約 1,243 件
https://w.atwiki.jp/wiki6_680/pages/33.html
88title/no.20 二律背反 汗ばんだ肌が乾いていく感触と、体の奥の鈍い痛みとが、彼をして 浅い眠りから醒めさせた。 思いがけず長い時間を浪費してしまった事に舌打ちをして、彼は身を起こした。 既に部屋に差し込む影は長くなっていて、夕刻近い事は時計を見ずとも明らかだった。 床に散らばる服の中から適当にシャツを引っ張り出し、肩に羽織ながら 隣でだらしない顔をして眠っている男の髪を引っ張った。 「神さん、神さん、もう起きないと」 「ん・・・・・?ああ・・・後、10分・・」 「10分じゃないよ、まったく。今日中に各務原に戻らないといけないんでしょ、 いい加減に起きてください」 「お前、送ってくれよ・・・明日は非番だろ・・・・?頼むよ・・・栗ィ・・」 「俺はタクシーじゃないぞ、自力で帰れ。それともまた始末書を書くか?」 答えは無かった。 目を上げて神田の方を見れば、彼はまた深い眠りに落ちて行ったようだった。 無理もない、激しい訓練を終えてその足で各務原から百里まで飛んできて そしてわずか数時間をこうしてともに過ごし、慌てて戻っていく。 そんな綱渡りのような日々を神田は過ごしているのだ。 少しでも体を休めたいのが本音だろう。 車で行けば、なんとか明日の訓練に差し支えない時刻には戻れるだろう、 それまであと二時間ほど、寝かせてやろう。 栗原は寝息を立てる神田の体に毛布をかけてやり、それから立ち上がった。 足音を立てないように神田の服を拾い、畳んでおこうと思ったからだ。 少しでも彼が長く眠っていられるように。 「傷んでるな、神さん、ちゃんとアイロンかけてるんだろか・・・」 形の崩れたカッターシャツの襟を見ながら、誰に言うとも無く呟く。 暫く考えて、自分の洋服ダンスの中から予備のカッターシャツを取り出し、それを 神田の枕元に置いた。サイズは微妙に違うが、多分彼の事だから気づかないだろう。 この次来る時までに洗濯をして、きれいにアイロンをかけておこう。 ああ、制服のスラックスも傷んでる、裾もほつれてる・・・ 自分が傍にいたら、こんな制服を着せてはおかないのに・・・ そう考えると、胸が締め付けられるようだった。 そんな考えに没頭していたから、背後で何やら蠢く気配がするのに全く気づかなかった。 はっと思ったときには、神田の腕にしっかりと後ろから抱きしめられていた。 「・・・痛いよ、神さん」 「背中が寒くてさ、目が醒めちゃったよ。栗がどっか行っちゃったのかと思ってさ」 「神さんを置いて何処に行くっての。心配でしょ」 「・・・じゃあ、この間の話、前向きに検討してくれる?各務原転属の話」 その問いに答えを見つけられず俯く栗原の背中に、神田の熱い息が掛かった。 「ねえ、栗ィ、どうなのさ」 「悪いけど、今は答えられないよ。俺一人の問題じゃないし」 「だって、司令もお前の好きにしていいって、言ってんだろ?お前が一人で 意地張ってるんじゃねえか。良いから来いよ、各務原に・・・」 抱きしめる腕が不満そうだった。 「あのねえ、そんなに簡単に異動できるわけ無いでしょ。俺がいなくなった後はどうすんのよ。 優秀なナビはそう簡単には育成できないの。立つ鳥、後をにごさずってね」 「浮気しちまうぞ」 「ご自由に。もっとも、神さんみたいな野生児を調教できる人なんてそういないと思うけど」 首をひねって神田の方を見ると、口元に不満そうなしわを寄せたままじっとこちらを睨んでいた。 「あとどの位、待てばいい」 「さあ。2年か、3年か・・・」 「そんなに長い事、待たなくちゃならないのか。俺、気が狂いそうだよ」 「まだたった一ヶ月じゃないの。すぐ慣れるよ」 「慣れたくない。栗がいない状態になんか」 口を尖らせて、そっぽを向いてしまった。 こういう時の神田は、まるで駄々っ子のようだ。 欲しいおもちゃが手に入らなくて、床に転がって大泣きするこども。 「その話は、もうやめよう。」 「やめない。栗が来てくれるっていうまで、やめない」 すっかり拗ねてしまった。 栗原は、小さくため息をついて、神田の頬に手をやった。 「・・・神さん?」 返事は無い。 「とにかく、そろそろ戻る準備をしないと。俺が送っていくよ。途中で飯を食ってこう」 「栗」 「何?」 「俺の事、嫌いになったのか」 ああ、まるで子供だ。 そんな風に、感じている事を素直に表に出せたら、どんなに楽だろう。 「神さん以外、この世で好きな人はいないよ」 「なら、どうして」 黙っている栗原に苛立ったのか、神田はその両肩に腕をかけて押し倒した。 荒々しく動く神田に目を閉じて体を任せながら、栗原は心の中で泣いていた。 「栗」 ふと肩越しに声をかけられた。 うつらうつらしていた栗原は、ようやく瞼を開いた。 「何ですか、神さん」 「帰る」 「帰るって」 重い体を起こして時計を見ると、そろそろ各務原に戻るには ぎりぎりの時間が迫っている。 栗原は慌てて身繕いをしようとしたが、神田はそれを手で制した。 「寝てろ」 「いや、もう大丈夫だよ。今支度するから」 「夜行で帰るから、お前は寝ろ」 上着に手を通しながら、神田はそう言った。 広い背中だな、と、そう思った。 シャツの襟がはみ出しているのを後ろから整えてやって、それから 栗原は小さな声で聞いた。 「だって、駅までどうやって行くの?歩いていったら30分はかかるよ」 「別にいいさ。頭を冷やしていくには丁度良い」 皮肉のつもりなのか、首をねじってこちらを見つめていた。 怒りと、その向うに哀しみが透けて見えるような、眼差しだった。 「怒っているの?」 「別に」 「神さん、何も俺は各務原に絶対行かない、って言ってるわけじゃないんだよ。 こちらの引継ぎが終わりさえすれば、すぐにだって行くさ。」 「その話はもうしたくないんだろ?栗が嫌なら、それはそれでいい。 俺の勝手なわがままで栗を振り回すのは百里の連中にも良くないからな」 「嫌だなんて言ってないだろう。お前、勝手に思い込んで暴走すんじゃねえよ」 「そうは思えねえ」 答えを待たずに神田は立ち上がり、玄関で靴を履いた。 慌てて後を追った栗原の胸を押しやって、神田は叱られた子供のように 拗ねた口調で言った。 「栗、俺たち、もう駄目なのか?」 「どうしてそう話が飛ぶんだよ!なんでも自分の思い通りにならないからって拗ねるな!」 「俺がどんなにお前を愛してるか、分かんないのかよ。一日会えないだけで どんだけ辛いか・・・そんな事考えた事もないだろう、お前」 「神さん・・・・」 「お前は一度だって各務原に来た事も無いし、そのつもりもないんだろ? 俺の一人芝居じゃないか、馬鹿馬鹿しい。」 珍しく早口でそう怒りをぶちまける神田に、栗原は言葉を失って立ち尽くした。 「ちょっと考えさせてくれ。俺たちの今後を」 「待って、待ってよ神さん!俺は何もそんなつもりじゃ」 「もう此処には来ない。だから、安心しろ」 神田は栗原の涙交じりの声を聞かないよう、慌てて玄関ドアを開けた。 後ろを振り向くのが怖かった。 栗原が、その秀麗な顔に涙を一杯に浮かべているさまを想像するだけで心が張り裂けそうだった。 アパートの階段を下りていく足音がする。 聞きなれた音が途絶え、その瞬間に栗原は足から崩れ落ちた。 頬を涙が伝っている。あまりの衝撃に対し、人間は何も反応できなくなるのだと痴呆の様に考えた。 「神さん、神田、神田・・・・」 狂ったようにドアを叩きながら、栗原は神田の名を呼び続けた。 失った物のあまりの大きさを今身をもって思い知らされた。 各務原に行かなかったのは、栗原としては遠慮をしているつもりだった。 ただでさえ百里基地内では興味本位の噂が飛び交っているのを知らない彼ではない。 神田はあのとおり能天気だから、平気で人前で栗原を抱きしめたり「愛してる」と口走ったり していたが、その影響についてまでは考えていなかった事だろう。 百里基地、302飛行隊680号機のパイロットとナビゲータの不思議な関係は 興味本位であれなんであれ、決して神田に好条件にはならないだろう。 だから、神田が変な思いをする事無く訓練に専念できるよう、各務原には近づかなかった。 今回の出張は、神田の将来を考えればこの上ないチャンスである。 何としても機種転換をパスして、パイロットとして更なる高みに上って欲しい。 だから発令を受けて落ち込む神田に対して励まし、ぜひ機種転換を受けてくれるよう 説得したのはほかならぬ栗原だった。 「でもよお、栗と別れ別れになっちまうんだぜ、たまんねえよ」 そう愚図っていた神田だが、栗原の熱心な説得と、生来の飛行機好きの血が 奏を効したのか、実際に各務原基地に赴いてF15のコックピットに収まったとたん、 それまでの乱調が嘘のように自由自在に空を飛び回った。 百里にもそんな神田の様子は伝わってきていて、彼がリーダーを勤めている飛行隊の 技量が、めきめきと上がっている事からも、神田の好調は疑いのない事実だった。 水を得た魚、との表現がぴったりだった。 そんなニュースを聞くたび、嬉しい反面、寂しさを覚えた。 自分が居なくても自由自在に空を飛べる神田に、もう自分は必要ないのではないか。 このまま、自分という存在は只の欲望の捌け口になってしまうのではないか。 一つの機体に命を預け、二人で空を駆け巡っていた頃は、そうではなかった。 自分のナビゲートと神田の技量がうまく一つに溶け合い、100の力を200にも300にも 引き出す事が出来ていた。あの、身も心も一つになったような恍惚感を、栗原は今も 決して忘れては居ない。 司令からは、自分さえ良ければ、いつでも神田と同じ機種転換の過程に転籍させてやると 言われている。しかし、自分の助けなしに飛び回る神田を別の機体から眺める事など、 辛くてどうにも受け入れかねるのだった。 ナビゲーターの育成は単なる口実でしかなかった。今では水沢2尉も優秀なナビとして 安心してその飛行を見ていられるし、彼なら立派に教官としての任務を努められると思っている。 分かっている、頭では分かっているのだ、自分のしている事が如何に馬鹿げたことなのか・・・。 しかし人間は感情を捨て去る事は出来ない。 一人で空を舞う神田、自分を必要としない神田に嫉妬し、困らせようとしている。 そんな醜い感情を覆い隠すべく、益体もない理屈を並べている。 神田は本能的にそんな栗原の複雑な感情を読み取ったのだろう。 『・・・・お子様なのは、俺の方だ・・・』 涙も枯れ果て、ドアに身を凭せ掛けたまま、栗原は呟いた。 それからどうしたのか、まったく記憶がないまま、栗原は部屋に差し込む日光に 目を覚ました。体中が重く、気分も悪い。 ようやく身を起こして洗面所に向かい、顔を洗う。白い顔が尚一層に蒼白み、瞼は重く腫れている。 サングラスはこういうときに便利だと、自嘲するように言った。 今日は非番だが、家に一人で居るのも耐えられない。どこかに出かけようかと思いを巡らせていた時 そういえば西川2尉の所の子供が、数日前から風邪気味で寝込んでいることを思い出した。 勤務を代わってやろう、そう考えて西川の所に電話をかけると、案の定子供の熱が下がらず これから病院にいく、とのことだった。勤務を代わってやると申し出ると、西川が電話の向うで 飛び上がらんばかりに喜んでいる様子が伝わってきた。 「俺が勤務を代わってやるから、早くお子さんを病院に連れてってやりな。後は任せておいてくれ」 「すみません、栗原さん。恩にきります」 恩に着るのはこっちだよ、西川。 栗原はそう言って電話を切った。 食事をとる気にもならず、ぞんざいに髪を整えて着替えを出そうとしたとき、昨晩 自分のものと取り替えた神田のカッターシャツが着替えかごに突っ込まれているのを見つけた。 とたんに抑えていた感情がどっと噴出し、栗原はそのシャツに顔を埋めて号泣した。 微かに残る神田の匂いが、その主の遠さを辛く思い起こさせた。 慌しい日常は、心を麻痺させる事を、初めて知った。 アラート、ブリーフィング、スクランブル、そして発進。 体に叩き込まれた行動は、冷静な判断すら必要としない。 ただ反射的に行動を開始するだけだ。 「神田、機首が低すぎる。もっと上げろ」 キャノピーを通じて見える地平線が不快なほど斜めになっているのに眉をひそめ、 手元のクリップボードに目を移して、そう呟いた。 言ってからはっと気が付いた。 しかし前席の新人は操縦する事に手一杯で、名前を呼び違えられた事など まったく気づかないようだった。 「は、はい、すみません!」 「俺の命は、お前さんの腕一本に掛かってるんだぜ。もうちっとくつろがせてくれ」 言わずもがなのことを言ってしまった、と、反省する。 元々一人で生きてきた、という自負があった。 誰にも頼らず、寄りかからず、そう、生きてきた。 神田に会うまでは。 それまで出来ていた事が、これからだって出来ないはずはない。 慣れればすぐにこんな気持ち、打ち消す事が出来る。 こんな切ない気持ちなんて・・・。 「よし、左旋回、そしてアプローチだ。しっかりやれよ」 「了解!」 新人の操る680号機は、神田が操るときと同じ機体であるとは信じられないほどに ぎくしゃくと滑走路に降りた。体に掛かるGに懐かしさと違和感、そして今日も無事、 地上に降りられた事を感じた。 機体がハンガーの前に運ばれ、整備員たちが駆け寄ってくる。 「おつかれさん。暫く休憩して、1400からまた訓練だ。お前さん、旋回の時 パワーにびびってるだろう。そんな事じゃ、いつになってもファイターパイロットには なれないぜ。後ろに乗ってておっかなくってしょうがねえや」 「は・・・はい、がんばります!」 げっそりとやつれた表情の新人につい、辛辣な口を利いてしまう。 プライベートな事が原因で八つ当たりされる新人こそ、いい面の皮だなと栗原は苦笑した。 訓練を終えてロッカールームに行く途中で、西川に会った。 西川が急いで駆け寄ってきて、栗原の手をとった。 「栗原さん、先日は本当に助かりました、おかげで娘もすっかり元気になりました。 本当にお礼の言いようもありません」 「こっちこそ、退屈していた所だったから何でもないよ、もう娘さんは大丈夫なのかい?」 「ええ、もう元気一杯ですよ。そうだ、栗原さん、この間私と休みを代わってくれたでしょう。 実は明日、私は非番なんですが、今度は栗原さんが休まれたらどうですか?」 こうして、思いがけず一日ぽっかりと、休みになった。 予定していた休日ではないから何も計画はなく、溜まっていた用事や 掃除などを済ませると、昼過ぎにはすっかり暇になってしまった。 几帳面に畳まれた洗濯物の一番上には、神田のカッターシャツが置いてある。 ほつれていた箇所を繕い、きれいにアイロンをかけてある。 あれから、神田からの連絡は、一切無い。 各務原での活動は、それとなく聞いてはいたが、日々弛みなく訓練を重ねているらしい。 今となってはこのシャツだけが、神田と自分をつなぐ細い糸なのだと、ぼんやり考えた。 神田は一度言い出したことは決してやめない性格だから、このまま自分たちの関係も 途絶えてしまうかもしれない。 そうさせたのは自分の詰らぬプライドである事が、栗原の心を鋭く痛めつけた。 「基地付けで送れば、届くかな」 送る気などさらさらないのに、そう、口に出してみた。 ため息をついてシャツを洗濯物の上に置き、買い物に行って来ようと 立ち上がりかけたときの事だった。 これまでに味わった事のない、不気味な胸騒ぎが栗原を襲った。 そのどす黒い不安感に彼は思わず膝を付いた。 なんだろう、この焦燥感は? "クリ!" 誰かが耳の奥底で呼んだ。 「か・・・神さん?」 居てもたっても居られないような、急いで行かなくてはいけない、という 感情だけがぐるぐると脳裏を巡る。 あまりに激しい感情の動きに、眩暈さえ覚えた。 !!! 部屋の電話のベルが鳴った。 ほぼそれと同時に栗原の腕が受話器を取り、耳に当てた。 くぐもった、震えた水沢の声が幻のように響く。 「栗原ですが」 「栗原さん!大変です!神田さんが、神田さんが事故で・・・」 後は聞かなかった。 受話器を叩きつけるように戻すと、上着を掴んでそのまま基地目指して 猛スピードで車を走らせた。通り過ぎる対向車が光の筋にしか見えない。 基地のゲートは既に事情を知ってか、開いていた。 車から降りてオペレーション・ルームへ向かうと、向うから太田司令が蒼ざめた顔で走ってきた。 その強張った表情からは、この事故がただならぬ事態である事が容易に想像できる。 栗原は息を吸い、軽く止めて目を閉じた。 動揺してはいけない。こんな時こそ、誰よりも冷静で居なくてはいけない。 感情を静止しろ。 それから司令の顔をじっと見つめてたずねた。 「遅くなりました、で、司令、事故の状況は」 事故の状況は、深刻だった。 その日、他の2機と共に練習飛行にでた神田は、高度五千メートル付近で 予想外の激しい乱気流に巻き込まれ、他機と接触、機体を破損、急降下、そして行方が分からなくなったのだという。 通信機器の一部を破損したらしく、全く無線が通じない。 否、本人の安否すら不明だという。 一緒に飛んでいた2機も中破、大破の状態で、かろうじて基地に戻って来た様な状態であり とても神田機の行方を追うことは出来なかったという。 「事故が起きた空域は」 「離陸時の燃料は」 「レーダーチャートは」 てきぱきと指示を下し、情報を集積していく栗原の姿にひそひそと囁く隊員も居る。 「すごいね、自分の元パートナーが生死不明だってのに、顔色一つ変えないぜ」 「やっぱり冷血コンピューターといわれた人は違うね」 そんな陰口を耳の片隅に捕らえながら、栗原は神田機の行方を推測し続けた。 しかし、行く先も、飛んでいった方向すらわからない状況では、幾ら栗原でも その行方を突き止めることは不可能に近い。 そんな重苦しい雰囲気の中、栗原は顔を上げた。 部屋中の視線が彼に集まった。 「俺がファントムで出ます」 どっと部屋がざわめく。 「栗、神田の居場所が分かったのか?」 「自信はありませんが」 飛行服に着替えるべくオペレーション・ルームを出た栗原の後を司令が追った。 「栗、無茶はやめろ、今他の基地の連中にも頼んで捜索してもらってる。」 「そうしているうちに落ちてしまっては意味がありませんからね」 「そりゃ、計算では燃料はせいぜい持って後30分、いや、もっと少ないかもしれない。 しかし戦闘機には脱出装置があるんだから、何もお前が行く事はないだろう」 「ボンクラ亭主は、女房が直接迎えに行かないと帰ってこないんですよ」 栗原はそういって艶やかに微笑んで見せた。 着替えて格納庫に行くと、既に今井曹長が待ち構えていた。 「準備は出来とる」 「すみません」 「栗、無茶するなよ。必ず帰って来い」 栗原は無言で頭を下げた。 既に日差しは傾き、山の稜線を鮮やかに染めていた。 ああ言って出て来たものの、全く神田の居場所に当てはない。 もし神田の死亡が確認されたなら、彼が消息を絶ったという空域に行き、 其処で燃料が尽きるまで飛ぶつもりだった。 神田が死んだとしたら・・・・。 彼なしの人生を、栗原はもう既に考える事ができなくなっていた。 彼の居ない時を生きるつもりはなかった。 そう思ったから、ナビは誰も連れてこなかった。 一人680号機を駆りながら、栗原は静かに涙した。 "680、応答せよ、こちらコントロール" 「680、現在静岡市上空3500メートル。何か情報は」 "何もない、ヘリも出しているが破片も見つかっていない。墜落の情報もない" 「了解、捜索を続行する」 栗原の計算では、もう神田の乗っていたF15の燃料はとうに尽きているはずだった。 どこか深い山の中に墜落したのか、脱出できたのか・・・・。 "クリ!" ぼんやりと考えを巡らせていた時、頭の中にまたあの声がした。 栗原ははっとスティックをひねり、本能的に海の方へ機体を向けた。 声の大きくなる方向へ、機体を少しずつ向けながら、栗原は必死に声に呼びかけていた。 "クリ!クリ!何処だ・・・" 「神さん?神さんなの?」 無線からの声ではない。 微かに心に響くような、淡い囁きのような音だった。 「神さん、何処に居るの?無事なの?」 "クリ・・・・" 声が途絶えた。 引き寄せられるように海面に目が行った。 そこには巨大な油膜と、ばらばらのジュラルミンの破片。 「神田さあーーーーーん!!!」 目を開けて一番最初に目に入ったのは、白い天井と吊るされた点滴のボトルだった。 俺はどうやら助かったらしい。天国にしては此処は味気なさ過ぎる。 痛む首を巡らせて足の方を見ると、目にオレンジ色が飛び込んできた。 誰かが自分の寝ているベッドに突っ伏している。 誰だろうと目を瞬くが、頭がぼんやりとして考えがまとまらない。 「気が付いたかい?」 枕の方から声がした。 目を上に上げると、白衣姿の医者がじっと俺を見下ろしていた。 「君が助かったのは奇跡だよ。物凄い速さで海面に叩きつけられて、機体は 粉砕状態になっていたんだ。それなのに君ときたら、肋骨を三本と足首の骨折、 それに打撲傷だけなんだから」 返事をしようとしたら、手で制された。 「一ヶ月もすれば元の様に動けるようになる。気長に養生したまえ」 医者が消え、その後に司令が現れた。 相変わらず丸顔でやんの。 「神田、わしが分かるか」 わかってらあ、百里の腹ボテタヌキだろうが。 「全く、お前が見つかったのは奇跡に近い事なんだぞ。まさか、あれ程海上まで 飛んでっているとは思わなかったんだ」 しらねえよ、そんな事。俺は機体を何とか海に持ってく事で精一杯だったんだからな。 「お前が墜落しているのを栗が見つけてな。すぐ救助隊を出す事が出来て、事なきを得たんだ。 栗に感謝しろよ」 そういって司令は、俺の足元の方に視線をうつした。 そのときやっと俺は気が付いた。 足元に突っ伏していたのは、飛行服姿の栗だった。 「お前が救助されて此処に搬送されて手当てを受けている間、あいつは半狂乱だったよ。 "神田が死んだら、俺も後を追う"って言い続けてな。お前が命に別状はないって聞いて ようやく落ち着いたんだが、相当気が張ってたらしくてそのまま眠っちまった」 「とりあえず、お前も大丈夫そうだし、わしは一旦基地に戻る。今後の事はまた後でな。」 司令は室内に居た看護婦に会釈をして、部屋を出て行った。 看護婦も俺の点滴を確認してから、 「用があったら、ナース・コールを鳴らしてくださいね」 と言って出て行ってしまった。 部屋には俺と、栗が残された。 乱気流に巻き込まれて、他の機と接触した瞬間、もう駄目だと思った。 俺だって長年飛行機に乗っているから、どの位機体が損傷すればヤバイか位、分かってる。 そのときの損傷は、正直飛んでるのが不思議な位酷かった。 通信装置もイカレて、その他の計器も目茶苦茶になってしまって、もうどうしようもなかった。 何処かに下ろさなくちゃならないけど、此処が何処かも分からない。 とにかく海を目指そうと思って、必死に勘でスティックを動かしていた。 海の上に出て、脱出しようとしたら動かねえんだ、脱出装置が。 まったくしょうがねえよな。笑っちまったよ。 その時、俺は必死で栗の名前を呼んでいた。 助けてくれ、栗ならいつもこういう時、俺を助けてくれたじゃないかって。 だんだん高度も下がってきて、エンジンもやばくなってきた時、俺はずっと 栗のことを考えていた。あいつ、俺が先に死んだらどうするだろうって。 あんな別れ方をして、栗の記憶の中の俺って、最低じゃんか。 馬鹿だな、俺。 「・・・・神さん?」 うつ伏していた栗が身を起こした。いつも身だしなみにはうるさい栗が、髪はぼさぼさ、 目は泣き腫らしたみたいに真っ赤になっていて、見られたモンじゃなかった。 栗は俺が眼だけで笑って見せると、まるで子供のように微笑んで、俺の首根っこにしがみついてきた。 あいつ、時々こういう可愛い事するんだよな。 「いててて」 「あ、ごめん、ごめんね神さん、痛かった?」 「いてえに決まってんだろう。骨折れてんだぞ」 その途端、栗が酷く不安げな顔になったので俺は慌てて 「い、いや、たいした事はない」 と言いなおす羽目になった。 「本当?」 「本当。」 「痛くないの?」 「まあな」 「試していい?」 ニコリと微笑んで身を引いた栗に、引っ込みの付かない俺はうなずいて見せた。 ところが次の瞬間、俺の唇に栗のそれが重なった。 「・・・・神さんが呼ぶ声が聞こえたんだ」 俺の手をさすりながら、栗がぽつりと言った。 「神さんが呼んでいたから、見つけられたんだよ。」 「マジで?俺はしらねえぞ」 嘘。思いっきり、呼んでた。 「だって、そうでもしなけりゃあんな海域、見つけられっこないじゃないか。 神さんが俺を呼んでくれたから見つけられたんだよ」 「じゃあそういう事にしておけよ。何かいいじゃん、強い絆、って感じで」 栗は俺の答えに満足したようだった。 「でも、よく分かったよ。俺は神さんが居ないと駄目だって事が」 「あははは俺もだー。何たって墜落しましたから」 「神さん、退院したら、俺も転属するよ。傍に俺が居ないと駄目だ、神さんは」 「いや、栗よぉ、お前の言うとおり、きちんと引継ぎしないとあかんよ。 俺待ってるからさ、何年でも。どうせなら周囲に祝福されたいじゃんか」 「何を」 「う、うー・・・俺たちの関係をさ」 返事代わりに痛むわき腹を叩かれた。 それから二ヵ月後。 その日も新人の訓練に明け暮れていた栗原二尉の目の前に、突如F15が三機、 轟音を率いて着陸してきました。驚きと若干の嫌な予感に呆然とする二尉の前に 気まずそうに神田二尉が降りてきました。 「あははは・・・・栗、間違えてこっちに降りてきちゃった・・・」 めでたく、「不適格」の烙印を押された神田二尉、今日も仲良く栗原二尉と一緒に 空を飛んでいるそうです。 2004.12.22 OnyX
https://w.atwiki.jp/isekaikouryu/pages/2685.html
【灯幻郷・前編】より続く 突然起こった竜巻に流されてたどりついたその村は、地球人どころか隣村以外とあまり交流がなかったらしい。 「どっから来たのどっから来たの?」 「羽根がないの!?」 興味津々な鳥人の子供たちに囲まれ、小さな村のあちらこちらを案内された。 重たい資材置き場などを除けば、ほとんどの建物が樹上に建てられている。 地面から歩いて移動できる階段もなければ、家同士を繋ぐ通路もない。 飛んで登るか、翼で飛べなくても木の幹に短く残した枝を足場に、ひらりひらりと跳び移って登ってしまう。 ただ、山頂のことを知る者はやっぱり誰もいなかった。 畑を見ないといけないからと言って別れたが、この時期に手のかかる作物は殆どないので、ほとんど一日中ぶらぶらしていた。 別に隠し事をしているわけではないが、何だか言い出しづらくなってしまった。 夕方になって畑から実家に戻ると、彼は昨日と同じように山の上を見ていた。 「おや、何か気になりますかな」 おじいちゃんが話しかける。 「あの山に登ってみたいなと思ったんだけど」 「ほほぅ、村の頂ですか」 「ダメ?」 「いいですとも。しかし村にとって大事な場所じゃから、一応村の者に付いて行ってもらうかの」 そんな大事な所だったっけ?と考えていたが、いつの間にか二人の視線が向けられている事に気付いた。 「あのー…?」 須賀洋人さんが昨日の大きな荷物を背負って立つ。荷物が大きくて、まるで甲虫が後ろ足で立ったみたいだ。 「それじゃあ、よろしく頼むよ。何しろ地球の山は色々登ったけど、異世界旅行は今回が初めてだからさ」 何かのジェスチャーなのか、こちらに親指を立てた握り拳を見せた。 「は、はい。でもきっと、大した物は何もないですよ?」 彼は構わず続ける。 「いいのいいの。今日はまた違うものが見られるかもしれないし」 さぁ出発だ、と拳を振り上げて家の前から歩き出した。 「いい景色だー!」 後ろから感嘆する声がする。チラリと振り返ると夕暮れの浮遊島群を見て感動しているようだった。 確かに森から見るより見晴らしは良いが、いつもの浮遊島だ。 というか山を半分以上登ってこっちの脚はフラフラだというのに、この人は全く疲れる気配を見せない。 頂上までは子供の頃に一度登ったきりだけど、こんなに大変だったっけ。 今度は足元に生えた野草を熱心に観察していた。 私はそんな暇はないと再び前を向いて登っていると、何となく後ろから視線を感じる。特に脚。 「あのー、何か…?」 が、振り返ってもこちらを見るともなく付いて来ているだけだった。 「え?いや何にも」 絶対何かある。 もしかして、私のせいで時間を持て余してる? この余裕ならもっと速く登る事だって出来るはずだ。 しかし一向に私を急かす気配もない。 じゃあまさか。もしかして気付いた? あれこれ考えていたら、当の本人はいつの間にか耳を澄ますように目を閉じていた。 「いい音がするな、この山は」 「音…ですか?」 「ほら、風が吹くと一緒に違う音が聞こえないか?笛の音色みたいな…」 耳に翼を当ててみるが、いつもの風の音にしか聞こえない。 「うーん、分かりません…」 「そう?好きな音なんだけどな」 「そ、それより急ぎましょうか。日も暮れちゃいますし」 「大丈夫かい」 「だ、大丈夫ですよこれくらい」 「随分飛ばしているみたいけど」 「飛んでなんかないです!」 「お、おう」 こっちは急いでいるのに、なんでそんなにのんびりしてるのだろう。 あれ?なんでいそいでたんだっけ? ぐらり。 足元が揺れるような感覚がして、それから先はあまり覚えていない。 何かを思い出す。 5年前の秋。12歳の誕生日。 日が暮れて真っ暗になるまで、たった一人で飛び降り続けた崖。 そして結局、風を掴むことが出来なかった翼。 違う。あの崖は山のもっと下にあるし、今日は避けて登ってきた。 気が付くと、さっき足を止めた場所で横向きに寝かされていた。 「あ…」 こちらを覗き込む心配そうな顔。 「大丈夫?ちょっとオーバーペースだったね」 何とか上半身を起こして答える。 「ごめんなさい、私のせいで…」 「あー、いいっていいって。俺の方こそ君の体力に注意するべきだったんだけど、この岩場を登れる脚力が凄いなって気を取られちゃってさ」 視線を感じていたのはそのせいだったのか。 「いえ、勝手に焦ってたのは私ですから…」 「焦ってた?」 「山岳地帯の鳥人ならこれくらいはできないと、って思ってたんですけど…ホントダメダメですね、私」 「そう?俺には全然…」 「海沿いの人達みたいに泳げるわけでも、平地の人達みたいに速く走れる訳でもないですし。それに私は…」 一呼吸。 「飛べないんですから」 山のふもとはすっかり日が当たらなくなっていた。 貸したストックを翼で持ったセニサと並んで、着実なペースを探るように登っていく。 息はあまり切れていない。何だかんだ言っても、鳥人だけあって肺活量は非常に高いのだろう。 それで見誤ってしまったが、肺活量だけで体力が決まる訳ではない。 30分前。セニサの調子が少し落ち着いた所で、話を切り出した。 「暗くなってきたし、俺の経験的には今日は下山という選択肢も考えられる…」 その言葉に彼女の顔が申し訳なさそうに曇る。 「が、この山に詳しいのは君だ。だから今から降りるか、登り切るか、君の判断を信じる」 しばらく下を向いて考えていたが、やがて顔を上げた。 「…登ります。登ってみせます。だから最後まで案内させてください」 「分かった、信じよう。ただし、今度は無理のないペースでね」 「はい!」 あれから30分。肩の荷が多少下りたのか、さっきまでより落ち着いて登っている。 全く無理をしてないと言えば嘘になるが、彼女なりに役目を果たそうという気概だと思いたい。 「しかし、流石に暗くなってきたな」 試しにセニサから借りた鈴を振って鳴らすと、本当に光精霊がやって来た。 「よーしよし、これに付いてくれるか?」 「??」 興味を示して鈴の周りを飛び回っているが、こちらの意図は分からないようだった。 「うーん…ダメか」 鈴を受け取ったセニサが翼で紐を持って静かにリリンと揺らすと、光精霊は吸い込まれるように鈴に宿って光を放った。 「気を引くことは出来ても、やっぱ違うなぁ」 「楽器や音楽は惹き寄せるのに長けてますけど、具体的な説明は難しいですから。ルーンとかを使えば簡単ですよ」 「コツとかあるのかい?」 「コツと言われましても…そうですねぇ、こうしたい、とかこうして下さい、って気持ちをこめて鳴らす、とかでしょうか?」 「難しいもんだ」 「そんな事ないですよ、この世界に住んでいれば誰だって出来るようになりますから」 ランタンのように明るい光精霊で足元を照らしながら、再び登り始めた。 やがて山頂近くの、無造作に開けた場所へたどり着いた。 山頂は切り立った岩が王冠のように連なっていて、その途中に横穴が開いていた。 彼女によれば、この山の中央を朽ちた火口が貫いていて、そこへ通じる横穴が山腹にいくつかあるという。 登って中を覗き込むと下へ向かって底知れぬ広大な空間が、見上げるとギザギザした円形に切り取られた空が見えた。 しかしいくら目を凝らしても、昨日見たような光るものは何も見えなかった。 とりあえずテントを張って、夜まで待つことにした。 周囲に精霊散らしのルーンを張らなきゃと思いながらもへばって休んでいる内に、その人は慣れた様子で地面をならしてテントを張り、精霊の力も借りずに小さな機械で火を付けて料理を始めてしまった。 「精霊の力もなしにこんな風にやっていけるんですね」 「とはいえ、精霊に頼んで火が付くならそれに越したことはないな」 「そうなんですか?」 「何でもかんでも持ち歩ける訳じゃないからね」 やがて会話がなくなり、二人とも無言で火にかけた鍋を見ながら、小さな白い地球米が煮えるのを待つ。 「鳥人の事は詳しくないから教えて欲しいんだけどさ」 須賀洋人さんが口を開いた。 「まだこれから飛べるように、なんて事もないの?」 「鳥人ってですね、飛べる種族はとにかく飛べて、飛べない種族はとにかく飛べないんです」 「なるほど」 「どっちにしても飛べる種族の子は大体4、5歳から12歳の誕生日までには飛べるようになります。それまでに飛べない子は…そういう事なんです」 「そっか…」 彼は鍋蓋をちらりと開けて中を見る。ほのかに甘い蒸気がこっちまで漂ってきた。 「でもそれだけ頑張ってたって事はさ、飛べたらやりたい事とかあったの?」 そういえば、子供の頃の夢って何だったっけ。 何となく見上げた夜空は、今日もところどころ雲と浮遊島で黒く欠けていた。 空に雲一つない日はあっても、浮遊島のない日はない。 浮遊島よりも雲よりも高く飛べれば、異国の本で見たような曇りない空が見れたのだろうか。 「雲も浮遊島もない空…」 気が付くと口に出していた。 正直、ここじゃないどこかなら何でも良かったのかもしれない。 「いいね」 そんな後ろ向きな思いを知ってか知らずか、彼はただ肯定してくれた。 それが何だか気恥ずかしくて。 「どうやって見に行くかな。そうだ、今ならゲートまで行けばすぐに他の国へ」 「でもきっと皆、翼があれば空を飛べるって思うでしょう?」 「うっ」 この人にそんなつもりがないのは分かっているが、意地の悪い事を言ってしまった。 そしてバツの悪い顔を見て、今度はつい言い過ぎたと申し訳なくなる、つくづく中途半端な自分がいた。 「いえ、私の気にしすぎだって事くらい分かってはいるんです。同じように飛べない人なんていくらでもいるし、外へ出て活躍している人だって一杯いる」 「でも自分が飛べないって思い知らされた時はショックでしたし、それでショックを受けた私は実は心のどこかで飛べない人を見下してたのかもって、そんな自分が嫌で」 「…」 彼は昨日と同じようにこちらの顔をじっと見ていた。 「あ、もういいんです。5年も前の事ですし。それに私だって、風精霊の力を借りればある程度は飛べますから」 その目は納得していなかった。そして私の中の、もっと奥を見ているようだった。 