約 1,802 件
https://w.atwiki.jp/nekogoya/pages/100.html
中東での利権を、中華帝国の行動を黙認することで確保しようとした米国の目論見は完全に崩れ去った。 この混乱に終止符を打ったのが、アメリカ大統領、ジョージ・バラマの急死である。 公の報道はこうなっている。 某日深夜、ジョージ・バラマ大統領は、ホワイトハウス内のバスルームで倒れているのを、様子を見に来たバルモア夫人によって発見された。 死因は心臓発作。大統領は心臓に持病を抱えており、連日の激務により、最近では疲労を訴えることが多くなっていた。 ただし、「バルモア夫人の強い希望」により、検屍の類は一切されず、大統領の遺体は、家族だけの密葬の後、火葬によりこの世から消えた。 バルモア夫人はの後すぐにアメリカを離れ、フランスのニースに隠棲したが、夫人が、生活費の名目で中華帝国からかなりの金額を極秘裏に受け取っていた事実もある。 中華帝国にとって助けとなる決定打を打ち出せなかった大統領に対する報復により暗殺されたと、まことしやかに囁かれるのも無理はない。 彼の死因が、本当に心臓麻痺による死亡だったのかは、永遠に闇の中だ。 そのバラマの後釜になったのが、副大統領のジェームズ・タイラーだ。 彼もまた、親中派の一人と目される一人であり、中華帝国からバラマの後継者として期待された人物だった。 二選を目指し、志半ばで倒れたバラマの後任として大統領選挙に出馬することを表明した彼だったが――― 出馬表明の翌日、シカゴで暗殺された。 犯人は中国人によって仕事を失ったと主張するヒスパニック系の移民。 背後からサタデーナイトスペシャルの22口径3発を脳に受けた“タイラー候補”は、初演説ではなくその無惨な死体で翌日の朝刊の一面を飾った。 時間的に後継者を選択する余力を失った与党・民政党に、野党連邦党が送り出したニコラス・J・ベネット大統領候補を止めることは出来なかった。 実は、このベネットというギリシア移民の子孫を、中華帝国は理解しかねていた。 経済的にも中道的な発言を繰り返し、右派なのか左派なのか判然としない、日和見的な態度を繰り返すせいで、大統領候補でありながら、対するバラマに全く歯が立たないだろうと囁かれ続けた存在だ。 この男が大統領に就任したら? その図式を、中華帝国は描くことが出来なかった。 むしろ、就任こそあり得ないと切って捨てる程度がふさわしい程度の認識しか持ち合わせていなかったともいう。 それが、中華帝国にとって最大の誤算であり、最大の悲劇の原因を生み出すことになる。 ベネットが対抗馬なしを理由に大統領に就任したのが、EU軍のバクダッド制圧の日だ。 このままでは世界戦争になる! この最悪の事態を回避する手腕を、世界がベネットに期待していた。 新大統領は事態の収拾を目指す国際会議を提唱した。 中華帝国が、駐米大使の偉をホワイトハウスに送り込み、大統領となったベネットとの接触させたのは、その協力を求めたからに他ならない。 先のバラマ同様の尊大な態度を崩さない偉に対し、ベネットは全く動じることなく、やんわりとした態度ですべてを受け流し、狐につままれたような顔をした偉をあっさり追い返した。 それでも偉は、自分の威圧でベネットをうち負かしたと本国に報告した。 ―――彼はバラマ以上に人形として有益でしょう。 CIAが諜報した偉の報告は、そんな感じでまとめられていた。 何をどうしたらそう思えるのか。 偉が本気でそう思っていたことは、後の関係者の証言からも明らかだ。 国際会議は、提唱からわずか数日後にはブリュッセルで開かれた。 すでにアフリカののど元まで占領下に置く圧倒的軍事力と、世界最大の経済力を保有する中華帝国に対し、各国は終始押され気味の交渉を余儀なくされた。 その中で、なぜか提唱した米国は、様々な、それこそ幼稚じみた理屈をもってまで会議への参加を延期し続けていた。 会議は混乱し、その中で中華帝国は自らの勝利を確信しつつあった。 それから数日後の中東。 アラビア海に浮かぶ沖縄県ほどの小さな島。 名をラピス島という。 その地理的条件と、大型艦艇が多数接岸出来る港を持つことから、歴史ある中継貿易の拠点として繁栄した英国の植民地だ。 アラビア海の制海権を掌握した中華帝国軍にとって目の上のたんこぶに等しい存在だが、その小さな規模から、あえて無視していた所だ。 ここに、米軍はバーレーンに向かう途中の艦隊を停泊させていた。 “鈴谷(すずや)”は、そこにさしかかろうとしていた。 事態は、そこから始まる。 “鈴谷(すずや)”がラピス入港を目前にして航行を続けている。 「美奈代、美奈代っ!」 長旅により、ついに食事から麺類が消えた食堂で、ハム定食と鯖缶定食のどっちを食べようか迷っていた美奈代を、興奮気味の声が招いた。 窓際に立ったさつき達だ。 何人か、乗組員達も興味深げに外を眺めていた。 「どうした?」 「ほらほらっ!」 美奈代が窓をのぞくと、そこには“鈴谷(すずや)”と平行して飛行す緑のバケモノが2機いた。 ずんぐりとした機体にプロペラが6つ回っている。 機体のサイズはメサイアよりはるかに大きい、空を飛ぶ様はまさに“バケモノ”だ。 しかも、その翼には大きな日の丸が描かれている。 「随分と大きいな」 「八式飛行艇ですよ」 美晴が私物の一眼レフのデジカメを構えながら言った。 「八式?」 「往年の名機、二式飛行艇の後継機です。半世紀かかって、すべての性能でようやく二式を越えることが出来た、現代の名機です」 「ふぅん?」 美晴は熱心にそう言うが、美奈代はピンとこない。 ただ、“大きいのが飛んでいる”程度にしか思えない。 翼幅48メートル、最高速度550キロ、偵察時の航続距離は9500キロに達する飛行艇は他には存在しないとはいえ、機械音痴の美奈代にとって“飛べば皆同じ”程度の認識しかない。 しきりに“乗ってみたい”を繰り返す美晴とは違う。 「それで」 美奈代は窓から顔を離した。 「連中、何でこんな所飛んでいるんだ?」 「国際貢献の一環ですよ」 「?」 「海軍は、三ヶ月戦争の頃から、アフリカ近海の哨戒任務を担当しているんですよ。私達がヨーロッパルートを使えるのは、彼等の展開があってこそです」 「……感謝すべきか」 美奈代はそうつぶやくと、飛行艇に敬礼した。 「くそっ!」 受話器をアームレストに戻した美夜の口から舌打ちが漏れた。 「艦長?基地司令部は何と?」 「警戒任務にメサイアを回せ。その一点張りだ」 美夜は苦々しげに言った。 「基地司令はかなりの頑固者だ」 「哨戒ですか?」 「ミサイルの哨戒迎撃任務だ」 「ああ、それならメサイアは適任ですが―――」 副長はそこまで言ってようやく言葉の意味が理解出来た。 「つまり!」 「ラピスに反応弾が撃ち込まれる公算大。日本軍も警戒任務上、協力願いたし。言い分はそういうことだ」 「海軍がすでに飛行艇を派遣しているとは―――驚きでしたな」 「ウチの旦那共より、海軍の方がしっかりしているってことさ」 美夜は小さく微笑んだ。 「ラピス島からなら、中東の原油が輸出を再開した場合、あらゆる意味で警戒する拠点として申し分ないからな」 「では、我々はどうします?」 「明日には米艦隊の追加も入る。敵の狙いはそこだろう」 「大陸間弾道弾?」 「それなら、防空司令部からの通報一発で済む―――水と食料、任務終了後の休養、その辺が交換条件かな」 ●中華帝国軍空母“鞍山” 「日本軍だと?」 ―――ラピス島沖合にて航行中の飛行艦を確認。 その報告を受けた中華帝国海軍第四機動艦隊司令李提督は食事の手を止めた。 「はい。輸送タイプ1。随伴艦なし」 「……近衛騎士団(インペリアルガーズ)か」 李提督は壁の海図を見た。 「目的はラピス基地での補給か?」 「間違いないでしょう」 副官の海大校は顔色一つ変えずに頷いた。 「放っておいても構わないんだがな」 「現在、最も近い日本軍は、偵察部隊だけです。いかがなさいますか?」 「ここで我々の存在は明らかに出来ない。針路を変更しよう。本国からは?」 「現場の責任有る判断により善処せよ。ただし、無用の混乱は避けよ」 「有り難いお言葉だ……」 李提督は茶をすすると、席を立った。 「一々我々から仕掛けることで、我々の存在を暴露する必要もないだろう」 「党もその判断のようです」 海大校は頷いた。 「日本軍撃滅は現在の我々の任務ではありません」 「そうだ」 制帽を正しながら李提督は楽しげに頷いた。 「今の―――な」 「はい。今の、です」 「よろしい。手出しは無用。必要なら接触回避の手段を厭うな」 「了解です」 海大校は提督との打ち合わせを済ませ、艦橋に戻ろうとした。 甲板からは航空機の発艦音が轟き渡っている。 「―――ん?」 海大校は足を止めた。 発艦命令は出ていないはずだ。 それなのに何故? 海提督はすぐ近くの艦内通話の受話器を取った。 「飛行管制か?この発進は何だ?」 「“天津”から上がった航空隊が!?すぐに引き返せっ!」 艦橋に怒鳴り込んできた李提督は顔を真っ赤にして怒鳴った。 「艦長!誰がこんな命令を出した!」 艦橋で目を丸くしているのは、張艦長だ。 「で、ですが」 何故、自分が怒鳴られているのか全く分からない。 艦長はそういう顔をしていた。 「日本軍ですよ!?」 「自分の任務をわきまえろっ!現在においての艦隊の任務は哨戒だろうが!」 「しかしっ!」 姿勢を正した張艦長は叫ぶが如き声を張り上げた。 「小日本撃滅は、党から命じられた至上任務の一つでありますっ!」 党―――中華帝国における唯一の政党。皇帝支持者の集まり、“王政党”のことだ。 皇帝の権限をかさにやりたい放題、今回の開戦も皇帝の意向ではなく、党の判断によるとまことしやかに語られている。 その権限は、逆らえば中華帝国国内では生きていけない程。 当然、彼ら軍人にとって絶対服従の対象だ。 実際の所、海外大使館勤務も経験した李提督は、王政党のやり口は嫌ってはいたが、軍人である以上、その名には逆らえない。 対する張艦長は、軍人としてより党員として出世したような人物だ。 党の名を出せば全てが沈黙する。 党の正しさが全てに優先する。 それを地で主張して出世レースに勝ってきた、軍人としてはむしろ危険な人物だ。 「……艦長」 李提督はなだめるような声で艦長に告げた。 「我が国は、日本に対して正式な宣戦布告をしていない。ここで勝手に奴らを攻撃したら、日本に我が国に対する宣戦を許す口実を与えかねないのだ」 「し、しかしっ!」 「日本に対して宣戦布告していないのは、党の方針だ。その方針に横やりを入れるつもりか?」 「そ、それは……!」 艦長は狼狽しつつ、ようやく思いついた反論を答えた。 「すでに大韓帝国は」 「日本の経済力を甘く見るな。韓国は資産を凍結され、わずか数日で経済が破綻したんだぞ?同じ目を我が国にあわせるつもりか?」 「し、しかし……っ!」 「小日本だなんだの、敵を舐めてかかると痛い目に遭うぞ中佐。軍人たる者、常に敵を侮るな」 提督は真顔でそう諭した。 何しろ、日本は反応弾保有国だ。 互いに反応弾でつぶし合いになることなんて考えたくない。 何より、その口実を自分が作ったなんて御免被る。 「―――海大校」 李提督は、脇に控えていた海大校に命じた。 「攻撃部隊の撤退を確認するまで飛行隊の指揮を任せる。それと、本国にこの事態を報告しろ。いいか?絶対に本国を刺激しないように、報告の文面には気を付けろ」 「本国が攻撃命令を下したら?」 「―――その時は話は別だ」 「絶対に命じますっ!」 艦長は怒鳴った。 ―――狂信者。 その目は、彼がそういう存在だと告げていた。 「このタイミングこそ、党が与えてくれた千載一遇のチャンスです!」 「党から与えられた命令は哨戒任務だっ!ここで我が艦隊の位置を暴露することは、党の命令に反しているぞっ!」 「―――っ!」 「これは艦隊司令としての厳命だっ!交戦は認めない、さっさと部隊を引き上げろっ!航空隊の指揮権及び艦隊の交戦権が私にあることを忘れるなっ!」 ここで手違いが生じる。 李提督にとっては、海大校に対する指示で自分の任務が終わったと思いこんだこと。 肝心の海大校は、通信管制を無視した党から送り込まれてきた莫大な通信への返答に手一杯になったこと。 最悪なことに、艦隊から離れて独立遊撃隊として通商破壊にあたる別働隊から敵輸送船団発見の報告がこの時入ったことは、後々まで海大校を後悔させることになる。 遊撃隊の位置はソコトラ島の沖合。 アデン湾から侵入する敵艦隊の哨戒も兼ねている。 そこからの通報だ。 「ソコトラ島沖合、艦種不明。一隻はタンカーと思われる」 それが遊撃隊からの報告だ。 ただ、“本当”にタンカーならその腹の中の油が敵に堕ちることだけは避けたい。 幸い、タンカーは遊撃隊から発進した航空機の攻撃可能なポジションにいる。 遊撃隊の指揮権は、提督から自分に移っていることもある。 だから、大校は“別働隊に”命じた。 ―――航空隊は、各個に攻撃に移れ。 いつもの命令だ。 命じられた航空隊は、航空管制官の命令通りに戦うことになる。 本当に、いつものことなのだ。 それに、今の彼の敵は、目の前の書類だ。 提督から命じられた報告や、党幹部を満足させるためだけに求められる現在状況の報告―――しかも、党の定めた形式と時間を厳守する必要のある―――頭の痛い敵だ。 だが――― 「本当にいいんですか?」 通信管制官の一人がしつこくそう聞いてくる。 提督の命令通り、日本軍接近の報告を、波風立てないように準備していた大校は、その管制官を見ることもなく怒鳴った。 「いいと言っているだろう!いつも通りだ!武器使用自由、全力で叩けっ!」 「り、了解―――大校の命令と判断します」 管制官は震える声で命じた。 「艦隊司令部より紅6へ、攻撃を許可する。対艦ミサイル使用自由」 「―――おい」 紅6 対艦ミサイル。 その名にひっかかった中佐は、文面を書く手を止めた。 嫌な予感どころ騒ぎではない。 しらずに、声が震えてしまう。 「貴様―――今、どこに命令を出した?」 「ですから」 管制官の顔を見て大校は青くなった。 それは、日本軍に向かった部隊と通信を続けていた管制官だった。 「攻撃命令を発しました。大校の命令で」 「馬鹿者ぉっ!」 紅6は日本軍に向かいかけ、管制官からの撤退命令に断固抗議しつづけていた空母航空隊のコールサイン。 対艦ミサイルは、言うまでもないだろう。 「間違いないな?」 隊長はジャミングのひどい通信記録を、部下に確認を命じつつ、自らも耳で確認した。 「艦隊司令部は、攻撃を許可しました」 「録音、しっかり保存しておけ?。―――日本軍を叩くっ!」 「了解っ!」 「ミサイル接近っ!数10っ!」 レーダー担当の木村が悲鳴に近い声をあげた。 「墜とせっ!」 “鈴谷(すずや)”に設置されているML(マジックレーザー)砲が火を噴いた。 抜けるような青空に、光が走った後に白煙の柱が生まれた。 「FGF、全展開しますかっ!?」 「まだ早いっ!ML(マジックレーザー)だけで十分だ。余計なエネルギーを消費するな!生きて帰れなくなるぞ!?」 「はいっ!」 「うわ……すごっ」 戦闘機が編隊を組んで接近する。 戦闘機を間近で初めて見たさつきはしきりに感心するだけだ。 チカチカチカチカッ! “鈴谷(すずや)”の舷側にあるランプが激しく点滅を開始したのはその時だ。 緑の点滅と赤と黄色の3色。 「何?」 「警告です」 教えてくれたのはさつき騎のMC(メサイアコントローラー)、愛沢中尉だ。 「国際法規定のFGF(フリーグラビティ・フィールド)警告です」 「何でそんなもの出すんです?」 「FGF(フリーグラビティ・フィールド)は目に見えません。通常航行時には、接触しないように警告する必要があります」 「今、戦闘中ですよ?」 「これでぶつかったら、向こうが悪くなるんです」 「―――成る程」 「バカ者っ!」 同じ頃、海大校は李提督から大目玉を食らっていた。 「誰が攻撃しろと命じたっ!飛行隊には戦闘停止を命じろっ!飛行艦だ、メサイアを搭載してはずだぞ!?」 「間に合いませんっ!」 そんな口論に近い会話を続ける二人の後ろで、艦長が手に持つ金属の筒が火を噴いた。 迎撃されたミサイルが光と煙の球に変わった。 ズズン……ッ!! 遠くで爆発音が響く。 もう恐怖感すら感じない美夜は木村に訊ねた。 「都合、これで何発目だ?」 「48発目ですっ!」 「その数、四方八方から―――よく撃つ」 対艦ミサイルは決して安い代物ではない。 それを48発だ。 感心する以外にない。 いい加減、あきらめてくれないだろうか。 美夜は内心でそう願っていた。 だが――― 「艦長、二宮中佐からです」 「―――私……えっ!?」 美夜はインターホン越しに伝えられた情報に思わず驚いてしまった。 「今度は爆装してきたぁ!?」 空母“天津”の艦橋から運び出されたのは、李提督と海大校。 その頭部からは血を流し、力無く手足を伸ばしている。 死んでいるのだ。 「―――党は小日本と戦えと命じられた」 張艦長とその部下が銃を手に艦橋から送り出される二人の死体を見送る。 「その命令に従えない敗北主義者は、我が国には要らない」 艦橋の通路から放り出された死体が海に消えていく。 「Su-30飛行隊の収容急げ。対艦ミサイルが効かないなら、爆撃にて出撃しろ」 それから一時間後。 中華帝国軍の爆撃を試みた機すべてが空母に引き返してきた。 全機生還だ。 「畜生っ!」 パイロットの一人が、キャノピーを叩いて降りてきた。 「何てザマだっ!」 パイロットは、即座に機体の下、パイロンを取り付けているハードポイントを見た。 「―――くそっ!」 翼下の10個あるハードポイントは、一つ残らずきれいに破壊されていた。 「たった一通過だぞ!?それでこれかっ!?」 ガシャンッ! ハードポイントに、そのパイロットが触れようとした時だ。 コクピットの近くですごい音がした。 パイロットがその音に驚いて後ろを見ると、機体の破孔から金属の棒が1本地面に落下していた。 何だ? パイロットは、その金属の棒が何か、即座にはわからなかった。 「中尉―――よく無事でしたね」 駆け寄ってきた顔なじみの整備兵に気づき、彼はその金属の棒の正体を訊ねた。 整備兵は言った。 「機関砲の銃身ですよ。敵の攻撃が砲を撃ち抜いたんです」 「そんな馬鹿な!俺は敵艦に1万程度しか接近していないぞ!?そんなまぐれが!」 「まぐれじゃないですよ。自分は経験がありますけど……メサイアの攻撃ってのは、それくらい正確なんですよ。中尉」 「……」 「中尉、これが初陣でしたっけ?」 「……ああ」 「ならよかった。メサイア相手に生きて帰ることが出来ただけでもハクが付きますよ」 Su-30部隊が去った後は、静寂のみが支配する航海が続く。 ラピス島まではもうすぐだ。 「中華の脅威は去った……か?」 「私、しばらくラーメン食べたくない。中華って言葉見るだけで吐き気がする」 「同感だな」 「美奈代、いい機会だからダイエットしなよ」 「うるさいっ!それにしても」 美奈代はそれが疑問だった。 「こんな所に何で中華帝国軍が?」 「哨戒ですよ」 牧野中尉が答えた。 「敵が米軍の進出を怖れている証拠です。もしかしたら、我々を米軍と誤認したのかもしれません」 「―――ってことは?」 「“鈴谷(すずや)”の警戒レーダーは捜索範囲が狭いです」 牧野中尉の言葉に、コンソールを操作する音が混じる。 「ラピス島まで、我々の出番ですよ?」 「敵は一体?」 「ここまで来るなら敵は空母機動部隊。そのお腹にはとっておきの厄介者が入っているはずです」 「厄介者?」 「はい」 コンソールパネルを操作する牧野中尉は、ちらりと通信モニター上の美奈代を見た。 「このフネを地上から蒸発させることの出来る厄介者です」 スホーイ部隊に苦渋を舐めさせた“鈴谷(すずや)”はそのままラピス島へと逃げ込んだ。 「やっと落ち着くことが出来るな」 平然とした様子の宗像は手すりに寄りかかった。 入港を開始した“鈴谷(すずや)”の背後では、米海軍空母“シャングリラ・テキサス”が補給艦から燃料を受け取っている。 米艦隊と帝国海軍の艦艇50隻。 海兵隊と陸軍部隊を含めれば10万近い兵力が、このラピス島に集結している中だ。 喧噪はあるものの、それでも十分のどかというべき空気が美奈代達を包む。 爆音を轟かせながら、“プレステ2”が“鈴谷(すずや)”上空をフライパスしていくのを、美奈代達は甲板でのんびりしながら見守るだけ。 海軍がEUに貸しを作る意味で派遣している飛行艇だ。 「―――ねぇ」 甲板に大の字に転がって、その様子をぼんやりと眺めていた美奈代がぽつりと言った 「“アレ”には、どうやったら乗れるかな」 「“アレ”?」 美奈代は無言で遠ざかっていく“プレステ2”を指さした。 「PS2ですか?」 「メサイア操縦資格じゃ無理かな」 「無理無理」 さつきは笑った。 「戦車兵に潜水艦操縦させるようなもんだよ」 「……そうか」 「ここが気に入っちゃったんでしょ」 「……うん」 美奈代は「うんっ」と伸びをした。 「青が一杯の―――なんて言うのかな?こんな広くて、どこまでも行けそうな……吸い込まれそうな―――上手く言えないけど、とにかくそんな世界……私は好きだ」 「この戦いが終わったら」 美晴は悪戯っぽく笑った。 「南方県の事務官にでも転属希望出したらどうです?パラオやグアムあたりで」 「―――悪くないけど」 美奈代は小さく笑った。 「あの飛行艇のパイロットを目指したいな」 「本気?」 さつきはあきれ顔だ。 「海軍のシゴキはきついよ?」 「私は―――」 美奈代は、もう遠ざかってしまった飛行艇が飛び去った方角を指さして、 「この“青い世界”を自由に飛べる、あの“飛行艇”っていうのに乗ってみたいだけだ」 「PS-2は綺麗なデザインですもんね」 美晴は笑った。 「それなら美奈代さん、民間のパイロット目指した方がいいですよ。PS-2の民間版は、八式飛行艇と一緒に、東亜航空の南方航路路線で就航してますし」 「……そうか」 そっちもあったか。 美奈代はそう思ったが、 「やめておけ」 そう言ったのは宗像だ。 「人の命は重いぞ。下手をすれば、重みで翼が折れる」 「それでも」 美奈代は海の向こうを指さした。 「ああいうのより、よっぽど私の趣味には合う」 「ジェットよりプロペラ―――デジタルよりアナログな泉にはお似合いだな」 宗像は笑って美奈代が指さした海の方を見た。 黒い点が10以上、こちらに向かってくる。 ぽつりぽつりと、黒い点は時間を経るごとに増えてくる。 「―――待て?」 「ん?」 「今日、発進した戦闘機があったか?」 「宗像ぁ、あるわけないじゃん」 さつきは首を横に振った。 「ラピス島は戦闘機離着陸出来ないもん」 「じゃあ、アレはなんだ?あれ、スホーイだぞ」 皆が立ち上がって海を見たその瞬間、 サイレンが鳴り響いた。 「高度を上げろっ!」 無線機に怒鳴るのは、中華帝国海軍空母“天津”攻撃隊長呉大尉だ。 迫り来る島と無数の船舶を前に、彼は歓喜するよりむしろ驚愕していた。 「こうも簡単に取らせるかっ!?」 米軍の機動部隊が集結している海域に、何の抵抗もなく入り込めたことが、呉大尉には信じられない。 「一体こりゃ?」 すでに爆撃の射程に入ったというのに、未だに対空砲さえ上がってこない。 まぁいい。 余計なことを考えるな。 俺達ゃ、爆弾を落とせばいいんだ。 それで帰ることが出来る。 つまり、これは天佑だ。 呉大尉は自分をそう言い聞かせた。 「いけっ!」 呉大尉は、パイロンに吊した爆弾を敵めがけて投下した。 ズズゥゥゥンッ! “鈴谷(すずや)”の上空をSu-30が通過する衝撃が走り、美奈代達は半ば吹き飛ばされて甲板に転がった。 「な、何っ!?」 後一歩で甲板から海に落ちるところだった美奈代は、驚いて空を見上げた。 「見てわからないのか?」 宗像だ。 「教えてやろう。これは空襲というのだ」 「いや、そういうことじゃなくて」 美奈代が驚いたのは、こんな事態でも平然としていられる宗像の神経であり、同時に――― 「宗像ぁっ!」 「なんだ?」 「どさくさに紛れて何してるっ!―――きゃんっ!」 「うむ―――85のBと見た」 抱きすくめる要領で、美奈代の胸をわしづかみにする非常識さだ。 「違うっ!」 美奈代はムキになって怒鳴った。 「これでもCはあるっ!」 「む?それは違う。絶対カップが合っていないはずだ」 「二人ともっ!」 反論しようと口を開いた美奈代を止めたのは美晴だ。 「現状、わかってますっ!?」 「すまん」 美奈代達が立ち上がろうとした途端――― ズンッ! 「きゃっ!?」 爆発音に、思わず美奈代は甲板に伏せた。 空母と“鈴谷(すずや)”の構造物が邪魔でわからないが、どこかに被害が生じたのは間違いない。 恐る恐る顔を上げた時、その視界に紅蓮の色を含んだ黒い柱が映る。 「やられたのは!?」 「あっち―――米軍の方っ!」 「何で反撃しないんだ!?」 「するのは私達ですよっ!」 「ちっ!総員搭乗っ!」 ―――ついていない。 米第9任務部隊司令官ジョージ・キャンベルは部下の肩を借りながら、内心でそう毒づいた。 さっきまで質素だが、きちんと整理整頓が行き届いていた感のあった室内は、惨憺たる有様だった。 窓ガラスは全て砕け、窓から侵入した爆風が調度品のすべてをひっくり返し、風に流れて入り込む煙が呼吸さえ困難にさせる。 何より、負傷したり、死んで床に転がる将校の死体は目も当てられない。 その光景を目の当たりにする自分もまた、体中に痛みが走る。 「提督―――ご無事で?」 副官のリー大佐がキャンベル提督の額にハンカチを当てながら訊ねる。 「大したことはない―――何が起きた?」 「中華帝国軍の奇襲です」 「……最悪だな」 キャンベル提督がそう思うのも無理はない。 この場に居合わせたのは、日英米三軍の司令部同士。緊急の会合中だった。 議題は――― ラピス島周辺における、レーダーの使用不能、通信障害が発生。 これだ。 原因に関する見解は一つ。 狩野粒子。 レーダー上と、通信における障害程度なら、粒子レベルは低い。 問題は、狩野粒子が何故、この海域で確認されたか。 ―――原因はともかく、現実の事態に対処すべきだ。 ―――両軍共に、哨戒機を上げ、警戒に徹する。 会合は、そんな軍人らしい現実主義的な結論で終わろうとしていた。 その時、こう言ったのが誰だったのか、キャンベル提督は思い出せない。 ―――狩野粒子を中華帝国軍が使ったものなら、笑えませんな。 ―――全くだ。一体、連中はどこから狩野粒子を手に入れたんだ? (笑えなかったな) キャンベル提督はため息一つ、頭を強く振ると、自力で立ち上がった。 「チンクも、絶妙なタイミングで仕掛けてきたな」 「提督」 副官の一人、ハスラー大佐がキャンベル提督に進言した。 「本気で、そうお考えですか?」 「ん?」 「魔族軍の侵略と呼応するが如きタイミングで近隣諸国へ武力侵攻。さらに、この狩野粒子を前にして……」 「君は―――」 「自分は断言します。連中は、魔族軍とつながっています!」 「根拠は?」 「根拠!?」 ハスラー大佐は、上官に怒鳴った。 「周りを見てくださいっ!これで十分でしょう!」 ハスラー大佐の指さした先には、このラピス島までの航海を、その苦楽を共にしてきた司令部のスタッフ達のなれの果てが転がっていた。 「チンク共がこんなことしなければ、こいつらは“こう”ならずに済んだ!第一、我が軍はまだ宣戦布告すらしていない!中立宣言国ですよ!?」 「……っ」 「中華帝国軍が接近するタイミングで、この辺一帯が狩野粒子に汚染された!中華帝国軍が散布したと宣言して世論が信じればそれでいいんですよ、提督っ!」 「……とりあえず」 提督は答えた。 「政治的な話はペンタゴンとホワイトハウスに委ねよう。私の権限は国と国民から任された艦隊の範囲に限定されている」 「全ては、提督の報告にかかっています―――ホワイトハウスが、世論が我々に報復を許すか否か」 「善処しよう」 「安全が確保されるまで、シェルターに入ってください。今、艦隊に戻るのは危険です」 「その前に艦隊に対空戦闘を命じろ。メサイア隊は全騎戦闘態勢」 そこまで言いかけたキャンベル提督の声を遮ったのは、日本から送り込まれてきた飛行艇部隊を束ねる有馬司令の怒鳴り声だ。 「対潜警戒怠るなっ!」 壁にかかっていた電話相手に、それまでの温厚さは微塵も感じることは出来ない。 「水中から来られたらアウトだぞ!それから、“鈴谷(すずや)”を上げろっ!空襲が終わったら送り狼をさせるんだ!」 日本語がわからないキャンベル提督には、彼が何と言っているかわからない。 ただ、 タイセン。 ケーカイ 職業柄、キャンベル提督が知っている数少ない日本語の語彙にその言葉があった。 アリマは対潜警戒を命じた。 何故? 狩野粒子。 その存在が念頭にあったキャンベル提督は、その理由に即座に思い当たった。 彼は部下への命令を追加した。 「全艦、ソナー警戒。対潜兵装は即時発射可能にしろ、何隻か、対潜任務のため環礁から出せ。最悪―――」 提督は空襲の続く窓の外を睨んだ。 「アトミック爆雷の使用を」 「し、しかしっ!」 「“あれ”の使用は、大統領から私に一任されている」 「潜水艦相手にですか?」 「ジャック。メサイア隊を攻撃に出せ。それから君」 キャンベル提督は狼狽する副官をあきれ顔で見た。 「それは、地中海で我が軍が、何にどんな目にあわされたか分かった上での発言か?」 同じ頃、 大型輸送艦隊の中では、詰め込まれたメサイア“グレイファントム”達が目覚めようとしていた。 「なんてザマよ!」 モニターやスクリーン、そして計器類の光が走るコクピットの中でそう喚いたのは、ステラだ。 本国へ戻った途端、ハワイでメサイアごと輸送艦に押し込められた彼女もまた、他の乗組員や騎士同様、数週間ぶりになる明日の上陸を楽しみにしていた矢先だった。 この騒ぎでは上陸はお預けだろう。 「こちらステラ・コールマン!ハッチ開けてっ!」 「こちら発艦司令所だ!メサイア使用許可は下りていない!」 「このままフネごと一緒に沈めっていうのっ!?」 「―――今、許可入った!」 直立不動の体勢で搭載されているグレイファントムの頭上でハッチが開かれる。 油圧でゆっくりと開く仕組みのハッチは、まるで亀の歩みさながらに遅く、たまらずステラは――― 「邪魔よっ!」 ベキィッ!! グレイファントムの左腕でハッチを殴り飛ばしてしまった。 「こらっ、ステラっ!」 ハッチが海面に落下する音を聞いたイルマが怒鳴る。 「あーあっ!あなたこれ、給料から天引きされるわよ!?」 「恐いこと言わないでよっ!必要な措置でしょ!?こちらステラ、緊急発進のため、すべての発進シークエンスを省略するっ!」 「ステラっ!始末書は書けよ!?」 発艦司令所の士官もステラに怒鳴った。 「発艦司令所よりグレイファントム全騎。ハッチ解放次第、自力浮揚開始許可!」 「サンクスっ!」 重力力場の理論を用いた一種のブースターを吹かしながら、グレイファントムが甲板上に出る。 甲板上に設置されていたウェポンラックが開き、ステラはそこから90ミリ速射砲を引き出した。 「敵はどこっ!?」 すでに対空砲が全艦から盛大に打ち上げられている。 「右っ!」 「右?」 ピーッ! ステラは右を振り向き様、コクピットに響いた接触警報の意味を即座に悟ることが出来た。 スクリーン一杯に、炎上しながら迫ってくるSu-30が映し出されていたのだ。 速射砲で撃墜するヒマはない。 「うそぉぉぉっ!」 ドンッ! 鼓膜がどうにかなりそうな爆発音と、シェーカーの中に放り込まれたような衝撃がステラ達を襲う。 とっさに構えたシールドにSu-30の体当たりをまともに喰らったステラ騎は、一度海面まではじき飛ばされた。 そのまま落下しなかったのは、イマラのブースターコントロールが絶妙だったからとしか言い様がない。 「な、なんてことしてくれるのよぉっ!」 ステラは騎体を甲板に再び降ろすと、辺りを見回した。 「い、一体、何がどうなって―――?」 グレイファントムの目から見たラピス島基地は酷い有様だ。 滑走路は爆弾で穴だらけで、車が何台かひっくり返っていた。 青い空も、今では黒い煙に覆われている。 そんな中、ステラ達の輸送艦の間近では、爆撃をまともに喰らい、真っ二つにへし折られた別な輸送艦が、舳先を天に向けて沈もうとしている。 さらにその隣。 もう一隻、輸送艦が激しく炎上していた。 艦の構造物のあちこちで走る爆発は、艦内に残っていた弾薬が激しく誘爆を繰り返している証拠だ。 最近の輸送艦は乗組員がほんの数名だとステラは誰かに聞いていた。 だから、乗組員が脱出出来ればいい。 そう思っていた。 だが――― ステラはモニターをズームさせてその輸送艦を見て青くなった。 炎上しているのは、物資輸送艦じゃない。 兵員輸送艦だ。 兵士達が炎と煙に巻かれ、甲板から次々と海に転がり落ちていく。 艦の横腹にまともに爆弾を受けたらしい。 もうもうと立ち上る煙の中、大きく抉られた艦体が見て取れる。 艦自体が受けた被害からして、艦内にいた兵士達は無事ではないはずだ。 「……神よ」 全身を炎に包まれ、まるで踊るように海に飛び込んだ兵士を見たステラは、思わず首から提げたロザリオを握りしめた。 その直後、輸送艦のボイラーに海水が侵入したんだろう、艦の後部、煙突の下あたりから今までで最大級の爆発が発生。 煙突を含む艦上部構造物が、甲板にいた兵士達を巻き込んで根こそぎ吹き飛んだ。 「……っ」 「ステラ」 呆然とするステラに、殺気だった声のイマラから通信が入る。 「敵空母の位置が判明したわ」 「どうするの?」 「今、この海域にある飛行艦は一隻だけ。インペリアルガーズの、“スズヤ”ってフネ」 「それが?」 「―――“スズヤ”は敵空母艦隊に殴り込むわ」 「私達は?」 「飛んで帰ってくる位のことは、このグレイファントムにも出来るでしょう?」 ハッチが開き、グレイファントム達が次々と甲板に出てくる。 「成る程?」 その光景を見たステラは、楽しそうにコントロールユニットを握った。 「お手伝いくらいは、させてもらえそうね」
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/191.html
