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0409:血塗れの死天使たちへ ◆kOZX7S8gY. 「――――――――――――――――――――…………………っ……」 息を呑んで、脚を動かして、耳を傾けて。 私――姉崎まもりは、走り続けていた。 『――ご機嫌いかがですかな、皆さん』 放送が始まっても、走り続けて。 『あなた方は実によく働いておられる。このゲームを企画した側としても、実に嬉しく思いますよ』 主催者の下らない戯言には興味ない。 私が知りたいのは、ただ一つ。 あの子の、生死だけ。 私は、死亡者が読み上げられるのを待った。 大阪へ向け、全力で疾走しながら。 『藍染惣右介』 一人目――私が殺したあの人だ。 『ウソップ』 二人目――知らない名前だった。 『小早川瀬那』 三人目―――――――――――――――――――――――― 「……………………………………………………………」 その瞬間、私の世界が止まった。 『大空翼、キン肉スグル、ウォーズマン、ブローノ・ブチャラティ、志々雄真実、ボンチュー、マミー』 その他の死亡者の名が読み上げられる。でも、聞こえない。 「…………………………………………………………………………………………………………………………え」 聞き間違いや幻聴ではない。 確かに、読み上げられた。 小早川、瀬那。 「こばやかわせな」 金魚みたいに口をパクパクさせているのが分かる。 止めようと思っても、止まらない。 「こばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせな」 私の口は、壊れてしまった。 同時に、思考も崩壊し始める。 走った。 今聞いた名を、振り払いたくて。 「こばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせな」 「こばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせな」 「こばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせなこばやかわせな」 音が反響して聞こえる。 ここはいったいどこなんだろう? 周囲の景色が目に入らない。 なのに、脚は止まらなくて。 脳では、あの子の名前が鳴り続けて。 気持ち、悪い。 「――――――――――」 ひょっとしたら、喉が潰れてしまったのかもしれない。 そうなるくらい、あの子の名前を呼び続けたのかもしれない。 言葉が出せなくて、何も喋れなくなって。 でも不思議。 脚は、大阪へ向かって一直線に進んでる。 変だよね? あの子は、もう死んじゃったのに―― ゴッ イタっ。 何かが、頭にぶつかった感触がした。 その衝撃に躓いて、私は盛大にすっ転ぶ。 唇に土の味が行き渡って、初めてそこがどこか認識する。 森だ。地面は雨に濡れたせいか、グチョグチョに滑っていた。 気持ち悪い。服や髪に泥が付いちゃった。 泥だらけになった身なりを気にしていると、ふいに頭部から発せられる激痛信号を察知した。 米神のあたりに手を触れてみる。 ドロリ、と、ヌメヌメした感触が。 あ、血だ。 それもいっぱい。 こんなに出血して、大丈夫かと不安になる。 でも、たしか米神とか額って、大袈裟に血が流れるものなのよね。 なら、見た目ほど酷くはないかも。 ん……でも、痛い。 何でこんな怪我をしているんだろう、私。 疑問に思って、足元に落ちていた血まみれの石を発見する。 私は立ち上がりながら、その石を摘み上げて監察。 ドロっとして、生暖かい。これ、私の血だ。 ああ、そっか。これが、私の米神に当たったんだ。 石は硬いから。どうりで、血も流れるはずだ。 ………… これ、ぶつけたの…………だぁれ? 女の子が、立っていた。 綺麗な顔立ちの、お人形さんみたいな女の子。 顔だけ見ればアイドルに思えなくもない……でも。 彼女の着ている服には、夥しい量の血液が付着していて。 木陰から顔を覗かせるその姿は、アイドルというよりも幽霊みたいで不気味だった。 「……あなたが、石、ぶつけたの?」 変だ。 喉が渇いているのか、うまく喋ることが出来ない。 「ねぇ、なんで? なんで、こんなことをするの?」 私はただ、大阪へ向かおうとしていただけ。 あの子を守るため、精一杯走っていただけ。 今回ばかりは、誰を殺そうとか、そういう考えは全部忘れていたのに。 「どうして……邪魔するの?」 女の子は、答えてくれない。 私の顔を、監察日記をつけるような熱心さで凝視したまま、いっこうに目を放さない。 私の顔に、何か変なものでも付いてるのかな。 分からない。分からなくていい。 知りたいのは、一つ。 あなたは、私の邪魔をするのかどうか―― ♪ 月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月 『やったよ月! ミサの投げた石、あの女の頭に命中したよ!』 『ああ、よくやったぞミサ。彼女も相当なダメージを受けているようだ』 ライトライトライトライトライトライトライトライトライトライトライトライト 『でも……あの女、ひょっとしたらすごく強かったり……しないかな?』 『何も不安がることはないさ。僕の推理では、彼女はただの人間。ミサでも問題なく殺せる』 らいとらいとらいとらいとらいとらいとらいとらいとらいとらいとらいとらいと 『本当!? ミサでもやれるかな?』 『もちろんさ。さぁ、頑張って殺しておいで――僕のために』 LightLightLightLightLightLightLightLightLightLightLightLightLightLightLight 『うん! ミサ頑張るから……だから、月。ちゃんと傍で……見てて、くれるよね?』 ♪ 女の子が迫ってくる。 その細い腕に、先端の尖った棒を携えて。 私に向かって、ゆっくりと。 一歩、 二歩、 三歩、 危機感を感じていないわけではなかった。 ただ、頭がふらついて、どうにも足取りが重い。 一歩、 二歩、 三歩、 石をぶつけられた衝撃が、私の動きを鈍らせているようだった。 本当ならこのまま気絶したい気分……でも、彼女が迫ってくる。 一歩、 二歩、 三歩、 逃げなきゃ――そう思ったときにはもう、遅かった。 ぽすっ 優しく、彼女の身体が私に圧し掛かる。 軽い。全身を預けられているというのに、酷く軽い。 きっと食事もあまり取っていないんだろうな。 すぶり 私がどうでもいい心配している最中も、彼女の狂気は納まらなかった――そのことに、気づけなくて。 小さな水音と、腐ったような悪臭がして。そこから、腹部に痛みを感じた。 ぽたぽた 一瞬、ああ、また雨が降ってきたんだな。と錯覚した。 でも、空は曇っているだけで、何も落としてはいない。 雫の垂れるような音の正体は、私のお腹から滴る血だったんだ。 ぐりぐり 私のお腹の中で、彼女の握った槍が回転を始める。 ドライバーでネジを回すみたいに、中の色んなものをかき混ぜてしまう。 それを自覚すると、もうあとは痛みしか感じなかった。 痛い。やめて。痛いから。やめて。お願い。本当に。お願い。お願い。死んじゃう。 死んじゃうよぉ。死んじゃったら、死んじゃったら、死んじゃったら、死んじゃったら。 もう、あの子が守れなく―― 「…………こばやかわせな」 私は、枯れた喉から彼の名を搾り出した。 「小早川、瀬那」 あの子の、私が守ってあげなくちゃいけない、弱いあの子の名前を。 「セナ!」 掛け替えのない、存在を、守るため! 「あっ!?」 私は精一杯の力で彼女の身を引き剥がし、そのまま体当たりで吹き飛ばした。 べちょっ、という汚らしい音を鳴らし、彼女の身体は泥の中へと倒れこむ。 とりあえず窮地を脱した私は、腹部に突き刺さった槍を力任せに引っこ抜く。 私の血がべっとり付いた槍……見ているだけで気持ち悪い。 私はそのまま槍を握り締め、倒れたままの彼女に向かって投擲した。 「ッ痛い!」 へろへろな軌道で放られた槍は彼女の綺麗な生足を掠り、一筋の血線を残して地に転がる。 串刺しにするつもりで投げたものの、頭部と腹部から来る痛みのせいか、少し狙いを外してしまったようだ。 それでも効果は覿面。彼女は痛みに悶え、泥だらけの地面を転げ回る。 滑稽だった。そうだ。私の邪魔なんてするから、こういう目に遭うんだ。 私を殺そうとするなんて、そんな―― 「……小早川、セナ君は……死んだよ」 呟く。 「え?」 「放送、聞いてなかったの? 私、少し前まで彼と一緒だったの。セナくんは、パピヨンっていう蝶々仮面の変態に殺された」 え? 「あなた、ひょっとして姉崎まもりさんじゃない? セナくんの友達だっていう」 私は、彼女が何を言っているのか理解できなかった。 だけど脳は、必死に命令を下す。 ――武器を手に取れ。 ――あいつを殺せ。 そんな風に。 私が持っている唯一の武器である鉄パイプ。それを躊躇いもなく取り出したのは、本能が呼びかけていたからなんだと思う。 「逢いたかったんでしょ? でもざんねん。あいつはね、ミサが武器をあげたにも関わらず、Lを殺すことができなかった。 本当にざんねん。すっごい無駄死に。グズの上に、クソの役にも立たない。生きてる価値もない、どうしようもないダメ人間」 ああ、そっか。 私がずっと彼女に抱いていた嫌悪感の正体は、これだったんだ。 そのことに気づいた私は咄嗟に駆け出し、鉄パイプを強く握り締め、振り上げる。 私の行動に口を黙らせた彼女を目下に、腕に思い切り力を込め、振り下ろした。 ガスンッ 彼女はセナを知っている。 セナが死んだことも知っている。 知っておきながら、その死を嘲笑う。 なぁんだ。 セナを虐めていたのは、彼女だったんだ。 ガスンッ ガスンッ 振り下ろす、振り上げる、振り下ろす。 ガスンッ ガスンッ 何度も何度も、音が鳴り響く。 ガスンッ ガスンッ 「痛い……痛い……」 ガスンッ ガスンッ 彼女の言葉は、聞こえない。もう、聞かない。 ガスンッ ガスンッ 「痛い……ね、べぇ……ご、でぇ……本当に、いだい、ぐげっ、」 ガスンッ ガスンッ 「や、べて……ミサ、アイド、どぅだから……痛いの、や、だか、ら……」 ガスンッ ガスンッ さっきから口を動かして、何か言っている。 知るもんか。セナはもっと痛い思いをしたんだ。 ガスンッ! ガスンッ! よりいっそう力を込めたら、彼女は口を動かすのをやめた。 死んだ? ううん、まだ生きてる。単に抵抗するのをやめただけだ。 ガスンッッ!! ガスンッッ!! 「あべぇっ」 ――喉の奥底から、搾り出したような嗚咽が聞こえた。 ……死んだ? 死んだの、かな? まだ分からない。もっと叩かなきゃ。 私は、休まず鉄パイプを振り上げる。 「――――まもりちゃん!」 もう何度目か分からない殴打の最中、私の身体は何者かに体当たりされて、吹き飛ばされた。 泥だらけの地面の上、仰向けに倒れてしまった私はすかさず身を起こし、謎の襲撃者に対処しようと試みるが、 「もうやめて、まもりちゃん!」 ――上半身だけ起こしたところで、私の身体は、麗子さんの手によって羽交い絞めにされてしまった。 お互いに抱き合ったような状態で、二人の距離は完全にゼロ。 幸いにも手から鉄パイプは離れていなかったが、この密接した状態では殴るに殴れない。 鬱陶しいのに、引き剥がせない。 私は、セナを虐めたあの娘を粉々にしなきゃいけないのに。 「もういい! もういいのよまもりちゃん! あなたはもうこれ以上、罪を重ねる必要はないの!」 何が、もういいって言うの? セナが死んだから? ……認めない。私は、絶対に認めない。 「うるさい……私は……セナのために……あの女を殺……」 「バカ!」 全部言い切る前に、私の言葉は麗子さんの一喝によって掻き消された。 「あなたもう、十分頑張った! もうこれいじょう頑張る必要はないの! もう休んで、普通の女の子に戻っていいの!」 頑張った――――私が? そんな、だって私は、まだセナを守れてない。 「あなたが守りたかったセナちゃんは、もう死んでしまったのよ!」 「――!」 聞きたくなかった。 でも、耳が受け入れてしまった。 その言葉を。覆しようのない、その事実を。 「悲しい気持ちは分かる! 悔しいって思いも分かる! でも……でももうどうしようもないの! まもりちゃんが足掻く必要は、もうどこにもないの!!」 ――痛いよ、麗子さん。 そんな正面から正論をぶつけられたら、私、どうしていいか分からなくなっちゃうよ。 「う……」 私が守りたかった。 死なせたくなかった。 小早川瀬那。 生きてて、欲しかった。なのに。 「……っぐ」 どうして。 「ぐっ……うぇ」 ……どうして……セナが……死んで…… 「……どうして……セナが……死んで……」 あの子は、何も悪いことしてないのに…… 「あの子は、何も悪いことしてないのに……」 ……なんで、なんで殺されなきゃ…… 「……なんで、なんで殺されなきゃ……」 う、っぐぇ……うう……っ……~~ 「う、っぐぇ……うう……っ……~~」 「まもりちゃん……」 麗子さんの両腕が、私の血塗れの身体を優しく包み込む。 聖母さまみたいな印象を感じた。 どんな罪も洗い流してくれるような、そんな気さえしてしまう。 「ぅ――――――――――――ぁ――――――――」 「悲しさを、閉じ込めないで。あなたはもう、泣いていいから」 「ぅわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」 安心した私は、思い切り泣きじゃくった。 セナという掛け替えのない存在を失ってしまった悲しみに、ただただ打ちのめされて。 狂気も全部、悲しみで埋め尽くして。 泣いて泣いて泣いて、泣き続けた。 押し寄せてくる涙は、決壊したダムのように止め処なく。 麗子さんはただ黙って、私を優しく包みこんでくれた。 視界はとうに水没してしまい、麗子さんがどんな表情をしているのかさえ分からない。 ザッ もう一度、セナに会いたかった。 人殺しになった私を見て、軽蔑されてもいい。 それでも、もう一度セナに会いたかった。 ザザッ 私がついてるから、大丈夫。 私が守ってあげるから、大丈夫。 最後はヒル魔くんも生き返って、もう一度クリスマスボウルを目指せるからって。 ザザザッ 言ってあげたかった。 安心させてあげたかった。 今さら後悔しても仕方がないけど。 ドスッ 私は、セナに会い…………!? 「………………あ、れ?」 ヌルリとした感触が、手の平いっぱいに広がる。 同時に、腹部の辺りにも痛みを感じた。 そのせいか、涙でぐじょぐじょになっていた視界は一瞬で晴れ、目の前の光景を映し出す。 傍には、私を抱いたまま苦悶の表情を浮かべる麗子さん。 その奥には、どこかで見たセーラー服の女性が立っていて―― 「ぁ」 ――津村、斗貴子。 どうして、彼女がここに? ううん。それよりも。 どうして、麗子さんの背中にあんなものが―― ♪ 救いたかった。 殺し合いなんていう馬鹿げた呪縛から、あの子達を解き放ちたかった。 キルアちゃんも、リョーマちゃんも、星矢ちゃんも、まもりちゃんも。 こんな世界にいるべき人間じゃないから。 それが大人としての義務であり、警察官としての仕事だから。 こんなの、私の自己満足かもしれないけど。 でもやっぱり、何の力もない子供達が殺し合うっていうのは、間違ってると思う。 胸が痛い。 視線を落とすと、私の胸部を金属の刃が貫いているのが分かった。 その刃は深く貫通し、まもりちゃんの腹部にまで届いている。 いけない。まもりちゃんが不安そうな顔をしている。 笑わなきゃ。痛いけど、頑張って笑って、この子を安心させてあげなくちゃ。 「……大丈夫よ。まもりちゃん」 怯えないで。私は、平気だから。 「星矢ちゃんが、言ってたでしょ? ハーデスを倒せば、きっとみんな生き返る。セナちゃんとも、きっとまた会える」 そうよ。そうすれば、圭ちゃんや部長さんにも、また会える。 もちろんその時は、両ちゃんも一緒に。 また、亀有公園前派出所に戻れる。 今頑張れば、きっと日常を取り戻せるから。 だから、ねぇ、 笑いましょ?―――――― ザンッ ボトッ コロ…… コロ…… コロ………… ♪ 初めから、こうすればよかったんだ。 そもそも、『臓物をブチ撒ける』なんていうのは、憎きホムンクルスに苦痛を与えるための殺し方だ。 相手がなんの罪もない、ただの人間であるというならば――苦しめず、楽に逝かせてあげるのが、せめてもの情けだ。 こんな風に、『首から上』を斬り落とせば。 胴体と脳を完全に遮断してしまえば、痛みを感じることも死を実感することもなく、楽に死ねる。 もっと早く、このやり方に気づいていればよかった。 最初からこうしていれば、両津や星矢も苦しまなかっただろうに。 今、一時だけ、『すまない』と言っておこう―― 「麗子さん……首が……首が、ないよ…………?」 私には、まだ任務が残っている。 秋本麗子だけではない。彼女も殺さなくては。 バルキリースカートを振り上げる。 狙いは、首だ。 大丈夫、一瞬で楽になる。 だから、どうか、安心して―― ♪ ぴちゃ ぴちゃ 「麗子さん……首が……首が、ないよ…………?」 私に身を預け、力なく項垂れる麗子さん。 その頸部には、血の断面図が浮かび上がっていた。 ぴちゃ ぴちゃ 触れてみると、新鮮な水音が鳴って、手が真っ赤に染まった。 ぴちゃ ぴちゃ 何度触っても、それは変わらない。 いつまで経っても、頭の質感に辿り着けなくて。 ごぷ ごぷ 触りすぎたせいだろうか、断面図からは、湯水が湧き出るように血が溢れてきた。 本来なら脳に送られるべき血液が、全部体外に放出されてしまう。 ――そんな―― ――どうして、麗子さんが?―― ――どうして、どうして―― ――麗子さんが、殺された―― ――あの女に、津村斗貴子に―― 「――――――」 何も言わず、麗子さんの身体は、糸の切れたマリオネットみたいに崩れていく。 私は、その身を支えることができなくて。 麗子さんの死体は、ぐしょっ、と地面に投げだされた。 泥と、まだ暖かい血が頬に飛び散る。 実感した。 麗子さんは、死んだ。 どうしようもないくらい悲惨で容赦なく潰され徹底的に壊された上で死んだ。 それを実感したら、とてつもなく悲しくなって。 でも、それ以上に。 激怒した。 「ぁ――――――――――」 悲しみを閉じ込めて、立ち上がる。 鉄パイプを握りなおし、ありったけの力をこめる。 許せない。 許せない許せない許せない許せない。 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。 駆け出した。 何もかも、ぶっ壊したくて。 「な――!?」 麗子さんを殺したあの女を、粉々にしたかった。 「うおアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 声なんて、とうに枯れたと思ってた。 でもそれは、錯覚だったんだって気づく。 私はまだ、叫べる。怒ることが出来る。 津村斗貴子に向かって、死ねと叫べる。 「死んでくれ」 そう言ったのは、誰だったか。 え? 今の、私じゃない。 「――がふっ!」 決死の思いで突攻を試みた私の身体は、津村斗貴子の太腿に装着された四本の鎌によって、宙に投げ出された。 体重の軽い私は、空中で六回転半ほど回って、木に激突。その時の衝撃で、私の上に何枚か木の葉が舞い落ちる。 不思議と、痛みは感じなかった。 それほど大したダメージじゃないのか、打ち所が良かったのか。 とにかく、私はまだ生きてる。 今の内に、あの女を殺しに行かなきゃ。 「ぁ、れ」 おかしいな、身体が、動かない。 それに、手足がみんな、ありえない方向を向いている。 あれ、左肘のところ、骨が飛び出してる。 おかしい。こんなの、絶対におかしい。 だって、全然痛くないのに。 なのになんで、思うように動いてくれないの? 「苦しめたくなんか、ないんだ」 ピクリとも動かなくなった私に、津村斗貴子はゆっくりと歩み寄る。 「頼むから、抵抗しないでくれ」 嫌だ。抵抗する。お前を殺して、この悲しみを振り払うんだ。 「頼むから、大人しく死んでくれ」 私の眼前まで来て、彼女は、無表情だけど――どこか、悲しそうな瞳で訴えていた。 知るもんか。 私は、こいつを殺す。 麗子さんは、駄目っていうかも知れないけど。 それじゃあ、私の気が治まらないから。 だから、許してね。 「………………やー、はー…………………………」 ザクッ ドサッ ブシャァァァァ………………… ♪ 「……武装錬金、解除」 血に塗れたバルキリースカートを核鉄の形状に戻し、私は、終焉を迎えた現場を直視する。 血の海と形容するには十分な――地獄絵図が、その場に広がっていた。 私が自らの手で斬り落とした、二つの首と首なし死体。 それに、おそらくは姉崎まもりに撲殺されたのであろう、血塗れの少女の死体が一つ。 皮肉なことに、全員が私の顔見知りだった。 「本当に、無残だな……」 何を言う。 これは、私自身がやったことではないか。 人を殺すと、私が決めたことじゃないか。 今さら悲しんだり哀れんだりするのは、卑怯だ。 「……大丈夫。何を隠そう、私は人殺しの達人だ……」 こんなことを言ったらカズキ、キミは怒るのだろうな。 ……クソッ。 私は自分の頬を引っ叩き、俯きかけていた気持ちに気合を入れる。 ウジウジするのはもうやめだ。私にはまだ、やらなければならないことが残ってる。 カズキ。キミに怒鳴られる覚悟など、私はとっくに出来ている。 キミがなんと言おうと、私は進むぞ。 ――――東へ。 ♪ ………………………………………………………………勝った。 勝ったんだ。 もう、怖い人は行ってしまった。 でも、まだ生きてる。 生き延びた。 あの女は、二度もミサの名演技に騙されたわけだ。 「ふ…………ふふ」 立ち上がって、あたりの惨状を確認する。 ミサを袋叩きにしてくれたあの女は、津村斗貴子の手によって首チョンパされていた。 清々しい。なんていい気味なんだろう。 物言わなくなった首に歩み寄り、私は満面の笑みを披露する。 残念でした。あんなへろへろな攻撃じゃ、ミサは死にませーん。 結局は、津村斗貴子が現れて去るまで、ずっと死んだフリをしていたミサの一人勝ちってワケ。 悔しい? 死んじゃって悔しい? きっとあれだね。ミサに酷いことしたから、神様に罰を与えられたんだね。 あ、ひょっとして月かな? 月が、天国からデスノートでこいつを裁いてくれたのかな。 やっぱり、月はミサの王子様なんだ。月が付いていてくれれば、ミサはなんでもできる。 羨ましいでしょ。セナ君みたいな無能なガキじゃ、こんなことしてくれないでしょ。 戦うための力も、生き延びるための演技力も持っていないのに、ミサに歯向かうからこうなるんだ。 ホント、いい気味。 …………。 ……ねぇ、何か言いなさいよ。 「…………」 そのどんよりと曇った瞳が、ミサを馬鹿にしているようで。 なんだか、無性に腹が立った。 ミサを馬鹿にする奴は、許さない。 そんな奴には、キラの制裁が必要だ。 私は拾った槍を逆手に握り締め、頭の上まで振り上げた。 この女に、制裁を与えるために。 ミサのカワイイ顔をボコボコにしてくれたこの女に、もっと惨めな死を与えるために。 「ふんっ!」 首へ、振り下ろす。 ザクッ ザクッ 「死ね! 死ね! 死ね!」 ザクッ ザクッ 尖った槍の先端が、首の表皮や髪の毛を削り取っていく。 鮮血が飛び散り、ミサの服を赤色に染め上げる。 ザクッ ザクッ まだだ。 顔の皮が全部削り取れて、脳ミソが飛び出て頭蓋骨が見えるまで許してやるもんか。 ミサは、ひたすら熱心に槍を振り下ろし続けた。 邪魔する奴はいない。 月だけが、見守っていてくれる。 ミサは、最強なんだ。 しばらくして、ミサは手を休めた。 あの女の頭部はもはや原型を失い、グロテスクなだけの汚物と化していた。 ねぇ月、これ、ミサがやったんだよ。ミサが、月のためにやったの。 褒めてくれる? くれるよね。やりィ。 「あは……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははぁっ!」 こんなに気持ちいいの、生まれて初めてだった。 今まで、もうこんなの嫌だ――って思ってたけど。 ここに来て初めて、殺し合いの世界っていうのも、 悪くない。そう感じるようになった。 「あれ」 急に、身体がフラついた。 私の身体は、そのまま泥だらけの地面に倒れこむ。 やだ、気持ち悪い。でも、眠い。 疲れちゃったのかな。ごめんね月。ちょっと休ませて……。 起きたらまた、月のために、たくさん殺すから―――― ♪ ひょっとしたら、この世界に神さまはちゃんといるのかもしれない。 それはもう完全無欠に立派で公平な人格者で、強い者にも弱い者にも、ただ公平に見守るだけ。 宇宙人とか魔王とか冥界の王とかがくだらない盤上の遊戯に勤しんでいても、 なんの力もない子供が己の力を誇示してばかりの醜い大人に惨殺されたとしても、 少ない希望を頼りに必死に生き残る道を模索するグループがバラバラに分解されたとしても、 決して手は出さずに、ただ黙って静観するだけなんだ。 あぁ、なんてありがたい神さまなんだろう。 死んじゃえ。 【大阪府/日中】 【津村斗貴子@武装練金】 [状態]:軽度疲労、左肋骨二本破砕(サクラの治療+核鉄効果により完治) 右拳が深く削れている 顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング 絶対に迷わない覚悟 [装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし [道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、子供用の下着 [思考]1:さらに東へ。 2:クリリンを信じ、信念を貫く。跡を継ぎ、参加者を減らす。 3:ドラゴンボールを使った計画を実行。主催者が対策を打っていた場合、その対策を攻略する。 4:ドラゴンボールの情報はもう漏らさない。 5:ダイを倒す策を練る。 【兵庫県南東部/森林/午後】 【弥海砂@DEATHNOTE】 [状態]:気絶、重度の疲労、殴打による軽い脳震盪、全身各所に打撲、口内出血、右足に裂傷 精神崩壊、重度の殺人衝動、衣服が血と泥に塗れている [装備]:魔槍@ダイの大冒険 [道具]:荷物一式×3(一食分消費) [思考]1:会った人を殺す。 2:強い人に会ったら、逃げるか演技で取り入って、後で殺す。 3:ドラゴンボールで月を生き返らせてもらう。 4:自分が優勝し、主催者に月を生き返らせてもらう。 5:友情マンを殺し、月の仇を取る。 6:ピッコロを優勝させる。 【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀 死亡確認】 【姉崎まもり@アイシールド21 死亡確認】 【残り27人】 時系列順で読む Back 0408 明日の勇者 Next 投下順で読む Back 0408 明日の勇者 Next 0410 暴走列島~信頼~ 0395 善でも、悪でも 姉崎まもり 死亡 0407 彼女の功績はあまりに大きく、あまりに残酷 秋本麗子 死亡 0407 彼女の功績はあまりに大きく、あまりに残酷 津村斗貴子 0414 一人で出来るもん 0405 カーニバル 弥海砂 0412 アマネミサと異常な愛情
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182 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 37 47 ID e3g7TlOW 第十六話~犯行の動機~ まぶたが重い。 上下のまぶたが糊でくっついているようにべとべとする。 服の袖で目をこすり、目やにを取り除く。 少しだけ軽くなった目を開けると、白い袖が見えた。 袖口から離れた位置には薄いブルーの横線が入っている。 腕を下ろし、目線を自分の胸元へ。 そこで飛び込んできたものもまた白だった。 俺の部屋にある掛け布団のカバーは、あまり洗っていないせいでくすんだ色をしている。 とてもじゃないが、今体の上にかけられている布団のような純白とは程遠い色だったはずだ。 違和感を覚えつつ、視線を上へ向ける。 天井が見えた。またしても白。合板の継ぎ目の色が違うせいで、そこだけが浮いていた。 首を左に傾けると、閉め切られている窓が見えた。 窓の向こうには、電信柱があって、その向こう側には曇り空が広がっていた。 雲は幾重にも重なっていて、日の光を通していない。 寒そうだ。外はかなり冷え込んでいるのかもしれない。 そう思うとずっとこうやって布団の中に潜り込んでいたくなる。 だが、それはできない。 今いる場所が病院だということはすでにわかっている。 俺はここで眠っているわけにはいかないのだ。 やらなければいけないことがある。 十本松にどういうわけかさらわれた香織を助けなければならない。 そのためには、まず動かなければ。 体をゆっくりと起こしていく。頭の中を軽い痺れが走った。 かけ布団を跳ね除け、ベッドの右に足を下ろす。 「おはようございます。遠山雄志さん」 不意に声をかけられた。視線を床から上げる。 ベッドの横にスーツ姿で小太りの中年男性が椅子に座っていた。 男性はジャケットの中に手を入れると、黒い手帳を取り出した。 手帳を広げると、俺にその中身を見せた。 「県警の刑事課の中村と言います」 「はぁ……刑事さん?」 「はい。あなたの自宅で起こった銃声について、質問をさせてください」 相手をする気分ではない。 しかし、相手は刑事。下手な態度をとるのはよくないだろう。 183 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 39 53 ID e3g7TlOW 俺は焦る気持ちを抑えて、中村という刑事と向き合った。 「いいですよ。どうぞ、質問をしてください」 「ええ。それでは……あなたが覚えている事件の詳細を教えてください」 俺は言葉を選んでわかりやすいように説明した。 刑事は話を聞きながら、手帳にペンを走らせている。 「……なるほど。だいたいの状況はわかりました。 つまり、その十本松あすかという女性が、あなたの部屋のドアノブに向けて拳銃を発砲したと」 「たしか、6発撃ったと思います」 「鑑識も6発の銃弾を発見しました。それは間違いないです。 その後、あなたの部屋に忍び込み、あなたとあなたの従妹を気絶させ、女性をさらった。 お名前は天野香織さん。あなたとの関係は、恋人」 「……はい」 「この、天野さんがさらわれた理由について、何か心当たりはありませんか?」 俺は何も思い当たらなかったので首を振った。 「よーく思い出してください。どんな些細なことでもかまいません。 それが手がかりになるかもしれないんです」 「香織と十本松は、お互いの父親が知り合いだったみたいです。 2人は顔見知り程度の関係で、最近はあまり面識がなかったらしいです」 「ふんふん……他には、何かありますか? 父親同士で確執があったとか」 刑事から目を逸らして黙考する。 以前十本松に聞いた話では、香織の父親はビルから飛び降りて死んだらしい。 自殺か、それとも他殺かはわからないと言っていた。 十本松の父親は、なんで死んだのかわからないがこの世にはいないようだ。 そういえば昨日、十本松は俺に父親を殺されたとか言っていたな。 なんか、前世がどうとかも喋っていた気がする。 どうせ十本松の言うことだ。 深い意味なんかないだろうし、それ以前に信用に足るとは言えない。 もし本当に十本松や香織の父親が死んでいるのならば、警察が調べればそんなことはすぐわかる。 この刑事に喋る必要はないだろう。 「特に無いですね。2人とも父親を亡くしているらしいとは聞いてますけど、疑わしいし」 「疑わしいと、なぜ思うんですか?」 「事件の犯人から聞いた情報なんか、嘘っぽいですから」 「……ああ、なるほど。それは言えてますね。では、十本松という人物が住んでいる場所に心当たりは?」 「菊川邸に住んでいたみたいです。今はどうか知りませんけど」 「菊川ですか……またやっかいなところが……」 刑事は手帳をしまうと、椅子から立ち上がった。 「ありがとうございました。