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行き止まりの絶望(後編) ◆Ok1sMSayUQ いつまで逃げればいいのだろう。 いつまで、この先の見えない暗闇を走り続ければいいのだろう。 サニーミルクを小脇に抱え、河城にとりは俯きながら闇雲に足を動かしていた。 情けないという言葉ひとつがにとりを支配し、無力という事実を押し付けてくる。 逃げてばかりで、守られてばかりで、なにひとつ出来てやしない。 状況に翻弄され、流されるがままで、報いることも変えることも出来ないままだ。 生き別れになったままの伊吹萃香、レミリア・スカーレットを引きつけて戦いに身を投じていった射命丸文、 そして十六夜咲夜との戦いで傷つき、疲弊して動けなくなったレティ・ホワイトロックの姿が次々と思い出される。 彼女らが身を挺して作ってくれた時間で、自分はただ命を長らえているだけだ。 この地獄から脱出するための算段も、目の前の恐怖を終わらせる術すら浮かんではいない。 考えてはいる。いるけれども、どうすればいいのかも分からない。 目の前に広がり続ける無明の闇。明けない夜を、一体どうすれば―― 「にとりにとり! 見て、ほら、川!」 内省の時間を終わらせたのは、脇でじたばたと暴れるサニーミルクだった。 顔を上げてみると、確かにそこには大きな水の溜まる、湖があった。 「違うよ、川じゃなくて湖。……霧の湖まで来てたのか」 夜間であるため霧はかかっていなかったものの、遠大に広がる水面は霧の湖に違いなかった。 そうすると、自分達は逆戻りしてきたことになる。 進むどころか、戻っている有様じゃないかとにとりは内心で失笑する。 「ねえねえ、どうしよう……? この先って紅魔館しかないんでしょ?」 「そうだけど……あそこに逃げるわけにもいかないしなあ……」 レミリア達に襲われている現状を鑑みるに、あそこに逃げ込む理由はない。 あそこを拠点にしているという根拠もなかったが、吸血鬼の根城たる紅魔館を拠点にしない理由というのもない。 サニーミルクも感づいているのか、うんうんと必死に頷いている。 ならば別方向に進路を取るしかない。ますます逆戻りしている現実に辟易しかけたとき、ばさばさと翼を羽ばたかせる音が聞こえた。 文が戻ってきた、と抱きかけた期待は一瞬のうちに打ち砕かれた。 「鼠が二匹か……人間は使えないわね」 羽ばたく音は、悪魔の羽を動かす音だった。 夜空に陣取り、傲岸不遜に見下ろしていたのは、レミリア・スカーレット。 文が引きつけてくれているはずの悪魔の姿に、なぜと思うよりも恐ろしい想像が浮かんでいた。 やられたのか。妖怪の山では指折りの強さを誇るはずの天狗が、こうもあっさりと。 「……いい顔ね。そう、お前達はそういう顔でなくてはね」 絶句している自分達の姿を眺めて、レミリアは皮相な笑みを浮かべていた。 恐怖で引き攣った顔になっていると理解して、にとりは必死に悪い想像を振り払って叫ぶ。 「あ、文はどうしたんだ!」 「天狗なら片付けたわ」 さらりと言い放った、その一言こそが真実であることをにとりに伝えていた。 嘘だ、と言う気すら起こらず、かくんと膝を落とす。 絶望の証明と受け取ったレミリアは哄笑を交えながら、するりと地面に降り立ちにとりの目の前まで歩を進める。 上品を装いながらも、自らの優位を恥じない物腰だったが、反感すら持つことができずにいた。 にとりを、サニーミルクを包んでいたのは支配者の空気。服従を強いる傲慢を纏った空気だった。 「ふん、お前らは尻尾を巻いて逃げ出したか。所詮はその程度、話にもならない」 「ち、ちが」 「自分が助かりたかっただけなんだろう? もう一匹を差し出して。 そこの妖精も、あれだけ大口を叩いておいて結局は我が身可愛さか」 「そんなんじゃない! レティは私達をかばって……!」 「結果が全てだ。現にお前達は逃げ出しているじゃないの。逃げろといわれて逃げるのは弱者の理屈だ」 サニーミルクの反論もあっさり打ちのめされ、にとり達は返す言葉がなかった。 そうだ。どんな理由があるにしろ、逃げたという事実には何ら変わりはない。 後ろめたいと思うなら戻ればよかったのだし、あれこれ理屈をつけて自分の行為を正当化しようとするのは自分が狡いことの証明ではないのか。 自分さえ良ければいい――サニーミルクの言葉がそのまま返ってきたように思われ、にとりは心を突かれた気分になった。 サニーミルクもサニーミルクで、自分がやっていることも妖怪と同じだという実感に悔しさを感じていた。 口論でも勝利を収めたレミリアは満足そうに胸を張り、ふんと鼻息を漏らした。 「そうさ、誰だって死にたくはない。死んでしまえば何もできなくなる。それは敗者だ」 自らの論理を認めたと断じて疑わないレミリアが、次の演説に移っていた。 「誰だって負けたくもない。馬鹿にされるのは嫌だ。当然だ。後に待っているのは惨めな余生なのだからね。 ――だから、貴様らにももう一度だけ機会を与えてやる。ここは逃げるがいいわ。武器を持たせる猶予くらいはくれてやる」 「に、逃がすって言うの……?」 「別に貴様らなどいつでも殺せる。でも少しくらい希望は与えてやらないと、ね? そうしないと殺し甲斐がない」 困惑するにとりを他所に、レミリアは悠々と言葉を続ける。 今この場で抵抗されるなどとは微塵も感じていない様子だった。 「そんな絶望くらいで死なれては困るのよ。お前らのような弱者には、もっと強い恐怖を抱いて死んでくれないと。 私が聞きたいのは、いやだ、いやだ、死にたくない――そういう絶望なの。あのクソ天狗も黙るくらいのね」 ゾクリとした悪寒をにとりは感じた。 他者を支配するばかりではない。殺戮を楽しみ、意に沿わぬ者には極限までの絶望を味わわせる。 それこそがレミリアのとっての恐怖なのだろうとにとりは本能的に感じていた。 恐怖であるから、それを意のままに操り、実践してみせることこそが『自らが恐怖になる』というのに違いなかった。 恐ろしい、と思った。レミリアの行う恐怖を目の前にして、従わないものがいないはずがない。 だから十六夜咲夜は従っていた。恐怖から逃れるために、彼女もまたレミリアと化す道を選んだ。 絶対の支配者からは逃れられないことを知り、支配される一方で自らもまた支配を行うようになった。 そうしてレミリアの恐怖は広がる。瞬く間に感情から伝播し、幻想郷をも覆いつくす巨大な存在となる。 抵抗したところで、その頂点たるレミリアに敵うはずもない。屈服させられ、哀れな犠牲者となるだけなのだ。 ――でも、なら、どうしてレミリアは紅魔館という居を構え、多くの住人と共に暮らしていたのだ? レミリアの恐怖に触れる一方で、彼女本人のことを考えられる猶予があったにとりは、ふとそのことに疑問を抱いていた。 他者を支配し、何もいらないと言っておきながら仲間とも言える存在を傍に置いておいたのはなぜだ? 門番。魔女。メイド。いずれも彼女にとっては取るに足らない存在であるのに、彼女の論理を信ずるならば不要でしかないはずなのに。 いや、今だって十六夜咲夜を側に置いている。支配者として命令するだけの立場になりながらも、 それでも彼女にはレミリア本人の言う絶望を与えていないように思える。 「先の無礼は非を詫びれば許してあげるわ。這い蹲って、ごめんなさいとでも言えば――」 「あなた、怖いんだ。仲間をこれ以上失うのが」 王の口調で続けていたレミリアを遮って、にとりは静かに声を発していた。 恐怖を拭い去れたわけではなかった。今この瞬間にも殺されてしまうかもしれないと感じながらも、 気付いてしまった一つの事実が、レミリアを『支配者』から『哀しい支配者』という印象に変えてしまっていたからだった。 咎めることもなければ、反論すらせず絶句していたレミリアへ、にとりはさらに言葉を続ける。 「もう誰もいらないなんて言うのも、関わってから失くしてしまうのが怖いんだ。 サニーの言うように、誰かと一緒にいるのだって信じられない。咲夜のような身内以外は。 本当は一人は嫌なはずなのに、恐怖で何も信じられなくなった哀しい奴なんだ」 「……お前」 顔を引き攣らせ、よろと一歩後ろに下がったレミリアは、その瞬間幽霊でも見たような表情になっていた。 しかしそれもほんの僅かな間だけのことで、すぐに怒りの感情へと変貌させ激昂したレミリアは、 手に持っていた剣を乱暴に振りかざした。 「貴様が、私を語るなっ!」 最速の剣戟と言ってもいい、見えないくらいの一撃ではあったが、いささか単調に過ぎる攻撃でしかなかった。 咄嗟にサニーミルクを突き飛ばし、にとりもまた前のめりに転がってレミリアの斬撃を避ける。 すぐさま反転して第二撃を打ち込んできたが、感情に任せただけの攻撃はにとりにも読み切ることができる。 突進しての突きをひらりと回避して、にとりは上空へと飛翔して逃げる。 また、逃げている。弱者の逃走であり、言い訳にもならない逃走。 けれど、今度は迷いはなかった。なにをすればいいのかが、一つだが分かったからだ。 恐怖を少しでも否定できる心を持つことだ。 助からないかもしれない。今はどうにもならないかもしれない。 だがそこで足を止めてしまっては可能性すらなくなってしまう。 レミリアがそうなったように、望むことすら望めず、他のものに自分を委託する生を送るようになってしまう。 自分が自分でなくなる。そんなの、一番哀しいことだってレミリアも分かっているだろうに……! 「ちょこまかと……! 私を愚弄するなら、バラバラに切り刻んで天狗の前に突き出してやる!」 弾幕を撃つことも忘れ、ひたすら突進しては斬撃を繰り返すレミリアから器用に避けながら、 にとりは湖の方角へと移動していた。頭に血が上りきっているらしいレミリアはそのことにも気付いていない。 「頭に来てるんだろ! 図星なんだろ! 本当のことだって分かってるんなら、子供みたいに意地を張るのはやめろよ!」 「違う! 貴様に、私の感じているものが分かってたまるか! 吸血鬼が屈辱を受けることが、どんなことかも分からない貴様には……!」 「分からないよ! 私はあんたじゃない! でもこれだけ言ってやる! お前も妖怪なら怖いのを否定できる勇気くらい持てっ!」 「逃げ出した河童風情が私に説教するな! 忌々しい……貴様も四季映姫の同類だ!」 狂気を孕みつつある視線に震えそうになりながらも、にとりは必死で体を動かしていた。 怒りから思わず発されたのだろう、天狗の前に突き出すという言葉がにとりに一筋の光を見せていた。 文は生きている。レミリアに敗北しながらも、きっと逃げ延びて再起の機会を窺っている。 自分達を見捨ててどこかに行ってしまったという可能性もないではなかった。所詮は口約束。保障なんてどこにもない。 それでも、文は仲間だという自信がにとりの中にあった。身を挺してサニーミルクを守ってくれた文は、 レミリアの論理なんかに縛られずに助けに来てくれる。 ようやく、目が覚めただけのことですよと不敵に笑いながら言った文は、 かつて自分達河童を仲間と認め、手を取ってくれていた頃の頼もしさがあった。 だからその時まで、精一杯に抵抗してみせる。 頃合だと見計らったにとりはレミリアの方角へと向き直り、両腕を真っ直ぐ天へと突き上げる。 同時、レミリアの足元からそれまでのにとりの攻撃とは比較にならない、水の瀑布が押し寄せる。 洪水『ウーズフラッティング』と呼称される、水の直線射撃型弾幕である。 真下は湖。にとりの『水を操る程度の能力』により大幅に威力を増強された『ウーズフラッティング』がレミリアの行く手を遮る。 「吸血鬼は流水が苦手なんだったね! これが抜けられる!?」 元々当てることは狙っていない。水による壁を作り時間稼ぎをすることがにとりの目的だった。 次々と迫る瀑布の壁に、さしものレミリアも怯み、後退を始める。 が、そのまま優位に事を運べるほど目の前の吸血鬼は生易しい相手ではなかった。 「たかが水ごときで私が止められるか!」 剣戟を封じられたレミリアは剣を持っていない方の手に魔力を集中させ、手裏剣のような弾幕を生成し始めた。 『スティグマナイザー』と呼ばれるその弾幕は、射撃を切り裂きつつ相手を追尾する、非常に強度の高い弾幕だった。 レミリアの手から離れた『スティグマナイザー』が弧を描きながら瀑布を突き抜けてにとりに迫る。 レティから譲り受けた氷のトライデントで咄嗟に弾き返そうとしたが、吸血鬼の弾幕に太刀打ちできるものではなかった。 一発目は力を一杯に振り絞って叩き落すことに成功したが、 直後瀑布を突き抜けてきた二発目の『スティグマナイザー』をどうこうできる余裕は既に失われていた。 強力な圧に押し切られ、氷のトライデントがバラバラに砕け散る。 さらにその衝撃でにとりも吹き飛ばされ、水の防壁外へと飛び出してしまっていた。 その様を発見したレミリアが、全身の毛もそそけ立つような凄惨な笑みを浮かべる。 望みどおり、バラバラにしてやる。口にこそ出していなかったが、レミリアの全身から立ち上る殺気がそう伝えていた。 もう一度水の弾幕を張ろうにも、この安定しない姿勢では弾幕の撃ちようがなかった。 「まずは腕から毟り取ってやる――」 剣を突き出したレミリアに、ここまでか? と弱気が囁きかけた、その時だった。 ふわりと風に乗ってにとりの目の前に流れてきたのは、真っ黒な鳥の羽だった。 この色と形を、自分は知っている。 お調子者で、自信家で、けれどもどこか律儀で頼りになる仲間の…… 「上……取りましたよ!」 「な……天狗!?」 レミリアが気付き、そちらへと振り向いた時にはもう遅かった。 真っ直ぐに天狗の高下駄で踏みつけるように急降下していたのは、射命丸文だった。 背中に突き刺すようにして、文の足元から強大な風が巻き起こる。 「『天狗のマクロバースト』ッ!」 一点に風を収縮させ、圧縮したエネルギーを爆発させる『天狗のマクロバースト』はにとりの知る限り天狗の中でも最大級の威力を誇る技である。 射程が極短く、加えて高低差を利用して突進しなければならないため、普段ならば吸血鬼クラスの相手に当たるはずもない技だったが、 にとりにのみ意識を向けていたレミリアが、不意を突かれたとはいえ避けられる道理はない。 背中に天狗の全力を受けたレミリアが、きりもみ回転を起こしながら湖へと急落下し、落ちた水面から盛大な水柱を吹き上げた。 文句なしの直撃と言ってよかった。加えて落ちた先は吸血鬼の苦手とする水の中である。 無傷では済まないどころか決定打になったという理解がにとりの中に染み込み、空中で静止している文に「文ーっ!」と弾けた体で飛び込んでいた。 「ぐえっ!? ちょ、ちょっと……こちとらアバラ折れてるんで……」 「え、そうなの? だ、大丈夫?」 「ま、まあ……正直、もう限界です」 珍しい弱音だと思ったが、一度はレミリアに敗北したというのだから当然の怪我なのかもしれなかった。 加えて全力の『天狗のマクロバースト』を撃ったのだから疲弊度は考える以上に高いのだろうとにとりは思った。 そういえば、妙に息切れもしているし腹部を押さえている。これは本格的にまずいかもしれないと考え、肩を貸してやろうかと尋ねる。 プライドの高い天狗ゆえ受けてくれるかどうか心配だったが、案外あっさりと文は頷いてくれた。 「必要なときくらい力は借りますよ……同じお山のよしみもありますしね」 「……仲間、だろ?」 わざと口に出さないのを察して、そう言ってみると文はふんとそっぽを向いた。 やっぱり、仲間だと思ってくれているんだ。嬉しい理解がにとりの中で広がる。 後はサニーミルクを見つけて、出来るならばレティも回収して、どこか休める場所を探そう。 頭の中で方針を組み立て、文の肩に手を回しかけたとき、ヒュッと空を切る鋭い音がしていた。 「え?」 文の足に、鎖が巻き付いていた。 どこか怪しい輝きを放つ、赤錆びた鎖だった。 これは何だと考える暇はにとりには与えられなかった。 鎖にぐいと引っ張られ、文が水面へと急降下してゆく。 鎖の伸びる先、水面の下に、怒りに燃える真紅の瞳があった。 「……おい、嘘、だろ」 文を搦め取り、水中へと引きずり込んでいたのは、先ほど撃ち落としたはずのレミリア・スカーレットだった。 * * * 水底で最初に文が捉えたものは、この世の全てを憎む瞳だった。 自らの論理を否定されかけ、それに対して怒り狂っている子供の瞳だ。 「仲間……そんなもので私が倒せるか! そんなので、そんなもので!」 吸血鬼だからなのだろう、水中において尚、レミリアの放つ声を文は完全に聞き取っていた。 逃れようと必死にもがく文だったが、体力の尽きかけた体ではレミリアの放った魔力の鎖、『チェーンギャング』を壊すこともできない。 加えて水中では息が持たない。このままでは溺死を待つほかなかったが、抵抗する術がなかった。 ごぼごぼと気泡を吐き出すだけの文を見て、レミリアが嘲笑う。 「吸血鬼が水に落ちたくらいで死ぬわけがないだろう。流れのない湖など、私にとっては水溜りに過ぎない」 流水ではなかったことが、圧倒的な力で文をねじ伏せていられる道理だった。 息苦しくなり、顔を歪ませる文を見ながら、レミリアは「そうだ、もっと苦しめ」と手に持った剣を光らせてサディスティックな声を出す。 「あがけ。もがけ。そして絶望に死ね。私の恐怖の前に貴様らの力など無力だということを分からせてやる! 次はあの忌々しい河童だ。妖精の前で惨たらしく虐めて、最後は妖精に殺させてやる。私に逆らうとどうなるかを思い知らせてやる……!」 間違いなく、この吸血鬼ならやってのけるだろうと文は思った。 仲間の存在を否定するために、仲間の力が恐怖よりも劣ると証明するためなら、この吸血鬼はどんな非道なことだって行う。 させてなるものか、と朦朧とする意識で、しかし確かに文はそう思っていた。 自分の我が侭のために、他者の歩みすら阻害しようとする、この吸血鬼を放ってはおけない。 そんな奴の思い通りにさせてしまうことも、たまらなく悔しい。 せめて弾幕の一発でも放ってやりたかったが、精魂尽き果てたこの体では―― 体の中に残っていた気泡という気泡が漏れ、苦しさを通り越して倦怠感すら生まれてくる。 指先を動かすことすら億劫になり、目を閉じようとした文の視界に、見慣れた耐水服と帽子を着込んだ、 短いツーテールが特徴の河童が見えた。 ……にとり? 水中だからなのか、にとりと思われる妖怪の全貌ははっきりとしない。 しかしそれでも、文はにとりが勇ましい顔で「今度は私が助ける番だ」と喋るのを捉えていた。 馬鹿。逃げなさいよ。せっかくこの私が体を張って助けてやったというのに。 言葉は言葉にならず、水に溶けて消え、届かない。 おぼろげな意識の中、文は思いを伝えられないことをひどく悔しく感じた。 違う。私が本当に言いたいことはそうじゃない。 同じ山の仲間を裏切ろうとしていた私が恥ずかしい。 妖精に指摘されるまで責任の文字を履き違えていた私が恥ずかしい。 この期に及んで慢心し、レミリアに反撃を許してしまったことが恥ずかしい。 あまりにも不甲斐なく、そんな自分をまだ認められないと思っているのが、一番恥ずかしい。 いつしか余裕を傲岸に変えてしまっていた私は、幻想郷には不要なものなのかもしれない。 所詮はレミリアの同類だった妖怪。正しい存在に戻ろうとしたところで、既に遅かったのかもしれない。 でも……それでも、私はにとりが来てくれたのが嬉しかった。 私を仲間と認め、助けてくれるのを嬉しく感じてしまった。 だから、本当に伝えるべき言葉は、「ありがとう」という単語ひとつのはずだったのに…… 「……っ、が、あああああっ!」 レミリアが苦しげに悲鳴を上げ、文を縛っていた鎖をするりと手放す。 『チェーンギャング』が離れると同時に、虚脱状態にあるはずの体がするすると動いてゆく。 流されていると理解したのは、ひどく優しげな笑顔を浮かべていたにとりを見てしまったからだった。 水を操る能力で流水を起こし、レミリアにダメージを与えている。 『天狗のマクロバースト』でさえ致命傷とならなかった以上、吸血鬼の弱点を突くというにとりの発想は正しかった。 だが、それでトドメを刺せることはない。それほどまでに吸血鬼とは強大な存在だった。 レミリアの血走った目がにとりを向く。やめろと文が思ったのと同時、 とても水中にいるとは思えないスピードでにとりの懐にレミリアが飛び込んでいた。 「私を馬鹿にして……! 河童風情が! 消えろ!」 横薙ぎに払った剣が、にとりの胴体を一刀両断にしていた。 二つに分かたれた体が、水の中に血の華を咲かせた。 それでも流水は止まらない。体が流され、レミリアの憎悪に満ちた顔も、にとりの優しい笑顔も遠のいてゆく。 薄れゆく意識の中、文は必死に手を伸ばそうとした。 いなくなってしまう。自分の中に生まれた、仲間を思う気持ちすら伝えられずに―― 水中であったがゆえに、その時文は自らが流した涙の存在にすら気付くことはなかった。 後悔が意識を押し包み、そこで文の意識は途絶えた。 * * * 片目を失ってしまったのは予想以上の被害だった。 安定しない視界の中、十六夜咲夜は霧の湖まで歩いてきていた。 河城にとりと妖精が逃走した方角はここだったはず。記憶力には自信のあった咲夜は、迷うことなく湖へと辿り着いていた。 夜間であるので、真っ黒になった左半分の視界を除けば見晴らしは良い。 探せばすぐ見つかるはずだと断じて探索に乗り出そうとした瞬間、ざばりと淵から何者かがよじ登ってくるのが見えた。 「……お嬢様?」 「咲夜か」 妙に血走った目をしており、傍目にも尋常の事態ではないと想像をつかせる。 ずぶ濡れになったまま暗色のコートを着込む姿はどこかしら冷え冷えとしたものも纏っているのもそう思わせた一因だった。 「あの忌々しい河童め……何度殺しても飽き足りない」 そう言い捨てると、レミリアはぶんと地面に球状のものを投げ捨てていた。 ごろんごろんと転がり、やがて小さな岩にぶつかって静止したそれは、河童の生首だった。 ただ切り取られただけではなく、顔全体をズタズタにされた様子は見るに耐えず、また何があったのか聞く気も失せさせていた。 それどころか、河童の生首はレミリアの恐怖の顕現とさえ思え、 レティ・ホワイトロックを討ち取ったという報告さえ忘れさせるほどに咲夜を怯えさせた。 自分も見捨てられれば、ああなってしまう。何も残さないまま、無為な時間をさまよい続ける…… 「怖いか?」 表情には出さないつもりでいたが、レミリアにはお見通しだったようだ。 は、と震える声で正直に告げると、少しは腹立ちが紛れたらしいレミリアが「それでいい」と歪んだ笑いを寄越していた。 「仲間だの、信頼だの……結局は私に負けている。クズの言い訳など私は聞きたくない」 それきりにとりに対する興味も失ったらしいレミリアは、もうそちらの方角を向くこともなかった。 「咲夜。他のクズどもはどうした」 「は……レティ・ホワイトロックを討ち取りましたが……」 「天狗と妖精は逃がしたか……まあいいわ。あいつらだけは私が絶対に殺す。たっぷりと絶望を味わわせてね」 「では、天狗と妖精を追跡する、ということでしょうか」 「そうね……そういえば咲夜、随分と手こずったようね」 閉じた片目を眺めながら、レミリアが近寄ってくる。 不覚を取ったことを不甲斐ないと吐き捨てられるかと思い、身を震わせた咲夜だったが、 思いの外優しくレミリアの指が頬を撫でていた。 「だが、お前は勝った。たった一人で、屈せずに支配した。そこは評価してやってもいいわ」 「あ……は、はい」 「私に支配される者だけが、勝利を得る。ねえ、咲夜?」 頬を撫でるレミリアに、狂喜の感情と、畏怖の感情が渾然一体となり、咲夜は歪んだ笑みを浮かべていた。 壊れていながらも敬愛する『お嬢様』が、そこにいるような気がしていたからだった。 * * * 「う……」 「あ……目、覚めたんだ……」 湖のほとり。紅魔館にほど近いそこで、私は射命丸文が目を覚ますのを待っていた。 にとりに突き飛ばされ、しばらく呆然としている間に、戦闘は終わっていた。 文がレミリアを湖に突き落としたかと思えば、そこからレミリアが反撃し、 助けようとしたにとりが後を追い、そして死んでいった。 流されてゆく文を追って、私は湖を迂回してレミリアに見つからないように移動していた。 その間、とても恐ろしい音が聞こえていた。 聞くのも辛くなるような罵詈雑言を飛ばし、なにかを壊していたレミリア。 確認するのも怖くて、私は耳を塞ぎながら必死に移動していた。 そして文を見つけた後は湖から引き上げ、レミリアにも見つからない場所まで運んできた。 レティは戻ってこない。にとりも戻ってこない。怖くて、寂しくて、私は泣きながら文が目覚めるのを祈っていたのだった。 「私……無様ですね……」 ぼんやりとした表情で、文はそう言う。その目頭には涙が溜まっていた。 すごく悔しかったのだろう。天狗はプライドが高い。レミリアにいいようにされたのだから、気持ちは分からなくもない。 「……そんな風に思える天狗が羨ましいよ。私なんて、こわくて、何もできなかった……」 「真っ先にケンカを売ったのはあなたでしょうに」 苦笑交じりに、涙を拭ってくれる。こんなに優しかっただろうか? レミリアと出会う前までの、冷淡にしか思えなかった文の表情は安らかだった。 「私も、それに釣られて……戦って……負けて、何も守れなかった……私でも仲間だって認めてくれた、にとりも……」 「文……?」 プライドの高い、高慢ちきな天狗の姿はそこにはなかった。 ただ友達のことだけを思って、思いに応えられなかった悔しさだけを滲ませる、本当の『射命丸文』を見たような気がしていた。 「罰なんでしょうかね、これは……今まで役目役目で、自分の生活さえ守れればいいなんて考えていた妖怪のツケ……」 「だったら、なんで泣いてるのよ」 「え?」 手を伸ばし、目元を拭って涙を見せてやると、文は信じられないというように絶句していた。 そのまま何も言わない文に、私は感じたことを言っていた。 「あんたがどんな生活してきたのかわかんないけどさ……文は、そこまで冷たい妖怪じゃないって、私思うよ。 そんな風に泣く奴はいい奴なんだって、私でも知ってる」 「……私は」 何かを言いかけて、文はそれきり口を噤んで、泣いた。 あの天狗がここまでぽろぽろ泣く姿なんて、私は見たこともなかった。 自信家で、他人を馬鹿にして、意地悪だとばかり思っていた天狗が、こんな顔をする。 だったら、妖怪っていうのはもっともっと、私達が知らない側面を持っているのかもしれない。 そして文の感情を引き出させたにとりがすごいように思えて……だからこそ、とても寂しくなった。 にとりの存在を、こうも簡単に奪ってしまう幻想郷がとっても悲しかったからで…… 私も、いっぱい泣いていた。 【C-2 湖のほとり 一日目 夜中】 【射命丸文】 [状態]瀕死(骨折複数、内臓損傷) 、疲労大 [装備]胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ、折れた短刀、サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有) [道具]支給品一式、小銭たくさん、さまざまな本 [思考・状況]基本方針:自分勝手なだけの妖怪にはならない 1.仲間を守れなかった…… 2.私死なないかな? 3.皆が楽しくいられる幻想郷に帰る 【C-3 湖近辺 一日目 夜中】 【十六夜咲夜】 [状態]腹部に刺創、左目失明 [装備]NRS ナイフ型消音拳銃(0/1)個人用暗視装置JGVS-V8 [道具]支給品一式*5、出店で蒐集した物、フラッシュバン(残り1個)、死神の鎌 NRSナイフ型消音拳銃予備弾薬16 食事用ナイフ(*4)・フォーク(*5) ペンチ 白い携帯電話 5.56mm NATO弾(100発) [思考・状況]お嬢様に従っていればいい [行動方針] 1.このケイタイはどうやって使うの? ※出店で蒐集した物の中に、刃物や特殊な効果がある道具などはない。 ※食事用ナイフ・フォークは愛用銀ナイフの様な切断用には使えません、思い切り投げれば刺さる可能性は有 ※レティの支給品は死体とともに放置されています。 【レミリア・スカーレット】 [状態]背中に鈍痛、軽い疲労 [装備]霧雨の剣、戦闘雨具 [道具]支給品一式、キスメの遺体 (損傷あり) [思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。最終的に城を落とす 1.文とサニーを存分に嬲り殺す 2.キスメの桶を探す 3.映姫・リリカの両名を最終的に、踏み躙って殺害する 4.咲夜は、道具だ ※名簿を確認していません ※霧雨の剣による天下統一は封印されています。 【レティ・ホワイトロック 死亡】 【河城にとり 死亡】 【残り18人】 160 行き止まりの絶望(前編) 時系列順 163 消えた歴史 160 行き止まりの絶望(前編) 投下順 161 最後の審判 160 行き止まりの絶望(前編) 射命丸文 162 KIA pictures 160 行き止まりの絶望(前編) レミリア・スカーレット 169 原点回帰 160 行き止まりの絶望(前編) レティ・ホワイトロック 死亡 160 行き止まりの絶望(前編) 河城にとり 死亡 160 行き止まりの絶望(前編) 十六夜咲夜 169 原点回帰
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東の方角からゆっくりと光が射し始める。 夜明けの時刻が訪れたのだ。 木々の間から覗く藍色の空は徐々に澄んだ蒼へと染め上げられていく。 広大な空の遥か彼方―――――月の上では決して目にする事の出来ない情景。 下賎な地上の民に不相応な程に美しい。 しかし、そんな光景を眺めている暇は今の彼女にはない。 ――――――おはよう、参加者の諸君。荒木飛呂彦だ。 このゲームにおける最初の放送が始まりを告げていたからだ。 (18人…まぁ、そこそこのペースかしら) C-5、魔法の森。 樹木の幹に腰掛ける『八意永琳』はひとまず輝夜達の名が呼ばれていないことに胸を撫で下ろす。 当然のことだが、この場において知り合いと呼べる人物は殆どいない。 故に放送読み上げられる名も知らないものばかりだが、シュトロハイムから聞いたシーザー、スピードワゴンの名は耳に入った。 老人であるスピードワゴンはともかく、柱の男とやらに対抗する術を持つというシーザーが脱落したのは少々痛手か? 否、ゲーム開始からたったの6時間で命を落とした人物だ。 その時点で実力の程度はたかが知れているだろう。 (それにしても、今の「放送」…機材の類いは一切使っていないようね。 まるで頭の中でテレパシーの様にはっきりと聞こえてきた。 奴らはどうやって放送を私達に伝えた?…そもそも、私達の生死を把握する手段は一体?) 先の放送でも伝えられた様に、主催者は参加者一人一人の生存状況を正確に把握している。 ゲームを促進させる為に流した虚偽の死亡者情報である可能性も考慮したが、その見込みは薄いだろう。 このゲームの会場は6×6km2。そこに90名もの参加者が放り込まれている。 他の参加者との遭遇する可能性が高い以上、死亡者の発表で安易な嘘を流した所ですぐに暴かれる危険性があるのだ。 故に先程の放送の内容は概ね事実であると判断した。 とはいえ、参加者の生死を確認する方法も私達に放送を伝えている手段も不明のままだ。 謎は未だに幾つも残っている―――― 「………」 思考を重ねていた最中、永琳があさっての方向へと目を向ける。 直後に雑草を踏み頻る足音が断続的に耳に入ってくる。 誰かがこちらへと少しずつ接近してきているのだ。 永琳は手早く名簿と地図をしまい、その場から立ち上がる。 最低限の警戒を払いつつ足音が聞こえる方向を見た。 ゆらり、ゆらりと木々の陰から姿を現す人影。 木漏れ日が射し、その姿がはっきりと見えてくる。 右手に拳銃を握り締めた白髪の男だ。 「……………」 男はうんざりしているかの様に眉を顰めつつも視線を向けている。 口を閉ざたまま永琳を真っ直ぐ見据えてくる。 どこか見覚えがある。 そう思って永琳は記憶を遡り、すぐにそのことを思い出した。 (確か姫海棠はたての記事で…) 『花果子念報メールマガジン』の第一号にこの男の写真が載っていた。 B-4で発生したガンマン同士の決闘、うち片方が敗北し射殺されたという記事。 命の遣り取りをもスクープにしてしまう辺り、地上の民が如何に穢れているかが見て取れる。 ともあれ、現状の問題は目の前の男だ。 あの記事に書かれていたことが真実であるのなら。 (あの記事が真実なら、この男はスデに他の参加者を殺しているということになる) 永琳は思う。正々堂々とした決闘―――そう評すれば聞こえはいい。 しかし、その本質は殺し合いと何ら変わりない。 この男も殺人者に過ぎないのだ。 問題は『乗っているかどうか』。 もう片方の男が戦いを挑み、返り討ちに会ったのか。 もしくはこの男から決闘を仕掛けて相手を殺害したのか。 この男が抱える殺意の方向性を、殺し合いへのスタンスを見極めなければならない。 そうして永琳が思考を重ねている最中でも男は無言を貫き、彼女をじっと見つめていた。 暫しの沈黙の後、男が話を切り出す。 「質問をさせてもらう。金髪金眼の赤い服を着た少女を探している」 「生憎だけど、知らないわ」 永琳はきっぱりと答えた。 事実、そのような人物のことは知らない。 知っているのは永遠亭の面々と藤原妹紅、あとはこの場で出会っているシュトロハイムくらいのものだ。 「金髪金眼の赤い服を着た少女」という特徴はシュトロハイムから聞いた波紋戦士らの情報とも一致しない。 「その子はあなたの知り合い?」 「俺がこの手で決着を付けなければならない『敵』だ」 男は淡々とそう語る。 表情は落ち着き払ったポーカーフェイスのままだ。 しかしその言葉からは微かに『憤怒』と『殺意』が滲み出てる。 本人は冷静を装ってるつもりなのかもしれないが、最早それを隠し切れていない。 その少女と一体どのような因縁があるのか、知る由もない。 ただ一つ解ることと言えば、その少女が男の逆鱗に触れるような行為をしたということだけだ。 そう、この男に殺意を抱かせる程の行為を。 故に永琳は問いを投げかけた。 「…殺すつもりなのね」 「そうだ」 男はきっぱりと返答する。 何の躊躇も無く、いとも容易く己の殺意を肯定した。 それを隠し切れていないのではなく、隠すつもりさえ無かったらしい。 やはりゲームに乗っているのか。或は殺人に対して一切の抵抗を感じない人種か。 「俺の目的はただ一つ、公正なる果たし合いだ。 純然たる殺意による『男の価値観』、卑しさの無い正々堂々とした『決闘』こそが俺を精神的に生長させてくれる。 あの小娘はそれを踏み躙り、決闘者であるグイード・ミスタの不意を討った」 直後、饒舌な口調で男は語り出した。 その言葉の端々から滲み出るのは『熱意』。 己の信念を貫かんとする『意志』。 それらは先程までの冷静沈着な男の様子からは見られなかったものだ。 「故に俺は決着を付けなければならない。 男の世界を侮辱した愚者をこの手で仕留めなくてはならない」 そして、男は一息置き。 「それが俺にとっての『納得』だ」 自らの信念に殉じ、己の道を進み続けるべく。 踏み躙られた誇りを取り戻し、自らの手でけじめを着けるべく。 男は、少女に挑むことを宣言する。 それは命を課してでも貫かなければならない矜持。 己に取っての『納得』を得る為の行動。 その眼に迷いは無い。 彼の瞳に宿るのは『漆黒の殺意』。 それは軟弱な価値観では踏み入ることの出来ない――――『男の世界』。 そんな男を永琳は何も言わずに見据え続けていた。 月人の灰色の瞳は、漆黒の焔を宿す瞳と相対し続ける。 彼女は何も口に出さない。男もまた、沈黙を貫く。 暫しの睨み合いが続いた後、男が再び口を開いた。 「いい眼差しをしているな」 「あら、褒めてくれてるのかしら?」 「先程の小娘は期待外れだったが、お前は楽しめそうだ」 淡々と、しかしどこか期待しているかのような口振りで男は呟き出す。 軽口を適当に受け流された永琳はほんの少し不服な心境になるが、然程気にすることも無く冷静な態度で男を見据える。 少しの間を置いて、男はその肩に『精神力のエネルギー』を纏わせながら言葉を紡ぎ出す。 「名乗らせて頂こう。俺はリンゴォ・ロードアゲイン。 スタンド名は『マンダム』…能力は『時を6秒間巻き戻すこと』。 これから使う武器はこの一八七四年製コルト一丁。 …俺の手の内は以上だ。お前に決闘を申し込ませて貰う」 リンゴォ・ロードアゲイン―――――――そう名乗った男の右肩に、突如奇妙な物体が出現する。 それは蛸の様な姿をした異様極まりない存在。 無数のワイヤーがリンゴォの肩と腕に捩じ込まれているかの様に絡み付いている。 永琳は唐突にリンゴォの肩に出現した物体を見て心中で僅かながら驚愕する。 (『スタンド』……?) リンゴォが口にしたのは聞き慣れぬ概念。 時を6秒巻き戻す能力を持つという『スタンド』。 時間遡行となると、永遠と須臾という『時』を操る能力を持つ輝夜にも行えない芸当だ。 幻想郷にも数多くの異能力者が存在するとは聞いているし、強大な能力を持つ月の民も珍しくはない。 しかし、あのスタンドなる存在は自分の知識の範疇に無い全く未知のものだ。 まるで傍に立つ守護霊のような―――――思えば、メールマガジン第二号で掲載されていた長身の女にも守護霊のような存在が憑いていた。 あれも『スタンド』だというのだろうか。スタンドを持つ者はこの会場に何人もいるというのか。 兎に角リンゴォは何の躊躇も無く自らの能力を明かしたのだ。 そう、永琳に決闘を申し込むべく。 「…自分から手の内を明かすというのね」 「『公正さ』こそが掟であり、掟こそ力“パワー”だ。故に俺は全ての手の内を明かす」 「成る程、見上げたものね。それで…私に決闘を?」 「そうだ。お前の『眼』から力を感じた。 例え何があろうと自らの意思を貫き通す『漆黒の意志』を見たのだ。 …先程の小娘は腑抜けだったが、お前ならば期待が出来そうだと…そう思ったが故、決闘を申し込ませてもらった」 自らの手の内を明かし、正々堂々と決闘を行う。 ある意味では幻想郷におけるスペルカードルールと似ているとも言える。 しかし、リンゴォの瞳に宿る信念は寧ろ幻想郷の在り方と真っ向から反するものだ。 永琳はそれに薄々感付いていた。 「…では、私もそうさせて貰うとしましょうか。 名は八意永琳。能力は…そうね、『あらゆる薬を作ること』と『不老不死』。 そしてもう一つ、霊力を弾丸やレーザーに変換して放つ…謂わば『弾幕』」 ほんの少しの間を置き、永琳もまた淡々と自らの手の内を晒す。 ほう、と感心した様にリンゴォは彼女を真っ直ぐ見据える。 やはり自分の見込んだ通りだったか。 この女の眼からは確かな素質を感じた。 受け身の態度を貫く『対応者』ではなく、一人の『決闘者』としての意志。 目的の為に殺意を以て立ち向かうことの出来る信念。 故に彼は期待を胸に抱いていた。 「…感謝する」 「何、貴方に付き合ってあげるだけよ。それより…もう始めるんでしょう?」 「ああ、そのつもりさ」 フッと僅かながら口元に笑みを浮かべるリンゴォ。 対する永琳は無表情のまま右手を腰に当て、身構えることも無く立ち尽くしている。 その姿からは余裕さえ感じられる程だ。 そんな永琳の態度を気に留めることも無く、リンゴォは両足を揃えて姿勢を正す。 互い睨み合うかの如く二人は視線を交わす。 暫しの静寂が場を支配する。 そして、沈黙を裂く様に二人が口を開いた。 「「――――よろしくお願い致します」」 頭を下げて一礼を行った直後、リンゴォが瞬時に動き出した。 銃を構える。 撃鉄を倒す。 引き金に指をかける。 そして、弾丸を放つ。 一瞬の動作で行われた早撃ち。 ガンマンとしての優れた技量によって為される技。 銃口より発射された黒鉄の咆哮は、凄まじいスピードで宙を裂いていく。 そのまま放たれた弾丸は風を切りながら永琳の眼前まで迫る―――――― 「…へぇ」 迫り来る弾丸を見据える永琳の口元は、不敵に笑っていた。 片手で顔の左半分を押さえながら永琳の身体が仰け反る。 放たれた弾丸が左目に直撃したのだ。 (何…?) しかし、リンゴォはすぐさま違和感を覚えた。 永琳は何ら抵抗を試みぬまま撃たれたのだ。 