■アリス3 703 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 14 16 24 [ .IDGnam. ] だれかアリスといっしょの後日談書いてくれないかな… 704 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 14 27 03 [ 889dF94o ] いいだしっぺの法則ってのを知っているかい? 710 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 22 55 02 [ bqIsA/Uk ] 703 後日談。 「なぁ」 「なに?」 結局、俺は幻想郷に住んでいる。 アリスと一つ屋根の下、という暮らしにはもう慣れた。 が、彼女達の「弾幕ごっこ」はどうも俺の範疇を超えている。 輝石で盾を形作ることは出来るようになったけどまだまだ。だから…。 「空が飛びたい」 「…空を飛びたい?」 アリスは椅子に深く座りなおして珈琲を一口。 カップを傾ける時に目を瞑る癖が本当に可愛らしい。 「駄目か?」 「う~ん…」 「無理か?」 「…無理ね」 そう。俺は魔法が使えない。 輝石はそれ自体が優れたマジックアイテムだから俺にも使えるそうだ。 「ほら、箒とか、どうよ?」 「…アレは日々の修練の賜物。 それに魔理沙の箒自体は何の魔力も持ってないわ。 形から入るとイメージしやすいから使っているだけよ」 「…むむ」 「貴方の輝石と同じ。想えば想うだけ強くなる」 「…箒に力は無いんじゃなかったか?」 「解ってるじゃない。箒は『イメージすること』を助ける為のシンボルね」 「…むむ」 「解ってないのが解りやすい」 「さっき『解ってるじゃない』って…」 「解ってるかどうかが解らないってことは、結局解ってないのよ」 「…むむ」 アリスは口元に指を添えて楽しそうに笑った。可愛いぜコンチクショウ。 こっちに来てからはずっと彼女にからかわれっぱなしだ。嫌じゃないが。 「ふふ、えっと…そう。空を飛ぶのよね」 「やっぱ無理かな?」 「無理な訳ないわ。ヤル気も十分だし、先生は優秀だし」 「お、お願いします先生」 わざとらしくテーブルに両手をついて頭を下げる。 見えないが、アリスが笑ったのが解る。そう…俺にはちゃんと解る。 ふとアリスの手が俺の頬に触れた。頭を上げると目の前に彼女の顔…。 「先生とキスできる?」 「……は?」 アリス先生、ちょっとお顔がマジですよ。 そういうお顔はかなりグッと来ますよ先生。 『してやったり』って表情が隠しきれてないですよ先生。 まぁ何が言いたいかって言うと急展開についていけないけどキスは出来るよせん 「んっ…」 「ぅをふ」 空を飛ぶってそういう意味ではなくてですね先生ちょっと姿勢が姿勢なんでなんか卑猥ですよ先生少しだけ珈琲の味と香りがしましたよ先生いつもより大人っぽく見えてどきどきですよ先生…。 ――――――― (Y) ,,..-ー7" `ヽー- ..,, /,,.-ー "´ ̄ ̄`゙ー- 、ヽ、 / "i´ |l⌒ヽ、__,ノ´⌒l| ヽ ., l ,.ゝ 、r-、__!r-、__,r-i_ノ_,.イ l , `γ´ ハ λ ハ ゝ r "i ヽ; i レイ._,.レハノ.,_レヽノ i ン ノレ´ .i.-─ ─-i. | 7 从" ¬. ".从 i ちょっと危うくなってきたから 〈./ ri.>r---,.イレ ヽ 〉 続きはスキマの向こうでやってね? __ハ/⌒iイヽニンYー 、 ハイ { 全く、女の子に手玉に取られてどうするの…。 -=ニ ̄ ヽゝ、ノY rー -、ノ  ̄ニ=-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー " ̄ ̄ ̄ ――――――― 711 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 23 15 39 [ bqIsA/Uk ] ――――――― (Y) ,,..-ー7" `ヽー- ..,, /,,.-ー "´ ̄ ̄`゙ー- 、ヽ、 / "i´ |l⌒ヽ、__,ノ´⌒l| ヽ ., l ,.ゝ 、r-、__!r-、__,r-i_ノ_,.イ l , `γ´ ハ λ ハ ゝ r "i ヽ; i レイ._,.レハノ.,_レヽノ i ン ノレ´ .i.-─ ─-i. | 7 从" ¬. ".从 i あらごめんなさい。早とちりだったみたい。 〈./ ri.>r---,.イレ ヽ 〉 お姉さんったら少しだけ勘違いしちゃったわ。 __ハ/⌒iイヽニンYー 、 ハイ { 健全な続きをどうぞ~。 -=ニ ̄ ヽゝ、ノY rー -、ノ  ̄ニ=-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー " ̄ ̄ ̄ ――――――― 「んふ…んっ…、…ぷは」 「ふは…えっと…アリス?」 「…これで飛べるかしら?」 「えと、…まぁ」 いやそれはもう今すぐにでも桜花結界を突き抜けて春満開の冥界へと舞い上がれそうな気分です先生!! 「『悪魔の口づけ』よ」 「…え?」 「ほら」 「ううををを!!?」 アリスが促すように軽くあごを動かすと、俺の身体は急に少しだけ宙に浮かんだ。 驚いた俺は思わず頬に添えてあるままの彼女の手を握ってしまう。 「自分で動けそう?」 「いやっ、あの、そのっ、アリスっ?」 「ちょっとだけ私の魔力を貸したの。まっすぐまっすぐ」 「待て待て待て手を離さないでってばばばばば!!」 「大丈夫。決して落ちると思わないことよ。私を信じて、ね?」 「いやそれは勿論大丈夫ですけどこれはそのなんというか」 「理屈は後。貴方なら出来る。信じてるわ。それ、いち、にの、さんっ」 「おをーっ!?」 落ちる!と思っちゃいけない!浮け!浮く!浮いたッ!! 手をバタつかせれば落ちずに空中でバランスが取れる。 気が付けば椅子の背の上数十センチ離れたところに立ってるぜ…。 これは感動する。 「…どう?」 「とってもおどろいてびっくりです」 「上々ね。ゆっくり降りてこれる?」 「うぅ~むむむ」 少しずつ高度が下がる。アリスは立ち上がって俺に手を差し伸べてくれた。 背伸びしたアリスの手を握れるまであと十五センチ!十センチ!七センチ! 「よしっ!」 「うおっ!」 アリス は ジャンプ して おれ の て を つかんだ 。 しかし おれ は その て を つよく にぎり かえして ひっぱり あげる ! 「ひゃぁ!」 久しぶりに聞いたアリスの可愛い悲鳴。 アリスは驚いて俺に抱きつこうとしたがギリギリのところで堪えた。 「っと」 もう片方の手も取ってアリスを俺と同じ高さまで優しくエスコートする。 ふはは!決まったぜ、完璧に決まった!今の俺はカッコいいぞ! 「すごいじゃない!…まぁ出来ると思ってたけど、さ」 「うわははは!俺とアリスの愛のパワーがあればこのくらい」 「浮いただけよ?」 「…ハッ!」 少しくらいノってきてくれてもいいじゃないかアリス。 それが悔しいから抱き寄せる。そして嬉しいから強く抱き締める。 「ひゃ…」 「俺、飛べるようになれるかな?」 立っている高さが同じでも、アリスのほうが頭ひとつ分低い。 目を合わせようとするとどうしても見上げられる形になる。 「キスだけじゃ無理ね…」 「へ?」 「形式だけだけど、これは一種の取引だから」 「…むむ?」 「魂と魂の契約。与え、捧げ、尽くし、尽くす」 「…解りやすく」 「そうね…そう。愛のパワー。本当に、そうよ」 「…そうなのか?」 「そう。だから…もっと」 「もっと、って…」 「大丈夫。信じて…」 アリスはそう言って、静かに目を瞑った。 4スレ目 703-704 710-711 ─────────────────────────────────────────────────────────── 後日談が止まらない…。続きを投下だぜ。 「無理のし過ぎね」 「悪い…」 身体が重たい。けど頭はどこかふわふわしていてとっても変な感じだ。 俺は半日以上ぶっ続けで飛び回った挙句、倒れてアリスの介抱を受けている。 「…ううん。無理をさせたのは私よ」 「いや、そんなことは…」 「いいの。私の所為にしてゆっくり休んで頂戴」 「心配させてごめん…」 「ふふふ。何だか色っぽい」 「…色っぽい?」 ひんやりとした手が俺の額に触れる。指先がそのまま頬を伝い、手の甲が首筋に触れる。 アリスは曖昧に笑うと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。どうしてか、少し嬉しそうだ。 「目病み女と風邪引き男、ってやつよ」 「…?」 「まだボーっとする?」 「少し…かなり」 「もう一晩ね…。ゆっくり休むこと」 「うん…」 頬にまたひやり、とアリスの手が触れる。アリスは屈み込んで俺の額に軽くキスをした。 落ち着く。彼女の優しさがゆっくりと身体に浸透するようだ。静かに意識が遠退いて…。 そして静かに目が覚めた。どのくらい寝ていただろう…。 身体は依然重たいまま。けど指先や腕は動くようになっているみたいだ。 「アリス?」 「…ん」 何の気なしに呼んだつもりが、俺の胸の上から返事が返ってきた。 …寝てる。可愛い。…身体は起こせないか。勿体無い。抱きしめられないじゃないか。 「…アリス?」 「…うん」 アリスはふっと満足そうに笑った。綺麗でしなやかな手は布団を軽く握っている。 俺の夢を見ているなら…、いや、そうでなくても、この幸せそうな眠り姫は起こすまい。 「ありがとうな…」 髪を撫でると、アリスは小さく悶えて喉を鳴らした。 蜂蜜に黄金を溶かしたような金色の髪。細く引かれた形のいい眉。 整った目鼻のライン、桜色に染まった頬、小さな薄い唇…。 もういつから彼女のことが好きだったのかは思い出せない。 あの森で出会う前は他人だったなんて、もう絶対信じられないな…。 …俺がアリスを守れるようになってやる。アリスがいつまでも俺を信じられるように。 そう思うと腹の底に暖かいものが湧いてくる。彼女のためになら、何でも出来る力が…。 「あぁっ!」 「おわっ」 と、不意にアリスが跳ね起きた。それはもう凄い勢いで。 勢いあまって椅子の背もたれに背中をぶつけ、そのまま身を固めて動かない。 「あ、…あれ?」 「…おはよう」 「あ…うん。おはよ…」 俺の顔を見てパチクリと瞬きをするアリス。急に手を伸ばしてぺたぺたと俺に触れた。 アリスはいろんな感情が入り混じった複雑な顔をしている。…夢の中で何があったんだ。 「…どうした」 「えっと、えと…」 「深呼吸深呼吸」 手を握ってやると、かなり強く握り返してきた。 アリスは俺の手を胸元に当てて、ゆっくりと息を吸って、大きく溜息をついた。 「何の夢を見たんだろ…」 「それは俺が聞きたい」 「凄い変な感じ…」 アリスは両手で、俺の手を何度も握ったり擦ったりしながらキョロキョロしている。 「大丈夫か?」 「……うん」 やっと目が合った。じー、っと、何かを探すように俺の目を覗き込んでくる。 握られた手の指でゆっくり手の甲を撫でてあげると、アリスが徐々に脱力するのがわかった。 「何があった?」 「…契約の副作用かな」 「それって?」 「○○が弱ってるからだよ…」 「俺のせい?」 「私のせい…」 どうも要領を得ない。俺の理解力が乏しいだけかもしれないが。 「大丈夫か?」 もう一度尋ねると、アリスはゆるゆると首を振った。 「待って…」 「待つさ」 また、アリスの手に力がこもる。きゅう、という音が聞こえてきそうだ。 「体、もう動く?」 「まだあんまり…」 と、思ったが、俺の身体は全く抵抗なく普通に起き上がった。 さっきまで腕がようやく動かせる程度だったのが嘘のようだ。 アリスは小さく溜息をついて、握っていた手の力を緩めた。 まだ理解が出来ていない俺の姿を見てやっと安心したらしい。…失礼だな。 「なるほどね」 「どういうことだ…?」 「さっき、私のこと強く意識した?」 「さっきって?」 「私が…起きた時、私のこと考えてた?」 「えっと…まぁ、はい」 「そう。…不思議なこともあるのね」 「…説明よろしく」 「私の魔力が貴方に流れ込んだのよ、きっと」 「…どうして?」 「早く元気になって、って私が願ったからかな」 「そこで俺が、アリスのことを強く想ったから?」 「きっと…私の力になりたい、とか、願ったんでしょう?」 「いや、…いや、そのまんまだな。当たってます」 「やっぱりね。よかったぁ…」 そう言うと、アリスは大きく背伸びをした。 手を握ったままだったせいで、俺は引っぱられて体が傾く。 危うくベッドから落ちそうになったところで、横っ腹にアリスが抱きついてきた。 「おぉぅ?」 「素敵…」 アリスは俺の胸に頭をぐりぐりと摺り寄せてくる。…よく解らないが幸せ。 「アリス?」 「何だか疲れちゃったわ」 「あ、そうか。魔力が…」 「いいのよ。そんな瑣末なこと」 「でもなぁ、結局アリスが…」 そうだ。アリスは俺のために自分の魔力を削った。 俺の方が遠慮してたはずなのに…。これじゃあ意味がないじゃないか。 「それじゃあ、ここで眠ってもいい?」 顔を上げたアリスの瞳は潤んでいた。そんなことでいいのか…。 何故かアリスはすこぶる嬉しそうなんだ。俺、何かしたかな? 「あぁ…それは勿論」 「手、握っててね」 「…おういえ」 こんなことでいいんだろうか。 毎度毎度迷惑をかけてばかり…。人間ってのは無力だな。 「はぁ…大好き…」 …まぁいいか。そんな瑣末なことは。 今は彼女の側にいてあげるだけだ。 この埋め合わせはいつか必ずするよ。 おやすみ、アリス。 4スレ目 738-739 ─────────────────────────────────────────────────────────── 740 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/29(土) 15 32 43 [ Cb3GsBLE ] 問題:『文中でアリスが非常に喜んだ理由を簡潔に述べなさい』 すまぬ、アリスの頭の回転が速すぎてよく解らない可能性大。 というか解らないと思うので気になったら訊いてね…。ちゃんと答えます。 寝ぼけたり慌てたり弱ったりするアリスかぁいいよぅ!…ごめんなさい精進します。 741 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/29(土) 17 37 40 [ VATAaZm. ] なに?それはつまり、 アリスが何がそんなに嬉しいのか判るように、 顔を真っ赤にして、わたわたしながらも語ってくれるのか!? そ れ は す ご い ! (ひゅ~ん…)←人形 750 名前: 後日談2 - 3/2 投稿日: 2006/07/29(土) 23 32 26 [ Cb3GsBLE ] 741 「そのっ、ほら、『魂と魂の契約』って言ったでしょ? それのことよ。 両者の魂同士の了解のうちに契約内で魔力の給与が行われたってこと。 はぁ…、これくらい解って欲しいわ。二人とも、口に出して魔力の取引を宣言した訳じゃないでしょう? つまり、私たちの両方が心の底から同じことを同じように強く望んだ、って意味で…。 何が嬉しかったかっていうとその…、貴方が私のことを想ってくれてるのは勿論だし、何より私が…、 …あー! もう! 怒るわ! 解ってるくせに! これ以上言わせると本当に怒るわよ! 全く。…大バカ」 4スレ目 740-741 750 ─────────────────────────────────────────────────────────── 戦利品を抱え、鬱蒼とした森の中を歩く。 別に世の中を悲観して森の奥で…というワケではない。ある所に届けものをする為に、である。 やがて、森の中に静かに佇む小さな一軒家が見えてきた。見慣れた扉を開け中に入る。 「こんちわっす。今日は面白い物を仕入れてきたぞ」 「…あらいらっしゃい。見せて貰えるかしら」 声の主はアリス・マーガトロイド。この家に住む人形遣いで魔女である。 しかし今日はどうも表情が渋い。はてどうしたのやら、と思っていると奥から別の声。 「おぅお前さんか、お久し振り」 「やぁ魔理沙。お邪魔してたのか」 声の主は霧雨魔理沙、同じ森に住む白黒魔砲使い。おそらくまたアリス宅に強引に押し掛けてお茶でもせがみに来たんだろう。 とにかくこの二名が顔を合わせると大概何かが起きる。以前似たような状況になった時は弾幕ごっこが勃発し、とばっちりを受けて危うくMy魂魄が吹き飛ぶところだったことがある。 その時は幸いにも竹林に住む某医師が色々とヤバい治療(通称「ドクターえーりんの密室個人授業(はぁと」)をしてくれたお陰で、たった一つしかない魂魄を繋ぎ止めることができた。 生きてるって素晴らしい。ありがとう先生!ボク、頑張って生きてくよ! …とまぁそんな凄惨な過去は二百由旬の彼方に放り投げ、持ち込んだ荷物を開き反物を取り上げる。 「なんでも、クモの糸を魔力を込めて織り上げたって話だ。クモの糸は頑強だから、人形の素地とかにはいいんじゃないかな、と思ってな」 …魔力の込められた布はそれ自体が優れた魔力媒体として機能する。 例えばグリモワール等といった魔導書の表紙が紙でなく布なのも、本を媒体に魔法を行使する時に色々便利だかららしい、という話を人づてに聞いた覚えがある。 「へぇ、それはまた珍しい物を持ってきたのね…そう、折角だからお茶でも飲んでいかないかしら? さっき茶菓子にクッキーも焼いたし。取り引きはそれが終わってからにしましょ」 「…何だお前、私の時と違って随分気前が良いじゃないか…アレか?愛しのダーリンにはとことん優しく、ってか?」 「無断で手土産一つ持たず人ん家に上がり込むどこぞの野魔砲使いと違って、きっちり等価交換をしてくれる相手なら、物腰が柔らかくなるのは当然じゃなくって?」 「こりゃまた手厳しいことで…」 しれっと受け流すアリスに、これまたしれっと返す魔理沙。いやまぁ彼女のダンナになった、ってつもりはまだないんですが… それでもちゃんとお茶を出している辺り、何だかんだ言って結構気前が良いのかも知れない。多分。 「それはともかくアリス、悪いがクッキーもうちっと焼いてくれないか?」 「…は?私3枚くらいしか口にしてないんだけど?」 「いや…な、美味しかったんで私が全部食べちまった」 ハハ…と笑う魔理沙。机の上には恐らくクッキーが入っていただろうと思われる丸皿が、まっさらな皿地を晒して置いてあった。 所々に残るクッキーの欠片が、かつてそれが入っていたということを証明している。 「・・・・・・・・・!」 一刻の後、素晴らしい高さからの踵落としが、白黒の脳天に炸裂した。 お茶と茶菓子を楽しんだ後、魔理沙は手にした魔導書を読み、自分は上海&蓬莱と遊び、アリスは台所でティーセットの片付けに取り掛かった。 魔理沙はまだ時々頭を押さえてはうんうん唸っている。先ほどの一撃が相当効いているらしい。そりゃあ「めきょっ」とか「ぐしゃっ」とか、そんな感じの音がしたからなぁ。 因みに今日は彼女お気に入りの淡い水色の柄だったのだが、それを口にすると自分も魔理沙と同じ目に遭いかねないので黙っておく。 一方自分はシャンホラと「忠吉さんごっこ」で遊んでいた。言葉は拙いものの、その挙動は人間のそれと殆んど変わりない。 以前あまりにも可愛かったのでちょっとイタズラをしようとしたら、そのことがアリスに漏れて手酷く吊し上げられたことがある。迂濶に手は出さないようにしよう。 アリスはエプロンを身に付け、カップを拭いている。棚に並んでいるカップの数から察するに、どうも片付けは粗方終わっているらしい。 …と、その後姿を眺めていると、自分の脳裏にある「悪戯」が浮かんできた。 自分がとても小さい頃友達同士でよくやっていたものだ。それが、今になって何故か頭の中にむくむくと現れてきたのだ。 腰掛けていたソファーを立ち、台所に入る。 「なぁ、アリスー」 「ん?何かしら」 呼び掛けに無防備に振り返ったアリス。今こそ好機!千載一遇のチャンス!! ぺろん 「ぅひゃう!?」 振り返った彼女の頬を、ぺろっ、と舐めてやった。可愛らしい悲鳴を上げて目を丸くするアリス。あまりにも予想した通りの反応に、笑みが止まらない。 しかし「ぅひゃう」ですってなんて可愛らしい声だこと。それにあのびっくりした表情。それだけでもう自分結界越えて冥界まですっ飛んでしまいそうですようはうはうは… …と、既に気持ちだけは既に彼方へ飛んでっていると… れろっ 「ぅをっ!?」 自分の頬をなぞる異様な感触に、思わず間抜けな声が出る。 視線を正面にやると、そこには「してやったり」というアリスの表情が。 …その瞬間、自分の中の大切な「何か」が音を立てて崩れていった。 …それから後はもう目も当てられない状況になった。 元々自分もアリスも負けず嫌いなところがあったのかも知れない。こちらが舐めれば、アリスも舐め返す、子どもレベルの低次元な争いが果てしなく続いた。 童心に還る、と表せば聞こえは良いかも知れないが、これはその域を超えた、もはや「幼児退行」と言っても差し支えない程度である。 しかし… 「ふぁッ!」 「ひうッ!」 「んひッ!」 「みゃん!」 …頬を舌でなぞる度に上がるアリスの可愛らしい悲鳴に、自分の悪心が徐々に頭をもたげていく。 そして遂に我慢できなくなった俺は、頬を舐める…と見せかけて 「ひぁッ…!?」 彼女の唇をなぞった。さて反撃がくる、そう思ってすぐに身構える…が 「…あぁれ?」 …反撃がこない。不思議に思い目を向けると、驚いた表情のまま凍り付いているアリスの顔があった。 不意打ちを受けて思考が止まっている、そんな感じがした。…これはひょっとして… もう一度、唇をなぞる 「んぁ…ッ」 先程とは違う、艶を帯びた声が漏れる。…と、彼女の顔が一気に朱に染まっていく。 「バ…ババババカバカバカバカバカバカァッッ!!なななんであんなことするのよおッ!びっくりしちゃったじゃない!」 「スマンスマンスマン!!俺の出来心だったんだ!許してくれ!本当にスマンかったッッ!!」 真っ赤になってまくし立てる彼女にこれまた凄い勢いで謝る自分。と、アリスはすっかり赤くなった顔を伏せて 「…恥ずかしかったんだから…」 と呟いた。その可愛らしさ、いじらしさ。 ぷちん 張詰めていた自分の中の何かが、音を立てて切れてゆく。アリスの肩を掴み、顔を近付ける。 「ちょ…や…やめてよ…恥ずかしいって言ってるでしょ…」 「やだ、やめない」 弱気な抵抗を無視し、再び唇をなぞる…と見せかけ、舌を口の中に差し込んだ。そのまま肩を引き寄せる。 「や…そんな顔近付けないんんっ!んむぅっ!」 驚いた表情のアリス。身体が硬直したその隙に舌を更に奥まで差し込む。驚いたのか、放心したのか、彼女は全く動かない。 それを良いことに、自由に口内を動き回り、隅々まで舐め上げてゆく。 「んむっ、んっ、んーっ…ぷはぁッ!」 「んはッ!はぁ…はぁっ…」 やがて息が切れ、二人の顔が離れた。たっぷりと空気を吸い込み、呼吸を整える。 「はぁっ、はぁっ、んはぁ… …バカァ…」 まだ落ち着かないらしく息を切らせながら、そうなじるアリス。 「悪い…ちょっと、辛抱できなかった…」 「…駄目、許さない…」 「本当に済まない…」 「…いきなりで驚いちゃったから…何もできなかったでしょ…」 「…は?」 何もできない?一体何を…言葉の真意が解らない。そのまま時間だけが流れていく。 やがて、 「…もう、落ち着いたわ。…だから…」 そこまで言い、彼女は顔を上げた。 目が、合う。 「もう一度、やりなおして…」 細い腕が背中にまわる。 「…なんだ、結局最初からしたかったんじゃないか」 それに応えて腰を抱き寄せる。 「…我侭かしら?」 「いえいえ、我侭お嬢様の言うことは何でも聞き届けますよ」 「…何か、嫌な言い方ね」 二人してクスリと笑う。 「だから、もう一回さっきのを、ね…んっ」 再び合わさる、唇。 落ち着いた、と言っていた通り、今度はアリスも用意が出来ていたのか、積極的に舌を絡めてくる。 もっと触れ合いたい、その想いが腰に回した腕に更に力を入れさせる。 「ん…んむ…ちゅ…あむ…ぴちゃ…くちゅ…」 「あむ…ん…ちゅ…ふ…んぁ…ちゅく…」 …耳朶を打つ煽情的な音、同調していく互いの鼓動、理性を蕩けさせる甘い香り。 その全てが自分の感情を昂ぶらせ、衝動となって沸き上がっていく。 もう止まらない、止められない… …どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。 「ん…ぷはぁ!」 「んはっ!はぁ…」 唇が、離れた。つ…と銀の糸がかかり、細くなって消えてゆく。 「はぁ…これで満足か、お嬢様?」 返事の代わりに、アリスはぽふ、と顔を胸に埋めてきた。そのまま顔をぐりぐりと押し付ける。照れ隠しだろうか、その行動がなんとも可愛らしい。 「そっか…さて、悪いけど…」 「ん…?」 顔を上げるアリス。 「…悪いが、もう止められそうにないかも知れない…」 正直、今背中を押されたら転がり落ちていく、そうなるという確信があった。だから尋ねた。最後の堤になるかもという可能性を考えて。 彼女はまた顔を伏せた。沈黙が流れる。一刻の間を置き、再びアリスは顔を上げた。 「いい…わよ…」 受諾の意思。 最後の堤防が崩れた。全ての枷を外され、感情だけが奔り始める。 こちらを見つめる目に、感じる既視感。あの夜、初めて彼女を求めた時と同じ視線。その瞳が、昂ぶりを更に加速させる。 欲しい アリスが欲しいアリスの身体が欲しいアリスの心が欲しいアリスの全てが欲しい 欲しい欲しい欲しい欲しいほしいほしいほしいホシイホシイ すっ…と目が細められる、抱き締める腕に更に力が入る。 もはや、この目にはアリス以外映らない、そんな気がした。 「…楽しそうだな?」 その声が聞こえるまでは。 視界が、開けた。 「!?」「わひっ!?」 思わず悲鳴が上がる。因みにこの可愛らしい悲鳴は、残念ながら自分のものなので悪しからず。 世界が急速に広がっていった。 整然と並べられた食器、同じく綺麗に揃えられた調理器具、焼き物に使うのであろう小さな窯、見覚えのあるテーブル、椅子、そしてアリス… 彼女を抱いたまま、寝起きのような焦点の定まらない思考で、しばらく呆然としていた。 急速に思考が覚醒する。確かに声がかけられた。しかもそれは間違いなく第三者から。 しかしここには俺とアリス以外は居ない。しかも人形はあんなにはっきりと喋らない。じゃあ誰が? ゆっくりと視線を向ける。その先には、 見覚えのある、 帽子を被った、 白黒の人物が立っていた。 「ちょ…な…ままま魔理沙!?どどどうしてアンタがここに居るのよ!?」 凄い勢いでどもるアリス。完全に混乱している。多分自分がどんな体勢になってるのかも分かってない。 「どうしてって…私は端っからここに居たつもりなんだが?」 …あぁそうだね、確かに自分がアリス宅に来た時、魔理沙は自分に挨拶してきたんだよね。 しかも一緒にお茶も飲んでたんだよね。そうだったよね。そうなのかー。わはー。 「しかしまぁ面白いもんを見せて貰ったぜ。人前であれだけのスキンシップができるたぁ、お前ら双方無茶苦茶入れ込んでるんだな」 カカカ、と笑う魔理沙。完全に凍り付く俺とアリス。因みにどこぞの⑨の悪戯ではない、念の為。 「その上それだけじゃ飽き足らずにアレか。これじゃあ、人が居ない時は毎日昼間っからエキサイトしてるんだろうな」 もう全く動けない俺とアリス。なお、某鬼の冥土長の仕業ではない、念の為。 と、魔理沙がニヤリと笑った。さながら新しい悪戯を考え付いた子どもか、或いは悪魔のように。 「これはもう…」 箒を片手に、入り口に向かう。 「…特派員として、逃すワケにゃいかんだろう?」 しゅたっ、と挨拶をして出ていく魔理沙。少しして、箒が飛び立っていく姿が窓から見えた。 「………」 「………」 未だに硬直しきりの二名(なお、体勢はあの時のまま)。と、突然胸の中にあった感覚が消える。 直後、何者かが叫びながら凄いスピードで外に飛び出していく。 「MaaaaaaaaaRiiiiiiiiiSaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」 …何かどす黒いオーラが見えたような気がしたが、気の所為ということにしておこう。 そのまま一人ぽつねんと残されていると、不意に何者かに裾を引っ張られた。 「…ん?どうしたんだ?…」 その後、魔理沙からこの事実を聞いたどこぞの烏天狗により「実録!新婚バカップル(注・結婚してません)の蕩けるような昼下がり!」という記事が大々的にスッパ抜かれ、 (版権的にも)色々ヤバいオーラらしきものを纏ったアリスが夜叉の形相で烏天狗を追い回したとか、 事の一部始終を見ていたシャンホラに同じことをして欲しい(キスだけど)とせがまれたとか、 森の外れに黒一色になった(元)白黒魔法使いが、ボロ雑巾になって倒れていたとかあるのだが、 それはまた別の話。 実録!新婚バカップルの蕩けるような昼下がり(取材・霧雨特派員) …現在幻想郷でも一、二を争うネタの宝庫として当誌が独自に取材を続けている、アリス・マーガトロイドさんとAさん。 この二名の呆れるほどに甘い新婚生活(注・結婚してません)が、霧雨魔理沙特派員の突撃取材によって明らかになった。 霧雨特派員によると、二人は特派員が目の前に居るにも関わらず(検閲)というスキンシップをとり、 更に特派員の目の前で(スキマ維持法抵触)という極めて大胆な行為に及んだという。 霧雨特派員は「人前でアレだから、もし人が居なければもっと凄いことをしてるんじゃねえの?」と話しており、 この場に特派員が居合わせなかった場合は更に(スキマ送り)と思われる。 いずれにしろ、(良質な記事確保の為にも)この二人の仲が続くことを願い、今後の動向に注目したい。 なお、当誌では「実録・バカップルの全て」と称し、この二名について随時特集を組んで紹介する予定である。 霧雨魔理沙特派員の話 いやぁ驚いたぜ、まさか目の前であれだけ大胆なことをするとは。 ありゃあ大体2~3分ぐらい…いや、もっと続けてたんじゃねぇの。 しかも普段はクールで私につっけんどんな態度しか取らないあいつが、だぞ。まぁアレだ、「ゾッコン」ってヤツか(笑) 他人が居てあのザマだ、これで誰も居ないときはそれはもう毎日のように(黒塗り) 今は夜だから間違い無いな…いや、今の二人には朝も昼も夜も関係無いか、ハハハ。 そうそう、この前もな、二人で茶を飲んでるときにな、冗談で首筋にキスマークが残ってるぞ、って言うと、 アイツ真っ赤になって鏡を覗き込むんだぜ。そこから思うに、私はあの二人はもう相当凄い関係になってると見てるがね 4スレ目 829(うpろだ0043) 837 ─────────────────────────────────────────────────────────── 多少の無理は承知の上。やっぱ俺って、不可能を可能に…! くいくいっ。 ソファーに座って外界から落ちてきたという小説を読んでいると、何者かが服を引っ張ってきた。 「アノネー、『チュー』シテホシイー」 「はいはい」 …「あの一件」以来、事の一部始終を見ていた人形がキスをせがんでくる、という嬉しいような困ったようなことが起きていた。 多分この二体は、この行為が何を意味するのか、ということは解っていない。ちょっとした遊び程度に思っているのであろう。 とはいえ、飛び切り可愛らしい人形だ、別に悪い気がするわけでもない。 「で、どこにして欲しいのかな」 「ントネー、ココー」 そう言って右の頬を向ける上海。そかそか、それじゃあ… ちゅっ 「…はい、これでよろしいでしょうか?」 「ウン!」 飛び切りの笑顔で答える上海。こちらもつられてほにゃっと表情を崩す。 と、左腕に何かがぶら下がる感触。 「ホライモ、ホライモー!」 「はいはい、ちょっと待って頂戴ね…」 それを見ていた蓬莱もせがんできた。傍から見ると大の大人が人形と戯れている光景にしか見えない。 もしこれが元居た世界で他人に見られたなら、即日「変態」のレッテルを貼られるだろう。 しかしそんなことは気にならない。実際目の前に居るこの人形は小動物的に可愛いのであるし、第一ここは元居た世界とは違う。 恥も外聞も気にする必要はないのだ。っていうのは大げさか?まぁとにかく… 「で、蓬莱はどうして欲しいのかな?」 「ントネー、ンー」 「うおっ…と」 返答は何かが唇に触れる感触。 「…っと、こりゃ一本取られたな…」 「ズルイー!ホライダケズゥルイー!!」 駄々っ子のようにパタパタ転がる上海。このままじゃケンカになってしまいそうだな… 子どものケンカ、程度のものならまだ御の字なんだろうが、何せ曰くつきの人形である、 下手をすれば流れ弾でこちらの命も危ない。となると手段は一つ。子供だまし、と言われればそれまでかも知れないが。 「はいはい、じゃあ上海にも同じことをしてあげる。これで一緒でしょ?」 「シャンハーイ!」 とたんに駄々っ子を止める上海。現金なものである。 さっきの蓬莱と同じように上海の小さな口にキスをした後、おあいこになるように今度は蓬莱の頬にも軽く口を付ける。 これで双方二回ずつ回数も箇所もイーブン、文句は言えまい。 「よし、これで二人とも一緒、だろ?」 「ウン!」「エヘー」 胸元に飛び込んできたシャンホラ。その頭を優しく撫でてやる。 あーもう可愛いったらありゃあしない。子どもができた親ってこんな感じなのかしら。 と、そんな感慨に浸っているとまたも袖を引っ張られる。振り返ると 「ンー」 ワタシニモシテーとせがんでいる、そんな表情の人形が居た。やれやれ仕方ないなぁ… …って、あれ? 「………」 …見なかったことにしよう。今胸元で甘えている人形、この子らより2~3回りは大きい人形だった。 というか俺とそう変わらないスケールじゃね?つかそもそもアリス宅にそんなでっかい人形なんてなかった筈だし。 そうだ、アレは俺の幻覚だ、そうなんだよ、そういうことにしとこうぜロスター… そう強引に納得し、視線を元に戻す。あー可愛いなぁ~お人形さん… ガッ!!ギリギリギリギリ… 「あぁぁだだだだだだだだだ!!!!ちょ、痛い!ムッチャ痛いんですけどちょっとッ!!」 万力でも使われているのかと思えるくらい、有り得ない力で引き伸ばされる頬。 「…この子らにはすこぶる優しくて、私に対する仕打ちは『アレ』なのかしら…?」 ちょっとアリスさんすんごい笑顔ですよてゆかあまりにも作りものっぽくてむしろ怖いですよその笑み。 「いやいや妖夢!そんな暴力的だとするものもしたくなくなあぁぁだだだだだだだだ割れる割れる割れる!!!!」 「何かしらぁ~?よく聞こえませんでしたわぁ~??」 「ヒギィィィィィィィィィィィッッッ!!!!」 追加注文でアイアンクローも頂戴し、意識が落ちるか否かの境界で徹底的に嬲られる俺。 そんな(さっきまでは)まったりと過ぎてゆく休日の午後。…あ、スズラン畑が見えら… ついに意識を手放した俺が最後に挙げた断末魔は… 「コ、コンパロ~…」 4スレ目 847
https://w.atwiki.jp/galgerowa/pages/399.html
戦う理由/其々の道(前編) ◆sXlrbA8FIo 森の中を疾走する影が一つ。 拳銃を片手に鬼のような形相で走るその影は坂上智代と呼ばれた少女だった。 だが怒りに支配されたその表情は昔の面影など最早残ってはおらず、知人でも一瞬では彼女とわからないほどであった。 ハクオロを殺す為、その仲間を殺す為、彼女はひた走る。 目的はそれだけ、他に考えることは何もない。 だが気持ちとは裏腹に全身を痛みが襲う。 自分が思っている以上に走るだけで体力が消費されていくのがわかった。 (もうじき夜が明けるな) 先急いでこの疲労が溜まっているところに、夜に休息を取った人間が現れたら自分の不利は否めない。 少しでも休息を取るか――と考え足を止めようとしたその時、智代の視界に一つの建物の姿が見えた。 すぐさまバックを広げる、おそらく位置と外見から察するにホテルであろう事がわかった。 (――休めという神の啓示だろうか?) 考えながら智代は自嘲しながら首を振る。 馬鹿馬鹿しい、神なんかいない。 いたとしても自分をこんな所に送り込んだ神なんて崇めやしない。 しかし事実休息を取ろうかと思った矢先に利便な場所に辿り着けたのは幸運なことだ。 同じように考えている人間がいるかもしれないが、見つけたら殺せばいいだけだ。 周囲を確認しながらホテルへとゆっくりと近づいていく。 あたりに人の気配はしない。少なくとも外には誰もいないようだ。 そのまま警戒しながら玄関を潜ろうとして破損が激しいことに気付く。 (これは戦闘跡か……?) とりあえずは注意深く玄関を潜る。 柱に隠れながらホール全体を見渡すが、人の気配は感じられないほど静まり返っていた。 そしてフロントのすぐ横に『STAFF ONLY』と書かれた扉があることに気付く。 その扉の前に立つと銃口は扉に向けたままドアノブを軽く捻り――扉は静かに開かれた。 中には誰もいない。 どうやら事務所として使われている部屋のようだったが、横たわれそうなソファーも置かれていた。 扉は内側から施錠出来るようになっており、小さいが窓もある。 これなら突然襲われる可能性も低い上何かがあっても窓から逃げることも可能であろう。 何から何まで至れり尽くせりな環境に智代は微笑を浮かべると、ソファーへと身体を横たえる。 ハクオロへの怒りをその身に宿したまま、幼き殺人者は一時の休息に身を委ね静かに目を閉じた―― ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 森に入ってからもうかなりの時間が経過していた。 地図に間違いがなければとうの昔に目的地であるホテルに着いてもおかしくないほどの距離を歩いたはずだ。 目の前はランタンの光がか細く照らすのみの暗闇。 山中と言う悪条件が延々と続いている足場。 背中に背負った伊吹風子の亡骸。 そして今までの出来事による精神的疲労。 これら全ての条件が重なり、蓄積した疲労が全身に押しかかり北川の動きを鈍らせていた。 北川自身はまったく気付いていないのだろうが、その歩みの速度は這っているのと遜色ないほど落ちていた。 「――潤、大丈夫? 少し休憩しない?」 隣を歩く梨花が心配そうに眉をひそめながら尋ねる。 梨花の目から見た北川の顔は汗が噴出し、今にも倒れそうなほどに蒼白だった。 「……なんてことねえさ」 体勢を整える様に風子の身体を担ぎなおしながら北川は答えると、平静を装うように歩む速度を速める。 だがその直後、思いついたかのように足をピタリと止めると後ろを振り向きながらはにかみながら言った。 「俺のことは良いから、梨花ちゃんがきつくなったらすぐに言ってくれ。 急ぎたいのは山々だけどそれで倒れでもしたらしょうがないしな」 なんて事を言うのだろう、と北川の表情に梨花は一瞬ドキリとさせられてしまっていた。 「……わかったわ。先を急ぎましょう」 なんとかそう答えながら北川に並ぶように歩幅を合わせ駆け出していた。 幾ら男性で幾ら年上とは言え、今までの事で疲れが出ていないわけがない。 風子を背負っているのだから尚更だ。 自分がこれだけきついのだから北川の疲労はその遙か上を行ってるに違いないはず。 そう思ったからこその発言だったのだが……まさか自分が逆に言われるとは思いもしなかった。 (強がっちゃって……) 梨花の思いも当然のことで。 歩く速度が上がったのはほんの一瞬で、北川自身は気付いていないだろうが速度はまた先程と同じまでに落ちていた。 だが、これ以上は梨花は何も言えなかった。 北川はあくまで梨花を守る立場だと考えている。 自分が弱みを見せてはいけない、安心させてやらなければいけない。 そんな事を考えていると言うことが一瞬でわかる微笑みだった。 彼は似ているのだ。 時折見せる行動がかけがえのない仲間である前原圭一の姿とかぶって見える。 思い返してみれば北川の発言はいつもそうだった。 自分に対しても風子に対しても、自分で全てを背負うと言った傾向が多く取れる。 それはやはり子供として見られているせいだからかもしれない。 だが、もう少し自分を頼ってくれても良いじゃないか。 守られる立場……それはこの島ではどんなに有利なことだろう。 だがわけもわからずこの島に来たときとはもう状況が二点も三点も変わってしまってきている。 守られるんじゃない。肩を並べたい、助けたい。 喜びも、苦しみも、目の前の彼と共有したい。 そんな事を考えながら……それでも北川に対して反論することが出来なかった自分が情けなかった。 ジレンマを抱えながら手に持ったレーダーに視線を移す……と、レーダーの範囲ギリギリに表示された五つの光点の姿が目に映った。 「潤! 止まって!!」 叫びながら反対側の手に持ったランタンの光を消す。 かろうじて見えていた景色が一瞬で闇に染まる。 「反応か?」 「……五つあるわ」 両手のふさがった北川に見えるようにレーダーを彼の顔へと近づけ、そして続けるように言った。 「多分距離的にホテルだと思う。そのうち二つは純一達。残り三つは増えた仲間……って考えるのは楽観的かしらね」 「それだったらどんなに良い事だろうけど……ホテルでもなければ純一たちでもない。まったく知らない奴らが戦闘中って可能性もあるな」 「……よね」 「とは言え俺らには進むしか道はないよな」 北川の言葉に梨花は肯定を示すようにこくりと頷く。 不鮮明な足場を手探りで進みながら一歩一歩進んで行くと、木々の隙間から何か建物らしきものがかすかに見えた。 「梨花ちゃん、あれ!」 