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反省する使い魔! 第十話「インテリジェンス◆ビート」 キュルケの誘惑を振り切った次の日。 音石は今、学院の広場にいた。 つい10分程前に彼は目を覚まし、 昨日と同じようにルイズを起こそうと(もちろんギターで)したが 「今日は『虚無の曜日』だからゆっくり寝かせて・・・」 そう言われ、ルイズは再び眠りに落ちてしまった。 『虚無の曜日』………、つまり日本でいう日曜日のような 休みの日のことを言っているらしい…………。 そういうことならと、音石ももうひと眠りしようとしたが 窓から差し込む快晴の光や鳥の鳴き声。 とても二度寝できるような状況じゃなかった。 以前も述べたかもしれないが、音石は刑務所にいた為 その規則正しい生活習慣が完璧に体に染み付いたおかげで いやでも朝早くに目を覚ましてしまう。なんとも難儀な話である。 仕方なく音石は藁の上から立ち上がり、昨日と同じように 服にこびりついた藁を払い落とすと、ルイズの部屋を後にした。 ルイズの部屋を出ると、音石がまず最初に向かったのは シエスタとはじめて出会った水汲み場だった。 音石はそこで顔を洗うと、清々しい風を肌で感じていた。 肌でモノを感じる。音石はギタリストとして 常に音やリズムなどを肌で感じている。 そのため音石にとって、肌でモノを感じるというのは とても重要で素晴らしいことなのである。 そして現在に至る。 音石はその後、水汲み場からそのまま広場へと移動した。 そしてさらにそのまま、学院の男子寮、女子寮から 出来るだけ離れた広場の隅のところへと移動した。 「………さてと、ここら辺でいいか」 なぜ音石が男子寮、女子寮からできるだけ離れたかというと 彼なりの気遣いの配慮である。 なぜなら音石が寮から離れていったのにはわけがあったのだ。 「学院なんかでゆっくりと『コイツ』を堪能できる場所なんざァ 限られてるからなぁ。ここらへんなら寮にいる連中に 聞こえることもなけりゃあ文句言われることもねぇだろ………」 そして音石はそのまま『コイツ』こと、愛用のギターを手に持った。 ドギュウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!! 「YEAH!」 弦を指で弾き、発する音に合わせて体を激しく動かし、髪がなびく。 音石にとって、ギターを奏でている時間こそが何よりも幸せであった。 たとえ嫌なことがあってもギターさえ弾いてしまえば その嫌なことを忘れさせてくれる。 既に音石の頭の中には派手なステージでスポットライトを浴び、 歓声が降り注いでいる自分の姿が出来上がっていた。 彼は今、最高に満足している。 今振り返ってみれば、彼はこの世界でゆっくりと 心ゆくままにギターを演奏するのは今が始めてである。 召喚された最初の日にはライトハンド奏法、一回だけ。 その次の日にはルイズのお目覚めリサイタルや ギーシュの決闘の時に軽く弾いた程度である。 次第に音石の顔に大量の汗が溢れ出した。 しかし彼のギターのボディの材料、 中南米ホンジュラス産の1973年のマホガニー材が 彼の汗を呼吸するかのように吸い取り、 音石が汗をかけばかくほど、ギターの音が良くなっていった。 ネック部の弦には狂いがなく、100年間暖炉に使われてきた 超乾燥のくるみ材(盗品)を使用しているため、 音がビビることなく、音響的な渋い味わいを出している。 そしてなによりその渋い味わいの音を正確に 鳴り響かし引き出してるのは、ギターの材質関係なく 彼のギタリストとしての実力だろう。 ギュウウウーーーーーーーーーーンッ………… 「万雷の拍手をおくれ、世の中のボケども」【うっとり?】 【パチパチパチパチパチパチッ】 「おっ?」 ギターで一通り演奏し、ラストは自分の気に入っている 決め台詞で締めくくると、万雷とまではいかないが 小さな拍手の音が音石の耳に入った。 音石がその拍手のするほうへ振り向く。 そこに居たのは、ルイズと同じくらい小柄で水色の髪、 片手にはその小柄な体よりもはるかに長い杖、 もう片手には三冊の分厚い本をもっている少女だった。 音石はその少女に見覚えがあった。 確か召喚された日にギーシュに魔法で浮かされたとき キュルケと一緒にいた記憶がある。 その次の日には、シエスタが落としそうになった食器を 拾い戻す前に空を見上げていたとき、ドラゴンの上に 跨っていた記憶もあった。だが名前は知らない。 「お前は………確かキュルケと一緒にいた………」 「………タバサ、あなたは?」 「音石明だ……、いつからそこにいたんだ?」 「だいぶまえから」 「そうなのか?コイツ(ギター)に夢中だったから気付かなかったぜ。 なあ、……さっきのオレの演奏どんな感じだった?」 音石としては、ギターが存在しないこの世界の人間に、 どんな印象を持たれるか興味深かった。 「初めて聴く音……、変わってたけどなかなかユニーク」 「ふむ、まぁそんなモンだろうな。 それでタバサ、こんなとこでなにしてたんだ? 寮からだいぶ離れてんのに………」 「……どちらかといえばそれは私のセリフ」 「ははっ、ちがいねぇな」 「わたしは図書室に借りていた本を返しにいって あたらしい本を借りて、部屋に戻る途中に 奇妙な音が聞こえたから、気になって来てみたら貴方がいた」 「オレは随分と早く目が覚めちまってよぉ~~~………、 気晴らしついでに、腕が鈍ってないか確かめていたんだよ」 「腕が鈍っていないか?」 タバサが知る限りでは、音石はルイズに召喚されたときから ずっとギターを決闘中だろうと肌身離さず抱えていた。 そんな彼がまるで久しぶりに演奏するかのような 物言いに疑問を感じたのだ。 「………ん、ああ。ワケあって牢屋の中にぶち込まれててな。 ちょうど出所したところをルイズに召喚されたんだよ」 「………そう」 なぜ牢屋の中に入っていたのか………。 気にならないと言えば嘘になる。 しかし無理に相手の詮索するようなことはタバサはしたくなかった。 人はそれぞれにいろんな『過去』を背負っている。 楽しかった思い出、悲しかった思い出、悔しかった思い出、 そしてそんな思い出には必ず理由が存在する。 だからこそタバサは、目の前の男が牢屋の中に 入っていた人間であろうと、少なからず何か理由があるのだろう。 そう解釈したのだ。 他の生徒や教師がこの事実を知れば音石に対して 強い警戒心を抱くだろう。 しかしタバサは違った。ワケがあって『過去』を 知っている彼女だからこそ 音石に対して、警戒することもなかった。 「………ひとつ、質問がある」 「ん?」 だがタバサにはまだ気になることがあった。 それは…………。 「ギーシュとの決闘のときに見せた あれは…………………………何?」 「マジックアイテムを使った魔法だ」 当然嘘である。 音石は食堂でのマルトー達とのやりとりをもとに 自分のスタンドのことを誰に尋ねられたら マジックアイテムと言って誤魔化そうと 昨日の夜から考えていたのだ。 実は言うと音石はタバサが自分を尋ねたときから 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことを 聞いてくるんじゃないだろうかと予想はしていたのだ。 なぜならここの生徒たちは決闘のこともあり ほとんどが確実に音石にビビッている。 それは昨日すでに音石も確信している。 (まあ、もともとそのつもりでの決闘なのだが) そのため、そんな生徒が自分に話しかけるなんて よほどの物好きか、プライドの高い馬鹿、 チリ・ペッパーの謎を探ろうとしている命知らず。 音石はそう考えていたのだ。 当然、スタンドのことを話しても音石に得はない。 ルイズやオスマンに話したのは彼らを自分なりに 信頼しているからだ。 仮にキュルケにスタンドのことを聞かれても 音石は絶対に岸辺露伴の名言『だが断る』と言い切るだろう。 「嘘」 「なにィ?」 音石の答えをタバサがバッサリと否定した。 「あんな亜人を呼び出す魔法は私は知らない」 「おいおい、世界は広いんだぜ? それに比べ、人間一人が脳みそにぶち込む記憶なんざ たかが知れてるんだ。世の中お前が知らないことなんて 腐るほどあるんだよ……………」 「…………………」 音石は知らないがタバサは俗に言う『本の虫』である。 授業中はおろか、出歩くときも本を凝視している。 今日のような休みの日は一日中部屋に篭って本を 読むのが彼女の楽しみである。 それ故に彼女は成績も優秀、あらゆる魔法の知識を読破している。 マジックアイテムも例外ではない。 だから音石に知らないこともあると言われて プライドが少し……だいぶ……ちょっと傷ついた。 「ならこれだけは教えてほしい」 「………なんだ?」 「あなたは…………どこの出身?」 (痛いトコつくなァーおい) 「ここからずっと遠い所だよ」 「遠いところ?」 「正直言ってオレにもわかんねーんだわ だいぶ離れているせいでな………… だからオレもここら辺の地理をよく知らねぇんだよ」 「そう…………」 音石が今答えられるのはこのくらいが精一杯である。 音石としてはいちいち答えてやる道理はないが、 もしもというときがある。 音石はあとでルイズにこの世界の地理や国のことについて 色々と教えてもらおうと考えていた。 ついでになぜ道理もないのにタバサの質問に答えたかというと 単なる気まぐれである。 「あ、オトイシさん!」 すると突然だれかに名前を呼ばれ、音石は振り返った。 やって来たのはシエスタである。 どうやら昨日と同じように洗濯をしていたようだ。 しかしなぜ水汲み場から広場の隅にきたのだろうか? 音石はそれが気がかりだった。 「おお、おはようシエスタ」 「あ、おはようございます!………あ、そうじゃなくて。 オトイシさん、ミス・ヴァリエールが探していましたよ」 「ルイズが?チッ、仕方ねーな。 んじゃあタバサ、そういうことだから…………いねェ」 音石が振り向きなおってみると いつの間にかタバサはその場を去っていた。 まるで雪みてーな奴だな、現れたと思ったら いつの間にか消えてやがる。 音石はタバサにそんな印象を感じながら、 シエスタと別れ、女子寮のルイズの部屋に帰っていった。 音石は知らない。タバサの二つ名がその印象どおり 『雪風』であることを…………。 そんなこんなで現在音石はルイズの部屋へと辿り着き ルイズの部屋のドアノブに手を掛けた。 【ガチャ】 「あ、オトイシ!ちょっとアンタどこ行ってたのよ!?」 「ギターの練習だ。つーかよ~~… どこに行こうがおれの勝手じゃねーか」 「もうっ!あんた、わたしの使い魔って自覚ある!?」 「はっ、オレにも人権ぐらいあってもいいと思うが?」 「ふん、まあいいわ。それはそうとオトイシ! ゆっくり寝て気分もいいことだし、 今日は街に買い物に行くわよ!」 「お!街か~、いいねぇどんなのか楽しみじゃね~か~ なにか買いたいモンでもあんのかルイズゥ~?」 音石からしてみれば召喚されて以来 この学院を一歩も外に出ていなったので この世界の街というのがどのようなものなのか かの有名なルーブル美術館を観光するかのようで 非常に楽しみで心が躍った。 しかしそれはそうとして、なぜ急に街に行くなどと 言い出したのか。そこに小さな疑問を感じていた。 「わたしじゃないわ、オトイシ。アンタのよ」 「オレの?」 「そっ、さすがに自分の使い魔をずっと藁で 寝かしておくのもなんだし。 今日はアンタ用の枕やモーフを買ってあげるのよ!」 そのルイズの言葉に音石は目を見開かせ、 やがてその顔に笑みが浮かび上がった。 「おいおいおい!なんだなんだァ~ルイズ! 随分とメチャ嬉しい事してくれんじゃね~か~~! こりゃ明日は空から槍が降ってくるぜェ、はっはっは」 「一言多いのよアンタは! そ、それと勘違いしないでよね! 使い魔の面倒を見るのは貴族として 当たり前のことなんだから!」 はいはい、笑みを浮かべながら音石は言葉を返し、 街に行くための支度を手伝い、 部屋を出る際に小さな袋を手渡された。 袋の中を見てみると、音石は「おおっ!」と声を上げた。 小さな袋の中には輝かしい金貨がギッシリと詰まっていた。 「財布を持って守るのも使い魔の役目よ」 「なるほどな」 「あ、それから。街に行くんだからスリとかに気をつけなさいよ?」 「わかった、任しとけ」 音石の頼りがいがあるような態度に ルイズはどこか安心したが、この時彼女は気付かなかった。 自分の使い魔が主人である自分の目を盗んで、 いつの間にか袋の中の金貨を四枚ほど抜き取り、 ポケットにいれていたことを。 音石明。この男、やはり悪党である。 ルイズはそのまま忘れ物がないか確認した後、 音石とともに自室を後にした。 学院の庭をルイズの後に続いて歩いていると 音石はあることに気付いた。 「おいルイズ、学院の門はあっちだろ? どこにいくんだ?」 「街までは結構距離があるから 乗り物を取りにいくのよ」 「乗り物?」 音石の頭に?マークが浮かび上がると 奇妙な小屋に辿り着き、中からシエスタが出てきた。 「シエスタ?」 「ミス・ヴァリエール。頼まれていたモノは 用意しておきました」 「そう、ありがとう。それじゃあここまで連れてきて頂戴」 「かしこまいりました」 貴族であるルイズの前では シエスタも給仕としての顔を覗かせており、 いつものシエスタからは想像も出来ない真剣な顔で ルイズに対処していた。 音石はそんなシエスタにどこか感心していたが、 次に彼女が連れてきた『モノ』を見て、体がぴたりと止まった。 「………馬?」 そう、馬である。二頭のでかい馬。 その小屋は貴族用の馬を置いておく厩舎小屋なのである。 「なあ、まさか……こいつに乗って?」 「そうよ、当たり前でしょ?」 あっさりと返答するルイズに音石の頭と肩はガクッ下がった。 (マジかよ~、なんかもっとこう…… 魔法を使った乗り物を想像してたぜ、 『アラジンの魔法のランプ』に出てくる 空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)的なモノをよ~~ うわァ~、一分前のおれ殴りてェ………) 「ちょっとオトイシ。どうしたのよ?」 「なぁルイズゥ~、オレ馬なんて乗ったことねぇんだけど」 「そうなの?あんたがいたトコって馬がいないの?」 「別にいねぇーわけじゃねぇんだが………」 そこで音石は、シエスタに聞かれると面倒だと判断し ルイズの耳元で小声で話しかけた。 「オレの世界じゃ自動車や自転車やらの 移動手段があるから、馬なんて普通つかわねぇんだよ」 「そうなの?」 「別に馬がいないってわけでもねぇんだが………、 趣味とかスポーツぐらいでしか生の馬自体みかけねぇんだよ」 「え、じゃあオトイシ。 あんた馬を直接見たのコレが初めてなの?」 「当たり前だ。こんなのテレビぐらいでしか見たことねぇーよ!」 はあっ、とルイズに口から大きな溜め息が出た。 「もう、仕方ないわね。ええっと…確かシエスタだったかしら? 悪いけどその馬たちを門の外まで連れてきて頂戴。 オトイシ、さすがに学院内じゃなにかとあれだし 学院の外で私が馬の乗り方を教えてあげるわ」 (ご親切ありがてぇんだが、すっげー乗りこなす自信がねぇ……) その後、音石はルイズのご教授の下、 乗馬についてとりあえず基礎から教えてもらい 貴族用の馬だけあってか、馬自身も利口でおとなしく 一時間半かけて音石は少しずつ順応していった。 しかしまあそれでもぎこちないのはお約束。 だがそれでも、わずか一時間半で 馬を走らせる程にまで扱えるようになれるのは、 成長性の高いレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体である 音石本人の驚異的な順応性や学習性の高さあってのものだろう。 そんなこんなでやっとの思いで何とか馬に乗って 走らすなどのある程の技術を使えるようになった音石は ルイズの後に続いて壮大な草原を馬で走らせていた。 「はっはー!乗れるようになっちまうと 意外と楽しいじゃねーか!YES!GO!GO!」 「ちょっとオトイシ!あんまり調子乗ってると おっこちちゃうわよ!落馬ってとっても危ないんだから! あ、音石。そこを右に曲がって!」 ルイズよりも先行し、音石は馬を走らせ はじめての乗馬経験でテンションが上がっており 落馬の危険も顧みず、お構いなしに馬のスピードを上げていた。 しかし音石は知らない。 