。小さな体に残されたプラーナなど、瞬時にかき消すほどの爆圧の嵐。 それでも彼は。その、滅びの爆光の中を。 ―――駆け抜けることだけはやめなかった。 光を抜けた。 そこは、すでに刃(かれ)の間合いだ。 ラストチャンス。今にも崩れそうな体を、たった一度の攻撃に全てを賭けて意志のみで振り回す。 「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」 体を軸に、思い切り魔剣を振り回し―――斬撃の手ごたえを感じながら、意識を手放した。 幕間 空を行くもの全ての主 <Beal-Zephyr> 赤い紅い、月の下。 そこにいるのは、力なく倒れている傷だらけの子供と―――腰を抜かしている、腕のない侵魔。 柊の正真正銘最後の一撃は、侵魔の腕を切り飛ばしただけに終わった。 すでに限界を迎えていたところに属性融合魔法など食らえば、この程度の損傷でいるのが奇跡とも言える。 魔法の範囲内を走り抜けたために最も短い時間で済んだわけなので、その疾走は無駄ではなかったのだが。 しかし、柊は今意識を失っている。 そして侵魔は生きている。それは、致命的に過ぎる隙だった。 侵魔はしばらく目の前の光景の意味が理解できずに硬直していたものの、唐突に笑い出した。 「く、くく。くははははははっ! 今、私は最高に気分がいい。ありとあらゆる魔王が、侵魔が、冥魔すらもが! 煮え湯を飲まされてきた小賢しい人間が! この私の下に屈した! あっははははっ!」 腹を抱え、彼は笑う。 命の安全を得たという安堵。敵を打倒したという満足感。自分よりも上位と認める者たちに勝った人間を倒したという自身への賛美。 それら全てを含んだがゆえの狂笑。禍り曲り捻れ歪み狂う笑み。 「あら。随分と楽しそうじゃない、何かいいことでもあったのかしら」 鈴を転がしたような少女の声が、それに割り込んだ。 ははは、とその声に答える侵魔。 「魔の王と呼ばれる者すら倒した神殺しを、私がこの手で倒したのだ。これで私の名は裏界に知れ渡る! もはや私は主を戴かずとも。いや、魔王と名乗ることすら可能なのだっ! これが喜ばずにいられるものか!」 歓喜とともにそう答える侵魔に、そう、と鈴の音が告げる。 「―――けど。それって、アンタの力じゃないじゃない」 わし、と。華奢な手のひらが彼の頭をつかんだ。 小さな手のひらのはずなのに、その手は万力のごとき力で締め付けてきて身動き一つ取れはしない。 引いたはずの冷や汗が、再び吹き上げる。 鈴の音は続く。 「あたし、そういうの大っ嫌いなのよ。 強大な存在として、こちら側がハンデをつけてあげることはいいとしても……自ら人間ごときにハンデを負わせる、その根性が気に食わない。 あたしの目の前でその無様な真似をさらそうとした、っていうのが一点。 あたしの楽しいはずの一日を邪魔してくれた、っていうのが一点。 あたしの獲物に手を出そうとした、っていうのが一点。 そしてなにより―――」 ふん、と大して面白くもなさそうに鼻を鳴らし、『彼女』は続けた。 「アンタは魔王の名をナメた。侵魔の王とは他の魔王に『世界を滅ぼす力』として認められることにより名乗ることを許されるもの。 好き勝手に名乗った、なんてことがバレたらどうなるか――― ―――その身に刻みなさい」 酷薄さの混じる鈴の音。 刹那。 ばさりっ、とローブだけがその場に落ちた。 赤い月の匣が、しゃらりしゃらりと硝子粉がこすれる音を立てながら、砕けていく――― カウント7 きちんとおこしてあげましょう。 風が頬を撫でていく感覚。 それがやけにくすぐったくて、意識が表層まで上ってくる。くすぐったいのをかわそうと顔を少しだけずらす。 ひゃうっ、と何やらかわいらしい声がした気がした。 けれど、そんな声よりも今は眠さの方が彼にとっては上位にくる。 体の中にずしりと残る重い疲れが意識を完全に表まで持ってくるのはためらわれた。 このまどろみを今手放すのが勿体なくて、無意識に口にする。 「……あと、5分」 沈黙。 静かになったことで、再び意識を深みへと持っていこうとする。 その時。 「そうは……いかないってのよこのすっとこどっこい―――っ!」 典雅さの欠片もない声。 ごすりっ、と重い音と共に星がまぶたの裏に飛ぶ。星が、星が飛んだスターっ! いや飛んでないけどっ! 閑話休題。 頭がじんじんとひどく痛む。すでに打った頭をその上から殴打されたような感覚。濁点だらけの情けないうめきが口をつく。 「いっづぅぅぅ……なんなんだっ!?」 「なんなんだ、じゃないわよ起きなさいこの馬鹿っ! 人がどれだけ……っ!」 痛みに思わず涙目になった瞳を開く。 柊がまず最初に目に映したのは、銀糸。 銀髪の知り合いは案外多いが、金目となれば一人しか心当たりはない。そこにいたのは頬を少し赤く染めたベルだった。 「……ベル?」 「そうよ。どうやら目は壊れてないみたいね」 ふん、と憮然とした表情のベルが柊を上から見下ろしている。 何かおかしい、と柊は思う。そういえば頭だけなにか柔らかいものの上にあるような気が……。 「……ひざまくら?」 「それ以外の何をしてあげてると思うのよアンタは」 不本意そうに柊を睨むベル。 彼は、ようやく正常に働いてきた頭でたずねる。 「なんでお前にひざ枕されてんだ俺」 「……へぇ。そういうことを言うのアンタ。今すぐ落とすわよ」 「まってください頭割れるから」 「ウィザードの頭が割れるわけないでしょうが。それとも何? あたしのひざ枕が不服だって言いたいのアンタ?」 「別にそういうわけじゃねぇが」 「だったら有り難くされてなさい」 ふん、とそっぽを向きながらのベルの言葉にはこの状況について有無を言わせぬ力があり、彼は口をつぐむしかないのだった。 ため息をついて―――ふと気づいた。 「おぉ? ……あれ、ひょっとして―――戻ってるっ!?」 声が低い。眠る前はやけに高くて違和感があった声が、元に戻っていたことに気づく。 あわてて身を起こして確認しようとして、その矢先にぺちんとベルに額を叩かれ、再びの鈍痛に襲われて悶絶する。 そんな様子を見ながら情けない、とため息と共にあきれたように呟いてベルが答える。 「まったく……当たり前じゃないの。アンタを小さくした奴は死んだんだもの、呪いは解けるでしょ」 「ん? いやそうじゃなくて、なんか……手ごたえが小さかったような気がしたんだけどなぁ」 手を持ち上げてまじまじと見ながら、もとに戻ったことを確認するものの釈然としないように首を傾げる柊。 ベルはその言葉に鼓動のギアが一段上がる気がするが、それを外に出さないようそっぽを向いて『そ、そう?』と顔の赤さを見られないようにごまかす。 しかし柊がそんなところに気づくはずもなく。 疲れたように笑って腕をおろした。 「まぁ、いいか。なんとか戻れたんだし」 「……この朴念仁」 「ん? なんか言ったか?」 「いーえ、なんにもっ!」 ふん、と完全に機嫌を損ねたようにため息のベル。 「そういえば、あんだけ暴れたのにだいぶ体が楽なんだが。お前なんかしたのか?」 「別に。体が元に戻ったんだから、その分回復力が上がっただけじゃない?」 不思議そうな柊に、空とぼけるベル。 別に回復魔法をかけてやったわけではない。そこまでの義理はない。 ほんのちょっと昼食の代金分の義理くらいは晴らしてやろうと思っただけ。昼食に食べた食事の分相当のプラーナを寝ている間に分け与えただけだ。方法までは口にしない。 借りは返す。義理は果たす。それくらいも守れずして何が王か、というだけの話。 プラーナさえ補填されれば、柊とてウィザード。安静にさえしていれば体力は戻る。 ふぅん? と不思議そうに頷きながら柊は今度はゆっくりと体を起こす。それに少し不満げに唇を尖らせながら、ベルはそれを許した。 「まぁいいや。とにかく、お前が起きるまで面倒見ててくれてたんだろ。ありがとうな」 「う……きょ、今日は一日アンタがあたしをエスコートするって約束でしょうがっ、起きるまで待ってただけよっ!」 具体的に言うと待っていただけではなかったりする。 体が元に戻った後、動かない柊に対してえんえんと愚痴ったり、大量に文句を言いながらプラーナを分けてやったり、起きるかドキドキしながら髪を撫でてみたり。 ……そんないたずらをしていたら起きかけて奇声を上げたのは失態だったが。 そんなそっぽをむいたベルに、だよな、とさも当然と言わんばかりの言葉をかける柊。 立ち上がりつつ、軽く体を動かすと血が止まっていることを確認。月衣から新しい薄手のロングコートを取り出して羽織る。 「さーて。そんじゃ約束の続きといくか」 「続きって……アンタね。そんなぼろっぼろでどこへ行こうってのよ」 「お前が行きたいところでいいんじゃねぇの?」 借りができたからな、とまったく意識をしない言葉とともに手を差し出してくる青年。 ベルは一つ大きくため息。 なんだか、エスコートさせてるはずなのにこっちばかりがあわてたり苦労したりしている気がする。 手を取る。 「……ちゃんとエスコートしなさいよ」 「へいへい、努力させてもらいますよっと」 「あたしのエスコートなんて、裏界じゃ億単位の下僕どもが願ってやまないのよ? 光栄に思いなさい」 「……この間ちらっと見たなんとかって魔王はお前らの後始末の顛末を延々と居酒屋で愚痴ってたが」 「なっ!? だ、誰がそんなことを……っ!?」 その手は、やっぱりやや乱暴で。けれど、小さいときとなんら変わらず暖かかった。 ラストカウント またあいましょう。 「で? 今日はどうだったよ大魔王様」 ビルの屋上。 月は白く白く輝くだけ。まだ満ちざるその月を眺めながら、ベルは背後からかけられたその声に、ため息をつきながら肩越しに一瞥。 「雑」 一言で切って捨てる。 柊は苦笑しつつ頬をかきながら答える。 「そりゃ、エスコートなんてもんやったことねぇしな。ある程度は大目に見てくれ」 「言い訳は見苦しいわよ。まともな男になるつもりならレディの前ではしないことね」 へいへい、とため息をつきつつ肩をすくめる。 とはいえ。 ベルは柊といて嫌な思いをしたわけではない。 車道側には必ず立つし、階段は必ず一歩先に歩く。ベルがミニスカートなのを考慮し忘れて2、3発スピットレイを0距離でぶち込まれもしたが。 大魔王相手に傷をつけるのは、ウィザードであっても難しい。ラビリンスシティ参照。 それでも柊はベルを「少女」として扱うのだ。 おそらくは魔王としてよりも少女として扱え、と言われたそれに従っている結果なのだろうが……ただそれだけでこの対応はできるものではない。 「まったく。馬鹿と思うべきなのか、頭が悪いと思うべきなのかはっきりしてくれないかしら?」 「それ同じ意味だろっ!?」 「違うわよ。具体的には水底の石ころと月くらい違うわ」 これだから柊蓮司は、といつもの言葉とともに彼女も肩をすくめる。 それでも彼女は極上の笑顔で柊を見ると、言った。 「まぁいいわ。色々と面白いところも教えてもらったしね」 「どっちかっつーと、お前の行きたいとこに引きずり回されたような気がするんだがな」 「ご満足いただけて光栄ですベール=ゼファー様くらいのことを言えないの?」 「言ったら気持ち悪がるだけじゃねぇか」 「それもそうね。 まぁ―――それなりに、楽しかったわよ」 「そいつはよかった」 その極上の笑みを変えることなく静かに目を閉じ、ベルは告げる。 「―――このへんにしましょうか、ねぇ。ウィザード?」 「そうだな。一応言っとくが、今日は見逃してくれるとありがたい。見逃してくれないなら―――それはそれで負ける気はねぇが」 今日一日のこの関係は、ベルの余興のようなものであると柊にはわかっている。 となれば、彼女の気まぐれで『今日』が終わった瞬間、彼らは敵対関係に戻るのだ。 だからこその返答。 ベルから放たれだした剣呑な気配と、柊の呼び方が変わったことで彼は自分の気を引き締めて、それでも一応弁解はした後。 いつでも相棒を引き抜けるよう、体を緊張状態に持っていく。 その状態を見て、ほんの少しも『遊んでいこう』という欲求が生まれなかったかといえば嘘になる。 しかし、ベルはその甘美な誘惑を一瞬で棄却。これだから柊蓮司は、と呟きながら肩をすくめた。 「まったく、自分の言ったことくらい覚えてなさいよ。本当に頭が悪いわね」 「うるせぇよっ!? ……って、俺なんか言ったか?」 「えぇ。このあたしに向けて『弱ってる相手を襲うなんて趣味じゃないこと、絶対やらないのがベール=ゼファーだ』ってね。 そんなこと言われたら見逃してあげるしかなくなっちゃうじゃない」 だから、と言いながら彼女はふわりと浮かびあがる。 白い月により生まれた薄墨色の月影が、彼女の足元からぷつりと接点を失う。 ベルは誇るように芝居がかった言葉をつむぐ。 「遊びの時間はおしまい。 今日は面白いものも見れたことだし、見逃してあげるわ柊蓮司。無愛想な顔も、子供の頃なら可愛らしく見えたわよ?」 「うるせぇ忘れろ今すぐっ!」 「イヤよ。リオンも映像まではわからないんですもの、あの子が知ってるのはアンタが今日一日子供になってたっていう事実だけ。 アンタを柊蓮司として今日一日見てたのはあたしだけなんだもの、そうそう忘れてたまるもんですか」 ふふ、と満足そうに笑って彼女は続きを口にする。 「今日は一日アンタに振り回されたけど、さっきのと今の無様なカッコでチャラにしてあげるって言ってるのよ、ありがたく受け取りなさいな」 「振り回したのはどっちだよ」 「アンタよ、柊蓮司。100%アンタ。たぶん他の誰に聞いてもアンタだって答えるわ。 ―――ま。どうせ自覚なんか死んでも生まれないでしょうけど」 ため息。やれやれ、というように彼女は首を振ると、その琥珀の純度を高めたかのような黄金の瞳で、柊を射抜く。 「それじゃあ―――またあいましょう。 次は、あたしの遊戯盤上(ゲーム)でまた思う存分踊ってもらうわ。 せいぜい踊り狂って、あたしを満足させてから死になさい。でないとコンティニューさせちゃうかもしれないわよ?」 「上等。 せいぜい高みの見物してりゃいい、俺がおとなしく踊ってると思うんだったらな。気づいた時には盤上ひっくり返して、お前を引きずりだしてるかもしれねぇぞ?」 「えぇ、それくらいの手応えを期待してるわ。 じゃあね柊蓮司、次のゲームまで……せいぜいその体を大事にすることね。首もよく洗っておきなさい?」 バイ、と呟いて。 刹那。月の像が揺らいで赤く染まり―――次の瞬間には再び皓々と照る欠けた月に戻る。 頭をかきつつ、柊は踵を返す。 さすがに色々あって疲れている。今日くらいは実家のベッドで眠れることを期待しつつ。 内心。また厄介な約束をしたな、なんてことを思いながら。 それでもその約束を反故にしないため、とりあえず彼は体を休めるための帰路についた。 前ページ次ページベール=ゼファーの休日
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テレビとか新聞とかちゃんと見ないとダメだって ◆IbPU6nWySo 「ジナコや……おきなさい、ジナコや…」 「う、ううーん…?」 謎の声に呼びかけられる。 確か自分はかわいい少女と共にお昼寝していたはず…… まさか再びあの気味の悪い夢を見るのだろうか… ジナコは恐る恐る目を開けた。 そこには肥満体質な男性がはぁーはぁーと息を荒げながらフワフワと浮いている。 まったくもって信じがたい光景が広がっている。 ジナコは怖い夢ではないと分かると安堵はしたが… 男に対してはギョッとして、嫌な汗を浮かべながら訊ねた。 「だ………誰ッスか……?」 「私はあなたの剣『魔剣アヴェンジャー』の精です(ネットで装備しているでしょ?)」 ……… 「擬人化したらこんなおっさんになるとか嘘ッス~!!!!!!」 「あぁっ!逃げないで!!逃げないでっ、っていうか引かないで!!お願い!」 自称:『魔剣アヴェンジャー』の精を名乗る男性は話を続けた。 「今日は毎日使ってくれたお礼に応援をしに参りました。 さぁ、この精霊様になんでも言ってみなさい」 「ん?今、なんでもって言ったッスね!?なんでも……」 ジナコは夢だと分かっていながらも真剣に問うた。 「ボク…死ぬのが怖いッス……死ぬって分かってても、それでも聖杯戦争を生き残りたいッス… あのょぅι゙ょちゃんを殺したくないッス……」 「ふーん?でも君、ショタコンでしょ?」(鼻ホジ) 「今はどうでもいいでしょうがっ!!精霊さん!ボク、あのょぅι゙ょちゃんと一緒なら大丈夫な気がするッス。 あの子もボクと一緒で死ぬのが怖くて…生き残りたいはずッス……ボク……ょぅι゙ょちゃんと一緒なら不幸にならないッスよね? あの子を守り続ければ、元の世界に帰れますよね?」 「……………そうでもないんだけど」 ……… 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 「ま。待って!ジナコ!!今のナシ!ノーカン!ノーカン!! そんな事によりジナコ!よくお聞き。君、寝ている場合じゃないのよ。 君には今ゴイスー(※スゴイ)でデンジャーなことが迫っているのだよ」 「……へ?」 「さ、早く起きなさい。アーチャー=サンが待ってるから」 「は……はぁ…」 「ようやく起きたか、駄肉」 ジナコが目を覚ますと見知らぬ男性がいた。 夢で見た自称:『魔剣アヴェンジャー』の精よりは断然若く、いい顔の方に近いだろうが 果たしてこの状況はどういうことなのか…… ふと体を起こすと、もう一人。 赤いコートの男性…いや、サーヴァントの姿を見た。 ジナコは途端に焦りが沸騰した。 「ああああああぁぁああぁあああぁっ!!!ごめんなさいいぃぃぃいぃいぃぃ!!! ロリコンじゃないのぉぉおーー!!ショタコンなのぉおぉおぉっ!!!」 「おい」 「もう駄目だ、あたし終わった、死ぬんだ。殺される。こ、ころ、し、死ぬし、死んじゃ……」 「黙れ」 「……」 はぁと男性――ジョンス・リーが溜息をついて改めて話をする。 「いいか、お前がサーヴァントを呼び出すより先に俺とアーチャーは お前にトドメをさせる。分かったな」 ジナコはただ頷くしかなかった。 ちらりとジョンスの手の甲にある令呪を見る。 どうやらすでに二画ほど消費しているようだが、間違いはない。この男はマスター。 状況がうまく飲み込めずジナコはただ話を聞くだけであった。 「この戦争をどうするつもりだ」 「し…死にたくないッス……」 「…聖杯は」 「そんなのどうでもいい!ま、まだやっぱり死にたくないッス…」 「れんげを殺すつもりないってなら、それでいい」 れんげ? あ、あぁ、…ょぅι゙ょちゃんのこと……? 徐々に落ち着いてきたジナコが整理していく。 どうやらこの男(ジョンス)はれんげを保護しているようだった。 もしかしたら家族か何かかもしれないし、とにかく事情があるのだろう。 口ぶりからして聖杯戦争にも積極的ではないのかもしれない。 もし聖杯を狙っているなら、れんげもジナコも殺しているはず。 ジョンスは続けて言う。 「何もするつもりねェなら、れんげを保護してろ」 「え……っとぉ…このょぅι゙ょちゃん?れんげちゃんを…ッスか?」 「あぁ」 「なんで…?」 「…」 「あっ、すいません!聞きません!!何でもアリマセン!!」 「とにかく、れんげは状況を理解してねェ。かといって状況を教えたら何をしでかすかわからねェ 適当に遊んでやれ。わかったな」 「わ、わかったッス!それで見逃してくれるならっ……」 沈黙していたサーヴァント・アーカードが口を開いた。 「迷いはないのだな?我が主」 「二度も言わせるな」 ジョンスが下した決断は――れんげを置いて行く事だった。 ジナコに任せる不安要素があるものの。 彼女の態度を見てハッキリと、これならいいと判断した。 理由としては、やはり二人で闘争を行うとなればれんげを守ることに集中できないからだ。 れんげの存在はそれなりに重要だが、かといってジョンスたちの一番の目的。 闘争そのものを捨てるのならば――彼女はやはり切り捨てなければならない。 戦意のないジナコの意思を確認したところでジョンスの決断は決定されたのだ。 「で、後はだな……」 計画は完璧に通ったものの。 問題はアサシン――カッツェの詳細を掴み、闘争するとなった場合。 奴をすぐに捕捉することであった。 簡単な方法はアサシンをれんげが令呪で呼び出す。 もしくは、あえてれんげを危険に晒す。 これでアサシンがれんげの元へ現れざるおえないだろう。 他には―― 「アーチャー」 「?」 「もしカッツェがお前のところに現れたらすぐ知らせろ。いいな」 「了解した。しかし、それはあるだろうか?」 「大いにある。かなり気にいられてるぞ、お前」 お世辞として受け止めているのか、アーチャーはくっくっと笑う。 ジョンスが冷たくあしらっているからこそ、アーチャーの方へアサシンの意識が向かうのは必然であった。 逆にジョンスのことは避けている態度がある。 その程度のことはジョンスにも感じられた。 だからこそ、ジョンスが目を離した隙にアサシンがアーチャーへ接触することは十分ある。 次はアサシンがれんげの元へ向かった場合。 「おい、駄肉」 「あのー…さすがにいいッスか。ボク、ジナコです。ジナコ・カリギリッス」 「電話番号教えろ」 「はい?」 「ここの。携帯でもいい」 「わっ、わかりました……」 これでれんげの所在が掴めればいい。 いっそこのことアサシンのように携帯を盗んでしまうのも手だったが ルーラーの一件がある以上、ジョンスは目立つ行動を控えようと用心していた。 唯一気になるのはアサシンの行動…… 何かしらやっているかもしれないのはジョンスも分かっているものの。 具体的に何をやらかすのかは…ジョンスよりもアーチャーの方が理解しているかもしれない。 「か、書き終わりましたっ!これでいいッスよね!?」 「あぁ」 それは別にいいか。ジョンスは思考放棄した。 ジナコから電話番号が書かれた紙を受け取ると、ジョンスはそれ以上は何も語らず立ち去る。 同時にアーチャーも霊体化した。 ジナコはポカンとジョンスを見送り、玄関が閉まる音をハッキリと聞いた後 れんげを剥がし、普段は見られない俊敏な動きで鍵をかけた。 「よし!これでよし!!………はぁぁあぁぁあぁ~~~~……」 壮大な溜息をついたジナコだったが 冷静になればあの赤いサーヴァントはれんげのサーヴァントではないということに気づく。 じゃあ……れんげちゃんのサーヴァントは…? なんだろう…思い出したくない…… 何か忘れている気がするが、彼女は体の痛みと吐き気を催したので思考を止めた。 部屋に戻るとまだれんげはスヤスヤと眠りについている。 「…ま、いっか。れんげちゃんから後で聞けばいいッス あの人たちも悪い人じゃなさそうッス!……怖かったケド」 この程度ならアサシン(ゴルゴ)に怒られる事態には陥らないだろうとジナコは慢心する。 「あーあ!完全に目が覚めちゃったし、ネトゲやろーっと」 建前としてはれんげを起こさない為と評して。 カチャカチャとジナコがパソコンを操作し始めた……が。 どうしても気になったのでジナコは交流サイトで月海原の様子を確かめた。 確か、ヤクザさんも調べてたみたいッスけど……どうなっているんだろ… どっか建物でも壊れたり、物騒な事あるんスかね… カチッ 「え……なに…ヤダ、これ…………嘘…」 『なんだこりゃ…』 ランサーの呻きは春紀の思いと重なった。 春紀のバイト先であるケーキ屋が野次馬に囲まれていたのである。 そして、警察の姿。 パトカー。 何もかもか無茶苦茶だ。 茫然とする彼女のところにケーキ屋の店長が姿を現した。 「あっ!春紀ちゃん!!」 「店長…これ、何があったんですか?」 「そ、それが…」 興奮する店長から何とか聞きだしたのは妙な女性が鉄パイプを手に、店内を荒したという。 彼女は駆けつけた警察官にも喧嘩を吹っ掛け あげく、女性は混乱に乗じて逃亡したらしい。 春紀の隣では、その警察官が刑事らしい男性に叱られていた。 「犯人の挑発に乗るなんて、頭に血が昇りすぎだ。現場では冷静になれ」 「は、はい!申し訳ありませんでした!堂島刑事っ!!」 「ったく…あー、そこの――店長さんか?犯人の特徴を知りたいんだが、詳しく話してくれるか?」 「じゃあ、春紀ちゃん。今日のバイトなしってことで…また後で連絡するよ」 「はい。……店長!ちょっと荷物取って行きたいんで店内に入って良いですか?」 店長は返事を堂島と呼ばれた刑事に頼んだ。 堂島は軽く店内を覗いてから 「現場検証は大体終わった。邪魔にならない程度なら構わない」 「ありがとうございます」 春紀が直接店内を見ると、確かに酷い有様だ。 元の店内を知る春紀だからこそ被害を親身になって受け止められる。 しかし、ここが襲撃されたということは―― (まさか……サーヴァント?) ランサーは不満げな声で返事をした。 『さぁ、どうだろうね……あたしらを知っているのはせいぜいライダーたちだけだ。 女性って言うからには可能性としては十分あるけど…こんなことするか?普通』 (他のサーヴァントの可能性もある、か) 『少なくともあのライダーのマスターは、こんな手使う奴には見えなかったけどな』 春紀は調理場へ移動すると、そこには作りかけのケーキや出来たてのものまで放置されているのを発見する。 (どうせ捨てられるんだ。杏子、これも貰っていこう) 『お!ケーキ!!いいところバイトしてんじゃん♪』 (バイトに来たのって、そもそもコレ目的だしな) ランサーの魔力回復にはもって来いである。 ケーキを回収した後、バイトの時間を何に潰そうか春紀は考える。 春紀は念の為、ケーキ屋を襲撃した犯人の情報収集をした。 移動しながら最低限の情報をと春紀は携帯を開いた。 するとすぐに犯人の顔写真、犯行現場を捉えた写真などが交流サイト、掲示板にある。 しかも本名も割れている。 ジナコ・カリギリ…… ランサーもそれを見て悪態をついた。 『おいおい、いくらなんでも酷ぇな……』 (あぁ) 確かに酷い… ネットでの誹謗中傷は常識の範囲だが、これは… 死ねだの、デブ女だの、ただの悪口まで書かれている。 だが春紀は画像を確かめて行く内にジナコという女性の手に令呪があるのが分かった。 マスター!? こんな目立つことして何がしたい訳!? それとも他のマスターたちをおびき寄せる…為……? なんだか罠くさい… 「…?」 その時、春紀の令呪が強く反応を示した。 感覚は魔術師の才がない春紀にも感じられるほどだった。 (杏子、今のって――) 『…こっちだ、あたしも魔力を感じた』 「ああ……ああぁあぁっ……う、あぁ……イヤ…何これ……何これ!」 ジナコはパソコンを叩きつけてしまった。 彼女にとって命より重いかもしれないソレを、思い切り。 何故だが知らないが自分が犯罪を行う写真や動画が出回っている。 よく分からないが、自分が犯罪者だと誹謗中傷されている。 さらには彼女がNPC時代の知り合いの誰かがプライベートな写真が。 どうして? どうして!? どうしてっ!!? このままじゃ無実の罪で警察に捕まる。 そしてそのまま犯罪者のレッテルを永遠に貼られる。 たとえここが方舟だろうが、どこだろうが。 これほどまでに絶望的な状況はない。 「や、ヤクザさん…」 アサシンを呼んだところで何になる? ジナコは途方に暮れた。 何をどうすればいいのか分からない。 「あたし……アタシ…これ……」 ジナコは死ぬのが恐ろしかった。 なのに あれほど死を身近に感じていたのに、恐ろしかったのに。 今は、信じられないほど――死にたいと思えた。 「はは……ははは…はははは……」 彼女は全てから裏切られた。 知り合いからも、知らぬ人間からも、社会からも この世の全てから。 もう、どうでもいいや…こうなったら本当にどうでもいい。 …どうせ皆死ぬ。殺されてもいい。死ぬのは怖い。生きていたい。 でも 「んー……」 れんげが目を覚ました。 混乱しているジナコの前に無垢な少女は周囲を見回した。 カッツェも、アーカードも、ジョンスもいない。 いたのは、カッツェが連れてきたあの女性だけである。 「あの、かっちゃんたちどこですか?」 「…」 ジナコもれんげに気づくと、冷えた目で彼女を見下した。 