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「―――では、ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」 「はい……!!」 ついに自分の番がきた――――――期待と不安と興奮がないまぜになり、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは身を固くして教師の呼びかけに応じた。 これから、一生を共にする自分の使い魔を呼び出すのだ。 緊張して当然である。 が、今彼女が感じている緊張は、他の同級生とはベクトルが違った。 『ゼロのルイズ』 それが示す事柄はすなわち、貴族にとって不可欠な、魔法の成功確率の『ゼロ』の揶揄である。 口惜しいことに、原因は不明。 同級生に『ゼロ』と笑われる度に、プライドの高い彼女は、はらわたが煮えくり返る思いをしたものだった。 だが、自分が今まで魔法を使えていないのは事実。 今回の儀式もまた失敗するかも知れないという恐れこそが、彼女の緊張の源だった。 しかし、 (サモン・サーヴァントに成功すれば、私はもう『ゼロ』じゃない……呼ばせない……) その思いがルイズを後押しする。 「おい、『ゼロ』! ちゃんとサモン・サーヴァント出来るのか?」 「皆、離れとけ! また爆発するぞ」 同級生の何人かがはやし立てた。 どうせまた『かぜっぴき』のマリコルヌあたりだろう。 ルイズは声のした方向をキッと睨みつけた。 野次の内容はいつもとそんなに変わらなかったが、これからの大事な儀式向けての集中が阻害されたせいもあり、ルイズは声を張り上げた。 「見てなさい……ッ!あんたたちの使い魔を全部合わせても及ばないくらい、神聖で美しく、そして強力な使い魔を召喚してみせるわ……!!」 (また悪い癖が出た……) 言い終わった後にルイズは後悔した。 どうしていつも自分はこうなのだろう? 彼女は自らの性格がもたらす弊害を強く自覚してはいたが、直す術を見いだせないまま今日に至る。 いつもならこのあと自己嫌悪に陥るところだが、生憎と今回ばかりはそうもいかない。 今は儀式に集中せねば…… 怒鳴ったせいで乱れた呼吸を静かに正し、ルイズは覚悟を決めた。 杖を構え、詠唱を始める。 ゆっくりと静かに、しかし力強く確実に。 周囲のマナが轟と震え、眩い光があふれ出す。 (いける!) これまでにないほど、魔力の流れが安定している。 ルイズは召喚の成功を確信する。 内心の興奮を抑えつつ、ルイズは淡々と詠唱を続ける。 ――――――そして、詠唱は終わりを迎えた。 "チュドォォォオン!" 成功を確信したルイズの召喚魔法の結果はしかし、いつもの通りの爆発であった。 砂埃が舞い、視界が遮られる。 意味するところはすなわち……… 「し……失…敗…なの?」 その瞬間、ルイズは金槌で殴られたような衝撃を受けた。 腰の力が抜け、その場にへたりこむ。 (……どうしてなの?) これまで、様々な苦労をしてきた。 魔法を使えるようになるために、あらゆる書物を貪った。 知識だけなら他のどの同級生に負けない自信がある。 自覚がある。 自負もある。 なのに………… 悔しさのあまり、これまでどれだけ他人にバカにされても決して流さなかった涙さえうかべた。 やはり自分は『ゼロ』なのか…… これからも他人に笑われる生活を送るのだろう。いや、ひょっとしたらこれを口実に学院を追放されるやも…… ルイズは、自分が描いた恐ろしい未来に我が身を抱いた。 そうして彼女が震えている間にも、視界を遮る砂煙は晴れようとしていた。 時は止められないのだ――――――ルイズは思った。 「ケホッケホッ……こ、今回はやけに飛ばしたな、『ゼロ』のやつ」 召喚と、その後のいつもの失敗劇を眺めていた同級生の1人が呟いた。 「エッホン、ゥオッホン……そ、そうだね。マントが汚れてしまったよ…」 実際のところ、失敗すると決め込んでいた彼らも、一瞬だが、成功したのではないかと思っていた。 しかし結果はやはり失敗。 今までにない様相を呈してはいたものの、結局『ゼロ』は『ゼロ』だったということだ。 彼らはそう、心の中で結論づけた。 彼らの心は既に、サモンサーヴァントではなく、砂煙が収まった後、どうやって『ゼロ』をからかおうかということに向かいつつあった。 しかし、やや視界が効くようになるにつれて、先程までは存在しなかったモノがあることに一部のものは気がつき始めた。 まさか……!? 皆の期待を再度裏切る形でソレは確かに横たわっている。 だがよく見えない。 目を凝らす。 舞い残る砂が目に入ってよく分からない。 目をこすり、再び目を凝ら「ぅわああぁぁあぁ!!?」 一人の生徒が叫び声をあげた。 ルイズは未だに、声を押し殺して泣いていたが、周囲の様子のおかしさに気づき、辺りを見回した。 『こちらを見る→ナニかに気づく→悲鳴を上げる』という一連の行為を誰も彼もが、一様に、時間差で行っていた。 女生徒のよく通るキャーキャーという悲鳴が、水面に石を投げた後の波紋のように、広がっていく。 悲鳴のウェーブが広がりきったその次は、悲鳴のオーケストラだった。 皆悲鳴を精練された聖歌のように唱和させる。 貧血を起こし、倒れる生徒も見受けられた。 いつもとは反応が違う。失敗を起こした後の反応とは……。 まさか、自分はサモンサーヴァントに成功したのか? その可能性に思考が行き着いた瞬間、ルイズは振り返り、砂煙が起こっていた中心を凝視した。 喜びと期待に満ちたルイズの目はしかし、自分が初めての魔法で、初めて呼び出したのであろうソレを見た瞬間に心臓が凍るほどの驚愕で見開かれた。 そこにあったのは、これ以上はないというほどスプラッタなバラバラ死体だったのだから… 戻る 2へ
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前ページ次ページ爆炎の使い魔 ヒロに「ハゲ」と定義されてしまったコルベールは、トリスティン魔法学院で仕事をするようになって20年になる中堅の教師である。 彼の二つ名は『炎蛇』、『火』系統の魔法を得意とするメイジである。 彼は先日、ルイズが召喚した平民の少女の額に現れたルーンのことが気にかかっていた。しかし気になっていたのはそれだけではなかった。 爆発の際に感じた異常なまでの炎の魔力、あれは明らかに自分を凌駕するものだ。最初はミス・ヴァリエールの属性が炎なのかと思ったが、おそらく違うだろう。彼女の爆発は何度か見たが、そこにはどの属性も感じられなかったからだ。 では、あの少女が?しかし彼女は平民だ。平民は魔法は使えない。この世界の鉄則である。しかし、本人がいないのでは、これ以上詮索してもしょうがない。 彼は1番手がかりのありそうなルーンのほうから調べることにした。 膨大な書物の中で、彼が探しているのは始祖の使い魔たちが記述された古書である。 すると、埃を被っている書物の中に、彼は目的のものを見つけ出した。さっそくページをめくる。するとその中に記された一節に目が止まる。 その一説と少女の額のルーンのスケッチを見比べると、思わず彼は驚きの声を上げる。そして、その本を抱えたまま駆け出していった。 トリスティン魔法学院の本搭の最上階、そこに学園長室がある。そして、魔法学院の学院長を務めるオスマン氏は白いひげと髪を生やした初老の人物であった。 オスマン氏はつまりこの学園で1番偉い人物ということになる。そのオスマン氏は今学園長室で、 足蹴にされていた。 「や、やめるんじゃミス・ロングビル。お、お尻を撫でるくらいいいではないか。減るもんじゃなあいたっ!」 オスマン氏を足蹴にしながら、ミス・ロングビルと呼ばれた女性はスタンピングをやめようとしない。 「いくら秘書であるとはいいましてもですね。まったく、今度、やったら、王都に、報告すると、言ったでは、ありませんか!」 「痛い、痛いぞ、ミス・ロングビル。このままではわし、いかん方向に目覚めてしまいそうじゃーー」 蹴られて少し嬉しそうなオスマン氏と、ちょっとうっとりした表情になっているミス・ロングビル。彼女も実はまんざらではないのかもしれない。 そんな平和?なひと時は突然の闖入者によって破られる。 「オールド・オスマン!たたた大変です!」 ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机で書類を整理している。オスマン氏は窓のほうを向いて後ろ手を組んでいた。 「まったく騒々しい、何事じゃミスタ・コルベール」 「ここ、これを見て下さい」 「また古い書物を持ち出して一体何だというんじゃ・・・」 「これも見て下さい!」 コルベールはヒロの額のルーンをスケッチしたものをオスマン氏に見せる。 それを見た瞬間、オスマン氏の目が変わった。飄々としたものから厳しいものへと。 「ミス・ロングビル、すまんが席を外してくれ」 ミス・ロングビルは何も言わずに立ち上がり、部屋を出て行った。 「詳しく説明してくれんかの。ミスタ・コルベール」 ルイズとヒロはめちゃくちゃになった教室の片づけを終わらせ廊下を歩いていた。 ヒロとして教室をめちゃくちゃにしたのはルイズなので付き合う義理などなかったが、使い魔なのだから、とシュヴルーズに言われたので、まあいいか。と、とりあえず片付けに参加したのだった。片付け中も左手を見せなかったあたりは器用としか言いようがない。 一方ルイズは、というと掃除中から教室を出た今でも、沈んだ表情で、時折ため息をついていたのだった。そしてふと口を開く。 「あんたも・・あたしのこと『ゼロ』だって思ってるんでしょ。魔法の成功確率ゼロのメイジだ。って」 そんな発言にヒロはちらとルイズのほうを見ただけですぐに前に視線を戻す。 「別に、お前が魔法を使えようが使えまいが、私にとっては大して重要な項目ではないのでな。しかし、魔法というのは失敗すれば爆発するものなのか?あれだけの爆発だ、その気になれば殺傷能力を強化して戦争にも使用されそうな勢いだがな・・」 その言葉にルイズも疑問を浮かべる。 「そういえば、普通は魔法に失敗しても何も起きないのが普通よ」 「なるほどな。(系統が違うと考えるべきか?いや、単純に構成を失敗しているだけとも考えられる。『虚無』だったか。あの失われた伝説の系統というのもまあゼロではないが。今の段階では憶測の外を出るわけではないな)まあ、今は考えてもしょうがあるまい。魔法で失敗するのなら 練習するしかあるまい。私も小さい頃は反復運動の繰り返しだったからな。」 そう言いながらヒロはスペクトラルタワーに上った事を思い出す。二度と行きたくなかった。 「わかってるわよ。平民のあんたに言われなくたって、いつも練習してるもん!でも、いつも失敗しちゃうのよ!」 ヒロは、喚くルイズにどうしたものかと思っていると、そういえば食事の時間だったなと思い出す。 「そうそう、そろそろ食事の時間だろう。とりあえず私の故郷の諺で『腹が減っては戦はできぬ』という言葉がある。とりあえず食事でもして頭を 冷やしてこい。私はあまり食欲がないのでその辺でも散策しているさ。まだこの学院の他の場所なども把握していないからな」 「わかったわよ・・」 そういうとルイズは食堂へと入っていった。 「やれやれ、さて、どうしたものか」 食欲がないと言ったのは嘘である。正直なところ大勢で食事をするのがあまり好きではないというだけだった。 「とはいえ、食べねばさすがにな・・」 周りを見渡していると 「どうなさいました?」 前のほうから黒髪の少女が歩いてくる。見ればメイドの格好をしている。この学園で働いているのだろう。ともすれば厨房でも貸してもらえるかもしれないなと考えた。 ヒロも最初は料理ができなかった。できたことと言えばヒヨコ虫の丸焼きだったりなど、実に野生的なものばっかりであった。 だがあるとき大蛇丸に 「ヒロよう、料理とか覚えとかねぇと男が寄ってこねぇぞ」と言われ、最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、姉プラーナは完璧超人だったために、料理覚えようという結論に至ったのであった。 べ、べつに男に寄って欲しいわけじゃないんだからな! 拳を握り締めるヒロを苦笑いで見る少女。 その視線に気づき、慌てて向き直る。 「ああ、すまないが厨房はどこだ?自分用の食事を作りたくてな。」 「もしかして、あなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう・・」 彼女はヒロの額のルーンに気がついたようだった。 「私のことを知っているのか?」 「ええ。召喚の魔法で平民を呼び出した。と噂になってます。」 笑う彼女はまるでミュウのように眩しい存在に見えた。そういえばスカーフェイスと結婚したとかなんとか。勇者の娘と闘神の息子の結婚、さぞや生まれてくる子供は、とんでもない存在になることだろう。 「お前はメイジ、とやらではなさそうだな」 「ええ、貴方と同じ平民です。貴族の方々のお世話をするためにこの学園に奉公にきてるんですよ」 私は平民ではない。と言おうとしたがやめた。魔王と人間のハーフなど、ここでは言っても冗談と受け止められるか、頭がおかしいと思われるのが関の山だろう。この左手でも見せれば違うかもしれないが、無用な騒ぎの種にもなりかねない。 「私はシエスタといいます。ええと・・」 「ああ、私はヒロという」 「あ、ごめんなさい。食事を希望されてたんですよね。こちらへ着いてきてくださいますか?」 忘れてた。と慌てた仕草をしながらシエスタはヒロを厨房へと案内した。 ヒロが案内された厨房は大きかった。