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季節は春。 ここはハルケギニア大陸にあるトリステイン王国の王立トリステイン魔法学院。 その広場では年に一度の使い魔召喚の神聖なる儀式が行われていた。 そして今その儀に向かっているのは、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。 桃色がかったブロンドに白い肌、鳶色の目を持つ可憐な少女である。 だがそのルイズは今かなり焦っていた。 なぜなら使い魔を召喚する魔法『サモン・サーヴァント』を、もう3回も失敗していたからである。 「やっぱりルイズには無理なんだよ!」 「なんたって成功率『ゼロ』のルイズだもんなー!」 周りからのそんな野次にルイズは気丈に言い返す。 「黙ってて!集中が乱れるでしょ!」 そして五たび呪文を唱えだす。 (今度こそ……お願い!!) だが願い虚しく、またも大きな爆発が起きてしまう。 (……ああ……やっぱり、私、ダメなのかな…………) 五連続の失敗に気丈なルイズもさすがにガックリとうなだれる。 だが、しかしッ! 「お、おい、何かいないか?」 「本当だ!何かいるぞ!『ゼロのルイズ』が使い魔を召喚しやがった!」 周りから聞こえる声に驚き前を見上げるルイズ。 爆発の煙が晴れてきたそこには、いかにもウエスタンな格好をした男が倒れていた―― to be continued
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前ページ次ページ暗の使い魔 「あんた、誰?」 暗く閉ざされた意識の中、ふと聞きなれない声が耳に届いた。 「あん?」 唐突に聞こえた問いかけに、間の抜けた声で返しながら、男は目を覚ました。 目蓋に眩しさを感じる、そして微かなそよ風が頬をくすぐる。 その時点で、男は違和感に急激に意識を覚醒させた。 「(外、外か?)」 上体を起こし、目覚めたばかりの為か、ふらつく頭を抑え辺りを見回す。 ここは一体何処であろう。青く澄んだ空から差す日差しが眩しい。 爽やかな、すこし肌寒い空気。そして耳を澄ませば、鳥のさえずりさえ聞こえてくる。 普通なら、ごく有り触れた平和な光景である。しかし彼は困惑していた。 この状況が、彼が目覚める直前にいた場とはあまりにかけ離れていたから。 幸いな事に、先の戦いで負った傷はそれ程深くなく、ほぼ塞がりかけていた。 地面についた手に、草の感触を感じながら、あたりを見やろうとした。すると。 「あんた、何なの?」 地べたに座ったままの男の眼前に、唐突に棒の様なものが突きつけられた。 ゆっくりと棒切れから視線を上げる。するとそこには、一人の少女。しかし。 「(な、南蛮人?)」 そう、桃色ブロンドの長い髪に鳶色の瞳。黒いマントに白いブラウス、膝丈ほどのスカートといった出で立ち。 その男にとって、目前の少女は南蛮の人間であった。 見慣れない、南蛮渡来の服装の少女がそこにいた。 暗の使い魔 第一話 『異世界』 年の程は15から16くらいであろうか。整った顔立ちだが、現在のその険しい表情からは、不機嫌さがありありと伝わってきた。 「な、何だいきなり」 とりあえずわけのわからないまま、男がようやく言葉を発した。彼には、今のこの状況がさっぱり理解できない。 目覚めると、晴れ渡った草原に寝そべる自分。そして初対面で少女が無礼にも、お前は何だ、ときたものだ。 分けもわからずにいると、今度は大勢の笑い声がその場に響いた。 みるとやや離れた場所で、少女と同じく妙な格好の少年少女らが、こちらを指差し笑っていた。 「ルイズ!サモンサーヴァントで人間を呼び出してどうするの?」 そんな言葉に、嘲笑をふんだんに含んだ笑い声がより一層強まる。 見ればその少年少女らも全員南蛮の人間であるようであり、その全員が目の前の、ルイズと呼ばれた少女と同じような格好をしていた。 「しかもあの格好、奴隷かなにかじゃないか?」 「奴隷か!そりゃいい!」 ルイズと呼ばれた少女の顔に、サッと赤みが走る 「ミスタ・コルベール!」 顔を真っ赤にしたまま、ルイズが呼びかける。 すると、嘲笑する少年少女らの集団を割るようにして、彼らの中から一際年配の男性が現れた。 年の程は40代半ばであろうか。見事に禿げ上がった頭と、知的な眼鏡が印象的な男性である。 そして彼もルイズらと同じように、南蛮渡来の服装に身を包んだ、南蛮の人間であった。 コルベールと呼ばれたその男性は、落ち着いた様子でルイズに向き合う。 慌てて駆け寄るルイズ。彼女の方はなにやら焦りと不安の入り混じった表情である。 「何だねミス・ヴァリエール」 コルベールは、やれやれといった様子で答える。 「あの、もう一度召喚させて下さい!」 「それは無理だ」 彼女の必死な懇願は、その一言できっぱりと跳ね除けられた。 理由はと問えば、やれ神聖な儀式だの、例外は認められないだの、何とも形式めいた言葉が聞こえてくる。 未だ蚊帳の外にて放置されている男は、それらの僅かな会話から、自分の置かれた状況を少しでも把握しようとしていた。 どうしたものか、と頭を掻こうとして、その時彼は自分の腕につけられた『それ』の存在を思い出した。 先程から少女も中年の男性も、こちらをチラチラ見ながら会話をしている。 ルイズはまるで不審者を見るような目で、コルベールは何やら困り果てたかのように眉を寄せながら。 彼の腕にあるそれは、頑丈そうに金具で固定された木製の枷。 そしてさらに枷には、長く丈夫な鎖に続く、黒々とした巨大な鉄球が繋がれていた。 その大きさはたるや人の膝丈程も高く、椅子としても活用できそうである。 先程、遠くの集団から投げかけられた、『奴隷』という言葉を思い出す。 確かにそうだ。初対面の人間が彼の出で立ちを見れば、まず囚人のように思うだろう。 彼の服装にしてみてもそうだ。 土で薄汚れた、陣羽織に袴、中には重い甲冑を着込んでいる。 伸びに伸びた髪はボサボサで、申し訳程度に後ろで束ねられている。 そして前髪は目元を隠し、非常に怪しい出で立ちである。 だがそれにしても。 「奴隷とはなんだ奴隷とはぁ!」 枷のついたままの両腕を空に掲げ、そんな叫びとともに男は立ち上がった。そして未だ嘲笑の止まない集団にむかって吠えた。 「小生だってなぁ!好きでこんなもんつけてんじゃなあい!」 ジャラリと鉄球の繋がれた鎖を持ち上げながら、中腰でなんとも情けない格好で叫んだ。 なんだなんだと男に注目を集める少年少女ら。しかしその注目もすぐに笑いのネタにされた。 「あっはっは!ルイズの使い魔が何か叫んでる!」 「なんていうんだっけこういうの?笑止?」 ぐぬぬといった様子で少年少女らの格好の笑いネタにされてることに歯軋りしながら、男はとうとう言い争っているルイズとコルベールに詰め寄った。 「やい!いったいどうなってやがる!?小生にも説明してくれっ!」 ずるずると鉄球を引きずりながら間に割って入ってきた男に、二人は一瞬たじろいだ。 男が思っていたよりも大柄であったからである。 みればこの場で最も年長者であろうコルベールよりも、頭一つ分ほど高い。 体格も筋骨隆々であり、二の腕など通常成人の倍はありそうな太さである。 「ちょ、ちょっとなによあんた」 「ミ、ミスタ、とりあえず落ち着いてください」 「落ち着いてられるか!」 とりあえず食って掛かる男をなんとかすべし、と踏んだコルベールが、なだめようと声を掛ける。しかし男は止まらない。 どうしたものか、と次の言葉を選んでいたコルベール。 だが次の瞬間、唐突に横から飛んできた言葉に彼はぎょっとすることになる。 「あんたは私が使い魔として召喚したのよ」 ピタリ、とその場の時が一瞬だけ止まった。 「あーミス・ヴァリエール説明には――」 説明には順序がある、と続けようとしたコルベール。しかし、今度は彼女の言葉が止まらない。 「これからコントラクトサーヴァントの儀式を行わなきゃならないの。 あんたみたいなのが貴族にこんなことされる機会なんて、普通は一生あり得ないんだから感謝なさい。」 「あぁ!?何言ってやがる?」 いよいよわけのわからない男。 ここまで来たら仕方無い、と首を振るコルベール。 そしてルイズは―― 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」 静かに、しかし力強い口調でなにかを唱え始めた。 「(なんだ?)」 何だかんだと騒いでいた男も、少女の急な変化と、作り出された場の空気にだじろぐ。 そしてルイズが男の目の前で杖を振るった。 「なんの真似だ」 「うるさいじっとしてて」 そう言うとなんと、彼女は息の掛かりそうな程に男との距離を詰めてきた。あまりに急な出来事に、彼は思わず後ずさった。 「ちょっと!なんで逃げるのよ」 「逃げるわ!何考えていやがる!」 これには流石の男も動揺した。いくら南蛮人とはいえ、見目麗しい年端の行かぬ少女にここまで寄られるのは初めてである。 先程の勢いはどこへやら、少女と距離を開けるべく男が足を上げたその時であった。 「あらあっ!!?」 男の足が、彼の枷に繋がれた鉄球にとられ、彼の身体は盛大に後方へと傾いた。 少女に注意を向ける余り、足元の自分の鉄球に気がついていなかったのだ。 男は、体制を立て直すべく、地に着いたもう片方の足で踏ん張る。しかし 「なっなぜじゃ!?」 もう片方の足には、鉄球と枷をつなぐ鎖が絡みついていた。 先程鉄球につまずいた際絡まったのか、もしくは後ずさる際に絡みとったのを気がつかなかったのか。 いずれにせよ、両の足と両腕を封じられた男には成すすべなく、そして倒れこんだ先には。 「えっ?」 桃色の髪の少女が居た。 ずしゃぁっという音と共に二人の人物が草むらに倒れこむ。 しばしの沈黙 「ミ、ミスヴァリエール!」 やや離れた距離からその様子を見ていたコルベールが、あわてて駆け寄ってきた。 彼には詳しい状況は良く見えなかったが、男が自分の生徒に倒れこむ瞬間だけは見ていた。 少女が、あれだけ大柄な、しかも重そうな甲冑らしきものを着込んだ人間の下敷きになって無事であろうか。 いやある筈無い。そう思ったのであった。 「無事ですか!?ミスヴァリエール」 「う~ん」 「ぐぅ」 その場所から二種類のうめき声が聞こえてくるのを聞いて、彼はほっと胸を撫で下ろした。 ともかく彼らを引き剥がそうと近寄った、その時。 「……むぅ?」 「ぐっ?」 彼は気がついた、二人が水平に向かい合うようにして倒れているのを。 ルイズが草むらを背に、男はそれに覆いかぶさるように。 幸いな事に男のほうは両肘で身体を支え、ルイズを下敷きにするような事態は免れたようだった。しかし。 「こ、これは」 そう、男は真正面からルイズを押し倒す形で、不本意ながら――いやむしろ役得かもしれない――ルイズと接吻を交わしてしまっていた。 ルイズはといえば、倒れた衝撃の為か衣服が乱れ、グレーのスカートは太ももの上までめくれ上がり、白い下着がもろに見えてしまっている。 そんな二人の様を見て咄嗟に目を逸らすコルベール。 今はお互い追突の衝撃で前が見えていない。 だが、そのまま見えていないほうが良かったかもしれない。 「ッ!!?」 「うおっ!」 男は目の前の光景に驚き跳ね上がった。そして今の今まで唇に感じていた柔らかい感触の正体を目の当たりにし―― 「きゃああああっ!」 目の前で響いた悲鳴と 「うぐおおおおおおおおおおおっ!!!!」 ズゴッっという鈍い音と共に己の下腹部に走る激痛、とともに地面を転がった。 地面に尻餅をついたまま後ずさりつつ立ち上がるルイズ。 「こっこここ、ここの変態!よくもこのド変態!!」 衣服の乱れを直しながら、ルイズは烈火のごとく男を罵った。 先程の鈍い音は、ルイズの靴のつま先が男の股間に鋭くメリ込んだ音である。 「しょ小生にっ……なんの、恨みが、あって……!ぐっ……」 未だ引かない痛みに呼吸もままならない男が、ひねり出した言葉はそれが精一杯であった。 「な、何故じゃあ……!」 急所中の急所に一撃必殺を叩き込まれた男は、そのまますうっと意識を失った。 そのとき、左腕に生じた違和感には気付くこともなく。 「よくもっ!ファーストキスだったのにっ!こんな形で!この破廉恥男!聞いてるの!?」 意識の無い男を未だ罵り続ける彼女を尻目に、コルベールは仕方なさげに肩をすくめると、ゆっくりと男に歩み寄っていった。 「やれやれ、どうしたものか……」 男の左腕にはいつの間にか、見た事も無い奇妙なルーンが刻まれていた。 「消えた……とな?」 「はっ、あの方によれば、突如姿見のような物が現れ飲み込んだと……」 「左様か」 周囲に人の気配はなく、辺りを闇が支配する。 襖に囲まれた狭い個室に、二人の人影を灯篭が照らしていた。 一人は忍びと思われる装束に身を包んだ男。低く身を屈め、目前の人物にむきあう。 そしてもう一人。忍びに背を向け、報告に耳を傾ける人物。 全身を包帯に身を包み、朱を基調とした異様な甲冑を身にまとう男。 顔前面も包帯と朱色の面に包まれ、そこからは一切の表情も読み取れない。 更に異様なのは、その男は床に脚をつけていない。宙に浮く奇妙な輿に座りながら、手にした書物に向き合っていた。 「何者かが、あやつの逃亡を手助けしたということか。