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無頼10「インターミッション」 「たこ焼8個入りに…たいやき2つ」 今日で夏休みも終わる。 何だかんだでいろいろあったここ最近。 思えば、6月上旬にヒカルが来たんだよなぁ…。 はじめは"神姫に対してあまりいい印象が無かった"。 なぜかって? 世のニュースは頭の固いコメンテーターが言いたい放題言ってやがる。 興味のない事は聞き流す事にしているとはいえ、これは物語初期の考えを決めつけるものとなった。 そう、神姫はあまり好きじゃなかった。 …でも、ヒカルと過ごす内に、その考えは変わっていった。 "たとえサイズが違い、機械仕掛けでも、神姫は人間と同じ"と思うようになった。 そしてジーナスも加わり、今に至る。 「形人、どうしたの?」 「いや、なんでもない」 ちょっと心配そうな顔でヒカルがこちらを見る。 こいつも始めのころに比べて、ずいぶん凛々しくなったなぁ…。 気のせいだと思うが。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 近くのベンチに座り、たいやきを取り出す。 「うぐぅ」が口癖の少女が通る訳もなく、生暖かい風が吹くだけである。 「形人…(きらきら)」「はいはい、たこ焼きだろ?」 たこ焼をヨウジごと渡す…が、ウェットティッシュの類は持ってきてないぞ? 「では、いただくか」 あの店のクリームたいやきはうまいんだよなぁ。 ではあー… ぶぅぉんんん…!(ひゅん!)「ひゃっ!?」 「何だッ!?」 「わたしのたこ焼き…あ!、あれ!」 ヒカルが指差した方向に佇む小さな影。 流線形を描くカウル、上から見るとAの字に見える特殊形態。 そして真紅のボディに胸元があらわなボディスーツの少女。 オーメストラーダ製ハイスピード型武装神姫、"アーク"だ。 そいつがヒカルのたこ焼きををかすめ取ってったのだ。 「へっへーんッ。…あむっ」 予想はついていたが、コイツ…食べ始めやがった。 「ああーっ!? わたしのたこ焼きーッ!?」 「ケチケチしなさんな、あと7つもあるじゃないか」 「至福の時を邪魔されたのに腹が立つんだこの野郎ッ…!!」 ヒカル、口調が変わってるぞ。もしかして素か? 「こらリック! 何をしてんだ!…あれ?」 「!!」 声のする方を振り向く。…が、そこで僕はしばし硬直した。 「あ…あれ…? 君はもしや…」 癖のある紅髪、それをポニーにしている黒いリボン。 つりあがった眼尻に、首から下げられた羽ペンダント…。 黒服に身を包んだその姿に、僕は見覚えがあった。 「…け、形人か…?」 「…ひ、飛竜。飛竜一深(ひりゅう かづみ)か? もしかして…」 その直後彼女に体当たりをされ、一瞬意識が飛んだ。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「いやぁ、ホントに久しぶりだなぁ…!」 「だからっていきなり気絶しかねん勢いでぶつかるな」 「いーじゃないのさ、そのくらい」 ここで紹介をしておこう。 彼女は"飛竜一深"、…小学校時代の親友だ。 「…その表現、"恋人"に格上げして…くれないかな?」 「「!!?」」 さらっとすごい事を言われた。 クラっとくる言葉を自重なしで言い放つのは昔からだが…、まさかそんな事が…。 「念のため聞くが、それは冗談だよな?」 「いや…本気で言ってる」 「マジで?」 「マジ」 ………どうしよう風間、こんな事は予想外だ。 「ねぇ! 何故わたしのたこ焼きを狙ったの!?」 "リック"の襟元をつかみ脅迫まがいに問い詰めるヒカル。 「いやさぁ、ただからかっただけじゃないの。何もそこまでムキにならなくても…」 目をそらすリック、ほんの出来心がここまでひどくなるとは思ってなかったのだろう。 「…で、どこの高校に行くんだ?」 「画龍高校1年A組」「僕んとこかよ!?」 信じられん、何か仕組んだか? 「そんな訳ないじゃん」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「んじゃ、また明日」「たこ焼美味しかったよ~」 そう言って嵐(一深)は去って行った。 「形人…、あの人って…」 「自称・恋人、か…。頭いてぇ…」 「いいではないか! 押しかけ女房は萌えるぞ!!」 「ってなんでお前がいる光一!!?」 「通りかかったら偶然見つけて、おどかそうと隠れていたらだな…」 そうゆう問題かっ!? ていうか、何を言ってるんだお前は? 「にゃ~はたいやき食べたいにゃ」 「そういえば忘れてた…(呆)」 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
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第二十話:道行姫 「僕はイリーガルマインドに苦しむアーンヴァルの声と施設の事を聞いて迷っていたよ。施設がどうなるのか、この先の武装神姫もどうなるかと」 結に支えられながら輝は俺に自らの迷いを語り始める。その顔は施設の真実を晒される事を恐れていない覚悟の決まった顔だった。 ついさっきとはまるで違っている。 「でも、こうも考えられたんだ。もしかしたら神姫も施設も両方救えるんじゃないかって」 「何をする気だ?」 「僕は証人に加わる。その代わり、施設の何も知らない人々は無関係だって事を証明して、施設が存続できるようにする」 「……一番困難な道だぞ? しかもすぐに解決できる事じゃねぇ。施設を存続させたとしても後の偏見の目だって消さなけりゃならん」 輝の選択は最も難しいものだった。 施設からイリーガル技術流出の汚名を拭い去る、言葉にすればそれだけの意味だが、実際にやるなら様々な問題が発生する。それは俺にだって列挙し切れるものじゃない様々な難題、他者の思惑が絡んでくる。 まさに茨の道、輝も思い切ったものである。 「わかってる。これは僕の戦いだ。君の手出しは無用だよ。君はイリーガルにだけ集中していればいい」 「やれるのか? 一人で」 「一人じゃないよ。僕には結がいる。石火に早夏もいる。施設のためなら何だってやってみせるよ」 その言葉を迷いなく言ってみせる。結も、石火に早夏もそれについていこうという顔をして、輝の語る姿を見届けていた。どうやらその言葉は四人で考えた真実のようだ。 俺が止められるようなものじゃない。 「ははっ。なるほどなぁ。初代チャンピオンって名がさらにサマになってきた気がするぜ」 彼らの覚悟に負けた俺は少し笑って、それを認めた。そこまで言うなら進んでもらおう。俺はその覚悟を見届けてやる。 「わかったよ。俺はイリーガルを叩いて、目の前の小さな奴らを助ける。お前は施設って大きなものを助けてやんな。足下は俺に任せろ」 「ああ」 俺は輝に敬意を表して、彼の手を取り、握手した。輝はその感触を感じ取って握り返し、それを交わした。 「いいね。男の友情っていうのは熱い! 僕も及ばずながら力になるよ。まぁ、ただというわけにはいかないけど、代金を割引サービスしてあげちゃおう」 話のキリのいい所で日暮が拍手で話を持ちかけた。ちゃっかりしているのか、本気で感動しているからそうしているのかといえば……おそらく後者だ。 その辺はしっかり『正義の味方』といった性格をしていた。 「今の声の人は?」 「正義の味方の日暮さんだ。彼に手を借りれば結構やれると思うぞ。『ハイスピードバニー』の風俗神姫騒動も解決にも貢献したからな」 「あの大事件を!? それは凄いな……」 「どうだい? 僕に君の手伝いをさせてくれないか?」 「お願いします。対価なら払います。どんな事をしてでも施設を救いたいんです」 「わかった。代金はそうだな。尊君。君に払ってもらおう」 「え?」 話が進む中、唐突に代金の話が俺の方に向いて驚いた。何をどうすればそういう話になるというのだろうか。 「そう難しい事じゃないさ。代金は君がイリーガルマインドなどの装備を押収して、それを僕に渡す事を約束してくれ。つまり、君が今やろうとしている事さ」 「なるほど。それならいいでしょう。僕がやる事は輝と違って自己満足だ。それに価値がつくなら喜んで」 「商談成立だね。じゃあ、輝君に結ちゃんだっけ? 二人で奥まで来てくれ。これからの事を話そう」 「はい」 長期戦となるであろう施設の話について打ち合わせがかなり時間がかかるのか、日暮は輝にそう言って店の奥へといなくなる。確かに他言無用な話になるのだからそうなるのも当然と俺は納得した。 その輝は入り口から結に導かれながら歩みを進めていく。その足取りは目が見えないため、周りを探るような歩き方をしているが、進むことには一切のためらいがない。 その中で俺の近くまでたどり着くとそこで輝は足を止め、気配でそうしているのか、俺の方を向いた。 「尊。ありがとう。この一歩を踏み出せたのは君のおかげだ」 「尾上辰巳だ」 「え?」 「お前等の頑張ってんのに変なプライドで本名を名乗らないわけにはいかんなと思ったんでな。改めて自己紹介さ」 「そうか。僕は天野輝だ。改めてよろしく。辰巳」 「ああ。……一歩を踏んだ後は輝次第だ。俺は俺の道、お前はお前の道をそれぞれ行こう。目が見えなくたって、もう見えてるだろ?」 「うん。行ってくる」 「おう」 短い会話が終わると輝は再び歩き出し、店の奥へと消えていった。そして代わりの店番として神姫のコアを飾るための胸像ディスプレイにヴァッフェバニータイプのコアがくっついたもの……うさ大明神様がレジの隣に現れた。 それを見届けた俺はここでの用事が終わって彼らとの約束を果たすために蒼貴と紫貴と一緒に店を出て行った。 一週間後、日暮から視覚データによる結果と輝からの連絡が来た。 あれから日暮は輝を伴って、決定的な証拠を施設の研究者に突きつけ、彼らを一網打尽にしたのだという。 これによってリミッター解放装置の販売ラインを、根元を断ち切った事になる。リミッター解放装置はこれ以上、増えることはない。後は日暮が既に流通したものを回収し、俺が既に使ってしまった、或いは買わされてしまったオーナー達から押収すれば、何とかなるはずだ。 使った後でも杉原のワクチンプログラムで何とか助けられるだろう。 施設に関しては義肢を開発していた研究所の独断として施設と研究所で切り離され、研究所のみが罪に問われる形となった。しかし、そこの神姫は改造前のは何とか解放したものの、手を付けられてしまった神姫に関しては証拠品として警察に押収されてしまったらしい。 これを聞くと神姫はまだまだ物として扱われているという事の様だ。 俺達は神姫オーナーにとっては、神姫は物ではなくパートナーだが、この日本での法では神姫は個人として認めてもらえていないのだ。所詮はロボット。物であるという訳だ。 昔の本や物語で繰り広げられているロボットの存在意義の上での答えがこれだとするなら少々悲しいものを感じる。 しかし、可能性はある。そう。輝だ。 日暮経由の彼の連絡に施設の神姫が押収された現場に居合わせたらしく、何とか説得を試みて失敗に終わり、自らの力の未熟さを痛感させられた事が書かれてあった。 後悔の思いがあったが、それには続きがある。輝はその神姫達や施設を助けるためには自分自身がそれを制するだけの力が必要と考え、弁護士として猛勉強することを決心したらしい。結と彼らの神姫もまた輝の決意についていくことにしている。 神姫で何とかするというだけではなく、大人としての力を得る事で両方を救う。どうやら、これが輝なりの答えという事の様だ。 これはすぐに解決することではないし、俺が足掻いた所で変わりはしない。せいぜい輝の相談に乗ったり、宣言したとおりに、バーグラーを狩ったりするのが関の山だ。 だが、こうして未来に続いていると感じることができるのは悪い気がしない。