目的地であるトリスティン城下町は 馬で走らせても三時間かかるほどの距離にあることを……。 790 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 41 40 ID d/YP6Vt0 [12/27] そして一方こちらは、所戻ってトリスティン魔法学院。 そこはタバサの部屋である。 彼女は虚無の曜日を読書で費やすことを日課としており、 音石と出会う少し前に借りていた本を物静かに読みふけっていた。 【コンッ……コンッ……】 その静寂を小さく突き破ったのは 部屋のノック音だった。しかし誰かは見当がつく。 学院の教師に呼び出されるような心当たりはないし、 自分の部屋に尋ねてくる人物など『彼女』以外考えられない。 本来ならせっかくの読書の時間を無駄にしたくないので このまま無視するにかぎるのだが、タバサを違和感を感じていた。 扉のノック音に『彼女』らしい、活発で元気な感じがなかったのだ。 「………どうぞ」 タバサがそう言うと、部屋の扉はゆっくりと開かれ 入ってきたのはキュルケであった。 キュルケを見たとき、表情には出さなかったものの タバサは内心驚いていた。 キュルケの顔が見ているだけでわかるほど とても暗い表情をしていたからだ。 いや、表情だけじゃない。目の下にクマが出来ており よく見ると目元に乾いた後がある。泣いていたのだろうか? 791 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 42 25 ID d/YP6Vt0 [13/27] 「タバサ……、お願いがあるの…」 「……………何?」 とても暗い声、普段元気活発溢れる彼女からは 想像も出来ない声の低さにタバサは只ならぬものを感じた。 キュルケはタバサのかけがえのない親友だ。 その親友がこんな姿になっているなんて 余程のことがあったのだろうとタバサは察した。 「ルイズと……その使い魔のオトイシが 城下町に買い物に行ったの(シエスタから聞いた) 急いであの二人を追いかけないといけないのよ だからお願い。貴方の風竜、シルフィードの 力を貸してほしいの、わけは………聞かないで」 「…………………」 タバサは無言のまま部屋の窓を開き、口笛を鳴らした。 するとどこからか青い肌をした竜、タバサの使い魔 シルフィードが現れた。 「ありがとうタバサ」 タバサがシルフィードに跨ると、キュルケもタバサの後ろに跨り 学院から飛び上がった。向かう先はトリステイン城下町……。 一方その二人、ルイズと音石は トリステイン城下町の大通り、ブルドンネ街に辿り着いていた。 「…………………………………」 そして音石は、その一角の壁に手でもたれかかり 背中の腰辺りをさすっていた。 「もう!言わんこっちゃないわね! 乗馬初心者のあんたがあんな長い距離を 馬でとばしまくったら、そりゃ腰も痛めるわよ!」 「…………面目ない」 さすがに音石も言い返す言葉も見つからなかった。 調子に乗って墓穴を掘ってしまうのは彼の悪い癖である。 実質、三年前の杜王町の一件でも この癖が原因で散々な目にあっている。 音石自身もこの癖には反省しようと努力してはいるのだが 元々彼の性格上の問題もあってか、なかなか直せるものでもない。 しかし言い換えれば、そこが彼の魅力のひとつなのかもしれない。 「………もしまだ痛むんだったらここで待ってる? 私ひとりで買い物済ませるから………」 「……いや、大丈夫。だいぶマシになった」 「無理してないでしょうね?」 「無理なんてする必要があるかっての」 音石は大きく背中を仰け反ると、背中からポキポキッと 気持ちのいい音がなり、それと同時に腰の痛みを引いていった。 「そう、ならいいわ。それじゃいくわよ! はぐれて迷子とかにならないでよね」 ルイズが街中を歩き出し、音石もその後に続く。 しかし人ごみを進んでいるうちに音石はあることに気が付いた。 「それにしても随分と道が狭いな。ここって大通りなんだろ?」 音石が向こう側の壁とこちら側の壁を 目で測ってみると、だいたい5mぐらいしかない。 「そうよ、あんたの世界に比べたら狭いかもしれないけど こっちの世界のわたしたちからしてみれば コレぐらいが普通なのよ」 「まっ、そんなもんなんだろーな。認識の違いなんて」 「そんなもんなんでしょーね。あ、それはそうとオトイシ! ちゃんと財布持ってるわよね?まさか取られて無いでしょうね? いくらアンタでも魔法を使われたら一発なんだから 気をつけなさいよ」 「魔法?おいおい、魔法を使うって事は 貴族なんだろ?なのに盗みなんてするのかよ?」 「貴族にもいろいろいるのよ。 いろんな事情でその地位を追いやられて 傭兵や犯罪者に成り下がる奴もいるのよ」 「つまり没落貴族ってやつか? やれやれ、この世界の世も末だな」 何気ない会話を繰り返していると 一軒の建物に辿り着いた。服などが飾られてる ところから予想するとどうやら衣服店のようだ。 なぜ服屋に?とルイズに聞いてみると どうやら音石のための変えの服も注文してくれるそうだ。 「いらっしゃいませ貴族様」 店に入ると、早速店員がルイズに 貴族相手の丁寧な接客を行いはじめた。 「今日はどのような御用で?」 「使い魔のための服をいくつか注文したいの」 「こちらの御方ですか、かしこまいりました どのような衣装をご希望で?」 「そこは彼に任せるわ。オトイシ、どんな服がほしいの?」 「そうだな………」 音石は顎に手を置き、店にある衣装を眺め考えるが この世界の時代が時代なだけあってか はっきりいって、これだ!とくるようなモノはなかった。 「オレが今着てる服と同じやつは作れるか?」 音石がそう言うと、その店員は音石に 「失礼」と呟き、音石が着ている服を 手触りで調べ始めた。 「………なかなか変わった作りと材質ですね」 「ワケあって遠い地方から来てんだよ で、作れんのか?」 「ええ、少し手間取るかもしれませんが これならなんとか作れるでしょう。 ですが材質が材質のため少々値が張るかもしれませんが……」 「いいかルイズ?」 「ええ、お金はある程度多く持ってきてるから大丈夫よ でもいいのオトイシ? せっかくなんだしなんか別の服を買っても……」 「いらねぇよ、それにコイツ(今着てる服)には けっこう愛着があんだよ。これからなにが起こるかわかんねーし 予備に何着か持ってたって損はねーだろ」 「まっ、あんたがそれでいいなら もう何も言うことはないわ。 ………それじゃ、服が出来次第ここに送って頂戴。」 「かしこまいりました」 ルイズがなにかを書き記したメモと一緒に代金を支払い、 音石と共にその店を後にし、 今度は別の店で枕やモーフを購入し、 服と同じように学院に送るようにと注文した。 やることも一通り終え、二人は現在街を出ようと移動していた。 すると音石はあることに気が付く。 「なあルイズ、この裏路地抜けていけば 近道になるんじゃねぇのか?」 音石の言葉に、ルイズは脳裏にいままで記憶している この街の構図を展開し、道を辿らせる。 「確かに………、行けるかもしれないわね 事が早く済ませるのには越したことないわ 行きましょオトイシ」 ルイズ自体はその裏路地に入った経験はないが 記憶している街の間取り的に考えると なかなかの時間短縮になると予想したからだ。 しかしこのような薄汚い路地裏に足を入れるのは なにがおこるかわからないと抵抗はあったが、 自分にはオトイシという優秀な使い魔がいる。 そう考えると些細なことだと自然に思ったのだ。 そして路地裏を進んでいくと、四辻の道に入った。 「えっと、この道があーであの道があーだから……」 ルイズがその四辻でどの道に進めば 一番の近道になるか考えている一方、 音石はあくびをしながら路地裏の周りを 興味深そうに見回していた。 薄汚い野良猫、道端に散乱しているゴミ屑 そして殺風景な風景。 こうも絵に描いたような路地裏も逆に珍しい。 するとだ、音石の目にとある看板が目に入った。 その看板はファンタジーの剣の様な形になっており なにか文字が書いてあったが、 生憎音石はこの世界の文字が読めないためルイズに質問した。 「なァなァルイズ」 「ん、なによ?」 「あそこの看板、剣みてぇーな形してっけど ……もしかして武器屋か?」 「あら、よくわかったわね? 確かに武器屋だけどそれがどうかしたの?」 「行ってみよーぜ!」 「はぁッ!?なんでよ!? あんたなんなに強い能力もってるくせに 剣なんて持ってどうするつもりよ!?」 「別にほしいなんて一言も言ってねぇーだろー? 俺の世界っつーか国にはあんな武器屋なんて どこにもねぇからよ。興味あんだよ なあルイズいいだろぉ?ちょっと見るだけでいいからさ~」 「……はァ、仕方ないわね。 まっ、まだ時間には少し余裕あるし今回は特別よ?」 よっしゃ!と音石は歓喜の声を上げ、 早歩きでその武器屋に向かった。 店の中に入ると、壁に剣や槍が飾ってあり つぼの様な容れ物にもあらゆる武器が収納されている。 おお!すげェ!っと日本ではまず見れない光景に 音石は興奮を隠せず、店の見渡した。 すると店の奥からどこか胡散臭そうな主人が現われた。 797 名前:反省する使い魔代理[sage] 投稿日:2010/09/27(月) 12 47 10 ID d/YP6Vt0 [19/27] 「これはこれは貴族様! いらっしゃいませ、当店に一体どのようなご用件で?」 「別に用って程じゃないわ、ウチの使い魔が どうしても見たいっていうから連れてきただけよ」 「は、はァ。さようでございますか………」 店主は内心舌打ちをした。 (ウチの店は見世物じゃなく、商売をやってんだ! せっかくの貴族の客だってのにこのまま帰してたまるか! この世間知らずの貴族からたっぷりと金を搾り取ってやる!) 悪巧みを考えている店主の視線がルイズから 店に飾ってある武器を眺め回っている音石に変わる。 (このにいちゃんがこの貴族の使い魔だってんなら この貴族よりもこっちをうまく口車に乗せたほうが 効率がいいかもしれねぇな…………… 見たところ武器に興味があるようだし うまくいきゃあこの使い魔を通してあの貴族から ありったけの金を搾り取れるぜ!!) 「お客様、武器に興味がおありで?」 「ん?ああ、俺がいたところじゃあ 剣みてぇな武器なんて売ってねぇからな」 「ほっほー左様で……、どうです? せっかくですしなにかご購入なさってはいかがです?」 「必要ないわよ」 店主のあくどい接客にルイズが横槍を入れた。 さすがにその言葉に店主も戸惑ったが、 逆にそれを止めたのは音石だった。 「まぁまてよルイズ、このおっさんが 言ってることも一理あるぜ? せっかく来たんだし、なにか記念に買って帰るのも 悪くはねぇだろ」 「あんたに武器が必要だとはとても思えないんだけど…」 「世の中『もしも』って時がいくらでもあるんだ その『もしも』に備えとくのもありだと思うぜ?」 音石が言う『もしも』とは スタンドの射程距離のことである。 レッド・ホット・チリ・ペッパーは 電線などによる発電物がない限り、 その射程距離は一般の近距離パワー型と ほとんどかわらない。 ついでに近距離の場合の レッド・ホット・チリ・ペッパーの パワーの源である電力は音石の 精神力(スタンドパワー)によって補われている。 それ故にこの先この世界でどんなことが 起こるかわからない以上、ソレに備える必要がある。 例えば何らかの原因でまた貴族と対峙したとしよう、 彼らは基本、距離を置いての魔法を行使する。 コレが致命的であり、こちらのスタンドの射程距離に 相手が入らない限り、こちらは打つ手がない。 つまり音石は遠距離に対応できる武器がほしいのだ。 これはSPW財団から聞いた話なんだが かつて自分が『弓と矢』を使って生み出した二匹の鼠、 その二匹はどうも遠距離のスタンドを使っていたそうだが 仗助はどうもベアリングとライフルの弾を使って スタンド射程を補い、コレを撃退したそうだ。 その例もなる。用心に越したところで 別に損もないだろうと判断したのだ。 問題はどんな武器にするかだ。 「弓……いや、ナイフとかないか? こう……投げる用に有効なやつ」 「かしこまいりましたお客様、少々お待ちを」 店の奥に移動した店主は影で音石たちを嘲笑った。 (やりぃー!うまくいったぞ! この勢いでどんどんせしめ取ってやるぜ!!) 「これぐらいしか置いてありませんが如何でしょう?」 店奥から戻ってきた店主は、 木箱のケースに収納されているナイフを持ってきた。 音石はへぇ…っと呟き、ナイフを手に取り ダーツを投げるような仕草でナイフを動かした。 「お気に召しましたかな?」 「ああ、なかなかいいじゃねぇか。気に入ったぜ」 「そいつぁよかった。どうですお客様? そのナイフのついでにこちらの剣も如何です?」 すると店主はカウンターの下から、大剣を取り出してきた。 「我が店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの 錬金魔術師シュペー卿の傑作で。 魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさあ どうです、美しい刀身でしょう? 今ならお安くしておきますよ?」 確かに見事な大剣である。宝石などもちりばめられ その美しさを引き出している。 しかし少々度が過ぎる感じがある。 その大剣を見た瞬間、特に興味もなく 退屈そうにしていたルイズがはじめて その大剣に興味を示した。 「あら、ほんとに綺麗な剣ね。一体いくらなの?」 「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ってところでさ」 「高すぎるわ。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの もっと安く出来ないの?」 「貴族様ぁ~、勘弁してくだせぇ ウチも生活がかかっているんですよ」 (別に剣はいらねぇんだがなぁ) いつの間にか店主の交渉対象がルイズに変わってしまい 音石は何気なく陳列している武器を1つ1つ見ていると とある一振りの剣に目が止まった。 鞘の形状からすると日本刀のように反りの入った剣だった。 音石はなにか引き寄せられるかのように その剣に手を伸ばし……その剣を掴み取った。 「こいつはおどれぇーた、声もかけてねぇのに 俺をこの大量の武器の山から選び取るとは……」 すると突然、どこからか低い男の声が聞こえた。 音石は周りを見渡すが、自分とルイズと店主以外 この武器屋にはだれもいない。 「どこ見てんだよ……、あ~なるほどな 選び取れる筈だぜ。お前使い手か」 音石は耳を澄まし、声の発信源を探ってみたが その声はどうやら自分が持っている剣から放たれているようだ。 「剣が………しゃべってんのかッ!?」 「おうよ!オレはデルフリンガー様だ!!」 「それってインテリジェンスソード?」 「なんだそりゃ?」 「簡単に言えば魔法で人格が宿ったマジックアイテムよ」 「ふ~ん。インテリジェンスソードね~」 「こらデル公!!お客様に変なこと吹き込むんじゃねぇ!!」 「うっせえクソおやじ!!おいお前! 出会ってばっかでなんだが、お前オレを買え!!」 「はっはっは!こいつはおもしれぇー。 剣が売れ込みをしてるぞ!!」 「ちょっとオトイシ、あんたまさかその剣 買うつもりじゃないでしょーね!? インテリジェンスソードなんてやめなさいよ!! うるさくてかなわないわ! それにこの剣、よく見たら錆だらけじゃない そんなのよりこっちの大剣のほうがよっぽどマシよ!」 「世間知らずの貴族の娘っ子には 俺様のすばらしさなんてわかんねーだろーよ!! あんな見かけだけのデカイ剣なんかより オレを買ったほうが絶対得だぞ!!」 剣と人間との口論のなか、音石は少し考え あるいい方法を思いついた。 「なぁおやじ、この大剣は鉄も一刀両断できるんなら 当然それなりに頑丈なんだよな?」 「え?……あ、ええああそりゃあもちろん! なんたってこの剣は【パキィンッ!】かの有名な……え?」 店主は一瞬何が起きたのか理解できなかった。 しかし次第に何が起きたのか理解していった。 そう、高値で売りつけようとしていた大剣が 突然真っ二つに折れてしまったのだ。 「どうやらなまくらだったようだな」 「な、な、なァァーーーーーーーーッ!!? な、な、なんで!?け、剣が勝手に!?」 