「でも、出来ることなら?」 突き刺さる一言。 いや、ずっと誰にも言えずに心の奥に突き刺していた一言。 「出来ることなら?出来ることなら、そりゃあ、やっぱり…」 引き抜いたその言葉から、ずっと抑えていた感情が堰を切ってあふれ出てくる。 「やっぱり、自分の力で飛びたかったですよぉ…!」 両頬の嘴を伝った涙が胸元の羽毛にこぼれて跳ねた。 「だよなぁ」 その人はそれだけぽつりと言って、白く煮詰まったスープを薄い金属の食器に入れて手渡してくれた。 「これは?」 「オカユって言ってね。元気がない時はこれがいいかなって」 涙を思い出す、ほのかな塩味。 正直疲れて食欲もないと思っていたが、素朴で暖かい味が一口すっと染み込んできた。 「はふぁ…」 もういいんです、と言った彼女は昨日と同じ笑顔を見せた。 諦めたような、いや諦めをつけようと、そんな時にする顔。 それが素直に声を上げて泣くより痛々しく思えて、一言出てしまった。 ぐしゃぐしゃに泣きながらお粥を食べ切ったセニサは、泣き腫らした眼のままテントの中でぼんやりと休んでいた。 昔の自分と重なって見えたからかもしれない。 あの一言も、同じ12歳の頃に抱え込んでいた言葉だった。そろそろ9年が経つのか。 カタカタという音がして、はっと現実に引き戻される。 首にかけたコンパスをジャケットから引っ張り出すと、針が小刻みに揺れていた。 磁気が乱れてる? 何かの気配。 山の頂上とは思えない騒々しい気配が近づいてくる。 いや、山の頂上以前にここは異世界。 セニサを呼んでテントから出ると、あっという間に天気が荒れていた。 更に激しい雨風が山の真横から迫ってくる。 雨風の主はいくつもの精霊が群れ成してできた、奇妙な嵐であった。 「何だこれ?」 「精霊嵐です、えーっと円形の精霊流で、精霊の群れがお互いに追いかけあってる状態で、これは水精霊と風精霊と…」 足元に閃光が走る。落雷の磁気でコンパスの針が大きく揺れた。 「光精霊か」 「どうしよう、私があの時ちゃんと精霊散らしのルーンを用意しておけば…」 こうなった事に責任を感じているのか、青ざめている。 「別に君がわざと嵐を起こした訳じゃないんだろ?それより今すぐ降りるか」 「に、荷物とテントはどうしましょう?」 「こういう時は後、後。まずは逃げる」 嵐を避けるように来た道を降りるが、まるでこちらを見据えているように進路を変えてきた。 「どうもこっちに興味があるみたいだね」 何の役にも立たない翼でも、雨でずぶ濡れになれば惨めな気持ちになる。 須賀洋人さんが付かず離れず、こちらを見ながら先を行く。 付いていくので精一杯な私がいなければ、もっと速く降りられるに違いない。 こんな時飛べればなんて考えてはますます惨めな気持ちになる。 そんな暗い気持ちを読み取ってか、じわじわ近づく精霊嵐に感化されてか、鈴に宿っていた光精霊がバチッと弾けて飛び出した。 真っ暗闇に足がすくみ、一歩踏み出すことが出来ない。 どうしよう。 すると下っていた須賀洋人さんが踵を返して登ってきた。 どうしよう。私はしょうがないけど、このままじゃまた迷惑をかけてしまう。 せめて雷が来ないようしゃがみこんで、できるだけ平気そうな顔をして、できるだけ平気そうな声で言わなきゃ。 「もう、先に行ってください」 しかし私の精一杯の叫びもお構いなしにずんずん登ってくる。 その地球人脚で迫る嵐に力強く立ち塞がると、変わらぬ調子で聞いてきた。 「昨日の歌」 「え…?」 「昨日みたいに、歌とか楽器で精霊の流れを変えたりってできないの?」 「む、無理ですよ!ああいうのは流れのない状態でやるものですし、第一こんなたくさんの精霊相手に、呼びかけたことないです」 「なら、やってみないと分からないって事か」 彼はそう言ってヘルメットを被ると、パッと額に光を付けた。 すぐさま嵐の中の光精霊が興味を示す。 「ちょ、ちょっと、雷状態の光精霊が飛びついてくるかも…」 閃光。 気の早い光精霊が放電し、彼の足元に炸裂した。 「俺にも気を引くくらいは出来るし、嵐から逃げ切れる自信もある。君はその間に離れて、精霊嵐を弱める手立てを考えてくれ」 彼はまるで長い髪を払うように、背中からパラシュートを引き出した。 鮮やかなオレンジ色の布がバタバタとはためく様子は風精霊の興味を誘い、風向きが変わる。 やがて水精霊も向きを変え、精霊嵐全体が彼をターゲットにした。 「…私に!私に出来るでしょうか!」 「分からん」 そして私をまっすぐ見据えて言った。 「だから信じる」 今度は精霊嵐を見ながらゴーグルをぐいっと下ろし、私から離れるように横歩きで移動し始めた。 地球人と精霊嵐とのおいかけっこが始まる。 どうしよう。 今から大規模な精霊散らしのルーンを書くのは間に合わないし、そもそも見てもらわないと効果がない。 となると手っ取り早いのは他の精霊流を作って、精霊同士の結びつきを乱す事だ。 地精霊はゆったりしてるから集めるのに時間がかかるし、闇精霊は騒がしい風の音で姿を隠してしまっている。 火精霊も見渡す限り姿はない。 どうしよう。 迷っている間も風が吹き荒び、低い反響音が響き渡る。 そう、響き渡っている。 周囲に何もないこの山頂のどこで? 目を山頂に向けると、火口への横穴が黒々と開いていた。 すでに3、4体の風精霊が嵐からパラシュートに引っ付いて、横に上に引っ張ってくる。 全身のハーネスとパラシュートを繋ぐラインを引っ張り返してキャノピーが膨らまないようにコントロールするが、少し雲行きが怪しくなってきた。 山で特に恐ろしいのは雷だ。少なくとも地球の山では。 セニサを探して見ると精霊嵐の脇を通って山頂へ登っていた。 横風でフラフラとしているが、その顔はさっきと違ってまだ諦めていない。 どうやらまだ、ひとふん張りしないといけないようだ。 何かあてがあるわけでもないのに、吸い寄せられるように山頂の横穴へ入った。 ぽっかり開いた火口を覗き込むと、外から吹き込む風が真っ暗な火口内で低く反響していた。 普段聞きなれた音だから気付かなかったが、あの人はこの音のことを言っていたのだろう。 管楽器のような低い音に呼応して、暗い穴の奥で何かが光っている。 木笛で火に息を吹き込む音を出すと、洞窟内に響く音と共鳴した。 これだ。夢中になって火吹きの音を鳴らした。 ところが広大な空間の中では笛の音も共鳴音もわずかで、奥の光は遠くでぼんやりと光るだけだった。 どんなに頑張っても、闇の中で虚しく消えていく。 息を吹き込み続ける内に息切れで目が回っているような、頭がぐらぐらするような感覚がしてきた。 何で私はこんな事をしているのだろう。 置いていってくれれば良かったのに。信じるなんて言わなければ良かったのに。 言えなかった言葉やら、取り留めのない考えやら、ぐるぐると頭を駆け巡る。 「ふんぐぅぅぅぅ…!!」 不意に外から地球人の唸り声が聞こえてきた。 いや、聞こえてはいたが意識してなかっただけだ。 姿は見えないが、精霊嵐相手に踏ん張っているのだろう。 まだ私を信じて。 何でだろう。 今度は目の奥がチカチカしてきた。 穴の奥ではなく、自分の中で何かが瞬くように。 不意に自分の言った言葉がよみがえる。 「気持ちをこめて鳴らす、とかでしょうか?」 来て下さい、そうじゃない。 来て、これも違う。 来い! ありったけの思いをこめて、最後の一息で鳴らす。 洞窟全体がぼうっと光った。 今度は目眩や気のせいじゃない。 奥の光がどんどん強くなり、虹色の嵐となって昇ってきている。 「やっぱりこれって…!」 光精霊にはない熱風と唸るような音の吹き上がりに呑み込まれた。 いよいよ風の力でふわりと体が浮きかけたその時、轟音を立てて虹色の光の竜巻が火口から噴出した。 火精霊の群れだ。 続けて爆弾が炸裂したような熱風と衝撃が伝わってきた。 暴風雨を凌ぐ熱風の突き上げる奔流に精霊嵐の回転がみるみる弱まり、パラシュートに引っ付いた風精霊も呆気に取られたかのように引っ張るのをやめた。 天に昇った精霊たちが思い思いに広がり、欠けた夜空を虹色の光で満天に上書きしていく。 思わずメットもゴーグルも脱ぎ捨てて、その光景に見入っていた。 はっと視線を戻すと、横穴の縁で火精霊の勢いに吹き飛ばされそうなセニサが見えた。 細い脚を滑らせ後ろへよろめくのとほとんど同時に、駆け出していた。 「セニサ!」 ぐっと踏み込んで足元の岩を飛び越えた…はずが、そのまますーっと体が宙に引っ張られる。 風精霊たちが面白がってパラシュートを広げ、上昇気流を起こしていた。 のけぞったセニサの脚が完全に地面を離れた。このままでは背中、下手すると頭から地面に激突する。 「頼む、間に合えっ!」 手を伸ばすと、呼応するように体を持ち上げる風が強く吹く。 ひとっ跳びで崖を越え、セニサを抱き止めた。 「あ…!」 上気した顔が振り向く。グローブ越しに触れた肩からも火照りが伝わってくる。 風精霊に満ちたパラシュートが二人を支えて、虹色の銀河をゆっくりと降下していく。 「満天の、星空…」 「案外、いつもと違うものが見られただろ?山の中には火の精霊が住んでいたのか」 「夜風が吹き込んで反響する音に反応してたんです。だから風が強い日にしか山頂まで出てこないし、それに風が強い夜に皆空を飛ばないから誰も見たことがなかった」 熱気に当てられたように、セニサが興奮気味に語る。 「な、なるほど」 火の精霊の割合が多すぎたのか、いつの間にか他の精霊はほとんどいなくなっていた。 パラシュートに宿っていた風精霊たちも、地面に軟着陸して礼を言うと方々へ散っていった。 「セニサもありがとう、君のおかげで助かったよ」 「いえそんな、助けられたのはむしろ私の方っていうか…」 グローブを取って素手を低めに差し出したが、彼女は翼を出してきた。 「そうだ、ハイタッチにしよう」 「ハイタッチ?」 「そうそう、翼を上げて…あ、届かないからもうちょっと下げて。せーのっ」 手の平と翼を重ねると静かな音がした。 この手を包み込むような灰色の羽毛の中で、この手で包み込めそうなほど小さな指に触れるのを感じた。 「新発見、やったな」 「え?」 「村の誰も知らなかった事を君が見つけたんだ。君の発見だ」 「えへへ…でもホント、綺麗ですね」 彼女が夜空に翼をかざすと、パステルカラーの火の玉たちが両翼の上にふわりと乗っかった。 左右の翼で紙風船のように軽やかにお手玉をする。 「…そうだな」 柔らかな唇がさえずるように口ずさみ始めた。 翻訳できないのか、歌詞などないのか、ただ彼女の歌声だけがこの小さな世界を包み込む。 両翼を合わせてゆっくりと空へ掲げ、高らかに歌い上げれば、辺りを照らす炎が透き通る空色に染まる。 その翼をさあと広げて一転、弾けるような声に精霊たちも再び思い思いの色を奏で出す。 周りへ微笑みかけながら尾羽も広げてくるりと一回りすると、合わせて空中の火精霊の群れが軽く渦巻いた。 細い鳥脚をぴたりと止め、今度は祈るように歌う。 宝石のように色とりどりの火が一つの黄金の光となり、巨大な火の鳥へと形を変える。 黄金の鳥は空をぐるりと一周すると、セニサの元へ舞い降りてきた。 彼女も火の鳥を爛々とした目で見つめていたが、やがて糸が切れたようにその場で崩れ落ちた。 抱き止めたその肩と胸がゆっくり上下して、静かな寝息を立てていた。 目を覚ますと、昨日のテントの中で横たわって毛布がかけられていた。 須賀洋人さんはいない。 テントの入り口を開けると、朝焼け前の冷たい空気と暖かな異国の出汁の匂いがした。 「ああ、起きた?」 「えと、精霊のみんなは…?」 「君が寝た後に元の火口へ帰っちゃったよ。ああこれ、朝ごはん」 昨日と同じ場所で、昨日と同じ薄い鍋で白い麺の入ったスープを温めていた。 「っと、そうだ。これを」 須賀洋人さんは、2日前と同じ金貨の詰まった袋をどんと出してきた。 「だから、家の事はもう…」 「違う違う、これはこれからのために支払うんだ」 「これから…?」 「そう、ここからの現地ガイドとして君を雇いたい」 「え!?」 「昨日もおとといも俺は助けられた。君の力が必要なんだ」 そのまっすぐな眼差しに、思わず目をそらしてしまった。 「む、無理ですよ、昨日だって足を引っ張ってたのに」 「こうして目的地にたどり着いた、だろ?」 「でも空も飛べなくて、ここから出たのだって何回かしかないのに、現地ガイドだなんて…」 本当は少し、その気になっていた。 でも。もう一度聞かせて欲しかった。 「私にも出来るって、思いますか?」 「もちろん信じるさ。俺もそうやって、地球の更に裏側からここまでやって来れたんだ」 「…分かりました。私も、挑戦してみます」 翼を差し出した。 「この6月だけですけどね」 「うんそうだな、6月が終わったら一旦ここに君の家を建て直しに戻るか」 ?何かおかしい。 「あの、大ゲート期間が終わったら、ミズハミシマゲートに戻っちゃうんですよね?」 「え?」 彼は何それ?という顔をした。 「だってミズハミシマにある日本から来たって、それなら大ゲート期間が終わったら…」 「あー、そういうことか。日本のゲートから来たんじゃなく、日本からペルーに渡って、ペルーのオルニトゲートを通って来たんだよ。ほら、ブルーリボンないだろ」 「え…えぇ!?それじゃ、1ヶ月で強制的に戻れる訳でもないのに、あんなに無茶してたんですか!?」 「そりゃアクシデントはあったけど、そんな無茶はしてないだろ?」 あっけらかんとした態度に、思わず脱力してしまった。 「あれ、もしかして俺が1ヶ月したらぱっと消えちゃうと思ってオッケーした?」 1ヶ月しかいられないと思って、遠慮してた私の思いは何だったんだ。 「…いえ、また昨日みたいな無茶をしたり他の人の家を壊したりしないよう、私が付いて行きます」 こうなったらヤケだ。 「その代わり!本当に直してもらいますからね、私の家」 「もちろん!約束だ」 彼が腹立たしいほどの笑顔で手を出してきたので、思いっきり翼ではたき返した。 意外としっかりした地球人の手は、私の小さな反撃をしっかり受け止めた。 彼方の険しい稜線の隙間から、太陽が少しずつ昇ってきた。 山頂から順に照らされ、差し込むような眩しい光が二人を包んだ。 晴れ渡る青空、雄大に浮かぶ浮遊島の数々。 天を貫くように頂上の浮遊島から地上へ伸びる巨大な鎖。 霧の下から現れた地上には芸術的な地形が広がる。隆起した岩山、粘土細工のようにねじれた山、今にも飛び立つように地上と離れかかった台地が、不可思議な植物が織り成す森と競演している。 「ここ、こんな景色だったんだ…」 朝日を浴びたセニサの金色の瞳が、灰色の翼が煌いて見えた。 続く シリーズ一覧はこちら 本作はオルニトや鳥人について、公式設定に独自解釈を加えて書かれています。 全部が公式設定という訳ではありません。ご了承ください。 イラストは【浮遊島群のあまぐも】を基にとしあきが描いてくれた物を使わせて頂きました。改めてありがとうございました。 想像以上の大作後編に驚き。ガジェットの数々を異世界流に使いつつ溶けあっていく二人の理解が気持ちいい。大ゲートの逆を突いたオチがそれまでの行動の印象を変えるどんでんとセニサの感動に心地よい涙 -- (名無しさん) 2017-08-01 02 35 44 体力勝負になるかもだが会話は誰とでもできる自信はあるので異世界でこんな旅をしてみたい -- (名無しさん) 2017-08-01 18 02 27 いやいやいい触れ合いだわ。 続くんや -- (名無しさん) 2017-08-02 18 13 15 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/234.html
現在、米国とフランスから派遣された部隊が展開する松本市。 その隣の旧上田市は既に魔族軍の支配地域だ。 魔族軍の侵攻を受けるまで、長野県東部の中核都市として総人口約16万を誇った上田市は、わずか半日で魔族軍により地上より消滅させられたため、上田市が現在どういう状況にあるのか、衛星からの偵察写真からの情報以外、実はほとんどわかっていなかった。 魔族出現地点付近である以上、魔族の本陣があるのは間違いない。 それだけに、情報が欲しい。 日村に門(ゲート)から近い上田市において、どれ程の戦力が展開しているか。 或いは、どれほどの陣地が形成されているかがわかれば、日村における大凡の戦力がわかる。 それがわかれば、一気に日村の門(ゲート)を制圧し、国内おける魔族軍の動きを止めることも不可能ではないのだ。 かといって、リスクは高い。 正規部隊のメサイアを危険にさらすことは避けたい。 そこで選ばれたのが、問題を起こした新米騎士―――即ち、美奈代だった。 ●長野県真田町付近 「屍鬼(グール)狩りは最後でいいんです」 群馬県側から鳥居峠を越え、国道144号線にそって山の稜線をなぞるような飛行を続ける“征龍改”。 そのコクピットの美奈代に、牧野中尉が言った。 「どうせ、大した戦果にはなりませんし」 「そういうものなんですか?」 「上層部が期待するのは、上田市への侵攻が出来るか否かの判断材料となる情報です。屍鬼(グール)狩りを命じてきたのは、それとは別系統でしょうから」 「別系統?」 「情報は参謀本部。屍鬼(グール)狩りは―――どこかしらね?」 「ふぅん?……そういうものなんですか?」 連なる山を乗り越える際の微弱なGを感じながら、美奈代は牧野中尉の判断に、しきりに感心するだけだ。 「そういうものです―――真田、入ります」 山間の谷に沿った道がスクリーンに映し出された。 先日の攻撃が効いたのか、魔族の姿はない。 道に沿って数件の家々が立ち並ぶ、日本のどこにでもありそうな山村の光景が、そこには広がっていた。 「あーあ。ダボスは行きつけのスキー場だったのになぁ……」 “またお越し下さい。真田町”そんな看板を通り過ぎた辺りで、牧野中尉が残念そうな声をあげた。 「菅平でスノボやって、上田でお蕎麦食べて別所温泉で一泊ってのが、冬の定番だったのに……」 「奪い返せば―――それで」 「……そうね」 牧野中尉は頷いた。 「―――さて、准尉」 「はい?」 「上田市市街地に侵入して、敵の反応を探ります」 「はい」 山間部を抜け、開けた土地がスクリーンに映し出される。 上田市だ。 「まだ敵は―――」 ピーッ 「“さくら”?」 「戦狼タイプ3―――5、7。8時方向から接近中」 「早速いらっしゃったわよ?准尉」 「―――了解。“さくら”、全ウェポンセーフティ解除」 「了解っ!」 ズンッ! ギャウォォォォォォォォッッ!! 腕にマウントされた35ミリ多銃身機動速射野砲が最後の戦狼級中型妖魔を撃破したのは、菅平IC付近でのことだ。 戦狼がもんどり打って、国道沿いのコンビニに突っ込んで動かなくなった。 「ラスト1撃破」 戦狼の死体を一瞥すると、美奈代は騎体を上田市街へ向けて移動させた。 ―――慣れてきたな。 美奈代はそう思った。 「騒ぎは辺り一帯に知られています」 牧野中尉は言った。 「なるべく早めに任務を達成しましょう」 「上田市市街地へ」 「そう。だけど、ルートを変えます」 牧野中尉は手元の戦況モニターを切り替えた。 モニター上に上田市の詳細な地図が表示される。 「どうせ魔族が動くなら、先に屍鬼(グール)を始末しましょう」 「どこで発見されたんですか?」 「市内踏入―――ここと、ここです」 「信州大学と―――ここですか?」 「そうです。このショッピングモールです―――まぁ、はっきり言っちゃえば、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)でこの一帯全部焼き払えば終わりなんです」 「し……しかし」 美奈代はさすがに躊躇した。 地図上には大学に高校、保育園まである。人々の生活の場なのだ。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の射程範囲は約500メートル。 一回の攻撃で一面火の海だ。 「この周辺に人は住んでいません」 その被害を考え、俯いて躊躇した美奈代に、牧野中尉は明るい声で言った。 「ブワァーって、一回トリガー引けば、後は全部、灼熱どころじゃない炎が全部焼き払ってくれます。ちなみに、“掃除”は命令ですよ?」 「……うっ」 「なんでしたら―――」 その声は背筋が凍りそうなほど冷たかった。 「私がやりますけど?」 「……いえ」 美奈代はきっと顔を上げ、 「騎士の務めですから」 そう言った。 「そういう生真面目な所」 それを聞いた牧野中尉は、悪戯っぽい顔で小さく笑った。 「―――嫌いじゃないです」 美奈代は“征龍改”を、信州大学の間近。常田3丁目交差点に通じる丘の上に停止させた。 「中尉―――広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)を」 「了解」 “征龍改”の腕が、腰部にマウントされていたフレイムノズルを掴んだ。 ノズルの移動にあわせ、背部のリキッドタンクに引き込まれていたリキッドホースが延びる。 「ノズル伸展します」 牧野中尉の操作で、“征龍改”の手にしたフレイムノズルが面白いように延び、伸展完了時には、“征龍改”とほとんど倍近いサイズにまで延びた。 「伸展完了」 「使用しつつ移動します」 「了解。トリガー、任せます」 (使いたくないけど) 美奈代はどうしてもそう思ってしまう。 何しろ、目の前で伸展したノズルがここまで長い理由は、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)から発せられるプラズマ火炎は1万2千から8千度。 鉄の融点が1535 度と言えば、その温度がいかに非常識か分かるだろう。 それ故に、その発射時の高温で、使用した騎体そのものが溶けて破壊されてしまうのを防止するために、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のフレイムノズルは恐ろしく延長せざるを得ないのだ。 眼下に広がるのは、人々の築き上げてきた町並み。 何の罪もない街だ。 人気はない。 あるのは、戦況モニター上に表示される無数の小型妖魔―――屍鬼(グール)の反応だけ。 ―――私は火葬場の代わりだ。 美奈代は心の中で自分に言い聞かせた。 ―――死んだのに死にきれなかった人を、楽にしてあげるんだ。 自分に罪はない! 私がするのは、人殺しじゃないっ! 美奈代は、自分に強くそう言い聞かせると、トリガーを引いた。 ギュワァァァァァァッッッ!! 背筋の寒くなるような、まるでバケモノの断末魔のような音を立て、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)から激しい光が放たれた。 プラズマ火炎だ。 有効射程500メートル。 一回の使用で、街の景色が一変した。 炎が到達した場所だけが面白いように破壊され、周辺が類焼。一面が火の海と化した。 ―――ごめんなさい。 美奈代は心からそう呟くと、炎上する市街地へと“征龍改”を前進させた。 妖魔の反応が左側に強く現れたのは、県道79号線に沿って上田東高等学校横まで来た時だ。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)で校舎を半分近く消滅させられ、激しく炎上を始めた高校の校舎を一瞥した美奈代は、“征龍改”を止めた。 反応は左側―――信州大学のキャンパスだ。 サーチ結果とキャンパスの地図を照合させると、校舎と反応の集中が合致する。 校舎の中にびっしりと屍鬼(グール)達が潜んでいる証拠だ。 東高校の校舎に潜んでいる数に比べれば大したことはない。 ―――ごめんなさい。 ―――でも、こうしないと!! フェンスを踏みつけ、すでに広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)で原型がわからないほど破壊されたスーパー横のテニスコートに移動した美奈代は、内心でそう詫びながら、再びトリガーを引いた。 トリガーを引く間、美奈代はゆっくりと“征龍改”を一回転させた。 周辺全てを焼き払うためだ。 ギュワァァァァァァッッッ!! それが、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の発射音なのか、それとも地獄の炎に焼き殺される屍鬼(グール)の断末魔なのか、もしかしたら、殺されていく街の叫びなのか、それは美奈代にはわからない。 恐怖より虚しさばかりが先走る音だと美奈代は思った。 トリガーから指を離した時には、すでに信州大学の広大なキャンパスは―――いや、街は原型を止めない一面の焼け野原の中になっていた。 美奈代は溶けてねじ曲がった建物の礎石が、灼熱地獄に転がる墓石にさえ思えた。 「……」 「感傷に浸っている時間はありませんよ?准尉」 「……慣れてるんですね」 「おかげさまで―――次はショッピングセンターです。念のため、その近隣を焼き払ってください。終わり次第、そのまま上田駅経由上田市役所、上田城から一気に塩田方面へ」 「……了解」 「准尉」 「はい?」 「あなたはいいことをしているんです―――ウソでもそう自分に言い聞かせなさい。これは近衛軍中尉としての命令です」 「……ありがとうございます」 『前方に8騎―――“デミ・メース”だ!』 千曲川方面から、民家を踏みつぶして移動するのは、魔族軍第189哨戒隊。 騎数は6。 前方を進む隊長騎からの突然の通信に、二番騎を操るカヤノは、外の景色に見とれるのをやめ、規定通りの操作にとりかかった。 ―――デミ・メース。 メースの紛(まが)い物。 カヤノ達魔族がつけた敵兵器の蔑称だ。 『久々のエモノだ!』 『前の戦では、バムロの隊にしてやられたが、今度はそうはいかねえぞ!?』 舌なめずりさえ聞こえてくる品のない通信。 背筋に悪寒が走ったのをこらえつつ、カヤノは訊ねた。 「隊長、本陣へ連絡は?」 『首を上げてからでいい』 カヤノの問いかけに、隊長であるガバラはそっけなく答えた。 『見習いは見習いらしく、小さくなってろ!余計なことすんな!』 「は、はい」 『初陣なんだ。力みすぎるなよ?』とギーン。 「あ……ありがとうございます」 ガバラの粗暴さをフォローするようなギーンの言葉がありがたい。 『ヤバければ逃げろ。無理してメースを壊してくれるなよ?』 『ギーン、袋だたきにしてやろう。やれるな?』 『腕はなまっていません。ご安心を』 ガバラ隊長は、自分達だけで敵を撃破するつもりだ。 カヤノはそう思った。 その理由は――― 『カヤノ、お前は足手まといだ。下がっていろ―――何もすんじゃねえぞ?』 そういうことだ。 「り、了解……」 戦闘経験がない新入りのカヤノに、隊長という肩書きを持つ相手に逆らうことは許されない。 先の戦争でも、最後のメース補給と共に配属され、結局、見習いのまま戦争を終えたカヤノは何千年経ったとしても、見習いのまま。 例え、メースから降りれば降りたで自分を女として蔑むガバラであっても、その嫌悪感を反抗という形で示すことは許されないのだ。 カヤノは騎の移動速度を落とし、残り5騎のかなり離れた位置についた。 哨戒隊が千曲川を越えた辺りで、カヤノは悲鳴を聞いた。 「な、何ですか!?」 一瞬、強い光が走ったかと思うと、人間達の巨大な建造物が消滅した。 「なっ!?」 『じ、人類めっ!?』 『な、何をした!?』 ガバラ達にも事情が分からないらしい。通信の声色が明らかに狼狽していた。 カヤノはその時、センサーが1万度を超える熱を捉えていたのを見た。 メースの装甲でさえ、そんな熱を受けたら危険だ。 ガバラ達がそれに気づいているのかわからない。 だが―――殴られたくもない。 『ガオ、ニアメとカンガンで仕留めろ、昨晩のカードはそれでチャラだ』 『おうっ!』 ガオ副長騎が後続の2騎と共にカヤノを追い抜いていく。 隊長騎と副長騎が二つの部隊に別れた。 一体、どっちについていけばいいんだろう。 躊躇するカヤノを後目に、ガバラ達の騎が抜刀、突撃していくのを、カヤノは黙って見ているだけだ。 もし、下手に一緒に突撃したら、後で殴られる。 カヤノは経験から、それを知っている。 メースと同調している手足が、動きたくてウズウズしているのを、カヤノは堪えるしかない。 建物が消滅した先。 千曲川方面からだと丘陵の上にあたる場所。 カヤノは知らないが、ショッピングセンターがあった場所に立ったのは、カヤノが初めて見る、人間側のメース―――デミ・メースだった。 巨大なタンクを背負い、恐ろしく長い筒を持っている。 それが、カヤノ達の見た敵の姿だった。 『あいつ、剣をもっていないぜ!』 『ありゃ槍か!?』 『たんなる筒だ!』 ガオ副長騎達の通信が、勝ち誇ったような声になる。 ただ、カヤノの何かが、早鐘のように叫んでいた。 ―――あの敵は危険だ! そう、告げていた。 敵はまだこっちに気づいていない。目的を果たしたのか、そのまま移動を開始した。 奇襲のチャンスだ。 カヤノの目の前で、丘陵の斜面をホバー移動で一気に駆け上ったメースがデミ・メースに躍りかかった。 「っ!」 美奈代はとっさに騎体を後退させた。 神社の社殿を踏みつぶして停止した所で、美奈代は自分が何に襲われたかを知った。 魔族軍のメサイアだ。 「―――ちっ!この装備の時にっ!」 美奈代は“征龍改”が手にしているフレイムノズルを恨めしく睨んだ。 普通、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)なんて、対メサイア戦で使える代物ではない。 ―――放棄するか? 美奈代がそう思った時には遅かった。 スクリーン一杯に3騎のメサイアが自分めがけて襲いかかってきていた。 「くそっ!」 美奈代は騎体を急加速でホバー移動させ、民家を薙ぎ払いながら間合いを取った。 「この辺―――無傷だったんですけどねぇ」 牧野中尉が呆れたような声をあげた。 「准尉が暴れたおかげで壊滅状態―――どうするんです?」 「知るもんですかっ!」 美奈代は怒鳴った。 「大体、なんてこというんですか!?」 「本当のことでしょう?」 美奈代は敵の執拗な攻撃をかわしながら怒鳴った。 「やれっていうからっ!」 「責任のなすりつけはいけませんよ?」 美奈代は鷹匠町の中部電力の施設を楯にすることに成功した。 「しゃらくせぇっ!」 ガオ副長は怒鳴りながら敵が回り込んだビルに襲いかかった。 彼が駆るメース、ツヴァイが手にしているのは巨大な戦斧。 人間のビルを余裕で叩き斬れることは実証済みだ。 ガオ副長は、本気でビルごとデミ・メースを叩き斬るつもりで戦斧を振りかぶった。 今、まさに戦斧が振り下ろされようとするその瞬間、 ビルの背後から敵が飛び出してきた。 デミ・メースの持つ恐ろしく長い筒先から、強い光が放たれたのは、その瞬間だった。 「きゃっ!?」 強い閃光に襲われたカヤノは、思わずメースの腕でメインカメラをガードした。 高い建物の背後に回り込んだデミ・メースに、ガオ副長達が襲いかかった直後のことだった。 警報が鳴り響いたほどの強い熱風がカヤノ達のメースの周囲を突き抜けた。 「な―――何?」 キョロキョロと周りを見回したカヤノは、敵が何かとてつもない兵器を使用したことだけはわかった。 わからなかったのは、ガオ副長達の姿が消えたことだけだった。 「こういう使い方……」 牧野中尉はあきれ顔で言った。 「准尉が初めてです」 「それ褒め言葉ですか?」 “征龍改”は大きく跳躍すると上田駅お城口前ロータリーに着地した。 「半分は褒めてます」 牧野中尉は頷いた。 「広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の炎を槍の代わりにして突き出したなんて、聞いたことがありません」 そう。 美奈代は広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)から吹き出した炎を単なる面の制圧に使わなかった。 フレイムノズルのノズル幅を絞って、プラズマ火炎を集束、炎を槍の穂先状にして敵メサイアに突き出したのだ。 さすがの魔族側メサイアも、1万数千度の高温には耐えられなかった。 直撃を喰らった敵メサイアは、一瞬で上半身を蒸発させた。 美奈代はその瞬間、ノズル幅を最大に拡大し、掃射モードに切り替え、残り2騎にノズルを向けたのだ。 指揮官騎が一瞬で倒され、状況がわからない2騎に、それをかわすことは出来なかった。 「交戦時間ジャスト30秒で3騎撃破ですよ?」 「それより」 美奈代は言った。 「ガドリング砲準備してください」 「―――了解」 駅前ビルを飛び越えて襲いかかって来たのは、ガバラとギーンの騎だ。 広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)ではそのスピードには対処出来ない。 美奈代は牽制のために左腕にマウントした多銃身機動速射野砲を2騎に向けた。 駅前ビルを粉砕しながらガラバ騎を襲った35ミリ砲弾の雨だったが――― 「痒いわっ!」 数発が命中したが、ガバラ騎の装甲で派手な音を立ててはじき返されてしまう。 まるでからかうように機関砲弾を受けつつ、ガバラ達の騎は、上田駅の向こうへと消えた。 「この程度の力で―――っ!」 上田駅に停車したまま放棄された長野新幹線の車両を、駅のホームごと美奈代騎から放たれる機関砲弾が破壊するが、ガバラ達にとってはどうでもいいことにすぎない。 ガバラは腰にマウントしていた魔法弾発射筒を引き出し、肩に構えた。 「なめるなぁっ!」 魔法弾発射筒、つまり、一種のバズーカは上田駅をぶち抜いて美奈代騎に逆襲した。 寸前でかわせたものの、発射された一撃は、駅前ビルの中に飛び込んで爆発。 衝撃で、残っていた駅前ビルの窓ガラス全部が炎と共に吹き飛んだ。 ガバラは魔法弾発射筒を放棄すると、戦斧を構えた。 「ギーンっ!かかるぞっ!」 「おうっ!」 「―――ちぃっ!」 背後からの爆発はフェイクだ。 美奈代はそう判断して、あえて視線を上田駅方面から離さなかった。 案の定、敵は再び上田駅を飛び越えて襲ってきた。 美奈代は広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)を再び構えた。 ―――ああ、2騎がシールドで押して首をとるつもりだな。 カヤノはその光景を少し離れた場所から、見物していた。 他にすることはない。 下手なことをすれば、ガバラ隊長に殺される。 それはイヤだ。 カヤノの目の前で、ガバラ騎とギーン騎が連係プレーで敵を押している。 敵はロータリーの中を器用に逃げ回っている。 間合いを詰められるのを嫌っているのだ。 そして、駅前の交差点から別道に入り込んだデミ・メースが迫るガバラ騎に長い筒先を向けた。 「!!」 それは偶然といえば偶然だ。 カヤノの目は、その瞬間、その筒先に走った光を見逃さなかった。 ―――危険だ。 考えるより早く、カヤノはメースに内蔵されているML(マジックレーザー)を発砲した。 両肩に装備されたMLは、ガバラとギーン、それぞれの騎の真横をかすめ、目標―――広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)のリキッドホースに命中した。 「当たった!」 敵騎が筒を離し、ガバラ騎を突き飛ばした瞬間――― それまで敵のいた場所で大爆発が発生。ガバラ騎を、荒れ狂う炎の嵐が襲った。 デミ・メースはあからさまな狼狽を見せている。 しかも丸腰だ。 今ならやれる! カヤノは、メースの剣を抜いたが――― 『カヤノ!』 ガバラの怒鳴り声が響き、カヤノはメースの操縦を止めた。 『テメエ!余計なマネすんな!』 「で、でも!」 『見てればいいんだよ!』 戦斧斧を装備するガバラが、再び、デミ・メースに襲いかかった。 デミ・メースは、シールドでガバラの斧の受け流し、間合いをとる。 ―――ダメだ! カヤノは、一瞬で、デミ・メースがガバラより圧倒的に上手であることを見抜いていた。 敵の動きは、粗暴さが滲み出ているガバラに対して、まるで流れる水のように滑らかだ。 そこにはほとんど無駄がない。 斧を振り回し、デミ・メース達を近づけまいとするガバラの動きは、品性のカケラもない。むしろ野獣そのものだ。 対する敵は、まるで猛獣を罠に追い込もうとする狩人の如く、連携がとれた無駄の少ない動きをする。 カヤノの目には、デミ・メースのパイロットは、かなりの使い手に見えた。 「人類は……ここまで」 もう、カヤノは感心するしかなかった。 自分達が門(ゲート)に封印されてから数千年の年月が流れたことは知っている。 その間に、人間は、ここまでのモノを作り上げ、そして使いこなしているというのか……。 カヤノが不思議な感慨を胸に、目の前の光景に見入る中、事態が動いた。 「ちいっ!」 振り回される斧をシールドでそらした美奈代が、シールドに装備していた斬艦刀を抜いた。 突き技を繰り出した。 敵は、その一撃を騎体をひねってかわす。 それが、美奈代のねらい目だった。 「そこっ!」 攻撃をかわすことで体勢を崩した敵に、再び斬艦刀の一撃が襲った。 「ぬぉっ!」 その一撃をシールドで受け止めたガバラだったが――― ズンッ!! 敵の一撃は、シールドを突き抜けた。 「何だと!?」 シールドと左腕を突き抜けた白く輝く切っ先が自分めがけて襲いかかってくる。 「ぐっ!―――このおっ!」 騎体胸部に切っ先が突き刺さったのを感じつつ、ガラバは自分のメースに剣を突き立てた相手を殺そうと藻掻いた。 腕を動かし、メースを後退させることで、何とか胸に突き刺さった剣を抜こうとする。 そして、 「俺一人が!俺一人が死ぬことなんて―――あるもんかぁぁぁぁっっっ!」 剣が抜けないと知るや、剣めがけて何度も斧を振り下ろした。 斧が斬艦刀にぶつかる度、斧が砕けていく。 それでも、ガラバは斧を振り下ろすのを止めようとはしない。 「俺は死なん!俺は死なんぞぉぉぉっっ!」 『ガラバ隊長!』 「カヤノ!お前は下がれっ!本部へ、本部へ―――!」 「ガラバ隊長!」 カヤノの目の前で、ガラバの騎から巨大な剣が抜かれ、再び、深く、そして強く突き刺された。 その衝撃か、ガラバの騎の足は宙に浮き、その手から斧の柄が落ちた。 正面から撃ち込まれ、背を貫く剣は、間違いなくメースのコクピットを貫通していた。 「……なっ……」 ガンッ! その音に気づいたカヤノは、さらに酷い光景を目にすることになる。 「ギーンさんっ!?」 隊長騎が倒されたことで我を忘れたのか、反応が遅れたギーンの騎が、シールドと剣で上からの攻撃に備える姿勢をとっている。 その前方では、ガバラを仕留めたデミ・メースが、ギーンを前に、何もしていない。 いや。 正面の騎は、巨大な剣を振り下ろした姿勢になっている。 「ギーン……さん?」 呆然とするカヤノの目の前で、ギーンの騎が真っ二つになって崩れ落ちた。 「っ!!」 ギーンを斬ったデミ・メースが立ち上がり、その視線を、カヤノに向けた。 「ほ、本部!本部!」 カヤノは悲鳴を上げながら、本陣を呼び出す。 「こちら第189哨戒隊!敵のデミ・メースに襲われ、ガラバ、ギーン両名が戦死!」 『こちら本陣。すでに増援が動いている!かまわん!貴官は後退せよ!』 「了解!」 後退せよ――― その命令がなければ、カヤノはそのまま、だまって敵に殺されていたかもしれない。 今のカヤノに出来ること。 それは、迫り来るデミ・メースに、 「このおっ!」 攪乱爆弾(ジャミング・ボム)と煙幕弾(スモーク・グレネード)をありったけ叩き付けるだけ。 カヤノは一気に本陣に向けてメースを後退させた。 あれが―――敵なんだ! カヤノは、背後から飛び来るMLをかわしつつ、自覚した。 あれだけ、威張っていた。 あれだけ、過去の武勲を自慢していた! それでも、こうもあっさりと死ぬ。 死んでしまう! これが―――戦場なんだ! 本陣が見えた所で、カヤノはメースを着地させた。 相当な距離をメースが滑ったらしい。 カヤノのメースの背後には、メースがほじくり返した跡が長々と残っている。 一方、メース達が並ぶ陣では、次々とメース達が動き出している。 味方の姿に安堵したカヤノは、その時初めて、自分が震えていることに気づいた。 「敵大規模部隊が接近中。どうします?」 「逃げます」 美奈代はそう言うと、敵が迫り来る千曲川方面から背を向け、ブースターを全開にした。 「あれだけ敵がいるってわかっただけで、任務は終了したものと判断します」 「―――賢明です」 牧野中尉は満足そうに頷くと、上空をみつめた。 ―――まさか、准尉も。 その高度1万メートルに何が潜んでいるか知っているのは、この場では彼女だけだ。 ―――実は、自分がオトリだったなんて知ったら、どうするかしら? 牧野中尉は、こっそりとメサイアの“眼”を上空に向けた。 情報はMCL(メサイア・コントローラー・ルーム)内のみに限定。 ―――いた。 コンシールされたメサイア特有の空間の微弱なゆがみ。 普通なら熟練のMC(メサイアコントローラー)でさえ見逃してしまうそんな現象を、牧野中尉は見逃さなかった。 開発局のテスト用メサイア―――紅龍B。 近衛軍の試作可変メサイアのベースモデルであり、あのFly rulerとは姉妹騎にあたる。 その騎に情報収集ポッドを満載し、美奈代達、つまり、自分達を見張っているのだ。 理由は様々だ。 自分達をオトリにして、魔族軍の展開に要する時間を測定したり、戦闘に必要な情報を確保したり、オトリが脱走しないように監視したり―――。 脱走。 そんな言葉が脳裏を横切った牧野中尉は、小さく笑った。 「大丈夫です」 かつて、女として死んでも忘れられないほどの屈辱を与えてくれたその言葉。 「私……もう逃げませんから」 牧野中尉は空に向かって小さく―――誓った。 「そう約束したじゃないですか……後藤中佐」 美奈代達の背後で、上田市が遠ざかっていった。
https://w.atwiki.jp/battle-operation2/pages/113.html
編集者各位:ページ編集時は「編集中!」の文字を貼るのを忘れずに!! 特徴 全景マップ風景 戦術・立ち回り 機体別の戦術汎用機 強襲機 支援機 歩兵 アップデート履歴 コメント欄 特徴 山に囲まれた細道と、中央に東西に分かつ溝がある広場で構成された狭めのマップ中央の溝は側面からは狙いにくいが、溝の両端からは狙いやすく、また溝の中は回避する余地が無いくらい狭いため、溝の中を移動するにはそれなりのリスクが伴う。 中継点C・Dがある広場が主戦場になりやすい。そこではビルなどの障害物が多く、しゃがむことでMSを隠すことが出来るほか、ビル周辺では射線が限定されがち。中央付近は遮蔽物が多いものの端に行けば行くほど遮蔽物がなくなるなど、交戦場所によって取るべき戦術が違う。このため、射撃、近接どちらもある程度こなせると活躍の場が広くなる。 両軍の本拠点及び中継地点C/D近くにワッパがある.C近くのワッパは建物の上にある. 南端に墜落したザンジバルの残骸があり、登ることが可能。逆に北の市街地端にはMSより大きな小山があり、その背後はスロープ状になっている。ザンジバル・スロープ共に広場全体を俯瞰しやすいため、狙撃ポイントに向いている。 中継点A/Bから伸びるスロープの先には敵側中継点C/Dに近い位置に出る高台がある。開幕時には敵に狙われやすいが、狙撃ポイントとして人気。2018/10/24でB側からの高台は傾斜がちょっとゆるくなって高台にたどり着きやすくなった。具体的には正面から登るのではなく、左から高速移動を使って登る。 マップ上ではわかりにくいが、マップ最南側に敵拠点の近くまで行けるトンネルが存在する。それぞれチームAの本拠点と中継点Bの近くに通じている。マップ中央の広場からでも南下するとトンネルの露出部があるので入ることが出来る 全景マップ 風景 入り組んだ岩山と、機動巡洋艦ザンジバルの墜落で出来た溝、廃墟と化した小都市から成る交戦地帯。中央の都市部が主戦場となる。 隠れんぼに最適。 戦術・立ち回り チームA/Bによって地形が違うためアプローチも少し変わるが、自陣側の中継点C/Dを確保し、敵陣側の中継点C/Dを奪取することを最大目標とする。中継C/D両方を確保できれば、相手を遮蔽物の少ない細い通路に追い込める。通路を突破できればすぐに敵拠点のため、拠点爆破も視野に入れられるなど、非常に有利。敵に寄られているからと言ってC/Dから出撃しないのは勝ち筋を捨てているに等しい。 特に中継点Dは中央で最も有利なポジションである丘のすぐ横にあるので、ここを取れれば有利なりやすい。チームAは丘および中継点Dの占拠、チームBはその防衛に重点を置きたい。 自軍側のC/D中継を取られそうな場合、戦況によっては敵側C/D中継を奪取を目指すなど、多少無理をしてでもC/Dの確保、防衛をした方が良い。 中継点C/D周囲のオブジェクトの間に入れば、敵MSの攻撃が届くことは稀。その場合は歩兵で白兵戦を仕掛けなければ、中継点の奪取・死守は難しい。 コスト500以上になると足回りが強くなるため、初手で敵側の中継点C/Dに強襲をかけることが可能になり、ここであたふたすると一気に本拠点まで押し込まれる可能性もある。占拠担当以外は積極的に護衛に回りたい。特にチームA側は丘及び中継点Dを一気に崩さないとかなり不利。 中継地点CかDのどちらかを制圧できているならば、デスしたときにそこからリスポンしてワッパで隣の中継地点を取りに行くといったことも有効。 敵側C/D周辺で撃墜されそうになったら緊急脱出で歩兵になり、中継C/D確保に挑戦するのは他のマップに比べてもかなり戦略的価値がある。遮蔽物が多いので歩兵は隠れやすく、悪くても相手の足並みを乱し、良ければ重要な中継を抑えることができる。 ただ、確保してすぐにMSを呼び出すと敵地で孤立する事になる。敵がいなくなるか、味方が近くまで攻め上がってくるか、味方が近くにリスポーンするのに合わせて呼び出したい。 また、敵もMSを捨てて中継の防御にくる場合がある。慣れている相手だと歩兵が隠れられる位置(建物の隙間)にバズーカを打ち込んでくる。敵MSが近くで止まったらすぐ移動した方が良い。 中継点A/Bは優先度低め。特に初動に中継C/Dを確保する間にこちらに枚数を割いてしまうと、敵が全機突撃、中継確保中の味方機をフォロー出来ない等、先制攻撃を受けるリスクがある。そのため特に戦略的に理由がなければ初動に確保する意味が薄い。自陣が積極攻勢に出ない場合等、1wave後など余裕のある時に確保しておければ理想的。むしろ敵拠点を攻める場合の足がかりとしてが主か。敵に中盤で確保された場合は拠点爆破なども警戒しておきたい。中継点C/Dを奪われた時は基本的に広場からの封鎖戦術になる為、敵側に使われれば面倒だがこちらが使う場合には射線が通り過ぎているため使いにくいなど、不便。 中継点C/D確保後は、溝を超えて、中継点C/D付近の障害物を利用しつつ中継点C/Dにアプローチすることになる。チームBに対してチームAは地形的に射撃戦では不利になりがちなため、積極的な攻勢が推奨される。一方でチームBは射撃戦では地形的に比較的有利なため、ある程度射撃で敵を削ってからの攻勢が有効。 特にチームBにとってD中継横の丘が最も有利な防衛ラインな為、チームAはここからチームBを引きずり下ろさないと延々と不利な射撃戦を仕掛けられる事になる。可能なら初手で丘と中継点Dに雪崩込み、有利ポジションを崩してしまいたい。 中継点C/Dに向かう途上、中継点A/B側から伏兵が現れることもあるため、対策が必要。対策としては伏兵に対し1機程度が抑えに回る、中継点A/B向かって右側にある高台から回り込んで伏兵を広場に追い出す、広場の溝を利用して中継点C/Dに向かって正面と左側面から攻め入るといったプランが有効。 敵が中継点Dの小山付近や中継点C付近のザンジバルの羽根の陰に固まっている場合、中継点A/Bからスロープ先にある狙撃点から、敵集団側面を狙いやすい。ただしこの位置は味方からも孤立しやすいため、素早い離脱など高い状況判断能力が問われる。 コストが上がれば上がるほど、射撃が反対側まで届きやすくなり、機体サイズも大きいものが増えて当てやすくなる。そのため近接戦闘力も必要ではあるが、射撃戦闘力が高い機体が重要視されるようになってくる。特に中継点D側は側の小山を障害物として使いやすいだけでなく、後方のスロープで視界を確保しやすく、また中継点C側の標高が低いことから狙いやすいなど、射撃型に好条件になっている。 中継点C側は中央通路に支援機が利用しやすい高台があるものの、それより南側は平地で遮蔽物がザンジバルの翼しかない。基本的に中継点D側よりC側のほうが標高が低く設定されているため、射撃戦になると標高差で不利になりがち。 中継C/Dの重要さに比べ、中継A/Bまで押し込まれると形勢が一方的になりがち。中継地点がやや下り坂の底にあり、狭く、遮蔽物が小さく、通路や崖からの撃ち下ろしに遭いやすく、爆撃が来ると逃げ辛いなど、地形的に不利になりがち。特に出入り口付近を抑えられると攻勢に出るのが極端に難しくなる。一方で敵の侵入経路を特定しやすく、また接近するまでは回避余地の少ない細道を通らないといけないため、敵味方の構成次第では防御しやすい位置でもある。特に時間稼ぎしやすく、自陣が有利な状態で、かつ残り時間が少ない状態なら最後まで優位に立ち回りやすい。 本拠点も侵入経路が限定されているため、比較的に守りやすい地形。攻勢には出にくいため、自陣が有利な時以外はデメリットになりがち。 基本的に広場の中継点C/Dを抑えた上で点数有利なら、後は中継点A/Bから広場につながる道の出口を塞ぎ、敵に攻勢に出るチャンスを与えないように立ち回れば、大体勝てる。自陣有利なら、多少可能でも中継点A/Bや本拠点に攻め込むリスクを負うべきではない。逆に点数不利で中継点A/Bに籠もられた場合、攻め入るのには少し工夫がいる。2箇所ある進入路から同時に攻め入るか、ベーシックルールなら支援砲撃を加えると同時に攻め入ると攻略しやすい。 中継点A/Bをクリアしても、まだ点数不利なら今度は敵本拠点攻略が来る。こちらも基本的な攻め方は中継点A/B攻略と同じ。時間的な余裕があるなた、付近の中継点A/Bを確保して補給線を用意したい。 機体別の戦術 汎用機 コストが低い間は、基本的に狭く乱戦や接近戦になりやすいため、射撃型より格闘型のほうが活躍しやすい。 コストが高くなると一転して射撃力が必要になってくる。乱戦も起こるが、射線が通りやすい都合、カットや追撃を射撃で出しやすくなっている。特にチームB側は射撃が有利な地形が多く、少し射撃性能高めに編成するのも有効。逆にチームAは射撃戦でジリ貧になりやすいため、射撃性能高めに編成しても相対的に不利になる。 いずれにせよ前線構築は必要であり、自陣中継点C/Dに敵を近づけないよう、ストッピングパワーの高い壁汎用機の編成は絶対条件だと言える。 基本的に、中継点D付近の小山または中継点C付近のザンジバルの羽根より後方は障害物が少なく、防衛には不向きであるため、中継点C/Dを絶対防衛ラインに設定した。これより後方に敵を入れる時点で、自陣はかなりの形勢不利だと理解する必要がある。 ちなみに可変機の飛行形態などは運用が難しい。敵味方が一方向に集まりやすく、また攻撃後に退避するポイントに乏しいため、よほど敵を押し込んでいる時でも無い限り、まともに活躍する前に撃墜されがち。活躍させようと思うとかなりの工夫を必要とする。 マシンガン系など連射系は比較的に使いやすい一方、対象までが遠いことが多いために射程が求められる。最低でも射程300程度なければ、無用の長物になりがち。 強襲機 低コストは兎も角、中高コスト戦になると全体的に射撃火力が高くなり、格闘戦での活躍が難しくなる。また、敵支援機が高所に陣取る状況が多いので、射程が長く弾速が早い武装選びが必要になってくる。格闘型強襲機の活躍が難しいMAPである事は頭に入れておこう。 ステルス機の運用は、遮蔽物が多いマップではあるが、MSの頭は出てしまうなど見通し自体は悪くないため難しい。特に敵味方が一方向に集まりやすく、またアプローチするルートも極端に限定されているなど、隠密行動が難しい。崖を越えて裏取りするなど手段もあるが、その分戦闘に参加するのが遅くなる。また、スナイプポイントが戦場に近く支援機が孤立し難い環境で、逃げ道も見られやすいなど、このマップでステルス機を運用するには相応の技術が必要。 一応、チームAに対しては中継点Cの背後にトンネルがあるため、ステルスによる裏とりが狙いやすい。そういった意味でチームBはステルスを採用しやすいが、チームAで採用する利点は少ない。 足の速さや序盤での貢献度の低さから、初手では機体を建物の影に隠しつつ、中継点C/Dを占拠する 中継点A/Bは初手の場合、無視する方が良い。初動、前線枚数が足りない状態で速攻されると逆転が難しくなる どのMAPでも言えることだが、このMAPでは特に支援機が有利を取れるポジションが固定されており、そこから敵支援機をどかせる事ができれば有利になるが、そうでない場合はいい様にやられる事が多い。敵支援機のポジションを迅速に割り出し、集団行動を意識しつつ敵支援機に素早く対処することを心掛けよう。 向かって右側の崖上に敵支援機がいる場合、味方汎用機と呼吸を合わせて吶喊し、崖上から敵支援機を追い落としたい。 C/D付近、あるいはC側の通路高台に支援機が陣取っている場合、無理に突出しても袋叩きにあう。味方が交戦を開始し、主戦場が南北のどちらかに偏ったときを見計らって、別方向から速攻をかけたい。この際、中央の溝を上手く使えば敵汎用からの攻撃をかわしやすい。とはいえ、味方が侵攻するまで支援を放置しては味方に不利を押し付ける事になる。ヘイトを管理しつつ射程の長い武装で敵支援機を牽制し、自由に撃たせないようしておきたい。 C側通路高台に支援機がいるなら、向かって右側の崖を越えて裏取りするのもあり。乱戦でない限り汎用に見られ易いので、移動速度かステルスがあると楽になる。 マップ中央下部の塹壕や障害物を使い攻撃を交わしながら敵へ奇襲をかけると効果的 射撃戦ができる機体ならビル群を盾に射撃戦を展開する事もできるが、彼我の距離が近い上に側面ががら空きになるなど、安全とは言い難い。小まめな位置転換などヘイト管理が重要になる。 マップのあらゆる山や斜面は登れる場所が多いので、敵のヘイトを分散させるために登っても良い 南の通路も使えるが、ステルス以外では気づかれやすく、旨味は少ない。追い込まれたときの敵拠点爆破には有効か。ただし後方からリスポンしない限り見られやすく、当然敵拠点に到着するまでかなりの時間がかかる。押し込まれていると通路に入るのもバレやすいなど、時間や戦況に左右され、簡単ではない。 支援機 障害物の多いステージであるため、味方についていくと接近戦や乱戦になりやすい。そういうのを避けるためにも、中遠距離を得意とする機体はスナイプポイントについて支援するのが望ましい。スナイプポイントはC/D中継付近の高台、北側崖の上、南側ザンジバルの上、A/B中継から左にそれた崖の上。 近距離型支援をする場合は、汎用の随伴を伴うこと。前に出た汎用のやや後ろで援護する形になれれば敵強襲機も手を出しづらくなる。 自軍側のA・B拠点から左脇に逸れると高台があるので、スナイパー系は開幕はそこから前線へ向かってくる敵を迎撃すると良い。ただし敵中継点に近く、味方から遠いために最初に狙われやすいリスクも有り。射線や観測も味方側C/Dに届きづらいので押し込まれる状況で居座るのは戦線放棄に等しい。遮蔽物がなく、後ろに下がって降りてしまうとまた上るまでにジャンプしないといけないなど、スナイプポイントとしては使いにくい面もある。護衛をつけるにしても、護衛機も遮蔽物のない場所か、援護射撃できない段差の裏で待機しなければならず、基本的に不利を強いられる。相手が高台にいるこちらに簡単に対処してくる様なら、早々に見切りをつけてC/D側で戦っている味方と合流したい。 西側のC地点近くに小さめの高台があり、斜面になっているので身を隠しながら攻撃がしやすい。ただし敵にもある程度近いため、動きを止めているとアンチスナイプされやすい場所でもある。撃っては斜面に身を隠すなど、射線切りは意識しよう。2018/10/24の調整で断崖になったので、真下側はジャンプするか回り込むかが選択になる。 実は横の建物の手前くらいの少し出っ張っている場所から壁際にすり寄って歩くとそのまま高台に行ける。歩きはちょっと慣れが要るがブースト移動なら簡単。 東側拠点スタートの場合、中継点Dの北側に小山があり、その稜線を活かした狙撃が可能。またそのさらに北側にはなめらかな斜面が有り、距離を稼ぎやすいことから長距離狙撃に適している。 中継地点C側にはザンジバルの翼が突き刺さっており、これを盾に射撃戦ができる。その南端にあるザンジバルからは中央広場全体を見渡せるため、スナイプポイントとして優秀。ただし西側中継点Cに近く、東側だった場合は敵に狙われやすく、また西側だった場合は東側のスロープの近くなので格闘機が近寄りやすい位置でもある。 基本的に敵味方が一方方向に集中しやすく、弾幕系の武装が使いやすい。前線を構築しやすい地形でもあるため、支援機は距離を活かした行動が有効。ただし、中継点C側は背後にトンネルがあり、そこから裏取りされるリスクが有る。注意が必要。 歩兵 中継点C/D間には大きな溝があるため、直接歩兵で中継点間を移動するのは難しい。狙う場合はワッパを活用したい。なお、中継地点CD間を歩兵で移動した場合、移動にかかる時間は約15秒、ワッパで移動した場合は約13秒となる。 中継点付近が主戦場になることも多く、踏み潰される確率も高い。できれば高度を高くしたい。 中継点付近は物陰多く、一度隠れればMSで対処するのは難しい。その場合はMSから降りて対処し無くてはならないリスクがある。中継C/Dを守るためにMSを降りるなら、中継直上にMSを駐機させず、少し離れたビル影などに駐機した方が良い。歩兵がやられてしまった場合、中継直上ではMSを奪われる率が高く、そうなれば最悪である。少し離れた場所なら、主戦場を歩兵で移動するリスクもあり、MSを奪われる確率が低くなる。ワンチャン物陰に置いたMSから歩兵で再出撃して中継地点を取り返すこともできる。 中継地点をめぐり歩兵同士での戦闘も他のMAPに比べれば起きやすい。対歩兵戦に慣れていないと一方的にやられてしまうこともある。歩兵のバズーカの爆風判定や空中でアサルトライフルを当てる方法など、事前に把握しておきたい。 拠点爆破を狙う場合、中継点C/Dからだと敵の眼前を飛んで向かわなくてはならないため、リスクが高い。自身の本拠点から隠し通路を利用したほうが安全。ただしその場合は通常より到達に時間が掛かる点に注意。 アップデート履歴 2018/04/20:βテストにて新規追加 2018/07/19:中継地点の追加、地形の引っかかりを調整 2018/07/26:サービス開始より実装. 2018/10/24:マップの調整マップ形状を改修し、移動中の引っ掛かりを改善. マップ中の木や電柱に射撃兵装の弾がヒットしなくなるよう変更. 全景マップ時に移動可能領域が縁取られ、全体的に明るく見やすくなるよう調整. 2019/03/28:霧の濃度調整 2019/04/25:修正一部の岩に当たり判定がなかったため修正 中継地点D北にある墜落した戦艦付近で、パイロットが地面下に入り込めたため修正 コメント欄 過去ログ 1 名前 ここの開幕中央中継取らずに中継取る味方の援護もしない、前に詰めるわけでもなく中央でうろうろしてるやつは何がしたいん?特に強襲機 - 名無しさん (2023-02-07 15 55 12) もしかしたら、敵支援を探そうとして見つからずにうろうろしてるとか?探すにしてもまず自軍CDを抑えてから敵のいそうな場所に目線を向けるので間に合いそうには見えるけど。そして強襲以外ならさすがに意図が分からない。 - 名無しさん (2023-02-07 21 03 59) A側で静止射撃半数以上にしたら拠点籠りで良いな。中継維持も援護も出来やしない事がはっきりした。中央はD攻略無理で、B側拠点に撤退されたら踏み込めねぇ。奥行くほど自分達の拠爆されやすいおまけ付き。無謀だ。 - 名無しさん (2023-01-31 00 54 42) 350以下で狙撃系が凸砂してんのに、400で編成の半数を狙撃系にしたら凸出来なくなって終始後方芋しか出来なくない?400帯って単作業で勝ちに行ける程、変態戦車とかシステム系とかってカス性能だったけ? - 名無しさん (2023-01-22 02 38 18) Bチームになって拠点側まで押し込まれようものならどう足掻いても逆転の手段がねぇ…A側にある高台Bにもくれよ - 名無しさん (2023-01-20 01 32 13) DC中継無くした方がバランス取れそうな気がする - 名無しさん (2023-01-14 15 24 25) なくすならABかなぁ。そのうえで拠点からCDまでの距離を半分にしてCD周辺の地形格差をなくす。これでだいぶマシになる。あとは各建物の高さを20メートル超えるように、もあるとなおいい - 名無しさん (2023-01-14 18 11 55) 演習で静止射撃系使ってCからDへのアプローチ考えてみろや。って毎回思うんだ。それで辛いな。って感じたら、動ける奴がCに固まってたらムダで、単機で布陣が整ったDに凸するのはムリってなるんだわ。単機の射撃回しで敵を撃墜出来てくるようなコスト600以上でもなければ、敵味方のポジション意識しないとポテンシャル発揮出来ずに撃墜されていくんだわ。 - 名無しさん (2023-01-11 22 07 23) 非対称だからって優劣付く時点で論外なんだよ、最初期からあるくせにロクに改修もないからマジで楽しくない - 名無しさん (2023-01-11 14 21 45) 400以下のA側D凸は勝算があるとかじゃなくて、惨敗にならない為の行動。長射程ゲロビーがいないし、視認できる範囲に収めればステルスも機能しないからな。開幕行けない理由を知りたい。拠点に籠るのか?全員支援なのか? - 名無しさん (2023-01-04 17 10 53) 差別コメントを伐採. 機体自由でも良いから、敵汎用も止められない汎用は撃破される前に中継「D」だけは制圧してくれ。最低限の仕事はしてくれ。 - 名無しさん (2022-12-21 00 19 01) 低コスあるある。A側バズ汎初動Cに群がってB側支援のD丘撃ち下ろしにあたふた。A側単機の格闘強襲に丸投げ「支援を頼む」!もうレーティングマッチでは見納めさしてくれよ。 - 名無しさん (2022-12-13 21 54 17) 未だに初動で芋撃ちしてる奴らなんなの? A側は山凸以外の選択肢しかないのに それ勝てば中央中継2つ押さえて勝ち確やん - 名無しさん (2022-11-03 15 46 37) 山凸野良ではほぼ不可能だし、仮に出来たとしても初動負けたら中央2つ中継塗られて地獄の始まり。なぜこのマップが人気なのか理解出来ない。安定しないのだから野良レートでやるべきではないのが結論 - 名無しさん (2022-11-23 19 00 47) 失敗した時のイメージ抱いて勝ち目のないC集合して戦場の有利不利のそのまま負けてるからやる意味ないよね。なんで野良だとみんなDに集合しないんだろね - 名無しさん (2022-11-27 16 06 47) A側でバズ持つんなら開幕坂上りしてD丘凸。D丘からの撃ち下ろし阻止しないと、終始バズの利点潰されるぞ。 - 名無しさん (2022-10-09 22 56 39) 低コだとDC軽視する奴が多い方が負けるな。天国で染められるのを見てるだけで染められた瞬間拠点リス...必死こいて出たった俺が馬鹿みたいじゃん - 名無しさん (2022-09-18 16 01 51) どのコストでもDC軽視だと押し込まれて高確率で負けますよ。開幕D少し手前で降りて中継取ってるとD凸部隊に機体ぶん殴られて半壊の状態で復帰せざるを得なかったりすると一人ずつFFしてペナ抜けしよっかなって思っちゃう。 - 名無しさん (2022-09-18 20 10 53) バラバラじゃないD凸されさら、開幕B側で中継制圧行動は単純に枚数不利だから防ぎようがないよ。だからB側は初手迎撃して枚数減らしてから、敵歩兵を警戒してD確保。というか開幕中継D制圧敬遠するのは、遠距離砲撃やハングレのファンタジスタで歩兵焼きされやすいのもある。 - 名無しさん (2022-09-20 21 15 28) そりゃあAから直で突っ込んでこられたら迷わず中継より迎撃選択するけど、まばらにC経由だったり向こうもC取ったりしてる時にこっちだけなぜか丘集合して側面手薄で横殴りされまくったりされるのは嫌な気持ちになりますよ。 - 名無しさん (2022-09-20 21 34 03) 全丘は確かに嫌気さしますね。展開して牽制しないの?カバーしてくれないの?ってなりますね。ペナ抜けしたいのは大分酷い立ち回りされなきゃ書き入れしませんものね。蛇足でした。 - 緑の枝 (2022-09-21 00 31 54) 理解を示してくれて有難い。 - 名無しさん (2022-09-21 00 44 49) B側の小山有利過ぎるやろ!延々撃ち下ろされて前に出れんわ - 名無しさん (2022-08-31 20 54 12) だからA側は開幕D凸推奨されとるのよ。射撃届かないCからDの小山のB側支援に、必死にバズーカ撃ち込もうとするモジモジA側汎用に毎度失笑してるよ。 - 名無しさん (2022-09-02 22 10 34) 野良でやるとあんまりにも消極的な展開が多すぎてどのコストでも遊ばないが正解になりつつある。かといって習熟度の高いプレイヤー同士だと今度は突撃が早すぎてファーストウェーブを征して広場中継押さえた時点で終わるって - 名無しさん (2022-08-28 18 00 14) S帯レートでもCD取ってポイント有利なのに全滅すると中継取り返されそうになってもだれもフォローしないの悪夢でしょ。逆転負け - 名無しさん (2022-08-23 19 58 19) 自分以外拠点沸きして一人で中継粘っても拠点で足止めされて誰も来ない、これがS帯プレイかよ - 名無しさん (2022-08-23 20 01 15) 開幕Bとると枚数不利になるからとるなってファンメ来たんだがそうなん?ほんとうなら開幕保険でとるの記載消してほしいんだが - 名無しさん (2022-08-06 04 13 45) 正直開幕AB取ってる人滅多に見ないっす。 - 名無しさん (2022-08-06 04 35 48) Aフラット以下までと外人に取る奴が多い気がする - 名無しさん (2022-08-07 16 17 41) AB取っておいてもCD取られた時に奪還しやすくなるケースとかほぼないからいらない。支援や支援砲撃大好きが後方沸きするから中盤以降もマイナスまである - 名無しさん (2022-08-06 07 50 04) なるほど。ありがと - 名無しさん (2022-08-06 17 21 09) 別の誰かがDを取って二人抜け状態、、、迷惑だね~ - 名無しさん (2022-08-21 12 54 57) A側はAのクソポジ、Cの後ろのちょい高台、脇通路ん所の残骸上という3箇所から狙撃しないなら、後方射撃1残してD丘凸が鉄板。 B側はD取られないのが重点。後はA側のそれらを警戒して対抗するだけ。討ちに出るにしてもDだけは絶対制圧されるな。 - 名無しさん (2022-06-29 22 08 46) A側でモジモジされると絶対に勝てないから、障害物を全部消して更地にしてくれ - 名無しさん (2022-06-23 14 25 27) 最新の20件を表示しています.全てのコメントを見る ▲トップに戻ります▲
https://w.atwiki.jp/takeei/pages/14.html