露知らず、れんげはのんびりと話す。 「どうしたん?気分悪いん??」 「…まさか……あの赤い人のせいなの…?」 「赤い?あっちゃんのことなん?」 「…アタシをこんな目に合わせたの……」 ジナコはれんげに近付く。 どことなくその雰囲気でれんげは悪寒を感じた。 恐怖が生まれ、彼女から後ずさると、栓が抜かれたかの勢いでジナコがれんげを掴もうとする。 何故、彼女がこのような行為をするのか。 れんげにはまったく理解できない。 襲いかかろうとするのを見て、いよいよれんげは逃げた。 初めて見る家だったが、居間を挟んだ先に玄関があったのが幸運である。 礼儀よく靴を履いている暇はない。 靴を掴んで、靴下だけの状態でれんげは外を飛び出した。 「う……」 同時に呻いた。 恐怖で呻いた。 誰もいない、一人ぼっち。 アーカードもジョンスも、カッツェすらいない孤独の彼女に希望はなかった。 「うぅううぅっ……!!」 れんげは必死に走った。 一方のジナコは放心した状態で、玄関で立ちつくしていた。 れんげの悲痛な叫びを聞いて、ジナコは正気を取り戻している。 「あ…アタシ……」 何を考えていたのか。 あんな少女が自分を陥れる訳がない。 少女を守るよう頼んだあの男がこんなことする訳がない。 なのにどうして信じなかったのか。疑ってしまったのか。 ジナコは涙を流す。 「アタシのこと心配してたじゃない…れんげちゃん…… れんげちゃんのこと、強引だけど頼まれたじゃない……! なのに、なんで…アタシッ……!!こんなことも出来ないの…」 ごめんなさい… 【B-10/街外れの一軒家/一日目 午前】 【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】 [状態]脇腹に鈍痛、精神消耗(大)、トラウマ抉られて情緒不安定、ストレス性の体調不良(嘔吐、腹痛) 昼夜逆転、現実逃避、空腹、悲しみと罪悪感 [令呪]残り3画 [装備]なし [道具]なし [所持金]ニートの癖して金はある [思考・状況] 基本行動方針:??? 0.どうしよう… 1.れんげやジョンスに謝りたい、でも外に出るのは怖い [備考] ※彼女のパソコンは破壊され、ネトゲ内の装備も消失しました。 ※密林サイトで新作ゲームを注文しました。二日目の昼には着く予定ですが…… ※カッツェにトラウマを深く抉られました。ですがトラウマを抉ったのがカッツェだとは知りませんし、忘れようと必死です。 ※ジョンスが赤い人(アーチャー・アーカード)のマスターであることを把握しました。 ※ジナコ(カッツェ)の起こした事件を把握しました。 (杏子、この反応って何を意味しているんだ?) 『ライダーの時と同じだ…サーヴァントの宝具に反応しているはずだよ』 移動しながら春紀とランサーは念話により会話を続ける。 『しっかし、昼間から宝具を解放してるってのは工房作っているかもしんねーキャスターか… せいぜいアサシンってところだな。アサシンだったら厄介だよ。気を引き締めな』 (あぁ) そう会話している矢先に彼女たちの前に何かが飛びだす。 一人の少女である。しかも小学生くらいの幼い少女だ。 そして、こけた。 「あっ」 思わず春紀は足を止めた。 少女はしばらくじっと動かず、テンポを遅らせてから立ち上がると膝から血が滲み出ている。 ボロボロと涙が溢れだす。 だが、少女は大きく泣き喚く事はなく、声を抑え気味に泣いていた。 「ああぁ……」 春紀は非常に戸惑った。 放っておけない。 しかし、この辺りにはサーヴァントがいるかもしれない。 だけども…… 「あーもう!」 春紀は優しく少女に話しかける。 「大丈夫?ちょっと痛いかもしれないけど、傷触るよ。いいか?」 (ランサー、水持ってるだろ?) 『はぁ!?……ったくしょうがねぇな…』 ランサーは少し離れ、突然出現したように見せぬように春紀たちに近付いた。 しぶしぶ貴重な食料の一つを渡す。 「ほらよ」 「ごめんごめん、また後で調達しよ」 水で傷口を最低限に消毒してやる。 だが、春紀はハンカチを忘れたことに気づき、代わりになるものを探した。 ふと、少女の手に巻かれてある包帯に目が魅かれた。 手の甲……嘘だ…まさか…… 震える声で春紀は言う。 「ちょっとだけ…この包帯、くれる?」 少女は痛みと悲しみを堪えながら頷いた。 恐る恐る春紀が包帯を解くと――その下から特徴的な痣が露わになった。 この子がマスター…!? するとまた令呪が反応する。警戒したが、やはりサーヴァントの姿はない。 冷や汗を浮かべながらランサーは呟く。 「どういうことだ…?こいつのサーヴァント、何してやがる……」 「取りあえず――」 包帯の半分で傷を覆い、残りで痣を隠してやる春紀。 少し迷ってから春紀は少女に対してしゃがみ込み、背を向けた。 「おんぶしてやるよ。ホラ」 「…ありがとなん」 初めて少女は言葉を発する。 ランサーは思わず「おい!」と声をあげる。 「こいつマスターだろ!?」 「……ごめん、ちょっとだけ…」 「…好きにしな。あたしはマスターの決定には逆らわないからさ」 幼い少女。 二人はこのキーワードにそれなりの思い当たる部分を抱いているのだ。 春紀は妹。 ランサーは死んだ妹。 少女はその影と重なり合う存在である。 ランサーは霊体化して、周囲の警戒に当たる事にした。 春紀は少女から話を聞きだした。 少女は宮内れんげ。 彼女は怖い女性から逃げてきた。 攻撃してきた事から、その女性はマスターか…あるいはサーヴァントと分かる。 他にも『あっちゃん』と『八極拳』なる人物を知っていた。 二人組なのでそれも聖杯戦争の参加者だろう。 れんげの話によれば、二人はれんげを保護していたらしい。 殺意がないのだろうか…… 何より重要な、れんげのサーヴァントについてだが。 そもそも、れんげは聖杯戦争すら理解していなかった。 ルーラーが説明しなかったのか? いや、もしかしたら彼女には説明を理解できる知力がないのかもしれない。 春紀はあえて聖杯戦争には触れずにサーヴァントらしき存在を聞き出そうと試みた。 するとそれらしい『かっちゃん』と呼ばれる存在がいた。 『かっちゃん』は宇宙人で性別はよく分からない?、れんげの親友。 れんげが楽しそうに話す内容から仲の良さは十分伝わった。 「それじゃあ、れんげの家はどこ?」 「うち、家は村にあります」 「えっと…そうじゃなくってだな。ここで住んでる家みたいなの、あるだろ?」 「……?よく分からないん…それ八極拳も聞かれたん……うちの家は、村にしかないん」 「…家。ないのか?まさか――」 「ここには家ありません!いつの間にかここにいました!」 『おいおい…マジかよ……』 さすがにランサーも驚いていた。 きっと八極拳といった人物も苦労しただろう。 春紀は非常に悩む。 ここは警察に保護を頼むのもありだろうか? 春紀たちが見知らぬ少女を連れているのは、周囲の目がどのように見るか分からない。 れんげは春紀の思考を知らずに訊ねた。 「はるるん……かっちゃんたち、探して欲しいんな。 かっちゃん、いつも一緒にいてくれたん。だけど、今はどこにもいないん。 かっちゃん。大丈夫なんな?」 「大丈夫だって。探してやるから」 「会ったら、はるるんもかっちゃんと友達! かっちゃん。ほたるんたちと友達になってないん、でもここで友達沢山できるん!」 「…そうだな」 「かっちゃん…ちょっと恥ずかしがり屋みたいなん。うちの村で皆と会おうとしなかったん」 「へーそうなんだ」 何気なく春紀は話を受け流していた。 が、ただ一人。 ランサーはある事に気づく。 こいつ…今、『村』で……そう言ったよな? サーヴァントは――『ここ』で召喚されるんだ。 だけどこいつ。『自分のいた村』でサーヴァントを呼び出したって、そう話してねぇか…… 大体、NPC時代もないし家もないと来たもんだ。色々変だぞ?こいつ…… 異端。 イレギュラー。 予想外の存在。 普通には存在しえない存在。 いるはずのない参加者。 …いいや、まさかなとランサーは れんげの言いまわしのせいかとマスターである春紀には告げないでおいた。 【B-10/町はずれの住宅地/一日目 午前】 【寒河江春紀@悪魔のリドル】 [状態]健康 れんげをおんぶ [令呪]残り3画 [装備]ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ [道具]携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒、ケーキ [所持金]貧困レベル [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。 1.れんげをどうするか考える。 2.食料調達をする。 [備考] ※ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。 ※テンカワ・アキトとはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。 ※春紀の住むアパートは天河食堂の横です。 ※定時制の高校(月海原に定時制があるかは不明、別の高校かもしれません)に通っています。 ※昼はB-10のケーキ屋でバイトをしています。アサシン(カッツェ)の襲撃により当分の開業はありません。 ※ジナコ(カッツェ)が起こした事件を把握しました。事件は罠と判断し、無視するつもりです。 ※ジョンスとアーチャー(アーカード)の情報を入手しました。 ただし本名は把握していません。二人に戦意がないと判断しています。 ※アサシン(カッツェ)の情報を入手しました。 尻尾や変身能力などれんげの知る限りの能力を把握しています。 【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]健康 魔力補充(おにぎりとパンを消費) [装備]多節槍 [道具]Rocky、ポテチ、チョコビ、ペットボトル(中身は水、半分ほど消費)、ケーキ [思考・状況] 基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。 1.春紀の護衛。 [備考] ※ジナコ(カッツェ)が起こした事件を把握しました。 ※ジョンスとアーチャー(アーカード)の情報を入手しました。 ただし本名は把握していません。二人に戦意がないと判断しています。 ※アサシン(カッツェ)の情報を入手しました。 尻尾や変身能力などれんげの知る限りの能力を把握しています。 ※れんげの証言から彼女とそのサーヴァントの存在に違和感を覚えています。 れんげをルーラーがどのように判断しているかは後の書き手様に任せます。 【宮内れんげ@のんのんびより】 [状態]魔力消費(小)(睡眠により回復) ジナコへの恐怖 左膝に擦り傷(治療済み) [令呪]残り3画 [装備]包帯(右手の甲の令呪隠し) [道具]なし [所持金]十円 [思考・状況] 基本行動方針:かっちゃんたち探すん! 1.はるるんと友達なん! 2.はるるんとかっちゃんを友達にしたいん! 3.怖かったん…… [備考] ※聖杯戦争のシステムを理解していません。 ※カッツェにキスで魔力を供給しましたが、本人は気付いていません。 ※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。 ※ジナコを危険人物と判断しています。 【B-10/図書館へ移動中/一日目 午前】 【ジョンス・リー@エアマスター】 [状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち [令呪]残り1画 [装備]なし [道具]ジナコの自宅の電話番号を書いた紙 [所持金]そこそこある [思考・状況] 基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う 1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す 2.基本行動方針と行動方針1.を叶えるため、図書館へ向かう 3.ある程度したらジナコに連絡をする [備考] ※先のNPCの暴走は十中八九アサシン(カッツェ)が関係していると考えています。 ※現在、アサシン(カッツェ)が一人でなにかやっている可能性が高いと考えています。 ※宝具の発動と令呪の関係に気付きました。索敵に使えるのではないかと考えています。 【アーチャー(アーカード)@HELLSING】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う 1.新たな闘争のために図書館へ向かう。 2.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある。 3.アサシン(カッツェ)が接触してきた場合、ジョンスに念話で連絡する。 [備考] ※野次馬(NPC)に違和感を感じています。 ※現在、アサシン(カッツェ)が一人で何かしている可能性が高いと考えています。 BACK NEXT 065 喰らう者たち 喰われる者たち 投下順 067 勇者の邂逅、聖者の会合 065 喰らう者たち 喰われる者たち 時系列順 068 異邦の地で生きるということ BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT 053 落とし穴の底はこんな世界 寒河江春紀&ランサー(佐倉杏子) 086 槍は甘さを持つ必要はない 060 Imitation/午前9時52分 宮内れんげ ジョンス・リー&アーチャー(アーカード) 080 対話(物理) ジナコ・カリギリ 091 ひとりぼっち ▲上へ
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194 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます] ID kakukoto0 193 頑張れスネーク そっちに行けないオレのためにまずは美少女をうpするんだ 195 名前:193 投稿日:[ここ壊れてます] ID 876543210 http //*******/***/*****.jpg (マジでグロ注意。画面の端にあるのはID書いた紙な) 見ても文句いうなよホント… 俺なんかメートルぐらいの場所にいるんだぜorz 196 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます] ID kakukoto0 ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!! こっち見んな!! 首だけこっち見て笑うなあああああああああああああ!!!! そのグロ画像がリアルで 193の頭上を滑空した。 反射的にそれを撮影しようと携帯を構えた頃にはもう遅い。群衆の垣根を弾丸のように乗り 越えたグロ画像は交差点のはるか向こうでくるりと宙返りを打ち、羽根を生やすと恐ろしい速 度で天に昇って行った。それめがけて銀色の全身コートが恐ろしい速度で疾駆してもいる。 一体何が起こっているのか分からない。隣の者に聞こうにも、やっぱり携帯片手に呆気に 取られているだけで分からない。 仕方ないので 193は本日二度目のポルナレフAAを使用した。縮小版の。 そして彼(または彼女)のあずかり知らぬ領域で、下記のように状況は推移していた。 「人気のない場所へ奴を誘導する。ついて来い」 ガンマンならば銃口から紫煙がくゆっているだろう。 鐶の居たすぐ前で拳を突き出す防人に斗貴子はそんな錯覚を覚えた。 (私が攻撃するより先に吹き飛ばすとは) バルキリースカートで斬ろうとした頃にはすでにブラウンのグローブがちりちりと空気を焼き ながら鐶の腹に迫っていた。一体いつの間に距離を詰めていたのか。傍観者たる斗貴子さえ 考える余裕もなく、鐶は身を丸め、残暑でむせかえる風を吹き散らかしながら望まぬ飛行を 遂げていた。 (ホムンクルスといえど子供の姿をした者を殴るのは嫌な気分だが、奴らの本拠地を突き止め るにはああするしかない) 銀の長い裾をはためかせながら防人もまた群衆を飛び越え追撃に移った。 どこからともなく、引きつった声が漏れた。 「すげえ。アスファルトがまるでゆで卵の殻みたいに砕けた……」 つま先で蹴り割った道路を起点に加速した銀影が、だだっ広い交差点をグンと縦断していく。 「初め……まして。私は鐶光(たまきひかる)といいます。鐶は金偏(かねへん)……です。でも 王偏(たまへん・おうへん)の環でもいいです。どっちもパソコンの変換候補に……あったような」 空を飛びながら、鐶は誰にともなく自己紹介をしていた。 「…………あれ?」 しかし周囲には誰もいない。彼女は腕組みをして考え込んだ。 そして結論。くるりと宙返りを打つと、みぞおちの辺りに白鳥じみた白い手を当てた。 「殴られて吹き飛んだよう……です」 フクロウのように百八十度旋回した虚ろの視線の先には、夏臭い砂ぼこりを足元にうっすら 毛羽立て徐々に間合いを詰める防人しかいない。群衆ははるか彼方だ。 「……搦め手は無理のようなので…………空中から…………攻撃……しますね」 背中から広げた大きな翼が落下と後退の慣性をふわりと相殺する。 「残量は……十分」 そしてちらりと短剣に一瞥をくれると、緩やかに羽ばたき、ホバリングへと移行。 専門用語ではコレを停空飛翔(ていくうひしょう)という。有名なハチドリ以外ではハヤブサ科 のチョウゲンボウがこの習性を持つ。エサのネズミなどを捉える直前に行うのだ。 「……とにかく、相手はまだ六人…………。『切り札』の出番は……後、ですね」 羽ばたきに波打つスカートからポケットを探り当てた鐶は、そこから取り出した純白のバンダ ナで赤い頭頂部をすっぽり覆い、三つ編みの付け根へリボンのようにくくりつけた。 (まずは俺が先陣を切ろう) 自動車顔負けの速度で周縁視野の景色が流れ行き、停空飛翔中の鐶の姿を防人は捉えた。 バンダナを被った以外変化なし。防人は迷わず足を進める。 (果たしてどこまで戦えるか分からないが) かつて五千百度の炎に身を晒し、「回復しても以前と同様に戦えるかどうか」と明言された 防人である。 攻撃を加えた筈の手に嫌な疼痛が走り、ただの疾走にさえ呼吸は微妙な──傍目からは 一糸も乱れていないが防人にだけは分かる範囲での──乱れを見せている。 「貴殿には私と戦士・斗貴子を敵の元へ運搬してもらう」 「ふぇ!? 無理だよそんなの」 根来に詰め寄られた千歳は、ぶかぶかの再殺部隊の制服の肩やスカートのホックを懸命に 押さえながらぶんぶんと首を振った。 「だってヘルメスドライブが運べる質量は最大百キログラムまでで、大人なら二人分までだよ? だから三人運ぶのなんて無理。みんなで走った方が早いんじゃ」 「いや、無理ではない」 三人の状況を見た斗貴子は根来に同調した。千歳も「あ」と口に手を当てた。 「そういえば皆、服が……」 「振り向くな……! 希望の空に……飛ばせ……イーグル」 それがまるで呪文だったかのように鐶のバンダナへ何かが浮かんだ。 丸々とした瞳と先端が黒く染まった鉤状の黄色いくちばしと、そして布地の上半分を染める 黒の色。こちらは目の少し下から、涙か頬ひげのようにUの字で垂れ下がっている。 明らかにそれは鳥の顔であった。目の下の黒い模様が「頬ひげ状パッチ」という身体的特徴 を意識しているのであればハヤブサの顔だろう。 奇しくも鐶の背中から生える翼もまたハヤブサよろしくブーメランのように尖っている。 ホムンクルス特有のメカニックな形状とハヤブサの色彩(上面は青灰色、下面も白地に黒の 縦斑)を共有しているのだ 「ちなみに……イーグルはワシで、ハヤブサはファルコンですが……えぇと、その、いいです」 何がどういいのか分からぬが、鐶はともかく太陽に向って垂直に上昇した。 「……カラス?」 途中軽く肩が当たった鳥を不思議そうに眺めながら、鐶はゆっくりと頭を下げ──… やや影の濃くなった道路の中央で防人は歩みを止めた。 両側にはビル街があり、正面高くには羽根を生やした少女が浮かんでいる。 (敵がまだもう一人残っている以上、これ以上の戦力の減少は食い止めたい。だからまずは 俺が奴に攻撃を加え、他の戦士の追撃を促す) 昇りゆく鐶に逃走の気配は見えない。 (倒せずともいい。シルバースキンリバースを当てる隙さえ生まれれば──…) 防人は拳を固めると、低く腰を落として身構えた。 (だがただ撃つだけでは仕損じる恐れがある。まずは隙を作るコトに専念だ) 群衆はそれまでそこにいたセーラー服とぶかぶか服の幼女と陰気臭い殺人少年の姿が消 失しているのに気づくとみな一様に首をひねった。 本当にそんな連中は居たのだろうか。 思い返せば一連の出来事は総て夢の中の物だったような気がしてきた。 「あの。すいません。この辺りでこう、銀色のコートを着た体格のいい人を見ませんでしたか? おかっぱ頭のセーラー服の女の子でもいいんですけど」 「えぇと。銀色ならあっちの方に飛んで行ったと思うけど、本当に居たのかなぁ、アレは」 「そう。ありがとう」 問われた者は答える最中こそ茫然としていたが、やがて耳に届く声が恐ろしく湿った艶のあ る声だと気づくと慌てて横を見た。しかしそこではもう長い黒髪が人混みにサっと隠れる瞬間で 声の主がいかなる姿かは分からなかった。 「私の治療のためにちょっと遅れちゃったわね。とにかく急ぎましょう」 「はいはい」 乾いたノド声と同時に二つの影が滑るように交差点を後にした。 ハヤブサは獲物を見つけると、まずはその斜め上まで飛びあがる。 そして獲物めがけて斜めに急降下し、後ろについた鋭い爪(後趾・こうし)によって重傷ない し致命傷を与える。アオバトなどは無残にも片翼が吹き飛ぶというから威力は推して知るべし。 ……そして鐶は防人を獲物と認めたらしい。 翼を揃えバンダナのハヤブサ顔を下向けて、轟然たる滑空を開始した。 群衆はビル街に向って轟然と落下する影を見たが、最早近づこうという者はいなかった。 鳥類最速は急降下時のハヤブサである。 一説では急降下角度が30度なら時速270km。45度ならば実に時速350km。 500系新幹線の最高時速が300kmなのを考えるとなかなか恐ろしい。 資料によってはリニアモーターカーをも凌ぐ時速440kmという驚異的数値さえある。 そもハヤブサの語源は「はやとぶさ(素早い翼)」なのだ。 それが居並ぶビルのガラスを水しぶきのように巻き上げつつ、防人へ殺到! いつしか完全にハヤブサの形状と化した鐶は腰をぐなりと曲げ足を突き出し。 防人はありったけの力でアスファルトを踏みぬきながら、順突きを繰り出した。 転瞬。 蹴りあげる後趾の爪が防護服を貫通し、防人の胸を斬り裂いた。 一方、彼の拳は鐶の服部に深々と突き刺さった。 同時に両者の激突によって行き場をなくした時速300km越えの急降下の衝撃と防人の踏 み込みの衝撃が彼らの接点で拮抗し反駁しあい、やがて爆発のようにあたりを薙いだ。 道路は路側帯も横断歩道も巻き込んで打ち砕け、ガラスの雨もヘキサゴンパネルも吹き飛 んだ。アスファルトの破片が手近なビルの玄関に飛びこみ派手な音を立てた。歩道の隅では 白いガードパイプがいくつも無残にひしゃげ、半ばから折れるイチョウの街路樹さえあった。 もし防人に競り勝った要因を聞けば、「地面に足をついていた」その一点のみ主張するだろう。 奥歯を噛みしめ拳を振り抜いた彼は、かろうじてだが鐶を吹き飛ばした。 彼女は中空に漂っていたため踏ん張りが聞かない。攻撃前はそれでも翼と重力による滑空 によって攻撃に不足はなかったが、しかし攻撃後の支えとするには、防人の攻撃の威力を相 殺するには翼二つではいささか不安定すぎた。 (一撃必殺・ブラボー正拳) 放った技を呼びながら、防人は大腿部に両手を当て痛々しい吐息をついた。 (カウンターならばと思ったが、今の俺ではかつての威力の半分も出せないようだ……) わずかしか戦っていないのに、疼痛と疲労と虚脱感が一気に襲いかかって胃の中の物を全 て戻したくなるほどの嫌な感覚がある。 「だが」 「み、みんな年齢を吸い取られて小さくなったから、一度に三人を運べるんだよ」 一瞬で五十メートルほど吹き飛んだ鐶は薄く眼を剥いた。 吹き飛ぶ彼女のすぐ傍に六角形の楯が出てきたと見るや、三つの影が出現したのだ。 「よって追撃をさせてもらうぞホムンクルス!」 「シークレットトレイル必勝の型。真・鶉隠れ」 舞い飛ぶ鐶が態勢を立て直そうとする頃にはもう遅い。 嵐のような処刑鎌と忍者刀が彼女の身を膾のように切り刻んでいた。 どうやら翼が破れたらしい。墜落し路地裏に滑り込んだ鐶は、ゴミ袋やくすんで雨に汚れた 段ボールを吹き飛ばしながらも何とか人間形態へと姿を戻し、ゆっくりと立ち上がった。 「……合流…………しましたか……」 「ええ。絶縁破壊も何とか身動きできる程度までは治してもらったから」 「クソ! 何で俺が元・信奉者なんかを運ぶために遅刻しなきゃならねェんだ!」 上方から迫りくる矢と戦輪を無表情の短剣で弾いた鐶は、「あ」と声を漏らした。 「コイツがブレミュ最後の一人……って、なんか思ったよりちっこいな」 「とにかく、遅れてすみません先輩! 今度こそは力になります!」 「遅刻しちゃったけど、その分は何とか取り戻すから許して頂戴ね」 うっすら蒼いスターサファイアに似た虚ろな瞳が見上げた先では── エンゼル御前。 早坂桜花。 中村剛太。 一体と二人が建物の屋上から地上を見下ろしていた。 そして路地裏に至る角には、欝蒼とした目つきの根来と彼の影に隠れる千歳。 その横に遅れて着地したのは防人。 「貴様の望むとおり、これで六対一だ」 人混みに潜んで散々奇襲を繰り返したお前だ。文句はいわせない。 歩みを進める斗貴子の眼光は確かにそう告げていた。 「見て……ください」 しかし会話はかみ合わない。 鐶がぼんやりとバンダナを指すと、一体いかなる仕組か、白い生地に黒や黄色や赤の模様 がみるみると浮かび始め、やがてひどく漫画的なニワトリの顔がプリントされた。 . M (・ ・)← こんな感じの。 「スゴい! どこで売ってるのソレ!?」 沈黙する戦士の中で千歳だけがきらっと瞳を輝かせた。 「さっき……首を回転させたフクロウにも……なります」 いうが早いか、バンダナはまたもこんなんになった。→(`・ ・´) 「わぁ、スゴい!」 (アイツが訳の分からないコトを話してる間に仕掛けますか?) (待て。様子を見よう。斃すのではなく生け捕りにしなくてはならないからな) (って話してるようだぜブラ坊たち (総角クンの所在を聞き出すためね) (了解) ヒソヒソと話し出した防人たちに鐶は首を九十度ばかり傾げた。するとバンダナのフクロウ 顔も心持ち不思議そうになったからいやはや何とも不思議な装飾品である。 「あの……。変身した…………鳥さんの顔を浮かべることが……できるのですが」 首を戻し、戦士に手を差し出す鐶はどうやら話を聞いてほしいらしい。そこまで見抜いた斗貴 子だが、しかしホムンクルスには苛烈なのが彼女でもある。 「黙れ化物。仕掛けるならさっさと仕掛けてこい」 「……化物」 相変わらず無表情の鐶だが、バンダナのフクロウは目を丸くしてじんわり泣いた。 「無表情だけど実は傷ついてるんだよね。分かるよ。何か分かるよ!」 「貴殿は少し黙っていろ」 「う」 「あら?」 どうやって登ったのか。二階建ての建物の屋上から地上の戦士へと一瞥をくれた桜花は、 とんでもない異変に気づいた。 そこにいるのは中学生程度まで幼くなった斗貴子と、あまり小さくはなっていないが良く見る とややあどけなく少し縮んでもいる根来、そして明らかに子供になっている千歳である。 (なんで?) めくるめく笑気は口を押さえるだけでは抑えようもなく。美しい顔はみるみると紅潮しクスクス という笑いとともに震えた。 「笑うな! コレは奴の武装錬金のせいでこうなったんだ!」 「気をつけろ。斬りつけられると年齢が吸収される。ちなみに相手は人や鳥ならば自由に姿を 変えられる。