約 840,484 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4478.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ アルビオンの朝は、楓の目には不思議な風景が広がる。 空は明るくなってくるけれど、陽は昇っていない……元の世界なら明け方に束の間垣間見えるような光景が、空が真っ青に染まるまで続く。 アルビオンが、ハルケギニアの大地より遥か上空に浮かぶ浮遊大陸だから、という事だが、それは、夜に浮かび上がる双子の月と並んで、ここが異世界であると楓に実感させてくれるものだった。 「んん……ぅ」 楓が目を覚ましたのは、太陽が姿を見せはじめてからだった。 前日に慣れないワインを嗜んだせいか、心なし頭が重い。 「はふ……」 上半身だけを起き上がらせ、その重さを吐き出すように息をつく。 幸い、痛みというほどの物でもなかった。ティファニアから借りている寝巻きを脱ぎ、洗濯しておいたセーラー服に着替える。 ……その寝巻きの胸の部分だけがダボダボなのには、未だに慣れない。スタイルにあまり興味のない自分は違和感だけで済んでいるが、これが千鶴姉さんや梓姉さんだったら、きっと落ち込むか暴れるかしていたであろう、と楓は何気に酷い事を考えていた。 「マチルダ姉ちゃーん! 山作ってよ、山!」 「やまー!」 「やれやれ、お前達も好きだねぇ」 ベッドに座って、何をするでもなく窓の外に目を向けると、薪束に腰を下ろしたマチルダが子供達とじゃれ合っていた。 マチルダが苦笑しながら、少々わざとらしく面倒そうな素振りを見せて、杖を振る。 すると、もりもりと地面が盛り上がり、小学校の校庭にあるような土の小山が現れる。子供達がはしゃいだ顔でそれに駆け上ったり、滑り降りたりを始めた。どこの世界も子供というのは変わらないらしい、微笑ましい光景だった。 「魔法……魔法学院、か」 昨日聞いた事が、脳裏に思い出される。 『あんた……"エルクゥ"かい?』 ティファニアが楓を『サモン・サーヴァント』で呼んでしまった事を話し、自己紹介を終え、マチルダが数秒固まった後に言ったのは、そんな言葉だった。 思わず身構えてしまって、座っていた椅子を壊しそうになったのはご愛嬌だ。 『なに、カマかけたのはこっちだから気におしでないよ。あんたのいい人は、トリステイン魔法学院ってところにいる。生徒の一人に使い魔として呼ばれたのさ。……はは、なに照れてんだい。こんなところまで男追っかけてくるなんざ、丸分かりもいいところじゃないか』 続けて言われたそれは、その前以上の衝撃だった。 一番知りたかった事がいきなり転がり込んでくるなんて、どんな偶然なのか。思わず、『ドッキリ』とか書かれたプラカードが出てこないかと心配になったぐらいだ。 マチルダは、この間までその魔法学院の学院長秘書をしており、使い魔として人が呼び出された珍しいケースの調査をしたから覚えていた、という事情だそうだ。 ……しかし、いい人、などと言われて思わず赤面してしまったのは不覚だった。 歳も、学校も、住んでいるところも違うから、姉妹以外に冷やかされる事など皆無であり、耐性がなかったのだ。 もし、耕一と自分が同じ学校の同級生であったりしたら、こんな事が日常であったりしたのだろうか―――。 そんな事を考えて、楓は熱を持った頭をふるふると振った。 『コーイチ君も元の場所に帰ろうと努力はしてたみたいだけどね。残念ながら、使い魔を送り返す魔法なんてのは存在しないんだ。まだ向こうで使い魔やってるんじゃないかい?』 それは、出来すぎなんじゃないかと思うぐらいの希望と―――落胆だった。 耕一に会える可能性は飛躍的に高まったが、帰る事が出来ないのでは片手落ちにも程がある。 「……ふぅ」 とりあえずは耕一と会わなければ。元々帰れるかどうかわからない状態だったのだから、マチルダの情報は大きな前進と言っていい。 それに……帰る方法なら、ほんの少しだけ、手がかりを見つけた事だし。 「……うん」 行こう。トリステイン魔法学院へ。 § 「そう、行くのかい」 「はい。明日の朝、出発しようと思います」 夕飯が終わり、子供達がそれぞれの家へと帰った後、楓が切り出すと、二人は対照的な表情を浮かべた。 「ありがとうございます、マチルダさん」 「はン、どうせ誰に言ったって信じてもらえないような話さ。売れない情報なんかに興味はないさね」 そう嘯くマチルダの頬はかすかに赤く、楓は薄く微笑んだ。 「ティファニアさんも、ありがとう。どうもお世話になりました」 「あ、う、うん……」 俯くティファニアの顔は暗く、何かを考え込んでいるようでもあった。 「テファ、どうかしたのかい?」 「う、ううん! なんでもないの。あの、恋人さんの手掛かりが掴めて良かったですね、カエデさん!」 「……?」 慌てたように、ティファニアは笑顔を作る。 ―――はーン。なるほどねえ。 不思議そうに首を傾げる楓の横で、マチルダが下世話な―――しかし確かな慈愛を感じさせるような、妙齢の女性の強かさが滲み出る笑みを浮かべていた。 「テファ」 「な、なに? マチルダ姉さん」 「言いたい事があるなら今の内に言っときな。もう会えないかもしれないと思ってるなら、特にね」 「…………でも」 「もう会えないから言ってもしょうがない、てんなら、所詮その程度の関係さ。でも、そこから一歩踏み出したいなら……もう会えないからこそ、その時点での全てを相手に伝えるんだよ」 「…………」 「全てはそこからさ」 楓には意味のわからないマチルダの言葉に、ティファニアは再び俯いてしまう。 「やっぱり、姉さんにはわかっちゃうんだね」 「はン、いくつの時からあんたを見てると思ってんだい。マチルダ姉さんにはね、何でもわかっちまうのさ」 「……うん。そうだね、やってみる」 はにかむような微笑みを浮かべて、ティファニアは楓に向き直った。 その顔は、何か困難に立ち向かっていくかのように精悍なものであった。 「あ、あの、カエデさんっ!」 「は、はい」 語気には勢いが付き過ぎており、楓は少し気圧されてしまった。 ティファニアは、荒ぶる何かを抑えるように一つ深呼吸をすると、かっと目を見開いて口を開いた。 「わ、私と、おともだちになってくれませんかっ!?」 「……えっ?」 楓が目をぱちくりさせる。 ティファニアは口を引き結んで真面目な顔のままだ。 マチルダはこりゃたまらんといった風に失笑していたが、何も言わずに事態を見守っている。 「…………」 楓は、言葉の意味を理解しようと頭を回転させ始めて……途中でやめた。 彼女、ティファニアの性格は、この数日間でかなり掴めている。一言で言えば……『純粋培養』。妹の初音をもう少し煮詰めた感じだ。 つまり、言葉に裏はない。本当に文字通りの意味しかないのだろう。 「……『サモン・サーヴァント』ね、本当は、おともだちが欲しくて唱えてみたものなの。人は私を怖がるけど、動物ならもしかしたらって。そしたらあんな事になって……カエデさん、優しくて、強くて、賢くて、私なんかじゃおともだちになれないかもしれないけど……」 へにょん、と、ティファニアの釣り上がっていた眉毛がハの字に下がる。 楓は困ってしまった。 妙に過大評価されてしまっている事もそうだが、普通に比べて人付き合いの苦手な楓でも、友達というのは、なりませんかなりましょうという言葉ひとつでなるものではないという事ぐらい知っている。 もっとこう、自然にというか。 ……いや、たぶん、そういう事もわからないのだろう。ここはファンタジー世界の隠れ里で、彼女は敵対種族とのハーフだ。昨日聞いた話では、小さい頃もずっと家に匿われていたということだし、環境が特殊すぎる。 楓は頭を切り替えた。どうせ自分も彼女に何か言えるほど交友関係が広いわけでもないのだ。彼女のまっすぐな問いに、同じように答えればいい。 そして、どう答えるかは……数日間寝食を共にしたこの優しい少女を前にして、考えるまでもなかった。 「……いいえ。そんな事はありません。私でよければ、喜んで」 「い、いいの?」 「はい。これから私とあなたは"おともだち"です」 言葉に出すと、正直とても恥ずかしいものだった。ある意味、告白より恥ずかしいかもしれない。 「あ、ありがとう、カエデさん!」 「お礼を言うものではありません。……"おともだち"でしょう?」 「う、うん!」 頬を染めながら微笑みあう二人の少女を、マチルダは満足げに見守っていた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/bemanidbr/pages/312.html
VERSION GENRE TITLE ARTIST bpm notes 属性 21 SPADA HARD SYMPHONIC 煉獄のエルフェリア 猫叉Master+ 183 2324 - 攻略・コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4193.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 昨夜と同じく厨房で朝食を終えて教室に入ると、教室中の視線が一斉にこちらを向いた。 昨日と同じような、あまり良い意味のこめられた視線ではなかった。くすくすという忍び笑いも漏れ聞こえてくる。 無視して足を進めるルイズ。耕一もそれに続いた。 教室の中には、先程のキュルケもいる。その隣には、ルイズとは違う意味でキュルケとは対照的な、透き通るような蒼い髪をした小柄なメガネ少女が本を広げていた。 「貴族だの魔法だのっつっても、教室ってのは変わらないもんだなぁ……」 甲高いおしゃべりの喧騒に、高校時代を思い出す。 暫しそんな風に懐かしい気分に浸っていると、ガラリとドアが開き、明らかに生徒ではない人物が教室に入ってきた。同時に、お喋りがピタリと止む。 ゆったりした紫色のローブとマントを身に纏い、同色の、これぞ魔女、とでもいうようなトンガリ帽子を被った、恰幅のいい中年女性だ。 女性はゆっくりした足取りで教壇に昇ると、ぺこりと一礼した。 「皆さん、おはようございます。私の名前はシュヴルーズ。二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。これから一年、皆さんに『土』の魔法を講義致します」 シュヴルーズは穏やかな口調で述べると、満足げな微笑みを浮かべながら、教室を見渡した。 「春の使い魔召喚の儀式は、皆さん大成功だったようですね。このシュヴルーズ、こうして春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 その視線が、ある一点で止まる。 「おや、ミス・ヴァリエールはとても変わった使い魔を召喚したものですね」 シュヴルーズは、耕一とルイズを見て、とぼけた声をあげた。 その声には、何か含む所は微塵もなく、文字通りの意味しか込められていなかったが、元から含むところを持っていた人間には、十分な刺激らしかった。 「ゼロのルイズ! 『サモン・サーヴァント』の魔法を使えないからって、その辺歩いてた平民連れてくる事はないだろ!」 肩にフクロウを載せた小太りの男子がからかいの声を上げると、途端に教室中が笑いに包まれた。 