そういえば城の厨房もこんな感じだったな。とヒロは考える。 「ちょっと待っててください」 そういうとシエスタは、厨房の奥へ行ってしまった。そしてそのままお皿を持って戻ってきた。 皿の中身はシチューのようだ。作り立てらしく美味しそうな湯気と匂いを立たせている。 「シチューか。いい匂いだな。味も良さそうだ・・・うまいな・・」 そんなヒロに気を良くしたのか、シエスタも笑顔を浮かべた。 そこまで早くはないが、ヒロはシチューを食べ終えた。正直なところ美味しかったのでおかわりもした。 「美味かった。久しぶりにいい食事ができた。礼を言うシエスタ」 「ご飯、もらえなかったんですか?」 「いや、ああいう大人数での食事というのが苦手なだけだ」 「そうなんですか。あ、でもでしたらここに来ていただければ、いつでも食事を用意しますよ」 「いや、それは悪いだろう。さすがにただ飯食らいというのもどうかと思うのだが」 「いえ、そんなことないですよ。私も1人で食べるのもなんですし、2人でしたら美味しく食べれると思いますよ」 元々自分で作るつもりだったので、厨房を借りることができればいいだけなのだが、どうやらこの少女は世話を焼きたいようだ。 ふむ、とヒロは思案した挙句。 「そうだな、何か手伝いでもしよう。生憎ルイズの使い魔をやっているので四六時中というのは無理だが、何かあれば言ってくれれば駆けつけよう。」 「あら、ありがとうございます。でしたらそうですね・・デザートを運ぶのを手伝っていただけますか?」 シエスタが微笑みながら言った。 「了解した」 ヒロはうなずき、シエスタの後をついていった。 デザートを配っていると1人の貴族が目に止まった。 金髪でフリルのついたシャツを着ている、気障っぽい感じがする男だった。どうやら談笑しているようだ。別段興味はなかったが耳には入ってくる。 「なあギーシュ!お前は今、誰と付き合っているんだ?」 「誰が恋人なのか教えてくれよギーシュ!」 あの男はギーシュという名前らしい。 「つきあう?僕にはそんな特定の女性はいないのさ。なぜなら」 そう言って薔薇を口に近づける。 「薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 聞いてて胸糞が悪くなってきた。一瞬燃やしてやろうかとも思ったが、仕事中な上にめちゃくちゃにしてしまってはシエスタに申し訳ない。ヒロは自重した。 その時、ギーシュのポケットから何かが落ちた。ガラスでできた小瓶のようである。そして不幸にもシエスタがそれに気づいてしまった。 「あ、貴族様落し物です」 その小瓶をみたギーシュの友人が騒ぎ始める。 「おお!?その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないのか?」 モンモランシー。聞いたことのない名前だ。 「そうだ!その紫色の香水は、モンモランシーが自分のために調合しているものじゃないか!」 「そいつがお前のポケットから落ちてきたってことは、今はモンモランシーと付き合ってるってことだなギーシュ!!」 「違うんだ。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが・・・」 ギーシュが何か言いかけたとき、左から茶色のマントの少女が、右から巻き髪の少女が立ち上がりつかつかと寄ってきた。 「モ、モンモランシー、それにケティ・・・ち、違うんだ!これはなんというか・・・」 「やっぱりミス・モンモランシーと・・」と泣くケティ。 「やっぱり、その1年生に手を出していたのね」と睨むモンモランシー。 「「最低!!」」 2人の女性に怒鳴られひっぱたかれるギーシュ。2人の女性はそれぞれ反対方向へと歩いて去っていき。彼の頬は腫れて赤くなっていた。 ギーシュは腫れた頬を手でさすりながら 「あのレディたちは薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 なおもそこまで言えるギーシュ。ある意味感嘆する。まあ、もう関係ないなと作業に戻ろうとしたときだった。 「そこなメイド!」 いきなり貴族様に呼ばれる。何か粗相をしてしまったのだろうかと思う。 「な、なんでしょうか?」 身を竦ませるシエスタ。だって相手は貴族だし。 「君が軽率にも香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 気障ったらしく髪をかきあげながら、シエスタに向かって薔薇を向けるギーシュという貴族。一方のシエスタはとんでもないことをしてしまったと、自分が顔が真っ青になってがくがく震えているのがわかる。 「も、申し訳ありません貴族様!!」 もう謝るしか自分はできないと思い土下座をした。しかし、それで許すほどギーシュは寛容ではなかった。 「僕に謝られてもしょうがないんだが・・・そうだな、君にお仕置きをしてあげよう、貴族らしくね。今晩、僕の部屋まで来たまえ」 もうシエスタはどうしようもないと思った。顔も真っ青を通り越して白くなっている。 ブチ シエスタは何かが切れる音を聞いたような気がした。一体何なんだろう。 するとヒロがこちらに寄ってきてギーシュの胸に指をさす。下を少し向いているのか表情は伺えない。 「二股をかけてるようなやつが何を言っている」 「何だ君は?貴族に口答えをするとは・・ああ、君はあのゼロのルイズが呼び出した、平民だったね。ゼロのルイズだけに使い魔もたいしたことはないようだ。それに、どうやら君は貴族に対する接し方を知らないようだな」 ヒロは顔を上げると笑みを浮かべながら。 「ああ、残念ながら貴様のような最低の男に対する礼儀なんてものがこの世界にあるとは驚きだ。くくく」 「よかろう・・・ならば君に礼儀を教えてやろうじゃないか!決闘だ!場所はヴェストリの広場だ!その仕事が終わったらきたまえ。まあ、別に怖くなって逃げてもかまわないがね。では待っているよ!」 そう言うと、ギーシュはマントを翻し、食堂を出て行った。 「大丈夫か?シエスタ?」 シエスタの方を見るとまだ震えている。まあ怖かったのだろう。手を貸そうとすると、 「あ、あなた殺されちゃう・・・」 「ん?」 「ご、ごめんなさい!」 シエスタは言うが早いか、走って逃げていってしまった。 どうしたものか、と手を差し出そうとした姿勢で止まってしまった。 すると食事を終えたのか、ルイズが後ろから駆け寄ってくる。 「あんた!何勝手なことしてんのよ!」 「食事は終えたのか?」 「そんなことはどうでもいいわよ!何決闘の約束なんかしてるのよ!」 「何、成り行きのようなものだ。それにいい機会だしな」 「何がよ・・ひっ」 「さてルイズよ。私はお前の使い魔なわけだ。まああのギーシュとやらは、お前のことも馬鹿にしていたからな。叩きのめす理由としては十分だろう」 とてつもなく凄みのある笑みを浮かべて言うヒロを見てルイズは後ずさる。正直なところ、ヒロは色々溜まっていた。戦いがなかったというのもあるかもしれない。 「それにな」 「な、なによ」 「自分の使い魔がどれほどのものなのか、知っておくにはいい機会だろう?」 ヒロは言いながら食堂から出て行った。目指すはヴェストリ広場である。 歩きながら1人の生徒を見かけ、声をかける。 「すまんが、ヴェストリの広場とはどこだ?」 まだ学園を把握していないヒロなのであった。 前ページ次ページ爆炎の使い魔
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昼飯時、ポルナレフは苦虫を噛み潰したような顔で食堂の入口の近くの壁にもたれていた。 そんな顔してそんな所にいるのにはやはり理由があった。 その日の朝。 ずっと幽霊だったポルナレフにとって久しぶりの睡眠であったため目覚めも非常に良かった。 彼は、こんな清々しいのに頭からゆっくり出るようなことはしたくない、と思い、膝を曲げて反動を付け、思いきりジャンプした。 そして着地ッー! グシャァッ! 「『グシャァ?』」 その謎の効果音に恐る恐る下を見た。 見事同時に着地した両足の下にあったのは見覚えのあるピンクの長髪と鳶色の目をした少女の顔だった。 普段冷静沈着である彼の顔にもさすがに冷や汗が流れる。 「…あー、おはようございます。ご機嫌は如何ですか?我が主人?」 「………イッペン死んでみる?」 彼は散々鞭で打ちつけられボロ雑巾と化した後、一週間の食事を抜かれることとなった。 朝食ヘ向かう途中 「まさか亀が夜中の内にベットに載っていたなんて思わなかったんだ…」 と何度も弁明したのだが、取り消してはもらえなかった。 しかも泣きっ面に蜂と言う様に不幸は立て続けに起こった。 朝食後、ルイズとポルナレフ(と亀)が教室に入ると全員がその隣にいる男を凝視した。彼等はパニックに陥り、亀の中から男の生首が出て来たということしか覚えてなかったからだ。 「あいつ…亀召喚しなかったっけ?」 「違う…あの男の顔をよく見ろ…亀の中から出てた顔だ。ほら脇に亀を持ってる…」 ルイズ達を指差しクラスメート達がひそひそ話をしだした。 ルイズはそんな連中を睨み付けたが、ポルナレフは周りにいる使い魔達をしげしげと眺めつつ、壁にもたれ掛かった。 教師が入って来て授業が始まった。 ポルナレフにとっては魔法の授業というのは珍しく新鮮なものであったので、それなり真剣に聞いていた。 その中で分からない単語、トライアングルだの錬金だのをルイズに聞いていたら教師に注意され、ルイズが前に出て錬金をやらされることとなった。 「ルイズをッ!?先生そればかりはやめた方が…」 赤毛の褐色の肌をした少女の言葉を皮切りにクラス中から反対のコールが起きた。 しかし周りの反対を押し切りルイズは前に出ていった。そして呪文を唱えたのだが、何故か爆発が起こった。 周りの異常な反応にポルナレフの警戒心も久しぶりに覚醒し、他の生徒同様机の下に避難したため無事だったが、教師は助からず最低でも二時間は気絶していた。 教師が意識を取り戻した後、当然罰として掃除をやらされることとなったのだが、ルイズが「主人の責任は使い魔の責任」と掃除をポルナレフ一人に押し付けようとしたのでポルナレフは 「貴様の事を何故俺が一人でやらねばならんのだ? 大体成功するという確信もないなら初めからするんじゃない。」 と拒否した。 「うるさいッ!あんた使い魔の癖に口答えするつもり!?」 「別に俺は間違ったことは言ってないはずだが?」 ポルナレフの態度はルイズが激怒していた所にさらに油を注ぎ込むことになった。 「もういいッ!あんたまで私を馬鹿にするなら更に三日ご飯抜きッ!」 「貴様は俺を殺す気か!?」 「私が上ッ!あんたが下よッ!」 「お前が下だッ!!」 結果、更に三日追加され計十日飯抜きという実刑が下ってしまった。 「『ゼロ』のルイズか…よりによって魔法を一つも使えない主人なんて先が思いやられるな…餓死する前に逃げるか…?」 幸いルイズは亀の能力に気付いていない。というよりどうやら認めたくないらしい。 「まあその亀がいるからしばらくは大丈夫なんだが…」 ポルナレフは長い付き合いとなる相棒の亀を見た。 亀の中にはジョルノ達がいざという時にということで冷蔵庫の中に食料が入っていた。 しかしそれにも当然限りがある。多分持って一週間しかない。 どうにか食事を確保せねばその内餓死してしまうのはコーラを飲んでゲップが出るくらい確実である。 「しかしどうすれば…」 ポルナレフが思わず天を仰いだその時、 「あ、あの…どうかなさいましたか?」 誰かがポルナレフに話し掛けてきた。 ポルナレフが声の方を見るとメイドの恰好をした黒い髪の少女がこっちを見ていた。相手の丁寧な口調に自身も自然と丁寧になる。 「いや…特に何も無い」 ポルナレフはそう言ったのだが、少女は足元の亀を見て、思い出したかのように言った。 「あ、もしかして貴方がミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう平民と亀の…」 つくづく亀の方が有名らしいな、そう思ったのだが黙っておくことにした。 「その通りだが…君もメイジか?」 「いえ、私も平民です。ここには奉公のために貴族の世話しに来ているんです。」 (どうやらここは魔法だけでは補え切れない所があるから平民をいくらか雇っているらしいな。 しかしこれはチャンスだ。上手く行けば彼等から食事を分けてもらえるかもしれない。) 「私はシエスタと申します。良ければお名前を…」 「私はJ・P・ポルナレフだ。亀はココ・ジャンボと言う。」 「ポルナレフさんにココ・ジャンボさんですか…人間と亀って何だか変なコンビですね。」 シエスタはふふっと笑った。 ポルナレフはその笑みにふとJガイルに殺された妹を思い出した。 「…」 「どうかしましたか?」 「いや、何でもない。ただ、妹を思い出してな…」 「妹さんを、ですか?」 「ああ。あいつも君と同じような笑い方をした…いい妹だった。…もう何年も前に殺されたがね…」 「そうでしたか…」 ポルナレフの寂しそうな顔に思わずシエスタも黙ってしまった。 「あ、いや、こんな事を言って済まなかった。今のは聞かなかった事にしてくれ。それより頼みたい事があるんだが…」 「なんですか?」 「実はな、あの憎たらしい小娘に十日も食事を抜くと言われてな…だから何でもするから、しばらくの間食事を世話して貰いたいのだ…」 ポルナレフが頭を下げ頼み込むと、シエスタはまた笑って 「そんなことでしたか。いえ、ずっとそこにいらっしゃるのでどうなされたのかな、と思いまして…どうぞこちらへ」 と言って、どこかへ案内しだした。 To Be Continued...