例えば河合沙織やハヤブサなどに」 「わ、分かりましたブラボーさん(クス)。津村さんみたいにならないよう(クス)、気をつけます」 「だから笑うか喋るかどっちかにしろ!」 目を三角にして肩をいからす斗貴子を剛太はだらしない顔で見ていた。 (こんな先輩もいいかも) 幼いのに凛然としているギャップがたまらない。セーラー服がややだぶついているのも好印象。 (いいなあ。ちっちゃい先輩もいいなあ) ほんわかと斗貴子を眺める剛太に檄が飛び、 「キミもしっかりしろ!! というか敵に集中しろ!」 「あ……忘れ物…………」 その集中すべき敵は、何かを思い出したように手を口へ突っ込んだ。 もちろんその隙を見逃す斗貴子ではない。一足飛びに斬りかかり…… やにわに鐶の背後で見慣れぬ緑の扇が勃興するのを認めるや、狭い路地を三角飛びに駆 け上がり、桜花たちと合流した。 「クジャクの羽?」 肩を並べた御前が不思議そうに呟き、つられて下を覗き込んだ剛太が血相を変えて桜花と 斗貴子へ飛びかかった。 「きゃ」 剛太の脇にしっかと抱きとめられた桜花はほのかに顔を赤くしたが…… それはさておき、クジャク。ギリシア神話では嫉妬深いコトで有名なゼウスの妻・ヘラの持ち 物である。 ある時彼女はゼウスの浮気相手たるイオを監禁した。 しかし見張りを命じた百目の巨人・アルゴスはヘルメスの持つ笛に眠らされ寝首をかかれた ので、死を惜しみ、その百ある目をクジャクに移し替えたという。 (文献によっては眠らされたアルゴスへの罰としてむしり取ったとも) ちなみに雄のクジャクの持つ立派な扇形の羽根は、一見すると尾羽に見えるが実は違う。 正しくはその一つ上にある「上尾筒(じょうびとう)」なのだ。 さて今、建物同士の狭隘いっぱいに広がったそれから、羽根が嵐のように飛び散った。 剛太が桜花と斗貴子へ飛びかかったのもむべなるかな。鐶から見て前方のみならず上方に さえ羽根は飛散し、先ほどまでの斗貴子の立ち位置を撫で斬られたケーキのように削った。そ の威力をいち早く見抜いた剛太は彼女たちを両脇に抱えるように跳躍したのだ。 かくて直撃を免れた三人だが、しかしその背後で飛ぶ羽根からは、黄色と緑と赤に彩られた 目玉がベアリング弾のように爆裂してめたらやったらに建物を破壊していく。 掠ったのは一つや二つでもない。取り残された御前の「何じゃこりゃあー」という叫びを背後 に聞きつつ剛太は踵の戦輪を唸らせ一気に地上へと飛び立った。 途中視界に入った防人が影さえ見せず嵐のような弾丸をことごとく撃墜していたのに舌を巻く 一方、彼の背後で千歳が頭を抱えてしゃがみこんでいるのは呆れる思いだ。その姿にまたも 笑いを噛み殺した桜花には辟易だ。 もちろん、バルキリースカートで着地の衝撃を殺した斗貴子には惚れぼれする。 そんな剛太に桜花がややムっとしたのには気付かない。剛太だから気付かない。 ともかく着地した剛太が「いい判断でしょ今の」と斗貴子に笑いかけようとした瞬間、ドリルの ように鮮やかにきりもむ飛び蹴りが彼の頭を直撃した。 「やいやいやい! よくもオレ様だけ見捨てやがったなコンチクショー!!」 被弾したらしい。ボロボロの御前が息せききって文句を垂れている。もっとも、蹴りの意味に はもっと別のニュアンスがあるかも知れないが。 一方剛太は情けない声を立て、まるで千歳を真似たようにしばらく頭を抱えてしゃがみこみ…… 鈍痛から立ち直るやいなや立ち上がり、御前と顔を突き合わせて言い争いを始めた。 「るせェ! 武装錬金なら多少ダメージを受けても平気だろうが!」 「平気じゃねーっての! ヤバくなったら自動解除されちまうっての!」 喧々囂々。桜花は満面の笑みでそんな喧嘩を見た。 「ったく。ゴゼンも人格の一部だというのにいけしゃあしゃあと。というかケンカをやめろ!」 一喝によって二人の喧嘩は強制終了した。 剛太はモーターギアを、御前は桜花の手元で矢をそれぞれ羽根に向って撃ち始めた。 並び順でいうと、防人の右に剛太、桜花、斗貴子、後ろに千歳。 左の根来は「忍法天扇弓(てんせんきゅう)。──」と扇を放って羽根を撃墜中。 斗貴子としてはそんな彼らを援護に飛び込んで斬りつけたいところだが、しかし先ほどのクジャ クの羽根のような予想外の行動もある。うかと単独行動すればキドニーダガーの年齢吸収の 餌食になる可能性もある。 踏みとどまったのはそういう理由もあるし、桜花の状態を知りたくもあったからだ。 「ダメージといえばケガの方はどこまで回復した」 「ようやく動けるぐらいまで。……走ったり飛んだりするのはまだ無理そうね」 斗貴子の問いに、桜花の瞳は憂いに満ちている。 弓を構える腕は微妙だが打ち振るえ、姿勢の継続さえ容易ではなさそうだ。 「隠しても仕方ないから白状するけど、剛太クンに手を引いて貰ってやっとココに来れた位」 硝子が弾け壁が割れ、千歳の悲鳴が一段と甲高くなる戦場で桜花は悲しげに目を細めた。 矢が羽根に当たり、共に消滅。しかし相手の攻撃が途絶える気配はない。 「そういえば。例の小札とかいうホムンクルスに神経を破壊されたというが……まだ」 「ええ。半日も経ってないもの。せいぜい5~6時間といったところね」 その小札から回復を浴び病院に搬送され治療を受けた桜花だが、斗貴子の見るところ血色 は悪く、立っているのも辛そうだ。 「だったら何でわざわざ」 「秋水クンがたった一人で三人の敵を倒して核鉄を奪還してくれた以上」 流れてきた羽根を処刑鎌で弾こうとした瞬間、疼痛に体が引きつり反応が遅れた。 「私が寝ていられるワケないじゃない」 しかしそれは、御前が勢いよく射出する矢に見事撃墜された。 「それに半病人はお互いさまじゃなくて?」 桜花はくすりと魅惑的な笑みを浮かべた。 「鳩尾無銘から受けた傷、まだ完治してないでしょ」 言葉に詰まる斗貴子の横で、防人が被弾し剛太が果てなき攻防に憔悴を浮かべた。 「だいたい、怪我をいうなら剛太クンだってブラボーさんだって一緒だし」 物腰こそ柔らかいが、言外には有無をいわさぬピシャリとした気品のある桜花だ。 「そう。マトモに戦えそうなのは再殺部隊の出歯亀ニンジャだけだっての。だって聞いた話じゃ アイツ、今日が退院予定日だしな。で」 もう一人の無傷たる千歳はすっかり年齢が退行し、防人の後ろで空気の読めぬ応援歌を歌っ たり流れ弾にビビり倒している。斗貴子は見た。桜花がそんな千歳に「ウケて」いるのを。 「数の上じゃこっちが有利だけど、状態を考えたらそれでようやく互角かもね」 それが証拠に誰一人として鐶の羽根の乱射に踏み込めずにいる。 (シルバースキンを持つ戦士長ならこのまま歩いて突入していっても良さそうな物を……) しかしその場に留まっているのは、接近したところで決め手に欠けているのを自覚している せいか。もしケガさえなければたちどころに突入し、一撃の元に倒せるかも知れないが。 「……あ、そうそう。私の療養のために借りていた核鉄、返しておくわ」 桜花が差し出したのは。 シリアルナンバーXIII(13)とLXXXIII(83)の核鉄である。 秋水が無銘と貴信から奪い、根来が持ちかえった物である。にも関わらず先ほどの奇襲の 際、防人がこれらを使っていなかった理由が斗貴子にようやく分かった。 きっと桜花は桜花なりに傷を治そうとし、防人もそれを承諾したのだろう。 秋水が奪還した桜花のXXII(22)のみならず無銘や貴信の物を使い、戦線復帰するために。 「まったく。核鉄三つで治療とは無茶をする。いいか。確かに核鉄には治癒効果があるが、そ れは生命力を強制変換しているだけなんだぞ。使いすぎれば却って死に近づく」 手指を拳銃のようにすぼめて斗貴子は思わず詰め寄った。 「以前、キミが瀕死の重傷を負った時にも三つの核鉄で止血をしたが、それは死の危険が迫 っていたのと、カズキにせがまれたから止むを得ず許可しただけだ。今とはワケが違う」 いかに絶縁破壊によって神経のカバーたる髄鞘(ずいしょう)を破壊され身動きできなくなっ たとはいえ、あくまで入院すれば治る見込みのケガなのだ。生命を削ってまで前線に出てくる 必要はない。斗貴子はそれをいいたいらしい。 「あら。気にしてるのはそういうコトなの? 私はてっきり、『核鉄三つも使ったのだからそれに 見合う戦果を上げろ』とでもいわれるかと思ってたけど」 「上げたければ勝手に上げろ。だが戦えなくなったらすぐに離脱しろ。いいな。カズキに感謝し ているなら無駄に命を捨てるような真似はするな」 皮肉交じりの意見に斗貴子はそっぽを向いた。 「ええ。分かってるわ。それにしても」 「なんだ」 「ずいぶんトゲが抜けたみたいだけど、何かいいコトでもあったの?」 「……確かに最近の私は褒められたものではなかった。すまない」 「あらあら」 桜花から斗貴子へと移った核鉄が。 「戦士長! それから戦士・根来」 核鉄が宙を舞う。シリアルナンバーXIII(13)が防人へ、LXXXIII(83)が根来へ。 頷いた彼らの手へとそれぞれ見事に収まった。 「アレ?」 剛太は首を傾げた。 「キャプテンブラボー、LII(52)の核鉄持ってないんスか?」 「それがだな、火渡から、大戦士長の捜索のために戦士・犬飼にしばらく預けろという要請が あって」 「戦団に返却したそうだ」 吐き捨てるように言葉を継ぐ斗貴子は苦渋満面だ。 「って。こっちが核鉄ない時に相変わらず不条理な。ていうかまだ見つからないんですか大戦士長」 「ああ。だからキラーレイビーズを更に増やして捜索にあたるらしい」 いったい何者が照星をさらったのか。気になるところではあるが、戦闘中に熟考する余地は ない。この会話とて片手間なのだ。 「そっちは分かりましたけど、どうして出歯亀ニンジャに核鉄渡したんですか?」 「戦力やケガの状態からいえば私たちより彼がダブル武装錬金を使う方が確実だからだ。流 石に戦闘中に回復をする余裕はないだろうしな」 「なるほど」 納得がいった。そんな様子の剛太に斗貴子は眉を潜めた。 「ええとだ。一応聞いておくが、ケガは大丈夫なのか?」 「まぁそこそこには」 「そこそこって、……やっぱり桜花のいう通り、完治はしていないのか?」 「まあまあ。俺のコトなんか気にしなくてもいいですよ」 彼は親指を立てて嬉しそうに笑った。 「全ては先輩のためですから」 声と同時に投げた戦輪は羽根を何十枚となく両断し、美しい軌道で剛太に還った。 「先輩に笑顔が戻るなら、多少のケガなんて我慢しますよ俺は」 彼はグっと力瘤をつくるような仕草をすると、柄にもなく真剣な表情をした。もっともそれはすぐにいつもの軽薄な表情になり、わいわいまくし立て始めたが。 「相手が何を仕掛けてこようとしっかり守りますから、先輩は大船に乗った気持で安心して戦っ てください! それと、ちょっと元気になったようで何よりです」 はぁ、と斗貴子は肩を落とした。この後輩はどうしてこうも気楽なのか。 「ならいい! 戦うというのならちゃんと戦士長か私に従ってもらうからな!」 「了解ッ!」 ノリ良く直立不動で敬礼する剛太をよそに、根来は薄く呟いた。 「もうそろそろか……」 そんな短いやり取りの間、羽根の発信源たる鐶側では。 「……ずぶずぶ」 拳、手首、一の腕、肘……と鐶の手が口にみるみると呑まれていく。細い頸が異様に波打ち 巨大な質量を嚥下している所をみると、彼女はどうやら消化器系へと手を入れているらしい。 「ずぶ、ごふっ……ごふ。げほ…………」 ちょっと苦しかったらしい。鼻が咳きこみ虚ろな瞳から数滴の涙がこぼれた。だがえずきな がらも鐶は『何か』を掴んで引きずり出した。 それはポシェットだった。唾液などの分泌液にテラテラと濡れ光っているのを除けば、ファン シーグッズショップの店頭にあっても違和感はないポシェット。 色は白く、大人の拳を縦二つ横二つ並べたような大きさ。 「……これは羽毛じゃないので……しまってました」 誰にいっているのか何を考えているか分からないが、鐶はびたびたのポシェットを大事そうに 肩にかけた。
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「ただいま、まりさ。ゆっくりしてたかな?」 ゆっくりまりさは透明な箱の中から人間を見上げた。 野良ゆっくりである自分が人間の手の中にあるという事実を再認識する。 どうしてこんな事に。 なぜ、こんな事に。 さかのぼる事約10時間前。 お兄さんが朝のゴミ出しから帰ってみると、家に居るはずの無い、黒いとんがり帽子を被った喋って 跳ねるという饅頭と遭遇した。 そいつはちゃぶ台の上に乗り、お兄さんの朝食の残りを口に蓄えようとしている最中だった。 まさにばったり、といった効果音が聞こえてきそうな位だったが、まりさが振り向いて お互いの視線が交差するやいなや。 「ごめんなざいごめ゛ん゛な゛ざいぃぃぃぃぃぃぃ」 口から食べ物をこぼしながら、バスケットボール大の侵入者はそう謝りながら全力で駆け出した。 なんとか人間の脇をすり抜けて元の入り口から逃げ出そうというのだ。 しかし、お兄さんの背後にある勝手口が完全に閉じていることを視認すると、パニックに陥り Uターンして家の中をデタラメに跳ねまわり始めた。 3分後。 あっさりと捕獲された。 「おねがいです!みのがしてくださぃぃぃ。さいきん全然ゴハンがたべられなくて 家族みんながゆっくりできないんですぅぅぅぅ」 会社に遅刻寸前だったことを思い出したお兄さんは、髪をつかまれて吊り下げられて喚くまりさを 手際よく透明な箱にいれて急いで出かけていった。 最近、数が増えすぎた野良ゆっくりの食糧事情は深刻になっていた。 この野良まりさの家族も例外ではなく、番のれいむも子ゆっくりたちも常にお腹を空かせていた。 まりさは家族の長としてそんな状況をどうにかしないと、と責任を感じていた最中に開けっ放しの勝手口に遭遇したのだ。 そろーりそろーりと中を覗くが、人気は無い。 少しだけ。少しだけでいいから食べ物を貰って急いで逃げよう。 家族が大喜びする姿を想像し、行動にうつってしまった。 「寝坊したのも、開けっ放しにしたのもボクが悪いんだけどさ、泥棒は良くないよね?」 まりさの入った透明な箱を両手で運びつつ、中身に話しかけるお兄さん。 「たべものが欲しかっただけなんです。もうしませんからまりさを許してくださいいぃぃぃぃ」 「ダメだよまりさ。悪い事したらさ、罰を受けないと」 廊下を移動した先、ドアを開けるとそこはコンクリート土間の無機質な拷問室。 運の悪いことに。 お兄さんは虐待お兄さんだった。 部屋に唯一あるテーブルの上にまりさ入りの箱を置き、カセット式コンロを用意し始める。 「じゃあ始めようか。足をこ~~んがり焼こうね」 コンロから立ち上る青い炎を目にし、まりさは絶句した。 これからこの炎であんよを焼かれる!? 「やめでぐだざい!ぞんなごどされだら゛もう狩りがでぎなぐなっでじまいまず! 家族が死んじゃいまずぅ゛ぅぅぅ」 ガタガタと箱の中で暴れて抗議するが、お兄さんはどこ吹く風。 慎重に箱のフタをあけると、まりさの髪を鷲づかみにしてコンロの上へ。 「あづいぃぃぃぃぃぃぃ!れ゛い゛む゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 最愛のゆっくりの名を叫びながら底部を焼かれるまりさ。 なんとか熱から逃れようともがくが、お兄さんの両手ががっしりとそれを阻む。 やがて叫ぶ気力も無くなったのか、目をひん剥いて歯を食いしばり、うなるだけに なった頃、まず底部の右半分がすっかり黒焦げになった。 一旦炎の上から離され、お兄さんの目線の高さまで持ち上げられる。 「よしよし。まず半分が終了だ。もう少しだから頑張ろうね」 お兄さんの励ましの甲斐なく、空ろな目をしたままのまりさ。 反応が無いのでつまらなそうに、お兄さんはゆっくりと再びまりさを灼熱の上にかざすと 後半戦の開始の合図が響く。 「いじゃあああああああああ!あづい゛のは、もういじゃああああああああ」 ものの10分程だったろうが、当のまりさ本人には数十時間にも感じられた。 底面を全て黒焦げにされ、ゆぅゆぅと息も絶え絶えになり机の上でぐったりするまりさに 希望が投げかけられる。 「よく耐えたね、まりさ。これで罰は終了だよ」 目線をあげて、お兄さんを仰ぎ見るとそこには爽やかな笑顔。 これで無事開放されるのだろう。 家族の元に帰れる。 しかし。 「でも、まりさは家族の為に泥棒に入った結果こんな酷い目にあったのに、元凶の奥さんや子供が何の咎めも無いなんて… これは連帯責任を負うべきだよ」 まりさにお帽子をそっと被りなおさせて、その上から優しく撫でながら。 「だからまりさ、家族の元に案内してくれないかな。みんなにも罰を受けてもらおう」 自分に対してこんな事をする人間だ。れいむや子供たちには一体どんな罰が与えられるというのだ。 「ぞんな゛事でぎるわ゛げないでじょぉぉぉぉぉ」 即座に拒絶され、まりさを撫でていた手がぴたりと止まる。 「どうしてさ?まさかそんなゲスなゆっくりどもを匿うというのかい?」 「れいむや子供たちの所にお兄さんを連れて行くなんて絶対にしないよ!」 これが先ほどまで息も絶え絶えだったゆっくりだったとは誰が想像もできるだろうか。 その目には家族を守るという強い意志が宿っていた。 お兄さんの笑顔が完全に消え、完全なる虐待おにいさんの容貌へと変化する。 「じゃあゲスゆっくり隠匿の罪でまりさに罰を与えまーーす。案内をしてくれるなら罰は終わるから いつでも言ってね!」 罰だの責任だのともっともな言葉を使ってはいるが、お兄さんはまりさを、いやゆっくりをとにかく 苛められればそれでよかった。 まりさが耐え切れずに家族を売り渡せば一家まとめてヒャッハーー!!だろうし、そうでなければ まりさの精神と肉体が完全に壊れるまでいたぶるつもりなのだ。 机の上にまりさを残し、いそいそと部屋の隅の工具箱から『道具』を用意し始める。 「今回のアイテムはこれに決定」 片手にプラスドライバー、もう片手にはジャラジャラと音のする木の箱を持ち、虐待お兄さんは 戻ってきた。 「刑の執行を開始しまーす」 箱から取り出されたのは長さ約10cm、ねじ径7mmの特製のステンレス木ねじ。 その半ばのあたりまで螺子が切ってある。 「一本目~~」 尖った先端をまりさの左頬に軽くプスリと刺す。 軽い痛みと金属の独特のひんやりとした冷たさに、思わず目をぎゅっと閉じるまりさ。 お兄さんは左手でねじを支えつつ、ドライバーで少しずつ、少しずつ回転を加えていく。 「ゆ゛っ!ゆ゛ぎい゛っ!ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っゆ゛ゆ゛」 ねじは見る間に真ん中までめり込んでいく。 目と歯を固く閉じたまま、ひたすら激痛に耐えるまりさ。 中枢餡に傷が付かない限りはほぼ死の危険が無いゆっくりにとって、一定の長さのねじは苦痛を 与えるだけの実に都合の良い道具だ。 「これじゃあバランスが悪いから、逆の側にも一本追加するね」 わざわざそう言うと右頬にもねじを当て、じわりじわりとめり込ませてゆく。 「ゆ゛ゆ゛っ……ゆ゛ゆ゛っっぅ~~」 涙と涎でグチャグチャになったまりさに口調だけは優しく問いかけるお兄さん。 「うわ~~、痛そうだね。どうかな?家族を許せなくなったでしょ?こんな目にあってるのはキミ だけのせいじゃ無いんだし。責任を一人で背負い込む事は無いんだよ?」 「ま゛り゛ざはれ゛い゛む゛もこども゛達もう゛ら゛んでま゛ぜん。悪い゛のはま゛り゛ざだけ でず」 「ゲスゆっくりたちをまだ庇うなんて、罰が全然足らないみたいだね」 やれやれと大げさに両手を上げて首を左右に振るジェスチャーをすると、お兄さんはねじを更に合計で6本 まりさの頬にめり込ませた。 まりさは途中何度か白目を剥いて気絶したのでそのつど作業は中断し、ペットボトル入りの オレンジジュースを頭のてっぺんからぶっかけられては覚醒した。 30分後、まりさの頬には4対の突起がまるでヒゲのように誕生した。 「ぷっ。くっ、あはははは、ゴメンゴメン。まるでネズミさんのようだったから。チュウまりさとでも呼ぼうかなあ」 相変わらず軽い態度をとるお兄さんをなんとかに睨み返すまりさ。 足は焼かれ、顔にネジが埋め込まれ、それでもまりさの心は折れなかった。 「今日の所はボクの負けさ。それではまた明日、おやすみ。まりさ」 お兄さんは部屋を出て行き、照明が落とされて暗闇に取り残される。 「おちびたち…お腹を空かせているだろうね…ごめん。れいむ、おちびたちをゆっくり頼むよ」 まりさは残してきた家族のことばかりを心配をしていたが、極度の疲労のためか間もなくまどろみに 落ちていった。 「ゆっくりただいま!みんなおかあさんの言うことを聞いてよい子にしてたかな?」 「おとうしゃんゆっくりおかえりなさい!かえってくるのがおそいから、おかあしゃんがとーーってもしんぱいしたんだよ」 「ゆゆ!?ごめんねれいむ…。でもゆっくりできるゴハンがたくさん取れたよ!」 「今日もゆっくりお疲れ様、まりさ。おちびちゃんたちがかたつむりさんが一杯居る場所を見つけてくれたんだよ。」 「ゆっへん!いもうとたちとみんなで、がんばってとってきたんだよ!」 「すごいね!かたつむりさんがこんなに!?こんな豪華な夕飯は生まれて初めてだよ」 「さあ、みんなお父さんの取ってきた分も合わせて分けたらゆっくりいただきましょう」 「「「むーしゃ、むーしゃ。しあわせ~~~~~!」」」 きっとこれからも何度と無く繰り返されたであろう団欒の風景。 きっともう戻れないであろう幸せの風景。 夢であっても見れたのは正に幸運であったろうか。 次にお兄さんが部屋に来たのは翌日の夜だった。 「遅くなってごめんね。お腹空いただろう?なにか食べるかい」 お菓子やらパンやらの入ったビニール袋を掲げて見せるが、まりさは拒絶する。 「ゆうぅ…なにも食べたくないよ」 「そうかあ。まりさのむーしゃむーしゃ、しあわせ~、を見てみたかったなあ」 がっかりした表情で袋を部屋の隅に置くお兄さん。 「…そのうち出来なくなるんだし」 幸運な事に、ボソリと出た言葉はまりさには届かなかった。 次の瞬間には何事も無かったのごとく明るい表情になるお兄さん。 「じゃあ今日は、熱いのとねじねじとどっちにしようね?」 部屋にある棚から道具を選択しながらの質問。 「どんな事をされてもまりさは負けないよ!」 自分はどうなろうとも、家族の元に虐待お兄さんを連れて行くわけにはいかない。 まりさの覚悟は固いままだった。 「案内したくなったらすぐに言うんだよ?じゃあ、今日のメニューはこれ」 右手にはドライバー、左手にはアルコールランプが。 「熱くてネジネジ♪」 仰向けに寝かされたまりさはベルトで机に固定され、微動だに出来なくなった。 お兄さんはアルコールランプの炎の先がまりさの左右の『ステンレスのおひげ』の先に うまく当たるように位置を調節し、点火した。 熱がねじを伝わり、やがて餡子に到達する。 「ゆ゛あああああぁぁあづい゛あづい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」 皮膚を炙られのとはまた別の、直接餡子に熱が襲う激痛が始まる。 じたばたともがこうとするが、しっかりと固定されたベルトの所為で身動きは取れない。 「針灸みたいで、なんか餡子のめぐりが良くなって健康になりそうだね。これじゃあ 罰にならないかなあ?」 熱くて、が完了したのでネジネジの準備をしながら暢気な感想を述べるお兄さん。 「まずは下ごしらえをしないとね」 手にしたのは裁断用のハサミ。 慣れた手つきで金髪をバサバサと切り落としてゆく。 「あのね、まりさ。誤解してるみたいだけど、なにもまりさの家族を殺しちゃうわけじゃないんだよ?」 ジョキジョキジョキ。 「悪いことに加担したのは確かだけど、なにも泥棒しただけで死刑にはならないさ。 それに、ここにキミが来てから丸2日。最初からお腹を空かせていたんなら、もう すごく心配になってるんじゃないかなあ」 ジョキジョキジョキジョキジョキ。 まりさはただ歯を食いしばり、餡子を蝕む熱に耐えるしかなかった。 「だからさ、意地を張らずに家族に会いに行かないかい?」 ジョキジョキジョキ。 まりさの周辺にきれいな金髪だったモノがうっすらと降り積もった。 お兄さんはハサミをしまいに行き、代わりに3面鏡を抱えて持ってきた。 「チャームポイントのおさげだけ残してみました。お気に召しましたでしょうか」 横たわるまりさに見えるように開いた3面鏡が、熱さに悶えるまりさに変わり果てた姿を映す。 「ま゛り゛ざの髪の毛がぁぁぁぁああ」 3方向から文字通りつるつる饅頭が映し出された鏡を両手に、お兄さんはニコニコ笑顔のままで。 「安心してねまりさ。これから素敵な髪型にしてあげるよ。 ああでも、かっこよくなり過ぎて家族にまりさがわからなくなっちゃうかもね!」 いそいそと鏡をドライバーとネジに持ち替えヘアセットを開始する。 …30分後、まりさの頭部には銀色に輝く直毛がまばらに生えていた。 「こんな感じになりましたけど、いかがでしょうかお客様?ってまた気絶してる」 許容量をはるかに超えた苦痛で、とっくにまりさは口から餡子を吐いて白目を剥いていた。 お兄さんはめんどくさそうに餡子を口に入れなおし、オレンジジュースをドボドボと流し込む。 無理矢理現実に引き戻され、ゲホゲホと咳き込むまりさ。 「どうかな?ここまでされても家族を庇うのかい?」 まだ視界がぼんやりとしたまま、昨夜見た夢を思い出す。 まりさはただ黙ったまま、弱弱しくもお兄さんを睨み返した。 「明日も仕事だし、ここまでかなあ。ホンっトまりさは頑張るね!」 アルコールランプの火を消し、新たな頭髪が植えられた頭部にもオレンジジュースを たっぷりとかけてから。 「今日もまりさの勝ちでいいよ。ゆっくりおやすみ」 拘束しているベルトはそのままに、お兄さんは部屋を後にした。 明かりが落ち、再び暗闇に支配される部屋。 頬のねじを熱せられたことで内部の餡子に軽いヤケドが出来たようで、体の内側から ジンジンと痛みが自己主張を続ける。 頭部のねじの痛みはオレンジジュースでかなり緩和されていたが、餡子まではその効果は あまり届かなかったようだ。 まりさは一晩中、鈍痛でうなされ続けて夢を見るどころか一睡も出来なかった。 「ゆっくりおはよう、まりさ。よく眠れたかい?」 「………」 翌日の晩、お兄さんが部屋に入ってきて声をかけてもまりさは無反応だった。 疲労、睡眠不足、飢え、そして痛みと積み重なってきた『ゆっくりできないこと』は 確実にまりさの精神を蝕んでいった。 「無視するなんてひどいなあ。でも今日の罰も気にせず開始するからね」 昨日髪を無残に切り落としたハサミを再び手に、拘束されたままで動けないまりさの前に現れるお兄さん。 ハサミを持たない方の左手でそっとまりさの口に人差し指を突っ込むと、次に親指とで上の唇をつまむ。 次に何をされるかと想像し、必死に顔を逸らそうとするが既に上唇はガッチリとつままれ 皮がビロンと伸びるのが逆に滑稽だった。 「じゃあ今日の罰のまずは下ごしらえ。まりさの唇を奪いまーす。っていってもチュッチュするわけじゃ ないんだけどね」 鼻歌まじりに、摘まんで伸ばした上唇に遠慮なくハサミを入れていく。 ジョキジョキジョキ。 「ねえ、キミの家族ってさ、帰ってこないお父さんの事を自分たちを捨てたって考えて 怨んでるかもしれないよね?」 まりさは目を見開いたまま何も答えない。 その視線は眼前のお兄さんを捉えているわけでも、何かを見ているというわけでもなかった。 無反応のまりさにつまんないなー、とつぶやきつつも作業を続ける。 元々は饅頭の皮なのだから唇はみるみる切り裂かれて、とうとう上半分が取り除かれた。 「歯も歯茎もむき出しで、おおきもいきもい。では続いて下半分もいっちゃおー」 もう何をされてもまりさはなすがままだった。 このまま、まりさは嬲り殺しにされるだろうね。 別に好きにすればばいよ、生きてここを出る事は諦めちゃった。 ただ心残りは残してきた家族の事だけ。 帰ってこない父親を怨んでいるかもしれない。 既に自分の事など忘れてしまっているかもしれない。 それでもとにかく…無事に皆でゆっくりしていてくれればそれでいいんだ。 「はい。これで上手にごーくごーくも出来ないし、ちゅっちゅも永遠に出来ないまりさの完成でーーす」 切り取った皮を無造作に背後にポイと投げ捨ててお兄さんが宣言する。 「でもこんなのはあくまで準備なんだよ。これからまりさには永遠にむーしゃむーしゃ、しあわせー が出来なくなる事をしちゃうんだけど、何か言うことは無いかな?」 ここまでやっておいて、ここまでされても家族のことを言わないまりさに敢えて聞くお兄さん。 こんな風に全身をメチャクチャにされて、もはや自分は『ゆっくり』と言えるのだろうか。 「殺じで……さっさとま゛り゛ざを殺ぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」 「ああ残念。ボクが聞きたかった言葉とは違うなあ」 片手に愛用のドライバーと、もう片手には今度はヒゲや頭髪に比べて細くて短めのネジを。 「では邪魔な唇も無くなったし、歯にねじねじしようかなあ。うんうん、虫歯は無いようだね感心感心」 コツンとネジが前歯に当てられ、グリグリと先端で傷を付けて中心を定める。 ネジ頭にドライバーをあてがい、お兄さんの腕にぐっと力がこもる。 ギギギギ、ギリギリ。 ゆっくりの歯は飴細工で出来ているという。 ステンレス製のねじは多少の抵抗を受けつつも、やすやすと貫通していく。 ギリギリギリギリギリ。 わざとらしく、じわりじわりとしかドライバーを回さない。 「ゆぎぃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ殺ぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛殺じでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」 4cmほどのねじの丁度半分が歯を貫いたところで1本目の処置が完了した。 歯の厚さを差し引いた分、口の内側に銀色の先端が姿を現している。 唇が無いのでよだれが周辺に飛び放題になり、お兄さんの服にもシミを作ったが、大して気にも留めても居ない。 今は虐待という世間一般には絶対に知られてはならない趣味を全身で堪能しているからだ。 このまりさの、この悲鳴は2度とは奏でられない。 全身全霊をもって発せられるこの音を、一秒たりとも聞き逃す事なんてどうして出来ようか? 「んー。全体のバランス的に考えて、それぞれの前歯に1本ずつで8本。今日はあと7本ねじねじって所かな 時間もあんまり無いしどんどん行ってみよ~!」 ギリギリギリギリギリ、ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。ギリギリギリギリギリ。 ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ。 「痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛ 痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛痛い゛ も゛う゛や゛だお゛う゛ぢ帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛帰る゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅう……」 5本目の途中でガックリと気絶したまりさ。 既に傍らに準備されていたオレンジジュースで、間髪入れずまりさの意識を引き戻すお兄さん。 「やあ、おかえりなさい。まりさ」 笑顔のお兄さんの優しい言葉にまりさは。 「ゆ、ゆっくりただいま…。れいむっ!?」 ほぼ数秒意識が遠のいたときに、家族の元に帰れた幻影でも垣間見ていたのであろうか。 だが幸せなひと時も一転、まりさは自分の置かれている状況を再認識して絶望する。 「ゆ゛んやぁぁぁぁぁああ!ま゛り゛ざ帰る゛の゛!お゛う゛ぢ帰る゛の゛ぉぉぉぉぉぉぉ」 もはやただの駄々っ子と化したまりさに、容赦なくお兄さんは残りの作業を開始する。 途中、一旦入ったねじを逆回転させて戻してからまた入れてみたりとか散々したために、全部の前歯にきれいな ねじ頭が生えた頃には用意したオレンジジュースがほとんど無くなってしまうのだった。 翌日、お兄さんが虐待部屋に来たとき、まりさはうっすら開いた目で天井をぼんやり眺めたまま 「帰りたい」とブツブツ呟くだけだった。 「おうちに帰りたいなら連れてってあげるけど?」 というお兄さんの問いかけにも完全に無反応。 はたして、泥棒してしまう前にかえりたい、こんな姿になる前にかえりたい、という意味だったのか もしれない。 お兄さんはため息一つ、固定していたベルトを外しはじめた。 「ごめんね、まりさ。調子に乗ってやりすぎちゃったみたいだ。しばらくゆっくり休もうね。 あ、そうだ。まりだとは別のゆっくりと今暮らしてるんだ。その子たちに会わせてあげるよ。 すごくゆっくりしたいい子ばかりだから、きっとまりさとも仲良くしてくれるよ」 『ヒゲ』や『頭髪』そして『歯の一部』が邪魔なので透明な箱に入れるわけにもいかず、底面を両手で そっと持ち上げてまりさを運ぶお兄さん。 この悪夢の出発点、台所のある部屋に待っていたもの。 「「「「むーしゃむーしゃ、しあわせーーーー」」」」 「おいちいね!すごくおいちいね!」 「ほらほら、あんまりがーつがーつしちゃ駄目だよ」 床に置かれた皿に山盛りのゆっくりフード。 それを囲んで堪能する成体サイズのゆっくり1匹と4匹の子ゆっくり。 お兄さんが部屋に入って来たことに気づくと、一旦食事を中断して振り向いて。 「「「おにいさん、ゆっくりいただいてます!」」」 それまでブツブツと繰り返していたまりさは、その顔を見てガクガクと震え出した。 自分が死ぬ間際に夢を見ているんだろうか? 見間違えることがあるはずのない、愛しいれいむ、子供たち。 どうして今、このお兄さんの家に? 「あれ?どうしたのまりさ。この子達と知り合いかな?」 自分を抱きかかえたお兄さんの言葉にはっと我に帰る。 まずい。知られてはいけない。 絶対に知られてはいけない。 「し、知りません。ぜんぜん知らないゆっくりだよ」 「あ、そう。じゃあこれから紹介するけど…」 先ほどまで団欒していたゆっくりの親子を見ると、まりさを凝視したまま固まっていた。 飾りのおぼうしも無く、髪も無い。 銀色のヒゲに頭髪。 唇も無く剥き出しの歯からはネジが生えている。 なんなのだろう?一体、全然ゆっくりできない。 「これはボクの家に泥棒に入ったゆっくりなんだ。しかも他に仲間がいるらしいんだけど そいつらのことを教えろって言っても庇うゲスなんだ。 だからたくさん罰を与えた結果、こういう姿になっちゃんだよね」 親子はお兄さんの説明を受けても、これが自分たちと同じゆっくりだとは到底信じられないと いった表情だった。 「そしてこのれいむ親子は3日前だったかなあ。朝仕事に行こうとしてたら、すぐそこの所で 行き倒れになってたんだ。 一旦家まで連れてきて、ゴハンだけあげて急いだんだけどまた遅刻で大目玉さ。 で、帰ってきてから事情を聞くと、お父さんゆっくりが狩りに出たまま一晩戻らなかったって。 お腹を空かせたまま夜明けを待ち続けて、それからずーーっとこの辺を探して回ったって」 今度はまりさに親子の事情を説明するお兄さん。 これで納得がいった。 帰らない自分を心配して一家総出で探しにきたのだ。 結果、数日間まともに食べていないゆっくりが遭難するのは当然のことであろう。 ゆっくりの行動範囲は実際は大して広くは無い。 お決まりの狩り場、というのを探そうとすればこのお兄さんに遭遇するのも仕方が無いこと だった。 「じゃあ、みんな一緒に生活するんだから仲良くしていってね」 まりさを大皿の脇に置いて親子の食卓に参加させるお兄さん。 れいむ達はおぞましい姿のゆっくりが改めて間近に来てビクっとしたが、お兄さんが笑顔のまま 一度だけうなずいて促す。 「で、ではあらためて…」 一匹を新たに加えて食卓を囲む一同が声を合わせて。 「「「「ゆっくりいただきます」」」」 まりさは複雑な気持ちだった。 家族全員無事だった事。 ここならなに不自由なく暮らせるだろう事。 しかし、自分が父だと言い出せない事。 さらに、この人間が本当に家族を飼いゆっくりとしてゆっくりさせるだろうかという事。 「「「むーしゃーむーしゃ、しあわせーーー!」」」 ゆっくり特有の習性。 皆が声を揃えて幸せな気分を表現する。 しかし、まりさには出来なかった。 団欒の中でまりさだけが出来なかった。 物を噛むと歯に激痛が走るからだ。 仕方なく少しずつ舌でペロペロとすくいとり、口に運ぶと噛まずに飲み込むことしか出来ない。 今まで味わったことの無い甘味が口内にしっとりと広がるが、何故かしあわせー、な気分に なることは出来ない。 それでも、再び家族とこうして一緒に居られるなら。 そこがまりさのゆっくりプレイスなのだから。 ゆっくりたちのそれぞれの食事の風景を、目を細めつつ見守るお兄さん。 その胸の内では、次はなにをしよっかなー、と無邪気な虐待魂を燃え上がらせていたのだった。 その日の晩、お兄さんも自分の寝室に行き、親子ゆっくり達もゆぴゆぴと安らかな寝息を立てた頃。 「れいむ起きて。ねえ、れいむ。ゆっくりしていないで起きて」 まりさの少し潜めた感じの呼び声で母れいむは目を覚ました。 「だいじなお話があるんだ。まりさは実はれいむのまりさなんだ。みんなのゴハンを集めなきゃって このおうちに入っちゃってこんな事に……。 ここのお兄さんは全然ゆっくりできない人だから、お願いだからゆっくりしないでここから出て行ってね」 まりさはれいむにだけは真実を話しておこうと思った。 れいむは賢く、冷静なゆっくりだからばれる前に子供たちをつれて上手く脱出できる方法を考えてくれるだろう。 「いきなり何を言ってるの!?そんなこと言われてもゆっくり信じられないよ」 れいむのこの答えも当然だった。 目の前のボロクズのような、ゆっくりとさえ言えない様なモノにいきなり旦那宣言されたのだ。 そこでまりさはれいむとの過去の出会い、永遠に一緒にゆっくりする事になったきっかけや 子供たちが生まれてからのことを出来るだけ細かく思い出しながら説明した。 そこまでされてようやく、れいむは探し続けていた夫を見つけることが出来たのだった。 それと同時に、行き倒れていた自分たちを手厚く保護してくれた同じ人間が、ゆっくりに対してこのような 虐待を行うことが出来るのかと戦慄するのだった。 「ゆぁぁ…まりさ…どうしてこんなことに」 「れいむ達が無事で良かった…頑張った甲斐があったよ…」 れいむがまりさの頬にすがりついて今までの分も含めて思い切りす~りす~りをし、2匹はしばらくそのままで 涙を流すのだった。 ようやく落ち着いた後、しばらくお互いに知らないフリをしてチャンスを伺う事にした。 れいむはまた元の子ゆっくりたちが一かたまりになって眠っている場所に戻っていった。 「ゆっくりおやすみ、れいむ」 「ゆっくりおやすみ、まりさ」 ドア一枚向こうのお兄さん 「ゆっくりおやすみ」 2?に続きます。
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キャラクター CVは一部ダメ絶対音感によるものなので完全に確定はしていませんが キャラクター名の横に声優名があるものは公式・雑誌などで確定済みのものです。 ムービーの呼び方を統一させます 初期PV(ファミ通付録DVD) OP(公式オープニングムービー) ラッシュPV(公式ラッシュムービー) PV A(プロモーションムービーA) PV B(プロモーションムービーB) メインキャラクター主人公(CV:浪川大輔) 花村陽介(CV:森久保祥太郎) 里中千枝(CV:堀江由衣) 天城雪子(CV:小清水亜美) クマ(CV:山口勝平) 巽完二(CV:関智一) 久慈川りせ(CV:釘宮理恵) 白鐘直斗(CV:朴璐美) ベルベットルーム関係者イゴール(CV:田の中勇) マーガレット(CV:大原さやか) サブキャラクター堂島遼太郎(CV:石塚運昇) 堂島菜々子(CV:神田朱未) 足立透(CV 真殿光昭) コミュキャラクター海老原あい(CV 伊藤かな恵) 一条康 長瀬大輔 小沢結実(CV 伊藤かな恵) 松永綾音 キツネ 上原小夜子 南絵里 その他諸岡金四郎 柏木典子(CV 大原さやか) 祖父江貴美子 柊みすず 生田目太郎(CV 服巻浩司) 久保美津夫 伏見千尋(CV:前田愛) 江戸川先生 シャドウ陽介の影(CV:森久保祥太郎) 千枝の影(CV:堀江由衣) 雪子の影(CV:小清水亜美) 完二の影(CV:関智一) りせの影(CV:釘宮理恵) クマの影(CV:山口勝平) 美津夫の影 直斗の影(CV 朴璐美) グラフィックなしガソリンスタンド店員(CV:浪川大輔) 河野剛史 南勇太 中村先生 メインキャラクター 事件に挑むペルソナ使いたち 主人公(CV:浪川大輔) 初期ペルソナ:イザナギ アルカナ:? 武器:長剣 高校2年生の少年。 都会で生まれ育つが、ある日両親がそろって海外へ赴任することに。 言葉も通じない土地に移住するよりはと、母方の親戚を頼って稲羽市へと移住してきた。 親戚の家に居候しながら八十神高校に通うことになる。 彼はこの田舎町で、数々の冒険や戦い、 そして大切な仲間たちとの出会いを経験していくことになる…。 ひそかに手品が趣味らしく、菜々子が落ち込んだ時などよく見せている。 前作同様、女たらしの面もあるものの前作主人公ほど神経は図太く無い。 説明書内部のゲーム画面では、「月森 孝介」とされている(詳細はパロディの項を参照)。 クリティカル演出は横薙ぎ→振り下ろし→ジャンプ斬り上げ。 召喚演出はペルソナカードを握りつぶす。 花村陽介(CV:森久保祥太郎) 初期ペルソナ:ジライヤ アルカナ:魔術師 武器:短剣 主人公の同級生。 もとは都会育ちだが、親の転勤にともない半年前に稲羽市へ引っ越してきた。 父親は市内にオープンしたスーパー「ジュネス」の店長。 陽気な性格だが、実は腹を割って話せる友達が少ない。 地元商店街にとってライバルとなる、スーパーの店長の息子だということが大きく影響しているようだ。 女好きで、お調子者的な側面もあるパーティーのムードメーカーで、 なんやかんやといいながら面倒見が良く、協調性に富み、人当たりも良いため、 顔には出さないが、色々と苦労を背負い込みがちである。 とあるきっかけで事件を解決しようと決意し、 その手立てを持つ主人公に、リーダーとなって自分たちを率いてくれるように頼みこむ。 赤いヘッドホンがトレードマークで、のど飴が好きらしく、いつもポケットに持ち歩いている。 クリティカル演出は右袈裟斬り→左袈裟斬り→ジャンプ斬り上げ。 召喚演出はペルソナカードをアクロバティックな斬り上げで斬る。 追撃は自身をコマのように高速回転させて「クリティカルヒット」。 里中千枝(CV:堀江由衣) 初期ペルソナ:トモエ アルカナ:戦車 武器:靴 主人公の同級生で、小学校、中学校と地元で過ごしてきたごく普通の少女。 行動的でよく喋る、人懐っこい性格で、主人公が転校してくる前から、 無用の反感を持たれている花村とも偏見なしに友達付き合いしていた。 押しの強いタイプだが、切迫した状況に立たされると弱腰になる場面もある。 カンフー映画のマニアで、我流の足技を習得してるようだ。 成績は中の下程度。雪子ほどでは無いにせよ割と美人で性格もいいので校内での人気は高い。 よく体を動かしているせいか、食欲旺盛で、特に肉類が好き。 成龍伝説というDVDを大事にしている。 クリティカル演出は二段踏み蹴りからの飛び蹴り(浴びせ蹴り?)。 召喚演出はペルソナカードを後ろ回し蹴り。 追撃は気合を入れたミドルキックで遥か彼方まで吹っ飛ばして「即死」させる。ラッシュPVで見せていた蹴り飛ばしがコレ。 天城雪子(CV:小清水亜美) 初期ペルソナ:コノハナサクヤ アルカナ:女教皇 武器:扇子 主人公の同級生。 稲羽市で老舗高級旅館として知られる、天城屋旅館の女将の娘。 里中千枝と仲が良く、行動を共にすることが多かったが、現在は女将修行の真っ最中。 頭の回転は速いが、周囲の空気を読むのが苦手であり、やや天然ボケな面も。 外見、性格、成績等が軒並み高レベルであり、校内一の人気を誇っていると言っても過言では無いほど。 そのため通称「天城越え」と呼ばれる現象も起こっている。 脂身の多い肉類は苦手だが、カップラーメン、特に赤いきつねのおあげには目がない。 クマからは「ユキチャン」と呼ばれてる模様。 救出後は、ありのままの姿を見せるようになり、よく食べ、よく笑い、たまに暴言も吐く、普通の少女(少し変わっているが)になった。 クリティカル演出は扇を左右に振って斬りつける→ジャンプ斬り上げ。 召喚演出はペルソナカードを扇で浮かせてから回転斬り。 追撃は集中、狙いすまして扇を放ち「クリティカルヒット+気絶付着」。攻撃時の台詞はドスが効いてて怖い。 クマ(CV:山口勝平) 初期ペルソナ:キントキドウジ アルカナ:星 武器:拳・爪 テレビの中の異世界に、一人で住んでいる謎の存在。 少なくとも人間ではなさそうだが、その正体が何であるかは全く分からない。 クマ自身も自分が何なのか分かっておらず、よく一人で頭を悩ませている。 可愛らしい着ぐるみのような姿をしているが、 その中身は空っぽという、よくよく考えると不気味な存在だ。 また、チャックが付いていると思いきや別にチャックを外さなくても頭が外れるという意味不明な構造。 ナビと戦闘にも参加している。ペルソナを会得した事によって戦闘に参加するようになる。 見た目モチーフはハンプティダンプティ? 語尾は「クマ」。後に特訓の末ちゃんとした身体を手に入れるが、やっぱり語尾は「クマ」。 ただし女を口説くときは語尾からクマが消え、声のトーンも変わる。 寂しん坊ならぬ「寂しんボーイ」らしい。 臭いでシャドウやクマの世界に迷い込んだ人間を感知できる。 クリティカル演出は右手で突き→回転切り→ジャンプ切り上げ(着地時に尻もちをつく)。 召喚演出はペルソナカードを回転切りをする。 追撃は飛んで相手に頭を向け回転して「クリティカルヒット」なぜかキメポーズをする。 巽完二(CV:関智一) 初期ペルソナ:タケミカヅチ アルカナ:皇帝 武器:鈍器(PVではパイプ椅子を装備) 八十神高校の生徒で、主人公よりも一つ下の学年の一年生。 "中学時代に一人で族を潰した"と噂されており、札付きの不良として稲羽市にその名を轟かせている。 しかし、その噂からも分かるように徒党を組んで悪さをするようなタイプではない。 今どき珍しい、硬派な不良のようだ。よく間違えられるが暴走族の類ではない。 逆に、騒音による不眠症で悩む母親のために暴走族を潰したという猛者である。 長身に鋭い目つき、鼻ピアスといったゴツイその外見に反し、一般的にいって女性が嗜好する趣味・趣向を持っている、いわば「オトメン」。 幼い頃は野球等のスポーツよりおままごとを好み、女性以上に裁縫や絵画が得意なため、 それをからかわれ続け、周囲から孤立し、シャドウを産み出してしまう原因となってしまう。 その趣味は現在も変わるどころか、さらに高いスキルを持っている。 クマやキツネなどのふさふさした可愛いものが好きな、動物好きでもある。 完二本人はホモというわけではなく、見た目とギャップのある趣味を馬鹿にする女性を嫌い、 男といたほうが楽、けれどそれもやはり、本来の姿をひた隠しにしての結果であり、 ありのままの自分を周囲に受け入れてほしいという、抑圧された意識と上記の事情からあのシャドウが生まれてしまった。 歳相応の男子高校生らしく、エロスな事柄には鼻血を出す事も。 女性に対しては雪子や千枝には好意的な反応を示す反面、近所付き合いのあるりせとは腐れ縁的な関係のためか、反応が薄い。 しかし、直斗のこととなると時折、超反応を返すほど。 シャドウの時のことをネタに延々と陽介にいじられては、豪快にキョドり、暴走して結果自滅する。 千枝、クマ同様の大食。 どうやらそれは、常に食卓に五人前以上の料理を満載する母親の影響らしい……。 女手一つで育ててくれた母親に対して、人前では強がるが、実は全く頭が上がらず、 たった一人の肉親ということで、ことのほか大事にしている。 ……同時に、素行の良くない自分のことで迷惑をかけていることで後ろめたく思っている部分も。 クリティカル演出は近距離で武器投げ→ケンカキック→スマッシュ。 召喚演出はペルソナカードを武器で薙ぎ払う。 追撃はジャンプして地面に衝撃を与えて「敵全体にクリティカルヒット」。 ペルソナのデザインは「感電によるレントゲン状態」というコンセプトだと思われる。 久慈川りせ(CV:釘宮理恵) 初期ペルソナ:ヒミコ アルカナ:恋愛 全国区で名前が売れている、人気絶頂の準トップアイドル。 数年前に芸能オーディションで優勝し、彗星の如くアイドルデビューを果たした。 都会で活動を続けていたが、突如八十神高校の一年生として転校してくる。 テレビCMにも起用され順風満帆だった彼女に、どのような事情があったのかは一切不明だ。 実は、稲羽市出身らしい…。 スタイル抜群で、いわゆるアイドル体系である。 そのペルソナは、呪術に優れ、未来を予見したという邪馬台国の女王の名を冠しているためか、 その役割は直接戦闘ではなく、探索補助・索敵等のナビゲーションである。 救出後、主人公に好意をもったらしく、ことあるごとに積極的にアピールしてくるため、 他の女性キャラ(特に千枝)からはやや危険視されている。 職業柄、鬱積したものが多く、酔うといろいろ危険なカミングアウトを始めてしまう。 ちなみに彼女の料理は通称「溶岩」。 本人の嗜好がそうなのか、とにかく辛くて鈍痛がするらしい。 アイドル業の時とは異なり、実家である豆腐屋の店番をしている時は割と地味、 そして意外にも生真面目で、自分の家の豆腐に誇りを持っている。 白鐘直斗(CV:朴璐美) 初期ペルソナ:スクナヒコナ アルカナ:運命 武器:銃 高校1年生。 連続怪奇殺人事件への捜査協力を求められ、定期的に稲羽市を訪れている。 そのためか、事件にまつわる場所で、何度も主人公たちと出会うことになるようだ。 どうやら事件の核心につながる手掛かりをつかんでいるようだが、その詳細は謎である。 大正時代から名探偵を輩出してきた名家・白鐘家の若き5代目(携帯用公式ページ情報)。 テレビで「探偵王子」と呼ばれて取材を受けるほどの有名な探偵少年らしい。 探偵として5代目なのか、単に家の跡継ぎとして5代目なのかは、現時点では不明。 持っている銃(形状からしておそらくニューナンブ)が、法的に認められているのかどうかは不明。 セリフの端々から、一匹狼タイプの匂いがうかがえる。 ズボンの裾を折り返していたり、底の厚い靴を履いていたりと、チビキャラ疑惑が濃厚。 寒がりなのか、冬はコタツとホットカーペットを同時に使うらしい。 クールなキャラを装っているが、実は内心どうにもならない悩みを抱えてたりする。 クリティカル演出は銃撃しながら接近→標的を蹴り上げてダウン。 召喚演出はペルソナカードを銃で撃ち抜く。ある意味で前作の召喚演出に近い。 ベルベットルーム関係者 導き手たち イゴール(CV:田の中勇) シリーズでお馴染みの老人、ベルベットルームの主である謎の人物だ。 主人公は、このイゴールの力を借りることでペルソナの合体を行う。 今回はタロットカードで主人公の運命を占ったりしている。 今回のベルベットルームはリムジンの中。 3に比べてよく喋り、よく笑うようになっている。 マーガレット(CV:大原さやか) アルカナ 女帝 イゴールの助手。 マーガレットは、生み出したペルソナをリスト化し、 お金と引き換えにいつでも呼び出せる"ペルソナ全書"を管理している。 主人公の心そのものであるペルソナに乗りたいがために「炎をぬるく」しようとしたり、全く掛かってない謎掛けをしようとしたり、 即興でいい話を考えて披露するも肝心な所で噛んで拗ねたりと 前作のエリザベスに負けず劣らず天然なところがある。 「ペルソナ アインソフ」にも出張中 元ネタはエリザベスと併せ「若草物語」と思われがちだが イゴール・エリザベス・マーガレット全て映画「フランケンシュタイン」「―の花嫁」である(出典:ペルソナ倶楽部3) サブキャラクター 主人公の周辺関連 堂島遼太郎(CV:石塚運昇) アルカナ:法王 主人公の母の弟で、娘の菜々子と二人暮らし。 仕事一筋で眼光鋭く、口調もややぶっきらぼうだが、 両親の仕事の関係で、環境が突然変わった主人公を温かく迎え入れる。 職業は刑事。 年齢は定かではないが、主人公とはそれほど年が離れているわけではない(兄貴というほうが近い)そうなので、 おそらくまだ30代と思われる。 職業柄、不良少年の完二のことには詳しい(少年課の刑事ではないが)。 捜査において、物事を「偶然」で済ませないことをポリシーとしているらしく、 時期や交友関係から主人公を疑わざるを得ない状況に悩んでいる。 服のセンスはイマイチで、菜々子は面白がり、主人公はやや閉口気味なようだ。 家事はほとんどできないが、コーヒーを入れるのだけは一家で彼の役目らしい。 堂島菜々子(CV:神田朱未) アルカナ:正義 堂島 遼太郎の娘で、小学一年生。 主人公の従妹にあたり、やや人見知りはするが、素直で純粋な性格。 まだ幼いが、仕事が忙しくてしょっちゅう家を空ける父に代わり、家事をこなすしっかり者。 が、1人で料理は危ないからとの理由で朝食の目玉焼き程度の物意外はお惣菜などを買っている。 近頃、市内にオープンした大型スーパー「ジュネス」に興味津々。 クラスのブームであるジュネスのテーマソングを特に好み、ことあるごとに歌う癖がある。 彼女のジュネス好きは店長の息子・花村をも感動させる。 ゴールデンウィークをきっかけに、主人公の仲間たちとも親しく付き合うように。 …実は非常に感覚が鋭く、彼女の何気ない言葉が、後に真相を暴く手助けとなる。 足立透(CV 真殿光昭) 堂島の部下の新米刑事。 死体を見て、吐いてしまったりするあたり、あまり気の強いほうではなく、 捜査情報を一般人に漏洩しまくり、よくジュネスで一息ついているなど、 職務にあまり熱心な方ではない。 その辺、仕事一筋で家庭をほとんど顧みようとしない、堂島とは対照的。 度々、堂島宅に上がって主人公達と一緒に夕飯を食べる事もある。 今年、本庁から転勤してきたらしい。 コミュキャラクター 絆を育む人々 海老原あい(CV 伊藤かな恵) アルカナ:月 運動部マネージャーだが、それは単位のためで、実質活動はしてくれない。 今時の遊んでる女子高生です的な外見。素行不良でよく授業を抜け出している。 実はあるトラウマを抱えており、彼女の過去は今の姿からは想像できないほど酷い物だったらしい。 庇ってもらったことをきっかけに、運動部の2人のどちらかに好意を抱くが……? 一条康 アルカナ:剛毅 バスケ部部員でスポーツ万能なだけでなく、顔もよく頭もいいという 要領のよさで、女生徒たちにモテモテ(ただし、本人曰くいい人どまり)。 人当たりが良いため、男子生徒の友達も多い。 …顔が広いせいか、よく合コンなどをしているようだが、 実は、主人公もよく知るある人が本命。 バスケに対する意識は高く、用具の手入れなどもきっちりしており、その真摯さがうかがえる。 やる気のない他の部員たちに頭を悩ませているが…? 実家は名家だが、実は後継ぎとして孤児院から引き取られた養子。 長瀬大輔 アルカナ:剛毅 サッカー部部員。 才能はあるが、どうも全力を出し切っていないようで、 用具の手入れや後片付けなどもかなりいい加減な模様。 一条と合わせて、女生徒に人気があるが、女性嫌いの硬派で有名。 …むしろ、女性を避けているようにさえ思える、冷たく透徹した態度には訳があるようだが…。 