「ええ、ホテルで間違いないようね」 言いながら再び光点を見やるが、誰も動いたりしている様子はなさそうで最初の場所から動いてはいない。 ホテルのほうからも戦闘らしき音が聞こえてくることもなく、耳には風の音のみが届いていた。 おそらくは戦闘は起こってないだろう……だがこの光が生命反応でない可能性もあることが、自分らの位置に四つの光があることで示されている。 「パソコン使うか?」 「ダメよ。仮にあの中に純一がいても安全かどうかの百パーセントの保証なんて出来ない。 だったら制限回数があるものを私達だけの判断で使うのはもったいないわ」 自分達にとって最良の賽の目。 それは勿論あそこにいるのが純一たちで残りの三つはその仲間であること。 逆に最悪なのは、四人が殺され殺人者が一人ホテルにいると言う可能性。 パソコンで一人の名前がわかったところでどちらとも言えないのだ。 ここで考えているだけではどうしようもないのもわかっていたから……梨花は小さく声を出した。 「潤。私が中の様子を見てくるわ。安全だとわかるまでここで休んでいて」 「……え?」 梨花の突然の言葉に北川が目を丸くしながら間の抜けた声を上げる。 「何を言ってるんだ、一人じゃ危ないだろ?」 「……そんな身体で、もし誰かに襲われたらなんとかなる? 風子を背負いながら?」 「俺が行くよ。梨花ちゃんはここで風子と一緒に待っててくれ」 きっぱりと告げた北川の提案を否定するように梨花は首を振った。 「私より――」 その先を言うのは思わず躊躇われた。 続けるのは北川の心意気を無駄にしてしまう行為。 だがいつまで私は守られなければいけないのか。 そう思ったら自然と口が開いていた。 「――私より、危ないのはあなたよ……潤」 「……俺?」 「どう見たってふらふらじゃない。そんなんじゃもし襲われたらひとたまりもないに決まってる」 「そんなことないって言ってるだろ?」 「そんなことあるのよ!」 「ないよ!」 「ふらふらな潤が行くより、まだ走れる私が行くほうがいいに決まってる。 もしもの時は武器だってある!」 スプレーと指にはめたヒムイカミの指輪を差し出しながら、怒気を隠そうともせず梨花は言い放っていた。 「私を仲間だと思ってくれるなら……少しは力にならせて」 泣き出しそうな悲しげな表情で訴える梨花に、北川は思わず口ごもってしまう。 「……わかった。甘えるよ」 そう言うと北川は風子の身体を地面に横たえると、自身も地面へと座り込んだ。 「ただし、だ――レーダーは梨花ちゃんが持って行くこと。十分たっても戻ってこなければ俺はすぐ後を追って中に入る。 これは絶対に譲れない条件だ」 「……わかったわ。ありがとう、潤」 ◆ 梨花はそう言い残すと、すぐ戻るし身軽のほうが良いからと自身のバックは潤の元へと置いたまま駆け出していった。 残された北川は風子の顔を撫でながらボンヤリと考えていた。 「仲間だと思ってくれるなら――か」 梨花ちゃんの事を仲間じゃないなんて思ったことは無い。 仲間だからこそ守りたいと考えていた。 でも結果的にそれは梨花との誓いを一方的に履行しているのとなんら変わりないのだと言うことに気付いた。 「あの誓いは俺だけじゃなく梨花ちゃんが俺に対してってのも含まれていたんだよな。 自分だけの力で何とかしようなんて仲間を信用してない証拠じゃないか。 何度同じ間違いを繰り返せばいいんだろうな俺は……」 すれ違い続ける梨花との仲間意識の違いに北川は項垂れていた。 梨花ちゃんを信じよう、仲間の好意に甘えよう。 十分だけ、十分だけ休んだらすぐ行動開始だ。 あの世で見てろよ風子。 俺が本気を出したらどうなるか、驚きのあまり声も出ないこと間違い無しだぜ。 そう考えながら風子の頬を撫でる手がだんだんとゆっくりとなり、気だるさに身を任せるように北川の意識は闇のまた闇へと落ちて行くのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 梨花が北川と別れホテルへと向かった頃、ホテルの裏口では小さな音が断続的に響いていた。 音の震源地にはスコップを持つ純一ときぬの姿。 疲れた身体をも厭わずに、二人は無言のまま地面を掘り返していた。 すでに人一人分ぐらいは余裕で入りそうな穴が一つ。 その傍らには先程の戦闘で純一を庇い死んだことり。 一見すればただ眠っているような安らかな表情をしている。 それでも彼女は二度と目覚めることはない。 その眠りを邪魔されることがないように静かに埋葬させたい。 そう考えた純一はホテルに置いてあったスコップを探し出し、きぬにそう提案して今に至っていた。 「なあ純一……」 終始無言だったきぬがぽつりと口を開く。 「ん?」 土を掘り返す手を止め、何事かときぬへと純一は振り返る。 だが呼びかけた当の本人は二の句を告げるのを躊躇していた。 「どうした?」 純一は不思議そうにきぬの顔を見つめるが、きぬは目を合わそうとせず視線は泳がせたままだ。 「呼んでみただけとかだったら続けるぞ?」 そう言って純一は再びスコップを握り締め―― 「あーあーあー、待った待った」 きぬが両手をばたつかせながら純一に駆け寄り、その手を慌てて押さえる。 「えーと……だ。なんだ……その……」 言葉は続けようとしているのだろうが俯き口ごもったままきぬは要領を得ない。 「うん?」 「んと……言いたくなかったり言うのがきつかったら答えなくていいからな」 「わかった」 「その……ことりって純一の事好きだったよな?」 「そう……なのか?」 思いもよらないきぬの質問に純一はポリポリと頭をかきながらお茶を濁すように答える。 「ぜってーそうだって。じゃなきゃ最後にあんな嬉しそうに笑ったり出来ねえって」 「そうか……」 純一は思わずことりのほうに顔を向けていた。 今でも鮮明に思い出されることりの姿。最後の言葉。最後の笑顔。 流しつくしたと思っていた涙が再び押し寄せてきたのがわかった。 だがそこで純一は握られた手がギリギリと締め付けられるのに気付き、意識は目の前の少女へと戻される。 身体を震わせながら……きぬが言葉を続けた。 「純一は……純一は……ことりの事好きだったか?」 「なんだよ急に」 「いいから!」 その強い口調に適当にお茶を濁すような返事は出来ない義務感に駆られる。 何故いきなりこんな質問を投げかけられているのかはわからないが真面目に答えなければいけないように感じた。。 「ああ、好きだったよ」 「――!」 「大事な……大好きな友達だった」 「そ、そか、Likeか。そっかそっか」 「それがどうかしたか?」 「いやなんでもねー、なんでもねーよ!」 いいながら反射的に純一の顔を見やり、当たり前のように二人の視線が交差した。 瞬間、きぬは顔を真っ赤にしながら後ろを振り返ってしまう。 「蟹沢……?」 「ほらあれだ。ボクってば純一の昔の生活の事なんて聞いたことなかったじゃないか。 だからどんなんだろうってちょっと気になっただけ! そんだけだよ! 純一が誰を好きだって関係ないし、それになんも深い意味なんかないんだかんね!! ほら、さっさと続き続き! 早く埋めてやろうぜ!」 きぬは息継ぎもせずにまくしたてたかと思うと、再びスコップを手に取り土を掘り返しだした。 それ以上純一に何かを聞かれるのを拒むようにきぬは一心不乱に土を掬う。 「蟹沢、一つ良いか?」 きぬの勢いに思わず放心状態に陥りながらも、すぐさま我に返りゆっくりその背中へと歩み寄る。 「俺の友達はみんな死んじまった。もう誰もいない。 でも俺は一人じゃない。仲間が出来た。この場にはいないけれど道を同じくしてくれるつぐみや悠人、北川や梨花ちゃんがいる。 そして隣には蟹沢、お前がいる。だから俺は戦える。理想を理想で終わらせるつもりなんかねえ」 そしてきぬの頭に軽く手を乗せて…… 「だから……ありがとうな」 優しい口調で微笑みながらそう告げていた――が 「……くせえ、くせえんだよっ! なんだその歯が浮くような寒い台詞は!? やばい薬でもやってんじゃねーのか!?」 「な……俺はなんとなく元気がないように見えたから励まそうと――」 「あー、うるさいうるさい。聞こえない。ヘタレの声なんて何にも聞こえないもんねー。しっしっ、寄るなヘタレ菌がうつるわっ!」 と顔を真っ赤にしながら暴れていた。 ◆ 「――あの様子だと敵ではないようね……そして死体が一つにこの場にいないつぐみで四つ……か」 純一ときぬの会話の一部始終を見ていた梨花は、レーダーを見ながら隠れるように状況を整理する。 勿論隠れているのにも正当な理由があった。 と言うより最初純一の姿を見かけた瞬間すぐ声をかけるつもりではあったのだ。 だがいざ声をかけようとした瞬間、なにやら二人の間に重い空気が漂い始めたのを感じつい出そびれてしまったのだ。 そして途中から出て行くことも叶わず覗きのような真似をしながら今に至る……と言うわけである。 「あの二人間違いなく状況わかってないわよね……はあ」 あたりを警戒する様子も無く、傍目からはただじゃれあってるようにしか見えないバカップル……。 本当に純一を信じて大丈夫なのかと疑ってしまいそうになりながら、梨花は愚痴をこぼしつつも二人へと声をかけるのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 暗闇の中で我輩は考え続ける。 我輩を捕まえてこんなところに押し込んだ二人組はどうやら別行動を取ったらしい。 それを聞いた時は好機かとも思ったがなにやら十分で合流するとか言っておる。 一人になったとしてもたった十分しかない。 ならば無理をして今動いて怪しまれるよりまたしばらく機を伺うか。 そう考えた直後だ。 なにやら外から重苦しい音が聞こえてくる。 グガー……と耳に届くそれは教室でよく聞いたあれと同じだ。 そう、我輩の予想が正しければ外にいる人間は豪快にいびきまで掻いて眠っておる。 何が十分たったら後を追う――か。 まあよほど疲れていたのであろう。それについては是非を問うまい。 それよりもこれは間違いなく千載一遇の好機である。 外には一人、しかも快適に眠っておると見て間違いない。 我輩を邪魔するものは今はいないということだ。 だがあと十分で先程別れた者が帰ってくるであろう、いやホテルが安全だとすぐにわかればそれより早いやもしれん。 なればこそいち早くの行動を。 そうだ、支給品リストを奪いこの場から去るのだ。 そう思った我輩は逸る気持ちを抑えながらバックの入り口と思わしき部分に嘴を寄せる。 待っていてくれ祈よ。 今こそ我輩はこの島から飛び立てる望みを得ることが出来たのだ―― 「む?」 ここではないのか。それでは―― 「……ちょっと待つのだ」 考えたくは無い現実から目を逸らそうと我輩は嘴で内側から突きまくった。 「………………」 数十回それを繰り返し、我輩の中で結論が出た。 認めたくはない。 だがこれが現実なのだから敢えて受け入れよう。 「中からは開かんのか……」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「梨花ちゃん……無事で良かった」 「純一、あなたもね……でも、つぐみは?」 「ああ、つぐみは今もう一人増えた仲間と別行動を取ってるけどあいつも無事だ」 「そう、本当に良かったわ」 他にも仲間が増えた。 これで五つの光点の正体がはっきりとわかり、梨花はようやく緊張を解く。 「それより――」 そこで梨花が一人でいるという事実に純一は焦りの表情を浮かべながら尋ねる。 「まさか、風子だけじゃなく北川もなのか?」 「潤は大丈夫、無茶しすぎだったからすぐそこで無理やり休ませて私がホテルの様子を見に来たの。でも風子は……」 「……い」 「ああ、放送は聞いた。一体あれから何があった?」 よく見れば別れるまで綺麗だった梨花の服は真っ赤な血で染まっている。 「それは……」 「……おーい」 本人にそのつもりは毛頭無いのだろうが、言いづらそうに口ごもる梨花を助けるようにきぬが不機嫌そうな顔で声を上げていた。 「シカトすんなよなー、純一」 「ん、ああ、なんだよ」 「これが前話してた古手梨花か?」 そう尋ねるきぬの言葉に、梨花も思わず尋ね返す。 「そう言えば……彼女は?」 「ああこいつは蟹沢きぬ。梨花ちゃん達と別れてすぐ出会ったんだ。色々合って一緒に行動してる」 「そう。本当に信じても大丈夫? ってあの様子じゃ大丈夫そうだけどね」 「ああ、俺が保障する」 「…ら」 「……こっちも色々合ったわ。この場で一言じゃ語れないことが……」 「……話すのが辛いのはわかってる。でも俺達はお互いに話さなきゃいけないんだ。前に進むために」 「勿論、話さないつもりは無いわ。とりあえずここが安全なら潤を連れて来たいんだけど大丈夫かしら?」 「ああ、と言うか俺も一緒に行くよ。ことり御免、ちょっとだけ待っててくれ」 と、純一が横たわることりに顔を向けた瞬間臀部に衝撃が走る。 「……だーかーらー、ボクをシカトするなってーの!!」 痛みに腰が砕けそうになりながら視線を戻すと、きぬが片足を上げながら憤慨していた。 ◆ 「ボク知らなかったねー。純一が真性のロリコンだったなんてさー」 「だからちげーって」 「ボクの相手するより梨花ちゃんみたいな幼女相手してるほうが楽しいんだろー。もう隠さなくてもいいんじゃね? だいじょぶ、ボクそう言うの偏見無いからさ。あ、でも半径三メートル以内には近づくなよ?」 「蟹沢っ!」 「おーこわっ、梨花ちゃーん。純一が怖いんだよ。なんとか言ってやってくれよ」 「純一。ボクにもちょっと近づかれると困るのですよ。にぱー☆」 「梨花ちゃんまで……」 彼らの能天気さは一体どこから来るのか。 梨花は頭を抱えたくなるのを必死に抑えながら二人を北川の場所へと案内していた。 思わず現実逃避に『古手梨花』を使ってしまうぐらいに。 (でも百貨店での私達もこんな感じだったけどね……) 風子の事が思い出される。 あの頃は本当に平和だった、楽しかった。 殺し合いなんか偽りだと感じるほどのように。 ならばこれはこれでいいのかもしれない。 また何かしらの要因ですぐにでも壊れてしまう儚いものだけど。 それを今度こそ壊さないように皆で守っていこう。 梨花はそう心に誓う。 「――なのに」 目の前の光景にたった今立てた誓いがガラガラと崩されていきそうになる。 「なにが十分で絶対後を追う、よ!!!」 いびきまで掻きながら気持ちよさそうに眠り続ける北川の姿を見て、梨花はその場にへたり込むしか出来なかった……。 ◆ 一向はホテルに戻り、梨花は今まで自分たちの身に起こったことを全て話した。 純一ときぬは聞きながら、やるせない感情に襲われる。 「もう彼にはあの事で立ち止まって欲しくないから。 潤自身の口から話す事で再び後悔の念に駆られる姿なんて見たくなかったから。 お願い二人とも……潤を責めないで欲しいの」 風子の遺体はもうここにはない。 北川に黙って埋めることに抵抗も覚えたが、いつまた危険になるともわからない事を考え ことりの遺体と一緒に純一たちが掘った穴へと埋めてきたのだった。 三人の傍らで未だ夢の世界に旅立っている北川を梨花は悲しげに見つめながら言った。 「責めれねえよ……くそっ!」 夢で見た少女の姿。 少し幼い印象を受けたが梨花の話と照らし合わせると確かにあれは風子に思える。 そして風子の独白と確かに一致していた――だから純一はそれを信じられる。 それはすなわち鷹野の卑劣さへと繋がるのだ。 風子は確かに優勝していた。 仲間が一人、また一人と自分の為に死んでいく望まぬ結果。 あの絶望の絶叫を忘れることなんか出来やしない。 純一の心に沸くのは鷹野に対する激しい憎悪。 (この会話もどうせ聞いてるんだろう、鷹野?) 山頂での件といい、どこまで自分達を弄べば気が済むのか。 思わず後ろにあった壁を殴りつけていた。 「――――なんだ!?」 その音に驚きの声を上げながら北川がようやく永い眠りから目を覚ましていた。 ◆ (塔?) (ああ) 北川も交え純一達の行動を聞く中、出てきたキーワードに北川と梨花の顔がクエスチョンマークに変わる。 (それを見つけた瞬間俺の首輪が点滅を始めた。正直もうダメだとは思ったよ) 鉛筆を走らせる純一の姿を続けて目で追う。 あの山頂での警告を真に取るのであれば口頭で説明していることがバレれば今度こそ爆破されるだろう。 四人は他愛の無い雑談をしてる振りを装いながら現状整理の筆談を進めていた。 (俺らが来るときはそんなもの無かったぞ) (ああ、仕組みはわからないが"見えない"ようになっているらしい。俺らが見つけれたのも鷹野にしてみれば想定外だったんだろうな) (怪しいな……) (ええ警告だったにしろ、それだけで首輪を爆発させようとするなんて何かあるわね、やっぱり) 地図に表示されてない何か、それがやはり存在することが純一たちの話ではっきりとした。 となれば廃坑の入り口もどこかに隠されているのは最早間違いないだろう。 机に広げられている純一の地図をそっと指差し、なぞりながら梨花は言っていた。 「首輪で思い出したけど……風子の死体を埋めたんなら首輪を調べるのはどうするつもりだ?」 唐突に北川が梨花へと尋ねる。 「ああ、あれね……嘘よ。」 「う、うそぉ?」 「潤の覚悟を知りたかっただけ、だってほら首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが」 いきなりすっとんきょうな声を上げる北川に驚きながら二人に耳を向け、 「鳥!?」 その後に出てきた単語にきぬは驚きを隠せず叫んだ。 「鳥ってまさか……」 同じように純一もその単語へと反応を示している。 「ちょ、ちょっとそれ見せてくれ。ボクの知り合いかもしんねー。」 「知り合いって……鳥が?」 「あー、うん、鳥なんだけど。なんちゅーか、ある意味人間に近いって言うか。 まあ見りゃわかるって!」 「いや見ても鳥だったんだけど……」 意味も良くわからずながらも梨花は自身のバックをきぬへと渡す。 きぬはそのバックを勢いよく開け放ち中へ手を伸ばした―― ◆ 我輩は焦っていた。 蟹沢がいるのは非常に拙い。 自分が無害な畜生であると装う事が、我輩に取っての最大の"あどばんてーじ"である事なのに。 これではばれてしまうではないか。 この状況で引っ張り出されたらもはや喋れると言う事を隠し通すのも不可能であろう。 どうすれば良いのだ、祈よ。 動けない状況では流れに身を任せるしかない。 土永さんはただ不安に怯えながら外の会話を聞き漏らさぬように意識を集中させていた。 だが、聞こえてきた恐るべき発言に土永さんの身は凍りついてしまう。 『――首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが』 我輩の首輪を取るだと……? それだけはだめだ、なんとか逃げなければ。 でもどうやって。 鞄が開かれた瞬間に飛び立てば……この痛む翼で飛べるのであろうか? 否、無理でも羽ばたかせなければいけない。 外では何かが騒がしいが最早それを聞いていられるほどの余裕は我輩には無かった。 そうしているうちに目の前に眩しい光が押し寄せる。 鞄が開いた――とそう認識したと同時に何者かの手が我輩の身体をがっしりと掴んでしまっている。 そして我輩は間髪いれずにバックの中へと引きずり出されてしまっていた。 急激な光に目の前が真っ白になり、前が良く見えない。 「やっぱり土永さんかよ」 かろうじて耳に届いた蟹沢の声。 つまりこれは蟹沢の手と言うことか……。 我輩は前が見えないのも構わず嘴を勢いよく振り落とした。 「――いてっ!」 我輩の嘴は上手く蟹沢の手に刺さったようだ。 我輩を掴む手から力が抜けたのを確認すると身体を暴れさせ、その手から脱出しようと試みる。 「いてーじゃねーか、なにすんだよっ!」 ボンッと頭を軽い強い衝撃を襲う。 まったく……この娘は加減と言うものを知らんのか。 思わずもう一撃お見舞いしてやろうと嘴を振り上げようとしたところで、我輩の頭に冷たいものが落ちるのを覚えた。 毛並みをたどって嘴まで零れ落ちてきた液体――涙? 曇る視界の中おぼろげに見えた蟹沢の顔からは涙の線が一滴たれ流れていた。 傍らにいるほかの三名は何がなんだかとわからないような表情でそれを眺めていた。 「なんでかなー。わかんないけど涙が出てくんだよね。 鳥相手になにボクってばこんなに喜んじゃってんだろうね、あはは」 「蟹沢……」 もう蟹沢の仲間であったものが佐藤良美を除いて全員死んでいることは知っていた。 しかしまさかそんな事を言われるとは思っても見なかった。 感涙までもされるとも思っていなかった。 土永さんは呆然と目の前の旧友(?)の顔を見つめながら呟いていた。 ◆ 「喋れる鳥とはなあ……わかっちゃいたけどますます俺らの世界とは違うってのが実感できるぜ」 北川が土永さんをまじまじと眺めながら口火を切る。 「ボクたちのとこだって喋れるのなんか土永さんぐらいのもんだよ」 「鳥鳥と、お前ら我輩を馬鹿にしすぎではないのか?」 怒りを示すようにばたつかせる羽根には、北川達が百貨店から持ち出したハンカチが巻かれている。 目の前の鳥が人間の言葉を理解し、話せると言うこと。 そしてきぬとは旧知の仲であると言う事を聞かされた北川と梨花は 撃ってしまったこと、そして首輪を外そうと画策していた事に関して謝罪を入れる。 尤も、鳥相手と言うこともあって訝しげな表情を浮かべたままではあったのだが……。 今までどうしていたと言うきぬの質問に対して土永さんは「どうして良いかわからずただ飛び回って逃げていた」とだけ嘘をついた。 その発言を「まあ鳥だからしょうがないよな」とあっさりと信じられた時は納得がいかない憤りを感じたが (ちと不安ではあるがしばしの盾兼目晦ましな存在にはなってくれるであろう) 無害を装えるのであればそれでいい、と土永さんはそこは触れずに流すことにした。 (話はそれたけど……) と純一が再び鉛筆を握り紙を手に取る。 (ともあれこれからどうするか……だ) (まずパソコンで探したい人物の場所が検索出来るのは大きい。 仲間を集めるのに大いに有利だ。だったらまだ見つかってない知り合いを探すのに良いんじゃないかと思う) (確かに俺も梨花ちゃんも探したい知り合いはいるさ。 でもこれをこんな所で使ってしまっていいのかって疑問が出た。 見つけたいのは山々だ。今この瞬間にも危険な目にあっているかもしれないんだからな。 それでも長い目で見たらまずお前らと合流してから、と言う結論に達した) (……俺も蟹沢も探したい知り合いはすでにこの世にはいない。 こんな辛い思いを経験したから言えるのかもしれないが、使える物は先に使っておくべきだと考えるぜ。 後悔はしてからじゃ遅いんだからな……) (だな、それに俺の方は別に後で構わない) (グダグダ言ってねーでその前原圭一ってのを探しちゃっていいんじゃねーの?) (でもつぐみさんは? 彼女だって武さんを探し出したいはずじゃ――) 「――大事な話の中申し訳ないのだが……我輩とても暇なのである」 土永さんのその発言で四人は思わず目を丸くした。 筆談に集中するあまりカモフラージュの雑談すらするのを忘れていたからだ。 これでは無言の中で土永さんの台詞が不自然に鷹野に聞こえた可能性もある。 「あーあー、そうだな、よしボクとなんかダベってようぜ」 「いや、蟹沢はみなと……」 その先を喋れぬようにきぬは土永さんの口を押さえ込むと乱雑に鉛筆を走らせる。 (だから盗聴されてんだってば! ばれるようなこと言うなっての!) きぬの剣幕に慌てて首を縦に振ると、ようやく手がそこで離された。 「ダベると言っても何を話すと言うのだ?」 「んなことなんでもいいぜ。ってかいつも五月蝿いぐらい喋り捲ってるのに今日の土永さんおとなしすぎるんじゃね?」 「五月蝿いとは失礼な。我輩はお前らの小さな脳みそでも理解できるように、ありがたい説法を聞かせてやっているだけだと言うのに」 「なんだとー!」 「――そんなに怒んなよ、カニ」 「がー、レオの声でそんなこと言うんじゃねえ! ぶち殺すぞこの鳥公!」 人間と鳥の漫才。 呆れた表情を浮かべながら三人はその様子を見つめていたが (あっちは蟹沢に任せてよう。いいカモフラージュだ。俺らも適当に相槌を打っておけばいいさ) 北川の言葉に頷きながら純一も続ける。 (それよりも前原圭一の場所を確認だ。つぐみだってそこまで目くじら立てて怒ることはしないさ) (そうかしら……せめて戻ってからでも……) 悩む梨花の背を押すように北川がパソコンを立ち上げ『現在地検索機能』を起動する。 羅列された名前の一覧の中にあった前原圭一の文字。 それを一回クリックするとカタカタとパソコンが稼動音を上げ、画面には検索中の文字が表示された。 中央のバーが五%、十%と進行情報を示してくれている。 これが百になれば圭一の場所が表示されるんだと直感した梨花の顔に僅かな笑みが浮かんでいた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「人の声――!」 智代は唐突に目を覚ました。 どれくらい眠っていたのかはわからないが、疲れはあまり抜けている様子は無い。 さもすればほんの僅かな時間だったのだろうと考える。 本調子とは到底言えないが、燻る意識の中で自分自身に活を入れながら立ち上がる。 「何者であろうと……この場に居合わせたからには殺す!」 耳障りな笑い声が智代の耳に響く。 何を話しているか内容まではさっぱりわからなかったがその楽しそうな声に苛立ちは隠すことも出来なかった。 誰が何人いるかもわからない状況の中、声のする方角へと慎重に歩を進める。 薄暗いロビーの中、一つの扉の隙間から光が漏れているのがわかった。 そろりと扉に近づくと中の様子を探ろうと耳を当てる。 何人かの声がする。 内容を聞き取ろうと耳に意識を集中させた直後、智代の脳に届いた言葉に持っていた銃を取り落としそうになっていた。 『レオの声でそんなこと言うんじゃねえ』 (今なんと言った? レオ? いや対馬レオはもう死んでいるはずだ。 そうじゃない、その先を思い出せ。中の人間はレオの声だと言った。 土永と呼ばれたと人間がレオの声を使ったと。どう言うことだ? そうだ、それは――) 喜びに身が打ち震え、笑い声が漏れそうになるのを智代は必死に抑える。 自分をこのように変えてしまった原因の一端を担ったもの。 口真似を操る殺人者。 中の会話が本当ならそれが土永と言う者でほぼ間違いは無いだろう。 だが智代にはその名前には聞き覚えがあった。 そう、それはまだ自分がここに来た当初の話。 同じ志を持った一人の少女から知り合いの者の名前を聞いた――その中にいたはずだ。 (それでは何か? 彼女は自身の知る者によってその命を散らされたということなのか?) ――憎い。 (土永ぁぁぁぁぁぁぁっ!) ――憎い憎い憎い。 間髪いれずに湧き上がる不の感情。 ハクオロと比でるほども出来ないほどの憎しみ。 (ただ殺しはしない、今まで生きていたことを後悔するように苦しめてから殺してやる!) その感情に流されるように智代は扉を蹴りつけ、轟音とともに扉が開けはなれた。 178 信じる者、信じない者(Ⅲ) 投下順に読む 179 戦う理由/其々の道(後編) 178 信じる者、信じない者(Ⅲ) 時系列順に読む 179 戦う理由/其々の道(後編) 175 クレイジートレイン/約束(後編) 朝倉純一 179 戦う理由/其々の道(後編) 175 クレイジートレイン/約束(後編) 蟹沢きぬ 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 北川潤 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 古手梨花 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 土永さん 179 戦う理由/其々の道(後編) 174 おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 坂上智代 179 戦う理由/其々の道(後編)
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/744.html
HAPPY END(13)◆ANI2to4ndE ◇ 「さて、色々と聞かせてもらおうか」 フォーグラーの外壁に突き刺さり、むなしく回転音を響かせるラガンを尻目に、ジンが安堵する。 ラガンがコクピット席に運悪く不時着――コクピットの破壊の心配が無くなったからだ。 昼寝をした兎は夜にヘマをしなかった。躍起になって亀にリベンジを果たした。 しかし事態は褒められたものではない。そこらに撒き散らされた出血の跡が、ジンの傷の悪化を物語っている。 『JING! まさかこれはアンチ・シズマフィールドではありませんか!?』 やや不可解さが残るジンの一連の行動に、たまらずマッハキャリバーが口を出す。 ギルガメッシュの顔が不機嫌そうに歪んだが、手を出すまでには至らなかった。 彼もまた、マッハキャリバーと同じく疑問を抱いたからであろう。 『アンチ・シズマ管は最後の一本が行方知れずだったのでは……』 「何が、足りないって? 」 だが確かにあったのだ。マッハキャリバーの解析データをも狂わせるリアルが、目の前に。 マッハキャリバーだけではない。ねねねも舞衣もスパイクもゆたかも、この場にいれば目を疑っていた。 幻の第3のアンチ・シズマ管。フォーグラーの胎内で踊る。 『確かに同一のエネルギー反応が……どこでそれを!?』 余談だが、ジンとシズマ・ドライブの出会いは、丸一日前に遡る。 足となり籠となり活躍していた――消防車を運転し続けた彼には、ある疑問が浮かんでいた。 “朝昼晩と走らせているのに、燃料が減っている気配を全く感じない”。 ひょんな好奇心でエンジンを調べた少年は、未知の世界へと足を踏み入れたのだ。 「簡単な話さ……2つの物を3人で公平に分けたい時――どうすればいいかな?」 断っておくが、消防車の持ち主である“めぐみ”の住む世界にはシズマ・ドライブが存在しない。 この消防車は彼女の愛車をシズマ・ドライブ仕様にチューンナップした別物なのだ。 消防車本体ではなく、運転マニュアルと鍵“だけ”を支給された理由にも、この意図が含まれていたのかもしれない。 消防車本体はめぐみの所有物とは言い難い物になっている、と。 「貧乏性に救われたよ」 それから、彼は暇をみては各施設の動力炉を適度に物色していた。 この世界に存在する一部の施設は、螺旋王による建造だと推測をつけた理由も、この考えが基。 ただ、彼が出会った者はシズマ・ドライブを知らなかったので、発想の昇華には至らなかった。 消防車の持ち主も見つからなかった事を加え、いつしかシズマ・ドライブはジンの脳の隅に追いやられていた。 「スカーが調べてくれた」 本題に戻るが、彼の好奇心が再び目を覚ましたのは、ヴィラル&シャマルと対峙する直前だった。 ねねねがスカーに人知れずアンチ・シズマ管の簡単な調査を依頼していたのだ。 「“未知の物質ゆえ、俺の手には負えそうにない。 だがこの上なく安定している。こんな物質は見たことが無い”ってね」 ドロボウは金のなる音を聞き取っていたのだ。活路という砂金が湧き出る音を。 ねねねがスカーの言葉に失望できる理由は、そして心の奥に隠していた彼女の狙いは、なんだったのか。 スカーの返答は彼女を落胆させるものだったのだが、その依頼に意味が無いはずがない。 「酸素を盗もうなんて洒落てるよねー……固唾を呑む大捕物。窒息しちまいそうだ。 ところが事実は小説より奇なり……世界中の酸素を消滅させる危険は、大怪球を作った世界では未然に済んじまった。 10年は持っちゃうんだよね。その間にシズマ・ドライブを壊して、酸欠で死んだ人間なんていなかった」 ジンがねねねからシズマ・ドライブの話を聞き出せたのは、それからすぐ後だった。 ねねねがガッシュと戦闘の準備をしていたので、やや手間がかかったが、それなりの収穫をジンに与えた。 詳細名簿と支給品資料集を読んだねねねの記憶……BF団、国際警察機構、フォーグラー、シズマ・ドライブの情報。 「あ、そうそう。スカーはこうも言ってたかな。 “これも同じく……溶液と核はともかく、それを包む特殊ガラス管は特色のないものだ”」 ジンの抜け目の無さはここにある。 この世界のとある場所から拝借していた普通のシズマ管を、彼はこっそりスカーに見せていたのだ。 スカーの鑑定はアンチ・シズマ管の時と同じく不透明だったが、その鑑定は黄金の鉱脈を掘り当てた。 「アンチ・シズマ管もしかりさ。 みんながあれほど駄々草に扱っていたのに、機能に問題は生じなかった。 それだけフォーグラー博士たちが作り上げたこのシステムは素晴らしかった。 その性能が薬であれ害であれ極上の安定性を持っていたんだ。 常に沈み静まりエネルギーを運ぶ半永久機関だったわけで……こんな話を聞いたらさ―― ――"3/等/分"したくなっちゃう 俺ってばケチな泥棒ですから。切った張ったのイカサマは慣れてるし……方法は企業秘密だけど」 ◇ 2本のアンチ・シズマ管から溶液を三分の一ずつ抜き取り、別の空の容器に移す。 さすれば等量の溶液が入った管が3つできる。3本目の容器は普通のシズマ管を拝借すればいい。 『本物の2つが両端に挿入されているのも狙い通りですか』 「ビンゴ。-/+/-(負正負)のバランスも考えて、ね」 もちろん悔いはある。どんな副作用が起こりえるのか、それは誰にもわからない点。 特筆すべきは3つの溶液のそれぞれに入る核。内1つは、従来のシズマ管に頼らざるえなかった事実。 アンチ・シズマ管とシズマ管の、核と溶液の正確な差異は、スカーをもってしても解読できない代物。 『万が一の事があったら、どうするつもりだったんですか。 濃度、質量、システムの微細な変動で、どんな拒絶反応が起きるか……』 2本分の溶液は3つにできても、肝心の2つ核を3等分する危険は冒せなかった。 3本とも本物に近づけるために、彼が選んだ妥協は"元の3分の2になったシズマ管を3本用意する"ことだった。 「それはそれで千載一遇(狙い通り)なのさ」 アンチ・シズマフィールド発生による全シズマ・ドライブ救済が失敗に終わるとき。 それはBF団エージェント、幻夜が起こした地球静止作戦におけるシズマ・ドライブ破壊現象の再来を招くのか。 事態はそれに留まらず更に悪化するかもしれない。何しろ肝心のアンチ・シズマ管さえ不完全なのだから。 従来のシズマ・ドライブをフォーグラーに装着させた場合を含めて、これまでとは一線を画す実験なのだ。 「2本揃っただけでも……“惨劇”を起こすには、十分だったのかな? 」 地球静止作戦を超える災害。完全なるエネルギー静止現象“バシュタールの惨劇”の再来。 即ち、菫川ねねね著“イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ”の実現もジンは覚悟していた。 もっとも、彼はねねねの本を読んでいたわけではないし、ねねねの口から聞いたわけでもない。 「ま、この真ん中に刺さってるレプリカにもちょっと細工を"施し続けている"けどね」 ともかくジンは舞衣とカグツチをフォーグラーの内部に無理やり突っ込ませようとしなかった。 わざわざフォーグラーから距離を取らせたのは、惨劇の巻添えを防ごうとした魂胆があったのかもしれない。 ねねねの心に隠れる本音を、ジンはそれとなく感じ取っていたのであろうか? 「無様だな」 満身創痍のドロボウの高説をギルガメッシュが吹き飛ばす。 相変わらずの口調で、相変わらずの態度で、相変わらずの視線で。 王ドロボウの賭けに、彼は成果を見出せずにいた。 「身を削って鍵を手にしたはいいが、貴様には夥しいほどの赤い錠が絡みついた」 「久しぶりの窮地(デート)だったから、おめかししたくてね」 「死女神と逢引きするためにそのまま後世へ婿入りか」 ふんぞり返る王の前で、ジンは永遠の忠義を誓う兵隊長のようにお辞儀をする。 そして懐から血塗(love wrapped)の鏡を取り出し、大げさに差し出した。 「これを我に渡してどうするつもりだ。口止め料か」 「寿命三ヶ月分をはたいて手に入れました。何も言わずこれを受け取って頂きたく……身だしなみに役立つかと」 彼が手渡した鏡は、日常品どころか非日常の貴重品。 かつてガッシュ・ベルの世界で生まれた究極の魔力タンクになる魔鏡なのだから。 魔力を使うギルガメッシュには、まさしく分相応なお歳暮だ。 「――その度々吐く下卑た口ぶりを止めろ。何が王ドロボウだ」 しかし王ドロボウの微笑みに、英雄王は真面目腐った。 相手へ慇懃さを感づかせるのにジンの振る舞いは今更すぎた。 「これで何度目だ。我と余計な争いを避けようとしているのか?―――身の程を弁えろ。 盗んだ金の毛皮を被った羊が、王に"譲る"とは何事か!ならば最初から衣を借るでない!!」 もはや英雄王には王ドロボウが口先三寸の卑屈屋にしか見えなかった。 財を奪う才能に長けているかどうかはともかく、行動は不愉快の連続だった。 一度盗んだものでも、持ち主が見つかればあっさり宝を返す。 挙句、次から次へと献上してご機嫌を取ろうとするばかり。 「いけないかな?見返りがなければ、泥棒は協力なんてしない」 その皮も剥がれてしまった。 顔を上げて笑うジンに、ギルガメッシュの怒りが篭る。 「……貴様はどこまで我の期待を裏切ってくれる」 「投資。これは投資なんだよギルガメッシュ。投資させるしか能のない品を、持っててもしょうがないよ。 働き者の王ドロボウは剣も門も鏡も揃えたんだぜ。チップをくれたっていいじゃないか」 ぼんやりと抱いていた疑問へのあっけない答え――献上ではなく出資。 お気に入りの財は、盗んだ当人から持て余されたゆえに、三品と値切られてしまったのだ。 『――JING!あなたはそんな腹積もりで私たちと接していたというのですか!?』 この宣戦布告に等しい愚弄に、第三者も黙っていられなくなったようだ。 