あなたの従妹さんとの話と合わせればかなり捜査が進みそうです」 「華にも話を?」 「聞きました。2人とも病院に搬送して、一夜明けた今朝、彼女に話を伺いました」 「……華も怪我をしていたんですか」 「も、ではなく彼女だけが怪我をしていました。あなたはただの脳震盪で倒れていただけです。 従妹さんは、肋骨にひびが入っていて、さらに吐血までしていました。 内臓に後遺症が残らなかったのは、不幸中の幸いでした」 184 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 41 06 ID e3g7TlOW 「それで、華はどこに?」 「隣の病室にいます。彼女、あなたのことを心配していましたよ」 「後で行ってみます」 「ぜひそうされてください。では、私はこれで」 刑事は軽く頭を下げると、病室の扉から出て行った。 足音が聞こえなくなるまで待つ。……聞こえなくなった。 そろそろ動こう。香織を助けにいかなくてはならない。 ドアを開けて病室から頭を出して、周りを確認する。 廊下には白衣を着た病院の人間と患者らしき人間しか居ない。 さっきの刑事はいないし、俺を観察しているような人間も居なかった。 病室の壁に掛かっている時計の針は、昼と言ったほうがいい時間を差していた。 昨夜十本松が俺の部屋に来てから一夜明けて、今は昼。 十本松が俺の部屋に来たのは午後7時ごろ。あれから12時間以上経ってしまった。 十本松が香織をさらって何をするかわからないから、時間が過ぎるごとにまずいことに なっていくのかは判断できない。 しかし、あそこまで強引に香織をさらっていった以上、冗談だよ何もするつもりはなかったんだ、 などとは言わないだろう。 もしそうだったらすぐにでも引きずりだして警察に突き出してやる。 が……十本松が本気だろうと冗談だろうと、俺にはどうすることもできない。 さっきのように、俺の自宅にやってきて拳銃を撃ち香織をさらった犯人が十本松だと 警察に言うだけで精一杯だ。 十本松がどこにいるのかがわからない。 もっとも、それがわかれば警察だって苦労はしないだろう。 わかっていればとっくに十本松を捕まえているはず。 わかっていないから、俺に話を聞きに来たんだ。 まだ菊川邸に潜んでいるのか、秘密のアジトに隠れているのか、何の変哲もない 民家に住んでいるのか、どれもありそうだけど確信を得ることはできない。 十本松は菊川邸の一室に部屋を持っていた。以前から菊川邸に住んでいたと考えられる。 菊川邸で起こった爆発事件の犯人は十本松。 直接聞いたわけではないが、昨日の行動から考えれば十本松がクロで間違いない。 だが、そんなことはどうでもいい。 香織は助けなければいけない。 香織に告白する前なら、警察にまかせっきりにして自分はじっとしていただろう。 けれど、今は違う。俺は香織を助けたいと思っている。 こうやってじっとしているだけでいらいらする。動きたくなってくる。 今度目の前に現れたら殺す、と十本松は言った。 ならば、俺はお前に殺される前に香織を助け出す。 それで、終わらせる。 185 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 41 51 ID e3g7TlOW 隣の病室のドアを3回ノックする。返事はない。 ゆっくりとドアを引くと、さっきまで居た病室と同じ光景が広がっていた。 ベッドの上には華がいる。ベッドで横になって眠っていた。 置かれたままになっている椅子に座って華を観察する。 白い布団から、華の頭と手首が出ていた。 華は見られているとは知らず、無防備な寝顔をさらしている。 さっきの刑事の話では肋骨にひびが入るほどの怪我を負っているらしい。 それをやったのは、間違いなく十本松だ。 一体十本松は華に何をしたのだろう。 拳の一撃か、体当たりか、蹴りか。 ドアを開けるとき、銃弾を撃ちつくしておいてくれてよかったと思う。 もしかしたら、華が撃たれていたかもしれなかった。 華のやつ、俺と香織が付き合っていると知って何をしてくるかと思えば、俺の手が出せない 場所で香織に危害を加えようとしてきた。 そういう意味で考えれば、十本松が来てくれてよかったとも思うが……。 もし十本松が来なかったら、俺は華を止めて香織を助けられたのだろうか? 管理人のところに行って鍵を借りてきて、戻ってきたとき香織が無傷でいられたのか? 待て。そもそも、華は香織に危害を加えようとしていたのか? 直感で香織が危ないということはわかったが、実際にはどうするつもりだったのか。 仮に華が香織に暴力を振るおうとしていたとして、なぜ華がそれをする? 華が言った、「俺を奪った香織は許せない」という言葉。 言葉の通り、香織を許せなかったからあんなことをしたのか? もしそうなら、華を放っておくわけにはいかない。 俺と香織が付き合っていることを納得してもらわなければいけない。 けれど、それをするのは今じゃない。 十本松の居場所を突き止めて、香織を助けてからになる。 ここに来たのは、華を起こすためではなく、華の無事を確かめるためだ。 華に協力してもらうわけにはいかない。 怪我をしているし、第一華の身が危険にさらされる。 それに、香織を助けるための協力をしてくれるかどうかもあやしい。 協力してくれる人が多いにこしたことはないが、華の力は借りられない。 眠ったままの華の頬に右手を当てる。 その途端、華がぴくりと身を震わせた。体を震わせただけで、起きる気配は無かった。 そのまま眠っていてくれ。 俺は今から、この病院を出て香織と十本松の居場所を探しに行く。 そんなことをするのは俺だけでいい。 俺のことを想ってくれる華の気持ちに応えられないのは悪かったと思う。 だけど、俺は華を傷つけたかったわけじゃない。自分に嘘をつけなかっただけだ。 華の髪の毛を撫でる。さらさらしていて、暖かくて、いつまでも触っていたくなる髪だ。 ごめんな。俺もお前のことが好きだけど、お前の気持ちにはやはり応えられない。 香織の代わりに俺を殴ってくれ。俺なら次の日には必ずケロッとしているはずだから。 俺が香織を助けられたら、そうしてくれ。 186 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 43 20 ID e3g7TlOW 人に見つからないよう病院を出て、自宅へ向かう。 空は相変わらず曇りで、晴れ間を覗かせる様子は無い。 まだまだこの季節は寒い。今日は風が強くないのが幸いだ。 香織を助ける。そのためには、十本松を探し出さなければならない。 十本松は今どこにいるんだ? 可能性がありそうなのは菊川邸だが、いつまでもそこに留まっているとも考えられない。 それに、先日の爆発事件で菊川邸は警察にも注意を向けられているはずだ。 とすると他の場所。しかし十本松が居そうな場所なんて見当もつかない。 華の通っている大学で聞き込みをしてみるか? だけど十本松と積極的に関わろうとする人間なんているんだろうか? だめだ。聞き込みはあてにならない。時間もかかる。 なら、もう一度菊川邸に侵入してみるか? 俺と華が脱出するときに使った裏道を使えば、中に入れる可能性がある。 菊川邸の外を囲っている雑木林から県道に出た場所は、どこにでもありそうなわき道だった。 あそこなら人の目につかず侵入することができる。 問題はまだある。侵入できたとして、それからのこと。 どうやって十本松に繋がる手がかりを探し出すか。 脱出に使った屋敷からの出口は十本松の部屋だった。 部屋をあされば何か見つかるかもしれないが、全て隠滅されているかもしれないと思うとあてにはできない。 それなら、他の手段。屋敷の中をくまなく捜索する。 ……これも駄目か。爆発事件の後でうろついている部外者が居たら、そいつは袋叩きの目に会うだろう。 俺が袋叩きの目に会うわけにはいかない。 せめて、菊川家に関係する人物でもいれば何かわかるかもしれない。 だが、どうやって探す? 誰一人として菊川家に関係する人間なんて知らないぞ。 かなこさんは知り合いといえば知り合いだが、連絡をとる手段がない。 連絡をとる手段があるならとっくに俺はそれを試している。 何の手段がないからこそ、かなこさんが無事か心配なんだ。 「さっそく手詰まりか……」 歩きながら、頭をかく。 なにか他に手はないのか?所詮俺1人ではどうすることもできないのか? 情けない。香織がさらわれたというのに何もできないなんて。 恋人の身が危険にさらされているというのに。 どうしたらいいんだ――? 187 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 44 52 ID e3g7TlOW 考えながら歩いていたら、自分の住むアパートの前に到着していた。 2階にある自分の部屋のドアを見る。ここからではドアノブまでは見えない。 ドアの前に人がいる様子はなかった。警察もあらかた調べ終えたんだろう。 階段を登り、2階の自室のドアを開ける。 そこに、知らない人が居た。 玄関にいる俺の位置からは、その人物の顔は見えない。 見えるのは頭を覆う白髪と、スーツかタキシードらしき格好のみ。 スーツを見て、一瞬十本松かと疑ったが、あいつは白髪を生やしていない。 となると、別の人物だ。 誰だ?この状況で、勝手に俺の部屋に侵入する人間は。 警戒しながら靴を脱ぐ。声をかけるため、静かに息を吸う。 白髪の人物に向けて声をかけようとしたら、先手を打たれた。 「遠山様ですね」 低い声。髪の毛が全て白くなるまで年をとっている人物とは思えないほど声に力を感じられる。 俺の名前を知られている。なら、黙っているわけにもいかない。 「……ええ。俺が遠山雄志です」 「お待ちしておりました。私は――」 畳の上に正座している人物が、玄関にいる俺に体を向けた。 「菊川本家長女、菊川かなこ様の執事、室田と申します」 「かなこさんの、執事?」 「そうでございます」 今まで見たことがないけど、執事って本当に居たのか。 しかし、服装や姿勢は本当にイメージどおりだな。 勝手に人の家に入っているところだけは、イメージどころか予想すらしなかったが。 「勝手にお部屋に入ってしまったことはお詫び申し上げます。どうか、お許しくださいませ」 「もちろん勝手に入ったのには、理由がありますよね?」 「はい。火急の事態ゆえ、こうせざるをえませんでした」 「話してもらえますか?」 「はい。そのために遠山様を訪ねてきたのです」 白髪の執事、室田さんと向かいあって座る。 この人と向かい合っていると、勝手に足が正座を組んでしまう。 こういう雰囲気の人が嫌いなわけではないんだけど、一対一で話すのは得意じゃない。 とりあえず、事情を聞いてみるか。 「俺から質問します。なんで部屋に入ったんですか?」 「実は、私は命を狙われております。それゆえ、外で待っていることができませんでした」 「……誰に?」 「十本松あすかの手の者にです。もっとも、私を狙うのは安全策といったところでしょう。 本命は、かなこ様です」 「かなこさんは生きているんですか?!」 「はい。私が屋敷から追われる昨夜まで、かなこ様は無事でした」 よかった。肩の荷が一つおりた。 188 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 45 49 ID e3g7TlOW 「しかし、今もかなこ様が無事であるかはわかりかねます」 「なぜ?」 「桂造様を殺害した十本松あすかが、かなこ様を無事でおいておくとは考えられません」 「桂造……菊川家の、当主の方?」 「はい。誕生パーティの翌朝、十本松あすかの仕掛けた爆弾の爆発に巻き込まれ、亡くなられました」 あの日、爆発は2回起こっていた。 1回目は俺と華とかなこさんの近くで爆発が起きた。 あれが2回目の爆発に注意を向けさせないためのものだったとすれば、 1回目の爆発の威力が低かったことにも合点がいく。 2回目の爆発が本命。当主の桂造氏の命が十本松の目的だったということか。 「昨晩のことをお話します。私は9時ごろ、ショックで寝込んでいたかなこ様に付き添っておりました。 そこへ、十本松あすかと屋敷の人間の数名がやってきました。 十本松あすかは私を拳銃で脅し、かなこ様をどこかへ連れ去りました。 隙を見て、私は屋敷から脱出したのです」 かなこさんがさらわれた?! くそったれ。香織に続いてかなこさんもか。 十本松は何をするつもりだ? 「それで、屋敷に住んでいる人達は十本松を止めなかったんですか?」 「止めるものはおりませんでした。おそらく、あの屋敷の使用人全てが十本松あすかに従っております。 桂造様を殺害するために、ずっと準備を重ねていたのでしょう。あの女は」 「なぜ十本松がそんなことをしたのかはわかっているんですか?」 「……それは……」 室田さんは俺の目から視線を外した。 さっきまで詰まることなく話をしていた人物が見せるとまどい。 話しにくいことなのか?もしくは口止めされているとか? 「桂造様は亡くなられました。このうえ、かなこ様を失うわけにはいきません。 ……お話しましょう。他言無用で、お願いいたします」 俺は無言で頷いた。 「十本松あすかは菊川家の人間を恨んでおります。 その理由は、桂造様が十本松あすかの父を謀殺したからです」 「え……?」 十本松の父親が、かなこさんの父親に殺されていた? じゃあ、十本松は父親の仇を討つために桂造氏を殺害したということか? それなら、あいつがかなこさんを連れ去る理由もわかる。 かなこさんは無事なのか? あいつが菊川家の人間全てを恨んでいるなら、かなこさんに危害を加えない理由が無い。 いやむしろ、そうするのが自然だ。 「私は十本松あすかの父、十本松義也を殺す計画を、桂造様が立てていることに気づきました。 私が警告しても十本松義也は聞き入れませんでした。 数ヶ月が経ち、十本松義也が殺害されたことを知った私は、独自に調査を始めました。 そこで気づいたのは、十本松あすかが行っていた事業を桂造様ともう1人の人物が引き継いだことでした」 「もう1人?」 「はい。その人物の名前は、天野基彦といいます」 189 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 46 51 ID e3g7TlOW 今まで起こってきたことの全てに納得ができた。 十本松は、かなこさんの父親と香織の父親に、父親を殺された。 これは、十本松が香織とかなこさんの2人をさらう動機になる。 そして、もしかしたらという推測が真実味をおびてくる。 香織の父親は、ビルから飛び降りて死亡した。 俺の推測が正しければ、おそらくは。 「その天野基彦という人は今、どうしているんです?」 「殺されました。十本松あすかの手によって。天野基彦は、10階建てのビルから突き落とされて死亡しました」 ――やっぱりか。 十本松は、自分の父親を殺した人物を、殺した。 今は、その娘2人まで手にかけようとしている。 香織と、かなこさん。 香織をさらったのも、かなこさんをどこかへ連れていったのも、2人を始末するための行動だ。 最悪だ。知り合いの1人が殺人犯だった。 元知り合いの殺人犯は、俺の恋人と俺を想ってくれている人を殺そうとしている。 これが冗談ならどれだけ嬉しいことか。 だけど冗談じゃないんだろう。 そうでなければ目の前に執事さんがいたり、執事さんが真剣な顔で向き合っていたりはしない。 「まずいです。その天野基彦の娘の香織が、昨日十本松にさらわれました」 「天野基彦の娘? それは、何時ごろの話でございますか?」 「昨日の夜7時ごろです」 「ということは、昨夜十本松あすかがその香織さんをさらい、屋敷に帰ってきてからかなこ様を連れ去った。 自分の父親を殺した2人の男の、娘。十本松あすかが動くだけの理由は充分ですな」 「……今、十本松はどこに?」 「おそらく、まだ菊川の屋敷の中にいるでしょう。推測ですが」 それだけわかっていれば十分だ。 近くの警察署の番号に電話をかけるため、俺は携帯電話を取り出した。 「警察に連絡しても無駄です」 「……なぜです?」 「警察は菊川家に接触しないよう動いています。 最近のニュースを見ていれば、その理由がわかるはずです」 あの爆発事件のことか。 爆発事件が起こったというのに多くの情報を流さないマスコミ。 進展を見せない警察の捜査。 どちらも圧力がかかっていなければ、そんな行動をとりはしないだろう。 マスコミは最初からあてにならないが、警察すら同じ状況だとは。 190 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 47 36 ID e3g7TlOW 「ですから、私達が動くしかありません」 「私達? 俺を含んでます……ね、その言い方は」 「はい。かなこ様から聞いておりました。 遠山雄志様は、何があろうともかなこ様を守ってくださると。 かなこ様の言うことに間違いはございません。 もし間違っていようとも……私はかなこ様の言葉を信じます。 そして、かなこ様が信じている遠山雄志様。あなたのことも私は信用します」 室田さんの目は嘘を言っていない。こんなまっすぐな目をして嘘をつく人などいるはずがない。 買いかぶりすぎです、かなこさん。 あなたはなんで俺をそこまで信用しているんですか。 ――ああ、俺ってかなこさんにとって護衛役だったんだっけ。 自覚は一切ないんだけど。前世の記憶なんかないし。 だけど、これは願ってもないチャンスだ。 菊川邸のことを詳しく知っていそうな室田さんと一緒なら、香織とかなこさんの捜索もスムーズにいくはず。 やるしかない。多分、これが最後のチャンスだ。 「やりましょう、室田さん。俺は香織とかなこさんを助けなければいけません。 2人をみすみす見殺しにすることなんて、できません。絶対に」 「私も同じです。この事件は、桂造様が根になって起こったことです。 菊川家の執事として、解決のために動くのは当然のこと。 主を止められなかった私にも、責任があります。 十本松あすかを、必ず止めて見せます。たとえ、この身を砕かれようとも」 室田さんの目を見る。 黒い瞳は、まるで意思の塊のようだった。 この決意を砕くなど、誰にもできないのではないだろうか。俺はそう思った。 191 :ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/07/08(日) 07 49 53 ID e3g7TlOW ・ ・ ・ 菊川邸へ向かう、室田さんの運転する車の中。 俺の部屋より広いわけではないが、どちらの居心地がいいかと問われれば間違いなくこの車の中だ。 シートは、シートではなくソファーと言ったほうがいいほどふかふかしている。 空調も完璧なようで、濁った匂いが全くしない。 座りながらぼーっとしていると、眠気がやってきた。 深呼吸して、背筋を曲げ伸ばしして、睡魔を追い払う。 「遠山様」 睡魔がブーメランして戻ってきたころ、室田さんに話しかけられた。 「なんですか?」 「かなこ様のことを、よろしくお願いいたします」 「え? それはどういう意味で?」 「かなこ様を幸せにしてください、との意味で言っております。 かなこ様を悲しませることだけはなさらないでください。もしそうなったら私は……」 「なんです?」 「遠山様を……いえ、何でもございません」 室田さんはそこで言葉を止めると、口を開かなくなった。 この人、俺をどうするつもりなんだ。 待てよ。俺はすでに香織を恋人にしてしまった。かなこさんは恋人の対象ではない。 もし室田さんの言う言葉の意味が「女性として」幸せにしてほしいというものだったとしたら……。 かなこさんと結婚してほしいという意味で今の言葉を口にしていたのだとしたら……。 いや、考えるのはやめよう。 今は、それより先に香織とかなこさんを助けなければいけない。 全てはそれからだ。それまで全て保留だ。 それからでも、きっと遅くはない。 スモークの入っていない窓から外を見る。 車は菊川家の敷地に入る玄関前を通り過ぎたが、敷地には入らずそのまま道路を走り続けた。 そこで一瞬見えた菊川邸には、明かりが灯っていた。 まるで、何の異常もないことを教えるためにそうしているようで、かえって不自然に見えた。 ******
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男「ふぅ……楽な仕事だったぜ……人目につくってのがネックだったが、同じ能力の『風紀委員』が来る前に終えられたからな」 『空間移動』の男は人気のないビルの屋上で公園を見下げて哂った。 外界ではいきなり男が児童を誘拐したことで軽い騒ぎになっている。 その児童は彼の両腕の中でぐったりとしていた。 男「……ま、いいか。とっとと指定の場所に運ぶとするか……これで助かるってんなら楽なもんだ」 ブン、と再び彼は虚空に消えた。 滝壺「道路渡って左、二つ向こうの交差点を右に曲がって一つめのビルの屋上」 上条と並走しながら淡々とそれを告げる。 ああ、と上条は信号が点滅し始めたのを確認して一気に横断歩道を駆け抜けた。 すぐさま左に曲がるが、 上条「っ……と、これはこっち行ったほうが早いか……?」 上条はここらの地理には詳しくない。 だから隣の滝壺を見ると、彼女は走りながらも器用に手に零した粉を舐めとって数秒おく。 滝壺「……うん。また移動した。ここから右に曲がって、四つ目の角を左」 上条にはどういう理論かはわからないが、彼女はこの粉を接種することで能力を使うらしい。 まぁ実際的には彼女の能力は観測という今年か聞いていないため、他の使用用途は全くわからない。 『能力追跡』。その名の通り、相手のAIM拡散力場を記憶し、その相手が生きている限り例え銀河の果てにいようと追跡が出来る能力。 しかし、それは正しく一番ポピュラーな使用法であって、他の使い方がある。 例えば。 相手のAIM拡散場――つまり、『自分だけの現実』を乱して能力の暴発や乗っ取りを狙ったり。 広がりから見極めて、攻撃を予測してみたり。 AIM拡散力場に対することならばエキスパート。彼女以上にそれについて知る者は少ないだろう。 だからこそ、観測できない上条に興味を持った。 本来ならそれが普通なのだが、特別の中にいればその普通が特別になるのだ。 実際には上条当麻はその特別の中でも一際『特別』な存在なのだが。 滝壺「はぁっ……はぁっ……」 十数分走ったところで、滝壺の動きが鈍り始めた。 普通に考えれば確かに鈍り始める距離を走ったのだが、それでも様子がおかしい。 上条は眉を顰め、彼女に心配するような口調で話しかける。 上条「……大丈夫か?すごい汗だけど……」 滝壺「……へいき」 いつもと変わらず、しかし僅かに力なく告げ、続ける。 滝壺「それより、動きが止まった。二、三回検索してみたけど、動かない」 上条「……どこだ?」 滝壺「……そこ。屋上」 滝壺が指さしたビルに上条は無言でうなずき、駆ける。 彼もそれなりの距離を走って疲れているはずなのに、そんなものを微塵も見せない。 滝壺(……危ない) 彼女は思う。 彼は無能力者だ。 今の状態から見て、体力はそこそこあるだろうし、腕っ節も人並みではあるのだろう。 しかし。 相手は『空間移動』だ。 まず、勝てない。レベル5でも不意打ちなら負けるかもしれない相手。 そんな能力者に無能力で挑むなど、愚の骨頂でしかない。 滝壺(止めないと) 止められるのは、あらゆる能力者に対してジョーカーな自分だけ。 体晶の使いすぎで結構疲労しているが、そんなこと関係ない。 滝壺は付近にあったエレベーターのボタンを押し、上条がやられていないことを願った。 上条は階段を二段飛ばしで駆け上がる。 許せない。 無力な子供を狙うのは勿論なことだが、それを簡単にやってのけるその精神が。 上条当麻は善人だ。 善人ぶっているのではなく、彼が感じ思い起こしたことが善人だと周りから認められているだけなのだが、善人だ。 だから彼は誘拐犯のしたことを、そして誘拐犯自信を許せない。 それが彼が彼である所以だから。 扉が迫る。 上条は登ってきた勢いのまま、ズバン!とドアを蹴り開いた。 男「っ、誰だ!?」 男がいた。 上条達が公園で見た男。 彼の足元には二人の子供が意識を失って倒れている。 外傷は見えないため、恐らくは気絶させただけなのだろう。 それでも上条はその事実に歯を噛み締める。 彼は一体、その子供たちを使って何をしようとしていたのだろうか。 男「……なんだよ、脅かすなよ……『風紀委員』がもう嗅ぎつけてきたのかと思っただろ……」 上条「…………」 男「……何のようだ?隠れ家的なものできたなら、帰ったほうがいい。じゃなかったら俺が」 上条「お前」 男「……あん?」 上条「お前……その子たちに何をするつもりなんだ……?」 男は一瞬怪訝な顔をするが、すぐに合点がいったのか上条を鼻で嘲笑う。 男「はっ、なんだお前。まさかこのガキどもを助けるためにわざわざ追ってきたってのか?」 男「どうやって追ってきたのかは知らねぇが、まぁ無駄だな」 上条「……どういうことだ?」 男は無知な上条を嗤い、両手を広げて宣伝するように告げる。 男「学園都市だよ」 男「底からの依頼だ。この子供は学園都市の礎になる。どういうふうに使われるかはしらないがな」 男「俺も多分カメラとか、お前みたいな人に姿を見られてるが……場所も指定してきたからな。隠蔽はしてくれるだろ」 男「……で?お前はどうするんだ?」 男「ここで俺に襲いかかったとしても返り討ち、『風紀委員』や『警備員』に今から頼っても意味が無い」 男「さぁ、どう「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」 上条は男を一刀両断する。 彼の言葉には刃があった。剣呑と暮らしているただの高校生には宿り得ない言の刃が。 上条「お前がどれだけ強かろうと、それが誰の依頼だろうと、そんなの関係ねぇ」 上条「そこに、危険なやつがいるんだ。助けすら求めれないやつがいるんだ。なら、お前を倒す理由はそれだけで十分」 拳を握り締める。 あらゆる絶望を、悲愴を、妄言を、悲劇を、絶対を―――― そして、『幻想』を打ち砕くその右手を。 上条「どんなことでも、お前が何かその子達に危害を加えようとしてるっていうんなら――」 上条当麻は叩きつける。 どんな無情な運命でも奇跡でもひっくり返す、初めの一言を。 上条「まずはその幻想をぶち殺す!」 静寂。 地上より遥か高いビルの上で二人の男が向きあう。 一触即発の状態。 先に動くのは、否、消えるのは。 上条「がっ……!?」 ガン、と一撃。 子供たちを置いて一瞬にして消えた彼は上条の頭に強烈な踵落としをくわえる。 そのまま地面に降り立った彼は怯んでいる敵を追撃にかかった。 男「本来なら俺がテメェの座標にテレポートすりゃいいだけだが、それじゃああまりにつまらないからなぁ!」 仰け反った上条の胸ぐらを掴み、引き寄せ、同時に自分の額をぶつける。 衝撃の連打に上条は一瞬だけ意識を手放すが、不幸中の幸いか痛みが彼の精神を引き戻す。 今何が起こっているかも理解しないまま、上条は右手を振るった。 まさしく時を同じくして、男も同じように拳をとばす。 奇しくもクロスカウンターの形。 互いに等しくダメージを受けた少年たちは数歩距離をとった。 上条「っつ……『空間移動』、か……遠距離からいたぶるような事をしないとこからみると、飛ばせるのは自分と、その触れているものってとこか……?」 男「……中々洞察力あんじゃねぇか」 上条に殴られた部分を男は手で拭った。 男「そうだよ、俺の『空間移動』は俺自身とその時触れているモノしか飛ばせない。だから格闘にしか頼らなくちゃいけないんだが……」 再び、彼は飛ぶ。 今度は上条の上ではなく、背後へと。 上条「――――っ!」 息が詰まる。 そのまま前に投げ出され、上条は無様にも転んだ。 男「まぁ基本的に能力とケンカの仕方さえわかってれば相手がアイツらみたいなイレギュラーじゃない限り負けないけどな」 あいつら?と上条は思考を巡らすが、この場に置いては全く関係がないために隅に追いやる。 何度か大きく咳をし、足腰や手に力を入れて立ち上がった。 上条(『空間移動』なら……触れさえすればいい) 白井黒子のように触れたものをどこかに移動するわけではない。 自分も伴ってなければ移動できない。そこに穴がある。 もしも白井のように触れただけで移動させるなら、早速上条に触れて移動させようと試みるだろう。しかし移動させることは出来ない。ここで上条は能力を消す能力を持っていると聡い人なら理解する。 しかし、自分も移動しなければならないとなれば相手をつかんで移動だなんて滅多にしようとは思わないだろう。 だから上条の右手に触れてはいけないと、気付けない。 上条(触れさえすれば――――!) 男「ぼやっとすんなよ。もうちょっと踊ろうぜ」 ブンッ、と目の前に飛翔した男はキックを繰り出す。 反射的に胸部に腕を構え、それを防ぐことに成功はするもののビリビリと腕が振動する。 それを無視して一歩踏み出し、右手を振るうがそれが届くより早く男は掻き消える。 手が空を切った直後、背中にドロップキックが直撃した。 上条「く、――――っ!」 転んで数秒ロスするのは痛い。 前向きに態勢を崩しながらも、上条は前と後ろを入れ替えてギリギリで踏ん張る。 男「あー……なんていうか、努力は認める。普通なら戦意喪失してもおかしくねぇからな」 男は呆れたように頭を掻きつつ、言う。 男「でもさ……手応えないわ、お前」 ヒュン、と消えて。 次の瞬間には上条の腹部に拳が食い込んでいた。 上条「ぐっ……」 上条は距離を取るように飛び退き、しかし殴られた部分を押さえたまま膝をつく。 彼の顔色は真っ青に染まっている。 人体には、幾つかの急所がある。 顎の先、人中、半規管、後頭部、男性ならば股間。 上条が食らったのは、鳩尾。へその少し上ぐらいにある狙われやすい部分。 脳震盪や半規管に衝撃を食らった時とは違って気力で頑張ろうと思えば動けるだろうが、それでも激痛だ。 男「とっとと去れ。じゃなかったら……殺すぞ?」 それは、脅しではない。 上条は苦痛に顔を歪ませながらも男を見上げた。 その瞳には冷酷なまでの意志が伴っている。 上条「……くそ…………」 守れない。 そうだ、と実感した。 子供たちは未だに気絶していて、動く気配はない。 しかし、動いていたからどうだというのか。 そんな希望に頼っている時点で、上条は既に負けている。 上条「くそ…………!」 激痛と、そして救えない自分の不甲斐なさに苛まれ、上条は顔を酷く顰め、 そこに。 滝壺「かみじょうっ!」 ――最後の希望が辿り着いた。 上条「滝……壺」 上条は声で振り返り、唇を噛みしめる。 滝壺理后は女の子だ。『超電磁砲』などの例外ならまだしも、普通の少女は非力に他ならない。 だから上条は彼女が辿り着く前に決着をつけたかったわけだ。 今となっては叶わなかった幻想で、負けそうになっている状態での最後の希望というわけだが。 それでも上条はその希望に頼りたくはなかった。 男「ちっ……次から次へと増えやがって」 男は面倒くせぇという言葉を飲み込んだ。 上条相手に速攻決着をつけなかったのは自分の落ち度で、二人になった事態は自分が招いたものだからだ。 それに、滅多な自分が負けそうな能力者は頭に叩き込んである。自分の記憶では彼女はそれに該当しない。 この少年少女相手に負ける気はしない。子供たちを取りに来る前に終わらせればいいのだ、何ら問題はない。 しかし、滝壺はそんな考えなど関係ないとでも言うように上条に駆け寄って心配そうに顔をのぞき込んだ。 滝壺「かみじょう、大丈夫?」 上条「滝壺……下がれ、あぶねぇから……」 肩に優しくかかった手を掴みながら上条はゆっくりと立ち上がり、庇うようにして男と向きあう。 滝壺の能力は知っている。 『能力追跡』、相手のAIM拡散力場から場所を特定して追いかける能力。 そもそも彼女がいなければここまで辿りつくことなど到底不可能だっただろう。 だからここからは自分の仕事だ。 全部が全部、相手に頼ってしまうわけにはいかないのだから。 上条「すぐに終わらせる……滝壺はあの子供たちを連れて逃げてくれ……」 幾撃もくらい、フラフラになっている上条は背に向けて放つ。 滝壺は見えないと分かっていても、首を横に降った。 