おそらくは、術に長けた者の仕業であろ」 輿の上の男は、ぱらぱらと、書物をめくる手を休める様子もなく淡々と呟いた。 「大谷様、いかがいたしましょう」 忍びの男が短く問いかける。 大谷と呼ばれた男は、一瞬の思考の後ゆっくりとした口調で、忍びの男に伝えた。 「何としても見つけよ。アレがどう足掻くか見ものではあるが、ちょこまか動かれるのもまた癪よ」 「はっ」 その言葉に頷くと、するりと闇に吸い込まれるように忍びはその場から消えた。夜の闇の中残ったのは大谷ただ一人であった。 「はてさて照魔鏡の戯れは吉と出るか凶と出るか」 だれに問うわけでもなく、大谷は呟く。 「だがいかなるものの助けを得たところで、ぬしの星は動くまいぞ」 あの男は全てが裏目に出る不運の持ち主である。その厄の深さは留まるところを知らない。 そう考えると大谷は、口元の包帯をくしゃりと歪め、ヒヒヒと短くほくそ笑んだ。 「黒田官兵衛め……」 「クロダカンベエ?変な名前」 「失敬だな、お前さん」 男はまず、名乗って早々に自分の名を貶されたことに腹を立てた。男の名は黒田官兵衛。 かつて、覇王・豊臣秀吉に軍師として仕えていた男である。 豊臣の軍師といえば、ある二人が挙げられる。 一人は、明晰な頭脳と、鞭のような剣を華麗に操る技を持つ男。天才軍師・竹中半兵衛。 そしてもう一人。 あらゆる事象を見通す慧眼と智謀を兼ね備えた、豊臣軍に無くてはならない存在。超天才軍師・黒田官兵衛。 世に言う二兵衛と名高き、秀吉を天下へと導いた軍師達である。 「そう!小生こそが二兵衛の賢い方、黒田――って聞かんかい!」 「あんたの妄想話はどうでもいいのよ」 まるで興味なし、といったばかりにルイズは自室のベットに腰掛け、ぼんやりとしていた。 今二人は、事情を説明する為、トリステイン魔法学院にあるルイズの自室に来ていた。 官兵衛がこの場所に召喚されて、どれほどの時間がたったであろうか。 辺りはすっかり夜も更け、窓の外には奇妙な事に、二つの月が上がっているのが見えた。 「妄想だと!小生からしたらお前さんらの方がよっぽど胡散臭い!大体なんだ魔法って。ここはどこなんじゃ!」 「だから言ったでしょ!ここはハルケギニア大陸にあるトリステイン魔法学院よ!」 「だから知らんと言ってるだろうが!聞いたことも無い!」 ぎゃいぎゃいと、お互い喧しく騒ぎ立てる内に、このように夜が更けてしまったという訳である。 因みに官兵衛が召喚されて気絶から目覚めた直後から、会話の内容はほぼ変わっていない。 「ハァ……まったくどこの田舎者?トリステインはおろかハルケギニアを知らないなんて」 拉致があかない、とばかりにルイズは上を見上げる。 「大体ニホンなんて国、聞いたことも無いわよ。言葉も通じるし。あんたハルケギニアの人間でしょ?なに意地はってるのよ?」 「ぐっ……もういい。それよりだ、聞きたいことがある」 ここが一体どこなのか、魔法が何なのか。官兵衛にとってそれらは、ぶっちゃけどうでもよかった。 ただ彼が、あの夜空に浮かぶ不気味な月を見て思った事はただひとつ。 「元の場所に帰るすべはあるのか?」 それが全てだった。ここが全くの異界であろうと、帰る手段さえ確立されていればどうという事は無いのだ。 彼には日の本でやり残したことが山ほどある。その為には何としてでも元の地に帰してもらわなければならないのだ。だがしかし。 「無いわ」 帰ってきた答えは非情なものであった。あまりにあっさりした回答にずるり、と思わず体制を崩す官兵衛。 「いやいやいや!それは無いだろう、なあ!」 額に一筋の汗を浮かべながら、流石にそれはない、否定する。 「無理よ、だって元の場所に帰す呪文なんて聞いたことないもの」 「聞いたこと無いで済むかっ」 これには流石の官兵衛も我慢ならなかった。 「あのな!小生はこれでも忙しいんだよ!さっきも話したろう?天下がかかってるんだよ!テンカ!」 立ち上がり、ズカズカとルイズに詰め寄りながら、官兵衛はいかに自分が大変であるかを、オーバーなリアクションで表現した。 「何よテンカって。さっきの妄想の続き?」 「違ぁぁぁう!」 何でまたこうなるのか、と官兵衛は頭を抱えざるを得なかった。 「よしわかった、小生をここに呼んだ術があるだろう?」 「あるわね」 「それを試してくれ」 これなら文句は無いはずだ、と思った。自分がここに来た手段なら、帰る手がかりになると。 「それも無理」 「な、何故じゃ!?」 だがこれも帰ってきた答えは無慈悲なものであった。 「一度召喚してしまったら二度と使えないのよ」 なんだそりゃ、とばかりに肩を落としながら、それでも官兵衛は食い下がらなかった。 「駄目元でもいいから試してくれ。お前さんなら出来るデキル!」 とりあえず褒めておけ、とばかりに棒読みの賞賛を重ねてみる。すると、ルイズは静かに。 「だから無理だってば。サモンサーヴァントの呪文を再び唱えるにはね。」 「フムフム」 「使い魔が死なないといけないのよ」 さらりと絶望的なセリフを吐いた。 「えっ」 官兵衛は、顔から一気に血の気が引くのを感じた。 「じょ、冗談じゃないぞ……」 とどのつまり、自分は死ぬまでこのまま、このよく分からない世界で過ごす、と言う事ではないのか。 真に冗談ではなかった。 「まあいいわ、ともかくあんたは私の使い魔なのよ。貴族に仕えるんだから光栄に思いなさい……って」 上を仰ぎながらそんな事を喋っていたルイズが、視線を戻した時、すでにそこに官兵衛の姿はなかった。 「冗―談じゃないぞおおおおおおお!!」 先程から同じように言葉を繰り返しながら、官兵衛は寮のある塔の階段を猛スピードで駆け下りていた。 自分は帰れない、帰る手段が無い。そのような耐え難い事実を認めるわけにはいかなかった。 こうなれば自力で戻る手段を見つけてやる。そんな考えが彼を突き動かした。その結果がトンズラである。 元豊臣軍の軍師・黒田官兵衛。何より優れた慧眼を持つ彼だが、今回のこの状況はシャレにならなかった。 訳のわからない異世界に一人。右も左も分からず放り出され、帰れないとくれば、この混乱は当然かもしれない。 ズリズリと重い鉄球を引き摺り、わき目も振らず走り去る。そんな状況で彼がアクシデントに遭遇しないわけが無かった。 階段を下りきり、ようやっと塔の出口に差し掛かったその時。 「きゃあっ!」 短い悲鳴とともに、何かにぶつかる感触を感じた。 「うおっ」 突然の事態に官兵衛も立ちすくむ。どうやら混乱のあまり周囲をよく見ていなかった為、人にぶつかっってしまったようだ。 見ると、官兵衛から1メイルは離れた距離に一人の少女が尻餅をついて倒れている。 「いたた……」 少女の傍には桶らしきものが転がっており、その周りには衣類らしき布切れが無数に散らばっている。 恐らくは、この施設の侍女にあたるのだろう。洗濯物を運んでる途中に官兵衛と激突してしまったのだと思われた。 「あー!すまん、大丈夫か?」 「いえいえ、こちらこそ申し訳ありません。前を見ていなくて」 日本人を思わせる黒髪の少女は、ぶつけた箇所を擦りながら答える。 「悪かった、小生も急いでいたもんで。立てるか?」 混乱していたとはいえ、一方的にぶつかったのはこちらである。とりあえず謝りながら、官兵衛は少女に両手を差し伸べる。 少女の方も、はにかみながら、差し出された手に掴まろうとして。 「ありがとうございます、おきになさら……ず……」 その時、少女は違和感に気付いた。 「あ、あなたは……?」 「え?」 見れば少女の視線は、官兵衛の両腕の枷、そしてそれに繋がれた鉄球に映っていた。 そしてゆっくりと顔を上げ、こちらを見上げる。 その顔には、明らかに不審なものを見る表情が見て取れた。 まずい。 思えば自分はこの世界に来て、ほぼルイズ以外の人間と接触していない。 知らぬ人間が、この学園内で今の姿の自分を見れば、誰だって不審者に思うに違いない。 何とか弁明しなければ、官兵衛はそう思った。 「ま、待て小生は怪しいもんじゃあ……」 しかし彼の口からひねり出せたセリフは、それが精一杯。これで自分の立場を説明できよう筈もない。そして。 「きゃあああっ!」 塔内に、少女の悲鳴が響き渡った。彼の短い努力は無駄に終わった。 「なっ!何故じゃあ!」 と、その時。 「待ちなさい!そこの!」 「何の騒ぎだね!?」 寮へと続く階段からどやどやと生徒達が降りてくるのが見えた。ルイズ達だ。 また傍には悲鳴を聞きつけたのか、金髪の見慣れない少年の姿もあった。 「ち、チクショー!」 この状況はマズすぎる。まるでこれでは、自分がこの場で少女に何かしたみたいではないか。 ともかく官兵衛は捕まらぬべく、すぐ傍の塔の出口から学園の外へと駆け出す。 「何で次から次へと!」 官兵衛は、今日のこの日ほど己の不運を呪った事は無かった。 塔から学園の周りを囲む平原に出て、官兵衛はどこかに身を隠せそうな場所はないか、辺りを見回した。 しかし、すぐ近くには身を隠せそうな場所は見当たらない。 こうなれば、平原の向こう遠くに見える森の中へと逃げ込むしかない。 そう考え、再び駆け出そうとした、その時。 「うぉっ!?」 「やれやれ、捕まえた」 何と、官兵衛の両の脚が宙に浮かび上がった。 「何だこりゃあ!」 見れば自分の7~8メイルほど後方で、先程の少年がこちらに向けて、薔薇の華のようなものを振るっているではないか。 「畜生ッお前の仕業か!下せ!下しやがれ!」 ジタバタと両手両足を動かす。しかし、高く浮かび上がった官兵衛の身体は虚しく空を切るのみだった。 「ルイズ、捕まえたよ。全く自分の使い魔の管理くらいしっかりしてほしいものだね」 塔の方から遅れて駆けつけてきたルイズに、少年は杖を振るったまま答える。 ギーシュと呼ばれた少年は、フリルのついたシャツに金髪の巻き毛の、なんとも気障な出で立ちの少年だった。 官兵衛には目もくれず、やれやれといった様子でルイズに向き合っている。 「まあいい、彼を部屋まで運べばいいんだね?」 ギーシュの言葉にルイズが頷くと、彼は仕方なさげに宙に浮いた官兵衛に向き合おうとした。その時だった。 「うわあっ!?」 何とギーシュの足元に直径1メイルはあろう、鉄の塊が飛んできた。 巨大な剛速球は地面の土ごとギーシュを吹き飛ばし、辺りに土埃を巻き上げる。 それは紛れも無く、官兵衛の両の腕にくくりつけられていた鉄球であった。 予想だにしない攻撃に、ギーシュのレビテーションのコントロールが乱れた。そして。 「どわぁっ!」 糸が切れたように、官兵衛が背中から地面へと落下した。 そのまま即座に体制を立て直し、鎖で繋がれた鉄球を手繰り寄せ、ギーシュに向き合う官兵衛。 「い、一体何だ!?」 ギーシュ本人も一体何が起きたのか分からなかった。幸いにも鉄球は直撃しなかった為、吹き飛ばされただけで彼自身は無傷だ。 しかし、吹き飛ばされたギーシュも、我に返ると跳ねるように立ち上がり。 即座に官兵衛へと、薔薇の造花を向けた。 二人の男が静かに対峙する。 「いったい何をした!?」 「なに、お前さんが余りにしつこいんでコイツをお見舞いしてやっただけさ!」 そう言うと官兵衛は、自分の足元に転がる鉄球を脚でかるく小突いた。 さらに官兵衛は続ける。 「どうやら、お前さんを何とかしないと自由になれんらしい!こうなりゃやってやる!小生は、自由だぁ!」 官兵衛の左腕のルーンが、僅かに輝きを放っていた。 機略重鈍 黒田官兵衛 召 喚 前ページ次ページ暗の使い魔