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前ページ次ページサイヤの使い魔 地平線から登ってきた太陽が、夜のうちに冷やされた大気へと地面が放出した霧状の水分をきらきらと照らしている。 朝もやに包まれたトリステイン魔法学院の馬小屋には人気が無く、鼻腔から白い息を吐き出す馬やグリフォンらの他には、人間が2人いるだけだ。 そのうちの1人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが口を開いた。 「ゴクウ、きつくない?」 「大丈夫だ。けどちょっと左に偏ってんな」 「わかった。調整するわ」 ルイズは、馬小屋から失敬した馬具を分解して、革紐の部分を悟空の身体に縛り付けていた。 アンリエッタから仰せつかった任務の目的地、アルビオンは浮遊大陸である。 通常の手段で行くとなると、まず港町ラ・ロシェールに行き、そこからアルビオン行きの定期便に乗り換える必要がある。 しかし、ラ・ロシェールまでは馬に乗って行っても優に2日はかかる上に、定期便もアルビオンがトリステインに最も近く時期でないと出港しない。 一刻も早くアンリエッタの悩みを解決したいルイズは、そんな悠長な手段でアルビオンに行く気は更々無かった。 何といっても、自分には悟空がいる。 タバサの風竜をも上回る速度で大空を自由自在に翔ける彼に乗っていった方が余程早い。 そのため、悟空の背中に自分を括り付けて飛べるよう、あれこれ試行錯誤しているのだった。 「今度はどう?」 「良さそうだ」 悟空が分解してできた金具の余りをひとつ摘み上げ、両腕の付け根をぐるりと回すようにして通された革紐を胸の前まで手繰り寄せ、金具を指先で押し潰すようにして2本の紐を繋ぐジョイントに加工した。 それを確認すると、ルイズはサドルホルダーを悟空の背中側に取り付けた。適当な金具で仮止めし、悟空にずり落ちないよう金具を締め上げて固定させる。 ルイズは頭絡を取ると、輪になっている部分に両腕を滑り込ませ、手綱の余った部分を悟空と自分に何度か巻きつけ、飛行中に体勢がずれないよう数箇所で縛った。 グローブをはめ、頭絡とサドルホルダーを余った金具で固定し、最後にデルフリンガーを悟空の身体に袈裟懸けにすると、出発準備が整った。 デルフリンガーを胸の前に抱え、不恰好な負ぶい紐でルイズを背負ったような格好である。 「浮いてみて」 悟空が舞空術で地面と平行に浮くと、ルイズはちょうど悟空の背中に腹ばいに寝そべる体勢になった。 がっちり身体が固定されていることを確認すると、ルイズは悟空の脇の下から手を通し、悟空の胸の下にある革紐を掴んだ。 ついでに悟空の背に顔を埋め、使い魔の匂いを胸いっぱいに吸い込む。 「んふ~」 無意識のうちにルイズの頬がほころんだ。本能的に頬を悟空の背にすりすりする。 「おい、くすぐってえよ」 「あ…、ご、ごめん」我に返ったルイズの顔が真っ赤に染まった。「…じゅ、準備できたわ」 「よーし、じゃ、行くぞ!」 浮遊大陸アルビオンを目指して、悟空とルイズは飛び立った。 馬小屋に係留していたグリフォンにワルドが跨ったのは、それから20分後の事だった。 魔法学院を一望できる高さまで飛び上がると、ルイズを捜し求めて周囲をぐるぐると旋回する。 しかし、何処を探してもルイズの姿が見当たらない。 まだ部屋に居るのだろうかと、サイレントでグリフォンの飛翔音を消し、無礼を承知で彼女の部屋を覗き込むが、部屋はもぬけの殻だった。 再び馬小屋に戻り、馬の数が減っていないか確認する。馬は減っていないようだったが、代わりに分解されたと思われる馬具の残骸が落ちているのに彼は気付いた。 グリフォンから降りて金具の一つを拾い上げ、これがルイズと何か関係するのだろうかと考えていると、生徒が1人凄い勢いで走ってきた。 ワルドは昨日、品評会でその生徒を見たのを思い出した。確かギーシュ・ド・グラモンとかいう名だ。 グラモン家は戦場で何度か見たことがある。いつも実力不相応な戦力を率いては、見栄えを優先した戦陣を敷き、それなりの戦果を挙げてはいた。 ただ、どう考えても金の使い方を間違ってるとしかワルドには思えなかった。自分なら、もっと安上がりに同等の結果を出せる。 とはいえ、金の払いはいいので、傭兵たちからの評判はそう悪くなかった。実際、ワルドもグリフォン隊を率いる前に一度グラモン元帥の元で働いた事がある。 その時の報酬は、今の地位についた彼の給料――役職手当を含む――を若干上回っていた。 あんなに羽振りが良くて、よくもまあれだけの領地でやっていけるものだとその額を数え終わったワルドはその時舌を巻いた。 「はあっ、はあっ……、…くそ、遅かった…」 「おはよう。どうかしたのかね?」 「こ、これは…、子爵、どの……」相手がワルドだと気付いたギーシュは、息が上がっているのも構わず、敬礼の動作を取った。 「休んでくれ給え」形式的に敬礼を返したものの、ワルドはすぐに相好を崩した。「もしや、ルイズの事かね?」 「そうです。ぼくの使い魔が彼女らを見たので、急いで馳せ参じたのですが……」 「彼女ら、だって?」 「使い魔も一緒です。彼女は、使い魔に乗って飛んで行きました」 「確か、彼女の使い魔は…」 「ソンゴクウ、という……」ギーシュは言いよどんだ。「…平民です。生徒の中には『天使』という者もいますが」 ワルドは昔読んだ『イーヴァルディの勇者』を思い出した。 その本に出てくる主人公の頭にも、光る輪が浮いていた気がする。そしてその本で主人公は『天使』と呼ばれる存在だった。 それが何を指すのかワルドには判らなかったが、後にその本が焚書の憂き目に遭った版だという事を知ると、恐らくブリミル教の信奉者にとって目の上の瘤となる描写があったのだろうと彼は結論付けた。 「随分と古い表現だな。昔読んだ本に、そんな事が書いてあった気がする」 「『イーヴァルディの勇者』ですか?」ギーシュは微笑んだ。「貴方のような方が、あんな御伽噺をご存知とは思いませんでした」 「誰にだって子供時代はあるさ。それより、ルイズの事だが、何で君がそれを知っている?」 「ぼくのヴェルダンデが目撃したんです」 「君の…誰だって?」 ギーシュは足で地面を数回叩いた。すると、叩いた場所の地面が盛り上がり、やがて小さい熊ほどもある大きさのジャイアントモールが姿を現した。 ふにゃっと表情をだらしなく緩めたギーシュがモグラの傍らに膝をつき、ほおずりしながらモグラの喉元を撫でさすった。 まるで○ツゴロウさんだ。 「よーしよしよしよしよしいい子だヴェルダンデ! ああ、ぼくの可愛いヴェルダンデ! やはり君は最高の使い魔だあーッ!」 「…………」 「ごほーびをやろう! よくできたごほーびだ! どばどばミミズ2匹でいいかい?」 モグモグモグ、とヴェルダンデと呼ばれたモグラが鼻を鳴らす。 「3匹か? どばどばミミズ3匹欲しいのか! 3匹! このいやしんぼめッ!」 「…あの………」 「いいだろう3匹やるぞ! レッツゴー3匹!」 「おーい……」 懐から太さが2サントはありそうな巨大なミミズを取り出すと、ギーシュはそれを宙に放った。 ヴェルダンデが図体に似合わぬ俊敏さで飛び上がり、空中で全てのミミズを一息で咥える。 着地と同時にねちょねちょと咀嚼するヴェルダンデに、再びギーシュが擦り寄った。 「よーしよしよしよしよしよし! 立派に取れたぞヴェルダンデ!!」 再びモグラの喉元をナデナデし始めたギーシュに、ワルドは無言で杖を抜くと、軽いエア・ハンマーをかました。 「ぶぎぉッ!?」 「そろそろ本題に入りたいのだが」 「はっ、申し訳ありません」 「…なるほど。では私は相当出遅れてしまったようだな」 ギーシュを介してヴェルダンデから一部始終を聞いたワルドは、再びグリフォンに跨った。 拍車をかけ、グリフォンが一声鳴いて学院の門の方向へ向き直ると、ギーシュが遅れじと追いすがった。 「子爵! ぼくも連れて行って下さい!」 「君を?」 「アンリエッタ姫から仰せつかった任務の事でしょう?」 「何の事だね?」 「隠し立てする必要はありません。ぼくも昨夜、ルイズやアンリエッタ姫と一緒にいました」 ワルドは考えた。アンリエッタ姫からは、この貴族の少年が同行するとは聞かされていない。 かといって、今から姫の所に行って問い質すわけにも行かない。そんな事をしている間にも、ルイズとその使い魔はアルビオンに刻一刻と近づきつつある。 とりあえず連れて行っても邪魔にはならないだろう。いざとなったら捨てればいいだけの話だ。 「……なるほど。そういう事なら一緒に行こう。だが残念ながら僕のグリフォンは一人乗りでね。君には馬に乗って行ってもらわなくてはならない」 「ご安心を! 乗馬には自信があります!」 「いやそういう問題じゃない。僕のグリフォンとそこいらの馬とじゃ、航続力に差があり過ぎると言いたいんだ」 「…ぬ、ぬう……」 「僕は一刻も早く2人に追いつきたい」 「そういう事なら、考えがありますわ」 不意に、頭上から声がした。 ワルドとギーシュがその方向を仰ぎ見ると、青い風竜に乗った燃えるような赤毛と透き通る水のような青毛の生徒がこちらを見下ろしていた。 キュルケとタバサである。 「キュルケじゃないか! 何でここに!?」 「あんたと同じよ。ルイズとゴクウが何かやっていたのを見たから、急いでタバサを叩き起こしてやって来たのよ」 結局間に合わなかったけどね、とキュルケは手のひらを上にして肩をすくめた。 いつもなら、キュルケの頼みとあれば自分の着衣など二の次で協力してくれるタバサが、悟空絡みだと知るや、自分の身支度が済むまでは頑としてシルフィードを呼ぼうとしなかったためだ。 更なる闖入者の出現に、ワルドは自分のペースが崩されていくのを感じた。何か、こいつらを都合よく置き去りにする手段はないものか、と熟考する。 やがて一つのアイデアが浮かんだ。 ラ・ロシェールで待機させている『偏在』に、足止めのための傭兵を雇って送らせる。 幸い、ラ・ロシェールで傭兵に事欠くことはない。とりわけ、ここ最近はアルビオンの王統派に就いていた連中が、雇い主の敗北によって職にあぶれ始めている。 それでも駄目なら、当初の滞在予定地であったラ・ロシェールに一旦全員を集めておき、そこをマチルダに襲わせて時間稼ぎをさせよう。 ワルドは『偏在』に「思令」を送った。 少々回り道になるかもしれないが、ルイズ達だってアルビオンに辿りつくまでには数日かかる。 それに、ラ・ロシェールはアルビオンに行く上で――空から行くのではない限り――地理的にどうしても避けては通れない町だ。上手く行けば、合流できるかもしれない。 くいくい、とマントを引っ張られる感覚に、ワルドは我に返った。 ヴェルダンデが、ワルドのマントを引っ張って注意を引いていた。ギーシュ達がこちらを見ている。 「子爵?」 「あ、ああ、すまない、考え事をしていた。何だい?」 「ぼくはタバサの使い魔に乗って、『彼女らと一緒に』行く事になりました。同行を許可願います」 「それは構わない。確かに、風竜なら僕のグリフォンに遅れを取ることもないだろうね」 ギーシュがヴェルダンデに擦り寄り、涙と鼻水を垂らしながら別れを惜しむ。シルフィードに乗っていく以上、ヴェルダンデは一緒に連れて行けない。 ルイズに遅れること30分、ワルド達一行がトリステイン魔法学院を後にした。 アンリエッタは出発する一行を学院長室の窓から見つめていた。 出発早々、早くも足並みが揃っていない。しかも余計な荷物付きときた。 あの3人の身柄と実力はオスマン氏が保証してくれた。なるほど、ルイズと一緒にあのフーケを捕らえた生徒たちとあれば、戦力として多少は心強い。 だが、任務の目的は戦う事ではない。隠密裏に手紙を回収する事だ。 派手に立ちまわってしまい、王族達に目をつけられてしまってはたまったものではない。 そして、そんなアンリエッタの頭を更に悩ませる報告が、コルベールによってもたらされた。 