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《伝説の使い魔 ガンダールヴ》 儀式・効果モンスター 星7/光属性/戦士族/攻 0/守 0 「使い魔召喚の儀」により降臨。 このカードは「虚無の魔法使い」がフィールド上にいる時のみ儀式召喚される。 このカードは、自身に装備されている全ての装備カードの装備制限を無視し、 装備カードの効果を得ることができる。 さらに、その装備カードの能力修正の値を攻撃力、または守備力にプラスできる。 part16-694 名前 コメント
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前ページ次ページ日本一の使い魔 「ケン!なにやってるの!?勝手に決闘の約束なんてして、平民のあんたが貴 族に勝てるわけないでしょ?前に貴族と平民の関係を教えたでしょ?聞いてな かったの!?」 「聞いてたさ。だが、俺が勝てないなんて一言も聞いちゃいないがね。」 「あんただって平民でしょ!下手したら死んじゃうのよ!謝れば許して貰える かも知れないから、謝っちゃいなさい!」 早川は指を立て横に振る。 「チッチッチッ、生憎と悪くもないのに下げる頭なんて持っちゃいませんが ね。」 早川はそう言うと近くにいた生徒にヴェストリの広場がどこにあるのか尋ねる。 「もう知らないんだから、、、」 『風』と『火』の塔の間の中間にあるヴェストリの広場。そこには噂を聞きつ けた生徒達で賑わっていた。学院という特性上あまり娯楽と言う物に乏しく、 退屈を持て余していた生徒達にとって今回の一件は暇つぶしには丁度良かった。 と言っても集まった生徒達の殆どが、ギーシュがどのように生意気な平民を痛 めつけるかを楽しみにしていた。 その殆どに当てはまらない生徒と言うのが、この二人で 「ねぇ、タバサ。止めなくていいのかしら?あなたが決闘なんて見に来ような んて、よく思ったわよね?」 「興味がある、、、」 「空を飛んでいた、、、」 「まぁいざとなったら、私達が助けてあげましょ。何か、ケンって憎めない所 あるのよねー。中々いい男だし。」 ギーシュを始め生徒達は生意気な使い魔の到着を待ち構えていた。 そこにギターの音色が、 「大層なご登場だね、平民君。待ちかねたよ。やはり君は人を馬鹿にするのが 上手らしいね。」 そう言うとギーシュは薔薇の花に見立てた杖を振る。そこには、錬金で出来た 墓石が現れた。 その様子に早川は素直に関心する。 「ほぉー、魔法ってのは便利なもんだね。」 しかし、関心こそすれ恐れる様子は無い。ギーシュは更に 「君の墓石だが味気ないから、これを供えてあげるよ。」 と錬金によって薔薇を一輪作り出し墓石に置く。 ニヤリと笑う早川。 「大した彫金の腕だな。だが、見た所日本じゃ二番目。」 と2本指を立てる。日本と聞きなれないが、自分より上がいると言いたい事は 解ったギーシュは、 「じゃあ、一番は誰だ!?」 「ヒュー♪チッチッチッチッチ。」 口笛を吹き、立てた2本指を5回左右に振り、微笑みながら親指で自分を指す。 「君が?じゃあやってみるがいいさ。」 「そうかい?じゃあナイフはお持ちで?」 ギーシュは錬金でナイフを作ると早川に渡す。ナイフを受け取ると、墓石の前 に立ち、数回ナイフを振るう。 すると墓石には、薔薇の園に赤子を抱いた女性の絵が見事に彫られていた。 「こいつは薔薇の聖母子って絵なんですがね、薔薇は女性であって所詮男は子 供。おいたが過ぎると棘で怪我しますよって洒落ですよ。」 そう言うと、絵の出来に関心する声とギーシュを笑う声が起こりだす。 「それと、こいつはお近づきの印ですよ。」 とナイフを渡すが、ナイフの先にはハートの形に切り取った布が刺さっている。 早川がパチンと指を鳴らすと、ギーシュのズボンがずり落ちる。下着のお尻の 部分がハートの形に切り取られている。 周囲に爆笑の渦が起き、ギーシュは自分がどんな状態なのかに気付く。 「君は、よっぽど痛い目を見ないと判らないらしいね。」 かろうじて冷静さを保ったギーシュは、薔薇の花を振ると花びらが一枚舞い落 ちる。 「僕はメイジだ。よって魔法で戦う。文句はないよね?」 すると花びらは甲冑を着た女戦士の人形へと姿を変える。その様を見ても早川 は、 「アー、ハン。」 と肩をすくめ両手を広げる。 「僕は、ギーシュ・ド・グラモン。青銅のギーシュさ。君への制裁はこのワル キューレが務めさせてもらうよ!」 ギーシュの声と共にワルキューレが猛然と殴りかかる。早川はサッと交わしな がら持っていたギターでワルキューレの頭を殴る。バランスを崩したワルキ ューレは派手な音を立て転げた。 自分の当てが外れたギーシュは更に薔薇の花を振ると、更に花びらが舞い、剣 や槍を持ったワルキューレが現れる。 一方、ここは学院の図書室。コルベールは一冊の本のとあるページを見て驚愕 した。そもそもコルベールは、早川の左手に現れた見慣れないルーンが気にな り授業の合間をぬって、どのようなルーンかを調べていた。本当ならば、儀式 の日に見た空を飛ぶ乗り物を調べたいのだが、 「大変ですぞ!これは学院長に知らせなければ。」 トリステイン魔法学院の学院長室は本塔の最上階に位置し、そこには年齢は100歳とも 300歳とも言われる、オールド・オスマンが重厚なつくりの机に肘を突いて暇を持て余していた。 「オールド・オスマン。あなたのお仕事はどうされたんです?書類のサインも 学院長の仕事じゃありません事?」 オスマンが秘書の席を見ると、書類の束を整理しながらミス・ロングビルが渋 い顔をしている。 「そんな渋い顔をしたら、せっかくの美人が台無しじゃて。それにわしは考え 事をしておったのじゃ。」 オスマンは席を立つと、思いつめたように窓の外を眺める。 「おっ、今日は黒か。」 とニヤけると、低いトーンの声がする。 「考え事ってスカートの中の事ですか?」 「わ、わかった、わかったから離してやってくれんか。」 オスマンは顔を伏せ悲しそうな顔で呟く、そしてロングビルの机の下から、小 さなハツカネズミがふわふわと宙に浮き、オスマンの肩まで届けられた。 オスマンが席につくと羽で出来たペンが重厚な机に突き刺さる。 「次は当てますよ。」 「はい、、、」 威厳なんてまったく感じられない。 コンコン、とノックの音が響く。 「コルベールです。学院長に相談があって参りました。」 「入りなさい。」 学院長室に入ったコルベールは一冊の本を見せ用件を話し出す。 その本の開かれたページを見て、 「これが、どうしたのかね?こんな古い本など見せよって。」 「学院長、これと同じルーンがある生徒が召喚した使い魔に、、、」 オスマンはロングビルに退室を促すと 「して、ある生徒と使い魔とは?」 「生徒とはミス・ヴァリエールで、使い魔とは人間、平民です。」 「まさかの、ガンダールヴと同じじゃとのお」 沈黙が部屋を包むが、すぐにその沈黙はノックの音により破られる。 「どなたじゃな?」 「ロングビルです。ヴェストリの広場で決闘騒ぎが起きています。騒ぎを気に する教師達からは『眠りの鐘』の使用許可を求める声が。」 「相手は誰じゃ?」 「ギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔です。」 「放っておきなさい。子供の喧嘩に秘宝を使うとは。ちょっと見てみるとする かの。」 そう言うと、マジックアイテム『遠見の鏡』を覗き込んだ。 覗き込んだ先には一体のゴーレムに羽交い絞めにされ、ボコボコにされている 使い魔がいた。それを止めようと主人であるルイズが涙を流し懇願している。 「ギーシュ!もう止めて!勝負は付いてるじゃないの!」 「そうかも知れないが、まだ君の使い魔から僕に対する侘びを聞いていないか ら勝負は終わってないのさ。ゼロのルイズ。」 「ボコボコじゃのう。」 「ボコボコですね。」 「眠りの鐘、使うかのう。」 「学院長!ミス・ヴァリエールの使い魔が!」 そこにいるはずの使い魔がいない。 覗き見ている先でも早川がいない事に気付いている。 広場の隅からエンジン音が鳴り響き 「フライトスイッチ、オーーーーーン!!」 奇怪な乗り物が空を飛ぶと、遠見の鏡から音が。 ベン、ベベンベベン♪ベン、ベベンベベン♪ タタタタータタ♪タタタタータタッターン♪ 遠見の鏡を覗き込むオスマンもコルベールもロングビルも状況が理解出来ない。 だが状況は刻々と進む。空を飛ぶ乗り物から赤に統一された上下のピタリとし た服、黒いブーツ、奇妙な赤い兜を被った人間が飛び出すと、火の塔のてっぺ んに着地し高らかに笑う。 「ハッハッハッハッハッ。」 「ズバッと参上!」遠見の鏡が左顔を映す。 「ズバッと解決!」右顔を映す。 「人呼んで、さすらいのヒーローーー!快傑ズバァァァーーット!!」 遠見の鏡が正面を捉えアップを映し前後にシェイクすると音楽が流れ出す。 もはや3人共理解不能だが、3人ともツッコんではいけないような気がした。 「タァーッ!」 掛け声と共に飛び立ちワルキューレの中心に着地すると手にしている鞭を数回振る う。7体のワルキューレはなます切りになり崩れ落ちる。 ズバットは呆然とするギーシュに向かい怒鳴る。 「己の欲望の赴くまま2人の女性を弄び、あまつさえその罪を善良なメイドに擦り付けるとは 言語道断!」 ギーシュは口をパクパクさせている。むしろ、この場にいる全員。学院長室の 3人とも現実について来れない。 ズバットは一片の容赦なくギーシュを殴り、蹴り、鞭で首を絞め投げ飛ばす。 投げ飛ばされズバットから離れる事が出来たギーシュは降参しようとする。 「ま、ま、まいっ」 「うるさい!」 問答無用にズバットは鞭でひっぱたくと空中高く飛び上がる。 「ズバァァーット・アタァーーーーーック!」 雄叫びを上げ高速ひねり前宙をしギーシュの顔面を蹴り飛ばす。 かなたに消えて行くギーシュ。 慌てて、生徒達がギーシュの元に駆け寄ると、 吹っ飛んだギーシュの胸には『Z』の文字をモチーフにした赤いマーク、 そして日本語で『この者、恐喝破廉恥犯人!』と書かれたカードが置かれていた。 生徒達が見回しても辺りにズバットの姿は無かった。 遠見の鏡からは 「ちびっ子の皆さん。ズバットの真似は絶対にしないで下さい。マネをするととても危険です」 と男の声が流れたのは言うまでも無い。 前ページ次ページ日本一の使い魔