王の具足として働くマッハキャリバーは、本当は王と王の対立に関して、最後まで見届けるつもりだった。 鴇羽舞衣一行に接触したときのように、我が道を進まんとするギルガメッシュが、わざわざ先回りしてジンに会ったからだ。 だからマッハキャリバーは、ジンとギルガメッシュの双方に……何らかの狙いがあると信じていた。 「何時も王が王であるように、泥棒はどこまでいっても泥棒なのさ。 そこで“王子様”にもう一つ頼みがある。ナンパして欲しい女がいるんだ。イザラっていう、夜が似合う娘でね――」 しかし王ドロボウの侮辱はマッハキャリバーの信頼をも裏切った。 デバイスとしての立場であるゆえに、その思いも一塩どころの騒ぎではない。 「この悪党が」 "それ"ゆえだったのかは定かではない。 有機体と無機体の間で感情の交差が生じていたのか。お互いの思いは等しく同一であったのか。 マッハキャリバーとギルガメッシュは、動いていた。お互いの脳と心がまるで繋がっているかのように。 その動きは神速、流麗。ギルガメッシュの制裁は、ちっぽけな人間の若き血潮を、風のキャンパスに塗りつけた。 「……出来心、だった……反、省は」 泥棒は全身から鮮血の花を満開させる。 死を招いたのは献花に仕込まれていた翻意のトゲ。 そして、心に巣食う悪の種。 「し、て……い、な…………」 薄汚れた心を皮肉るように、命の一輪挿しは艶やかに色めく。 地に伏した泥棒は枯れ草となり、いずれ野に帰るだろう。 赤い赤い種子を巻き散らして、大地に芽を蒔いたのだから。 「花泥棒のフリはよせ。余罪がないとは言わせんぞ」 ああ哀れな哀れな王ドロボウ。救われず掬われて、裏切りの道を―― 「我を盗んでおいて」 ――いまだ、歩まず。 ◇ 『King!どうしたのです、いつものあなたなら有無を言わさず処罰を下している!』 マッハキャリバーの意見はもっともであり、至極真っ当だった。 ギルガメッシュは前のめりになって倒れている下手人を睨む。 怒っている。心の底から怒っている。しかしそれ以上は進まない。進められない。 王の心に絡むのは違和感。有り触れているようで、どこか有り得ない揺らぎ。 考えてみれば、それはずっと前から始まっていた。 「さて何処で盗まれ始めていたのか」 「……わかってるくせに」 死んだはずの男が、懐から種明かしを放り投げる。 空の容器がカンッと地面に跳ね返り、ギルガメッシュにラベルを見せる。 深紅王の赤絵の具(クリムゾン・キング・レッド)。 古今東西の死骸を沈めた血底湖(クリムゾンレイク)から生まれし、最高純度の出汁(クリムゾンレーキ)。 「――欲ってのは金と一緒で困りモノ。多くても少なくても厄介で。この世に存在する全てそのもの、さ」 甦るドロボウの転職先はゾンビにあらず、真っ赤な大嘘を着込んだ詐欺師。 慇懃の殻はついに破れ、むき出しになった意識は獲物を舐める。 王ドロボウが王ドロボウ足る究極の証明書。その支配は生命の如何に関わらず万物の心を侵し喰らうのだ。 ギルガメッシュは己の根底に潜む“欲”をジンに盗まれていた。 「だがな、そんな欲さえ自分の手足同然にコントロールできる奴が、王ドロボウなんだよ」 ジンがギルガメッシュを盗もうと動き出したのは、高速道路の移動中のこと。 初対面の対応と印象を踏まえ、早急に手を打つべしと考えていた。 その第一歩は、直接的な“支配”その物ではなく確認。 博物館に到着する頃、ジンは彼の実力と気質を客観的に半分以上読み取っていた。 “慢心しても油断はしない”という不可解なロジック。 人知を超えた存在であり、人間らしい惑いを持つ男を取り囲む二律背反。 「落とし所は、都落ち……でも、無駄な戦いはお互いのためにならない」 博物館の問答から数度の献上の儀式まで、全ての振る舞いは王ドロボウの計算。 だがこれらの行動は間接的に過ぎない皮算用。見積もりはどこまで行っても見積もりで、決定打には程遠い。 妥協点の模索に、ジンは徒に時間を消費するばかりだった。 「すっかり忘れていたよ。自分の専売特許を」 ジンが打開案を閃いたのは――いや、思い出したのは首輪の解除で螺旋王の介入がほんの少し崩れた時。 使用許可証がおりたので、“欲の支配”のブランクは明けて微小な復活を遂げた。 ……己の力がそれまで封じられていた事をジンは本当に気づいていなかったのだろうか? そして力が解き放たれた瞬間を、本当に気づいていなかったのだろうか? 偶然にせよ必然にせよ、機は巡った。 ギルガメッシュの殺意は、危害を加える頃にはすでに掠め取られていた。 彼の怒りは過去に入札されて攻撃の気概を失ってしまった。ゆえにジンを仕損じたのだ。 「フェアじゃないのは百も承知さ。俺にはあんたに殺されてもいい場面が少なくとも10回はあった。 だけど……“必要とするときだ”と割り切って、先手を打たせてもらったよ」 「我の他にも、その力を施す事はなかったのか? 」 「こういうのは、やたら滅多に使うもんじゃないのさ」 この世の全ての欲の支配。そこに待つのは、無垢で無知で無害な者からの財の放棄。 何と刺激のない物盗り。何と謂れのない賞金首か。 人民総ドロボウ時代になっても、決して成りえぬ世界(エデン)。 「このまま我の慢心を全て支配する、か」 だがギルガメッシュは焦らない。焦る必要がないからだ。 彼の器は幾万年から続くこの世そのもの。無から始まる“存在”の肩書きを持つ全てが彼の欲。 「侮るな。この程度の支配、撥ね付けられなくて何が英雄か。この世の全てはとうに背負っている。 仮に貴様が世を支配できたとしても、我を染めたければその3倍の力を持って来いというのだ」 王は全てにおいての超越者であり孤高の存在なのだ。 その英雄王の欲は、人智では計り知れるはずがない。全てが奪われるなど、通常では到底ありえない。 「……ん~と、おっかしいなあ」 下賤な者たちの王を気取りながら、その実、何の背景も感じられぬ泥沼のような少年。 王と肩を並べようと奮闘した朋友のような輝きもない。 王の高みを目指し歩を揃えて進もうと望んだ臣下のような輝きもない。 王の考えを理解できないと別の道を選ぶ民衆のような輝きもない。 「ちゃんと連れてきたんだけどなあ」 思えばこの男は、真っ向から関わろうとしていたのか。 英雄王から何かを感じ取ろうとしていたのか。これまでの喜怒哀楽はどこまでが本当なのか。 欲を支配できる男の欲は湧き上がる心の思念さえ怪しい。 節々から漏れる念は“理解できない”呆れより、“最初から理解するつもりなどない”放棄。 「ほら」 王ドロボウは、英雄王に対し理解しないことを最大の理解と考えていたのだろうか。 “誰か”が彼を理解している。だったら“誰か”に委ねてしまえ、と。 「ピンピンしてるぜ」 ジンはギルガメッシュに汚れたアイパッチを差し出した。 真の持ち主はギルガメッシュと決闘した衝撃のアルベルトだが、彼には知る由もない。 ギルガメッシュがこの世界で見た持ち主は別人だ。彼もよく知っている―― 「――やめろ」 王ドロボウが空けた英雄王の心の隙間に、捨て去った過去のカケラが飛び込む。 一度去ったものの二度は入ることの叶わぬ檻に2人の侵入者の笑い声。 同盟者でも、好敵手でも、暗殺者でも、泥棒でもない。 「だから、なんだというのだ……!!」 それは、ほんの少し前に忘れ去ったはずだった。 蜘蛛のようにクセのあるアルト。鎖のような硬さが残るテノール。 止まっていた友愛の囁きが、ギルガメッシュの拳を握らせる。 『僕たちは、かつて君と一緒にいたが死んでしまった。君と共に歩むことは、もうできない』 『でもあたしたちの傍に金ぴかがいたように“金ぴかの傍にはあたしたちがいた”。それは変わらないでしょ』 ギルガメッシュの背中に、二重奏のエレジーが浴びせられる。 その声にはかつてないほどの郷愁を思わせる稀有な口調。 今の彼には誰が後ろに立っているのかわかっている。そ知らぬ振りが、いつまでもつか。 「……中々ふざけた物を見せてくれるなぁ王ドロボウ!こんなまやかしに我が今更――」 神より産まれたギルガメッシュ。 彼の眼がそんなにも赤いのは、日がな一日、空を見続けていたからなのか。 彼の傲慢は傲慢に違いないが、それは万象を救う希望になろうとした為のものなのか。 人類を導く希望は……これからも酷薄な世界に裏切られるかも知れない。 『不思議、だよね』 しかし――昨日歩いた道々は彼を裏切らない。 『あたしたち、あんたと一緒にいるの、意外と楽しかったんだから』 「――っ!!」 太陽 泣かすにゃ 刃物は要らぬ。狐 黄泉入り 涙雨。 意固地 ほどくにゃ 刃物は要らぬ。鎖 寂れて 腐り縁。 とどのつまり、逸予な泥坊は扇って歌っていただけ。 第三者から見れば、事態の深刻さを理解するには無理な話。 『『だから“その時”まで』』 姿形さえ無い者だったとしても。二度と会えぬ者だったとしても。 一生省みなかったとしても。永遠に彼方に忘れ去らせたとしても。 近すぎず、遠すぎず、熱すぎず、冷たすぎず。 “彼ら”はギルガメッシュに寄り添いながら、見つめ続けてくれているのだ。 『『待ってるよ』』 太陽のように……ずっと。 ◇ 「迂闊に愚者へ機嫌をとらせるもんじゃないよ。胡麻を摩っていた鉢の中に、賢者の心臓を放り込むんだから」 大怪球フォーグラーから一筋の蒼い線が空に伸びる。 トラック地点で準備する陸上選手のように、ギルガメッシュはウィングロードを目視していた。 外壁の狭間を吹き抜けて、強風は競技開始のファンファーレを鳴らす。 「世の中には賢者も愚者もちょっとずつ必要なのさ。だから俺みたいな罪深い職業も成り立つわけ」 この世界を動かしたのは善良な聖者でも狂った悪魔でもない。 螺旋遺伝子を奮い立たせて螺旋力に覚醒した者。 一辺通りの枠に収まろうとせず、己を伸ばして先を行かんとする者たちだった。 「さーて大魔術第二幕の始まり始まり」 ジンは腕を限界まで伸ばし天を指差す。目標は遥か空に聳えるバスクの女。 予てからこの世界の結界に大きく絡んでいると目星を付けていた、月。 「あんたが全力を出せばアレは絶対に落ちる」 ギルガメッシュから離れて数m、フォーグラーのコクピット。ジンは大股を開いてぶっきら棒に座り、空を見上げる。 彼はギルガメッシュが正真正銘の本気を出すのを望んでいた。 相手はお高くとまった箱入り娘。射止めるためには一握の慢心も薮蛇になる。 「何か言いたげそうだけど……ま、深く考えないでよ。そのご自慢の武器は英雄王ギルガメッシュが選んだ財だ。 どんなに慢心を失おうとも、全てを奪われちゃこっちが困る。全部が奪われたら、あんたがあんたでなくなる。 そうなったら財の価値は十二分に発揮されるのか……ちょい不安」 かつて王ドロボウは言った。輝くものは星であろうと月であろうと太陽であろうと盗むと。 ギルガメッシュは、太陽を化身である英雄王への比喩と解いた。 王ドロボウは、英雄王たる所以の“慢心”もまた、化身そのものと解いていた。 「英雄王は、慢心せずして成らずさ」 仮に慢心を捨て去れたとしても、その境目をギルガメッシュが気づくことは決してない。 どこまでが慢心なのか否かの線引きは人の数だけ答えがある。欲も本能も基点も過去も。 ギルガメッシュ本人でさえ、己が納得する慢心の放棄の確認自体が“慢心”になるかもしれない。 「これが博物館で問われたギルガメッシュに対する俺の答え」 手元に未来永劫あらんとするが、一度盗られれば決して取り返すことの出来ない財。 それは生涯という房から一秒一秒を実として落とす、時の流れのように。 慢心は英雄王が英雄王でなくなって初めて消える。それはギルガメッシュが王の立場を追われてこそ。 王のままでは、心の奥底のそのまた奥の底のずっと先に、無尽蔵のお神酒が湧き続ける。 成されると仮定された消失に収束するまで、ギルガメッシュは王ドロボウに永遠に盗まれ続ける。 「――憎らしい男だ……だが許そう」 進みゆく喪失感にギルガメッシュはフラッシュバックする。 思慮を教授せし友人と王の道を辿ろうとした儚き従者を失った、あの瞬間。 それでもギルガメッシュは歩いた。決して悔やまず、決して退かず、決して媚びず。 彼らが信じた道が間違いではないことを示すために、再び孤高に身を投じた。 「盗られた分は貴様にくれてやる」 しかし現れた。また現れたのだ。 王の道を、今度は理解ではなく盗むことで辿ろうする只管な愚か者。決して省みることの無い覇道の跡を、全て奪おうとする影。 あまつさえ過去を掘り起こし、呼び出そうとする始末。 3度目は得られぬであろう、と考えていた巡り合わせが、英雄王の傍に再びやってきたのだ。 「奪い尽くせるのならやってみせよ」 かくして英雄王と王ドロボウの奇妙な寸劇は、第一幕を閉じた。それぞれの道を進む王は、本来ならば交わらぬはずだった。 互いにわかっていたことはただ一つ。 彼らはこれからも己が信じた道を進む。鏡のように立ちはだかる相手が現れても、それは変わらない。 勝手に皮肉り、勝手に嘲笑し、勝手に気遣い、勝手に気配る。 「これもまた“美しさ”か」 英雄王は笑う。王ドロボウに、盗まれてしまったから。 懐かしき己の詩に流れる涙、未来を省みれなくなるくらいの過去。 そして、いずれは“これから”も。 「盗みの永久機関……誠心誠意、循環させていただきます」 劇はまだまだ終わらない。終わり無き旅路が前にあり、旅の足跡もまた終わり無し。 今度はきっと大丈夫だろう。影が失われることはないのだから。 「我が振り向くのは、もう少し先でいい」 英雄王は、省みない。 ◇ 王ドロボウに 盗まれたんじゃ 絶望だ だが その絶望は、 なんと 希望に似ていることか―― (隻腕指揮者エギュベル著 『未亡人たちの演奏旅行』プロローグより) ◇ 「南の国の英雄王、北極星に旅立った」 吹き抜ける風に顔を覆いながらも、ジンは大怪球フォーグラーの外壁を伝い、空を昇る。 ギルガメッシュの一件が片付いたので、彼は次の仕事に取り掛かっていたのだ。 「風の靴を供につけ、筆耕寝子が起きるころ。王子は行方をくらませた」 その仕事とは、フォーグラーの外壁に突き刺さったまま、何の動きも見せようとしないラガン。 空回りだったにしろ、一度はラガンはグレンの投球によってジン達を襲撃しようとしていたのだ。 ヴィラルとシャマルが何を思ってこんなことをしたのか、ジンには確証がなかった。 「東も西も南も北も、家族は必死で探したが――」 ラガンはアンチ・シズマフィールドが展開した後も、何もしてこなかった。 ギルガメッシュがフォーグラーから飛び出した後も、ずっとこのままの状態を保っている。 ギルガメッシュの力を恐れて沈黙を守っていたにしては、なんとも不気味な待機。 「旦那!賽はもう投げられたんだ。この後に及んで、妾(フォーグラー)に走るのかい。 人生はゲームじゃないんだ……帰りなよ。後押ししてくれた奥さんが草葉の陰で泣いてるぜ」 ジンは超伝導ライフルを、外しどころの無い相手の顔に突きつけて、引き金に指をかける。 そこはかとなく聞こえるエンジン音から察すれば、ラガンの機能はまだ停止していない。 しかし返答はない。無機質な顔が綻びるはずもなく、沈黙は貫かれたまま。 「?!?!?」 ――が、応答アリ。 大規模な振動が湧き上がり、赤ん坊をあやす様に大怪球を揺り動かせる。 それはこの世界の崩壊を示す自然災害ではなく、限定された異常事態。 乖離剣・エアに開けられたフォーグラーの風穴が、着々と塞がり始めていたのだ。 「……愛こそ天下、か」 ジンはラガンの登頂に飛び乗り、超電導ライフルを白く包まれたラガンの防風壁に向ける。 機体とパイロットを傷つけぬよう、銃口は壁のヘリを水平に突きぬけるように狙う。 敵を気遣ったのは、その先に隠れる諸悪の根源の存在を暴くため。 「とっくに巣立っていたとはね」 破れた壁から中を覗いたジンは感嘆の息を漏らす。 白月の夜空に晒された操縦者ヴィラルの意識は、既に途切れていた。 両手はしっかりとレバーを握り締めているが、目は曇り口からは涎を垂らしっぱなし。呼吸の有無はわからない。 口は開けど再度は閉じず。目は開けど光は見えず。ただ倒されるは握られたレバー。 「あんた達の愛は、生きる事さえ凌駕しちまうのかい」 ラガンの外傷は修復を始め、ヴィラルを再び外界から遮断させる。 死んでいるのかも生きているのかもわからない生命が、螺旋の殻に包まれる姿にジンは納得した。 2人にとって愛の巣だった機神は、そのまま棺桶になっていた。 ヴィラルとシャマルはあの激闘の終焉と共に、眠りに就いていたのだ。 「ハートに火が点いちまってるというのに……まだ、諦めていない」 そして取り残された膨大な螺旋力だけが、彼ら――グレンとラガンを動かしていた。 あの投擲は、ヴィラルとシャマルの意思が乗り移った『ラガン・インパクト』だったのだろう。 敵がどこにいるのかもわからぬまま、当てずっぽうに放たれた非常識。 いくら螺旋遺伝子に反応するとしても、グレンラガンは直接の生命の持たぬ機械なのに。 「でも、これ以上は狂気の沙汰よ。披露宴は終わったんだ」 ジンはラガンから、外壁が完全に直りつつあるフォーグラーの内部に、飛び降りた。 行き過ぎた愛をガソリンとして、ラガンが動き続けるのなら、フォーグラーの修復は合点がいく。 偶然にもフォーグラーに突き刺さったラガンは、アンチ・シズマフィールドごと本体を乗っ取ろうとしているのだ。 落日した三日月が太陽になれば、あの悪夢が甦る。今度の聖誕祭はいつもより赤が増えるだろう。 「そろそろ地獄巡り(ハネムーン)にでも行って――」 ジンは天使の羽根のようにふわりとコクピットに着地する。 「――っ!?」 その刹那―― 無防備に舞っていた蝶を絡めるが如く、数多の触手がジンの体に巻きついた。 縄は一気に緊張し、蜜柑の果汁を搾り出すように下手人を締めあげる。 「ガッ!!!……ガフッ……! 」 嘔吐。コクピットの椅子に、溢れるほどの赤が降り注ぐ。 この赤は絵の具のように手垢のついた模造品ではなく、人が生けるための必需品。 「……あの世行き……の……切符、に」 ドロボウをお縄に頂戴させた保安官の正体。 それは大怪球フォーグラー――いや、螺旋の力に乗っ取られた臨界球フォーグラーガン自身だった。 外壁の表面に装備されていた沢山のレーザーアームが、己が体を突き破ってまで、襲い掛かったのだ。 彼らは内部にいた異分子(ウイルス)の存在を本能で察知し、追い出そうと考えたのかもしれない。 「払い戻しは、きかないん……だよ……! 」 転生を迎えたフォーグラーの胎内でジンの弱音が空しく響く。 骨身に染みる圧力に、五臓六腑たちが悲鳴を上げていた。もう強がりだけでは隠し通せない。 即ちこれは、王ドロボウもまた、この世界で幾多の無茶を潜り抜けてきたという証明なのだ。 「なんせ俺たちは、生まれつき極刑を言い渡されてるんだからな」 凍てついた視線を亡霊たちに向けて、ジンは右手を淡い緑色に輝かせる。 光は右手から銃全体に染み渡り、更なる輝きを増していく。 正体不明の眩さは留まることなく、ジンを中心として広がっていった。 「どのみち、こんな窒息しそうな棺桶は……ご免こーむる……」 ――幼少期の王ドロボウには、右手を懐へ隠す癖があった。 理由を尋ねられても“必要とするときじゃないから”の一点張り。 母親から五年越しの誕生日祝いに、とあるプレゼントが贈られるまで、やりとりは繰り返されていた。 「こっちにはどんな物語にも、どんな文献にも載ってない」 思い出の品の名は“王の罪(クリム・ロワイアル)”。 お披露目会で破壊され日の目を見ることのなくなったジンの必殺技。 エム・エルコルド(Amarcord)産の知られざる傑作となったのも今では良き思い出だ。 鳥の相棒から乳離れして以来、産まれて初めてになる単独発射(一人立ち)。 「誰もが笑顔でハッピーになれる」 狙いは超新星の核の中心にあたる、コクピットに備え付けられた自爆装置への誘爆。 侵食に純応し過ぎてエゴとなった塊は、芯から根こそぎ駆除しなければならない。 結果あらゆる迸りを受けたとしても、彼には相応の覚悟がある。 それは職業柄、分かりきっていることなのだから…… 「――――パーティーが待ってるんだ!!!」 少年は、迷わず引き金を引くのだ。 ◇ 余すところ無く軋轢と閃光を走らせて、大怪球が崩れていく。 二次災害も甚大。円らな瞳が大粒の涙を散布するように、周囲を巻き込んでいく。 その上空で、どこ吹く風と言わんばかりにカグツチが舞う。 銀の龍の背に乗るは、この発破解体の前兆を偶然にも感知した鴇羽舞衣一行。 「これで……よかったの? 」 舞衣は誰かに向かって問いかける。面と向かって言わなかったせいか、誰も彼女に答えようとしない。 彼女は知っていた。ジンが何のためにフォーグラーに行ったのか。 運び役も買って出たし、ジンの頼み通り迷うことなくゆたかたちを避難させた。 しかし最後の最後でHIMEは騙された。ジンの用意した三本目のアンチ・シズマ管の種明かしを知らなかった。 “イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ”の存在も、彼女はまだ知らなかった。 「ねぇ!よかったっていうの!?」 舞衣の質問に何も答えることができず、ゆたかはフリードを強く抱きしめて俯く。 彼女は何も聞かされていなかった。舞衣がジンと空に上昇する少し前から、彼女の意識は闇に落ちていたから。 眠り姫が覚醒したときには、何もかも終わった後だった。 「爆発が起こったのは、アンチ・シズマフィールドが発生した後だ」 ジンが余分に保管していたシズマ管をデイバッグから取り出して、しれっとねねねが返事をする。 彼女の右手で淡く光るシズマ管の内容物は、とても穏やかに状態を保っている。 一度アンチ・シズマフィールドが展開されれば、シズマ・ドライブが世界を崩壊させることは永遠に無い。 螺旋王に作られし酸素欠乏のバッドエンドは、遂にお蔵入りとなったのだ。 「作戦は失敗じゃない。あたし達が無理に付こうもんなら……終わってたよ」 抑揚を押し殺して話すねねねは、この結末を薄々予感していたのかもしれない。 “イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ”は彼女の悲願だった。 存在を直接伝えずとも、情報を回りくどく、ジンに仄めかしていたのかもしれない。 「……ジンが一度でもそう言った!?ねねねさんが彼に聞かなかっただけじゃない!!」 ジンが皆に絵空事を話し始めてからカグツチに乗るまで、ねねねは彼を止めることはできなかった。 “それでもジンならやってくれる”という得体の知れぬ期待を、ねねねは選んでしまったのだ。 淡々とする彼女の態度は、椿姫の役を買って出た裏返しかもしれない。 「聞かなくたって分かるだろ」 ねねねの肩を掴んで迫る舞衣を、無骨な男の腕が引き止める。 この現状に堪え切れないと目で訴える彼女に、スパイクは一枚の手紙を見せた。 “領収書”と銘打たれたその筆跡に、舞衣は見覚えがあった。 「いい奴だったさ。俺たちが知ってる通りのな」 舞衣が手紙を受け取ると、スパイクはそれっきり何も言わず、葉巻に火を点けながら背を向けた。 ◇ “領収書” 王様からの永遠のお預け 確かに盗ませていただきました 太陽も月も紛い物ですが 民が飢え死ぬことはありません 盗んだ物を“使う”のは もっと相応しい方にお譲りします 根無し草の王ドロボウは 盗むことにしか興味がありません なぜなら盗むことは 多分 最高の賛美だから 今までも 未来も 終わることなく この世が賛美に値する限り 王ドロボウは 盗み続けるでしょう ◇ スパイクは未だ自壊し続けるフォーグラーの末路を見届けながら、煙を吸い込む。 口に広がるかすかな苦味が、湿りきっていた顔を歪ませた。 彼が吸っている葉巻は、先ほど地上で口から落とした一本ゆえ、少し砂がついていた。 (メメント・モリ……失敗しても、せいぜい死ぬだけってか) 砂埃は払ったつもりだったでも、こういった物はなかなか落ちないものだ。 本当は不衛生極まりないのだが、スパイクは敢えて煙を味わった。 この葉巻はジンから譲り受けた、言わば置き形見であり、最後の接触に立ち会った証だから。 (螺旋力とやらがそっぽを向くわけだ) いまいち腹の底が見えずとも、どこか脱力させられるあの少年は、信頼に値していた。 そのジンがいつの間にかスパイクのズボンに初心表明を投函していたのだ。 あの質問に対するジンの答えがこれだとしたら、自分は何と答えるべきだろう。 (本当に“死ぬには良い日”だったのかよ。冠を捨てちまった王様は、眠るしかねぇんだぞ) 月明かりで淡くなった夜に、深く長く煙を吐き出すと、スパイクはチラリと後ろを見る。 向こうではジンの手紙を食い入るように読みながら、同志が思い思いの感情をぶつけていた。 心の奥底では孤独を良しと受け入れているスパイクとは違い、彼女たちはどれほど真っ直ぐか。 (あいつらみたいに、惹かれてみろってのか。涙が出るくらい――……ん?) ぼんやりと見ていた両目を擦ってスパイクは視界を明確にする。 小さな小さな何かがカグツチに向かって来たからだ。 飛来物はねねねたちの肩を通り過ぎ、持ち前の動体視力で捉えていたスパイクの右手にパシッと綺麗に収まった。 それはジンが持っていた死芸品、夜刀神。刀身には一枚の紙が結び付けられていた。 『あなたの頭上に輝く星が流れた夜に あなたの故郷でお会いしましょう HO! HO! HO! 永らえの王ドロボウ』 咥えていた葉巻を投げ捨て、賞金稼ぎはすっくと立ち上がる。 顔をぐしゃぐしゃにしている淑女たちへこの紙切れを渡すために。 文面の意図を読みとれば、これは待ち合わせの約束。 いつどこで会えるのかはわからない。実に気の長い話だ。 (またな、王ドロボウ) ……それでも、遅かれ早かれ――巡り合えるはずだ。 含み笑いを添えて、スパイクは同志に手紙を差し出す。 あんたは、どうなんだい DO YOU HAVE COMRADE? 時系列順に読む Back HAPPY END(12) Next HAPPY END(14) 投下順に読む Back HAPPY END(12) Next HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ヴィラル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) シャマル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 菫川ねねね 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ジン 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) カミナ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 東方不敗 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) チミルフ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 不動のグアーム 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(14)
https://w.atwiki.jp/shinmanga/pages/186.html
天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U 暗く、眩い星の海を、硝子の階段が一直線に割っている。 いや、硝子と見えたのは錯覚か。 蛍のような淡く白い光の粒子が、階段の形を描き出しているのだ。 その輪郭は薄らと滲み、虚空の闇へと溶け消えていく。 ここには天も地もない。 ただ黒一色の空間に、彩光の渦が配置されているのみだ。 もしかしたらそれらは星ですらないのかもしれない。 生き物のように細動を繰り返す煌めきは、重力から解き放たれた雪とも呼ぶべき幻想的な光景を見せつけてやまないのだから。 例外は一つ。 何処から続いているとも知れない儚い道、高みへと続く梯子だけ。 その行き着く先に――在り得べからざるモノが現出していた。 本来そこに鎮座しているべき宮殿、あるいは聖堂は、今は白い霧に包まれ姿を隠している。 その霧は、まるで意志を持つかのように感情を大いに表して、昂ぶっていた。 ――しばしの沈黙と蠢き。 そして、不意に。 霧を構成する水滴の一つ一つが、何かを穿つかのように一点に凝集する。 豪風を生む。 天災が降誕する。 凄まじい勢いで、天の果てを貫く。 同時――世界を埋め尽くす雷の帯が、この空間を支配した。 地獄の猛犬の叫びすら赤子の声にも等しく感じられる咆哮が、耳に聞こえる全てとなる。 霧の白と、雷の白。 二つの意志によって生み出された、二つの白。 闇がしばし塗り替えられ、然る後に静寂を取り戻す。 ――何一つ変わらない光景が、ただそこに存在していた。 彼らの試みは大いなる流れに呑み込まれ、塵一つとて残さない。 * シンセサイザーと歌い声のハーモニー。 あるいは、遠目より響く唄への不協和な伴奏。 嵐を呼ぶ風と共に訪れた不意の客。 大きな大きな女性の像の、その作り出す異常な状況に傾注していた4人――いや、3人にとって、闖入してきた電子音は唐突に過ぎた。 ある者は悠然と笑い、 ある者は目を細め、 ある者は口を開け、 三者三様の反応は、目を細めた一人に収束される。 視線を受けてひとまずの治療を終えたゾルフ・J・キンブリーが懐に入れて取り出したるは、2つの携帯電話。 その片割れが、この場で最も避けるべき騒音を奏で続けている。 ――キンブリーに支給された物品の一つこそ、これら一対の携帯電話である。 「う、うわ、うわわわぁ……っ! き、キンブリーさん! それっ、取れっ……じゃなくて、取って下さいっ!」 「はて、『取る』……と言いますと?」 慌てふためく森あいは、そこでようやくキンブリーが『携帯電話』の知識がないという事に思い当たる。 見ればキンブリーは形容しがたい種類の笑みを浮かべ、目の前の物体を矯めつ眇めつしているようだ。 ……このまま放っておけば相手が諦めて電話を切ってしまうかもしれない。 となると、その人に迷惑がかかってしまう。こんな状況で電話をかけてくる程度には友好的な相手が、だ。 それは、この心細い状況で自ら蜘蛛の糸を振り払ってしまうように思えて――、 「ちょ、ちょっと貸して! ……下さいっ!」 仕方なく森は、キンブリーの弄ぶカラクリの小箱、その片方に手を伸ばす。 『なぜキンブリーが携帯電話を持っているのか』 『持ち主が使い方も知らない携帯電話に掛けてくる相手とはいったい誰なのか』 『どうして、この図ったようなタイミングで電話をかけてきたのか』 そんな事に思い至る暇もないまま、日常の習慣で森はぱかりと画面を開く。 そこに示された名前は、彼女の知らない外国人の名。 「じょん、ば……?」 何も知らない森は、ついついその名を読みあげようとして――、 「あっ……!」 更に横から、掻っ攫われた。 趙公明が胡散臭いほどに爽やかな笑みを浮かべ、ウィンクしつつ通話ボタンを押す。 と、ぽん、と小さな風とともに自分の肩に手が置かれた。 ようやく気付く、ウィンクをして見せた先は自分ではないのだ、と。 「ふむ……、分かりました。 あいさん、どうやら私たちではなく彼が担当すべき事案のようです。 邪魔をしてしまうのも悪いですし、少し離れたところでこちらの――彼女の処遇をどうするか決めるとしましょうか」 振り返れば、キンブリーが狐のように目を細めて微笑を浮かべている。 肩に置かれた手の存在感が、何故か気持ち悪い。 大した力は入っていないのに、まるで万力で締め付けられるかのように伸ばした手が動かない。 首元の手がまるで刃物のように感じられて、森は自分でも気付かないうちにキンブリーの言う通りに動いている。 動かされている。 * 「……やあ! 数時間……いや、既に半日ぶりだね」 橋の方に向かったキンブリー達が十分に離れたのを確認し、ようやく趙公明は第一声を放つ。 「“彼”の部下としての役職名と、君自身の持つ能力と――、 二重の意味で“ウォッチャー”である君がわざわざどうしたんだい?」 電話の相手が、何がしかを囁いた。 轟、と、吹きつける風の音に掻き消され、声の主の台詞は趙公明以外の誰にも聞き咎められることはない。 「……御挨拶だね。あそこにあるだろう映像宝貝は僕が千年もかけて作った舞台装置だよ? 所有物を取り戻しに行って、何が悪いのかな」 巻く風は朝方に比べ次第に、着実に強くなってきている。 見れば、空の彼方に黒雲の帯が手繰り寄せられつつあるのが確認出来た。 雨か、雪か、はたまた嵐か吹雪か。 遠からず、この島は天の気まぐれに付き合わされることになるのだろう。 「あそこで起こるであろう舞踏会への招待状を握り潰すなんて! 普段の僕ならば聞き入る耳を持たないが、“彼”のお達し……という訳ならば話は別か。 トレビアーンな美的センスの同志の言葉とあらば、確かに僕も無視はできないからね!」 ――そう。 天候を統べることこそ、“神”にとっては古来より最も普遍的に弄ぶ力の一端だ。 遥か悠久の昔から、人は天の神に祈る。 雨をもたらし、豊かな恵みを下賜したまえと。 岩戸を開けて、陽光を眼下に与えたまえと。 「だが――、華やかなるステージを見て僕に動くな、というのはあまりに残酷! 無碍に断るのも好ましくないから、様子を見る段階は確かに踏まえよう。 だが、最終的に僕がどう動くかは僕が決めさせてもらう! 僕はあくまで利害の一致に基づく協力者、という事を忘れた物言いは感心しないな」 神を覆う薄靄のヴェールは、今まさに着々と剥がれ続けている。 「……まあ、“彼”の事だ。 こう告げる事で結果的に僕がどう動くのかすら、最初から織り込み済みなのだろう? 要するに、僕がどれだけ好き勝手にやろうと予定に狂いはあり得ない。そして、僕もそれで構わないよ。 何故なら“彼”は“ユーゼス”や“ゴルゴム”、そういう次元に佇む存在なのだからね!」 趙公明が言葉を切る。 すると電話相手はそれを待っていたのか、別の話題を新たに振った。 彼の妄言はその殆どが聞き流されていたのだろう。 あからさまに疲れたような溜息が、確かに受話器の向こうから届く。 天に太陽は輝いているのに、張り付くように辺りの気温は一向に上がらない。 心なしか、吐く息が白く色づいてきてさえいるかもしれない。 「……成程ね。“ネット”も思惑通りに軌道に乗り始めているのか。 となると、その掲示板とやらに麗しき僕の動画をリンクとして張り、皆に知らしめるのも面白いかもしれない! いや、blogとやらを拓いてみせるのも面白いかもしれな――、ん?」 電脳の海を使ったロクでもない催しを脳内に展開する趙公明の耳に、少しばかり予想外の話が届く。 「……ふむ。いいだろう、代わってみたまえ。 一体僕にどういう用事かな?」 聞けば、電話を代わって自分と話したい御仁がいるらしい。 見知った相手の名前を聞かされ、趙公明は鷹揚と頷いた。 そして耳に入るは、まさしく最強の道士と謳われる傍観者のその声が。 『何時如何なる時でもあなたは全く自分というものがブレませんね、趙公明。 それは確かに、あなたの強さではありますが』 「申公豹! 君がわざわざ僕に連絡を取るとはどういう風向きだい?」 旧友と出会った時のように声に喜色を滲ませて、気取ったポーズを虚空に見せる。 様にはなっているものの、いちいちその所作は演技臭く、くどいと言わざるを得ない。 『……いえ。いくつか不測の事態が発生しましてね。 あくまで我々にとっては、ですが。 王天君などは不満を隠すどころか苛立ちを露骨に表に出していますが……、おそらく分かっているからこそでしょう。 口では予定が狂った、などと言いつつも、その実掌の上で駒を踊らせているだけの“彼”の性格を』 なんでも紅水陣を用いての雑用に赴かされたのだとか。 封神計画の裏の遂行者であった頃からの苦労人ぶりに、ぶわっと趙公明は目の幅の涙を流す。 「――なるほど、確かに“彼”ならば僕たちにさえ全てを告げないのはむしろ当然だろう。 おそらくあのムルムルであっても全貌は知らされていないだろうね。 それどころか、僕たちがそれぞれに知らされた断片情報を持ち寄ってさえ、その意図にたどり着けないかもしれない! 全く、実に素晴らしい脚本家だよ、“彼”は!」 まあ、そんな気遣わしげな所作が長続きするはずもなく、趙公明はコロコロ表情を切り替える。 既にその眼の中にはキラキラと輝く星が散りばめられていた。 “彼”とやらによほど近しいものを感じているのだろう、美的センスの相性もあって親愛すら抱いているらしい。 そんな奇矯者に対する反応も手慣れたもので、申公豹は相手の言葉を遮って話を切り出した。 『まあそれは置いておいて、本題に入るとしましょうか。 ……私は現時点を以って主催者を辞め、傍観者に戻ります』 ――沈黙。 珍しく、趙公明が顔の表情全てを消す。 僅かに言葉を口の中で転がして、平坦な口調で紡ぎ出した。 「…………。 太公望くんが斃れたからかい? それとも、他に理由があるのかな。 このバトルロワイヤルに僕や王天君を誘った当人が、最大の目的が消えてしまったから手を引くというのは――、 いささか、身勝手に過ぎないかな?」 また――一迅。 強く、鋭く、寒風が吹き付け走り去った。 貴族衣装が音とともにはためいて、ふわりと棚引いては落ち着いていく。 『無論、太公望の肉体の喪失が理由の大きな部分を占めているのは確かです。 始まりの人に戻る前の太公望と戦える――、それがまたも難しくなった以上はね。 ですが理由は、それだけではない』 一拍の静寂を置いて、申公豹は語る。 『……見届けてみたくなったのですよ、あなた達全員の行く末を。 その為には当事者よりも傍観者――“観測者”と言い換えてもいいですが――が望ましい。 その意味では、私は今しばらくこの祭事に関わり続けます。 場合によっては、また積極的に関わらせて頂くことになるかもしれませんね。立場は変わるかもしれませんが。 