滝壺「……駄目だよ、かみじょう」 滝壺「かみじょうはもうボロボロになってまで、私が来るまでの時間を稼いでくれた」 滝壺「これ以上動いたら、もっとボロボロになっちゃう。……だから、今度は私の番」 滝壺に、上条は前から警戒心を失わずにちらりと後ろを見て言う。 上条「待てよ……お前の能力は相手を追跡する能力で、直接的な攻撃力はないだろ……?」 上条「だったら、基本的に滝壺より丈夫な俺がやるべきだ。まだ、いける」 そういう上条の足は僅かに揺れている。 背に二発、腹、しかも鳩尾に一撃。初撃においては頭にだ。ダメージが蓄積していない方がおかしい。 それでもたち、闘士を見せるのは今までくぐり抜けてきた修羅場の賜物か。 男「……で、どうなの?」 そんな二人の対話をつまらなさそうに眺める男は言う。 男「どっちが先に、沈むの?」 それは、あまりに冷静で。 上条は息を飲んでその一歩を踏み出そうとし。 滝壺はその時に揺れた手を掴みとり、引っ張って自分が立ち上がると同時に上条を自分の後ろへと追いやった。 上条「んなっ」 バランスを崩し、後ろに転びそうになる上条は滝壺がこちらをみていることに気付く。 滝壺「大丈夫」 少女は淡く笑う。 その言葉を彼に浸透させるように。 滝壺「私は大能力者だから。かみじょうを、あの子達をきっと救ってみせる」 それを聞くと同時。 滝壺の後ろに男が出現する。 上条に背を向けた状態で。 ドッ、とローキックで滝壺を吹き飛ばした。 上条はそれに怒りを覚える。 傷つけられたから。 子供たちを攫うという業だけでなく、無関係のものに手をあげたという行為に。 上条は前へと飛ぶ。 態勢が崩れることなど気にしない。ただ、前へ、前へ! 背を向けている男へと右腕を振るう。 丁度振り向いた胸に当たる。そうわかったときには既に上条の腹部にカウンターのように膝が食い込んでいた。 上条「がっ……!」 男「全く、うぜぇんだよ」 男はその上条に止めを刺そうと、再び、飛ぶ。 否。 飛ぼうと、した。 男「は……?」 飛べない。 能力自体が発動しない。 さっきまではそんなことはなかった。だから、先程の女が何かをしたのか!?と驚きに塗れつつ少女の方を見る。 しかし、その彼女自身も地に手をつきながら目を見開いてこちらを見ている。 上条「つかまえたぜ」 その少年の声は、とても近く、しかし酷く遠くに聞こえた。 右手は膝蹴りを腹部に食らったとしても、その胸ぐらをつかんで離していなかった。 つかまえた。 男はその言葉の意味を、数秒遅れて知る。 それ以上に言葉など必要なかった。 次の瞬間。 上条の頭突きが無防備な相手の額に激突する。 一撃だけでは終わらない。 それまでの仕返し、とでもいうように掴んでいた右手を引いては撃ち、引いては撃つ。 まともな思考回路が与えられないまま一方的に男は何度も何度も上条に攻撃を加えられた。 やがて、血が出始める頃。 勝負は決する。 上条「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」 上条は右手からゆっくりと力を抜いた。 すると男は糸の切れた人形のように、受身も取らずにドサッ、と地面に伏す。 少年の額からも血が滴っているが、それは彼自身のものではなく攻撃を与えた相手のものだ。 しかしながら彼自身も何度も頭をぶつけているため、目が虚ろになっていた。 上条「滝、壺……大丈夫か?」 そんな中、彼はゆっくりと目を動かし、少女を確認して話しかける。 滝壺「え……う、うん。大丈夫」 上条「そっか」 上条は笑った。 心底安心したというように。 そのまま、前触れもなく彼もふらりと横に倒れる。 滝壺「かみじょう!」 気を失う前に少女の声を聞いた。 が、上条の意識を押しとどめるまでには至らない。 そのまま太陽の元で意識が反転する。 気がつくと、目の前がピンク色だった。 ……厳密にはピンク色のそれが視界の半分を埋めていて、残りは心配そうに見る二つの目が覗いていたのだが。 滝壺「……気がついた?」 彼女は上条が目を開けたのを確認して問いかける。 目が開いているのだから覚醒はしているのだと思うのだが、一応念のため。 そこで上条は自分がようやくどんな状況に置かれているのかを理解した。 慌てて起き上がろうとするが、途中で無理に頭を押さえつけられて元の場所へと戻る。 上条「……あのー、滝壺さん?」 滝壺「なに?」 上条「どうしてわたくし上条めはあなた様の膝の上に頭をおいているのでせうか?」 滝壺「それは、かみじょうが気絶していたから」 上条「さいで……気がついたからもう起き上がってもいいかと思うのですが、いかがでしょう」 滝壺「だめ」 即答で言われ、上条は仕方無しにそのまま空を見上げる。 背中の感触からすると、移動はしていないらしい。広がる空も只管に広い。 上条「……さっきのヤツら、どうしたんだ?」 滝壺「知り合いに連絡してそれ経由で『警備員』に届けてもらった。私たちが直接やると聴取とかで時間くいそうだったから」 その知り合いというのは『アイテム』の下部組織なわけだが、それを知らない上条はなるほど、と感心した。 ということは子供たちも無事、というわけだ。 上条「……まぁ、多少痛い思いしただけの価値はあったってことだな」 滝壺「うん。……かっこよかったよ」 そう言うと滝壺は上条の頬を伝い、頭を撫でる。 子供扱いかよ、と彼は思ったが、不思議と悪い気はしなかった。 滝壺「ところで」 上条「ん?」 滝壺「一瞬、あの男のAIM拡散力場が消えたんだけど……何かしたの?」 滝壺の驚いていた原因はそれだった。 上条に能力は見当たらなく、その上で特に特別なことをしないで相手の能力を封じたのだから。 上条は頭をポリポリとかきつつ、申し訳なさそうにいう。 上条「あー……そういえばさ、公園でも言おうとしてたんだけど」 滝壺「?」 上条「俺の右手は『幻想殺し』って言いまして……異能の力なら超電磁砲だろうがオカルトだろうがなんでも打ち消す能力が宿っていまして」 上条「拡散力場がないっていうのは、きっとこの能力が打ち消す性質を持ってるからじゃないのでしょうか?」 沈黙。 上条的には何も悪いことはいっていないのだが、こんな空気になるとなんとなくそんな気分になる。 対応に困り、そろそろ起き上がろうとしたところで滝壺は不意に上条の手を握った。 びくっ、と一瞬震えた上条を気にせず、そのままふにふにと確かめるように手を探る。 上条「た、滝壺?」 滝壺「……本当」 彼女の表情は揺るがず、しかし確かに驚いたように言った。 滝壺「かみじょうの手を掴んでると、私も能力が使えない」 上条「だろ?つまり、これが俺の能力の正体。……開発じゃなくて天然で、その上身体測定でも測定できてないからレベル0扱いなんだけどな」 滝壺「………………」 それを聞いても、相も変わらず彼女は上条の手を揉むように小さな女の子というような手を動かす。 しかし、それをしている彼女の心は此処にあらず、別のことを考えていた。 即ち、上条の能力について。 滝壺(でも……AIM拡散力場はどんな能力においても等しく発されるもの) 滝壺(かみじょうの能力が例え『能力を消す能力』なら、かみじょうからは『AIM拡散力場を消すAIM拡散力場』が出ているはず) 滝壺(それなのにない…………?) 先程も言ったとおり、彼女はAIM拡散力場についてはエキスパートだ。 それについてはそれの集合体である風斬氷華と同等と考えてもいいだろう。 だからこそ、彼女は困惑している。 能力があるのにそれの余波がないというその状況。 彼は自分が開発じゃなくて天然――つまり生まれつき、原石だと言った。 例えば、同じく原石『吸血殺し』の姫神秋沙がいる。彼女には『吸血鬼を呼び寄せてしまう匂い』がしているらしい。 それは本人の意志は介入せず、意図せずして。まさしく、AIM――無自覚の拡散力場。 つまり、原石だからという理由はないことについて当てはまらないのだ。 滝壺(それなら) AIM拡散力場がないというなら、なんだというのか。 それは能力が本当にない無能力者である。 しかしそうでないことはあの『空間移動』との戦い、そして自分が触れて確認している。 能力があるのに、AIM拡散力場がない。 相反する二つの特徴。 滝壺(それなら) 滝壺理后は考える。 滝壺(『幻想殺し』は能力ではない――――?) 考え、打ち消す。 超能力でないというなら、なんなのか。 彼女が学園都市――科学サイドだけでなく、もう一つのサイドについても精通していたならばこう考えただろう。 魔術、と。 魔術サイドに聖人という存在がある。 世界に二十人といない、神の子に性質が似た人のことだ。 それは超人的な力をもつが、絶対的に能力ではない。そう断言できる。 そして。 今世界に二十人と言ったが、世界に一つしかない『幻想殺し』は果たして、どれほどの意味があるのだろうか。 神様の奇跡すら殺す『右手』。 『右』という言葉自体にも特別な意味があるのだが、彼女はそれを知らない。 だから追求したい。知りたい。これの正体がなんなのか。 滝壺「……やっぱり、気になる」 上条「へ?」 ぽつり、と滝壺は漏らし、上条はそれに目ざとく反応する。 それに対して滝壺は何も慌てず、ようやく上条の手を解放した。 滝壺「かみじょうの能力がどこから来たのか」 上条「……っても、俺のこれはさっき言ったとおり生まれつきだしなぁ」 滝壺「うん。だから、調べる」 滝壺は一拍おき、蒼い空を見上げた。 滝壺「かみじょうのそれは右手に宿っているのか、かみじょうに宿っているのか」 滝壺「前者ならそれはどうして右手だけなのか」 滝壺「後者ならそれはかみじょうの『自分だけの現実』と直結しているのか、そうでないのか」 滝壺「疑問は疑問を呼ぶ。好奇心は謎を生み出す」 滝壺「私はかみじょうを知りたい。ううん、能力だけじゃなくて、かみじょう自身も。それは、さっきと何も変わってない」 滝壺「……だから、もう一度聴く」 彼女は、再び膝の上の上条を見る。 首をほんの小さく傾げて、まるで親に許しを乞う幼児のように。 滝壺「私と、付き合って欲しい」 淡々というものだから、上条はついその言葉に頷きそうになった。 いや、実際頷いても構わない。 上条自身もこの右手がどんなものなのか多少は気になっていた。今まで何もしなかったのはそうする必要性がなかったからだ。 例え『幻想殺し』があってもなくても上条当麻は上条当麻。それは記憶を失う前後で何ら変わらない彼が証明している。 だからこの申し出も必要ないといえば必要ない。 上条(――だけど) 滝壺理后。 見ていてなんだか危なっかしい少女。 上条当麻には、この申し出を断ると二度と彼女に会えなくなり、そして致命的な何かを見逃してしまうような気がした。 だから上条当麻は。 自分になんら利益にならないと知っていても。 上条「ああ、いいぞ」 それに、応えるのだった。 滝壺は僅かに顔を綻ばせる。 確実に言える。それは彼女なりの笑顔だ。 滝壺「ありがとう、かみじょう。これからよろしく」 上条「ああ、よろしくな滝壺」 ふわり、と彼らの間を風が吹き抜ける。 滝壺はくすぐったそうに、また照れたように目を瞑った。 ……彼女は、まだ知らない。 今まで興味のあることなどそれほどになかったから、知らない。 この心に小さく生えた芽が、どんな意味を持つかということに、まだ気づかない。 アレイスター「……ふむ、ようやく第一段階が終了か」 『人間』、アレイスターはほくそ笑む。 多少の遅れはあるものの、無事にその計画――いや、プランといったほうがいいだろう、プランが進み始めたからだ。 ……しかし、こうして他の人間に対して自分から命をくださねばならないということは甚だしい。 アレイスター「……『禁書目録』、か」 彼のプランにその存在というのはあまり左右されない。 だがイレギュラー分子として利用し、プランの進行を早めることはできる。 彼女は『禁書目録』、新しく創りだされた魔術でもない限りどんな魔術でも正体を看破する魔術のエキスパートだ。 アレイスター「彼女だけなら、『幻想殺し』もその正体に気がつかなかっただろうが」 それも道理。 なぜならそもそも上条は自分の能力を『超能力』であり『魔術』でないと始めから思っているから。 そこで、超能力の正体について詳しい存在が必要だったのだ。 アレイスター「『能力追跡』……彼女が証明すれば、『幻想殺し』は嫌でも正体に近づかざるを得ない」 滝壺理后と出会ったのは、ただの偶然。 だがアレイスター・クロウリーはその偶然で長い時間を掛けて完成するはずのプランを短くしてきた。 アレイスター「……『幻想殺し』の少年が記憶を失っていなければこんな苦労をせずともよかったのだろうか」 『人間』が開くのはとある夏休みの一日。とあるカエル顔の名医が務めている病室のワンシーン。 『滞空回線』……彼がこの街で物事を見逃すのはめったに無い。 だから上条当麻が記憶を失っていることも、見逃してはいない。 ……記憶を失う前の上条当麻が『幻想殺し』の正体に気づいていたのかは、今となっては不明だ。だから『人間』も憶測を投げることしか出来ない。 アレイスター「まぁ……過ぎ去ったことなどどうでもいいな」 『人間』はあっさりとそれを投げ捨て、そして考えを移行させる。 今は『禁書目録』と『能力追跡』が『幻想殺し』にどんな結果を齎すか、ということだ。 アレイスター「……さて、『幻想殺し』は一体何を証明するのか……それを見せてもらおうではないか」 アレイスター・クロウリーは微かに、笑った。
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008 人吉善吉という人間を説明するとする。 人吉瞳の一人息子で、 箱庭学園1年1組所属で、 箱庭学園第98・99代生徒会執行部庶務で、 格闘技・サバットの使い手で、 欲視力(パラサイトシーイング)の持ち主で、 並外れた服装センスの持ち主で、 「デビル」「カッ!」が口癖で、 普通(ノーマル)の人間で、 口調はぶっきらぼうで、 でも実は真面目で、 かなりの努力家で、 友情に厚くて、 実際は臆病で、 母想いの男。 たった一人の人間にも、これだけの情報がある。 だいぶ主観が入っているが、そのことを抜きにしても、一人の人間を説明するには事足りる情報量だ。 だがやはり、人吉善吉という人間を語るには、黒神めだかの存在は欠かせない。 二歳の頃から、めだかと常に一緒に過ごしてきた。 めだかに生きる意味を与え、また、めだかから傍に居る価値を与えられ。 少々歪とはいえ、二人は支え合いながら生きてきた。 そんな使い古した上に青臭い表現にも、なんら違和感がない関係。 善吉は、めだかの一番の理解者としてめだかの傍にいる。 目安箱の案件を解決するときも。 フラスコ計画を破壊するときも。 生徒会戦挙戦で決闘するときも。 そして、今このときも。 意図してか否かは関係なく。 善吉はめだかの傍に居続けるために、無謀ともいえる闘いに挑む。 009 絶対に倒す。 ただそれだけの思いを胸に、俺は眼帯野郎と対峙していた。 「うおおおおおっ!」 試合開始のゴングも待たずに、俺は眼帯野郎に向かって駆けだした。 先手必勝、攻撃は最大の防御だ。 一気に距離を詰めて、間合いを測ることもせずに踏み込む。 「おらぁっ!」 先制の一撃は、首を狙った蹴り。 だが、それは眼帯野郎が少し体を逸らしただけで、いとも容易く避けられた。 俺の右脚が風を切る音だけが、空しく聞こえた。 歯をむき出して笑った顔が見える。 脚を戻し、体勢を整えてから舌打ち。 こうも当然のように回避されるとは予想外だ。 実力差ってやつを見せつけられたようで気分が悪い。 鍛練は人並みに積んでいるつもりだが、どうやらまだ足らないらしい。 「おらあっ!」 勿論、先制攻撃を外したからといって諦めはしない。 眼帯野郎は、まだ蹴りが届く間合いにいる。 脚を素早く切り替えて、左脚でハイキック。 そこから続けざまに五本。 左右交互に、全て人に当たれば脳震盪を起こせるくらいの威力で蹴りを見舞う。 だが、しかし。 「へっ」 俺の蹴りは、一撃たりとも、掠りもしなかった。 如何に強力な攻撃だったとしても、当たらなければどうということはない。 そう言いたげな、眼帯野郎の余裕な表情が視界に入る。 「く……」 焦燥感が俺を支配する。 少女の前であれだけカッコつけておいて、傷一つ付けられないのか。 そんな囁きが、どこかから聞こえた気がした。 「くそっ!」 俺は次の手を考えるよりも速く、眼帯野郎へと足を繰り出した。 馬鹿正直に連撃したところで、全て避けられる。 ならどうする。 俺が考えたのは、月並みで申し訳ないがフェイントだ。 眼帯野郎の立っている位置と体勢から、攻撃が可能な箇所を探す。 そして先程と変わらない強力な蹴り――と見せかけて、身体を横にずらす。 見定めておいた、刀の防御が追いつかないであろう背中の一点に、蹴りを叩き込んだ――。 「がっ……は!」 ――刹那の後。 肺が圧迫される感覚と同時に、俺は数メートルほど地面を転がっていた。 二転三転どころか七転八倒だ。 なんて、詰まらないボケをかましている余裕もない。 土が擦れる音で、眼帯野郎が近付いてきたと分かった。 「猛襲が通じねえなら奇襲。状況に応じて戦い方を変えるのは初歩の初歩だ。 上手くできてるとは思うが――それだけじゃあ俺は倒せねえ」 そうして、俺を見下ろしながら指南めいたものを垂れた。 ご丁寧にどうも、と言いたいところだったが、胸の痛みがそれを拒否した。 ただ、黙って殺されるわけにはいかない。 俺はまだ満足に呼吸のできない身体を無理やり立ち上がらせると、落ち着くために呼吸を整えた。 ふと気づくと、手の平に汗が滲んでいた。動揺の表れだ。 「……読まれたってのかよ……」 口に出して確認するまでもなく、俺の攻撃は相手に予測されていたらしい。 蹴りが眼帯野郎に当たるか当たらないか、その一瞬の間に、俺は眼帯野郎に刀の柄で一撃を貰ったというわけだ。 初めて闘った相手に、フェイントを見破られた。 とても信じられないし、信じたくもなかったが、胸の痛みが証拠となっている。 「へっへっ……」 笑う眼帯野郎を見ると、手にした刀を未だに構えていない。 あからさまに舐められている。 「どうした?まだ終わりじゃあねえだろう?」 その眼帯野郎が、ふてぶてしい声で話しかけてきた。 闘いを催促するかのように、持ち前の鋭い眼光で俺を射竦めた。 そのとき俺は、自分の脚が、身体が、震えていることに気付いた。 それは肉体の痛みから来る震えではない――認めたくはないが、眼帯野郎の強さに怯えているということだろう。 まるで伝説上の鬼か、悪魔か、死神か、と思うくらいに。 鬼にも悪魔にも、もちろん死神にも出遭ったことはないけどな。 「カッ……俺は確かに普段からデビルとか好んで言ってはいるが、本物に会いたいとかそういう願望はないぜ」 俺は、目の前の眼帯野郎への絶望感と、自嘲を含めて呟いた。 実際問題、この眼帯野郎の戦闘力は、めだかちゃんにも引けを取らないかもしれない。 めだかちゃんレベルの相手を、俺がどうこうできるとは思えない。 それが今の俺の、正直な気持ちだった。 「おいおい、まだ始まったばかりだろうが」 そんな俺の弱気な心を読んだかのように、眼帯野郎が乱暴に言い放った。 低くドスの利いた、かつ僅かに落胆を含んだ声。 笑顔は消えて、鋭い眼光が残る。 俺には眼帯野郎が、失望させるなよ、と暗に言っている気がした。 「言われなくても、っ!」 身体の痛みを振り切るように、俺は叫んだ。 血と泥で汚れた制服の上着を脱いで、後ろに放り投げる。 シャツ一枚の姿になった俺は、ズボンのポケットをまさぐった。 「……ああ?」 眼帯野郎が怪訝な顔つきをするが、構ってはいられない。 ポケットから取り出した小瓶を開けて、錠剤を取り出す。 『死ぬ気丸』。 俺のランダム支給品として入っていたそれは、文字通り、死ぬ気になれる薬らしい。 仕組みはよく分からないが、使うべきなのは今だと確信していた。 「なにしてる、人吉!敵が目の前にいるんだぞ!?」 後ろから坂上先輩の声がした。 だが、目の前にいる眼帯野郎は、先程から微塵も動いていない。 油断しているのか、余裕で構えているのか。 なんにせよ、薬を使うチャンスは――死ぬ気で闘うべきなのは――今だ。 そう考えた俺は、錠剤を一粒、口に含んだ。 010 調子が良い。 最初に抱いた感想はそれだった。 次に抱いたのは、頭が熱い、という小学生並みの感想だ。 額に掌を近付けると、炎らしきものの揺らめきが感じられた。 それは直接触っても熱くはなかった。 本当に熱いのは――そう、心の中に熱く燃え盛る炎。 死ぬ気の炎という未知の領域に踏み込んだ俺は、けれど困惑することなく、再び眼帯野郎に向かって行った。 さっきよりも速さと威力の増した蹴りを、眼帯野郎の胴に叩き込む。 その瞬間、眼帯野郎は「ぐうっ」と呻いた。 綺麗に蹴りが入った。この戦闘が始まって初めて。 そう思うと、高揚せずにはいられなかった。 この機を逃すわけはない。 頭へ、腰へ、再び胴へ。 俺は立て続けに蹴りを入れた。 全てがジャストミートした感触を得たとき、俺は思った。 倒せるのではないかと。 勝てるのではないかと。 眼帯野郎を打ち破る、一筋の光明が見えた気がした。 ――しかし。 ――現実は甘くない。 ――死ぬ気の炎も、圧倒的な実力差の前には、大した意味を為さない。 「が、はっ……」 数分後、片膝を着いていたのは俺だった。 眼帯野郎への蹴りは、入ることは入る。 だが、そこからのカウンターの一撃の重さが、俺の蹴りの比ではない。 一撃を決めたところで、更に強い一撃で返されるのでは、どちらが先に力尽きるかは明白だ。 それに、眼帯野郎は、何故か刀で斬るという動作をしてこない。 攻撃方法は柄で撲る、刀の峰で打つなどに限定している。 何故かと考えれば、それは実力差があるからに他ならない。 俺は未だに、眼帯野郎に舐められているのだ。 (――足りないっていうのか) 死ぬ気で挑んでも、勝ちが見えない。 俺は再び、絶望感に押し潰されていた。 精神的な面か、肉体的な面か。どちらかは分からないが、もう、立つことも難しい。 いつの間にか熱さを失った身体は、すっかり重くなっていた。 (もう、駄目、なのか……?) 「……終わりか」 顔を上げることができない俺に、眼帯野郎はそう言った。 その声に含まれた明らかな失望も、今の俺にはなんの効果もなかった。 反駁する気力もない。 ――死ぬ気の炎は、目的を果たしていない場合、五分で消失する。 ――そして、このとき、死ぬ気丸の効果は切れていた。 ――そうとも知らずに意気消沈する善吉に、悪鬼はゆっくりと近づき、刀を大上段に振り上げる。 ――死神の鎌よろしく、命を奪わんとする鋭い刃。 ――しかし、その手は振り下ろされずに止まった。 011 「待てっ!タイムだ、タイム!」 「……ああん?」 割り込んできた声。それは相沢のものだった。 俺が顔を上げると、相沢は俺と眼帯野郎の間に身体を割り込ませていた。 その身体は僅かだが震えており、相沢が必死であることが分かった。 「これからこの人吉善吉が、もっと強くなって、お前を倒す。だけどそれには準備が要る。だから時間をくれ」 「……五分だ」 「せめて五分くらい――って、は?」 「さっさとしろ。俺の興が醒める前にな」 相沢の説得に対して、横柄な態度でそう言ってから、眼帯野郎は俺と相沢に背を向けた。 それを確認した相沢は、悪鬼があまりに簡単に刀を収めたことに拍子抜けしたような顔をしていた。 だが、すぐさま我に返ったように真顔になると、即座に俺の胸倉を掴んだ。 そして一瞬の後、力任せに殴った。 ひどく痛かった。 どうやら口の中が切れたらしく、血の味がした。 「お前、あれだけ大見得切っておいて諦めちまうのか?」 「……だけど、そう言ったってよ……奴には敵う気がしない」 掛けられた言葉は、予想していたものだった。 俺は予定調和のように、弱気な心を曝け出す。 先程の闘いは、圧倒的な実力差は、死ぬ気になろうと埋められない、と教えられたようなものだ。 ――お前じゃ俺には勝てない――そう言われただけだった。 今さらどう励まされたところで、この実力差は埋められないのだ。 だが、次の相沢の言葉に、俺は顔を上げた。 「確かに俺は、お前のことをよくは知らない。 でもな、お前がここで挫けるような奴には見えないんだ」 沈み切っていた俺は、相沢のまっすぐな瞳に、言葉を失った。 まったく予想外の方面からの発破だった。 「俺自身、満足に戦えないから、こんなことを言うのは筋違いというか、完全に第三者としての言葉になっちまう」 そういえば、相沢自身、肉体的にも精神的にも、余裕があるわけではないはずだ。 だというのに、身の危険を冒して、俺を立ち直らせようとしてくれている。 真摯な眼差しを向けてくれている。 何故だろうか。 「けど、お前は女の子を守るために立ち上がれるようなやつだ! 一度立ち上がったんだ、そう簡単に諦めるのは……なんかこう、違うだろ!」 答えは単純だった。 相沢も、俺と同じ思いなのだ。 もしかしたら、それ以上に、俺と相沢は似ているのかもしれない。 眼帯野郎が女の子を襲おうとしたときも、俺が庇わなければ、相沢が庇っていたに違いない。 きっと相沢も、俺と同じで困っている人は条件反射で助けてしまう、そんな人間なんだ。 少しの親近感を覚えて、同時にあることに気付くことができた。 「そうだな、大事なのは彼我の実力差うんぬんじゃない」 それ以前の問題だった。 「思い出したよ、俺のすべきことを」 如何な内容でも。 如何な条件でも。 如何な困難でも。 如何な理不尽でも。 「全てを享受する、それが、箱庭学園生徒会執行部だ」 そしてそれが、俺の大事な居場所だ。 今の今まで忘れていたことを、相沢のお陰で思い出せた。 自分の中にある原点に、立ち返ったようなものだ。 そうだ、俺は負けるわけにはいかない。 どんなに強大な敵でも、必ず打ち破るのだ。 思いを再確認することで、心に立ち込めていた絶望感は晴れてきた。 「……大丈夫みたいだな」 「ん、何がだ?」 「人吉、お前の瞳はまだ死んでない」 正直この言い回しはいささかクサいように思えた。 喜界島あたりが聞いたら、ドン引きだろうな。 でも、俺は口角が吊り上がることを抑えられなかった。 そして、ニヤリとした表情のまま言った。 「……その台詞、デビルかっけえな」 相沢は少し不思議そうな顔をして、無視して話を続けた。 抱えていたデイパックから、装飾のされた靴と、その説明書を取り出して俺に手渡す。 「モーセの奇跡」と銘打たれたこの武器は、どうやら攻撃力やクリティカル率が上がるらしい。なんのこっちゃ。 わけが分からないと思いつつ、俺の履いていた靴よりは強そうだとも思った。 「これを履け。俺の支給品だが、足が武器のお前が使った方がいい」 「小さくないか?これ」 少し笑って「俺に文句を言うのは筋違いだ」と言う相沢。 俺もつられて、口もとが緩んだ。 そろそろ、五分が経つだろう。 靴を履きかえた俺は、膝に手を着いて、ゆっくりと立ち上がった。 そして、再び死ぬ気丸を口に含む。 「……じゃあ、行ってくる」 身体が熱くなるのを、冷えた頭で認識しながら、俺は相沢にそう言った。 ついでに、邪魔になると思ったから、死ぬ気丸の入った瓶を渡しておく。 受け取った相沢は、俺にゲンコツを向けた。 俺もゲンコツを作り、それに応じる。 すると少し笑って、相沢は言った。 「行って来い」 そのまま、坂上先輩の方へと戻っていく相沢。 俺が意識を入れ替えて前を向くと、悪鬼がゆっくりと振り向いた。 そのいかつい顔には、待っていたぞと言わんばかりに、満面の笑みを湛えている。 俺は、ふっと息を吐いて、覚悟を決めた。 覚悟を言葉に、強く刻み込むように宣言する。 「俺はっ!お前に勝つ!!」 012 「うっ……」 宣言した直後に、死ぬ気丸の効果が現れる。 身体が芯から熱くなるような感覚。 心の底から湧き上がる、ある強い気持ち。 それは、ついさっき薬を飲んだときよりも、なお強くなっていた。 戦いに挑む覚悟が、今度こそ完了したからだろう。 「見える」 目を閉じる。感覚が最大まで研ぎ澄まされているのを感じる。 鮮明に見えるのは、たくさんの顔。 阿久根先輩の不敵な笑みが。 喜界島の心配そうにする顔が。 不知火の無邪気で残酷な笑顔が。 「俺は……」 見えてくる。 宗像の無表情に応援してくる顔が。 名瀬師匠の心底呆れたような顔が。 江迎の人を殺してしまいそうな顔が。 真黒さんの落ち着き払った優しい顔が。 「俺は、いろんな人に支えられていた……」 更に目を凝らす。 日向の顔が、鍋島先輩の顔が、雲仙先輩の顔が、母さんの顔が。 都城王土の顔が、日之影先輩の顔が、安心院さんの顔が。 俺が箱庭学園で関わって来た、およそ考えうる限り全員の姿が。 みんなが俺を見ている姿が、見える。 ここで死ねば、俺は必ず後悔する。 「失いたくない……!」 そして、めだかちゃんの凛とした立ち姿が、はっきりと見えた。 めだかちゃんは、俺を見てはいない。 ただ、何も心配をすることはないとでも言うように、どっしりと構えている。 その姿に、何故だか俺は安心した。 ゆっくりと、目を開ける。 目の前にあるのは、死神の姿。 俺は、圧倒的な強さを持つそいつに言い放つ。 「俺は、死ぬ気でお前を倒す!! 倒さなきゃ……死んでも死にきれねえっ!!!」 後悔を力に変える。 それが、死ぬ気の力――これが、死ぬ気の炎。 「生徒会を執行するぜ!」 これが、俺の居場所――そして、俺の誇り。 013 唐突ですが、再び撫子視点で進みます。 「な……?」 「……へっ」 ポタポタと、地面を緋色に染める鮮血。 それは、悪鬼のものであり、人吉さんのものでした。 二人が血を流している一番の原因は、言うまでもなく撫子です。 撫子がしたことは単純明快です。 持っていた武器、すごい長さに伸びる神鎗という刀を、伸ばしただけのことなのです。 撫子が最初に悪鬼を見たときにしたのと、同じことをしただけです。 違うのは、故意にやったか否か。 意図してやったか否か。 意識してやったか否か。 もっと言えば、殺意があったか否かです。 「な……」 人吉さんが、ゆっくりと後ろを振り向きます。 苦悶の表情を浮かべており、口の端からは血がたらたらと流れ出ています。 撫子が刺したことに気付いた人吉さんは、目を見開いて、すぐに力が抜けたような顔になりました。 それは少し寂しそうにも見えました。 人吉さんの寂しそうな顔を見るのは些か心が痛みます。 しかし、撫子が人吉さんを刺すことになった原因は、人吉さんの言葉です。 “――俺がアイツを倒すから、心配するな――” こんな優しい言葉をかけてくれる人は、暦お兄ちゃんの他にはいませんでした。 自分の体を、命を張って、年下の少女を守ってくれる存在など、暦お兄ちゃんの他にはいませんでした。 完全無欠でパーフェクト、文句の付けようのない完璧人間であるところの暦お兄ちゃんの他にはいませんでした。 いえ、いてはいけないのです。 人吉さんのことを暦お兄ちゃんに似ていると、わずかでも感じてしまった撫子を消し去りたいです。 でもそれは自殺なので、そんなことをしたら暦お兄ちゃんは悲しむでしょうし、怒りもするでしょう。 それよりなにより、撫子が暦お兄ちゃんに会うことができなくなってしまいます。 だから、認めるわけにはいかないのです。 人吉さんは少しも暦お兄ちゃんに似ていません。 決して、絶対に、似ていません。 それを確定事項にするために、人吉さんには死んでもらうしかありませんでした。 人吉さんを殺し、人吉さんのことを暦お兄ちゃんに似ていると感じた、という事実を消してしまえばいいのです。 我ながら完璧なアイデアだと思います。 「はは、っ……デビル、かっこ、わりー……」 人吉さんは、両膝を地面につけると、そう独白しました。 そしてそのまま、力なく前のめりに倒れていきます。 死ぬときは前のめり。立派な男ですね。 もちろん、暦お兄ちゃんには遠く及びませんよ。 【人吉善吉@めだかボックス 死亡】 これでオッケー。 もう撫子が人吉さんのことを暦お兄ちゃんに似ているなどと考えることはなくなりました。 一件落着、いえ、まだでしたね。 「人吉いぃぃぃぃぃぃ!!!!!」 男の人の叫び声が聞こえましたが、無視します。 もっと面倒な悪鬼が、人吉さんの後ろに控えているのですから。 「ははははは!これだから殺し合いはおもしれえんだ……!」 悪鬼は、ふらつきながらも倒れることなく笑っています。 やっぱり怖いです。