捕らえた筈のフーケが、脱獄したというのだ。 取り乱し、禿頭を汗で光らせるコルベールとは対照的に泰然自若としたオスマン氏が、アンリエッタには羨ましく感じられた。 「大丈夫かしら、本当に……」 「既に杖は振られたのですぞ。我々にできる事は、待つ事だけ。違いますか?」 「そうですが……」彼女の心中を察したかのようなオスマンの問いかけに、アンリエッタの顔に浮かぶ憂いの色が濃くなった。 「なあに、彼ならば、道中どんな困難があろうとも、やってくれますでな」 「彼とは…?」 「ミス・ヴァリエールの使い魔。…姫は、始祖ブリミルの伝説をご存知かな?」 「通り一辺のことなら知っていますが……」 「では、『ガンダールヴ』のくだりはご存知か?」オスマン氏がにっこりと笑った。 「始祖ブリミルが用いた、最強の使い魔の事? 確かにルイズの使い魔は力がありそうですが、だからといって彼が…?」 「いやなに」 おほん、とオスマン氏は咳払いをした。 『ガンダールヴ』の事は自分の他には数えるほどしか知るものはいない。アンリエッタが信用できない訳ではないが、まだ王室のものに話すのは早い。 少々喋り過ぎたとオスマン氏は思った。 「とにかく彼は『ガンダールヴ』並みには扱えると、そういうことですな」 「はあ」 「それにここだけの話、彼はどうも異世界から来たようなのです」 「異世界?」 「そうですじゃ。ハルケギニアではない、どこか。『ここ』ではない、どこか。 そこからやってきた彼ならばやってくれると、この老いぼれは信じておりますでな。 余裕の態度も、その所為なのですじゃ」 「そのような世界があるのですか……」 アンリエッタは、遠くを見るような目になった。 異世界。何とも不思議な魅力に満ちた響きがある。 (そこでは魅力的な殿方同士がくんずほぐれつイヤンバカンそこはアッー!な世界だったり……。うふ、うふふふふふ…………) アンリエッタの妄想力が10上がった。 アンリエッタの腐女子度が17上がった。 アンリエッタの威厳度が3下がった。 「見えてきたわ。あれがアルビオンよ」 「へーっ、でっけえなぁー!」 見渡す限りの白い雲海。右を向いても左を向いても真っ白けっけじゃござんせんか。 時おり見える切れ目の向こうに、浮遊大陸アルビオンが姿を現した。 巨大な島だ。それが、文字通り空中に浮かんでいる。 「驚いた?」 「ああ、オラのいた所にも似たようなのはあったけど、こんなにでっけえのは初めて見たぞ」 「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上をさ迷っているわ。 でも、月に何度か、ハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土ほどもあるわ。通称『白の国』」 「よく知ってんなあ」 「前に、姉様たちと旅行で来た事があるのよ。だからここの地理には明るいわ」 悟空はアルビオンの上方へと移動した。陸地の広さから、神様の神殿とは比べ物にならないサイズである事が見て取れる。 ただし、神殿はカリン塔から如意棒を用いてこの世と接続しない限り、普通に飛んでいっても跳ね返されてしまい、辿りつくことはできない。 そもそもあの神殿は単に浮力で浮いている訳ではないので、このアルビオンとは比較のしようがなかった。 「それで、どうすんだ?」 「とりあえず王党派に接触しないとね。でも問題はそれをどうやるかなんだけど……」 その時、何かに気付いた悟空が再び移動を始めた。 大陸の外周を海岸線に沿って回っていく。 「どうしたの?」 「あっちの方から変な音が聞こえんだ」 「変な音……? …あ、本当だ」 確かに悟空の言う通り、時おり地鳴りのような音が聞こえてくる。 この先には何があったっけ、と考えたルイズは、程無くしてそれがニューカッスル城である事に気付いた。 アンリエッタによれば、ウェールズ皇太子はあの城の付近に陣を構えているらしい。 嫌な予感がする。 やがてニューカッスル城が目視できる範囲に近づいて来たとき、その音の原因を知ったルイズは息を呑んだ。 巨大な船が、大陸から突き出た岬の突端にあるニューカッスル城目掛けて砲撃を加えている。 帆を何枚もはためかせ、無数の大砲が舷側から覗いており、艦上には竜騎兵が徒党を組んで舞っていた。 再び一斉射。夥しい量の火薬を瞬時に消費するため、大気がビリビリと震え、顔面に見えない壁がぶつかってくるような錯覚を覚える。 「妙だな…大して効いてねえみてえだ」 「え?」 放出された熱に当てられて火照った顔を手のひらで拭ったルイズは、悟空の言葉でニューカッスル城を見た。 確かに悟空の言う通り、一斉射の割には被害が軽いように見える。 城壁や尖塔の頂点など、戦略的にあまり意味のない所ばかりを狙っているように思える。何処にも着弾せず、空しく空を切って行く弾もあった。 「そうね…。もしかしたら威嚇のつもりなのかもしれないわ」 「あの船に行ってみるか?」 「……いえ、やめましょう。もしかしたら貴族派の連中かもしれないし」 ルイズの予感は当たっていた。 この船の名は ロイヤル・ソヴェリン という。艦隊登録番号NCC-73811。ソヴェリン級巡洋艦の1号艦で、かつてのアルビオン王国艦隊旗艦だった。 それが今は、 レキシントン と名を変え、艦隊登録番号もNCC-61832に書き変えられ、貴族派の力の象徴としてその身を大空に誇示している。 と、悟空の腹が鳴った。 「ルイズ~、オラ、腹減った」 そういえば、起きてから何も食べていない。 言われて初めて、ルイズは自身も空腹を覚えている事に気付いた。 「もう少し我慢しなさい。手紙を皇太子に渡して、姫さまの手紙を貰えば後でいくらでも…」 ぐう。 今のはルイズの腹の虫だ。 「…………」 「…わ、わかったわよ! わたしもお腹空いてるのは認めるからそんな道端に捨てられた哀れな子犬のような目で見ないで!! しょうがないわね、は、腹が減っては戦ができぬとも言うし…。ひとまず降りて。近くにラ・ロシェールの町があるから、そこで何か食べましょう」 魔法学院を出て以来、ワルドはグリフォンを疾駆させっ放しであった。 随伴するギーシュ達が乗っているのが風竜だったのは僥倖だった。馬なら、とっくの昔に置き去りにされている。 先程『偏在』から、マチルダが無事に傭兵を雇ったと報告を受けた。二個小隊分の人数を、しかも言い値でだったので流石に値が張ったが、致し方あるまい。 ひとまず、片方をラ・ロシェールの入り口付近の峡谷に待機させておく。 あの辺りの崖は高い。風竜に乗っていても、谷底を縫うように移動させていれば上からの攻撃には対処できないだろう。 今のペースで行けば、夕刻にはラ・ロシェールに到達できそうだ。 「ん?」 その時、再び『偏在』から報告が入った。 内容を聞いたワルドは、驚きのあまりグリフォンから転げ落ちそうになった。 ルイズと使い魔が、ラ・ロシェールに現れたというのだ。 馬鹿な。いくら何でも速過ぎる。 ワルドは地面を見た。伸びた影の長さから推測するに、まだ昼飯時にもなっていない。 自分の風竜でさえ、こんなにも短時間でトリステインからラ・ロシェールまで飛んで行くことはできない。 昨日、あれほど心構えをしていたにも関わらず、未だにルイズの使い魔の能力を過少評価していた事を思い知ったワルドは身震いした。 何という男だ。常にこちらの予想の数手先を行っている。あの使い魔については、どんなに過大評価してもし過ぎる事はないようだ。 頭の中で練っていたプランに変更を加える。今ある手駒を最大限に活用し、最も有効と思える手を見出さなくてはならない。 こういった事はワルドの専門外だったが、今更悔やんでも仕方ない。 ワルドは、『偏在』に再び「思令」を出した。 ラ・ロシェールの一角にある居酒屋『金の酒樽亭』。 その名の通り、酒樽を模した看板と、いつも喧嘩によって壊れた椅子の残骸が、入り口の扉の隣にうず高く積み上げられているのが目印だ。 中はいつも、傭兵や、一見してならず者と思われる風体の連中でごった返している。 特に最近は、内戦状態のアルビオンから帰ってきた傭兵達で満員御礼であった。 そして、その酒場の隅にある席に、この場に似つかわしくない二人組がいた。 一人は長身の男で、白い仮面を着け、全身を黒いマントで覆っている。 もう一人は女で、目深に被ったフードにより表情はわからないが、そこから覗く顔の下半分だけでもかなりの美女である事が見て取れる。 女はフーケであった。そして相対する男は、彼女を脱獄させた張本人である。 男が仮面を外した。その下から覗く素顔を初めて見たフーケは、ほう、と感嘆の息を漏らした。 「あんた、意外と美丈夫じゃないか」 「計画が変わった」 男はワルドだった。正確には、ワルドの『偏在』だった。 「何があったんだい?」 「ルイズとその使い魔が、この町に来ている」 「ごぶ!」 フーケは口に含んだエールを吹いた。炭酸が鼻腔を刺激する。痛い。 向かい合って座っていたために、飛沫を顔面に浴びたワルド(偏在)は、無言で懐からハンカチを取り出し、顔を拭った。 「汚いな」 「しゃがますね!」ついアルビオン訛りが口をついて出る。「…予定より随分と早いじゃないか」 「手違いがあった。あの2人は一足先にトリステインを出発していたらしい」 「それにしたって、この早さは尋常じゃないよ」 そこまで口にしたところで、フーケはあの使い魔の能力を思い出した。 いくら逃げても、フーケの向かう先に必ず回り込んでくる超スピード。 例えフライを唱えていたとしても、詠唱混みであの速度で動き回る事は不可能に近い。 「…で、どうするんだい?」 「先手を取って迎えに行く。土くれ、貴様も一緒に来い」 「わたしも?」 「足止めのためだ。世間話でもして気を引け。貴様は今からこの私の保護観察下に置かれている事にする」 「傭兵はどうするのさ?」 「そっちの計画は変わらん。いざとなったら頃合を見計らって始末してしまえばいい」 「……しょうがないねえ」 席を立ったワルド(偏在)のあとをついて歩きながら、フーケは考える。 (こいつ、平静を装っていながら意外と行き当たりばったりで動いてんじゃないだろね?) 悲しい事に、その考えは正しかった。 NGシーン ルイズの予感は当たっていた。 この船の名は ロイヤル・ソヴェリン という。艦隊登録番号NCC-73811。ソヴェリン級巡洋艦の1号艦で、かつてのアルビオン王国艦隊旗艦だった。 それが今は、 エンタープライズ と名を変え、艦隊登録番号もNCC-1701-Eに書き変えられ、未知の世界を探索して、新しい生命と文明を求め、 人類未踏のサハラへ勇敢に航海している。 ルイズ「って作品変わってるし!?」 前ページ次ページサイヤの使い魔