輝を信じる。それだけで今回の自分のやったことが無駄ではないと思えた。 「解決はしたわけじゃねぇが、いい風には終われた……か」 連絡を受けた事を思い出しながら俺は神姫センターに入っていく。今回来たのは真那と会ってしまういつもの場所ではない。そこからさらに四駅ほど進んだ先にある別の神姫センターである。 今回の事件によってばら撒かれたイリーガルマインドの流通も広範囲に渡るものになってしまっており、警察や日暮も捜索しているものの、発見するのが難しい。 俺個人でどれだけ発見できるかはわからないが、様々な場所を回って多くのオーナーや神姫を見てみたいという気持ちもあったため、こうしてイリーガルマインド回収も兼ねたセンター巡りをしてみる事にしたのだ。 秋葉原を中心とするその周辺には多くの神姫センターがある。探そうと思えば、ゲームセンターや公認ショップ含めていくらでもあるため、自分の縄張りだけでは飽き足らないオーナーと神姫達は様々な場所で修行する際には秋葉原を中心とするこの激戦区を回るのが通例だという噂を聞いたことがある。 俺は……『異邦人(エトランゼ)』の真似事をするのだからその噂通りのことになるかもしれない。素性を明かす気はない点では異なるがな。 「ミコちゃん、本当にここにイリマイあるの? イリマイがある割にはここの噂が小さい気がするんだけど……」 「……日暮さんの教えてくれた噂じゃ、ここにイリーガルみたいな神姫が破竹の勢いで勝ちまくっているってことらしい。あの人の情報網は信頼できる」 神姫センターの奥へと進む俺に紫貴が話しかけてきた。今回は日暮の情報からここに来ている。俺の蒼貴を大破に追い込んだバカ者共と似たようなクチであり、イリーガルマインドの予感しかしない。が、紫貴の言う通り、噂が小さく、それが目立たない。そこがおかしな所である。 「しかし、ここはその噂の人以外の人も強いようですね。だから、大きな騒ぎになることもないという事なのでしょうか。あの試合の人達もすごいです」 蒼貴が指差す先を見ると、大きなスクリーンがあり、それに非常に高いレベルの対戦が映し出されていた。 対峙しているのは黒い外套と身の丈はあろう化け物の様な太刀を力任せに振り回し、叩き潰すような戦い方をするストラーフタイプとスカートアーマーの内側から隠している暗器を取り出して一定の距離を保ったまま、翻弄してみせるアルトアイネスタイプの二機だった。 「You re going down!(くたばれッ!)」 翻弄されていることにプライドを傷つけられているのか、少々怒り気味のストラーフが太刀を力任せに振り回してアルトアイネスに襲い掛かる。 「それは勘弁して~。噂に聞くバラバラ戦術は痛いしさ~」 彼女は軽口を叩きながらサブアームで受け流し、そのままアーマーを展開することで飛んで爆弾による爆撃を仕掛ける。 ストラーフは太刀で着弾する前に弾き飛ばして自らのダメージを減らし、大きく跳躍して、反撃に出る。 銃を連射し、それに続いて一戦しようというオーソドックスな攻め手だ。銃の弾はアルトアイネスの翼を形成するスカートアーマーを弾いて体勢を崩させ、動きを硬直させるとそのまま太刀の一閃を放つ。 「危ない危ない」 いつの間にか取り出した大剣ジークフリートでそれを防御する。ストラーフはそのまま、力を入れて叩ききろうとしたが、いかんせん空中にいるため、力を入れられず、そのまま地面に着地し、次の一手を打つために追撃を仕掛けてこようとしているアルトアイネスに向かって太刀を構えた。 「確かにレベルが高いな。これからこういう奴らと戦うのも悪くない」 拮抗状態の続く戦いに俺は感心した。ここまでのバトルが見られる上に互いに隙を見せずに攻撃を繋ぎ続けているだけ実力を持っていた。あれだけの力があれば万一、イリーガルマインド装備が出ても何とかできるかもしれない。 どういう奴らなのかと対戦の映像の隣の対戦者のデータを見てみる。ストラーフタイプはフランドールという名であり、オーナーは三白眼と長めの黒髪をサイドテール、黒いパンク調の服とシルバーアクセが特徴的なガラの悪そうな咲耶という名の少女だった。 彼女は噂を聞いたことがある。何でも相手が弱いと判断すると、弄んで潰すという戦い方から非難の声が上がるという悪評である。しかし、ランクに反して強いことから有望であるという見方をする人もおり、注目されているらしい。 一方、アルトアイネスタイプはメルという名前だった。オーナーは祥太という気さくな印象のある青年だった。特に噂を聞いていないため、未知数だが、フランドールを翻弄することができるという点では彼らもそれだけの実力をつけ始めていると見ていいだろう。 「ねぇ。ミコちゃん、あれ」 「あ?」 対戦を観戦している時に紫貴が俺に声をかけて指をさす。その先を見ると甘ロリ系な女の子が二人の青年に囲まれているのが見えた。 「おい。梨々香ちゃんよ。遠野のチームメイトだったよな?」 「な、何よ……」 「俺達は最近、三強を倒して調子に乗ってる『ハイスピードバニー』のチームを狩ってるのさ。遠野や『異邦人』を引きずり出すためにまずは弱そうなお前からやろうって話になったんだよ」 どうにも彼らは『ハイスピードバニー』……恐らくは遠野貴樹のチームを潰そうと考えているらしい。事情はよくわからんが女の子を男二人で襲おうとするその現場は見苦しいことこの上ない。 「やめてよ! 二対一なんて……」 「関係ないね。『玉虫色』を倒したのも初心者だ。ここで勝ちまくったが、油断はしねぇ」 「そうそう。やるなら全力ってな。ははは」 「そうだな。やるなら全力……二対二だな」 傍まで近づいた所で俺は男二人の話に割って入る。 「あ? 誰だてめぇは」 「俺はただのオーナーだ。……覚えておかなくていい。どうせお前らが負けるんだからな。トラウマになりそうなものがなくなっていいだろ?」 「ふざけるな! こいつは後回しだ。この野郎をやるぞ!」 「おう! そこのバーチャルバトルに来い!」 「そうこなくっちゃ……」 挑発をするとすぐに釣れた。さすがはチンピラ。単純で助かる。 そう、ほくそ笑むと俺は彼らの言うことに従ってバーチャルバトルなるものに向かう。今回のはエルゴにおいてあったシミュレーションバトルによる戦闘という事になるようだ。 自分のブースに着くと蒼貴と紫貴を二つのアクセスポッドに乗せて接続する。向こうでは俺が一人で二体操ろうとしている事をバカにしているのか、笑いながら各々の神姫をセットした。 それによってバーチャルシステムは起動し、オフィシャルバトルの準備が完了し、ディスプレイの向こう側にそれぞれの神姫が出現する。 相手はヴァローナタイプとガブリーヌタイプだ。それぞれ純正装備だ。ただし、両方が首にイリーガルマインドを装備している。何とかこれを回収しなくてはならない フィールドは草原。遮蔽物もないその場所は純粋な戦闘力が試されるだろう。 『Ready……Fight!!』 ヴァローナが先行し、ガブリーヌが援護射撃しつつ、前進する普通の戦法を取ってきた。 「蒼貴、紫貴。すぐに沈める。まずはヴァローナをやる。蒼貴は苦無で拘束、紫貴は射撃からブレードで斬り捨てろ」 対して俺は速攻の指示を出す。女の子を再び襲うのをためらわせるほど、速やかに倒す必要がある。圧倒的な力の差という恐怖。それがこの戦いのテーマだ。 蒼貴と紫貴はそれを聞き、行動に移す。蒼貴は接近してくるヴァローナの四肢に苦無を、紫貴はアサルトカービンをそれぞれ放つ。飛んでいく苦無は足を止め、弾丸がひるませ、ヴァローナを無防備状態にする。 「はっ!」 そこをすかさず紫貴がエアロヴァジュラで切り裂く。ヴァローナは何がおきたのかもわからずに声を上げることもなく地面へと倒れた。 その直前、蒼貴は首からイリーガルマインドを奪う。これでヴァローナのイリーガル化は防げる。 「この野郎!!」 早くも相方を失ったガブリーヌはイリーガルマインドの力を使った。それにより彼女の額からユニホーンが生え、紫色のオーラを放ち始める。 「これで決まりだ。紫貴、バトルモードで接近して拘束。蒼貴、紫貴に乗って塵の刃の用意」 「はい!」 「了解」 予想通りの展開からの次の指示につなげる。ヴィシュヴァルーパーに変形した紫貴に蒼貴が騎乗し、接近の間に塵の刃を鎌と苦無にまとわせる。 ガブリーヌは重装備に物を言わせて接近してくるまで拳銃を撃ち続け、接近したらいつでも殴れるようにナックルを構える。 銃撃を避けながら、紫貴が接近するとガブリーヌはナックルで紫貴本体を狙った一撃を仕掛ける。 しかしそのとき、違和感に気づいた。そう。蒼貴がいない。 攻撃を紫貴に仕掛けながらも目だけで蒼貴を探していると……上にいた。 「なっ!?」 ガブリーヌは驚きながらも紫貴に攻撃を続けようとするが、彼女は変形解除をして、サブアームで受け止め、拘束する。 「今よ! 蒼貴!」 「せいやっ!」 気づいた時には既に遅く、宙を舞う蒼貴が塵の刃をまとった苦無でユニホーンを切断し、鎌で腹を引き裂く。そしてとどめとしてイリーガルマインドを奪った。 その瞬間、それの効果が失われ、ガブリーヌは効果が切れて砕け散る塵の刃のかけらが舞う中で地面に伏す。 『You Win!!』 ディスプレイに勝利画面が表示される。それが表示されるまでのタイムは一分とかかっていない。一蹴とも言うべき戦果だ。向こう側にいる男二人はイリーガルマインドを使っているのにこうなってしまった事に動揺していた。 それもそうだ。神姫のせいとかそういうレベルではない。実力を発揮する前に終わってしまったのだから。 「ど、どうなってんだよ!? てめぇ! チートでも使ってんじゃねぇのか!?」 「そりゃお前らだろ。そのイリーガルマインド、俺が追っている違法パーツなんだよ。わかってて使ってるのか?」 「なんだと!?」 「すぐにそれを外せ。お前たちの神姫が苦しんでいるぞ」 チートと騒ぐ男二人にイリーガルマインドの副作用について指摘すると彼らは自分たちの神姫を見た。神姫達は例によって副作用で苦しんでいる。バーチャルバトルではどうなるのかと思ったが、どうにも架空も現実も同じであるらしい。 「な……」 「どうなってんだよ!?」 やはりというべきか彼らは知らず、副作用に驚いていた。この装置の副作用は全くと言っていいほど、説明されないケースが多い。このパターンはよく見る。 「それが原因だ。そのまま捨ててしまえ。でもってホビーショップエルゴにいきな。有料で直してもらえるからよ」 「お、覚えてろ!!」 「由愛~~!?」 自分の神姫を持って逃げるように去っていった男二人を見送ると置かれた二つのイリーガルマインドを拾う。見ると本当に本物のイリーガルマインドに見える。これがただの演出で済めばどんなに良いことか。 「こんな下らねぇもん使ったって、強くなんてなれねぇのに何やってんだか……」 ため息を付きながらそう呟く。 こんな調子でイリーガルマインドを狩っているが、それを持っているやつは大抵がその性能に魅入られている馬鹿か、知らないアホ、あるいはその両方の三択だ。 二番目なら救いようがあるが、それ以外なら話にもならない。痛い目を見るまで使い続けてくれるから困る。少しはうまい話なんてないことぐらい考えてほしいし、それで神姫が犠牲になったらどうするのかを考えていただきたいものだ。 これ、あるいはこれに類する違法パーツが横行したらどうなるかを考えると今の武装神姫は危ういラインにいるのだろうか。 「あの……助けてくれてありがとうございます」 「気にすんな。こっちもこいつを回収するのが仕事なんでね」 考え事をしていると瞬く間に倒した俺達に助けた梨々香という甘ロリ系の女の子が話しかけてきた。肩にはポモックタイプの神姫が乗っている。見た感じは特に目立った改造もない純正装備だった。このまま、絡まれていたらまず間違いなく、手痛い目にあわされていただろう。 