銃弾を前にした彼女が取ったのは『首を少し横に傾げた程度』の回避行動。 脳の中枢への直撃を避けることはできたが、左目は弾丸によって撃ち貫かれていた。 眼球の半分以上を破壊され、潰れた瞼の奥底からは涙の様に鮮血が流れ落ちている。 一歩間違えば即死を免れなかったであろう。 にも関わらず、彼女は余裕を崩さなかった。 不遜な態度を保ち続けていた。 (躱しきれなかった?―――いや、『躱そうとしなかった』のか!?) リンゴォの脳裏に憶測が浮かぶ。 永琳は避けられなかったのではなく、初めからまともに「避けるつもりがなかった」のではないか。 不死への慢心か――――否、違う。 あれはまるで『自分はお前に殺されない』とでも宣っているかのような余裕だった。 慢心などではなく、確信であるかのような。 汗が頬を流れ落ちる。 そのまま、彼は永琳へと再び眼を向けた―――― ―――残された『右目』が、リンゴォを視る。 ―――虚空のような灰色の瞳が、リンゴォを捉えていた。 その瞬間、リンゴォの背筋に悪寒が走った。 得体の知れない『虚無』が刹那の間だけ彼の心臓を掴んだ。 それは、永琳が反撃する為の『隙』となる。 「スペルカード――――」 左目から血を流しながらも永琳はその右手を正面へと向ける。 何かが来る。それを理解したリンゴォはすぐさま銃の照準を定め、引き金を引こうとしたが。 ――――覚神「神代の記憶」。 「ッ――――!!」 瞬間、突如周囲から無数のレーザーが放たれリンゴォに一斉に襲い掛かる。 リンゴォは咄嗟にその場から後退しそれらを回避。 しかしレーザーは森の樹木の隙間を交い潜り、生命を彷彿とさせる二分木の如く張り巡らされる。 さながら網目状の蜘蛛の巣にも見えるそれらのレーザーは、リンゴォの周囲を取り囲む。 そして間髪入れず、永琳の前方より無数の弾幕が放たれた。 リンゴォは頬から汗を流す。 迫り来るは無数の弾幕。 しかし、避けようにも周囲のレーザーが自らの動きを阻害する。 このままでは、躱し切れない――――! リンゴォの判断は瞬時に行われた。 弾幕が自身に到達する寸前に、彼の指は腕時計の秒針を摘んでいた。 そして、リンゴォは自らの『スタンド能力』を発動する。 「『マンダム』ッ!」 ― ―― ――― ―――― ――――― ――――――時は6秒巻き戻る。 6秒前。それはリンゴォが永琳の頭部を狙って拳銃の引き金を引く直前。 永琳の片目が撃ち抜かれるほんの数瞬前だ。 巻き戻った瞬間、リンゴォは間髪入れずに永琳の急所目掛けて発砲しようとしたが―――― 「今度はこっちの番よ」 それよりも先に永琳の身体が動く。 マンダムが時間を遡行させたと同時に永琳はリンゴォの動作よりも先に駆け出したのだ。 まるで時間を巻き戻すことも予想の範疇だったと言わんばかりに。 そのまま永琳は、風を切るような敏捷性でリンゴォへと接近していくッ! 「くッ――――!」 リンゴォは汗を頬から流し、迫り来る永琳に向けて何度も発砲する。 刹那の早撃ちによって放たれた弾丸のうち一発は永琳の右肩に着弾。 彼女の肩から真紅の鮮血が吹き出す。 ほんの一瞬だけ苦痛の表情を浮かべたが、それでも尚永琳は止まらない。 そのまま残りの弾丸を高い瞬発力によって回避し、リンゴォの懐へと肉薄するッ! 至近距離まで迫った永琳と距離を取るべく、咄嗟に後方へと下がろうとしたリンゴォ。 しかし永琳の方が『一手』早く動いた。 「――――覚神「神代の記憶」」 直後、再び網目状のレーザーが展開。 リンゴォと永琳の周囲がレーザーによって取り囲まれる。 後方へ下がり続けようとしていたリンゴォの動きが止まり、即座に永琳の方へと意識を向ける。 周囲を囲まれ退路を断たれた以上、最早距離を取ることなど出来ない―――! 「マンダ――――」 スタンドを発動すべく、時計の秒針を動かそうとした瞬間。 ぐらりとリンゴォの体勢が大きく崩れる。 再び接近した永琳が瞬時に足払いをし、彼の片足を刈ったのだ。 そのままリンゴォの身体が投げ飛ばされ、勢い良く背中から地面へと叩き付けられた。 衝撃で彼の右手から拳銃が離れ、雑草の上を僅かに跳ねる。 リンゴォは仰向けに倒れながら慌ててそれを回収しようとした。 しかし、それよりも先に永琳がリンゴォの拳銃を足で踏みつける。 そのまま永琳は身を屈めて手早く拳銃を回収。 右手で構えた銃口を仰向けに倒れるリンゴォの頭部へと向けた。 「勝負ありよ、リンゴォ」 灰色の瞳は冷淡に男を見下ろす。 僅か1分足らずの決着だった。 「…俺が最初に引き金を引いた際、お前はまともに避けようとしなかった」 「そういえばそうだったわね」 戦闘を終えた為か、周囲に展開されていたスペルは既に消失している。 仰向けに倒れていたリンゴォが永琳に問いを投げかけた。 既に己の敗北を認めており、抵抗する様子は見せていない。 その顔に浮かべているのは死をも受け入れんとする清々しい表情だ。 「何故だ」 「……………」 「あと少しでも逸れていれば弾丸はお前の脳の中枢を破壊していただろう。 にも拘らず、お前はまともに回避をしようとしなかった。何故だ」 リンゴォの胸中には疑問が浮かんでいた。 何故左目を打ち抜かれた時、まともに避けようともしなかったのか。 ほんの数センチ軌道が逸れていれば即死の可能性もあっただろう。 なのに、どうして永琳は躱そうとしなかったのか。 「強いて言うなら、貴方の攻撃で死なない自信があったから。 それに私のスペルで貴方の身動きを封じれば勝手に時間を巻き戻してくれると思ったからよ。 時間を6秒巻き戻すというのなら、6秒前までの負傷は無かったことに出来るようなものだしね」 永琳はそう返答する。 有りのままの事実を淡々と述べる様に。 リンゴォの表情が僅かに歪む。 『死なない自信があったから』。 つまり自分は侮られていたとでも言うのだろうか。 「……俺に、お前は殺せない。そう言いたいのか」 「さあ、どうでしょうね。それより、勝った側として聞きたいことがあるわ」 鋭い眼光で向けるリンゴォの言葉をはぐらかす様に永琳は話を切り替える。 何も言わず、しかし僅かながら不服な表情を見せるリンゴォ。 そんな彼を見下ろし、永琳が口を開いた。 「貴方が知っている参加者、そして今まで出会ってきた参加者について教えなさい。 スタンドについても知る限りの情報を提供して貰いたいわね」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「…妹紅と会っていたのね、貴方」 木の幹に腰掛けるリンゴォ。その傍に永琳が立ち、彼を見下ろしながら呟く。 永琳はリンゴォより彼の知る参加者の情報、スタンドの概念、そしてこの6時間の内に体験した出来事を聞き出していた。 「家族を殺された」という金髪金眼の少女との邂逅。 弾丸の軌道を操るスタンドを持つグイード・ミスタとの決闘。 金髪金眼の少女による妨害、ミスタの死。 そして彼女を追い掛ける過程で遭遇した銀髪の少女――――藤原妹紅。 此処に至るまでの過程を事細かに聞き出した。 (妹紅とは一応協力関係を結べると思ってたのだけれど… この男の話が本当ならば、正直言って使い物になるかどうかすら怪しいわね) リンゴォが体験した情報を脳内で租借する永琳。 彼の語る所では、妹紅は酷く精神を消耗しているらしい。 彼女は『死』を知った結果錯乱し、戦いが終わりを告げた頃には抜け殻同然になっていたという。 『前へ進む』ことを放棄した哀れな小娘――――とはリンゴォの談。 輝夜のことで協力関係を結べるだろう、と踏んでいたのだが。 その様子だと、今後妹紅と組むことは難しそうか? 例え組めたとしても『協力者』として使えるとは到底思えない。 出会ったとしても余り期待しない方がいいか。 永琳は一先ずそう結論付ける。 「ありがとう。まぁ、悪くない情報だったわ」 情報を引き出し終えた永琳は、ほんの僅かに微笑みつつ礼の言葉を口にする。 要求を飲んだ礼として、一度奪った拳銃は既にリンゴォの手元に返されている。 己の流儀を重んずるリンゴォが勝者の不意を討つような人間ではないことを理解していたからだ。 故に永琳は拳銃を渡した所で自分が攻撃される危険性は無いと判断した。 尤も、彼が所持していたもう一丁の拳銃は戦利品として予備弾ごと強引に拝借させてもらったが。 「…俺からも聞かせてもらうが、『姫海棠はたて』とやらは何者だ?」 「私も素性は知らない。記事の文面を見る限り幻想郷の住民だと思うけど」 「そうか…」 続いてリンゴォが問い質したのは姫海棠はたてのこと。 永琳による尋問の際、彼女の口からその存在を知ることになった。 同時に姫海棠はたてが自らの決闘を記事にしているということも知ることになる。 (この時、永琳はリンゴォに『メール』や『携帯電話』の概念を教えることに一苦労したという) リンゴォは思う。 姫海棠はたてとやらは低俗な記事によって『公正なる果たし合い』を茶化し、剰えミスタの屍を平然と晒したのだ。 これは『決闘』に対する侮辱に他ならない———その胸中に浮かぶのは憤り。 故にリンゴォの方針には新たに『はたての捜索』も加わっていた。 奴は金髪金目の少女と同様、この手で仕留めなければならない下衆だ。 尤も、幻想郷との交流を持たない永琳もまたはたての素性に関しては認知していない。 それ故にはたてに関する会話はすぐに打ち止めとなった。 「あぁ、最後に貴方に言っておきたいことがあるわ。 蓬莱山輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐの三名には絶対に手出しをしないこと。 そして彼女達と会った場合、伝言を伝えること。 内容は…そうね。『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』。 まぁ、放送までに貴方が会えればの話だけどね」 そう言って永琳は三人の外見に関する情報を事細かに伝える。 このリンゴォという男は約束を破ることはないだろうと確信していたが故に。 『特定の人物に手出しをしない』『伝言』という要求を提示されたリンゴォは暫しの間無言で彼女を見上げる。 その後ゆっくりと頷き、やや不服そうに条件を受け入れた。 「――――じゃあ、私はそろそろ行かせてもらうわ。 ここまでの情報提供、感謝するわね」 それを確認した永琳はリンゴォに背を向け、足早にその場を後にしようとする。 一斉の警戒も無く彼に背を向けていた。 敗者への慢心なのか。或は、余裕の現れなのか。 どちらなのか、今のリンゴォには知る由もない。 ただ、去って行こうとする永琳に一つだけ聞きたいことがあった。 リンゴォは『敗者』として地に伏せることになった。 永琳は『勝者』。そんな彼女に問いただしたかった、ただ一つのこと。 「何故、俺を殺そうとしない」 「…さあ。何ででしょうね」 一瞬だけ振り返った永琳。 彼女の口から出たのは、はぐらかすような一言だった。 (公正なる果たし合い、か) リンゴォと別れた永琳は森の中を進み続ける。 彼女が脳裏に浮かべているのはリンゴォの語っていた理念。 ―――曰く、漆黒の殺意。 ―――曰く、精神の生長。 ―――曰く、男の世界。 (…馬鹿馬鹿しい) 永琳はただリンゴォの『遊び』に付き合っただけ。 スタンドとやらの能力を試す為に決闘を受け入れただけだ。 心中では彼の掲げる『漆黒の殺意』に嫌悪すら覚えていた。 己の生死すらも刹那の高揚に委ねるスタンス。 命を奪い合う死闘を賛美し、是とする姿勢。 生きることも、死ぬことも、彼にとっては一瞬の夢に過ぎないとでも言うのか。 自らの熱の為にそれらを投げ出すことも厭わないと言うのか。 はっきり言って―――――狂っている。 (リンゴォ・ロードアゲイン。貴方はその『殺意』を気高さだと思っているの? 命を運命に預ける『果たし合い』を崇高な理念だと思っているの? …貴方の掲げているそれは信念なんかじゃあない。呪いの類いよ) この男の信念に誇り高さなど存在しない。 己の狂気を妄信し、他者にまで強要する。 挙げ句の果てにそれを『高潔』だと信じて疑わない。 その姿には哀れみすら覚える。 あの男が長生きすることは決して無いだろう。 墜ちる所まで突き進み続け、己の身を滅ぼすのは解り切っている。 そして決闘の末の死を迎えた所で、彼はそれに満足するのだろう。 故に永琳は彼を殺さなかった。 少なくとも自分はあのような男を信念に殉じさせてやるつもりはない。 とはいえ、輝夜達を捜索する為の更なる人手を得られたこと、情報を得られたことは無駄ではなかった。 特にスタンドという未知の概念について知ることが出来たのは大きい。 恐らくこの会場には同様の能力者が他にも存在するのだろう。 シュトロハイムの語っていた『柱の男』共々、決して警戒を怠ることは出来ない。 (…やっぱり、そう簡単には乗り切れなさそうね) 今後新たなスタンド使い、あるいは更なる異能の存在を目の当たりにするかもしれない。 気怠げな感情を心中で抱く永琳。 しかし、彼女が足を止めることは無い。 輝夜達と共に生き続けることが、自分にとっての『贖罪』なのだから。 【C-5 魔法の森(北西)/朝】 【八意永琳@東方永夜抄】 [状態]:精神的疲労(小)、霊力消費(小)、右肩に銃創、再生中 [装備]:ミスタの拳銃(3/6)@ジョジョ第5部 [道具]:ミスタの拳銃予備弾薬(18発)、ランダム支給品(ジョジョor東方・確認済み)、携帯電話(通称ガラケー:現実)、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:輝夜、鈴仙、一応自身とてゐの生還と、主催の能力の奪取。 他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。 表面上は穏健な対主催を装う。 1:輝夜、鈴仙、てゐと一応ジョセフ、リサリサ、藤原妹紅の捜索。 2:頭部が無事な死体、『実験』の為のモルモット候補を探す。 3:基本方針に支障が無い範囲でシュトロハイムに協力する。 4:柱の男や未知の能力、特にスタンドを警戒 5:情報収集、およびアイテム収集をする。携帯電話のメール通信はどうするか……。 6:第二回放送直前になったらレストラン・トラサルディーに移動。ただしあまり期待はしない。 7:リンゴォへの嫌悪感。 [備考] ※ 参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。 ※行き先は後の書き手さんにお任せします。 ※ランダム支給品はシュトロハイムに知らせていません ※ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴン、柱の男達の情報を得ました。 ※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です。 ※リンゴォから「ミスタの拳銃」とその予備弾薬を入手しました。 ※スタンドの概念に知りました。 ※リンゴォに『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という輝夜、鈴仙、てゐに向けた伝言を託しました。 去ってく永琳を静かに見送っていたリンゴォ。 暫し彼女の去って行った方向を見た後、その場から立ち上がるべく木の幹へと触れようとした。 その時になって、彼は気付く。 ―――カタカタと揺れ動いている。 ―――右腕が小刻みに震えていたのだ。 リンゴォは自らの右腕の震えを見て両目を見開く。 震えを止めようとしたが、暫くの間それは止まることが無かった。 そしてリンゴォは、再び永琳が去った方向へと眼を向ける。 彼は半ば確信していた。 ――――――俺は、あの女に恐怖していたのか。 あの女の『目』が脳裏に焼き付いて離れない。 俺が奴の左目を撃ち抜いた直後に見せた、灰色の眼。 その瞳に宿るものは『漆黒の焔』であると思っていた。 一人で勝手にそうであると確信していた。 しかし違った。 アレは気高き『漆黒の殺意』でも、『黄金の精神』でもない。 形容するのならば、生死を超越した『虚無』。 そして俺に対する『侮蔑』の眼差しだ。 奴は迫り来る銃弾を目にしながらも全く動じず、それどころか不遜に笑ってみせた。 歯向かう奴隷を見下す王の様に。 ちっぽけな獣を嘲笑う万物の霊長の様に。 その『目』に死への恐怖は一切見られなかった。 片目を打ち抜かれようと一切動じていなかった。 「…………」 そして俺はあの女に敗北した。 剰え生かされ、彼女の目的の為に利用されることになった。 俺は『敗者』としてそれを受け入れた。 だが、本当にそれで良かったのか。 決闘に負けた末にのうのうと生き残ってしまった。 まるで情けを掛けられたかの様に。 俺は、これで良かったのだろうか。 本当に『男の世界』を貫けていたのか―――――― (…今は兎に角迷いを振り払え、リンゴォ・ロードアゲイン。 歩みを止めてはならない。そうなれば、俺は塵も同然になる) ふらふらと立ち上がり、彼はその場から歩き出す。 今は自分のやるべきことをするだけだ。 前へ進むことを止めた瞬間、俺はただの腑抜けに成り下がる。 それだけは駄目だ。 故に――――行かなくてはならない。 心中の葛藤と動揺を抑え込み、自らの信念に縋るリンゴォ。 己の流儀の果ての『光り輝く道』を求め、森の中へと進んで行った。 【C-5 魔法の森(北西)/朝】 【リンゴォ・ロードアゲイン@第7部 スティール・ボール・ラン】 [状態]:微かな恐怖、精神疲労(小)、疲労(小)、背中に鈍痛、左腕に銃創(処置済み)、胴体に打撲(中) [装備]:一八七四年製コルト(1/6)@ジョジョ第7部 [道具]:コルトの予備弾薬(18発)、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:公正なる果たし合いをする。 1:男の世界を侮辱した秋静葉と決闘する。 2:姫海棠はたてを探す。 3:ジャイロ・ツェペリとは決着を付ける。 4:輝夜、鈴仙、てゐと出会った場合、永琳の伝言を伝える。彼女達には手を出さない…? 5:次に『漆黒の焔』を抱いた藤原妹紅と対峙した時は、改めて決闘する(期待はしてない)。 6:永琳への微かな恐怖。 [備考] ※参戦時期はジャイロの鉄球を防御し「2発目」でトドメを刺そうとした直後です。 ※引き続き静葉を追う。どこに行くかは次の書き手さんにお任せします。 ※幻想郷について大まかに知りました。 ※永琳から『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という輝夜、鈴仙、てゐに向けた伝言を託されました。 091:キャプテン翼は映らない 投下順 093:鳥獣人物戯文 091:キャプテン翼は映らない 時系列順 093:鳥獣人物戯文 043:夜は未だ明けず 八意永琳 108:Other Complex 064:蓬莱の人の形は灰燼と帰すか リンゴォ・ロードアゲイン 108:Other Complex
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ひとりぼっち ◆tHX1a.clL. 鉄パイプを持って暴れる女の姿をスコープ越しに追いかける。 ぼさぼさの髪を振り乱し、片手に構えた鉄パイプを振り回す女。 右手には赤黒い痣が刻まれている。 凶行を繰り返す女の姿が消え、別の場所に現れては再び凶行を起こす。 スコープは彼女の姿を見失わない。 まるで未来予測のような精度で『瞬間移動』を行う女を追い続ける。 彼女が天を仰ぎ『メシウマ』という意味の分からない言葉を発したその瞬間。 利き手の人差し指に力が篭る。 ゆっくりと、ゆっくりと、引き絞り。 深い深い呼吸音。 そして視界が、黒に染まる。 人差し指で器用に蓋を閉じた単眼鏡をしまい、深く息を吐く。 撃てば当たる。確実に。 頭だろうと、右腕の礼呪だろうと、鉄パイプに付いたジョイント金具だろうと、ベルトのバックルの留め金だろうと、寸分たがわず撃ち抜ける。 だからこそ、ヤクザは銃を持ち出さなかった。 何故この状況で『アレ』を撃てる。 あれがジナコ=カリギリではないことは一目見れば分かる。 あれは何者かによって作られた『ジナコ=カリギリ』の姿をした別物だ。 きっとジナコを拉致した何者かが用意したのであろう。 あれが暴れ続ける限り、ジナコは無実の罪を被り続け、他者から悪意を向けられ続ける。 だからこそ、ヤクザは『アレ』を撃てない。 いや、ヤクザだからこそ、『アレ』は撃てるわけがない。 たとえばここに、アサシンのクラスの英霊が居たとしよう。 彼の逸話は『影武者』。 時の為政者の格好をして為政者の活動を支え、銃撃を受けて倒れても自分の姿を晒さなかった ならばその英霊に与えられるスキルは二つ。 『他者への変装』と『変装中にどんな攻撃を受けても自分へのダメージフィードバックを無効化』スキル。 たとえばここに、キャスターのクラスの英霊が居たとしよう。 彼の逸話は『クローン生成』。 著名人のクローンを量産し、世界に混沌の渦を巻き起こした。 ならばその英霊に与えられるスキルは一つ。 『他者のデータを得ることでその人物そっくりのクローンを量産する』スキル。 たとえばここに、なんらかの英霊が居たとしよう。 彼の逸話は多々あれど、強いてあげるならば『変装』。 他人の姿を変化させ、自身の姿を変化させ、不和や混乱を引き起こす。 ならばその英霊に与えられる宝具は一つ。 『NPCを含めた他者の外見情報を改竄する』宝具。 多種多様な英霊、多種多様な逸話。多岐にわたるスキルと宝具。 パターンは多々あるだろうが、言えることは一つ。 姿を晒すからにはなんらかの『攻撃阻害能力』もしくは『攻撃を受けても問題ない事情』がその裏にあるはず。 冷静な人物であれば簡単に気づくロジックだ。 そんな英霊を射撃すればどうなるか。 もともと他よりも劣っているのに、唯一の長所である『遠隔射撃』を敵に晒すだけだ。 幸いなことに、あのジナコは悪意はあるが害意はないらしい。 犯罪を起こすにしても被害者を出さないところを見ると、一応は聖杯戦争のルールに従っているらしい。 確かに厄介この上ない相手ではある。 主人の篭城というこちらの優位が跡形もなく崩れ去った。 だが、それだけだ。 最悪でも『通報され、警察から追われることになる』。それだけ。 放っておいてもなんら問題はない、とは言えないが。 今無理に事を起こしてまで倒すべき必要がある相手でもない。 そして今はまだ、勝算がない勝負を迫られている段階ではない。 彼の宝具の性質上、勝負は一回、必勝の時にのみ仕掛けるのがベスト。 情報も、弱点も知りえないこの状況で引き金を引けば…… いい銃は相手よりもまず持ち手を選ぶ。 抜きどころを間違えば、死ぬのはこちらだ。 ヤクザは、この上ない臆病者だ。 ヤクザは、彼を知る皆が思い描いている彼よりも数倍臆病だからこそ、真の『暗殺者』たりえる。 (―――け、て――――――助けて、ヤクザ―――) ヤクザの瞳が鋭くなる。 自身に念話で語りかけられるのは一人だけ。 (……無事か) (無事じゃない……一大事だよ……もう、なにがなんだか……) (周りに人間は) (居ない……さっきまで居たけど、今は……でも、状況は……) 言われなくても分かっている。 (場所は) (アタシの家……家に居る、アタシ、家に居るの、今も、家……) (すぐに行く。誰にも見つからないように隠れていろ) まだぶちぶちと続けるジナコの念話をピシャリと遮り、再び深く息を吐く。 振り返り、町に目をやると。 千里眼の先の『ジナコ』と目が合ったような気がした。 が、気のせいだったらしく、『ジナコ』は狂ったような笑顔を浮かべると、ノイズをその場に残して再び姿を眩ませた。 再び場所を移したのか、それともそろそろ襲撃をやめるのか。 どちらにせよ、関係ない。 今はまだ、雌伏の時。 ゴルゴは葉巻に火をつけ、陣取っていたビルの屋上を後にする。 現れ消える狂人の影に背を向けて。 紫煙の先に見え隠れする、いつか来るあろう『それとの遭遇』を見据えて。 * * * 帰ってきたヤクザが見たものは、およそ今朝のジナコとは同一人物とは思えない彼女の顔だった。 一言で表すとすれば、『曇っている』。 表情が、とか雰囲気が、ではない。 目が曇っている。 普段からけだるげな瞳をしていたが、今は様子がまるで違う。 生命力とか、正常な判断力とか、そういう大事な何かが抜け出てしまった、そんな瞳。 「ヤクザ……ど、どうしよう……」 いわんとせんことは既に把握していた。 間違いなく、B-10地区で起こっている『ジナコ=カリギリによる連続犯罪』についてだ。 彼女はここにいる。 しかし今もまだ犯罪は起こり続けていることだろう。 「あんなの、アタシじゃない……アタシじゃないの……!!」 心の底から搾り出したような、悲痛な叫び。 しかしヤクザは眉一つ動かさずに、淡々と、それこそ『業務的』とも言えるほどにジナコに応対した。 「教えろ、何があったのか」 冷静なゴルゴの様子を見て少しだけ気を持ち直したのか。 ぽつり、ぽつりとジナコが話し出す。 ヤクザと別れた後、なぜあんなことになってしまったのかを。 そしてヤクザは、午前中にジナコ周辺で起こった出来事を把握した。 ゴミ捨てに出ようとして気絶したこと。 目を覚ますと幼女が自身に抱きついて眠っていたこと。 白髪の大男と赤服の大男にその幼女の面倒を見ることを頼まれたこと。 そして事件について知り、錯乱し。 幼女には逃げられ。 呆然としていたところでヤクザのことを思い出し、呼び出した。 一部、ジナコが言葉を濁している部分があるが、それは今はまだ気に留めない。 重要なことが分かったのだから。 ヤクザが目をつけたのは『気絶した』という証言。 時間的に考えても、ここがきっと『もう一人のジナコ=カリギリ』とジナコが接触したタイミングだろう。 ヤクザの脳内で一つの仮定が改められる。 ヤクザは当初、ジナコは『何者かに利用されるために拉致された』と仮定された。 しかし、ある意味では無事なジナコと今回の情報交換を踏まえた上で考えるなら、それは間違いだ。 正しくは、何者かによるジナコへの『姿を奪うための接触』があり。 『その接触によって気絶状態に陥っており、音信不通となった』というのがきっと現状だろう。 ならばあの『もう一人のジナコ=カリギリ』は姿を奪う際に接触が必要であると言える。 漠然と『姿の改竄』としかいえなかった敵の能力の範囲がグンと狭まる。 もう少し決定的な情報があれば、敵の正体の絞込みも行えるようになるだろう。 「……ジナコ、いくつか伝えておく」 伝えたのは、現在までの考察を含めた彼の仮説。 『もう一人のジナコ』の能力についての想定されるいくつかのパターン。 ジナコの姿を奪った人物が、『奪うためには接触が必要』であるという仮説。 そして、『もう一人のジナコ』がNPCを扇動するためだけに暴れているという事実。 まるで第三者から見たような冷静な報告。 そんなヤクザの様子に、ジナコは憤慨した。 「なんで、なんでそんなに冷静なの!? アタシ、外を歩けない、なんてもんじゃない…… こんな……もう……おしまいだよぉ……」 崩れ落ち、泣き言を並べる。 最早『ジナコさん』は欠片も存在していない。 そこに居るのは、幼稚でヒステリックな等身大のジナコだけ。 「ねえ、アンタ、アタシのサーヴァントなんでしょ!? 助けてよ!」 マスターであるジナコからすれば当然の懇願。 しかし、ヤクザはその懇願を蹴り、逆に当然のようにこう返した。 「俺が出来るのは一つ。お前の依頼を遂行することだけだ」 「必要ならば、依頼をしろ。そうすれば俺の宝具が発動し、あいつを『殺し』やすくなる」 その一言で、部屋の空気が変わる。 ヤクザは求めている、ジナコからその一言が出てくるのを。 ジナコが息を呑む音が、部屋に響く。 彼女は人並みの判断力を持っているし、人並みの倫理観を持っている。 そして誰よりも、その言葉の重みを知っている。 『殺す』依頼。 ヤクザの口から放たれた言葉が、ジナコの心に深く突き刺さった。 * * * きつく結んでいた口が緩み、言葉を紡ぎ出す。 「ヤクザ……いや、『ゴルゴ13』、お願い……」 「あいつ……『もう一人のアタシ』を、どうにかして……アタシを助けて……」 涙ながらに紡ぎ出された言葉。 今のジナコに出来る、精一杯。 精一杯の、『殺人依頼』。 それを濁した、汚いなにか。 ジナコは、自身の英霊『アサシン』の特性を忘れてはいない。 強烈な殺意と詳細な情報。この二つを持って宝具は最高の状態となり敵を討つ。 だが、ジナコは言葉を濁した。 それは当然行われるべき心の防衛とでも言うべきだろうか。 彼女は逃げた。明言を避けた。 ヤクザがその言葉を『そう受け取るに決まっている』と知っていながら、あえて言葉を濁すことで自身を押しつぶしかねない『責任』という魔物から逃げた。 彼女の心が如何に『もう一人のジナコ=カリギリ』を、それこそ『この世から消したいほど』憎んでいたとしても。 口に出せば、それはジナコが自身の判断で『殺した』ことになる。 だから濁した。 受け取り手であるゴルゴに判断を委ねる形で依頼を行った。 心の中で悪魔が笑う。 『結局ミイと一緒ですやあんwwwwwwww殺す気マンマンですやあんwwwwwwwwww口に出さないだけでさーあ?wwwwwwwwwwwwww』と、煽るように笑う。 そんな声から心をふさぎ、もう一度懇願する。 明言は避け、できるだけ『どうとでもとれるように』。 その一言が、さらに自分を窮地に追い込むとも知らずに。 「依頼でもなんでもいいから……お願い……」 ヤクザの剃刀のような眉の根が潜まる。おそらく、了承の意だろう。 ヤクザは脇に抱えていた袋を放り投げた。 袋からきらきら輝くなにかが飛び出す。ついで鮮やかなパステルカラーの布の数々。 「なに、これ……」 「服だ。その格好では一目でばれる」 変装用の服。そしてアクセサリー。 ヤクザが実体化して帰ってきたのは、『これ』を持ち込むためだったらしい。 「次に会う時までに、あの『ジナコ=カリギリ』の情報を用意しておけ。 情報伝達には念話で、急用ならば令呪を使い呼べ」 ヤクザの口から放たれたのはジナコのことはジナコに任せ、自身はこの場を離れるという旨の伝達。 ジナコにとってはまるで死刑宣告のような一言。 それだけ伝えると、ヤクザは来たときのようにまた何事もなかったかのように玄関へと向かった。 「待って、待って!!! こんなのじゃなくて、アタシを助けてよ!!! このままじゃあ……外も歩けないし……こんなのじゃどうにもならないよ……!!」 あわてて彼の背を追いすがる。 しかしその行為も、ヤクザの右の拳の一撃で結局成されることはなかった。 「言ったはずだ。俺の背後に立つな、と」 顔を殴らなかったのは、一応『依頼人』として敬意を払ったから、なのかもしれない。 突き放されて、尻餅をつく。 ケーキを入れた箱がジナコの尻の下敷きになり、グチャグチャに崩れる。 殴られた肩が痛む。 痛みが、逃れようのない現実を知らせる。 「なんで……なんで……」 言葉が続かない。 こんな状況であれば、こんな状況だからこそ。 彼が『英霊』であるというのならば、そばに居てくれると、助けてくれると。 スレてしまったジナコも、心のすみっこでそう信じていた。 「……確かに、俺はお前のパートナーだ」 聖杯戦争は『主』と『従者』の二人で行うもの。 これは聖杯戦争を知る者にとっての大前提となる条件の一つ。 しかし、ヤクザにとっての『パートナー』は意味が違う。 「だが、保護者に成り下がるつもりはない」 ヤクザはヤクザ。依頼人は依頼人。 その間に上下はなく、取引は常に対等。 ヤクザは依頼をこなし、依頼人は報酬として金銭を渡す。 ボディガードは対象外であるし、依頼相手ではない人物から守るだの守られるだのは依頼とは関係ない。 裏切りではない。 最初に二人に交わされた契約による正当な主張。 最初と今で事情が違うにしても、彼は自身の流儀を絶対に崩さない。 「でも……」 ジナコが続ける言葉にも耳を貸さず。 ヤクザはそのまま霊体化して消えてしまった。 また、ひとりぼっち。 一人残されたジナコは呆然と立ち尽くし、そして思い出した。 世界は優しくなんかない。 守ってくれる人など居ない。 ずっとひとりぼっちだった。 ひとりぼっちで、ソコに居た。 誰も居ない、『誰か』だけが居る匿名の世界と繋がっている、ソコに。 ジナコは再び布団の中へと逃げ込み、両目を潰さんばかりの勢いで目を閉じた。 自身と外界を遮る脆い殻のなかで、すがるように自分に願い続けた。 どうか悪い『現実(ゆめ)』から目が覚めるように、と。 * * * ジナコ、という名前はパパが付けてくれた。 太っちょだけど優しいパパ、綺麗で優しいママ。 二人が私を愛してくれた証。 私が二人に愛されたという証。 たとえ二人がいなくなっても、他の誰にも奪えない、たった一つの大切な思い出。 太っちょなパパに似て、ぽっちゃりした体。 優しいママとおそろいの、茶色い髪。 そして二人が残してくれた、『ジナコ』という名前。 誰にも触れることができなかった、ジナコにだけ残された、大切な思い出。 そんな思い出を。 そんな思い出まで。 誰かが奪って、汚していく。 ジナコの姿で暴れる誰か。 そいつを憎んでジナコを探すだろう誰か。 誰も守ってくれない。 守ってくれる人なんていない。 肯定してくれる人なんていない。 パパも、ママも、■■■さんも、ここには居ない。 今度の悪魔は、足音を立てて迫ってきている。 時間がもたらすものが解決ではなく破滅だとするなら。 現実逃避がもたらすものが逃れようのない死だとするなら。 私は決めなければならない。自分の心で。 立ち向かい、生きていくという遥か昔に目を叛けた判断を。 そして、歩き出さなければならない。自分の足で。 遥か昔に置いてきた『ジナコ=カリギリ』としての新たな一歩を。 でも、そんなこと、出来るのか。 私に―――ジナコ=カリギリにそんなことが出来るのか。 あれからどれくらい時間が経っただろうか。 最早分からない。 布団から顔を出して、『外』を見つめる。 ひとりぼっちの少女が見つめる、窓枠から切り取られ、涙で歪んだ眩しい世界。 ジナコには到底相容れられぬ、『底(ソコ)』からかけ離れた『眩しい世界』。 めぐり合うマスターは、命を狙ってくる敵。 もう一人の『ジナコ=カリギリ』も、もちろん敵。 NPCからすれば私は犯罪者、彼らもジナコを追い詰める敵。 自身のサーヴァントすら、助けの手は遣さず不干渉を貫く。 全てが敵。 そんな世界に、飛び込んでいけるのか。 敵だらけの世界。 まるで死のような無限の時間消費が続いていた『匿名(ヴァーチャル)』から引きずり出され。 その先に待ち受けている、過酷な『現実(リアル)』という戦場。 唯一、太陽だけがジナコを見守るように何処までも変わらぬ眼差しを向けている。 『――この『月を望む聖杯戦争』に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは』 声が聞こえる。 『外』からの声。 ジナコはただ、曇った瞳で『外』を眺め続けていた。 【B-10/街外れの一軒家/一日目 午後・正午ちょっと過ぎ】 【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】 [状態]脇腹と肩に鈍痛、精神消耗(大)、トラウマ抉られて情緒不安定、ストレス性の体調不良(嘔吐、腹痛) 昼夜逆転、現実逃避、空腹、悲しみと罪悪感、カタツムリ状態、いわゆるレイプ目 [令呪]残り3画 [装備]なし [道具]変装道具一式 [所持金]ニートの癖して金はある [思考・状況] きほん■■■■:ひとりぼっち 0.…… 1.B-10には居られない……でも…… 2.れんげやジョンスに謝りたい、でも自分からは何も出来ない。 3.『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報を集める……? [備考] ※ジョンス・リー組を把握しました。 ※密林サイトで新作ゲームを注文しました。二日目の昼には着く予定ですが仮に届いても受け取れません。 ※アサシン(ベルク・カッツェ)にトラウマを深く抉られました。ですがトラウマを抉ったのがカッツェだとは知りませんし、忘れようと必死です。 ※『もう一人のジナコ=カリギリ』の再起不能をヤクザに依頼し、ゴルゴから『もう一人のジナコ=カリギリ』についての仮説を聞きました。 『もう一人のジナコ=カリギリ』殺害で宝具を発動するためにはかなり高レベルの殺意と情報提供の必要があります。 心の底からの拒絶が呼応し、かなり高いレベルの『殺意』を抱いていると宝具『13の男』に認識されています。 さらに高いレベルの宝具『13の男』発動のために情報収集を行い、ヤクザに情報提供する必要があります。 ※ヤクザ(ゴルゴ13)がジョンス組・れんげを警戒対象としていることは知りません。 ※変装道具一式をヤクザから受け取りました。内容は服・髪型を変えるための装飾品・小物がいくつかです。 マネキン買いしたものなのでデザインに問題はありませんが、サイズが少し合わない可能性があります。 ※放送を耳にしました。ただ、ちゃんと聞いているか(=内容を把握しているか)は不明です。 * * * 「それで、拙僧になんの用で?」 「……こいつを調べてほしい」 赤鼻の小男に写真を渡す。 写真に写っているのは、鉄パイプを振り回す女性の姿。 小男はあごに手をやり、「ふうむ」と首をかしげる。 「へえ。こりゃまた……これくらいなら拙僧に頼まずともそこかしこで拾えそうだがねぇ」 小男の言いたいことも分かる。 写真の女性は、おそらく今この町で一番有名な女性。 インターネットを使えば名前だろうと仕事だろうとすぐに調べられるだろう。 しかし、違う。 彼が知りたいのはそんな『上っ面』の情報ではなく、もっと奥に潜んでいる『真実』。 「その女は二人居る……俺が知りたいのは、この『都市部』で暴れている方の女の動向だ。 どこに、いつ、どれだけ現れていたのかを調べて欲しい」 「はて、同じ姿かたちの女が二人……まさか訳ありで?」 「……」 「あいや、出すぎた真似を。確かに、この女が魍魎だろうが幽霊だろうが、拙僧の知るべきところじゃありませんな。 この女と事件のこと、調べておきましょう。御代はその時に、交渉ということで」 そう言って恭しく頭を下げると、小男は下駄の歯をかっぽかっぽと鳴らしながら歩いていった。 だが、ヤクザはそれを止め、もう一つの依頼をする。 「追加だ……一人は白髪でスーツを着た、筋骨隆々の大男。年のころは20~30。赤い服を着た大男とともに行動をしている」 「一人は薄い色の髪を両脇で二つ縛りにしている少女。名はれんげ。年のころは10以下。服装はTシャツと半ズボン」 今度は口頭でのみ、特徴を伝える。 『白髪の男』はきっと『もう一人のジナコ』の仲間か、『奴』を知る者だ。出会っておいて損はないだろう。 そして彼が保護を依頼した『れんげ』なる少女は、身柄を拘束しておけばその白髪の男との交渉に使えるかもしれない。 二人についてはヤクザも伝聞での外見情報しか知らないため、この程度の情報提供しか出来ない。 しかし、それを気には留めない。 だが、この二人はあくまでついでだ。結局、現状での彼らの扱いは『もう一人のジナコ』を追い詰めるための駒に過ぎない。 この二人についてはまだ急がない。手に入れば行幸、といった程度。 「この二人への接触は絶対に避け、素性と、名前、最後に目撃した場所、そしてその時周囲に居る人物の名前も調べてほしい」 「へえ、それはまた、難儀な……さて、そちらの御代はいかほど頂けるんで?」 「……一人に十万、二人合わせて二十万。周囲の人物の情報次第でさらに十万」 「結構! ならば早速参りますかな! なあに、そこまで分かっているなら明日までには調べてあげてみせましょうて! 明日、十四時にこの場所でまた落ち合いましょう。ではその時まで、しばらく!」 恵比寿のようなにこやかな笑みを残し、かっぽかっぽと歩いていく。 とても信用ならない男だ。 確かに腕は立つようだ。三人の情報収集を二十四時間強でやるなどとても素人ではできない。 ただ、ああいった類は金さえ積まれればなんでもやる。きっと一切の罪悪感なしに寝返るだろう。 だからこそあの男を使う。 ああいう奴らは、少なくともこちらが相応の額を支払っているうちはこちらの味方だ。 小物は利に聡い。利があるうちは誰も裏切らない。 AとBを天秤にかけ続け、損が出た瞬間に切り捨てる。アレはそういう男だ。 一回目の依頼でアレが裏切るようであれば、それは敵が相当だということだ。それもまた、新たな情報として利用できる。 B-10地区における『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報収集の大部分は彼(ついでに依頼人)に任せておいても問題ないだろう。 葉巻の先端を切り落とし、火を点ける。 煙を鼻先に漂わせながら、ヤクザは現状をもう一度振り返ってみた。 拠点が割れてしまい、マスターの顔と素性も公にされてしまった。 これは言うまでもなく大きな失敗だ。 変装で容姿は変えられても、あくまで付け焼刃。 近いうちになんらかの対策を講じなければならない。 (『あいつ』が自分で隠れ家を見つけてくれるに越したことはないが……) ただ、あの依頼人が積極的に逃げ回るタイプだとは思えない。 こちら側でもどこか、隠れるのに最適な場所の目星をつけておく必要があるだろう。 そして、『放送』。 先ほどの赤鼻の小男との邂逅中に頭の中に流れ込んできた『監視者』からの情報。 新たに開示された情報は三つ。 二十八組という通常の聖杯戦争より多い参加者。 B-4地区にて『重大なルール違反』を行った参加者が居ること。 そして『日常を著しく脅かす』行為を禁止すること。 この中で重要な情報は一つ。 B-4地区にて『大量の魂喰い』を行った参加者が居る。 ヤクザはこの主催者による『暴露』の意味するところを考え、こう結論付けた。 (位置を晒すのは……拠点を置き、そこから離れられないと踏んでいるから…… そして、大量の魂喰いを行わなければならないほどの魔力が必要…… ……つまり、十中八九、B-4に潜んでいるのは『キャスター』のクラス) これは仮説に過ぎない。もしかしたら自身のようなアサシンかもしれないし、半身不随のマスターを持つサーヴァントのいずれかかもしれない。 しかしいずれにしろ、B-4にはNPCの大量虐殺を行った参加者がおり。 自身のように仮説を立てて、その参加者を狙ってB-4地区に参加者が集まってくる。 そこまで分かっているならやることは一つ。 ヤクザはB-5地区に向かう列車に乗り込んだ。 目的は一つ、B-5地区に潜伏しB-4地区の『キャスター』を狙って寄ってくる参加者の情報を収集するため。 (干渉はしない……もし迂闊な行動を取り、俺の正体がばれるようなことがあれば『依頼人』を逆に追い詰めることになる) 彼の宝具の性質上情報収集を行わなければならないが、それと同時にこれ以上の情報漏えいは避けなければならない。 そのため、同一地区には潜まない。踏み込みもしない。 その一つ隣のB-5地区に潜み、千里眼と自身の持ち前の装備である単眼鏡を使って観察する。 数時間、十数時間にも及ぶかもしれない、一転集中の視界による広大なエリア中の無数の場所の監視。 普通の人間なら気が狂いかねない苦行。だが、それもヤクザ―――ゴルゴ13の本業の一つ。 睡眠・食事や疲れの心配を必要にならなくなった今、何日だろうと続けてみせる。 依頼遂行のためならば、どんな難題を前にしても揺るがぬ鋼の精神。それこそが、M16以上にゴルゴ13をゴルゴ13たらしめる最強の武器。 (問題があるとすれば……やはり、『あれ』か) つり革を握る自身の手。 英霊として呼ばれた以上、『伝承』として起こる可能性はある。 一年に一度しか来るはずのない『厄日』が。 (『英霊』の性質上何らかの条件が揃えば、起こりかねない……一日とまでは行かないだろうが、条件さえ揃えば単発的にそれこそ『何度でも』…… ここで武器が使えないとなれば……) だからこそ、秘匿する必要がある。 自身の存在と、その正体。そして自身の伝承を。 万が一条件が揃い、『その時』が来てしまっても何事もなくやり過ごせるように。 がたんごとん。 がたんごとん。 B-5に向かって電車が動き出す。 揺れる箱。 揺るがぬ瞳。 依頼達成率100%の『暗殺者』の英霊の第一の依頼が始まった。 【B-10/B-5へ向かう電車内/一日目 午後】 【ヤクザ(ゴルゴ13@ゴルゴ13)】 [状態]健康 [装備]通常装備一式、単眼鏡(アニメ版装備)、葉巻(現地調達) [道具]携帯電話 [思考・状況] 基本行動方針:正体を隠しながら『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報を集め、殺す。最優先。 今のところはNPCの協力者とジナコ本人の『もう一人のジナコ=カリギリ』の情報収集の結果を待つ。 1.B-5地区に潜伏、千里眼を使ってB-4地区および周辺地区の情報収集。 2.『白髪の男』(ジョンス・リー)とそのサーヴァント、そして『れんげという少女』の情報を探す。 3.依頼人(ジナコ=カリギリ)の要請があれば再び会いに行くが、過度な接触は避ける。 4.可能であれば依頼人(ジナコ=カリギリ)の新たな隠れ家を探し、そこに彼女を連れて行く。 [備考] ※一日目・未明の出来事で騒ぎになったことは大体知ってます。 ※町全体の地理を大体把握しています。 ※ジナコの資金を使い、NPCの情報屋を数名雇っています。 ※C-5の森林公園で、何者かによる異常な性行為があった事を把握しました。 それを房中術・ハニートラップを得意とする者の仕業ではないかと推測しています。 ※B-10での『もう一人のジナコ=カリギリ(ベルク・カッツェ)』の起こした事件を把握しました。 ※ジナコの気絶を把握しました。 それ以前までの『ジナコ利用説』ではなく、ジナコの外見を手に入れるために気絶させたと考えています。 そのため、『もう一人のジナコ=カリギリ』は別人の姿を手に入れるためにその人物と接触する必要があると推察しています。 ※ジナコから『もう一人のジナコ=カリギリ』の殺害依頼を受けました。 ジナコの強い意志に従って宝具『13の男』が発動します。が、情報が足りないので発動できても最大の半分ほどの効果しか出ません。 ※『もう一人のジナコ=カリギリ』は様々な条件によって『他者への変装』『サーヴァントへのダメージ判定なし』がなされているものであると推測しています。 スキルで無効化する類であるなら攻略には『13の男』発動が不可欠である、姿を隠しているならば本体を見つける必要があるとも考えています。 ※ジョンス・リーと宮内れんげの身辺調査をNPC(探偵)に依頼しました。 二日目十四時に一度NPCと会い、情報を受け取ります。そのとき得られる情報量は不明です。最悪目撃証言だけの場合もあります。 ※ジョンス・リー組を『警戒対象』と判断しました。『もう一人のジナコ=カリギリ』についても何か知っているものと判断し、捜索します。 ジナコの意思不足・情報不足のため襲撃しても宝具『13の男』は発動しません。 ※宮内れんげを『ジョンス・リー組との交渉材料となりえる存在』であると判断しました。ジョンス・リー組同様捜索します。 ジナコの意思不足・情報不足のため襲撃しても宝具『13の男』は発動しません。また、マスターであるとは『まだ』思っていません。 ※B-5地区に潜伏し、『キャスターと思わしきサーヴァント』それを求めてやってきた参加者の情報把握を行います。 敵の能力を完全に把握して『絶対に殺せる』と確信が持てない場合は誰にも手を出さず、接触も避けます。 ※伝承に縛られた『英霊』という性質上、なんらかの条件が揃えば『銃が撃てない状態』が何度でも再現されると考察しています。 そのためにも自身の正体と存在を秘匿し、『その状態』をやりすごせるように動きます。 BACK NEXT 090 健全ロボダイミダラー 第X話 悲劇! 生徒会副会長の真実! 投下順 092 同じことか 090 健全ロボダイミダラー 第X話 悲劇! 生徒会副会長の真実! 時系列順 092 同じことか BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT 066 テレビとか新聞とかちゃんと見ないとダメだって ジナコ・カリギリ 107 戦争考察 064 報復の追跡 ヤクザ(ゴルゴ13) ▲上へ
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パーカーとTシャツを脱ぎ捨てる。 ズボンを脱ぐ手間すら惜しくて、ずり下げたトランクスの中から硬くそそり勃つものを取り 出した。 初めて目にした、成歩堂の男。 真宵を欲して先端からよだれを垂らしている剛直に、目のやり場に困った真宵はウロウロと 視線を泳がせている。 「真宵ちゃん、もう、良いよね?」 成歩堂も真宵も、結合するためのカラダの準備は既に十二分に整っていた。 真宵の太ももを大きく広げて身体を滑り込ませると、肩、腕、そして乳房から細腰へと裸身 に手を這わせ、いよいよ真宵に覆い被さった。 蜜を広げるように熱い秘裂を肉棒でかき混ぜる。 昂って硬くなっている真珠を成歩堂自身で捏ねられるのは指や唇で愛されるのとは一味違っ て、真宵はいやらしい気分になるのを抑えきれずに思わず身悶えた。 淫らに身体をくねらせる真宵を楽しみながら、成歩堂は勃起を自身の手で数回扱くと、蜜を 滴らせた秘穴に宛がった。 お互いの熱さに二人は息を呑む。 呼吸を落ち着けるようにそっと息を吐くと、成歩堂は意を決したように腰を押し進めた。 「ん……あ……っ」 ゆっくりと貫かれて行く真宵はわずかに顔を歪めながら男を受け入れて行く。 亀頭の一番張り出した部分が入り口を通る時に、真宵は白い喉元をあらわにして仰け反った。 息を詰めているために、顔がみるみる紅潮していく。 何かを訴えるように小さく口を動かしているが声にはなっていなかった。 やがて行き止まりに到達して胎内が成歩堂自身で埋め尽くされると、真宵は下半身の感覚を 深く味わうように「……はぁ……っ」と息を吐いた。 「く……っ」 初めて侵入した真宵の中は熱くて、とてもよく締まった。 最奥まで進んでは、ギリギリまで引き抜く。 根元から先端まで、肉の棒に蜜をまぶすようにゆっくり大きく腰を動かしながら、成歩堂は 真宵の胸に顔を埋めた。 硬くしこった突起を吸い舌で転がしながら、頬に触れる柔らかな乳房の体温を楽しむ。 肌から立ちのぼる甘い香りがどこか官能的に思えたその刹那、真宵がしゃくり上げているこ とに気が付いて顔を上げた。 唇を噛み締めて、瞳いっぱいに溜まった涙を流すまいと堪えているが、大きなまなこからは ポロリ、そしてまたポロリと雫がこぼれ落ちていく。 「真宵ちゃん……」 今まで何度も真宵の泣き顔を見て来たが、今日の泣き顔は一段と愛らしくて、そして妖艶だ った。 「どうしたの?」 真宵は腕を伸ばして成歩堂の背中に手を回し、ギュウッと抱き締めた。 「……ちょっと、待って……っ。しばらく、このままが、良い……!」 「……うん」 成歩堂は今すぐ突き上げたい衝動を抑えて腰を止めた。 彼女の中はきつく、不意に成歩堂を締め付けて来るので、暴発しないように細心の注意が必 要だった。 成歩堂もまた真宵の背中に腕を回し、抱き締める。 スッポリ腕の中に納まってしまう真宵が愛しくて仕方ない。 「真宵ちゃん、すごく可愛いよ……」 成歩堂の言葉に反応してクッと締まり、潤いが増した。 真宵のカラダは予想以上に敏感だった。 「なるほどくん……!」 「う……ん?」 真宵は成歩堂の髭面に、桃のように柔らかく紅潮した頬を寄せると、彼の耳元で吐息の割合 が圧倒的に多い掠れ気味の声で囁いた。 「いたい…………」 「……え。」 真宵を見た。 なるほど、眉間にわずかに皺を刻んで、額には汗を掻き少し苦しそうな表情を浮かべている。 「角度が変?」 真宵はかぶりを振る。 「……場所、合ってるよね?」 「な、なるほどくんの、えっち!」 「いやいやいや……、そうじゃなくて」 まじまじと見た。 真宵は恥ずかしいのか、それとも痛みに耐えているためか、わずかに歪ませた顔を逸らして 視線を泳がせている。 嫌な予感がした。 それも、とてつもなく嫌な予感が。 もしかして、行為を始めてから今までに交わした会話のどこかに、重要な食い違いがあった のではないのだろうか──。 冷たい汗が背中を落ちていく、久し振りのこの感覚。 検察や証人に追いつめられた時によく味わった、あの感覚。 成歩堂は、恐る恐る二人が結合している部分に目を遣った。 硬直した勃起をずっぽりと受け入れて形を歪めたピンク色の粘膜に血液が滲んでいるのを見 て、目をパチクリとしてしまった。 えーっと。 ……この出血はなんだろう。 「真宵ちゃん、キミ、生理──」 「ち、違う……!」 「……だよなあ」 つい先ほどまで、そうであれば良いなと思っていたのに。 好き放題してしまった後ろめたさからか、今はそうでなければ良いと願っている。 そんな身勝手さにうろたえながら、成歩堂はおずおずと口を開いた。 「あのさ。もしかして……」 成歩堂の言葉を待たずに、堰を切ったように真宵の瞳から涙がこぼれ出した。 「あの、ね……ッ? あたし、こういうコトするの、はじめてだった……ッ」 「……ええええええええ……っ!!」 半ば予想通りの答えに内心「やっぱり……」と思いつつも、叫ばずにはいられなかった。 真宵は不安げにチラリチラリと成歩堂の顔色を窺いながら、時折痛みに眉をしかめている。 「い、異議あり! さっき『男を知ってる』って言ったじゃないか……!」 「知ってるよ!? みつるぎ検事にヤッパリさん、神乃木さんにイトノコさんにオドロキくん に、それから、それから、裁判長さんに……」 「いやいや、それは知り合いってコトだろ? ぼくが聞いたのは、その……」 「な、何よ」 「つまり、キミがそういう経験があるのか聞いたわけで……」 「……?」 「あのね、『男を知ってる』って言い回しには、そういう意味があるの。その、男と女の愛の 営みというかなんというか」 「! そ、そうだったんだ……。あたし、何でこんな時にそんなコト聞くのかなって思っちゃ ったよ……」 相変わらず苦悶の表情を浮かべる真宵に説明してやりながら、成歩堂ははたと思い出した。 「あれ。じゃあ、さっき玄関で話してたスーツの男は……?」 「え。あ、ああ。あれはテレビの集金だよ。倉院の里の集金を担当してる人」 「しゅ、集金……」 じゃあ、人を小馬鹿にしたような笑いは気のせいだったのか……? 成歩堂は今更、真宵にしたコトを思い出して冷や汗を掻いていた。 経験のない娘に対して、遠慮も配慮もないコトをしたような。 嫉妬に駆られて真宵の大切な部分を好き勝手に弄び、あんな格好でそんなコトをしてしまっ た。 唯一の救いは焦って欲望のままにぶち込まなかったことくらいだ。 成歩堂の男としての矜持はただその一点のみで支えられていた。 切なげに見つめる真宵を、成歩堂もまた見つめ返す。 処女を散らした痛々しさと色を帯びた美しさが真宵を彩っていた。 十年間の付き合いで、初めて見る真宵だった。 「……痛かっただろ? 大丈夫?」 「……う、うん。へーき。なるほどくん、ゆっくりしてくれたから……」 成歩堂は愛しげに真宵の額から頬を撫でた。すると真宵は嬉しげに目を細めて応え、「はぁ ……っ」と溜め息を漏らし、彼女もまた、愛しげに成歩堂の頬を撫でた。 無精ひげがザラザラと柔らかい手のひらを刺して痛かった。 成歩堂は真宵の唇を吸った。 下半身で繋がったまま交わす口づけは殊更に官能的だ。 「んっ……ふ……!」 鼻から吐息を漏らしながら真宵は懸命に成歩堂に応えて唇を寄せる。 「まだ痛い?」 「う……ん。ちょっと痛い」 成歩堂は出来る限り腰を動かさないように気を配りながら、真宵の雪肌を楽しみ始めた。 首筋、鎖骨。 まだ痕跡のない場所を探しては、埋め尽くすように吸い上げて紅の花を咲かせて行く。 色づいてツンと勃つ乳首は春の苺のように甘く成歩堂を誘う。 「ぁ……っ」 魅惑的な誘いに乗せられて、成歩堂はチュと音を立てて突起を口に含んだ。 「んっ……ん……っ」 舌で絡め取り、丁寧に舐めて転がしてやると、真宵は切なげに身を捩らせた。 結合した胎内がキュンと成歩堂を締め付けるので、彼は辛抱しなくてはならなかった。 真宵の昂りと共に、成歩堂を包む蜜壷からは清らかな水が満ちて溢れて来る。 真宵は胸の先から下腹部にじんわりと広がる快感に身を任せていた。 胸の先端の敏感な部分と下腹部の大切な空洞が直結してるような錯覚を覚えてしまう。 成歩堂の舌先が生む快感にうっとりしながら、熱心に乳首を構っている彼に楽しげに言った。 「なるほどくん、赤ちゃんみたいだよ」 クスクスと真宵は笑う。 その笑顔は10代の頃と変わらないまるで幼げなものなのに、目尻がほんのり色づいていて妙 な色香があった。 「赤ちゃんはこんな風に舐めたりしないだろ」 真宵は成歩堂が露骨な言葉を囁くたびに、パッと顔を赤らめた。 言葉より、よほどいやらしいことをしているにも関わらず、だ。 そんな初々しさが愛しかった。 成歩堂は二人が繋がっている部分のすぐ上の芽を親指で揉み始めた。 「ひ……っ」 真宵は上半身を反り返らせて腰を震わせた。 「あ……あっ、あっ」 真宵の締め付けは一層きつくなり、クッと圧力がかかると成歩堂自身が押し出されそうだっ た。 真宵の中はたっぷりの蜜と共に肉の棒を咥え込み、妖しく蠢く。 ヤバいな……。 成歩堂は射精前のムズムズした予兆を感じ始めていた。 下腹部がじんと痺れて来る。 このままでは動かないまま終わってしまいそうだった。 艶のある豊かな髪を愛でながら、ゆっくりと深呼吸で昂ぶりを落ち着ける。 何もしないまま一人だけ先に達してしまえば、成歩堂にとっては大惨事だ。 今は良くとも、数年後。今よりも経験を積んでいるであろう真宵に何を言われたものか分か ったものでない。 そろそろカラダは慣れただろうか。乱暴にしてしまったのだから、せめて今こそ優しくしな ければ。 ああ、でもぼく、もう限界が。真宵ちゃん、頼むからあんまり締め付けないでくれ……! 成歩堂の正直な腰は、そそり勃つものに快感を与えようと勝手に動こうとし、理性が必死で それを自制する。 と、まるで彼の葛藤を見抜いたように真宵が言った。 「えっと。……コレって、本当は動くんだよね?」 初めての経験ながら、真宵にも多少は知識があるようだった。 どこで知ったのだろう。 そんな下衆なことが頭を過ぎったが、すぐに打ち消した。 真宵はもう以前のような子どもではないことを思い出したからだ。 年齢も、知識も……そして、カラダも。 真宵は正真正銘、大人のオンナだった。 「うん……」 「なるほどくんも、動きたい……?」 「そ、そりゃね」 「じゃあ……、良いよ」 「大丈夫?」 「うん、多分」 そう言ったあと、羞恥と躊躇いを隠しもせずに真宵は言った。 「なんか、ね……? 痛いの落ち着いたみたい。あたしも、少し良くなって来た」 抉じ開けられてやっと成歩堂を呑み込んだ下の口は、なんとか太いものに馴染んで痛みが和 らいで来ていた。 真宵は頬を赤らめて、溜め息を漏らす。全身にうっすら汗を掻き始めて、肌がじんわりと湿 っていた。 心なしか瞳が陶然として来たようだった。 「……じゃあ、失礼して。痛かったら、言って」 成歩堂はおもむろに真宵の膝の裏に手を差し込んで大腿を抱えると、下半身を密着させてリ ズミカルに抽送を始めた。 「あっ、んっ、んあっ」 肉の襞がいきり勃つ棒にぬちゃぬちゃと絡みついて来て、腰の中に生まれる気だるい疼きに 成歩堂は思わず呻いてしまいそうになる。 突き上げる度に真宵は甲高く鳴き、その声に呼応するかのようにキュッと締めつけて来る。 奥を突くと淫らな水が湧いて来て、成歩堂の先走りと混ざって二人の間で淫靡な音を響かせ た。 腰の動きに合わせて乳房がぷるんぷるんと揺れるさまは、成歩堂を興奮させるには十分な眺 めだった。 「真宵ちゃん、やらしい……」 「あっ」 乳房を揉み、敏感な先端を指でイタズラしながら、リズミカルに腰を振る成歩堂を、真宵は ぼんやりと見上げた。 突かれる度に衝撃で声が漏れてしまう。 奥深いところを突かれるのは独特な鈍痛を伴ったが、狭いところをペニスに拡張され一枚一 枚襞を抉るように擦られると、甘美な痺れが胎内を熱くし始めた。 頭の中まで侵食していく痺れが、次第に思考能力を奪う。荒くなる呼吸と喘ぎは自分の意思 とは無関係に切迫していた。 初めは苦しげだった真宵の喘ぎが、次第に甘えるような艶を帯びたものに変化していく。 破瓜の痛みは成歩堂との濃密なスキンシップで既に引き、硬くて太い成歩堂の分身が自分の 中で動く度に、高まって行く切なさが真宵の全てを支配しようとしていた。 「んんっ、あん、あ、あ、や、あんッ……ッ!」 真宵は成歩堂の背中を掻き抱いた。 自分にとって、兄のようであり、友達のような存在だった成歩堂。 その彼が、熱に任せた愛撫の一つ一つにオンナとして翻弄される真宵に興奮し、昂ぶりを堪 えることなく、本能のままに腰を振っている。 これまで二人の間に表立ったことが無かった男女の部分をあらわにしていることが、真宵に は妙に気恥ずかしく感じられた。 いやらしく腰を使いながら、すぐ真上で息を弾ませている成歩堂を直接見るのが恥ずかしく て、視線を逸らしながら真宵は呟いた。 「なるほどくんと……ッ、んっ、こんなコト、してるなんて……、なんか変な感じ……っ」 成歩堂は真宵のつるんとした額にキスを降らせながら言った。 「ぼくは……、ずっとしたかったけどね」 「!」 「キミとこういうコト、したかったんだ」 「ん、あっ……なるほどくん、って……っ、意、外と……、えっちだったんだ……」 時には姉弟だなんてからかいながら十年間を過ごして来たのに、その間も女として見ていた と暗に言われてしまうと、彼女の中の建前が音を立てて崩れ去っていく。 友達、兄妹。 ずっとそう自分に言い聞かせてきた。 だけど……。 広い肩幅、喉仏、大きな背中。 血管が浮き、骨ばった手。 徹夜明けの無精ひげを生やした疲れた顔。 自身満々に間違えた時の照れ笑い。 異議を叩きつけた時の会心の笑み。 いつも彼の右側から見上げていた、法廷に立った時の凛とした頼もしげな佇まい。 そして、真宵の名を呼び、笑いかける優しい笑顔。 そのどれもが自分には無いもので、少なからず異性を感じていたはずだ。 そうでなければいつの頃からか日に日に増して行った胸の高鳴りは証明出来ない。 真宵は10代の頃から彼に恋していた。 だがそれ以上に家族のような関係はとても心地良かったから、下手に想いを伝えて気まずく なって関係が崩れるよりは、いつまでもこのままで良いと思っていた。 ──たとえ将来、どちらかが別の誰かと一緒に人生を歩き始めたとしても。 その選択がいつか自分を苦しめるかもしれないと、真宵にはよく分かっていた。 自分以外の誰かに優しく笑いかける彼を近くから見ながら生きて行くのは予想以上にツライ だろう。 自分には決して向けられることのない笑みを独占出来る女性を、浅ましく羨みもするかもし れない。 素直に彼の人生を祝福出来るようになるまでには時間がかかるかもしれない。 そう遠くない未来に、自分自身だって家族を作らなくてはいけなくなる。 自分は一族の長、家元なのだから。 一子相伝の力を絶やさないために大切な務めがある。 そのためのリミットが刻々と近づいているのを肌で感じていた。 里の命運が己の肩にかかっている今、自分一人の想いを優先させるわけにはいかない。 覚悟を決めなければならない日が近づいている。 誰かのものになってしまう自分を成歩堂に見られるのは……。 そして、彼に笑顔で祝されることは、きっと死ぬほど切ないに違いないことを、真宵は泣き たくなるほどよく理解していた。 それに、綾里に振り回され続けた彼を再び巻き込むことへの抵抗もあったし、今も闇の中で 真実という光を探して走り続けている彼に脇目を振らせることなんて出来ない。 そう思ってしまうのは、女としては悲しいことなのかもしれない。 それでも、そんな胸の痛みを堪えてでも壊したくない、大切にしたい関係だった。 恋人じゃなくていい。妹でいい。友達でいい。 そのかわり、ずっと近くにいたい。 妹でいいから、友達でいいから、近くにいたい。 そう考えていた真宵にとって、十年の時を経て成歩堂と結ばれる時が来るなんて夢のようだ った。 “友達でいい” そう思いながら、女性としての自分は、心のどこかで成歩堂とこうなることを夢見ていた。 成歩堂に女として求められている今、味わったことのない柔らかな光のような幸福感に全身 を包まれている気がした。 成歩堂がバッジを失ってからの七年。 成歩堂に抱かれている今この時だって、彼に、共に歩く将来を望んではいけないことは分か っている。 だけど、今だけは。 成歩堂の腕に抱かれて、女性として愛されたかった。 「あたしも……、したかった」 「え?」 「なるほどくんと、えっちしたかったよ」 「真宵ちゃん……」 「オバサンになっちゃう前に出来て、良かったよ」 真宵はそう言って精一杯の笑顔を浮かべた。 瞳を潤ませてふんわり笑む真宵の白磁の頬に唇を落とす。 オバサンになっちゃう前に、か……。 ──可愛いなあ。 少しでも乱暴に扱えば折れてしまいそうに細い真宵の身体を抱き竦めた。 真宵もぎゅうと抱きついてくる。 いじらしさが愛しくてたまらない。 目を閉じれば浮かんで来る17歳の真宵の面影が、自分の匙加減一つで切なげに身をよじらせ 悶える27歳の真宵と重なる。 色気など皆無だったのに、この十年の間にいつの間にか女らしく熟れたカラダで成歩堂を魅 了する。 「あの、さ」 「うん?」 「あたしの中って、どんな感じ……?」 「……温かくって、ぬるぬるしてて、動いてるよ」 「それって、気持ち、良いの……?」 「う……ん、すごく良いよ。……真宵ちゃんは……?」 「え?」 「ぼくの、わかる?」 「……ん……」 真宵は秘所に意識を集中させた。 成歩堂の動きに合わせてグジュグジュという激しい水の音が聴こえて来る。 クッと下腹部に力を込めると陰茎が中でピクリと跳ね、成歩堂が同時に小さく呻いた。 膣に出入りする成歩堂の感触を確かめる。 これが、なるほどくんの── 真宵は赤面してしまう。 自分が乱れることによって成歩堂が興奮して、彼の性器が学生時代に保健の授業で習った通 りの状態になっているのを改めて実感してしまった。 汗を掻いて熱っぽい成歩堂の眼差しが、真宵の心に切なく響く。 成歩堂に大きく広げられて抱えられた真宵の生白い下肢が、彼の肩越しに律動に合わせて力 なく揺らめいていた。 それは自分で見てもとても艶かしい光景だった。 その上、膣を埋めている力強すぎる成歩堂の存在。 あたし、今、なるほどくんとエッチなことしてるんだよね……。 なるほどくんといやらしいこと……しちゃってるんだ。 か、考えてみれば、すごい行為だよね。 なるほどくんのアレがこんなに硬く……勃……起、して、あたしの大切なところに出入りし てる。 すごいトコロにすごいモノ、挿れられちゃってるんだもん。 これがせっくす、かぁ……。 あたしもとうとうしちゃったのかあ。 ……なるほどくんと、生まれて初めての、せっくす。 えっと、えっと。 こういうの、“オンナになった”とか“オンナにされた”って言うんだっけ。 あたし、なるほどくんに“オンナ”にしてもらったんだ……。 今日のなるほどくん、あたしですら知らないあたしをどんどん見つけていくみたい。 あたしでもこんないやらしい声が出るなんて、知らなかった。 足なんて自分の足じゃないみたいにゆらゆら揺れてるし、あそこなんて、恥ずかしいくらい、 ぬるぬるって、濡れちゃって……。 自分がこんなにえっちだったなんて、知らなかったな……。 それに、あたしのカラダで、なるほどくんは気持ち良くなってるんだよね……。 それっていやらしい。なんか、凄くいやらしいよ……! 「は、あぁん……っ!」 不意に、真宵の喘ぎが甘く鼻にかかったものになったので成歩堂は顔を上げた。 可憐な耳朶、ふっくらと柔らかな頬、それから男に組み敷かれて揺さぶられている小さなカ ラダ。 すべてを桃色に染め上げた真宵は、悩ましげに眉根を寄せて、下半身を支配しようとしてい る快感に呑まれそうになっていた。 改めて自分のしている行為を認識した真宵は、自分で自分を煽ってしまったことに気付くほ どの経験など、当然のごとく持ち合わせてはいなかった。気持ちの昂ぶりと共に、 じんわりと切なく熱くなっていくお腹の奥に戸惑い、突かれた時には思わず甘い声をあげてし まっていた。 膣の中の感じてしまう所を亀頭で擦り上げられると、成歩堂の指で強制的に覚醒させられて いたその場所は、敏感に刺激を受け止めて快感に変えて行く。秘穴は成歩堂との 摩擦で熱を帯びてわななき、疼きは不規則な痙攣に変換される。 ヒクリヒクリと少しでも奥へと誘うように真宵の襞は蠢き、もう離さないと言わんばかりに クッと成歩堂を締め付けて来る。 背中を駆け上る寒気にも似た快感に、成歩堂は思わず溜め息を漏らした。 ゆるゆると抽送を続けながら、真宵を愛しげに愛撫する。 少しずつ性感に目覚め、戸惑いながらも素直にカラダに表す真宵が可愛くて仕方なかった。 胸の突起を口に含んで軽く引っ張られ、舌先で捏ねられると、乳房の中で甘酸っぱい感覚が 弾けた。 成歩堂はもう片方の乳首を摘まみ、指の腹で転がす。 「あ、ん……」 次第に真宵は恍惚となって行く。 不思議なことに、弄られているのは胸なのに、成歩堂と繋がっている下半身の大切なところ が熱を帯びていた。 中を擦りながら出入りする成歩堂の肉棒は、カチカチに硬くて太かった。 よく入ったものだと思う。 じっくり見たわけではないので構造は分からなかったが、どうも中で引っ掛かる部分がある ようで、それがゴリゴリと擦れて気持ち良かった。 成歩堂が抜けそうなほどに出て行くと、それまで満たされていた部分がどうにも切なくなっ てしまう。 早く欲しい。埋めて欲しい。 真宵の期待通りに硬いモノが再び入って来ると、胎内の襞が伸ばされて、空洞だった部分が いっぱいに満たされる感覚がたまらない。 その内、腰を浮かして自ら迎えに行けば良いのだと気付いて、おずおずと成歩堂の動きに合 わせて腰を動かしてみた。 より奥まで迎え入れられることが分かって、ゆるりゆるりと腰を振り始める。 成歩堂はそんな真宵に驚いたように目を見張ったが、ふっと笑って抱き締めてくれた。 彼と抱き合うと、幸せで鳥肌が立った。 「真宵ちゃん、気持ち良いの?」 「うん……、いい……」 何しろ真宵にとっては初めてのことだから、何が正解で何が間違いなのかなど分からない。 手探りでコツや感覚を掴もうとしている真宵は、腰を動かすことに夢中になって行く。 本能に従って男を貪ろうとしている彼女の姿に、成歩堂は感動すら覚えていた。 ゆるやかなピストン運動をしながら身体中を撫でている成歩堂を、真宵は何か言いたげに見 つめていた。 潤んで誘うような、それでいてほのかに切なげな瞳が成歩堂の心に突き刺さる。 その瞳を見つめながら、結合部から溢れる蜜を指に取ると、秘芯に塗りつけ円を描くように 擦ってやる。 真宵の瞳が悩ましげに歪んだ。 「あんっ」 薔薇を思わせる可憐な唇から漏れる愛らしい喘ぎ。 「なる……ほど、くん……っ……?」 「なに……?」 「あ……っ、な、なんか、そこ……っ、やあ、あ、んっ……凄い、よ……!」 「感じる……?」 真宵は恥ずかしそうにこっくりと頷いた。初々しさが可愛らしい。 「敏感なんだね」 「ん、あ、あ、あ……ッ」 甘美な感覚に悶える真宵を見ながら、成歩堂は腰遣いを変えた。 色々な抽送を試してみたが、その中でも特に真宵は、深く挿して最奥部に押し付けたまま掻 き回されるのを好むようだった。 そうしてやると一段と甲高い声を上げ、腰を浮かす。 胎内の前面のザラザラした部分を擦り上げたり、亀頭のカリの部分で入り口を浅く引っ掛け てやるのも悦んだ。 無邪気な真宵の肌は桃色に染まり、唇からは普段からは考えられないような甘く淫靡な声を こぼす。 汗で光る肉体がくねる様子は、卑猥で妖艶とも言えた。 「あ、あれ……?」 真宵はしきりに目をこすっていた。 硬いモノが胎内で動くたびに下半身の奥が切なくなって来て、視界までぼやけてしまう。目 元を拭ってみて、初めて涙が滲んでいるのだと気付いた。 「どうしたの」 「う……ん、なんか、いつの間にか涙が……。泣いてるわけじゃないのに……っ、なんでえ… …?」 「それは」 成歩堂は汗を掻いた頬に張り付いている髪を取り払ってやりながら、言った。 「本格的に気持ち良くなり始めたってコトじゃないかな」 「え。……で、でも。もう気持ち良いよ……?」 「もっと気持ち良くなるんだよ、これから」 「え……」 真宵は真っ赤に頬を染めた。 恥じ入るように目を伏せたが、成歩堂の肉棒を包む膣はキュッと締まり、熱をあげた。 羞恥に顔を赤らめる幼さとは裏腹に、カラダはある種の予感に期待して素直に嬉しがってい た。 華奢ではあるものの、腰から尻にかけて広がる女性的なラインと、乱れた装束から覗く白い 素肌、そしてそこに散らばる黒髪が何とも淫猥だ。 成歩堂は腰を抱えると、真宵が嬉しがる場所へ角度を調節して腰を使い始めた。 真宵は成歩堂の背中にすがるように抱きつき身体の支えにするが、もはや息も絶え絶えだっ た。 「ああ、は、あんっ、あ、ああっ、あ……んんっ」 下腹部の熱が徐々に真宵を支配していく。 緩やかなカーブを描いて昇って行く熱が、もどかしい。 自分ではどうしようもないのがまた切ない。 これ以上続けたらどうなってしまうのだろう。 下半身の熱さに溺れてしまいそう……! 組み敷かれて官能に喘ぐ真宵をまじまじと見た。 最奥を突かれるたびに真宵の身体は跳ねた。 重低音が下腹部に響くような感覚は少し痛みを伴うが、それ以上に、成歩堂が硬い棒の先端 を子宮に押し付けて腰を回すのには参った。 「あんっ、あ、ん、ぁッ、あ、あああっ……!」 真宵はあられもなく悶えてしまう。 そこを、もっと奥を突いて欲しい。 めちゃくちゃに、掻き混ぜて欲しい……! もっと気持ち良くして欲しいよ……! 「なる……ほどく、ん……っ、あたし……っ!」 成歩堂の呼吸も荒い。 真宵の中はドロドロに蕩け、成歩堂の勃起を包む襞は、まるで奥へ奥へと咥え込むように吸 いついてくる。 未知の快感に堕ちようとしている真宵はもう限界のようだった。 成歩堂の下腹部も時折ピクッと跳ねて、射精が迫っていることを教えていた。 一層奥へと捻じ込んで小刻みに揺さぶると、真宵はカラダを弓なりにしならせ嬌声を上げた。 成歩堂を奥まで咥え込んだ秘穴は、真宵の意思とは全く無関係にヒクヒクと収縮している。 「やんッ、あ、ああああ……っ」 もう、わけが分からない。 身体の奥が熱くて溜まらなかった。 秘所や胸の敏感な突起がじんじんと疼いて仕方ない。 下半身でどんどん大きくなって行く熱の塊が、限界まで膨らんでパンっと弾けた。同時に視 界が閃光に包まれる。 「ん────ッ!」 絶頂のその瞬間、真宵は息を引いてカラダを強張らせた。 桃色に染まったカラダが大きく痙攣する。 はしたない声を漏らしていた唇が、酸素を求めてパクパクと戦慄いた。 フワフワと宙に浮かんでいるような感覚に恍惚としている真宵を掻き抱き、成歩堂は抽送を 激しくして行く。 絶頂の余韻に浸りきっている真宵の妖艶な姿はめまいを感じるほど魅惑的だ。もう喘ぎ声を 上げる力すら残っておらず、突かれるがままにカラダを揺さぶられている。 どろどろに溶けた肉襞はキュウっと収縮しながら彼の分身に絡みつき、押し出そうとすらし ていた。 「真宵、ちゃん……!」 成歩堂の中を熱いものが駆け上がって来て、はち切れんばかりに膨張している陰茎が甘い痺 れに包まれていく。限界だった。 真宵の最奥に剛直を突き挿すと、低い呻きと共に男の粘液を吐き出した。 「く……ッ」 ビクリビクリと脈動しながら白い液体をほとばしらせる肉棒を、心地良く弛緩した真宵の女 性器が少しでも奥へと呑み込もうと蠢く。 淫らに蠕動する襞に、成歩堂は最後の一滴まで精を吸い取られていくような気がしていた。 それまで息を弾ませながら激しく腰を使っていた成歩堂が、一際深く突き挿して動きを止め たので、真宵は重く感じるまぶたをやっとの思いで持ち上げた。 あ……。 成歩堂は真宵の腰を両手で抱えて少しでも奥に注ごうとするように局部を押し付け、眉間に 深く皺を刻んだ苦しげな表情で下腹部を震わせている。 その様子で、真宵はぼんやりと行為の終焉を悟った。 終わった、のかな……。 お腹の中で、時々成歩堂がビクンと跳ねている。 真宵はじっと、彼の痙攣が治まるのを待っていた。 今、せーえきが出てるんだ……。 ……なるほどくんでも、やっぱり射精するんだねえ……。 射精している成歩堂が妙に色っぽく見えて、真宵のそこはまたヒクリと反応してしまった。 やがて、真宵の腰を掴んでいた成歩堂は、二度ほど大きくゆっくり抜き挿ししてから倒れ込 むように覆い被さって来た。 真宵は荒い呼吸を整えている汗だくの背中をギュッと抱き締めた。 ****** 次へ
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32 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 18 12 ID J4U6qYz30 サトコの引越しの手伝いに行きなさいという話になり行動アンカ 明智光秀を討ち取る 「俺の前でストリップをしてくれ」と土下座して懇願 指輪をプレゼント。 「きみのウザさに乾杯!結婚してくれ」 アナリスクで 「もう限界でござる!」 というまで調教 新居のトイレでオナニー 有り金全部を差し出し 『これで別れてくれ 手切れ金として受け取れ』 35 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 19 20 ID J4U6qYz30 コンビニでポテコとフリスクを購入し、待ち合わせの駅に向かう。 バッグの中には戦国BASARAとセーブデータの入ったメモカ。まつモエス。 某駅の北口に着いたのは、待ち合わせ10分前。駅のホームからメール送信。 「今北産業」 受信。 「??着いたんですか?」 反応わりい。 今日のサトコの服装はキャミソールにフレアスカート、ニーソックスにポニーテール。 キタコレ!!!!テラモエスwwwww でも、引越し作業する格好じゃねーだろそれ。 と、服装に関してツッコミつつ、サトコん家に向かう。 「ケーキ、買ってますよ。後で食べましょうね~」とか呑気な事言ってる。 俺が辞めてからの職場の動向とか、かなりどうでもいい話を聞かされながら歩く。 駅から10分くらいのところにある、1LDKのマンション。オートロック、最上階、角部屋。 たぶん、俺が住んでるトコより家賃高い。 「散らかってますけど、どうぞ~」 オマエばかか、散らかってんの当たり前だろ。 44 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 20 31 ID J4U6qYz30 35 の続き さて、サトコん家。 ダンボール箱めちゃめちゃ多い。明智光秀を討ち取るにも、まだTVも無い。 「あと1時間くらいでヨドバシが届けてくれます。洗濯機とかも」 ああ、そうか。 んじゃあまずはダンボール箱何とかすっか。 俺が開けていいモノと開けたらダメなものがあるらしく、ダンボール箱の端っこに何やら 目印がしてある。 ◎が付いてるものは誰があけても問題ないもので、★が付いてるものが他人が開けたら ダメなものらしい。 「じゃあ、すみませんがこの辺のやつをお願いします」 最初に開けたのは小物。 ばか丁寧に食器とか生活小物がみっしりと詰まっている。 次に開けたのも小物。 ぬいぐるみがみっしり。 サトコの目を盗んで軽めの★付きダンボール箱をゲット。 開けてみた。 キタコレ!!!! 46 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 22 10 ID J4U6qYz30 44 の続き ダンボールの中身はカラフルなパンツ祭り。でも下着そのものには執着は無い。 「おーいサトコー」 「なんですかぁー?」 「おまえ、案外カワイー下着持ってんのな。あ、これKID BLUEじゃね?」 「!!1!!その箱はだめです!111!!」 年齢相応というかPJとかが多かった。 サトコのエロ耐性を調べるためにも、これをネタにちょっと下ネタを会話に絡める。 「穴あきとか持ってないんか?」 「持ってるわけないじゃないですか!そもそも穴あいてたら落ち着きませんよ!」 「でも何かと便利だぞ。突然盛っても脱ぐ必要ないし」 「さ か り ま せ ん !」 「んでオマエ、Bなの?」 「悪かったですね!貧乳で!!」 耳まで真っ赤になるサトコモエスwwww 「もー、この辺のダンボールは、もう開けなくていいです!もー」 牛に釘を刺された。 つうか、★つきのダンボールが過半数なんだが…。 部屋のチャイムが鳴った。 48 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 23 16 ID J4U6qYz30 46 の続き テレビと洗濯機、乾燥機、掃除機、冷蔵庫、電話機、その他家電が続々と到着。 なんつーかスペック高いものばっかなんだが。テレビとかプラズマだし。 「おまえ、金持ちだな…」 「あー、お父さんが買ってくれたんですよー」 配達のにーちゃんが洗濯機と乾燥機を設置している間に、俺がTVを設置。 にーちゃんの相手をしてたサトコがパタパタとやってくる。 「あ、この箱の中がテレビ周りのものなんで、もし分かれば繋げてもらえませんか?」 精密機器・こわれものちゅうい!と書かれたデカい箱を開ける。 中身はDVDレコーダーとプレステ2、そしてプレステのソフト。 ソフトの中に戦国BASARAあるしwwwww とりあえずユリにメール送信。 「サトコの引越し手伝い中。サトコん家って金持ちだな」 すぐに返事が返ってきた。 「サトコって社長令嬢だって知らなかったの?(笑) このまま逆玉に乗っちゃいなよ」 まじか…。何気に焚き付けられているのは気にしない。 50 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 24 11 ID J4U6qYz30 48 の続き 洗濯機と乾燥機の設置が終わり、にーちゃんは帰っていった。 俺のほうもテレビ周りのセッティング完了。プレステ2も繋げた。 サトコはキッチンの片付けをしている。 「そろそろ落ち着きそうですし、お茶でもしましょうー」 ★印のついたダンボールがまだ数個残ってるんだが。 「このダンボールはこのままでいいのか?」 「もー、いいですいいです。これはあたしが自分でやりますー」 また牛か。 『プレステとか入ってた箱に戦国BASARAあったんだけど、お前もやってんの?』 「発売日に買いましたよー。むさしさんも持ってるんですか?」 『うん。まだ全員クリアできてないけどな。まついいよな、まつ』 「よしなに。とか言う女の子ですよねー。あたしは伊達政宗が好きですー」 『Are you ready?』 「Yeah!!!」 アホか俺ら。 でもだんだんサトコ可愛く感じてきた。ヤバス 54 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 25 27 ID J4U6qYz30 50 の続き 洗濯機と乾燥機の設置が終わり、にーちゃんは帰っていった。 俺のほうもテレビ周りのセッティング完了。プレステ2も繋げた。 サトコはキッチンの片付けをしている。 『んじゃちょっと戦国BASARAやろうぜ。サトコの超絶テクを見せてくれ』 「えー、あたしそんなうまくないですよー」 『自由合戦でいいや。明智光秀討伐してくれ。難易度はどうする?』 「明智だったら天王山取ればすぐ終わるんで、究極でいいですよー」 『究極?マジで?』 「その代わり、無限六爪流は装備させてくださいね」 ロードが終わり、サトコのプレイ状況を見てみる。 全キャラ使用可能。全キャラLv20。アイテムコンプリート。 うはwww夢が広がりんぐwwww 俺より全然スゴスwww 自由合戦で伊達政宗、山崎殲滅戦(明智光秀討伐)の難易度究極を選ぶ。 武器は亜羅棲斗流Lv99にJET-XとMAGNUM STEP。アイテムは無限六爪流、剛力の腕輪、熱唱びわw 「お茶入れてきました。むさしさんは紅茶よりコーヒーのほうがいいんですよね?」 『そんな野暮なこと聞いてんじゃねえ。とっとと明智殺してくれ』 「はーい」 58 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 28 51 ID J4U6qYz30 54の続き サトコの明智光秀討伐がはじまった。 『熱唱びわはやっぱいいよな』 「あたしはグレイのほうが好きなんですけど、この曲はゲームにあってていいですよね~」 『おれまだ無限六爪流持ってないんだよ。おまえよく取ったな』 「あたし、単純作業が苦じゃないんで(笑)」 ダベりつつサトコのプレイを横から眺めるが、なんかこいつすげーウマい。 無限六爪流を装備しているというアドバンテージがあるのを抜きにしても、全然ダメージ食らわないし、敵キャラの配置とかしっかり覚えてる。 『おまえ、俺よりうまいんじゃね?』 「このゲームはやりこみましたからね~。自信ありますよーう」 クッションの上にペタンと座り、テレビを見据えてコントローラを動かすサトコ。 彼女に気づかれないようにそっと手を伸ばし、フレアスカートの裾を少しずつ持ち上げてみる。 70 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 09 32 01 ID J4U6qYz30 58 の続き 今日のサトコぱんつは 水 色 (フリル付き)。 悪くないな。 「亜qw瀬drftgyふじこlp;@:!!!」 「ななな、なにしてるんですか!!!!!」 『いやいや、サトコかわいーから、パンツもかわいーのはいてるんだろうと思ってな。 もしかしてもしかしたら穴開きだったら困るから、確認しておかねばと』 「穴開きなんて持ってないです! もー! あ!」 伊達政宗が雑魚に蹂躙されている。 『ほらほら、気抜くと政宗死ぬぞ。天王山死守してくれよ』 「もう!イタズラはダメですからね!」 そしてあっさりと討伐される明智光秀。 【明智光秀討伐篇】了 704 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 16 49 ID J4U6qYz30 「明智光秀討ち取りましたよ!おやかたさま!」 先生、バカがいます。 さて、ここからプロポーズしてアナリスクへと向かわなければならないわけだが。 ぶっちゃけどうしよう。 まずはケーキ食うか。 『このケーキ、もしかして○○○○の?』 「お。兄さん、詳しいですねえ。アタリです」 『たしかこの辺に店あんだろ?』 「そーですそーです。結構近くにありますよ。通う予定です! 『おまえ、これ以上太ったら嫁に行けなくならね?』 「大丈夫です!むさしさんに拾ってもらいますから!」 『悪いけど、俺デブ専だから最低でも今の倍くらいになんねーと相手にしないよ?』 「え、えええー!?が、がんばります!(笑)」 なにこのスイートな展開。 『んじゃあ、サトコ太らせるか。はいあーん』 「えええええー。恥ずかしいですよう。でもあーん(笑)」 なにこの展開。ラブラブじゃん。 726 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 18 16 ID J4U6qYz30 704 の続き ケーキを口に運んでやるフリをして、ほっぺたに生クリームをヒットさせる。 「! うそー。ひどーい」 『あれ?さっきはこの辺りまで口あいてなかったっけ?』 「そんなことないですようー」 『わりい。俺、最近視力落ちちゃってさ。よく見えないんだよね。口移しでもいい?』 「い、いやいや、それはちょっとありえないです。付き合ってもいないのに」 『だったら付き合うか?』 「え、えー?ちょっと突然そんな事言われても…」 『あー、俺もケーキ食いたいけど、作業疲れで腕あがんなくなっちゃった。あーん』 「えー」 『おまえ、さっきからえーしか言わねえな』 「えー、そんなことないですよう」 『じゃあケーキ食わせてくれよ。できれば口移しで』 「全然関係ないですし!」 『ケーキ食いてえなあ…』 「………じゃあ、一回だけですよ?できれば目を瞑って欲しいです」 『えー、目ェ瞑ったらサトコの照れ顔見られないじゃんよ』 「えー、とか言う人は、もうケーキ食べてくれなくていいです!」 『えー』 「また、えーって言った」 『サトコのが移ったんだよ。えー。ケーキ食いたいです。食わせろよ。早く』 「じゃあ、黙って目ぇ瞑る!」 目を瞑って口を開ける俺。今、写メ撮られたらマジ死亡。 730 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 19 24 ID J4U6qYz30 726 の続き 薄目でサトコを見てると気づかれた! 「もー、目ぇあけたらダメです!」 と言って片手で目隠しし、こっちに寄って来る。 生クリームが口に触れた。 「ほー、ははくはへへふははいほう」(予想訳:もー、はやくたべてくださいよう) 手の目隠しは誤算だった。口移しから抱き寄せのコンボの成立には難がある。 仕方なく、何もせずにケーキを受け取った。 『じゃ、今度はサトコの番ね、はいあーんして』 「え、ええー?」 『えー、とか言わない。何度言えば分かるんだ』 「いやー、恥ずかしいですよう」 『じゃあ、目ぇ瞑ってればいいじゃん。俺はガン見してるけど?』 「もー、わかりました。あ、苺でおねがいします。あーん」 なんだ、これから苺の展開って分かってんじゃねーか。 737 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 21 51 ID J4U6qYz30 730 の続き 苺をくわえ、サトコに近づく。 ぎゅーっと目を瞑ってるのが何かカワイス。 しかしまあ、女の髪の毛はイイ匂いするよな。 サトコのシャンプーは多分ビダルサスーン。だって彼女(今週末に結納)と同じ匂いだしw 小さく口を開けたサトコに苺を押し込むと同時に、俺の舌も差し込む。 「!?」 サトコが目を見開くのと同時に、悶絶する俺ガイル。 噛 み や が っ た。orz 「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!」 大丈夫なわけねー。でも痛みで喋れねー。 しばしの悶絶の後、鈍痛は残るけど喋れるくらいには回復した。 743 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 22 51 ID J4U6qYz30 733 戦国BASARA 774 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 27 47 ID J4U6qYz30 737の続き サトコ、あたふたしてる。顔真っ赤。 『噛むなんてひどくない?』 「すみません………」 『まあ、そこまでションボリしなくてもいいと思うけど』 「大丈夫ですか?」 『とりあえず喋れるけど、痛みは残ってるよね。誰かさんに思いっきり噛まれたから』 「もー、すみませんっ!いきなりあんなことされたら、誰でもびっくりしますって!」 『あー、痛い痛い痛い痛い』 「全然痛くなさそうなんですけど…。どうしましょう…。 オマエの口で治療しろとかエロ親父みたいなことは言いませんよね?」 『いや、言う。治療してくれよ。サトコの舌で』 「えええー。まんまエロ親父ですよー。会社辞めてもセクハラ癖抜けてなーい」 『25過ぎたら親父だよ。オマエも25過ぎたらお肌の曲がり角だぞ。一気に老けるぞ』 「ひ、ひどーい」 『まあ、それはともかく、サトコとチューしたいからチューしようぜ。大人のチューを』 「電車男だ(笑)」 電車男、さすがに知名度高いな 825 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 33 47 ID J4U6qYz30 774の続き 『ごまかしてんじゃねえ。とっとと大人のチューするぞ。ってもしかしてオマエ、大人のチューしたことねーのか?』 「そんな事ないですよー」 『それはドッチの意味に取ればいいんだ?経験アリ?なし?』 「アリアリですよっ!」 『ほんとですかー?ま、やってみればわかるか。するぞ、チュー』 「え、えー。えーと…ごめんなさい。ないです…」 『…まじで?』 「はい。だって、男の人とまともに付き合ったことって無いし…。ネクラだし。可愛くないし」 『ネクラとかはともかく、サトコかわいいじゃん。まあ、あと30kgくらい太ってくれたら俺的にはベストだけど』 「えー、それはありえなくないですかぁ?」 『ま、俺がデブ専ってのはネタだけど。チューしよう。チュー』 「もー、ちゅーちゅー、ってネズミみたいですね」 『ごまかしてんじゃねえyp、やんのかやんねーのかはっきりしろ』 ちなみにここまで押し切るのは、ユリから入手した【サトコは俺に気がある】という情報があるからだ。 843 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 36 44 ID J4U6qYz30 825の続き 「え、えー。じゃあ、します。チューします。よろしくおねがいします…」 『子供?大人?』 「えっと…軽いやつで」 『フレンチ?ディープ?』 「えっと…フレンチ」 『フレンチキスっていうのは、所謂ベロチューの事なんだが』 「そうなんですか?って、フレンチかディープかって、どっちも同じじゃないですか!」 『お互い子供じゃないしね。ともかくサトコちゃんはベロチューがご希望で、初めての相手を俺にと』 「なんか騙されてる気がします…」 『サトコちゃんはベロチューがご希望で、初めての相手を俺にと』 「あ、…はい。おねがいします…」 『ちなみにさ』 「はい?」 『オプションというか。大人のチューをしたら続きもしないと俺の気がすまないんだが』 「え、えー?」 全身で尻込みを表現するサトコ。でも二の腕を俺に掴まれてるんで逃げられず。 877 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 40 44 ID J4U6qYz30 843続き 『サトコは俺のこと嫌いじゃないんでしょ?』 「嫌いだったら、おうちになんて呼ばないです」 『嫌いじゃないって事は、好きって事だ』 「な、なんでそうなるんですか?」 『好きの反対は無関心だろ?サトコは俺に対して無関心じゃないだろ?って事は無関心の反対で好きって事じゃんか』 「なんか…ジャイアンみたいな俺様理論ですね…」 『ま、いいんじゃね?俺はサトコが好きで、サトコも俺が好き。って事で大人のチューの先まで行くって事でFA?』 「お、大人のチューの覚悟はしたんですけど…。大人のチューの先って……やっぱエッチですか?」 『まあ、そうだな。ちなみにエッチにも色んな方向があるんだけどな。俺のエッチはちょっとすごいかも』 「ってゆーかですねえ…」 『なに?この期に及んで、言い訳?言い逃れ?』 「えっと…あたし…、したことないんですよ…」 『アーアーきこえなーい。声が小さくて聞こえなーい。ナニをしたことないの?』 「だから…えーっと、えーっと、えっちしたことないです…」 処女宣言キタコレ!!! 937 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 45 45 ID J4U6qYz30 877続き 『Oh really? are you virgin?』 「もー、茶化さないでください…。どうせ23で処女ですよぅ!」 『つーか、お前マジで処女?』 「すみません…」 『うわー…』 「やっぱり、23で処女ってヒきます?」 『いや別に。たとえ処女でも援交しまくりのHIVのキャリアでも、サトコはサトコだしな』 ま、HIVキャリアだったらガン逃げするけどね。 『というわけで、まずは大人のチューからね』 「…なんか言いくるめられてる気がしますけど…。むさしさんが相手なら、ばっち来いです…」 ばっち来いワロスwwww 960 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 11 48 59 ID J4U6qYz30 セクロスシーンは必要ですか? 必要だよな…。 361 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 15 24 ID J4U6qYz30 初めての(相手)とのチューは、いつもどきどきするね。 おれエロビ見ても生まんこ見ても( ´_ゝ`)なんだけど、ベロチューはそれだけでちんちんおっきする。 あと、俺は無言でセクロスはダメ。かと言って愛の言葉をささやくでもなくコミュニケーションのひとつとしてセクロスがあるわけだ。 どちらか一方だけ気持ちよくても仕方ないし、どうせなら相手の痴態を見たいしな。 ま、そんなことはどうでもいいかw じゃ、いただきまーす。 初めてのチュウのときくらいは、ムーディーに行くか。 サトコを見つめる。こういう展開に多少は予測していたのか、それとも期待していたのか ちょっと困ったようなはにかみ顔。 『目、開けたままでチュウする?俺はサトコの顔じーっくり見ながらするけど?』 「……恥ずかしいので、あたしは閉じます…」 片手でサトコの髪を撫でながら支え、顔をちょっと斜めにずらし唇を重ねる。 さっきみたいにいきなり舌を入れるとまた噛まれかねないので、最初はサトコの唇の弾力を楽しむ。 肩を寄せ合ってる状態でベロチューに以降するのは体制的に俺が疲れるので、ポジショニングを変更する事にした。 目を閉じて地蔵のように固まっているサトコから唇を離すと、目を開けて照れ笑いをする。 366 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 16 57 ID J4U6qYz30 361続き 「チューしちゃいました…」 『いや、本当のはこれからだから。大人のキスできる?』 「また電車男だ(笑)」 『ちょっとさ、大人のチューするのにこの姿勢は辛いから、もっとコッチこいよ。むしろ俺の膝の上座っていいよ』 「あたし、重いですよ?(笑)」 『さっき言ったろ?俺の理想は今のオマエ+30kgだって』 「うそばっかり(笑)」 サトコ、テンパってます。 何だかんだいいつつ俺の膝の上に座ったサトコ。 『じゃ、次は大人ね。舌噛んだらおしおきするからな。噛むなよ!絶対噛むなよ!』 「今度はダチョウ倶楽部ですか?(笑)」 ノリツッコミしてくれる女は大好きだ。 『そんなに緊張しなくていいから、ぽかーんと口あけとけ』 「はい…」 軽く口を開けた状態で再び目を閉じるサトコ。間抜け面だ。その開いた唇を塞ぎ、ゆっくりと舌を送り込む。 サトコの舌に俺の舌が触れたとき、一瞬ぴくっ!と反応するが、なされるがまま。 その間、両手の仕事もおろそかにしない。 髪や頬を撫でたり、うなじ、首筋、背中に指を這わせる。サトコは耳の上の方・鎖骨・背中に強く快感を得るらしい。 俺の舌と両手がフル稼働していると、サトコの息遣いもだんだんと荒くなる。 最初は自分の身体を支えるような感じで俺の肩に回していた腕、そして指にも力が入る。 373 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 19 19 ID J4U6qYz30 366続き そして受動的だったサトコの舌に動きが。俺の舌に対して自分の舌を絡めてくるようになった。 しばらくサトコに任せてみると、だんだんと動きが弱まり、そして目を開き困惑の表情をこっちに向ける。 「どうしたんですか?」 『いやな、サトコ初めてにしては案外ヤるなと思って』 「もー、またそんな恥ずかしいこと言うー」 『で、大人のチューの感想を聞かせて頂きたいわけだが』 「んふ…、いいですね…。すごくエッチな気分になります」 『エッチしたことないけどねw』 「んもー!」 頭はたかれますた。 『どうする?次に行く?』 「えと…もうちょっと、チューしてたいです。ダメですか?」 『いや、全然おkwww』 引き続き大人のチュー。 気づかれないようにチラチラを時計を見てたわけだが、もう10分くらいチューしてるのよ。 流石の俺もアゴが疲れてくるよ。フェラする娘はホント偉大だよな。 そろそろ路線をセクロスに変更しないとね。 382 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 21 23 ID J4U6qYz30 373続き 処女のくせに積極的になったサトコによる第二次大人のベロチューの主導権をじわじわと俺に戻しつつ、再びサトコが受身になったところで攻撃開始。 サトコが逃げないように腕を絡め、舌を唇から首筋に這わせる。 「え!え!え!汗かいてるから汚いです!」 『サトコの汗は汚くないぞ?寧ろウマい』 「えええええー…。ぁ!…」 反応が良かったのが鎖骨。「んあ!」とか言ってんの。で、直後、恥ずかしいのか黙り込んでるw ギガウイウイシスwww 口撃対象を耳に移した辺りから、片手は背中からオパイに向けて侵攻開始。 ブラのラインに沿って指を這わせ、触るぞ触るぞ、おにーちゃんサトコたんのオパイさわっちゃうぞー。と、じらし攻撃。 目測で乳首の位置を予測し、軽く撫でて見るとサトコは「ひゃ!」と声をあげてビクっ!と反応する。 『おっぱい揉まれた事とかねえの?』 「友達とかと遊んでて揉みあいとかしたことありますけど、こういうのは初めてです…」『じゃ、本格的にサトコのおっぱい弄っていい?』 「…作業してて汗たくさんかいてるし、恥ずかしいです…」 『だよな。初めてだもんな…。先にシャワー浴びる?』 「できればそうしたいです…。むさしさんもシャワー浴びましょう…」 『だが断る!』 「え?なんでですかー?」 『今、この瞬間、サトコのおっぱいを堪能しておかないと、俺は一生後悔する事になるから!』 ブラのホックを外すのなんて朝飯前である。 だってデートの度にスキあらば彼女のブラのホック外して遊んでるからな。 393 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 24 16 ID J4U6qYz30 382続き 「あ!ダメです!!」 『ダメじゃないだろ?サトコのおっぱい触らせてくれよ。できれば吸ったりもしたい』 「え、ええー」 『また、えーえー言ってんなw ま、サトコに拒否権は無いわけだが』 「なんでですかぁ?」 『食物連鎖でサトコは底辺、俺頂点だから』 「わけわかんないですよ(笑) 『ま、いいから。んじゃお邪魔しまーす』 サトコとチューしながら、片手でキャミソールの下からサトコのおっぱい目指し、あるある探検隊が出動する。 途中、へその辺りを弄って反応をみたり、脇に寄り道をしたりと焦らしてみる。 ま、処女(自称)が相手なんで焦らす効果があるのかどうかは微妙なところだけど。 そしてサトコのオッパイに到達。 触った限りではやわらかいけど弾力があり、乳首は小さめで感度極上。 402 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 26 09 ID J4U6qYz30 393続き 『サトコさあ、オマエ、ブラBカップだよな?』 「!?触って分かるんですか?」 『いや、さっきダンボールの中に入ってたブラでサイズ見たし』 「一瞬しか見てないのに、よく覚えてますね…」 『まあ、サトコのことなら何でも覚えてるけどな』 「うそばっかり(笑)」 『ま、それは言い過ぎとして、触った限りではオマエCくらいあると思うんだけど、ちゃんとブラ合わせた事ある?』 「いや、トップとアンダーの差だとBなんですけど…?」 『なんか自分ではそう思ってても、実際はカップ違うことってよくあるらしいぞ サイズが合ってないブラしてると形崩れたりするよ?』 「そ、そうなんですか?詳しいですね…おっぱい博士ですか?」 『博士じゃないけどな。今度そういうブラ合わせてくれる店に連れてってやるよ』 「嬉しいですけど、恥ずかしくな… んんんん!!!」 乳首を軽くキュキュキュキュ!と弄ってみたらこの反応。ステキングwwww 貫通済みなら、ここからまんこ弄りに行ってもいいんだけど、そういえば作業した後きちんと手を洗ってないんで粘膜触るのはちょっとあれだな。 風呂行くか風呂。 412 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 28 18 ID J4U6qYz30 402続き 『サトコの汗臭い生乳はステキだな。最高だな』 「なんか下品じゃないですか?汗臭いとかひーどーいー」 『じゃ、お風呂入るか。一緒に』 「い、一緒に!?」 『うん。一緒に』 「狭いですよ…?」 『狭さは愛でカバーする。サトコの身体を洗ってやるよ』 「恥ずかしいからいいですよ…。それにあたしもちょっと準備したいし…」 『何の準備するん?』 「もー、知りませんっ!」 『一緒に行こうよ』 「行かないです!」 『じゃあ、やっぱり汗臭いままピリオドの向こうに行くとしますか』 「もう…むさしさん意地悪い…」 サトコ半泣き。俺、女の涙にはヨワス。 『んじゃあ、今度広いところで一緒に洗いっこしよう。お風呂行ってきなよ』 「……むさしさんは?」 「サトコの後にシャワー貸して」 「いや…あたしちょっと長いと思うんで、むさしさん先にお願いします…」 それにあたし先に入ってて、突撃されると困りますんで…」 ばれてますた。 というわけで風呂。 次、遂にサトコ処女喪失!? 439 むさし ◆iCP07Kte/g sage New! 2005/08/24(水) 13 32 45 ID J4U6qYz30 416 ウチの県にはPJのショップ無いんだが…。 440 相武 ◆SMNI1tO.GM sage 2005/08/24(水) 13 32 54 ID FhSAo5E50 むしろ10分もディープキスできない俺 10分ってすごくね? 446 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2005/08/24(水) 13 33 55 ID ymy4znk30 PJはあまり質がよくないからな。 440 ディープキスだけで1時間は楽勝。ま、自分は女だから相手はキツいかもしれんが。 448 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2005/08/24(水) 13 34 09 ID reUUULO10 チスとべろちゅーは次元が違うっす 572 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2005/08/24(水) 13 51 28 ID J4U6qYz30 もうレポ不要っぽいね。 446 PJは安くてカワイイけど、そんだけのイメージがある。 こないだKID BLUE買わされた。 つか1時間てすごいな。尊敬する。 592 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2005/08/24(水) 13 54 36 ID J4U6qYz30 いや俺、打たれヨワスだから。へこたれたw 長文ウザスなふいんきだから、五行でまとめるお! 598 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2005/08/24(水) 13 56 07 ID J4U6qYz30 535 おれレポったとしても、このスレ後半か、あるいは次スレになると思うんでガンガレ。 つアンカー 604 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2005/08/24(水) 13 58 29 ID J4U6qYz30 みんなの罵声。了解した。 600 ヤメテ… むさし3
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『舞園さやかの場合』 深夜0時、学生寮一階、廊下。 「ホントにゴメンね、舞園ちゃん…」 朝日奈は申し訳なさそうに、舞園の背中に詫びた。 「さくらちゃん、もう寝てるみたいで…でも、一人で行くの、恐くて…」 「気にしないでください。こんな夜中に一人で行動するのも、危ないですし」 アイドルの笑みを崩さずに、舞園は部屋の扉に鍵をかける。 「えっと…脱衣所でしたっけ?忘れ物」 「うん…ゴメン」 「謝らないでくださいってば!さ、行きましょう」 先に進んだ舞園の背中に、勢いよく朝日奈の両腕が伸びる。 「えっ!?ちょっ…」 「ホントに、ゴメンなさい…!」 朝日奈は、謝りながらも舞園の口にハンカチをあてがった。 必死に舞園は抵抗したけれど、運動している朝日奈の体力には及ばない。 吸気とともに、彼女は深い眠りに落ちていった。 眠気からか、頭に鈍痛が走る。 まぶたが開かない。一瞬だけ無理に開けようとして、とてつもない眠気に誘われる。 もう少し、このまま眠っていたい。 「…起きろっつってんだろ、ビチグソがぁあ!!」 どなり声が聞こえて、舞園は眠りから引きずり出された。 「っ…せ、セレス…さん…」 まだ視界もおぼつかないまま、思い頭をもたげる。 声の主は確かにセレスだが、舞園の知る彼女は、こんな怒声を張り上げたりはしない。 ピン、と背中に緊張が走った。 「おはようございます、舞園さん。よく眠れましたか?」 セレスはまたたく間に、普段通りの笑顔を浮かべる。 自分で起こしておいて、よく眠れたも何もないだろうに。 「ここ…私の部屋じゃない…?」 舞園は辺りを見回した。家具や装飾の配置に、見覚えがない。 「ここは朝日奈さんの部屋ですわ」 セレスの言葉で、昨日の出来事がフラッシュバックする。 そうだ、自分は。 朝日奈に騙されて…おそらく薬品を吸気させられた。 「誰かを殺せば、卒業できる」。朝日奈は自分を殺そうとしたのか? でも、殺されていない。生きている。 舞園は混乱した。 殺さないなら、どうして朝日奈はあんなことを… 「ああ、どうか朝日奈さんを責めないで上げてください。彼女は私の言葉に従っただけなのです」 芝居がかった泣きまねをして、セレスは言った。 「もっとも、あなたをその格好に縛り上げるまでやったのは、朝日奈さんですが」 そこで舞園は自分の体を見て、ようやく自分の置かれた状況を理解した。 そしてそれと同時に、彼女は余りの恐怖に、パニックに陥った。 「あ、あ…き、きゃあぁあああああっ!!」 着ていた服は全て取り払われ、彼女はベッドの上に転がされていた。 膨らんだ胸は、桃色の尖端は乳輪に埋もれており、身体を捩るたびにふるふると震えている。 大きく開かれた股から、未開の秘部が覗いていた。 必死に足を閉じようとするも、膝と膝の間につっかえ棒のような拘束具があって、閉じられない。 手は足首に固定されており、彼女はありのままの自分を外気にさらけ出すしかなかった。 「乳首が陥没しちゃってますわね…ふふ、可愛らしいこと」 「やだぁああっ!!離して、見ないでぇっ…」 「女同士で、何をそこまで恥ずかしがることがあるのですか」 「いやっ、いやぁああっ!!」 「朝日奈さんなど、もっと酷い恰好をしているというのに」 セレスがあごで示した先には、地べたにはいつくばる『スイマー』の姿があった。 「あ、朝日奈さ…っ…」 その姿に、思わず舞園は息を呑む。 朝日奈は、舞園のように拘束こそされていないが、同じように裸に剥かれ、息を荒げて地に臥していた。 首には首輪のようなものがつけられ、そこから紐が伸び、机の脚に縛り付けられている。 同性でも当てられてしまいそうな、色っぽさ。 時々「ぁ…ぅ…」と小さく呻いては、汗にまみれた身体をぴくぴくと震わせている。 「朝日奈、さん…?」 舞園の呼びかけにも、彼女は応じなかった。 「あなたが起きるまで暇だったので、少し可愛がってあげたのですわ」 セレスは朝日奈に歩み寄って、彼女のポニーテールを掴み、顔を無理矢理あげさせた。 朝日奈の顔はこれ以上にないくらいに蕩け、しかしそれでも何かを求めて、口をパクパクとさせている。 「『イけない体』をさんざん弄ばれた心地はどうですか?」 「ふっ、んっ…ぅ…」 「私があの言葉を口にしない限りは、どれだけ身体に快感を溜めこんでも絶対にイけない…そういう催眠ですものね。 ふふ、もうイきたくてイきたくてたまらない、って顔してますわ。 無理矢理イかされたくなければ、と脅されて、舞園さんを誘拐させられたのに、 今度は無理矢理絶頂を奪われて悶えている…うふふふ、今どんな気持ちですか?」 ゾクッ、と、舞園の背中に戦慄が走る。 恐怖とともに、漠然とした理解。 朝日奈が何をされているのか、何をされていたのかは、全く分からない。 けれど自分は、きっと今から彼女と似たような目に合わされるのだ。 朝日奈はもう、身体に力が入らないようだった。 自分の力では起きられず、地面に臥したまま、セレスに懇願する。 「お、お願いします…もう、イかせて、イかせて下さいぃ…」 「…では、舞園さんに謝りなさい。自分の快楽のために利用してゴメンなさい、と」 「あ、あぅ…ま、舞園ちゃん…ゴメン、なさい…」 息も絶え絶えに謝ろうとする朝日奈に、舞園は恐怖さえ覚えた。 彼女の姿は、表情は、これ以上になく官能的で、そしてこれ以上にないくらいに異様。 初めて見る、朝日奈の蕩け顔。快楽を求めて身をよがらせる、女の顔。 下ネタを聞くたびに顔を真っ赤にさせていた彼女に、いったい何があったのだろうか。 「…よろしいでしょう、イかせて差し上げますわ。ただしあなたは、そのまま謝り続けること。 途中で言葉を止めれば、また先ほどまでのように、寸止めしますわよ」 「ひっ…」 朝日奈の顔が、一気に青ざめる。 「あ、う…ま、舞園ちゃん、ごめんなさいぃ!!」 「一本調子ならまた止めますわよ。5、4…」 何が行われているのか、舞園にはわからなかった。 何かに怯えるように謝り続ける朝日奈と、その横で愉快そうにカウントダウンを続けるセレス。 それが何を意味するのか、恐怖に染められた彼女の頭では、判断ができない。 「自分の、ため、に…っく…ぁ、ま、舞園ちゃんを騙しましたっ!私は最低の雌犬ですぅっ!!」 「その調子ですわ。もっと自分を貶めなさい。3…2…」 カウントダウンが進むにつれて、青ざめた彼女の表情が再び赤く上気する。 カウントダウンは酷くゆっくりで、その変化はよく見て取れた。 「さんざんセレスちゃんにイかされてっ…脅されて、舞園ちゃんをっ、騙した、のにっ…あ、はぁああぁあっ!!… ぅっ…今度、は…自分から、イこうとしている、変態女ですぅうっ!!」 朝日奈は謝罪の言葉というより、自分を蔑む言葉を連呼する。 その言葉を放つ自分自身に、恍惚としているようだった。 業界での経験も長い。舞園はどこかで、今の朝日奈のような顔を見たことがある。 そうだ、先輩のアイドルが麻薬に手を出した時の、その表情。 舞園にも勧め、当然ながら断ると、彼女は自分ひとりで麻薬を服用し、そして舞園の目の前で自慰に耽りだしたのだ。 朝日奈の蕩け顔は、その時の彼女の表情に、そっくりである。 興奮とは違う。いうなれば、「発情」。 何が起きるのか分からないまま、舞園は二人を見ていた。 「1………」 「はぁ、あぁあああぁあ!!も、もう我慢できないぃいいっ!!イかせて、イかせてぇええっ!!」 涙や涎で顔をぐちゃぐちゃに濡らし、朝日奈はセレスに縋りついた。 「ふふ、必死になっちゃって、かわいいですわ…腰もがくがく震えてますわよ?」 セレスはカウントダウンを進めず、触れるか触れないかの程度に朝日奈の腰をなでまわした。 「ひっ、はぁあああぁあっ!!」 朝日奈の体が跳ねあがる。 『ゼロ』を目前にした彼女の体は、いわば絶頂の寸前で止められているということになる。 「雌犬なら雌犬らしく、鳴いてご主人様にアピールなさい」 「わ、わぅん!!わん、わんっ!!」 理性を凌駕する、絶頂への本能。 今の彼女は、すでにセレスのいいなりと化していた。 「ふふ、うふふふふふふ…あははははははははっ!!」 まるで魔女のように高笑いしたかと思うと、 「良い、最高ですわ、朝日奈さん!!決めました…あなたはこれから私のペット…人間の言葉を話すことを禁じますわ!返事は?」 「あ、あぁ…も、ダメ…」 「…上手にお返事ができたなら、御褒美を差し上げますわよ?」 「わ、わぅんっ!!」 朝日奈の耳元に口を寄せて、 「『ゼロ』」 そう、吐息を吹きかけるようにささやいた。 瞬間、朝日奈の顔が恍惚に歪み、 そしてその直後。 「あがッ!!!!」 朝日奈の体が跳ねあがった。 「え…?」 舞園は、いよいよ当惑する。 「あっ、ぐ、ふに゛ゃあぁああぁあああああぁあ!!!」 ブリッジのように、朝日奈の腰が天へと伸びる。 ひときわ大きな胸を震わせ、舌を突き出して、目は虚ろ。 絶頂している。 それだけは見て取れた。 思わず舞園の顔も、赤く染まる。 プシャアアアアア 愛液やら小水やらが撒き散らされ、床一面は水浸しになった。 「あ゛っ、いっ、はぁっ!!」 絶頂の後も快楽は身体から抜けないらしく、自分の体を抱きしめて、朝日奈は地面をのたうちまわった。 「さぁて…」 朝日奈が悶える様を一通り眺めた後で、くるり、とセレスがこちらを向いた。 「次はあなたが悶える番ですわ、舞園さん…」 「ひっ…」 逃げられないとは理解していながらも、舞園は必死に拘束具を揺らした。 余裕の表情でセレスはそれを眺め、自分も服を脱ぎ、下着姿となって、白い地肌をさらす。 「いやっ、いやぁあっ!!」 「ホントは朝日奈さんに、もう少し働いてもらう予定だったのですが…ついつい弄んでしまいましたわ。 彼女には少し、休んでいてもらいましょう。代わりに私が、お相手しますわ」 「いらないですっ、離して…!」 喚く舞園に、ずい、とセレスが身体を寄せる。 「大丈夫、間違っても危害を加えたりはしませんわ…あなたには」 「…?」 「私が獲物と定めた、もう一人の生徒…あの澄ました女のプライドをへし折るのが、私の最終目標。 そのためには、私の手となり足となる駒が必要なのです。 舞園さんには、その駒になるため、快楽に堕ちて、素直になってもらうだけですわ。 間違っても、あなたの綺麗な身体を傷つけたりはしません…そこだけは、安心してください」 「あ…」 その言葉に少しでも安心してしまった自分を、すぐに舞園は呪った。 結局、自分が彼女の好きにされることには変わりはないのだ。 けれど、一度警戒心を解いてしまえば、彼女の頭を縛る恐怖は溶けだしてしまう。 そこに、快楽を期待する、女としての性欲が付け入る隙ができてしまう。 「そ、そんなことはどうでもいいんです…これを解いてください!」 自分を諌めるように、がしゃがしゃと拘束具を揺らすが、セレスは穏やかに笑うだけ。 「あら、解いていいのですか?」 「ふぁっ!?」 するり、と彼女の手が、舞園の太ももを伝い、上ってくる。 そのくすぐったさに、舞園は悲鳴を上げた。 「ここはもう、こんなに期待しているみたいですけれど…」 「あっ、ん…」 ひっそりと閉じた割れ目を、セレスの指が開く。 朝日奈の痴態にあてられて、そこは既に湿りを帯びていた。 「私、テクニックには自信がありますのよ。舞園さん…オナニー程度しか、したことはないでしょう?」 「っ…」 舞園は羞恥から顔を背ける。 「比べ物にならないくらい、気持ちいいことしてあげますわ」 潤、と、素直に下の口から恥ずかしい液が伝う。 一瞬だけ指を這わせると、セレスの指に愛液が絡みついた。 「朝日奈さんのは、おしっこみたいにサラサラですけど、舞園さんは結構…濃いのですね」 「なっ…!?」 親指と人差し指に愛液を伝わせ、それを舞園の目の前で開くと、指の間を糸が伝う。 一瞬で、彼女の顔が真っ赤になった。 「へ、変な事言わないでください…!」 「あら…朝日奈さんといい、ここには恥ずかしがり屋さんが多いのですね」 セレスの裸体は、朝日奈のように豊満ではないが、どこか妖艶な魅力を宿していた。 絹のようになめらかで、病人のように白く、枝のように細い。 神話に出てくる女神のような、そんな気高さと妖しさがある。 けして肉付きこそよくないが、形容し難いその「エロさ」に、同性ながら舞園は魅了されつつあった。 そして、 「ふふ…舞園さん」 セレスが肌を擦り寄せてくると、舞園の鼓動は早鐘を打つ。 香水の香りにまぎれて、彼女自身の神秘的な体香が、鼻孔をくすぐった。 「さすがアイドル、ですね…朝日奈さんに負けずとも劣らないプロポーション…ちょっと羨ましいですわ」 胸こそ朝日奈には及ばないが、同世代の中では巨乳と呼べる部類に入るだろう。 所属していたアイドルグループのメンバーと比べあった時も、彼女の胸が一番大きかった。 水着撮影などもあるため、肌や無駄毛の手入れは欠かせたこともない。 歌唱力のために、と、筋トレやランニングも繰り返している。 舞園の体は、女性らしい丸さを残しつつも、すっと引き締まっていた。まさに、理想のプロポーションだった。 その体つきを確かめるように、セレスは舞園の体をなぞる。 舞園は、たまらず身体を捩らせた。 「さ、触らないでください…」 せめてもの抵抗の声にも、もう力は宿らない。 「ふふふ…」 「ひゃっふあ!?」 乳の脇側をくすぐられて、自分でも知らない感覚に、舞園は背筋を張った。 「あらあら…ここが気持ちいいのですか?」 「やめっ!っ、ん…ふ、く…はぁあっ…!」 セレスは、子供がじゃれるように、舞園をくすぐる。 首筋、脇腹、内股に足の裏。 そのたびに舞園は敏感に声をあげ、身体を捩った。 「はぁ、はぁ…あ、ふっ…」 セレスの責めに悶えながらも、舞園は恐怖から解放された頭で考えていた。 先ほどのセレスとは、人が変わったみたいに、責め方が異なっている。 朝日奈への責めは、言葉を当てはめるとすれば「蹂躙」。 情けも容赦もなく、ただ自分のサディズムを満足させるために、朝日奈を快楽の地獄につき落とした。 対して自分には、もぞもぞと指を這わせてはその反応を見て、楽しんでいる。 そう、楽しんでいる。 朝日奈への責めも、ベクトルは少し違うが、彼女は楽しんでいた。 そして先ほど、セレスは自分達のことを、獲物と表現していた。 「何がしたいんですか、セレスさん…」 息を落ち着かせて、舞園は尋ねた。 「…具体性に欠ける質問ですわね」 足の裏を舐めながら、セレスは答える。 足先を震わせながらも、くすぐったさに負けて身を捩らないように、舞園は続ける。 「朝日奈さんをあんな目にあわせて、私のことを弄んで…そして、もう一人狙っているって… 何がしたいんですか…?女の子同士でこんなことして、楽しいですか…!?」 「ええ、楽しいですわ」 迷うことなく、即答。 そしてセレスは、冗舌に語りだした。 「こんな閉鎖空間に閉じ込められ、『誰かを殺せば卒業』だなんて…馬鹿げたルールを背負わされて。 しかもあのあと、モノクマは口を滑らせ『誰にもバレなければ他の全員の命と引き換えに卒業、バレたならその場で処刑』と説明しました。 そんなリスクの高い選択肢を迫られ、殺人に踏み切る度胸は私にはない…それは多分、他のみなさんも同じでしょう。 資源には不足せず、法を犯しても取り締まるものもいない。まさに「自由」そのものの中に、私たちはいます。 そう、今すぐ殺人を犯す必要はない。だからこうして、私たちは膠着状態に陥っているのです。 しかし、耐えられないのは「退屈」という苦痛。ここには私の趣向に合った娯楽が、ほとんどないのです。 雑誌?プール?メダルゲーム?そんなもの、幼稚園のお遊戯と同レベル!クソ喰らえですわ…! 私が求める「遊び」とは、まるで断崖に立たされているかのような、スリルを伴った勝負事なのです。 ああ、きっとあなたは軽蔑なさるでしょうが…私は知っての通り、『超高校級のギャンブラー』。 今まで幾度も、自分の命や、それに準ずるものをベットにして、勝負を挑まれ…そして、ことごとく打ち勝ってきた。 そんな争いを強いられるうちに、私は…人の身体や、命や、人生を弄ぶこと…その楽しさを知ってしまったのです。 …軽蔑、したでしょう。いえ、軽蔑してください。けれどこの病気ばかりは、もう治らない。 退屈が原因でも、人は死ぬのです、舞園さん。こんな場所に閉じ込められていては、私はいずれ頭がおかしくなってしまう。 だから、面白そうな何人かに狙いをつけて、その人たちを弄ぶ…それが私の見つけた、ここでの退屈しのぎですわ。 一人目は、朝日奈さんです。一番エロい身体をしているくせに、下ネタを聞けば真っ赤に頬を染める…虐めたくなるのも、わかるでしょう。 …実は彼女を落とすまでは、聞くも涙・語るも涙の苦労話があるのですが…ここでは割愛しますわ。 二人目は、名前はまだ出しませんが、あなたも薄々気が付いていることでしょう。あの澄ました女のことです… ああいうのを見ると、どうもそのプライドを完膚なきまでにへし折ってやりたくなるのです。勝負師の性、でしょうか。 三人目は…男子、とだけ伝えておきます。 そして、あなたもです、舞園さん…正直、こんな状況でなければサインをねだっていました。実家の家族があなたの大ファンなのです。 そんな国民的アイドルを辱められるのは、またとない機会でしょう?この状況を楽しむには、もってこいの相手じゃありませんか」 長たらしい声明を終えると、セレスはそこで一息つき、再びほほ笑んだ。 舞園は、口を開けて聞き入っていた。まさに呆気にとられた、という言葉が似合った。 流れ込んできたセレスの言葉は、とても現実離れした響きを伴っていて、理解の範疇を越えていた。 「…長々と話してしまい、すみませんでした…語るに堕ちてしまっていたようですね」 唐突に、セレスの指が、それまで触れなかった舞園の乳房を揉みしだく。 「ふっ、あっ!?」 「ほったらかしにしてしまって、さぞ身体が疼いていたことでしょう…」 「そんな、ことっ…んぁっ…」 あまりの唐突さに、脳が付いて行かない。 「ここからは、ちゃあんと期待通り…気持ちよ~く、してあげますわ」 「し、してませんし、いりませんっ!」 「あら…やはり私なんかに触られるのは、御不満が?」 セレスが不思議そうに首をかしげると、舞園はどうしていいか分からない気分に襲われた。 このまま彼女を拒むのが酷く不憫にさえ思える。 自分は被害者、そのことさえ忘れてしまいそうになる。 そして、断りきれない理由がもう一つ。 自分が目を覚ました時に、確かに聞こえたセレスの激昂の声。 舞園は、それを恐れていた。下手に刺激してはいけない。 「あっ、違…わないけど、違って、その…セレスさんがダメとか、そういうんじゃなくて、 その…女の子同士でこんなこと…おかしいと思いますし…」 「あら、あなたがそれを仰いますか?同じアイドルグループのメンバー同士で、肌を重ねたこともあるくせに…」 「なっ…!!?」 ウィッグを揺らしながら、セレスがにこやかにほほ笑む。 これほど邪気のない笑顔を恐ろしく感じたことはない。 一瞬で顔から血の気が引いた。マネージャにすらバラしていない、自分達だけの秘密。なぜ、知っている? 冷静に考えれば、どこかの芸能人の裏話を集めた掲示板での情報や、口コミで伝わる根も葉もない話を、 真実かどうかも分からないまま、セレスがブラフで使ったのだろう。 しかし、混乱から抜け出せない舞園の頭には、効果は絶大だった。 相手の顔に同様の色が浮かべば、セレスにとってはもう勝ったも同然。 「やはり私では役者不足ですか…?」 「あ、う…」 「ねえ、舞園さん…」 顔が迫り、ふ、と耳に息を吹きかけられ、ビクン、と舞園は体を震わせた。 自分がおかれた状況に対する混乱。 秘密を知られたことに対する恐怖。 そして、セレスや朝日奈の姿に当てられた、情欲。 体の自由を奪われ、隠していたはずの秘密を知られ、どうしていいかわからない。 今の舞園は、酷く無防備な状態だった。 「…そうですわ」 思いついたように、セレスが目を見開いた。 「私に直接触られるのが嫌なのであれば…こんなものは、いかがでしょう?」 ベッドの下から、ごそごそと箱を取り出す。 某同人作家から押収し、朝日奈を最初に責めた時にも使った、道具の数々。 見るなり、舞園はますます顔を赤く染めた。 何に使う道具か、説明されずともわかってしまう、自分の知識が嫌だった。 セレスの言うとおり、メンバーと肌を重ねた経験は、幾度かある。 厳しい業界に放り込まれた人間は、別のベクトルに歪むケースが多い。 ましてやデビュー当時の彼女たちは幼い子供、その重圧には耐えかねる。 上手くストレスの発散場を見つけてやらなければ、精神をおかしくしてしまい、末路をたどるのみ。 禁断の果実は、目の前に山のように転がっていた。 麻薬、恋愛沙汰、飲酒や喫煙。周りの人間は、みな手を染めている。 バレるかバレないか、それだけの違い。 そして、成熟してきた肉体を持て余す彼女たちが行きついたのが、性行為だった。 別に同性愛ではない。人並に、男子への興味はある…特に、共に生活を送るあの一名に。 舞園にとって、メンバーとの交わりは、恋愛などとは別の次元の話で、 それこそ一緒に買い物や映画を見に行くのと同じ、遊びの感覚だったのである。 笑い合いながら互いの乳房を揉み、慰めるように唇を奪った。 その禁忌に逃げていた舞園だからこそ、目の前に転がる道具の山にはなじみがある。 「その様子では、どれが何に使うものかは、説明の必要はなさそうですね」 「そんなこと…」 する、と、胸の尖端をセレスが撫であげた。 「あっ…」 桃色の吐息が漏れる。 舞園の乳首は、乳輪に埋もれていた。 「陥没乳首…というものですか?初めて見ましたわ」 「うぅ…」 恥ずかしさか、快感からか、目に涙がにじむ。 「ふふ…可愛らしい」 「ねえ、舞園さん?陥没乳首は普段外気に触れない分、刺激されると気持ちいい、という噂がありますわね」 「知りません、そんなの…!」 顔を真っ赤にしたまま、拗ねたように舞園がそっぽを向いた。 「あら、ウソはいけませんわ…他のメンバーと身体を重ねるくらいエッチな事をしてきた舞園さんが、 まさか自分で試していないわけはないでしょう…?」 埋もれた乳首の穴を、セレスが爪先でほじる様に弄ると、 「ひぁっ、あっ!!」 たまらず舞園も、嬌声をあげた。 クスクスと笑いながら、セレスが乳房を口に含む。 「んっ、あっ!?せ、セレスさ…ぁんっ!」 乳房の尖端に口を当てて吸い出され、埋もれた乳首を無理矢理引き出して、刺激を与えられる。 鋭い快感が、右胸全体を駆け抜けた。 「は、あっ、やぁあ~~~~っ!!!!」 身悶えさせようにも、身体は拘束されたまま。 抵抗する術もなく、むき出しの乳首を良いようにセレスになぶられる。 まるで、胸の先がクリトリスになってしまったかのような、激しい快感。 「あっ、やぁああっ…やめ、止めて…ふ、ひぃんっ!!」 赤子のように胸に吸いつくセレスに、いいようにされてしまう。 「やっ、いやぁあああ…」 「ん…ぷは…」 セレスが口を離す頃には、舞園はとっくに出来上がっていた。 紅く上気した顔は、もう朝日奈と大差はない。とろん、と蕩けた目で、セレスをただ見ている。 身体は熱を持ち、意思に反して、次に訪れる快楽を待ち望んでいる。 無理にセレスが引きずり出していた乳首は、彼女の口が離れると、元通りに埋まってしまった。 「なんというか、可愛いというか…愛着の湧く乳首ですわね…」 「…やぁ…」 涙目を歪ませても、言葉にはもう力が入らない。 「では…まず、これでそんな乳首を弄ってあげましょうか」 セレスは、一つ目の道具に手を伸ばした。 アイポッドのような機器――おそらく電源――から、二本のコードが伸びていた。 コードの先には、UFO型のゴムのパッド。胸にあてるためのものだろうと、推測できる。 乳首に位置する部分には、スポイトのようなものが付いている。 パッドの内側には、取り外し可能のアタッチメントがついており、セレスがどれを装着させようか悩んでいる。 「乳首専用のローターですわ。結構値段も結構張るようで…さすがにこれは、見たことはないでしょう?」 セレスは本当に楽しそうに、まるで自分のオモチャを自慢する子どものように、舞園に話しかけた。 二つのゴムのパッドを、舞園の乳房に押し当てる。 アタッチメントはちょうど乳首にあたり、素材はシリコンか何かだろうか、ゼリーのようにプルプルで柔らかい。 セレスがスポイトをつまむと、 「ひゃうぅ!?」 パッド内の空気が絞り出され、吸盤のように舞園の乳房に吸いついた。 「あ…っあ…」 吸いつかれているため、自然に埋まった乳首が顔を出す。 淡いピンク色の、小さな豆が飛び出している様は、本当にクリトリスのようでもある。 外気にさらされるだけでも、鋭敏な乳首が、舞園に刺激を与えた。 「吸われただけでそんなによがっていては…後が持ちませんわよ?」 また、可笑しそうにセレスが笑う。 「はぁ、はぁ、ぁうっ……な…なんなんですか、コレぇ…んっ…」 「言ったでしょう?乳首専用のローター…」 そうは言われても、舞園の知るローターとは、まるで形が違う。 「吸盤のように乳首に吸いついて、簡単には外れない。パッド中央のアクセサリが乳首にあたり、電源を入れると回転を初める。 アクセサリはアタッチメントとして取り外し可能、数パターンの中から好きなものをチョイス。 アタッチメントと、複数通りの回転パターンを駆使し、自由自在に快感をアレンジ…と、説明書には書いてありました」 吸われだした乳首が、ちょうどそのアタッチメントに当たって擦られ、それだけで舞園は身を悶えさせる。 「右の乳首は、私個人のおススメ…少し硬い、フィンガータイプですわ。指で乳首をこねくり回される感覚は、リアル以上です。 左の方は朝日奈さんのお気に入り、ブラシタイプの一番柔らかいもの…たとえるなら、触手タイプとでもしましょうか」 セレスが電源を入れると、スポイトからローションがにじみ出て、舞園の乳首を伝った。 「これ…本当にすごいですわよ」 耳元で、セレスがつぶやく。 舞園は、ごくりと唾を飲み込んだ。 「……ふぁっ!!?あっ、あ、はぁあぁあああっ、や、んあぁああっ!!」 アタッチメントが緩やかに回転を始め、舞園は背中をのけぞらせた。 「あぁ、ああぁあ、んっ……ひゃうぅっ!!」 右のパッドでは、二本の指が乳首の周りを、ぬるぬるとローションをかき混ぜてなぞる。 ゆるやかに回転して乳首を転がされたかと思えば、時々高速で逆回転して乳首を弾く。 左のパッドでは、細いシリコンの束が乳首全体を覆い、回転も早くなったり遅くなったり、自在に這いまわる。 フィンガータイプとは違い、柔らかいそれが乳首を撫でまわす。 「ダメっ…これ、ダメですぅうっ…んぅううっううぅっ…!」 舞園は、胸を突き出すように背をそらした。 特別敏感な乳首を、吸い出されたまま弄ばれる、今までにない快感。 「ひゃあぅっ!!」 ビクン、と、舞園がいっそう背をのけぞらせて震える。 連続で乳首を指で弾かれ、それだけで軽くイってしまった。 「あ、あ、んっ…はぅうっ…」 大きく瞳を見開き、苦しそうに息を吐く舞園を見て、セレスは絶頂を確認した。 「あらあらあら…そんなに敏感じゃ、将来赤ちゃんができた時、大変ですわよ?舞園さん。 子供におっぱいをあげるたびにイってしまう、エッチなお母さんになってしまいます」 「だ、だって、だってぇ…!これ、ダメ…っ、ダメ、ダメぇえっ…んあぁああぁっ…!」 「ふふふ…すごいでしょう?」 「止めて、止めてくださいっ!」 イって敏感な乳首を、同じ調子でローターが責め続ける。 右はローションを混ぜるように、左は泡立てるように。 「ぐすっ…えぅ…んっ…」 乳首だけでイってしまった、それも人の目の前で。 加えてセレスの責め句が、さらに舞園の羞恥心を煽り、思わず泣き出してしまう。 「あら…」 さすがにセレスもモーターの電源を切り、何事かと顔を寄せる。 人形のような美しい顔立ちに惹かれるが、それでも涙は止まらない。 「そ、そんな恥ずかしいことではないですわ、舞園さん」 「ぐすっ……私…お嫁に、行けない…」 「…これが朝日奈さんであれば、遠慮なく責め続けるのですが…」 今度はセレスは、困ったように笑って、舞園の頭を撫でた。 本当に、先ほどまでとは別人のようだ。 「あ、そうですわ!ほら、こっちも弄れば、もっと気持ちいいでしょう?」 そう言って、セレスは舞園の秘部に指を伸ばした。 「ひぁっ…?」 「お詫びといってはなんですが、ちゃんとこちらも気持ちよくして差し上げます。 こっちでイけば、何も恥ずかしいことはありませんわよね?」 訂正。別人どころか、先ほどまでと何一つ変わらない。 「やっ、やだ、嫌ですっ…セレスさんっ!」 「ほら、暴れないでくださいな…スイッチ、入れちゃいますわよ?」 「っ…」 意味はないとわかっているのに、舞園は反射的に暴れるのを止めてしまった。 暴れても無意味、それどころかまた乳首を弄ばれる。 パッドは胸に吸着したまま止まっているが、体を捩るたびにぬるりとアタッチメントがずれて、刺激を与える しかしこのままでは、無防備に、一番敏感な所を責められてしまう。 と、そこで、 「…ぅ、ん…」 それまで気を失っていた朝日奈が、目を覚ました。
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61 :犬神:04/05/14 23 41 ID 9T2Yg/q1 【娼婦少年(前編)】 父親が一億一千五百万円の借金を残して自殺したのは僕が七歳の時だった。 どのような約定が交わされていたのか、今でも僕には分からないのだが、僕の身柄は某広域暴力団の預かりということになった。 初めてお客さんをとったのは十一歳の時。 今日、十三才と一ヶ月の僕は、やはりお客さんに抱かれている。 ● ○ ● 「はぁ……、あっ……あぁ……、あうぅッ!!」 ローションをたっぷり入れられたオナホールで、僕は陰茎を強制的にしごき上げられる。両手をベッドの端に赤い紐で縛られているから、抵抗することもままならない。天井の白熱灯がやけにまぶしい。 柔らかすぎるくらいのグニャグニャなシリコンが僕の幼い勃起肉に絡みつく。ネチョネチョとイヤらしい粘着音が非貫通型の玩具から響く。僕はたまらず嬌声を上げる。 「ひああぁッ……! い、いやぁ……、こんなのぉ、こんなのでイきたくない……。やあぁ、ひやあぁッ!!」 女の子みたいな喘ぎ声がホテルの壁に反響する。内藤さんは面白がって、さらに手の動きを速めていく。 「こんなのは非道いなぁ、せっかく君の為に買ってきたのにさぁ。結構高いんだよ、コレ。さぁ、もっともっと感じてよ」 内藤さんはお客様の中では優しい方なのだけれど、それでもかなりの変態さんだ。怪しげな玩具を買ってきては、すぐ僕に試したがる。そのたびに僕は新たな性感を開発されてしまう。 62 :犬神:04/05/14 23 42 ID 9T2Yg/q1 「ほーら、グチュグチュになっちゃうねー。真咲くん、気持ちいい? ねえ、気持ちいいー?」 「はひいぃッ! き、きもひいいれすうぅ。……と、溶けちゃうぅ、僕、ぼく、溶けちゃうよおぉっ!」 厚手のシリコン生地で作られたオナホールはどんなに強く握っても圧力をあまり感じさせない。ただ、複雑に施された中の加工が、もの凄い変化をしながら僕のペニスを刺激しまくる。それはテコキとも女性の膣内とも違う、圧倒的な甘美だ。 「ひッ! ひいぃッ! あひいぃッ!」 僕はどんどん登り詰めていく。たまらず手首に縛られたロープを握りしめる。 しかし、オナホールの使用では、どんなに気持ち良くても強烈な一撃が生じない。射精寸前のビクビク感が延々と引き延ばされる。女性が感じるオルガスムスに近い感覚なのだろうか、普段では感じることの出来ない悦楽に僕はガクガクと震える。 「はは、いい感じみたいだねー。さー、まずは射精しちゃおうか。その後は、お兄さんも楽しませてよ」 クライマックスの際を感じ取り、内藤さんの手つきはより一層乱暴なものになっていく。僕は熱いとろみがどんどんペニスの先からあふれ出すのを感じる。全身が硬直し、腰がガクガクと震えはじめる。 千々に乱れた呼吸の先、絶頂の光が目の前に広がる。 「ひっ! ひぐうっ! い、イっちゃうぅッ! イくぅ、イくぅ、イくうぅッ! イぐううぅッ!!」 ドビュウウゥッ! ビュルルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ドビュウウゥッ! 僕は今日の一番搾りの精液を、円筒状をしたシリコンの内に噴き出した。 大量の放出で、半透明のオナホールは中が一辺に白濁に染まる。僕の精子が潤滑剤と混ざり、トロトロと下から垂れる。薄い陰毛が濡れ、下腹部に張り付く。 「はは、ヒクヒクしちゃってる。やっぱ真咲くんは可愛いねぇ。お兄さんもいろいろ用意のしがいがあるってもんだ」 「……あ、あうぅ、……はうぅ」 63 :犬神:04/05/14 23 43 ID 9T2Yg/q1 僕は全身を痙攣させながら、遠くに内藤さんの声を聴いている。まだ意識がはっきりしない。呼吸が引きつる。 しかし、そんな僕の状態を意にも介さず、内藤さんは次のプレイの準備を進める。 僕のペニスからオナホールが外される。それを内藤さんは両手に持ち、クルリと表裏をひっくり返す。 柔らかいシリコン製の玩具はクルクルとその表皮を返し、円筒は複雑に入り組んだネトネトの面が表になる。ローションと精液の混合物が、トロロのように糸を引いている。 ベチャリ。僕の頬にオナホールの表面が当てられる。 「うぅ……」 僕は思わず顔をそらす。しかし、まだ手首が縛られているから、この状況から逃れることはできない。 「ほら、真咲くんの出したモノだよ。美味しそうだ……」 内藤さんはオナホールの穴に指を差し入れ、僕の頬を丁寧に撫で回す。粘度の高い液体が、顔にネトネトと塗りたくられる。 それはやがて、僕の口にも近づいてくる。 放心状態で半開きだった僕の唇に、濡れたオナホールが強引にねじ込まれていく。 「……ふ、ふぐうううぅぅッ!!」 突然の玩具の進入に僕はたまらず呻き声を上げる。アゴをのけぞらし、首をよじる。 「いいねぇ、いい声を出す……。そそるよ、真咲くん……。やっぱ君は最高だ」 違う、この声は演技なんかじゃない。僕は本当に苦しいんだ。 タダでさえ息苦しい所へ、強引に突っ込まれたシリコンの塊。僕の体は薄まる酸素にビクビク震える。 ……ブジュウウゥッ! グジュジュウゥッ! ブジュッ! ブジュッ! 口の中がデタラメに掻き回される。 それは、どんなキスだってこんなにはならないだろう異様な感触だった。まるで、怪物の舌で強引に口内の垢ををこそぎ落とされているみたいだ。ローションと精液の味が喉の奥にまで入ってくる。 オナホールの中の指が、僕の舌を摘んでくる。舌はヌルヌルと滑り、捕まえることは出来ないが、それでも絡みつくシリコンの感触に僕はくぐもった悲鳴を上げる。 64 :犬神:04/05/14 23 44 ID 9T2Yg/q1 「あぐううぅ……! う、うぶうぅっ……! ふぶううぅっ……!」 ヨダレを飲み込むことが出来ない。僕の口からは大量の液体があふれ出し、アゴがベタベタに汚れていく。跳ねた雫は僕の胸やら額やら、あるいはベッドの上に落ちていく。 あまりの苦痛に僕は身をひねる。しかし、内藤さんの指はしっかり僕の口に差し込まれたままだ。僕には逃げるコトなんて出来やしない。 「自分のモノの味はどうだい……? とってもエロいだろ。お兄さんの大好きな味、やっぱり真咲くんにも味あわせて上げたくてさ……」 徹底的に口内を陵辱された僕はもう限界だった。頭の中がピンク色に霞んで、何も考えられない。勃起の収まらないおちんちんだけがとても熱く感じる。全身が上気し、瞳は涙で濡れている。 ようやくオナホールが口から抜かれた時には、僕はもう身体に少しも力が入らなかった。クテッと身体をベッドに投げ出し、虚ろな目で天井を見上げていた。 内藤さんのローションまみれの指が、僕のお尻に近づく。指の先端が、僕の窄まりにあてがわれる。 僕の体は反射的に縮こまる。 グッ! ググゥッ……、ズズッ!! 「ひううぅっ!」 僕のアナルには、一気に二本の指が差し込まれた。下半身から伝わる強烈な圧迫感に僕は呻く。 内藤さんの指が肉環を激しく出入りする。ローションが塗られていても、そこには猛烈な熱が生じてくる。 熱い。僕の身体からはイヤな汗が滲み始める。 お尻から広がる悦楽のパルス。僕の開発された性感帯はこんな乱暴な愛撫も快感として受け止めてしまう。 中に入った指がねじられながら、広げられる。僕の菊座は楕円形に広がりながらゆっくりと回っていく。 「うぐぅ……、うっ、ううぅッ! ふぐうぅ……」 「真咲くんはいいねー。まるで女の子みたいな反応だ……。ほら、こんなところがいいのかい?」 内藤さんの指が奥まで押し込まれていく。そして、少し伸びた爪が僕の敏感な前立腺に当たる。 カリッ、カリ、カリカリ……。 「ひやあああぁッ!! や、それやあッ! いやあぁッ!」 65 :犬神:04/05/14 23 45 ID 9T2Yg/q1 強烈な刺激に僕は発作的にのけぞる。しかし両腕を縛られた僕の体はただベッドの上でのたうち、シーツにシワをよらせるだけだ。 内藤さんの指先の動きは緩急をつけた絶妙なものになっていく。鋭敏な場所を掻き、少し立ったら優しく撫で、快感が散った直後にまた強く押す。 身体の奥から熱い液体があふれ出すのが分かる。凶悪な愛撫に導かれ、腸液がS字結腸を越えて来たのだ。 「あはははは、大変だ真咲くん。こんなにエロエロになっちゃって……。発情真咲きゅん、可愛いなぁ……」 内藤さんは残った手を僕のお腹に這わす。体液で濡れたおへそを撫で、中指の先を柔らかい肉に突き立てる。 指先が、僕の体を這い上がってくる。 ツウゥと中指は僕のみぞおちを通過し、胸元にまで寄ってくる。何かを転がされているかのような感触に、僕の背筋は反り返っていく。 まっすぐに上がってきた内藤さんの指は、そこで大きく右にカーブする。 狙いは僕の乳首だ。内藤さんの指は僕の乳輪の周囲をクルクル回り、先端の勃起を誘っていく。 「はあっ……、はうあぁ……、あぁ……、あはぁ……」 イヤらしい指使いに、僕の官能は高まっていく。血液が僕のオッパイの先に集まり始め、乳首はまるでアポロチョコのような形に変形していく。 イヤらしい三角錐の乳頭が、僕の胸に屹立する。 オッパイの勃起を確認すると、内藤さんはその逆方向にも狙いを定めてくる。指先が再び滑り、こんどは左の乳首を回り始める。 しかも、この刺激の合間も、僕のお尻に入った指は動きを休めない。いよいよ高く粘着音を響かせながら、僕のお尻をとろけさせていく。 「あっ……、ひやあぁッ! あっ、あっ、あっ……、あぐうぅッ!」 ついに僕の胸は小高いピンクの山が二つも立つことになった。先端が心臓の鼓動にあわせてビクビクと揺れる。 「ほーら、真咲くん完全形態だ……。じゃあ、そろそろ頂こうかな……?」 内藤さんはそう言うと、僕のお尻から指を引き抜いた。 「ひゃぐッ!」 開いた穴から、腸液と混ざったローションが垂れ落ちるのを感じる。僕は消失した圧迫感に安堵し、少し深く息を吸い込む。 66 :犬神:04/05/14 23 45 ID 9T2Yg/q1 でも、すぐにそんな状態も終わる。内藤さんはベッドに膝をつき、僕の太ももを掴む。 腰が持ち上げられていく。痛いくらい勃起したペニスが縦に揺れ、先から雫が落ちる。 そして、お尻がガッチリと内藤さんの両手で固定される。彼の柔らかい亀頭の先が僕のお尻にあてがわれる。 「いくよ……、いいね?」 「は、はい……」 僕の同意を確認すると、内藤さんは再び僕の腰を持ち直し、ペニスを中に突き立て始める。 「ひうッ!」 ズウゥッ! ……ズッ、ズッ! ……ズウウウッ! 内藤さんの長く熱い逸物が、僕の直腸を進み始める。指とは比べモノにならない野太い肉塊が、肛門を押し広げていく。 僕は少し息み、菊門を自分で広げる。ジュブジュブとイヤな音をたてながら、挿入は続く。 ついに、内藤さんのペニスが根本まで埋め込まれる。ガツンと身体の奥を押す圧力に、僕の背筋がゾワゾワと震える。 「顔、凄く赤いよ。……そんなに今日は感じちゃってるの? そんなにいい?」 「はい……、気持ちいいです。おちんちん、入れられるのって……好きなんです。繋がってるって……カンジぃ」 ハァハァと口で息をしながら、僕はお客様の問いに正直に答える。気持ちいい……。やっぱセックスって、気持ちいい……。 心とは関係なく、気持ちいい……。 頬に涙が一筋伝う。僕はそれを拭こうと反射的に手を伸ばそうとする。しかし、腕は縛られている。そこまで伸ばすコトなんて出来やしない。身体はガクンと後ろに引っぱられ、僕は体勢を崩す。 「おっと、危ない」 内藤さんが僕の背中に手を回し、身体を支える。 彼の顔が近づいてくる。そして、舌が伸ばされる。 涙を、舐められる。 67 :犬神:04/05/14 23 46 ID 9T2Yg/q1 「うぅ……ッ」 赤い粘膜が頬を這う。そこはローションと精液と涙でコテコテのハズだ。いったいどんな味がするんだろう。 そして、内藤さんの腰が動き始める。 深く埋め込んだペニスの包容感を楽しむように、内藤さんはゆったりとしたリズムで腰を揺らす。 「はあっ…………、はぁ……、あぁ……ッ、あ……ぁ……、はぁ……」 僕の呼吸も合わせて大きいモノになっていく。内藤さんはさらにそのリズムに合わせて、ピストンを繰り返す。 前立腺への大きなな圧力が僕のカウパーを押し出していく。ピュルピュルと溢れる透明な液体が、水滴となって僕のお腹を濡らしていく。 内藤さんの舌が、頬から首筋に降りてくる。彼は唇で動脈の感触を楽しむ。 さらに舌は僕の鎖骨にまでやってくる。窪みを舌で舐め回され、骨に歯が立てられる。僕は顔を歪ませる。思わず首がつってしまいそうなくらいの力が入ってしまう。 「あうぅ……、そこ……やぁ、きもひいいの……やらぁ」 「はは、真咲くんはとっても敏感だ。そんなんじゃ、ここなんて舐めたらどうなっちゃうの?」 「ふあ……?」 内藤さんの舌は僕の胸元に這ってくる。そこには、僕の勃起した乳首がある。 プチュウゥッ……。 「ひゃう……ッ! きゅ、きゅうぅッん!」 充血して敏感になった乳首を口に含まれ、僕は絞り出すような悲鳴を上げる。全身が固まり、縛られたロープがピンと伸びきる。お尻にも力が入り、キュンと内藤さんのペニスを締め上げる。 「うわ……、すごいよ。今、お尻で吸われた。真咲くんのお尻に……。こんなの女の子にもあり得ない、名器ってヤツだ……」 「ひうぅ……、う、うぅぅ……」 内藤さんの大きな口の中に、僕のオッパイが含まれていく。反対の乳首も、指がプルプルと震えている。腰の揺れだって止まっていない。僕は鋭敏な三点を同時に刺激される衝撃に眩暈を起こす。 チロチロと内藤さんの舌が僕の乳首のさらに先端を弾く。甘い快感が電気になって全身を走る。体中の細胞が歓喜に震える。 68 :犬神:04/05/14 23 47 ID 9T2Yg/q1 僕は何も考えられない。ただだらしなく、様々なテクニックを駆使されたプレイに酔いしれる。絶妙な舌使い、丁寧な指使い、そして心得た腰使いに、僕は息を荒げることしかできない。 「あうぅ……うぅ……、うあッ! ひうぅ……ッ! うぐぅッ!」 緩急をつけて続けられる愛撫に、僕の官能が押し上がられていく。ついには奥歯までカタカタと鳴りだし、ときどき発作的に身がよじれる。 お尻には勝手に力が入る。波打つように伸縮する括約筋が、ピストンするペニスの動きを更に複雑なモノにする。内臓を掻き回される異様な感触……、僕は腰を8の字にくねらせ、発生する快感の波を享受する。 しかし、この心地よさを絶頂にまで押し上げる一撃はまだ発生していない。……僕のおちんちんに、まだ直接の刺激がない。 トクトクと壊れた蛇口のように先走りが漏れている。しかし、まだそこには指一本も触れていない。失神しそうなくらいの愉悦なのに、射精にまではどうしても至らない。この手が自由なら、僕は自分でガシガシと陰茎をこすり上げているだろう。 そんな僕の心を察したのか、内藤さんは口をオッパイから外した。 「あ……、あぁ……」 少しだけ快感の水位が下がっていく。 「真咲くん……、もうトロトロだね……。うん、お兄さんも気持ちいいよぉ……。凄く、気持ちいい」 内藤さんはそう言うと、ベッドの端に手を伸ばした。 彼の掴んだモノ、それはさっきまで僕を苦しめていたあの大人のオモチャだった。 僕は戦慄する。 「ちょっと……、ウソですよね……? またそれ……使うなんて、しませんよね……」 僕は思わずベッドを背中であとざする。しかし、そんなことをしたって距離を取ることなんてできない。内藤さんも一緒に腰を前に動かす。 69 :犬神:04/05/14 23 47 ID 9T2Yg/q1 「お兄さんは、可愛い君をもっともっと可愛くしたいと思うんだ……。使うよ……。そして、真咲くんをドロドロに溶かして上げる」 真咲さんがシリコンの穴を僕のペニスにあてがう。 「ひッ!」 僕の鋭い悲鳴が響く。 しかし、内藤さんの手は止まらない。器用な手つきで僕のおちんちんはオナホールの内に飲み込まれてしまう。 「ひあぁ……、いやだよぉ……。それ、気持ち良すぎる……、僕、変になっちゃうよぉ……。変になるぅ……ッ!!」 シリコンのヒダが硬くなった肉茎に絡みつく。 「うん、変にしてあげる……。イヤらしい真咲くんを、もっとエロくしてあげる……」 ブジュウウゥッ!! 「ひぎぃッ!!」 オナホールが一気にきつく握られる。中からは空気が抜けて、強烈な吸引と、締めつけが発生する。 柔らかい繊毛が生き物のように絡みつく。そのままゆっくりと動かされると、身体の芯が抜けてしまいそうな錯覚まで起こる。 やだ……、これ、やっぱヤダぁ……ッ! 「ひあぁ……、あッ、あッ、あッ……! あぐぅッ! ふ、ふわあぁ……ッ!」 「お鼻、ヒクヒクさせちゃって……。あー、すごい汗だ……。ベトベトだねぇ……」 内藤さんの腰が動く。 手でも僕のペニスをこすりながらの形になるが、その速度はさっきまでのピストンなんかよりずっと速く、一撃一撃がとても重い。僕は身体を引きつらせながら、その圧力に耐える。 夢見心地な快感を与え続ける陰茎部に対し、目が覚めるような鈍痛を与え続ける前立腺。二つの異なる快感が混ざり合い、僕の理性は壊れていく。 絶え間ない快感の嵐に全身が暴れる。しかし、腕と腰を固定されたこの状態では、僕の体は床に落ちた金魚のように、虚しくベッドの上で跳ねるだけだ。 僕は眉根に深いシワを寄せながら、だらしなく口を開いている。唾液が口の端からダラダラと垂れ、シーツを汚す。 70 :犬神:04/05/14 23 48 ID 9T2Yg/q1 クッションに頭が押しつけられ、髪が乱れる。 「あああぁッ、やらぁ……、わ、分からなくなるぅ……、分からなくなるぅ……」 もう自分が何を言ってるのかさえ理解できない。僕の口からはデタラメな譫言が発せられている。 そんな声を聴いて、内藤さんはさらに興奮しだしたのか、腰の衝撃はさらに強くなってくる。 お尻の穴ではブジュブジュと泡沫が弾ける。潤滑剤がいくら効いていても、そこは燃えるような熱を発することになる。 「あぁ……、お兄さんも溶けるよ……。一緒に、ドロドロになろう……?」 「はあぁ……、あぁ、あはあぁ…………」 その時バチンと、頭の中で何かが切れる。僕は大きくアゴをのけぞらせる。 限界だ。僕はもう射精してしまう。あと一秒も耐えられない。 「ひぃッ! ひぐッ! ひぐうぅッ! で、出ひゃいますうぅ……ッ!」 「うん、いいよ……。真咲くん、出しちゃいな」 「は、はひぃ……、い、……イぐうぅッ! イぎますうぅッ!」 ドビュウウウゥゥッ! ドビュルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュクン! ビュルッ! ビュッ! ビュウウゥッ! 煮溶けた精液が僕の精輸管を灼きながら登りつめ、一気に鈴口から噴き出した。 欲望の樹液がダクダクとシリコンに注ぎ込まれる。圧倒的快感に導かれた射精は延々と続き、僕の意識は遠くなる。 「あ…………、あ…………」 しかし、 「よし、次はお兄さんの番だね、一気にいくよ……ッ!」 ズンッ! グジュッ、グジュッ、グジュウゥッ!! ブジュウウゥッ! 「……ひ、ひいいぃッ! ひぎッ! ぎいいぃッ!!」 71 :犬神:04/05/14 23 49 ID 9T2Yg/q1 射精直後、まだ全身がビクビクと痙攣を続けているそんな時、内藤さんは再び腰を振り始めた。 バチバチと内藤さんの腰に、僕のお尻の肉があたる。拷問のような悦楽に、僕は死さえ覚悟する。 僕はとてつもない衝撃に目は大きく見開き、口は窒息寸前の魚みたいにパクパクと虚しく開閉する。 内藤さんは腰と同時にまだオナホールも動かしている。ローションの泡が卑猥な音をたてて破裂し、粘度の高い液体がお互いの恥毛まで濡らす。 気持ちいいなんてモノを飛び越えた、苦痛しか伴わない快感。焼きごてで脳を直接灼かれているような感覚が俺をさいなむ。 「あ……、真咲くん……。いい……、君の中……さいこぉ…………ッ!!」 「……あ、あひ………………ひ…………、ひぎ…………ッ!」 全身の筋肉が硬直し、ブルブルと小刻みに震える。お尻の中も収縮し、僕は内藤さんの逸物を強く締め上げる。 「おぉッ! う……、うあぁ……ま、真咲くん…………、い、いぃ……」 内藤さんが歓喜の呻きをあげる。しかし、その声は僕の耳に届いても、意味のある言葉に思えない。 僕は強すぎる快感に我を失っている。ただただ、この法悦の地獄が早く終わることを一心に天へ祈る。 (終わって……、もうダメだから…………死んじゃうから…………、もう僕死んじゃうからあぁッ!) 内藤さんの腰がターボがかかったかのように猛烈に動く。ラストスパートだ。もう、お互い理性の紐が切れる限界だ。 イく……、僕はまたイく…………ッ。イきながらイっちゃううぅッ!! 「……ッ! う、うおおぉッ! イくぞぉッ!!」 「…………うッ……うぐうッッ!!」 心臓が縮む。背骨に電撃が走る。そして、大量の白濁液が登ってくる。 ドビュウウウウウゥゥッ!! ビュルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュクンッ! ビュルルウゥッ! ビュルウゥッ! ビュッ! ビュウゥッ! ビュウゥッ! ビュクン! ビュクンッ! ブビュウウウゥッ! ブビュッ! ビュウウゥッ! ビュルンッ! 72 :犬神:04/05/14 23 49 ID 9T2Yg/q1 お互いが、一気に、精巣に溜まった欲望の証左を全て噴き出した。 「あ…………あぁ…………、凄いよ…………」 内藤さんの感極まったセリフ。しかし、僕には言葉もない。失神寸前の快感に、ただ、わななくことしかできない。 そのまま、僕達は時間が止まったように固まる。もう、動くことなんて出来やしない。 内藤さんが、僕の隣に崩れ落ちる。ベッドのスプリングが大きく揺れる。 同時にアナルの圧迫感も消え、僕はようやく解放される。 開ききった穴から、トロリと精液が漏れる。 ● ○ ● 西池袋のラブホテルを出て、内藤さんと別れた。時間はもう二十三時、普通の店のシャッターは全部降り、普通じゃない店のドアの鍵が開く。ピンクや紫の照明が、アスファルトを行き交う人々の髪に反射する。 「ふう……」 疲れた。 内藤さんは常連さんの中でも少し変な人で、僕を気持ち良くさせることに執心する。まあ、痛くされるよりはいいんだけど、やりすぎは困る。 でも、追加料金はしっかり出してくれるしなぁ……。 まあいいや。今日はこのまま直帰の予定なので、僕はそのまま駅前へ移動する。 アパートは椎名町だし歩いていってもいいんだけど、激しいプレイで腰がガクガクしてしまってる。おまけにもの凄くだるい。今日はもうダメだ。電車で帰ろ。 しかし、池袋駅西口の前で 携帯が鳴る。メロディーは「どぉなっちゃってんだよ(岡村靖幸)」。……お店からだ。僕は嫌々ながらも携帯を開くしかない。 「もしもし~、もう終わってるよね、おつかれさま~」 店長のオブラートのように軽薄ペラペラな声が電話から聞こえてくる。 73 :犬神:04/05/14 23 51 ID 9T2Yg/q1 「お疲れ様です……」 僕の声は本当に疲れてる。 「えっと、僕は今日、このまま直帰ですから。それじゃ、お疲れ様でした」 「あ~ッと! ちょっと待って真咲くん。まだ切らないで、切らないで~ッ!」 僕は押しかけていた通話切りボタンから指を離す。 「なんですか、まったく……。今日はもう無理ですってば」 「いや、今回はちょっと特殊。真咲くんをご指名なんだけど……断ってもいいよ」 「は?」 珍しい。というより、そんな言葉初めて聞いた。 「なんですか、それ。なんなら、そっちで断ってくれても……」 「でも、真咲くんの方から断った方がいいと思ってさ」 僕はストラップを人差し指で回す。 「誰ですか、それ」 「『雪広』って名乗ってる。まえに真咲くんが話してくれた例の彼でしょ。……はは、やるね~」 「雪広ぉッ?!」 同級生だ。1年C組出席番号2番、井上雪広。 よりによって、二ヶ月前に俺に告白したヤツ。 「うん、そういうわけなんだよ~。まあ、素性をバラした真咲くんの責任もあるでしょ。お金は用意したみたいだし、仕事をしてもいいけどね。……まあまかすよ。なにせ未成年だし」 「僕だってそうですよ……」 「ウチの子たちはみんなそうだってば。そういうわけで、お願いね~、場所は……」 ● ○ ● 西池袋公園。 歓楽街を少し離れたところにあるそこは明かりも少なく、植え込みの影がとても濃く見えた。バラ園があったりするんだけど、花はもう全部落ちてしまっている。 74 :犬神:04/05/14 23 51 ID 9T2Yg/q1 夜中には止められている噴水の脇に、雪広は座っていた。 シンプルなジーパン、薄手のTシャツ、安物のデジタル腕時計。背丈も顔も、今時の平均的中学生男子といったカンジだった。ただ、名が体を表すのか、肌の色だけがとても白い。それだけで、どこか華奢な印象を与えるヤツだった。 「雪広……」 「尾道。本当に来たんだ。なんか、信じられないよ……」 「まあ、金払ってくれるなら来るよ、僕は」 仕事だし。僕はなんか気恥ずかしくなって痒くもない頭をポリポリ掻く。 「……払うよ。用意してきた。二ヶ月、家を手伝って、稼いだ」 「ふーん……」 雪広は僕の顔をまっすぐ見つめてくる。一方、僕は雪広の目なんて見られない。 なんというか、あんな熱い目されちゃったら、誰だって照れてしまうと思う。僕は少し下に視線を外し、爪先を立てて足首を回す。 「……あのさ、雪広。一応確認するけど、本気? クラスメイトを金で買うの?」 雪広がゆっくりと噴水から立ち上がる。 「うん……。でも、尾道が言ったんだよ。僕のことが好きなら、お金を払えって……。それが、一番助かるって……」 「そ、そうだけど……」 まさかあの時は本当に用意してくるとは思っていなかった。自分の正体をバラせば、もう近づいてこないと考えただけだった。 でも、雪広は告白から二ヶ月経った今、こうして大金を持って僕の前に立っている。おそらく、あの日とまったく同じ気持ちのままで。 バカだ……。こいつ、大バカだ。 「あ、でも別に俺は……ヤる必要もないとは……思うんだ。金で買うなんて、やっぱ変だし」 雪広は自分の言った「ヤる」という言葉一つで顔を赤くする。やっぱこいつ、全然経験なんて無いらしい。 「だからさ、……このお金は尾道にあげる」 75 :犬神:04/05/14 23 52 ID 9T2Yg/q1 「……え?」 「それでいいと思うんだ。俺は尾道が好きだから、お金を稼いできた。ヤるとかヤらないとかじゃなくて、気持ちを伝えたいだけだったんだ……」 「………………」 俺は雪広の言ってることが理解できなかった。 お金をあげる。それは自分の短い人生でも、まず考えられない言葉だった。 雪広の勝手な言葉は続く。 「だから、それでいいんだ……。受け取ってくれればいい……。別に、俺のことを好きになってくれなくったって……」 「…………ふ」 「……え?」 「ふッざけるなあぁッ!!」 僕は怒鳴っていた。つんざくような叫びは静かな夜を裂き、少し離れた雑居ビルまで響いた。 雪広はビクンと全身をすくませ、驚愕の表情で僕を見ていた。 僕は一歩前に出て、雪広の正面に向かい合った。背の低い僕が雪広を見上げる形になるが、僕の怒りはおさまらない。 「なにが、金はいらないだッ! 自分で稼いだ金に、どれほどの価値があるのか本当に分かってんのかッ! そんなことしたって僕は喜ばないぞッ! そうさ、絶対に、絶対にだッ!」 「尾道……」 「名字で呼ぶなッ! 今は真咲だッ! 男娼としての僕に名字はいらないッ! 僕は真咲だッ!」 僕は雪広の襟首を掴み、顔を引き寄せる。 「金はもらう。でも、それは『気持ち』を売るからじゃない。『体』を売るからだ。ああ、ヤろうぜ。すっげー気持ち良くしてやるよ。今まで感じたこと無いくらい、気持ちいいことしてやるよッ!」 僕は一気に言葉を吐き出す。いま感じている感情の全てを、雪広にぶつける。 「尾……い、いや、真咲……」 76 :犬神:04/05/14 23 53 ID 9T2Yg/q1 「なんだよ……、イヤなら帰れよッ!」 「違う、そうじゃない……。そうじゃなくてさ……」 「?」 「泣くほど……悔しかったの……?」 そう言われて、僕はようやく気づいた。 僕の頬には、一滴の涙が伝っていた。 「……え?」 泣いていることを実感すると、まるで傷口を見た子供が改めて泣き喚くように、僕の目からは涙がボロボロとこぼれ落ちてきた。目頭がもの凄く熱くて、胸の奥からどんどんせつない感情がこみ上げてきた。 僕は慌てて目を手でこすった。でも、涙は手の甲をどんどん濡らすだけで、止まることはなかった。 「ひ……、や……。 な、なんで……? なんでこんな……」 いくら拭いても涙は止まらない。僕の背中は丸まっていき、嗚咽で胸がヒクヒク震える。 ふと、暖かい腕が、僕を包む。 雪広が、俺を抱いている。 「あ…………、ちょっと……、や、やだ……」 僕はその優しさを拒否する。でも、体はただ震えるばかりで抵抗できない。善意のぬくもりを、ふりほどけない。 「いいよ、行こう……」 雪広は言う。 「ホテル行こう……。ヤろうよ……。セックス、しよう……」 -後編へ
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混沌は始まり、困頓はお終い ◆mtws1YvfHQ 不要湖。 ありとあらゆるがらくたが積み重なりがらくたによって出来がらくたによって形成されたがらくたの地。 そこに二つの影が姿を現したのは の頃だった。 姿を現した影の片方、総白髪の女、とがめがぽつりと呟いた。 「相も変わらぬ惨状だな、ここは」 「ん? 知ってるのか?」 聞き止めて影のもう片方、橙色の髪の少女、想影真心が聞き返した。 それに白髪の女は、 「知らねば来る筈あるまい。いや、そもそも」 言いながら途中で気が付いたように首を傾げる。 「なぜおぬしは知らぬのだ? 何処に住んでいようが壱級災害指定地域の一つである不要湖の話の一つや二つ知っていても可笑しくはあるまい」 「いや、知らないぞ。そもそも壱級災害指定地域って言うのに誰が決めたんだ?」 「そんなもの尾張幕府に決まっておろう」 ふーん、とでも言いたげな雰囲気だった真心が今度は首を傾げる。 「……尾張幕府ってなんだ?」 「……まさか、尾張幕府を知らぬのか?」 「知らないぞ」 不意に二人とも足を止め、観察するように見詰め合う。 心なしかお互いの額に皺が寄っているようにも見える。 「髪の色で引っ掛かってはおったのだが、まさか異国の者だったのか? いや、それにしては少し言葉が流暢過ぎるし……」 「そもそも尾張幕府ってのは何なんだ? 幕府って言ったら……それに壱級災害指定地域って言うのも聞いた事ないし……」 「「――――――」」 お互いの認識に、あるいは知っている事に、多少ではない隔たりがある。 それに、この壱級災害指定地域、不要湖を切っ掛けに気が付いたのだった。 そして知っていることに違いに気付けば自然とどこがどう違うか知ろうとするのはそれ程おかしな事でもない。 切り出したのはとがめの方からだった。 「――これから」 少し躊躇いながら口を開いたとがめ。 真心は変わらずじっとその様子を見詰める。 「これから幾つか変な質問をするやもしれぬ。喋れぬ物があるなら仕方が無いが、喋れるものであれば正直に答えて貰いたい」 真心はしばし逡巡する。 逡巡するが、何かと不味い内容であれば答えなければ良いだけなのだし、真心自身もとがめに聞きたい事が幾つか出来た所だった。 「――――良いぞ。俺様の方も、幾つか聞きたい事が出来た所だし」 「では不公平が無いよう交互に質問し、答えると言う風にしようと思うがどうだ?」 「それで良いと思う」 「では、まず此方から一つ。おぬしは……」 質問をしようとした途端、まるで謀ったかのような絶妙のタイミングで絶叫が響き渡った。 「なんとまあ、間の悪い……」 「先に見に行くか?」 「うむ、仲間を増やせるやも知れぬからな」 会話をしながらも一応は足を悲鳴のした方に進んでいた。 途中、何処からかがらくらの崩れる音が聞こえはしたが見える範囲で崩れた場所はなかった。 「やっぱり誰か居るみたいだな」 「人であれば良いがな」 そしてがらくらの山一つ越え二人の目に映ったのは、うつ伏せ倒れた男の周りに立つ一組の男女が立っていた。 向こうの二人と目が合う。 途端、脱兎のごとく、とがめと真心が居るのとは正反対に向けて二人は逃げ出した。 「あ、おい待て!」 思わず前に出たとがめを真心が無言で引き止める。 「何を……!」 振り返ると、真心はじっと目を細め倒れた男を見詰めていた。 そしてその目は用心深そうに辺り一帯を巡り、再び男へと戻った。 「どうした?」 「見た目は怪我しているように見えるが、殆ど怪我をしていない。それに止めを刺さずに逃げるのはおかしくないか?」 「つまり、罠だと?」 「そう思う」 「ならば行こう」 真心の警戒を余所に、とがめはあっさりそう言った。 「え?」 「罠は知らずに掛かればこそ十二分に効果を発揮する。しかし、知っていながら掛かるのであればそれは最早罠とは言えまい」 「――罠をそのまま踏み抜くって事か?」 「簡単に言えばそうだ。しかし成功すれば精神的打撃も含めて十分な成果は期待できるがどうする? あくまで踏み抜くのはおぬしであるしな」 「……まあ、やってみる価値はありそうだな」 よっと、と言いながらがらくたの山を駆け下り、真心は男の少し離れた所に立った。 その後を派手な音を立てながら転げ落ちたとがめが立ち、並ぶ。 「うーむ、死んでいるようにしか見えないが……?」 ちらりと横目を向けるが、真心は確信を持っているようで表情を変えずに男の横に立ち、おもむろに男の頭を掴むとそのままあっさりと持ち上げた。 「うおっ?!」 「今から十秒毎に握力を強める。死にたくなければ早めに死体のフリをやめた方が良いぞ」 言い終わった途端、ミシリ、と男から不気味な音が鳴った。 動かない。 「……九、十」 再び、ミシリ、と音がした。 動かない。 「……九、十」 ビシ、と音が鳴った。 それでも動かない。 「二、三、四……」 「おい、本当に生きているのか?」 「……七、八」 無視して数え続ける。 「九、じゅ」「悪かった。こちらの負けだ、辞めてくれ」 十、と数え終わる前に後ろから男の声がした。 ガラクタの中で足音一つしなかったのに。 え、と二人して振り返り、とがめは男と目を合わせ、真心は咄嗟に目を閉じた。 閉じたまま真心はもう片方の腕を男の顔へと伸ばす。 「守れ」 しかしたった一言言うと、横に居た女が身を投げ出すようする事でそれを遮った。 真心の手はその際に肩を掠めただけの筈なのに女の肩を外したが悲鳴の一つ、表情も変えなかった。 続いて、 「蹴ろ」 と言った。今まで頭を掴まれたまま微動だすらしなかった男の踵が真心の腹を蹴り付ける。 頭を掴まれたままで、勢いがない筈のそれは真心の脇腹にめり込んだ。 「ッく!」 来る予想は出来ていてもその威力は予想外だったのか思わず目が少し開いてしまった。 それを男は逃さず、真心と目を合わせた。 真心の身体が一瞬跳ね、地面に倒れた。 気絶したようだ。 その拍子に頭を掴んでいた方の手を離したが真心と目を合わせた男はそれを気にも留めていない風に真心を見下ろす。 「――――――――――」 「橙なる種、人類最終が何故此処に居るかは知らない。だが、此処に居るのは丁度良い。特に時期としてはるれろの《調教》も頼知の《病毒》もしたばかりの筈だ」 「――――――――――」 「さて」 「……ぐ……ぅ……」 身体が言う事を聞いて居ないらしく、妙な震えを全身に走らせているとがめの方を向いた。 「随分と強靭な意志を持っていたようだ」 そして男はとがめの顎を掴んで顔を上げさせ、 「…………く……」 「だが無意味だ」 目と目を合わせた。 「立て」 「………………」 「名前は」 「………………」 「名前は?」 「………………」 「……強靭な意志だ。まあ、後で精々働けるだけ働いて貰うよ。さて」 と、男は足蹴に真心を仰向けし、 「迷路、黒猫。立たせろ」 そう言うと、頭を掴まれていた男、迷路と肩が片方外れた女、黒猫は片方ずつ腕を掴み無理矢理引き立たせた。 男は真心の瞼を持ち上げたり、脈を測ったりとしながら、何度か頷き、あっさりと操想術に掛かった事も含め、男、時宮時刻は確信した。 この真心にはしっかりと『操想術』の根が降りている。 解放する為に蜘蛛の巣のように繊細に張り巡らせた『操想術』と、逆に縛り付ける鎖として使うための『操想術』。 ならば好都合。この二つを起点として、しばらく完全な人形にしてやろう。 そう思いながら、瞼を引き上げる目を覗き込み、語り掛ける。 「起きろ、橙なる種。 夕暮れは過ぎ、夜を越え、黎明に入り、朝に到る。 夕暮れを告げる鐘は鳴り、十二時を叫ぶ時計は止まり、朝を告げる鳥は既に鳴き疲れている頃。 目を覚ませ。もう朝だ。もう――次の日だ」 ゆっくりと焦点が定まらずに何処か虚ろな真心の目を見ながら時刻は僅かな違和感を覚えた。 覚えたが、気のせいだろうと首を振った。 そして苦笑する。 「しかし橙なる種を使う事になるとは、全く何て」 呟く。 「――戯言だろうな」 と。 真心は緩慢な動作で隣の腕を掴んだままで居る二人の腕を掴み、男は腕と身体が別れる勢いで投げ飛ばし、少女は片腕だけを引き千切っていた。 時は少し遡り、場面も変わる。 そこで少年が二人、がらくたの中を進んでいた。 「くそっ! くそっ!」 「慌てんなって。慌てたって何にも変わらねえぞ?」 「ああ、分かってる――くそっ!」 その二人とは、言葉では冷静で居ようとしながらも焦りを隠せていない男、櫃内様刻とそれを呆れ半分面白半分に眺める男、零崎人識だった。 二人は時宮時刻の進んでいる方向は分かっていながらも追い着けず、遂には不要湖まで到達し、そして時刻を完全に見失った。 ましてや木々と言う人工物の目立つ場所ではなく、人工物によって構成された場所。 ここで見付けようにもその見付け難さは並み尋常の物ではない。 それが様刻が焦りを隠し切れていない理由。 それ故に先へ先へと足を進め、その後を人識が追い掛ける構図になっていた。 これが後の悲劇の原因の一つとなる。 不意に不要湖の中に悲鳴が響き渡った。 「ん、今のは……?」 「迷路か!」 既に様刻は悲鳴のしたがらくたの山の方へ駆け出した。 「おいおい……待」 待てよ、と人識は言おうとしたのだろう。しかし言い終える前に悲劇は起きた。 前を走っていた様刻の足元からがらくたの山が崩れ始めたのだ。 様刻は慌てて飛び退いて逃れる事は出来たが、下の方に居る人識はそうはいかない。 がらくたは雪崩打って人識に向かって襲い掛かる。 「ォ、ウォォォォオオォオオオオオオオオォオオ!」 逃げる。 鉄片が飛ぶ。木片が砕ける。鉄屑が掠める。木屑が舞い散る。 その中を逃げ、最後の最後でがらくたの一つに足を取られ、倒れ、 「オォオ…………セーフ?」 巻き込まれたが、下半身に軽い重しがのっかっている程度の被害で済んでいた。 しかしその上にはがらくたの山。慎重に抜け出さなければ上が崩れる事は想像に難くない。時間を喰いそうに見える。 これには人識も思わず苦笑い。 「かはは…………全く、運が良いのか悪いのか」 「大丈夫か!」 慌てて降りて来た様刻に向かって人識は取り出したナイフを軽く放り渡した。 驚いた表情の様刻が何かを言う前に、 「行けよ、あいつを殺すんだろ?」 そう言った。 様刻は目を見開き口を開けて何かを言おうとしたが、結局は閉じて、今度は慎重にがらくたの山を越える。 「がんばれよー。あとあいつの目には気を付けろ」 その後を人識の気のない声を聞きながら、様刻はがらくたの山を越え、目撃した。 がらくたの中を絶叫が響く。 様刻が見ている所からでも十分見える。 橙色の髪の女が、迷路は片腕と身体を別れさせながら空高く放り投げ、黒猫の腕を人形の腕を外すように易々と引き千切ったのだ。 続いてその女は目の前に居たあの『操想術』の男、の片腕を踵で削ぎ落し、最後に呆然と立ち尽くしている総白髪の女をがらくたの山の一つまで蹴り飛ばし、 「ァアァァァァァアアアァァアアァァァアアァァァアァ」 絶叫を上げながら何処へと駆け去っていった。 がらくたの山を駆け下り目指すは、あの男。 迷路と黒猫の二人は腕を飛ばされているにも関わらず血を止めようともしていない。 その原因はあの男の言っていた『操想術』しか考えられない。 ならばここで最善の選択は、今すぐにでもあいつを殺す。殺せばその『操想術』が解けるか分からない。分からないが殺るしかない。殺らなければ死んでしまう。 男までの距離を一気に詰めようと足を急かすが、がらくたを踏み分ける音で気付いたのか、男が此方を向き、目と目があった。 「――ァ」 意識に一瞬空白が出来た気がし、気付けばさっきまでそこに居た筈の男は消えていた。 慌てて辺りに目を走らせる、安心する。すぐ傍で男は倒れていたのだ。 その男に近寄り、仰向けにし、馬乗りになる。まだ生きている。まだ、呼吸をしている。だったら、 「死ね」 まず首に深々とナイフを突き刺す。抜く。 次いで、胸辺りに突き刺す。抜く。 「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。 刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。抜く。刺す。 「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」 服に飛び散る返り血を気にせずただひたすらに、死ね、死ね、死ね、と憑かれたように、一心不乱に突き刺し続ける。 「よっ、ほっ、ふんっ、ぬ……やっと、抜けれたぜ。あー首が痛ぇ」 人識はようやくがらくたの山から抜け出した。 「あーあ」 身体を軽く伸ばして軽い準備運動もして、がらくたの山を越える。 そこから少し離れた所に一心不乱に何かを刺している様刻の姿が見えた。 「やってるねぇ」 かはは、と笑いゆっくりと近付きながら、 「ん?」 首を捻った。 様刻が一心不乱に刺しているモノに違和感を覚えたのだ。 駆け足気味に刻様の後ろに立った。 そして、違和感の正体に気付き思わず顔を顰める。 「おい、何してんだ」 「ん? ああ、人識か。見ての通り殺ってる所だ」 恐らく様刻は、にぃ、っと笑ったのだろう。 後ろからでも顔面が歪んだのが見えた気がした。 「いや、それは分かってるが殺ってる何を殺ってんのか分かってんのかって聞いてんだ」 「はあ?」 言いながら様刻が振り返り目を見開いた。 そして先程まで刺し続けていたモノと人識を交互に見、慌てて人識にナイフを向けながら距離を取った。 目の移動が激しい。動揺しているようで、しかも口を金魚のように開いては閉じを繰り返す。息も荒い。 「なんで、お前、なんで? だって、刺して、そこに、なんで」 「よーしよしよしよしよしよし、落ち付け、まずは深呼吸をしろ」 そう言いながら人識は、かはは、と笑いながら後ろに下がり敵意がない事を示す。 そのお陰でかどうかは知らないが、多少なりとも余裕が出来て来たのか目を少し閉じ、頻りに深呼吸を繰り返し、落ち付いたのか、様刻はゆっくりと目を開けた。 そして、手に持っていたナイフが手から滑り落ち、カラン、と小さく金属音が鳴った。 「は? え? え? え? え? は? え?」 「あーあー、やっぱりか。折角あいつの目には気を付けろって言ってやったのによ」 はぁ、と溜息一つ付きながら先程まで刺され続けていたモノに近寄り、眺める。 どうやっても死んでいた。どこからどう見てもしんでいた。 「あーあ、こりゃあ…………」 首を振り、ナイフを落としてから後ずさりを続けている様刻に一瞬目を向け、 「こいつの名前、何て言ったっけ? 確か――――病院坂黒猫って」 「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!」 絶叫し、何処へと逃げて行く様刻をチラリと見はしたが、結局は声を掛けずただ溜息を付いた。 病院坂黒猫と呼ばれた少女は首を刺され、腹も刺され尽くし、どうしようもなく死んでいた。 辺りを見渡すと、迷路と呼ばれた男の死体も見えた。 「全く、最高に最ッ低な傑作だ。そう思わねえか…………欠陥製品」 そう呟きながら、人間失格はそっと手を合わせ、黙祷。 しばらくそれを続け、目を開けると、 「んじゃ、使ってないもんは貰ってくぜ? あんたらの友達に折角のナイフがぼろぼろにされちまったんだからよ」 そう言いながら、落ちていたナイフを拾い上げた。 拾い上げたナイフの刃はボロボロで、もう使えそうにはない。 それを後ろに放り投げ、かはは、と笑うと人識は黒猫と迷路の二人の持ち物を遠慮も何もない様子で剥ぎ取って行った。 【病院坂迷路@世界シリーズ 死亡】 【病院坂黒猫@世界シリーズ 死亡】 【1日目/黎明/E‐7不要湖】 【零崎人識@人間シリーズ】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式×3、ランダム支給品(2~8) [思考] 基本:この後どうするか決める。 [備考] ※時系列的には、「ネコソギラジカル」上巻からの参戦です。 「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」 刺していたのはあの男だった。 だけど、何時の間にか黒猫に変わっていた。 なんで? なんでだ? なんでだよ? なんでなんだ? 「なんでっ、僕は黒猫を刺していたっ!」 訳が分からない。 刺していたのはあの男の筈だ。 刺されていたのはあの男の筈だ。 刺したのは僕で、刺されてたのはあいつ。 なのに、なんで、黒猫を刺していた? 刺していたのは僕で、刺されていたのは黒猫。 どう言う事だ。何が起きた。 理解が追い付かない。 馬乗りに刺しながら、あの零崎人識に声を聞いて、振り返ればあの男が居た。 じゃあ馬乗りになっているのは何かと見れば、あの男が居た。 それから、振り返ってもあの男が居て、下を見てもあの男が居て、零崎の声が聞こえて、深呼吸をして、それど、それで、それでそれでそれで。 ――――――目を開けたらあの男の代わりに、憐れそうに此方を見る零崎と、血塗れの黒猫が、 「なんでなんでなんでっ、なんでっ、なんでっ、なんでっ! なんでっ! なんでぇえええええ!」 気が付けば、叫んでいた。 気が付けば、頭を抱えていた。 そして、気が付けば、涙が零れていた。 そして、そして、気が付けば、膝を付いていた。 そして、そして、そして、気が付いた。 「――――催眠術」 そうだ。 あの男が、僕から逃げるために催眠術を掛けた。 それで幻覚を見せた。 そうに決まってる。 そうに決まってるじゃないか。 目を合わせた瞬間から全て。 倒れていたあの男を刺したのも。 何度も何度も刺し続けたのも。 零崎の声が聞こえて振り返ったのも。 あの男が二人居たのも。 深呼吸をしたのも。 身体を刺し傷だらけで死んでいた黒猫が居たのも。 「全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブッ」 幻覚だ。 幻だ。 まやかしだ。 「…………いや、違う」 思い出した。あの橙色の髪の少女に迷路と黒猫が腕を引っこ抜かれた所は現実だ。 そこから溢れる血を抑えようとしなかったのも現実だ。 そうだ、だから、催眠術を解くために、一刻も早くあの男を殺さないといけないんだ。 そうだ。そうだ。そうだ。そうだ。そうだ。 此処が何処だか分からないけど、あのがらくただらけの場所には零崎が居る。 だからきっと二人の事はなんとかしてくれる。 きっと。 だから、そう、僕は、 アノ男ヲ殺サナイト 【1日目/黎明/E‐6】 【櫃内様刻@世界シリーズ】 [状態]健康 、興奮状態、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考) [装備] [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本:操想術を施術された仲間を助ける。 1:時宮時刻を殺す。 2:病院坂黒猫と病院坂迷路を助けたい。 [備考] ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。 時宮時刻は、既に不要湖から抜け出していた。 どうやってあの時、櫃内様刻の目から逃れ得たかと言うと、目を合わせた瞬間既に、一回は掛け損ないだが、二回掛けた『操想術』の下地を利用して、十秒程度意識を奪うのと同時に、近くにいる人間が時宮時刻自身に見えるように変えた。 なぜ意識を奪うだけに留めなかったかは単純に、少しでも時間を稼ぐため。 少し前に研究所で時刻を襲い、今さっきは何故か居なかったもう一人が何時現れるかもしれないのだ。 少なくとも操り人形にできるだけの時間安全かも分からないし、欲を言うなら同士討ちするように仕向けたい。そう思ったからだ。 そしてそれはある程度の意味では成功しているのだが、ひたすら逃げている時刻はそんな事知るよしもない。 今の所は追って来ていない。それが大事だ。 そして多少なり余裕が出来た所で、 「…………しかし」 ふと、時刻の中に疑問が生じた。 それは、 「なぜ、解放されてしまったんだ?」 なぜ、橙なる種が、もう、解放されたのか。 いや、どちらかと言うと『調教』が解け、何らかの原因で弱まっていた『病毒』を無視して解放された。気がする。 右下るれろの『調教』が解けた理由は分かる。 「戯言」 そう、「戯言」と言う言葉がキーになり、るれろがその場にいたにも関わらず抑える間もなく暴走した事がある。そう聞いた気がする。 だから《調教》が解けた理由は分かる。 しかしそれだけが解けたからと言って奇野頼知の《病毒》は? それにこの《時宮時刻》の掛けた《術》はどうした? 《病毒》の効果が弱まるのも、あるいは切れるのはまだしばらく先の筈。《術》もまたしかり。 《調教》と言う鎖の一本がなくなろうと、依然として《病毒》と《操想術》の二本の鎖はある筈だ。 にも関わらず、《鎖》が絡まり身動きもまともに動く出来ぬ筈なのに、《操想術》と言う鎖を締める間もなく―――――― 「――――――違う」 締める間もなかったんじゃない。締める鎖自体がない。そんな感触の方が近かった。 それが本当なら掛かっていた筈の『操想術』が解けた? それもまたおかしい。 精神的時間を進めたのは精々半日程度。解けるまでの間の有り余る膨大な日数をどう間違えば半日程度の時間と間違える道理などある筈もない。 「いや、待て」 半日程度? もしも、なんらかの理由で三本の鎖が解けるまでの時間が肉体精神共に半日程度になっていたとしたら? だとすれば精神に作用する『操想術』は時間を進めて僕自身が解いてしまい、肉体に作用する『調教』は「戯言」と言う言葉が解いてしまったと言う事か。 そして残る『病毒』は、時間が解いてしまう。 仮定としては面白い。しかし――そうなる理由がない。 そう出来る理由もない。 何と言っても時宮の『操想術』に奇野の『病毒』、そしてなにより右下るれろの『調教』。 この三つを揃えるのは、恐らく不可能。 出来る理由がない。 理由はないが、 「もし、この仮定が本当にそうだとすると……」 世界の終わりは、 「もう」 すぐそこ? 「――ふ、ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」 笑いが底無しに込み上がってくる。 今しばらくこの仮定を元に動くのも悪くない。そう思えて来たのだ。 と、言ってもやる事は変わらない。 「まずは」 時刻は左腕に目を向ける。否、左腕のあった場所に目を向ける。途中で削ぎ落された腕。 今は縛って血が出ないようにしているが、念の為にも消毒はして置きたい。 とすれば行き先は、薬局か、レストランが妥当な所だろう。 《時宮時刻》は歩き続ける。ただ、世界の終わりを見るために。 【1日目/黎明/F‐7】 【時宮時刻@戯言シリーズ】 [状態]背中に負傷、左腕欠損 [装備] [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本:生き残る。 1:できるだけ多くの配下を集める。 2:この戦いを通じて世界の終焉に到達したい。 3:薬局かレストランに行って傷口を消毒する。 [備考] ※「ネコソギラジカル」上巻からの参戦です。 [操想術について] ※対象者と目を合わせるだけで、軽度な操想術なら施術可能。 ※永久服従させる操想術は、少々時間を掛けなければ使用不可。 想影真心は走る。 己の心のままを執行する為に。 ただ、壊す為に。 いーちゃんも、狐も、何もかも。 まず目指すは、骨董アパート。 既に頭の中に地図は入っている。 故に、方向を間違える事もない。 ただ己が心を実行する為に。 心臓に施された『操想術』。その役割は『解放』。 故に、今まで抑圧され続けていた感情は、迸る。 激流のように。 激情のように。 激昂のように。 押し流すだろう。 打ち砕くだろう。 削り割るだろう。 しかしそれを止める手立てなど有りはしない。 解放された人類の最終形を止めるなど、出来る人間など居ない。 【1日目/黎明/F‐7】 【想影真心@戯言シリーズ】 [状態]解放 [装備] [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本:壊す。 1:骨董アパート。 2:いーちゃん。狐。MS-2。 3:車。 [備考] ※ネコソギラジカル(中)、十月三十一日から ※三つの鎖は『病毒』を除き解除されています 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」 息も荒く、意識も遠退いて行く。 それでもとがめは生き残ろうと、逃げようと、もがく。 全身を苛む鈍痛を堪え、身体から流れ出る血を無視し、這いずる。 痛みにも耐える。今までだって耐えて来たのだ。 どんな手を使おうが、どんなに人に罵られようが、どんなに人を踏み躙ろうが、どんなに思いを叩き潰そうが、耐えて来たのだ。 例えどれ程の血が流れようが、例え屍山血河の中を歩む事になろうが、例え自分の心を偽ろうが、決めたのだ。 あの時、白く変わったこの髪に。 あの時、恐怖に染まったこの髪に。 その為ならどうなっても良いと。 生き残る。 生き延びなければならない。 全身木屑に塗れながら、全身鉄屑に傷付けられようが、這いずってでも、何をしてでも。 混沌に沈みそうでも耐えて来た。 困頓に倒れそうでも耐えて来た。 それを今更、志半ばで、諦められるかと。 こんな、何かも分からない殺し合いに巻き込まれ諦められるかと。 しかしその思いを絶ち斬るように、 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……ッ!」 「 」 足音が鳴った。 恐る恐るとがめは足音のした方を見る。 全身を覆う金属が光る。 四本の手に持つ四本の刀が光る。 四本の足があらゆるがらくたを踏み躙る。 無機質な目が、とがめを睨む。 無機質な声が、無常を唱える。 「人間・認識」 「日和、号っ……!」 それは、不要湖の主。 尾張幕府認定の壱級災害指定地域の原因。 がらくたの国のがらくた王女。 それは紛れもなく、日和号。 「即刻・斬殺」 「く、く、く」 「微刀・釵」 「来るなぁああああああああああああああああああああああ」 とがめが叫ぶ。 しかし聞こえてもいないと言う風に。まるで聞き流していると言う風に。日和号は口を開いた。 「人形殺法・竜巻」 一瞬にして、四方から同時に来る四本の刀によって服が、腕が、足が、血が、臓が、斬り裂かれ、宙を舞う。 「ぁがっ」 斬り裂かれた身体から淡々と血が流れる。 呻き、残った腕を無意識に日和号に伸ばすが、一瞬の内に斬り裂かれ、がらくたの中に落ちた。 「う、ぁ……う、ぅ」 身体が震える。 死ぬのかと。果たせぬ内に死ぬのかと。こんな所で死ぬのかと。 目の前がぼんやりと黒くなっていく。堪えようとしても、黒くなっていく。 「……七、花……ぁ……」 身体を容赦なく苛む幾多もの苦痛からか、世界が黒に染まっていく恐怖からか、果たせぬままに逝ってしまう無念からか、積み重なった今までの歩みへの虚脱からか、これから逝くであろう場所への拒絶からか、喉からか細い声が漏れた。しかし何処にも聞く者は居ない。 誰にも聞き遂げられず、有象無象の混ざった戦場の中で、とがめは静かに目を閉じた。 【とがめ@刀語シリーズ 死亡】 金属音を奏でながら、日和号は歩く。 どれだけの時が流れようと、幾星霜の歳月が過ぎようと、役目は変わる事のない。 黙々と不要湖を徘徊し続ける。 数百年立って尚も、課せられた役割を果たす為だけに。 【1日目/黎明/E‐7不要湖】 【日和号@刀語】 [状態]損傷なし [装備]刀×4@刀語 [思考] 基本:人間・斬殺 [備考] ※不要湖を徘徊しています 狐の達観 時系列順 雑草とついでに花も摘む 狐の達観 投下順 雑草とついでに花も摘む 「いーちゃんに会いたい」 想影真心 骨倒アパートの見るものは 全てが0になる 時宮時刻 善意の裏には悪意が詰まっている 全てが0になる 零崎人識 NO ONE LIVES FOREVER 全てが0になる 櫃内様刻 今まで楽しかったぜ 全てが0になる 病院坂黒猫 GAME OVER 全てが0になる 病院坂迷路 GAME OVER 「いーちゃんに会いたい」 とがめ GAME OVER START 日和号 marshmallow justice
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絶望と救い、そして憎悪 (前編) ◆S71MbhUMlM 時計の針は、進む。 望む、望まないに関わらず進み続ける。 人類が、…いや世界そのものが存在している限り揺るぐことの無い事実。 故に、『その』時は必ず訪れる事となる。 望む、望まないに関わらず、だ。 ただ、強いて言うなら、『その』時を望んでいる人間など、恐らく一人も居ないという事だろう。 …彼には、覚悟があった。 強さがあった。 知性が、理性があった。 だが、彼には足りていない物があった。 それは、何であろう? 言葉にすると、やはり、覚悟ということになるのだろうか…? 最も、彼だけを責める事は出来ない。 少なくとも、数時間前の彼ならば、恐らくは異なった筈だ。 同じ様に打ちひしがれ、叩きのめされて、消沈したとしても、己を律する事は出来ていた…筈だ。 だが、今の彼は、 ひと時とは言え安らぎと安堵を得てしまった彼には、同じように己を律する事は出来なかった。 棗、鈴 文字に記せばたったの二文字。 言の葉に乗せればたった五句の短い単語。 されどこの時において、語句の長さなどは意味を持たない。 重要なのは、その言葉の持つ『意味』であろうか。 その単語は沈黙を呼び、悲哀を誘う。 齎されるのは絶望であり、訪れるのは無力感であろうか。 いずれの感情にせよ、確か事が一つある。 その単語が読み上げられる事を望んでいたものなど、一人として存在していなかった。 それだけは、純然たる事実であった。 世界が、凍る。 僅かに動けば、粉々に砕けてしまいかねない程に。 G-6エリアのカジノ。 殺し会いというこの場においてはあまり相応しくない建物の内部には二人の人間がいた。 それほど、その空間を満たしている空気は、張り詰めていた。 その場に居るのは二人の人間。 棗恭介とトルティニタ・フィーネ。 多くの偽りと矛盾とを自覚しながらも抱え続ける二人。 今、その二人には動きは無い。 あるのは沈黙。 それだけであった。 双方の心に満たされるのは悔恨、嘆き、無力、憤りと様々ではあったが、それでも、 それ故に、その場の空気は動く事は無い。 心のあまりの重さに、動けない。 動くことなど、出来はしない。 ……そうして、数刻の沈黙の後、漸くその場所に時が刻まれ始めることになる。 人の身には、悲しみでさえ永遠ではないのだから。 ◇ 「…ちく、しょう」 絞りだす、ように、声が出た。 意味なんて無い。 鈴が、死んだ。 信じたくなんて、無い。 誰が信じてなんかやるものか。 ああ、そうだ、俺は信じない。 あの生意気で 兄を敬わないで やんちゃで 少し人見知りして 猫に好かれてて 可愛くて ……大切な、妹、が、 …………死んだ? そんな事、信じられる筈が無い。 鈴はまだ生きている。 兄が信じてやらずに、誰が信じるっていうんだ。 ああ、そうだ。 鈴は死んでなんかいない。 俺の、 俺たちの大切な仲間が、 俺たちの思いの全てを背負った二人の片割れが、 死ぬはずが無い。 そう、 …………そう、思えたのなら、どんなに楽なんだろうな。 そう、…どんなに否定しても、頭は理解している。 鈴は、 俺の『妹』は、 俺たちの大切な『仲間』は、…死んだんだ。 疑いようの無い事実。 疑いたいのに、疑えない事実。 認めたくないのに、認めなければいけない事柄。 俺たちの全ては……ここに半ば潰えた。 認めるしか、無い、現実。 ああ、そうだ、認めよう。 だが、認めたから何だっていうんだ? 事実は事実だ。 だからって、納得なんて出来る筈が無い。 何でだ? 何で鈴は死んだ? 死ななければ、ならなかったんだ? ……ココロが、全身が悲鳴を上げている。 悲哀に、身体がバラバラになりそうになる。 指先がチリチリする。 口の中はカラカラだ。 目の奥が熱いんだ。 何もかもを捨てて、叫び出したくなる。 ………………けれど、それが何になる? 地面を空き毟って何とかなるなら爪が剥がれるまで掻き毟ろう。 慟哭の声を上げて事実が変わるのなら、声が枯れて血が代わりに流れても嘆き続けよう。 涙を流せば鈴が生き返るのであれば、体中の水分が流れ出て、この身が枯れ果てても泣き続けよう。 そう、ここで俺が嘆いても、何の意味も無い。 何にも、起きてなんかくれやしない。 既に定まった運命を、覆す事は出来ないのだから。 だから、俺がするべきはそんな事なんかじゃない。 まだ、理樹が居るんだ。 元々、二人が帰れないという可能性も考慮してはいたんだ。 もしもの時に、しなければならない決断を、する必要が無くなった。 だから、もう考えるな。 今俺がするべきなのは、鈴の死を嘆いて無為に過ごすことじゃあない。 ……さしあたっては、放送だ。 放送とは、情報だ。 死者の人数の増減、性別や能力、少しでもヒントになるかもしれない。 禁止エリアの位置や、主催者達会話の内に、見え隠れする心情が見えてくるかもしれない。 だから、全てが克明に思い出せるうちに、少しでも多くの情報を記憶し、記録し、情報を集めなければならない。 ああ、そうだ、俺には泣いている暇なんて無い、無いんだ。 だから… 「放して、…くれ」 俺の顔を覆う、柔らかな感触に、声を掛ける。 暖かくて、それだけでココロが安らぐ、安らいでしまう。 小さなその身体でもって、懸命に俺を抱きしめる少女、トルタへと。 「……ダメ」 返されるのは、拒絶。 その声は、僅かにかすれている。 腕で頭を抱えられているので見えないけど、多分その大きな瞳には一杯に涙が溜まっているのかもしれない。 「……ダメだよ、恭介」 何故、君が嘆く? 君の探し人は、無事だっただろ。 だから、さあ、考察を始めよう、何も、気にする必要なんて無いんだ。 「……ダメ。 ……何がダメなのか、上手く言えない、けど、兎に角…ダメ」 声の震えは、少しずつ大きなものになっている 少しずつ、かすれて、涙声になっていく。 時たま、喉からしゃくりあげる音が響いてくる。 「悲しい時は…ちゃんと悲しまないと……。 泣きたい時は……ちゃんと泣かないと…ダメだよ……」 泣きたい時? 