その時はあなたたちと敵対する可能性すらあるかもしれません』 台詞の最後の一文に、趙公明は僅かに表情を取り戻す。 そこに現れたのは紛れもない、羨望だった。 「“彼”に牙を剥いたのかい? 申公豹」 敵対の可能性の示唆。即ち『戦い』がそこに生まれ出るという事は。 因果の因となる何らかを、申公豹は試みたのだという事。 そして戦いを至上とする趙公明にとって、それは胸を焦がすほどに手を伸ばしたい代物なのだ。 『そこまでのものではありません。ただ、“彼”という存在を試してみたくなったのですよ。 なにせ、『太公望が早期に退場する』という事を分かった上で敢えて私に協力を要請したとあらば、 “彼”は最初から利用するためだけに私に近づいたという事なのですからね』 「そしてそれは、ほぼ確実なことである――、と」 口端だけを、歪めて答える。 申公豹の機嫌を損ね、しかしこの催しに何ら障害が出ていないという事は。 申公豹が、淡々と事実だけを連ねているという事は。 『……ええ。 なので私と、タイミング良く彼に意見を申し立てようとするもう一人とで“彼”と相対することになったのですが。 やはりといいますか、私では――私たちでは、“彼”に傷を与える事にすら手が届かないようです』 「ほう?」 まさしく、思った通り。 『雷公鞭を放ったところで、雷の全てが“彼”の横を通りすがって行くのですよ。 まるで、十戒の導き手が海を割るように。 その中で“彼”は悠然とただ立っていました。指一つ動かさずにね』 素晴らしい、と、その一言しか思い浮かばない。 “彼”との接点を作ってくれたこと。 それはまさしく申公豹に感謝すべき事で、だからこそ身勝手さと相殺して進ぜよう。 極上の笑みを浮かべながら、趙公明は一人頷いた。 『“彼”の前に力は無意味です。 手を届かせることが出来るとすれば、それは力ではなく――』 そして、受話器を手にしたまま、ゆっくりと首をを動かしていく。 視線の先に在るものをしっかと捉えながら、呟くように話を打ち切った。 「……失礼。どうやらエルロック・ショルメくんが来訪してしまったようだ」 言葉だけ見れば、唐突な闖入者に対応する字面。 されどその態度は穏やかに過ぎて、分かっていて敢えて聞かせたのかとさえ勘繰る事が出来てしまう。 一連の、会話を。 「さて、招かれざるマドモアゼルこと、ガンスリンガーガールあいくん。 キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね?」 優雅な一礼を披露しながら、趙公明は携帯電話の電源を落とす。 そのまま念を押すかのように告げた言葉には、一切の温かみが存在していなかった。 酷薄な笑みとともに、金の髪持つ男は少女を見下ろして動かない。 ――何処から聞いていたのだろう。何時からそこにいたのだろう。 森あいも、ガクガクと体を震わせたまま動かない。 彼女は、知らないのだ。 キンブリーが、趙公明が“神”の陣営に座する事を知った上で、敢えて手を組んでいた事を。 「彼は持っている異能も頭脳の聡さも特別だからね。 こうして僕のようなものが近くにいるのも――、全く以って不思議ではない、と思わないかい?」 だから、こんなにも簡単な口車で勘違いをしてしまう。 『善良かつ蘇生の力を持つキンブリーを監視するために、趙公明が彼を騙して側にいたのだ』と。 趙公明は、嘘を吐いてはいない。 だからこそ、その言葉の響きが確からしさを伴って森に突き刺さった。 幾重もの雑多な考えが、森の脳内を乱舞する。 それは取り留めもなく拡散し、これからどうすべきかというのも纏まらない。 「……ぁ、」 ただただ、目の前の男が自分たちをここに放り込んだ連中の一味だと、それを知ってしまった恐怖が膨れ上がり、渦巻いている。 ごく、という唾を呑む音がやけに生々しく響いた。 キンブリーに頼りたい、という選択肢が真っ先に浮かび、しかしそれは趙公明の第一声が否定し尽くしている。 キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね? 何度も何度もその一声がリフレイン。 もう、彼女にキンブリーを疑う余地はなくなっており――、だからこそ、彼の下に戻る事はできなくなった。 趙公明を出し抜かねば未来はないと、彼女の脳は勝手に決断を下してしまう。 植木を蘇らせるという小さな願いを叶えるために、キンブリーをこの男の魔の手から助けねばならないのだ、と。 押し潰されそうな重圧の中、一人ぼっちの彼女は息を荒くする。 不意に、じり、と音がした。 気がつけば静かに、趙公明はこちらににじり寄ってきていた。 「……う、ぁ、やだぁ……っ、ひゃ」 ずい、と押し出された手が禍々しく、トマトを握り潰すように脳天を掴もうとしている。 そこが、限界だった。 訳の分からない衝動が風船を割るかのように弾け飛ぶ。 「ひ、ぁ、わぁぁぁああぁぁあぁああぁぁあぁぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁ……っ!」 何処へ向かうとも知れず――、森あいは、駆けだした。 キンブリーを趙公明から救い、優勝させ、皆を蘇らせることだけをよすがとして。 そんな儚い砂の城だけが、今の彼女を彼女たらしめる唯一の頼り。 その幻想がぶち殺された時、彼女は果たしてどこへ落ちていくのだろうか。 知るとするならば、それはきっと“神”だけだろう。 【H-08/三叉路付近/1日目/午前】 【森あい@うえきの法則】 【状態】:疲労(中) 精神的疲労(中)、混乱 【装備】:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪 【道具】:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3 【思考】: 基本:「みんなの為に」キンブリーに協力 0:……植木……ごめんね…… 1:キンブリーを優勝させる。 2:鈴子ちゃん…… 3:能力を使わない(というより使えない)。 4:なんで戦い終わってるんだろ……? 5:趙公明からキンブリーを助け出したい。 6:趙公明に恐怖。何処でもいいから急いで逃走。 7:安藤潤也に不信感。 【備考】 ※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。 ※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。 ※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。 ※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。 ※キンブリーの話を大方信用しました。 ※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。 ※どの方角へ向かったかは次の書き手さんにお任せします。 小さくなる彼女の背を一瞥し、趙公明はやれやれと嘆息する。 淑女たるものもっと優雅に振舞うべきだというのに。 少し脅し過ぎたとはいえ、せめてその銃で自分を打倒しようという気概くらいは見せて欲しかった。 聞かれてしまったのは少し注意不足だったかもしれない。 だが、フォローのおかげでこれはこれで面白い事態になったと言えるだろう。 戦闘快楽主義たる趙公明は、だから再度電話を手にすることにした。 掛ける先はWatcherでも最強の道士でもなく――、 * 見よう見まねで電話を取ったキンブリーが趙公明と待ち合わせたのは、橋の手前。 ――灰色づき始めた空を見渡せる、拓けた空間に二人の男が集い合う。 「……やれやれ。 だから勝手な事はするなと言ったのに」 あらぬ方向を見ながら独りごちるキンブリーの言葉は、無論森あいという少女に向けたものだった。 「おや、反応が薄いね。 少しばかり残念がるか、あるいは僕に憤ってくれた方が面白いのに!」 道化じみた態度を崩さない趙公明への対応も最早手慣れたもの。 眉を下げたうすら笑いを返しつつ、両手を開いて肩を竦める。 「その状況ではあなたの対応は及第点ですよ。 要は私に信を預けたという状態がクリアされてれば良い訳ですからね。 しかし――、これはあなたに同行することがやや難しくなったという事でもある。 今しばらくは平気でも、場合によっては後々別行動を考えなくてはいけないでしょう」 つまり、これからどうするか。問題はそこに集約される。 ひとまず趙公明は、向こうに見える巨大な女性の立体映像に関しては静観するよう釘を刺されたらしい。 が、この男の事だから、首を突っ込むのも時間の問題だろう。果たしてどこまで言いつけを守るやら。 他にも聞かされた話のいくつかでは、ネット、とやらにも興味が惹かれる。 この携帯電話という道具でも接続できるらしく、後で試してみようと心中呟く。 そして、それ以上にいろいろ楽しめそうな玩具が一つ。 「それにこちらとしても面白い素材を見つけましてね。 まあ、これ以上あの少女に構っても時間対効果は低いですし、丁度いい頃合いですよ」 目を向けた先には、倒れ伏した血塗れの少年が転がっていた。 肉体的にも精神的にも疲れ切ったのか今はぐったりとしており、しばらく目を覚ます事はないだろう。 正直な話、森あいにはこの少年との遭遇当初の険悪な雰囲気をもう少し耐えて欲しかったところだ。 血塗れで言動も支離滅裂なこの少年に恐怖を感じたのも仕方ないとはいえ、自分が彼と相対したほんの少しの隙に勝手に趙公明に助けを求めたとは。 その試みも何の意味もなかった上に、仕込みの仕上げを完了させることも出来なかった。 けれど、過去を振り返っていても得るものは何もない。 さしあたって今は目の前の少年――安藤潤也でどう面白おかしく遊ぶかを焦点にしよう。 邂逅のその瞬間を思い出す。 錯乱さえ感じさせる言動とともに覚束ない足取りでこちらの方へと駆けてきたこの少年は、 妲己や兄貴、金剛などと気になる単語をいくつも吐いていた。 どうやら何処の誰かは知らないが、下拵えを完璧に整えてくれていたらしい。 キンブリーでさえ舌を巻くその手腕は実に大したものだ。 また、この少年はキンブリー自身の事をどこかで聞きつけていたらしく、 自己紹介の折に『蘇生が出来るのは本当か』などと凄い剣幕で詰め寄ってきた。 無論、と鷹揚に頷いてやったら、その場で力尽きたらしくがくりとへたり込んでそのまま沈むように眠ってしまったのだ。 恐らくは先に仕込みを終えた白雪宮拳経由の情報だろう、種が育ってまた新たな種を育む様は見ていてとても嬉しいものである。 まさしく文字通り、糸を切ったように唐突に眠り込んでしまった少年。 まだまだ詳しい話は全く聞いていないが、それは目覚めてからのお楽しみにしておこう。 もう一つの問題として、さて、この治療を施した少女をどう扱うか、というものがある。 こちらもまた目覚める様子はなく、予定通り打ち捨てておくのが賢明か。 なにせ森あいがいなくなったとあれば、まさしく不要な代物でしかないのだから。 どうせはぐれるのなら、せめて無駄に力を使う前にしてほしかったですね、と内心愚痴をこぼすキンブリー。 まあ、一見ガラクタにしか見えないものにも使い道が残っている時もあるのも確かだ。 ひとまずこちらは保留とすべきか。 「――話を戻しましょう。 やっと合点がいきましたよ、私にこんなものが支給された理由がね。 あのカタログにあった“交換日記”――それがこの、ケイタイデンワ、とやらの機能だったとは」 この鬼札と彼自身の遭遇さえ予定されたこと。 そのサポートの道具まで目の前にある事に嘆息するも、悪い気はしない。 つまりはそれだけ、自分は“神”の陣営に近しいと見込まれているということなのだから。 頬肉をわずかに吊り上げ、く、と快を漏らす。 「まさしくお誂え向きに僕たちのために用意されたものだろうね! たとえ別行動をしたとしても互いに連絡し合い、フォローをしあうことが出来るアイテムだ!」 未来日記所有者7th――戦場マルコと美神愛。 本来は彼らが持っていた未来日記こそが、今、キンブリーと趙公明がそれぞれ手に持つ“交換日記”だ。 その機能は簡潔に説明すると、お互いの未来を予知し合うというものである。 片方だけ用いるならば“雪輝日記”とさほど性能に差はないが、二つ組み合わせることで所有者たちの“完全予知”を行う事が可能となる。 総合的な情報量が多いが雪輝中心の未来のみを予知する“無差別日記”+“雪輝日記”と違い、 情報量そのものは少ないものの使用者たち双方の未来をカバーすることが出来る性質を持つ。 逆に言えば。 所有者自身の未来を予知する事は出来ず、有効活用するためには相方との連携が必須とされる未来日記でもある。 「……加えて、使用にはリスクが伴う。 使用者の首輪から半径2m以内でこの“プロフィール欄”を編集し、本人の名前を入力することにより機能を解放することが出来ますが――、」 本来ならばマルコと愛専用の未来日記をこの殺し合いで用いることが出来るようにする措置なのか、 手順を踏むことで予知対象を変更することが可能だと説明書きには記されている。 “マルコ”の携帯電話からは“愛”の携帯電話の使用者の、“愛”の携帯電話からは“マルコ”の携帯電話の使用者の予知が可能となるようだ。 一見便利にもほどがあるアイテムだが、しかしキンブリーは使用に躊躇する。 そうは問屋が卸さないとばかりに説明書きの続きには無視など到底できない記述が存在していたのだ。 はあ、と心底渋い顔で長い長い息を吐く。 「……止めておきましょうか。現状そこまでの危難も存在しませんし、使う必要はないでしょう」 研究対象としても非常に興味深いし、未来予知によるリターンは非常に魅力的だが、致し方あるまい。 何より、この未来日記を使用するには相方への絶対の信頼が必要不可欠だ。 自分の未来を予知されては、いざ敵に回った時に確実に詰む。 ……特に。 現在の自分の相方のような、絶対に油断のならない存在に対しては、尚更。 向こうの行動を予知できるのはこちらも同じだが、地力の差が圧倒的だ。 策を弄してもその策まで知られてしまうようではお話にならないのだから。 確かに感性の近さなどから親近感のようなものは無きにしも非ずだが、流石に自分の未来を預けられるほどではない。 そもそもが唐突な出会いだったのだ、何時この協働関係が崩れてもおかしくない以上、身を委ねるには不安が過ぎる。 内心の不信を押し隠しながら、ちらり、と横目で趙公明を見る。 「……な、」 絶句。 さしものキンブリーであろうと、ただ、絶句するしかない事態がそこにはあった。 珍しく口をあんぐりと開け固まったキンブリーの耳に、ゲーム版封神演義のカラオケで披露された麗しき子安ボイスが入り込む。 「この電話が破壊された時、プロフィール欄に記された名前の持ち主もまた、死亡する……? 構わないじゃないか、戦いにはリスクが付き物だ! 自身が敗れる可能性もないまま力を振るうのは断じて僕の望む闘争などではない――、ただの子供の癇癪さ」 趙公明は目の前で、己自身の名前をプロフィール欄に入力して見せていた。 そして――、にこやかにそれを自分に放り投げてよこすのだ。 動けない。 目の前の奇行に理解が及ばず、時が完全に凍りついている。 だってそれは、心臓を手に握らせるのと同じこと。 キンブリーが今、受け取った携帯電話をちょいと割り折っただけで、たったそれだけでこの男は死ぬことになるのだ。 だと言うのに、趙公明は静水の如く全く揺らがない。 態度の意味が、分からない。 絞り出した声は途切れ途切れで、キンブリーの脳内は白に塗り潰されそうなのが目に見える。 「……一体、何を……考えている、のですか? 仮に今ここで私がこの携帯電話を破壊したら、あなたはあっさり死ぬことになるのですよ? 正面からあなたを倒すのは難しいでしょうが、握った電話の破壊だけならやってやれない事はない。 折しも今、あなた自身の言った通りに」 困惑を通り越し、狼狽とさえ呼べる反応を返すキンブリー。 趙公明はそれを見て満足したのか破顔し――、 「ハァーッハハハハッ! 愛さ、愛だよキンブリーくん!」 場違いな単語で、疑問の全てに答えて見せた。 「愛……?」 「そうとも。僕は君がそんな事をしないであろうという事を確信している。 親愛、信愛、友愛、人愛、敬愛、恩愛……。 僅かな時間の付き合いながら、君の嗜好は僕がそれらの感情を抱くのに十分だった。 僕は君のその美学に敬意を払い、同時に親近感を抱いているのさ。 数多ある感情の全てに共通する一字があるのなら、それこそが真実。 これを愛と呼ばずに何と呼ぶのだろう!」 ブワリと趙公明の周りに何処からともなく黄金の花弁が舞い散った。 じぃ、と星を抱いて自分を見つめる真摯な瞳。 意識せずに、キンブリーの頬が思わず朱に染まる。 顔が熱を持つのを、自覚してしまう。 「愛――それは一なる元素。 僕はその愛を、これからも君と深めていきたいと思う!」 飛び込んで来いとばかりに鷹揚と両手を広げる趙公明。 何処までもまっすぐな視線は、確かにキンブリーへの十全の信頼を証明していた。 「……やれやれ。そうまで言いきられてしまっては、ね。 此方としても断ったら立つ瀬がなくなってしまうではありませんか」 キンブリーは、その強さに耐えられない。 目線を逸らす――、きっとそれは陥落を意味していたのだろう。 キンブリーは照れを隠すように頬を掌で隠し、自分自身の携帯電話を取り出した。 慣れない手つきで一字一字、慈しむように自分の名前を打ち込んでいく。 「……この催しを更に楽しむために最適な手段だと思ったからこそ、こうするだけですよ。 決して、あなたの為にした訳ではありませんからね」 相変わらず目線を合わさないキンブリーに、趙公明は静かに頷いた。 「無論、今はそれでいいとも。今は……ね」 「――ッ……!」 不意の言葉に息を呑み込む。 ようやく名前を打ち込むと、そこには確かに、手を取り合った自分たちの未来が示されていた。 「……ご自愛を。 流石に自分自身の命くらいは、己の手に収めておくべきですよ」 ゆっくりと歩み寄り、パートナーに電話を返す。 手と手で受け渡されるそれは、まるで指輪の交換のようだった。 観測者はここに、薔薇の花を幻視する。 いつしか真っ赤な花が、確かに咲き乱れていた。 【H-08/橋の手前/1日目/午前】 【趙公明@封神演技】 【状態】:健康 【服装】:貴族風の服 【装備】:オームの剣@ワンピース、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記 【道具】:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数 【思考】: 基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。 1:闘う相手を捜す。 2:映像宝貝を手に入れに南に向かいたいが、お達し通り様子見。 しかし、楽しそうなら乱入する。 3:カノンと再戦する。 4:ヴァッシュに非常に強い興味。 5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。 6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。 7:映像宝貝を手に入れたら人を集めて楽しく闘争する。 8:競技場を目指したいが……。(ルートはどうでもいい) 9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。 10:ネットを通じて遊べないか考える。 【備考】」 ※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。 ※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。 【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】 【状態】:健康 【服装】:白いスーツ 【装備】:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記 【道具】:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本 学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数 【思考】 基本:優勝する。 1:趙公明に協力。 2:首輪を調べたい。 3:剛力番長を利用して参加者を減らす。 4:森あいが火種として働いてくれる事に期待。 5:参加者に「火種」を仕込みたい。 6:入手した本から「知識」を仕入れる。 7:ゆのは現状放置の方向性で考える。 8:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。 9:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。 【備考】 ※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。 ※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。 ※制限により錬金術の性能が落ちています。 ※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。 【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】 【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、 右手首骨折、泥の様に深い眠り 【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。 【装備】:獣の槍、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている) 【所持品】:空の注射器×1 【思考】 基本:兄貴に会いたい。 0:……。 1:旅館に行って兄貴と会う。 2:キンブリーから蘇生について話を聞く。 【備考】 ※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。 ※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。 ※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……? ※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。 ※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。 【ゆの@ひだまりスケッチ】 【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、洗剤塗れ、気絶 【服装】:キンブリーの白いコート 【装備】: 【道具】: 【思考】 基本:??? 1:ひだまり荘に帰りたい。 【備考】 ※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。 ※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。 ※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。 ※混元珠@封神演義、ゆののデイパックが三叉路付近の路地裏に放置されています。 ※切断された右腕は繋がりましたが動くかどうかは後続の作者さんにお任せします。 【交換日記@未来日記】 未来日記所有者7th、戦場マルコ&美神愛の所有する未来日記。 我妻由乃の“雪輝日記”の様に、特定の一人だけを予知する機能を持つ二つで一つの未来日記である。 使用者自身の予知は出来ないが、互いに未来を予知し合う事で完全予知を実現する。 今ロワには7thが参加していないため、携帯電話のプロフィール機能を用いることで予知の対象を変えることが出来る措置がなされている。 具体的には、使用者の首輪から半径2m以内でプロフィールの名前欄に本人の名前を入力することで機能が解放される。 予知の対象はもう片方の交換日記のプロフィールに記された名前の相手となる。 ただし未来日記のルールに則り、名前を入力した時点から携帯電話の破壊=使用者の死亡となる。 “無差別日記”や“逃亡日記”などで予知の対象変更が可能かどうかは不明。 * 1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res 6) 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。 どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 6 名前:ポテトマッシャーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:mIKami7Ai 森あいさんと潤也さんのお兄様を探しています。 ご本人か行き先を知っていらっしゃる方がいましたら、ご連絡ください。 * 光の飛沫が形作る独演会。 半透明なパイプオルガンから噴水のように吹き上げては降り注ぐ金粉の流れが、天上の舞台を描き出している。 同心円状に拡散する煌めく粒子は、円盤の端に辿り着くと滝に呑まれて眼下に降り注いでいった。 まるで古代人の描いた地球のような円盤状の大地。 全天を闇と彩雲に包まれたその場所で、二つの影が世界を睥睨する。 木枠と扉だけが無数に宙に漂っており、その開いた向こう側には数多の人の生き様が映し出されていた。 ひとつは、純白のスーツに身を包み、長髪を後頭部で括った青年。 ひとつは、異形の剣を異形の身に佩く髑髏の男。 「事象を一面から捉える事は叶わぬ。 誰もが悪夢と罵る催事であろうと、兆しを待つ者には深淵へと渡された蜘蛛の糸として、千載一遇の好機となる折さえ在る。 我等の様に」 馬上の騎士が呟いたその声に、青年は応えを返さない。 ただ、その手に摘まんだ一輪の花を鼻に近づけ――、 「この美しく整った盤面に、願わくば」 虚空へと、投じた。 「なるべくなら良き日々が多くありますよう――」 花は光の濁流に飲み込まれ、千切られ、翻弄され――見えなくなる。 そして、誰も見届けることのない流れの中で、闇の中へと融け消え入った。 花の名前は曼珠沙華。またの名を彼岸花。 意味する花言葉は――、 時系列順で読む Back 燃えよ剣(下) Next 厨BOSS BATTLE-BERSERK- 投下順で読む Back 燃えよ剣(下) Next 厨BOSS BATTLE-BERSERK- 115 燃えよ剣(下) 安藤潤也 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻 108 Guilty or Not Guilty ゾルフ・J・キンブリー 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻 108 Guilty or Not Guilty 趙公明 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻 108 Guilty or Not Guilty 森あい 125 「あの未来に続く為」だけ、の戦いだった 108 Guilty or Not Guilty ゆの 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1765.html
10話 後編 勢いを盛り返したキュルケとタバサがラングラーを追い詰める。 「いくわよ、タバサ!」 キュルケの声とともに、複数のファイア・ボールがラングラーに殺到するッ! それと同時にラングラーは鉄クズの弾丸を二人に向けて放つが、 タバサのウィンド・ブレイクがそれらを全て元の軌道からそらす。 二人を貫くはずだった鉄クズはギリギリのところで二人には当たらず、 その後ろの壁に突き刺さる。 そしてラングラーも、自分に向かってきたファイア・ボールは 全て唾を吐きかけた掌で消滅させる。 互いの技術と能力が、互いの攻撃を無力化する。 このままでは、押し込まれかねない。 ラングラーはそう思った。 相手の小娘メイジは二対一で戦うことで精神力の磨り減りを遅くしている。 しかしさっきから鉄クズを撃ちまくっている自分は、残弾にあまり余裕がない。 チョロい仕事だと思って補給二回分の鉄クズしか持ってこなかったのが、 この状況ではかなり痛い。 一回目の補給は既にしてしまったので、次の補給が最後になる。 今までのようにハイペースで撃ちまくることは出来ない。 しかし――手数を減らす事はできない あの青髪の小娘。 あれがいる限り、こちらの攻撃が直撃する事は望めない。 加えて今はこっちの攻撃を防御するのに徹してるからいいが、 こっちの攻撃の度合いが弱まればすぐ攻撃に参加してくるだろう。 接近戦に持ち込む、というのも考えたがすぐに止めた。 そんなことをしたら確実にホワイトスネイクが動く。 赤髪の小娘の炎を消しつつ、 JJFの射撃をほぼ凌ぎきったホワイトスネイクと接近戦で立ち回れるほど JJFは器用じゃないし、自分もそうじゃない。 このままでは、詰まれる。 その焦りが、ラングラーに一つの決断をさせた。 この二人の小娘を、カラカラのミイラにしてやると。 こんな小娘相手に「これ」をやるのは腹立たしいが、 やらずに負けて死ぬよりはずっとマシだ。 そしてキュルケのファイア・ボールの弾幕が一瞬途切れた瞬間、 ラングラーはJJFの両腕のリングを開いた。 鉄クズの弾幕が途切れる。 それと同時にタバサが素早くルーンを唱え、身の丈より長い杖を軽く振る。 ラングラーがJJFの腕のリングに唾を素早く吐き入れたのは、 それのコンマ一秒、二秒ほど後。 直後、タバサのエア・ハンマーがラングラーに襲い掛かる。 ゴォアッ! 唸りを上げて自分に迫る風圧の塊をラングラーはモロに食らい、 壁に叩きつけられる。 ドグシャァッ! 「があッ!」 自分の体に走った衝撃と鈍痛にラングラーが呻いた。 だが顔を苦悶に歪めながらも、ラングラーの口は笑みの形に歪んでいた。 JJFの腕のリングは既に閉じ、高速で回転していた。 そのリングの中で、先ほど吐き入れられた唾は拡散、分散し、 リングの中の全ての鉄クズに付着した。 無重力の世界を生み、さらに真空の世界を作り出すラングラーの唾。 それが、弾丸として発射される鉄クズをコーティングした。 この世界でラングラーが編み出した、 JJFの究極にして最悪の戦術が始まった。 「ようやく・・・追い詰めたってとこかしら?」 タバサのエア・ハンマーで確実なダメージを受けて膝を突くラングラーを見て、 キュルケはそう呟いた。 「まだ油断できない」 タバサはそれを制するように言い、杖をラングラーに向ける。 キュルケはそれに頷くと、タバサと同様に杖を構える。 二人とも残りの精神力にはあまり余裕が無い。 決着をつけるなら、次しかなかった。 そのときだ。 「しかし・・・お前らは・・・よく頑張ったよ」 ラングラーが二人に声をかけた。 エア・ハンマーをまともに食らった割には、その声に張りがあった。 「・・・どういう意味よ?」 警戒しつつ、キュルケが答える。 「まだハタチにもならねえってのに・・・トライアングルで・・・ オレとここまで・・・やりあえるとはな・・・恐れ入ったよ」 「だから何が言いたいのよ!?」 明らかに追い詰められた状況でありながらも余裕を崩さないラングラーに、 キュルケは得体の知れない恐怖を感じた。 タバサも口こそ開かなかったが、キュルケと同様にそれを感じていた。 「だがな・・・お前らは・・・これから詰まれるんだぜッ!」 瞬間、JJFがリングに残る全ての鉄クズを、部屋中に無差別に撃ち放った。 ドドドドドドドドドドドッ! 放たれた鉄クズは、あるものはキュルケ、タバサ、そしてルイズへと向かい、 またあるものは壁に突き刺さり、またあるものは壁を跳ねた。 タバサは自分たちの方向へ飛んでくるものを正確に見極め、 ウィンド・ブレイクで射線をずらす。 ルイズへと向かうものは、ホワイトスネイクがルイズのベッドをひっくり返し、 それを盾にしてガードした。 タバサはこの防御で、これでラングラーの攻撃が終わったと思った。 自分の方に向かってきた鉄クズ全てに対処しきったからだ。 だが――ラングラーの攻撃はまだ終わっていなかった。 ホワイトスネイクにはそれが分かっていた。 部屋全体にばら撒くような射撃。 ホワイトスネイクもこれでダメージを受けた。 この攻撃における、ラングラーの狙いは―― 「ソイツハ『跳弾』ダ! 警戒シロ!」 ホワイトスネイクが二人に向かって叫ぶ。 だが、それは遅すぎた。 いや、仮に遅くなかったとしてもこの世界には「跳弾」などという言葉は無い。 故にタバサがその言葉の意味を理解し、正確な防御に移る事は不可能だった。 ドシュシュシュシュシュシュッ! 直後、キュルケとタバサは全身に鉄クズの銃撃を受けた。 同時に二人の体から鮮血が飛び散る。 「がはっ・・・・・・」 「っ・・・く・・・・・・」 呻き声を上げながら崩れ落ちる二人。 「キュルケ! タバサ!」 ルイズが悲鳴を上げる。 「そんな・・・・・・なんで・・・・・・」 「『跳弾』ダ。鉄クズヲ撃ツ角度ヲ調節シ、 壁ヤ天井デ鉄クズノ弾丸ガ軌道ヲ変エルヨウニシタノダ」 「な、なによそれ・・・弾丸が壁とか天井とかで跳ね返って、 それがキュルケたちを攻撃したの? そんなの、ありえないわよ!」 「ダガ現実トシテ二人ハ銃撃ヲ食ラッタ。 ソシテ私モ、先程ソレデダメージヲ受ケテイル」 「そんな・・・・・・」 ホワイトスネイクの言葉に、打ちひしがれるルイズ。 「その通り・・・・・・だ。 そして今の弾丸・・・ただ身体に・・・穴が開くだけじゃあ・・・ない。 もっと・・・・・・面白く・・・なる」 「面白クナル・・・ダト?」 「そうだ・・・・・・見ていろ・・・・・・。 奴らの血で、この床と天井に真っ赤な水彩画を描いてやるぞ・・・」 場所は変わってまたトリステイン魔法学院の校庭。 ある者は命がけで戦い、ある者は盗みを働こうとするこの日の夜。 そんな夜に、二人の男女が校庭を歩いていた。 少女の方の名前はモンモランシー。 二つ名は「香水」。 そして一週間前に、恋人のギーシュに二股かけられた本人だ。 そして男の方は―― 「ああ、モンモランシー! 君は本当に美しいよ! 天高く輝くあの双月も、君の前ではその美しさが霞んでしまうほどに! いや・・・きっと彼らもわかっているんだ。 どれだけ輝こうとも君の美しさには敵わないってね。 だからああして輝きを弱めて、君の美しさを引き立てているのさ! きっとそうだよ! 僕の愛しいモンモランシー!」 …一週間前、モンモランシーがいながら二股をかけた、ギーシュその人であった。 そもそも何故最悪な関係に陥っていたはずの二人がこうして一緒に歩いているのか、それを説明せねばなるまい。 事の発端はギーシュがモンモランシーを夜の散歩の誘ったことであった。 ギーシュは二股かけてたことがバレて傍に女の子がいなくなった状態が一週間も続いていた。 それで寂しくなったからモンモランシーに泣きついたのだ。 だが実際に傍に女の子がいなくなる、という状況に陥って、真っ先にモンモランシーのところに来る辺り、 ギーシュとしての本命はモンモランシーなのだろう。多分。 浮気ばっかりしてるけど、多分そうに違いない。多分。 そしてモンモランシーの方も、それまではホワイトスネイクとの決闘で死に掛けたギーシュを心配はしたものの、 二股をかけられたことが思い出されて、あまりギーシュとは一緒にいたくない気分だった。 だが「一週間経ったから許してあげようか」という気持ちと、 やはりギーシュに対するまだ捨てきれない気持ちがあって、夜の散歩を了承した。 そしてさっきからもう10分もの間、ギーシュの歯が浮くようなお世辞をノンストップで聞き続けているのだ。 普通の女の子なら耳が痛くなってくるようなお世辞の数々だが、 モンモランシーには、むしろそれが気分がよく感じられた。 モンモランシーはおだてに弱いタイプだった。 だからこそ、ギーシュが他の女の子にフラフラと近づいて そのままお近づきになってしまうのをその時こそは怒っても、 そのうちすぐに許してしまうのだった。 二股駆けるギーシュがダメダメなのは言うまでも無いことだが、 モンモランシーも何だかんだでダメだった。 でもそうだからこそ、似合いのカップルなのかもしれないが。 ひたすらモンモランシーに愛の言葉を重ねるギーシュ。 それを頬を紅潮させながら聞くモンモランシー。 二人はまだ知らない。 今この瞬間も、この学院の中で死闘が続いていることを。 「くぅっ・・・・・・タバサ・・・大丈夫?」 「・・・大丈夫。まだ、やれる」 「ウソ・・・でしょ、それ・・・。 ギリギリのところで使えた魔法を、殆どあたしを守るために・・・・・・」 「・・・・・・大丈夫、だから・・・・・・」 そう言うタバサの顔は青ざめている。 無理も無い。 タバサが先ほどの攻撃で受けた傷は、鉄クズの直撃が右足に3つ、右腕に2つ。 鉄クズのかすり傷が、脇腹に1つ、肩に1つ。 また、キュルケは鉄クズの直撃が左足に1つ、左腕に1つ。 それのかすり傷が左大腿に一つ、頭に一つ傷が出来ている。 ラングラーの射撃が二人を襲う直前、タバサはウィンド・ブレイクを使っていた。 しかしそれは、魔力を殆ど込める間もなかった弱弱しいものだった。 にもかかわらず、タバサはそれの殆どをキュルケを守るために使った。 