店主はせっかくの品物が使い物になれなくなった現実に 理解できないまま悲痛の声をあげていたが ルイズは音石がなにをしたのかしっかりと理解していた。 レッド・ホット・チリ・ペッパーを発現させ 中指で大剣をでこピンするかのように打ちつけたのだ。 その結果、大剣は真っ二つに折れたのである。 「ちょ、ちょっとオトイシ。あんたなんで」 「おいおいルイズゥ~。剣を買う買わない以前に オレにはコイツ(スタンド)があるんだぜ~~? 仮に剣を使うんなら、コイツの攻撃に 耐えられるような剣じゃねぇと意味がねぇだろ~?」 「お、おめー、今のは一体?」 手に持つデルフリンガーからも驚きの声が上がった。 「さすがに魔法で作られた剣だけあって 見えるようだな?さ~て…果たしてお前はどうかな?」 音石のレッド・ホット・チリ・ペッパーは デルフリンガーの傍に近寄り、 中指を親指で押さえ、でこピンの体勢にはいる。 「え!?お、おい!ちょっとまて…」 【ガァアアアンッ!!】 「いってえええええええっ!!!」 レッド・ホット・チリ・ペッパーの強烈なでこピンで デルフリンガーの刀身は大きな悲鳴を上げたが なんと剣は折れることなく、それどころかヒビも入っていなかった。 「………なるほど、上出来だ」 「あ、あんた。時々怖いぐらい無茶するわね……」 「褒め言葉として受け取っておくよ」 「で、でもやっぱりわたしの使い魔として もっと見栄がいいモノがいいわよ~、例えばそうね~…」 するとルイズが許可もなく店の奥に ずかずかと入っていった。 「え?ちょ、ちょっと貴族様!?」 ショックで落ち込んでいた店主も ルイズの勝手な行動に我に返り ルイズに制止の声をかける。 それでもルイズは足を止めず更に店の奥へと入っていった。 自分が貴族であることを鼻にかけているのだろう。 「しっかし汚い店ねぇ~~、掃除くらいしなさいよねぇ」 ルイズは自分のことを棚に上げながら 店に罵倒を浴びせ、店の奥の貯蔵庫を見回りはじめた。 するとだ……、散乱してる武器の中から 一本の剣がルイズの目に止まった。 ルイズはその剣を見た瞬間、一直線にその剣に歩み寄った。 「こういった薄汚いところに上等な掘り出し物があるって 以前だれかに聞いたことあるけど、 案外その通りなのね…。この剣、とても美しいじゃない こう言った剣こそ私の使い魔の持つものとして 相応しいわ…………。でも本当に美しいわね…… いっぺん抜いてみようかしら………」 ルイズはそのままゆっくりと その剣に歩み寄り、手に取ろうと手を伸ばした。 「ちょっと貴族様!さすがに困りますぜ!! ………ッ!?あァーーやばい!!! その剣を手に持っちゃだめだァーーーーーッ!!!」 ルイズを止めようと追いかけて姿を現した店主が ルイズがその剣を手に取ろうとした瞬間、 大声で静止の声をあげた。 しかし…………時既に遅し!! 店主が声を上げたときには ルイズはその剣を『引き抜いていた』! 店主に続き音石もデルフリンガーを手に ルイズを追いかけたが音石はルイズの顔を見た瞬間息を呑んだ その顔はまるで別人で、目には殺気が充満していた。 ルイズはその剣を手に振り返り 音石に向かってある言葉をささやいた。 「お前の命………、貰い受ける」 その剣にはデルフリンガーのように名前があった。 その名はアヌビス それ以上でもそれ以下でもなく それがその剣の名前だった。
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Arzt Kochenの使い魔(アルツト コッヒェンノツカイマ) 目次 back→<魔女、使い魔に戻る> プロフィール Arzt Kochenの使い魔 プロフィール 商業作品 各作品の総括 Arzt Kochenの使い魔 各作品の総括 本編 アニメーション 関連作品(外伝、パロディを含む) ドラマCD コミック Arzt Kochenの使い魔 魔法少女かずみ☆マギカ 〜The innocent malice〜 小説 ゲーム ネット上での扱い(注意!人によっては不快な内容を含む恐れあり!) ネット上での扱いの総括 Arzt Kochenの使い魔:ネット上での扱いの総括 二次設定とネタ(あるいは叩き) Arzt Kochenの使い魔 二次設定とネタ(あるいは叩き) 各所での扱い Arzt Kochenの使い魔 2ちゃんねる、コピペブログでの扱い Arzt Kochenの使い魔 ニコニコ動画(ニコニコ大百科)での扱い Arzt Kochenの使い魔 Pixv(ピクシブ百科事典)での扱い back→<魔女、使い魔に戻る>
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前ページ次ページ滅殺の使い魔 「ヤスムコト……ユルサヌ……タダ……ヒタスラ……」 横たわる『鬼』の亡骸に、得体の知れない力が集まっていく。 「ヤスムコト……ユルサヌ……タダ……ヒタスラ……」 やがてその力は渦を成し、『鬼』を覆い、そして―― ――その日、その世界から『鬼』が消えた 「五つの力を司るペンタゴン…我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」 桃色の髪の少女が、また一度詠唱し、杖を振り、また爆発を起こす。 彼女はもう何度もこの作業を繰り返してはいるが、まだ一度も本来の魔法を発動できないでいた。 『使い魔召喚の儀』―― 学院の生徒が、一年から二年へと進級する為の大事な儀式。 と、同時に、生徒一人一人の専門とする属性をきめる、正に今後のメイジとしての人生を左右するものである。 たった今、その『サモン・サーヴァント』の詠唱で失敗し、爆発を起こした少女は、もう何度目かもわからなくなるほど失敗し、その全てを爆発に変えた。 「どうして!」 と、これまたもう何度目かもわからない叫びをあげる。 そして、禿げ頭の教師が少女に告げた。 『次に失敗したら、それで終わり』だと。 周りを行きかう少女を蔑む言葉。 それに負けじと、少女は流れそうになる涙をこらえ、『最後』の呪文を唱えた。 「宇宙の果てのどこかにいる,私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より訴えるわ、我が導きに答えなさい!」 刹那、大爆発。 終わった、と誰もが思った、いや確信した。しかし少女は、まだ諦めては居なかった。 ――その男は、ひたすら強さを求めていた―― あらゆる闘い方をする強者を『殺』し、自分の糧としてきた。 だが、それももう終わった。 『殺』されたのだ、強者に、より強き者たちに。 自らが大阪城で闘い、『殺』した者に、暗黒の力を注入され、不本意な強さを手に入れ、自我は崩壊し、その果ての敗北、そして死。 その男は、それで終わった筈だった。 「あんた、誰?」 煙の中から現れた男に、ルイズは問う。 「ぬぅ……」 男は呻きながら立ち上がった。 やがて煙が晴れ、周りの生徒達や教師にもその姿が見えた。 逆立った赤髪、ボロボロの紫の服、それに屈強な体。 「平民だ!」 「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 ここぞとばかりにルイズを馬鹿にする生徒達だが、それは禿げ頭の教師によって遮られ、場は静まる。 禿げ頭の教師はそれを確認すると、ルイズと男に歩み寄り、柔和な笑みを浮かべた。 が、言葉を発する前に、ルイズの怒鳴り声が彼を襲った。 「ミスタ・コルベール!再召喚を!」 「それは出来ない。サモン・サーヴァントは神聖な儀式だ。再召喚は認められない」 悲痛な表情でそれを却下するコルベール。 彼自身、ルイズを哀れに思い、同情していたのだが、例外を認めることは出来ない。 「……ここはどこだ」 「っ! ミス・ヴァリエール、下がって!」 男がはじめて言葉を発する。 その言葉に反応するようにコルベールが動いた。 ルイズをかばう様に前に立ち、こともあろうに杖を向けたのである。 コルベール自身、この男に違和感を感じていたものの、やはり平民だと決め付けていた。 それ故に、前代未聞である『人間を召喚』という事態にも危険を感じず、にこやかにしていることが出来たのである。 だが、この男が言葉を発し、コルベールをにらんだ瞬間にコルベールは危険を察知し、戦闘状態になった。 男が殺気を放ったからである。 コルベールとて周りには知られていないが数々の戦闘を経験している。 それゆえ、殺気と言うものには慣れてはいたし、このような状況で、殺気立つのは不思議では無い。 「貴様、何者だ!」 男に対してコルベールが叫ぶ。 コルベールは恐怖していた。 この男は普通ではない。そう本能が叫ぶ。 杖を持つ手が汗ばむ、足が震える。 それを悟られぬように勤めていた。 また、コルベールが叫ぶと同時に、男が構えた。 「くっ……ミス・ヴァリエール、離れるんだ!」 「な、なんでですか!」 「いいから早く!」 ルイズをこの場から下がったことを確認したコルベールは、再び男を睨む。 戦うしか無い。 正直勝てる気はしないが、絶対に生徒を傷つけさせはしないと、必死で自分を奮い立たせていた。 それに対し、男は構えて微動だにせず、コルベールを睨んでいた。 コルベールは決死の覚悟でバックステップで距離をとり、魔法を放つ。 「ファイヤーボール!」 杖の先から放たれた炎の球は、一直線に男へと飛んで行き、男の眼前へと迫る。 だが。 「ふんっ!」 男は飛来した炎の球を、なんと腕を少し動かしただけで手の甲で弾いたのだ。 弾かれた炎はその場で消え、跡形も無くなった。 「なっ!?」 驚きを隠せないコルベール。 対して男は、自ら攻撃をする所か、構えを解いてしまう。 騒然とする場。 平民が魔法を素手で弾いたのだから、驚くのも無理は無い。 「ここはどこだ」 男は再びコルベールに問う。 構えを解いたことは、戦う意思が無いからなのか、それとも油断させようとわざとそうしているのか、コルベールには皆目見当がつかなかった。 「あ、あんた、何者よ!?」 いつのまにか戻ってきていたルイズが、男に背後から問いかける。 男はルイズに視線をやると、こう言った。 「我こそ、拳を極めし者」 その背中に、『神人』の文字を浮かばせて―― 前ページ次ページ滅殺の使い魔
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「ムゥ~~ッ!! フゴムゴォ! ングゥ~ッ!」 部屋に響くのはギーシュのくぐもった声であった。 言い訳や状況説明をする暇なくルイズによって簀巻きにされ、 DIOに足首を掴まれて逆さ吊りにされているのだった。 口には猿ぐつわがしてあり、何を言っているのか明瞭ではない。 ルイズはギーシュの足を持っているDIOの上着をまさぐり、 ナイフを一本取り出した。 そして、逆さ吊りで視界が反転しているギーシュに視線を合わせるため、 ヤンキー座りになった。 豚でも見るかのような冷たい目で、 ルイズはギーシュの横っ面をナイフでペチンペチンと叩いた。 ナイフに嫌な思い出があるのか、 それを目にした途端ギーシュは激しく身を捩った。 「これどうします、姫様? なますにしてラグドリアン湖にバラまきますか?」 「フ、フガッ…!?」 まさかの死刑宣告である。 かろうじて自由な目をせわしなく動かして、ギーシュが呻いた。 アンリエッタは事の展開のあまりの早さに、 頭がまだ追い付いていなかった。 いきなり生死の審判を委ねてくるルイズが、 純粋に怖かった。 今ルイズがギーシュに向けている目に、 見覚えがあったからであった。 まだ二人が幼かった頃だった。 ルイズは侍従のラ・ポルトに、 時折りあんな目を向けていた。 ラ・ポルトは魔法の使えないルイズを『ゼロ』『ゼロ』と 散々陰で馬鹿にしていたのだった。 ……そういえばラ・ポルトは宮中を去った後、 プッツリと消息を絶ってしまっている。 元気にやっているであろうかと、アンリエッタは少し気になった。 しかし今重要なのは、目の前で逆さ吊りになっているメイジを どうするかということである。 死の恐怖にガタガタと震ている姿は、 痛ましくて見るに耐えない。 その光景が、部屋を訪れたときの自分と重なり、 アンリエッタはギーシュに同情せざるを得なかった。 「あ、あのルイズ。 もうそのあたりで許してあげては……」 ルイズはギロリとアンリエッタの方に振り返った。 腰が抜けてしまいそうなほどの威圧感だったが、 なけなしの勇気を振り絞って、アンリエッタはルイズを見返した。 数瞬の沈黙の後、ルイズはつまらなさそうに DIOに目配せをした。 「ブギャッ!!」 DIOがパッと手を離し、ギーシュの頭が床に墜落したのだった。 そしてルイズは無造作に、手にしたナイフをギーシュに向けて投擲した。 ギーシュに突き刺さるかと思われたナイフはしかし、 紙一重でギーシュを避け、彼を拘束していたロープを切断した。 こうしてようやっと束縛を解かれたギーシュは、 覗き見をしたことを必死で謝罪した。 『薔薇のように見目麗しい姫様のお姿に心奪われ、 ついつい後をつけ、覗き見をしてしまった』 要約するとこんな感じである。 ……つまり、アンリエッタの変装がチャチだったのが原因だった。 しかし、まさかギーシュ如きに一発で見抜かれてしまうほどだとは。 ルイズは頭が痛くなってきた。 これではもうどうしようもない、こいつも連れていくしかない。 もしギーシュを学院に残したら、口の軽いこいつのことだ、 ペラペラと話してしまうに違いない。 はぁ、御荷物が増えた…… とルイズは胃がキリキリする思いだった。 しかし、アンリエッタに巻き込まれる犠牲者が また一人増えただけなのだと考え直すことにした。 ルイズは健気で前向きな少女だった。 「姫様、致し方ありません。 この者も同行させます。 名はギーシュ・ド・グラモン、『土』のドットメイジにございます」 「グラモン? あの、グラモン元帥の?」 ギーシュは慌てて立ち上がり、一礼した。 「ありがとう。 お父様も立派で勇敢な貴族ですが、 あなたもその血を受け継いでいるのですね。 では、お願いします。 この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 「姫殿下が僕の名前を呼んで下さった! 姫殿下が! トリステインの可憐な華、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んで下さった!」 ギーシュは顔を真っ赤に赤らめて、 感動のあまり後ろに仰け反って失神した。 やれやれこいつアンリエッタに惚れたのか、 とルイズは推察した。 しかし、こいつはちょっと前に浮気騒ぎを起こしたばかりの、 札付きの信用無しである。 その被害を被った女生徒の一人……モンモンだったか、確かそんな名前だった…… は、最近になってようやく立ち直ったとか。 いっそ去勢でもした方が学院の、引いては人類の平和に繋がるんじゃないかと思って、 ルイズはチラッとギーシュの切ない部分に目をやった。 もちろんわからないようにしたつもりだが、 薄ら寒いものを感じたのか、ギーシュの肩が若干震えた。 ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直り、 話を進めることにした。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」 「了解いたしました。 以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、 地理には明るいかと存じます」 「旅は危険に満ちています。 あなた方の目的を知ったら、アルビオンの貴族達は ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」 アンリエッタは真剣な眼差しをDIOに向けた。 「頼もしい使い魔さん。 よければお名前を教えて下さい」 声を掛けられDIOはしかし、アンリエッタを一瞥しただけで、 彼女の言葉を無視した。 意外な反応に、アンリエッタは怪訝な反応をした。 気まずい沈黙が場を支配し始め、ルイズは慌てた。 「こ、こら、姫様の御言葉よ! ちゃんと名乗りなさい!」 ルイズの命令を受けて、DIOは小さな声で名乗った。 「……DIOだ。 そこのルイズの執事の真似事をやっている」 声を聞いて、ルイズはDIOの機嫌がよろしくないことを悟った。 ルイズにしか分からないくらいの変化だったが、 確かに、DIOの声は不機嫌そうだった。 