小沢結実(CV 伊藤かな恵) アルカナ:太陽 演劇部部員の2年生。 部内では群を抜いて演技力があり、そのためか非常に自信家で、馴れ合いの多い部内のムードを嫌っており、 部長の彼女というだけで副部長になっている1年先輩の女生徒に対しては、挑戦的な態度を取ることが多い。 その陰には、「自分以外の人生を送りたかった=自己からの逃避」というジレンマを抱えている。 松永綾音 アルカナ:太陽 吹奏楽部部員。 演劇部と二者択一。 いつまで経っても演奏が上手くならず、全く活躍出来ず、 雑用に徹してばかりの自分に不満があったが、才能のなさを理由にずっと逃げている。 演奏会への出演者に選ばれたことをきっかけに、そんな自分を変えようと努力し始めるのだが、結局……。 キツネ アルカナ:隠者 辰姫神社で出会う謎のキツネ。 どうやらボロボロになった神社を再建したいらしく、お金(お布施)を必要としている。 目つきが非常に悪いが、仕草はとても可愛い。 何故か不思議な力を持つ葉っぱを多数所持しており、ダンジョンにも現われ、 回復係として、主人公たちの手助けをしてくれるようになる。ただしきっちり有料。 また、コミュランクが上がれば回復料金も安くなる。 ……が、動物らしく、非常に気分屋。 上原小夜子 CV 村上仁美? アルカナ:悪魔 稲羽市立病院で働く看護士。 妖艶な女性で何かと主人公を色仕掛けで誘惑してくる。 ある条件を満たさないとコミュは発生しない。 南絵里 CV 村上仁美? アルカナ:節制 夫の連れ子である義理の息子との付き合い方が分からないらしい。 また主人公と同じく、都会からやってきたことと、後妻という立場から、 周囲から馴染めずにいる。 その他 八十神高校関係者 諸岡金四郎 CV 龍谷修武 主人公、花村、里中、天城の担任。 "えんえんと長い説教をする先生"と有名。 かなり石頭で、高圧的な説教はもはや毒舌の域。 担当教科は倫理。 主人公の部活を「出会い目的」と認識しているが、 実際そのとおりなので言い返せない(コミュ的な意味で)。 生徒間でのあだ名は「モロキン」。 生徒達を容赦なく罵倒したり死んだ人間の尊厳を傷つけたり、 「腐ったミカン帳」なる反抗的な生徒のリストをつけていたりと、人間的にも救いようが無い。 後にこれが、最悪の事態を引き起こす事となる(言ってしまえば、自業自得ではあるが)。 曰く、主人公は都落ちした落ち武者。 余談では女好きで、天城雪子に目をつけ、久慈川りせの写真集なども買っていた。 …どうやら、未だに独身のようだ。 柏木典子(CV 大原さやか) 7月11日から担任となる先生。 若い子を目の敵にしている、少々自意識過剰な女性 地味に40歳を越えているらしいが… 大谷と仲がいいようだ 祖父江貴美子 八十神高校世界史教師。 エジプトのファラオみたいな被り物(メネス)をしている。 一人称が「わらわ」。 見た目に反し授業内容はかなりマトモで、生徒への態度も丁寧なのでウケは悪くない。 生徒間でのあだ名は「カーメン」 趣味はダウジング。 実は3に登場したある人物と非常に深い関係がある。 事件関係者? 柊みすず 演歌界の若きプリンセス。 生田目太郎(CV 服巻浩司) 市議会議員。昨年柊みすずと入籍した。 稲羽市に移り住んだようで、商店街では度々姿を見かける。 久保美津夫 他校の男子生徒。物語序盤で雪子にいきなり告白、そしてあっさり振られ勝手にキレて去って行った。 根暗で、引きこもりがちな生活のためか肌は真っ白、目は全体的に黒目勝ちで焦点が合っていない印象がある。 大きな事ばかり周りに吹聴するも、その実、自分は何もできず、それでいて周りを完璧に見下していると人間的にも救いようが無い。 物語中で起こすある事件から、主人公達に関わる事となるが…… 旅先で出会う人々 伏見千尋(CV:前田愛) 修学旅行で出会う私立月光館学園の生徒。 雑誌による前情報では「利発そうな女子生徒」との紹介であったが、 陽介曰く「一番の眼鏡美人」で完二すらはっきりと「可愛い」と言った。 が、しっかりしてると思いきやどこか抜けてる所はあまり変わってないようだ。 公式仕掛けのマヨナカテレビ7/8分の発表で千尋である事が確定。 江戸川先生 修学旅行で特別授業を受け持つ私立月光館学園の保険医兼科学教師。 女神異聞録ペルソナの黒瓜に引き続く、アトラス社員をモチーフにしたキャラクター。 「ヒヒヒ……」という笑い声が特徴で、オカルトに精通している。 P3では体調が悪い時か風邪の時に尋ねると、実験台にされるというステータス上げイベントがあった。 シャドウ 異形の存在たち 陽介の影(CV:森久保祥太郎) 名前通り陽介のシャドウ。変化前は目が不気味に輝き、いつもとは違い邪悪な笑みを浮かべていた。 暴走形態はジライヤが大型化したような姿で、下半身が大蝦蟇。 陽介が抱える「退屈なものを破壊したい」という感情が具現化された姿。 弱点が電撃系統。戦闘は主人公一人で行うが、ジオを当てれば全く相手にならない。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウ陽介」という名だった。 千枝の影(CV:堀江由衣) 変化前は千枝そのものだが、口調がやや高圧的。 影の様な外見になった千枝から鎖が伸び、その上に鎖を握った女王の様な立ち居振る舞いのトモエが座る。 千枝の抱える「雪子に頼らせたい」という欲望が具現化された姿。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウ千枝」という名だった。 雪子の影(CV:小清水亜美) 変化前は豪華なドレスに身を包み多少過激な性格を出していた。 下部に蝋燭が灯されたシャンデリアのような豪著な鳥籠に、雪子の頭部をもった赤い巨鳥が入っている。 その姿はまさに、「籠の中の鳥」と言えるだろう。 胸部に白い部分があり、ハート型になっている。 雪子が抱える「役目から逃避したい」という願望が具現化された姿。 完二の影(CV:関智一) 変化前は褌姿で顔を赤らめ、口を尖らせながらレポートをしているどう見ても「ソッチの人」な外見。喋り方もオカマ臭い。 首の代わりに沢山の薔薇の花を咲かせた、肉団子のような白黒の巨人から完二の上半身が生えている姿。 横にガチホモブラザーズ(ナイスガイ、タフガイ)を引き連れている。二体とも地味に強い。 一度倒されても、なおも「男」に受け入れてもらおうとした。 完二の持つ「誰にも拒絶されたくない」というトラウマが具現化された姿。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウ完二」という名だった。 りせの影(CV:釘宮理恵) 変化前は水着姿でツーサイドアップの髪型で、本人よりスタイルがよくなっている。 ポールダンスをするストリッパーの様な極彩色で、頭にりせの髪があるヒミコの顔をした女性型シャドウ。 HPが一定以下になると「マハアナライズ」という専用スキルを使い、 以降は一切攻撃が通用しなくなる恐るべき敵。 最終的にクマの特攻で倒された。 りせの持つ「誰も本当の自分を見てくれない」という悩みが具現化された姿。 クマの影(CV:山口勝平) 変化前は少し巨大なクマそのものだが、目が不気味に鋭くなっている。 クマが大型化したような感じで、腐ったパンダみたいな姿。 そのひび割れた顔の奥から、青く不気味に光る眼を覗かせている。 すごくドスの利いた声で喋る。クマとは違い、ネガティブな言動が目立つ。 クマの中にある不安感を象徴したものと言える。 クマの持つ「本当の自分などいるのか」という疑念が具現化された姿。 初期PVやラッシュPVでは「シャドウクマ」という名だった。 美津夫の影 変化前は美津夫そのもの。シャドウになってもやっぱり根暗。本体よりちょっと悟った事を言うがそれでも根暗。 自らを「自分には何も無い、カラッポだ」と言う。 大きな白い赤ん坊の頭の周りに文字化けした文字列が回っているシャドウ。 その姿は、精神的な幼稚さ・何もかもが未熟で「無」でしかない美津夫自身を大きく表していると言える。 開始直後に「キャラメイク」という技で速攻引きこもる。シャドウになってもやっぱり(ry 最後まで美津夫に受け入れてもらえず、消滅した。 美津夫の持つ「大きな虚無感」が具現化された姿。 直斗の影(CV 朴璐美) 変化前は袖が余った白衣を着て、直斗自身の二面性を象徴するかのように泣きじゃくったり急に冷静に核心を突いたことを言う。 直斗がそのままアニメのロボットの様な姿になったシャドウ。 直斗の持つ「カッコいい大人の男になりたい、見られたい」というどうしようもない願望が具現化された姿。 なお、完二の影と同じく、倒されてからもセリフがあった。 グラフィックなし 稲羽市の住人たち ガソリンスタンド店員(CV:浪川大輔) 堂島、菜々子に引き続いて、稲羽市にやってきた主人公を出迎えてくれた人物。 非常にフレンドリーな性格で、主人公をスタンドのバイトに誘いつつ、握手を求めてくる。 その後も、雨の日の街に出現する。 河野剛史 戦車コミュに登場する、里中千枝の幼馴染。 千枝からほのかな想いを寄せられているが、本人は全く気付いておらず、天城雪子に憧れている。 千枝をダシに雪子に近づこうとする、テンプレートなタイプで、 ある意味、千枝のコンプレックスを生み出した原因とも言える。 千枝とは幼稚園から中学校まで同じ学校だったが、現在は他校に通っている。 外見からすでにチャラ男で、どこか人を小馬鹿にしたような物言いをしながらも、 主人公にそれを一喝されると慌てたり、カツアゲされても手も足も出ず、 おまけに庇ってくれた千枝を置き去りにして逃げ、その後、全く悪びれないで姿を現すなど、 ともかく情けない言動が目立つ。 最後には、雪子に対する不用意な発言で、千枝からも見離されてしまう。 はっきり言って、自業自得である。 南勇太 節制コミュに登場する、南絵里の義理の息子。 主人公のバイト先である学童保育に通っている。 周囲の談によれば、成績も悪く、粗暴で、問題行動が多く、 自己中心的なところがある、かなりの悪童だが、根は悪くない。 絵里に対して、態度が悪いのも、子供なりに気を使っているからである。 中村先生 勇太の担任。 父兄には良い先生として評判がいいらしいが、 勇太に手を焼かされているのと、継母である絵里への偏見からか、 かなり失礼な物言いをする、底意地の悪そうな女性。 ◆声優 服巻浩司 福原耕平 伊藤かな恵 吉川未来 臺奈津樹 龍谷修武 坂熊孝彦 遠藤智佳 島田知美 高橋剛 村上仁美
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田所実徳は手に負えない学生だった。 「つまんねぇなぁ……」 自分の机の上に足を乗せ、心底退屈そうに椅子を揺らしていた実徳の一言だけで授業中の教室の 空気が一変する。黒板に板書をしている途中だった老教師はピクリと肩を震わせ、殆どの生徒達は 関わり合いは御免だとばかりに背中を丸めて教科書で顔を隠し、同世代の少女の『突然の引っ越し』を 何度も経験した女生徒達に至っては恐怖で全身を硬直させる。 そして実徳の取り巻きを自称する数人だけが目を輝かせ一斉に腰を浮かせた。 「だよなぁ、気晴らししようぜ!」 「じゃあ、この前の店とかどうかよ?」 「行くよな? なっ?」 口調こそ対等っぽいが、彼らの声色は皆一様に実徳に媚びるそれだ。地方都市とはいえ繁華街周辺の 土地の利権を握る大地主(儲けのために金に物を言わせ、自分の土地に駅を誘致したとも言われている)で、 叔父が市会議員でもある田所家の一人息子の側で機嫌を取ってさえいれば遊ぶ金に困ることもないし、 上手くいけば何の苦労もなく田所の会社の一つにでも入れるかも知れない。 そして、そこで実徳の名前を使えば生涯安泰も夢ではないだろう。 勉強をする気も無い彼らが毎日マメに登校しているのも、出席日数でも勉強でもなく実徳との接点を 持ち続けて濡れ手に粟を狙っているからであり、こういう機会があれば我先にと実徳に便乗して只で 遊ぶために他ならないのだ。 「そうだなぁ……」細面で全体的に華奢な実徳は、靴の踵でドンドンと数回机を叩いた後に大きな音で 席を立ち、大袈裟なほどの動きで肩を怒らせ教師の存在など気にもしていない大股で教室の外へと向かって 歩き出した「……じゃ、ちょっくら顔でも出してみっか。もう開いてるんだろ?」 「お、俺オーナーに電話してみるよ!」 「じゃあ、俺は一年に招集かけっから!」 おう、と取り巻き連中の慌ただしさに満足そうな声を出す実徳。 実徳自身、不良を気取ること以上にチヤホヤと持ち上げられ御山の大将気分を味わうのが好きなのだ。 そんな自由奔放な日々を親の金と七光りで謳歌していた実徳だったが、とある週明けの早朝に彼の 人生は一変してしまう。 「あ~眠ぃ」 「ンだよ、もうこんな時間かよ」 「学校、どうする?」 「お前らだけ行ってこいよ、俺は帰って一眠りしてから考えっから」 行きつけのバーで夜が明けるまで騒いだ実徳は眩し過ぎる朝日に目を細めながら大あくび。遊び 疲れた所為で煩わしくなってきた取り巻きを学校に行かせ、タクシーでも捕まえようと重い足取りで 大通りへと一人で向かうことにした。 「田所実徳さん、ですよね?」 だが数歩も進まないうちに横合いから声を掛けられ足を止められた。 「あぁ!?」 実徳の出した声は返事ではなく威嚇である。この界隈で有名な田所の御曹司に大した用もなく声を 掛けたり、ましてや寝不足で疲れた所に邪魔をするような無知な輩など存在するはずなどないと思って いたのだから、不機嫌さを隠そうともしないのは当然だ。 「貴男に非常に大切なお話があって、お待ちしておりました」 「…………あぁ?」 次に実徳の口から出たのは何とも間も抜けた声だった。 彼が振り向いた先に立っていたのは彼自身より少し上らしい年頃の、しかも裾も袖も長い西洋の 給仕服を着込みカチューシャまでつけた場違いにも程があるメイドだったのだ。 そして彼女の後ろには黒塗りの高級車がアイドリング状態で控えている。 「ンだよ、朝っぱらから新手の客引きか?」睡眠不足な頭でどんなに頑張って理解しようとしても、 精々その位しか解釈のしようが無い光景である「うぜぇから消えろっつんだよ! つか俺が誰だか 本当に分かってンのかお前!?」 「ですから最初に確認させて頂きました。田所実徳さんで間違いないと存じますが?」 荒げた声に全く動じる気配を見せず話す冷淡な口調だけでも腹立たしいが、それ以上に女が自分に 向けて来ている汚物を見るような視線が逆鱗に触れた。 「だったらなんなんだよ、あぁん!?」 怒気も露わに、アルコール臭い息を吐きながらメイド少女に詰め寄る実徳。 「失礼ですが、耳がお悪いのでしょうか? それとも残念なのは頭の中身ですか? 大切なお話が あるのでお待ちしておりましたと先ほど……」 「舐めてんのか、このアマぁ!!」 男と女では体格が違う。年齢では負けていても背丈で勝っている自分にゼロ距離で怒鳴られても 微動だにしない女の胸ぐらを掴んで吊し上げようと腕を伸ばす実徳だが。 「……どうやら、本当に残念な頭しかお持ちでないようですね」 はぁ、と目の前の女が呆れ果てた溜息を漏らすと同時に実徳の視界が反転して…… 「……ちゃったんじゃないんですか?」 「そんなことは……が……て……普通に……」 「でも、全然目を……………様に……」 「その必要は……不足とお酒……から大丈夫……」 自分を囲んでいる複数の気配と、姦しい話し声で実徳の意識が浮上してきた。 「…………くそっ!」 それと共に後頭部の鈍痛を感じ、目を開けるより先に腹立たしげに頭を振るう実徳。 「あ、動いた!」 「だから言ったでしょう? この男の鍛え方が足りないだけなんですよ」 「でもぉ、アスファルトに叩き付けるなんて少しやり過ぎな気もぉ……」 「先に手を出した訳ではありませんから正当防衛です」 「……確かにいい気味だとは思いますけど、傷物にしちゃったら……」 「その程度の分別はあります。か弱い女性に問答無用で手を上げる輩には丁度良い薬と……」 「……るっせぇなぁ、頭に響く声で何騒いでンだよ……っ!」 痛む後頭部を手で摩りながら上半身を起こすと、実徳は見慣れない部屋で数人のメイド服に囲まれ 見下ろされていた。 「目を覚まして早々、悪態がつける程度の元気があれば心配は要りませんね。間違っても歓迎は いたしませんが、とりあえず儀礼的な挨拶だけはして差し上げます。いらっしゃいませ」 その中の一人、気を失う直前に実徳が掴みかかろうとした女が汚物を見下すような目で感情の欠片も 篭もっていない声を掛けてきた。『いらっしゃいませ』と言われたと言うことは、この女の家か関係先に 担ぎ込まれたらしいが、それ以外は訳が分からないことだらけだ。 まだ完全には回復しきっていない頭を回転させながら改めて周囲を見渡すと、実徳いる場所は 四畳半程度の質素な洋室だった。自分を取り囲んだメイド達の隙間から見える室内には小さな衣装箪笥と 簡素な机と椅子のセット以外の家具はなく、綺麗に磨かれたフローリングの床の輝きと相まって生活臭を 微塵も感じさせないモデルルームかビジネスホテルの一室のよう。 あと分かることと言えば唯一の窓から覗く景色と日差しのお陰で部屋が地上階ではなく、かつ南向きで 比較的過ごしやすいらしいということだけだった。 「ンだよ、ここは?」 「そのアルコール漬けで空っぽ同然の頭では理解できないと思いますが、一応は尤もな疑問なので 親切に教えて差し上げます」と口を開いたのは、やはりあの女「勿体なくも貴男如きとご学友であらせ られる新庄政幸様のお宅の空き部屋です」 「……新庄? 誰だよそれ?」 「えぇっ?」 「知らないって……自分のクラスの委員長の名前も知らないとか……」 「わかってたつもりだけど……流石にありえないよぉ!」 と、一斉に騒ぎ始める実徳と同世代っぽい他のメイド少女達。 「ごちゃごちゃ言うなっ! 知らねぇモンは知らね……っつぅ……!!」 大きな声を出すと頭が痛む。 「聞きしに勝る放蕩ぶりですね。まだ野生の猿の方が文明的に見えるほどです」 他のメイド達も同様に感じているのか、皆一様に冷めた視線を実徳に注ぎつつ黙ったまま。 「な、なんなんだよ、なんなんだよこれ……くそ……っ!」 ずっと太鼓持ちという壁に守られ煽てられる人生だけを送り敵地という存在とは長らく無縁だっただけに、 到底好意的とは言い難い目を四方八方から向けられた実徳の気迫は見る見る萎んでしまう。 まるで丸裸にされてしまったかのような居心地の悪さに俯き、口の中で悪態を繰り返すのみ。 「お、覚えてやがれ……あとで、必ず……」 メイド達のリーダーらしい生意気な女はおろか、他の少女達の顔すら怖くて見ることが出来ない。 「うわ、かっこ悪ぅ~!」 「女の子相手に『覚えてろ!』なんて、ヘタレすぎだよぉ……」 「本当に見た目倒しなんだ。政幸様の方が数倍は男らしいです」 心が折れそうな実徳の背中に容赦ない言葉が次々と突き刺さって胸を貫通する。 「うるせぇ……うるせぇ……ここを出たら、後で纏めて犯してやる……」 頭痛が収まって、この家を出たら必ず仕返ししてやる。仲間を集めて手籠めにして輪姦して写真を 動画を世界中にバラ撒いてやる。もちろん、ここにいる女全員だ。二度と表を歩けなくなる位に汚して 孕ませて腹を蹴って…… 「残念ですが、もはや貴男には後も先もありません。反吐が出そうなほど見苦しい現実逃避も大概に して頂けませんか?」 「ぐあっ!?」 茶髪を掴まれ引っ張り上げられた実徳の口から情けない声が漏れる。数に頼っている時ならいざ知らず、 弱い相手を痛めつけた事は数知らずあっても自分より強い者から苦痛を与えられた経験など無いに等しい 実徳は、まるで牙を爪を持たない小動物の様に無意味に藻掻くだけ。 「いかに政幸様のご所望とは言えど我慢にも限度があります。私の見立てで五体満足と判断させて 頂き、このまま政幸様の御前に引っ立てて参ります!」 「は、はいっ!」 リーダーの怒気に恐れをなしたメイド少女達はモーゼの海割りのように慌てて道を作り、中の一人が 弾かれたように廊下に続く扉に駆け寄って恭しく腰を折りながら開く。 「あなた達も一緒にいらっしゃい。政幸様の御前で、この屑に身の程という言葉の意味を徹底的に 叩き込みます」 はいっ! と恐ろしいほど見事に揃ったメイド少女達の返事。 そのままゴミ袋か何かのように廊下を引きずられ、自分の足で立ち上がる暇も与えられず階段を引っ張り 上げられ、全身を汚され服をボロボロにされブチブチと髪を何本も引き抜かれながら生意気なメイド女の 細腕一本で実徳が連れてこられた場所は二階の一室だった。 ドラマかで見かける学者か医者の書斎を思わせる本棚だらけの広い部屋。飾り気こそ無いが高級そうな 木製の家具に囲まれた室内の一番奥で、これまた年期が入っていそうな大きな机でペンを走らせていた 少年は、ボロ雑巾のようになってしまった実徳の姿に驚きもせず穏やかな笑顔で顔を上げた。 「ご苦労様でした、佐久間さん」 いや、それどころか実徳の姿など眼中に入っていないようにメイドの方へと労いの言葉を掛けた。 「勿体ないお言葉でございます」 「っつっ!?」 深々とお辞儀をしながら無造作に髪を解放され、床で頭を打った実徳の口から呻き声が漏れる。 そして、そんな実徳を佐久間の後ろに控えたメイド少女達がクスクスと嘲笑う。 「て、てめぇら……!!」 「さてと……」安っぽい恫喝など聞くに値しない、とばかりに遮って実徳の同級生らしい新庄政幸と 思しき少年が眉一つ動かさず実徳を見下す「……いま詳しい説明をしても聞く耳は持たないっぽい様子 だし、結論から先に言わせてもらうけど……田所君は僕の所有物になったから」 「はぁっ!?」 痛む節々に顔をしかめながら床に立ち上がろうとしていた実徳の動きが途中で止まる。 「要するに売り飛ばされたのですよ貴男は。本当に察しが悪い屑ですね」 「な、な……!?」 「と言うわけで僕なりに田所君の処遇について色々考えたんだけど、とりあえず新人のメイドとして 使ってあげるのが一番良いって結論に達したんだ。だって田所君、他に何も出来ないだろ?」 「め、め……メイドって……何言……」 「僕の話はこれで終わりだから。田所君をお願い出来ますか、佐久間さん?」 「……私に一任して頂けるなら……」 「もちろんだよ。使えるようになるまで存分に躾けてやって構わないですから」 「そう仰って頂けるのでしたら、必ずご満足頂けるよう仕込んで見せます。あなた達にも協力して 貰いますよ?」 きゃ~~っ、とメイド少女達が小躍りしながら控えめに歓声を上げる。 言うまでも無く、全てが実徳の頭上を素通りである。 「お、おいっ! ンだよそれっ! 訳わかんねぇだろ、ちゃんと説明ぐわっ!?」 「お目通りは終わりです」細い指で手首を掴まれ軽く捻られただけで、耐えがたい激痛が実徳の 全身を麻痺させる「いまから貴女は新入りの見習い。つまり下働きの中の下働きとして私たち全員の 教育下に入りました。以降、許可が無い限りプライベートはおろか寝食の自由すら与えられないものと 心得て精進して下さい」 その日、町一番の問題児が忽然と姿を消した。 その日の空は、果てしなく青く澄み切っていた。 遙かな上空を緩やかに漂う綿雲と、程よい暖かさを与えてくれる日差し。 清々しい大気を切って流れ星のように視界を横切るヒヨドリの鳴き声も何処と無く楽しそうで、 この世界の広さと美しさを改めて実感させて、 「誰も休憩して良いなんて言っていませんが? 只でさえ手が遅いというのに、サッサと片付けないと 昼食の時間を削りますよミノリさん?」 「うぐっ!?」 布団たたきで文字通りに尻を叩かれた実徳の口から小さな悲鳴が漏れ、慌てて窓拭きの続きを再開する 背中に、これ見よがしの忍び笑いが幾つも浴びせかけられる。 言うまでも無く、実徳を監視しているのは佐久間とか言うメイド。 そして、心底面白そうにクスクスと笑っているのは常に実徳の無様な姿がよく見える場所で掃除を しているメイド少女達である。 更に実徳自身もメイド姿だ。 もちろん好きこのんで小間使いの格好をしている訳ではない。他に着る物を一切与えられていないので 選択肢がないのだ。この屋敷に拉致監禁された日、有無を言わさず放り込まれた浴室でシャワーを浴びて いる間に衣服はおろか下着から所持品まで全てを奪われ隠されしまったのだからやむを得ない。 「携帯電話は解約済みですしカードも止められています。持っていても意味が無いでしょう?」 そう言いながら浴室に押し入ってきて実徳を羽交い締めにし首を絞め意識が朦朧としている間にメイド服を 着せ錠前付きの首輪をはめ、そこから伸びる金属製の鎖を握られ衣食住の全てを掌握されてしまっては、 これはもうメイド達に従うしかない。 いずれ脱出して仲間と共に報復するにしても、いまは機を伺うかがって耐えるしかない。 この生意気な女達を犯し尽くす日を夢見ながら。 「……まったく、掃除はおろか雑巾の絞り方一つ知らないとは使えないにも程があります。まだ 小学生の方が数倍はマシでしょうね」 「小学生以下だって!」 「ありえないし~!」 「そ、そんなに笑ったら……うぷぷっ」 「………………馬鹿みたい」 「お前ら丸聞こえなんだよっ! 俺を扱き使いながらサボってんじゃあぐぅっ!!」 「先輩達に向かって、その口のきき方はなんですか。あと粗暴な男のような下品な言葉遣いも直しなさいと 言ったでしょう?」 存外に分厚く、重いメイド服越しでも叩かれて痛くないわけがない。下手に動こうとする度に鎖を引っ張られ、 喉が締まりうずくまってしまう。 いまの実徳は、まるで奴隷だ。 屋敷の外はおろか、常に鎖で繋がれ邸内でも限られた範囲での移動しか認められない。女に引きずり回され 監視され、辛うじてプライバシーが守られるのは入浴とトイレくらいである。 もっとも、それすらストップウォッチで時間を計られながらであるが。 そして朝から晩までの労働。 勤労経験皆無な実徳に出来るのは簡単な掃除くらいだが、恵まれた環境で温々と暮らしてきた実徳にとっては 下働きの仕事自体が苦痛であり屈辱以外の何物でも無い。 「くそっ……くそっ……!」 苦しんでいる自分の視界の隅、和気あいあいとしながらも手際よく仕事を片付けてゆく他のメイド少女達の 姿を恨めしげに睨む程度のことしか出来ない。 「メイド以前に女の子が『くそ』なんて言葉を使うなど言語道断です。ここまで物覚えが悪いとは、どこまで 頭の出来が残念な屑なんですか貴女という人は」 「ひぅっ!?」 ひゅん、と背後で布団たたきを振り上げる気配。思わず竦み上がってしまう実徳。 「次に下品な言葉遣いをしたら、今晩の入浴の時間を半分にしてしまいますからねミノリさん?」 「は、はぃ」 「……何も聞こえませんね。もう一度お願い出来ますか?」 「はは、はいっ!」 「やはり何も聞こえませんね。私の耳が悪いのでしょうか?」 「す、すみません! もう下品な言葉は使いませんっ!!」 「貴女達はどうですか? 私には風の音しか聞こえませんが?」 「「「なにも聞こえません~ん!」」」 「………………ま、ません……」 この時を待ち構えていたように声を揃えるメイド少女達(約一名を除く) 「ぐぅっ!」歯ぎしりする実徳。露骨に弱者をいたぶる集団的な悪意に心が折れてしまいそうだ「げ、下品な 言葉遣いはっ! 二度とっ! 使いませんっっ!!」 全身から火が噴き出しそうな羞恥に耐え一言一言、腹の底から声を絞り出して叫ぶ実徳の情けない姿を冷淡に 見下ろす佐久間と、底意地の悪そうな笑みで鑑賞する他の少女達。 「……結構です。ただし昼食は窓拭きが終わるまでお預けにしますが、宜しいですね?」 「はいっ!!」 ビクン、と弾かれたように姿勢を正した実徳は慌てて作業を再開した。 そして、やっと迎えた就寝の時間だが…… 「んちゅ、んちゅ、ちゅ~~~っ!」 「はぅん! あん! んん~~~~っ!」 新入りの実徳に個室など与えられる筈もなく、女物の上下の下着のみを着せられ部屋の両側に二段ベッドが 鎮座する相部屋に押し込まれる。 