狂気の沙汰としか思えません。殺しておきましょう。 暦お兄ちゃんが殺されでもしたら困りますからね。 心臓を狙って伸ばした刀は、狙いは外れました。 ですが、撫子が最初に悪鬼に刀を刺したときとは比べ物にならない量の血が出ています。 独特な模様の羽織は、赤くない箇所の方が少なくなっています。 心臓ではなくとも、うまく内臓を突き刺せたのかもしれません。 現に、悪鬼の動きはかなり鈍くなっています。 鈍重です。それはもう、牧場の牛さんかと思うくらいに。 それでもなお、刀を振りかざそうとする悪鬼に、撫子は再び刀を刺しました。 一回では不安だったので、もう一度。 出血量は凄いけど、でもやっぱり不安なのでもう一度。 手ごたえが今までと違って、かなり重たかったけど、念のためもう一度。 もう一度。 もう一度。もう一度。 もう一度。もう一度。もう一度。 もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。 もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。 もういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちど。 【更木剣八@BLEACH 死亡】 「ふう……」 今度こそ、悪鬼は動かなくなりました。立ち往生です。 確実に死んだでしょう。 なんといっても、余すところなく、全身くまなく刺されたのですから。 まだ原型を留めているのが、不思議なくらいです。 まあ死んだからいいんですけど。 結果オーライというやつです。 さてと。 はた、と後ろを振り向くと、ぽかんと口を開ける男女がいました。 まるで自分たちの目にしたことが、夢であるかのような表情です。 撫子は、そんな二人を尻目に、血の付いた刀を持って、走り出しました。 たたたた、と。小走りで。 返り血を浴びない武器でよかった、なんて、他愛ないことを考えながら。 014 凶暴な悪鬼と勇敢な青年は、横槍によって死にました。 そんなことに関係なく、撫子の物語はまだまだ続きます。 ただ進むのではなく、加速していきます。 そんな中で、撫子はどう行動したらいいのでしょうか。 混乱した状況。 どこともわからぬ森の中に一人。 まずはこの状況において撫子がどう動くか、それを決めないといけません。 可能性は無限大――クチナワさんの言ったとおりです。 物語はあらゆる可能性を秘めています。 ヒーロー参上勧善懲悪の熱血王道展開にも。 主催者登場謎が謎呼ぶミステリー展開にも。 血みどろドロドロ残酷描写のグロ展開にも。 行動ひとつで、どんな展開にも成り得ます。 でも、やっぱり。 純真無垢な少女が望むのは、ベタなラブストーリーです。 結局のところ撫子は、すぐにでも暦お兄ちゃんと会いたいのです。 撫子を心配して、かけつけてきた暦お兄ちゃんに、これでもかと抱き着く。 そんな展開に、物語を傾けていくためにも。 『ごめんなさいね参加者の皆さん。改めて進行役の郷田真弓です。』 なにやら臨時の放送があるようです。 良い契機になるかもしれませんね。 ゆっくりと息を吐いて、体内の血液を循環させて、呼吸を整えます。 さあ、それではいきましょう。 しんどいけれど、やるしかないのですから。 運命を決める、と言っては大袈裟ですかね? なにはともあれ、シンキングタイム、スタート。 【E-4 森/午前(番外放送直後)】 【千石撫子@物語シリーズ】 【装備:神鎗@BLEACH】 【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2】 【状態:疲労(小)、精神的疲労(大)】 【思考・行動】 0:しんどいけど、どうしようか考える。 1:クチナワさんの体を探す。 2:暦お兄ちゃんは死んでほしくない。 【備考】 ※囮物語の暦の家で寝泊まりした直後からの参戦です。 ※彼女は右腕にある白いシュシュをクチナワという神になっているという妄想に取り憑かれています。 しかし、人前ではこの妄想は発生しません。 ※クチナワの体は蛇のお札で、撫子がお札を食べてしまうと神様になり同時に怪異になります。 【坂上智代@CLANNAD】 【装備:薙刀@現実】 【所持品:支給品一式、巨大な十字架@物語シリーズ、タマ@ハヤテのごとく!、ランダム支給品×1】 【状態:健康、呆然自失】 【思考・行動】 0:……。 1:朋也たちと合流 2:ゲームをぶっ壊す 【備考】 ※智代ルート、卒業式直前からの参戦です 【相沢祐一@Kanon】 【装備:木刀正宗@ハヤテのごとく!、死ぬ気丸×8@家庭教師ヒットマンREBORN!】 【所持品:支給品一式×2、レインボーパン@CLANNAD、ランダム支給品×2】 【状態:疲労(大)、傷(大)、呆然自失】 【思考・行動】 0:……。 1:智代さんと協力する 2:殺し合うつもりはなく主催者に怒りを感じている。 3:音無と仲間を探す。 4:佐々木小次郎を屈伏させたい。 【備考】 ※舞ルート確定直前からの参戦。 【備考】 ※モーセの奇跡@ペルソナ4は、人吉善吉の遺体に装備されています。 ※人吉善吉の所持品は、相沢祐一が回収しました。 ※更木剣八のデイパック、10年後山本武の刀@家庭教師ヒットマンREBORN!は付近に落ちています。 ※ちょうど番外放送が始まりました。 【死ぬ気丸×10@家庭教師ヒットマンREBORN!】 服用することで死ぬ気モードになれる錠剤。 超(ハイパー)死ぬ気モードになるには二錠服用する必要がある。 作中ではバジルが最初に使用し、その後沢田綱吉も使用している。 人吉善吉に支給。 【モーセの奇跡@ペルソナ4】 里中千枝専用の最強の装備武器。ゲーム中ではクリティカル率が大幅に上がる。 女子の装備なのでサイズは男子には小さめ。相沢祐一に支給。 099 ある日 森の中 球磨川さんに出会った 時系列 101 零れたカケラ達 109 acceleration 投下順 111 [[]] 087 撫子の唄 坂上智代 [[]] 人吉善吉 DEAD END 更木剣八 DEAD END 相沢祐一 [[]] 千石撫子 [[]]
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「――報告は、以上です」 直立不動の姿勢で、メイリン=ザラは上官ゲルハルト=ライヒに報告する。 報告した内容はドーベルマンの造反について、だ。 ……しかし、メイリンの予想に反してライヒは眉一つ動かさず、淡々とメイリンに言う。 「予想の範囲内だ。――放っておけ」 これにはメイリンの方が眉を潜めた。 「しかし、それでは規律が保たれません。脱走、軍の私有財産を個人用途で使うなど、言語道断な事です。それを……」 ライヒは先程からずっと、窓の外を眺めている。 庭の風景は情緒溢れていて、見る者の心を和ませるものであったが――ライヒの目にはその様なものは映っていない。 ライヒに見えているものは遠い昔の事でもあり、又は世界の果てで今正に戦いを挑もうとしている者達の顔だった。 しかし、ライヒは目を閉じると――その思惟を振り払う。 「罰する必要も無い。……これは、そういう事だ」 「……仰る意味が解りかねます。一体……」 メイリンの言葉は、正しい。普通の事態であれば。 「『奴等は利用出来る様な存在では無い――』。以前、私が“彼”に言い聞かせた事だ。……その通りだ。アレは――奴等は、人の思惑でどうにかなる存在では無い。その様なもので無ければ、私がこれ程恐れず、また現世はこの様な状況にもなっては居まい。それ故に、彼等への懲罰は必要無い。……君も、知っておくと良いだろう。今回の結末が、どの様になるのかを、な」 ライヒはただ、窓の外を見続ける。 その様にメイリンは何も言う事は出来ず、ただ敬礼して部屋を後にした。 雲一つ無い青空――そして世界は白銀に輝く雪景色。 その中で、雪が多くは降らない場所――高台や水源地帯の近くは多く降る――を選び、ダストは地上最速のローラーダッシュモードでひたすらに疾駆する。 レーダーの監視をAIレイに半ば任せ、ダストを操るシンはモニタに映る世界をじっと見渡していた。 別に興味があるからでは無い、何処から襲われるか解らないこの状況下での生き残る術だ。 《――敵と思われる襲撃者の手口は、徹底している様で徹底していない。生き残りがリヴァイヴまで駆け込めたのもその為だろう。……様々な角度から事態を検証すれば、相手の目的が何かは判断出来る。『我々リヴァイヴの誘き出し』だろう。》 淡々とレイ。 その言い様に、シンはついカッとする思いをぶつけてしまいそうになる。 「俺達をおびき出す為だけに、毎日細々と生きてる村人達を襲ったって言うのか!?」 《手口としては、アリーの街と同じだ。テロリストを潰すには、その支援先を潰せば良い。我々“テロリストグループ”を退治する為だけならば、有用な策と言えるだろう》 「……汚いやり口だ……」 吐き捨てるシンとは対照的に、レイは淡々と言う。 《それが戦争、という事だろう。『最も優秀な軍人とは、敵を多く殺した者』――他に道理は無い。結果的に相手を倒し、平和を呼び込めれば良い。それは、ピースガーディアンにも代表される奴等の変わらないやり口だ》 「…………」 シンとて、様々な戦場を渡り歩き、様々な経験を積んだ人間だ。 だからこそ、レイの言う事も良く解る。 解るのだが――納得出来ない事もある。 人が人を非道だと感じる時。 それは、己の財産を、世界を破壊された時だ。 そういう点で考えれば、どちらにも非が有るのが戦争だ。 相互の違いは、たった一つだけだ――隣人を知る者と、知らぬ者。 それはそのまま“敵か味方か”という事である。 シンが彼等を批判するのは筋が通っては居る。 だが、シン達とても批判されるだけの事はしている。 ……だからこそ、連鎖が起こる――憎しみの連鎖が。 (俺はそれを止めたい――なのに!) そう思うのは、偽善だとは思う。 だが、紛れも無く己の意志であろうと思える。 ……それが、我が儘の様な思いであったとしても。 そんなシンの様子を敏感に察したのか。 《シン、今は余計な事を考えるな。――眼前の事に集中しろ》 レイの言葉に、シンは「ああ、その通りだ」と頷く。 既にナスル村へはかなり近づいている――それはレイの懸念通りなら“そろそろ罠が始まる”頃合いだ。 シンは、武者震いに震える体を、奥歯をしっかりと噛み締める事で鎮めていた。 そんなダストの姿は、既にマーズに発見されていた。 「命知らずも良い所だぜ。たった一機でやって来るとは……」 マーズが我知らず呟く。 ダストのローラーダッシュで生み出される雪の軌跡は、遠くからでも良く視認出来た。 最大望遠をかけると、ダストというMSはしっかりと確認出来る。 そうして見ると、とてもドーベルマンをあそこまで狂気に奔らせたMSとは思えない程、ごく普通のMSでしかない。 確かにあちこち改造されていて、かなりの特性を持ったMSなのだろうが、最新鋭機のドム=クルセイダーに及ぶとはとても思えない。 データを照合し、比較するが性能差は歴然だった。 (楽な仕事だな) だが、マーズは直ぐにその考えを振り払う。 (……いや、油断は禁物だ。アイツを倒すのが俺達の仕事――ならば、完全に遂行するのが軍人ってモンだ……) それはヒルダの教え。 マーズにとって絶対の指標であり、理想の軍人である人の。幾つか年下であるはずのヒルダは、マーズにとっては得難い先達そのものであった。 マーズはヒルダに連絡を取る。 ――“ドム=クルセイダーズ”を集結させる為に。 「――大尉達がまだ街に到着してないってどういう事よ!!」 リヴァイヴ基地の食堂。 室内に響くコニールの怒声が、彼女よりも大きな大人達を震え上がらせる。 伊達に子供の頃からゲリラに身を投じていた訳では無い――下手な大人達より余程頭の回転も速く弁も達者な彼女は、紛れも無くゲリラ集団のリーダーシップを発揮出来る人材の一人であった。 「いや、その……連絡が取れませんで……」 コニールに怒鳴りつけられた髭面の男は、しどろもどろになりながら言う。 怒鳴られているのは彼のせいでは無い――しかし、眼前の耳まで真っ赤にして憤激しているコニールを見れば、何とか矛を収めて欲しいのは人情である。 とはいえ、次の台詞は彼のミスであろう。 ……火薬庫に爆弾を仕掛けて爆発させた様なものだ。 「おそらくは、街の途中にある歓楽街で疲れを癒してるんだろうと……。男のサガですし……」 その台詞の意味する所は、要するにこういう事だ――“皆は色町に繰り出しました”と。 それは全くこの時期の定例行事に他ならず、責められる事では無いだろうが、時と場合が悪すぎた。 しかも最後の一言がコニールの理性に止めを刺さした。 何処かからぶちっと云う音がして――そういう風にその部屋に居た男達には感じられた。 そして、誰かが何か言うよりも早く―― 「こぉの……大ボケ共ぉぉぉ!!」 ごすっ! コニールが手に持っていたマグカップが、必殺の破壊力を伴って男の額に吸い込まれる。 「ごふぁ!」 一瞬の硬直の後、垂直に崩落する髭面の男。 ……哀れではある。 「すげえ、マグカップで脳震盪かよ……」 「余計な一言を……。アイツも馬鹿だな……」 口々に、その様に戦慄するゲリラ達。 しかし、コニールの怒りが収まらずに彼等をきっと見据えると、慌てて敬礼すると「とにかく連絡を続行します!」とか言って退出しようとする。 ……要するに適当な理由で逃げようとしているのである。 しかし、コニールとてそんな事は百も承知である。 「アンタ達、今すぐ大尉達を連れて来な!……連絡が取れないならとっととその足で行って来れば良いでしょうが!!」 火を噴くかの様なコニールの怒声が、部屋中にびりびりと響き渡る。 「りょ、了解であります!」 慌てて男達は先を争う様にそそくさと部屋を出て行く。 ――『二の舞は御免だ』という事だろう。 とはいうものの、仮に大尉達に連絡が取れたとしても、MSが分解整備でもしていたらまず出動は無理だろう。 仮に出られたとしても一体どれぐらい時間がかかるのか。 それぐらいコニールにも分かる。 苛立たしげに爪を噛むが、どうしようもない。 だが、そのの苛立たしい時間もそうは経たなかった。 出て行った男達とすれ違いにあわただしく仮面のリーダー、ロマ=ギリアムが食堂に入ってくる。 彼は急ぎコニールに告げた。 「コニール。今から僕のいう所に行ってくれないか。連絡を取って支援を求める」 「リーダー!戦力のアテがあるんですか!?」 「ああ、ちょっと想定外だったけどね。でも予定通りなら"彼ら"が近くにいるはずだ。僕はこれからすぐに緊急の暗号電文を打つ。だからコニールは今からすぐ"彼ら"のところに飛んで欲しい」 「"彼ら"って……あっ!」 その言葉にコニールはすっかり忘れていたものを思い出した。 これから果たすはずだった自分の任務とも関係している"彼ら"のことを。 「ねー隊長。さっきから通信が入り乱れてて、上手く通話出来ないよ?」 コーカサス州の南部山岳地帯に近い森林地帯に、地上戦観スレイプニールはいた。 しかしブリッジは慌しい様相を見せていた。 CICに設えた通信設備でユーコ、リュシー、シホの三名や他の通信士も、リヴァイヴと連絡を取るべく先程から懸命に作業を行っている。 地上戦艦スレイプニールは既にリヴァイヴのテリトリーまで到着しており、ここから先はリヴァイヴのメンバーしか知らない地下洞穴を通って、基地まで行く事になる。 彼らは裏のツテを使って事前にリヴァイブと打ち合わせをし、ようやくここまで来た。 あとは案内人が来るのを待つばかりで、全て予定通り――と思ったが、どうも様子がおかしい。 確認を取ろうにも向こうはひどく混乱していて、シホ達にはどうにも現状がつかめない。 「……どうにも“通話している”というより“騒いでいるだけ”に聞こえるんですが……どうなさったのでしょうね?」 「あっちはそれ程混乱してるの? おかしいわね、事前の情報では冬の間は特に動かない筈なのに……」 リュシーとシホが愚痴の様な感想を漏らす。 「困ったわね、ここで何時までも立ち往生している訳にはいかないし……」 シホが視界を巡らす。 CICのモニタ――艦内カメラによって映し出される映像に、例によって騒ぎを起こしているジェスとラドルの姿が映っていた。 『だから俺は、色々見せてくれって言ってるだけだろ?』 『……君は軍艦に乗り込んでいる、という意味と理屈が解っているのかね!? 確かに有る程度の艦内での行動は許したがそこら辺のクルーに情報収集しまくるのはどういう事か!?』 『いや、フツーに話をしているだけじゃないか。インタビューだよ、インタビュー』 『それがいかんのだ、それが!!』 CICには丸聞こえの怒鳴り声――もはや聞き慣れてしまったBGM。 「あれ、絶対ラドル司令楽しんでるよね?」 「怒る事が生き甲斐、という方もいらっしゃいますわ。ジェス様は叱りがいの有る方なのでしょうね」 「…………」 何処も彼処も騒ぎばかり。 シホは何処から手を付けたら良いか解らず、頭を抱えた……。 その時、通信士が重大な状況の転換を告げる。 「たった今、リヴァイヴから緊急の暗号電文が入ってきました」 ――ダスト発見。 その報は直ちにドーベルマンにも届けられた。 彼は、ゼクゥドゥヴァーのコクピットルームのハッチを開けたまま、外の風景に見入る。 しかし、彼の見ているのは風景などでは無い――何処か焦点の合わないその眼差しは、何を見ているのか。 ドーベルマンは残り少なくなった葉巻をシガーケースから取り出すと、普段通り咬みちぎり、火を灯す。カチンというジッポーの音が辺りに響き渡ると、深呼吸するかの様に葉巻を吸う。 吐息と共に白煙が吐き出されると、ドーベルマンはその白煙の軌跡に見入っている様であった。 「…………」 何も思わない――何も思えない――ただ、任務の為に。 それはドーベルマンという人間のスタイルであり、理想だ。 そうであるからこそドーベルマンはどれ程非道の任務であろうと淡々と遂行出来る。 ……とはいえ、そこに葛藤が無いのかと問われれば、『無い』とは言えないのも人の性だろう。 葉巻を吸い、吐く――それは言い表せない心の内。 しかし、そうやってドーベルマンはここまで生きてきた。 ……そして、これからも。 何度目かの呼吸の後、ドーベルマンはニヤリと笑っていた。 卑下するでも無い、嘲笑うでも無い、ただ――口の端を歪めて。 「“猟犬”は獲物を巣穴から追い出すのが仕事――狩るのは“猟師”の仕事だ。俺は、高見の見物と洒落込ませて貰うか……」 コクピットのハッチが閉じられる。 そして、一個の“猟犬”と化したゼクゥドゥヴァーは動き出す――ダストと、そして彼の呼び出した三匹の獣達の死闘に呼び寄せられる様に。 雪に光の槍が突き刺さり、爆音が上がる。 ――それは唐突な、しかしその場に居る者達にとっては今か今かと待ちわびた“戦闘開始”の号砲であった。 ダストがその初撃を避けられたのは僥倖と言って良いだろう。 ……如何にシンが全周囲警戒を行っていたとしても、ただ一人での哨戒である。 漏れは出るし、何より疲労が蓄積されていく。 その中できっちりと敵の姿を見極め、初撃を回避して見せたダストは、相手側にシンというパイロットの恐ろしさを見せつける事となった。 ――しかし。 「行くよ、アンタ達!」 ヒルダの声に、恐れは無い。 怯みかけたマーズ、ヘルベルトを叱咤する様にヒルダは鬨の声を上げながら――ダストに突っ込んで行く! (元より、奇襲で片が付くとは思っちゃ居ない!) それは紛れも無い、ヒルダの本心である。 ドーベルマンが恐れ、そしてヒルダ達をも呼び出した“理由”――それが脆弱で有る訳が無い。 「オオオオオッ!」 咆哮――それがヒルダの口から迸る! それは、魔法の言葉。マーズとヘルベルトを牽引しうる――。 「よぉっし! 続くぞ、ヘル!」 「抜かるなよ、マーズ!」 その二人の声を聞き、ヒルダは「フン……」とほくそ笑むと、こう宣言した――。 「まずは様子見だ……。“ジェットストリームアタック”、行くよ!」 ドム=クルセイダーから立て続けに砲火が閃く。 それをシンは、ダストを右に左に忙しなく動かすことで回避する。 視認した敵は三機――それ以外に敵影が無い事を確認しつつ、シンは改めて敵を確認する。 《ドム=クルセイダーか。……余程俺達は世間様の恨みを買っていると見える。仮にもアレは核動力搭載の最新鋭機種だ。ダストでは機動性以外勝負にもならん》 ……シンが確認するまでも無く、レイがさっさとライブラリから敵の情報をチョイスする。 少しシンはかちんと来るが、そんな事言ってる場合でも無いので素直に感謝する。 「了解!」 毎度の事ながら、勝手なAIだ――そんな言葉を飲み込み、シンは回避行動を懸命に行う。 ドゥッ! 至近距離で爆風が上がる。 それに冷や汗を感じながらも、シンは眼前のドム=クルセイダーから目を剃らさない。 ドム=クルセイダーの持つギガランチャーに直撃すれば、ダストなど増加装甲ごと容易く蒸発してしまうだろう。 あれはそれほどの威力を持つ。 核動力機体だからこそ搭載できる連射型大口径ビームバズーカなのである。 ゴオッ! 巨大なビームがその砲口から放たれた。 ダストはするりとそれを避ける。 しかし第二弾、第三弾と続けざまにビームが襲い掛かる。 「ちっ!」 ダストの攻撃の届かない距離から、一方的に撃ちまくってくるドム。 有効射にはそうそうならないが、シンは意識を集中しそれを避け続ける。 「やられっぱなしってのは……!」 更なる砲火を回避し、シンは一瞬の隙を付いてバズーカで応戦した。 だがドムはそれを回避せず、一直線に突っ込んで行く。 シンは訝しむ――が、次の瞬間。 バチィッ! ダストの放った弾体は、ドムの発生させた赤いバリアに遮られて爆発するが――ドム=クルセイダーは無傷なままだ。 「何っ!?」 《スクリーミングニンバス。……要するにバリアだ。触れると痛いぞ》 「……ったく、次から次へと!」 冷静に告げる、レイ。 愚痴を言いながらもきっちりと攻撃を避けるシン。 だんだんとダストとドム三機の距離は近づいていく。 ――その最中、不意にシンはドム達の動きの有り様に気が付いていた。 「……ジェットストリームアタックか!」 シンは、この動きを知っていた。 ――というか、大尉達の“ライトニングフォーメーション”は、そもそも“ジェットストリームアタック”を元にして作られたものだ。 前衛の動きを囮、或いは盾として中堅が支援射を行いつつ、後衛が攻撃の本命となる――それがジェットストリームアタックというものだ。 勿論前衛、中堅が相手を倒しても全く問題は無い――この戦陣の目的は『確実に相手に攻撃を行う』という目的の元に作り上げられた布陣だからである。 ジェットストリームアタックに比べるとライトニングフォーメーションは防御的意味合いが強いが、方法論としては同じものだ。それ故に、シンにはこの布陣を破る方法も理解出来る。 「……ワンパターンで、勝てる程甘くはない!」 シンは唐突にダストを急停止――そして全速で後退させる! 所謂バック走行という奴だ。 ダストとドムの距離は着実に近づく――が、相互の距離の縮まるまでの時間は確実に延長される。 《どうする気だ? どの道追いつかれるぞ》 「良いから黙って見てろ!」 シンは自信満々だ。 レイは《なら、好きにしろ》と投げやりに言う。 とはいえシンを信用していない、という訳では無いのだろうが。 砲火と爆音が轟く中、シンは待っていた――ダストとドムの距離がシンの望む距離になる時を。 「……後退するだと?」 ヒルダは訝しむ。 正面をこちらに向けたまま逆走するダストは、如何にも不自然な動きだ。 距離を取るにしても取りづらく、一時撤退するにもやりずらい。 そもそも、あれだけの機動性があるのなら逃げに徹すれば如何にドム=クルセイダーであろうとなかなか追いつけないだろう。 そうしないのは……。 「やる気、だと言う事だな」 ヒルダはニヤリと笑う。 奴は、おそらくジェットストリームアタックを破る方策を知っている。 ――ならば、こちらも打つ手は有る。 「マーズ、ヘルベルト。おそらく奴はお前等を狙ってくる。射撃はするな――何としても防げ。良いな」 『アイ、サー!』 マーズとヘルベルトの唱和。 ヒルダとて、相手の狙いは殆どカンである。 しかし、自信はあった――そもそも己が狙われても避ける自信。 もう一つは、『自分がもし敵だったら』という思考の行方が理解出来るのだ――あの日、カナード=パルスに辛酸を舐めされられたその日から。 (破れるのなら、破ってみな。……そこからが、お前を地獄に叩き落とす為のスタートラインになるのさ……) 相互の距離は近づく――ヒルダ達も、シンも望んだ通り。 ……そして、シンが動く! シンが待っていたもの――それは“一足の距離”というものだ。 剣道等で良く使われる言葉だが、要は“一瞬の間で攻撃範囲まで詰められる距離”である。 遠距離攻撃を持つ両陣営にとって、接触距離まで近づくのは基本的には得策では無い――が、相互が高速移動可能機体なので被弾率は驚く程低くなる。 ラッキーヒットを祈るしかないのだ。 その為、高速移動可能機体はその持ち前の速度を生かして“攻撃が絶対に命中する距離”まで一気に肉薄し、攻勢を掛ける事が有効となる。 そうした行為の総称は“一撃離脱”――古今の戦場で使われてきた王道の戦術だ。 シンは敢えて後退する事で相手との距離を測り、そして相手のスピードを一定以上にさせ、更にダストのピーキーな性能から生み出される瞬間速度を直感的に理解し、“一足の距離”を割り出していた。 先頭のヒルダの駆るドム=クルセイダーに即座に攻撃出来る距離を。 シンはシールドを装備した左腕部を目立たぬ様に動かし、その手にビームライフルを握らせる。 右手にバズーカ、左手にビームライフル――それがシンのジェットストリームアタック破り。 連べ打ちにされる――しかし、如何に連射の聞くギガランチャーとて、斉射の後には若干の間がある。 そしてその時――シンは動いた! 後退していたダストをいきなり前進にギアチェンジ、更に瞬間最速を出せる様にローラーに滅茶苦茶な負荷をを掛けながら最高速度にシフト! ほんの一瞬――それだけでシンとドム=クルセイダーの距離は肉薄した。 ヒルダ機が反応してギガランチャーを放つが、ダストは加速したまま射線を見切り、それを避ける。 そして、シンは初めからの予定通り――先頭のヒルダ機にバズーカを至近距離から叩き込む! 「……至近射撃かっ!」 ゴアッ! しかし――それはヒルダ機も予想していた。 手首のソリドゥス・フルゴールを展開させ、それを防ぐ。共に爆圧を受け、怯む――だが、ダストは止まらない! ヒルダ機の機影。 そしてバズーカから生み出される爆音と爆煙。 それは後ろから付いてきているマーズ、ヘルベルトの――視界を奪う事はないが――注意を引くには十分なものだ。 その狭間を縫うかの如く、ダストはヒルダ機の側を駆け抜ける様に動き、最も後列に居たヘルベルトの機体にビームライフルを撃ち込む! 「チィッ!」 ヘルベルトは事前にヒルダから知らされていたからこそ、それの防御には間に合った。 しかし、完全では無かった――発振されたソリドゥス・フルゴールの合間を縫う様にビームが撃ち込まれる。ビームライフルの一撃はヘルベルト機の肩に被弾し、爆発。 装備した近接機関砲が破壊された。 そのままダストはドム達の真横を駆け抜け、一気に後方まで出た。 一方向からの強襲に対しては、カウンターによる強襲返し。 ……これが、シン独自の“ジェットストリームアタック破り”だったのだ。 「……チッ。一機位は屠りたかったんだがな」 シンはしかし、余裕の表情で言う。 こういうチームプレイを得意とする相手と戦う時の鉄則は、“相手にチームプレイをさせない事”だ。 そしてその方策は、相手のチームプレイの自信を崩壊させる事である。 それ故、シンは深追いはしなかった――相手の実力を正確に計り、そして余裕を見せる為に。 相手がチームプレイに絶対の自信を持っていれば居る程、心理効果は計り知れないものとなる。 それ故に、シンは余裕を持てるのだ。 《シンにしては意外な程、洗練された戦闘だ。……大尉に習ったな?》 淡々とレイ。 何処か悔しそうではある――つくづく変わったAIだ。 「そうズバリ真実を言うなよ。……少しは煽てるって事はしないのか?」 《努力してみよう――見事でございます、シン様。さすがですね》 「……悪かった、止めてくれ。俺が悪かった……」 棒読みまで使いこなせるAIに、大尉とて有効な戦術は立てられないだろう――そんな風にシンは納得(?)する。 背後では、ドム三機が動きを見せていた。 ――こちらを追う構えだ。それに対し、シンもダストを反転させる。 「来いよ、きりきり舞いさせてやるぜ……!」 シンはちろりと舌なめずりをする。その様は正に獲物を目前に捉えた獣の様相であった。 「……まあ、予想通りって所だね」 シンの予想に反して、ヒルダは冷然としていた。 確かに、その根底にはジェットストリームアタックを破られた悔しさもある――が、既に一度破られた布陣だ。もう一度有り得る事は、既に覚悟していたが。 ――しかもその破り方も同じカウンターでの強襲とは。 クックックッと内心苦笑で溢れる。が、同時に闘志も湧き上がってくる。 相手にとって不足はない――と。 「相当な腕前のパイロットだ、シン=アスカ――伊達に前の対戦でのトップエースの一人って訳じゃないって事か……。しかし――」 『対策があるのかい? 姉御』 『ヘル、何言ってるんだ。“まずは様子見”って言ってたろ? ……ここからさ、勝負は』 口々にマーズとヘルベルト。 それは不安の裏返しだと、ヒルダは推察する。 だからこそ、ヒルダは決して慌てない――慌てる訳にはいかない。 それは、この部隊の崩壊を意味するからだ。 「相応の実力――申し分無いね。……あれをやるよ。“トライ・シフト”<試しの戦陣>行くよ!」 『アイ、サー!』 ヒルダの鋭い一喝が、再び部隊を動かす。眼前の敵、ダストを屠る為に。 ドム=クルセイダーが再び動きだす――しかしそれは先程と全く変わった様子にはシンには見えなかった。 「愚直に続けるつもりか? 単純なのか、馬鹿なのか……」 (――それとも誘いか?) シンは、様々な可能性を考える。 危険予知、それはパイロットに最も求められるスキルだ。 それを総動員するが、今一つ相手の意図が読めない。 ――しかし、 《迷うのは兵家の常。そして時として思い切りの良い者が勝利者となる。……迷いとは、“何もしない”と同義だ》 「……解ってる」 こんな時に頼るのは――誰でも無い、己自身だ。様々な戦場を駆け抜け、幾度もの死線を越えてきた己自身だ。それに突き動かされる様に、シンはダストを前進させる。 「――進まなきゃ、進めない!」 それしか出来ない――そんな自分であると思えるから。それ故に、シンは突き進む! ――それは、先程までと全く同じ展開だった。 ダストが距離を取り、後を追うドム隊がギガランチャーで牽制しつつ徐々に肉薄。 対するダストも適度にバズーカで牽制しつつ、“一足の距離”を見定める。 そして、ダストが動く瞬間――展開は全く別のものとなる! 「なにぃっ!?」 スクリーミングニンバス――その出力を最大に維持しつつ、それをまるでぶつけ合わせるかの様にドム=クルセイダーが三機で壁を創る! 慌てて方向転換をし、離脱を図るダスト。 しかし、ドム達の狙いは体当たりでは無かった――ダストを怯ませ、動きを止める――その為の体当たりだったのだ。 一瞬の後、シンは理解する。 ……これは、新たなる戦陣、チームプレイに寄るものだと。 「こいつは……!」 三機のドム=クルセイダーはそのまま散開、ダストを取り囲んだ。 ダストを中央に位置する、正三角形の布陣に――。 それは、ダストがどちらの方向に動こうとも二機を相手にしなければならない布陣だ。 《包囲陣形――下手に動くと、状況は悪化するぞ。相手の動きに併せて突破しろ》 レイはそう言うが――シンには理解出来る。 この相手が、生半可な腕前でこの布陣を構築していない、という事が。 三角形の外周までの距離は、かなりある。 丁度ダストの“一足の距離”位。 ……その距離を取っているという事は、きちんとこちらの戦力を把握している、という事だ。 一瞬、ダストを停滞させ、その空白を縫っての完全包囲――。 「……こいつは骨が折れそうだ」 “トライ・シフト”――その威力が、シンに牙を剥く!