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前ページ次ページ紙袋の使い魔 決闘の日から一週間程の時間が流れた。 ファウストの自室はルイズしか入らなかったが、人の出入りが多くなった。 あの日以来、ギーシュは平民だからといって高慢な態度を取る事は無くなり、モンモランシーとの中も好調であるらしい。ときおりファウストの下へ話をしにきたりしているようだ。 シエスタ、マルトー、コックやメイド達は、自らの体を張ってシエスタを守ってくれたファウストを「我等が槍」、「紙袋の名医師」、「お茶目なお医者様」と呼び慕っている。 キュルケは今まで以上にルイズをからかい、タバサはちびファウストくんと共に遊びに来ては彼に病の事について話をしにきている。 ルイズはと言うと・・・・。 決闘以来、今まで自分に対して馬鹿にした態度を取っていた生徒たちが、畏敬の視線を浴びせてくるようになった事を疑問に感じていた。 ファウストのおかげかしら?と自分に優位な考えで解釈していたが。 今まで通り、ファウストと自身の魔法について意見を交わし、裏庭なんかで実験を繰り返す。 そんな日々である。 あっという間に一週間が立ち、虚無の曜日がやってくるのであった。 「ファウスト。今日は虚無の日よ。街へ買い物に行きましょう」 「虚無の日?お休みの日ですか?」 「ええそうよ。前に言ってたでしょ?武器が無いって。この前の決闘の時の槍ってニセモノだったんでしょ?街でちゃんとした物を買ってあげるわ」 「別に武器が欲しい訳じゃないんですがねぇ・・・。まぁ、折角のご好意。断る訳には行けませんねー」 その日も、普段どおり部屋にて勉強、そして練習を行うと思っていたファウストであったが、今日は違うようだ。 この世界の町というものを見たことが無かったので、準備をし、ルイズへと着いていった。 「ルイズさん、街は遠いのですか?」 「そうね。馬に乗って三時間くらいね」 「案外かかりますねぇー。ルイズさん、詳しい場所は分かるのですか?」 「大丈夫よ。何故かしら?」 「それならコレを使って行きましょう」 鞄をガサゴソと漁ると、とても大きな扉が出てくる。 「何処○もどあ~」 少ししゃがれた声で高らかに言った。 あの鞄の中身はどうなっているのであろうか?気になってしょうがない。 「・・・・それは何なのかしら?」 「コレを使えば知っている場所へすぐ着きますヨ。さぁルイズさん、場所を思い浮かべて下さい」 「気にしない気にしない。一休み一休み・・。気にしたら負けね。行きましょうか」 考えるのを止めたルイズはファウストと共に、扉へと入っていった。 その日もタバサは、朝早く起きて読書をしていた。庭の木の下でだ。 隣にはちびファウストくんと彼女の使い魔である、シルフィードが遊んでいる。 「きゅいきゅい!ちびファウストくん!そこはダメなのね!」 タバサは無言で杖の頭でシルフィードを叩いた。 「喋ってはダメ。だれが見ているか分からない」 「お姉さまのイジワル。だってちびファウストくんがシルフィの変なとこ舐めるのね」 「喉元を舐められただけ。そういうサービス発言はいらない」 彼女の言っている意味が分からないシルフィードはそのままちびファウストくんとじゃれあっていた。 「そろそろ時間。ちびファウスト。あなたのご主人様の所へ行きましょう」 彼女はお昼過ぎのこの時間、いつもファウストの元へと向かうのであった。 自分が知らない未知の魔法について、そして医者だという彼に病についての質問をしている。 頷いたちびファウストくんを引き連れ、彼女はファウストの元へと向かった。 「いってらっしゃいなのねー。お姉さ・・・痛っ・・・・」 シルフィードに軽いエアハンマーでオシオキした後、ファウストの部屋の前に着いた。 しかし、ノックをしたが反応が無い。彼女は一応断りの台詞を入れて部屋を開けた。 「・・・・誰もいない。ルイズも。虚無の曜日だから出掛けた・・・?」 部屋の前で考えているとキュルケが自室から出て来たらしく話しかけてきた。 「どうしたのタバサ?何、今日もミスタ・ファウストへ質問タイム?熱心ねぇ。それで、部屋の前で何してるのかしら?」 「居ない。どこかに出掛けたらしい」 彼女の台詞を聞いたちびファウストくんが服を引っ張っていた。 「・・・場所が分かるの?着いて来い?」 こくこくと呟くちびファウスト君。 「すごいじゃないのタバサ!話が分かるの?」 「何となく」 「それで、行くのかしら?私も着いてっていいかしら?」 こくりと頷くと、部屋の窓を開け、口笛を吹いた。 窓枠によじ登り、そのまま外へと飛び降りた。 何も知らない者が見たら頭を疑うであろうその行動にキュルケは全く動じず、自身もその身を空へと躍らせた。 ばっさばっさと力強く翼を羽ばたかせ、シルフィードは彼女等を受け止める。 「いつ見ても貴女のシルフィードは惚れ惚れするわねぇ」 そう、タバサの使い魔、シルフィードは竜の幼生なのであった。 「どっち?」 ちびファウストくんはその問いに、東の方へと指をさす。 「あっちは街のほうね。虚無の曜日だから街に買い物にでも出かけたのじゃないかしら?」 キュルケの恐ろしいまでの推理にタバサは頷き、シルフィードを街の方へと急がせるのであった。 扉から出ると、そこには街が広がっていた。 「ほんとーに何でもありねあんた・・・。驚かないって決めてたのに驚いちゃったわ。その内奇跡の一つでも平然とおこしそうね・・・」 「ルイズさん・・・奇跡とは、待つものではないのです。日々の努力が奇跡へと繋げるのです。そして奇跡を起こさなきゃいけないのが医者なんですよ。例え1%を切っている確率でも、我々医者は成功しなきゃいけない。いえ、させるのです」 「これはお医者様とは何の関係無いでしょう!?ごまかそうとしたってそうはいかないんだから!」 「あひゃ!バレましたか!細かい事気にしてたらハゲちゃいますよぉ~ルイズさん!」 もう付き合ってられないとばかりに、ファウストへと背を向けると、街の奥へと歩いていった。 途中、ファウストは何度も人とぶつかっていたが、その度に相手から何とも言えない声がしていた。 「ルイズさん。ここはスリが多いですねぇ~」 「え!?あんたもしかしてスラレたの!?」 「そんな訳無いじゃないですかー。スロウとしてたのでぶつかって来た時に体を少し弄ってあげただけですよぉー」 その日、町でスリをしていた連中は、変な被り物をしている貴族の連れから財布をスロウとしたが ことごとく失敗に終わった。その際、体に軽い違和感を感じ意識を失ったのだが、目が覚めるとニキビが治っていたり、水虫が治っていたり、体のありとあらゆる異常が治っていた。 紙袋を被ったあの男は始祖の使いに違いない、そう信じ、あの男に救って貰ったこの体。悪さをすることは出来ぬと改心し、まっとうな職を探すのであった。 その日以来、街での犯罪件数が激減したのであった。 ルイズは目的の店の看板を見つけると嬉しそうに呟いた。 「あったわ。中に入りましょう」 店の中は薄暗く、ランプの灯りが灯っていた。周りを見渡すと、甲冑や剣、大きな出刃包丁のような剣など様々な武器が置いてある。いかにも武器屋といった様子だ。 店の奥でパイプを咥えていた50がらみの店主らしき男は、店に入って来た人物が貴族であると気付くと低い声で喋った。 「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてますぜ。貴族様に目をつけられる様な事は一切合財しておりませんや」 「違うわ。客よ」 「これはこれは!貴族様が剣を!こりゃおったまげた!」 「違うわ。私のを買いに来たのではないわ。ファウスト。入ってらっしゃいな」 店主は黙ってその様子を見ていたが、入ってきた男に驚き声を出すことが出来なかった。 なんせその男扉を狭そうにくぐったかと思うと部屋の中で立ち上がった。 自分が見上げる程の大男。店主は自身の体格で見上げる程の男に出会うのは武器屋生活25年間の中で初めてである。 「貴族様・・・こちらの方用の武器で御座いますか?」 「ええ。そうよ。私の使い魔のファウストよ。槍を探しに来たのだけども・・・」 主人はいそいそと店の奥へと消えると、次々と槍を並べていった。 「貴族様、そちらの方にあうような武器になりますと当店にはこのくらいしか御座いません」 そういうと店主は槍の説明をしていった。 「右から、かつて伝説の白い魔人が使ったと言われる「テックランサー」、何度倒されても決して諦めずに姫を救った騎士アーサーの使ったと言われる槍、ナイトと呼ばれた騎士が使ったとされる全てを貫く「ミストルテイン」で御座います」 「どれも強そうな槍ねぇ・・・どれがオススメなのかしら?」 「どれもオススメで御座いますよお客様。これらの武器なら世間を騒が盗賊を見事撃退できますぜ」 「盗賊・・?」 「ええ。何でも土くれとか呼ばれているメイジの盗賊が、貴族のお宝を盗みまくってるらしいですぜ」 ルイズは盗賊へはあまり興味は無かったが、見れば見るほど素晴らしい武器たちに目移りしてばかりである。 「どう?ファウスト。この中にあんたに使えそうな槍はあるかしら・・・?」 「う~ん。私は別に凄い武器が欲しいって訳じゃないんですがねぇー。どれもこれも強い何かを感じるのですが」 その時、乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。渋く、若本御大のような声が。 「何言ってるんだ?オメェ。武器屋に来て武器をいらないとはどういう要件でぇ」 ルイズとファウストは、声のする方へ近づくがそこには人の影はない。 「何~処見てんだいお前さんたち?俺ぁ、目の前に居るゼェ~?」 どうやら声は目の前の剣から発せられているらしい。 「面白いデスね。剣が喋るとわ!実に興味深い!あ・・・そういえば鍵も喋ってましたね・・・」 ファウストがそういうと、店主は剣へと怒鳴りかけた。 「デル公!大事なお客様に変な事言うんじゃない!」 「お客様だぁ?そいつ武器を求めていないじゃないのさぁ~!」 剣と店主の間で険悪なムードが広がる。 少し考えるとファウストは、間へと割って入った。 「まぁまぁ。抑えて下さいお二人さん。デル公さんあなた面白いですよぉー実にね」 「武器がいらねぇ奴に褒められても嬉しく無いッつーの!それに俺の名はデルフリンガーって名があらあなぁ!」 「それはすみません。私の名はファウスト。以後お見知りおきを・・・」 剣は黙ると、じっとファウストを観察するように声一つ発しなかった。 しばらくし、剣は小さな声で喋り始めた。 「こ~いつはおでれぇたぁ!おめぇ使い手じゃないのさぁ~」 「使い手・・・と申しますと?」 「自分の事も把握してないのかいぃ?まぁいい。俺を買いな。武器屋に来たって事は一応なりにもそれ相応の物を探しに来たんだろう?損はさせないゼェ?」 剣を手にし、沈黙していたファウストはルイズへと話しかけた。 「ルイズさん。私、このデルフリンガーくんでいいです」 「ちょっとファウスト。あんた槍がいいんじゃないの?」 「まぁそこの所は何とでもなりますヨ。それに面白いじゃありませんか。喋る武器・・・。デルフリンガーくん?」 「何だぁ?使い手」 「君を買いましょう。ただし、条件が一つあります」 「何でも聞いてやるぜぇ。こんな場所で朽ち果てていくくらいならどんな条件でも受け入れてやらあなぁ!」 「それは重畳。ではルイズさん。お願いします」 ルイズは多少不満げな顔をしていたが、自分の使い魔のいう事を素直に信じる事にした。 本人がこれでいいと言っているのだ。無理に止める事もないだろう。 「あれ、おいくら?」 「あれなら百で結構でさぁ」 「あら安いわね。今日は家が買えるくらいのお金は持って来てたのに」 「あっても邪魔ばっかするんで、こちらとしてもいい厄介払いでさ。ちなみに先ほどの槍なら一本でお客様の手持ち分程で御座いまさぁ」 ルイズは財布から、金貨百枚を店主へと手渡すとファウストと共に店を出て行った。 店を出ると、ファウストは喋る剣へと話しかける。 「それではデルフリンガーくん。先ほどの話、聞いていただきますよ?」 「おう!ど~んと来いやぁ!男に二言は無いゼェ!」 「では、あなたを私の使いやすい様にイジらせて貰いますネ!」 「・・・・は?何の話をして・・・」 「それでは!オペ開始デス!」 ルイズの目の前で嬉しそうなファウストと泣き叫ぶ剣の狂宴が始まった・・・。 ルイズは何が行われているかをあまり見たくないので、耳を塞ぎながら 後ろを向いてしゃがみこんだ。 「ちょ・・・何をぉ・・・あっ!そこはダメ!」 「大丈夫デス。すぐ済みます。ほら段々と・・・」 「そんな所までぇ・・・ダメだぁ・・・バカになるぅ!」 剣が喘ぎだした・・・ルイズは今朝あまり御飯を食べてこなくて良かったと 本気で思った。 「らめぇぇぇぇぇ!俺は・・・俺は・・・アッー!!」 どうやらそのおぞましい何かが終わったようだ。 ルイズはゆっくりと振り返る・・・。 「オペ完了デス。お疲れ様でしたデルフリンガーくん」 めそめそと小さい声で呟く。 「ううっ・・・ブリミル・・・オレァ・・・汚されちまった・・・。6000年間生きてきたがこんな使い手初めてだ・・・。ところでブリミルって誰っけか?」 「フフフ・・・あなたは生まれ変わったのですよデルフリンガーくん!そう!私の使う万能文化メス・・・デルフちゃんとして!」 デルフリンガーは既に剣では無かった・・・。この世界には存在しない武器(?)ファウストのメスとして生まれ変わったのだ。初めてみる形にルイズは興味を持つ。 「へぇ・・・これがアンタが言ってたメスってやつなんだ?」 「そうですよ。あるときは手術時の最愛のパートナー・・・またあるときは私を守る武器・・・そしてオシオキ兵器」 デルフリンガーを掲げながらうっとりとする。 「どうです?ルイズさん・・・いい輝きでしょう?フフフ・・・フフ・・」 ファウストがいつにもなく怪しい。 「そ、それは良かったわね。目的の物も手に入った事だし帰るとしましょうか」 「・・・そうですね。何処で○どあ~」 それから程なくして街へと着いたタバサとキュルケであったが、目的の人物たちが既に帰った事を武器屋の店主から聞くと・・・。 「タバサ・・・私たちって・・・完全に・・・」 「それは言わない方がいい。自分たちが傷つくだけだから」 「そうね・・・・」 彼女等は素直に学院へと帰っていった・・・。 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前ページ次ページネコミミの使い魔 マミお姉ちゃんに聞いたことがある。 国境のトンネルを抜けると、で始まる有名な小説があるって。 魔女との戦闘中に、結界内で鏡が現れて、次の階層へと向かうドアと思って飛び込むと、そこには抜けるような青空と、草原が待っていました。 周りには中世ヨーロッパのような建物が並んで、様々な生き物たちが、そこには非生物や何から何までわたしを注目しているのでした。 「あんた誰?」 その中でも一番注目をしていたのでしょう、ブロンドの桃色がかった、ふわふわの長い髪を持つ綺麗な女の人。私をまじまじと見つめながら口を開いていました。 織莉子お姉ちゃんとの戦闘で共闘したあと、唐突にいなくなってしまった色白のほむらお姉ちゃんと同じような肌を持つ女の人。 でも、おそらく日本人じゃない。 沢山の人から注目されてわたしは泣きたくなってしまいました。もともと心が強くない私はこういうふうに注目されることに慣れてはいないのです。 「うう……」 涙が出そうになるのを一生懸命我慢をします。 口を一生懸命に閉じて涙を出ないように。 すると桃色の髪の人が近づいてきて、頭をゆっくりと撫でるようにします。 やさしくやさしく。 「ああ、もう、あんた泣かないの……お名前は?」 「ゆまは……千歳ゆま」 キョロキョロと周りを見渡す。 桃色の髪のお姉ちゃんと同じ制服を着た女の子や、男の人たち。 そんな人達をきゅっとした厳しい瞳で、睨みつけている青色の短髪の眼鏡の人がいた。 とりあえず今はありがたい。 そういえばソウルジェムが曇っている。 使い魔との戦闘中に多少曇ってしまっていたらしい。 「お姉ちゃんの、名前は?」 「ルイズよ、あなた、平民?」 平民と言われちゃった。 平民といえばどんな人? と聞かれれば、キョーコやマミお姉ちゃんはなんと答えるのだろう。 キョーコはゆまの一番最初に出会った魔法少女。ママが魔女に殺された時に、その魔女を倒してくれたのがキョーコ。 それ以来ずっと一緒にいろんなことをした。 キョーコならきっと、「アタシは平民かもしれないけど、あんたにそんな事言われる筋合いはない」っていうだろう。 ゆまをキョーコと同じ魔法少女へ導いたのが織莉子お姉ちゃん。わたしにはその人の何をしようとしたのか、そういうのはよく分からないけれど。戦っている最中にほむらお姉ちゃんの大事な人を殺されてしまったし、織莉子お姉ちゃんも死んでしまった。 その織莉子お姉ちゃんとの戦闘の時に(本当はもうちょっと前に会っているんだけど)マミお姉ちゃんと仲良くなって、それ以来、マミお姉ちゃん、キョーコ、わたしっていうパーティを組んで魔女退治をしていたんだけど。 「これじゃあ、拉致があかないわね……ミスタ・コルベール!」 ルイズお姉ちゃんが怒鳴った。 たくさんの生徒たちの間から、中年のおじさんが現れた。 頭がちょっと寂しい感じ。 大きな杖を持って、真っ黒なローブに身を包んでいる。 「なんだね、ミス・ヴァリエール」 「あの、もう一度召喚をしなおさせてください!」 召喚? なんだろう。 ゆまは召喚されたんだろうか。 あ、そういえば戦ってたはずなのに今は普通の格好をしている。 ソウルジェムも胸元にあるし。 「それは駄目だ、ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!」 「決まりだよ、二年生に進級する際、君たちは使い魔を召喚する、今やっているとおりだ」 使い魔? ゆまは使い魔として召喚されたの? 「それによって現れた使い魔で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。一度呼び出した使い魔は変更することはできない、なぜなら春の使い魔召喚は神聖な儀式なんだ。好む好まざる……このような幼子を使い魔にするのは心が痛むかもしれないが、彼女を使い魔にするしか無い」 「でも、平民を使い魔にするなんて聞いた事無いですよ!」 ルイズお姉ちゃんがそう言うと、周りがどっと笑う。 その際雪風が吹いてクラスメートが凍った……なんでだろ? 魔法かな? 「コレは伝統なんだミス・ヴァリエール、例外は認められない、彼女は」 コルベールと呼ばれた先生らしき人は一息ついて、 「ただの平民の子どもであるかもしれないが、呼び出された以上君の使い魔になるしか無い。古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する、彼女には君の使い魔になってもらわなくては」 「そんな……」 ルイズお姉ちゃんは失望したように肩を落とした。 ゆまのせいでこうなっちゃったの? お姉ちゃんを見上げる。 ルイズお姉ちゃんは首を振って、きっと前を向いた。 「さて、では儀式を続けなさい」 「はい」 その返事は力強かった。 「ゆま、あなたは平民でありわたしは貴族、本来ならばこんなことはありえないの」 お姉ちゃんはわたしに語りかけるようにつぶやいた。 そうして体を屈め、 「我が名はルイズ・フランソワーズル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。{{英数字}}5つの力を司るペンタゴンこの者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々とゲームで見たような呪文を唱え始める。 そして、杖をゆまの額へとおいた。 ゆっくりと、唇を近づけて……重ねられた。 「わたし、女の子とキスをしたの初めて!」 「そう、私も小さい子でよかったわ」 そういって二人で笑う。 ひとしきり笑ったあと、ルイズお姉ちゃんは先生の方へ向きなおして。 「終わりました」 彼はまじまじと眺めて、わたしの方を向き直り。 「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 と、嬉しそうに言った。 「相手方だの平民だか!?」 「そいつが行為の幻獣だ!?」 野次を飛ばそうとした生徒たちの口に雪が詰められる。 いったいさっきから誰がやっているんだろう? 「いたたたたたた!」 わたしの全身が熱くなり、特に左手が熱い! 熱い痛い熱い痛い! 「あらあらあら。可哀想に、ゆま、大丈夫よすぐに終わるわ」 そういって頭を撫でてくれる。 こうされていると我慢が出来そうな気がする。 「うん……左手に宝石と、ルーンか……珍しい形だね」 「本当……ゆま、綺麗な宝石ね」 ソウルジェムのことを褒めてくれてる。 痛かったけど、こうして左手にはめ……はまっちゃったよ!? しかもなんだかソウルジェムの汚れまで払われちゃってる!? 「平民がもつようなものじゃないけれど、ハマっているんじゃしょうがないわ」 「そうなの?」 「ええ、貴族のわたしから見ても、素晴らしい出来の宝石ね」 「さてと、皆教室に戻るぞ」 といって、先生が空を飛んだ。 他の皆も飛んで何処かへといってしまう。 空を飛べるの? あの人達も魔法少女なの? でも、男の人もいたし? 何かマジックでも使ってるのかな? 「ルイズ、お前はあるへぶぅ!」 「あいつフライはおろか、レビィゲボォ!?」 またしても野次を飛ばそうとした人に雪が飛ばされる。 「……ルイズ、その子、きっとあなたにお似合いよ」 最後に飛んでいった胸の大きな褐色のお姉ちゃんが冷や汗をかきながら言った。 残されたのはわたしとルイズお姉ちゃんだけだった。 「ゆま、行きましょうか」 「ルイズお姉ちゃんは飛んで行かないの?」 「飛べないのよ……悔しいけどね」 その横顔は本当に悔しそうで、これ以上何もいえなかった。 「ねえ、お姉ちゃん、ここはどこ?」 「分からないの?」 「うん、ミタキハラってところから来たんだけど……」 「聞いたこともないわ……そのような田舎から来たなら、トリステイン魔法学院のことも知らないでしょうね」 トリステイン魔法学院とは、魔法を学ぶ場所。 今行われたのは春の使い魔召喚試験、二年生になると行われるみたい。 だからルイズお姉ちゃんは二年生ということになる。 そして私はその使い魔。 で、ルイズお姉ちゃんはご主人様ということになる。 「あ、そうだ、あの人達飛んでたよね、魔法少女なの?」 「魔法少女?」 「変身したほうが分かりやすいね」 そういってソウルジェムを前に差し出して変身する。 「姿が……変わった……? あなた、メイジなの?」 「ゆまは魔法少女だよ」 「……(ちょっと変わった平民といったところか)そう、わかったわ」 わたしは元に戻る。 「とにかく、平民とメイジ、貴族との間には絶対的な差があるの」 「差?」 「そう、私以外の貴族には気を許してはいけないわ、いいわね?」 注意される。 コレは気を付けなければいけない。 「うん、ゆまわかったよ!」 「ええ、いい子ね」 ただその表情は不安そうだった。 わたしたちは歩いて次の授業の場所へと向かい、一日中魔法のことについて学んだ、当然だけど平民のわたしにはよく分からない授業だった。 魔女との結界の中に突然に現れた鏡。 次の魔女へと続く道だと思ってくぐったらトリステイン魔法学院というところへやって来てしまった。 キョーコやマミお姉ちゃんとは別れて。 「それ、本当?」 「うん」 「……魔女に使い魔……あなたも戦って……ふうむ」 そういって腕組み。 何かを考えている様子だ。 わたしたちはテーブルを挟んだ椅子に座っていた。 ここは、ルイズお姉ちゃんの部屋。キョーコと入ったことのあるホテルよりも広い部屋だ。南向きの窓に、西側に大きめのベッド、ちょうど二人で眠れそうなくらいだ。 「ああ、一つ注意をしなければいけないことがあるわ」 「他の人と仲良くしちゃいけないっていう?」 「それもあるけれど、あなたの田舎へ返す呪文はないわ」 「ゆま……帰れないの?」 涙目になる。 そうするとルイズお姉ちゃんがよってきて頭を撫でてくれた。 「本当はね、サモン・サーヴァントはこのハルケギニアの生物を呼び出すの、決してチキューだのミタキハラだのから呼び出す魔法じゃないわ」 ここで、一息ついて。 「それに、本当は幻獣や動物なんかを呼び出すの。人間を呼び出すなんて初めてよ、しかも変身する小さな子供なんてね」 ため息混じりにそういうのだった。 「サモンサーヴァントをもう一度使うには、あなたが死なないといけない、でも、私はあなたを殺したくなんて無い……そして、使い魔として扱うのも難しい」 「ゆま、できることをするよ!」 「使い魔は主人の目となり耳となる、けれど無理ね」 わたしもルイズお姉ちゃんが見えている景色は分からなかった。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくることができる」 「望むもの?」 「ふふ、いいのよ気にしないで」 そういう横顔は悲しそうだった。 ゆまができること、治癒魔法。 そして変身した時に使うハンマー。 戦闘くらいしか無いかな。 「そろそろ眠くなってきたかな、一緒に寝ましょう、ゆま」 「いいの?」 「あなたをわらで寝かせる訳にはいかないじゃない」 そういって布団に入る。 すぐにルイズお姉ちゃんの寝息が聞こえ始めた。 魔法というのは思ったより体力を使うみたいだ。 「ゆまが治してあげる」 治癒魔法を使う。 普段は治癒魔法を使うと、ソウルジェムが曇るけど、そんなことはない。 ルーンと一緒に入ってしまったソウルジェム、どうしてこうなったかはよく分からないし、私の能力もよく分からない。 「頑張るよ、キョーコ、マミお姉ちゃん」 そういってわたしも目を閉じた。 前ページ次ページネコミミの使い魔
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前ページ次ページ攻撃力0の使い魔 未知の土地を訪れた者が最優先で行わなければならないこと、それは情報収集だ。 異国ならぬ異世界を訪れた場合でも変わらない。 何よりも まず、自分の訪れた世界のルールを知らなければならない。 ルールと言っても、その土地の住人たちの価値観・常識のことだけではない。 むしろ 異世界を訪れた場合に重要なのは、その世界の成り立ち・在り方の根底にかかわる法則や仕組みだ。 十二次元宇宙には、カードゲームの勝敗が そのまま対戦者の生死に直結するような世界も存在していた。 そして、おそらくは 自分の知る十二次元宇宙の さらに外の次元に存在するであろう、このハルケギニアとかいう世界…… できるだけ早く この世界のことを把握しておかないと、思わぬところで足元をすくわれる危険がある。 幸いなことに、自分の目的は 自分がいちばんよくわかっている。 どんな世界に在ろうと、自分が為すべきことは ただ一つだ。 なぜ、自分がこの世界に特殊召喚されたのか……いや。 なぜ、自分が開いた次元の扉が この世界に通じたのか…… その答えは明白だ。焦ることはない。 「彼」は この世界に いる……! ■■■■■■ 桃色の髪の少女が トリステイン魔法学院の廊下を闊歩している。 (……そう。まずは、この世界のことを よく知っておかないとね……) この世界のルールについて、最優先で確認しておかなければならないのは「自分の持つ『力』が、この世界において どの程度 通用するか」だ。 この世界でもデュエルモンスターズのカードと精霊の「力」が使えるのなら、これまで見てきた世界と同じように事を運べばいい。 だが、もし そうでないとしたら……? そんなことを考えながら、1階から順に1フロアずつ校内を散策して、4階に辿り着いた頃…… (……!?) 突然、何かの気配を感じた。何か…自分の知ったモノの気配を。 (これは……まさか……!) 桃色の前髪の下に出来た深い影の中で 目を妖しく輝かせながら、少女は自分の感じた気配の方を目指す。 気配を追って辿り着いた場所は、魔法学院本塔5階。宝物庫の扉の前だった。 (……間違い無い。この中には、デュエルモンスターズのカードがある。40枚、プラス15枚……さらに15枚。デッキか……) なぜ、こんな所にデュエルモンスターズのデッキがあるのはわからない。 だが、そんなことはどうでもよかった。 (この世界にもデュエルモンスターズは存在する……!) そのとき、少女の頭の中に声が響いた。 (わたしは…もう『ゼロ』じゃない……!) 「……ッ! もう目が覚めたのか……!」 宝物庫の扉を眺めていた桃色の髪の少女の雰囲気が変わった。 先程まで妖しく金色に輝いていた目は 普段どおりの色に戻り、前髪の下に差していた深い影も いつのまにか消えている。 そして、本塔5階 宝物庫の正面…… 桃色の髪の少女:ルイズが、扉の方を向いて ぼうっとしたまま直立している。 その背後では、彼女の使い魔として召喚された亜人:ユベルが、腕組みをして少女を見下ろしていた。 ■■■■■■ ルイズは たった独り、闇の中に沈んでいた。 貴族でありながら魔法が使えないという劣等感…… どれだけ一生懸命に勉強しても、いざ実際に魔法を試してみると、いつも発生するのは失敗の爆発ばかり。 そして いつものように彼女の失敗を囃し立てる罵声と嘲笑。 唇を噛み 拳を握り締めて、屈辱に耐える。 いつものことだ。今さら取り立てて気にすることは無い。 いつか見返してやればいい。 ……ふと気づくと、嘲笑が それまでとは違う喚声に変わっている。 ルイズの召喚した使い魔の姿に、生徒たちが騒ぎだしたのだ。 そうだ、自分は『サモン・サーヴァント』に成功したじゃないか。 自分は魔法に成功した。少なくとも「ゼロ」ではない。 (わたしは…もう『ゼロ』じゃない……!) 気がつくと、ルイズは薄暗い場所…校舎の中…金属製の扉の前にいた。 ■■■■■■ 「……やあ」 ルイズの召喚した使い魔…ユベルが、腕組みをして こちらを見下ろしている。 あぁ、私の召喚した珍しい使い魔だ。その事実に やや満足感を覚える。 ……が、すぐに何か違和感があることに気づく。 「……!? ちょっ……ここ、どこなの!? なんで こんなとこに!? 午後の授業は!?」 ルイズの感覚では、いつのまにか屋外から屋内へワープしていたのだ。無理は無い。 さらに軽度の疲労感と空腹感まで覚える。 「……ふふふっ、驚いたよ。キミの意識は しばらく心の闇の中に閉じ込めておくつもりだったんだけど……まさか自力で這い出てくるとはねぇ」 使い魔は、質問に答えず腕組みをしたまま主人を見下ろし、ワケのわからないことを言っている。 「心の闇……? って、それより質問に答えなさい! あっ! 質問と言えば、あんたのことも まだ教えてもらってないわ! あんた、どういう種族なの? 悪魔族とかなんとか言ってたけど……」 「あぁ……ボクもキミに訊きたいことは山ほどあるんだ。どこか落ち着ける場所で、ゆっくり話すとしようか」 優しく語りかけるような低いトーンの女性の声で、ユベルが言った。 そして、宝物庫の金属製の扉のほうを一瞥する。 (……まあいい。この世界にも デュエルモンスターズのカードが存在することはわかった。あとは、この世界においてデュエルがどう作用するか……だな) ■■■■■■ 使い魔の召喚に成功した その日の夜…… ルイズは自室で、使い魔の亜人:ユベルと質問のやり取りをしていた。 お互いに 一通り質問し終わったあと、ルイズが口を開く。 「つまり……あんたは そのジュウダイっていう生き別れた友達を探すために、わたしの召喚に応じてハルケギニアに来たってこと?」 闇属性だの悪魔族だの精霊だのといった部分については「そのうち わかるよ」などと適当に はぐらかされてしまったが、 とりあえず聞き出すことができた使い魔の素性について確認する。 「あぁ。ボクはいつだって十代のために生きていた。そして、これからも……」 そう言って、ユベルは額以外の2つの目を閉じ 押し黙った。おそらく、生き別れた友のことを想っているのだろう。 しかし、せっかく呼びだした使い魔が、主人である自分をそっちのけで、 自分の知らない誰かに対して強い好意を寄せているというのは、ルイズにとって面白くなかった。 「……ちょっと待ちなさいよ。『コントラクト・サーヴァント』が成功した以上、あんたは わたしの使い魔。で、わたしがご主人様。 さっきも言ったでしょ。メイジにとっての使い魔は……」 「『一生の僕であり、友であり、目で耳である』だっけ? それがどうかしたかい?」 「いや! 『どうかしたかい?』じゃなくて! なんで使い魔が ご主人様を差し置いて 自分の友達のために生きようとしてるのよ!」 自分の攻撃力は0だというユベルの自己申告を聞いたことで、ルイズは少し強気になっていた。 この使い魔は いかにも強そうで禍々しい外見をしてはいるが、本人の談によると 攻撃力も防御力も無い…らしい。 なら、仮に この使い魔を怒らせたとしても、見た目がちょっと怖いだけで、少なくとも危害を加えられはしないということだ。 それに この使い魔が本当に危険な存在なら、召喚した時点で ミスタ・コルベールが何らかのリアクションを示したハズだ。 「……いい? あんたは わたしの使い魔になったの! その友達のことは ひとまず忘れて、使い魔としての役目を……」 【なに……】 「っ!?」 いきなり男性の野太い声が聞こえた。 ユベルの額の目がルイズを真正面から見つめている。眼球の中に浮かび上がるルーンが痛々しい。 「……ねぇ、ルイズ」 ユベルが声を発する。トーンの低い女性の声だ。 「な…なによ……」 呼び捨てにされたが、この空気で「ご主人様と呼べ」とは 突っ込めない。 「ボクは別にキミの使い魔になることが嫌なわけじゃないんだ。 キミがそう望むなら、キミがその短い一生を終えるまで 使い魔とやらの仕事をしてあげてもかまわない。 ボクをここに呼んでくれたのは、ほかでもないキミなんだからねぇ」 「……そ、そう……? なら…いいんだけど……」 意外なことに、この使い魔は自分に恩義を感じているらしい。それとも『コントラクト・サーヴァント』の効果だろうか。 【でも……これだけは覚えておくんだ】 野太い男性の声でユベルが付け足す。 驚く…というか むしろビビる ルイズを無視して、ユベルが続ける。 『キミが、ボクと十代の仲を否定しようとするのなら……』 トーンの低い女性の声と野太い男性の声が重なって同時にセリフを紡ぐ。 『ボクはキミを……許しはしない』 世界を12個ほど滅ぼさんばかりの迫力に気圧される。こいつのどこが攻撃力0なのか。 「……わ……わかったわ……」 ルイズはなんとなく理解した。 一見 優しげで静かな口調と穏やかな物腰の奥から滲み出す、粘つくような どす黒い感情…… これが「悪魔」の「闇」なのだろうか。 細かい事情は聞いていないが、おそらくジュウダイというのも ただの友達ではないのだろう。 もっとも、これ以上 この問題に踏み込む度胸は 今のルイズには無かったが。 「それで……」 穏やかな女性の声でユベルが喋りだす。 「さっき聞いた使い魔とやらの仕事について、もう1度確認させてもらってもいいかな?」 「え? あ、うん……いいわよ」 一応、真面目に働くつもりはあるらしい。 「えっと、まずは『主人の目になり耳になる能力』だけど……」 試しに目をつむってみる。 ……真っ暗。何も見えない。 ルイズは、内心 ホッとした。 『コントラクト・サーヴァント』のルーン刻みの際に感じた痛みも、きっと何かの偶然だったのだろう。 昔…というか昨日までの自分なら、自分の使い魔と感覚を共有することについて 大いに喜んだに違い無い。 だが、今は違った。 さっきの気持ち悪い感情が自分の中に流れ込んでくるとしたら…… 想像もしたくなかった。 「ま、まあ…これは別にできなくてもいいわ。それより……」 「できるよ」 「……え?」 何か不穏な発言が聞こえた気がする。 「い…今、なんて……」 「ボクと感覚を共有したいんだろう?」 「……できるの? いや、別にしたいわけじゃないからね!」 「そうだね。キミには教えておいてもいいかもしれない」 そう言うと、ユベルが近づいてくる。 「え? ちょ……」 「ふふふっ……今にわかる」 ユベルがどんどん近づいてきて、その紫色の肌が視界を覆い尽くしたかと思うと……消えた。 (え……?) さっきまでユベルがいた場所には、誰もいない。床・壁・天井が見える。 (どこ……?) とりあえずベッドから立ち上がって、周囲を見回……せない!? 金縛りにでもあったかのように、体が言うことを聞かない……! (やだ、なにこれ……!? っていうか、どこ行ったのよ……! ちょっと! 使い魔! ユベルーっ!) (……ふふっ、ボクならここにいるよ) 頭の中にユベルの声が響いた。 (え? どこ!?) (どこって……ここだよ) ユベルの声がそう言うと、ルイズの視界に右手が映りこんだ。右手は、ルイズ自身を指し示している。 (……! まさか……!) (そう……今のボクは、ユベルであり…ルイズでもある。キミは今、ボクと体…いや、存在そのものを共有しているんだ) (そんなことが……!) たしかに、使い魔が……主人の目となり耳となるばかりか 手にも足にもなっている。 ……だが、これは明らかに間違っている。 (って! 私の体が乗っ取られてるだけじゃない!) (……不服かい?) (当たり前でしょ! 私が言っていたのはこういうことじゃないの! いや、ある意味 合ってるけど違う!) (なんだ、違うのかい) (そう! 違う! とにかく まず 出て! 出なさい!) (やれやれ、面倒だねぇ……) 体から、何かが抜けるような感覚がしたかと思うと、ルイズの全身に感覚…体の主導権が戻る。 ユベルはというと、さっきの位置でルイズを見つめている。 「……あっ!」 そしてルイズは、あることに気づく。 「まさか、今日の午後の記憶が無いのは……!」 「あぁ。ボクがキミの体を使って、この学校の中を調べていたんだ」 「やっぱり……! って、あれ? でも、なんで そのときの分の記憶が無いの? 今のは、ちゃんと わたしの意識も残ってたのに」 「簡単なことさ。ボクは探索のあいだ、キミの意識を封印していた。 だから、ボクを召喚してから しばらくの記憶が無いんだ」 どんな先住魔法か見当もつかないが、トンデモなく危険な能力だ。ヘタをすれば、自分という存在を乗っ取られてしまう。 「えっと……それは、やっぱり わたしがユベルの主人だからできることなの?」 「いや。断言はしないけど、たぶん誰に対しても使えるだろうねぇ」 さらに危険度アップ。それとも、ある程度のメイジなら抵抗できるのだろうか? 「……まあ…だいたいわかったわ。たしかに すごい力だけど、できるだけ使わないようにして。いい?」 「……いいだろう。少なくとも キミに対しては、できるだけ使わないと約束してあげる」 「って、ほかの人には使う気!?」 「情報収集にも使えるからね。いつ どこで、十代の情報を持った者に出会うかわからないだろう?」 「あー…まあ…じゃあ、いいわ……」 とりあえず「ジュウダイ」なる人物の話題については、ユベルに逆らわないことにした。 というか、かかわってはいけない気がする。 「それと、残念だが『秘薬探し』もできないよ。ボクには、薬の材料なんかよりも よっぽど大事な探しものがあるからねぇ」 「あー…それも…じゃあ、それで……」 この話題では、とにかくユベルを最大限に尊重する。 そして、さりげなく話題をかえる。 「……で、最後に いちばん大事な『主人の護衛』なんだけど……あんたには無理よね。だって、攻撃力も守備力もゼロなんでしょ?」 すると、ユベルは不敵に笑った。 「ふふふっ……まだ勘違いしているみたいだね」 「な、何がよ……!? 戦う力が無いやつに護衛なんて無理に決まってるでしょ……!」 「いいや。誰かを守る盾として、ボク以上に相応しい者はいないよ」 「え? でも、守備力もゼロだって……」 主人を喜ばせようと、ユベルなりに虚勢を張っているのだろうか。 いや、本当に虚勢を張るつもりなら、最初から「攻撃力も守備力も0」などとは言わないハズだ。 しかし、守備力が無いくせに 誰かの盾になるとは、どういうことなのだろう? 「……! まさか、自分を犠牲するつもり!?」 「犠牲? 何を言っているんだ。十代に会う前に、ボクが倒れるわけにはいかないだろう?」 「いや、それはそうかもしれないけど……じゃあ どういうことよ?」 「……たしかに、ボクの守備力の数値は0だ。でも、ボクを傷つけることは 誰にもできない。だって、攻撃はボクへの愛だからね……」 「は? え? いや、ちょっ…攻撃が愛って……えぇ!?」 ただの変態か……? いや、ユベルはいたって真面目な顔をしている。ますますワケがわからない。 「それに……」 ここで急にユベルの声の色が変わった。 ルイズは思わずユベルのほうを見る。 ユベルは少し寂しそうに遠い目をしている…… 「ボクは、十代を守らなければならないんだ……」 ルイズは、また少し なんとなく理解した。 ユベルがジュウダイという人物へ向ける妄執のような感情。 その正体が何なのか、今の彼女には わからなかった。 だが 少なくとも、ただの色恋沙汰などではないことは間違い無い。 「……見つかるといいわね。その…ジュウダイが」 思わず、声をかけてしまった。 「……あっ! で、でも! 今のあんたは わたしの使い魔なんだから、守るなら まず、わたしのことを守りなさいよね! そ、それより ホラ! 今日は あんたのせいでいろいろあって疲れたし、もう寝るから!」 ルイズは、そう一気に まくしたてると、なんやかんやを脱ぎ捨てて ベッドに潜り込む。 その光景を見ていたユベルが ルイズに声をかける。 「この、みっともなく脱ぎ散らかした下着はどうするつもりだい?」 「うるさいわね……主人の服の洗濯も使い魔の立派な仕事よ。明日の朝にでも 洗っておいて」 「……やれやれ、面倒だねぇ」 ……ルイズは、いつのまにか寝息を立てている。 どうやら本当に疲れていたらしい。 異世界の存在に憑かれて学校中を動き回っていたのだから、無理は無い。 ほとんどイビキに近い寝息を立てるルイズをよそに、ユベルは今後のことについて考える。 次元移動の際に消耗したエネルギーの回復…… これは手元の ご主人様の心の闇だけで十分ではある。 だが、この子をここで使い捨てるわけにはいかない。 自分が 数ある異世界の中から この世界に辿り着けたのは、一応 この娘のおかげなのだ。 それに、この娘には何か特別な「力」を感じる。 ……やはり、今 必要なのは、情報と手駒だ。 前ページ次ページ攻撃力0の使い魔
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「プロペラ、回します!」 その一言と同時に、シエスタが真空殲風衝を放ち、ゼロ戦のプロペラを回す。 その事実に、江田島は少しだけ驚いた。まだ年端もいかない少女が、真空殲風衝を使うとは思わなかったのだ。 しかし、その目を見て納得する。外見は全く違うとは言え、確かに彼女の目は「大豪院」に連なるものの目であったのだ。 だから、江田島は 「大義である!ルイズとやら、準備は良いか?」 そう言ってルイズを見つめた。その目には、深い海のような優しさがあった。そして威厳があった。 その様子に、ルイズは一瞬言葉に詰まる。しかし、彼女はやはり誇り高いトリステインの貴族であった。 「誰に向かっていっているのよ!それよりとっとと追い払って、帰ってくるわよ!」 初対面にも関わらず、ルイズは江田島の目を見つめ返してそう言った。 その様子に江田島は大きくうなずく。おそらく彼女にとっては初めての戦場であるのだろう。その瞳にはほんの少しの恐れがあった。 しかし、それを遥かに上回る大きさの、純粋な何かがあった。 ルイズはずっと考え続けてきたのだ。自分は魔法を使えない、シエスタや使い魔達のように強くはない。 考えて考えて考え抜いた結果、今のルイズがある。 (私は貴族よ。ならば決して後ろを見せない!取り乱さない!それに……) ルイズは親友のアンリエッタのことを考える。 今の彼女ならば、自分から先頭に立つに違いない。そして敗北が決まるまで決して退くまい。 そう、ウェールズの死を告げた時、アンリエッタがそう心で誓ったのをルイズは見ていたのだ。 ならば、今のルイズは、自分がアンリエッタのためにできることをするだけである。 そんな気持ちが江田島にも伝わったのか、江田島はにやりと笑って大きく叫んだ。 「道を開けーい。ゼロ戦、発進するぞ!」 その瞬間、ゼロ戦に命が舞い戻る。 ふわりと浮き上がったとき、ルイズは興奮を隠せなかった。 そう、これほど巨体が魔法によらずして空を飛び始めたのだ。 数十年ぶりに命を取り戻したゼロ戦は、一瞬で遥か彼方へと消えていった。 その瞬間塾生達は、確かに塾長の声を聞いた気がした。 「わしが男塾第三の助っ人である!」 「むう。少し遅れたようだな。」 「王大人!」 桃が驚いて振り向くと、そこには王大人がいた。 富樫の治療はいいのかと詰め寄る桃に、王大人はにやりと笑って振り返る。 そこには、助っ人二号の肩を借りて地面に降りる富樫の姿があった。 そのことに安堵の表情を浮かべる桃達に、王大人は真剣な顔をして言った。 「それよりも、早く江田島殿を追いかけるぞ。少々気になることがあってな。」 王大人と、ルイズの使い魔達は、戦風吹き荒れるタルブの村を目指すことになった。 時は数分前に遡る。 江田島平八が意識を取り戻したとき、そこには最近行方不明になっていた一号生達の姿があった。 そのことに江田島は安堵する。そう、彼らは無事生きていたのだ。 彼らは、一様に呆けたように江田島を見つめていた。そう、まるでこれが白昼夢であるかのように。 だから、江田島は応えることにした。 「わしが男塾塾長江田島平八である!」 その言葉に、周りにいたシエスタとルイズは思わず耳を押さえてうずくまる。 頑丈に作られたはずの新男根寮すら、大きく震えていたのだ。 だが、効果は抜群であった。 見る見る内に一号生達の顔色に生気が戻る。それと同時に虎丸などは感極まって泣き出しそうな顔をしていた。 それを見届けた江田島は、桃の方を見ると声をかけた。 「状況を報告せい!」 「押忍!一号生筆頭剣桃太郎、状況を報告します。」 そして桃は手短に状況を報告した。 ここが異世界のハルケギニアであることを。自分達がこのルイズなる少女の使い魔をしていることを。 そして今は戦争中であり、この少女の手助けをしようとしていることを。 それらの言葉一つ一つを江田島はかみ締める。 桃は、意味もなく嘘を言うような男ではない。おそらく言っていることは全て真実であろう。 そう判断した江田島は、まずはルイズの方へと向き直った。 「こいつ等が世話になった。この江田島、礼を言おう。」 「え、いえこちらこそ。」 思わぬ江田島の言葉にルイズは困惑していた。 この男からは、ルイズ自身の母である「烈風カリン」から感じるものと同じものをルイズは感じていたのだ。 そんな怖い時の母と似た雰囲気を持つ江田島に頭を下げられたルイズが思わず困惑してしまうのも無理はなかろう。 そうして礼を言い終わった江田島は、ゼロ戦と幻の大塾旗を見上げる。 かつての友、佐々木武雄が己の命をかけて守ったものだ。決して粗略に扱えるものではない。 (お主の故郷を守るため、今しばらく借りるぞ。) そうして心の中の佐々木に語りかけた江田島は、先ほど話を聞いていた通りにルイズを乗せると空高く舞っていった。 「「「塾長!ルイズ!御武運を!!」」」 一号生達が敬礼をしてその様子を見送っていた。 江田島は怒りを隠そうとはしていなかった。 ギリギリと歯をかみ締める。怒りの炎の宿った目で眼下のタルブの村を見つめる。 そこにはかつて美しかったであろう平原が移っていた。 アルビオン軍は、官民の区別なくこの平原を焼き払おうとしているようであった。 (塾長。後は頼みます。) そんな時、江田島の耳に、ふと大豪院邪鬼の声が聞こえたような気がした。 そう、ここは大豪院邪鬼が、その生涯の果てに命をかけて守り抜いた地でもあるのだ。 そんな大切な場所を汚すようなやつ等を、江田島平八は許しはしない。 その時、江田島の視界の端に、敵竜騎兵の姿が映った。 「ルイズよ。あのでかぶつの前には必ず送り届けるゆえ、今しばらく辛抱せい!」 「へっ?」 まだ竜騎兵を捉えることのできていないルイズが一瞬間抜けな声を上げる。 しかし、江田島はそれを無視して急上昇を開始した。後ろから、苦しそうな呻き声が響いていた。 「三匹目だ」 そうしてブレスを放とうとした竜騎兵は己が目を疑った。 信じられない速度で敵竜は急上昇をすると、次の瞬間には自分の後ろにいたのだ。 江田島が、かつての友人坂井某から教わった必殺技『ひねり込み』である。 (ば、ばかな!) そう思った瞬間、その竜騎兵は爆散した。 ゴホゴホと咳き込んだルイズは、荒っぽい運転に文句を言おうとして思いとどまる。 そう、ここはすでに戦場であるのだ。 「右下から三騎来ているわよ。いい?絶対にわたしを『レキシントン』まで送り届けなさい!」 その言葉に江田島は不敵な笑みで応えると、続いて襲いかかってきた三騎へと逆に襲い掛かった。 天下無双江田島平八、それを止めるに足る技量が、知力が、そして何より度胸がレコンキスタ軍には足りていなかった。 そう、この男を除いては。 次々と味方が落とされていくのをワルドはじっと眺めていた。 そうして分析する。今の竜では、真正面からでは勝てない。 たとえ不意を突いても、一対一では手傷を負わせるのが精一杯に違いない。 だからこそワルドはじっと勝機を待っていた。 見渡す範囲の敵騎を打ち落とした江田島は、再度『レキシントン』へと侵攻を開始した。 しかしその時、予期せぬトラブルが襲う。 ガクン、とゼロ戦がぶれる。 「きゃあ!」「ぬう!」 かつての大戦の後、ほとんどメンテナンスされることのなかったこのゼロ戦である。 また、韻竜とすら戦った歴戦の機体でもあるのだ。 いかに魔法によって劣化をとどめてあるとはいえ、修理には限界がある。 このハルケギニアにおいて、これ程壊れかけたゼロ戦を修理しきることはできなかったのだ。 韻竜との戦いで負った損傷部からパーツが一部剥がれ落ちる。 機体が不安定そうに空で揺れていた。 その瞬間を見逃すワルドではなかった。 「勝機!」 ワルドは思わず叫んでいた。 完全無欠に思えた敵が、思わぬトラブルか何かで手間取っているようであった。 これを見逃しては、おそらく自分に勝機はあるまい、そうワルドは考えていた。 (それに) その竜の中には、ピンク色の髪をした人物が乗っていたのだ。 ならば、一緒に乗っているのはルイズの使い魔に違いない。 ワルドの左腕がうずいていた。その顔には残忍な笑みが浮かんでいた。 今、エア・スピアーがゼロ戦を襲う。 ドン! 硬い何かが機体をたたく音がする。計器が次々と警報を告げる。 ついに、ルイズは死を覚悟した。この高度から落ちて助かるはずはない。 ただ、アンリエッタの力になれそうにないことだけが残念であった。 最後にルイズは、憎き敵を見つめた。 そこには、残忍な笑みを浮かべるワルドの姿があった。 何とか機体を立て直そうとする江田島であったが、もはや機体は制御を受け付けなかった。 コクピットが爆発する瞬間江田島は、今は亡き友、佐々木武雄の声を聞いた気がした。 「やった!」 人が乗っている部分が爆発するのを確認したワルドは、思わず右手を握り締める。 あれでは乗っていた人物は生きてはいまい。 しかし、それでもまだゼロ戦は飛んでいた。 パイロットを失って、致命的な損傷を受けて、それでもまだ『レキシントン』へと飛んでいた。 往生際が悪い、そう思ったワルドは地面へと叩き落すべく、己の竜をゼロ戦へと進めた。 ドスン ワルドの耳に、何か重いものが着地する音が響いたのはその時であった。 (江田島よ。後は任せろ。) 確かに江田島にはそう聞こえた。その瞬間江田島はルイズを抱えて空へと飛び出していた。 男の、友の言葉である。二言はない。 ならば自分は眼前の露払いをするだけである。 そう考えた江田島の下に、敵竜の姿があった。 振り向いたワルドは、一瞬己の目を信じることができなかった。 確かに殺したはずの敵が、自分の竜へと乗り移っているのだ。無理もあるまい。 しかし、その一瞬が致命傷となった。 慌てて呪文を唱えようとする。 「ライトニング……」 「遅い!」 素早く懐にもぐりこんだ江田島の拳が一閃する。 次の瞬間ワルドは、自分が凄まじい速度で水平に飛んでいくのを感じた。 そしてワルドの意識は闇へと落ちていった。 「わしが男塾第三の助っ人である!」 ワルドを遥か彼方へと吹き飛ばした本人は、そう名乗っていた。 ようやくルイズは我に帰ったとき、江田島は竜を手なずけていた。 『何故か』『拳状に』頭部を変形させていた竜は大変従順であった。 「佐々木武雄少尉に敬礼!」 江田島の声が走る。思わずルイズは手を頭のところに上げていた。 見ると、江田島も見事な色気のある敬礼をしていた。 その視線の先には、黒煙をあげながらも『レキシントン』へと突撃をしていくゼロ戦の姿があった。 『レキシントン』から次々と魔法の火が飛ぶ。 一撃一撃とゼロ戦はその姿を削られていくが、勢いは止まらない。 (馬鹿な!何故落ちない!) 『レキシントン』にて砲撃を担当していた士官は、そう思ったところで意識を失った。 ルイズはその様子をじっと眺めていた。 ただの機械仕掛けのゼロ戦に、何故かシエスタや自分の使い魔達のことを重ねてしまったのだ。 ボロボロになりながらもゼロ戦は進軍していく。その勢いは微塵たりとも衰えない。 ついにゼロ戦が『レキシントン』へと突撃して爆散する。 その時、ルイズに耳には、見知らぬ男の雄叫びが聞こえていた。 気づくと、ルイズの口からは呪文が漏れていた。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……」 『レキシントン』では消火活動が続いていた。 敵竜の突撃によるダメージは決して少なくはない。しかし、それでもまだトリステインと戦える。 ボーウッドはそう判断していた。 そしてそれは正しかった。その瞬間までは。 相変わらずルイズの視線の先では、『レキシントン』が黒煙をあげ続けている。 しかし、徐々にその煙は治まりを見せていた。 そのことを確認したルイズは、最後の呪文を唱えることにした。 あのゼロ戦が作った隙を逃すわけにはいかないのだ。 「エクスプロージョン!」 その瞬間膨大な魔力がルイズの体を駆け巡る。 そうして発動したエクスプロージョンは、空間にすら歪みを与え、敵艦隊を炎上させた。 