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左手に焼き鏝を当てられたような痛みが走った。気がつくと左手になにかの文字が浮かび上がっている。 まさか…おれは使い魔になってしまったのか?このディオがッ! おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第二話 「それでは儀式は終了だ。各自寮に戻るように。解散!」 コルベールが告げると生徒達は思い思いに帰って行く。ある者は召喚獣に跨り、ある者は『フライ』を使い…そして後には 「ゼロのルイズ、てめーは歩いて帰れ」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえもまともにできないんだぜ」 「悪いね、ルイズ。ボクの使い魔は一人用なんだ」 「なんならその使い魔に背負ってもらったらどうだー?」 次々と空に浮かび上がる生徒を呆然と眺めるディオとルイズだけが残されていた。 『ジョナサンを殺して人間を超越しようとしたらいつの間にかピンク色の髪をしたガキの使い魔になっていた』 な…何を言っているのか(以下略 次々と空を飛んで帰っていく生徒達を黙って見つめていたルイズは自らの使い魔に向き直ると大きく息を吸い込んで 怒鳴ろうとして… 「それでは説明してもらおうかッ!これがどういうことなのかをッ!」 使い魔に機先を制されて言葉を飲み込んだ。 「…ハァ。あんた全然状況を理解していないのね。」 使い魔を使役する為には主人が絶対の上にいる事を使い魔に理解させなくてはいけない。 「いいわ、歩きながら話しましょ」 これからが苦労しそうだとルイズは密かにため息をついた。 「まずはじめになぜ彼らは空を飛んでいるんだい?」 このハルケギニアに魔法を知らない平民がいるとは知らなかった。たぶんよほどのド田舎か山奥にでも住んでいたのだろう。 いわゆる『どこいな』である。 「そりゃ飛ぶわよ。メイジなんだから。レビテーションくらい知ってるでしょ?」 ディオの住んでいた世界で人間が空を飛んだのは1852年の飛行船が初である。飛行機に至っては1903年まで待たなければならない。 だがディオはその少ない情報からここが異世界である事、ルイズ達がメイジ…魔法使いと呼ばれる特権階級であり 魔法で空を飛ぶ事は彼らにとって当たり前の事だと言うことを理解した。 その後ディオは歩きながらルイズからこの世界について聞き出した。ハルケギニアについて、メイジについて、 トリステイン魔法学院について、そしてルイズについて…。そして部屋に着くころにはディオはこの世界について概ね把握していた。 一方ルイズも何時間もかけてディオが違う世界から来たであろう事をなんとか理解した。 「なるほど、ぼくが今君の使い魔であるという事は理解したよ、ルイズ」 優雅な格好で窓に腰掛けながらディオは夜食を取っているルイズに語りかけた。ディオに渡された夜食は潰れたパンだけであったが。 「そう、よかった…。」 ちなみにルイズはディオを完全な平民として扱うことに決めた。 ディオの一つ一つの物腰は貴族の気品を感じられるものであったが、ルイズには魔法が使えない貴族というものがどうしても理解できなかった。 それに礼儀程度はどこかの裕福な商人の過程であれば身につくものだ。 ちなみにディオはダリオのことを欠片も話していない。話す価値もない『無駄』な事だからだが、話したところで ディオが貴族ではなく平民であるという事を隠すための言い訳ぐらいにしか捉えられなかっただろう。 「あんた、元の世界に帰りたいと思わないの?」 夜食をすませ、口元をナプキンで拭きながらルイズは尋ね、ディオはなんの躊躇いもなく答える。 「ああ、元の世界は色々と住み心地が悪くてね。今更帰る気はないよ」 ジョナサンに虐待されていたと嘘をついてもいいがこの甘ちゃんのルイズ(暫く話している内にあの鬱陶しいジョジョと似たものを感じた) はまず間違いなくディオに同情するだろう。そしてディオは自分が憐れまれることを何よりも嫌う人間であった。 ルイズはこの一日で非常に疲れていた。 召喚に成功したと思ったら出てきたのは平民だし、その上扱いにくい事この上ない。 まるで一見大人いように見えながらも絶対に人を乗せようとしない馬のようだ。 同じ使えないならこんな高慢ちきな奴よりどこかの少しスケベでも従順な馬鹿犬のような使い魔の方がよかった。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずだけどそんな兆候は全く見えないし 主人の望むものを手に入れてくる事も無理。かといって私を守れるとも思えない。 「それじゃあせめて掃除や洗濯ぐらいはしなさい。手足が付いてるんだし何もできないんじゃないでしょ」 その程度であれば特に問題もない。こんな小学校を卒業したばかりのような小娘にこき使われるのは我慢ならなかったが この世界のことを全く知らない以上、しばらくは忍耐する必要があるだろう。 無言を肯定と見なしたのかそれに満足したルイズにディオが尋ねる。 「ところで…ぼくの寝床はどこだい?」 ディオの目の前で服を脱ぎながらルイズは黙って床を指さした。古い毛布が一塊おいてある。 「貴様!このディオを奴隷だと見なすのか!この小娘がァッーーーーーッ!!!!」 次の瞬間、ルイズはディオに殴られて床に倒れていた。 19世紀イギリス社会では奴隷は人間以下と見なされていた。貴族の女性が裸でいるところに奴隷が入っても 女性は眉一つ動かさない。最初から人間とは認めていないからだ。人間ではない相手に裸を見られても恥ずかしくない それがイギリス上流階級の考えであり、ルイズの考えも同じであった。 つまりディオはルイズから 「おまえはこのルイズにとっての モンキーなんだよディオォォォォーーーーーーッ!!」 と言われたに等しいである。 「な、なによ…」 いきなりのプッツンに動揺するルイズの腕を掴んで引き寄せると腹の底から絞り出すような声でディオは恫喝した。 「いいか、これから君の使い魔になったからといってぼくにイバったりするなよな。お前がぼくを奴隷扱いする限り ぼくはお前の事は主人だとは認めないッ!」 そう言うとディオはルイズを突き放し、部屋の外へと出て行った。後には唖然とする半裸のルイズと床に散らばるルイズの服だけが残された。 そしてルイズは明日からディオを徹底的にしつけてやろうと決心するのであった。 to be continued…
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次の日、ルイズは部屋に溢れる陽光の刺激で目を覚ました。 床で寝たせいか、体のあちこちが痛かった。 カーテンは閉めてあったものの、ルイズは部屋に溢れる穏やかな陽光が無性に気に喰わなかった。先にあの使い魔が起きて、カーテンを閉めたようだ。 だが……先に起きたのなら、何故主人である私を起こさないのか。 ルイズはムクリと起き上がり、辺りを見回し、命令不履行のムカつく使い魔を探した。 いた。 優雅に横になって本を読んでいる………私のベッドで。 異常に分厚い本だった。タイトルがチラと見えた。 『おかあさんがいない―――オコォース・アディサァ著』というタイトルだった。子供向けの本なのだろうが、タイトルが少々おかしい気もする。 その脇の机にはワインボトルが置かれていた。 グラスに注がれた液体がユラリと揺れる。 ベッドはもちろんルイズの物だったし、ワインに至っては、彼女がこれまで大切に大切にとってきた上物の逸品だった。 それにその本、どこから持ってきた。 ルイズは身なりを正して叫んだ。 「あああ、アンタ…!!つつつ使い魔のぶ、分際で…!!」 ルイズには怒り狂うと、どもる癖がある。 つまり、どういうことかというと、ルイズは怒り狂っていた。 杖を取り出して、ルイズはDIOに向けた。 般若の形相のルイズはそれはそれは恐ろしいものだったが、DIOはそれをチラとも見ずに、本を読み続けている。 ズカズカとルイズが近づくにつれて、視界の脇に、小さな山が映った。 横になっていたから分からなかったが、ベッドの 側にはこれでもかとばかりに様々な物がうず高く積み上げられていた。 金銀財宝、剣に絵画に壷に本に皿に甲冑に……etc. 石像までデンと置いてあった。 ルイズは目の前が真っ白になった。 ふらふらと後ずさる。 「んな、なななな…何よこれ!?どこから盗ってきたのよ!?」 「学院長室……だったかな。そこの下にある部屋だよ」 DIOは何でもない事のように答えた。 ―――バカやろう、そこは宝物庫だ…!! ルイズは思った。 トリステインの、幾人もの一流のスクウェア・メイジたちが力を合わせて『固定化』の魔法をかけ、一流の教師たちが管理しているはずの、我がトリステイン魔術学院が誇る宝物庫が………。 ルイズは驚くと同時に、恐怖した。 この使い魔に出来ないことなど、ないのではないだろうか。 言葉に詰まって、分けの分からぬうめき声を上げるルイズ。 そんなルイズを尻目に、DIOは続けた。 「図書室にも行ってみたんだが……生憎と文字が分からなくてね。」 言葉は分かるのだが、とそういうDIOだが、ルイズは全く聞いていなかった。 どうしようどうしようと、頭を抱えていた。 「それで、学院長室の下の部屋を覗いてみたんだ。 些か骨が折れたがね……そこで、この本を見つけたんだ。この本の文字は私にも読めるものだ」 あの堅固な封印を、その程度で済ますか…! ルイズはDIOをキッと睨んだ。 が、DIOはどこ吹く風だ。 暖簾に腕押し、ぬかに釘、キュルケに慎み…そんな言葉がルイズの頭に浮かんだ。 「心配するな。ドアはキチンと閉めて来たさ」どうでもよかった。 「それよりも『マスター』、この本は実に興味深いぞ」 さらにどうでもよかったが、エラくお気に召したのか、DIOは本の内容を指でなぞりながら朗読しだした。 形のよい唇が、聞く人を引き込むような声を紡ぎだし、ルイズは思わず耳を傾けた。 「チョコランタンで……ヘンテコピーマン……飛んで……」 ゾワッと、ルイズは鳥肌が立った。 なんだあの言葉は。 なんだ……あの言葉は。まるで一言一言が意味を持っているかのようだった。 なにかの呪文なのだろうか。 ルイズはそこまで考えて、その本が宝物庫にあった事を思い出した。 古今東西、あらゆる秘宝財宝を安置しているというトリステインの宝物庫 だが、中には余りに危険だからこそ、宝物庫に封印されてしまったいわくつきの代物もあると聞いたことがあった。 まさかあれは、その手の類の禁書なのではなかろうか。 ルイズはハッとして、DIOから本を取り上げた。 不思議なことに、その本はルイズでも読むことが出来た。 『地獄門のなかには…』そんなフレーズが目に入り、ルイズは慌てて本を閉じた。 この本は、危険だ。 ルイズは心で理解した。突然本を奪われて、肩をすくめるDIOに言った。 「これは読んじゃダメよ。返しておきなさい。本なら後でいくらでも都合してあげるから」 「『マスター』………」 「ダ メ よ!」 ルイズが力を込めて叫んだ瞬間、ルイズの魔力が再びDIOに流れた。 昨夜よりは流れる量が少なかったので、倒れることはなかったが、ルイズはその吸い取られるような感覚にフラついた。 DIOの左手の甲のルーンがぼぅっと光った。 うむ、とDIOは苦しそうに一言うなった。 その光が収まった後、DIOは渋々…本当に渋々といった感じのため息をついた。 「分かったよ……『マスター』、君の意見を尊重しようじゃあないか」 そう言って、DIOは本を受け取って、部屋を出ていった。 どうやら諦めてくれたようだ。 ホッと一息つくとともに、ルイズはさっきの現象を思い出した。 昨夜も、そんなことがあった気がする…よく覚えていないけど。 考え続けた挙げ句、ルイズは一つの可能性に行き着いた。 ………魔力を流せば、DIOに言うことを聞かせられる、ということなのだろうか…? 「………フ、フフフ…」 そこまで思い立ったルイズは、1人ニヤリと黒い笑顔を作った。 「……フフフフハフハフハフハハハ ハハハハハハハハハハハハハハーー!!!!」 ルイズの高笑いが、いつまでも部屋の中に響いていた。 ベッドの側にある小山の処理のことなど、もはや彼女の頭にはなかった。 数分笑ってから、後悔した。 to be continued…… 17へ