「あの……オーナー名の尊ってもしかして双姫主の尊さん?」 「いや、俺は……」 「その通りです」 何とか名乗ることを避けようとしたが、蒼貴に肯定されてしまった。 墓穴を掘らされていつものこのザマだ。困っている奴らをほっとけないだけにこのパターンは引っかかりすぎる。 「そうよ。ミコちゃんはね。双姫主として雑誌にも載っちゃった超かっこいいオーナーなのよ? すごいでしょ?」 「やっぱりそうなんですか! あの戦いがデュアルオーダーの……遠野さんのやってた通りなんだなぁ……」 紫貴が無茶苦茶脚色を付けた事を言うと梨々香は感激したらしく、紫貴の言葉に頷く。 「おい。こら。何、勝手に晒してんだ。しかも尾ひれを付けすぎだろ」 「雑誌に載った時点でアウトでしょ?」 「うるせぇ! 素性が載ってねぇからまだ何とかなるはずなんだよ!」 「いいじゃない! 減るもんじゃないし!!」 「あんだと!?」 「あの……!」 すっかり正体をバラされて怒る俺とかっこつける紫貴が口喧嘩を始めようとするとなにやら勇気を振り絞ってる様子の梨々香が口を挟んできた。 「どうした?」 「私に戦い方を教えてください! さっきみたいなことになって、チームの皆の足手まといになりたくないんです!」 「遠野さんってのに教えてもらえばいいんじゃねぇか?」 「遠野さんにはもう弟子がいるし……。勝ち負け関係なく楽しんでるけど、こんな事、情けなくって周りに言えないよ……」 話から察するに梨々香は遠野のチームに所属はしているものの、勝ち負け関係なくバトルロンドを純粋に楽しんでいる奴であるらしい。しかし、この一件で自分でも戦えるようになりたいと思ったらしいが、周りにはそういう奴だと思われていて言いにくい。だから、見ず知らずの俺にまずは教えてもらおうと考えているらしい。 ぶっちゃけ、恥をかなぐり捨てて知り合いに教わった方が進歩が早いと思うのだが、どうしたものか……。 「……オーナー、教えてあげてはいかがでしょう?」 「ミコちゃん、そうしようよ。真那にだっていつも教えてるんだし、慣れっこでしょ?」 「……仕方ねぇなぁ。わかった。その代わりといっては何だが、『ハイスピードバニー』の事を知っている範囲でいいから聞かせてくれ。興味があるんでな」 「ありがとうございます!」 「梨々香ってんだったか? 俺は厳しいぞ?」 「はい!」 梨々香の真剣な態度に感心する蒼貴と紫貴にも逃げ場を塞がれた俺は逃げることを諦め、梨々香に俺のバトルの経験を教えることに決めた。デュアルオーダーは無理でも普通の戦い方ぐらいは教えられるだろう。……真剣な気持ちを無碍にできんしな。 まぁ、こうやって動き回れば梨々香のような良い奴にも会える。こういう奴らがいるからこそ、武装神姫という舞台がマシな方向にも向かうことができる。 その可能性を1%でも高めてやるのが俺らにできることなのかもしれない。 それで武装神姫が良くなるなら俺の行動も無駄じゃないし、輝や別の場所で戦っている誰かもまた頑張っていられるだろう。 この手ほどきも何かの役に立つことを願って、やってみるか……。 第三章『深み填りと盲導姫』-終- 戻る トップへ
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「どう? 仁さん」 とある建物のとある一室。華凛はパソコンを横から覗きながら言った。パソコンを操作している青年は眼鏡を直しながら呟く。 「思った通り、改造神姫ですね。それも、重度の」 青年はそれだけ言って、再びキーボードを打ち始める。 私は、クレイドルで眠る神姫を見た。武装は全て外され、静かに眼を瞑っている。その安らかな寝顔を見ていると、さっきまでこちらに銃口を向けてきたとは思えない。 「店長、こっちの武器も違法改造が施されてます」 そう言って改造神姫の武器の入ったダンボールを抱えて現れたのは、別の神姫だった。たしか、アーンヴァルMk.2型。 「そうですか。ご苦労様です、エリーゼ」 「いえ、そこまでのことは……」 「いえいえ、いつも助かってます」 「もう、店長ってば大袈裟ですよ~」 エリーゼと呼ばれた神姫と青年は、仲良さげに会話している。とても微笑ましい。 することのない私は、椅子に座ってここに来た経緯を思い出した。 「止まった? 壊れた? どっちでもいいけど」 「エネルギー不足だって」 神姫が止まってしばらく経ち、私達は神姫を調べた。虚ろに開かれた瞳は、何も映さない。口は半開きで、まったく動かない。刑事ドラマで出てくる死体と似たような感じだ。 頬を伝う涙が、妙になまなましい。 「って、華凛。何してるの?」 見れば華凛は携帯を取りだし、どこかへ電話しようとしていた。 「う~ん、ちょっと待ってて」 携帯を耳に当てる華凛。まさか、警察にでも連絡しているのだろうか? 「あ、仁さん? あたしよ。うん、ちょっと興味深い物を見つけてね?」 違うようだ。警察相手にこんなにフレンドリーに会話出来る人はいないだろう。いや、いるかもしれないが、それは華凛ではないはずだ。 「ううん、こっちから行くからいいわ。うん、それじゃ」 ピッと通話を切った華凛は、神姫を手に取る。 「樹羽、もう少し付き合ってもらえる?」 「どうするの?」 華凛は神姫をちらつかせるように振る。 「調べるのよ。この神姫を」 そして来たのが、このホビーショップな訳だ。華凛が話していた、知り合いが経営している店とはここの事らしい。 店長である柏木仁(かしわぎじん)さんは、若いながらも相当なエンジニアであるらしく、今もあの神姫を全力で調べてくれている。 その助手でもある神姫、アーンヴァルMk,2型のエリーゼは、オーナーである柏木さんのことをとてもよく慕っている。 (神姫は小さな人、か……) まったくもってその通りだと思う。人と同じように笑う神姫。人と一緒に笑う神姫。しかし、あのエウクランテ型の神姫は、はたしてそうだったのだろうか? 昔は、あのエリーゼのように笑っていたのだろうか? 最後に見せた涙は、彼女の本当の意識なのだろうか? さっき柏木さんに聞いたが、あの神姫は重度の改造で暴走してしまっていたらしい。誰がそんなことをしたのか、まではわからなかったが。 「こんなこと、絶対おかしいよ」 「ぎりぎりセーフね、今のセリフ」 パソコンを見るのに飽きたのか、華凛はこっちに近付いてきた。 「別に飽きた訳じゃないわ。樹羽が暇そうにしてるから来たの」 「そう……」 華凛は私と反対側の椅子に座る。 「樹羽、大丈夫? 肩とか」 「肩?」 ああ、そういえば被弾していたんだっけ? 肩口を見てみる。軽く痣が出来ているが、重傷じゃない。 「大丈夫、痛くない」 「そう、ならいいの。それじゃあ、あとはあの神姫のことね」 華凛がクレイドルに眼を向ける。そこには相変わらず神姫が眠っていた。 「ホント、さっきまであれに撃たれそうになったなんて思えないわ」 私は被弾しているが。 「ねぇ、樹羽。実はね……」 華凛が何か言おうとした時、柏木さんが大声をあげた。 「よし! プロテクト解除成功です!」 「……ごめん、樹羽。また後で」 華凛は柏木さんの元へ戻っていく。私も同行した。 「なんのプロテクトですか?」 「この子の記憶ファイルのだよ。悪いとは思ったんだが、犯人特定のために仕方なくね」 「記憶ファイル……」 パソコンの画面を見ると、いくつかファイルがあった。それぞれ日付がふってある。 「ん?」 よく見てみると、昨日と一昨日の分がない。それどころか、3日前のファイル以外、全て×印がついている。どうやら破損しているようだ。 「とりあえず、この3日前のファイルを開いてみよう」 柏木さんがマウスを動かし、ファイルをクリックする。神姫にもよるが、数日の記憶ぐらいなら、映像で保管されているという。 ファイルが開かれ、ムービーが再生される。 暗い部屋の中だ。デスクの上のパソコンのディスプレイしか光源のない小さな部屋。神姫の前には、男の姿があった。顔は写っていない。 『駄目ですよ! そんなこと!』 『うるさいっ! マスターに指図するな!』 突然の怒鳴り声。さらに、視界が目まぐるしく回転し、衝撃とともに止まる。多分、デスクの上から落とされたのだろう。 『もう俺には後がないんだ! もうこれしか方法がないんだよ!!』 『だ、だからって、改造は違法行為です! そんなの、間違ってます! 目を醒まして下さいマスター!』 『黙れぇっ!!』 何かを蹴る音とともに、視界が暗転する。 『もういい、お前は徹底的に改造してやる! そしてもう二度と俺に指図出来なくさせてやる!』 声が近付いてくる。うっすらと開かれる視界。大きな人の足が写る。視界は急に浮上し、天井が写る。多分、今は移動中。 『絶対に見返してやるんだ……あいつらを……俺は……』 マスターらしき男の呟きを最後に、神姫の意識が途絶えた。 「…………」 ムービーもそこまでで終った。辺りには重たい空気が流れる。 「酷い……」 思わず呟いた。会話からして多分、神姫バトルで一向に勝てないさっきの男が、最終手段で改造に走った。 そして改造した結果、神姫は暴走。逃げ出されたのだろう。 「……この記憶は、消してしまった方がいいのかもしれません。この子のためにも」 柏木さんがパソコンを操作する。 「待って、仁さん」 華凛がそれを制止する。あたかもその行動を予測していたかのような速さだ。 「ちょっとそれは待って。それより、それ以外の箇所クリーニングできる? 改造された部分と、マスター登録も含めて」 華凛が質問する。その表情は、いつになく真剣だ。仁さんは怪訝そうな顔をしたが、一応頷く。 「人格が破損している場合、厳しいですが……多分、なんとかなると思いますよ」 「そう、よかった」 華凛は私の方に向き直る。いつもと違う雰囲気に、私は少し戸惑った。 「樹羽、さっき言いかけたこと、言うね?」 「う、うん」 華凛は目を瞑り、しばらくしてから、開けた。 「この子の、新しいマスターになってくれないかな?」 「えっ?」 それは、頭の片隅で予想していた質問だった。願ってもない質問。しかし、私は気が動転していた。 「べ、別に私じゃなくてもいいはず。華凛がマスターになればいいし、それに私、引きこもりだよ」 それに、何故記憶を消さないのかが気になる。 「あ~、それは重要だけど、あたしからは言えないわ」 「……?」 ますますわからなくなった。記憶を消すなと言っておいて、理由は言えない?私が考えている間に華凛は私の肩に手を置く。 その目には、強い覚悟が見て取れた。 「ねぇ樹羽、今の状態がいつまでも続くとは思ってないでしょ?」 「…………」 今の状態――。 高校にも通わず、ただ家にいるだけの日々。引きこもりとしての人生。 徐々に言葉のピースが埋まっていく。 つまり、そういうことか。 この神姫には、新しいマスターが必要で。 私は華凛以外の繋がりが必要で。 二人の条件が重なる。 「樹羽」 そう。私だって、今の状態をよしとしている訳じゃない。どこかで変えなければと思っていた。 ただ、取っ掛かりが見えなかっただけで。きっかけがなかっただけで――。 「……わかった」 変わるタイミングは、今しかない。 「私、マスターになる」 こうして私、奏萩樹羽(かなはぎみきは)は、神姫のマスターとなった。 第二話の1へ その夜の話 トップへ戻る
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凪さん家の十兵衛さん 第五話<殺戮の歌姫> 闇、漆黒の空に木霊するは、妖しき姫の歌声。 今日もまた、歌に魅了され己を無くした者達が、残酷な舞踏を披露する。 光、漆黒の空を貫くは、地獄から来た悪魔の咆哮。 それは不幸の鎖を食いちぎる者、その左目に輝くは、紅き決意の灯火。 「第一、第二小隊は第三小隊の活路を開け!第四、第五小隊は第三小隊の援護!なんとしても奴を倒すんだ!」 『ラジャー!!』 薄暗いワゴン車の中、モニターの光だけが車内を照らす。画面には無数の神姫の姿が映し出されている。 「今日で終わりにしてやる…」 そうつぶやき、眼鏡を光らせたのは、あの男。 ある日友人が持ってきた無残な神姫を、神姫への愛と己の技術を総動員して直し、後に伝説なる証、 左目の眼帯を与えた男。黒淵 創(くろふち はじめ)だ。 痩せ型の長身、だが適度に整った筋肉と顔立ちによりひ弱さはまったく感じられない。 「当たり前だ、創。今日で終わらせる!」 とその仲間が言う。 「あぁ、そうだね。…ミーシャ!他の奴には構うな!今は目の前の元凶を倒すことだけを考えるんだ!」 「了解マスター!行くよ!皆!」 マスター、私はいつも「ご主人様」と呼んでいる。 しかし戦闘時だけはマスターと呼ぶことにしている。 『ラジャー!』 と勢いを増した第三小隊の面々は一目散に目標へ向かう。 中央に位置するは創の武装神姫、天使型のミーシャ。その左右に控えているのはヴァッフェバニーだ。 これは本部より貸し出された神姫である。よって、決まった名前は無い。 今回の場合はツヴァイ3、ドライ3と呼ばれている。第三小隊の二番、三番機の意だ。 「マスター!目標を確認!情報通り天使タイプです!」 「よし!敵は手ごわいぞ…!慎重にな」 「了解!」 「おい!大丈夫か!シン!!おい!…くそ…第一小隊…全滅を確認…」 「くっ!」 「なんだ!?」 「敵の勢いが増しています!このままでは!」 予想をはるかに超えた軍勢がこちら側の神姫達に迫る。 「ミーシャ!!」 「了解マスター!」 私は今回の作戦の最優先目標にロックを合わせる。 今回の戦闘で、破壊許可が下りているのはあの大元の神姫のみ。 他の神姫は操られている神姫だ。中には非戦闘用の神姫もいる。 そう、神姫といっても大きく二つに分けることが出来る。 神姫と「武装」神姫だ。元々神姫と呼ばれる十五センチサイズのフィギュアロボは戦闘用ではなかった。 ただ純粋に人間のサポートをするために生み出された存在。 しかしある時…神姫に武装を施し、競技として戦闘行為を行うマスターが出てきた。 他の神姫のマスターもその競技と称した戦闘行為に賛同し、参加した。 そうして拡大を続けた戦いは、バトルサービスという公式に認められしものとなり。正式にバトルサービス本部が設立されたのだ。 そしてその集大成となるのが、最初から戦闘行為を考えられて開発、誕生した私達「武装神姫」シリーズである。 そんな二種類の神姫達がたった一体の神姫に操られ、暴走している。しかしあくまで操られているだけの彼女らに非は無い。 よってなるべく無傷で元のマスターの元へ戻す必要がある。 それが本部からの通達だ。はっきりいってかなり難易度の高いミッションである。 敵となってしまった友人達は容赦無くこちらに攻撃を加えてくるのに、 こちらはそうするわけにはいかないのだ。 私達はそんな容赦無い攻撃を受け流し、耐え続けなければならない。 しかし時間が長引けば長引くほど私達が不利になる。よって迅速な行動が勝利の鍵。 「いけぇぇぇ!ミーシャぁぁぁ!」 仲間達の想いと供に私は空を翔ける。 「はぁ、はぁ…」 そうして私は対峙した…白き天使に。 「いえ、悪魔ね…」 その敵はにやりと微笑み 「あら、悪魔だなんてひどいわ…フフ…貴女と同じじゃ無いの…」 「形が同じでもその心は違う!絶対に!」 「そう…じゃあ身を心も同じにしてあげる…」 その笑顔が歪んだ。 「!?」 強烈な精神波が私を襲う。これが例の…ぐ…心が侵食されていく、頭の中が取り替えられるような感覚。 ぐちゃぐちゃにかき回されていく…今までの思い出…それがどんどん遠くへ行ってしまう… ぐ、そんなの…あぁ…い、だ…めぇ…。 「ミーシャ!!!しっかりするんだ!!」 マスターの声が聞こえる。 「マ、スタ…」 「ほら、ほらほら…早く楽におなりなさい…」 あ、あぁぁぁぁぁ!一層精神波が強くなる。 「ぐ…、うぅぐ」 「ふふふ、がんばるわね?でも貴女のお仲間さんはもう私の友達になってくれたみたいよ?」 「え、まさか…ツヴァ、イさん…ドライちゃ、ん…」 抵抗を続けていたヴァッフェの二体は無残な姿になっていた。 装備を剥がされ、目を刳り貫かれ、腕はもぎ取られ…しかしそんな外見になっても立ち上がり、そしてこちらに銃を… 「そ、そんな…ぁが!」 パァン…パァン… 銃声が無数に響く。さっきまでともに戦ってきた仲間の銃弾が私に牙を向く。 「ぐ!あぁ、ぐぅあ!」 「ふふふふふふ…」 天使の象徴である翼には穴が開き。装甲がはじけ飛ぶ。 「く、ぬぅ…」 「あら、まだ動けるの?強情な子…じゃあもっと痛い思いなさい」 そう言うとその白き悪魔はそっとミーシャに近づく。 「ぐ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 途端、腹部に激痛が走る。そして背中から青白い閃光がはみ出し、貫いた。 「がは、ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ほらほらほらぁ…どんどん深く刺さっていくわ…ふふふ」 「ふぁ、ぁが…ぐ…」 意識が遠のく…も、もう駄目…ま、ますた…ぁ。 「さて、そろそろお遊びは終わ…?…ちっ…もうそんな時間?」 と、急に攻撃の手が止まる。腹部に突き刺されたライトセーバーはその凶刃の展開をやめ、セイバー発生部まで体内に入っていた状態から一気に引き抜かれる。 「ぐはぁっっっ!!がは…うぐ…」 私はその痛みに耐え切れず崩れ落ちる。そして 「ぐぁっ!?」 頭部に衝撃。白い悪魔が私の頭を踏みつけていた。 「ふん、運が良かったわね…でも次は…それとももう怖くて外に出られないかしら?」 「ぐ、う…うぅ」 私は涙を流していた。恐ろしいほどの恐怖、そしてその恐怖に負けた悔しさでだ。 「まぁいいわ…覚えておきなさい…私の名前はセイレーン…無垢な神姫を幸せの世界へと誘う女神…」 「がはっ!…セ、セイレーン…」 そう言うとセイレーンと名乗った神姫は私の頭部を踏み台に高々と飛び上がり、消えていった。 動かない体、目の可動範囲のみで辺りを見渡す。残ったのは装甲や武器の残骸だけ…神姫と呼ばれていた者達は一体として残されてはいなかった。くっ…連れ去られたんだ…。 「み、み…んな…」 私のせいだ、私がちゃんと出来なかったから皆が…。 「う、うぅ…う…」 私は泣いた…泣き続けた。遠のく意識の中で最後に見たのは走ってくるマスターの姿。 私を抱きかかえるマスター。 「…っかりするん…!みー…ゃ!!…―しゃぁぁ…ぁぁ!!」 私の意識はそこで途絶えた。 復帰したのは二十三時間後になる。 キュウン…センサー起動、視覚正常、全システムオンライン。 「う、うん…」 私は重いまぶたを開けた。 「ミ、ミーシャァァ!!!!」 「やったな!!」 「ミーシャさん!!」 目の前にはマスターいえ、ご主人様…それに凪 千晶様とその神姫、十兵衛ちゃんがこちらを覗いて 文字通り三者三様の反応を見せていた。 「ご、ご主人様…凪様…十兵衛ちゃん」 「「「ミーシャァァァ!」」」 「ふえっ」 ご主人様が私を抱き寄せる。 「良かった…本当に良かった…」 「ご主人様…」 「良かったです!ミーシャさん!!」 「おう、ひやひやしたぜ」 「ご、ご心配かけて申し訳ありませんでした…」 「良いんだよ!ミーシャさえ無事でいてくれたら!」 ご主人様はさらに私をすりすりする。 「あ、有難うございます…で、でも…」 そう言うとご主人様の表情が暗くなる。 「ミーシャ…うん、そうだね…」 「皆は、皆はどうなったんですか!!」 「…残ったのは…ミーシャ…君だけだ…」 「そ…そう…ですか」 信じたくなかった。でもそれが事実…。 「ミーシャさん…」 「………」 そうしてご主人様は私を机の上にそっと降ろす。 「なぁ…凪…」 凪様の方を向くご主人様。 「ん?…なんだ?」 「…僕は、なんとしてもあの違法神姫を食い止めたい」 「あ、あぁ…そうだな…危険だなぁ…」 「頼む!!十兵衛ちゃんの力を貸して欲しい!!」 と頭を下げるご主人様。 「…」 無言の凪様 「え…」 驚き、口に手を当てる十兵衛ちゃん。 「ご、ご主人様…?」 「分かってる!自分が何を言ってるかは重々承知だ!でも頼れるのは十兵衛ちゃんしかいない! あの神姫に対抗できるのは遠距離攻撃、それも超遠距離攻撃法を持った十兵衛ちゃんだけなんだ!! 頼む!!僕の友人達の神姫を救いたいんだ!!」 部屋の中に静寂…音で表すなら、まさしく「シーン」が相応しい。 「言いたい事はそれだけか?」 「…」 凪様の言葉は重く冷たい。 「確かにお前には感謝してる…。十兵衛の恩人だし、他の事だったら快く受けただろう 。でもこれは違う。十兵衛が今まで体験してきた地獄…それをしろと言ってるのと同じだ…」 「…」 そう、話によれば十兵衛ちゃんの前身は地下の違法バトル出身の神姫だという。そこで培ったスキルと眼帯に内蔵された超高性能カメラを駆使し、 この前の新人戦では新人の名に相応しくない圧倒的な強さを見せて優勝していた。 しかし十兵衛ちゃんはいつしかその地下での戦いを拒むようになり、ついに逃げ出したのだ。 「それに…」 「…」 「頼む相手が違うぞ」 「え…」 「戦うのは俺じゃない、十兵衛なんだろ?確かに俺はどちらかと言えば反対だ。 でも俺は十兵衛になら出来るんじゃないかと心のどこかでそう思っている」 「マスター…」 「だから…頼むなら十兵衛に頼め!俺は十兵衛の意見に合わせる…」 と背を向かれてしまった。 「凪…」 「マスター…」 「十兵衛ちゃん…」 「はい…」 「君の答えを聞かせてくれ…もちろん無理をする必要は無いし、君一人を戦場へ向かわせるつもりも無い…」 「黒淵さん…」 「…」 しばし静寂…。そして十兵衛ちゃんが口を開いた。 「良いですよ、やりましょう」 「じ、十兵衛ちゃん…」 「マスター!私やります!私もこれ以上皆が…ミーシャさんがこんな目にあうのは見たくありません! それに私にしか出来ないなら!私がやるべきなんです! 私はこれまで地下で何体もの神姫を文字通り葬ってきました。 その罪を償うわけじゃありません…でも…せめて …せめてこれ以上!神姫達やマスターの方々に悲しい気持ちになるのを黙って見ていたく無いんです! お願いします!マスター!私に戦わせてください!」 十兵衛ちゃん…なんて勇敢な…その表情からは揺ぎ無い圧倒的な決意が見て取れる。 「…」 凪様は静かに振り向き 「よし、やっちまえ十兵衛」 とにやりと笑った。 「はびこる悪を正義の業火で焼いてやれ!」 「はい!マスター!!」 「凪…十兵衛ちゃん…」 「そういうことだ創。協力してやるよ」 「凶大な悪を打ち倒しましょう!!」 あ、あれ…なんでノリノリ? 「で、でも!」 思わず口が動く。だってもし失敗したら十兵衛ちゃんが! 「大丈夫ですよ…ミーシャさん」 「じ、十兵衛…ちゃん」 「大丈夫です」 にっこりと微笑んだ。悪魔型で左目に眼帯をつけたその神姫の姿は 今までのどの神姫よりも天使に見えた。 さて、やっと俺達の出番か…まったく主役を蔑ろにするとは何事だ。 「まぁまぁマスター、良いじゃないですか」 「うぅむ…しかし…」 それにしても…まさか非公式なバトルをする羽目になるとは。しかもリアルバトルだ。 いや、バトルと言えるものなのかすら怪しい。 「大丈夫か?十兵衛?」 俺は不安になった。 「はい、怖くないわけではないですが…でも大丈夫です。もう私は一人ではありませんから」 「十兵衛…そうだな!」 とはいえいくら十兵衛でもファーストリーグランカーのミーシャでも敵わない相手を倒すことが出来るのだろうか。 確かにこの前の試合、 連勝街道まっしぐらなどこぞの金持ち坊ちゃんのやたらごちゃごちゃ武装したそいつの神姫を十兵衛は何食わぬ顔 (いや、実際はかなり怒っていたのだが)で撃ち抜いた。 