そのため彼女が受けたダメージはキュルケのそれよりも、 ずっと多く、そして深いものになったのだ。 傷の激痛で奪われそうになる意識を必死に留めながら、 タバサは思考を回転させる。 このままではまずい。 あの男・・・こちらが思っていたよりも遥かに強かった。 まさか、天井や壁で撃った鉄クズを反射させて、 想定外の方向からこちらを狙うなんて。 さっきのエア・ハンマーでダメージを受けたように見えたのは演技だったのか、 それともダメージを押してあの攻撃を仕掛けてきたか。 いずれにしても、今度は完全にこちらが追い詰められてしまった。 もう一度あの射撃を仕掛けられでも、今の自分ではそれを防御出来ない。 そう考えていると、ふと自分の体に奇妙な違和感を感じた。 体が、軽い。 まるで風に巻き上げられた落ち葉のように、まるで自分の体に重みを感じない。 さっきまで、あの男から受けた傷の激痛で体が鉛のように重かったのに・・・。 いや、違う! 「軽く感じている」などという程度ではない。 自分の体が浮いている! 風も無いのに、何かの力が働いているでも無いのに、 自分の体が宙に浮き上がっている! いや、そればかりではない。 手や足を動かすたびに体がグルグルと回転し、重心が定まらない! これは、一体。 「タ、タバサ・・・こ、これ!」 声がした方を見ると、キュルケの身体も宙に浮き上がり、空中で二転三転している。 一体何が起きた? さっきの弾丸に、何か特別な魔法でも仕掛けたのか? でもこんなことができる魔法は、系統魔法の中には無い。 ならば、こいつが使っているのは――。 「エルフの先住魔法・・・か?」 突然タバサに、ラングラーから声がかかった。 「オレと戦ったものは・・・皆・・・そう言う。 先住の魔法・・・エルフの魔法・・・とな。 当然だ・・・火の魔法・・・風の魔法は・・・使うことすら出来ず・・・ 土の魔法・・・水の魔法は・・・まともなコントロールさえ・・・出来ない。 このオレが・・・・・・『魔法殺し』と・・・呼ばれるのは、そのためだ。 だが・・・オレが使うのは・・・そんなものではない。 それらより強力で・・・それらより凶悪なものだ・・・。 その力で殺されることを・・・誇りに思うがいい・・・・・・」 先住の魔法ではない? だとしたら、一体何がこれを引き起こしている? 考えても考えても、自分に起こったこの現象が説明できない。 とにかく自分の体を固定しなければ。 そう思い、杖を振ってレビテーションを唱え始める。 一体どういう原理で浮き上がっているのかは不明だが、 レビテーションなら身体を魔法で浮かせ、身体を空中に固定できるはずだ。 そう判断してのことだった。 そして、状況が変化したのはその瞬間だった。 傷口から流れ出ていた血の勢いが、突然強くなった。 まるで傷口から血が噴出すように、溢れ出るように流血し始めた。 そして次第にそれすらも通り越し、瞬く間に流血の勢いは強くなり、 まるで噴水のように傷口から出血しているッ! 「こ・・・これは・・・・・・」 「・・・・・・」 自分の身に起こった現象に呆然とするキュルケ。 そして自分の体から血が吹き出るという現実に驚愕したのはタバサも同じだったが、 風のメイジであった彼女にはそれ以上のことが理解できた。 自分の周りから、極端に空気が少なくなっている。 それに呼吸もしにくくなっている。 このままでは窒息してしまう。 それ以前に全身の血液がなくなって、干からびてしまう! どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる! 自分はまだ、死ぬわけにはいかないのに・・・・・・。 そしてその様子を、ルイズも見ていた。 ルイズは、自分を責めていた。 何も出来ないばっかりに守られて、 それで守ってくれる人が死にかけているのに、それでも何も出来ない自分を。 守られていながら、助けることさえ出来ない自分を。 自分が水のメイジだったなら、二人を治療できた。 火や風のメイジだったなら、アイツと戦えた。 土のメイジだったなら、ゴーレムの一つでも錬金して時間稼ぎが出来た。 なのに自分はそのどれでもない。 自分は「ゼロ」だ。 何の魔法も使えない、役立たずの「ゼロ」。 一週間前のギーシュとの決闘は、自分に何か光が見えたように思えた。 爆発しか起きない「ゼロ」の自分でも、 役立たずの「ゼロ」じゃないんだと思えた。 だが現実は違った。 結局自分は何も出来ない、役立たずの「ゼロ」だった。 自分を助けてくれた人が窮地に陥っても、 それに何の助けも出せない「ゼロ」だった。 ルイズにはそれがどうにも許せなくて、そして悔しかった。 悔しさで涙がこぼれそうになった、その時。 「マスター」 自分の前に立っているホワイトスネイクから声がかけられた。 顔はこちらには向いていない。 「・・・なによ。ホワイトスネイク」 こぼれそうになった涙を拭って、ルイズは不機嫌に聞こえるように答える。 「アノ二人ノタメニ命ヲ賭ケラレルカ?」 「・・・当たり前よ。何でそんなこと聞くのよ」 「今アノ現象ハ、アノ二人ヲ中心ニ起コッテイル。 ソシテ二人ヲ助ケルニハ、マスターモアノ近クヘ行カネバナラナイ。 マスターガラング・ラングラーニ殺サレタナラ、二人ノ努力ガ無駄ニナル。 デアル以上、マスターハ私トトモニ行動シ、私ガ護衛シナケレバナラナイ。 故ニマスターモアノ症状ガ出ル空間マデ行カネバナラナイ。 ・・・ソレデモ助ケルノカ?」 「それでも、よ」 ルイズの言葉に、迷いは無かった。 「・・・キュルケトカイウ女ハマスタートハ不仲ダ。 ソシテタバサトカイウ小娘ハ今日初メテ会ッタバカリ。 命ヲ賭ケルニハ、アマリニモ安イ間柄ダ。 ナノニ、何故ソノ二人ノタメニ命ヲ投ゲ出セル? 親友デモ、血族デモナイ相手ニ何故ソコマデデキル?」 それは、ホワイトスネイクにとって率直な疑問だった。 以前ホワイトスネイクがいた世界 ――かつての自身の本体、プッチ神父とともにあった世界でのこと。 あの世界で戦った男――空条承太郎は、 娘を守るために千載一遇の勝機を捨てた。 そしてその空条承太郎の娘、空条徐倫もまた、 父親の記憶のためにプッチ神父を仕留めるための最大の好機を逃した。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親子だからだ。 互いに血を分けた存在だからだ、とホワイトスネイクは考えていた。 また、スタンドを探して世界中を巡った旅の中で、 プッチ神父を友の仇、親友の仇として襲うスタンド使いもいた。 そうしなれば、プッチ神父にスタンドを奪われることも、 その後にドロドロにされて死ぬことも無かったのに。 なのに彼らはプッチ神父に挑まざるを得なかった。 挑まなければ、自分の心に決着を付けられなかった。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親友だからだ。 互いが互い無くしては生きては行けない存在だからだ、 とまたホワイトスネイクは考えていた。 だが、この状況は違う。 今自分の主人の前で死に掛けている二人の小娘は、 主人の血族でもなければ主人の親友でもない。 なのにこの小さな主人は、そんな二人のために命を賭けると言っている。 何故そんなことが出来る? 何故自分の命をそこまで簡単に扱える? それが、ホワイトスネイクには理解できなかったのだ。 「ソシテ助ケタイ、トイウノハ自己満足カ? ソレトモ偽善カ?」 さらにホワイトスネイクは厳しい問いをぶつける。 「・・・そうかもしれない。 役立たずになりたくないって気持ちが、わたしの中にあるもの。 でもそれは二人を助けない理由には絶対にならない。 だから、助けるのよ。 わたしが助けたいから、助けるの」 それが、ルイズの真摯な思いだった。 確かにキュルケには気に入らないところもある。 タバサって女の子に至っては、助ける義理も何も無い。 それでも、見殺しには出来ない。 だから、助ける。 自分が助けたいから、助ける。 それが、ルイズの答えだった。 「ソウカ」 ホワイトスネイクはそう短く言うと、ルイズに向き直る。 そしてルイズを片手で抱え上げる。 「覚悟ハイイナ?」 「いつでも」 ホワイトスネイクの問いに、ルイズが短く答える。 「承知ッ!」 その答えにホワイトスネイクが力強く応えるッ! そして床を強く蹴り、二人の少女の下へと疾走するッ! 「なッ、なにしてやがるッ!!」 それに驚いたのはラングラーである。 無傷で確保しなければならない相手が自分が作り出した死の空間へと、 何のためらいも無くホワイトスネイクとともに突っ込もうとしているのだ。 このままでは「無傷での確保」は不可能。ならば、阻止するしかないッ! ラングラーは最後の補給を終えたばかりのJJFに腕を構えさせる。 ドンドンドンドンドンドンッ! そしてホワイトスネイクの動きを追うように、 JJFにありったけの鉄クズを撃ち放たせるッ! 計画性のカケラもない行動だった。 だが任務を完遂することの方が、ラングラーには重要だった。 しかしホワイトスネイクは速い。 放たれた鉄クズの半数はホワイトスネイクが通り過ぎた直後の空間を貫き、 ホワイトスネイクにはかすりもせず、 しかし残り半分はホワイトスネイクへと殺到する。 だがホワイトスネイクはそれらを拳で弾き飛ばそうとはしない。 逆にルイズを庇うようにガードを固める。 ドシュシュシュッ! そのホワイトスネイクに、いくつもの鉄クズが突き刺さるッ! その数、4発。 足に、脇腹、腕に、そして頭に着弾し、頭部に命中したものはその一部を吹き飛ばしたッ! しかしホワイトスネイクは止まらないッ! 苦しみもがきながら空中を漂うキュルケとタバサの元へと一直線に駆けるッ! そして、キュルケとタバサを苦しめる症状 ――真空の魔の手が、ルイズにも襲い掛かる。 ルイズの鼻から、突然鼻血が噴出す。 同時に、ルイズの呼吸も苦しくなってくる。 ホワイトスネイクが自身の腕からDISCを抜き取ったのはその瞬間だった。 そして抜き取ったDISCを間髪いれずにルイズの頭部に差し込むッ! 「命令スル。『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』」 ホワイトスネイクが、静かにそう命令する。 と同時に、ルイズの鼻血が止まった。 外気圧と体内気圧の差のために体内から血液が押し出されるのを、 この命令によって防いだのだ。 しかし、ルイズの呼吸が苦しいのは変わらない。 ルイズの周囲に殆ど酸素が存在しない状況を変えることは、 ホワイトスネイクのDISCの命令ではできないからだ。 しかし、血液が全て体外に押し出されてミイラになるよりは、 まだ死ぬのが遅い。 その僅かなタイムラグに、ホワイトスネイクは全てを賭けたのだ。 やがて、酸欠でルイズが意識を手放す。 ルイズは自分の意識が真っ白になっていくのを感じながら、 ホワイトスネイクが、二人を救ってくれることを祈った。 そしてホワイトスネイクは、キュルケとタバサの元へ到達した。 スデに意識を失っていた二人に、ルイズにしたものと同じ命令を差し込む。 後数秒でも遅れていたならば二人の命は無かっただろう。 しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。 あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。 そう決意してキュルケとタバサを背負うと、ラングラーのほうへ振り向く。 そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。 「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・。 ホワイトスネイク・・・テメー一体・・・何を、しやがった・・・」 「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」 そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。 真空の発生源であるキュルケとタバサはホワイトスネイクに担がれているッ! つまり、この状況は―― 「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」 ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。 だがすぐに壁に背がぶつかる。 もう後ろには下がれない。 正面から迫るホワイトスネイクは、 自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。 ならば―― 「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」 咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。 そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ! 「くらえッ!!」 ドンドン! そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。 だが狙いは甘かった。 大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。 ラングラーが一瞬抱いた真空への恐怖が、 その照準を正確なものにしなかったのだ。 だが、3つ。 それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。 しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。 だがホワイトスネイクは避けようともしない。 自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、 真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ! ドシュシュッ! そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。 ホワイトスネイクの、膝が落ちる。 勝った、とラングラーは感じた。 だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。 落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、 レスラーがタックルをかけるようにラングラーへと襲い掛かるッ! ホワイトスネイクはスタンドである。 そして今のホワイトスネイクは、 本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ! そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ! 「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」 それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、 壁にたたきつけられる。 JJFで防御する余裕すらなかった。 そして、真空の範囲にラングラーが入った。 真空が、ラングラーに襲い掛かるッ! 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。 そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ! (マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ! 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!) 完全に追い詰められた状況ッ! そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ! 「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」 ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ! 追い詰められ、生へとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、 壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ! そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。 そしてラングラーの体が、その後ろから押さえつけるホワイトスネイクのパワーに押され、ルイズの部屋から空中に放り出された。 その瞬間。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」 ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ! そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、 二人を取り囲んでいた真空地帯へ吹き込んだ突風に、 木の葉のように吹き飛ばされるッ! ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、 ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ! しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ! 手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。 (解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、 外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!) ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISCを抜き取る。 そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISCを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。 だがまだ油断は出来ない。 地上が、眼前に迫っている。 今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。 ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。 ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。 ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。 そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。 だが今ホワイトスネイクが抱え、背負うのは三人の人間。 抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。 そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。 しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。 着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。 出来るか。 ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。 その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。 そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。 無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。 だがホワイトスネイクは膝を突かない。 膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。 そして、耐え切った。 そのことを実感すると、 ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。 ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。 衝撃の発生源は腹部。 そこに目を向ける。 自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。 そして、やられた、と思った。 JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。 空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、 風圧に耐えていた。 そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。 落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。 そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。 ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。 もはや両足で立つこともできない。 そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。 ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。 「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・生かしておくつもりはねえッ!」 そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。 それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。 ダメージは、あまりにも大きかった。 これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。 そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。 「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」 そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。 「勝ったッ!!」 ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫んだ。 ドグシャアッ! ドシュンッ! 直後、二つの音が交錯する。 JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、 そしてそれとは別の音が校庭に響いた。 そして視界が真っ暗になる。 何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。 捻りかけて、理解した。 自分の額に、あの忌々しいDISCが突き刺さっている。 そのDISCに目隠しされているのだ、と。 そしてそうだ。 「これ」はさっき見ていた。 これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。 ホワイトスネイクはこのDISCで、自分の真空から三人を守っていた。 しかし、だとしたらその効果は一体・・・。 「ソノDISCノ効果・・・教エテヤロウ」 「!!??」 バカな!? 何故ホワイトスネイクが生きている!? ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。 手ごたえも十分にあった! …いや、本当にそうだったのか? 本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか? インパクトの瞬間、オレはヤツのDISCで目隠しされたんだ。 だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。 「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」 暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。 『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと? …何だとッ!? じゃあまさか、これからオレはッ!? 「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、 ペシャンコニナル。 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」 その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。 まず、息が出来なくなった。 正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ! そして破壊はさらに進行するッ! ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、 ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ! 「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」 声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。 呻きながらも、JJFに指示を出す。 自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。 だが、それもすぐに止められた。 JJFの腕が、動かない。 ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、 そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ! 「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」 しかしラングラーは止まらない。 JJFへの指示を止めはしない。 そして主人のダメージに従ってボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、 主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!! それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。 JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。 今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。 撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に当たり、 そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。 巨大なゴーレムの一撃ですら破壊できない壁に、目に見える形で損傷を与えた。 そして残弾が完全に尽きたのと同時に、 ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。 ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。 「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」 ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。 そして周りを見回す。 見回して、ひどい有様だと思った。 周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。 ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。 全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。 もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。 (シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?) 自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。 その時―― 「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」 バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。 どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。 「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」 「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」 声の主はやっぱりギーシュだった。 そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。 しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。 「・・・・・・何シニ来タ」 ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。 「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。 それで・・・感動したんだ! 不届き者から三人のレディーを守り、 満身創痍になりながらも勝利した君の姿に! そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ! 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう? それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、 レディーのために戦ったんだね! あのメイドを僕の勝手から守ったのも、 レディーを守るという君の新年に基づいたものだったと分かったんだよ! はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ! 何も言わずとも分かる! 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」 延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。 やったのはモンモランシーである。 しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。 一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。 お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく色々と心配だ。 そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、 じろりとホワイトスネイクをにらむ。 ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。 「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。 でも・・・・・・」 そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。 すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。 水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。 ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。 「この三人がケガをしてるのは別の話よ。 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ? ・・・だったら私がしてあげるわよ。 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、 水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、 魔法薬での治療が必要になるけど。 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。 勘違いしないでよ」 「・・・覚エテオク」 ホワイトスネイクがそれだけ言うと、 モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。 そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。 「どうしたのよ、ギーシュ?」 「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」 「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」 「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」 モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、 ギーシュが指を差しながら何か言っている。 だがモンモランシーには何が言いたいのか全く理解できない。 かろうじて、何がしたいかが理解できたホワイトスネイクが、 ギーシュが指差す先を見ると―― 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1373.html