泣いているのは君じゃないか。 俺には泣く理由は、泣いている暇は無いよ。 「離して……くれ」 ああ、だから離してくれ。 俺は悲しいけど、それでも泣くわけには行かないんだ。 だから離してくれ、でないと、 「……大丈夫…………だから…」 今にも、泣き出してしまいそうになるから。 トルタの胸の温かさに、甘えていたくなってしまう。 幼い子供みたいに、泣きじゃくってしまいそうになる。 「………………」 答えは、なかった。 ただ、俺の頭に廻されている腕の力が強くなっただけ。 トルタの柔らかい胸の感触が頭に伝わり、心臓の鼓動が聞こえてくる。 「………………」 何も、言えなかった。 言おうと言う気力が、湧き上がらない。 ただ、今はこの暖かさが、安らぎが、心地良かった。 「…………なあ、トルタ…」 しばらく、……二分は経っていないと思う…後、 ようやく、声が出た。 「…うん」 答えるトルタの声は、何処までも優しい。 まるで歌うかのような音色に満ちている。 「鈴は……もう、居ないんだよな」 「……うん」 搾り出すように言った俺の言葉に、トルタの声にもまた悲しい響きが混じる。 いや、あるいはそれは元々混じっていたのかもしれない。 「もう……何処、にも……居ない、ん、だょ、なぁ……」 「…………うん」 声が、霞む。 自分が、抑えられなくなる。 「もう……あぇないんだょ……なあ……」 「…………ぅん……うん!」 トルタの声も、また霞みだす。 でも、それももう考えられない。 「…………ぅ……ぉ……」 「……………………っ!」 「う、わあああああああああああああああああああああああ!!!」 叫んだ。 身も世もなく叫んだ。 女の子の胸の中で泣くなんて情けないというか そもそも人前で泣くなんてこと事態が非常に恥ずかしいなんて事も考えずに兎に角泣いた。 何も、考えたくは無かった。 ただ、今は泣いていたかった。 そして、トルタの胸の温もりが、暖かかった。 ◇ 「あああああああああああああああああああああああ!!!」 泣いている。 あの恭介が。 出会った時からしっかりしていて頼りがいがあって強かったあの恭介が。 ……でも、これは必要な事なんだと思う。 悲しいなら、泣くべきだ。 その為に、人は泣けるのだから。 あんなに痛々しい恭介は、見たくなかった。 放って、おけなかった。 …だから、抱きしめた。 何をすればいいのか解らなかったけど、他に思いつかなかったから。 痛んだ足で恭介の側に移動するの事も、苦にはならなかった。 どうして、だろう? 悲しかったのかもしれないし、頼って欲しかったのかもしれない。 痛々しかったのかもしれないし、苦しかったのかもしれない。 兎に角、見ていられなかった。 ……そうして、恭介に触れて、彼の体の震えを感じた。 それだけで、彼がどんなに苦しんでいるのかが、理解出来た。 …ううん、理解は出来ない。 ただ、私が思うより遥かに苦しんでいた事だけは判った。 ……涙が、零れそうになった。 恭介の、強さが、悲しさが、とても辛かった。 苦しくても、泣けない人が悲しかった。 悲しさを捻じ曲げてしまった人を、知っていたから。 「……大丈夫…………だから…」 思いだすと、僅かに赤面しそうなる。 思わずとは言え、恭介を抱きしめた事が。 …まあ、今も抱きしめ続けているのだけど… ごく普通に、男の子に抱きついた事が、今になって僅かに恥ずかしくなってくる。 ……そして、恭介がその事を受け入れてくれた事が…余計に頭を熱くさせてた…。 あの時、世界が止まったように思った。 五分? 十分? 或いはもっと長い時間? ううん、時間なんてどうでもいい。 とにかく長い時間、ずっと、恭介の事を抱きしめていた。 ……その後の恭介は、思い出したく無い。 思い出すと、また涙が零れてしまいそうだから。 あの時、私も思わず泣いてしまった。 恭介の姿が、声が、余りに悲しかったから。 ……未だに、恭介は泣き続けている。 でも、泣けたのなら大丈夫。 悲しいって、ちゃんと感じているのだから。 だから、恭介は多分大丈夫。 うん、でも、 …………私、怖いよぅ。 私自身が、怖い。 何だろう、何故か、私ホッとしてる。 今、恭介は凄く、悲しんでいる。 とっても、苦しんでる。 うん、 でも、 私の事を、必要としてくれている。 それが、凄く、嬉しい。 そう、 『恭介の妹が死んだことの悲しさ』よりも、 『クリスが無事だった事の嬉しさ』よりも、 今、恭介が、『私に』涙を、弱さを見せてくれている事が、必要とされている事が、とっても、嬉しい。 ……怖いよ、 人が死んでいるのに、それは恭介の妹だっていうのに、 私、悲しくない。 悲しさなんかよりも、 嬉しさで、心が満たされかかってる。 クリスが生きていてくれている事じゃあなくて、 今、恭介が誰よりも私の事を頼ってくれている事が、 凄く、 …凄く、 ……嬉しい。 私の胸の中で、泣いている事が、涙を見せてくれている事が、凄く嬉しい。 おかしいよ? でも ……『 』な人に、必要とされていることが、 私を頼ってくれている事が…すごく、嬉しい。 ……おかしいよ、 私が流した涙は恭介の為、恭介の姿が悲しかったから。 そう、その筈なのに。 ココロは、こんなにも満たされているなんて まるで、歓喜の涙を流しているように思えてしまう私が、凄く、 …………怖い ◇ 流すだけ流して、何とか流すものはなくなった。 勿論、まだ幾らだって腹の中に溜まっているものはある。 だが、それでもあふれ出すほどでは無い。 自分の中に、溜め込んでおける、 俺が自分を制する事が出来るだけの量だ。 考えれば、また溢れてしまいそうになる。 だから、違う事を考えよう。 「もう…大丈夫だ、トルタ」 「……うん」 少し、涙の残る声で、トルタが答えた。 そうして、俺から離れようとして、「あっ」と少しふら付いた。 反射的にトルタの事を掴んで、そこで、彼女の足の傷が目に入る。 そう、本来トルタは歩くのにも多少の困難を要する状態なのだ。 そんな状態の彼女に、あんな事をさせてしまうなんて、少し、気恥ずかしくなる。 「…………」 僅かに覗く生足を見て赤面している事に、別の恥ずかしさを覚えて、顔を上げて、 胸の辺りの濡れた跡を見て、再び気恥ずかしさを覚えてしまう。 (…ああ、格好悪いな、俺) こんなにも可細い、怪我を負った女の子の胸の中で泣いてしまうとは。 なんというか、赤面してしまいそうだ。 皆に知られたら、からかいのネタにされてしまう。 皆……という単語が再び胸に鈍痛を呼び起こすが…今度は泣かない。 二回も泣いてしまったとあれば、リトルバスターズのリーダーの座も危うくなる。 (よしっ! ならとりあえずこれからは筋肉バスターズと名を改めてだ!) (えっ~~その名前はあんまり~お菓子バスターズで) (ぜったいにいやだ) (……話が纏まりませんね、宮沢さんがおやりになれば……) (いや…掛け持ちの上に部長は断る) (やりたくない人にやらせなきゃいーじゃん! てなわけで私) (私がやってもいいがな……その場合は……ふふふ、おっと鼻血が…) (わふっ!? あ、あの井ノ原さんでもいいと思いますっ!) (恭介が居ないと纏まる気がしないなぁ……) (とりあえず元凶のグッピーは私が始末しておきますのでご安心を) (……何かリーダーの座は大丈夫な気がするな…) 何処かから電波が混じった気がしたけど気のせいだろう。 もう戻らない、余りに平和なやりとりが懐かしいけど… でもまあとにかくそんなに何回も男が涙を見せるべきじゃあ無い。 そうして、さらに顔を上に上げて、 ……やけに、近い、所に、トルタの、顔が、あった。 ああ、そういえば、俺今トルタのわき腹と肩を掴んで立たせているのだっけ。 幼い雰囲気を残す可愛い顔が、今は僅かに朱にそまっている。 顔に浮かんでいるのは、僅かな驚きと、戸惑いだろうか。 瞳には何処か潤みを滲ませて、俺の顔が映しだされている。 ……その事が、何故かやけに嬉しかった… と、ここまで考えて、今の自分達の体制に気が付く。 ……やけに、近い。 のだが、何故かその距離があまり近いようには感じられないような気もしたが…… それでも、離れようとして、 突如響く、“ガチャッ”という音。 「は! わわわわわわわわわわわわわわわわわま、間違えました御免なさーーい!!」 「落ち着け! 別に汝は間違えてはおらん!」 「……まあ、気持ちはすっごーく良く判る」 「あう! ああああアルちゃんも双七君も見ちゃダメだってば!! す、すいませんお邪魔しましたー! ご、ごゆっくりー」 「ええい落ち着かんか汝! 単に男は肉欲獣だというだけであろうが!」 「……すいませんその言い方だと俺も含まれるので勘弁してください」 すっかり存在を忘れていた双七と、見知らぬ少女が二人、そこには居た。 ◇ 「……葛ちゃん…まで…」 「…………桂……」 放送によって告げられる事実。 浅間サクヤの死に続き、またも告げられる残酷な運命。 それは、羽藤桂の心を打ちのめす。 経見塚で出会った親しきものたちのうち、既に二人、この島で命を落とした事になる。 「…………ぅ…」 元より涙もろい桂は、悲しみの涙を流す。 だが、アルはそれを止めようとはしなかった。 短い付き合いではあるが、桂の心の強さは知っていたから。 泣くべき時は泣いて、でもその後には笑うことができると、理解し始めていたが故。 ……ただし、それは傷が消えた事を意味するわけでは無い。 傷は残り続ける、そうして、時たま火傷のようにその身を苛む。 故に、 「忘れるでないぞ……」 「……ぇ?」 「その、若杉葛が死んだのは、汝のせいではない。 汝が、悔い続ける事ではない」 「…………!」 「じゃが、それでも後悔することは止められぬ。 だから、忘れるな。 己と共にあった者達のことを、忘れるな。 そのもの達との、思いを心に刻め、そうして、歩き続けるのだ…」 アル・アジフは、世界最強の魔道書は、そのように生きてきた。 己が力の未熟故に死なせてしまったマスター達の事を、覚えている。 彼らの思いが無駄ではなかったことを、知っている。 だからこそ、彼女は今ここにあるのだから。 「…………ぅん」 涙を拭きもせず、桂はうなずく。 無論、すぐにそのような強さが身につく筈も無い。 だが、 だが、それでも、 羽藤桂には、前に進むだけの足はある。 「……尾花ちゃん…探さないと…」 「……そうじゃな」 あの賢い幼狐ならば、おそらくは葛の死すらも理解できているはずだ。 今どこで何をしているのかは分からないが、それでも探さなくてはならない。 探して、何をするのか? それは、桂自身にも分からない。 ただ、あって、まずは傷つけたことを謝って…そうして一緒に泣こう。 そんなことを、桂は考えていた。 前向きとも、後ろ向きとも取れる考えではあるが、それでも桂自身の思考は前に向かっていた。 そう、おそらくはもう大丈夫。 少なくとも、自らの命を絶つような事は、もう、あるまい。 ……その確信は、数分後、いささか元気のよすぎる形で適う事になる。 雑居ビルを出て、数分後。 アルと桂は、とりあえず先ほど尾花と分かれた地点へ、もう一度戻って見ることにした。 ほかに手がかりも無い事ではあるし、犯人は現場に戻るというヤツである。 「……でも本当に良いの? 鈴ちゃんの友達って人の所に行かなくて」 「汝は…なぜ今まで生贄にされてないのかが不思議なくらいじゃな。 あんな怪しさ抜群な相手のところになど行けるか」 「う……でも、鈴ちゃんがあそこで死んだっていうなら、お墓くらい」 「待ち伏せされるのが堰の山じゃな」 歩きながら、放送の前に交わした電話について話し合う二人。 直前まで会話していた棗鈴がいきなり電話を切り、そしてその後に電話にでた人間が言うには、鈴は死んだという。 その時に出た男の言葉は、いまいちどうも信用できないと、アルは言う。 そうして、話ながら歩く桂たちの耳に届いたのは、あたりに響くカッポカッポという謎の音 その不思議な音の方向に思わず目を向けたアルと桂が見たものとは! …来週に続く。(続きません) ……馬に乗った少年の姿であった。 おもわず、硬直する二人。 そして、なぜか硬直している馬上の少年。 まず、桂からすれば馬を直にみるなど初めてである。 思わず、興奮するのも無理はないだろう。 一方のアルは、馬など何度もみているが、さすがにこの近代に馬にまたがって移動する人間などお目にかかった事は無い。 そうして、やはり硬直したまま…正確に言えば、桂の姿を捉えた時から、微動だにしない双七。 「は、は、白馬に乗った王子様だよ!! ど、どうしようアルちゃん!? わ、私にはサクヤさんっていう貞淑を誓った人がー!」 「落ち着かんか汝! あれはどう見ても王子などという顔では無い! 良いところ姫にかしずく小間使いと言ったところだ!」 「お、お、お姫様!? この島の何処かにお姫様がいて私はその人に見初められた未亡人なの!?」 「だから落ち着けというに! たとえじゃたとえ! というか気が早すぎるぞ汝は! ついでにそちの頭の中には真っ当な男女関係は存在せんのか!?」 「そ、そんな事ないよー、て、ていうか、だ、男女関係ってアルちゃんにはまだ早すぎるよー!」 「何度も言っているが汝より年上だ! 外見年齢だけが全てと思うでない!」 姦しい、という表現が似合うほどよくしゃべる二人。 基本的に精神年齢が近いせいか、止める相手がいないとどうにも止まらない。 そして、 「……あ、あのー……俺、喋ってもいいでしょうか?」 哀れな男の意見など、当然のごとく流された。 「うー……で、でも長く生きててサクヤさんはあんなにバイーンなのにアルちゃんは…」 「それ以上言ったら汝の血を一滴残らず吸うぞ」 「ひゃう!? あ、あああの何でもないよ!」 「ふむ、だがそろそろ昼食時ではあることだしここは一度」 「あ、あの私今貧血気味だからレバーとかお肉…よりはお魚の方が良いけど…」 「うむ、決まらぬのなら決定という事にするかの」 「ひゃ、ひゃう!? あ、アルちゃん、それだと私お腹減ったままだよ!?」 「良いではないか良いではないか、減るものでも無いであろう」 「へ、減るよ! 思いっきり減るよ! ゲージで見れるよ!」 「別にゲージがゼロになっても汝は平気であろう。 だから遠慮なく……」 「んっ! やっ! ちょやめ!」 いきなり目前で開始されたパヤパヤに、思わず見入ってしまう双七。 彼を責めるなかれ、男性としての本能がそうさせるのだ。 この誘惑に耐え切れる男などそう多くは……この島には結構多いかもしれないが……居ない。 「……………………」 「そして何をジロジロ見ておるかそこのたわけは!」 「ゲフッ! 俺!?」 アルの手から放たれた不可視の衝撃が双七のあごにヒットする。 その一撃は容易く双七の意識を削り取り、安らかな世界へと導く。 そうして、落ちていく瞬間、 (ゴッド……俺何か悪いことしましたか……?) 思わず、神に問いかけていた。 “ヒンッ”と、スターブライトが肯定するように一声嘶いた。 ◇ そうして、紆余曲折の末に双七はアルと桂をつれて戻ってきて、先ほどの場面に戻るというわけだ。 あそこまで無防備な危険人物もいまい、とか動物に好かれる人は悪くないなどの理由もあったが、 やはり最も重要なのは、双七が九鬼耀鋼の知り合いであった事だろう。 「……笑いたいなら、笑え。 ……というか、笑ってくれ…」 だが、誰も笑わなかった。 気まずいシーンを見られたトルタと恭介は顔を赤らめながら沈黙を守っており、 双七が目を覚ましたときから、桂は何やらフラフラしており、アルは何やらツヤツヤしている。 あの短い時間に何があったのか。 そもそも気絶しているにしては時間が短すぎるあたり、間の記憶を脳が消去したのかもしれないが、真相は闇のなか(※省略)である。 ◇ 「鈴ちゃんの、お兄さん?」 桂は声を上げた。 恭介とトルタが、桂の事を千羽烏月経由で聞いていたために、自己紹介はわりとスムーズに行った。 烏月は、殺し合いに乗ってはいるものの(このことは桂には秘密)、それ故に信用における人物である。 その烏月の言、そして彼女の振る舞いから、桂はおおよそ殺し合いとは無縁の人物であると、恭介は判断した。 そうして、桂自身はお人よしなうえにのんびり屋な為、わりと簡単にお互いの協力は決まった。 そして情報交換となり、桂は驚きの声を上げることになる。 少し前に喋った少女の知り合いと、こんなに早く遭遇できるとは思っていなかったのである。 「…鈴を、知っているの…か?」 無意識の内に、桂に近寄る恭介。 そのあまりの勢いに、桂は怯み、トルタは何故だか頬を膨らませるが、恭介は構わない。 せめて、鈴の過ごした軌跡をしっておきたかったというのがある。 「し、知っているって程知っている訳じゃあないけど…少し電話でお話しただけ…」 その勢いに負け、桂は答える。 …彼女は気付かない、自身が取り返しの付かない方向に話を進めようとしている事を。 「……電話?」 「あ、うん、この携帯で…鈴ちゃんが私の携帯を持っていたみたいで…」 恭介の問いに、ポケットにしまってあった携帯を取り出す桂。 先ほどそれなりに話をしたが、未だに電池は三個、電波は多少悪いらしく二本であるが、ちゃんと機能している。 それを見て、多少の落胆を覚える恭介。 結局、鈴の元気な姿を見た訳では無いのだ。 だが、それでも… 「最後に喋った時、鈴は…元気だったか?」 元気であったのなら、最後まで鈴で在り続けていてくれたのなら、 そう、思い、問いかける。 ……問いかけて、しまう。 「え…その……あの……」 突然、それまで淀みなく話していた桂が言いよどむ。 その表情には、何かを隠すような雰囲気。 「……?」 考える。 今までの桂の行動から、淀みなく嘘が付ける人間ではない。 故に、言いよどんでいるのは、何か不都合な…桂にとってではない…出来事があるという事だ。 この場合、その話を聞いて最も不都合なのは…間違いなく恭介だ。 では、何か? 恐らく、最後に苦しんでいたと言うような内容ではない。 積極的に殺し合いに乗っていたというような物でも無い。 それならば、恐らく彼女の口調はもっと重いものでなければ成らない筈だ。 ……では、何が? 「まさか……」 鈴が死んだというなら…鈴の持ち物はどうなった? ティトゥスが死んで、彼の持ち物は今恭介達の手にある。 ならば…… 「鈴を殺した相手を……知っているのか!?」 詰め寄る。 思わず服に掴みかかってしまうが、今の恭介には気にならない。 鈴の死という事自体は、何とか受け入れた。 だが、それとコレとは話が別だ。 鈴を殺した相手は、誰なのか? ソレを、桂は知っているのか? 僅かに目を潤ませる桂に構わず、更に問いかけようとした恭介だが、 「お、落ち着けって棗!」 双七に、引き剥がされる。 元より鍛え抜かれた彼ではあるが、それでもその時の力は尋常ではなかった。 いとも容易く、恭介を桂から引き剥がしたのだから。 恭介の離れた桂の腕にアルがしがみつき、 恭介の袖をトルタの手が掴む。 そうして、ようやく…… 「……ごめんな」 彼は、表面上の冷静さを取り戻す。 僅かにざわめいていた場に落ち着きが戻り… 「よい、わらわが言おう」 アル・アジフが、桂を庇うように言った。 ◇ (おかしい…よな?) 何故、出会ったばかりで何の縁も無い相手の事が、こんなに…気になるのだろう? 一人、双七は悩み続けていた。 放送が終わり、カジノの中に入ろうとした双七が目にしたのは、思いっきり硬質な雰囲気の部屋であった。 思わず、入る事も忘れて、再びのんびりしていた彼であったが、少ししてスターブライトの嘶き。 彼女の反応に訝しげになりながらもまたがり、 そうして、町を歩いていた二人に出会い、双七は、息を呑んだ。 最初に出会った時、アルと桂のやり取りにも無論目を奪われたが、それ以上に双七は桂から目が離せなかった。 彼女の全身から漂ってくる匂い? 香り? 濃い血の混じった香りが、たまらなく、魅力的に感じて仕方が無い。 服に、肌にこびり付いている血が、凄く、勿体無い、美味しそう、舐めとりた…… (な、何を考えてるんだ…俺!?) 混乱する思考の故に、双七は彼女達のやり取りに対して、大きな反応を返せなかったのだ。 (まあ双七ではどの道無理だった気もするが) そうして気を失い、目覚めて、九鬼の知り合いであるという彼女達の言葉を信じ、カジノへと戻って来たのだ。 決して、桂と離れるのがイヤだったわけではない、と双七は心に言い聞かせていたが……。 そうして、話し合いの最中でも、双七は事あるごとに桂の事が気になっていた。 彼女の一挙手一投足から、目が話せない。 恭介が詰め寄った時、思わず本気の力を出してしまった。 (何だろう? あの子を、モノにしたい? ……いや、何か違うだろそれ、でもなんというかそのいや何だ兎に角…) 何と言うか、渇く? 餓える? いや、何だろう、兎に角、あの子が… とても、芳醇で、滋養に満ちた、真っ赤な果汁を滴らせる果実であるかのような… その、滴る果汁で存分に喉を潤したい。 その、芳醇な蜜を腹いっぱいに味わいたい。 その、チのように真っ赤な液体に酔いつぶれてしまいたい。 「…………!」 ゴツンと、自分の頭を一度殴る。 痛かった。 手加減しないで殴ったから無っ茶苦茶痛かった。 思わず蹲ってしまいそうになるくらい。 見れば、目の前の四人とも、変な人を見る目で双七の事を見ている。 「…………」 何か、えらく理不尽な目にあっている気もするが…まあ変態と思われるよりは変な人の方が……すいません、どっちもイヤですハイ。 ◇ 149 THE GAMEM@STER (後編) 投下順 150 絶望と救い、そして憎悪 (後編) 149 THE GAMEM@STER (後編) 時系列順 133 満ちる季節の足音を(後編) 棗恭介 133 満ちる季節の足音を(後編) トルティニタ・フィーネ 123 ただ深い森の物語/そして終わる物語 吾妻玲二(ツヴァイ) 123 ただ深い森の物語/そして終わる物語 アル・アジフ 123 ただ深い森の物語/そして終わる物語 羽藤桂 142 生きて、生きて、どんな時でも 如月双七
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→①より 『聖白蓮』 【午後 15:37】C-3 紅魔館 地下大図書館 「殴られた横っ腹の借りを返す前に、だ。念の為聞いておこうか、聖白蓮」 先のダメージをものともせずに、DIOが気障ったらしく腕を組む。 些か掃除の行き届いてない書物の群から立ち上る埃の煙幕は、まるで吸血鬼の胃から吹き出される寒波を想像させるおぞましい寒気。 少々、難儀な物の怪退治になりそうだ。 白蓮は予感される大仕事に背筋を強張らせながらも、決して気圧されない。 「何でしょうか?」 「お前は何故、このDIOの前に立つ? そこの出来損ないを救いに来たのだと寝言を言うのなら、これは『親子』の問題だ。引っ込んでいてもらおう」 戦う理由。それは白蓮にとっても、置いてはおけない問題だ。 万事の発生には、必ず理由がある。 相応の理由があるのだから異変を起こす者がいるのだし、異変が起こるから巫女は解決に向かう。 民衆を救い、導く役職に就く尼公の白蓮ですら「力も方便です」と残している。先の宗教戦争において自ら出陣した珍事にだって理由はあるのだ。 『妖怪退治』と『殺し』は決してイコールでは結ばれない。 しかし、このゲームにおいてはそのイコールが結ばれ“得る”。得てしまう。 たとえ目の前の吸血鬼が妖怪の括りに則し、退治なり成仏なりさせてしまえば、現状に限って言えばそれはもう『殺し』の領域となる。 『殺人』にも理由はある。誰でもいいから殺したかったなどと供述する人非人の戯言ですら、広義で見ればそれは一つの理由だ。 白蓮がDIOらと戦う理由は明確だ。 その戦いの過程で彼らの命を奪ってしまう結果が起こり得る事も、予想しなければならない。 言うならば今の白蓮には、『殺人』を犯す公然の理由がある。本人はそれを許容してはいないが、当て嵌ってしまうのだ。 無論、僧侶たる彼女が“それ”を犯してしまえば、因果応報により必ず地獄に堕ちる。断じて避けなければならない。 「“因縁生起”……世の中のものは、すべて相互に関係しあって存在している、因縁によって生ずる、という考え方です」 「フン。坊主の説法を頼んだ覚えはない。尤も、その考え自体には同意できるが」 「因縁生起を略し、『縁起』と呼ぶ。“吉凶の前兆”という様に、昨今ではかけ離れた意味で使われるこの言葉は、本来は因と縁が互いに密接に絡み合う意味なのです」 縁起の考え方は、仏教が持つ根本的な世界観である。 この因果論は、“様々な条件や原因が無くなれば、結果も自ずから無くなる”、という逆の考え方も出来る。 DIOがジョルノという親子の『縁』を断ち切ろうとする『理由』には、我が子すらも滅す事によって、ジョースターという『縁起』を完全に消滅させようという魂胆がある。 仏教の世界でいうところの『縁滅』を狙っているのだ。 「貴方の所業に理由はあるのでしょうが……それはやはり悪行でしかない。 無論、私がこの場へ赴いたのにも理由はあります」 テカテカの光沢を反射させながら、白蓮は右腕をDIOに向け、人差し指を立てた。 「ひとつに。そちらの神父様の持つ、ジョナサン・ジョースターから奪った円盤。 彼を蘇生させるには、その円盤が必要不可欠と判断した故に、ここまで参りました」 真っ当な理由だ。いわば人助けに類する行動理念であり、白蓮を象徴すると言っても良い行動であった。 DIOもプッチもそこは容易に予測出来る。そして白蓮の言う通り、ジョナサンのDISCは未だプッチの懐に仕舞われていた。 この円盤の特徴の一つに、破壊不能レベルの弾性を纏うことが挙げられる。外圧によって壊すことは難しいが故に、たとえ宿敵の命そのものと呼べる円盤でもこうして持ち続ける他ない。ここにヴァニラ・アイスさえ居れば悩むまでもない話であるが。 「御足労悪いが……このDISCだけは渡せないのだ。諦めて寺へ帰るといい。力ずくはあまりオススメしない」 「力ずく、ですか。好きな言葉ではありませんが……嫌いな言葉でもありません」 「……中々面白い尼だ。少し気に入った。……他の理由は?」 「ふたつに。人類の三大禁忌(タブー)というものがあります。内一つが『親殺し』の大罪。 どのような理由があろうと、己を産み落とした親を殺すなど言語道断。逆もまた然り、です」 見過ごせない。見過ごせるものか。 家族の問題、で見過ごしてしまうほど、白蓮の眼は曇ってなどいない。 親子で殺し合わなければならない程、憎んでいるというのか。 ならば何故、産んだのだ。 それを問い質すつもりは無いし、返ってくる答えにはおよそ正常な感情など篭ってないだろう。 永く、善も悪も見てきたから分かる。 最期を看取ったスピードワゴンがかつて忠告した言葉が、ここで理解出来た。 この男DIOは、生粋の邪悪だ。 絶対に、野放しには出来ない。 「なるほど。正義の真似事のつもりか」 「はい。正義の真似事を、演じさせて頂きます」 幻想郷のようにはいかない。 交わし合う言葉も不要。 躱し合う弾幕も無意味。 言葉遊びも、弾幕遊びも、全ては児戯だと切り捨てたなら。 あまりに無情で、あまりに空しいではないか。 この荒廃した箱庭で正義論など掲げて、私(おまえ)は部下を何人失った? 家族を何人救えた? いっそ。何も掲げさえしなければ。 正義も悪も翳さず、降り掛かる厄災を払うのみに徹すれば。 少なくとも、寅丸星は死なせずに済んだのではないか。 (…………私とした事が。まだまだ修行が足りませんね。自暴自棄と無念無想を混同するなど) 聖白蓮は、それを選ばない。 寅丸星の信じた正義を否定し、捨てる選択は愚の骨頂だ。 拠り所を放棄し、単孤無頼の奈落に堕ちた人間は、等しく弱い。 「DIO。そしてエンリコ・プッチ。 邪心に満ち満ちた貴方がた二人は、この聖白蓮が退治させて頂きます」 掲げるモノを信じるから、人は強くなれるのだ。 昔日に人間の身を辞めた白蓮の目にも、素晴らしき『人間賛歌』は七色のように美しく映る。 あとは空に架かったそのアーチを、この自分が辿れるかどうかだ。 「───正義、正義か。……ククク。なるほど、なるほど……!」 正義を宿す白蓮の、瞳に映った邪悪は嘲る。 静寂だったさざ波は、間もなく荒波となり、地下中に波乱を招く津波となって鼓膜を打つ。 「ハハ……ッ! ハァーーッハッハッハッハァ!!!」 閑かなる地の底だからこそ、男の絶笑はより深く引き立った。 乱反射される嘲笑い。ドス黒い悪の大気で覆い被さる巨大な津波は、そこに居る正義の心を揺さぶった。 「可笑しいですか」 不快からか。はたまた戦慄の類か。 白蓮は喉元でひりついていた言葉を吐き、目の前の悪をひと睨みする。 「クックック……! いや、そうではない。 ただ、あまりにもお前が私の『予想通り』の人物像だったものでな」 黄金に揺蕩う髪を根元からクシャりと握り締め、腕の震えを強引に塞き止める。男を突如として襲った痛快なる破顔は、そうまでの現象を引き起こすものか。 「プッチ神父から、何か私の良くない風評でも吹聴されたのですか」 「それも間違ってはいないが……私はお前に少し、興味があった。名簿で初めてその名を目にしてからな」 名簿。そこに連なる聖白蓮の並びが、果たしてこの男へと如何なる興趣を与えたのか。 依然、白蓮の疑問符は止まない。 「お前からすれば、実にくだらん言い掛かりよ。しかし、こと私にとっては……これが意外と死活問題でね。中々どうして、馬鹿にできんのだ」 「随分と回りくどい御方です。言いたいことがあるのなら、ハッキリと」 「名前だよ。お前の名に、私は…………そう。恥ずかしながら白状しよう。 ───恐れたのだ。ほんの僅かだが、動揺を覚えてしまった。このDIOが、だ」 過ぎ去った過去の笑い話を、心の引き出しからそっと取り出すように。 かの邪悪の化身は俯きがちに首を振り、また笑った。 自らを〝悪〟と言い切る悪人正機を体現した、この男ほどの者が。 可愛げすら覗かせるように、それを言うのだ。 「失敬な話ですね。私は魔王か何かですか」 「魔王……なるほど。言い得て妙だ。あながち間違いでもない。 お前は私にとって、滅ぼすべき『魔王』の様な存在……その可能性もあった」 心外だ。確かについぞ最近まで、白蓮は魔界に身を置いていた。だがその心まで魔に染まった訳ではない。魔王などと蔑まれる所以などあるか。 「名は体を表す……ということわざがあるように。言葉には時折、不可思議な魔力が籠る。日本ではこれを……え~~~と、」 「言霊でしょうか」 「そう。その言霊というのが実に……ある意味では重要なのだ。 血脈と共に『ジョジョ』という愛称が代々に渡り継がれるのも、言葉に魔力が宿るからとしか思えん。そういう風習が定まっている訳でもないのにな」 DIOが流した『ジョジョ』の名に、白蓮は軽く眉をしかめる。 愛称。ジョジョ。直感的に、それはジョナサン・ジョースターの渾名なのではと予感する。 背後で鈴仙を治療するジョルノも、『ジョジョ』の名にほんの一瞬ピクリと反応したのには、その場の誰も気付かなかった。 「その言霊と私の名前に如何なる関係が?」 「聖(ひじり)……私はその名に、少しだが縁があってね。 正確には『聖(ホーリー)』……ホリィ・ジョースターだったかな」 ホリィ・ジョースター。またしてもジョースター。 その女性の名前……ルーツの根源を知る者は、ここではDIOとプッチの二名のみ。 全ての事の発端である女。そう言い換えてもいいのかもしれない。 かのジョセフ・ジョースターがエジプトのDIOを嗅ぎ付け、仲間を連れて遥々と海を渡って来たのも、元を正せば空条承太郎の母・空条ホリィがDIOの影響を受けて昏睡したからである。 この点に関してDIOの意図があった訳では無い。ホリィが生来、スタンドの発現に耐えられる精神をしておらず、DIOの復活が血脈を介して彼女に悪影響を及ぼしたからであり、あらぬ必然を引き起こしてしまったに過ぎない。 DIOは『聖女』が嫌いである。 少年時代、浅はかな考えでエリナに手を出し、ジョナサンの成長を引き起こす一因を作ってしまった。 周囲からは『聖子さん』などと呼ばれていたらしいホリィへと、間接的にではあるが危害を加えた為、空条承太郎を敵に回してしまった。 メリーに関してもそうだ。彼女の瞳はエリナと酷似している。メリーもDIOにとっての『聖女』。だからこそ丸め込み、手篭めにしようと画策している。 DIO。ディオ・ブランドー。 彼の持つ女性観の根源には、とうに他界した『母親』が密接に絡んでいる事は、本人も自覚するところである。 思い返せば……母もまた、ディオにとっては聖女の様な存在だったろう。 母の愛があったおかげで幼少ディオは、過酷な環境をたった独りでも生き抜いてこれた。 そして、母の清すぎた聖心のせいでディオは、余計な重苦を背負ってきたと言ってもいい。 あの女は、人間として眩しいくらいに良く振る舞い、息子に愛を注いできたろう。 しかしディオの育った環境においては、その愛は必ずしも幸福には結びつかなかった。 ディオは母親が嫌いであった。 だからこそ、聖女を憎むのかもしれない。 聖なる女は、いつだって彼の闇の運命を祓ってきた。 そして───聖なる女、聖白蓮。 「聖(ひじり)などと、こんな御高尚な名を付けられた程だ。さぞ正義感に満ち溢れ、義に厚い女なのだろうなと……確信すらしていたのだよ。 くどいが、言葉には本当に魂が宿るものだな。お前もまた、エリナによく似ている。その奇天烈な積極性に目を瞑ればだが、な」 「人様を魔王と呼んだり聖女と呼んだり……しかし、『言葉の魔力』ですか。確かに、古来より名前には不思議な力が籠ると考えられてきました。 神<DIO>と名付けられた貴方が聖女に恐怖するのも……皮肉な運命めいたモノを感じます」 本人も言う通り……DIOの言い分は極めて自己中心的で、無関係の白蓮からすれば言い掛かりもいい所だ。 しかし、彼は恐らくそういった迷信やジンクスを受け入れるタイプだろう。 実際に白蓮はDIOの前にこうして立ち塞がっている。そして、その彼女を自ら倒すことで、運命を……恐怖を乗り越えようとしている。 聖白蓮とは、DIOにとって紛うことなき障害なのだ。 信じ難いほどに、前向きな男だ。 ベクトルさえ間違わなければ……このゲームを共に打破する、頼れる仲間になれたろうか。 「尤も、私は自身が聖女だなどと自惚れておりません」 誠に口惜しく、遺憾千万である。 「───魔人経巻」 詠唱省略。ゼロコンマからの魔法発動を可能とする巻物。 それが、黒を基調とする彼女のバイクスーツの内から。 つまりは素肌。白蓮の胸部の狭間から音もなく取り出され。 「『ガルーダの爪』」 空気が爆発した。 音すら置き去りにして、白蓮が空想を具現化させたスキルの名は『ガルーダの爪』。 装った衣装にこれ以上似合う体術もない……とんでもなく強烈なライダーキック。 「『世界』」 爆発の如き蹴りが停止した。 半ば不意打ちに近い形で炸裂した白蓮の足技は、男の呟いたザ・ワールドの明滅と共に、止まる。 時を止めた訳ではない。彼女の目にも止まらぬ速度を、物理的に、単純なスタンドの防御で受け止めたに過ぎない。 「───更にくどいが、名前には魂が宿る。お前達が『スペルカード』の遊戯法により、くだらん弾幕へ名付ける事と同じように」 世界の腕が、攻撃の硬直で宙に止まったままの白蓮の足首を掴んだ。 「天国へ至るのに必要な『14の言葉』が設定されたように」 そのまま、世界は受けた蹴りの反動をモノともしない勢いで、掴んだ白蓮を一旦大きく頭上へと振りかぶり。 「……ッ! 御免ッ!」 その手は食うかと、筋力倍加の魔法を受けた白蓮の凄まじい拳骨が。 命蓮寺の鐘を毎朝毎晩、素手にて十里先まで打ち鳴らす程の鋼鉄の拳が。 人体の急所……脳天へと、真上からモロに叩き込まれた。 常人であれば、即死必至の破壊拳。 常人であれば。 「我々スタンド使いも、傍に立つヴィジョンに名前を付ける」 その拳を頭蓋に受けておいて。 DIOのスタンドはまるで動じない。揺らぎもしない。 脳が揺れたのは、掴まれた白蓮の方だった。 一切の躊躇もなく、世界は彼女の身体を床へと思い切り叩き付けた。スタンドの腕が掴んでいた箇所は足首なので、必然的に白蓮は顔面から硬い床へと振り込まれる事となる。 鈍い音が木霊する。 幸い、砕けたのは床板のみに留まった。もしも彼女の肉体強化が頭部にまで及ばずにいたら、これで決まっていたろう。 頭半分めり込ませて地に放り込まれた白蓮を不敵に見下ろしながら、男はスタンドを我が身の傍に立たせる。 「紹介しよう。これが我がスタンド───『世界(ザ・ワールド)』だ」 筋骨隆々に構築された、黄金の肉体美。 ザ・ワールドの言霊を冠するスタンドがDIOと並ぶ。 冷気とも熱気とも見えない蒸気が、彼らの肉体から噴出する。あるいは、スタンドのエネルギッシュなオーラとでも呼ぶべきか。 DIOと、『世界』。 最悪の吸血鬼が、最高のスタンドを身に付けてしまったのは、この世の必然か。 「聖さんッ!」 ジョルノが張り上げる。 白蓮はスタンドを展開していなかった。つまり、まず確実に非スタンド使いだ。生身の人間があのスタンドに対抗出来るわけが無い。 「……ッ! 加勢します!」 鈴仙の治療を優先したいが、白蓮一人では荷が重すぎる。 ゴールド・Eを自身の前に動かし、勢いを付けて立ち上がる。が─── 「邪魔はさせない。DIO様のご子息といえど……斬るわよ」 黒帽子を被った少女──宇佐見蓮子がジョルノの前に立つ。 年齢はジョルノより少し上くらいだろうか。右手には妖しく光る不気味な刀。 「退いてください。でなければ……女といえど、容赦しない」 突撃はジョルノの方から。蓮子は動じることなく、刀構えて待ち受けるのみ。 警告はした。意識の暴走でショック死を迎えようが、躊躇はしない。 ゴールド・Eが、叫びと共に無数の拳を繰り出す。 「無駄無駄無駄無駄ァ!!」 パワーはさほどない。しかしこの場合、薄い痛覚であるからこそ痛みは倍増する。ジョルノのスタンドとは、そういうものなのだ。 スピードなら充分。世界にも対抗出来る速度のラッシュが、蓮子の体を撃ち抜─── 「な……ッ!」 ───けない。 蓮子の持つアヌビス神は、ジョルノのラッシュをひとつ残らず刀の峰で弾く芸当を見せ付けた。 おかしい。ただの少女にしては熟練された剣の腕、だという事を差し引いても、おかしい。 所詮、刀だ。スタンドであるゴールド・Eの攻撃を防いだ事も、刀を生命化出来なかった事も理屈に合わない。 「いや……その刀、スタンドか」 刀自体が『スタンド』! 警戒すべきは、あのスタンドに隠された能力。それがある筈だ。 「その『刀』は少々厄介だぞ、我が息子ジョルノ・ジョバァーナ。いくらお前とはいえ、簡単にはいガッ!」 息子の勇姿を応援する父の姿とは程遠く。 チラと見た、ジョルノと蓮子の交戦を遠巻きに眺めるDIOの隙だらけな横っ面に、熱と衝撃が撃ち込まれる。 「いガ? ご子息が心配ですか」 顔面から床に叩き付けられ、昏倒したと思われた白蓮が、ケロリとしながら回し蹴りを決めていた。 「……硬いな、女。イイだろう……やはりお前は、このDIOの栄養となる資格を有していコハッ!」 脇腹に、大きく腰を落としての正拳突き。 最初に叩き込んだ脇腹への掌撃と同箇所。今度は、内部に組み立てられた骨をまとめて粉砕する程のパワーを込めた。 「コハ? 随分と余裕ですが、貴方の食事とやらになるつもりは御座いません」 ギリギリと鳴る白蓮の拳からの、筋肉と骨との摩擦音。 DIOの巨躯は、今度こそ抗った。先のように空へ吹っ飛ばされる事なく、白蓮の正拳突きに耐えたのだ。 (堅い。そして重い。だが、この女……何よりも───) ───疾いッ! 余裕を見せていたとはいえ、世界が見切れなかった程の轟速が生身の女から繰り出された。 どれ程の荒修行を耐え忍べば、こんな馬鹿げた肉弾ミサイルを身に付けられるのか。 これは、想像以上に…… 「どうやら貴方は肉食系のようですが……お生憎様。 私は修行僧……肉などタブーの、菜食主義者(ベジタリアン)です!」 想像以上に……強いッ! 「DIOッ! ホワイトスネイ───!」 後方から迫るプッチの救助は、煙のように掻き消された。 白蓮の『ヴィルパークシャの目』。周囲の状況に目を配らせる暇すら挟まず、ほんの一喝でプッチのフォローをも遮った。 限界まで強化された彼女の肺から吸い上げられた空気が、声の大砲となり、音響兵器に昇華する。 物理的な砲撃ならばスタンドでどうともなるが、広範囲の衝撃波ともなれば防御のしようがない。プッチはたまらず吹き飛び、僅かだが強制的に戦線から離脱された。 「私は遊ぶつもりはありません。一瞬でケリを付けます!」 ケリがDIOの下顎に到来する。むしろ着弾とも称すべき、爆発的なハイキック。 常人なら脳震盪どころの話ではない。顎が割れ、滝すらも下から上へ割りかねない重さの蹴撃は、間もなくDIOの顔面に地割れを起こした。 (ザ・ワールドの可動が追い付かん……! 攻撃を繰り出すまでの初速から最高速に達するまでの間隔が、疾すぎる! これはまるで……) ───まるで、時間が止められたように。 迫り来る白蓮の百掌が炸裂する刹那。DIOの心の水面は、外面とは裏腹に恐ろしい平衡を保っていた。 思考を進める暇すら与えてくれない……という意味合いでなく。 DIOの感じた「時を止められたようだ」という聖の猛攻は、ある意味でも理にかなっている。 極限まで時が圧縮され、意識のみが白蓮の残像をかろうじて捉えられている。物理的には、DIOの身体は全く追い付かない。 ───まるで、承太郎の『星の白金』のように。 承太郎のスタープラチナは時間を止める。そのカラクリは、厳密に言えばDIOの『世界』とは少し理屈が異なる。 “速すぎる”が故に光速をも置き去りにし、本体視点からは周囲がとてつもなくゆっくりに見えているという現象だ。 ───まるで、ジョルノの『黄金体験』のように。 現時点でのDIOには素知らぬ事であるが、ジョルノのゴールド・Eにはある能力がある。 殴った生物の意識のみを暴走させ、本人から見た周囲全ての光景を限界までスローに感じさせるものだ。 ジョルノの能力を引用して喩えるのならば、万全の聖白蓮の肉体とは、黄金体験を受けてかつ暴走する意識に身体がしっかりと付いていくような状態だ。 少なくとも。吸血鬼の能力を手に入れたとはいえ、元々は人間としてのポテンシャルでしかなかったDIOの、修練も工夫もさほど蓄えていない肉体と、女性でありながら幾星霜にも積んできた修行と知識の総決算の末、人間をやめた大魔法使いの聖白蓮では、経験値の差が圧倒的であった。 歯痒いことであるが、生身同士ではDIOが白蓮を覆せる道理は無い。当然、スタンドを用いての肉弾戦ともなれば別だが、ここに来て承太郎から刻まれた左目のダメージが効いている。 視野が通常の半分である事の不便とは、想像していた以上に重荷となる。遠近感がぼやけ、立体感も取り難く、動体視力まで低下している。これらの欠落は言うまでもなく、戦闘においては命取りだ。 主に防御・回避行動において、DIOは素早い敵に遅れを取らざるを得ない。その遅延はほんの僅かな“ゆらぎ”程度でしかなかったが、白蓮ほどの熟練された格闘者相手では致命的な傷となる。 (戦いの流れは……完全にこの女が掌握している) これでやれ尼だの、やれベジタリアンだのと自称するのだから恐れ入る。要はこの僧侶、戦い慣れていたのだ。 「明鏡は形を照らす所以。 故事は今を知る所以───明鏡止水」 厳かに紡がれた聖女の瞳には、今や一点の曇りも映さず。 止水の如き静寂にたたえられた水からは、刹那の次に荒波が打ち出される理の矛盾。 澄み切り落ち着いた心は、両の掌を四十の臂へと錯覚させるに至る真境地。 聖白蓮の四十本の腕が、無慈悲へと化けた。 「其の疾きこと風の如く。 徐かなること林の如く。 侵掠すること火の如く。 動かざること山の如し───風林火山」 人の目では止まらぬ数多の腕が、風の如く邪悪を穿つ。 静と動。逆襲に構え、受け流す型を取り、時には林の如く静寂を保つ。 苛烈を纏う四十の閃撃は、悪を灼き尽くす火の如く攻め立てる。 肉体に受けた幾本もの槍など、山の如く受け切りものともせず。 無慈悲なる四十の腕は、絶えなき猛攻の更なる加速により、二十五の世界が乗算された。 千の世界が集約し、更に千が掛け合わさり。 永久の加速により、また更に千。 その数、〆て十億。俗に三千世界と呼ぶ。 邪悪の化身が統べる一個の『世界』など、数にもならない。 ───天符『三千大千世界の主』 「南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無南無ァ!!」 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」 やがて白蓮の背後からは、後光と共に千手観音が現れ。渾身の連打を無慈悲にもお見舞いする。 有り得ぬ錯覚を五分の視界で拾いつつも、DIOは防戦一方なりにザ・ワールドの障壁でそれらを防ぐ。 無限の型から繰り出される掌打のラッシュ。白蓮が涼しい顔で打ち出すそれらの猛攻は、もはやスタープラチナと大差ない……いや、ともすればそれ以上の速度。 重さでは承太郎に一歩劣るが、彼女のラッシュは拳でなく掌打……つまり破壊でなく脳を揺さぶる目的に比重を置いている。 この矛の選出が、破壊に耐性のある吸血鬼DIO相手には正解の型でもあった。 しかし。攻防は数秒ともたない。 三千の光芒を降り注がせる白蓮の腕の内、たった二つの掌(たなごころ)。その両が、優しく合わさっていた。 不思議な事に、ラッシュの合間に白蓮は『祈り』を終えていた。 この攻防の何処にそんな余裕があったのか。全力ラッシュの隙間に、両腕を攻撃ではなく、まして防御でもなく。 一見無防備とも取れる、祈りの型に差し出す余裕すらあったというのか。 DIOの反応が、一瞬遅れた。 時間にして須臾ほどの刹那であった筈というのに、白蓮の動きがひどく緩慢に映り、その上でザ・ワールドですら追い付けない可動速だったのだからおかしな話だ。 半跏倚坐(はんかふざ)。 右足を左足のもも上に組んで載せ、座する型を云う。 加えて両の腕を、母性溢れた胸へ捧げ、祈りに。 あろう事か彼女は。 剣戟の最中に攻守を放棄し、瞼すら閉じながら瞑想した。 世界をも置き去りにしていく、遥か短い一瞬の間際に。 「無数の掌は研ぎ澄まされし刀の一振。 三千を一にて。一を雷切にて。 下されし裁きこそ───紫電一閃」 その祈りを、インドラの雷といった。 屋内に、紫電が産まれる。 至近で大爆発でも起こったかのような、凄まじい轟音。 天井から床をくり抜き地下まで貫くほどの落雷が、人為的な祈りによって引き起こされたというのだ。 火花散る千の攻防は、万の太陽を掻き集めた巨大な光芒が引き裂き、終焉の幕を下ろした。 DIOが立っていた空間には、代わりに直径五メートル程もある大穴が口開いていた。 炭化した図書館の床の底からは、黒煙と共に闇が吐き出されている。アレをまともに喰らったのでは、原型が残っているかも怪しい。 「DIO!」 「DIO様!」 プッチも流石に声を荒らげた。ジョルノと交戦中であった蓮子も、手を止めて叫ぶ。 一部始終を視界に入れていたジョルノはしかし、いち早く違和感に気付き、彼女の姿を探した。 (聖さん……?) 居ない。強烈な雷光に数秒、視界が機能不全となっていた為、DIOと白蓮の姿が途絶えたのだ。 段々と鮮明さを取り戻していく光景には、DIOは勿論ながら、そこに居るべき白蓮の姿までもが無かった。 「───まさか屋内で雷に遭遇するとはな。ただの脳筋女ではないようだ」 意中の人物ではない声が、これ見よがしに響く。 三千世界を叩き込まれた筈だ。たかだか一個の『世界』の、たかだか二本の腕などで。 あれを退けた? 有り得ない。 「……時を、止めたのか」 ジョルノの確信めいた問い掛けに、DIOは満足気な嘲笑で応える。 男の眼差しの遥か向こうには、壁に激突したのか、蹲る白蓮の姿があった。DIOは瞬時にしてカウンターを叩き込み、彼女をあの位置にまで吹き飛ばしていたのだ。 胸を抑え、吐血している。致命傷ではないが、引き摺るダメージだ。 「しかし……なんと強堅な肉体だ。今のは即死させるつもりで打った全力の拳だぞ? 全く以て感服する」 カツカツと足音を立てながら、DIOが白蓮へと近付いていく。 皮肉を混ぜながらも、男は今しがた一撃を入れた聖女に対し、内心では畏怖の気持ちを僅かに覚えていた。 時間停止からの心臓狙い。完璧に決まったかに見えたカウンターは、その実それほど効いてはいない。 物理的な攻撃を馬鹿正直に続けていては、少々骨が折れる相手だ。あれも肉体強化魔法とやらの恩恵なのだろう。 突出して厄介なのは、攻撃から攻撃に転じる非現実的な速度。 それを可能としているのは、幻想郷縁起にも載っていた『魔人経巻』という巻物。理屈は不明だが、巻物を広げるだけで詠唱した事になり、魔法を発動するのに通常必要な『詠唱』という隙を丸ごとカット出来るという。 あれだ。白蓮の持つ魔人経巻が、奴の繰り出す攻撃の起点となっている。 スタープラチナ以上の攻速ともなれば、流石に苦戦は免れない。 だが……それでも。 聖白蓮は、空条承太郎には遥か及ばない。 「お前がどれだけ疾かろうが、このDIOの『世界』は追い越せん。祈りたければ、死ぬまで祈ってろ」 「……ッ! 魔人、経巻!」 床へ這いつくばっていただけの白蓮が、たちどころに巻物を広げ上げる。 ただそれだけの所作で、彼女は次の瞬間……迫り来るザ・ワールドの鼻面に膝蹴りを見舞い終えていた。 「……やはり、電光石火の如き瞬発力」 到底人の身で辿り着ける境地ではない。決意に至るまでの道順こそ違えど、在りし日のディオと同じに人間をやめた彼女は、その対価に見合った肉体をモノとした。 ただ一つ。人間をやめたという点で同類であった二人には、大きなベクトルの相違があった。 『死』を極端に畏れたかつての白蓮は、若返りと不老長寿を手に入れる為に人間をやめた。 若くして『人間には限界がある』という壁を悟ったディオは、石仮面により人間をやめた。 善悪という論点を除外するならば、白蓮が『過去』へ後退する点に対し、ディオは『未来』へ前進する為に人間をやめたのだ。 この差が、この戦いにおいて何を齎すという訳でもない。 しかし少なくとも、DIOのある意味純粋な執念が形を得、具現した精神性が『ザ・ワールド』である事は間違いない。 スタンドの有無。こればかりは覆せないハンデであった。 「───惜しむらくは、『波紋』にも『スタンド』にも精通せず、心得が無かったその不運よ」 疾い。重い。堅い。 それだけの話だ。白蓮にはDIOと拳交えるだけの、最低限の資格すら有していない。 彼女に備わる唯一の資格など、DIOの血肉となる食事……それへと変わる下層の末路のみ。 「初めの遣り取りの時にも思ったが……やはりお前は『スタンド』の特性をよく知らないようだ」 顔面に叩き込まれた強烈な膝蹴りに、一ミリたりともの身悶えすら覗かせず。 ザ・ワールドは、宙に止まった白蓮の足首を緩やかに握り締めた。 「……ッ!」 白蓮の視界が180度反転する。捻られた視界を立て直すよりも早く、衝撃が背骨から貫通した。 今度はザ・ワールドの鋼鉄の膝が、彼女の背にめり込んでいた。 (攻撃が……効いていない!?) 初撃にあれだけの攻撃を与えておいて、ケロリとしていた時点で気付くべきだった。 スタンドとスタンド使い。同じ寺の修行僧、雲居一輪と雲山の様な関係だと思っていたが……少し、勝手が違うらしい。 「大原則だ。───スタンドはスタンドでしか攻撃出来ない」 突き刺さるようなエグい痛みと共に、白蓮の身体は宙へと浮いた。 振り上げられるスタンドの拳。所謂、瓦割りの型を取ったザ・ワールドが、瓦よろしく彼女の腹部、臍の中心を猛然と殴り付けた。 くの字となって床へ衝突した白蓮。痛みに喘ぐよりもまず、呼吸困難に陥る。 朦朧とする白蓮の視界に映るは、スマートながらも隆々と盛り上がった金色の脚。 マズイ。即座に両腕をクロスさせ、重力を帯びた攻撃に備えるも。 「つまりは、生身では基本的にスタンドへ干渉する事も出来んのだ。お前の攻撃を防ぐことは容易いが、逆はどうかな?」 かかと落とし。脳天目掛けて振り落とされるそれを、非スタンド使いの白蓮に防御する術はない。 クロスさせた屈強な盾すらも、DIOのスタンドはすり抜ける。盾の向こうには、白蓮の額が無抵抗に晒されていた。 鉄塊に鉄塊を撃ち込んだ様な、思わず耳を塞ぎたくなる重苦しい音。 先の紫電のお返しと言わんばかりに、DIOは極めて無遠慮に、相手の頭蓋へと鋼鉄の雷を落とした。 「が……ッ!」 細く短い女の叫喚。 如何な強化された肉体であろうと、人体の弱みへと立て続けだ。彼女の様子ひとつ見ても、鈍いダメージが蓄積されつつある事は明白。 間髪入れず、ザ・ワールドのつま先が悶える白蓮の背と床の隙間へと入れられた。 勢いよく真上へ振り上げられる脚と共に、彼女の身体は回転を強要されながら、再び空中へと放り込まれる。最早サッカーボールと変わらない扱いだ。 「せめて『波紋』くらいは身に付けていたならば、良い試合には運べただろうが……お得意の法力ではプロレスごっこが関の山か?」 舞い上がるグラデーションのロングヘアが、乱雑に掴まれる。宙吊りの形でザ・ワールドに拘束された白蓮の眼前へと、DIOが立ち塞がる。 「聖さんッ!」 ジョルノは救援に向かいたくとも、アヌビス神を構える蓮子の邪魔を突破出来ずにいた。 信じ難い事だが、ゴールド・Eをフルパワーで稼働させても敵のスピードや技術が遥か上を行っている。 ジョルノ本体にダメージや疲労はさほど無いが、それは蓮子が時間稼ぎを主にした付かず離れずの立ち回りを展開しているからであり、思う様に攻めさせてくれないのだ。 その上、白蓮を助ける為にこの場を無思慮に離れ、意識の無い鈴仙が狙われては本末転倒だ。 更に悪い事に、あの妖刀は段々とパワーやスピードが上昇しているように感じる。 恐らく戦う相手から学習し、無際限に成長するスタンドなのだろう。その能力を活かす為での時間稼ぎでもあるらしい。 (埒が明かない……こうなったら) 決心を付けたジョルノが床を破壊し、無から有を生み出そうとする最中にも。 「さて。肉体派坊主の有り難い説法のお返しに、このDIOがわざわざスタンド教室を開いてやった訳だが……。 そろそろ終わりとしようか。お前以外にもゴミ掃除は残っているのでね」 長髪を掴まれ、宙吊りの白蓮へとDIOの魔手が襲う。 「……時間を、止められるもの……ならば」 聖女の血を吸わんとするその指が、まさに喉元へと到達する間際。 細々と呟く白蓮が、懐に隠し持った独鈷をサーベル状の形態に変貌させ。 「止めて、みなさ───」 全ての世界が、同時に停止した。 「───ザ・ワールド。時は止まる」 やはりだ。聖白蓮は、空条承太郎へと遠く及ばない。 奴が相手であれば、こうまで露骨に接近し、時を止めるなどという単純なやり方は選べなかったろう。 駆け引きを挟んでいないのだ、白蓮は。 スタンド戦であれば用いて然るべき、間合いの取り合い。能力の考察。二手三手先を読み合う駒の奪い合い。彼女にはそれらの“探り”が殆どない。 非スタンド使いというハンデを度外視しても、彼女のスタイルは清々しい程に愚直で、分かり易かった。 なまじDIO以上の運動能力を持つものだから、かえって攻め手のパターンは絞りやすい。決して単調な技しか持たない訳でもないだろうが。 所詮、このDIOの敵では無かったということだ。 DIOにとって聖女とは、触らぬ神であると同時に、取り除かなければならない危険因子という認識でもある。 厄介ではあったが、少し捻ってペースを乱しさえすれば……御覧の有様。 時が止まった今、まさに煮るなり焼くなりであるが、この女相手なら少々煮ようが焼こうが、易々とは拳を下げないだろう。 「懐かしいな。百年前もこうして、ジョナサンの奴と拳で遣り合ったものだ」 遣り合った、とは到底言えない、あまりに一方的な試合だったと記憶している。あの時はグローブを着用していたし、ジャッジも見ていたのだったか。 だが時の止まった今。なんの気兼ねなく禁じ手を行える。止まっていようがいまいが、もはや関係ないが。 暑苦しいファイトスタイルで攻める白蓮の脳筋精神に感化されたかは定かでないが、DIOはゆっくりと両腕を前に構え、静止した白蓮の前へと挑発するように差し出した。 今となっては子供のごっこ遊びのようなもので、思い出すと苦笑すら漏れるが、ロンドンに住んでいた少年時代ではそれなりに嗜み、格好が付いていたように思う。 昔も今も何も変わらない、ブース・ボクシングの構え。 勿論、今回“も”対戦相手を再起不能にしてやろうといった、あの頃以上にドス黒い目的の上で。 瞬きすら許されない白蓮の瞼。 見る者が眩むほどの美貌の、その上からまず。 「顔面に一撃。そしてこのまま……」 吸血鬼の底知れぬ怪力が、その面を潰さんとし。 「親指を目の中に突っ込んで……殴り、抜けるッ!」 駄目押しに、もうひと工夫。 この女はちょっとやそっと殴った程度では、こちらの拳が痛むレベルにタフだ。 しかしどれだけ肉体を強化しようと、人には鍛えようもない箇所というものが幾つか点在する。 眼球。 正義の炎を燃やす彼女の瞳から、それを消し去らんと。 かつて宿縁の男へと叩き込んでやった時よりも遥か膨らんだ、悪意。 目頭に突き刺した爪先を、眼孔へ潜り込ませる。 粘膜を破るぶちゃりとした水っぽい音が響く。 そのまま突き入れた親指を、テコの要領で外へと掻き出す。 まるで職人の魅せるたこ焼き作りのように、丸々とした眼球がヅルンと裏返った。 目と脳を繋ぐケーブルの役目を果たす視神経もぶちぶちと引き千切られ、白蓮の右眼球がDIOの掌に収まった。 「“目をくり抜けば天国へ行ける”……などと世迷言を吐き、気を違えた女が自ら眼球を抉った話があるが……さて。 空洞となったお前の視界に『天国』は映っているか? 聖白蓮」 ───そして時は動き出す。 「……っ!? 〜〜〜ぁ、ぐッ!」 火薬を詰め込まれた爆弾袋が、一斉に花火を上げた。 顔面に蓄積された痛みの爆発よりも、突如として失われた右半分の視界に、声にもならない絶叫を上げたくなる。 白蓮は、しかし耐え切った。 痛覚。五感の喪失。 それらは修験者が荒行の中で自ら引き寄せる類の、強き戒め。 本来そうあるべき痛みが、他人によって無秩序に与えられ蹂躙される。 許される所業ではない。罪も無い、女子供にすら埒外の痛みを強要する〝悪〟は、絶対に放ってはおけない。 そして、きっと。 ここから我が意思が歩む道の先には。 天国や極楽、悟りの境地など……有りはしないのだろう。 「……私、ごときの仏道の先に、『天国』は有り得ない……でしょう。 貴方がたと共に、『奈落』へと……ハァ、ハァ……堕ちる覚悟は、出来て、おります」 黒澄んだ血を垂らしながら、右目を失った白蓮の不完全な視界の先に、自らの顔面を抑えて苦悶するDIOが映っている。 男は傷付いた左目と対を成すように、右目にも亀裂を入れられていた。 「……ッ!! 貴様、ひじり……びゃく、れぇぇん……ッ!」 今までに見せていた全ての余裕が、男の表情から消し飛んでいた。 時間が止められる直前、白蓮の握った独鈷がDIOの肉体に届く隙は無かった筈だ。 時が動き出した直後に斬り付けられた? 有り得ない。 確かにDIOには気を緩ませる素振りこそあったが、時間停止直後の弛緩など、最も油断すべきでない瞬間だという事は誰より重んじている教訓だ。まして相手はスタープラチナ以上の速度を持っている。 眼球をひりつかせるこの斬撃は、いつ入れられた? DIOが最も注意力散漫となる瞬間は、いつだ? 「───聖、白蓮。キサマ、“まさか”……」 ───まるで、承太郎の『星の白金』のように。 それは、始めの白蓮の猛攻を受けたDIOが、彼女の凄まじい速度を身に受けて描いた印象だった。 あくまで彼女は非スタンド使い。『ザ・ワールド』に直接干渉出来る術はない。 しかし、限界を超えて到達する『光速』のその先の世界。 先の、F・Fが入り込んだ十六夜咲夜と交戦した際にも同じ現象が起こった。 『時の止まった世界』へ足を踏み入れる手段は、どうやら一つではないらしい。 その上、この白蓮は……あの空条承太郎のスタープラチナと“同じタイプ”。 同じタイプの……───! 「入門してきたのかァ!! 聖白蓮ッ!!」 「他宗派への入門は言語道断ゆえ、それは誤りです。本来ここは、私の『世界』なのですよ」 荒修行もここまで来ると人智の及ばない領域だ。 時間をも置き去りにして可動するスタープラチナと同等の理屈で以て、白蓮の速度はとうとうDIOの世界にすら追い付いた。 速い。ただそれだけの馬鹿げたエネルギーを限界突破し、静止した時間の中をも跳ね回り、DIOへと返しの刃を突き付けた。 こうなっては、本格的に彼女を始末せねばならなくなった。誰であろうが、時の世界への入門など許されるべきでない。 戦い方も慎重スタイルへ変えねばならない。相手が時間の鎖に縛られないともなれば、戦闘に駆け引きを差し込めざるを得なくなる。 白蓮が静止した時をも動けると分かれば、DIOの取る選択肢は大幅に狭まれるのだ。 やはり、DIOにとって『聖女』とは禍であった。 「問いを返します。DIO……貴方の閉じられた闇の視界に、『天国』とやらは映ってますか?」 完全に右眼球を抉り取られた白蓮とは違い、DIOの右目の傷は深くはない。放ってもすぐに治癒が始まるだろう。 だが一秒が命取りとなる戦闘においては、あまりに長過ぎる暗黒の時間。 一時的に視覚不全となったDIOの鼓膜に、安らぎへ誘うような温和な声が鳴り響く。 「極楽浄土を目指すには、貴方はあまりに独善で、邪悪すぎる。身の程を知り、悔い改めなさい」 「また説法のつもりか……? 田舎のお香臭い坊主如きが、オレによくぞ垂れたものだ」 右目が埋まっていた場所を空洞とさせながら、それでも白蓮は堂々と構える。 傍から見れば、不気味極まる光景だ。 苦を受け入れんとする格好が、視界を手放したDIOの瞼の裏にも焼き付くようだった。 男は考える。 この女は果たして……停止した時の中を『何秒』動けるのか? DIOの現在の限界停止時間は『8秒』。つい先程覚醒した奴の潜在速度がそれ以上とは思えないが、確かめねばならない。 「ザ・ワールド! 時よ止まれッ!」 「───スカンダの脚」 時間停止。それは確実に成功した。 それでも聖女の脚は止まることなく、DIOの門を蹴破ってきた。 貫通不可の『世界』を盾にしようが、瞬間移動の如きスピードですり抜けてくる技はまさに疾風迅雷。 塞がれた視界の中、縦横無尽に動き回る獣を捕らえるのは容易ではない。 数発の鈍痛が、身体中の神経を一度に駆け回った。白蓮のあまりに疾すぎる乱打が、まるで時間の静止が一気に解放されたかのようにDIOの肉体を襲撃する。 「が……ッ!」 視覚は無い。だが血の匂いや気配で分かる。 気付けば、女は背後にまで回っていた。一瞬の間の後、肺の中の空気が暴発し吐き出される。 刀の達人が対象を斬り付け、数瞬の硬直の後に血が噴出し両断されるという描写をよく見るが、アレと同じだとDIOは感じた。 痛覚すらもタイムラグに置く打撃。彼女が通り去った空間には真空すら発生し、そのスキマを埋めようと周囲の空気が引き寄せられ、軽い乱気流をも産んだ。 またも吹き飛ぶ吸血鬼の体。 もはや単純な接近戦において白蓮の体術は、『世界』を弄べる領域にまで至りかけている! 『いい加減にしろ……暴れ過ぎだ』 分厚い本棚をまるで障子紙か何かのように破って奥まで吹き飛んだDIOを追撃せんと、力を込める白蓮の背後より不気味な声が響く。 全身におぞましい文様を貼り付けた、白い人型のスタンド。 古明地さとりより話には聞いていたが……! 「……プッチ神父!」 「『ホワイトスネイク』!」 先の果樹園での交戦により、その能力の一端は想像出来る。 恐らく『遠隔操作』の類だが、肝心のプッチ本体の姿は見えない。あの負傷だ。騒ぎに紛れ身を隠したのだろう。 即座に五感を研ぎ澄まし、隠れた本体を察知するべきだが、既にスタンドの腕は白蓮の額へと迫っていた。 反射的に防御し、カウンターを企むが…… 「しま……ッ!」 防御の腕を透過し、ホワイト・スネイクの指が眼前に突っ込んでくる! スタンドはスタンドでしか干渉できない。ついぞ先程告げられたルールが急遽脳裏に浮かんだ白蓮は、咄嗟に首を後方へ逸らすも。 白蛇の指先が白蓮の喉元を通過し、一回り小さいサイズの円盤がそこから生えた。 白蓮の肉体に半端な物理攻撃など大して通じない事は散々思い知らされた。 であるならば、プッチの『ホワイト・スネイク』は、ある意味では『ザ・ワールド』よりも上等な攻撃力を持つ。 頭部のDISCさえ奪えれば、問答無用で相手を無効化出来るのだ。いわば、防御無視の効力を持つプッチならば、白蓮と戦うには『向いている』。 『記憶DISCとまではいかなかったが……奪ってやったぞ』 一撃狙いのDISC化はギリギリで回避されたが、白蓮の喉を通ったホワイトスネイクは、僅かばかりの功績を挙げた。 「〜〜〜〜っ!? ───っ! ───っ!」 懸命な様子で、白蓮は何やら喉元を必死に抑える。 スタンドの指がちょっと掠った程度の接触。その鋼の肉体には全く傷にもならない筈。 事実、抑えた箇所に異常は見られない。 そこから失われた小さな円盤の正体は。 (こ、声が……出ない!?) 『声』を円盤化させ、盗られた。 彼女は素知らぬ事だが、プッチはついさっきもDIOの『視力』を一時的に抜き取り、鈴仙の攻撃を無効化させるという奇策を披露している。 右目を潰され、白く透き通るように物柔らかだった声をも失った白蓮は、敵のこの攻撃に潜む意図を察した。 声が出せないという事は、どういう事か。 俗に謂われる『スペルカード』という弾幕攻撃。 幻想郷に住まうあらゆる少女達が好む遊戯に使用される、オリジナル必殺技のようなものだ。 スペルと名の付くからには、呪文またはそれに類する手段を利用して作り上げる弾幕なのだが。 少女達は、そのごっこ遊戯の中でこそ如何にもといった技名を宣言……つまりスペカを唱え多種多様な弾幕を描く。 別名:命名決闘法と定められている以上、スペカの宣言は必要だというルールも確かに存在するが……実の所、弾幕を放つのにその宣言は必ずしも必要とはしない。 あくまでルールの中での取り決めなのだ。命名決闘法の外であれば、わざわざ宣言するまでもなく不意打ちを狙うのも当然ながら自由なのである。 要は、多くの少女達は技を放つのに『声』を発する必要が、実は無い。 が、例外も存在する。 聖白蓮。彼女を幻想郷の人外その他諸々の種族にカテゴライズするならば───『大魔法使い』だ。アリス・マーガトロイドやパチュリー・ノーレッジといった魔女系統もこれに相当する。 呪文やお経を“読み上げる”行為を起点とし、肉体強化魔法並びに全てのスペカを発動させるスタイルだ。 その彼女の『声』が奪われた。 それはつまり、肉体強化含む全スペカが封印されたも同義─── 「───魔法『魔界蝶の妖香』」 縮小された視界の中、白蓮は悠然と敵を見つめ…… ───唱えた。 声は、まるで響かない。 誰一人の鼓膜に、掠りともしていない。 けれども、その唇の動きだけは確かに一つのスペカ宣言を成し終え。 物陰に隠れながら彼女を窺っていたプッチには、不思議とそう聞こえた。 プッチの狙いに誤算があるとしたなら。 白蓮の操る『魔人経巻』……誰が呼び始めたのか、通称エア巻物にびっしり記された呪文には、読経の必要が無いという事だ。 その特殊な巻物には、広げるだけで“読み上げた”事とする機能が搭載されていた。白蓮の速攻の秘密とは、まさにこれの恩恵に依る所が大きい。 (あの教典……思った以上に厄介だ! それに私の居場所がバレているのか……!?) 紫色に光る蝶形の弾が所狭しと駆け巡る。その狙いは正確とは言えないが、白蓮がプッチの居場所を凡そ見当付けている事の証明だ。 法力万全の白蓮の五感は鋭い。プッチにとって不運なのは、その五感の内、視覚と聴覚が半ば塞がれている障害が、却って彼女の感覚をより鋭敏に研ぎ澄ませている事だ。 白蓮から見て、右前方の本棚の後ろにプッチは身を隠している。 事実上の即死効果を与える遠隔操作型スタンドを持ちながら、近接超特化型の白蓮の前に本体が身を晒すメリットは皆無。果樹園で交戦した際は作戦上、本体のみで迎え撃っただけだ。 勢いに乗った白蓮に迂闊に近付く愚など有り得ない。教科書通りにプッチはスタンドのみを対峙させるも、彼女は遠距離攻撃すら充分なカードを揃えているらしい。まこと、大魔法使いの称号は伊達じゃない。 それでも、スタンドを持たない白蓮から見ればプッチは脅威だ。スタンドを前に立たせるだけで、大概の弾幕の盾となってくれる。 プッチの隠れる直線軌道上を翔ける蝶弾のみ、ホワイトスネイクが手刀で弾き落とす。こうなってしまっては分が悪いのは白蓮の側であった。 全方位に広がる蝶の弾幕をものともせず、ホワイトスネイクはあっという間に白蓮の元に辿り着いた。 彼女のDISCを確実に獲る為、視界の消失している右側から攻める。ザ・ワールドの拳とは違い、ホワイトスネイクの指は受ければ即・戦闘終了となり得る。 (避け切れない……っ!) DIOから受けた幾多の攻撃は、彼女の俊敏性を明確に奪う程の鈍痛をその足へ蓄積させていた。 ホワイトスネイクの攻撃を、完全に回避しきれない。 「ゴールド・エクスペリエンス……床板を『蝶』に変えた」 突然、頭が割れ砕けそうな激痛がプッチの頭部を襲った。 それだけではない。自らの額から『DISC』が半分ほど突出している。 「が……っ! こ、この現象は……!?」 DISCが飛び出ているのだから、これはホワイトスネイクのDISC化能力が何故かプッチ本体へと『返って』きていると考えた方が道理だ。 注視してみれば、白蓮と……そしてジョルノの周囲にはいつの間にか、紫色の蝶々がひらひらと踊るように舞っていた。 白蓮の放った蝶形の弾幕『魔界蝶の妖香』と、ジョルノの創った蝶とが、互いに交差しあい、紛れるように飛ばされていたのだ。 ホワイトスネイクは、その内の一羽を弾幕と見誤って叩き落としてしまった。 ───ジョルノが産んだ生物には、『攻撃するとダメージがそのまま本体へ返る』という強力な能力が備わっているとも知らずに。 「あの神父は僕が叩きますので、聖さんはDIOをお願いします。あと“これ”……貴方の『目玉』ですので、嵌めといて下さいね」 「……!? ★●■〜〜〜っ!」 声は全くとして出ていないが、白蓮の驚愕と困惑ぶりはその顔にも存分に表れている。 なにせ先程DIOに抉り取られたばかりの自分の眼球が、野球ボールか何かのような扱いでジョルノから投げ渡されたというのだから無理もない。 勿論それはたった今彼が手頃な物で創った目玉なのだが、ジョルノの能力を詳しく知らない白蓮は、そんな物を大した説明なく受け取ってしまった反動で思わず頬が引き攣った。 そのトンデモ行為に、彼が以前ブチャラティから受けた仕打ちのトラウマが多分に含まれていたかどうかは本人のみが知るところだが。 「神父は……あそこか」 反射ダメージの効果で、プッチの頭部からはスタンドDISCが半分飛び出ている。それにより、身悶えていたホワイトスネイクの像がノイズに紛れて消失した。 これ以上ない好機。プッチは今、直ぐ様の反撃が出来ないという、スタンド使いにとって致命的な状態。 ジョルノが駆ける。狙うは当然プッチ本体! 「させないッ!」 この場で唯一手の空いた蓮子が、再度してジョルノの前へと飛び出た。 周囲には夥しい数の蝶。下手に攻撃すれば自らの首を締めかねない事になるのは、今の攻防を見ていれば予想出来る。 臆することなくジョルノが疾走する。不規則に漂う反射蝶を上手く避けて彼を斬り伏せるという事は、如何な刀の達人であろうと難事である。 「だったら、斬れないように……斬ればいい」 蓮子が小さく呟くと同時。 ジョルノの右肘から先が宙を飛び、全ての蝶が散るようにして消えた。 「───ッ!? ぅ、なに……っ!?」 「ジョルノさん!?」 両眼と、消失したホワイトスネイクが落とした己の『声』を取り戻した白蓮の視界に飛び込んできた最初の光景は。 鮮やかに振り下ろされた妖刀の輝きと、血飛沫と共に舞う少年の腕。 蓮子の一振は確実に反射蝶ごとジョルノの右腕を通過した筈が、どういう訳かリフレクターが作用しなかった。 物体透過能力。 アヌビス神が持つ、厄介極まるスキルの一つである。 ジョルノを護るように飛び舞う蝶の数々をすり抜けて無視し、対象のみをブッた斬る。 こと“斬る”能力に関して、アヌビス神の力は本物である。 「『ガルーダの爪』!」 重症を負ったジョルノと前衛を交代するように、白蓮は移動と攻撃を併せ持った蹴りを見舞った。DIOにも披露してみせた、爆撃を模した苛烈なるライダーキックである。 それすらも、刀の峰で止められた。 速さに掛けては他の追随を許さない白蓮の蹴りを、こんな少女相手に、だ。 相手が人間の少女だということで、白蓮にも無意識下での躊躇は澱んでいたかもしれない。それにしたって、ザ・ワールドをも翻弄するレベルのスピードは易々と防がれるものではない。 いや、それよりも……。 (この子……今、明らかに私を見ずして受け止めた!) 白蓮の瞬速に追い付いたのは、少女の視線より刀が先だった。 まるで刀そのものに意思があるかの如く、少女の腕をグンと引っ張って白蓮の蹴りを受けさせたように見えたのだ。 (敵本体は『刀』の方……!? だとすれば……) 刀に意識を奪われている。有り得ないことではない。 今、こうして接近して分かったが、どうもこの少女……正気を感じない。 いや、元来持つ正気が、上から悪の気に包み込まれているかのように朧気で薄明な意思だ。 つまりは……少女に傷を付けず、刀のみを破壊しなければならない芸当が求めら─── 「URYYYYィィイイァ!!」 少女の不遇な環境に、一瞬胸を痛めてしまった事が仇となったか。 戦場に復帰したDIOが、猛烈なパワーを込めて白蓮の左肩へスタンドの一撃を入れてきた。 ミシミシと、全身の骨髄を伝播する重い痺れが彼女の動きを鈍くし、次に襲ったザ・ワールドの回し蹴りは、今までで一番に深く白蓮の身体へ食い込んだ。 「あ……!」 今度こそ受け身すら取れず、白蓮は木の葉のように吹き飛ぶ。 「聖、さん……!」 重症ながらも、ジョルノが隻腕のスタンドを起動させて白蓮をキャッチ。彼女の強力な近接戦闘術が一瞬でも戦線を離脱されれば、片腕のジョルノにこの猛攻を防ぐ術は無い。 『おのれ……味な真似をしてくれる……!』 視界には入ってくれないが、プッチ本体が態勢を立て直したのか。 ホワイトスネイクが側頭部を抑えながらも、再び発現して現れた。 さっきみたいに反射の罠に二度掛かってくれるようなヘマはしないだろう。 「頑張った方だけど……ここまでよ」 今しがたジョルノの戦闘力を半分削いだ蓮子が、アヌビス神の切っ先を向けて言った。失った右腕を作る隙など、与えてくれるわけがない。 決して前線に出ようとはしていない彼女だが、ストレートに強力なのはあの刀だ。白蓮とDIOの戦いにジョルノがまるで介入出来なかった事から、その厄介性は伺い知れた。 「聖……そしてジョルノ。貴様ら二人だけは、絶対にここで摘まなくてはならない」 DIOが横にスタンドを立たせて睨んだ。 息こそ荒くなっているが、ダメージはそれほど入っていない。白蓮から断絶された右目も、いつの間にやら殆ど再生しかけている。 囲まれた。 二対三という数での不利は元々、白蓮の奮闘が限りなく上手く回ってこそ埋められた穴である。 長期戦となれば劣勢に陥るのは当然。ましてDIOのみならず、配下の神父と少女の方も想像以上に曲者であるというのだから。 (紫さんは……さっきからまるで動いてないな。彼女の事だ、そうあっさりもやられないだろうが……) 万事休すの状況に追い込まれ、逆に頭が澄み始めたのか。 ジョルノの心中には、八雲紫の姿が浮かんだ。 彼女に預けたブローチの位置は、館の一箇所から全く動かずにいる。 ターゲットの人物を発見したのであればすぐさま外部に出る筈であるし、見付けられないのならいつまでも不動でいる意味が分からない。 恐らく、向こうは向こうで何か『予定外』のアクシデントでも起こっているのだろう。 (何を僕は……あの人の救援でも期待しているのか?) 自分らしくない弱音に、ジョルノはかぶりを振った。 今までにもこの程度の窮地など、幾度となく経験してきたろう。 どうもDIOの、“あんな話”を聞かされてから臆病になっている気がして。 こんな時、ブチャラティならどんな声を掛けてくれるのか。 ディアボロを倒して新たなボスの座に就き、組織パッショーネを一から洗浄していく過程で、彼の家庭事情をほんの少しだけ調べてみた事がある。 幼い頃より両親は離婚。父親は麻薬絡みのいざこざにより、死亡。 調査書によれば、当時まだ子供であったブチャラティはその時、襲撃してきたマフィア二人を殺害している。 父を守る為に。そして父を奪った麻薬をこの世から消滅させる為に。 ブチャラティは自ら闇の世界の住人となり、幹部にまで登り詰めた。 力を持たない子供の彼であったからこそ、『父親』とは唯一の拠り所であり、依存すべき繋がりであったのだ。 だから彼は、『父親』から憎まれ、手を下されそうになったトリッシュを命懸けで守ると誓った。 ジョルノは……トリッシュと同じ存在だった。 『父親』から目の敵とされ、命を狙われるという恐怖は……想像以上に人間を弱くさせる。 きっとブチャラティならば。 そんなブチャラティだからこそ、彼はジョルノをも救おうとするだろう。 あの人はもうこの世にいないが、心の底から尊敬すべき人間であった。 彼はあの時、ローマでジョルノに全てを託し。 最期に……きっと、『夢』を叶えて逝ったに違いない。 「僕はまだ───自分の夢を叶えていない」 運を天に任せた上で全てを諦めては、勝利者にはなれない。 DIOは想像より遥かに強大で、邪悪だった。 準備不足は否めない。元より、ここは敵の本拠地だ。 普段の自分であれば、時期尚早だとしてDIOとの決戦は見送っていたかもしれない。 八雲紫の『夢』を語る、その純朴な瞳に。 どこか……惹かれたのだろう。 理由を訊かれたのなら。それが彼女に手を貸そうとした理由だ。 そして。父親とケリをつける為に此処へ来た。 誰しも───夢を語る時の瞳というのは純粋で、 眩くて、 清く、 正しい光を纏うものなのだ。 「このジョルノ・ジョバァーナには……『夢』がある」 黄金の髪を持った少年が、断固とした眼差しで宣言する。 片腕となったゴールド・Eを隣へ並ばせ、DIOを睨みつけた。 「ギャングスターに、僕はなります」 言葉の響きに、揺らぎなど無かった。 傍で聞き遂げる白蓮にも、少年の持つ根底の強さが見て取れた。 発された単語の意味は不明だが、少年の宣誓は白蓮にとっても、心地好い余韻を残してくれた。 「───ボーイズビーアンビシャス。……少年よ大志を抱け。外の世界には、こんな言葉があると聞いた事があります」 少年の語る『夢』は、白蓮にも過日の大志を思い出させてくれた。 少年でも、少女ですらないけども、自分にも『夢』と呼べる想いが今でもある。 それを叶え遂げるまで、倒れる訳にはいかないのだ。 「私を使ってください、ジョルノさん。貴方はまず、腕の止血を……」 「易々とは治療させてくれないでしょう。僕の見ていた限りでは、聖さんと相性が悪い相手はあの神父の男です」 「……全員、私が相手取ります。その間に貴方は何とか……」 白蓮のポテンシャルなら、多数相手でも時間稼ぎは可能かもしれない。 だが、スタンドを持たない。それだけの事実が、戦況を大きく傾かせる致命的要因となりかねない。 「作戦会議は終わりか? 言っておくが、先程までのように『疾い』だけで翻弄できると思わない事だ」 クールダウンを経たDIOが自信を顕にする。 根拠の無いハッタリではない。男の自信は、揺るぎない経験の元に立ち上げられている。 あらゆる窮地に即座の対策を導き出してこそ、百戦錬磨のスタンド使いたる所以。伊達に世界中のスタンド使い達を見てきたわけではない。 きっと白蓮のスピードなど、すぐにも順応し対応を立てられる。 どうすればいい。 先ずは敵の陣形を崩したい。ホワイトスネイクに攻撃は通じない以上、そこ以外を突くしかない。 白蓮は腹を決めた。 魔人経巻を広げ、パラメータを一気に増幅させ。 ジョルノが失った右腕の治療に取り掛かり。 ホワイトスネイクが駆け出し。 蓮子がアヌビス神を振りかぶり。 DIOが叫び、時間を止める。 その全てに先んじて、 此処に立つ誰もが予想すらしなかった、 弩級のアクシデントが、 熱風の爆音と共に姿を現した。 その凶兆に、ある者は『サンタナ』と呼称を付けた。 ③へ→