その試合時間はわずか一秒。 この話は今思えばあまり思い出したくも無い、あぁなんか腹立ってきた…ま、まぁそのうち話すとしよう。 それはそれとして、とにかく十兵衛の戦闘スキルは特筆すべきものがある。だが…。 いや、待てよ…今回十兵衛がすることは簡単だ。 創達の神姫が囮となって引きつけている間に、十兵衛が超遠距離から目標を撃ち向く。 よく考えれば一番安全なのは十兵衛だ。十兵衛はひたすらチャンスを狙えば良い。 十兵衛に限ってチャンスを逃す…なんて真似はしないだろう。確実に初弾必中だ。 「うん、大丈夫だな…」 「はい!!」 「じゃあ行くよ。凪、十兵衛ちゃん」 創の準備が整ったようだ。 「おう」 「はい!行きましょう」 そして薄暗いワゴンの中。俺と創、その他のメンバーは数台に別れて車内に、十兵衛やミーシャ達は初期位置についていた。 「気分はどうだ、十兵衛」 「はい、大丈夫です」 ごぉぉぉぉぉぉっという音が相応しい風の音。 私は目標到達地点から程よく離れた6階の屋上に来ていた。 後ろには護衛としてヴァッフェバニーがいる。 「え、えと、本当にX2、X3さんで良いんですか?」 私は二人に話しかけた。 「ええ、構わないわ」 「大丈夫よ。X1…いえ、十兵衛さん」 なんでX2、X3なんだろうか。 「それはこの小隊が第X小隊。本来は存在しない小隊だからよ」 と、さっきX2さんが教えてくれた。 「でも、本当の名前とかは…」 「もちろんあるわ、でもそれは私自身が分かっていれば良いこと」 「今回はX2、彼女はX3と呼んで頂戴」 「は、はぁ」 「そうね、この戦いが終わったら教えてあげる」 「わ、分かりました」 「ザ…気分はどうだ、十兵衛」 マスターの声だ。 「はい、大丈夫です」 「もうじき始まる。気を抜くなよ」 「はい!」 「絶対無事に帰って来い!」 「もちろんです!マスター」 漆黒の闇が訪れる…。 闇ととも現われるは、悪魔の歌声を持つ天使。 無数の操り人形を従えて、今日も舞踏会が幕を開ける。 殺戮と言う名の歌にのせて…。 闇、それを見つめる紅き眼差し、その目に映る悪を撃て。 「3・2・1・0!!作戦開始!!」 『ラジャー!!!』 「よし、X小隊展開開始!頼んだぞ十兵衛!X2!X3!」 「X1!十兵衛!いきます!!」 「X2了解!」 「X3了解!」 次回<凪さん家の十兵衛さん第6話『朝靄の紅眼』>ご期待下さい。 第六話も読む
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登場人物・登場神姫紹介 (進行に合わせて更新予定) マスター(キャライメージはあくまで参考です) 山田 和章(やまだ かずあき)キャラクターイメージ・・・涼宮ハルヒの憂鬱のキョンをもう少し大人にした感じ このSSの主人公で、タマのマスター。27歳。毎日をタマと遊ぶかゴロゴロする事に費やすいわゆるニート。 なぜか絵がすごく上手。 山田 礼奈(やまだ れいな)キャラクターイメージ・・・ひぐらしのなく頃にの竜宮レナ(大人版) 和章の妹で、キルケのマスター。21歳。絵が絶望的にヘタ。 山田 晴子(やまだ はるこ)キャラクターイメージ・・・AIRの神尾晴子 和章と礼奈の母で、ペルシスのマスター。42歳。関西弁で喋るが、関西人では無い。 山田 信善(やまだ のぶよし)キャラクターイメージ・・・ひぐらしのなく頃にの富竹ジロウ 和章と礼奈の父で晴子の夫だったが、ある事情で離婚。メサイアのマスター。41歳。今は別の場所に暮らしている。 神姫 タマ(タイプ猫爪) 和章の神姫。和章が大好きで、「ますたー」と呼ぶ。バトルは好きではないらしく、武装を装着した事が今までにほんの数回しか無い。(和章談) キルケ(タイプストラーフ) 礼奈の神姫。マスターの礼奈とは対象的に落ち着いた神姫で、バトルに興味を示している。初戦の後も度々バトルをしていたりする。 ペルシス(タイプヴァッフェバニー) 晴子の神姫。冷静な神姫で、晴子の命令には絶対服従。神出鬼没な密偵タイプなのでバトルより偵察が得意。 オイル(タイプイーダ) 和章が拾ったマスター無しの神姫。今は和章の家に住んでいる。「アンチムーバブレード【エアロヴァジュラ】」を気に入り、愛用する。 ツバサ(タイプエウクランテ) 礼奈とキルケの初戦の相手。キルケの戦い方に惚れたらしく、弟子入りを賭けて勝負し敗北するもキルケの追っかけを続けている。 アース(タイプハウリン) 和章とオイルが参加した大会に出場していた神姫。素手を主体にして闘う。 メサイア(タイプサイフォス) 信善の神姫。冷静なのか無愛想なのかは不明だが、発言が一文節で終わる事が多い。 舞台設定も見る プロローグに進む ネコのマスターの奮闘日記
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「トリッキーな攻撃で相手を翻弄させるルーナで」 「あら、アタシを選んでくれるのね。嬉しいかぎりだわ」 右肩で、しなやか身体を動かしながら喜ぶルーナ。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明る表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! ルーナを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってルーナの観戦をする。 「ルーナ、頑張れよ!」 「勝ったらご褒美くださいね、ダーリン!」 「油断しないでしっかりね。頑張るのよ、ルーナ!」 「負けるじゃないよ!一番最初の闘いなんだからな!!」 「ルーナさんー!頑張ってください!!」 「まかせなさい」 ルーナは少し淫靡な笑顔を俺に見せ筐体の中へと入って行く。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていた。 いつになく俺の心は興奮していたのだ。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとルーナに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号がの声が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、敵のストラーフが接近しルーナは…あれ、ニコニコと笑いながら戦闘態勢にもはいっていないでその場で静止し続けている。 おいおい、これじゃあどう見たってルーナの方が不利だ。 出遅れもして更に武器すら構えていない。 いったいどうゆう事だ? 何か秘策でもあるのだというのか? 「はああああぁぁぁぁーーーー!!!!」 敵のストラーフがDTリアユニットplusGA4アームに付いてるチーグルで攻撃しようとした。 そこでルーナがクスッと笑い、背中に隠していたクライモアを取り出した。 ガギン! チーグルとクライモアがぶつかって鈍い音が聞こえる。 ルーナの奴、何時の間にあんな武器を隠し持っていたんだ? まぁ確かに装備させておいたけど…。 「残念でしたね~。そんな安直な攻撃では、あたしに届きませんよ」 ニッコリ笑うルーナ。 余裕綽々みたいだ。 あの自信はいったい何処から湧き出てくるんだろう。 「チッ!」 一度、ルーナから離れる敵のストラーフ。 ルーナの奴はクスクスと笑いながら追撃しない。 何故なんだろう、絶好の攻撃のチャンスだったのに。 「次はちゃんと攻撃してくださいね」 「クッ!バカにしてー!!このーーーー!!!!」 シュラム・RvGNDランチャーを準備しルーナに狙いを定める。 その間のルーナは…。 「あら、物騒な武器ですわね」 笑みを浮べながらビルの背にして移動する。 ちょっと、オカシイだろ! 普通、回避行動をしたり接近したりビルの背後に隠れたりするだろうー! なのに何故逃げづらい場所に行くのかな~。 訳解らん。 「クラエー!」 「当たればの話ですけど」 ドンー! シュラム・RvGNDランチャーから発射された弾がルーナを襲う。 でもルーナは避けようとする素振すらしない。 このままじゃヤバイ! 「避けろー!」 ドカーン! 俺が叫んだ直後、ルーナの背後にあったビルが爆発する。 煙がモクモクと噴出しルーナが何処にいるか解らない。 もしかしてシュラム・RvGNDランチャーの弾に命中し吹き飛び、ビルに当たったんじゃ…。 「あらあら。駄目でしたね~」 「えっ!?」 突如ルーナの声が聞こえた。 でも姿が見えない。 煙の中にいるのか? あっ! ルーナの奴、いつの間にか敵のストラーフの背後に居て右腕を回し、短剣のグリーフエングレイバーをストラーフの首に突きつけている! 何時の間にあんな所に居たんだ? まるで忍者みたいだ。 敵のストラーフは急所を突きつけられているので身動きが取れない。 寧ろ動いたらルーナに攻撃されると思っているのかもしれない。 「もう一度チャンスをあげます。次の攻撃で、あたしに命中しなかったら…貴女は負けます。いいですか?」 そう言ってルーナはストラーフから離れる。 また絶好のチャンスだったのに攻撃もせずに…だ。 完璧に相手の事をおちょくっているな、あれは。 お~お~ぉ、敵のストラーフは顔を真っ赤にして怒っているよ。 こえ~コエ~。 にしてもルーナの奴はなんであんなにも闘い慣れているんだ? 今日が初めてのバトルだというのに…。 「さぁ…遠慮なく攻撃してくださいね♪」 ニッコリと笑い、どっから見ても無防備に見えるポーズをする。 敵に対して火に油を注ぐような行為だ。 挑発、と言えば簡単だろう。 「このー!」 敵のストラーフはカンカンに怒りながらモデルPHCハンドガン・ヴズルイフを乱射した。 『フゥ…』と溜息をつき、顔を左右に動かすルーナ。 呆れてるようにも見える…だがすぐに真面目な顔つきになり。 「…!」 ん!? 消えた!? ルーナが敵のストラーフに向かって突っ込もうとする動作が視認出来たがその瞬間、オバケのように消えてしまった。 勿論、乱射されたモデルPHCハンドガン・ヴズルイフの弾はルーナに当たっていない。 そりゃそうだ。 なんたって標的がいないのだから。 「どこ!?どこに言ったの!」 「…ここよ」 声がした方に顔を向けるストラーフ。 向いた方向…ストラーフの真上だった! しかも空中で逆立ちしていた、逆立ちというよりもただ単に上下逆に飛んでるようなものだ。 「残念でした♪機会があったらまた会いましょう」 ルーナが言い終わると何故か敵のストラーフは地上に転落していき、ゲーム終了した。 筺体に付いてるコンソールを見るとストラーフのLPは無くなっていた。 ルーナが右手に持っている武器を見ると短剣のグリーフエングレイバーを持っていた、逆手持ちで。 目には見えない早業でストラーフをグリーフエングレイバーで切り刻んだのか? まさかな…いや、やっぱりそのまさかもしれない。 後で少し探ってみるか。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「ダーリン、勝ちましたよ。ご褒美くださいね♪」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶルーナ。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるアンジェラス達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、ルーナを筐体から出さないといけないなぁ。 俺は筐体の神姫の出入り口の中に手を突っ込みルーナを待つ。 数秒後、ルーナは優雅な足取りで俺の右手の手の平に乗った。 そのまま俺は右手を自分の目線と同じぐらい高さまで持っていきルーナを見る。 「お前…何であんなに余裕で勝てたんだ?今日が初めてのバトルだろ?」 「そうですよ」 屈託のない笑顔で答えるルーナ。 最初は何か隠してるようにも思えたが…気のせいかぁ。 「それより早く~。ご褒美頂戴♪」 「あ、そうだったな。っと言ってもなー。ルーナはどんなご褒美がいいんだ?」 「そうですね~…あたしのオデコにキスしてください」 「ナッ!?キスだと!?!?」 「駄目ですか~?」 どうしよー。 キスかぁー…。 う~ん、ここでもしルーナにキスしなかったら…。 ☆ 「オデコにキスはちょっと…」 「そうですか。じゃあ、あたしからしますねー。濃厚なキスを…ね♪」 「や、やめろ!こんな人が沢山いるところで!!」 「もう遅いです~!ブチュー~」 「ギャーーーー!!!!」 ★ …ここはキスすべきだろう。 嫌な予感しすぎて背筋がゾッとするからなぁ。 「解ったよ。キ、キスしてやるから目を閉じろ」 「わーい。さぁっ!目を閉じましたから早く!!」 あぁ~、本当にキスをするハメになっちまったぜ。 ここは我慢だ、俺。 羞恥心を無くせ! ルーナをオデコに俺の唇を近づけさせる。 神姫だからオデコの広さ凄く狭い。 下唇が触れるぐらいが丁度いいかもしれない。 …チュッ 「…ンァ」 よし! 狙い通りに下唇をルーナのオデコにキスした。 キスした瞬間を見た他の神姫達が。 「いいなぁ…。ご主人様、ご主人様、次の試合は私を指名してください。絶対勝ちますから!」 「あー!いいなぁ~ルーナの奴~。よし!!次の試合はボクが出る!!!」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらルーナに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるから一応全員バトルさせてやるか。 すぐさま唇を離すとルーナが不満そうな顔しながら。 「あれで終わりですか?キスした瞬間、舌で舐め回してもよかったですのに」 「俺はそんな事しね~よ。つか、舐め回してって…」 「ダーリンの意気地なし。でも一応、キスしてくれたから許してあげます。気持ちよかったですし」 「許すもなにもないだろ。だぁー疲れた」 本当に疲れた。 体力が、というよりも精神的に…。 まぁいいか…、ルーナが気持ち良くなるのなら俺はなにも文句は言わん それにキスした時のルーナは可愛いかったし。 またキスしたくなるような表情だった。 ここでまた再びルーナのオデコにキスをすると乗っている三人に何されるか解らないのでキスはお預け。 ルーナを両手から右肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からルーナの二つ名が出来た。 名は『刹那を操る者』…。
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遙かに見据えし巨神の宴(前半) 息抜きとしては十全たる小旅行も一段落して暫く。私・槇野晶は神姫達の アルマ・クララとロッテのHVIF・葵を引き連れて外出する事とした。 ……こう書くと遊び歩いてばかりの様に見えるが、店は毎週営業中だぞ! 依って今日は折角の定休日まで裂いて、わざわざ外出している事になる。 というのもだ、試験運用中の“重量級クラス”に関する依頼が増えてな? 「何時までも私達自身が実践せぬ訳には、行かなくなったという事だな」 「それに……多少ですけど実力も付いてきましたしね。自信ないですが」 「大丈夫ですの!でもだからこそ、重量級の壁にも参戦したいですの♪」 「というわけで今、ボクらは試作部品を持ってエルゴへ移動中なんだよ」 「クララ、何処を見て会話している?……まぁ、実際その通りなのだが」 そんな会話をしながら、最早見知った商店街へと入る。偶にしか来ぬが この一種独特な活気は秋葉原にはない、実に心地いいものだ。そして、 以前私達を救った“恩人”に会うのも、気恥ずかしいが楽しみなのだ。 そして見つけた“ホビーショップ・エルゴ”へと、葵と共に入店する。 「というわけでだ、来てやったぞ日暮。これは先日の礼だ、受け取れ」 「やぁ晶ちゃ……っと、いけないいけない。礼なんか別にいいのにさ」 「……良い判断だ。ともあれ、助けられっぱなしでは私の性に合わん」 「話は聞きました。災難でしたね晶さん、葵さんも安心したでしょう」 「はいですの。暴漢に襲われた時は本当晶お姉ちゃんが心配でしたの」 すかさず私は菓子折を突き出し機先を制する。こうでもせんと……な? そして不安げな顔で語るロッテ、もとい葵。彼女らにとっても、アレは 十分恐怖だったのだろう。故に私も、敢えて深く思い出す事はしない。 嫌な空気を吹き飛ばす為に、私はアルマとクララをテーブルに降ろす。 「で、日暮よ。随分と前に“ドラムフレーム”の改良案をもらったな」 「ああ、そう言えば重量級の為に試作機開発を……クラスの現況は?」 そう、あの時……後に恐るべき約定を取り交わした凪千空と出会った日。 途中こそ彼らとの話で大きく時間を喰った物の、アドバイスはしっかりと 受け取っていた。それを受けた私なりの“解”を、今日持ってきた訳だ。 ちなみに……以前取り交わされた千空との契約は、未だ完了していない。 早い所どうにかして、心落ちつきたい物だが……千空め、焦らしおって! 「……ん?晶ちゃーん?顔真っ赤だけどどうし、っとと落ちついてッ!」 「わ、分かっている!人が惚けている隙に“ちゃん”付けするなッ!?」 「悪い悪い、で現況はどうなんだい?こっちは割と門外漢なんだけどさ」 「有無。未だ私達の様に完全自作の装備で臨む神姫は多くないな、だが」 「その分、群雄割拠の上位にいる様なのは自作が多い……って所かな?」 その通り。いきなり試験的に導入された為、稼動して半年以上経っている 今もまだまだノウハウは少なく、手探りでバトルに挑むオーナーが多い。 大量生産されてダブついた“バイザー”のパーツや、それをMMS対応に 仕様変更したパーツを改造して身につける神姫がまず目に付く。その次は 公式合体の“真鬼王”に代表される様な、純正神姫用武装の大量投入だ。 こちらは重量級ランクでも“軽量派”に代表される神姫に多い傾向だな。 「……という訳でだ、折角挑むならば遙か高みを狙わねば意味はない」 「そこで、“アルファル”で培った腕を元にして再挑戦しましたの♪」 「あの時のドラムフレームを利用した、サポートマシンだったっけ?」 「はい。あれで電力を、機体の隅々に送る技術が編み出されたんです」 「それを利用して、フレーム自体に動力機構を埋め込んでみたんだよ」 「へぇ……“ムーバブルフレーム”かな?ちょっと、見せてくれる?」 ここで私は、漸く持ってきた荷を解く。それは、一見すると鉄骨の塊。 フル武装の神姫を包み込んでもなお余りある、RCカーサイズの物体。 これが、私が重量級へと“妹”達を送り出すにあたって産み出した物! ……厳密には、その材料となるフレームの動作試験モデルなのだがな。 「ジェネレータは……三つ前後?これなら、熱暴走の危険性は少ないか」 「嗚呼、オーバーヒートでもしたら大事だからな。そもそも如何に……」 「如何に効率よく電力を使って、パワフルに稼動するかが鍵!ですの♪」 「あー……人の科白を取るな、葵!こほんッ、ともあれ狙いはその通り」 「でも良い考えじゃないかい?他のジェネレータを、武装に回せるしさ」 日暮のその言葉を待っていた。此奴はやはり、頼りになる同志であるな。 そして彼は注意深く、試作モデルの骨組みを観察してから不意に言った。 私達は改めて驚く事になる。慧眼と衒学ぶりは実践で磨かれた物か……! 「……晶、これってさ。可変機構も前以上の大掛かりな物が積めない?」 「如何にも!“アルファル”で、ドラムフレームの限界が見えたのでな」 「変形方式と稼動速度は兎も角、信頼性と頑健さでは一歩譲ってたもん」 「その点骨太なフレーム自体が変形する“これ”は、頑丈さも有ります」 「で……ここまでの評価を踏まえて、日暮さんには相談事がありますの」 ──────それは、戦う命を産み出す大事な相談なんだよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
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そして、次第に意識は浮上していく。ぼやけた意識は、ある一点を境にはっきりする。 (ステージ『コロシアム』か……) 円形のフィールドで、障害物は天井から生えた鉄柱程度。最もポピュラーでスタンダードなステージだ。 (樹羽) シリアの声が、自分の内から響いてくる。その声に対し、私は口を使わずに返す。 (シリア、調子は?) (絶好調。油断はしないけどね) 私は自分の――神姫の体を軽く動かした。 手を握り、また開く。足を上げて、下ろす。蹴る、殴る。問題なしだ。 (武装セットお願い) (了解っと) 自分の体が光ったかと思うと、すぐに光は散った。だが、変化はある。 ヘッドガード、ショルダーガード、ブレストガード、リアテイルパーツ、リアウイングパーツ、レッグパーツ。 俗に純正装備と言われるものだ。ついでにアームガード兼ナックルにもなる『ゼピュロス』も展開してある。 (空に羽ばたく鳥のように、だっけ?) (セイレーンって元々そういう感じらしいよ?) セイレーンと聞くと、海でハープを弾いているイメージなのだが、それはイーアネイラのほうだ。実際、中世以前のセイレーンは半人半鳥であったと伝えられている。 まぁ、なんにせよ与えられた武装は最大限活用させていただく。 (絵美ちゃん……相手の武装は?) (相手も純正装備だね。槍になるダブルナイフ、それから光学系ランチャー。ウェポンプールに剣が二本とバズーカが一つずつ) 相手は大海を泳ぐマーメイドをイメージされた神姫だ。らしいと言えばらしい。いや、どこら辺がマーメイドらしいかは、分からないから、結局よくわからないのか。 ちなみにこちらの純正装備は、カタールにスピードランチャー、あとナックルといったところだ。ウェポンプールは空っぽ。あくまで純正装備だけだ。 (互いにロングレンジは不向き。ランチャーの種類的に言えば相手の方が僅かに有利) 通常のランチャー――光学系ならなおのこと射程が長い。 しかし、エネルギー反応をこちらがキャッチしてからガードが間に合うぐらいの速度だ。 逆にスピードランチャーは、射程が短い代わりに弾速が早い。 例えて言うなら、通常のランチャーは70m先まで届いてスピードランチャーは60mしか届かない。 (ミドルからクロスの槍も、相手の使い方次第だけど、クロスはダブルナイフと剣だし、ゼピュロスとエウロスをうまく使えばなんとかなるんじゃない?) カタールのエウロスは、ゼピュロスを展開したままでも掴むことができるのを、この間知った。前回のエリーゼ戦では、ゼピュロスで殴るためにあえて一つしか展開しなかったが、本来エウロスは二本あるのだ。 (槍も、クロスで使われるかも知れない。油断大敵) (だね。そろそろ始まるよ) 開始を宣言するブザーがなる。 『Ready……Go!』 アナウンスが入り、いよいよ戦闘が始まった。 (ロックオン出来る?) (ちょっと難しいな……もう少し近付いて) 実は障害物がないのと、このステージが直径80m程度しかないので、相手の姿はギリギリ視認出来る。 (っ、エネルギー反応、来るよ!) ロック範囲は相手の方が広いのか、こちらがロックしない内に砲撃がきた。 (この程度なら……!) 走りながら、軽くサイドステップして軸をずらす。次の瞬間、さっきまで自分がいた場所に光が伸びた。 (狙いが甘い……ノーロック? それともわざと反らした?) 多分前者だろう。客観的にみて、あの少女が戦い慣れしているとは思えない。 (ロック完了!) 牽制のランチャーを二、三度避けた辺りで、シリアが報告した。 現在の武装のロック範囲は41,2s(人で言うところの41,2mに当たる)だから、ロック完了=約40mと考えていい。 それでも相手の姿は辛うじて人型だとわかる程度。 (飛ぶ……は駄目だな、狙い撃ちにされる) 背中についているリアウィングは、広げることで飛行することが出来る。飛んだ方が早いのだが、今飛んでもランチャーの良い的だ。 だから…… (だから、ミドルでレールアクションを使って一気に近付く) Rail Action. 一時的に神姫の性能限界を越えて動けるプログラム。 発動後、相手からの射撃の威力を軽減するバリアを展開し、さらにジャミングをかけた後、高速移動する。 ただし、レールアクションの名の如く、一定のルートしか動けず、ベテランのプレイヤーには最悪ルートを読まれ、反撃ないし回避される。 さらに使用制限があることが難点としてあげられる。 距離、24,8s。 (よし、ここで……) レールアクションを使おうとした、その時だった。 (あれは……?) 最初は見間違いだと思った。しかし、ここまで近付いたのだから、相手の様子もはっきりする。 ――そこには、一匹の人魚がいた。 あった筈の足は魚の鰭のようになっている。それは中空を漂った後、おもむろに地面に潜った。 (な、何あれっ!?) シリアは随分と驚いているようだが、私はそれほどでもなかった。それよりも重要なことを、思い出すので必死だった。 (確か、あれは……固有RA) 柏木さんから神姫について朝から晩までみっちり覚えた甲斐があった。 レールアクションの中には、そのタイプ専用の固有RAが存在する。イーアネイラの固有RAは、『ウェパル・アサルト』 まさにステージという海を游ぐ人魚の如きレールアクション。発動後、ステージの下に潜り込み、そこから強襲する。 確かに効果的ではあるが、反則くさい。地面から来るなんて非常識な気がする。 「ハックシュンッ!」 「にゃ? 風邪ですかにゃ先生?」 「いや、なんか今寒気が……」 どこかのゲームセンターにて、ドリルで砂漠に潜るミス非常識がいたりもするが、それはまた別の話。 (ジャミングでロックも出来ない……樹羽) シリアが不安そうに意向をうかがってくる。私は…… (……ゼピュロスしまって。ボレアス、展開。同時にチャージ開始) (ランチャーで向かえうつの? そんなこと) (早くして) 早くしないと、相手が仕掛けてきてしまう。 シリアは渋々ゼピュロスを消し、既に見慣れたランチャーを出した。小さな起動音、チャージ開始。 (落ち着けば、かわせる) この固有RAは相手のガードを崩す能力がある。下手をすれば、HP切れではなく、クリティカルダウンをもらいかねない。 通常、神姫に設定されているHP(ヒットポイント)は、ゼロになると試合が終了する。動けると言い張っても、ジャッジシステムはそのマスターに負けを宣言する仕組み。 しかし、たとえHPが残っていようとも神姫から強制的に弾かれるほどの衝撃を食らった場合、クリティカルダウン扱いで一撃で倒されてしまう。 つまり、いくらデータ的に威力の弱い武装でも――少し嫌な例えだが、相手の首を撥ねたり、腹部を貫いたりした場合、ダメージ計算すら行わず、ワンキルになる。 しかし大概はその前に神姫がバリアを張り、クリティカルダウンはそんなに起こらない。だが相手がレールアクションを使用した場合、ジャミングによって相手の位置が掴めないため、クリティカルダウンになりやすいのだ。 (来るなら、来い) 計器では測れない、その場の雰囲気を五感で感じとる。 相手は必ず下から来る。しかし、飛び出すタイミングがわからないため、不用意に飛ぶわけにもいかない。 集中する。自分の中にある一点に心を静める。 足元から、水が撥ねる音がした。 (今だ!) ボレアスを斜め前に放り投げ、自分も飛込むように前へと転がる。 次の瞬間、さっきまで自分がいた場所からアイラが飛び出した。 「え、嘘っ!?」 相手はさぞ驚愕しているだろう。しかし、確認するのは、前方に投げたボレアスをキャッチした後だ。 落ちてくるのを待っているなんてことはせず、翼を広げながら自分から取りに行く。 今、掴んだ。 「「いっけぇぇぇっ!!」」 二人の声がユニゾンし、オーバーヒート寸前だったボレアスから出た光の帯は、固有RAの後の硬直で動けない相手を飲み込んだ。派手な爆煙が辺りに広がる。 (やった、の?) (まだ、ジャッジが出てない) 倒せたのなら、ジャッジシステムが勝者の名前を掲げるだろう。 それがないのなら、結論は一つ。 (まだ、終わってない) (大丈夫? 絵美?) (うん、なんとか……) ギリギリのところでアイラがバリアを張ってくれなければ一撃でやられていたかもしれない。それでもまったくダメージがなかったわけではない。まだ腕が痺れている。 (強いね、樹羽さん) (えぇ、神姫バトルの初心者なんて思えないわ) さっきのウェパル・アサルトをかわされるとは思わなかった。多分、事前にお兄ちゃんが教えておいたんだと思うけど。 (絵美、クロスでの戦いになるわ。気を付けて) (うん。ありがとう、アイラ) 持っている槍、『トリアイナ・ハスタ』に力を込める。今のうちにスキュラの準備もしておかなくちゃ。 (やっぱり倒しきれてないか……) 爆煙がはれ、そこにいたのは、傷付きながらも槍を構え直すアイラの姿だった。 (クロスでいくよ。ゼピュロスとエウロスを出して) (わかった。気を付けてね) ボレアスが消え、代わりに両手にカタールと鉄甲が現れる。それを構えながら、私は相棒に尋ねた。 (ねぇ、確か相手の装備は剣とダブルナイフと槍なんだよね?) (クロスの武器って意味なら、そうだよ) (そう……) 剣は、取り回しが利く。多様される恐れがあるが、来たら来たでどうにでもなりそうな気がする。 ダブルナイフは取り回し次第ではかなり手強い。まだ慣れてないからゼピュロスで捌くのはキツイかもしれない。 槍も危ないかもしれない。聞いた話では、槍だけで大会を勝ち抜いた強者もいるという話を聞く。それは数年前の話らしいので、絵美ちゃんではないはずだが。 (バーニアの制御をこっちに回して、合わせる練習はこのバトルが終わったら) (樹羽) すこし凛としたシリアの声。改まって、といった感じか。 (確かに、樹羽がバーニア制御した方が、的確なタイミングでバーニアを使えるかもしれない。でも、それじゃ駄目なんだよ) 言われて、気付く。自分はどうやら、勝ちにこだわり過ぎていたらしい。 (二人で勝とう、樹羽) (……そう、だよね。私一人で戦ってるわけじゃ、ないんだよね) 何年も一人だった。信用できなかった。頼れなかった。 でも、今は自分の中に、信頼できる相棒がいる。 (勝とう、二人で!) 相手に向かって構え直す。相手はまだ攻めて来ない。ずっと続くかと思われたにらみあいは、相手が破った。 突如相手の姿が消える。レールアクションだ。 (落ち着け、さっきもできたじゃないか) 空気の流れを、全身の感覚を総動員して感じとる。 (*1) 右に回転し、飛んできた足をゼピュロスで受け止める。さらにそこからくる槍のなぎ払いは、左手を前に出しながらシリアがバリアを張ってガード。 「何でっ!?」 「そこぉっ!!」 ガード時に引いた右手を相手につき出す。しかし、それは相手の左手に現れた一本のナイフによって阻まれた。付け根の部分から三つに分かれており、そこで挟み押さえられてしまう。 「はぁっ!」 相手の槍が顔面に迫る。この槍も先端が三つに分かれている。その間にエウロスを入れ、押さえ込む。 互いに両手が封じられてしまった。地面を踏みしめているため、足技も使えない。 (エウロス……収納!) (……っ) 両手から刃が消え、同時に右手を引く。 支えがなくなり、相手の体制が崩れる。 「でぇやぁっ!!」 がら空きになった腹に、右手のゼピュロスを下から叩き込む。相手の腕が動くが、間に合うわけがない。綺麗にボディに拳とゼピュロスが入る。同時に足のバーニアが起動し、掬い上げるように相手を浮かせる。 そこからさらに腕を引き、バーニアをふかして相手の上をとる。そして、右手に現れた刃を相手に向けた。 「貫けぇぇっ!!」 重力にバーニアの加速。相手がとっさに張ったバリアと、こちらの刃が激しくぶつかり合いながら、二人とも地面に落下していく。 そして、地上との距離がゼロになった時、勝敗は決まった。 「…………」 相手の脇腹を貫き、地面に刺さった刃を抜く。 「私たちの、勝ちだ」 試合終了のブザーが、鳴った。 第四話の2へ 第五話の1へ トップへ戻る
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先頭ページへ 次へ インターバトル0「アーキタイプ・エンジン」 涼しい秋の風が網戸を通って、彼の頬をなでた。 私はたわむれに彼の頬をなでていた空気の粒子を視覚化して追う。 くるりと彼の頭の上で回転した空気は、そのまま部屋に拡散して消えた。 彼はもう一時間ほどデスクに座りっぱなしで、ワンフレーズずつ、確かめるようにキーボードを叩く。彼の指さばきが、ディスプレイに文字を次々と浮かべる。浮いている文字。 その後ろの、ベッドの上に座りながら、彼の大きな背中を見ている。これが私。 私は武装神姫。天使型MMSアーンヴァル。記念すべき最初のマスプロダクションモデル。全世界に数千万の姉妹がいる、そのうちの一人。 パーソナルネームは、マイティ。彼が一晩考え抜いて、付けてくれた名前だ。 私はこの名前に誇りを持っている。 うーむ、と、彼がパソコンチェアの背もたれに寄りかかって、腕を組んだ。再び 涼しい風が部屋に遊びに来る。窓を見る彼。外は快晴。ついで視線に気づいて、私を見る。 彼はくすり、と微笑む。ちょっと陰のある、はにかんだ笑顔。 「おまえは、食べ物は食べられるのかな」 壁の丸い時計をちらりと見て、彼は訊ねた。私に。 「はい。有機物を消化する機能があります。99.7パーセントエネルギー化して、排泄物を出しません」 「いや、それはいいんだが」 彼はちょっと困った顔をして、私はすぐに彼の言わんとしていることを悟った。 「味も識別できます」 「そうか。良かった」 昼飯にしよう、と、彼は台所に立つ。ワンルームの小さな部屋。一つの部屋がリビングとダイニングとキッチンと、仕事部屋と寝室を兼ねる。十畳以上あるから狭くはない。 カウンタをはさんでキッチンが見える。キッチンの横のドアは廊下があり、玄関へと続く。それまでに洗面所経由のお風呂があるドアがあって、玄関に近い方にトイレのドア、と並ぶ。反対側は大きな納戸だ。 カウンタの手前には小さなテーブル。一人暮らしのはずなのに、なぜか椅子が二つある。そのことを聞いてみたら、 「セット商品だったのさ」 と、苦笑した。 いい匂いがキッチンから漂ってくる。ガスコンロの上で、フライパンが踊る。お米と、たまねぎと、玉子、そしてお肉が舞う。 ほどなくして、テーブルに大小二つの皿が置かれて、そこに金色のご飯が乗せられた。 チャーハン。私のプリセット知識が料理の詳細を再生する。 私はテーブルに座らせられて、小さいお皿のほうが手前に寄せられる。 「多いか」 「いえ、丁度良いです」 彼は微笑して、椅子に腰掛けた。 「小さいスプーンがこれしかなかった」 と、彼はプラスチックのデザート用スプーンをくれた。 「いただきます」 私はチャーハンをほお張る。 おいしい。 有機物を摂取するのはこれが初めて。私のコア頭脳に新たなネットワークが築かれているのが分かる。 「おいしいです」 私は心からそう言った。 心、から。 そう。このときに、私が生まれたのかもしれない。初めて。 私は、マイティ。 先頭ページへ 次へ
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剣と剣がぶつかり合う音が、廃墟に響き渡る。 片刃の長剣、エアロヴァジュラでと長槍の破邪顕正をはじきあげ、HMT型イーダ・ストラダーレ――個体名ヒルデガルドは距離をとった。 対する侍型紅緒――個体名藤代は地面を蹴り、こちらに一気に距離を詰め、長槍を突き出してくる。体勢を立て直す暇を与えないつもりのようだ。 『エアロチャクラムで受け流せ』 「はいですわ!」 マスターからの指示を受け、ヒルデガルドは左側のエアロチャクラムを瞬時に操作する。 パンチを打つように突き出したエアロチャクラムの表面装甲を破邪顕正が薄く削りながら流れていった。 ――西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 「そこっ!」 藤代の体勢が流れたところで、エアロヴァジュラを一閃。しかし、右肩の鎧部分を斬り飛ばすだけに終わる。――藤代がとっさに槍の石突をつかってこちらをヒルデガルドを殴りつけたからだ。 「うっ!」 「危ない危ない。だが、勝負はこれからだ!」 藤代は再び距離を詰めてくる。武装は破邪顕正から為虎添翼と怨鉄骨髄へと変わっていた。手数を重視し、こちらを押しこむ腹のようだ。 「そらそらそら!」 「くううっ!」 ヒルデガルドはエアロヴァジュラを一度放棄。エアロチャクラムを両手で操り藤代の連撃を捌いていくが、鋭い刃を持つ二振りの小太刀は容赦なく装甲を削り取っていく。 ――神姫、そしてそれは、全高15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 「どうしたどうした! 懐に入り込まれては手も足も出ないか!?」 「……っ、うるさいですわ! えいっ!」 轟、という音を従えてヒルデガルドはエアロチャクラムを振りぬく。しかし、藤代は半身になってそれを受け流すと、為虎添翼を下から振りぬいた。 懐深くに入りこまれたせいか、ヒルデガルドは咄嗟に体をそらしたが、為虎添翼の剣先がヒルデガルドの頭部に装着されていたルナピエナガレットを叩き割る。 「あっ……」 そのまま体勢を崩し、倒れるヒルデガルド。藤代は勝利を確信した。 「これで終わりだっ――首級、頂戴!」 仰向けに倒れたヒルデガルドに、藤代は逆手に握った怨鉄骨髄を振り下ろした。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ――。 第一部 ヴァイザード・リリィ 渾身の力で振り下ろされた怨鉄骨髄は横方向の衝撃に弾かれ、廃墟の壁に突き立った。 ヒルデガルドがエアロチャクラムを倒れた状態から振りまわし、怨鉄骨髄を叩いたのだ。そのままその勢いを利用してヒルデガルドは体勢を整える。 「っ……。必殺のタイミングと思ったのだがな」 悔しそうに、しかし嬉しそうに笑う藤代。 「まあいい。まだまだ楽しめるのは私にとって嬉しいことだ……。久々の強敵だ。こう早く終わっては困る」 「……くふふっ」 ヒルデガルドも笑う。 「なるほど、貴女も楽しいか。そうだろう! 我らは武装神姫。戦うために生まれた存在だ!」 「……くふふっ。もちろん楽しいですわ」 ゆっくりとヒルデガルドは立ち上がる。そして、まだ顔に引っかかっていたルナピエナガレットを素手で掴み―― 「ですが、ワタクシは戦うことが好きなのではありませんの――」 ――握砕した。粉々になったバイザーは0と1に分解され、データの海に消えていく。 露わになった紫水晶色の目が恍惚の表情に眇められる。 「――勝つことが好き。勝つことが楽しいのですわ」 「……愚かな。結果のみ求める者に碌な者はおらんぞ?」 「かまいませんわ。――もっとも、『彼女』は戦うこと自体あまり得意ではありませんが、ワタクシは違いますわ。全力でお相手いたしますわ、お武家様」 瞬間、地を蹴る。二体の神姫の距離があっという間に零になる。 「!!」 あまりのスピードに藤代は対処が遅れた。 ハイマニューバトライク型であるイーダ型は機動力には確かに定評があるが、ここまでの瞬発力は藤代にとっては前代未聞だった。 藤代はとっさに為虎添翼を眼前に立てる。 刃がかみ合う硬質音。エアロヴァジュラと為虎添翼がぶつかり合った音だ。 「……ここまでの瞬発力を出せるとは。ようやく本気になったということか?」 「本気? ……そうですわね。勝つためにワタクシはおりますの。ゆえにワタクシは常に本気ですわ」 ――エアロチャクラムがノーモーションで振られる。身を引くことが敵わず、藤代は宙を舞った。 「がっ!?」 バーチャルの空を高く舞い上がり、背中から地面に叩きつけられる。 「ぐ……くそっ」 起き上がろうとする藤代。しかしそれは直後に上から飛びかかってきたヒルデガルドに押さえられた。 「ぐっ!」 エアロチャクラムで両手首を掴まれ、地面に押さえつけられる。ヒルデガルドはエアロヴァジュラを逆手に握り、藤代の喉に突きつけていた。 「……どうした? 獲物の前で舌なめずりとは。さっさと首を切るといい」 「……くふ、くふふっ。負けが決まっても、強気な御方……。ますます気に入りましたわ」 ヒルデガルドはそう言うとエアロヴァジュラを藤代の首筋のすぐ横に突きたてたそして―― 「!?」 「いつまでそんな強気でいられるか――試させていただきますわ?」 「――っ! むぐっ!?」 ――藤代の唇を、自身のそれで塞いだ。 たっぷり十秒近く口づけを交わした後、ヒルデガルドは顔を離す。 藤代はあまりの出来事に声が出ない。 「な!? な、何――」 「貴女はワタクシの獲物――。ならば、ワタクシがどう料理しようと、ワタクシの勝手でしょう? 御安心なさいな、美味しく食べて差し上げますわ」 ヒルデガルドの右袖飾りが展開し、中の機構をむき出しにする。その起動を確認した後、ヒルデガルドは右手で藤代の身体をまさぐりはじめた。 「きっ貴様っ! 自分が何をっやっているのかっ……くぅっ、わかっているのか!?」 「勿論ですわ。さあ、早く貴女の声をお聞かせくださいな――」 「や、やめ――ひぅっ!? ふぁっ! やぁっ!?」 突如として始まった羞恥劇に、藤代はエアロチャクラムを振りほどこうともがくが、ヒルデガルドが藤代に触れるたび、藤代から力が抜けていく。 外では彼女たちのマスターが何か騒いでいたが、ヒルデガルドにとってはそれは些末事以下であった。 「くふ、くふふっ。くふふふふっ……」 「い、嫌だっ! 嫌だ! やめろ、やめろっ! やめっ、おねがい、やめてぇっ……」 藤代の願いむなしく、ヒルデガルドの指は彼女の身体の隅々までを舐めつくし、凌辱する。 そして、それが秘部に到達しようとしたときだった。 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender A side. Winner Hildegard. 藤代側のサレンダー。ジャッジの審判が下ると同時に、藤代の身体は0と1へと変換され、バーチャルの空へと還っていく。 それを見送り、ヒルデガルドは先ほどまで藤代を嬲っていた右手を舐めて、呟いた。 「もう、あと少しの所でしたのに――無粋な殿方ですこと」 ◆◇◆ ――「また」やった……。 俺――如月幸人は筐体の前で頭を抱えた。 周囲で観戦していた他の神姫やそのマスター達はこちらをみて苦笑ともとれないような微妙な表情をしている。 その顔は全て「相手も可哀そうに――運が悪かったなあ」と語っていた。 筐体の向こう側では、紅緒型の神姫――確か藤代、といったか――のマスターが泣き崩れる彼女を必死に慰めていた。 「主っ……主ぃっ……。私、汚れてしまいました……。この身を全て主に捧げ、永久の忠誠を誓ったのに……」 「藤代っ!? 藤代! 大丈夫だ! あれは全てバーチャル空間での出来事だ! お前の身体には一片の汚れもない! あとその言い方は俺に激しい誤解が生まれるからやめてね!」 「あのイーダ型に触れられた感触が、今でも……。こんな汚れた身体では、もう主にお仕えすること叶いません。主、貴方を残して先に逝く私をお許しください――」 「藤代――ッ!?」 ……なんだかすごいことになってる。 こちらが指示したことではないと言え――ひっじょーに申し訳なくなってくるが、やっぱり謝るべきだよなあ……。 ――こちら側のインサートポッドが開き、中から相棒――ハイマニューバトライク、イーダ・ストラダーレ型「ヒルデガルド」が姿を見せる。 バーチャル空間で壊されたルナピエナガレットは何事もなかったかのように彼女の顔面を覆っていた。 俺とヒルダとの目が合う――正確にはバイザー越しにだが――。ヒルダは筐体の向こう側の惨状を見やり、俺を見やり、もう一度向こう側の惨状を見て、呟いた。 「……マスター。私、また――」 「――そう。『また』、やった」 それを聞くや否や、ヒルダは脱兎のごとく駈け出した。 全長五メートルほどの筐体の上を全力疾走して向こう側にたどり着くと、その勢いそのまま―― 「――申し訳ありませんでしたわっ!」 ――スライディング土下座をした。 一瞬の事に、藤代も、彼女もマスターもぽかんとしている。 「私、貴女にとんでもないことを……。本っ当に申し訳ありませんでしたわ!」 「え、あの、いや……」 藤代はマスターの後ろに隠れておびえている。一方のマスターはバーチャル空間でのヒルダと、今目の前で土下座をしているイーダ・ストラダーレのギャップに追いつけず、目を白黒させていた。 そしてその流れでこちらを見られても、俺も困るのだが。 「あー、えっと、どうもうちのヒルダがご迷惑をおかけしました……」 俺も頭を下げる。神姫の不出来はマスターのそれだ。 それに言っちゃああれだが――ヒルダの巻き起こす騒動に頭を下げるのも、ここ一カ月で慣れた。悲しいことだが。 「あの、いや、その……どういうこと?」 藤代のマスターは周囲のギャラリーに説明を求めた。観客たちは苦笑して互いに顔を見合わせるだけである。 「まあ、挑んだ相手が悪かったよな」 「正直、こうなる予感はしてたもんね」 「ヴァイザードの仮面をはがすなってのは、なんつーか、もうここの常識だよな」 口々に言い合うギャラリーの言葉を聞き、藤代のマスターの頭にさらに疑問符が浮かぶ。 極めつけは、ヒルダの放った一言だった。 「……責任を取れ、とおっしゃるのであれば、従いますわ。藤代様。私のこと、どうかお好きなように――」 「ひっ――!」 それを聞いた瞬間、藤代はガタガタと震えだした。 先ほどの恐怖がよみがえったのか、それとも先ほどとはまったく違うヒルダの性格のギャップに恐怖を覚えたのか。 藤代はマスターの手から飛び降り、ゲーセンの入口へと逃げだした。 「うわああああああああん!」 「ま、待て! 待つんだ! 藤代――!」 当然、それを追いかけて彼女のマスターもいなくなる。 残ったのは三つ指ついて土下座していたヒルダと、天井を仰いでため息をつく俺。そして、それを見守るギャラリー達だけだった。 「……ヒルダ、戻ってこい」 「……はいですわ」 しょんぼりと肩を落としてすごすごとヒルダは戻ってくる。足元にたどり着いた彼女を拾い上げ、胸ポケットに仕舞うと俺は荷物を手に取った。 「……どうして、私はこうなんでしょうか」 「……俺に聞かれてもなあ……」 「今の私、普通ですわよね? なのに、外れてしまうとどうしてああなってしまうんでしょう」 「…………俺に聞かれてもなあ…………」 そんなすでに二十以上は繰り返した問答を今日も繰り返しながら、近くのファストフード店で待っているであろう連れと合流すべく、俺たちもゲーセンを後にする。 ――俺の神姫は、バイザーを外すと性格が豹変する、世にも珍しい二重人格の神姫だった。 ◆◇◆ 次へ トップへ