1990 [1990-Ar-39] 亜高山帯の自然地理とその歴史的背景.植生史研究 6 15-23 [1990-A-40] 市川健夫・小泉武栄.リマン海流文化.地理 35 68-70 [1990-A] 日本における高山風衝地植物群落の生態地理学的研究.(東京大学理学部)、1990. [1990-B-11] 鈴木由告著,小泉武栄・秋山好則・福田達男・清水長正・池田明彦編 「鈴木由告植物生態学論文選集」鈴木由告氏の論文集を出版する会 [1990-B-12] 「角川日本地名大辞典20長野県」角川書店(分担執筆) [1990-O-16] Development of alpine plant communities in the Japanese Alps, in relation to slope development since the Last Glacial Age. Abstracts of the V International Congress of Ecology. p.86. [1990-O-17] 多摩丘陵におけるカンアオイ類の分布と地形.日本生態学会関東地区会講演要旨 26(伯田絵里と共同発表) [1990-CA-36] 地質がきめる高山植生の分布.日本の生物4(5) 58-63 [1990-CA-37] 白馬岳の高山植生.日本の生物4(8) 66-71 [1990-CA-38] 中央アルプスの高山植生.日本の生物4(10) 54-59 [1990-BR-10] 堀田満ほか編:世界有用植物事典.地理 35(1) 150 [1990-BR-11] 森下郁子:淙々たる大河-ニジェール,ユーコン,ボルガー.地理 35(2) 121 [1990-BR-12] 三浦昇:江戸湾物語.地理 35(2) 122 [1990-BR-13] ガスカール:探検博物学者フンボルト.地理 35(3) 119 [1990-BR-14] 高橋裕ほか:国づくりのあゆみ.地理 35(4) 124 [1990-BR-15] 荒牧重雄ほか編:空からみる日本の火山.地理 35(5) 16 [1990-BR-16] 小川豊:災害と植物地名.地理 35(6) 120 [1990-BR-17] 大島襄二ほか編:文化地理学.地理 35(6) 122 [1990-BR-18] 林一六:植生地理学.地理 35(7) 120 [1990-BR-19] 千葉徳爾:千葉徳爾著作選集.地理 35(7) 121 [1990-BR-20] NHK取材班編:秘境 大興安嶺をゆく.地理 35(8) 122 [1990-BR-21] ジョーダン:ヨーロッパ文化.地理 35(9) 121 [1990-BR-22] 黒坂三和子編:日本の人と環境とのつながり.地理 35(10) 134 [1990-M-10] 青蔵高原山峰図・中国山峰一覧図.地図情報 10(1) 33 [1990-M-11] 鈴木由告先生とカタクリ研究.日本の生物 4(3) 48-52 [1990-M-12] 由告先生の2,3の思い出.カタクリ研究 7 4-7 [1990-M-13] 田無にはなぜ縄文遺跡がないか.貫井だより 5 1-2 [1990-M-14] 田無における遺跡の立地と石神井川の変遷.たなし市史研究「たなしの歴史」 2 62-72 [1990-M-15] アラスカの永久凍土と人間生活との関わり.地学雑誌 102(1) 口絵と解説 [1990-M-16] 世界の氷河地形.教室の窓-中学社会 新しい社会 342 6-7 1991 [1991-A-41] 有井仁美・小泉武栄.千葉県清澄山におけるヒメコマツの分布とその存続条件.学芸地理45 39-50 [1991-B-13] 市川健夫編「日本の風土と文化」古今書院 [1991-O-18] 小泉武栄・関 秀明.白馬岳高山帯における4つの岩屑生産期と植生遷移.日本地理学会予稿集 39 26-27 [1991-CA-42] 南アルプスの高山植生.日本の生物5(1) 58-63 [1991-BR-23] 浅海重夫編:土壌地理学-その基本概念と応用-.地理学評論64A 415-417 [1991-BR-24] 小林国夫教授論文集刊行会:小林国夫教授論文選集.第四紀研究30 49-50 [1991-BR-25] 内田芳明ほか:都市の意味するもの.地理 36(1) 103 [1991-BR-26] 柳原修一:北アルプス山小屋物語.地理 36(2) 98 [1991-BR-27] 中西弘樹:海流の贈りもの.地理 36(2) 99 [1991-BR-28] 池田博:英国の人と自然.地理 36(3) 97 [1991-BR-29] 野村倉一:根尾谷断層.地理 36(3) 98 [1991-BR-30] 岡島成行:アメリカの環境保護運動.地理 36(4) 110 [1991-BR-31] 平朝彦:日本列島の誕生.地理 36(5) 108 [1991-BR-32] ブリッジズ:世界の土壌.地理 36(6) 113 [1991-BR-33] 金子史朗:レバノン杉のたどった道.地理 36(7) 108 [1991-BR-34] 千葉徳爾:増補改定 はげ山の研究.地理 36(8) 115 [1991-BR-35] 鈴木秀夫:気候の変化が言葉を変えた.地理 36(9) 110 [1991-M-17] 田無における都市水害.たなし市史研究「たなしの歴史」3 51-60 1992 [1992-Ar-43] 日本における周氷河性平滑斜面の研究.地理学評論65A 132-142 [1992-Ar-44] 小泉武栄・関 秀明.風化被膜から推定した木曽駒ヶ岳の化石周氷河斜面の形成期.季刊地理学44 245-251 [1992-Ar-45] 地形学と生態学の接点.地形13 333-339 [1992-A-46] カタクリを用いた自然誌教育の試み.野外教育(東京学芸大学附属野外教育実習施設)3 13-21 [1992-A-47] 自然地理学者から人文地理学者へ.東京学芸大学紀要第三部門社会科学43 103-115 [1992-B-14] 小泉武栄・清水長正編著「山の自然学入門」古今書院 [1992-B-15] 田淵 洋編「自然環境の生い立ち新版」朝倉書店 [1992-M-18] 三頭山の自然と台風禍-自然地理学からみた「都民の森」問題.月刊東京113 1-5 [1992-L-1] 世界の中の日本のブナ林.ブナ林を語る会 1993 [1993-Ar-48] 小泉武栄・青柳章一.風化皮膜から推定した北アルプス薬師岳高山帯における岩屑の供給期.地理学評論66A 269-286 [1993-Ar-49] 「自然」の学としての地生態学.地理学評論66A 778-797 [1993-B-16] 「日本の山はなぜ美しい」古今書院 [1993-O-19] 山の自然保護を考える.日本山岳会自然保護委員会シンポジウム「山の自然保護を考える」4-5. [1993-O-20] 地生態学の立場から.日本地理学会シンポジウム「自然地理学の存在理由」講演要旨.地理学評論 66A 177 [1993-R-14] 自然・生活文化体験ガイドマップ15「国分寺崖線と野川」.東京学芸大学野外教育実習施設事業報告「野外における環境教育」 7 80- 85. [1993-BR-36] 海洋出版編:地質学と地震-松田時彦教授退官記念号-.地理学評論66 338-339 [1993-M-19] 1万年後までに,地球はふたたび氷期に突入する?.ニュートン13(1) 64-65 [1993-M-20] 森へのいざない-森林活動をサポートする.36.森林の立地にも注目しよう.林業技術 614 32-35 [1993-M-21] 座談会「自然の新しい意味づけを考える」-生物レッドデータから地形レッドデータへ.(中井達郎・清水善和).地理 38(3) 18- 33 [1993-M-22] 「日本の地形レッドデータブック」の作成にむけて.地理 38(3) 37-42 1994 [1994-A-50] 内藤大輔・小泉武栄.山梨県櫛形山における遺存植物ヒメザセンソウの生育環境とその存続条件.山梨植物研究7 18-35 [1994-B-17] 野上道男・守屋以智雄・平川一臣・小泉武栄・海津正倫・加藤内蔵進「日本の自然地域編4中部」岩波書店 [1994-B-18] 我が国の自然.岡島成行編「自然との共生をめざして」ぎょうせい 3-15 [1994-O-21] 氷河時代と森林.日本学術会議森林工学研究連絡委員会主催シンポジウム「地球環境史の中の森林」 11-18 [1994-R-15] 日本の地形レッドデーテブック作成委員会.日本の地形レッドデータブック 第1集 [1994-R-16] Ⅰ地形・地質.八丈島自然公園内環境調査基礎調査報告書(国立公園協会) 1-28 [1994-R-17] リマン海流地域の植生と海藻.科研費報告書「リマン海流文化の生態地理学的研究」 15-20 [1994-R-18] 三頭山における集中豪雨被害の緊急調査と森林の成立条件の再検討.とうきゅう環境浄化財団研究助成no.164 [1994-M-23] 自然保護と「山の自然学」.自然保護 380 10 [1994-M-24] 寒冷地形の特性とは-特定地理等保護林の事例を交えて .森林航測 172 11-15 [1994-M-25] 山の植生図-分布図をつくる楽しみ-.地図情報 14(1) 20-22 [1994-M-26] 自然観察ポスター「川のつながり」解説書.日本自然保護協会 [1994-M-27] 植物と山の自然史1 滑るカンアオイ.UP 255 31 [1994-M-28] 植物と山の自然史2 小氷期のレリック 三頭山のブナ林. UP 256 31 [1994-M-29] 植物と山の自然史3 北斜面に生える東京のカタクリ.UP 257 33, [1994-M-30] 植物と山の自然史4 寸づまり現象の謎 清澄山のヒメコマツ.UP 258 63 [1994-M-31] 植物と山の自然史5 海辺の高山植物 礼文島. UP 259 31 [1994-M-32] 植物と山の自然史6 永久凍土と植物群落 大雪山小泉岳. UP 260 39 [1994-M-33] 植物と山の自然史7 馬づらのコマクサ 地質が決める高山植物の分布.UP 261 39 [1994-M-34] 植物と山の自然史8 断層-イワスゲ-タカネヒカゲ 北アルプス南岳 UP 262 31 [1994-M-35] 植物と山の自然史9 砂礫地のエーデルワイス 中央アルプス UP 263 31 [1994-M-36] 植物と山の自然史10 日本の森林限界は低すぎる 北アルプス蝶ヶ岳 UP 264 31 [1994-M-37] 植物と山の自然史11 洪水がないと困る 多摩川のカワラノギク.UP 265 31 [1994-M-38] 植物と山の自然史12 地形の保護と自然保護.UP 266 30 [1994-M-39] 川にみる自然のつながり-地理学からみた川-.ジャパンランドスケープ32 43 [1994-M-40] 世界の垂直分布帯.「新版・空撮登山ガイド4尾瀬・日光・那須」山と渓谷社:29 [1994-M-41] 乾燥化する戦場ヶ原.「新版・空撮登山ガイド4尾瀬・日光・那須」 52 [1994-M-42] 至仏山の高山植物-蛇紋岩と岩塊斜面-.「新版・空撮登山ガイド4尾瀬・日光・那須」 65 [1994-M-43] 尾瀬ヶ原と自然保護.「新版・空撮登山ガイド4尾瀬・日光・那須」 77 [1994-M-44] 大菩薩嶺付近の岩塊斜面とネズコ.「新版・空撮登山ガイド5東京周辺の山々」 23 [1994-M-45] 枯れる丹沢山のブナ.「新版・空撮登山ガイド5東京周辺の山々」 39 [1994-M-46] 新火山・富士山の植物.「新版・空撮登山ガイド5東京周辺の山々」 56 [1994-M-47] 奇岩怪石と尖峰の山 妙義山.「新版・空撮登山ガイド5東京周辺の山々」 69 [1994-M-48] 涸沢カールの崖錐.「新版・空撮登山ガイド9槍・穂高・常念岳」 33 [1994-M-49] 蝶ヶ岳の明瞭な森林限界とハイマツ帯.「新版・空撮登山ガイド9槍・穂高・常念岳」 61 [1994-M-50] 上高地の森林と梓川.「新版・空撮登山ガイド9槍・穂高・常念岳」 77 [1994-M-51] 岩石の割れ目が決める砂礫地とお花畑の分布.「新版・空撮登山ガイド10中央アルプスと八ヶ岳」 32 [1994-M-52] 北八ヶ岳の縞枯れ現象.「新版・空撮登山ガイド10中央アルプスと八ヶ岳」 54 [1994-M-53] ジェット気流が作りだした珍しい風食ノッチ.「新版・空撮登山ガイド10中央アルプスと八ヶ岳」 78 [1994-M-54] 地蔵のオベリスク.「新版・空撮登山ガイド11南アルプス」 26 [1994-M-55] 南アルプスのお花畑.「新版・空撮登山ガイド11南アルプス」 46 [1994-M-56] 光岳の地形と植物.「新版・空撮登山ガイド11南アルプス」 62 [1994-M-57] 仙水峠の岩塊斜面.「新版・空撮登山ガイド11南アルプス」 70 1995 [1995-Ar-51] 白馬岳高山帯「節理岩」における植生遷移と斜面発達.地学雑誌104 503-514 [1995-A-52] 人文地理学者はいま何を期待されているか(1) 研究方法の改善について(上).地理40(10) 66-74 [1995-A-53] 人文地理学者はいま何を期待されているか(2) 研究方法の改善について(下).地理40(11) 66-71 [1995-A-54] 司馬遼太郎の地理学-司馬史観の魅力の根源を探る-.東京学芸大学紀要第三部門46 277-292 [1995-B-19] 「日本の自然をまもる-美しい風景と地形」岩崎書店 [1995-B-20] 田無市史 第三巻 通史編 第一編「自然のすがた」田無市市史編さん室 [1995-B-55] 黄河源流-チべット高原に舞うカモメ.岩田修二・小疇尚・小野有五編「世界の山やま アジア・アフリカ・オセアニア編」55-56.古今書院 [1995-B-56] 北極のオアシス-エルズミア島.岩田修二・小疇尚・小野有五編「世界の山やま ヨーロッパ・アメリカ・両極編」137-138.古今書院 [1995-B-57] 北極・南極とその周辺の植物.岩田修二・小疇尚・小野有五編「世界の山やま ヨーロッパ・アメリカ・両極編」141-142.古今書院 [1995-O-22] 地すべりが決める日本海側多雪山地ブナ林内の群集分布.第42回日本生態学会講演集 157 [1995-O-23] 多摩地域における地形の改変と谷津田の消滅.(山田 修と共同発表).環境科学会1995年会. [1995-O-24] カナダ北極圏エルズミア島の植生に関する地生態学的研究.第18回極域生物シンポジウム.国立極地研究所 [1995-R-19] 押本絵里・小泉武栄.多摩丘陵西部七国峠付近におけるタマノカンアオイの地形分布と分布拡大様式.とうきゅう環境浄化財団(一般)研究助成 no. 86 3-53 [1995-R-20] 牧野智子・小泉武栄.地下茎の形態変化からみたタマノカンアオイの分布様式と地表変動.とうきゅう環境浄化財団(一般)研究助成no.86 57-109 [1995-R-21] 日本の地形レッドデータブックの作成.第3期プロナトゥーラ・ファンド助成成果報告書(日本自然保護協会) 125-127 [1995-BR-37] 太田 勇:国語を使わない国.地理学評論 68A 191-192 [1995-BR-38] 横山秀司:景観生態学.地理 40(9) 126-127 [1995-M-58] 断層がつくり出した稜線の凹地.「新版・空撮登山ガイド7白馬・鹿島槍・針ノ木岳」 34 [1995-M-59] 氷河時代と白馬大雪渓.「新版・空撮登山ガイド7白馬・鹿島槍・針ノ木岳」 41 [1995-M-60] 不安定な表土にこそ育まれる生命-コマクサ.「新版・空撮登山ガイド7白馬・鹿島槍・針ノ木岳」 53 [1995-M-61] 素晴らしい山の景観を守るために.「新版・空撮登山ガイド8立山・剣・雲の平」 15 [1995-M-62] 世界一厳しい冬の剣岳.「新版・空撮登山ガイド8立山・剣・雲の平」 50 [1995-M-63] 天然記念物になった氷河地形.「新版・空撮登山ガイド8立山・剣・雲の平」 85 [1995-M-64] 植物の宝庫・鈴鹿山脈.「新版・空撮登山ガイド北陸・近畿・中国の山々」 17 [1995-M-65] 大山のブナ林の成り立ち.「新版・空撮登山ガイド北陸・近畿・中国の山々」 45 [1995-M-66] 自然が描く地表の造形-白山の構造土.「新版・空撮登山ガイド北陸・近畿・中国の山々」 79 [1995-M-67] 端正だが規模の小さい日高のカール.「新版・空撮登山ガイド1北海道の山々」 29 [1995-M-68] 北の離島礼文島の特異な植生.「新版・空撮登山ガイド1北海道の山々」 55 [1995-M-69] 棚田の石垣を保存しよう.地域文化 31 1 [1995-M-70] 日本の高原・世界の高原.こんにちは さくら銀行です.1995盛夏号 4-5 [1995-M-71] RED DATA 地形も危ない!! 氷河時代の自然が失われる.生活と自治(生活クラブ生協連合会)313 33 [1995-M] 山の自然学の試み.連載エッセー:自然と私.遺伝,49-1,4-5,1995. [1995-L-2] 日本における氷河地形研究史.山の自然学講座 [1995-L-3] 熱帯高山・温帯高山・極地の自然.山の自然学講座 1996 [1996-Ar-58] Recent progress of geoecology in Japan. Geographical Review Japan 69B 160-169 [1996-Ar-59] わが国における地生態学の最近の進歩.生物科学48 113-122 [1996-A-61] 人文地理学者はいま何を期待されているか(3)社会への貢献.地理1(1) 80-88 [1996-B-21] 山岳域の景相生態.沼田 眞編「景相生態学 ランドスケープエコロジー入門」朝倉書店 [1996-B-22] 「日本地名大百科-ランドジャポニカ」小学館 (分担執筆) [1996-B-23] 「新版地学事典」平凡社(分担執筆) [1996-O-62] 平田 煕・小泉武栄・山田 修・久野勝治・矢口久美子・近藤治美・鈴木俊也・高田秀重・熊田英峯・佐藤 太・山口友加・小倉紀雄・加藤哲郎・細見正明・一ノ瀬俊明.首都圏における多様な人間活動インパクトとその制御.環境科学会誌 9 109-122 [1996-O-60] 自然地理教育の再生をめざして(講演).新地理 44(3) 40-48 [1996-O-25] 東京・田無市における遺跡の立地と石神井川の変環.日本地理学会予稿集 50 200-201 [1996-R-22] 生物地理学からみた最終氷期最盛期頃の乾燥化と完新世の湿潤化.科研費報告書「最終氷期の日本列島の乾燥化に関する第四紀学的研究」 85-90. [1996-R-23] 妙音沢斜面林とその周辺の地理.「妙音沢斜面林の自然-新座市栄一丁目緑地等植生調査業務報告書」新座市公園緑地課・日本自然保護協会 3-10.(初見祐一と共著) [1996-R-24] 妙音沢斜面林の地形・地質・土壌.「妙音沢斜面林の自然-新座市栄一丁目緑地等植生調査業務報告書」57-72. [1996-R-25] 辻村千尋・小泉武栄.妙音沢斜面林の気候条件と光条件.「妙音沢斜面林の自然-新座市栄一丁目緑地等植生調査業務報告書」73-90 [1996-R-26] 妙音沢斜面林のすがた-植物の分布にみる自然のつながり-.「妙音沢斜面林の自然-新座市栄一丁目緑地等植生調査業務報告書」137-140. [1996-BR-39] 小池一之・坂上寛一・佐瀬 隆・高野武男・細野 衛:地表環境の地学-地形と土壌.地理学評論69A 51 [1996-BR-40] F.ピアス・平澤正夫訳:ダムはムダ-水と人間の歴史-.地理学評論69A 770-771 [1996-BR-41] 日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会編:川と開発を考える-ダム建設の時代は終わったか.地理学評論 69A 771-773 [1996-BR-42] 平井幸弘:湖の環境学.地理学評論 69A 909-910 [1996-BR-43] 市川健夫:風土発見の旅.信濃毎日新聞. [1996-M-72] 武蔵野の丘陵から三頭山へ-身近な自然を見直してみよう.岳人 1996(2) 27-29 [1996-M-73] コアエリアは歩く人だけに限定.岳人1996(5) 92 [1996-M-74] 国土の「自然」を読む-自然地理学から見た日本の自然と国土利用.BIO City 8 47-51 [1996-M-75] 地滑りと森林.「新版・空撮登山ガイド2東北北部の山々」 15 [1996-M-76] カンラン岩地における森林限界の低下.「新版・空撮登山ガイド2東北北部の山々」 33 [1996-M-77] コマクサと樹林と湿原と.「新版・空撮登山ガイド2東北北部の山々」 66 [1996-M-78] 残雪と万年雪の山 月山.「新版・空撮登山ガイド3東北南部の山々」 24 [1996-M-79] 残雪と植生.「新版・空撮登山ガイド3東北南部の山々」 42 [1996-M-80] 偽高山帯の成立過程 日本海側多雪山地.「新版・空撮登山ガイド3東北南部の山々」 84 [1996-M-81] 赤石山系・銅山越のツガザクラ.「新版・空撮登山ガイド13四国・九州の山々」 31 [1996-M-82] 亜高山帯を欠く山 屋久島・宮之浦岳.「新版・空撮登山ガイド13四国・九州の山々」 71 [1996-M-83] 数万年後,氷河期がくると気候や植生がかわり,列島がつながる.ニュートン 16(8) 50-51 [1996-M-84] 小泉武栄・目代邦康.自然観察に出る前に.多摩のあゆみ 83 8-9 [1996-M-85] 秋留台地の湧水と集落立地.多摩のあゆみ 83 17-20 [1996-M-86] 縄文遺跡のない田無の不思議.多摩のあゆみ 83 21-23 [1996-M-87] 武蔵野のオアシス-新座市妙音沢斜面林のカタクリ-.多摩のあゆみ 83 38-39 [1996-M-88] 日の出町・東光院の珍しいモミ林.多摩のあゆみ 83 40-41 [1996-M-89] 八高線多摩川鉄橋下の「牛群地形」.多摩のあゆみ 83 56-57 1997 [1997-Ar-63] 原田経子・小泉武栄.三国山脈・平標山におけるパッチ状裸地の形成プロセスと侵食速度.季刊地理学49 1-14 [1997-A-66] 地すべり地の土地利用と植生に関する従来の研究.学芸地理52 25-34 [1997-B-24] 太田 勇著,渡辺満久・小泉武栄・太田陽子編「地域の姿が見える研究を」古今書院 [1997-B-25] 日本海の島嶼と半島の植物相.市川健夫編「青潮文化-日本海をめぐる新文化論」古今書院 144-162 [1997-O-26] 小泉武栄・辻村千尋・目代邦康・酒井 啓.羽後朝日岳山頂部における階段状地形の成因とその生態学的意義.日本地理学会発表要旨集 51 56-57 [1997-CA-90] 自然が人を教育する.BIO CITY 10 54-59 [1997-CA-64] 地球温暖化の中の極地植生-カナダ北極圏の"極地オアシス"をめぐって-.科学67 850-861 [1997-CA-65] 氷河時代と森林.水利科学41(5) 1-12 1998 [1998-B-26] 「山の自然学」岩波書店 [1998-B-27] 「山歩きの自然学-日本の山50座の謎を解く」山と渓谷社 [1998-B-28] レッドデータブック(RDB)(2)-生物のハビタットとしての地形・地質-.「自然保護ハンドブック」朝倉書店 114-125 [1998-B-29] 「山名・用語事典」山と渓谷社(分担執筆) [1998-B] 高山域の自然保護.沼田眞編「自然保護ハンドブック」,583‐589.朝倉書店,1998. [1998-O-27] 福井幸太郎・小泉武栄.木曾駒ヶ岳の山頂付近の風衝斜面におけるパッチ状裸地.日本地理学会発表要旨集 53 98-99 [1998-O-28] 目代邦康・小泉武栄.雑誌「史蹟名勝天然紀念物」からみた昭和初期の日本の自然保護思想.日本地理学会発表要旨集 54 222-223 [1998-CA-67] 氷河時代と現在.駒澤大学高等学校研究紀要20 11-15 [1998-CA-68] 川と日本人の歴史.地理 43 30-37 [1998-CA-92] 日本の自然の豊かさとは.THE地球人(長野県地球人会議) 1 8-16 [1998-BR-44] 貝塚爽平:世界の地形.地理学評論 71 848-850 [1998-M-91] 高山の地形学.山と渓谷 1998(8) 64-67 [1998-M] 東北地方における山地植生の成立環境.日本生態学会東北地区会会報、58,1-6、1998. [1998-M] なぜ高山植物は貴重なのか.岳人,1998年9月号,145-146,1998. 1999 [1999-A-69] 日本海側多雪山地における地すべり起源の植物群落.東京学芸大学紀要第3部門社会科学50 49-59 [1999-R-27] 小泉武栄・辻村千尋・目代邦康・酒井 啓.羽後朝日岳山頂部における階段状地形の成因とその生態学的意義.和賀山塊自然学術調査会「和賀山塊の自然」 81-86 [1999-R-28] 目代邦康・酒井 啓・小泉武栄・辻村千尋.羽後朝日岳とその周辺の地形.和賀山塊自然学術調査会「和賀山塊の自然」 77-80 [1999-R-29] 建設省国土地理院.日本の典型地形 都道府県別一覧」国土地理院技術資料 D・1-No.357 [1999-BR-45] 「松井 健先生の思い出を語る」記念誌刊行会編:松井 健先生の思い出を語る―ペドロジーへの道.第四紀研究 38 420 [1999-M] 氷河がつくった岩の殿堂-槍・穂高の自然.『槍・穂高-岩橋崇至写真集-』,106-107,山と渓谷社,1999. [1999-M] 木をみて森をみて山をみよう.森林インストラクター会報,No.29,1,1999. [1999-M] 尾瀬の地形のなりたち.自然保護,440,35,1999. [1999-M] 知的登山のすすめ.保険展望,46-4,14-1.簡易保険加入者協会,1999. [1999-M] 高層湿原の話.みずのわ,113,14-17.前澤工業株式会社“みずのわ”発行委員会,1999. [1999-M] 丘陵地で生きるカンアオイ-地表変動と乾燥の狭で-.多摩のあゆみ,96,38-51,たましん地域文化財団,1999.
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1296.html
第十四話 東京の休日 五月上旬、小笠原父島。 亜熱帯気候の太陽は既に夏めいており、湿度も80パーセント近い。ここを拠点にするセラン諸惑星連合の将兵は空調の効いた設備で暮らす宇宙生活者のため、湿度と焦熱にあてられて体調を崩す者が続出していた。 それでも海洋調査に船体の修理と、野外活動の機会は多い。ユリウス・パトリキオス艦長も急遽しつらえた半袖の三種軍装を着用してはいるが、それでは頬のやつれまでは隠せない。 1ヶ月前にダイガストの巨砲で穿たれたディアマンテの修理が問題だった。装甲と電路の修理だけでも頭の痛い問題であるのに、艦載機格納庫まで吹き飛ばされたものだから、工具を筆頭に様々な整備用の設備まで失われていた。 既存品の注文になるが、なにしろ地球は銀河帝国文明圏にとっては辺境である。機材の到着は遅れに遅れ、日本国との三度目の限定攻勢を間近に控えるにもかかわらず、万全の修理状態とは言い難い。 しかもこれらの再建に関して一々ちょっかいをかけてくるのが、統制官と呼ばれる資源庁から出向している文民達で、これに納得させるための資料作りがパトリキオスの神経を更に苛むのだった。 『民主主義を掲げた星間貿易国家であるセラン諸惑星連合にとって、スペースレーン(航宙交通路)の確保は安定した貿易を続ける上でも重要な要素である。この崇高な使命を監督する統制官は文民統制の象徴であり、野蛮な王政や開発独裁を掲げた他の列強とは一線を画すうんぬんかんぬん。』 …どこの頭でっかちが言ったのだか知らないが、お陰で現場に実務者以外の意見が罷り通って大迷惑だ。 あわや報告書の文面にそう書き出しそうになり、パトリキオスは慌てて携帯端末の内容を訂正する。木陰で浜風を浴びながら、書類の入っていないファイル程度に見える携帯端末をいじっている姿は、侵略者が優雅な午後を愉しんでいる様に見えるだろうが、内実はISO関連書類や役所への届出に四苦八苦する中間管理職みたいなものだ。 そんな事を考えている折に副官が近づいてきたものだから、パトリキオスは露骨に顔をしかめるのだった。 「なんだい、また統制官殿が新しい報告書を御所望なのかい?」 「いえ…」 副官の眉間の皺は深く、それなりの厄介事であるとは察することが出来た。しかしながら彼が差し出した情報ボードの画像は、パトリキオスの予測の斜め上を1パーセクで飛び去る類のものだった。 それは北海道でルドガーハウゼン大剣卿を唸らせた、あの旭日の光を帯びた宇宙船と同じものだ。 パトリキオスは盛大に溜息を一つ吐くと、それから何かに憑かれた様に猛烈に報告書の整理を再開する。いつもなら皮肉の一つでも言ってサボろうとする艦長の豹変に、副官は思わずたじろいでいた。 「あー、艦長?」 「やって来るのは銀河帝国の近衛艦隊だ。誰が乗ってるにしたって、しばらくは我々『下々』はご機嫌伺いで戦闘行為も自重しなければならないだろう。だったら、今のうちに艦の修理を徹底的に行う。改装も含めてだ。工期の問題で後回しになっていたプランを持ってきてくれ。もう一度練り直す」 「諒解しました!」 副官はやる気の艦長に軽い感動を覚えつつ、背筋の通った敬礼を見せる。 「他に必要な物はありますでしょうか?」 「ふむ…」 パトリキオスは一寸考えて、それからひどく汗をかいている事を思い出し、 「飲み物も頼むよ。缶コーヒー、甘いやつ」 彼もまた日本に馴染み過ぎたガイジンの一人であった。 地球全土で列強の五月前半攻勢が突如延期となり、原因の判らない地球人達を困惑させた。 進駐した兵士達が元気なのは確認されているので、H・G・ウェルズのSF作品の様に微生物に負ける宇宙人という大どんでん返しは期待できなかった。 例えば北海道に潜入中である防衛省の情報本部や警視庁公安部の方々、また、小笠原沖の海底で息を潜める潜水艦乗組員達の地道な観測によって、ツルギスタンやセランの航宙船から頻繁に内火艇が空へと駆け上がって行く事例が報告されていたが、宇宙空間にまで追跡の目は向けられないため、最終的な行き先までは掴めなかった。 緊張の持続というのは難しいもので、異星人との茶番戦争を目前に控えていた国々の将官達は、隷下の兵達の士気に頭を抱えた。うっかり休みを与えて羽を伸ばして来いと言おうものなら、ここを先途と脱走をする輩が出そうな国もあり、そういったお国柄の基地では戦闘前よりも基地の警備が物々しくなるという有様だ。 風見鷹介は脱走――彼の知っている言葉では脱冊――という言葉とは無縁ではあるが、降って沸いた休みには戸惑う類の社会不適合者であった。とりあえず休みの過ごし方に思い付く事が無かったのだが、パイロット過程を落第してからこっち、大江戸研に殆ど拉致同然に詰めていたので、ふと東京の実家に帰ろうかと思い立つ。 そうなると幼馴染――設定を忘れがちであるが――である透もじゃあ一緒に、とか言い出そうとするのだが、遠近法を無視して伸びてきた大江戸博士の手が彼女の頭をぐわしと掴むや、 「君はそろそろ卒論の骨子を提出してくれないかね。調度時間も出来た事だし」 「いーやー!?」 ここのところ実体の無い女子大生だった透は、大江戸博士のデスクの隣に蜜柑箱を机にして、書いてゆく先から添削される超濃縮卒論の荒行に連行された。 一度だけ合掌した鷹介は、そんなわけで久方ぶりの里帰りを果たすのだが、実家というのがこれがまた居場所が無い。航空学生になって家を飛び出したっきり、その道からも転げ落ちて、今では細々と小型機を飛ばしていると親兄弟に伝えている秘密の身分であるからして、針のむしろでジュリアナダンスを踊るようなものだ。 父に収入を気にされ、母に健康を気にされ、弟はなんか反抗期で、妹も二次性徴期の始まりでむつかしいお年頃とくれば、難易度は最上級である。 気の休まらぬままに父の晩酌に付き合った後(いつもは発泡酒なのにプレミアムモルツだった)、ようやく自室で一息吐くと、家を出た時のままで保存されていた部屋が目に入ってまた痛々しい。本棚の航空雑誌とか、やけに気合を入れて作ったF-15Jのプラモデルとか、当時の意気揚々とした自分を思い出すと、思わず窓から投げ捨てたくなる。 しかしコンビニ等に逃避するのも鬼門だ。同級生にランダムエンカウントしたら目もあてられない。そうなったら同級生達に身分を偽るのが嫌というより、もう隔世観みたいなものだった。華の学生や、社会人のルーキーをやっているであろう同級生の輝かしさと比べたら、硝煙ならぬ航空燃料の臭いが身に染み付いた自分はどうだ。昔と変わらない自室の学習机に備え付けの椅子よりも、あの硬いコクピットシートの方が馴染んでいる自分はどうだ。 ならば『飛行適正ナシ』と判断されるのをひたすら恐れた、あの訓練の日々こそが真実なのだろうか。 いや、それも無い。めくるめく濃密な日々を耐え抜いた仲間達も、じきに速成でF-2のコクピットにおさまって飛び発つのだ。その時、自分は異星の技術で固められた分厚い装甲に守られて、あの仲間達の足下を這いずり回っているに違いない。 鷹介は自罰的な焦燥感に身を焼かれて煩悶する。誰に責められている訳でも無いだろうに、自分がひどい卑怯者に思えた。それは若さゆえの潔癖であったが、鷹介がその事に自ら気付ける道理は無く、また同年代の同性のような打ち解けられる者がいない職場であるため、必要の無い罪悪感は彼の目に見えぬ芯の部分をぐずぐずと蝕んでゆくのだった。 野郎がベッドにうつ伏せになってのたうつと云う誰得映像を披露した後、鷹介は整理し切れない『私』の部分に目を背け、駄目人間の見本のように『公』の方に逃避する。 将来家庭を持ったら減点パパになるタイプである。 ともかく何かから逃れるように、研究所の技術者連中に『東京土産なにが良いですか』とメールをうつと、『レシートがあれば実費精算するよん』と軽い口調で、やけに重い目録が送られてくる。その殆どは家電製品やゲームにDVDで、娯楽が限られる研究所生活が偲ばれた。 もうAmaz○nで注文しろよとも思うが、よく考えれば研究所の入口で警備員が配達業者を止めて積荷をチェックする光景は日常茶飯事だった。それで軍艦の酒保開けの合図じゃあるまいが、注文の品を受け取るために列を作る異星の技術者というのもお馴染みの光景だ。 並べば目的は達せられると理解しているのだから、まったく日本によく慣らされた異星人達である。本当に彼等は故郷奪還の折には凱旋が出来るのだろうか。 「そんなわけで秋葉原にやってきたのだ、と」 ウホ、いいオタクの街、と誰が言ったかは知らないが、日が変わって平日の秋葉原に降り立った鷹介は家電やDVDや玩具の宅配の手配に没頭する。 「えぇと…アオモリズ・ブートキャンプに、ダーウィンが来たの海洋惑星特集、モンスターアーツのドラグリヲ、ロボット魂イグザクセン、スーパーロボット超合金リベジオン、figmaティマ、エクセレントモデルCORE一条遥…もう電化製品ですら無いな」 近年ではすっかり趣味に生きる高等遊民の街となり、メインストリートに二次元美少女のイラストやメイド喫茶のチラシ配りであるアルバイト・メイドが溢れ返れば、それを物見遊山するカタギの人々までやってきて、駅前を小奇麗に再開発するというプロジェクトまで立ち上がる始末。電気コードとハロゲンランプのうらぶれたイメージは、既に表通りからは駆逐されつつあった。 今しもメインストリートに面したアニメショップの店先では、現行放映中の美少女がロボットで戦うアニメのPVが垂れ流されていた。 『シンブレイカーにマーラが顕現します!』 『なに召喚しとるんじゃ、あんたらはー!!』 一見して好況のようではあるが、しかしながら銀河列強諸国の来寇を受けて加工国にも野火の如く広がる戦火は、エレクトロニクス部品の供給にも影響を与え始め、パソコンショップ等の店頭には品切れや値段高騰のポップが踊っていた。降伏間近と言われている台湾の影響が最も顕著であり、各国のパソコンや液晶ディスプレイの部品供給が滞っているのだ。 太平洋のフタのひとつである台湾の地政学的重要性は言うを待たないが、エレクトロニクス産業においても掛け替えの無い一部門を担っている。この辺り、中華人民共和国のような加工国と違い、研究・開発能力をもった企業を持つ国の混乱というのは、非常に重たい意味を持っていた。 単純な加工国でも、その生産能力に大いに頼っていた企業は大打撃を被っていた。中華人民共和国産の100円ショップ商品や、半島産のハードディスクがそれだ。 本邦でもツルギスタンの本州上陸からこちら、東北地方の工場が疎開を始めた事により、車のエレクトロニクス部品の供給に混乱が生じ、各車会社は生産調整を強いられている。 別の視点としては、違法星間商人の介入と思われるアデン湾の海賊騒ぎが北アフリカからシナイ半島へと延焼し、いくつかの国で独裁政権の打倒を掲げた内戦を惹起させていた。これにより海賊対策を嘲笑うかのごとく原油価格は高騰し、日本でも燃料代が不安定になってきている。 目に見えぬところで、人々は戦争の影響を肌で感じる様になっていた。 そういう国際情勢が原因でもなかろうが、人がまばらなのはむしろ平日だからという理由の方が大きいだろう。表通りから一本も路地を入れば休日の盛況が嘘のように閑散となる。それゆえに、その椿事は目立っていた。 ありていに言えば一人の白人女性が、三人の黒服に囲まれていた。 なんだ、これ?曲がり角の向こうで出会い頭に広がっていた光景に、鷹介が最初に抱いたのはそんな疑問だった。 黒服は揃いも揃ってミラーシェードで表情が読めないが、どいつも屈強な体躯をしていた。頭髪に金髪の者が混じっていて、どうにも日本でお目にかかる光景では無さそうだった。 さらに凄いのはもう一方の白人女性で、淡い水色のワンピースに薄手で短いカーディガン。それもワンピースは最近のデザインでなく、ふわっと広がる長くてレトロなやつだ。それに編んだ銀髪を後頭部でクルクルと巻いてシニヨンにした、ハッと目を引く美人の貌が乗っているとなれば、どこの絵に書いたお嬢様ですかという話である。いや、ここは秋葉原なので、どこの二次元から彷徨い出たのですか、か。 それが何やら鷹介に理解できない言語で言い争っているとくれば、怪しさもひとしおだった。 と、不期遭遇の衝撃に面食らっている鷹介の姿を認めるや、女性は動き辛そうな格好と裏腹に存外な速さでもって彼に駆け寄って、その背に隠れるように回り込み、 「悪いヤツに追われておるのじゃ。助けてたも」 何とも古体な口ぶりで窮状を伝えると、鷹介越しに黒服達に『あかんべー』をしてみせた。 いかにも可愛らしい訣別の意思表示をされた黒服達は、いささか狼狽した風で鷹介に歩み寄り、 「君、我々は怪しい者ではない。その方をこちらに返してくれないか」 自分で怪しくないと言っていれば世話は無いが、それよりも今の一瞬のやり取りが流暢な日本語である事の方が、鷹介を警戒させる。どう見ても日本人でないのに日本語を口にし、そのくせお嬢様と黒服なんて世間じゃ有り得ない光景を現出させる。 そういうのには覚えがあった。鷹介は苛立ちをおぼえつつ、 「どこの御家騒動か知らないが、そういうのは地球に持ち込まないでくれよ…」 皮肉のつもりだったが、それが拙かった。 反射的に黒服達から張り詰めたものが発せられる。後ろの二人がポケットから警棒のようなロッドを取り出し、音も無く伸張させた。御丁寧に金属の打撃部には青白い電流まで確認できる。 「そこまで知っているのなら、タダで返すわけには行かない!」 「常識でモノを言え、この侵略者ども。見た目がコーカソイドの集団が皆して流暢に日本語を喋るか?電磁警棒なんて日本じゃアニメの産物だぞ?」 鷹介の突っ込みに黒服は若干たじろぐ。宇宙ヤクザの時とは違う反応に、意外にまともな連中なのかも、と共感のようなものを覚えたが、しかし彼もダイガストのパイロットという――今のところは――秘密の身分であるため、こんな所で明らかな列強の関係者にお世話になるわけにも行かない。例え原因が自分の軽口であっても。 鷹介は僅かに腰を落とし、どの様な事態にも動けるように身構える。口じゃどう言おうが、彼の体は荒事に慣れ切っていた。 そして彼の身体の重心移動を、渦中の人であるお嬢様は興味深げに観察している。鷹介の背中越しに聞こえる声には、どこか状況を愉しんでいるような弾んだ節すらあった。 「あの悪いヤツらは腕が立つぞ。そなた、歯が立つのかえ?」 「判らない。だから君は、隙を見て逃げればいい」 「それでは流石にそなたに『目』が無い。そなた、剣は使えるか?」 「剣?…まぁ、真剣じゃない程度なら」 鷹介は高校と航空学生とで続けていた剣道の事を思い出す。二段には手が及ばなかったが、初段は取っていた。 「つかわす。存分に振るうが良い」 そう言って左の脇から差し出されたのは、鈍い輝きを放つ金属製の剣の柄だ。鍔や護拳は無く、柄頭には精緻な彫刻がされている。 受け取り、深く考えずに以前の習いで腰間から抜くようにして正眼に執ると、柄が伸張して拳二つ半に形を変え、更に鍔元からは眩い白銀の奔流が噴き出した。ほんの一瞬、それは液体のように振舞ったかと思うと、見る間に形を変えて二尺五寸(約75センチ)ほどのゆったりとした反りを持つ刃に固まる。 要は刀だ。おそらく鷹介のイメージを汲み取って、そのような形になったのだろう。何しろ長さに反して重量配分は絶妙で、刃が自分の腕の延長にあるようだ。借り物でこんな事は有り得ないだろうし、ダイガストの制御に組み込まれた思考を汲んで機体を制御する技術が、銀河列強のゲーム機から取り外した代物である事を思えば、そう考えたほうが不思議は無い。 鷹介は手の内の握りを確かめる間こそあれ、こちらが出した刀に何らかの躊躇いを見せる黒服へと、先手必勝で打って出る。スニーカーと素足では勝手が違うから、ともかく短期決戦だった。上段へと刀を振りかぶって正面の黒服に殺到し、敵が身構えた瞬間にはその脇をあっさりと駆け抜けて、後ろの二人へと向かう。 矢面の一人を無視した不意打ちに、黒服が躊躇いから狼狽へと変わったのを見逃さず、上段からの小手打ちというフェイントを交えて警棒を狙うと、刃は恐るべき切れ味で警棒を断ち切って青白いスパークを弾けさせた。 続け様にいま一人へと左足で踏み出し、体ごと向きを変えて刃を跳ね上げるや、こちらも過たず警棒が寸断される。 そこから出足を軸に体の上下動無く半回転し、振り返りざまに刃を突き出すと、最初に素通りした黒服の喉元へと剣先が突きつけられた。 う、と黒服が呻くのが聞こえた。 鷹介は騙し手が上手い具合に嵌った事に内心でひどく緊張していた。『思いっきり本身じゃねーか!?』とか切れ味に驚嘆したのもあるが、所詮は相手が白刃に驚いた所に付け入った奇策だ。それが判っているから、優位を突きつけている内に顎をしゃくって黒服達にお帰りを促す。 黒服達は後ろ歩きで距離を取ると、未だ未練たらたらの様子だったもので、鷹介が再び刀を振り上げて脅かして、初めて算を乱して逃亡に入った。 ふぅと一息つき、緊張の糸が切れると、銀の柄へと刃が引き戻る。矢張り使用者の意図を汲む類のメカニズムなのだろう、その出来に感心していると、 「見事!誉めて遣わす」 ご満悦のお嬢様がお褒めの言葉をかける。そういう態度に慣れているのか、たいそう大様であったが、鷹介は悪い気はしなかった。というか一寸言葉を失った。 彼女が柳のような腰に手を当て、僅かに背を反らせば、たわわな二つの盛り上がりが自己主張をしていた。アップにした髪型から覗くうなじとか、スカートから出た足とか、眩いくらいに白い。年の頃は自分より少し下だろうか。貌からは幼さが抜け切らないが、切れ長の目の中には強い意志を感じる瞳が据わり、長いまつ毛がそれを飾っていた。よく整った顔貌からはお嬢様じみた出で立ちも含め、『やんごとなき』という言葉が思い起こされる。 要は鷹介が我知らず見惚れていた訳だが、彼女はその不躾な視線を気に止めるでもなく、 「礼を言うぞ、悪い奴ばらは去った。妾はセシリアンダ。親しい者はセシルと呼ぶ。訳あって家名は明かせぬが、そなたもセシルと呼ぶことを許そう。そなた、名は?」 流れるように仰々しい台詞を吐いた。 家名などと言うからには銀河列強の上流階級なのだろう。しかし明らかに上からの物言いのわりに、彼女の立ち居振る舞いは実に自然で反感が沸かない。人を従わせるのに慣れている、というよりは人に愛される事に慣れている、というべきだろうか。そう素直に思ってしまうのは癪であり、鷹介は美人とは得なもんだ、と捻ねた事を考えながらセシルの問いに答えるのだった。 「風見鷹介」 「ヨースケ!そなたはこの国の戦士の家柄であろか?見事な剣ばたらきじゃ。その剣は褒美に取らすぞ」 貴人が手持ちの剣を褒美にくれるのはよくある話で、それ用に手放しても惜しくない量産品の脇差を持ち歩いた天下人の話なんてのもある。だから鷹介は、ああ普及品なんだな、と納得して白銀の柄をジーンズのポケットに落とし込んだ。 「有り難き幸せ、とか跪いて言うべきなのかな」 「気にするでない、妾の臣民であるわけで無し。それともそなた、銀河共産主義などと標榜する、貴き者の義務を否定する輩かや?」 そういうのは何処にでもいるんだなぁ、とか鷹介は妙な事に感心しつつ、セシルの口調がはきはきとしていたもので、それに乗って――大江戸博士の受け売りだが――悪ふざけをしてみた。 「暴君であれば貴き者という前提は成り立たず、圧政が無ければ革命家は迷惑な扇動屋に過ぎないな」 「…その心は?」 「正義は個人にしか宿らない」 「君主は常に孤独であれ、か。帝王学じゃな…出先で教えられるとは思わなんだが」 そう呟いたセシルの表情はひどく真面目で、状況を面白がっているような雰囲気は消え去っていた。それは妙齢の乙女が自発的に得る様なものでなく、何か余人には理解し得ない重責の存在を感じさせるのだった。 こりゃ透とは大違いだ。鷹介があのお気楽極楽な――と極力思っている――幼馴染を思い浮かべたのは、このやんごとなきお嬢様の醸し出すものに呑みこまれ、その信奉者になって仕舞わない様にする自己防衛だ。もちろん鷹介本人は意識していないが、だからセシルが再び、あのいかにも人に愛される笑顔を見せた時には、何とは無しの高揚感を憶える始末だった。 「のぅ、ヨースケ」 更に追い討ちとばかりに、セシルはいかにも抗い難い上目遣いで彼に要求する。 「礼ついでにな、妾をウエノにまで案内(あない)してくれぬか?」 もちろん鷹介は百戦錬磨のジゴロであるまいし、まして鉄の意志力を持つ訳でもない。いい様に巻き込まれるままに、自らの女性免疫の無さに呆れながら、彼女を上野までエスコートする事が決まっていた。 そして彼は最後まで気付かなかった。二人の遣り取りを、ビルの陰に潜むようにして監視する、別の黒服がいた事に。 山手線秋葉原駅の利用は追い散らした黒服と再遭遇する恐れがあるため、鷹介はタクシーを探す事にした。しかし前述の通りガソリン価格の不安定化に伴って、昼の裏路地界隈にまでやってくる奇特なタクシーはおらず、結局、徒歩で秋葉原を離れ、神田の外れから上野に向かうと言う地方在住者に優しくない経路を執る羽目になった。 オフィス街のビルの合間を縫って歩くと、頭上の空は遥か遠くに感じる。梅雨を間近に控えた5月の空は抜けるように青く、目に染み入るようだ。 「ヨースケ、この辺りは人影も少ないようじゃな。これも戦争の影響かえ?」 セシルは人気の少ない昼のオフィス街をキョロキョロと見回している。ただでさえ美貌の白人女性で目立つのだから、挙動不審な行動は謹んでほしいと願う鷹介の眉間には、自然と深い皺が寄っていた。 「今は就業時間。サラリーマンはオフィスでお仕事中だ」 「残務処理かの?殿軍を買って出るとは見上げたものじゃな」 「何でまた『しんがり』の話に?」 「トウキョウのオガサワラはセラン諸惑星連合に奪われているのじゃろう?奴ばらが雪崩を打って攻め込んでくる前に、企業は疎開をしているのではないか?」 「あ”ー…」 鷹介は濁点交じりの納得の唸りをあげる。小笠原は離島であるが、確かに日本国の首都の一部が敵国に切り取られている認識に間違いは無い。だからと言って今更東京に集中した政治経済のシステムを一気呵成に関西にでも退避というのは、どだい無理な話だった。用地買収と周辺インフラの整備だけで何年かかるだろうか。 それに国場総理は政府が引く姿勢を見せる事によって、国民へと劣勢が印象付けられるのを恐れていた。 議員の中には国会さえ終われば一刻も早く東日本から離れたいと考えている者もいるようで、東京堅守派との角逐突き合わせる睨み合いが始まっている。東日本からの逃亡派には野党民権主体党の超大物――東北地方が選挙地――の名も挙がっており、冷笑の種となっていた。 とまぁ、ここまでは政府中枢の疎開に関する話であるが、なら民間はと言えば、市街地に地上げ獣が出たところで災害時の避難プログラムが精々というのが現状である。 戦時にどこまで国民が協力するのか?これは九十年代にも問題になったが、例によって斜民強酸といった野党の反対と、マスコミの神学論争で沙汰止みとなっていた。溺者の救出には時に殴りつけても大人しくさせる必要があると言うが、非常時の取り決めすらも難色を示すのがポピュリズムの恐ろしさである。 なお、今上天皇は宮内庁内でも度々上がる京都御所への避難を断り、東京で公務を続けていた。この辺りの判断根拠も国場総理のものに近い。 総じて言える事は、大多数の日本人は差し迫った危機が目に見えない限り、今の生活を墨守する習性があるという事だろう。 鷹介はその辺を掻い摘んでセシルに言って聞かす。 「はぁ、何ともまぁ健気な人々じゃの。列強の市民とか言う奴ばらに、爪の垢でも煎じて飲ましてやるが良いわ」 セシルは苦笑交じりにそう言った。 「…近頃の列強諸国は野放図な拡張と、鼻につく善意の押し付けばかりじゃ。それが通じぬと口を揃えて野蛮、野蛮と。知っておるか?今やこの星は文明を受け入れぬ暗黒の星扱いぞ」 その急先鋒な鷹介であるからして、そう言われると心の奥底の悪餓鬼の様な部分が、何ともこそばゆい。本来なら言われの無いヘイトなのだから、そんな事を思っていては駄目なのだろうが、鷹介も基本は 日本の現代っ子なので、相手の自省のような雰囲気には弱い。だから、思わず出た台詞ときたら、 「でも、君みたいに思っている人も居るわけだろう?」 「ヨースケ…正義の独立性を妾に説いた者が、その言い草はどうなんじゃ?」 「む…」 セシルの指摘に鷹介はぐぅの根も出ない。喉に何か詰まったみたいな顔になる彼に、セシルは優しげな笑みを浮かべるのだった。 「よいよい、そなたは優しい人間のようじゃ。されど今の時代、それだけを頼りにしておっては、国敗れて何とやらじゃの。まさに国と国で対峙するなら、そこに正義はあるまい。詰るところ、力無きは悪じゃ」 悲しい事じゃの。セシルの笑みが寂しげに変わった。 それは為政者に近しいであろう人物のあくまで個人的感情であり、国というシステムに反映される事はない。鷹介とセシルが見解の一致を見たとて、それは個人の正義の合致に過ぎないのわけだ。 「こうやって各々の思考を交える事はできても、文字通りの相互の理解にしか過ぎぬ。国へ、集団へ帰れば、相互いの意見なぞ大海へ投じられた砂糖の如くじゃ。幾ら言葉を交わそうとも、海は甘くはならぬ」 「どちらかと言えば、君はその砂糖を大量に持っている人に見えるけど」 「然りじゃな。そこいらの今更のように植民地獲得競争に腕まくりして参加を始めたような慮外者よりは、妾の掌(たなごころ)は大きいじゃろう。されど、民衆を家畜と呼ばうようなGBCの経営者連中と比ぶれば、妾の握りこんだ物は童子の砂糖菓子みたいなものじゃ」 そう言ってセシルは小さな手を軟らかく握りこんで鷹介に突き出す。 「それよりもじゃ、ヨースケ。この手の中に有るであろう砂糖菓子を欲するのなら、淑女に払うべき相応の礼が要ると思わぬか?勲(いさお)しをたてた武人の箔か、はたまた典礼に長じた識者の知恵か、大身貴族のパトロンとなるような商人の力か。妾も未婚の乙女ゆえな、この指を取って解くのならば、よほど気を許さねば、な」 「他人様の助力を得るには、自分自身の力を認めてもらう必要もあるわけか」 「全面的な庇護下に置くというのであれば、列強の植民地と変わらぬであろ。最低限、自分の身は守れることを証明せねばな。国と国の間に正義が無くとも、益があるならば信にも代わろう。ただの紙を通貨となす担保じゃな。それしきの威勢も技術もハッタリも無いならば、国としての交流に益を求めるのも無理な話じゃ」 「世知辛いな」 「見返りもあろう。太陽系の経済は閉塞状態にあるようじゃが、そこに新たな外貨の獲得先を設けられる。例えばツルギスタンやセランと敵対的な国ならばどうじゃ?敵の敵は目先の話なら味方となろう」 「それって率先して銀河列強同士のパワーゲ-ムにコミットしろって事かい?」 「まだ、そのメはあると言う事じゃ、生き残るためにの。しかし負ければ選ぶことすら出来なくなる」 世知辛い。鷹介は今度は心の中でそう呟く。 彼は知る由も無いが、国場政権は列強からの亡命者から銀河帝国文明圏のパワーバランスを聴取し、彼等の細い伝を手繰って交戦国の後背を衝く手段『も』模索していた。 それに鷹介自身が所属する大江戸先進科学研究所も幾つかの省庁の財団法人としての顔を持っており、宇宙の非交戦国と物々交換に近い直接貿易を細々と行っている。不況によって荒廃した地球の市場で磨り潰される資源と考えれば、多少のレートの不利も計算の内だった。 実に消極的ではあるが、負けぬ戦のために様々な手が打たれていた。だが、いずれの行動も明確な休戦への筋道が無い以上、ただの悪足掻きに過ぎないのかも知れない。政治の季節は、未だ濃い戦争の霧の向こうだ。 道筋が見えない点に関しては、もっと根本的な疑問もあった。 結局のところ銀河列強諸国は何がしたいのか、である。 GBCの言う未開惑星を舞台にした陣取りゲームや、列強の根底にある膨張主義という説明を鵜呑みにするのなら、地球がリングである限り地球の各国は今後も防衛を強いられ続ける。しかし防戦に地球の資源を濫費させる事が、列強の植民地政策の意図であるのか。それならば彼等は戦時協定に星を傷つける戦略兵器の使用の禁止する、との謳い文句をわざわざ付けまい。 「君達は、この地球で何がしたいんだ?」 鷹介がそんなマクロな疑問を抱いたわけではない。何のかんの言っても行動による解決を是とする、いわゆる脳筋の類であるからして。だが彼の漠然とした問いかけを、セシルは深い洞察が内包されている様に感じた。…いや、本当にありはしないのだけれど。 「諸戦争を終わらせる戦争…」 言い置いて、セシルはすぐさま付け加える。 「世迷言じゃ。銀河帝国の不徳に端を発し、未だにしぼむ気配も無い。列強は皆が皆、次なる銀河帝国にならんと欲しておる。されど往時の威勢を失ったりとはいえ、老いた帝国は未だに一大勢力じゃ。列強が一国で相手取るには、ちと荷が重い。しかもガップリと四つに組もうものなら、途端に別の列強に後背を討たれるじゃろう」 そう言って彼女は指鉄砲を撃つ仕草を見せると、何やら人の悪い微笑を見せた。 「群れ固まって攻めて来れば話は違おうが、事を成したあかつきには群れの親玉争いが始まるな。すりゃ、いまの列強の拡大方針は、猿山の親玉を決める代理戦争となるわけじゃ。それも次の戦争の下準備の、じゃ」 「とばっちりじゃないか、それじゃ」 鷹介はむしろ呆れて言った。 「だいたい、君らにとって地球はどの程度の価値があるって言うんだ?」 「これまで後回しにされておった辺境じゃな。他の宙域での睨み合いに業を煮やした列強が、次なる版図を描くために見つけた真っ新な画布。そんなところじゃな」 「矢っ張りとばっちりじゃねぇか!」 『まぁ、それだけではないのじゃがな』 セシルはある可能性を思い浮かべたが、口には出さなかった。 そうこうしている内に外神田のオフィス街を抜けて御徒町に入り、またも人通りが増えてくる。年末の風物詩でお馴染みな、アメヤ横丁の買い物客だ。狭い通りに人が溢れかえるのが容易に想像できるが、逆に衆人の目の中ならセシルにちょっかいを掛けるのも難しいだろう。いわゆる人遁の術だ。 幸いアメ横は上野まで続いている。人ごみと言っても休日でもなし、早足で抜けられるだろう。 「セシル、ここを通れば直ぐに上野だ」 鷹介は至極常識的な未開惑星の現実を突きつけられて腐した気持ちを切り替え、ウナギの寝床のような狭い路地に詰め掛けた人ごみを指差す。さすがのセシルもこれには面食らったようで、 「ハハハ、こやつめ。冗談にしては笑えぬの」 と、笑い話で流そうとする。ところが鷹介も右から左に流す気は毛頭無く、 「大丈夫だ。テルモピュライの隘路を300人で塞ぐ程度の話だ」 「大丈夫じゃないからな、それ最後全滅するからな」 「詳しいじゃないか」 「メタな処に突っ込むでない!大体、こんな人混みに連れ込もうなど、妾を何と心得る!?」 「家名不明のセシリアンダさん」 「ふかーっ!」 不毛な遣り取りをひとしきり繰り返して奇声を発したところで、彼女もようやく落ち着いてきた。はぁ、とか細く溜息をつくと、なにやら諦念の色を顔に出して、 「…野戦病院を慰問した時にすら、このような絶望的な光景には遭わなんだが」 「その点、アメ横の買い物客は自分の用事を済ませに来ただけで、君にお目に掛ろうとして来ているわけじゃない」 「妾もまた後ろ盾なくば、この人々と変わらぬわけじゃな。ヨースケ、そなたは恐ろしい事を口にするな。銀河に冠たる権威を、衆人の中にあれば無意味と説く。いや、それもまた真じゃ」 え、そうなの?セシルの心の琴線に触れたらしき反応に、鷹介の方がむしろ戸惑う。勿論、そんな意図で口にした訳もなく、今も彼女が何処の誰様であるか知る訳でもない。 だがセシルは鷹介に――何割かの勘違いを含めて――先ほど列挙した箔か、知恵か、権力かを見出したようで、その白魚のような手を彼に伸ばすのだった。 「特別に許す。ヨースケ、妾の手を取り、ウエノ公園に行くのじゃ」 「仰せのままに」 と気の効いた風な台詞を吐いた鷹介だったが、貴人の手を取る作法を知らなければ、美人と手を繋ぐ経験も無い。差し出された手をおっかなびっくり取り、ずいぶん昔に透の手を引いた要領で彼女の指を掌に包み込むと、押し潰してしまいそうに細くて、そしてひんやりとしている事に驚いた。 意識すれば、子供染みた気恥ずかしさに頬が熱を帯びてくる。鷹介は瞑想でも始めるつもりで人だかりの中に飛び込んだ。 失敗だった。上背のある身ごなしの鋭い若者と、それに手を引かれた外人の令嬢とくれば、まるで騎士とお姫様のようで、人々の好奇の目を曳く事しきりだ。しかもセシルときたら鷹介の羞恥に沸騰しそうな頭の事など露知らず、露店の品揃えにいちいち目をキラキラと輝かす。蟹に鮪の切り身、乾物に果物。露天商が『よっ、そこの美人の外人さん』とか言おうものなら、何事かと視線が集まってくるのは自明の理。 コクピットにあっては練磨の戦士である鷹介も、こうなっては駄目である。きっとハニートラップなんぞは彼にとって恐ろしい威力を発揮する事だろう。 ともかく鷹介は妻の手を引いて冥府の出口を目指したオルフェウスか、根の国で亡妻の手勢に追われた伊邪那岐の神か、アメ横の人ごみをただ一文字に駆け抜けるのだった。 梅雨を目前にした上野公園の桜並木は若葉の時期を終え、目も冴えるような緑のトンネルになっていた。 その木陰がたまらなく心地好いのは、強行軍による筋肉の発熱だけでなく、頬の火照りも含まれる。こういうのは駄目だ、俺のキャラじゃない。鷹介はひどく安上がりな心臓の早鐘が収まるのを、仏頂面で待っていた。 対してセシルは此処までの言の通り、衆目の視線など何処吹く風だ。男の早足につき合わされた事だけが動悸を早めたのだろう、わずかに上気した美貌に悩ましげな微苦笑を浮かべ、 「此度のエスコートは落第点じゃ。これよりは武張ってばかりでなく、紳士の振る舞いも学ぶが良い」 と、辛口の採点をするも、口調は穏やかなもので、むしろ鷹介の朴訥さをやんわりと揶揄しているようだ。 「それにしても大した活気であったな。あのおかしな家電の街も、最前の市場も。人々はまるで戦時と思っていないようじゃ」 実際思っていないのだろう。そう口にしないくらいの分別は鷹介にもある。 国場政権は戦時内閣への組み替えを行っていないが、戦時体制への急速な移行は、日本国内での混乱が大きすぎて断行できないという判断に基づいている。戦火の混乱を最低限に統制すべき戦時体制であるが、産業界、ひいては国民生活への影響を懸念して、強権を振るえないと言うのも本末転倒だった。 しかし『軍靴の音が聞こえる』の新聞ではないが、戦時内閣というだけで拒否反応を示す人々もいるだろう。敵の軍靴はとっくに本州にまで足を掛けているのであるが。 いわんや、鷹介の前に立つ何処かの列強の令嬢らしきセシルをや。しかも首都東京の上野恩賜公園で。 流されるままに、この1時間半ほどをセシルと過ごした鷹介であったが、思いなおしてみれば彼女の振る舞いは追われる者にしては余裕綽々に過ぎる。都合、お家騒動なんて言葉を使って荒事になってしまった訳だが、未だ独立を保つ日本こそ銀河列強人にとっては敵地ではあるまいか。 「…それで、君はここで何をするつもりなんだ?」 疑惑のフィルターをかけた目をセシルに向ける鷹介であったが、彼女は相も変わらず気にした風も無く、思案顔で周囲を見渡す。 「うむ、ウエノで待ち合わせておるのじゃが…」 セシルがそう口にしたのを待っていたように、葉桜の陰からまさに影から沸くが如く、ダークスーツの人物が現れた。鷹介が知る由も無いが、そいつは秋葉原で彼に最後まで気付かれる事の無かった黒服であり、順当に考えるのならば、上野公園までそれは継続していた事になる。 鷹介はとっさにセシルを背中に庇い、黒服の前に立って、そこで初めて黒服の線が細い事に気づいた。 ミラーシェードで表情は隠れているが、アップにした長いブルネットの髪や、唇を朱に彩るリップクリームは、紛れもなく黒服が女性である事を物語っていた。それに背広では隠し切れない極めてメリハリの付いた身体の稜線も。 しかし鷹介はこれまでに感じたことの無い威圧感に、嫌な強張りを覚えるのだった。それはモンタルチーノ商会の宇宙ヤクザとも、民間軍事会社の教官とも違う、ピンと張り詰めた、しかし其処に在るのは当然という、不可解な不自然さだった。 平日という事もあるが、桜並木に不思議と人通りは無い。その事実に遅まきながら気づいて鷹介は戦慄する。 人払いをした上で、途轍もない手練れが送り込まれたのだ。 そう理解するや否や、黒服の女は無造作に踏み出した。腰の上下動の無い、人間が知覚し辛い動きだ。気付いた時には『ぬるり』と指呼の距離に入り込んでくる。倒れる足を前に出すという生物として当然の動きを行いながら、害意のない筈のその踏み足は、即座に突き出される右腕へと大地の反動を伝え、凶器へと変えた。 路面を靴が撃つ心地好い音が、遅れて鷹介の耳に届く。女の拳が反射的に身を反らした目の前を行きすぎてゆく。親指と中指を柔らかく握りこんで、第二関節を立てているのが確認できた。人体の急所に容赦なく捻り込んでくる型だろう。 そんな判断が出来るのは余裕ではなく、ただの隙であり、次の瞬間には鷹介の顔は苦痛に歪んだ。途切れることなく繰り出された左のフックが、彼の視界の外縁から襲い来て、脇腹を突き刺したのだ。続け様にフックによって前に出た左足に代わって後方に下がった女の右足が、鷹介の懐に開いた僅かな間隙を縫って跳ね上がる。 鷹介の視界が強制的に上向き、口に中に金属の臭いが溢れた。後ろに倒れこむのに任せるのと、ズボンのポケットの中の存在を意識したのは、ひとえに、荒事慣れした暴力への耐性だった。 片膝立ちに堪え、セシルから貰った銀の棒を横に振り抜く。 履物が舗装をこする擦過音が耳についた。 血の華が咲くやと見紛う会合の後、次の瞬間には両者の距離は開いていた。鷹介は膝立ちに液体金属の太刀を抜き付けた姿で、女はその抜き打ちをかわして跳び退った姿で。 「やめよ!」 たまらずセシルが語気を強めた制止の声をかける。すると最前までの威圧感も嘘の様に雲散霧消し、黒服の女は拳を解いてセシルへ歩み寄っていった。 何だって言うんだ、全く。膝を伸ばして、悪態のひとつも吐こうとした鷹介だったが、頬の内側だろうか、じりじりとした焦熱と通電したような嫌な痛みを感じて言葉を飲み込んだ。 蹴り上げられた際に歯で頬の内側を切り裂いてしまったのだろう、想像だにしたくないが、口の中に出血と思われるヌルつきが広がってくる。例え傷が塞がっても口内炎は併発するだろう事に思い至れば、なんとも情けない気分になってきた。 と、そこへセシルがつかつかと寄って来て、 「許せ、ヨースケ。しかし、こっぴどくやられたモノじゃな。カナイは妾の筆頭警護女官ゆえな、腕前は帝国でも指折りじゃ。そなたが自信をなくす必要は無いぞ?」 僅かに愁眉を寄せている辺り、侘びるような節は感じ取れた。そもそも鷹介にしてみれば、なんで襲われたのかが判らない。ナンデ?と口を開きかけると、それを制するようにカナイと呼ばれたあの黒服女がズイと前に出てきて、なにやらチューブから軟膏らしきものを指先に塗り、容赦なく彼の口に突っ込んできた。 傷口に指先が触れる刺激が脳天にまで駆け抜けていった。 鷹介は目を白黒させ、それでも喉の奥で呻きを押し殺し、開いたままの口から変な悲鳴になってこぼれ出るのを堪える。そういう『男の子』な反応を好ましく思ったものか、セシルに筆頭警護女官と呼ばれた女は口元を僅かにほころばせて言った。 「細胞賦活ジェルを塗りました。傷口は明日には塞がるでしょうが、急激な細胞分裂で発熱する可能性があります。辛い様なら市販の解熱剤でも服用してください」 落ち着いた、大人の女性の声だった。それに嗅ぎ慣れぬが、不思議と心地好いエスニックな芳香がした。思わぬ接近遭遇は最前の立会いよりも鷹介の思考を圧迫する。 どぎまぎする内にはカナイは体を離し、セシルに向かって居住まいを正して報告を始める。 「殿下、お迎えに上がりました」 「まことにご苦労。しかし、もそっと待てはせなんだか?」 「限界までお待ちして、且つ、小職の任務を遂行した結果、このような仕儀と相成りました」 「是非もなしじゃな」 「なおトラクタービーム到着まで30秒です」 「よく出来た女官殿じゃ」 セシルが最後についた言葉は皮肉であろう。 蚊帳の外の鷹介にもそれは判った。それに、何が何だか判らないうちに、この邂逅が終わろうとしている事も。だから鷹介は一寸考えて、結局、出てきたのは気の効いた台詞ではなく、 「悪漢に追われている女の子はいなかった…そういう事で良いんだよな?」 「それで構わぬ。安心せよ。お陰で良い視察になった」 「…君はツルギスタンやセランの人間なのか?」 セシルは不敵な笑みを浮かべて何か答えた。しかし、その時には暖色の光が天から差し込み、声が聞こえるより早く二人の女性を空へと引き上げていった。 後に残されたのは呆けた顔の鷹介だけ。 非現実的な出会いは、これまた非現実的な終わりを迎えたわけだ。 彼女は何者で、何を視察していたと言うのか。或いは…鷹介は刹那浮かんだ自意識過剰な推測を、苦笑でもって笑い飛ばした。口の端を曲げると、まだ中の傷が痛んだ。 「或いは、感付いたやも知れぬな」 トラクタービームで収容された白亜の小部屋でセシルは唐突に呟いた。 「何がでありましょう?」 後ろに侍るカナイが即座に問うてくる。彼女の培ってきた直感は、それが主の独り言ではない事を感じ取っていた。 「妾が何を視察に出向いたのか、その本人が、じゃ」 「非時(ときじく)の歯車と、それを廻す者ですか」 「ダイガストとやら…それを理解して使っているとは思えぬが」 「操縦者に徹するのであれば、それは意味を成さない事かと」 「然るべき時に、然るべき者が知っておれば良いわけか…」 その時なぜか大江戸先進科学研究所や国会議事堂で盛大なくしゃみをした人物がいた訳だが、それは当事者達にも故が判らぬお話。 会話を続けながらカナイはミラーシェードを外した。隠す必要の無くなった容貌は、凛と引き締まった美女といって差し支えないが、筆頭警護女官なるお堅い役割のためか喜怒哀楽を感じさせない。 能面じみた美女はネクタイを解き、更にダークスーツまで脱ぎ捨てる。シャツの下にあったのは女性らしい下着ではなく、ウェットスーツのような全身を覆うインナーだった。肢体にピッタリと張り付くようなデザインだが、悩ましげな稜線に目を奪われるうちには、下半身を覆うスカートがインナーの腰からスルスルと伸びてきたり、襟元や袖口を思わせる部品が出てきたりして、衣服の体裁を整える。そこに何処から取り出したのか、フリルの付いたヘアバンドを頭に乗せれば、なるほど、侍女であった。 続けて彼女は『失礼いたします』とセシルに断りをいれるが早いか、そのお仕着せの示す如くに、彼女の衣服を流れるような早さで脱がせ始める。セシルも衣服の着替えまで人任せである事が当然なのだろう、時折肩を上げたり、腕を引いたりして脱衣に協力しているが、基本的にはされるがままだ。 「それで、筆頭女官殿の御目がねには適ったのであろか」 脱ぎかけのワンピースからまろび出た肩は、矢張りぴっちりとしたインナーに包まれていた。 「ダイガストの操者はの?」 「小職が女であろうと、勝てないのなら武器を手に取った、あの思い切りは評価できます。このままツルギスタンと小競り合いを続ければ優秀な戦士になりましょう。しかし殿下の剣を下賜するには、些か現状認識が甘いように見受けます」 「然り。不特定の悪意を相手取るには、善良ですらあるな」 「ならば飼い馴らしませ。大義を与え、誇りを安堵し、帝国の剣として存分に奮わせましょう」 「それで満足するほどに、あの国は未だ窮しておらぬ。帝政ツルギスタンもセラン諸惑星連合も、歩兵を擁するような本格の戦はしておらぬからな。ゆえに目に見える被害は少なく、街は平穏を保っておる。そして、おそらくはあの国の為政者も、それを維持する事に腐心しておる。まだ、その時ではないのじゃ」 セシルの時節を窺う発言にカナイは声にならない程度の溜息をついてから、主の肩に薄衣をかける。暖色で向こうが透けて見えそうな薄絹だが、不思議と袖を通してもセシルの肢体が垣間見えることはない。それを三枚も重ねてカナイが飾布で腰に留め、最後に陣羽織にも見える長衣を着せる。 「では殿下は今しばらく宮廷動物園の狐狸の御相手を続けねばなりませんね」 カナイの言葉は警護官として常に付き従う自分にも言えることであり、最前の溜息とはつまりは主従の難儀な前途に吐いたものであった。 常日頃から鉄面皮である優秀な警護女官殿のやや疲れた様子に、セシルは微笑を浮かべて問うた。 「なれば、此度の視察の供廻りは気晴らしになったであろ?」 「お戯れを」 一言のもとに切り捨てたカナイは、これまた何処から取り出したものか、勲章の類を取り出してセシルの上衣の左胸に取り付けてゆく。彼女が最後に羽織った陣羽織のような衣服の肩口には、金糸の線が幾本も曳かれており、そうやって勲章の類を添えてゆくと軍装なのだと理解できた。 それからカナイは主のメイクが崩れていないか点検し、鷹介に連れ廻されてほつれた編み込みに微かに目尻を動かしてから、金の髪止めを挿してそこを糊塗した。何しろ多忙な主が、スケジュールの合間を縫って強行した視察であるからして、身支度の時間がなかった。 「出来上がりで御座います」 言外に『不本意ですが』と注釈がつきそうな具合で告げると、セシルもカナイのように音にならない程度の溜息を吐いた。しかし次に顔を上げた時には、それをおくびにも見せぬ貴人の仮面を着けている。 「ご苦労。さて地球に関する介入であるが、今しばらくは戦況を見定める。妄想狂のフィクシオン連合王国や、人を人とも思わぬルドヴィコ人民発展委員会どもに深宇宙への橋頭保をくれてやるのは業腹ではあるが、あくまで我等は人類領域の護持が命題じゃ。これが危ぶまれるまでは、第五惑星近傍で好機を見図ろう」 「御意」 「それとな」 続ける言葉にセシルの頬がにわかに緩んだことをカナイは見逃さない。 「ダイガストの操者な、あれを、カナイが暇な時で良いから鍛えてやってたも」 「筆頭警護女官が暇な時という前提に疑問を感じますが、承りました。殿下に剣を下賜される事がどういう意味か、しっかりと解らせておきます」 「怖や怖や」 その時、地球では鷹介が唐突な寒気に襲われていたのだが、これも当事者には与り知らぬお話。 手短かに今後の方針を定めた主従は、今度こそ居住まいを正して壁の前に立った。そうすると白亜の壁に四角く切れ込みが入り、音もなく上方へとスライドして道が開く。 と、小部屋がつながった先から眩い灯りが差し込んできた。ホールを照らす照明の輝きだ。そこでは様々な恰好をした老若男女が談笑をしていた。その出で立ちが一目に高級である事と、笑顔と言っても目までは笑っていない者が多い事が共通項か。 山海の珍味がよそわれたテーブルが居並び、その間をカナイと同じお仕着せに身を包んだ侍女が行き来して、客からの飲み物やら何やらの要求に応えていた。ホールの隅には楽団が控え、地球で言うところのバロック調の楽曲を奏でていたが、こういう席なので音は控えめだった。 詰めかけた客達は地球に押し寄せた銀河列強の高官達である。彼らはある一人の人物のご機嫌伺いに、彼らの戦争計画を止めてまで訪れている。それはカナイがよく通る声で大音声に告げた貴人の事であり、 「銀河帝国近衛艦隊提督、セシリアンダ・アウロラ・プラエトリオ・ガラクシア皇女殿下である」 銀河に広がる汎人類種による文化圏の中芯たる斜陽の帝国。その末に連なる美姫は、外行きの微笑を浮かべると、形ばかりの恭順を示す旧領よりの使者の輪の中へ歩を進めるのだった。 午後の訓練を終えた柘植隼人准尉は、駐機場までF-2戦闘機を何とかタキシングすると、機付きの整備士に引っ張って貰い、這う這うの体でコクピットから出てきた。 まだまだ半人前なパイロットが狭い操縦席に収まり、極度の緊張下でもって教官に追いまくられるのだから堪ったものではない。耐Gスーツの中は汗で蒸れに蒸れ、頭から湯気が立ち上りそうだ。装具やヘルメットを投げ捨てて、その場に崩れ落ちたい程の疲労を感じていたが、すぐにデブリーフィングという駄目出しが待っている。寝転がるような贅沢は出来なかった。 速成の決まった隼人達教育隊への訓練は、必然、苛烈なものになった。連日のように空に上がり、クタクタになるまで飛行訓練を続けると、着陸次第の駄目出し。これを午前と午後で繰り返し、日によっては夜間飛行も行われる。各基地の航空隊でもフライトになれば日に三度、四度と飛んで訓練に明け暮れるが、地上勤務やアラート待機の日だってある事を考えれば、隼人達は限界まで締め上げられ、鍛え上げられているわけだ。 それでも圧倒的に足りない飛行時間を補うため、F-2複座型の後部座席からはシートや計器が取り外され、『大江戸研』との怪しげなプレートのついた黒いボックスが収まっている。黒箱の中身は列強の航宙機にも使われる電子機器が詰まっているそうで、F-2内のセントラルコンピューターに増設――どちらが主体かは、この際問題ではない――され、離着陸や航法、火器管制のサポートはおろか、データリンク機能まで付与されていた。 至れり尽くせりだが、そんな便利な物も後部座席を占拠するサイズであり、まして複座型として機首を延長して機材を積み込んだ分の重量増加がチャラになるわけではない。むしろ単座のF-15やF-2に積めるサイズでは無いので、隼人達のような若鷲の手を引くために用意されたようなものだ。 そこまで御膳立てされて、果たして自分達の出番は何時になるのか。 夜毎に実戦への恐怖に押し潰されそうで眠れない、なんて繊細な悩みはない。幸いにして毎日のシゴキのお陰で疲れ果て、布団に入れば泥のように眠るだけだ。 だが漠然とした不安はある。自分は戦闘機パイロットとして役に立てるのか。それとも過酷な訓練の甲斐もなく、いつかくる初陣で何の戦果もなく撃墜されるのか。 死という曖昧なものより、ここまでの自分の全てが無為に終る事の方が堪えられなかった。 それなのに空に上がれば、今日も教官に苦も無く捻じり伏せられる。挙句、上官に付けられたTACネーム(空自パイロット間での愛称)がブービー…最下位の意味だが、この場合はドンケツあたりが的確か――だ。現に僚翼達の中で教官に追い回されてしごかれる時間は、どう考えても自分が一番長い。 これでは不安は募り、自信は消えてゆくばかりだ。 倦んだ思考に陥りがちな若人の目に、格納庫に横付けしたトラックからコンテナが下ろされているのが見えた。そろそろ四発の対艦ミサイルに増槽を付けたフル装備での飛行訓練をやるとか聞いていたので、訓練用の模擬弾だろう。 望む望むまいに関わらず、訓練は進んでゆく。あの後部座席に居座る物言わぬコンピューターは、自分達に落伍する選択すら与えない。 イカレタ宇宙人達に対抗する術が有るだけマシじゃないかと言われそうだが、当事者にとっての悩みはまた別だ。 だから、結局は、やるしかない。 隼人は日に幾度も思いつく科白を自分に言い聞かせ、疲労で重さが割り増し感の装具を引きずりながら、ブリーフィングルームを目指して足を進める。 次々と格納庫に積まれてゆく機材が、後に自分達にどのような厄介事となって降り掛かるか、露と知らないままに。 それはASM-2…93式空対艦誘導弾の模擬弾などではなく、宮城県松島基地へと送られるはずの無人電子戦機だった。前回セラン小惑星連合に一泡吹かせた、誘導弾の弾頭をジャミング装置に置き換えた物だ。 もはや直接の原因は解らない。青森の占領と共に三沢基地から松島基地へと後退したF-2の飛行隊に届けられる筈の物が、本来松島で訓練を受ける筈だった隼人達に届いてしまった。 悪いことに、東北各地の自衛隊の基地では北海道と青森からの後退組の受け入れと業務割り振りで混乱が発生し、日々、意味の有るのか無いのか解らない書類が乱発されていた。教育隊の整備士達も実戦部隊の、それも外部から持ち込まれた急増の装備にまで知識がある訳もなく、コンテナの中の数が合っているのを確認すると、後は格納庫のオブジェとなってしまった。 それはまるで時限爆弾のように不気味な沈黙の中に潜み、時が来るのを待つのだった。 つづく
https://w.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/767.html
気が付いたら文末が欠落していましたので補修しました。ご迷惑をおかけしました。 雑誌「潮」1971年11月号 特別企画・沖縄は日本兵に何をされたか 《私記》私は自決を命令していない "極悪無残な鬼隊長だった。といわれているが、ことの真相を事実に基き明らかにしたい 赤松 嘉次 元海上挺進第三戦隊長・肥料店経営 《私記》私は自決を命令していない怒号のアラシの出迎え 出撃を中止した背景には 曲解された"軍命令" 住民の集結すら知らない 住民を惨殺したというが 投降までのいきさつ 投降時、村に三つの色分け なぜ現地調査をしないのか 【写真】渡嘉敷島へ転進まえの筆者(当時23歳) 怒号のアラシの出迎え 「何しにノコノコ出てきたんだ! 今ごろになって!」 「おまえは三百人以上の沖縄県民を殺したんだぞ! 土下座してあやまれ!」 耳をふさぎたくなるほどのすさまじい怒号が、飛行機のタラップから降り、空港エプロンに向かった私を急襲した。エブロンには数多くの、抗議団と称する人々が集まっていて、口々に「人殺しを沖縄に入れるな!」「赤松帰れ!」のシュプレヒコールを、私にあびせかけてきた。 戦時中の基地であった渡嘉島で、昨年の三月二十八日行なわれるはずだった「第二十五回忌合同慰霊祭」に、島の人々に招かれて、私たち海上挺進第三戦隊の生存者の有志たちが、訪沖の第一歩をしるしたさいの出来事である。 ある程度のことは予想していたのだが、かくも激越な抗議デモに出迎えられ、モミクチャにされるとは夢想だにしなかったし、また、その後約半月にわたり、沖縄の新聞でいろいろと取りざたされたのには、驚きをいだいたというより、まったく戸惑ったというのが実感である。 それまでにも、週刊誌等に数回、私のことが取り上げられていたが、多くは興味本位的な記事であり、いかにも私が「三百有余」の島民に一方的に自決を命じたかのような内容が、沖縄の方々に深く信じられているとは、夢にも思っていなかったのである。 日本でも、戦後しばらく暴露的な読み物や映画が多く出回り、世人のヒンシュクを買ったが、しだいに生活が落ち着くとともに、それらの多くは姿を消していった。だから、渡嘉敷での私たちのことも、時日が真相を明らかにしてくれるものと信じていた。さらに、戦後、沖縄の知人との文通も途絶えがちで現地沖縄の様子もわからぬまま、慰霊祭参列のための訪沖となり、抗議デモに遭遇したのである。 私には大学にいっている娘がある。この娘が事件を知って「お父ちゃんは軍人やった。軍人なら、住民を守るのが義務じゃないか」と私に質問したことがある。そのとおりなのだ。いかにして島を死守し、最後の一兵まで戦うかに夢中だった状態のなかでも、われわれはなるべく住民を戦闘に巻き込まないように心がけた。 いまさら、弁解がましく当時のことを云々するのは本意ではないが、沖縄で"殺人鬼"なみに悪しざまに面罵され、あまつさえ娘にまで誤解されるのは、何としてもつらい。編集部からの切望もあり"誤解"されている間題点のひとつ、ひとつを以下で説明してみようと思う。 現在出回っている、おびただしい数の沖縄戦記物の多くは、一九五三年にまとめられた『慶良間列島・渡嘉敷の戦闘概要』(渡嘉敷村遺族会編)の記録をパラフレーズしている。この記録は、当時の村長だった米田惟好氏(のぷよし、旧姓、古波蔵=こはぐら)を中心に編まれたものである。 出撃を中止した背景には 昭和ニ十年三月二十一日から、米軍は大空爆と艦砲射撃を加え、山は、二日も三日も燃えつづけ、火は夜空をこがした。ところが、海上挺進隊の隊長だった「赤松大尉は船の出撃を中止し、地上作戦をとると称して、これを自らの手で破壊した」(中野好夫.新崎盛暉著『沖縄問題二十年』岩波新書)という。 私たちの海上挺進隊は、ベニヤばりのモーターポートに120キログラム爆雷二個を積み米軍船団を夜襲、体当たりを敢行する特殊部隊だった。慶良間に三隊(座間味、阿嘉の両島に第一、第二戦隊がいた)、沖縄本島に三隊の、計六戦隊が配置されていた。隊員は第三戦隊の場合、当時二十五歳だった私を長に、十六~十八歳の特別幹部候補生百四名で編成(開戦時には病気、事故などで百名を割っていた)百隻の○レ(マルレ)艇を有していた。 出撃準傭から船舶自沈にいたるまでの状況を、戦闘中、基地勤務隊の辻政弘中尉が塹壕の中で書き綴った第三戦隊『陣中日誌』に追ってみよう。 【写真】戦闘のさなか渡嘉敷島で記した『陣中日誌』 【引用者註】これは戦闘中塹壕の中で書き綴ったものではない。後1970年に、元本部付特幹兵谷本小次郎氏が中心となって書き直したものである。「ある神話の背景」もそう説明している。 「三月二十五日晴、暁と共に敵機の来襲を受く。〇九三〇敵機動部隊は巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、砲艦等約十五隻慶良間海峡に侵入、我が地上陣地、基地設備に織烈なる艦砲射撃を受く、我が方反撃する火器なきため水際陣地等に於いて夜のとばりを待つ、一七〇〇頃より敵機動部隊監視艦を残し南方洋上に退去……二〇〇〇戦隊長(赤松)出撃を考慮し、独断各(中)隊1/3の舟艇に泛水を命ずると共に本島船舶団本部に『敵情判断如何』と打電。……二一三〇船舶団本部より『敵情判断不明、慶良間の各戦隊は情況有利ならざる時は、所在の艦船を撃破しつつ那覇に転進すべし』との返電あり」 (引用者注)上記は、原本である辻政弘中尉が塹壕の中で書き綴った第三戦隊『陣中日誌』ではない。原本は以下のとおり 三月二十五日 晴 於 渡嘉志久 一、敵機常時在空三○―四○機主目標ヲ基地設備並ニ地上陣地ニ対シ爆弾焼夷弾投下銃撃モ加フ 敵機動部隊ハ巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、砲艦等約十五隻 慶良間海峡侵入 我ガ地上陣地並ニ基地設備ニ対シ猛烈ナル艦砲ヲ加フ 船舶団長基地隊長以下十五名座間味島ヨリ橇船ニテ阿波連ニ上陸後渡嘉志久本部ニ来隊セラル 二、転進命令 軍並ニ軍船舶隊ヨリ部隊(戦隊ノミ)那覇ニ転進命令ヲ受領ス 勤ム隊主力整備隊一部並ニ水上勤ム隊ノ主力ハ船舶團長ノ意考ニ依リ渡嘉敷島ニ残留敵ヲ邀撃ニ訣ス 二二:二○部隊全員ヲ以テ舟艇泛水ノ作業を実施ス 珍しい条件付きのこの本部命令は、ちよっと類がない。だが、この命令下令は、当時のことを記した軍関係の本(自衛隊保存)にも出ている。私どもが故意に、もしくは無意識的に、無線を誤読したわけではない。「戦隊長は命令を協議の上、本島転進に決し……残り2/3の泛水作業を決行……折から慶良間列島を視察中の第十一船舶団長大町茂大佐以下十五名敵戦艦の中を突破……上陸」 ところが、慶良間列島をあちこちと視察しておられた船舶団長は、この命令を知らず、上官無視だと非常に立腹された。私は敵中突破して那覇に向かう決心を述べたが、団長はなかなか同意してくれない。種々協議の結果、戦隊の主力(一個中隊欠)をもって、大佐を護送することを決定。この間の事情も『陣中日誌』に明記されている。 「三月二十六日晴、出撃準備命令(註・大佐護送のため)湾外より艦砲受け、水面にて瞬発信管により散弾飛び散り、又焼夷弾山の肌を焼く中泛水作業……敵を迎撃する基地特設隊の感情交錯し、干潮のためリーフ各所に露出、延々五時間を要し、東天既に黎明近く、白昼編隊を組んで敵機動部隊の中をベニヤ製の攻撃艇が本島に到達すること不可能なるを考え、船舶団長(大町)再び艇の収容揚陸を命ず。戦隊長(赤松)現在使用しうる人員を以てする揚陸は不可能と判断、団長に出撃命令下令を懇願せしむるも空しく……全員揚陸作業行なうも、敵機の空襲(グラマン機)を受く。茲に於て遂に涙をのんで残余六十余艇の舟艇に対し自沈を命ず」 以上で、私が生命への未練や気遅れから、身がってな"破壊命令"を出したのではないことだけは、わかってもらえると思う。 (引用者注)この日の記述も陣中日誌原本ではまったく違う 三月二十六日 晴 於 渡嘉志久 旭沢 一、渡嘉志久基地全舟艇ノ泛水並ニ出撃準備着手スルモ泛水作業悪ルク泛水ニ五時間ヲ要シ出発準備完了ハ払暁ニ近ク然モ敵駆逐艦、魚雷艇慶良間海峡ニ遊弋シ那覇転進ハ不可能ノ状態トナレハ部隊ハ他日ヲ期シ涙ヲ呑ンデ三中隊ノ二艇ヲ残シ全舟艇ヲ渡嘉志久湾ニ自沈ス 二、阿波連基地ニアル第一中隊ハ泛水ハ阿波連湾内ニ敵駆逐艦並ニ魚雷艇アリテ泛水不能ナリ 三、 敵機常時二○ー三○爆撃並ニ渡嘉志久湾ニハ敵舟艇数隻ヲ以テ艦砲射撃ヲナス攻撃目標ハ自沈舟艇、地上陣地、棲息設備ニシテ猛烈ヲ極ム 四、戦隊本部旭沢ニ転移ス、船舶団長、基地隊長鈴木少佐外一名那覇帰隊ノタメ舟艇二ヲ以テ出発ス 中島少尉、竹島候補生、操舵手トシテ 整備隊下士官一、兵一ハ助手トナリ出発ス 五、損害 人員 戦死者 水勤隊軍夫 二名 負傷者 三島候補生 一名 曲解された"軍命令" 次にこれまでの戦記によると、その後私は、「上陸したアメリカ軍を地上において撃減する戦法に出る、と宣言、西山A高地に部隊を集結し、さらに住民にもそこに集合するよう命令を発した。住民にとって、いまや赤松部隊は唯一無二の頼みであった、部隊の集結場所への集合を命ぜられた住民はよろこんだ。日本軍が自分たちを守ってくれるものと信じ、西山A高地へ集合したのである。しかし赤松大尉は住民を守ってはくれなかった。『部隊は、これから、米軍を迎えうつ。そして長期戦にはいる。だから住民は、部隊の行動をさまたげないため、また、食糧を部隊に提供するため、いさぎよく自決せよ』とはなはだ無慈悲な命令を与えたのである」(上地一史著『沖縄戦史』時事通信社)という。 二十六日夜、大町大佐を渡嘉志久の基地から送り出したあと、私たちは山の反対斜面に本部の移動計画を立て、寝ていると、十時過ぎ、敵情を聞きに部落の係員がやってきた。私が「上陸はたぶん明日だ」と本部の移動を伝えると「では住民は? 往民はどうなるんですか」という。正直な話、二十六日に特攻する覚悟だった私には、住民の処置は頭になかった。そこで「部隊は西山のほうに移るから、住民も集結するなら、部隊の近くの谷がいいだろう」と示唆した。これが軍命令を出し、自決命令を下したと曲解される原因だったかもしれない。 住民の集結すら知らない しかし、村当局が、部隊の背後に隠れるのが、もっとも上策だと判断したのも、とうぜんだろう。村では、まえまえから集結する計画もあったのではないかと思われるフシもある。もちろん米軍上陸前に出撃してしまう隊長に、上陸後の村民の処置など相談する必要はなかったのであるが……。 二十七日、米軍の上陸開始、二十八日には部隊も住民も完全に包囲されてしまった。われわれの陣地のほうからは、集結した住民の姿も見えなかった。『陣中日誌』を開くと―― 「三月二十八日 小雨 晴 夜雨、昨二十七日上陸したる敵は一部海岸稜線上を渡嘉志久へ、一部は我陣地北側の高地に布陣せるものの如し……昨夜出発したる各部隊夜明けと共に帰隊、道案内の現地召集隊の一部、支給しありたる手榴弾を以って家族と共に自決す。……小雨の中、敵弾激しく、住民の叫び阿修羅の如く陣地彼方に於いて自決し始めたる模様。(註=自決は翌日判明したるものである) 【引用者註】はてさて、「住民の叫び阿修羅の如く」は翌日聞こえてきたのであろうか? それに、「住民も集結するなら、部隊の近くの谷がいいだろう」と示唆しておきながら、「住民の結集すらしらない」というのは、「われわれはなるべく住民を戦闘に巻き込まないように心がけた」ことになるのだろうか? 【引用者註】この日の陣中日誌原本では、自決に関する記述は一切無い。詳しくは、赤松隊「陣中日誌」改竄の一端参照。 三月二十九日 曇雨 悪夢の如き様相が白日眼前に晒された、昨夜より自決したるもの約二百名(阿波連方面に於いても百数十名自決後、判明)首を縛った者、手榴弾で一団となって爆死したる者、棒で頭を打ち合った者、刃物で頸部を切断したる者、戦いとはいえ言葉に表し尽し得ない情景であった」とある。 【引用者註】これは、完全に自己撞着である。赤松元大尉が曽野綾子に語ったこととも矛盾している。この『従軍日誌』が後から書かれ、「様々な戦史」との辻褄合わせに苦心したものであることが窺われる。 【引用者追記】「従軍日誌」の原本をみれば、このような表現は一切無く、1970年段階の創作であることは明らかである。 さまざまな戦記にあるごとく、私が、自決に失敗した住民が軍の壕へ近づくと、壕の入り口で立ちふさがり、軍の壕に入るなとにらみつけたかどうか。 第一、当夜、私は住民と顔を合わせていない。前述のごとく集結していたことすら知らなかったのだ。この「住民を自決から救えなかった手ぬかり」は、私もじゅうぶんに責任を感ずるところである。ほんとうに申しわけないと思っている。 三月二十一日夜、舟艇出撃の諸準備完成を機に、私は渡嘉敷部落に帰り、村長以下村の有志と夕食をともにし、今日までの協力を感謝し、さらにこんごの協力を要請したのである。しかし、両者の意思疎通をはかるため、早くからこのような機会をもつぺきであったと反省している。 自決命令を下したあと「赤松大尉は、将校会議で『持久戦は必至である。軍としては最後の一兵まで戦いたい。まず非戦闘員をいさぎよく自決させ、われわれ軍人は島に残ったあらゆる食糧を確保して持久体制をととのえ、上陸軍と一戦を交えねばならぬ。……』と主張したという」(岩波新書・同前書) 糧秣に関しては、米軍が四月上旬に沖縄本島に兵力を集中していらい、五月中旬まで攻撃が中断していたころ、村長と会合をもち糧秣協定を結んだものだ。鶏と豚は村民が、牛は部隊がとる。イモは、わが軍が米軍の鉄条網を切断、前のほうを部隊(すでに米軍基地となっていた場所だから危険なのだ)、後方は住民と分割、協同作業を行なった。部隊全体としてほ、住民に対して糧秣の圧迫を加えたことは一度もない。一部の兵隊か空腹のあまり、部落民に食糧をねだったかもしれないが、この程度の例外はいたしかたないだろう。 私の部隊で、新海中尉をはじめ数十人の栄養失調による死者を出したことでも、食糧のない苦しさにどれだけ耐えていたか、一端がうかがえるというものではなかろうか。 「赤松大尉は、その他にも、住民を惨殺している。戦闘中捕虜になって伊江島から移住させられた住民の中から、青年男女六名のものが、赤松部隊への投降勧告の使者として派遣されたが、彼らは赤松大尉に斬り殺された。 集団自決のとき、傷を負っただけで死を免れた小嶺武則、金城幸二郎の十六歳になる二人の少年は、アメリカ軍の捕虜となって手当を受けていて、西山に避難している渡嘉敷住民に下山を勧告してくるようにいいつけられたが、途中で赤松隊に捕まり射殺された」(『沖縄県史・各諭篇7』嘉陽安男編) 住民を惨殺したというが 第一の場合、米軍の背後で(渡嘉志久)生活していた伊江島住民のなかから、男女三名ずつ歩哨線を抜けて、投降勧告にきた。女三名は取調べの田所中尉に、捕虜であることを告白したので、当時の戦陣訓の話をし、自らを処するように勧めた。帰してくれと懇願されたが、陣地内のモヨウを知っているうえに、戻れぱ家族の者もいることだし、情報がもれない保証はない。 それに陣地内におくには、先に述べたように糧秣が逼迫していて不可能だ……中尉に事情をじゅんじゅんと説かれて、最後には従容として自決したという。 男のほうは年配者だったと思う。女たちに男たちのことを聞くと、彼らは伊江島陥落のとき米軍を誘導してきた。今回も、自分たちだけで投降を勧めに行くと危いというので、女性を連れてきたという。この三名は自決に応じないので、斬刑に処した。現在流でいえば軍法会議を開くところだろうが、そんな余裕もなく、これは万やむをえなかった。 第二の場合はこうだ。二人の少年は歩哨線で捕まった。本人たちには意識されてなくとも、いったん米軍の捕虜となっている以上、どんな謀略的任務をもらっているかわからないから、部落民といっしょにはできないというので処刑することにいちおうなったが、二人のうち小嶺というのが、阿波連で私が宿舎にしていた家の息子なので、私が直接取り調ぺに出向いて行った。いろんな話を聞いたあと「ここで自決するか、阿波連に帰るかどちらかにしろ」といったら、二人は戻りたいと答えた。ところが、二人は、歩哨線のところで、米軍の電話線を切って木にかけ、首つり自殺をしてしまった。赤松隊が処刑したのではない。 投降までのいきさつ 「八月十五日、アメリカ軍は降伏勧告のピラを飛行機から撤いた。古波蔵惟好村長は意を決して集団で投降することにし、住民たちは栄養失調で疲弊し切った体を励ましあって下山してきたが、赤松隊は依然として投降勧告に応じなかった。新垣重吉、古波蔵利雄、与那嶺徳、大城牛の四名は再びアメリカ軍の命令で投降勧告に行った。捕えられぬよう用心しながら勧告文を木の枝に結びつけて帰るつもりだったが、与那嶺、大城の二人は不幸にも捕えられて殺された」(『沖縄県史』前同) このくだりも重要な問題を含んでいる。まず村長以下住民が投降したのは、八月十二、三日の両日だったのである。だから、十五日まで村長が投降しないでいたかのように書いているのは、事実に反する。間題の二人が歩哨線に引っかかったのは十六日の朝だった。歩哨兵に誰何され逃亡しようとして射殺されたもようである。(じつは、この二名の射殺の件は、つい最近耳にしたのである) 【写真】陸軍情報隊長・塚本保次大佐による投降勧告 ボツダム宣言受諾の報であるが、十二日ころから米軍無電の傍受により、うすうすその気配は感じ取っていた。ビラやスピーカーによる宣伝も盛んで「赤松隊長は、自己の信義を重んずるのあまり、部下にむりじいしてないか!」とか「あなた方だけが慶良間の一角でがんばっても大勢には、いささかの影響もない。一分、一秒でも早く住民と部隊を解放しなさい!」とか、まくし立てる。 十五日夜七時五十分ごろ「一億一丸となって……」の声が断片的にはいり、九時過ぎの、"時事解説"に「戦後いぱらの道を……」云云のことぱが聞かれた。 十六日払暁、先の四人の投降勧告者が残していった、竹の先に結んだ手紙が届いた。――戦争は終結、隊長か代理を米軍基地まで寄こせという文面である。全将校が集合協議の結果、軍使四名を派遭することに決定。このさいの会見により、大東亜戦争の終結、連合軍への降伏は動かぬ事実となったのである。 ついで十八日、私自身が米軍指揮官と会見、無条件降伏の詳細を知り、即時投降を勧告されたが、私は「我が軍は、所属する上級指揮官の命令がなくば、武装解除に応じられない」と要求。とりあえず、停戦協定のみを締結した。 すでに沖縄本島の三十二軍司令部は、すでに崩壊したあとなので、たまたま当日、大本営派遣軍使としてマニラヘ飛ぶ途中の川辺虎四郎中将の許可をもらい、かくして二十四日の武装解除の調印のはこびとなった。 【写真】米軍との間に交わした武装解除調印式の文書 村の記録や戦記によると、私はわが身の保身に汲々とし唯々諾々として投降したごとく描写されている。私としてぽ軍人らしい規律を重んじ、最後まで徹底抗戦の用意があり、降伏も上級司令官の命の後に行なった。この点に関しては、一点のやましさもないと明言できる。 投降当時の状況を思い出してみると、軍の者も疲労しきって満足に歩けない身体で、黙黙と壕を掘り、射たれっ放しで乏しい騨薬を持って、ただただ敵の近接を待つのは(主陣地では、小銃を三十メートル以上の射程距離で射撃することを禁じた)、異常なる精神力を要したのである。このような状況下でも、犬半の村民が八月十二日に集団投降するまでは軍とともに、苦しいなかをがんばってくれたことは、ただただ感謝のほかはない。 ただ三十余名の方が、私の勧告にもかかわらず、八月二十四日の武装解除まで軍と行動をともにされ、戦後、他の村民との間になにかミゾができたかに聞く。 投降時、村に三つの色分け 結局、村には投降の時点において三つの集団ができたのだ。米軍の後方にいた伊江島の住民、十二日に投降したグループ、八月二十四日まで軍とともにあったグルーブ。 伊江島の住民の処刑のどきは、村長も取り調べの現場にいて「おまえら日本人のくせに何だ」と詰間していた。それが、戦後いっしょに生活しなくてはならなくなったあたりにも問題がありそうだ。 八月二十四日、米軍に武装解除された部隊を涙を流して送ってくれた村の人々、昨年三月慰霊祭に旧部隊のものを暖かく迎え、夜のふけるのを忘れて語り合い、なかには、島に行げなかった私に、わざわざみやげ物を持って那覇まで会いにきてくれた村民に、私はあの島の戦史や巷の戦記物にあるような憎しみや、悪意を見いだしえないのである。 沖縄のある友人からの手紙は、 「私も四月三日に渡嘉敷島に渡り、島の人々が"あのこと"に対し、どのような反響を見せるか、ただ注意深く見守っておりましたが、島の人には誰一人として貴殿に反意を持つものがいなかったことは、那覇でのあの騒ぎと対照した場合、いかにもおかしい気がして……。 ある人が村長に対し、なぜ赤松さんをご案内して来なかったのか、と詰めよる人さえあったのです。それも一人ではありません。数多くの人々がいっていたと村長はいっていました。(以下略)」 また先日、戦後のあるとき渡嘉敷で小学校長をやっていた人が、わざわざ私のところを訪ねてきて、 「赤松さんは集団自決の命令は出してない筈だ。軍が持つほとんどすぺての衛生材料(薬包帯等)を、集団自決に失敗した人たちのために使っているのだから。自分で下命しておき、そんな親切を見せるはずはないものですよ」といってくれたのである。 私の許には同様の趣旨の村民、あるいは村関係者からの手紙が数多くよせられているが、ここでは、そのひとつ当時女子青年団長だった伊礼蓉子さん(那覇市在住)の真心こもる所信を、ご紹介するにとどめておこう。 「赤松さまのことが話題にのぼる度に、ゆがんで書かれた渡嘉敷村の戦記がすべて事実に反することを証明し、その誤解をとく役目を果たさせて戴いております。 最後まで部隊と行動を共にして終戦を迎えましたが、その間、赤松さまの部隊の責任者としての御立派な行動は、私たちの敬服するところでした。(中略)村民に玉砕命令を下したとか、いろいろと風評はございますが、それは間違いで、あの時赤松さまの冷静沈着な判断によって、むしろあれだけの村民が生きのびることができたのだと申しましても決して過言ではございません。ゆがめられた戦記を読んで赤松さまを誤解している一部の反戦青年の来島反対にあい、渡嘉敷島まで行かれなかったことは、私たちをはじめ渡嘉敷の村民は心から残念に思っております」 なぜ現地調査をしないのか 村当局が戦記を村の公文書としてまとめた段階では、当事者にも、私個人をあれほどの"極悪人"に仕立てる心算はなかっただろう。ところが戦記が、マスコミの目にとまるや、事態はあれよあれよというまに急旋回、つぎつぎと刊行される沖縄関係の書物のいたるところに、赤松という大隊長が、極悪無残な鬼隊長として登場することになったのである。 ことに、左翼系の書物に、その煩向がとくに顕著だった。思想が異なり、時代のすう勢も変わったから、元陸士五十三期生の男が誹謗されるのも、運命かもしれない,いたしかたがないというものである。 だが間題は、その方法である。村の戦記の記述を一から十までウのみにし、さらに尾ヒレ手ピレをつけて、さも現揚にいて、すべてを見知っていたかのように描写する魂胆に憤激をおぼえる。 兵士の銃を評論家のベンにたとえれぱ、事情は明白だ。ペソも凶器たりうる。「三百数十人」もの人間を殺した極悪人のことを書くとすれば、資料の質を問い、さらに多くの証言に傍証させるのが、ジャーナリストとしての最小限の良心ではないのか。 戦記の作者の何人かは、沖縄在住の人である。沖縄本島と渡嘉敷の航路は二時間足らずのものなのに、なぜ現地へ行って詳しい調査をしなかったのか。その怠慢を責められてもしかたあるまい。彼らの書物を孫引きして、得々として"良心的"な平和論を説いた本土評論家諸氏にも同じ質問をしてみたい。 日本の良識を代表するといわれるA新聞に「丸々とふとった赤松大尉は女を従えて傲然と壕から出てきた」と書かれたこともある。当時の部下が皆知っているように、私は今よりもっとやせ、年齢も25だったから壕に女を連れこむほどの"才覚"は、みじんも持ち合わせてなかったのである。 以上を私の強弁、居なおり、傲慢ととる方もあろう。だが、ぬれぎぬをかぶられっ放しだった者には、これくらいの強腰がないと、かえって自己弁護も怯懦のいいわけととられかねないのである。 島の方々に対しては、心から哀悼の意をささげるとともに、私が意識したにせよ、しないにせよ、海上艇進隊隊長としての「存在」じたいが、ひとつの強力な力として、住民の方々の心に強く押しかぶさっていたことはいなめない、このことを、旧軍人として心から反省するにやぶさかでないむね申し添えておきたい。 船を失った私が、任務を沖縄本島の支作戦であると解釈し、渡嘉敷島にできるだけ長く米軍を拘束しようとしたことが、あるいは卑怯なように思われ、村民にも持久防御の辛酸をなめさせてしまったことを、深くお詫びしておきたい。 どうか私のいうことも信じてほしい。私も戦争中から戦後の今日にいたるまで、戦争という巨大な"罪過"のただなかで苦しめられ、痛めつけられてきた人間なのである。ここに述べるのは、私の血の叫びであるといえば、読者諸兄は、やはり眉をひそめられるであろうか。 (編集部=文中引用してある書簡は、すぺて筆者が保管してあるものです) 潮1971年11月号特集index
https://w.atwiki.jp/yukimi0/pages/175.html
10月末にもなると日が昇るのがずいぶん遅い。 時計ではもう午前5時を回っているはずなのだが、夜が明ける気配はない。 真っ暗な夜空に無数の星々が瞬いている。 今日は新月なので、一欠けらの明かりもなかった。 大地も山々の稜線も全て暗闇の中に溶け込んで、星々切れ目だけ僅かにそれが天と地の境目だという事を教えてくれる。 その真っ暗な早朝の荒野に、三機のモビルスーツが歩いていた。 シグナスと呼ばれる、リヴァイブの主力モビルスーツだ。 その彼らは普段の武装の他に、それぞれ巨大な円筒形の筒をいくつか持っている。 それをある程度歩いてその辺に突き刺す。 すると円筒形の筒は地面に潜っていった。 彼らはその作業を場所を変えつつ何度も繰り返していた。 『ローゼンクロイツの部隊は上手くやってくれるでしょうか?』 中尉の声が大尉のコクピットに流れる。 「……こればっかりはあちらさんを信用するしかないな。俺達は俺達の仕事をするしかない」 『それは、そうですが』 「不安か?」 モニターに覗く中尉の表情はいつもと変わらない。 だが僅かに漂う気配から、彼が多少の不安を抱えているのが大尉にはすぐにわかった。 だてに長年付き合っているわけではない。 「なにせこの三機だけで、アリーの街に攻撃を仕掛けるんだからな。正直、俺も怖いさ。だがここまで来たら開き直るしかないだろうよ」 『確かにそうですね。すでに賽は投げられたわけですし』 「そういう事だ」 フッと笑みを交わす二人。 この辺の阿吽の呼吸は今も健在だ。 するとその時、もう一つのモニターに軽薄そうな男が映る。 少尉だ。 『こっちは大体埋め終わったぜ。取りあえず準備はバッチリだ』 中尉と違って、少尉はむしろ楽しそうに見える。 この男なりには不安なのだろうが、少尉はそれをおくびにも出さない。 性格の差、といえばそうだが中尉が不安がるからこそ、少尉も脳天気でいられるのだろうと大尉は思う。 『貴方はなんでそう、脳天気なんですか?もう少し真剣に考えて下さい』 『んな事言ってもよぉ、今更考えても仕方ねーじゃん』 このような会話が出来るのはお互いの信頼関係に寄るものだろう。 「おい、もうそろそろ行くぞ。気合いを入れろよ」 大尉はうっそりと二人に言うと、遥か遠くに見えるアリーの街の明かりを確認する。 このコーカサス州の中では有数の大きな街の筈なのに、街灯の光は満足に見えなかった。 辛うじて、今にも消えそうな微かなともし火が、いくつか見えるだけだ。 単に占領されただけでそうなってるわけではない事は、大尉にも分かっていた。 コーカサス州全体がそうであるように、ここも飢えと貧しさとは無縁ではないのだ、と。 大尉は時計を確認すると、もうすぐ午前6時になろうとしてた。 まもなく夜が明けるだろう。 一日の始まりとともに、たった三機の無謀な喧嘩が始まろうとしていた。 荒野の中をサイドカー付きのバイクが砂塵を上げて走る。 シンとコニールだ。 コニールは砂に足を取られぬように、慎重に運転している。 サイドカーの席上ではシンが、目を閉じて黙り込んでいる。 これからの作戦のために、少しでも力を残しておきたいのだ。 ふと、コニールが口を開く。 「ねえ。あんた、ソラの事どう思ってるの?」 「何だって?」 「ソラよ。あの子の事をどう思ってんのって聞いてるの!」 そこにAIレイが口を挟む。 《この朴念仁にそういう質問は限りなく無意味に等しいぞ》 「お前、こんなにダストと離れていてもまだ通話出来るのか?」 《そうでもない。もうそろ……通話が出来な……る距離だ》 通信にノイズが走り始める。 電波が途切れそうになっている証拠だ。 「……シン、あのさ」 「コニール、今は作戦の事だけに集中しろ」 「……わかったわ……」 もうそれ以上、シンは何も言わなかった。 ただ無機質なバイクの走行音だけが二人の間に流れていく。 シンがこんな問いに答えないだろう事はコニールにも分かっている。 この男にはそういう話は無意味なのだと。 しかしそれでもコニールは確かめたかった。 つい聞いてしまった出撃前のシンとソラの会話。 そこでコニールは、ソラの気持ちが少しずつシンに向かっている事に気づいてしまったから。 かすかだが言いようの無い不安が彼女の中で頭をもたげる。 戦場で感じるそれとは全く異質なもの。 それが何なんか今のコニールには全く分からなかった。 (ダメだ。シンの言う通り今は作戦に集中しなきゃ) 雑念を振り払うように彼女は遠くを見やる。 「あ!見えてきたわよ!」 視線の先に目標物があった。 アリーの街より数キロの地点にある観光名所でもある遺跡『バルアミー鍾乳洞』。 そこが、シンとコニールの目的地だった。 「むぅっ……」 徴用した官舎の中に用意させた仮眠室で、アデルは大きく伸びをして体をほぐす。 昨日は結局、一睡もできなかった。 積年の恨みが果たせるという興奮からか、眠気が全く起きなかったのだ。 「クックックッ。イカンな、これではまるで初年兵のようではないか」 収まらぬ自分の気持ちの高ぶりに、アデルはたまらず苦笑する。 (昨日の内に来る、と思っていたんだがな。……ならば、今夜か?) 戦力が大幅に劣るリヴァイブが取れる選択肢は少ない。 相手の戦力が低い場合、守備側が気をつける事は『奇襲』だ。 戦力が戦力として機能しないタイミングを狙う、それは勝負の鉄則である。 新月で月明かりも期待できない昨夜であれば、それは絶好のタイミングであっただろう。 それ故、アデルは夜襲で来ると判断し、そのための布陣を敷いた。 だが実際には彼らはいつまで経っても来なかった。 そこでアデルは部隊を二部隊に分け、半数をそのまま警戒に、残りを休ませた。 設営した司令部に入ると、アデルは夜通し働いた兵達を労わりつつ、現状を聞く。 「どうだ?」 「いえ、未だ異常はありません」 「……そうか。あと30分したら、交代をよこす。お前達も少し寝て来い。意外に長丁場になるかもしれんぞ」 「はっ!」 ぼけた頭を覚まそうとアデルは当番兵にコーヒーを持ってくる様に言う。 するとその時、レーダーを監視していた士官が興奮した叫び声を上げる。 「ア、アデル大尉!アリーの街より九時方向、モビルスーツを三機確認!識別は“シグナス”、リヴァイブです!!」 「な、何!?」 よもやの来襲に一瞬アデルも慌てるが、直ぐに頭を切り換えて怒鳴りかえす。 「確かなのか!?この朝っぱらにか!?」 「間違いありません!!映像センサーでも確認されました!」 「どういう事だ?奴ら兵法も知らんのか!?」 「敵モビルスーツ、移動開始!真っ直ぐ街に向かってきます!」 しかしチャンスには違いない。 アデルの口元に思わず笑みが浮かぶ。 「よぉし!全モビルスーツ隊機動!敵モビルスーツを迎撃せよ!俺はムラマサで出る!!」 すぐにアデルはムラマサの格納庫へ向かう。 あの三機が出てきている、という事は例のガンダムタイプも居るはずだからだ。 アデルは勝利を確信していた。 兵法も知らぬ馬鹿を相手に負けるはずがない、と。 この時、その『馬鹿』に負け続けたという事実は、アデルの頭の中から完全に抜け落ちていた。 ルタンドの機動は早い。 とにかく現場からの声を聞いて作り上げられたモビルスーツだけに、機動シークエンスなどの手順は驚くほど簡略化が成されていた。 “搭乗者に優しい”という謎めいたキャッチフレーズ通り簡略化をコンセプトに作られたこの機体は、各機体の中でも真っ先に立ち上がる。 次いでゼクゥ。 バクゥの後続機種として作られた四脚モビルスーツで、よりスマートなシルエットをしている。 こちらも素早く機動していく。 両機とも迎撃用モビルスーツとしての特性を十分に兼ね備えていた。 そして最後に大型連装砲門を持つザウートゆっくりと動き出す。 砲撃戦には未だ威力を見せる地上戦用モビルスーツだが、こちらは旧式だけに少々手間取っているようだ。 ルタンドとゼクゥの混成部隊が街の中から出撃してくる。 それらの動きは、当然大尉達のシグナスのモニタでも捕らえていた。 『前方、敵モビルスーツ確認!ザウート3、ゼクゥ5、ルタンド5!』 中尉が叫ぶ。 三機のシグナスは緩やかに蛇行しながら、街目指して荒野をまっしぐらに走り抜ける。 すると彼らに向かって幾重ものビームが放たれた。 いくつもの光弾が横を通り抜ける。 遠くに見えるアリーの街の前で立ちはだかる、政府軍のモビルスーツ部隊が撃ってきたのだ。 まだ有効射程外だというのに。 「来るぞ!気合いを入れな!」 『了解!』 『おっしゃあ!』 あの可変モビルスーツ、マサムネの姿はまだ見えない。 第一次攻撃はマサムネが動き出すまでだ。 とにかくそれまでの間に、ある程度のダメージを与えておきたい。 大尉は決断する。 「ライトニング=フォーメーション!Act.アルファ!!」 大尉がそう言った直後、シグナス達の動きが一変する。 今まで蛇行していたその動きが一変する。 大尉と少尉が左右に分かれ、さらにスピードを上げて突撃してきた。 しかもその動きは一層鋭角的に大きな軌道を描くようになったのだ。 それに合わせるかのように、政府軍のモビルスーツ隊も左右に分かれた両機に次々と砲火を浴びせる。 ザウートの砲火が轟き、少尉機の直ぐ側で爆炎が上がる。 「んな、ヘナチョコ弾に当たるか!」 こんな程度で萎縮する少尉ではない。 ますます大胆にシグナスを駆る。 前衛のルタンドとゼクゥにビーム突撃銃を乱射する。 当たる当たらないではない、とにかく牽制だ。 同じように大尉機も乱射する。 大きく左右に動き回るシグナス二機と、街を背に陣形を取る政府軍モビルスーツ隊。 両陣営から放たれた無数のビームがいくつも交差し、宙を焦がす。 だがどちらにも致命打は与えられない。 やや戦線が膠着の様相を見せたその時、一条のビームが後列にいた後列に居たルタンドの頭部を破壊した。 「やったぜ!」 少尉が叫ぶ。 中尉のスナイパーライフルだ。 まるで針の穴を通すかのような見事な狙撃で、敵陣に穴の開ける。 中尉は大尉達が敵の攻撃を霍乱しているさなか、一旦下がったように見せかけ、その実後方から狙っていたのだ。 これが大尉達が編み出した戦術「ライトニング=フォーメーション」である。 三機一体で織りなす戦術の数々の中核であり、ここから数々の基本戦術が生み出されている。 そのうちの一つがAct.アルファと呼ばれるもので、少尉と大尉が敵を引きつけ、中尉が攻撃するというコンセプトのフォーメーションだ。 少尉と大尉が左右に大きくジグザグ動いて、敵の注意を引きつける。 一旦下がったように見せかけた中尉から敵の目を目をそらしつつ、スナイパーライフルで相手を狙撃。 すかさず離脱し体勢を立て直すという、所謂一撃離脱用のフォーメーションである。 勿論、中尉は一番後列から狙撃するので、撃った弾が少尉や大尉に当たる恐れはあるが、これまでも中尉は誤射をした事は無い。おそらくはこれからも。 陣形に穴を空けられ、一瞬政府軍モビルスーツ隊の間に動揺が走る。 「よし!マサムネが来る前に逃げるぞ!ライトニング=フォーメーションAct.ブラボー!!」 大尉がすぐさま指示を飛ばす。 『了解!』 『あいよっ!そこらじゅうに”目くらまし”をばら撒いてやるぜ!』 すぐさま少尉が前面にチャフの混ぜられたスモーク弾を発射する。 大尉達のシグナス隊と政府軍モビルスーツ隊の間に、真っ白い煙の壁が立ちはだかった。 Act.ブラボーは『撤退戦用の陣形』なのだ。 後詰め、いわゆる殿(しんがり)に少尉が当たり、大尉が指揮、中尉が支援砲火を行う陣形である。 チャフが混入したスモークの前ではセンサーも役に立たない。 視界を封じられた政府軍モビルスーツ隊、ゼクゥとルタンドの部隊が一気に突撃してきた。 その様子にコックピットの中で大尉はニヤリと笑う。 三機のシグナスはゼクゥ、ルタンド隊を引きつけながら撤退を図っていく。 かねてからの作戦通りに。 一方、リヴァイブ基地。 ローエングリン砲要塞を再利用したこの基地には、今人がほとんどいなかった。 基地の人員は戦闘のためにほとんど出払っていて、今残っているのはごくわずかな非戦闘員しかいない。 その中には指揮官たるロマもいた。 前線指揮は大尉に任せ、今回の彼の役目はリヴァイブとローゼンクロイツとの協調を取るための、前線に必要な情報や指示を送る事だった。 そのためにはすぐに情報が集められ、かつローゼンクロイツの上層部にもすぐに連絡が取れる基地の方が、何かと好都合だったのだ。 刻々と新しい情報が入ってくる。 ロマの見たところ、状況は今のところ順調のようだった。 「“釣り野伏せ”?」 耳慣れない言葉にソラはきょとんとする。 初めて聞く言葉なのだろう。 よく分からないみたいだ。 「大尉曰く“古き良き伝統”の戦い方、だそうだよ」 食堂で休憩に入れたコーヒーを飲みながら、ロマはそう言った。 彼の傍らには、いつでも対応できるように通信機が置いてある。 ロマが休憩に食堂を訪れると丁度そこではソラが、夕食の仕込みのためにジャガイモの皮むきをしている所だった。 すると作戦の状況が気になったのか、ロマの姿を見るや否や状況がどうなっているのか聞いてくる。 それはもうしつこいぐらいに。 出撃したシン達を心配しているのだろう。そこである意味やむなくロマはソラに状況を教えてやる事にしたのだった。 持っていた地図の上にチェスの駒を置いていく。 駒は大尉達と相手方のモビルスーツ隊の動きを表していた。 「大尉達は、まず敵部隊に一撃を加えて、そのまま攻め込むとみせかけて全力で離脱する。敵を引きつけながら、ね」 チェスの駒を動かしならが、ロマは説明を続ける。 戦略などソラには縁遠い内容の話だが、なんとなく言いたい事はわかった。 「敵を引きつけて罠にかける、という事ですか?」 ソラは歴史が好きだったから、軍記物なども良く読んでいた。 その中には撤退戦を仕掛け、相手を罠にかけるシーンが何度と無くある。 「それだけじゃあ無いんだよね、大尉の考えたシナリオは。あの人が味方で、本当に良かったよ」 「……はぁ」 “釣り野伏せ”とは数ある撤退戦術の中でも有名な戦法だ。 日本の戦国時代では島津義久が得意とした戦術であり、当時の天下人、豊臣秀吉に対しても一矢報いた程の有力な戦術である。 この戦術が成立する条件は二つ。 ①まず接触した部隊が、退却しつつ攻勢を加えていく。 ②①に呼応するように別働隊が敵側面を突く。 「これだけ見れば簡単そうなんだけどね。でもね、これが結構難しいんだ」 そういうとロマはまたチェスの駒を動かしていく。 「この作戦の重要なところは、実行には撤退をする部隊が敵を引きつけなければならない所にあるんだ。でも損害を与えすぎてはいけないし、損害を受けすぎてもいけない。損害を与えすぎると敵が追撃を諦めてしまって、戦力の分散ができなくなるし、逆にこちらの損害が大きすぎると、撤退すらできなくなる。微妙な匙加減が必要なんだよ」 「そ、それって凄く難しいんじゃありません?シンさん達だけでなんとかなるんですか?」 「そういう事。勿論、これだけじゃあ勝てない。なにせ今回の敵はとにかく数が多いからね」 ロマの説明にソラも頷く。 それぐらいは素人の彼女にも解る。 何故ならこちらの戦力だけでは①はともかく②をクリア出来ないからだ。 そんなソラの顔を見ながら、ロマは満足げに笑った。 「そこで僕が用意した『奇策』が生きてくるのさ」 シンとコニールはバルアミー鍾乳洞に着くやいなや、バイクでそのまま乗り込み、鍾乳洞内を走っていた。 「もっとマシな道は無かったのかよ!」 シンが叫ぶがコニールは意に介さない。 「仕方が無いでしょ!?こういう道しかないんだから!」 「これは『道』なんて言わない!大体、お前が教えてくれる『道』で良い事があった試しがあるのか!?」 バイクが大岩を飛び越え、その向こうの小道に着地する。 その横には断崖があり、一歩間違えばそこに落ちてしまうタイトロープのような有様だ。 (また鍾乳洞の中を行くハメになるとは思わなかったぜ……) ふとザフト時代の記憶が甦る。 当時シンはローエングリン砲台を陥落させるためにコアスプレンダーで飛んだ。 あの時もかなり肝を冷やしたが今度はバイクだ。 (アリーの街に着くまで、俺は生きて居るんだろうか……?) 今更愚痴を言っても仕方が無い。 仕方なくシンはシートに深くふて寝する事にする。 「……着いたら、起こしてくれ」 隣のコニールのやけに楽しそうな横顔を見ながら、シンは胃がキリリと痛むのを感じていた。 敵の三機のシグナスは牽制しつつ、撤退していく。 一方こちらは、ルタンドの一機が頭部を吹き飛ばされて行動不能になった他は、味方のゼクゥ・ルタンド隊が順調に敵を追い詰めていた。 この後さらにマサムネ隊が支援に加わる予定だ。 上空のムラマサから戦況を観察していたアデルは、テロリスト達が何を考えているのか推測していた。 (……罠、か。この戦力差ではそれしかないが) テロリスト達の狙いは、言うまでもなくアリーの街の奪還だとアデルは睨んでいた。 そのためにはアデル達政府軍を退けさせなければならない。 そう考えていくと、今のシグナス達の動きは『こちらを罠にかけるために動いている』と見るのが妥当だと、アデルは考えていた。 かといってアデルに兵を引かせる考えは無い。 アデル達の目的はアリーの街を守る事では無く『アリーを利用して、出てきたテログループを殲滅する』のが目的なのだから。 ならば多少の罠であろうと打ち破るつもりでいた。 それ故、アデルは敵の思惑が丸見えの撤退戦に付き合う事にした。 万が一の時はこのムラマサで支援してもいい。 戦力にはまだ余裕がある。 それが今のアデルに戦況をゆっくりと観察するゆとりをもたらしていた。 しかし、同時に彼は思考の隅に引っかかるものも感じていた。 (……戦力比を考えても奴らの方が劣勢なのは明らかだ。ならば同じ罠を仕掛けるにしても、夜襲で使うなり、奇襲を狙うなり、もっとこちらの隙をうかがう攻め方があったはず。なのに何故テロリスト共はそうせず、あえて白昼堂々攻めてきたのだ?) 今現在戦っているのはリヴァイブのモビルスーツ、シグナス三機のみ。 それが逆にアデルを不安にさせる。 (こっちのモビルスーツ隊を街から離させた後に、歩兵部隊でアリーの街を奪還するつもりか?いや、だとしても街に駐屯するこちらの部隊の方が数は圧倒的だ。それが分からん連中でもあるまい。一体どういう事だ……?) ゲリラは隠密行動に徹するから利があるのだ。 そこに罠を張るから、効果も上がる。 それすらもかなぐり捨てたリヴァイブの戦略に、アデルは不可解なものを感じていた。 (罠を仕掛けているのは間違いないだろう……?しかし一体どうやって?奴らの戦力にはもう余裕はないはずだ。それともまだこっちが掴んでいない隠れた戦力でもあるというのか?) 思考が答えの見えない疑問の迷宮に嵌る 疑心暗鬼。 これこそが、大尉の考えていた戦術の効果である。 中途半端に相手の戦力を知っているだけに、逆に一度疑いが生じるとどこまでもキリが無くなるのだ。 さらに彼を疑心暗鬼に陥れるのが……。 (しかも例の”ガンダムもどき”はまだ見えないと来ている。奴は何処だ!?何処から来るつもりだ!) この時アデルは自覚していなかったが、彼は焦っていた。 アデルの本当の目的は”ガンダムもどき”――すなわちダストの撃墜だった。 一機とはいえダストの戦闘力は既に証明されているように、十分な脅威といえる。 しかもその相手に二度も苦渋を飲まされているのだ。 (奴だけは俺が倒す……!) ダスト打倒への執念がアデル自身をシグナス隊追撃に向かわせず、ここに留まっていた強力な動機となっていた。 もちろん戦況が不利になれば、その限りでは無かったが。 だがそれはある意味、大尉の戦術が予想以上に成功していた事を意味していたとは、当のアデルは気づくよしもなかった。 この時ゼクゥ、ルタンド隊に続いてアデルがムラマサ隊までを戦線に投入していれば、シグナス達は捌き切れなかったかも知れない。 数が違う上に、空と地上からの二面攻撃を受けては、さすがの大尉達ももたなかっただろう。 だが逆にアデルはザウート隊とルタンド隊を街に戻した。 既に一機が中破していたし、追撃させるにはルタンドはゼクゥの機動力に付いていけず連携が難しかった。 現に前を行くゼクゥとルタンドの間はかなり距離が離れていた。 更に都市防衛の面で歩兵部隊だけでは如何にも不安があったからだ。 そして何より未だ姿の見えぬダストの存在が、アデルにそういう判断を余儀なくしていた。 (ゼクゥの支援はマサムネ隊に任せるから、まあ大丈夫だろう。あとは、奴だけだ……!) アデルはムラマサのコックピットの中でどこかに潜んでいるであろう、ダストの気配に神経を尖らせていた。 かくて大尉のシナリオ通り敵部隊は攻撃部隊にゼクゥ及びマサムネ隊、防衛部隊にルタンド、ザウートと分断された。 戦術とは、効果的に兵を配置し、運用する事だ。 その点に置いて大尉は『敢えて兵を見せない』事で敵戦力を分断させ、『時間単位における戦力差』を減算させる事に成功しつつあった。 つまり、敵に遊兵(この場合は戦闘に参加しない兵)を作らせる事に成功したのである。 “兵は欺道なり(戦争とは敵を欺く行為である)”とは、この事だろう。 結果的に政府軍の戦力は二分され、大尉達を追撃する戦力も減った事になるが、では彼らが楽になったかというと、そうでもなかった。 『でー!!ルタンドが居なくなってからの方が、ゼクゥが生き生きしてやがる!』 『そりゃそうでしょう。あっちの方が明らかに足が速いんですから!』 少尉と中尉が悲鳴を上げる。 砂塵渦巻く荒野の中で、四つ足のモビルスーツに追い立てられた三機のシグナスは、まさに四苦八苦の様相を呈していた。 ゼクゥはバクゥの後続機種である。 地上での機動力、速力は他の追随を許さず、ここにおいてもその威力を遺憾なく彼らに見せ付けていた。 「ルタンドがいなくなったら、こいつら急にスピードを上げやがった!!」 大尉機がビーム突撃銃を乱射する。 だがゼクゥは難なくそれをかわし、逆に背部にある連装ビーム砲を撃ち返してきた。 「くそぉ!」 なんとかかわす。 だが別のゼクゥが横に回り込む。 大尉機の死角だ。 「チッ!」 後ろを取られたか、大尉がそう覚悟をした瞬間、スナイパーライフルが数発がゼクゥをかすめいった。 すると形勢が不利と見たのか、そのゼクゥはあっと言う間に後方に下がっていく。 『大尉!大丈夫ですかか?』 「スマン、中尉!」 大尉達は機動性の高いゼクゥ隊を捌くのに、必死にならねばならなかった。 シグナスとて足は速いが、流石に平地ではゼクゥの速力に敵うものでは無い。 幸い撤退したタイミングがかなり早かったので、包囲される事はなかったが、ゼクゥ隊は隊列を整え、ジリジリと三機のシグナスを追い詰めてくる。 さらに。 『!?……二時方向、マサムネ来ます!』 ――新手が来れば、また問題は別だ。 「中尉、対空散弾!!」 大尉が言葉少なに指示を出す。 中尉は直ぐに動いた。 『了解。フォロー願います!』 少尉と大尉のシグナスが、ゼクゥ隊と中尉機の間を塞ぐように移動する。 精密射撃をする時はどうしても足は止まるか、そうでなくとも単調な動きになる。 この状況下で足を止める事がどれ程危険な事かは、言うまでも無い。 『散れっ!手前……ラァッ!!』 少尉が温存していたミサイルポッドを全弾発射する。 同じように大尉もミサイルを射出する。 弾幕に視界を遮られ一端距離を取るゼクゥ隊。 ――そして数瞬出来た隙に中尉は対空散弾の狙いをマサムネに定め、撃つ。 かろうじてマサムネはそれを回避する。 外れた散弾は地上のゼクゥに雨の様に降り注ぐ。 しかし散弾はゼクゥの装甲に少しの焦げを作っただけで、ダメージと言えるほどのものは与えられなかった。 「……焦らせやがって!そんなオモチャじゃ何発喰らっても効かないぜ!!」 マサムネのパイロットが吼える。 彼は散弾の弾幕は脅威足りえないと判断し、攻撃を仕掛けてきた。 それこそ中尉達の狙いだとも知らずに。 中尉は再び狙いを定め対空散弾を放つ。 が、威力を見切ったマサムネはかわそうともせず距離を詰めてくる。 そしてそのまま散弾の弾幕の中に飛び込んだ。 「な、何!?」 マサムネのパイロットは驚愕する。 突然、コックピット内に警告ブザーが鳴り響き、機体がコントロールを失ったのだ。 咳き込んだような音を立て、エンジンが止まる。 マサムネは機体に一体何が起きたのか理解する前に、地上に墜落していった。 それを見た残り二機はあわてて上空へ退避する。 『いよっしゃぁ!』 まんまと嵌った敵の姿に少尉は、中指を立てカッツポーズを見せた。 中尉の射出した対空散弾とは俗称で、正式に配備されている弾頭では無い。 レジスタンスが開発した“対戦闘機用のエリア攻撃兵器”という代物だ。 ある一定距離を進んだ後に爆発し、かなりの広域に散弾を散布する。 その散弾一つ一つは鋼鉄ではなく強化プラスチックに溶液を浸した様なもので、とても戦闘機を撃墜できる威力は無い。 だが、この武器が効果を発揮するのは『その弾が一つでも戦闘機のエアインテークに吸入されてから』なのだ。 強化プラスチック内の溶液は気圏戦闘機に使われる航空燃料と良く反応し、小規模ながら爆発を起こす。 それが一つでも内部で爆発してくれれば、たちまち内部機構が破壊され、機体は動作不能に陥るのである。 マサムネ隊は見かけの威力に騙され、回避を怠った為、見事引っかかったのだ。 一機撃墜。 しかし喜んでいる場合ではない。 大尉が叫ぶ。 「馬鹿、喜んでる場合か!避けろ!」 一機のゼクゥが肉薄し、口に構えたビームサーベルが少尉を襲う。 間合いが近すぎて大尉達もフォローができない。 『……なろおっ!!』 少尉は無理に避けようとせず、そのままゼクゥに体当たりをかける。 ビームサーベルがシグナスの左腕を切り裂きそのままボディを切り裂こうかという寸前、シグナスはゼクゥをかち上げた。バランスを崩し、ゼクゥの体が宙に吹き飛ぶ。 思い切りのいい少尉で無かったら死んでいただろう。 「油断するな、少尉!」 『す、すんません大尉!』 すぐさま大尉が少尉のフォローに入り、再び三機のシグナスは撤退戦を続行する。 彼らは待っていたのだ。 戦局が変わる瞬間――ロマが提案した『奇策』が実行される時を。
https://w.atwiki.jp/moedra/pages/263.html
「何だい、この小僧は・・・?」 きっと彼は、私の悲鳴を聞いて駆けつけて来てくれたのだろう。 だが勢いで飛び出してきてしまっただけなのか、自分の何十倍も大きな老竜の姿を認めるや否やあまりの恐ろしさにその場で立ち止まってしまう。 「ク・・・クゥ・・・」 「邪魔するでないよ・・・それとも、お前もこの小娘のようになりたいのかい・・・?」 ギリリリッ・・・ 「ああ~~っ!」 私は見せしめのために突然全身を締め上げられて、老竜の思惑通りに苦痛の悲鳴を上げてしまっていた。 だが仔竜が次に見せた行動は、老竜はもとより私の予想をも裏切るものだった。 産まれたばかりで右も左もわからぬ子供がこんな光景を見せつけられれば必死で逃げ出しそうなものなのだが、彼はこともあろうに薄ら笑いを浮かべて油断していた老竜の顔に向かって突進していったのだ。 ガッ 「うぐっ!」 まだ幼いとはいえ生まれながらにして備わっていた狩りのための鋭い鉤爪が一閃し、老竜の顔を覆っていた厚く黒い鱗にほんの小さな傷が走る。 そして実の母親の顔を引っ掻いた当の仔竜は再びパッと素早く距離を取ると、恐ろしさにハァハァと息を荒げながらも闘志を剥き出しにして目の前の強大過ぎる敵を睨み付けていた。 「おのれ小僧が・・・あたしに楯突くなんていい度胸じゃないか・・・」 それまでどこか余裕の感じられた老竜の声に冷たい殺気がこもり、細められていた金眼がギョロリと大きく見開かれる。 そしてその手の先から伸びた巨大な鉤爪を振り翳そうとしたのを見て取って、私は擦れた声を絞り出した。 「待っ・・・て・・・その子はあなたの・・・あなたの子よ・・・!」 「・・・なんだって・・・?」 その言葉の意味を探るように、彼女の視線がじっくりと私を睨め回すように移動する。 「あ、あの子は昨日、あなたの産んだ卵から孵ったんです・・・だからお願い・・・見逃してあげて・・・」 私の言葉を聞くと、彼女は温床の上に置いてあったもう1つの卵の方へと視線を向けた。 そちらの卵は依然として暗い沈黙を保っていて、まだまだしばらくは孵化する気配が無い。 多分彼女は、同時に産んだ2つの卵が片方だけ早く孵化したことを疑問に思っているのだろう。 「私・・・どうしても子供が欲しくて・・・早く孵って欲しくて・・・3日3晩、一生懸命に暖めたんです・・・」 卵を盗んでしまった罪悪感からなのか、それとも子供を助けようとして必死だったのか、私はそれだけ告白するとボロボロと大粒の涙を零しながら漆黒の牢獄の中でただひたすらに喘いでいた。 「クゥゥ・・・クゥゥッ!」 巨竜が何か考え事でもしているかのように私を眺め回しているのを見て取ったのか、偽の母親を守ろうとして仔竜が再び甲高い雄叫びを上げながら彼女に飛び掛っていく。 だが流石に今度は予測していたのか、仔竜は振り上げた鉤爪を振るう間もなく巨大な老竜に鷲掴みにされていた。 ギュッ・・・ 「ク、クゥ・・・」 掌ほどもない小さな体を潰さぬように、それでいて一切の身動きを封じられるだけの力で握り締められ、母親に捕えられた仔竜がバタバタと必死に手足を暴れされてもがいている。 だがやがてこの私ですら震え上がってしまうほどの鋭い金眼でギラリと睨み付けられると、彼は観念したのか情けない声を上げて体の力を抜いていた。 「ク・・・ゥ・・・」 真っ黒な鱗に覆われた手の中でガクリとうな垂れた仔竜の体が、悔しさとそれ以上の恐怖にブルブルと震えているのが私にもはっきりと見て取れる。 「ふぅん・・・これはまた随分と元気のいい子じゃないか・・・えぇ・・・?」 ゴクリという息を呑む音が聞こえ、仔竜が助けを求めるかのように震えながらも私の方へと視線を向けた。 いくら雄竜らしく強大な敵に対して勇敢に立ち向かっていったとしても、彼はまだこの世に産まれてからたったの1日しか経っていない幼い子供。 そんな子供の力など到底及ばないということを思い知らされると、結局は母親に助けを求めることになるのだ。 だが生憎今の私には、彼のその切ない願いすら叶えてやることができそうにない。 「フフフ・・・お前は相当この子に好かれているようだねぇ・・・」 こんな絶体絶命の状況にも仔竜が悲鳴すら上げずに耐えていられるのは、ひとえに私という存在が傍にいるからなのだろう。 敏感な老竜もその奇妙な関係が意外に強固なものであることを悟ったのか、私の体に巻き付けていた尻尾を少しずつ解いていく。 ドサッ 「あぅぐ・・・」 幾度となくきつく締め上げられて疲弊しきった体では上手く着地することなどできるはずもなく、私はゆっくりと縛めを解かれたというのに地面の上へと派手に倒れ込んでしまっていた。 「ゆ、許してくれるんですか・・・?」 「フン・・・お前の努力は認めてやるよ・・・そんなに子供が欲しいのなら、この子を連れていくがいいさ」 そう言いながら仔竜の身も手の内から解放すると、我が子を手放した母親がフイッとそっぽを向いて呟く。 「で、でも・・・どんなに好かれているとは言っても・・・この子はやっぱりあなたの・・・」 「もちろん、その子は正真正銘あたしの子さ・・・だから、お前の夫としてくれてやると言ってるんだよ」 「え・・・?」 この子を・・・私の夫に・・・? 「ほら、さっさといきな!いつまでもそこでくずくずしてると、両方ともあたしが取って食っちまうよ!」 その言葉の直後に上がった雷鳴のような巨竜の咆哮に追われるようにして、私と仔竜は慌てて暗い洞窟から夕暮れの空の下へと飛び出していた。 「クゥ・・・」 涼しげな風の吹く森の中を住み処に向かって歩いている途中、仔竜はようやく気分が落ち着いたのか小さく声を上げて私の体に擦り寄ってきた。 考えてみればこの子は母親だと思っている私を助けるためとはいえ、あんな恐ろしげな巨竜にも果敢に飛び掛っていったのだ。 今はまだ自分で狩りもできない幼子には違いないが、いずれは強くて立派な雄竜へと成長するに違いない。 それまで当分の間は母親としてこの子を育て、いずれ機を見て彼に真実を打ち明けることになるだろう。 私は擦り寄ってきた仔竜の鱗に覆われた頭をフサフサの手でそっと撫でてやると、夫と子供を同時に手に入れられたという不思議な喜びを静かに噛み締めていた。 「ねぇお母さん、ここ最近ずっと気になってたんだけど・・・どうして僕はお母さんに似てないの?」 「え・・・?」 今年も例年以上に暑かった夏が過ぎて息子ももうすぐ4歳になろうとしていたある日、私は狩りから帰ってきた矢先に彼からそんな質問を投げかけられた。 もちろん、彼も今まではそんなことなど特に気にも止めていなかったに違いない。 だが他の仲間達と共に外へ遊びに出かける機会が増えてきたことで、彼はようやく全身を体毛に覆われた私とは容姿が似ても似つかないという事実に気がついたのだ。 「だっておかしいじゃない。友達は皆自分のお母さんとそっくりなのに、僕達だけ似てないんだよ?」 いつか来ると覚悟していたこの時・・・ 彼に過去の経緯を伝える機会があるとするならば、今が正にそうなのだろう。 私は急に乾き始めた喉を潤すためにゴクリと唾を飲み込むと、努めて真剣な眼差しで目の前の"雄竜"を見つめた。 「実はね・・・あなたは、私の本当の子供じゃないの・・・あなたのお母さんは、こことは別の場所にいるのよ」 「ど、どうして・・・?」 唐突に子供の顔に浮かんだ、酷く不安げな表情。 だが彼のためにも・・・そして私のためにも、彼には本当のことを伝えなければならないだろう。 「私、ずっと子供が欲しかったの。だから毎年繁殖期が来る度に、私は必死で夫になる雄を探していたわ・・・」 あの巨竜の卵を盗むことになったきっかけ、卵から孵ったのが異種族の子供だったことの驚き、年老いた巨竜とのやり取り、そして・・・彼に対して私がこれまで一心に注いできた、嘘偽りのない愛情・・・ それら全てを彼に話して聞かせるのに、たっぷり2時間はかかったような気がする。 彼はそれほどまでに奇妙で、そして特異な生涯を歩んできた子供なのだ。 「じゃあ僕・・・本当はお母さんとは何の関係もない子供なの・・・?」 そんなことはない・・・! だが私は彼の言葉を心の内でこそ強く否定したものの、実際にそれを彼に納得させるだけの言葉はどうしても見つけられなかった。 何しろ私は自分のエゴのためだけに1匹の仔竜を実の母親のもとから引き離し、その上4年間も彼を騙し続けていたのだから。 答えに窮して流れてしまった数秒間の沈黙・・・ 彼は私からの返事が無いことに少なからずも衝撃を受けてしまったのか、おもむろにクルリとこちらへ背を向けるとどことなく涙声にも聞こえる上ずった声で呟いた。 「ずっと・・・僕を騙してたんだね・・・」 そしてそう言い終わるか終わらないかの内に、彼が突然洞窟の外に向かって駆け出していく。 「あ、待って!」 私は走り去る彼に向かって慌てて大声で叫んだものの、洞窟内に反響した自分の声が聞こえなくなった時には既に彼の姿は見えなくなってしまっていた。 だが、彼があんな反応をするのも無理は無い。 多分彼は、今も森の奥の巨洞に棲んでいる本当の母親のもとへと向かったのだろう。 静かになった洞窟に独りポツンと残されると、私は暗い絶望を抱えながら寝床の上に蹲って寂しさに泣いていた。 タタッ・・・タタッ・・・ 突如として住み処の中に響いた、懐かしい足音。 あたしは暗い洞窟の中で長らく横たえていた頭を静かに持ち上げると、もうすぐ姿を現すであろう4年振りに会う息子の到着をじっと待っていた。 その数秒後、過ぎ去った月日に一段と大きく成長した雄竜が勢いよくあたしの目の前に飛び込んでくる。 「おやおや・・・お前みたいな小僧が、あたしに何か用かい?」 あたしは全身を綺麗な緑色の鱗で覆われたその雄竜が紛れも無く自分の子供であることは察していたものの、敢えてそのことはおくびにも出さずに息子の反応を窺ってみることにした。 この時期に彼がここへやってくるということは、あの小娘から本当の話を聞かされたのだろう。 だとすれば、彼の目的はあたしが本当に自分の母親なのかどうかを確かめることに違いない。 「お・・・お母さん・・・」 曲がりくねった洞窟の奥に佇んでいた、予想以上に巨大な黒竜・・・ その圧倒的な存在感に怯えながらも、僕は躊躇いがちにそう呼びかけていた。 それを聞いて、全身に纏う僕の掌よりも大きな鱗を薄明かりに煌かせながら巨竜が愉しげな声を上げる。 「はっははは・・・面白いことを言う小僧だねぇ・・・あたしは、お前の母親なんかじゃないよ」 「う、嘘だ!全部聞いたんだぞ!あなたが・・・僕の本当のお母さんなんだろ?」 「ふぅん・・・聞いたって、一体誰にそんなことを聞いたんだい?」 半ば意地悪な笑みを浮かべながら老竜にそう切り返されて、僕は思わず返事に詰まってしまっていた。 「そ、それは・・・」 そうだ・・・この目の前のドラゴンが僕の母親なら、僕をこれまで育ててきてくれたあの赤いドラゴンは一体何だったというのだろう・・・? 彼女は僕が産まれてから今までずっと、毎日毎日僕の為に新鮮な獲物を獲りにいってくれた。 彼女は僕が産まれてから今までずっと、毎日毎日あの暖かい毛皮で僕を暖めてくれた。 彼女は僕が産まれてから今までずっと、毎日毎日狩りの仕方を優しく教えてくれた。 彼女は僕が産まれてから今までずっと・・・ 次々と泉のように止めど無く溢れ出す記憶の奔流が、いつしか涙の雫となって僕の目から零れ落ちていた。 今日という日まで僕の母親だと偽っていたあのドラゴンは、今目の前にいる僕の本当の母親よりもずっと僕のために尽くしてくれたんじゃないか。 それなのに僕は今日、ただ単に外見が違うというだけで彼女に酷い言葉を投げつけてしまった。 本当はどこの誰よりも、この本当の母親よりもずっとずっと僕のことを可愛がってくれていたというのに・・・ 「ほら、早く行っておやり・・・」 最後の最後で黒竜がポツリと呟いた、母性を感じる優しげな声。 やはり、このドラゴンが僕の実の母親なのには違いない。 だが彼女は、心の底から息子の幸せを願って僕をあの異母のもとへと送り出してくれたのだろう。 「うん、そうだね・・・僕、何言ってるんだろ・・・早くお母さんの所に帰らなきゃ・・・もう行くよ」 僕は涙を拭いながらそう言うと、4年前もそうしたように橙色に輝く空の下へと勢いよく走り出していった。 西の山の稜線に足をついた夕日が森の中へと注ぐ眩くも懐かしい光に、トボトボと道を歩く僕の影が長い長い尾を引いていた。 一体、どうやってお母さんに謝ったらいいのだろう・・・ きっとお母さんは今頃、住み処の洞窟の中で深い孤独と悲しみに暮れているのに違いない。 やがて心の中で幾度も葛藤しながら斜陽の差し込む洞窟の前まで戻ってくると、僕はそっと足音を殺して闇に包まれた住み処の中を覗き込んだ。 その奥の広い寝床の上で、いつもより一段と小さく見えるお母さんが自らの尾を抱え込むようにして蹲っている。 泣いている内に眠ってしまったのか、母は僕の気配には全く気付く様子もなく丸めた背をこちらに向けていた。 「お母さん・・・」 僕は眠っている母を起こさぬようにゆっくりとそばまで近づくと、その隣に静かに蹲って彼女の暖かい背中に自らの硬い鱗で覆われた背中をそっと擦り付けた。 冷たい鱗が背に触れた途端に母が一瞬ビクッと身を震わせたが、その緊張もすぐにどこかへと吹き飛んでいく。 「ごめんね、お母さん・・・」 鱗越しに伝わってくる母の優しい温もりに安心すると、僕は母と背中合わせになったまま眠りへと落ちていった。 眠っていた僕の顔へと断続的に吹きつけられる、生暖かい風。 外はまだ夜なのか薄っすらと目を開けた視界の中は漆黒の闇で埋め尽くされてはいたものの、僕はその風が僕の顔を覗き込んでいた母の吐息であると気付くのにそう長い時間は必要としなかった。 「おかあ・・・さん・・・?」 「まだ・・・私のことをそう呼んでくれるの・・・?」 一条の星明かりさえ入ってこない真っ暗な洞窟の中に、母の声だけが静かに響き渡る。 母の顔に一体どんな表情が浮かんでいるのかは全く見えなかったが、僕はその声に今までとは違う、何か不思議な艶が含まれているのを感じていた。 「うん・・・昼間は酷いこと言ってごめんね・・・・・・どうしたの・・・?」 「私、ずっと待っていたのよ・・・いつかあなたに本当のことを話して、私の夫として迎えられる日が来るのを」 え・・・夫・・・? 「なのに・・・またあなたにお母さんなんて呼ばれたら、私・・・」 その母の声が、不意に溢れ出した感情に震えていた。 そうか・・・母は、ただ子育てがしたいがために僕を本当の母親のもとから引き離したわけじゃなかったんだ。 母・・・いや、彼女は、成長した僕といずれは番いになるために、自分が腹を痛めて産んだわけでもない僕にこれまで一心に尽くしてくれていたのだろう。 「ご、ごめん、おかあ・・・」 思わずまたお母さんと呼びかけてしまいそうになって、僕は途中まで出かかった言葉をグッと飲み込んでいた。 だが、それも仕方のないことだ・・・僕にとって彼女は、今も昔も母親であることに変わりはない。 「僕・・・どうしたらいいの・・・?」 「・・・私を抱いて・・・」 僕の問に、彼女の口から今にも消え入りそうなか細い声が漏れていた。 そのいかにも弱々しげな仕草にずっと眠っていた雄としての本能が刺激され、僕の中で大事な何かが弾け飛ぶ。 そして次の瞬間、僕はガバッと寝床から起き上がると目の前の赤毛を纏った雌竜をその場に押し倒していた。 まだ若いとはいえ少なくとも僕より2回りは大きいはずの彼女が、まるで抵抗する様子もないままにあっさりと洞窟の地面の上へ仰向けに転がる。 