ルイズは肩を震わせて俯いてしまう。唇を噛み締め、耐えるように。 「そうだそうだ! どんな魔法を唱えても失敗しちまう、魔法成功確率ゼロのルイズ!」 「ゼロにはお似合いの使い魔だよな!」 ―――なるほど。あのあだ名はそういう意味か。 ルイズが全身を震わせ始めた時、耕一はさっと、甲を前に向けて左手をかざした。 「あー。とりあえずこの通り、『コントラクト・サーヴァント』とやらは成功しているんだから、成功確率はゼロじゃないんじゃないかな?」 その言葉に、しーん、と教室が静まり返った。 「それに、俺自身も、変な鏡みたいなのに無理矢理吸い込まれてこんな知らないところに飛ばされてきたもんでね。『サモン・サーヴァント』というのも成功してるんじゃないかな。そこの君、どう思う? 成功確率はゼロだと思うかい?」 最初にからかった小太りの男子を指差すと、あわあわと見るからに焦り始める。 その様子を見て、太っちょ男子の隣に座っていた金髪の少年が、胸に差していたバラの切り花をキザったらしく手に持った。 「フン。平民に簡単に言い包められてどうするんだいマリコルヌ。口裏を合わせれば、そんなのどうとでも説明がつくじゃないか。その使い魔のルーンだって、絵の具で書いたのかもしれないだろう?」 バラを手繰りながら、そんな事を言う。 これでもかというぐらいにドレープの付いた飾りシャツの胸元から素肌が見えているこのバラ少年、ちょっと、いやかなり、悪趣味と言わざるを得ない。 「お、おお。さすがギーシュ! そうだな! そうに違いない!」 沈静していた勢いが再び戻るのを見て、やれやれ、と一つ嘆息。 教壇のシュヴルーズに目を向けると、ちょうど彼女が、手に持った二の腕ほどの長さの杖を振り、何がしかの呪文を唱えたところだった。 「もがっ!? もご、もごーっ!」 次の瞬間には、太っちょ男子と悪趣味男子、それに一緒になって笑ったり囃し立てたりしていた生徒の口に、土で出来たフタがかっぽりと嵌っていた。 「お友達をそんな風に言うものじゃありません。今笑った人たちも同罪です。そのままで授業を受けなさい」 見た目はコメディだが、一瞬で、何も無いところに、複数の土塊を出現させる、という現象に、耕一はかなり驚いていた。 ……口だけだからあれで済んでるけど、アレにいきなり目とか鼻とか塞がれたら、かなりやばくないか? 魔法というもののデタラメさに、耕一は少し肝が冷えたのだった。 「さて、ミス・ヴァリエール、魔法の四大系統はご存知ですね?」 「は、はい。『火』『水』『土』『風』の4つです」 「はい、ありがとうございます。以上の4つに、今は失われた系統、『虚無』をあわせて5つの魔法系統が存在する事は、皆さんもご存知の通りです」 四大属性+特殊系統が一つってホントにRPGの属性みたいだな、と耕一はにべもない事を考えた。 「その5つの系統の中で、『土』は、最も重要な位置を占めると私は考えます。まあ、『赤土』の二つ名の通り、私が『土』属性のメイジだからという身びいきは否定しきれませんが」 そう薄く笑う仕草は、上品なおばさまそのものだった。嫌味じゃないセレブってヤツだ。 「『土』は、万物の組成を司る、重要な属性です。様々な金属の製造や加工、家屋などの建築には欠かせない魔法であり、農作物の育成や収穫などにも大きな役目を果たしています。『土』系統の魔法は、皆さんの生活に密接に関係しているのです」 シュヴルーズがさっと杖を振り一句唱えると、机の上に小さな小石が3つほど現れた。 「今日は、『土』系統魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。『土』属性の人達は、もう既に覚えている人も多いかもしれませんが、基本は重要です。そういう人も、もう一度おさらいをするように」 もう一度杖を振り、今度は少し長めの呪文を唱える。 すると、小さな小石がぱあっと光を放った。それが収まった時には、その石は、キラキラとした金の光沢を持っていた。 「ごご、ゴールドですか!? ミズ・シュヴルーズ!?」 キュルケが、目の色を変えて立ち上がった。 「いいえ。これは真鍮です」 シュヴルーズが答えると、なぁーんだ、と、つまらなそうに腰を下ろす。 清々しいぐらいの現金っぷりだった。 「『錬金』の魔法は、このように、一つの物質を別の物質に変えてしまう魔法です」 ―――それが基本の魔法という時点でとんでもないなあ。 さっきの口を塞いだ土もこれで作ったのだろうか。と、耕一は未知の知識に好奇心を膨らませていた。 「『錬金』という名前にもなっているように、金を作り出す事を目的として生まれたこの魔法で最も困難なのが金の製造です。可能なのは、『土』のスクウェア・メイジだけです。私はただの、トライアングルですから」 謙遜の言葉でありながら、その底には確固とした自信が垣間見えた。 スクウェア(四角形)、トライアングル(三角形)、という名前からして、レベル4とかレベル3とか、そういう意味だろうか。 「それでは、誰かにやってみてもらいましょう。そうですね、ミス・ツェルプストー。どうでしょう?」 新たな小石を出して、シュヴルーズがキュルケを指名した。 「私ですか?」 「ええ。ゴールドに興味があるようでしたので。魔法の力は意志の力。それを成したいと願い、想像する力を創造する力に変える。それが『錬金』です」 「わかりました。やってみますわ」 キュルケは席を立ち、ぷるんぷるんと胸を揺らしながら教壇まで降りていく。 ……明らかに、男子の視線がそれに集まった。この世界でも、女性の魅力の価値観というものはあまり変わらないようである。 「いや、俺は楓ちゃん一筋だからね」 「またあんたは……誰かと話してるの? あの、シグナル、ってやつで?」 「そういうわけでもないんだけど……こう、総論と各論の齟齬というか」 「意味わかんないわよ……」 ルイズにバカな説明をしている内に、教壇では今まさに、キュルケが杖を振りかぶるところだった。 「ゴールドなんて贅沢は言わないから、せめて何か宝石っ!」 実にわかりやすい呪文と共に杖を振り下ろす。 小石が光を放ち、収まり、そこにあったのは……。 「……何これ?」 鮮やかな黄色の小石であった。 「これは硫黄ですね」 「硫黄? 火の秘薬の硫黄? これが?」 「はい。使い魔を見るに、ミス・ツェルプストーは『火』の属性。イメージが抽象的なもののようでしたから、それにちなんだものが出来上がったのでしょう」 「うーん、宝石は無理だったかぁ」 「キチンと何の宝石を作るかをイメージしさえすれば、きっと出来るようになりますよ。ではもう一人、やってもらいましょうか」 再び新たな小石を出し、ぐるりとシュヴルーズが周囲を見渡して……自分の使い魔と何やらひそひそ話しているルイズを見咎めた。 「それでは、ミス・ヴァリエール。前に出てやってみてください」 そう言った瞬間、ざわ・・・と教室中がざわめいた。 「あの、先生。危険ですから、やめておいたほうがいいですわ」 「危険? どういう事です?」 教壇の側にいたキュルケがキッパリと言うと、教室の中のただ二人以外の全員が、然りと頷いた。 ちなみに、一人は耕一。もう一人は、キュルケの隣にいた、教科書を広げる振りをしながら別の本を裏で読んでいる蒼い髪の少女だった。 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。あまり実技の成績が良くない事は存じていますが、座学に関しては学年首席であると、非常な努力家である事も存じております。さあ、ミス・ヴァリエール、気にせずにやってごらんなさい。数多くの失敗から、成功は生まれるものです」 「いや、あまり、どころじゃ」 「……やります」 キュルケが言葉を続けようとしたところで、ルイズはまっすぐに立ち上がった。 そのまま有無を言わせずに教壇に降りていく。キュルケは諦めたように首を振ると、自分の席に戻って机の下に隠れた。 「……何やってんだろう」 見ると、周囲の生徒全員が、まるで避難訓練か何かのように物陰に隠れ始めていた。 あの蒼い髪の少女まで、机の下に潜っている。 「さあ、ミス・ヴァリエール、作りたい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 「はい」 こくりと頷いて、ルイズは目を閉じ、杖を掲げた。 事態が進むに連れて、教室中が戦々恐々としだす。 「ルイズの使い魔さん あなたも隠れていた方が良いわよ」 「へ?」 一体なんなんだ、暴発でもするのか、と首をひねっていた耕一に、キュルケが声をかけた。 「なあ、わけがわからないんだが……一体何がどうなってんだ?」 「爆発」 「え?」 机の下でも本を広げていた蒼髪少女がぼそりと呟いた瞬間、ルイズが裂帛の気合と共に杖を振り下ろした。 「『錬金』!」 刹那、小石がシュヴルーズやキュルケの呪文とは明らかに違う勢いで光り始め、それは見る間に視界を覆っていき――― 「ッ!!」 ずがーん、と、盛大に爆発した。 猛烈な光と煙が視界をゼロにする。耕一は、運良く最初の光の時点で目を覆っていたので大事なく済んだ。 「げほっ! げほっ! こ、こういう事か……っ!」 まさか、本当に暴発だとは。 光と煙が晴れた時、目の前にあったのは、惨状、の一言だった。 小石が乗っていた教壇は教室の端まで吹き飛んでいた。ルイズとシュヴルーズは爆発を直接くらったのか、ススだらけで倒れてぴくぴくと痙攣している。 すりばち上に配置された机もところどころが吹き飛び、その下に隠れていた生徒を瓦礫にまみれさせていた。 「…………」 使い魔召喚の儀式から初の授業という事で、大きすぎるもの以外は連れてこられていた使い魔達がぎゃあぎゃあと暴れているのを横目に、ゆっくりとルイズが立ち上がる。 無残な格好だった。魔法で保護されているという制服がボロボロになっている。ブラウスの破れ目から健康的な色をした肩やお腹が露出し、スカートは下着を隠しきれない程に傷ついていた。 ルイズはけほっとススの混じった咳をし、どこからか真っ白で清潔そうなハンカチを取り出すと、顔についたススを拭き取りながら、口を開いた。 「……ちょっと失敗したようね」 口を塞いでいた赤土がいつの間にか取れている生徒達が一斉に文句を言い始めるのを尻目に、耕一は、楓とよく見ていた吉本新喜劇を思い出したのだった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/emp3037/pages/980.html
J-649 復讐のエルメェス J-649 C [[キャラ]] [[ストーンオーシャン]] 友 P(2) S0 T0 ☆☆ ●そしてこれもグロリアのぶんだッ! 「アタック/ブロック」時、このキャラの「P」はすべての【幽霊】の人数だけプラスされる。 幽・幽・○ エルメェス 人間 出典: 原作においてはスポーツ・マックスは彼女の姉の仇であるが、 このゲームにおいてはJ-679 スポーツ・マックス(及びJ-711 リンプ・ビズキット)と組ませることにより 真価を発揮する。 原作の再現がしたいのであれば幽霊デッキを相手に使ってもらおう。
https://w.atwiki.jp/heisei-rider/pages/424.html