何故だろうとルイズは疑問に思った。 しかし、アンリエッタはそれに気付かず微笑んだ。 「わたくしの大事なお友達を、これからもよろしくお願いしますね」 民衆に見せる営業スマイルでにっこりと笑ったアンリエッタは、 そのままルイズの椅子に座った。 そして、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、 さらさらと手紙をしたためた。 アンリエッタは、自分が書いた手紙をじっと見つめた。 やがて決心したように頷き、末尾に一行付け加えた。 密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情を、 ルイズは怪訝に思った。 しかし自分がとやかく言う領分ではないので、 ルイズはだんまりを決め込んだ。 巻いた手紙に封蝋をなし、花押を押して、 アンリエッタは手紙をルイズに手渡した。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。 すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」 それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、 これもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 せめてもの御守りにこれを。 路銀が心配なら、売り払って旅の資金にあてて下さい」 無自覚トラブルメーカーであるアンリエッタの私物を頂戴したとあって、 ルイズはこっそり嫌そうな顔をした。 厄介事を招き寄せる呪いでも掛かっていそうだ。 彼女の言う通り直ぐに売っ払ってしまおうかと、 ルイズは思った。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風を、 幻影のように鎮めて下さいますように」 アンリエッタは静かな祈りを捧げた。 ―――――――――― 朝靄の中、ルイズ一行は馬に鞍をつけていた。 いつもの制服姿だが、長時間の移動に備えて乗馬用のブーツを履いているルイズ。 密命に燃え、気合いの入ったセンス最悪の衣装に身を包んだギーシュ。 デルフリンガーを背に、ハートの飾りが頭に光るDIO。 そして…………いつものメイド服姿で、 当たり前のようにDIOの代わりに雑務をこなしているシエスタ。 ついてくる気満々である。 ルイズは乗馬用の鞭を片手に、 腰に手を当ててシエスタを睨みつけた。 「なんであんたがここにいるわけ? 今回ばかりは引っ込んでなさい、事情が違うわ」 苛立ちも露わに言い放つルイズだが、シエスタは涼しい顔で一礼した。 これ見よがしに胸が揺れる。 ルイズの顔面の青筋が増えた。 「旅の間、DIO様の御世話をさせていただきます。 光栄なことに、DIO様より直々の指名をたまわりました」 何とDIOの命令らしい。 ルイズは即座に、その怒りの矛先をDIOに向けた。 しかし、ルイズが怒り出すのは承知の上なのか、 ルイズが口を開く前にDIOが理由を説明した。 「ルイズ。見誤っているようだから言っておくが、 私はまだ万全ではないのだ。 降りかかる火の粉を払うのに、余計な労力を消費するわけにはいかん」 ぐっ……とルイズは言葉に詰まった。 確かに、付き合いが浅いので正確には知らないが、シエスタは有能だ。 匂いで分かる。 少なくともギーシュの百倍は役に立つだろう。 しかし、ルイズにはシエスタのあの澄ました態度が 癪に障って仕方がないのだ。 頭では納得できても、割り切ることは出来ないものがある。 そしてシエスタもまた、ルイズの内心を悟っているかのように、 鋭くルイズを射抜いた。 「……失礼ですが、ミス・ヴァリエール。 私は、例え仮初めといえども貴女がDIO様の主人であるなどと、 認めてはおりません」 それっきりシエスタはルイズに背を向けて、自分の仕事に戻った。 一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとした顔をしたルイズだったが、 見る見るうちにその顔に黒い怒気が浮かんだ。 「……あぁ? 今、なんつったの?」 肩を掴んで、シエスタを無理やり自分の方に向かせるルイズ。 しかし、ドスの利いた声でシエスタに詰め寄っても、 顔面がぶつかるくらいに近寄ってメンチをきっても、 シエスタは眉一つ動かさない。 「貴女には主人としての資格などありませんと、 申し上げたのです」 使い魔の主人である資格が無いなどと言われることは、 貴族の沽券に関わる問題である。 決して聞き逃すことの出来ない侮辱であった。 ルイズは片手でシエスタの胸倉を掴み上げた。 片手であるにも関わらず、 シエスタの足は地面を離れた。 だが、それに怯むことなく、シエスタもルイズに牙を剥く。 「URYYYY……!!」 「KUA ッ!!!」 一触即発の状態で、二人はバチバチと火花を散らした。 事の成り行きを見ていたギーシュには、まさか口出しなんて出来るはずもない。 彼は必死で目を合わせないようにした。 あんな連中に、自分の使い魔を連れていってもいいか などと聞けるはずもない。 ギーシュは自分の使い魔を連れていくことを渋々諦めた。 しかしこの修羅場な空気を断ち切る存在が現れた。 ルイズの横の地面がモコモコと盛り上がり、 茶色の大きな生き物が顔を出したのだ。 血で血を洗う肉弾戦に突入しそうな勢いだった二人は、 突如現れたその生き物に目を向けた。 その茶色い生き物は、ギーシュの使い魔のヴェルダンデであった。 「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」 自分が溺愛する使い魔の登場に、ギーシュは感極まった声を上げた。 それとは対照的に、ヴェルダンデを見る二人はどこまでも無言だった。 その激しい温度差に、ギーシュは気づかない。 「あんたの使い魔って、ジャイアントモールだったの?」 場の流れを無理やり変えられて、ルイズが不機嫌そうに聞いた。 主人のもとに駆け寄ったヴェルダンデを抱きしめながら、 ギーシュは目を輝かせた。 「そうさ、僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだ! ああ、ヴェルダンデ! 君はいつみても可愛いね!!」 暫く主人の熱い抱擁を受けていたヴェルダンデだったが、 やがて鼻をひくつかせた。 くんかくんかと匂いを探るヴェルダンデは、何故かルイズ…… 正確には、ルイズの右手の薬指に光る指輪……に狙いを定めた。 ヴェルダンデは宝石が大好きなのだった。 だからこそ、『土』系統であるギーシュにとっては最上の協力者であった。 つぶらな瞳を輝かせて、ヴェルダンデはルイズに突撃した。 ルイズは自分めがけて走ってくるモグラを無感情に見下ろした。 「それ以上近づいたら蹴るわよ?」 モグラ相手にバカみたいだが、ルイズは一応警告した。 しかし、やはりモグラがその突進を止めることはなかった。 「あはは、噛みつきやしないさ。 とっても賢いやつなんだ!」 気さくな笑みを浮かべるギーシュ。 やがて距離が縮まり、一直線に駆けたヴェルダンデは、 そのままの勢いでルイズの胸に飛びつこうとした。 ―――が 「フンッ!!」 "ボギャア!"という鈍い音と共に、ルイズの膝蹴りが ヴェルダンデのアゴに炸裂した。 勢いがついていた分、ダメージは相当のものだった。 ヴェルダンデはもんどり打って倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。 愛する使い魔に対するあんまりな仕打ちに、 ギーシュはプッツンした。 「な、なにをするだァーーーッッ! 許さんッ!」 懐から、杖として使っている薔薇の造花を取り出して、 ギーシュは鼻息荒く目を血走らせた。 この場で決闘でも始めかねない剣幕だ。 「警告したでしょうが。 殺さなかっただけ感謝しなさいよ」 だが、ルイズはそんなギーシュを宥めるどころか、 逆に挑発したのだった。ルイズはシエスタとの一件で、まだ気が立っていた。 そんなルイズに対する怒りで身を震わせるギーシュは、 何の躊躇もなく薔薇を振った。 薔薇の花弁が二枚宙を舞い、たちまちそれは青銅で出来たゴーレム、 『ワルキューレ』に姿を変えた。 ギーシュの十八番、錬金であった。 「け、け、けっけっけっ決闘だァ! このビチグソがぁあああッッ!!」 錯乱状態のギーシュが薔薇を振るうと同時に、二体のワルキューレがルイズに踊り掛かった。 to be continued…… 52へ 戻る 54へ
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「わかってるさッ!僕だってこんなところで死ねないよ!ワルキューレッ!」 フーケの巨大なゴーレムの前に二体のワルキューレが現れる。 ルイズは男の上半身を自分たちの後ろに置く。 「あら?あなたは確か七体まで出せたはず…出し惜しみしてるなんて余裕ね」 フーケはキュルケとタバサの土人形を出し、向かわせる。 構わずワルキューレがゴーレムの脚部に突っ込む。 フーケのゴーレムが片方のワルキューレに蹴りをかまし、粉々に砕ける。 そこを上がっていないほうの足をルイズが呪文で爆破する。 「宝物庫を壊したときから不思議だったけれど…再生が遅いわ、なんの呪文なの…?」 フーケが呟く。 フラフラの状態のフーケのゴーレムに片方のワルキューレが突っ込み、フーケのゴーレムを押し倒す。 フーケのゴーレムは尻餅をついた形になる。 「錬金ッ!」 ギーシュがワルキューレと、ワルキューレの破片を錬金し、変形させる。 フーケのゴーレムの足を青銅で固定する。 丁度、フーケのいる位置の高さはワルキューレほどになる。 「これで、対等というところかしら?」 ルイズがフーケの召還する土人形をひきつけて、爆破する。 「私が上ッ!お前らが下だッ!!」 フーケは悪態をつき、石礫を放つ。 ルイズ達に正確に石礫は飛んでくる。 「この高さならァアアアッ!迎撃可能ゥウウウウッ!食らえ重機関砲をォオオオオッ!」 飛んできた石礫は粉々になり、破片が周辺に着弾する。 「どう、わかった?もうそのガラクタのゴーレムは乗り捨てて、大人しく投降しなさい」 「脚なんて飾りですわ!あんたらみたいな小娘にはわからないのね!」 青銅で固定されている部分を殴って破壊し始める。 「ま、こうなると思ってたわ、ギーシュ、残りも作戦どおり頼むわよ」 「はあ、こんな作戦だけどやるしかないのか」 ギーシュはちょっと落ち込みながらルーンを唱え、残りのワルキューレ五体を召還する。 その五体のワルキューレは四角形でフーケを囲み、一体だけ背後に一歩離れて立っていた。 男が口を挟む。 「フフ、そのような陣形で囲むのか、ワルキューレで五角形に囲むでは呼びにくい…この俺が名付け親(ゴッドファーザー)に なってやろう!そうだな、森の守り神という意味のソナタ・アークティカというのはどうかな!」 「その呼び名、その名前グーだね!ベリーグーだッ!」 「やれやれ、男ってのはこんなのばっかしなのかしら」 ため息をつきながら杖を振り土人形を爆散させる。 「やれやれ、なにかと思えばこんなちゃちな作戦かい、考えてることがわからないわね」 フーケのゴーレムは拳を振るい、正面のゴーレムから順に一撃で破壊していく。 男はうろたえる。 「う、うろたえるんじゃあないッ!ドイツ軍人はうろたえないッ!」 「うろたえてるのはあんただけよ」 しかし、ルイズは冷静と見つめている。もっともギーシュはワルキューレのあまりの脆さに呆然としていたが。 破壊した途端!そのゴーレムの頭部に入っていた燃料…小屋にあった暖炉に使われていた液体燃料…がフーケに降りかかる。 「臭いでわかるように燃料をぶっかけたわ…食らいなさい!私の爆発を!」 ルイズは杖を振る。 フーケは高らかに笑い出す。 「あはははは!なに考えてると思ったらそんなことかい!あんたら土くれのフーケをなめてるんじゃないの!」 ガソリンは次々と泥に姿を変える。 「液体の燃料なんて滅多にみないけど、しょせんは化石燃料!この程度の錬金、鉛筆の芯をボキッと折るようにできるわよ!」 ルイズの呪文が頬を掠める。 呪文は後ろの最後のワルキューレの顔面に着弾する。まだそのワルキューレは動けるようだが、攻撃の成果は期待できなさそうだ。 「やれやれ、最後は同士討ちかい?悲しいねえ、じゃあとっととあんたらを始末して…」 フーケは最後まで言葉を言い終えることはできなかった。 杖を落とす。 フーケは縛られていた。 「な、これは…ロープ!?いつのまに高所にいる私を縛ったの!」 そう…先ほどの五体のワルキューレの中にロープを仕込み、一体目から四体目までのワルキューレはガソリンを撒いて 気をそらしている隙に錬金しフーケのゴーレムに外側に落ちないよう突起に引っ掛けておく。 そして最後のワルキューレには両方の先端を入れておき、片方の先端を頭部、もう片方の先端を肩に入れておく。 頭部の先端には錘をつけておき、頭部を破壊すれば、片方の先端だけ落ちていき、フーケは縛られることになる。 ロープに簡易とはいえ縛られ、身動きができなくなり、ゴーレムから落ちる。 もうそれほどの高さではないため怪我はないが、そこにはルイズが立っていた。 「燃料といい、ロープといい、色々小屋から拝借しちゃって、ごめんなさいね さあ、土くれのフーケとはいえ、杖がなければなにもできないわよね?人間そっくりで話す土くれを 作るなんて…今思えば学校で襲われたときに助けたミス・ロングビルも土くれだったわけね。 …さあ、もう諦めなさい」 「そうね…確かにこのスタンド…ジャッジメントは魔法も干渉するし…魔法と同じように精神力が必要…」 フーケが、不適に笑う。 「だけれどもね、杖はいらないのよ!『ジャッジメント』!」 ジャッジメントがルイズに殴りかかる。 「あんたの…スタンド、って言うのね。実はほんの少し前にあなたみたいなのと戦う機会があってね、不運だったわね 杖を落としても使えるようだったから、手は打っておいたのよ」 後ろから叫び声が聞こえる。 最後に残ったワルキューレの胴体からだ。 「ギクシャクする脚もないがァァァァァ!おれの機関銃は完了ォォォォッ!そしてくらえッ!MP40機関銃をォオオオオッ!」 地面にいるフーケに向かって弾丸の雨が降り注ぐ。 後ろからとっさに攻撃され、ジャッジメントで致命傷になりそうなものは叩き落したものの、何発かの弾丸がフーケに突き刺さり、 フーケは痛みで気を失った。 * * * 「それにしてもあの作戦…まるで僕のワルキューレがかませ犬扱いじゃないか!一撃でやられる前提で作戦を立てるなんて!」 「実際そうだったでしょ、なによ、文句でもあるの」 「いや、でも…一つのワルキューレにロープの先端と錘、もう一つの先端、そして胴体に男を組み込んだ僕の錬金の上手さは 特筆すべきものがあったんじゃないかね?」 「だからどうだってのよ、私は作戦立てたのに土人形破壊で忙しかったのに、あんたは自分のワルキューレがやられる様を 呆然と見てただけじゃない。土なんだからあんた得意の錬金で分解できたでしょ?」 「う…で、でも僕が居なければこの作戦は…」 「消火終わった」 火をつけた森の消火に行っていたタバサたちが帰ってくる。 「それにしても、ミス・ロングビルが『土くれのフーケ』だったなんてね」 「意外」 「精巧で話す土人形を生み出すなんて恐ろしすぎるわよ…でもルイズ、私たちを人形とはいえ躊躇なく爆破したらしいわね。 あんたの図太さには呆れるわ。それに比べて私は繊細すぎわたね」 「タバサはともかくなんであんたの土人形を爆破するのにためらわなきゃいけないのよ」 「あら、ルイズとはいえ一応知り合いだから躊躇った私とは大きな違いですね、そんなんだから胸がないのよ」 「む、胸は関係ないでしょ!」 タバサが割って入る。 「起きる前に運ぶ。シルフィードに乗って」 「ああ、そうだった!早くしないと!」 ルイズたちは気絶したままのフーケを乗せる。 「ルフトバッフェ(ドイツ空軍)出身の俺でも竜には乗ったことなかった …だが我がドイツの空軍は世界一ィィィ!乗れんことはないイイィーッ!」 ギーシュが仮止めして一応五体満足な男が叫ぶ。 「きゅいーきゅいー…(怪我明けに六人は辛いのねー!)」 シルフィードがバタバタする。 「この怪我だと六人は辛いみたいだから、乗らないで」 「む、むう、まあしょうがないな……かなり興味があるが…」 「あとでまともな土メイジも送る」 シルフィードが飛び立とうとする。 「そうか、配慮感謝する…そして、金髪の少年と桃色の少女!貴様らには危ないところを助けられた、我が ドイツの軍人ならば鉄十字章の申請をするところだが…生憎ここはドイツではない…感謝しかできなく、すまない」 飛び上がったシルフィードに男はいつまでも右手を斜め45度に掲げていた。