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第十二話 気絶したフーケを捕らえ、タバサとキュルケは元来た道を大急ぎで戻ると、意識を失ったルイズを学院に運び込んだ。 キュルケが強引に引っ張ってきたモンモランシーのおかげで大体の傷は治り、特に別状はないという。 それでも、ルイズは目を覚まさなかった。 結局、事の報告は後回しとなり、タバサとキュルケの二人はつきっきりでルイズの看病にあたることとなったのだった。 そして、その日の夜 「ぅ……ん……」 ルイズが目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋であった。 キュルケが上からこちらを覗き込んでくる。 その傍らにはタバサもいた。 「やっとお目覚めね。まったく、いつまで寝てるんだか」 おかげで舞踏会に行けなかったじゃない、とキュルケは腕を組みながら言った。 「……ごめんなさい」 ルイズがしょんぼりとした表情で謝る。 それを見て、キュルケは微笑んだ。 「ま、いいわ。それより、あのカメなんとか……」 「仮面ライダー」 タバサが突っ込む。 「そうそう、それそれ。あれって一体何だったの? 詳しく話してみなさいよ」 ルイズは一瞬顔を曇らせたが、しばらくすると体を起こし、ゆっくり口を開いた。 ミラーワールド、モンスター、仮面ライダー…… キュルケは、ルイズの口から語られる信じられないような話に目を丸くしていた。 一方のタバサは、表情一つ変えずに話を聞いている。 「……なるほど。だから、そのカードデッキは破滅の箱なんて呼ばれてたのね」 ルイズの話が一段落すると、キュルケがルイズの手元にあるタイガのデッキを指差しながら言った。 「多分、そうでしょうね。……それで、今日あったことだけど……」 ルイズがミラーワールドでの出来事を話そうとした時、突然部屋の扉が開かれた。 「ひっ! あ、アサクラ!?」 扉の前に立つ浅倉を見た途端、ルイズの顔から血の気が引き、青ざめる。 それを見ると、浅倉は笑いながら彼女がいるベッドへと近づいていった。 「いつもの偉そうな態度はどうした? 俺に叩きのめされたのが、そんなに怖かったのか?」 「い、いやっ! 来ないで、来ないでぇっ!!」 ミラーワールドでの恐ろしい体験が脳内に甦り、ガタガタとその身を震わせるルイズ。 そんな彼女と浅倉との間に、キュルケが割って入った。 「ちょっとアンタ! 一体ルイズに何をしたのよ!?」 キュルケがきっ、と浅倉を睨み付ける。 今まで浅倉をダーリンとよび、恋心を抱いていたキュルケであったが、今の彼女にそんな気持ちは微塵もない。 むしろ、友を傷つけたことへの怒りの感情の方が強くなっていた。 そんな彼女を浅倉はフン、と鼻で笑う。 「そのデッキを手にした今、こいつも一人のライダーだ。ライダー同士、戦うのは当たり前だろう?」 「なら、これからもルイズと戦い続けるとでもいうの?」 「いやっ!」 キュルケの問いかけにルイズが反応し、膝を抱えて体を縮こまらせた。 その目には涙が湛えられている。 「もう戦いたくない……! もう戦いたくなんかないよ……!」 浅倉はそんなルイズに冷めた目を向けると、再びキュルケの方へと視線を戻した。 「だとしたら、どうする?」 怒りの形相で睨み続けるキュルケに、浅倉は余裕の表情で問い返す。 「……なら、容赦しないわ!」 「ほう、やるか?」 そう言って、キュルケは杖を、浅倉はデッキをそれぞれ取り出した。 そんな二人を、ルイズは心配そうに見つめている。 「待って」 不意に聞こえてきたタバサの声に、皆の視線が彼女に集中する。 そして、タバサの口から思いがけない言葉が発せられた。 「……私が仮面ライダーになる」 「ダメよタバサ! 危険よ!!」 タイガのデッキに伸ばされたタバサの手を見て、ルイズはタバサに渡すまい、と両手でデッキを抱きしめた。 しかしタバサが杖を一振りすると、デッキはルイズの元を離れタバサの手に収まった。 「誰かがライダーにならないと、ルイズが食べられてしまう。でも、今のルイズに変身は無理」 タバサが淡々と理由を述べていく。 「それに、まだアサクラに助けてもらったお礼をしてない。私なら、相手をしてあげられる」 浅倉の方を向き、微笑みかけた。 「……本気なの? アサクラには摩訶不思議な怪物がいるし、下手したら死んじゃうのよ?」 納得のいかないキュルケがタバサに尋ねた。「こういうのには慣れてる」 「でも……」 「俺なら誰だって構わないぜ。」 尚も食い下がろうとするキュルケを、浅倉が邪魔をした。 「それに、こいつよりもよっぽど楽しめそうだしな」 そういうと、浅倉はルイズの方へ顔を向けた。 「情けない奴だ。周りの人間にまで迷惑をかけておいて、役立たずにもほどがある」 浅倉の放った言葉が、ルイズの胸にぐさりと突き刺さる。 「そのくせプライドだけは人一倍、か。笑わせるな。……少しは身の程を知ったらどうだ?」 ルイズは堪らず、目から涙をポロポロとこぼし始めた。 「私は……私は……」 「ルイズ! ……アサクラ、あんた何てこと言うのよ!! 誰のせいでこんなことになったと思ってんの!?」 キュルケが再び浅倉に食って掛かる。 「俺は事実を言ったまでだ。……寝るぜ?」 それだけ言うと、浅倉は部屋の隅まで歩いていき、床の上に寝転がる。 そして、キュルケが投げ掛けてくる憎しみのこもった視線をよそに、浅倉は深い眠りへと落ちていった。 翌日。 ルイズ、タバサ、キュルケの三人は、学院長室にてフーケ討伐の報告を行っていた。 しかし、いつも通り無口なタバサに加え、ルイズも終始沈んだ表情で黙りこんでいたため、報告はもっぱらキュルケによってなされていた。 「……というわけで、今回の成功はルイズとその使い魔の活躍があってこそのものなのです」 『ルイズ』の部分を特に強調して、キュルケが報告を終えた。 「なるほどのう。まさか、あのロングビルが……」 オスマンが残念そうに溜め息をつく。 「ともかく、ご苦労じゃった。……そうじゃ、王室にも報告しておこうぞ。きっと何かしらの褒美がもらえるじゃろうて」 先ほどの表情から180度変わって、ニッカリと笑いながらオスマンが言った。 キュルケとタバサの顔にも、それぞれ笑みが浮かぶ。 が、ルイズの表情は相変わらず沈んだままだった。 「ミス・ヴァリエール、どうかしたかの? 元気がないようじゃが……」 「え? あ、いえ。何でもありません。ありがとうございます」 「……そういえば、破滅の箱を君の使い魔殿に渡す約束じゃったな。約束通り自由にしてよいと伝えておいてくれ」 ルイズはそれを聞くと、コクリ、と力なく頷いた。 「それと、ついでじゃ。これも渡しておいてくれ」 そう言って、オスマンは一枚のカードを取り出した。 「これは……?」 「荒らされた宝物庫の整理をしてたら出てきたものでの。破滅の箱に入っていたものとそっくりじゃから、君の使い魔なら使えるじゃろう。 わしには無用の品じゃ。もっていくがいい」 「……ありがとうございます」 ルイズは小さな声でお礼を言いながら、手渡されたカードを懐にしまった。 「ルイズ。ちょっと」 「……なに?」 学院長室からそれぞれの部屋へと戻る途中、ルイズはキュルケに引き止められた。 ――バチン! 振り返ったルイズの頬を、キュルケの手のひらが思い切りはたき、赤く染めた。 ルイズが驚いた顔で頬に手を当てる。 「アンタ、いつまでくよくよしてんのよ! らしくもない!」 キュルケが腰に手を当て、ルイズを見据えながら言った。 「いい? フーケに勝てたのはルイズが破滅の箱を使って、ゴーレムの動きを封じたからなの! ルイズのおかげ! わかる!?」 「でも、それは破滅の箱の力で……」 「破滅の箱を使って戦おうと勇気を出したのはアンタでしょう? もっといつもらしく誇りなさいよ!」 ルイズの反論を遮り、キュルケが続ける。 「例え魔法が使えなくても、諦めずに一生懸命頑張ってきたのが今までのアンタじゃない! そんなルイズはどこに行っちゃったのよ!?」 呆然と話を聞いていたルイズが、暗い表情のまま顔を下に向けた。 名門貴族に生まれながらも魔法を使えず、優秀な家族との落差に悩んだ日々。 失敗ばかりで散々ゼロのルイズと馬鹿にされ、劣等感に苛まれ続けた学院での毎日。 やっと成功したサモン・サーヴァントでも、呼び出した使い魔の扱いすら上手くいかず、逆に虐げられる始末。 それらの辛い記憶がルイズの頭の中を駆け巡り、涙となって目から溢れ出てきた。 「……何がわかるのよ」 俯いたまま、ルイズが震えた声をあげた。 「あなたに私の何がわかるのよぉっ!!」 顔をあげてその泣き腫らした表情をキュルケに向けると、ルイズは大声で言い放ち、自室に向かって勢いよく駆け出した。 「あっ、待ってルイズ!」 キュルケが止めようと手を伸ばしたが、走り出したルイズには届かず空を切る。 「ルイズ……」 自らの思いが友の心に届かなかったことを歯がゆく感じながら、キュルケはその場に立ち尽くすのだった。 同じ頃、ミラーワールドのとある森の中。 フーケとの戦いの最中に気配を気づかれた白い怪物のうち、王蛇の攻撃から免れた一体がそこにいた。 くねくねとした動きで怪物が森の中を歩いていくと、しばらくして広大な湖が目の前に現れた。 トリエステンとガリアに跨がる湖、ラグドリアン湖である。 水の精霊がいることで知られる湖だが、鏡の中の異世界では異様な光景が広がっていた。 今しがた辿り着いた白い怪物と同じ怪物があちこちから集まり、続々と湖へと向かって行ったのである。 不気味な唸り声をあげながら、無数の怪物がひたすら前に進んでいく。 たどり着いた怪物も湖に向かおうと動きだした、その時。 怪物が突然どさりと前のめりに倒れると、手足をピクピクと動かしながら体を丸め始めた。 そしてしばらくすると、背中がボコボコと盛り上がり、固い表皮にヒビが入る。 次の瞬間、白い怪物の体を破り、羽の生えた青い怪物が姿を現した。 青い怪物はすぐに頭に生えた羽を羽ばたかせ、湖の上を飛び始める。 それから、同じようにして数匹の青い怪物が現れ湖の上を舞うと、何処へともなく飛び去って行ったのだった……。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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前ページ次ページ絶望の使い魔 夢を見た 何も見えない暗い空間にルイズは浮いていた。 