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トキニヘイサクウカンデーノボクハー♪ 「む……」 耳元で鳴り響く奇怪な音楽が、僕を夢の世界から現実へと引き戻した。 音の発生源である携帯電話を手探りで取り、アラームを解除する。 土曜日の朝7時。今日は定例、SOS団不思議探索の日。 カーテンの間から陽光が射し込んでいて、布団越しの僕の体に、光の線を描いていた。 「ふあーあ」 あくびをしながら半開きになっていた襖戸を開け、廊下に出る。森さんの部屋から、ブーンと言う扇風機の音がする。 初夏の熱気が篭った廊下を横切り、洗面所へ行き、歯を磨く。 森さんはまだ寝てるのだろうか。それならば、朝食を僕が用意する必要がある。 でもまあ、休日なんだし、森さんも外食する可能性もある。 何にしろ話を聞こうと、手早く歯磨きを終えた僕は、森さんの部屋へ向かった。 「あれ、森さん?」 洋室のドアを開けた僕は、そこに探し求めていた人物の姿が見えないことに少しびっくりする。 布団は敷かれてすらいない。珍しい、自分でたたんだのかな。 早くから出かけてしまったのだろうかと思い、玄関を確認する。しかし、森さんの二種類の靴は、ちゃんとそこに揃っていた。 再び森さんの部屋に戻った直後。僕は不審な点に気づいた。 先ほどから聞こえ続けている、このブーンというくぐもった音。 僕はこれが扇風機の音であると考えていた。しかし、室内の扇風機のスイッチは切られている。 音は、別の場所からしていた。 「……まさか」 嫌な予感がして、僕はその音がどこから聞こえてくるのかを探し、室内を歩いた。 探すまでも無く、音の発生源は見つかった。 ……備え付けのクローゼットの中。 よーく耳を澄ますと、むー、むーという、うなるような声が聞こえる。 ……恐る恐る、クローゼットの扉に手を掛ける。 「……何やってんですか、森さん」 扉を開くと同時に、内側から立ち込めたのは、人間の体温によって温められた空気。 そして、クローゼットのカビ臭い匂いの中に、汗のにおいと、それとは別の分泌液との匂いとが混ざり合あった、形容し難い濃厚なにおいだった。 「むー、むー……」 森さんはそこにいた。 クローゼットの床板の上に、細い体を丸めるようにして、半裸で横たわっていた。 「……何言ってんだかわかんないですよ」 何から手をつけたものか。とりあえず、森さんの口を覆い、頭の後ろで縛られている手ぬぐいを取り去る。 「けほ、ひー、ひー……め、目、とって……」 どれぐらいこうしていたのだろう、森さんの口の周りには、タオルの生地の跡がくっきりと残っていた。 いわれるがままに、僕は続いて、目隠しになっているアイマスクを外してやる。 森さんは空ろな目いっぱいに涙をためて、しばらく眩しそうに瞬きをした後で、僕を見た。 「お、はよう、こいずみ……これ、とって……」 これ、じゃあわかりません。 僕はとりあえず、森さんの下半身……性器と、その後ろとに押し込められたまま、ブンブンと唸り続けている二つの獲物を引き抜いた。 「あうっ」 「この後ろで手縛るのとか、どうやって一人でやったんですか?」 「ぜー、ぜー……いや、こう、前でやって……縄跳びみたいに……」 体が柔らかいですね。 僕は続いて、乳首の部分にガムテープで止められているピンクローターを外し、体中のいくつかの部分をつねり上げていた洗濯バサミを取り除いた。 これでようやく、すこしはまともな姿になった。 「や、昨日の夜、ふと思いついて……でもこれ、酸素うすくなってきて……やば……よかったあ……」 後ろ手を拘束していたテープからも開放されたあとも、森さんは余韻に浸っているのか 単に疲弊した体を休めているのか、クローゼットの中に横たわったままでいた。 「僕が見つけなかったら、夕方までこのままでしたよ。……シャワーでも行きますか?」 「ああ、うん、あとでいく……」 「これは洗って洗面所に置いときますから」 そう言って、先ほどまで森さんの体中に張り付いていたエモノたちを拾い上げ、洗面所へと運ぶ。 「僕今日、不思議探索ですからね。朝ごはんとかどうしましょうか」 「あー……どっかいく……てきとーにするー」 どうやら朝食の準備に時間をとられる心配は要らないようだ。 僕は森さんの愛用品たちを手早く水洗いした後、洗濯物の中から半そでのシャツを取り出し、袖を通した。 いつもの服装に着替えを終え、バッグを肩に下げる。 家を出る間際に森さんの部屋を覗くと、森さんは体を起し、裸のままクローゼットの床の上で、ぼんやりと虚空を見つめていた。 「……気をつけてくださいね。じゃ、急ぐんで」 そう言い残し、僕は機関の寮を後にし、いつもの駅前を目指して歩き出した。 ◆ 「最近、閉鎖空間のほうはどうだ」 午前中のゲームセンター。コーヒーを飲みながら、ガンゲームでゾンビ無双をしている長門さんを見ていると、不意に彼にそう尋ねられた。 「ええ、最近はそれほど。安定状態にありますよ」 「そうか。それならいいんだがな」 「あなたと涼宮さんが大きな諍いを起したりもしていませんしね。感謝してますよ」 「ま、あいつの機嫌がいいんだろうさ。俺はいつもどおりやってるだけだぜ」 彼はそう言って、微糖の缶コーヒーに口をつける。 彼に答えたのは事実だ。ここひと月ほどは、閉鎖空間の発生率はとても低く、週に1度、小さなものが有るか、無いかくらいのものだ。 「前から思ってたんだが、訊いてもいいか」 「はい、何でしょう?」 「お前らの機関の、神人狩りをする連中ってのは、どういう基準で選ばれてるんだ? やっぱ、超能力の有無か?」 「そうですね。それや、閉鎖空間への適正……色々とありますが、これらは訓練で多少、伸ばすことが出来ます」 「超能力もか?」 「ええ、能力の素養のある人というのは、意外といるものです。もっとも、貴方はその貴重な、素養ゼロの人間でしたが」 「別にうらやましくも無い」 「ですから、それらの能力は、素養が皆無でない限り、選定の枠に入りますよ。その中から、色々な点でふるいに掛けるのです」 そう。機関が神人の狩り手を定めるにあたって、最も重要的な先天性の要素がある。 「……先天的マゾヒズムの有無?」 「はい。それが最も重要です。付け焼刃じゃなくて、生まれながらの、ドマゾってやつです」 「……冗談で言ってるんだよな?」 「いいえ、真実ですよ? 神人狩りを行う超能力者はみんな、被虐嗜好者なんです。……僕も例外ではありませんよ」 「聞きたくも無いカミングアウトだな……」 それは失礼。 長門さんを見ると、今度は音楽にあわせてタップを踏むゲームで、汗一つ流さずに華麗な舞いを披露している。 「……先天的マゾヒズムの有無?」 「はい。それが最も重要です。付け焼刃じゃなくて、生まれながらの、ドマゾってやつです」 「……冗談で言ってるんだよな?」 「いいえ、真実ですよ? 神人狩りを行う超能力者はみんな、被虐嗜好者なんです。……僕も例外ではありませんよ」 「聞きたくも無いカミングアウトだな……」 それは失礼。 長門さんを見ると、今度は音楽にあわせてタップを踏むゲームで、汗一つ流さずに華麗な舞いを披露している。 「……マゾと超能力者との間に、どんな関係があるんだ」 「そうですね。率直に言うと、マゾのほうが強いんですよ。単純に」 「どうして」 「僕らは能力を使って身体能力を上昇させて戦いますので、まず、生来の肉体的な要素はあまり重要視されません チートを施した上で斗うにあたって、大事なのは、恐怖を感じるか否か、と言うことなのです」 「恐怖」 「はい。つまり……一般人は、危険。痛みを感じること。それに直面したとき、どうしてもそれを回避しようとしてしまう」 「それはそうだろうな」 「ですが……能力を持つマゾヒストならば。彼らは、自分の身体能力が上昇しており 通常の人間よりも多くのダメージを受けても耐えられることを知っています。 その上で……神人の攻撃に対して、恐怖を感じずに……むしろ、その攻撃が自分にもたらすダメージ、その痛みに、一抹の期待を持つんです。 それによって、我々は神人という、常識を逸脱したモンスターを相手に、捨て身の攻撃を行える……お分かりいただけましたか?」 「……ようは、痛いのが怖くない奴がいい、って事か」 「ええ。ただ、単純に痛みへの恐怖が無いだけでなく、そこに快楽を求める精神がある。 閉鎖空間、神人との戦いに対する期待。それが戦士たちを奮起させる原動力にもなっているんです」 「……俺にはどうにもこうにも無縁の世界だってことだけは分かった」 「ええ、貴方はマゾヒストじゃありません。それに超能力の素養も無い。閉鎖空間にはまったくもって向いていない人間ですよ」 「安心したぜ」 正午まではまだ大分時間がある。 僕と彼は、長門さんに連れられて、太鼓のゲームがあるという一階へと場所を移された。 お目当ての太鼓を前した長門さんは、バチを手に、ぱかぱかと軽快な打撃音を鳴らしている。 「しかし、お前らが閉鎖空間を楽しんでるとは思いもしなかったな」 「不思議でしょう? でも、ある意味、あの状況を楽しめるくらいでなければいけない……そういう方針なんでしょう」 「でも、それじゃあ……閉鎖空間の出現率が減ってるってのは お前らにとって必ずしもいい事だとは言えないじゃないか」 「はは、そこはさすがに。 それほど強烈にあの空間に病みつきになってしまうものは……めったにはいませんよ」 「……お前がそのめったにのヤツじゃなくて良かったよ」 「ええ、僕もそう思います」 温くなったコーヒーに口をつける。 そう。閉鎖空間がもたらす快楽に取り付かれてしまう人間は、めったにはいない。 そのめったにの内の一人を……僕は良く知っている。 「おー、お帰り」 不思議探索を終えて寮に戻ると、森さんはタンクトップにホットパンツといういでたちで、缶ビールを手にひらひらと僕を出迎えた。 朝の疲れはもう取れたらしい。シャワーを浴びたばかりなのか、僅かな石鹸の香りがした。 「飯」 「あれから大丈夫でした? 何か食べたんですか?」 「いや、結局昼過ぎまでボーっとしてたし、部屋の片付けと風呂とでまだ何も食べてない」 「よく体力保ちますね。今作るから、ちょっと待っててくださいね」 「なんか先におつまみね」 「はいはい」 シャツの上からエプロンを着け、今しがた持ち帰ってきた買い物袋から食材を取り出す。 鍋に少量のお湯を沸かして、そこにヘタを取り除いて塩をまぶしたオクラを放り込み、数十秒加熱する。 それをざるにとって、小鉢に並べ、脇に塩を盛り、鰹節をかける。 「さんきゅー」 既に食卓についている森さんは、僕が運んだ小鉢の内容に満足したらしく、塗り箸を手に食事を始めた。 僕は続いて、メインディッシュに取り掛かる。先ほどから沸かしている、スパゲッティ用の大鍋の湯が、そろそろころあいだ。 「……ねえ森さん、今朝みたいの、出来るだけ控えてくださいよ」 「え? ああ、あれか。いいじゃんか、別に怪我もしないしさ」 「今回は良いほうでしたけどね。前みたいにヘンなガス出して救急車のお世話になったり、窒息寸前まで首絞めたりとか」 「わかってるわかってる、あれはやりすぎたって。ごめんごめん」 僕は本気で心配していても、森さんはあっけらかんとした様子で、笑いながらビールを飲んでいる。 その感覚の違いに、僕は少しあきれた気分になりながら、スパゲッティを茹でる。 「……最近、閉鎖空間が少ないからですか?」 「何が?」 「今朝みたいのするのは」 「……まあ、そりゃそうだけどな。でも、古泉」 缶をテーブルの上に置き、森さんは少し、声のトーンを落として言う。 「勘違いしちゃダメだ。涼宮ハルヒの精神が安定して、世界の崩壊が免れる。閉鎖空間も縮小する。 それが私たちの機関が目指す世界の安定なんだ。 その本文を忘れるほど、私もバカじゃない」 ……口ではそう言ってくれますけどね。僕は声に出さず、ため息を漏らす。 そう言いながら、閉鎖空間がご無沙汰になると、下手すりゃ死ぬかもしれないようなオナニーに走り始めるのは、森さん自身じゃないですか。 「……こないだの夜なんか、覚えてます? あれ」 「あ? 酔っ払ってるとき? だとちょっと覚えてないかも」 「……そうですか、ならいいです」 僕はため息をつきつつ、数日前の夜、泥酔した森さんに寝込みを襲われ、言われた一言を思い出す。 なあ古泉、これであたしのこと刺してくれないか? ……森さん。アイスピックはバイブとは違うんですよ。 そう言って僕は、森さんを自室へと運んだ後、森さんの部屋中から、怪我をする危険性のあるものを片っ端から排除し、その晩はドアの前で一晩中見張り続けた。 放っておけば、彼女が自分で、アイスピックやナイフで体を慰めはじめてしまうと思ったからだ。 「……ほんと、ああいうの心臓に悪いんだから」 ぼやきながら、茹で上がったスパゲッティをソースパンの上に移し、オイルを絡める。 二人分のそれを大皿に盛り付け、専用のトングを添えた後、二人分の小皿と共に食卓へ運ぶ。 小鉢をすっかり平らげた森さんは、三本目の缶ビールを手に取り、僕の運んだ料理を楽しそうに自分の皿へと取る。 「うまいうまい、やっぱ古泉帰ってくるまで待っててよかったわ」 「お粗末さまです」 冷蔵庫から作りおきされていたポテトサラダを取り出し、タッパーのまま机に置く。 イタリアかぶれのドイツ人のような食卓になったな。と、どうでもいいことを考える。 ◆ 「それよりお前さ、ここんとこ……してないじゃないか?」 「は?」 食事を終えた後。ちゃぶ台の上で課題を広げていた僕に、森さんがそう言ってきた。 見ると、もう4、5本はビールを飲んだらしく、肌は上気し、目が潤んでいる。 「だからあ、あれよあれ。朝から目に毒なもの見せちゃったしさー」 嫌な予感。それを感じると同時に、僕の右肩が、森さんの足の裏に蹴られ、体がぐるりと回転する。 一瞬の抵抗の余地もなく、僕は仰向けに寝かされ、森さんにのしかかられてしまう。 「閉鎖空間なくて溜まってるんじゃないかなーと思って」 「そんな、別に……」 「はいはい、抵抗しない、同居人のよしみで手伝ってあげようか」 こうなった森さんは、誰に求められない。僕のシャツのボタンは彼女によって手早く外され、ベルトとショーツを一度に取り去られてしまう。 森さんが僕の胸に口をつける。最初は、唇のやわらかな感触。その後に、すぐに硬い歯の感触がして、僕の背中に、快楽の波が押し寄せてくる。 森さんは乳首を含む胸のあちこちに歯を立てながら、両手で僕の下半身をまさぐり、徐々に隆起しはじめた男性器の根元を掴み もう一方の手の指を、僕のアヌスへと宛がう。 「森さん、ちょっと……あ、やめ……」 「いまどきそんな声、女の子でも出さないぞ」 そんなことはないだろ。なんてことを考えているうちに、森さんの指が、僕の直腸の中へと押し込まれる。 冷たい感触。伸びた爪が腸壁に触れると、痛い。無造作にうごめくそれが、徐々に痛みから快感に変わって行く。 腸を弄られながら、彼女は僕の胸につけた歯形を、一つづつ、今度は暖かい舌の先で愛撫する。 森さんの指と舌が、一挙一動蠢く度に、背中を快感が走る。久々に受ける愛撫に、これ以上は保ちそうにない。 彼女の舌が、僕の右耳の後ろに触れる。その直後、これまでよりもよほど強い痛みが走る。 「あいっ……ちょっと、森さん!」 「悪い、強すぎた。ここは閉鎖空間じゃなかったっけな」 「こんな閉鎖空間、ないですよ……」 森さんは最後まで楽しそうに、僕のからだ中を蹂躙していた。 泥の中でもまれるような感覚の中で、僕は彼女の手の中に射精した。 腰から何か大事な筋が引き抜かれてしまったような気がした。 ◆ 「……森さんにとって」 行為の後で。手を洗い終えて、居間へと戻ってきた彼女に話しかける。 「閉鎖空間は……今してくれたよりも、気持ちのいいものなんですか?」 彼女はきょとんとした顔で、僕を見る。 僕の記憶の中にある、いくつかの森さんの顔……神人の攻撃を受け、地面に伏したときに浮かべていた、快楽の表情たちが重なり、フラッシュバックする。 「さあ、そんなのお前にも私にも分からんだろ。自分で確かめるしかない」 「……そんな勇気は、僕には無いです」 神人の腕に体をへし折られながら、神人の足に体を踏み砕かれながら、オーガズムに喘ぐ。 僕にそんなことが可能だとは思えなかった。 ◆ 僕は思い出す。 彼女と同じように、閉鎖空間に快楽を求め、閉鎖空間を天国とまで呼んだ人のことを。 そして、やがて本当の天国へと旅立ってしまった、その人のことを。 ◆ 「今日は不思議探索いかないの?」 ベランダで洗濯物を干していると、ミネラルウォーターの容器を片手に、森さんが話しかけてきた。 タンクトップにホットパンツのいつもの姿。僕はそれとなく、窓の外から森さんの姿が見えないように、立ち位置を調節する。 「ええ、先週は特例だったんですよ。今日はお休みです。彼と涼宮さんはなにやら出かけられるそうですが」 「デートってやつかあ。いいなあデート。調査対象のご機嫌も良好でなによりだな」 森さんは笑う。 確かに、彼と涼宮さんはこのごろ特に仲が良い。 それ故に、安心だとは思う。けれど……彼と涼宮さんが外出するということは、一歩間違えれば、涼宮さんの心象を大きく変える可能性もある。 何事も無ければ良いんだけどな―――僕は声に出さずにそう呟く。 しかし、その直後。 pipipi... 通常の着信音とは異なる、専用の機械音が、僕と森さんの二つの携帯から、同時に鳴り響いた。 ◆ 新川さんの車を降りた直後から、空は灰色に染め替えられていた。 遠くに三体。繁華街を這うようにうごめく、大型の神人の姿がある。 「こりゃ、でかいな。キョンめ、やってくれたな」 「彼が原因と、決まったわけではないですよ」 森さんの言葉に、友人としての一抹のフォローをしながら、全身に波動を纏う。 僕が飛び上がると同時に、森さんもまた、赤い球体となり、空中に舞い上がった。 「B班、E班が後に合流します!」 「はいよっ」 空中で別の超能力者にそう告げられ、僕は戦線を確認する。到着した僕ら二人を含めて、戦闘中の狩り手は5人。 人数的には問題なかったが、何しろ神人がトップクラスの大きさのやつだった。 キョン君。本当にやってくれましたね。と、心の片隅で、僅かに彼のことを呪う。 「いっきまーす!!」 確認もそこそこに、僕の隣の空間を貫き、森さんが戦線へと突撃して行く。僕もそれに続いた。 程なくして、残りの超能力者も到着し、数は3vs9。一体に3人で取り掛かれば、そう難しい戦いでもなかった。 僕はやがて、3体のうちの一体を細切れにすることに成功し、残る2体と戦う組へと合流しようとした。 森さんとB班が対峙しているのは、さきほど形状を変え、東京タワーに触手を生やしたような、巨大な神人だった。 僕はその触手に触れないように軽快しながら、波動球を撃つ。 四度放ったうちの三発が胴体に命中し、神人の体は、その部分を境目に折れ、上半身が傾き始めた。 そこに更に弾を撃ち込もうと、接近した瞬間だった。 「古泉!」 「!」 背後で仲間の声がする。が、遅い。 神人の体の折れた口から、新たな触手が生まれ、それが一直線に、僕に向けて放たれたのだ。 攻撃は速く、確実に僕を標的としている。しかし、回避できない。間に合わない。 やられる……のか? 僕が覚悟を決め、両手を前に突き出し、攻撃を受けようとした瞬間。 「てえ!」 「えっ」 左耳元、よく聴き慣れた声がした。それと同時に―――僕の体が急降下を始めたのだ。 頭に鈍い痛みを感じる。体が落下してゆく。しかし、触手の攻撃を受けたならば、僕は後方へ吹き飛ばされるはずだ。 抗いようのない衝撃の中で、無理に体をひねり、先ほどまで僕がいたはずの場所を確認する。 そこには、伸びきった神人の触手と……その遥か遠くに、錐揉みになりながら飛ばされて行く、細い体が視認できた。 「森さん!!」 その名前を叫ぶと同時に、僕の体は地面へとたどり着き、周囲が土ぼこりを上げた。 ずん。という重い衝撃が、全身を襲った。 それを最後に、僕の意識は遠のいていった。 ◆ 天井から壁、床、あらゆる面が白い室内。 窓際のベッドに、森さんの姿があった。 「よう」 森さんは僕を見ると、いつものように微笑み、包帯まみれの手でふりふりを挨拶をした。 僕はどんな顔をしたら良いか分からず、小さくお辞儀をした後、固まってしまう。 「そこ座ればいいだろ」 「……すいませんでした、僕の所為で」 「いいって、お前は大丈夫だったんだろう?」 僕の怪我は軽いものだった。ただ、森さんに突き飛ばされた衝撃で地面に墜落しただけだ。 脳震盪と、全身の軽い打撲。一応、節々には湿布を張ってある程度だった。 しかし、森さんは違う。神人の攻撃をまともに正面から受けた上に、波動を失ったまま空中を舞い、地面にたたきつけられた彼女は、重傷だった。 「機関の医療なら、これぐらい、2、3週間あれば治るだろうさ。しばらく閉鎖空間にはいけないらしいけどな」 「そりゃ、そうです」 包帯まみれの森さんを見つめながら、僕はその一言を尋ねようかどうか迷っている。 ……攻撃を受けたあと、波動を解いたのは、わざとだったのではないのか。 ……しかし、その一言を繰り出す勇気が、僕にはない。 「……お前が機関に入ってすぐのときも、似たようなことがあったな。あのときのあれはすごかった」 「……あり、ましたね」 それはたしか、新潟に閉鎖空間が発生したときのことだった。 当時、まだ未熟だった僕は、今回と同じように……僕は神人の攻撃を食らわざるを得ない状況に陥った。 そこを、森さんが僕を庇ってくれたのだ。 二人まとめて飛ばされ、僕は軽症。森さんは重傷。 あの時、僕と森さんが墜落した場所で。助けが来るまでの間、朦朧とする意識の中で、確かに見たのを覚えている。 耳元で……今にも消えてしまいそうな声で、それでも確かに嬌声を上げる、彼女を。 「……森さん」 「どうした?」 僕は彼女を見つめたまま、黙る。 ……今回も。彼女は、あの顔をしていたのだろうか。 肋骨と両手をへし折られ、地面にたたきつけられたその場所で。 あの声をあげ、オーガズムに浸っていたのだろうか? 「……なんだよ、つめたいぞ」 気が付くと、僕は森さんの頬に触れ、包帯のない部分に指先を這わせていた。 温かい。生きている。 「気持ち悪いな。触るんじゃなく、つねってくれたまえ」 森さんは笑う。あの快楽におぼれた笑顔ではない。五月の太陽のような笑顔。 「古泉、お前……私が好きなのか?」 そう訊ねられて、僕はしばらく考える。 森さんが好きなのか。 ……そうなんだろうか。 「…………好きになんてなれませんよ」 「なんだよ、随分な事いってくれるな。私はそんなにお前好みじゃないか?」 僕は首を横に振る。 「……僕は、心の痛みには耐えられません。森さんを好きになったら――」 いつか、こころをへし折られる日が来てしまうような気がして。 ◆ 僕は知っている。 神人の狩り手が、マゾヒズムで無ければいけない理由。 上層部にとって、僕らは捨て駒なのだ。 能力の素養を持ったマゾヒズムは、この世に五万と溢れかえっている。 世界の安定を守るために、閉鎖空間のとりことされた狩り手が、時々、死んで行く。 しかし、その変わりとなる人間は、いくらだっているのだ。 「すまんかった」 月曜日の昼休み。彼は僕にコーヒーを差し出しながら、彼らしからぬ低姿勢で僕のもとへとやってきた。 「大丈夫ですよ。しかし、なかなか大きなケンカをされたようですね?」 「ああ、まあ……でも、出来るだけのフォローはしたつもりだ」 「そのお言葉で、随分と安心できますよ」 僕はコーヒーを受け取り、プルタブを引く。 「……鳥と河馬のことを考えていました」 「トリとカバ?」 「はい。どこかの奥地で暮らすカバは、時折体を水上へと上げ、鳥に体の掃除をさせるそうです。 それによって、鳥は食料を得る。カバは清潔を保てる。……そういう、生命の仕組みなんだそうです」 「ふむ」 彼は僕の言葉にこれといった感想を持たなかったのか、コーヒーを片手に、曖昧な言葉を漏らした。 僕はなんて矮小な存在なんだろうか。晴れた空を眺めていると、そんなことを思った。 ◆ 「なあ、古泉」 「なんですか?」 「それでさ、私のほっぺを、ちょっと切ってくれないか。ちょっとだけ」 彼女の手は、僕がりんごを剥いている手元を示している。 「……絶対ダメです」 「なんだよ。それじゃあ、私がお前をぶっ刺すぞ」 「両手骨折してる人が、どうやってですか」 「あはは、冗談だよ」 彼女は笑う。 その笑顔に、僕は愛しさと、僅かな狂気を感じる。 冷えた指先で、土曜日に森さんに付けられた、耳の後ろの傷に触れる。 指が触れると、そこはズキリと痛み、やがて、じわりとした快感が背中に走った。 もし、閉鎖空間がこの世から無くなる日が来たら。 彼女は一体どこへ行くのだろうか。 僕は彼女と共に行けるのだろうか。 彼女と共に、この深い森の中から抜け出すことは、出来るのだろうか? END
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「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY 空も明るみ始めた早朝の街中の道を、一台の車が走っていました。 小さい車の中には、ポニーテール姿の女性が2人、並んで座っていました。 彼女たちはほぼ同時に「それ」に気がつきました。 運転席でハンドルを握っていたセーラー服姿の女――朝倉涼子が、口を開きました。 「ねえ、師匠」 「なんでしょう」 「どうする?」 「決まってるでしょう」 師匠と呼ばれた、上品ながらも動きやすそうな服装の女性は、助手席で溜息をつきました。 彼女たちの視線の先には、大きなT字路のあたり、道の真ん中をフラフラと歩く、黒い服の少女の姿がありました。 それは修道服のようにも見え、どこかの学校の制服のようにも見えます。 そしてポニーテールにこそしていませんが、車の中の2人と同じくらいの長い髪でした。 そんな少女の姿を遠くに眺め、女性は言いました。 「さっきのように時間をかけるのは御免です。見たところ武器も荷物も持っていない様子。 私がやります。通り過ぎざまに片付けてしまいましょう」 「うーん、いいのかなぁ……まあいいや。 さっきはこっちの提案に乗って貰ったし、ここは師匠の顔を立てましょ」 朝倉涼子は、アクセルを踏みました。 ◇ 浅上藤乃もまた、ほぼ同時に「それ」に気づいていた。 無人の街をこちらに向かってくる、小さな車。そして、その中に2つ並んだ、女性らしきシルエット。 女性――であれば、湊啓太の知り合いであるとは思えない。 あの不良たちに、マトモな女性の知り合いがいるとは考えにくい。 だから復讐として殺す必要はないのだが、しかし、この地に来てから誰かと出会い、何かを知ってるかもしれない。 会話を試みる価値は、ある。浅上藤乃はそう考える。 ……もし何も知らなかったなら、殺さなければいけないのだけども。 想像しただけで身も震える罪悪感に責め苛まされながら、それでも車に止まってもらおうと手を挙げかけて、 「…………!」 藤乃は、気がついた。いや、気づかされた 向こうも藤乃が見えているだろうに、全く減速しない、それどころか、加速する車。 そして今更ながらに点灯するヘッドライト。 空はだいぶ明るくなってきていたが、それでもハイビームを唐突に浴びせられれば目も眩む。 そのまま車は、藤乃目掛けて突っ込んでくる。それこそ、藤乃を跳ね飛ばさんほどの勢いで。 そして、助手席の窓が開いて、そこから、覗いて見えたのは、 明らかに自分に向けられた敵意。 知ってる、知らないどころではなく、語り合うことすら拒絶する意思の表出。 問答無用の、殺意。 それらを前に、藤乃は、 「ああ――では仕方ありませんね」 眩いヘッドライトを真正面から見る格好になった今、車の中の人影はよく見えない。 となると……このサイズ、果たして出来るだろうか。……うん、きっと出来る。 彼女は呟く。 「――凶(まが)れ」 瞬間、小さな車が丸ごと――歪んだ。 ◇ 助手席側の窓を開け、銃を撃とうとしていた女性は、咄嗟にそのまま走っている車から飛び出しました。 横目に、今まで乗っていた車が、見えない巨人の手で雑巾絞りにされるかのように、捻れていくのが見えました。 女性は前回り受身で着地の衝撃をやわらげ、しかし勢いは殺すことなく手近な街路樹の陰に飛びこみました。 飛び出す時に引っ掛けたのか、ポニーテールがばさりとほどけて、長い髪が彼女の背に被さります。 一瞬だけ、彼女は車の残骸の方を見ました。 あの瞬間、運転席側の窓は開けていませんでしたし、他には動くものの姿も見えません。 捻って曲げられた車だったモノには、もう人間がまともな形で乗っていられるスペースは残されていないようでした。 同行者は逃げる間もなく車ごと潰されてしまった、と考えるしかありませんでした。 「それにしても、何をされたのでしょうね。おおかた、朝倉涼子の『槍』と同じような非常識の類だと思いますが」 つぶやきながらも、女性は自分の武器である小型連射式パースエイダー、FN P90を手に取りました。 街路樹の陰からチラリと覗くと、黒い服の少女はゆっくりとこちらに歩いてくるようでした。 やはり手には何も持っておらず、さきほどの『攻撃』をどうやって繰り出したものか見当もつきませんでした。 「こんな時に『とりあえず突っ込ませる』ための朝倉涼子だったのですが。まったく使えないものです……おっと」 ぼやく女性の眼前で、隠れていた街路樹が捻れて、折れました。 車が潰された時と同様、何が起きたのか全く分かりませんでした。 それでも、こんな威力の『攻撃』を生身で受けたら命に関わることだけは、正確に理解しました。 ひとまず女性は、倒れゆく街路樹越しに、無闇やたらに手に持ったサブマシンガンを乱射しました。 相手が怯んだ気配だけ察知して飛び出し、無茶な姿勢で後方に乱射を続けながら全速力。 次の街路樹まで駆け通して、その陰に飛び込み、隠れました。 そこで素早く空になった弾倉を交換し、女性は珍しく、少しだけ悩むような素振りをしました。 ◇ 「――――ああ、びっくりしました」 バットやナイフを向けられたことはあっても、銃を向けられたのは初めてだった。 藤乃はそれがもたらすであろう圧倒的破壊より、むしろ連続した大きな音の方に驚いてしまっていた。 それを怯んだと言うのなら、それは爆竹の音に怯んだ程度のこと。 迂闊に動こうとしなかったのが、かえって良かったのか。 それとも、師匠が当てることより逃げることを優先したためか。 P90からばら撒かれた数十発の弾丸は、いずれも藤乃の身体を捉えてはいなかった。 それがどれほどの僥倖であるのか気付きもせず、藤乃はゆっくりと歩を進める。 隠れる師匠との距離を、悠々と詰める。 いや、今の藤乃には、ゆったりとしか動けない。 腹部の疼きが、藤乃に戦意を与えると同時に、彼女を縛ってもいる。 しかし反撃はない。藤乃のことを恐れているのか。それとも弾数に不安でもあるのか。 物陰から銃口を突き出してきたりしたら、その腕をまずねじ切ってやろうかと思っていたのだが―― 藤乃はチラリと一瞬だけ、視線を横に向ける。 そこにあったのは、歪にねじれた小さな車、だったもの。今まさにその横を通り過ぎようとしていたもの。 確か車にはもう1人乗っていたはずだ。 だけど、飛び出した人影は1つきり。 もう1人は――たぶん、まだこの中だろう。 少し想像しただけで、藤乃は罪悪感に押し潰されそうになる。 車ごとねじ曲げられ捻られて、「もう1人」は、きっともう、たぶん―― 「ああ――わたし、人殺しなんてしたくないのに――」 「なら、しなくていいわ」 「!?」 藤乃の呟きに、聞きなれぬ声が被る。 そして同時に、車の残骸から突き出される長い棒状の物体。 藤乃は反射的にそれを『視て』、捻じ曲げる。 自身を串刺しにしようとしていた凶器を『曲げて』、間一髪、制服の肩口を切り裂かれるだけで直撃を免れる。 驚く間もないままに、さらに2本、3本、4本。 続けざまに突き出される『槍』。 そのことごとくを『曲げて』逸らしながら、藤乃は慌ててバックステップを取ろうとする。 速い。 突き出される速度が速すぎて、到達する前に『ねじ切る』だけの時間がない。僅かに穂先を逸らすだけで精一杯だ。 それは、『槍』とでも表現するしかない『攻撃』だった。 車を構成していた鉄板が溶けるように変形し、ウニの棘のように、あるいは水晶の結晶のように突き出している。 藤乃は混乱する。 目の前の光景と状況に、混乱する。 誰が? どうやって? いや、誰が、というのは見当つくが、いったいあの状況をどうやって生き延びて―― 視界の隅に、『槍』と同様に、しかし『槍』とはまた異質な質感の、『触手』のようなものが高速で伸びるのが見えた。 それも2本。白い。早い。どことなく生物的だ。1本は素早く『曲げて』進路を逸らして、もう1本も、 ……手? 「凶――っ!?」 視界いっぱいに広がったのは、広げられた手の平と、5本の指。 うねる『触手』の先端についていたその『手』は、藤乃が『曲げる』よりも早く、彼女の顔面を鷲掴みにした。 覆い隠されて、何も見えない。藤乃のこめかみに、『手』の『親指』と『小指』が食い込む。 引き剥がそうと『触手』を握って抵抗してみるも、ビクともしない。 過去に藤乃を陵辱した男たちと同じような――いや、それは、彼女の知る彼ら以上の怪力だった。 そのまま藤乃は強引に引き寄せられ、吊るし上げられる。 頭が割れそうに痛い。首が痛い。 『痛み』という感覚を得てまだ間もない藤乃の思考が、慣れない痛みに、しばし停止した。 ◇ 「ふぅん。やっぱり光学的観測によってターゲットを捉えてるわけね。 だから動体視力の限界を超えた速度の対象には攻撃が甘くなるし、目を塞がれたら途端に困ってしまう」 右手1本で黒い服の少女を吊るし上げながら、朝倉涼子はつぶやきました。 普段の2倍どころでは済まない長さに伸びてのたくっていたその腕も、今はごく普通の女の子の腕に戻っていました。 伸ばしたところを一度は軽く『曲げられた』左手も、見たところ何の後遺症も残っていないようでした。 何の弾みによるものか、師匠とおそろいのポニーテールにしていた髪も、師匠と同じようにほどけて広がっていました。 ちょうどプロレス技のアイアンクローの要領で相手の抵抗を封じた彼女は、捕らえた相手を面白そうに見回しました。 「ま、有機生命体の身体構造上、そこは無理もないか。目という光学受容器に頼るしかないもんね。 それにしても『歪曲』かぁ……ただの有機生命体がこんな情報改竄の類似現象を引き起こせるなんて。 ある種の突然変異体のようだけど、構造体に妙な化学的・物理的操作も加わってるようだし……興味深いわね」 「どういうことです? 私にも分かるように説明しなさい」 車の陰から出てきた朝倉涼子が相手を制圧したのを確認し、師匠と呼ばれていた女性も戻ってきました。 油断なくP90の狙いを少女に定めたまま、問いかけます。 「ん~、人間の言語って限界あるのよねぇ。上手く言語化できないかも。 そうね、情報の伝達に齟齬が発生するかもしれないけど、平たく言っちゃうと、この子……」 「平たく言うと?」 「どうも、ただ『見るだけ』で対象をねじ曲げることができるみたい。それこそねじ切るまで」 「…………」 「先天的な変異体らしいんだけど。驚きよねぇ、有機生命体がこんな能力を持ってるなんて。しかも2種類も」 「2種類? 曲げる以外にも何かできることが?」 「ううん、右回転と左回転。ほら、あわせて2つ」 「…………」 「……そんな顔しないでよ、師匠。こっちだって上手く伝える言葉が見つからなくて困ってるのに。」 呑気そうな説明をしている間も、顔面を捕らえられた少女は、必死の抵抗を続けていました。 しかし、爪を立てようが蹴りを入れようが、朝倉涼子の身体はびくともしません。少女の顔を掴んだままです。 「驚いたと言えば、さっきあなたの腕が伸びたこともそうです」 「しっかり見られてたかしら。できれば師匠の前じゃ使わずに済ませたかったんだけどなぁ」 「やはり隠し札ですか。それよりあなた、私を囮に使いましたね? あの『槍』と『伸びる腕』の射程圏内に、その標的が踏み込むまで」 「それはお互い様でしょ? あたしを見捨てて1人だけ逃げたのは誰よ?」 「ちなみに、どうやって助かったのです? 捻られた車に人の入っていられる隙間なんてなかったように見えましたが」 「ちょっと分子の結合情報弄って、床に穴開けてそこからスルッと下へ、ね。 あとは歪んだ車自体が、隠れるのにちょうどいい障害物になってくれたわ」 「そうですか。しかし車は勿体無かったですね。直せませんか?」 「うん、流石にこの規模の物体の再構成はできないみたい。次の車見つけるまでは、諦めてサイドカー使いましょ」 そうやって話している間も、師匠はいつでも撃てる姿勢のままです。 師匠は言いました。 「ま、話は後です。その『能力』とやらは使えないにしても、さっさととどめを刺してしまいましょう。 あなたが捕らえてからもずっと、殺気だけは衰えていませんから」 ◇ 車に乗っていた女たちが、何かを喋っている。 こんな状態で撃ったらこっちまで巻き込まれるわよ、とか、それが嫌ならあなたが刀を使いなさい、とか。 どうやら自分の殺し方で軽く揉めているようだ。 視界を奪われたままの浅上藤乃も、ぼんやりとそれを理解する。 殺されるのだろうか。こんな所で。 単に顔を手で覆われただけ、とはいえ、対象物が視えなければ浅上藤乃の『力』は揮えない。 超・至近距離にある掌にはかえって焦点を合わせることができず、だから軸が作れない。凶げられない。 相手もそれを理解しているのだろう。 詳しい原理も何も分からぬまま、ただ、少なくとも「視えない相手は曲げられない」と。 今の藤乃は、まるで――抵抗する術も持たず男たちに辱められていた頃と、おんなじだ。 ――それは嫌だ、と思った。 一度そう思ったら、想いが止まらなくなった。 手で目を塞がれたまま、相手が視えないまま、それでも藤乃は、爛、と睨みつける。 暗闇さえも見通さん、とばかりに、2人の女がいるあたりに視線を向け、両目に力を込める。 相手が視えさえすればいいのだ――視ることさえ出来れば、ねじ切れる。 こんな状態からでも、逆転できる。 脳が蕩けるような灼熱。 果たしてそれは妄想か現実か、2人の女の姿がうっすら脳裏に浮かんだ気がして―― 「――あ?」 「――え?」 「――!?」 行使されようとした『力』は、しかし、唐突に薄れ、消えていった。 ◇ 「急に殺気も失せましたが……なんだったのでしょう、今のは」 「抵抗もしなくなっちゃったしねぇ。ちょっと待ってね……」 相変わらず少女を片手で吊るし上げた格好の朝倉涼子と、銃を構えたままの師匠は顔を見合わせました。 一際強く暴れ、強烈な殺気を発したかと思うと、いきなり気の抜けたように動きを止めた少女。 朝倉涼子は改めて脱力しきった少女の身体に顔を近づけ、嗅ぎ回るように頭を動かし、そして、無造作に言いました。 「ははぁ、アレがああなって、こうなって、こう、か……なるほど、この子、『使えなく』なっちゃったみたいね」 「どういうことです?」 「こういうこと」 おもむろに彼女は、少女の顔から手を離しました。 解放された少女――と言っても、よく見れば朝倉涼子の外見とほぼ同年代――は、ぺたん、と尻餅をつきました。 少女は呆然とした様子で、朝倉涼子、続いて師匠を見比べました。 2人とも、見えない力でねじ曲げらてしまうようなことはありませんでした。 「えーっと、あたしは朝倉涼子。こっちは師匠。あなたは?」 「浅上……藤乃。いや、そうじゃなくて……」 「藤乃。いい名前ね。 ああこれは社交辞令よ、有機生命体のパーソナルネームのセンスなんて、正直分からないし」 人当たりのいい笑顔を浮かべたまま、朝倉涼子はどこか世間ズレした言葉を吐きました。 3人の今置かれた状況を忘れさせるような、見事な笑顔でした。 「出会いは最悪だったけど、あたしたち、協力しあえるかもしれないわね。でも、とりあえず――」 何か言おうとした師匠を片手で制しつつ、朝倉涼子は1歩少女に歩み寄って、 「どう考えても師匠に説明するのにジャマだから、ちょっとだけ寝ててね。 もし次にあなたが起きることがあったなら、その時に改めてお話しましょ?」 とん、と何気ない仕草で、藤乃の首筋に手刀を叩き込みました。 ◇ ――また、何も感じなくなってしまった。 浅上藤乃は、ぼんやりと考えていた。 残留していたカラダの痛みは嘘のように消え去って、何も感じなくなって、生きている実感すらも消えうせて。 首筋へ加えられた打撃も、衝撃としてではなく、視覚と聴覚でその存在を知る。 苦痛を感じることなく、ただ意識だけがストン、と闇に落ちていく。 痛覚のない身体でも適切な場所に適切な衝撃が加われば、脳震盪などで意識は失いうるのだ。 闇の中に落ちていきながら、藤乃は最後に、朝倉涼子の言葉を反芻する。 ――協力しあえるかもしれない? それなら――湊啓太を探す手伝いを、してくれるというのだろうか? あの2人が? 人殺しの匂いのするあの2人が? ほんとうに? 答えは返ってくることなく、彼女の意識は一時この舞台から遠ざかる。 ◇ 「――つまりあなたの話をまとめるとこうですか。 この浅上藤乃という少女は、本来、痛みを感じることのできない無痛症。 でも現在、その症状は間欠的に出たり消えたりしている。 無痛症が治って痛みを感じることができる時だけ、例の『歪曲』が使える。 でも無痛症が前面に出ている時にはそれは使えない、と――」 「そ。まあ、その無痛症の方が後天的っぽいんだけどね。 あと、たぶん本人、現時点じゃそこまで理解してないわ。無痛症が治って能力が消えた時、驚いてたでしょ? ちょっと眠ってもらったのも、この話を彼女自身に聞かれちゃうのは後々マズイかなー、って思って」 「そこまでは分かりましたが」 朝倉涼子による長い説明をざっくばらんにまとめた師匠は、その場に倒れこんだ浅上藤乃を見下ろしました。 気絶しているようですが、放置すればやがて目を覚ますであろう状態でした。 「なぜ、その話を? さっさと殺しなさいと言ったはずです。まさか情が移ったなどと言い出すのではないでしょうね」 「まさか。ただこの子、うまくいけば戦力として『使える』かな、って。 ちょうど今なら無害だし、会話する余地はあるようだし」 「使えません。仮に首尾よく説得できたとしても、戦力として期待するにはあまりに不安定すぎます。殺しなさい」 「でも、『歪曲』を『使える』時の射程と威力は相当なものよ? 師匠も見たでしょ?」 「この小型連射式パースエーダーの射程と威力があれば十分です。殺しなさい」 「銃声もしないし」 「確かにサイレンサーがあるなら欲しいところですが、ないならないでやりようがあります。殺しなさい」 「弾切れもないし」 「確かに予備の弾は欲しいですが、現状でも十分余裕があります。殺しなさい」 「動作不良もないし」 「確かにできれば予備のパースエイダーも欲しいところですが、このP90は十分信頼に足るようです。 というより、『能力』が使えない今のその子の状態がまさに動作不良でしょう。殺しなさい」 「ってか、師匠もやっぱりその短機関銃だけって状況には不安があるのね。 誰かを倒して武器を奪おうにも、ここまで空振りばっかりだったし。棒は1本あったけど、銃なんてなかったもんねぇ」 「そんなことはありません。殺しなさい」 「何か、もっと有効な『武器』が手に入るまででもいいのよ? 大体、師匠も迷ってるんでしょ? でなきゃ『殺しなさい』って言う前に師匠自身が殺してるわよね? 北村君の時のように」 朝倉涼子は微笑みました。師匠は少しだけ黙り込みました。 「……その少女を連れて行くとして、最後にはどうするつもりです? 我々の利害と対立するのでは? 面倒は御免ですよ」 「ああ、それは大丈夫」 朝倉涼子は、そして不恰好に倒れていた浅上藤乃を抱き起こしました。 抱き起こして、その腹部に軽く手を当てて、そして、 「何もしなくてもこの子、どうせもうすぐ死ぬから」 朝倉涼子は、少し微笑んで、 「この子、どうせもうすぐ死ぬから」 もう1回言いました。 ◇ 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースの真の強みは、その解析能力だ。 涼宮ハルヒを観察して、その情報を情報統合思念体に送る。そのために造られた存在。 情報を操作して非現実的な現象を起こす能力も、高い肉体的能力も、ある意味でおまけに過ぎない。 その本分は、情報を集めることにこそある。 そこで起こったことを、解析することにある。 もちろん、人間とは意識のありようの異なる情報統合思念体に造られただけあって、不得手はある。 人間社会における常識には欠ける部分があるし、人間心理にはいまいち疎い。 長門有希よりも遥かに上手く人間のコミュニティに溶け込んでいた朝倉涼子も、それは変わらない。 表層的には感情表現豊かで人当たりもいいが、時折、ぎこちなさが滲んでしまう。 しかし現象面の解析ならば、通常の人類より遥かに高い能力を持っている。 「そこで何が起きたのか」「何が原因なのか」、それを看破する能力は極めて高い。 時にそれは、現在の人類の言語では表現が困難な概念で、それゆえ意思の疎通に齟齬を生じることはあるけれど。 それにまた、情報統合思念体との接続がなければ、分からないことも多いのだけど。 それでも、ただの人間が普通に知りえることより遥かに多くのことを、瞬時に見抜くことができる。 「あの集団」の中において、何か不可解なことがあった時、いつも「答え」を出すのはいったい誰だったろう? 朝倉涼子は、そんな「彼女」の同類なのである。 そして、この舞台においては、その能力こそが制限されている。 朝倉涼子が『近視』に例えた、距離的な制限がかかっている。 逆に言えば――近づけば、分かる。 浅上藤乃の、『歪曲』の能力のことも。 それが、右回転と左回転、2種類のチャンネルを持っていることも。 その能力が、彼女の後天的な無痛症と、背中に負った負傷とに連動していることも。 そして――浅上藤乃自身がまだ気付いていない、重症化しつつある虫垂炎のことも。 穿孔し腹膜炎を起こしつつあるその病状は、放置すればそれだけで十分に死に至る。 今後どういう風に行動するかによっても進行は異なるだろうし、ゆえに断定は難しいのだが…… 適切な医療処理を受けられなければ、大雑把に見て、あと1日ほど。 持ち堪えたとしても、最大で2日。 どう贔屓目に見ても、3日間持つことはあり得ない。 この会場に許された時間制限めいいっぱい生き抜くことは、絶対にできない。 それが、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース・朝倉涼子の見立てだった。 ◇ 「……浅上藤乃の面倒はあなたが見なさい。 また上手く説得できなかったり、病気が進行し過ぎて使い物にならなくなったら、責任をもって『処分』するように」 「はいはい」 「もし万が一、あなたが浅上藤乃から攻撃を受けても、私は助けません。1人で逃げて、浅上藤乃の自滅を待ちます」 「分かってるわ。そこは覚悟の上よ。……それで、このままお城の方に行けばいいのね?」 言いながら、朝倉涼子はデイパックの中からサイドカーつきのバイクを引っ張り出しました。 依然気絶したままの浅上藤乃をヒョイとサイドカー側の座席に座らせて、彼女はハンドルを握りました。 その後ろに、普通のバイクで2人乗りするような要領で、師匠が座ります。 「そのことですが、一度その前に警察署に寄りましょう」 「警察署?」 「警察官の使っている武器や、犯罪者から押収した品々があるかもしれません。パトカーなどもあるでしょう。 少し寄り道になりますが、ここからも近いですしね」 「なるほど」 「もしもそこで使い勝手のいいパースエイダーが手に入ったら、浅上藤乃を早々に処分してもいいかもしれません」 「やめて」 言い争う2人を乗せたまま、サイドカーは発進しました。 ポニーテールのほどけた長い髪が、2人の背後にたなびきます。 師匠も朝倉の髪の中に顔を突っ込むような真似はせず、首をずらしてそれを避けます。 「それにしても邪魔な髪ですね。切ってしまいましょうか」 「あ、髪留めの再構成忘れてたかしら。って師匠それはやめて今はやめてちょっと運転中だからほんと待って」 浅上藤乃は、未だ気絶したまま。 3人を乗せたサイドカーは、浅上藤乃が辿った道を逆になぞるように、走り去っていきました。 あたりはすっかり明るくなっています。 もうすぐ、日が昇ります。 【D-3/警察署付近/一日目・早朝】 【師匠@キノの旅】 [状態]:健康。サイドカー後部座席 [装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界 [道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、 [思考・状況] 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。 1:朝倉涼子を利用する。 2:一旦、警察署に向かい武器などを物色する。その後、天守閣の方へと向かう。 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す? 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康。サイドカー運転中 [装備]:シズの刀@キノの旅 [道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、 フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣 [思考・状況] 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。 1:師匠を利用する。 2:警察署に向かう。その後、天守閣の方へと向かう。 3:SOS料に見合った何かを探す。 4:浅上藤乃を篭絡し、活用する。無理なようなら殺す。 [備考] 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。 【浅上藤乃@空の境界】 [状態]:気絶。無痛症状態。腹部の痛み消失。サイドカーの横座席。 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本:湊啓太への復讐を。 0:(気絶中) 1:朝倉涼子と師匠への対処? 朝倉涼子の「協力」の申し出を検討する? 2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。 3:後のことは復讐を終えたそのときに。 [備考] 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前) 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。 [備考] D-3とE-3の境界付近、地図上のT字路になってる辺りに、 フィアット・500@現実が大きく捻じ曲がった状態で放置されています。 とても動かせる状態ではありません。街路樹も折れ、弾痕や空薬莢も残されています。 投下順に読む 前:罪人のペル・エム・フル 次:第一回放送――(1日目午前6時) 時系列順に読む 前:罪人のペル・エム・フル 次:第一回放送――(1日目午前6時) 前:ユケムリトラベル 人類五名温泉宿の旅 師匠 次:喧嘩番長 前:ユケムリトラベル 人類五名温泉宿の旅 朝倉涼子 次:喧嘩番長 前:天より他に知るものもなし 浅上藤乃 次:喧嘩番長
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78/901-1000 901 マロン名無しさん=sage=2013/04/02(火) 09 35 15.77 ID ??? (脚注:4月1日こそ「嘘吐き日本ネタ」の日ではないか?という前フリあり) リクエスト?にお応えして 680 名前:薔薇@Live! 投稿日:2013/03/26(仏) 19 34 02.77 地球の99%は高温で溶けた状態なんだけど なぜ熱いのか分かっていないんだよ 同じような大きさの他の天体はとっくに冷えているのにね 中身がいつまでも熱いまま、なんてお兄さんみたいじゃない? 685 名前:小鳥@Live! 投稿日:2013/03/26(普) 19 34 47.75 680 追い炊きしてんだよ(`ワ´)゛ 688 名前:バーガー@Live! 投稿日:2013/03/26(米) 19 35 52.14 680 ヒーローがいるからなんだぞ! ヒーローの熱い心が地球に移ってるのさXDDDD 691 名前:塩鮭@Live! 投稿日:2013/03/26(日) 19 35 52.14 680 月があるから、月に地殻が引っ張られて摩擦熱が起きてるんじゃないですかね 潮の満ち引きと一緒で 704 名前:ヴルスト@Live! 投稿日:2013/03/26(独) 19 37 19.32 691 なるほど、そうだったのか 714 名前:塩鮭@Live! 投稿日:2013/03/26(日) 19 39 26.66 704 今適当に考えただけですので、他で喋らないで下さいね 906 マロン名無しさん=sage=2013/04/02(火) 16 31 46.16 ID ??? 前半は適当 847 チョコ依存症さん@HOME 2012/05/21(白) 12 48 16.04 O 修羅場で大変やったね その友人も兄嫁に対抗して高スペックの男捕まえてるのかもしれへんで それすら本人の証言でしかないし、本当はやっぱり単なるお金目当てで、 その土地乗っ取ったお金を自分の好きなもの(例えばカカオとか)に使いたいとかかも まあこれもゲスパーやねんけど 848 塩じゃけさん@HOME 2012/05/21(日) 13 11 27.41 0 カ・・・カカオですか 850 スコーンさん@HOME 2012/05/21(英) 13 26 49.53 0 何でカカオなんだよwww 907 マロン名無しさん=sage=2013/04/02(火) 23 33 15.15 ID ??? . 906 さすがベルギーさんww 702 名前:おさるみくわえた名無しさん[] 投稿日:2005/11/19(芬) 04 36 38 ID うちは室内で犬を飼ってるんだけど、 引っ越した家の部屋には冬になると柵の無いタイプの石油ストーブがあった(上にヤカン乗せるタイプ) うちの犬が熱いのわからないでストーブに近づいて行ったりしちゃって、 スーさんが「危ねぇ!」とストーブを撤去、 居間はストーブなしで電気カーペットのみの寒い部屋になってしまった。 今年の冬になってスーさんが「ハロゲンヒーターを買うべ」と言い出した。 「あれってあんまりよくないみたいですよ?」と言うと 「あれだったら火も使わねぇし花たまご(犬)にも安全だべ」と。 大型電気店にハロゲンヒーターを見に行った時も 「これなら花たまごが寒くねぇだろ」「花たまご用に買うんだべ」って張り切っていた。 「エアコンは花たまごの毛が舞い上がってよくねぇ」と。 うちの犬のために一生懸命なスーさんw そして大型のを1台買って部屋に置いた。 するとスーさんはすぐさまうちの犬の所に行き、赤ちゃん言葉で 「これなら花たまごも寒くねぇでちゅねぇ~」と話しかけていた。 908 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 02 20 47.97 ID ??? や…やめろ! 脳が音声と映像で再生するのを拒否してるから! 909 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 06 42 59.25 ID ??? 原作絵と前のアニメ絵と今のアニメ絵で全部再生したぞ 910 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 07 22 13.58 ID ??? ´回喜回`<「これなら花たまごも寒くねぇでちゅねぇ~」 911 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 10 06 04.76 ID ??? 910 眉毛やめろwwwwwwwwやめてwwwwwwww 912 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 10 17 54.80 ID ??? 910 喜の文字で威圧感が倍増してるwww 913 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 13 52 54.67 ID ??? U´・エ・`U<ご主人がうれしそうで何よりです 914 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 14 00 51.09 ID ??? 911 ´回害回`<「ストーブ危ねぇ、エアコンはよくねぇ」 ↓ `回喜回´<「これなら花たまごも寒くねぇでちゅねぇ~」 915 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 15 50 39.31 ID ??? 914のせいで (´・ω・`)プロイソス (`・ω・´)シュレジェーン を思い出した 916 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 16 21 01.22 ID ??? 915 (´回害回`)ストーブ (`回喜回´)ハロゲーン ですねww 917 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 16 25 21.15 ID ??? スーさんで遊ばないでww 918 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 16 45 07.53 ID ??? 良く見たら口が害→喜になってるのかwwwワロタwwwww 922 1/2=sage=2013/04/03(水) 17 41 41.27 ID ??? 便乗改変 908 じゃがいもさん [sage] 2013/04/03(普) 02 20 47.97 ID ??? や…やめろ! 脳が音声と映像で再生するのを拒否してるから! 909 じゃがいもさん [sage] 2013/04/03(独) 06 42 59.25 ID ??? 原作絵と前のアニメ絵と今のアニメ絵で全部再生したぞ 910 デニッシュさん [sage] 2013/04/03(丁) 07 22 13.58 ID ??? ´回喜回`<「これなら花たまごも寒くねぇでちゅねぇ~」 911 ワインさん [sage] 2013/04/03(仏) 10 06 04.76 ID ??? 910 眉毛やめろwwwwwwwwやめてwwwwwwww 912 スコーンさん [sage] 2013/04/03(英) 10 17 54.80 ID ??? 910 喜の文字で威圧感が倍増してるwww 914 デニッシュさん [sage] 2013/04/03(丁) 14 00 51.09 ID ??? 911 ´回害回`<「ストーブ危ねぇ、エアコンはよくねぇ」 ↓ `回喜回´<「これなら花たまごも寒くねぇでちゅねぇ~」 925 2/2=sage=2013/04/03(水) 18 30 25.75 ID ??? 923 やり直し! 915 トマトさん [sage] 2013/04/03(西) 15 50 39.31 ID ??? 914のせいで (´・ω・`)プロイソス (`・ω・´)シュレジェーン を思い出した 916 ハイテクさん [sage] 2013/04/03(愛) 16 21 01.22 ID ??? 915 (´回害回`)ストーブ (`回喜回´)ハロゲーン ですねww 917 サルミペロペロさん [sage] 2013/04/03(芬) 16 25 21.15 ID ??? スーさんで遊ばないでww 918 パフィンこねこねさん [sage] 2013/04/03(氷) 16 45 07.53 ID ??? 良く見たら口が害→喜になってるのかwwwワロタwwwww 926 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 21 31 48.88 ID ??? 1:以下、名無しにかわりましてSALTがお送りします:2013/04/03(日) 15 32 14.79 家族って英語で familyっていうだろ? 語源は Fはfather Aはand Mはmother ilyはI Love You の頭文字を とってるんだ。 家族を大切にしよう いつもありがと 飯食いにこいよ。 #拡散希望 というものが、ある友人からLINEで回ってきたのですが・・・ 4:以下、名無しにかわりましてFATがお送りします:2013/04/03(米) 15 33 51.52 よくこんな恥ずかしいの考えつくねXDDDD 927 マロン名無しさん=sage=2013/04/03(水) 21 43 56.95 ID ??? 87 名無しさん@HOME 19**/01/21(氷) 12 44 29.07 0 大雪の日の昼過ぎに、買い物の帰りに後ろから肩を掴まれて、振り向いたら知らない男がいた。 え?え?誰?人違いされた?え?と固まっていると、抑えこまれた。 テロリスト!?暴漢?!殺される?!とパニック。 気が付くと持っていたエコバッグを振り回していた。 男の肩にバッグが当たり、しゃがんだ所に勢いが慣性の法則で止まらないバッグが二打目。 その2打目が男の頭部にヒット。 破れたバッグから缶詰が飛び出す。 そうだ!ブリザードに備えて家族分の缶詰を買い足していた!! やばい殺した?僕殺人者?これ戦争の引き金になる?北欧の平和はどうなるの? 男はぴくりとも動かないし、もう膝がガクガクして震えながら警察に連絡した。 本当は「このまま逃げようか?」と思った。 警察が救急車を呼んでくれて、僕は警察署へ。 結果、男は顎先にバッグが当たり顎が振り切れて脳震盪で気絶していただけ。 相手が刃物を持っていた事、前科があった事で正当防衛で僕は無罪放免。 被害届を出して終わった。 駆けつけてくれた兄が泣きながら「お前が弟に買い物をさせるから!」と 同じく駆けつけてくれた同居人Dをビンタ。 「そもそも缶詰なんて重い物はあんこが買いに行け!」と Dを打ち続ける兄をお巡りさんと必死で止める。 一悶着が落ち着いて、時刻は18時、しかもブリザード直撃中。 「あれ?今家には誰がいるの?パフィンひとり?」と気付き三人とも真っ青。 慌てて家に帰るとパフィンは暖炉の中で寝ていた。 同居人Dが警察からの連絡で慌てて飛び出したとき、灰をそのままにしていたのが幸いしたらしい。 もう本当に全身から力が抜けて、そのまま倒れた。 倒れる瞬間、目の前が真っ暗になり、ゆっくり天井が廻ったのを覚えている。 931 マロン名無しさん=sage=2013/04/04(木) 13 39 11.23 ID ??? 450:親の心子知らず:2013/04/01(ゲ) 23 57 35.09 ID 「激おこぷんぷん丸」というギャル語は怒りを表現する「おこ」の変化形であり、 「激怒」を意味する言葉が含まれるが同じく怒りの表現である「ぷんぷん」と なんで付けちゃったのか皆目見当がつかないが、 これによって比類なきテンポを生み出し 何でか知らないが使ってみたくなる単語に仕上げた「丸」の存在で 途方もない脱力感を醸し出している。 これはギャルや大人が使うから面白いんだと百も承知であるが、 まだ言葉がおぼつかない赤ん坊や子供が、 何かに怒っている時の様子が、まさに激おこぷんぷん丸って感じで超かわいい。 本人は真剣なのだが言葉が伝わらないし、 何か必死な様がかわいらしいのも含め本当に激おこぷんぷん丸だったな……と思う。 でも子供の様子に使うのは本来の使い方ではないし、 自分の子はもう激おこぷんぷん丸という年齢ではない。 469:子供好き?の心子知らず:2013/04/02(蘭) 06 55 59.81 ID 450 幼児が激怒してるのかわええよなー 口調にワロタわw 941 マロン名無しさん=sage=2013/04/05(金) 22 39 47.37 ID ??? コピペ改変。 516 名前:お塩のお爺さん[] 投稿日:2011/11/29(日) 11 14 40.48 ドイツ語のSchadenfreudeは「他人の不幸に喜びを感じること」という意味で 一単語の英語に訳すことができない語としてよく引用されていますが 近年日本語では「めしうま」という言葉が人口に膾炙したことによって 直訳が可能になった事をここにお知らせいたします。 943 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 01 51 13.01 ID ??? メシウマ状態!!→シャーデンフロイデ状態!! 945 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 06 47 14.22 ID ??? 一般人と赤福注意。 聞いた会話を晒すスレ 386 オタク国民歴774年2013/03/27(日) 23 09 57.62 バス停にいた着物の青年?とメタ…ふくよかな外人のにーちゃんの会話 前後は聞いてなかったけど、 外人「葉っぱについてる線ってなんていうんだっけ…」 着物「うちでは理科で習ったと思いますねぇ」 外人「あー…わかった!毛細血管!」 着物「あほですか。葉っぱに血管あったらレタスちぎったとき血まみれじゃないですかか」 メタボが天然なのかわざとなのかはわからないけど、着物の人の切り返しの早さに笑ったww てか葉脈で良いんだっけ? 950 1/2=sage=2013/04/06(土) 12 22 20.39 ID ??? . 949 ずばりドイツに改変してしたらば投下したw 以下ネタ コピペ改変 今気付いた…トマトって上からよんでも下からよんでも… 1 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(西) 00 30 46.31 ID pSgc2cYe0 返事してくれへん… 9 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(蘭) 00 32 03.74 ID Wo1+yWjM0 ちょっとワロタ 13 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(南伊) 00 32 58.12 ID Cy+6pj/O0 恥じらいがあるんだよ、顔真っ赤だろ? 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2013/03/19(白) 00 35 12.17 ID wuhmwZR/0 泣いた 17 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(仏) 00 35 29.66 ID E83cuszC0 いいポエムスレだ 18 :以下、名無しにかわりまして国?がお送りします :2013/03/19(普) 00 35 32.01 ID U3kesqyb0 上ってどっちだよ 20 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(襖) 00 36 38.68 ID Aie0aHyF0 うまいと思いました 24 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(日) 00 38 40.64 ID iCz+Mf4N0 りこぴん… 25 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(北伊) 00 43 46.47 ID EbNrIljB0 食べちゃいたいほど好きなのに 26 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(独) 00 57 26.54 ID HlslKcHM0 それは誘っているんだ 構わん、ブチ込んでやれ 27 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(米) 01 02 34.01 ID Wwp4cFcTO 1「やぁ元気かい?」 トマト「…」 1「…いい天気だね」 トマト「…」 まさに植物状態 28 :以下、名無しにかわりまして国がお送りします :2013/03/19(露) 01 04 48.7ID XNuFdRjS0 27 好き 954 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 13 52 07.21 ID ??? 518:わんにゃん@名無しさん:2013/03/31(典) 15 34 42.23 ID 飼っとる犬が病院の待合室でケージの中で恐怖のあまり失禁してしまったことがあった それからは待合室の椅子にケージを置いて自分は床にしゃがんで 同じ目線の高さで犬に常に話しかけるようにしとるけんど 周りの人や受付の人には変な人に思われてるかもしれね 「花たまごちゃん、どこに行ったんかな~?あれ~?見えねっぞ~?」 ←ケージの中のペット毛布の裏に隠れている 「おや?これは何かな?何だべな~?」 ケージの横の穴から指の先を見せたり引っ込めたりして犬の気を惹く 「あ、いまニャオーンって聞こえたべ?ニャオーンがいるんかなぃ?どこだべな~?」 病院の奥の方から猫の鳴き声が聞こえた これを190cmのオッサンがやっているのは内緒 958 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 15 32 48.43 ID ??? (´回害回`)<花たまごちゃん、どこに行ったんかな~?あれ~?見えねっぞ~? (´回喜回`)<おや?これは何かな?何だべな~? (`回喜回´)<あ、いまニャオーンって聞こえたべ?ニャオーンがいるんかなぃ?どこだべな~? 960 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 17 35 10.28 ID ??? 脳内再生余裕でした(キリッ 正統派ハンガリータイム 27 名前:騎馬民族さん@お花いっぱい。[sage] 投稿日:2013/04/03(洪) 13 51 20.69 腐れ縁(自宅警備員)がネットゲームをしながら 「本物の女性プレイヤーより 女性のふりしたネカマ男性プレイヤーの方が男のツボ抑えてて可愛いゼー」 などと危険な発言をしており、 道を踏み外してしまわないかと私はとてもワクワクしています。 964 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 20 54 55.46 ID ??? 若干あんこがはみ出た? 曜日欄、語尾以外無改変。 [400]日出づる処の名無し [sage] 2013/04/04(米) 20 31 36.62 ID みんながポテトポテト言うから冷凍庫探しちゃったじゃないか 皮つきポテトがあったから揚げちゃったじゃないか 食べちゃったじゃないか。美味しかったじゃないか 「夏物衣料をスマートに着よう」月間だったのに どうしてくれるんだい! [402]日出づる処の名無し [sage] 2013/04/04(日) 20 33 38.71 ID 400 「まわしが似合う漢になろう」月間にすればいいじゃないですか 965 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 21 13 32.69 ID ??? 295:要塞の心子知らず:2013/04/02(シ) 23 50 21.71 ID 昔、パパが段ボールでロボットを作ってくれたのですよ。自分で着てロボットになれるようなやつ。 アルミホイルを全体に貼って、お腹にメーターみたいな絵を描いて、 頭にはアンテナも付いてました。 目の部分に穴が開けてあって、 そこから見える目だけでもすごく嬉しそうな表情した僕の写真が残ってるです。 967 マロン名無しさん==2013/04/06(土) 22 21 16.53 ID cW7r/dMy アジア兄弟注意 84 むかしのあるせいかつ 2005/05/19(湾) 10 52 34 あれはまだ日本さんと一緒に暮らしていたの頃ネ。 夕暮れ時に帰宅したら玄関が半開きになっていて なにかものすごい異臭がしたノ。 あれ?と思って「日本サーン?香ー?誰かイルー?」と 玄関の隙間から声を掛けるも返事無シ。 異臭の元は家の中ではないようなノデ、庭に回ってみるタラ 1ヵ所、何かを埋めたようなこんもりと掘り返した土の部分を発見。 日本サンか香が殺されて埋めらレタ・・・? と本気でその時は思ったんだケド、 くさりはてたタクワンを日本サンが処分に困って埋めただけのだっタ。 てか、玄関開けっ放しで新しいタクワン買いに行かないデ、日本サン。 968 マロン名無しさん=sage=2013/04/06(土) 23 05 50.92 ID ??? . 967 ただのホラーwwwwタクワンってかわいいwwwww もうへたちゃんねる卒業したいから二度と来たくなくなるぐらい罵倒してくれ 1 以下、不憫にかわりまして小鳥がお送りします 2013/04/05(金) 18 58 37.96 ID hub1nksss もう嫌だわ 2 以下、薔薇にかわりましてピエールがお送りします 2013/04/05(金) 18 59 14.63 ID Frns/iris 1は本当に良い人だね 3 以下、トマトにかわりまして闘牛がお送りします 2013/04/05(金) 18 59 22.55 ID Pstmthsss 嫌な事があったら戻ってきてもええんやで? 4 以下、眉毛にかわりまして妖精さんがお送りします 2013/04/05(金) 18 59 24.43 ID h0aTskoon 1 ズッ友だよ…// 9 以下、メタボにかわりましてテキサスがお送りします 2013/04/05(金) 19 00 02.52 ID mtbDDDDDD いつだってへたちゃんねるは君を歓迎するぞ!! 12 以下、ウォトカにかわりまして水道管がお送りします 2013/04/05(金) 19 00 46.98 ID hnBt/krkr 1 どうしたの?嫌なことでもあったの? 僕達に相談しなよ聞いてあげるよ(^し^) 13 以下、串刺しさんにかわりまして吸血さんがお送りします 2013/04/05(金) 19 00 51.59 ID DRakyrvrd いつでも戻ってきていいんだよ いつでもおいらたちはここにいるから 18 以下、大事なところにかわりましてフライパンがお送りします 2013/04/05(金) 19 01 37.34 ID HrypAaaan 苦しい時きっとまた帰ってくるのよ。 みんな あなたを好きなんだから 26 以下、貴族にかわりまして迷子さんがお送りします 2013/04/05(金) 19 02 51.05 ID pkpkObkSn 会いたくなったらまた会いに来なさい 43 以下、おいもにかわりましてむきむきがお送りします 2013/04/05(金) 19 06 30.17 ID MkMk/knut 1が幸せになる呪文をとなえた 974 マロン名無しさん=sage=2013/04/07(日) 21 58 52.35 ID ??? 580 名前:さるみくわえた国民さん[sage] 投稿日:2006/03/24(芬) 14 06 19 ID 自転車の事故で思い出した。自分高校生だった時の話。 急用でチャリ飛ばしてて、普段は怖くて通らない急な下り坂を近道しようとした。 坂を走り降りたらスピードが出すぎたんで少しブレーキかけようとした途端、ガキッと壊れて まったくブレーキがかからなくなった。映画の暴走車みたいになって、恐怖で絶叫w そのまま坂の下に建っていた祖国の住んでる一軒家のコンクリ壁に激突。左半身強打で息も出来ず、 かといって痛くて失神も出来ずに倒れていた。 そしたら祖国の家で飼われていたふわふわした犬が「ヘンな人が飛び込んできた!!」ってかんじで ばうばうばうばう!!! って物凄い勢いで吠え出したんだけど、私がピクリとも動かないので 「わふわふ・・・わふ?」「わう!! わん!!」「きゃわわわん、きゃわわーん!!」ってだんだんと 切羽詰った鳴き声に。祖国が出てくるまでずーっと吠え続けてくれた。 おかげで祖国が気づいて助けてくれ、曲がった前輪も直してくれた。素手で。 わんこは尻尾をふってお見送りしてくれました。 当時は息もたえだえで満足にお礼も言えなかったけど、ありがとう、あの時の犬と祖国。 975 1/2=sage=2013/04/07(日) 22 27 21.66 ID ??? 何故か皆日本の漫画に詳しいがキニシナイ 658 名前:(元騎馬民族は掃除されました) 投稿日:2013/03/25(洪) 22 09 20.06 あら、トイレ掃除のスレがあるのね。 自力で便器と配管の接合ガスケットを交換した私としては このスレで自慢してほめられたいわ。 659 名前:(薔薇は掃除されました) 投稿日:2013/03/25(仏) 23 14 51.28 658 どれ位すごいのかガンダムで例えてみてくれないかな? 661 名前:(元騎馬民族は掃除されました) 投稿日:2013/03/26(洪) 12 01 03.00 659 ガンダムは知らないからキャンディキャンディで例えるけど ニールが跪いてブーツ脱がしてくれるくらいすごいと思うわよ 662 名前:(キムチは掃除されました) 投稿日:2013/03/26(韓) 14 43 37.81 661 すごすぎてプッペが放屁したんだぜ! 665 名前:(おリボンは掃除されました) 投稿日:2013/03/27(列) 02 00 30.13 661 素晴らし過ぎてありえないくらい凄いのが分かりましたわ。すごいです661さん 668 名前:(眉毛は掃除されました) 投稿日:2013/03/28(英) 09 23 07.28 661\(言o言)/ワカンネー 671 名前:(メタボは掃除されました) 投稿日:2013/03/29(米) 14 40 28.20 668わかんないんだぞ! ドラゴンボールで例えてくれよ! 672 名前:(塩鮭は掃除されました) 投稿日:2013/03/29(日) 18 05 19.99 671 そうですね…… 悟空がアルバイト(戦闘能力無関係)を一日無事に勤めあげた位すごいです 673 名前:(自宅警備員は掃除されました) 投稿日:2013/03/29(普) 22 12 44.76 672 奇跡じゃねーか。 978 マロン名無しさん=sage=2013/04/08(月) 00 55 09.32 ID ??? 603 名前:国家迷い歴774年[sage] 投稿日:2013/04/06(墺) 08 24 24.81 ID 店で品出ししてる時に見かけた2~3歳くらのちびっ子と祖国 会話というかほぼ独り言 ちび「いい子にしてたらお菓子(`・ω・´) いい子にしてたらお菓子(`・ω・´) いい子にしてたらお菓子(`・ω・´)」 祖国「○○、夕飯何食べたいですか?」 ちび「いい子に………ぱーすたー(*´д`*)」 祖国「じゃあそうしますかー」 ちび「お菓子♪ お菓子♪ お菓子♪」 とことこと祖国の後ろを着いていく子の可愛さと、 いつの間にかお菓子買ってもらえる条件が消えてることに吹いたw 988 マロン名無しさん=sage=2013/04/13(土) 02 39 00.42 ID ??? 梅ネタにアジア兄弟でも 293 名前:塩鮭さん@鎖国中 投稿日:2013/04/10(日) 15 33 41.20 自称兄に 「人を殺してばっかのゲームやってるといつかリアルでも人殺しちまうアルよ!」 と言われてどう弁解したものかと悩んでたときに、 妹が「大丈夫ヨ、お兄ちゃん女の子を攻略していくゲームもやってるけど彼女出来たことないカラ!」 ってフォローしてくれました。 295 名前:ワインさん@薔薇装備中 投稿日:2013/04/10(仏) 15 34 14.02 293 素晴らしい! 991 マロン名無しさん=sage=2013/04/14(日) 00 32 35.37 ID ??? 埋めがてら既出ネタでも 90 名無しでいいわー 2007/10/14(勃) 11 59 23.27 ID 11ioa5zL お前ら今日の予定は?(´・ω・`) 93 名無しでいいんだよー sage 2007/10/14(尼) 12 00 16.94 ID t+wjWSoM 90 買い出し行くくらい。 あとは家で仕事用の死霊をちょっと弄る程度。 98 名無しでいいですとも sage 2007/10/14(墺) 12 01 23.33 ID hXjA5Awr 93 ネクロマンサーの方ですか 78スレ目次 次
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罪と罰(中編)◆tt2ShxkcFQ 「伊波さんっ!駄目だっ!!」 その声は、伊波へと届き、その体を固まらせる。 ヴァッシュへとトドメを射そうとした伊波の心の中に、戸惑いが走った。 『コノ声ハ……誰?』 『男だ、お前が憎んでいる、男の一人だ』 心の問いかけに、低い男の声が返る 「俺ですよ伊波さん、小鳥遊です。分かりますか?」 再び響くその声に、伊波の心の中には安堵が生まれる。 『タカナシ……タカナシ君、私ノ大切ナ人』 『それは違う、奴も憎むべき男の一人だ』 その気持ちを嘲笑うかのように、再び声が響いた。 『ヤメテ……違ウヨ、彼ハソンナ人ジャナイ』 『何を言っている、お前がどう思おうと、奴は我とお前にとっての敵だ』 『チガウ……ダッテ彼ハ、ワタシニ優シクシテクレタ……。 私ノヘアピンヲ、褒メテクレタ。 オ父サンヲ、叱ッテクレタ』 伊波は過去を思い出し、小鳥遊を思い出す。 彼は殺したくない、その想いが、ジャバウォックの動きを鈍らせる。 『何を言っている、お前は見たはずだ』 しかし、そんな伊波の迷いを打ち消すかのように、その低い声は笑い声を上げた。 『……違ウ、アレハ何カノ間違イダヨ』 伊波は拒絶するかのように、そう答えた。 『戯言を、本当はおまえ自身が、一番分かってるはずだ』 『ヤメテ……何モ言ワナイデ!!』 『伊波まひる、お前が小鳥遊宗太を助けようとあの人間を殴り*したとき、お前は見たはずだ』 『イヤッ、何モ聞キキタクナイ!』 『小鳥遊宗太は、*されそうになって居たわけではない』 『嫌ダ……』 『お前を*そうとした水銀燈という人形を……』 『小鳥遊クン……』 『守っていただけだ』 その言葉が、伊波の心に芽生えていた抵抗を無残にも消し去る。 生まれる感情は悲しみ、怒り、嫉妬……そして、憎悪。 小鳥遊クンハ……私ヨリモ、小サナ人形ノ方ガイインダ…… 私ヲ殺ソウトシタ、アノ人形ノ方ガイインダ 嫌イ……嫌イ。 大ッ嫌イダ! 男ナンテ ゾロ……ヴァッシュ……新庄……小鳥遊クン…… ミンナミンナ、消エテシマエバイイ!! 伊波の心を、憎しみが染めていく。 心を怨嗟の炎が、侵食していく。 そんな光景を見ながら、ジャバウォックは一人、禍々しい笑みを浮かべていた。 ◇ ◇ ◇ 「セツ……マヒルは?」 「大丈夫だから、動かないで」 新庄はヴァッシュの黒髪を掻き分けて、傷の具合を確認する。 頭皮は裂け、大きなコブが出来ているが、既に出血は止まっていた。 「あれ……」 予想外の軽症に、思わず新庄は声を上げる。 「ははっ、僕は頑丈だからね」 その戸惑いを察したのか、ヴァッシュは笑いながら答えた。 今だ脳震盪は治まっていないのだろう、笑顔もぎこちない。 「いやっ、その……ごめんなさい。 伊波さんの事は佐山君たちに任せて、今はもう少し休んでてください」 ヴァッシュはごめん、と一言呟くと、瞳を閉じて体の力を抜いた。 一秒でも早くまた動けるようになるために、 伊波と再び、向き合うために。 そして新庄は佐山へと視線を向ける。 ヴァッシュを伊波の側から引き上げてきた佐山だが、 今は微動だにせずに伊波を見つめている。 額には汗が。小鳥遊の身を心配しているのかもしれない。 「新庄君」 「なっ、何?」 不意の問いかけに、新庄は声を上ずらせながら答えた。 「君はここに残って、ゾロ君とヴァッシュ君を守ってやってくれ」 「……佐山君は?」 「そろそろ小鳥遊君も限界だ、私も伊波嬢の元へと行こう」 「ボ、ボクだってサポートを……!」 「それならばここに居る二人は、誰が守るというのかね?」 「うっ……」 「忘れてはならないよ、ここには未だ水銀燈がいる。 他の参加者の介入も考えられるだろう」 「でも……その手袋の力は本当なの?もし効かなかったら」 「私のこの左腕が、手袋が有効な証拠だよ」 そう言って、佐山はその左腕を新庄の前へと晒す。 「体を取り外せるというのは魅力だね。 これで新庄君のまロい尻をいつでも━━」 「佐山君!」 佐山の言葉を新庄が遮る。 「……新庄君、君はあの腕を何だと考えるかね?」 「えっ……何かの支給品、武器かな?」 「それは違うよ新庄君。 兵器は意思を持たない……兵器に罪は無い。 もしその兵器によって殺人が行われたとしても、それは使用した者の罪だ。 だとしたら……今、伊波嬢が使用しているものは兵器ではない」 「じゃあ……」 「私は、あれをウイルスの様なものだと考えている」 「えっ……?」 「宿主の細胞を利用し、自己を複製する事が出来る……。 伊波嬢で言うならばあの右腕は、もう彼女のものではない」 「伊波さんはそれに感染して、ああなったって事?」 「あくまで説の1つだがね」 「まさか……伝染する?」 「それは無いだろう。 主催はそんな事をする意味が無い、勿論100%ではないが……。 ケガを負わされたゾロ君に何も異常が無い事からも、心配はいらないね」 「そう……」 「心して聞いて欲しい、新庄君」 「えっ?」 「最悪のケースの場合、恐らくはあの右腕、取り除いても━━」 ◇ ◇ ◇ 鋭い右腕が、小鳥遊へと振り下ろされる。 辺りに響くのは鋭い金属音。 火花を散らしながら、小鳥遊の雷光丸がその爪を遠ざける。 後ろに飛びのき、再び距離をとった小鳥遊は、乱れた呼吸を整えるように相手を見る。 「伊波さん、お願いですからやめて下さいっ」 汗を拭う余裕もなく、小鳥遊は必死に叫んだ。 相変わらず反応は返ってこない。 だがしかし、希望が無いわけでもなかった。 最初に比べ、明らかに動きが散漫になっているジャバウォック。 原因は分からないが、伊波が抗っているのかもしれない。 そう思いながら、小鳥遊は視線の端で佐山を探す。 ……先程まで居館の前で新庄と共に居たはずだが、その姿が見えない。 そして再びジャバウォックが、小鳥遊目掛けて地面を蹴った。 幾度も繰り返される命がけの防御。 精神的にも、肉体的にもそろそろ限界が近い事を小鳥遊は理解していた。 「佐山君……何をやってるんだよっ」 そう呟き、小鳥遊は再び雷光丸を構え、振り回しながら後方へと飛ぶ。 しかし、伊波のその右腕は、小鳥遊を狙って物ではなかった。 それは小鳥遊の手前、地面を狙った、豪腕のストレート。 辺りに何かが爆発するような、そんな音が響いて地面を抉った。 そして弾き飛ばされた石が、砂が、ショットガンのように小鳥遊を襲う。 雷光丸は致命傷になりそうな石を、そのレーダーで感知して弾き飛ばす。 そうして動きを限定させた雷光丸を、ジャバウォックの右腕は掴み上げた。 ベキバキ 小鳥遊の耳に金属が砕ける音が届く。 それは一瞬の出来事だった。 金属片が地面に落ちて、甲高い音を立てる。 雷光丸は、ジャバウォックの握力によって呆気なく砕かれたのだ。 伊波と小鳥遊は、今や手を伸ばせば届くような至近距離で目を合わせている。 砕け、柄の部分しか残ってない雷光丸を握りながら、小鳥遊は達観したように伊波を見つめた。 涙を流しながら、禍々しい笑みを浮かべた伊波の顔。 あぁ……もう殺される。 そう思った瞬間、伊波の後ろ、至近距離に佐山の姿を見た。 まるで豹のように、気配を消し、敵意を消し、伊波へと迫る。 そして手袋を嵌めたその右腕を、伊波へと伸ばそうとしていた。 佐山は伊波の動きを観察し、その隙を探した。 そして見極める、伊波はその腕を振るい殴りつけた後、一瞬だがその動きを止めている。 考えてみれば当然なのかもしれない、その右腕以外は生身の体なのだ。 重量、推進力、どれを考えても伊波のその体で使いこなせるとは思えない。 だからこそ、動きのどこかに綻びが現れる。 佐山がそれを狙い、音もなく伊波へと迫った。 後数歩で伊波の下へとたどり着く。 1秒もかからない、小鳥遊を殺す隙も与えない。 そう思い、身を低くして加速する。 だがしかし、そこで佐山の不安要素のひとつが顔を出す事になる。 佐山の体に似合わぬ大きさ、重量のその左腕。 何時もと勝手が違うそのバランス感覚が、佐山の足音を、気配を消す事を阻害した。 ジャリ 土を踏みしめるその小さな音を、佐山は耳にする。 伊波は恐らく気が付いただろう、続行か、退避か。 考えるまでもない、ここで退けば小鳥遊は死ぬ事になる。 佐山とて、幼い頃から叩き込まれた格闘術がある。 よって身体能力や戦闘力は、常人のそれを凌駕する。 少し手を合わせた相手ならば、歩法だって使えるだろう。 負ける要素は無い。 そう判断して踏み込んだ佐山は、伊波が身を翻してその右腕を振るうのを見た。 遠心力を利用し、殺傷能力をもった裏拳。 その裏拳を、佐山は立ち止まり、射程範囲ギリギリでかわす。 鼻先を拳がかするのが分かった。 腕を伸ばしての裏拳をも警戒し、頭を庇うように上げていた両手をそのままに、佐山は奇妙な光景を目にする。 何故か自分の顔の前で静止している相手の拳。 その根元、手首部部には巨大な穴が穿たれていて…… それが何なのかを察した佐山は、背筋が凍りつくのを感じた。 バシュ 次の瞬間、辺りに響くのは何かが打ち出されるような軽い音。 そして小鳥遊が、新庄が絶叫する事になる。 佐山は何かに打ち出されたかのように上体を吹き飛ばされた。 まるでゴム鞠のように、地面を何度もバウンドし、転げまわる。 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」 「佐山君っ!?」 辺りに悲痛な叫びが響いた。 ジャバウォックにとって、切り札の1つ。 その掌で握った物を、加工して弾とする。 そしてそれを、空気圧縮を用いて手首の砲身部分から発射したのだ。 ジャバウォックは地面を殴りつけたとき、同時に岩や石を弾として加工していた。 佐山がその直後に襲撃したのはただの偶然……だがしかし、運が悪くもそれが悪手になってしまった。 次の瞬間、伊波は小鳥遊へと向き直り、その拳を振りかぶる。 「何ボーっとしてんのよっ!」 間髪を居れず、鋭い声が小鳥遊の耳に入る。 そして、無数の黒い羽根が辺りを埋め尽くし、伊波の顔を襲った。 それはゾロやヴァッシュのそれとは違い、遠慮の無い、致命傷を狙った攻撃。 思わず右腕で顔を庇いながら、伊波は数歩後ずさる。 次の瞬間、小鳥遊は右手を掴まれ、後ろへと引きずられた。 「き、君はっ……」 「本当にあなた馬鹿じゃないの?!」 そこに居るのは隻腕の人形、水銀燈。 彼女は伊波から小鳥遊を引き離すと、乱暴に手を解いた。 「どうして俺を……助けたのさ」 「はぁ?勘違いするんじゃないわよ。 貴方達の戦力がこれ以上落ちると私が困るから、それ以上でも以下でもないわ。 それに私は、いつまでも貴方みたいなのに貸しを作ったままにしておくのは嫌なの」 ……そんな事よりも、この人間を如何するつもりなのよ」 水銀燈は顔を顰めながら、伊波を見つめて呟いた。 「そ、それは……」 佐山の倒れている方向を見つめ、言葉に詰まる小鳥遊。 彼は倒れたままピクリとも動かない、近くには新庄が駆け寄ってしゃがみ込んでいるが。 先程の衝撃を見た限りでは、最悪の場合…… 黒い羽根を振り払った伊波は、咆哮を上げると再び小鳥遊と水銀燈を睨みつける。 「ちょっと、何も手が無いっていうの? ……いいわ、ならば私が始末してあげる」 「なっ!もう殺すなって言っただろ!」 「ならば代案を考えなさい、お馬鹿さん」 そう言うと水銀燈は、残った左羽をぎこちなく広げる。 それに答えるように、伊波は姿勢を低くして此方へと敵意をむき出しにする。 「駄目だって言ってるだろ!」 そう言って小鳥遊が水銀燈の肩を掴んだ瞬間、乾いた音が辺りに響いた。 そして伊波の体が僅かに揺れ、右腕へと鉛がめり込む。 にらみ合っていた3者は、その音源の方向へと視線を向けた。 そこには黒いコートの男……ヴァッシュが、頭を血で染めながら立っていた。 「聞くんだタカナシ!サヤマが君を呼んでいる。 ここは僕に任せて、君はサヤマの元へっ!!」 ヴァッシュの叫びを聞き、小鳥遊は状況を理解して咄嗟に駆け出した。 そして同時に、ヴァッシュは伊波へと向かって駆け出す。 「マヒル、ごめんよ……僕は君を撃つ。 助けるために……サヤマの、最後の作戦の為に」 再び手元の銃が火を吹いた。 銃弾は真っ直ぐに右腕へと吸い込まれ、その体を揺さぶる。 そして伊波が怒りに刈られて地を蹴ろうとした次の瞬間、黒い羽が伊波へと襲い掛かる。 「要するに、時間を稼げばいいのでしょう?」 妖艶な笑みを浮かべながら、水銀燈はヴァッシュの目の前に舞い降りる。 「水銀燈。君も下がるんだ!」 「はぁ?何故私が貴方の言う事を聞かなければいけないのかしら」 「うっ……でも、君はケガを」 「私を気遣う余裕があるのなら、前を見なさい」 羽を乱暴に振り払うと、伊波は二人目掛けて地を蹴った。 それを迎え撃つかのように、二人は身構える。 ◇ ◇ ◇ 「すまないね、小鳥遊君」 「何言ってるんだよ……」 小鳥遊が見た佐山は、想像していたよりもずっと悲惨だった。 佐山が取り付けた、ラズロの左腕。 その左腕の肘から先が吹き飛んでいる。 全身は傷だらけで、頭からは血を流していた。 「あの大砲が弾を打ち出す寸前に、この腕を盾にしたおかげだ。 何とか弾の軌道を逸らして、致命傷を避ける事ができたよ。 筋肉は鎧になると聞いたことはあったが、あながち嘘ではないようだね」 そう言って佐山は口元を緩める。 そしてとある違和感に小鳥遊は顔を顰めた。 千切れ、吹き飛んだはずの左腕の血は既に止まっている。 それどころか、細く白い煙を一筋立てながら、傷が徐々に……。 「ラズロはどうやらトカゲの親戚だったようだね……つっ!」 そう言って、体を起こそうとした佐山の口から声が漏れる。 「駄目だよ佐山君っ!動かないで!」 新庄は、涙目になりながらも佐山の右腕に包帯を巻いている。 その右腕は、丸太のように赤黒く腫れ上がっていた。 「佐山君、右腕も……」 「安心したまえ、折れてはいないよ。 ……だがしかし、皹はいっているかもしれない。 その上頭を打ってしまったようでね、今は立ち上がることさえ出来ない」 「佐山君……」 「大丈夫だよ小鳥遊君、佐山君が持っている荷物に治療符があったの」 新庄は空元気な声を出し、一枚の札の様な物を取り出して包帯の上に貼り付けた。 「治療符……?」 「心配は要らないということだよ。 それよりも新庄君……」 佐山にそう促された新庄は、頷いて立ち上がった。 そして自分の右手に、つけかえ手袋を通す。 「佐山君?」 小鳥遊は目を見開きながら、佐山を見つめた。 「私の代わりは、新庄君が勤めてくれる……。 新庄君も戦闘訓練を受けている、必ず伊波嬢を救ってくれるだろう」 「これはボクが申し出たんだ……必ず、やり遂げるから」 佐山の顔には不安と、悔やみの念が浮かび上がっている。 「君は下がって、ゾロ君を見ていてやってくれ……」 そして佐山がそう言ったのを合図にするかのように、新庄は立ち上がった。 「……何言ってんだよ」 小鳥遊は、小さい子でそう呟く。 「何?」 「俺がやる」 小鳥遊は立ち上がり、新庄の前へと立ちはだかる。 「思い上がらないで貰いたいね。 電光丸を失った君が伊波嬢の前にいくのは自殺行為だ」 「伊波さんは俺を殴る前、少しだけど動かなくなるんだ。 さっき佐山君がやられた時だってそうだろ? 電光丸を握りつぶしたあと、動かなかった。 すぐ佐山君が来たといえ、殴る動作に入るくらいの時間はあったのに」 「自分の言ってる事の意味が、分かってるのかね」 「……うん」 「はっきりといおう、君は死ぬ。 そして小鳥遊君を殺した伊波嬢はもう諦めるしかないだろう。 たとえ救うことが出来ても、知人をこの手で殺したという事実で彼女は押しつぶされる」 「そんな事はさせない」 辺りを、張り詰めた空気が漂う。 「……最後に聞こう、本気かね?」 「伊波さんは、俺が助ける」 そう言って、小鳥遊は佐山を睨みつける。 佐山はそんな小鳥遊をみて、不敵な笑みを浮かべた。 「Tes. と言っておこうか」 「えっ……」 「新庄君、小鳥遊君のサポートを頼む」 「……Tes.」 そう言って、新庄は手袋を外すと小鳥遊へと手渡した。 そしてデイバックの中からシングルショット・ピストル。コンテンダー・カスタムを取り出す。 「問題は小鳥遊君を伊波嬢の至近距離へと近づける方法だが……。 さすがは聡明だね新庄君」 新庄は口元を緩めながら頷く。 そんな新庄の手、銃ともう1つ、ある物を握っている。 「ボクが、小鳥遊君を伊波さんの近くまで導いてみせるから……。 だからっ!伊波さんを、お願い」 新庄はそう言うと、その物を小鳥遊へと手渡した。 「これは……?」 最初はきょとんとしながら、小鳥遊は新庄を見つめる。 「ボクが……それを撃ち抜くから、小鳥遊君はそれを伊波さんに向かって投げて」 「撃ち抜く……?」 そう呟いた瞬間、小鳥遊は言っている事の意味を理解した。 急いで右手に手袋をつけ、新庄からそれを受け取った。 互いに視線を合わせて、力強く頷く。 あたりは闇に包まれ、徐々に視界を奪っていく。 そしてその闇にまぎれるかのように、小鳥遊と新庄は伊波の方へと駆け出した。 ◇ ◇ ◇ ヴァッシュの鼻先を、ジャバウォックの爪がかする。 ━━速い。 そう呟き、身をひねって次撃をかわした。 この短時間で、伊波の動きは見違えるほどに変わっていた。 それはジャバウォックが戦闘を学習した事によって起きた変化。 もうヴァッシュにとっても、余裕がある相手とは言えなくなってきている。 黒い羽が、伊波の視界を遮るように辺りへと舞い踊る。 ヴァッシュはそれにまぎれるように、後方へ下がって距離をとった。 「きりが無いわ」 そう呟き、水銀燈はヴァッシュの後ろへとつく。 「サヤマが策があるって言ってたんだ……もう少し」 「そんな事を言っている余裕が、貴方にあるわけ?」 「……あるよ」 「嘘ね……」 そう言って、水銀燈はため息をつく。 「このままじゃ貴方は殺されるわね。 それでも言い続けるつもり?誰も殺さないと」 「あぁ」 間髪居れず、ヴァッシュは答える。 負っている怪我は決して軽症ではないはずだ。 だがしかし、ヴァッシュの瞳から光が失われる事は無い。 「……本当に馬鹿ばかりね」 水銀燈はそう言って伊波へと視線を向ける。 この戦闘のみを見ても分かる。 伊波の猛攻を、全て紙一重でかわし続けるヴァッシュ。 たとえ自分が全快でも、ヴァッシュには敵わないだろう。 それを知らしめるだけの実力が、ヴァッシュにはあった。 「貴方なら……ゼロにだって」 そう呟いた次の瞬間。 伊波の背後から小鳥遊が駆けてくるのが見えた。 「タカナシ……?」 「あの馬鹿、死にたいって言うのっ」 此方へと気を逸らすため、水銀燈は再び羽を伊波へと放つ。 だがしかし、伊波はそれを容易く避けると小鳥遊の方へと振り向いた。 足音、ましてや気配を消す事も無く全力で駆ける小鳥遊。 そんな小鳥遊を、伊波が見逃すはずは無い。 水銀燈が舌打ちをして、伊波へと向かおうとしたその時。 水銀燈の目の前へヴァッシュが手をかざした。 「何よっ」 「大丈夫」 水銀燈はヴァッシュの顔を睨みつける。 ヴァッシュは額に汗をにじませながら、伊波を見つめている。 「始まったんだ、サヤマの作戦が」 ◇ ◇ ◇ 「うあぁぁぁぁぁぁ!」 叫び声を上げながら、小鳥遊は走る。 距離はまだある、小鳥遊が警戒するべきは、伊波の先制攻撃。 攻撃前の一瞬のためらいを狙っているとはいえ、距離があっては意味は無い。 そして伊波は、小鳥遊を迎え撃つべく地を蹴った。 その瞬間、狙ったように小鳥遊は手に持った物を投げ飛ばす。 遠心力を用いて、右手を千切れんばかりに振り回した。 放物線を描き、真っ赤なタンク状の物体━━消火器が空中を舞う。 しかし、重量がある消火器は予想以上に投げにくく。 すぐに地面への自由落下を開始する。 ……余りにも短い滞空時間、これでは新庄が打ち抜けないのではないのか。 そう思った瞬間、乾いた発砲音が辺りに響いた。 耳元を、何かが通過するのを感じる。 そして目の前の消火器が、大きな音をたてて爆ぜた。 思わず足を止め、両手で顔を覆う。 視界一杯に舞うのは、白とピンクの粉。 この煙幕こそ、伊波に近づくための最後のチャンス。 小鳥遊は息を止め、伊波が居た方向へと走り出す。 そしてそれは、あっけなく見つけることが出来た。 相当近くまで近づいていたのだろう、頭から消火器の粉を浴び、頭を振っている伊波がうっすらと見える。 チャンスだ。 そう思い、思い切り駆け寄った。 細く開いた伊波の瞳が此方を見るのが分かる。 次の瞬間、目の前を泳ぐのは伊波の右腕。 煙幕によって距離感覚を失ったその腕が、空を切る。 小鳥遊は、そのまま右手を振り抜いて止まっている伊波へと突進する。 これで終わりだ、そう思い右手を伸ばした瞬間、頬に力強い衝撃を感じた。 えっ? 頭に浮かんだその言葉と共に、小鳥遊の体は中へ浮き。 後方へと倒れこんだ。 小鳥遊の目に入ったのは……左腕。 伊波の、生身の左腕だ。 今まで何度と無く殴られ続けてきた小鳥遊には分かった。 その拳にこめられた感情を 怒りを。 伊波さんが、怒ってる? そう思って相手の顔を見上げる。 辺りの煙は風に乗り、晴れていく。 白い粉に塗れた伊波の顔は、相変わらず怒気を湛えた恐ろしいもの。 ……だがしかし、小鳥遊にはそれが、とても悲しそうに見えた。 小鳥遊は、記憶の中をたどってみる。 まだ短い付き合いだが、それでも浅い付き合いだとは思わない。 主に殴られ、殴られて、それから殴られて……。 泣いたり、照れたり、笑ったり、怒られて落ち込んだり、叱られて反省したり。 色々な表情を見てきたと思う。 しかし、それでも小鳥遊ははじめてみたのだ。 伊波が、怒りという感情を露にするのを。 ……思い当る節は、1つだけある。 それは小鳥遊にとっても、罪悪感を感じていること。 伊波よりも、水銀燈を選んだ事。 伊波が死の淵に立たされていると聞いても、 小鳥遊は小さい物の命の危機を見過ごせなかった。 それはもはや、小鳥遊にとっては本能だったのかもしれない。 小さい物を愛でるという、病的なまでのその思考。 ……それはある程度自覚しているが、同時に制御できるものでもなかったのだ。 もし、あの時伊波がそれを理解し、傷ついているとしたら。 「伊波さん……」 地面に横たえて、相手を見上げながら、小鳥遊はそう呟いた。 今更謝っても滑稽だろう、許してもらえる訳がないだろう。 だがしかし、このまま殺されるなら……そう思い、小鳥遊は口を開く。 「すみませんでした」 伊波は一歩、こちらへと足を踏み込む。 「でも、それでも俺は、小さいものが好きだから。 ……きっとまた、同じ道を選んでしまうと思うんです」 伊波は小鳥遊にまたがるように立ち止まり、こちらを見つめる。 「それでも、伊波さんを傷つけたというのなら、俺は最低ですね……本当に、すみませんでした」 そして静かに、伊波は腕を振り上げる。 言いたい事を言った小鳥遊は、少し微笑んだ。 もう自分は終わる…… そう理解した小鳥遊の目に、ある物が目に入る。 「伊波さん、俺のプレゼントしたヘアピン……付けてくれていたんですね。 ……可愛いですよ。 あぁ……伊波さんがあと、5歳若ければなぁ」 小鳥遊は何も考えず、頭に浮かんだその言葉を口にする。 次の瞬間、大きな腕が振り下ろされて、辺りに鈍い音が響いた。 小鳥遊は自分の顔に、生暖かいものが触れるのを感じる……。 え?感じる? そう思い、小鳥遊は恐怖で閉じた瞳をひらいた。 「無理だよ……私には、小鳥遊君を殺すなんて出来ない」 目の前にあるのは、涙を湛え、真っ直ぐに此方を見つめる瞳。 何時もの、見慣れた顔がそこにはあった。 「い……伊波さん?」 小鳥遊の顔にかかったのは伊波の血……振り下ろす異形の右腕へ、伊波の左拳が食い込んでいた。 左拳の皮はズル剥けて、そこから小鳥遊へと血が飛び散っている。 「最初から、分かってたはずなのにね……。 小鳥遊君が小さい物が大好きな変人だって、そこに入り込むのは難しいって。でも……」 「伊波さん、今俺は馬鹿にされてますか?」 ムッとした小鳥遊を前に、伊波の口元は緩む。 伊波は知っていた、小鳥遊が小さい物意外に『可愛い』という言葉を使う事は滅多になく、 12歳以上を年増と評する小鳥遊が、年上の自分に対して使ったその言葉の意味を……。 次の瞬間、うごめくように右腕が暴れだす。 驚いた伊波は押さえつけようと左腕で掴み上げるが、力では敵いそうにない。 「小鳥遊君っ……逃げて!!」 次の瞬間、小鳥遊は伊波へと抱きついた。 「ちょっ……小鳥遊君っ!」 「動かないで下さいっ!」 そのまま首へ右手を巻きつけ、背中を通して右肩を掴む。 「お前……ふざけるなよっ! 勝手に暴れやがって……伊波さんから、出ていけぇ!!」 そう叫ぶと同時に、小鳥遊は右手を思い切り引き抜いた。 ズブリ 辺りに特徴的な音を響かせて、それに地面からの落下音が続く。 「えっ……?」 伊波は思わずその音源へと視線を向ける。 そこには、先程まで自分の右肩についていた、異形の右腕。 まるで電源が切れた機械のように、ダラリと落ちている。 「付け替え手袋っていうんです……もう、大丈夫ですよ」 そう言うと、小鳥遊は伊波から離れる。 その顔白い粉でまみれていたが、その顔には安堵と、少しの達成感が浮かんでいた。 「あ……」 そして次の瞬間、小鳥遊は悪寒が走るのを感じる。 目の前に伊波は顔を真っ赤にしたまま、プルプルと震える。 「もしかして、もしかしますか?」 「……うん、もしかしなくても、もしかするかも」 「か、簡便してくだs」 「いやーーーっ!!男ーーー!!」 伊波の左ストレートが右頬へと入り、小鳥遊は空を舞った。 時系列順で読む Back 罪と罰(前編) Next 罪と罰(後編) 投下順で読む Back 罪と罰(前編) Next 罪と罰(後編) Back Next 罪と罰(前編) 小鳥遊宗太 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 佐山・御言 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 伊波まひる 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) ヴァッシュ・ザ・スタンピード 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 水銀燈 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) ロロノア・ゾロ 罪と罰(後編) 罪と罰(前編) 新庄・運切 罪と罰(後編)
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20 59 (bee_CC) [][][] 「幸せな日々」 20 59 (bee_CC) 20 59 (bee_CC) 21 00 (bee_CC) 今日は3月10日。耕也の大学の卒業式の日だ。 21 00 (bee_CC) 就職活動が終わってからは見なかった耕也のスーツ姿を、希は自室の窓から眺めている。▽ 21 02 (BC_Nozomi) 【希】「馬子にも衣装よねぇ」窓枠に両肘をつき、隣の部屋でネクタイを整える耕也を眺めながら、ぽつり、と 21 04 (bee_CC) 【耕也】「言ったな。お前の卒業式の時には同じこと言ってやる」どちらかといえば細身の耕也には、確かにスーツはあまり似合っていない。リクルートスーツ丸出しの黒白。 21 06 (BC_Nozomi) 【希】「明日の卒業式は制服よ、忘れたの?大学とは違うの」部屋に流れ込むそよ風が長い黒髪が揺れ、均整のとれた身体は学校指定の濃紺のブレザーに包まれている。その制服も、もう明日が着納め。後、2日だけの貴重な時間 21 08 (bee_CC) 【耕也】「じゃあ今だ。馬子にも衣装……って、これお前の入学式の時にも言ったっけな。希」空いた窓、二人の間の距離は1mほどしかなく。「こっち来いよ」手を差し出す。 21 10 (BC_Nozomi) 【希】「言っとくけどね、ボクにそう言うこと言うの耕也だけよ?」呆れた風に眉根を下ろし。清楚な外見と裏腹に慣れた様子で窓枠に足をかけると差し出された手を取り、隣の家へと飛びこむ 21 11 (bee_CC) 【耕也】「何だよお前、モテ自慢か? 結局、おまえ高校で何通ラブレター貰ったんだ」軽く嫉妬のポーズ。飛び込んできた希を軽く抱き留める。 21 14 (BC_Nozomi) 【希】「知らない。興味ないから全部捨ててたし」耕也の腕の中で平然tお答え「いつからだっけ?こうやって手を貸してくれるようになったのって」耕也が高校くらいまでは入ってくるなと言っていたところに勝手に入ってたなぁ、と思い出しながら 21 16 (bee_CC) 【耕也】「……あー、いつからだったかな」つきあい始めてから。分かっているが、口では誤魔化す。 21 19 (BC_Nozomi) 【希】「耕也ってそういうの全然気にしないもんね」やれやれとため息をつき。心の中、3年前の7月28日からよ、と呟く 21 20 (bee_CC) 【耕也】「……ん、希。今日は、早く帰るから」ぽり、と顎を掻いて。……そう、今日は特別な日。 21 23 (BC_Nozomi) 【希】「ご飯食べに行くんだっけ?ちゃんと予約した?」何となくわかっている。今夜結ばれることを。もう一週間以上もこの日のことを思って眠れない日を過ごしてきたんだから。しかし、そんな内面はおくびにも出さず、軽くとぼけた口調で答える 21 26 (bee_CC) 【耕也】「ランチだからそんなお洒落でもないけどな。味は保証する」予約して奮発したランチのあと、ホテルへ。朝帰りさせるわけにはいかないから、それが精一杯だった。希の腰に回った手が震える。 21 29 (BC_Nozomi) 【希】「貧乏大学生に豪勢なディナーなんて期待してません」平然とした表情のまま耕也を見上げ、アクセントは、ん。「まあ、これからに期待するわ、フレッシュくん」いたずらっぽく笑うと耕也のネクタイを軽く整え「ところでいいの、時間?」ちらり、と壁時計に視線を送り 21 32 (bee_CC) 【耕也】「もうこんな時間か」名残惜しそうに腰に回した手を外し。「初任給が出たらもっといいメシ奢ってやるからな」既に商社に内定している。希の肩に軽く触れて。「……いいか?」キスしていいか、と。 21 34 (BC_Nozomi) 【希】「ボクより前にちゃんとおじさんとおばさんに何か贈るんだよ?わかってる?それから…」そっと背伸びし瞳を閉じ「そういうことは聞かないでいいの」耕也の首筋に両腕を回す 21 36 (bee_CC) 【耕也】「……ん、勉強になる」希の肩を抱き、口付けた。最初は唇を触れ合わすだけだったキスも、いまではどちらからともなく舌を絡め、唾液を混ぜて。 21 39 (BC_Nozomi) 【希】「…ん、…あむ、んふ…」鼻から漏れる甘い吐息。舌はお互いを求めるよう絡み合い、背伸びした踵が震える 21 41 (bee_CC) 【耕也】くちゅり、くちゅりと水音を立てて舌を絡めていれば時を忘れてしまう。希の背中に回った手は強く、恋人の身体を抱き寄せ、制服ごしの柔らかさを味わう。 21 45 (BC_Nozomi) 【希】「ん、んちゅ…ふぅ…」いつしか体重をすべて耕也へと預け。恋人との甘い口付けの味に頭の芯がぼぉと痺れ…何か大切なことを忘れているような… 21 46 (bee_CC) 【耕也】「…………はっ!」慌てて身を離し、垂れた涎をシャツの裾で拭う。「やべ、時間っっ!!」バッグをひっ掴み、なにやら奇声を上げながら階段を下りていく。「希、後でなッッ!!」 21 49 (BC_Nozomi) 【希】「…はぁ」唇が離れると不足した酸素を求めるよう大きく息を吸い。そうしている間にもあっという間に耕也の姿は階段へと消え「…も、もう!時間ない時に何やってるのよ!」自分からも求めたことは棚にあげ、窓から家を飛び出していく耕也の後姿へと向かい叫ぶ 21 50 (bee_CC) ……きっと耕也と希の家族も、その様子をほほえましく見守っているだろう。 21 50 (bee_CC) そしてすぐに希が出なければいけない時間が。 21 52 (BC_Nozomi) 【希】「…もう。ボクがいないと何も出来ないんだから」やれやれとため息をひとつ吐き。そのまま耕也のベッドにぽふっと身体を預け「…わかってるのかな、ちゃんと。ボクがずっと男の子の告白断ってきた理由」恋人の匂いが残る枕を抱きしめ、ため息混じりに呟く 21 53 (BC_Nozomi) ――結局、学校へは走っていくことになりましたとさ 21 54 (bee_CC) 21 54 (bee_CC) 21 56 (bee_CC) 連れ立って小さな洋食屋を出る二人。おいしい食事に楽しい会話。しかし店を出た瞬間、会話がぱったりと途切れてしまう。 21 56 (bee_CC) 【耕也】「…………」希と腕を組み、ゆっくりと歩く。予約したホテルは近いが、必要以上にゆっくりと。 21 59 (BC_Nozomi) 【希】「結構美味しかったよね。何であのお店見つけたの?もしかして誰か女の子と一緒に来たとか?大学生だもんねぇ、合コンとかあったでしょ?あ、そういえばさ…」口数の少ない耕也と対照的に希はやたらとハイテンションに話しまくる。黙ってしまったらきっと恥ずかしさに顔が真っ赤に染まってしまうから 22 00 (bee_CC) 【耕也】「合コンか。何度か誘われたけど、……俺にはお前がいたから」希の軽口に、短く答える。自分が何を言ったのか、緊張していて気づいていない様子。 22 04 (BC_Nozomi) 【希】「…っ」思わぬ言葉に思わず言葉に詰まる。一度詰まってしまえばもうダメだった。もう何も言えないまま、ただ黙って耕也の肘に腕を絡め直し、真っ赤になってしまった顔を俯き隠し歩いていく 22 05 (bee_CC) 二人は昼下がりの道を歩き……人目につかないよう、近くのホテルに入っていく。腕越しにお互いの鼓動を感じてしまう。……緊張していた。 22 05 (bee_CC) ラブホテル。番号を告げ、鍵を受け取り、狭いエレベーターで上がっていく。 22 09 (BC_Nozomi) 【希】「……あ、あのさ、その…何でもない」エレベーターの中、何か言って空気を変えようと思うものの、意味のある言葉は出ず。耕也の顔を見上げることも出来ず、ただ俯き。男性経験のない身でもわかる。このホテルにただ泊まりに来る客なんていない。えっちするためのホテル。そんな思考がさらに緊張と羞恥を高めていく 22 10 (bee_CC) 【耕也】「……ごめん。緊張してるか?」エレベーターの扉が開き、腕を組んだまま歩き出す。部屋はすぐそばだった。 22 12 (BC_Nozomi) 【希】「こ、コウこそ…緊張してるんじゃないの?」真っ赤な顔に誤魔化すような笑顔を浮かべ、見上げる 22 13 (bee_CC) 【耕也】「緊張してるさ」どく、どく、どく。自分の鼓動が痛い。ドアを開けると、中には大きなベッドが。「……こ、こういうとき、どうするんだっけ……、まずはシャワーか?」 22 15 (BC_Nozomi) 【希】「さ、先に浴びてきなよ。ボクは後でいいからさ」いきなり目の前に広がる見たこともないような大きなベッドを眺めながら答え。もうとても耕也の顔を見る余裕などなく 22 16 (bee_CC) 【耕也】「お、おう……そうする」こちらも真っ赤な顔でシャワーに向かい、狭い脱衣所で服を脱ぐ。……非常にオーソドックスなラブホの部屋。シャワーのガラスはマジックミラーで、その向かいのベッドの背は鏡になっている。 22 24 (BC_Nozomi) 【希】「……」耕也が入ったシャワー室を眺め、所在なく佇み「……」部屋の中を見回せば嫌でも目に入る大きな鏡「…えっちするんだ」ぽつりと呟くときゅっと胸元を両手で抱いて。そのまま耕也がシャワーを出るまで固まってしまう 22 25 (bee_CC) 【耕也】がちゃり、とドアを開け、……バスタオルを腰に巻いただけの姿で出てくる。「……希。お前も入るだろ?」顔は真っ赤。バスタオルの前は(お察しください)な事になっているが、なんとか意識しないようにして希の隣に座る。 22 26 (BC_Nozomi) 【希】「も、もちろん入るわよ」極度の緊張からちょっと怒ったような口調になり、耕也と顔を合わせないままずんずんとシャワールームの中へと消えていく 22 28 (bee_CC) 【耕也】「……俺たち、エッチするんだな。……」童貞の身には何もかも不安で。ベッドに寝転がって天井を見上げ。 22 29 (BC_Nozomi) しばらくすると聞こえてくるシャワーの水音。ガラス越しに少女のシルエットがうっすらと見える 22 31 (bee_CC) 【耕也】「……ああ。やべ、興奮してきた……」何度、この時を夢見て自慰に耽っただろうか。シャワーの音に負けないほどの鼓動。 22 35 (BC_Nozomi) 【希】「……」シャワールームで丹念に身体を磨く。何度この日のことを夢に見ただろう。ずっとずっと大好きだったお兄ちゃんに優しく抱かれる夢。何人もの男の子が触れたがり、しかし、誰にも触れさせてこなかった肢体をシャワーの水粒が叩く 22 36 (bee_CC) 【耕也】「希…………」手を伸ばし、熱っぽく呟きながら、中空を掴む。 22 38 (BC_Nozomi) そして、ついにシャワーの音がやみ 22 39 (BC_Nozomi) 【希】「コウ、いる?」脱衣所から小さな声が聞こえる 22 40 (bee_CC) 【耕也】「……ん」上体を起こし、「希」と声を掛ける。 22 41 (BC_Nozomi) 【希】「…電気、消して」 22 42 (bee_CC) 【耕也】「……おう」部屋の入り口。伝統のスイッチを切る。薄い、ぼんやりした青い常夜灯だけが残る。 22 43 (BC_Nozomi) 電気が消えたのを確認すれば、うっすらとした暗闇の中、がちゃりと脱衣所のドアが開き 22 43 (BC_Nozomi) 【希】「……」ゆっくりとベッドへと近づいていく気配 22 44 (bee_CC) 【耕也】ベッドに座り……ぼんやりとした少女の影を待つ。 22 45 (BC_Nozomi) 【希】「…コウ」身体にバスタオルを巻いた姿でベッドの脇に立ち、暗闇の中、うっすらと見える耕也の影へと視線を向ける 22 46 (bee_CC) 【耕也】「……希。……ほら、来い」いつも、キスをする時のように、手をさしのべた。 22 47 (BC_Nozomi) 【希】「…う、うん」差しのべられた手を取りゆっくりとベッドへと上がり、耕也の隣にバスタオルを巻いたままの身体を横たえる 22 49 (bee_CC) 【耕也】「……キス、するぞ」返事を待たずに口付け、舌を絡ませる。緊張に震える手で、希のバスタオルをそっと取り払う。現れた白い肌を見ている余裕もない。 22 50 (BC_Nozomi) 【希】「だか――んっ」唇を塞がれ、言わなくていいと続けることは出来ず。誰にも見せたことのない白い肌が薄暗がりの中に浮かびあがる 22 52 (bee_CC) 【耕也】舌を絡める。何度となく繰り返したキスを続けると、少しずつ落ち着いてくる。指を絡め、胸板に少女の肌がわずかに触れると、そこが電撃が走ったようにヒリついた。 22 55 (BC_Nozomi) 【希】「ん…ふぅ…」甘い蕩ける口付けに小さな鼻息を漏らし「…んふっ」細身ながらも男性らしく広い胸板に柔らかな形のいい胸が触れると身体がひくっあからさまに震え。今まで発したことのないような甘い吐息を耕也の口の中に注ぎ込んでしまう 22 56 (bee_CC) 【耕也】「……ふぁ、はぁ、希……」唇を離すと、上気した顔を薄暗がりの中で見つめる。手が、控えめに希の腰に触れ、軽く撫で上げた。 22 57 (BC_Nozomi) 【希】「…んっ」腰、軽く触れられるだけでひくんと身体が震え、逃げるように身体をよじる 22 58 (bee_CC) 【耕也】「……希」触っていいか、とはもう聞かない。興奮でそれどころではない、というのが正直なところ。子供の頃以来に触れた希の秘めやかな肌……手は腰から太ももに降りていく。 23 01 (BC_Nozomi) 【希】「コウ…んっあっ」軽く触れられているだけなのに耕也の指が触れた場所がじんじんと疼き。はしたないと思いつつも甘い吐息を抑えられず。その手が太ももまで下りれば恥ずかしそうに膝を閉じ合わせ股間を隠す 23 03 (bee_CC) 【耕也】「……足、開いて、希」囁いた声は、緊張でガチガチに固くなっているが、それでもいつもの耕也の声。 23 04 (BC_Nozomi) 【希】「やぁ、恥ずかしい…」耕也の下でぴっちりと膝を閉じ合わせたまま、真っ赤な顔をふるふると左右に振る 23 05 (bee_CC) 【耕也】「……ふふっ」その様子に、思わず笑みが零れる。「……いつもの威勢はどうしたんだよ?」 23 08 (BC_Nozomi) 【希】「う、うるさいなぁ。恥ずかしいものは仕方ないじゃない…!」真っ赤な顔、涙目で睨みつけ。きゅっと胸元を抱きしめる 23 10 (bee_CC) 【耕也】「俺だって恥ずかしい。……でも、俺とお前の仲だろ? お前が8歳までお漏らししてたのだって知ってるぜ」抱き寄せる。頭を軽く撫でて、唇を合わせるだけのキス。「な?」 23 12 (BC_Nozomi) 【希】「~~~~~っ!?」恥ずかしい過去の汚点を指摘され頭からぼっと湯気が出て「ボ、ボクだってコウの部屋の戸棚の裏にえっちな本あることしってるもん!」まるで子供のような言葉を返す 23 14 (bee_CC) 【耕也】「い゛!? おま、おまアレ見たのかッ!?」顔が一気に青くなる。希には決して見られないように隠していたはずのエロ本。(妹系) 23 15 (BC_Nozomi) 【希】「…あ」思わず口走ってしまった言葉に、しまったといった表情を浮かべ「えっと、その…ちょ、ちょっとだけ…」バツが悪そうに視線をそらす 23 16 (bee_CC) 【耕也】「……何をどこまで見たんだ」かなりハードなやつもあったはずで…… 23 18 (BC_Nozomi) 【希】「…義妹アンソロジーとかってヤツ…その、えっと、最後まで」視線逸らしたまま、ぼそぼそと 23 20 (bee_CC) 【耕也】内心で悲鳴。「……いや、アレは、その、な? あくまで一例として……予行練習として……」言い訳にも程がある。誤魔化すように……希の裸の肩に手を触れて、撫で上げる。 23 21 (BC_Nozomi) 【希】「…ボクがずっと男の子の告白断ってきた理由わかる?」横を向いたまま。触れられた肩からジワリと暖かな快感が湧きあがってくる 23 23 (bee_CC) 【耕也】「……いや、俺……、お前が中学入って、3年で……絶対彼氏いると思ってた」気恥ずかしげに視線を反らして。「今だから言うけど、告白……ダメかなって思ってたんだぜ」 23 27 (BC_Nozomi) 【希】「…コウはボクが中学3年生の時にやっとボクのこと女の子って気付いてくれたけど…」ゆっくりと視線を耕也の瞳へと向け「…ボクは小学校入った時から好きだったんだからね?お兄ちゃん」真っ赤な顔、瞳を潤ませ、告白する 23 30 (bee_CC) 【耕也】「……希」震える瞳に吸い寄せられるように……抱きしめた。朝の抱擁とは違う、肌と肌が直接触れ合う。お互いの熱も、鼓動も、全部伝え合ってる。 23 32 (BC_Nozomi) 【希】「…コウ、大好き」柔らかな胸を押し付けるように抱きつき。ゆっくりとひざの力を抜く 23 34 (bee_CC) 【耕也】「俺も、大好きだ。愛してる、希」抱擁したまま、手をゆっくりと下ろし、希のお尻をさわりと撫でる。 23 35 (BC_Nozomi) 【希】「ふぁ…っ」お尻に触れられると逃げるようにひくっと腰が上がり。耕也の腕の中で小さく喘ぐ 23 36 (bee_CC) 【耕也】「…」腕の中で震える柔らかい少女の身体に感動しながら……堪えきれずに、勃起を希のやわらかいお腹に押しつけた。 23 40 (BC_Nozomi) 【希】「っ」おなかに触れる熱く固い感触。思い出すのは耕也の部屋で読んだえっちな本の登場人物「…コウの…熱いよ…」おなかで脈動する熱の塊に神経が集中し、激しい鼓動がどくどくと胸を打つ 23 41 (bee_CC) 【耕也】「……コレが、希の中に入るんだぜ……?」興奮しすぎで、希のお腹の感触だけで射精してしまいそうなほど。びくん、と震えて。 23 42 (BC_Nozomi) 【希】「…ボ、ボク無理だと思う…」想像以上に熱く固い感触に軽く怯えた表情を浮かべ首を左右に振る 23 44 (bee_CC) 【耕也】「無理、か? ……希、俺は、希を抱きたい。……希は、嫌か?」じっと目を見つめて。実際は興奮で頭がおかしくなりかけてて必死。 23 46 (BC_Nozomi) 【希】「…嫌じゃ…ない」きゅっと抱きつき、耕也の広い胸に顔を埋める 23 46 (bee_CC) 【耕也】「……楽にして」希の、女性器に震える指を這わす。 23 48 (BC_Nozomi) 【希】「っ!?」耕也の指が誰にも触れさせたことのない秘めやかな場所に触れた瞬間、部屋の中にくちゅっと湿った音が響き。耕也の胸の中でカァァと耳まで真っ赤に染まる 23 49 (bee_CC) 【耕也】「濡れてる……」指先で湿った粘膜をにちゅり、と撫で上げる。予想を遙かに上回る水っ気に、唖然として。「……これ、このまま入る、のかな」 23 53 (BC_Nozomi) 【希】「ふぅんっ!」濡れそぼった敏感な場所を撫で上げられると腰がびくっと震え、何かに耐えるよう歯を食いしばり「し、知らない…っ!」すでにはしたなく濡らしてしまっていることを気付かれた恥ずかしさに耐えきれずぷいっと横を向いて叫ぶ 23 54 (bee_CC) 【耕也】「……俺は嬉しいぞ」くしゃり、と希の髪を撫でて。「……希の初めて、貰うな」身体を起こし、足を開かせて……濡れそぼった女性器に、勃起した肉棒を宛がう。 23 56 (BC_Nozomi) 【希】「…や、優しく…してよね?」カエルのように足を開いた体勢で不安と恥ずかしさの涙に濡れた瞳で見つめる 23 58 (bee_CC) 【耕也】「痛かったら言えよ」くちゅ……もうたまらない先端と、希の秘所が触れ合い、僅かな水音を立てる。童貞で、女性器の穴の位置など知らない。ただ触れ合った状態で力を込めて。 00 01 (BC_Nozomi) 【希】「ふぁぁ…」熱く濡れそぼった割れ目へともっと熱い肉棒を押し当てられると甘い快楽が沸き起こり背中が軽く反り返り「や、は…もうちょっと…下…ぁ」ぬるり、と肉棒に割れ目を擦られると全身がゾクゾクと震え、慣れない耕也の為に軽くお尻を浮かせる 00 03 (bee_CC) 【耕也】「下だな……この辺か?」ちゅぶ……不意に、先端がにゅるりと潜り込む。 00 06 (BC_Nozomi) 【希】「んは…っ!?」狭い入口を熱く固い肉棒に押し広げられる初めての感覚に押し出されるように吐息が漏れ「んく…入って…来たぁ…」不安を押しつぶすよう耕也にしがみつく腕に力を籠める 00 07 (bee_CC) 【耕也】「うん、入ってる……ゆっくり、ゆっくりだな」くぷ、ぷぷぷ、っ……我慢。ともすれば動いてしまいそうな腰を必死に押しとどめ、冷や汗を掻きながらゆっくりと……沈めていく。 00 09 (BC_Nozomi) 【希】「いた…ぁ…」何も受け入れたことのない場所を割り広げられていく痛みに眉を顰め。処女孔は侵入者を入口でキツく締め付ける 00 10 (bee_CC) 【耕也】「希……痛いか?」目尻に浮かんだ涙にようやく気づき……抱きしめ、唇で涙を拭う。「……やめるか?」 00 12 (BC_Nozomi) 【希】「我慢できるから…最後まで…して…」はぁ、はぁ、と荒い息を吐き。瞳に涙をにじませながらも口元に微笑みを浮かべて見せる 00 13 (bee_CC) 【耕也】「……ああ、分かった」けなげな恋人の姿に、なおもゆっくりと腰を押し込んでいく。処女膜が引き裂かれ……血が潤滑になって、奥まで、入った。 00 15 (BC_Nozomi) 【希】「~~~~~っ!?!?」身を引き裂かれるような激痛。少女から女になった証が結合部から溢れ。これ以上耕也を心配させないようにと必死に叫び声を押し殺す 00 16 (bee_CC) 【耕也】「希。ごめんな、すぐ済むから」たまらない。腰が勝手に動いてしまう。ぐちゅ、と血と愛液の混合物をかき分け、奥を突く。 00 19 (BC_Nozomi) 【希】「んっ!くぅっ!」一突きごとに身体の奥から響く激痛。自慰すらしたことのない身体は初めての行為に快感を生み出すことは出来ず。しかし、恋人と結ばれたという充足感が少女の心を満たしていく 00 20 (bee_CC) 【耕也】「希、っっ……!」そのまま……堪えきれずに、希の奥底に精をはき出していく。恋人を抱きしめ、キスして。 00 22 (BC_Nozomi) 【希】「くぅああっ!」身体の最奥に生まれて初めて感じる精の熱にヤケドをしたような錯覚が起こり、腰がびくっびくっと震え。身体は快楽を得ていないにもかかわらず本能的に精を絞ろうときゅぅぅと肉棒を締め付ける 00 23 (bee_CC) 【耕也】「希、っ……」童貞の身には辛い締め付け。精を吸い上げられるような感覚に睾丸がきゅんと締まり、希を抱きしめてキスを繰り返す。 00 29 (BC_Nozomi) 【希】「熱い…ぃ」初めてにも関わらず、細かい襞がぎっしりと詰まった膣は肉棒に絡み付き絞り立て、入口は逃がさないとでもいうようにキツく根本を締め付け「ん、ん…」痛みに涙をにじませながらも、幸せそうにキスを返す 00 30 (bee_CC) 【耕也】「……ふぅ、っ……」まだ、固い。しかし希に負担を掛ける気にはなれず、キスしたままゆっくりと抜いていく。 00 33 (BC_Nozomi) 【希】「はぁ…はぁ…コウ…大好きぃ…」痛みすらやっと結ばれた幸せに大切なものに思え、うれしそうに微笑み。少女の秘所は引き抜くだけでも耕也の肉棒に甘い快楽を与える 00 34 (bee_CC) 【耕也】「希」恋人の額に浮かんだ汗を拭ってやり。「お疲れ様。……愛してるよ、希」 00 34 (bee_CC) 撫で、抱きしめて…… 00 37 (BC_Nozomi) 【希】「…もう。膣内に出して…。責任、取ってよね?」その腕の中、耕也を責めるよう頬を膨らませ、悪戯っぽく囁く 00 37 (bee_CC) 【耕也】「……当たり前だろ」強く、抱く。「……結婚しよう、希」 00 38 (BC_Nozomi) 【希】「…え?」返ってきた予想外の答えに一瞬思考が止まる 00 39 (bee_CC) 【耕也】「……もちろん今は婚約って形になるが、希が大学を卒業したら、式挙げよう」 00 40 (BC_Nozomi) 【希】「…う…そ?」長年望んでいた言葉を信じられないほどあっさりとかけられ、頭が真っ白になる 00 40 (bee_CC) 【耕也】「何だよ、責任取れって、そういう意味じゃなかったのか?」 00 42 (BC_Nozomi) 【希】「ほ、本気…なの?」おそるおそる上目遣いに見上げ 00 43 (bee_CC) 【耕也】「4年か。頑張って仕事して、貯金作っておかないとな。披露宴に新婚旅行、金掛かるだろうし」笑って、希を抱きしめる。「冗談に見えるか?」 00 45 (BC_Nozomi) 【希】「…ボ、ボク…」ぽろぽろと涙を零し「ボク…ずっと、ずっとお兄ちゃんの…コウのお嫁さんになりたかった…」その胸の中でしゃっくりあげて泣き始める 00 47 (bee_CC) 【耕也】「……」しっかりと抱きしめて、頭を撫で。「……たく、お前が泣くのなんか、何年振りかな。よしよし。……待たせてごめんな」 00 48 (BC_Nozomi) 【希】「だって、だってぇ…」未来の旦那様の胸の中、まるで子供のようにしゃっくりあげる 00 50 (bee_CC) 【耕也】「……待たせた分、今からたくさんイチャイチャしようぜ」 00 51 (BC_Nozomi) 【希】「……えっち」涙でくしゃくしゃになった顔をあげ、窘めるような笑みを浮かべる 00 52 (bee_CC) 【耕也】「嫌か?」くしゃり、と希の髪をかき回して。 00 54 (BC_Nozomi) 【希】「……」少し何かを考え。そして、耕也の耳元に唇を寄せると 00 54 (BC_Nozomi) 【希】「…お尻は絶対ダメだからね」ぽそっと。思い出したのは耕也の部屋で見たえっちな本の内容だった 00 55 (bee_CC) 【耕也】「覚えとくよ」笑って、抱きしめて…… 00 56 (bee_CC) 00 56 (bee_CC) 00 57 (bee_CC) 【耕也】「……うげっ! 希、もう時間っっ!!」あたふた 00 59 (BC_Nozomi) 【希】「え?きゃ、きゃあっ!もうこんな時間!?いたっ」慌てて立ち上がろうとして棚の角に頭をぶつけ「ちょ、ちょっとコウ、電気つけて…いったた…」 00 59 (bee_CC) 【耕也】「おうっ!」裸のまま急いで電気をつけ、振り返る。……希の裸に見入る。 01 01 (BC_Nozomi) 【希】「急いで出ないとついかりょ…」と、ふと耕也の視線に気づき「きゃぁっ!きゃああっ!で、電気消して!電気っ!?」顔を真赤に染め、慌ててシーツにくるまり叫ぶ 01 02 (bee_CC) 【耕也】「希……綺麗だから、もっと見せて」近寄ってシーツを剥ごうとするw 01 03 (BC_Nozomi) 【希】「だから…時間ないって言ってるでしょーっ!盛んな――っ!!」シーツを剥いた瞬間、振りあげられた踵がガインと耕也の顎を蹴りあげる 01 04 (bee_CC) 【耕也】「ぐが、っっ…………!!!!!」脳震盪でばったり倒れる男。 01 07 (BC_Nozomi) 【希】「まったく…これで来月から社会人だって言うんだから…まったくもう、ボクが付いてないとホントダメなんだから」倒れた耕也を見下ろしため息をひとつ吐く 01 07 (bee_CC) 01 07 (bee_CC) 01 07 (bee_CC) [][][] 「幸せな時間」 終幕です、ねっ!