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唇が離れる。 「終わりました」 顔を赤くしながらそう言った。照れているようだが照れるならしなければいいのに…… さっきの言葉を総合すると今のが私を使い魔とやらにするという宣言なのだろう。多分キスはそれの一旦だろう。 なにやら五月蠅くなったと思うとルイズと巻き髪の少女が言い合いをしている。それを先程の男性が宥めはじめた。 どうやら考え込んでいて周りへの注意が疎かになっているようだ。しかし考えが尽きないのだから困ったものだ。 そう考えている感じたことない感覚が身体を駆け抜ける! 「うぐああああああああああああああああああああああああ!」 体を抱きしめる!そうだ!これは熱さだ! 前はこんな感覚は感じなかった!しかし生きていた時の感覚として残っている!間違いない! しかし私にとっては初めてと同じだ!耐えられるわけがない! だが熱はすぐに治まった。どうやらほんの少しの間だったようだ。助かった。 何故こんな思いをしなければならないんだ!本当はターゲットがここに来るんじゃなかったのか!? どうして私なんだ!幸福になりたいだけなのに! 「なにをした!」 「うるさいわね。『使い魔のルーン』を刻んだだけよ」 刻む!?一体何を刻んだというんだ! 「お前に何の権限があっ「あのね?」?」 いきなり話しかけられ勢いが削がれる。 「平民が、貴族にそんな口利いていいと思ってるの?」 「貴族?」 この娘が貴族だというのか?つまりここは外国か?今世襲貴族を認めているのはイギリスやヨーロッパ諸国だ。 ではなぜ会話が成立している?私は日本語で喋っているんだぞ? くそっ!頭が爆発しそうだ! 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 中年の男性が踵を返す。そして……宙に浮かぶ。 他の連中も一斉に宙に浮かぶ。そして浮かんだ連中は城に向かって飛んでいく。 「……ハハハ」 笑うしかないというのはこういうことなのだろう。帽子がずれ落ちる。 もう私は理解しようとする意思はなかった。 ここにいるのは私とルイズの二人だけだった。 ルイズはため息をつくと私のほうを向いてくる。 「あんた、なんなよ!」 いきなり怒鳴ってくる。五月蠅いことだ。今の私はもはや混乱はない。とても冷静だ。 さっきのでもう色々吹っ切れたようだ。 「言ったと思うがね。私は吉良吉影。分かったら色々教えてくれないか?いきなり連れてこられて訳がわからないんだよ。」 「ったく!何処の田舎から来たか知らないけど、説明してあげる」 ありがたい。 その本当に色々聴いた。ルイズは本当に何処の田舎ものだという風に私を見ていたが気にしない。 総合するとここはファンタジーだ。ドラゴン、魔法使い、魔法学院、使い魔、召還、契約…… なんてものに巻き込まれてしまったんだ。 それに私は元の場所に戻れないんだそうだ。別の世界と繋ぐ魔法はないらしい。召還したというのにまったく無責任な話しだ。 足に何か当たったので足元を見ると弾丸が入った箱が落ちていた。 慌てて懐に手を当てる。銃の存在を確認できた。よかった。なくなっていないようだ。弾丸が入った箱を手に取る。 辺りは暗くなりかけていた。 その後ルイズに連れられ十二畳ほどの部屋連れてこられた。ルイズの部屋らしい。 ルイズは夜食のパンを食べている。 窓から空を見るととても大きい月が二つあった。まぁ眺めはいいかもしれない。 「このヴァリエール家の三女が、由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんであんたみたいな辺鄙な田舎の平民を使い魔にしなくちゃ いけないの……」 突然口を開いたかと思えば愚痴だ。やれやれ、自分が召還したというのに。器の程度が知れてるな。 私の仕事は洗濯、掃除その他雑用だそうだ。 本来の使い魔の仕事は私では出来ないからな。 このままルイズのそばで与えられた仕事をこなしていけばさらに色々知ることができるだろう。 逃げるのその後だ。危険は少ないほうがいいに決まっている。 「さてと、色々あったから眠くなってきちゃったわ」 そう言うとルイズがあくびをしながら着替え始めた。そのまま下着になる。羞恥心が無いのか? 「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」 そういうとキャミソールにパンティを投げてくる。 そして大き目のネグリジェを頭からかぶる。 ルイズが指を弾くとランプの明かりが消える。 ルイズが布団にもぐりこむと暫らくして寝息が聞こえ始めた。 窓から月を見つつ手袋をはずし左の手の甲を見る。ミミズがのたくった様な模様が刻まれている。 これが『使い魔のルーン』というやつだろう。 手袋を嵌めまた月を見ながら思う。左手が戻ってきった。他人に見えるようになった。 生きているのと同じ感覚が味わえる。生命に触られても何の問題も無い。 結論から言うと吉良吉影は生き返った。 これからはどうやったら『幸福』になれるか考えていこう。 吉良吉影の使い魔としての生活が始まった 4へ
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第四話 目の前で一体何が起こったのか、ギーシュには理解できなかった。 マジックアイテムらしき箱を使い、奇妙な鎧を身に纏ったルイズの使い魔の平民。 不思議な形をした剣をどこからともなく呼び出すと、ワルキューレに向かって駆け出したのだ。 「でやあぁぁぁ!!」 そしてワルキューレが攻撃の体勢に入るよりも早く、順手に持ち変えた剣を上から振り降ろしてきた。 ワルキューレは青銅でできている。 たとえ相手が武器を持っていようと、並みの攻撃ではびくともしないはずだ。 攻撃を受け止め、その隙をついて攻撃を仕掛ければいい。 そう、僕はふんでいた。 しかし、やつが二度三度と剣を振るっただけで、その考えは脆くも崩れ去った。 やつの斬撃に、自慢の防御力が意味をなさないどころか、攻撃を受けた箇所にヒビが入り、ついには砕け始めた。 「ハァッ!」 トドメとばかりに下から放たれたその一撃で、ワルキューレの体が宙を舞い、僕の目の前に落ちてきた。 もはや戦える状態にない。 「ふん……もう終わりか? つまらんな」 剣で肩をトントンと叩きながら、『平民だったもの』が呟いた。 「ま、まだだ! 勝負はこれからだ!」 正直、侮りすぎていた。 あのパワーとスピードでは、ワルキューレ一体だけだと相手にならないだろう。 (だが、複数ならば此方にも分がある!) そう思うと、すぐに二体のワルキューレを出現させ、指示をだす。 「いけ!」 青銅の長剣で武装した二体が、同時に走り出す。 「ほう。もうしばらくは楽しめそうだな」 そう言って、手にした剣を放り投げる。 再び紫の杖を取り出すと、箱からカードを引き、杖に差し込んだ。 『SWING VENT』 杖から声がすると、鏡から赤色の鞭が飛び出し、先ほどの剣と同じように王蛇の手に収まる。 エビルウィップと呼ばれるこの鞭は、剣よりも広い攻撃範囲と、自在な動きで敵を翻弄する。 王蛇は鞭を地面に一振りすると、近づいてきた二体の人形に向けて、上下左右あらゆる方向に何度も振り抜いた。 その攻撃に、ワルキューレたちは思うように近づけず、ついには二体とも武器が弾き飛ばされてしまった。 今は二体とも両腕で守りを固めているが、体のあちこちに傷や破損が目立つ。 頃合いを見計らって、王蛇はワルキューレたちに猛スピードで近づくと、その場で勢いよく回転し、右から回し蹴りを叩き込む。 蹴り飛ばされた一体がもう一体を巻き込み、観衆がいる方向へと飛んでいった。 見物人たちが悲鳴をあげてそれを避ける。 王蛇に傷一つつけることができぬまま、またしてもワルキューレたちはその機能を停止した。 (くそっ、こうなったら……!) ギーシュは残る四体のワルキューレを呼び出し、突撃の指示を出す。 各々が剣や槍で武装されている。 「ほう……」 王蛇は手にした鞭を投げ捨て、紫の杖を取り出す。 箱からカードを引き、杖に差し込んだ。 『STRIKE VENT』 杖から声がし、鏡から鉄の盾のような物体が飛び出すと、王蛇の右腕に装着された。 メタルホーンと呼ばれるそれは、腕に着ける灰色の盾のような部分と、先端部分から伸びる黄色い角のような突起物でできている。 その形状から、攻撃と防御を両方ともこなすことのできる武器なのである。 突撃してきた四体のワルキューレに向かって、王蛇はメタルホーンを構えた。 王蛇は一体目と二体目の攻撃を避けると、残る二体の攻撃を両方とも盾の部分で受け止め、そのまま横になぎはらった。 二体のワルキューレが地面に転がる。 攻撃を避けられた一体が、再び攻撃を仕掛けた。 が、攻撃が届くよりも前に、王蛇によって上から振り降ろされた一撃を顔面にくらい、地面に叩きつけられる。 その顔には、縦に大きな亀裂が走っていた。 もう一体も王蛇に攻撃を仕掛けたが、盾の部分で攻撃を受け止められると、蹴りで武器を叩き落とされた。 そして、無防備になったその胴体に、王蛇はメタルホーンを勢いよく突き出す。 ワルキューレは咄嗟に避けようとしたが、間に合わず脇腹に攻撃をくらい、弾き飛ばされた。 脇腹の一部が砕け散る。 地面へ倒れたところに、王蛇はすかさず追撃を仕掛ける。 「ダァァッ!!」 メタルホーンの角がワルキューレの首元を砕き、首から上が吹き飛ばされた。 なぎはらわれ、地面に倒れていた二体が起き上がるのを見ると、王蛇は言った 「今日はなぜか調子がいい。……だが、そろそろ雑魚の相手も飽きてきたな」 王蛇はメタルホーンを腕から外すと、そのまま地面に振り落とし、紫の杖を取り出す。 紫の箱から、それと同じ模様が描かれたカードを引くと、杖に差し込んだ。 『FINAL VENT』 杖から声がし、その直後手鏡から巨大な紫の蛇が現れた。 観客たちが悲鳴をあげる。 顔の周りに無数の鋭い刃を持つその大蛇―名をベノスネーカーという―は、シューという声をあげながら、王蛇の方に向かって地を這い進む。 王蛇はその場で構えると、後ろに向かって大きくバック宙をした。 そして、王蛇の背後にまで迫ったベノスネーカーが、口から毒液を吐き出す。 その勢いに乗り、王蛇が二体のワルキューレたちに向かって、両足を交互に上下させる、奇妙な形式の蹴りを放った。 「ウオオオォォ!!!」 (避けられない!!) 獲物を何度も噛み砕く、蛇の牙を彷彿とさせるその攻撃は、身構えるワルキューレたちをものともせずに蹴り砕いていき、そして――爆発した。 二体のワルキューレは木っ端微塵に吹き飛ぶ。 「そん……な……」 ギーシュが、崩れるようにして膝をつき、うつむく。 いくら奇妙な鎧を纏ったとはいえ、ワルキューレたちが平民を相手に、全く手も足も出なかった。 それどころか、戦いにすらなっていなかった。 あったのは、圧倒的な力による、破壊。 一方的な暴力のみだ。 「この感覚……! やっぱり戦いは最っ高だ……!!」 しばらく愕然としていると、王蛇がギーシュに近づいてきた。 「おい。……ギーシュとかいったか」 「ひぃっ!!」 殺される!と思ったギーシュであったが。 「時々、俺の相手をしろ。……モンスター以下だが、少しはイライラも収まる」 返ってきたのは、予想もできない言葉であった。 一方で、ルイズもまた、愕然としていた。 ただの乱暴者だと思っていた男が、何かとてつもない力を秘めていた。 しかも、この上なく強い。 (あんなのを使い魔にしちゃったのか、私……) 頼れる使い魔だったという喜びよりも、もしあいつが牙をむいたら、という恐怖が、ルイズの胸の中に広がっていく。 ルイズは思わず身震いした。 ――これからどう接すればいいんだろう。 そんな疑問を抱えながら、ルイズは広場を立ち去った浅倉の後を追うのであった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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迫る七万の大軍勢を目前にしながら、ルイズは考えていた。 どんなピンチにもいかなる強大な敵にも打ち勝つ、絶対無敵の英雄。 それはおとぎ話や空想の世界には実にありがちな存在だ。 男の子はそんな存在に憧れて英雄ごっこをし、女の子はそんな英雄に助けられるヒロインになれたらと夢想する。 しかし、そう長くはない時間の中で、子供はそれがあくまで空想の中の存在であることを知る。 英雄と呼ばれている人間も、その実は傷つけば血を流し、命を落とせばそのまま土に還る。 そんな当たり前の人間でしかないことに気づく。 それでも、そんな英雄の伝説や神話が語り継がれるのは、はかない現世でのせめてもの慰みなのかもしれない。 (そんな風に思っていた時期が、私にもありました) ルイズはため息をつく。 こんなことがあればいいな、こんな英雄がいてくれたら。 人は誰でもそんなことを思う時がある。 でも? もしも、そんな空想だけの存在が実在するとすれば、人は果たして素直に喜べるのだろうか? やったあ、ラッキー!! で、すむものだろうか? 否。断じて否。と、今のルイズなら断言できる。 不気味な怪物のように迫ってくる敵軍を見ながら、ルイズは初めてあいつに出会った時のこと、サモン・サーヴァントの儀式を思い出す。 最初は絶望した。 何故なら、そいつはどう見ても死体だったからだ。 何らかの処置がされているのか、ボロボロに腐っているということはなかったが、顔はもはや生前の様子すらわからない骸骨となっていた。 その格好や全身に施されている黄金の装飾からして、どうも生前はメイジのように思われた。 もしかすると王族かもしれぬ。 だが、死体ではどうしようもない。 それでも、規則は規則ということで、ルイズは泣く泣く死体に契約のキスをした。 胸に使い魔のルーンが刻まれると同時に、死体だと思っていたそれはむくりと起き上がった。 「お化け?」 「幽霊?」 そんな声がこだましたのをおぼえている。 驚く中、そいつはマントをなびかせ、高笑いと共に空高く飛び去っていき、そのままどこかへ消えてしまった。 あのおかしな骸骨を使い魔にしなくてラッキーだったのか、使い魔に逃げられたのを悲しむべきなのか、正直微妙だった。 多分、二度と会うことはないと思っていたのだが、そいつは思わぬ時に戻ってきた。 土くれのフーケが、学院を襲った時である。 使い魔召喚にすら失敗した今、ここで名誉を挽回するしかないと、ルイズは無謀にも巨大なゴーレムに立ち向かっていった。 あわやつぶされそうなになった時、あの使い魔が高笑いと共にやってきたのだ。 使い魔は縦横無尽に空を飛び回り、手にした銀色の杖でゴーレムを破壊した上、フーケを捕らえた。 フーケの正体ことミス・ロングビルはよほどショックだったのか、すっかりダメな人になってしまったそうだ。 その代わり、寛大な措置とかで、死刑だけは免れたらしい。 その後も、アルビオン、タルブの村、とルイズがピンチになった時には、使い魔はどこからともなく飛んできて、悪を蹴散らしていった。 まさにおとぎ話の英雄が実在化したようだ。 顔が骸骨というのはどうにもいただけないが。 そこでルイズは思考を迫る軍勢に戻した。 このままでは、確実にやられるどころか勝負にすらなるまい。 しかし。 「いつものやつね」 いつの間にか自分の周辺を飛び回っている金色に輝くコウモリに、ルイズはため息をつく。 あの使い魔の現れる前兆。 そして、当然のように使い魔は高笑いと共にやってきた。 銀の杖を手に、黒いマントをなびかせて。 そして、やっぱり当然のように敵軍に向かっていくが、ルイズは心配などしない。 あいつはフーケのゴーレムに踏み潰されようが、ワルドの魔法を食らおうが、戦艦の砲撃が直撃しようが、何事もなく復活し、恐怖する敵をなぎ倒したのだから。 今も、敵兵たちは阿鼻叫喚の騒ぎになっている。 何をやっても通じず、僅かな疲れさえ見せない使い魔に、それはもうボコボコにされていくのが遠目にもよく見える。 あ、大砲の弾を受けて墜落した。 一瞬敵は沸いたようだが、歓声はすぐにそれ以上の悲鳴となる。 使い魔は何事もなかったように復活し、また敵に向かっていったのだから。 もはやルイズにさえトラウマになりつつある、おなじみの台詞を叫んで。 「黄金バットは無敵だ!!」 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人……。 それは記すことさえはばかれる神の心臓。何者にも敗れぬ神の杖。不死の体と無敵の力、いかなる時にもいかなる場所にも、我を救いに現れる。
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前ページ次ページ蒼炎の使い魔 虚無の曜日 ルイズの部屋 今日はいわゆる日曜日。 藁付きの床で横になって寝ていたカイトが目を覚ます。 やはりルイズは先に起きていた。 よく見ると彼女は何処かへ出かける準備をしているようだ。 いつもと違う格好をしたルイズは起きたカイトに特に怒るわけでもなく挨拶をした。 実は昨晩、ルイズの勉強が終わるまで、ずっと起きていたのだ。 先に寝たら悪いとでも思ったのだろう。 すでに時刻はこちらは深夜2時にあたる時間を過ぎていた。 夜更かしに慣れているルイズは平気だがカイトのほうはそうもいかない。 今日は休日なので今回だけ彼女は大目に見たのだ。 「おはようカイト。今日は街に行くわよ」 「…?」 首をかしげるカイト。そんなことを言われても何のことだか分からない。 まあ、彼の場合しっかり意識が覚醒していても同じリアクションを取るだろうが。 「よ、喜びなさい。この私があんたになにか買ってあげるっていってるの」 「その…突然呼び出しちゃったあんたに色々迷惑かけちゃったから、えと… と、とにかくこのご主人様が使い魔になにか与えようって思ってるの!わかった!?」 つまりこういうことだ。 ギーシュとの決闘も含めて色々なことをしてくれた カイトに負い目を感じていたルイズがお礼を送りたいのだそうだ。 「…アリ@トウ」 「わ、分かったなら、早く行くわよ!!」 顔を赤くしながらルイズはカイトの手を引っ張って部屋を出る。 半分以上寝起きのカイトはなされるがままだ。 校門前 ルイズがカイトになにか教えながら校門前まで来る。 どうやら馬の乗り方と馬を使うための許可の取り方を教えているようだ。 説明をしている彼女の話をカイトは熱心に聞いていた。 「それじゃ行くわよ」 彼女には後ろにカイトを乗せ馬を走らせる。 本来なら馬を2頭使って行こうと思ったのだが、カイトがそれを見て首を横に(結構早めに)振ったのだ。 ぶっちゃけ震えている。 怯えているのだろうか。仕方なく1頭で出かけることになった。 カイトは馬が初めてだったので強くルイズの腰の辺りに手を回し必死に落ちないように頑張っていた。 彼女が顔を真っ赤にしながら、 「ちょ、ちょっと強くつかみすぎ!少し緩めて!」 と大声でカイトに話す。 嫌だ。 聞く耳を持たないかのようにそれを無視して必死にルイズにしがみついていた。 …もし、これが逆だったらかなり良い画になっただろうに。 3時間後 トリステインの城下町 メイジとその使い魔がすっかりへとへとになって町を歩いていた。 ルイズは、必死に抱きしめてくるカイトからの物理的圧迫感から。 カイトは、馬の上下運動により落とされるんじゃないかという精神的圧迫感から。 これから本番なのに大丈夫だろうか。 狭い道を通る。 カイトが興味深そうにあちこちを見ながらルイズの隣を歩く。 「いつも宙を浮いているのはやめろ」と言われてしまったのでよたつきながらも歩いている。 雰囲気がタウン『マク・アヌ』に似ているかもしれない。 「ちょっとあちこち見ないでよ。スリに狙われるわよ」 「…」 子供のように辺りを見るカイトに注意する。 財布などの荷物は基本的に使い魔が持つ。 だがカイトはアイテムや装備品は以前食堂でルイズの衣類を出したのと同じ原理で持っているため、 スリに盗まれることはない。 それに持っていかれたとしても一瞬で組み伏せることもカイトは出来る。 それでも一応ルイズの言うことを聞いたのだろう。 うずうずしながらも前を向いた。 ルイズは何も知らないカイトにいろいろと説明をする。 ここは大通りだとか。 城下町といえど魔法でスリを働くやつらも居るとか。 あれは酒場。あれは城。 そんなことを話しながら裏道に入る。 カイトはその間何も話さず熱心に話を聴いていた。 少し進むと少し古めの建物が見えた。 どうやら目的地についたらしい。 ルイズが薄暗い店の中に入るとそこには武器屋の主人が胡散臭げな顔をしながらこちらを見ていた。 しばらくやり取りが交わされる。 どうやら使い魔が使う武器がほしいらしい。 剣を扱うのが目の前の貴族ではなく使い魔の方だと言うのだからこれはしめたと親父はほくそえむ。 続けて入ってきたカイトのほうも武器のことなど知らなさそうに見える。 カモが来た。えらい高値で売ってやる。 武器のことなんか知らないだろう。 「…ハアアアアア」 知らないはず… 「…ハアアアアア」 知らない…よね? 「…ハアアアアア」 主人はすでに顔色が悪い。 唸り声を上げるカイトの前髪に隠されていた目があってしまったのだ。 お前の考えていることはお見通しだ。 そう視線が語っている。 もちろんカイトにそんなつもりはないが。 主人が勝手に勘違いしているだけだ。 そそくさと目標をルイズに向ける。 そのルイズは子供のように辺りを見回している。 先ほどのカイトと同じ行動をとっているが、だれも突っ込むものは居ない。 主人は、このまま適当に綺麗な剣でも高く売ってやれと思い、 カイトは、別にルイズに意見を言うつもりはないからだ。 主人とルイズがなにやら話し合うが、値段のことで揉めているようだ。 しばらく膠着状態が続いていたが突然何者かが声を上げる。 「けっ、そんなひょろひょろの坊主に振れる剣なんてあるわけねえだろ。 とっとと家に帰りな!」 「な、なに!?今の声…」 「おいデル公!!」 驚くルイズを余所に主人が声を上げる。ルイズたちに声を張り上げたのは1本の剣だった。 それはインテリジェンスソード。意思を持つ魔剣。 刀身は長く細身の剣。だがよく見ると所々さび付いている。 ボロボロの上に使い手を剣が決める。それだけで買わない客も大勢いただろう。 武器屋の主人としてはこのおしゃべりな剣をすぐにでも厄介払いしたかったところだ。 カイトは興味深そうにその剣を取る。 最初は文句を言っていたデル公、デルフリンガーだったが、 カイトが剣を握った瞬間に静かになる。 やがて、 「ほう…お前『使い手』か。よし、お前俺を買え」 いきなり自分をアピールし始めた。 昔の記憶などほとんど忘れてしまったが、 何となくこいつは自分を使いこなせると彼は思っていた。 だが、 「…ハアアアアア」 「え?いやいやいやちょっと待って。使えないってなに?」 カイトが唸るとデルフは焦った声を出した。 「…ハアアアアア」 「はあ!?「自分は剣が使えない」だって!?」 カイトは双剣士といわれるジョブについている。 彼は「The World」では1種類の武器しか使えない。 ハセヲのようなマルチウェポンなら話は別だが。 デルフリンガーのような武器は緑とか天狗とか薔薇とかズタズタ向けの武器だろう。 …あと裸と羽もいるか。 ルイズは目の前の光景に驚いていた。 ただの唸り声を口の悪い魔剣が理解したのだ。 「あ、あんた、こいつの言うことが分かるの?」 「え、ああ…。何となくだがそいつの言いたいことが分かるみてーだ」 「何となくって何よ」 「わかんねえよ。理解できるつったってカタコトだけどな」 あの唸り声にはちゃんと意味があったんだ。 「これは使えるわね…」 彼女は呟く。 「その剣を買うわ。いくら?」 ルイズはこの通訳、もとい剣をカイトに与えることにした。 買ったデルフをカイトに渡す。 「何か言いたいことがあればこいつを使って話しなさい。いいわね?」 「うわっ、ひでえ。俺は通訳かよ」 「そうよ。それに『使い手』だとかよくわかんないけど、 このまま錆びるよりはいいでしょ」 文句を言うデルフにルイズが説得する。 やがて彼も折れたのだろう。 「ちっ、仕方ねえな。おい、お前名前なんていうんだ」 「…ハアアアアア」 「『カイト』だな?よし、カイト、お前は絶対にいつか俺を使える。 それまで待っててやるよ」 「…ハアアアアア」 「…ああ、よろしくな」 渋々だが、本当に渋々だが一応了承したようだ。 ルイズはカイトの言うことがこれからは理解できると喜んでいる。 カイトは、ルイズがくれたモノに素直に喜んでいる。 武器屋の主人は、厄介払いが出来て喜んでいる。少しさびしげだが。 「でも、納得いかねえな…」 自分は武器なのに…。 デルフは一人愚痴っていた。 主人が思い出したかのように言う。 「あ、そうそう。鞘に入れとけば喋らなくなりますぜ」 「…」 そんな事をしなくても良い。 カイトは背中に剣を持っていき、一瞬光ったかと思うとその剣は消えていた。 簡単に言えばしまっただけなのだが。 「なっ!?」 「やっぱり便利ね、それ」 事情を知らない親父が驚いているのを余所にルイズが羨ましそうに見る。 質問してくる主人への対応がめんどくさくなったのか、 「あれ、私の魔法だから」 そう言って店を出た。 納得したのだろう、「うおおお!すげえー!」と店の中から聞こえてくる。 こうして別の意味で使える剣を手に入れたルイズとカイトは上機嫌で買い物を終わらせたのであった。 …余談だが、帰りはかなりゆっくりと馬を走らせたそうだ。 前ページ次ページ蒼炎の使い魔
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前ページ絶望の使い魔 自らの髭をさすりながら古い本を読んでいる老人がいる。 本の題名は『始祖ブリミルの使い魔たち』。 老人─オールド・オスマンはちらりと傍らにある鏡に映し出されている光景を見る。 森の中で一人のピンクの髪の少女が巨大なオークと本を挟んで向かい合っているのだ。 何か話しているようではあったが音声は拾えない。 話し合いがひとしきり終わると森の開けた場所までオークと移動し、 そして向かい合うと少女は背負っていた剣を抜く。 ここで少女を映していた鏡はただ老人の顔を写すだけとなる。 ここ最近オスマンはこの少女の様子を観察することが多くなっていた。 先程見た一連の動きはパターン化されているといってもいいほど毎日のことである。 分かるのは少女が戦闘を行おうとすると遠見の魔法は常に見えなくなることと、 彼女が人間を食べるはずの凶悪なオークと意思疎通を行っていることだ。 前者は何らかの阻害魔法を使うことでできそうである。 しかし後者はモンスター心通わせる能力を持っていることになる。 魔物を従える──まるで始祖ブリミルの使い魔の一匹、ヴィンダールヴの能力ではないか。 彼女の使い魔のルーンはガンダールヴであったはずだ。 手にしている本を見ても間違いなくガンダールヴであることを示している。 伝承では虚無の呪文は詠唱が長く、その時間を稼ぐために使い魔がいたと聞く。 ルイズ本人の戦闘能力の上昇はガンダールヴと言える。 ここにきてヴィンダールヴの能力まで保持していることがわかった。 始祖の使い魔2体の能力を有するメイジ。 ここで問題なのは『使い魔ではなくメイジである少女がその能力を持っていること』だ。 結論としては少女が扱っている力はけっして始祖の力ではないということだ。 おそらく使い魔の先住魔法か何かであり、その魔法の副作用のようなものでルイズの性格、 性質が変化してしまったのだろう。ルイズが力を得る前、召喚した直後の危険と判断したときに 亜人を始末して置けばよかったと何度も考えたが過ぎたことは仕方がない。 使い魔を始末するための魔法の選定は終わった。すべては計画通り。 あとは彼女の行動次第である。 _________ 夜が更け、ろうそくの灯りに照らされながらルイズは手紙を書いていた。 誘拐未遂からもうすでに3週間ほど時が経っており、 噂されることの中心はルイズの行ったことから離れている。 その中には土くれが牢からまんまと逃げ果したという話があった。 あの怪我でよく逃げられたものだ。 現在書いている手紙は実家のほうに金を無心するためのものである。 今、ルイズはお金の重要さを実感しているのだった。 というのも、人を動かすということに金がかなりかかることに気付いたのだ。 ルイズが作らせた組織は少しずつ不必要な構成員を減らしているとのことで出費は減るだろうが ルイズの小遣いだけではいささか不安であった。そしてこのたびの報告内容だ。 アルビオンの方面への輸送経費が恐ろしくかかると手紙に書いてあった。 浮遊大陸であるアルビオンへの交通の便は恐ろしく悪い。 そこに行くには大量に風石を積んだ船で空を駆けなければならないのだ。 風の力を溜め込んだ風石は高価であり、できるだけ消費を少なくするのが当然である。 よってアルビオン─トリステイン間の航路はアルビオンがもっとも近づいてきた時に活発となる。 しかしルイズはアルビオンの位置に関係なく連絡を密にするように言っていたので その交流時期の外れた数少ない貴重な便に乗せてもらうために余分に金が必要となったのだ。 こうしたことにより、普段から使わず大量に貯めてあった財布の中身が警告を発し始めたのだ。 ルイズ自身が組織を作れと言っておいて金払いがよくなくなるのは信頼の失墜に繋がってしまう。 リーダーの男はともかく他の連中は金が切れれば離れていくだろう。 よって金の工面は優先事項となった。 当初、ルイズはこの組織にはアルビオンのことを調べてもらうだけのつもりであった。 すでにアルビオンの反乱が成功することは確定している。ここで切っても痛手はない。 しかし、上げてくる報告書は思っていたよりも広く調べられており、 この間読んだときには注目すべきおもしろい情報が載っていたのだ。 それはトリステイン貴族にアルビオンの貴族派の仲間と思われる者がいるというのだ。 すでに何人かリストになっている。確実であると判明しているのはどこも中小貴族ばかりだが 大貴族の中にも怪しい者がいるようだ。アルビオンの反乱軍、レコンキスタの手が思ったよりも 伸びていることに驚いた。これならトリステインとの戦争になるのはそう遠くない。 こうしたことからルイズは切らない方が有益であると判断した。 この2週間にあったことをゆっくり思い出す。 あの後、オークに魔道書を説明してもらった。 やはり身振りだけでは難しかったが少しづつ分かる文字を増やしていき、 だいたいの概要を把握するまでになった。 魔道書に載っていた魔法陣は契約するためのもので、契約をすることで先住魔法が使えるようになるらしい。 その日からルイズはオーク監修の元、魔道書に載っていた魔法と契約し始めた。 初めて呪文の契約をした時、ルイズは喜び勇んで呪文を唱えた。 るいす”のこえは やまびことなって あたりに ひびきわたった! とりあえずオークの胸倉を掴んで思いっきり引き寄せ睨みつけたが、その光景はデルフリンガーから見れば 体格差により詰め寄ると言うよりぶら下がって遊んでいるように映ったという。 もちろんからかってきたデルフリンガーには仕置きをしておいた。 さらに詳しく理解してくるとなぜ使えないのかがわかった。 まず、この先住魔法にも適性と言うものがあるらしい。適性がないと契約しても使えないらしい。 次に魔法を唱える術者の力量。系統魔法のようにメイジを明確にランク分けしているわけではないがやはりそれなりのレベルと言う区切りがあるらしい。 今回の魔道書に載っていた先住魔法はほとんどが戦闘用の魔法であることがわかったが その中でルイズがほしかったものがあった。 回復魔法である。 誘拐時にオークが唱えたその効果を見て以来、ルイズは期待していた。 しかし無残にもその適正はルイズにはなかったのである。 回復呪文の中で、もっとも簡単だと思われる「ホイミ」が使えなかったのだ。 ヒャドなどの水系統を唱えられるのなら回復魔法もいけると考えていたルイズは 1時間ほど膝を抱えて地面に座り込んでしまった。 しかし神は救いも与えている。幾つかの攻撃魔法と便利な補助魔法が少しだけ使えたのだ。 補助魔法も闇の衣で効果がないと考えていたが試してみると重ね掛けができ、ルイズは興奮して 淑女にあるまじき狂態を見せてしまった。 