約 1,432 件
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/741.html
人生で最も青春したなぁって思った瞬間がいつかと聞かれれば、 私は真っ先にあの文化祭のことを言うだろう。 中学のとき、引っ込み思案で人との関わりが苦手だった私は、 自分に青春なんて言葉はないんだろう、と思っていた。 友達と呼べる存在も、あまり多くなかった。 しかし、陵桜に来て、私は初めて心から解り合える「友達」と出会えた。 彼女たちとずっと過ごして、そして解ったこと。 それは、青春というものは誰にでもある、ということだった。 文化祭が終わって、私たちの友情は更に深まっていた。 みさきちや峰岸さんたちとよく話すようになったし、 ゆーちゃんたちも時々私たちの教室を訪ねてくるようになった。 そして何よりも、私たち4人はこれまで以上に仲良くしていた。 「ほい、じゃー席につけー」 黒井先生が教室に入ってきた。今日の最初の授業は、世界史だった。 右手には、大量の紙が握られている。 「え、先生、まさかそれって…」 クラスの男子が焦りながら尋ねた。 黒井先生はニヤリと笑って、 「せや。今から抜き打ち小テストするでー」 と言った。その瞬間、クラスから大ブーイングが飛んだ。もちろん、私も飛ばした。 つかさは顔を青くして震えている。 みゆきさんは余裕そうだった。チッ、憎いね。 テストはもちろん散々だった。もともと予習、復習などしない上に 今授業で扱っているところは実に複雑で、みゆきさんですら頭を抱えているらしい。 一夜漬けなんてもんじゃない、三日三晩漬けこんでもできるかどうかわからない。 だから、ふて寝してやった。もちろん黒井先生から天誅が下ったけど。 3時限目、体育。今日はこの時を楽しみに学校に来ていたものだ。 体育館でバスケットボール。私は球技の中でバスケが一番得意だった。 まだ少しズキズキと疼く頭を気にしながら、私はコートへ入った。 ゲームの最中、私にパスが回ってきた。 ドリブルで前へとボールを進めていると、声がした。 「危なーい!!」 声のするほうへ顔を向けると、目の前には巨大なボール。 と思ったのもつかの間、私とボールは見事な接触事故を起こした。 私はコートに倒れた。と同時に、さっき天誅が下された部分を硬い床にぶつけてしまった。 目の前に星が飛んだ。 「こ、こなちゃん大丈夫!?」 つかさが自分のゲームをそっちのけで私に駆け寄ってきた。 みゆきさんも駆けつけてくれる。クラスの皆も心配そうに私を見ていた。 私は痛さを我慢して起き上がった。 「へ、平気平気。でもちょっとクラ~っとするから、抜けるね」 そう言って、私は頭を押さえながらコートを出た。 バスケットボールが、「ざまぁみろ」と言っている気がした。 なんとなく腹が立ってきたので、バスケットボールを蹴飛ばしてみた。 それは壁に跳ね返って、再び私の顔面に激突した。 「ふぎゃ」と我ながら情けない声を上げながら、私はまた倒れた。 その時、右肘に何かが触れた。 と同時に、私の目の前の景色が歪んだ。 歪みは瞬く間に酷くなり、やがて別の景色を映し出した。 雲ひとつない青空、真下には地平線の彼方まで続く大海原。 その景色の中を、私は超スピードで飛行していた。 声が出ないほど美しい景色だった。瞬きも忘れるほどだった。 とはいえ、目が乾く。瞬きを一度。 その瞬間、目の前の景色は体育館の天井に戻っていた。 そして、また頭に鈍痛が走る。 今度は心配する声と同時に、私を笑う声も混じっていた。 私は恥ずかしくなって、俯いた。 昼休みになった。私たちはいつも通り机を付けて4人でお弁当を食べる。 これだけ不運が続いてると、そろそろいいことがあってもいいんじゃないかと思う。 「こなちゃん、今日何かツイてないよねぇ~」 「うーん、そうだね。テスト散々だし、バスケで怪我するし…」 「テストはあんたのせいだけど、怪我は大丈夫なの?」 「頭を強く打たれたんですよね? やはり保健室で寝ていたほうが…」 みゆきさんが少し心配そうな顔をした。 でも、どちらかというと黒井先生の鉄拳の方が頭に響いていたので大丈夫だった。 「だいじょーぶだいじょーぶ。それに、こんだけツイてないと今度はいいこと有りそうじゃん?」 私は笑った。それにつられて3人も笑う。 「でも、二度あることは三度あるとも言うわよ~、また何かあるかも…」 かがみがニヤニヤして私を見てくる。 「もぉ、かがみん、今いい雰囲気だったのにぃ…KY」 「そのセリフ、そっくりそのままあんたに返すわ」 私の毎日は、こうやって過ぎていく。 つかさやみゆきさんと話して、かがみと絡んで、家ではゆーちゃんやゆい姉さん、お父さんと楽しく過ごして。 時間がもし可逆なものだとしても、私は絶対に戻さない。 まぁ、時間はもともと戻せないんだけどね。 帰り道。 私はかがみたちと別れ、一人帰路についた。 最近太陽が沈むのが少し早くなってきた。冬が近いことを教えてくれているようだった。 「あ、忘れ物した」 かがみに返してもらった漫画を、そのまま机の中に入れっぱなしだったのを思い出した。 無駄に軽やかなステップを踏んで、私は180度体を回転させた。 携帯を取り出し、時間を見る。3時40分。 見たいアニメが始まってしまう。私は、ジョギングで学校へと向かった。 学校から少し離れた道路。 次の曲がり角を右に曲がれば、学校の通りに出る。 「おー、泉。どうした。忘れ物か?」 曲がり角のところに、黒井先生がいた。 「はい、そうです。かがみに貸した漫画、忘れちゃって…」 「勉強道具じゃないんかい…。ホンマにお前は…」 黒井先生が私を見て呆れたような顔をした。 私はそれを尻目に、電信柱に手を掛けて体を遠心力に任せて回転させた。 そのときだった。 目の前に、この狭い通りに不似合いなトラックが現れた。 もちろん私は反応する余裕などなかった。 私の体は、飛んだ。 「おい、泉! 泉!」 黒井先生が私をすごい形相で見ていた。 薄れていく視界の中で、ぼやけていたが辛うじて確認することが出来た。 目の前が真っ暗になる。 体を動かそうとしても力が入らない。 …これが、死ぬって事なんだろうか。 あぁ、こんなことなら今日学校に行かないでネトゲに浸かってればよかった。 マンガを読み漁ってればよかった。 お父さんやゆーちゃんともっと話すればよかった。 かがみやつかさ、みゆきさんたちともっといっぱい遊べばよかった…。 お父さん、ゆーちゃん、ごめんなさい。 かがみ、つかさ、みゆきさん、今までありがとう。 お母さん、今からそっちに行きます…。 目の前が突然明るくなった。 と同時に鈍い痛みが私の額に走る。 「いったぁ…」 額を押さえて、私はうずくまった。電信柱にぶつかったようだった。 と、同時に一つの疑問が浮かぶ。 「…何で生きてんの、私?」 そう言うと同時に、私を撥ねたのに似たトラックが通っていった。 「あれ? あれ?」 私は混乱した。 確かに、私はさっきトラックに轢かれた。痛みもあったような気がする。 でも、体を見ても怪我の跡はない。 胸に手をあててみる。心臓は相変わらず鼓動をしている。生きているのは間違いないみたいだ。 「おー、泉やないか」 黒井先生が私を見つけて声を掛けてきた。 「なんや、電信柱にぶつかったんか? ボケっとするのも大概にしときや」 「あ、あのっ! 黒井先生っ!」 「な、何やねん」 黒井先生のスーツを掴んで、私は必死に今起こったことを話そうとした。 上手く舌が回ってくれない。 「えっと、その、わ、私生きてますよねっ?」 「何言うとるんや。死んでたら、お前が今ウチの前に立っとるわけないやろ?」 「そ、そうですよね…」 何が起こったか全く理解できない。私は頬を思い切りつねった。痛い。 「やっぱ夢じゃない…」 「早く家帰るんやで。期末テストが今日みたいに悲惨やったらマジでぶん殴るからなー」 「あ、はい。さようなら」 黒井先生が立ち去った。 とりあえず生きているのは間違いないようなので、学校から漫画を持って帰った。 家に帰ってからも、なかなか落ち着けなかった。 私は死んだはずだ。それも、相当酷い事故で。 あれは幻なんかではない。確かに私はトラックに撥ねられたのだ。 あれこれと考えて、一つの結論にたどり着いた。 …もしかして、私、過去にワープした? 私は、可能性をとことん追求してみることにした。 まず、時間を確認。ベッドに乗る。 深呼吸を二度、三度。両手を広げる。 目を閉じる。 そして…大きくジャンプ! 私は膝を床に強打した。 「あ、いったぁ…」 鈍痛が膝を駆け巡る。 今日だけで体を何回打っただろう。そんなことを考えていると、ゆーちゃんが部屋に入ってきた。 「お、お姉ちゃん、今の音どうしたの?」 私は恥ずかしくなった。 「い、いや、なんでもないよ。気にしないで」 ゆーちゃんは心配そうな顔をしながら部屋を出て行った。 私は不時着した状態のまま、少しの間考えた。 やっぱ、トラックに撥ねられたときみたいに死ぬかもしれない状況じゃないと無理なのかな。 窓を開ける。外は少し冷えていた。後ろを振り返って、時間を確認する。 5分前ぐらいに戻ってみようかな。窓から身を乗り出す。 「お姉ちゃん、ダメぇっ!」 後ろから声がした。私は心臓が飛び出そうになるほど驚き、窓から本当に落ちそうになった。 声の主は、言うまでもなくゆーちゃんだ。私を両手でがっしりと掴んで、窓から私を引き摺り下ろした。 ひと段落して、ゆーちゃんはしばらく肩で息をしていた。 「お姉ちゃん、死んじゃやだよぉ。何か嫌なことあったの? 私、力になるよ?」 すごく真剣な眼差しで、ゆーちゃんは私を見つめていた。目にはうっすら、涙を浮かべている。 「別に死のうとなんてしてないよ。泣かないでよ、ゆーちゃん。別に何もないから」 「本当に? 本当に何もないの?」 ゆーちゃんが今度はひっく、ひっくとしゃくりあげ始めた。 だめだ、このままじゃラチがあかない。 「大丈夫だって。私、ちょっと出かけてくるから」 心配そうに私にくっついてくるゆーちゃんを尻目に、私は家を出た。 家の近所にある公園。私はそこのベンチに腰掛けて、考えを巡らせた。 時間を遡ることなんてできるわけないじゃん。 私、何考えてるんだろう。 いや、でも実際にワープしたわけだし…。 ぐちゃぐちゃと色々なことが頭を回って落ち着かない。 …うん、もう一度試してみよう。 公園の時計をチェックする。5時36分だ。 そこそこ長い階段の前に立った。 近くでは、遊具に戯れる子供たちの声が聞こえる。 心臓が高鳴ってくる。 助走距離をとった。 「唸れ、私の足!」 意味もなく掛け声を出して、猛ダッシュする。 階段の1メートル手前で、私は踏み込んだ左足に力を入れて、跳んだ。 「うおぉぉぉぉ…」 怖くなって、目を閉じた。 「うわあぁぁぁっ!」 私は、何か硬いものに激突した。 「いったぁ…」 何度目かと数えるのも面倒くさくなってきた。 頭を押さえながら立ち上がると、そこは見慣れた部屋。 「…私の部屋だ」 時計を見る。4時27分。 反射的に、この時間帯にいつも自分がしていた行動を思い出した。 「あ、見たいアニメあったんだ」 TVをつけると、聞きなれたオープニングテーマに乗せてキャラクター達が愉快に動いていた。 そして、私は確信した。 「私、飛べんじゃん。…飛べんじゃん!」 時間を飛び越える能力。マンガの中の話だと思ってた。 でも、実際今、私は時間を飛び越えられる。 これなら、何でもできる。なんなら、今までの失敗を取り返す事だって…。 「あ、そうだ」 私はあることを思いついた。 そして、今朝まで時間を飛び越えた。 「ほい、じゃー席につけー」 黒井先生が教室に入ってくる。右手には、大量の紙。 「え、先生、まさかそれって…」 「小テストですよね? 先生」 私は得意げな表情をしてみせた。 黒井先生がこっちを見て疑問の顔を見せる。 「せや。泉、よく解ったな。予知能力でも見につけたか?」 「まさか。私生まれ変わったんですよ。テストばっちりできるように、復習カンペキにしてきました」 ウィンクとガッツポーズを同時に黒井先生にお披露目する。 黒井先生は少し戸惑っていたようだが、 「…ま、まぁ、ええわ。机並べろー。カンニングしたもんは罰として歴史上人物に関するレポート提出や」 ブーイングが飛ぶ。前よりも大きいブーイングだ。 もちろん私はブーイングなど飛ばさない。だって… 「満点!? こなちゃん、すごいね!」 「まーねー」 問題わかってたし、という言葉を飲み込んで私は言った。 「私でも満点は無理でしたのに…。泉さん、素晴らしいですね」 みゆきさんが笑顔で私を称えてくれた。いやー、ありがたいね。 満点取るのがこんなに嬉しいことなんて、初めて知った。 「うー…こなちゃんまで勉強できるようになっちゃったら、私困っちゃうよぉ…」 つかさが俯いて悲しそうな声を出した。私はつかさの肩を叩いた。 「大丈夫、次のテストは出る問題教えてあげるって」 「え?」 つかさが顔を上げて、いかにも不思議そうな顔で私を見た。 3時間目、体育。バスケットボールだ。 ドリブルでボールを進めていると、横から声。 「危なーい!!」 私は左手を顔の横へと出した。 左手に感触が伝わる。ボールを受け止めたのだ。 「ほいっ」 そのまま左手をまっすぐ押し出して、ボールを投げ返す 「いよっと!」 そして右手でゴール下へドライブイン、ランニングシュートを決める。 周りから歓声と拍手が沸き起こった。 「すげぇ、泉」 「泉さん、すごーい」 思わず踊りだしてしまいそうな快感。いやぁ、何とすがすがしいことか。 私はクラスメイトの歓声に酔いしれながら、試合を続行した。 試合の流れを全て把握していた私は、結局一人で20ゴールを決める大活躍をした。 「なんかこなちゃん、今日すごいよねー」 「うーん、そうだね。テストできたし、バスケすごく調子よかったし」 「あんたが世界史のテストで満点取るなんて…明日は槍、いや矛かしら?」 「かがみさん、それは言いすぎでは…」 いつも通り、4人で机を付けて昼食。 しかし、今度はどこも痛まないし、悔しい気持ちも感じない。 すごく幸せな気分だった。 帰りはちゃんと漫画を鞄にしまい、鼻歌を歌いながら家へと帰った。 何もかもが上手くいった。私の思い通りに。 こんなに楽しい一日は、人生の中で初めてかもしれない。そう思った。 それから、私はこの能力を使って自分の思い通りに日常を過ごした。 使用例、その1。 「お姉ちゃん、遅刻しちゃうよー?」 私は重い瞼をむりやり持ち上げ、時計を見た。 「ん…あぁっ! もうこんな時間!?」 もう7時30分を回っていた。普段ならこの時間に家を出ている。 「さっきから何回も起こしたのに…」 「ご、ごめんゆーちゃん、先に行ってて!」 私はゆーちゃんが立ち去るのを見届け、廊下へ出た。 助走距離をしっかりとって、思い切り駆け出してジャンプ! 壁に激突。もう痛いのは慣れてきた。…って、何かマゾに目覚めたみたいな言い方だけど。 もちろん、時間は戻っている。いつも起きる時間に。 使用例、その2。 「あの、これください」 「あ、すいません、それ前のお客様で売り切れちゃったんですよ」 「えぇっ!?」 すぐに助走距離をとって、ダッシュ。 「はぁ、はぁ、これ、ください」 「はい、こちらですね。7000円になります」 私は財布からお札を取り出し、店員に渡す。 「ありがとうございましたー」 私は、限定版フィギュアを大切に鞄にしまった。 これと同じ手口で、私は限定品を買い漁っていった。 使用例、その3。 「問題です。雷のことを俗に『稲妻』と言いますが、その由来はなんでしょうか?」 クイズ番組。私たちは、3人揃ってしかめ面をした。 「えー、こんなのわかんないよぉ」 「そうだな、これは流石にお父さんもわからんなぁ」 「みゆきさんなら知ってるかな」 3人で悩んでいると、司会者が答えを発表した。 それをしっかりと覚えて、私は廊下に出て、ダッシュした。 「問題です。雷のことを俗に『稲妻』と言いますが、その由来はなんでしょうか?」 「えー、こんなのわかんないよぉ」 「そうだな、これは流石にお父さんもわからんなぁ」 私はテーブルを拳で軽く叩き、得意げな顔をする。 「実はね、古代信仰では稲がなるときに雷が多かったから、雷の光が稲を実らせるって言われてたんだって。 で、『稲の妻』みたいな存在だから『稲妻』って言うんだよ」 司会者が、答えを発表。間違えているわけがない。 「お姉ちゃん、すごーい!」 「すごいな、こなた。どこで知ったんだ?」 褒められるのが照れくさい。私は頭を掻いた。 「いや、まぁ、知ってて当然?」 当然な訳ないのだけれど、私は胸を張って言い切った。 こんな感じで、私は自分の意のままに時間を飛び越え、そして自分が得をするように日常を過ごした。 そんなある日のことだった。 私が登校して上履きを取り出すと、下駄箱の中から1通の手紙がはらりと落ちてきた。 それを拾って、中を見る。 「泉へ 今日の放課後、屋上で会ってください」 丁寧な字で書いてあった。私は赤面して、その手紙を鞄にねじ込んだ。 生まれて初めてもらったラブレター。いや、ラブレターと決まったわけではないけど。 でも、体が火照るのがわかる。こんな経験は初めてだからだ。 その日の授業は、上の空だった。黒井先生の授業は今日はなかったので、特に鉄拳を食らわされることもなかった。 かがみたちに相談できるわけもなく、放課後。 屋上で静かに待っていると、ある男子が駆け寄ってきた。 クラスメイトでもなんでもない、赤の他人だった。 「ごめん、泉…。待たせた?」 「…ううん。待ってないよ」 相手の顔を見ることが出来ない。俯いて、私は小声で返事をした。 「…話って、何?」 「うん。…俺さ、泉のことが好きだ」 この展開はギャルゲーとかで何度も経験していたけど、実際自分が体験するとなると何も言えなくなってしまう。 私は、ゆっくりと顔を上げた。返事は考えていなかった。 相手の顔を見る。とても優しそうな顔。 さっきは思い出せなかったけど、彼とは何度か顔を会わせたことがある。 話もした。そのときはただ、いい人だなと思ったのだ。 「泉、付き合ってくれ」 付き合うのか、付き合わないのか。頭の中の葛藤はなく、答えは私が思ったよりもすんなりと出てきた。 翌日の昼休み。 いつも通り4人でお弁当を食べていると、昨日の彼がやってきた。 「泉、ちょっといいか?」 「あ、うん。今行くね」 私を除く3人がきょとんとする。まぁ、無理もないだろう。 私は、彼と付き合うことにしたのだった。何故かはよくわからない。 でも、男性と付き合うことがどんなことなのか知ってみたかったのだ。 しかし、彼と付き合うことで失うものはあまりにも大きすぎた。 いつもの4人で過ごせる時間が、短くなってしまったのだ。 登下校はいつも彼と一緒。昼休みもそうだ。 話せる時間は短い休み時間の間だけ。その時間を使ってつかさやみゆきさんと話そうとするが、何故かぎこちなくなってしまう。 私たちの関係は、自然と薄くなっていった。 彼とは毎日会っている。別に嫌ではない。付き合っているから。 でも、私にはもっと大切な友達が必要なのだ。 「…駄目だ。あの時に戻って、ちゃんと断ろう」 私は時間を飛び越え、あの日の放課後に戻った。 「泉、付き合ってくれ」 相手の真剣な顔を見ていると、断るという気持ちが薄れていってしまう。 私は、また俯いてしまった。言葉が出てこない。 でも、駄目だ。ちゃんと断らないといけない。 私は、かがみや、つかさや、みゆきさんたちと毎日を過ごしていたいんだ。 「…ごめん。私、付き合うとかそういうのは考えられない…」 彼は私の言葉を聞くと、少し肩を落として、溜め息をついた。 それから笑顔に戻って、 「そうだよな。柊たちと一緒にいたいんだろ?」 と言った。私は黙って頷いた。 「時間とって悪かったな。それじゃ」 彼は後ろを振り返ると、そのまま校舎へと消えていった。 …これで、本当に良かったのだろうか。 一度は付き合った男性。人生で初めて異性と付き合うということを知った。 でも、私は時間を戻して「彼と付き合う」という出来事を無かったことにした。 もちろん、彼は私と付き合ってはいないし、私も異性と付き合ったことはない。 全てをリセットし、何もない状態に戻ったのだ。 彼の悲しそうな笑顔を思い出す。 生まれて初めて、私のことを好きになってくれた人。 その人の気持ちを、私は弄んだのだ。 自分が嫌になった。 自分の都合のいいままに事を運んだ自分が嫌になった。 それから、私は時間の跳躍を少し控えることにした。 他人が絡むことに対してこの能力を使うのは、人の気持ちを弄んでいるようで嫌だから。 それから、私の日常は能力を得る以前の状態に戻った。 失敗もすれば成功するときもある、この日常が、やっぱり一番いいのかもしれない。 「…ねぇ、かがみ。もし時間を思い通りに飛び越えられるとしたら、何する?」 ある暖かい日の昼休みに、まどろみながらかがみに聞いた。 かがみはわざわざ私の正面の椅子に腰掛けて、返事をしてくれた。 「そうねぇ…。今までにした失敗、全部取り返したいな。 あと、未来に起こるであろうことを、未然に防ぎたい、っていうのもあるかな」 かがみがこちらをチラリと見た気がした。 「何? 私の顔に何かついてる?」 「い、いや、何でもないの。寝ぼけてると次の授業で黒井先生にまた殴られるわよ」 かがみはそう言って教室から立ち去っていった。 「…桜庭先生、『時』って何なんですかね。戻る事ができないし、かといって進む事も止めることもできないし」 生物の時間、桜庭先生になんとなくこう尋ねてみたこともある。 生物というより、科学、化学全てに詳しい桜庭先生なら、何か詳しく教えてくれると思ったからだろうか。 「ふむ。泉にしてはなかなか興味深い質問だ」 先生はそう言うと、黒板に周期が同じな曲線を書いていった。 黒板の半分ぐらい書くと、先生はこちらを振り向いた。 「泉、この曲線が何を示しているか、答えてみろ」 「え…?」 突然の出題に、私は戸惑った。頭を掻いて、私は正直に答えた。 「…わからないです」 「まぁ、そうだろうな。私だっていきなり聞かれてもわからん」 先生が、微笑する。私もつられて微笑した。 しかし、先生は突然真剣な顔になった。 「これはな、人間の一生の『時の流れ』を示している曲線だ」 私は少し疑問がわいた。 「先生、でもおかしくないですか? 時の流れって、普通真っ直ぐじゃありませんか?」 「ふむ、いいところに気付いた」 先生はまた黒板に振り向き、今度はさっきよりも振れ幅の大きい曲線と、直線をそれぞれ書いた。 「お前が言っている時の流れとは、こっちのことだな」 先生が、直線を棒で叩く。私は黙って頷いた。 「じゃあ泉、考えてみろ。お前がもし自分が嫌なことをやっているとき、 例えば、お前の場合なら学校の授業か。それをやっているとき、どう思う?」 私は少し考えた。 「そうですね…面倒くさいなぁ、早く終わんないかなぁ、って思いますね」 「私は別にいいが、他の教員に対して授業が面倒くさいと絶対に言わないこと」 先生が私の額を棒で軽く叩く。私は少し面食らった。 「まぁいい。とにかく、時間が長く感じるのは確かだろう。それがこっちだ」 曲線を叩いて、桜庭先生が続ける。 「では逆に、お前は好きなことをやっているとき、時間の流れはどうだ?」 「そうですね…すごく早く感じます。一時間でも一瞬のように感じるし」 「それがこれだ」 先生が、直線を叩く。 「人間の一生っていうのはな、この2つの時間の流れが合わさって出来ているんだ。 同じ『時間』でも、人によっては長くも短くも感じる。そして、人の人生におけるこの2つの時間の流れを平均すると」 先生が今度は最初の曲線を指す。 「このようになる。人間の生涯は、こうやって山あり谷ありだから面白くも儚いものになるのだ。 もし、この山や谷がなくなると、人生というのは実に短くなる。わかるな?」 先生の口調が早くなっている。少し興奮してきている証拠だろうか。 私は、また黙って頷く。 「山や谷がなくなる、というのは、要するに『失敗しない』ということだ。 人間というものは成功と失敗の積み重ねで生きているようなもの。成功しか知らない人生を送っていると 人生があっという間に過ぎ去る。面白みのない人生だ。そして最も怖いのは、いざ失敗したときにどん底に貶められることだ」 少し頭が混乱してきたが、私はとにかく桜庭先生の話に耳を傾けた。 「どん底に貶められた人生を軌道修正するのは、不可能に近い。だから人間は普段から失敗を繰り返し、 それを糧に大きな失敗をしないように努力していく。それが『人生』というものの本来あるべき姿だ」 「…すいません、ちょっとよくわかんないです」 流石に頭がパンクしそうだったので、私は言った。 先生は懐から煙草を取り出し、一本くわえた。 「…まぁ、わからなくても無理はない。ま、せいぜい悩むことだ、若者」 先生が教室から立ち去ろうとする。 「あ、先生。最後に聞きたいことが」 先生が振り返る。 「何だ」 「もし、時間が戻せたら何したいですか?」 先生は大きめに息をついて、 「好きなだけ寝る」 とだけ言って教室から立ち去った。 家に帰ると、時間は既に7時を回っていた。 鞄を置いてベッドに寝転ぶ。最近の疲れがどっと出てきたように体が重くなった。 目を閉じて、いつもより深く呼吸をする。 この能力を手に入れてから、私の人生は大きく変わったのだと思った。 好きなように人生を送って、全てを自分の思い通りにして。 そうすれば、私はいつまでも楽しく生きていける。そう思っていた。 でも、実際はそうじゃないのかもしれない。 桜庭先生が言っていた通り、失敗と成功があってこその人生。 全てを自分の思い通りにすることは、愚かなことなのかもしれない。 もっと頭のいい人なら、この力を上手く利用できるんだろうな。 「…ちゃん」 「ん…?」 「…お姉ちゃん、起きてってば」 いつの間にか眠ってしまっていたようだった。重い瞼を持ち上げ目を擦ると、目の前にゆーちゃんが確認できた。 「叔父さんがお風呂沸いたから入りなさいって…」 「あ、わかった。ありがとね」 ゆーちゃんの髪の毛に手をポンと乗せて、私は部屋を出た。 そして、風呂場へと向かった。 浴槽に浸かっている間、私の頭の中では最近の出来事がぐるぐると回っていた。 風呂の湯加減がいい具合だったので、私の頭は勝手にふわふわとしていた。 髪を洗っているとき、鏡の中の自分の右肘に何かあざの様なものが目に付いた。 「…何だろ、これ」 指で擦ってみても消えない。 「今まで気付かなかったってことは、最近できたのかな。どっかにぶつけたっけ…」 あざをよく観察すると、それは何かを形どっているようだった。 「…数字?」 電卓にあるような、デジタルの数字のようなもの。 「50? 05?」 50とも、05とも見受けられる。いずれにせよ、その数字が何を示しているのかはわからない。 しかし、気になって仕方がなかった。 結局その数字を気にしすぎて、長風呂をしてしまった。もちろん逆上せた。 「あ、今日確か…」 新聞のテレビ欄をチェックする。 「やっぱり。見逃してた」 いつも見ているアニメを、見逃してしまったのだ。録画もしていない。 「…どうしよ」 時間を戻して見るか、それともこのままか。 私は迷った。この能力の使用は控えている。 でも、他人が絡むわけではないし、別にアニメの一つや二つ、人生に影響はしないだろう。 「よし、戻ろう」 久しぶりに時間を戻す決意をした。そして、私は時間を戻してアニメを見た。 「うーん、今回はなかなかシュールな感じだったなぁ」 アニメの感想を、一人呟いてみる。 印象に残ったシーンを頭に浮かべながら、私はベッドに横になった。 ふと、右肘のあざのことが気になった。起き上がって、パジャマの袖を捲る。 「…あれ、減ってる」 50、もしくは05だった数字が、今度は『04』となっていた。 「これ、まさか…残り回数?」 時間を飛び越える能力にも限りがある。 その事実は、私に少しばかりの不安を与えた。 そして、私はそれと共に一つの決意を新たにした。 「肝心なときにだけ。本当に必要なときにだけこの能力を使おう」 能力を使わない生活がしばらく続いた。 相変わらず失敗ばかりだが、桜庭先生の言ったとおり、なんとなく今の生活が楽しかった。 黒井先生に殴られたり、つかさとみゆきさんとお喋りしたり、かがみをからかってみたり。 時間を戻す必要なんか何もない。だんだんその事実に気付き始めていた。 そんなある日の帰り道だった。 「こなちゃん、今日うちにおいでよ。ちょっと気合入れて、新しいお菓子作ったんだ」 つかさが私の手を取って笑った。 「そうなのよ。この子、昨日一日中悩んで一生懸命だったのよ」 その少し後ろで、かがみが付け加える。 「そうなんだ。じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」 私はつかさが一生懸命にお菓子を作る姿をうっすらと想像しながら、返事をした。 つかさはさっき以上の笑顔になって 「ホント? やった!」 とスキップして私たちより先に進んだ。 その光景を、私とかがみは和やかに眺めていた。 そのときだった。 突き当たりに差し掛かったあたりで、道路の中心に飛び出したつかさの左から一台の車が現れた。 「つかさっ!!」 かがみの静止も空しく、つかさは、車に跳ね飛ばされた。 つかさの体が宙に舞う。 私たちの体は、金縛りにあったように動かなかった。声も出せない。 つかさの体が地面にたたきつけられると同時に、私たちの体の金縛りは解けた。 私たちはつかさの方へ駆け寄った。かがみが体を抱きかかえた。 つかさの体には至るところに傷。そして、腕や足がありえない方向へ曲がっていた。 さらに、セーラー服が血で滲んでいた。 「つかさ! ねぇ! つかさ!」 かがみが目を大きく見開いてつかさに叫び続ける。 つかさの目は固く閉ざされたままで、開かない。 かがみは、大粒の涙を流していた。 私は、つかさの変わり果てた姿を見て呆然と立ち尽くしていた。 「お…ねえ、ちゃん…?」 つかさが今にも途切れそうな声で囁いた。 「つかさ、つかさ! 大丈夫、今救急車が来てくれるから…!」 つかさを轢いた車の運転手が、遅れて駆け寄ってきた。 私は、その憎むべき人間の胸倉を掴んで叫んだ。 「アンタ免許持ってるんでしょ!? なんでつかさを轢いたんだっ!」 頭の中では、この人間を思い切りぶん殴ってやりたいという衝動でいっぱいだった。 私が左手を握ると、かがみが私の左手を掴んだ。 「やめて…」 私は我に返った。かがみの方を見ると、かがみは私の顔をじっと見つめ、顔を横に振った。 こんなところで争っても、意味がないでしょ。かがみの表情から、そんな言葉が読み取れた。 かがみの腕の中で、つかさが首をもたげ苦しそうに喋り始めた。 「…お姉ちゃん…こなちゃん…。私…死にたく…ないよ…ゴホッ、ゴホッ」 つかさが咳き込む。打ち所が悪すぎたのだろう。咳と共に血が飛ぶ。 「ヤ…だよぉ…死にたく…ないよぅ…ひぐっ…」 そう言った瞬間、つかさの瞳から、光が消えた。 「つかさ? つかさ?」 かがみがつかさの頬を軽く叩く。何度か叩いたあと、つかさの体を静かに地面に寝かせた。 「うわああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 私は、空に向かって泣き叫んだ。この行動が意味するものは何もないが。 泣き叫んでいるときに、思い出した。 時を戻す能力の存在を。 なんで今まで気付かなかったんだろう。 肝心なとき。本当に必要なとき。それは、まさに今だ。 私は、かがみ達に背を向けると、まっすぐに駆け出した。 必死に駆けて、駆けて。私の足は、この能力を実感するきっかけとなったあの公園へと向かっていた。 足が棒のようになっても、呼吸が苦しくなっても、ただひたすら走った。 つかさは、本当にいい子なんだ。こんなところで、死なせたりしない。 大丈夫。時間を戻せば、きっとつかさはまた私にあの笑顔を見せてくれるはずだ。 ――――泉さん…だよね? この間はありがとう! ――――紹介するね。私の双子の姉、かがみお姉ちゃんだよ。 ――――これからは『こなちゃん』って呼んでいいかな? つかさは、私がかがみと出会うきっかけとなった人物。 料理が上手くて、天然で、それでいて誰よりも優しい心を持った女の子。 私は、あの公園の階段の上に立った。 つかさ、待っててね…! 今、助けてあげるから! 助走距離をとる。呼吸を落ち着ける。 パンパンになった足を、手で叩く。 心臓の音が、耳に響いている。 そして、私は再び駆け出した。 つかさは… ――――私ね、こなちゃんと話しているといつも思うんだ。 つかさは… ――――こなちゃんと会えて本当に良かったな~、って。 「つかさは、私の、一番大事な友達なんだっ!!!」 足に力を入れて、私は青空へとジャンプした。 目の前の景色が揺れ動く。天と地が引っ繰り返る。 景色がぐるぐると周る。私は、目を閉じた。 暫くして目を開けると、教室に居た。 私の視界に入ってきたのは、かがみ、みゆきさん、そして、つかさ。 「つかさ…つかさっ!」 私は我を忘れてつかさに抱きついた。 つかさは顔を赤くしながら戸惑っていた。 「ちょっと、こなちゃん! いきなりどうしたの?」 「つかさっ…つかさぁ…!」 涙がこぼれてくる。よかった。時間を戻せば、死んだ人も生き返らせることが出来るんだ。 よかった。本当によかった…! 「ちょっとアンタ、マジでどうしたの?」 「何かつかささんに関する悪い夢でも見たのでは…?」 「ううん、違うの。上手く説明できないけど…。本当によかった。つかさ、私、つかさに会えて本当に良かったよ」 「ちょ、ちょっと、恥ずかしいよぉ、こなちゃん」 つかさの顔が、余計に赤らんでいった。 放課後になった。 「こなちゃん、今日うちにおいでよ。ちょっと気合入れて、新しいお菓子作ったんだ」 「そうなのよ。この子、昨日一日中悩んで一生懸命だったのよ」 「そうなんだ。じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」 そう言って、私はつかさの手を握る。この後、何が起こるかわかっているから。 つかさを再び戸惑わせているのは解っていたが、私は彼女の手を強く握り締めた。 近くの通りを、つかさを撥ねていったものと同じ車が通り抜けた。 そして、私はつかさの手を離した。これで、もう大丈夫だと確信していた。 つかさが一生懸命作ったお菓子は、程よい甘さと苦味が混じって本当においしかった。 自分の家のドアを開けると、暖房の暖かさが私をすぐに包んだ。 荷物を部屋に置いて、リビングへ入ると、ゆーちゃんがいた。 「お帰り、お姉ちゃん。どこ行ってたの?」 「んー? かがみの家だよ。つかさの作ったお菓子をいただきにね」 つかさの作ったお菓子の甘みがまだ口に残っていた。私は、TVのチャンネルを適当に回した。 その時、あるニュース番組が私にとって衝撃的な映像と音声を流しだした。 「うそ…お姉ちゃん、これって…」 ゆーちゃんが顔を真っ青にしていた。 私は、無意識のうちに家を飛び出していた。 ――――先ほど入ったニュースです―――― 認めない。そんなの絶対認めない。 ――――今日午後6時10分頃―――― 嘘だ。絶対嘘だ。 ――――埼玉県の鷲宮神社で―――― だって、だって…! ――――柊つかささんが、何者かにナイフで刺され間もなく死亡しました―――― つかさは、私がちゃんと助けたんだから…! 鷲宮神社に着くと、既に野次馬が沸いていた。 私はその中を無理矢理通り抜け、神社の入り口に張られたテープを乗り越えようとした。 「ちょっと君! ここは関係者以外立ち入り禁止だよ!」 「うるさいっ! 私は関係者なんだっ!」 静止に入る警察官を押しのけ、石段を駆け上る。 駆け上った先には、他の警察官たちが現場の調査をしているようだった。 一本の木の下に、人の形をしたテープが貼られていた。 つかさは、ここの落ち葉を掃除しているときに殺されたのだろう…。 木の根元に、血痕が残っていた。 私は、地面に膝をついた。 「…何で? 何でつかさが死ななきゃいけないの…?」 この現実を受け止めたくない。 私は両手で体を起こして、後ろを振り向いた。 絶対につかさを死なせない。 私は駆け出し、再び空へと跳んだ。 時間は、今日の放課後に戻っていた。 つかさは、ちゃんと生きていた。しかし、前のようには喜べない。 彼女を、私から離してはいけない。ずっと一緒に居てあげないと。 「こなちゃん、今日うちにおいでよ。ちょっと気合入れて、新しいお菓子作ったんだ」 「いや、それより二人とも今日はうちに泊まりに来なよ! つかさのお菓子、うちで食べよ!」 二人は顔を見合わせた。 「…うん、いいよ。じゃあ、私たち家で準備してくるから」 「待って! 私もついていくから」 「どうしたのよ、アンタ。今日はやけにくっついてくるわね」 二人は終始戸惑っていたようだった。無理もない。 