自分の身体を動かすこともできずただ眺めているだけ。 少しすると見えないはずであるのに何かが目の前に集まっているのが感じられた。 かすかに呟いているのが聞こえる。 ・・・契約・・・・力・・・くれてやる・・・ 目がぱっちりと開く。 まだ夜遅い時間のようだ。 二度寝しようとするが、身体が勝手に動いてベッドから抜け出す。 デルフリンガーを手に持ち外に向かう。 着替えもせず出かけるとはどうなっているのだろう。 自分で動けないことからこれも夢の続きだと悟る。 何かに導かれているように学院外、今年ルイズたちが使い魔を召喚した場所に来る。 デルフを鞘に入れたまま地面に魔法陣を描き出す。 これまでたくさん勉強してきたルイズも知らない魔法陣であった。 描き終わった上に座ると魔法陣が発光する。 身体に痛みが走るが逃げようにも動けない。 何度目かの痛みの後、唐突に立ち上がる。 ようやく終わったかと思ったら、突如ルイズは空を飛び出した。 大きめの山を越え森に降りていく。その森の中には開けた土地があり、小屋と遺跡があった。 小屋に近づき扉をノックする。訝しげな顔をして出てきた兵士の首を掴んで折る。 そのまま中に入り何が起こったのか理解していないもう一人も同じように逝かせてやる。 遺跡からオークが3匹ほど出てくる。遺跡はモンスターの巣となっているようだ。 オークの内一匹の体躯は他のオークに比べて二周りほど大きい。 オークは小屋まで走ってきたが、ルイズが小屋から出ると、跪き頭を垂れる。 一匹が遺跡に入っていき仲間を集めてくる。 遺跡から出てきたモンスターはオークを筆頭に全部で50匹ほど。ルイズはそれを従え、近くにあった村に向かう 行進を続けている内に遺跡の魔物だけでなく他にもモンスターが集まってくる。 村が見えたところでルイズは虚空からマントを出し、寝巻きの上から羽織る。 ルイズが腕を上げ、振り下ろすと後ろに控えていた魔物たちは声を出さずに静かに突進していく。 村人は眠っているところを蹂躙された。 突然村が襲われた。 村が襲われたさいは、堅固な村長の家に避難することになっている。 しかし我が家は村長の家から距離があり、避難が遅れてしまった。 村長の家はすでにモンスターに取り囲まれて、避難どころではない。 その村でも剣の扱いに長けていたジョーンズは、化け物から家族を守る。 自分と隣の家の夫婦は若い頃に冒険者としてパーティを組んでいたこともあり、モンスターにもある程度対応できる。 当時は4人でパーティを組んでいたが一人が死んでしまったのを期にこの村に定住したのだ。 いっしょに妻子を守りながら村から脱出することにする。 ジョーンズ夫婦と隣の夫婦、そしてそれぞれの息子一人ずつ、合計6人で厩に向かう。 脱出先は馬で1時間ほどにあるトリステイン城下。なんとか辿り着き、助けを請わなければならない。 幸い、モンスターは人が一番集まっている村長の家に気を取られているようで、こちらにはほとんど来ない。 厩に向かうとオークが一匹待ち伏せしていた。 オークの棍棒が唸りを上げるが、隣の夫―ペイジの受けた盾に逸らされる。 ペイジは体勢を崩してしまったが、ジョーンズはすでに攻撃に入っていた。 淡々と攻撃してくるオークに不気味なものを感じたながらも、オークの懐に入り、武器を持っている腕の腋に剣を突き入れる。 隣の妻―プラントはオークの注意がこちらに向いてる間に膝裏の腱を断ち切る。 体勢を立て直したペイジが、為すすべなく倒れるオークの喉に剣を刺し込み絶命させる。 久々に決まった3人での連携に思わず笑みが浮かぶ。4人いれば必殺技が使えたが仕方が無い。 それにしてもこの辺りで襲ってくるような魔物は、国に管理されている魔の遺跡にしかいないはず。 あの遺跡には無限に出てくるような錯覚さえ覚えるほどモンスターがいる。 昔からあそこは魔界や冥界につながっていると言われて、何千年も朽ちることなく存在する。 始祖が来たよりも昔から存在していたらしく、王城が建てられて2千年ほどしてから発見された遺跡であった。 物々しい封印が為されていたそうだが中に入るために解いてしまったらしい。 これまで代々トリステインの王が討伐隊を結成し、攻略を行ってきたにも関わらず、最深部までは至っていない。 すでにこれは在位中一度はしなければならない行事となっていた。 遺跡の入り口を封印し直そうとした王もいたが、その技術はなく、 壊そうとしても、とてつもなく堅固な固定化の魔法がかかっているらしく、どうしても壊せなかったらしい。 土を盛り、入り口を埋めてもその日の夜には元に戻ってしまう。 入り口を埋めた物質が沈み込むようになくなったと証言もある。 そのような不気味な遺跡ではあるが、貴重なマジックアイテムがあり、 遺跡はトリステインのものであるとして管理されていた。 管理と言っても魔物は外に出ようとはしないし、盗掘をしようにもモンスターが溢れているのでできず、 実際は兵士を監視として二人置くだけであった。 その監視自体適当になってしまっており、冒険者だったジョーンズたち四人は盗掘に励んだものだった。 入り口は一個だが下への階段は無数にあり広大に広がっている。 15階までは王室で完全に把握したらしいが、それ以降は時折壁が動いて形を変えることから把握することはできない。 そこでジョーンズたちの冒険者の出番であった。15階以降は王室でも探しつくせてない宝があるわけで何度も潜り、 アイテムを見つけ一財産稼いだのだ。四人の内ゲルマニアの平民の出身でありながら、 回復に優れた水のメイジである最後の仲間ボームナムがいたことから、 四人はまるでピクニックに行くように潜っていた。 このパーティがこの遺跡の恐ろしさを知るのはそれに出会ったときである。 それはオークであった。ただ身長が普通のオークの1,5倍ほどはあった。 大きいが鈍重ではなく、むしろ普通のオークよりも素早く、洗練された武器の扱いは4人を簡単にあしらった。 なぜトリステインの他の冒険者が潜らないのかがよくわかる。 4人は連携に優れていたが、逃げながら連携などできる筈はなく、 殿を務めていたボームナムが飛んできたオークに飛び越され、四人はオークにより分断されることになった。 ボームナムは他の階段から上がると言ってこちらに逃げるように促し、 巨大なオークもメイジであるボームナムを標的に選んでしまう。 残った3人は命からがら地上に抜け出せたが、いくら待ってもボームナムは帰ってこなかった。 もし遺跡から魔物が出るようになればとんでもないことになる。 回想から抜けながら他に敵が来ていない事を確かめた後、 子供たちはをジョーンズとペイジが受け持ち、4頭の馬に乗った。 馬を走らせて村の入り口から村長の家を振り返ったとき、ジョーンズはあの巨大なオークを見つける。 やはりあの魔物は遺跡の物であったか。 こちらに気付いていたようだがどうやら今回も同じように見逃されたのだ。 前回はボームナム、今回は村の多数の住人。それを犠牲にしてまた逃げるのか? 馬を止め、オークに馬の鼻を向けたところで後ろに乗っている子供の声を聞いてしまった。 いまの自分には妻子がいる。ここで命を散らすのは彼女らを危険に晒してしまう。 彼女らを安全な場所に送り、討伐に従軍しよう。アイテムを売り払ったのがまだまだあるので、お金の心配はない。 なんとしてもあのオークを討ち取るとジョーンズは心に誓う。 6人は無事に脱出し、できるだけ早く城に着くよう馬を走らせる。 村が小さくなってきた頃、馬がみな止まってしまった。 ジョーンズが前に進もうとしない馬から下りた時、雲の切れ間から射した月明かりに照らされて、 前方に人影がいることに気付いた。 警告しようとその人影に近づくと、マントを羽織ったメイジであることが確認できた。 王都までの距離ならばフライの魔法のほうが馬より早くモンスターの出現を伝えられると考え、 メイジらしき人影に助けを求める。 「貴族様、村がモンスターに襲われています!すぐに城の方に報告してください! 魔の遺跡の魔物が・・・」 「ヒャダルコ」 楽しい夢であった。 覚醒してから自分のベッドに寝ている事を確かめると安堵する。 夢は自分の願望が出るという。まさに自分が行いたいことであったが、いまはまだだめだ。 夢で見た遺跡は魔の遺跡と呼ばれる場所だということは見当がついた。 有名であるし、一度は見学に行った事もある。自分がモンスターを従えていたのには驚いたが。 しかし、いままで使い魔のことにせよ、自分のことにせよ、過去にあったことを 夢に見てきたと言うのにどういうことだろう。 ルイズは考えても埒が明かないと判断し、むしろ今回のような願望を見ることが普通の夢であると考え直した。 今日は虚無の曜日、使い魔の夢でみた光を放つ玉と、 今日の夢で見た魔法陣について調べることにする。 忘れないうちに紙に魔法陣を描き、ついでに夢の中で唱えていた呪文も書いておいて図書室に行く。 ここの図書室には禁書と呼ばれるものからよいこの御伽噺まで、 多種多様に取り揃えているらしい。まずは魔法陣からだ。 『魔法ー魔法陣』の本棚に向かう。見つかればいいのだけれど・・・ オスマンは困っていた。 ルイズの使い魔がガンダールヴだと目されていたが一向に起きる気配が無い。 聞いたところによるとフーケとの戦闘でルイズは例の黒い靄を色濃く出したらしい。 そのときには剣を振り回しながらゴーレムの攻撃を避けていたとか。 そしてフーケを捕まえてきた状態はあまりにも悲惨なものであった。 手足をグシャグシャにされた盗賊を学院長室まで笑顔で引きずってきたのだ。 その様子に呆然としたことを思い出し眉を寄せる。 ルイズは着々と実力を付けている。使い魔が伝説ならルイズは虚無の魔法が使えることになる。 魔法が使えないというが、あの黒い靄が虚無の魔法なのではないか。 虚無の魔法など知識としても残っていない。 性格が少々凶悪になってはいるが、フーケの討伐に募った時、教師連中がしり込みする中、 貴族としての矜持を見せ付けてくれたのは痛快だった。 遠見の鏡でルイズを見ると図書館でなにかを調べているようだ。 手元の紙に書いた魔法陣を資料から見つけようとしているのだろう。 オスマン自身ルイズが自分で描いたと思われる魔法陣には心当たりがなかった。 魔法陣をすべて知っているのかと問われれば首を振るしかないが、 使われている構成が根本的に違うのだ。系統魔法には沿っていないようだ。 なぜルイズがそんなものを知っているのか。簡単だ、使い魔からだろう。 しかし、いまだ使い魔は眠ったままである。 結論としては、ガンダールヴが主人を育てようとしているのではないかということだ。 主人が仕えるに価するまで力と知識を貸す。 そしてルイズは虚無の力にいまこそ目覚めようとしているのではないか 鏡を使い魔に戻して観察する。 始祖ブリミルの使い魔であるガンダールヴが邪悪な存在であるなど、オスマンは考えることはできなかった。 図書室にいたタバサにも魔法陣を確認してもらったが見たことがないらしい。 タバサはフーケ戦の黒い靄に興味津々であったが、適当に言葉を濁して誤魔化した。 一旦諦めて昼食を取りに行く。 昼食時に不穏な噂を二つ聞いた。 一つはメイジを含めたゴロツキ集団が皆殺しになっていたらしい。 これは知っている。行ったのはまさに自分なのだから。 周りは怪物が出たと言って恐れているのを聞くと、唇の端が上がってしまうことに耐えられない。 二つ目、これを聞いたルイズは目を剥くことになる。 なんでも昨日の夜、モンスターの大群が近くの村を滅ぼしたらしい。 最初に報告したのは、巡回の名目で風竜に乗って夜の散歩していた竜騎士。 家屋が燃えているのを見てよく見えるように低空まで下がったら、 村は死体とモンスターで溢れていたという。 モンスターや幻獣は種族など多種多様に分かれている。 彼らは種類の違うモンスターで群れるなんてことは普通はしない。 しかし村はオークを中心としたモンスター群に占領された。 王都に近かったこともあり、討伐隊が即座に編成され送られたが、一致団結され手強かったらしい。 また、魔の遺跡の兵士が殺されていたことに加え、遺跡に外への大量の足跡が残されていたことで 遺跡から出てきた魔物ということがわかった。 これまでになかった恐ろしい事態に遺跡の周りの森を伐採し、軍を常に駐屯させることになったそうだ。 ルイズの耳にこんなに早く噂が入ったのは、朝方に終わった討伐の帰りに学院に警戒を呼びかけにきた兵士と、 この事件に関して王都で行われた会議の結果を報告にきた兵士によるものである。 そんな噂を全く興味なさそうにハシバミ草サラダを突きながらタバサはルイズの力について考える。 フーケのゴーレムの足を切り飛ばした時、その身体能力は常人のそれではなかった。 あの黒い靄がルイズを助けているのだろう。あれは何の魔法なのだろうか。 ルイズ本人に聞いても適当に誤魔化された。知られないようにする必要がある魔法。 ルイズは使い魔を召喚してから少し変わったとキュルケが言っていたが、使い魔にヒントがあるのだろう。 そういえば、自分の使い魔がルイズに近寄らないように警告してきた。 学園の使い魔は皆、ルイズに近寄るとわけの分からない焦燥感に囚われるらしい。 しかし、もしルイズの使い魔が自分たちの知らない魔法を使えるなら、 心を壊された母を助ける方法を知っているかもしれない。 どんなに少なくとも可能性があるなら、それに投資しなくてはならない。 ルイズにはできるだけ恩を売っておかなければ。 ルイズは昼食が終わると即座に学院を出て、使い魔召喚を行った草原に行く。 まさかと思いたかったが物的証拠が示されることになる。 そこには自分が夢の中で見た魔法陣が描かれていた。 ・・・デルフリンガーだ、あいつなら知っているはず。 背中に背負った大剣を引き抜く。 最初は渋っていたデルフリンガーは問い詰められ話してしまうことにした。 「ありのままに語るぜ。 『鞘から抜かれたと思ったら、嬢ちゃんがモンスターを指揮して村を襲わせていた』 なに言ってるのかわからねぇと思うが俺もなにが起きたのかわからなかった。 頭がどうにかなりそうだった。寝相が悪いだとか、夢遊病だとか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。 もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ」 ルイズは自分の身に起こったことを分析する。 モンスターを指揮できること、これはいい。むしろすばらしい力だ。 夢の中で魔法を使っていたこと、これもいい。あとで今も使えるか確認は必要だが。 この剣が真相を知っていること、四六時中肌身離さず持っていれば解決。 だが問題は自分の身体が勝手に行動することだ。 これを続けていれば、いずれルイズに辿り着かれてしまうだろう。 自分の身体の使い方を教えてくれるのはいいが、ここまで大事だと困る。 朝にも考えたが、いまは雌伏の時なのだ。派手な行動は起こさず力を付けて行きたい。 地面の魔法陣を踏んで消していく。 一度部屋に帰り、自分が唱えていた魔法を書いた紙を取る。 杖を持っていなかったことから先住魔法だと思うとデルフリンガーは言う。 ルイズは近くにある森の奥で魔法を試してみることにした。 その夜、ベッドの上でルイズは興奮していた。 魔法の呪文を唱えようとすると頭の中でなにかが組み上がっていく感覚がし、言葉の発声と同時に発動した。 呪文を唱えても発動しないものもあったが、今はいい。ついに自分は魔法が使えるようになったのだ。 特に空を飛ぶ魔法だ。自分で飛ぶというのはメイジとして絶対にしたいことである。 これまでと違い、直接外に精神力を噴出するという魔法であったが、 夢のつもりでいた時の感覚から直接噴出するのはすぐにできるようになる。 しかし、飛ぼうとするとなかなか難しく、何度も地面とキスをするハメになってしまう。 その甲斐あって飛べるようなったわけだが、 これまでのルイズではどれだけ練習しようと成功に近づくことすらできなかった。 そのルイズが魔法の練習で上達しているという実感を得たのだ。 麻薬にも迫るものがあり、森での喜びようは狂気と言っても差し支えない。 この魔法には精神力の消費が激しく多様はできないと言う欠点もあるが、 飛びながら魔法が使えるというすばらしい魅力がある。フライやレビテーション中に魔法を重ねて使えないという常識を 無視したこの魔法は、使い時を誤らなければ強力な切り札になる。 モンスターを従属させる方法は学園にいる使い魔たちが逃げるのでよくわからず、 そして魔法陣に関しても結局見つけられなかった。 しかし、何にせよこれで手札が揃ってきた。緩い睡魔に身を任せながら手応えを感じていた。 前ページ次ページ絶望の使い魔
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前ページ次ページゼロの使い魔人 「チキュウ? トウキョウ? シンジュク? …変わった地名ね。聞いた事ないわ」 「…ハルケギニア大陸のトリステイン王国、だったか。一晩に月が二つも昇る夜、 というのも有り得ん話だが、何より魔法なんて代物は、俺の世界では表向き、完全に否定されたからな」 「そもそも、あんたのいた世界ってなによ? 月が一つだけ? しかも、魔法が無いだなんて信じられないわ」 …その夜。 学院生寮内、ルイズの私室にて両者は話合いの場を持っていた。 部屋の主は、天蓋付きのベッドに腰を下ろし、龍麻はその対面にて椅子に座り、足を組んでいる。 「別の世界から(無理やり)呼び込まれた」と言う龍麻の主張に対し、ルイズは露骨な不信…を通り越して、 『頭がちょっと可哀想な人』という視線を向けっ放しだった。 相棒ともいえる、小型多目的情報端末(通称H.A.N.T)を始めとする『証拠』を見せて、どうにか納得させようとした龍麻だが、 「ふーん、でも、これだけじゃ、わかんないわよ」 「わからん奴だな…。なら、お前達には出来ない事が、当たり前に出来る場所が有る…。とでも考えておけ」 これ以上、説得と説明を続けても無駄と感じ、龍麻は本題を切り出す。 「――回りくどいのは無しだ。俺が、此処から元の世界へと帰る方法は有るのか?」 「無理よ」 「予想通り…。と、言いたいが、どういう理由でだ?」 「召喚の魔法…つまり『サモン・サーヴァント』は、ハルケギニアの生き物を呼び出すのよ。 普通は動物や幻獣なんだけどね。人間が召喚されるなんて初めてだわ。 そして…、あんたはわたしの使い魔として、契約しちゃったのよ。あんたがどこの田舎モノだろうが、 別の世界とやらから来た人間だろうが、一度使い魔として契約したからには、もう動かせない」 「…なんつー横暴かつ、一方的な話だ…! 大体、意に沿わん相手が来たなら、 無理に契約せずとも、送り返すなり、別の相手を探すなりするのが自然だろうが…!?」 こめかみに指をやって、怒りと偏頭痛を抑えながらの龍麻の言葉に、ルイズは頭を振る。 「それも無理」 「…即答かよ。キッチリ説明してくれるんだろうな?」 「だって、あんたの世界と、こっちの世界を繋ぐ魔法なんて無いもの。そして、『サモン・サーヴァント』は 呼び出すだけ。使い魔はメイジにとって、生涯のパートナーよ。それを元に還す呪文なんて、存在しないし……」 「…で、何と続くんだ?」 「一度呼び出した、その使い魔が死ぬ迄、『サモン・サーヴァント』を唱える事は出来ないのよ。 例え、それがどんなに強いメイジであってもね」 「…………。つまりは、帰る途など無く、このまま一生かそれに相応する時間を、お前に付き合え、と」 ぎり、と言葉の最後に歯ぎしりが混じる。 「…俺もよくよく、運の無い男だが、それにも増して巫山戯ているのは、この世界と魔法だな……」 と、心の底からの悪罵を吐く龍麻に、ルイズもルイズでジト目を向ける。 「ほんとに…、なんであんたみたいなのが召喚されちゃったのよ! このヴァリエール家の三女が……。 由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんだって平民なんかを使い魔にしなくちゃなんないのよ?」 「…五月蠅い。その科白、熨斗と引き出物付けて返す。後先考えず、下手糞な術を使いやがって。 誰が好き好んで、こんな貴族や魔術師なんぞがのさばる世界に来て、従僕(サーヴァント)になるものか」 我の強い者同士、深刻かつ多大な互いへの失望と苛立ちをぶつけ合う。 既に両者の間に漂う空気は、リアルファイト勃発迄の秒読み段階といっていい。 「――で、だ。お互いこれ以上無い程、不本意かつ現状に対し、不満と怒りを抱え込んでいる訳だが」 「それがなによ」 「話が進まんからな。一方的な従属など真っ平だが、条件によっては、俺は妥協しないでも無い」 「わたしに従うって事?」 「何を聞いてんだ。――いわば、取り引きだ。お互い、持っている物を出し合う。俺は労働力なり、技能を出す。 お前は、衣、食等の俺が動くのに必要な物を出す。…決して理不尽なモノでは無いと思うが?」 聞きながら、ルイズの眉が段々吊り上がって行くのが見て取れるが、気にせず続ける。 「俺は絶対に帰るつもりだが、その為には、この世界の情報が必要る。片やお前の方も今迄の話を総合するとだ、 形はどうあれ魔術師である以上、俺という使い魔がいない事には、此処での生活なり立場に支障をきたす…違うか?」 龍麻の声に、む、とルイズの表情に不機嫌そうな色が浮かぶ。 『……………………』 それきり、睨み合う二人。 この場合、先に視線を逸らした方が負けだというのは言うまでも無い。 「重ねて言うが、一方的な従属はせん。だが、仁義なり道理や良心に背かん限り、 そちらの指示や意思は尊重した上、希望に対しても善処するさ」 「――わかったわよ! 色々気に入らないけど、家僕の声を聞き入れるのも又、主の器量よ。 いいわね? これからは、わたしがあんたの主人よ」 「交渉成立…だな。短い付き合いだろうが、それ迄宜しく頼むよ、マスターさん」 椅子から立つと、軽くではあるが龍麻は頭を下げて見せる。 「なによ、そのマスターって言葉は?」 「俺の世界で言う所の、主君なり師匠等、目上の人物を指す言葉だ。 人前で名前や姓を呼び捨てにするのは、無礼に当たるんだろう?」 「そんなの当たり前じゃない」 「なら、それでいいだろう。…で、だ。使い魔として、俺に一体、何をさせるつもりでいるんだ?」 との龍麻の質問に、ルイズはぴっ、と人差し指を立てる。 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」 「つまり、感覚または認識の共有…。と、いう訳か」 「そうよ。でも、あんたとじゃ無理みたいね。現に、何にも見えないし、聞こえないわ」 「それは無条件で成立する物なのか? 小動物ならまだしも、確たる自我を持つ人間相手なら、 相互の相性なり、魔術師側の技倆に依る可能性も在ると思うが?」 と、龍麻は知り合いの陰陽師や魔女らとの付き合いから得た、知識を持ち出す。 が、龍麻の疑問を無視したルイズは、別の話題を持ち出した。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」 「秘薬?」 「特定の魔法や儀式を行う時に必要な触媒よ。硫黄とか、コケに…、ある種の鉱石、宝石も含まれるわね」 「成る程」 「あんた、トレジャーハンターだったっけ? そういうの、得意なんじゃないの?」 「…不可能では無いが、すぐには無理だな。俺の持つ知識が、そのまま『こちら側』でも通用するとは限らん。 やるなら、『こちら側』での下調べ…、偏に時間が必要るな」 「そう。期待はしてないから。最後に、これが一番なんだけど…。使い魔は、主人を護る存在であるのよ! その能力で、主人を敵から護るのが一番の役目! …出来ないとは言わせないわよ」 「この六年で、一対一で負けたのは一度きりだな。後は常に一対多数の状況で生き残って来たが」 「あんたが何と戦ってたかは知らないけど、ウソや口からでまかせで無い事を祈ってるわ。 …強い幻獣だったら、並大抵の敵には負けないし、こんな心配をせずにすむんだけど」 「言ってろ」 「――そうそう。部屋の掃除や洗濯とかもあんたの仕事だからね。さてと、喋ってたら、眠くなってきちゃったわ」 その声で話は終わりと判断した龍麻は、椅子を元の場所に戻すと部屋の壁際に陣取り、 ルイズに背を向けて所持品を確かめる。 …バックパックに穴が開いていたとかいうベタな展開は無く、詰め込んでいた物品が床に並ぶ。 此処に持ち込めたのは、銃火器が大小合わせて三梃。鞭が一振りに、手甲一つ。 永久電池を含む希少品(オーパーツ)に始まり、銃器に対応した弾薬類はそれなり。爆薬類は…僅少。 後は緊急医療キットと某国難民も喰わんと揶揄られる野戦食に、護符や雑具の類いで全てである。 「――あの三連戦が響いたなぁ…。こんな事になるのなら、銃器は弾の共有が利く奴を用意するんだった…」 ついついぼやく龍麻の頭にばふっ、と投げかけられる物がある。 何かといえば、ルイズが先程迄身に着けていた、制服のブラウスやスカートに肌着。最後に薄手の毛布である。 「これ、明日になったら洗濯しといて。後、ベッドは駄目だからこれを使いなさい」 「汚れ物を他人に投げるな! そこらに一纏めにして置いておけ! …で、洗い場はどこだ?」 「ここに仕えるメイドか、使用人にでも聞けば解るわよ」 興味なさげに言い捨てると、指を鳴らす。 同時にランプの灯が落ち、室内を照らすのはカーテン越しに差し込む双月の光だけとなる。 ――部屋の主は眠りの国へと旅立とうとしていたが、居候にはまだ、確かめるべき事があった。 結跏趺坐に組み、瞼を閉じて精神を研ぎ澄す。 息を継ぐ毎に、身体の奥底より湧き出す《力》を全身に行き渡らせながら、一点に導き、高めながら望む形へと錬り上げる。 「……巫炎」 短く呟くと、開いた掌の中で『炎氣』により生み出した、鮮やかな焔が小さく躍る。 (ふう…。世界や法則が異なる上、龍脈との繋りが無い今は、《黄龍の力》は駄目だが、 普通に《力》を使う分には、異常が無い事は不幸中の幸いだな……) 手を振り、焔を消す龍麻。 (――地図も羅針盤も無い旅だが、俺の採る道は決まっている。この世界の魔術師共が存在しないと断言しようが、 関係無い。何がなんでも、還る手段を探り当てて、生きて日本の土を踏んでやる…!) 口に出す事無く、決意を己が裡に刻み込むと、壁に寄り掛かって毛布を被る。 睡眠に優る疲労回復は無し。腕時計のアラームをセットした龍麻も目を閉じる。 ――こうして、彼と彼女の長過ぎる一日は終わったのだった。 ハルケギニア24時… 双月の輝きは語るを知らず、 歴史の流れは人には見えず、 希望は全ての心の中に… 時は静かに命を刻む。 前ページ次ページゼロの使い魔人
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影の使い魔 Shadow Familiars 出典 Secrets of Magic 228ページ 使い魔は、共生関係の中で自分自身を人間に結びつける。シャドウキャスターのウィッチ、特に夜の守護者を持つものは、影の力に精通している可能性が最も高い。他にも、影の血脈を持つソーサラーや闇の領域のクレリックなど、影の使い魔を持つものは他にもいる。 影の使い魔 Shadow Familiar アンコモン 影 出典 Secrets of Magic 229ページ 使用権 シャドウキャスターであること 必要能力数 7 与えられる能力 暗視、操作能力、主人形態、抵抗([氷雪]および[負のエネルギー])、影歩き 術者や儀式執行者の中には、使い魔を招来して拘束するのではなく、自分の影を使い魔に変えるものもいる。これらの術者は、その場所の光のレベルに関係なく影がないことや、身に着けている衣類や宝石が奇妙に落ち着いて見えることで識別できる。用心深い人や迷信深い人にヴァンパイアやその他のアンデッドと間違われることもあるが、それでもこれらの術者は、自分の影と使い魔の固有な能力とを交換する取引に価値を見出している。 影の使い魔は特定の使い魔の一種である。全てのシャドウキャスターはこの使い魔への使用権を持つ。影の使い魔を得るための適切な魔法を学ぶ別の経路もある。 影化 [one-action] Become Shadow 影 変成術 出典 Secrets of Magic 229ページ 影の使い魔は、その体をかろうじて形を持った影に変える。使い魔は君のレベルの半分に等しい全てのダメージ([力場]を除く)に対する抵抗を得るが、肉体を必要とする全てのアクションを使用できなくなる。加えて、使い魔は幅2インチまでの隙間に入り込むことができ、“無理矢理入り込む”により幅1インチまでの隙間に侵入できる。使い魔はこのアクションをもう一度行うことで、通常の姿に戻ることができる。 このアクションは君の魔法系統に対応する特性(君が術者でない場合は伝承)を持つ。 影の中のすり足 Slink In Shadows 出典 Secrets of Magic 229ページ 影の使い魔はクリーチャーあるいは物体の影にいるときに“隠れ身”を行ったり“忍び足”を終了したりすることができる。 影盗み [one-action] Steal Shadow 死霊術 出典 Secrets of Magic 229ページ 頻度 10分に1回;効果 影の使い魔は君の呪文攻撃ロール修正値に等しい攻撃ロール修正値で近接攻撃を1回行う。この“打撃”が成功したなら、目標は虚弱状態1となり、影が消えてしまう。24時間後、この虚弱状態は終了し、影は元に戻る。虚弱状態を取り除く効果は影も同様に回復させる。 このアクションは君の魔法体系に対応する特性を持つ。君が術者でない場合、伝承を持つ。 使い魔能力 闇喰い Darkeater 出典 Secrets of Magic 229ページ 能力種別 使い魔 君の使い魔は影の中で自然回復する。薄暗い光あるいは暗闇の中で連続した10分を過ごした後、君の使い魔はヒット・ポイントを君のレベルの半分だけ回復する。この能力は影の使い魔専用だ。しかし、シャドウキャスターはいかなる種類の使い魔にもこの能力を選択できる。 影歩き Shadow Step 出典 Secrets of Magic 229ページ 能力種別 使い魔 この能力は影の使い魔専用である。しかし、シャドウキャスターはいかなる種類の使い魔にもこの能力を選択できる。君の使い魔は“影のステップ”アクションを得る。君がこの使い魔能力を使い魔に選択させるには、君は7レベル以上でなければならない。 “影歩き” [one-action](召喚術、影、瞬間移動) 必要条件 使い魔が薄暗い光あるいは暗闇の中にいる。効果 使い魔は自身を30フィートまで瞬間移動させる。到着地点は薄暗い光あるいは暗闇の中でなければならず、使い魔から視線と効果線が通っていなければならない。このアクションは君の魔法体系に対応する特性を持つ。君が術者でない場合、伝承を持つ。
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所変わってこちらはルイズの部屋。 貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、 テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。 「君も一杯やるといい」 テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。 ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。 「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」 「やめてよ、子供みたいなこと……。 私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」 「まさか……十分とは言えないよ」 ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。 視線が絡まる。 「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」 ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。 「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」 あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。 「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」 またDIOの話かと、ルイズは思った。 この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。 実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。 それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。 「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。 アイツ人間じゃないもの」 ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。 内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。 「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。 まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」 「ガン…ダールヴ……?」 「そう、『ガンダールヴ』。 かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」 突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。 しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。 そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。 「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。 ……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」 真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。 ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。 遡ること六十世紀である。 そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。 あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。 「眉唾物ね。 はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」 「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。 」 間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。 気圧された、と言ってもよいだろう。 それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。 「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。 底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」 「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」 興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。 「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。 でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」 焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。 だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。 「そうかい? なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」 ―――――――――――― 翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。 何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。 しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。 やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。 それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。 その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。 しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。 ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。 幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。 その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。 昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。 「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」 まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。 「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか? まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」 貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。 いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。 入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。 部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。 重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。 思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。 改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。 やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。 「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」 急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。 「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」 敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。 ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、 それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。 再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。 「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」 「…………?」 単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。 それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。 「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ! 学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」 あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。 本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、 オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。 「あぁ、『ガンダールヴ』か。 確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」 ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。 ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。 自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。 「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。 ……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。 これは事実だ」 「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」 『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。 その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。 DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。 「……ゴホンッ。 そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。 実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」 その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。 同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。 確認するまでもない、シエスタだろう。 反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。 前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。 「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」 「……その、通り」 血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。 いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。 DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。 ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。 「うむ、いいだろう。 この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」 その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。 しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。 そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。 DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。 中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」 そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。 シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。 やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。 DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、 必死で取り戻すかのようでもあった。 ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。 DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。 だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。 二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。 そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。 「これは……一体どういうつもりだ?」 to be continued……
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床に散らばった氷を見てモンモランシーはブチブチと文句を言った。 「ちょっと、どうするのよこの氷。タバサ、もう一度氷を作ってよ」 しかし、タバサは首を横に振る。 「今から戦いになる、無駄な精神力は使えない」 そう言いながら氷を拾い自分の顔に押し当てる。 モンモランシーもブツブツ言いながら氷を拾い顔に押し当てる。 「それでルイズ。今何か起こっているのかしら。 これから戦いになるってなんなの?」 モンモランシーの問い掛けにより、その場にいる全員の目がわたしに向いた。 皆に現状を理解してもらう必要があるわね。 「プロシュートが無差別攻撃をしているのよ」 わたしの答えを聞いたモンモランシーの首がナナメに傾く。 「プロシュートって、ルイズの使い魔じゃない。確か死んだんじゃなかったの?」 「そう、それよ!私も、それが不思議だったのよ」 キュルケがモンモランシーを押しのけ前に出てきた。 「アルビオンの貴族派に偽りの生命を与えられ操られているのよ」 あの夢の通りならプロシュートは『虚無』によって生き返ったはず・・・ 「偽りの生命・・・それってアンドバリの指輪のこと?」 モンモランシーの口から耳にしたことが無い名前が出てきたので思わず 聞きなおした。 「アン・・・なんですって?」 「アンドバリの指輪。水の精霊の秘宝。伝説のマジックアイテム。 知ってる人は殆どいないんじゃ無いかしら」 「なんでそんな事知ってんのよ・・・って確かモンモランシーの家は代々交渉役 を勤めてたんだっけ」 「ええ、そうよ。昔の話だけどね」 モンモランシーは肩をすくめた。 なんだかおかしな話になってきたわね・・・どういう事かしら。 仮説その一。 クロムウェルは生命の『虚無』を使えるしアンドバリの指輪も別に存在する。 仮説その二。 クロムウェルは誰も知らない(限りなく知る人が少ない)アンドバリの指輪を 使い『虚無』の担い手と称して皇帝に納まった。 ヤバイ。証拠なんて全然ないけどハマリすぎてるわ。 もしこれが当たってるとしたなら・・・ オリバークロムウェル・・・あのペテン師め・・・ 「ルイズ!」 モンモランシーが目の前で大きな声をあげる。 「なっ、何よ。ビックリするじゃないモンモランシー」 「さっきからボーっとして、ボケた?」 「ちょっと、それシャレになんないわよ。 気になる事があって考え事をしてたのよ」 モンモランシーがタメ息をついた。 「まあいいわ、続きをお願い」 「えっと続きね、プロシュートが操られた所まで説明したのよね」 わたしの言葉にモンモランシーが頷く。 「それで無差別攻撃って何なの?」 まだモンモランシーは状況を把握して無いようね。 「いま体験した老化現象の事よ」 「これを、あの使い魔がやったって言うの?」 「やったと言うか、今も継続中なんだけどね」 全員の顔に緊張が走る・・・回復したとはいえ、まだ終わって無いのだから。 「じゃあ、ここでプロシュートの能力について説明するわね」 わたしの発言にキュルケが異を唱える。 「ちょっとルイズ今更説明なんて意味あるの?それよりも早く彼を倒さないと」 このアマ・・・ 「キュルケ」 タバサがキュルケの名前を呼ぶ、キュルケはその呼びかけに応じ タバサの方を見る・・・ 「わかったわよ、おとなしく聞くわよ」 あの短いアイコンタクトで一体なにが・・・ そういえばマリコルヌの持ってた絵・・・いや・・・まさかね・・・ 「あのね、あんた達はプロシュートの能力を中途半端にしか知らないから 全部説明しようって言うのよ。ギーシュ!」 「なっ、なんだね?」 いきなり呼ばれたギーシュは目を丸くしている。 「あんた、あの広場の決闘を憶えてる?」 「ああ、兄貴が僕のワルキューレを追い詰めてたね」 「あんた、おもいっきり負けてたじゃないの!」 わたしが言う前にモンモランシーのツッコミが入る。 「ああ!あれ全然老化と関係無いわね」 キュルケが逸早く気付いたようね。 「そう、あれこそがプロシュートの『スタンド』よ」 「「「スタンド?」」」 キュルケ、ギーシュ、モンモランシーの声が重なる。 タバサは黙ったままだった。 「ルイズ『スタンド』とは何だね?」 ギーシュが挙手して質問してきた。 「プロシュートが、そう呼んでいたのよ幽霊みたいなモノと思っていいわ」 理解してくれたかしら。全員の顔を見渡すとタバサが顔面蒼白になっていた。 死んだ魚の色みたい・・・ 「・・・タバサ、もしかして幽霊が苦手なの?」 タバサがコクリと小さく頷いた。・・・表現の仕方を間違えたみたいね。 「言い方が悪かったわ。見えない『偏在』だと思ってちょうだい」 ワルドとのやり取りでそんな事を言っていたと思う。 「どう、タバサ別に恐くないでしょ『偏在』なんだから」 少しだけ顔色がマシになったタバサが挙手をして質問してきた。 「その『偏在』は全部で何体出せるの?」 「一体よ」 「その『偏在』の活動範囲は?」 「わからないけどプロシュートはあまり離して行動させないみたい」 何だか授業やってるみたい。 「私達には見えないというのが厄介ね」 キュルケが誰に聞かせるとも無く呟いた・・・見えない幽霊の様な存在。 以前何かで読んだことがある。犬や猫が何も無い宙を見つめている時 そこには幽霊が居るということを・・・ もしかしたら使い魔にはグレイトフル・デッドが見えるのかもしれない・・・ それを視覚共有で視れば・・・ダメね、あの姿を見たら戦闘どころじゃ無いわ。 わたしは普段なら逃げる事を良しとしないが、フーケ時は逃げてしまった。 見ればパニックは必至。この方法は提示できない! 「・・・あー、次にフーケを捕まえに行った時の事憶えてる?」 「あの光景を忘れる方が難しいわ」 キュルケが答えタバサも頷き同意する。 「私、知らないんだけど・・・」 「僕も知らないな・・・」 モンモランシーとギーシュが挙手をする。 「今から説明するわ。フーケが気を失いゴーレムが崩れたわよね」 「ええ」 と、キュルケが頷く。 「あの時『偏在』がゴーレムの腕をよじ登って行ったのよ」 「ああ!確かフーケ『何か』が腕を伝ってくるって言ってたわね」 「そう、そして『偏在』は『直』にフーケを掴まえた。その『偏在』に『直』に 掴まえられると、もの凄いスピードで老化するわ、まさに一瞬でね。 そして『氷』で冷やして回復してるけど『直』には関係無いから。 「なんですって!!」 「キュルケ声が大きい!」 慌てて口を塞ぐキュルケ。 「そして最後に無差別老化攻撃。これは今体験してもらっているわ『偏在』を 中心として最低でも約二百メイル内の生きている者全てを老化させる能力!」 「ブボッ」 ギーシュが氷を吐き出した。汚いわね・・・ 「な、何だね!そのデタラメな射程距離は!」 「プロシュート曰く『老化』の方に力を使っているからだそうよ」 わたしが説明を終えるとタバサが再び挙手をする。 「これだけの現象を起こす力、精神力はいつまで持つの?」 。 「残念だけど、それは期待しないで」 「そう」 それっきりタバサは黙り込んでしまった。 「他に聞きたい事はあるかしら?」 手に持ったデルフリンガーがカタカタと震えだした。 「どうしたのよデルフリンガー?」 「いや、聞きたい事じゃねーんだけど頭の片隅に引っ掛るっつーか 喉の奥まで出掛かってるってヤツ?」 「役に立たない剣ね。思い出してから発言してちょうだい」 「悪いね、俺ァ忘れっぽいんだよ」 「さて、もう聞きたい事は無いかしら?」 あと、未確認の情報も伝えたほうがいいのかしら? 「質問いいかな、僕のルイズ」 部屋の隅から居るはずの無い六人目の声が聞こえてきた。