しかも実徳の反対側のベッドではメイド少女が二人、まるで実徳に見せびらかすように全裸で絡み合い、 隠す気など微塵もなさそうな音量で乳繰り合っている。 「み、未玖ちゃん……それ、強すぎるよぉ……!」 「だって静っちは少し痛いくらいの力加減で前歯で乳首を甘噛みされるのが好きでしょ? それから歯が食い 込んだ跡を舌で優しく……れろれろれろっと」 「そ、それは感じすぎるから駄目ぇぇぇ!」 ほぼ毎晩、この調子である。 恐らくだが、この二人と相部屋にしたのも『わざと』だろうし、二人が実況さながらの説明を聞かせながら 耽っているのも実徳を苛める為だろう。 何故なら、ベッドの中の実徳は後ろ手に両手の親指を拘束され鎖の先端を丈夫な鉄柱に固定され目の前で 痴態を繰り広げている二人に襲いかかることも、自分を慰めることも出来ないのだから。 「ほらほら静っち、次はどうして欲しい? このままクリトリスをコチョコチョしながら乳首噛まれる だけで良いのかなぁ?」 「そ、それは……その………………れて、欲しい……」 「ん? ん~ん?」 「だ、だからっ! 未玖ちゃんの指で私のおま……お腹の中、掻いて欲しいの……っ!」 「だよねっ、そうこなくっちゃ! じゃあ静っちも私のアソコ、思いっきり恥ずかしい音を立てながら たっぷり啜ってくれる?」 「う、うん……」 背を向け、見ないようにしていても何をしているのか分かってしまう。最初の数日こそ怒鳴って脅かして 止めさせようとしたが、それが負け犬の遠吠えで手も足も出せないと熟知している二人が聞き入れてくれる わけもなく、それどころか安全な観客である実徳に全て晒す事で更に燃え上がるという新たなプレイに 目覚めたらしく、以前にも増して大きな音を立てるようになってしまったのだから始末に負えない。 「うわぁ、静っちの中トロトロでキツキツだよ。どう、私の指、美味しい?」 「くぅん! い、いいけど……もっと奥……それに一本だけ……足りないよぉ……」 「おっけおっけ! じゃあ二本で一番奥をぐちゅぐちゅしてあげるね」 「ひぅっ! ひ、ひぁぁぁぁぁぁっ……!」 「静っちの中、超熱いって! ねぇ、私の方も早くくぱぁってして! じゅるじゅる吸って!」 「う、うん……ちゅっ、ちゅるっ……ちぅぅぅぅぅっ!」 「あはっ! 静っちのバキューム最高だよ、感じるゥ!!」 「わ、わらしも未玖ちゃんのちゅうちゅうしながら指れされるの……幸せらよぉ……」 四人用とはいえ所詮は狭い部屋だ、たちまち少女達の淫臭が溢れだして部屋を満たしてしまう。 そして元々は男を興奮させる為の濃厚なフェロモンを問答無用で嗅がされ吸わされた水っぽい音を 聞かされ実徳の体が反応しないはずがない。 「ぐっ……!」 ここに監禁されてから一度も発散させたことのない実徳の性器は瞬く間に充血し、ジンジンと痛みすら 感じるほどに張ってしまう。 だが目の前でドロドロに濡らしているだろう女達を犯して胎内にまき散らす事は叶わない。 思う壺だと知りつつ、自分の手で鎮めることも不可能だ。 「う……うぅっ……」 勃起がムズムズと疼き、とても眠れそうにない。 少女達の嬌声が否が応でもセックスを連想させて射精への欲求も高まるばかりだ。 (くそっ! 出してぇ出してぇ、誰でも良いから女に突っ込んで射精してぇよぉ!!) 犯した女、金で買った女、行きずりの女。 多すぎて顔も覚えていない女が殆どだが、その味は全て肉棒に刻み込まれている。その愚息が空気も 読まず女体に挿入する快楽を脳に反芻させるのだから、それこそ溜まったものではない。 (ヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇ!!) 「ほらほら見てよ静っち。アイツ、シーツを相手にヘコヘコ腰振ってるじゃん!」 「…………知らないもん。興味ないもん……」 「そんなこと言わないで見てみてよ。面白いからぁ!」 「……………………気持ち悪いだけだもん」 「あはははっ、女物の下着で床オナとかマジカッコ悪ぅ! 猿みたい!」 「くっ……!!」 嘲りの視線と嫌悪の視線をチクチクと感じながらも、他に性欲をいなす方法を知らない実徳は 女物の下着姿でひたすら腰を揺らす。 「もぅ未玖ちゃんってば……じゅじゅじゅっ、じゅるるるぅ~~~~!!」 「ひぁんっ! な、なに? そんな急に激……きゅぅぅぅぅん!!」 「私としてるのに……あんなケダモノのこと……未玖ちゃんの馬鹿っ!」 「え? なに、ヤキモチ? ごめん! もう余所見しないから待って! ちゃんと静っちのこと 気持ちよくしてあげるから……って中をウネウネ舐めながら両手でお尻の穴引っ張らないで前歯で クリ苛められたらイグぅぅっ!!!」 「ちゅっ、ちゅっ、ちぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~!」」 「いぃ、イッてるのぉ! イッてるからぁ! イッてる最終に強く吸わないでぇ!!」 (くそっ! くそくそくそくそくそっ!!) 射精することも出来ないまま、疲れ果てて眠りに落ちるまで実徳は無様に腰を振り続けた。 そして翌朝の食堂。 「……それでね? 朝起きたら凄い臭いがして、アイツってば半泣きになってんの!」 「そんなに臭いんだ?」 「しかもパンツどころかシーツまでドロドロにしちゃってさ、もう最悪って感じ!」 「腐った牛乳みたいで気落ち悪かった……」 「あの年で夢精とか、最低ね」 「まだオシッコの方が可愛げがあるよねぇ?」 「どっちもどっちでしょ? もう終わりだよね、男としては」 意識を失うまで擦っても出なかった精液が、寝てる間に残らず漏れ出して下着を寝具をドロドロに 汚してしまった。しかもそれを未玖と静江に見つかってしまったのだ。 実徳に聞こえる音量で話に花を咲かせているメイド少女達の明け透けな物言いもさることながら、 上から目線で笑われ小馬鹿にされ何も喉を通らない。 正に針のむしろである。 「ところで、本日のミノリさんの仕事についてですが」 「……はい」 淡々と朝食を摂る佐久間は知らん顔。普段なら口五月蠅くメイド少女達を躾けている彼女が、 何故か朝食の席に相応しくない話題を遮ることもせず少女達を放置している。 「状況を鑑みた結果、洗濯の仕方を覚えて貰いたいと思いますが異論はありませんね?」 「……くっ!!」 「ありませんね?」 「…………………はい」 暗に、夢精で汚した物を自分で洗濯しろと言われているのだ。 「はいは~い!」その会話を耳に挟んだ未玖が元気よく挙手する「佐久間さん! 私と静っちの シーツと下着も洗濯して貰っても良いですかっ?」 憎たらしほど爽やかな笑顔の未玖が言う洗濯物とは、まず間違いなく夕べのレズプレイで汚して しまったものに違いない。散々見せびらかした挙げ句に、後始末をしろと言っているのだ。 「くっ……!」 「構いませんよ。仕事を早く覚えるためにも量は多い方が良いでしょうし」 「だったら私の洗濯物もお願いしても良いですか? 少しオリモノが多いですけど……」 「当然、手洗いですよね? だったら私もっ!」 「靴下とかも良いですか!?」 「じゃあ私も溜まってる下着を全部!」 「女同士なのですから遠慮は無用です。私が監視して全て手洗いさせますから、綺麗にして 欲しい物があれば籠に入れて廊下に出しておいて下さい」 悔し涙を浮かべ体を震わせる実徳の姿を横目でチラチラ見ながら、メイド少女達は我先にと 楽しそうに食堂を飛び出して洗濯物を出しに言ってしまった。
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Phalaenopsis -愛しいきみへ、愛するあなたへ- ◆6XQgLQ9rNg ◆◆ 落涙していた。 目の前に立ちはだかる男は、その双眸から、滂沱の涙を流していた。 何かを告げるべく口を動かそうとするが、濡れそぼった吐息が苦しげに吐き出されるだけで、何一つ意味のある言葉にはならないでいる。 整ったその顔は、えずきを堪えるように酷く歪んでいて、愛する女性の声を聴いたことによる喜びの表情とは程遠いものとなっていた。 胸の内を荒れ狂う辛苦を抑えきれず、ピサロの表情に現れているようだった。 今しがたのロザリーのメッセージによれば、かつてロザリーは、憎しみに突き動かされるピサロを止めたという。 ならば、ロザリーの言葉はピサロに届くという証だ。 しかしながら、ピサロは武器を収めない。 ロザリーの意志を無視してでも、彼女を蘇らせたいと願うからか。 ――きっとそれは間違いじゃない。でも、それだけじゃない。 それだけならば、こんなに苦しみを飽和させるはずがない。 みっともないほどに涙して、それでも戦おうとする理由が、他にもあるはずだ。 アナスタシアはロザリーのメッセージを思い返す。 同時に、夜雨の下で目の当たりにしたピサロの様子を想起する。 すぐに、ピンと来た。 ピサロは深い憎しみを抱き、人間の敵となった。 その原因は、ロザリーを人間の手によって殺されたからだった。 ならばつまり、ピサロが抱いた憎しみというものは、深い愛情の裏返しなのだ。 ロザリーを傷つけた者を許せない。 ロザリーの命を奪った者を、許せない。 「貴方は……」 だからこそ。 「貴方は、誰よりも自分を傷つけたいのね……」 ◆◆ 痛みを求めていることに気付いたのは、余計な負の感情を捨て去り、ただ愛だけで心を満たしてからだった。 自覚できていないだけで、きっと今までも、そうだったと思う。 ロザリーを蘇らせるためという目的意識を壁にし、自分以外をも憎悪することで憎しみを分散させていた。 その結果、復讐心を細分化し無意識の奥底に押し込めて、見えないままでいられた。 ピサロは、憎しみを糧に絶望感を燃やし、純粋な愛を錬成した。 その愛は汚れのない鏡面のような輝きを放つ。 怨まず、憎まず、絶望せず。 されど消えない傷跡は、じくりじくりとピサロを苛むのだ。 疼きのような鈍痛は止まらない。 しかし、足りない。 その程度の痛みでは駄目なのだ。 耐えられる程度の痛みでは、ロザリーが受けた苦しみには届かない。 もっと強い苦しみが必要だった。更に強い痛みを渇望した。 ロザリーを殺した者<ピサロ>に、復讐をしたかった。 ピサロはロザリーを想う。 誰よりも深く、何よりも愛しく思う。 彼女の優しさは知っている。争いを望まぬ気持ちを理解している。共存を願う意志を熟知している。 その気高い尊さこそ、ロザリーという女性そのものなのだ。 そこから――ピサロは目を背ける。 ロザリーの全てを理解したいと、受け入れたいと切望しながらも、決して彼女の手を取らない。 想っているのに優しさに目も暮れず、大切にしたいのに争いを望まぬ気持ちを無視し、愛しているのに共存を願う意志を置き去りにする。 そうやって騙して、裏切って、茨まみれの道を行き、返り血だらけになって、ロザリーが心より忌避するほどの身になって。 ようやく、ロザリーの命へと至れるのだ。 とても辛いことだった。 とても苦しいことだった。 とても痛いことだった。 これ以上の復讐は、存在しなかった。 そうしてピサロは、ロザリーを蘇らせるために武器を振るい、無意識下で自身への復讐を続けてきた。 復讐の念があったからこそ、ロザリーの意志を無碍にして彼女を蘇らせようと決意できた。 たとえロザリーのメッセージを受け取っても。 この島にいる全ての者へと発信されながらも、ピサロを想う気持ちがいっぱいに溢れるメッセージを聞き届けても。 それすらも裏切り、痛みに変える。 ロザリーの声を、願いを、想いを、祈りを、愛を。 夢ではなく真正面から受け取り、その上で取り入れず捨てるのは、感情が振り切るほどの激痛だった。 だから、涙が飽和した。心が深手を負った。 それでも、まだ。 強い純愛を抱く故に、ピサロは自傷行為を止められない。 無様に涙するほどに心が悲鳴を上げる。言葉を放てないほどに心が痛みを訴える。 それこそが望みと言わんばかりにピサロは戦う。 その果てに、最愛の女性が蘇ると信じて前へ行く。 全てを捨て去り純粋な愛だけを燃え盛らせるがために表面化した痛みを求め、更なる先へ。 滲む視界の先、アナスタシアの姿がある。 痛みを抱きながらも涙を振り払い、ピサロは、バヨネットの切っ先を敵へと突き付ける――。 ◆◆ 本当は、救いたいと想った。 だから、アナスタシアは一人でピサロに対峙した。 それでも叩きつけられたのは無力さで、救えないと実感し、怒りを以ってピサロと戦った。 結局、アナスタシアはピサロを救えないのだと思う。 どんなに頑張っても、どんなに言葉を練っても、女神を覚醒させた愛の化身には、手が届かない。 だが、よくよく考えたらそれは当然なのかもしれなかった。 たった一つの最愛を胸に抱く男の心を、何処の馬の骨とも知らない女が動かそうなどと、おこがましい思い上がりだ。 それでも。 それでも、心の片隅でやっぱり止めたいと思ってしまうのは。 彼が愚直にまで闘う理由の一端を、垣間見てしまったからか。 彼を愚直にまで愛する女性の声を、受け取ってしまったからか。 「馬鹿だわ」 男も女も本当に馬鹿だ。 馬鹿でなければ、女への愛を抱き自身を痛めつけられるはずがない。 馬鹿でなければ、身だけではなくココロまで傷つけられても、男を好きでいられるはずがない。 だが、もしも。 本気で恋をすれば、馬鹿になってしまうというのなら。 なってみたいと思う。 そんな恋愛をしたいと、アナスタシアは心の底から強く深く激しく思う。 「ほんッとうに――羨ましいくらいの純愛だわねこのバカップルがッ!!」 両手で握り締めたアガートラームを、掲げる。 これはラストチャンスだ。 頑固で馬鹿な男を止めるための、ラストチャンス。 アナスタシアは集中する。 アガートラームはただの武器ではない。人々の想いを束ね、繋ぎ、未来へ進むための鍵である。 そのイメージを強く持ち、意識を聖剣へ注ぎ込む。アガートラームが輝きを放ち始める。 白く眩い光は広がり、周囲の想いを集めていく。 光を通し、アナスタシアは想いを感じる。 拡散していくロザリーの想いを、だ。 あのメッセージは、何らかの方法で生前のロザリーが残したものなのだろう。 それは記録に過ぎない。けれど、そこに込められた想いは本物だった。 その想いを、もう一度カタチにする。 記録だけではなく、ロザリーの想いを、ここに形作る。 こんな芸当は、アガートラームの力だけでは到底不可能だ。 だがここには、ラフティーナがいる。 愛する想いと愛される想いを、きっと彼女は祝福してくれるはずだ。 想いを、アナスタシアはかき集める。 最愛を胸に抱く男を止められるのは、最愛を胸に抱く女だけなのだ。 輝きは次第に強さを増し、世界を覆い尽くしていく。白が広がり、想いを集め、剣へと収束させていく。 もっと、もっと。 もっと輝け。 消えゆく想いを繋ぎ止め、ここに想いを成すために。 分からず屋の男へと、一人の女の想いを届けるために。 光は広がる。 何処までも何処までも広がる。 その輝きが、周囲を埋め尽くした瞬間に。 愛の奇跡は、果たされる。 ◆◆ 世界が白い。 果てがないような白さが、ピサロの視界を埋め尽くしていた。 自分の姿と輝き以外が見えない世界で、ピサロは足音を聞く。 小さな足音だった。 それは丁寧な足運びを思わせる足音で、アナスタシアが立てる粗雑な音とは全く異なるものであった。 音は近づいてくる。白の世界に、人影が浮かび上がる。 ピサロは意識を戦闘状態に切り替え、魔法を詠唱し始め――。 『よせ。彼の者は敵ではない』 ラフティーナの制止に、ピサロは怪訝さを覚えながらも影へと目を凝らす。 深い霧を思わせる白の中、人影が鮮明になっていく。 その華奢なシルエットを、ピサロは知っている。 またも目を剥き、息を呑んだ。 一瞬、幻術かと疑う。 だが、愛の貴種守護獣は一切の警戒を見せてはいなかった。 その間にも、人影は、ピサロが視認できるところまで、やってきた。 極上の絹糸を思わせる桃色の髪。 髪の合間から存在を主張する、整った形をした尖った耳。 一流の職人が作り上げた陶磁器よりも白い肌。 錬成に錬成を重ねた紅玉にも勝る美しい瞳。 「……ロザリー……?」 震える声で名を呼ぶ。 対し、彼女は嬉しそうに目を細め、頷いた。 「はい。ロザリーです。またお会いできて嬉しく思います、ピサロ様」 清らかな声は心地よく鼓膜を震わせる。 こうしてロザリーに会えた喜びよりも、ロザリーと対面している事実を、ピサロは信じられなかった。 このロザリーが、幻でないとすれば。 「夢でも、見ているのか……?」 いいえ、とロザリーは首を横に振る。 「私は、死んだのか……?」 違いますわ、とロザリーは首を横に振る。 「ならば、君は……」 このロザリーが、幻でもなく、夢でもないのなら。 この白の世界が、死後の世界でもないのなら。 「君は、蘇ったのか……?」 ピサロの希望は、しかし、もの寂しい表情で、そっと否定される。 そうではありません、と、ロザリーは首を横に振る。 「私の想いを集めてくださった方がいました。そして――」 形のよい唇が、言葉を紡ぐ。 「ピサロ様が、私を強く深く愛してくださいました。だから、私は今、ここにいられます。貴方に想いを、届けられます」 呆然とするピサロに、ロザリーは歩み寄り、手を伸ばす。 細く綺麗な手が、ピサロの頬に触れ、汚れきったピサロの頬を撫でる。 その手は、温かかった。 「こんなに――」 否定しようもないその温かさは、ピサロの胸を解きほぐし、曇りを拭い取り、疑念を完全に取り払う。 ロザリーだ。 目の前にいるのは、本当にロザリーなのだ。 「こんなに、傷だらけになってしまわれたのですね」 ロザリーの瞳に雫が溜まる。雫はすぐに溢れ、輝かしいルビーとなり、零れ落ちていく。 それを見るのが辛くて、ピサロは慰めるように返答する。 「大した傷では、ないのだ。まだまだ、全然痛くなど、ない」 「嘘を、つかないでくださいませ」 「嘘ではない。私は、嘘などついてはいないよ」 「では、どうして――」 ロザリーは悲しげに、自分の左胸に手を当てる。 「私のココロは、これほどまでに痛いのですか?」 「……ッ!」 返答に詰まるピサロの胸へと、ロザリーは飛び込んでくる。 ロザリーの両腕が背へと回され、優しくピサロを抱き締める。 ピサロに刻まれた無数の傷を確かめ、癒すように。 「貴方の傷は私の傷。貴方の痛みは私の痛み。貴方の苦しみは私の苦しみ」 ロザリーの香りが鼻孔をくすぐる。ロザリーの柔らかさを全身で感じる。ロザリーの体温が肌に伝わってくる。 ロザリーは、震えていた。 「痛いです。苦しいです、ピサロ様」 ピサロは動けない。 武器を握った手をだらりと下げたまま、ピサロの胸に顔を埋めるロザリーを見下ろすしかできないでいた。 「ピサロ様が私を想い、私の命を願ってくれるのは大変嬉しく思います。 ですが、痛みと悲しみの果てにある命なんて、私は、いりません」 ロザリーが、顔を上げる。 濡れる真紅の瞳が、ピサロを捉えていた。 「ピサロ様ならば、分かってくださいますよね? 私を喪い、あれほどまでに悲しんでくれたピサロ様ならば、命を奪うという行為がどれほどの痛みと悲しみを生むのかを。 あのような痛みと悲しみが広がっていくのは、辛いです。傷つく人が増えるのは悲しいです」 ロザリーは優しいから、殺戮によって生まれる痛みと悲しみを感じ入り、自分のことのように苦しむだろう。 蘇った後もきっと、その痛みと悲しみに苛まれることだろう。 分かっていた。知らないはずがなかった。 それでもピサロは、殺戮を続けてきた。 殊に、ピサロが奪ったのは、ロザリーの命だけではない。 「もう、遅いのだ。私は……君の友を殺めた。君の友が愛した人をこの手に掛けた」 魔法使いの少女と暗殺者の少年の姿を思い起こし、告げる。 背中に回された腕の力が、強くなった。 「過去はもう、戻せません。できるのは、未来へ伸びる道を歩むことだけです。 過ちを繰り返さず、償いを果たしてくださいませ。殺めた貴方が行うべき償いを、果たしてくださいませ」 忘れないでください、と締めるロザリーに、ピサロは口籠る。 生きて、償う。 それは、ロザリーを蘇らせるという終着点にはたどり着けない道だった。 示された一本の道筋を前で、ピサロは立ち尽くす。やはりピサロは、希わずにはいられないのだ。 身勝手で醜悪で無様な言い分だとしても。 他者を顧みず無数の運命を蔑ろにする、罪深い欲望だとしても。 ロザリーの命を今一度、望まずにはいられない。 「それでも、私は、君に……」 弱音めいた口調が、零れ落ちた。 それをロザリーは、宝物のように掬い取る。 「逢えます。私が貴方を愛する限り、貴方が私を愛している限り、いずれ、必ず」 断言には揺るぎがない。 お互いに想い合う気持ちさえなくさなければ、絆はきっと引き寄せられると、ロザリーは告げている。 ですから、とロザリーは続ける。 「ニノちゃんが伝えてくれた私の想いを、もう一度、私の言葉で伝えます」 毅然として、堂々と。 「もう、お止めください。私の命を願い息づく命を奪う行為など、私は、決して望んではおりません。 その果てに蘇ったとしても、私は」 それでいて、ひどく痛そうに、とても苦しそうに、見ていられないほどに辛そうに。 「貴方を、愛せません……ッ」 断言する。 「どうか、私にくださる想いやりを、少しでも他の方に向けてあげてください。 罪を思い、償いを成し、そして――ご自身を大切になさってください」 お願いです。 「どうかこれ以上、貴方を傷つけないで。私を、苦しめないで……ッ」 深い吐息を挟み、ロザリーは、想いを吐き出した。 「ずっとずっとずっと、貴方を、好きでいさせて……ッ!!」 責められても仕方あるまいと、憎まれても言い返せまいと、怨まれて当然であると。 嫌悪され、唾棄され、侮蔑され、憎悪され、忌避され、厭悪されるであろうと。 思っていた。思い込んでいた。 そうあるべきだと独りよがりに信じていた。だから躊躇わず、ロザリーの想いを裏切ってきた。 そんなピサロのココロに、ロザリーの震えが、嗚咽が、切なる願いが突き刺さる。 ピサロの傷がロザリーの傷ならば、ピサロの復讐は、ロザリーをいたずらに痛めつける行為でしかなかった。 自傷行為が愛する者を傷つける行為に繋がるというのなら。 この復讐は、二人の傷を深めるだけで、決して終わらない。 ピサロはロザリーを三度殺した。 それだけではなく、殺した後も、その高潔な想いを冒涜し続けた。 「すまない……。本当に、すまない……ッ!」 見て見ぬふりはもう出来ない。ロザリーの傷を目の当たりにしても復讐を続けられるほど、ピサロの愛は歪んでいない。 謝罪の気持ちが溢れ、またも涙が視界を滲ませる。 「抱きしめて……くださいませ……」 変わらず両手を下げたままのピサロを、ロザリーは、潤んだ瞳で真っ直ぐに求めてくる。 泣き声の彼女に、ピサロは、歯を食い縛って首を横に振った。 「私の手は血塗られている。罪に塗れている。そんな手で君を抱き締めるなどと――」 言い淀むピサロへと、ロザリーは繰り返す。 ルビーの涙を流しながら、ピサロを真正面から見据えて、繰り返す。 「抱きしめて、くださいませ。私を抱き締めるのは……お嫌ですか?」 問いかけと呼ぶには生易しい強さを孕むその言葉は、ピサロの想いの確認だった。 言い訳がましい否定よりも、逃避めいた理屈よりも、ただ、愛おしさが勝る。 もう、裏切るのは止めにするべきだと思った。騙すのは止めにしたかった。 大切な女性の願いたった一つを叶えられないというのなら、そこに愛は、きっとない。 ピサロの手から武器が落ちる。 空いた手で、代わりに。 愛しき身を、抱き締めた。 腕の中にある肩はとてもか細い。 この細い肩は、どんなことがあったとしても、絶対に傷つけてはならないもののはずだったのだ。 その根本にあった誓いを押し出し、内省へと繋げ、傷ついたロザリーのココロを撫でるように抱き締める。 「愛している。未来永劫、本当に君を愛し続けると誓うよ、ロザリー」 「私も、愛しています。貴方の愛に負けぬほどの、心よりの想いを、貴方に注ぎ続けます、ピサロ様」 どちらともなく、見合わせた顔を、ゆっくりと近づける。 想いを確かめ合うように、二人は口付けを交わす。 その口付けは、最高に甘かった。 ◆◆ はぁ、と溜息を吐いたのは何度目だろう。 この短時間で、アナスタシアはもう一生分の溜息を吐いた気がする。 うっとりしているわけでは決してなく、ピサロとロザリーの想像以上のいちゃつきっぷりに呆れ果てていた。 奇跡の立役者として立ち合う権利くらいあるだろうと言い訳をし、出歯亀根性に従ったのが間違いだった。 一部始終を見物したのはいいが、これほどまで見せつけられるとは全くもって予想外だ。 脚本も台本もない生のラブロマンスは、完全にアナスタシアから気勢を削いでいた。 ――なんかもう……どーでもいいわ。色々と。 怒りが失せて毒気が抜け、代わりに壮絶な疲労が全身に圧しかかって来る。 立っているのも億劫になり、大の字に倒れ込んで、横目でピサロとロザリーを窃視する。 まだ、ちゅーちゅーやっていた。 さすがに見ていられなくて、アナスタシアは目を逸らし、もう一度盛大に溜息を吐く。 信じられないくらい体中が痛むのは、あのアツアツっぷりが目に毒だからに違いない。 ――いいなー。いいなあー。わたしも素敵な彼氏がほしいなあー。 ヤケクソ気味な欲望を声に出さなかっただけ、自分を褒めてあげたいとアナスタシアは思う。 再度の生を得て、仲間が出来て、少しくらいは満たされたと思っていた。それは確かだ。 けれど人の欲というものは果てを知らない。 ましてやアナスタシアは、ルシエドを従えるほどに欲深いのだ。まだまだ乾いている箇所はいくらでもある。 もっと生きたい。生きてやりたいことは山ほどある。欲しいものだって星の数ほどある。 まだまだ欲望の火種は、アナスタシアのココロで燻り脈打っている。 だから、アナスタシアは安心できた。 ――まだ、わたしは“わたし”でいられるのね。 その安堵はすぐに、強烈な眠気へと変わる。 瞼が重い。とんでもなく重い。 耐えられず、アナスタシアは目を閉じた。 心地よいまどろみの中で、素敵な男性のことを夢想し、アナスタシアの意識は消えていった。 ◆◆ 腕の中の温もりが消えていく。唇に触れる湿っぽい柔らかさが遠ざかっていく。 目を開ければ、もはや白の光はなく、荒れ果てた地が目に入った。 甘い奇跡の時間は終わった。 空になった掌に、ピサロは目を落とす。 そこにはまだ、温もりが残っている。温かい残滓を逃さないように、ぐっと握り締める。 手の甲を目尻に押し当て、流れる涙を思い切り拭き取る。 息を吸い込む。 肺に満ちた埃っぽい空気を、長く吐き出した。 目元を擦り深呼吸を繰り返す。 膿を出し澱を抜くように、体内に淀む空気を入れ替える。 愛する者を痛めつけ続ける不毛な復讐の念を、外に放り出す。 悲嘆と殺戮の果てに愛する者の命を求める旅路は、もはや歩めない。その旅の果てに、ロザリーの姿はないと知ってしまったから。 行くべきは、ロザリーが示してくれた別の道。 過ちを繰り返さず、罪を償い、ロザリーを決して裏切らない道のり。 その方向へ、ピサロは、自らの意志で踏み出すのだ。 ピサロがこの手で奪った命に、ピサロ自身の想いを以って償うために。 一歩を行く。 何ができるか分からない。何をすべきかは定まらない。だが、やると決めたのだ。 ならばもう、迷ってはいられない。 ピサロはバヨネットを拾い上げる。意志を貫くための、力とするために。 やけに重く感じる武器を持ち上げ、天へと翳し、目を閉じる。 ――ニノ。そなたに宣言した約束を反故にすることを詫びる。 ――そして、不実を承知で頼む。これからも、ロザリーの傍にいてやってくれ。 引き金を引く。 打ち上げられた魔力が、天空で爆ぜる。 ――ジャファル。ともすれば、ラフティーナを呼び覚ましていたのは貴様だったやもしれぬ。 ――貴様の至った境地、立派だったと今にして思うぞ。私が次に道を踏み外そうものなら、その手で我が身を裁いてくれ。 撃鉄が落ちる。 舞い上がる魔力が、蒼穹を彩る。 ――ロザリー。何度でも、何度でも言わせてくれ。私は君を愛している。いつまでもいつまでも、愛している。 ――私は、君を傷つけず苦しめない道のりを辿るよ。その果てで必ず君に、逢いに行く。 ――だから今は、どうか。 ――どうか、安らかに。 魔砲が、唸る。 迸る魔力が高く、高く、高く昇り上がり、ソラを染め上げた。 ピサロは忘れない。この想いを、決して忘れない。 見送りを終えて、砲を降ろす。 耳にあるのは残響と、少し遠くから響く戦闘の音。 奇妙なほどに静かで、ピサロは怪訝さを表情とし、あたりを見回し、見つける。 大の字で地面に倒れ込むアナスタシアを、だ。 近づいてみるが、彼女は目を開けない。動かない。 「おい」 呼びかけてみる。 「おい!」 だが、返事はない。 呼んでも、答えは返ってこない。 顔を覗き込み、少し声を張り上げ、 「おい……アナスタシア・ルン・ヴァレリア!」 初めて、その名を呼ぶ。 「……ふにゃー、そこは、駄目よぉ……」 寝言が返ってきた。それも、口端から涎を垂らして、だ。 殺してやろうかと、本気で思った。 沸々とわき上がる黒い感情を、ロザリーの顔を思い出して必死で抑える。 本当に、この女は気に入らない。 粗雑で下品でやかましく欲深い。ロザリーの慎ましさを少しくらいは見習うべきだとピサロは思う。 だが不本意ながら、アナスタシアには借りができてしまった。 彼女がいなければ、ピサロはロザリーを傷つけ続けるだけだっただろう。 「全く……」 呆れるように呟き、ピサロは手を翳す。 癒しの光がたおやかに輝き、アナスタシアへと降りかかる。 「……そ、そこ、いいわぁー。気持ち、いー……」 お気楽な寝言を零すアナスタシアに肩を竦めたとき、ふと、ピサロの手から回復魔法の光が消えた。 全身から、力が抜ける。 膝をつくだけの気力も絞り出せず、ピサロはアナスタシアの隣に倒れ込んだ。 またも、魔力切れ。 更に、感情が揺れ動いたことによる心労が、ピサロの魔力をより早く枯渇させていた。 強烈な睡魔が、意識を侵食してくる。 眠るな、とピサロは思う。 まだ戦いは続いている。仲間のいないピサロにとって、今この場で眠るのは危険極まりない。 なんとか起き上がろうと手を地面につけたとき、声が響いた。 『案ずるな。汝に危機が迫りしとき、我が汝を呼び覚まそう』 音なき声は、ピサロの頭に直接届く。 『二人の愛がある限り、我が力は不滅。愛しき者を想い、今は休むがよい』 愛のガーディアンロードの囁きは優しく、穏やかで。 ピサロは、身を委ねるように目を閉じる。 ◆◆ かくして、魔王と恐れられた男と、英雄と称えられた女の喧嘩は終わる。 神聖さも荘厳さも大義も野望もない、感情と意地と欲望のぶつかり合いの果てで、二人は並んで眠りにつく。 そこには、あらゆる戦場と切り離されたかのような静けさが満ちていた。 【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 昼】 【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】 [状態]:ダンデライオン@ただのツインテール ダメージ(大) 胸部に裂傷、重度失血 左肩に銃創 リフレッシュの連発とピサロの回復により全体的に傷は緩和。爆睡中。 精神疲労(超極大) 素敵な彼氏が欲しい気分 [装備]:アガートラーム@WA2 [道具]:感応石×3@WA2、ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式×2 [思考] 基本:“自分らしく”生き抜き、“剣の聖女”を超えていく。 1:まだまだ生きたい。やりたいこと、たくさんあるもの。 2:ジョウイのことはとりあえずこの場が全部終わってから考える 3:今までのことをみんなに話す [参戦時期]:ED後 [備考]: ※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。 ※アナスタシアの身にルシエドが宿り、聖剣ルシエドを習得しました。大きさや数ついてはある程度自由が利く模様。 現在、セッツァーが欲望の咢を支配しているため、剣・狼ともどもルシエドを実体化できません。 【ピサロ@ドラゴンクエストIV】 [状態]:クラス『ピュアピサロ』 ダメージ(大) ニノへの感謝 ロザリーへの純粋な愛(憎しみも絶望感もなくなりました) 精神疲労(極大) 魔力切れ 熟睡中 [装備]:クレストグラフ(5枚)@WA2 愛のミーディアム@WA2 バヨネット [道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実 点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石) 天罰の杖@DQ4 [思考] 基本:ロザリーを想う。受け取ったロザリーの想いを尊重し、罪を償いロザリーを傷つけない生き方をする 1:償いの方法を探しつつ、今後の方針を考える [参戦時期]:5章最終決戦直後 [備考]:*クレストグラフの魔法は、下記の5種です。 ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン *バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます *ラフティーナの力をバヨネットに込めることで、アルテマを発射可能です。 時系列順で読む BACK△147-1Aquilegia -わたしの意地、私の意地-NEXT▼148 オディオを継ぐもの 投下順で読む BACK△147-1Aquilegia 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きみのたたかいのうた(前編) ◆Vj6e1anjAc どん、と響いた衝撃音が、始の鼓膜へと突き刺さる。 ちら、と視線のみを向ければ、馬鹿でかい装甲車のタイヤが空回りしている。 おおよその目測だが、速度は時速80キロほどであっただろうか。 人の姿では、直撃を食らっていたなら一発でアウトだっただろうし、あれが堅牢な装甲車でなければ、乗り手も死んでいたかもしれない。 そう。 相川始は、強襲する装甲車の突撃を、食らわなかった。 咄嗟の判断だった。 一瞬回避が遅れていたなら、まず間違いなく食らっていたと断言できた。 そのシビアなタイミングを掴むことができたのは、ひとえに前面に灯っていたもの――ヘッドライトのおかげと言えるだろう。 踏むものもない舗装された道路を走っていた車だ。 音だけでなく光すらも無く走っていたなら、最期まで気付けなかったのは間違いない。 「!」 ぶぉん、とエンジンが唸りを上げた。 標的を外し、勢い余って森の木々にぶち当たった装甲車が、轟音と共にバックする。 その勢いで車体が反転し、勢い余って回りすぎたところを、戻す。 もたついた動作は、運転免許を持たない素人のものか。 マニュアル通りの運転をしているのなら、相手に居場所を伝えてしまうライトをつけっぱなしにしていたのも頷けた。 「変身!」 一度目はまぐれであっても、二度目はない。 人間と自動車とではスピード差がありすぎる。このままの姿では、次の突撃は回避できまい。 故にほぼ反射的な動作で、カリスラウザーへとカードを通した。 『CHANGE』 低い合成音声と共に、相川始の姿が一変。 ヒューマンアンデッドの姿から、マンティスアンデッドを彷彿とさせる鎧姿へと変わる。 漆黒のオーラを振り撒き現れたのは、黒金と緋々色金の戦士――ハートの仮面ライダー・カリス。 瞬間、ぶおぉ、と吼えるエンジン。 巨大な鉄の塊が、戦闘態勢へと移行。 雄叫びと共に加速する体躯が、偽りの仮面の戦士へと殺到する。 「っ……!」 これを飛び退り、回避する。 仮面ライダーカリスの最大走力は、およそ時速75キロ。 純粋な速さ比べならともかく、瞬発力では十二分に対処可能。 相手もコツを掴んできたのだろう。避けられたのを理解した瞬間にブレーキをかけ、木との衝突だけは防いだ。 とはいえ、乗り物を運転する上で、急ブレーキが悪手であることは言うまでもない。 その理解も曖昧なうちは、素人と言って差し支えない。 (それなら、逃げ切れる) くるりと踵を返し、疾走。 アスファルトの道路から飛び出し、手頃な獣道へと突っ込む。 実のところ、始には交戦する気などなかった。 理由は第三回放送の直後、すぐに浅倉威と戦わなかった時のそれと同様。 ジョーカーの欲求と人の情――2つの感情に心を掻き乱されている現状では、とてもまともな状況判断などできない。 故に無理に戦闘して下手を打つよりも、この場は最初から戦わないことを選んだのだ。 刹那、背後から迫りくる鋼の咆哮。 金属の光を放つ猛獣が、ばきばきと枝葉をへし折って肉迫する。 道が開けているうちは駄目だ。装甲車のパワーとタフネスなら、それくらいの障害はこじ開けられる。 ばっ、と。 横跳びで獣道を外れ、茂みの中へと飛び込んだ。 そのまま木々の密集したところを狙い、幹の合間を縫うように走る。 これなら装甲車でも追うことはできない。相手が並の人間なら、このままやり過ごすこともできる。 「ちょこまか逃げるんじゃないわよッ!」 相手が並の人間なら、の話だが。 少女の金切り声が響いた。 そのヒステリックな叫びには、覚えがあった。 つかさなる少女から「お姉ちゃん」と呼ばれていた双子の姉――名前こそ知らないが、過去に2度顔を合わせた娘だ。 よもやこんなにも短いスパンで、3回も顔を合わせることになるとは思わなかった。 『HENSHIN――CHANGE KICK HOPPER』 次いで聞こえてきた機械音声は、自分達仮面ライダーのそれを想起させるもの。 浅倉が変身した紫のライダーのような、自分の知らないライダーへの変身手段を手に入れたのだろう。 これで機動力は互角となった。 だが、それでもまだ始の方が有利だ。 走るスピードが同じなら、互いの距離は詰められない。その隙に、相手に見つからないよう身を隠してしまえばいい。 『CLOCK UP』 その、はずだった。 「ぐぅあっ!?」 刹那、襲いかかる鈍痛。 腹部目掛けて放たれた衝撃と痛覚が、カリスの鎧姿を吹っ飛ばす。 宙を舞いかけた漆黒の身体が、どん、と木の幹に当たって停止した。 何だ、今のは。 未だ抜けきらぬ混乱の中で思考する。 自分と相手の間の距離は、相手が車から降りるまでに、100メートル近く開いていたはずだ。 だというのに、攻撃が届いた。発射音が全く聞こえなかったことから、射撃攻撃でないことは分かる。 ならば一体何をどうやった。射撃でないなら、どうやって攻撃を当てたというのだ。 「――ぉぉぉおおりゃああああああああああっ!」 びゅぅん。 がきぃん。 瞬間、奇妙な情景を見聞きした。 目の前に立っていた緑色の鎧。 掛け声か何かのような雄叫び。 猛スピードで空気を切り裂く音。 カリスの鎧を叩いた金属音。 それら4つの映像と音声が、ほとんど同時に再生されたのだ。 関連性が、見当たらない。 静かに佇んでいる目の前の敵と、猛然と走り追撃を仕掛けた音声とのイメージが結びつかない。 (音速を超えて動けるのか、こいつは) 導き出された答えはただ一つ。 敵の追撃とここまでへの到達が、追撃により発生した音を置き去りにしたということだ。 音より速く動けるのなら、掛け声より速く手が出たのも納得がいく。 「ったく……手間、かけさせんじゃないわよ。これ、結構、疲れるんだから……」 鎧の奥から響くのは、やはりあのツインテールの少女の声。 改めて相川始は、眼前の仮面ライダー――キックホッパーの姿を見定めた。 ホッパーの名前が指す通り、全体的にバッタの雰囲気を色濃く宿したライダーだ。 身体は宵闇の中でもはっきりと伝わってくるほどの、鮮やかに輝く緑色に包まれている。 顔面を覆うマスクなどは、そのものズバリでバッタのそれだった。 片足に装備された金色のパーツは、これまた名前通り、キック力を増幅させるためのサポーターだろうか。 「どうやらその高速移動も、そう何発も使えるものじゃないらしいな」 立ち上がり、態勢を立て直し、呟く。 半ば息を切らした声からも、あれの体力消耗が大きいというのは確かなのだろう。 ずっとあのままではたまったものではなかったが、短時間しか使えないのなら、どうにかなる。 「関係ないでしょ。どうせアンタ、ここで死刑確定なんだから」 言いながら、緑のライダーが構えを取った。 「そうか」 始もまた、それに応じる。 できることなら雑念が消えるまで、戦うことなくやり過ごしたかったが、この距離ではそうも行かないだろう。 逃げるにしても倒すにしても、確実に反撃を要求される間合いだ。 「分かったらとっとと……死ねぇぇぇっ!」 「はあぁっ!」 緑と黒が同時に吼える。 赤い瞳同士が肉迫する。 加速し、振りかぶられるキックホッパーの足。 踏み込み、突き出されるカリスの腕。 もはや何度目とも知れぬ、仮面ライダー同士の一騎討ちが始まった瞬間だった。 ◆ 見る者が見れば、明らかに異常と分かる切り口だった。 なればこそスバル・ナカジマは、目の前の男を犯人だと断定した。 いくら鉄には劣るとはいえ、人間の骨は相当に頑強で強靭だ。 いかな豪剣を持っていたとしても、よほどの達人でもない限りは、完全に平坦な切り口を作ることはかなわない。 にもかかわらず、止血の際に垣間見た、ルルーシュ・ランペルージの傷跡は、怖ろしいほどに真っ平らだった。 そしてここに至るまでに見た木々や、あの男が切り裂いた柱も、同じように真っ平らだった。 故にスバル・ナカジマは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを犯人と断定した。 「オオオオォォォォォォォッ!!」 怒号を上げる。 拳を振りかざす。 獣のごとく獰猛な叫びと、獣のごとく荒々しい動作で。 獣のごとき金色の瞳を、爛々と憎悪に煌めかせながら、勢いよく床を蹴って飛びかかる。 びゅん、と反撃に出るのは無数の尖翼。 袖のない左腕から迫りくる、糸のごとき白刃の雨だ。 ぐわん、と腕を振るい、薙ぎ払った。 両足で地面を突いて逆立ちとなり、駒のごとく両足を回した。 ジェットエッジのスピナーが唸りを上げる。咆哮と共に旋風を成し、迫る凶刃を引きちぎる。 かつてナイブズだったもの――ヴァッシュの左腕から伸びる尖翼の速度は、これまでに比べると明らかに遅い。 知覚不可能な速度で放たれていたはずの斬撃が、今ではご覧の有り様だ。 それは宿主たるガンマンの意志が、かつてほどこの左腕に毒されていないためなのだろう。 そしてその程度の攻撃では、彼女を死に至らしめることなどできはしない。 「うああぁぁぁぁッ!!」 今のスバル・ナカジマは全開だ。 戦闘機人モードを解放し、IS・振動破砕を発動させ、怒りのままに四肢を振るっている。 情けも容赦も残されていない。 常人なら即死確定の技を使用することへの躊躇いなど、その目には一片も宿されていない。 腕を振り、足を振り、轟然と咆哮し立ち回る姿は、まさに金眼の野獣そのもの。 かつて地上本部攻防戦で、姉ギンガを傷つけられた時以来の、憤怒と憎悪に狂った阿修羅の形相だ。 「どぉぉぉぉぉけえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」 目の前に立ち並ぶ刃の壁を、両手で強引にこじ開ける。 超振動の五指が触れた先から、刃を粉々に砕いていく。 目の前の男が殺したわけではなかった。 黒髪の少年を死に追いやったのは、猛烈な炎を伴う攻撃だ。 それでも、この男に負わされた手傷さえなければ、あの場から脱出することもできたはずなのだ。 「アンタ、は……!」 ブリタニアの少年――ルルーシュの顔が脳裏に浮かぶ。 この身をきつく抱き締めた、隻腕の感触を覚えている。 不思議な少年だった。 あれほどまでにストレートに、誰かに縋られたのは初めてだった。 それほどに救いを求められたことは、生まれてこの方経験したこともなかった。 彼の世界にいた自分のことを、それ相応に大切に思っていてくれたのかもしれない。 ひょっとしたら、好きでいてくれたのかもしれない。 その好意に応えることは、残念ながらできそうにない。会ってすぐの男になびくほど、自分は軽い女ではないらしい。 それでも、あの今にもへし折れてしまいそうな背中を、支えてあげたいとは思っていた。 こうして怒りに狂った獣へと化生するほどには、救いたいと思っていた――! 「アンタだけはああぁぁぁぁァァァァァ―――ッ!!」 遂にスバルは絶叫した。 怒号と共に繰り出された一撃は、遂にその防御の全てを打ち砕いた。 生温かい吐息が漏れる。 ぎらぎらと豹眼を輝かせる。 百獣の軍勢のごとき威容と異様を孕み、殺意の魔獣がヴァッシュを睨む。 「く……」 微かな呻きが、聞こえた気がした。 目と鼻の先まで迫ったガンマンの顔は、確かに意識を失っているようにも見えた。 しかしそれらの情報は、瞬きの後にはシャットアウトされる。 獣が狙うは食らうべき獲物。 すぐに叩き潰すだけの相手のことなど、いちいち気に留める必要はない。 迷いなき敵対意識に従い。 極大の憤怒と憎悪と共に。 轟転するスピナーの右足を振り上げ、踵落としの姿勢を取る。 「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが目を見開いたのは、ちょうどそれが振り下ろされた瞬間だった。 ◆ 奇妙な夢を見ていた。 否、眠っているのとは違うのだから、夢というよりは幻だろうか。 ともかくもその幻の中では、彼は真っ暗な闇の中で、1人ぽつんと立っていた。 上も、下も、右も、左も。 その他ありとあらゆる方向を、どこまで遠くまで見渡しても、黒い闇しか見当たらない世界。 地平線さえ塗り潰された、真っ黒くろの世界の中で、彼だけが、たった1人。 そんな闇の中で立ちふさがったのが、今は亡きミリオンズ・ナイブズだった。 彼が自らを取り巻く闇の幻に気付いたのも、ちょうどその瞬間だった。 気付いた瞬間には既に、そこは1人ぼっちの世界ではなかった。 ナイブズに連れ添うようにして、いくつもの顔が浮かんでくる。 消してしまったジュライの人々。 この戦いの中で救えなかった人々。 自らの手で殺してしまった人。 それらが彼をずらりと取り囲んで、一様に何かを訴えるような目を向けている。 その目を見続けていることが耐えられなくて、彼はうつむき、視線を逸らした。 それからどれほど経っただろうか。 ふと、妙な気配が彼の身に降りかかった。 己を見下ろす視線の中に、1つ覚えのあるものの存在を、肌で感じ取ったのだ。 どこか懐かしいような、それでいて暖かいような感触。 ふっと顔を上げてみると、人ごみの中に、その顔がある。 長い黒髪を持った女性は、かつて彼を育てた母だった。 レム・セイブレム――その名を呼びかけた彼だったが、その声は途中で遮られてしまう。 彼女に伸ばそうとした手が、目に見えぬ何かに阻まれてしまったからだ。 面食らったような顔をした彼は、その謎の違和感の正体を探る。 それは人ごみと己とを隔てる、透明な壁のようなものだった。 壁の向こうに立っているレムは、ただ穏やかな笑みを浮かべるだけで、彼に何も応えてくれない。 一番手前にいたナイブズも、何も言葉にすることなく、ひたすらに沈黙を貫いていた。 ああ、そういうことか、と彼は気づいた。 自分の目の前に立ちはだかる壁は、死者と生者を分かつ壁だったのだ。 後ろを振り返ってみれば、なるほど確かに、生きている知り合いは、皆壁とは反対の方向に立っていた。 生と死の狭間の向こうには、手を伸ばそうにも届かない。 生と死の狭間の向こうからは、相手の声を聞くこともできない。 死んだものは、戻ってこない。 自分はこれまで犠牲にした人々を、そんなところに送ってしまったんだな、と。 彼は改めて実感し、それきり口を開かなくなった。 それからまた、しばらく経って。 いつしか壁の向こうの死者も、生者すらも見えなくなって。 再び真っ暗闇の中で、赤いコートがたった1人。 多少は落ち着いたのだろうか。瞳は下を向いてはおらず、ある一点を見つめていた。 それは生死の壁の反対側。少し前まで、生きていた者達が立っていた場所。 死者の世界を過去とするなら、未来に続いているであろう方角。 しかし、そこから先が伴わない。 ただじっとその先を見ているだけで、立ちあがって進むことができない。 柄にもなく、怯えているのか。 何が待ち受けているのか――ろくでもない結末しか切り開けないのではと、怖れを抱いているというのか。 らしくないぞ、と己を叱る。 今さら何をブルついているんだ。 アンジールに救われていながら、何故また同じことを繰り返しているんだ、と。 ふと、その時。 闇の世界に、光が差した。 自分しかいなかった世界の中に、不意にいくつかの光が灯った。 ふわふわと浮く光の玉だ。地球には確か、ホタルとかいう虫がいるらしいが、ちょうどそれが近いのかもしれない。 彼の周囲に現れた光は、ふわふわと闇の中に浮かびながら、彼の視線の方へと流れていく。 ちょうどそれは、立ち止まって動けない彼を、先へと促しているようにも見えた。 つられるようにして、立ちあがる。 きょろきょろと、周囲の光を見やる。 何故だか、妙な既視感を覚える光だった。不思議と、不快に思うことはなかった。 光に導かれるようにして、一歩踏み出す。 自分でも驚くほどにあっさりと、あれほど頑なに止まっていた足を動かす。 ブーツの片足が、ず、と闇を踏みしめた瞬間。 彼は――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、唐突に覚醒した。 ◆ (あ……) 闇を抜けたかと思えば、今度は靄の中にいた。 そう誤認するほどに、視界はぼんやりと霞んでいた。 薄っすらと確認できる地形から、そこが元のホテル・アグスタだと分かる。 朦朧としかけた意識の中で、状況を整理した結果、自分が気を失っていたことを自覚する。 どれほど気絶していたのだろうか。 その間に彼女は――スバルという少女はどうしたのだろうか。 「―――ぉぉぉけええ―――――――ぇぇぇ―――ッ――」 と。 鼓膜に突き刺さったのは、そんな怒声だ。 意識に割り込んできた声を皮切りに、少しずつ感覚が鋭さを取り戻してくる。 ほとんど色しか分からなかった視力も、物のシルエットを捉えられる程度には回復してきた。 目の当たりにしたのは、戦いの構図。 叫びを上げる青髪の少女が、絶叫と共に暴れまわる様だ。 敵は人ではない。細く鋭く、徒党を組んで襲いかかるのは、刃を宿したナイブズの翼。 どうやらまた、自分の左腕がやらかしたらしい。 意識を失っていた間に、またしても暴走したようだった。 (おいこらヴァッシュ・ザ・スタンピード、寝てる場合じゃないぞ) だとしたら、大変な事態だ。 ぐ、と身体に力を込めて、動かぬ五体を起こそうとした。 目の前の命が潰えるより前に、左腕を抑え込もうとした。 「――タ、は…――」 それでも、身体が応えてくれない。 今までよりはマシとはいえ、やはり左腕の主張は激しく、無理やりにヴァッシュの制御をはねのけようとしてくる。 「―ンタだけはあ―――ぁぁァァァァ――――ッ――」 負けてたまるか。 屈してたまるか。 こんな程度で挫けるのが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードであってたまるものか。 同じ過ちは犯さない。 かつてと同じように力に呑まれ、誰かの命を奪うなんて真似はしない。 もう2度も繰り返したのだ。 ジュライの悲劇を繰り返すものか。 フェイトの死別を繰り返すものか。 だから立て。あともう一歩だ。意識を取り戻すところまで来たんだぞ。 もうあと一歩で届くはずなんだ。 その一歩を踏み出すんだ。 さぁ、行くぞ――ヴァッシュ・ザ・スタンピード! 「ァアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!」 くわ、と瞳を見開いた瞬間、絶叫と踵落としが襲いかかった。 「~~~~~っ!」 咄嗟の判断で、腰を落とす。 するりと滑り落ちるように、相手の股下を仰向けに抜ける。 はらり、と前髪が散ったのが分かった。 ぞわり、と首筋を悪寒が襲った。 おまけに、危うく舌を噛み切るところだった。 相手のスカートの中身は――OK、覚えてない。ということは見ていない。 この状況で考えるのもアレだが、紳士として最低限の礼儀と自制は務め上げることができたらしい。 なんて馬鹿なことを心配している場合じゃなかったことを思い出し、身を起こして姿勢を正す。 「こぉのおおぉぉぉぉぉっ!」 すぐさま第二撃が襲いかかった。 ぎゅるぎゅるとローラーブレードを回転させ、猛スピードでこちらへと加速。 ぎゅん、と唸る鉄拳は、風か嵐か稲妻か。 当然食らうわけにはいかない。 故に、身をよじって回避する。 そのまま勢いに身を任せ、ばっとその場から駆け出した。 とにかくなるべく遠く離れることだ。ついでに障害物があるとなおいい。 相手は近接戦特化型で、おまけに足も速いと来ている。接近戦を挑んでいては、命がいくらあっても足りない。 「OKOK、落ち着いたな……そのまま大人しくしといてくれよ」 軽く抑えた左腕は、今はすっかり静かになっている。主導権を取り戻すことは成功したようだ。 そうして確認をしているうちに、鉢植えを倒しソファを飛び越え、廊下に差しかかり、曲がり角にしゃがみ込む。 中腰の姿勢を作ると、壁越しに相手の様子を窺った。 「逃げるなァッ!!」 荒々しい語気と共に振りかぶられるのは、烈風のごとき打撃の応酬。 立ちはだかる障害物を粉微塵に砕きながら、じりじりとにじり寄るスバルの姿だ。 先ほどまで戦っていた相手とは、どうしても同一人物には思えない。 怒り狂った態度もそうだが、攻撃の破壊力にしたってそうだ。 ソファを一撃でぶち抜くのもどうかしてるし、よく見れば先ほどの踵落としを食らった床も、見事にクレーターを作っているではないか。 ぱらぱらと粉塵の舞うロビーの中、まさしく目の前のスバル・ナカジマは、憤怒の炎を燃やす悪鬼羅刹だ。 (さて、どうする) 考えていられる時間は残り僅かだ。 その僅かのうちに決めなければならなかった。 恐らく、もう拳銃の威嚇は当てにならない。アレを生身で組み伏せるのはどうやっても無理だ。 故に当初のプランではなく、新たな対策を講じなければならなくなった。 この場を殺さずに切り抜けるには、より強力な拘束力がいる。 この肉体以上に強靭なもので、相手の動きを封じる必要がある。 (……試してみるか!) そして幸いにも、その条件を満たすものは、既に己が右腕に宿されていた。 ぐ、と右手を前方に突き出す。 エンジェル・アームの砲弾を撃ち出す時のように、腕の中に“力”をイメージする。 脳裏に思い浮かべるのは、左腕に刻み込まれたナイブズの記憶だ。 力尽き死体と成り果てるまでに、数多くの敵を切り裂いてきた、刃の尖翼のイメージだ。 同じプラント自立種で、同じエンジェル・アームである。兄貴のナイブズにできたことが、弟の自分にできないはずがない。 兄の発現させた怒りが、殺意の剣であるというのなら。 人々を守るためのこの身には、外敵を阻む盾がほしい。 鋭く禍々しい刃を突き立て、誰かを傷つけることのないように。 されどあらゆる状況からでも、誰かを守れる強靭さと精密さを。 (もう、大丈夫だ) もちろん、不安がないわけではない。 この身体に宿された力への恐怖は、依然として心に残されている。 少しでも加減を間違えれば、また誰かを殺めてしまうのではないか。 自分が使い方を誤れば、またフェイトや新庄のように、犠牲を生んでしまうのではないか。 その心の乱れさえも引き金となって、再び暴走を招いてしまうのではないか、と。 未だ胸に残された罪悪は、ちくりちくりと痛覚を訴えている。 それでも。 だとしても、止まれない。 ここで立ち止まるわけにはいかない。 新庄達の死を悼むつもりがあるのなら、それこそ前に進まなければならないのだ。 自分が動くことで、死ぬかもしれない命もある。だがそれは、自分がそうならないように努めればいいだけのこと。 それ以上に問題なのは、自分が動かなかったことで、救えた命を救えずに終わってしまうことだ。 もう大丈夫だ。 二度と立ち止まることはしないし、立ち止まろうにも立ち止まれない。 ヴァッシュ・ザ・スタンピードの名が示すのは暴走。 たとえ困難が立ちはだかろうと、どんなドタバタがつきまとおうとも、ひたすらに突っ走るのが己の性分。 だから、進め。 歩みを止めるな。誓った覚悟をより強く固めろ。 そう。 「――迷うな!」 今が、その時だ。 刹那、右腕が眩い光を放つ。 光輝の中より顕現するのは、いい加減顔を合わせるのにも慣れてきた、危険で過激な天使の翼。 されど姿を現した力は、命を奪う大砲ではない。 兄のもの同様細かく枝分かれし、されど柔らかな羽毛の形を成した、ヴァッシュ・ザ・スタンピードオリジナルの尖翼だ。 ぎゅん、と唸って翼が羽ばたく。 大気をぶち抜いて羽が舞い躍る。 さながら雲の巣のように展開された翼の糸が、四方八方からスバルへと迫る。 「くっ……!」 反射的に飛び退いても手遅れだ。 本人の明確な意志のもとに、全力で展開された尖翼の速度は、先ほどまでのそれの比ではない。 制限が外れれば、知覚することすらかなわなくなるほどのスピード。 たった1枚きりであろうとも、幾百千の銃弾の雨にも耐えきる堅牢性。 首輪による制限下において、その性能を大幅に落とされたとしても。 不意を打たれたのであれば、未だ発展途上のスバル・ナカジマに、回避できる余地はない。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」 ヴァッシュが吼える。 人間台風が唸りを上げる。 文字通り翼という名の風を操り、一個の台風となって絶叫する。 持てる精神力と集中力の全てを注ぎ、無数の枝葉と化した尖翼を操作。 さながら魚を捕えるイソギンチャクだ。 360度全方位から伸びる純白の光輝が、標的の手を掴み、足を掴む。 握り潰すほど強固ではなく、されど逃げられるほど軟弱ではなく。 「う、うわああぁぁっ!」 僅か数秒の後には、全身を縛り上げられ空中に静止するスバルの姿があった。 Back 突っ走る女 時系列順で読む Next きみのたたかいのうた(後編) Back 突っ走る女 投下順で読む Back 突っ走る女 ヴァッシュ・ザ・スタンピード Back 突っ走る女 スバル・ナカジマ Back 突っ走る女 相川始 Back 突っ走る女 柊かがみ Back 破滅へのR/なまえをよんで ヴィヴィオ