加速せよ、魂のトルネード(3) ◆ カブトへと到達せんとしていた風の矢を、黒い壁が切り伏せる。 ガッ、と鈍い音を立て地に落ちる両断された矢を、誰もが驚愕の目で見やる。 何故なら今カブトの前に立ったその戦士の登場を予想していたものは、この場に誰一人としていなかったのだから。 「始……!?」 未だ膝をついたままのカブトが、思わず彼の名前を呼ぶ。 歓喜ではなく驚愕を含んだその声に、しかし張本人であるカリスが振り返ることはない。 ただ真正面から風のエルに敵意の眼差しを向けながら、しかし彼の心中には先ほどまでとは違う総司への感情が芽生えつつあった。 (ジョーカーの男がああまで庇う理由はある……か) 先ほど剣崎を殺したワームとして総司を殺そうとした自分を必死に止めた、ジョーカーの男こと左翔太郎。 彼もまた仮面ライダーであり、剣崎からその志を受け継いだ一人なのだという彼の言葉を、始は正直信じてなどいなかった。 それでもその言葉を無視しブレイバックルを破壊させるのも寝覚めが悪いと、一度はその矛を収めたのだ。 その言葉の真偽を確かめる機会、それを大ショッカーとの次なる戦い……すなわちこのエルロードとの戦いに求める形で、ではあったが。 では果たしてこの戦いで総司の姿は始の目にどう映ったかと問われれば、その答えはただ一つ。 剣崎を殺し、笑顔で逝ったあの男と同じ姿をした男は、始をしても一点の疑いなく仮面ライダーの一人だった……そう認めざるを得ないものだった。 (この地にはお前と並ぶだけの仮面ライダーが多くいる、か。俺にその名を名乗る資格はないが……この男は、違うのかもしれないな) そうしなければ生まれ変わることは出来ぬと、笑顔で死んだあの男。 彼が残したその最後の言葉が指す存在の一人に、今自身が背に庇う新たなカブトも含まれているのだろうか。 既に確かめようもないそんな感慨を拭うように、カリスは腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出す。 ハートスートのK、パラドキサアンデッドを封じたそれを眼前に構えて、彼は勢いよくそれをバックルへと滑らせた。 ――EVOLUTION 進化を意味する英単語が、カリスの身体を赤く染めていく。 全てを滅ぼす最悪の死神でありながら人の血を思わせるその体色は、まさしく“相川始”だからこそ辿り着いた一つの最終形。 仮面ライダーワイルドカリスへの変身を果たした彼は刹那、両手に鎌状の双剣を携え風のエル目掛け飛び掛かる。 飛び交う矢など意に介する必要もない。 今までにも増してあっさりと切り伏せながら、カリスはワイルドスラッシャーを振るう。 息つく隙すら見せぬ彼の連撃に、風のエルはあっさりとその身を刻まれ吹き飛んでいく。 「総司、大丈夫か!?」 カリスの圧倒的な強さに息を呑むカブトに対し、ダブルが駆け寄る。 ダメージこそ負ったが、少し休めば戦えるようになるだろう。 自分たちの不手際でカブトが致命傷を負わなかったことを、彼らは心から安堵した。 「僕は大丈夫だよ、それよりも始を手伝って。僕も、すぐ行くから」 「総司……お前」 複雑な感情を抱いて問うた翔太郎の声に、カブトはただ頷く。 仮面に隠れその表情を伺うことは出来ないが、それでも彼が決して渋々始を助けようとしている訳ではないことは明らかだった。 自身を仇として殺意を向けてきた相手すら許容し共に歩もうとするその意志は、翔太郎からしても眩しいほどの仮面ライダーの資質とすら言える。 或いはそれすら彼が剣崎の死に対して抱いている大きすぎる自責の念が生む覚悟なのかもしれないが、それでも。 ダブルはカブトの意を受けて、ゆっくりと立ち上がった。 「行くぜフィリップ、あいつだけに良い格好させらんねぇ」 「あぁ、エクストリームで勝負だ」 風のエルを切りつけるワイルドカリスの姿を目の当たりにしながら、しかしダブルも当然見ているだけで終わるつもりはない。 慣れた手つきでメモリをサイクロンへ換装したその瞬間に、フィリップのデイパックより飛来した鳥を模した自立型メモリが気絶する彼の身体をその身に吸収する。 思いがけぬ光景に困惑するカブトを尻目にそのメモリがドライバーへと装填されたその瞬間、エクストリームは独りでに己が身を開いていた。 ――XTREME! 新たなメモリが極限を叫ぶと同時、ダブルの身体から眩い輝きが溢れ出す。 それに呼応するように彼が腕を大きく広げれば、そこにあったのは最早今までのダブルの比ではない。 運命で定められた最高のパートナーだけが辿り着ける最強のダブル、サイクロンジョーカーエクストリームの姿が、そこにあった。 「さぁて、反撃開始と行こうか?」 不敵に告げるダブルの声に、最早一点の不安さえも覗くことはなかった。 ◆ 「力を手放すが良い。それがお前達の何よりの望みだっただろう」 大ショッカーの刺客たるアンノウンが投げかけたその言葉に、イクサは内心拭いきれない不安を感じていた。 自分がその呼びかけにどう答えるか、という意味ではない。 共に戦う自身の仲間である二人がそれにどう答えるのか、迷いない確信とまで言えるようなものを抱ききれなかったからだ。 (真司君、修二君……) 俯せに地に倒れたままの姿勢で、イクサはチラと後方を見やる。 ナイトに変身した城戸真司と、デルタに変身した三原修二。 彼らに共通するのは、彼らは決して自分と違い悪への義憤によって戦っている訳ではないということだ。 真司が元の世界でライダーとなり戦っていたのは、ライダー同士の殺し合いを止め、ミラーモンスターから人々を守る為。 修二に至ってはこの数時間の別行動の間に少しばかり戦う決意を固めたばかりで、それまでは戦わなければならない状況に不平を訴え続けていた。 共に悪への義憤を人並みに抱く好ましい青年であるとはいえ、言ってしまえば力への執着という点で言えば、彼らの目標はその力を捨てることだとすら思えたのである。 (……) 彼らに対して、憤る気持ちは沸いてこない。 誰かを守る為に戦う事と、悪を打ち倒す為に戦う事は、似ているようで大きく違う。 彼らは心優しい青年だ。その拳を握り誰かを殴りつけることなど、相手が誰であれ望むはずがない。 その末に多くの命を救えるのだと頭で分かっていたとしても、無理に彼らにそれを強いることは、今の名護には出来なかった。 「……出来るかよ」 例え一人だとしても、と決意を固めようとしたイクサの動きを止めたのは、後方から届いた小さな声だった。 思わず振り返れば、名護が今まで見たことがないほどに戦意を滲ませるナイトの姿が、そこにはあった。 「何故だ、お前は戦いを止める為に力を得たはず。何故更なる戦いを求めるのだ」 地のエルが、震えた声で問いを投げかける。 彼からすれば純粋に疑問なのだろう、何故真司が立ち上がろうとしているのか、心の底から理解出来ないに違いなかった。 「俺も正直、この世界に来るまでは、ライダーなんてやめたいって思ったこともあったけどさ……でも、約束したんだ」 漏らすように呟きながら、ナイトはゆっくりと、しかし真っ直ぐに立ち上がる。 絶対に迷うことのない、曇り無き瞳を地のエルへと向けながら。 「『人類の自由と平和の為に戦うヒーロー』って意味の仮面ライダーとして、皆で一緒に戦おう、って」 「そいつはもう、いないけど」と続ける声は、それまでと比べて少し暗い。 だがそれでも言葉を途切れさせることはしない。 抱いた決意を、彼との誓いを決して嘘にはしない為に。 「だから……俺は戦う。最後まで、”仮面ライダー”として」 ナイトが告げたその名前は、最早13人の殺し合いの果て願いを叶える戦士の意ではない。 一緒に笑って、一緒に餃子を食べて、一緒に戦おうとそう屈託無く言い合った彼と、確かめ合ったその名の定義。 世界を滅びから守り、大ショッカーを倒す正義の戦士の意で仮面ライダーを名乗ったナイトの姿には、一点の曇りも見られなかった。 「俺は、知りたいんだ」 ナイトに追随するように、デルタもまた口を開く。 その声はもう、震えていなかった。 「父さんは今までどこにいたのか、俺達にベルトを送ったのはなんでなのか、それから……なんで父さんが大ショッカーにいるのか」 先の放送で大ショッカー幹部としてその姿を見せた自身の父、花形。 ずっと会いたかった彼との予想外の再会は、しかし修二に新たな戦う理由を与えていた。 会って、話をしてみたい。 今までの色んな事や、真理や草加のことも。 もし父が自分の知るような彼とはもう違っているのだとしても、それでも。 子供が父に会いたいと思うことに、理由など必要なかった。 「だから、俺は戦わなきゃいけないんだ。その答えを、知るまでは」 言うが早いか、いつの間にか立ち上がっていたデルタの姿に、イクサは呆気に取られる。 彼は本当に、自分が考えていたよりずっと逞しくなった。 それもきっと良い師匠がついていたからだろうな、と名護は思う。 彼を支えた存在が自分ではなく、あの無邪気な魔人であることに、少しばかり悔しさを覚えながら。 二人に負けているわけにはいかないと、イクサは勢いよく地に二本の足を突き立てた。 「これで分かったか、俺達は決してお前達に屈しはしない。それが、仮面ライダーの答えだ」 「……ぐっ」 呻いた声は、地のエルのもの。 きっとこいつがこの答えを理解することは永遠にないに違いない。 だがそれでいい。 不可解で気紛れで名状しがたい行動を平然と取る、それこそが人間の心なのだから。 これまでにないほど誇り高く、人であることに胸を張りながら、イクサは大きく息を吸い込んだ。 「悪魔の集団大ショッカー!世界を、そしてそこに生きとし生けるもの全てを、貴様らに滅ぼさせはしない。イクサ、爆現……!」 ――R・I・S・I・N・G イクサの純白の鎧が弾け飛び、その姿を青く染める。 それは、22年の月日を経て生まれた人類の英知の結晶、彼が守るべき素晴らしき青空の化身。 ライジングイクサの名を持つ最強形態へと変身を遂げたイクサの姿が、そこにはあった。 ――IXA RISER RISE UP 電子音を受けて、チャージを開始するイクサライザー。 さしもの地のエルと言えど、その直撃を真正面から受けるわけには行かぬと察したか。 イクサに向けて手を翳し、塵を放つことでそれを妨げようとする。 「ヌウ……ッ!」 だが刹那彼に突き刺さった白い三角錐状のエネルギーが、その挙動すら押し止める。 ふと見ればそこにあるのは銃口を向けるデルタの姿。 不味い、と打開の策を講じようとした瞬間には既に、デルタは大きく宙に向け飛び上がっていた。 「だああああぁぁぁぁぁ!!!」 絶叫にも等しい雄叫びと共に、ルシファーズハンマーの一撃が地のエルの身体を貫通する。 だが彼に、今まで味わったことのない猛毒に悶える時間が与えられることはなかった。 「ハァッ!」 掛け声一つ吐いて、イクサがトリガーを引く。 それを受け解き放たれた巨大なエネルギー弾は、為す術無い地のエルを焼き大きく吹き飛ばす。 大きく弧を描いて地に落ちた彼はその身から煙を上げ、まさしく満身創痍の風体。 しかし未だ健在である以上は負けを認めるわけには行かぬと、彼は立ち上がる。 ……或いは、立ち上がってしまった、と言うべきかも知れないが。 ――FINAL VENT 轟いたエンジン音に思わず振り向いた地のエルの目に映るのは、自身に向けて突撃せんとする一騎の巨大な鉄の馬。 それは、自身と契約モンスターたるダークレイダーが一体となって敵を貫くナイト最強の必殺技、疾風断。 その身をマントに包みなお速度を上げ続けるその膨大な質量の塊を避けるだけの体力は、もう彼には残されていなかった。 「ぐうぅああああぁぁッ!」 都合三発の必殺技の連続直撃は、強化された地のエルと言えど、到底耐えきることを許される威力ではない。 絶叫を上げ爆散する敵の肉体を見やりながら、彼らは大きく安堵の息を吐いた。 ◆ 「ウォラ!」 ダブルの振るうプリズムソードの一刃が、風のエルの身体に消えぬ傷を残す。 明らかに襲い回復に、ダブルの持つ剣そのものが自身の治癒能力を阻害しているに違いないと彼は察するが、しかし反撃の手を講じる暇はない。 横から飛び込んできたカリスの持つ双剣が、構えかけた憐憫のカマサを叩き落とし風のエルの唯一の得物を奪い去った。 「トゥア!」 カリスに切り上げられた風のエルの身体が、容易く宙を舞う。 先ほどまでと打って変わって呆気なく地を転がりながら、彼は冷静に戦況を把握する。 ――このままでは彼らには勝てない、と。 どうすればいいのかは分からない。 あの方に頼んだとして、更なる力を自分にくださるという保証もない。 だがそれでも、ここで馬鹿正直に戦ったとして何の意味もないことだけは、確かな事実であった。 「あ、野郎!」 思うが早いか、ダブルが叫ぶ声も無視して風のエルは高くその翼を広げ飛び上がる。 その果てに強さを得られる根拠などなくても、ただ今は彼らにやられたくないという意地にも似た感情だけを抱いて。 だが、高く高く太陽に向けて飛んでいくその翼は刹那、太陽から彼目がけ舞い降りた金色の光に射貫かれた。 「ぐあ……ッ」 呻き、地に落ちる風のエル。 最早逃走すら許されなくなった彼が、それでも何とかその瞳に映したのは。 先ほど自身を貫いた金色の矢……否、剣をその手で受け止めるカブトの姿だった。 「これは……」 困惑を漏らしたカブトが持つその剣の名は、パーフェクトゼクター。 葦原涼の死後、誰の手にも止まることなく自立行動を続けていた孤高の存在だ。 だがそんないきさつなど、当然のことながらカブトが知るよしなどない。 今カブトに変じる総司は本来の所有者の天道とは違い、これがどんな存在なのかすら知らないのだから、それも無理のないことだった。 ――刹那、パーフェクトゼクターに色とりどりの機械仕掛けの昆虫たちが集っていく。 そのうち黄色と青のそれに、カブトは見覚えがない。 だが最後に装着された紫のゼクターには、彼にも浅からぬ因縁があった。 (渡君……) それは、自身の兄弟子であり、一度は道を違え拳を交えたこともある紅渡が使っていたサソードゼクター。 掬いきれなかった後悔の一つでもあるその力を抱いて戦うことは、総司にただの力だけでない強さを与えていた。 「助かったぜ総司、おかげでこいつを逃がさずに済んだ」 「その剣……なるほど、君がそれの本来の持ち主だったというわけだ」 「お喋りは後にしろ、まずはあいつを片付ける」 総司への感謝を漏らした翔太郎やパーフェクトゼクターへの感慨を漏らしたフィリップに対し、カリスはあくまでも冷静に戦況を見つめる。 事実、彼らを前に立ち上がった風のエルは最後の抵抗を試みようと、その敵意を込めた眼差しを真っ直ぐに三人へ向けていた。 「おっといけねぇ。じゃあさっさと片付けるか、お二人さん?」 「うん!」 ダブルの声に従って、彼らは全てを終わらせるため必殺の一撃の準備を開始する。 ――KABUTO POWER, THE-BEE POWER, DRAKE POWER, SASWORD POWER ――ALL ZECTERS COMBINE パーフェクトゼクターを操作するカブトと、13枚のカードを統合するカリス。 二人に負けていられじと、ダブルは懐から4本のメモリを取り出した。 ――CYCLONE! HEAT! LUNA! JOKER! MAXIMUM DRIVE! ――MAXIMUM HYPER CYCLONE ――WILD 「ビッカーファイナリュージョン!」 嵐の如くけたたましく鳴り響いた電子音声に負けぬ声量で、ダブルが叫ぶ。 刹那放たれた三つの輝きは、世界を一瞬で白く塗り染めるほどの眩さで以て風のエルの身体を蹂躙する。 少しの後、光が止み景色が元通りの色を取り戻した頃にはもう、彼らの前に敵はなかった。 ◆ 「ヤァッ!」 ディケイドの掛け声と共に振るわれたライドブッカーが、水のエルの身体を切りつけ火花を散らした。 思わず後退した彼は反撃の手を講じるが、しかしそれを封じるように飛び込んだクウガの拳がその手から長斧を打ち落とす。 息の合ったそのコンビネーションに思わず舌打ちを漏らせば、その隙を逃さずアギトの跳び蹴りが水のエルの身体を大きく吹き飛ばしていた。 「ぐうう……!」 その威力故地面を滑りながらも、しかし水のエルは未だ背を地に着けはしない。 むしろこれから真の戦いだとばかりに、大きく咆哮し三人の頭上へあの紋章を複数発生させる。 空を覆い尽くそうとする圧倒的質量に呻くアギトとクウガ。 だが唯一人この絶望的な状況にもなお希望を絶やさぬ男が一人、彼らの側で切り札を抜いていた。 ――FINAL FORMRIDE……A・A・A・AGITO! 「ちょっとくすぐったいぞ」 「え……?」 ディケイドライバーがその名を詠唱するのと同時、狼狽えるアギトを気に留めることもせずディケイドがその背中をなで上げる。 それを受け光を放つアギトの肉体は、刹那最早人型で収まらぬ異次元の変形を遂げていく。 一瞬のうちにアギトトルネイダーへと変身を終えたアギトの姿は、言うなれば宙を浮かぶスライダーの如し。 傍目には異常な光景に水のエルでさえ呆気に取られるその一方で、ディケイドは何の躊躇もなくそのシートの上へ飛び乗っていた。 だが彼はすぐにアギトトルネイダーを発進させることはしない。 察しが悪いなとばかりに溜息一つついて見せて、彼はぶっきらぼうにクウガを振り向いた。 「何突っ立ってる、お前も乗れ」 「……あぁ!」 ディケイドの差し伸べた手を受け取り、アギトトルネイダーへと飛び乗るクウガ。 かつてもディケイドとこうして並んだことはあるが、それでも今見える光景は、あの時と随分違って見えた。 「ハァッ!」 感慨に耽る間もなく、水のエルが次々に紋章を解き放つ。 そのどれもが直撃すれば危ういほどの威力を誇っていたが、逆に言えば当たらなければどうと言うことはない。 スーパーマシンと化した今のアギトを前にしては、その程度の攻撃の嵐を全て潜り抜けることなど、造作も無いことだった。 一瞬で水のエルまで距離を詰めたアギトトルネイダーが反転し、バーニアから放たれた火で敵の身を炙る。 それを受け水の化身たる彼が呻いたその隙に、トルネイダーは空へ向けて一心に加速を開始していた。 ――FINAL ATTACKRIDE……A・A・A・AGITO! ディケイドが装填したカードに秘められた力を、ドライバーが叫ぶ。 それと同時高く太陽を背に飛び上がったディケイドとクウガに並ぶのは、クロスホーンを展開したアギトの姿だった。 「ヤアアアァァァァ!!!」 ディケイドが、クウガが、アギトが雄叫びをあげながらその右足を真っ直ぐに伸ばす。 そして既に万策尽きた水のエルに、この攻撃を前に対処出来るだけの手は存在していなかった。 「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!」 三人の仮面ライダーによるトリプルライダーキックの直撃を受けて、水のエルの肉体は無惨にも爆発し消滅する。 地に降り立ち――今度こそ油断なく確実に――敵の消滅を見届け変身を解いた士の視界にふと映ったのは、同じく変身を解除した一条へと駆け寄るユウスケの姿だった。 だが予想に反して、その様相は勝利を分かち合わんとする浮かれたものではない。 まるで悪戯がバレた子供のように、切り出し方を悩んでいるような、そんな所在なさげな仕草だった。 きっとそれは、一条がアギトになったことに責任を感じているからだろう、とディケイドは思う。 彼の先ほどの言葉も、こんな形で消えぬ力を得てしまった事も、全て自分に原因があるのだと彼は感じているのだ。 だがそんな彼の後ろめたさを全て察した上で、士は敢えて何も言わない。 一条とユウスケ、その二人の間にある絆も、きっと自分が思っている以上に強いものに違いないと、そう感じるから。 「一条さん、俺……俺は……」 「――小野寺ユウスケ!」 「え?」 果たして言葉を探し続けるユウスケに対し一条が示したのは、力強く空へ向けて伸びる親指だけを伸ばしたサムズアップだった。 士もかつてどこかで、聞いたことがある。 サムズアップというのは、古代ローマにおいて素晴らしいと認められる働きをした者にだけ与えられる称賛の証だったと。 だけれど一条がユウスケに向けるそれにそんな元来の意味以上のものがあるのは、彼の笑顔が示している。 これからの憂いも、これまでの後悔も、全て感じさせないその顔とそのジェスチャーは、きっと並大抵の言葉で表すことの出来ない感情を秘めている。 だが、いやだからこそ、だろうか。 最初は戸惑いつつあったユウスケも、一条にサムズアップを返す。 きっと由来など何も知らないのだろうが、それでもこの場で最も必要なのはそれを交し合うことなのだと、そう理解したとびきりの笑顔で。 万感の意をその親指に込めた二人の間に、言葉はいらなかった。 ――パシャリ。 その一瞬の光景を切り取るように、シャッター音が小さく鳴り響いた。 ◆ 「……終わったな」 水、風、地。 三つの元素を司る高位のエルロードたちが仮面ライダーを前にその身を散らしたのを見届けて、バルバは小さく呟く。 とはいえその表情には、常と変わらぬ冷ややかな色しか浮かんでいない。 全てが予想通りだとでも言うように、そして全てがまるで空想の中の出来事に過ぎないかのように。 だが、現実味を伴わない無感動な瞳をした彼女とは対照的に、抱えきれぬ憤りをその全身から滲ませる存在もまた、この場に一人。 愛すべき従者を喪っただけでなく、その戦いによって因縁の宿敵の復活を目の当たりにした首領……闇の青年である。 「人よ……やはり貴方たちは、アギトを受け入れると言うのですね」 拳を握りしめ、彼は俯く。 かつての従者が言ったように、人はいずれアギトの存在すらを受け入れるのかも知れない。 だが残念ながら、それを自分が許容することは有り得ない。 皮肉にも、一条薫という”人間”のアギトへの変身によって、それは彼の中で悲しいまでに揺るがない事実として認識されてしまった。 故にそう……アギトを受け入れうるとさえ宣言された人という種そのものへの無償の愛すらも、彼の中で今崩れつつある。 願いの為であれば力を手に嬉々として同族を打つことが出来、姿形が似通った異種族すら正義の名の下に繁栄の礎として踏みつけることが出来る。 偶然にも見つけてしまった異世界で見た人の生き様がどれも、あまりにも醜いものであったから。 それを受け入れたくなくて、どうにか希望を見出そうと全ての美醜を問わず全ての異世界から仮面ライダーと怪人を集めたこの殺し合いを開いた。 例えどれだけ無意味な催しでも、その果てに彼らを愛することが出来るのかどうかを見定めることは出来るだろうと、そう考えて。 「もう間もなく、この殺し合いは終わる。私も答えを……出さなければならないのかもしれません」 誰にともなく、一人呟きだけを残して。 彼の、オーヴァーロード・テオスはゆっくりと歩き出す。 全てを決めるその瞬間に必要な最後の材料を得るために。 仮面ライダーへ自身の言葉を、告げる為に。 ◆ 時刻は18:00。 都合五度目の定時放送を告げるその時間に、しかし今までと違い飛空挺が現れることはない。 テレビも何の映像を映し出すこともなく、首輪が音声を届けることもない。 静まりかえった空間の無音が、むしろ耳を刺激する。 誰もが何一つとして異変を逃すまいと張り詰めた、痛いほどの緊張感の中。 不意に”それ”は、彼らの中心に現れていた。 「なッ……!?」 一体どうやって、いつの間に。 思わず飛びのき各々の武器を構えた彼らに、しかし突如として存在感を増した”それ”はただゆっくりとその手を制止を呼びかけるように翳した。 「――初めまして。こうして直接お会いするのは、初めてですね」 「お前は……!」 高まった緊迫感が、ひたすらに”それ”に集まっていく。 黒い服を着た、一目見てただならぬ存在感を放つ男。 第四回放送において乃木を呆気なく葬った忘れがたい驚愕の記憶が告げている。 この男と正面からやりあうのは、不味いと。 「皆さんには、まだ私の名を伝えていませんでしたね。私は貴方たちが大ショッカーと呼ぶ組織の首領、名は――テオス」 それは、悠久に渡るこれまでの歴史において、彼が人の身へ初めてその名を告げた瞬間だった。 【二日目 夜】 【D-1 病院前】 【門矢士@仮面ライダーディケイド】 【時間軸】MOVIE大戦終了後 【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、首輪解除 【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式+アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス、ライオトルーパー)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド 【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド 【思考・状況】 基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す! 0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。 1:カードが揃った、か。 2:ユウスケをもう究極の闇にはさせない。 3:ダグバへの強い関心。 4:相川始がバトルファイトの勝者になった時のことはまたその時に考える。 【備考】 ※現在、ライダーカードはクウガ~ディケイドの力全てを使う事が出来ます。 【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】 【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界 【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、アマダムに亀裂(更に進行)、首輪解除 【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト 【道具】なし 【思考・状況】 0:テオスに対処する。 1:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。 2:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。 3:士に胸を張れる自分であれるよう、もう折れたりしない。 【備考】 ※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。自壊を始めていますが、クウガへの変身に支障はありません。 ※ガタックゼクターに認められています。 【左翔太郎@仮面ライダーW】 【時間軸】本編終了後 【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除 【装備】ダブルドライバー+ガイアメモリ(ジョーカー+メタル+トリガー)@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW 【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場) 【思考・状況】 基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。 0:テオスに対処する。 1:仲間と共に戦い、大ショッカーを打倒する。 2:相川始かダグバ、どちらかが生き残れば世界が全て滅びる……? 3:ジョーカーアンデッド、か……。 【備考】 ※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。 ※キング@仮面ライダー剣から、『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』という情報を得ました。 【フィリップ@仮面ライダーW】 【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降 【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除 【装備】ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ+ファング+エクストリーム)@仮面ライダーW 【道具】支給品一式×2、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW 【思考・状況】 0:仲間と共に大ショッカーを打倒する。 1:テオスに対処する。 2:大ショッカーは許さない。 【一条薫@仮面ライダークウガ】 【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後 【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除 【装備】アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 【道具】食糧以外の基本支給品×1、車の鍵@??? 【思考・状況】 基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。 0:テオスに対処する。 1:ありがとう、津上君。 2:五代……。 3:鍵に合う車を探す。 4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。 5:遊び心とは……なんなんだ……。 【備考】 ※体調はほぼ万全にまで回復しました。少なくとも戦闘に支障はありません。 ※アクセルドライバーは破壊されました。 ※仮面ライダーアギトに変身することが出来るようになりました。このことによる反動などがあるかは不明です。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後 【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、強い決意、首輪解除 【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎 【思考・状況】 基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。 0:テオスに対処する。 1:自分の願いは、戦いながら探してみる。 2:蓮、霧島、ありがとな。 【三原修二@仮面ライダー555】 【時間軸】初めてデルタに変身する以前 【状態】覚悟、ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除 【装備】デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555 【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555 0:テオスに対処する。 1:流星塾生とリュウタロスの思いを継ぎ、逃げずに戦う。 2:リュウタ……お前の事は忘れないよ。 3:父さんが何故大ショッカーに……? 【相川始@仮面ライダー剣】 【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦) 【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除 【装備】ラウズカード(スペードA~Q、ダイヤA~K、ハートA~K、クラブA~K)@仮面ライダー剣、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣、ブレイバックル@仮面ライダー剣 【思考・状況】 基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、大ショッカーを打倒する。 1:テオスに対処する。 2:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……? 3:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)はいずれ倒す。 4:ジョーカーの男……変わった男だ。 5:もしダグバに勝った後、自分がバトルファイトの勝者になれば、その時は……。 【備考】 ※ホッパーゼクター(パンチホッパー)に認められています。 ※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。 【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】 【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません) 【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除 【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター+パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト 【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ 【思考・状況】 基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。 1:テオスに対処する。 2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。 3:放送のあの人(三島)はネイティブ……? 4:士が世界の破壊者とは思わない。 5:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。 【名護啓介@仮面ライダーキバ】 【時間軸】本編終了後 【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、首輪解除 【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ 【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ 【思考・状況】 基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい! 0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。 1:テオスに対処する。 2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。 3:総司君は心強い俺の弟子だ。 【備考】 ※紅渡は死亡しましたが、ゼロノスカードで消えた記憶は消えたままです。 154:加速せよ、魂のトルネード(2) 投下順 155:[[]] 時系列順 一条薫 城戸真司 三原修二 相川始 擬態天道 名護啓介 門矢士 小野寺ユウスケ 左翔太郎 フィリップ ラ・バルバ・デ オーヴァーロード・テオス 水のエル GAME OVER 風のエル 地のエル
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4444.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ ニューカッスル城の港は、大陸の真下に存在した。 雲と大陸そのものに覆われて真っ暗な中を空飛ぶ船が進むのは、さすがの耕一もいささか肝を冷やした。 「なに、我が王立空軍の航海士には造作もないことさ。真に空を知る者は、奴らのような恥知らずどもに与したりはせぬよ」 ウェールズは耕一の正直な感想を、そう笑い飛ばした。 二隻の船は、大陸の真下にぽっかりと開いた鍾乳洞のような洞窟に、するすると滑り込んでいく。 ヒカリゴケで十分に明るいそこには多くの兵士達が待機していて、イーグル号に続いてマリー・ガラント号が港に入ってくると、割れるような歓声を叫び出した。 網の目のようなたくさんのロープに繋がれ、並んだ丸太の上にどすんと腰を下ろした船に、まるで飛行機から偉い人が降りてくる時のような木製のタラップが取り付けられ、ウェールズがそれを降っていく。 「ほほ、これはまた、大した戦果ですな、殿下」 「喜べパリー。積荷は硫黄だ! 硫黄!」 「ほほう、硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も守られると言うものですな!」 近寄ってきた老人と、手を叩いて喜び合うウェールズ。 老人は戦果であるマリー・ガラント号を見て、おいおいと泣き始めてしまった。 「先の陛下よりお仕えして六十年……こんなに嬉しい日はありませんぞ、殿下。反乱が起こってからというもの、苦汁を舐めっぱなしでございましたが……なに、これだけの硫黄があれば」 泣くのをやめた老人とウェールズが、朗らかに笑った。 「王家の誇りと名誉を、余すところなく叛徒どもに示す事が出来るだろう。始祖にも胸を張って拝謁賜る事が出来るというものだ」 「くく、この老骨、武者震いが致しますぞ」 洞窟を歩きながらひとしきり笑いあう。 始祖に会う―――つまりは、死後の世界へ行くというハルケギニアの言い回しに、ルイズと、なぜかそれを理解できてしまった耕一の顔が強張った。 「状況は?」 「きゃつらは数に任せて包囲を敷きながら、未だに沈黙を保っておりまする。総攻撃は近いと思われますが……」 「布告もなく仕掛けてくるほど恥知らずではないと思いたいものだな」 「全くです。ところで、後ろの方々は?」 皮肉げに一つ笑みを浮かべた後、老人がウェールズの後ろについていたルイズ達を、興味深げな視線で見つめた。 「トリステインからの大使殿一行だ。重要な用件で、我が王国に参られたのだ」 老人は、一瞬だけ、ぱちくりとまばたきをすると、次の瞬間には柔らかい仕草で敬礼をしていた。 「これはこれは大使殿。遠路はるばるようこそいらっしゃいました。わたくし、殿下の侍従を務めさせてもらっております、パリー・ベアと申しまする。大したもてなしは出来ませぬが、どうぞゆるりとなさっていかれませ」 「パリー・ベア? その名、どこかで聞いた事が……」 侍従だと言うその老メイジに、ワルドの瞳がキラリと光った。 「防衛戦を特に得意とし、『鉄壁』のパリーと呼ばれた名将軍だ。じいやがいなければ、とっくの昔に王党派は蹴散らされていただろうな!」 「ほう! 『鉄壁』と言えば、アルビオンのイージスとまで謳われた、あのベア元帥ですか! ご高名はかねがね」 「かっかっかっ。誉めすぎですぞ殿下に大使殿。昔取った杵柄というやつですわい」 「敵の策にはまって本陣が奇襲を受けた際、前王ジェラール一世の盾となり、襲いくる剣戟や魔法を全て剣一本で捌ききったという逸話は、士官学校では必ず話題に昇りますからな。いや光栄です」 ワルドも混ざった軍人連中が話に花を咲かせながら連れ立っていくのに、ルイズと耕一は所在なげに付いていくのだった。 § ウェールズの居室は、まがりなりにも城の天守に存在する部屋にしては、質素そのものと言っていい部屋だった。 粗末なベッドに椅子とテーブルが一組。飾りらしきものは、壁にかけられた戦の様子を描いたタペストリーのみ。よっぽど、魔法学院の寮の方が豪奢と言える。 ウェールズは椅子に腰を下ろし、引出しを開いた。中には、宝石をあしらった、小さな小箱が一つ。 それを、またあの―――清冽な諦めの目で見据えると、身につけていたネックレスについていた小さな鍵で、その箱を開けた。 中には、端々が擦り切れた手紙が一通入っていた。蓋の裏には、この前見た本人よりは少し幼い面影を持つアンリエッタの肖像が描かれている。 「……宝箱でね」 3人の視線が箱に集まっている事に気付いたウェールズは、はにかむように言った。 手紙を取り出し、愛おしそうな、それでいて―――やはり、届かぬものを見やるような目でそれに口付け、手紙を開いて読み始めた。 端がぼろぼろなのは、何度もそうやって読み返されたからなのだろう。 何度目かもわからない、まるで一つの儀式のようでもあったそれを終えると、ウェールズは丁寧に手紙をたたみ、封筒に戻した。 「これが件の手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」 「……ありがとうございます」 ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取った。 「貴族派からの攻撃予告があり次第、例の隠し港から、非戦闘員である女子供を乗せてイーグル号とマリー・ガラント号が出港する手はずになっている。おそらくは今日明日中になるだろう。それに乗って帰るといい」 「はい……」 「部屋を用意させよう。大使の任、ご苦労だった。今日はゆっくり休んでくれ」 「…………」 「どうか、したのかね?」 ルイズは、しばらくの間、手紙を見つめるようにじっと俯いていたが、やがて顔を上げ、潤んだ目をウェールズに向けた。 「殿下。失礼ですが、少し聞かせていただいてもよろしいですか? 「なんなりと答えよう。明日にも滅ぶ王国に、何も隠し事などないからね」 ルイズの顔が歪む。そのウェールズの言葉が、ルイズの聞きたい答えであるらしかった。 「……やはり、勝ち目はないのですか」 「ないよ。我が軍は三百。対して反乱軍は五万を下らぬ。どれほどの奇跡が起これば勝てるのか、見当もつかないな」 「死ぬ、おつもりなのですか」 「ははは。負け戦こそ武人の華。死ぬつもりも負けるつもりも毛頭無いが、いつでも覚悟はしているさ」 「……殿下」 先程の侍従の老人とのやりとりといい、この戦いで真っ先に散るつもりなのだ、というのは、ルイズにもわかった。 「……恋人を置いて、ですか?」 「こ、コーイチ?」 何も言えなかったルイズの次を、耕一が続けた。 「…………アンリエッタから聞いたのかい?」 「いいえ。……同じような境遇の人を、見知っているので。お姫さまも、あなたも……その人達に、よく似た表情をしていました」 「そうか。まあ、珍しくもない話だからね」 ウェールズは、特に感情もなく微笑んだ。 「姫さまの、お手紙をしたためる時の切なげな表情と……殿下の、お手紙を読まれる時の物憂げな表情は、そういう事だったのですね」 ルイズは、どこか納得したように頷いている。 「では、この姫さまから贈られた手紙というのは……」 「……想像の通り、恋文だよ。始祖の名の元に愛を誓っている、ね」 「始祖ブリミルへの誓いは、婚姻の際に行われる永遠のもの……なるほど、確かに、政略結婚とはいえこれから結婚する相手が別の男にそんなものを贈っていたとなれば、ご破談になる可能性は少なくないでしょうな」 ワルドが捕捉すると、ウェールズは重く頷いた。 「殿下と姫さまが恋仲であったというのなら……なぜ、なぜ死のうとなさるのですか?」 「もう昔の話さ」 「嘘です! 姫さまも殿下も、昔の事だなんていう表情ではありませんでした!」 ルイズは、熱っぽく声を荒げた。 「殿下! トリステインに亡命なされませ! 殿下さえご健在なら、きっとアルビオンを再興する事も……!」 「ルイズ」 ワルドがその肩を掴む。しかし、ルイズは止まらない。 「お願いです。姫さまは、愛する人が死ぬとわかっていて見捨てるような方ではありませぬ。きっと、先程の封書にも、亡命を勧める一文があるはずでございます……あの時の、あの時の姫さまが、お苦しそうに最後に書き付けたのは、それのはずでございます!」 搾り出すようなルイズの言葉は、正鵠を射ていた。密書の最後に、付け足されたように掛かれた一文は、彼に生き延びて欲しいと言う嘆願であった。 「私の知っているアンリエッタは……自分の情のために、民を危険に晒すような人ではないよ。ミス・ヴァリエール」 「で、殿下?」 「反乱軍……『レコン・キスタ』の大義は三つ。我らテューダー王家は統治者として相応しくないという事。ハルケギニアは一つに統一されるべきであるという事。そして……『聖地』を奪還するという事だ」 ウェールズの真剣な顔に、ルイズは言葉を呑む。 「王家に対する反乱である以上……その一員である私が亡命するという事は、亡命先の国は、統治者に相応しくない王家をかくまった国であるという事になる。戦争を仕掛ける口実としては、十分だ」 「そんな……あんな恥知らずどもの言う事なんて……っ!」 ウェールズがトリステインに亡命すれば、間断無くトリステインまでもが戦渦に巻き込まれる。言葉では反論するが、ルイズの目はウェールズの言葉の正しさを悟っていた。 「ハルケギニア統一を謳っている以上、時間の問題ではあるかもしれんが……少なくとも私の亡命は、その何よりも大切な時間を限りなくゼロにする効果しかない。私も、アンリエッタも、王家に産まれた者として、守るべきものがある。わかるかい、大使殿?」 「…………殿、下」 そこまで言われて、ようやくルイズにも気が付いた。彼は、アンリエッタを庇っているのだと。ここで果てるつもりなのは、アンリエッタを想う故でもあるのだと。 「我ら王家は、内憂を払う事叶わなかった。今ここでこうしている事そのものが、我らが統治者として相応しくないという貴族派の主張が正しい事の裏付けなのだよ。ならば、王が守るべきもの―――国の民達の為、戦いなど一刻も早く終わらせるべきなのだ」 「殿下……」 ウェールズの語る覚悟の深さに、ルイズとワルドが神妙に頭を下げる。 どうしようもなく正しい言葉だった。ハルケギニアの人間ならば、誰にも二の句が告げないような。 ―――しかし。彼は、柏木耕一は、ハルケギニアの人間ではなく。 その正しい選択がもたらす悲劇を、知り抜いていた。 「少し、昔話をしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」 目を閉じ、酷く静かな―――どこか、怒っているような、それとも泣いているような―――平坦な口調で、耕一はそう切り出した。 「……コーイチ?」 ルイズは、これまでどこかのんびりとした態度を崩さなかった自らの使い魔が初めて見せる雰囲気に、目をパチパチと瞬かせた。 「ふむ。そう長くならないのなら、聞かせてもらおう。どんな話なのかね?」 ウェールズは、微笑みで答えた。 「そうですね。題は―――『雨月山物語』」 耕一は目を閉じたまま……何かを思い出すように、口を動かし始めた。 「"それは、遠い遠い昔の事。遥か東の地にある雨月という山に、何処ともなく現れた悪い鬼の一族が住み着きました―――"」 § 鬼は、人を狩る事が生き甲斐の化け物でした。 人が死ぬ間際に、蝋燭の炎のように一瞬燃え上がる生命の炎を何よりも好み、その為だけに人々を殺して回りました。 大木を次々と薙ぎ倒して山中を進み、妖しき数多の術を用いて村々を焼き放ち、強靭なる体躯を以って人々を引き裂き、その地に住んでいた人々を震え上がらせました。 時の領主は討伐隊を派遣しますが、二度組織された討伐隊は、二度とも散々に討ち滅ぼされてしまいました。 それは、二度目の戦いの事でした。 次郎衛門は、第二次討伐隊に参加していた剣士でした。 戦いの前夜。彼は近くの河原で、一人の少女と出会います。 言葉が通じない、異国の出で立ちをした少女。不器用な身振り手振りだけの、しかし心温まるやりとりは、これから戦に向かう次郎衛門の心を明るくさせてくれました。 しかし、鬼達の妖術によって炎を浴びせかけられ、炎の中を押し寄せた鬼の群れに襲われ、討伐隊は全滅を喫します。辛くも生き延びた次郎衛門も、辿り着いた河原に倒れ、生死の境を彷徨います。 その時、炎の中から現れたのが、その少女でした。 少女は、鬼達のお姫さまであったのです。 鬼の姫は、河原で倒れている次郎衛門に、自らの血を飲ませました。 すると、今にも死ぬ寸前であった次郎衛門の体が、みるみると回復していきました。 鬼の血を飲んだ次郎衛門の身は鬼と化し、鬼の強靭な肉体を手に入れたのです。 鬼の姫の名前は、エディフェル。鬼と変えられた事で、言葉が通じるようになっていました。 近くの小屋で目を覚ました次郎衛門は、しかし、呪わしい鬼へと体を変えられてしまった怒りを、ずっとそばで看病してくれていたエディフェルにぶつけました。 怒りと恨みにむせび泣く次郎衛門を、エディフェルは優しく抱きしめ続けました。 エディフェルは、次郎衛門との触れ合いで、彼を愛してしまっていました。 次郎衛門も、自分の怒りを優しく抱きとめ続けられるうちに、一時会っただけのこの少女に一目惚れしていた事に気付きました。 二人は愛し合い、夫婦となります。 人里離れたところでひっそりと暮らすしかありませんでしたが、二人は互いさえ居ればそれだけで幸せでした。 しかし、幸せは長くは続きませんでした。 人間を助け、人間と夫婦になったエディフェルは、人を狩る事が生き甲斐の鬼からすれば、許されない裏切り者だったのです。 彼女の姉である一番上の鬼の姫、リズエルの手によって、エディフェルは殺されてしまいます。鬼の掟では、裏切り者は身内の手によって罰せられなくてはなりませんでした。 今際の際、エディフェルは、姉を恨まないでと言い残しました。全てわかっていた事だからと。 次郎衛門は、いつまでも泣き続けました。そして涙が枯れ果てた頃、その心にあったのは、愛する者を奪った鬼に対する、激しい怒りでした。 そんな次郎衛門の元に、一人の少女が訪れます。 彼女の名前はリネット。エディフェルの妹でした。 末娘である彼女と、妹であるエディフェルをその手にかけた長女のリズエル、次郎衛門達とは別に、一人の人間の少女と交流を持った次女、アズエル。 三女であるエディフェルを亡くした鬼の皇女の四姉妹達は、それぞれの理由で、人を狩るだけという鬼の在り方に疑問を持ち、復讐に燃える次郎衛門に力を貸しました。 彼女達の助力もあり、次郎衛門がリーダーとなって組織された3回目の討伐隊によって、鬼達は見事退治されました。 しかしその中で、リズエルは敵の大将に殺され、アズエルはその人間の少女を庇って死んでしまいました。 リネットは生き残り、次郎衛門の妻となりました。彼女が力を貸したのは、次郎衛門を愛しているからだったのです。 しかし、共に暮らす次郎衛門の心からエディフェルの事が忘れられる事は、生涯なかったのでした……。 § 「―――めでたし、めでたし」 「…………」 「…………」 「…………」 3人は、耕一の話をじっと聞いていた。それぞれに思うところがあるのか、退屈そうな顔は誰もしていなかった。 ふうっ、と、緊張をほぐすように、ウェールズが小さく息を吐く。 「……なかなか興味深いお話だったよ。でも、それをなぜ私に?」 「いえ。ただ、参考になればと思っただけです……残される者の想いと物言わぬ優しさが、さらなる悲劇に繋がる事もあると」 「……そうか」 ウェールズはさっと目を伏せ、すぐに顔を上げた。窓から、とっぷりと日が暮れた外を見やる。 「少し話が長くなったようだね。今日はもう休みたまえ」 § 「…………」 窓から覗くアルビオンの空は、どことなくトリステインのそれよりも高い気がした。実際高いのだから当たり前だが、目に見えて違うわけでもないなあ、とかそんなどうでもいい事を考えながら、ワイングラスを少しだけ傾けた。 以前に家族と旅行で来た時は、そんな事を思った記憶もない。空なんて気にもならなかった。 「窓辺で物思いに耽る姿もなかなか様になっているね、ルイズ」 「からかわないで、ワルド」 「……本気のつもりなんだがね」 向かいの椅子に座るワルドが、同じくグラスを傾けながら苦笑している。 「…………ジローエモン、エディフェル」 聞き覚えのあるその名前を、小さく呟く。 確かに覚えている。その名前を。燃え盛る炎の中、再会を誓って死出の口付けを交わした男女の夢を。 ―――あの夢は……一体、何? コーイチ自身の過去なのだろうか? ……いや、あの時の男の声は、コーイチのものとは違っていた。夢の中では男そのものになっていたのだから、間違えるはずはない。 自分の声は、自分で聞くものと他人に聞こえたものとでは違う、という話は知っていたが、それでも違いは明らかだ。夢の中のそれは、野太く逞しく、熟しきった男の声だった。コーイチの声も太い方ではあるが、どこか清潔感というか、少年っぽいところが残っている。 では、本当に、ただのおとぎ話? いや、そんなはずはない。だって―――。 ぞくり、と背筋が震えた。あの、真っ赤に溶けるような激情を思い出す。 話をしていたコーイチからは……だいぶ穏やかになってはいたものの、同じ色のシグナルが感じられたからだ。 それは、ルイズと意識を通じあわせようとしていたわけではなく……溢れる感情を自分でも抑えきれずに周りに放出していたとか、そんな感じのものだった。 でも、じゃあ、何なのだろう。 あの夢は。あの昔話は。コーイチ自身は。エルクゥとは。そしてあの……想いは。 「……考えてわかる事じゃないわよね」 ルイズは頭を振り、そこで考えを打ち切った。夢は夢だ。あの光景が、耕一の語った昔話の実話だという証拠は何にもないのだし。 それでも……知りたいと思った。事実を知りたいと。 「考え事は済んだのかい?」 「ひゃっ!」 「おっ?」 ワルドがタイミングを見計らったかのように声をかけると、ルイズはびくっと椅子を引きつらせて驚いた。 「ず、ずっと見てたの? 趣味が悪いわ」 「はは。なに、話があったのだがね。物思いに沈む君も、存外に魅力的だったよ。驚く顔もね」 「……もう」 ルイズは唇を尖らせた。 ワルド子爵。この旅が始まってから、常に好意的に接してくれている貴族の青年。 本人は婚約者だからというけれど……その態度にはどこか違和感が付きまとい、素直に受け止められないでいた。 まだ子供扱いされているのだ、とルイズは考えている。事実、彼の振る舞いは、恋人にというより、甥や姪、友人の子供に対する親愛の態度のように思えた。自分自身より、自分に付随する親への親愛が先にあって、自分へのそれは二次的なもの。そんな感じだ。 それが不満か、と言われると、曖昧だ。 恋人に半人前扱いされたら普通は悔しくなるものだと思うが、特にそんな事は感じなかった。 歳と実力の差が開き過ぎていて、悔しいと感じるのも通り過ぎているのかもしれない。 物心ついた頃には憧れていた子爵様。長らく会う事もなかった彼がいきなり積極的になるなんて、まるで夢のようで、実感がないのかもしれない。 「ルイズ」 「なあに?」 「トリステインに帰ったら、僕と結婚しよう」 「ー――へっ?」 思わずワイングラスを取り落としそうになり、慌てて受け止めた。幸い、中身が零れる事はなかった。 「い、いきなり何を言い出すのよっ!?」 「いきなりじゃないさ。僕達は婚約者だろう?」 「そ、そうだけど……」 それでも、いきなりだ。ルイズはそう口を開きかけたが、なぜか言えなかった。 全て言葉の先を越されて言おうとした事を封じられる。そんな気がした。 「僕の事は嫌いかい?」 「そんな……嫌いなわけないじゃない」 「好きでは、ないのかい?」 「それは……」 ワルドの問いに、ルイズは答えられなかった。 嫌いではない。それは間違いない。 けれど、好きかと聞かれると、わからない。恋人として、夫として愛する、という事に、全く現実感が湧かなかった。 ルイズの成長は、いつも魔法の事と隣り合わせだった。『ゼロ』の二つ名を払拭する為の不断の努力。それが、ルイズを育んできた原動力だ。 周囲の女のように恋とか愛とかに現を抜かしている暇はなかったし、周囲の男なんて自分を侮蔑して罵倒するか侮り混じりに同情するかの二択だ。恋心なんて経験出来るはずもなかった。 「……恋とか、したことないの。だから、ごめんなさい。わからないわ」 「そうか……婚約者として、喜べばいいのか悲しめばいいのか、微妙なところだね」 言いながらも、ワルドの表情は、まるで貼り付けたかのように、優しい貴族のもののままだった。 「いや、これまで放っておいたのは僕だから、どちらもその資格はないかな。でも、僕は本気だ。僕には君が必要なんだ。