アンリエッタと、ようやく到着したルイズの使い魔達は、その瞬間を見ていた。 凄まじいまでの閃光が走り抜けた次の瞬間、全敵艦隊が炎上していたのだ。 全員事態の変化についていけない中、アンリエッタだけが祈りを捧げていた。 「ありがとう、ルイズ。わたしのお友達……」 そう言って、彼女は進軍を宣言した。 トリステインの勝利は目前へと迫っていた。 そんな中ルイズは、息を荒くしながら江田島にもたれかかっていた。 エクスプロージョンはルイズの全精神力と引き換えに莫大な成果を挙げていた。 見れば、まだ空間が歪んでいるのが分かる。 その時、 「ぬう!」「きゃあ!」 白い光が彼らを包んでいた。 「お、おいアレを見ろ!」 虎丸が思わず空を見上げて叫ぶ。 そこでは、ルイズと塾長を載せた竜が白い光に包まれているのが見て取れた。 次の瞬間、そこには何も残ってはいなかった。 ただ、その光の先には、懐かしい男塾の校舎があったのを、彼らは見ていた。 状況が全くつかめないまま、飛燕が皆の気持ちを代弁するかのように呟いたのが印象的であった。 「……我々は恐ろしい人を塾長に持ったようです。」 しかし、王大人だけはその様子を真剣な様子でじっと見つめていた。 (さすがは江田島殿。これで手がかりがつかめた!) 男達の使い魔 第一部 完 NGシーン 雷電「むう、あの技は!」 虎丸「知っているのか雷電!?」 雷電「あれぞまさしく周の時代に失伝したとされる飛念離個魅(ひ・ねんりこみ)!」 周の時代、最強と謡われた拳豪に風魯経羅(ふう・ろへら)なる人物がいる。 彼が最強と謡われた理由の一つにその技があった。 風魯経羅は、己の手に持った二つの棒をまわして自由自在に空を飛びまわったという。 時には遥か上空へ、時は急旋回を。 念を駆使して飛び回るその姿はとても一個人の保有する念の量では不可能と言われるほど人間離れしていたという。 しかし、その姿は優美を極めて人々を魅了した。 そんな人々が尊敬の意を込めて、彼の技を飛念離個魅と呼ぶようになるまでそれほど時間はかからなかった。 なお、このような故事に明るい坂井氏が、己のゼロ戦での技をひねり込みと呼ぶようになったのは、極めて納得のいく理由である。 また余談ではあるが、この話がシルクロードを伝わって欧州とハルケギニアに伝わり、 回転するもの一般をプロペラと呼ぶようになった、というのは今やもう常識である。 民明書房刊 「古代中国に学ぶ一般常識百撰」(平賀才人撰)
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「いざ進めやギーシュ!めざすはヴァルダンテ♪」 トリステインの南方目指し、馬を駆る 「ねえ、なんでこいつがいるのよ、キュルケ」 ルイズがため息をつく。 「説明しよう!ギーシュは宝探しなどという面白そうなことに関しては 鋭い嗅覚を持っているのである!」 「要するにあんたが勝手についてきたわけね、このアカポンタン」 「まあそうともいうね」 「じゃあ帰りなさいよ、一応私のためなんだから」 「なにも成果を得ずに帰ったらおしおきされちゃうじゃないか!」 「誰によ誰に」 「まあまあ、ミス・ヴァリエール、いいじゃないですか」 シエスタが宥める。 「さすが、美しい女性は僕のことをわかってくれるな!ハハハ!」 「シエスタ、こんな奴かばうことないわよ、 まあシエスタがそう言うなら許してあげるわよ、感謝しなさい」 キュルケが地図を開いて先導する。 「えーと、まずはここから東に1キロね…」 トリステインを数日かけて各所を周り、六日目には大量にあった宝の地図ももう残り数枚になっていた。 「なによキュルケ、宝なんて全然ないじゃない。なによこのガラクタの山は!」 「ヒンタボアイランドへの地図、星がいくつか入った黄色いボール、 変な円盤、DISCって書いてあるわね…しん・よげんのしょってなによこの汚い紙は… あとは…波動エンジン設計図?なによこれ」 キュルケがひとつ黒いノートを拾う。 「この黒いノートなんか使えるんじゃない?なにか書いてあるけど読めないわね… とりあえずギーシュの名前でも書いておくわ」 「あれ、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモンが心臓を 抑えてもがいていますけど…あ、動かなくなりました」 「いいのよ、ほっときなさい、ギーシュだから」 「ギーシュだもんね」 「そうですか…」 ルイズが振り向いてキュルケに尋ねる。 「あとどこが残ってるのよ」 「あとはタルブ周辺だけね、シエスタ案内してくれるー?」 「ええ、もちろんですよ」 「じゃあ、ギーシュいくわよ、って動かないんだったわね…フレイムー、 ギーシュひきずってきなさーい、重かったら焼いてもいいから」 「ぎゅるぎゅる!?(そ、そんなご主人さま、それはひどすぎるんじゃあないですか!?)」 といいながらギーシュを引きずり、馬に乗せる。 「さあ、目指すは南よー」 キュルケが行く先を指さした。 「なんか薄気味悪い森ね…」 ルイズが呟く。 「いかにも今回の山場って感じだね、諸君」 「あら、ギーシュ生きてたの?」 「ギャグキャラは死なぬ!何度でも蘇るさ!」 「なにか出るかもしれないわね、警戒して進みましょう」 その言葉を聞いてギーシュがバラをあしらった杖をくわえる。 「ふふ、こんなこともあろうかと、今週のびっくりドッキリワルキューレ! 名付けて、ワルキューレ旅団!全国の女子高生の皆さんどうぞご覧下さい!」 説明しよう!ワルキューレ旅団とは、大型のワルキューレを手のひらサイズまでに小型化し、 数を増やした物である!数は増やしたが体積は減っていないため、戦力を集中させることによって 従来の敵にも対処でき、かつ一体一体の体積は小さいため、全滅させることは困難、という代物である! 偵察、威力偵察、囮、遅延作戦、多方面攻撃など幅広い任務に使えるぞ! 「そして、最終的には合体して超電磁やゲッター線、ミノフスキー粒子などを使えるようにする予定だ! どうだ、すごいぞ! かっこいいぞー!戦いは数だー!ワハハハハハ!」 「…まあいいわ、やってみなさい」 大量のワルキューレをばら蒔き、森の中へ進ませる。 「第一青銅大隊はそのまま前進、第二黒金大隊は停止し、第四…じゃなかった第三偵察小隊を十時の方向に、 えーと第二青銅大隊は停止じゃなかった第五白銀大隊が、えーとそんなにないよなあ…第三黒金大隊でいいのかなあ」 「指揮が混乱を究めてるわね」 「う、うるさいルイズ、大量のゴーレムを動かすってのはすごい集中力がいるんだぞ!」 「じゃあなんでむやみやたらに増やすのよ…」 「大きくするなら大きく、小さいなら全力をかけて大量生産が僕のポリシーだからね」 「まるで使えないわね…どっかのヒゲ伍長の兵器みたいだわ」 「う、うるさいな、……ん?あれ、おかしいな第十六偵察小隊が動かないなあ、どうしたんだろう」 「あんたのゴーレムでしょ、私に聞かないでよ。そもそもなによその小隊の数は、何体いるのよあんたのゴーレム」 「あ、あれ?どんどん動かせるゴーレムが減っていく、も、もしかして敵襲かなあ…」 キュルケがため息をつく。 「偵察の意味ないじゃない…」 「で、でも敵がいることがわかっただけでも大きな進歩じゃないかね?」 「普通にゴーレム出せばよかったじゃないの、とにかくなんとかしなさいよ」 「わかった、とりあえず集合させよう、これでなにが起きてるかわかるはずだ」 ギーシュが目をつぶって杖を振る。 「お、オーク鬼の集団だ!」 ギーシュが悲鳴をあげる。 「総員退避ィいいいい!こっちまで撤退いいいッ!」 ルイズが慌ててギーシュの肩を揺する。 「ちょ、ちょっと、そんなことやったら私たちのところにオーク鬼が来ちゃうじゃない!」 「あああああ!忘れてたあああ、でももう遅いや、あはははは」 ボロボロの小さなワルキューレが次々と集まってくる。 「なんだこりゃ、オーク鬼にやられたにしては…穴だらけなんて不思議な傷だな…?」 ガサガサよ周りの藪が動く。全員杖(シエスタはフライパン)を構え、場が静まる。 そして、藪からオーク鬼が顔を出した。 「来たわよッ!」 ルイズが叫ぶ。 しかし、いたのはオーク鬼だけではなかった。 キュルケがあとずさりしながら言う。 「ね、ねえ、これはなに?ギーシュのゴーレムなの?なんか小さい兵隊で、銃みたいなのを持ってるけれど…」 「え?僕のゴーレムはもうここに全て集まって……」 小さな兵隊が銃をこちらに向ける。 「伏せなさいッ!」 ルイズが叫んだ次の瞬間、小さな銃からでた弾丸が伏せたルイズ達の上を突き抜けていく。 「ど、どうなってるんだ!?」 ギーシュがうろたえる。 「もしかして…スタンドじゃない?人間以外が持ってるってこともありえるはずよ!」 キュルケが杖を構えて距離をとりながら言う。 シエスタはフライパンを構えて震えている。 「じゃあ、この兵隊はどれかのオーク鬼のスタンドなのね……なら、こうするしかないわね、それは…逃げる!」 ルイズが振り向いて逃げようとする。 「……こともできないみたいね、見事な包囲だわ、ギーシュも少しは見習いなさい」 後ろにも獲物を狙う目をしたオーク鬼が何体も並んでいた。 「さて、観念する?無駄な抵抗してみる?」 ルイズが尋ねる。 「そんなの決まってるじゃない!」 「命を惜しむな、名を惜しめ、この家訓の通りに死ぬまでさ!ミス・シエスタだけでも逃がすぞ!」 二人は杖を構える。 「少年少女ども、相変わらずいい啖呵だな!こんな優れた人間どもをオーク鬼の夕食にするにはあまりに惜しすぎるゥウウウウッ! そのとき、茂みの後ろから声が聞こえた。 「この世にナチスがあるかぎりィイイイイイイッ!共産主義は栄えないィイイイイイイッ! この村に俺がいる限りィイイイイイイイッ!オーク鬼どもは栄えないィイイイイイイッ!」 男の後ろから彼女たちがよく見知る男がでてきた。 「やあ、ミスタ・グラモン、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・シエスタ、でしたかな?今週の山場ですぞ」 「食らえオーク鬼どもォオオオオオウッ!重機関砲発射ァアアアアアッ!」 機関砲をぶっ放しながら前進していく。 「どうだオーク鬼どもォオオオオオオッ!我が愛機Bf.109最新型搭載ィイイイイイ機関砲の味はァアアアア!」 小さな兵隊が銃を放つが、もちろん効果はなく、そのうち本体が倒れたのか兵士は消え去った。 オーク鬼が全てやられるか逃げていき、一息をつく。 「それにしても、なぜこんなところにコルベール先生とシュトロハイムさんがご一緒にいらっしゃるんですか?」 ルイズが二人に尋ねる。 「若者がァアアアア!天才コルベールの技術を起点にィ……このシュトロハイムの体の部品は作られておるのだアアア!」 「うむ、彼は柔軟な発想を持っていてね、私の研究を認めてくれた上に色々とアドバイスしてくれるのだよ! 非常にためになっている、研究がはかどってはかどってしようがない!」 コルベールは嬉しそうに顔をほころばせる。 「それで、どうしてここにいるんですか?」 シュトロハイムがうなずく。 「オスマンの計らいでな、この前のゴーレム騒ぎで家が壊されたからな、ここに土地を紹介してもらったのだ。 それにしてもここはいいところだ、風土もいい、人もいい、飯もいい!イギリス人も見習うべきだな! ということでここに住まわせて貰っておるのだ、こういったところは不慣れだが、近所の人たちも色々と 世話をしてくれる。俺にとってここは第二の故郷とも思えてきたな!」 一行はコルベールに目を向けると、コルベールは口を開いた。 「うむ、シュトロハイムくんにあの空飛ぶヘビくんの話をしましたらね、感心されまして、彼はそれを応用した 『ひこうき』というものについて教えてくれたのですよ!そしてある日、友人の話を聞いていると、ここに『空の羽衣』 という道具があると聞きまして、話を聞く内に、シュトロハイムくんの言っていた『ひこうき』というものと特徴が 似ていることに気付いたのですよ!それを考えるといてもたってもいられなくなって、こちら向かったところ、 なんと彼に出会ったのですよ!」 「『空の羽衣』ですって!?」 シエスタが驚きの声をあげる。 「おや、ミス・シエスタ、ご存じなのですか?」 「ええ……私のひいおじいちゃんの、形見です。ひいおじいちゃんはそれを纏えば飛べるとも言ってたそうですけど、 誰も動かせなくて…きっとインチキなんでしょうね」 そう笑うと、シュトロハイムが口を挟んできた。 「インチキなどではないィイイイイイッ!コルベールの知力と努力の結果ァアアアアアア! 『空の羽衣』を飛ばすことは可能となったのだァアアアアア!」 「ほ、ほんとうですか!」 シエスタが目を輝かせる。 「百聞は一見にしかずゥウウウウウ、ついてこい少年少女どもォオオオオ!」 そういって背を向け歩きだすが、ふと気付いたように振り返る。 「そういえば、ミス・ヴァリエールだったか、君がナチスについてなにか悪いことを言っていたような気がするのだが」 「なに、ナチスって?私そんなもの知らないわよ?」 「そ、そうだな、そうに決まっているな、すまなかったな、では行くぞ、諸君ゥウウウウ!」 To Be Continued...