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第十四話 いきなり目の前に現れた、浅倉、タバサ、ギーシュの三人。 アンリエッタは突然の出来事に目を丸くし、不安げな顔でルイズに状況の説明を求めた。 要求に応じたルイズが三人をそれぞれ紹介していくと、しだいにアンリエッタの緊張が解け、元のにこやかな表情に戻っていった。 そして、ギーシュがアンリエッタに協力の意を示すと、彼女は改めて事情を説明し、彼やタバサにも任務を依頼。 二人とも快く引き受けたのだった 乗り気でないルイズだったが、三人が進んで引き受けたのと、何より親友であるアンリエッタたっての願いである。 結局、姫様の為なら、と渋々受諾したのだった。 一方、浅倉はその一部始終を見ると、床で大の字になったまま、ルイズに向かって「俺も連れていけ」と声をかけた。 暇潰しの相手がいなくなることに加えて目的地が戦地であるため、欲を満たすには好都合だと考えたのである。 彼の何かを企んでいるような怪しい表情を見て、ルイズは一度その申し出を断ろうと考えた。 しかし、傍若無人な彼の性格からして逆らっても無駄だろうと判断し、やむを得ず了承したのであった。 「ねえ、アサクラ。起きてる?」 晩餐会も終わり、学院中が寝静まった頃。 自分も眠ろうとベッドに横になっていたルイズは、顔だけを浅倉に向けて問いかけた。 浅倉も同様に、顔だけをルイズに向ける。 「あんた、いつも私の部屋で寝てるけど……何か理由でもあるの?」 ルイズが引き留めているわけでもないのに、わざわざ彼女の部屋で寝る浅倉。 給仕に掛け合えば、食堂での気に入られ具合からして寝室の一つくらいは用意してもらえそうなのだが。 少しの間を置いた後、浅倉が口を開いた。 「お前といると、落ち着くんでな」 「……えっ?」 思いがけない言葉に、ルイズは思わずベッドから上半身を持ち上げた。 「ふ、ふざけないでよ……」 「別にふざけてなんかいない。そんなことをしてなんになる。 お前といるとなぜかイライラが和らぐような気がする……ただそれだけの話だ」 ルイズは呆然としていた。 なんの気なしに側にいると思っていた浅倉が、実は自分を心の拠り所にしてくれていた……。 今までぞんざいに扱われてきた分、ルイズはその言葉に少しだけ好意を抱いた。 しかし、同時に新たな疑問が浮かびあがる。 「そ、それじゃなんであの時私に襲いかかったのよ」 「お前がライダーだったからだ」 浅倉がさも当然というように言い放つ。 「言わなかったか? 俺はな、ライダーと戦っている時が一番幸せなんだよ」 「それなら、今の私は……」 「襲う価値など微塵もないな」 つまるところ、浅倉にとってルイズはどうでもいい存在、ということだった。 ルイズはなんだ、と肩を落としたが、前よりもいくらか気分が楽になった気がした。 ルイズと浅倉が眠りについて、しばらくした頃。 自我を持った剣、デルフリンガーは、ルイズが眠っていることを確認すると、その身を揺らし浅倉の枕元でがちゃがちゃと音を鳴らし始めた。 しばらくすると浅倉が目を覚まし、呟いた。 「……その耳障りな音を止めろ。へし折られたいのか?」 「相棒、やっと起きたか。すまねぇな、少し話があるんだが……」 「後にしろ。俺は眠い」 そう言って、浅倉は再び目を閉じる。 「そう言うなって! お前の能力について話しておこうと思ってんだ!」 「……何?」 浅倉が古びた剣へと顔を向けた。 「相棒、あんた最近武器を持った時に体が軽いと感じたことはなかったか?」 浅倉は今までの戦いを思い出す。 ……確か、ギーシュと最初に決闘をしてからだ。 体が妙に動かしやすいと感じるようになったのは。 「……あったらどうなんだ?」 「やっぱりな。その左手のルーンといい、あんた、『ガンダールヴ』だぜ」 「なんだそれは」 耳慣れない単語に、浅倉は思わず顔をしかめる。 「知らねえのか? いいか、ガンダールヴっていうのはな……」 そう言って、デルフリンガーは語り始めた。 伝説の使い魔、ガンダールヴ。 あらゆる武器や兵器を自在に操る力をもち、使えるべき主である虚無の担い手を守るといわれている。 その能力は、例え見たことのない武器でさえ一瞬で使いこなせるほどらしい。 さらに、ひと度武器を持てばその身体能力は飛躍的に上昇するという。 「なるほど……。ずいぶんと都合のいい能力だな」 左手に刻まれた奇妙な印を見ながら、浅倉が言った。 「それで、その虚無の担い手とかいう奴は……まさか、あいつか?」 浅倉の視線が、自身の左手からベッドの上のルイズに移る。 「今のところ確証は持てねぇ。ただ、一つ言えることは……あの娘っ子がいるからこそ、相棒は使い魔としての力を行使できるってことだ」 ルイズの方を見つめ、何かを考えるような仕草をしたまま動かない浅倉。 構わず、デルフリンガーが続ける。 「今まで乱暴にしてきたみてぇだが、これからは優しく扱ってやんな。あの娘っ子が死んだら、お前の力もなくなっちまう。 間違っても殺そうだなんて思わないこった」 そう言って、デルフリンガーが話を終えた。 しばしの静寂の後、沈黙していた浅倉が再び古びた剣に視線を戻すと、口を開いた。 「別にライダーになれるだけで十分だが……そうだな。もっと力を得るのも悪くない。奴が俺の邪魔をしなければ、特に何もしないとだけ言っておくぜ。 ……それにしても、お前もずいぶんと割り切った奴だ。俺の耳には、あいつのことを道具のように利用しろというように聞こえたぜ?」 ニヤリ、と笑みを向ける浅倉。 デルフリンガーは押し黙ったまま答えない。 そのまま二人の間で会話が途切れ、部屋は再び夜の静けさに包まれたのだった。 (すまねぇな娘っ子。俺にできるのは、これだけだ……) デルフリンガーが心の中で呟いた。 翌朝。 アルビオンに向かうため身支度を整えたルイズたちは、学院の門の前に集合していた。 アンリエッタによって手配されたという護衛を待つためである。 「おはよう、ルイズ。もう大丈夫なの?」 「おはよう……ってあれ? なんでキュルケがここに?」 キュルケに声をかけられ、驚いた表情を見せるルイズ。 タバサから事の詳細を聞いたキュルケは、ルイズへの心配と浅倉への警戒心から、勝手についていくことにしたのであった。 「そう……。いろいろと迷惑をかけちゃったわね」 「ふふっ。これで借り一つね。……ところで、本当に彼も連れていくの?」 キュルケが後ろを振り向き、厳しい視線を投げかける。 その先には、ギーシュに荷物を押しつける浅倉の姿があった。 「どうせ言ってもきかないし……。ま、なるようになるんじゃないかな」 そう言って、ルイズは苦笑する。 少し前まではあれだけ彼を怖がっていたのに、今のルイズにはあまり不安が感じられない。 何かあったのかとキュルケがルイズを問い詰めようとしたその時、朝もやの奥から何かが羽ばたくような音が聞こえてきた。 皆が視線を向けると、そこにはグリフォンから降り、こちらに近づいてくる何者かの姿があった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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「んむ~~~」 「ぬうううう~~~ッ」 ベッドの上にすわりこむルイズ ドアの正面にアグラをかく仗助 いろいろ一段落はついたものの ふたりは小一時間にらみあったままだった たまに口を開いたかと思えば 「ンだよ、またバカにすんのかよ、髪」 「…ヘンタイ」 たがいにプイとソッポを向き そしてまたチラリと目が合うと 「んッ、むゥゥ~~」 「ぬううう~ッ」 このくり返しだった (くっそ~~ そりゃチカンだろーよ ムネをさわりゃあよおおお~ だけどオレがやろうとしたのは人命救助だっつうの 釈然としねー ムカつくぜっ) (なによこいつッ 使い魔のくせにご主人様をなぐるし 胸、さわろうとするなんてサイテー 大ミエ切った手前、仕方ないから追い出してないけど ケガらわしいわ 不潔だわ このチカンッ) こんなグチを心の中でタレるのも何度目だろうか? いいかげん不毛だとはどっちもわかりきっていた (だけどよぉー また一方で、コイツが助けてくれなきゃあ オレは死んでたっつー事実もあるわけでよー それに、ナニがどーなってんのかも聞いとかなきゃ ラチがあかねぇってやつだよなぁー) (でも、こいつ… 崩れた建物の下じきになったわたしを助けてはくれたのよね 使い魔のくせに魔法をつかうなんて、もっとハラ立つけど ここであたしがムカついててどうすんのよ 聞くことだってたくさんあるのに) チラッ チラッ ふたりはまた相手を見る そして (でも、やっぱりムカつくっ) プイッ プイッ また顔をそむけるのである いつまでこんなことをしているつもりか もう夜もすっかりフケていた 目が覚めたころからとっくに夜だったが 今は遠くから生き物の声しか聞こえなかった トントン 「うおおわッ」 やっとしてきた物音は仗助の背後から ドアを叩いてきた誰かだった 仗助はビビって軽くのけぞる 「これは失礼しました、ジョースケ様」 「だから、様はいらねェって」 声には聞き覚えがあったので ドアごしにこころよく応じる仗助だったが ムッ! それがまたルイズのカンにさわったようだ (使い魔のくせに「様」ですって、こいつッ というかジョースケ? 名前? 使用人にカンタンに教えてやった名前なのに ご主人様には態度悪くして黙ってるって、そーいうワケぇ?) ムッカァァ~~~~~ッ 「ルイズ様、よろしいでしょうか…」 「帰んなさい」 「ですが」 「聞こえなかったのッ」 即答 聞く耳もたないッ 「わかりました… ミセス・シュヴルーズからの、今夜の分は置いておきますから…部屋の前に」 ドア向こうの声、シエスタはスゴスゴと引き返していったようだ 仗助は少し落胆してからまたムカついた 今、目の前にいるピンク髪のバイオレンス女よりも ずっと話が通じる相手だったのに! 「おい、なにもあんなフウによー」 「るさいッ おまえ何様よッ」 「何様だはてめーだッ ゴーマンチキッ」 そろそろ我慢の限界 仗助も声をあらげてしまった 「フンッ!! 何様、ですって? いいわよ、教えてやるわよ」 バサァ ザッ!! ベッドから、マントをひるがえして立つルイズ 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール トリステイン王家につらなるヴァリエール家の三女とは、わたしのことッ」 ドン 気合いを入れた名乗りではあったが それを聞いた仗助の顔といったら 「…………」 ホケェェ~~…ッ (ルイズ・フラン…何…? 「トリステイン」…どこのヨーロッパだぁ? 王家っつわれても、聞いたこともねェんじゃあよー) 「ま…おめーが王家だろうが金持ちだろうが、どっちでもいいや」 気を取り直して、やっと話し合いに入ろうとする仗助 だがもう少し洞察力を働かせるべきだったのではないだろうか? とはいえ実際、そんなものを「悟れ」と言う方に無理があるのだが 彼も彼女も、置かれた状況をあまりにも理解していなさすぎた ヒクッ… ルイズのまぶたがケイレンした 「ふっ… そ、そぅお~ クチで言ってもワカンナイやつなのね、おまえ」 ヒクッ… ヒクッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ビンッ ビン 片手に取り出した鞭を指先でしならせ じりじりと仗助に寄ってくる 「ちょ、待、待て… どうする気だ? そいつで…その『鞭』」 「わたしはご主人様で、おまえは使い魔なのよ」 「…はぁ?」 何デンパ抜かしてんだてめー そうとしか言いようがないッ (そーいや、出会い頭にも言ってたな 使い魔だとか、ご主人様をおまえ呼ばわりだとか…) まさか本気で言っていたのか 現在進行形でマジなのかッ? だとしたら…イカレポンチか! 正真正銘のッ 「調教してやるわ、このド平民」 「冗談じゃねー 自衛すんぞコラァァ―――ッ!!」 9へ
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前ページ次ページ暗の使い魔 薄暗い洞窟内を、壁に備え付けられた僅かな松明の明かりが照らしていた。 湿った岩壁からシトシトと、わずかに水が滴り落ちる。 その音を聞くものは、岩の亀裂に潜む蝙蝠のみであろうか、いや。 「見つけたぞ!」 「ぐっ……畜生!」 無数の足音が洞窟内にこだました。 そして同じ数の荒い息遣いとともに、甲冑に身を包んだ大勢の兵が、狭い通路内に押し寄せる。 「逃がすな!追え!」 無数の兵士は、皆一様に長槍を携え、背には赤地に黒色であしらわれた桐花紋の旗印。 今この日本において、最も強大な力を誇る勢力。 豊臣の軍勢である。 時は戦国時代の日本。そしてここは九州・石垣原の洞窟。 その屈強な軍勢に追われるのは一人の男。 薄暗い洞窟の中、その男は迷路のように入り組んだ洞窟内を、己の足で必死に逃げ回っていた。 ズルズルと、重いなにかを引き摺っており、その足取りは決して速くはない。 しかし男は、己が誰よりもこの洞窟の構造を把握している事を武器に、決して捕まらない自信があった。 「ふぅ……とりあえず撒いたか?」 洞窟の暗がりに潜みながら、ゆっくりと腰をおろす。 もう何度こうして身を潜めただろうか。 男には、自分がこうして追われる理由について、心当たりが有りすぎた。 「なんで小生だけがこんな目に」 己の不運を悔やんでも何も始まらない。 しかしながら、いつもこうして災難に遭う度に、男はその理不尽さを呪わずにはいられなかった。 がしゃりがしゃりと、甲冑の武者が通り過ぎ去る音が聞こえる。 そして、音が完全に遠くへ行った事を確認し、暗がりから身を表したその時。 「だから貴様は間抜けなのだ」 男の心臓が飛び上がった。 背後から、冷たく淡々とした声が男の耳に届いたのだ。 「ッ!?」 慌てて背後の暗がりを見やる。 「貴様は、最後の最後で詰めが甘い。それでいて決断が早すぎる」 変わらぬ調子で、冷淡な声が闇の中から響いてくる。 「だ、誰だ!」 男の問いかけに、声の主が暗がりから姿を現した。 「毛利!」 そこにいたのは、緑の甲冑に身を包んだ一人の男であった。 その手に身の丈ほどもある輪状の刃を携え、ゆっくりと歩み出でる。 端正な顔立ちだがそこに表情はなく、冷たい視線だけが男を捕らえていた。 毛利元就、日の本・中国の地を治める武将である。 「なんでお前さんがここに!」 敵意半ば、恐れ半ばといった様子で男は毛利に問う。 だが、当の毛利は意に介した様子も無く、静かに輪刀と逆の手を掲げる。 すると、どこからとも無く、一文字に三つ星の旗印を掲げた無数の兵達が現れ、男を取り囲んだ。 毛利元就の手勢である。 「ぐっ……!」 「貴様の考える事など、たかが知れている」 なお淡々と告げる毛利を、男は歯を噛み締めながら睨みつける。 「観念するのだな」 「ふん!何の目的があって小生を捕らえる?」 「それはあの男に聞くのだな」 「あの男、刑部か……!」 自分に兵を差し向けた人物を知り、男の表情はますます歪んだ。そして、それと同時に男は悟った。 このまま、ここで捕まるわけには行かないと。 「捕らえよ」 毛利の指示に5、6人の兵士達が武器を携えにじり寄ってくる。男は観念したかのように両腕を頭上に掲げる。 ようやく観念したか、と兵達が警戒を解いた、その時であった。 「うぉらあっ!!!」 ずどん!と、男を中心に辺りに凄まじい衝撃が走った。 取り囲もうとしていた5・6人の兵達は、予想だにしない振動をもろに受け、洞窟の岩壁に一人残らず叩きつけられる。 周囲を取り囲む兵士らも、一瞬なにが起きたか理解できなかった。 見れば、男が両腕を何かに叩きつけているのが見え、そのたびに辺りの兵達が木の葉のように宙へと舞っていた。 「どうだ!油断したな!」 混乱する兵らを見て、男はほくそ笑んだ。隊列は乱れ、もはや包囲どころではない。 逃げるなら今のうちだ、と崩れた隊列の一角から脱出を図ろうとする。だがしかし。 「詰めが甘いと言っている」 「うおっ」 突如、男の眼前を刃が通り過ぎた。 咄嗟に後方へと退避すると、己の前髪の端がぱらりと地面に落ちるのが見えた。 すとん、と男の目前に毛利元就が着地した。 空いた手で、自分の服についた土埃を軽く払いながら、毛利は変わらず冷ややかな視線で男を見下ろしていた。 「詰めが甘いだと?」 「そうよ」 どちらも至って冷静に答える。 「いや、そうでもない」 その一言と共に、毛利にむかって駆け出す男。 「ここでお前さんを叩きのめせば!それで詰みだ!」 「笑わせるわ!」 毛利の右に構えた輪刀と、男の引き摺るそれが、激しい金属音と共に激突した。 再び辺りに衝撃が走る。ガツンガツンと、互いの得物が火花を散らす。 それは、周囲の何者も介入できない、激しい剣劇であった。 ギシギシと互いの腕が軋むほど、そのぶつかり合いは激しさを増していった。 混乱から回復し、再び隊列を組み直した兵達は、成すすべなく勝敗を見守る。 ここで勝敗を分けるは、純粋なパワーと疲労。 純粋な力で言えば、毛利よりも男が勝っていた。しかし、長時間の逃亡による疲労を加えれば、勝負は互角。だが…… 「負けるか!」 「くっ!」 軍配は男に上がりつつあった、そして。 「おらぁ!」 ぎん、と鈍い金属音が響いた。男の左斜め下よりの一撃が、毛利の輪刀を吹き飛ばしたのだ。 勢いよく打ち上げられた輪刀がざくりと、固い岩の天井に突き刺さる。 「もらった!」 男が勝利を確信し、丸腰の毛利に向かって攻撃を加えようとした、その時であった。 「なっ!?」 眩いほどの光と共に、毛利元就の周囲が爆ぜた。 「ぐあっ!」 そのまま後方へ吹き飛ばされ、男は地面にずしゃりと転がる。 みれば毛利の全身がまばゆいほどの光を放ち、辺りを照らしているではないか。 薄暗い洞窟が真昼のように光を浴びる。兵達は目を覆った。 毛利から発せられるその光こそ、この日ノ本に生きる将である証。 そして戦国の世に生きる武将のみが扱える、奥の手である。 その感覚が、より鋭く研ぎ澄まされた時発動し、脅威の力と、空間を超越した速度を得ることが出来るという秘技だ。 そのまま毛利は3~4mはあろう天井に向かって飛び上がると、突き刺さった輪刀を勢い良く引き抜く。 そして、目にも留まらぬ速さにて男に迫り、その全身を切り刻んだ。 「ぐっ!があ……っ!」 まるで舞を踊るかのような、怒涛の連続の斬撃が、上下斜めから襲い来る。 体制を立て直す暇も無い男は、それらの攻撃を避け切るすべも防ぎきる術も持たなかった。そして。 「ハアッ!」 「うああああっ!」 下段よりの強烈な切り上げ、その一撃が再び男の身体を軽々と吹き飛ばした。 あたりを囲む兵もろとも吹き飛ばし、男は固い岩壁に叩きつけられた。 「ぐっ……!」 壁を背に、そのまま力なく床に崩れ落ちる男。 「手こずらせおるわ……!」 若干のイラつきを含んだ言葉を男に投げかけ、毛利元就は男を見やった。 毛利が輪刀を男の喉元に突きつけ、男は荒い息をつきながらギロリと毛利を睨みつける。 全身に傷を負いながらも、戦意を失わないその態度は周囲の兵達を驚かせた。しかし、もはや男に成すすべはない。 再び男を兵達が囲む。その光景を見て、男は悔しそうに歯噛みした。 「(結局こうなるのか。何とかならないのかっ)」 男が勝機を諦めかけた、その時。 「鏡!?」 男の目と鼻の先、毛利と男を隔てるように突如、鏡のようなものが出現したのだ。 「何?」 毛利自身も目を疑った。謎の物体の出現に、急ぎ距離をとる毛利。そして次の瞬間。 「なっ!何だ?何だぁ!?」 鏡が男に迫る。そして鏡に触れた男が、見る見るうちにそれに吸い込まれていくではないか。 これには流石の毛利元就も言葉を失った。一体何が起きたのか、恐らくその場に居た誰もが理解出来なかったであろう。 「毛利っ!畜生!離せ、離しやがれ!」 半身を鏡に飲まれながら、男は精一杯の抵抗を示す。しかしながらその抵抗むなしく、男は。 「なぜじゃああぁぁぁぁ……」 情けない叫びとともに、謎の鏡の中へと消えていった。 そしてその鏡自身も消え去ると、後には何一つ残っては居なかった。 辺りを沈黙が支配する。薄暗い空洞を僅かな松明が照らす。 湿った岩壁から滴り落ちる水の音のみが、ただただ虚しく洞窟内に響き渡った。 それを聞くのは残った無数の毛利兵と、ただひたすらに冷たい表情を浮かべる一人の将のみであった。 暗の使い魔 第一章 『召喚!不運の軍師、異世界へのいざない』 前ページ次ページ暗の使い魔
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前ページ次ページ鋼の使い魔 トリステイン魔法学院の敷地内で、もっとも広い中庭に集められた生徒達が、それぞれに整列して、教師達を待っている。 やがてそこに学園長オールド・オスマンを筆頭に、教師達は生徒に対面するように並んだ。 オスマンは拡声の魔法をかけた杖に両手を乗せて、集まった二百人近い生徒達に向かって声をかける。 「諸君。本学院の今年度上半期の学期は、本日の正午をもって終了し、ふた月ばかりの休暇に入るわけだが、本年度は隣国との紛争などもあり、領地に帰っても休まらない生徒もおるだろう。 そこで儂は、通年確保しておる夏季休暇中の在学許可の枠を広げ、例年より多くの生徒や教師が学院に残れるように準備しておる。勿論、係累等後見人の承認は要るがの。 この休暇をどのようにつかうのも諸君らの意思次第である事を言っておこう。避暑に赴くもよし、独自に何がしかの研究に励むのもよいじゃろう。しかしこの学院の責任者として、 諸君らが壮健であって次学期を迎えられることを切に願っておる。 ふた月後にまた会うとしよう」 生徒側から感謝の拍手が送られ、次に教師達を先導とした移動が始まる。移動は学院の内壁正門で止まり、再び整列する。オスマンはそこで正門に向かって杖を構え、魔法で厳重な鍵を掛けた。 この鍵は原則、次学期の始業式まで掛けられたままになっている。裏門や脇の出入り口がいくつかあるから、学院に残る者たちにとって不便というほどでもない。 祭事の時に鳴らされるいつもとは少し違った鐘の音が学院に響いた。 終業式が終わり、生徒達は各々の予定に従って行動しはじめる。既に学院の裏門の前には生徒達を迎えに来た大小の馬車が並んで待っているのである。ルイズ・フランソワーズはまず、私物をトランクに詰め込むところから始めた。 「といっても、大したものはないのよね。姉さまのところに大体揃っているし」 ルイズの夏季休暇は、王都トリスタニアでアカデミー研究員をしている姉エレオノールが住むヴァリエール家所有の別宅で過ごす予定である。暫くの寄宿だが昔から使い慣れた勝手知ったる場所で、 わざわざ持っていかなければならないものはそれほどない。 したがって、ルイズの手荷物は貴族の旅荷としては比較的軽量な規模に収まった。 それを運んだシエスタ曰く、 「えぇ。ミス・ヴァリエールのお荷物はとてもよく纏められていて、他のお嬢様達が大型トランクを三つはお使いになるのに、ミス・ヴァリエールはお一つしか使われてませんでした」 人一人は優に入るトランクを引っ張るシエスタを連れて、ルイズは学院の本棟から少し離れた小塔に向かう。そこはコルベールが自分の為に学院で用意した研究室だ。 塔の脇に建てられた小屋からは細く煙が煙突より伸びている。ルイズが小屋の中に入ると、壮年の男が小屋の奥に作られた炉の火を落としているところだった。 「早かったじゃないか。手伝いに行こうと思ったんだが」 「煤けた格好で手伝いに来られても迷惑だわ」 「聞いたかい相棒、嬢ちゃんは使い魔である相棒の手なんて借りたくないってさ」 「それは困ったな。明日から職の手を探さなくちゃならないな」 「あんた達……!」 ルイズの癇癪が弾けると同時に炉の中に残っていた小さな火がかっと燃えて弾けた。溜まった煤が炉口から噴き出して二人と一振りに降りかかる。 二人は盛大にせき込んで、ルイズは息を吐いた。 「まぁいいわ。あんたはもう準備できてるの?」 「そこに置いてある荷物で全部だな。あとはコルベール師に挨拶して終わりだ。あの人は休みの間も学院にいるらしいな」 「休暇の時くらい家に帰ればいいのにね。何処の出身なのか知らないけど」 壮年の男は己の荷物が入った背負い袋を身体にくくりつけた。月日に焼けた金髪を長く後ろに撫でつけ、その動きは実年齢よりもいくらか若々しい。身なりからみて貴族ではない。しかし平民らしからぬ振る舞いに、 どこか気品がにじみ出ていた。 コルベールは自室に居た。窓の少ない塔の中は、埃っぽさと熱気が入り混じって、入ってくるものを立ち竦ませる不快さを感じさせた。 しかし塔の主人はそんなことはまったく気にしておらず、訪問者を快く迎え入れてくれる。 「おや、ミス・ヴァリエールにギュスターヴ君。今日は何か……?」 「はい。私はルイズについてここを離れますので、その間小屋の管理をお願いしたいのです」 自分の使い魔はこの禿頭の教師と仲が良いな、とルイズは前から思っている。