約 840,477 件
https://w.atwiki.jp/sentai-kaijin/pages/2600.html
(削除しないでください。)
https://w.atwiki.jp/majicaa/pages/40.html
.xzrzzzァァ≦二二ヽ . <_彡'ノン⌒{ {リ⌒\ \ . . <}ハ ̄| |≧<{こ二ン}ノ⌒\∨/‘, . <\\ /}_}/|_|/|_lー}≧<⌒ヽ } } ‘, /ヽ\}\/_______\ノニ}\人 } } } / \| \/∧∨ \\/⌒}ト、 \ } /二>┴‐く ∨ ∨ ̄ ̄))__} }=イ }ヽ\ } l ,} {= / ニ } -=≦三三三} }=≦} }l} }/ } 人 {Tニユ fニニニニニニニニニニ}二/./ } / } . / \_nノ / ̄ ̄`≧==イ)二}/ / // } 〔_ __) Vヘ 厂ノノ ̄ ̄/∨ ノ { { } くニニヽ Vハ / / }/ 人 { { ├|リ}) } ∨} ____,,. イ /__ ̄ ̄) } } }} } {⌒二ノ } } / / (∩} // //ノ } . ノ // ノ { ( {ノ / / ノ 人____, 斗──く/// 〉 \____ノ}ノイ ==イ } / \____,,. イ _______/ ̄ ̄ ̄ ̄\______ ___ __/ }/〈_rm_/⌒\======ミ⌒\}ニニ二\_/二二二二ニ=‐- //⌒ /⌒}ニこ// / //} ̄{ ̄ ̄\} }二二二二二二二二二二二二二ニ=‐- 厂 ̄} {==〈 ̄]// / //___/ ̄ ̄ ̄\ \厂 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ °O}____厂\/{ / //{_{\( ̄\][_}\{ ⌒\/⌒ { .// ∧ ∧(h厂}リノr迅h{ ⌒V / / /∧ ∧___//  ̄{ ⌒∨ { / 〈 ̄ ̄ ̄\/〈 __r┘ _ノ⌒\_/ ̄ ̄{___{ ̄]リ厂〉O--\.二}_____ ____/ {二{(リノ{( ̄)}モ厂[ス/⌒ '⌒\_______ _/∨∧{\{ ̄{_{(__)}く/ ⌒\__){ ⌒\_____/ ̄ ̄ ̄}二ニ=- \___ /∨∧/]ニ[ /\/ ___/⌒ ___________} } } / ⌒\ {ノ ∨∧ {(__}|/ { /⌒____,ノ ____} } / /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄{ {∨∧{_ノ} {} ________/ _____ /// / 人 {/∨∧-}  ̄ ̄}\______/⌒ ⌒¨¨¨¨¨¨¨´ ̄ ̄ \. ∨∧} /.〉 . {\___∨∧___/{_] { ∨ \_{\/\_________} {_{ . /⌒ヽ.∨ー─{()[\/\ ─} { { 乂___人{{ ̄[ ̄厂 ̄\/ ̄ ̄ ̄ ̄\_ノ{ノ{____/ \ニ\二二ニ==ー-\=ニニニニニニニ/ Llanowar Elves / ラノワールのエルフ (緑) クリーチャー — エルフ(Elf) ドルイド(Druid) (T):あなたのマナ・プールに(緑)を加える。 1/1 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/asanagikirika/pages/27.html
データサイト対応型/アギト/Unit 津上翔一 ○ RAG_TugamiShoichiU.bmp 津上翔一(患者) ○ RAG_TugamiShoiti(Patient)U.bmp 津上翔一(アギト覚醒) ○ RAG_OrtaRingU.bmp 仮面ライダーアギト・グランドフォーム ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Ground).bmp 仮面ライダーアギト・マシントルネイダー ○ RAG_MachineTornader(G).bmp マシントルネイダー・スライダーモード ○ RAG_MachineToruneidar(slider+G).bmp 仮面ライダーアギト・ストームフォーム ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Storm).bmp 仮面ライダーアギト・マシントルネイダー(ストーム) ○ RAG_MachineTornader(St).bmp マシントルネイダー・スライダーモード(ストーム) ○ RAG_MachineToruneidar(Slider+St).bmp 仮面ライダーアギト・フレイムフォーム ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Flame).bmp 仮面ライダーアギト・マシントルネイダー(フレイム) ○ RAG_MachineTornader(F).bmp マシントルネイダー・スライダーモード(フレイム) ○ RAG_MachineToruneidar(Slider+F).bmp 仮面ライダーアギト・トリニティフォーム ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Trinity).bmp 仮面ライダーアギト・マシントルネイダー(トリニティ) ○ RAG_MachineTornader(T).bmp マシントルネイダー・スライダーモード(トリニティ) ○ RAG_MachineToruneidar(Slider+T).bmp 仮面ライダーアギト・バーニングフォーム ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Burning).bmp 仮面ライダーアギト・マシントルネイダー(バーニング) ○ RAG_MachineTornader(B).bmp マシントルネイダー・スライダーモード(バーニング) ○ RAG_MachineToruneidar(Slider+B).bmp 仮面ライダーアギトバーニングフォーム(暴走) ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Burning)(B).bmp 仮面ライダーアギト・シャイニングフォーム ○ RAG_MaskedRiderAgitoU(Shining).bmp 仮面ライダーアギト・マシントルネイダー(シャイニング) ○ RAG_MachineTornader(Sh).bmp マシントルネイダー・スライダーモード(シャイニング) ○ RAG_MachineToruneidar(Slider+Sh).bmp 葦原涼 ○ RAG_AshiharaRyoU.bmp 葦原涼(バイク搭乗) ○ RAG_AshiharaRyou(b).bmp 葦原涼(ギルス覚醒) ○ RAG_OrtaRing(Ryo)U.bmp 仮面ライダーギルス ○ RAG_MaskedRiderGillsU.bmp 仮面ライダーギルス・ギルスレイダー RAG_MaskedRiderGillsGR.bmp 仮面ライダーエクシードギルス ○ RAG_ExceedGillsU.bmp エクシードギルス・ギルスレイダー RAG_ExceedGillsGRU.bmp 仮面ライダーギルス(角短) RAG_MaskedRiderGills(pd)U.bmp 氷川誠 ○ RAG_HikawaMakotoU.bmp 仮面ライダーG3-X ○ RAG_MaskedRiderG3-XU.bmp G3-X・ガードチェイサー ○ RAG_MaskedRiderG3-X+GuardChaserU.bmp 仮面ライダーG3-X(MO) RAG_MaskedRiderG3-X(MO)U.bmp 仮面ライダーG3 ○ RAG_MaskedRiderG3U.bmp G3・ガードチェイサー ○ RAG_MaskedRiderG3+GuardChaser.bmp 尾室隆弘 ○ CACC, RAG_OmuroTakahiroU.bmp 仮面ライダーG3マイルド ○ CAAB, RAG_MaskedRiderG3MildU.bmp G3マイルド・ガードチェイサー RAG_MaskedRiderG3MildGC.bmp Gトレーラー ○ RAG_G-Trailer.bmp Gトレーラー(2号車) ○ 北條透 ○ CACC, RAG_HoujouTouruU.bmp V-1システム(アギト) ○ RAG_V-1SystemU.bmp 仮面ライダーG3(GM-01アクティブ) ○ RAG_G3U.png 仮面ライダーG3(マスクオフ・北條透) ○ RAG_HoujouTooru_G3_U.png 仮面ライダーG3(アーマーオフ・北條透) ○ RAG_HoujouTooru_US_U.png 木野薫 ○ RAG_KinoKaoruU.bmp 木野薫(サングラス) ○ RAG_KinoKaoru(s)U.bmp 仮面ライダーアナザーアギト ○ RAG_AnotherAgitoU.bmp アナザーアギト・ダークホッパー ○ RAG_AnotherAgitoDH(2).bmp 水城史郎 CACC, RAG_MizukiShiroU.bmp 仮面ライダーG4 ○ RAG_MaskedRiderG4U.bmp 相良克彦 RAG_SagaraKatuhikoU.bmp 榊亜紀 RAG_SakakiAkiU.bmp 風谷真魚 ○ RAG_KazayaManaU.bmp 美杉義彦 ○ RAG_MisugiYoshihikoU(1).bmp 小沢澄子 ○ RAG_OzawaSumikoU.bmp 関谷真澄 ○ RAG_SekiyaMasumiU.bmp 司龍二 ○ RAG_TsukasaRyujiU.bmp 国枝東(私服) ○ RAG_KuniedaAzumaU(L).bmp 国枝東 ○ RAG_KuniedaAzumaU.bmp 真島浩二 ○ RAG_MajimaKoujiU.bmp バイク屋のおやっさん ○ RAG_OyassanU.bmp パンテラス・ルテウス ○ RAG_PantherasLuteusU.bmp パンテラス・トリスティス ○ RAG_PantherasTristisU.bmp パンテラス・アルビュス ○ RAG_PantherasAlbusU.bmp パンテラス・ルベオー ○ RAG_PantherasRubeoU.bmp パンテラス・キュアネウス ○ RAG_PantherasCyaneusU.bmp