「ふわぁ~、朝早く目が覚めたのはいいけど……な~んか暇だなぁ」 欠伸をしながらPCの電源を落とす。 春休みに入って数日が経った。 この数日間は、漫画・DVD・積ゲーの処理を寝る間も惜しんでやった。 もちろん、合間合間にネトゲもやった。 集中的に遊びすぎて、さすがにどれも飽きてきた感がある。 「今日はかがみ達と会って遊ぶかねぇ」 現在時刻は朝の8時30分。 今から誘いをかければ午後からたっぷり遊べるだろう。 もちろん、ただ遊ぶだけが目的ではないのだけれども。 今年はこの短い休みにも宿題がきっちりと出されていた。 できることなら、最終日までに余裕をもって写しておきたい。 宿題を写して憂いを絶つ、それもかがみを誘う目的のひとつだ。 それはそうとして、だ。 いったい今日は何月何日で、休みはあと何日残っているのだろうか。 確認するためにカレンダーを見る。 まあ、カレンダーは好きな絵師のところで止めてあり、ここ何ヶ月も捲っていないので見たところで無駄なのだが。 「あ。そういえば」 ベッドを置いてある方の壁を見る。 そこには日めくりカレンダーが掛かっていた。 『今日が何月何日かぐらい常に把握しろ』 とか言って、お節介にもかがみが勝手に掛けていったものだ。 まあ、自分が持て余してたのを持って来ただけなのかもしれない。 ちなみにこのカレンダー、私はまだ一度も捲ったことがない。 捲っているのはかがみだ。 この部屋に遊びに来るたび、文句を言いながら4~5枚捲っている。 『私がせっかくプレゼントした意味がないじゃないの!』 とかなんとか言いながら。 今は、かがみが最後に家に遊びにきた日――3月25日――で止まったままだ。 「たまには、自分でめくってみようかネ」 記憶をたどり、深夜アニメを見た回数分だけびりびりと捲る。 今期は割と良作が揃っていて、毎日アニメを見ているから捲る枚数を間違えることは絶対にない。 極めて私流ではあるが、このカウント方法に頼るのが1番確実だったりする。 捲ったカレンダーはくしゃくしゃにまるめて、ゴミ箱にポイだ。 「……ほほう」 カレンダーが示している日付を見て、ニヤリと笑う。 体のダルさが吹き飛び、頭の中が冴え渡ってくる。 その日付表示は、私のエンジンに火をつけたのだ。 4月1日。 そう、今日はエイプリルフール。 つまり、嘘をついていい日。 なんだか、よくわからない使命感で み な ぎ っ て き た 。 よし!毎日の勉強で疲れているだろう友人達に、最高のユーモアをプレゼントしてさしあげようじゃないか! かの有名な“ド○えもん”という作品において、源し○か氏はこのような事を言っていた。 『人を喜ばせておいて、がっかりさせるような嘘はよくない』 『だから、嘘とわかった時に喜べるような“親切な嘘”をつくべきだ』 ここに高らかに宣言する!私はつこう、親切な嘘を!! ☆ まずは、かがみからだ。 携帯に電話をかける。 休みだというのに既に起きて活動していたのであろう、数回のコールですぐに出た。 「もしもし、こなた?あんたにしては珍しく早起きね」 「……かがみ……」 「どうしたのよ、なんか元気ないわねー。休みボケかぁ?」 「はは……そんなとこ、かな」 「ちょ、ちょっと、ホントに大丈夫なの?」 かがみの声色が心配を含んだものに変わる。 ここまでは順調。 「う、うん。まあ、だいじょぶ」 「そう?ならいいけど。それで、用件は?」 「えっとね、実は、私……や、やっぱいいや!」 「はぁ?」 「うん、悪いけど今のナシ。忘れて!じゃあね!」 「あっ、待ちなさいよ!」 ここで一方的に電話を切る。 かがみの性格からしてすぐにでも電話が……よし、かかってきた! 少し間を置いてから電話にでる。 「も、もしもし?」 「ちょっと、こなた!さっきの電話は何なのよ!?一方的に切ったりして!」 「なんでもないよ」 「とりあえず用件を最後までちゃんと言いなさいよ!気になるじゃない!」 「だから、なんでもないって」 「だから、なんでもないなら最後まで言えばいいって言ってんでしょ!?」 「しつこいよ!!なんでもないんだってば!!!!」 「……」 「……ごめん。怒鳴ったりして」 「……ううん。私もちょっと、大人気なかったわ。えっと、もう切るわね」 「あ、待って!……ねえ、かがみはさ……私の友達、だよね?」 「何?急にどうしたのよ?」 「いいから答えて!言っとくけど、私、真剣だよ?ネタとかじゃないよ?」 「……もちろん友達よ。親友って言ってもいいわ」 さあ、盛り上がってまいりました。 かがみの声は真剣そのもの。 微塵も私が演技をしていると疑っていないことうけあい。 いやあ、私もなかなかの演技派だネ。 「ありがと、本当に嬉しいよ……実はね、私、虐められてるんだ」 「イジメ?そんな……ウソ、でしょ?」 「かがみには隠してたけど、同じクラスのみんなから、私……私ッ!」 「何よソレ!!許せない!!いつから!?いったい誰が!?」 「去年の11月くらいから、カナ。始めたのは……その……つかさ、だよ」 「なっ……!!」 さて、仕上げに移りますか。 「ね、かがみ。いろいろ相談したいからさ、できればウチに来てほしいんだ」 「……いいわ。いつ行けばいいの?」 「じゃあ、1時頃に来てくれる?もちろん、つかさとみゆきさんには内緒で」 「ええ。わかったわ」 「ねえ、かがみに電話したこと、2人には内緒にしといてもらえるよね?」 「大丈夫よ、安心して。何があっても、私はあんたの味方だから」 「ありがと。かがみ」 「お礼なんていらないわよ」 「ついでに、春休みの宿題を見せてくれると嬉しいんだけどなぁ」 「ふふっ、いつもの調子が戻ってきたじゃない。ま、考えとくわ。じゃあ1時にね」 これでよし。 ウチに来たら全てをばらして、その後は一緒に遊べばいい。 完璧な計画だ。 ☆ さて、ターゲットは残り2人。 次の狙いは当然つかさだ。 早めに攻略しておかないと、かがみへの嘘がバレるかもしれないしね。 携帯に電話をかける。 3回も留守番電話センターに接続され、諦めようかなんて思い始めた頃にやっと出てくれた。 「もしもし、つかさ?」 「もしもし~、こなちゃん?……ふわぁ~、おはよ~」 「おはよ。ごめんね、朝早くに電話しちゃって」 「ううん、いいよ~。今日は早く起きるつもりだったし」 「そうなんだ」 「うん。今日から宿題をがんばろうかな~って。えへへ」 つかさの声はまだ眠そうだ。 この様子だと、少しばかり荒唐無稽な嘘でも信じてくれるだろう。 「ねえ、つかさに相談したい事があるんだけど」 「え?相談?」 「うん。いいかな?」 「うん。いいよ~。でも、私よりお姉ちゃんやゆきちゃんの方が――」 「つかさじゃなきゃダメなんだよ」 「えっ?」 「あの2人には、相談できないんだ」 「えっ?ど、どういうこと?」 急に真剣みを帯びた私の声に、つかさが戸惑いをみせる。 我、機を得たり。 ここからは一気にたたみかけよう。 「実はね、私、みゆきさんのモルモットにされてるんだ」 「も、もるもっと?」 「うん。いわゆる実験動物。いろんな薬を飲まされたり、注射されたり……」 「へ、変な冗談はやめてよ、こなちゃん。ゆきちゃんは、そんなことするような――」 「かがみも被害者なんだよ?かがみは私よりずっと前からみゆきさんに遊ばれてたんだ」 「お、お姉ちゃんが?」 「私もかがみから同じように相談されてさ、その時は何かのネタだと思って信じなかった。でも、それが間違いだった」 「う、嘘!嘘だよね、こなちゃん!?ねえ――」 「私はかがみを救えなかったんだ……今のかがみはみゆきさんの命令に逆らえなくなってて、私を監視しているみたい」 「そんなの嘘だよ!こなちゃん、いくら私でもいいかげん怒るよ!?」 「お願いだから信じてよ、つかさ……ねえ、最近さ、かがみの様子に何か、その、違和感とか感じなかった?」 「あ……」 つかさが黙り込む。 なんたる幸運。 何かしら思い当たる事でもあったのだろう。 だとしたら、これ以上の演技は蛇足だ。 そろそろ仕上げに移ってもいいだろう。 「ね、つかさ。いろいろ相談したいからさ、できればウチに来てほしいんだ」 「……うん。いつ行けばいいの?」 「じゃあ、1時半頃に来てくれるかな?わかってるとは思うけど、かがみとみゆきさんには内緒だよ」 「うん」 「もちろん、私がこんな電話をしたことも内緒だよ?つかさだって無事じゃいられないかもしれないし」 「う、うん。わかった。気をつけるよ」 「ありがと。つかさ」 「お礼なんていいよ。私もひとりじゃ心細いし」 「それと、出かける時だけどさ、かがみには図書館で宿題してくるとか言ってごまかせばいいと思うよ」 「うん。そうするよ。えっと、1時半だよね」 これでよし。 これで、つかさがかがみに接近する可能性はぐっと低くなった。 かがみへの嘘もバレにくくなったという訳だ。 それに、つかさは宿題の道具を持って移動することになるから、ばらした後に一緒に宿題をすることもできる。 我ながら完璧な配慮だ。 先に着いているかがみと一緒になってネタばらしをして楽しめば、かがみの怒りもいくらか収まることだろう。 さてさて、ターゲットは残り1人。 ☆ 「それで、みゆきさんに相談したいことがあってさ。いいかな?」 「はい。私でよろしければ、遠慮なくどうぞ」 ラストバッターは陵桜の誇る秀才、みゆきさんだ。 かなり手ごわい相手といえるだろう。 嘘を信じさせるためには、相手のバランスを崩しスキをつくらなければならない。 かがみは、親友が虐められているという情報にカッとなりスキが生まれた。 つかさは、まあ、いつものとおりスキだらけだった。寝起きだったしね。 「つかさにはまだ内緒にしててほしいんだけどさ、私ね、去年の冬休み初日にかがみに告白されたんだ」 「はあ。告白、ですか?」 「うん。愛の告白ってやつ」 「ええっ!?し、しかし、泉さんとかがみさんは、その……」 「うん。女の子同士、なんだよね。もちろん私はそういった趣味ないからさ、きっぱり断ったんだ」 「は、はあ」 「翌日からはいつもどおりの関係に戻ろうねって話で決着がついたから、みんなは気が付かなかったと思うけど」 「そうですね。少なくとも私は、まったく気がつきませんでした」 「だよね。だから私は、かがみもちゃんと諦めてくれたんだ、と思って安心してたんだけどね……でも、そうじゃなかったんだ」 「ということは、かがみさんと何かあったのですか?」 「……襲われちゃったんだ」 「え?襲われ?え?……ええっ!?」 「春休みの前日、いつものようにかがみが家に遊びに来たんだ。その日は家に私しかいなかったんだけど――」 「い、泉さん!悪質な冗談はやめてください!私には、かがみさんがそのような事をするお方に思えません!」 「私だって!!!!私だって、かがみがそんなことするなんて思ってなかった!!!!」 「あ……」 「私はその日、写真まで撮られた。その日からかがみはその写真をネタに、私のことを毎日のように――」 「そんな……嘘……嘘です。そんな、ひどいこと……」 そこからは私の妄想を織り交ぜつつ、かがみが私を襲った状況を簡単に説明。 みゆきさんを崩すには、みゆきさんの知識・経験が乏しい世界を舞台にする必要がある。 つまり、18歳未満禁止かつアブノーマルな、とっても危ない世界。 バーチャルとは言え、私の方は経験豊富なのだ。 この土俵で闘えば、私が負ける要素はほとんどない。 「ね、みゆきさん。できれば会って相談したいんだ。ウチに来てくれないかな」 「……わかりました。いつ、お伺いすればよろしいのでしょうか?」 「急で悪いんだけど、今日の2時とかじゃダメかな?その時間、家は私ひとりになっちゃうし」 「わかりました。2時、ですね」 「それから、この話なんだけどさ」 「はい。誰にも話しませんので、安心してください」 「ありがと。みゆきさん」 「いえ。私でお力になれるかどうか」 「それと、かがみが感づいた時のために、表向きは今日は勉強会ってことにしてほしいんだ」 「わかりました。勉強会、ですね」 みゆきさんは『恐れ入りますが、まだ泉さんの言い分を全て信じた訳ではありませんので』と言ってから電話を切った。 ううむ。この辺りはさすがに手ごわい。 まあ、とりあえずミッションコンプリートだ。 これで、上手くいけば2時には4人が勉強道具持参で我が家に集うわけだ。 それまで何をして待っていようかなぁ。 あ、そうだ。 一応、嘘をついたおわびとして手作りお菓子でも用意して待っていよう。 そうと決まれば台所へ行きますかネ。 よっこいしょういち、っと。 ☆ まさか、こなたがイジメをうけていただなんて。 しかもつかさが、私の妹が、その犯人だなんて…… 一刻も早く事の詳細を知りたい。 いてもたってもいられない。 約束は1時だが、30分程度なら早めに行っても問題ないだろう。 お昼はパンでも買って食べて、さっさとこなたの家に向かおう。 手早くまとめた荷物をもって自分の部屋から出ると、つかさとばったり出会ってしまう。 つかさも出かけるところなのか、私と同じように荷物を持っている。 思わず睨みつけそうになるが、ぐっと我慢する。 私がイジメの事を知っていると悟られたら、情報源のこなたに迷惑がかかるかもしれない。 「おはよう、つかさ。今日は早起きね」 「おおお、おはよう。お、お姉ちゃん。え、え~っと、何だか目が覚めちゃって」 「何をそんなに慌ててるのかしら?」 「えっ!?あ、慌ててなんかないよ?お、お姉ちゃんこそ、恐い顔してどうしたの?」 いけない。怒りが顔に出てしまっていたようだ。 「な、なんでもないわ。宿題でわからない問題があって、少しイライラしてただけ」 「そ、そうなんだ」 「そういえば、つかさも出かけるところなの?」 「あ、うん。お姉ちゃんも?」 「そうだけど……ねえ、もしかして……つかさは、こなたの家に行くつもりだったりする?」 「え!?ううん、ち、違うよ!!……図書館!そう、私は図書館に宿題をしに行くんだよ!」 ☆ 最近、お姉ちゃんの様子がおかしい。 食事の量も減ったみたいだし、お菓子もあまり食べようとしない。 些細な事ですぐイライラするようになったみたいで、私も何度か怒鳴られたりした。 もちろん、その度に後から謝ってはくれるのだけど。 机にふせっていることが増えたし、夜こっそりと出かける回数も増えていた。 ――こなちゃんの言ってたことは、やっぱり本当なんだろうか。 こなちゃんは1時半って言ってたけど、もう行ってしまおうかな。 こんな状態でお姉ちゃんと同じ屋根の下にいたら、私の気持ちがまいっちゃうよ。 とりあえず、早く相談して、早く解決しなきゃ。 カモフラージュ用の勉強道具をバッグに詰めて部屋を出る。 しかしそこで、タイミング悪くお姉ちゃんと会ってしまった。 「――つかさは、こなたの家に行くつもりだったりする?」 「え!?ううん、ち、違うよ!!……図書館!そう、私は図書館に宿題をしに行くんだよ!」 「ふーん……珍しいわね」 「そ、そろそろ頑張ろうかな~って思って」 「それが本当なら、いいことなんだけどね」 こなちゃんの言った事は、やっぱり本当だ。 お姉ちゃんの様子はやっぱりおかしい。 私のことをじっと睨みつけてきたかと思えば、品定めするようにジロジロと見てくる。 それに何故か、私の行き先がこなちゃんの家かどうか、なんて質問を突然にしてきた。 こなちゃんの家に私が行くと都合が悪いのだろうか? もしかして、こなちゃんの身に何かが…… そうか!もしかしたら、まさに今、ゆきちゃんがこなちゃんのことを狙っているのかもしれない! だから、他の誰かがこなちゃん家に行ったら不都合なんだ。 お姉ちゃんは、私がこなちゃん家に行かないよう監視しているんだ。 そうだ!そうに違いない! 私がこなちゃんを救わなきゃ! 「お姉ちゃん、私いそいでるから!もう行くから!」 「え?あ、うん。気をつけていってらっしゃい」 私は家を飛び出し、全力で自転車をこぐ。 「待っててね、こなちゃん!」 ☆ 窓から外を見ると、つかさの自転車が猛スピードで遠ざかっていくのが見えた。 つかさってあんなに早く自転車をこげたんだ。 それにしても、さっきからのつかさの慌てっぷりは異常だ。 こなたの名前を出した瞬間、わずかに顔色が変わったのを私は見逃さなかった。 つかさが犯人だなんて思いたくなかったけど、まさか本当に…… そこまで考えてハッとする。 何故、つかさはあんなに慌てていたのか。急いで出かけたのか。 もしかして、つかさは私とこなたの電話でのやりとりを聞いてしまったのではないだろうか。 あの時は私も興奮して大きな声を出していたから、その可能性は十分にある。 だとしたら、今つかさが向かっている先は…… マズイ。 最悪の事態だ。 私も急いでこなたの家に向かわなくては! 私はすぐに家を飛び出し、妹を追いかけるように必死に自転車をこぐ。 「待ってなさいよ、こなた!」 ☆ 4月1日。 今日、私は友達に嘘をついた。 後は至福のネタばらしが残るのみ、ときたもんだ。 私はその瞬間を楽しみにしながら、お菓子作りに精を出していた。 「よっし。こんなもんかな」 程なく手作りクッキーが完成する。 つかさ程ではないにしろ、我ながらなかなかにいい出来だ。 やはり、気分がノッている時は何をやっても上手くいくものだ。 時計を確認。 おっと、もう12時を過ぎている。 かがみが来るまであと1時間もない。 あまり時間が無いので、今日のお昼はカップ麺ですませることにする。 お湯を注いで居間へと移動。 あと3分♪ 特にやる事もないので、とりあえずTVをつける。 お昼の時間ということで、どこも面白い番組はやっていない。 適当にチャンネルを変え、リモコンを放置する。 あと2分♪ お気に入りのマグカップにお茶を淹れ、ささやかな昼食の準備が整う。 いやぁ、日本茶は心が落ち着きますなぁ。 その時、つけっぱなしのTVから信じられない言葉が聞こえた。 『――こんにちは。3月31日、お昼のニュースです。本日、○○内閣の――』 なん……だと……!? 重力に惹かれ、鈍い音と共に不時着を敢行するマグカップ。 そして、景気よく床にぶちまけられる適温の緑茶。 馬鹿なッ!! 今日はエイプリルフールではなかったというのかッッ!! 頭が真っ白になる。 いままでかいたことのない類の嫌な汗が、体中からドッと噴き出す。 天国から地獄。 私の気分は真っ逆さまに光の世界から暗闇のどん底へと叩き落される。 麺がのびのびになってカップから溢れ出た頃、私はようやく我に返った。 ☆ 「待っていてください、泉さん」 泉さんのお宅まであと少し。 泉さんは2時と言っていましたが、1時間以上も早めに来てしまいました。 事の真偽を早く確かめたくて、どうしてもじっとしていられなかったのです。 それに、もし泉さんの話が全て本当だった場合、かがみさんの行動を警戒する必要があります。 かがみさんが休みに乗じて泉家に来る可能性は高いですから、ゆっくりしている暇はありません。 泉さんとの約束の時間を違えてしまうのは失礼かとは思いますが、事態は急を要します。 一応ですが、携帯の方には早めに伺う旨をメールで送っておきましたし―― 「ゆ、ゆきちゃん!?」 「え?……あ、つかささん?」 何やら慌てている様子のつかささんと出会いました。 何故でしょうか、大変驚かれているようです。 それにしても、ここで会ったという事は…… 「つかささんも、泉さんに会いに来たのですか?」 「え。えっとね、わたしは、その……」 「?」 「ぐ、偶然通りかかっただけだよ~」 「そうなのですか?」 「う、うん。そうそう、偶然なんだ」 つかささんが嘘をつく理由は無いでしょうから、本当に偶然なのでしょう。 何かとても不自然な気はしますが。 「ゆきちゃんは、こなちゃんの家に行くんだ?」 「はい。その、泉さんに勉強会をしようと誘われたものですから」 「そ、そっか」 「つかささんは、何をしていたのですか?」 「え。え~っとね……」 「2人とも、何の相談をしているのかしら?」 つかささんと話していると、突然、背後から声を掛けられました。 振り返ると、今は一番会いたくなかった人が腕を組んで立っていました。 ☆ 「お、お姉ちゃん!?」 「つかさ、あんた図書館に行ったんじゃなかったの?」 まさか、つかさとみゆきが合流するとは。 みゆきまでもがこなたイジメに参加していたとは思わなかった。 いや、思いたくなかった。 冷静に考えてみれば、みゆきが自分の身近で起きているイジメの兆候を見逃すはずなど無いのだ……自分がイジメる側でない限りは。 私という邪魔者が現れたことに機嫌を悪くしたのか、みゆきがこちらを軽く睨んだように見えた。 「こんにちは、かがみさん。こちらへは何をしに来られたのですか?」 「こんにちは、みゆき。私はこなたの家に遊びに来たの。一緒に勉強もする予定よ」 「あら、奇遇ですね。私も泉さんと勉強会をする予定なんですよ?」 「へえ。そうなんだ」 「ええ。そうなんです」 「私は、こなたに誘われてきたんだけど?」 「もちろん私も、泉さんに誘われたから来たんです」 心なしかみゆきの言動が余所余所しい、というか冷たい。 それにしても、よくもまあ堂々と嘘をつくものだ。 私には分かる。みゆきが言っている事は嘘だ。 今のこなたが、加害者サイドのこの2人を自宅へ誘うはずが無い。 そういえば、こなたが私に相談したことをみゆきは知っているのだろうか? つかさから既に情報を得ている可能性はあるが、まだ知らない可能性もある。 それに仮に情報を得ていたとしても、みゆきならばつかさからの情報を100%信じることはないだろう。 我が妹ながらつかさは少しばかりぬけているところがあるからだ。 とりあえず、みゆきを油断させるためにも、今は事情を知らないフリをした方が良さそうだ。 「そう。じゃあ、こなたは4人で勉強会を開くつもりだったのかしらね」 「それなんですが、つかささんは誘われて無いみたいですよ?」 そう言って、みゆきはつかさの方をチラリと見た。 これは……つかさに別行動をとるように促しているのか? よくわからないが、みゆきの作戦か何かなのだろうか? だとしたら、阻止しておいた方がいいのかもしれない。 最初の実行犯を逃がすわけにはいかないし、できれば4人が揃った状態でケリをつけたい。 私の目的はこなたを救うことだけでは無いのだから。 難しいかもしれないが、私はこの4人の間にあった友情を取り戻したいのだ。 「……それなんだけど、こなたから電話があったのって、つかさが出かけた後だったのよ」 ☆ 「それでつかさも誘おうかと思ったんだけど、図書館に行くって言ってたから携帯にかけるのは遠慮したの」 「そ、そうだったんだ」 「あんたマナーモードにしないでしょ?だから、頃合を見計らってメールでもするつもりだったんだけどね」 「メール?」 「そ、メール。つかさもこなたの家で一緒に勉強しないか、ってね。」 これは、どういう状況なんだろう。 ゆきちゃんとお姉ちゃんの間に、なにかトゲトゲしい空気が流れている。 お姉ちゃんはゆきちゃんに従わされているハズなのに。 もしかして、今のお姉ちゃんは薬がきれたりとかで正気に戻っているのだろうか? お姉ちゃんはなんでここに来たのかな? なんで私を誘ってるのかな? えっと……今、お姉ちゃんはこなちゃんと合流してゆきちゃんを何とかしようとしているところか何かで―― それで、私にも協力をしてほしがっている―― そうか。そういう事だったのか。 つまり、これは、千載一遇のチャンスなのだ。 「じゃ、じゃあさ、私も一緒に行っていいんだよね、お姉ちゃん?ほら、ちゃんと勉強道具も持ってるし」 「そうね。いいんじゃない?……ね、みゆき?」 「……そうですね。人数が多い方が、勉強会らしくていいのではないでしょうか?」 「じゃあ、決まりだね!」 ほんの僅かだけど、ゆきちゃんの表情が陰るのがわかった。 ゆきちゃんは、少し悲しそうな顔で私の方を見た。 ……ごめんね、ゆきちゃん。 でも、ゆきちゃんがやっていることは、良くない事なんだよ? 大丈夫。きっと明日からは、また前までのように4人で仲良くできるよ。 そうなれるように私が頑張るよ! 私は決意を胸に秘め、こなちゃん家への一歩を踏み出した。 ☆ かがみさんは頭の良い方です。 もしかしたら、私の態度から何か察するところがあったのかもしれません。 つかささんを勉強会に誘ったのは、私に対する牽制でしょうか。 つかささんがいれば、私はかがみさんのことを問い詰めにくくなります。 しかし、かがみさんの行為が泉さんの話すとおりであるならば、それは許される事ではありません。 こんな悲しい出来事は、一刻も早く、できれば今日の内にでも断ち切ってしまわなければなりません。 例えつかささんがいようと、私はそれをやらなければならないのです。 できれば、つかささんにはすべてが解決してからお話をしたかったのですが。 ……いえ、実の姉と友人との話ですから、つかささんも立ち会うべきなのでしょう。 つかささんには大変辛いお話になるかとは思いますが、これも運命なのでしょう。 ふと、つかささんの方を見ると、その顔は心なしか頼もしく見えました。 そして、つかささんは一歩一歩、泉さんのお宅へと歩んでいきます。 まるで迷える私を導くかのように。 ふふっ。いけませんね。私が弱気になっては。 泉さんにつかささん、そしてかがみさんを救うという役割が私にはあるのですから。 再びいつもの4人組として楽しく笑いあえるよう、私は頑張ります! 「では、参りましょうか。かがみさん」 ☆ 私は今日、わりと洒落にならない嘘をついた。 もし今日が4月1日なら、私にはまだ救いの道がある。 もし今日が3月31日なら、私に残された道はひとつしかない。 それは、間違いなく地獄に続く道。 慌てて家中のあらゆるモノで日付を確認する。 TV、ラジオ、携帯、パソコン……思いつく限りのモノで。 何を見ても3月31日。そう、まぎれもなく3月31日。 あの日めくりカレンダー以外の全てが、今日が最悪な1日になると告げていた。 どうしよう。 どうしたらいいんだろう。 といっても、もう、なるようにしかならないのだけど。 なんで、どうして、こんなことになったんだろう。 日めくりを捨てたゴミ箱を漁ってみる。 2枚重ねて捲る、などといった漫画のようなミスはしていない。 捲るべき枚数も絶対に間違っていない。 今朝の私の行動自体にミスは無かった筈だ。 それならば、何故? ……?? ……!? ……!! 思い出した!!そういうことだったのか!! そう、今朝の時点で私のカレンダーには1日分の誤差が生じていたのだ。 かがみが最後に遊びにきた日、こんなことがあった。 『ちょっと、こなた。またカレンダー捲ってないじゃないの』 『ん~、そだね~』 『そだねー、じゃないっての。もう、いい加減にしなさいよね』 『かがみの楽しみをとっておいてあげたのだよ』 『こんなのが楽しみなわけが無いっつーの!まったく!』 びり、びりびり……びりりっ! 『あれ、かがみ。今日は確か24日だよ?捲りすぎじゃない?』 『あ、あんたが横からいろいろ言うから変に力がはいっちゃったのよ!』 『あ~あ、これじゃあせっかくのカレンダーが台無しだよ~』 『ど、どうせ捲らないんだから1日くらいいいじゃない!そう、これは明日の分よ、明日の分!』 このことを忘れてきっちり捲ったせいで、日付を間違えてしまったということだ。 日付を間違えた原因はわかったが、だからといって何の解決になるわけじゃない。 覚悟を決めよう。 ここは潔く、1人1人、来た順に謝るしかない。 ☆ 「こなちゃん、少し早いけど来ちゃったよ~」 「こんにちは、泉さん。すみません、早く来てしまいました。メールは送ったのですが……」 「おーす、こなた。ちょっと早いけど、いいわよね?」 何 故 全 員 揃 っ て い る。 「いいいいいいい、いらっしゃいいいい、みみみみ、みんななな。ずずず、ずいぶん早かったたたネ」 「なに慌ててんのよ?……まあ、心配しなくても、大丈夫よ」 「そうですね。私がいますから何も心配しなくて大丈夫ですよ、泉さん」 「こ、こなちゃん、私がいるからね!」 あれ?何この雰囲気? そうか、お互いがお互いを牽制しあっているんだ。 主に私の嘘のせいで。 これは、本当の事を言い辛いってレベルじゃないよ。 何とかして1人ずつ相手をするようにしなきゃ。 とりあえずは、みんなに私の部屋まであがってもらって…… 「ええっと、ジュースでも持ってくるね。それで、誰か運ぶの手伝ってほしいんだけど」 「私が行くわ!」 「いえ。かがみさんはゆっくりしていてください。ここは私が」 「ゆきちゃんもお姉ちゃんとゆっくりしてなよ。私が行くから」 「2人とも、そんなに気を遣わなくていいわよ。ここは私が――」 「そうですね。かがみさんもつかささんも気を遣わないでください。やはり私が――」 「わ、私は気を遣ってないよ。ただ、こなちゃんを手伝いたいだけ。だから私が――」 「ちょ、みんな。落ち着いてよ。か、かがみ。かがみでいいよ」 「ほらね。こなたもこう言ってるし、私が行くわ」 「泉さん、遠慮なさらずにおっしゃっていただいてもいいんですよ?」 「こなちゃん、私じゃ頼りにならないかなぁ?」 「い、いや、そんな大したことじゃないし。それにすぐに戻ってくるから」 「じゃあ、早く行きましょ。こなた」 台所で人数分のジュースとクッキーを用意する。 とりあえず、この時間を利用してかがみに謝っておこう。 「あ、あのさ、かがみ」 「わかってる。ごめんね、こなた。びっくりしたでしょ?つかさとみゆきが一緒じゃやっぱり辛いよね」 「い、いや。そうじゃなくって――」 「でもね、こうなったら仕方ないわ。少し早いのかもしれないけど……私ね、今日決着をつけちゃおうと思ってるの」 「ちょ、かがみ、私の話を――」 「わかるわ、不安よね。でも大丈夫。私がついてるから。何があっても守ってあげるから。さあ、行きましょ!」 「あっ、待ってよ、かがみ――」 「いいから、ここは私に任せなさいって。とりあえず、2人に謝ってもらうところから始めなきゃね!」 あんまり遅くなると怪しまれるわよ、と言ってかがみはクッキーの皿を手に部屋へと戻っていった。 優しい笑顔を残して去るかがみを呆然と見送ることしかできない私。 かがみに謝るどころか、謝られちゃったよ。てへ☆ ……いや、そうでなくて。 今のかがみの様子からすると、1人ずつ相手をしていくという私の計画は難しそうだ。 何があったかのかは知らないが、かがみはテンションが上がりきっていた。 さっきの部屋でのやり取りから察するに、おそらく他の2人も似たような感じだろう。 私の話を聞いてくれる心の余裕がなさそうだ。 それに、3人とも私が他の誰かと2人きりになるような状況はなかなか許してくれなさそうだ。 ……こうなったらもう、みんながもめ始める前に土下座でも決めるしかない。 どこか遠いところへ逃げたくなる気持ちを抑え、私は地獄へと続く廊下をゆっくりと進む。 いつもの倍以上の時間をかけて自分の部屋の前までくると、既にヒートアップした3人の声が聞こえてきた。 「まだわかんないの!?まず、こなたに謝れって言ってんのよ!!あんた達、こなたが苦しんでるのがわからないの!?」 「ですから!何度も言うようですが、人のせいにしないでください!!かがみさんが泉さんを苦しめているのでしょう!?」 「やめなよ、ゆきちゃん!隠さなくても、もうみんなわかってるんだよ!?」 「そうよ!つかさの言うとおり、私はみんなわかってるのよ!?みゆき、あんた少しは反省したらどうなの!?」 「あくまで人のせいにすると言うのですか!?つかささんだって、苦しんでいるのですよ!?」 「はぁ!?だからなんだってのよ!つかさは自業自得じゃない!!元はと言えば、つかさのせいなんだから!」 「ひどい!相談もしてくれずにそんな言い方ってないよ!ねえ、なんで最初がこなちゃんだったの!?なんで、私じゃなかったの!?」 「何よ!?私があんたのことを一番にかまわなかったのが原因だとでも言いたいの!?甘ったれんじゃないわよっ!!」 「つかささんにまで当たらないで下さい!!かがみさん、見損ないました!……あなたは間違っていますッ!!」 「っ!?……みゆきぃっ!よくもっ!よくも、ぶったわねっ!!このっ!!」 「きゃあっ!?」 「や、やめなよ、お姉ちゃん!ゆきちゃんも!暴力はよくないよ!!……ひゃあっ!?」 うん。わかっているとも。 今すぐ部屋に飛び込んで土下座、それ以外に選択肢はないよね。 ☆ 「ごめんなさい」 「おまっ……謝って許されるとでも……!!」 「泉さん。いくらなんでも、これは……!!」 「ひどいよ。私、本気で信じたのに……!!」 事情はひととおり説明したが、当然笑って許してくれる筈もなく。 三者三様の絶句の後は、ただただ、重苦しい沈黙が場を支配する。 私は土下座したままの姿勢で固まることしかできない。 穴が開くのではないかと思えるほどに、じっと床の一点を見つめ続ける。 申し訳なさ過ぎて、みんなにあわせる顔なんてない。 あんなに仲の良いみんなが、勘違いとは言え私のせいで喧嘩までしたのだ。 みゆきさんはかがみの頬を平手で打ち、かがみはみゆきさんに掴みかかった。 あと一歩間違えれば、私達の友情は消えてなくなっていたかもしれない。 床にシミがひとつ、ふたつ……あれ?私、泣いてる? 床のシミはみるみるうちに数を増やしていく。 「……泉さんに悪意が無かったという事は、わかりました」 「……そうだね。もともと、こなちゃんは私達と遊びたかっただけなんだよね」 「……こなたらしいいたずら、ってとこね。あまりにも度が過ぎてたけど」 優しい言葉。 勇気を振り絞って顔をあげると、みんな少し呆れたように笑っていた。 私は胸がいっぱいになる。 「ごめん、本当にごめんなさい、ごめんね、みんな。うあ、うわああああああん」 「ほら、泣かないの」 「ぐすっ。だって、こんな私を笑って許してくれるなんて、なんだか嬉しくって」 「あら、誰が許すって言ったかしら?」 「ふぇ?」 「もちろん、それなりのお礼はさせてもらうわよ?」 「そうですね。1回は1回ですよ、泉さん」 「あはは、こなちゃん。これで終わりだと思ってるだなんて、どんだけ~」 「ちょっ、みんな、目がこわいデスヨ?……いったい何を……」 「そうね、私達もこれからひとつずつ嘘をつかせてもらうわ」 「う、嘘を?……あれ?それだけ?」 「はい。それだけです」 「なぁんだ。びっくりさせないでよ。そんな簡単なことなら――」 「ねえ、こなた。あんた今日は、とっ~ても平和に過ごすわ。嫌と言うほどね」 「泉さん。泉さんは今日という日を、驚くほど簡単に忘れてしまえるでしょう」 「こなちゃん。こなちゃんにとって、今日がいっちばん幸せな日になるんだよ」 「え?……も、もしかして、それが嘘?……ってことは……あ……やめっ――!!!!」 ☆ 今日は正真正銘の4月1日、エイプリルフールだ。 せっかくだから、嘘をついてみようと思う。 『昨日はとても楽しかった。 突然遊びに来たかがみとつかさとみゆきさんが、私に素敵なプレゼントをくれたのだ。 昨日という日は、私にとって今までで一番幸せな日だったんじゃないかと思う。 でも、きっとそれもすぐに忘れてしまうことになるんだろう。 とても平和だったという点においては、いつもとなんら変わらないただの1日だったから。 そしてまた、素敵な1日が始まろうとしている。 私はかがみから呼び出しなんかされていないし、つかさも一緒に待ち構えていないし、集合場所はみゆきさんの家ではない。 まあ、偶然にもみんなと会うことがあれば、たぶん昨日の事について幸せな気分で笑いながら語り合うことになるだろうね。 ああ、できることなら、誰も私の事を助けないでほしい。神様が本当にいるのなら、どうか私の事を救わないでほしい』 うん。我ながら上出来だ。
https://w.atwiki.jp/sundayrowa/pages/256.html
