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飛翔、上昇。空、加速加速加速。 黒いわたくしのウイングが、デジタルの空気を裂いて飛ぶ。ここは丘陵ステージ、飛行を妨げる遮蔽物の無いこの開けたステージは、わたくしのようなアーンヴァルタイプが最も得意とする領域。程無くして、対戦相手を視認する。フォートブラッグタイプ、セカンドランカーのフォトンさん。マスターによれば彼女は空を飛ぶ者の“天敵”らしいのですが、今の彼女は、あまりにも無防備。高高度から接近したわたくしに気付いてすらおりません。 「今なら・・ですのっ!!」 急、降下加速、射撃銃撃乱射乱射乱射。掠、掠、直撃。 雹のように突き進む、わたくしの黒。霰のように撃ちつける、マシンガンの弾丸。彼女は直前で回避行動に移り、致命傷には出来なかったものの、よろめいたその姿は弱々しい。 「もう一度でっ!!!」 重、起動。歪。 「えっ!?」 彼女のバックパックが光を放った。刹那、“世界”が戦慄いた気が、して・・・ 重圧。侵略伝播制圧圧縮、重圧重圧重圧重圧重圧、墜落。 「あぁうっ!!?」 気付いた時、目の前にあったのは地平線・・・が逆さまに。わたくしはもう空ではなく地面にいて、地面に打ち付けられていたのだと、激痛の後に知りました。それでも尚、地面は沈み、空気が縮み、視界は歪んで、わたくしの意識も遠く・・・・・・。 『勝者、フォートブラッグ、フォトン!!!』 「もう、飛ぶのは嫌ですの」 トゥールー、私の神姫は擦り切るように言う。昨日、“絶空”フォトンに負けてからずっとそう呟いている。私は、彼女の事も心配だけど、丁度作業からも手が離せないところなので、手元への注意を半分だけ、彼女の声に向ける。 「そうは言っても、あんたって飛行型でしょ? 今更怖いとか言う? って言うより、今まであんな楽しそうに飛んでたじゃない」 「でも! あんな風に“堕ちる”なんて事、今までありませんでしたから・・・。まるで、空が重くなってわたくしを拒絶したみたいに・・・」 「・・・水泳好きが溺れて水恐怖症になるみたいなものか」 まあ無理も無いかもしれない。“絶空”フォトンの特殊装備は擬似重力発生装置だったらしく、バーチャルフィールドが歪んだ用に見えた瞬間、私の見ている目の前で、トゥールーはバトルフィールドの天井から地面まで一気に墜落した。そのまま、戦闘不能で勝負はおしまい。 武器詳細を知らなかったとは言え、うかつに戦わせた私も悪かった。自責の念から、今度は完全に手を止め、彼女の方に振り向く。 「トゥールー、今回は残念だったけれど、気分を変えればまた飛ぶ事だって・・・」 「そうですの! 良く考えたらスピード感を楽しむのに高く飛ぶ必要はありませんでしたの! 思えば、今までどうしてあんなに面倒な事をしていたのでしょう! 低く飛べば高度計算も気流観測も相対距離算出もかんたんですの♪」 「・・・It’s comfy・・・」 心配して損した。 「大体、今の装備では折角マスターが作って下さっている靴が履けませんもの」 すっかり機嫌を戻した彼女が、私の手元に顔を伸ばしてくる。今私が手掛けているのは、小さなルージュ色のピンヒール。店の仕事でたまに作る、オーダーメイドの靴の要領で製作しているトゥールー用の靴だ。彼女としては、これを試作品に神姫用の靴ブランドを立ち上げたいんだと言う。 「・・・って、こんな靴でバトルはやらないでしょ普通」 「え? でも、親切な殿方が『ヒールでぐりぐりは最高の攻撃力だ』って言っておられましたよ?」 ・・・何処のマゾ野郎だか知らないけれど、またこの子に変な知識を覚えさせて。見つけたら去勢してやる。 「・・・バトルで使いたいならそれ用に作ろうか? 走りやすくスニーカー・・・は作った事無いけれど頼めば型紙とか寄越してもらえるし出来ない事も無いよ」 「そうではありませんの! 一目に触れるバトルでこそ、美しく着飾る必要があるんですの!! ホラっ、わたくしが独自に調べたアンケートでも神姫の大多数がバトル前に最も身だしなみを気にすると回答しているですの!」 小さなフリップに描いた円グラフで熱弁するトゥールー。いつもの事ながらどうやって調べているんだか。まあ武装神姫にとってバトルはダンパみたいな感覚なのかな? それなら気持ちは判るけれど。 「でも、そうなると今の作りじゃ強度が危ないな。かと言ってこれ以上コスト高になったら量産しても捌けるか・・・」 「その点は心配ありませんの! わたくしのアンケートでは神姫ユーザーのおよそ半分が神姫用靴ブランドを待ち望んでいるという結果ですの! 特に殿方には『ローファーでオーバーニーソックスもあれば絶対ハアハァ』などと言った意見もあるのですから、後の商品展開も含めて売れないなんて事はまずありません! 何より、マスターの作る靴なんですもの」 素直に喜べない。トゥールーに誉められるのはいい、他の神姫に喜ばれるのもいい、けれどそれより圧倒的多数の野郎共の情欲の道具にされると思うと、どうしても。この子がそんな事には気付きもしない分、尚更ね。 武装神姫の主要ユーザーは男性。そういうニーズがあれば、メーカーもそれに合わせて作るのは当然。神姫の「心」は自由じゃない。例えば、このトゥールーの媚びたお嬢口調。 「・・・ねえトゥールー、前から言ってるけど、その言葉遣いどうにかならない? 今時“~わ”とかすら使う女なんて居ないのに“~ですの”なんて、野郎の幻想の中にしか居ないよ」 「ああ、ですからお優しくして下さる殿方が多いですのね」 「いやそうじゃなくて・・・」 どうしても彼女には私の危惧が伝わらない。只でさえこの子は限定カラーで目を引くんだから、その辺のキモオタ野郎共に拉致される可能性は低くないのに、何度言ってもトゥールーは男を警戒しない。これも、プログラミングなのだろうか。 「マスターは、殿方が嫌いなんですの? それでは恋愛も出来ませんわ」 「欲情だけで動いている連中とは死んでも嫌だね」 「ですけれど、男も女も同じ人間ではありませんの?」 ひたすらに無垢に、疑問の視線が返って来る。それは確かに天使の笑み。けれど邪な心じゃ触れられないとか言う便利な機能は付いてないんだから、もう少し自覚してもらわないと困る。声を整えて、少し強い口調で忠告を始める。 「・・・いい、トゥールー。男と女ってのはね、同じ人間って言ってもevenじゃないの。言わば足と靴なの! 触れ合って同じ感覚を共有する事があったって、本質的には別の存在なんだよ」 「靴が女性で、足が殿方ですの?」 「逆っ!! ・・・男ってのはね、量産された幻想の足型で女を測って、それに合わせさせようとするけれど、結局実際に足を動かして疲れるのは女ばっかりなの! 子孫を残すのも、家庭を支えるのも、結局女が全部やるんだから。男は靴底すり減らして給料稼ぐ位しか出来ないのに、女が下手に出る必要は全く無いの!! 靴が足を選ぶ道理なんて無いでしょ?」 「ですけれど、顔をオーダーメイドするのは女ばかりではないのですの?」 思いがけず反論を飛ばすトゥールー。表情は、穏やかなままで。 「・・・あれはエステの一種と思いなさい。ともかくね、生身と人工物程違いがあるんだから相容れなくて当然、無理して合わせて靴擦れして痛い思いするなんて馬鹿みたいじゃない」 「神姫と靴でしたら、どちらも人工物ですの。丁度いいのではありません?」 再度、彼女からの刺。思わず「さくっ!」と擬音語を叫びたい程に突き刺さる。そこまで、男を擁護したいの? それが、貴女の意思だと言うの? ・・・そうかもしれない。確かに相容れないとしても、歩み寄りたいと思う、それも男と女の本質かもしれない。逆に諭されたのか、私は。 「・・・ごめん、私も言いすぎた。そうだね、私がどう思っているにしろ、貴女が男とどう付き合うかなんて貴女自身が決める事であって・・・」 「それに、神姫なら足のサイズが皆同じですから、その分バリエーションにこだわれますし、お友達と履き替えっこしたりや、部屋用、お出かけ用、バトル用なんて風に何足も揃えても履けなくならないので困りませんの。あ、もし飽きて捨ててしまっても、神姫の使ったものなら別に汚くはありませんから中古価値も高いですの」 「・・・why?」 ちょっと待って、今、物凄い事を口走ったよ、この子。でももしかして靴の例えを神姫用靴の話と取り違えたのかも・・・でも話の流れからすると間違えるとも思えないし。それとも、トゥールーって無駄にマイペースな所があるから、今のも、今までの反論も他意のない思いつき? いやそれにしても・・・。 「ねえマスター、そう言えば、靴下は何に例えるんですの?」 「・・・結婚かな。摩擦を抑えるって意味で」 気にしないことにしよう。うん、それがいい、そうしよう(というか考えると怖い) 「あ、そう言えば。トゥールーはもう飛びたくないんでしょ? でもスピード感は欲しいと」 「でも、脚部換装して地上戦というのも、結局マスターの靴が履けないから嫌ですの」 「じゃあさ、面白い事考えたんだ。これなら靴は何履いてもいいし、スピード感はあるし、何よりit’s stylish!」 「それは、何ですの・・?」 「それはね・・・」 オムニバスなのに続く!!(え~) 目次へ
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神姫一覧 バージョン 名称 オンライン限定 忍者型フブキ 第1弾 天使型アーンヴァル 天使型アーンヴァルB 悪魔型ストラーフ 悪魔型ストラーフW 第2弾 犬型ハウリン 犬型ハウリン(凛) 猫型マオチャオ 猫型マオチャオ(まお) 兎型ヴァッフェバニー 第3弾 騎士型サイフェス 侍型紅緒 サンタ型ツガル 第4弾 花型ジルダリア 種型ジュビジー 砲台型フォートブラッグ 第5弾 セイレーン型エウクランテ セーレーン型エウクランテB マーメイド型イーアネイラ マーメイド型イーアネイラ イルカ型ヴァッフェドルフィン 第6弾 寅型ティグリース 丑型ウィトゥルース 建機型グラップラップ *
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SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-4 gavotte 「ヒューマノイド・インタフェイス?」 「そう。人によって呼び方は様々だが、ようは人体を模した駆動義体の総称さ」 現在の2030年代に入ってから、人は様々なロボットを実用化してきた。 武装神姫もそうしたロボット開発の中で創り出された、人のパートナーとしてのアンドロイドの一種だ。 武装神姫は日常生活におけるマスコットとしての要求から、その大きさは14から15センチとなった。その一方、医療における義肢・義体の研究、純粋労働力としての可能性の研究としてのロボット開発も行われていた。駆動義体とは、そうした目的で作られた人体、もしくはその部分的な要素を模した機器のことを指す。 「でも、等身大の駆動義体なんて存在するのかしら?」 ふたり仲良く首を傾げる伊吹に、神楽さんがちっちっちっと舌を鳴らす。 「何だってアンダーグランド……裏社会は存在するものさ。表向きにはないとされているものが、本当に存在しないとは限らないのだよ?」 神楽さんの話によると、一般レベルでは様々な法・倫理的な問題で人間大のアンドロイドは実在しないとされている。が、裏の社会ではすでにそういったものの開発に成功しているらしい。 驚くシュンたちだが「考えてもみたまえ。全高15センチのオート・マタが存在するんだ。だとしたら、それを等身大にしたものが開発されていても、何ら不思議なことはないだろう?」と神楽さんに言われると、なんとなく納得できる。 確かにたった全高15センチほどで、あれだけの機能を備えた武装神姫がすでにいるんだ。むしろ、技術的な面で言えば人間を模したロボットを作るなら、人間と同じ大きさの方がいろいろと面倒がないんじゃないか? 「早い話、そういうことだよ。実験目的、研究開発、または趣味嗜好などなど……アングラなところでは様々な需要があるのだよ」 具体的にはどんな?――試しにシュンが聞くと、神楽さんは「君は知らなくてもいいことだよ」といい笑顔で返された。 みんなの方を向くと「シュッちゃんにはまだ早いわよ」と伊吹にいい笑顔で肩を叩かれた。 「いや、待てよ? 何かすっげー気になるんですけど……」 「…………えいっ」 「イタタタタッ!? ちょっ……足っ、足踏まれてるんですけど、伊吹さん!? つーか本気でいたっ……痛い、痛いってのっ!?」 耕一とチカが苦笑する。なんかその心配する表情がグサッとくるのは何故だ? 「ま、戯れるおふたりはそっと無視しておくとして……そのヒューマノイド・インタフェイスというものを使えば、チカさんが本物のヴァイオリンを弾くことは可能なのですね?」 「そうさ。しかし何ぶん非合法……げふっげふん。あ~、あまり良い子のみんなはまねをしてはいけないよ的な代物なので、いくつか制限がある」 神楽さんは指をひとつ立てる。 「まず、このことに関しては他言無用とすること。ここに集まったメンバ以外には、秘密を厳守してもらう。これは君たちのためでもある、絶対に他には喋ってくれるなよ」 ふたつ目の指。 「ひとつ目から分かると思うが、この方法での演奏を一般人の前で行うものNGだ。あくまでも必要最低限の関係者だけを集めた……まあ、ごく内輪でのリサイタルということになるね」 みっつ目。 「この方法ができるのは、今回一回のみだ。……別にバトル前に言っていたことは、ハッタリという訳ではないのさ。調達できたといっても、引っ張り出す名目をでっち上げて今回限りという取り決めとなっている。つまり――」 そこで神楽さんは耕一とチカを見て、ニヤリと笑った。 「あとから、あの時やっぱり本物のヴァイオリンを弾いておけばよかった……なんて後悔の念を抱いても、残念ながらもう協力はできないよ?」 ギョッとした顔でみんながチカを見た。 みなの見つめる先で、チカは驚いた眼差しを神楽さんに向ける。 「そんな……いえ、そういうことじゃなくて……。でも……」 「チカさん、あなた自身が疑問に思ってしまっているのではないのですか?」 今まで黙っていたゼリスが、ゆっくりと口を開く。 「本物のヴァイオリンを弾くことが、本当に自分の音色を見つけることになるのだろうか――と」 ゼリスの言葉に、ビクリとチカが肩を振るわせる。 「本当はもう気づいているのでは? ――本物のヴァイオリンがなくとも、あなたの創るべき音色は、その胸の内にあるということに」 チカがギュッと自分の胸に手を当てる。そこに息づくもの――神姫の感情中枢たる機関〝CSC〝。そこから紡がれる彼女の心――自らのマスターを想う気持ち。 「例え私たちの手足が人を機械的に模した縮小に過ぎないとしても、ヴェイオリンの音が電子的に再現された複製に過ぎないとしても、それを奏でるあなた自身――CSCから産まれる私たちの感情は、心は。まぎれもない私たちの――あなた自身の本当の想いです」 「私自身の――想い」 ポツリとチカが呟いた。 ――それはとても大切なもの。でも、それが実際何なのかは分からない、見えないもの。 だから、みんな勘違いしたのだ。 ――それは人間だって、自分自身のことだって、何かと問われれば明確な答えなど返せない。すごくあやふやなもの。 チカ自身も勘違いしていたこと、手段と目的を取り違えていたことに。 ――心。 それにゼリスは気づいていたのだ。そのために独りで反対したり、ワザと邪魔をしてみせたりしたのだ。 すべては本当に大切なことを気づいてもらうために。 ――それは、確かに誰もが持っている。人も、神姫だって。 ゼリスは最初からチカのことを、同じ立場の親友として、誰よりも心配していたんだ。 「大切なのは、弾く楽器ではなく、誰かを想って音楽を奏でるあなた自身です。あなたは、あなたの音色を奏でればいいのですよ」 ゼリスはチカの肩に手を置き、瞳を真っ直ぐに見つめた。その彼女の瞳、朝露に濡れた新緑のようなそれは、優しい色。 「私は……」 チカがその唇から、言葉を搾り出す。彼女の小さな体の中では、様々な葛藤が駆け巡っているのだろう。 「そのくらいにしておきたまえよ、ゼリス君。その先は彼女が一番良く分かっているはずさ。後は彼女自身の問題だよ」 ぐるりと神楽さんが一堂を仰いだ。 この場にいる誰もが、温かい目でチカを見守っていた。 チカがどんな答えを出そうと、誰もがそれを肯定する……と。 「さあ、命題だ。仮初の人の身を得、真のヴァイオリンという名のイコンを求むるか、否か――。君はどちらを選ぶんだい?」 悩める少女は、側らに立つ、最も大切な人の顔を仰いだ。 そこにあるのは、彼女の大好きな優しい笑顔。どんな答えを出そうとも、その意思を尊重する。彼女を認めると言っていた。 それに勇気付けられ、チカは静かに口を開いた。 「私は――」 ♪♪♪ 開幕。 シックな装いに身を包んだ彼女を、燕尾服を着込んだ少年が付き添う。 優しく差し伸べられた手を、白い小さな両手で大切に包む。 招かれた場所は、とある屋敷の一室。 観客は少年少女とふたりの人形、黒い影法師。 彼らに囲まれて、車椅子に佇むひとりの老紳士。 五人は彼女に勇気と奇跡をくれた、魔法使い。 老紳士は大切な家族。彼女の隣に立つ少年にとっては師。 彼女にとって、音の素晴らしさを教えてくれた恩師。 緊張した彼女を察して、隣に立つ少年が笑む。 優しい笑顔、大好きな笑顔。それだけで体を包む緊張という鎖から解き放たれていくのを、彼女はその身に感じた。 彼女を想い集まってくれた人たちへ、今日という日を与えてくれた喜びに、感謝を込めて。 少年がタクトを取り出し、少女はヴェイオリンを手に取る。 それは今宵一夜限りの。 慎ましやかで温かな、彼と彼女の音色のリサイタル――。 ♪♪♪ 六月といえば梅雨だ。先週までの雨も途絶え、今週の日曜は朝から暖かな日差し。 梅雨前線と高気圧のおしくら饅頭も、どうやら軍配が上がるのはもうすぐそこだ。 「今年の夏は暑くなるかなぁ~」 「そうですね。記録的な事例から、空梅雨のあとは猛暑が訪れる確率が高いと言えます」 だかだらとベットに横になりながら、なんとなしのシュンの独り言に、机の上から返事が返ってくる。 どうやらゼリスはシュンの机の上に陣取っての、ネットサーフィンの最中らしい。 「ぢゃんぢゃぢゃ~ん、優ちゃん登場!」 ガチャリとドアが開き、妹の優が部屋に入ってきた。 そのままニコニコ、ささっと机に向かい「何してるの?」とゼリスに話しかける。 わいのわいのと今度は優も一緒になって、ふたりはキーボードをカチャカチャしだした。 「お前ら、人の部屋に勝手に入ってきて騒ぐなよ……」 無駄だと分かっての投げ槍な講義は、キャアキャア騒ぐふたりに黙殺される。 シュンは読んでいた雑誌を放り出して、ベットに身を投げ出した。 あ~あ。日曜の朝から騒がしいヤツらめ。 「あっ、新着メールが届いてる。差出人は……チカちゃん?」 「そのようですね」 その遣り取りにシュンはハッとベットから身を起した。 あの一見以来、耕一たちとはまだ一度も連絡を取っていなかった。今ふたりはどうしてるんだろう? 「……ふむ。おふたりともあれから元気にしていらっしゃるようですね。耕一さんの音楽の修養の方も、チカさんのヴァイオリンの方も、順調に励んでいらっしゃるようです」 「そうなのか?」 シュンも優の後ろから、PCモニタを覗き込む。三人一緒になって同じ画面を覗きながら、ゼリスが文面を読み上げる。 「それで……ほう。おふたりは今度ヨーロッパに旅立たれるそうですね」 「ヨーロッパ?」 「はい。どうやら本格的に音楽の勉強をするために、耕一さんが留学なさるそうです。それにチカさんも一緒なさるそうです」 モニタに映し出された文章では、以前から海外留学の話があり悩んでいたが、最近になってやっと決心がついたので、ふたりで欧州に旅立つことにした事。向こうでもお互いに支えあって頑張ることなどがしとやかな文面で綴られ、最後に『しばらく逢えなくなってしまうけど、帰ってきたら必ずまたみなさんをヴァイオリン演奏にご招待致します』と締めくくられていた。 「そっか……ふたりとも頑張ってるんだな」 シュンの言葉に、ゼリスがこくんと頷いた。 あの日見た、ふたりの互いに寄り添う姿。きっとふたりなら遠い異国の地だって、うまくやっていけるに違いない。 感慨深げに目蓋を閉じるシュンとゼリスに、ひとり優だけが憮然とした顔をする。 「チカちゃんって、前に家にやってきたヴァイオリンの神姫だよね? そういえば、私だけあの後何があったか聞いてない。私だけ仲間はずれ~えっ! 結局チカちゃんは本物のヴァイオリンを弾けたの?」 優がぷっくり頬を膨らませる。シュンは苦笑しながら優の頭をポンポン叩く。 「別に仲間はずれにしてないっての。あの後なあ……」 と、そのとき聞きなれたメロディがどこからともなく聞こえてきた。開けっ放しのドアから、優の部屋の細工時計が10時を告げる音色を運んできたのだ。 「あ――っ!? もうこんな時間。黒猫キッドが始まっちゃうよ~っ」 「うわっと?」 いきなり優は奇声を上げると、椅子の上でピーンッと飛び上がり、大急ぎでリビングへと駆けていく。 ……そんなに慌てるほど大事か、黒猫キッド。 「ふう、慌てて階段から転げ落ちるなよ……」 やれやれとシュンが椅子にかけると、ゼリスがジッとモニタを見つめていた。 やっぱりゼリスなりに、親友の旅立ちを想っているのか。あるいは、ひょっとしたら寂しさを感じてるのかも知れない。 「ゼリス……」 シュンが声をかけると、ゼリスはこちらを振り返り、そのままシュンの頭に飛び乗った。 「ほら、シュン。急がないと今週の黒猫キッドを見逃してしまいますよ」 「はいはい、了解~」 ったく。少しはしおらしいところもあるんじゃないかと思ったら、すぐこれだ。 まあ、しおらしい態度なんかされたら、それはそれで調子が狂っちゃうけどな。 ゼリスを頭に乗せ立ち上がりながら、シュンは窓の外に目を向ける。 いつも道理の日曜の午前、雨の恵みによって芽吹いた新緑を、爽やかな青空が照らしていた。 FINE & ……To be continued Next Phase. ▲BACK///NEXT▼ 戻る
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ぶそしき! これから!? 武装パーツ紹介 バトルロンドやバトルマスターズなどには記載のない武装パーツの説明です。 ぶそしき! では神姫の銃器は基本的に実際には弾が出ません。全てゲーム上の演出(エフェクト)です。 ゲーム上での機能を発揮するために、神姫の武装にはデータチップが付けられています。バトルを始める前に、筐体が武装のデーターを読み込んで設定された機能を発揮させます。 データチップがなくても、実際に弾を撃てる機構があれば、ゲーム上でも弾を撃てます。 <1話> ■赤いマフラー マスターが作ってくれたお手製のマフラー。 データチップなどなく特殊な材質でもない、有り合わせの物で作られたマフラーである。 しかしヒイロにとっては、とても大切なものだ。 <2話> ■クロースアーマー(成行製) チャオに壊れた武装の代わりに渡された武装。 マスターが拙いながらも頑張って作ってくれたフェルト製のアーマーである。 見た目はアレだが、一応打撃には多少の防護効果がある。 ■プラモマシンガン(鈍器) マスターの手持ちのプラモから剥ぎ取ったもの。 データチップなど付けられていないため、銃の形をした鈍器である。 ■プラモアクス マスターの手持ちのプラモから剥ぎ取ったもの。 取り回しはともかく、攻撃範囲と威力に欠ける。 ■プラモバズーカ マスターの手持ちのプラモから剥ぎ取ったもの。 当然データチップなぞ付けられていない。 元からバネ仕掛けでセットした弾を発射できる機構があるため、神姫バトルでも一応弾は発射できる。 ただ威力も弾速も射程もお察しのものである。 トップページ
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十話 『十五センチメートル程度の死闘 ~1/2』 「あららん? その後姿はもしかして鉄ちゃんと姫ちゃんじゃないかしら。それとも私の気のせいかしら。 うん、きっと気のせいよね、失礼しました~」 背後から声をかけてきて一方的な納得をされ、そのまま私達とは別方向へ行ってしまおうとする紗羅檀さんに、私はなんとなく 『見覚え』 があった。 私の知る神姫なのだから 『見覚え』 があって当然なのだけど、ここで私が言いたいことは、そういうことじゃない。 その紗羅檀さんは人間サイズだった。目線が私より少し高いくらいだ。 腕と足は指先まで黒く染まり、胴体にあしらわれた金の意匠が微妙に安っぽく光を反射して眩しい。頭部をクワガタの鋏のように囲むアクセサリーもちゃんと再現されており、薄紫の長い髪も、武装神姫の紗羅檀と同じように整えられていた。 歩き去ろうとする紗羅檀さんの後ろ姿もやはり本物を再現されていて、だだっ広い改札口前を歩く老若男女の視線が、大きく開かれた背中に集中していた。 私達はただ、ポカンと口を開けたまま、その方を見ていることしかできなかった。手作り感溢れる艶かしいその姿に目を奪われるというより、感心していいやら呆れていいやら分からないといった感じだ。 よく出来ているのは認めるけど、人が行き交う日常に紛れ込んでいい姿じゃなかった。 恥じ入ることなく堂々とした紗羅檀さんの肩の上には、同じ格好をした身長15cm程度のオリジナルがいた。 「どこに行くのよ千早さん、そっちは神姫センターじゃないし、さっきの方達は気のせいでもなく鉄子さん達だし――ああもう! だからついて行きたくなかったのよ!」 チンピラシスターだったコタマでも軽くあしらってしまうミサキの、頭を抱えて取り乱す姿は新鮮だった。 「あらホント。鉄ちゃんと姫ちゃんと、それにボーイフレンズじゃない。あなた達も鉄ちゃんに謝りに行くの? あら、でも鉄ちゃんはここにいるのよね。あ、もしかして鉄ちゃんの双子のお姉さん?」 こちらに向き直り近づいてくる千早さんから、私以外は少し後ずさった。連れている神姫達も、神姫なのに大きいというチグハグさに少し怯えている。 「い、妹君、何ですかこれは」 「これ、とか失礼なこと言わんの。私がバイト先の物売屋でお世話になっとる千早さんよ。どうもです、どうしたんですかその格好」 「バカ、な~に話しかけてんの。他人のふりしろよ」 日頃の恩すら覚えておけない哀れなコタマを鞄の底に押し込んで、私は快く千早さんに近づいた。 背比と貞方、それに傘姫について来てもらっても、神姫センターに対する不安は拭いきれるものじゃなかった。電車に乗って、あとは神姫センターまで歩くだけ、というところまで来ても、いや来たからこそ、引き返したいと思う気持ちは強くなるばかりだった。千早さんの姿を見るまでは。 「奇遇ですね千早さん、私達も丁度神姫センターに行くとこやったんですよ。いやあ、ここでお会いできて嬉しいです。でも千早さんとミサキが神姫センターに行かれるとは知らんかったです。そのコスプレも良う出来てますし、なんか用事があるんですか」 「やあねえ、今日は鉄ちゃんに謝りに行くんじゃない。でも良かった、肝心の鉄ちゃんがいつ来るか分からないらしいじゃない? だからタロットで占って今日この時間だって見当つけたんだけど、どう? 私の魔術的才能はすごいでしょ」 「す、すごいです! 今度教えてください!」 (おい背比、なんで竹櫛さんはあの人と普通にしゃべれるんだ) (知らねーよ俺に聞くな。姫乃、竹さんとあの人って……) (尊敬してるって聞いたことある、けど、うん。えっと、私も千早さんは、す、すごい方だと思う、わよ?) (姫乃さん顔がひきつってますよ。マスター、あんまりあの人を見ちゃだめです。目の毒です) 私の背後で背比達がコソコソと話してるけど、どうせ千早さんの凄さを目の当たりにして尻込みしてしまってるんだろう。恥ずかしながら私も最初はそうだった。でも物売屋のバイトで度々千早さんとお茶を飲むことで私は、この人が21世紀のジャンヌ・ダルクと呼ぶに相応しい人物であることを知ることができた。この人と同じ年代に生きていられることに、感謝感激雨霰。 「ところで千早さん、私に謝りにってどういうことです? 千早さんに謝られることなんて何もされとらんです」 「さあ。それが私にもサッパリ。ミサちゃんは分かる? 私、なにか鉄ちゃんに悪いことしたかしら」 「……神姫センターに、鉄子さんに謝罪するという方が多くいると聞いて、じゃあ自分も行くと言い出したのは千早さんでしょうに。理由は聞いてないわよ」 ずいぶんと投げ遣りな物言いをするミサキだった。 「あらそう。でも何だか急に、鉄ちゃんに悪いことをした気になってきたわ。……本当にごめんなさい。私、ついカッとなって……」 「そ、そんな、頭を上げてください! 千早さんは全然悪くないですし、私のほうがいつも千早さんに迷惑ばっかりかけてます!」 千早さんに負けないよう頭を下げた私の肩に、優しく手がかけられた。そしてゆっくりと私の体を起こしてくれた千早さんは、いたずらっぽく笑いかけてくれた。 「じゃあ、別に悪いことをしたわけじゃない者同士、謝りっこはこれでお終いにしましょう。私と鉄ちゃんの間は前より4ミリも縮まったわよ」 「千早さん……!」 誰が見ていようと、私達は全然気にすることなく、改札口の前で熱い抱擁を交わした。紗羅檀コスプレのゴツゴツした部分が当たって痛かったけど、構わず千早さんに甘えた。 「妹君、そろそろ……」 マシロに促され、名残惜しみながらも千早さんから離れた私は、躊躇うことなく神姫センターへの歩みを進めた。すぐ後ろの千早さんが集める視線と、少し遅れてついて来る背比達が、私を得意な気分にしてくれた。 体が軽い。 こんな幸せな気持ちで歩くなんて初めて。 もう何も怖くない! ドールマスターがリアルドールを連れて来た。 人間大の紗羅檀の登場に、神姫センターはイベント時のような賑わいを見せた。 パーツを物色していたお客も、私を見るなり店長を呼んでくると言う店員も、その目は千早さんに釘付けにされていた。 小走りでやってきた冴えないおじさん店長は千早さんに驚きつつも、私の前でペコペコと頭を下げた。そして懐から封筒を取り出し、中身を私に見せた。 「こちらをお出し頂ければ、武装神姫1体をお持ち帰り頂けますので、はい」 もうコタマはレラカムイとして復活したと告げても、店長は引換券の入った封筒を無理やり私に握らせた。 「貰えるもんは貰っとくもんだよ鉄子ちゃん。いらないんだったら隆仁にでもあげたら? アタシのこの体でストックが無くなっちゃったらしいし」 それもそうか。コタマの言うとおり後で兄貴に渡すことにして、封筒を鞄にしまった。 店長の話だと “あの時” 居合わせた神姫オーナーの数人が2階に来ているらしい。 “あの時” に誰がいたかなんて覚えているはずないのに、それでも顔だけ出してくれ、と言う。昨日、貞方が見せた写真に映っていた神姫は明らかに “あの時” にいた神姫の数を上回っていたことだし、戦乙女戦争のように無関係な神姫までノリで筐体に立てこもっているのだろう。 そういえば店内にはお客の対応とディスプレイを兼ねた神姫達がいるはずだけど、今は一体も見当たらない。彼女達も恐らく、2階の筐体の中にいる。店長の平身低頭ぶりはこのためかな。 「じゃあ竹さん、行こうか」 湿った手を握りしめ、私達は2階への階段を上がった。 神姫が集まった森の筐体の中は、画像で見るよりもずっと酷い有様だった。バッテリーを切らしてしまっった神姫が半分ほどいて、起きている神姫達は私が近づくなり 「ほら、ドールマスターが来たよ! 早く謝れ! ハリアッ!」 とかなり焦っているようだった。 名前も顔も知らぬオーナーに謝罪されても、私は曖昧な返事しかできなかった。いくら千早さんの登場で気分が高揚していたって、ハーモニーグレイスだったコタマの無残な姿を忘れることなんて、できるはずがなかった。 沈黙する私と、気まずそうに目を泳がせる名も知らぬ悪者。 「さっさと土下座するですぅ!」 と煽る神姫達。どうしようもない雰囲気が流れ始めた時、鶴の一声が私の鞄から響いた。 「な~にゴネてんだ面倒臭え! いつまでもウジウジやってんじゃねぇよ鉄子ちゃん。こんな連中ホントはどうでもいいんだろ、さっさと追い返せよ。オマエらもいつまでも筐体で森林浴してんじゃねぇよ、この森ガール共が! バトルできねえだろうが!」 甲高い声でやいのやいのと騒ぐレラカムイに不審の目が集まった。でもその乱暴な口調には覚えがあったらしく、私が新生コタマを紹介すると、みんなドールマスターの復活を喜んでくれた。これで神姫達はようやく溜飲を下げてくれた。 神姫達がゾロゾロと筐体から出てきたけど、バッテリーが切れた神姫をおぶる者や、オーナーが一時帰宅していて帰れず、筐体の中に留まる者も多くいた。事の収束にはもう少し時間が必要みたいだ。 千早さんとミサキの即席撮影会が賑わう間、1階のショップでは急速充電器が飛ぶように売れ、それを2階のフリースペースに持ってきて使うオーナーが多数いた。帰宅せず神姫センターに残るオーナーのやることは、2つ。 まず1つは当然、大きな紗羅檀の姿を目に焼き付けること。 紗羅檀の際どい衣装は単細胞なオーナー達をあっという間に虜にしてしまった。 鼻の下を伸ばして不躾な視線を送り続ける単細胞共は不愉快でしかなかったけど、囲まれた千早さんは寛大で、カメラに向かってグラビアのようなポーズをとっていた。 「どうしましょうミサちゃん。一度でいいからモデルをやってみたかったんだけど、それが叶っちゃった。後でヤコくんに自慢しなくちゃ」 「八幸助さんには絶対に言わないで頂戴。自分が既婚者ってことをもう少し――そこ! カメラを下から向けない! ほら千早さん、胸の武装がズレかかってるじゃない、早く直して! 何見てるの、見世物じゃないのよ! こ、こら、私を撮影してどうするの! やめなさい! あああああもう! これだから外に出るのは嫌なのよ……!」 この日を境に千早さんが神姫センターで神格化され、物売屋のお客が少し増えたのは、また別の話。 そして、もう1つ。今日のメインイベント―― 「『グレーゾーンメガリス!』」 多数の神姫に紛れて助走をつけたマオチャオが、大きなハンマーを振りかぶって飛び出した。セカンドのライフルで近づく神姫を一掃していたコタマの虚をついた、上手い一撃だ。見ている俺達が、コタマのなぎ倒される姿まで想像したその一撃を、 「おっと」 の一言でファーストを送り出して、片手のガントレットでハンマーを容易く止めてしまった。 「クソッ、技のキレが増したなシスター!」 「もうアタシはシスターじゃないよん。それとアンタのその技は一度見てるからね、実は最初からちょっと警戒してたもん」 ファーストにハンマーを掴まれたマオチャオがハンマーから手を離して離脱するより早く、セカンドのライフルが火を吹いた。 ファーストとセカンドの両方が一匹のマオチャオの方を向いた瞬間、コタマの背後から多数の神姫が襲いかかった。その気配を察してなお、コタマの余裕の笑みが崩れることはなかった。 蘇ったドールマスターとの勝負を望む者は多く、せっかく人数が集まっているのだからと、大規模なチーム戦……とは名ばかりの、モンスター狩りが始まった。 竹櫛家 VS 機械少女連合軍 15cm程度の死闘トップへ
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戦うことを忘れた武装神姫・番外編 ちっちゃい物研・鳳凰カップ編-02 鳳凰カップ特別編便乗企画 「だー!! Mk-Z、手が空いてるんなら手伝え!!」 朝、開場したばかりの鳳凰カップ会場の一角。 CTaが相変わらずの油くさいメイド姿でわめきたてていた。 と、CTaのポケットに入っていたヴェルナがひょいと顔を出し、 「マスター、妙案があります。」 混乱するCTaに声をかけた。 「まもなく、久遠さんがこの付近を通過する模様です。いっそ、 臨時要員として使ってはいかがですか?」 「ふむ・・・そうだな、拉致るか。」 「拉致るってマスター、久遠さんなら言えば手伝ってくれるっ すよ・・・。」 傍のテーブルで物販の伝票に半ば埋もれながら整理をする沙羅 が言った。 東杜田技研として久々のイベントでの展示。 メインには、ちっちゃいもの研こと小型機械技術研究製作部の 製品展示を据え、脇では現行品の即売コーナーも。ついでに、 他の部署の紹介コーナーを設け、ちゃっかりリクルートまでも やろってしまおうという大胆ぶり・・・が仇となり、いつの間 にか責任者にされていたCTaは見事なまでの混乱っぷり。 「CTaさん、ダメです! 僕はこのあと相談コーナーに張りつか なくちゃいけないんですからっ!!」 Mk-Zも珍しくカリカリしている。 彼は神姫のメンテナンスに ついての相談コーナーを任されていた。 午前の部の整理券を配り終え、まもなく開始する相談コーナー の準備に手一杯・・・ 「マーヤ、機材は?」 「おにーさま、サーヤが機材に埋まりました~!!」 「うをー! 早く掘り出せ!! リーヤは?」 「展示のデモ神姫として、朝からあっちにかかりっきりです!」 「しまったー! そうだったー!!」 一人絶叫しながら、技研の他のスタッフとともに急ぎコーナー を整える。。。 「お、押さないでくださーい!!」 一方の物販コーナー。 早くも行列ができていた。 お目当て はポケットスタイルの先行販売。 整理券の配布をするは、半 強制的にバイトをさせられているかえで。 小柄であるが故、 声を張り上げてもなかなか認識されない・・・そんなかえでを フォローするフィーナ。 「整理券はお一人様一枚! はい、はいどうぞー!」 CTaから借りた特装セットからフライトユニット(イオが持って いるアレと同等品)を選び、かえでの頭上でプラカードを手に 飛び回る。。。 ・ ・ ・ 屋台コーナーの片隅の休憩スペースにて、まったり休憩の久遠 と彼の神姫たち・・・と。 「あ、マスター。あちら・・・八御津さんではないですか?」 イオが久遠の袖を引っ張った。 「ありゃ、ホントだ。」 久遠が気づくとほぼ同時に、向こうも気づいたようで、久遠の ところへやってきた。 おそらくUSアーミーの放出品であろう ジャケットの胸のポケットの部分には「碧空のスナイパー」の 異名を持つ兎子が収まっていた。 「こんにちは、久遠兄ぃ。」 「やっほぉ、みなさーん。」 明るく挨拶をする二人に、久遠たちも応える。 「もしかして試合出たんですか?」 シンメイの問いに、兎子のブリッツは神姫みかんストラップを 取り出した。今大会の参加者全員に配られたという、東杜田の 提供品だ。。。 「いやぁ、予選落ちっすよ。でも、いい試合ができたんで悔い はないっす!」 八御津はそういいながら久遠にフリーのコーヒーを渡した。 「いいところまで行ったんですよー。 ですが、あと一歩の所 で力負けしてしまって・・・。 おそらく、あの方たちは相当 の上位までいくと思います。」 相変わらずのさわやかさで、試合の顛末を語る兎子のブリッツ、 そして八御津。 ・・・やはり軽装に近い兎子だと、いざ力の 勝負となった際に押し負けてしまうらしい。 話のところどころに、二人の悔しさもにじみ出る・・・。 「そうだ、パワーアップと言えば、ちっちゃいもの研でパワー ユニットの試作機デモをやってるとかいってたなぁ。」 久遠が言うと、 「どうですか、東杜田のブース行ってみませんか?」 ロボビタンの試供品をすするイオも続けた。 「もちろんですよ。ポケットスタイルの先行販売も気になって いるんで。。。」 八御津と久遠は、それぞれの神姫をそれぞれに収めると、連れ だって東杜田へのブースへ向かった。 >>続くっ!!>> <<トップ へ戻る<<
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歌声、響いて──あるいは茜の日常 こうして手を動かしメロディを口ずさんでいると、時間を忘れます。 ふぇ……あたしですか?ええっと、マイスター・槇野晶の“妹”たる 神姫のアルマですッ……と言っても今日はHVIF当番の日なので、 “茜”として台所に立ち、お姉ちゃんが起きるのを待ってるんです。 あ、目が覚めたみたいです……もう、武装作るのに根詰めちゃって。 エアコンで冷えない様に、設定温度を上げて毛布も掛けたんですよ。 「ん、むぅ……くしゅっ。くそ、冷えてしまった様だな……む?」 「ふんふふんふ~ん……♪あ、起こしちゃいましたマイスター?」 「いや、構わぬ茜。ロッテとアルマは、今はどうしているのだ?」 ずれた眼鏡を掛け直しつつ整った黒髪を手櫛で直し、毛布を畳む少女。 これが、あたし達の“姉”である晶お姉ちゃん。“職人”を名乗るのは ハッタリじゃないんですよ?さっきまで突っ伏していた作業台の上に、 フレームと思しき金属と強化プラスチックの塊が、幾つもありますし。 ちなみにロッテちゃんとアルマちゃんは、あたしの“妹”たる神姫達。 「クレイドルのバスタブでお風呂に入っていますよ。仲良く洗いっこ」 「こ、こらッ!?想起させるような事を言うんじゃない!それよりッ」 「……意識ですね?ええ、大丈夫。しっかり認知する様にしてます♪」 「ならばいいのだが……“現実感に乏しい”というのは気になってな」 お姉ちゃんが言うのは、この“肉の躯”……HVIFを使い続けていて 分かってきた副作用の事です。こうして“茜”として過ごした記憶が、 神姫素体の“アルマ”に戻った時、僅かに“感じ方”が代わるんです。 フェレンツェ博士とお姉ちゃんの改良で、一応は緩和したんですが…… 多分あたし達に“魂”があるなら、それを元の躯から例え擬似的にでも 引き離した事で起きているんじゃないかな、って……そう思うんです。 「お前達の神姫素体をその体内に接合するという手法もあるが……」 「“素体を完全に捨て去ってまで人に近付く必要はない”ですね?」 「有無、やるとしても多種多様な問題が付きまとう。当分は無しだ」 「ですねぇ……その時もすぐ元の素体に戻れる様でないと、嫌です」 神姫は神姫として誇りを持って生きていきたい。それが、あたし達姉妹と 晶お姉ちゃんの、共通の考えです。別に“人類”になりたくてHVIFを 使っている訳じゃないですからね……垣根をどこまで取り払えるか、要は それを知りたいだけですし。あたし達は、あくまでも“神姫”なんです。 「それで構わぬ。むしろ、そういう想いを持ってくれる方が嬉しいぞ」 「いえ。お姉ちゃん達こそあたし達の事考えてくれて、嬉しいです♪」 「そうか……む?何やら良い香りがするが、これは……紅茶か、茜?」 「淹れましたっ。ほら、時間見て下さい……とっくに深夜ですよ~?」 お姉ちゃんに紅茶を渡した後、あたしも自分のを持って席に着きます。 ちょっと根を詰めると、徹夜でもなんでもしちゃうのが晶お姉ちゃん。 だからあたし達周りの神姫が、適当にブレーキを掛けないとダメです。 『何故神姫か?』……ですか?ほら、お姉ちゃんは偏屈ですし……ね? 「ふぁ~、いいお風呂でしたの~♪クララちゃんも性徴しちゃって」 「……神姫素体でそんな変化しないもん、ロッテお姉ちゃんってば」 ちょ、ちょっと漢字変換が気になりますけど……“妹達”が別室にある クレイドルから出てきました。長風呂らしく、気持ちよさそうですね。 真っ赤になったクララちゃん、可愛らしいです。ロッテちゃんってば♪ 紅茶を飲み干し、晶お姉ちゃんが肩に飛び乗った神姫二人を撫でます。 「む?風呂上がりか二人とも……有無、人工頭髪の発色も良しッ!」 「マイスターも、お風呂戴いてくださいですの♪疲れたでしょう?」 「ぐーぐー気持ちよさそうに寝ていたんだよ?知らないだろうけど」 「う゛……そ、そんなはしたない寝方はせん!ともあれ、良いか?」 あたしは微笑み肯きます。ティーカップも洗わないといけないですし、 なんだかいい歌詞が浮かびそうで……ちょっと思考を整理したいです。 「では、リフレッシュしてこようか……覗くんじゃないぞ、お前達?」 「ひょっとしたら覗いちゃうかも、って冗談ですの~マイスター?!」 「からかっちゃダメだよロッテお姉ちゃん……大丈夫だよマイスター」 「全く……この娘を頼むぞ茜。私が出たら、お前も入ると良いだろう」 「もう皆元気ですね……わかりました。ごゆっくり、お姉ちゃんっ♪」 晶お姉ちゃんは『仕方ない娘らだ』と笑って、下階に降りていきました。 神姫素体でもHVIFでも代わらない……変えたくはない、日々の幸福。 その目線や視点は違っても“あの人の神姫”として、楽しく過ごす毎日。 小さくて大切な喜びが、ついつい即興の歌になって口から零れてきます。 『♪あたしはとっても小さくて、でも命-想い-はハートに一杯なのよ 魔法使いが躯大きくしても、ココロまで大きくなんてならないわ だって何があってもあたしは常にあたし、巨人なんか無理な話ね この宝物小人のままでずっと大事なの、大きくなっても大切なの だから夜が来ても、あたしは常にあたし-自分-でいられるのよ♪』 ──────題名は“A little little jem”って所で、どうですか? メインメニューへ戻る
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{アンジェラスとGRADIUS} 「ここが…アンジェラスがいる所か…」 今の俺はあるシャッターの目の前に立っていた。 そのシャッターは今までの…クリナーレ達のシャッターとは比べれものにならない。 頑丈・セキュリティー、何もかもレベルが違うのだ。 シャッターには『One』と書かれていて、そこにクリナーレがリアパーツに付いてるチーグルで殴りまくっても傷一つつかない。 クリナーレ達のシャッターと同様にシャッターの横にあるIDカードを通す機械があったが、カードを機械に差し込み引いても拒否されてしまった。 俺が持っているIDカードではセキュリティーレベルが低くて通れないのか、もしくは俺が奪った事が敵にバレてIDカードの使用を停止させたと考えた方がいいだろう。 どちらにせよ、このシャッターを開けなければアンジェラスを助け出す事が出来ない。 実は先程からルーナがネット能力を使ってIDカードを通す機械から侵入し、なんとかセキュリティーを解除しようとしているのが、如何せん苦戦している。 その間は立ち往生。 俺は何もする事が無くてただ突っ立てるだけ。 クリナーレとパルカは警戒しながら敵の偵察。 畜生。 こうも何もできないと自分が腹ただしい。 「…アンジェラス」 シャッターを見つめ、小声でそう言った。 後はお前だけを助け出せば終わるんだ。 こんな所でくすぶってなんかいられない。 …やっぱり『アレ』を使うべきなのか……。 徐にズボンの後ろにくくり付けてるコンバットナイフみたいな形をしている物に手が触れる。 これは出来れば使いたくない武器だ。 この武器は全てのシステム・プログラムを真っ白に消してしまうナイフなのだ。 通称、フォーマットナイフ。 読んで字の如く、このナイフに刺された機械類は全てがフォーマットされてしまう。 何も機能しないただの固まりにしてしまう訳だ。 例えば、パソコンの何処にでもいいからこのナイフを突き刺す。 するとパソコンのデータやシステム、何もかも全部消えてしまう。 そのようなシステムがこのナイフにプログラムされているのだ。 勿論、精密機械で出来ている武装神姫にも有効。 ただし、使用回数は二回。 二回以上使ってもただのナイフでしかない。 だから慎重に使わないといけない。 もし使い所を間違えれば、自分が命取りになるのだから。 「…躊躇しすぎかな」 もし、これは本当に『もし』の話だが…ルーナが今やってるセキュリティー解除の手伝いが出来るかもしれないのだ。 IDカードを通す機械にフォーマットナイフを刺し込めばセキュリティーは消えるだろう。 だが、それと同時にシャッターを上げるシステムを消してしまうかもしれない。 そうなるとシャッターを開ける事が出来なくなり結果的にアンジェラスを助け出す事が出来なくてしまう。 そしてそうなる予想は十中八九。 考えたくないが、一緒にシステム事消してしまうなのだろーよ。 でもこのままルーナにネット能力を使わせるのもマズイ。 ネットの能力を使うと必要以上に疲労してしまい、神姫の内臓電池がすぐに切れてしまうのだ。 一応、特殊な神姫としてそこら辺の対策はされてると思うが、そうなってしまう話もなくはない。 さぁ、今はこの場で使うべきか、使わざるべきか…。 …フッ…何迷ってんだが、俺らしくもない! 「どけ!ルーナ!!」 俺は決意し迷わずズボンの後ろに付けているフォーマットナイフを取り出す。 取り出したフォーマットナイフを右手に持ちかえる。 「ダーリン、何する気!?」 「セキュリティーを消滅させる!お前が接続したままナイフを使うと、お前まで消してしまう!!だからドケ!!!」 ルーナは俺の言葉を信用してさっきまで接続していた機械から退く。 完全にルーナが離れた事を確認すると、俺はIDカードを通す機械にフォーマットナイフを突き刺した。 その瞬間、機械から煙と火花が噴出す。 火花で俺の右手と右腕が軽い焼けどを負ったが、こんなの怪我のうちに入らない。 さて、効果は果たしてあるのか少し不安感を持ちながらフォーマットナイフを引き抜く。 「ルーナ!すまないが、またネットに侵入してくれないか?」 「任せなさい!」 ルーナは再び機械に右手を触れさせ侵入する。 するとどうだ。 さっきまでビクともしなかったシャッターが開いていくではないか。 どうやらセキュリティーだけのシステムをフォーマットできたみたいだ。 これでアンジェラスに会えに行ける。 「クリナーレ、パルカ戻って来てくれ!ルーナもだ!!シャッターが開いたから入るぞ!!!」 俺の右横にクリナーレとルーナ、パルカは左横に来た。 ちゃんと戻って来たか確認すると俺は全速力でシャッターの中へ駆け出して行った。 シャッター中の部屋はクリナーレ達の部屋とはレベルが違う構造だった。 精密機械のコンピュータ、ケーブル、パイプ管などなど。 そして部屋の真ん中には大きな試験管、その中には見た事のない真っ白の武装に身をつつんだアンジェラスが目を瞑っていた。 「アンジェラスー!」 俺は大声を出しながらアンジェラスに走り駆け寄る。 その時だった。 視界に一人の人間の後ろ姿が入る。 女の人で白衣を着ていた。 その女の人は俺がガキの頃から知ってる人間だった。 「姉貴!?」 足を止めて自分の姉に声を掛ける。 女の人は振り返り、困った顔をしながら俺を見た。 「タッちゃん。…やっぱり来ちゃったのね」 斉藤朱美、俺の実の姉その人だった。 「姉貴がどうしてここにいやがる!」 「それはこっちのセリフよ。タッちゃんこそ、こんな大事…いえ、犯罪を犯してまで来たの?」 俺は姉貴に睨みつけながらゆっくり歩みよる。 姉貴は悲しそうな声で俺に言う。 「アインを取り戻しに来たの?」 「アイン?俺はアンジェラス達を取り戻しに来ただけだ!」 「病院で手紙見なかったの?」 「手紙を見たからこそ来たんだ!…ッザケンジャねぇーぞ!!俺の神姫達を処分するなんてよ!!!」 「タッちゃんの神姫じゃないわ。名実とともに我が社の神姫よ。…九年前にタッちゃんが偶然アインのオーナーになっただけ」 「九年前だろうが、この会社のだろうが知ったこっちゃねー!アンジェラス達は俺の武装神姫だ!!」 「はぁ…相変わらず頑固ね」 「ほっとけ。それより今すぐアンジェラスをあそこから出しやがれ!」 俺は姉貴の首元にフォーマットナイフあてがう。 すると姉貴には俺が今まで見た事のない顔をした。 冷徹で人を見下すような顔だ。 「実の姉である私を武器をむけるの?」 「…ウ、五月蝿い!即刻処分を中断し、アンジェラスを解放しろ!!」 「もう遅いわ」 「エッ…!?」 低い声で言った姉貴の声から聞きたくない言葉が耳に入った。 もう遅いわ、だと? もう既に処分したという事なのか? もう間に合わなかったのか? もう…。 「そ…そんな……嘘だ!ハッタリだ!!」 「私は嘘をつかないわ。ほらこの通り」 姉貴は近くにあったパソコンのディスプレイに指差す。 そこにはデリートコンプリート、という文字が点滅していた。 デリートコンプリート…消去完了…。 おいおい…まさかそんな! 頭の中がグチャグチャになっていく。 現実を認めたくない。 否定、拒否…受けとめたくない。 理解したくない。 信じたくない。 「姉貴!アンジェラスの何を消しやがった!!」 フォーマットナイフを首元からどけて胸倉を掴みかかる。 「タッちゃんが今、頭の中で否定しているそのものよ」 「ッ!?」 姉貴の奴は澄ました顔でいいやがった。 こ、この女ァ! 今まで怒りを溜め込んでいた袋がブチ切れてような感じが身体全体に走る。 「畜生!」 ズガン! 俺は姉貴の胸倉を掴んでいた手を一度放し、その手で殴った。 殴られた事によって姉貴は派手にフッ飛び壁に当たりズルズルと倒れる。 実の姉に暴力を振るったのは生まれて初めてだった。 「アンジェラス…嘘だろ?」 ヨロヨロとアンジェラスが入った容器に近づく。 大きな試験管の容器に姉貴を殴った手が触れる。 ここまで来て…そんな終り方…ねぇだろ? おい、こんなバッドエンドなんかあるかよ。 「アンジェラス…俺だよ。お前のご主人様だぞ。迎えに来てやったんだぞ。笑えってくれよ。微笑んでくれよ」 「………」 俺が声を掛けてもアンジェラスは何も言わない。 目を瞑ったまま何も…。 「俺さぁ、お前と最初に会った時、幼かったけど…お前の事が好きだったんだよ。…その時のお前はアインだったみたいだったけど、俺はお前に名前をつけてやったよな、アンジェラスって。もう俺の中ではアインなんて関係ないんだよ。アンジェラスというお前が好きなんだよ!」 「………」 「そして、九年後に再開してまた同じ名前をつけてやったよな。ショックで昔の事を忘れてたみたいだけど全部思いだしたから…だから…だから俺はここまで来たんだ!お前の事が好きだから!愛してるんだ!!!」 「………」 「お願いだから…目を開けてくれよ!アンジェラスーーーー!!!!」 涙が出しながら限界まで発声器官を使い大声で叫ぶ。 喉が潰れてもかまわない程に。 ズルズルと大きな試験管にもたれかかるように膝をつき嗚咽する。 ここまでなのか…そう思ってしまった。 もうあの頃には戻れないのか、と…。 何もかも俺の心に絶望に満ちた瞬間。 「泣かないで…私の大好きなご主人様…」 声が聞こえた。 ははっ…とうとう幻聴まで聞こえてきやがったのか。 脳が壊れたのか耳が壊れたのか…もうどうもでいい。 「悲しまないで…私はここにいます」 「……あっ…」 涙でよく見えなかったけど、その光景は俺の記憶という名の細胞に焼き付ける光景だった。 容器の中にいるアンジェラスの身体全体が光っていたのだ。 その中でも一番白く光輝いてるいたのは右胸だった。 あの場所は武装神姫の一番大事な部分…CSCの部分。 「そんな…ありえないわ。全てのデータを消去したはずなのに」 後ろで驚いた姉貴の声が聞こえたがどうでもいい。 俺は立ち上がり涙を袖で拭う。 その時、大きな試験管の容器に亀裂が生じた。 亀裂の隙間から容器に入っていた液体が音をたてながら出てくる。 今にも容器が破裂しそうな勢いだ。 「アンジェラスーーーー!!!!」 俺は両腕を広げて叫んだ。 その瞬間、容器はガシャーンという強烈な音ともに破裂し四方八方に飛び散る。 白い光も飛び散る。 液体も飛び散る。 でも俺は気にしないでそこに立っていた。 何故なら…。 「ご主人様ーーーー!!!!」 アンジェラスが俺に向かって飛び込んできたからだ。 笑顔で目にはいっぱい涙をためながら…。 胸に飛び込んできたアンジェラスはしっかりと俺の服を掴み、二度と離れまいと力をいれる。 俺も同じ気持で両手でアンジェラスを優しく包み込む。 「会いたかった!会いたかったです、ご主人様!!」 「俺も!俺もだ!!」 「ボクもだよ!」 「お姉様!よかったですわ…無事で!!」 「アンジェラス姉さんー!」 皆で激しく抱きしめ合う。 あぁー、これで…これで全てを取り戻せたんだ。 やっと…やっとだよ。 「そんな…こんなバカなことが…データがまだ残ってたというの?」 後ろの方で今この状況を受け入れることが出来ない姉貴が驚愕したままだった。 「ありえない!ありえないわ!!」 「じゃぁかーしぃー!姉貴は少し黙ってろ!!」 俺は四人の神姫を抱き、姉貴の方に振り返り宣言した。 「愛だ!俺達の愛でアンジェラスは消されなかったんだよ!!」 歯の浮いた事を言った。 木っ端恥ずかしいがそう宣言したかったのだ。 だって今の俺は嬉しくてたまらない状態なのだから。 奇跡としか言えない状況でもあるけど、俺は愛の力だと信じたい…いや、信じているのだ! 「アニキ…恥ずかしくないのか?」 「かなり恥ずかしいと思いますわ。でも、ダーリンらしいかも」 「お兄ちゃん、今はいいですけど今度から周りの事も考えてくださいね。恥ずかしいです」 「お前等、恥ずかしいって言うなよ!俺は本当にアンジェラスの事を愛してるんだから!!なぁ、アンジェラス!!!」 「はい!はい!!私も愛しています!!!」 「うわっ…アンジェラスも平気で恥ずかしい事を言うよ…」 クリナーレがアンジェラスの発言にビックリするけど、すぐに満更でも表情に戻る。 「さぁ帰ろうぜ。俺達の家に」 「「「「はい!」」」」 でも俺はこれだけの事をしでかしたんだ。 人を殺し、会社に損害を与えた。 充分犯罪者になりえる。 例え無事に家に帰れなくても悔いは無い。 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!! 「ナッ!?」 足場がいきなり揺れだしバランスを崩しそうになる。 でもなんとか両足で踏ん張りバランスを保つことができた。 地震か? と、一瞬頭の中で過ぎったが地震にしちゃあ揺れの現象が少しおかしい。 「…まさか!?」 アンジェラスは俺の腕から抜け先程のパソコンに行く。 いったい何が起こってるんだというのだ。 俺もアンジェラスの後を追いかけパソコンのディスプレイを見る。 画面表示されていたのは一つのウィンドに0、1の羅列がダラダラと書かれていて次々に映し出されていく。 これが俗に言う機械語というヤツか? で、その数字を瞬時に把握しながら読み飛ばしていくアンジェラス。 流石、というべきなのか、凄いというべきなのか? まぁアンジェラスも一応機械だしそのぐらいの事ができるのかな。 「ウ~ッ。何書いてるのか全然分からないよ~…」 「姉さん…情けないです」 あ、分からない神姫もいるのね。 「!? ご主人様!早くこの場から離れま―――」 ゴゴゴゴ!!!! さらに地震が酷くなり右膝をついてバランスをとる。 しまった! これでは走ること、いや、立つことすらできないぞ! 畜生、いったいなにが起こっているのだというのだ! 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
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《登場神姫紹介》 カガリ CV 久川 綾 タイプ蓮華の関西弁口調の神姫 性格は適当で気分屋、飄々としている …様に振舞うが抜け目なく意外と頼れる 挑発的な態度であるため、鋼牙との諍いの原因はほぼカガリの挑発から始まる 意外とマスター思いであるが表に出すことはない マスターである蓮の呼び名は「御嬢」 戦闘はマスターの指令よりも自分自身の戦術を基準と考える 合理的であれば従うが、それ以外は却下して独自行動に移る 戦闘は「楽に、的確に、スムーズに」を信条としている 装備は現在蓮華の標準装備を使用している 鋼牙 CV:浅川 悠 タイプガブリーヌ 何故かいつも喧嘩腰の態度をとる 好戦的で喧嘩っ早い こんな性格ではあるが異性に対する興味、好奇心が高い(雄也は論外) マスターである蓮に対する呼び名は「レンコン」と渾名で呼ぶ 戦闘はゴリゴリの力押し 戦術云々よりも本能と感覚と俊敏さに任せたハイスピードバトルを好む 当るも八卦当らぬも八卦である 装備はガブリーヌ標準装備 ソレイユ CV エリー・カークランドの神姫 タイプフォートブラック 戦いを好まず、公式リーグにも登録していない バトルこそ行わないまでも作業用ツールを多く所有しておりエリーの作業の手助けをする 戦いと別の生き方を選んだ神姫 カガリや鋼牙の面倒を見ることもしばしば 名前の『ソレイユ』とはフランス語で「太陽」「ひまわり」の意味 エリーがセクハラするとエリーの両頬を掴んで引き伸ばす メインページへ
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前へ 先頭ページ 次へ 第三話 エイダ クエンティンは混乱していた。 まばゆい光に包まれたと思ったら、ボディが今までのとぜんぜん違うものにすげ変わっていたのだから混乱しないはずがない。いや、すげ変わっていたのではなく、これは本来のボディそのものが変化したのだ。見たこともないエネルギーラインが体を取り囲み、見たこともない装甲が全身に取り付けられている。というよりは装甲そのものも体の一部のようだった。 あまつさえ当たり前のように空中に浮遊している。アーンヴァルのような推進器の類はなく、背中に生えた小さな羽根からしゃわしゃわと出ているエメラルド色の粒子だけで、轟音も地面に吹き付ける風圧も無く、ただ浮いているのだ。 こんなことになった原因はすぐに分かった。あの銀髪の変な神姫だ。あの変な神姫が自分の頬を触ったと思ったら、消えて、なぜかその神姫の声が今は自分の中から聞こえてくる。 ということはその神姫は自分の中にいるという解釈がごくごく自然に成り立つが、ちょっと待った、とクエンティンは類推を引き止めた。 ありえない。そもそも自分の中にいるというその事実こそがありえない。純然たる世界の物理法則からして、二つのものが一つになるなんて絶対に起こらない。いや、一つになって質量が単純に二倍になるならいい。それは合体であり、物理法則になんら抵触していない。 一つになったのに質量が二倍に達していないのが問題なのである。たとえあの神姫自体がこの珍妙なアーマーに変形したのだとしても、二倍には程遠い。せいぜい一.三、四倍くらいだ。残りの六、七割はどこへ行ったのか。消えるということは無い。なら、融合したとしか考えられないのだが……。 『そのとおりです』 あの声がまた中から聞こえた。頭ではなく、胸の中、心臓の辺りから聴覚センサーを経由せず、陽電子頭脳の意識レベルに直接響いてくるらしかった。 「ちょ、ちょっと待ってってば、どーゆー原理でそうなってるわけ? そもそもアンタ誰?」 声に出して、クエンティンは訊いた。理音を含む周囲には独り言にしか聞こえないのではないかと彼女は思った。 『いま説明している時間はありません。ボギー、総数一二機。包囲されています。危険度レッド。脅威度イエロー。今すぐ戦闘行動を開始してください。ボギー1、8、来ます!』 「ええっ!?」 キルルルルッ 包囲している一つ目どものうち二体が、小さな羽根からオレンジの粒子を撒き散らして接近してくる。 クエンティンは慌てた。フロストゥ・クレインは足元はるか下に置き去りにされており、取りに行く暇は無い。 「ぶ、武器は!?」 『使用可能武装情報および取り扱いマニュアル、オープン』 声がそう言った途端、クエンティンはいくつかの武器がこの体にあることと、その使い方を思い出した。教えられたのだ、口頭ではなく情報として、やはり直接、陽電子頭脳へ。 右手を前方の一つ目、識別名ボギー1へかざす。 ツ、ツ、ツシュッ! 胸部の球体から右手へ伸びるエネルギーラインが点滅し、手のひら下のスリットから、全身を走ったり羽から出たりしているエネルギー粒子と同じ色をした粒子の塊が高速で三連射された。 三つのエネルギー塊は突進してくるボギー1にすべて命中し、足止めを果たす。 その流れで、手首にフォールドされているあの細長いブレードを展開、上体を右に回転させ、右後方へ切りつける。 シュパンッ! そこに丁度接近していたボギー8が、胴体から真っ二つに切り離された。 『ボギー8撃破』 そのままの流れで、もう眼前に肉薄していたボギー1へ、返す刀を真上から脳天へ振り下ろす。 シバッ! 刃を受けたボギー1は縦に半分にされて地面に落下、そのまま爆発した。 『ボギー1沈黙、8を除くボギー2から12、来ます』 残りの十体が一斉に突撃する。 衝突寸前、クエンティンは左手でボギー7をがっちりと引っつかむ。吸い付くような感触。グラブ機能だ。 そのまま最大出力で真下へ離脱する。小さな羽根からエメラルド色の粒子が大量に放出され、クエンティンは猛スピードで地面へ接近する。思わぬ加速に彼女は面食らった。 『衝突警告!』 「ぐうっ……!」 むりやり推進ベクトルを真横に切り替える。 バ、シャウッ! 地面すれすれで、たいしたGも無くすんなりと、クエンティンは真横に移動することができた。 そのまま真上を振り返り、敵集団へ左手のボギー7を力任せに投げつける。 目にも留まらぬ勢いでボギー7は敵集団へ衝突。それを含む三体のボギーはその衝撃で爆砕。 『ボギー2、7、12、撃破』 続いてクエンティンは背中に意識の一部を集中。 視界の生き残ったボギーにそれぞれロックオンシーカーが表示される。 ガシォーン! ロックオンレーザーである。直進しかしないはずのレーザーが、何十本、生き物のように曲がりくねって、数本ずつ一つ目どもに向かってゆく。 命中。 衝突でダメージを受けていた二体がそれで機能を失い落下した。 『ボギー4、5、撃破』 残り五体は距離をとって態勢を立て直す。 「何、この機動性……」 ここまでかかった時間は五秒にも満たない。性能を極限まで追及したアーンヴァルでさえ、こうはいかない。 「アンタ何者?」 クエンティンは声の主に訊ねる。 『独立型武装神姫総合戦闘支援システムプロトタイプ、エイダです』 エイダと名乗った声の主は、抑揚の少ない口調で答えた。 「ンなの聞いたこと無いわよ」 『公に対する情報開示はまったくなされていません』 「じゃあ聞くけど、アンタどこ製?」 『回答不能』 「同郷? BLADEダイナミクス? 少なくともカサハラインダストリアルじゃないわよね」 『回答不能』 「……もしかしてEDEN本社?」 『回答不能』 クエンティンは頭に来た。 「アタシのボディ間借りしといて回答不能は無いでしょ!?」 『申し訳ありません。情報プロテクトがされており、責任者の許可が無ければ開示できません』 そっけなく、エイダは答えた。 だったらなんで、独立型うんたらかんたらプロトタイプって自己紹介できたのよ。 クエンティンは憤りを禁じえなかった。 まったく、とんだ災難に巻き込まれちゃったわ。 「こんな道端のど真ん中で氷雪浴してた理由も回答不能?」 『申し訳ありません』 「もういいわよ」 はあ、とクエンティンはため息を吐く。本当に災難だ。 「そうだ、お姉さまは!?」 あたりを見回す。電柱の影で手を振っている理音の姿が見えた。 良かった、無事だわ。 キリキリキルッ それにつられたのか、残った五体の一つ目どもが理音のほうを向いた。 そのまま彼女へ近づいてゆく。 「なんで!?」 クエンティンは反射的に飛び出した。 明らかに一つ目どもはお姉さまを襲おうとしている! ロボット工学三原則、改名、人工知能基本三原則にばっちり抵触しちゃってるじゃない! なのになんで!? 簡単に一つ目どもを追い越し、クエンティンは立ちはだかった。 「アンタたち、人間を襲うの!?」 一つ目どもは答えない。発声器官が無いのだ。 突撃が答えだった。 「ちくしょー!」 クエンティンはブレードを展開、一番近いボギー10に急接近し袈裟懸けに切りつける。主エネルギーラインを断ち切られたボギー10は力を失って墜落。 切りつけた勢いを反転させ――やはり不思議なことに反動は無かった――正反対を飛んでいたボギー6の頭部を貫き、ブレードに挟ませたままその場で八の字にぶん回す。ボギー3,11がぶつかり、三体はまとめて爆発四散。 『ボギー10、6、3、11、撃破。敵、残り一体です』 「きゃああ!」 理音の悲鳴。 唯一残ったボギー9が、もう理音の目の前まで近づいていた。両手を真上に掲げている。 両手の先からオレンジ色のエネルギーカッターが伸びる。 「しまった!」 クエンティンは彼女の元へ飛ぶ。 だめだ、間に合わない! ボギー9が理音へカッターを振り下ろす。 パンッ、パンッ! まったく予想外の方向から甲高い破裂音が響き渡った。 ボギー9は何か強烈な勢いを持ったものに弾かれ、電柱に激突し破裂した。 理音とクエンティンは音のした方向を振り返る。 高級そうな白いスーツを着た、金髪オールバックの、眼鏡をかけた長身の青年が、煙を吐いている拳銃を持って立っていた。本物の拳銃である。 彼の後方には頑丈そうな真っ黒いサルーンが停まっている。 「こんなところで貴様に会うとはな」 「あなた……」 理音はその青年を知っていた。 以前とあるセンターの、リーグ無差別エキシビジョンマッチにおいて戦い、すんでのところでクエンティンが敗北した、「ルシフェル」という武装神姫のオーナー。 鶴畑コンツェルンの御曹子、長男、鶴畑興紀である。 「まさか拳銃で壊せないとは。たいした新型だ」 鶴畑興紀は地面に転がっている一つ目の残骸を見ながら、ひどく感心した様子で言った。 キルキルキルキルキルキル キリキリキリキリキリキリ さらに生糸を引っかくような音が何重にも聞こえた。 理音たちの後ろの道から、吐き気を催すような大量の一つ目 どもが現れ、近づいてきたのだ。 「こんなにいるなんて!?」 「チッ、乗れ!」 興紀は二人に手招きをし、サルーンへ乗り込んだ。 理音とクエンティンは一瞬迷ったが、選択の余地は無かった。このままこの場に居たのでは確実に嫌なことになる。 「何をしている!」 興紀は怒鳴った。 二人はバックを始めているサルーンへ飛び込んだ。 ドアが自動で閉まる。 「じい、出せ」 興紀は運転席の執事に命じた。 「かしこまりました。お二人とも、シートベルトをきちんとお締めになってくださいませ」 興紀も理音もベルトを締め、理音は懐へクエンティンを忍ばせた。 「行きますぞ!」 白髪の執事はシフトレバーを切り替え、アクセルを踏み込む。 狭い道路を、大型のサルーンがぶつかることなく颯爽と走り抜ける。 サルーンは逃走に成功した。 しばらくその場でうろうろしていたが、ややあって、一体残らずどこかへ飛んでいってしまった。 裏路地に静寂が戻った。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