それを見ていたのは一本の剣と一匹のオークだけであった。 忠実なオークはもちろん剣の方も再三ルイズをからかって酷い目に合わされていたので その時のことは一匹と一本の記憶の片隅にしっかりと保存されることになる。 実戦経験の少なさを補うことと、新しく覚えた魔法を用いた戦闘に慣れるために ルイズはデルフリンガーが言っていたオークとの剣の修練を行うことにした。 とはいえ、補助魔法の影響下で滑らかに動けるようになることが目標としていたため、 ただ実戦さながらに戦うだけであった。 デルフリンガーの期待に添えたかははなはだ疑問であるが、 オークと戦っているとデルフリンガーは剣の扱いがどうのとうるさく言ってこなくなったので 諦めたのだろうと思う。彼にはこれからも剣という名の鈍器としてがんばってもらいたい。 羽ペンを置いたルイズは書き上がった手紙を読んでいく。 その文面は己の使い魔を出汁にしたものだ。 大筋の内容は『寝たきりの使い魔を起こすために水の秘薬を買ってみたが効果がない。 もっといろんな薬を試したいのでお金を送って欲しい』となっている。 使い魔に関わることなのできっと大丈夫だろう。 手紙をしっかりと封蝋したルイズは部屋から出て、兵の詰め所に行く。 これは普段なら手紙の宛名方面に行く荷馬車に任せるのだが、 早く手紙を送るならここにいる衛兵に頼めばよいと聞いたことがあったからだ。 詰め所にいた兵士にしっかりと明日の朝一番で送るように告げるが胡乱な目でルイスを見てくる。 兵士は気だるそうにしていたがルイズが金貨を5枚ほどテーブルに置くと 馬の使用の手続きをいきなり始め、緊急だ!と奥の兵士に声を掛ける。 掛けられた者はテーブルにあった金貨を確認した後、 3枚取るとルイズの手紙を丁寧に懐に入れてそのまま厩に向かってしまった。 手続きを行った兵士は残った金貨を懐に入れながらできるかぎり急がせましたとルイズに報告する。 やはりお金は大事だと再確認したルイズであった。 ───────────── 夢を見た。 身体が揺れている感覚がする。視界は少し暗いだけ。 小さな小船の上で毛布を被り泣いていたようだ。 目を手で覆い、身体を縮めて震わせている。 これは小さい頃の夢だ。ヴァリエール公爵領の本邸で叱られて逃げ出した時、 自分だけの秘密の場所―庭の池に浮かぶ小船に隠れて過ごす。 「泣いているのかい、ルイズ」 その声に顔を上げる。 被っていた毛布を頭から外すが、その人物は日を背負い逆光になって顔が見えない。 泣いている顔を見られたくなかったルイズはすぐに顔を毛布に埋める。 これは違うとルイズは感じていた。こんなものはだめだ。 次の瞬間、ルイズの手にはデルフリンガーが握られており、体からは力強い躍動を感じる。 目の前の優しく声を掛けてくる敵を袈裟切りにする。 さっきまで優しげな顔をしていたその人物は何が起こったのかわからないといった顔で血を吐く。 裏切りを受けた者の表情とはなんと甘美なのだろう。 そして視界すべてが闇に塗りつぶされ、闇がルイズを包んでくれる。 毎晩与えられる優しく抱きしめてくれるような感覚にルイズは溺れてしまっていた。 ──────── その日の最初の授業は風の盲信者ギトーの講義であった。 久しぶりに授業に出たというのにギトーの授業がくるとはなんと運の悪いと自らを嘆きながら ギトーが熱弁をふるう様を半目で見ているとそれが耳に入ってきた。 皆、ギトーの演説には辟易しているのであまり真剣に聞かずに話していたのだが、 その中の使い魔品評会という単語をルイズの耳は拾ってしまった。 そういえばもうすぐそんな季節である。授業どころか最近はいつも外に出ていたため全く気付かなかった。 使い魔品評会・・・毎年行われる新しく召喚された使い魔に芸をさせるというものだ。 最近使い魔にしつけをする場面に出くわすことが多かったがそれが理由か。 ルイズの使い魔は眠ったままである。しかも行われるのは明日らしい。 使い魔が動かなければ、どうすることもできないではない。 ルイズはメイジとなったというのに学院の他のメイジと同じようにこなせない自分に怒りを覚える。 そのとき手元でメリっと音が鳴り、前後や近くの生徒がこちらを見てくる。 彼らは一様に顔を青くした後、授業中であるにも関わらずゆっくり席を立ち、ルイズの近くから離れていく。 ルイズも自分の手を見やると机の天板を握りつぶしてしまっていたことに気付いた。 この机の修理や片付けはどうなるのだろうかとルイズが考えていると 教室全体の雰囲気が慌しくなる。何事かと思うが原因はキュルケが炎を出していた。 どうやらギトーが挑発し、それにキュルケが応えようとしているようだ。 結果はギトーがキュルケの炎を吹き飛ばして終わり。 「諸君、風の前ではすべての者は立つことはできない。火、水、土そして伝説の虚無さえもなぎ払うだろう。 私はここに風の最強の証を君たちに見せよう!ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・」 詠唱が終わった後、教壇には三人のギトーがいた。 「これは風の遍在だ」 ギトーの二体の遍在はそれぞれに向かって風の魔法を使う。風の魔法エアハンマーがぶつかり合う。 生徒の注目が集まっているのを見てから遍在2体が消滅する。 「風は遍在する!いかに相手が強かろうが数の力には適わない!これが風最強の証明だ!」 そのとき戸口が開いてコルベールが入ってきた。ずいぶん慌てているように見える。 生徒に強さを見せつけたことで機嫌のいいギトーは朗らかに対応する。 「どうしました?ミスタコルベール。今は授業中ですぞ」 「授業は中止です、はやく外に出て準備をしてください。 急な話ですが明日の使い魔品評会ですが王女、アンリエッタ姫がご観覧なさるのです。 ゲルマニア親善訪問より戻られた足でこちらに向かわれており、本日到着予定だそうです」 それだけ言うとすぐに扉より出て行ってしまう。 そして少しずつ伝えられた内容が頭に染み込んでいくと、生徒たちの間でざわめきが起こった。 生徒たちが整列し道を作り、目の前を騎士に護衛された馬車が通っていく。 時折馬車の中から微笑みながら手を振る少女に歓声を上げていた。 その少女は馬車の外から見えない位置に座ると大きくため息をついた。 「姫様。ため息をつくのはこの馬車の中でだけですぞ」 頭に小さなティアラを乗せた少女、トリステインの王女であるアンリエッタ・ド・トリステインは 自分に話しかけてきた目の前に座る人物に目を向ける。 トリステインの政治で辣腕を振るうマザリーニ枢機卿。権力の集中により彼はよく悪く言われるが 間違いなくトリステインのために行動している。 このたびのゲルマニア訪問も彼が調整したものであった。 今回の訪問によりアンリエッタの将来が決まってしまったことで恨み言の一つも言いたいが トリステインのためを思うなら一番の選択肢であろう。しかし今回のこと問題を残していた。 その問題を知るのはおそらく自分だけだろう。そしてこの問題は公にすることができないため、 アンリエッタは目の前の人物に相談することもできない。だからこそ自分は気分転換にかこつけて 親友がいるこの学院に来たのだ。この問題を解決できるであろう人物に会うために。 「此度のことで姫様は何か悩んでらっしゃるようですが大丈夫です。 私がすべて取り計らいます。何も心配はいりません」 マザリーニ枢機卿の言葉にさらに自分がなんとかせねばなるまいとアンリエッタは決心した。 学院の生徒たちが王女に注目していたとき、ルイズはその隊列の中でも魔法衛士隊を観察していた。 一人ひとりがトライアングル以上のメイジであり、かなりの剣の腕前まで持っている。 最終的にトリステインを平らげるにはこいつらが立ちふさがるであろう。 だがこのルイズを相手にグリフォンに乗っているのは失敗である。いつか来るそのときが待ち遠しい。 歓迎式典が終わり、授業が無いことを確認したルイズは図書室にいた。 読んでいるのはマジックアイテムの本。魔法陣については分かったがそれ以上に気になるものがあった。 それは夢で見た光る玉だ。まさに夢で見た効果は天敵と言えるほどではないだろうか。 これについては調べるにしても他の者に知られるのはまずい。 なんと言ってもルイズにとっては危険な物である。 例え信用が置ける者であっても知られるわけにはいかない。 同じく図書室にいたタバサも誘わず黙々と探し続けた。 ────────── 今日、使い魔品評会が午後から行われる。 すでに中央広場にちょっとした舞台会場が設置され、学園内は魔法衛士隊の面々が巡回を行っている。 昼食の時間になった頃に使い魔の目が覚めていないことを確認し、 ルイズは使い魔品評会を辞退することにした。 ぎりぎり間に合うのではないかと考えていたが、そんな都合のよいことは起きなかった。 落胆の念がかなり強く、立ち上がるだけなのに苦労する。 医務室を出てすぐに会ったコルベールに使い魔品評会を辞退することを告げると、 コルベールも使い魔が起きない現状を知っていたので了承し、 握りこぶしを作って報告するルイズが落ち込まないようにと励まそうとする。 「あなたの使い魔はすばらしい力を持っています。 心無い人は眠っているだけだと言ってくるかもしれませんが、優れていることは間違いありません。 メイジの実力は使い魔を見ればわかると言います。 優れているが眠っている使い魔と同じく貴方の力もまた使い魔と同じくまだ眠っているだけなのです。 あなたは間違いなく最高のメイジですよ」 コルベールがルイズをメイジとして持ち上げるように話すのを聞き、ルイズは少し冷静になることができた。 魔法が使えるようになってから自分がメイジだと変に意識しすぎていたことにルイズは気付いたのだ。 もともとルイズが剣を持ち始めたのも、型に当てはめずに自分を強くしようと思ったからである。 コルベールに礼を言って別れると図書室に向かうことにする。 今回のことで初心を思い出し、自分に精神的な未熟さを実感した。 それにまだまだ振り回されるかもしれないことに頭を痛める。 致命傷にならないうちになんとかしないといけない。 使い魔品評会はタバサの風竜が最優秀賞を勝ち取ったそうだ。 その夜、ルイズが部屋でデルフリンガーと先住魔法について話していた。 普段なかなか喋らせてもらえないデルフリンガーは機嫌がよさそうだ。 「お前さんのは契約はしているがエルフとかが使う先住魔法とはちょっと違うんだよなぁ」 「エルフがどんな先住魔法を使っているか知らないけどオークが持ってきた奴だからね。 でも回復魔法が使いたかったわ。あれほど恐ろしい魔法はないわよ。 死んでなければ大怪我を負っても回復できるとかありえないわ」 「確かにありゃすげぇよな。あいつとおめえさんとの剣の修練の名を借りた殺し合いで どちらも死んでねぇのは間違いなくあの「べほまら」とかいう魔法のおかげだ。 戦うのはいいけど心臓に悪いぜ」 「あんたのどこに心臓があんのよ」 「ひでえな。こんなに心配してやってんのによ。 こんなことならおめぇさんが失敗した時にもっとからかってやればよかったよ」 「あんた息の根止めるわよ?」 「俺は剣だから息なんてとうの昔に止めてらぁ。むしろ息なんてしたことねぇ」 「それは私への挑戦と受け止めたわ」 そう言うとルイズはデルフリンガーを手に取り、折るように力を加える。 「あ、ごめん、言い過ぎました。申し訳ございません」 すぐに謝罪してきたデルフリンガーに半目を向けながら、床に放り出す。 床に投げられたデルフリンガーは先程の殊勝な態度はどこへやらすぐに文句を返してくる。 「ったく。剣の扱いが荒いぞ。もっと丁寧に扱えよ」 「あんたの減らず口が減ったら考えてあげるわよ」 デルフリンガーの不満にしっかりとルイズは返す。 「嬢ちゃんとはこんだけ馬が合うってのになぁ。相棒じゃねぇのが残念だよ」 ルイズはふと気になる言葉を聞いたので眉を動かす。 「また剣の振り方がどうとか言い始めるんじゃないでしょうね。そんなの習得するのに何年かかるのよ。 戦闘への慣らしの方が重要でしょ。技術ってのは後から付いてくるって聞くしね。 ところで、相棒じゃないってどういうこと?あんたは私の剣でしょ?」 ルイズは少なからずこの剣に心を許していた。現段階でルイズの裏側を一番知っていると言える存在だ。 しかしここでそれが否定されるように感じてルイズは不安を抱いた。 「いや、それはもういいよ。おめえさんには必要なくなった。 それと相棒ってのはな、持ち主とか使用主ってことじゃねぇよ。 ええっと、・・・なんだっけ?忘れちまったなぁ」 マヌケなデルフリンガーの返答があったとき、ルイズの部屋にノックが響いた。 デルフリンガーへの追求を抑え、軽く闇の衣を纏う。 先程の会話を聞かれていたかもしれないことに背筋が寒くなる。 ルイズは慎重に扉を盾にしながら開ける。そこにはローブを纏った不審人物がいた。 部屋に入ってこようとするので、肩を掴み壁に押し付け、精一杯ドスを効かせた声で話しかけた。 「どちら様でしょうか?不審な動きをすると唯ではすみませんよ?」 「ル、ルイズ?」 どこかで聞いたたことあるような声に首を捻る。言葉に焦りが混じるローブの人物がフードを外した。 下から現れたのは頭にティアラを乗せた同年代くらいの少女。 その顔を見てやっとトリステイン王女であるアンリエッタだということに気付いた。 まさかの訪問客に思考が停止しそうになったが被り振りながら冷静になろうと努める。 なぜ王女がこのように人目を忍んでくるのかが疑問に思うが、 とりあえず部屋に入りたそうにしているので入れてやる。 部屋に入った王女はディテクトマジックで部屋を探索した後、懐かしそうに話始めた。 うれしそうに昔話に興じる王女の相手をしながら考える。 様子からしてルイズとデルフリンガーの話は聞いていなかったように見えた。 ルイズと王女はそれなりに親しかった事もあり、会いにきただけということもあるかもしれない。 宮廷で言えないような愚痴でも言いにきたのだろうか? さっさと本題に入りたいルイズはアンリエッタに質問をする。 「姫様。それで今日は旧交を温めに来られたのでしょうか?」 ルイズが促すとアンリエッタは途端に浮かない顔をしてきた。 「私、結婚するの」 合点がいく。アンリエッタはこの事で愚痴を言いに来たに違いない。 確かこの娘はアルビオンの王子が好きだったはずだ。 いつぞやは逢引のために抜け出す時に身代わり役として寝床に潜っていたこともあった。 アルビオンの戦況ではその王子の属する王党派が終わろうとしている。 今入っている情報は反乱軍の兵士によって城の包囲が完了しそうであるとのことだ。 その暗い表情のアンリエッタに口の端で笑いながらもしっかり手で隠して事情を伺う。 「おめでとうございます。それでお相手の方は?」 「ゲルマニアの皇帝です」 それを聞きルイズはなるほどと頷く。 「今回のゲルマニア訪問の目的はそれでしたか。 まあ今のアルビオンでの内乱で、貴族派の反乱が成功すれば次はトリステインですからね。 ゲルマニアとの同盟は賛成します。王族としての責務大変であろうことをお察しします」 ゲルマニア─トリステイン間の婚姻による同盟。 当然考えられることであった。しかしこれはまずいことになってきた。 同盟が成立すれば反乱軍が攻めにくくなってしまう。この婚姻は妨げなければならない。 どうしたものか・・・ しかしアンリエッタはその言葉に絶句する。おそらくルイズならゲルマニアの皇帝との婚約に怒りを感じて そんな境遇の自分に同情すると思っていたのだ。 部屋に入る時といい、冷静なルイズの言葉に戸惑いが生まれる。 「その通りです。ですが、問題があるのです。 アルビオンのウェールズ様を覚えておりますか?」 「覚えてますよ。あのアルビオンの凛々しい王子様ですね?」 「そう、そのウェールズ様に私はある手紙を出してしまったのです」 「手紙を出すくらいで問題にはなりませんよ」 「いいえ、違うのです。 その手紙にはゲルマニアに送られれば婚約は解消されるほどのことが書かれているのです。 ・・・はっきり言ってしまいましょう。手紙私からウェールズ様への恋文です。 婚約解消となればトリステインは独力で反乱軍と戦わねばならなくなります。 この国のためにもなんとしてもその手紙を回収しなければなりません。 それも絶対の信頼の置ける者でなければこんな任務を拝命させるわけにはいかないのです。 しかし私が信頼できるような者は宮廷にはいません。どうすればいいのでしょう。 