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S.H.I.Tな使い魔-01 S.H.I.Tな使い魔-02 S.H.I.Tな使い魔-03 S.H.I.Tな使い魔-04 S.H.I.Tな使い魔-05 S.H.I.Tな使い魔-06 S.H.I.Tな使い魔-07 S.H.I.Tな使い魔-08 S.H.I.Tな使い魔-09 S.H.I.Tな使い魔-10 S.H.I.Tな使い魔-11 S.H.I.Tな使い魔-12 S.H.I.Tな使い魔-13 S.H.I.Tな使い魔-14 S.H.I.Tな使い魔-15 S.H.I.Tな使い魔-16 S.H.I.Tな使い魔-17 S.H.I.Tな使い魔-18 S.H.I.Tな使い魔-19 S.H.I.Tな使い魔-20 幕間1 S.H.I.Tな使い魔-21 S.H.I.Tな使い魔-22 S.H.I.Tな使い魔-23 S.H.I.Tな使い魔-24 S.H.I.Tな使い魔-25 S.H.I.Tな使い魔-26 S.H.I.Tな使い魔-27 S.H.I.Tな使い魔-28 S.H.I.Tな使い魔-29 S.H.I.Tな使い魔-30 S.H.I.Tな使い魔-31 S.H.I.Tな使い魔-32
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前ページ次ページネコミミの使い魔 わたしが目覚めて一番最初に目についたのは、桃色が混じったブロンドの髪を持った綺麗な女の人だった。 そういえば昨日召喚されて、一緒に眠ったんだっけ。それと回復の魔法を使ったけどソウルジェムが全く曇ってないのを確認する。 やっぱり変だ、グリーフシードの気配も感じられないし、ココはやっぱり異世界なんだろう。 キョーコやマミお姉ちゃんとはもう出会えないのかな。 そう思うと涙が出そうに鳴る。 わたしが動いたのを感じて、ルイズのお姉ちゃんが身動ぎした。 「目を、覚ましたのね……わたしも起きないと」 そう言って身体を起こす。 清々しい朝の日差しに包まれて、髪の毛がキラキラと輝く。 やっぱり綺麗な人だな、と思った。 「ねえ、ゆま、わたしの使い魔」 「うん!」 「……あなたに仕事を言い渡すわ、できるかしら?」 「がんばるよ!」 どんなことを言われるんだろう、ドキドキする。 ルイズのお姉ちゃんはひとしきり考えるような仕草をした後、タンスの方を指さした。 「あそこに私の下着があるわ、上下、取ってきなさい」 「わかった!」 簡単なお仕事でよかった! コレで食事を用意しなさいとか言われたら、マミお姉ちゃんと一緒に習った、ティロ・ケーキ*お菓子作り*を使わないといけないところだった。 タンスの指さされたところには下着がたくさん入っていた、キョーコと同じくらいの大きさかな、マミお姉ちゃんに比べたらかなり小さい。 「下着、持ってきたよ!」 「ありがとう、そうしたら、そこに制服があるでしょう、取って頂戴」 「わかった!」 目に見える範囲にあった、昨日ルイズのお姉ちゃんが着ていた制服。 その途中に服と下着が用意してあった。 {{行頭下げ}}【ゆまたんへ あしながおねーちゃんより】 「ルイズのお姉ちゃん、これ、お姉ちゃんが用意したの?」 「何その服、ゆまたんへ? さあ、知らないわ」 「ととと、とりあえず制服を持って行かないとね」 とりあえず置かれた服を放っておいて、制服をルイズのお姉ちゃんに届けに行った。 「ゆま、その服をとりあえず来てみなさい、昨日と同じ格好では嫌でしょう?」 「うん! 着てみる!」 緑色を基調としたふりふりの憑いたワンピースの吹くと、リボンの付いたパンツだった。それを身につけると、ルイズのお姉ちゃんが可愛いわと褒めてくれて嬉しい。 「洗濯は……まあ、平民が入ってきて勝手にするでしょう、このカゴに二人分入れておきましょう」 二人で一緒に部屋を出ると、チョコレート色の木の扉が3つ並んでいた。 その扉の一つが開いて、キョーコと同じような髪と、マミお姉ちゃんと同じような胸を持ったお姉ちゃんが姿を表した。 わたしと比べるとすごく背が高くて、ルイズのお姉ちゃんよりも大きい、それにスタイルもよくてそれに自信を持っている様子だった、 その人はルイズのお姉ちゃんを見ると、ニヤリと笑った、 「おはようルイズ」 ルイズのお姉ちゃんは期限が悪そうに眉をひそめると、唇を尖らせながら挨拶を返す。 「おはようキュルケ」 そしてわたしのほうに優しげな表情を向けて、 「おはよう、ゆま、ステキな名前ね」 「おはようございます、キュルケお姉ちゃん?」 「ええ、あたしの名前はキュルケ、覚えておいてね」 そう言って優雅に微笑んだ。 ルイズのお姉ちゃんはわたしを守るように前に立つ。 「サモン・サーヴァントでそんなに可愛い子を呼ぶなんてすごいじゃないのルイズ」 「褒めてるのそれ?」 「褒めてるわよ、ま、あたしの使い魔は更に凄いけれど、フレイムー」 キュルケのお姉ちゃんは勝ち誇ったような声で使い魔を呼んだ。確か昨日教室で見た使い魔たちよりもすごいのかな、なんて思った。 部屋からのっそりと四つ足で登場をしたのは、巨大な爬虫類だった。魔女の使い魔とはちょっと違って、こちらは動物っぽい。 ただ尻尾は熱そうに燃えていて、こういうのは動物園にはいないなと思った。 「すごいね、でっかい、トカゲ?」 「んー、ちょっと違うわね、火トカゲよ」 「うーん、変身したら勝てるかな……ちょっと自信ない」 「あなた変身できるの? 不思議ね、まあ、使い魔っていうのは普通こういうのなのよ」 さすがに虎くらいの大きさのトカゲだから、火トカゲなんだろうか。 「それって、サラマンダー?」 「そうよ、見て、この尻尾。ココまで鮮やかで大きな炎の尻尾じゃ間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ、ブランド物よー? 好事家なんか見せたら値段なんかつかないわよ? ……まあ、人間の変身する使い魔も値段がつかないでしょうけど」 ちらちらと、別の扉を気にしながらキュルケのお姉ちゃんは言った。 「まあ、わたしの使い魔もステキだけど、よかったわね」 「ええ、私の属性にぴったり」 「あなた、火属性ですもんね」 「ええ、微熱のキュルケですものささやかに燃える炎は微熱、でも男の子はそれでイチコロなのですわ、あなたと違ってね」 確かにマミお姉ちゃんみたいな胸を大胆に露出させていたら、男の子の視線はその胸に向かうだろう。でも、マミお姉ちゃんと違って紅茶を入れるのが得意だったり、ケーキを買って食べさせてくれたり、料理が得意だったりとは違いそうだ。 「ゆま、火属性というのは、こんなんなのよ、あんまり近づかないようにね」 「失礼ねゼロのルイズ、まあいいわ、お先にー」 「悔しー! ……まあ、ゆまもいい使い魔だからいいか」 「ルイズのお姉ちゃんもフレイムみたいのがよかったの?」 「メイジの実力を見るには、使い魔を見よという言葉があるの、ゆまが変身できたりしても、見た目の差で、ちょっとこちらの負けかもね」 「うー、ゆま、頑張るよ!」 決意するわたしを、ルイズのお姉ちゃんは可愛い物を見るかのように目を細めて見つめていた。 そういえば最後に、キュルケのお姉ちゃんはゼロのルイズといった、ゼロってことはないってことだよね、きっと悪い意味に違いない、だから聞かなかったことにしようっと。 トリステイン魔法学院の食堂は、真ん中の本塔の中にあった。食堂の中にはすごく長いテーブルが三つ並んでいる、学年別に分かれているのかなと思った。百人は座れそうなテーブルの真中にルイズのお姉ちゃんの隣りに座った。 左のほうにあるルイズのお姉ちゃんより*キュルケのお姉ちゃんよりもお色気な人もいた*大人びた顔をした人たちは紫色のマントを付けて、左側の席に座っていた。 右側のテーブルに座った、ちょっと幼い顔の人たちは、茶色のマントをつけている、ルイズのお姉ちゃんとは違うものだから、きっと一年生だ。 一階のちょっと上になっている所に先生らしき人たちが見えた、どうやらココでみんな食事をとるみたいだ。 いくつものローソクが並べられて、花が飾られて、フルーツが盛られたかごが乗っている。キョーコがいたら、あれもきっと食べてしまうに違いない、食い物を粗末にすんじゃねえと言いながら、そしたらルイズのお姉ちゃんはどんな顔をするだろうか。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 「ふえ」 「メイジはほぼ全員が貴族なの……まあ、ゆまみたいな例外もいるけれど、貴族は魔法を持ってその精神をなすのモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ、だから食堂も貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの、ちょっと難しかったかしら?」 「とりあえず、貴族らしーんだね?」 「ええ、本当は貴族ではないゆまはここには座れないんだけれども、わたしの特別な計らいでココに座れるの、感謝してよね」 と、いたずらっぽく言った。 「でも、ゆまどうしよう、こんなお料理、貴族らしく食べられるかな?」 「ふふ、取り分けてあげるわよ」 「いいの? 使い魔なのに?」 「使い魔だけど、妹分みたいなものよ」 私はルイズのお姉ちゃんの手の動きを眺めながら、いつかルイズのお姉ちゃんの手を借りずに食事ができるようにがんばろうと思った。 昨日も行った魔法学院の教室は、マミお姉ちゃんの学校とはまた違った感じだった。椅子がいっぱい並べられて、椅子もいっぱい並んでいる。 昨日も一緒に授業を受けたけれど、あんまり内容はわからず、ルイズのお姉ちゃんがところどころ分かりやすく説明してくれてやった少しだけ分かるくらいだった。 きっと、ルイズのお姉ちゃんは勉強がよく出来るに違いない。だからこそ初心者のゆまにしっかりと教えられるんだろう。 教室の中にはキュルケのお姉ちゃんがいた、男の人に取り囲まれている、本当だ男の人はイチコロなんだと思った。 不意に、誰かと目があった気がした、そっちの方向を見ると、赤いメガネのお姉ちゃんが無表情でこちらを見ているような? そんなことないか。 そして窓の外には巨大な蛇がいた、教室の中に入れない使い魔もいるんだね、猫とか、カラスとかフクロウとかもいるけれど。 あと、魔女の使い魔みたいな使い魔もいる、見た目がちょっと変な使い魔だ。ああいうのも優秀な使い魔なんだろうか、不思議な世界だ。 「ゆま、わたしの隣に座りなさい」 「うん!」 「それと、この紙、できるだけ先生の話をメモしてなさい、分からないところは昨日と同じように教えてあげるから」 ようし、がんばるぞ! 私は気合を入れて先生を待つ。 扉が開いて先生を待った。 おばさんだった、紫色のローブに身を包んで帽子をかぶっている。バザーでキョーコと喧嘩したおばさんとよく似ている。 きっと、あの人もメイジなんだろう、なんてたって先生だもんね、あんまり失礼な態度は取らないようにしないと。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね、このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」 その時、ルイズのお姉ちゃんがちょっとだけ俯いた。 「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね、ミス・ヴァリエール」 ミス・ヴァリエール……たしか、ルイズお姉ちゃんの名前だ。 ということは、変わった使い魔というのはわたしのことだ。 うー、わたしのことはいいけど、ルイズのお姉ちゃんを言うのは許せないなあ。 教室中が笑いに包まれて、ルイズのお姉ちゃんの顔が赤く染まる。 「ルイズ! しょうか!? ぐへぇ!」 なんだろうか、からかおうとした声が聞こえたような気がしたけど。 「げほっ、召喚出来なかったからって平民を連れてきたんだろ!」 「そんなことないわ! わたしはちゃんと成功したわよ!」 「そうだよ! ルイズのお姉ちゃんを悪く言うのはゆまが許さないよ!」 そう言ってソウルジェムを掲げて変身する。 すっかり姿が変わったわたしに、教室中が騒然とした。 「ゆま……あなた本当に変身できたのね……」 「ルイズのおねえちゃんを笑う人はゆまが懲らしめちゃうんだから」 そういって、からかっていた太っちょの人に向けてハンマーを向ける。 その時、何かの気配を感じて、杏子から習った結界を張った、ばちばちばち! とすごい音がする、目の前に赤土が落ちていた。 「……では、授業を始めましょう、使い魔さんも席について」 わたしはおとなしく席に座った。 これ以上喧嘩してたらルイズのお姉ちゃんに迷惑がかかっちゃうし。 「私の二つ名は赤土、赤土のシュヴルーズです、土の系統の魔法をこれから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね、ミスタマリコルヌ」 えーっと、先生は赤土。土の先生。っと。 「はい! ミセス・シュヴルーズ。火水土風の4つです!」 ということは、火の先生、水の先生、土の先生、風の先生がいると。 「今は失われた系統の魔法である虚無を含めて、全部で五つの系統があることはみなさんも知っての通りです。その五つの系統の中で土が最も重要なポジションであることを占めていると私は考えます。それは決して私は土系統だからというわけではありませんし、単純な身びいきでもありません」 あんまり説得力がないような気がした。 「土の系統の魔法は万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。このような魔法がなければ重要な金属を作り出すことはできないし、大きな石を切り出して建物を建てることも出来なければ、農作物の収穫も今よりも手間取ることでしょう、このように土の系統はみなさんの生活に密接に関係しているのです」 ってことは、魔法がゆまたちの世界のノコギリとか、チェーンソーとか、釘とか、そういう道具に該当しているってことなんだ。 魔法を使えるってだけで偉いっていうのがなんとなく分かった気がする。でも、魔法を使わなくても生活している人もいるのにな、とも考えた。 苦労をすれば魔法も使わず、いろいろな技術が進歩するだろうに、魔法のせいできっとそれが遅れちゃってるんだろう。 「今から皆さんには、土系統の魔法の基本である錬金の魔法を覚えてもらいます、一年の時にできるようになった人もいるでしょうが基本は大事です、もう一度おさらいすることに致します」 錬金錬金っと、基本。っと。 先生は石ころに向かって魔法を使った。 光が収まると、ただの石ころがキラキラ光る真鍮に変わっていた。 「ゴゴゴ、ゴールドですか! ミセス・シュヴルーズ!」 キュルケお姉ちゃんが盛り上がっていたけど、真鍮と金だとだいぶその価値が違うと思う。 「いいえ、コレはただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのはスクウェアクラスのメイジだけです、私はただの、トライアングルですから」 スクウェア? トライアングル? 「ゆま、スクウェアやトライアングルというのは、メイジのレベルのことよ」 わたしが質問する前に、ルイズのお姉ちゃんが説明をしてくれる。 きっと予測をしていたのだろう。 「先ほどの4つの属性を、足す火水土風ね、それぞれ同じ属性を足したりすることによって、強力な魔法が使えるように鳴るわ」 「トライアングルってことは、{{英数字}}3つってこと?」 「そのとおり、一つだと、ドット、二つだとライン、{{英数字}}4つでスクウェアね」 なるほど……。 「ミス・ヴァリエール、授業中に私語をするなら、錬金をやってご覧なさい」 しまった、ゆまとのおしゃべりのせいでルイズのお姉ちゃんが指名されちゃった。 どうしよう、私はキョーコにもマミお姉ちゃんにも錬金なんて習ってない、習ったのは分身魔法と結界と、銃の出し方と、大砲の出し方だけだ。 ティロ・フィナーレなんてしたら授業がめちゃくちゃになっちゃうし……。 「わかりました」 ルイズのお姉ちゃんが答える。 わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 そうして、教室の前に歩いていったお姉ちゃんは不思議と緊張をしている様子だった。 そして、他のクラスメートの人達も、なんでだろ? 「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 目を閉じて呪文を唱え始めたルイズのお姉ちゃんはとても綺麗だった。 わたしを魔法少女にした、織莉子お姉ちゃんよりも、ある時突然消えてしまったほむらおねえちゃんと同じくらいに綺麗だった。 このクラスでは赤いメガネのお姉ちゃんと、キュルケお姉ちゃんくらいしか、ルイズのおねえちゃんと同じくらいに綺麗な人はいない。 そして、ルイズのお姉ちゃんは杖を振り下ろした。 その瞬間机ごと石ころが爆発した。私はキョーコに習った結界魔法を全開で使い自分自身を守ったけど、ルイズのおねえちゃんと先生は黒板に吹っ飛ばされた。 教室の中にいた使い魔たちが暴れだし、教室の中はすごい騒ぎになる。 ――これなら、ティロ・フィナーレをしてたほうが良かったかも。 「怪我をした人はゆまに言ってね? 治してあげるよ!」 近くで傷を抱えていた使い魔や、メイジの人たちに回復魔法をかける、それでもソウルジェムは曇らない、大丈夫、どんどん使える。 そうだ、先生とルイズのお姉ちゃんは! すすで真っ黒になったルイズのおねえちゃんがムクリと立ち上がり、ポケットから取り出したハンカチですすを吹きながら淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「おねえちゃん大丈夫!」 「だいじょうぶよゆま、それよりも先生を回復させてあげて」 「うん!」 そうしている間にも教室中からゼロのルイズだの、 「いつだって魔法の成功率ゼロじゃねえかよ!」 といった声が聞こえてくる。 そっか、だからあの時ゼロのルイズってキュルケのお姉ちゃんは……って、大変、気絶した先生を回復させないと! 前ページ次ページネコミミの使い魔
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戦う司書シリーズからモッカニアの本を召喚 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-01 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-02 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-03 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-04 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-05 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-06 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-07-1/2/3 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-08 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-09-1/2 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-10 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-11-1/2 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-12-1/2 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-13 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-14 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-15 虚無の魔術師と黒蟻の使い魔-16