それだけはわかってほしい」 「……『ゼロ』の私が、必要なの?」 なぜワルドはこんなに自分に固執するのだろう、と浮かんでいた疑問を、そのまま言葉にした。 わざわざゼロでちんちくりんで可愛げのない自分じゃなくても、魔法衛士隊の隊長のスクウェア・メイジともなれば、女の子には苦労しないだろうに。 「君は『ゼロ』なんかじゃない。僕にはわかっていた。あの、魔法を失敗ばかりして池の小舟の中で泣いていた君の姿に、僕は確かな才能を見つけていたんだ」 「才能……?」 自分からは一番遠い言葉だ。そんなもの、あるわけがない。 「そうさ。君はいつか偉大なメイジになる。始祖にも肩を並べるほどのね」 「……冗談はよして」 お世辞にしてもあまりにあまりだ。逆に気分が悪くなりそうだった。 「冗談なんかじゃない。普通のメイジには、亜人なんて使い魔に出来ないだろう。それも、あんな強力な亜人を、だ」 「それは……」 「彼はガンダールヴさ」 「ガンダールヴって……始祖ブリミルの」 聞き覚えのある単語だった。デルフリンガーが口走ったそれは……。 「そう。始祖が率いたという伝説の使い魔だ。彼に刻まれているルーンは、ガンダールヴのルーンなんだよ」 「そ、そんなの……」 聞くなり、荒唐無稽と斬り捨てた話。 あのボロ剣の言っていたそれが、本当だったとでもいうのだろうか? 「私は……」 ワルドの事。耕一の事。自分の事。世界の事。 何が嘘で何が本当か、お世辞なのか冗談なのか本気なのか事実なのか。ルイズはまるっきりわからなくなってしまった。 情報が足りない。推測する経験が足りない。あれだけ勉強したのに、頭の中に渦巻く言葉をまとめることも出来ない。どこに歩いていけばいいのか、わからない。 しかし、その混乱の中で……ただ一つ、わかった事があった。 「……時間をちょうだい、ワルド」 「時間?」 「帰ったらなんて、やっぱり急過ぎるわ。せめて、学院を卒業するぐらいまで……考えさせてほしいの」 答えを知りたい、とルイズは思った。 私は本当に『ゼロ』なのか。それとも、ワルドの言う通り、コーイチを真に使役できるような才能が眠っているのか。 これまで、『ゼロ』なんて嫌だと、目を閉じ耳を塞いでひたすらに走り続けてきた。『ゼロ』なんて認めない。ヴァリエール公爵家の娘がそんな事なんてありえない。必ず使えるようになってやると。使えるはずだと。 今、がむしゃらにでも進んでいた方向が、全くわからなくなった事で……ルイズは初めて、真実を知りたいと、強くそう思った。『ゼロ』である事が確定してしまうかもしれない恐怖より、事実ありのまま、本当の事を知りたいという欲求が勝ったのだ。 そうしてこそ、初めて前に歩き出せると。 それは奇しくも―――目の前の狂える求道者と、同じ結論であった。 「……そうだね。すまない、僕が急ぎ過ぎていたようだ。待っているよルイズ。君が君の答えに辿り着くのをね」 神妙な声でルイズから窓の外へと向けられたワルドの瞳は、しかし何者をも映していなかった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/21620.html
菫色の瞳のエル(すみれいろのひとみのエル) + 目次 エクシリア2 アスタリア レイズ 関連リンク関連項目 被リンクページ エクシリア2 年齢:8歳(享年) 性別:女性 声優:なし(X2設定資料集のみの存在) 設定資料集にのみ登場する人物で、ヴィクトルの「アイボー」だった少女。 最後の道標を手に入れる際に彼のある選択によってエルを死なせてしまったため、 ヴィクトルは「おそらく絶望の中で俺を憎みながら死んだと思う」と述べている。 ▲ アスタリア 年齢:18歳(X2のエルEDと同等) 性別:女性 声優:伊瀬茉莉也 テイルズ オブ アスタリア「双星の宿命」編に登場。 ヴィクトルの相棒として旅をしていた分史世界のエル。 現在も、ヴィクトルの相棒として彼の計画実行の手助けをしている。 + ネタバレ ルドガーがある分史世界で出会う人物。 ヴィクトルとルドガーが出会うと殺し合いになってヴィクトルが死んでしまうと彼を案じたエルはルドガーとユリウスを抹殺しようと狙っていた。 武器は投げナイフで、秘奥義以外はなぜかシェリアと同じ術技を使う(ローエンの術技ではダメだったのだろうか?)。 クルスニクの鍵としての力を持っており、世界の楔を正史世界からヴィクトルの世界に組み替えるというヴィクトルの計画に加担しているが、 ルドガーの説得により全ての世界が滅ぼすことなく協力する世界づくりに協力することになった。 ▲ レイズ 画像の通り、名前表記は「菫色の瞳のエル」ではなく「エル(アスタリア)」となっている。 ▲ 関連リンク 関連項目 被リンクページ + 被リンクページ キャラクター:エクシリア2 キャラクター:テイルズオブアスタリア キャラクター:テイルズオブザレイズ キャラクター:ラル・メル・マータ ネタページ:テイルズオブザレイズ(TOtR) 設定:シャドウ ▲
https://w.atwiki.jp/sentairowa/pages/174.html
第三回放送 ピ~ン♪ポ~ン♪パ~ン♪ポ~ン♪ 夕日が周囲を赤く染める中、悲しい知らせは鳴り響く。 しかし、その知らせに顔に喜びの笑みを浮かばせる者もいる。 鏡より、女が再び現れる。その姿は、反射する物体全てに現れている。 またも、甘い声より残酷な事実が告げられた。 『みなさぁ~ん。こ・ん・ば・ん・はぁ~☆ まだまだ皆さん頑張りますが、どんどん人が少なくなって、お姉さんは寂しいです。 それでは、お姉さんに寂しい思いをさせたいけない子達を発表しま~す。 北岡秀一さん、城戸真司さん、グランザイラスさん、橘朔也さん、天道総司さん、ドクトルGさん、日高仁志さん、水のエルさん。 以上、八人死んじゃって、残り二十七人となりました~。相変わらずのペースで神崎さんは嬉しいそうです。 ですが、脱出を企んでいる悪い子にとっても怒っているそうです。 このまま調子に乗ると、お仕置きをするそうですので、覚悟し・て・ね☆ それと、人数が前の発表と違うと思っている人、ごめんなさい! 私たち、一人参加を隠している人がいたのです。その人が誰か、今は教えてあげません。 もしかしたら~あなたの隣の人が私たちの味方、ジョーカーかもしれません。気をつけてね☆ それじゃ、禁止エリアの発表を行います。 七時に樹海C6エリア。九時に遺跡D1エリア。十一時に海岸I5エリアで~す。 うっかり首輪を爆破しちゃった子もいるから、気をつけましょうね。お姉さんとの約束よ☆ それでは、四回目の放送でまた会いましょう。バーイバーイ』 ピン♪ポン♪パン♪ポン♪ 悪魔の囁きは終わる。これで、終末は近いのかどうか、誰にも分からなかった。
https://w.atwiki.jp/bemanidbr/pages/1418.html
VERSION GENRE TITLE ARTIST bpm notes 属性 21 SPADA HARD SYMPHONIC 煉獄のエルフェリア 猫叉Master+ 183 3812 - 攻略・コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/monisyoudoku/pages/116.html
『ある途上国のエルモニー』 408 名前:名無しオンライン 投稿日:2007/08/10(金) 23 09 11.50 wOM2nFgM 『ある途上国のエルモニー』 ある大陸には貧しく5顔に生まれたエルモニー♀とその一家がいました。 そのエルモニーは王族のモニーの指示の元異国、パンデモス族の くらす世界への侵略のため借り出され、他の何百匹ものエルモニー族 と供に軍船に乗せられてしまいました。 多数の大砲が四方に設置してあり船底にはフジツボ止めのプレートが 施してあり国民の貧しさとは裏腹にとても豪華な軍船でした。 軍に徴収されたエルモニー達は軍食である美味しい海鮮ジャガシチュー、 オヤツには船内工場で産出されるラムネ、デザートのアイスを食べられ パンデモスを一匹残らずやっつけるぞと意気揚々です。 エルモニー族の軍船の大群は戦闘の宣言を行うこと無くパンデモスの住む国に 向かって回路を辿り的確に進んでいました。 所がいきなり五隻の巨大な戦艦と数十隻の小型戦艦が白霧の中から 現れ攻めてきました。 戦艦の耐久度の差なのかエルモニー達は巨大戦艦にいくら大砲を 打ち込んでもあっという間に接近されてしまいます。 しまいにはエルモニー族の戦艦は全てギリシャ火で火の海にされたかと 思うと各戦艦エレメンタルアーマーを纏ったコグニートの兵士に乗り込まれ カオスフレアで海の中に吹っ飛ばされたりメガバーストで焼き殺されて しまいました。 弓矢や回避、物理攻撃に長けたエルモニーはパンデモスに対しては 無類の強さを発揮する物の魔法タイプのコグニートにはめっきり弱いのです。 あるモニ汚が死に際に恨み言を発しました。 「なんでコグニートが・・・・・中立宣言を忘れたモニか?糞っ糞っ悔しいモニ、 もうすこしでパンデモスを皆殺しにして食料宝石全部奪って故郷の家族に美味しいおもいを・・・・・(グチャ)」 コグニートはモニ汚を踏み潰すと同時に亡骸に唾を吐きかけ 強化魔法のReBuffを開始し残党の駆逐に向かいました。 409 名前:名無しオンライン 投稿日:2007/08/10(金) 23 09 31.01 wOM2nFgM その頃、 5顔エルモニーはコグニート兵にカオスフレアを顔面に叩き込まれ 海に落下していた真っ最中でした。 2階から落ちたような痛みと共に海に落ちてしまった5顔エルモニーは 痛さに堪えながらも必死で泳ぎ続けました、するといきなり竜巻が現れコグニートの戦艦も エルモニーの今まさに燃え上がっている戦艦も全てが巻き込まれ海に沈んでしまいました。 5顔エルモニー「ここはどこモニ?」 モラ族「ようやく気がつきましたね、ここはダイアロス島、あなたはイーゴを倒すために呼ばれたのです。」 5顔「あっそ、ありがとモニ、これでモニ子は自由の身モニ♪」 すかさずチュートリアルの説明も受けず急いで飛び出しビスクへたどり着いた5顔、 しかし通る人全てがお洒落な服、綺麗な顔、美味しそうな食べ物を食べているのを見て びっくりしてしまう。 5顔もはやくこんな生活がしたいと憧れさっそく武器を買い狩りを行い一生懸命な 毎日を送って行った。 そして数ヵ月後、5顔の預金は数mまで貯まり服装も格闘家♀装備、武器も トレントバルディッシュ、食べ物にも不自由せず幸せそうだった。 だが、その幸せも長くは続かなかった。 何時もの用に露天で売り子をしていた5顔、だがすぐ隣で人気者のパフォーマーのパンデモス♀が 次々にお客を確保している、一向に品物が売れない5顔、 パンデモスの分際で・・・・・・本国では虐殺する側であるが故に悔しさがたまらない5顔エルモニー。 ぶつぶつ文句をたれながら露天は諦め狩場へ向かう5顔であったがミーリム海岸にて 最悪の事態が起こってしまった。 コグオ「あ、あの時の(軍艦)モニ糞さんですね、はい、メガバースト♪」 呪文抵抗0の5顔エルモニーは火傷を負い死にかけてしまった。 コグオ「止めのカオスフレア!」 数日後ミーリム海岸にて動物達に貪り食われている生ゴミが発見されたそうな 名前 コメント