誰か罪深い私を助けてくれるような者はいないのでしょうか」 アンリエッタはちらちらとルイズを見ながら事情を説明してくる。 話し方からして、ルイズが自分から志願してくれるのを待っているようであった。 まさに渡りに船の申し出であった。この任務に失敗すれば同盟の話はなくなる。 その様を思い浮かべたルイズはアンリエッタににっこりと微笑みを送る。 「姫様!ここに私がいるではありませんか。私にどうか命令してください。 手紙を見事手に入れてこいと。それだけで動く貴方の友が宮廷にはいなくともすでに目の前にいます」 驚いているような顔を作りながらアンリエッタは言葉を返す。 「いけません!貴方をそのような危険な場所に行かすなどどうしてできましょうか」 「姫様のためならば危険なぞ省みない覚悟です」 「本当に行ってくれるのですか?」 「もちろんです。私以外にこれほど適任な者もいないでしょう。 このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステイン貴族として、 そして何よりあなたの親友として!この任務果たしてみせます」 「ああルイズ!私はなんとよい友を持ったのでしょうか」 「任せてください。すべてうまく行きますよ。すべて、ね・・・」 アンリエッタは最初に感じた違和感を忘れ、 ルイズの微笑みと自信のこもった言葉に大きな安心を覚えていた。 自分の指から指輪を抜いてルイズに手渡す。 「ルイズ。これは王家の宝、水のルビーです。これをあなたに。 もし路銀が足りなくなればそれを売り払ってください」 ルイズはありがとうございますと言いながら受け取り自分の指に嵌めた時、 突如大きな音をたててその扉が開いた。そこにいたのは金髪の優男。 その名をギーシュ・ド・グラモンという。 ずいぶん前にルイズに決闘でフルボッコにされた男だ。 「話は聞かせていただきました!その任務、私にも任せてもらえないでしょうか?」 どうやら聞き耳を立てていたようだ。 ルイズはため息をついてからアンリエッタに視線を送る。 アンリエッタは純粋に驚いているだけのように見える。 とりあえず提案だけでもしてみる。 「この女子の宿舎に忍び込んだネズミは始末したほうがよいですね?」 「それは少し過激です。でも聞かれた事が事ですし仕方ないのかもしれませんね」 その会話を聞いてギーシュは失敗という言葉が頭をよぎる。 トリステインの一輪の花、アンリエッタ殿下に名前を覚えてもらい、 もしかすれば親しくなれるかもしれないチャンスに舞い上がり、 部屋に突入してしまったが窮地に立たされてしまった。 ギーシュはルイズの恐ろしさを文字通り身に染みて理解していた。 決闘での悪夢はいまだに夢に見てしまう。 そして土くれのフーケを学院長室まで引きずっていったのをギーシュはしっかりと見ていた。 なんのためらいも無くやると言ったらやる性格。 使い魔を召喚してから変化した凶悪なルイズが今は口封じという口実を手にして ギーシュに視線を向けている。顔から血の気が引き、手がぶるぶる震え始める。 「お、おお、お待ちください。私、ギーシュ・ド・グラモンはトリステイン貴族の一人として 姫殿下のお役に立ちたいのです」 その言葉にアンリエッタが反応する。 「グラモン?あなたはグラモン元帥の身内の方ですか?」 「息子であります!」 「あなたも私の力になってくれるのですか?」 「このギーシュ。姫殿下のためならばどのようなことでもやり遂げて見せます」 二人のやりとりを横から見ながらルイズは考えていた。 危機を脱しようと思っているギーシュはなかなか饒舌である。 しかしギーシュを連れて行くとどうなるだろうか。連れて行くなら先住魔法は使えない。 打算の結果、不可との結論が出る。 「だめよ。貴方じゃあ足手まといにしかならないわ。身の程を知りなさい」 しっかりと釘を刺すがアンリエッタがにっこりと微笑む。嫌な予感しかしない。 「ルイズ、そう言わずともいいじゃない。彼は彼で私のために動こうとしているのです。 そんな貴族の忠誠を無碍にはできません。ぜひ彼も連れて行ってください」 「そ、そうだ!ドットとはいえメイジだぞ。ゼロの君とは違う!」 どうやらアンリエッタは本当に足手まといとなるとは考えていないようだ。 そして彼女に支持されたギーシュはかなり勢い付いてしまっている。 その言い草にルイズは静かに怒りを覚える。 「そのゼロにボロクズにされたのは誰かしら?ミスタグラモン? まあいいわ付いてくるのはいいけどこの任務は非公式だから死んでも名誉の戦死とはいかないわよ?」 「の、望むところだ。表に出なくとも貴族としての行動ならば誰が謗ろうとも恥じることはない」 名誉がない。そのことを聞いてギーシュは唾を飲み込んだがアンリエッタがこの場にいることを思い出し、 見栄をを張り通してきた。 仕方がない。ギーシュには途中で死んでもらうことにしよう。 それよりこのような任務を任せるほどアンリエッタが自分を信頼していることにルイズは注目する。 信じれる者が近くにいないとはなんとおもしろい姫だろうか。 もっとも信頼しているのが昔いっしょに遊んだだけのルイズであるというのが一番の笑い話である。 ルイズはアンリエッタが小娘である自分にこのような任務を与えることを馬鹿にするように考えていた。 しかし、貴族王族といった権力の渦の中でそのようなものに煩わされない友であり、 最近、トリステインで暴れていた土くれのフーケを捕まえるという偉業を達成しすることで 実力を示したルイズはアンリエッタからしてみれば今回の任務にまさに打ってつけの人材であったのだ。 アンリエッタよりウェールズへ宛てた手紙を受け取り、ギーシュとアンリエッタが帰った後、 一通の手紙を書く。その手紙を持ってタバサの部屋に行く。 扉をノックしたが返事がないので勝手に入ることにした。 部屋にはベッド、机、本棚だけであり、かなり殺風景と言えるだろう。 タバサは机に向かい椅子に座って本を読んでいたが、 ルイズが視界に入ると本にしおりを挟み机に置いて向き直ってきた。 「タバサ、今からちょっと付き合ってくれない?」 タバサが頷いて了承を示したのを確認するとルイズは使い魔で近くの森まで運ぶように頼んだ。 すぐにタバサは窓まで行き、口笛を鳴らす。ルイズとタバサはすぐに飛んできた風竜に乗り込み、 森の入り口に向かった。ルイズ持っていた手紙を手近な木の枝に結びつけるとすぐに学院へ帰る。 もちろん魔法衛士隊の巡回に見咎められたが、今日行われた使い魔品評会でタバサとその使い魔は よく知られていたためすぐに開放された。 何事もなく終わったがタバサの風竜がずっとこちらを睨んでいたことが気にかかった。 元々使い魔には避けられていたが明確な敵意を向けるのはシルフィードだけだ。 タバサの風竜はアルビオンへ渡るのに使えるだろうが、タバサを完全に支配下に置いていないことから 協力を断念せざるを得ない。まだ彼女には光があるのだ。 タバサの母はおいしいネタだが、シルフィード然りまだルイズを裏切る余地がある。 それを完全に消すまでは弱みをみせることはできない。 朝が来る。 ルイズはすぐに寝巻きから旅装に整えてデルフリンガーを背負い、使い魔のいる医務室に向かう。 ルイズが使い魔に会いに行くのは毎朝の日課となってしまっていた。 今だに寝続けている使い魔に変わった様子は観られない。 今日から少し長く使い魔と離れることになる。 魔法が使えなかったルイズが始めて成功した魔法で呼び出された使い魔。 ゼロと陰口を叩かれていたルイズに新しい価値観と力を与えてくれた存在。 そして毎晩のように夢の中で安らぎ教えてくれている。召喚してからルイズは与えられてばかりである。 これでは主人とはとても言えないだろう。 いつまでも使い魔におんぶに抱っこでは格好がつかないではないか。 せめて目覚めさせなければ。 使い魔がいままで夢の中でルイズに伝えていたことを考える。 とにかく人間が負の感情を抱くようにすればよかったはずであった。 希望を見出せない世界を創ることはルイズ自身も望むことである。 「言っとくけどあんたのためにアルビオンに行くんじゃないんだからね。 私は私がやりたいから行くのよ。勘違いしないようにね」 使い魔には感謝をしているというのに口をついて出たのは憎まれ口であった。 眠っていて聞いてないであろう相手とはいえどうにも素直にはなれない。 そんなルイズの目に一瞬だけ黒く輝いた使い魔の左手のルーンの光が飛び込んだ。 返事は期待していなかったルイズは激励を受けたように気分が高揚してくる。 「あら?このルーン。もしかしてこのすごいのが相棒だったのか? じゃあ嬢ちゃんは・・・」 デルフリンガーが何かを言っているがルイズは無視して使い魔を見つめる。 「ついでだしあんたも叩き起こしてあげるわ!感謝しなさい!」 堂々と啖呵切ったルイズは医務室から出る。 まだごちゃごちゃ言っているデルフリンガーは鞘にしっかり入れて黙らせた。 ルイズはそのまま集合場所に着いたときすでにギーシュが馬を用意して待っていた。 「ルイズ、馬の用意をしておいたよ」 ギーシュがルイズに話しかける。 この任務で大事なのはすばやく手紙を奪取し、それをゲルマニア皇帝に送ることだ。 確かにゆっくりと旅して間に合わなくなり、貴族派の手に手紙が渡っても 高確率でゲルマニアの皇帝に送られるだろう。 しかし少ない可能性だがアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻がアルビオン側に伝わることになれば ウェールズ王子が自ら手紙を処分することもあるかもしれない。 できるかぎりの速さが必要なのだ。 馬の具合を確かめているとギーシュが話しかけてくる。 「あの、つ、使い魔を連れて行ってもいいかな?」 メイジの使い魔を連れて行くことは別段おかしいことではない。 疑問に思っていると地面が膨らみ、何かが顔を出す。 それは1メートルを超えるでかいモグラだった。ルイズから隠れるようにギーシュの後ろに行くが 鼻をすんすん鳴らしながらつぶらな瞳でルイズの方を見ている。 ルイズはその使い魔が自分の手元を見ていることに気付き、右の眉を上げる。 その反応を敏感に捉えたのかギーシュは反対されると思ったのかまくし立て始める。 「ごめんよ。急ぎの任務であるのに地面を進むジャイアントモールを連れるなんてだめだろう。 馬鹿なことを言っていると僕だってわかってる。でも僕とヴェルダンテは一心同体なんだ!」 いきなり使い魔を抱き始めたギーシュは放っておき、手を動かす。動く手に沿ってジャイアントモールの 瞳も動く。どうやら指輪を嵌めている手を見ているようだ。指輪をはずしポケットに入れる。 視線がポケットに向けられているのを確認し、もう一度付け直す。 「ギーシュ、このモグラ、私の指輪を見ているようだけど?」 「え!・・・そ、それはヴェルダンテの習性だよ。彼はよく鉱石を見つけ、集めてくれる。 土メイジとしてはすばらしいパートナーだろ?」 使い魔を自慢するギーシュは本当に殺したい。 「連れて行ってもいいわよ」 「ほ、本当かい?ありがとう!」 地獄に仏を見つけたかのような顔をするギーシュに釘を刺す。 「ジャイアントモールは土の中を移動するけれどその潜行速度は馬並みよね? ただし遅れたら放って行くわよ」 ベルダンテベルダンテと騒いでいるギーシュはこの旅の中でその短い生涯を遂げることになるだろう。 今の内に騒いでおくといい。 そのときルイズはギーシュの後ろにこちらに近づいてくる影を見つけた。 見たところ年齢は二十台後半といったところか、かなりの美形で体格もよい。 騎士の一人なのだろう。こんな朝早くから騒いでいるので様子を見に来たのかもしれない。 足音が聞こえるようになってやっとギーシュもその騎士に気付いた。 「ええと、朝から騒いでしまい失礼しました。特に問題はないので・・・」 「いや、僕は君たちの護衛を任されたのだよ。 私は魔法衛士隊グリフォン隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ」 ルイズはそれを聞いて歯噛みする。護衛を付けられてしまった。 それもそうだ。普通に考えてこれは当たり前の処置。 いくらアンリエッタがルイズを信頼していてもこれは国家の大事なのだ。護衛が付くのは当然だろう。 だがルイズから見れば護衛ではなく監視でしかなかった。 魔法衛士隊と言う実力でしか入ることのできない部隊。 その隊長を務めるからにはこのワルドはかなりの実力者なのだろう。 だが予定は特に変わらない。『貴族派の刺客』に殺されるのが二人に増えるだけだ。 しかしこのワルドの実力がどれほどのものであるかがわからなければうかつなことはできない。 「久しぶりだね。僕のルイズ」 微笑みながら話しかけてくるワルドに不審な物を見る目を向ける。 「おや?僕のことを忘れてしまったのかい。婚約者に忘れられるなんて僕は悲しくて死んでしまいそうだよ」 そう言われてルイズは自分に婚約者が居たことを思い出す。 たしかにワルドはルイズの婚約者であった。そういえば憧れていたような気もする。 最近いろいろあったので綺麗に忘れていた。死んでしまいそうならそのまま死んでくれたらいいのに。 「すっかり忘れていました。それに婚約は親が勝手に決めたことです。 それに振り回されてはいけませんわ」 ワルドはルイズの綺麗な笑顔での忘れていました宣言に対しても全く動揺した様子を見せない。 なかなかに面の皮が厚い。 「なんと言うことだ。でもこの旅できっと二人の間を縮めてみせるよ」 ワルドが口笛を吹くとグリフォンが空から降りてくる。 それにワルドが騎乗し、ルイズに向かって手を差し出してきた。 「ルイズ、こちらにおいで」 ルイズが素直に寄っていくと突如グリフォンが暴れだした。 ワルドは不意を突かれてグリフォンから落とされたが、きれいに受身を取って起き上がる。 グリフォンは威嚇音を出しながらそのままワルドに爪を向けようとした。 「止めなさい」 それをルイズが止める。グリフォンはワルドから目を離さないように動きながら ルイズの横にくると従者であるかのように伏せる。このグリフォンの動作に笑みを堪えきれず、 ルイズは手で釣りあがる口元を隠す。 これがルイズが始めて魔物を従えるということに成功した瞬間であった。 オークは最初から従順であったのでルイズはしっかりと自覚できていなかった。 これまで学院の使い魔たちには避けられ、本当に魔物を操れるのか不安であったが、 そんな悩みを一掃してしまった。使い魔となった魔物だけが従わないのだと理解できた。 ルイズは愛おしそうにグリフォンの鼻先をなでてから馬に乗せようとしていた荷物をグリフォンに付け直す。 ギーシュとワルドはそれを見て絶句していた。 しっかり飼いならされ、訓練を受けたグリフォンが騎士に逆らい、初めて会った少女に従っているのだ。 「ワルド子爵。この子、貴方を乗せたくないみたいよ?嫌われたわね。 この子には私だけが乗っていくから貴方は用意した馬に乗って頂戴」 あっさりとそう宣言した後、自分の荷をくくり付け終わり、ルイズはさっさと出発しようとしている。 「ヴィンダールヴ?いや、しかし使い魔はガンダールヴのはず・・・ 始祖の魔法か?・・・・」 ワルドの呟きは誰にも聞かれず空に解けて消えた。 魔法学院の学院長室。 オールドオスマンはその出発の様子をしっかりと見ていた。 隣にいる王女にはよくぞルイズを国から離してくれたと喝采を送りたい。 「しかし大丈夫なのでしょうか。頼んだのはいいですがやはり不安です」 「そのためにグリフォン隊の隊長殿を付けたのでしょう? それに貴方が思っているよりもミスヴァリエールは強いですぞ」 「そうですね。さっきも騎士のグリフォンを奪うなんてことして・・・ あの子は昔から変わっていたけど、ここでも変わらないのね」 アンリエッタが微笑ましそうに見ていたその光景はオスマンから見れば異常としか言いようがない。 訓練を積んだグリフォンが主人に攻撃したのだ。異常でなかったらなんだというのだ。 「彼女らに始祖ブリミルの加護のあらんことを・・・」 祈る王女から視線をはずしこれからのことを考える。 アルビオンに行くには浮遊大陸がもっとも近づいてきたときでないと航行便は出ないだろう。 3日以上はまだトリステインにいる計算になる。 王党派と連絡を取るのに手間取ると任務終了までにどれだけ時間がかかるかわからない。 亜人を滅するのは彼らがアルビオンについてからでいいだろう。 前ページ絶望の使い魔