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119 名前: ◆/xv9ou/msw [sage] 投稿日:2012/01/22(日) 03 07 56.38 ID WZHTyoNPP [6/29] 同人限定・2011年ベストエロゲー投票 総得点ランキング(加点制) (集計者:◆/xv9ou/msw) 票数 得点 S C G M P H平均 タイトル 1 5 11 3 1 0 0 4 4.40 もんむす・くえすと!前章 ~負ければ妖女に犯される~(同人) 2 5 08 4 2 0 0 4 4.60 もんむす・くえすと!中章 ~負ければ妖女に犯される~(同人) 3 3 07 3 2 1 0 0 1.50 ChuSingura 46+1 -忠臣蔵46+1- 江戸急進派編(同人) 4 3 04 1 1 3 0 1 3.66 朝からずっしりミルクポットSPECIAL(同人) 5 3 03 0 1 3 0 0 5.00 聖ヤリマン学園援交日記(同人) 6 1 03 1 0 0 0 0 4.00 君がいた図書室(同人) 7 2 02 0 2 0 0 1 4.00 DragonMahjongg3天空編(同人) 8 1 02 0 1 1 0 0 5.00 僕と契約して幼なじみ生徒会長に催眠をかけよう!(同人) 8 1 02 0 1 1 0 0 5.00 紅炎の守護騎士キシャル(同人) 9 1 01 1 0 0 0 0 5.00 ふたば☆ちゃんねる3(同人) 9 1 01 0 1 0 1 0 5.00 イトコビッチ(同人) 9 1 01 0 1 1 0 0 4.00 はじめてどうし2~HAPPY・バカップル~(同人) 9 1 01 0 0 1 0 0 4.00 ぷにろり湯(同人) 9 1 01 0 1 1 0 0 4.00 危険日狙って!?孕ませ王国(同人) 9 1 01 0 0 1 0 0 4.00 妹が乱心してるんですけどどうすればいいですか?しらんがな!(同人) 9 1 01 0 1 0 0 0 2.00 わーすと☆コンタクト ~死神彼女と宇宙人~(同人) 9 1 01 0 0 1 1 0 2.00 彼女と彼女と私の七日-SevendayswiththeGhost-(同人) 9 1 01 1 1 0 0 0 ---- ChuSingura 46+1 -忠臣蔵46+1- 仮名手本忠臣蔵編(同人)
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地下へと続く階段を降りる。カツーン、カツーン 先祖伝来の城は今の時代の僕にとっては住み心地がいいものではない。 ベッドは無駄に広く。大理石の床は冷たく。父や母の部屋には遠かった。 父亡き後、この城を受け継いだ私は不便を感じながらも この城を手放す気にはならなかった。 ここは、見たことも無い先祖が代々、家族を護ってきた『家』だから。 見たことも無い先祖がどれだけ家族を愛し、『血』を引き継いできたのか 私は知っているから。 なぜ、私がご先祖の全てを知っているのか。 それは、ご先祖と共に生きてきた『存在』が地下で生きていたから。 私が生まれた時、いや、父や祖父が生まれた時にも その『存在』、彼女が祝福してくれたと聞いた。 この家に生まれた全ての者は彼女に祝福され、その愛を受けとる。 そして彼女を残して、未来を託して死んでいく。 彼女は、全てを見て、全ての思い出を胸に抱いてきた。 「ばあさん、入るぞ」 「レディに向かって婆さんは無いものよ。そんな躾をした覚えは無いわよ」 「レディって歳でもないだろう。さすがに見掛けも色褪せているわけだし。私が生まれた時からの付き合いなわけだし」 「《生まれる前》からよ。マスター。この家の当主のことは最初の2代を除いて皆、生まれる前から知っているわ」 「何度も聞いたよ。まあ、いいでしょ。で、身体のほうはどうだ?」 「良くは無いわね。仕方ないわ。何事も永遠はありえないのだから」 「何度も言ってるけど、上で暮らさないか? 家族も望んでいるし。なんだかんだ言っても、ばあさんの姿が見えないと寂しいらしい」 「気持ちは嬉しいけど、遠慮しておくわ。貴方達が悪いわけではないのよ。 何十年も前から身体の調子が悪くなってきて、最後の時が近いことを自覚した時にね、ここに来たくなったのよ」 「ここは、先祖の残した物をしまい込んでいるからね。甲冑、武具、馬鎧に普通の馬具。大砲に鉄砲。自転車、自動車。蓄音機から電話機まで置いてある。 ちょっとした博物館だな……」 「ねえ、マスター。貴方にとっては古いくらいの価値しか無いのかも知れないけれど。 私にとってはどれもこれも思い出のある品物だわ。この子達を使った代々のマスター達との大事な思い出。目を閉じれば、昨日のことのように思い出せるのよ」 目を閉じて、思い出を呼び覚ます彼女の顔は、子供の頃から見慣れた顔だった。 幼かった私は彼女にご先祖の物語を聞き、思い出の品を眺め、彼女の香りのするベッドで眠り、彼女の膝の上で食事をしていた。 弟や妹も同じことをしていたなぁ……。 「あの、プレートアーマーに悪戯したときは凄く叱られた覚えがあるなぁ」 「あれは……特別なんだもの、仕方ないじゃないか」 「思い入れ?」 「初代当主の遺品だってことは話したわね……。わたしが、この家に嫁いできた時のマスターよ。わたしもまだ少女だったわ……まあ、いいじゃない」 「惚れてた?」 「ま、まあね。いい男だったわよ。貴方のご先祖。おかげで、ずっとこの家に居ることになったわけだし」 「クスクス」 「笑うんじゃないのよっ。子供のくせにっ」 「子供って……世間では立派に一人前なんですけど……」 「私から見たら誰も彼も鼻垂れ坊主よっ。たかが20年や30年生きたくらいでっ」 「そりゃぁぁぁそーだろ!」 過去のご先祖とのロマンスをからかうと彼女は照れて怒り出す。老いたりとはいえ、耳を赤くして照れる姿はとてもチャーミングだ。 彼女と添い遂げることを望んでも、血を絶やすことを恐れる家柄はそれを許さず。 本人の意向と関係なく伴侶を娶り、血を残してきた。 いろいろ、あったんだろうに……。彼女は愚痴や恨み言を言ったことは無かった。 そんな日常を過ごしつつ数年が経ち、私にも自分の家族が出来て、血を受け継いだ子は彼女の祝福を受けることができた。 穏やかな日々を過ごし、私の子供も、かつての私と同じように彼女にご先祖の物語を聞き、思い出の品を眺め、 彼女の香りのするベッドで眠り、彼女の膝の上で食事をしていた。 そんな日々が永遠に続くものだと錯覚していた……。 『その時』は唐突にやってきた。 「マスター、家族を集めてちょうだい」 「どうした?」 「意識が薄くなってきたわ。どうやらわたしも、ここまでのようよ」 「なにを馬鹿なことを……」 「早く、家族を呼びなさい」 彼女に気圧されて部屋を出る。早く、早く――― 「みんな、来たようね。長い間、ありがとう。とても素敵な人生だったわ。貴方たちのご先祖から受けた愛情を わたしなりに精一杯伝えたつもりよ。みんな、これからも元気でね……」 「ばあさん……」 「マスター、貴方が小さい頃を覚えているかしら? 先代に叱られて泣きながらここに逃げてきていたわね……」 「貴女は私が泣き止むまで抱きしめてくれたっけ……。怖い夢を見て、眠れなくなった夜も……貴女の胸の中ではぐっすり眠ることができたよ」 「愛しているわ……My Boy。愛しているわ、この家の全てを……」 握る手から力が抜けていく……ああ……本当に……お別れなんだね……。 その時、けたたましい音を立てて先祖伝来のプレートアーマーが崩れた。代々の男たちが受け継いできたあの甲冑が。 「ああ! マスターっ!」 彼女の視線は私を通りすぎ、虚空を見つめていた。喜びの笑顔を浮かべて……彼女は逝った。 代々のマスターが迎えにきたのか……。 男達の魂が、彼女を連れて行く……。 さようなら……Grandma。私も、貴女を愛していましたよ……。 「おばあちゃん、居なくなっちゃったの?」 子供の声に我に返り、言葉を探す…… 「おばあちゃんはね、帰ったんだよ……懐かしい人たちのところへ……だから――」 宝石乙女の物語を伝えよう。彼女が伝えてくれた物語を。彼女の愛情と共に。 ~名も無き乙女の昔話~
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彼女達の顛末 ある日、彼女の無二の友人でもある、Arianaと二人でショッピングをしている最中に、キュウベぇと名乗る謎の生物と出会った事で、 彼女の薄氷のような当たり前の生活は終わりを告げる。願いを叶える代わりに魔法少女になると言う話を聞き、Litlleyは怪しさからその話を無視する事に決める。 しかし一緒にいたArianaはこの話にあっさり乗り「Litlleyも魔法少女にしてよ」と願った結果、 Litlley本人が意図も望んでもいないにも拘らず魔法少女になってしまったのである。当然本人はこの願いに大激怒したが、願いの取り消しも出来ず、 最終的には仕方がないかと諦め、魔法少女となったArianaに付き合う形で一緒にバディを組んで戦っていた。二人で魔女退治に、人助けに、と精を出しつづけていたある日に、 Arianaが魔女と魔法少女の関係を知ってしまう。その事でArianaに少しずつネガティブの気が高まり、 遂には魔女化する寸前に魔女化する事の無いLitlleyに対し八つ当たりとも言える怒りをぶつけ、道連れにしようと襲いかかる。 しかし純粋な戦いではLitlleyに敵わず、最後には涙を流しながら謝罪し、自分のソウルジェムの破壊、つまり殺害を依頼する。 それがLitlleyにとって助手としてでない、初めての殺人となった。Arianaは魔女になる事なく死に、その亡骸はLitlleyの手により家族の元に届けられた。 その後のLitlleyは魔法少女を殺す、殺し屋として生きて行く事を決め「自分のような異常存在が生み出される可能性が存在するシステムである以上近い将来、 必ずやこのエネルギー回収システムは崩壊する。私はそれを見定める」と、魔法少女と言う存在の結末を見定める事を決意し、世界各国を渡り歩きながら、 魔法少女にその本当の正体を教え、もしそれにより己の今に絶望したのなら、苦しませずに逝かせる殺し屋として魔法少女の間で少しずつ噂になっている。 Ariana自身は魔女になる事は無く、Litlley本人も魔女になる事はないが、互いの人生は魔法という全てに大きくねじ曲げられた事になり、 ある意味魔女の呪いを受けた存在、魔女にすらなれない魔法少女であるとも言える。
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出典:エーケービー四八で百合SS レス:130-133 好きな人に触りたくなる時って、本当に前ぶれもなくやってくる それは今日の休憩時間も同じで、自分に抵抗する事なく伸ばした指先は簡単に彼女の髪に触れた 楽屋には狙いすましたように私と彼女しかいなくて、彼女も私の手を目を細めて受け入れる もっと近づこうと椅子ごと動けば床と擦れて派手な音を立てた それに驚いてこちらを向いた彼女に苦笑いを零して肩をくっつける 冷房が効きすぎているせいか、触れ合った肩からあまり体温は伝わって来なかった 「麻里子どしたの?」 「んーなんとなくー」 「そっかー」 鏡を使って彼女を見ると、その視線は携帯をじっと見つめて、指はせわしなく動いている きっとブログでも書いてるんだろうな、って気にしなかったものの、どこか満足していない自分が居て 鏡越しにずっと視線を送って見れば1分くらいして携帯を閉じた彼女が首を傾げて見返して来る 薄く笑って自分の肩を叩くと彼女も少し笑って素直に頭を預けてくれた 私も首を傾けて、頬に当たるさらさらした髪の感触に時計の針がゆっくり進んでいるような気がした 二人の距離は充分に近いし、肩の重みは心地よくて思わず目を閉じてしまいそうだった それでももっと触れたくなるのは、楽屋に二人しか居ないから 目を閉じるのを躊躇ったのは、彼女の手が私の手に重なったから 「敦子?」 「なぁんか、暇だよね」 「まぁ空き時間だし」 「みんなコンビニ行っちゃったし」 「私と敦子しか居ないし」 「それはそれでいいんだけど」 言い終わった彼女が手を強く握る、そのまま逆の手で軽く体を引き寄せた 嗅ぎ慣れた筈の香水が新鮮で、仮にも仕事中だって事を忘れそうになる むしろもう忘れていなきゃこんな体勢にはなっていない気もしながら、額同士をくっつけた 黒目がちの瞳は至近距離でもしっかりと私を捕らえて不思議そうに光を反射させた 「ホントにどしたの?」 「んーなんか触りたいなーって」 「珍しいね」 「もっとくっついていい?」 「はーい」 「じゃあチューしよ」 「それはやだ」 即答で拒否されたものの、口調はそうでもないし、表情も本気で嫌がってはいない 瞳だってその先を期待している、と全部都合のいいように解釈しているのを彼女は気づいてる 顔を離せば下がった眉は若干呆れたようにも困ったようにも見えた この顔はなんだかんだ私の言うことを聞いてくれる顔だと分かって、思わず笑みを漏らせば、わざとらしい溜め息をつかれた 溜め息の後彼女がまた手を強く握ったのを合図に軽く触れるだけ、たちまち赤くなった頬をつつけば目で怒られた その視線をわざと勘違いしてさっきよりちょっと長くもう一度、今度は違うってはっきり口に出されてしまう 謝る気なんて全く含んでいないごめんを頬を膨らませて聞き流した彼女は横目で楽屋の入り口を見ていた 「あれ、敦子さんチュー嫌い?」 「そうじゃないです」 「…まだ帰って来ないっしょ」 「でも」 まだまだ休憩時間は残ってるし、他のメンバーがコンビニに出かけてからそこまで時間は経っていない もう数回キスしたところで別に誰に見られる訳でもない、はず それでもイマイチ私の言葉が信用出来ない彼女は、時計と入り口を交互にちら見していた 「敦子」 「はい?」 「私、キスだけじゃ足りないかも」 「え、待って、チューで我慢して、下さい」 「じゃあしてよ」 「ぁ…」 してやったりな笑顔の私と、してやられたと言わんばかりに口を開けたままの彼女 あまりにも二人の表情が対照的すぎてまた笑えて来たけどそれをグッと我慢する 急かすように自分の唇を指差して軽く二回叩くと、今日二回目のわざとらしい溜め息をついた 彼女の口から小さな幸せが逃げ切った少し後、知らない間に敏感になっていた耳が一人分の足音に気づく それは彼女も同じみたいで、反射的に手を離そうとしたけどその前に強く私が引き寄せる バランスを崩してすっぽり私の腕の中に収まった彼女がそのまま見上げて来て、柄にもなく息が詰まった でもそれは一瞬で私しか気付かずに妙な緊張感が二人を包む 「麻里子」 「まだ大丈夫だって、早く」 「でも、もう誰か」 「いいじゃん、誰か来たらさ」 この問答の間に更に近付いて来た足音に無理だと判断した彼女が私の肩を押した けれど腕力では私の方が強い、腕力だけじゃないけど なのですぐに追いつくと彼女の耳元に唇を寄せた 好きな人に触りたくなる時って、本当に前ぶれもなくやってくる そういう時ってやっぱり誰にも邪魔されたくないし、あまり見られたくもないものだとは思うけど 近付いてくる足音がもし私たちを邪魔しようとしているのなら、私はむしろ 「誰か来たらさ、見せつけてやろうよ」 「まり、こ」 私が彼女に三度目のキスをしたのと、扉の向こうの誰かがノブに手をかけたのは同時だった END
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唯「さっきまで和ちゃんの家行ってたんだ」 唐突に彼女は話始めた 紬「和さん?」 半年位前ならば暗い気持ちになっているところだけど、今はそうならない。和さんは私にとっても友達になったから 唯「憂にもみんなにも和ちゃんの家に行くって言ってたし、他に行けるとこなくて……」 憂ちゃんにも日曜日は和さんのお家に行くと伝えていた 和さん自らいろいろ事情もあるだろし、そうしといた方が変に怪しまれないからと私達に言ってくれたのだった。 紬「ごめんね」 唯「……うん」 今回の事で初めて、謝る私に彼女はいいよとは言わなかった 唯「それでいろいろお話ししたら、和ちゃんに怒られた」 紬「何て?」 唯「……例え心が通じ合ってても、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないこともある。とかそんな感じ」 紬「そっか……和さんがそんな事を」 唯「だから……話したくて」 紬「うん」 唯「私今スッゴく怒ってる、今までで一番。」 紬「うん」 私はただ返事をするこしかできない 唯「ムギちゃんは何で私が怒ってるか分かる?」 紬「……誕生日なのにバイトに行ったから?」 唯「違うよ!!!」 彼女の声が大きくなる。 けど、違う?じゃあ一体何に・・・ 唯「ムギちゃん覚えてる?前にムギちゃんのお家にお泊まりに行った時にケンカしてさ、私ムギちゃんに言ったよね? ムギちゃんのしたいこと全部受け入れるって、苦しくても一緒なら耐えられるって」 紬「うん、覚えてる」 そうだ、彼女は私が自分一人で抱えていた悩みも一緒に背負ってくれると言ってくれた 唯「だからムギちゃんがバイトしたいならしてもいいって思えた。 本当は会える時間が減るのは寂しかったし、悲しかったよ ムギちゃんがバイトに行って会えない日は一人で泣いちゃったりもしたけど、 授業中寝そうになったり、部活中もちょっと疲れた顔見せてても、私との時間を頑張って作ってくれて、 会った時は疲れた顔を見せないムギちゃんを知ってたから、 私だって頑張らなきゃって思った。 寂しいなんて言っちゃダメだって……ムギちゃんがしたいことをさせてあげようって」 我慢していた涙が溢れ、零れるように彼女の瞳から頬をつたっていく 唯「だから日曜日は久しぶりにたくさん会えると思っていたから、この前電話もらった時もスッゴいイヤだった。 けどムギちゃんが悪くないのは分かってたよ、ムギちゃんだってきっと残念に思ってくれてるって。 だからバイトを始めた時みたいに、ムギちゃんの口から言ってくれたら私だってちゃんと我慢した……」 紬「ゆ、唯ちゃん、私ちゃんとあなたに……」 伝えたわよ。と言葉を続けようとしたのにでてこない。 あの時の言葉を思い出しそして気づいてしまった…… 唯「誕生日にバイトが入ったから、その日は遊べなくなったって言ってもらいたかった。 ちゃんと自分の言葉で自分の口で言って責任とって欲しかったのに、ムギちゃんは私に聞いてきたよね? どうしたらいいかって…… 言えないよ、行かないでなんて……言えるわけないじゃん! だって……頑張ってるムギちゃんを困らせちゃうもん」 そうだ、私はただ状況を説明していただけで自分ではっきりと行くとは伝えてない。 自分でも行くつもりだったくせに彼女に聞いたんだ 答えが一つしかない質問を… 自分が悪者になりたくなかったから、彼女にその選択を任せた振りをした。 唯「だから答えた……いいよって、だってそうとしか言えないもん。 なのにムギちゃんまた聞いてきた、 本当にって…まだこれは決定じゃないって…… ズルいよ、あんなの最初から相談じゃないよ。 ねぇムギちゃんは私に何て言って欲しかったの?私が行かないでって言ったらどうするつもりだったの?」 電話を切った後自分でも思ったこと、本当は分かっていたけど知らないふりをした。 誰の為でもない、ただ自分の為に 唯「もし私が行かないでって言ったらそれを言い訳にしようとしてたんじゃないの? 唯ちゃんがそう言うなら仕方ないって けど最初から私がそう言わないの知ってたんじゃない? だったら……最初から行くって言って、ちゃんと悪者になってよ。 私だってそれをムギちゃんがどんな気持ちで言ってるかくらい分かるんだよ。 優しい振りして、大事な選択をこっちに押しつけるな! あんな事するムギちゃん……嫌いだよ、大っ嫌いだよ!」 そういうと彼女は盛大に泣き出してしまった。 和さんの言葉が思い出される 『思いが通じ合ってても、言葉にしなければ伝わらないこともある』 私は思いが通じ合ってるからきっと唯ちゃんは分かってくれる、私の言いたいことを理解して自分から引いてくれると知っていた。 急にバイトが入ってしまったのは私のせいではない、 ただバイトをし始めたのは私のワガママで、少なくてもその責任をとらなきゃいけなかったのに、 彼女の優しさに、私達の関係にあまえて、自分が取るべき責任を彼女に押し付けたのだ ずっと見当違いなことで謝っていた私を見て、彼女はまた傷ついていたんだろう 彼女の怒っていた原因に今更気づくなんて ―――――嫌い。 彼女とはこれまで小さいケンカも大きいケンカもしてきたけど、お互いにこの言葉だけは言ったことはない 私が彼女に言わせてしまったのだ、こんな悲しい言葉を 紬「ごめんなさい」 どうやったら許してもらえるのか分からない。 ただ謝罪の言葉しかでず、彼女に赦しをこうことしかできない自分が歯がゆい 頭を下げた上から聞こえる彼女の泣き声は止まることなく、悲痛な声が響き続ける 泣かないで……彼女の涙が辛い。 許してもらえなくてもいい、ただこれ以上彼女に泣いていて欲しくなかった。 私は自然と彼女を抱き締める。 何の解決法になるのか分からないけど今は自分の信じてる事をしよう、そしてその責任を取るしかない。 たがそんな私を、彼女は中で引き剥がそうと暴れ、動かした手が私の手やお腹を叩き、かなり痛い。 多分本当にイヤで、こんなことをしている私は決定的に嫌われるかもしれないのだ だけどそんな事よりこのまま彼女が泣き続けて壊れてしまう方が怖かった。 だから私はただそれを受け止めて、彼女に言うしない ごめんなさいと大好きを 少しずつ少しずつ力が弱まっていく。 許してくれたのではなく、たんに疲れただけだろうけど。それを見計らって私もゆっくりと彼女から体を離した。 彼女はまだ泣いていて、まるでそれは今まで私の前で泣けなかった分を取り返しているかのようさえ見える 紬「ごめんなさい、唯ちゃんを傷つけて本当にごめんなさい」 彼女は呼吸するのが精一杯のようで、喉もゼーゼーいってしまってる。 また呼吸が落ち着いたら暴れるかもしれない…… そしたらまた抱き締めよう、何度でも 彼女の怒りと悲しみが全部私にぶつかってなくなるまで 唯「ゆ、るじてって、いって……」 身構えていた私に、突然かすれた声が届く 紬「え?」 唯「ごめんじゃなぐで、ゆるじでって言ってよー」 紬「あっ……唯ちゃん、許して。お願いします」 言われたままに、頭を下げる 上の方ではまだ嗚咽は止まっていない 唯「ム、ギぢゃ、んが、そうじて欲しいなら……そうずる……」 途切れ途切れになりながら、必死に言葉をつなぎ、彼女は確かにそう言った 紬「い、いいの?」 恐る恐る頭をあげながら再度確認すると彼女はまたブワッと泣き出してしまった 唯「きが、ないでよー」 私はまた彼女に選択を迫ってしまって、同じ失敗をした事に気づく 紬「ご、ごめんなさい。許して。 許して欲しい。これからも唯ちゃんと一緒にいたいから許して下さい。 お願い、唯ちゃんに許してもらわないと私が嫌なの」 早口でまくしたて自分の思いを伝える。彼女に聞くのではなく、自分がしてほしいことをお願いする。 今の彼女にとってはごめんなさいでは効果はない。 彼女が欲しいのは私の謝罪ではなく、仲直りしたいという意志なのだろうから、許して欲しいと言わないといけない。 そして彼女の泣き声は時間をかけ小さくなっていった 唯「ギュッてして……」 紬「えっ、抱き締めればいいの?」 唯「ギュッ!!!」 紬「は、はい」 彼女に抱きつくと、先ほどは気づかなかったがあんなに泣いて暴れたというのに体は冷たいままだった。 体の芯から冷え切ってしまっているのかと思うと、本当に申し訳ない気持ちになる。 唯「……もっと」 紬「はい」 いつもより力を入れて抱き締める。 私の体温を彼女にできるだけ分けてあげたいから 唯「……もっと」 紬「はい」 唯「もっと」 紬「えっと……これ以上は痛くなっちゃうわよ」 唯「もっと!!」 紬「は、はい!!」 私は更に強い力でギュッと抱き締めていく 唯「ぅ………ッイダイ!!」 紬「だ、大丈夫?」 唯「うぅ……ムギちゃんのバカ力ー!!」 なぜか私は怒れ、彼女はまた泣いてしまった。 きっと彼女は今まで我慢していた分タガが外れてしまっていて、自分でもよく分かってないのだろう。 いつもの鎧は涙でグチャグチャになってるだろうから。 その後も抱き締めたら怒られ、抱きしめなかったら怒られてを繰り返し、ゆっくりと彼女は落ち着きを取り戻していった。 ―――――― ―― 唯「……ありがとう、もう大丈夫」 今までとのギャップの為か、泣きすぎてちょっとかすれてしまった声のせいだろうか、 かなり大人っぽく聞こえる声で彼女はそう言った。 私は彼女から体を離す 唯「マフラー汚しちゃった……」 見ると私の白いマフラーにも水跡がわかるくらいついている 紬「いいのよ……そんなもの。寒くない?」 唯「うん……そっちは痛くない?」 紬「えっ?ああ、大丈夫。私唯ちゃんより強いもの」 本当は何カ所か痣になってるだろうけど、名誉の勲章とでもしておけばいい 紬「顔、ふかなきゃ」 唯「ん?うん……あんまり見ないで」 ポケットからハンカチを取り出し、彼女に渡すと何となく既視感を感じる 彼女がハンカチで拭いている間に公園にある時計をみると時刻は23時30分を過ぎたところだった。 そんなに長い時間彼女とやり合っていたのか ―――けどまだ間に合う 私は自分のバックからお目当ての箱を取り出すと、彼女の目の前に差し出した。 紬「唯ちゃん、遅くなったけど誕生日おめでとう」 唯「えっ?」 紬「バイトが終わったら唯ちゃんの家に行って渡すつもりだったの」 その途中で私は彼女に会ったのだ 唯「あ、ありがとう……開けてもいい?」 紬「もちろん」 最近味わっていたものとは違う緊張感が私を包む、少し不安だけれど嫌な気持ちではない。 唯「これ……スノードーム?」 包装を開け終えた彼女が中身を取り出す。 それは真ん中に木の家とその前に女の子が二人立っているスノードームだった。 紬「うん、ちょっと子供っぽいとも思ったんだけど……」 彼女がドームをひっくり返すと、中に雪が舞い散る 唯「綺麗……スゴい嬉しいよ、ありがとう」 キラキラした雪を街灯の光が通り、眺めてる彼女の顔にうつしだされる。 それによって潤んだ瞳が光っていて幻想的ですらあった。 紬「土台にあるネジを回してみて」 ずっと彼女を見ていたかったけど、もう一つ大事な事を伝えなくてはいけない 唯「うん?」 唯ちゃんが不思議そうにネジを動かし、動かなくなるまで回してから手を離すと、 小さく単音がなり、それがゆったりと曲になっていく。 ドームの土台部分にオルゴールが内蔵してあって、ネジを回すと鳴りだす仕組みになっていた。 唯「綺麗な音………ん?この曲って」 作曲は私がしたものだったからちょっとアレンジするくらい訳じゃない。 オリジナル曲の為、オルゴールを作るのに多少予算はオーバーしちゃったけど、彼女の表情を見る限りそれも無駄ではなかったよう 唯「……ムギちゃんこれって!?」 彼女の口に人差し指をあてる、ちょっとクサい演出だけど彼女とこの曲を聴いていたい 夜空に流れる、普段とは違う音色の『ふわふわ時間』に私達はただ聴き惚れてしまっていた。 唯「……ありがとう」 始まった時同様、ゆったりと曲が終わると彼女の目から涙が零れる。 悲しい時の涙と嬉しい時の涙は、味が違うと前に聞いたけどきっと輝きも違うのだろう、だってそれは本当に綺麗な涙だったから。 唯「ありがとう、ムギちゃん」 彼女から久しぶりに抱きつかれる。 これだけでこのスノードームに対するお返しとしては十分過ぎたので、私からもまた少しお返ししよう 紬「こちらこそありがとう唯ちゃん。大好き」 唯「うん……私も」 時間がまるで止まったように私達の周りには一切音がなくなる、 ただ私の中にはさっきのオルゴールの音と彼女の鼓動の音だけが響いていた。 彼女越に見えた公園の時計は11時45分を指していて、もうすぐいろいろあった彼女の誕生日が終わろうとしているのを示していた。 紬「唯ちゃん」 唯「ん?」 紬「唯ちゃんはまだ私と一緒なら何でもしてくれる?」 唯「……うん」 彼女がそう言ってくれて良かった、これで心置きなく頼みごとができる 紬「じゃあ1つお願いきいて欲しい」 唯「何?」 紬「明日一緒に学校をサボりましょ」 唯「明日?」 紬「そう、それで唯ちゃんの1日遅れの誕生会を2人でするの。 唯ちゃんの為に美味しい料理作ったり、唯ちゃんの行きたいところ行きましょう。」 時間を作る方法はやり方を考えなければけっこうある 唯「……いいの?」 紬「何言ってるの?これは私のワガママなんだから。 だから唯ちゃんがどうしたいかだけ答えて」 唯「……うん、いいよ」 紬「ありがとう。ふふっ私ね、恋人と学校サボるの夢だったの」 唯「……変な夢」 公園に彼女の小さい笑い声が響く。 それをキッカケに私達はやっと抱きついていた体を離した。 紬「じゃあ次は唯ちゃんの番」 唯「何が?」 紬「何でも願い事叶えてあげる」 唯「いいよ私は。ムギちゃんにいろいろ言っちゃったし……プレゼントまでもらっちゃったし」 紬「ダメ。私が唯ちゃんのお願いを叶えたいの。 私のお願いは聞いてもらったし、まだ唯ちゃんの誕生日は終わってないんだから、いくつでもどんな願いも叶えてあげる」 唯「どんな……じゃあバイト辞めてって言っても?」 紬「はい」 間髪入れずに答える。今回は駆け引きなしに彼女がそう望ならそれでもいいと思えた 唯「……お願いしないよそんな事。私働いてるムギちゃんけっこう………」 唯ちゃんの言葉は続かなかった、 そこまで言ったら何が言いたいのか伝わってしまうのに、それでも言わない彼女が本当に可愛らしい 紬「ふふっありがとう、唯ちゃん」 彼女は言ってもいないのに、お礼を言われたのが不満なのか視線をそらす 唯「じゃあ明日は寝坊してもいい?」 紬「それが願い事?」 唯「うん」 紬「いいけど……もしかして誘ってる?」 唯「ち、違うよ!!変なこと言わないで!!」 真っ赤な顔が怒ってくる 紬「だって言葉にしないと伝わらないって和さんも言っていたじゃない?」 負けじと反論すると彼女はプルプル震えて、私を睨みつけてきた。 こんなやり取りがまたできることが本当に嬉しくて、私はたまらなく幸せな気持ちになる。 私はそのまま立ち上がりくるりと体を回転させて、まだ座っている彼女のおでこにそっとキスをする。 彼女は私の急な行動に驚いて、普段から大きい目を一段と見開く 唯「な、何?」 紬「了承しましたのキス」 唯「……何それ」 紬「ヨーロッパでは恋人同士の場合はこうするのよ」 唯「知らないよそんなの……」 それはそうだろ。彼女にキスしたかった私の、照れ隠しによるただの嘘なんだから 紬「そろそろ帰りましょうか、唯ちゃんもいい加減寒くなっちゃったでしょ?」 唯「……ムギちゃんはお家に帰れるの?」 紬「もう電車はなくなっちゃったかな、家に電話すれば迎えがくると思うけど……」 唯ちゃんの顔を横目で伺うと、目があった彼女は自分がどんな顔していたのか気付いて、すぐに下を向いてしまった。 紬「どのみち明日は学校行かないんだし、このままお泊まりに行ってもいい? わたしも唯ちゃんと寝坊したいもの」 私はまだベンチに座ってる彼女に、了承を得るよに手を差し出しだす 唯「……別にいいよ」 そう言うと彼女は、私に顔を見せないまま自分の手を私の手に重ねてきた。 顔を見せないようにしても、耳を隠さなきゃ気持ちがバレちゃう事は当分知らせないでおこう。 私は彼女を立たせようと繋いだ手を自分の方へと引きよせる 彼女の体はフワッと起き上がり、その勢いのまま彼女の顔が近づいて、私の顔を覆ったかと思うと、 おでこに柔らかいものがあたる感触がした。 ―――キスされた? 唯「……ムギちゃんの分してなかったから」 驚いた私の顔が見れた事が嬉しかったのか、はにかんだ笑顔を向けてそう言った彼女はそのまま公園の出口へと歩き始めた。 私はその後ろ姿を見ながら、本当に彼女を好きなって良かったと心から思う。 唯「あっ………」 歩きながらバックに、私からのプレゼントを入れようとしていた唯ちゃんが突然声をあげ動きを止める 紬「どうしたの?」 唯「……ねえもう一つお願いしてもいい?」 何だろ? 紬「ええもちろん、何個でもかまわないわよ」 唯「じゃあ……」 紬「何?」 唯ちゃんがバックの中から自分の携帯電話を差し出してくる。 それは早く電話にでてくれと唸るように震えていた 紬「これって…」 唯「憂に最後に連絡したの21時頃だったと思う」 紬「………え?」 唯「今日話しちゃおっか、もう隠せないし」 紬「私が話すの?」 唯「きっと憂、鬼のように怒ってるよ」 彼女の顔はこの状況を楽しんでいるかのようだった。 携帯に表示されていた時刻は11時59分、あと1分で彼女の誕生日は終わる事を示していた。 もしこのまま時間が過ぎて誕生日が終わったら、私は彼女のお願いを聞かなくてすむのかな何て、少し意地悪な考えが浮かんでくる。 だけどそうはしない 唯ちゃんの望みが私の望みでもあるから。 私は彼女の誕生日が終わる瞬間、彼女のおでこに軽くキスをした。 おわり 戻る
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冴えない彼女の育てかた キャラクターソング 加藤恵 冴えない彼女の育てかた キャラクターソング 加藤恵 アーティスト 加藤恵(安野希世乃) 発売日 2014年12月3日 レーベル SME デイリー最高順位 9位(2014年12月3日) 週間最高順位 18位(2014年12月9日) 月間最高順位 48位(2014年12月) 年間最高順位 352位(2015年) 初動売上 1847 累計売上 5921 収録内容 曲名 タイアップ 視聴 1 M♭ 冴えない彼女の育てかた キャラソン 2 LOVE iLLUSiON (Megumi Solo Ver.) ランキング 週 月日 順位 変動 週/月間枚数 累計枚数 1 12/9 18 新 1847 1847 2 12/16 382 2229 2014年12月 48 新 2229 2229 3 15/1/20 232 2461 4 1/27 208 2669 5 2/3 342 3011 2015年1月 ↓ 782 3011 6 2/10 365 3376 7 2/17 400 3776 8 2/24 328 4104 9 3/3 270 4374 2015年2月 ↓ 1363 4374 10 3/10 416 4790 11 3/17 264 5054 12 3/24 221 5275 13 3/31 256 5531 2015年3月 1157 5531 14 4/7 218 5749 15 4/14 172 5921 関連CD 君色シグナル カラフル。
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『邂逅、そして、決別』 おだやかな風が流れている。 見晴らしの良い場所、晴天に彩られた場所。 そこで、私は、あの幽霊と対峙していた。 「死神さん……」 「いいのよ。安心して逝きなさい。もしも留まる気なら、切り裂いてあげるから」 私は、笑う。 精一杯の笑顔、精一杯の虚勢、精一杯の静謐。 全てが綱渡りで。笑顔を作ることすら難しくて。意地を、張っていないとくずれおちてしまいそうで。 別れたくない、という言葉が言えれば、どんなに素晴らしいことだろう。 一緒に、ずっといたい、そう言えれば、どんなに素晴らしいことだろう。 けれど、けれども。 私が好いたのは、いつも能天気でにこにこ笑って毒を吐き、それでも芯は強い少女で。 やることをやったのに、未練がましく留まっているような、そんなみみっちい少女ではない。 向こうも、恐らくそうだろう。 私が、冷たいけれども娯楽好きの死神でいる限り。私は、私でいられるのだから。 天に逝く友を引き止めるような女は、もう『私』ではない。その時点で、私は、『ただの死神』という存在へと堕す。 「死神さん」 「なぁに?」 別れは、悲しいだろう。 誰だって悲しい。 私が、こうして、悲しいと感じているように。 「いや、まぁなんといいますか。色々楽しかったですねぇ」 「そうね。映画を見て馬鹿なことを言い合ったり、色々と」 「もうそれも出来ないでしょうが……落ち込んじゃ、駄目ですよ? 恋人が逝っても生きてくださいな」 「こらこら、誰が恋人よ。ま、落ち込みはするでしょうけれどね」 私は苦笑する。 大切な人がいなくなったら、悲しい。それは当たり前だ。 死神の私だから、ことに分かる感情。 幽霊の彼女は、もうじき消えていく。それを止める権利は、私にはないのだ。 死者は、死者。消えゆくものは消えゆくもの。 私は、その法則をねじ曲げてまで彼女を得たくはない。 彼女の方もきっとそうだろう。私たちは、変わってしまえば、きっと、互いに相容れない存在になるだろうから。 瞬間。 刹那的な、幼稚とも言えるほどの今までのやりとりが、走馬灯のように私の脳をかけめぐる。 それはきっと、良いことなのだろう。誰に恥じるでもない、胸を張って『楽しかった』と言える過去がそこにある。 彼女と、過ごした日々がそこにある。 淡い粒。光の粒子。淡雪のように、消え去って。 それが出るのは幽霊の少女から。ぷかりぷかり、と気泡のように浮かび、消える。 薄くなる。光の粒子が出るたびに、その少女の姿は薄くなる。 終焉の時が近しき証左。私と彼女が永劫の別れを果たすまで、あとわずかであることの証左。 「駄目ね。もう泣きそうよ」 「泣いたらいいんじゃないですか? 悲しい時に泣く。それも、生きている証ですよー?」 私が弱音を吐いても、彼女は相変わらずいつも通り。 やれやれ、と溜息を吐く。相も変わらず私は弱いままだ。 でも、それでいいんじゃないかと最近は思う。 そのままでいることが。 そのままで、ありのままで、生きていることが。 あの、風にさやぐ葉のように生きることが。 尊いのではないかと、そう思ったから。 「ちょっとちょっと死神さん、なに笑っているんですか」 「あは、あはは。あははは」 「もーう、気持ち悪いですねー。私も笑っちゃいますよ?」 私は笑った。彼女も笑った。 私は涙を流しながら笑った。彼女も涙を流しながら笑った。 みっともなく、泥臭く、ありのままに。 「ここに、いますから」 「ええ。ここに、『在る』わ」 彼女は、私のもつ鎌を、こつんと手の甲で叩く。 私は、彼女に叩かれた鎌を、ことさらに強く握りしめる。 たとえ、慕情を寄せる相手がそこにいなくとも、柔らかな温かみはそこに残る。 別れたばかりの時は、寂しいだろう。悲しいだろう。泣き明かす夜だってあるかもしれない。 でも、私は、生きているから。生を味わい、自然を、空を見ることが出来るから。 「では、死神さん。今まで、ありがとうございました」 「ええ。達者でね、能天気娘さん」 私たちは、涙でぐしょぐしょになった顔を見せたままに、笑顔で別れた。 幽霊の少女の姿が消える。まるで、彼女の存在がはじめからそこになかったかのように。 笑ったまま別れて。そうして、光の粒子が全て消え去ったのちに、ぽつりと何かが残る。 小さな、小さな、血のように赤いそれは。 「彼岸……花?」 私は腰を下ろした。 その、先程まで幽霊がいた場所で咲きほこる花に、そっと手をやり、包み込む。 それは、とても温かくて。どこか安心出来る鼓動にも似たそれで。手のひらが、満ちた、満ち足りた。 私が手を離せば、その彼岸花はあとかたもなく消滅していた。あの、血のように赤い花は、もうどこにもない。 両手を握りしめる。鎌を、たずさえる。 どくり、と温かな鼓動が、私の全身を、鎌を、全てを、心を、魂を通して一本の線となる。 「私は、生きる。絶対に、とまらない」 決意を胸に、私は飛ぶ。遠い遠い、空に向かって、はじまりの一歩を。 荒々しい跳躍は、私の衣服を揺らめかし、衣擦れの音を出す。 その、かすれた音に混じって。 ――生きてください。 あの、柔らかい声が聞こえた気がした。
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◇◇◇ 「給食費が払えない?」 午前のレッスンが終わり、昼食を挟んだ休憩時にやよいがバツが悪そうに私に言った。 「はわっ! 伊織ちゃん声が大きいー!!」 周りに聞こえるのを恐れてか慌てて私の口を塞ぐ。 「ぷはっ。ご、ごめん…って、でも給食費が払えないって…本当なの? やよい…」 今のこのご時世、給食費なんて払わない輩は多いものの払えない輩がいるだなんて思いもしなかった。そりゃ自分の家は超がつくほどのお金持ちだと自覚しているし、将来は素敵な男性と結婚する予定だったし、働く気なんかなかった。父親や兄に認めてもらうためでなかったらわざわざアイドルなんて目指そうとも思わなかったくらいだ。 それなのにこの目の前にいる子、高槻やよいは一家の大黒柱である父親の稼ぎが少ないから、弟妹のため、家族のためにお金を稼ぎたいと言ってアイドルを始めていた。 「う、うんー…ちょっと色々立て込んじゃってね、今月は特に厳しいみたいで…えへへ」 軽く頬を染めたやよいが、少し気恥ずかしそうにサンドイッチにかぶりつく。中身の卵がちょろりとはみ出す。 「まあ…私たちもまだEランクだし、一家を養えるほどのお給料もらえてるわけでもないからね。…正直悔しいけど!」 「そうだね…」 765プロだけでもたくさんのアイドル候補生がいて、全国に同じ夢を持つライバルはごまんといる。プロデューサーがついてデビューは済んでいるものの、スタートラインに立っただけ。まだまだトップアイドルの道は果てなく遠い。 毎日毎日レッスンの日々で本当にこんなんでトップアイドルになれるのかと、不安になる事なんて日常茶飯事だ。 「でも心配無用! この水瀬伊織ちゃんがいるんだから、今に飛ぶ鳥を落とす勢いでトップになれるわよっ!」 残りの100%オレンジジュースを一気に飲み干し、やよいに最上級の笑顔を向けてみる。こんな笑顔アイドルやってる時だってしない。疲れるし。やよいにだけ特別大サービスよ。 「…そうだね、そうだよね。伊織ちゃんがいればSランクアイドルなんてあっという間だよね! うっうー! 楽しみー!」 …エッ、えすらんくあいどる!? やよいもなかなか言ってくれるじゃないの…でもそうね、そうよね。 「そっ、そうよ! あっという間なんだからやよいもちゃんと私についてくるのよ!」 ――広い芸能界という海に一人だけ放り出されたわけじゃない。プロデューサーという灯台のような存在も確かに大切だけど、そこにたどり着くまで投げ出さないためにやよいという心強い仲間がいるから、辛い事があったってこの海で泳ぐ事をやめたりなんかしないんだわ。やめてしまったらそこで終わりだもんね。 「あの、それでね…伊織ちゃんにお願いがあるんだけど…」 ふつふつと熱く滾り始めた向上心という名の気持ちが爆発する寸前に我に返った。 普段のやよいより少し元気のない、というか深刻そうな声色でぼそぼそと口にした言葉。 「お願い? …珍しいわね、やよいが私にお願いだなんて」 「あ…うん。伊織ちゃんにしか相談できないかなって思って…」 ―ドキン、と心が跳ねたのは気のせいではない。 「私にしか相談出来ない…って、もしかして今活動してる事に関して?」 「うん…そう、なるのかな」 やよいがデュオに関して一番頼りになるであろうプロデューサーではなく頼んでくる相談。自分だけが特別視されているということに甘い幸せを感じ、心は益々ドキドキを増す。何かは分からないけど期待をしてしまう自分がいた。 「なっ、何よー! 私とやよいの仲じゃない! 誰にも言わないから遠慮なく言って頂戴!」 いつもの自分でいなくてはならない。無意識的にそう思った。やよいを怖がらせてはいけないと、直感で感じた。 「うん、ありがとう。あの、ね…お金を貸して欲しいの…」 「え、お金…?」 こくりと頷いて、やよいは言う。 「…今はその、すぐには返せないんだけど、アイドルランクが上がってちゃんとお給料も貰えるようになったらきちんと返すから――」 目の前が、頭が真っ白になった。 いつも天真爛漫元気はつらつのやよいが、柄にもなくしおらしい感じで言ってきたからもしかしてもしかして? …なんてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ期待してしまった自分がいたのは事実。 だから変に警戒したような言い方をしてみたらやよいが怖がっちゃって、折角決心したのにそれが鈍っちゃうかも! …なんて少し、いや大分気を遣った自分がいたのも事実。 まあよくよく考えてみれば、分かるような話の流れよね。給食費が払えないなんて話をしているのに、まさかも何もあるわけないじゃない。ていうか女同士なんだから、そんなことあるわけないじゃない。ましてややよいよ? 人の恋バナなんかよりも、スーパーの特売日の方が興味がある子なんだから、そんなことあるわけないのよね。 別に期待なんかしていない。実るわけないってわかってるから、こんなことぐらいで傷ついたりなんかしない。 「…ちなみに」 「えっ?」 「借りるとしたら、いくらなの?」 「え、っとぉ…給食費に当たる分だけでいいんだけど…あっ、でも嫌だっていうなら全然気にしないでいいからっ! 私の家の事情だから伊織ちゃんには関係ないもんね!」 その言葉にズキッと心が痛む。好きな人にあなたと私は他人なんだから関係ない、って突き放されて傷つかない人はいないだろう。 「いいわよ…別に私のお小遣い内でどうにかなる金額なら」 「本当にっ!?」 給食費の話をして以来、少々曇りがちだった表情がぱあっと明るく輝く。 「でも話を聞いてる限りだと今月だけでも難しそうだし、毎月金額を決めて渡すっていう方がいいのかしら?」 「そうしてもらえると凄く助かるけど、それじゃあ伊織ちゃんに甘えちゃってることになるし…悪いよ」 好きな人との関係を遠ざけられるより、お金であれ食べ物であれ何であれ、繋がりがある方がいいに決まっている。絶対。 「さっきも言ったけど、私のお小遣い内でどうにかなるくらいなら別にいいから、やよいはそんなこと気にしなくていいのよ」 例えその金額が自分のお小遣いの限度を超えていたとしたって、他の人に頼られるよりかは大分マシだ。やよいが自分の傍にいてくれるならそれに越した事はないのだから。 「うっう~…ありがとう伊織ちゃん。伊織ちゃん大好き!」 ――ええ、私もやよいが大好き。…恋愛対象として、ね。 「分かった、じゃあ詳しい話はまた後でしましょ。もう午後のレッスンの時間だし」 ケータイの画面を開いて見ると、あと10分程度で休憩の時間は終わる。 「あっ、もし伊織ちゃんレッスンで疲れたら言ってね! マッサージしてあげる」 「…え?」 「お金貸してもらうから、お金は無理だけどそれ以外でだったら何でもしてあげるから!」 「……何でも?」 「何でもったら、何でも!」 少し冷えた私の手を温かな両手でぎゅっと握り締めてくるやよい。先ほどまでは見られなかった輝きが瞳の中にはある。 …やよいの一言で、目の前がぱっと開けたような気がした。 そうか、その手があったんだ。何で今の今まで気づかなかったんだろう。私を温めてくれるこの手を、やよいを身近にいさせて手放さない方法は簡単に出来る事だったという事に。 「やよい、給食費についていい考えが浮かんだわっ」 握り締めていた手を握り返す。 「えっ、何? 伊織ちゃん?」 驚いたような、呆気に取られたようなちょっと間抜けな笑顔を向けてくる。 「あなた、私に買われなさいな――」 大切なあなた 3に続く
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スレ主のニケ◆RBG4ZdwTP.がニケ史を語りだしたのは2ギップリャからです [2ギップリャ] 墓参り…というのは、和音の以前の友人で、 生きていれば今年で二十歳になった子だ。 死にたい、が口癖だったので、逆に大丈夫そうな気がしていたら、 不意を突かれた。らしい。 ふたなりというとGIDと似たようなものに思えるかもしれないが、 当事者にとっては、まったく別のものだ。 だから、俺や和音のようにGIDの交友が多いのは、 むしろ少数派なのだろうと思う。 半陰陽は、判明した時点、つまり早ければ産まれてすぐに、周囲が勝手に対策を考える。 だから、本人がするのは最終的な決断くらいなことも少なくない。 GIDは体には異常がないので、周囲には分からない。 だから、自分で悩んで生き方を決めないといけない。 その決断が早くできたとしても、行動に移せるのは普通、大人になってからだ。 俺がGID、性同一性障害というものを知ったのは、10歳になる頃だった。 カミングアウト。 というのは、GID用語として使う場合、 「周囲に自分がGIDであることを告知する」 という意味だ。 GIDの当事者にとって、これは大きな壁になる。 親には反対される事が多いし、友達を失うかもしれない。 好奇の視線にさらされたり、変に気を遣われて傷つくかもしれない。 だがこれが半陰陽だと、逆になる。 俺は親から、「カムアウトされる」側だった。 俺は難しい本を読んだ時のように、頭にもやがかかっていた。 おとうさんとおかあさんに聞かされた話は、 子供だった俺の想像力の限界を超えていたからだ。 両親はよくわからない、白昼夢のような事実を俺に話した。 それから俺に、どちらの性別で生きるのかを決めるように、と言った。 普通、半陰陽が判明した時に本人が物心ついていなければ、 性別は親が医者と相談して決めることが多い。 うちの両親は敢えてそれをせず、俺に残したらしかった。 両親の判断が、俺にとって幸いだったのか不幸だったのか。 今の俺はまだそれを論じることができないが、 当時の俺はそれを恨んだ。 自分は、今までもこれからも男である。 その常識を疑おうなど、考えたこともなかった。 だから今思うと自分で情けない話だが、 俺はそんなことで自分が苦しみたくなかったのだ。 そんなことは親に任せて、できれば知りたくもなかった。 が、俺はとにかくその権利を得てしまった。 二次性徴が始まる前。 今のうちなら、女として生きる選択もできる。 そして、今それを決めないといけない。 自分は男でも女でもない。 ただそれだけのことでも、当時の俺にとっては重大な悩みになった。 自分は男だと思っていたし、そうしてきた。 それでも、ためらいなく男を選ぶことはできなかった。 なぜなら、俺には「不審な点」が多かったからだ。 遊びの嗜好や服の趣味から、思い出せる自分の言動、 あの時の行動、いつか考えたこと、悩んだこと。 考えれば小さな不審はいくらでも現れて、 俺はそのたびに混乱に陥った。 俺は自分の問題について親や医師から聞いたり、調べるうちに、 性同一性障害という言葉をよく見かけるようになった。 俺はその症状と対処から、自分の行き先を想像した。 が、それ以上のことについては、俺の知恵は及ばなかった。 俺は結局、「男」になった。 何らかの納得できる結論に到達できたわけじゃない。 調べても正解はわからなかった。 男の方が今の自分に合いそうで、楽だと思った。 医者も両親もそちらを推めているようだった。 妥協のような選択だった。 とにかく俺は、男として決定づけられた。 当時の俺にとってそれは、予想以上の重圧になった。 だから俺は、偏執的に男になろうとした。 そのために、俺は自分の疑心暗鬼を処理する必要があった。 確かに自分には、男として疑わしい要素があった。 でも、自分はすでに男として後戻りはできない。 そして、俺が自分の女性的な要素に与えた言い訳が、 性同一性障害だった。 俺のロジックはこうだ。 自分は男である。 よって、自分に女のような部分があっても、 それが半陰陽のせいであってはならない。 自分は軽い性同一性障害であって、 そのために、男性だが女性的な部分がある。 むちゃくちゃだが、俺はこの理屈によって 自分の中の疑問を無視し、同時にそれを守ることができた。 俺は結局、自分の中に女を残していた。 それを守るための言い訳を作っただけだった。 男性化は、自分の命を保つため、 社会に受け入れられるために、必要な措置だった。 が、当時の俺にとって、その変化は恐怖だった。 脱衣所で毎日胸をマッサージして、それが膨らむことを期待した。 発生練習を真似て、高音を保つ訓練をした。 隠れて女児用の服を買って、一人の時に着た。 その言い訳はすべて、性同一性障害になった。 それが何の意味も持たないことは理解できたが、 自分で男性を選択した責任と、それに抗う後ろめたさ、 両親にこれ以上迷惑をかけたくない気持ち、 そういったものから逃れるために、 俺は自分の中で、MtFになっていった。 ※MtF=Male to Female 男性の身体を持つが、女性になりたいGIDの症状 中学、高校で俺は男子だった。 一応男で通ってはいたと思う。が、問題は当然あった。 中学生の時にはからかわれる程度で済んでいた問題も、高校では少し違う。 男女がはっきりと分かれる年齢になると、周囲からの俺への接し方もはっきりと分かれる。 それはよくある話。腫れ物のように避けるか、女の代用として求めるか。 それでも俺は、「MtF」だった。自分でその理由を見失っても、それを演じることは続いた。 その頃、子供専用のパソコンを与えられた俺は、MtFコミュニティの存在を知った。 俺は「仲間」を探した。 MtFを結局は男性なのだと理解していた。だからこそ、それを自分に当てはめた。 カミングアウト、HRT、そんな必要や選択も、俺にはない。 俺は根本的に無知だったし、失礼な考えしか持ち合わせていなかった。 そのために、俺はGIDコミュニティに参加しつつも、違和感と罪悪感を感じていた。 この頃、コミュニティで少人数オフの企画があって、俺も参加することになる。 15歳、初めてのオフ会。俺は初めて会ったIさんに、初めてのことを言われた。 「ニケさんって、もしかしてISじゃない?」 親と医者以外ではじめて、俺の「性」を見抜いた人だった。嬉しかった。 俺は隠していたこと、それを隠した理由、本当の悩み、遠慮なくIさんに話した。 Iさんからは、性の問題に対する考えや、処世術を教えてもらうことができた。 このへんまで、俺にGID繋がりがある理由。 どこまで書いたかな。ああ、Iさんに会うところまでだ。 オフ会の参加者の中で、Iさんは特別だったんだ。特別というか、余裕があった。 俺が分かっていなかった、MtFとしての悩みや決まり、常識がIさんにはなかった。 Iさんは自分が女であることに自信を持っていたし、それを実現させていたからだ。 俺はIさんが好きになった。なぜいきなり好きになったか、そんなことはどうでもいい。 Iさんは俺の気持ちや考えを知っていてくれる。先輩として俺にアドバイスをしてくれる。 弱気になった俺を叱ってくれて、身近に他人がいる安心感を与えてくれる。 俺はそれが欲しかった。だから、Iさんに対して好意を隠さなかった。 Iさんは3回目に会った時に、俺に初めてのキスをくれた。 それから俺は、他人と同じベッドで寝て、体を求め合う経験もした。 Iさんとは定期的に会い続けて、2ヶ月が経った頃、俺はIさんに依存していた。 俺はもう、それ以前の生活には戻りたくなかった。やっと開放された気がしていたから。 自分までもを騙すように、一人で病んでいくのは怖いことだった。 だから、いつものようにIさんに電話をかけた。出たのは、Iさんの母だった。 「もしもし、あの」 「○○のお友達の方ですか。」初めて聞いた名前 「○○って、△△さんのことでしょうか…。」 「ああ、そう。そう名乗っていたみたいで。」 「す、すみません。私は、△△さんと仲良くさせて頂いている者で、ニケと申します。」 「ニケさん?あなたがニケさんなのね。○○から聞いていましたよ。」 「ありがとうございます。それで、」 「○○ね、今朝亡くなったの。ニケさんも良かったら、お通夜に来ていただけるかしら。」 俺は返すべき挨拶も忘れて、呆然と通夜の日程だけを聞いて電話を切った。 お通夜、お葬式の詳細。 Iさんの家族は、初対面のはずの俺に、親切にしてくれた。 逆に気を遣わせるくらいなら、来ない方が良かったかもしれない。なんて自分に腹を立てながら、 俺はIさんから聞いた話、自分と会って、親しくなったこと、自分の前での様子なんかを話して、 Iさんが俺に宛てた遺書を見せられた。 Iさんの戒名は、男性のものだった。俺は、家族には「Iさんの彼女」だったと思われていたらしい。 事情を知らない人からすると、むしろ逆だったはずなのに、意外なことだった。 なぜかその事にやり場のない憤りを感じたけれども、それだけだった。 俺は、元に戻った。 友人が自殺したり亡くなったりということは、今でこそ悪い意味で慣れてしまったけれど、 その時の俺にとってはショッキングな出来事だった。 俺は学校に行かない日が増えて、反比例してネットに依存する生活をした。 当時メジャーになりだしたMMOにのめり込んで、一日の大半を仮想世界で過ごす日もあった。 勇者はネットでも勇者でしたww このへんまで、子供時代?というか、高校生時代くらいまで。 こういった経緯で、俺にとってGIDというのは他人事ではなくなります。 最初の方にも書いたけど、ここまでGIDの人たちと関わるふたなりは少数派みたい。 どうも性別の不自由な人は望む、望まないに関わらず短命になりがちな傾向があるようで、 俺が過剰に和音を心配していると思った方にも、そのへんを言い訳にさせてもらえたら幸いですww ネトゲ廃人化した俺は、大学受験に失敗して家を出ます [3ギップリャ] MMORPGのキャッチコピーにあるフレーズ。 就職は決まってないけど、働く喜びがわかりました 本当の人生(RPG)はじまる 今までの人生はなかったことにしよう 17歳の俺は、現実よりもネットゲームを居場所にしていて、 そこが、俺の世界の全てのような感覚さえ感じていて。 現実を拒絶する。何を差し置いても、それを最優先にする。 当時の俺にとって、現実逃避は半ば本能的に行われる行為だったと思う。 確かに、今思い出してみても嫌になる。 登校のために電車に乗る、そのためには日を浴びる。 日光の下では、醜いこの姿を隠せない。見られる。 店の窓ガラス、駅のアルミ柱、学校の鏡、同級生、 先生、通行人、全てに対して隠れないといけない。 不名誉なニックネーム、無視、気遣い、優しさ、 会話、肩が触れること、目が合うこと、そこに居ると気づかれること。 すべては避けるべきで、耐え難い苦痛だった。 高校の会議室。俺と、担任と、学年主任と、学校長。 俺は学校長から卒業証書を受け取って、一人で校歌を歌う。 出席日数の足りない俺は、ほとんど全教科で単位を落とした。 無事だったのは、最初から特別扱いだった保健体育と、 元々必要な日数の少ない情報や音楽、美術くらい。 なんとか受験して合格した大学も、とても通う自信は無くて、 親の説得を無視して、あても無いまま進学は諦めた。 先のことは何も決まっていなくて、考えたくもなかった。 俺は堕ちる感覚にも慣れてしまい、それが当たり前になって、 この忌々しい現実を無視する方法だけを毎日考えた。 補習とお情けで、同級生より1週間遅く高校を卒業した。 その次の日の夜、母が俺を刺した。 今は昼か、それとも夜だったか。寝たのはいつで、何時間前に起きたか。 最後に食べたものは何で、何を飲んだのか。何もわからなかった。 母は、そこから俺を脱出させた。 一緒に死のう 俺に与えられた、救いの言葉だった。 現実が急に輪郭を帯びて、俺は目を背け続けたことについて考えた。 俺は、両親が自分に性別を決めさせたことを恨んでいた。 自分が苦しむ大きな原因のひとつが、それだと思っていたからだ。 両親がその決定を俺に与えた理由も、考える気はなかった。 その代わりとして両親が背負ったものも、見てはいなかった。 俺が両親に何をしていたかなど、省みる余裕はなかったのだ。 もうずいぶん長い期間、治療も検査も放棄してきた。 力ずくで病院に連れていこうとする両親にわめいて。 俺は逃げ続けた。きっと俺は、母より長く生きられない。 だからせめて、今死のう。今なら、母と死ねる。 それでいい。母はそれを許してくれた。 最後まで逃げられる。それでいい。 鼻にチューブがついている。まだ自分の身体に感覚が戻らない。 ベッドに仰向けに寝ていて、薄い服を着ている。下は、紙おむつかな。 心電図、点滴の管、ベッドはカーテンで仕切ってあって。病院だ。 尿道カテーテルも入ってる。気持ち悪い。これは自分では抜けない。 行かないと。検査だと言って、記録をとられる。だから病院は嫌いなんだ。 強気にしていないと、私にとって必要ない検査しかしないのだから。 でも動けない。なら仕方がない。今はこのまま寝てしまおう。 医師に起こされるまで、そんなことを考えていたと思う。 ナースや医師、父、警官もやって来て、俺は覚えている範囲の事を喋った。 状況を聞かされて、整理した。命に別状があるレベルではなかったらしい。 2週間もすれば、退院できる。俺はその後、家を出ることにした。 また色々と省略したけど、高校卒業して実家を出るあたりまででした。 まあ、この手の人間にはありがちな話なんだぜ。 お父さん、私はお父さんを裏切ります。 二週間以上をICUで過ごす間に、俺は家を出る計画を立てた。 計画、と言っても、現実的な考えなど何もない。 何組かの服と、数週間分の薬、あとは普段の外出と何も変わらない荷物。 それだけを持って、俺は家を出る。 精神を病むと、自傷をする人がいるらしい。 手首を切ったり、髪を抜いたり、肌を掻き毟ったり。 俺の自傷は、家を出ることだった。 自傷の原因は、詳しくはわからないらしい。 自殺のため、精神の安定、血を見るため、 周囲の気を引くため、痛みを感じるため、 色々な理由があって、それは人それぞれらしい。 堕ちる。堕ちたい。病んでいたい。 そのために、俺は家を出たかった。 小さなスーツケースを引きずって、隣の県まで電車に乗る。 学校に通うために、いつも使っていた路線。 そこから乗り換えて、駅、繁華街、その裏。 やり方は知らないけれど、ここにいれば多分、 「ねえ、仕事探してる?」 ほら。 今思うと、俺の家出の原因は中二病です。間違いなく。 仕事?ww それって、どんなお仕事ですかぁ? 「夜のお仕事wwww」 うーんww 「ちょっとそこで話聞いていかない?話wwwwww」 でもわたし、男の子だしーwwww 「絶対嘘だしwwwwwwwwwwwwww」 だめ。 「今から仕事?出勤?」 違うよーww働いてるように見えるかなー?wwww 「いや、可愛いからどこのお店かなーって思ってwwww」 えーwwwwwwうそーwwww 「じゃあさ、俺とちょっと飲みにいかない?」 うーん、どんなお店? 「どんな店が好きなの?」 えーっとね、 ニューハーフの。 色々と省略はしてるよwwwwホストのキャッチとかただのナンパとかww 別に可愛かったわけではないwwwwww タクシーに乗って、駅の反対側。さっきよりも暗い場所。 "ニューハーフパブ"看板にそう書いてあって、 中はもっと薄暗くて、正面にお店の人が座ってる。 目の前で水割りを作って、ビールを飲んで、 隣の男の人はもう酔ってるみたいで、体を触ってくる。 渡された名刺をしまって、なんとなく笑って、 チェックは済ませたけれど、男の人はつぶれてる。 ホテルに連れ込まれたけど、そのまま寝てる。 一人で部屋を出て、名刺の番号にかけてみる。 「はい、○○○○です。」 もしもし。あ、おはようございます。 えっと、昨日の11時頃からお邪魔してた者ですけど、 「あー。□□さんといた子?」 あ、そうです。いただいた名刺からお電話差し上げます。 実は私、お仕事ないかなって昨日、そのwwww 「仕事って女の子の?」 いえ、ニューハーフの。 「ああー。ああ、はいはいはいはい。ちょっと待ってね。」 「今日の夜7時くらいにママがお店に出てくるから、 それくらい来てもらえるかな?」 はい、わかりました。ありがとうございます。 ママは、他の店子さんとは違う雰囲気の人で、 俺は少し緊張しながら説明を聞いて、質問に答える。 はい。いえ、経験は全くないんです。 「そうなのー。じゃあ教えてあげないとねー。」 はい、お願いします。 「顔出しとかは大丈夫?雑誌に載るのとか。」 えっと…ちょっとわからないので、待ってもらえますか。 「白黒の広告は?目線入りで。」 大丈夫です。 「上のお店も実はうちなんだけど、入れるかな。」 ヘルスですか。 「そう、こっちはお昼だけなんだけど。」 … 「広告だけ入れておいていい?」 わかりました。 ニューハーフにしたのは、身分をごまかしやすいと思ったから。 それに、これが自傷だから。 だから、最初からそのつもりだった。 俺が泊まることになった寮は5畳一部屋のアパートの一室で、 家賃は月に3万円。これは給料から天引きされる。 すぐ傍を線路が通っているのが、少し不満。 夕方からパブに入って、客を探す。 要求があれば、上の店で相手をする。 毎日、客が落とした金額の半分を受け取る。 これで、生活費と薬代には十分。 自分が生きている限り、この方法ができる。 ここにいる間、こうやって傷つく。 だから、何か嫌なものがわからなくなって、 起伏が減って、平和になって、 起きている間は草原を散歩しているようで、 寝ている間は知らない人間に犯されているよう。 「ニケ」 ん? 「ニケ、まだ眠たい?」 ううん、もう眠たくない。 「おなかすいた?具合はどう?」 だいじょうぶ。 「じゃあ俺仕事行くから。」 私、何か作っておこうか。 「何でもいいよ、ニケの食べたいもので。」 わかった。 「何か買って帰るものは?」 キャベツと小麦粉。 「じゃあね、ニケ。手錠見せて。」 ん。 「やっぱりかぶれてるね。足にかけようか。」 うん。 「痛い?」 痛くない。 店のスタッフをしていた男性の一人が、店を辞めるときに 俺を連れ出して、マンションの一室に住まわせた。 そのため、俺に自傷行為は3ヶ月ほどで終わった。 「ニケ、ただいま。」 うん。 「逃げようとした?」 してない。 「ご飯?ありがとう。ニケ、愛してる。」 うん。 「でも逃げようとしたよね。」 ううん。 「だめ。服脱いで。」 うん。 「まだ痛む?」 少し。 「ニケは俺が好きなんだよね。」 わからない。 「じゃあこれは好き?」 わからない。 ある日、玉ねぎが欲しくなった。 だから部屋の外に出て、店を探した。 手錠は外れなかったけれど、手錠ごと歩くことはできた。 服は同居人のを拝借すればいいし、靴も予備があった。 逃げるつもりはなかった。けれど、帰り道がわからなくなった。 結局、俺はそこに戻らなかった。 これで、実家出てからしばらくの黒歴史まで終わり。 ちなみに、所持金が無かったために玉ねぎは買えませんでしたwwwwww 本人(俺)が自覚してなかったため、別に監禁みたいな扱いにはなってないです。 この後k察に保護されるわけで。 [3な上温泉] まあ別にそこまで波乱万丈な人生やってるわけでもないので、 特にこれといって何かがあったわけではないんだけど、 自分が何をしてるのか、そんなこともよくわからない状態で マンションを抜け出した俺は、まず病院に入れられるんだ。 そのへんからかな。 少し上の方で、病院が嫌いだと書いた気がする。 あの頃の俺にとって病院は、嫌いどころではない、 絶対に耐え難い苦痛に思えていた。と、思う。 (これまでのあらすじ) 幼少期、自分の性別を決めることに悩み、GIDを自称する ↓ GIDコミュニティに参加し、親しくなったMtFと付き合う ↓ その恋人に自殺され、軽くメンヘラ ↓ ネトゲ廃人化して、母に刺される ↓ 家を出て水、さらに風に堕ちる ↓ 店の元スタッフにしばらく監禁される ↓ 自覚がないまま抜け出す←今ここ ↓ そして病院へ 俺の格好といえば、ひどいものだった。 サイズの合っていないワイシャツ、 手で押さえていないと落ちるズボン、 サンダルは足を上げると脱げるので引きずっていたし、 顔や手足は打撲とやけど、切り傷だらけだったのだから。 すれ違った人は無意識に、視線を逸らし避けていただろう。 ニケ、愛してる。 普通これを「歪んだ愛情」とでも呼ぶのだろうけれど、 俺にとってそれは別に、不快なものではなかった。 この頃の自分が何を思っていたのか、 思い出そうとしても、あいまいでよくわからない。 痛い、苦しい、熱い、そういった言葉では覚えているけれど、 感覚はもう忘れてしまっているのか、思い出せないのか。 「ねえちょっと、あなた、ちょっと。」 上の方で声がする。 「すみません、誰か。あの誰か。この子。」 「あれ、どうしたんだ。貧血かな。」 誰かに手首を握られた。痛い。 「脈はあるみたいだけど。」 「もう救急車呼んだから来るって。」 「ちょっとこの傷、交通事故じゃないの。」 「うわ、痛そう。」 サイレンの音が近づいてくる。 ストレッチャーに体が乗るのがわかる。 続いて救急車のドアがしまる音。 プラスチックの嘴のようなものに指がはさまれる。 手首に巻きついたのは血圧計で、 「荷物は持ってませんでしたか。」 「さあ。私が見たときにはもう倒れてて。」 頬を叩かれる。 「もしもーし。聞こえますかー。」 聞こえているけど、答えようとしても息しか出ない。 「意識レベルは…。バイタルは血圧以外、…。外傷がここと、ここと、…。」 「交通事故だよな。」 「わからないけど、発見者の人が交通事故っぽいって。」 「でもこれ、ここ。あとほら。」 「…虐待かもな。もしもーし。ちょっと失礼しますよー。」 服が脱がされる。 「あれ。ちょっとこれ。」 「あ、ええ。じゃあこの人男性だったのか。」 「あ、すみません。10代から20前後くらいの男性です、はい、男性。 いえ、我々も女性だと思ってたんですけど。はい。いえ、はい。あ、 いや、交通事故じゃなくて、虐待の疑いです、はい。整形外科ですか。」 しばらくして、救急車が動く。 救急車に乗っているということは、これから病院に向かうのだ。 俺は飛び起きて救急車を降り、病院へ行く運命から逃れる想像をしたけれど、 現実には何の影響も与えられなかった。 ここは病院。そう、また病院。 あの時、母から刺傷を受けて来たのも病院。 そういえば、あの時から私の時間は止まっている。 我侭で家を出て、遊んでいただけ。 救急搬送された日から、さらに一日が経ったらしい。 いつもおなじみの、点滴などのチューブが見える。 体中にガーゼや包帯が張り付いていて、全身が痛んだ。 「自分の名前は言えますか。」 「ニケです。」 「住所と、お父さんかお母さんの連絡先はわかりますか。」 「はい。書くので、ペンと紙をください。」 「ちょっといいですか。傷を治療する時に体を見せてもらったんですが、」 「はい。何か。」 「ニケさん、睾丸はどうしたんですか。」 「どういう意味でしょうか。」 「うちで検査を…」 「結構です。」 デフォですよねwwwwwwwwwwww 病院では終始こんな感じです。心が休まる暇がないwwww 「主治医の先生は誰ですか。」 「何の主治医ですか。」 「その、性別の、」 「外傷に関係あるのでしょうか。」 病院大嫌いww 虐待の疑い。さらに以前の事件。 ということで、警察が色々聞きにきたけれど、 俺自身に何も話す気がないとわかると、意外に早く諦めた。 外傷の方は、入院するほどのことではないけれど、 衰弱などの理由で、そのまま病院にいることになった。 病院から連絡を受けた父が、見舞いにきてくれた。 俺は情けないようで、また申し訳ないようで、 父の方に顔を見せることはできなかった。 入院が長引いたのは、たぶん複雑な大人の事情wwww この時、父には本当に申し訳ないと思った。 とまあこんな感じで、退院した俺は一時的に実家に戻ります。 [4ギップリャ] そうそう、話は変わるけどさ。 俺も、普通の男と付き合ったりしたことがあったんだぜ。これでも。 あ、前に書いた監禁みたいなのは除く。 監禁後保護されて退院した後に、実家に戻って世話になりながら、アルバイトを始めたんだ。 その時の話だから、まだ今以上に揺れていたというか、 自分で決めたはずの、男でいることに、頑なに抵抗しようとしてた頃だな。 俺がやったのは、コールセンターだ。 身分は免許証さえあれば良かったので、女だと言って働いた。 顧客からの質問に回答したり、クレームに対応したり。 営業はなかったし、水の接客に比べたらかなり楽だな。 ってのがその時の俺の感想。リハビリだと思って、暢気に働いてた。 で、そこの社員から告白を受けるわけだ。 Kさんは、アルバイトを監督するポジションの人だった。 Kさんには仕事帰りなんかに、よく食事に誘われた。 そのうち、休日に遊びに行ったりもするようになって。 俺も考えが甘かった。というか、そういう展開は予想してなかった。 普通に考えたら、女ってことになってる自分と男性が、 2人で食事に言ったり、プライベートで遊んだりする。 そのことが、どういう意味なのかわかるはずだろう。 でも俺にとっては自分が女として見られるなんて、 想像もできないことだった。 だから、kさんから好きだと言われた時まで、 俺にはそれがわからなかったんだ。 俺がわかっていようといまいと、言われてしまったのは仕方ない。 問題は、どうやって断るかだ。そう、断るかだ。 受ける?それは問題外だ。だって、女なんだから。 事情隠して女だって言って働いてる以上、バレるわけにいかない。 じゃあ、どうやって断る?彼氏…はいないともう言ってしまった。 好きな人…もいないって言った気がする。どうしよう。 好きな人が出来たとでも何とでも言って、早く断れよ。 今よりもっとヘタレな当時の俺。 なにより「実はふたなりでしたサーセンwwwwwwww」なんて、 好きだと言ってくれた相手に悪いしな。 俺は本当にヘタレだ。Kさんとの関係をずるずると続けたのだから。 明確な返事はないが、付き合いは続く。 Kさんはそれを、OKだと受け取ったんだろうな。当然だ。 いや、まずいだろそれ。だって俺、セックスとかできないぜ。 このままだと、それを求められるのも時間の問題なのに。 でも同時に、本当のことを知ってほしい。 そんな欲が、俺の中に生まれる。ほんと、俺の馬鹿。 まあそんな感じで、俺はカミングアウトとやらをしてみたんだ。 いきなりだったけど、遅くなるよりは良いかなと思って。 「Kさん、Kさん。」 「ん?なに?」 「突然で悪いんですけど、告白していいですか?」 「なんだよwwww俺のこと好きになった?ww」 「私実は、ちょっと病気があるんですよ。