私はつかさを死から護らなければならないのだ。そんなこと説明しても信じてくれないだろう。 私はつかさから目を離さないようにして二人についていった。 私の家に到着して、ようやく私の緊張の糸は切れた。 部屋に荷物を置いて、ベッドにへたり込む。つかさはそんな私の様子を見て、 「どうしたの、こなちゃん? 調子悪いの?」 と心配そうに言った。心配したのはこっちだよ。 つかさの作ったお菓子は前に食べたものと同じ。この味が出せるのはつかさしかいないと大袈裟なことを考えた。 夜も3人で色々な話をして盛り上がった。 午前1時。流石に眠くなってきたので、床に布団を敷いてからベッドに潜り込んだ。 おやすみと二人に声を掛けて、電気を消す。 まどろみ始めてきた頃に、かがみが声を掛けてきた。 「ねぇ…こなた」 「ん…。何、かがみ」 豆電球の薄暗い明かりの中で、私はかがみの顔を見た。 「アンタさ、もしかして…」 「何?」 かがみは少し俯いて、黙ってしまった。 「…いや、いいわ。なんでもない」 そう言うと、かがみは布団に包まってしまった。 私はかがみのことが暫く気になったが、眠さもピークに達していたのですっかり眠りこけてしまった。 「…ゴホッ! ゴホッ!」 誰かの咳き込みが聞こえて、私は目を覚ました。 「はぁ、はぁ…ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」 「ちょ、ちょっとつかさ! どうしたの!」 かがみの声。私は急いで電気をつける。 かがみの方を見ると、そこには血まみれになった布団と、苦しそうに咳き込むつかさがいた。 私は、もうどうすることもできなかった。 つかさは、しばらく咳き込んだのちに静かに息を引き取った。 時間を戻しても、人の運命は変えることができないのだろうか? 他人が幾ら干渉しても、絶対に買えることの出来ない運命というものが存在するのだろうか? 答えは解るはずもなく。 私は、再び時間を戻した。 もう、つかさが死ぬと言う運命には逆らえないのかもしれないけれど。 時間は、戻ったはずだった。 また放課後に戻って、みゆきさんやつかさやかがみが目の前に居るはずだった。 しかし、目を開けた私の前に広がっていたのは学校の校庭だった。 それも、太陽が昇る前のように薄暗かった。 私は、校庭の端の方で倒れていたようだった。 体を起こして、セーラー服についた砂を払い落とす。なんとなく体が重く感じた。 校庭を横切り、校舎の前にたどり着いた。 校舎を見ると、一つだけ明かりのついた部屋があった。 私は扉を開け、そこへ急いだ。 明かりがついていたのは、私たちの隣のクラス。かがみが居るクラスだった。 なぜか心臓が高鳴っている。 深呼吸を二度、三度して、私は戸をスライドさせた。 「…やっぱり、アンタだったのね」 あまりにも聞き慣れた声。 教室で一人窓際に佇んでいた。 かがみだった。 「か…がみ…? どうしたの、こんなところで?」 「…『タイムリープ』」 私の質問に返事をせず、かがみは一人語り始めた。 「時間を自由に跳躍できる能力。本人の意思一つで、過去であればどの時間にでも戻れる能力よ。 こなた…。あなた、タイムリープができるのよね?」 私は戸惑った。かがみは何故そのことを知っているのだろうか。 「…なんで知ってるの?」 「私も、タイムリープ能力を得た人間の一人だから…と言えば解るかしらね」 かがみが窓から離れ、椅子に座った。 「私は、この時代の人間じゃないの」 かがみの口から、衝撃的な言葉が聞こえた。 「え…。ま、待ってよ。そんなのおかしいじゃん」 私はさっきからひたすらに鼓動を早める心臓を手で押さえながら、かがみに問うた。 「だって、かがみは私たちと同い年だし、双子のつかさもいるし、お姉ちゃんもいるし…。 この時代の人間じゃないって、そんなのおかしいよ、絶対」 「何から話せばいいかしらね」 かがみが頬杖をついた。 「あなたは、本来ならばこの世に存在していないはずの人物なの。こなた」 「え…?」 かがみの真剣な眼差しに、私は言葉を失った。 「本来なら、あなたは既に死んでいる。私があなたの運命を変化させて、救ったのよ」 かがみが一呼吸置いて、続ける。 「あなたは、本当なら最近、死んでいるはずだったの」 かがみの言葉が、私にとてつもない衝撃を与えた。 私は、本当なら死んでいるはずだった…? 「つかさを通じて私とあなたは出会った。すぐに仲良くなれて、私はずっとあなたと仲良くしていたいと思った。 でもね、叶わなかったの。今日からちょうど2週間前、あなたはトラックに撥ねられて死んでしまったから」 それで思い出した。私が、トラックに撥ねられたときのことを。 学校に忘れ物をして、それを取りに行った。黒井先生に会って、曲がり角を曲がった。 そしてそこに現れたトラック―――――― 「本当にショックだった。大好きな親友が死んでしまうのは、本当に悲しかった。 つかさも、みゆきも、それだけじゃない。あなたに関わった人間が全て、明るさを失ってしまったの」 かがみの声が、少し震えていた。目に涙を浮かべていた。 「私も相当病んでいた。それで、ある日私も交通事故に遭ってしまった。ボーっとしてたんでしょうね。 一命は取り留めたけど、入院生活を余儀なくされた。入院してから1ヶ月が経った頃、私の病室に一人の男性が現れたの」 かがみが目を伏せる。 「その男性は、『チアキ』と名乗っていたわ。私の悲しげな表情を見て、彼は言ったの」 ――――お前、過去にやりのこしたことがあるんだろ?―――― ――――やりなおして来いよ。俺が手伝ってやるから―――― 「彼は私に一つの小さな機械を渡して立ち去った。 それが、この『時間跳躍装置』。これを使って私はタイムリープの能力を得、そしてこの時空へとやってきたの」 かがみが、小さな種のようなものを手のひらに乗せた。 「これ、落としちゃってね。探してたのよ。体育館に落ちてたわ。 ―――――もう使用済みだったけど」 かがみが、もう片方の手でそれを摘み上げ、潰す。ぶちっと音を立てて、それは微塵になった。 『体育館』という言葉が、私に体育の授業での出来事を思い出させた。 あの時右肘に触れた『何か』――――それが、これだったのだ。 「あなたがトラックに轢かれる時、私はあなたを引き止めて助けようとした。でも、その必要はなかったの。 なぜなら、既に歴史は変わっていたから。あなたはトラックに撥ねられなかったから」 私の口は、依然として動かない。 「それで私は確信した。あなたがタイムリープの能力を得たことを」 かがみが椅子から立ち上がり、私のそばへと歩いてきた。 「タイムリープをすると、タイムリープした本人はその時空から消え去り、自分が望んだ時間へと遡ることが出来る。 その時、歴史は最も自然な形に書き換えられるの。 あなたがトラックに撥ねられたときは、時間を遡ったあとに何か起こったはず」 私は、トラックに轢かれて時間を遡ったあとの自分を思い出した。 その時、私は電信柱にぶつかったのだ。 それが『自然な形に書き換えられた歴史』なのだろうか。 私の肩に手を置いて、かがみは喋り続ける。 「あなたが生きていてくれて、よかった…。本当に良かった…」 かがみが私に後ろから抱きついた。泣いているようだった。 「これからもずっと一緒で…。いつも笑い合っていたかったのに…」 かがみのすすり泣く声が、更に大きくなる。 私の喉は、声を発しようとしない。 「ごめんね、こなた。チアキが言ってたの。 タイムリープの存在を他人に知られた者は、自分の居た未来へ帰らなければならないって」 さらなる衝撃。私は自分の耳を疑った。 それと同時に、ようやく声を発することが許された。 「それ…ホントなの?」 「本当よ。あなたと話していられるのも、これが最後」 そんな馬鹿なことがあるわけがない。 だって、勝手にかがみの機械を使って、自分の思うように歴史を変えていたのは私なのだ。 これがもし『罰』というものなのであれば、私が受けるべきだろう。 「嫌だ、嫌だよ、そんなの!」 私はかがみのセーラー服を掴んで、必死に訴えた。 そんな訴えが届くわけもなかったが。 「駄目なの。もうお別れ」 かがみが私の手を掴んで、セーラー服から引き離す。 「――――時間よ」 周りの景色が大きく揺れる。揺れは瞬く間に酷くなり、そして一つの景色を映し出した。 あの時と同じ、雲ひとつない青空、地平線の彼方まで続く大海原。 柊かがみ。 私の人生を大きく変化させた人間。 初めて出会ったときから、何か運命的なものを感じた。 かがみとだったら、大人になってもずっと仲良くしていけるような気がした。 私のことを時折からかったり、私の言動に呆れたり、その態度の中にも、かがみは優しさを見せてくれていた。 ずっと一緒に。それは、私が彼女と出会って以来抱き続けてきた気持ちだった。 でも、その願いは、かなわない。 「待って、待ってよぉ、かがみぃ!」 涙が勝手に流れてくる。かがみに触れたい。触れるだけでいい。 手を真っ直ぐに伸ばす。私の手は、空を掻く。 かがみは私に背を向けて、静かに立っていた。 「こなた」 かがみが私の名を呼んだ。 「時間が、何で戻せないか知ってる?」 かがみのツインテールが、風に靡いている。その姿が、美しく思えた。 「わかんない……。わかんないよ」 涙が私の視界を遮る。ぼやけた視界の先のかがみが、こちらを振り向いた。 笑っていた。 「思い出を、大切にしていて欲しいから」 かがみが、私の手をとった。 「色んな人と出会って。色んな話をして、色んな事をして。あなたが生きてきた今までの時間、記憶。 その中でも、一番心の中で輝き続けているもの。それが、思い出。 時間は、時を経過させることでその思い出を押し流そうとする。でも、本当に忘れたくない思い出は、 どんなに時が速く流れていても、どんなに忘れようとしても、忘れられないもの。 時間は、そうやって思い出を押し流そうとすることで、人に、その思い出の大切さを自覚させようとしてくれるの」 私の手の甲に、雫が一滴落ちる。 泣いてる。かがみは、笑いながら、泣いていた。 「だから、だからね? 私は、あなたのことを絶対に忘れない。これからどんな事に遭っても」 かがみが、私の手を強く握った。 「だから……」 かがみがそこで言葉を切る。私は、未だにぼやけるかがみの顔をじっと見つめた。 「だから、お願い。あなたも、私のことを絶対に忘れないで」 突風が吹いた。 「……勿論だよ。かがみのこと、忘れるわけないじゃん。絶対に……!」 かがみが、私に微笑みかけた。 「……ありがとう」 その瞬間、私の視界が真っ暗になった。 ―――――いつか、また会いに行くから ―――――それまで、私のことを忘れないで ―――――またね。 「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」 誰かが私の体を揺すっている。……いや、『誰か』なんて表現する必要もないか。 「んー……おはよ、ゆーちゃん」 「そんなのんびりした挨拶してる場合じゃないよ! 時間、時間!」 「時間……?」 『時間』という言葉に一瞬かがみの顔が浮かんだ。 「ほら、もう7時半になるよ! 普通だったらもう家出てるよ!」 「うぉぁっ!?」 ゆーちゃんが語調を強くして言うので、私は飛び起きてしまった。 「下で待ってるよ! 急いでね!」 ゆーちゃんが顔を赤くしながらそう言って、私の部屋を出て行った。 私は、ベッドの上で胡坐をかいて、自分の現在の状況を把握する時間を作った。 カレンダーに目をやると、タイムリープ能力を得た日付に戻っていた。 「……そっか。戻ったんだ。ということは、かがみはもう居ない」 口にすると、また悲しさが襲ってくる。涙を堪えながら、私はベッドから下りた。 その時、床にひらひらと何かが落ちてきた。 それを拾い上げた瞬間に、その正体がわかった。 「かがみのリボンだ」 かがみの髪の毛を毎日ツインにしていたリボン。かがみが、私にプレゼントしてくれたのだろうか。 ―――――自分のことを、忘れないでほしいから。 私はそれを両手できゅっと抱きしめながら、部屋を後にした。 ☆ ☆ ☆ 「こなちゃん、おそーい!」 「ごめんごめん、寝坊しちゃった」 いつもの待ち合わせ場所に、駆け足で近寄る。そこには、つかさが一人で待っていた。 やはり、かがみはいない。でも、代わりと言ったら失礼だけど、そこには普段は見慣れない姿があった。 「ったく、また夜通しでゲームかよ、ちびっ子」 「泉ちゃん、隈が酷いわよ……?」 みさきちと、峰岸さんだ。 そっか、これが、かがみがいない『私が生きている時空』なんだな。 「いやいや、これはゲームだけが原因じゃないっていうか……」 「そんなわけねぇだろ。ったくー、あたしでもそんな遅くまでゲームしないぜ?」 そういって、みさきちは私の髪の毛を見つめる。 「あれ、そういやちびっ子……」 峰岸さんとつかさも、私の髪を見て少し驚いた表情をする。 「髪型、変えたよな?」 「そうよね。いつもは下ろしてるけど」 「今日はポニーテールにしたんだね」 今日、私は髪の毛をかがみのリボンでまとめ、ポニーテールにして家を出たのだった。 これなら、かがみとずっと繋がっていられる。離れていても。 「似合うな、意外と」 「そうねぇ。新鮮だわ。私もポニーにしてみようかな」 「峰岸さん、きっと似合うんじゃない?」 そんな他愛もない会話をしながら、4人で通学路を歩く。 「おはようございます、みなさん」 途中でみゆきさんと合流する。 これが、青春ってものなのかな。こういう、何もない日常を過ごしていることが。 青春っていうものを、私は満喫しながら毎日を5人で過ごす。 ―――――あ、5人じゃないか。6人だね。 かがみが、私の傍に居てくれてるから。 ―――――絶対、忘れないで欲しい ―――――あなたのことを、どこかで想ってくれてる人がいる ―――――あなたは、どこかで誰かと繋がっている ―――――だから、あなたが今持っている思い出を大切にして ―――――あなたが誰かを忘れたら、誰かもあなたを忘れてしまうから Fin
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1875.html
159 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 03 06 ID N6hpsFd+0 学校は退屈だ。授業はつまらないし制服も好きではない。 何より私には周囲全てが"敵"に見えるのだ。だからこの教室にいる限り私が落ち着くことは決してない。 外は大粒の雨が降り注いでいて窓に当たった雨粒が心地好い音を奏でる。 こんな時だけはこの窓側の席に感謝する。 元々雨は好きだった。だって雨が降れば兄さんは外で遊べなくて家にいてくれる。 そうすれば兄さんは私に構ってくれた。 だから雨は好き。 「……ということで今日はここまで。来週は二年生の修学旅行があるが君達は休みじゃないからな」 眼鏡をかけた中年の教師が教室から出ていく瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 「潤~!お昼食べよ!」 「とりあえず千秋は落ち着きなさいよ」 昼休み。二人の女子が左右から私の席に寄って来る。 左のいかにも活発そうなショートボブは佐藤千秋(サトウチアキ)。 そして右側の大人びた黒髪ロングヘアーは長谷部理香子(ハセベリカコ)。 いずれも私のクラスでもある1年1組に所属している、いわゆるクラスメイトというやつだ。 「そうだね、食べようか」 「よっし!机くっつけるからね!」 「ほらほら、焦らないの」 今日は生徒会室が会議で使えないと会長から要組の皆にメールがあった。 だからお昼は別々だ。私は席を立ち同じくクラスメイトで"仲間"の春日井遥に声をかける。 「遥、お昼食べよ?」 「……うん」 そう一言だけ発すると遥は私の席まで椅子を持って来る。 「おっ、今日は春日井さんも一緒かぁ!こりゃあ嬉しいね!」 「はいはい。いいから早く席に着く」 千秋と理香子のやり取りは亮介と英のやり取りに似ていて結構好きだ。 遥以外の仲間に会えない日はこうやって彼女達の話を聞いて気を紛らわす。 ……彼女達とは決して分かりあえないだろうし、"敵"であることに変わりはないのだけれど。 160 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 04 40 ID N6hpsFd+0 「良いよね~。二年生は来週、修学旅行かぁ」 「でも旅行先、そんなに遠くないらしいよ?去年は沖縄だったみたいだけど」 千秋が卵焼きを摘みながら羨ましそうに話す。 それに返す理香子のお弁当は見た目とは随分ギャップのある可愛らしいものだ。 「そういえば潤のお兄さん、二年生だから修学旅行だよね?」 「……うん。あんまり修学旅行の話はしないけど」 「良いなぁ~。早く来年にならないかなぁ」 呑気に話す千秋とは正反対で私は憂鬱だった。 ……修学旅行になんか行ってほしくない。しばらく兄さんに会えないなんて堪えられない。 そういう意味では私も千秋と同じく、今年の修学旅行に着いて行きたい気持ちだ。 「でも潤ってお兄さんと凄く仲良しなんでしょ?」 「えっ?」 「本当にっ!?」 理香子の急な問い掛けに思わず言葉が詰まる。 千秋は目を大きく開いており、遥は黙々とお弁当を食べていた。 「う、うん…。そうだけど…」 「部活の先輩が言ってたんだよね。この学校の中で1番美形かつ1番仲良しな兄妹が白川兄妹だ、って」 「へぇ、潤のお兄さんって格好良いんだ!羨ましいなぁ。ウチの兄貴なんかさぁ……」 千秋が何か言っているようだったが既に私の耳には届いていなかった。 私と兄さんがそんな噂となって学校に広がっていると思うと自然と頬が紅くなる。 「…って感じでこないだもさぁ……潤?」 「へっ!?な、何の話?」 気が付いたら千秋の顔が目の前にあった。 「さっきから上の空だったね。まあ千秋の話じゃ仕方ないよ」 「理香子さんそりゃあんまりですって!」 「……潤、大丈夫?」 遥が心配そうに私を見つめてくる。 「だ、大丈夫だよ。昨日夜更かししちゃったから」 「……そう」 私の答えに遥は若干納得いかないといった表情をしていたが、それ以上は聞いてこなかった。 「次は黒川先生の科学かぁ……。潤、寝ないように気をつけてね!」 「潤は千秋じゃないから大丈夫じゃない?」 「……理香子のサディスト!鬼畜眼鏡!」 「いや…眼鏡かけてないから」 また始まった千秋と理香子のやり取りを見ながら私は兄さんを想う。 兄さんがさっきの噂を聞いたらどんな反応をするのだろう。そして何と答えるのだろう。 もし私と同じ気持ちだとしたらどんなに嬉しいことだろうか。 「兄さん……」 早く兄さんに会いたい。 幸い今日は要組の活動もなければ雨で部活もない。 兄さんは右腕を骨折しているから海有塾にも行かない。 きっと今日は兄さんとゆっくり過ごせるはずだ。 「……潤、凄いにやけてるけど」 「千秋の話に……って訳じゃなさそうね」 「………」 そんな潤を二人は呆れたような、そして後一人は射抜くような目で見ていた。 161 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 06 27 ID N6hpsFd+0 目の前には目が血走った男が一人。 どうやら激昂しているようでその矛先は自分に向けられていた。 「潤…お前はいつもいつも……俺が…俺がぁぁぁあ!!」 「きゃぁぁぁぁぁあ!!」 意味が分からない単語の羅列を吐き出しながら私を殴ろうとする男に思わず叫び声を上げる。 ……相手は実の父親だというのに。 「やめろっ!!」 殴られる直前に男の子が私の前に立って代わりに父の拳を受けていた。 「お、おにいちゃん!?おにいちゃん!?」 「ぐっ…じゅ、じゅん…だいじょうぶ…か?」 その男の子、兄さんが苦しそうに腹部を押さえて呻く。小さな私はただ彼の背中を摩ることしか出来なかった。 「何だぁ?そうか要…お前も俺に逆らうのかぁ!?だったらお前も仕置きだ!!」 「あ、あなた止めてっ!」 「うるせぇ!!」 至る所が痣だらけの母が飛び出して父を止めようするが簡単に払いのけられてしまう。 よく見ると兄さんも私も母と同じくらい痣だらけだった。 そういえばこの痣が原因で小学校ではよく虐められていたんだっけ。 「も、もうやめろ!!かあさんもじゅんも、なぐらないで!!」 「……じゃあてめぇなら良いのか!!?」 一瞬だった。父の拳がまだ小学生の兄さんの腹部に吸い込まれ、兄さんは宙に舞う。 小さくてどうしようもなく役立たずで使えない私はただ叫ぶことしか出来なくて―― 「兄さんっ!!?」 「……白川、大丈夫か?」 辺りを見回すと教室中の視線がこちらを向いていた。 黒板にはよく分からない科学式が並んでおり、黒川先生が近付いて来る。 ……どうやら授業中に寝てしまったらしい。 「あ…えっと……私…」 身体中に嫌な汗をかいている。気持ち悪い。 よりによってあの時の、あの屑の夢なんか見るなんて。手は震えていて自分では抑えられなかった。 「……顔色が悪いな。ちょっと保健室に行ってこい。おい、保健委員は」 「一人で行けます。……すいません」 「おい、白川!」 急いで席を立ち逃げるように教室を出る。 早足でトイレまで行き顔を洗う。何度も。何度も何度も何度も何度も。 「……忘れろ」 また顔を洗う。あの記憶を忘れられるまで。 それが出来ないのなら、せめてこの手の震えが収まるまで。 「……兄さん…助けて」 結局私はチャイムがなるまで顔を洗い続けた。 あの記憶を、兄さんが記憶喪失で忘れてしまった悪夢を私も同じように洗い流せるまで。 162 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 07 57 ID N6hpsFd+0 体調不良ということで学校を早退することにした。 結局手の震えは収まらず黒川先生に半強制的に早退させられた、と言った方が正しいかもしれない。 雨の中を歩くと心が落ち着く。雨が傘や木々や地面に当たって奏でる雨音は私の心を癒してくれるから。 「……公園…か」 歩いていると小さな公園が目に入った。昔は兄さんと二人で日が暮れるまでよく遊んだものだ。 「…懐かしいな」 久しぶりに公園の中に入ってみた。昔と何も変わっていない。 あの赤いシーソーも、少し低めの鉄棒も。そしてよく二人で遊んでいた砂場も。 砂場には誰かが忘れたであろうスコップが一つぽつんと放置されていた。 「……あ」 砂場に幼い頃の私たちがいる。 あれは遠い昔の記憶。 『きょうはおしろをつくるからな!でっかいのつくってかあさんにみせるんだ!』 『うん!おかあさん、よろこんでくれるかな?』 『よろこんでくれるにきまってるだろ?かあさんはおしろがだいすきなんだから!』 ……いつも二人きりで遊んでいた。 仲が良いから。確かにそれもあったが何より私たちには友達がいなかった。 父の悪い噂は近所に広がっていたし、四六時中近隣に響く彼の怒鳴り声が近所の話題にならないはずがない。 そしてそれは子供たちの間にも広がっていき皆が私たちの環境や身体に出来る痣を馬鹿にしていた。 だから私たちはいつも二人ぼっち。 『よっし!これで完成だ!……じゅん、どうした?』 『……何でわたし、いじめられないといけないのかな?わたし、なにかしたのかな?』 『……じゅん』 『ひとりは……つまらないしさみしいよ…』 当時の私の心は既に限界だった。確かこの頃から周囲が敵に見え始めたような気がする。 震えながら訴える私を兄さんは優しく抱きしめてくれた。 『ひとりじゃ……ないだろ?』 『おにいちゃん…?』 『みんないなくなってもおれがいる。おれはずっとじゅんのそばにいるから』 『うん……』 『だから…その…か、かなしそうなかお、すんなよな!』 『……うん!』 砂場には抱き合って笑い合う、ちょっと変だけど暖かい二人の姿があった。 「兄さん……」 傘を差しているはずなのに頬が濡れていることに気が付いた。視界もぼやけてあまりよく見えない。 昔から変わらず泣き虫な自分に嫌気がさす。 気を落ち着かせる為、あの場所に行くことにした。 163 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 11 24 ID N6hpsFd+0 この公園の隅には小さなベンチがある。 昔私がちょっとしたことで泣いてしまった時は兄さんがここまで私を連れて来て慰めてくれた。 だから私にとってこのベンチは少し特別な場所なのだ。 「………?」 ベンチに近付くと違和感を覚えた。 何故かベンチの周辺だけ全く濡れていない、というかそもそも雨が降っていない。 そしてこんな雨の日なのにベンチには既に先客がいた。 腰ほどもある黒髪で真っ赤なワンピースを着た女の子だった。 とても端正な顔立ちをしていてこの雨の中で一際存在感を放っている。 「こんにちは」 「え、えっと……こんにちは…」 いきなり話し掛けられて思わずたじろいでしまった。女の子は微笑みながら隣を指差している。 「座らないの?」 「あ、はい……」 女の子に促され隣に座る。 ベンチから見ると雨がカーテンのように公園とこのベンチを区切っておりまるでここだけ別世界のような感覚に陥る。 「ここ、良い場所よね」 「は、はい……」 何だろう、この違和感は。 隣に座っている女の子は確かにすぐ傍にいるはずだ。 なのに、どうしてこんなにも遠いのだろう。手が届きそうで届かない。まるで雲を掴むような感覚だ。 「貴女もよく来るの?」 「たまに……」 「そう」 女の子はずっと公園の方を見ている。 つられて私もその方向を見るが雨のカーテンを除けば特におかしな物はない。 「私は鮎樫らいむっていうの」 「鮎樫……ってあのアイドルの…」 「同姓同名なのよ。毎回言われるから、もう慣れたけどね」 こちらを見ながらさっきのように微笑む女の子、鮎樫さん。 でも有り得ない。鮎樫らいむは半年前突然失踪したトップアイドルだ。 私たち要組も偶然彼女に関わる事件に遭遇したことがあるが目の前の女の子は全く知らない。 何よりアイドルの鮎樫らいむは金髪と澄んだ青い目が特徴だったはず。 確かに彼女の言った通り同姓同名という可能性もあるが鮎樫なんて苗字、滅多にいない。 では一体この女の子は何者なんだろうか。 「貴女の名前は?」 「……白川、潤」 「…潤。良い名前ね」 本当は名前なんて教えるべきじゃなかった。でもそんな心とは裏腹に口が動いていた。 本来ならばこのベンチは安らげる場所だったはずなのに今私は何故か目の前の女の子、鮎樫さんに恐怖のような感情を抱いている。 「ねえ、潤?」 「な、何?」 「……お兄さんのこと、好き?」 「えっ?」 心臓の鼓動が高鳴る。 何故?何故彼女が兄さんのことを知っている?いやそもそも私に兄がいることが何故分かった? 頭に疑問の渦のようなものが出来る。 164 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 12 41 ID N6hpsFd+0 「ふふっ、怖がらなくていいよ。ただ潤がお兄さんのことを好きなら一つだけ覚えておいて欲しいの」 「……な、何よ」 声を出すのがやっとだ。とにかく怖い。 このベンチから一刻も早く逃げ出したいのに身体が言うことを聞かない。 そんな私に女の子、鮎樫さんは耳元で囁いた。 「貴女を守ってくれた"兄さん"はもういないのよ?」 「………あ」 私の中の何かが壊れそうになる。 そうだ、昔私を父から、周囲から守ってくれた兄さんはもういないんだ。 今の兄さんは記憶を失ってあの時のことをすっかり忘れてしまっている。 つまり私が大好きな兄さんはもう……。 「……今日は会えて楽しかったわ。また今度会いましょう。お兄さんによろしくね」 「……えっ?」 顔を上げると既に鮎樫さんはいなかった。そしてそれが合図かのようにベンチにもたちまち雨が降り始める。 私は傘を差すのも忘れてしばらく呆然とするしかなかった。 重い足取りで通学路を歩く。家に帰るのが何となく憂鬱だった。 ……いや、理由ははっきりしている。ただ認めたくないのだ。 自分が大好きだった兄さんがもうこの世にはいないという事実を。 鮎樫らいむと名乗る少女の言葉が私の心に深く突き刺さっていた。 「……潤?」 「……あっ」 振り向くとそこには兄さんがいた。息が荒く傘も差さずに何をしているんだろう。 いつも通りの兄さん、私だけの兄さんが近付いて―― 『貴女を守ってくれた"兄さん"はもういないのよ?』 足が止まる。思い出してしまったから。 目の前にいる兄さんは私の知っているあの"兄さん"ではないんだ。 「潤か!やっと見つけた!黒川先生が潤は早退したって教えてくれたんだけどさ」 見知らぬ男が兄さんの顔をして近付いて来る。 「でも家に帰ったらいないから急いで探しに来たんだ。何かあったんじゃないかって…」 「……うるさい」 見知らぬ男が兄さんの声で私に話し掛ける。 一体コイツは誰? 兄さんに限りなく近い、それでも兄さんじゃないならば誰なのだろう。 「潤?……大丈夫か?」 「触るなっ!!」 肩に置かれた冷たい手を払いのける。私に触って良いのは兄さんだけだ。 コイツは……違う。 「わ、わりぃ…。でも体調不良なんだろ?だったら早く」 「兄さんのふりをするなっ!!」 何かが私の中で爆発した。兄さんによく似た誰かは呆然と立ち尽くしている。 「何も知らないくせに!!父さんが私たちにしたことも!母さんが私にしたことも! 私がどれだけ苦しんで来たのかも!!何も知らないくせに兄さんのふりをするな!!」 目の前の男に思い切り掴み掛かる。男は抵抗せず私たちは倒れ込む。 男はとても辛そうな、そして何処か悲しそうな顔をしている。 そんな男に私は叫び続ける。 「兄さんを返してよ!兄さんだけが私を救ってくれるのに!約束したのに!兄さん!!兄さん……助けてよっ!!」 返事は返って来ない。聞こえるのは雨音だけ。 目が段々と霞んできて視界がぼやける。また泣いているのだろうか。 身体から急速に熱が奪われていくのを感じる。同時に意識が朦朧としてきた。 「……潤?潤、しっかりしろ!?おい潤!?」 最後に私が聞いたのは叫ぶ誰かの声。遠い昔に聞いた、誰かの……。 165 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 15 02 ID N6hpsFd+0 「……んっ」 目を開けると見慣れた天井があった。 どうやらここは自分の部屋らしい。身体を起こす。自分の身体がとても重く感じる。 頭も鈍痛がする。とりあえず立とうとするが怠さからか、中々立ち上がる気になれない。 「おっ、気が付いたか」 扉が開いて兄さん……男が入って来た。両手のお盆に小さな鍋を乗せている。 「……何、それ」 「お粥だよ。体調不良なんだろ?しっかり食べないとな。味は……まあ何とかなる」 「……いらない」 そのまま布団を被る。今は兄さんのことは考えたくなかった。 「……そのままで良いから聞いてくれ」 「………」 ベットが少し揺れる。男がベットの端に座ったようだった。 「ゴメンな。自分のことで手一杯で潤の気持ち、考えられなかった」 「………」 「俺は潤の知ってる白川要じゃないし、潤の苦しみは分からない」 歯を食いしばる。例え事実だとしてもそれを兄さんの声で聞きたくはなかった。 「潤と過ごしてきた日々も知らなければ、潤の知ってる"兄さん"にも……なれない」 もう止めて。それ以上は……。 「……でもさ、これからだと思うんだ」 「………?」 「俺は確かに今までのこと、全然知らない。でもそれで終わりじゃないだろ」 何だろう。この気持ちは。コイツは兄さんじゃないはずなのに……。 「例え記憶を失っても俺は潤の兄さんで潤は俺の……俺の大事な妹だよ」 「………」 心臓が高鳴る。さっきの恐怖とは違う。 兄さんの言葉を確かに聞いている自分がいた。 「だから、すぐにとは言わないけど……俺のこと、また兄さんって呼んで欲しい」 ベットが揺れる。兄さんが出てっちゃう。 何か言わないと。別に気にしてないよって言わないと。 「……お粥、ちゃんと食べろよ?」 扉が閉まる音と共に起き上がる。 そのまま机の上のお粥に目がいった。無言で口に入れる。 「……熱っ」 少し水っぽくて味が薄かったけどちゃんとお粥になっていた。 ……それにとても暖かくて心に染みてきた。 「…あれ?」 いつの間にか涙を流している自分がいる。何で気が付かなかったんだろう。 お粥を作ってくれたのも、雨の中傘も差さずに私を探していたのも全て私の為なんじゃないか。 払いのけた時の兄さんの手はとても冷たかった。きっと私のことを雨の中ずっと探してたんだ。 166 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 16 12 ID N6hpsFd+0 「兄さん……!」 いてもたってもいられなくなり扉を開ける。 そのまま一階に降りリビングに入る。ソファーでは兄さんがテレビを見ていた。 「ん?潤、どうし」 「兄さんっ!」 そのまま兄さんに抱き着く。 雨に濡れた兄さんの身体はとても冷たくてお風呂にも入らず私を介抱してくれたことが分かった。 「じゅ、潤?」 「ごめんなさい!私…私…兄さんに酷いことを言った!兄さんだって苦しんでたのに……!」 そう。兄さんだって苦しんでいたはずなんだ。 記憶喪失になって何も分からず苦しんでいたはずなのに。私は自分のことしか考えなくて。 私こそ妹失格なんだ。 「……ありがとう」 「…えっ?」 顔を見上げると兄さんと目が合う。私の大好きな兄さんが確かにここにいた。 「許してくれてありがとう。やっぱり俺の妹だな。それともお粥効果かな」 私をぎゅっと抱きしめる兄さん。私も負けじと抱きしめ返す。 少し照れ臭かったけどとても暖かくて幸せな気分になれた。 「兄さんも苦しんでいたんだよね……」 「……まあ、な」 兄さんは何処か悲しそうな笑みを浮かべた。 本当は分かっていた。兄さんが記憶を失って苦しんでいること。 でも気付かないふりをしていた。きっと兄さんを誰にも取られたくなくて、他のことを気にする余裕がなかったんだと思う。 「これからいっぱい思い出作れば良いんだもんね」 「ああ、そうだな」 二人で笑い合う。まるで昔に戻ったみたいに。 そう、例え記憶を失っても兄さんは兄さんなんだ。 「……あの、潤さん?」 「どうしたの、改まって?」 「そろそろどいて欲しいんですが……」 言われて私が兄さんに覆いかぶさっていることに気が付いた。 兄さんは右腕を骨折している為私を退かせられないようだ。 「……ふふっ、成る程ね」 「今何か良からぬこと、考えませんでしたか潤さん!?」 「……熱って汗をかくと下がるらしいよ」 「思い切り良からぬことじゃねぇか!」 兄さんをソファーに押さえ付け顔を近付ける。 心なしか赤くなっている兄さんが私をさらに良からぬことへ走らせようとする。 「ちょ、待て!?」 兄さんとの距離が縮まって―― 「おはよう~……あれ?」 「お、おはよう里奈!」 「……おはよう」 里奈がリビングへと降りてきた。どうやら二階でお昼寝をしていたらしい。 瞬間、私と兄さんは距離を取っていた。流石に昼間から小学生に濡れ場を見せるわけにはいかない。 「……プロレスごっこ?」 思わず二人同時に吹き出した。 167 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/09/13(月) 18 17 38 ID N6hpsFd+0 夜。里奈を先に寝かせ私の部屋で兄さんと話す。里奈は……何故か分からないが苦手だ。 まだ2、3日しか一緒に暮らしていないからかもしれないが、妙に兄さんに懐いているのも気になる。 だから兄さんと二人きりになれて正直ほっとした。 「だから修学旅行っていっても全然大したことないんだよな」 「そうだね。去年は沖縄だったらしいけど」 「有り得ないぜ……。何で今年に限ってこんなにショボいのかな」 あれから兄さんは過去に何があったのか、私に聞こうとはしない。 遠慮しているのかもしれないし、私が話すのを待っているのかもしれない。 どちらにせよいずれは話さなくてはならない。両親のことも兄さんに起こったことも。 「ふふっ、それじゃあ亮介が可哀相だよ」 「でも亮介の奴、いつも女のことばっかでさ……」 でも今だけは、この安らぎだけは守りたいから。 きっと本当のことを話したら兄さんは壊れてしまうから。だから、良いよね?今はまだ……。 「おっ、もうこんな時間か。じゃあまた明日な。夜更かしすんなよ」 「うん。……兄さん、今日はありがとう。おやすみなさい」 「おう、おやすみ」 扉が閉められて部屋を暗闇が包む。今日は疲れたからぐっすり眠れそうだ。 深夜。潤の部屋。ベットには潤が幸せそうな顔で眠っている。 そしてその顔を見下ろす影が一つ。 「……上手く行ったみたいね」 部屋に射した月光が彼女の真っ赤なワンピースをより一層際立たせている。 「これで後は……」 月光に照らされた彼女、鮎樫らいむの笑みはとても妖艶で、まるで一輪の真っ赤な薔薇のようだった。
https://w.atwiki.jp/zillollparody/pages/44.html
私がそれを口に含むとき、私がそれを受け入れるとき、私は常に、こう思う―― ――何故、こんなに美しく清らかなこの少女の身体にこんな忌まわしく醜悪なものが付い ているのか、と。 その時の私は疲れ果て、ひどい厭世観に嘖まれていた。かつて仲間として共に時間を過ご した人たちとも、もはや顔を合わせるのが苦痛になっていた。 ロストールとディンガルは二度目の剣を交え――レムオン義兄様も、ゼネテスももう、こ の世にいない。 私を義理の妹にして下さったレムオン様も、親愛なる相談相手であったゼネテスも、そし て光を取り戻したアトレイア王女も、私は――救えなかった。 竜殺し?無限のソウル?勇者様?笑わせないで――私はただ、運命に勝てずに翻弄され、 自分の力のなさを噛みしめるだけのでくの坊だ。 私は自分の無力さと人の目から逃げるように、気がつけばウルカーンの神殿へと向かって いた。 ただ一人の少女に会うために。ただ一人の少女の命を繋げるために。 何度目の逢瀬になるだろうか。ウルカーンの神殿の中に飾られた花々はすでに枯れてい る。火山地帯のここでは、切り花の命は熱気ですぐに尽きてしまう。 それでも私は彼女の住まう殺風景な神殿が悲しくて、何度も外から花を摘んできては飾り 付けたのだ。 最初に彼女に花を持っていったとき、彼女はそれを見て言った。 「花は好きか、ですって?……わかりません……けれど、これは初めて見るものです。こ れはとても綺麗なものだと思います。どこか……あなたに似ています」 私はその言葉が嬉しかった。 フレア――火の巫女。かつて、火の精霊神を封印していた少女。 長い冒険の間、私は見てきた、人々の愛憎を。ロストールの中で繰り広げられる醜い権力 抗争、ディンガルとの衝突、欲と金に溺れた人間が作り出した哀しきモンスター、そして 流される血と涙。その中に巻き込まれ、翻弄される無力な自分。愛した人たちの死。 人々の愛憎と欲望に疲れ果てていた私はこの少女の中に、人の生臭さや欲望のない、清ら かで純粋なものを見いだしたのかも知れない。フレア――ウルカーンの長老シェムハザに よって作られた少女、闇の神器、束縛の腕輪なしでは命を保てない少女。 私は無意識に救いを求め、彼女に縋っていったのかもしれない。その白磁のような肌と、 どこまでも透き通った漆黒の瞳の中に。 ロストールとディンガルとの二度目の戦いの後、フレアの元へ再び私が訪ねたとき、彼女 は自らの身体が崩れるのを必死で耐え、苦しんでいた。 彼女の命は束縛の腕輪の魔力なしでは維持できない。束縛の腕輪を持つ私の来訪は、彼女 の命を繋げる結果となった。 「亡き長老の代わりに、あなたが私を束縛しようというのですか?あなたが私をこの世に 縛りつけようとしているのですか?」 フレアのその言葉には明らかな悲しみが含まれていた。けれど、私は――私にはこのまま フレアが消えてしまうのには耐えられなかった。 かつて、シャリがこの少女を誘拐したときのように、私は何としてでもそれを阻止した かったのだ。目の前でフレアが苦しむ姿など見られなかった。この少女を助けたかった。 ――この少女と生きたい。この少女を失いたくない。この少女の心の中に住んでみたい。 この少女の漆黒の瞳に私を映したい。 私はいつの間にか、苦しみから解放されたフレアの小さな身体を抱きしめて、心のうちに 昂ぶる感情を繰り返し叫んでいた。 「フレア……好き、好きよ、好き……!」 「わかりません……私には、わかりません……」 「あなたが好きなの……あなたが傍にいて欲しいの……!」 「わかりません……私は道具である役目を失いました。今のあなたにとって、私はただ… …」 「もう何も言わないで!……フレア、好きなの、あなたが必要なの……!」 フレアは何も抵抗せず、私の抱擁を大人しく受け入れてくれた。ただぼんやりと、私の気 持ちをどう受け取っていいのか分からないような表情のない顔をして。 それから私はウルカーンに通い詰める事になった。 出来ればフレアをこんな寂れた神殿から連れ出して、外の世界を見せてあげたかった。し かし、フレアはいつもただこう答えるばかりだった。 「私はここにいるべきなのです。ここにしか、私の居場所はないのです。例えもう、私の 役目は残っていないとしても……」 それでも私の来訪がフレアの心の中に、徐々に感情の芽を芽吹かせていることに私は気付 いていた。 「教えて下さい……役目でもなく、価値でもない……なら、人とは、何のために生きるべ きものなのでしょうか?……でも、あなたを見ていると……」 何度目かの逢瀬の時、そう切りだしたフレアの顔は、心の中に生まれた何かに耐え、ま た、突き動かされているようだった。 「胸の中で何かが芽生えているような気がします。言葉では現せない何かが……」 そう打ち明けられた夜、私たちは初めて身体を重ねた。フレアの心の中に芽生えているも の、私はそれを開花させて、大切に育てたかったのだ。 それまで幾度か、フレアの身体を私は欲した。フレアの身体が見てみたかった。愛しいフ レアの身体を直に抱いてみたかった。しかし、フレアは私に身体を見せることを拒否し続 けてきた。 「それが、あなたにとって必要なことなのですか?……けれど、それだけは……必要とさ れても、できません……」 私にはその言葉の意味が分からなかった。ただ、この感情の乏しい少女にも少女らしい羞 恥があり、肌を見せるのが恥ずかしいのであろうと単純に思っていた。 その夜が来るまでは。 私は例えフレアの身体にライラネートのように翼があっても驚かなかっただろう。むし ろ、ライラネートの翼がフレアの清浄な身体に付いていて欲しかった。 それこそが彼女にとって相応しいものだと思っていたから。 しかし私は、巫女服を脱ぎ捨てたフレアの身体を見て息を飲んだ。 巫女服の下から現れたフレアの身体に付いていたものは、美しさとは対極の位置にある、 少女の身体には有ってはならないもの――なだらかな下腹部、薄くけぶる茂みの中にある それは、確かに醜悪な男性の器官だった。 「長老が私を作ったとき、長老は私に言いました……」 フレアは自分の身体を恥じ入るように下を向いたまま話し始めた。 「自分の他に、誰も男が近づかぬようにと、誰も男が私の身体に触れぬようにと、私の身 体にこのようなものを授けました……どんな男でもこれを見れば、顔を背けて去ってゆく であろうと……」 フレアの身体はシェムハザの彼女への歪んだ愛と独占欲が具現されたものだったのだ。 「だから、このような身体をあなたに見られたくはなかったのです……」 フレアはそう言いながら、自らの身体を両手で覆った。白い肌が震えていた。 「あなたも……私から去ってゆかれるのでしょう?それで良いのです……私の身体を見て ……こんな醜い、出来損ないの身体を持つ土くれの私を捨てて去っていってしまうので しょう?」 私は一瞬の躊躇の後、フレアの唇にそっと口付けを落した。そんな言葉は聞きたくない。 片手でフレアの身体を抱きしめながら、耳元で、愛していると囁く。唇から喉元へと口付 けを這わせ、右手でその醜悪な器官をそっと握ってみた。 「あ……」 フレアはかすかな吐息を漏らす。手の中のものが熱く、脈を打つ。口付けをさらに下に這 わせ、そこは少女の証である上向きの小ぶりな綺麗な乳房に口付け、その桜色の先端を そっと舐めて、唇に含む。 フレアは甘い吐息を漏らす。右手の中のものがびくびくと痙攣する。私はそれの包皮を向 き、赤黒い中身を露出させてみた。そして、膝を折り身体を屈め、何の躊躇いもなくそれ に唇を這わせた。啄ばむように口付けて、舌の先でその側面を舐めてみる。 醜悪な器官を持つ清らかな少女が、鈴の鳴るようなか細い声を上げる。 私の額からいつの間にか汗が流れ落ちる。この神殿の中は、とても蒸し暑い。今私がして いる行為が私自身の身体をさらに熱くさせる。 ――こんな醜いものは、私が飲み込んでしまえばいい。 私はそれの先端を銜え、口の中に押し込む。雁首の部分に唇をあてがい、舌の先で鈴口を こじ開けるように舐める。ちろちろと舌を這わせ、右手では握っている器官の根元を優し くさすりながら。 少女は、苦痛なのか快楽なのか分からない小さな悲鳴を上げ続ける。両手で私の頭を押さ え付け、しかしその力も弱く、身体を二つ折りにせんばかりに。 やがて、舌の先に甘いような苦いような味が広がる。唇で何度も浅い部分を往復するよう に愛撫し、舌でまんべんなく唾液を亀頭に塗り付けてゆく。ずるずる、じゅるり、という 卑猥な音がこの神殿の中に静かに響いている。 右手で根元の部分を上下にさすりながら、左手でその下の袋を優しく握り、揉みしだく。 すでに先端から伝い始めた私の唾液が袋の部分にまで達し、べとべとした感触がする。 一旦銜えていたものを口から出し、熱を冷ますようにふっと息を吹きかけてみる。フレア の身体は一瞬、硬直する。もはや硬く剥き出し、なにか凶器のようになってしまっている それをもう一度口に銜えて、今度は一気に咽の奥の方へと飲み込んでみる。 根元を右手で上下に扱きながら、口腔全体を使ってそれを扱くようにする。舌では絶えず 側面と亀頭を愛撫しながら。私の唇から、赤黒い棒状のそれが出たり入ったりする。 「ああぁ……いけません、いけません……そんな……!」 ちらりとフレアの顔を見上げると、彼女の顔は泣きだしそうに歪んでいる。こんなフレア の表情を見るのは初めてだ。感情の乏しいこの少女が、今、自分の身体の中に生まれてい る恐らく初めての感触に翻弄されているのだ。 私の中に微かな嗜虐心が芽生える。そのまま休むことなしに、頭を猛然と振る。激しく口 腔で彼女のそれを扱く。舌で粘膜を舐め上げ、わざと卑猥な湿った音が響くようにする。 「あぁ……だめです……な、なにかが……わた、し……!」 フレアは身体を完全に二つ折りにしてしまっている。前かがみになり、立っていられない のだろう、私の頭に両手を置き、かろうじて身体が倒れないようにしている。下を向いた 彼女の唇から、透明な粘性のある液が滴っている。 私は休むことなく、口腔でフレアのそれを扱き続けた。ぐちゅぐちゅと言う音が神殿内に 響いた。飲み込んでしまうくらい、咽の奥へ、奥へとそれを押し込む。 少女は耐えて耐えて呻き声を上げ、やがては堪え切れぬように短い悲鳴を上げる。それと 同時に私の咽の奥に熱いしぶきが迸る。一瞬咳込み、えづいたが、私は口の中のものを吐 き出すことはしなかった。 男のものなど飲んだことがないが、私はフレアのそれを飲み込むのに何の躊躇もなかっ た。口の中のものを飲み込み、まだ口の中にある愛しい少女の震える器官を丹念に舌で舐 める。それに付着した熱い迸りを舌で舐めとる。 少女は身体を二つ折りにしたまま、声もなく震えていた。やっと私が唇を離すと、力尽き たように私と彼女はどさりと床に倒れてしまった。 フレアの顔を覗き込むと、その顔は汗と涙で汚れていた。放心したような表情のない顔に 涙がきらきらと光っている。 「……いけません、こんな……どうして、あなたは……」 倒れ込んだまま空を見つめているフレアが愛しくて、私はフレアの唇に口付けた。そして 口の中に残っているフレアの残骸をそっと彼女の唇の中に舌で押し込んだ。 「フレア……気持ち良かった?」 フレアは何も答えない。ただ、無表情のまま首を微かに振るだけだった。 そのまま私は彼女が落ち着くまでじっと彼女の首を抱きしめていた。 神殿の隅にはいつのまにか、簡素な寝台が設えられた。そこは私とフレアが睦み合うため の、誰にも知られぬ秘密の場所だった。 私は神殿に訪れるときは、いつも寝台の枕元には花を生け、飾り付けた。例えその花々が 火山地帯の熱気で明日には枯れてしまうとしても、私はどうしてもその行為を止めること が出来なかったのだ。 フレアは私のその行為に喜びを見せなくなった。それどころかフレアは時々、その花々を 少し悲しそうな瞳で見ていた。 外ではまた炎竜山が小さな噴火をしているようだ。地響きが聞こえてくる。 その地響きのように、私の心の中も穏やかではない。最初は優しかった自分の手つきも、 今ではほとんど強引に、力づくのように私はフレアの巫女服を脱がせる。 裸のフレアを目の前にするとき、私はいつでも僅かな苛立ちを覚えずにはいられない。 かように美しいこの少女にグロテスクな男性器を作り付けたシェムハザに対して苛立つの か、それとも束縛の腕輪なしでは消えてしまうフレアの宿命に苛立っているのか。 寝台の上で私とフレアは裸のまま対面で腰掛ける。そして私は内面の苛立ちをぶつけるよ うに、貪るような口付けをフレアに与えるのだ。 最初のうちは私のすることを無抵抗に受け入れるだけだったフレアも、今では僅かながら 自分からも私を悦ばせようと努めてくれている。 フレアはおずおずと私の首筋に唇を当てる。弱い力でそこを吸う。それから、両手で私の 乳房をさするように揉みしだく、とても優しく。 「んんっ……」 私が溜息を漏らすと、フレアはさらにその行為を続ける。そして、私の乳房に頬を埋め、 私の鼓動を聞くようにする。赤子が母親の乳房に顔を埋めるようにして、呟く。 「あなたは……とても暖かいです……」 フレアのみどりの黒髪から漂う微かな少女の匂い。私はフレアの頭を抱き、髪に何度も口 付けする。そしてその髪の一房を銜え、ぎりりと噛む。 フレアはたどたどしい手つきで私の乳房を弄び、不器用な口付けをそこに繰り返してい る。それは甘い刺激だったが、同時にひどく物足りなくもあった。 フレアの身体を起こして、今度は私がフレアの乳房を愛撫する――火照った掌で円を描く ように双丘をさすると、たちまちフレアの身体は反り返る。 「ああっ……!」 フレアの身体は日に日に淫らになっていっている。最初のうちはこんな敏感な反応はしな かった。ただ乳房を愛撫しただけなのに、フレアの脚の間にあるあの器官はすでに半分屹 立し、反応を起こしている。 乳房の先端を噛む。最初は軽く、次第に強く。フレアの甘い溜息を聞きながら私は、すで に硬く勃ち上がりはじめたそれに手を伸ばす。 顔を下に向けると、すぐに私の口から唾液が溢れてくる。私は涎の雨をフレアの男性器に 注ぎ、舌でそれを塗り付ける。 ずるずるっと卑猥に音を立てながらそれを口腔で、舌で愛撫すると、フレアの身体は瘧病 のようにぶるぶると震える。そして、その器官は歓喜に打ち震え、天を衝くのだ。 私は右手でフレアのそれを愛撫しながら、左手では自らの乳房と女性の部分を激しく擦 る。肉芽を指の先で弄ぶと、すでに泉からはねっとりとした蜜が流れ落ち、寝台のシーツ に滴り、染みを作る。 両脚の間に腰を落とし、ぺたりと寝台に座り込んでいるフレアのその屹立した器官を指で 支えるように持ち、私は膝立ちになり、自らの泉の入り口にそれをあてがう。両脚を広 げ、すでに蜜が溢れているそこに、フレアの器官をゆっくり埋め込んでゆく。 鈍い痛み。ゆっくりと腰を落す。フレアは微かな呻き声を上げる。私の唇からも溜息が漏 れる。 「ん、んんっ……あ……」 「う、ふぅっ……はぁ……」 楔を打ち込むように、私の中に埋め込まれてゆくフレアの醜悪な器官。深い深い溜息をつ きながら、ゆっくりとそれを埋め込んでゆく。 熱く、ひどく圧迫される感触。視界は黒く濁り、こめかみに響く鈍痛。 根元までそれを打ち込んでしまうと、私たちは呼吸が落ち着くまで相手の身体を抱きしめ ていた。 ゆっくりと身体を前後に揺らす。フレアの首に腕を回したまま、やがて激しく腰を前後さ せる。肉のぶつかり合う音と、私の身体の中の凶器のようなそれが私の内部を抉る、ぐ ちゃりと言う音を聞きながら。 二人の汗が飛び散る。フレアは激しく喘ぎながら彼女自身も腰を動かし、私の内部を突き 上げるようにする。貫かれるような鈍い痛み。そして甘い、身体を捩りたくなるような感 触。その動きと共に、私の視界に赤い点が広がり、幾つもぼやけた花を咲かせてゆく。 やがて私は首を抱いたフレアの身体に体重を預ける。フレアは私を支えきれずに仰向けに 倒れ込む。ぐらりと二人の身体が崩れ、私は天を仰いだフレアの乳房の中に顔を埋める。 フレアの器官はさらに深々と私の中に突き刺さる。その感触に私は呻き、天を仰ぐ。 結合している部分の上の膨れ上がった肉芽が、フレアの恥骨と擦れる。その感覚が堪らな くて、私は腰をグラインドさせ、そこを擦り付けた。 たちまちのうちに甘い感覚が脳天まで走り抜け、痺れたようになる。 もっと、もっと、もっと。堪え切れずに喘ぎ、私は腰を激しく揺らす。汗の飛沫が飛び散 り、フレアの身体の上に降り注ぐ。結合部分から湿った音が激しく響く。フレアはほとん ど無意識に私の腰を掴み、自らも腰を突き上げてくる。 フレアの器官が何度か私の最奥に突き刺さった時、膣が激しく収縮するのが分かった。私 の膣内が、フレアの器官を締め上げる。戦慄が身体を駆け抜ける。 「ああ、あぁ……わたしは、もう……!」 フレアの悲鳴が遠くに聞こえた。 私の中に熱いものが迸る。満ち潮のように溢れて、広がる。私は今日もそれを私の中で受 け取める。その熱い感触を感じながら、私も身体を震わせながら絶頂に達した。 眠りに落ちたフレアの身体を毛布で包んであげながら、私は夢想していた。 私は自分の無限のソウルに嫌気が差して、フレアとの愛欲に逃げ込み、溺れた。 しかし今の私は無限のソウルによってのみ、助けられている。もしも私が凡人であったな ら、今ごろ私はシェムハザのように束縛の腕輪の魔力に支配され、奇怪な魔物に姿を変え ているだろう。 ――旅の仲間達はどうしただろう。元気でいるのだろうか。 ロストールはティアナ王女が難民の支援を始めたと言う。ディンガルは内部分裂が起こ り、ネメアはあれきり時限の狭間から戻らず、ジラークが反旗を翻したという。 すべて、風の便りに聞きかじったことだ。 何もかもが、すべて遠い昔のことのように感じられた。 ――醜い、不快な記録だ。 かつての旅の仲間だった男が、シェムハザの日記を読んで漏らした感想だ。 今の私たちの関係はどうだろうか。まさに醜い関係とは言えないだろうか。 フレアは私なしでは生命を維持することができない。正確には束縛の腕輪なしではだが、 この腕輪を持つことが出来るのは私だけなのだから。 束縛――とは良く言ったものだ。私がフレアを束縛しているのではない。 私はフレアに束縛されているのだ――ただ憧れていたときよりも今の方が、遥かに。 一度肌を重ねてしまってから、私はあのフレアの清らかで、それでいてこの上なく忌まわ しい身体に抗いようもなく魅せられ、囚われているのだ! 醜悪でおぞましいと最初はひそかに嫌悪していたフレアのあの器官を、今の私はこの上な く愛している!私はフレアの身体に溺れている―― これを醜い依存と言わずして、何と言おうか。 そんな考えを巡らせていると、いつの間にかフレアがじっと私の顔を覗き込んでいた。そ の漆黒の瞳に深い翳りの色を湛えて。 「どうしたの?」 「あなたは……辛そうです」 「辛そう?どうして?辛い事なんかないわ」 「あなたは、なにか……とても疲れてきているように見えます」 そんなことないわ、と答えつつ、私は本当は身体の奥底から深い疲労感を覚えていた。 無理もない――こんな気温も湿度も尋常ではない程高い火山地帯の神殿に一日中閉じこも り、フレアと愛しあうことに惑溺しきっているのだから。 「あなたは……最初のあなたからは、涼しい風のような、咲いたばかりの花のような、そ んな生き生きした感じを受けました。けれど、今のあなたは……まるで……」 そこでフレアは言葉を濁した。或いは適当な言葉が見つからなかったのかも知れない。 大丈夫よ、と私は答えて微笑んで見せた。 「ここの熱気にちょっとあてられているだけよ。涼しいところに行けば治るわ。そしてま た、ここへ……フレアの許に戻ってくるわ」 そう言ってもフレアの顔から心配そうな色は消えなかった。 「あの花々はまるで――あなたのようです」 フレアは枕元に飾り付けている、枯れかけた切り花を指さしていった。 「ここでは、花は長く咲いていられないのです。どんなに綺麗でも、見ていたくても、花 は、ここにいてはいけないのです。あなたも――私の側に居る必要はないのです。あなた を必要とする人の元に行くべきなのです、あなたを必要とする人は他にいる筈です」 「結局は私の存在はあなたを苦しめるだけなのです。……それなのに、何故、あなたはこ こにいるのですか?何故私を必要だと言うのですか?」 私はフレアの細い身体を抱きしめた。最初に愛を打ち明けた時のように。 「フレア、私にこうされるのは嫌い?」 「……いいえ」 「私が傍にいるのは、嫌なの?」 「……いいえ!」 「フレアをこうやって抱いていたいの……いつまでも、いつまでも……あなたが、必要だから……」 フレアは身じろぎもせず、私の腕の中でじっとしている。 「私は……死ぬのが怖くなりました」 いつのまにかフレアの瞳が潤んでいた。 「あなたと出会うまでは……道具としての私の役目が終われば私は消えるのが当然だと 思っていました。けれど、今では……私は死ぬのが怖いのです……醜い土くれに戻るの が、とても怖いのです……!」 フレアは涙を流しながら、強く強く私を抱きしめ返した。 「あなたは……私を縛りつけています、生へと……私は死にたくない……本当は、あなた を失いたくないのです……!」 「私たちは、何故、出会ってしまったのでしょう……」 フレアはほろほろと涙を流しながらそう言った。 シェムハザは本当のフレアに愛を拒まれ、彼女に手をかけて殺した。そのシェムハザの命 を奪ったのは、私。そして私は束縛の腕輪を持ち、フレアの命を繋げている。フレアを愛 し、その愛に溺れている。私は今、巡り巡って恐らくシェムハザと同じことをしているの だ。 その事実が悲しくて、フレアがもう何も言い返せぬように私は唇を塞ぐ。 「あなたを愛しているからよ、フレア」 「教えて下さい……愛とは、お互いを縛りつけるものなのですか?愛とは、こんなにも苦 しいものなのですか?」 フレアのその問いに私は答えられなかった。何も言えずに、ただフレアの身体を強く抱き しめていた。 外からは今も炎竜山の静かな地響きのような音が響いていた。 翌日、私は決意を固め、一人ウルカーンを後にした。 それから猫屋敷を訪れオルファウスさんにネメアの行方を聞かされた私は、闇の島の門へ と旅立ちウルグと戦い、そして作られた神と闇とを退けた。 ロストールとディンガルは和平条約を結び、バイアシオンは再び平和な時を取り戻した。 しかし、ティアナ王女が治めることになったロストールにも、ザギヴが皇帝となり治める ことになったディンガルにも私は戻らなかった。 そこにはもはや私の居場所はないことは分かっていたから。 そして、私は再びあの日のようにウルカーンの地へと戻った――もう以前のように、手 折った花など持つこともなく、空手のままで。 ウルカーンの神殿から、火の巫女の姿は消える。私が、火の巫女を奪ってゆく。火の精霊 神もシェムハザもいなくなった今、彼女を縛るものはないのだ。 私とフレアの存在はやがてバイアシオンの人々の記憶から忘れ去られることだろう。 ――それでいい。それが私の選んだ道なのだから。 束縛の腕輪、そんなものがなくても私たちはもう、ほどくことの出来ない絡まった糸のよ うな硬い鎖で繋がれているのだから。 フレアの命が儚い、束縛の腕輪がないと消えてしまうものなら、それが運命とあらば抗っ てみよう。フレアにまことの命を与えるまでは、私は再びバイアシオンの地を踏むまい。 そうすれば、フレアとの愛とは苦しいものにはなるまい。私はシェムハザと同じ轍を踏ん ではならないのだ。 私はウルカーンの神殿への道を駆け上がる。私が束縛した、私を束縛したただ一人の少女 の許へ。 この上なく清らかな身体を持つ、ただ一人の少女を迎えに。 -終-
https://w.atwiki.jp/boonshousetsu/pages/241.html
一人では危険だ、と身悶えながらも身を案じるクーを童貞達が制する。 ( A`)「三十男が自分でやるっつってんだ、任せろよ」 _ (;゚∀゚)「そうだ……、こんな所で無駄足食ってる場合じゃない!おっぱいが……、おっぱいが!おっぱいがあああああ!!」 一刻を争う緊急事態。それに最も過敏な長岡とその下半身の勢いに従う一同。 貞子の闇とツンの金色の闇が互いに牽制し合う間に、非常口から内部へと入る。 その際、貞子は攻撃してこなかった。 多対一よりも一対一。彼らにとっても望むべき状況なのかもしれない。 ドクオの『死ぬなよ』と言う言葉を最期に、全員が内部に入ったかと思った内藤。 だが、その傍らにはきりたんぽを指にはめたシューがいた。 ┃ lw´‐ _‐ノvb 『内藤、わかったよ。キミの能力』 ┃ lw´‐ _‐ノvb 『おそらくは学習の様なもの……。条件はわからないけど、たぶん見るか喰らった能力を使役できるものだ』 ┃ lw´‐ _‐ノvb 『使い方には、気をつけて……』 それだけ告げると、彼女の姿は瞬きの間に消失した。 一同は、内藤の意を無駄にしないため全力で廊下を走る。 ( ФωФ)「意外だな」 ( A`)「何がです?」 ( ФωФ)「内藤、彼はもっと穏やかな男だと思っていたのである」 遠心力に逆らい、体を傾けながら角を曲がる。 _ ( ゚∀゚)「あいつは親のこととなると昔から直ぐカッとなるんですよ」 ( A`)「お前もだろマザコン」 _ (;゚∀゚)「う、うるさいな!俺は違うよ、だいたいマザコンじゃないし!!」 ( ФωФ)「その歳にしては珍しい、本当に親しい友人同士なのだな……」 ( A`)「アイツはホントの意味でボッチだから……、せめて俺達だけは信頼し合いたいんだ」 _ (*゚∀゚)「ブーンからのオナネタ提供率ハンパねえしwいなくなったら困るしwwww」 長岡の狂声に、クーは眉間に皺を寄せる。 それに合わせて杉浦は目を伏せ、これからも仲良くな、と頼れる後輩達に声をかけた。 川 ゚ -゚)「ここの階段を上れば第4スタジオだ。スタジオ裏に出るから見つかりにくい。 そして、マスター室へはそこの角部屋に隠された専用階段を使う」 クーが指差した先には、何の変哲も無い喫煙所のような部屋がある。 まさかここから中枢へ繋がるとは、誰も思わないだろう。 クーはその扉に手をかけ、ゆっくりと口を開いた。 川 ゚ -゚)「ここでお別れだな、ドクオ」 ( A`)「しばらくの間だけ、な」 川 ゚ー゚)「ああ」 _ (#゚∀゚)「ドクオ行くぞ!おっぱいは待ってはくれない垂れたらどう済んだコノヤロオオオ!!!」 (-A-)"「ロマさん、クーのこと、頼んます」 ( ФωФ)「うむ、心得た」 人は出会い、それぞれの進むべき道へと別れる。 (:::∀::)「ほう、舐められたものだな……」 その姿を、ディスプレイ越しに見る影がほくそ笑んでいた。 ―――――――― ―――― ヒッキーは元来臆病だった。 幼い頃より人見知りで人前に出ることを躊躇い、母の影に隠れていた。 そんな彼が、頼るべき母がいない場ではどのように振舞えばいいのだろうか。 ある者は、躊躇いながらも、徐々に周囲に打ち解けナワバリを広げていく。 またある者は、泣きながらも自信の足で立ち、自らの欲求を主張する。 だが、ヒッキーはそのどちらでもない。 彼は母を、絶対の保護者を求め、ただひたすらに自らの意志を保留し続けた。泣き続け、流され続けたのだ。 幼子が最初にぶつかる壁、”自立”を未だに超えることのできない三十路――――それ故の童貞。 拗らせ過ぎて生物的に終わっている彼だが、今回ばかりはその臆病さがプラスとなる。 臆病とは、言い換えれば慎重、狡猾といった”思慮深さ”を意味する。 それらは元来決してイコールではないのだが、相手に本心や手の内を見せないという負のイメージにおいては共通点が見出されるのだ。 そして―――― (;^ω^)「くそ……、ツンッ!!」 (-_-)「何度やっても無駄だよ……暗闇ではボクのことは見つけられない……。それに……」 内藤の声を合図にしてツンの指先に青炎が燈ったが、一瞬の影を残して漆黒の闇に吸い込まれる。 ワンテンポ遅れて、風切音と共にツンの肌が熱を帯びた。頬には赤線が滲む。 突如死角から暗闇が伸びていた。 川д川 『フフ……。どう?痛い?それとも、熱い……?』 ξ;メ゚⊿゚)ξ『どうして……?同じ能力を身に着けたはずなのに……!』 (-_-)「だから無駄だって……。この暗闇は、ボクの心の闇は、そんな簡単なものじゃあないんだ……」 闇。言い換えれば、無を意味する。 そこには、温度や物質といった単純な物理的操作対象があるわけではない。その上これは、ヒッキーの言うとおりただの闇ではないのだ。 真価を知らずしては決して使いこなせない能力。 (;:^ω^)「まずいお、相性が最悪だお……」 ――――内藤達は、もはや完全にヒッキーの本質を見失い翻弄されていた。 当初、ツンと貞子の戦いは単純な力比べの様相を呈していた。 しかし、異常性欲を誇る内藤のリビドーによりツンが押し始めた瞬間―――― (;-_-) 「貞子、負けちゃうよ……。キミは傍にいてボクを守ってくれてなきゃダメだ……!」 ――――この一言で戦況は一変する。 ヒッキーは狡猾なまでの臆病さで距離をとり、貞子は暗闇に姿を消して武器攻撃にシフトした。 経験上、ツンは内藤自信が受けた攻撃でなければ能力をコピーできない。 その仕組みを理解できないからだ。 故に、能力を防御に用いる術を知らず、学ぶ時間も無い。 (-_-)「貞子……。ボク達の痛み、教えてあげるよう……」 川д川 『ええ……』 川゚д川『生きることの恐怖をたっぷりとね……』 そして現在、非常階段で繰り広げられているのは目隠し状態での私刑だった。 (-_-)「まずは角材」 大道具で用いるスタジオセットの角材。 貞子は加減なしに、しなる程の勢いで振るった。 ξ; ⊿ )ξ『キャウン!』 剛性の鞭かと思わせるような衝撃がツンの左手に直撃。 仕組みはわからないが、敵からこちらの姿が確認できるのだろう。 内藤は痺れる左腕を抱えながら考える。 川д川 『次は鉄パイプ』 足場用の鉄パイプ。安全性から強度重視に作られているものだ。 貞子はこれを、内藤めがけて横一閃になぎ払う。 驚異的な俊敏さで襲い来る線の暴力。 とっさのバックステップでは避けきれぬ。そう察知した内藤は、わざと体を”く”の字に歪ませ、間一髪の間でヒット地点に贅肉を集中させた。 (;||i ω )「ぐ…ハ……」 それでも肋骨に鈍痛が響く。が、折れてはいないようだ。 己の死亡を阻止した脂肪に生まれて初めて感謝する。ご褒美に今夜はぺヤング大盛りを食べよう。 (-_-) 「ふふ……。いつ来るか解らないのがいいでしょ……」 川д川 『もっと……、もっと楽しませてアゲル……』 更に濃厚な闇が内藤達を襲うべく広がる――――! 彡⌒ミ 【(´・ω・`)y‐「もっしー。うん俺ー今会談で吹かしてんのー。いいんだってー。Pなんだからー。 俺Pだからー、ジーマーでドラマ主演っちゃえるよー?だからチョメチョメしようよー」 ■■⌒■■ ■■ω゚`)■ ブワッ ■■■■■ ■■⌒■■ ■■ω;`)■「これなにっ!?暗くて怖いよ……。でも怖いの気持ちクなってきた!不思議!! ■■■■■ いいよお!つ、次はナニ!?ナニでボキのお尻をホジホジしてくれるの!?早くぅぅぅウウ!!!」 偶然後ろを通りがかったPが妄想の闇に囚われ、悶え果て涙と精液と淡い期待を噴射した。 ξ;|i ⊿゚)ξ『も、もう私達だけじゃ無理だよ……、逃げよ?』 ツンは縋る様な、懇願するような声を内藤に向ける。 無理も無い。文字通り右も左も解らない状況の中、固い棒でぶん殴られているのだ。 固い棒……、折角エロスな響きなのにちっとも楽しくない。これで挫けないほうがどうかしている。 だが、自我を、童貞のくせに貫き通す男。内藤の考えは違った。 :(; ω ):「……ダメだお」 ξ||i ⊿゚)ξ『え?』 (; ω )「ブーンはさっきみんなに言ったお、コイツはブーンが倒すって!」 (; ω )「ここでブーンたちが逃げれば、コイツは先に行った皆を狙う……。ブーンを信頼して先に言った皆を……!!」 ξ;゚⊿゚)ξ『!』 (; ω )「背後から襲われれば戦いなれてないドクオ達が危ないお!!」 聞き流していた、だが片隅には残ったチームプレーの鉄則―― ――”シンガリは何があっても仲間を無事に先に行かさなくてはならない”。 それに、と内藤は顔を上げ、己を鼓舞し奮い立たせるための言葉を繋ぐ。 (;^ω )「仲間の信頼を守れない奴は……、仲間の後ろを守れないような奴は!」 (;^ω )「ニートでも引きこもりでも……、ましてや童貞にすら値しない!」 (;^ω )「それ以前、それ以下の存在!!」 (#^ω^)「そんな奴は……、ただの糞以下のゲロ野郎なんだお!!」 仲間のケツを守れなければ、糞まみれの糞野郎になるだけ。 内藤はそう言い放った。 無論、内藤に全く勝算が無いわけではない。 先ほど一瞬だが炎が輝き、そして消えた。 ( ^ω^)「なら、この闇の仕組みは……、能力で光を吸い込んで作り出しているんだお!」 糸を引くような笑い声が『30点』、と告げる。 (-_-)「だいたい、それが解ったところでキミ達にいったい……」 川д川『何ができるの……?』 ゴロン。カランカラン。 角材と鉄パイプを投げる音。 (-_-)「じゃあ貞子、次はそれかな……」 ガラン、重量と破壊力を秘めた低い金属音。 (;^ω^)「そ、その音はまさか……!?」 (-_-)「そう……」 ――――バールのようなものさ。 暗闇の中、人類最凶武器を手にした男が微笑む音が再度鳴った。 それは、封印されし扉をもこじ開ける最後の鍵。 それは、機械に守られし秘宝を入手するための知恵の結晶。 そして、近年の殺人事件において他の追随を許さない使用頻度を誇る、幻の人類最凶武器。 ξ;゚⊿゚)ξ;メ゜ω゜)「あれだけはヤバイおおおおおおおおおおお!!!!!」 襲い掛かるバールのようなもの。 咄嗟に地に伏せるも、頭を掠めて空を切り、その度に何かにぶつかりひしゃげる暴音が耳を襲う。 破壊力は推して知るべし、恐怖心を引き立てる。 不幸中の幸いは、大きな重量だ。そのためモーションが大きく、スウィングスピードが鈍く、風切音が大きい。 余程の不意をつかれなければ、これほど避けるのに適した武器もあるまい。 最大級の破壊力を、最大級の愚鈍さが相殺する、幻の最凶兵器。 それがバールのようなものの特製。 しかし、ヒッキーの能力、『暗闇』は不意をつくことに関しては最高の効果を発揮する。 この武器の欠点を十二分に補うものだ。 川д川『醜く潰れなさい……!』 最凶をその手に、貞子は闇に溶け込む。 足音が着実に近づく……! ξ;゚⊿゚)ξ『ど、どどっ、どどどうすれば――――』 ξ;゚⊿⊂( -ω-)⊃「静かにっ!」 言葉を遮り内藤はツンの前に出た。 我が身を守るはずのツン、彼女を身を呈して守る内藤。 童貞の生き様は常に騎士道と隣り合わせ。それを地で行くのが内藤ホライゾンという男――――! 彼は両手を広げ腰を落とし、目を瞑り、聴覚を研ぎ澄ます……。 カツ… ⊂( -ω-)⊃ 内藤が集中したとき、彼の耳には奇跡が宿る。 チュパ音を聞けば口内で舌が何往復したかを瞬時に聞き取る程度のヒアリング能力。 カツン ⊂(;-ω-)⊃ もちろん、それを亀頭への刺激のリズムにコンバートし、更なる集中を喚起することを忘れない……! ブォ―――― 彡;゜ω゜) サッ ――――ォォォオン!!! 一二三三⊂ニニ(;^ω^)⊃ダット! チッ! 内藤は風切音に耳を澄ませ、身を屈め、フォロースウィングの間に離脱した。 (;-_-)「なんで……?なんで人間の反射神経で避けられるの……?」 (;^ω^)「なめんなお!ブーンは中学時代、目隠し尻バットゲームから生還した男だお!」 内藤はあのリア充いじめっ子の陰湿さに感謝した。 頭を命がけで2度、3度とバールのようなものを避わすうちに、徐々にコツを掴む。 来るべき時に備えて、内藤はツンに耳打ちをした。 カツン (;-ω-)(次来るお!ツンも拍子を合わせるお……。お・ちん・ちん……) ξ;-⊿-)ξ『(び、びろーん!!)』 だが、コツを掴むのは相手も同じこと。 川д川 『そんな避け方……、そう何度もうまくいくものかしらね……?』 相手が自分に合わせるならば、それに合わせ自分も攻撃を変えればいいだけのこと。 貞子はほくそ笑み、一拍子遅らせバールの握りを横から縦へと変えた。 ――――冷や汗と交換に手に入れた程度の回避スキルでは、相手が拍子を変えた際には決して対応できない――――。 内藤は知っていた。 慣れは油断と怠惰と絶望を産み出す罪である。 繰り返す怠惰な日々の中で、陰湿な目隠し尻バット 内藤はそのことを経験的に知っていた。 故に、彼は最も効果的なタイミングで手の内を明かす。 ( ゜ω )「ツン!今だおっ!!」 ξ゚⊿ )ξ『応ッ!』 声に主の強い意志が滾る。 ツンはそれに応え、右手を背後に向ける。そして指先に5連の橙火を生み出した。 先に耳打ちした手はず通り、順不同に灯る5連の橙火は生み出されては闇に吸い込まれ、点灯を繰り返す。 (;^ω^)「フィンガー・フレア・ボムズ……、成功だお!」 溜めの少ない弱炎を連続的に生み出すことで、コマ送りのように流れる影。 これにより、内藤の前バールのようなものを振り下ろそうとしていた貞子、 そしてツンの背後で振りかぶるヒッキーの影が明らかになった。 д川『あ……』 (;-_-)「あれ……?」 ( ^ω^)「陰湿なお前らのことだお……。最期はきっと両方から来ると思ってたお!」 ξ゚⊿-)ξ『久々に顔を会わせれたわね』 ( ^ω^)「破壊力の大小なんかじゃ勝負は決まらないお」 ξ゚⊿゚)ξ『能力は使い方次第ってワケよ』 (;-_-)「逃げてっ、貞子……!」 ( ^ω^)「反撃だお!ツン!」 ツンは細切れのファイア・ボールを拳に纏う。 大きな一撃は必要ない。ヒッキーを追い詰め、炎の連撃を繰り出す。 ヒットの瞬間に点火、吸収されるが敵位置を把握。更に炎の拳を振りかぶる。 目視できないため急所への確実な直撃は無いが、ベガ様並みに確実に削っている。 このまま削りKOも狙えるだろう。 (;メ-_-)「いいたっ、あつっ!あつつつつ……!さ、貞子……っ!!」 川д川 川д川『あ、はい……』 いまだブーンを追い、バールのようなものを振り回す貞子。 獲物の大きさ故にテレフォン・パンチのようなものになり、白日の下に晒されたような状態では、 そのようなものは内藤のようなものには当たりようも無かった。 内藤は肌で感じる――――反応のテンポが遅い。この二人……――――。 ( ^ω^)「リビドーの共鳴が弱いお!いけるお!」 ξ゚⊿゚)ξ『うん!』 ツンがヒッキーを追い詰めるのを横目に、音に合わせて攻撃を避ける内藤。 ( ^ω^)「そんなもん余裕だおん!」 だが、今回は、音すらもが闇の中に消えていた。 (;i||ナω゜)「グ、ハ……」 川д川 『フフフ、いい色に染まったじゃない……』 突如闇が晴れ、中から内藤と貞子が現れる。 彼は膝を着き、コメカミからは紅の筋が走っていた。 掠った腑だけでこの威力、流石はバールのようなものだ。人類最強武器の名は伊達じゃない。 ξ;゚⊿゚)ξ『ブーン!?』 ツンは眼前の敵から目を逸らし、身を翻して内藤の元へ駆け寄った。 その背後から、フフゥ、と糸を引くような嘲笑が漏れる。 (゜_ )「油断したね……、物語にはミスリードを張っておくものさ……。 ボクの力が吸い込むのは光だけじゃあない……。その気に音だって吸い込める……!」 饒舌にしゃべるヒッキー。いつに無く機嫌が良さそうだ。 他人の裏をかき陥れるという行為は、それほどに心地よく、 身悶えるほどの至上の悦楽を与える媚薬のそれに近いものだ。 (-_-) 「僕の真の能力……、それは……」 ――――波動干渉―――― ξ;゚⊿゚)ξ『波動、干渉……?』 ξ(゚Δ゚;ξミ 『ブーン何それ!?』 (i||ナω )「ナニソレムツカシイコトワカンナイ……」 どうする?どすれば……。 内藤は考える。自分の経験、知識、妄想に夢枕。己に眠る全ての叡智を掘り起こし、可能な対策を夢想する。 しかし、怪我を負い混乱した状態では直近の記憶しか引き出せない。 (;i||ナω-)「くそ、普段ならもっと深く想像できるのに……!」 その言葉通り、内藤は常日頃所構わず想像一つで直立不動。 エルフェンリートみてちんちんおっきできるほどの剛の者だ。 川д川『理解したなら悔いは無いでしょう……?』 だが、現実は無情である。 時はけして止まらず、待ってはくれない。 川゚д川『永劫の……、呪怨の闇に囚われろ……!』 仄暗い瞳が内藤等を射抜き、 光も、音も無い、凍りついた世界の殻が再び二人を包み込む。 (;i|ナω^)「また、闇が……」 うっすらと流れる血が、内藤に冷たくも熱い感覚をもたらした。 ドクン……。 ドクン、ドクン……。 心音だけが煩く響く。 また、まただ……。また、……が……! ( ω ) 内藤はそのまま地に伏した。 ξ;゚⊿゚)ξ『ブーン!どうしたのブーン!?』 ツンの必死な呼びかけは空虚な闇に吸い込まれる。 姿の見えぬ主からの応答も無い。同調した内藤の気配を確かに背後から感じているのに……! 川д川『フフ、無駄よ。あなた達は今、殻の中で完全なる闇に囚われている……。 彼にはあなたの声も届かないわ……。、あなたにも彼の声はね……。だからもう……』 ――――みんな死んじゃいましょうよ。 顔には闇を讃えた笑みを、手には最凶を持ち、貞子が迫る。 それは言い換えれば、絶望。 希望の光を、神の福音を、全てを無に帰す絶望。 黒衣の塊がツンに絶望を与えに迫る。 だが――――。 それでも――――。 ツンは諦めない――――、諦められない――――! 内藤の言葉――――仲間の信頼を守れない奴は童貞にすら値しない――――が彼女を奮い立たせた。 先に内藤が為したよう、両手を広げ、その身を盾に。 背後にいるだろう主を守るため、ツンは覚悟を決める。 『庇うの?じゃあまずは貴女から……』 闇の殻より貞子の声が響く。 ツンが肘から先を時計回りに払い除けるも、沈黙。何事も起りはしない。 ξ;⊿;)ξ『どうして?さっきはできたのに!?』 (-_-)「キミのそれはただ光を吸い込んでいるだけ…… この能力はそんな簡単に使いこなせるほど単純じゃないよ……。」 ヒッキーが言い終わるよりも前に、バールのようなものがツンの鎖骨を捉えた。 ξ; ⊿ )ξ『か、はっ……!』 肩を砕かれたと気付いたときには、ツンは重力のまま後ろに倒れていた。 灼熱が肩を襲う。うなされ転げ回る最中、微かに何かに触れた。 果たして、そこにいたのは――――守るべき者。 ξ; ⊿゚)ξ『ブーン……!?』 ( ω )「……」 だが、更なる重力加速度が彼女を捕らえる。 ここは階段である。闇の中動き回ること――――、それは転落を意味した。 ツンは派手な音を立て、階下の踊り場に崩れ落ちた。 『フフ……、そこでしばらくお休みなさいな……。血みどろの主を傍に添えてあげるわ……』 踏み、躙る。 蠱惑的な誘いに身を委ねた闇が、超鈍器を振りかぶった。 ―――――――――――― 全てがフェイク。 全ての真実が、嘘という闇の中に隠されていた。 ブォン! 臆病なヒッキーは自分を隠し、本音を隠し、真実を隠した。 元来の、童貞ならではの挙動不審さに内藤等はまんまと騙されたのだ。 ガコン! 内藤は闇の中で怒りに打ち震えていた。 己の愚かさに、己の浅はかさに。 (: ω )「ハァ……、ハァ……」 内藤は逃げる。 音の無い闇の中、正面きって攻撃を避けることはできない。 生き延びるためには、背を向け、走り、相手が追いつかない速度で、全力で階段を下るしかない。 ブォッ ガァン! 耳のすぐ後ろで背後で音が鳴る。 しかし、その凶風は鼓膜を揺らさない。内藤には届かない。 完全なる闇――――だが内藤はそれに怯まずに1階、2階と階を下る。命を、守るために。 (-_-)「光も音も無い世界……。どうだい、これが本当の闇だよ……?」 希望も、未来も、何も見えない。 将来の自分が存在しない、薄いカーテンに閉ざされた、永遠に闇の中の部屋。 あのときのボクの心の中さ。 (-_-)「とは言っても、キミには聞こえてないんだろうけどね……」 己は決して動かぬ怠惰な男がひとりごちた。 じゃあ、貞子――――。 『滑稽なラストダンスは、もう終いね……』 闇の殻が語りかける。 と、同時に内藤の足が何かに払われ、手を突き階段の中腹に崩れ落ちた。 やはり遊ばれていたか……。 内藤は舌打ちした。 『フフ、油断した……?お前なんていつでも殺せるのよ……』 内藤を死という闇に閉じ込めて希望の光をもぎ取る、死神の鎌。 バールのようなものが、迫り来る――――! ( ω )「油断したのは、そっちの方だお……!」 ――――暗闇の中を金色の影が駆ける―――― ( ω )「心音が……聞こえたんだお……」 聞こえないはずの音が、聞こえた。 自分の体から、地に伏した床から、繋いだ手から……! これが意味するもの。それは―――― ( ゜ω )「吸い込まれているのは、ブーンの周囲の大気波動だけだお!」 (;-_-) 「……!」 ヒッキーの能力。それは、対象周囲の波動への干渉。 そして怠惰ゆえ研鑽せず、大気のみに限定されていた。 それすらも隠していたヒッキー。だが、内藤の視姦力、空想力はそれを凌駕した。 ( ゜ω )「そして、お前は自分からは決して動かない……。ならば索敵の目は一つだけ……!」 ――――近づく足音と暴虐の熱波―――― ( ゜ω )「床に耳をつければ足音は聞こえるお!それが下り階段ならば隠しようも無く……!」 距離、前方60cm。把握。 ( ゜ω )「そして、ブーンは階段に倒れている……。この状況なら!」 方角、斜め上前方。把握。 ダッ! ξ#゚⊿ )ξ『ぶっ飛ばすなら真上付近にいるってワケよ!!』 突然の怒声に思わず頭上を見やる貞子。 しかしその行為が命取りとなる。 既に、階段から飛び降りたツンは頭上に迫り、掲げた特大の青炎を振り下ろす最中だった。 敵を認識する時間。 一瞬では吸い込みきれない、と判断する時間。 次の行動に移る時間。 その全てが足りず貞子は浄炎に包まれる。 彼女は眼前の光景――――服を焼かれ全裸で『ねぇねぇ今どんな気持ち?』とトントン煽る焼き豚を目に、断末魔を上げた。 炎#;;メд;;炎 『チックショォォオオォォォォォオォォォ……ッ!!!!』 ツンは内藤ごと貞子を煉獄に叩き込んだ。 (;:#;;_;)「そ…、んな……。ま、さか……幻我が、自分から…主を……?」 ,,;, ;, ; , ,, ;#;;д゚;;, ;, ; 『シが……、コワ…くないのカ……?』 「こういう信頼もあるんだお」 思い出されるは直近の記憶――――――――。 (#^ω^)「これじゃ命がいくつあっても足りないお!」 ( ФωФ)「安心しろ内藤。己の幻我の攻撃では死なん」 ――――――――師である杉浦の言葉。 ( ω )「自分の幻我では死なない、か……。ありがとだお、ロマさん」 でも…… 炎 炎炎;;;;;ω;;;)「トンでもなくイッテェおおおおおおッ!!」 ========================= 第3話「逢魔がトワイライト」 終 ========================= 前へ 前編へ 戻る 三話TOPへ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/25438/pages/1063.html
律が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。 こじんまりとした空間にはテーブルとベッドとテレビ、それに小さめのコンポやノートパソコン等の娯楽の道具が幾つか置かれている。 ありふれた若者の部屋。悪く言えば没個性的。律はそんな印象を覚えた。 「おはよう」 柔和な声が聞こえたと同時に律は自身は喉元に注視した。 鈍色の刃が律の首に触れて妖しく輝く。 切っ先から柄までは視線でなぞり、その先に目をやるとそこには恵が居た。 恵「よく眠れた?」 律「目覚めは最悪ですけどね」 押し当てられた刃を拒絶する事はなく、律は皮肉な呟きを放った。 恵を見据えるその瞳には敵意しか無い。 恵「五体満足でいられただけでも感謝して欲しいんだけどな。まぁそれもこれ以上暴れるつもりなら解らないけど」 脅し文句としては充分だった。 闘気を開花させている者とそうでない者の力量の差など言うまでも無い。 互いに敵同士と認識している状態で恵が律に負ける道理などありはしないのだ。 律「……負けました」 恵「ん、よろしい」 刺すような恵の視線は一変し、一歩身を退く優しい先輩の表情になる。 恵は何故律が自分を襲ったのか、何故わざわざ長期休暇でもないこの時期にここまで来たのか、思う事はあったがなにも聞かなかった。 ただ一言お腹空いたでしょ? と言ってコンビニのレジ袋を律に手渡す。 中には菓子パンと紙パックの牛乳が入っていた。 律「…………」 律は無言で菓子パンに齧りつき、作業のような食事に入った。 対して恵は律が居ないもののように振る舞い、テレビのチャンネルを回す。 一回りした辺りでバラエティ番組が放送されている局で手が止まったが、大して興味も無いのだろう。つまらなそうにテレビを切るとベッドに腰掛けた。 形容しがたい不自然な沈黙が流れた。 黙っている事が苦手な律にとって今の状況は苦痛でしかない。 そんな彼女が沈黙を破るきっかけを作るのは不自然なほどに自然だった。 そう。それすらも見透かされているかのように。 律「何で何も聞かないんです?」 造られた日常、均衡が破られる。 律の言葉に恵は妖しく目を細めて微笑んだ。 恵「聞いたら答えてくれるの?」 自分を試すような口振りに律は気味悪さを感じていた。 だが律は退くわけにはいかなかった。 間違った選択肢を選んだ親友を在るべき場所に戻す為にも。 律「単刀直入に言います、私と一緒に桜高に来てください」 恵の表情は崩れない。 恵「会話が噛み合ってないわね」 律「噛み合わせますよ。拒否は許さないし、のんびりしてる余裕も無いんです。これで聞きたい事は無くなったんじゃないですか?」 気が急いている。それが恵が抱いた印象だった。 確かに律が言った通りならば無謀な武力行使に打って出たのも頷ける。 ただあまりにも無計画過ぎやしないだろうか。 仕種も挙動不審な点が多いし相手に理解させる気すらも疑わしいほどに言動も支離滅裂だ。 仮にも桜高軽音部を束ねる彼女をそこまで焦らせるものは…… 恵「……澪ちゃんね」 恵は呆れたように大きく溜め息を吐いた。 まるでこうなる事に気付いていたかのようなその態度に、律は一瞬眉を顰めた。 律「……分かってるなら話は早いや。澪をまた元の──」 恵「無理よ」 聞く気など最初から無かったのだろう。 恵はあまりにも無情に、律の嘆願を拒絶する。 恵「あの子は全てを置き去りにする覚悟を以て強くなった。力だけ手にして元に戻して下さい、じゃああまりにも虫が良過ぎると思わない?」 律は何も言い返せなかった。 逆恨みに過ぎないと分かっていたのに、いざ恵を目の前にすると自分がやっている事の不条理さが律には歯痒かった。 恵「それに今更澪ちゃんに何をしたって変わらないわよ。きっとあの子自身、私達に何も望んでないでしょうしね」 全てを理解したような達観した物言いは律の怒りの琴線に触れた。 一秒と経たない内に律は恵をベッドに押し倒し、胸倉を掴む。 ぎりぎりと噛み締めた唇から血が流れた。 律「……ふざけんなよ。なに澪の事全て知ってますみたいな面してんだよ……」 恵「気に食わなかった? でもりっちゃんよりかは知ってるかもよ?」 律の無礼を歯牙にもかけず、恵は自分に跨がる律の頬を撫でた。 律「私達はずっと一緒だったんだ。あいつが今辛い想いをしてる事なんて見ただけで分かんだよ!!」 恵「そんなの思い上がりよ。なら貴女はあの子の唇の味を知ってるの? 肌の冷たさを知ってるの? ココの熱さを知ってるの?」 にんまりと口角を歪めながら、恵は短いスカートを嫌らしい手つきでたくしあげた。 律はそれを見て嫌悪感よりも強烈な悲壮感を覚えた。 自分の中で何かが壊れる音がして、律は目を見開く。 恵「私は知ってるわよ。そして全て解った上で言ってるの。あの子はもう無理だって」 観念と欲の狭間で揺らぐ律を叩き付けるのは無慈悲な言葉だった。 恵「最後に言った筈なんだけどね。決して『道』を間違えないようにって」 そして彼女は頷いたのだ。 だが道を見誤った。どれだけ強くなっても付き纏ってくる心の揺らぎに負けて。 律「なんでだよ……」 恵を押さえ付ける腕をだらりと下げ、律は放心気味に呟く。 律「なんで……。何でそこまで解ってたのに止めてくれなかったんだよ……」 恵「あの子がそれを望んだからよ」 貫徹して余裕を保っていた恵の表情が初めて揺らいだ。 恵「私にとって澪ちゃんが白と言えば黒いものも白なの。たとえそれが間違ってると解っててもね」 律「分かんねぇ! 分かんねぇよ! 間違ってるって分かってんなら何で……」 ぎりぎりと歯を食いしばり、怒りを露にするが、律は恵の顔を真面に見ていられなかった。 澪を盲信するあまりに自分の意志を失った者。 恵も、この物語の被害者なのだ。 恵「好きだから。それ以外に理由はいる?」 律は何も言えなかった。 むしろそれだけあれば充分だという事は彼女も解っていたから。 どれだけ醜く歪もうとも、愛情に勝る感情など存在しない。 半ば茫然自失となった律は不可解なものを見るような目で恵を一瞥し、ふらふらと身を退く。 律「じゃあせめて……」 逃げ出したくなる気持ちを堪え、律はか細い声で呟いた。 律「私にも澪と同じように、あの化け物染みた力をくれよ……」 恵は乱れた衣服を整え、のっぺりとした笑みを浮かべて言った。 恵「駄目よ。りっちゃんにはあの子ほどセンス無いもの。それにむざむざ暗い道を行く必要も無いでしょ?」 手放しで澪を暗い道に放った事に対する矛盾。 或いはそれすらも必然だと、律にはそう思えた。 律「……さいですか」 聳え立つ巨岩を砕く為に平手で岩を打つような無為の虚しさを抱きながら、律は黒の外套を頭まですっぽりと被る。 恵「もう行っちゃうの? まだ雨強いけど……」 律「はい、もうここに居ても意味無いし」 ぶっきらぼうに言って律はもう一度だけ恵の方へと向き直った。 あまりにも勝手な物語の犠牲となった確固たる意志の残滓。 有り得たかも知れない自分と、自分を取り巻く者の末路に目を背けないように。 そして自分の末路を隠さぬように、恵も律から目を逸らさなかった。 静寂を崩さぬまま律は再び恵に背を向けた。 恵「待って」 だがドアに手をかけようとしたその矢先、恵が引き止める。 律は振り向かないまま足を止めた。 恵「貴女の目には今の私はどう映ってた? そっち側の感想が聞いてみたいな」 一瞬だけ律の心臓が跳ねた。 考えなくとも直感で分かる。恐らくここが自分という存在を物語に介入させるか否か、最後の分岐点である事が。 歪な因果の外の平穏な日常を享受するか。どれだけの苦難が待っていようとも、物語の真実を目指すか。 律は大きく息を吸い、吐き捨てるように言った。 律「退屈そうですね」 扉が開き、そして閉まる音が部屋の中に木霊した。 一人残された恵にはそれが全ての終わりを知らせる音のような気がして、ほんの少し胸が締め付けられる。 恵「さて、と……」 物語の終わりの後に訪れるのは毒にも薬にもならない日常。 非日常の渦中に居た過去の思い出はゆっくりと、自分自身も気付かぬように色褪せて消えてゆくのだろう。 だがそれで良いのだ。恵はそう一人ごちて窓から外を見下ろした。 片側二車線の広い道路を大型のネイキッドバイクが自己の存在を主張するように荒れた蛇行運転をしている。 恵「危なっかしいなぁ」 たとえばあのバイクに跨がる青年、或いは少女。はたまた老人かもしれない。名前も知らないあの運転手のように日常から非日常を求める人間が居る中で、既に非日常を否定した自分が物語に居座るのはあまりにも図々しいのではないか。 恵「……これで良かったんだよね」 新しく物語に介入する者の為に綺麗な椅子を空けておこう。 恵はそれを矜持として、確かめるように何度も何度も呟いた。 完全下校時刻を過ぎた桜高校舎。 その内の人が居る筈のない空き教室に艶めいた喘ぎ声が響いていた。 「あっ……。あっ……。あっ……」 声からは生気すら抜けきっており、やつれてはいるものの辱めを受ける妖しい声色は隠しきれない。 文恵「ねぇ、今どんな気持ち? こんなみっともない格好でお露垂れ流してるの見られてるわけだけど」 「ごめんなさい……っ。もう許してぐださい……っ!」 彼女はこんな諍いに巻き込まれるような人間ではなかった。 外の世界ではいざ知らず、桜高という狭い無法地帯の中では彼女は何の特異性も持たない没個性的な生徒だった。 そんな彼女が凌辱の闇に囚われたのは突然だった。 辻斬りの少女に接触された時、彼女は再起不能を覚悟した。 だが彼女を待っていたのは再起不能などという生易しい地獄ではない。 文恵「あははっ、謝られても何て答えたら良いか解んないよ。貴女悪い事なーんにもしてないじゃん」 全裸に剥かれ、四つん這いの体勢で無理矢理秘部を刺激され続ける。 一体この時間はどれだけ続くのだろうか、少女はそれすらも考えられなくなっていた。 文恵「でも悪い事したと思ってるんならお仕置してあげないとね。あはっ、私ったら優しー」 「ひっ──!?」 直後、自分を辱める指が秘部の突起を摘んだ。 襲い来るのは単純な快感ではなく、鋭い痛みを伴う快楽だった。 「やだあああっ! 摘まないで、痛い痛い痛い──っ!!」 文恵「暴れちゃ駄目だよ、最初に言ったよね?」 極上の愉悦を噛み締めるように文恵は口角を歪めた。 そして空いた手を少女の背中に向けて振り下ろす。 その手に握られたものが窓から差し込む月明りに照らされ、鋭く輝いた。 「いぎっ──!?」 背中を貫く痛みに少女は短い悲鳴を漏らした。 絹のような肌には千枚通しが深々と刺さっており、薄く血が伝っている。 文恵「動くなって言ってんじゃん」 反射による制御不能な身体の動きすら文恵は許さない。 抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返し、時折肌に深く刺さった千枚通しを肉を抉るように押し込む。 「──っ! ──っ!」 少女は両手で口を抑え、悲鳴を殺して痛みに堪える。 両面からは大粒の涙が零れ落ち、全身には嫌な汗が滲んでいた。 文恵「へぇ、結構我慢強いんだね。カッコいいじゃんソーユーノ」 赤く染まった千枚通しを放り投げ、文恵は少女の顎を背後から掴んで海老反りにさせた。 だがそれは先程までのような痛みを与える為の乱暴な動作ではない。 「えっ……?」 傷口をなぞるくすぐったい感覚に少女は恐る恐る首だけを後ろに回した。 文恵「ん……」 文恵は無数の傷口から流れる血を愛しそうに舐めていた。 予測の範疇を越えた文恵の行動に少女の顔は強張る。 呆然とした少女の瞳と文恵の瞳が交錯した。 文恵「またやっちゃった……。やっぱ私って駄目だなぁ」 自身の咎を拭うように文恵は傷口を優しく撫でる。 文恵「ごめんね? こんな酷い事しちゃって。許してはくれないよね……」 文恵の瞳が潤む。 少女の頬を撫でると、赤い罪の色が細い指から頬に伝わった。 「っ! 許します! 許しますから……」 許せるはずもない。だがそんな憎しみの感情よりも今は直ぐにこの場から離れたい気持ちで一杯だった。 文恵「ほんと? 怒ってない?」 あまりにも無神経な文恵の発言に少女は苛立ちを通り越し、呆れすら感じていた。 感情を押し殺し、首を縦に振る。文恵の表情がぱぁっと晴れてゆくのが見えた。 文恵「じゃあもう帰って良いよ。飽きちゃった」 「え──?」 少女は身体が押し上げられ、宙に浮くのを感じた。 直後、腹部に突き刺さる鈍痛と身体が壊れる感覚が少女を支配する。 文恵「あっはははっ! 風邪引かないようにねぇ!」 文恵の足が少女の腹部に捩じ込まれていた。 肋骨が折れたなどというレベルではない。 身体の中で骨が原型を保てぬ程に打ち砕かれているのだ。 当然そんな規模のダメージを受けて臓器が無事である筈もない。 解りやすく例えるならば一般人がダンプカーに撥ねられたようなものだ。 少女の身体は教室の窓を破り、三階の高さから外に投げ出された。 墜ちゆく絶望に満ちた表情は文恵に何の罪悪感も与えない。 むしろ彼女にとって他者の絶望は辻斬りという自分のアイデンティティーを保つ上で必要不可欠なものであり、この上ない愉悦であった。 「救いようのないクズね」 冷めたような声が文恵の背後で響いた。 愉悦の余韻を残したまま文恵が振り返ると、古びた椅子に腰掛ける風子が居た。 文恵「私は自分がやりたい事を素直に実行してるだけだもん。私から見たら余計な気遣って生きてるそっちの方が哀れだよ」 風子が嘲るように鼻で笑うと、文恵が露骨に表情を歪めた。 衝突は無い。歪な均衡が二人の間で保たれている。 文恵「それにそっちの気がある子の気持ちも知りたいしね。これから必要でしょ?」 風子「苛めたいだけでしょ」 文恵「まぁそうだけど」 開き直ってブレザーを脱ぎ、ブラウスのタイを緩めて僅かに汗ばんだ身体に風を通す。 風子「……同じ自由奔放主義でもどうしてこうも差が出るものなのかな」 風子は視線を滑らせ、教室の入口を見た。 そこに立ち尽くす少女は気怠そうに欠伸をしている。 「違いはあれど差は無いんじゃないですか? ここまでクズだと逆に見てて気持ち良いですし」 からからと笑い、少女は真新しい血痕が残る床をじっと見据えた。 文恵「二人してクズクズ言わないでよ。まるで私がクズみたいじゃん」 風子「それこそ本気で言ってるなら抱き締めたくなるくらい哀れよね」 「まぁまぁ、面白ければ全て良しですよ。私は好きですよこういうの」 少女が笑い、風子が頭を抱える。 風子「……お願いだから興味本位で裏切ったりなんかしないでよ。なんだか二人揃ってやりかねないわね」 問題無いです、と少女は胸を叩き、風子の前へと躍り出た。 純「『夢幻』鈴木 純。モットーは面白きことなき世を面白く。こんな愉快な面子を裏切ったりなんかはしませんよ」 歪な平穏は静かに崩壊していった。物語は再び加速する 梓「博物館が全焼だってさ」 純「どこの?」 梓「フランス」 歯切れも悪く、悶々とした会話が続く。 普段ならば意識しなくとも他愛ない話で何十分と潰す事が出来るのだが今はそれも敵わない。 退屈な時に限って時間が長く感じるのは昔の人間も今の人間も変わらない、普遍の感性だ。 梓「……もう今日は帰って良いんじゃないかな」 純「完全下校時刻が過ぎない内に帰ったら次の日が酷いんだよ。覚えときなよ」 それを聞いて梓の表情が引きつった。 あの自由奔放な純が生徒会、つまり和の言う事をここまで素直に聞いているのがおかしかったからだ。 梓「ちなみにそれ破ったらどう酷いの?」 純「部外者が居るところで話せないよ。もしあの人の耳に入ったらほんとに酷いんだって!」 授業は終了したとはいえ教室内にはまだ生徒が数人残っている。 梓は苦笑いすると携帯電話のニュースサイトを閉じ、だらりと椅子の背もたれに身を委ねた。 梓「…………」 純「…………」 再び会話が途切れた。 この居心地の悪い静寂は二人に三人で居た時の事を連想させる。 人類最強の彼女が今ここに居たのならばきっとこんな空気を味わう必要も無かっただろう。 禍々しい毒のような闘気を持ちながらにして彼女の人格は例えるならば聖母のようだった。 誰よりも他者を慮り、間を取り持つ事に関しては天性の才能を持っていた。 梓「…………」 梓は気持ちがネガティブな方向に進んでゆくのを感じた。 恐らく純も同じなのだろうと思い、脇目で純の顔を捉えたのだが……。 純「…………」 彼女は違った。 目は険しく、一見隙だらけの体勢もよく見れば直ぐに臨戦体勢に移れるようになっていた。 梓「純……?」 純「しっ」 梓は咎められて初めて異変に気付いた。 太股に吊ったホルスターに手をかけると鉄の冷たさが指を伝う。 梓「これってちょっと不味いんじゃないかな……」 純「少なくとも六人は再起不能になるだろうね」 純と梓を除いて今この教室に居る生徒の人数は六。つまりはそういう事だ。 生徒達の談笑が響く中で耳を澄ませば聞こえてくる。 爛々と眼を光らせて歩み寄る辻斬りの足音が。 梓「……っ」 梓の表情が一変して険しくなる。 太股に吊ってあるホルスターではなく机に手を手を突っ込み、グリップに小粒な宝石が光るショットガンを抜いた。 純「それもハンドメイド?」 梓「まぁね」 伸ばした手に握られているのはショットガン。 その飛散する殺戮の母体は窓に顔を向けている 引き金を引くと同時に耳を劈く銃声が鳴り響いた。 硝子が飛び散る音、生徒達の悲鳴。 銃声を皮斬りに始まった狂想曲は最初からピークを迎える。 梓「……関係ない人を巻き込むことないんじゃないです?」 ぎりぎりと奥歯を噛み締め、迫る辻斬りの恐怖に備える。 だがそれは逆に自分の無力を実感させられる事になった。 文恵「何の事かな?」 可愛らしい声と共に梓の首を絡めとるように細い腕が巻き付く。 殺傷目的ではないのは明らかだった。 かと言って友人同士のよくある馴れ合いでもない、一線を越えた感情から来る慈愛に満ちた何かが感じられた。 文恵の行動は狂想曲を彩る休符を打った。 一瞬で静まり返る教室。次いで響いたのは驚愕ではなく恐怖の悲鳴だった。 「きゃああああっ──!?」 生徒達は文恵の姿を認識した瞬間、世界の終わりが訪れたかのように焦燥し、逃げ惑う。 荷物も尊厳も投げ捨て、なりふり構わずに恐怖から逃れようとするその姿は弾圧される奴隷の様だ。 文恵「ここまで露骨に避けられたら……。逆に追いかけたくなっちゃうよねぇ」 粘っこい蜜のような声と笑み。 梓の脳内に最悪のイメージが過ぎる。 認知、思考、打算。全てを凌駕して梓は反射的にショットガンの引き金を引いた。筈だった。 梓「え……?」 絞った人指し指が空を切る。 手に持っていた筈の得物がどこにも無い。 それに気付くにはあまりにも遅過ぎた。 文恵「だぁめだよ? 人に向けて撃つような玩具じゃないんだから」 片手間で梓のショットガンを弄びながら、文恵は更に目を細め、舌を出して笑った。 梓「くっ……。純っ!」 また純に頼るしかないのか、自分の無力さが歯痒かったが梓にそんな事を気にする余裕は無かった。 今文恵を抑制出来る可能性が高いのは純だけだ。 だが呼び掛けに対する合いの手は無い。 それどころか直ぐ側に居た筈の純は影も残さずに去り失せていたのだ。 梓「純……?」 文恵「あはっ、お友達はどうしても私と一緒に居たくないみたいだね」 猫撫で声で言うと文恵は奪い取った銃を梓に返す。 文恵「梓ちゃんは、どうなのかな?」 解らなかった。 自分を好きだと言った文恵。 普通が欲しいと嘆願した文恵。 人を斬る愉悦に浸る文恵。 その中のどれが本当の木村 文恵なのか、梓には解らない。 解らないものを好きになる事も嫌いになる事も出来やしないのだ。 梓「私には……。分かりません」 ショットガンの銃口がまだ割れていない窓に向けられた。 刹那、噴き出した銃口から闘いの狼煙が上げられる。 梓「だから値踏みさせてもらいます。貴女がこちら側の信頼に足る人物かどうかを」 砕けた硝子越しに幾重にも重なった殺意が滲み出す。 凡そ一クラス分の人数だろうか、少女達はそれぞれ得物を携え、臨戦体勢に入っていた。 梓「恐らく私というより生徒会に対する宣戦布告でしょうね。知った顔も何人かいますし私一人じゃあ手に負えないでしょう」 残虐性で名を轟かす者、単純な戦闘能力で名を轟かす者、敵を欺く狡猾な知性で名を轟かす者。 本質こそ大きく事なれど序列五十位以内の強者もちらほら見受けられる。 梓「貴女はどう動きます?」 梓の問いに対して文恵は不敵に微笑んでみせた。 そして腰に携えた刀を抜き、洗練された戦闘集団に切っ先を向ける。 文恵「ふふっ、梓ちゃんの仰せのままに」 とん、と床を蹴る音と共に文恵の姿が消えた。 「──っ!?」 集団の中の一人が自分達の過ちに気付く。 瞬時に消え、自分達の陣形を内面から崩すように現れたこの少女は……。 「辻ぎ──っ!?」 少女が恐怖の名を紡ぐよりも速く、文恵は刀の柄を口内に捩じ込ませた。 砕けた歯、口内を満たす鉄の味を感じる前に少女は胸を拳で打たれて昏倒する。 流れゆくスローな景観の中で文恵が捉えたのは雪崩のように襲い来る人の群だった。 文恵「良いね。興奮しちゃうよ」 正面から鉈を持って襲いかかる少女を袈裟斬りで一蹴し、素早く持ち替えて脇の下から居抜くように後方へ一突き。 「かはっ──」 真後ろで人が倒れる音を聞いて文恵は頬を緩めた。 並み居る人の群の中から文恵を挟むように二人飛び出した。 二人が携えた刀は文恵の首筋目掛けて加速する。 丸腰の文恵がただ立ち尽くすのを見て二人は勝利を確信した。 だがその確信が幻想と化すのは至極当然の事だった。 文恵「ひゅー……。ちょっと焦った」 両手を交差させ、二本の刀をそれぞれ二本の指で挟んで止める。すると鋭利な刃が瞬く間に溶け始めた。 「これは……?」 「熱!?」 その力の本質は闘気の道に聡くない二人にも理解出来た。 概念をも具現化させる力が文恵にはあったから。 文恵「私を倒したきゃ核でも持ってこないとね!」 文恵は背後で膝を付いた少女の身体から刀を抜き、大きく振りかぶった。 梓「──っ!」 一歩退いて戦況を見ていた梓は真っ先に危険に気付いた。 教室の端まで一気に身を引き、襲い来る熱波に備える。 刹那、文恵の一振りは紅蓮の炎を撒き散らした。 途端に教室内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。 僅かに炎に掠められた自身の前髪を弄りながら、梓は錬獄の向こうの影を見据えた。 梓「規格外……ですね」 純「なんか色々人間辞めちゃってますねこれ」 風子「お互い様でしょ。私から見たら貴女も充分終わってるわよ」 高みの見物を決め込んでいるのは純と風子の二人。 丁度梓が居る校舎の向かいの棟の屋上。かつて和と純が憂を止めようと闘った場所だ。 風子「しかも貴女はあの子と違って明確な目標も無く動いてる。質の悪さで言ったら貴女の方が上よ」 眼鏡の奥の眼は険しく吊り上がっている。 純「……あんまり友好的じゃないですね。もしかして私居ない方が良かったですか?」 純は手摺から身を乗り出し、風子に背を向けたまま呟いた。 35
https://w.atwiki.jp/crackingeffect/pages/142.html
. 夕焼けは彼岸の色。かの地において、それは死を暗喩する。 ▼ ▼ ▼ ……小鳥の囀りが遠くで聞こえた。 柔らかな風が頬を撫でる感触に、すばるは目を開けた。 「ようやく目が覚めたのかい、すばる」 一面の草が揺れる緑の平原。隣に座っていた少年が呆れたように薄く笑う。あの黒いローブ姿ではなく、白を基調にした穏やかな色彩の服装。長い髪を無造作に背中に流した彼はおもむろに立ち上がり。 「まったく。君があまりにも気持ち良さそうに眠ってるから、結局起こせなかったじゃないか。思ってたより時間も経ってしまったし、貸し一つだからね」 そう言って手を差し伸べる少年に掴まり、立ち上がる。 頭上には、どこまでも澄み切った青空。 鳥の群れが緩やかな弧を描き、風の向かうほうへ消えていく。 「どうしたんだい、すばる?」 不思議そうに問う少年を見上げ、少し迷ってから口を開く。 いったい何が起こったのか、わたしたちはどうなったのか、という問い。 少年はますます不思議そうに首を傾げ、小さく笑って。 「僕たちがどうなった、か。 帰ってこれたんだよ。すばる、君と僕の二人で」 そう言って少年が示す方向に視線を向け、目を見開く。 降り注ぐ太陽の光に照らされて輝く、とても見慣れた街並み。 すばるの生まれ育った街。学校へと続く道に、大きな看板が目印のスーパーマーケット。天体観測をする時によく行く神社や、他にも色々。 平穏な街の風景がそこにはあった。行き交う小さな点の一つ一つは人影。それぞれの日常を謳歌する表情は笑顔に彩られ、にぎやかな声はここまで届いてくるようだった。 「僕がこうしてここにいられるのは、全部君のおかげなんだ」 独り言のような声。 視線を向けると、少年ははにかむような響きを湛えてすばるを見ていた。 「僕一人だったら、きっとこうはなっていなかっただろう。生きる意志を失くした僕を、それでも掴みあげてくれたのは君だ。 感謝している。本当に、心から」 そう少年は視線を逸らし、なんだか恥ずかしいな、と呟く。 その姿に小さく笑う。少年は頬を赤くしてそっぽを向き。 「ねえ、すばる」 名前を呼び、空を見上げて。 「君は今、幸せかい?」 そうだね、と頷く。 「それは良かった」 少年もまた、口許に笑みを浮かべる。 「僕は幸せだ。色々なことがあったけど、今、本当に幸せだ。 ……僕の見る世界は変わった。君が変えてくれた」 そう言って、少年は左手をそっと差し伸べ。 「だからどうか笑ってほしい。君の生み出してくれた世界は、こんなにも輝いているんだから」 ありがとう、と少年の手を取り、共に空を見上げる。 青い空が頭上に広がり。 緑の草原が見渡す限りに開かれて。 そして、大切な人が傍にいれば。 それだけで、すばるの見る世界は美しかった。 すばるは目を閉じ、心の中で祈る。 こんな幸せが広がって、みんなが笑顔になって。 そんな未来が本当にあったならば。 どれだけ良かったのだろう、と。 ───世界が、一瞬で黒く塗りつぶされた。 ▼ ▼ ▼ アイが戦場から逃げ帰った時には、時刻は既に18時を越えていた。 誰もいない公園のベンチに腰かける。辺りは物音一つなく、先の破壊的な喧騒など無かったように静まり返っていた。日は未だ沈みつつある途上だが、空は夕焼けを通り越して黒い夜へと移りつつある。アイは空の色を瞳に映して、ほぅと軽く息を吐いた。 こうしていると村で暮らしていた時のことを思い出す。かつてのアイは、毎日毎日日が沈むまで、ショベルで土を掘り返しひたすらに墓を作っていた。体を包む心地のいい疲労感と、何かをやり遂げた誇らしい達成感。幼い日のアイは、繰り返す日常の中で確かな充足を味わっていた。それがどうにも、今の状況と重なっているように思えた。 かつてと今で違うことは、そこには達成感も充足感もないということ。 かつてと今で同じことは、結局自分は何をもできなかったということ。 「……本当に、ちっぽけですね、私は」 「何言ってんだ、突然」 かけられた声に思わずびくりと反応してしまう。振り返って見れば、そこには席を外していたはずのセイバーの姿。 若干呆れたような様子で、彼は何かを差し出してきた。 「ほら、適当にだけど買ってきたから食っとけ。昼からずっと動きっぱなしで碌に休むこともできなかっただろ、お前」 「あ……はい、ありがとうございます」 おずおずと受け取って、膝の上に置いた手に視線を落とす。透明な袋に入った、これは多分パンなのだろう。アイが知ってるそれよりもずっと柔らかかったけど、うん、きっとそうだ。 切れ込みから袋を裂いて取り出し、一口齧る。練り込まれたバターの香りが鼻孔をくすぐる。胃袋が空っぽ同然のこの状態なら間違いなく美味しいはずなのに、味なんてさっぱり分からない。 初めて食べるたくさんの具が入ったパンも、おにぎりという不思議な食べ物も、まるで土の塊を食べているかのよう。 煩雑に並べられた食糧を、ミルクで無理やり飲み下していく。 無言の時間が、少しの間続いた。 「あの……」 「なんだ?」 「すばるさん、まだ起きないみたいで……」 「ああ、そのことか」 ベンチに座るアイの横には、すばるが仰向けに横たわっていた。 身動きの一つもなく、その瞼は閉じられたまま。あれからずっと眠り続けていて、起きる気配は全くない。 無理やり起こそう、とは思わなかった。 セイバーもまた、そんなアイの気持ちを知ってか知らずか、アイの好きなようにさせていた。 「大して時間も経ってないんだから焦る必要もないだろ」 「それはそうですけど、心配なんです。セイバーさんみたいに、万が一ってこともありますから」 言ってアイはセイバーのほうをじっと見遣る。 何だか責められてるような気がして、セイバーは罅の残る右半身を隠すように姿勢を正した。 「……鈍痛は残ってるが、その程度だ。俺は大丈夫だよ」 「セイバーさんの大丈夫は信用できないんです」 返す言葉もなかった。 ともあれ無事なことを納得したのだろう。アイは両ひざをつき、未だベンチで眠ったままのすばるへと慈しむようにその手を差し伸べた。その手は祈りであるかのように、厳かに組まれて。 それが眠り続ける彼女への祈りか、犠牲となった誰かへの鎮魂なのかはセイバーには分からなかった。 ただ、そうしたアイの姿は純粋に綺麗だと思った。 綺麗であると同時に、どこか痛ましくもあった。藤井蓮は知っている。祈りはどこにも届かない。神に縋っても良いことなど何一つとしてないのだと。 それは誰よりアイが一番知っているはずだ。神さまなんてどこにもいない。祈れば叶う奇跡など、彼女の半生に一つ足りとてなかったのだから。 けれど、少女は祈る。アイ・アスティンというちっぽけな一人の少女は祈る。 それは神や運命といった超越的なものに訴えかけるものではない。アイとアイの向き合う者が持つ心に訴えかけた、それは少女だけの祈りであるからだ。 「……ねえ、セイバーさん」 「なんだよ」 「アーチャーさんは、救われたんでしょうか」 だから。 そんな少女の問いかけを、セイバーははぐらかすこともできずに。 「……さあな」 そんな、当たり障りのない答えしか返すことができなかった。 「そんなことをいくら考えても、全部徒労だよ。死んだ奴はもう何も言わないし、何を考えてたのかだって分からないわけだしな」 結局のところ、セイバーにとってはその結論が全てだった。失ってしまったものは、常に思い出の中だけで輝き続ける。現実に帰ってくることは決してない。 そうですね、とアイ。二人は隣り合うように座って、誰ともなしに空を見上げる。 再びの沈黙が、二人の間に流れた。 「あれからですね、私も少し考えてみたんですよ」 ふと、アイがそんなことを言った。セイバーは特に思い当たる節もなかったので、怪訝な顔をした。 「世界の話です。視点の話、と言い換えることもできますけど」 「ああ、あれか」 人の見る世界は個々人の視点によって姿を変える、というやつだ。確かにそんな話をしたような覚えがある。 「あれからずっと考えてました。世界は私の想像以上に大きくて複雑で、そんなとんでもないものをどうやったら救うことができるのか」 そこでアイは一旦切って、大きく息を吸い、意を決したように。 「私は多分、"みんな"を助けたかったんだと思います」 そんなことを、言った。 「……」 「私の世界は"みんな"で出来ています。私の世界やこの街で出会った皆さんや、他にもいっぱい、みんなの世界がひしめき合って、響き合って、ずっとずっと続いていくかのような。 そんな世界が、私は好きです。私はそれを、手助けしていきたいって、そう思いました」 セイバーは無言のままだった。アイは正面だけを見据えて、重く、言葉を続けた。 「でも、みんなの世界は、私のものじゃなく皆さんそれぞれのもので。私が救う、なんてことはそもそもできないんです」 アイは悲しげだった。せっかく答えを一つ見つけたというのに、悲しそうだった。 「だから私は、どうか皆さんが自分の世界を見捨てないようにって、そう願いました。それ以外なら、私はいかなる害悪からでも世界(みんな)を守ります。けど……でもそのひと本人が、自分の世界を壊すのを、私は止めることができません。その人が『もういいんだ』って諦めたものを、私はどうしたって救うことができないんです。 だってその人の世界を救えるのは、その人だけなのですから」 「……」 何も答えない。セイバーは黙ったままだ。 「ですから、セイバーさん。アーチャーさんは、救われたんでしょうか。 あの人は最後まで、自分自身のことを諦めないでいてくれたんでしょうか」 「……」 問いには答えず、数瞬の間が空く。 セイバーは呆れたように、あるいは不貞腐れたように、億劫な所作で頭をかきながら言った。 「なんていうか」 残念そうな、視線を向ける。 セイバーの表情を彩るのは、どのような感情であったのか。傍目からも、本人すらも、判然としなかった。 「変なところで馬鹿真面目だよな、お前。みんなのためとか、結局世界全体のことから何も変わっちゃいない」 「なんですか、それ。私は真剣に……!」 「じゃあ聞くけどな」 そこでセイバーは体ごとアイへと向き直り。 「みんなのためにってお前はそう言うけど、それって一体誰なんだ?」 「え?」 身も蓋もない疑問を突き付けられた。 "みんな"とは誰かという、そんな子供でもしないような、簡単なもの。 「それは、だからみんなはみんなで……」 「だから誰だよ。具体的に言えよ。顔も名前も知らない、どこかにいるはずのお前の助けを求めてる誰か? いねえよ、そんな都合のいい奴は」 顔も知らない人々、不特定多数の弱者、救済を求めて喘ぐどこかの誰か。 そんなものを救い上げるというアイの理想は確かに尊いだろうが、そんな"誰か"はどこにもいない。 そもそもアイのことを知りもしない大多数の人間が、アイに助けを求めるなんてできるわけがないのだ。アイの言うことは前提から破綻している。 「助けたいって言うんならちゃんと名前を口にしろよ。大切だって叫んでやれよ。お前のために頑張ってると、面と向かって自慢してやれ。話はまずそこからだろうが」 「何を、言ってるんですか」 声が無意識に震えだす。何故ならそれは、アイにとっては夢の根本を否定されたに等しいことだったから。 「それってつまり、自分の周りの人だけ見てろってことじゃないですか」 「ああそうだよ。さっきからそう言ってるだろ」 「そんなこと認められません! そんな自分勝手な、私の大事な人だけを贔屓にするなんてこと!」 「なんで?」 「なんでって!」 信じられない質問だった。そんなことは答えるまでも、いや考えるまでもない自明の理だった。 世界(みんな)を救う自分は、そんな狭いところで足踏みしていることなど許されない。 自分の大切な人を守り、自分とその周りだけが幸せになるなどということが。 許される、わけが。 「だったら、お前が誰かを助けたいってのと同じように、お前を助けたい誰かがいたらどうするんだよ」 「……え?」 予想もしていなかった、と言わんばかりにぽかんと開けられる口。 そんなアイに構うことなく、セイバーは言葉を続ける。 「お前のことが大切で、お前のことを助けたくて、お前のために頑張ってる奴がいたらどうする? お前を救うことがそいつの救いだとしたらどうする? 友人なり家族なり、お前の幸せだけを願ってる奴を、お前はどうするつもりなんだ?」 「そ、そんな人、いるわけ……」 いるわけがない。 そう言おうとしたアイの口は、しかし音を紡ぐことはなかった。 「いるだろ、お前にだって、もう」 「……」 「旅の連れが、いるんだろ?」 「……」 アイは、口をつぐんだ。 ユリーやスカーのことが、思い出された。 「そいつらはお前と世界、どっちが大切なんだろうな」 「……」 「ユリーって奴や、スカーとかいう墓守。お前の父親に、母親に、同じ村で暮らした47人の人間たち。生きてる奴らも死んでる奴らも、お前を幸せにしたいって連中はそんなにたくさんいるのに、お前はそいつら全員見捨てて、"みんな"なんてもんのところに行くんだな」 アイは、何も答えなかった。 「お互い、不幸者だ」 セイバーは言い、背もたれに体重を預けた。 沈黙が場を満たした。先程までの、会話がなくとも気まずくなどなかったそれとは違った。互いに黙り込んで、居心地の悪い空気が二人の間を流れた。 そのまま一分、二分と時間が過ぎていった。巣に帰る鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。身じろぎの一つさえ、アイは取れなかった。 「そういえば」 不意に、前を向いたままのセイバーが口を開き。 「さっきの質問、アーチャーが救われたかどうかってやつだけどな。 何度聞かれても同じだよ。分からないとしか、俺は言えない」 その結論を曲げるつもりはセイバーにはなかった。 死んだ者は何も言わない。人の思考を外から覗くことはできない。そこを無視して、他人の考えを知った風に語る趣味を、彼は持たないから。 けれど。 「けどさ、あいつは最後に笑ってたよ。 すばるを身を挺して守って、それでも笑って消えていった」 あの瞬間に垣間見たそれだけは、決して変えることのない真実だった。 アーチャーは、あの真名も分からぬ少女は、己が主を守って死んだ。そのことを誇るように、良かったと言うように、笑って逝ったのだ。 顔も知らない誰かではなく、大切な一人のために。 「そう、ですか。アーチャーさんは、笑えたんですね」 知らず、アイの口元にも安堵したかのような笑みが浮かんだ。アーチャーが死んでしまったことに変わりはないけど、それでも一抹の救いがあったのだと信じることができたから。 「嬉しい、なんて言えないですけど。でもアーチャーさんがせめて満足して逝けたなら……良かったです、本当に」 「ああ、良かったなアイ。自慢してもいいぞ」 「いや、なんでそこで私が出てくるんですか」 「分からないか?」 「分からないです」 本当に分からないといった風情のアイに、セイバーはさも当然といった口調で。 「すばるは、アーチャーの遺した希望だ。すばるが生きているのは、アイ、お前がいたからだ」 不出来な子供を褒めてやるかのように。 「お前が助けたんだ」 そんなことを、言った。 「……それは違いますよ、セイバーさん。すばるさんを助けたのはアーチャーさんで、戦ったのはセイバーさんです。私なんて、何もできて……」 「あのな」 呆れたように言う。 「確かに、実際に戦ったのは俺だ。自画自賛なんてするつもりはないけど、俺がいなかったらアーチャーどころかすばるも死んでただろうしな。 けど俺があの戦場に行ったのは、お前がそうしようって行ったからだぞ」 「それは……」 「言っておくが、俺一人だったら絶対行かなかったからな。薄情と言われようとそれが事実だ。俺はアーチャーを信用していなかったわけだし」 「ちょ、初耳なんですけど」 「そりゃまあ、言ってなかったしな」 なんて自分勝手な、とアイは思った。 けれど、だからこそ過去の選択は、自分の意思があってこそだと思うことができて。 「なあ、アイ。お前はあの時、なんでアーチャーのところに行こうとした? 自分が死ぬかもしれないのに銃弾から庇ってまで、すばるのことを助けようとした?」 「……そんなの、決まってます」 アイは、決然と言った。 「すばるさんとアーチャーさんを、助けたかったからです」 それを聞いたセイバーは─── 笑った、ようにも見えた。 「……はは」 「む、なんで笑うんですか」 「いや悪い。だってさ、言えたじゃんか。"誰か"の名前」 言われて、アイはようやく気付く。 その言葉は不意打ちめいて、思わず驚いた表情になってしまう。けどすぐにそれも沈んで、絞り出すように呟く。 「けど、私はアーチャーさんを……」 「助けられなかった、か?」 「そうです、そうですよ。私の力が足りなかったばかりに。死んでしまっては、どうにもならないのに」 「そうだな。あいつは死んだし、本当に救われてたのかだって分からない。 けど、お前は助けることができたんだ。誰かじゃなくて、すばるのことを」 救いたいと思う、誰か。 顔も知らないどこか遠くの人間じゃない。アイが出会って、向き合って、親しくなった大切な人。 アイが確かに、その手で助けることのできた、初めての一人。 「忘れるな。死なれちまった悲しさを。そしてお前の手の中にある確かな温もりを。 いつかお前が、親しい人と向き合うために。本当の意味でそいつを救えるように」 言われ、アイは自分の手と、握るすばるの手を見下ろした。 眠るすばるの手のひらは、それでも確かに暖かかった。 「でも、私は……」 アイは、ぎゅっと目を瞑り。 「それでも私は、一人でも多くの誰かを……一つでも多くの幸せを、助けたいんです」 振り絞るように、あの日の誓いを口にした。 その瞬間。 ───瞼が、開いた ▼ ▼ ▼ 夢からの覚醒は唐突だった。 夕闇の中、ベンチの上に横たわる自分の姿に、すばるは唐突に気が付いた。 頭は、何か靄がかかったようにはっきりとしない。 全身がだるくて、妙に寒気もした。訳もなく体が震え、痛みもないのに酷く悪寒が走る。 アイが驚き、次いで何かを言っている。心配そうな顔、多分、自分を気遣ってくれている? けど聞こえない。それだけの余裕がなくて、耳は音を拾ってくれない。周囲がしんと静まり返ったように感じられる。 胸が締め付けられるような感触を覚えた。 「ずるいよ、みなとくん……」 声が漏れる。 無意識に漏らした声。それだけは、不思議と音として耳に捉えることができた。 「最期にあんなこと言って……そんなんじゃわたし、もう何も言えないよ……。 まだ生きてって、死んじゃダメだって、そんなこと言われたら……もうずっと、みなとくんに会えないじゃない。同じところになんか行けないじゃない……」 頬を一つ、雫が落ちる。 見開かれた眼窩を伝い、大粒の涙がこぼれる。それはひたすらに、すばるの頬を濡らして。 「いつも勝手だよ、みなとくんは……。 大事なことは何も言ってくれないし、みなとくん一人だけでずっと抱え込んで……わたし、まだお礼だって言えてないのに。 本当はずっと、みなとくんに感謝してた。みなとくんのことを頼りにしてた……こんなわたしの傍にいてくれてありがとうって、これからも一緒にいようねって……わたしずっと、そう言おうと思ってて……」 言葉が途切れる。 すばるは泣き濡れた顔のまま、戦慄く両手を見下ろし。 「……ああ、そっか」 ようやく気が付いたと、目尻を大きく歪ませて。 「わたしは……みなとくんに、恋してたんだ」 響き渡る、慟哭の声。 ただ見守るアイと蓮の前、すばるはひたすらに嗚咽を漏らし、夜半の風を震わせた。 【C-3/北部/一日目・夕方】 【すばる@放課後のプレアデス】 [令呪] 三画 [状態] サーヴァント喪失、深い悲しみ [装備] ドライブシャフト [道具] 折り紙の星 [所持金] 子どものお小遣い程度。 [思考・状況] 基本行動方針: 聖杯戦争から脱出し、みんなと“彼”のところへ帰る……そのつもりだった。 0:…… [備考] C-2/廃校の校庭で起こった戦闘をほとんど確認できていません。 D-2/廃植物園の存在を確認しました。 ドライブシャフトによる変身衣装が黒に変化しました。 使役するサーヴァントを失いました。再度別のサーヴァントと契約しない限り半日ほどの猶予を置いて消滅します。 【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】 [令呪] 三画 [状態] 疲労(中)、魔力消費(中)、右手にちょっとした内出血 [装備] 銀製ショベル [道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み) [所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み) [思考・状況] 基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。 1:"みんな"を助けたかった。多分、そういうことなんだと思う。 2:ゆきの捜索をしたいところだが…… 3:生き残り、絶対に夢を叶える。 例え誰を埋めようと。 4:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。 5:ゆき、すばるとは仲良くしたい。アーチャー(東郷美森)とは、仲良くなれたのだろうか……? [備考] 『幸福』の姿を確認していません。 ランサー(結城友奈)と18時に鶴岡八幡宮で落ち合う約束をしました。 【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】 [状態] 右半身を中心に諧謔による身体破壊(修復中)、疲労(中)、魔力消費(中)、霊体化 [装備] 戦雷の聖剣 [道具] なし [所持金] マスターに同じく [思考・状況] 基本行動方針:アイを"救う"。世界を救う化け物になど、させない。 1:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。 2:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。 3:少女のサーヴァント(『幸福』)に強い警戒心と嫌悪感。 4:ゆきの使役するアサシンを強く警戒。 5:市街地と海岸で起きた爆発にはなるべく近寄らない。 6:ヤクザ連中とその元締めのサーヴァントへの対処。ランサーの誘いに乗る……? [備考] 鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在はC-2廃校の校門跡に停めています。 少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。 すばる、丈倉由紀、直樹美紀をマスターと認識しました。 アーチャー(東郷美森)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)を確認しました。 アサシン(ハサン・サッバーハ)と一時交戦しました。その正体についてはある程度の予測はついてますが確信には至っていません。 C-3とD-1で起きた破壊音を遠方より確認しました。 ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)を無差別殺人を繰り返すヤクザと関係があると推測しています。 ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)及びアサシン(アカメ)と交戦しました。
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/513.html
ナイトメア・チルドレン(中編)◆tu4bghlMIw 瞬間、ルルーシュ達の表情が一斉に驚きの色に染まった。 この殺し合いの主催者である螺旋王ロージェノム。彼を『お父様』と呼称する人間、それはすなわち―― 「君が……奴の娘だってことかい?」 「はい。捨てられはしましたが、私のお父様であることに間違いはありません」 「……実の娘をこんな馬鹿げた殺し合いにぶち込むとはねぇ……王様の考えることは分からんな」 「アンタ、アイツの娘だったら何か知らないの? 何でこんな馬鹿げたことをやらせてるのか……とか」 「まぁ、少なくとも自分から進んで参加したい類のパーティではないかもね」 スパイクの指先がトントン、と忙しなく濃い木目のテーブルを叩く。 彼の苛立ちはそのまま、場の空気が一転して重苦しいものへと変わったことを明示していた。 (螺旋王の娘……だと!?) 彼女、ニアが螺旋王の実子であるという事実。 それは確かに参加者にとっては、脱出の鍵になるかもしれない情報だった。 いかに実の親から縁を切られた廃棄王女とはいえ、彼女が所持する螺旋王についての知識はおそらく参加者の中でも別格だろう。 今までこの空間でルルーシュが出会った者の中でも、明らかに特殊な人間。そして代用不可の超VIPと言える。 螺旋王の人となり、敵の戦力。適当に挙げていくだけでも暇がない。しかし、 「すいません、私には……何も……分かりません」 「逆にさ。アンタがあの螺旋王の部下だ、ってことはないの? アイツの娘なんでしょ? 例えば隙を見てこっちの状況をアイツらに報告している――とか」 当然、このような疑いが発生してしまうのも道理なのだ。 親子の情とは人の本能の中でも相当上位に位置する捨てきれない感情だ。 普通の生活を送ってきた人間にとって、親が子供を庇護する関係は極めて常識的な枠組みの中に存在すると言っても過言ではない。 確かに、子供を子供と思わない親がいることを知ってはいても、共感を覚えるのは難しい。 この言葉を発したカレン自身も、長年に渡る母親との衝突の末、どれだけ彼女が自分のことを想ってくれていたのかを理解したばかりなのだ。 「そんなっ!! それだけは絶対にありえません!!」 ニアはカレンのこの言葉に絶句する。彼女の告白はつまり『親愛の証』であった。 これからどんな未来が訪れるのかは分からない。 それでも自分が螺旋王の娘であること。コレは重要なファクターに成り得ると判断したのだ。 『皆に隠しておく訳にはいかない』 そのような義務感から、ニアは自らの忌まわしき過去を口にしたのである。 彼女のおばさまであるドーラは、ニアが自分は螺旋王の娘であると伝えてもそのまま受け止めてくれた。 だが、誰もがドーラのような人間ではない。 それどころか、ニアに疑惑の眼を向けることが自然な反応でさえあるのだ。 「むぅぅうううう!? そ、そうだったのかぁぁぁああああ!! 実は逐一余すところ無く報告していたのだなぁっ!? 小娘!?」 「……カレンおねーさん、中々厳しい所を突くね」 大げさなリアクション共に、表情を凄まじい勢いで変えるビクトリーム。 ちなみに彼は非常に単純であるため、カレンの言葉を聴いて今初めてニアが敵の手先であるかもしれない、と悟ったのである。 普段は含み笑いを絶やさないジンも、顔面に微妙な笑いを浮かべている。 ニアが螺旋の王女であることを知っていたジンでさえ、その可能性について密かに疑っていたのだろう。 彼の微妙に歪んだ口元がソレを物語っている。 「わ、私はっ……!」 「いきなり『私は螺旋王の娘です』なんて言っても、信用される訳がない。 どんな考えがあったのかは知らないけど、こういう反応が起こることは十分に予測出来た筈よ」 「ベリィィィィィィシィィィィィット!! まさかこの華麗なるビクトリィィィム様がこぅぉおんな小娘に騙されるとはぁぁぁぁあ!!」 早口で捲くし立てるカレンと大きな瞳を不安げに瞬かせながら必死に弁明するニア。 とにかく騒がしいビクトリーム。 山小屋は今や疑惑と不信の坩堝へと成り代わる寸前だった。 (確かに、カレンの言葉にも一理ある。本当に螺旋王側のスパイだとしたら、自分の出自を公開するとは思えんがな。 ……いや、逆にその秘密を握っている知り合いが参加している故の行動とも考えられるか。 ただ、どちらにしろ――) ルルーシュは笑った。 深々と口元に刻まれた皺は彼の愉悦を物語るように、一瞬で皮膚へと侵蝕する。 腹の底から湧きあがるような高揚感を隠すため、ルルーシュは口元へと手を当てる。 (現状、最も適切な一手はこれか、決定だな。後は《奴》を始末さえ出来れば……) 他にもいくつか案自体は浮かぶが、どれも決め手に欠ける。 だが少なくとも今自分が選ぶべき行動は一つだけである。つまりニアを保護すること、である。 「カレン、止めろ。ニアさんが脅えているじゃないか」 「…………止めないで、ルルーシュ。あなたにも分かる筈よ。彼女が信用出来る保証はどこにもない」 「それは俺達も同じことだ。何故彼女が疑われることを覚悟してまで、出会ったばかりの俺達にこのことを告白してくれたのか…… 君だって分からない訳じゃないだろう」 ルルーシュは今にも食いかかりそう勢いでニアを詰問するカレンを制しながら、ニアの擁護を開始した。 ニアからの信頼を勝ち得ることはこれから先、必ず役に立つ筈だ。 面倒な手順など踏まず、直接ギアスを使って操り人形にしてしまう、という手段もあった。 だが、幾つかの不安な要因が浮き彫りになったのだ。 使用時における身体への強烈な負担もそうだが、最大の問題点はギアスの継続時間が極端に短くなっている点だ。 100%の確証はないが、おそらくこの予感に間違いはないだろう。 土壇場になった時、効果が切れてしまったらどうなる? 全て一からやり直しになってしまう。ギアスを掛けられている間の記憶は失われないのだ。 今、ギアスは万能の力ではない。出来るだけ使うポイントを限定しなければならない。 「それとこれとは話が別で――!!」 カレンがそこまで言い掛けた時、ずっと黙り込んでいたスパイクが突然立ち上がった。 ガタッ、と音を立てながら椅子を引き、無言のままツカツカとニアのすぐ側まで歩いて行く。 ルルーシュを含め、誰もが彼の行動に拍子抜けになる。 「……めんどくせぇ」 ぼそり、と呟くように。 この状況とはあまりにも不釣合いな言葉、そして行動だ。 だがルルーシュは、スパイクのこの発言で張り詰めていた緊張感が一瞬で砕け散ったような印象さえ覚えた。 つまり、ニアを糾弾する負のオーラに満ちた空気が、だ。 場の人間全てがスパイクの行動に注目している。 彼の一挙一動を十の瞳が追っているのだ。 何故スパイクがこのような不可思議な行動を取るのか。 いや、少なくとも個々人が言いたい事をベラベラ喋っていた最悪な状況があっという間に解決したことは確かだ。 「お嬢ちゃん、ニアだっけ」 「はい」 「良い返事だ。ジンから聞いたんだが、アンタ料理が得意なんだって?」 「え……は、はい! ダイグレンの厨房で調理主任をやっていました!」 「そうかい。じゃあ一つ頼めるかな」 それだけを伝える、スパイクは小さく腹部の辺りを擦った。 そして笑いながら一言。 「腹、減っちまってよ」 □ 「亀の甲より年の功って奴だね。ルルーシュもそう思わないかい?」 「……そうだな」 ジンとルルーシュは応接間でグダグダと喋りながらチェスに講じていた。 趨勢は明らかにルルーシュが有利。だがジンの腕前も中々なモノであり、油断はならない状況だった。 久々に骨のある相手との勝負に、ルルーシュは密かな楽しみを感じていた。 「おねーさんにドヤされちゃいそうだなぁ。俺自身も、ニアちゃんについてはちょっと気になることがあってね。 そのせいで、中々カレンおねーさんにストッパーを咬ませることが出来なくてさ」 「それは俺にも言えることだ。もう少し……早く行動に移るべきだった」 「……ま、そんな俺達の優柔不断が高じて旨い飯にありつけるってこと。スパイクに感謝しないとね」 ジンのナイトがルルーシュのポーンを蹴散らす。 すかさず、ルルーシュはルークを動かして敵の動きを牽制。 無駄話をしていながらも、ジンの的確な判断に舌を巻く。 (だが……まだ甘い) 結局、スパイクの「腹減った」との申し出によって、応接間での討議会は閉幕となった。 ニアは今一人でいそいそと食事の準備中。 カレンは不機嫌なまま、山荘の周囲で警戒に当たっている。スパイクも彼女と一緒に見回りだ。 ビクトリームは当初ルルーシュ達を信用していなかったが、ルルーシュに支給されていた【メロン】を見ると態度を一変させた。 どうも彼が持っていたメロンは全て食べ終えた後で、そのためイライラしていたらしい。 今はラジカセをジャカジャカやりながら、部屋の隅で踊っている。 「チェックだ」 「……うん、無いね。負けたよ、ルルーシュ。チェスには自信があったんだけどなぁ」 「いや、ジンも相当なレベルだった。実は少し"違法"なゲームにも手を出しててね。 普通の人間で俺とここまで張り合える相手と勝負したのは久しぶりだ」 それは素直な感想だった。 ルルーシュは友人のリヴァルと連れ立って、しばしば賭けチェスに精を出していた時期があったのだ。 同じく友人のシャーリーなどには、何度もその行為を咎められたりもしている。 (気楽な時間だ……まるで、殺し合いに参加させられていることなど忘れてしまいそうになる。だが――) 彼には羽根を休め、気を抜く暇などなかった。 彼は絶対に元の世界へと帰らなければならない。 最愛の妹のため、死んでいった親友のため、自分自身の野望のため。 ルルーシュはチェス盤の駒をケースに片付けると、スッと立ち上がる。 今のはウォーミングアップに過ぎない。これからが本当の勝負だ。 「ジ――」 「ルルーシュ。お姫様のアフターケアは任せるよ」 『クイーン』の駒を小さく振りながらジンが楽しそうに笑った。 口元の苦笑を押し潰しながら、ルルーシュも小さく手を振る。 満足げにジンが駒を放り投げる。 綺麗な放物線を描いてゆっくりと白の『クイーン』はルルーシュの掌へと吸い込まれた。 □ 「さっきはありがとうございました」 「いえ、お礼を言われる程のことはありませんよ。スパイクさんに結局、最後は持って行かれてしまいましたし。 カレンには後で俺からキツく言っておきます」 ニアが厨房に向かいながら小さく礼をした。 かわいいピンク色のレースが付いた純白のエプロンが眩しい。 真剣な表情で冷蔵庫に入っていた食材と向かい合っている。 「いいえ大丈夫です! カレンさんの言っていた事も、言われてみればその通りですし。 おばさまも言っていました! 『少しは人を疑った方がいい』って!」 ニアが若干表情を鬱屈させながら、それでも元気よく応える。 その笑顔はルルーシュの眼には夏の高原に咲くヒマワリのように輝いて見えた。 そして同時に彼の中の魂が疼く。 なぜなら、今から自分はこの快活な少女を何とかして篭絡させなければならないのだから。 ルルーシュがニアの元を訪れたのは、勿論ジンの言う《アフターケア》の為などではない。 ニアとある程度の親交を結び、今後の展開をより円滑にするための工作活動である。 螺旋王の娘――それは他の参加者とは一線を画す重要なポジションである。 ロージェノムが放送の度に口にする《螺旋力》や、王の情報などニアにしか分からないことは数多くある筈だ。 彼女が知り得ていることは極僅かなのかもしれない。 少なくとも後々対螺旋王が現実味を帯びてきた時、必ず手駒の一人として欲しい人間ではある。 「しかし、まぁそれは、どうなんでしょうね。ニアさんは『今のままでいる』のが一番だと思いますよ」 「そうですか?」 「ええ。おそらく……その、『ドーラさん』も同じことを言ったと思います」 「ッ――! あ……」 ルルーシュの口から『ドーラ』という名前が飛び出した瞬間、ガチャン、と大きな音を立ててニアが手元の皿を落としてしまった。 直径5,6cm程度の小皿が台所の床に散らばる。割れなかったのが幸いである。 (……やはりか。ジンから話を聞いておいて正解だったな) ルルーシュは予想通りに進んでいく展開を受けて、心の中で確信と共に浮き立つ思いを押さえ込む。 この山荘にやって来る前にルルーシュはジンから、とある情報を得ていた。 つまり、ドーラというニアとゲーム開始時からずっと同行していた女性が死亡したことについて。 放送後彼女の死を知り、泣き崩れそうになったニアを必死で慰めようと努力したが、結局確固たる手応えは得られなかったとジンは言っていた。 あのジンが「出会ってから数十分しか経っていない女の子を励ますには自分は役者不足だった」と嘲笑交じりに語っていたくらいだ。 傷は相当に深いのだろう。 その後、怪我人のマタタビを治療するために山荘へ移動し、唯一戦えるジンが見回りへ。 二人の世話を不安ながらビクトリームに任せた、と。 (ニアはまだドーラの死を乗り越えていない。突き崩すならば、ここしか無いな) 「すまない、妙な事を言って。手伝うよ」 「……いえ。私が悪いんです」 ルルーシュはコレ幸いとニアに近付き、小皿を拾い始める。 ニアも手に持っていた包丁を傍らに置いて、しゃがみ込む。 特に会話もなく、黙々と皿を拾う二人。 ドラマや映画などでは手と手が触れ合って、恋が始まる――そんな陳腐なストーリーが持て囃される。 とはいえ、現実の世界ではそんな馬鹿げたロマンスなど起こる筈もない。 淡々と木目の床から白いピースが消えていく。それだけだ。 「――分かってはいるんです」 「え?」 追撃の言葉を捜していたルルーシュにとって、明らかに予想外の言葉がニアから漏れた。 (これはッ……!?) それは強固な意志の力。 渦巻くクローバーの緑が光となって溢れてくる幻覚が見えそうなくらいだ。 弱々しい少女の潤んだ瞳ではない。まっすぐと未来を見つめる力強い眼差しだった。 「もうドーラおばさまは帰ってこない。シモンも、ヨーコさんも……だから私が強くならなくちゃいけないって。 慣れたりはしません。大切な人と会えなくなるのは、凄く……悲しいことですから。 でも私を抱き締めて、慰めてくれる方はもういないんです。 ドーラおばさまもこの胸の中で一つになって生き続けるんです。大丈夫です。私は……頑張れます」 「そう…………だね」 それは、上っ面だけの薄っぺらい同意だった。 ルルーシュは完全にニアという少女を見誤っていた。 彼のニアに対する人物像は『元気なだけが取り得の世間知らずな純粋培養されたお姫様』であった。 周りの人間が誰しも聖人であると思い込み、人を疑うことをまるで知らない人形のような。 (違う……彼女は、お飾りの王女などではないッ! 明確な個を持ち、希望を実現させるための覚悟も持ち合わせている。 伊達に螺旋の王女ではないと言った所か……しかしこれでは……) ルルーシュは自身の計画に小さな綻びが生じた事実を認識する。 小娘の一人ぐらい、ギアスに頼らなくてもどうにでも出来る――そう思っていたのだ。 だが、それは明らかな過信だった。 彼女は容易く出会ったばかりの男に、心を委ねるほど軽い女ではない。そして無知でもない。 もしもC.C.がこの場面を目撃していたとしたら、確実に鼻で笑われていたことだろう。 「童貞の癖に女を嘗めすぎだ」などという辛酸な台詞と共に。 「ルルーシュさん? 座ったままどうしたんですか? 大丈夫ですか?」 「え、あ……すまない。少し、調子が悪くてさ……」 座り込んだまま衝撃を受けていたルルーシュを小皿の回収を終えたニアが不思議そうな顔で見つめる。 慌てて適当な言い訳を見繕うが、明らかに自分が気落ちしていることを悟った。 このままでは本当に調子が悪くなってしまうかもしれない。しかし、 「大変じゃないですか! お薬があれば良かったんですけど……すいません。あの、毒……ですか? そんなものしかないんです」 このニアの何気ない一言がルルーシュの転機となる。 「毒……だって!? ニア、君は毒なんて物騒なものを持っているのかい?」 「え? はい、私の支給品ですけど……」 「ゴメン。ちょっとだけそれ、見せて貰ってもいいかな」 「あ、はい。コレ……です」 ニアがポケットから小さな袋を取り出して、ルルーシュに渡した。 すぐさまルルーシュはその中身を確認する。 袋の中には赤と白の典型的なカプセルが三つ。ご丁寧に『毒入り。飲むと死にます』という注意書きまで付いている。 「ニアがコレを持っていること、皆は知っているのかい?」 「……いえ? 多分ルルーシュさんしか知らないと思います」 カチリ、と音を立てて最後のピースがその拠り所を見つけた。 歯車はついに回り出したのかもしれない。 あどけない表情でそう語るニアの綺羅星のように輝く特徴的な瞳。 何の穢れもない純粋無垢な存在。少なくとも、今まで見た人間の中でもこれだけ透き通った視線の持ち主は中々思いつかない。 (ああ、そうか……これが俺が選ぶべきやり方ってことか) ルルーシュはもう一度、手元のカプセルを見つめる。 あと一歩、自身が踏み出すことで束の間の平穏は崩れ去るのだ。 小さな軋轢は幾つもあるが、今までの状況と比べれば天と地ほどの隔たりがある。 しかし、最善の一手である。 奴の存在は明らかに今後の展開に支障を来たすことになるだろう。 数々の実験を重ね導き出した絶対的な"ルール"はもはや、役立たずと言ってしまっても過言ではない。 今の自分に必要なことは『持っている力』を最大利用するための道を探すこと。 サンプルが必要だ。 そして、過去の事象は切り替えていかなければならない。 そうだ。一歩を、最後の一歩を踏み出そう。もう一度「王の力」を手に入れるために。 「なぁ、ニア――俺の眼を見てくれるか?」 □ 夢、夢を見ていた。 拙者はグルグルと螺旋を描くマーブル色の海の中で躯を横たえていた。 拙者は寝ている。そして夢を見ている。 つまり、これは明晰夢という奴なのだろう。 ……いい機会だ。 ゆっくりと、自らの記憶のページを捲っていくこととする。 まずは分かり易い結論から行こう。 全ては、光の渦に飲み込まれてしまった。 奇妙な連帯感で結ばれた男と女は極光の奥に消えた。 二人は愛し合っていた。少なくともソレは間違いない。 妙な強迫観念が拙者達を衝き動かしていたことは明白な事実だ。 だが、二人の間には確かな絆があり、愛情があり、そして互いを気遣う想いがあった。 猫である自分には人間の恋愛というモノは良く分からない。 かといって獣の恋愛について語れと言われても言葉を濁してしまう。まぁそこは置いておくとしよう。 とりあえず、傍目から見ても男――クレア・スタンフィールドと女――八神はやて、この両名はお似合いだった。 ぼんやりと、ゆっくりと黒く染まっていく黄昏にも似た意識の中。それでも拙者は一つだけ、思っていたことがある。 それはこの二人を祝福してやりたい、という気持ちだ。 拙者だって、別に悲観主義者って訳でもないんだから幸せそうな人間を見るのは好きだった。 そんな時、拙者達の前に現れたのはエビルという男だった。 そう、拙者達にとって最悪の厄災を運んで来た――テッカマンエビルだ。 奴は強い。もう在り得ないくらい強い。「ふざけんじゃねぇぇぇぇえええええ!!」と絶叫したくなるくらい強い。 拙者は公明正大な猫だから、事実は事実として認めようと思う。 何が強いって、少なくとも拙者より若干上の実力を持っていたかもしれないクレアの数倍は強い。 や、あくまで奴が「テックセッター」とか訳の分からん日本語を叫び、変身を遂げた後の姿に限定した話ではあるけどな。 前回は遅れを取ったが、もう一度生身で戦えば拙者が圧勝することは目に見えている。 キッドじゃこうは行かない。多分、何度戦っても負けちまうだろうな。 ……ああ、キッドか。そういえば死んだんだっけな……実際の所、本当なのかね。 正直疑わしい話だ。ただ、なんとなく嫌な感じはする。 胸にぽっかりと空洞が出来ちまった……みたいな感覚さ。 何て言えばいいのかね、コイツは。とりあえず気持ち良くはねぇ。 ……チッ。何か、物足りねぇ。暴れ足りねぇ。 って、おい! 本当に死んじまったのかよ、キッド!? 拙者との決着を付ける前に逝くたぁ、どういうことだっ!? 傷が疼く。胸が痛い。腕が痛い。頭が痛い。 ああ、クソッ!! 拙者はこんな所でグズグズしている訳にはいかねぇってのに! ――――マタタビさん、起きてますか? っと……コレはあの時のお嬢ちゃんの声か? ふわふわした髪の毛の……確かニアって言ったか。 そろそろ、夢も終わりってことかねぇ。 眠ってばかりじゃ埒が明かねぇ。いい加減、起きるとするか。 あばよ、キッド。 夢から覚めた後、拙者はもう振り返らんぜ。 何しろクレアとはやての敵を討つためにテッカマンエビルをぶっ飛ばさないといけないんだからな。 奴は気に食わねぇ。絶対にボコボコにしてやる! 休んでなんていられねぇ。 拙者の知らない所で勝手に野垂れ死んだ貴様に、もう興味はないのさ。 まぁ、亡骸を見つけたら線香の一つも上げてやるけどな。 じゃあな、拙者のライバル。 「……眠っている、のでしょうか?」 「起き……てる」 そして、拙者は、覚醒した。 まどろみは、消えない。 ゆらゆらと峰深き瀬にたゆたんでいるような不思議な気分だ。 微妙な鈍痛となって拙者の脳髄に眠気が居座ったまま、大きな顔をしている。 「良かった! 実はいいものを持って来たんですよ!」 「いい……もの?」 そう言ってニアはポケットから小さなカプセルを取り出した。 赤と白。綺麗な色をしている。 ニアの笑顔が眩しい。 彼女の快活な笑顔を見ているとこちらまで力がみなぎってきそうだ。 「そ……れは?」 「私の支給品の『"薬"入りカプセル』です! ……でも、どうして今まで忘れていたんでしょうか?」 薬入りカプセル、か。妙な名前だ、そう思った。 だが意識は朦朧としており、未だ完全に現実の世界へと帰って来ていない。 元々拒む理由など存在しないが、当然拙者の身体はニアの成すがままだ。 「それじゃあ私が飲ませて差し上げますね!」 「た……の、む」 ニアのよく形の整った指先が拙者の口元へと近付いてくる。 ふと、拙者はニアの瞳を見つめた。 特に意味があった訳ではない。しかも寝ぼけていたせいで、視界はまばらだった。 …………? 妙、だな。 いや、拙者の思い違いだったのかもしれない。 だがこの少女はこんな…… ――血塗れた色の瞳をしていたのだろうか。 「マタタビさん、お口を開けて頂けますか?」 ハッと我に返る。少女が不思議そうな目をしてこちらを見ていた。 赤と白。 硝子のコップ。注がれた透明の液体。 そして―― 拙者は、 そのカプセルを、 言われるがままに嚥下した。 時系列順で読む Back ナイトメア・チルドレン(前編) Next ナイトメア・チルドレン(後編) 投下順で読む Back ナイトメア・チルドレン(前編) Next ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) ルルーシュ・ランペルージ 214 ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) カレン・シュタットフェルト 214 ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) スパイク・スピーゲル 214 ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) ジン 214 ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) ニア 214 ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) ビクトリーム 214 ナイトメア・チルドレン(後編) 214 ナイトメア・チルドレン(前編) マタタビ 214 ナイトメア・チルドレン(後編)
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/231.html
「それにしても、今日は天気が悪いね……ゴロちゃんの顔が、見えないよ……」 雲ひとつ見当たらない晴天から降り注ぐ陽光を窓越しに浴びながら口にされたその言葉に、返事ができなかった。 もう、この人は死ぬ。 まだまだ恩を返し切れていないのに、もっとしてあげたいことが沢山あるのに、自分の主は居なくなってしまうのだ。 いずれは訪れると覚悟していたはずなのに、いざその瞬間になると自らの無力を嫌でも実感してしまう。 そうやって立ち尽くしている間に、彼は自分の横を通り、最後の戦いにおもむこうとする。 勝敗を度外視した、ただ無念を残さないで逝くために宿敵と行うけじめの戦い。 やはり無理にでも止めるべきかと振り返ったと同時に、何かが床にぶつかる音。 次に自分の目が捉えたのは、前のめりに倒れ伏した主の姿だった。 ■ ■ ■ 「ゴロちゃん、そこを右ね」 「はい」 指示どおりに交差点を右に曲がる。 曲がり終えるとちらりと車の時計を確認。このまま行けば約束の時間の十五分前には着きそうだ。 大丈夫だろうが、何があるか分からないので油断はしない。 ある意味では、今回の送迎は今までのどんな大きな商談よりも気合いを入れねばならないだろう。 何しろ、今日は自分の主と思い人との初めてのランチデートなのだ。 何度も申し込んでようやく叶えられた念願の日。後部座席に座る彼の隣りには花束まで横たえられている。 これで自分が運転を誤って遅れでもしたら、それこそ主に会わせる顔がない。 万が一そうなっても彼は許してくれるだろうが、自分は退職も考慮に入れるぐらいの覚悟をしている。 そんな気負いすぎともいえる緊張を読み取ったのか、 「いやーそれにしても、ここのところの俺は本当に絶好調だね。正に向かうところ敵なしって感じかな」 「そうですね」 主の機嫌の良さげな軽口に、自分も思わず笑みを浮かべる。 言葉通り、最近の主の生活は順調そのものだった。 裁判では連戦連勝し、法曹界の寵児として連日マスコミを賑わせている。 当然だが有名になるのに比例して悪い噂も増え続けたが、彼は気にしなかった。 悔しかったら勝ってみればいいんだよ、と自身の悪評を乗せた雑誌を鼻で笑いながら自分に語っていたぐらいだ。 当たり前だがその雑誌はその日の内に廃品回収に出した。どうせなら破り捨てたかったが資源を無駄にしてはいけない。 ともかく、今日のデートも含めて、自分の主は公私ともに順風満帆だった。 もちろんそんな主に仕えている自分も幸せそのものである。 (ずっと、こんな日が続けばいいな……) そんなことを思っていると、前方の信号が赤に変わるのが目に入った。 慌てずにブレーキを踏み、車を停止させる。偶然にも車列の一番前だ。 間もなく歩道側の信号が青になり、歩行者が渡り始めた。 特にすることもないので目の前を通る人々を眺める。平日の昼間ではあっても、やはり中心街の人通りは多い。 ベビーカーを押す母親、携帯で話しながら足早に歩くサラリーマン、仲良さげな老夫婦、学校をサボったのか堂々と制服で闊歩する学生。 様々な人々を見るだけでも飽きないものだと思っていると、次の通行人を目の端で捉えた。 ヘビ柄のジャケットを来た、鋭い目をした男だ。 男は何故かこちらを凝視していたようで、自分が相手を見た途端にピタリと視線が重なった。 「----ッ!!」 突然、頭部に痛みが走りだす。 痛みは一度では治まらず、次いで何度も自分の頭の中で暴れ始める。 まるで万力で締め付けられているかのような激痛に、顔を思いっきりしかめた。 「ゴロちゃん!?」 それでも、主人の言葉に自分が今運転中であると思い出す。 再び前を向くと、すでに信号は青に変わっている。 自分はどうなってもいいが彼や他人を巻き込むわけにはいかない。 止むことがない激痛に視界を閉ざしそうになるのを堪えながら、何とか車を発進させて路肩まで移動させていく。 安全を確認して車を停車させると、握りしめていたハンドルから右手を離し、頭部に当てる。 相変わらず痛みは止むことなく、むしろ激しくなっているような気がした。 「ゴロちゃん、どうしたのよゴロちゃん!!」 「先、生……」 ああ、主が心配している。 仕事でも見せたことのない狼狽ぶりで、このままでは遅刻してしまうのに、自分の身を案じてくれている。 早く立ち直らなければならない。 順調な彼を遅刻などという下らない理由で煩わせるわけにはいかないのだ。 ようやく病気も治ったというのにーーーー (…………病気?) 刹那、疑問が頭痛を忘れさせた。 病気とはなんだろう。自分の主はずっと健康体だ。健康管理だって秘書である自分が完璧にこなしている。 そうだ、自分が仕え始めたときだってーーーーそういえば、なぜ自分は彼のもとで働こうと思ったのだろう。 忘れようのない記憶のはずなのに、まったく思い出せなかった。 ますます、疑問と違和感が膨れあがっていき、それはすぐに限界を迎えた。 (違う……これは違う) いつの間にか、頭を悩ませていた激痛は右手の焼けるような鈍痛に変わっていた。 そちらに目を向けると、赤い三画の文様が刻まれ始めている。 そして、消え去った頭痛の代わりに失われていた記憶が濁流のように脳裏を流れていった。 ライダーバトル、不治の病、倒れ伏す主。 思い出せねばならないことも思い出したくないことも一緒くたとなり、一瞬で蘇っていく。 「……先生」 「……なに?」 主を呼ぶと、先ほどまでの慌てようが嘘のように、落ち着いた声が返ってきた。 顔は見ない。今、元気な姿を見たら泣いてしまいそうだから。 それを疑問に思うこともなく、おもむろに運転席のドアを開ける。 「俺、行かないと」 「そう、気をつけてね」 職務放棄ともいえる言葉を咎めず、穏やかな声で答えてくれた。 現実ではもう聞けないその声に、思わず、決意が鈍る。ずっとこの平穏に浸っていたいと思ってしまう。 だが、この世界は仮初めのものだと言い聞かせ、自分の弱音を切り捨てた。 改めて、車外へと足を踏み出す。 「ゴロちゃん」 「はい」 自分を呼ぶ声に、反射的に振り返ってしまった。 主は、自分の主--北岡秀一は普段見せたことのない困ったような笑みを浮かべていた。 「あんまり、無茶しないでよ。するにしても自分のためにしてね」 「うっす」 答えると同時に、自分--由良吾郎は走り出す。 今度こそ振り返らないと心に決めて。 ズボンのポケットに手を当てると、先ほどまではなかったはずの固い感触。 大丈夫だ。不本意とはいえ主の遺してくれた力はここにいる。 今はとにかく足を動かそう。急げ、急げ。時間はもう残されていない。 ■ ■ ■ 吾郎がこの世界に来る前に覚えている最後の記憶は、ミラーワールドに落ちていた木片を拾うというものだった。 心残りを晴らせずに旅立った北岡に代わり仮面ライダーゾルダとなり、彼の宿敵と決着を付けに向かう途中で見つけた木片。 なぜ手に取ったのかは今もって分からないが、何とは無しにその木片に触れた途端、吾郎の意識は暗転していた。 次に気が付いたとき吾郎は戦いに関する記憶などを忘れて、いつもどおり北岡の朝食を作っていた。 彼が願い続けた健康体になった北岡の朝食を。 走り始めてから十数分後、吾郎は目的地に到着した。 さすがに息が荒くなるが構ってはいられない。すぐに眼前の建物を見据える。 目の前にあるのは、自分の仕事場でもある北岡法律事務所だ。 直感的に、自分のサーヴァントが召喚されるとしたら一番なじみ深いここだろうと思っていた。 ポケットから鍵を取り出そうとした瞬間、邸内から眩い閃光が迸り、吾郎の目を眩ます。 驚きはない。予選を突破した証として自分のサーヴァントが呼ばれたのだ。 しばらくして光が収まると吾郎は鍵を取り出し、ドアを開けた。 「少しばかり遅刻だな」 「すいません」 入った途端に聞こえた凛とした声に、反射的に頭を下げる。 約束した覚えはないが、呼ばれた場に誰も居ないというのは誰だって不満だろう。 「うむ、では改めて名乗ろう。サーヴァントセイバー、ここに参上した。問おう、貴方が私のマスターか?」 「そうです」 頭を上げて、相手を見る。 視界に入ってきたのは、北岡のデスクの前に凜然と佇む女性だった。 年の頃は二十代前半ぐらいか。 ポニーテールに結い上げられ黄色のリボンで結ばれている赤味がかった髪に、美人よりも凜々しいと形容されそうな顔つき。 赤紫色の衣服の上には白のジャケットが羽織られ、両前腕、腰元、つま先からくるぶしの上あたりまでは甲冑で覆われている。 右手には彼女がセイバーのサーヴァントであることの証明である、薄紫色の片刃の長剣が握られていた。 そして、何よりも強く印象づけられるのはその身から無意識で放たれる威圧感。 事務所の構造上玄関に立つこちらが見下ろす形になっているのに、まるで遙か高みから見下ろされているかにも感じられる。 武術の心得がある吾郎でさえ後退ってしまいそうな凄みのある雰囲気を、彼女は身に纏っていた。 これがサーヴァント。聖杯戦争を共に戦う人知を超えた英霊の姿。 「さすがにそうジロジロ見られるのはあまりいい気分ではないな」 「あっ、すいません」 再びの謝罪。 サーヴァントとはいえ、初対面の女性にする態度ではなかった。 秘書という仕事柄、どうしても相手を値踏みするように見てしまっていたようだ。 「まあいい。それで、ここに居るということは当たり前だが記憶は取り戻しているな?」 「はい」 「聖杯戦争についても?」 「大丈夫っす」 「そうか。では、名前を教えてもらえるか。基本的にはマスターとだけ呼ぶつもりだが、やはり名ぐらいは知っておきたい」 「由良吾郎っていいます」 「吾郎か。私はシグナム。クラスは先ほども言ったとおりセイバーだ」 「シグナムさん」 「真名を呼ぶのは控えろ。どこに敵の耳があるのか分からないぞ」 「すいません」 先ほどから自分は謝ってばかりだなと思いつつ、三度頭を下げる。 「いや、こちらこそ質問ばかりですまない。今度はそちらから何か聞きたいことがあったら聞いてくれ」 そう言われて彼女への質問を考えてみる。 聖杯戦争での方針、お互いの得意とする戦法と願いなど、質問事項はすぐにいくつも浮かんでくる。 しかし、そのどれよりもまずは聞いてみたいことがあった。 「あの、セイバーさん」 「なんだ」 「腹、減ってませんか」 「……何?」 完全に予想外の問い掛けだったのだろう。 今までとは打って変わった呆けた表情を、彼女は晒していた。 ■ ■ ■ 「どうぞ」 「餃子か」 「はい。うまいっすよ」 十数分後、テーブル越しに対面に座った二人の間に、大きめの丸皿が置かれる。 その上に乗っているのは香ばしい匂いを放つ数十個の焼き餃子。もちろん大皿の手前には酢醤油を入れた小皿も置いてある。 記憶を取り戻しても仮初めの生活を送った事実は変わらないようで、たまたま昨日作っておいたこの餃子もちゃんと冷蔵庫の中に残っていた。 本来は北岡の明日の昼食とするために用意していたものだが、この場で当人が食すことはないからと出したのだ。 「では、いただくとしよう」 「はい。どうぞ」 餃子を箸で取り口に運ぶシグナムの表情からは何も読み取れない。 サーヴァントだから食事は不要だというシグナムに対し、この方が話しやすいからと吾郎が説得したのだ。 別に嘘ではない。いつもどおりの家事をこなして落ち着いて考えを纏めたかったのは本心である。 彼女もそれほど強く拒むつもりはなかったのか、簡単に折れてくれたが、やはり機嫌を損ねてしまったのだろうか。 これからを考えると、サーヴァントの機嫌を悪くするのはよろしくない。 妙に緊迫した空気を感じながら、彼女が口にした餃子が呑みこまれるまで待った。 「……うまいな」 「でしょう」 表情は変わらなかったが、その一言だけで全身の緊張が解けた。 それ以上は何も言わず、再び彼女は餃子へと箸を伸ばす。 自分も倣うようにようやく餃子を取り、口へと運ぶ。 噛みしめて皮を破ると、餡から生み出された肉汁が口内に広がっていく。 やはり美味い。 この餃子のレシピはとある男から教えてもらったものだが、記憶を失っている間は自分で考えた物だと思っていた。 その事も思い出せてよかったと内心で感じている。 自分の主の競争相手ではあっても、あのお人好しな男の存在も簡単に忘れていいものではないのだから。 「セイバーさん」 「なんだ」 しばらく無言のまま数個の餃子を食したところで、吾郎はシグナムに話しかけた。 「セイバーさんは、聖杯に何を願うんですか?」 「私の願いか」 シグナムはしばし考えると、箸を置いてから口を開いた。 「ないな」 「え?」 「だからないんだ。少なくとも呼ばれる前は満ち足りていたと思っているし、心残りもない」 「だったら」 「安心しないでくれ。むしろ願いの無いサーヴァントの方が厄介だぞ」 「どうしてですか」 「考えてもみろ。どうしても叶えたい願いや目的があるならば多少は馬が合わないマスターでも仕えはするだろう。 だが、願いが無いサーヴァントが相性の悪いマスターと組むと思うか? もし令呪を使って従えたとしても、そのような状態で優勝などとても望めないだろうな」 シグナムの言葉に、吾郎は反論できない。 確かに、命令を聞かないどころか契約すらしてくれないサーヴァントなど論外である。 そのようなときのための令呪だろうが、ハンディキャップとして背負うには重すぎる。 「だから、マスター。貴方の願いを聞かせてほしい」 「俺の、願い」 「そうだ。その願いが私の意に適うものならばこの剣を貴方のために振るおう。 だが、もし協力できない類のものなら、私はこの剣を自分の喉に突きつけなければならない」 つまり、自害すると言っているのだ。 そうならば自動的に吾郎の死も確定する。結果は変わらないのに自分に剣を向けないのは、彼女なりの情けなのかもしれない。 「サーヴァントの分際で何を言っているのかと思うかもしれないが、これは私自身の騎士としての誇りの問題だ。 どうしても従わせたいのならさっきも言ったように令呪を使用してくれ。それで優勝できると思うのならな」 考えるまでもない。切り札である令呪をここで消費するなどありえない。 なので、彼女の鋭さを増した眼差しに吾郎を射竦められながら、頭を巡らせる。 果して自分の願いは彼女の力を得られるものなのかと思案していく。 だが、いくら考えても答えはひとつだった。 全てを伝える。この願いだけは僅かでもごまかしてはいけないのだと、吾郎は結論を出した。 シグナムの目を見返して、はっきりと自分の願いを口に出す。 「俺は……俺の願いは、先生を生き返らせることです」 「先生?」 「俺の雇い主で、尊敬している恩人です」 そうして、吾郎は語り始める。 北岡との出会い、自分が秘書になった経緯、北岡が冒された病と、それを治すために身を投じたライダーバトル。 自分が伝えられる限りのことを熱と思いの込められた口調で語っていく。 最後に、北岡が自分の目の前で息絶えたと伝えると、吾郎の話は終わった。 全てを聞き終えたシグナムは一度目を閉じると、 「食事を続けよう」 「え?」 「話の続きは食事の後だ。せっかくの料理を冷ますのも悪いからな」 そう言うと、再び餃子をつまみ出した。 まさかの答えに吾郎は何も言えなかった。 今すぐ問い質そうかとも考えたが、黙々と箸を動かすシグナムは本当に食事が終わるまで答えてくれそうにない。 仕方ないのでどこか釈然としないものを感じながらも、吾郎も箸を進めていく。 こんなときなのに餃子の味は変わらずに美味かった。 しばらくして皿の上から餃子が無くなり、ごちそうさまと言い終わった直後に、シグナムはその意志の強そうな瞳をもう一度こちらに向けてきた。 目は逸らせない。ここで逸らしたら負けだとジッと彼女と視線をぶつける。 「マスター。いや、吾郎」 急に変わった呼び名に驚きながら、彼女の言葉の続きを待つ。 「私からお前に言いたいことはいくらでもあるが、今は二つだけだ。 一つ目は、お前の主への思いの強さは分かった。 だから私はサーヴァントとしてもだが、同じ従者としてお前の願いを叶えるために全力を尽くす所存だ。 そして二つ目。ある意味ではこちらの方が重要かもしれない」 自分に協力してくれるという彼女の宣言に喜びを感じるが、それ以上に重要だという二つ目の発言に備えるために身を引き締める。 無茶振りやわがままは北岡からのもので慣れているので、大抵は叶えられるという自信もあった。 そして、たっぷり溜められてから放たれた彼女の言葉は、 「…………私は中華よりも和食の方が好みなんだが作れるか?」 「……は?」 予想だにしない発言に呆気に取られる。 その自分の表情を見て満足したのか、彼女は召喚されてから初めての笑みを浮かべた。 ニヤリと表せそうな笑みを見て、それが先ほどのお返しだと理解すると、今度はこちらが苦笑いを浮かべてしまった。 「うっす。とびきり美味いのを作ります」 「そうか。期待しよう」 返答と同時に差し出した手はしっかりと握り替えされた。 「分かっていると思うが、ここから先は茨の道だ。覚悟はできているな」 「そんなもん、ここに来るまでに済ませてます」 「ならいい」 ここに二人の従者の契約は成された。 互いの顔にあるのは微笑み。 これから先の戦場では決して浮かべられないだろう表情を、二人は今このときだけはと浮かべていた。 【クラス】 セイバー 【真名】 シグナム@魔法少女リリカルなのはシリーズ 【属性】 中立・中庸 【ステータス】 筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A 【クラススキル】 対魔力:C 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。 騎乗:C 乗り物を乗りこなす能力。 大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。ただし悪魔に類する魔獣ならば乗りこなせることもある。 ちなみに本人は普通自動車免許を取得している。 【保有スキル】 カリスマ:C 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。 単独行動:C マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。 生前において主の意志に反して独自に魔力の蒐集を行った逸話から付加されたスキル。 Cランクならばマスターを失っても一日程度は現界していられる。 守護騎士:B 他者を守る時、一時的に防御力を上昇させる。 直感:C 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。 また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。 仕切り直し:C 戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。 【宝具】 『レヴァンティン』 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:100人 剣・連結刃・弓の3形態に変形するアームドデバイス。性格は忠実にして陽気。 ただし今回はセイバーとして呼び出されたので弓形態であるボーゲンフォルムには変形できない。 武器としての機能が非常に優れている反面、魔法補助能力はほとんど持ち合わせていない。 圧縮魔力を込めたカートリッジをロードすることで、瞬時に爆発的な魔力を得る。カートリッジは少なくとも3発は装填可能。 通常時は待機フォルムとなるミニチュアの剣の形状を取り、シグナムは束の先から鎖を繋いで、首に掛けている。 『紫電一閃』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人 レヴァンティンのシュベルトフォルムから出されるシグナムの決め技。 レヴァンティンの刀身に魔力を乗せた斬撃で、威力もさることながら、強力なバリア破壊力を併せ持つ。 また、炎が追加効果として付与されているが、これはシグナムとレヴァンティンの持つ「魔力の炎熱変換」による効果。 漫画版では、召喚された赤龍を文字通りに真っ二つにしている。 【weapon】 『シュベルトフォルム』 レヴァンティンの基本となる形状。 片刃の長剣の形で、片手・両手どちらでも扱えるサイズとなっており、シグナムは通常戦闘の大半をこの形態で行う。 カートリッジロード時は刀身の付け根にあるダクトパーツをスライドさせ、ロードと同時に排莢を行っている。 この状態でカートリッジロードすることで、炎を纏うことができる。 『陣風』 シュベルトフォルムの刀身から衝撃波を打ち出す攻防一体の斬撃。 『シュランゲフォルム』 直訳すると「蛇(Schlange)形態」。レヴァンティンの中距離戦闘形態である。 いくつもの節に分かれた蛇腹剣の形態。 公式に曰く「鞭状連結刃(れんけつじん)」 伸びた刀身はシグナムの意志で操ることができる。 また、A sのOPで見せているように、相当な長さまで伸ばすことが可能。 中距離戦闘の他に、シュベルトフォルムにおける斬撃の死角を補ったり、立体的な攻撃が可能となり、戦闘の幅を大きく広げる。 ただし、この状態のときは、刀身のコントロールで手一杯になるのと、当然ながら刀身による受けが出来ないため、大幅に防御力が低下する。 変形時にカートリッジを1個消費する。 『シュランゲバイセン』 シュランゲフォルムから繰り出される攻撃の総称。 シュベルトフォルムでは不可能な範囲や、中距離への攻撃が可能。敵の移動、機動力も削ぐ事が出来る。 『鞘』 レヴァンティンが戦闘時以外に待機フォルムを取る事ができるため、本来の鞘としての使用はほとんど見られない。 必要に応じてシグナムが手元に取り寄せていると思われる。 レヴァンティンの刀身を鞘に収めることで、魔力を圧縮する圧縮機としての効果がある。 また、刀身と同様の強度があり、シグナムの魔力を通すことも出来る。 このため、防御魔法を纏わせて左手で盾のように攻撃を受け止め、弾くことも可能である。 シュランゲフォルムでの防御力低下という欠点をこれによって軽減することができる。 また、ボーゲンフォルムへの変形時にも使用するが今回は変形できないので関係ない。 『飛龍一閃』 鞘にレヴァンティンを収めた状態でカートリッジをロードし魔力を圧縮後、 シュランゲフォルムの鞭状連結刃に魔力を乗せ撃ち出すミドルレンジ対応の決め技。 本来は斬撃だが、砲撃に相当するだけのサイズと射程がある。魔力と連結刃の同時到達によって高い貫通力を持つ。 『騎士甲冑』 魔力で作られた防御服。デザインは八神はやてによるもの。 『パンツァーガイスト』 シグナムが使用する防御魔法。全身を纏うタイプの装身型バリアで、使用時はシグナムの魔力光で包まれる。 魔力攻撃に対する圧倒的な防御力を誇り、全開出力になれば砲撃クラスの攻撃も防ぐ事が可能となる。 ただし、全開出力維持の魔力消費が極めて大きい他、攻撃中は全身防御ができない事から高度な運用技術が必要となる。 【人物背景】 闇の書とその主の防衛プログラムである守護騎士ヴォルケンリッターの将たる『剣の騎士』。 闇の書の意志による二つ名は『烈火の将』。 騎士道精神を貫く武人で、愛剣のアームドデバイス『レヴァンティン(Laevatein)』を手に戦場を駆ける、凛々しいという言葉が似合う美女。 外見年齢は19歳で、ロングストレートの髪を普段はポニーテイルにくくっている。 元々は感情もなくただ命令を遂行するだけのプログラムだったが、『最後の夜天の主』八神はやてがマスターになってから人間扱いされ、 以後急速に人間らしさを見せるようになった。 ベルカ式らしく近接主体だがわりと手数で勝負するタイプ。 また、魔力を物理的な炎に変換する資質を持っており、このため「紫電一閃」をはじめ、彼女の技には炎を伴うものが多い。 【サーヴァントとしての願い】 特にない。 強いてあげるならばマスターの願いが意に適うものなら協力すること。 【基本戦術、方針、運用法】 基本的にシグナムが前線を担い、ゾルダに変身した吾郎が後方からの援護を担当する戦法になる。 ただし吾郎自身は仮面ライダーとしての戦闘経験は無く、重火器の扱いにも慣れていない。 更にシグナムも一般人である吾郎からの魔力供給は期待できない点がネックとなる。 【マスター】 由良吾郎@仮面ライダー龍騎 【参加方法】 ミラーワールドで偶然ゴルフェの木片を拾う 【マスターとしての願い】 北岡秀一の健康な状態での蘇生。 【weapon】 『ゾルダのデッキ』 仮面ライダーゾルダに変身できるカードデッキ。 契約モンスターであるマグナギガは呼び出せるが、この世界で自身も鏡の中に入れるかは未確認。 【能力・技能】 中国拳法に似た我流の格闘技を会得しており、その実力は屈強な男五、六人を一人で相手にできるほど高い。 更に料理はプロ級の腕前であり、他にも散髪や怪我をした北岡の代理として依頼人との商談を任されるなど、何でもそつなくこなす。 作中で判明した唯一の苦手として口笛を吹けなかったが、後に克服している。 【人物背景】 スーパー弁護士北岡秀一の秘書兼ボディーガード。 とある傷害事件に巻き込まれたところを北岡の弁護で救われるが、その直後に彼の不治の病が発覚。 自分の弁護を引き受けなければもっと早く病を発見できたのではとの罪悪感と恩返しの気持ちから、彼の秘書となる。 その後は北岡の右腕として仕え続け、彼の知り合いで唯一ライダーバトルの存在を明かされるほどに信頼される。 吾郎自身も恩返しの範囲を超えて北岡を慕っていき、その忠誠心は北岡の宿敵である浅倉威を一度は轢き殺そうとしたほどに強い。 長身、強面、無愛想と警戒しかされない外見をしているが、寡黙ではあるがその内面は誰にでも優しい好青年である。
https://w.atwiki.jp/yo980/pages/194.html
898 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/14(水) 20 24 27.35 ID OEsusq.0 「よぉ。兄ちゃん……幼女買わないか?」 仕事が終わり帰路についていた僕は、不意にそう声掛けられた。 人気の無い道で、開かれていた露店。売り物は幼女。 「コイツが、最後の一匹なんだが……欠損が有って誰も買いやしねぇ」 買うとも言っていないのにその露天商は、面倒臭げに立ち止まった僕に話す。 「他の幼女は、結構な値段……まぁ、幼女ショップで売ってるのよりは安い値段だが売れた」 だけど、コイツはうれねぇ。と、露天商の男は視線だけを幼女が入っているダンボールの箱にやり言う。 「で、だ。兄ちゃん。この幼女買わねぇか? 今日一日中やってて売れ残った幼女だ。 値段も、兄ちゃんの懐を痛めない980円税込みだ。なぁに元ではタダなんだ……っと、コレは聞かなかった事にしてくれ」 で、どうする? 兄ちゃん。と、男はやる気のない声でそう尋ねる。 幼女に興味が無いと言えば嘘になる。僕が生まれた時から幼女と言う存在は居た。 まだ小学生の頃、隣の家に幼女が居た。その幼女は、今も隣の家に居るのだろうか? 向かいのおばあさんの家にも居た。おじいさんと二人でその幼女は、孫の様に扱われていた。 あのおばあさんとおじいさんは、もう亡くなっている。孫の様に扱われていた幼女はどうしたのだろうか? 閑話休題。 気がつけば自分は、財布の中から千円札を取り出し露天商の男に手渡していた。 「おい。欠損。お前のご主人様が決まったぞ」 と、露天商の男はダンボールから幼女をやや乱暴に抱き上げてそう声を掛けた。 欠損。それは、左目が暗い空洞なのとそれに合せたかのように顔の左側全部が、焼け爛れた様な痕。 その欠損を持つ幼女は、ジッと僕を見る。 残った右目は、冷たい藍色。それに反して髪の色は燃える様な紅蓮。 「じゃぁな。兄ちゃん。まぁもう会う事はねぇとおもうが」 強引に僕にその幼女を渡すと露天商の男は、ダンボールの箱を踏み潰しその場を去っていった。 後に残されたのは、僕と幼女。とりあえず、僕はその幼女の手をとって改めて帰路に着いたのだった。 899 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/14(水) 20 24 52.85 ID OEsusq.0 自宅にたどり着き僕がした事といえば、素っ裸の幼女に服を着せる事だった。 幼女は、全裸がデフォルトとして取り扱われているが……正直目のやり場に困るからだ。 とりあえず、幼女用の衣服なんてある訳も無いので、幼女には大きすぎるが己のワイシャツを着せて安堵。 「君の名前は、なんなのかな?」 名前。そう名前。名前が無ければどう呼べばいいかわからない。 大抵の人は、幼女の後につく№で呼んでいる事は知っているが……… まぁ、これから一緒に過ごすのだから№とは別の呼称ぐらい有ってもいいんじゃない? と、言う考えだ。 別に、№で幼女を呼んでいる人を否定する訳では無い。 「……№ハ無イ……終ワッタ私達ハ、№ガ無クナル。元々ノ№ハ有ッタガ、忘レタ」 つまり、名前の無い名無しという訳か。と、顎に手を添えて唸る。 「じゃぁ、僕が勝手に君の名前を決めてもいいかい?」 「……元々、ソウ言ウ呼称ハ、御主人タル。貴方ガ、決メル事」 まぁ、そうなんだけどさ……何か、希望みたいなの有るんじゃないかと思って聞いたのだけど…… と、口には出さず。その代わり溜め息を一つ着いた。 「フランベルジュ。ミス・フランベルジュ。それが、君の名前でいいかい?」 燃える様な紅蓮の髪を見た後で、その幼女――ミス・フランベルジュ――の目を見て言う。 脳裏に、何その中二病。と、良くわからない声が聞こえた気がしたが無視した。 「了解………」 「………」 「………」 短い言葉の後は、無言と言う名の静寂。空気が何処か重く感じられた。 924 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/16(金) 23 03 56.74 ID OKwMxtQ0 899 続き ミス・フランを飼うに当って色々と問題が出てきた。 まず、僕自身、幼女と言う存在の飼い方を知らない。 幼女・幼男用の食べ物自体が無い。 そして、時間的に、何処のペットショップももう閉店していると言う事。 幼男を飼っている幼馴染で腐れ縁の女に連絡を取ろうにも、電話番号とメールアドレスを紛失。 紛失した原因は、携帯電話を一度川に落とし新しいのに変えてから一切連絡を取ってなかったから。 自業自得とは、まさにこう言う事を言うんだろう。と、項垂れる僕。 が、渡りに船と言うのはこう言う事を言うのだろう。 その女が、夜中に僕の家に訪ねてきた。ご丁寧に、顔を見せた瞬間軽くボディに女の拳がめり込む。 情けない声を出して倒れる僕。そんな僕を見て笑う女。 相変わらず無表情で喋りもしないミス・フラン。女の後ろには、執事服なんて着た幼男のシゼル君。 倒れる僕を尻目に、女はズカズカと遠慮の欠片も無いと言う感じに、家の中にズンズン入ってゆく。 いつの間にか、女の両脇にはシゼル君とミス・フランが抱きかかえられていて…… 玄関に残されたのは、僕一人という訳だ。 しばらく、玄関で倒れたままジッとしていると、リビングから女の大声が耳に入る。 「男ぉ!! さっさと来ないと、ご近所にある事無い事を大声で話すぞ!!」 それは、困る。と、僕は何とか立ち上がりリビングに向かう。 正直、女の拳は、非常にダメージが高い。その細い体の何処からそんな力が出てくるのか……と、 幼少の頃から疑問に思っていた事を思い出す。が、解決には至らないので直ぐに考えるのを止めた。 925 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/16(金) 23 04 33.59 ID OKwMxtQ0 「さて、四ヶ月も連絡なかった事に関しては、大体察知が着くから置いておくとして…… とうとう、幼女を飼う事にしたのか? 男」 リビングに入るや否や、既に椅子に座り、テーブルには店屋物の惣菜やら丼モノやらが広げられていた。 それを広げたであろう女の膝の上には、シゼル君が座らせられていた。 そんな様子のテーブルの上を見つつ、女と対面する形で椅子に座り――ミス・フランの左隣で――溜め息を一つ着いた後で答える。 「成り行き……って感じだよ」 「ふーん……まぁ、良いが。それにしても、色のねぇ幼女なんて珍しいな」 「色?」 「感情だよ。感情。人間に近い存在の幼女・幼男ってのは感情ってのがある。まぁ、詳しい理論はしらねぇけどな」 シゼル。其処のネギトロ取ってくれ。と、シゼル君の頭をなでながらにそう言う女。 「欠損も抱えてて、色もねぇ。幼女・幼男の用途を考えるとありえねぇな」 「用途って……嫌な言い方しないでよ」 「悪かったな。私は、こんな物言いしか出来ねぇの知ってんだろ?」 「まぁ、わかってるけど。ソレより、僕は幼女の育て方とか知らないんだ。教えて欲しい」 「簡単に言うと、人間とそうかわらねぇ。食べるモンも一応専用のフードがあるが……週一で食べさせりゃ良い」 週一で専用のフードを食べさせる理由は、フードに入っている幼女・幼男だけが感染する病気やらの予防剤等が入っているからで、 ちょうど、その効力が一週間だからだ。と、女はネギトロを食べながらに話してくれる。 926 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/16(金) 23 05 08.52 ID OKwMxtQ0 「あと、あまり馬鹿な扱いをしていると……壊れるか、壊されるだ」 まぁ、大抵が壊れるんだけどな。と、女は苦笑しながらに言う。一瞬だか、寂しげな表情が女の顔に浮かんだ気がした。 「とりあえずだ。私の話は後でじっくり聞かせてやる。お前の幼女にメシ食わせてやれ」 元々、お前の家で飲み会しようと思って買ってきたモンだから、遠慮はいらねぇ。と、シゼル君の口にタラコスパゲティーを やや強引に入れ、頭をガシガシとなでながらに言う女。 今の今まで、忘れてたと言えば凄まじく薄情なのだが……実際、忘れていたのだからしょうがない。と、僕はミス・フランを見る。 ミス・フランは、ジッとテーブルを眺めているだけ、テーブルの上の食べ物に手を伸ばそうとしない。 「ミス・フラン。どれか食べたい物はあるかい?」 「…………」 「ミス・フラン?」 相変わらず、無表情で返事も無い。名前を尋ねた時から早数時間過ぎているが、それ以外に声を聞いた記憶が無い。 「男。ソイツは、色がねぇんだ。下手したら情報もねぇ状態だ。どれが食べたい? なんて、聞かれてわかるか?」 一切の記憶と感情を失ったヤツに、物事を選ばせるなんて無理な話だろうが。と、女はそう言っている様だ。 とりあえず、僕はオニギリを手に取り、ミス・フランに直に手渡す。 受け取ったオニギリを、ジッと見た後何処か困った様に僕を見る。 927 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/16(金) 23 05 30.11 ID OKwMxtQ0 「…………」 「……えっと。食べていいんだよ?」 「……………把握シタ」 僕の言葉に、暫くの間が空いた後で、そう答えた。 しかし、一向に動く気配の無くジッと、テーブルの向こう。女とシゼル君を見ている。 それに釣られて、僕の視線も女とシゼル君の方に向かう。 其処には、女が居た。いや、それは当たり前なのだが……既に酔っ払って出来上がった女が居た。 そして思い出す。女は酔っ払いやすい体質だったと……早速酔っ払った女にシゼル君が餌食になっている。 「………食ベラレテル」 「違う。意味が違うからね? ミス・フラン」 僕は、ミス・フランの呟きを刹那の速さで否定するのだった。 936 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/18(日) 05 15 07.60 ID iKLLkzg0 927 ミス・フランとの生活は、今までの生活をするのとなんら変わりはなかった。 手のかかる妹を得たみたいな錯覚を覚えたりもする。 何せ、ミス・フランは自分から何かをすると言う事が出来ないでいるのだから。 感情が無いと言う事は、物事に興味を覚える事が無いと言う事。 つまり、アレは何で、どうやって使うのか? たったそれだけの簡単な物事を覚えていない。 フォークを渡しても、フォークをどうやって使うのかを教えなければ使えない。 手のかかる妹と言うよりも、物静かな赤ん坊を育てていると言う方が正確なのかもしれない。 そして、ミス・フランと生活する様になってからなのか、女が良く遊びに来る。 正確には、酒盛りしに来る。無論、シゼル君も連れてだ。 シゼル君といえば、幼男なのだが、幼女であるミス・フランに対して生殖行為を行おうとしない。 とある時、そんな事が気になって尋ねてみると…… 「祥子さんに拾われた時、頭部に怪我を負っていました。多分その為だと思います」 つまり、頭部に怪我を負ったことにより、生殖行為をする意欲というか性欲がなくなってしまったと言う事だ。 閑話休題。 もう一つ。ミス・フランと生活して数十日経過した頃から、ジッと見られる様な視線を感じる様になった。 気になって周囲を見渡すのだが、その視線の主は何処にも居ない。最初は、気のせいか? と思っていたのだが どうやら、気のせいではなさそうなのだ……四六時中感じる視線。 ミス・フランと外に出た時なんぞ、敵意と好奇心と……どす黒い視線を感じるのだから。 その事を、遊びに来た女に話すと、女は珍しく酒を飲まずに何かを考える様に腕を組んで眉を顰める。 そして、ミス・フランを見た後で「わからん」と、溜め息を着いた。 ミス・フランは、保健所で処理を待つばかりの幼女の中から偶然出れたはずで、 その無料の幼女を、何処の誰だか知らないおっさんが、九百八十円税込みと言う安値で売っていた訳だ。 そんな視線を感じる要因になるとは、思えん。と言うのが女の見解だ。 937 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/18(日) 05 15 32.02 ID iKLLkzg0 しかし、ソレが『嘘』ならば話は違ってくるがな。と、女はシゼル君を抱きしめながらに言う。 はっきり言って、ミス・フランの過去は不明だ。あの時、ミス・フランを売っていた男性ならば知っている。かもしれない。 結局は、ワカラナイ。それが正解。 案外、過去には問題がなく。今になって何かが動いているのか? なんて思ったりもしたが…… そんな事考えても結局は、判らないので溜め息をつくだけで終わったのだった。 そして、とある日。夏になりかけの季節に、僕はその男と出会い…… 蝉の声が、まだ小さく暑さもそんなに辛くは無い時期。 僕は、休日を利用してミス・フランと共に近くの公園まで散歩に行った。 もっぱら、僕が喋りミス・フランは何時もの様に無表情で無言。 歩いて数十分もせずに公園に着く。公園内と言えば、賑やかに遊ぶ子ども達と幼女・幼男達。 僕は、ベンチに座りミス・フランも同じ様にベンチに座った。 ミス・フランが、自発的に遊ぶと言う事柄を行う事は無い。 時折、誰かに飼われている幼女に「遊ばないの?」と、声を掛けられたりはするが…… 「ミス・フランはね。ちょっと遊べないんだ。ごめんね」 と、何時も僕がその幼女に断りを入れる。話しかけてくる幼女だけならまだいいが…… 躾の悪い幼女や幼男になると、ミス・フランの顔を見て「気持悪い」だのと言ってくる。 言ってくるだけなので実害は、ほとんど無い。 でも、今回は違った。何時ものソレを崩す存在が現れた。 「君。その幼女の飼い主か?」 肌は色白で、メガネをかけていて何処か、怪しげな雰囲気を持つ男が、僕に声をかけてきた。 僕が、返事をする事もなく……その男は、ミス・フランをジロジロ見る。 938 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/18(日) 05 16 00.28 ID iKLLkzg0 「君。その幼女を私に譲ってくれないか?」 行き成りの言葉に、僕ははい? と、間の抜けた声を漏らしてしまう。 見ず知らずの人物に、行き成りな提案を受けたら誰だってそうなってしまうはずだ。 それに内容が「ミス・フランを譲ってくれ」と来たものだ。 「無論、ただとは言わない。一千万だそう。いや、それ以上だしてもいい」 男は、ニヤリと笑みを浮かべ……僕を見下す様に言う。 そして、気付く。ミス・フランを見る目が……『オモチャを見つけた子どもの目』だと言う事に…… 小さい頃にいじめと言う事柄を経験した事がある僕は、久しく思い出したその気持の悪い目に、鳥肌が立った。 「お断りします」 それは、当たり前の答え。 「何故だ? その幼女は欠損品だ。破格の値だと思うんだが?」 男の言葉に、僕は何も答えずに男を睨む事で答える。 僕の目線に、男は小さな嘲笑を浮かべた後で、気持の悪い笑みを浮かべた。 「君の言い値を払う。どうだ? そんな欠損品よりも遥かに上等な■■が購入できる」 この男は、なんと言った? 今、はっきりと。はっきりとなんといった? 鳥肌じゃない。ゾワリと粟立つ感覚。 「……ミス・フランをどうするつもりです?」 冷静に、そして怒りは静かに……そう、自分に言い聞かせながら男に問う。 939 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/18(日) 05 16 43.60 ID iKLLkzg0 「そんな事を聞いてどうする?」 「……もしかしたら、譲渡するかもしれない。って事ですよ。飼い主として気になるじゃないですか」 正確には違う。譲渡する気持は一切無い。この男の視線が、何時も感じるあの視線と一緒だから。 そう、ミス・フランをつれて出かけた時に感じるどす黒い視線と一緒なのだ。 「君とその幼女がこの公園に来る事は、前々から観測していた。つまり、その幼女の髪の毛やらのデータが落ちて居やすい。 ふとした興味から、その幼女のデータを解析したところ……不可思議な事がわかってね……」 「……ここ数日間から感じていた不愉快な視線は、アンタか」 「まぁ、いいじゃないか。その迷惑料とその幼女の代金を君の言い値で支払おうじゃないか? 一千万? 一億? 十億?」 ブチブチブチと、頭の中で何かが切れる音がする。 僕は、無言で立ち上がり……ミス・フランを抱きかかえ、改めて男を見る。 「ミス・フランをクソッタレなアンタに触れさせる事も渡す事も絶対にしない。 僕らを観察していた事に関しては、今回だけ不問にする……もう二度とくんな」 その男を尻目にさっさと、僕とミス・フランは自宅に戻る事にした。 帰路の最中、僕は非常に苛立ちを隠せなかった。 たった数十日しか共に過ごしていなくとも、ミス・フランはもう既に家族だ。 家族をあんな目で見られて■■とまで言われ、何に使うかははっきりとではないが把握できた。 抱きかかえていたミス・フランを見る。ミス・フランは相変わらず無表情だ。 何故か、その無表情に救われた気がし……ミス・フランが後ろを見て不意に目を見開いた。 鈍い衝撃。傾く体。鈍い音と共に倒れた僕。酷い鈍痛が……… 「馬鹿だな。さっさと渡せばよかったんだよ」 そんな声が聞こえた後で、僕の意識は暗転した。 暗転直前にミス・フランの声が聞こえた気がし……タ。 940 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/18(日) 05 17 23.75 ID iKLLkzg0 「……害意アル者ト認メル」 倒れた御主人。頭部に怪我を負う御主人。軽い出血を確認。 先ほどの害意アル者は、笑っている。御主人を殴った鈍器を持ち笑っている。 害意アル者は、消去する。消去。消去する。消去せねばならない。 「そうだ。こっちに来い。お前の不可思議なデータを調べ」 『害意アル者ハ、消去スル。消去。消去スル。消去消去消去』 「なっ!?」 ミス・フランは、男に近づくと容赦なく鳩尾目掛けてその小さな手で作られた拳を撃つ。 小さな幼女。非力なはずである幼女からは考えられない威力の衝撃は、男の鳩尾を的確に撃った。 強烈な痛みと、収縮する横隔膜の為に肺から強制的に吐き出される酸素。 痛みの患部を庇う様に無意識的に上半身を下ろし前かがみになる男。 『消去』 前かがみになった事で、位置の低くなった男の顔にミス・フランの拳がめり込む。 嫌な音と共に男はのけぞった。鼻の骨が折れたのだろう。ミス・フランの拳に少々の血が付着していた。 細い足で男の右脹脛目掛けて蹴る。ゴキリと鈍く湿った音が響く。 声にならない苦痛にまみれた悲鳴が、男の口から盛大にこぼれる。 足の骨が折れた事で、立つという事柄が出来なくなった男の体を容赦なく踏みつける。 何処かの骨が折れる音がする。踏みつけた足をおもむろにあげ……再び、踏みつける。 男の口から、声にならない悲鳴と血が吐かれる。折れた骨が内臓系列に刺さったのかどうかは不明だが、 少なくとも消化器系か呼吸器系に傷が入ったのは確かだ。 『消去。消去消去ショウキョショウyコアショウyソエラウエ』 段々と、ミス・フランの口から漏れる言葉が、言葉にならずに居る。 単語として口からもれる文字。無常にも続けられる『害意アル者』への消去と言う行為。 その行為が、終わったのは……男の四肢の骨が全部砕けて口と鼻があった場所から血が垂れ流れ。 男としての行為をするための場所が潰された後だった。 941 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/18(日) 05 17 44.90 ID iKLLkzg0 ミス・フランは、御主人に歩み寄りその様子を見る。 傷は、浅かったのか頭部から流れていた血は既に止まり髪に幾ばくかの血が、固まってこびりついていた。 その御主人をその小さな体で抱き上げ歩き始める。向かう場所は、何時もの家。 御主人とミス・フランの家。 「………御主人ノ容態ヲ」 きっと、あの女性と同属のタイプ2が居るはず。そう思ったかは不明だが、ミス・フランは黙々と歩いてゆく。 血の涙を流すような夕日が、ミス・フランと御主人を照らしていた。 説明:タイプ1=幼女。タイプ2=幼男。 951 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/20(火) 20 41 13.69 ID V0ItHBs0 本作品とは、まったく関係ありませんなSS 視点 男 ミス・フランとシゼル君を二人っきりにしたらどうなるのか? と、僕が女に提案したところ、どうにもならんだろ。と、そっけなく返された。 でも、やってみようよ。と、ちょっと押して言うと女は、うんざりした顔しながらも承知してくれた。 「と、いう訳で、シゼル君。ミス・フランの面倒をお願いね?」 「はぁ……祥子さんにも頼まれたので、了解しました」 「ミス・フランも今日は、シゼル君と一緒に居てね?」 「………了解」 僕は、女を連れて半日ぐらいのお出かけ……デートではない……に、出かけるのだった。 952 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/20(火) 20 42 07.64 ID V0ItHBs0 視点 シゼル 唐突に、祥子さんに「男の所の赤いヤツの面倒を見ろ」と、言われた時はちょっと頭が真白になった。 ポカンとしている僕を見て、祥子さんは珍しく狼狽する。 「ただ、赤いのの面倒を見てくれれば良い。半日だ。時間きっかりに向かえに行くからな?」 あわあわと、祥子さんは身振り手振りあわあわ。 そんな祥子さんを見て、僕は多分笑ってしまった。 とりあえず、僕は頷いて答えるのだった。 それにしても、フランの面倒を見るって言っても……フランの面倒を見る時なんてあるのかな? 無表情であまり言葉も喋らないし……活発な行動をする訳でもな…… 「フラン……僕をジーッと見てどうしたの?」 「………タイプ2・名称シゼル。私ハ何ヲスレバ良イ?」 「………僕もわからないよ。何時も通りでいいと思うけど……?」 「把握シタ」 それだけ言うとフランは、僕の傍から離れてゆく。 そして、徐に冷蔵庫に近づくと……思いっきり冷蔵庫のドアを開ける。 凄まじい音にドアとぶつかった壁から白い煙が見えた気がする。気がするのであって実際は煙なんて上がってない。 上がってないんだ。 「フ、フラン?」 「………御主人ノ何時モヲ、トレース。スル」 そう言いながら、フランは冷蔵庫の一番上の棚にあるスモークチーズに手を伸ばし取ろうとして…… 953 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/20(火) 20 43 26.88 ID V0ItHBs0 「届カナイ。トレース。出来ナイ」 「………男さんは、スモークチーズを食べるの? 何時も」 「………………次ヲトレーススル」 凄い間の後、フランは顔を不意に背けまた歩き出す。 ……実は、ただ食べてみたかっただけなんじゃ? でも、祥子さん曰くフランは色がないから、そう言う思考はないはず。 「………包丁デ、斬ル」 「待って! 待って!! 駄目! 危ないから!!」 「…………御主人ハ、包丁デ植物ト肉ヲ斬ッテイタ」 「でも駄目!」 チッ。と、舌打ちが聞こえた。フラン!? 君ってそんな幼女でしたか?! 無表情で無感情で無言で、腹黒とかそう言う系では絶対無いはずでしょ!? フランの面倒を見てね。と、男さんに頼まれてからまだ十分しか経過していない。 祥子さん。半日といわず今すぐ戻ってきてください。僕を一人にしないで…… 半日経過 視点 男 「ただいま~。ミス・フラン~。シゼル君~お土産を…………ヌァンデスカ!? ゴレ?!」 「………凄まじいの一言だな」 僕の言葉に、女がそう相槌を打つ。 その変な言葉を発生する原因は、玄関を開けて直ぐに見えた光景。 まるで、泥棒が侵入したかの様な置物やら壁飾りやらが壁に突き刺さってたり床にめり込んでたり……天井をぶち抜いてるのもあった。 954 名前: SS@黒百合 投稿日: 2008/05/20(火) 20 44 09.28 ID V0ItHBs0 「もう、やめて! フラン! もうらめぇ! この家の耐久度数は零近いよぉ!?」 「………トレース。掃除。ソウ。掃除」 「掃除じゃない! 掃除じゃないよ!?」 シゼル君の悲鳴と淡々としたミス・フランの声。その聞こえた断片だけで何が起こったのかが非常に把握できた。 「………まだ、この家……ローンあるんだよ?」 「私に言われてもな。おーい。シゼルー!」 はっはっは。自業自得とはよく言ったもんだな! と、笑う女は、シゼル君の名前を大声で呼ぶ。 その大声の数秒後で、シゼル君が走ってやってきて…… 「祥子さぁ~ん!」 「ははは。ご苦労様」 目じりに涙を浮かべるシゼル君を抱きしめながら、いい笑顔を浮かべる女。 「僕は、駄目でした! 祥子さん! 僕は!」 「わかった。わかったわかった。帰ったらゆっくりたっぷりねっぷり慰めてヤルからな」 女とシゼル君は、アニメのようなフェードアウトで我が家から出てゆく。 いつの間にか僕の目の前にいるミス・フラン。 「………掃除」 「違うからね?」 「……………チッ」 「フラァァッァアン!?」
https://w.atwiki.jp/p-broken-in/pages/66.html
昼下がりの森にモモンの実を咥えて走っている雌のヒノアラシがいる。 おやつを確保できたのが嬉しいのか上機嫌のようだ。 しかし地面に僅かに顔を見せる木の根に気付かなかったらしく足を引っかけヘッドスライディングするかのように転んでしまう。 「いたた……あれっモモンの実は?」 ヒノアラシは怪我はしていないようだが多少涙目になっていた。 立ち上がり土埃を払うと転んだ拍子に離してしまったモモンの実を探している。 「もういっかい採りに行かないと行けないのかな… 一番食べ頃のを持ってきたのになぁ」 周囲を見回すがモモンの実は見あたらない。 落胆しつつまた採りに戻ろうと今まで走ってきた道を戻ろうとする。 「おい」 「ふぇ?」 戻ろうと振り返った所で突然声をかけられ驚いて声のした方を向くとそこには雄のカイリューが立っていた。 そのカイリューの足にはモモンの実が張り付いており実と果汁でべっとりと汚れていた。 「え…っと…」 「これ、おまえがぶつけたのか?あ?」 「いや…えと…ころんで…それで…」 いきなり現れたカイリューに驚いていると張り付いたモモンの実を示しながら凄んで聞いてくる。 ヒノアラシはカイリューを怖がりながらもわざとじゃないと主張している。 「で?」 「その…ごめんなさい…」 「ごめんで済むことか?ん?」 「えと……」 カイリューは難癖を付けるかのようにヒノアラシを責める。 その勢いとプレッシャーにヒノアラシは縮こまっている。 「こっちはさぁ、食い物が見つからなくてイライラしながら休んでたわけよ」 「わっきゃっっ」 「そこに食い物ぶつけられるとか腹立つんだけど」 カイリューはヒノアラシを片手でつかみ上げ睨み付けている。 ヒノアラシは多少なりとも暴れて抵抗するが力の差は歴然としており意味をなしていない。 「も…モモンの実の木がある場所教えるから…許してください…」 「おまえより小さい木の実程度で腹が膨れるとでも思ってんのか? 木の実食うより肉の方が……」 「…あ…あの……」 ヒノアラシは自身を見るカイリューの顔が怪しく笑うのを見て冷や汗を流し始める。 「丁度今食料になるもんつかんでるじゃねぇか俺」 「森のあっちの方にモモンの木があるから…っ」 「…運ぶ途中に暴れられたり噛み付かれたりしても面倒だしな… 今の内に絞めとくか」 ヒノアラシは木の実の木の場所を伝えて逃げだそうともがくが状況は改善しない。 それどころかこの場で命を終えてしまいそうになってしまった。 カイリューは空いている方の手でヒノアラシの首をつかみ直し力を加え始めた。 「な…なんd…も…するか…ぁ……たべ…な…いでぇ……っ」 「ほぉ…なんでもか?」 「う…ん……なんで…も…すr……」 意識がすぐにでも消えそうな中なんとか声を振り絞って命乞いをする。 カイリューはしばし考えていたが手に込めていた力を抜きニヤリと寒気のする笑みをヒノアラシに向けた。 「そんなにいうなら食べないでおいてやろう」 カイリューはそう言うとヒノアラシをつかんだまま飛び上がり、みるみるうちに地上が遠のいていく。 ヒノアラシは初めての飛行に怖くて声が出ないようだ。 「今日からおまえは俺のオモチャだ」 カイリューは飛びながらヒノアラシに宣言している。 「おまえを食べない代わりにおまえを使って暇を潰す。おまえは2度と自分の巣に帰れないし帰さない。 壊れたオモチャはつまらないから出来るだけ壊れるような扱いはしないが、逃げだそうとしたら確実に壊して食べる」 しばらく飛ぶと飛行速度を緩め断崖絶壁の半ばほどにある洞窟に入っていく。 内部は広くいくらかの脇道や壁を削って作られたらしい棚らしきものがいくつかある。 一部の棚には小さな生肉の塊や大小様々ななにかの骨、ボロボロのリュックサックのような物が置いてある。 「まぁ逃げるには飛び降りるしかないけどな」 「ぁうっ」 「あとでまた出ないといけないとか面倒だな…」 カイリューはヒノアラシを地面に放り投げ棚に置いてある生肉を数口で食べきり不満そうに呟いている。 放り投げられたヒノアラシは起き上がり洞窟の外を覗く。 「っ……」 そこは崖の半ば、地上から150~200mあたりに出来ていた洞窟で地面が非常に遠く見えた。 ヒノアラシはすぐに外を覗くことを止めるがあまりの高さに足がすくんでいた。 「さて……おい、こっちこい」 「っ…」 「返事は」 「……はい…」 脇道の方へ進むカイリューに呼ばれ恐る恐るながらもついていく。 その道の先はカイリューの寝床らしく藁や草が敷き詰められていた。 「まずは俺のをやってもらおうか」 「っ…えっ…と…?」 「あん?なんだ、おまえ雄の見るの初めてか?」 寝床の上に座ったカイリューの股の間にヒノアラシは座らされる。 ヒノアラシの眼前にはスリットから出された逸物があり、その雄の臭いに顔をしかめる。 それ以外にはこれといって反応がなくカイリューは雄を知らないのだろうと判断したようだ。 「あ…はい…」 「ふーん…じゃぁ全部初めてか…まぁそれは後でいいや。 まずはこれに触って……マッサージでもしてくれ」 ヒノアラシの胴体より、ひょっとしたらヒノアラシより大きく長い逸物を見せながらカイリューは指示を出す。 「これを…?」 「口答えせずにさっさとやれ」 「はっ…はい」 カイリューに睨まれながらヒノアラシは自身の前足が届く範囲で逸物に触り揉んでいる。 その手つきはたどたどしくカイリューにとっては物足りなすぎるようだ。 「っち…もっとしっかりしろ」 「っ…が…がんばってます…」 肉球でクリクリ押したり撫で回したり、逸物に比べ小さい前足を使ってがんばっている。 そんなヒノアラシをカイリューは見ている。 「あー…もういい、ヘタすぎ」 「ご…ごめんなさい……」 しばらくヒノアラシにやらせていたが一向に良くならないため掴み上げて止めさせる。 掴まれて怒られると思ったのかヒノアラシは僅かに震えた。 「ま、差があるからそう簡単にいけるとは思ってなかったがな。じゃぁ次だ」 カイリューはヒノアラシの脇腹から股に腕を通し背後から抱き込むようにしてヒノアラシを抱える。 座らされたヒノアラシはカイリューの顔を振り向き加減に見上げている。 「フェラチオって知ってるか?」 「う…ううん…」 「じゃぁ俺の言うようにしろ。返事は?」 「…はい」 カイリューは返事を確認するとヒノアラシを抱いていない方の手で逸物を持ち先端をヒノアラシの口元に向ける。 「まず届く範囲でいい、舐めろ」 「ん……」 「違う、もっとしっかりだ。大きさを考えろ、そんな舐め方じゃ足りん」 軽く舐めようとしたヒノアラシを窘めて舐め方を指導していく。 ヒノアラシは逸物の、雄の臭いと舌で感じる雄の味に顔をしかめているがカイリューからは見えていない。 「ひゃぅっ!」 「止めるな、続けろ」 「ど、どこ触っ…て…」 「続けろ」 「……はい…っ」 カイリューは抱えている手でヒノアラシの尻を撫で肛門に指を当ててグニグニ解そうとしていた。 ヒノアラシは当然カイリューの方を向き抗議しようとするがカイリューの威圧に耐えられず我慢し舐め続けるしかなかった。 「く…ぅっ…っ…」 「ちゃんと舐められるようになったら尻を弄るのを止めてやるよ」 それから数十分間ヒノアラシは尻をまさぐられ肛門を解される不快感に耐えてカイリューに指示される舐め方を覚えていった。 カイリューは舐め方は十分教え込んだと判断したのか解し続けたヒノアラシの肛門に仕上げとばかりに指をズブリと差し込んだ。 「ぎっ…ぁっ…ぐぅ……」 「指1本でもきついな…」 「ぬ…ぬぃ…ぬいて…ぇっ」 「言われなくても確認は終わった。 じゃ次は咥えろ」 カイリューは差し込んだ指を抜くと多少は舐め続けられ硬くなった逸物の先端をヒノアラシの口に押し付ける。 ヒノアラシは咥えることに躊躇いを感じたが押し付けられ続けるために渋々ながら咥えた。 しかし口いっぱいに咥えても先端部を咥えるのが精一杯であった。 「んぐ…ぁぅ……」 「咥えた時は舌を絡めて舐めたり押したり軽く甘噛みしろ。顔を動かして前後させてもいい」 「ぁ…ぁむ…んむ……っんん!?」 言われた通りにヒノアラシが甘噛みし逸物を舐めたりしていると今度はカイリューが性器をまさぐり出した。 カイリューは指を這わせるように動かしぴっちり閉じた性器を少しずつ解し指を沈めていった。 「こっちも咥え方を覚えたら止めてやる」 「ふぐ…っ…んむ…っ……」 ヒノアラシは初めて感じるよくわからない感覚に戸惑いながら咥え方を覚え込まされていく。 初めての感覚に集中を乱され2時間を超えても咥え方を覚えきれずにいると突然カイリューが ヒノアラシの解され続け十二分に濡れそぼった性器に指を突き立てた。 「んぐっ…ううぅぅぅっっ」 「指1本…ちょっと無理して2本が限界か…?」 初めてを失った痛みの衝撃に逸物を噛むが口をめい一杯広げていたためか大した力は入らず噛まれたことにカイリューは気付かなかった。 カイリューはそのまま膣内を指でかき回し、具合を確かめ確認するように指を2本に増やしたりした後指を抜きぐったりしたヒノアラシを見下ろした。 「おい」 「は…はぅ…はぁ……」 「咥え方覚えきれたか?」 ぐったりしてぼんやりしているヒノアラシを持ち上げて視線を合わせる。 ヒノアラシは正直に小さく首を横に振って覚えられなかったことを伝えた。 「ちっ…まぁいい、今日覚えられなくても明日がある。 早めに覚えろよ?じゃないと毎日そうなるからな」 「ぁ…い……」 「俺はこれから食い物探して食ってくる。 おまえのは帰ってきてからな」 カイリューはヒノアラシを寝床の奥の方に寝かせて何処かに出て行く。 その姿をヒノアラシはぐったりとしつつ見送った。 そして日も完全に沈んで数時間経った頃ようやくカイリューが帰ってきた。 「おい……寝てるのか」 「………」 「…こいつに食わせるモンの用意するか…」 カイリューはそう呟いてヒノアラシを起こさないように寝床外に共に移動し自慰を始めた。 しばらく続けていると逸物が張り詰めすぐにでも射精してしまいそうになっている。 「よし…おきろっ!」 ヒノアラシはグッスリと寝ているがカイリューの大声で強引に起こす。 起こされたヒノアラシは耳を押さえ顔をしかめていた。 「っ…ぁう…」 「おまえの飯だ、口を開けろ」 促されるままに口を開けるがカイリューの逸物を口に当てられ疑問顔になる。 「えt」 「……くっ…ふぅぅっっ」 どういうことかとヒノアラシが尋ねようとした瞬間にカイリューが射精し口内に精液が勢いよく流れ込んでくる。 精液の量はドラゴンポケモンの分類とその体格に相応しい量で射精時間は長かった。 ヒノアラシの小さな口に収まる量では当然なくヒノアラシの顔を白く染め、なおも精液を浴びせられていた。 「うげっ…けふっ…ごほっ……」 「……ふぅ……これからお前の食い物は基本的にこれだけな」 「え……ほんと…に……?」 「量はあるから飢え死にはしないだろ? 味については慣れろ」 口に入った精液の苦さのためか吐き出していたがこれしか食べさせてもらえないと聞いて愕然とし聞き返した。 しかしカイリューは当然だろう?というように話を進めていく。 「せ…せめて木の実ぐらいは……」 「そうだな…なにか褒められることがあれば木の実ぐらいなら採ってきてやる」 ヒノアラシは条件付とは言えまともな物ももらえると聞いて安心した表情を見せる。 「さて、俺は寝床で寝るがおまえはそれを食えるだけは食っておけよ? 全部食えとかは言わん。食えるとか思ってないし。だが、食えなかったのは出来る限り綺麗にしとけ。 あとおまえは俺と同じ寝床で寝ろ。ただし俺より奥側でだ」 カイリューはそういくつか指示した後寝床に向かっていった。 ヒノアラシはしばらく躊躇っていたが今はこれしかないんだと自分に言い聞かせて精液を舐め始めた。 「うぅ……にがいよぅ……」 粘つく精液の味を我慢しひとまずお腹を満たしたヒノアラシは毛皮に付いた精液を舐め取り床を出来る限り綺麗にしていった。 その日ヒノアラシが眠れたのはだいぶ遅くになってからだった。 日が昇り始め夜から朝に変わり出す頃にカイリューは目をさました。 寝床の奥に視線をやると昨夜の内に取り切れなかったのか多少の精液がこびりついたヒノアラシが寝ていた。 言いつけ通りに奥で寝ていることにカイリューは満足した笑みを浮かべヒノアラシを抱え寝床の外に出る。 昨夜ヒノアラシが食事をした場所につくとヒノアラシを放り投げた。 「ふぎゅっ」 「起きたか?」 「ぃ…いたい……」 「出来る限りとは言ったがもう少しは出来なかったのか?」 その場所は昨夜に比べると多少は綺麗だがまだまだ精液が残ったままだった。 そこにヒノアラシを投げて起こすと睨み出す。 「だ…だって…外に捨てるのだって大変で…その…」 「…………」 「ごめんなさい……」 無言で睨み続けるとそのプレッシャーに耐えられずヒノアラシは謝ってしまう。 カイリューはその場に座るとヒノアラシの背中に手を回し後ろから股を通して前に手を通す。 ヒノアラシを片手で赤子を抱える様に抱き朝勃ちしている逸物をヒノアラシの口に当てる。 「ぁ…あの……」 「朝勃ちの処理とおまえの朝飯だ。 咥えるか舐めるかどっちかでやれ。朝勃ちが落ち着く前に出せなかったら朝飯は抜きな」 「………ん…」 ヒノアラシは躊躇っていたが前足を逸物に添えて支持し先端を舐める。 昨日教えられた通りに舐めているとカイリューが突然肛門を解し出す。 「っぁ…な、なにをっ」 「舐めるんだったら尻。咥えるんだったら膣。 昨日と同じだろう?」 ヒノアラシの声にカイリューはグニグニと肛門を解し続けながら当たり前のことをなに聞いてるんだ?とばかりに返す。 「そ…っ…だけど……」 「それより、朝飯はいらないのか?」 「うぅ…っ…ぁ…ん…っ…」 ヒノアラシには肛門を解される不快感を耐えるしかなく不快感を意識の外に追いやろうと目の前の逸物に集中し出す。 しっかり舐めたり、くすぐるようにそっと丁寧に舐めたり、自身の唾液を塗るように舐めたりと教えられたことを思い出しながら舐め続ける。 そんな状況でもカイリューはヒノアラシの肛門を解し続けている。 ヒノアラシの舌使いが多少物足りなさを感じつつも朝も早くから 雄を知らない小さい仔に舐めさせているという事実が逸物を射精へと向かわせている。 「は…くぅっ………」 「んぐっ…ぅぅぅっっっ!!!」 カイリューが射精に達する直前にヒノアラシの口奥まで逸物を押し込み喉に直接精液を流し込む。 それと同時に解し続けた肛門に指を差し込みゆっくりとかき混ぜる。 ある程度精液を強引に飲み込ませた後は逸物を口から抜きヒノアラシにシャワーのように精液をかけていく。 その間も差し入れた指をゆっくりと動かし続け指を入れやすくしていく。 「…ふぅぅ………ん」 ヒノアラシの肛門は長い射精が終わるまで続けられた責めによって入る指は1本のままだが昨日より入れやすくなっていた。 「うぇ……っんっ」 「じゃぁ俺はこれから今日の食い物狩ってくる。 期待はしてないが少しは綺麗にしておけよ」 肛門から指を抜くとヒノアラシを地面に降ろし外へ出かけていった。 ヒノアラシは胃に流し込まれた多量の精液で気分が悪そうだ。 頑張りに頑張ってなんとか地面を綺麗にするとヒノアラシは横になって休みながら毛繕いを始めた。 ヒノアラシは乾いてこびりついた精液の臭いや汚れた毛並みを見てため息をつきながらも、 何度も何度も舐めてこびりついた精液を落としゆっくりと毛並みを綺麗にしていく。 そうして時間を潰しているとカイリューが帰ってきた。 カイリューは一部食べられた後のあり血が滴っている大きな肉塊を持ち帰った。 「……まぁましになってるな」 昨日小さな肉塊があった場所に持ち帰った肉塊を置くとそれなりに綺麗になっている地面をみてヒノアラシに声をかけた。 「ぁ…ぁの…じゃぁ…お昼に木の実…」 「褒めるにはまだ足りんが…そうだな…」 木の実が欲しいというヒノアラシに対して思案顔のカイリュー。 カイリューはなにか思いついたのかニヤリと笑った。 その笑みを見たヒノアラシは嫌な予感を感じ冷や汗を流すがヒノアラシにはどうしようもない。 「そうだな、木の実採ってきてやる。なにがいいんだ?」 「えと…モモンの実が……食べたいです」 「モモンか、ちょっと待ってろよ」 会話を終わらせると再びカイリューは出かけていく。 それを見送ったヒノアラシは木の実がもらえると喜びながらも嫌な予感は拭えずにいた。 カイリューは1時間もかからずに帰ってきた。 「採ってきてやったぞ」 「あ、ありがとう…」 「ただし、褒めるには足りないといったよな?だから条件がある。」 「条件……?…ぁっ」 首をかしげるヒノアラシを抱きかかえて洞窟のまっすぐ奥に移動し座り込む。 抱きかかえられたヒノアラシはカイリューの手の上で仰向けで後ろ足をカイリュー側に向ける体勢で持たれている。 「ほれ食い頃の実だ」 「あ……っ!?」 食べ頃の実を1つ見せられ喜んだのもつかの間、カイリューの手によって閉じた性器が解され出した。 「ゃっ…んっ……あっ…」 「採ってきた実は3つ。1つは食い頃で2つはまだ小さく堅い実だ」 「なn…dっ…で…?」 「食い頃の実を食べるための条件にな」 悶えるヒノアラシの性器が解れてくると硬い実2つを膣内に押し込んでいった。 実は小さいために奥まで入りヒノアラシに異物感を感じさせ2つの実同士と膣壁が擦れることが昨日も感じたよくわからない感覚をもたらす。 「ひぅ…っ…う……」 「昼過ぎまで…あと4時間ぐらい実を入れたままでいること。それが条件だ」 木の実を入れ終わるとカイリューはヒノアラシを地面におろす。 「うぅ……」 「おい、そこにある骨の半分を外に投げ捨てておけよ」 「ぇ……ほんと…に?」 「当たり前だが?」 「……うぅ…」 じっとして時間が来るのを待とうとしたヒノアラシだったがカイリューの命令でそれはできなくなった。 ヒノアラシはなんとか刺激が少なくなるようにゆっくりと動いて溜められた骨を移動させる。 「っ…くぅ……っぁ…」 四苦八苦するヒノアラシを見るカイリューはとても楽しそうでいい暇つぶしだと考えていた。 そしてヒノアラシは気付いていないが膣内で木の実が擦れて刺激され膣から愛液がぽたぽたとたれ始めていた。 2時間半が経つ頃にはヒノアラシは座り込んでいた。 「はぁ…はぁ……っ…」 ヒノアラシの息は荒くなっておりしばらく立てそうになかった。 「どうした?お漏らしか?」 「もっ…もらして…なんかっ…」 「それでも?」 「え…え、なん…え?」 カイリューに笑われながら話しかけられ膣から溢れる愛液にヒノアラシは初めて気がついた。 「まぁそれは後でだ。あと1時間で木の実だからがんばれよ」 カイリューはそう言って洞窟内を移動していった。 ヒノアラシは戸惑いつつもがんばって捨てるべき骨を捨てていった。 「ふぁ……ふぅ…はぁ…はぁ……」 「よく頑張ったな」 ヒノアラシがぐったりしている所にカイリューがやってくる。 どうやらカイリューは昼食を先に食べていたようだ。 「おひる…なったから…いれたの…とってよぉ…」 「指1本しか入らないし奥の方に入ったから取り出すのは難しいな」 「そん…なぁ……」 ヒノアラシはカイリューの宣言にずっと妙な感覚がつきまとうのかとショックを受けたようだ。 そんなヒノアラシをカイリューは今朝と同じ抱き方で抱きかかえた。 「んじゃま…木の実入れ続けてどんな程度か試しておくかな」 「ひっ…ぁっ…」 カイリューはヒノアラシのずぶ濡れの性器にヒノアラシを抱いていない方の手で逸物を押し当て擦りつける。 しばらく擦りつけ解した後に逸物の先端を膣内にゆっくりと押し込むが太さの問題ですぐに突っかかる。 「ほっとんどはいらんなぁ…」 「ぅ…あっ…はぅ…ん…っ」 カイリューは逸物を軽くひねり込んだりして具合を確かめている。 ヒノアラシはその刺激に息も絶え絶えになっていく。 「ん、まぁそれよりほら、モモンの実だ」 「…う…ぅ……」 逸物を差し入れたままモモンの実をヒノアラシに持たせる。 「ゆっくり食えよ、朝めい一杯流し込んだから腹ん中にまだ精液残ってるだろうし吐いたりしたらもう木の実はナシだからな」 「ぅん……」 ヒノアラシはぐったりしながらもせっかくのモモンの実なのだからと口にする。 そしてヒノアラシが実を食べ始めたのを確認するとカイリューはヒノアラシの肛門を解し始め、差し込んだ逸物をゆっくりと抜き差しし始めた。 「っぁ…な…なんd…っぁ…っっ」 「おまえが食ってる間暇だからな…食い終わるまでやるぞ」 「っ…くぅ…ぁっ…ふぁっ…」 ヒノアラシは不快感と妙な感覚を耐えモモンの実を食べ進めようとするがなかなか食べられない。 そんなヒノアラシを気にすることなくカイリューは肛門を解し性器を解す。 ヒノアラシの膣からは愛液が垂れ続けカイリューの逸物を濡らしていく。 執拗に解し続ける肛門に指を沈め込みゆっくりとかき混ぜていく。 「食べなくて良いのか?」 「ひぅ…っぁ…んんっ…」 逸物を離して空いている方の手の指をヒノアラシの膣に沈めながら声をかける。 が、ヒノアラシは肛門の異物感と膣の感覚に悶えており答える余裕がなかった。 カイリューは悶えるヒノアラシを見ながらゆっくり、ゆっくりと膣内、直腸内の指を動かし反応を楽しんでいる。 ずっと続く刺激に絶頂を迎えそうになり怖くてヒノアラシが泣きそうになると休憩を挟み落ち着く時間をカイリューは作った。 その時間を使ってヒノアラシはモモンの実を食べ進める。 指を動かされている間では食べ進められなくもないが食べる余裕は少なかった。 結局ヒノアラシがモモンの実を食べ切れたのはおやつ時を超え直に夕日がみられそうな時間帯だった。 「は…ぁ……は……ぁ……」 「ずいぶんかかったな」 ヒノアラシは悶え続けて疲れ果て酷くぐったりしている。 およそ4時間半続けて前後の穴に指を入れられ解され続け膣は指2本入り、肛門は指2本ではちょっときついという所まで拡張された。 「しばらく休んでな」 ヒノアラシを寝床に寝かせてカイリューは洞窟内を移動する。 「肉は朝狩ってきて2、3日は持つかな…あいつはあれでいいし…食い物のことはこれでいいか あ、そういやまえおもしろい木の実採ってたっけ?」 カイリューはぶつぶつ呟きながら洞窟の奥へ進んでいく。 「たしかここら辺に投げといたと思うんだが…………お、あった。 …けど腐ってる?いや発酵してんのか?」 カイリューが見つけた木の実の匂いを嗅いでみると酒の匂いがした。 洞窟内で長らく放置していたせいか自然発酵し実が所謂猿酒とよばれる果実酒の様になったらしい。 握り締めれば簡単に酒が搾り取れそうだ。 「食ったら興奮するっぽい実だったけどこれでも効くのか…?」 猿酒化した実を潰さないように持ってヒノアラシの元へ戻っていく。 戻ってみるとヒノアラシは小さな寝息を立てて眠っていた。 「おい、起きろ!」 「っぁ…ぅぅ……」 ヒノアラシの耳元で大声を出し強制的に目をさまさせる。 「喘ぎ続けて喉渇いてるだろ?」 「…ぅ…ん……」 「だったら上向いて口開けな」 ヒノアラシはカイリューを訝しげに見ているがしばらく見てるとカイリューに強引に上を向かせられた。 「あぐっ…」 「きちんと飲めよ。せっかくやるんだからな」 カイリューは手に持った実をヒノアラシの口の上で搾り溢れる酒を飲ませていく。 「ん…んぅ……」 「どうだ?」 「変な味…」 「ふーん…で、身体の様子は?」 「身体の…?疲れてる…けど…」 カイリューは絞りかすになった実を見ながら話を進めていく。 体調を心配するようなカイリューの対応にヒノアラシは首をかしげながら答えていく。 「暑くなったり元気になったりとかは?」 「べつに…ないよ…?」 「やっぱ効かなかったか…?」 「効く…?」 「あーおまえは気にせんでいい。 さて、俺は晩飯食ってくる。おまえは俺が食い終わるまで待ってろよ」 話を切り上げるとカイリューは移動し食事を始める。 ヒノアラシは疲れていたために眠って疲れを取ろうとするがなんとなく眠れずカイリューが戻ってくるまで起きていた。 「お、今度は寝てなかったか」 「あ……」 「それじゃ、おまえの飯だな」 「んん…」 「あ…?」 ヒノアラシを抱き上げようとするカイリューの腕にヒノアラシは頭をすり寄せる。 カイリューはヒノアラシの行動の意図が読めず困惑する。 「おとーさん……」 「おとーさん?俺が?」 「ふふ……おとーさんすきぃ…」 「どうしたんだ一体……あ、さっきのあれか?」 カイリューはヒノアラシの様子がおかしいことに気付く。と同時に原因にも気付いた。 原因となった猿酒によってヒノアラシは酔っぱらってしまったようで多少顔が上気している。 「あれでこうなったって事は元の効果は…?」 「ふわ…っ」 カイリューはヒノアラシを抱き上げ性器を解し始める。 「さて…?」 「は…ぁんっ…ふぁっ…」 「ほぅ…」 「ふゃ…ぁっ…んんっ」 ヒノアラシが上げる声は前回までの我慢するような声と違い、素直に嬌声を上げている。 カイリューは2本の指を膣内に少しずつ沈めていき少し沈めては指を動かし拡がり具合を確かめていく。 ヒノアラシの上げる声をBGMに指を指し沈めて行くと指先に今朝入れた木の実が当たった。 「お」 「ふゃんっぁぁあっ」 2つとも取り出すと木の実には愛液がべったりと付いていた。 取り出す際に木の実がグリッと擦れヒノアラシは一際大きな嬌声を上げくったりとする。 「…………あんまり美味いとはいえんな」 絶頂に達したらしきヒノアラシを放置しカイリューはしばらく木の実を見ていたが徐に口に含み、 しばらく舌の上で転がした後にかみ砕いて飲み込んだ。 「次は…よし」 「はぅっ…んぁ…」 くったりとするヒノアラシの肛門を解し軽く広げると硬くなっている逸物の先端を差し込む。 「ま、まだまだだろうけど少しぐらいは中に出すって言う楽しみ方をしないとなぁ。 溢すな…って言ってもまともに聞いてなさそうだな」 「っぁ…ふぁ……」 逸物の先端をヒノアラシの肛門に差し込んだまま自慰を始める。 「くぅ…んっ…ふぅ…っ…」 「ふゃ…んぁっ…ぃっくぅっんっ」 「っ……ぐぅぅぅ!!!」 自慰による揺れがヒノアラシの肛門を刺激し声を上げさせていた。 しばらくヒノアラシの声とカイリューの声が響き続けていると突然カイリューが射精した。 出される精液の勢いによってヒノアラシの体内は精液によって洗い流される。 「っ…げほっ…うげっ…」 ヒノアラシはさほど時間もかからず精液を吐き出すようになった。 その後すぐにカイリューは逸物を抜き、ヒノアラシに精液をかけていく。 「ふぅ………おい?」 ヒノアラシを精液で白くした後、精液を吐いてから反応のないヒノアラシの様子を見ると酔いつぶれたのか熟睡していた。 「…まぁいいか…しかしこいつこのこと覚えてんのかねぇ…?」 ヒノアラシをその場に放置しカイリューは寝床に戻ってゆっくりと眠った。 朝日が昇り出すとカイリューは目をさました。 腹部に違和感を感じ見てみると昨夜の精液で白くなっているヒノアラシが朝勃ちする逸物を舐めていた。 「おい…?」 「んふー……」 「……昨日のがまだ効いてんのか…?」 こんなに効くような実だったか?などと疑問に思いながらヒノアラシを見ている。 ヒノアラシはカイリューの逸物を舐め続けているがカイリューは起き上がりヒノアラシを抱き上げる。 何時もの体勢にし逸物の先端をヒノアラシに向けるとヒノアラシははむりと先端を咥えた。 「ん…む…ぁむ……」 「お…ふむ…」 ヒノアラシは最初に教えた咥えて方をきちんと実践していた。 カイリューはヒノアラシの性器を解し少しずつ膣内に指を差し込む。 「ふぁ…んむ…ふゃ…」 ヒノアラシは喘ぎ悶えながらも逸物を咥えて舐めている。 カイリューはそんなヒノアラシの膣に入れた指を2本にしゆっくりとかき回し続ける。 「…くっ…ふぅぅっ」 「んぐっ…げほっごほっ」 お互いに刺激を与え続けてしばらくするとカイリューは射精しヒノアラシは少し精液を飲んだ後に 逸物から口を離してしまい再び精液を上塗りされてしまう。 多量の精液は寝床も白く汚してしまっていた。 「あー……取り替えかよ…面倒なんだがなぁ……」 「けほっ…けほっ…」 カイリューは小さく咳き込むヒノアラシを抱き上げたままべったりと精液が付いて寝床として使いたくない状況になった寝床を見て落胆していた。 「まぁそれはあとでやるとして…」 「……?」 カイリューはいまだに上気した顔をしているヒノアラシを抱く手を変えて愛液に濡れた指をヒノアラシの胸に当てる。 ヒノアラシは何をされるのか分からずぼんやりした表情を見せつつ首をかしげている。 「ちゃんと咥えられたご褒美だ」 「っ…ん…」 カイリューはまず指に付いていた愛液とヒノアラシを染めている精液をヒノアラシの胸に塗り広げた。 そしてゆっくりと指先でヒノアラシの胸を押しこねた。 「くぅ…ぃっ……」 ぐりぐりと押し潰すようにしたり、さわさわと表面を撫でるようにしたり、強弱を付けてヒノアラシの胸を弄っていく。 次第に硬くなる乳首をくりくりと捏ね、精液を胸に揉み込むように塗り付けたりとカイリューはヒノアラシの胸で遊んでいる。 悶えか細く聞こえるヒノアラシの嬌声を響かせヒノアラシの胸弄りは続いていく。 「は…ぁぅ…んん…」 「っぁ…ふ…んぅ…っ」 硬くなった乳首をつまみ軽く引っ張ったり潰すように押し揉んだりし、ヒノアラシがぐったりするまで続いた。 ぐったりするヒノアラシを寝かせておきカイリューは朝食をとり、寝床の取り替えよう材料を集めに出かけていった。 「あたま…ぃたぃ……」 ヒノアラシはカイリューが出かけてしばらくぼんやりしていたが突然頭を押さえて呻く。 飲んだ木の実酒の効果が切れたらしく頭痛で辛そうにしているがしばらくすると寝てしまっていた。 カイリューは午前中は帰ってこず昼を過ぎてようやく帰ってきた。 どうやら寝床の材料を集めていたためにずいぶんと遅くなってしまったようだ。 「あー…疲れた…おい、寝床変えるからあれ捨ててこい」 「ぅ……?」 寝ているヒノアラシをカイリューは起し汚れた寝床を捨ててくるように指示を与える。 起こされたヒノアラシは頭を振って眠気を取り首をかしげる。 「おまえが寝込みを襲ってきたせいで寝床が汚れたんだから捨てるぐらいしろ」 「お…襲った……?」 「…覚えてないのか?」 「ぅ…うん…」 「ふーん…まぁいいからさっさと外にでも捨ててこいよ」 「ふゃっ」 寝床の精液で汚れた部分を取り除いてヒノアラシに被せる。 ヒノアラシは被せられた残骸から這い出て少しずつ洞窟外へ投げ捨てていく。 全てを捨てきるのに1時間弱かかっていた。 その間にカイリューは寝床を整えて寝心地などを確かめていた。 「もうちょっとか……………こんなもんかな」 「捨て終わりました…」 「お、じゃぁこっち来い」 廃棄部分を捨て終わったヒノアラシが戻ってくると近づく様にいい、近づいてきたヒノアラシを抱きかかえる。 突然抱きかかえられたヒノアラシは不安そうにカイリューを見ている。 「さっきいい物拾ってな。同じのをいくつか持ってることも思い出したんだよ」 「良い物…?」 ヒノアラシを抱きかかえたカイリューはボロボロのリュックサックの中身をひっくり返し地面に落ちた飴の様なものを拾い上げる。 「これで……12個か。なら足りるな」 「あの…それは…?」 「すぐに分かる」 「ぁ…やっ」 ヒノアラシを大股開きになるように抱えて性器と肛門を指で解す。 「すぐやってもいいが…まぁ一応な」 「ふゃっ…ぁっ……」 ヒノアラシの声は我慢するような声であるが、仄かに快感を感じていると示す声だった。 数分間解し続けた後にカイリューは不思議な飴を肛門と膣に押し込み始めた。 「ふぁんっ…やっ…ひぅっ……」 「おー。ずいぶん鳴くようになったな…?」 「ふゃんっ…はぅっ…んん…」 全ての飴を押し込むとヒノアラシの太ももをつかみ足踏みさせるように動かす。 体の中で飴が擦れ合う刺激にヒノアラシは悶えている。 「ふや…んぁ…ぇ?」 「……解し続けたし進化してでかくなるから半分は入るか…?」 カイリューは進化の光に包まれたヒノアラシを地面に降ろし姿が変わっていくヒノアラシを眺めている。 そして進化は終わりヒノアラシはマグマラシになった。 「おめでとさん、これでもっと楽しめるようになったかな」 「え…え?えぇ?…ぁっ」 進化した自身の姿を見て困惑し、今更ながらに精液で酷く汚れていることに気付いたマグマラシだった。 「んじゃまさっそく」 「ひゃっ…っぁ…んっぁ」 カイリューは困惑している隙にマグマラシを抱き上げ肛門を解し出す。 指を2本入れ深く差し込んでも多少の余裕を感じたカイリューは逸物をマグマラシの顔に当てる。 「おまえの昼飯の時間だ。舐めるか咥えるか」 「……ん…んむ…」 マグマラシは若干の躊躇いを持って丁寧に舐めだした。 「んぁう…む…っ…ぃっ…」 マグマラシの舐め方に合わせて直腸内の指の動きを変化させて刺激する。 しばらく続けていると指を入れず、弄っていない膣の方から愛液が溢れだしていた。 「そろそろいいな…」 「んっ……?」 マグマラシを脇腹をつかんで抱き上げ対面状態のマグマラシの肛門に逸物を押し当てる。 「じゃぁ…いくぜっ」 「ちょ…まっ…あ゛っっ」 マグマラシを引き下ろし逸物をねじ込むとカイリューの見立て通り逸物の半分ほどがマグマラシの中に飲み込まれた。 マグマラシをつかむ場所を脇腹から両後ろ足に移動し下にゆっくり引っ張りどこまではいるかを確認している。 「くぅ…いいね…どこまで…いく……?」 「ぁっ…ぐぅぅっ…ぎっ…」 「はんぶん…まえ…ねっ」 「ぅにぃっっ」 入る長さを確認した後に逸物を軸にマグマラシを半回転させうつ伏せにし軽くのし掛かる様に押さえつける。 「尻で…交尾といこう…かっ」 「ふぃっ…んぁっひぅっ」 押さえつけられ身動き出来ないマグマラシを尻目にカイリューは腰を動かしピストン運動を始めた。 逸物が抜けるギリギリまで一気に腰を引き、入る分だけを突き入れる。 逸物を入れられすぎて苦痛となる手前で突き込みは止められピストン運動は繰り返される。 「ひっ…んぃっ…はっ…ふぁっ」 「どうだ…っ…ん…っぅ?」 「くぅっ…に…あっ…ぁっん…」 初めは異物感を強く感じていたマグマラシも続けていく内に声を上げて悶えている。 マグマラシの膣からは愛液がこんこんと溢れていた。 「っぐぅぅっ…ふっぅぅぅっっ」 「はぅっ…くぁあぅぅっ……」 そして唐突にカイリューが射精を迎えマグマラシの中に精液を流し込む。 しっかり押さえつけられ、逸物を押し込まれた状況だったために射精の勢いが全てマグマラシの体内に注がれ 苦痛の声を上げていたがしばらくすると体内が精液で満ちて精液を吐き出し始める。 マグマラシが精液を吐き続けること少ししてようやくカイリューの射精が止まる。 「……ふ…ぅ……ごちそうさま」 カイリューは逸物を抜き口と拡がった肛門から精液を流すマグマラシの姿を眺めていた。 「ん……?」 「か…らだ…きれぃ…に…した…ぃ…」 ぐったりし口を微かに動かすマグマラシに耳を近付けると水浴びをしたいと願ってきていた。 「ふむ……」 カイリューは酷く汚れてぐったりしているマグマラシを見ながらどうするかと考える。 「…まぁ汚れてるので楽しむのもなんだしな、いいだろう」 「ぁ…ありが…っ」 「水場……この近くだったら川があったな」 カイリューはヒノアラシを抱きかかえ外に向かう。 しばらく飛び続けると大きな川が見えてきた。 「あの川でいいか?」 マグマラシに問いかけるが、マグマラシは抱きかかえるカイリューの腕に目を閉じてしがみつき震えている。 カイリューの飛行速度は日が沈みきる前に水場に着こうとしたのかかなり速くマグマラシは高度と速度に恐怖を感じていたようだ。 「おい」 「ひっ」 「あれでいいか?」 「う、うんっいいっいいからっ」 マグマラシを揺さぶると脅えたような声を上げた。 確認を取ったカイリューは高度を下げ川岸に着地する。 「ついたぞ」 「あ…ありがとう…」 「でだ、どうせ洗うわけだしもっと汚してもいいよな?」 「え……?」 「いいよな?」 「あ…でも…」 「いいよな?」 「……うん…」 マグマラシはカイリューの威圧に負け、渋々ながらも頷かされた。 カイリューはマグマラシを地面に降ろし逸物をマグマラシに向ける。 「んじゃまずは咥えろ」 「……ぁむ…ん…」 ヒノアラシのときより少し深く咥えられるようになったマグマラシの口に当てられたカイリューの逸物を咥えたマグマラシは少しずつ舌を這わせ始める。 「ん…んむ……ん…」 「良く咥えられるように…なったな…実はエロかったとか…?…っ」 「んむ…んんっ」 カイリューの逸物を咥えたまま首を振ってマグマラシは否定する。 「ならなんで…咥えられてるんだ?」 「ぅ………うぅ……」 「一昨日は…まだまだだったはずなのに」 「ぇ…えっちじゃないです……」 「……離していいといったか?」 「うぅ……んぐ…あむ……」 逸物から口を離して抗議してきたマグマラシを睨み付けフェラを継続させる。 その後は静かにマグマラシが咥え舐める音が川岸に鳴っていた。 「っ…くぅっ…ふぅぅっっ」 「んっ…わきゃっっ」 射精する直前にマグマラシの口から逸物を抜き、マグマラシの顔や耳、身体に精液を振りかけていく。 すでに白く汚れていたマグマラシだったが、厚塗りされるように精液の上塗りをされ真っ白に染められていく。 「ふー………じゃ水浴びしてきな」 「はぃ……?…あの…」 「ゆっくりと…なっ」 「え、ちょ…きゃぁっ」 マグマラシはカイリューに投げられ川の深めな所に着水した。 「な…わぷっ…ふ、ふかっ…まっ…」 「おーおー、楽しそうだなぁ」 カイリューはバシャバシャと水面でもがくマグマラシを川岸から眺めている。 マグマラシのもがく動きで体表の精液が流されマグマラシより下流は一部が白く濁っている。 体内に残る精液が重くてうまく泳げないのか少しずつ流されていきだんだんと急流に巻き込まれていく。 「か…うぷっ…たっ…たすけっ…もがっ…」 しばらく水面でもがいていたが次第に沈みだし数分もしないうちに溺れてしまった。 完全に沈みきる前にカイリューが飛び、マグマラシを拾い上げる。 気を失っているマグマラシを川の浅瀬で丁寧に洗い、精液を落としていく。 「ん……? なんだこれ……おっ」 マグマラシを洗い終えた後、川岸に上がると、端の方にトレーナーの忘れ物かバイブが落ちていた。 カイリューがしばらく弄っているとスイッチが入り動き出した。 「ほー……」 カイリューはバイブを止めるとマグマラシと一緒に抱え巣に戻っていった。 巣に帰ると寝床に向かいマグマラシを起こす。 「ん……ぁっ…」 「よう、あんなに速く溺れるとは思ってなかったぞ」 「だ…だって…炎タイプ…だもん……」 マグマラシは目覚めると震えていた。 身体を洗われほとんど乾かさずに空を飛んで戻ってきたためかずいぶんと身体が冷えているようだ。 「まぁいい、身体は隅々まで洗ってやったからな」 「え…あ…ありがとう…」 身体が綺麗になっていることに気付いたマグマラシは控えめながらもお礼を伝えた。 「感謝してるなら…これをな」 「それは……?」 「川岸で見つけたもんだ」 「…?…いっ」 首をかしげるマグマラシを抱え性器を解した後にバイブを挿入しスイッチを入れる。 「ふぁっ…んっ…う…ぅごいて…るっ…」 「あぁそういえば身体冷えてるだろうから抱いて寝てやろう」 「ぇ…ぁっ…んんっ…ぅんっ…」 カイリューはマグマラシごと横になるとマグマラシを抱きしめる。 その際に手を回してバイブを押し込むようにして抜けないように保持していた。 これで自然に抜けると言うことは無く、カイリューが手をどけない限りマグマラシの中で振動し続けるだろう。 マグマラシはカイリューの体温とバイブの刺激を感じながら眠れない夜を過ごすことになった。 翌朝カイリューが目をさますとマグマラシは甘く喘ぎながら眠っていた。 溺れたりしてたまっていた疲労のためか刺激され続けていても何とか眠ったようだ。 「ぁ……ふぁ…んn……」 バイブを押さえていたカイリューの手はマグマラシの愛液でべとべとになっていた。 当然ながら溢れる愛液のせいでマグマラシがおねしょしたように見えてしまう。 「ふぅん……」 カイリューはマグマラシを起こさず抱きかかえたまま起き上がり、洞窟内を移動する。 猿酒化していた木の実があった場所に向かいマグマラシの喘ぎ声をBGMに木の実を探し始める。 「たしか……まだあったはずなんだけど…」 洞窟内を行ったり来たりしながら探し続けること数分。 「あった……発酵?してるのがいくつかとまだ大丈夫そうなのが少しか… とりあえず大丈夫そうな方を食べさせてみるか…おい」 「ぁ…ふぁ…んぁ……?」 「振り解かずちゃんと寝たご褒美だ」 マグマラシを起し木の実を口元に運ぶ。 「いぃ…ん…の…?」 「いらないんなら別にいいが?」 「た…んぅ…たべる…ふぁっ…」 「なら口開けろ」 寝起きでぼんやりしつつ喘ぐマグマラシに口を開けさせ木の実を少しずつ食べさせていく。 「ん…んく…ぅんん…ぁく……」 「これで木の実が変になってたからだったのかこいつが弱かったのかが分かるか…?」 「んぃ……?」 「なんでもない。ほらさっさと食え」 「んぐ……んっ…んむ……」 マグマラシに木の実を食べさせ終えると地面に降ろし離れる。 「んじゃ俺は朝飯食ってくるから戻ってくるまでじっとしてろよ」 「とって…くれ…ふぁ…ないの……?」 「ダメだ」 「…んっ…わかった…ぁ…」 離れるカイリューにバイブを取って欲しいとマグマラシは願うが却下される。 カイリューは若干うなだれるマグマラシをしばし見ていたがすぐに朝食に向かった。 カイリューが食事を終え戻ってくるまでわざと普段以上に時間をかけていた。 「さて……?」 「ふぁ…んん…くぅ……ぁっ…ふ…ぅん…」 「おーおー」 ようやくカイリューが戻ってきてマグマラシを見るとマグマラシはくったりとして横になっていた。 木の実の効果が出ているのかマグマラシの顔は上気し、目を閉じてバイブに与えられる快感を受け止めていた。 マグマラシが横になっている地面は膣から出る愛液でずいぶんと湿っている。 「ふぁ……?」 「ずいぶん気持ちよさそうだな?」 「ぅ…んぁ…ひぅ…」 カイリューが戻って来たことに声で気付いたマグマラシはカイリューの方を見た。 その様子にカイリューが尋ねると喘ぎながら頷いた。 「ここばっかりでこっちは寂しくないか?」 「ひゃぅんっっぁ…」 カイリューはバイブを揺らした後マグマラシのおしりをまさぐるように撫で回す。 「どうだ?さびしいならどうして欲しいか言ってみな」 「そっ…んっ…ちも……して…ほし…んぁっ…」 「ちゃんと言わないと分からないな」 「おし…りも…ぁん……さわった…り…して…ほしい…です……」 「ま…いいだろう」 マグマラシは喘ぎながらのため途切れ途切れになりつつもカイリューに尻も弄って欲しいとねだる。 カイリューはマグマラシをうつ伏せに抱え、お尻に手を添える。 「んんっ…ふぃぁ……にぁんっっ」 「これでもいいだろう?さわっ たり だからな」 カイリューはマグマラシの尻を撫で回してバチンと叩いた。 叩かれたマグマラシは悲鳴を上げるがバイブの刺激で甘い声になっているため嬌声に聞こえてしまう。 「叩かれて喘ぐのかおまえは?」 「ち…が…んっにゃぅっ…ひぅっ…いたk…やんっ」 マグマラシが何か言おうとするたびにカイリューは尻を撫で回しては叩くを繰り返す。 時々尻を揉みほぐすように優しく揉んでから叩くなどと飴と鞭のように弄っている。 マグマラシが1度絶頂に達するまでカイリューの責めは続いた。 「くぅ……ぅぅ……」 マグマラシは絶頂に達した後、カイリューの逸物を舐め肛門を解されつつ食事を与えられた。 カイリューは横になっているマグマラシの近くで昼食を食べている。 「んで…調子はどうだ?」 「ふぇ…っぁ…?」 「気持ちいいか?」 「ん…ぅn……ぁっ…」 バイブの振動は弱振動でまだ続いておりマグマラシは喘ぎ続けている。 「そうかそうか」 「ひぅ…んんっ……」 カイリューは喘ぐマグマラシを見ながら食事を終え、バイブが抜けないようにマグマラシを抱きかかえると外に出る。 目的地はどうやら昨日の川のようだ。 しばし飛び続けて川岸に降りるとマグマラシの方後ろ足首をつかんで逆さづりにした。 「うにゃっ…ど…して……?」 「そういえばおねしょしたことのお仕置きがまだだったのを思い出してな」 「して…ん…なぃ…ょ…?」 「わかってないだけだ…なっ」 「うにゃぅっっ」 カイリューはバイブの振動を強にしグリグリと動かした。 軽く引き抜いてねじ込むように押し込んだりと振動以外にも動きを付ける。 「ひぅっ…ぅにゃんっ…ぁあっ…んんんっっ」 マグマラシはびくんっと震えて絶頂したことを示す。 マグマラシの身体は昼食時に付いたカイリューの精液と自身の性器から溢れる愛液でべとべとになっていく。 「お仕置きでイったらだめだろう?」 「んぎっぁ…んんぃあっ」 カイリューは多少理不尽なことを言いつつマグマラシの尻を強く叩いた。 「くぅ……ぅんんっ…んあっ……」 30回近く叩き続けてた後に再びバイブを抜き差ししてマグマラシを悶えさせる。 「にぅっ…ふぁぁっ…んんんっ…」 「ほら、どうだ?ん?」 「ふにゃぁぁっ…にゃうっ…んんんっっ」 バイブを引き抜きクリトリスに押し付けるとマグマラシは絶頂に達した。 バイブを少し乱暴に膣にねじ込んだ後に再びマグマラシの尻を叩く。 「にぎゃっ…っ…いぁっ…たっ…くぅっっ」 マグマラシは溢れてたれる愛液で身体を汚しながらバイブによる快感と叩かれることの痛みで涙を流している。 そしてそれが幾度か繰り返されているとマグマラシが気を失った。 「あー…叩きすぎたかイき過ぎたか…どっちだ?」 カイリューは薄くなったマグマラシを掲げ顔を見ながら呟いている。 マグマラシは気を失っているためか脱力している。 しばらく考えていたカイリューだったが唐突にマグマラシの顔を川に沈めた。 適度に水中から引き上げ沈めることを繰り返していると幾度目かの水没時にマグマラシがもがきだした。 「心地よすぎて寝るなんて酷いだろう?」 「ぅぁ……げほっ……っ…」 「全く酷いねぇ」 そう言ってバイブ責めを再開するカイリューだった。 日が暮れだした頃カイリューは何度もイかされぐったりしたマグマラシを抱きかかえて巣に戻った。 巣に戻ったカイリューはマグマラシからバイブを抜き地面にマグマラシを寝かせた。 そしてマグマラシの目の前で夕食を食べている。 「おまえのは、俺が食べ終わってからな」 「ぅぅ………」 カイリューが食べ終わるとマグマラシを抱いて69体勢で横になり逸物を舐めさせる。 その間カイリューは例の如くマグマラシの肛門に指を入れ解している。 「前は半分だったが…いまはどうだろうか……」 「んむ…ぁむ…っ……」 マグマラシの肛門を解し続けながらカイリューは呟いている。 そうこうしているうちにカイリューは射精し床とマグマラシの顔を白く染め上げた。 「んぐ……」 「ふぅ……さて、今夜やることがあるから…おまえは食べながらでな」 「んぐっ…んくぅ……」 床に広がった精液を舐め取っているマグマラシの後ろに回り肛門を解し続ける。 「はやく食べておかないと食べる余裕が無くなるぞ」 「ぅっ…くぅ……ぅあっ…」 精液を口にしようとするごとに肛門を強く解されマグマラシは声を上げてしまう。 カイリューはマグマラシが食べられずにいるのを気にせず解し続けている。 しばらく解し続けた後、肛門の拡がり具合を確認する。 「ひぅっ…んn……」 「前よりいけるか…?」 「んにっ……んぅぃ……」 グニグニと弄られてマグマラシは喘いでしまう。 「ふむ……よし、やってみるか」 「ふぁ……っぎぁ…っぁあ…」 カイリューは四つん這いのマグマラシの肛門に逸物を少し擦りつけた後ズブリと押し込んだ。 半分程まではそれほど引っかからず入っていったが半分を超え3/4あたりになると厳しくなっていった。 マグマラシは初め喘いだが無理に押し拡げられていく苦痛に呻きだした。 「く…きつ…けどもうちょっとで全部…いくか…?」 「いっ…ぎぅっ…ぃぁっっ…」 カイリューはジリジリと時間をかけ逸物をマグマラシの肛門にねじ込んでいく。 マグマラシは激しい異物感と痛みで呻き地面をひっかいていた。 「ふ…そ……らっっ」 「イギィッッッ」 全て入るまであと僅かになった時、カイリューはかけ声をかけて一気に逸物をマグマラシの腸内にねじ込んだ。 マグマラシは小さく悲鳴を上げて口をぱくぱくとさせている。 マグマラシの肛門からは僅かに血が滲んでおり、少し無理をさせたことが分かる。 「ぁ……ぅ……ぅ…」 「ぜんぶ……はいった……な…」 鈍痛に涙するマグマラシを逸物を挿入したまま抱き上げ寝床に向かう。 「すぐに…ヤるようなマネはしない…もっとならしてからな」 寝床につくと横になり、軽く腰を動かして具合を確かめる。 マグマラシが抜いて離れないようにしっかりと抱きしめてカイリューは眠り出す。 鈍痛と異物感によってマグマラシは遅くまで眠ることは出来なかったようだ。 「ん…ふぁぁ…」 「ぅ…んん…」 「あぁ、このまま寝たんだったか」 朝になり目をさましたカイリューは逸物を入れたまま起き上がる。 マグマラシは苦しそうにしながら寝続けている。 その体勢はカイリューに抱きしめられたままでありカイリューが寝た時のままである。 「ほら起きろ」 そう声をかけるとマグマラシを上下に揺らし出す。 「っ…んぃっあっ…ぅぐっ」 「目がさめたか?」 「さめっ…まし…っぁぐ…」 一晩中逸物が入ったままだったためにマグマラシの肛門はほどよく弛み馴染んでるようだが それでも内蔵を下から引きずり出されそうな感覚に苦しそうにしながら飛び起きる。 カイリューはマグマラシが起きたことを確認すると揺らす幅をひろげ大きくピストン動作させる。 「ぁっ…ぐっっ…ぅんっ…」 「朝勃ちの…処理な」 「ぅぎ…っぁ…」 「昨夜よりは楽だろ」 マグマラシをつかんで上下に、逸物が深く入り込むように強く動かしている。 それでも壊れないように手加減はしているようだが、マグマラシはかなり苦しそうだ。 そしてマグマラシがだんだんとぐったりしてきたころにカイリューは射精し マグマラシの体内を白濁とした精液で満たしていく。 「ぁ…ぐ…………」 「……さて…朝飯か」 射精しても逸物をマグマラシの中に入れたままのために マグマラシの体内から精液は漏れてこない。 マグマラシはぐったりし、カイリューの逸物と精液の異物感に 気分悪そうにしているがカイリューは気にせずに朝食に移動する。 「ん、そうかこれだとこいつの食い物ねーね…」 食料を前にしてカイリューはそのことに気付いたのかマグマラシを見下ろしていた。 「まぁ…今日ぐらいは木の実でいいかな」 「木の実…?」 「今朝は特別に木の実を食べさせてやる。 ただしちょっとしたことをしてからな」 「ちょっとした……?」 「こいつに味付けをな」 マグマラシはぐったりとしているせいか若干ボーッとしつつカイリューと受け答えしている。 その最中カイリューはちょっと熟しすぎて柔らかくなっているモモンの実を取ってマグマラシに見せる。 「あじつ…っぁ…っ」 カイリューは小さく笑うと柔らかいモモンの実をマグマラシの性器に擦りつけだした。 その力は強めなのか実が崩れ果汁と多少の果肉ががマグマラシの性器にべったりと付いていく。 おおよそ半分ほどが削れ崩れた後に残った実をマグマラシの口元に運ぶ。 「食べないんだったら朝飯はなしだからな?」 「…ぁ…ん……」 マグマラシは多少躊躇するが崩れたモモンの実を食べ出した。 カイリューはそんなマグマラシを尻目にまともな朝食を取っていた。