趣味が合うのだろうか? そんな少女の呟きも知らず、コルベールは壮年の男――ギュスターヴの要請を聞きいれてくれた。 「ではお二人とも、休暇の間息災で」 「ありがとうございます。では」 「そう言えばシエスタは休まないのか?」 「メイド仲間のうちで何人かはこの機会に帰省するみたいですけど、私は残ってお仕事しますよ。お手当ても出るんですから」 「学院長も太っ腹よね」 裏門までの道でそう話していると、三人を誰かが呼びとめる。 振り向けば、赤髪の娘と青い髪を短く刈った少女が木陰から手招きしていた。 「ハァイ」 「なによキュルケ。私達急いでるんだけど」 赤髪のキュルケと言われた娘はルイズの険のある言葉に肩を竦ませた。 「ちょっと声掛けただけじゃない。もう少し肩の力抜いたら?」 「どうでもいいでしょう。で、何か用?」 「私達休暇中も学院に居るんだけど、何か休みの間予定があったら教えて頂戴、遊びに行ってあげるから」 「遊びに行って『あげる』ですって?」 ルイズのこめかみがぴくぴくと動いているのがギュスターヴから見える。この娘は感情の波が激しいことこの上ない。それを知っているくせに、キュルケはこう言い放った。 「だって貴方の事だもの。どうせ帰っても相手してくれるのがギュスだけじゃ、流石にギュスがかわいそうでしょう?」 「そ、そんなこと……」 「そんなことは、ないさ」 言いよどみかけたのを遮って、ギュスターヴは自信満々といった風に言った。 「俺たちはトリスタニアに行くんだ。ヴァリエールの末娘なら顔くらい見たい貴族だっているだろう。それほど暇じゃないかもしれないぞ」 「そうかしら?」 「そうさ。……だから遊びに行きたいなら素直にそう言ったらどうだ?」 「う……」 口ごもってキュルケは隣に居て沈黙を守る青髪の少女タバサに向けられた。 見返すタバサの目に表情はない。それが鏡を覗きこむような気分にさせた。 「……そうね。実はねルイズ。寮に残るのは女生徒ばっかりで男が全然いないの。当然よね、戦争になりそうなんだもの。だから退屈になったら、貴方のところにいってもいいかしら?」 ルイズは煮えかけた頭がだんだんと冷めてくるのがわかった。要するにキュルケは寂しいから構ってくれと言っているのだ。そう思えばほんの少し、自尊心がくすぐられる。 「来てもいいけど、姉さまも一緒にいるから居心地は保証しないわよ」 「あのお姉さんはいじり甲斐がありそうでいいわね」 キュルケの答えにルイズはさらに頭が冷めていくのであった。 寄越した馬車に乗せられたルイズとギュスターヴが到着するのが見えて、エレオノールは階下のロビーに降りることにした。 ヴァリエールの別邸は、王都の高級住宅街に数ある貴族の邸宅の中でも、上から数えた方が早い位に豪華な屋敷である。勿論ヴァリエール領にある本家と比べれば慎ましい出来であるが、調度品や建築の見事さは是非に及ばない。 ロビーでは使用人に荷物を託したルイズと、使用人について屋敷の奥へ行こうとするギュスターヴの後ろ姿があった。 それがちらっと見えただけでエレオノールは胸の奥がかっと熱く打たれてしまうのだ。 (あぁ、あの人もここで過ごしてくれるのね……) 一目会ったその日から、密かにエレオノールはギュスターヴへ思慕の情を募らせており、一時期は暇さえあればギュスターヴが立ち上げた百貨店に通いつめて、ギュスターヴの姿が無いか歩いたものだった。 ……その姿は周囲から「貴族の婦人が通い詰めるほど百貨店は良い店なんだ」というというように見られていたりする。おかげで店を切り盛りするジェシカは右肩上がりの左団扇である。 「……姉さま?」 出迎えに来てくれたらしい姉があらぬ方を見たままぼうっとしてるので、ルイズは手持無沙汰のままロビーに立たされる羽目になったのだった。 正気に戻ったエレオノールはルイズを連れて談話室に入ると、テーブルで薬湯と菓子を啄みながら学院での生活について事細かに聞き出し、オスマンが休暇中の寮滞在を認めた話を聞いて関心していた。 「よくそんな財布の余裕があったものね。アカデミーなんて予算を削られてしまうんじゃないかって汲々としてるのに」 「どうして?」 「軍備に国費がかかるからよ。アルビオンの奇襲で軍艦はほぼ全滅で、タルブでの合戦では勝ったけど王軍も被害甚大だそうだから」 そういうエレオノールに相槌をルイズは打てない。王軍の被害の一端は自分が行った虚無の発動が原因やも知れないから。 「王軍はタルブ戦役で功あった傭兵部隊を正規軍に組み入れたと聞くし、トリステインの格が落ちるというものよね。アンリエッタ女王には頑張ってもらいたいわ」 「姉さま、陛下を助けるのが私達貴族の義務でしょう?」 「当然よ。現にヴァリエール家は王家に資金と人足を供出したし、私もアカデミーでアルビオン軍が残した船から見つかった、砲弾の解析に駆り出されてるもの。うちで何もしてないのはあんたとカトレアだけよ」 「……仕方がないでしょう、まだ学生なんだもの……」 だがルイズは先日、内々にアンリエッタから彼女直属の女官としての権限を与えられているのだ。いざ王女からの命令があれば一目散に駆けつけなければならない。 その時は意外に早く訪れるのだが、ルイズとギュスターヴが別邸に着いたその日の夜、ギュスターヴはあてがわれた部屋で背中を伸ばしていた。 部屋を見渡すに一応、使用人用の部屋らしい。質素なベッドと椅子、テーブルと小さな衣装箱が一つだけ置いてある部屋だ。 「あまり歓迎されてないようだな、俺は」 独り言に答える声が荷物から帰ってくる。 「まぁ、仕えてる貴族のお嬢様がどこの馬の骨ともしれない男を連れてきているんだから、歓迎はされないわな」 答えたのは荷物に収まっている一振りの剣だった。知恵ある魔剣インテリジェンス・ソードの一つであり、古の虚無の使い魔『ガンダールヴ』が使っていたと自ら主張するデルフリンガーである。 「時に相棒よ。あんたはこれからどうするんだよ?お嬢ちゃんはひと夏ここで過ごすわな。その間それにつきあっているつもりかい?」 「そこなんだ、デルフ」 ベッドから起き上がって荷物からふた振りの剣を引っ張りだすと、それぞれをテーブルに乗せた。一方はデルフだが、もう一方は石でできた長剣だ。 「俺がルイズにアニマの使い方を教えたのは、一つにはそれがルイズの未来につながるものだと思ったからだ。この世界ではアニマの術を使えるものは居ない。ただ一人のアニマ術師になる。 あとはそれを自分で使いこなせるだけの精神を持っていれば自由に生きられるだろう」 世間知らずでわがままなルイズだが、ギュスターヴはそれが出来ると信じている。 「一つってことは、もうひとつあるんだな」 「始祖の祈祷書とやらが変化した卵型のクヴェルが気になる。鉛の箱にしまってあるが、あれは尋常な代物じゃない」 「アニマとやらが無い相棒に解るのかよ?まぁ、俺っちもありゃやばい代物だと思うどな……」 虚無に使われる立場のデルフから見ても、卵形と化した祈祷書は異常な存在なのだという。 「もしあれを再びルイズが手にする時があれば、ルイズ自身で制御できるようにならなきゃいけないだろう」 「それまでの訓練、ってことかい?」 「そんな時が来ないに越したことはないんだがな……」 ちらりと目が白い石剣を映す。 「嬢ちゃんに対する理由はそれでいいとして、あんたはその、なんだ……サンダイルってところに、帰りたくないのかい?」 「……帰りたいさ。帰って友人達に謝りたいな、黙っていなくなって済まないってさ」 「相棒は妻子居ないんだろ?その年でやもめたぁ、寂しいよなぁ……」 そこまで言って、デルフは何か閃いたようにカタカタと鳴った。 「解ったぜ、相棒がこっちに後ろ髪引かれて元の世界に帰る方法を探し渋っている理由。あんたは嬢ちゃんを自分の娘か何かみたいに思えて仕方がねぇんだ」 「ルイズが娘だって?」 「そうさ。手元で大事にしたいって気持ちがあるんだろ。だから離れるのを渋ってるのさ」 得意そうに魔剣は笑った。 だがそう指摘されたギュスターヴは、怒るでも笑うでもなく、むしろ神妙に表情を暗くして考え込んでしまうのだった。 「ど、どうしたよ?」 「……これが親の気持ちという奴のなのか?」 「いや、そうなんじゃないかって思っただけだよ。実際のところは知らないね」 そう言ってやるとギュスターヴはますます悩み深げにうつむいた。 皺を寄せて黙っている相棒をどうしたものかとデルフが考えていると、夜更けだというのに部屋を尋ねる者が居た。 「客だぜ相棒」 ノックにギュスターヴが答える間もなく訪問者は勝手にドアを開け部屋へと入ってくる。 部屋着に着替えたルイズだった。ルイズは部屋を一瞥し、自分の使い魔の境遇に文句をつけた。 「こんな貧しい部屋がこの屋敷にあったなんて知らなかったわ。私の使い魔に相応しくないと思うの」 「それで嬢ちゃんはどうするのよ?」 「明日から家令に言いつけて他の部屋を用意させるわ」 「別にこの部屋でいいだろう。気を使われると居づらくなる」 「あんたはそれでいいかもしれないけど、それで召使たちに舐められているんなら許しがたいわ」 部屋にやってくるなり青筋立てて息を巻くルイズに、先程まで考えていた事を頭に押しやり、ギュスターヴは言った。 「わざわざこの部屋に文句をつけにきたのか?」 「あっ、そうだったわ。姉さまと夕食を済ませた後、私宛に手紙が来たの」 これよ、とルイズが懐から出したのは小奇麗な封筒だった。送り主の名前はなく、ただ宛名だけが記されている。しかし、封蝋等の格式から見て、貴族の使う梟便で運ばれたものらしい。 「梟便?」 「伝書用に調教された梟に手紙を持たせて送るのよ。貴族の屋敷なら梟を受け入れる鳥小屋が天井裏にあって、そこに手紙を持った梟が入ってくるのよ。学院には何十羽も入ってこれる梟小屋が置いてあるわ」 「わざわざ梟に持たせるなんて手間暇かけるもんだな」 「中には自分の使い魔にやらせる人もいるけど……って、そんなことはいいのよ。問題はこの中身よ」 言ってルイズは剥がされた封蝋の下から便箋を取り出して見せた。その様子なら既に中身は確認済みなのだろう。 「読んでも構わないか?」 「汚さないでよね」 ギュスターヴは受け取ると、便箋に目を走らせる。ジェシカと手紙のやりとりをするようになって、一応日常の読文に支障はない。 「なんて書いてあるんだい?」 「かいつまんで言えばお茶のお誘いさ」 「茶ぁ?」 「もっと上品に言ってくれる?陛下からわざわざ謁見に来るようにという申し渡しよ。内々に送ってくるところを見ると、何か任務を与えられるんじゃないかしら」 一見、そう冷静にルイズは言っているが、内心では働ける事に喜んでいるに違いないと、ギュスターヴは思った。この娘のアンリエッタ女王への尊敬とトリステイン王国への忠誠は揺るがないものらしい。 「この手紙の日付を見ると明後日になっているな」 「そうよ。それまでに身の回りの物をそろえなくちゃいけないわね。明日は忙しくなるわよ」 「どうして?」 「休み一杯任務に費やすかもしれないから、明日のうちにめいいっぱい遊んでおくのよ。あと、買い物とか」 にひ、と意地の悪い顔をするルイズを少し疲れた気持ちでギュスターヴは見た。女の買い物に付き合うのはいつ何時でも大変なのだから。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ蒼炎の使い魔 夜 厨房を出たときはすっかり日も沈んでいた。 カイトは上機嫌で廊下を進んでいる。 もちろん主人の部屋に戻るためだ。 彼はご飯を食べただけですっかり厨房が好きになっていた。 シエスタも笑顔で、「また来てくださいね」と言ってくれた。 餌付けに近い行為だったが。 廊下を進み部屋に近づいたときにふとあるものを見つけた。 以前見たサラマンダーだ。 相変わらずこちらを見て震えている。 サラマンダー、フレイムはとあるクエストを受けている。 依頼者『主人』 クエスト名『ある人物をつれて来い』 対象レベル『(本人にとって)∞』 報酬『無し』 ※ちなみに拒否権も無し。 