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246 :1/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 35 08 ID ??? 「え……?」 ピジョットのその一言を聞いたゲラは、戸惑いの視線をこちらへ投げかける。 その視線に、私は確かに焦りを覚えた。 ……いくら普段は疎遠な弟はいえ、私の汚い部分を見せたくはない。 金の為に、人間様を売ったなどと……知られたくない。 そんなことを知られたら、余計に惨めな気持ちになってしまうじゃないか…… ……このピジョットが余計なことをぬかし始める前に、さっさとお金をもらいここを立ち去ろう。 そうだ。もう私にはそれ以外に道は残されていない。 迷っていては余計に惨めになるだけだ、こうなったら開き直ってしまえ……! 芽生え始めた三つ目の感情にも突き動かされ、私はすぐさまピジョットへとこう言った。 「ピジョット……さん。約束のものは? 持ってきたんですよね?」 手を差し出しながらそう言うと、ピジョットは嘴の端を歪めて笑みを浮かべ、こう言ってきた。 「まぁ、まぁ……そう急ぐな。確認ぐらいさせてくれないか。 ゲルくん…… 『人間は確かにこの都市にいるんだな』 ?」 「……!!」 ピジョットが発する容赦ないその言葉に、私は息を詰まらせる。 脇目でゲラを見やれば、その視線の困惑の色はより強まっている。 「は、はい……います、いますよ。ですから、約束のものを早く……!」 そう急かす私を焦らすように、ピジョットはゆっくりとこう言う。 「……どうした、一体何に焦っているんだ? 焦らずともワタシは逃げないよ」 「……!!」 だ か ら そういう問題じゃない!! お前が逃げてしまうことを恐れているんじゃあなくて、 この私が早くここを逃げたいんだっ!! ちくしょう、態度から判断しろよ、それくらい……!! ともすれば喉から捻り出てしまいそうな怒号を私はぐっと抑え―― ――それでも少し声が荒いでしまいながら、私は次の言葉を投げかけた。 「私は、時間が無いのです! ですから早く、早く、『約束のもの』……」 「 そ ん な も の は な い 」 247 :2/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 37 04 ID ??? 「えっ」 ピジョットのその言葉に私は耳を疑うが、 それに反し、その言葉の意味することを私は瞬時に理解する。 理解し、そして……時間が、凍りついた。 そんなものは無い……だって? そんなものは……無い…… 「……どうした、聞こえなかったか? 『キミにやるものは無い』と言ったのだ。 約束など反故だ、反故。『人間の存在をワタシに教えた』くらいで、 あんな『大金』をやれるか……ワタシは『魔王軍』だぞ? フフフ」 「あ……」 凍りついたワタシへと襲い掛かる、ピジョットの言葉。 まるでワタシの隣にいるゲラへと言い聞かせるように…… まるで私の心情を完全に見透かしているかのように…… 一片の容赦のない、吐露。 「え……あ、兄貴……!?」 そして、信じられないといった風なそのゲラの一言。 その二つの言葉が、凍りついた私の体を急激に溶解させていく。 「そ、それ以上……言わないでください……」 気が付けば、私は力なくそう搾り出していた。 ただし、ピジョットがその言葉に応じるわけもなく。 「常識的に考えてみたまえよ。確かに、ワタシたち魔王軍は人間を必要としているよ…… だがしかし、人間の存在を電話一つで教えてもらった程度で、誰が大金など出すものか」 嘲るようなピジョットの言葉。そのピジョットの表情は、嘲笑に満ちている。 「まさか、本当にあれだけの金がもらえると信じていたのか? 信じて期待していたのか? フフフ」 「う……ううぅっ……!!」 248 :3/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 38 28 ID ??? 「ちょっと、そこのキミ」 ピジョットは私からゲラへと視線を移し、そう呼びかける。 「!」 焦りが芽生える。ゲラへ何を言うつもりだ―― 「キミはこのユリル・ゲルの兄弟か何かかね? このゲルくんが何をしたか、 どんなに愚かしいことをしたか、せっかくだから懇切丁寧に教えてやろうか」 「なっ」 ピジョットは、信じられないことを言い始めた。ゲラに全てを言うだと? ――何で……何でそんな……っ!! 制止する間もなく、ピジョットは興奮したような声でゲラへ向かってこう言い始めた。 「このユリル・ゲルは大金欲しさに、何も知らぬ人間をワタシに売ったのだ! ワタシが魔王軍……あの魔王軍であるということを伝えたにも関わらずね」 「そ、そんな……」 ゲラの視線が、非難的な視線が、私を炙る。 ピジョットはそれにも構わず――むしろそれを楽しんでいるかのように、話を続ける。 「数十万ほどの金を見せ紳士的な態度をとれば、すぐさま協力的になってくれたよ。 血も涙もなく、慈悲も温情もない……そして何より、頭の出来が最高にお目出度いっ!」 ピジョットの言葉は、ねちねちと私の急所を的確に衝いていく。 そしてゲラは、眉尻を下げ口を半開きにしながら、その話を黙って聞いている。 一体ゲラは今、私に対してどれだけ失望しているのか…… ちくしょうピジョットめっ、黙れっ、黙れっ――! 「どう考えても、等価交換の体を為していないのにねェ! 考え方が甘ったれそのものだ! 自分に都合のよい現実だけは、一片の疑いも抱かずホイホイと受け入れる! ハハッ!!」 いかに心の中で叫ぼうが、ピジョットの口は止まらない。 私の精神を、プライドを、どん底へと導いていく陰険な言葉。 ……それは、罪悪感が何だの絶望が何だのと心内で後悔しておきながらも、 何だかんだで己に甘えきっていたという事を、はっきりと私に自覚させる言葉であり…… そしてそれを自覚していくと共に競り上がってきた感情は、どうしようもない怒り。 ピジョットへの怒り……!! 249 :4/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 42 04 ID ??? 「わ……私はっ!」 「ん?」 私の声に、ピジョットはこちらを振り向く。 「私はっ……人間様の存在をあなたに報告したことには変わりないじゃないか。 お金はもらえなくとも……ここまで卑下される筋合いは無いはずだァっ!!」 まだ嘲笑を浮かべたままのピジョットへ、私はそう訴えた。 そうだ。大金はともかく、立場的には私は有り難がられる側のはずなんだっ! 理不尽だっ。今この状況は、有り得ないほどに理不尽だっ!! 「……フフッ」 「!?」 なんとピジョットは、私のその訴えに再び笑みを漏らしたのだ。 「このワタシが、そんな礼節を弁えたモンスターに見えるか?」 「な、なにぃ……!?」 横暴でかつ理不尽な返答。それは、とても私の納得のいくものではない。 咄嗟に反論しようとすると、ピジョットは続けてこう言ってきた。 「そもそもキミに頼まなくとも、実際は部下に任せればよかったこと。 ワタシは、キミに対して有り難いとも何とも思っていないよ」 「え……!?」 私は、また耳を疑った。 こいつ、昨晩はいかにも『部下は使えない』といった風なことを言っていたはず。 ……嘘だったのか……!? 私を騙したのか……! そして同時に一つ、大きな疑問が浮かび上がる。 ……それなら一体、なぜ私を使ったのだ……!? 「じゃ、じゃあ何で、私を使ったんだ! 部下を使わずに私を使ったんだっ!! なぜ私を巻き込んだっ!! その理由は何だァっ!? 全く分からないっ!!」 浮かび上がった疑問を、すぐさま私はピジョットへと投げつけた。 ……一層深まるピジョットの笑み。その次の瞬間返ってきた答えは、こうだった。 「キミを見下すためだ」 250 :5/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 45 53 ID ??? 「な……なんだとォ……!?」 まったく理不尽極まる返答だった。こんな答えで誰が納得行くだろうか。 私を玩具か何かだと思っているのか、こいつは……!? 私の心中の怒りは、一層激しくなっていく。 そして、あたかもそれを煽るかのように、ピジョットはこう続ける。 「落胆、後悔、憤怒、羞恥……負の感情が複雑に絡み合ったキミのその表情が、ワタシを強くする。 ワタシが『高み』にいるのだという実感を与えさせてくれる……生きる上では、これが実に重要でね」 「なに……!?」 「他者を見下すことはワタシ達の最大の活力ッ!! そして遥か空に生きてきたワタシ達の習性さッ!! キミのそういうバカ丸出しな表情が、ワタシ達にとっては最高の『糧』なんだよっ!! ハハハハーッ!!」 「ぐ……ぐぐぐ……っ!!!」 狂ったように大声で笑い始めるピジョット。私を全力で見下すピジョット。 怒りに、悔しさに、羞恥心に、頭がぐちゃぐちゃに掻き回されていく。 ……このピジョットがあの時私の元へとやってきてから今までの、 私の悩みは……迷いは……期待は……行動は…… 全てが全て、この者に愉悦を与えるためだけのものに過ぎなかったのだ。 ……つまり、明るい未来を取るか、変化の無い未来を取るか、だの…… ……欲望と良心の狭間だの……幸せがなんだの、絶望がなんだの…… あれ、ぜんぶ完全な一人相撲で……思い込みに基づいた、完全な、一人、相撲でっ これじゃあ、本当に、本当に、本当に、私は単なるバカだったんじゃあないかアァっ!! 「フフッ……ハハハッ! どうしたどうした、そんな俯き気味では、よく顔が見えんぞ! もう少し顔を上げたらどうだ、キミたち虫けらは空を見上げるのが仕事だろう? なぁ そら、顔を見せたまえよ!! もォ~~~っとよォ~~~くゥ~~~見せたまえよォ~~~ン!!」 俯き歯を食いしばっている私の耳へと入ってくる、ピジョットの声。 その嬉しげな調子が、最高に耳障りだ。癇に障るどころの騒ぎではない。 いっそのこと舌を引っこ抜いて喉を潰してやりたい。そうだ、殺してやりたい、殺すっ、殺すっ、殺……!! 251 :6/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 47 29 ID ??? 「ピジョット貴様ァッ!! 黙ってれば調子に乗りやがってッ、ぶち殺してやるッ!!」 湧き上がる怒りによって、恐怖や建前などというものは消し飛んだ。 ピジョットが魔王軍であるというにも関わらず、ゲラの前だというのにも関わらず、 私はかつてないほどに声を荒げさせ、ピジョットへと暴言を投げつけていた。 「……おやおや、どうかしたのか? いきなり」 ピジョットは驚いたような様子も見せずに、虚仮にするような言葉を投げつける。 そのスカした顔と喉、ぐちゃぐちゃに潰してやる――ッ 怒りを、恨みを、感情を、強い視線と共にピジョットへと向ける。 ……念力は精神の力。私の怒りを全て念力に変え、こいつに味あわせてやる……!! 「……むっ? な、こ、これは……」 「な、なんだァ……!?」「あ、頭が……!」 数秒後、ピジョットとその部下達はすぐに異変を起こし始めた。 私の怒りが念力となり、奴らの脳みそに鈍痛を与えているのだ。 「そのまま頭痛で死ね、外道ども……ッ!!」 両の手をピジョットへらと向け、私はより力を込める。 もっと。もっとだ。もっと怒りを……奴らを、殺せ!! 「……やれやれ。まるで駄々っ子だな」 「!?」 ピジョットはまるで私の念力をものともしていないように 冷静にそう呟くと、ゆっくりとこちらへ歩み寄り始めた。 「だが、まぁ……そんな無様な姿も、ワタシの愉悦の一部であるのには変わりないがね」 ピジョットは一度溜め息をつくと、ゆっくりとその優雅な翼を大きく広げ始める。 「き……きさま、なにをするつもりだーッ!!」 怒りの中へと割り込んでくる不安と焦り。私は、より視線に念力を込める。 なぜだっ、あの部下どもは確かに頭痛で苦しんでいるのに、なぜこいつは……! ピジョットは、一度だけ力強く翼を扇いだ。 次の瞬間、猛烈な勢いの空気の壁が私を撥ね飛ばした。 252 :7/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 49 58 ID ??? 「がァっ!!」 空気の壁に押しやられ、私は遥か後方のジャングルジムへと叩きつけられた。 硬い鉄柱が背中と後頭部に強烈な衝撃を与え、私は地面へと崩れ落ちる。 痛みで、体に力が入らない。当たり所が悪かったか、意識が朦朧として眩暈がする。 ぼやけた視界の中、ピジョットがこちらへと歩み寄ってくるのが見える。 もう、念力を浴びせてやる余力は無い……結局、私はこいつを一つも苦しめられなかった。 「……ゲルくん。一つだけ、キミに教訓を与えてやろうか」 ピジョットは再び笑みを浮かべると、こう言い放った。 「世の中、理不尽なくらいで丁度いいものだ」 「坊やっ子は誰だって、痛みや理不尽さを知って成長するものさ…… キミにとって、この出来事はよい薬になったはずだ。よい教訓になったはずだ」 あまりに勝手な発言。だが、もはや何も言い返す気力が起きない。 「ワタシのせめてもの慈悲だ……キミはこのまましばらく眠っていたまえ。 そして今後はこの教訓を活かし、理想の未来を目指し頑張ってくれ……フフフ」 背中を向けるピジョット。それと同時に、私の視界は徐々に暗転していく。 ……薄れ、消え行く視界。 それまで怒りの対象だったピジョットが見えなくなっていくと共に、 私の怒りは、次第に私自身へと向けられていく。 ……私は、子供の頃からちぃっとも変わっていない…… いつかは幸せが転がり込んでくるのだと、知らぬ所で根拠も無く信じ込んでしまっていた。 だからピジョットがやってきた時に私は、心の奥底で『その時が来た』のだと判断し、 根本的に疑うことはしようとはせずに、アッサリと信じ込んだ……甘んじてしまった。 そうだ。今回の事態は、そんな私の常識知らずの甘えが導いた結果なのだ…… ……ようやく、ツケが来たということなのだ。『お坊ちゃま』で居続けていたツケが…… ……はは……もう、後悔しても……遅いやァ…… ――強烈な自己嫌悪と共に、私の意識は闇へと落ちていった。 253 :8/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 52 22 ID ??? ゲル兄貴は、今まで私があまり見たことのない怒りを露わにした姿を晒したが、 魔王軍のあの鳥(確かピジョットとか言ってたな)の一煽ぎによって、一瞬にして鉄柱へと叩きつけられた。 そして兄貴は今、鉄柱へ背を預けたまま項垂れている。気絶してしまったのだろう。 ……ゲル兄貴…… ――当然の報いだっ 魔王軍が犯罪集団であるということは、いかに頭の悪いあの兄貴でも知らないはずは無い。 その上であのゲル兄貴は、何も知らぬ人間様を魔王軍へと売ったのだ。 ただ、金に目が眩んだという理由のみで。 ……至極当然の報いだっ。至極当然の結果だっ。 仕事もせず苦労もせずニート一筋の兄貴が、そう楽して金を手に出来るはずが無い…… 最終的に痛い目を見るのは当然だ。 気絶してしまった兄貴を見ても、私は可哀相などとは一片も思わない。 あるのは、『ついに落ちる所まで落ちたな』という達観とした感情のみ。 私は、絶対にあのゲル兄貴のようにはならないぞ。 そう、あいつのような悪人には……!! 「ところで、キミ」 「!」 不意に耳に入ってきたあのピジョットの声に、私は心臓を跳ねさせる。 そしてそのピジョットの視線は、明らかに私へと向けられていた。 「わ……私のことを呼んだんですか」 「そうだ」 返事と共にこちらへ歩み寄ってくるピジョット。 ……しまった。逃げ遅れたか……? 一テンポ遅れて、己も危機に晒されているのだということを自覚する。 そして私の目の前に立ったピジョットは、私へとこう問いかけた。 「人間の居場所を知っているかね?」 254 :9/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 54 28 ID ??? 「実は、今から人間を迎えに行く所でね。あのゲルくんの報告によって 人間がこの都市にいることまでは分かっているのだが…… 肝心の詳細な居場所までは分かっていないのだ。教えてくれないか?」 「…………」 ……まるで、先ほど心中で唱えた誓いを試されているかのようだ。 私は、私だけは、人間様の詳細な居場所を知っている。 だが無論、こんなヤツにそれを教えるわけには行かない。 魔王軍は犯罪集団だ。言うまでもなく悪者だ。 こんなヤツに人間の居場所を教えては、私の善人してのプライドはバラバラに崩れ去る。 私の生き方においては断固として許されざる、バリバリの悪行。 誰が教えるかよ。あーん……? 「ひ……ひ……っ」 わざと、そしてなおかつ自然に息を乱れさせ、顎を震わせる。 あたかも心底恐怖しているかのように。心底怯えているように。 そして私は、ピジョットへと懇願するようにこう訴えた。 「し……知っていたら教えますよォーー! で、でも私は、そんなこと知らないし…… あ、あのっ、その、本当なんですよぅ! だ、だから命はっ、命だけはァっ!」 手をつき、涙で目を滲ませ、繰り返し「見逃してください」と懇願する私。 私はさも『生きるためなら何でもする』といった風な男を、ピジョットの前で演じてみせる。 私の今演じている人物像なら……知っている情報を教えないということは絶対に有り得ない。 人間様をわざわざ庇う必要などありゃしないのだから、それは全く意味のない事である。 ……このピジョットは私の本当の性格なんてこれっぽっちも知らないのだから、そのことを疑う余地は無いはずだ。 ……完璧だ。完璧な演技……完璧な虚構……完璧な欺瞞…… 尿意があらば、わざとオシッコ漏らしてやってもいいな。 ……必要ないな。今の時点でも、こんな鳥頭に私の演技が見切れるものか……! 「キミは、何をしているんだ?」 255 :10/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 55 54 ID ??? 「えっ」 ピジョットが口にしたその不自然な言葉に、私は呆気に取られた。 ……今、こいつ何と…… その言葉の意図を探ろうとすると、ピジョットは続けてこう言い放った。 「ワタシは、『命乞いしろ』とは一言も言っていないぞ。 ……ワタシは、『人間の居場所を教えろ』と言っているのだ」 ……なにぃ……!? 信じられない言葉に、私は驚愕する。 こいつ、私の言ったことをちゃんと聞いていなかったのか? それとも、私の言うことをちゃんと理解していないのか、この鳥頭はっ それとも―― 三つ目の推測は、ピジョット自身の口から語られた。 「ワタシのように高みにいる者は、虫けらの習性は全て分かりきっているものだ。 キミのそれは『演技』だな。なぜ隠すかは分からんが、キミは人間の居場所を知っている」 何――っ!! なんと、私の演技が見破られていたのだ。 いや、これはただの推測かもしれない。私をカマにかけようとしているだけなのかも…… 「え、演技なんてっ!! 何を言ってるんですか、私は人間様の居場所なんて……」 「何をうろたえているんだ? 別にキミ自身が損するわけでもないはずなのに、なぜそう頑なに隠し通す?」 「ぐっ……!」 こ……こいつっ! もはや私が嘘をついているということを前提に語っているっ! 己の考えに、己の推測に、一切の疑いを持っていないっ! そう信じ込む根拠は一体どこにあるんだ、一体何なんだコイツは……! くそう。なぜ、なぜ私がこんな目に……! 256 :11/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 19 58 08 ID ??? 「……言わぬというのなら」 ピジョットはふと、勢いよく息を吸い込み始めた。 張り出したピジョットの胸の筋肉が、更に膨張していく。 「……!?」 その意図の分からぬ動作に、私は焦りを覚える。何をするつもりだっ ……次の瞬間。 「うがっ!!」 一瞬のち肩へと激痛が走り、私は呻き声を上げた。 気がつけば、焼けつくような痛みが肩口に張り付いている。 そこに心臓があるかのように、肩に熱い脈動が走っている。 「な、なんだァ……!?」 肩に目をやると、まるで銃弾にでも撃たれたかののような穴が一つ開いている。 貫通はしていないみたいだが、傷口の中に異物感も感じない。 こ、こいつ……何をしたんだ……!? 胸を満たし始める不安と恐怖。 そしてそれを助長させるかのように、ピジョットはこう言い放った。 「言わぬというのなら、もう一度キミの体を貫いてやろう。次はどこがいい? また肩ではつまらないだろう……次は腕か? 手か? 腿か? 脇腹か? まぁ、いずれにせよキミが口を割らぬなら、順番など関係はなくなるがな。フフ、フッフフフ」 「ひっ……」 今度は、決して演技などではなく…… 純粋な感情のままに、私は小さく悲鳴を漏らした。 自然に乱れる息。自然と震える顎。自然と滲み出てくる涙。 肩口に確かに存在する痛み。激痛。そこだけ熱湯にでも浸っているかのような熱さ。 捻じ曲がっていく背景。ぼやけていく視界。消えてゆく現実感。 258 :12/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 20 02 44 ID ??? 「今ならまだ遅くないよ。キミの体に面倒くさい傷が増えていく前に、さっさと居場所を漏らすんだ。 サァ、早く。早く、早く、早く。今ならまだ遅くはない、いィ~~~まァ~~~なァ~~~らァ~~~」 追い詰めるようなピジョットの言葉。 ピジョット。ヤツは魔王軍、モンスターぐらい躊躇い無く殺す犯罪集団 人間様の居場所。誰が、誰が、誰が、誰が誰が誰が教えるか、そんなこと 私は私は善人だぞォ! このプライドに傷がつくぐらいなら体に傷がつくぐらいどうってことは 「聞き分けの悪い子だな」 そう呟くピジョットは、また大きく息を吸い込み始める。 「まぁ、例え最悪殺してしまったとしても……ワタシには構わん話だがね。フッフ フ フ」 耳を疑う。信じられない言葉。あってはならない現実。 最悪殺してしまったとしても? 何を言ってるんだこいつは、死ぬ? 殺す? そんな、横暴な 「や、やめろォォ!!! やめてください、やめてェェ!!!」 「やめて欲しいのなら人間の居場所を言うことだな。言わなかったら続ける、ただそれだけのこと」 「な……な……な……」 言えるかボケ、言えるわけねえだろカス、言ったら私は悪人になっちまうんだぞぉぉォ!! あの愚か者のゲル兄貴と同類になっちまう、私の善人像が消え去る、崩れ去る、朽ち果てる 私は善人なんだ……言えるか、言えるわけがない、言いたくない、言わない、 私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ! 私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ!私は善人だ! 積み重ねてきたんだこれまで、私が善人である所以、それを積み重ねて来たんだ だから言わない 言わない 言わない絶対言わない、言わない言わない言わ…… 言わなかったら? 言わなかったら、私は……死ぬ? 死んだら全部ムダになる、 これまでの全てがムダになる、しかも痛い、最高に痛い、とても痛い、 言ったら崩れるっ!! 言わなかったら痛いっ!! 崩れる、痛い、崩れる、痛い、痛い、崩れる、痛い、痛い、崩れる痛い痛い痛い痛い痛いいいィいィいィィいィ 「に、人間様はッ!! コサイン川沿いの屋敷ッ、マジシャンバリヤードの屋敷にッ!! 今はそのご子息マネネの住む屋敷に、居ますッ! 居るはずですうううッ!!!」 259 :13/13 ◆8z/U87HgHc :2008/03/29(土) 20 08 13 ID ??? 「あ……」 叫び終えた瞬間、人間様の居場所を完全に吐露し終わった瞬間、私は我に返った。 「……フフ、情報提供感謝するよ」 ピジョットはそれだけ言うと、さっと身を翻す。 そして何やら、部下であろう周りの小鳥達に指示をしていたと思うと、 一斉に大きく翼を広げ、再び空へと飛び立っていった。 再び影となってゆく鳥達。魔王軍。 止めようも無く、影の群れはぐんぐん私の視界から遠ざかっていく。 あの影達は、私の漏らした情報を元に人間様の元へと向かうのだろう。 人間様はおそらく魔王軍に捕まり、そして人間様の取り巻きであるあの二人も、 屋敷に居るであろうマネネ坊やも、そのお手伝いも、全員が犠牲になるのかもしれない。 全ては、私の一言のせいで。 そう、私は魔王軍に情報提供をしてしまったのだ。『加担』してしまったのだ。 自己弁護のしようが見つからない。 私は恐怖に負けた。痛みに負けた。負けて、あっさり従ってしまった。 結局私は、弱かった。目先の苦痛に負けてしまうような、弱い善人だった。 ……いや、元々私は善人でもなんでも無かったのかもしれない。 ただ善人ぶっていただけ…… 自分が善人なのだと意識し思い込んで、全ての行動を無理やり善行へとこじつけて、 ……責任を取ろうとしていなかっただけ……甘えていただけなのかもしれない。 ……考えてみれば、こんな事態を招いたのも全て私のせいだと言える。 私が人間様の存在を広く知らしめなければ……ゲル兄貴に教えなければ…… そもそもこんな事態にはならなかったのだ。なるはずがなかったのだ。 ……全て……私のせい…… 崩れ去ったプライドの中から現れる、膨大な自己嫌悪。 私はもはや、そのまま動くことが出来なかった。 つづく