そしてその手触りのよい両手に全体重をかけて彼女を腹下に組み敷いてから、僕はハッと息を呑んでいた。 僕は・・・一体何をしてるんだ? お母さんにこんな・・・いや、違う・・・彼女は・・・僕のお母さんなんかじゃない! 彼女は・・・彼女は・・・ この世に産まれてからずっと母親として慕ってきた雌竜と体を重ねているという背徳感が、ぞわぞわと漣のように僕の背筋を這い上がってくる。 だがそれは決して不快な感触などではなく、むしろ激しい興奮を呼び覚ますかのような熱い刺激だった。 グリッ・・・ 「ああっ・・・!」 力一杯地面に押しつけた彼女の手が石畳に擦れ、熱のこもった喘ぎにも似た彼女の声が闇の中に響き渡る。 僕はその初めて味わう支配的な愉悦に焚き付けられて、股間から顔を出した肉棒が見る見るうちに大きく膨らんでいくのを感じていた。 そして鱗に覆われた尻尾の先で彼女の下腹部をスリスリと弄り、体毛の中に巧妙に隠されていた一筋の割れ目を探り当てる。 ズ・・・ズブ・・・ 「あっ・・・や、やぁ・・・」 更には硬く尖った尻尾の先が熱く蕩けた秘部の中へ少しずつ侵入を始めると彼女がジタバタと身を捩ったものの、ザラついた尻尾の鱗で秘肉をこそぎ上げられる快感の前に完全に力が抜けてしまっているようだった。 ジュボッ 「ひゃんっ!」 突如として膣から引き抜かれた尻尾の感触に彼女の体がビクンと大きく跳ね上がり、今まで聞いたことのないような甲高い嬌声が上がる。 暗闇のせいで彼女の様子が何1つ見えないことが、逆に眼前の雌竜の痴態を生々しく脳裏に描き出していくのだ。 「そ、そろそろ・・・い、入れるよ・・・?」 「あふっ・・・あふぅ・・・」 尻尾の先に残った熱く柔らかな膣の感触。 トロリと垂れ落ちる愛液の雫がジワジワと鱗の中に染み入ってくるようで、この上もなく切ないジンとした疼きが全身に広がってくる。 僕はあくまで躊躇いがちに、だがそれでいて眼は爛々と輝かせながら彼女に迫っていた。 そして肯定の返事を待つまでもなく、ギンギンに張り詰めた怒張を濡れそぼった割れ目の中へとゆっくり押し入れていく。 そんな彼女の膣は先の尻尾の挿入で多少は拡張されたのか、ほとんど何の抵抗もなく僕の肉棒を根元まで呑み込んでいった。 ジュ・・・ジュブブ・・・ 「う、うあっ・・・!」 「あ・・・あはっ・・・」 肉棒の先がねっとりと滴る愛液に浸された途端に、全身をまるで電流にも似た凄まじい快感が走り抜ける。 「き・・・気持ちいい・・・」 やがて雌雄の交わりに潜んでいた無上の甘美な刺激に神経が焼き尽され、体を支えていた両腕からも力が抜けてしまった僕は彼女のフカフカの腹の上にドサッと倒れこんでしまっていた。 「はぁ・・・はぁ・・・」 興奮に張り詰めた肉棒が卑猥な水音とともに熱い肉襞に埋もれただけで、手足の先までがビリビリと痺れていく。 僕と同様荒くなった彼女の呼吸がその蜜壷にやんわりとした脈動となって伝わり、根元まで咥え込まれた雄が優しくも荒々しい荒波に揉まれて愛撫されていた。 「うっあっ・・・お、お母・・・さん・・・」 産まれて初めて味わう強烈な性の快楽には自力で抗うことなど到底できるはずもなく、僕はフカフカと上下に揺れる彼女の暖かい腹の上に力なく倒れ伏したまま助けを求めるばかり・・・ クチュッ・・・グッチュ・・・ 「はぁ・・・あ・・・ぼ、僕、もう・・・」 あ、頭がどうにかなってしまいそうだ・・・ 膣から肉棒を引き抜こうにも手足の力は完全に抜け切ってしまい、今やほんの少し首を持ち上げることすらままならない。 だが彼女の膣はなおもいやらしく愛液の弾ける音を響かせながら僕の肉棒を挟みつけ、上下に扱き上げては長年待ち望んでいた雄の白濁を搾り取ろうと蠕動を繰り返している。 「うふ・・・ふ・・・い、いいわぁ・・・早く・・・私の中に出してぇ・・・」 ギュゥゥ・・・ そして傍目には全くの無抵抗に見える彼女の肉襞が、雌雄の結合部で主の願いを叶えるべく身を躍らせた。 ギュッチュ、グシュゥ、グリュゥッ・・・ 「あ・・・ああぁ・・・だ、だめえぇ・・・」 ほんのわずかな抽送すらしていないというのに、肉棒へと襲いかかる桃色の粘液を伴った無数の淫唇のロンドに意識がだんだんとぼやけていく。 僕は唯一自由の利く尻尾を地面に突っ張って何とか彼女から体を離そうと試みたものの、それすらもが彼女の尻尾でクルンと巻き取られると、いよいよこの快楽の底無し沼から脱出する手段を完全に失ってしまっていた。 ジュル・・・ジュルジュルル・・・ 「ほら、早く出して・・・早くぅ・・・」 「ああん・・・が、我慢できないぃ~・・・!」 ビュルッビュビュビュ~~~~ッ!! 「うあああああああぁっ・・・!」 互い違いに蠢く肉壁に限界寸前の雄を磨り潰され、僕は首だけを精一杯仰け反らせると屈服の嬌声を上げていた。 頭の中が真っ白になってしまうかのような凄まじい刺激が全身を駆け巡り、肉棒だけがただただ僕の意思とは無関係に熱い命の雫を彼女の中へと注ぎ込んでいく。 交尾の相手がこれまでずっと母親として慕ってきた雌竜であるという事実が、そしてその無抵抗な彼女に成す術もなく精を搾られてしまったという雄として耐え難い屈辱が、却って僕の興奮を数十倍にまで増幅していった。 キュッ・・・ギュグッ・・・ 「あ・・・ふぁ・・・っ・・・」 やがて渾身の締め上げに精の最後の一滴が搾り取られると、僕は再び彼女の腹の上に崩れ落ちていた。 いくら静めようと思っても一旦荒くなった呼吸はなかなか収まる気配を見せず、快楽の余韻が新たな疼きとなって全身に広がっていく。 「ど、どうだった・・・?」 どうもこうもあるものか。 僕はただ勢いだけで彼女を地面の上へと押し倒し、そして自らは彼女をこれっぽっちも満足させることなく成すがまま無様に精を放ってしまったのだ。 普通なら尻尾の先で頬を叩かれた挙句、きつく侮辱されて詰られることだろう。 だが、夜明けを間近に迎えた快晴の空から洞窟の中へと降り注いだ薄明かりは、僕の予想とは異なる表情を彼女の顔へと浮かび上がらせていた。 「ふ・・・うふふ・・・とってもよかったわぁ・・・」 心の底から満足げな表情を浮かべながら、彼女が熱い吐息を漏らしていた。 10年近くもずっと待ち焦がれていた番いとの交尾が、そしてあのふくよかな腹の内に宿ったであろう新たな命が、紅色に顔を火照らせた彼女に母親としての美しさと強さを授けていったように見える。 そしてようやく若い雄竜と結ばれた妻は僕を抱えたまま仰向けになっていた体をゴロンと転がすと、すっかり熱を帯びて暖かくなった地面の上に横になった。 「ありがとう・・・私・・・夢が叶ったわ」 背中に回された彼女の腕に力がこもり、柔らかい彼女の腹に僕の腹がギュッと押しつけられる。 「ほら・・・何か感じない・・・?」 彼女にそう言われて、僕はぴったりと密着した腹から何か脈動のようなものが伝わってくるのを感じていた。 初めは彼女の心臓の鼓動かとも思ったが、周期の異なる2つの波が皮膜に覆われた腹を通して流れ込んでくる。 「う、うん・・・感じるよ・・・」 それは紛れもなく、まだ卵にもなっていない新しい命が芽を吹いた瞬間だった。 後もう数日もすれば、彼女は待望の我が子を、僕達の子供を産み落とすことだろう。 「よかったね、お母さん・・・」 「だめよ、もう私をお母さんなんて呼ばないで・・・だってあなたは・・・今はわたしの夫なんだから・・・」 「そ、そうだね・・・でも・・・なんか照れ臭くて・・・」 そう正直に自分の胸の内を吐露すると、彼女の顔に優しげな笑みが浮かんだ。 「その内に慣れるわ。それに・・・私はもうあなたを子供扱いなんかしないからね」 「ど、どういう意味?」 「つまりね・・・私と子供のために、獲物を獲ってきて欲しいってことよ」 獲物を獲ってくること・・・確かにそれは子供ではなく母親の役目だが、同時に妻ではなく夫の役目でもある。 僕はわかったとばかりに大きく頷くと、自分からも妻の体を力強く抱き締めていた。 それから1週間後、僕と妻は揃って寝床の上に置かれたたった1つの小さな卵を食い入るように見つめていた。 もうすぐ僕にとっては初めての、妻にとっては本当の子供が、あの殻を破って生まれてくるのだ。 「どんな子が出てくるんだろうね?」 「私とあなたの子供ですもの・・・きっと可愛い子よ」 まあ・・・それはそうかもしれない。 何しろ彼女は、子供の父親となる僕の方にも産まれた時から一方ならぬ愛情を注ぎ続けてきてくれたのだ。 そんな10年越しの夢の結晶である僕達の子供が、可愛くないはずがない。 ピキッ・・・ やがて息を呑む静寂の中に卵の割れる音が響き渡り、その中から小さくて可愛らしい仔竜の手が覗く。 そしてパキャッという音と共に砕けた卵の中から薄い桃色の体毛を纏った子供が無事に姿を現すと、僕と妻はホッと大きく安堵の息をついていた。 小柄な母の産んだ卵から孵ったせいか仔竜は僕にも片手で持ち上げられそうなほど小さかったけれども、多少は僕にも似たのか後頭部からは立派な2本の角を生やし、手足の先からは尖った爪が生えている。 そして外見の違う両親の姿を目に焼き付けたのか、仔竜が可愛らしくも甲高い鳴き声を上げた。 「キュウゥ・・・」 「僕達、やったね・・・」 「ええ・・・とっても可愛い子だわ・・・」 胸の内に湧き上がる静かだが激しい歓喜・・・ その感情に押し流されたのか僕と妻はお互いにガシッときつく抱き合うと、やがて腹を空かせた仔竜にせっつかれるまでそんな甘い幸福に浸り続けていた。 完 感想 とてもいい話でした。子育てをはじめた続編お願いします。 -- ドラゴンマスター (2009-04-27 22 37 40) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/revival/pages/749.html
10月末にもなると日が昇るのがずいぶん遅い。 時計ではもう午前5時を回っているはずなのだが、夜が明ける気配はない。 真っ暗な夜空に無数の星々が瞬いている。 今日は新月なので、一欠けらの明かりもなかった。 大地も山々の稜線も全て暗闇の中に溶け込んで、星々切れ目だけ僅かにそれが天と地の境目だという事を教えてくれる。 その真っ暗な早朝の荒野に、三機のモビルスーツが歩いていた。 シグナスと呼ばれる、リヴァイブの主力モビルスーツだ。 その彼らは普段の武装の他に、それぞれ巨大な円筒形の筒をいくつか持っている。 それをある程度歩いてその辺に突き刺す。 すると円筒形の筒は地面に潜っていった。 彼らはその作業を場所を変えつつ何度も繰り返していた。 『ローゼンクロイツの部隊は上手くやってくれるでしょうか?』 中尉の声が大尉のコクピットに流れる。 「……こればっかりはあちらさんを信用するしかないな。俺達は俺達の仕事をするしかない」 『それは、そうですが』 「不安か?」 モニターに覗く中尉の表情はいつもと変わらない。 だが僅かに漂う気配から、彼が多少の不安を抱えているのが大尉にはすぐにわかった。 だてに長年付き合っているわけではない。 「なにせこの三機だけで、アリーの街に攻撃を仕掛けるんだからな。正直、俺も怖いさ。だがここまで来たら開き直るしかないだろうよ」 『確かにそうですね。すでに賽は投げられたわけですし』 「そういう事だ」 フッと笑みを交わす二人。 この辺の阿吽の呼吸は今も健在だ。 するとその時、もう一つのモニターに軽薄そうな男が映る。 少尉だ。 『こっちは大体埋め終わったぜ。取りあえず準備はバッチリだ』 中尉と違って、少尉はむしろ楽しそうに見える。 この男なりには不安なのだろうが、少尉はそれをおくびにも出さない。 性格の差、といえばそうだが中尉が不安がるからこそ、少尉も脳天気でいられるのだろうと大尉は思う。 『貴方はなんでそう、脳天気なんですか?もう少し真剣に考えて下さい』 『んな事言ってもよぉ、今更考えても仕方ねーじゃん』 このような会話が出来るのはお互いの信頼関係に寄るものだろう。 「おい、もうそろそろ行くぞ。気合いを入れろよ」 大尉はうっそりと二人に言うと、遥か遠くに見えるアリーの街の明かりを確認する。 このコーカサス州の中では有数の大きな街の筈なのに、街灯の光は満足に見えなかった。 辛うじて、今にも消えそうな微かなともし火が、いくつか見えるだけだ。 単に占領されただけでそうなってるわけではない事は、大尉にも分かっていた。 コーカサス州全体がそうであるように、ここも飢えと貧しさとは無縁ではないのだ、と。 大尉は時計を確認すると、もうすぐ午前6時になろうとしてた。 まもなく夜が明けるだろう。 一日の始まりとともに、たった三機の無謀な喧嘩が始まろうとしていた。 荒野の中をサイドカー付きのバイクが砂塵を上げて走る。 シンとコニールだ。 コニールは砂に足を取られぬように、慎重に運転している。 サイドカーの席上ではシンが、目を閉じて黙り込んでいる。 これからの作戦のために、少しでも力を残しておきたいのだ。 ふと、コニールが口を開く。 「ねえ。あんた、ソラの事どう思ってるの?」 「何だって?」 「ソラよ。あの子の事をどう思ってんのって聞いてるの!」 そこにAIレイが口を挟む。 《この朴念仁にそういう質問は限りなく無意味に等しいぞ》 「お前、こんなにダストと離れていてもまだ通話出来るのか?」 《そうでもない。もうそろ……通話が出来な……る距離だ》 通信にノイズが走り始める。 電波が途切れそうになっている証拠だ。 「……シン、あのさ」 「コニール、今は作戦の事だけに集中しろ」 「……わかったわ……」 もうそれ以上、シンは何も言わなかった。 ただ無機質なバイクの走行音だけが二人の間に流れていく。 シンがこんな問いに答えないだろう事はコニールにも分かっている。 この男にはそういう話は無意味なのだと。 しかしそれでもコニールは確かめたかった。 つい聞いてしまった出撃前のシンとソラの会話。 そこでコニールは、ソラの気持ちが少しずつシンに向かっている事に気づいてしまったから。 かすかだが言いようの無い不安が彼女の中で頭をもたげる。 戦場で感じるそれとは全く異質なもの。 それが何なんか今のコニールには全く分からなかった。 (ダメだ。シンの言う通り今は作戦に集中しなきゃ) 雑念を振り払うように彼女は遠くを見やる。 「あ!見えてきたわよ!」 視線の先に目標物があった。 アリーの街より数キロの地点にある観光名所でもある遺跡『バルアミー鍾乳洞』。 そこが、シンとコニールの目的地だった。 「むぅっ……」 徴用した官舎の中に用意させた仮眠室で、アデルは大きく伸びをして体をほぐす。 昨日は結局、一睡もできなかった。 積年の恨みが果たせるという興奮からか、眠気が全く起きなかったのだ。 「クックックッ。イカンな、これではまるで初年兵のようではないか」 収まらぬ自分の気持ちの高ぶりに、アデルはたまらず苦笑する。 (昨日の内に来る、と思っていたんだがな。……ならば、今夜か?) 戦力が大幅に劣るリヴァイブが取れる選択肢は少ない。 相手の戦力が低い場合、守備側が気をつける事は『奇襲』だ。 戦力が戦力として機能しないタイミングを狙う、それは勝負の鉄則である。 新月で月明かりも期待できない昨夜であれば、それは絶好のタイミングであっただろう。 それ故、アデルは夜襲で来ると判断し、そのための布陣を敷いた。 だが実際には彼らはいつまで経っても来なかった。 そこでアデルは部隊を二部隊に分け、半数をそのまま警戒に、残りを休ませた。 設営した司令部に入ると、アデルは夜通し働いた兵達を労わりつつ、現状を聞く。 「どうだ?」 「いえ、未だ異常はありません」 「……そうか。あと30分したら、交代をよこす。お前達も少し寝て来い。意外に長丁場になるかもしれんぞ」 「はっ!」 ぼけた頭を覚まそうとアデルは当番兵にコーヒーを持ってくる様に言う。 するとその時、レーダーを監視していた士官が興奮した叫び声を上げる。 「ア、アデル大尉!アリーの街より九時方向、モビルスーツを三機確認!識別は“シグナス”、リヴァイブです!!」 「な、何!?」 よもやの来襲に一瞬アデルも慌てるが、直ぐに頭を切り換えて怒鳴りかえす。 「確かなのか!?この朝っぱらにか!?」 「間違いありません!!映像センサーでも確認されました!」 「どういう事だ?奴ら兵法も知らんのか!?」 「敵モビルスーツ、移動開始!真っ直ぐ街に向かってきます!」 しかしチャンスには違いない。 アデルの口元に思わず笑みが浮かぶ。 「よぉし!全モビルスーツ隊機動!敵モビルスーツを迎撃せよ!俺はムラマサで出る!!」 すぐにアデルはムラマサの格納庫へ向かう。 あの三機が出てきている、という事は例のガンダムタイプも居るはずだからだ。 アデルは勝利を確信していた。 兵法も知らぬ馬鹿を相手に負けるはずがない、と。 この時、その『馬鹿』に負け続けたという事実は、アデルの頭の中から完全に抜け落ちていた。 ルタンドの機動は早い。 とにかく現場からの声を聞いて作り上げられたモビルスーツだけに、機動シークエンスなどの手順は驚くほど簡略化が成されていた。 “搭乗者に優しい”という謎めいたキャッチフレーズ通り簡略化をコンセプトに作られたこの機体は、各機体の中でも真っ先に立ち上がる。 次いでゼクゥ。 バクゥの後続機種として作られた四脚モビルスーツで、よりスマートなシルエットをしている。 こちらも素早く機動していく。 両機とも迎撃用モビルスーツとしての特性を十分に兼ね備えていた。 そして最後に大型連装砲門を持つザウートゆっくりと動き出す。 砲撃戦には未だ威力を見せる地上戦用モビルスーツだが、こちらは旧式だけに少々手間取っているようだ。 ルタンドとゼクゥの混成部隊が街の中から出撃してくる。 それらの動きは、当然大尉達のシグナスのモニタでも捕らえていた。 『前方、敵モビルスーツ確認!ザウート3、ゼクゥ5、ルタンド5!』 中尉が叫ぶ。 三機のシグナスは緩やかに蛇行しながら、街目指して荒野をまっしぐらに走り抜ける。 すると彼らに向かって幾重ものビームが放たれた。 いくつもの光弾が横を通り抜ける。 遠くに見えるアリーの街の前で立ちはだかる、政府軍のモビルスーツ部隊が撃ってきたのだ。 まだ有効射程外だというのに。 「来るぞ!気合いを入れな!」 『了解!』 『おっしゃあ!』 あの可変モビルスーツ、マサムネの姿はまだ見えない。 第一次攻撃はマサムネが動き出すまでだ。 とにかくそれまでの間に、ある程度のダメージを与えておきたい。 大尉は決断する。 「ライトニング=フォーメーション!Act.アルファ!!」 大尉がそう言った直後、シグナス達の動きが一変する。 今まで蛇行していたその動きが一変する。 大尉と少尉が左右に分かれ、さらにスピードを上げて突撃してきた。 しかもその動きは一層鋭角的に大きな軌道を描くようになったのだ。 それに合わせるかのように、政府軍のモビルスーツ隊も左右に分かれた両機に次々と砲火を浴びせる。 ザウートの砲火が轟き、少尉機の直ぐ側で爆炎が上がる。 「んな、ヘナチョコ弾に当たるか!」 こんな程度で萎縮する少尉ではない。 ますます大胆にシグナスを駆る。 前衛のルタンドとゼクゥにビーム突撃銃を乱射する。 当たる当たらないではない、とにかく牽制だ。 同じように大尉機も乱射する。 大きく左右に動き回るシグナス二機と、街を背に陣形を取る政府軍モビルスーツ隊。 両陣営から放たれた無数のビームがいくつも交差し、宙を焦がす。 だがどちらにも致命打は与えられない。 やや戦線が膠着の様相を見せたその時、一条のビームが後列にいた後列に居たルタンドの頭部を破壊した。 「やったぜ!」 少尉が叫ぶ。 中尉のスナイパーライフルだ。 まるで針の穴を通すかのような見事な狙撃で、敵陣に穴の開ける。 中尉は大尉達が敵の攻撃を霍乱しているさなか、一旦下がったように見せかけ、その実後方から狙っていたのだ。 これが大尉達が編み出した戦術「ライトニング=フォーメーション」である。 三機一体で織りなす戦術の数々の中核であり、ここから数々の基本戦術が生み出されている。 そのうちの一つがAct.アルファと呼ばれるもので、少尉と大尉が敵を引きつけ、中尉が攻撃するというコンセプトのフォーメーションだ。 少尉と大尉が左右に大きくジグザグ動いて、敵の注意を引きつける。 一旦下がったように見せかけた中尉から敵の目を目をそらしつつ、スナイパーライフルで相手を狙撃。 すかさず離脱し体勢を立て直すという、所謂一撃離脱用のフォーメーションである。 勿論、中尉は一番後列から狙撃するので、撃った弾が少尉や大尉に当たる恐れはあるが、これまでも中尉は誤射をした事は無い。おそらくはこれからも。 陣形に穴を空けられ、一瞬政府軍モビルスーツ隊の間に動揺が走る。 「よし!マサムネが来る前に逃げるぞ!ライトニング=フォーメーションAct.ブラボー!!」 大尉がすぐさま指示を飛ばす。 『了解!』 『あいよっ!そこらじゅうに”目くらまし”をばら撒いてやるぜ!』 すぐさま少尉が前面にチャフの混ぜられたスモーク弾を発射する。 大尉達のシグナス隊と政府軍モビルスーツ隊の間に、真っ白い煙の壁が立ちはだかった。 Act.ブラボーは『撤退戦用の陣形』なのだ。 後詰め、いわゆる殿(しんがり)に少尉が当たり、大尉が指揮、中尉が支援砲火を行う陣形である。 チャフが混入したスモークの前ではセンサーも役に立たない。 視界を封じられた政府軍モビルスーツ隊、ゼクゥとルタンドの部隊が一気に突撃してきた。 その様子にコックピットの中で大尉はニヤリと笑う。 三機のシグナスはゼクゥ、ルタンド隊を引きつけながら撤退を図っていく。 かねてからの作戦通りに。 一方、リヴァイブ基地。 ローエングリン砲要塞を再利用したこの基地には、今人がほとんどいなかった。 基地の人員は戦闘のためにほとんど出払っていて、今残っているのはごくわずかな非戦闘員しかいない。 その中には指揮官たるロマもいた。 前線指揮は大尉に任せ、今回の彼の役目はリヴァイブとローゼンクロイツとの協調を取るための、前線に必要な情報や指示を送る事だった。 そのためにはすぐに情報が集められ、かつローゼンクロイツの上層部にもすぐに連絡が取れる基地の方が、何かと好都合だったのだ。 刻々と新しい情報が入ってくる。 ロマの見たところ、状況は今のところ順調のようだった。 「“釣り野伏せ”?」 耳慣れない言葉にソラはきょとんとする。 初めて聞く言葉なのだろう。 よく分からないみたいだ。 「大尉曰く“古き良き伝統”の戦い方、だそうだよ」 食堂で休憩に入れたコーヒーを飲みながら、ロマはそう言った。 彼の傍らには、いつでも対応できるように通信機が置いてある。 ロマが休憩に食堂を訪れると丁度そこではソラが、夕食の仕込みのためにジャガイモの皮むきをしている所だった。 すると作戦の状況が気になったのか、ロマの姿を見るや否や状況がどうなっているのか聞いてくる。 それはもうしつこいぐらいに。 出撃したシン達を心配しているのだろう。そこである意味やむなくロマはソラに状況を教えてやる事にしたのだった。 持っていた地図の上にチェスの駒を置いていく。 駒は大尉達と相手方のモビルスーツ隊の動きを表していた。 「大尉達は、まず敵部隊に一撃を加えて、そのまま攻め込むとみせかけて全力で離脱する。敵を引きつけながら、ね」 チェスの駒を動かしならが、ロマは説明を続ける。 戦略などソラには縁遠い内容の話だが、なんとなく言いたい事はわかった。 「敵を引きつけて罠にかける、という事ですか?」 ソラは歴史が好きだったから、軍記物なども良く読んでいた。 その中には撤退戦を仕掛け、相手を罠にかけるシーンが何度と無くある。 「それだけじゃあ無いんだよね、大尉の考えたシナリオは。あの人が味方で、本当に良かったよ」 「……はぁ」 “釣り野伏せ”とは数ある撤退戦術の中でも有名な戦法だ。 日本の戦国時代では島津義久が得意とした戦術であり、当時の天下人、豊臣秀吉に対しても一矢報いた程の有力な戦術である。 この戦術が成立する条件は二つ。 ①まず接触した部隊が、退却しつつ攻勢を加えていく。 ②①に呼応するように別働隊が敵側面を突く。 「これだけ見れば簡単そうなんだけどね。でもね、これが結構難しいんだ」 そういうとロマはまたチェスの駒を動かしていく。 「この作戦の重要なところは、実行には撤退をする部隊が敵を引きつけなければならない所にあるんだ。でも損害を与えすぎてはいけないし、損害を受けすぎてもいけない。損害を与えすぎると敵が追撃を諦めてしまって、戦力の分散ができなくなるし、逆にこちらの損害が大きすぎると、撤退すらできなくなる。微妙な匙加減が必要なんだよ」 「そ、それって凄く難しいんじゃありません?シンさん達だけでなんとかなるんですか?」 「そういう事。勿論、これだけじゃあ勝てない。なにせ今回の敵はとにかく数が多いからね」 ロマの説明にソラも頷く。 それぐらいは素人の彼女にも解る。 何故ならこちらの戦力だけでは①はともかく②をクリア出来ないからだ。 そんなソラの顔を見ながら、ロマは満足げに笑った。 「そこで僕が用意した『奇策』が生きてくるのさ」 シンとコニールはバルアミー鍾乳洞に着くやいなや、バイクでそのまま乗り込み、鍾乳洞内を走っていた。 「もっとマシな道は無かったのかよ!」 シンが叫ぶがコニールは意に介さない。 「仕方が無いでしょ!?こういう道しかないんだから!」 「これは『道』なんて言わない!大体、お前が教えてくれる『道』で良い事があった試しがあるのか!?」 バイクが大岩を飛び越え、その向こうの小道に着地する。 その横には断崖があり、一歩間違えばそこに落ちてしまうタイトロープのような有様だ。 (また鍾乳洞の中を行くハメになるとは思わなかったぜ……) ふとザフト時代の記憶が甦る。 当時シンはローエングリン砲台を陥落させるためにコアスプレンダーで飛んだ。 あの時もかなり肝を冷やしたが今度はバイクだ。 (アリーの街に着くまで、俺は生きて居るんだろうか……?) 今更愚痴を言っても仕方が無い。 仕方なくシンはシートに深くふて寝する事にする。 「……着いたら、起こしてくれ」 隣のコニールのやけに楽しそうな横顔を見ながら、シンは胃がキリリと痛むのを感じていた。 敵の三機のシグナスは牽制しつつ、撤退していく。 一方こちらは、ルタンドの一機が頭部を吹き飛ばされて行動不能になった他は、味方のゼクゥ・ルタンド隊が順調に敵を追い詰めていた。 この後さらにマサムネ隊が支援に加わる予定だ。 上空のムラマサから戦況を観察していたアデルは、テロリスト達が何を考えているのか推測していた。 (……罠、か。この戦力差ではそれしかないが) テロリスト達の狙いは、言うまでもなくアリーの街の奪還だとアデルは睨んでいた。 そのためにはアデル達政府軍を退けさせなければならない。 そう考えていくと、今のシグナス達の動きは『こちらを罠にかけるために動いている』と見るのが妥当だと、アデルは考えていた。 かといってアデルに兵を引かせる考えは無い。 アデル達の目的はアリーの街を守る事では無く『アリーを利用して、出てきたテログループを殲滅する』のが目的なのだから。 ならば多少の罠であろうと打ち破るつもりでいた。 それ故、アデルは敵の思惑が丸見えの撤退戦に付き合う事にした。 万が一の時はこのムラマサで支援してもいい。 戦力にはまだ余裕がある。 それが今のアデルに戦況をゆっくりと観察するゆとりをもたらしていた。 しかし、同時に彼は思考の隅に引っかかるものも感じていた。 (……戦力比を考えても奴らの方が劣勢なのは明らかだ。ならば同じ罠を仕掛けるにしても、夜襲で使うなり、奇襲を狙うなり、もっとこちらの隙をうかがう攻め方があったはず。なのに何故テロリスト共はそうせず、あえて白昼堂々攻めてきたのだ?) 今現在戦っているのはリヴァイブのモビルスーツ、シグナス三機のみ。 それが逆にアデルを不安にさせる。 (こっちのモビルスーツ隊を街から離させた後に、歩兵部隊でアリーの街を奪還するつもりか?いや、だとしても街に駐屯するこちらの部隊の方が数は圧倒的だ。それが分からん連中でもあるまい。一体どういう事だ……?) ゲリラは隠密行動に徹するから利があるのだ。 そこに罠を張るから、効果も上がる。 それすらもかなぐり捨てたリヴァイブの戦略に、アデルは不可解なものを感じていた。 (罠を仕掛けているのは間違いないだろう……?しかし一体どうやって?奴らの戦力にはもう余裕はないはずだ。それともまだこっちが掴んでいない隠れた戦力でもあるというのか?) 思考が答えの見えない疑問の迷宮に嵌る 疑心暗鬼。 これこそが、大尉の考えていた戦術の効果である。 中途半端に相手の戦力を知っているだけに、逆に一度疑いが生じるとどこまでもキリが無くなるのだ。 さらに彼を疑心暗鬼に陥れるのが……。 (しかも例の”ガンダムもどき”はまだ見えないと来ている。奴は何処だ!?何処から来るつもりだ!) この時アデルは自覚していなかったが、彼は焦っていた。 アデルの本当の目的は”ガンダムもどき”――すなわちダストの撃墜だった。 一機とはいえダストの戦闘力は既に証明されているように、十分な脅威といえる。 しかもその相手に二度も苦渋を飲まされているのだ。 (奴だけは俺が倒す……!) ダスト打倒への執念がアデル自身をシグナス隊追撃に向かわせず、ここに留まっていた強力な動機となっていた。 もちろん戦況が不利になれば、その限りでは無かったが。 だがそれはある意味、大尉の戦術が予想以上に成功していた事を意味していたとは、当のアデルは気づくよしもなかった。 この時ゼクゥ、ルタンド隊に続いてアデルがムラマサ隊までを戦線に投入していれば、シグナス達は捌き切れなかったかも知れない。 数が違う上に、空と地上からの二面攻撃を受けては、さすがの大尉達ももたなかっただろう。 だが逆にアデルはザウート隊とルタンド隊を街に戻した。 既に一機が中破していたし、追撃させるにはルタンドはゼクゥの機動力に付いていけず連携が難しかった。 現に前を行くゼクゥとルタンドの間はかなり距離が離れていた。 更に都市防衛の面で歩兵部隊だけでは如何にも不安があったからだ。 そして何より未だ姿の見えぬダストの存在が、アデルにそういう判断を余儀なくしていた。 (ゼクゥの支援はマサムネ隊に任せるから、まあ大丈夫だろう。あとは、奴だけだ……!) アデルはムラマサのコックピットの中でどこかに潜んでいるであろう、ダストの気配に神経を尖らせていた。 かくて大尉のシナリオ通り敵部隊は攻撃部隊にゼクゥ及びマサムネ隊、防衛部隊にルタンド、ザウートと分断された。 戦術とは、効果的に兵を配置し、運用する事だ。 その点に置いて大尉は『敢えて兵を見せない』事で敵戦力を分断させ、『時間単位における戦力差』を減算させる事に成功しつつあった。 つまり、敵に遊兵(この場合は戦闘に参加しない兵)を作らせる事に成功したのである。 “兵は欺道なり(戦争とは敵を欺く行為である)”とは、この事だろう。 結果的に政府軍の戦力は二分され、大尉達を追撃する戦力も減った事になるが、では彼らが楽になったかというと、そうでもなかった。 『でー!!ルタンドが居なくなってからの方が、ゼクゥが生き生きしてやがる!』 『そりゃそうでしょう。あっちの方が明らかに足が速いんですから!』 少尉と中尉が悲鳴を上げる。 砂塵渦巻く荒野の中で、四つ足のモビルスーツに追い立てられた三機のシグナスは、まさに四苦八苦の様相を呈していた。 ゼクゥはバクゥの後続機種である。 地上での機動力、速力は他の追随を許さず、ここにおいてもその威力を遺憾なく彼らに見せ付けていた。 「ルタンドがいなくなったら、こいつら急にスピードを上げやがった!!」 大尉機がビーム突撃銃を乱射する。 だがゼクゥは難なくそれをかわし、逆に背部にある連装ビーム砲を撃ち返してきた。 「くそぉ!」 なんとかかわす。 だが別のゼクゥが横に回り込む。 大尉機の死角だ。 「チッ!」 後ろを取られたか、大尉がそう覚悟をした瞬間、スナイパーライフルが数発がゼクゥをかすめいった。 すると形勢が不利と見たのか、そのゼクゥはあっと言う間に後方に下がっていく。 『大尉!大丈夫ですかか?』 「スマン、中尉!」 大尉達は機動性の高いゼクゥ隊を捌くのに、必死にならねばならなかった。 シグナスとて足は速いが、流石に平地ではゼクゥの速力に敵うものでは無い。 幸い撤退したタイミングがかなり早かったので、包囲される事はなかったが、ゼクゥ隊は隊列を整え、ジリジリと三機のシグナスを追い詰めてくる。 さらに。 『!?……二時方向、マサムネ来ます!』 ――新手が来れば、また問題は別だ。 「中尉、対空散弾!!」 大尉が言葉少なに指示を出す。 中尉は直ぐに動いた。 『了解。フォロー願います!』 少尉と大尉のシグナスが、ゼクゥ隊と中尉機の間を塞ぐように移動する。 精密射撃をする時はどうしても足は止まるか、そうでなくとも単調な動きになる。 この状況下で足を止める事がどれ程危険な事かは、言うまでも無い。 『散れっ!手前……ラァッ!!』 少尉が温存していたミサイルポッドを全弾発射する。 同じように大尉もミサイルを射出する。 弾幕に視界を遮られ一端距離を取るゼクゥ隊。 ――そして数瞬出来た隙に中尉は対空散弾の狙いをマサムネに定め、撃つ。 かろうじてマサムネはそれを回避する。 外れた散弾は地上のゼクゥに雨の様に降り注ぐ。 しかし散弾はゼクゥの装甲に少しの焦げを作っただけで、ダメージと言えるほどのものは与えられなかった。 「……焦らせやがって!そんなオモチャじゃ何発喰らっても効かないぜ!!」 マサムネのパイロットが吼える。 彼は散弾の弾幕は脅威足りえないと判断し、攻撃を仕掛けてきた。 それこそ中尉達の狙いだとも知らずに。 中尉は再び狙いを定め対空散弾を放つ。 が、威力を見切ったマサムネはかわそうともせず距離を詰めてくる。 そしてそのまま散弾の弾幕の中に飛び込んだ。 「な、何!?」 マサムネのパイロットは驚愕する。 突然、コックピット内に警告ブザーが鳴り響き、機体がコントロールを失ったのだ。 咳き込んだような音を立て、エンジンが止まる。 マサムネは機体に一体何が起きたのか理解する前に、地上に墜落していった。 それを見た残り二機はあわてて上空へ退避する。 『いよっしゃぁ!』 まんまと嵌った敵の姿に少尉は、中指を立てカッツポーズを見せた。 中尉の射出した対空散弾とは俗称で、正式に配備されている弾頭では無い。 レジスタンスが開発した“対戦闘機用のエリア攻撃兵器”という代物だ。 ある一定距離を進んだ後に爆発し、かなりの広域に散弾を散布する。 その散弾一つ一つは鋼鉄ではなく強化プラスチックに溶液を浸した様なもので、とても戦闘機を撃墜できる威力は無い。 だが、この武器が効果を発揮するのは『その弾が一つでも戦闘機のエアインテークに吸入されてから』なのだ。 強化プラスチック内の溶液は気圏戦闘機に使われる航空燃料と良く反応し、小規模ながら爆発を起こす。 それが一つでも内部で爆発してくれれば、たちまち内部機構が破壊され、機体は動作不能に陥るのである。 マサムネ隊は見かけの威力に騙され、回避を怠った為、見事引っかかったのだ。 一機撃墜。 しかし喜んでいる場合ではない。 大尉が叫ぶ。 「馬鹿、喜んでる場合か!避けろ!」 一機のゼクゥが肉薄し、口に構えたビームサーベルが少尉を襲う。 間合いが近すぎて大尉達もフォローができない。 『……なろおっ!!』 少尉は無理に避けようとせず、そのままゼクゥに体当たりをかける。 ビームサーベルがシグナスの左腕を切り裂きそのままボディを切り裂こうかという寸前、シグナスはゼクゥをかち上げた。バランスを崩し、ゼクゥの体が宙に吹き飛ぶ。 思い切りのいい少尉で無かったら死んでいただろう。 「油断するな、少尉!」 『す、すんません大尉!』 すぐさま大尉が少尉のフォローに入り、再び三機のシグナスは撤退戦を続行する。 彼らは待っていたのだ。 戦局が変わる瞬間――ロマが提案した『奇策』が実行される時を。