強制されていた。 また主人が病気にかかったらしい。 そしてターゲットも彼(?)にとっては最悪の相手である。 命令されたらやらなければならないのが、使い魔の辛いところだ。 フレイムは覚悟を決めてこちらに向かってくるカイトの前に立つ。 そして、 「キュル…」 「…ハアアアアアア」 「キュルル」 「…ハアアアアアア」 「キュル?」 「ハアアアアアア」 本人達にしか分からない会話を繰り広げる。 やがて会話が通じたのだろうか。 部屋に戻るフレイムの後をカイトがついて行く。 中は薄暗くカイトは辺りを見回した。 突然ドアが独りでに閉まると、前方に薄暗い明かりがつく。 そこにいたのは、ベッドの上で男が見たら羨ましがる格好をしたキュルケの姿だった。 「ようこそ、そんなとこに立ってないでこちらにいらして?」 彼女は色っぽい声でカイトを誘惑する。 言われたとおりカイトは彼女の元へ近づいていく。 それを見てキュルケは続ける。 「私をはしたない女と… …私は病…あなたの… 微熱…だから…」 黙る彼にキュルケはどんどん話していく。 これが彼女の病気である。 ようは惚れっぽいのだ。恋愛をゲームのように楽しんでいる。 だがカイトとしては意味が分からない。 今日食事を知ったばかりなのだ。 異性間のやり取りなど知るはずもない。 女好きの銃戦士なら喜んで誘いに乗るだろうが。 寒くないのか。 これがキュルケに対して思ったカイトの気持ちだった。 彼女の気分が最高潮に達したのだろうか立ち上がりカイトを抱きしめようとする…が。 突然来た窓からの来訪者に中断される。 どうやら彼女に用事があるようだ。 「キュルケ!その男は誰だ!」 「ペリッソン、えっと後2時間後に」 「話がちが…うわあああ!!」 最後まで話せずに彼は落ちていく。 キュルケが魔法を使ったのだ。 続けてまた一人の男が来る。 「キュルケ!s…!!」 問答無用で彼女は魔法を使いその男を落とした。 ちなみにここは3階だ。 落ちたときの怪我が心配だ。 まだまだ来訪者はどんどん来る。 もうカイトは置いてけぼりだ。 結局用事はなんだったのだろうか。 あまり遅すぎてもルイズに怒られるだろう。 忙しそうに問答無用で窓から男達を落していく彼女を見て静かに退室する。 「はあ、はあ。これで終わったわ…。あれ?」 キュルケは来た男を全員叩き落すと不思議そうに周りを見る。 先ほどまでいた愛しの彼が見当たらないのだ。 「フレイム、彼は?」 キュルと一声なく。フレイムもいつ居なくなったのか分からないようだ。 慌てて上着を着て廊下に出る。 それと同時に隣の部屋のドアが閉まる音がした。 「あら、お帰りカイト。遅かったわね」 「…ハアアアアアア」 中でルイズとカイトの声が聞こえる。 どうやら邪魔者を退治していたときに部屋に戻ってしまったようだ。 キュルケは無言で部屋に戻り、突然叫んだ。 「ふ、ふふふ…。見てなさい「微熱」の称号は伊達じゃないわ!!」 相手にされなかったのがよほど悔しかったのだろう。 ルイズの部屋 『伊達じゃないわ!!』 隣でキュルケが叫んでいるのが聞こえる。 「まったく、うるさいわね」 彼女は勉強の途中だったのだろう、顔をしかめていた。 「ところでカイト。部屋に戻るときはノックをして返事が来たら開けなさい」 「…ハアアアアア」 カイトはコクリと頷いた。 それに満足そうな顔をしてから勉強を続ける。 今日の復習をしているらしい。 カイトは邪魔にならないように後ろに立って黙っている。 誰かの邪魔をすることはやってはいけないとカイトは知っていた。 以前、緑の服を着た斬刀士と一緒に行動していたとき、 突然性質の悪いPCに付きまとわれたことがある。 ダンジョンで探索をしているときも話しかけてきた。 それを見て彼は一言笑顔で、 「人の嫌がることはやめなよ…」 と言って耳元で何かをボソボソ話しかけたのだ。 すると、まるで別人のように血相を変えて逃げてしまったのだ。 ルイズは知らない。 厨房でメイドに必要以上に気に入られてしまったこと。 ついさっきまでキュルケに誘惑されていたこと。 何も知らないほうが幸せなこともある。 彼女にとって今日はとても平和な1日だったそうな… 前ページ次ページ蒼炎の使い魔
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床に散らばった氷を見てモンモランシーはブチブチと文句を言った。 「ちょっと、どうするのよこの氷。タバサ、もう一度氷を作ってよ」 しかし、タバサは首を横に振る。 「今から戦いになる、無駄な精神力は使えない」 そう言いながら氷を拾い自分の顔に押し当てる。 モンモランシーもブツブツ言いながら氷を拾い顔に押し当てる。 「それでルイズ。今何か起こっているのかしら。 これから戦いになるってなんなの?」 モンモランシーの問い掛けにより、その場にいる全員の目がわたしに向いた。 皆に現状を理解してもらう必要があるわね。 「プロシュートが無差別攻撃をしているのよ」 わたしの答えを聞いたモンモランシーの首がナナメに傾く。 「プロシュートって、ルイズの使い魔じゃない。確か死んだんじゃなかったの?」 「そう、それよ!私も、それが不思議だったのよ」 キュルケがモンモランシーを押しのけ前に出てきた。 「アルビオンの貴族派に偽りの生命を与えられ操られているのよ」 あの夢の通りならプロシュートは『虚無』によって生き返ったはず・・・ 「偽りの生命・・・それってアンドバリの指輪のこと?」 モンモランシーの口から耳にしたことが無い名前が出てきたので思わず 聞きなおした。 「アン・・・なんですって?」 「アンドバリの指輪。水の精霊の秘宝。伝説のマジックアイテム。 知ってる人は殆どいないんじゃ無いかしら」 「なんでそんな事知ってんのよ・・・って確かモンモランシーの家は代々交渉役 を勤めてたんだっけ」 「ええ、そうよ。昔の話だけどね」 モンモランシーは肩をすくめた。 なんだかおかしな話になってきたわね・・・どういう事かしら。 仮説その一。 クロムウェルは生命の『虚無』を使えるしアンドバリの指輪も別に存在する。 仮説その二。 クロムウェルは誰も知らない(限りなく知る人が少ない)アンドバリの指輪を 使い『虚無』の担い手と称して皇帝に納まった。 ヤバイ。証拠なんて全然ないけどハマリすぎてるわ。 もしこれが当たってるとしたなら・・・ オリバークロムウェル・・・あのペテン師め・・・ 「ルイズ!」 モンモランシーが目の前で大きな声をあげる。 「なっ、何よ。ビックリするじゃないモンモランシー」 「さっきからボーっとして、ボケた?」 「ちょっと、それシャレになんないわよ。 気になる事があって考え事をしてたのよ」 モンモランシーがタメ息をついた。 「まあいいわ、続きをお願い」 「えっと続きね、プロシュートが操られた所まで説明したのよね」 わたしの言葉にモンモランシーが頷く。 「それで無差別攻撃って何なの?」 まだモンモランシーは状況を把握して無いようね。 「いま体験した老化現象の事よ」 「これを、あの使い魔がやったって言うの?」 「やったと言うか、今も継続中なんだけどね」 全員の顔に緊張が走る・・・回復したとはいえ、まだ終わって無いのだから。 「じゃあ、ここでプロシュートの能力について説明するわね」 わたしの発言にキュルケが異を唱える。 「ちょっとルイズ今更説明なんて意味あるの?それよりも早く彼を倒さないと」 このアマ・・・ 「キュルケ」 タバサがキュルケの名前を呼ぶ、キュルケはその呼びかけに応じ タバサの方を見る・・・ 「わかったわよ、おとなしく聞くわよ」 あの短いアイコンタクトで一体なにが・・・ そういえばマリコルヌの持ってた絵・・・いや・・・まさかね・・・ 「あのね、あんた達はプロシュートの能力を中途半端にしか知らないから 全部説明しようって言うのよ。ギーシュ!」 「なっ、なんだね?」 いきなり呼ばれたギーシュは目を丸くしている。 「あんた、あの広場の決闘を憶えてる?」 「ああ、兄貴が僕のワルキューレを追い詰めてたね」 「あんた、おもいっきり負けてたじゃないの!」 わたしが言う前にモンモランシーのツッコミが入る。 「ああ!あれ全然老化と関係無いわね」 キュルケが逸早く気付いたようね。 「そう、あれこそがプロシュートの『スタンド』よ」 「「「スタンド?」」」 キュルケ、ギーシュ、モンモランシーの声が重なる。 タバサは黙ったままだった。 「ルイズ『スタンド』とは何だね?」 ギーシュが挙手して質問してきた。 「プロシュートが、そう呼んでいたのよ幽霊みたいなモノと思っていいわ」 理解してくれたかしら。全員の顔を見渡すとタバサが顔面蒼白になっていた。 死んだ魚の色みたい・・・ 「・・・タバサ、もしかして幽霊が苦手なの?」 タバサがコクリと小さく頷いた。・・・表現の仕方を間違えたみたいね。 「言い方が悪かったわ。見えない『偏在』だと思ってちょうだい」 ワルドとのやり取りでそんな事を言っていたと思う。 「どう、タバサ別に恐くないでしょ『偏在』なんだから」 少しだけ顔色がマシになったタバサが挙手をして質問してきた。 「その『偏在』は全部で何体出せるの?」 「一体よ」 「その『偏在』の活動範囲は?」 「わからないけどプロシュートはあまり離して行動させないみたい」 何だか授業やってるみたい。 「私達には見えないというのが厄介ね」 キュルケが誰に聞かせるとも無く呟いた・・・見えない幽霊の様な存在。 以前何かで読んだことがある。犬や猫が何も無い宙を見つめている時 そこには幽霊が居るということを・・・ もしかしたら使い魔にはグレイトフル・デッドが見えるのかもしれない・・・ それを視覚共有で視れば・・・ダメね、あの姿を見たら戦闘どころじゃ無いわ。 わたしは普段なら逃げる事を良しとしないが、フーケ時は逃げてしまった。 見ればパニックは必至。この方法は提示できない! 「・・・あー、次にフーケを捕まえに行った時の事憶えてる?」 「あの光景を忘れる方が難しいわ」 キュルケが答えタバサも頷き同意する。 「私、知らないんだけど・・・」 「僕も知らないな・・・」 モンモランシーとギーシュが挙手をする。 「今から説明するわ。フーケが気を失いゴーレムが崩れたわよね」 「ええ」 と、キュルケが頷く。 「あの時『偏在』がゴーレムの腕をよじ登って行ったのよ」 「ああ!確かフーケ『何か』が腕を伝ってくるって言ってたわね」 「そう、そして『偏在』は『直』にフーケを掴まえた。その『偏在』に『直』に 掴まえられると、もの凄いスピードで老化するわ、まさに一瞬でね。 そして『氷』で冷やして回復してるけど『直』には関係無いから。 「なんですって!!」 「キュルケ声が大きい!」 慌てて口を塞ぐキュルケ。 「そして最後に無差別老化攻撃。これは今体験してもらっているわ『偏在』を 中心として最低でも約二百メイル内の生きている者全てを老化させる能力!」 「ブボッ」 ギーシュが氷を吐き出した。汚いわね・・・ 「な、何だね!そのデタラメな射程距離は!」 「プロシュート曰く『老化』の方に力を使っているからだそうよ」 わたしが説明を終えるとタバサが再び挙手をする。 「これだけの現象を起こす力、精神力はいつまで持つの?」 。 「残念だけど、それは期待しないで」 「そう」 それっきりタバサは黙り込んでしまった。 「他に聞きたい事はあるかしら?」 手に持ったデルフリンガーがカタカタと震えだした。 「どうしたのよデルフリンガー?」 「いや、聞きたい事じゃねーんだけど頭の片隅に引っ掛るっつーか 喉の奥まで出掛かってるってヤツ?」 「役に立たない剣ね。思い出してから発言してちょうだい」 「悪いね、俺ァ忘れっぽいんだよ」 「さて、もう聞きたい事は無いかしら?」 あと、未確認の情報も伝えたほうがいいのかしら? 「質問いいかな、僕のルイズ」 部屋の隅から居るはずの無い六人目の声が聞こえてきた。