殺したらおわり(前編)◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 横島忠男の眼球を抉り取ろうとしていたさとりは、唐突にその動きを止めた。 三日月状の刀剣・魔道具『海月』を振りかざしたまま、不自然な体勢で硬直する。 「な、なんだってんだ、いきなり……」 対する横島のほうもまた、霊波刀を構えた状態で首を傾げる。 よもやこちらの意図を汲んで、人殺しをやめてくれる気になったのだろうか。 いや、そうに違いない。たまには勇気を振り絞ってみるものだ。超逃げたかったけど、そうしなくて正解だった。よかったよかった。 そんな思考が『心を読む妖(バケモノ)』であるさとりに流れ込んでくるものの、まったくの見当違いだ。 横島の言い分なぞ、知ったことではない。 そもそも、さとりには横島の言わんとすることの半分も理解できていない。 妖でも家族になれる可能性があるのならば、同行者に一度伝えてみようと思ったくらいだ。 つまるところ、動きを止めた原因は他にある。 これまで静止していたさとりが、凄まじい速度で首を捻る。 その視線の先にいるのは、三人の少年少女だ。 へたり込んでいる華奢な少年、バロウ・エシャロット。 彼を庇うように立つ筋肉質なモヒカン少年、石島土門。 剣を構える額から二本の角を生やした少女、霧沢風子。 彼らの思考が、さとりへと流れ込んでくる。 彼らがいったいなにをしようとしているのか、さとりには読み取れる。 『彼ら』というより、『彼女』が問題だった。 霧沢風子の脳内は、さとりの同行者への殺意で埋め尽くされていた。 その全身から放たれる妖気は、彼女が少女の外見をした妖であることを雄弁に語っている。 「バロウ……!」 意図せず、さとりは同行者の名を呟いた。 ほんの数ヶ月前まで―― さとりという名の妖は、一人きりで山奥に生きていた。 どれだけ日にちが経とうと、どれだけ季節が過ぎようと、どれだけ年が変わろうと。 いつだって、たった一人。 心を読む能力を持っているというのに、一人ぼっち。 別に、山が嫌いだったワケではない。 むしろ、自分の住処のことは好いていた。 石も、花も、樹も、みなそれぞれ美しい。 ただ、考えていることはいつもあまり変わらない。 時たま鳥や虫を見つけても、彼らはすぐにいなくなってしまう。 それに、彼らもまた、ほとんど常に考えていることは同じだ。 退屈な日々を、はたしてどれだけ過ごしただろうか。 なまじそうそう早く寿命を迎えぬ妖ゆえ、過ぎた年月はもはや数えることさえできなくなっていた。 そんなある日、さとりは人間に出会った。 本来人間など足を踏み入れぬ山奥に、偶然にも飛行機が墜落したのだ。 その事故唯一の生存者であったミノルという少年は、それまでさとりが見てきた他のものとはまったく違っていた。 石よりも、花よりも、樹よりも、鳥よりも、虫よりも、ずっとずっと多くのことを考えていた。 最初は恐怖で埋め尽くされていた思考が、少し声をかけただけで安心感に変わっていく。 飛行機の破片が散らばる場所では危険だからと、ちょっと手を引いてやっただけで、その安心感は増していく くれてやった木の実が苦いというので、車を襲って調達したパンを手渡した。ただそれだけなのに、脳内に感謝と歓喜の念が満ち溢れる。 さとりは、そのような存在を知らなかった。 心を読む能力を持ち合わせていながら、自分へと向けられた思いを読んだのは――初めての経験であった。 かつて気まぐれで鳥に餌をやったことがあったが、これほど豊かな感情を抱かれたことはない。 ただ好きに食い散らかして、すぐに飛び立ってしまうばかりだった。 腹を満たせたことへの安心こそあれど、そこにさとりへの思いはない。 だが、ミノルは違った。 満面の笑みを浮かべて喜び、感謝し、そしてこう呼んでくれるのだ。 『お父さん』――と。 理由はよく分からないが、さとりには嬉しかった。 ミノルが笑みを浮かべてくれると、胸が熱くなるのだ。 それまで退屈だった日々が、キレイに彩られたようだった。 だから、さとりはキース・ブラックの指示に従った。 ミノルの目が治れば、きっともっと微笑んでくれるはずだから。 そう信じて、最後の一人になる決意を固めたのだ。 しかしその願いが叶わないことを知るまでに、さして時間はかからなかった。 夜明け前に遭遇したバロウが、きっぱりと否定したのである。 『妖では、人間の家族にはなれない』 他の誰かが否定してきたのなら、さとりは信じなかっただろう。 でまかせと決め付けて、海月で斬り捨てていたはずだ。 それをしなかったのは、バロウもまた人間ではなかったからだ。 人間ではなく、人間でないがゆえに――人間と家族になれなかった。 そんな悲痛な記憶が流れ込んでくれば、いかにさとりとて信じるしかない。 そうして目的を失ったさとりに、バロウは手を伸ばしてくれた。 『おじさんも、人間になればいいじゃないか』 人間でないにもかかわらず、人間と家族になりたい。 バロウが語った夢は、さとりが望むものとまったく同一であった。 その話を聞いている際に流れ込んできたのは、バロウが描く幸せな未来のヴィジョン。 妖でなくなったバロウは、屈託のない笑顔を浮かべていた。 それを視てしまったがゆえに、さとりは伸ばされた手を取った。 すると、バロウは――たしかに微笑んだ。 ミノルと同じように、心からの笑みを浮かべたのだ。 その笑顔を崩したくないと、さとりは思った。 できることならば、ミノルだけでなく、バロウとも笑って幸せに暮らしたい。 それが叶わないのは、さとりにも分かっている。 バロウの望みは、さとりではない他の誰かと家族になることだ。 願いを叶えられるのが一人である以上、いつか確実にぶつかることになる。 心を読めるさとりは、バロウがいずれさとりを殺すつもりであるのも承知している。 それでも、構わなかった。 最終的に殺し合うのを承知で――ただ、一緒にいたかった。 「バロウに怖いことさせるものか」 言い終えるより先に、さとりは跳び上がっていた。 虚を衝かれたらしい横島の驚愕する声が背後から聞こえたが、耳を貸す気はない。 横島の眼球を手に入れるよりも、優先せねばならない事態である。 「バロウに近づくなァ!」 ほんの三回跳んだだけで、さとりは風子の下へ到達する。 すぐ近くにいた土門を無視して、標的を風子一人に絞る。 とうに読めている思考を踏まえて、剣で受け切れぬ方向へと海月を振り下ろす。 ――彼女の身体に触れる寸前で、三日月状の刃は静止した。 そこにはなにも存在しないはずなのに、どれだけ力を籠めようと海月は風子に届かない。 「なん、であ゛ッ」 さとりの驚愕の声は、半ばでくぐもったものに変わる。 なにか目に見えぬものが、凄まじい速度で鳩尾に激突したのだ。 衝撃で僅かに呼吸が止まる間に、さとりは黙視できぬなにかの正体を知った。 いや、知ったのではない。 ご丁寧なことに、『教えられた』のだ。 眼前の少女でも、他の二人でもない――別の声に。 『身の程を知るがよい、妖怪。 貴様ごときが、我が風を破れるはずがなかろう』 ここに至って、さとりはようやく相対している妖の正体を理解する。 風子のほうはあくまで憑代であり、本体は彼女の持つ風神剣であったのだ。 まるで威圧するかのように、風子が一歩ずつゆっくりと歩み寄ってくる。 さとりは逃げ出すことさえできない。 思考が読めるからこそ、逃げたところで意味がないと分かってしまう。 ただ、背後で震えるバロウを守るように、ほんの僅かに前に出ただけだ。 「死ね」 短く吐き捨ててて、少女は剣を振り下ろ――さなかった。 「おいおいおいおい、風子様よォ。 せっかくのデートなのに彼氏放って他の男とお楽しみなんて、そりゃあねえだろうが」 風子とさとりの間に、石島土門が割って入っていた。 その手には、真っ赤なバラの花束が握られている。 「いやいや、最初に道具確認したときから思ってたけど、キース・ブラックのヤツも意外に気の利いたもん渡しやがるよな。 この俺にバラの花束なんて、まったくお似合いってレベルじゃねえ。ま、アイツに感謝なんか死んでもしてやらねえけどよ」 軽口を叩くような口調とともに、土門は花束を前に突き出す。 「俺だけじゃねえんだぜ、風子。 お前に似合うのはそんな物騒な剣じゃねえ。こいつだ。どうか受け取ってくれよ、マイステディ」 「ふざけんな」 ウインクを決めての決めゼリフは、たった五文字で切って捨てられた。 土門はやけに演技がかった大げさな動作で、肩を落としてみせる。 そんな素振りが癇に障り、風子は語気を強くする。 「テメェ……いい加減にしろッ! 脳ミソとろけちまったのか、腐乱犬! ンなふざけたことぬかしてる場合じゃあねえだろうがッ!! 烈火は死んだんだぞ、みーちゃんもだ! それ分かってんのか! もしかして『実は生きてる』とか、そんなありえねー夢見てんじゃねえだろうなッ!?」 風神剣から放たれる風が、あからさまに強くなる。 激しい風にモヒカンをなびかせながら、土門は微かに目を細めた。 「分ぁーってんだよ、んなこと」 「なら――」 「るっせえな。黙って話聞いてろよ」 風子の声を制して、土門は一呼吸置いてから切り出す。 「下らねえ夢なんか見てられるワケねえだろ。 花菱のバカ野郎は、この土門ちゃん逃がすために命捨てやがったんだからよ」 「――――っ」 「バカだよな、ほんと。 死んだら終わりだってことくれー、アイツもよく知ってるだろうに。 何せ、俺たちゃこの歳で、何人も死んでくヤツら見てきちまったんだからよ。 はっ! あんまり寂しくて夢に出てくるくれーなら、死んでんじゃねーっつんだよな」 「だ、だったら……!」 風子の身体が小刻みに震える。 困惑と怒りがない交ぜになっているのが、さとりには読み取れた。 「だったらなおさらだ! バカ野郎はテメェだ、バカ野郎! 目の前で烈火殺されて、なにのうのうとしてやがんだ! そんなんでいいのか、テメェは!?」 絶叫は住宅街に響き渡らず、付近にいるものにしか届かない。 よりいっそう激しくなった風によって、掻き消されているのだ。 「ああ、いいぜ。 おっ死んじまったヤツのために、わざわざ手ぇ汚す気はねえよ。汚させる気もねえ。それこそバカ野郎じゃねえか」 風子は目を見開いたのち、ゆっくりと頭を垂らす。 表情が窺えない状態で出てきた声は、やけに低く冷たい。 「そう……かよ。だったら知らねえ。知ったこっちゃねえ。 どかねえってんなら――無理矢理吹き飛ばしてやるっ!!」 その声に呼応するかのように、周囲に異変が生じる。 先ほどまで縦横無尽に吹いていた風が、いきなり止んだのだ。 住宅街中を流れていた風が集束し、風神剣の刀身を覆っていく。 風神剣の柄に埋め込まれた宝玉が仄かに光り、その中心部に『風』という文字が浮かぶ。 明確な宣戦布告を受けたというのに、土門はたじろがない。 風子を見据えたまま、さとりとバロウの前から動こうとしない。 「お、お前、どうして……俺たちが憎くねェのか……?」 「憎いに決まってんだろうが! どんだけ痛かったと思ってんだ、バカチン! テメェ、ハラキリって死ぬヤツだからな! あの清麿ってヤツがなんかARMSとかいうの持ってただけで、本来死ぬヤツだからな!」 その返答は、さとりがすでに読み取っていたのと同じものだった。 土門のなかには、自分たちへの憎しみがある。 ならば、どうして―― そんな疑問は問いかけるまでもなく、土門自身により解消される。 「けどよ……ムカつくからって殺してたんじゃ、俺たち火影がブッ飛ばしてきたクソ野郎どもと――なんにも変わんねえだろうがッ!!!」 そう言い切ると、彼の着込んでいる漆黒のボディスーツが膨れ上がった。 ◇ ◇ ◇ 時を同じくして、近接エリアであるB-2の南部。 蒼月紫暮とルシール・ベルヌイユの二人は、民家の壁に背中を預けて身体を休めていた。 自動人形(オートマータ)・ドットーレに気付かれぬよう、どうにか距離を取ったところである。 法力僧と人形破壊者(しろがね)といえど、精神的な疲労がないワケではない。 瞳を閉ざして、心を落ち着ける。 睡眠をとらなくても、数分こうしているだけでだいぶ回復するものだ。 両者はいちいち言葉で意思の疎通を行わずに、取るべき行動を理解していた。 ――不意に、紫暮の身体が震えた。 「これは……!」 閉じておくはずの目が見開かれ、声が勝手に零れる。 休息状態から臨戦態勢へと、身体が即座に切り替わる。 傍らで紫暮の声を聞いたらしいルシールも、また同じくだ。 「いったい、なにが起こったんだい?」 ただ、ルシールのほうはなにも捉えていないらしい。 これにより、むしろ紫暮はなにか起こっているという確信を強めた。 紫暮が捉えたのは、戦闘音ではなく『妖気』だ。 もう全盛期から長らく年月が過ぎ、五十歳も近くなっている。 肉体や法力は衰えていくばかりだが、感覚だけはかつてよりも研ぎ澄まされている。 その感覚が告げるのだ。 ――強大な妖気が、南部から発せられている。 捉えた気配は、かなり暗く重たい。 大きな憎しみに満ちているのは、間違いない。 浮かんだのは、憎しみを食らう大妖の姿である。 アレほどではないだろうが、同種という可能性は少なくない。 だとすれば、法力僧たる自分が向かわねばならないだろう。 紫暮はその旨を伝えるが、ルシールの返事は積極的なものではなかった。 「行ったところで、なにができると言うんだい?」 「ぐ……」 あまりに的確な指摘であった。 紫暮に支給された道具は、鍋のフタだけ。 そのフタの素材が法力を通しやすい代物ならばともかく、単なるアルミ製だ。 いざ戦場に辿り着いたところで、素手の紫暮にできることなどたかがしれている。 (とはいえ――) 先の放送で、井上真由子という名前が呼ばれていた。 彼女は戦う術を持たぬ、単なる一般的な女子高生である。 そんな彼女が殺し合いに呼び出されて、命を落としてしまっている。 ドットーレのいた学校に人の気配はなかったが、いま感じた妖気の元には誰もいないとは限らない。 真由子のような力を持たない誰かが、強烈な妖気と相対しているかもしれないのだ。 法具がなくとも、誰かを逃がすくらいはできるかもしれない。 決して、断言はできない。 息子のうしおならば『できる』と言い切るだろうが、年老いた紫暮には不可能だ。 だが断言できないからといって、行かなくていいのだろうか。 護るべきか、見捨てるべきか。 向かうべきか、向かわぬべきか。 考え込み、迷い、逡巡し、それでも踏ん切りがつかず―― 『ゆくことが、貴方の使命ですよ』 いつか聞いた声が蘇り、紫暮ははっとする。 (はは、いまさらだったな) 同じ迷いを抱いたことがあった。 そして答えを見出したことがあった。 そう――もう、答えは出ていたのだ。 それも、十六年も前にだ。 あの日から一日とて、固めた決意は揺らいでいない。 ならば、どうしていまこの場で決めかねることがあろう。 紫暮はルシールのほうに向き直り、静かな口調で言い放つ。 「人々に仇なす妖を封じるのが、私の使命です。 同行を強制するつもりはありませんし、もしものときは見捨てていただいて構いません」 これは、ルシールに向けられたものではない。 紫暮が自身に言い聞かすためのものでもない。 いま現在も海の底で使命を全うしている、思いを寄せる女への――誓いだ。 「そうかえ。ではいざとなったら、安心して見捨ててさせてもらうとするかね」 くつくつ笑いながら、ルシールは紫暮の前に立つ。 そうして呆然とする紫暮を急かすように、こう告げるのだった。 「どうしたんだい? 『お守りしてくれる』んだろう?」 ルシールに遅れて、紫暮も口元を緩めた。 ◇ ◇ ◇ 「はぁ……はぁ……クソッ!」 いつの間にか荒くなっていた呼吸で毒づきながら、風子は風神剣を振り下ろす。 離れた場所にいる土門への威嚇のために、単に剣を振るっているだけではない。 一薙ぎするたびに、刀身を覆っている風がいくつもの弾丸となって放たれているのだ。 にもかかわらず、土門は一向に退かない。 どれだけ風玉を放っても意に介さず、まっすぐに進んでくる。 横に跳んで回避することこそあれど、一度たりとも後退することはない。 風玉に囲まれて避け切れなくなれば、その場で立ち止まって身体に力を籠めて受ける。 ずっと攻撃を続けている風子のほうが、詰められた距離を開けるために後退してばかりだ。 「ちィ……! どうなってんだよ、テメェの着てるそれはよォ!」 「俺が知るか! 負けらんねえと思ったら思っただけ強くなるんだよ、このアーマーなんちゃらスーツはッ!」 意味の分からない返答とともに、土門が地面を蹴った。 風子は咄嗟に風刃を撃ち出すが、土門は顔面だけを庇うように腕でガードする。 やはりボディスーツの表面が削れるばかりで、内部にあるはずの肌さえ露にならない。 しようがないので飛び退こうとする風子だったが、とても間に合わない。 風子が知る土門の限界を超えたスピードで、土門は接近していた。 走る勢いそのままに、バラの花束を持っていないほうの右手をかざし―― ――ぱちんっ。 「…………は?」 「目ェ覚めたかよ、お姫様。 王子様のキッスのほうをお望みってんなら、何百回だってしてやるぜ」 風子は遠ざかることも、刃を返すこともできずにいた。 そんな千載一遇の機会を得たというのに、土門がやったのは――いったいなんだ。 わざわざ考えるまでもないほどに、明らかである。 ――『頬っぺたをはたいた』だけだ。 それも、子どもを叱りつけるような微かな力でだ。 風子は、自分のなかでなにかがキレる音を聞いた。 「おちょくってんじゃあねェェェーーーーーーッ!!」 これまで研ぎ澄まされていた精神が、一気に決壊した。 風神剣の刀身だけを高密度で覆っていた風が、再び外界へと解き放たれる。 住宅街一帯に吹き荒れ、かつて民家だった瓦礫が宙を舞い、張り巡らされた電線が激しく揺れ動く。 そんな暴風のなかで、土門は焦らず二本の足に力を籠めて立ち尽くす。 依然として左手に花束を持ったままであり、風子はその姿が気に入らなかった。 これだけの風速のなかでは、通常なら涼しい顔など浮かべていられないはずなのだ。 「ナメんな、クソッタレ!」 刀身を風で覆うこともせずに、そのまま風神剣を袈裟に振るう。 単なる刃でしかない刀身は、簡単に仰け反って回避されてしまう。 発生させた風の勢いで強引に刃を戻しての逆袈裟も、これまた飛び退いて回避される。 強引な連撃で体勢を崩したところを狙って、土門が再度肉薄してくる。 ――ぱちんっ。 「テメェ……!」 またしても、土門は同じ行動を取った。 またしても、せっかくの好機をふいにしてきた。 風子の苛立ちが増していき、風神剣の宝玉がさらに光り輝く。 「バカにすんのも、大概にしやがれッ!!」 身体を風で強引に加速させて斬りかかるが、土門の右腕に阻まれる。 ボディスーツに数センチ刃が埋もれた感覚はあったが、そこから進む気配はない。 無理に刃を押し入れようとして、そのまま前に倒れ込んでしまう。 土門が腕をうしろに引いたために、かけていた力が行き場を失ったのだ。 体力バカであるはずの土門に、巧みにあしらわれた。 その事実を受けて、風神剣を握る力がさらに強くなる。 こんなはずはないと、風子は歯を軋ませる。 石島土門は力バカで、霧沢風子は技巧派。 その認識に誤りなど在り得ない。 長い付き合いなのだから、お互い分かっている。分かり切っている。そうに決まっている。 「剣みてえな慣れねえもん使いやがって。勝てるワケねーだろ」 這い蹲っている最中に浴びせられた言葉によって、風子の怒りはついに沸点に達した。 「ざッけんなッ! 私はずっと練習してたんだ! 緋水の神慮伸刀を託されてから、ずっと!! 殺すッ! いい加減なことばっか言いやがってッ! クソッ! クソッ! マジでブッ殺すぞッ!!」 発生させた風で飛び上がるようにして強引に立ち上がりながら、風子は声を張り上げる。 それでも、土門はなぜだか寂しそうな表情を浮かべるばかりだ。 一向に本気で戦うそぶりを見せない土門に、風子の苛立ちは加速していく。 「確信したぜ、風子」 土門が左手を伸ばし、バラの花束を前に突き出す形になる。 「いまのお前は、火影の誰よりも弱い」 風刃でも飛ばしてやろうとしていた風子だったが、一瞬完全に思考が飛んでしまう。 はたして土門がいったいなにを話しているのか、まったく理解できなかった。 「っつーか、アイツより弱えんじゃねえの。 なんだっけ、あの、空海んとこの……南尾じゃなくて、ほらお前が戦った、えーと」 いや、それはないだろう。 さすがに、そんなふざけたことは言わないだろう。 風子のそんな期待は、あっさりと覆されることになる。 「ああ、藤丸だ。あの鎌使う変態野郎。 自分のやりてえことを自分で決めらんねえっていう点で、いまのお前はアイツにも負けてるぜ。 アイツはどうしようもねえクソ野郎だったけど、でもやりてえことは自分でちゃんと決めてたもんな」 ここに至って、風子の思考は白く染まった。 怒りは臨界点を超え、殺意へと切り替わっていく。 かつてないほどの速度で風を作り出し、一気に土門へと射出する。 これまでのように一方向からばかりではなく、四方を覆うように風刃を生み出す。 もはや一切の容赦も躊躇もなく、首や心臓といった人体の急所にさえ残撃を飛ばす。 「……はっ。ナメたことぬかしやがって……」 轟音が響き渡り、辺りに土煙が立ち込める。 はたして土門がどうなったのかは、定かではない。 少なく見積もっても、数十の肉片と成り果てただろう。 せっかくだし、突風で土煙を吹き飛ばして確認してやろうか。 そのように思考を巡らす風子だったが、確認なぞ必要なかった。 「ナメてんのも、おちょくってのも、バカにしてんのも……全部お前だろうがッ、風子ォ!」 土煙のなかから、聞き慣れた声が響いたのだ。 目を凝らしてみると、巨大な影が迫ってきている。 その正体が誰なのかなど、特徴的なモヒカン頭を見れば明白だ。 左手に持った花束は健在だ。アレだけやったのに、風子は花束さえ吹き飛ばせなかった。 「……ぐッ!」 「逃がすかよ」 距離を取ろうとした風子だったが、バックステップを踏むことさえ叶わない。 土煙から飛び出てきた土門に、その肩を掴まれたのである。 着込んでいるボディスーツはボロボロだが、未だ形状を保っている。 現れた土門の額には、『鉄』の文字が浮かんでいた。 「めんどくせえから、はっきり言わせてもらうぜ。俺はいまのお前が気に喰わねえ」 ――ぱちんっ。 「仲間だなんだぬかして、花菱や水鏡に責任を押し付けてるのが、腹立って仕方ねえ。 アイツらを理由にしてんじゃねえ。ほんとにやりてえんなら、『自分が殺してえから』って言えよ。 なのになんだっけ、お前。俺たちを『守るために』とか言ってやがったな。ナメんな。いらねえよ、そんな気遣い。ふざけてんのか、オイ」 ――ぱちんっ。 「いいか。自分がいったいなにをしてえのか、それをまず考えろ」 ――ぱちんっ。 鋼鉄化した肉体であるゆえ、極限まで力を抑えているのだろう。 風子の頬を打つビンタの威力は、これまでとほとんど変わらない。 その手は鉄特有の冷たさを誇るはずなのに、やたらと熱く感じた。 「さっきまで俺とタイマンってたヤツな、サイボーグなんだぜ。スゲェだろ。 作ってくれたドクターなんちゃらの命令には逆らえないとか、強情張っててな。 でも、アイツは変わったぜ。製作者様の言いなりなんかじゃなく、自分のやりてえことをやるってな」 風子は俯いたが、頬を掴まれて強引に顔を上げられる。 せっかく目を伏せたというのに、見たくなかった土門の瞳を直視するはめになる。 その視線もまた、ひどく熱かった。 「お前はどうなんだよ、風子。 清麿から聞いたぜ。その剣、風神剣っつーんだろ? その風神剣とかいう魔剣様の言いなりになってんじゃねえのか。 ほんとに人を殺してえのか。本心から、心の底から、そう思ってんのか。 だったら言ってみせろよ。仲間のためでもなんでもなく、自分が殺してえから殺すって――そう断言してみせろよ、この野郎!」 「そ、そうに決まって……」 言葉の途中で、風子は口籠ってしまう。 肯定してやろうとしたが、できなかったのだ。 海月が土門の腹を斬り裂いたのを見たとき、剣から流れ込む声に身を委ねてしまったのだから。 「聞こえねえな。はっきり言えよ。 霧沢風子ってのは、なんか訊かれたらすぱっと答える気持ちいい女だっただろうが」 視線を逸らそうとしても、土門は首を動かして追ってくる。 黙秘は許されない。なにか答えねばならない。 そう認識し、風子は―― 「るッせええええええええええええええええッ!!」 絶叫した。 風神剣へと意識を集中させると、収まっていた風が再び激しくなる。 「私が人を殺したいかどうかなんか知らねえよ、ボケ! でも仕方ねえじゃねえか! 人殺しするヤツを殺さなきゃ、また誰か殺されちまうんだ! 分かってんだろうが、テメェも! 邪魔すんじゃねえ! 邪魔すんだったら、テメェだって――!!」 その言い分が支離滅裂なのは、風子自身にも理解できていた。 大切な仲間が殺されないように、人殺しを先に殺すはずだった。 なのに、どうして仲間である土門を真っ先に殺そうとしているのか。 これでは、守るべき仲間がいなくなってしまう。本末転倒ではないか。 生まれた懸念は、風を作れば作るほどに薄れていく。 視界の片隅のほうで、風神剣の宝玉が妖しく煌めいている。 自分の行動は決して誤っていないと、吹きすさぶ風が認めてくれているような――そんな気がした。 風子は自身に突風を当てる。 風の勢いに乗れば、土門から離れられる。 いくら土門が力バカであろうと、風が強くなればいずれ手放すはずだ。 「なんッで放さねえんだよッ! いい加減、諦めろよッ!」 一向に力が緩まる気配がなく、風子は語気を荒げる。 対して土門はというと、ふてぶてしく笑うばかりだ。 「放すわきゃねえだろうが、バーカ。 俺はいつだってお前を支えてやるって、心に誓ってんだよ。 お前が断っても、何度だって何度だって抱き締めてやるんだよ!」 「……なに言ってんだ、お前ッ! もういい加減、そのうるせえ口閉じてろよ!!」 怒りを露にし、風子は風刃を生み出す。 現時点においても、土門は花束を手放していない。 つまり、右手に風子を、左手に花束を持っているのだ。 ならば、ガードなどできるはずがない。 いかに魔道具『鉄丸』で身体を鋼鉄化させていようと、微かな衝撃は走るものだ。 風刃に頬を斬りつけてやると、ほんの僅かにだが土門の右手に籠められた力が弱くなる。 風子が、その隙を逃すはずがない。 掴んでいる手を強引に振り払うと、土門の肉体を蹴り飛ばす。 蹴った勢いを突風に乗せて一気に加速し、距離を取ってやる。 「させッかよ!!」 初めて見せた焦りの表情に、風子は口角を吊り上げる。 (もう、遅ェっつーんだよ) すでに、土門にも突風を放っている。 その風向きは風子が浴びているのは逆方向であり、ようは土門にとって向かい風だ。 こうしておけば、いくらなんでもやすやすと追いつけまい。 そんな風子の予想を覆す事態が、眼前で展開された。 土門の右腕が――『伸びた』のだ。 生物と鉱物が一体化したような、その腕には見覚えがあった。 プログラムの説明の際、高槻涼と呼ばれた少年の腕がこのような外見になって伸びていた。 (いや、いまはンなこたどうでもいい!) 空中で風刃を生み出し、伸びてくる腕へと放つ。 伸びた部位までボディスーツで覆われているはずもなく、生身だからであろう。 ようやく、風刃は土門の肉体を傷付けることに成功する。 ところが、あくまで最初の一撃だけだった。 その傷は瞬く間に回復し、二撃目以降では表面に切れ目すら入らない。 唖然とするしかない風子は、ほどなくして土門の腕に捕らえられる。 長く伸びた腕は、土門の身体の元へと勢いよく収束していく。 「……どうなってんだよ、その腕」 「たとえ人間の身体じゃなくなっても、土門ちゃんは風子様を抱き締めてやるってことだよ!!」 風子が苦々しい表情で問いかけると、土門は自信満々に言い放つ。 なんにも質問に答えてねえじゃねえか――抗議しようとした風子の右手に、鋭い痛みが走る。 「痛う……っ」 反射的に目を閉じてしまってから、風子は違和感に気付く。 いまのいままで握っていた得物が、右手から消えていた。 叩き落とされたのだと察するまで、大した時間はかからない。 だがそのほんの僅かな時間でも、土門には十分であったようだ。 落下した風神剣を離れた場所に蹴り飛ばして、もうすでに追いついている。 「さっきのたわ言のうち、どこまでお前の考えで、どっから剣のせいなのかは知らねえよ。 でもよォ、なんも言わねえで逃げたってことは、そういうことなんだろ。 だったら、容赦なく否定してやるぜ! 悩みに悩んで出した結論とかじゃなく、考えるのやめてこんな剣の言いなりになる気だったんならな!」 風神剣を踏みつけて固定すると、土門は風子に向ける眼差しを鋭くする。 「よく聞け、大バカ野郎! 仲間が殺されないように、誰かを殺すなんざ認めねえぞ! 人なんか殺しちまったらな、一生背負わなきゃなんねえんだぞ! 忘れられるワケあるか! 永遠に覚えてるに決まってんだろ! 他のなにかしてるときだってついて回るし、夢にだって出るだろうよ! 安まる日なんざねえよ、百パー。生きた心地しねーぜ、そんなもん。 仲間のために、一生モンの悔い残してどうすんだよ! そんなもん望むか! 少なくとも俺は望まねえ! 俺は、風子が後悔引きずるなんざ真っ平だ!」 一息で言い切ってから、土門は呼気を整える。 そうして拳を固く握り締めてから、真下の風神剣に視線を向ける。 彼がいったいなにをしようとしているのか、風子には予想できてしまった。 「やめろ、土門っ!!」 風子が、思い切り地面を蹴る。 風神剣を破壊させるワケにはいかない。 アレは魔道具『風神』を愛用している風子にとって、かなり相性のいい武器だ。 アレを失ってしまったら、風子の戦闘力は著しく低下する。 無慈悲に人の命が踏み躙られるこの場で、足掻くことさえできなくなるのだ。 そんな事態に陥っていいはずがない。 花菱烈火と水鏡凍季也が死んだというのに、使い勝手のいい武器を持たぬ少女に成り下がるワケにはいかない。 頭ではそう恐れているはずなのに、どうしてであろうか。 自身に力を与えてくれる剣を、握っているだけで高揚感を抱かせる剣を、『殺せ』としつこく命じてくる剣を―― 土門が完膚なきまでに破壊すると思うと、風子は不思議と胸が高鳴った。 「やめねえっ! 十回でも百回でも言ってやるぜ、風子!」 ゆえにであろう。 土門がこう断言したとき、風子は足を止めてしまった。 頭に響く風神剣の『拾え』と命ずる声は、土門の叫びにかき消される。 「殺しちまったら――なにもかも終わりなんだよ!!」 風子の視界が、スローモーションじみたものとなる。 固く握られた拳が、ゆっくりと風神剣へと迫っていく。 あと、もう少しだ。 ほんの少し待てば、土門の拳が風神剣を割り砕いてくれる。 剣から流れ込んでくるやかましい声を、二度と聞かずに済むのだ。 「…………あ?」 風子には、眼前の光景が理解できなかった。 思わず零れた呆けた声を、自身のものだと判別することさえできない。 拳が風神剣に触れる寸前で、土門の身体が『跳ね上がった』。 「ぐ、ガ……ァ! クソ……もうちょっと、だってのによォ……!」 困惑しているのは、風子だけではないらしい。 土門のほうも目を丸くして、暴走する身体に手を回して押さえ込もうとしている。 そんな意図もむなしく、土門の右腕に亀裂が入っていく。 亀裂は見る見る全身に及び、すぐに立つことさえままならなくなる。 くずおれるように倒れ込むと、身体が――『崩れて』いく。 このような現象を見た経験は、風子にはない。 それでも分かる。 分かってしまう。 何せ、身体が崩れているのだ。 さながら乾燥した泥のように、砕け散っているのだ。 それは、誰の目にも明らかなほどに分かりやすい――『死』の兆候だった。 「ど、もん……?」 風子は土門に歩み寄り、崩れゆく身体に視線を這わす。 向けられる力強い視線に反して、その肉体はあまりに脆い。 鍛え抜かれていた筋肉の面影など、いまとなっては窺えない。 とても見ていられるものではなく、風子は目を覆いたくなった。 その心情を読み取ったかのように、理想的な誘いがかかる。 『我を手に取れば、すべて忘れられるぞ』 鼓膜を介さずに、頭のなかへと届いてくる。 懐柔するような声音が、胸に開いた穴へと染み渡る。 ――風子は、再び風神剣を手に取った。 『殺せ。 我を用いて殺せ。我を紅く染めて殺せ。我が刀身を生き血で照らして殺せ。 斬り殺せ。刺し殺せ。貫き殺せ。抉り殺せ。断ち殺せ。刻み殺せ。削ぎ殺せ。 殺して殺せ。殺して殺して殺せ。殺して殺して殺して――そうしてさらに殺せ』 途端、甘い声は一変。 これまでと変わらぬ冷たいものに戻る。 「あ、あああああァァァ――――!」 喉を削るような絶叫に呼応して、風神剣より強大な風が溢れ出す。 その衝撃により、崩れかけの土門の身体は彼方に投げ出される。 風が渦を巻いて旋風となり、次第に膨れ上がっていく。 ほどなくして、風子を中心とした巨大な竜巻が展開される。 アスファルトが剥がれ、その下にあった土が舞い上がり、風子の足元がすり鉢状に抉られる。 民家は軋むような音を立てたのち、根元から吹き飛ばされる。 竜巻内を上昇する過程で、風圧によって見る見る微細な破片に砕かれていく。 『貴様、なぜその竜巻を放たない』 (うるせえ) 訝しむような風神剣の問いに、風子は短く答える。 彼女の目的は、すでに人殺しの殺害ではなくなっていた。 唯一望むのは、もう誰も近づけないことだ。 伸ばされた手が崩れていくのを見るのは、もう御免だった。 だったら最初から誰も近付いてくれないほうが、よっぽどマシだと――そう思ったのだ。 『ふん。まあよいわ。 依然として、角は生え揃ったまま。 貴様が我が力に魅入られていることに、些かの変わりもない。 ならば精神力を磨り減らすのを待ち、真に従順なる我が憑代とするのみよ』 風子が予想していたよりあっさりと、風神は引き下がって行った。 あるいは、長き時を経てきたゆえの余裕か。 (…………どうでもいいや) 舞い上がった赤いバラの花弁が視界に入り、風子の瞳から一筋の涙が零れた。 投下順で読む 前へ:誘雷 戻る 次へ:殺したらおわり(後編) 時系列順で読む 前へ:置き手紙 戻る 次へ:殺したらおわり(後編) キャラを追って読む 110:貫くということ 霧沢風子 117:殺したらおわり(後編) 横島忠夫 高嶺清麿 石島土門 マシン番長 バロウ・エシャロット さとり 087:二百年も待ったのだ 蒼月紫暮 ルシール・ベルヌイユ ▲
https://w.atwiki.jp/hyourirowa/pages/161.html
2匹の不浄猫が、デマオン目掛けて突進する瞬間を確認すると、吉良はすぐに逃げ出した。 いくら何でも分が悪い。 だが、今ここで殺さずとも、逆転の機会を掴むまで逃げ隠れを続ければいい。 空条承太郎と東方仗助に追い詰められながらも逃げおおせた時と同じ。生きていれば必ずチャンスは巡って来る。 「自身の力では敵わぬと見て、ついにはケダモノに頼り始めたか。だが何をしようと無駄だ。」 不浄猫はデマオンに近づく前に、森の木に隠れる。 戦いによって幾分か、望まれぬ開拓をされてしまった森だが、それでも隠れられるほどには樹は立っている。 「すこしは知能のある生き物のようだ。だが、主人を見捨てるとはな!」 デマオンは隠れた不浄猫を無視し、吉良を追いかける。 だが、その瞬間を彼らは待っていた。 不浄猫とはいつの世でも、犠牲による安寧を貪ろうとする者を守るために、傍若無人に振る舞う悪鬼を粛清する。 魔王が吉良にかかり切りになったと判断した瞬間、三毛模様の方が静かにデマオンの背後に忍び寄る。 足音も立てず、昼間の空き巣以上に静かに。 不浄猫の得意なことは、相手の一瞬のスキを見つけることだ。 デマオンは相手を見ることなく、後ろ手で炎魔法を放つ。 背後からの攻撃など、大魔王になる前から幾度となく受けたことがある。 しかし、当たったのは生き物ではなく1本の樹。 今のタイミングで不浄猫は狙ったのではない。 不浄猫は獲物をしとめる時、2度近づく。 1度目は獲物に飛びかかるタイミングを伺う時。 そして、次こそが本番だ。 体の細長さも相まって、獲物を狙う時の動き方は猫というより蛇を彷彿とさせる。 そして襲い掛かるのは、先程近づいた不浄猫ではなく、もう一匹、別の場所に隠れていた方だ。 満を持して、大きく口が開かれる。その先は魔王の首筋。 不浄猫の牙は尖ってはいない。食い殺すのではなく、絞め殺すのだ。 いや、ここがバトルロワイヤルというルールに則った世界である以上、『絞め』殺す必要もない。 呼吸に差し支えるほどの圧力がかかれば、自ずと首輪が作動し、数10秒で首より上が綺麗さっぱり無くなる。 だが牙がデマオンに触れた瞬間、不浄猫の方が鈍い悲鳴を上げた。 突然、獣の体毛が逆立ったと思いきや、全身が炎に包まれる。 そのまま死骸は明後日の方向に飛んで行く。 今の魔法は、デマオンが自身にかけておいた、一種のカウンターだ。 誰かが魔法の術者を攻撃した時、トリガーになる。 彼の生まれの魔界星は、不浄猫のような異形の生物などいくらでもいる。 真っ赤な瞳を輝かせ、集団で獲物を骨だけにしてしまう魔界のハイエナ。 常識を超えた巨体と力を持っているツノクジラ。 そのツノクジラのもとに、自分の歌を聞いた者を否応なく引き寄せる人魚。 神栖66町では、子供を攫うネコダマシとして恐れられる不浄猫も、彼にとっては少し厄介な生き物でしかない。 魔王は獣には目もくれず、ただ自身を謀った地球人の命を狙う。 残った一匹の不浄猫は、攻撃のチャンスを見失ったからか、攻撃に出る気配はない。 「岩よ。雷となり、地球人を打ち砕け!!」 何度目か、邪悪な岩の精霊が、吉良へと襲い来る。 既に見慣れた攻撃であるので、スタンドで殴り飛ばすことに成功する。だが、その間には逃げることをやめねばならない。 殺人鬼の下へ巨大な黒い壁が、ゆっくり、ゆっくりと迫り来る。 (何か……何かいい方法は無いのか……。) 戦うにしろ、逃げるにしろ、常に主導権を握られる。 吉良は必死で頭を回転させながら、魔王を出し抜く方法を模索する。 ■ (しまった……あの方向には……) 不浄猫の死骸が、戦場の外へ飛んで行った瞬間。 ナナの背筋を、うすら寒いものが走った。 あの怪物は、間違いなく全身を焼かれて死んでいる。 だから何だというのだ。 むしろ彼女にとって、あの猫のような豹のような生き物が生きているより、死んでいる方が問題なのだ。 その理由は言うまでもない。 (これは……願ってもみない幸運ってやつね。) 金髪の少女、佐々木ユウカは近くに死体が転がり込んでくると、すぐにその場所へ走る。 邪な笑みを浮かべ、その口の端からは今にも涎がこぼれそうだ。 何しろ、欲しかった死骸(どうぐ)が手に入ったのだから。 焼け焦げていて、生命の活動を停止した生き物が、むくりと立ち上がる。 全身の火傷は無くなり、その姿はデマオンの魔法を食らう前と同じだ。 映画館で焼け死んだはずの風間シンジと同様、その姿は死んでいるとは到底思えない。 (早くアイツから持ち物を奪わないと!!) ユウカの能力の発動のトリガーは「操る死体の持ち物を持っていること」。 一瞬、ユウカが不浄猫の毛を一房毟っていたいたことから、彼女が右手に握りしめたものを奪えば良いと思っていた。 慌てて彼女がいる場所へ走ろうとするが、時すでに遅し。 「チェックメイトだね。」 不浄猫のひんやりとした牙が、柊ナナの首に触れるまで、あとほんの数センチ。 彼女が身じろぎしたり、何らかの拍子で身を捩っても、届くぐらいの距離だ。 「少しでも動いたら、この子がナナちゃんの首を嚙み千切るよ。」 ユウカのその言葉で、ナナは足を止めざるを得なくなる。 既に柊ナナのすぐ近くには、不浄猫が今にも飛びかかろうとしていた。 本来の不浄猫とは使い方が違うとはいえ、柊ナナぐらいの少女にとって脅威となるのは確かだ。 「どうやらお前は、ここでもロクなことをしていないようだな。」 「大切なシンジと結ばれるためにね。そして、シンジとの仲を引き裂いたナナちゃんをこうやって殺すためにね。」 この佐々木ユウカというドブにまみれた性根の人間が、この世界でも全く変わってないことに、呆れを覚えるしか無かった。 馬鹿は死ななきゃ治らないと言うが、この場合、馬鹿は死んでも治らないという方が正確だろう。 「呆れるくらい愚かな奴だ。まだ自分をアカの他人の恋人だと思って……。」 「うるさい。そんなことより、最後に言い遺すことだけ考えなよ。」 不浄猫と、佐々木ユウカ。 4つの爛々と輝く眼が、ナナの命を奪える瞬間を今か今かと待ち望んでいる。 元の世界とは、立場が完全に逆転した。 「さーて、どうやってシンジとあたしの怨みを晴らそうかな~。」 足を怪我し、逃げる力も戦う力もない子犬を、どう虐めてやろうか考える子供のような表情を浮かべる。 だが、その余裕の一瞬が命取り。 ナナは地面に落ちてある石を掴んで、ユウカの顔面目掛けて投げる。 「うわ!痛っ!!シンジに会う前に顔をケガしたらどうするのよ…!!」 しかし、彼女の肩に石が当たっても、殺すことは出来ない。 そもそも、ナナがこれまで能力者を殺すことが出来た背景には、暗殺用の道具があった場合か、断崖絶壁など地理的な条件が味方した場合のみだ。 (くそ……) ナナの行動を抵抗と見なした不浄猫が、先の尖ってない牙でナナを絞め殺そうとする。 だが、標的と定めた少女は、急に宙へ浮いた。 「「え?」」 不浄猫の牙は、何もない所を噛むことになる。 3次元的な動きをし始めた復讐相手に、ユウカは驚く。いや、ナナ自身も驚いていた。 何しろ柊ナナは無能力者であり、空を自由に飛ぶ能力など持っていないのだから。 「地球人共が、静かに出来んのか!!」 彼女を宙に浮かせているのは、デマオンの魔法によるものだった。 勿論、デマオンは決してナナが心配だったという訳ではない。 これから目の前の男を殺すというのに、近くで乱痴気騒ぎをされてはたまってものではない。 「ちょ、ちょっと、ナナちゃんの邪魔をしないで……。」 良い所を邪魔されたユウカは、デマオンに文句を吐き出そうとする。 だが、その口調は尻切れトンボも良い所だった。 なにしろ、死体を操れる能力以外は一介の女子高生でしかないユウカが、魔族の王に睨まれたのだ。 そのショックで気絶やら失禁やらしないだけでも、褒められたものだろう。 「邪魔なのは貴様なのが分からