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このSSは、 ゆっくりいじめ系2954 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 前 ゆっくりいじめ系2966 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 後の続きです。 未読の方は、そちらを先にお読み下さい。 また、厨性能ゆっくりがでます。ご注意下さい。 ぱちゅりーは、とってもゆっくりしていた。 優しいおかーさんぱちゅりー。かっこいいおとーさんまりさ。 そして仲のいい姉妹達に囲まれ、森の中でゆっくりと暮らしていた。 ある日、おとーさんがこう言った。 「にんげんさんのところに、おやさいさんをたべにいくよ!」 にんげんさん? おやさいさん? 初めて聞く言葉だった。 「むきゅ、おかーしゃん、にんげんしゃんってなに?」 「むきゅ......にんげんさんは、ゆっくりできないいきものよ。おやさいさんをひとりじめしてるの」 「おやしゃいしゃんって?」 「おやさいさんは、とってもゆっくりできるたべものよ。つちさんから、かってにはえてくるの。 でも、にんげんさんは『じぶんたちがそだてている』なんていって、ひとりじめしているのよ」 人間さんはゆっくりできない。お野菜さんはゆっくりできる。 「にんげんさんはれみりゃよりつよいから、みつからないように、 そろーりそろーりしのびこむのよ。むきゅ。わかった?」 「むきゅ! わかったわ!」 家族全員で、人間さんが独り占めしているお野菜さんの生える場所に忍び込む。 「「そろーり! そろーり!」」 「「「しょろーり! しょろーり!」」」 お野菜さんの前に着いた。お野菜さんは、赤くて小さな、おいしそうな実だった。 「むーちゃ、むーちゃ、ちあわちぇー!」 食べてみると、やはりおいしかった。こんなに甘くてゆっくりした物は初めて食べた。 家族も、みんな幸せそうに赤い実を食べていた。 「「しあわせー!!」」 「「ちあわちぇー!!」」 「こらぁっ!!」 突然、目の前にいたおとーさんが破裂した。 ぱちゅりーの顔に、餡子が飛び散った。 「むきゅうううう!!」 見上げると、れみりゃのように胴体を持ち、それでいてれみりゃよりずっと大きな生き物がいた。 「むきゅう! にんげんさんよ! みんなにげべへぇっ!!」 「おかーさああぁばっ!」 「たじゅげでべっ!」 人間さんが、みんなの頭の上に足を振り下ろす。 おかーさんも、おねーちゃんも、いもうとも、みんな次々に破裂した。残りはぱちゅりーだけになった。 「ったく、懲りないな、この野菜泥棒共!」 低くて大きな声。体がガタガタと震えた。こわい。人間さんは、本当にゆっくりできない。 目の前で、足が持ち上がって、ぱちゅりーの頭の上にも落ちてきて―― 「待って! お父さん!」 横合いから入った声に、振り下ろされかけた足がピタリと止まった。 「わぁ、これぱちゅりーじゃない! 私初めて見た」 向こうからもう1人、人間さんがやってきた。今度はかなり背が低く、声も柔らかい。 「やーん、かわいい。お父さん、この子家で飼おうよ!」 「おい、待て、だめだ。野菜を勝手にかじるような野良だぞ。 この前のゆっくりだって、家の中を暴れ回って、大変だったろうが」 「あれはまりさだもん。ぱちゅりーは大丈夫だよ、頭いいから」 そう言って、小さな人間さんはぱちゅりーを両のてのひらで包み込んだ。 「むきゅん! はなして! たしゅけて! おかーしゃん!」 「大丈夫よ。私はあんたにひどいことしないから」 「......むきゅう?」 優しい声。ぱちゅりーは、この人間さんは何だかゆっくりできると思った。 「ったく。じゃあ最後のチャンスだ。ちゃんとしつけするんだぞ」 「ありがとう、お父さん!......ぱちゅりー、今から私があんたのお姉さんよ」 こうして、少女とぱちゅりーの生活が始まった。 ぱちゅりーは、とってもゆっくりしていた。 優しいお姉さん。一日三回、必ずおいしいご飯を食べさせてくれる。 毎日3時になったら、あまあまさんも持ってきてくれる。 ぱちゅりーは、お姉さんから色々なことを教わった。 数の数え方や、文字の読み方、薬草の見分け方、ゆっくりできるおまじない。 「いい、薬草は野菜と同じように根っこがあって、その根っこの形が......」 お姉さんはゆっくり教えてくれるので、ぱちゅりーは全部理解することができた。 「やっぱりぱちゅりーは頭いいね!」と、頭をなでてくれるのが嬉しかった。 ぱちゅりーの楽しみは、お姉さんと一緒に雑誌やテレビを見ることだった。 「みてみてぱちゅりー! このきれいなウエディングドレス! あぁー、いいなあ! 私もいつか、こんな素敵な結婚式あげたいなあ!」 「......すごい、あれ、催眠術だって。うわ、何もないのにラーメンすすってるよ。さすがにやらせかなぁ、あれは」 何もかもが楽しかった。外で生活していたときよりずっと快適だった。 家の中にいれば、れみりゃに襲われる心配もない。 しかし、家にはゆっくりできない人間もいた。 ある日のこと。ぱちゅりーは玄関の脇に置いてあった段ボールの中をのぞき込んでみた。 そこには、昔食べたことのあるお野菜さんがぎっしり詰まっていた。 小さくて、赤くて、甘くて、おいしい実。 ぱちゅりーはつい、それに飛びついてしまった。 次の瞬間、ぱちゅりーは吹っ飛ばされていた。廊下をごろごろと転がっていく。 「きゃあああああ!! 何するの、お父さん!」 「うるさい! お前、しつけちゃんとしてるのか!? また野菜に手を出したぞ!」 「ち、ちゃんと言っといたよ! お野菜さんは食べちゃダメって......」 「現に手を出してるだろ! 商品に傷を付けるようなゆっくりは、うちには絶対に置いておけんぞ!」 「......」 「いいか、次はないぞ。脳の随まで叩き込んでおけ」 お姉さんの部屋に戻っても、ぱちゅりーは目眩が収まらなかった。 「むきゅ......あのおじさんは、ゆっくりできないわ......」 「......ねえぱちゅりー。うちのお父さんが育てたお野菜は、食べちゃダメよ」 「むきゅう! あのおじさんは、おやさいさんをそだててなんかいないわ! ただ、はえてきたおやさいさんをひとりじめしてるのよ!」 「違うの。野菜は、お父さんが畑を耕して、種を蒔いて――」 「ちがう! ちがうわ! おやさいさんは、かってにつちさんからはえてくるのよ! おかーさんがいってたのよ! おかーさんが......むきゅうぅぅ......」 ぱちゅりーの奥底から、悲しみがせり上がってきた。 実の家族を、ぱちゅりー以外皆殺しにしたあの人間。 あのゆっくりできない人間が、お野菜さんを独り占めしてるんだ。絶対そうだ。 ぱちゅりーの目から、すうっと涙が流れ落ちた。 お姉さんは大きくため息をつくと、優しくぱちゅりーに話しかけた。 「わかったわよ。それでいいから、もう絶対に野菜を食べちゃダメよ? お野菜さんはみんなのものだけど、ぱちゅりーだけの物じゃないんだから」 「......むきゅ、わかったわ」 納得はできなかったが、ぱちゅりーは頷いた。 確かに、野菜を食べたらあの欲張りなおじさんにゆっくりできなくさせられてしまう。 味方はお姉さんだけだった。基本的に人間はゆっくりできない。でも、お姉さんだけは特別だった。 「テーブルの上にある食べ物は全部食べていいからね! じゃ、いいこにしててねー!」 「むきゅ! いってらっしゃい!」 お姉さんとおじさんは、2泊3日の旅行に出かけていった。 ぱちゅりーは留守番だ。居間のテーブルの上には、きっちり3日分の食料が置いてある。 「むきゅ! しっかりるすばんするわよ!」 だが、3日後。お姉さん達は帰ってこなかった。 「むきゅ......どうしたの? おねえさん......」 3日分しかない食料は当然尽きた。ぱちゅりーはお腹が空く一方である。 「こうなったら......しかたないわね」 ベランダの鍵は開けてもらっていた。ぱちゅりーが暑さで倒れないように、という配慮だ。 おかげで、ぱちゅりーは自由に扉を開け閉めできる。 扉を開けてベランダへ、そして柵の隙間を抜けて、その外へ飛び出した。 目指すは、隣接している畑。 「むきゅ。しかたがないのよ。ちょっとくらいわけてもらってもいいはずよ」 食べたことのある赤い実の野菜はなかった。そのかわり、緑色の細長い実を付けた野菜が生えていた。 ぱちゅりーはそれに歯をつけた。 「ぱちゅりー! ごめん! ちょっと事故に巻き込まれちゃって!」 その時、家の奥の方からお姉さんの声が聞こえてきた。 「お腹空いたでしょ! いっぱいお土産買ってきたから......あれ? 居間にいないなあ」 「おい、まさか畑にいるんじゃないだろうな」 「えー、そんな訳ないよ! ちゃんと言っておい......たし......」 窓越しに、お姉さんと目があった。 するとお姉さんは血相を変えて、ベランダの柵を飛び越えて走ってきた。靴も履かずに。 「むきゅ、おねえさんおかえりなさ――」 お姉さんに抱きかかえられた。そのまま連れ去られる。 「む、きゅ、もっと、ゆ、ゆっぐ、りして、ね」 疾走するお姉さんは速かった。家からどんどん離れていく。 ――ごめんね、ごめんね。 後ろにすっ飛んでいく景色に目を回しながら、ぱちゅりーはお姉さんの謝る声を聞いた。 ――ごめんね、ごめんね。 お姉さん、どうして謝るの? どうして、泣いてるの? 前のまりさは潰されちゃったって......どういうこと? ようやくお姉さんは止まった。ぱちゅりーは地面に降ろされる。 そこは、見たこともない山の中だった。 「ごめん、本当にごめんね。でも、こうするしかないの。 ごめん......ぱちゅりー、生きてね」 涙をぽろぽろこぼしながら、お姉さんはそれだけを言って、踵を返して走っていった。 「......むきゅ?」 捨てられた、と理解するまでに、ぱちゅりーは長い長い時間を必要とした。 ねえ、どういうこと? どうして捨てられたの? お野菜さんを食べてたから? だから、お姉さんもぱちゅりーを捨てたの? お姉さんも、お野菜さんを独り占めしたいの? だから、あんな怖い顔してたの? 泣くほど悔しかったの? その後、親切なゆっくり一家が通らなければ、ぱちゅりーの命はその日のうちに尽きていただろう。 ぱちゅりーは、悟った。 人間は、自分で野菜を育てていると主張し譲らない。 強大な力を持っているにもかかわらず、勝手に生えてくる野菜の独り占めしか考えない、強欲な生物。 拾われたゆっくりの家族の中で、ぱちゅりーは今までに得た知識をフル活用して役に立とうと努めた。 実際にぱちゅりーは重用された。これだけは人間に感謝した。 季節が一回りする頃には、ぱちゅりーは群れの長になっていた。 群れを統率する規則も作った。医者として、たくさんのゆっくりを治した。 結果、群れのゆっくり全員から、絶対の信頼を勝ち得た。 ......それなのに、それなのに―― 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛......ば、ばりざのあたまがあ゛ぁぁ......」 「む、ぎゅう......」 頭に乗っている重い痛み。どうしようもない喉の渇き。 「よう、ぱちゅりー、まりさ。今日も元気か?」 全ては、この男のせいだった。 一週間前、群れの成体ゆっくり達は人間をやっつけに山を下りていった。 ぱちゅりーと子ゆっくり、赤ゆっくり達は、突撃隊が帰ってくるのを今か今かと待っていた。 しかし、帰ってきたのは指揮をしていたまりさだけ。ゆっくりできないおまけも付いていた。 「ば、ばづりーはあぞごだぜぇ! あぞごのきのじだだぜぇ!」 ぱちゅりーは人間に捕らえられた。襲撃は失敗に終わったのだ。 人間は子ゆっくりと赤ゆっくり達を無視し、ぱちゅりーとまりさだけを連れ去った。 その日から、2人の拘束監禁生活が始まった。 ビニールハウスの中にある木の板。その上に2人並んで接着剤で固定された。 そして頭に小さな粒を埋め込まれた。 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁ!! やべろ、やべるんだぜえ゛え゛ぇぇ!!」 「む、むぎゅう゛う゛う゛う゛ぅ!!」 すぐにかけられた甘い液体のおかげか、その日の痛みはすぐに治まった。 しかし日が経つにつれて、チクチクという痛みから、じわじわと慢性化した鈍痛に変わっていった。 「ほら、これが今のお前だよ」 男が、まりさの目の前に板のような物を立てて見せた。鏡だ。 「ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!! ばりざの、あだまがら、くきさんがあ゛あ゛あぁぁ!!」 おそらくそこには、頭から野菜の茎を生やしたまりさが映っているのだろう。 2人は同じ方向を向いて横に並んで固定されているので、真横のまりさを見ることはできない。 だが、見せられている物の予想はおおよそ付いていた。 「ぱちゅりーも見てみるか?」 「むきゅ、けっこうよ! そんなものみたくもないわ! それより、はやくさいみんじゅつをときなさい!」 そう。ぱちゅりーには分かっていた。これは、れいむが掛けられたのと同じ催眠術だ。 この痛みも、異常な喉の渇きも、全てが幻。 どうしてこんなことするのだろう。一体何がしたいんだろう。 そんなに、ぱちゅりー達に大ボラを見せることが楽しいのか。痛めつけるのが楽しいのか。 無駄なことをせずに、早く殺してしまえばいいのに。 「催眠術......ね。お前、本当にそう思ってるのか」 「あたりまえよ! まりさ! だまされちゃだめよ!」 「......ふーん」 今日の男は、これまでの一週間と違い饒舌だった。 表情も今までのような無表情ではなく、口元がニヤついていた。 「ぱちゅりー、ちょっと話をしよう。 お前の考えでは、れいむは催眠術に掛けられていて、野菜が自分の頭に生えていると思い込んでしまった。 そしてその術は周りにもうつり、群れのゆっくり全員がそう思い込んでしまった。そうだな?」 「むきゅ! そうよ!」 「つまり、れいむの体自体は実は何ともなくて、外傷もなく、皮に異常もなく、いつも通りだった。そうだな?」 「むきゅ、だから、そうよ! れいむのからだにはなんにもいじょうはなかったの! ただ、やさいがはえているというまぼろしをみせられていたのよ。それだけよ!」 「それだけだな?」 「それだけよ!」 なんなんだこの男は。未だにニヤニヤと笑っている。図星をごまかすためか。 喋る度に頭に響くのだが、小馬鹿にされているようで許せなかった。 「じゃあ、本題に入ろう。 お前、れいむの体がぱりぱりに乾燥してるのを、見たよな?」 「......むきゅ?」 それと今の話と、どう関係が......? 「ゆっ! なんでそのことをしってるんだぜ!? やっぱり、さいみんじゅつでまりさのあたまのなかを......」 その時、まりさが口を挟んできた。 「......あー、そこも説明しなくちゃならんのか。面倒だな」 男は懐から小さな黒い2つの物体を取り出した。 1つは四角い板。もう1つは奇怪な形をした、管のような物。 男は板をまりさの前に、管のような物をぱちゅりーの前に置いた。 「こっちがマイクで、こっちがイヤホン。まりさ、何か喋ってみろ」 『「ゆぅ? なんなんだぜ?」』 「むきゅう!?」 ぱちゅりーは飛び上がった。いや、足を固定されてはいるが、飛び上がったつもりだった。 まりさの声が真横と、目の前の管から同時に聞こえてきたのだ。 「わかるか? 盗聴器って言ってな、離れたところの音を聞ける機械だよ。 これをれいむの頭に埋め込んでたんで、お前らの会話も筒抜けだったわけ」 「ゆ、ゆぅ!? じゃ、じゃあさいみんじゅつじゃなくて」 「話を戻すぞ、ぱちゅりー」 男はまりさを無視して、再びぱちゅりーと向かい合った。 「お前、れいむが乾いてるのを見たよな。 そして、『このままではひからびてしまうわ!』とも言ってたよな」 「む、きゅ......」 「そして、群れのゆっくりに水を掛けるように指示した」 「む......!!」 「れいむの体に、水掛けたよな。だいぶ長い時間掛けてたよな。何ともないはずの、れいむの体に」 「む、むきゅ! むきゅ!」 「おかしくないか? あれだけ水掛けられたら、普通のゆっくりは溶けちゃうんじゃないか? 溶けないとしても、その日のうちに、山から俺の家までマラソンするのは無理なんじゃないのか?」 「ち、ちが!」 「お前も今、喉カラカラだろ? それはな――頭に生えた野菜が、水分を吸い上げてんだよ」 違う。違う。そんなわけない。 「むきゅ! ちがうわ! それは......むれのみんなに、みずをもってこさせるというさいみんじゅつよ! みずをかけたのもまぼろしなの! じつはれいむにみずをかけていないのよ!」 「......自分で言ってて苦しくないか?」 「そんなことないわ! そうじゃなかったら、れいむがおにいさんのいえにいったのがまぼろしで......む、むきゅう!」 「うん、まあ、考えててくれ。納得できる答えは出ないと思うけど」 男は背中を向けて歩いていった。 「まりさ、だまされちゃだめよ! さいみんじゅつなのよ!」 「......だぜ......」 「むきゅう! まりさ!? ねえ、きいてるの? まりさ!!」 まりさは口の中で何かをブツブツと呟いている。 ぱちゅりーは底知れない不安を感じた。 「ああ、そうそう。言い忘れてた」 男はビニールハウスの出口で振り返って、こう言った。 「今日、すごい面白いもの見つけたんだ。 自然に根がお前らを突き破って終わりにするのを待とうと思ってたんだけど、 それじゃあちょっと早すぎるから、それ以上粘ってもらうからな。 大体60日後くらいまで、死なずに頑張ってくれ」 それからの日々は、四六時中ゆっくりできなかった。 日に日に増していく、体の中に異物が深く潜り込んでいく感触。 少しでも体を動かせば訪れる激痛。 目の奥をねじられ、視界がどんどん狭まっていく恐怖。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛ぁ......いだい、ぜぇぇ......」 「むぎゅ、ぎゅう゛......」 生クリームを吐き出してしまったのも一度や二度ではない。 しかし、その度に男がやってきて、“オレンジジュース”という甘い液体を掛けていくのだ。 すると、ぱちゅりーの体は潤い、腹は満たされ、力が湧いてくる。 地獄から解放させないための処置だ。鬼。悪魔。 「ジュース代がかさむんだよなぁ」とか言いつつ、男は惜しげもなくジュースをかける。 それなら、さっさと掛けるのを止めてくれればいいのに、楽にしてくれればいいのに―― ああ、違うか。これらは全て、催眠術なのだ。わざわざジュースをかけて回復させる幻まで見せる。 なんて悪趣味なんだ。 時間の感覚が薄れ、今は何日目なのかも分からなくなったとき。 「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 隣のまりさが突然絶叫した。もうそんな余裕はないはずなのに。ちょっと声を出しただけでも全身が痛むのに。 何事かと、ろくに動かない目をゆっくりと右に向けた。 「む、ぎゅう゛う゛う゛!!」 ぱちゅりーも叫んでしまった。まりさの前に、ポテンと落ちている白い球体。 目玉だった。 「何だ何だ、どーした? おお、ついに開通か。それもちょうど目の部分が」 悪魔がやってきた。オレンジジュースを片手に。 まりさの頭にジャバジャバと掛ける音がする。 「うーん、さすがに目は復元しないか。でも、ちゃんとふさがったな。根っこは飛び出てるけど。 これで餡子が流れて行かなくて済むぞ、よかったなまりさ」 「......おでぃーざん」 「ん?」 「ばりざを、ばりざをだずげてくだざいぃ!」 ついに、まりさが折れてしまった。 「むぎゅう! だめよ、まりざ! たえて!」 「もう、おやざいざんどか、さいみんじゅづどか、どおでもいいから゛あ゛あ゛あ゛! まりざを、だずげで、ゆっぐりざぜでくだざい!」 「無理」 即答だった。 「どぼじでぞんなごどいうのぼお゛お゛ぉぉ!」 「だから、言ったろ。60日耐えろって。今日であの日からちょうど20日。あと3分の2だ。頑張れ」 「ゆああああ!! ゆっぐりじだいんだぜえええぇぇ!!」 まりさはそれから、「あ゛、あ゛」と言うだけの置物になってしまった。 「ばりざ......がんばって......」 ぱちゅりーが精神を保っていられるのは、これが催眠術である、と知っているからだった。 絶対に、あんな男には屈しない。あの男からは、あの強欲なおじさんとそっくりな臭いがする。負けてなるものか。 しかし催眠術を解かれたとしても、素直に放してくれるはずがないとも分かっていた。 間違いなく殺される。だがもういい。心残りはない。 ......いや、1つだけあるとすれば、群れに残してきた子どもや赤ちゃん達だった。 ぱちゅりーの家の中で全員で待機していたのだが、家には食糧の貯蓄はほとんど無かったはずだ。 方々の家から取ってきたとしても、一週間も持つまい。 子ゆっくりの中には狩りができる者も数匹いたが、自分の分が満足に取れるかも怪しい。 ましてや、たくさんの赤ゆっくりを食べさせるほどの食料は取れるはずがない。 想像したくないことだが、阿鼻叫喚のさなかで共食い劇を演じた可能性もある。 その前にれみりゃに襲われたかもしれない。どちらにしろ、全滅は間違いなかった。 ごめんなさい、みんな。ぱちぇをゆるして。 「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」 まりさは、たまに絶叫をあげるときもあった。根が新たに皮を突き破ったときだ。 「む、むぎゅう゛う゛う゛っ!」 それはぱちゅりーも同じだった。根は1日に1回は、新たな穴を開けた。 「はーい、オレンジジュースですよー。 ......しかしお前らすごいな。もう10本くらい飛び出てるぞ」 オレンジジュースをかけられた貫通部分は、根を飛び出させたまま塞がる。 根の中腹を、復元する皮が隙間無く握り込むのだ。 そして次の日、その根はまた伸びて、塞いだ場所をまた引きちぎる。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 「むきゅう゛う゛う゛う゛!!」 開いた傷口から生クリームが噴き出す。体の十箇所から噴き出す。 しかし一日の終わりには修復される。また、その日新たに根が飛び出した場所が作られる。 日に日に、血が噴き出す箇所が、増えていく。 きっと今の2人の姿は、見るもおぞましい化け物の姿だろう。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! だずげで、だずげでおにーざあ゛あぁん!!」 幸い、まりさの残った方の片目と、ぱちゅりーの両目が飛び出すことはなかったが。 「む、ぎゅうぅ......」 負けない。これは催眠術なんだ。 おかーさんが言ってた。人間は独り占めする生き物。 おやさいさんは、つちさんからかってにはえてくるのよ。ぱちぇのあたまから、はえてくるわけないの。 「おつかれさん。約束の日だ」 ぱちゅりーは、そう言われても何のことだか分からなかった。 オレンジジュースをかけられた直後でも辛い。 何もしなくても押しつぶされてしまいそうなほどに、今のぱちゅりーの頭は重かった。 「面白い物を見せてやるって言ってただろ? これだよ」 男は、大きなカゴを持ってきていた。成体ゆっくりが3人は入りそうな、木で編まれたバスケット。 「お前らも見たことあるはずだぞ。ほら――」 地面に置いたカゴに両手を入れ、引き出す。 「――おさ、やっぱりれいむたちがまちがってたよ」 れいむだった。 群れに置いてきたはずの子ゆっくり。今はもう野垂れ死んでいるはずの、子れいむ。 確か、頭に茎を生やしていたれいむの妹...... ぱちゅりーは、頭を思いっきり殴られた気分だった。 「むぎゅうう!! どぼじでえ゛え゛えぇ!!」 男がぺらぺらと喋り始めた。 「いやぁ、驚いたね。お前らが襲ってきたときから一週間くらい経って、 そういえば残してきた子ゆや赤ゆはどうしてるかなあ、生きてたら潰してきた方がいいかなあ、と思ってさ。 群れに着いてみたら、ボロボロの子れいむが口に水含んでよたよた歩いてた。 何してんだって聞いたら、お野菜さんを育てるって。一本だけ、小さな芽が生えてたんだよ。 いや、本当に驚いたわ。土もちゃんと柔らかくしてあったし。野菜の育て方を知ってた。 そこで俺は急いで帰って、救急道具を持ってとんぼがえりして......」 うそよ。 うそようそようそよ。 ありえない。ありえない。ありえない。 「......でさ、まだぱちゅりーは生きてるよって言ったら、ぜひ会いたいって言いだして」 男は次々にカゴの中に手を入れ、引き出す。 その度に1人ずつ、群れの子ども達が出てきた。 子まりさ、子ありす、子ちぇん、赤れいむ、赤ちぇん、赤みょん―― 「たねさんからおやさいさんがはえてきたよ! とってもおいしかったよ!」 「つちさんをたがやして、おみずさんをあげれば、ゆっくりそだったわ!」 「おさがうそをついてたんだねー! わかるよー!」 「おかーしゃんも、おとーしゃんも、おしゃのせいでゆっくちできにゃくなったんだよ!」 「ゆげぇ、おしゃ、きもちわりゅいよー......でも、じごうじとくにゃんだよー! わかっちぇねー!」 「ちち、ちんぽっ!」 赤みょんがぱちゅりーに向かって跳ねてくる。ぱちゅりーの頬に体当たりした。 普通ならなんてことない攻撃。でも、今のぱちゅりーには身体の芯まで響いた。 「むぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」 「みょん、だめだよ。もどってきてね」 子れいむがみょんを諭し、落ち着いた口調で話し始めた。 「あのよる、おねーちゃんはまよってたよ......おさか、おにいさんか、どっちがただしいのか。 あのときのおさはおかしかったよ。ぜんぜん、ゆっくりかんがえてなかったよ。 そして、ただしいのはおにいさんのほうだったよ」 うそ......よ。 れいむが......こんな、こと......いうはず......ないもの...... 「れ、れいぶ......」 隣で、まりさのかすれた声がした。 「ほがの......おちびちゃんたちは......どうじたんだぜ......?」 そうだ。子ゆっくりや赤ゆっくりはもっとたくさんいたはず―― 「――みんな、ずっとゆっくりできなくなったよ......!」 子れいむが、絞り出すように答えた。 その言葉は、ぱちゅりーを真っ直ぐ貫いた。 「うがあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!!」 狂ったように大きな絶叫が響き渡った。 「ぜんぶ、ぜんぶおざのぜいだあ゛あ゛あ゛っ! おざのぜいで、でいぶも、みんだも、ゆっぐりできなくなっだんだぜえ゛ぇっ!」 「あーあ。れいむ、みんな一旦出た方がいいな」 「じね゛え゛え゛えぇぇっ! じね゛え゛え゛えぇぇっ! なにがざいみんじゅづだぜえ゛ぇ゛ぇぇ!」 まりさもぱちゅりーも、動けない。 しかし、一方的に右半身に叩きつけられる悪意がビンビンと伝わってくる。 「じね゛え゛え゛えぇぇっ! じねえ゛え゛えぇぇっ! うそづぎばづりーはざっざとじね゛え゛ぇぇ!」 いや、まりさは動いていた。 必死に右の方向に向けた目が捉える。 足を固定されているのもかかわらず、全身を根に押さえつけられているのもかかわらず、 ぱちゅりーの方へ向かってこようとするまりさ。 「じね゛え゛ぇぇっ......! じね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ......!」 体を強引に揺らすまりさは、こちらに倒れ込むようにしてぐちゃぐちゃに崩れていった。 その姿は、踏みつぶされたおとーさんそっくりだった。 「ばづりー......じ......ね......」 ぱちゅりーの頭に、何かがバサリと落ちてきた。 まりさの頭に生えていた、お野菜さんの苗だった。 両目の間でぶらんぶらんと揺れる物がある。 ずっと昔に見たことがある、赤い実だった。 男が近づいてきて、その実をもいだ。 「......このまりさは、とことんゲスだったな」 半開きのぱちゅりーの口に、実を挟んだ指が突っ込まれた。 舌の上に、瑞々しい果汁がしたたる。 久方ぶりに味わった。 ゆっくりできるけど、ゆっくりできない、“ほんとうの”おやさいさんのあじだった。 「む゛ぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う」 「ちなみに、俺は何も嘘はついてないぞ? みんな実話だ。 俺が群れに着いたときも、あの7匹しか生き残りはいなかった」 「......」 「あいつらは、あの子れいむがいる限り大丈夫だ。あいつ、ゆっくりにあるまじき頭の良さだぞ。 それこそ、お前とは比較にならないほどのな」 「......」 「まあ、それでも7匹じゃ群れとしてやっていくのはむずかしいしな......いざとなれば、保護も考えてる」 「......」 「あの、頭に茎生やしたれいむも悩んでたみたいだし。そうとは知らずに、決めつけてやっちまったけど。 ......罪滅ぼしという意味でも、あいつらを助けていこうと思う」 「......」 「じゃあな、ぱちゅりー。今まで引き止めて悪かったな。最後まで、ゆっくりしていけよ」 もはや痛みは感じない。ただ、体が重い。 全身から生クリームが噴き出し始めても、男はオレンジジュースを掛けに来てくれなかった。 もし。 もしもよ。 これが、ほんとうにさいみんじゅつだったら。 ぜんぶがぜんぶ、もうどこからなのかわからないくらいから、さいみんじゅつだったら。 そのなかでしんだら、どうなるのかしら。 生クリームを全て噴き出すまで、ぱちゅりーはそんなことを考えていた。 あとがき 長編は実力が出ますねえ......もっと精進します。 最後まで見てくださった方、本当にありがとうございました。 過去作品 ゆっくりバルーンオブジェ 暗闇の誕生 ゆっくりアスパラかかし 掃除機 ゆっくり真空パック このSSに感想をつける
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ポン 『Am Tag des Regens im Mai~子犬とワルツをベルリンで』 1945年4月、南下するソ連軍にくわえ連合軍のノルマンディ上陸を許したドイツ軍は次第に劣勢に追い込まれ、 首都ベルリンまでソ連軍が迫った今、ドイツ降伏は時間の問題となっていた。 1945年4月29日午後9時 ドイツ第三帝国首都 ベルリン 天気・曇り よどんだ曇り空が落ちる中、ドイツ第三帝国の首都であるベルリンはかつての優雅な街並みをどこかに置き去りにしてきたように、 瓦礫に包まれたゴーストタウンと化しつつあった。 「おい、ハンス」 廃墟と化した地下鉄駅の階段にしゃがれた声が響く。ハンス=カウフマン兵長が振り向くと、そこにはハンスと同じ陸軍の制服を着た壮年の男が立っていた。 「ほら、コーヒーだ」そういって男は熱いコーヒーの入ったブリキのカップを階段の途中に置く。 「ありがとうございます、クラウス軍曹」 そのままヨゼフ=クラウス軍曹はハンスの横にどっかりと腰を下ろした。とても徴兵によって引っ張られてきたとは思えない、軍人のような がっしりとした体が顔をのぞかせた。 実際に先の大戦でアルデンヌの前線を潜り抜けてきたという話もあるが、本人曰く『生き残ったって言うより前線出て3日で毒ガスでやられて、 そのまま終戦まで野戦病院たらい回しだった』らしい。 「…………さっき偵察機が見たらしいが、次の戦闘で久しぶりにコミー共が地雷犬を出してくると」 「……そうですか」ハンスの顔に陰りが見える。 地雷犬。それは全ての意味で最悪の兵器だった。獣人に爆弾を括り付けて戦車に突撃させ、敵戦車と共に敵の士気さえもいっぺんに殺ぐ兵器。 「ハンス……地雷犬が出るってコトはお前の出番ってことだ」 「そう言われてもあまりいい気分はしないですね」 「戦場なんてそんなもんだ」 クラウス曹長は階段の中ほどに放置されたハンスの武器、もう一つの最悪の兵器―――火炎放射器を見た。 長年使い込んだ事でタンクがところどころかすれ、放射口の先端が欠けて無くなりかけており、それはこの火炎放射器とハンスの戦歴を物語っていた。 「いつ終わるんでしょうかね、この戦争」 もう夜も深いと言うのに、あちこちで舞い上がった炎のせいでベルリンは煌々としていた。 1945年4月29日午後9時 ソヴィエト軍ベルリン侵攻前線基地 天気・雨 「ふむ……向こうの大隊はよくやっているようだな」雨音の中即席で作られた見張りやぐらの上で、アレイシア=ライカ中尉は双眼鏡から眼を離した。 ベルリン陥落は時間の問題。とでも力強く物語るようにベルリンからは行く筋もの炎が舞い上がり、それは20km以上も離れたここからでも確認できるほどだった。 「これでは、要請した増援もあまり必要がないな」彼女は先日、先行の部隊がドイツ軍戦車隊の抵抗が激しいと言うので本国に要請していた増援のこと を思い出していた。 だが、抵抗も徐々に規模が小さくなってきている。ここまでくれば陥落はすぐに……それこそあと一週間、そのくらいで落ちるだろう。 そう思いながらライカ中尉はキャンバス地が張られた見張りやぐらを降り、自分の天蓋へと戻る。途中、雨が激しくなってきたので軍帽を深く被りなおした。 と、やっつけ作業で作られた掘っ立て小屋のような格納庫の前を通ったときだった。 「中尉~」 雨に混じって聞こえた小鳥のような声にライカ中尉は振り返る。 そこには、犬の獣人である少女が色の薄い金髪とボロ布のようなシャツを雨に濡らし、ずぶ濡れの状態で立っていた。 「こんばんわ」 「こんなとこで何やってる?Z-09」 Z-09と呼ばれた犬耳の少女は、にはは。と可愛らしく笑う。 「雨が気持ちよかったんで外でたんですよ」 それを聞いてライカ中尉は呆れた、とばかりにため息をつく。 「風邪を引くからすぐに宿舎に戻れ」 「ダイジョウブですよ」 まあ、いいか。と中尉は再び足を進める。 その後ろでぴちゃぴちゃと雨の中で遊ぶ音がいつまでも響いていた。 ベルリンへの総攻撃は明日、それまでには雨も止んでいるといい。と考えながら、ライカ中尉は帽子をはずした。 そこには、Z-09と同じ犬耳があった。 あのバカ娘のせいだ。と思いつつ、何故かすがすがしい気持ちになっていたのは、久々に雨に打たれたからだろう。自分でも気づかないうちに 鼻歌を歌いながらライカ中尉は基地内を歩いていった。 1945年4月30日午前11時 ドイツ第三帝国首都 ベルリン 天気・雨 前日の夜から振り出した雨に、重い火炎放射器を装備したハンスはうたれていた。 目の前には昨日より腫れぼったく思える灰色の瓦礫と空家が並ぶ通りの真ん中、地下鉄駅の残骸の脇にひと筋の希望とでも言うべきくたびれた鉄の巨獣が腰を下ろしている。 Ⅳ号戦車J型。どこかの戦車小隊が逃亡した際に捨てていったドイツ陸軍の主力戦車だ。 さすがにKVシリーズ(ソヴィエト軍の重戦車)は無理だが、T-34(同軍の主力中戦車)程度や軽装甲車。それに歩兵なら簡単に撃破できる。 ハンスはこれを地雷犬から守るために、戦車の前で地雷犬を追い払う役だ。本当なら歩兵用の火炎放射器などではなく、戦車に車載型の火炎放射器を積む所なのだが あいにく劣勢も劣勢のドイツ軍にそんな余裕はない。 雨のせいか、いつも立ち昇っている埃と煙の匂いが、この日だけはなりを潜めていた。 「ハンス兵長。やっこさん、来たぞ」戦車の砲手が声を上げた。 「そうですか」ハンスは火炎放射器を構える。 ここにベルリンを巡る最後の戦いの、一つの戦闘がここに幕を開けた。 瓦礫まみれになった通りの奥から、ソヴィエト軍が突撃してくる。 その数は目測で60人ほど。戦車や装甲車は無く、先頭に爆弾の入ったチョッキを来た犬の獣人―――地雷犬、その後ろにバラライカ(PPshマシンピストル)を持った歩兵。 「弾種榴弾、距離500、フォイエル(発射)!」 砲手が軍勢の真ん中に照準を合わせてそう叫んだ次の瞬間、轟音と爆風と共に戦車の砲弾が発射され、軍勢の真ん中に榴弾が打ち込まれ、多くの兵士や地雷犬がその破片で吹き飛ぶ。 だが、奴らは突撃をやめない。 「第二弾、フォイエル(発射)!」 再び轟音と爆風が通りに広がり渡り、何人もの兵や地雷犬が吹き飛ぶ。 さらに通りの廃墟と化した建物群の窓々や陰から機関銃やマシンピストルの乾いた断続的な銃声が響きだし、やはり多数の肉片が飛び散った。 そのうち、戦車に恐れをなした兵士達は前進を躊躇い後退、もしくは躊躇の隙を突かれて射殺されるが、それでも地雷犬の突撃は止まらず、いつの間にか彼女達は戦車の近くまで迫っている。 着火装置に手をかける。途端、放射口から炎が小さく噴出した。 「アーメン……」 そう小さく呟くとハンスは放射口を彼女たちに向け、引鉄を引く。 次の瞬間、放射口からは暴力的なまでに紅く、猛った炎が放射され、地雷犬の群れを焼いていった。 燃料が正規のゲル化ガソリンではなく重油カスのため粘性が低いが、すぐに消えないことは同じであり、 彼女たちのチョッキや皮膚の上で轟々と踊り狂う炎は彼女たちの体を焼き、生きるための酸素を奪ってゆく。 さらにはチョッキの中の爆薬に引火し、爆発が後続の地雷犬の命すらも奪ってゆく。 振り続く雨も重油によって燃え盛る炎をすぐに消せるほどの力はなく、ただ地雷犬の悲鳴を和らげて行くだけだった。 その炎の暴力の中でハンスは一人、慣れた手付きで次から次へと地雷犬を焼き払っていった。 幾度も悪あがきのように前から飛んでくるバラライカの弾丸が体をかすめたが、弾丸の有効射程外から撃たれたトカレフ弾で引火するほど火炎放射器はやわではないし、 戦車を盾に取ればそれほど怖くもない。 それどころか逆に地雷犬たちは暴炎に恐れをなして逃げてゆき、隠蔽された機関銃に次々と撃たれ、爆発に巻き込まれながら一匹、また一匹と果てていった。 だが…… 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 一匹の地雷犬がしなやかな動きで火炎の帯をくぐり抜け、ハンスの間近へと迫っていった。 「畜生!」ハンスは火炎放射器を素早くその地雷犬に向け、引鉄を引く。放たれた炎は地雷犬に届いたと同時に燃料が表皮に染み込み、彼女の白い肌の上で舞い踊る。 「ぁぁぁぁぁっ!」 しかし、彼女はそれでも前進を止めなかった。 それどころか、炎をもろともせずにその地雷犬はハンスに飛びついた。 「……ッ!」 ハンスは引鉄を引こうとしたが、その間も無く地雷犬に大きくつき飛ばされ、ぽっかりと口をあけた地下鉄駅の残骸の中へと落ちてゆく。 そのまま幾度も壁や床に叩きつけられ、激痛のせいで薄れゆく意識の中でハンスは雨の感触と何かが爆発する音と、それ以外の轟音を聞いたのだった。 1945年 月 日午後 時 ドイツ第三帝国首都ベルリン 天気 曇り 気づいたのはいつ頃だろうか。轟々と響く音の中でハンスは自分の体の存在を確かめると、けだるい体をゆっくりと起こす。 目覚めたそこは見渡す限りの暗闇だった。 「ここは……」 ハンスは自分の記憶を必死に呼び起こす。 そうだ、俺は地雷犬を焼き払っていて、その途中でつき飛ばされて……。待て、地雷犬を焼き払っていた?という事は…… (そうだ、こいつがあったじゃないか) ハンスは自分の身の回りをごそごそとまさぐり、近くに転がっていた火炎放射器の機関部を掴んで引鉄を軽く引く。だが…… 「壊れてる……」 あれだけ叩きつけられれば当たり前と言えば当たり前だろう。引鉄はいくら引いても反応しなかった。 ハンスは火炎放射器の機関部から手を離す。 (……そうだ) ハンスは軍服のポケットの中を探り、手にひんやりとした感触を感じると、それをポケットから出した。 チン。と軽い金属音を立てて蓋をあけると、数回ほど中の火打石を擦る。たちまち擦り跡だらけのオイルライターを中心に光が発生した。 正直、廃墟の中から取ってきたライターこんなところで役に立つとは思わなかった。 光はあたりの壁や床を映し出し、それでハンスはここがすぐにどこなのか判断できた。 「地下鉄の駅か……?」 見まごう事なくそこはベルリン地下鉄の駅の構内だった。 おそらく突き飛ばされた時に戦車の脇にあったあの出入り口に落ちたんだろう。そう考えるとハンスは火炎放射器を下ろして、階段の方向へ歩いてゆく。 もはや火がつかない以上、こんなもの重石にしかならない。 何時間ほど伸びていたかはわからないが、さっさとここを出てもう一度小隊と合流しなければ。 もたもたしてコミーに捕まればシベリア送りは確実だ。 ハンスは足早に階段を上がってゆく。が、 「嘘だろ……」 自分が転げ落ちてきた階段は、大量の瓦礫で埋もれていた。 破片一つ一つの大きさが大きいために隙間はあることにはあるのだが、赤ん坊でなければこんな隙間通れやしない。もちろんハンスなど論外だ。 (待て、こっちの階段が使えないって事は……) そう。もう片方の階段は一週間前の空襲で崩落しており、この駅の出口は全て塞がっている。 その上地下鉄内を無闇に移動すればソ連兵に見つかってしまう。火炎放射器が壊れた今、ハンスは武器と言える武器は何も持っていない。 つまりハンスは事実上、この地下鉄駅に閉じ込められたわけだ。 「…………ぁ……」 轟々と響く雨音に混じって、かすかな声が暗い構内に反響する。 ハンスはその声に気づくと、素早くライターを左右に振って、周りを確かめた。 声の主はすぐに見つかった。 犬の獣人の少女が崩れた階段からそう離れていないコンクリートの床の上に転がっていた。 色の薄い金髪と垂れた耳は雨でじっとりと濡れており、白い肌のあちこちに酷い火傷と擦り傷がある。 「さっきの地雷犬……か?」 爆薬入りのチョッキの残骸であろう焼け焦げた粗悪な布地があたりにちらほらと散らばっている。 (俺を突き飛ばした時に一緒に落ちたんだろうな……) ハンスは警戒しながら少女に近づく。ひゅー、ひゅー、と小さく呼吸する少女の顔には、生々しい火傷の跡が刻まれており、 途端にハンスの中で罪悪感が生まれてしまう。 (……ごめんな) ハンスは上着を脱いで少女の体にかぶせると、顔をあげて崩れた階段を眺め始めた。 瓦礫の隙間からのぞく空は、先ほどとなんら変わり無い、よどんだ空だった。 「…………ん」 朝なのに目の前が暗い。 雨の音が聞こえる。 体が重く、だるい。 「あ、気づいたか」聞いた事のない、男の人の声がする。 そして、私は目をあけた。 少女が目を覚ましたのは、彼女が見つけられてからいくらか経った頃だった。 「……ここ、どこ?」 近くでひっくり返ったナチスのヘルメットの中から炎がちろちろと揺れており、その明りが周りの様子を照らしてゆく。 「地下鉄の廃駅だよ」 そう言った声の主は、炎のそばで大きめの木箱に腰掛けている。角度の問題で顔は見れなかったが、先程の声と同じ人間だ。 その時彼女は、自分の上に毛布ではない何かがかぶせれている事に気づいた。 「これ……ナチスの軍服」 「ん、ああ。それは俺のな」 そう言って、こっちを向いた男の顔は…… 「あ……ああ」 自分の同胞達を燃やしていった、あのナチスの兵隊。 「うああああああああああああああっ!」 兵隊―――ハンスにとっては案の定。と言った所か、少女は叫びながら立ち上がると先ほどのように獣人の強い脚力で自分の首元へと迫っていた。 (予想はしてたよ……) 見つけた時に殺せばこんな事は無かったはずだ。だがそれでも殺さなかったのは―――いや、殺したくなかったのは、ひとえにハンス自身のの出来心だった。 鋭い爪を持つ右手は、ハンスの首元数センチのところでふるふると震えながら止まる。 少女の顔には涙が幾筋もの軌道を描き、歯をかみ締め、体を震わしながらハンスをじっと睨んでいる。 対するハンスは、覚悟と後悔の入り混じった顔で少女を見つめる。火炎放射器を失ったハンスに武器は無く、もしあってもここまで近寄られたら使用は不可能だろう。 そのまま、二人の間に数分ほど膠着状態が続いた。 「どうして……」先に口を開いたのは少女だった。「どうして何もしないの……?」 意外とも思えたその問いに、ハンスは自嘲気味に口を開く。何故か殺される手前だと言うのに言葉はすらすらと出てきた。 「まず第一に君につき飛ばされた時に火炎放射器が壊れて、今俺は武器をもってない。それにこの間合いじゃ武器を持ってても使えない」 炎の揺らめきに合わせて、コンクリートの白い壁に二人の影が浮かび上がった。 「あと、君の火傷を見てて殺すのが嫌になった。すまん」 その時、少女はようやく自分の顔から腹部に駆けて、左半身に大きな火傷が出来ているのがわかったのだった。 少女はハンスの首元から手を下ろす。少女のその行為にハンスは驚きの表情を隠せなかった。 そして、代わりにハンスの腰あたりに少女の手が回ってきて、少女はそのままはんすをぐっと抱き寄せた。 「えぐ……ずるいよぉ……ぐす……ていこうしないと……ひっく……ころせないじゃない……ぐす」 ハンスは、ただそのまま動かなかった。 「やけどじゃなくて……うぐ……ちゃんところしてよぉ…………えぅ……ころしてよ……ていこうしてよぉ……」 少女の悲痛な叫びは、地下鉄駅の構内に幾重にも響いていった。 1945年4月30日午後7時 ドイツ第三帝国首都ベルリン 天気 曇り 「もう7時か……」ハンスは盤面のガラスがひび割れた腕時計を見る。普段なら廃墟の中で戦友達と粗末な飯を食っている最中だろう。 だが、何の因果か。自分はコミー共の地雷犬と地下鉄駅に閉じ込められているのだ。 幸いこの地区から人が出ていくまで防空壕として使われていたのか、水や食料のストックはぎりぎり2人で5日分ほどあったのが救いだったが、それまでの間に救助が来るかは不明だ。 それに地下鉄の路線を通ってきたコミーに出くわせば、5日もしない内に死んでしまう。 「うう……いたいよぉ」応急処置のため包帯まみれの犬耳少女は、包帯の上から火傷を押さえる。もちろんそんな事しても意味は無い事はわかっているようだ。 先ほど取り乱していたのが嘘のように彼女は落ち着いて、だがハンスには近づこうとしないで、距離をとったままである。 「そういや、まだ名前聞いてなかったな」ハンスは少しでも気を紛らわそうと口を開く。双方軍人、しかも少女にとっては同胞の仇と言えど人間と獣人、 結局は孤独には勝てないのだ。 もはやハンスは割り切って彼女と接するようにしていた。 実際の所、火炎放射器がないせいなのかもしれないが。 「…………人の名前を訊く時はまず自分からですよ」 少女はぼそりとに呟く。 「そうだよな」ハンスはヘルメットの中で揺らめく炎を眺めながら口を開いた。「俺はハンス=カウフマン兵長、24歳だ。」 少女はハンスの軍服のすそを握り締めながら、ハンスから目をそらして呟いた。 「Z-09(ズィー・ナイン)…………」 「……本名は?」 「無い」少女はきっぱりと言い切った。 「そう……」ハンスは木箱の中に入っていた黴の生えかけたチーズを炎で炙って、欠片を口へ投げ込む。保存状態が悪かったにしては味は結構いけた。 「ノイン、喰え」ハンスはナイフに刺したチーズを少女へ差し出す。 少女は最初、誰の事だかわからずにきょろきょろと辺りを見回したが、この閉鎖空間の中には自分たち以外だれもいない。 そして、少女はすぐにそれが自分の事だと気がついた。 「……今のは?」 「ん……ああ、君の名前。Z-09(ツェット・ノイン)でノイン。かなり適当だけど」 そう言うハンスの苦笑を見て、少女―――ノインはここにいるハンスは、火炎放射器で同胞を焼き払ったハンスじゃないと感じた。 火炎放射器も、ヘルメットも、軍服も無く、苦笑する横顔を見てハンスに感じていた恐怖感はいつの間にか消えていた。 ノインはそれを聞くと、ハンスからナイフを受け取って、ささったチーズをかじった。 黴を何とかする為に必要以上に炙ったせいで半ばスモークと化していたが、ノインには久しぶりに口にする食事であったため、かなり美味しかった。 たぶん、美味しく感じられたのにはもう一つ理由があるのだろうが。 「あの、ハンス……兵長?」 「階級は言わなくていいよ。」 「ここから……出られないんですか?」ノインはか細く呟く。 「……二つある出入り口の一つがこの前の空襲で潰れた。もう一つの出入り口は……」 「さっき、戦車が爆発したときに一緒に崩れた瓦礫で……」 ノインの言葉にハンスはやっぱりな、とうなずいた。 「それに地下鉄の路線をたどっていっても、ソ連兵に見つかったら殺される。たとえノイン、お前がいてもだ」 現在の赤軍の規律は無いに等しい、それはノインも痛感していた。 もしソ連兵に見つかれば、たとえハンスが捕虜でも、ノインがソ連兵でもだ。彼らは容赦なくハンスを撃ち殺し、ノインに乱暴を振るうだろう。 「……この瓦礫を片付けるか、戦争が終わるかすれば、きっと出れるさ」 「じゃあ、それまでは……」 ハンスは一息ついて、言う。 「当分ここで二人っきりだな」 「……そうですか」 ノインの声は沈んでいた。 1945年5月1日午前9時 ドイツ第三帝国首都ベルリン 天気 雨 二日前からのぐずついた天気は変わらず、外ではまた雨が振り出したようだ。 俺達がここに閉じ込められてはや一日になる。その間、ドイツ軍の救援は一向に来ない。 いや。外を闊歩するソ連兵の声からして、この一角はきっとソ連軍の手に落ちたのだろう。 「……やっぱり、ここの瓦礫を崩せば簡単に外に出れる」 ハンスは瓦礫の山となった階段の一部から雨音がよく聞こえる場所があるのをつい先ほど発見し、おそらく兵隊が捨てていったのであろう中身の無い缶詰の缶で瓦礫を掻き分けていた。 「出れるんですか……?」ノインはかすかな希望を捨てたくない。と少々弾んだ声でハンスに訊く。 だがハンスは大きめの瓦礫をよかすとその手を止め、代わりに口を開いた。 「たぶん出られるとは思うが……、問題は出たあとだ。出てきた所をコミーに囲まれたら……」 ノインは沈んだ声で「そうですよね……」と呟いた。 ヘルメットの中で揺らめく小さな炎と、雲にさえぎられた陽光が瓦礫越しに射す暗い地下鉄駅の廃墟に、二人分の重い沈黙が数分以上横たわった。 その間にも雨音と銃声は幾度もコンクリートの壁に残響する。 「あの」先に口を開いたのはノインだった「ハンスさん、どうして私を生かしておいたんですか?」 「……昨日話しただろ」コンクリートの壁によりかかったハンスは大きなため息をついた。 「あの時は取り乱してましたし……」 ハンスは再び大きなため息をついて、淡々と話を始めた。 「…………何度も言うけど、まずあの時俺は君を殺せる武器を持ってなかった。火炎放射器は落ちたときにボコボコになってパアだし、拳銃は普段から持ってない。もちろん素手じゃ勝てない。 それに、火傷見ててこれ以上何かする気も無くなっていたし、君を殺してまで意地汚く生きるつもりも無かった」 「……優しいんですね」 「……でもその火傷は―――」 「でも、殺さなかった。それだけでも十分優しいです」 ノインの言葉に、ハンスはただただ沈黙するしかなかった。 雨音と砲声、そして二人の細い吐息だけがまた薄暗い地下を支配する。 ヘルメットの中で燃える光も、この国の行く末を案じるかのように、だんだんとその勢いを失いつつあった。 何分立ったろうか、再び沈黙を破ったのはノインの声だった。 「……ハンスさんは、この戦争が終わったらどうするんですか?」 少しの沈黙の後、ハンスはゆっくりと口を開く。 「母さんの手紙には実家はジョンブルに焼かれたって言うし、家族は一家でスイスに逃げたって言うし……。まぁ、適当にどこかで暮らしていくよ……」 「スイスに行かないんですか?」 「どこに住んでるのかもわからないんじゃ行くだけ無駄だ」ハンスはそのまま床に寝転がると、一息置いて「そう言うお前はどうなんだ?」と訊いた。 「……お嫁さん」ノインは今にも消えそうな声で呟く。あまりにもここには場違いなその一言にハンスは思わず笑ってしまった。 「笑わないで下さい! いいじゃないですか、女の子なんですから!」 「いや……ごめんごめん」口をへの字に曲げるノインをハンスがなだめる。「でもいろいろ可愛かったから、つい……」 「……可愛い……ですか……」いつの間にかノインはへの字に曲げていた口を元に戻していた。「本当……ですか?」 「ああ。めちゃくちゃ可愛い。なんで火炎放射器使ったんだろってくらい可愛い。」 「……そうですか」 炎はパタパタと揺れるノインの尻尾をコンクリートの壁に映して、燃えていた。 1945年5月1日午前11時 ドイツ第三帝国首都ベルリン 天気 雨 小ぶりだが弱まる気配のない雨は、炎を孕み続けるベルリンの街を潤していた。 戦車を失くし、市街地から逃げるように―――いや、逃げに逃げてきたクラウスは仲間とはぐれ、一人雑貨店の中に身を潜めていた。 「どうする……コミーに手を上げるか?それとも……」カウンターの裏で足を伸ばすクラウスは、横に立てかけられたモーゼル小銃を見る。 弾も数発ほど残っているので、いざとなれば銃口をくわえて自決することもできる。 どうせ捕まってもシベリア送りは避けられないはずだ。それに意地汚く生きる気もない。 「まさか、自分でモーゼルの弾くらって死ぬとはな……」 前の戦争の、塹壕でジョンブルを撃っていた時には、そんなこと思いもしなかっただろう。 クラウスはモーゼルに手を伸ばし、銃のボルトを引く。そして銃口を自分の方向へ向けた瞬間。 「ドイツ兵諸君! 出てきたまえ!」流暢なドイツ語で誰かが叫ぶ。ショーケースから少し顔を上げて通りを見ると、そこにはソ連兵とソ連軍の将校が立っていた。 どうやらここら一体に立てこもっているドイツ兵に呼びかけているらしく、まだこちらには気づいてはいない。 「今すぐ武器を捨てて投降しろ!」士官のだみ声はさっさと出てこいと言うが、出てくるやついなどいるはずもない。 「新任の尉官か……道連れにはちょうどいい」 そう言うとクラウスはモーゼルを構え、気づかれぬように塹壕戦の要領でショーケースから見を出すと、士官に照準を定めた。 照準内に士官の体を入れると、クラウスは撃鉄に指をかける。 そして士官の体ははね飛ばされ、雨に濡れた石畳の上に落ちた。 『少尉! 少尉!』店の外でロシア語で倒れた士官に兵士が呼びかけている。 「誰だよ……今撃ったのは」どさ。とクラウスは結局火を吹かなかったモーゼルを持ったままショーケースにもたれかかった。「誰だか知らんがご愁傷様だな。」 1945年5月1日午後9時 ドイツ第三帝国首都ベルリン 天気 曇り 雨はまだ振り続いているものの、少しづつ止んでは来ている。 「明日まで……持つか?」 横で子犬がすうすうと寝息を立てている横で、ハンスが呟いたのはヘルメットの中の重油のことだった。もはやヘルメットの中の炎は小さくなってきている。 拾ってきたライターもオイルは無限では無い。いずれはオイルが切れるだろうし、拾った物なのでそれがいつかすらわからない。 「たぶん大丈夫……だよな」そう考えるとハンスはヘルメットの中へ息を吹き込んだ。 このまま、明日は晴れればいい。晴れれば明かりをつけずにすむ。毛布にくるまったハンスは思った。 1945年5月2日午後2時 ドイツ第三帝国首都ベルリン 天気 曇り 「ん……」ハンスは不意に視界が明るくなったことに目を覚ます。 光の正体は、雲が無くなったためにその光を照らし続ける月だった。 「んー……いい月だ」これでピルスンビールと、黴の生えてないチーズさえあれば最高なのに。と考え、ハンスがそのまますぐに眠ろうとした瞬間。 ガタン ハンスは物音のした方向を見ると、そこには少女の姿の何かが立っていた。 (ノインがトイレでも行ってたのか?)そう思うとすぐに目を閉じる。 が、それが命取りだった。 「―――がはっ!」 突然ハンスの体は何かに圧し掛かられ、押さえつけられる。もちろんハンスも反撃しようとするが、相手の力のほうが強いためかすぐにねじ伏せられる。 ハンスが再び目を開けると、上を向いたハンスの目線の先にはノインがいた。 ――――いや、正確には『ノインの姿をした誰か』だった。 月明かりに写るそれの両目はノインのアイスブルーではなく血のような紅。 「ハンスさん、起きましたか?」それはノインの声でハンスに語りかけた。 「がっ……くっ……」俺は必死の抵抗を試みるが、やはり無駄のようだった。 「暴れないでくださいよ。私ですよ、ノインですよ」それはノインそっくりの笑みを浮かべる。だが、その両手はハンスの両腕を押さえつけて逃そうとしない。 それは彼女の顔の左半分を覆う包帯を取り去り、膿のわきはじめた火傷跡をあらわにし、ハンスの右手をそこに導いた。 「この火傷の責任……とって貰いたいんです……」 殺される。ハンスは本能的にそう思った。 が、その手を振り払いはしなかった。 したくても力負けしていたのもあるが、殺される。と叫んでいる頭の別のところで、大丈夫だ。と言っている。 その頭の声に従っただけだ。 「…………本当に優しいんですね。ハンスさん」 それ―――ノインは顔をハンスの顔に近づける。 そして、直後ハンスの腹の辺りを鈍痛が襲った。 「じゃ、ちょっとの間おやすみなさい。ハンスさん」 薄れゆく意識の中で、ノインの声が彼方から聞こえてきた。 後半
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注意 現代モノです。 俺設定があります。 善良なゆっくりがゆっくりできない目に逢います。 赤ぱちゅりーはとある森の中で産声を上げた。 ハンサムで逞しい父まりさと優しく物知りな母ぱちゅりーの間に生まれた赤ゆっくりであった。 胎生妊娠で産まれた一人っ子で姉妹はいなかったが、その分両親の愛を一身に受けて恵まれた生活を送っていた。 父まりさは狩りの腕に優れ、いつも山ほどのお花さんや虫さんを巣に運び入れてくれる。 家族団欒の一時にはよく子ゆっくり時代の武勇伝を聞かせてくれた。 博識な母ぱちゅりーは、ゆっくりとした生活の合間に豊富な知識を披露してくれる。 自分達ゆっくりのこと、捕食種のこと、この森のこと、そして人間のこと。 野生の一ゆっくりとして生きるのに必要十分な知識を遥かに上回る情報量を赤ぱちゅりーに惜しげもなく与えてくれた。 赤ぱちゅりーにはよく分からなかったが、父まりさも母ぱちゅりーもかつては人間と一緒に暮らしていたらしい。 母ぱちゅりーは血統書付の優良個体で、ペットショップで過ごした子ゆっくり時代には既に銀バッジを取得していた。 もしも飼い主にやる気があったなら金バッジ取得も夢ではなかったかもしれない。 父まりさは元々は街に住む野良だった。 その毎日は決してゆっくりとはできなかったけれど血湧き肉踊るような冒険の日々は充実していた。 人家の玄関で昼寝していた犬さんの食べ物を命からがら掠め取って来たり、 襲ってきた野良れみりゃを撃退した時の興奮などは鮮明に記憶に残っている。 そんなある日、街で飼い主とお散歩していた母ぱちゅりーと偶然出合ったのだった。 一目見た瞬間にお互い惹かれ合い、二匹はすぐさますーりすーりを始めた。 当然飼い主から追い払われそうになった父まりさだが、生粋の野良ながらも なかなかの美まりさであったことが幸いして母ぱちゅりーの飼い主のお家に招待されることになった。 そして、翌日には飼いゆっくりの登録とともに銅バッジも取得し、 その後は母ぱちゅりーと一緒にゆっくりとした日々を送っていた。 だが、ある朝目が覚めると二匹は森の中にいた。飼い主の姿はどこにも見当たらない。 いくら名前を呼んでも返ってくるのは自分達の木霊だけだった。何が起こったのか全く理解できない。 しかし母ぱちゅりーはこれまで得た知識から、そして父まりさは本能的に、自分達は捨てられたのだと悟った。 それから程なくして二匹はこの森で生きていく覚悟を決めた。 温室育ちの母ぱちゅりーはもちろん、元野良の父まりさにとっても森は街とは勝手が違う。 だが、二匹は手近な木のうろに巣を構えると、力を合わせて少しずつ堅実に食べ物を蓄えていき、 巣も拡張して、ついには初の赤ゆっくりにも恵まれた。もしも母ぱちゅりーの蓄えた知識、 そして父まりさの培ったバイタリティがなければ初日で途方に暮れていたかもしれない。 「まりさとぱちゅりーのあかちゃんは、ほんとうにゆっくりできるあかちゃんだね」 「むきゅーん。もしもにんげんさんにかわれていたなら、きっとぎんばっじもらくしょうよ」 銀バッジ?赤ぱちゅりーにはそれも何のことだかサッパリ分からなかった。 分からなかったが……しかし何故かそれはとてもゆっくりできるモノのような気がした。 そう思ったから母ぱちゅりーに聞いてみた。 「みゃみゃ。ぎんばっじってぇ?」 「むきゅー。ぎんばっじはぎんばっじよ。がんばったゆっくりだけがもらえるくんしょうみたいなものよ」 「くんしょー?」 「そう、くんしょうよ。ままのおぼうしについてるこれよ。これがあればにんげんさんはゆっくりさせてくれるのよ」 母ぱちゅりーの帽子には銀色に輝く丸いものが付いていた。 通常、飼いゆっくりが捨てられる際はバッジを毟り取られるのだが、母ぱちゅりーたちの飼い主はそれを忘れていた。 「むきゅ。でも、ぱぱはぎんばっじついてないの?」 「ゆゆっ!ざんねんだけどまりさはしけんにおちたんだよ。どうのばっじはもってたけど……なくしちゃったよ……」 父まりさも捨てられた際は銅バッジが付いたままだった。しかし野生の環境は厳しい。 幾多の狩りの中でいつのまにか銅バッジはそれを付けた帽子の箇所ごと抉れてなくなっていた。 「むきゅー。しんぱいないわ、まりさ。いつかまたにんげんさんがむかえにきてくれたら、 こんどこそぎんばっじをとれるわ。ゆっくりしたまりさならきっとだいじょうぶよ」 「ゆゆ~……ありがとう~、ぱちゅりー」 すーりすり、すーりすり 仲良くすーりすーりする両親の姿は赤ぱちゅりーにはとてもゆっくりして見えた。 そんな両親の姿を眺めるのが赤ぱちゅりーの一番の幸せだった。 そして赤ぱちゅりーは母ぱちゅりーの帽子に鈍く光る銀のバッジからも目が離せなかった。 「むきゅ。ぎんばっじしゃんきゃあ。ぱちゅも、ぎんばっじしゃんほしぃなぁ」 そんなゆっくりした生活が数週間続き、赤ぱちゅりーは子ゆっくりに成長していた。 野生のゆっくりに銀バッジは無縁だ。しかし子ぱちゅりーにとってそんなことはどうでもよかった。 博学なぱちゅりー種としての本能からか銀バッジを取得すること自体がゆん生の目標になっていたのだ。 母ぱちゅりーはそんな我が子の情熱を喜んだ。 飼い主が戻ってきて連れ帰ってくれる保障なんてどこにもないが、それでも我が子の勤勉さが嬉しかった。 そして、このまま、ゆっくりしたゆっくりに育ってくれたならご褒美に自分の銀バッジを与えようと心に決めていた。 父まりさもまた子ぱちゅりーの頑張る姿が微笑ましかった。 曲がりなりにも銀バッジ取得試験に挑んだ身として、それが簡単なことでないのは分かっている。 それでも愛する母ぱちゅりーとの間に生まれた我が子ならばきっと成し遂げると信じていた。 父まりさは子ぱちゅりーの成長を支えるべく一層狩りに精を出すようになった。 そして冬篭りを控えたある日のこと。この一家の幸せは唐突に幕を下ろすことになる。 それはいつものように夕食後の団欒を終え、家族が眠りにつこうとしていたところだった。 「まま。きょうのおはなしはとってもきょうみぶかかったわ。 ぱちぇたちもにんげんしゃんをゆっくちさせちぇあげられりゅのね……」 「むきゅー。あしたもっとくわしくおしえてあげるわね。きょうはもうおねむにしましょう」 「ゆゆん。ゆっくりおやすみ……ゆゆっ?」 唐突に父まりさがビクッと顔を上げた。 「どうしたの?まりさ?」 「……なんだかゆっくりできないけはいがするよ……」 「むきゅ~?」 耳を澄ますと、すぐ近くからガサゴソという音がしている。 すると、ふいに巣の入り口のバリケードが一瞬にして取り払われた。 同時に昼のお外のような眩い光が巣の中を照らす。 「ゆっ!?」 「お、いたいた。おーい、いたぞ~。やっぱりこの木のうろには入ってやがったか」 「おっ!やっとかよ。今年はこっち側はハズレだったなぁ。崖向こうの斜面は大量だって話なのに」 「こっちは去年一昨年と派手にやりすぎて覚えられちまったのかもな」 人間の男の二人組だった。 「ゆー!ここはまりさたちのおうちだよ!」 「え~と、クズが一匹、成体が一匹と……子供が……一匹だけか」 「ゆっくりできないにんげんさんはゆっくりしないででていってね!!」 「少ないな。まぁいいや、空袋のままで帰ったらまたうるさいからな」 父まりさが体を膨らませて威嚇するが男達は気にした様子もない。 「だな。さてと……とっとすませるか。っと、おい!このぱちゅりーバッジ付きだぜ!」 どうやら母ぱちゅりーの銀バッジに気が付いたらしい。 「マジかよ。なんでこんなところにいるんだ?」 「おおかた麓の町から攫ってきたってところだろうな」 男の一人がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら母ぱちゅりーを素早く捕まえた。 母ぱちゅりーは男の顔の高さまで持ち上げられる。 「むきゅー!にんげんさん、ぱちゅたちはなにもわるいことしてないわ!だから……」 「ほほ~、こいつはなかなかの上玉だぜ」 「む、むきゅー!?」 「ゆゆっ!」 父まりさは慌てて男の足に体当たりする。 「ゆゆー!ぱちゅりーをゆっくりしないではなせーーー!!」 「むきゅー!まりさ、だめよ!おちびちゃんをつれてはやくにげるのよ!」 「ゆっくりできないにんげんさんはゆっくりしないで、ゆべっ!!」 ズドムッ!! 瞬間、鈍い音が巣の中に木霊した。父まりさが男に蹴り飛ばされたのだ。 宙を舞った父まりさは隣の木の幹に派手に打ちつけられる。 「む……むきゅーーー!!まりさーーー!!エレエレ……!!」 その様子を見た母ぱちゅりーは絶叫を上げると、そのまま生クリームを吐き出して動かなくなった。 男は持っていたズタ袋に母ぱちゅりーを放り込むと、そのまま父まりさに歩み寄っていく。 父まりさはもはや白目を剥いて痙攣するのみだ。その体の側面には大きな穴が開いて餡子を垂れ流している。 男は父まりさの顔を平手打ちして叩き起こした。 「おい、起きろよ。ゲス饅頭」 「ゆ……ゆ……」 「お前……飼いゆのぱちゅりーを攫って無理遣りすっきりしたんだろ」 「ゆ……ゆ……まりさは……そんな、こと、してない、よ」 「じゃあ、何でぱちゅりーにバッジが付いてるんだ?」 「……まりさと、ぱちゅ、りーは……つがい、なんだよ」 もう一人の男が声を掛ける。 「どうした?」 「いやな。飼いゆを攫ったゲスを制裁してやろうと思ってな」 「ゆ……ゆ……ちが、う、よ……まりさは……」 男は懐から筒状の道具を取り出した。発炎筒だった。 「はいはい。ゲスはみんな自分の都合にいいように解釈するもんさ。お前は飼いゆを攫ったゲスなんだよ」 「まり、さは……げすなんか、じゃ……」 「ゲスは報いを受けなきゃな。判決……死刑。あの世で反省しろよ」 男はそう告げると、発炎筒を父まりさの大きく裂けた傷口に乱暴に挿し込み、一気に紐を引き抜いた。 「ゆ、ゆがああああああああああああああああああああ!!!!!!」 父まりさの絶叫とともにその体内で業火が荒れ狂う。 両目は弾け飛び、大きく開いた眼窩と口からは炎が勢いよく噴出する。 だが、それも一瞬のことだった。今度は父まりさの体全体が激しく燃え上がる。 今や父まりさは一本の火柱と化していた。 「おいおい!山火事になったらどうするんだ!!」 「もうちょいしたら土かけて消すから大丈夫さ」 子ぱちゅりーはその様子をただ見ていることしかできなかった。 恐怖で動けないのではない。何が起こっているのか理解が追いつかないのだ。 「む、む、む……」 無理もないことだった。巣のバリケードが払われてからまだ三分ほどしか経っていない。 今までずっと一緒に暮らしてきた両親……。 つい先ほどまで優しく語り掛けてくれた母ぱちゅりーはズタ袋の中に入れられピクリとも動かない。 今の今まで家族を守ろうとしてくれた父まりさは子ぱちゅりーの目の前で激しく炎上している。 「む、む、む……むきゅー!……エレエレ」 そして理解が追いついたその瞬間、子ぱちゅりーもまた生クリームを吐き出し意識を失った。 それは子ぱちゅりーにとって産まれて初めての嘔吐だった。 ゴトン 「むきゅ?」 お空を飛んでいるような……そんな浮遊感を覚えていたら唐突に地面に落ちた……。 そんな気がして子ぱちゅりーは目を覚ました。そこは狭い透明な箱の中だった。 天井は開けていたが子ぱちゅりーの身体能力では届く筈もない高さだ。 透明な箱の外を見ると、子ぱちゅりーと同じくらいの大きさの無数のぱちゅりー種が、 自分と同じように透明な箱に入れられ一列に並べられている様子が伺えた。 その表情は哀しげだったり困惑していたりと様々だ。自分の箱はその列の一番端に置かれていた。 ここがどこなのか、あれからどれだけの時間が経ったのかはは全く分からない。 当然ながら両親の姿はなく、檻の中は自分の他には何一つない。 子ぱちゅりーは、今までのことをゆっくりと思い出していた。 父まりさは自分の目の前で酷くゆっくりできない方法で永遠にゆっくりしてしまった。 母ぱちゅりーはどうなったのか分からない。が、あの男達の様子からして、きっとゆっくりできてはいないだろう。 あれは一体何だったのだろう?自分達が何をしたというのだろう? 子ぱちゅりーは自分達の身に降り掛かった理不尽な悲劇に涙するしかなかった。 子ぱちゅりー自身は気付いていなかったが実はあれから三日が経過していた。 男達に連れ去られた子ぱちゅりーは、すぐさまこの施設に引き渡され、ゆっくり用の睡眠薬を打たれ眠っていたのだ。 その間、子ぱちゅりーは体を綺麗に洗浄され、毎日定期的に特殊な栄養剤と薬剤を注射されていた。 そして、今日は子ぱちゅりーに対する“処理”の最終工程が施される日だった。 ガシャン 突然、ゆっくりできない大きな金属音が響き渡った。 それと同時に子ぱちゅりーの入った透明な箱が一箱分前に進んだ。 いや、子ぱちゅりーの入った箱だけではない。この箱の列全体が一箱分前進していた。 ゴトン そして、やや遅れて、進んだ自分の箱のすぐ後方に、新たな透明な箱が降ってきた。 その中には、たった今、落下のショックで目覚めたと思しきぱちゅりー種がキョロキョロと辺りを見回していた。 「……???」 ガシャン 数分後、再びあの大きな金属音が響き渡った。 それと同時に箱の列全体がまたも一箱分前進している。そして、またもや後方には新しい透明な箱が降って来た。 状況は理解できないが、どうやら自分を乗せたこの箱の列は少しずつ前方の黒いカーテンに向かって前進しているようだった。 カーテンは真ん中で割れており、箱の列が前進する度に一箱だけその奥に吸い込まれていった。 前方のぱちゅりー達も後方のぱちゅりーたちも皆揃っておろおろするばかりだ。 そして、ついに子ぱちゅりーの箱がカーテンの奥に進む番がやってきた。 黒いカーテンを抜けた先、そこには優しそうな初老の男性が座っていた。 男性は柔らかい笑顔を湛えながら子ぱちゅりーの身体を優しく手に取り透明な箱から出してくれた。 巣を襲ったあの男達は全くゆっくりしていなかったが、目の前の男性はゆっくりした人間のように見える。 銀バッジ取得試験に向けて特訓中だった時の母ぱちゅりーの言葉が脳裏をよぎる。こういう場合はまず自己紹介だ。 「むきゅー。はじめまして。ぱちぇよ。ゆっく……びぃぃ!!!?」 満を持しての挨拶は男性が手にした鉄箆によって遮られた。 真っ赤な焼けた鉄箆を口に押さえつけられる。痛みで声が出ない……のではない。 柔らかな唇が一瞬にして溶けて癒着し、それ以上言葉はおろか異音を発することさえ出来なくなってしまったのだ。 痛みと混乱で気を失いかける子ぱちゅりーを次なる痛みが襲った。 そのしなやかなあんよに高温の激痛が走る。 「……!?……!!!!!!!」 男性が片手に持った子ぱちゅりーの底部をバーナーで炙っているのだ。 その恐ろしいまでの高熱は子ぱちゅりーのあんよからどんどんしなやかさを奪っていく。 たっぷり十数秒炙られた後、子ぱちゅりーはバーナーから開放された。 底部全体が焼け焦げたあんよは鈍痛を信号として送ってくるだけで もはや自分の意志ではピクリとも動かせなかった……だがそれだけではない。 あんよはゆっくりにとってあらゆる動作の根幹となる部位である。 あんよを奪われるということは、跳躍や這いずりだけでなく、 体をよじることすら困難な体にされてしまったということなのだ。 無理に大きく体を動かそうものなら、焦げ付いて硬化したあんよがヒビ割れたり、 あんよと接する柔らかい部位の皮が引っ張られて破れてしまうだろう。 絶望的な喪失感に苛まれる子ぱちゅりー。だが男性の暴虐は止まらない。 さらなる苦痛が子ぱちゅりーを襲う。今度は子ぱちゅりーの恥ずかしい部位に激痛が走った。あにゃるだった。 「!!!!」 悲鳴を上げようにも声が出せない。生クリームを吐きたくても吐き出す口がない。 そして、それはもう既に上の穴も下の穴も同じことであった。 体の危機に体が反応したのか、子ぱちゅりーの意志を無視して口の下の小穴からしーしーが流れ出る。 流れ出たしーしーは子ぱちゅりーの下膨れを伝い鉄箆へと到達する。 だが、その些細な反撃は真っ赤に焼けた鉄箆には文字通り焼け石に水でしかない。 そして鉄箆はそんなしーしーの穴をも容赦なく蹂躙した。もはや叫びすら無く涙を流し続けるしかない。 涙で視界がぼやけて見える。だがぼやけていてもハッキリ見えた。子ぱちゅりーの眼球に迫る鉄箆……。 声は出せない。体も動かない。生クリームを吐くことすらできない。 それでも視覚を焼かれるより先にぱちゅりーは何とか意識を手放すことに成功した。 ……遠ざかる意識の中で、何かが聞こえたような気がした。 「鬼井さ~ん!営業の餡野さんから~。外線……」 帰宅途中、俺はいつものように商店街のペットショップの前で足を止めた。 ショーウィンドウからは毛並みの良いゆっくりたちがニコニコとこちらに向けて微笑んでいる。 窓の一つ一つに貼られた値札には全て六桁・七桁の数字が踊っていた。 はぁと溜息をつく。貧乏学生がおいそれと手を出せる金額ではない。 俺はとある大学のゆっくり医学部に通うしがない学生だった。 だが、いつかは金を溜めてちゃんとしたゆっくりを購入しようと心に決めていた。 ちなみにお目当てはぱちゅりー種だ。あの落ち着いて優雅な感じが好みなのだ。 ふと、商店街の一角に人だかりが出来ているのに気が付いた。 近くに寄ってみると、どうやら福引をやっているらしい。 そういえば、さっきパン屋で福引券を貰ったっけ。 どうせ今日は暇だし、と福引会場に向かい奥にある景品を眺めてみた。 すると透明な箱に入った一匹のゆっくりと目が合った。成体のぱちゅりーだった。 かなりの美ぱちゅりーであった。帽子には金バッジが輝いている。 そして予想通りぱちゅりーは一等の景品だった。俺の持つ福引券はたったの一枚。 分の悪い賭けだが負けたところで失うのは紙切れ一枚だけだ。 紅白巫女姿の受付嬢に福引券を渡し、箱の中から折り畳まれたカードを一枚取り出した。 ジャラン♪ジャラン~♪ 安っぽい鐘の音が鳴り響く。 「おめでとうございます。二等です。二等が出ました~」 愛想笑いを浮かべつつ妙に事務的な声で俺と周囲に当たりを知らせる受付嬢。 おおお、一等は逃したが二等か。俺のクジ運も意外と捨てたもんじゃないな。 そういえば二等って何だっけ?一等のぱちゅりーに目が行ってそれ以外は気にも留めていなかった。 「はい。二等の生ぱちゅりー饅頭です」 受付嬢が化粧箱を差し出してくる。 両目と口を焼き潰されたぱちゅりー種のカラー写真が印象的なパッケージ。 テレビで見たことがある。これはあの有名なぱちゅりー牧場の生ぱちゅりー饅頭じゃないか! 敷地内の森でゆっくり育った天然の子ぱちゅりーを、贅沢にも丸ごと生きながらに饅頭に加工した一品。 主に富裕層のギフト向けに供される超高級菓子であった。 パッケージ側面の解説文によると、何でも覚醒させた子ぱちゅりーの口を嘔吐される前に素早く焼き塞ぎ、 あんよを狐色になるまでしっかり焼いて、あにゃる~しーしーの穴~両目を同様に塞いでから 最後にぱちゅりーしゅ特有の長髪が狭くて動かせない程度の箱に生きたままの状態で梱包しているのだそうだ。 子ぱちゅりーは恐怖と絶望に曝されることで甘みを増し、同時に余計な身体機能を殺すことで、 生命活動を最低限維持させ、絶食状態でも長期の延命・保存が期待できるらしい。 確かに五感の大半を視力に頼るゆっくりは目を潰されれば周囲への恐怖から積極的に動こうとしなくなる。 さらにあんよを焼かれれば肉体的にも歩行や跳躍を半永久的に封じられてしまうだろう。 一切の身動きを封じられれば、脆弱なぱちゅりー種は恐怖とストレスから致命的な分量の中身を吐き出しかねないが、 それも先手を打って全身の穴を塞いでいる為、加工された子ぱちゅりーは身悶えすることしかできないに違いない。 ちなみに、これらの処理は熟練の職人が個体毎に微調整を加えながら手作業で行うらしい。 本当に手間暇掛けてるよなぁ。本来なら俺みたいなヤツが食べられるシロモノじゃない。 金バッジぱちゅりーが手に入らなかったのは残念だが、元々勝算は低かったしこれはこれで驚きの収穫だ。 去り際にふと金バッジぱちゅりーに目を移すと、あのパッケージ写真にショックを受けたのか白目を剥いて気絶していた。 家に帰ると早速、生ぱちゅりー饅頭に齧り付くことにした。 化粧箱を開けると全身の穴とあんよを焼き潰されたパッケージ写真そのままな子ぱちゅりーたちが転がり出る。 全部で四匹入りだ。ソフトボールより一回り大きいくらいなので二匹も食えば満腹だろう。 ふと、密封状態から開放されたことで表皮が外気を敏感に感じ取ったのか 生ぱちゅりー饅頭たちは皆揃ってぷるぷると震えだした。パッケージの解説通り四匹ともしっかり生きているようだ。 おもむろに一番手近な一匹を手に取る。手に取った瞬間ビクッと体が跳ねた。 その反応が妙に可愛かったので両手で全身をゆっくりとこねくり回してみる。 両目と口が焼き固められていて表情は判らないが、その心中はきっと恐怖で一杯なのだろう。 必死な様子で全身を小刻みにピクピクと震わせている。生き饅頭に許された最大限の抵抗なのかもしれない。 さて、それじゃそろそろ十分に感触を楽しんだので、まずはあんよから頂くことにする。 「それじゃ、いただきまーす」 バリリッ!(ビックンッ!) 噛み付いた瞬間、生ぱちゅりー饅頭の体が大きく仰け反った。 両手でしっかり押さえているので生クリームが飛び散ったりはしない。 ムシャムシャ!(ビクビクッ!) 焼けたあんよの表面はクッキーのような味と食感だった。黒焦げではないので苦味は全くない。 さらに口の中であんよの表皮の内側にごっそり付着した生クリームが別の生き物のようにのた打ち回る。 この感触はクセになりそうだ。続けて生ぱちゅりー饅頭のまむまむの辺りを食い千切ってみた。 ムシャリッ!(ビクビクビクン!) ふむふむ、ここはシットリとした食感だ。これはどんどん行けるぞ! こうして気が付けば生ぱちゅりー饅頭はペラペラの頭皮に付着した紫色の毛髪と帽子を残して俺の腹に収まっていた。 ふぅ、さすがはあのぱちゅりー牧場謹製の銘菓なだけのことはある。 少々がっつき過ぎな気もするが早速二匹目行ってみるとするか。 そして頭皮と帽子を口に押し込みながら残る三匹に手を伸ばそうとして……そこで視線に気が付いた。 さっきは気付かなかったが、よく見ると一匹のぱちゅりーが両目を見開きダクダクと涙を流しながらこちらを見上げていた。 あれ……両目は潰してあるはずじゃ……ううむ?潰し忘れの不良品か。 まぁ、加工食品に見つめられるのは気持ち悪いが、別に食べられないほどの欠陥というわけでもない。 何なら今この場で両目を潰してしまえばさっき食ったのと何ら変わらない饅頭に……。 と、そこまで考えてふと思いついた。このぱちゅりーを治療してペットとして育てられないかと。 ぱちゅりーは身体の複数の重要器官を潰されているが、その目は怯えていながらも決して正気を失っている様子はない。 生ぱちゅりー饅頭のパッケージの成分表に目を通す。流石に人の口に入るものとあって諸々の予防接種は受けているようだ。 これは憧れのぱちゅりー種を入手するチャンスだ。失敗してもどうせただで貰った饅頭だ、惜しむほどじゃない。 ……だが果たしてうまくいくかどうかは正直不安だった。 学生とはいえゆっくり医学が専攻なので、ゆっくりの所見には実習も通してそこそこ自信がある。 ぱちゅりーは両目が無事とはいえ口もあにゃるも焼き塞がれている。しーしーだって出来ない。 あんよも動かせないだろう。自力で食料摂取と排泄ができなければ座して死を待つばかりだ。 とりあえず治療プランを練ることにしよう。治療に優先順位を付けて一つずつ目標をこなしていけばいい。 そうなるとまずは何より口の再生が最優先だ。食料摂取もさることながら、 意志表示の手段を与えてやらねばゆっくりを飼う面白みがない。 それに口の再生が成功したとしても、俺の飼いゆっくりになるかどうかは、ぱちゅりー自身の意志を確認しておきたかった。 野生に帰りたいなら帰してやってもいい。無理に飼いゆっくりとして引き止めても良好な関係は得られないからだ。 だが加工のトラウマで自らゆん生を放棄しようとしていたり、性格があまりに酷いゲス個体ならば、 やはり食用饅頭としての役目をまっとうさせてやらねばなるまい。 ゆっくりの体は未だ謎だらけだ。だが人間も含めた既成の生物とは異なり妙にいい加減な生態であることは判明している。 例えば体に穴が開いても、餃子の皮や小麦粉で簡単に修復できることはよく知られている。 さらに成功確率はやや落ちるものの、ゆっくり間の移植手術も人間同士の移植手術に比べ遥かに敷居が低い。 そして、それは異種族間でもそれなりに通用することが確認されている。 例えば眼球を喪失したれいむ種の眼窩にまりさ種の眼球を嵌め込んで視力が回復した例は少なくない。 もう一度ぱちゅりーの口元をよーく確認する。焼かれた唇は溶け焦げて完全に塞がっている。 さっき食った一匹の口周辺の食感を思い出してみる。パリっとしていた。 そうだな。まずは現状の口元を削り取り、小麦粉で新たに口を作り直すことにしよう。 「よし、ぱちゅりー。お前は助けてやるぞ。これから治してやるからちょっと痛いけど我慢しろよ」 そう一方的に宣言してぱちゅりーの表情を探ってみた。 ぱちゅりーはといえば、信じる信じない以前に状況が判断できずにむしろ混乱しているように見える。 無理もない。助けてやるとはいっても、それはつい今しがた目の前で仲間を食い殺した人間の口から出た言葉なのだ。 まぁどうせ返答はできないだろうから今は勝手にやらせてもらおう。 俺は箪笥や台所から適当に必要なものを準備した。そして、ぱちゅりーの両目をハンカチで縛って目隠しをする。 これは恐怖で精神崩壊させない為の処置だ。あとはぱちゅりーが痛みに耐えてくれることを願うしかない。 ぱちゅりーの体を片手でしっかりと持ち、荒めの紙ヤスリで口元を抉るように削っていく。 ガリガリ、ガリガリガリガリ。 ぱちゅりーは細かく振動している。今削っている箇所は恐らく痛覚ごと焦げ付いており痛みはない筈だ。 だが、だからといって自分の体が少しずつ削り取られていく感触に平気でいられる筈もないのだろう。 ふと、ぱちゅりーの体がビクッと跳ねた。紙ヤスリの一部が痛覚の残っている箇所に触れたか。 ここからは目の細かい紙ヤスリに持ち替えて慎重に焦げて硬くなっている部分を削っていく。 そして、ぱちゅりーが反応する度に削る箇所を変えて、口元の壊死した皮はあらかた取り除くことに成功した。 削っていた箇所の中央は口内まで貫通し、ぽっかり開いた穴からは微かに前歯が覗いている。 次に小麦粉をオレンジジュースで溶いてペースト状にし、それを薄く引き延ばして即席の皮を作る。 削ったぱちゅりーの口元にもオレンジジュースを満遍なく塗り、 湿った皮が柔らかくなるのを待って、作った皮を貼り付け指で周囲と癒着させていく。 そうすると、ぱちゅりーは完全な口なし状態になった。 もちろん色白な本来の肌とオレンジジュースで黄ばんだ即席の皮は色合いが違うので、どこが治療箇所かは一目で分かる。 俺は耳掻きを手に取り、黄ばんだ皮の部分に慎重に切れ目を入れていく。 新たな口元はさっき福引会場で見た金バッジぱちゅりーを参考にした。 よし。これで口元の見た目は何とか整った。だが、ぱちゅりーの口が言葉を紡ぐ様子はない。 それも当然だ。ぱちゅりーの新しい口元はまだ単なる小麦粉細工でしかない。 時間が経てば、本来の肌との結合部から次第にぱちゅりー本体と同化して、色合いも機能も取り戻すことだろう。 さて、次は排泄器官だ。まずは口のすぐ下に位置するしーしーの穴に的を絞る。 作業にあたり、残る二匹の饅頭のうち一匹をバラして焼き塞がれた箇所の損傷がどの程度か入念に調べることにした。 口元の再生を行う前にやっておけばよかったが、まぁ治療プラン自体が思いつきなので作業が前後するのも仕方ない。 ぱちゅりーの目隠しはしたままなので、この光景が大事に発展することもないだろう。 結論から言うと、しーしーの穴もあにゃるも、焦げているのは比較的浅い層だけのようだった。 (ちなみに調べ終わった後のバラバラの饅頭はその場でおいしく頂きました) しーしーの穴に紙ヤスリを当てる。作業自体は口元の時とあまり変わらない。焦げた箇所を目の粗い紙ヤスリで大雑把に削り、 目の細かい紙ヤスリで微調整してから小麦粉とオレンジジュースで作った皮を周囲の肌と癒着させていく。 そして最後にキリで丁寧に小穴を開け、爪楊枝を慎重に挿して尿道と繋がっていることを確認した。 これで暫くすれば、ぱちゅりーは再びしーしーが出来るように筈だ。 とりあえず今はこの辺にしておくか。続きは口としーしーの穴の機能が回復してからだ。 二、三日も放置すれば最低限の機能は取り戻すことだろう。 俺はぱちゅりーの目隠しを取り外すとクッションの上に寝かせることにした。 賢いぱちゅりー種ならば、今日の処置は最初に語り掛けた通り“治療”であると判断できた筈だ。 実際、その目にはまだ怯えの色が残っているものの状況を察したのかだいぶ落ち着いてくれたようだった。 (中編へ?)
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スレッド別、痰が飽くなき想像力でひねり出した各種設定(本当は全然なのにでまかせいっちゃった!的なもの)を特集しています。二ページ目 ただし、義理家族に関する設定は、そのほとんどを割愛しています(家族はヲチ対象ではないため、ご理解下さい)。 ページ分割の上、順次収録中。 設定集別ページについては左のメニューから飛ぶこともできます。 【言い訳二等兵】試験全滅とも痰21【口だけ番長】 学生のうちに環境の選択を間違えたばかりに、全く思い通りに暮らしてこられなかった (類似設定あり) (試験前日)はてなアンテナ携帯版を見やすくしていた。 「国1もダメ、裁事もダメ、おまけに国2も県庁もダメだったら…生きていけません」 試験は何回受けても緊張する。というか、今回はいつも以上に緊張しているフリーターについて、という内容でしっかり論文を書いた。 やっぱり愛知県県職員の試験、アテクシ受ける!三重県のも受ける! 来年は裁判所事務官を本命として、国家公務員だけ受験する。地方上級は考えられない今回地方上級を受けたのは、親の手前仕方なく……といった感じ。やりたいことが地方上級では出来ない 地方上級でもやりたいことはあるけれども、まだ言わない ベツニシリタクナイ 誹謗中傷が増えつつあるので、ブログに対するコメント・トラックバックを不可にした。状況改善されれば、受け入れ再開する 北朝鮮の少女の歌を解読した 松坂屋に行ってまぐろの短冊を買った。切らずにそのまま醤油をドボドボかけてかじりついた 試験に受かって採用されるまで、欲しいものは封印した。でも、物欲はかなり乏しくなりつつある 予備校に引っかかる破目になるところだった!このままではダメだからぜひうちに!といわれたが、踏みとどまった 買った冷蔵庫が、一年もたたないうちに壊れた。メーカーに即交換してもらった 試験会場前。ビラを配っている予備校の奴らのせいで、会場に入りづらかった!右翼も煩かった! 前にお世話になっていたところでの、週三日のバイトをきめた。弁当に惹かれて ヒキヌキハドウナッタ 「9月以降に試験関係でびっくりサプライズ暴露します」 架空請求が携帯に来た! なんと驚愕の請求額3000円 一日の勉強量を試算してみたら、それほどがっついて消化する必要はないことに気がついた 【マイルール】通信教材。法改正分に関する教材の変更分は、追加払いなしでくれるべきではないか 「給料貰ったら、松雪泰子ブランドの眼鏡買います」 から揚げ目当てのバイトシリーズバイト先のお店は仕出しがメイン、コンビニはオプション。そのうえ昼時しか客の来ない、無駄の多い店 人を増やしてトヨタのカイゼン方式を使えば大ヒットする 「仕出しに人が多いが故に、レジから棚卸しまでひとりでみんなやらす」 このアテクシが文句を言いながらも、再び雇ってもらったのはここが初めて☆ ムカツク客が、宅配便の配送先住所について明らかな間違いがあるというのに、合っていると主張する!頃ry眉間に皺を隠してw応対。「普通ならDQNな客と叫ぶだろうが、私は、叫ばなかった」 せーの!DQNな客ーーーー! 毎日棚卸がある www 中学生に猥褻雑誌を売ってしまった(週間大衆増刊号 …猥褻?) ヒマな店内、(てんちょの?)こどもたちが走り回っている。 社長と社長の奥さんは仲が悪いので、お互いいつも機嫌も悪い。 アテクシは社長とうちの大家が知り合いだから、必然的に社長の側についてしまう。 【マイルール】従業員が社長の側につくのが厭であれば、再雇用した際に言うべき! 店がこんなんだから、やめる人が後を絶たない。再雇用されてみればずいぶん人も変わり、無駄も増え。 「作り笑いは3時間が限界。海老は鯛で釣れ。=何でも物でてなづける。」6時間も愛想笑いすると相当辛い。バイト先から一歩出ると当り散らしている。 ナニニ!? 親が「ワニ本」を「ビニ本」と聞き間違えた。出せ!といわれたww メールマガジンとmixiをメインに、はてなブログを閉めようかと思っている →休止宣言、再開については未定の予定w「もし再開するとしても、コメントやトラバ受入不可の閲覧だけのblogにします」2007.07.05 「はてなblog再開します。ただし。余計な事考えたくないので、コメント トラバ全面受入不可」2006.07.09 根性がひん曲がってるアテクシは、仲間の合格を素直に祝福することができない 【マイルール】不登校だから仕方ないって言うのは大いに間違っとる。 1年以上継続的な完全ニートも困る。ニート2号についての言及あり (一号は痰ちゃん?w 地方上級の試験は、明らかにコネが強いということがわかった (ポエム日記より)あなた(アテクシ)の髪の毛はごっそり抜け…… 【海老は鯛で釣れ】とも痰22【未定の予定】 親のために働きに行っているようなもの。でも必要な資金を稼ぎきったらバイトはやめる。実家にお金は一切入れない実家に入れる金額として相応なもの以上は親にお金を「やる」つもりはない。 【マイルール】さらに、相応以上の金額をたかるのは親ではない そもそも親とは思っていない。小間使いだと思っている。「親という召使」 見るもの全てがイライラの対象になる 「3度すっころんだら考えるでしょ。 私もそのクチ」「3回受けてダメだったら、その後は大人しく生きるつもり」 (ピー)が毎度のごとく一ヶ月長引いている! アテクシは1人の時間を大切にする人間。無駄は要りませぬ勉強と必要時のバイト以外の生活は全部無駄、子守も無駄、ぼーっとする時間も友人にあって話をするのも時には無駄無駄無駄ァァ! 【マイルール】S運輸はお届け物するときに留守電にメッセージを入れない!お届け物があると伝票を入れていくべき!「来るなり言い訳をおっぱじめたんで、帰ってから文句を言ってやりました」 宅配はクロネコ以外信用しない アテクシはバイト帰りにおみやげの弁当をもらって帰ったり、新製品の試食をさせてもらってるのでつまみ食いの心配はない! 6時間しっかり寝ないとイライラしてくる 「バイトは金が全て。人間関係よくても金が安きゃダメだよと思う、今日この頃」 バイトシリーズバイトの高校生が、勤務中に店の商品を勝手に食べていることを知ったてんちょ夫婦が(自分の?)子どもたちに店のものを勝手に与えている悪影響がバイトにでた 【マイルール】給料日の月末が定休日に。給料支払いは休みの次の日!普通の会社のように、給料は前倒しで払うべき! 普通のフリーターとは違い、都合のいいときに呼びつけられて大変なアテクシ。 シフト聞いても直前まで教えてくれないとか朝からの雇用のはずなのに昼間にされただとか給料が支払われないとか 「給料が振り込みでないのならバイトを即座にやめろ」と親に言われた! パンの大量注文の件でてんちょにどやされた。アテクシは大量注文については聞いてないし引継メモもない!わけがわからずキレた! しゃちょーはふとっぱら!去年に引き続き今年も物をくれた!なんと洗剤! 昔アテクシがボロクソにけなしてたSNS。オープンになったので行ってみたら、はじき出された。アテクシが正論で批判したからね☆【マイルール】人集めのために甘い餌で誘い出し、いらなくなったらゴミのように捨てるのはどうか。mixiの方が発展している 【マイルール】こんな人(友人)とは手を切ったほうがいい家出人(なかなか家に帰らない人) やくざの愛人 、明らかに家がやばい(あばら家) 、宗教一家 アテクシは実際にこういった友人と今年、手を切らされた!親に!! 男はうざい。都合が悪くなれば女を殴るし、アテクシは人に尽くしたくない、むしろ独りになりたい 昔の屈辱を思い出した。 意味不明。この後プライドずたずたにされたとか辛かったとか頃してやろうかと思ったなどのもっと意味不明語り有 クーラーが利きまくった家から外にでられなかった いつの間にエアコンついたのか? 【ニアミスは】あの季節が来たよとも痰23【痰を救う?】 賄いばかり食っているせいで、暑さで脂汗をかいているというのに太った。 バイト先の近所には、落ちこぼれかつ体育バカが通う高校がある。そこの生徒たちがバスの中で騒ぐので、バスの乗客殆どは嫌な顔をする。 乗客が一人しかいないとか たった四問の数的に対し、気がつけば二時間もの間悩み続けたアテクシ (勉強方法について薀蓄)せっついて勉強を続けたためぶち切れ寸前のアテクシ。せっついても何の意味もないと痛感「バイトでも、朝やることプランニングしとかないと、キレるから(笑)」 怒涛のバイトシリーズアテクシのシフトが不確定だった。シフトについて訪ねたら忘れられ、いつもはどうだったかと聞き返された バイト再開時の取り決めによって、試験勉強や試験に絶対響かないようシフト組みする約束だった! 値札シールの貼り方でもめた。ちゃんとやっているのに、勿体無い使い方をするなといわれた挙句、キレられた バイト再開に当たっては、アテクシは譲歩している!時給も最低金額で、交通費ナシで朝早くから行ってやっている 遂にぶちぎれてやったアテクシ! 社長のおばあさんが大家の知り合いだし、他の人にも可愛がってもらっているから行っている! 『あんたなんか雇わなければよかった』といわれた (てんちょの奥さんに?) 勉強の気分転換に始めたバイトなのに、勉強やプライベートwの予定、あらゆる時間を削るようになりかんしゃくおこる 平日だけのシフトにして欲しいと店主の奥さんに相談。この間のことを忘れたかのように快諾された バイトもついに三ヶ月目に突入。「昨年11月から考えたら中断期間抜いたら5ヵ月ほど続いております」 考えんなw バーサン社長(原文ママ。社長のおかあさんのことか)がぼけた。逆切れしてきたので逆切れし返して来た。 JRバスは二度と乗りたくない 今年の試験は、受験範囲を絞りすぎていた!来年は地方完全無視、国家は可能な限りたくさん受けたい 二ヶ月で勉強がワンクールw終わるように設定し、そのなかでゆとりをもった週プランを立てている! 10月までに裁事の試験科目を終わらせる予定 アテクシの家の前を、相当なスピードで自転車漕いで行った女子高生。あれは車に当たると話していたところ、車に撥ねられた 給料が振り込まれない。→ブログ(笑)にそう書いたところ、三時間後に振り込まれた 24時間テレビは、アテクシの人生を破滅に追い込んだ事件の発端になった 昨年購入したテキストに改変が。慌てて新版を取り寄せたが、ほとんど変わらない内容に気づくことなく書き込みしまくった去年のテキストを使うことにした。足りないところだけ(改変部分?)新版を使うようにする 遂に携帯ネット生活脱却!中古ノートパソコン購入!取引成立! ←オクか? 大学は学費の問題で辞めた。 C日程の受験票がこないので問い合わせメールを送った。→入れ違いだった模様、当日とどいた 「相当ランク落として、私からすれば自分のプライドかなぐり捨てて、底辺ぐらいの試験を受ける訳で受からなまずいでしょ…」 萎え 条文・判例を拾い出ししてパソコン入力しようと思ったけれども、あ ま り の 多 さ に や め た なんでもパソコンで管理するようになったアテクシ!ワード・エクセルを駆使するアテクシ!ひみつがいっぱいアテクシのパソコン! 「一番」嫌いなものシリーズw人部門 / ガキ ・試験を純粋に目指さない奴 ・派遣会社の香水臭い女 ・大家族・長電話したがる女 ・専業主婦・親 その他部門 /結婚・偽善・割に合わないバイト・のろまなパソコン 「つまり、一度犯罪を知ると、なかなか抜けられないって事。気をつけてね。犯罪と現実の感覚がわからなくなるから」 「久々に慣れないパンスト履いて、一日中スーツは一次からじゃキツイ」 ←20スレくらいあとのスーツに生足の前フリか バイトの日の勉強時間が、バイトない日の「半分の半分以下になってしまう」。ひどいときはそのまま朝まで寝てしまう 何が何でも(勉強時間は)一日六時間は確保したい バイトは減らしたけれども、これまでの蓄積疲労のせいで体に負荷が。ストレス発散もままならず、休みを削っている 腰痛が激化、布団から起き上がれなくなった体調不良の原因は過労+過多月経による貧血だった 麻生外務大臣と片山さつきが好き。 (義理の妹が内定を掴んだ話にかかり)親は「一族の恥だ」と、内定を辞退させるつもりだ パソコンを『デコデコした』 ←マーブルのシール(笑)で蓮パソコンのできあがり 試験面接。尊敬する人は?と聞かれ、『バイト先の社長』と答えた。頭が低いから バイトを辞めることにしたシリーズ(お金を稼ぐという)目的は達したのでこのバイトはやめる このバイトよりも、派遣のほうが給与がいい。既に何件か、派遣で仕事のオファーが来ているからそちらに乗り換える 店内でお金に絡んだ揉め事があり、巻き込まれた。 この揉め事の連帯責任で、給料が半分以上カットになった=半月近くただ働きの扱いに。やってられないので辞める 【ベテラン受験生】決まらぬとも痰24【睡眠学習】 バイトを辞めることにしたシリーズ(承前)(給料での弁済は違法だとの書き込みを受け)違法性は理解しているので、給料があまりに少なければ労基署に言う 試験やバイトでしばらく忙しかったので、一ヶ月くらい休むつもり。また、その間に条件のいいバイトを探す予定 「円満に辞めちゃった!」 (一度働いたことのあったバイト先、やめてから)ブランクがあったというのによく耐えたアテクシ 給料を大幅に天引きされた!41,850円あったはずが驚きの3,255円!言われもない責任を取らされたアテクシ! 賃金騒動に親が乗り出してきた!そのせいで話がややこしく! バイト側、アテクシ側とそれぞれ警察に行って介入してもらおうとしたが、民事不介入だからと断られた! (働いた証拠になるはずの)帳簿は、アテクシはもうやめた人間だからと見せてもらえない!話にならない! 普通のコンビニなら当たり前にしていること(【マイルール】)があの店では行われていない!防犯カメラの記録もない! アテクシは罪を着せられた。そういうわけでわけもわからず給料をごっそり引かれた… (法定控除以外の控除には本人の同意が必要なのにという書き込みを受け)アテクシは同意はしていない 「ミスはあったんですか?」とアテクシのミスについて訊ねたら、口を濁された 次の仕事を探せと親に言われた (義父の知り合いの店という昔の設定を受けて)「(義父が店に直接)掛け合ってもダメだったんですよ~」 労基署で働いている友人に相談したら損害分を引かれたことは「直接払いの原則に基き、24条違反」だと言われた (労基署へ?)相談時に持っていく書類をパソコンで作るアテクシ!次の仕事の面接用の履歴書も作るアテクシ! コンビニから何も言ってこない。何も行動してこない。 アテクシは給料を貰いに行った日、喧嘩せずに穏便に給料を貰えれば良かっただけなのに、店に行くなり吠えられた このバイト騒動で家が揉めた 労基署に電話したら、出頭するようにコンビニに書類を出し、近いうちに社長たちから事情徴収すると聞かされた この職場にはなあなあな雰囲気があって、このようなトラブルもいつかはあると思っていた!周りの評判から、早くやめねばと思っていた (10/12mixiにて)「明日社長が出頭するという話になっていたが、店が定休日の月曜日に出頭することになったという」 労基署シリーズアテクシの話を女子職員が真剣に聞いてくれた!でも受理するかどうか迷っていた模様。 アテクシの事件wについて、上司と話す職員。給料明細を見られ、「これはひどい」「ミスを全部かぶせられたのでは」と言われた その職員さんたちの勢いに圧倒されつつも、言いたいことを全部言ってやったアテクシ! あまりの額に緊急性を要すということになり、即申請受理された 賃金騒動のその後シリーズついに労基署から連絡が!コンビニ側が支払うことになった!(明日コンビニに連絡し、差額の給与分をとりに行く予定) コンビニ側はいまだに証拠もないまま、アテクシが横領したのだと言い張っている! 「明日、こちらとしては貰うもの貰って、後はやれるもんなら法廷に持ち込んでくれと言うことに決めました」 横領という結論になぜコンビニは至ったか…アテクシが帰ったあとレジ合わせした人がいるが、二回ほど合わなかったから ついにコンビニは報復にでた!警察に届けたと言われた!ちょっと市民相談にいって来る! 「今回の一件を東京で世話になった弁護士さんに、朝、概要を書いてFAXを送った」→そんなところで働いちゃダメだよといわれた!内容証明でアテクシの言い分を送りつけるか、警察が来たら名誉毀損で逆告訴すると言え!と助言された!だから放置することにした(・∀・) ←ナゼソウナル 「オークションで落札して代引で商品送ったのに、 金が入ってこない」 新しいお仕事シリーズ派遣。かなり条件を譲歩したところとんとん拍子に話が進み内定した。水曜日に職場を見に行って、本採用になるらしい (しかし翌日以降の昼前に、また面接があるという) 「派遣の内定貰ってたのをドタキャン。よく考えたら担当者が気に食わないし」 うだうだしているうちに、スーパー裏方の仕事を見つけた。そちらに行こうかと思う 仕事は近いところにあって、次官に融通が利けばいい 条件のいいバイトもなんとか見つかって即採用されるアテクシ!家から激近で週5勤務!長くても二月末までしか働かない! (寝る時間を削って仕事を探しているせいで?)朝と夜しか勉強時間を確保できない。 背中に鈍痛を感じる。多分周囲にやたらと気を使うことが原因の気疲れによるもの。 行政書士の試験のことを忘れていた。行政法だのの試験勉強なにもしていない。 アテクシの嫌いな人は「尊敬するのは親ですという、くっだらない奴。 後、若くして億万長者になった奴」 (C日程撲滅を受け)筆記では手ごたえがあった。敗因は集団面接での失敗。それと地元コネを使わなかったこと。 【マイルール】ニートを作るのはこんな親だ(全て親が子に対しこういうことをするとだめだという設定)過去のマイルールの焼き直し言う事が毎日変わる。 褒めず、プライドを傷つける。 直ぐにダメと言ってやりたい事をやらせない。口出しして抑圧する 子供を自分のペット、操り人形にしている。働いて得たお金を巻き上げる、友達と遊ばせない。 自分が敷いたレールに乗せないと気が済まない、責任転嫁する 、すぐ騙す「兄弟がいる場合、一番上と一番下の者がこれに該当し、鬱病等になりやすく、無気力になります 」 「そしてこういう目にあった人間は、人を信じることが出来ず、不信感を覚え、常にびくつくようになり、自信喪失になります 」 「はっきりいってこうなったら治りません」 マイルール『こんな女は理解できない』 ←義妹に対するもののようなので割愛。香水や着メロやスカート丈が気に入らないらしい 最近の女子高生はすぐに「氏ね」という。これは公立で教育されているせいだと思う家の中に土足で入ったり、アテクシの思うところ騒音を注意したら氏ねって言われた! 【マイルール】労働に関してバイトの場合、(勝手に脳内で)お試しとして、労働期間を三ヶ月と定め割り切って働く。続けられそうならまた三ヶ月働く。 人間関係が悪ければとっとと辞め、居心地がよければ仕事を続ける。 勉強との両立とか遣り甲斐とかほどよく仕事できるかとか勤務条件とか これからはmixiで毒を吐く!はてなブログは「普通の女の子」な記事を書いて行きたい 「朝から、冷蔵庫のドアの自動開閉装置が原因で茶碗を2つ割りました」新バイト先にて バイトの帰りに撥ねられそうになった バイト先に電話してきた奴がいる!2ちゃんねらーか!弁護士へ依頼することを前提に動いています。(何を依頼するのかw) 【年内惨敗】足りないwとも痰25【エセ受験生】 (はてなブログが賑わっているという前置きで)今後も使えそうなアドバイスは取り入れていくつもり リアル(現実世界のことか)に友人はいない、友人にする人を選んでいるため。みんな上っ面だけの知り合い。 アテクシは例の事件で執行猶予判決を下され、それ以来試験勉強をすることで自分を保ってきた試験に落ち落胆。事件当時の所持品を見、事件当時の気持ちが蘇らなければ『全てを諦める』覚悟でいた 今年の試験。「ある程度は(準備を)組んでいたのですが、集団面接では(事前に何もせず)ほぼぶっつけに等しかったので」 ノルマのことシリーズ勉強の予定は自分にある程度の負荷はかかるが、無理はしない範囲で。一週間ごとに予定を立てている 勉強が進んでいなければ「負荷はしっかりかける」。ただしバイト開始時間30分前には終えるようにしている 「ある程度ノルマ設定し、達成感を見出すようにしないと効率が悪い」と対策本に書いてあったので、それを実行している 【マイルール】「勉強してないっていうのは全く昼寝ばかりしてちゃらんぽらんな事を言う」 「あるとこに持っていく書類を作っていた」「今、あるとこへ書類提出する為、出掛けてる」 ←市民法律相談に出かける前フリ(給料天引き・横領騒動に関して)セカンドオピニオン(笑)を求めて、諮問法律相談に出かけた 法律相談にて、何か相手が言ってくるまで放置しろというアドバイス。相談した「東京の先生」と同じことを言われた 万が一依頼をするとしたら地元の弁護士に依頼することになるし、他の方の意見も参考にしたい 「持病の腰痛で夜中に目覚め、全く寝られない」 「県庁の星状態の今のバイトが楽しくなりつつある」 (前のバイトの賃金問題について、元のバイト仲間などに根回ししておくといいですねというコメントを受け)根回しは既にしてある 受験票がこない(いつものこと過ぎて設定に入れるのもどうかと思った) 月曜朝一でこのことを怒鳴り込もうかと思う親が住んでいるほうのポストに10日前に届いており、親が保管していた。手紙の引き出しから出てきたのを見てキレた 人には休むなというくせに、自分は休むようなことをする奴は一番むかつく。さすがにキレた mixiに、僻みとしか思えないコメントがつく。さらに、コメントしてきた者が善人面をしてマイミク申請してくる。マイミク整理中。やり取りをしていない人はマイミク解除する。 【マイルール】(マイミク解除されたら)「二度とこないでね」 「完全なフリーターやニートが羨ましいと思う今日この頃」 【新ジャンル・私の判断】パチンコ店の違法建築→実力行使によって強制的に建設を差し止めるのが正解だと 受験票がこないせいで、宅配野菜の箱の中身が注文したものと違うせいで吠えた。家族には当り散らした。イライラ頂点に 「まだ前の職場の残りの給料が2万ほど本日入る予定」 2006.10.31のプログ(笑)にて給料日なのに、三時まで待っても二万円は振り込まれなかった。また労基署に行かないと 2ちゃんねるの奴らは冷やかしが得意、実生活にも影響を及ぼしてくる。だから看過できない スネに傷のある人間は採用されないかどうかは「最高裁などに説明会の際や直接聞いて確認済み」=採用おkと確認済み 2ちゃんねるを完全に信じている奴は大馬鹿者 (義理の妹?の1人が不登校だという設定を受け)イジメ自殺をうけ、関係機関がすぐに相談に乗ってくれるようになったネットで相談先を探し、「教育委員会(より法務局の人権相談が良いのではと思い、豊田法務局に電話するようにアドバイス」 担任は(妹の不登校に対し?)何もしてくれなかった。それどころか、いつまでも引きずらず(いじめ?)就職先を探せと言った 面接相談をすることになった(法務局と?) 親子でHGの物まねをして腰を痛めた その他家族が睾丸をラップで包んでおいなり遊びとかゴムとかローション三万円分買ったとかフェロモン香水が同どうとかさらに家族が学校ででたらめな性教育の話を披露したとか性教育パンフがエロホン以上のグレードとか 椀にヒモつければブラジャーの出来上がりといったとか家族が勉強中に部屋で無修正AVを見るとか アテクシが裁判傍聴に行くのはなぁぜ?シリーズ短縮版裁判の志望動機を掘り下げ、法廷内観察でモチベーション上げ、二度とあほな事をしないよう自分を戒め、自分ならどう思うかメモる為 【マイルール】東京へ行った際「416号法廷の事件だけはどんな事件だろうと傍聴します」アテクシにとって自分が被告人として裁かれた特別な場所。裁判所事務官になりたいと思った原点がそこに! 「霞っ子クラブの日テレでの放送の話を聞き、遊び半分で裁判傍聴に行く彼女らに腹を立ててる」国民の権利というものを履き違えとる! ブログなどの内容を某掲示板に転載され、法令違反の行為で悩まされた! (食いすぎ)食べたものを消化しないまま寝たせいで胃もたれになった=胃もたれで悪阻 「東京地裁の裁判所事務官になるべく大学時代から頑張ってきました!」 奴らもあたしも大炎上 個人情報をmixiに転載された!(実際転載されたのは爆破予告事件のニュースソース)mixiの運営事務局に通報した! ドコモにたいし電波が入らないとクレームした 気づいたら発狂して台所をうろうろしていた。が、mixiのコメントを見てわれに返った 「バイト先で殆ど違算が出ません」 出さないのが当たり前だハゲ 試験シリーズ明日試験なのに、昼寝したせいで寝られない 「リラックスしてるっていうかソワソワ」 義理の妹の担任がお忍びで試験を受けていたのを発見、電車が来るまで喋り捲ってきた メルマガ終了。「この度、多忙を極めてしまい、blogだけにする事にしました」 PCを買ったため、ストレスのはけ口がPCに移ったw 【二頭追うものは】とも痰w公式スレ26【一頭を得ず】 勉強計画シリーズこのままでは笑いものになると痛感、今ある教材をフル活用・問題演習中心で勉強することに メリハリをつけるため、「完全オフ」を復活させた バイトを大幅に減らしたり、辞めたりするか迷っている。刺激・緊張感を持つにはこれ(今のまま)がいいのだが……三月から忙しくなる(仕事か試験か)ため、辞めるほうに傾いている 長期的なスパン(笑)で、勉強ノルマをつけていくことにした。無理をしないことがモットー バイトトラブル。カード支払いをした客が「差額を現金で返せ、店長を出せ」と吠えてくる。やってられないので飲んだくれた 親以外の人間なら尊敬する。親は尊敬する存在ではなく仲良しごっこの延長としてしか見えず、使い捨てカイロと同じような存在 勉強していない科目ほどよくできるアテクシ 蛾から蝶になったアテクシ!三月に買ったスーツ、痩せたせいでボトムスが合わない!干物になる! バイトから帰ってから、コソコソ晩酌するように。飲んだ後すっきり眠れ、嫌なことも忘れたくらいすっきりと目覚められる 「中国人のいる時に殆どのメンバーに違算が出る」 バイト仲間に中国国籍の人がいるのか?波長が合わないらしい パソコンがアテクシを惑わせる。そのせいか、勉強がはかどらない。ヤフBBでネットに繋いで以来、誘惑の魔物(笑)に 「諸事情により当分の間」ブログを非公開にする 大 親 友知らない法律を教えてもらって助けてくれた。いつも相談に乗ってくれる。彼女wは大親友 mixiとはてなでの記事内容について、実家の親宛に脅迫文が送られてきた私書箱を使い(?)、匿名で、アテクシを精神病呼ばわりしている。カーチャンも大変怒っている。【マイルール】この件は、更生や人権問題に絡んできている アテクシはこんなことを書かれて黙っている人間ではない。社会的制裁は受けていただく (覚悟しろ!のリバイバルかw) 既に思い当たる人物を中心に事情聴取が行われ、関係各所にも相談や届出を行っている マイミクの○○(書き込みではマイミクの名前が挙げられている)、お前が脅迫状を送ってきた犯人だろ! (恐らく濡れ衣) はてなブログについては、今後個人の日記とする。今回の状況がハッキリするまでは二度と公開しないmixiも友人までの公開に。 これまであちこちに書いてきた説明会情報は(パソコンやらノートに記録が取ってあるため)今後詳細書き込みは行わない はてなブログダイジェスト版を作ることにした 苦労して作った(笑)試験関係のファイル(笑)がバックアップ(笑)とりわすれて全あぼーん。復元ソフト(笑)使っても……。パソコンの調子悪い 2ちゃんねるの暇人がmixiに不正アクセスし、友人限定公開の日記を転載している! 「霞っ子クラブに文句いったら個人情報晒された」 ←前スレ「奴らもあたしも大炎上」のあたりの設定 アテクシは自他共に認めるシモネタ女王。シモネタには無性に(笑)反応する昔「無修正」のAVを貰ってみてみたら、足しか映っていなかった。キレた フリーターと同じ扱いをされ、便利屋のようにバイトで呼び出されて困る その1→痰的設定集 その3→痰的設定集3
https://w.atwiki.jp/trinanoss/pages/125.html
ティアナ・ランスターを選んだんは何故かって? せやなぁ……最後の1人に選ばれたんが、あの娘やったんやけど……正直な話、結構難航してたんよ。 あの娘と同等の魔力値を持った候補は、他に3人もおったし…… 今はまだ問題なさそうやけど……安定しとるとは言いがたい体質やしな。 それで何故、あの娘が選ばれたかって考えると…… ……やっぱり、気迫やね。 魔法少女リリカルなのはSpiritS 第二話「スカーフェイス・ガンスリンガー(前編)」 第一世界ミッドチルダにも、土地ごとの格差というものは存在する。 都会のクラナガンがあれば、発展途上段階にある田舎の地域もあるということだ。 そのくくりにおいては、ミッド東部に位置する現在地――オルセア地方は、後者に相当する土地だった。 見上げれば空を遮らんばかりの、無数の窓と無数の電飾。 街頭には集合住宅が建ち並び、ごてごてと突き出しているのは分厚い電光看板。 一見発展した市街地のように見えて、しかしその街並みを象る建築も装飾も、全て一昔前の技術の数々。 大した財力や技術力もない土地に、中途半端に近代化をねじ込んだ結果、無秩序な発展を遂げた混沌の街だ。 当然そんな有り様なのだから、治安がよくなるわけもない。 貧富の差が大きかったこの地方では、スカリエッティの大戦以前から、内戦状態にあったのだそうだ。 そんな暗黒街の道路を、1つの人影が歩いている。 かつり、かつりとアスファルトを鳴らし、弾痕の刻まれた道を進む者がいる。 春先だというのに黒いロングコートを身に纏い、襟元のフードを目深に被る者。 布地の合間から覗くのは、鮮やかなオレンジ色の髪を持った女の顔だ。 身を隠すように厚着をした様子は、かの若きストライカー――スバル・ナカジマにも似通っていた。 目付きはスバルよりもやや鋭く、背はスバルよりも僅かに高い。1つか2つ歳上といったところだろう。 「ここも酷いものね……」 ぽつり、と。 漆黒のコートの少女が呟く。 大洋の青を宿した瞳に映るのは、道路に転がり落ちた直方体の看板。 ひび割れ破片を散らばらせるそれが、撤去されることもなく放置されている。 いかに内戦状態にあったとはいえ、かつてのオルセアにも行政はあった。 政治とはすなわち生活保障であり、戦場と隣り合わせではあったものの、そこには間違いなくある程度の秩序があった。 それが今はこの有り様だ。 疲弊しているのは街だけではない。軽く左右に視線を振れば、そこに浮浪者同然の人々の姿がある。 スカリエッティの支配によって、確かに内乱はなくなった。 だが以前の街の方が、よほど生気に満ちていたではないか。 「このご時世じゃ、どこもかしこもこんなもんさ」 と。 不意に。 脇から語りかける、声。 少女の呟きに合わせるようにして、男の声が飛んでくる。 僅かにはっとした顔をして、声のする方へと視線を向けた。 20代ほどの若い男の声。 彼女にとっては、聞き覚えのありすぎる声。 「よっ。久しぶりだな――ティアナ」 くすんだガードレールに腰かけていたのは、ツナギを着込んだ茶髪の男。 薄い笑みを口元に浮かべ、目元に黒のサングラスをかけて。 陽気な声をかけるのは、あのヴァイス・グランセニック。 スバルらストライカーズのサポートを担当する、管理局のヘリパイロットだ。 「ええ……お久しぶりです、ヴァイス陸曹」 くすり、と。 相変わらずの上司の様子に、小さく乾いた微笑を浮かべる。 そう。 スバルにとってそうであるように、この男は彼女の上官でもあった。 彼女の名は、ティアナ・ランスター二等陸士。 ストライカーズ養成計画の対象に選ばれ、英雄となるべく訓練を課せられた者。 スバルと志を同じくする、もう1人の若きストライカーである。 生きるためには金がいる。それは占領下であっても例外ではない。 むしろ物資の少ないこのご時世だからこそ、貨幣制度が崩壊すれば、あっという間に略奪と混乱が広まるだろう。 金のやりとりというものは、人がモラルある文明人であるプライドの、最後に残された証明手段でもあった。 そんなわけで、このご時世のこの街にも、ちゃんと店舗という概念は存続している。 単純な肉屋魚屋にしかり、テーブルについて飲み物を口にする酒場にしかりだ。 もっとも、特に貧困に喘いでいるオルセアでは、それも住民中約4分の1の守銭奴達のたしなみなのだが。 そしてこの日、ティアナとヴァイスの両名が足を運んだのは、そんな酒場だった。 半分壊れかけた扉を開き、ひび割れた埃臭いカウンターにつく。 お互いに注文したのは水だ。 ティアナは未成年で酒が飲めないし、おまけにこれからするのは真面目な話。アルコールが入るのはまずい。 ややあって、水の注がれたコップが出される。 す、と。 衣擦れの音が鳴った。 少女の顔を覆い隠していたフードが、ここにきてようやく脱がれたのだ。 黒い布地が頭から離れ、その下の髪が露わとなる。 目にも鮮やかな柑橘の色。 瑞々しさを湛えたオレンジの髪が、砕けた壁から射し込む陽光に映えた。 埃の粒子が舞う中で、シュシュに束ねられた二房の髪が揺れる。いわゆるツインテールという髪型。 「……それで、わざわざヴァイス陸曹が直接出向いてきた理由は?」 先に口を開いたのはティアナだった。 首元に下ろしたフードを整えながら、隣に座るヴァイスへと尋ねる。 通信技術の発展した現代では、連絡を取る上で直接顔を合わせる必要性は薄いのだ。 にもかかわらずこうして接触を図ってきたということは、共に何らかの任務に当たれということか。 あるいは、そうまでして通信傍受を警戒しなければならないほどの、極秘の連絡事項ということか。 「ああ、それなんだがな……近々俺達も、本格的な活動に移行することが決まった」 どうやら今回は後者だったらしい。 ぐいっと水を飲み干したヴァイスが、彼女の問いかけに答えた。 「これまでの散発的なゲリラとは違う、正真正銘の戦争だ。今連絡員があちこちの基地を飛び回って、指揮系統を組み立ててる。 でもってお前ら新人達も、本部に帰投せよ……ってわけだ」 「あたし達4人でチームを組んで戦う、ってことですね?」 「そうなるな。お前らストライカーズチームも、ようやく本来の形での運用が始まるってこった」 「そっか……」 呟きと共に、想いを馳せる。 ストライカーズチームなんて言われているが、実際にチームとして活動したのは、もう3ヶ月近く前までのことだ。 それも訓練期間中の話で、要するに実戦投入されてからは、全員が全員バラバラに動いていることになる。 3ヶ月ぶりの再会ともなれば、感慨深くもなるだろう。 (また、あの娘と一緒に戦うのか) 最初に脳裏に浮かぶのは、あのスバル・ナカジマの顔だ。 能天気でおっちょこちょいで、見ていて危なっかしかったにやけ面。 それでもその胸の内には、誰にも負けない熱い闘志と、誰よりつらい苦悩を抱えていた、自分より1つ歳下の娘。 一般訓練校の頃から、かれこれ3年間パートナーを組んできた腐れ縁。 また、彼女と一緒になるのか。 共に他愛のない会話に花を咲かせ、共に戦場で戦うのか。 本当に腐れ縁というものは、仮に切ろうとしたとしても、なかなか切れないものらしい。 「嬉しそうだな」 はっ、と。 横からのヴァイスの声に、我に返った。 「……そんなんじゃありません」 無意識に口元がにやけていたらしい。 子供っぽいところを見せてしまった。 そう思い、我知らずつっけんどんな口調を作り、視線を反対側へと逸らす。 「まぁまぁ、無理しなさんな。そういう顔ができる相手がいるってのは、貴重なことなんだからよ」 からからと笑いながら、ヴァイスが語りかける。 確かに、彼の言う通りだ。 ティアナ・ランスターには友達が少ない。 生真面目で無愛想でつんけんしてて、おまけに冗談は通じないし怒りっぽい。 年頃の少女がそんな有り様では、親しくしようとする人間の方が少ないに決まっている。 故にそんな彼女にとって、スバル・ナカジマというルームメイトは、数少ない貴重な友人だった。 何故付き合っているのかは分からない。 普通に考えればあんな天然ボケ、こちらから願い下げな人種のはずなのに。 そうした個人の嗜好抜きに付き合える関係――それが友というものらしい。 「で、だ」 その言葉を皮切りに、雑談ムードは打ち切られる。 今は仕事絡みの話の最中なのだ。いつまでもぐだぐだと駄弁っているわけにはいかない。 「上からは5月8日までに集合って言われてるんだが……お前、これからどうする? 早めに帰還するに越したことはねぇと思うけど」 「ん……今日1日だけ待ってもらえないでしょうか?」 「待つも何も、それくらいならお前の勝手だがよ……何か用事でもあんのか?」 「ちょっと気になることがありまして」 言いながら、ガラスのコップを手に持った。 口先を当て、くい、と中の水を喉へ流し込む。 半分程の中身になった透明なグラスが、こつんと音を立ててテーブルへ戻る。 「このオルセアでは、以前から戦闘機人による人拐いが横行してるそうなんです」 「人拐いってぇと、娼婦とか奴隷商とかか?」 「時代が古いです」 ずばっ、と。 真顔で遠慮なしに突き込まれるツッコミ。 しかし恨めしげな相手の顔を見る限り、どうもボケたつもりではなく、割と本気だったらしい。 それはそれで、少々洞察力に問題があると思うのだが。 「まぁ、中には慰み物というのもないことはないと思いますが……メインの用途は、恐らくスカリエッティの被験体かと」 若干困った顔で頭を掻きながら、ティアナが言葉を続ける。 「あぁ、成る程」 「ここは土地も痩せてますし、物資目当てに占領するメリットは薄いんですが、 内戦があった分、肉体的に強靭な人間は多いですからね……実験に使える人材だけは豊富なんです」 支配には興味がなく、世界を戦闘機人に預け放置しているジェイル・スカリエッティだが、時には世界に干渉することもある。 新薬を開発するにしても、優れたクローン技術を確立するにしても、生物兵器を造り出すにしても。 生物化学という分野を専攻しているからには、己の知識欲を満たすには、生きた実験体が必要になる。 数々の生体実験を行うための、テストボディの調達がそれだ。 彼の研究材料の調達のために、現在のミッドチルダでは、世界中で拉致事件が多発している。 スバルの時もそうだった。あの98号を名乗る戦闘機人によって、危うく捕獲されるところだった。 「今夜ちょうど、拐われた人達がクラナガンへと運ばれる予定になっていて、その分奴らの拠点が手薄になるんです」 「で、そこを突いてふんじばっちまおうってわけか」 こくり、とヴァイスの言葉に頷く。 ついでにコップにもう一度手をつけ、残った水を全部飲み干した。 「お前がやるってんなら、ある程度勝算はあるんだろうが……何かできることがあったら、手伝おうか?」 「そうですね……じゃあ、“ファントムフッター”の方をお願いします。すぐ近くに隠してあるんで」 言いながら、ごそごそとコートの胸ポケットを探る。 取り出したのは紙とペン。 さらさらと筆先を走らせれば、簡単な地図の出来上がりだ。 「20時頃になったらここに来てください。詳しい説明をしますので」 「分かった。ついでに近場の基地に連絡を取って、輸送の方に手を回してもらうよう頼んどくわ」 走り書きした小さな地図を、右手で掴んでヴァイスへと渡す。 若いツナギの男もまた、右手でそれを受け取った。 この作戦を行うためには、拐われた人達が運び出されるのを無視しなければならない。 そのため後で周辺に潜伏している管理局員に、 人員輸送の車両を襲撃する別動隊を要請するつもりだったが、どうやら取り越し苦労に終わったようだ。 微かな安堵に表情を緩めつつ、それで終わりだと言わんばかりに席を立つ。 このご時世では水であろうと有料だ。数枚の硬貨をカウンターに置き、そのまま踵を返して立ち去らんとする。 と。 そこで。 ふわり、とツインテールが揺れた。 オレンジ色の髪をたなびかせ、肩越しにヴァイスの方へと視線を向けた。 名残惜しげな青の瞳が、自分より10近く歳上の男を見やる。 「何だ? なんかまだあったのか?」 きょとんとした顔つきをして、ヴァイスが問いかける。 「……何でも、ないです」 顔が赤くなっていたに違いない。 頬に熱を感じながら、ぶっきらぼうに返して背を向ける。 きっともう一度振り返れば、そこでは彼が怪訝そうな顔をして、首を傾げていることだろう。 他人の面倒見はいいくせに、自分に向けられた想いには鈍感な人だ。 もう何度となく思い浮かべた感想を内心で呟き、壊れた扉へと歩み寄る。 自分の調子を狂わせる者がいるとしたら、それはスバルだけではない。 ああして平静を装うだけでも、どれだけの労力がかかったことか。 顔を合わせただけで、耳まで赤くなるような心地だった。 不意討ちの声を聞いただけで、心臓がやかましく高鳴った。 友情とは違う、慕情。 愛情と呼べる、感情。 どうして慕うようになったかなんて分からない。 いつから好ましく思ったかなんて覚えていない。 (まだ、誰かを好きになることができるだなんて) その身に触れたい。 その声で囁かれたい。 互いの真芯まで繋がりあって、めちゃくちゃに犯し尽くされたい。 ただの友とはわけが違う。 深く、より深く。 魂の奥底まで触れ合うことを、この身は確かに望んでいる。 互いの全てをさらけ出し、懐深くまで入り込まれることを、この期に及んで望んでいる。 (あたしの心は、こんなにも乾いてしまったというのに) ぎぃこ、と。 壊れた扉の蝶番の、錆び付いた鉄の音が鳴った。 (諦めてしまえればいいのに) 人並みの愛や幸せなど、こんな手で掴めるわけがないのに。 嗚呼。 なんて、無様。 あの時のあたしは14歳で、まだ訓練校を卒業するか否かといった頃の、本当にちっぽけな存在だった。 両親を早くに亡くしてはいたものの、それでもやはり無知な存在で、ひねくれ者なりに純粋で、ただ強くなることだけを考えていた。 いつか兄さんと一緒に肩を並べて、人々の生活を守るために戦えたら。 力の意味なんて、その頃はまだ、たったそれだけで十分だった。 ――兄さんっ! ――ティアナ、早く後方まで下がれ! こいつらは僕が……! それでも、いつまでもそのままではいられなかった。 今でもあの日あの瞬間の光景は、ありありと思い出すことができる。 紅蓮の炎が燃え盛る大地。 灼熱色に染め上げられた空。 逃げ惑う訓練生達と、逃げ遅れた訓練生だった肉塊達。 鼻を突くのは血と焦げの臭い。 目の前にはあたしを庇う兄――武装局員ティーダ・ランスターの背中。 ――麗しい兄妹愛ッスねぇ。せいぜい大事な妹さんを守るために、上手く立ち回るんスよ? そしてその更に先に立つ、紅の髪の戦闘機人。 自分より2~3歳上くらいの、若い女の子にしか見えなかった。 それでもそのにやけ面は、確かに人外の力を持った魔物で、立ちはだかる局員達を、次々と殺戮していった。 巨大なボードで宙を舞うそいつは、確かにあたし達人類を脅かす敵だった。 ――がはぁっ! ――あーらら、残念。もう終わりッスか。 言われるままに逃げ出してから、ほとんど時間は経ってない。 鋭い苦悶の声に振り返れば、そこに待っていたのは最悪の惨状。 ――いやああぁぁぁっ! 兄さぁぁぁぁぁんッ!! あたしは逃げることも忘れて、ただひたすらに叫んでいた。 喉が潰れそうになるほどに、ひたすら叫びを上げていた。 振り返った先にあったのは、世界でたった1人の肉親が、心臓を貫かれ倒れる姿と。 場違いに陽気な笑みを浮かべて、その身を返り血に染める赤髪の機人と。 炎の海に照らされて、爛々と光り輝く黄金の瞳と。 身に纏うスーツの胸元に、刻み込まれたⅩⅠ番の刻印。 ――ま、こんなもんスかねぇ。それじゃ、後は好きにやっちゃっていいッスよ。 背後を向き声をかけたその先には、もう1人の戦闘機人がいる。 茶髪を頭の後ろに纏めて、右手に大砲を携えて。 身の丈をも凌ぐ砲身の先は、ただ絶望に立ち尽くすだけのあたしの身体。 やがて視界を満たしたのは、目も眩むほどのまばゆい光輝。 ――■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッッッ!!! 言葉にならないめちゃくちゃな悲鳴と、身を焦がす熱と痛みが、最後にあたしが知覚したものだった。 「―――っ!」 くわ、と瞳を大きく見開き。 がば、と上体を激しく起こす。 自身の覚醒に気が付くまでには、それから更に一瞬を要した。 身体中が寝汗でぐしゃぐしゃに濡れている。 へばりつくブラジャーとショーツの感触も、絡みつく髪の感触も鬱陶しい。 ぜぇぜぇと息をする様は、重度の喘息患者のそれにも似ていた。 酸素が身体に取り込めない。鈍い痛みが四肢を襲う。 額に浮かぶ脂汗を拭い、うんざりとした表情を浮かべ、のそのそとした動作で身体を動かす。 しゅる、と。 静寂に響く衣擦れの音。 身を包むシーツを引き剥がす手先は、痙攣にびくびくと震えていた。 埃っぽいベッドから立ち上がり、下着のみを身に付けた身体を歩ませる。 ふらふらと薄暗い室内を進み、漆黒のロングコートをひったくった。 ポケットから取り出したのはプラスチックのケース。中身を満たすのは薬品のカプセルか。 蓋を開けそこから2錠を取り出し、一気に口の中へと放り込む。 そのまま脱力しきったようにして、壁にもたれかかりへたり込んだ。 「はぁ……はぁ……はぁ……っ……」 1秒、2秒、3秒。 20秒もそのままでいれば、ようやく身体も落ち着いてくる。 身を蝕む鈍痛も息切れも、緩やかに鎮静化していった。 「また……あの夢か……」 ぎゅっ、と。 薬のケースを握り締める。 左の乳房を潰すように、拳を強く押しつける。 まどろみの中で垣間見たのは、何度目とも知れぬ喪失の記憶。 誰よりも愛し、誰よりも尊敬した、たった1人の兄との別離。 引いたはずの痛みが消えない。 左胸が今も痛みに疼いている。 大切な肉親を喪った、欠落の痕に響くファントム・ペイン。 「………」 乱れた髪を整えながら、ゆっくりとそのまま立ち上がった。 寝床に使った廃ビルの一室の机に、乱雑に放り捨ててあった衣服へと手を伸ばす。 あの日から、自分は決定的に変わった。 それまでも割と排他的だった性分が、そこから更に輪をかけて悪化した。 感情の振れ幅が小さい。 何も感じないわけではないが、それでもかつてに比べれば、随分と希薄化してしまった。 心は一気に水気を失い、からからに乾ききってしまっている。 笑うことさえも、忘れてしまったかもしれない。 形を作ることはできても、昔のような笑顔にならない。 今にも掻き消えてしまいそうな、虚ろで感動も何もないような、厭な顔にしかならないのだ。 「……そろそろ、時間か」 机上に置いた端末を見れば、現在時刻は7時41分。 もう間もなく待ち合わせに従い、ヴァイスが訪ねてくる頃だ。 そうなれば、後は戦いの時間。 命を賭けた真剣勝負が始まる。 残り20分弱のうちに、余計な雑念は切り捨てておかないと。 嫌な気分を振り払うようにして、手にしたスカートに足を通した。 殺伐としていたオルセアにも、演劇場というものは存在する。 貧しいながらも未だ平和ではあった当時には、貴重な娯楽として親しまれていた。 されど、人々に夢と感動を与えるステージは、今や暴力を振りかざす者達の居城。 赤い垂れ幕の舞台には、うろつく数人の部下の中心で、冷徹なる鋼の機人がふんぞり返っている。 「………」 ふぅ、と。 退屈そうな目つきをして、オルセア地方の監督役――戦闘機人第72号機がため息をついた。 細い右手の指を顔の前へと運び、左手で真紅のマニキュアを塗りこむ。 ふっと息を吹きかける唇には、微かに艶やかな光沢を孕んだ口紅。 濃紺のロングヘアーをストレートにした、30代前半ほどといった妖艶な美女だ。 スリットからしなやかな美脚が覗く。 その身に纏う衣装は戦闘機人用のスーツではなく、黄金の刺繍のほどこされた、紫色のチャイニーズ・ドレス。 「たった今、実験体の輸送車が出発しました」 椅子に腰掛ける72号へと、厳つい顔をした男の機人が報告する。 長い睫毛の下の黄金の瞳が、その顔を興味なさげに一瞥した。 す、と。 女が懐から取り出したのは、艶のある黒塗りの骨を持った扇。 使用した化粧品を脇へと置いて、口元を覆うように扇子を広げる。 「……この土地の連中の質も落ちたものね」 ぽつり、と呟いた。 金の双眸を部下にも向けず、扇の向こうの口を動かす。 そして言葉を言い終えた頃に、ようやくぱたんと扇を閉じる。 「ええ、まぁ。身体能力の方は、未だ水準をキープしてはいるのですが……」 「固体の能力なんてどれも同じで当たり前」 びし、と。 突きつけるは漆黒と白。 さながら剣豪の居合いのごとく。 じゃらりと金属音を鳴らして揺れたのは、身につけた無数の装飾か。 折りたたんだ扇の先端が、目にも止まらぬ速さで一閃。 報告する男の鼻先を、ひゅう、と風切り音が駆け抜けた。 「私が興味があるのは美しいもの。どうせただの人間では、そうそう機人にはかなわない……その上美しくもない奴なんて、存在する意味も必要もないのよ」 上から、下へ。 上方へ顎先を持ち上げて、瞳だけを下方へと向ける。 高圧的に見下す姿勢で、扇の指す先を睨みつける。 射抜くように鋭い視線。 凍てつくほどに冷たい殺意。 傲岸不遜な態度に宿るのは、それ相応の強者の覇気。 「おっしゃる、通りで……」 つぅっと男の顔を伝うのは冷や汗。 恐怖に強張った顔を背け、報告を終えた機人がその場を離れる。 戦闘機人72号――彼女の嗜好は、着飾ること。 おおよそ闘争とは対極に位置する美の追求こそが、彼女にとっての最大の欲求。 故に一般のフィットスーツを着用せず、艶やかなドレスに身を包んだ。 黄金のイヤリングに宝石を散りばめたネックレスといった、様々な装飾品を身につけた。 だからこそ、ジェイル・スカリエッティへの献上品たる被験体にも、当然のごとく美男美女を求めた。 しかし狩り尽くしてしまったのか、どうにもここ最近は、いまいちな顔つきの連中しか集まらない。 不細工な男や、地味な女。どれもこれも、偉大な主へ捧げるのもはばかられるような連中ばかり。 あまりにひどい時などは、部下に慰み物として与えて放置したこともある。 (この街も品切れ、か) 内心で呟きながら、不満げに眉をひそめた。 「――ボス」 と。 そこへ、次なる声がかけられる。今度は気の強い女性の声だ。 右目をくすんだ金髪で隠した女性機人が、入れ替わるようにしてやって来る。 「つい先ほど入り口の方に、実験体に志願したいという者が現れたんですが」 「実験体に志願する、ですって?」 ぴくり、と動く整った眉。 先ほどとは違った意味を孕んで、72号の視線が細められる。 「どんな物好きよ、一体……?」 一体どういうことだ。 スカリエッティの研究というものは、必ずしも人体にとって安全なものというわけではない。 科学兵器の的にされる可能性もあれば、新薬の試験で毒を掴まされることもある。 最悪生物兵器になどなってしまえば、元々の自我を喪失してしまうことだってありうる。 そんな危険な実験に自分の身体を提供するなど、正気の沙汰とは思えない。 「もう輸送車は出しちまいましたが……どうします?」 「……まぁいいわ。一度通しなさい」 悩んでいても仕方がない。 実験体が1人でも多く手に入るというのなら、スカリエッティにとっても万々歳なはずだ。 何かの間違いで美形に出くわそうものなら、個人的にはまさに大金星。 来る者は拒まずの精神だ。 仮に不細工だったり、あるいは実験に使えないような貧弱な人間だったなら、そのまま放り捨ててしまえばいいのだ。 そう結論付けて、72号は、その間の悪い来客とやらを招き入れることにした。 程なくして、劇場ホールの扉が開かれる。 客席の扉からステージへと、ゆっくりとした歩みでやって来るのは、オレンジ色の髪の少女。 もう春先に入ったというのに、暑苦しい黒コートを着込んだ女だ。 生命の青を宿した双眸には、しかし生気までは宿されていない。 焦点が合っているのか、はたまた視力があるのかすらも判然としない、虚ろな瞳。 軟質な足音は素足の歩みか。 ふらふらと力なく歩み寄る足取りが、やがて72号のもとへとたどり着く。 「貴方ね。我らが創造主ドクター・スカリエッティに、身体を提供したいというのは」 「……はい……」 ぼそ、と。 返ってくるその声すらもか細い。 まるで蚊が鳴いたかのような音量だ。そんな健康状態で、自分の身体を売り物にできると本気で思っているのだろうか。 「両親は先の戦争で死にました……お金もないし、奪うだけの力もありません…… どうせこのまま死んでいくくらいなら……せめて、スカリエッティの……スカリエッティ様の手で……戦闘機人に、改造してほしい……」 ぽつり、ぽつりと言葉が続く。 頼んでもいない身の上話を、つらつらと勝手に語っていく。 魂の抜かれた人形のような有様と相まって、まるで壊れたラジオでも聞いているかのようだ。 だが、しかし。 「……大体の事情は分かったわ」 少なくとも、当初の疑問は氷解した。 とはいえ紡がれた言葉は、あまりに平凡で下らない内容ではあったのだが。 要するにこの娘は、飢餓と貧困と恐怖に耐えかね、自分達戦闘機人の仲間に入れてくれるよう懇願しに来たのだ。 「でも、貴方の願いは叶わない。既に産まれてしまった人間からは、戦闘機人は生み出せない」 真実だ。 戦闘機人はただのサイボーグではない。 その認識から逃れられなかったがために、過去の開発者連中は、機人技術の確立には至れなかった。 受精卵の段階から遺伝子を操作し、機械部品を受け入れやすい体組織を作ることで、初めてまともな改造が可能となるのだ。 普通の人間に機械部品を埋め込んだところで、拒否反応を起こすに決まっている。 ここまで成長してしまったこの娘には、少なくとも戦闘機人技術の研究の上では、何の価値もありはしない。 「……まぁ、それでも」 にぃ、と。 グロスの口元が三日月を描く。 これまで不機嫌そうにしていた72号の顔に、初めて薄い笑みが浮かぶ。 「必ずしも、飢えと渇きが満たされないと決まったわけじゃないわ」 しゅる、と鳴るのは衣擦れの音。 分厚い漆黒のコートの上で、真紅のマニキュアの五指が躍る。 肩から引き落とすようにして、ゆっくりと剥がされていく防寒用の布。 「じっくりと見てみれば、貴方もなかなか綺麗な身体をしているじゃない」 足音から大体推測はしていた。 そしてそこにあった光景は推測通り。 コートの下には何もなかった。 暗殺用の凶器もなければ、金を蓄える財布もない。衣服も下着もありはしない。 恐らくはもはや身に着けるものさえも、根こそぎ奪い去られたのだろう。 一糸纏わぬ全裸体が、コートの下から姿を現した。 「瑞々しい果実のようなオレンジの髪……抜群のサイズとまでは言わずとも、程よく綺麗に整ったバスト…… 余計な脂肪のない、引き締まったウエストライン……しなやかに伸びる脚線美……」 細い指が少女をなぞる。 つぅ、と滑るようにして、女の肢体をたどっていく。 力ない衰弱しきった気配に反した、名工の手がけた彫刻のごとき見事なライン。 「美しいわぁ……」 ほぅ、と。 恍惚なため息を口から漏らす。 ほんのりと紅に染まった笑顔に、滲み出るのは好色の様相。 舐め回すような金色の視線は、さながら熱を帯びた娼婦のそれだ。 「たとえ実用性などなかったとしても、美しいものにはそれだけで価値がある……」 唇から顔を出すのは舌。 一個の生命体のごとき72号のそれが、少女の腹部にそっと触れる。 ぴちゃり、ぴちゃり、と。 紅色の軟体が這うのは、綺麗な形をしたへそのライン。 「っ……」 奥へと先端が触れるたび、少女の肩がぴくりと肩が揺れる 舌先に絡みついた粘液が、静寂なホールに淫猥な響きを上げた。 「貴方が私の物になるというのなら、ここに置いてあげても構わないわよ」 彼女が求めるのは美しいもの。 そこに有機物も無機物も、果ては男女の垣根もありはしない。 そしてそこに、その眼鏡にかなう者が現れた。 であればこうなるのはもはや必定。 それは言ってしまうならば、主君の物になるはずだった少女を、脇から掠め取る横領行為だ。 それでも、部下の機人達は何も言わない。 ああ、また始まった、と言わんばかりに。 傍観する者こそおれど、咎める者は現れない。 彼女の蒐集を阻む者が、いかなる末路を辿ったのかは、全員重々承知している。 「分かり、ました……ですが……一つ、お願いがあります……」 「ふふ……まぁいいわ。内容によっては、考えてあげても構わないわよ」 まったくもって図々しい娘だ。自分にまたしても注文をつけるとは。 脆いのか強情なのか、よく分からない奴だ、と思う。 だが、それでもある程度ならいいだろう。 久々に可愛らしい娘が手に入るのだ。その対価としては安いものだ。 そう思い、視線を彼女の顔の方へと持ち上げる。 「では――」 そして。 その、次の瞬間。 「――あんたのそのケバい顔をどけてもらうわ」 冷たくきつい語調と共に、マズルフラッシュが瞬いた。 前へ 目次 次へ
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終端の王と異世界の騎士 ◆wC9C3Zbq2k (非登録タグ) パロロワ ニコニコ動画バトルロワイアル 第231話 「小悪党マルクに神の鉄槌を下すときがきたようね。位置は特定できたわ!」 オペレーターを喰らったことで知りもしなかったコンピュータの内容が理解できる。 ついでに面白そうなものも見つける。ハルヒの上機嫌は治まるところを知らない。 見つけたマルクの所在とは異なる方向へ歩き出そうとするハルヒにセイバーが問いかけた。 「どちらへ行かれるのですか」 「画面のここの部屋に宝箱があったのよ。行かないわけにはいかないじゃない。 中身はとてもきれいな…虹のしずくっていうの? マルクの背中の羽根に似てたわ。そういうアクセサリね」 水銀燈の翼はいいがデーモンの無骨な黒翼は見栄えが悪いためそれを装身具として身に付けたいのだとハルヒは語る。颯爽かつ華麗に登場してこそ神なのだと。 セイバーの感覚でいえば今のハルヒの格好はオシャレ以前の問題なのだが、本人が裸マントを問題だと思っていない以上それはただの文化の違いなのだろう。 従者はとやかく言うべきではない。そう判断して多くの言葉を飲み込む。 「お供します」 「美しさは罪っていうけど、そんなことが罪であるもんですか! 女装した化け物なんかに神が劣る点があっちゃいけないのよ」 上機嫌のハルヒは語る。 もちろんそのアクセサリ、ハルヒやマルクが装備するためのものではない。 それどころかドラグーン(乗り物)の一部なのだが、あまりに幻想的かつ人の基準からみて小さすぎるため彼女が必然的にそれを曲解したというだけのことだ。 格納庫の方向へ軽く浮きながら二人は向かう。 「それからアル…なんだっけ、あんたの名前」 「私は貴女の一介の駒に過ぎぬ存在。役割としての名であるセイバーで結構です」 「セイバー、あとどれくらい実体化できるの?」 召喚したモンスターの有効期限はどこにも書かれていなかった。 ハルヒの予想では長くて六時間、短ければそろそろ消滅するころ。 思っていたより強いことがわかったのでできれば最後まで有効に使いたい。 「申し訳ありません。残された時間はあと僅かです」 「だめよ。あんたには参加者のゴミどもを掃除してもらうつもりなんだから。 デジヴァイスだって光ってるわ。この勇気のタグ? とかいうので進化してもう少し持たせなさい」 そう言った途端黒い光がセイバーを包む。外見の変化は見受けられなかったが、身体が甲冑ごと軽くなっていることには気付いた。 本当に進化したらしい。セイバーは驚いたようにハルヒを注視する。 「これでやれるわね。格納庫にいる連中の皆殺し、任せて大丈夫かしら」 「相手が人間であれば、何人であろうと遅れをとることはないでしょう。英霊とはそういった存在です」 自信ありげなその答えにハルヒは満足する。モンスターにしておくのが惜しいほど忠実ではないかと。時間内に片がつくのなら単騎で殲滅してもらおう。 格納庫の入口で立ち止まり、ハルヒは言い放つ。 「遠くに見えるあの集団がそうよ。食べたい気持ちもあるけれどさっきちょっと食べ過ぎたし、全員価値もないただの人間だから好きなように殺してかまわないわ。きひゃひゃっ! とりあえず先に半殺しにしておいてあげる。あたしはこれを撃ち終えたら例のアクセサリを拾いに行くから。つまりここで一旦お別れね」 「かしこまりました。マイマスター」 ハルヒが目を閉じ、声がブラックナイトマジシャンガールの野太いものへと切り替わる。能力を本気で使うために支配下に置いた存在を表層へ出したらしい。 「セイバー覚えておけ。神の崇高な理念を解さぬものは、いつか必ずこうして葬り去られるということを。アルカス・クルタス・エイギアス、煌きたる天神よ―――」 ラテン語と日本語の入り混じった詠唱によって、格納庫の天井に巨大な光の魔方陣が形作られる。その文字が示すものは、豪雷。 「サンダーフォールッ!」 幾本もの雷の柱が、少年少女の下に降り注いだ。 レナたちによるハルバード内部の探索の結果は上々といえた。 マルクはこれほどのものを密かに建造していたのかと憤慨していたピエモンが、これならプロテクトを解除するだけで操縦でき、かつ皆を元の世界に送り届けることができるはずだという結論を出したのである。 そしてその問題は、主要プロテクトのすでに外されたnice boat.のメインコンピュータで代用すれば解決可能なはずだと。 となると正式に運用するために足りないのは各所に配備する人員だけということになるが、これは残念ながらオペレータールームからピエモンに従ってくれるデジモンを引き入れるしかない。 マルクを探し出して決着をつけたのち禍根を絶つべくノヴァを完全停止させ、その後オペレーターを拉致して順にもとの世界へ帰還する。これが現在の優先順位だ。 一応人数だけなら核鉄の能力で分身できる日吉とディパック内で9体にまで増えていたケラモンで最低限は確保できる計算なのだが…… 残念ながら、彼らにオペレーティング技術はない。日吉はひたすらにテニスに打ち込んできたスポーツ少年。ケラモンは電子的な存在でこそあれ精神的に幼すぎるクラゲ。 そしてなにより、彼らによる共同作業は不可能だとレナは判断せざるを得ない。 日吉は口数が少なく一見クールに見えるが根は圭一に近いかなりの熱血漢だ。 自分や仲間を攻撃し重傷を与えた化け物と手を組むことに対して非常時だからとすぐ割り切れるほど冷酷非情な男ではない。 この件に関してはむしろレナのほうが異常なのだ。卑下するつもりはないがこんな環境で感情を抑えきれるほうがよっぽどおかしいということは彼女も認識していた。 そう。例えるならば、皆にとってクラちゃんたちは「人を噛んだことのある毒蛇」。 それほど危険で敵性の高いものをいま友好的に見えるという理由だけで檻にすら入れていないのだから非難されても仕方がない。 皆仲違いを恐れてか誰も強くレナに主張しなかったが、内心で不安がっていることは確実だろう。 クラちゃんに関しては所持を告げた時点で殺せと言われなかっただけましだと思うしかない。 (それに……) まだ戦いは終わっていない。この先何人仲間を失うことになるかわからない。 どれだけ自動化が進んでいようと宇宙戦艦は怪我人と棺桶で回せるほど甘くはない。 使えそうな道具も携帯するには難のある大きなものばかりだったので、全員揃って艦を出る。 ピエモンだけが妙に艦の技術に興味深げで格納庫から出ることを渋っていたが、遊戯の説得で歩を合わせ始めた。 「それにこんな大きな船、計画のどの部分に必要だったんだい? 地上にいる僕たちと戦うのにロボットならともかく戦艦なんて必要ないよね」 「うむ、その通りだ。脱出用の宇宙船ならともかく戦艦などバトルロワイアル遂行には明らかに不必要。マルクが何か別の目的で動いていた証拠に他ならない。 やはり正さねばならぬようだな。裏切り者マルクを」 遊戯の誘導に少女ピエモンが意気揚々と賛意を示す。相変わらず彼のマルクへの疑いは揺るがないようだ。 脱出艇でなく宇宙戦艦なのは確かに無駄が多すぎるように思えるが、時空管理局などの組織がここを発見した場合に逃げ切るための武力と考えれば決しておかしな話ではない。 もっとも、ただ派手好きなだけなのではないかという疑念も拭いきれないが……。 「まだ警備は来てないが、来られると厄介だ。合流を急ごうや」 「そうだね。霊夢ちゃんもKASくんも、カービィちゃんまで生きていてくれてどこかにいるみたいだし」 全員城にいる。古泉だけが会場に取り残されている可能性もあるが、おそらくは彼も城に招かれている。マルクならきっとそうするだろうとレナは考える。 古泉をこちらに引き入れることはできるか。彼がいつもの表情で降伏勧告を受け入れたとしてそれを信用できるか。できる限りの参加者を救いたいのにその壁はあまりに厚い。 ハルバードから離れてしばらくのち、不意に周囲の景色が鮮明になる。 それに気付いた集団の最後列にいた遊戯が誰にとはなしにつぶやいた。 「なんだか少し明るくなった気がしない?」 最初に気付いたのはクロスミラージュだった。 『屋内でなんてことしやがる! 避けられねえ、伏せろっ!』 「上!?」 中空に突如浮かんだ巨大な魔方陣から発せられた幾本もの稲光が、彼らに降り注いだ。 天候操作で強引に発生させた本物の落雷である。肉体の鍛えようなど関係なくただ命中したものに残酷な死を与える。 ハルヒの計算ではこれで半分は即死し、半分くらいは何らかのアイテムで生き残るが身動きのとれない重症に陥る。 そうなれば残りはセイバーが難なく駆除できる。そのつもりで放った強力な儀式魔法だ。 だが、轟音が去ったあとに倒れ伏した黒影はなかった。 全員が、身体の痺れに耐えながらも立って新たな来訪者を見つめている。 「驚嘆すべき力です……。雷撃も、あなたたちも」 「そいつはどうも。あんたもデジモンか?」 皆の前に現れた女騎士の感嘆の言葉を日吉が受け流す。 メタルブレードの掃射と防護魔法で電流を逃がそうとしたレナ、フライパン一本でレナの背後にあった例の棺桶を全員の盾になるよう強引にサーブした日吉。 同じくその大きすぎる隙間を埋めるように瞬時にレッドアイズを喚んで壁にした遊戯。ピエモンを野放しにはできないと遊戯が手放した包丁を手に取ったが雷のときに金属はまずいと思い直しあわてて投げ捨てたつかさ。 その包丁がいきなり眼前をかすめて背筋が凍ったピエモン。二人ほど役に立っていない気もするが、結果的に全員が全身の痺れを訴える程度までの被害で済んでいる。 女騎士は告げた。 「マスターのため、あなたたちを殺しにきました」 レナが女騎士に問いかける。 「ずいぶんと理性的だね。なのになんでそんなおかしな命令に忠実なのかな?」 「『圧倒的な力による支配』も世界に平穏をもたらすための正しい手段のひとつだと私は考えています。その力がマスターにはあって、あなたたちにはその力も意思もない。 対立する存在だからこそ、いま滅ぼしておかねば悪い結果を招きます」 「力なき正義は意味を為さず、正義なき力もまた無意味…だっけ。誰のセリフだったかな?」 二個目の質問に答えることなく、女騎士は腕を降ろし再度口を開く。 「あなたがたの存在はただの危険因子。未来を失わぬためなら、私は冷酷な一振りの剣となることにためらいはありません。それこそが、セイバーと呼ばれる私がここにいる理由なのでしょうから」 「所詮それは虚飾だよね。その努力で作られる平穏は、刹那のものじゃないの?」 「どれだけ希望がなくとも、私は世界を終わらせたくはない」 そう吐き捨てたセイバーの姿に威圧感を覚え皆が黙り込む。 その沈黙を破ったのは遊戯だった。 「この人…モンスターカードだ……。つまり、どこかに使用者がいる!」 「わかるの? 遊戯くん」 「うん。デュエルディスクのおかげかな。セイバー……攻撃力4500/防御力3000。ブルーアイズっていう僕らが使った最上位のドラゴンより遥かに強いよ。気をつけてみんな!」 絶望さえ覚えそうな数値をレナは茶化す。 「はうぅ。遊戯くんに伝説の英雄くらいじゃないと勝てないって言われた気がする。どうしよう日吉くん」 「てめーは充分伝説の英雄だよっ! 竜騎士レナ!」 「あなたも、騎士…なのですか。竜の姿が見えませんが」 「じゃあ貴女も騎士なんだ、セイバー。でもね、竜騎士っていうのは竜に乗るとは限らないんだよ? いくよ、クロスミラージュ。……モードⅡ」 『よしきたぁ!!』 セイバーは驚愕する。僅かな痛みと軽い疲れが自分を襲ったことに。 間違いなくそれは竜騎士レナの攻撃。ほとんど何のダメージにもなっていないとはいえ、ありえない挙動から攻撃を受けたという事実は軽視していいものではない。 目の前のレナは拳銃に見えたはずのものから魔力刃を伸ばし構えている。何をしたのかよくわからないからこそ警戒を強めなければいけない。 「りゅうけん…魔力増えたかな? クロスミラージュ」 『おうよ。けどああ警戒されちゃあ二度はないな。ダガーモードはティアから聞いてたんだな?』 ティアナが生前にクロスミラージュのことを伝えていたという事実はない。レナはただ不思議に思っていたのだ。 魔法の実在する世界で発動体であるデバイスが銃の形をする必要性は全くない。 魔力弾を創り出し精度の高い射撃を行うことが銃の形状をしていなくとも可能である以上、拳銃であることは手の自由を奪うマイナスの意味しか持っていないことになる。 直接攻撃できる剣や槍をデバイスとして用いるのならわかるが、そうでないなら手袋か腕輪のように両手を使えるものであることが望ましいはずだ。 ただの一丁にも二丁にもなるアンカーガンではあきらかに能力不足。 だから、手で持つ以上近接戦闘用の機能はないとおかしかった。それを試す機会が今までなかったというだけのことだ。モードⅡという呼称も思い付きである。 「なるほど。貴方達ほどの傑物と剣を交わすことができたことを、光栄に思いましょう」 セイバーが剣を構えるでもなく宣言する。が、警戒して距離を詰めれずにいることは明らかだった。レナは遊戯に告げる。 「つかさちゃんとピーちゃんを連れて、マスターを探して! この人はレナと日吉くんで止めてみせるから」 「でも、デュエルモンスターズをよく知っている僕のほうが」 「とっておきのある遊戯くんにしかできないの。予想が当たっているなら、力押しだけじゃ彼女のマスターに勝てない」 一拍おいてレナは続けた。 「彼女のマスターは、古泉くんじゃなくてハルヒだから」 セイバーとレナを除く四名に衝撃が走った。 「馬鹿なっ! ハルヒは放送で死亡を宣告されたはずだぞ」 「なんで、なんで? カービィちゃんが生きてたことと関係あるのかな?」 「ハルヒが…そうか。レナは、僕に切り札があることも知ってたんだね」 ざわめきだす後衛に、真っ先に気を取り直した日吉が怒鳴りたてる。 「理解はあとでいい。俺たちがこいつに負ける前に行ってハルヒを止めろ。カードは使用者さえなんとかすれば止まるんだろうが!」 「うん! 強さがわかってるだけに勝ってとは言わない。だから――無事でいて!」 遊戯がつかさとピエモン、二人の手をとって駆け出そうとしたところにセイバーが割り込もうとしたが、彼女はその場にいなかったはずの誰かに飛び膝蹴りをくらい真横へ吹き飛ばされた。 「!?」 レナが叫ぶ。 「遊戯くん今のうちに! つかさちゃんも走って!」 セイバーが振り向いた先、鮮やかな水色の髪をツインテールにしたベビーフェイスの女子レスラーが、沈痛な面持ちをしてそこにいた。 「ウタイタイ…ウタイタイヨ……」 「伏兵ですか」 セイバーは驚く。どこから出てきたか全く気配を感じさせなかった。 相手がほぼ全力で攻撃してきたことは確かなので強さそのものは警戒するほどではないが、それでも斬り飛ばして離脱しようとする三人を追えるほど強行突破は容易ではない。 日吉もレナも隙あらばとこちらを伺っているのだ。命令の完全な遂行が望めなくなるのは痛手だがこれ以上無謀な行動は取れなかった。 今にも泣きそうな顔をしたツインテールをレナが諭す。 「聞きなさい初音ミク。ここにそんな自由はない。もしあなたの存在意義が歌うことだとしても、闘いの果てにその権利を勝ち取らなければあなたが歌う機会は決して来ないの。 私は戦う力・北米版パッチをあなたに与えた。すべきことは分かってるよね?」 「タタカイハ イヤ…ウタウコトト ネギガスキ」 「私たちが、好きで戦ってるように見える? 見えるなら好きにすればいいよ」 「…ワカリマシタ」 「今際の際に口論は不要。そこまでです」 そう言いながらセイバーが突進するが、フライパンを構えた日吉に阻まれる。 「武器も見せずになめてんじゃねーよ」 「日吉くん、違っ!!」 セイバーの両腕がまるで剣を握っているかのように日吉に向けて一閃する。手にしていたフランパンはたやすく両断され、彼の右肩から激しい血飛沫が舞った。 そして、ゆっくりと、その長身は前のめりに倒れた。 凄惨な光景に声を震わせながらレナは叫ぶ。 「セイバーはすでに剣を構えてたんだよ…どうして気付いてなかったの? 日吉くん!」 返事をする者はない。あれだけの出血、すぐにでも治療しなければ意識の戻らぬままこちらには帰ってこられない存在になってしまうことだろう。 血を浴びたはずの彼女の剣は変わらず不可視の刃のままだ。レナはセイバーを睨み付ける。 「なぜそんな顔をするのですか。人は戦場において誰しもあっけなく死んでいくものだというのに。それよりも貴女が風王結界に気付いていたことのほうが驚きです」 「戦争をしたことがなくても、もうそれくらいわかってるよ。でもね…そうでない世の中であってほしいとみんな願ってたの。だから、手の届く範囲だけでも叶えていかなくちゃいけないんだよ」 「恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ」 「あなたは…日吉!」 「日吉くん!」 無傷の青年がそこにいた。確かに命を奪った手ごたえがあったはずなのに。 だが、彼が倒れていたはずの場所を確認しても今は血の跡しかない。つまり仕留め損ねたということ。 戸迷いながらもセイバーはすぐさま振り返り剣を振るう。 「甘えよ。なんのために一度斬られたと思ってる」 「なん…だと!?」 勝利を約束するはずのその伝説の剣は、まるで見えているかのようにあっさりと彼の握った月牙で弾かれた。 しかも彼の言うことが本当なら剣の間合いを知るためにわざと斬撃を受け、たった一度で騎士王の剣筋が見切られたということになる。 すぐに気を取り直し反撃に備えて防御体制を取ったさせたセイバーだが、彼の攻撃はKIを纏った左手での掌打。防ぎはしたもののあまりの威力に体勢を大きく崩す。 日吉は叫んだ。 「今だやれっ! 初音なんとか!」 姿勢を下げて全速力で向かってくる小柄な女子レスラー。だがセイバーの見るその姿にはちらつきが混じっていた。 (幻術魔法……本体はどこに!) 気配は正面の虚像から感じるのみ。初撃を受けたときと同じように考えれば、ミクという少女は気配を完全に殺せることになる。 正面のミクが何かを唱えようとする瞬間、セイバーの斜め上に気配が生まれた。 これこそが本体と判断したセイバーはその空間を斬りつける。 「せいっ!」 が、直後に耳に届いた少女の絶叫を聞いてセイバーは直感が外れたことを思い知らされることになった。 そして、正面が本物だとしてもたいした攻撃力ではないという計算すら誤りであったことも。 「ウンドウカイ プロテインパワー!」 強化されたミクの叫ぶように叩きつける最高速の拳が、防御力3000といわれた彼女をなすすべもなく遠方の壁に激突させた。 セイバーの吹き飛ばされた先を警戒しながらレナは日吉の前に降り立つ。 「核鉄の能力かな? 本気でびっくりしたよ」 「あれ以外に方法が思いつかなかったんだよ。文句は勝ってから言いやがれ」 何のフェイクでもなく“二人に増えてから一人死んだ”日吉がまだ血色の戻らぬ顔で悪態をつく。 スパイダーマンも用いたサテライト30の正しい使い方ではあるが、日吉にとっては何の事前情報もない大博打。今も死の恐怖と感触は生々しく残っている。 氷帝で次期部長候補として先輩たちに徹底的にしごかれた経験がなければ紙一重での回避も感覚と身体のどちらかが追いつかず失敗していただろう。 「レナこそやるじゃねえか。adobe部長を思わせる知略だったぜ」 「ありがとう。でも誰それ」 レナが使ったのは、幻術魔法による二重のフェイク。 突進したミクは幻影を被せた本物のミク。不意打ちしようとしたミクは幻影。 さらに日吉の死に動揺し立ち尽くしていたレナも幻影で、本物は透明化した上で上空からの奇襲を狙っていた。補充した魔力も再度枯渇状態になるほどの大盤振る舞いだ。 「まだ終わってないよ。油断しないで」 「勿論だ。だが、レナの指揮なら安心して戦えるぜ。俺たちの大将はもうお前しかいねえ」 「もう……か。責任重大だね」 「そら行くぜ下克上、此処に集え! 我等竜宮一家だ!」 攻撃モーションで硬直したままのミクに発破をかけるように踏み出しながら叫ぶ日吉。 だが、レナはそこに訂正を要求した。 「つかさちゃんがいない今だからいいかな? 竜宮一家じゃなくて園崎一家でも」 「園崎……殺されたそいつが、お前にとって人生の師匠だったんだな?」 コクリとうなずくレナを背中に、一騎当千の若獅子は下克上を復唱する。 最強の騎士を討つという試練も、きっと乗り越えられる。そう信じて。 「もう一息だ。折れんなよ!」 「うん!」 レナの力強い一言に対抗するかのように、遥か先のセイバーが構えをとる。 お互いメインとなる手の内を見せたいま、よほどの奇策がない限り後の先を取った側が有利。両者ともそれを意識してか睨み合いといった構図になる。 日吉たちに不利になるとわかっていて攻勢に出る理由はない。カードの所有者を止めれば彼女も消えるのだから遊戯たちが所有者をとめれば戦わずにすむのだ。 そしてなにより、セイバーは強い。一撃でもまともにくらえば命が危ういほどに。 時間が余っているわけではない。だがより焦っているのは、確実にセイバーのほう。その認識があるから冷静に待つことができる。 「初音がまったく動かないようだが、まさか死んだか?」 「緊急停止がどうとか聞こえたから、ただの故障だよ……たぶん。パッチが雷で壊れかけてたのかな」 「生身の体になっておいてそんな故障するのかよ。ひでえな」 そのまま睨み合いは十分近く続いた。 セイバーは眉をしかめながら無言でレナたちの様子を見続ける。 大言壮語を吐いておきながら半数を逃がし、さらに残った面子にも勝てずにいる。 ハルヒに敵う者が存在しない以上どれだけ望みが薄くとも彼女の機嫌を取り続けるべきだという考えが揺らぐほど、対主催集団は統率が取れていた。 しかし所詮は人の身。彼らはハルヒどころか主催者にすら反抗して確実に勝てる要素すら持っているわけではない。 せめてカリスマ性のある指導者でもあれば違っただろうが、層が薄すぎるのだ。 ハルヒの太鼓持ちに落ちぶれようとも、誰かがこの世界を滅ぼし新たに悪夢のような天地創造を行おうとしている神を止めなくてはならない。 (私はカードに封じられたただの英霊にすぎない。だが、最悪の結果だけは避けなければと決意した) この身は朽ちても翌日にはまた召喚可能となる。ならば相討ちとなろうともここで一人は屠るのが己が道の示し方であろう。セイバーはそう覚悟を決めて踏み込む。 直後、セイバーの身体が金色の光に包まれ……その場から消えうせた。 周囲に鋭敏すぎるほどの警戒を送ったのち、日吉が述べる。 「……どういうことだ? 遊戯たちがやったのか」 「逃げられたようには見えなかったから、たぶん」 緊張の糸が切れたのかへたりこむレナ。 思い返せば、仮眠すら取らず連戦に次ぐ連戦を高校生にも満たない少女がこなしてきたのだ。そう気付いた日吉はレナを急かしてしまわぬよう自身の焦りも心の内に封じ込める。 そう。遊戯たちがハルヒに勝ったのなら、残る敵はマルクと雑魚デジモンだけ。バテ気味の自分たちが忙しなく動いて体力を浪費する場面ではない。そう信じて。 「北米版パッチってのはこれか。外しておくぜ」 「ありがとう。……ミクには、悪いことしちゃったな。はは…」 「あんまりモノに感情移入しないほうがいいな。お前はいま疲れてる」 日吉の心配をよそにレナはすぐさま立ち上がり、軽く柔軟をした。 「知ってるよ。だとしても立ち止まってる暇はないから。行こうか」 「……ほんとに中学生かよ、お前」 「それはお互い様だね」 初音ミクとパッチは日吉にそのまま持たせ、レナは日吉を先導しながら遊戯たち・霊夢たちを探して歩き出す。 その歩みを見たものは亡霊でも見たかのような不気味な力強さを感じたことだろう。 彼女たちを突き動かす原動力は正義感や生への渇望ではなく、生き残った者としての責任感と意地だった。 回復薬だったはずの実を無理やり水で喉に流し込み、レナはつぶやく。 「ごめんクロスミラージュ。いまは貴方の声、うまく聞き取れないや……」 【3日目・黎明/クッパ城格納庫】 【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】 [状態]:悲しみ、かなり疲労、魔力枯渇気味 [装備]: リアルメガバスター(93/300)@デッドライジング、メタルブレードのチップ、包帯 サイレンサー付き拳銃(6/6)@サイレンサーを付けた時とry、鉈@ひぐらしのなく頃に クロスミラージュ@リリカルなのは、バリアジャケット(龍騎士レナフォーム)@07th Expansion [道具]:支給品一式*13(食料3・水3消費)、日本酒(残り半分)、オミトロン@現実?、モモンの実*3@ポケットモンスター、鉄パイプ、 本『弾幕講座』、アイテム2号のチップ@ロックマン2、暗視ゴーグル@現実、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、 ポケモンフーズニ日分(四食分消費)@ポケットモンスター、ほんやくコンニャク(1/4)(半分で八時間)@ドラえもん、テレパしい@ドラえもん(残り2粒)、五寸釘@現実、 雛見沢症候群治療セット1日分(C-120、注射器、注射針)@ひぐらしのなく頃に、サイレンサー付き拳銃の予備弾95発@サイレンサーを(ry 桃太郎印のきびだんご(24/25)、ウルトラスーパー電池(残り30%)@ドラえもん、ゼットソーハードインパルス@現実、ハイポーション×2、 飛行石のペンダント@天空の城ラピュタ、十得ナイフ@現実、ナイフとフォーク×2、包丁、首輪の機械部品、MASTER ARTIST01~10@THE IDOLM@STER、 壊れたオセロ@現実、ノートパソコン(バッテリーほぼ満タン)@現実、RPG-7(残弾5)@GTASA、RPG-7の予備弾薬95発@GTASA 富竹のカメラ@ひぐらしのなく頃に、ピッキング用針金、 盗賊の棺桶@勇者の代わりにバラモス倒し(ry、フィルム、 ピーピーマックス@ポケットモンスター、ウィンチェスター M1895/Winchester M1895(狙撃銃、残弾5)@現実、ウィンチェスターM1895の予備弾95発@現実 無限刃@るろうに剣心(フタエノキワミ アッー!)、10円玉@現実?、札束(1円札百枚)、琴姫の髪 、クラモンD×9匹、Nice boat.のメインコンピュータ、フタエノ極意書@ニコニコRPG [思考・状況] 1.霊夢ちゃんやみんなと合流したい 2.罪滅しをする ※時期は大体罪滅し編後半、学校占領直前です。 ※身体能力が向上しています。それによってレナパンが使えるようになりました。 ※ノートパソコンに海馬の残した何らかのファイル(飛行石関連その他)とメッセージがあります。メッセージは打開が成功したら読め、との事です。 ※バリアジャケットはひぐらしを起動すると出てくるアレ、もしくは07th Expansionのトップのアレ 【日吉若@ミュージカル・テニスの王子様】 [状態]:ほぼ回復、中程度の疲労、覚醒、右腕に少し鈍痛 [装備]:サテライト30@真赤な誓い [道具]:支給品一式*7(食料一日分、水二本消費)、ネギ@ロイツマ、長門の首輪、コイン*2@スーパーマリオワールド 孔明ブロック(大)@スーパーマリオワールド、 炎道イフリナのフィギュア@ふぃぎゅ@メイト、首輪の残骸、上海人形、テニスボール*3、ジアースの機械、電気部品、北米版パッチ@エキプロ、初音ミク [思考・状況] 1.天衣無縫の極みを会得し、主催に下克上する。 2.遊戯たちとの合流を急ぐ 3.レナの体調が少し心配 ※無我の境地をマスターしました。KIも操れるようになりました。 ※フタエノキワミをマスターしました。 ※無我の扉の一つ、百錬自得の極みに到達しました ※ピーちゃんの事を間違えてビーちゃんと呼んでいます sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 時系列順 sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 投下順 sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 竜宮レナ sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 日吉若 sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 柊つかさ sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 武藤遊戯 sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして ピエモン sm231:~The Endia & The Knights~ sm230:第二次ニコロワ大戦Ⅳ ――巨人の目覚め、そして 涼宮ハルヒ sm231:~The Endia & The Knights~
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ながされて藍蘭島エロパロSS 『寝取られて』 第8話 1 同居人の履き物ともう一つ小さな草履が上がり框の前に揃えてあるのを見て、居間に上がりながら、 「すず帰ってるの? 誰かお客さん?」 と、行人は家の中を見回した。 室内は再び片付けられ、蒲団は庭で干されているので痕跡は残っていない。 「い、行人……!?」 浴室の方からすずのくぐもった声がした。 「あれ? こんな時間からお風呂入ってるんだ」 そう言った行人だったが、大の風呂好きな少女が日中から入浴してても特に疑問は感じなかった。 「う、うん、今日は畠仕事でかなり汚れて――うにゃあっ♥!」 すずの言葉が急に途切れ、悲鳴のような声が聞こえた。 「ん? どしたの?」 行人は箪笥から新しい上着を取り出すと、居間と脱衣所を仕切る襖の前に立った。 「――な、なんでもないのぉ……ぉ……♥!」 すずはすずで、温泉から出て脱衣所と湯殿を隔てる戸の前にいたのだが、その背後にぱん太郎がやってきて細腰を引き寄せ、そのアケビの裂け目に肉頭を当て、後ろからずにゅっと挿入してきたのだ。 剛塊の侵入をするすると簡単に許してしまうすずのふやけた肉洞。湯に入って洗い清められた膣内だったが、すぐ前まで責められまくっていた肉粘膜からは昂奮がまだ引いていなかった。 すずの胎奧まで容易に到達すると、ぱん太郎は引き返さずにそこで止め、からだをわななかせる青リボンの少女の様子を楽しそうに見下ろした。 「なんか声が苦しそうだけど……転びでもした?」 「……う、うん……にゃぁ……♥ い、今ちょっと……お……おしり……あぁ……大きくて硬いのがはいっ、じゃなくて、ぶ、ぶつけて……♥ ちょっと……苦しいかも……♥」 ぱん太郎がゆっくりと抽送を始め、すずの子宮の壁に何度もキスをする。 「う、にゃ……あ……お……ぉ……♥」 「大きくて硬いのって……床?」 「そ、そう……ぜんぜん激しくないけど……ゆっくり……奧まで……痺れちゃう……うぅ♥」 行人は首をひねった。すずの言葉はとりとめもないが、要約すると、滑って転んで床にお尻でも打ち付けて鈍痛に見舞われているということだろうか、と、彼なりに解釈した。確かに何か堪えているような声音だ。 「骨を痛めちゃったのかも知れないよ。薬持って来ようか?」 「うう、ん……だっ、大丈夫……だから……♥」 「そ、そう? ――ところで、そこに誰かいるの?」 「えっ」 抽送も止まる。 「玄関に履き物があるし、さっきから別の人の息遣いが聞こえるような……」 すずの中で冷えたものが落ちた。 掃除はしたし蒲団は干したし、ぱん太郎の履き物も脱衣所の籠に衣類と一緒に入れた。ここに東のぬしがいることはまだ分かっていないはず―― (どうしよう、ばれちゃうよぅ……!) 「私がいるわよ♥」 すずの後ろからしたその声は、まちであった。 いつの間にか彼女も湯から上がっていて、ぱん太郎の太腿に秘芯を擦り付けながら彼に抱きついていたのだ。 「あ、まちだったの? いたんだ」 「そうよ、行人様……すずと一緒に入ってるの♥」 「そうだったんだ」 「行人様もご一緒にどうかしら?」 「あはは、遠慮しとくよ」 動じず受け流すように即答する行人。入浴の誘いを断るのはもう手慣れたものだった。 「あら、残念……♥」 まちは淫らに微笑み、上体を曲げ顔を下げてきたぱん太郎と舌を絡め、唇を重ねた。 ぱん太郎はぱん太郎で行人とまちの会話の途中から腰の動きを再開していて、その律動にすずは手で口を押さえ、下半身から湧き上がる淫感に必死で堪えていた。 さっきあれだけやったというのに、すずの中の肉慾も抑えが効かず、また性懲りもなく昂ぶってきてしまうのだ。 (ああ、行人がいるのにぃ……♥!) 両脚の力がまた段々と入らなくなっていく分、おまんこの感覚が高まっていく。膝がかくかくと震え、本当に滑ってしまいそうだった。 と、ぱん太郎が肉棒を引き抜き、すずの躰を回して向き合って抱きかかえると、九十度回転した。戸に向かって二人ともに横を向いた状態になると、すずの片脚を上げて、またぬ る りと挿入してきた。 「~~~ッッ♥!!」 つま先立ちでパン太郎の胸板にすがりつきながら、淫惑の涙をこぼすすず。 「どうしたのすず、まだ痛むの?」 行人の心配そうな声がしてきた。 「へ――平気――もう……全然……痛くない、よ…………♥」 「でもちょっと声がおかしいよ? 泣いてない?」 「うん……少し……涙が……出たかも……♥」 上げた脚を抱え、もう片手ですずの尻肉を鷲掴みにしながら、焦らすような速度でぱん太郎の腰が伸び上がり、引き縮みを繰り返す。 淫らな粘水にまみれながらすずの蜜壷に出入りする太長物。堪らずにキュンキュンとその剛茎を締め上げるすずの肉ヒダ。 「……♥! ッ♥!」 ぱん太郎に注がれた夥しい精液を処理するため、膣内の洗浄はいつも指でしているのだが、一番奧までは届かないので、奥まった所はぱん太郎の精液が残りがちだった。 肉棒の先端がそこを往来すると、ねちゃねちゃと粘ついた感触がするのだ。 「無理しないでね。後で突然痛みが襲ってきたり、腫れたりするかも知れないしさ」 「う、うん……うん……♥」 蕩けた顔で返事をするすずの唇をパン太郎は塞ぎ、息音を立てない代わりにすずの舌を口中でねっとりと絡みねぶる。 「……♥! ……♥!」 幾筋も垂れる涎。 キスでさらに昂ぶった膣壁が射精をねだるようにぱん太郎の肉棒を搾る。 再び淫慾に溺れつつあるすずの表情。 その耳元で、ぱん太郎が何かを囁いた。 その途端、夢心地だったすずの目に理性が戻って見開き、信じられないといった風に男を見上げた。 ぱん太郎は口元を歪ませながらも、その目は、「やれ」と命じていた。 促すように最奥が何度も小突かれる。 「んっ……んんっ……♥!」 膣肉がビクビクと反応し、とめどなく愛液が溢れる。 もういつ射精されても、いつでも気持ち良く受け止められる状態であった。 アソコが、頭が、ぼうっと熱かった。すずはもはや、ぱん太郎に逆らう気が湧いてこなかった。 「……ね……ねえ……い、行人…………」 「ん、なあに? やっぱり薬か何か持って行く?」 「ち……違うの……。ちょっと、離れてて……い、行人の声が……聞き取りにくいの…………。も、もっと……こっちに……来て、くれないかな…………♥」 「え? あ、う、うん」 行人は若干戸惑ったが、一緒に入ろうと言われたわけではなかったので、すずの言葉に従って脱衣所に入り、さらにその奧にある引き戸へと足を進めた。 乙女たちが入浴中の風呂に接近するのはドキドキするが、男に免疫がない少女たちの奔放な言動には、この島に来てだいぶ耐性がついたことでもある。 (それが良いことかどうかは分からないけどね、ハハ……) 誰ともなしに胸中で独りごちる行人。 女好きなら願ってもない環境なのだろうが、実際に直面する身としては、甚だ困惑してしまうのだ。 だがそれよりも今は、すずの態度に少し違和感を覚えていた。 (何だろう……?) それはわからないが、湯殿へと繋がっている戸の前まで来ると、そのすぐ向こう側にすずの気配があるような気がした。 すずはすずで、戸の向こうに行人の気配を感じていた。 ――隔てるものは、もう、戸板一枚だけ。 すぐそこに、彼がいる。 戸に鍵なんて付いてない。 軽く指を掛けて引けば、ぱん太郎と繋がっている自分を見られてしまう……! そう考えると、すずは膣もキュッと緊張に締まり、止まらない肉棒の動きで思わず声が出てしまいそうなほどの肉悦を味わってしまった。 (うにゃああぁん、どうして…………♥!?) すずは自制を一瞬忘れるほど、心の中を悦惑で掻き毟られた。 (うにゃぁ……♥! ど、どうして……こんな状況なのに……気持ち良いよぉ……♥!) 必死に声を抑え涙を零しながら、ぱん太郎を見上げる。 大男はすずの子宮口を上手に探り当て、くりくりと甘く求めるように先端で突き回す。 ズクズクと熱く漲る淫頭と肉茎は、今すぐ発射してきそうなほどの脈動だった。 (ふうぅ……♥! うにゃぁ、はあぁん……♥!) そんな事されたら、もう……声が出ちゃう……! 忍耐が切れる寸前といったすずを眺めていたまちが、助け船を出した。 「うふ、実はね、私がすずのカラダを弄ってるのよ」 「ええっ!?」 と驚いたのは行人だったが、すずも同じだった。 悪戯っぽく、それでいて妖しい笑みを浮かべたまちが、楽しそうな視線をすずに送る。 「だって、すずのカラダったら、前見たときよりも格段に成長してるんですもの。おっぱいなんて、ほら……」 と、まちは二人の間に手を差し込み、すずの乳房を揉みしだいた。 「うにゃんっ……」 戸のすぐ向こうから聞こえたすずの悩ましげな声に、行人は思わず顔を赤らめてしまった。 「えっ、なっ、何してるんだよまち!?」 「ナニしてるかですって? うふふ、ご想像にお任せするわ……♥ この子ね、ココも……アソコも……想像よりずっとオトナになってるのよ……?」 「ア、アソコって……!?」 思わず大きな声を出してしまう行人。 アソコってアソコのことだろうか。それともアソコだろうか、もしかしてアソコ、いやいやアソコのことかもしれないじゃないか。 まちがぱん太郎に流し目を送ると、男は心得たように抽送を再開した。 行人が想像した箇所に、ぱん太郎の巨大な肉根がいやらしい汁にまみれながら出入りを繰り返す。 それと同時にぱん太郎はまちの股の間にも手を差し入れ、その太く長い指を二本、艶やかに濡れたまちの陰孔に潜り込ませた。 「――ッ……♥!」 まちもからだを甘く痺れさせ、言葉が溶けて消えたような表情になる。 すずの隣で壁に手を付き脚を開いて、尻肉を震わせながらパン太郎の指技に酔う。 二人並んだ美少女の似たような悶え顔。 音を立てないようにほぼ密着しながら中で動く肉棒と淫指。 それでもごくたまに、「ぐちゅっ」とした肉の音が行人の耳にも届くが、ぱん太郎とゆきのが交わっている所を一回見た限りだけの行人は、その小さくくぐもった音が何なのかわからず、脳は雑音として処理してしまうのだった。 声にならない喜悦ですずとまちが震えた。 「……す、すずも……私も……もう、いつでも、じゅ、準備おーけー、よ……♥!」 「な、なにをだよ!?」 「もちろん……決まってる、じゃない……オ・ト・コ……よ♥」 「な、な、なななな」 行人の声が動転している。 ぱん太郎はすずの耳に、「出すの」と微かに囁くと、すずを戸に、まちをその隣の壁に手をつかせ、背面立位で最期の律動に入った。 最期と言っても大きな音や振動を生まないよう、出し入れする長さは必要最低限に止める。 併せてまちへの指の抽送も激しくする。 「「――ッ♥! ――ッ♥!」」 二人の美少女の艶麗な肢体、四つ並んだ桃尻が淫靡に揺らめき、愛液が後から後から零れてきた。 だがたとえほとんど動かなくとも、すずの肉襞の蠢きだけで充分すぎるほどの刺激であった。 目の前の薄い戸板が突然ガタガタと鳴り始め、行人は不審を抱いた。 「な、ナニやってるの……?」 (うにゃあ……♥! 行人にばれちゃうよぉ……♥!) しかし、ここ数ヶ月で充分すぎるほど淫らな快楽を知ってしまったからだは、そしてメス孔は、ぱん太郎という存在、その雄臭い巨魁を悦んで胎奥まで迎え入れてしまうのだ。 まちはまちで、初めてだとは思えないほどの淫逸さでこの状況を楽しんでいた。 「い、今、二人で戸の前に、い、いるんだけど……♥ ナニ、してるか……わ、わかる……♥?」 「わ、わからないよ!」 「うふふ……すずも、私も、とっても悩殺的な、ぽおず、してるの……♥ 男を悦ばせる、すごく、いやらしい……格好……よ……♥! ……ッ♥、ッ♥!」 ぱん太郎の指が深いところを突き擦り、まちは仰け反って涎を垂らし、声を上げそうになる。 すずも同様だった。音が立たないよう下半身をぶつけず慎重に抜き差ししているぱん太郎だが、椎茸のように傘広くブツブツしている雁首は、発情した膣肉をたっぷりと巻き込んで奧に何度もコツコツと当たり、意識が削り取られそうなほどの淫悦をすずに与えていた。 「な――何言ってんだよまち!」 こんな状況になっても、行人との会話は続いている。 「――ね、ねえ……戸を開けて……みない……♥?」 「そ、その手には乗らないよ……!」 行人は首を振った。そうか、まちの悪戯なんだろう。戸を開いたら、眼前にはどんな光景が待ち構えているか――! 「あ、あら……んッ♥! ――きょ、興味ないの、行人様……? は、……ハァ……♥」 腰の動きを合わせるのに夢中になっていくぱん太郎とすずを尻目に、まちは己が胎内に深く侵入する太くザラついた指を堪能しながら、昂奮した表情で戸の向こう側とやり取りする。 護片の吸引がぱん太郎の指を誘い寄せ、膨らんだ子宮口を見つけられて撫で回されるものだから、まちも言葉を忘れて今にも逝きそうであった。 「な、無いよ! それよりまちもさっきから何かおかしい気がするけど、ふ、ふふ、二人して悪戯しようってならやめなさいっ!」 「いっ、悪戯……うふふ……ふふ……♥ と――戸をっ……♥ あ、開けたら、どんな悪戯か、わかる、わよ……♥」 ぱん太郎の腰の動きがいよいよ佳境に入ってくる。 せっかく綺麗になった少女の膣内に、再び白濁とした粘液がぶちまけられようとしているのだ。 すずの顔は戸面に向かっていたが、その発情し惚けた目は、もはや向こうを見ているようで見ていなかった。 「ぜ、絶対に開けないからね!」 「……ざ……ざんねぇん…………♥」 ガタン! その瞬間、戸板が外れそうなほど押し揺らされた。 ぱん太郎の腰が突き上がりながら固まり、そして大きく痙攣した。まちの胎内を侵す指にも強張りが伝ってくる。 (あはぁあぁ……♥!!) 戸の音鳴りはそれだけで鎮まり―― 行人がいる前で。 すずとぱん太郎は。 同時に絶頂を迎えた──── ぱん太郎とすずが繋がっている部分にまちが目をやると、わずかに覗いた肉茎が青筋を立てながら弾けるような脈動を繰り返し、それと連なり巨大な精嚢も呼吸しているかのように蠕動していた。 (あぁ、すず……♥ 行人様がすぐそこにいるのに、あんなにぱん太郎様の子種を注がれて……♥) ドクン! ドクン! ドクン! 一つ屋根の下で家族同然に暮らし、いつも一緒で、喜怒哀楽を向け合っていた少年。 その少年と対面しているも同然の状況で、少女は別の男の肉棒を秘洞いっぱいに満たしながら、濃密な精液を膣奥に撒き散らされ、子宮に注ぎ込まれていた。 (うにゃああぁぁ…………♥!!!!) 今までと違う静かな逝き方だったが、絶頂感は鋭く深く、白い雷がすずの頭の隅々、からだ奥深くまで貫き、激しく揺さぶった。 もう何度目かもわからない中出し種付け。 これまでと異なるのは、息遣いがわかるぐらいの距離に行人がいること――! (行人が……こっち……気に……してるのにぃ……♥!!!!) 何もできない。逝った瞬間(とき)に声を出さなかっただけでも奇跡だった。 ぱん太郎の生殖棒と溶け合って一体化したかのように熱を帯びて蕩ける肉孔。そのぐちゃぐちゃになった膣内にさらに白濁液が叩き付けられるように流れ込み、 「……♥!! ……♥!!」 その淫感に、すずはただ声を押し殺すだけで精一杯であった。 行人は行人で、 「…………?」 不意に途切れた会話に不自然さを感じ、しきりに首をひねっていた。 今、戸がかなり揺れたけど何? まち、それにすずも黙りこくっちゃって、一体どうしたんだろう。 すぐそこにいるはずなのに。 この戸の向こうで、いったい、二人は何をしているんだろう……? 開けて確かめたい誘惑が幾度となく行人の心を掠めたが、女性が入浴している風呂を覗くなんて絶対にしたくない。 そういう固い意識だけは、少年の中で異様にはっきりしていた。 だが、何となく落ち着かない気分なのも確かであった。 その気になればいつでも難なく開け放てるはずの軽い戸板が、今は果てしなくそびえる重々しい不動の石壁のようであった。 すっかり蕩けきったすずの女肉は、本人の意志など関係なく“男 を悦んで受け入れ、無数の肉ヒダは歓喜に踊り、ぱん太郎の固くて太い肉茎を嬉しそうに搾りまくって注入を援(たす)ける。 これまでにも増して精子が詰まった粘っこい子種汁が剛棒の先端から無尽蔵に放出されてすずの胎内に溢れ返り、 (ご、ごめんなさい……行人ぉ……♥! 私……行人のこんな近くで……別の男(ひと)に種付けされちゃってるのぉ……♥! わ、私のナカで……この男(ひと)の精液どぴゅどぴゅって……子宮にいっぱい注がれて……この男(ひと)と……子供……作っちゃってるのぉ……♥!!) 力が入らず、くずおれそうになるすずのからだを、ぱん太郎が支えて立たせ続けた。 「……すず?」 戸の向こうから少年が心配そうに声をかけてきたが、返事ができない。 今、口を開いたら、甘い嬌声が際限なく出続けてしまいそうだった。 (やだぁ……こっち気にしないで……あっち行ってぇ……♥!) 尋常ではないほど膨張した大怒張が、すずの子宮を圧し潰さんほどに肉壷いっぱいに広がる。 昂奮で広がった子宮口に鈴口を押し付けられて濃く粘った精液をビュルビュルと叩き付けられると、いかに狭い入り口であっても、一回噴く度に直接子宮内へ勢いよく精子が流れ込んでゆく。 そしてその熱い感触に、小さな絶頂が次から次へと少女の脳内で爆発するのであった。 ところで、すずは排卵していた。 健康美溢れる本人と同じく、瑞々しく艶やかな卵子であった。 だが、卵巣を出てすぐ、異変は起こる。 子宮内はもう既にぱん太郎の精子で満ち溢れており、卵管の終着点まで大河のように連なるぱん太郎の精子群の先頭が、結ばれるべき運命の伴侶を今や遅しと待ち構えていたのだ。 並の男のものよりひとまわりもふたまわりも大きく、何週間でも元気に活動する、あきれるほどの生命力に漲った精子達。 それらが出て来たすずの卵を見つけて一斉に襲いかかったのである。 守ってくれるものなどありはしない。 たちまちのうちに精子の尻尾で無数の触手を生やしたようになるすずの卵子。 一重どころでは済まず、二重、三重、さらに精子の数は増える。 何千という精子で真っ黒なウニのようになり、オスの生殖体より大きい筈の卵子は完全に見えなくなってしまう。 そしてその内側では、獰猛なほどに暴れるぱん太郎の精子が、すずの卵子の透明帯をいともたやすく溶かし突き破っていく。 悲鳴を上げるかのように転がり回るすずの卵子。そのダンスは、狂喜とも驚怖とも取れた。 まるで大物の餌に群がる蟻のような、いやそれ以上の数が織りなす原初的な生命の光景であった。 重ねて言うが、すずの分身を守ってくれるものなどありはしない。 やがて生命の舞踊に終わりの時が来る。 その中の最も元気な精子が、ついにすずの卵子をものにしたのである。 授精────。 ぱん太郎とすずが、本当の意味で一つになった瞬間であった――。 ――ちなみに、まったく同様の狂騒が一ヶ月前と二ヶ月前にも行われていた。 ここ数ヶ月、排卵される度に、すずの卵子はぱん太郎の精子とすぐ関係していたのである。本人同士が繋がるだけでなく、生命の営みの中枢でも繋がっていたのだ。 二ヶ月前が彼女の初授精であって、セックスを知った日でもあった。 つまり、あの初めて尽くしの青姦の夜、これまでにない昂奮を乗せて何度も何度もすずの胎内に発射されたぱん太郎の特濃精子は、少女の秘やかな花里の至る所に己が精臭をこびりつかせるだけでなく、すずの卵子までさえも奪い取っていたのである。 すずの大事なものがまた一つ失われた瞬間でもあった。 しかしいずれの時も受精卵は上手く着床できず、今回もまた同じく胎外へ流れ出ていってしまう。 ただ、すずの子宮はもはや、彼女自身がそうであるようにぱん太郎という存在に侵され尽くし、完全に彼のものになっていることは明白であった。 ――そうして子宮にぱん太郎の精液を注がれ続け、甘い肉悦に囚(とら)えられながらの絶頂を味わう中、すずは行人が間近にいるこの瞬間、ぱん太郎との受精卵さえ作っていたのだ―― 2 奇妙な沈黙が気に掛かったが、行人は自分の用事を伝えなければと咳払いをした。 「……そうそう、ちょっと調べ物したいことがあって、今からちかげさん所に行くよ。見廻りするところもまだ少し残ってるし、もしかしたら帰りは遅くなっちゃうかも知れない。だから、先に休んでてくれて構わないからね」 「……うんっ……うんっ……♥」 気が緩めば声を上げそうになるほどの淫悦を何とか我慢しながら、すずは何度も頷いた。 じゃあ今晩はフルコースのんと、ぱん太郎はすずとまちにニタリと笑いかける。 「それじゃあ……すず、まち。すずもまだ仕事残ってたら頑張ってね」 行人は汗を吸った上着を脱ぐと、脱衣所の奧にある空いた籠に放った。 ちなみにそこにはぱん太郎の衣服もあったが、薄暗い上、すず達の脱いだ下着が置かれているだろう所を堅物少年が注視するわけもなく、行人はすぐに視線を外し替えの服を着ながら居間に戻った。 「いってらっしゃい、行人様ぁ……♥」 「い、いってらっしゃああい…………♥」 行人の足音が離れていく。 すずとまちは同時にずるずると滑り、床に手をついた。 ぱん太郎はすずを仰向けにし、その上にまちを乗せると、腰の動きを本格化させて交互に突き挿れた。 たちまちのうちにグチュグチュと淫質化する摩擦音。掻き出されてくる大量の白濁液。 「ああッ♥! あぁッ♥!」 「にゃあ、あ、ああ、だめ、だめぇ♥ まだ家の中にいるよぉ……♥!」 ガラガラと向こうで戸の音がする。 「ホラ、もう行ったのん♥」 「にゃあぁ……♥」 「さ、お仕事に戻る彼に向かって声を出して言うのん。まずは、『私たちもぱん太郎様と子作りのお仕事頑張ります』って」 すずとまちは上と下で互いに戸惑ったような目を見合わせた。 「言わないとオシオキのん♥」 と、ぱん太郎はまちに深く挿入してぐぽぐぽと激しく抽送する。 「あああッッ♥!! だ、だめぇ、そこ感じすぎるぅ♥♥!!」 勢いに押されたまちの顔がすずの間近に迫り、唇同士が触れると、二人は蕩けた目を交わし、舌を絡め紅唇を重ねた。 「すずぅ……♥」 「まち姉ぇ……♥」 「ほらほら♥」 ぱん太郎は今度はすずに挿れる。 「うにゃっ、あっ、あっ、い、言いますぅ……♥」 すずとまちは声を合わせて叫ぶように、ぱん太郎に続いて言った。 「「私たちもぱん太郎様と子作りのお仕事頑張りますっ♥♥! お子様のあなたじゃ無理だから、ぱん太郎様の大人チンポで種付けして貰うのっ! 私たちのはじめてもこれからも全部! ぱん太郎様のモノなのっ! ぱん太郎様の精子で孕むから、ぱん太郎様の赤ちゃん何人も産むからっ♥♥!」」 すずとまちは男を見上げた。 「「孕ませてえッッ♥♥♥♥!!」」 その言葉を即実行に移したように、ぱん太郎はすずの膣奥でびゅるびゅると濃い子種を放った。 射精の最中に抜いてまちにも挿れて注ぎ込み、そうして一回の射精が尽きるまで二人の淫肉を存分に往来した。 すずとまちは両手両脚を絡め、豊かに突き出た胸を潰し合い、互いの惚けた顔を見つめ、キスを交えながら、からだを震わせて男の射精をずっと受け止め続けていた。 「?」 何か聞こえてきた気がして、行人は足を止めた。 振り返ると、家の中、というかお風呂の方ですずとまちが何か声を上げているようだった。 何だろうと思い耳を澄ませたが、何を言っているかまでは聞き取れない。 自分に何か用があるのかもしれない、戻ってみようかと、行人は考えた。 しかし、本当に用があるなら声を出すだけでなく、追っかけてくるはずである。この島の娘なら、それこそ裸でもお構いなく――。基本的に恥じらいがないのだ、ここの女の子たちは。 そこまで考えて、行人はふと思った。 「でも最近、すずって女の子らしい行動が多くなったような……?」 前より大人しくなったし、下着や胸が見えていることを恥ずかしがるような仕草をしたり、女友達だけで遊びに行ったり……。 そういえば、お風呂にもあんまり誘われなくなった。 「――気にしすぎかな。ボクがさんざん言ってるから、注意するようになったのかも」 自然な心の変化ということもある。すずだって成長しているのだから……。 二人の声はまだしていたが、誰かが来る気配はなかった。 来ないということは、やはりお風呂の中で二人が戯れているだけなんだろう。 頭を掻き掻き行人は踵を返して家を背にし、また歩き始めた。 空を飛べる物を作りたい。 ここしばらく漠然とそんなことを考えていたが、ぱん太郎の屋敷が出来上がるにつれ、いよいよ具体的に挑戦しようと思い始めていた。 だがそれにはまず、その知識を勉強しなければならない。しかも教師などいないから独学だ。 (ちかげさん家にあるかな……飛ぶことに関しての本…………) 行人は真っ赤な陽を戴いた海に顔を向けた。 いつ見ても圧倒的な夕焼けだった。海原と大空は世界中の黄金を集めても敵わないほどの金色に輝き、遠く遠く、太陽の道は無数の波を越えて水平線の彼方まで続いている。 「…………」 そんな夕焼けを眺望していると、遙か向こうから呼ばれている気がする。 帰れるだろうか。 色んな意味でそう思う。 でも、どれだけ時間がかかってもいい。空飛ぶ試みが失敗したっていい。このまま何もせず、この島にただ埋没してしまうよりはマシだろう。 別に藍蘭島の暮らしに不満があるわけではないが、外界と完全に隔絶された空間で終生を過ごすというのは、何だか想像もつかなかった。外との連絡手段を考えたってバチは当たらないだろう。というか、藍蘭島にはそれこそが必要な気もする。孤絶した環境になってしまったから、ボクの存在が騒がれたり、今回のような事件が起こり得てしまうんだ。 「……よし!」 新たな目標を再確認し、行人は前を向いた。 久しぶりにわくわくと楽しい気分になった。 特別頭が良いわけでもないし、ボクのような子供が達成するのは困難だろうが、それでも頑張れば何とかなるかもしれない。 そう考えながら行人は歩いていった。 家は遠くなり、もう声は聞こえなかった。 行人が去った後は、湯を借りに来た梅梅としのぶも加わり、すずの家は慾望の小宴の場と化した。 すずとまちが食事の準備をしている間にぱん太郎は梅梅としのぶをたっぷりと可愛がり、少女たちの差し出す箸で夕餉を済ませると、四人の尻を並べて存分に乱れさせた。 すず達は夜が更けるまでかわるがわるぱん太郎に抱かれながら嬉声を発し、幾たびも絶頂に登り詰め、ぱん太郎の子種で孕むことを宣誓させられ、むしろ喜んで言い、何度も精液を注がれた。 少女たちの痴態と肉棒への欲求は増すばかりで、家の中は淫汁の残滓と爛れた空気で満ちた。無論、四人の少女のからだ、特に秘陰は溢れ返る白濁で穴すら見えなくなるまで。 行人に恋していた少女たちは、一人残らずぱん太郎の精子を胎内に受け止め、己が子宮に招き入れて。 結局、行人はその日、かなり遅くまで帰って来ず、すずは体力尽きて気を失うまで快楽を貪り、そのまま眠りに落ちたのだった。 (第9話に続く) 上に戻る
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静寂と月明かりのみがその場を包む。 そこは幻想郷の地でも名の知れた原生林―――魔法の森。 キノコの胞子や魔力による瘴気が漂うその森は、魔法使いが多く住み着くという。 とはいえ、人間にとっては『呼吸するだけで体調を崩す』というレベルの悪環境と言われる。 殺し合いの会場である以上、『普段の魔法の森』と比べればまだマシなレベルになってはいるが。 その森の南方の外れに存在するのは、本来あるはずのない、開けた『果樹園』。 傍には小さな小屋も存在している。魔法の森の内部にこのような果樹園など無い…はずだった。 ――と言っても、『彼女』も此処の全てを把握しているというわけじゃあない。 普段は人里や竹林の方をうろついている。魔法の森には滅多に訪れない。 直接赴くことは殆どなかったが…『森の南方に果樹園がある』なんて話自体は、噂にも聞いたことが無かった。 「……………。」 紅い瞳を周囲の果樹園に向けながら、白髪の少女は小屋の傍に立っていた。 冷静に視線を辺りに向けるその姿は、少女にしてはどこか大人びて見える。 当然と言えば当然のことだ。彼女の名は「藤原妹紅」。 蓬莱の薬を飲んだことにより不老不死となり、千年以上の時を生きている『蓬莱人』。 少女の外見とは不釣り合いとも言えるような長い生を、彼女は経験しているのだ。 数百年を超える時を生きること自体は、長命な妖怪が多数存在する幻想郷ではあまり珍しいことではない。 しかし彼女は正真正銘の不老不死。他の妖怪達が朽ち果てようと、永劫のような時が流れようと生き続ける、久遠を生きる存在。 本来ならば、殺し合いなんかで死ぬような少女ではなかった。 だが、今の彼女は――――――― ◆◆◆◆◆◆ 気分は最悪。何とも忌々しい。 荒木飛呂彦。太田順也。二人の男は私達に『殺し合いをしろ』と言った。 見せしめとしてあの神様を殺し、私達をこの場に駆り出した。 …私自身、殺し合いそのものには慣れてる。数百年の間、妖怪共を無差別に退治していた時期があった。 あの頃の私はかなり荒れていただけに、倒した妖怪を手にかけることなんてザラにあった。 今だって定期的に「あいつ」と殺し合いをしている。とはいえ相手は自分と同じく不老不死なので、どちらも死にはしないけれど…。 「誰かを殺す」ということ自体への恐怖心は私にはない。 千年以上も彷徨い続けて、私の手はとっくの昔に血の色に染まってる。 だけどこの殺し合いは許容出来ない。あの主催者達は、楽しんでいる。 「死」という恐怖で参加者達を縛り付け、強制的に殺戮の場へ駆り出す。 現に、あの神様だって虫を捻り潰すかのように簡単に粛清されてしまったんだ。 ここには弾幕ごっこのような華やかさも美しさも存在しない。 あるのはただ…凄惨な殺し合いという、黒く淀んだ…嘘のような現実だけだ。 …馬鹿げている。望まない者達すらも、無理矢理こんな狂った催しに巻き込む。 そんな主催者に抱いた感情は、『悪趣味』かつ『最悪』。 こんなふざけた殺し合いに乗るつもりなんて微塵も無かった。 殺し合いなんてのは、やりたい奴だけで勝手にやればいい。 …私と、輝夜のように。 主催者の力は計り知れない。もしかしたら、すぐに手を打たれて始末されてしまうかもしれない。 …だが、それでもおめおめとあいつらに従いゲームに乗ろうなどと言う気にはならなかった。 こんな殺し合いに嬉々と乗る程、私は腐ってはいないつもりだ。 例え万に一つの勝ち目しか無いとしても…出来る限りの抵抗はしてみせる。 ―――一先ず彼女は、その場で名簿や支給品を確認した。 まず、ランダムアイテム。…入ってたのは折り畳まれた紙。それも複数。 …手紙か何か?とでも思ってそのうちの一つを開いてみることにしたのだが… 「…おぉっ!?」 そう、開いた紙の中から突然物体が飛び出してきたのだ! というより、突然紙の中から『出現した』と言った方が正しい気がする。 どうやら支給品やら荷物やらは、この紙の中に入っているらしい。スキマに近い能力なのだろうか?何とも摩訶不思議な…。 ともかく、一つ目のランダムアイテムは「一八七四年製コルト」と書かれている物体。 形状や構造を見る限り…銃器?数百年前に火縄銃程度なら見たことがあるが…こんな代物は初めて見た。 恐らく…いや、確実に『外来品』だろう。ご丁寧に予備弾薬まで用意されている。 此処の引き金を引けば銃弾が発射される、と言うことくらいは理解出来た。 そして二つ目の支給品。……ただの煙草だった。別に私は煙草が好きと言うわけでもないので、それは適当にしまっといた。 そして、名簿の確認。 名簿には見知った名前が幾つも見受けられる。それを見て抱いたのは「やっぱり…」と言った感情。 ゲームのルール説明が行われたあの最初の空間。そこでは幻想郷の住民の姿が数多く見られたのだ。 人間。魔法使い。妖怪。亡霊。吸血鬼。果ては、『蓬莱人』。 知っている限りでも、もはや『何でもアリ』と言わざるを得ない人選だった。 妖怪や吸血鬼は兎も角…蓬莱人は死ぬはずがない。不老不死を手に入れた存在なのだから。 …だが、あの男はこう言っていた。 『自分は頭を破裂させられても生きていける』なんて考えるなよ。 吸血鬼や柱の男、妖怪に蓬莱人なんかも、この場にいる全員例外はないんだ』 あの男の言葉を信じるならば、自分は『死ねる身体』になっていると言うことだ。 蓬莱の薬で確かに不老不死になっているはずだというのに…どんな原理で私の身体を弄くったんだ? 不老不死すら無効化するとなると、奴らは相当「やばい」力の持ち主なのかもしれない。 …まぁ、今はまだ置いておこう。情報が少なすぎて考えようが無い。 それよりも、引っかかり続けるのは――― 「…………例外はない、か。」 ぼんやりと見下ろすように、私は自分の身を眺める。 焼き尽くされようが、穿たれようが、斬り飛ばされようが…何事も無く永劫の時を生き続けてきた、この身。 だけど、それすらもここでは意味を成さなくなる。 普通の人間と同じように、死ぬことが出来る。 今までも、そしてこれからも囚われ続けるであろう永劫の輪から抜け出すことが出来る。 「親しい者との死別」という、何度も繰り返した哀しみからも解放されるのかもしれない。 もし、本当に死ねるとしたら…もしかしたら…それが私にとって、幸せなことなのかも。 永遠から解放されるなら、それでもいいのかも。…いいのかもしれない。 …でも。私は此処で「死のう」とは思わない。 例えいずれ、本当に死を迎える運命であるとしても。 狂った殺し合いの地で死にたいだなんて、これっぽっちも思わない。 何も出来ずに…下衆な奴らに踊らされたまま終わるなんて、私は真っ平御免だ。 その場で思慮を続けていた私は、今後の方針についても改めて頭の中で纏めようとした。 …だけど、そうしている暇はすぐに無くなった。何故かって? 『別の参加者』が、現れたからだ。 「…………。」 そいつは北の方角から、一歩一歩…確かな足取りでこちらに向かってくる。 木々に隠れて姿がよく見えなかったけど…草木などを掻き分ける音と共に、少しずつその姿が見えてくる。 …一言で言うと、浅黒い肌をした筋肉隆々の半裸大男。 逞しい肉体を衣服のあちこちから露出させているのが何とも強烈。 何というか…古代人?とか一瞬思ってしまうような出で立ち(まぁ、千年くらい前から生きてる私も古代人みたいなものだろうけど)。 幻想郷であんな奴を見たことはない。というか、外でもあんな出で立ちの奴見たことがない。 男は深い森の奥から現れて果樹園にいる私の方を向き、一歩一歩踏み頻るようにゆっくりと歩み寄ってくる… 「よォ、小娘」 男は歩きながら、太く低い声でこちらに向けて声を発する。 その声から滲み出ているものは、ドシリと響き渡るような威圧感。 体格といい声といい、随分と強烈なプレッシャーを感じさせるというか…。 ともかく、私は男の挨拶に返答することもなく黙ったまま目を向けていた。 「お前みたいな可愛らしいお嬢ちゃんまで殺し合いに巻き込まれてるとはなァ。 荒木に…太田と言ったか。奴ら、随分とご趣味の悪い『人間』だそうだ」 「…同感ね。酷い趣味だし、勝手にこんな場所に呼び出されて…迷惑極まりないって奴よ」 「フフフ…あぁ、『勝手に呼び出された』ってェなら俺もその口だ。 それに、どうやら此処には俺の『仲間』達もいるみたいでね」 「へぇ。お互い境遇は似たようなモノってとこかしらね」 「……ま、そう言った所らしいぜ?」 そこはかとなく飄々とした態度を取る目の前の男は、私と言葉を交わしながら歩を進めている。 ずんずんと地を踏み、私の方へと確実に向かってきているのだ。 どこか威圧的な雰囲気すら感じる一歩一歩を、地に刻み続けるかのように。 男は口元に不敵な笑みを浮かべながら…やがて、私の目の前まで辿り着いた。 仁王立ちの状態で立ち止まり、男は私をゆっくりと見下ろしている。 近くで見ると…やっぱり、かなりの巨体だ。とはいえ、それで怖じるつもりもないが。 2m前後の身の丈を持つ目の前の大男を、私は見上げていた… 「なあ、小娘。あの主催者の男がルール説明の際に言っていたが… ―――此処には、『神々』や『妖怪』が存在するんだとな?」 「そうね、というか妖怪とかとはしょっちゅう会ってるわよ? 魑魅魍魎の類いなんて、案外沢山いるわ」 「ほう…?」 男は私の返答に対して興味深そうな反応を示す。 この男は妖怪や神々について知らないようだ。やはり外界出身の人間か何かだろうか。 …いやまぁ、雰囲気的には『ただの人間』のようには思えないけど。 妙にニヤついた笑みを浮かべながら、男は更に問いかけてきた。 「小娘、お前はどうなんだ?お前も俺の知らない『何か』なのか」 「別に?私はあくまで人間。ただ、違うことと言えば…『ちょっと特殊な身体してる』ってこと」 「……………。」 「まぁ、平たく言えば―――――――――」 私は自分の身について、少し語ろうとした。 わざわざ男から問いかけられたのだ。何となくの気まぐれに、話してみようかとも思った。 だが、この会話は直後に力づくで途切れることになる。 この後の男の行動によって。 「あぁ、もういいぜ。貴様に少しばかり興味が湧いてきた… あとは『自分で』確かめる。どちらにせよ、俺はお前を―――」 私の言葉を遮るかのように発せられた男の言葉の直後。 直後に私の顔に目掛けてそれは放たれる。 私の視界が、生々しい紅の色に染まる。 殺し合いの中で何度も見てきた『色』。 そう。目の前の男の身体から放たれたものは真っ赤な『血液』。 それが私の顔面にかかり、視界を塗り潰したのだ。 咄嗟に対処をしようとした。だが、もう遅かった。 そして私の顔が、急に熱くなり――――― 「―――殺してやるのだからな」 ◆◆◆◆◆◆ ―――少女の端正な顔面は、男の血液によりグツグツと『焼かれていた』。 堪らずに少女はその場で倒れ込み、成す術も無く顔を焼き溶かされていく。 そんな少女の姿を男は笑みを浮かべながら見下ろしていた。 男の名は『エシディシ』。人間を凌駕する『力』と『生命力』を生まれ持つ、闇の一族の一人。 通称『柱の男』と呼ばれる存在だ。 彼女の顔面を焼き尽くす血液。これこそが彼の能力、『熱を操る流法“モード”』。 彼が『炎のエシディシ』と呼ばれる所以。自らの血液を500℃まで上昇させる、灼熱の能力。 暫しの会話を交わした目の前の少女を、その能力の毒牙にかけたのだ。 彼は決して妹紅と友好的な意図で接したわけではない。 あんな会話は単なる気まぐれだ。どうせいずれは皆殺しにする有象無象の塵共の一人なのだから。 エシディシの目的はあくまで『他の柱の男との合流』『会場からの脱出』。 その為には柱の男の仲間達と共に他の参加者共を殺害し、あの荒木と太田とかいう二人の男の下へ辿り着かねばならない。 少々小癪だが、下手に逆らえば脳を爆破されて死ぬだけだ。 だったら一先ずはゲームに乗り、優勝や生き残りを狙うであろう邪魔なカス共を減らしておいた方がいい。 それに、神々や妖怪など…未知の存在への好奇心もあった。少し試してみるのも一興だろう。 男は尚も不敵な笑みを見せ、少女を観察し続けていた。 さて…お前はこの状況で一体どんなことが出来る? 此処から何をしてみせてくれる? お前の持つ力とは何だ?見せてくれ―――― そして、男の口の両端が三日月のように釣り上がった。 「成る程…それがお前の『力』ってワケか」 そこで彼が目にしたものは、『ただの人間』ならば有り得ない光景。 それは人間でありながら永劫を手にすることの出来た、少女の能力。 火傷を負った少女の顔が、生々しい肉の音と共に『治癒されていく』。 焼き尽くされ、溶かされていた顔が通常の人間ならば有り得ない速さで再生していく。 先程まで灼熱の血液に顔を焼かれていた少女は―――――― 炎を意にも介さぬ様子で、こちらを『見据えていた』。 「…いきなり、酷いわね……顔を焼くなんて」 冷静に言葉を紡ぎながら――『灼熱の血液』が、振り払われるかのように消え失せ。 少女は、その場から立ち上がった。 「人間の身でありながら、再生能力を持つのか?」 「ま、有り体に言えば…そう言った所ね。そうじゃなかったらこんな調子良く立ち上がらないわよ」 蓬莱の薬によって不老不死の存在と化した少女――藤原妹紅。 とはいえ、此処ではそれも『偽り』となっている。あくまで持つのは、弱体化した再生能力だけだ。 彼女は不敵な笑みを浮かべることもなく、怒りの形相を見せることも無く。 ただ淡々と、冷静沈着な表情で―――自らの『不尽の火』を発現させた。 対するエシディシは、心底面白そうに笑みを浮かべていた。 彼の心に浮かぶのは、久しく感じていなかった昂揚感。そして、未知の力への興味。 そして彼は一旦後方へとバックステップをし、少しだけ距離を取る。 「ほう!小娘、貴様も炎を操るのか!面白いじゃあないかッ! 今まで久しく好敵手がいなかったのだ…丁度いい、この『エシディシ』を楽しませてみせろ!小娘ッ! ―――『怪焔王の流法“モード”』ッ!!!」 エシディシもまた、己の指先から触手の血管を飛び出させるッ! それは500℃にまで達する灼熱の血液を用いて戦う『熱を操る流法』。 数多くの波紋戦士を葬ってきたその能力を、彼は解き放ったのだ! 相対するは不老不死の少女と、太古より蘇りし柱の男。 距離を取っていた『柱の男』が地を蹴ると同時に、『少女』もまた戦闘態勢に入る。 果樹園の中央にて、闘いの火蓋が切って落とされたのだ。 ◆◆◆◆◆◆ 「――――ッ、」 「ハハハハハハッ!!どうだ、満足に反撃も出来ないかァ!? そらそらァ!どこまで耐えられるのかなッ!!」 結論から述べれば、戦況はエシディシが優勢だった。 回避された沸騰血は地面へと落ち、土や雑草を容赦なく焼き焦がす。 妹紅は触手のような血管を、後方へ下がりながら辛うじて回避し続けている。 彼女は腕や胴体などにエシディシの血液を何度か喰らっていた。 先程顔面に浴びせられた際よりも多量の血液を受けたということもあるのだろうが…妹紅の身体には、所々火傷が残っている。 普段ならば既に塞がっているであろう負傷。しかし、じわじわと再生しているとはいえ未だに負傷は完治していない。 即ち「いつもより傷の治りが遅い」。再生能力が弱体化している。 彼女は元々戦闘においては再生能力頼りであることが多かった。 当然だ。絶対に死なない身体なのだから、強引に攻めれば押し切れる。 だが―――今回は違う。負傷によって死を迎える可能性がある。 下手に重傷を負えばこちらが不利になるのだ。回避も行う必要がある。 しかし、彼女にとって回避行動は不得手。 「回避」という不慣れな行動に気を取られ、そちらに専念する形になってしまっていたのだ。 「逃げてばかりじゃあ、ラチも開かんよなァッ!!」 そしてエシディシの攻撃は血管だけではない。 不意を突くように時折織り交ぜてくるのは、強靭な筋肉をバネに放たれる剛拳。 妹紅はそれに対し、とにかく回避に徹していたのだ。 如何に妹紅が妖怪退治や殺し合いなどで身体能力に秀でていようと、あくまで元は人間。 対するエシディシの単純なパワーとスピードは、吸血鬼をも遥かに凌駕する。 それだけではない。彼は数多くの波紋使いを葬ってきた百戦錬磨の戦士。並大抵の者を上回る格闘技術をも併せ持つのだ! 一度あの拳に対処した際、妹紅はエシディシの身体能力、そして技量の高さに気付いた。 そしてエシディシはその体術と自身の能力を存分に生かし、激しく攻め立ててくるのだッ! エシディシは己のパワーを生かして至近距離での戦闘に持ち込み、徹底的な攻撃態勢に入っている! 今の妹紅がしていることは、ほぼ回避のみ。 時折僅かな隙を突いて炎弾を放ってはいるが、殆どダメージを与えられていない。 軽く舌打ちをしながら、妹紅は何とかエシディシの攻撃を躱していく。 しかし、このままでは全く埒が開かないのは当然のこと。 どうにかして打開しなければならない。 いっそ、自分の再生能力を信じて強引に攻めるか。 それとも、攻撃の隙を突いて体勢を立て直すか。 考えている間にも、敵は鋭い攻撃を仕掛けてくる。 迷っている暇なんてない。 そう。既に男は、拳を握り締めているのだから―――! 「―――そぉらァァァッ!!!」 直後、目の前の男が猛々しい声と共にこちらへ再び拳を放つ。 無骨な拳が真っ直ぐにこちらへと迫り来る。獣のように力強く、弾丸の如く勢いが籠った一撃。 しかし、その軌道は真っ直ぐだ。私は右手に霊力を纏わせる。 そのまま、迷うことなく―――拳を両腕で、強引に受け止めようとした! 「…ほう?」 男は、強引に拳を受け止めようとした少女を見下ろし…ほんの少しだけ感心したように声を漏らす。 しかし拳を防いだ妹紅の口からは…ごふっ、と口から血が吐き出される。 力づくで受け止めようとしたとはいえ、その衝撃は相当のものだ。 ある程度ダメージは緩和出来たが、当然の如く妹紅の身体は吹き飛ばされる。 だが、吹き飛ばされる直前の少女の口元には。 笑みが浮かんでいた。 「――不死」 そして、エシディシが目にしたものは…吹き飛ばながらも、右腕をこちらに向ける妹紅の姿。 右掌の正面に形成されているのは、不尽の炎の鳳凰。 「火の鳥、―――鳳翼天翔ッ!!」 火の鳥を模した真紅の炎弾が、エシディシ目掛け放たれる。 スペルカード、不死「火の鳥―鳳翼天翔―」。 それは不死鳥のような煌めきを見せる、紅き炎。 周囲に熱風が吹き荒れ、目を見開くエシディシの身に火の鳥が直撃する――! 「ぬうッ…!?」 その身が炎で焼かれ、男の身体が大きく仰け反る。 先程までの炎弾ではあまり傷を受けていなかったが…今回の攻撃はスペル。少なからずダメージは与えられている。 同時に、吹き飛んだ妹紅が小屋の壁に強く叩き付けられた。 全身を叩き付けられ、口から血を流し、強烈な鈍痛が回りながらも…妹紅はよろよろと立ち上がってみせた。 ――苦痛には慣れてる。この程度の痛みなんか、…力づくにでも持ちこたえてやる。 「……よくも……やってくれたじゃないか…なァ、小娘ェッ!!?」 血管ピクピクで怒るかのような、されどどこか楽しげに笑みを浮かべているような。 そんな微妙な表情で、男は声を荒らげて地面を蹴る。 胴体の正面が焼け焦げながらも、ダメージを感じさせぬ凄まじい瞬発力で妹紅の方へと迫り来る。 両足の筋肉を躍動させ、獣のような勢いの速さで突撃をしたのだ。 ―――しかし、エシディシが妹紅の所まで到達することは出来なかった。 パァン、パァン。 二度に渡って響き渡ったのは、乾いた破裂音のようなもの。 そう、銃声だ。妹紅が懐に隠し持っていた、『一八七四年製コルト』。 妹紅はそれを咄嗟に抜き、エシディシに向けて不意打ちの如く放ったのだ。 エシディシの頭部と首筋は弾丸に貫かれ、血肉をブチ撒ける。 絶叫じみた咆哮を上げながら、男は傷口を両手で抑えて転倒する――― 「………ふー…。」 銃を握り締めながら、私は一息を吐く。 引き金は躊躇いなく引いた。先程も言ったように、私は殺し合いには慣れている。 自分から積極的に仕掛けるつもりはない。だが…殺そうとしてくるなら、別だ。 殺しにかかってくると言うのなら…とことんまで抵抗するだけだ。 あの男は、どうなっている? スペルを直撃させ、頭部に弾丸を叩き込んでやったんだ。 普通ならば、これでもう死んでいる。少なくとも、行動不能にはなるだろう。 主催者の話を思い出す。頭を破壊されれば不老不死だろうと例外なく死ぬ、と。 逆に考えれば、頭部さえ破壊すれば確実に敵を殺せるということなのかもしれない。 それが正しければ、これであの男はもう動けなくなるはず―――― そんな私の期待を嘲笑うかのように。 小汚く、不気味な笑い声が…耳に入ってきたのだ。 「―――痛ェなァァァ~… 中々粘るじゃねえか、小娘… 今…ほんのちょびっとでも、思ったんだろう?」 ニヤニヤと笑みを浮かべながら―――――男は、立った。 その両足で、確実にその場に立ち上がってみせた。 頭部から血を流しながらも、男の余裕の表情は崩れない。 いや、むしろその顔は「愉しげ」にすら見えたのだ。 「『この化物を仕留められた!』とでも…思ってたんだろう、なァァァーーーーーーッ!!!!!?」 地響きが鳴る様な轟く声で、男は心底愉しそうに―――叫んだ。 コイツは…とんでもない、化物だ。こんな奴に…勝ち目があるのか? あの男も手傷を負っているとはいえ、今は私の方にだってダメージと霊力の消耗がある。 このまま戦った所で…恐らく、ジリ貧。互いに傷を再生しながら長期戦になるだけ。 『制限』がある以上、どこまで再生能力が持つかも解らない。 それだけに、こちらの方が不利になる可能性が高い。 あの男の能力は、計り知れないのだから。 …いや、違う。そんな理屈の話じゃない。あいつは、とにかく…危険だ。 冷や汗を流し、私はただただ歯軋りをする。 「く、っ…………!」 そして、最終的に私が選んだ道は…撤退。 傷付いた身体を押しながら、私は強引に走り出す。 身体は痛むし、所々焼け焦げて熱い。それでも、立ち止まっていたら再び攻撃されるだろう。 とにかく果樹園から、この場から離れるべく、両足に力を踏ん張らせ…駆け始めたのだ。 私は、必死に逃げ出した。 ―――無意識の内に目の前の男に恐怖を抱いていたことに、少女は気付いていない。 ◆◆◆◆◆ エシディシは、逃げていく少女を何も言わずに見ていた。 俺に臆したのか。それとも、この状況では不利だと感じたのか。 まぁ、正直どっちでもいい。追いかけるのも面倒だ。 また後で探し出して、くびり殺してやればいいだけのこと。いちいち追撃する必要はない。 あの小娘、確かに実力はあるが…あくまで十分に対処出来るレベルの強さだ。 この会場の中で、殺す機会などいつだってある。 「シラけちまったじゃあねえか、全く」 とはいえ…敵に逃げられ、少々面白くない気分ではあった。 追撃さえすれば追うことは出来たかもしれないが、こちらとて傷は受けている。 下手に深追いをし、妙な傷を負わされたらそれもそれで厄介。 それに…時間はたっぷりあるのだから、焦る必要も無いだろう。 ともかく、あの少女との闘いで彼は理解した。 柱の一族とも、波紋使いとも違う、「未知の存在」がいることを。 少女は不死鳥の如し炎を操り、同時に高い再生能力を兼ね備えていたのだ。 あの力が一体どのような技術によるものかは解らないが、興味はある。 この会場に同じような存在がいるとなれば、尚更だ。 さて。此処にはカーズやワムウもいるらしいが…まぁ、アイツらはそう簡単に死にはしなないだろう。 俺は俺で、気ままにやらせてもらうとするかね。 勿論あいつらと共に生き残り、荒木と太田を殺すつもりではある。 抜け駆けをしてカーズやワムウを殺害し、優勝しようだとか…そんなことは微塵も考えてはいない。 あくまで敵は荒木飛呂彦と太田順也だ。 だが、そこに辿り着くまでにはまず「勝たなければ」ならない。 そう。―――最終的に、仲間達以外の参加者共は皆殺しだ。 だが、先程も述べたように他の参加者に対する興味はある。 此処にはどんな奴がいる?どんな能力を持つ者がいる? 是非とも試してみたい。ま、最後は殺すことには変わりないがな。 月を見上げ、男はゆっくりと歩を進める。 行く先は特に決めてはいない。 ただ風が流れるように、気の赴くままに進み続けるだけだ。 その口元に、邪悪な笑みを浮かべながら…彼は果樹園から離れていった。 【B-5 魔法の森・果樹園の小屋付近(7部)/深夜】 【藤原妹紅@東方永夜抄】 [状態]:全身打撲(中)、身体のあちこちに火傷(中)、疲労(大)、霊力消費(中)、再生中 [装備]:一八七四年製コルト(4/6)@ジョジョ第7部 [道具]:予備弾薬(18発)、煙草(数本)@現実、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:主催者を倒す。 1:今はとにかく逃げて傷を癒す。 2:主催を倒す為の協力者を探す。出来れば慧音を探したい。 3:こちらからは仕掛けないが、襲ってくるのなら容赦しない。 4:エシディシを警戒。無意識に僅かな恐怖を抱いている。 5:主催者の言っていたことが気になる。本当に不死の力は失われているのか? [備考] 参戦時期は永夜抄以降(神霊廟終了時点)です。 風神録以降のキャラと面識があるかは不明ですが、少なくとも名前程度なら知っているかもしれません。 果樹園から離脱し、南下中です。 【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】 [状態]:胴体に火傷(中)、頭部と首筋に銃創、疲労(小)、再生中 [装備]:なし [道具]:不明支給品、基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:カーズらと共に生き残る。 1:一先ず気の赴くままに動いてみる。神々や蓬莱人などの未知の存在に興味。 2:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。 3:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので、焦る必要はない。 4:夜明けに近づいてきたら日光から身を隠せる場所を探す。 [備考] 参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。 エシディシがどこへ向かうのかは次の書き手さんにお任せします。 頭部に銃弾を受けましたが、脳への直撃は避けているのでさほど深刻なダメージではないようです。 『一八七四年製コルト』 藤原妹紅に支給。ジョジョ7部でリンゴォ・ロードアゲインが使用していた回転式拳銃。 装弾数は6発。予備弾薬付き。威力は現在の拳銃と比べても遜色はないが、固定式シリンダーなので弾丸の装填には時間がかかるだろう。 000:プロローグ『穢き世の穢き檻』 投下順 002:真空のメランコリー 000:プロローグ『穢き世の穢き檻』 時系列順 002:真空のメランコリー 遊戯開始 藤原妹紅 064:蓬莱の人の形は灰燼と帰すか 遊戯開始 エシディシ 053:Kindle Fire【焚きつける怪炎】
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天国『不思議の国の霧のしろ』 ◆IEYD9V7.46 例えば、目を瞑って屋内を歩いたとする。 訓練も何も積んでいない人間ならば、物にぶつかって怪我をするのは必然だろう。 それが彼女、鈴木みかにとって歩きなれた自宅や、職場である学校だったとしても、その結果に大差はないはずだ。 閉じたままのドアに頭から派手にぶつかり、タンスの角に足の小指をぶつけて(これは目を開けていてもやる)、 ひどければ階段から足を踏み外して大怪我をする。 見た目は幼くとも、みかは酒の大好きなれっきとした大人だ。 自ら進んで目を瞑って歩くことなどしないし、そんなことが楽しいと思えるほどの幼い時期はとうに過ぎた。 しかし、みかは今、そうすることを余儀なくされている。 かといって、何も目隠しをされたわけではない。みかの瞳は現実の光景をしかと収めている。 ただし、その光景とは、血と硝煙が渦巻き、人外異能者が跋扈する凄惨極まりないもの。 たとえ網膜が機械的にその情景を焼き付けたとしても、それを骨の芯にまで理解するには、みかの常識は狭すぎた。 見えていてもそのことを理解できなければ、何も見えていないのと同義だ。 物理的にではなく、恐怖を強いることで、理解の瞳を覆い隠す。 そうして視界を塞いだ後は、血反吐を吐いても拷問のように歩かせ続け、人の心と身体を蹂躙し尽くし、破壊する。 足を踏み入れたら最後、埒外の常識によって何もかもが磨り潰され、消える世界。 それが、冥王ジェダの催したバトル・ロワイアルだった―――― * * * 鈴木みかが放送を聞いたのは陽が落ちる前、足を縺れさせながら城前の橋を渡っていたときのことだった。 あれから数時間は経っただろうか。 時間にしてみれば然程長いわけではないが、その間に陽は沈みきり、世界は赤から紺青へと大きく染め替えられていた。 「これで、いいのかな……」 城の橋を渡った先にある西の森。 平原との境に近い茂みの中で、首なし人形を抱えた蝶々マスクの怪人――鈴木みかは、答えを求めるように独り言ちた。 彼女は今の場所に辿り着いてからずっと、夜の寒気と殺し合いの恐怖に震えながら、 茂みの中から東の平原や、遠くの道路を見張り続けている。 そうすることで、誰か――できればベルフラウであって欲しい――が通りがかるのをジッと待っているのである。 何せ、彼女には行く宛てがない。放送前まで立ち寄っていた城は、火炎瓶を投げつけてきた少年、 トマの仲間に察知されてしまったため、迂闊に近寄れない。それに、仮に行く宛てがあったところで、 怖気を感じるほどに暗い夜道を、懐中電灯一つで突き進むことなど、みかにはできなかった。 そうして、一歩も動けなくなった彼女が選んだのがここだった。 深い森に背を預け、青臭い森林の空気に包まれながら茂みの向こうを覗く。 そうすると、丁度東の空に浮かんだ満月が、包み込むようにみかを照らしてくれるのだ。 彼女が森の奥に行けない理由がこれだ。森の出口が近く、草叢の密度が薄いここならば、 身を隠しながら満月を、明るい光を視界に入れることができる。 居間を照らす電灯なんてなくてもいい、手を伸ばして触れない光でも構わない。 遥か遠くの天上に、消えることのない確かな月光。 みかの心に微かな安らぎを与えてくれる光があるのだから。 とはいえ、それは飽くまで気休めに過ぎない。 みかの心は依然、曲芸の綱を渡っているかのように安定さを欠いている。 確かに今の彼女は、自分にできる範囲で精一杯賢く動いて、現実から目を逸らさず、 辛うじて気を狂わせることもなく、こうしてベルフラウを含む友好な人間を見つけようと目を凝らしている。 だが、ふとしたとき、一瞬でも気を緩めた瞬間に放送の内容が頭を過ぎってしまい、 その度に抑えるのも苦しい不安と恐怖が、身を突き破らんばかりに膨れ上がってしまうのである。 放送を聞いた当初のみかの関心はただ一点、ベルフラウの安否のみだった。 出会った人間は例外なく話も通じない危険人物ばかりだったのだから、いたし方のないことだろう。 唯一頼ることのできるベルフラウが生きているという事実は、みかにとって大きな救いであり、 放送を聞かなければならない理由の大半は、これだけで済んだと言える。 そうして安堵し、心が弛緩した彼女は、生きる希望を得るのと同時に、 余計なことまで考えてしまう余裕まで作ってしまった。 何も考えなければ恐れおののくこともなかったはずなのに、あろうことか死者と生存者について、 彼女なりの考察を始めてしまったのである。 死亡者37名、生存者49名。 この数字を前にして、みかは混乱した脳からこんな結論を捻り出した。 『死んだのは37人。今生きている人が一人ずつ殺したとすると、 37人はこの殺し合いに乗っていて、私とベルフラウちゃんを除けば、 生きている人で安全なのはたった10人しかいない』 要するに、今生き残っている人間の大半は誰かを殺害した――それがみかの見解だった。 言うまでもなくこの推論には穴がある。むしろ、穴しかない。 ジェダは放送でご褒美獲得者の存在を示唆していたのだから、その時点で生存者が一人一殺したという考えは崩れ去る。 それに、みかは最初から誤解による死や、正当防衛というものを考慮せずに、 ただ「殺し合いに乗った悪い人」と「そうじゃない人」という二元論でしか事態を捉えていなかったのだ。 そのような前提から導き出した答えには何の意味もないのだが……今の彼女がそう推測し、信じ込むのも無理もなかった。 なぜなら、この推論は彼女がこの島で経験したことと、大きく矛盾することがないのだから。 出会った人間5人の中で、安全だったのはベルフラウだけ、残りの4人は平気で殺し合いのできる悪人ばかり。 割合からいっても、5人中4人が危険ならば、50人いれば40人は危険だということになり、 みかの荒唐無稽な憶測は的を射てしまうのだ。 それほどまでに危険人物が徘徊しているとすれば、ただの教師でしかない彼女は、 もっと安全な場所に隠れ潜むべきなのだが……、 「……守らないと……」 木々の葉擦れよりも、小さな呟き。 「私は、先生なんだから……。ベルフラウちゃんが頑張ってるのに、逃げちゃいけない……。 どこかで泣いている子がいたら、せめて、一緒についていてあげるだけでも……」 自分自身、今にも泣き出しそうな声で、傍目にも分かるほどに小柄な身を震わせながら、みかは意思を押し出す。 彼女だって、本当は大声を張り上げて泣き叫びたい。 騒いで、喚き散らして、ベルフラウに助けを求めたいのだ。 ガチガチと歯を鳴らし、体内で心臓を暴れさせ、手中には小刻みに震える拳銃がある。 森を吹き抜ける風の音を聞いては怯え、風に揺らぐ影を見れば息を詰まらせ。 風が止めば鼓膜を刺激する音が恋しくなり、動くものがなければ見間違いはないかと視神経を疑う。 何をしても全身は軋むし、何もしなければ生きている実感も得られない。 彼女を一人の人間、鈴木みかたらしめるものが、少しずつ磨り減っていく。 それでも、みかは決めたのだ。限界まで戦うのだと。 実は彼女には、アリス・イン・ワンダーランドという逃げ道がある。 核鉄を展開させ、周囲を霧で満たせば、外部からはかなり目立つが、 得体の知れない濃霧に近づく物好きでもいない限り、少なくとも自分だけは安全になる。 だが、この選択は完全な逃げでしかない。霧を使えば自分の視界も狭まり、 ベルフラウや、他者の発見が困難になるからだ。 他人との交流を断ち切り、自分の殻の中に閉じこもれるほど、彼女は強くも弱くもなかった。 だから、みかはこうして一人で戦い続けている、首のない人形だけを道連れにして。 エスパー帽子と核鉄があるのは幸いだった。 無力な彼女でもこの二つがあれば、どんな相手からでも逃げ切れるし、 その安心感によって、張り裂けそうな彼女の精神はどうにかつなぎとめられていたのだから。 襲い掛かる眠気を体力の消耗と引き換えに沈めて、みかは月夜の平原を静かに見渡し――、 ガサリ。 「――ッ!?」 咄嗟に、右手のFNブローニングを背後に向ける。 同時に呼吸音を必死で押し殺し、物音の聞こえた森の黒へと意識を注ぐ。 何かが音を立てるたびに、神経をすり減らしながら繰り返してきた動作。 これまでは何も出てこなかった。今回も取り越し苦労で終わってくれれば……。 そんな弱気に囚われかけたところで、 ガサリ。 暗がりの森の奥から、聞き間違いのない音が届いた。気のせいでも幻聴でもない。 いよいよみかの頭が沸騰し、視野がグニャリと歪む。 ついに来てしまった、絶対に誰かが近づいてきている。 まさかこんな暗い森の中、それも道なき道を踏破してくる人がいるなんて――。 背後への警戒を暗黒の森に託しきっていたみかは、その事実に出鼻を挫かれた。 数時間握り続けた銃は、手に馴染むというよりは、溶接でもされたように張り付いていると言った方が近い。 夜がもたらすかじかんだ冷気が、五指を凍らせてしまったかのようだ。 指を動かすたびに走る幻のような鈍痛を振り切り、厳重な梱包を解くように、ゆっくりと安全装置のロックを外す。 銃口は、何かが潜んでいるらしい暗色の茂みに向けたまま。 距離は10メートル未満。それ以上は枝葉の密度が濃く、月の光も差さないので視認できない。 みかは近づいてくる何者かを警戒し、震える腕で銃を構え続ける。 といっても、これはただの脅しであり、未知の相手に機先を制されないために、形だけ構えたものに過ぎない。 銃を突きつけ、自分を優位に立たせた上で、相手の話しを聞いて危険の有無を判別する。 もしそれで相手が信用できない人間だと分かれば、エスパー帽子による転移と霧によって即座に逃げおおせる。 それが、みかの立てていた計画だ。 (お、おお落ち着いて私! まずは相手の話をちゃんと聞いて――) 身体が自覚できるほどに硬い。リラックスさせようと息を思い切り吸い込むが、 ともすれば劣化したゴムのように肺と胸に穴が空きそうだ。 過剰なまでに脳に供給される血流が、平衡感覚までも狂わせてしまい、 風邪をひいたときのようにクラクラする。 (もしも、そこにいるのがベルフラウちゃんなら……) どれだけ楽だっただろう。どれほど救われただろう。 そんな淡い幻想に縋ろうとして……振り払う。 こんな後ろ向きな心構えでは駄目だ。とにかく、目の前にある現実に立ち向かわないと。 そう叱咤激励し、不安を押し潰すように、人形を抱きかかえる左腕に力を込める。 (相手がどんなに怖そうな子でも、絶対に取り乱さない……!) 覚悟を決め、否が応にも気持ちが高ぶる。 限界まで張り詰める緊張の糸。明滅する視界。 闇から現れる一手は白か、はたまた黒か。 たったそれだけのことで、みかの盤面は一気に色を変えることになる。 そして、遂に邂逅の時は来た。 ガサ、ガサという音と気配はどんどん強くなり――、 茂みを断ち割って、“それ”は現れた。 森に差す月光の煌きによって、その姿をみかの前に晒す。 現れたのは、目も眩む銀色。 その総身はみかの身長など軽がる超えている。 頭と思しき先端近くに、怪しく光る目玉が一つ。 更に、その目玉の下方には口がある。 口付けを交わしただけで血塗れになること請け合いな、鋭く凶暴な口が、 ピエロのように固められた笑みを浮かべ続けている。 「え、……ぁ」 人間であろうはずが、なかった。 血糊がべったりと塗られた、獰猛な鮫のような剣が、瞳をぎらつかせながら宙に浮いている。 現実に追いつけないみかの頭は容易く真っ白になり、 ぎょろり。 と、目が合った。 これは悪夢だ。 引き金を握るのに、充分過ぎる悪夢だ。 「――う、うわあああああああアアアアァっっ!!?」 絶叫が木霊し、銃弾が吐き出される。 剣の怪物を狙った弾丸は、しかし当たるはずがない。 当然だ。素人の銃が、持ち主の意に沿ってくれるはずがない。 撃ち出された弾丸は怪物の右に大きく逸れ、そのまま虚空に呑まれて――、 “誰か”に当たった。 銃弾を吸い込んだのは、剣の後から現れた人影。 森の闇よりも更に暗い影が、音もなく地に臥した。 みかは驚愕に見開いた眼でその様を捉える。 (ウソ……、わ、私、ひとを、撃っ) 全身を襲う痙攣したような震動を、首を振ることで強引に打ち消し、 (ち、違うよ! 私悪くないっ! だってあの子は血塗れの化け物の仲間だもん! この殺し合いに乗って、人を殺した悪い人なんだから、私は悪くない! 撃たなければ、殺されていたのは私のほう!) 論理を踏み倒し、自身を死に物狂いで正当化して、 (に、逃げないと……、早く、早く、早く! どこでもいいからテレポートを――!) 頭に意識と力を集中させた瞬間、 「ベ……――――ベルフラウッ!!!?」 叫びが、轟いた。 みかに撃たれた、“誰か”以外の叫びが。 (……………………え?) 知らない声が、知っている名前を、この世の終わりのような口調で叫ぶ。 逃走のことしか頭になかったみかは、改めて自分が撃ち殺した人間のほうを見張った。 視線の先。 御伽噺のような月明かりに照らされて。 見慣れた格好をした見知らぬ少女が、両腕で一人の少女を抱え込んでいる。 抱えられた少女は仰向けで、見ようとすればここからでもその顔を確認することができる。 聞き間違いか、そうでなければ質の悪い冗談だ。 みかはそう思いながら、祈るような面持ちで、血を流す少女の顔を凝視した。 その少女は長い金髪で。 背格好もみかの知るあの子とそっくりで。 閉じられた瞼からでも、なぜか気の強さを窺えて。 見れば見るほど、間違いなく。 ベルフラウ=マルティーニだった。 瞬間、 あ、 という、声なき咆哮。 人間が本来出しえない音を皮切りに、何かが弾け、辺りが白い濃霧に埋め尽くされた。 * * * イエローは、周囲の劇的な変化に気付き、息を呑んだ。 夜だというのに、突然視界が真っ白になったのだ。 慌てて周辺を見回すと、ベルフラウを撃った覆面の怪人が、 霧を撒き散らしながら北のほうへと逃げていこうとするのが見えた。 奥歯で苦いものを噛み潰し、イエローの瞳に火が灯る。 「よくも……ベルフラウをっ! ――ダイレクッ!!」 怒りに突き動かされ、逃走する怪人の後姿に魔剣を叩き込もうとして――、 突然、その動きを制されるように腕を強く掴まれ、視線を落とした。 「ベルフラウ!? 大丈夫なの!? しっかりして!」 霧に抱かれた世界の中。 必死で呼びかけると、腕の中のベルフラウは荒い息を吐き、ゆっくりと薄目を開いた。 「……駄、目……。あの人は、悪い人では、ない、ですわ……」 「どういうこと!? あの人を知っているの!?」 問われたベルフラウは、痛みを堪え、つい先ほどのことを確認するように回想する。 暗かった上に、変装までされていたから、完全に判別できたわけではない。 だが、頭に被った奇妙な帽子。自分を撃ち抜いた拳銃。 そして最初と最後にあげた――――聞き覚えのある声。 これだけ揃っていれば、あれが誰なのかを想像するのは容易だった。 (……まったく。安全なところに隠れていて欲しかったのに。 何をどうすればこんなことになるの? ……本っ当に、世話の焼ける人ですわ) 自身の惨状も忘れ、心中で軽く毒づいたあと、イエローの瞳を見つめる。 「あれは多分、私の仲間……みかさん、ですわ」 「そんな!? 仲間なら……なんで、ベルフラウを撃ったりするの!?」 ベルフラウは、どうしたものかと鈍い動きで眉を顰めた。 みかの人となりを考えれば、彼女が発砲した理由には察しがつく。 だが、それをそのままイエローに告げることは、どうしてもできない。 恐らく、護衛と牽制を兼ねて先行させていた、ダイレクの異形が仇となったのだろう。 イエローが無意識のうちに行っていたことだが、それを合理的だと思って反対しなかったベルフラウは、 そんなことでイエローを責めたくないし、傷つけたくもなかった。 だから、強がるように、敢えて白を切った。 「さあ? ……分かりませんわ。多分、混乱でもしていたのでしょう。 ……あぁ、そうですわ。一つ訊かせてもらいたいことが、――――っ!?」 ぐふ、という濁った呼気と共に、小さな口から赤いものが零れ落ちる。 「!? 喋っちゃ駄目だっ!!」 イエローの悲鳴を受け、しかしベルフラウは止まらない。 息も絶え絶えに、問いかける。 「あなた……さっき、私が止めなければ……何をしていたの?」 「…………え?」 「みかさんを……斬っていた?」 「ッ!? ベルフラウの仲間だなんて知らなかったんだ! それに、ボクには殺すつもりなんてなかった! ……ただ、動きを止めようと……」 萎んでいくか細い声を聞きながら、ベルフラウは逡巡する。 どうやらイエローは、“斬りかかろうとした相手が仲間だったから、ベルフラウは自分を糾弾しているのだ”と、 勘違いをしているらしい。そのことを察したベルフラウは、眉尻を下げながら複雑な笑みを浮かべた。 「あなた、……今の自分がどれだけズレた答えを返しているのか、 少しも分かっていないみたいですわね……」 「……どういう、こと?」 「私は、あの鏡で……この島でのあなたの行いを見ましたわ」 「君がさっき告白してくれたこと? そのことはボクは気にしてないって言ったはずだよ、それがどうしたの?」 「……胸に手を当てて考えてみなさい。この島に来た直後のあなたは……、 さっきみたいに、平気で誰かに攻撃することができていたの? 違うでしょう? 少なくとも、……城戸丈を助けようとしたときのあなたは、……そうではなかったわ。 非戦主義は私には理解しきれませんし、……私からすれば、 今のあなたの行動のほうが、よっぽど理屈に合っているとは思う。 でも、あなたはそれでいいの……? 本当に、今の自分でいいと思っているの?」 絶句するイエローを尻目に、ベルフラウは淡々と告げる。 「それが自分で選んだ道なら……何も、言いませんわ。……でも、今のあなたは状況に流されて、 本来の自分が歩むべき道から外れ、考えなしに力を振るおうとしているだけ……。 同じ力を振るうにしても、気の持ち方が違えば……もたらす結果も全く違いますわ……」 「……同じ力に違う意志……? ボクと、ワタルみたいな……?」 ベルフラウは静かに笑う。どうも、イエローには思うところがあったようだ。 理解が早そうで助かった。自分が望まない意思と力に囚われるのは、とても悲しいことだから。 懸念事項を一つ片付け、ベルフラウは更に続ける。 「ゆっくりでいいから、自分を見詰めなおし――」 言葉が途切れる。 ベルフラウはゴホッと咳き込み、血の小球を飛ばした。 焦燥に追い立てられたイエローが、悲痛な声をあげる。 「分かった、分かったから! 早く治療しないと……! どこか……、そうだ、お城! ボクが運ぶから早くお城に行こう!!」 「ええ、そうですわね……」 ベルフラウは同意し、 「みかさんを何とかしないとですし……」 しかし、イエローの意図通りの答えを返さない。 言葉の意味を一瞬掴みかねたイエローは、弾かれたように周囲を見やる。 いつのまにか、あれほど濃密だった白霧が消え去っている。 更に遠方を見渡すと―― 「……なに、あれ」 呆けた声の先。 当初目指していたはずの、巨大な城の輪郭が変化していた。 まるで軟体生物のようにゆったりとその身を変形させ……いや、違う。 不定形に姿を変えているのは城でも、ましてや生物でもない。 圧倒的な総量と密度を誇る霧だ。 孤城が、真っ白な霧に侵略されるように、呑み込まれつつあった。 粒子が月明かりを乱反射し、そこだけが昼間のように明るくなっている。 ある種幻想的な孤城と光の共演に、イエローは目を奪われた。 「……見えたでしょう? 何をする気なのかは分かりませんけど……。 どの道、碌なことになりませんわね。はやく彼女を止めないと……」 「そんな……! それじゃあベルフラウはどうなるんだよ! 早く手当てしないと死んじゃうじゃないか!? ボクは、ボクはもう誰かを見送ることなんてできないよ! ……もう、一人ぼっちになるのは嫌だ……、一人に……させないでよ……っ」 半ば泣きじゃくり始めたイエローを、微笑みながら諭すように宥める。 「心配することはありませんわ……。私は、この程度では死にませんから」 ――みかさんを助けるまでは、ね。 呟きを笑顔の裏に隠し、ベルフラウは自嘲気味に目を伏せる。 ……つくづく、余計なことに首を突っ込んでしまったものだ。 本当に、なぜこんなことになってしまったのか。 なぜ、今日知り合ったばかりの他人のことを、こんなにも気にかけているのか。 自分はただ安全に動いて、元の居場所に帰りたかっただけなのに。 ……先生に、逢いたかっただけなのに。 胸中に抱く不合理な感情の正体。 そのことを少しだけ考えて……。すぐに、気付いた。 (私はきっと……みかさんに恩義を感じているのね) そうだ。銃を持った少年から助けてくれたのは、他ならぬ彼女、鈴木みかだった。 あのまま助けが来なければ、きっと自分は無為に殺されていたことだろう。 それに、怯える彼女を叱咤激励する一方で、自分も彼女から確かな勇気を貰っていたはずだ。 だから、今度は。 みかに拾われた命を……彼女のために使うのも、悪くない。 心のどこかで、そんな律儀なことを思ってしまっているのだろう。 らしくない。馬鹿みたいに冷静にこんなことを考えてしまうのは、迫り来る死のせいか。 死ぬときに取り乱したくない、毅然とした態度を取っていたいという、ちっぽけなプライドの賜物。 もちろん、死ぬのは怖い。嫌だ、助けてと泣き叫びたい衝動はある。 しかし、今それをやったところで、誰が助かるというのか。 自分の傷は深刻だ。即死こそ免れたが、胸と腹の境あたりを、銃弾に思い切りかき回された。 背中からの出血はないから、恐らく弾丸は未だに体内だ。 呼吸をするたびに喉の奥から血がこみ上げて、胸部に激痛が走る。 肺をやられたか……それとも横隔膜に傷でもついたか? 判別がつかない。呼吸をする力がとにかく不足し、行き場のない苦しさばかりが鉛のように降り積もる。 このまま出血が続けば長くはもたない。傷口を焼いて塞ぐにしても、まずは弾丸の摘出をする必要がある。 それでは間に合わない。自分の命もそうだが、みかが事を起こすつもりなら手遅れになる。 キッカの実でもあれば話は違ったというのに……。 もう、とれる手段、できることが他に見つからなかった。 ならば、そのたった一つに全てを掛けよう。 悔いを残さないために。この島にいた証を残すために。 「さあ、時間がありませんわ……。イエロー、私をダイレクであの城へ運んで……。 弱くて頼りないくせに、抱えきれないものを無理矢理抱えて苦しんでいる、 ……優しくて出来の悪い先生に、言わなければならないことがありますから」 「君だって、全部抱え込もうとして……。そんなに、苦しんでいるじゃないか……っ!」 「……ふふ、買い被りすぎですわ。 仮にそうだとしても……それはあなたも同じでしょう、……人のことが、言えて? 大体、あなたは大きな勘違いをしていますわ。……私に死ぬ気なんてないし、みかさんのことも助けてみせる。 ……私たちが幸せな結末を迎えるのに、……これ以上の道があるのかしら?」 そう、笑って言い切る。 弱さを見せないように、不安を与えないように。 こんな安い嘘が通じるほど、イエローの思慮は浅くないだろう。 それでも、 「……約束して」 イエローは答えた。 「絶対に死なないって。みかさんを助けたら、ちゃんと治療を受けて生きるって! ボクと約束してよ!!」 大きな声を張り上げて、ベルフラウの意を精一杯汲んでくれた。 脆く儚い児戯のような嘘に、真剣に付き合う。そう、言ってくれたのだ。 この場で、これ以上に嬉しい言葉なんて絶対にあるはずがない。 最後になるかもしれない今このとき。 ……強く、優しい子に会えて良かった。 ベルフラウは心の底からそう思い、顔を綻ばせながら、力強く頷いた。 「ええ、約束しますわ」 イエローに支えられ、ベルフラウは霞み行く孤城を睥睨する。 伝えなければならない。自分の死を、彼女の重荷にさせないためにも。 彼女が、この島で『先生』として、自らの足で立って歩いていけるように。 * * * コツ……コツ……。 夜の孤城を、白い霧が包み込む。 自然発生ではありえない妖霧は、城の一部に色濃く纏わりつき、 さながら雲の中から塔が数本突き出しているといった様相を呈していた。 コツ……コツ……。 本来、闇に満たされて然るべき城内は、 光の存在を無視したかのような白によって、不気味に輪郭を際立たせている。 人気のないその空間は、小さな音も残さず拾い、反響させ、フロア全体にまで音を響かせていた。 コツ……コツ……。 等間隔で生まれる足音は、一つ生まれるたびに上へと昇る。 音の主は、長い長い階段を上り続ける。 コツ……コツ……。 「……した」 突如、足音に呟きが乗る。 その声に生気はない。 コツ……コツ……。 「……ベルフラウちゃんを、殺した」 まるで、呪詛のように。 壊れたテープレコーダのように。 コツ……コツ……。 「殺した……殺した……殺した……」 繰り返すのは自責と後悔。 希望を砕いた彼女は、一歩ずつ。 ゆらり、ふらりと歩を進める。 コツ……コツ……。 「私が、殺した……」 残ったのは唯一の願い。 求めた場所は、優しい両親の待つ我が家。 賑やかで楽しい、同僚と生徒のいる興津高校。――ではない。 コツ……コツ……。 希望を撃ち砕き。 絶望に満たされた彼女が、最後に辿り着きたかった場所。 遥か彼方にあるそれは―――― 「高いところがいいよね……」 天国だった。 【F-3/城内の階段/1日目/夜中】 【鈴木みか@せんせいのお時間】 [状態]:絶望、顔面左側に大火傷(性別が判別できないほど)。精神不安定状態にあり、自分の服装について客観的に見れていない。 [装備]:エスパーぼうし@ドラえもん、FNブローニングM1910(5/(6+1))、核鉄LXX70(アリス・イン・ワンダーランド展開中)@武装練金 赤いボロボロの覆面(真紅の服製)、パピヨンマスク@武装練金、首の無い真紅の残骸 [道具]:支給品一式 [服装]:『怪人パピヨンレッド』(赤色の覆面と蝶々覆面で顔を隠し、エスパー帽子を被っている)、真紅の残骸を抱き締めており、服は少ししめっている。 [思考]:私が、殺した……。 第一行動方針:高いところへ。 第二行動方針:銃を持った少年(永沢)、刀を持った少女(アリサ)、火炎瓶の少年(トマ)を危険人物と認識。警戒。 基本行動方針:どうなってもいい。 ※みかは、ベルフラウの説明によりここが「リィンバウム」だと思っています。 ※リィンバウムについての簡単な知識を、ベルフラウから得ました。 同時に、ベルフラウの考察を教えてもらっています。 ※ベルフラウを殺したと思っています。 【F-4/森/一日目/夜中】 【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】 [状態] 腹部に致命的銃創(出血中、体内に銃弾)疲労(中)魔力消費(中)精神的疲労、墜落による軽い打撲傷。 [服装] 『ザ・チルドレン』の制服姿。(野上葵の物) [装備] クロウカード『火』『地』 [道具] 支給品二人分(食料-1)浄玻璃の鏡@東方project(残り1回) 思いきりハサミ@ドラえもん、クロウカード1枚(スイート『甘』)、カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA s [思考] 急がないと……! 第一行動方針:城に向かい、一刻も早くみかと話をする。 第二行動方針:可能なら、銃創の治療をしたい。 第三行動方針:召喚術師(アルルゥを含む)と交渉し、仲間になってもらいたい。 アルルゥにはやや同情的。 第四行動方針:殺し合いに乗らず、仲間を探して対主催の策を練る。 基本行動方針:先生の元に帰りたい。 [備考] 浄玻璃の鏡でイエローの行動すべてを見ました。イエローをかなり信用しました。 イエローの出会った人々を認識しました(どう思ったかは不明) ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。 ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています(実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません) ベルフラウは、レックスが名乗るのを聞いていません(気絶していました) 【イエロー・デ・トキワグローブ@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態] 全身に擦り傷と打撲(行動にやや支障)左瞼に大きく切り傷、疲労(中)、精神不安定、深い悲しみと決意、頭部に打撲(生命に危険なし) [服装] ベルフラウの私服姿。帽子にポニーテールが隠されている。 [装備] 魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー、レッドのグローブ、おみやげのコイン@mother2 [道具] 基本支給品、スケッチブック、城戸丈の首輪、イエローの服(泥だらけ) [思考] ベルフラウ……。 第一行動方針:ベルフラウの望みどおり、彼女をダイレクでみかの元に連れて行く。 第二行動方針:消えたリルル、金糸雀のことが心配。 第三行動方針:グリーンやブルーと合流し、このゲームを破る方法を考える。 第四行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ。 第五行動方針:丈の首輪を調べる。または調べることの出来る人間を探す。 基本行動方針:絶対にゲームに乗らない。生きてマサラに帰る。 [備考] 魔剣ダイレクのソードエレメンタル系は、魔力を必要とするため使用不可。 トリエラのことを「積極的なマーダー」だと認識しました。 ネスからレッドの仇が「白い女の子」だと聞かされました。 レッドの仇に対し、どういう態度を取るべきなのか、まだ考えが定まっていません。 ≪205 迷いはいらない 時系列順に読む 210 手を取り合って/すくいきれないもの(前編)≫ ≪205 迷いはいらない 投下順に読む 207 かえりたい≫ ≪169 ここはG-1、海鳴温泉なの!≪175 第一回定時放送 鈴木みかの登場SSを読む 210 手を取り合って/すくいきれないもの(前編)≫ ≪192 それぞれの道、だからこそ… ベルフラウの登場SSを読む 210 手を取り合って/すくいきれないもの(前編)≫ ≪192 それぞれの道、だからこそ… イエローの登場SSを読む 210 手を取り合って/すくいきれないもの(前編)≫
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第10話 球技大会 体育館・・ 「あ~今日は球技大会という、生徒や教師達にとって、友好を深める日になることは違いないわけで―――」 6月20日の金曜日。 梅雨の時期にさしかかり、気温もそろそろ上がり始めてきた今日この頃、イエローを含めた学園の生徒全員が、体育 館に集まっていた。 ちゃんと整列して並んでいる生徒達の前で、オーキド博士がとてつもなく長い挨拶をしている。周りの生徒たちは嫌そ うな顔をしてその話を聞いており、ところどころであくびをしている者もいた。 イエローもまた、顔をうつむかせて、時々あくびをしている1人だった。 今日は球技大会。 この学園では、年に2回の球技大会がある。 1回目が6月、2回目が11月にあり、生徒たちがいろいろな球技で競い合う、というのがイベントの中身だ。時間はな んと1日中。授業全部を潰してしまうという試みだった。 今回の種目はバレーボールだ。 生徒全員にアンケートを取り、多数決によって決まった種目だったが、イエローにはかなり嫌な競技だった。バレーボ ールは背の高さがものを言う競技。背が低いイエローにとっては酷というものだった。 3年B組の列の中、イエローはこれから始まるバレーに対して、深い溜息をついた。 ――あ~あ、何でバレーボール・・・・・レッド先生はバレーとかバスケの方が得意って言ってたけどなあ・・・・なんで かは知らないけど―― そう思いながら、なぜレッドが、バレーの方がいいと言ったのだろう?と疑問に思った。これは生徒だけの競技のはず なのだが・・・・ それに対して最初は、「レッド先生もやりたかったんだろう」という理由をつけたものの、やはり何かひっかかる所があ った。レッドの言葉には、何かある。 「それでは、次にレッド先生によるルールの説明です」 イエローが色々考えを巡らしていると、いつのまにか博士の挨拶が終わっていて、進行係の女生徒の口からレッドの 名が出てきた。 すぐに顔を上げて前を向くと、レッドが体育館の舞台に出てくるのを見えた。 レッドがマイクを手にして、生徒全員を見渡す。 「あ~、それじゃルールを説明するぞ。1チームは6人。これは前々から決まっているから大丈夫だな。試合のルール だけど、これはほとんど普通のバレーボールと同じなんだ。授業でやってるから分かるよな?」 手抜きに近い説明をしているレッド。授業でやっているからなどは、ルール説明ではないような気がする。 イエローがそう感じていると、今まで気だるそうに説明していたレッドが、急に真面目な顔になった。 「じゃ、ここからが本題だ。 試合はトーナメント制。もうチームリーダーがくじを引いて、何試合目かは決まっているはずだから、あとで確認しとけ よ。 そして、試合が始まって、勝ち負けが決まって、最後にはは優勝者が決まるわけだ。だけど、ここで例年とは違うこと をする事になった。今回の球技大会で優勝したチームは、俺たち教師チームと対戦してもらうんだ」 聞いた事もない突然のレッドの言葉に、館内は一斉にざわつき始めた。 教師のチームと戦う? こんなことは、生徒会長のイエローも聞いていなかった。 レッドの話は続く。 「教師のチームは後で紹介する。そうして教師チームと優勝チームが対戦して、勝敗が付くな。この対戦で教師チー ムに勝ったところには・・・・なんと、豪華賞品プレゼント、だ!」 豪華賞品という単語によって、今まで球技大会にあまりやる気を出さなかった一部の生徒達が、一気にテンションを 上げていった。中には、「うお~!」とか言っている人もいた。 レッドはそれらを見て、少し苦笑いを浮かべる。 「いきなりやる気が出たなあ・・・・ま、いいけど。それと、もし教師チームに負けた場合だけど・・・・この場合、ちょっと した『罰ゲーム』が待っている。 もちろん、教師チームが負けた場合も、教師達がこの『罰ゲーム』を受けるから」 レッドの説明を聞き、生徒の大半は顔に?マークを浮かべた。優勝したのに、何故罰ゲームを受けなくちゃならな い?という疑問だ。 その疑問にレッドが気付き、答える。 「みんな疑問に思ってるようだけど、教師チームとの対戦は、やるかやらないかを選べるから。そのまま終わりたかっ たら、そうしてくれ」 生徒たちはそれを聞き、ほっとする。 「それじゃ、『罰ゲーム』の紹介でもしようか。罰ゲームは・・・・」 館内全員が、ゴクっと喉を鳴らした。罰ゲームを受けるかどうかは分からないものの、やはり気になるものだ。 レッドは、近くにいた教師から、何か黒い液体が入ったコップを持って来た。それを、生徒の前に掲げる。 「罰ゲームは、ブルー先生特製の『ツカレトレール』を飲んでもらう、ってやつだ。効能は・・・・・言わないほうがいいよ な」 生徒たち全員が、凄く嫌そうな顔をした。この学園の生徒なら、1度はブルーの薬を飲んだ事はあるので、その効能 の凄さを知っている。 さらに、イエローにはあの薬の名前に聞き覚えがあった。 確かあれは、この前ジェルブに学校案内をしていた時に見た、化学実験室でブルーが作っていたもの。 ――・・・・実験体が見つからなかったんだろうなあ・・―― イエローはそう思いながら、コップの中身を遠目で見ていた。 「ま、死にはしないと思うから・・・・・・だけど、豪華賞品の方は『罰ゲーム』とつり合いが取れる・・・いや、それ以上の ものだからな。今は言えないけど」 生徒の列のどこかから「豪華賞品ってなんだ~!」という声が聞こえてきたが、レッドはそれを無視した。 「じゃ・・・・今から球技大会を始めるぞ!第1コートで第1試合。第2コートで第2試合をしてくれ!」 レッドが高らかに宣言し、ついに今年度の球技大会が始まった。 「よっしゃ~やるぜ!豪華賞品!」 「ゴールド、少しは落ち着きなさい。私たちの試合はまだまだ先よ・・・・・・まったく、さっきは『うぉ~!』とか叫ん で・・・・恥ずかしかったわよ」 「だって豪華賞品だぜ?ぜってぇ~取ってやるからな~」 体育館の端っこに、物凄くテンションが高くなっているゴールドと、それを叱るクリスがいた。豪華賞品という単語はゴ ールドにとっては起爆剤にも等しいらしく、元々やる気満々だった彼は、今となっては止められないほどになってい る。 それを見ながら、イエローはクリスに尋ねた。 「あの『うぉ~』ってゴールドさんだったんですか?」 「そうなんです・・・・・『豪華賞品ってなんだ~!』というのも同じです・・」 クリスが溜息をついている横で、ゴールドがバレーボールを使って、壁打ち練習をしていたりする。 それを見ていると、今度は横から聞こえてきた声が耳に入った。 「それにしても、豪華賞品ってなんなんだろうな?」 「さあ?レッド先生は教えてくれへんかったし。だけど、楽しみやなあ~」 この声はジェルブとアカネ。 昨日、正式にポケバト部に入ったジェルブは、あっという間に皆と仲良くなっていった。生来の明るさと、ゴールドに助 言までできるポケモンバトルのセンスによって、すぐにポケバト部に馴染んでいったのだ。 昨日の部活で1度ジェルブと対戦したイエローは、本当にすんでの所で引き分けに終わっている。趣味がポケモンバ トルというのは、伊達じゃないようだった。 ジェルブとアカネの呑気な会話を聞いたイエローは、今度はシルバーの方を見てみた。 「・・・・・・」 シルバーは相変わらずしゃべらないで、腕を組みつつ、じっと立っている。時々、うっとうしそうにゴールドの方を見て いたが、何も喋る事はなかった。 ゴールド、クリス、シルバー、アカネ、ジェルブにイエロー。 これがイエローのチームだった。 1組6人。これがルールなのだが、この6人というのは誰と組んでもいいという、かなりアバウトなものなのだ。 別のクラスにいる人と組んでもいいし、スポーツが得意なメンバーばかりでチームを組んでもいい。さらに言うなら仲 良しグループで組んでもいい。 それに加えて自由参加、ときているのだから、本当に学校行事なのか?と疑いたくなる。 この自由参加のせいで、毎回、この球技大会の参加者は少なかった。 だが、今回は豪華賞品のせいで例年を上回る参加人数となっているのだが・・。 「それにしても、今回は多いよなあ~」 「そりゃ、やっぱり豪華賞品のせいよ」 ゴールドとクリスが、体育館いっぱいの人を見て、しみじみと話していた。 「・・・・・・・ふう」 「イエローどうした?溜息なんて・・・・・・それになんか顔色悪いけど?」 ジェルブがイエローの頭を弱く叩きながら聞いてきた。 それに対して、イエローは最初、ビクッ!となったものの、すぐに気を落ち着かせて「大丈夫です」と答えた。 「そうか・・・・・?」 ジェルブが疑うような目で見てきたが、「本当に大丈夫ですから」と言うと、渋々といった様子で引き下がってくれる。 そうやって話していると、どうやら自分達の前の試合が終わったらしく、審判から「次の試合のチームの方はコートに 入ってください」と指示が入ってきた。 それを聞いたチームのメンバーは、続々とコートの中に入っていく。 「ふふ、豪華賞品、豪華賞品♪」 「お前はバカか・・・・」 凄く嬉しそうな顔をしながら試合場に向かうゴールド。 それを見て、シルバーは聞こえよがしにそう呟いていた。ゴールドはそれに気付いていなかったが。 「それじゃ、行こうかしら」 「ああ!絶対勝つで~」 クリスとアカネもそれに続く。2人共、結構やる気充分だ。 みんなが行くのを見て、ジェルブは、こちらを気にしながらもその団体に入っていく。 そして、皆に続いて、イエローも行こうとした。 だが・・・身体を動かそうとすると、手足に鈍痛が走った。身体全体が思うように動かない。やはり、身体が重い。足な どの調子が最悪のようだ。 ――やっぱり、練習のしすぎかな・・・?―― 先ほどジェルブが言っていたことは、完璧に当たっていた。今、かなり気分が悪いのだ。 近頃、部活の練習が終わった後、近くの公園で自主トレをしていた。それも部活での練習量の約2倍で、それが終わ って家に帰ると、いつも倒れるように眠ってしまっている。 そんなトレーニングを行っている理由は、前に行ったトーナメントで、ゴールドに負けたから。 あの時に負けたのは、ジェルブの助言のせいではなく、やはり自分の練習不足だと痛感していた。特にスタミナがな いことが敗因だろう。 だから、普通の2倍はある自主トレをしているが・・・それを1週間ほど続けたためか、全身が疲れきってしまってい る。さらに加えて、昨日の自主トレはいつもより余計にメニューを増やしてしまった。 そして、この球技大会だ。 試合前に準備体操を行ったが、それをやることさえ身体に大きな負担がかかっていた。おそらく、普通なら今日1日 休んでいる方がいいような状態だ。 しかし、 ――・・・だけど、頑張らなくちゃね―― 試合を棄権するわけにはいかない。 今ここで出場を辞退すると、他のみんなにも迷惑がかかってしまう。 それだけは避けなくてはいけないのだ。 ――よし!行こう!―― そう思いながら、イエローは重い体を動かして、コートに向かっていった。 第1試合・・ 「行くぜ~!必殺!ゴールド・スペシャル・ミラクル・ジャンピングサーブ!」 これは、ゴールドがサーブをする時に叫んでいる言葉。 かなり変で、物凄く長い名前のサーブだったが、威力はかなりのものだった。早いスピードでネットを越えたボール は、一気に急降下し、地面に勢いよく落ちる。 このボールをまったく取れず、相手チームはこのサーブのせいで点を入れられっぱなしだった。 「どりゃ!」 そして、またゴールドのサーブで1点が入った。 「っしゃ~!」 「ねえ、ゴールド。サーブの度にいちいち変な名前を叫ばないでよ」 「うるせえ。叫ばねえとこのサーブは出来ねんだ」 なんでだろうか? ゴールドとクリスが争っている姿を見ながら、イエローはそう思った イエローのチームは強かった。 なんと言っても、ポケバト部のレギュラー全員がいっしょのチームなのだ。生徒の中でも、優勝候補の1つとして挙げ られているほどだった。 その前評判に負けないくらいに、このチームは強い。 それを示すように、最後のゴールドのサーブが決まり、審判から試合終了の笛が吹かれた。 「ゲームセット。イエローチームの勝利です」 チーム名は、試合前に全員一致でイエローチームになっていた。イエローは嫌がったものの、疲れのせいで反論する 気力も出ず、結局このチーム名になってしまった・・ 「よし、これで2回戦だ。やったな、イエロー」 ジェルブが横で嬉しそうに言うと、イエローは「ええ、そうですね」と答えた。その声は、やはり弱々しいものになってし まい、ジェルブが再び不思議そうな顔で見てきた。 しまった!と思ったイエローは、すぐに「い、いえ!そうですね!」と空元気を出して言い直し、すぐにジェルブから離 れていった。 まだ気付かれてはいけない。全部の試合が終わるまで持ちこたえないと・・・・ イエローはそう思いつつも、すでに限界近くまでにきている身体を、ひしひしと痛感していた。 2回戦、3回戦、4回戦、準々決勝、準決勝。 すべてを圧倒的な強さで勝ち進み、イエロー達は現在、決勝戦を行っていた。 そして・・・・・最後のジェルブのサービスが決まった。 「ゲームセット!イエローチームの勝利!」 ついにイエロー達は決勝を勝利していた。 「すげえ~!」「さすがね~」「やっぱりあそこは強えよ。」 そこかしこから驚きの声と共に、イエローのチームを賞賛する声が出てきていた。 ただ一部に・・ 「うお~!イエロー!!」「Y!E!L!L!O!W!イエロー!」 なんだか、熱狂的な(男子の)イエローファンが応援しているが・・・ 「イエローさん・・・すごいですね・・・」 「はあ・・」 クリスがそれを見て、感嘆の息と共にそんな言葉を吐いたが、イエローはもう疲れすぎていて、あまりちゃんと返答で きていなかった。 決勝戦が終わると、司会者と思われる男が前に出てきて、進行役をやりはじめた。 「それでは!これよりイエローチームに教師チームと戦って貰うか選んで貰いましょう!ではイエローチームの方々、 どうしますか!?」 イエローは、もちろんこれで終わらせるつもりだった。何回もジャンプをしたり、走ったりして、体はふらふらになってし まい、頭は真っ白になりつつあったからだ。 だから、「これで終わります」と言おうとしたのだが・・ 「やるに決まってるだろうが!」「当たり前やろ!」 豪華賞品に目がくらんでいるゴールドとアカネが、イエローの考えとは反対のことを大声で叫んだ。 それを聞いた司会者が、「どうやら試合をするようです!」と言ってしまった。 イエローはとっさに、「やらない!」と叫んだが、それは周りの歓声で聞こえなくなってしまい、結局試合を始める事に なったようだった・・・・ ――ああ~・・・・・もう疲れたのに・・・―― もう溜息しかつけなくなってしまった。 一方、司会者は教師チームの紹介に移っていた。 「それでは!教師チームの方々のご紹介です!まず最初に、レッド先生!」 司会者の言葉と周りの歓声と共に、コートに姿を現したのはジャージ姿のレッドだった。その姿はやる気満々といった 様子で、やはり「バレーの方がいい」という言葉は、試合に出る事を意味していたようだ。 司会者は続ける。 「次に、グリーン先生!ブルー先生!」 続いてコートの中に入ったのは、同じくジャージ姿のグリーンとブルー。ブルーは楽しそうに歩いていたが、グリーンは あまりやる気がなさそうにコートの中に入っていった。 「そして、カスミ先生!タケシ先生!」 並んでコートに入った2人は、結構この状況を楽しんでいる様子だ。周りに手を振りながらコートの中に入っていく。 「最後に・・・・・ナナミ先生!」 最後のメンバーを紹介されると、周りの歓声が疑問の声に変わり始めていた。 イエローも疑問に思った。保険医のナナミがバレーボール?出来るのだろうか?と。 だが、そんな観衆のざわめきを背に、ナナミはゆっくりとコートの中に入っていった。グリーンと何かを話している。 微妙に、だが、その会話がイエローの耳に届いた。 「お姉ちゃん・・・本当に大丈夫なのか?」 「ええ、大丈夫よ。これでも学生時代はバレーボール部に入ってたんだから」 それを聞いたグリーンは、驚いた表情で「お姉ちゃんは家庭部のはずだったろ・・・」と呟いた。ナナミが高校時代に家 庭科部というのは、イエローも聞いた話だ。おそらく、ナナミは冗談で言っているのだろう。 メンバー紹介を終えると、司会者はマイクを持ち直し、今度はイエロー達の方を向いた。 「では、これよりイエローチームと教師チームとで試合をしていただきましょう!イエローチームの方はコートに入って 下さい!」 どうやら、本当にレッド達と対戦する事になるようだった。 「なあ、イエロー、大丈夫か?」 ジェルブが、再び容態を聞いてきた。その顔は心配を通り越して、今すぐ休め、という種の表情がありありだった。 だが、イエローは変わらず「大丈夫」と答えるだけにしておいた。皆がやる気になっているのに、自分だけがやめるわ けにはいかない。身体が辛くなってきているものの、今は我慢だ。 「今回は休んどけ」 「大丈夫ですよ。それに私が抜ければ、不戦敗になっちゃいます」 ジェルブの心配する言葉にもするりと返しておき、イエローは準備体操を始める。ちゃんと動けるよう、身体をほぐして おかないといけない。 自分の強情さに諦めてしまったのか、ジェルブは「しょうがないな・・・・」と呟いた。 「・・・・もしやばくなったら、すぐに言えよ?」 「はい」 ジェルブの心配の言葉が嬉しいイエローは、笑顔でそう答えた。 身体は、限界を超えていた。 コートの中・・ 試合が始まる直前、ゴールドとクリスが、ネット越しにブルーと会話しているのが見えた。 「ブルー先生・・・・もしかして、この前のゴールドとシルバーのは・・・・」 「ほほ♪その通りよ。今日、ここで勝つため♪」 「やっぱりか!ブルー先生、汚いっスよ!」 「フフ・・勝てばいいのよ、勝てば」 彼らの話は、おそらくこの前の薬事件のことをいっているのだろう。無理矢理ブルーに薬を飲まされたゴールドとシル バーが、疲労困憊の状態となってしまったあの事件。 彼らの話から察するに、ブルーがあんなことをしたのは今日この試合で勝つためらしい・・・・彼女も、豪華賞品に目が くらんでいる1人なのだろう。 ブルーと話し終えたゴールドは、悔しそうな様子でボールを持って、サービスエリアに立っていった。 そして教師チームに向かって叫んだ。 「この恨みはここで晴らすっスよ!」 高らかに宣言したゴールドは、すぐにサーブの体勢に入った。 また、あの長ったらしい名前のサーブを打つつもりだ。 審判から「試合開始!」の合図が放たれた。 「いくぜ!」 ゴールドはボールを高くトスし、少し走ってジャンプする。 「必殺!ゴールド・スペシャル・ミラクル・ジャンピングサーブ!」 ゴールドはジャンプしながら思いっきり叫び、ボールを強く叩く。 物凄いスピードで進んでいくボールは、ネットの上を越えると急に急降下し、地面に落ちていった。 だが、 「甘い、甘い♪」 レッドが簡単にレシーブしてしまった。 「な!?俺のサーブが!」 ゴールドは驚きの表情が隠せない。 当たり前だろう。このサーブは、今まで1回も取られた事がなかったのだ。 それを簡単に取るレッド・・・・さすがポケバト部の顧問、とでも言うべきだった。 「こりゃ、きつくなりそうやな」 アカネは目でボールを追いながら呟いた。 彼女の言葉どおり、この試合は混戦を極めていった。 試合開始から30分後・・ 今、イエローの横でボールが勢いよく落ちた。バシッ!という音と共に、地面に落ちたボールが転がっていく。 そのボールは、グリーンから放たれたアタックだった。 しかし、イエローにはそれが認識できなかった。頭が白くなっていて、周りに何があるかも分からない。 「イエロー?」 どこからか声が聞こえた。 誰の声だろう、と思った瞬間、イエローはハッ!として意識を覚醒させた。 横にいたのは、怪訝そうな顔でいるシルバー。 「あ・・・・・・す、すみません。次は取りますから」 イエローはそう言って、ボールを拾って端っこの方にどけておいた。シルバーは、少し不思議そうな顔をしていたもの の、そのまま元の場所へと戻っていく。 イエローはそれを横目で見ながら、まずいかも、と思った。 疲労が積もっている。 これまでの疲労が積もっているものの、いちばんの問題はこの試合にあった。 教師チームとの試合は、今まで以上の混戦となっているのだ。 ゴールドのサーブは簡単に取られてしまったが、やはりイエローのチームは総合的に強い。・ だが、教師チームもまた、予想以上に強かったのだ。 レッド、グリーン、タケシは言うまでもなく、ブルー、カスミ、それどころか、あのナナミまでも、普通の教師とは思えな い動きをしている。 特にナナミは、元バレー部というのは嘘ではなかったらしく、教師チームが取ってきた点の3分の1はナナミによって のものだ。 そうして、試合はほぼ互角のまま進んでいった。 しかし、それはイエローにとってかなりきついことだった。 ――もう・・・限界・・―― そう思った、その時。 「イエロー!行ったぞ!」 とっさに聞こえたジェルブの声に反応し、イエローは上を仰いだ。そこにはボールが勢いよく向かってきているのが見 えた。 だが、そのボールはラインぎりぎりに落ちるであろう軌道。コートに入るか入らないか。予想はできなかった。取るに はジャンプして飛びつくしかない。 考える前に体が反応していた。 イエローは横にジャンプする。 ――届いて・・・!―― 片手を出してボールに飛びつき、手にボールが当たった感じがした。 だが、そこで急に頭が真っ白のなってゆく。視界が暗くなっていき、身体全体が床に倒れていくのを感じたものの、そ こから動く事ができない。 そして、数秒後には意識が無くなった。 ジェルブ・・ 「イエロー!」 イエローに反応が無い。ボールに向かって飛びつき、そのまま倒れている。起き上がる気配がまったく無かった。 ジェルブはイエローに走って近寄りながら、思った。やはり止めさせればよかった、と。 イエローの身体の状態はかなり悪そうに見えた。顔色、歩き方、喋り方にまでその状態がにじみ出ている。 なぜ、止めさせなかったのか・・・・・ ジェルブは後悔しながら、イエローの体を抱き起こした。 そして・・・・・首筋に手を当てた。 ――意識が無いが、脈拍、呼吸ともに正常・・・・いや、呼吸が速いな・・・・―― イエローの体の状態を確かめる。 が、ジェルブはそこで気が付いた。 普通の人なら、絶対にしないであろうことを自分がしているのに。 絶望感に打ちひしがれそうになったジェルブは、しかしそんなことをしている暇はない、と頭を振り、敵コートの方を向 いた。 「ナナミ先生!イエローを保健室へ!」 「え、ええ!」 イエローを抱きかかえたジェルブは、驚いて言葉も出ていない観衆を押しのけて、ナナミと共に保健室に向かっていっ た。 後ろから、「イエロー!」というレッドの声が聞こえたが、ジェルブはそれを無視していた。 今は、イエローの容態だけが心配なのだ。 保健室・・ 「どうですか?」 「ええ・・・・・これは・・・疲労のたまりすぎだわ。どうすればここまで身体を苛められるのかしら・・・・・」 難しい顔をして、ナナミは言った。 その言葉を頭で繰り返しながら、ジェルブは最近のイエローを思い出してみた。彼女が、倒れるほど疲労を溜めるよう なことしていたかどうか。 だが、そんなものは見た覚えがなかった。 ――いや、待てよ・・・―― ジェルブは再度考えてみた。もしかするとイエローは、部活が終わった後に何かをしていたのかもしれない、と。物凄 く疲れてしまうような何かを・・・ それはおそらく・・ ――トレーニング・・・・か―― ジェルブはそう当たりをつけて、イエローの顔を見た。 この前の部活で、ゴールドに負かされてしまったイエロー・・・それからの彼女はとても落ち込んでいた。 2、3日するといつものイエローに戻ったものの、それからはよくレッドに質問しているのが目に付いていた。 それから推測するに、彼女は家に帰った後、どこかで過酷なトレーニングをしていたのだろう。バレーをやっている途 中に倒れてしまうほど、疲労を溜めるようなトレーニングを・・・ ――まったく・・・・―― ジェルブはイエローの顔を見て、目を細めて密かに溜息をついた。 「ジェルブ君・・・だったかしら?」 そうすると、急にナナミが声を掛けてきた。 ジェルブは普段の表情に戻し、すぐにナナミの方を向く。 「なんですか?」 「私はこれから職員室にある薬をとってくるの。昨日買ったものだから、ここにはなくて・・・・それまでこの子を見てお いてくれる?」 「はい、分かりました」 「それじゃ、お願いね」 そう言って、慌てた様子でナナミは保健室から出て行った。 ナナミが出て行った後の保健室は、しんと静かになった。どうやら、この部屋にいるのはイエローと自分だけのよう だ。皆、球技大会の観戦に行っているのだろう。 静かな保健室の中、ジェルブはベッドの傍にある椅子に座った。 そして、イエローの顔をもう1度見る。 まだイエローの意識は戻っていない。呼吸はかなり速く、額に右手をつけてみると温度の高い熱が手に伝わってき た。どうやら、熱まで出てきているらしい。 だが何よりも、イエローの苦しそうな表情が彼女の状態の悪さを物語っていた。 ジェルブは、イエローの額につけていない方の手――左手の手の平を、上に向けてじっと眺めた。 ――・・・・・・・・・前も使ったから、やばいかもしれないけど・・・・・・・しょうがないか・・―― ジェルブは、額につけている右手の上に左手を乗せて目を瞑る。 しばらく目を瞑り続けていると、次第に淡い光が両手から出始めた。柔らかな光。透きとおるような青い色をしており、 まるで空が地上に落ちてきているようだった。 両手から出ているその光は、みるみるうちにイエローの身体を包んでいく。 光が完全に身体を包むと、今度はそれが彼女の身体の中に入っていった。同時に、病的なまでに早かったイエロー の呼吸が、段々と穏やかになっていく。表情までもが楽になっていっているようだった。 「くっ!・・・」 ジェルブは一瞬、苦しそうな声を上げた。だがすぐにそれを消し、再び目を瞑って両手に精神を集中させていった。 光は、まだイエローを覆い続けている。ジェルブの両手から生み出される青いそれは、次々に彼女の身体に入ってい った。 それが数分間続くと、次第に光が薄れてきた。一方のジェルブは、何かを我慢するように歯を食いしばっている。 そして・・・・・青い光は消えていった。 「くぅ!!はぁ、はぁ、はぁ・・」 光が完全に消えてイエローの額から両手を離すと、ジェルブは椅子に座り込んだ。肩を大きく上下させ、空気をより多 く吸い込もうと口を一杯に広げている。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 段々と、息が楽になっていった。 ジェルブは胸に手を当てて息を整え、最後に大きく深呼吸をした。 「ふぅ・・・」 自分の額に溜まっている汗を拭い取り、ジェルブはイエローの方を見た。 イエローの顔には、もう先ほどまでの辛そうな表情はなく、おだやかな様子で眠っていた。 それを見て、ジェルブは「ふぅ・・」と息をついた。 ――なんとか・・・持ちこたえたか・・・―― イエロー、そして自分の身体までも、丹念に確認すると、ジェルブは全てがうまくいったことに安堵の息を吐いた。 よかった。壊れてない。 だが、次の瞬間に襲ってきたのはある種のむなしさだった。 思い出されるのは、体育館でイエローの身体の状態を確認してしまったこと。 普通なら、あんな風に身体チェックなんてしない。慌てふためくだけで、冷静な人物でさえ、ただ保健室に連れて行こ うとするだけだろう。 しかし、自分は違った。 ――あの時・・・俺は、つい癖が出てたな・・・・・・まったく、習慣ってのは嫌になってくる・・・―― そう考えて、深い溜息をつき、同時に視線を静かに寝息を立てているイエローに向けた。 ――・・・・・・しょうがない、か・・・・―― ジェルブは、淡々とイエローの顔を眺め続けていた。 イエローの日記・・ 6月20日 金曜日 つ、疲れた・・・・・・本当にもう、あの時、ちゃんとやらないっていえば良かったよ・・ 今日は球技大会だったけど、私は途中で倒れてしまった。 どうやらボールを取ろうとしたところで、意識がなくなったらしい。私はあまり覚えていないけど・・・ だけど、そこで助けてくれてのがまたまたジェルさん! 本当に優しい人だなあ・・・うん、親切でいい人! ただ、保健室で目が覚めた時、ナナミさんが凄く驚いた顔していたのが気になるけど。 まあ、私も起きた時に元気が溢れてたのは不思議だった。 ジェルさんにお礼を言おうとしたのに、どこにもいなかったし・・ そういえば、球技大会の豪華賞品って・・・・・・・・・オーキド博士の銅像だったんだよねえ・・・ それをレッド先生達も知らなかったらしくて、博士をこっぴどく叱っていた。(校長なのに) それで結局、試合の方はお流れ。レッド先生達のチームとは勝敗がつかなかった。ゴールドさんなんて、すごく残念 そうな顔をしてたし・・・・明日にでも謝らないといけないなあ・・・ まあ、元気出していきましょう! それじゃ、明日にジェルさんにお礼を言おうっと。 明日もいい事がありますように。