パンテラス・マギストラ ○ RAG_PantherasMagistraU.bmp テストゥード・オケアヌス ○ RAG_TesTudoOceanusU.bmp テストゥード・テレストリス ○ RAG_TesTudoTerrestrisU.bmp アングィス・マスクルス ○ RAG_AnguisMasculusU.bmp アングィス・フェミネウス ○ RAG_AnguisFemineusU.bmp コルウス・クロッキオ ○ RAG_CorvusCroccioU.bmp コルウス・カルウス ○ RAG_CorvusCalvusU.bmp コルウス・ルスクス ○ RAG_CorvusLuscusU.bmp コルウス・イントンスス ○ RAG_CorvusIntonsusU.bmp コルウス・カノッスス ○ RAG_CorvusCanosusU.bmp モリぺス・オクティぺス ○ RAG_MollipesOctipesU.bmp エクウス・ノクティス ○ RAG_EquusNoctisU.bmp エクウス・ディエス ○ RAG_EquusDiesU.bmp レイウルス・アクティア ○ RAG_LeiurusAcutiaU.bmp スケロス・ファルクス ○ RAG_SkelosFalxU.bmp スケロス・グラウクス ○ RAG_SkelosGlaucusU.bmp ヒドロゾア・イグニオ ○ RAG_HydrozoaIgnioU.bmp アピス・ヴェスパ ○ RAG_ApisVespaU.bmp アピス・メリトゥス ○ RAG_ApisMellitusU.bmp ポタモトリゴン・カッシス ○ RAG_PotamotrigonCassisU.bmp ポタモトリゴン・ククルス ○ RAG_PotamotrigonCucullusU.bmp エキヌス・ファメリカーレ ○ RAG_EchinusFamelicareU.bmp ピスキス・アラパイマ ○ RAG_PiscisArapaimaU.bmp ピスキス・セラトゥス ○ RAG_PiscisSerratusU.bmp クルスタータ・パレオ ○ RAG_CrustataPalleoU.bmp ケトス・オルキヌス ○ RAG_CetosOrcinus.bmp プロフェタ・クルエントゥス ○ RAG_ProphetaCruentusU.bmp ステリオ・デクストラ ○ RAG_StellioDexteraU.bmp ステリオ・シニストラ ○ RAG_StellioSinistraU.bmp ウォルクリス・ウルクス ○ RAG_VokucrisUlucusU.bmp ウォルクリス・ファルコ ○ RAG_VokucrisFalcoU.bmp エリキウス・リクォール ○ RAG_EriciusLiquorU.bmp スカラベウス・フォルティス ○ RAG_ScarabaeusFortisU.bmp フォルミカ・ペデス ○ RAG_FormicaPedesU.bmp フォルミカ・エクエス ○ RAG_FormicaEquesU.bmp フォルミカ・レギア ○ RAG_FormicaRegiaU.bmp 関谷真澄(水のエル憑依) RAG_SekiyaMasumi(El)U.bmp 水のエル ○ RAG_ElofWaterU.bmp 水のエル強化体 RAG_ElofWater(P)U.bmp 風のエル ○ RAG_ElofWindU.bmp 地のエル ○ RAG_ElofEarthU.bmp 地のエル強化体 RAG_ElofEarth(P)U.bmp オーヴァーロード斗真 ○ RAG_OverLoadU.bmp オーヴァーロード斗真(球体) RAG_OverLoad(sphere)U.bmp ミラージュアギト ○ RAG_MirageAgitoU.bmp 間口正一 RAG_MaguchiShoichiU.bmp ドッグオルフェノク RAG_DogOrphnochU.bmp
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4377.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「ひ、姫殿下、なぜこのような下賎なところに……」 「おともだちに下賎も高貴もありませんわ。懐かしいルイズ! それとも、私の事など忘れてしまったの?」 ルイズは、ぶるぶると盛大に首を振った。 「わ、私などに、もったいないお言葉にございます。アンリエッタ姫殿下」 「もう、おともだちと言ったでしょう? そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。そんなの、宮廷の中だけでもうたくさんだわ!」 「ひ、姫殿下……」 「ほら、覚えていて? 一緒になって、お庭で蝶々を追い掛け回したじゃないの」 「も、もちろんです。あの時は、お召し物を泥だらけにしてしまって……侍従長様にこってりをお叱りを受けました」 「そうよ! そうよルイズ!」 美少女二人が芝居がかった様子で抱き合うのを、耕一は呆と見やっていた。 「お姫さんてーのも大変だぁなぁ」 「……みたいだなぁ」 ギーシュでだいぶ慣れてはいたが、やはりこういうノリにはついていききれない。舞台上の女二人に、剣と男は完全に観客だった。 ひとしきり昔話で盛り上がると、緊張していた様子のルイズも、アンリエッタとおでこを突き合わせてあははと笑っていた。 「でも、感激ですわ。姫さまが、そんな昔の事を覚えてくださっているなんて……てっきり、もう忘れてしまわれていたものかと」 「忘れるものですか。あの頃は毎日が楽しかったわ。そう、一番楽しかった。今は肩が凝るばっかりよ」 切り揃えられたアンリエッタの栗色の髪が微かに揺れ、一瞬だけその表情に愁いが混じった事に、耕一は気付いた。 それは、彼が特に彼女を注視していたとか、何かしらのシグナルを感じたとか、そういう事ではなく―――単に、その表情の類に、酷く見覚えがあったからだ。 「自由なあなたが羨ましいわ。ルイズ」 「……私にも、悩みはありますわ。姫さま」 「うふふ、そうね。ごめんなさい。そういうつもりではなかったのよ」 「ええ、わかっていますわ」 それは、諦め。 遠い、体験した覚えの無い記憶の中で、彼の二人の妻が共通して浮かべていたものだった。 エディフェルは、程近い自らの死に。リネットは、届かぬ自らの想いに。―――どちらかと言えば彼女のそれは、後者の方に似ている。 ぎり。と、意識せずに耕一の奥歯が鳴った。 「相棒?」 「……なんでもないよ、デルフ」 「……あら?」 瞬間だけ観客の雰囲気ではなくなった男に、ようやく気付いた、という風にアンリエッタが目を向けた。 「あ、あらあら。本当にごめんなさいルイズ。もしかしてわたくし、お邪魔だったかしら?」 「えっ? そんな、邪魔だなんてとんでもない。何故そのような事を?」 「だって、そこの殿方と夜を過ごしていたのでしょう? いやだわ、わたくしったら、とんだ粗相を致してしまったみたいね」 言葉の刹那、ルイズの顔が、瞬間湯沸かし機もかくやというスピードで沸騰した。 「な、ななな、ち、ち、ち、違います姫さま! こ、ここ、コーイチはですね!」 「コーイチ、様と仰るの? 変わったお名前ね。本当に申し訳ありませんわ」 「あ、いや、その」 仰々しく頭を下げられて、一瞬耕一は否定を忘れてしまった。 「つ、使い魔! 使い魔なんです姫さま! コーイチは私の使い魔!」 「もうルイズったら、恥ずかしいからって、おともだちに隠し事はなしよ。人が使い魔だなんて聞いた事がないわ」 「ほ、ホントなんですってばあ! ほ、ほら! 黙ってないであんたからも何か言いなさいよ!」 ちょっと涙目のルイズに、耕一は苦笑しながら左手を掲げた。 「あら……本当、でしたの?」 「使い魔っていうのも、恋人じゃないっていうのも本当ですよ」 その甲に描かれたルーン文字を見て、アンリエッタは目をぱちくりさせた。 「人が使い魔だなんて……ルイズ、あなた、昔からどこか変わっていたけれど……相変わらずね」 「……ちなみに、人じゃなくて、亜人ですわ、姫さま」 「あんまフォローになってねえぞ。娘っ子」 「うるさいわねこのボロ剣!」 もうボロじゃないもんフフーンと余裕で鼻歌を歌うデルフリンガーの言葉の通り、アンリエッタは目だけではなく、顔全体で驚いていた。 「あ、亜人、なのですか」 「まぁ、一応そういう事になってるみたいです」 「は、はぁ。それに、こちらはインテリジェンスソード……それも、かなりの業物のようですわね……」 「へへっ。さすがお姫さま。娘っ子と違って見る目があるねぇ」 カタカタと飾りを鳴らして上機嫌をアピールする剣に、ルイズは頭を抱えた。 じっと見つめてくるアンリエッタの視線に、耕一はぺこりと頭を下げる。 「えーと、どうも。柏木耕一と……あ、いや、コーイチ・カシワギって言うべきなのかな?」 「ミスタ・カシワギ……やはり、珍しいお名前ですね。まるで東方の言葉のよう。どこか遠いところから?」 「ええ。ルイズちゃんの召喚で無理矢理呼ばれてきまして」 「よ、余計な事言わなくていいのよっ!」 「あらあら、まあまあ」 焦った様子を見せるルイズを見て、ころころと笑うアンリエッタ。その表情には、先ほど耕一が垣間見たものは見受けられなかった。 そして、それもまた妻達と同じだった。まったく女という生き物は隠し事がうまいものだ、などと一昔前のハードボイルド小説のような愚痴が頭をよぎった。 「そして俺様はデルフリンガー! ガンダールヴの左手よ!」 「……なんだそりゃ。がんだーるぶ?」 突拍子もない事を言い出した剣に、三人が訝しげな顔を向けた。 「……何か聞いたことあるわね、それ。………そう、確か、始祖ブリミルの率いた4つの使い魔のうちのひとつ、だったかしら」 「よく知っているわね、ルイズ。そう、神の左手ガンダールヴ。始祖の使い魔の1つよ」 「で、なに、まさかあんた、そのガンダールヴに使われてたとか言い出すんじゃないでしょうね」 日頃の勉強のおかげか、辿り着いた真実を口走りながらルイズは問うた。その真実にデルフリンガーは、はっきりと、堂々とした声で――― 「わからん!」 と答えた。 「なんじゃそりゃぁ!」 「いやー、なんか自己紹介っつの? かっこよさげな口上でも言おっかなーとか思ったら、自然と出てきたフレーズなんだわね、これが」 「ああもう、買ったときにも六千年前とか言ってたけど、うさんくさ過ぎて本当なのかデタラメなのかわっかんないわ……」 「うむ。俺にもわかんね!」 「いばるなああああああっ!!!!!」 「うふふ」 騒音が心配になるぐらいの喧騒のなか、アンリエッタは心から楽しそうな笑顔を浮かべていた。 § 「さて、わたくしはそろそろ戻りますわ」 「え、そうなのですか?」 暫しの歓談の後、アンリエッタは静かに、腰を下ろしていたルイズのベッドから立ち上がった。 「ええ。おともだちと友誼を深めに来たのですもの。もっともっと、出来る事なら夜を徹して話していたいのは山々なのだけれど……」 「姫さまはお忙しい身です。明日も早くご出立なされると聞いております」 「そう。そうなの。馬車の中で居眠りなんてしたら、口うるさい枢機卿殿に何を言われるかわかったものじゃありませんわ」 柔らかく笑って、扉に手をかける。 「ありがとうルイズ。今夜は本当に楽しかったわ。また来てもいいかしら?」 「は、はい。このようなところでよろしければ、いつでも歓迎致します」 にこりと微笑みで返事を返し、アンリエッタは優雅に踵を返してちょっとお茶目な様子で黒いフードを被ると、小走りに部屋を出て行った。 「……はぁ。びっくりしたわ。まさか、急に姫殿下がお越しになられるなんて……」 「……ルイズちゃん、ちょっとトイレに行ってくるな」 「え、ちょ、コーイチっ?」 そして、まるで後を追うように、自分の話も聞かず、返事も聞かずに出て行く耕一に、 「な、何なのよ……?」 怒る暇すらなく、呆然としてしまうルイズだった。 「……姫さま」 「えっ? あ、つ、使い魔さん? ど、どうかなさったのですか?」 廊下を出てすぐ、耕一が呼び止めると、アンリエッタは焦った様子で周囲を気にし始めた。 「大丈夫です。周りには誰もいません」 「……何か、ご用なのですか?」 潜めた声で、アンリエッタが耕一に向き直る。 「すいません。お節介かもしれませんが……」 耕一は、先に頭を下げながら、言葉を続けた。 「何か、悩みがあるんだったら、一番話しやすいのは友達ですよ、と」 「えっ!?」 「諦めて……時間が経てば解決する悩みならいいですけど。そうでないなら、早めに誰かに話して手を打たないと、きっと後悔します。……目上の人とかに相談しにくいような事なら、尚更」 「…………」 あんな顔をしている人を、放ってはおけなかった。 お節介でも、余計なお世話でも、放っておくのは、自分の……そう、自分の心が許さなかった。 「それだけです。突然呼び止めてすいませんでした」 耕一はそれだけ言うと、踵を返す。 その背中に、アンリエッタが見せた逡巡は、わずかだった。 「待ってください」 「はい?」 「……少し言い忘れた事があったので、わたくしも戻りますわ」 「……そうですか」 § 「―――つまり、『軍事同盟を兼ねた政略結婚がご破算になるような手紙が、それを阻止したい勢力に今にも滅ぼされようとしている王国の王子が持っている。このままでは手紙がその勢力の元に行ってしまうのも時間の問題だけどどうしよう』と、こういう事ですか?」 「は、はい。そうなります」 知らない人にはそこそこに、知ってる人にはよくわかる要約を聞きながら、アンリエッタは頷き、俯いてしまった。 「……元がわたくしの私情から始まった事ですので、母様にも枢機卿にも話せずにいたのです。ありがとうございます、使い魔さん」 「い、いえ」 見事に、『時間に任せていたらとんでもない事になっていた』悩みに、耕一は冷や汗を垂らしていた。 まさか、そんな国レベルでヤバイ悩みだったとは。 「私がその手紙、取り返して参ります!」 「……ルイズちゃん」 なんとなく予想通りの言葉がルイズから紡がれて、耕一は肩をすくめた。 「だ、だめよ! アルビオンの貴族派は、今にも王党派の篭る最後の城、ニューカッスルを包囲しようとしていると聞きます! そんな危険なところに、学生のあなたが……!」 「姫殿下の御為ならば、トリステインの公爵家であり……そして、そ、その」 ルイズは、かああっと顔を真っ赤にして、俯きながら言う。 「ひ、姫さまのおともだちである私に、否応はありません。力を貸させてください、姫さま」 「ルイズ……」 その言葉に、アンリエッタの瞳がさっと潤った。 「……行ってくれるの、ルイズ?」 「身命に代えましても」 アンリエッタは、潤んだ瞳を隠すように目を閉じると、数秒の後に開く。 その顔は凛々しく整った、王女の顔だった。 「命じます。ルイズ・フランソワ―ズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。アルビオンに赴き、密命を果たしなさい」 「慎んで拝命致します。明朝すぐに出発したいと思います」 ルイズは跪き、頭を垂れる。 アンリエッタはすぐに膝を折り、ルイズを抱きしめた。 「……無理だと感じたら、すぐに戻ってきて。絶対に、命を粗末にしないで、ルイズ」 「もちろんです」 ルイズから離れたアンリエッタは机に座ると、羊皮紙にさらさらと何かを書き付け始める。 一端ペンを置き、文面を眺め……その表情が苦悩に歪んだ後、搾り出すように、最後に一文を付け加えた。 「……始祖よ、お許しください。この手紙もまた、自分勝手なわたくしの恥部となりましょう。しかし、それでも……」 苦い顔をしながら杖を振るうと、くるくると羊皮紙が巻かれ、封蝋がされ、花押が押され……立派な密書の出来上がりとなった。 「この密書を渡せば、ウェールズ王子は手紙を返してくださるでしょう。それから……」 密書と共に、アンリエッタは自らの指にはまっていた指輪を抜き、ルイズに渡した。 透き通るような蒼色の、大きな宝石がはまった指輪だった。 「母から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りに持っていってください……お金が心配なら、売り払って資金に当てても構いません」 それから、少し考えるような仕草をすると、 「……できたらですが、一人、手練の者を護衛につけましょう。明日の朝、正門で貴方達と合流するよう手配しておきます。ですが、力及ばない時は……申し訳ありません」 そう付け加えた。 ルイズが深く頭を垂れる。 「ご配慮に、感謝致します」 「……全てはわたくしの短慮から出た杖の錆です。わたくしが力を尽くすのは当然の事……気にする必要はありません」 目を伏せて首を振り、アンリエッタは、やれやれ大変な事になったと頭を掻いていた耕一に向き直った。 「使い魔さん、わたくしのおともだちを、よろしくお願い致します」 「……ま、そんな大それた悩みだとは知らなかったとは言え、言わせちゃったのは俺ですしね。出来るだけはやってみますよ」 『内戦中の国に侵入して、負けている方の指導者と接触を取り、当国にとって外交上不利になる品物を回収せよ』 まごうことなきスニーキング・ミッション。どこぞの蛇じゃないんだからと一笑に付したくなるが、現実だった。死ぬ可能性バリバリの、"任務"だ。 そして、今、耕一は、間違っても死ぬわけにはいかない。彼は、彼一人だけの体ではないのだから。無事に帰り、楓を安心させてやらなければならない。 それは彼の義務であり、責務であり、責任であり、使命であり……何よりも、願いだった。 しかし、それでも。 断ろうとか、逃げようとかいう気は起きなかった。 ここで、見捨てて逃げてしまったら……きっと自分自身が、胸を張って楓ちゃんに会えなくなる。 エディフェルやリネットと同じ表情を浮かべる、何かを諦めなければならなかった人を、助ける事が出来る。 それらは、耕一が危険に飛び込むのには十分すぎる理由だった。 ―――まあ、王女様に恩を売っておけば、もう少し熱心に元の世界に戻る方法を探してもらえるかもしれない、という打算も、無いとは言えなかったけれども。 「……ありがとうございます」 アンリエッタは目を伏せ、祈りを捧げるように両手を握り合わせた。 「始祖ブリミルよ。今一度、身勝手な貴方の子に加護をくださいまし。アルビオンに吹き荒ぶ猛き風より、彼等をお守りくださいますように」 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/tanosiiorika/pages/1560.html
居合撃ちのエルヴィシオン C 火 コスト3 クリーチャー:ヒューマノイド 5000 ■このクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃出来ない。 ■このクリーチャーはタップされていないクリーチャーを攻撃出来る。 ■スピードアタッカー ■このクリーチャーはアンタップされたターン、攻撃することが出来ない。 (F)夜が支配する闇の谷を、マゼンダのマフラーを首に一人徘徊する少年がいた。場に似合わないその風貌、彼は何度も心荒れた者に襲撃されるも、瞬時にその刺客は腹を打ち抜かれ倒れ伏した。絶命の間際、彼はいつもこう問う。「おい、最後の発言権だ。ミスティック・メイジェの情報をよこせ。」 作者:炭塵 惨劇の開幕で生き残った少年。その時より随分強くなったようです。 関連 在るべくして在らざる罪 アンタップされたターン攻撃できないの方が分かりやすくていいと思います。コスト3で5000火力と思えば、結構なパフォーマンスですね。 -- 紅鬼 (2012-03-16 20 00 36) そうですね、修正させて頂きます。フォクシー等を基準にして割り振ったのですが…何というか、最近じゃ高スペックとしてあんまり違和感出ない強さですよね… -- 炭塵 (2012-03-17 01 26 15) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4092.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「はは。見たか? 驚いて目を剥いてたぞ」 「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ……うう、そんなの、見てる余裕なんかあるわけないじゃない……はぁ、はぁ、はぁっ……」 目的地らしき石の壁に囲まれた建物に到着したのでルイズを下ろすと、ルイズはそのまま地面にへたりこんでしまった。 荒い息をつきながら反論する口も、どこか勢いがない。 エルクゥの驚異的な動体視力ならともかく、時速100キロ超で駆け抜けていく人の表情なんて、通常の人間に観察できるわけもないのだが……。 「……ねえ。あなた、もしかして亜人なの?」 「あじん?」 息を整えながら、ルイズはそんな疑問を口にした。 なんかさっきも聞いたような言葉だな、と耕一は首をひねった。 「人の形をしてるけど、人じゃない種族よ。エルフとか、翼人とか、獣人とか、オーク鬼とか。あんな非常識なスピードで走ったり、『フライ』で飛んでる人のところまでジャンプだけで跳んだりなんて真似、メイジでもできないもの」 よどみなく解説を返す様子に、馬鹿にされてたわりには、結構頭いいんじゃないのかなこの子。などと場違いな感想を頭に浮かべつつ。 「ふぅむ……」 ひとつ唸って、考える。 亜人。人の亜種。 ニュアンス的には間違いではないかもしれない。『鬼』という生き物も、そのカテゴリーに入るようだし。 ―――それに、まあ、この身が純粋なホモ=サピエンスだ、とはお世辞にも言えないからなぁ。 いや、魔法使いが純粋なホモ=サピエンスと言えるかどうかはわからないけど。 事件の直後はちょっとその辺哲学的な意味で悩んだりもしたのだが、耕一よりはるか昔にエルクゥとして目覚めていた楓に心体共に慰められて、今ではそんな悩みもあったなぁ、程度のものだった。 貴方は貴方です。 愛する者からのその絶対の承認は、人をとても強くする。鬼を飼いならせるほどに、だ。 「まあ、厳密には違いそうだけど、そう思ってくれていいんじゃないかな」 「……そう、なの?」 答えを返すと、ルイズはどこかぼんやりした表情を浮かべた。 もしかしたらすごい使い魔を引き当てたのかもしれないという劣等生の期待と、得体の知れない力を振るう亜人に対する畏怖とが入り混じった、微妙な心境を表していた。 「と聞かれてもね……こっちの世界の生態系なんて俺にはわからないし、どうにも」 「……こっちの、世界?」 「ああ。たぶん、俺はこの世界の人間じゃないから」 ……しかしそれは、すぐに不機嫌な表情にとって変わってしまった。 「……なによ、それ」 「俺が住んでいたところじゃ、魔法なんて架空の存在だったんだよ」 「意味がわからないわ。ハルケギニアの人間じゃないって事?」 「うーん、この星というか、いや、星が違っても魔法なんか使えないか……この次元というか……ともかく、こことはまったく違うところ、というか……」 「…………」 首をひねりながら言葉を搾り出す耕一に、ルイズの眼が、どこかアレな人を見るようなソレに変わっていく。 一般相対性理論すらまったく知らない耕一には、次元やら空間やらをゲーム用語以上の言葉で語る事は出来なかった。 ……まあ、よしんば、真の統一場理論が完成していて耕一がそれを朗々と語れたとしても、 それがこの世界でも通用するものなのか、そしてルイズが納得してくれるのかどうかは、まったくの別問題であるが……。 「……まあ、とにかく、俺はその『亜人』のようなもので、すごく遠いところから来たと思ってくれればいい。だから、魔法も含めてこの辺の事は何もわからないんだ。その、はるけ? なんたらって言うのも、全然聞いた事がない」 「……ふぅん」 今のところは、それで納得してもらうのが妥当だろう。 ルイズは胡散臭げな視線だったが、それ以上追及する気はなさそうだった。 「あー、それで、ちょっと聞きたい……っていうか、さっきコルベールさんに言いそびれた事なんだけど」 「なぁに?」 塩粒ほどだった『フライ』で帰ってくる組が豆粒ほどに近付いてくるのを見やりながら、ルイズはぱんぱん、とスカートの砂を払いつつ立ち上がった。 ショックからはとりあえず立ち直ったらしい。変な話を聞かされて機嫌がナナメに傾いて、ショックどころの話じゃなくなった、というのも小さくない要因だったが。 「俺を元の場所に送り帰してくれないか?」 「へ?」 ルイズは、きょとん、と耕一を見つめた。 「いや、たぶんその『サモン・サーヴァント』の魔法だと思うんだけど、変な鏡みたいなのが目の前に出てきてさ。 それに吸い込まれかけてどう引っぱっても抜けられなかったから、近くにいた家族にすぐ戻るって言って鏡に飛び込んだらあそこに居た、というわけなもんで……」 「だ、ダメよ!」 できれば早く帰りたいんだけど、と続ける前にルイズが叫んだ。 「あ、あんたは私の使い魔として召喚されて、もう契約したのよ。さっきも、やり直しのできない神聖な儀式って言ってたでしょ?」 「……契約ってのは、お互いに同意があって成立するもんなんだけどね。まあ、そういう様子だったから言いそびれたんだけどね」 一応、空気は読めるほうだと自負している。この場合まったくありがたくなかったが。 「だ、だからよ。使い魔は主人を守るもの。ご主人様を置いてどこかに行っちゃうなんて許さないわ」 精一杯威厳があるように胸を張り、傲慢な言葉を口にしても……それが、せっかく召喚成功したのに逃げられでもしたらまた馬鹿にされる、という劣等感に満ちた震える声では、効果は半分以下だった。 同い年ぐらいの少年であれば売り言葉に買い言葉で有耶無耶になったかもしれないが、幸か不幸か、耕一は一応少女の虚勢や我侭を受け入れてやるぐらいの、青年と呼べるメンタリティは持っていた。 「……ね、君、家族はいるかい?」 「い、いるわよ。それがどうしたの?」 「どんな人がいるんだい? 聞かせて欲しいな」 「な、なによ、気持ち悪いわね。……両親と、姉様が二人いるけど」 「そうなんだ。その中で一番好きな人は?」 「……なんでそんな事答えなくちゃいけないのよ」 病弱ながらとても優しかった下の姉を思い浮かべながら、ルイズは不審がる。 「『今からお前とそいつを永遠に会えなくしてやる』」 「っ!?」 「『お前は今から見知らぬ土地でどこかの誰かに一生奉仕しろ。お前の一番好きなそいつは、お前に二度と会えない』」 「…………っ!」 少し迫力を込めた声色に、想像してしまったのだろう、ルイズの顔が蒼白になっていく。 「そう命令されたら、どうする?」 「ど、どうするって……そんな」 そんな横暴な命令聞けるわけないじゃない!と言おうとして、ルイズははっと口に手を当てた。 うん。気付いたか。やっぱり頭がいいし、いい子だな。と、耕一は頷く。 「そう。今君が言った事だよ」 「で、でも、平民は貴族に奉仕するのを喜ぶべきで」 「家族を好きな事に、好きな人と離れ離れになる悲しみに、貴族だの平民だのが関係あると思うのかい?」 「あ、あるわよっ! 平民なんて何よりも貴族への奉仕を喜びにすべきで、自分の悲しみなんて二の次でしょう!」 「じゃあ、貴族より偉い王様が君に命令しよう。『お前ごときの悲しみなんて二の次でくだらない事だ。王への奉仕に喜べ』」 「~~~っ! ヴァ、ヴァリエール公爵家の名誉にかけて、姫殿下の命は果たしてみせるわ!」 目尻に涙を浮かべて、声をあげるルイズ。 耕一は少し後悔した。このルイズという少女、予想以上に意地っぱりだった。こいつは梓以上だ。 自分で気付いてすら反発するタイプか……根はいい子っぽいんだけどな。よっぽど深く掘らないと根は見えなさそうだ。 「……とまあ、そういう事を言われると、今ルイズちゃんが感じているような心境になるわけだよ。ごめんな、変な事言って」 「べ、別に変な事なんて言ってないわ。下の者は上の者に従う。当然の事よ」 ……とはいえ、ルイズの根を包む土であるこれまでの言葉は、ここの社会では真っ当な常識なのだろう、とも思った。 それを異邦人である耕一が取り除けてしまったら、ルイズは社会に溶け込めなくなってしまわないだろうか。 鬼の血を引く柏木の者が、いかに人間社会に溶け込む事に尽力しているか。祖父や叔父、親父に、遥か昔のご先祖様、代々の表裏に至る努力を千鶴や楓から聞いている耕一は、ついそんな事を考えてしまった。 いっそ、そんな事に気付かない少年ならば、まっすぐにルイズの根まで掘り起こしてしまうのかもしれなかったが。 「それに……そもそも無理なのよ」 「何が?」 「あんたを……召喚したものを元の場所に戻す魔法なんてないもの」 「…………マジで?」 「マジよ」 それは予想外だった。いくら神聖な儀式と言っても、緊急の手段ぐらいはあってしかるべきじゃないのだろうか。 「それは、君が使えないというだけ……じゃないよな」 「ええ。そんなのがあるなんて、先生だって知らないと思うわ」 「マジか……」 「マジよ」 彼女が嘘を言っているようには見えない。 ……うーむ。あのコルベールさんの態度からして、生徒には隠されているだけ、という線もない気がしないではないけど。 呼べるなら戻せるだろう、と楽観的だった考えが覆されて、耕一もさすがに焦り始めた。 「わかった? あんたは私の使い魔をするしかないの」 「……うーむ」 悩み出す耕一に、有利に立ったと思ったのか、少女の虚勢が貴族の矜持に変わり、ルイズの言葉に余裕が出てくる。 逃げるのは簡単だろうが、剣と魔法のファンタジー世界に逃げてどうするというアテがあるわけでもない。 自然は多そうだし、身体能力を駆使すれば狩猟採集で生きていけるかもしれないが……それでは逃げる意味がないし、野良エルクゥとか洒落にもならない。 「……ぬー」 ……とにかく、彼女より知識のある人に話を聞かなければ。 元の世界への送還魔法なんて本当に存在せず、まったくのイレギュラーで呼び出されたのか。それとも何らかの関わりはあるのか。 「はぁ」 とりあえずのところは彼女についていって、機会を見つけて責任者に掛けあってみるしかないか。学院というぐらいなら、校長先生ぐらいはいるだろう。 『平民風情がこの校長に向かって軽々しく口を利くとは無礼者め』などと無礼討ちされそうになったら、その時にはエルクゥ全開で逃げ出せばいい。 当面の方針をそう結論付けて、耕一は『ごめんよ楓ちゃん。ちょっとすぐには戻れなさそうだ』と空に向かって懺悔をすると、ひとつため息をついた。 「わかったよ。帰るのを諦めるつもりはないけど、手がかりが見つかるまでは君に従おう」 「……態度が気に入らないけど、まあいいわ。ゆっくり上下関係を思い知らせてあげるから」 「王様にそう言われて心から忠誠を誓えるなら、そうするといい。子曰く、天下は恐怖でなく仁徳にて治めるべし、ってね」 「……ふん。もうその手は喰わないんだから」 物騒な事を口走るルイズに苦笑しながら、お手柔らかに、と握手を求めると、見事に無視されてしまった。 代わりに、手の甲を差し出される。一瞬意味がわからなかったが、昔見た演劇を思い出して、もう1回嘆息。 そして、膝をつき、せいぜい精一杯恭しく、その甲に口付けた。 「そうそう、あんた、君とかルイズちゃんとか呼ぶのやめてよね。ご主人様に向かって馴れ馴れしいわよ」 「ふむ。じゃあ……ミス・ヴァリエール?」 「……あんたに言われると、なんかムズムズするわね」 「ルイズ?」 「気安く呼ばないで」 「じゃあ、ルイズちゃんで」 「……うー。なんか納得いかないけど、それが一番マシな気がするわ」 そんな会話をしている内に、他の生徒たちが次々と到着して、門をくぐっていく。 「はあ。私たちも教室に行くわよ。えっと……カシワギコーイチ?」 「耕一、でいいよ。柏木が苗字で、耕一が名前だ」 「そう。まあ……ありがと。あんたのおかげで授業に間に合ったわ。あのまま歩いてたら、きっと間に合わなかったもの」 それだけ言うと、ぷいっと踵を返して、門に向かって歩き出してしまう。 ルイズちゃんの方はこれで様子を見て、とりあえずコルベールさんと話してみるか……と、これから取るべき手段を考えつつ、耕一は少しだけ微笑ましい気分でルイズの後についていった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4129.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「はは……まあ、魔法なんて物がある時点でわかってた事だけどな……」 空に浮かぶ巨大な双子の月を見上げて、耕一はどこか乾いた声を搾り出した。 なんというか……動かぬ証拠、とでもいうか。 ああ、ここは『違うところ』なんだなあ、と、昼間に『フライ』の魔法を見た時とはまた違う実感が、耕一の心に去来していた。 「月なんて見上げて、どうしたの?」 「いやあ……こっちの世界じゃ、月は一つでね。改めて、ここが違う世界なんだと実感してたトコ」 「月が一つ、ねえ……やっぱり、聞いた事ないわ」 同じく窓の方を見ながら、ルイズはため息をついた。 「そろそろ夕食の時間ね。あんた、食べ物は何を食べるの?」 「……穀物とか、野菜とか、肉とか魚とか。別に変わらないと思うぞ」 むしろ元人間です。と、エルクゥの素性を隠すに当たって言うに言えない耕一は、そんな風に言葉を濁すしかなかった。 「そう。じゃあ、ついてきなさい。食堂に行くわよ」 ベッドから立ち上がるルイズに首肯して、耕一も席を立った。 本塔の1階にある食堂は、夕食時の賑やかな喧騒に包まれていた。 ぴかぴかと光を放つ壁に床に天井。広く、高く、大きな空間に、装飾過多にしか思えない内装、壁を囲むように配置された、精緻な人形の数々。 そこでは、故郷の都会にある特殊な喫茶店で見るような外面だけの服ではない、使い込まれた本物の給仕の服を来た沢山の小間使い達が、ルイズと同じマントを羽織った少年少女の食事の世話をあくせくと行っている。 現代日本の人間に、これがおとぎ話のお城の広間です、と目の前に差し出したら信じてしまいそうな、そんな場所だった。 「驚いてるみたいね。ここがアルヴィーズの食堂。トリステイン魔法学院に住んでいる人達の食事は、すべてここでまかなわれるの。……ほら、椅子を引きなさい。気が付かない使い魔ね」 ルイズは、食堂に並んだ異様に長い3つのテーブルのうち、真ん中にあるテーブルに付いた。 周囲を見ると、生徒たちはそれぞれ、着けているマントの色が違う事に気付いた。 ルイズが着けている黒と、紫と、茶色。 黒いマントは真ん中のテーブル、紫のマントが食堂の正面に向かってその左、茶色のマントが右に集まっているように見える。 そういやさっき、1年生から3年生まで居るような事を言ってたな……と、故郷の学校のジャージや上履きの色分けを思い出した。 「『貴族は魔法を以ってしてその精神となす』。学院では、魔法だけでなく、貴族としての、貴族たるべき教育も存分に行われるわ。その食事を預かる食卓も、それにふさわしいものでなければならないのよ」 見るも鮮やかな料理を優雅な手付きで口に運び、上品に歓談し、華麗に席を立つ。 少年少女しかいないそれは多少の緩やかさを持ってはいたが、周囲で展開される光景はまさに、『貴族』という言葉のイメージ通りの光景だった。 「……で、俺はどうすればいいんだ? 適当に座れば良いのか?」 「主人と同じテーブルにつく使い魔がどこに居るのよ。今話をするから待ってなさい。ちょっと、そこのメイド」 「はい。どうかなされましたか?」 ルイズがちょうど通りがかった給仕の女の子を呼びつける。 まるで絵に描いたような欧州風の外見をした人ばかりのこの場では珍しい、黒髪の女の子だ。 肩で切りそろえられたそれが、自らの恋人を思わせた。 「これに食事を用意してあげてちょうだい。私の使い魔よ。給仕の賄いみたいなものでいいわ」 「つ、使い魔、ですか? あっ、し、失礼致しました! はい、すぐにご用意致します!」 黒髪のメイドは、困惑したように眉をひそめた後、耕一の左手のあたりに目をやり、弾かれるように厨房へと駆け出していった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今夜もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝致します」 『いただきます』にしては随分と装飾過多な言葉を口にして、手を握り合わせるルイズ。 並べられていくフランス料理のフルコースのような皿の数々。豪奢に飾り付けられたテーブルの上の花瓶や燭台。籠に山と盛られたフルーツの彩り。 「……どこが『ささやか』なんだか」 「貴族の食事としては普通よ」 耕一の呟きに篭められた意味は理解しているのか、前掛けを付けながらそんな答えを返すと、料理を口に運び始める。 その後ろで手持ちぶさたになってしまった耕一に、先程の黒髪のメイドが走り寄ってきた。 「お待たせしました。あの、賄いはご用意できるんですけど、食卓に並べるわけには参りませんので、厨房まで来てほしい、との事です」 「構わないわ。行ってらっしゃい、コーイチ。終わったら向こうの入り口で待っていればいいから」 「わかったよ。じゃあ、行ってくる」 「こちらです。どうぞ」 黒髪のメイドに、食堂の裏手にある厨房へと案内される。 「……あの、あなたが使い魔って、ホントなんですか?」 「みたいだ。不本意ながらね」 行きがてら、おそるおそるといった感じでされた質問に、苦笑しつつ左手を上げてプラプラさせると、メイドは慌てて頭を下げた。 「す、すいません。その、召喚の魔法で人を呼んだなんて、初めて聞くものですから……」 「気にしなくていいよ。えっと……君の名前は?」 「あ、私、シエスタと申します」 「シエスタちゃん、ね。俺は柏木耕一。耕一、でいいよ」 耕一の自己紹介を聞いて、黒髪のメイド、シエスタは驚いたような表情を浮かべた。 「コーイチさん……不思議なお名前ですね。どこか遠いところから?」 「ああ。この国がどこにあるのかわからないぐらいに遠くから、かな」 全てを説明してもしょうがないと、耕一はそう誤魔化す。 「そうですか……」 「……どうかした?」 「い、いえ、何も」 言葉とは裏腹に、厨房らしき場所に到着しても、シエスタはどこか考え込むような表情をしたままだった。 「シエスタちゃん?」 「あ、ご、ごめんなさい。こちらです、どうぞ」 一声かけると、慌てたように厨房の中へと入っていく。 耕一もそれに続くと、食堂の中とは異質の喧騒が耕一を包んだ。 油が爆ぜる音。 肉が焼ける音。 水が沸き立つ音。 食器の触れ合う音。 人の怒鳴る声。 せわしない足音。 前に鶴来屋の厨房を覗いた時もこんな感じだった事を思い出す。それは外の絢爛さとは似ても似つかぬ、紛れもない労働の場だった。 「おう、お前が貴族どもの使い魔にされちまったっつー平民か。災難だったなあ」 被っている縦長の白い帽子と服装からしてコックさんであろう、体格のいい男が近寄ってきて、バンバンと耕一の肩を叩いた。 「ど、どうも。あなたは?」 「ここの料理長をやってる、マルトーってんだ。よろしくな」 「柏木耕一と言います。すいません、突然押しかけて」 「なぁに、メシぐらいだったら幾らでも出してやるさ。味もわからねえ貴族のおぼっちゃん様方の貧しい舌に乗せられるぐらいなら、お前さんに食べてもらったほうが食材も幸せってもんだ。だっはっは!」 人好きのする豪快な笑いをあげて、マルトーは力コブを作ってみせた。 「はは……ありがとうございます」 「いいってことよ。遠慮はいらねえから、ゆっくりしていきな」 マルトーはひとしきり笑い、厨房の忙しさの中に戻っていった。 「じゃあコーイチさん、ここで待っていてくださいね。今お持ちします」 片隅に置かれた粗末なテーブルと椅子に腰を下ろすと、すぐに温かそうなシチューとサラダ、パンが並べられる。 食堂で見たきらびやかな料理とはまったく違うものだったが、耕一にとっては馴染みのある、素朴な装いだった。 「ありがとう、シエスタちゃん。じゃあ、いただきます」 「はい、どうぞ。では、私はお仕事に戻りますね。食べ終わった食器は、あちらの洗い場の人に渡してください」 「ああ、行ってらっしゃい。悪かったね」 いえいえ、とシエスタは笑顔を浮かべ、食堂の方に戻っていった。 「……あ、うまい」 料理は、特に前の世界と違う味がするでもなく、むしろかなりおいしかった。 唯一、サラダに含まれていた濃緑色の細い葉っぱだけは、千鶴さんの料理を彷彿とさせるようなとんでもない味がしたが、舌にエルクゥの力を込めると美味しくなったので些細な問題だった。 食べ物がおいしい事は、とにもかくにも人の生活に活力を与える。 平静であろうとしても、どこか不安に沈んでいた心が、少しだけ洗われた気がした。 「……今日は疲れたわ。私は寝るから、明日の朝は起こしてね」 部屋に戻るなり、お風呂上がりの火照った頬で、ルイズはベッドに転がった。 「起こしてねって……何時ぐらいに起こせばいいんだ?」 「そうね……2時でお願い」 学院内の5つの広場の一つ、ユミルの広場には、大きな日時計が設置されている。 日の出である0時から日の入である12時まで。夏の間は15時ぐらいまで伸びるし、冬なら10時で日が沈む。春の今なら、2時とは、日本で言う朝の7時ごろに当たるだろうか。 機械時計はないものの、時刻という概念はハルケギニアにも浸透しているようだった。 「あと、私を起こす前に、これとこれ、洗濯しておいてね」 「ちょ、うわっ! お、おい!」 「干すところはメイドに聞けばわかると思うわ」 クローゼットから薄手のネグリジェを取り出し、制服と下着をおもむろに脱ぎ出して平然としているルイズに、耕一はさすがに焦った。 「ていうか、いきなり脱ぐなっ! お、俺は男だぞ!? はしたない!」 「使い魔のオスを気にするメイジがどこにいるのよ」 「っ……はぁ。やれやれ」 取り付く島も無いと諦めた耕一は、着替えるルイズを極力見ないようにしながら、脱ぎ散らかされたそれらを拾い集めた。 向こうがどう思っていようと、耕一は健康かつ健全な男だから気にするものだ。いくらその体型が、年相応より発育の遅めな少女のものであるといっても、直視できるようなものではない。 ……まあ、恋人が似たような体型なのが一つの理由であるというのは、彼の名誉の為に黙っておくべき事柄だろう。 「俺はロリコンじゃないぞ。誓って楓ちゃんだけだ。ホントだって。信じて。信じろコラ」 「どこに向かって何を言ってんのよ……」 虚空に向かってブツブツ言い出した耕一を、アレな視線で眺めるルイズ。 「亜人だからしょうがないのかもしれないけど、恥をかくのは私なんだから、人前で変な行動は取らないでよね。じゃ、お休み」 「ん、お休み。ルイズちゃん」 ルイズが布団を被って、ぱちん、と指を鳴らすと、テーブルの上や枕元に灯っていたランプが、ふっとかききえた。 「灯りも魔法か……便利なもんだな」 ぎしり、と椅子をきしませて腕を組み、耕一は窓の外に目をやった。 蒼紅の双月が、煌々と夜を照らしている。部屋の中には、微かな風の音とルイズの寝息だけが響いている。 情緒はたっぷりだったが、先程言いつけられたお役目を思い出した耕一は、一つ嘆息して椅子に背を預け、目を閉じた。 ルイズが起きる前に洗濯をしなければならないのなら、それより早く起きなければならないという事だ。1時間は見ておかなくてはならない。 地上最強の生物、エルクゥであると同時に、必須科目以外の講義は極力1限に入れないようなぐーたら大学生であるところの耕一には、早起きなどというものは、三文の得でしかなかった。二束で。 ……中世ファンタジー世界に来てまで、情緒を楽しむより時間に追われるとはなあ、などと埒も無い事を考えている内に、意識は眠りに吸い込まれていった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4250.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「ヴェストリの広場で待つ! トリステインが武門、グラモン伯爵家が四男、このギーシュ・ド・グラモンに向かってあれだけの言葉を放ったのだ。逃げるなよ平民!」 ギーシュは言い放つと返事も聞かずにばさぁっとマントを翻し、大股で食堂を出ていった。 なんだなんだ、決闘、決闘だって? と周囲にざわめきが広がっていき、さっきまで耕一と同じようにぽかんと口を開けていた彼の友人連中は、一転わくわくした顔でギーシュについていく。 「……やれやれ。やりすぎたかな」 子供と大人の境目。人との関わりに興味はあるがまだ人を思いやれない年頃。遊ばせすぎても締めつけすぎても歪んでしまう時期。 大学では一応教職課程を取っているが、教師なんて絶対無理そうだ、と耕一は嘆息して、帰ったら取るのやめようと決心した。 「決闘、ねぇ……」 何をやるのかはわからないが、ま、たぶん子供のケンカと変わるまい。 さて面倒な事になった。 挑発した(つもりはないが、目下の者からの諌言など素直に受け入れない性質だとわかっていた上で淡々と事実を指摘するだけでも、その言葉は挑発として十分な効果を発揮するだろう)のは耕一自身だから、悔やんでもしょうがないのだが。 傍らでは、ギーシュの友人の一人が自分を見ている。どうやら逃げないように見張っているらしい。 「ちょ、ちょっとコーイチ! あんた、何やってんのよ!?」 面倒だしこのまま逃げてもいいけど……ともう一度ため息をついたところで、聞き覚えのある怒鳴り声。 見ると、ルイズが席を立ち、肩を震わせながらこっちに歩いてくるところだった。 「何、と言われてもね……ちょっと教育的指導をしたらケンカ売られた、としか」 「……まあ、見てたから知ってるし、私もあの二股は酷いと思うけど、そうじゃなくて!」 とぼけたような耕一の声に、ルイズが頭を抱える。 「どうすんのよ。勝てるの?」 「ま、子供相手に負ける気はないけどね」 「はぁ……ならいいけど。ご主人様に恥だけはかかせないでよね」 「努力するよ」 「……なんだか、大した自信ね」 ルイズと耕一のどこか余裕の態度に、ルイズの後ろについてきていたキュルケが、パチパチと瞳を瞬かせた。 「ギーシュはドットとは言えメイジ。戦争ならともかく、1対1だと平民じゃ逆立ちしても勝てないわよ? ルイズだって知ってるでしょう?」 「……そりゃ、知ってるわよ」 魔法が使えないルイズだからこそ、それは誰よりもわかっている。貴族を絶対上位たらしめている魔法というものの便利さと、恐ろしさを。 しかし彼は、エルクゥは、そんな世界の枠外も枠外の存在であった。 キュルケは、ルイズの態度に何かを感じとったのか、すぐに肩をすくめた。 「ま、あなたがいいならこれ以上は何も言わないけど」 「いいのよ。あの色ボケにもいい薬でしょう」 そう言うルイズも内心、耕一の妙な自信には半信半疑であったが、これで確かめてみればいい、と考えていた。 ―――口ほどにもなく弱かったら……覚悟しなさいよ。 「さて、じゃあ、ヴェストリの広場に行きますか」 ルイズのおっかないシグナルを背に受けて、耕一達は食堂を出た。 ヴェストリの広場は、人でごった返していた。 中央にギーシュが立っており、その周囲を囲むように野次馬が盛り上がっている。 「諸君! 決闘だ!」 耕一の姿を見つけると、ギーシュが手に持っていた薔薇の花を、ばっ、と天にかざした。 次いで、周囲の野次馬から歓声が飛ぶ。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの使い魔の平民だ!」 言っている間にも、野次馬の生徒はどんどん増えていく。 アイドルのコンサートよろしくギーシュは手を振り、歓声に答えていた。 そして、ようやく存在を認めた、とでも言うように耕一に向き直る。 「とりあえず、逃げずにきた事は誉めてやろうじゃないか」 「……一つ、確認しておきたいんだが」 「なんだね、言ってみたまえ。謝罪なら受け付けないぞ」 勝ち誇ったように、ギーシュは薔薇を口元に当てる。 「勝っても負けてもお前に得はないんだが、わかってるのか?」 「貴族の名誉を土足で踏みにじった平民に対する罰だ。十分に意味はあるさ」 ……冗談とか強がりじゃなくて、本気で言っているんだろうか、と耕一はちょっと心配になった。 現代日本の高校生が相手なら、耕一の感性も正しかったのかもしれない。しかし、彼は日本の高校生ではなく……名誉と誇りと形式と伝統を重んじる、トリステイン貴族の子だった。 「だからお前、もし勝ったら『二股がバレて弱い平民に八つ当たりした奴』になって、もし負けたら『そんな弱い平民にも負けた奴』になるんだぞ。どっちにしてもお前は女の子からモテなくなる。わかってるか? さっきの騒動、女の子達の視線はかなり冷たかったぞ」 つまりは、『平民にバカにされた』という形式的な名誉に気を取られて、本質の部分を忘れているのであった。 まあ、ただ単に頭に血が昇っただけとも言う。 「うぐっ!?」 耕一の言葉を聞いて、びしぃ! とギーシュが固まった。 そう、よく見れば、周囲を囲んでいる野次馬、大多数が血の気の多そうな男だった。 「俺を痛めつけた後に、さっきの二人に『君の名誉を汚した平民は僕が罰を与えておきました!』とか言って許してもらえると思ってるのか? 本気で思ってるなら、女心の前に人の心を勉強してこい。彼女達が何に怒ったのかもわからないんならな」 「う、うぐぐ」 「まあ、弱い奴を痛めつけただけでキャーキャー言ってくれるような尻の軽い女が好みというなら止めないが」 「だ、黙れ! それ以上喋るなっ!」 ギーシュは弾かれたように薔薇を振る。 その花弁がふわりと花を離れ、地面に舞い落ちると―――ぴかっと光を放ち、地面が軽く抉れると共に、忽然と人影が現れた。 女性のシルエットを模した、青緑色をした鎧騎士。 「行け、ワルキューレ! 奴にこれ以上囀らせるなっ!」 ギーシュが叫ぶと、鎧騎士―――ワルキューレは、猛然と耕一に向かって突進した。 人の肉体と違い、壊れる事をいとわないその動きは十分に速く、あっという間に距離を詰め、耕一の顔めがけて拳を振りかぶり、そのまま右ストレートを放ち―――耕一は、微動だにしないまま、それを顔にくらった。 ひっ、とどこからか息を呑む音がして―――ぐわぁぁん、という金属の打ちつけられた音と、ぐしゃあ、という金属の潰れた音が同時に響いた。 「―――へ」 ギーシュが、息の抜けるような間の抜けた声を上げた。 「こりゃ、金属の人形か。さすがに響くなあ」 その場に立ったままの耕一が、本当の本当に『目の前』でひしゃげた人形の腕を、手で払うようにどけた。 片腕を失ったワルキューレは、払われただけの手に突き飛ばされるようにして横に飛ぶ。 「ば、バカな。僕のワルキューレが!? 青銅のゴーレムの腕が!?」 「なるほど。青銅なのかこれ。よく出来てるなあ」 耕一の声はどこまでも平常で、ギーシュのみならず、目を伏せずに見ていた野次馬の大半が、言葉を失っていた。 昼下がりの学院長室。 秘書であるロングビルは席を外しており、その部屋ではオスマンだけがキセルをくゆらせていた。 「うむ。どれ」 オスマンが何かに頷いて、背の丈ほどある杖を振ると、机の上に置かれていた小さな手鏡が光り出した。 光が収まると、そこには……妙な場所が映し出されていた。 何かの陰なのか薄暗く、木目のある物体が見える。それは、どこか机の下から椅子を見上げている図だった。椅子の上に誰かが座ったら、その股間部がよく見えるに違いない。 「うむ、ベストポジションじゃモートソグニル。ようやった! ようやったぞ!」 オスマンが喜色満面に頷くと、無人の秘書机の下から、小さなハツカネズミが飛び出してくる。 得意げに胸を張るネズミにナッツを頬張らせてやるオスマン。 コンコン。 そんな平和な学院長室の日常は、ノック音により中断された。 「失礼します、オールド・オスマン」 「なんじゃ、ミス・ロングビルか。かしこまってどうしたんじゃ。ささ、早く机に座って仕事に戻りなさい」 「いえ、少しご報告が」 「ふむ。ま、いいから座りなさいミス・ロングビル」 「いいえ、まだ仕事は終わっていませんので……それでご報告ですが、ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで、大きな騒ぎになっています。止めに入った教師もいましたが、集まった生徒の数が多すぎて止められないと」 オスマンは呆れたように肩をすくめた。 「まったく、ヒマを持て余した貴族ほど性質の悪い生き物はおらんな。まぁ座って話せばよかろう、ミス・ロングビル。それで、決闘なんぞしておるのはどこのどいつじゃ」 「いえ、すぐに出かけますので。一人は、ギーシュ・ド・グラモン。そして、もう一人が……生徒ではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔の青年のようです」 ロングビルの言葉を聞いた瞬間、オスマンの表情が一転、引き締められた。 「教師達は、騒ぎを止めるため、『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 オスマンは目を閉じ、暫しの間沈思黙考した後、さっと杖を掲げた。 壁に掛かっていた大きな姿見がぱあっと光り、そこにはヴェストリの広場―――ではなく、何かの物陰が映っていた。部屋の中なのか、壁と椅子のようなものが見える。椅子に誰かが座っていたら、その股間部がよく見えそうだった。 「おっと。間違えた」 再び杖を振ると、今度は人の集まる広場の風景が映し出される。 ちょうど、戦乙女を模したゴーレムが件の青年に殴りかかり……その腕が、自らの力によってひしゃげるところだった。 「…………」 「…………」 平然として立ったままの青年を見て、二人の顔が複雑な表情を描いた。 『呆気に取られる』と『戦慄を覚える』を同時に混ぜ合わせたような、そんな顔だ。 「ミス・ロングビル。『眠りの鐘』の使用を許可する。どちらかが血を流した瞬間に鐘を鳴らすよう言っておいてくれたまえ」 「そのように伝えておきます」 「うむ」 「ところでオールド・オスマン」 「なんじゃね? ミス・ロングビル」 「私の机の下に仕掛けた遠見の鏡、次までに撤去しておかなければ叩き割りますね。修理費は学院長のポケットマネーから出しておきますので」 「カーッ!」 学院長室は、今日も平和だった。 「―――で、これで終わりかい? こっちが話をしている時にいきなり襲うなんて、貴族の名誉ってのは随分と軽いんだな」 「くっ! それ以上の侮辱は許さんっ!」 ぶん、ぶん、とギーシュが薔薇を振り乱すと、次々と光が生まれ、ゴーレムが生み出されていく。 「もう手加減はしない! 『青銅』のギーシュが奥義、七体のゴーレムによる同時攻撃を受けるがいい!」 素手だった最初の人形とは違い、剣や槍をそれぞれに持ったワルキューレ達が、ざっ、とギーシュの前に整列し、その武器を耕一に向けた。 耕一は、慌てる事もなく、ゆっくりと左手をあげ……覆うように、顔を隠した。 「力で他に言う事を聞かせる。それは自然の摂理なんだろうな」 だからエルクゥは生まれた。復讐の力の為に。 「い、今更命乞いかっ!?」 「だが、全てを力で解決するのならば、それは人である必要がない。事に当たり、知恵を、情を、言葉を尽くす者を人と呼び、人こそが鬼を従える」 だから、人でしか、鬼は飼えない。 「な、何を言っている!」 「お前は餓鬼だ。どうしようもない餓鬼。そして、餓鬼ならば鬼だ。ちっちゃな糞餓鬼とはいえ鬼ならば、力を振るう事に容赦はしない」 ぴぃん、と空気が張り詰め―――耕一の左手の甲に描かれた使い魔のルーンが淡く光を放ち始めたのを見る事が出来たのは、正面からそれを見つめていたギーシュと、最前列でじっと彼を見つめていたルイズだけだった。 「見せてやろう。我は鬼。人を狩る鬼。宵闇の狩猟者―――エルクゥ」 ギーシュには、手で顔を覆った耕一の眼が、赤く、鮮血のように赤く光ったように見えた。 「行くぞ。糞餓鬼」 微かに彼の足がブレた次の瞬間、耕一の姿は、整列するワルキューレの目の前にあった。 「ひぃっ!?」 「っ!?」 ギーシュだけでなく、耕一にも驚きの表情が走った。 ―――体が軽すぎる。 だが、鈍いよりは問題ではなかった。思考を切り替え、そのまま右腕を真一文字に一閃させる。 しゅりぃぃん、と耳障りな金属音がして、7体の青銅人形は、例外なく真っ二つに切り裂かれた。 腰から上下に別たれた人形達が崩れ落ち、文字通り土に還っていき……腕を振り抜いた風圧で、真後ろにいたギーシュが弾き飛ばされるように吹き飛んだ。 「がふっ!」 したたかに背中を打ち付け、息が漏れる。その飾りシャツの胸元が、風圧によるものか、ぱっくりと真横に切り裂かれていた。 次の瞬間、どんっ、と鈍い音と共に、目の前に耕一の顔があった。 滲む目で彼の右腕を見ると、自らの顔の横の地面にそれが突き刺さっている。ありえない、とギーシュは身体中が震えるのを感じた。 「続けるかい」 ギーシュは言葉もなく、ぶるぶる、と首を横に振った。 耕一が地面から腕を抜き、立ち上がっても……ヴェストリの広場は、静寂に包まれたままだった。 「……『眠りの鐘』は、必要ありませんでしたわね」 「そうじゃな」 ロングビルが許可の旨を報告に出て行こうとした時には、既に決着はついてしまっていた。 「神の左手『ガンダールヴ』……あらゆる武器を使いこなす、との事でしたが」 「武器なぞ使わんかったな」 「さすが伝説、と言えばよろしいのでしょうか。それとも、伝説と違う、と言えばよろしいのでしょうか」 「今の時点でわかる人間がいたら、そいつは始祖の生まれ変わりじゃろうて」 オスマンは、どうでもいい、というように髭をしゃくった。 「『眠りの鐘』についてはもういいじゃろう。ミス・ロングビル、ミスタ・コルベールをここに呼んでくれたまえ」 「かしこまりました」 ロングビルは一礼して、学院長室を出て行った。 「さて、どうするかのう……」 オスマンは、思い詰めたようにため息をついた。 「……名残惜しいが、さすがにマジックアイテムを弁償するのは勘弁じゃしのう。はーあ」 そっちかよ! と肩の上にいたモートソグニルはツッコミを入れざるを得ず、少しだけ知能が上がったのだった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4492.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「ついに来たか!」 アルビオン国王、ジェームズ一世は、部下からの報告にしわがれた声で気勢を上げた。 「はっ! 『レコン・キスタ』総司令官、オリヴァー・クロムウェルの名で、明日の正午に全面攻撃を開始するとの次第、伝えて参りました!」 片膝を付いた衛兵が、威勢良く報告の声をあげる。 「恥知らずの坊主風情めが。言いおるわい」 「その連中にここまで追い詰められているのは僕達さ、パリー」 「腹立たしい事この上も無きですな。しかし、こちらには殿下のもたらした硫黄がございます。せめて死に際の恥ぐらいは雪ぐ事が出来ましょうぞ」 「めでたい事だ。これは今夜の宴が楽しみだな!」 「ほほ、早速準備させませぬとな。ほれ! 祝宴の支度じゃ! ぼやっとしとらんと各部に通達せい!」 「は、はっ!」 パリーの一喝に衛兵が慌てて駆け出していくと、玉座の傍らに立つウェールズとパリーは朗らかに笑った。 時は朝。アルビオンの寝ぼすけな太陽は、いまだ地平線に姿を見せていなかった。 § 「そう、明日にはもう……」 「ああ。先ほど向こうから宣戦布告があったそうだ。それに応じ、明日の朝にイーグル号とマリー・ガラント号が出港する。僕達はそれに乗って帰るわけだ」 与えられた客室で、ルイズは何をするでもなく外を見たり、貰った手紙をいじくったりしていた。耕一はその横で、手紙を奪おうとするような刺客が窓の外あたりから来ないかどうか目を光らせながら、デルフリンガーと雑談をしたりしている。 ワルドが報告を持ってきたのは、そんな折であった。 「ついては、今日の夜に祝宴が開かれるそうだよ。是非大使殿一行にも参加してほしい、だそうだ」 「祝宴……」 出陣前の宴席。 他の所の適当な戦争ならそれはさぞ華々しいパーティになるのだろうが、玉砕が目に見えている今この状況では、それは物悲しさ以上のものをルイズの心にもたらす事は出来なかった。 いや―――他のそういうパーティだって、華々しさなんて表面だけで、実はこんなに悲しいのかもしれない。 ノブレス・オブリージュ。力ある者の義務と誇り。 少し前までルイズの存在の基盤であったそれは、昨夜の思索とも相まって、随分ともろい物のように感じられた。 「さて、その余興というわけでもないのだが、ミスタに一つお願いがあるんだ」 「俺にですか?」 「ああ。……一手、お手合わせ願えないか、とね」 「ワルドッ!?」 ルイズが目を見開いて立ち上がる。耕一は、一手? はて暇潰しの将棋―――じゃなくてチェスか何かか。と首を捻っていたが、その反応でふと、学院にいる時の事を思い出した。 「決闘……ですか?」 ワルドは答えず、ニヤリと口元だけに笑みを浮かべた。その通りであったらしい。 「なに、他意はないよ。純粋に、現在のルイズのナイトである君と技をぶつけ合いたいだけさ。これでも、杖一本で衛士隊隊長まで昇りつめたという自負があるものでね。武人としての心が疼くのだよ」 決闘というより、組手だね。そう言ってワルドはまた笑った。 「……俺、亜人なんで、使えるのは持って生まれた力だけですよ。そういう武を競うみたいな戦いを期待されても困っちゃうんですが」 「構わんさ。僕のけじめでもあるんだ。そう固く構えてくれなくてもいい」 婚約者として他の男には負けられん、という事だろうか。なるほど、同じ男としてわからなくもない。 熟した男性の雰囲気を漂わせているが、案外熱い奴なのかもしれなかった。 「……まあ、そういう事なら。怪我しないようお手柔らかにお願いしますよ」 「ふふ。武装した夜盗の集団を秒で蹴散らす男の言葉じゃないぞ? 本気でやらせてもらうから、怪我をしたくなければ気張りたまえ」 ふっふっふ、と含んで笑いながら腕を合わせる男二人に、ルイズは付き合ってられないわ、とばかりに視線を外した。 空に一筋の流れ星でも駆けてやしないだろうか。それとも、稲光が荒れ狂っているか。 「ルイズも立ち会ってもらえないか?」 「ええ? 私も?」 しかし、そんな男の世界に入りきれないルイズを知ってか知らずか、ワルドは引き込もうとしてくる。 「男と男の決闘だ。両者に縁のある女が見てくれていれば気も張るというものさ」 すかした事を言いながらもどこか子供っぽいワルドの口調に、ルイズはやれやれ、と肩を竦めた後、仕方なさげに立ち上がった。暇だったのは確かであるし、彼らの実力自体にも興味があったからだ。 「わかったわよ。二人とも、そんなお遊びで怪我なんてしたら承知しないんだからね」 ワルドが、誰にも気付かれないぐらいに小さく、ニヤリと口元を歪めた。 § ニューカッスル城は、岬の突端に位置する。 それは陸の要所を守る砦ではなく、空の要所を見張る港だ。規模は小さくとも、そこは贅を凝らした貴族の邸宅ではなく、実用一点張りの軍施設の一つだった。洞窟の隠し港などはその最たる仕掛けだろう。 よって、練兵場などの施設には事欠かない。今回の戦の準備には使われないその一つを借り、ワルドと耕一は静かに対峙していた。 「音に聞くトリステイン魔法衛士隊の隊長と、亜人の使い魔殿との立会いとは!」 「なかなか粋な見世物をなさる! さすがは大使殿よ!」 「おやグレッグ候、もう飲んでいらっしゃるのか? 宴は夜からというのに、気が早いですぞ」 「かっかっか! こんな最高の肴を前にして、酒がなくっちゃ始まらんじゃろうが!」 「違いない! わっはっは!」 その周囲には、アルビオン貴族達が緩やかな輪を作って笑いあい、宴の準備からくすねてきたのか酒を持ち込んでいる老貴族までいた。 ルイズは、向き合う二人の真ん中に立って頭を抱えながら……隣に立っている、王立空軍大将、本国艦隊司令長官に目を向けた。 「……もう、ウェールズ殿下までこんなところにいらっしゃって。しかも介添人だなんて」 「ははは。この死地までついてきてくれた皆、生粋の武人だ。技を競う決闘と聞いてじっとしていられる者などおらんよ。その介添人になれるとあらば、これ名誉の一言だ」 端整な顔に人好きのする笑みを浮かべて、ウェールズは笑った。 明日の昼にはその死地の真ん中に飛び込むというのに、どうしてこんなに笑っていられるのだろう。 ルイズは、アンリエッタにアルビオン行きを誓った時の自分の心を思い返しながら、そんな事を思っていた。 あの時は、何の迷いも無かった。いや、今だって、この任務は何より大事のはずだ。命に代えてもと思う気持ちは変わらない。 なのに……この、彼ら誇り高きアルビオン王党派の、真に貴族の誇りたるべき場面を前にしての、この寂寥感は……何なのだろう―――。 「両者、よろしいか」 杖を高く掲げたウェールズの声と静まり返る場に、ルイズは思索から引き戻された。 ざり、と、どちらかもわからない靴が砂を噛む音がする。 ゆっくりと、金属と金属が擦れあう音がして、ワルドがその細身の突剣に見立てた自らの杖を抜き放ち、フェンシングのように構えた。 耕一は、足を軽く開いた自然体のまま、じっとそれを見据えている。 「―――はじめッ!」 ウェールズが杖を振り下ろす合図とほぼ同時に、ワルドが翔けた。 その迅さはまさに風。スピードだけなら、エルクゥにも遜色のない突進だった。 「『閃光』のワルド、参る!」 「くっ!」 二つ名通りの閃光のような突きが走る。 剣に見立ててあるとはいえ、あくまでも杖であるそれの突端は丸く、青銅ゴーレムの全力パンチですら平然と受け止める耕一には牽制の効果すら見込めない。 「相棒! 避けろ!」 「っ!?」 デルフリンガーの一喝で、耕一はざっと飛び退り、ワルドから距離を取った。 「よく見破った」 びゅうん、とワルドの杖の周りに風が渦巻く。目には見えない空気の刃がそこにある。 「『エア・ブレイド』だ。いつの間に唱えたんだ」 『ブレイド』。杖の周りに、地水火風四属性の刃を纏わせ、己が剣と成す魔法。 風のスクウェア・メイジであるワルドの使うそれは、『エア・ブレイド』。目に見えぬ風の刃は、距離を狂わせ、回避を困難とする。 「僕の『閃光』の二つ名は、詠唱の速度から来ているのだよ。さあ、この切っ先、触れれば斬れるぞ!」 ワルドが構える。 「……どんな装甲だろうと撃ち貫くのみ。とか言えばいいのかな、ここは」 右手の指を猛獣の爪のように見立ててパキパキと動かしながら、耕一は目を細めた。 じり、じり、とお互いに円を描き、目配せで牽制しあい……先に飛び出したのは、耕一の方だった。 神速で懐に飛び込み、腕を真横に一閃。 「速いな! だが、当たらぬ!」 「くっ!」 しかし、ヒラリと身軽にそれをかわしたワルドが『ブレイド』を袈裟懸けに振り下ろす。 耕一は真後ろに跳躍して回避し、二人は先程と同じ位置に戻った。 その一合で、周囲を囲むアルビオン貴族の喧騒はぱたりとやみ、皆顔を引き締めた。この試合、一瞬たりとも見逃しては恥だとその顔が心境を表していた。 「だああっ!」 「ふんっ!」 再び耕一が突撃し、ワルドがかわす。もう一度。しかし当たらない。 エルクゥの致命的なパワーもスピードも、当たらなければ意味は無かった。 「力だけでは風のメイジに当てる事は出来んよ。其は風に舞う木の葉の如く。落ちる木の葉を掴もうと力をこめればこめるほど、その力の起こす風に木の葉は飛ばされ、掴む事叶わぬ」 そんな事を言いながら、ヒラリヒラリと耕一の腕をかわして『ブレイド』を振るうワルド。反射神経で『ブレイド』をかわす耕一。 距離を離し、三度、遠目に対峙する。 「…………へへ」 知らず、耕一の顔に笑みが浮かんでいた。 魔法という反則が存在するとはいえ、エルクゥに比肩しうる技術と速度を持つヒト。 それは、耕一の心を躍らせた。 人なる身でエルクゥを打倒する。それが可能ならば―――呪われた一族は、ただの猛獣に過ぎなくなるのだから。 耕一は、笑みを隠さないまま、デルフリンガーをスラリと抜き放った。その左手のルーンが淡く輝き出すのを、ワルドが目を細めて見つめている。 「お、俺の出番かい? 相棒!」 「アレに武器なしじゃちょっと辛いもんでね。力を貸してくれ!」 「おう、任せな! へへ、やっとの出番だ。これはオイラ活躍フラグじゃね!?」 構えるは、八双の型。次郎衛門の記憶から、というより、体が勝手にこの構えを取っていた。 体が軽い。ワルドの微細な動きに合わせて自然に対応してくれる。まるで剣の達人にでもなったかのようだ。 「不思議な構えだな。だが隙は無い。君の故郷の技か……ふふ、興味深い。その力、見せてもらおうっ!」 ワルドが跳ぶ。 「相棒っ! 『ブレイド』に俺を当てろっ!」 「っ!」 「なにっ!?」 デルフリンガーの叫びに答える事が出来たのは、この不思議な体の軽さのおかげだっただろう。 長剣は杖の先に巻きつく風に当たり、そのまま鍔迫り合い―――をする事なく、何の衝撃も起こらずにその風の刃が掻き消えた。 「うおっ!?」 「くっ!」 てっきり剣同士のぶつかりあう衝撃があるものと思っていた耕一は、思いっきり剣を振り抜いてしまった。 ワルドも、なぜか消え失せてしまった『エア・ブレイド』を再び纏わせるのが精一杯だったのか、その隙の追撃はなく、二人はお互いに跳び退って距離を取る。 「へへっ、どーよ。チャチな魔法だったらいくらでも吸収してやるぜ!」 「先に言えっ!」 耕一の簡潔な抗議に、周囲を囲んでいたアルビオン貴族の中でまだ余裕のある者は、然りと頷いた。めんごめんご、と謝るデルフリンガーに、あまり謝意はなさそうだ。 「……魔法を吸収するとはね。城が一つ買える値段がつくぞ。ヴァリエール家の宝物か何かかい?」 ワルドが涼しげな笑みを浮かべながら、杖を構える。 「場末の武器屋で金貨100枚で買った、って言ったら信じる?」 「それは……掘り出し物もいいところだね。―――さて、やはり、まともに叩くのは無理か。二つで満足しておくしかあるまいな」 ワルドの笑みが、徐々に獰猛なそれに変わっていく。 「くるぞっ! 相棒っ!」 ワルドの『エア・ブレイド』が不意に解除されたかと思った瞬間、ぶおん! と大きな音が鳴った。 台風の中、暴風に煽られたかのような衝撃。『ウィンド・ブレイク』の魔法が耕一を襲う。足を踏ん張ってなんとか踏み止まり、本能的に剣を掲げた顔の正面だけに緩やかなそよ風が吹いた。 「横だっ!」 その隙に、ワルドは耕一の側面に回りこみ、『エア・ブレイド』を構えて突進してくる。 迎え撃つように耕一が跳ぶ。今度は振り切らないように、デルフリンガーを風の刃に当てて迎撃―――。 「フッ……」 「なにっ!?」 ぶぅん、と、ワルドの刃が振られるはずの場所を迎え撃とうとした耕一の剣が空を切った。ワルドは杖を微動だにさせないまま、耕一の横をそのままの勢いで通り過ぎていく。 その先には―――介添人である、ウェールズとルイズが立っていた。 § 二人の顔が驚愕に歪む前に、ガンダールヴが振り向く前に、周囲のボンクラどもが事態に気付く前に……自らの『ブレイド』はその使命を全うする。ワルドはそう確信して、疾駆する速度を上げた。 その使命とは―――彼の所属する『レコン・キスタ』の敵、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーの命。そして、その傍らに立つルイズの持つ、アンリエッタの恋文。 その二つがあれば、『レコン・キスタ』は瞬く間にアルビオンとトリステインをその版図に含める事が出来るだろう。 もう一つの目的は、ルイズ自身であったが……手紙と一緒に気絶させて持ち帰り、もう一度話をすればいい。どうしても反抗するのであれば、その首を手折るまでだ。 そんなワルドの計算は、9割9分までが正解だった。 唯一の誤算は―――ルイズの心を、無力な子供と舐めすぎた事だった。 § コーイチの横をすり抜けて、ワルドが向かってくる。その顔には、見た事もないような獰猛な笑み。 心が真っ黄色に染まる。それは、エルクゥの警告信号。 『敵に、気をつけろ』 それまでのルイズであれば、きっと何も出来ずにいた。 事態を把握できず、事実を認識できず、状況の動く様子を眺めるだけであっただろう。 しかし、今のルイズは、違う。 事態を把握し、事実を認識し、状況を見据える。そうあろうと決めたルイズの心は、明確に判断を下した。あれは敵。狙っているのは、自らの傍らに立つ、おともだちの大事な人。 振り向きつつあるコーイチの足では間に合わない。周囲の貴族達もまだ事態に気付いていない。唯一間に合うのは―――自分だけだ。 ルイズは、とんっ、と軽く床を叩く靴音を残し、兇刃と、刃の狙う先との間に、その小さな体を滑り込ませた。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/sokulibe/pages/381.html
ここは自愛のエルフィートについてのページです。 最終更新日 2017/03/27 #ref error :画像URLまたは、画像ファイル名を指定してください。 基本情報 ☆3 火属性 アーチャー Lv160ステータス 能力 数値 体力 6468 攻撃力 4963 素早さ 371 アビリティ 名称(習得Lv) 効果 スピードライズ(Lv25) 素早さを10%上昇 火の力(Lv50) 火属性攻撃力を15%上昇 金炎の貴公子(Lv75) 体力が80%以上の時、火属性攻撃力25%上昇の強化効果を付与 特性 地属性に少し強い 水属性に弱い + バックストーリー … 今日も私を見つめる眼差しがある。 女子は皆黄色い声を上げ、花束を持ち、私の存在を奪い合う…。 私は誰にでも愛されてしまう罪深き… … 目を覚ました私は額に手をやる。 夢…?ここは何処だ? 見慣れない部屋、見慣れないベッドで横になっている。 何をしていたのだったか…確か…。 周りを見渡すと、女がこちらを見ている。 まずい、何か…猛烈にまずい! パズルのピースが合わさるように断片的な記憶が蘇ってくる。 「いったい私に何をした!?私は…私はどれだけここに居る!?それから…飲ませた物は何だ!?」 女は不敵に笑い囁く。 「質問の多い子ねぇ。さっきまではあんなにも大人しかったのに…ウフフ。」 想像が悪い方へと進んで行く。 まずい、この女はまずい、猛烈にまずい! とにかく逃げなくては…何がなんでも! 「あら、帰っちゃうの?ゆっくりしていけば良いのに」 「わ、わ、私に構わないでくれ!頼む!」 ドアをこじ開けて外に飛び出る。走れ! そこは知っている風景だった。 旅路で立ち寄ったマーニルの街。 珍しく私に声を掛けてくる女性がいた。 私の魅力に気がつく女性がやっと現れたと、うつつを抜かしていた結果がこれだ。 この街は直ぐに出よう。 あの角を曲がれば宿屋だ。 直ぐに身支度を整えて…。 「忘れ物よ。この弓、大事なものでしょ?」 「うわああああああああ!!」