インターセクシャルって言って…」 「…だから実は私の体って、男性みたいな部分があるんですよねーww」 「えー、なにそれww小説?」 ああ、これが普通の反応なのかな。って思った。 「うーん、あのですねえ、…」 「え?なに?つまり男になりたいの?」 「あはは、そうじゃなくて…」 「ニューハーフ?」 「違いますよー、いいですか、…」 例えばこういう場所で、活字にして書くのは平気なんだけど、 人と、面と向かって説明するのって、けっこうきついよねww しかも、それが自分に好意を持ってくれる人だったりすると。 「本当なの?それ。」 「そうですよ。だから、私はあんまりお勧めできる物件じゃありませんwwww」 「いや、ちょっと待って。まだよく理解できてないし、正直驚いたけど、」 「ニケ、俺と付き合って欲しい。」 いやあ、予想を裏切られましたww そして、俺はKさんと付き合うことになる。アルバイトは、続けた。 当然すぐに、体を求められた。向こうは男性だからね。 無理やりや仕事以外では、それが初めての経験wwww Kさんは俺に同居を誘って、俺はそれに応じる。 実家に迷惑をかけ続けることが嫌に思えていたから、 歓迎すべき同棲だった。楽しかった。 ところで俺は、付き合いを続けるのが下手らしい。 そんな俺にとって、半年以上続いたKさんとの関係は、快挙だと思う。 楽しい同棲生活で活力を取り戻した俺は、2ヵ月後に就職する。 入れ替わるようにKさんは会社を辞めてしまったが、別に問題はない。 そのうちKさんに別の恋人が出来たが、想定していたことだ。 自分がその立場だとしても、普通の女の方がいいに決まってる。 ただ、Kさんがアパートを出て戻らなくなったのは、少しショックだった。 それでもそこは、楽しい思い出の場所だったので、俺はしばらくそこに住んだ。 あ、たぶんこれを書かないと誤解されると思うんだけど、 俺は別にKさんを恨んでないし、これが不幸だとも思ってないです。 当然の成り行きだし、Kさんには感謝しているのですよ。 ただこの時の俺にとって、それが当然の現実として、むしろ与えられた幸せな時間と感じることが 必要だったんだろう、とは今でも思うんだ。 こう言うのも悲観的なのかもしれないけど、 普通の女性と半陰陽が普通の男性を取り合っても、結果は見えてる。 と、あの時の俺は感じて、それを嘆かずに受け入れられたと考えてる。 まあもちろん、後ろ向きなのは否定できないけどなww まあ色々あって、俺が普通の男と関係を持つことに躊躇うようになったのは、事実だ。 いや、恋愛そのものだな。最初、和音にも自分と似たにおいを感じた。 「あ、似た経験をしたんだな」って、なんとなくわかることってあるだろ。それだ。 だから俺のこの先は、和音にいつか言われたとおり、傷の舐めあいだった。 身近にいただけの相手と刹那的にくっついて、すぐに別れる繰り返しだ。 まあそのへんはまた、需要がありそうなら詳しく書くさ。 では次に、逮捕された話でも。 2スレ目あたりに書いた、Iさん。みんな覚えてますか? そのIさんは、セクシャルマイノリティとして、俺の先輩のような人だった。 少々過激だったけれど、そのおかげで仕事を見つけられた。 俺がKさんと同居しながらアルバイトを辞めて就職する時も、 Iさんがしていた方法で、身分を偽ったまま、女として就職ができた。 俺は、いつかのIさんの足跡をたどるように、同じ職種に就いた。 IT系の仕事は服装の自由などが多いので、 GIDの人が、職業として選びやすいらしい。 女の社会保険は、役に立った。 保険適用の値段でホルモン剤を処方されることができたので、 金銭的にも、俺はかなり楽になったと思う。 だから俺は、アパートの家賃や光熱費を出して、 それまで生活費を負担してくれたKさんに恩返しができた。 そのうち、Kさんは仕事を辞めてしまった。 次の仕事を探したい。とKさんは言っていたけれど、 俺は、少し休んでいて欲しいと思った。 幸い自分の収入だけでも生活には困らなかったし、 家にいる間、一人になるのは寂しかったから。 Kさんは次の就職先を探したけれど、なかなか見つからなかった。 俺は内心それを喜んだけれど、Kさんにとっては深刻な問題だったようだ。 Kさんは次第に、俺に嫌味を言うことが多くなった。 「ニケは何でもできるからいいね。すぐに仕事を見つけるし。」 そんなことを言うようになったKさんを、俺は休みのたびに外に誘うようにした。 2人で出かけて食事をして、カラオケに行ってホテルに一泊する。l それが、休日の定番になった。 カラオケはKさんも気に入ったようで、平日の夜中にも時々、2人で遊びに行った。 俺が仕事でいない時は、ネットで知り合った人と行っているようだった。 「ただいま。あれ、Kさんも今帰ったとこ?」 「カラオケ行ってた。」 「またなんだww」 「悪い?」 「悪くないよww 今日もいつもの子なんでしょwwww」 「うん。そうだよ。ニケの事話したら、会いたいって言ってた。」 Kさんはいつも、同じ人と2人で遊びに行くようだった。 その頃から俺は、Kさんが自分だけの人だと思わないようにした。 そんな俺の気持ちを読み取ったのか、 それとも、Kさんの心変わりが先だったのか。 Kさんの態度はだんだんと、俺から離れていった。 それでもまだ、それは俺にとって満ち足りた生活だった。 でもある日、俺はそれを壊してしまった。 「ニケ」 「Kさんおはよう。私、仕事行ってくるよ。」 「俺の仕事も探してよ。」 「無理だよ。Kさんが自分で探さないと。」 「なんでもできるからね、ニケは。俺みたいな馬鹿の仕事は探せないか。」 「もう、いい加減にしてよ。」 そう言って、会社に向かった。 帰ったら、Kさんの荷物が無くなっていた。 俺はいつものように靴を脱いで、手を洗った。 買ってきたものを冷蔵庫にしまって、下ごしらえをする。 洗濯物を取り込んで畳んでから、料理を仕上げる。 一人分の食器を並べた時、もう一人がいない事がわかった。 このへんまで、前回の補足ww Kさんの意図はわからないけれど、アパートの契約はそのままだったので、 俺は毎月家賃を振り込んで、そこに住み続けることができた。 いつものように銀行で家賃を振り込んで、会社に向かう。 駅の改札で、財布が無くなっていることに気がついた。 すぐに駅の交番に寄って、紛失届けを書く。 幸いにも銀行の近くの交番にあるようで、すぐに行けば返してもらえるらしい。 会社には少しだけ遅刻する連絡をして、道を引き返した。 交番に着くと、目つきの悪い警察官が財布の特徴や、現金の額を聞いてきた。 「その財布に入っていたのは、それだけですか?」 「はい、それだけです。」 「他の人のカードとか、入っていませんね。」 「え?いえ、入ってません。」 「じゃあ、これは何でしょうかね?」 その警察官は目つきが悪かったのではなくて、 偽造の身分証を持っていた俺を、睨んでいたのだった。 俺ドジすぎwwwwwwwwww 元々持っていた身分証、女として就職するために作った身分証、 就職してから出来た、新しい身分証など。 俺は、その三種類の身分証を持っていた。 当然、これらを同時に持ち歩くことは避けていたけれど、 その日、財布には二種類の身分証が入っていて、 しかも俺は、その事を忘れたまま交番にそれを取りに行ってしまったのだ。 「あの、すみません。」 「なんだ。」 「トイレ、行きたいんですけど。」 「…お前、男なんだよな。」 「はい、まあ一応。」 「いつも、トイレどっち使ってる?」 「今は、女子です。」 「……婦警呼んでくるから、ちょっと我慢しろ。」 パトカーがきて、それに乗って本署に連れていかれた。 手錠と腰紐をつけられて、取調室に入る。 「お前、豚箱入るからな。これから。」 「はあ…」 「昨日来たおっさんと、同じ部屋にしてやるぞ。」 「…」 「どうだ、嬉しいだろ。誘うなよお前ww」 「…」 「何とか言えよ、オカマ。」 取調べといっても、特に内容のない時間の方が多かった気がする。 とにかくその日の取調べは終わって、刑事の予言通り、俺は留置所に送られる。 正式な身分上は男性なので、当然男性留置所だ。 身体検査には、特別に婦警が呼ばれた。 しかも白衣の着用が許されて、下半身は金属探知機だけで済んだ。 留置所内での移動には、ついたてが用意されて、 俺の周りを5人ほどの警官が囲む、異常な光景になった。 独居房に入れられた俺は、そこで一晩を過ごす。 まあこっちは犯罪者なんだから、罵られるのは仕方ないww ただ、留置所も明らかに持て余してただろうな。 扱いにくそうだったし、常に複数人がついたてで隠してたしww 二日目の取調べは、俺の体についての説明で終わった。 「だけど、裁判所の人はわからないぞ。」 「どうする?」 「うーん、お前はどう思う?」 「ふたなりって書けばいいんじゃないっすか?」 そして、また留置所。 「お前もその方がいいだろう。」と入れられた独居房だが、 一人で夜を過ごすのが、一番の苦痛だった。 もちろん、自分の容姿で雑居房に入るわけにいかない事は分かったので、 外の道路を走る車の音に耳を傾けながら、その日も一人で明かした。 「51号、お前、また何も食ってないのか?」 「すみません。ちょっと食欲なくて。」 「ちょっとでいいから、食え。まずくはないだろ?」 「はい。もう少し待ってくれませんか。」 「身分証を書き換えたのは、働くためだけです。」 「なんで働くのにそんなことする必要があるんだ。」 「男性では、なかなか就職先が見つからなかったので。」 それから、自分が女として通用することを、最後に確かめたかったから。 「そんなもの、オカマバーとかいくらでもあるだろうが。」 「…」 「そういう仕事がしたいからオカマになったんだろ?男相手の仕事を。」 「いえ、先天的なものですから。」 留置所に戻って昼食。 「ここで休憩していいぞ。今なら誰も来ないからな。」 「はい。」 「タバコとか吸うのか?」 「いえ、吸いません。」 「ヒゲを剃るなら、…ヒゲ生えてないな。」 「はあ。」 また取調室。 「この書類は、裁判所に送る。それで、」 「それでまあ、多分審判なしで終わるから。」 「そうですか。」 「今日のうちに、書類書き上げるからな。」 「はい。ありがとうございます。」 「お前のことはふたなりって書くぞ。」 「はい。」 「ところで、性別を変える方法もあるって知ってるか?」 「はい、知ってます。」 「戸籍も変えられるんだぞ、そうしろ、お前。」 「…。」 もう一度留置所に戻されて、その後、開放された。 これで罪歴の告白と、留置所レポ終了wwww 身分を偽って生きている方は、くれぐれもご注意くださいww 今はまだここまでしかまとめてませんwwサーセンwww ほんのちょっとまた編集してみました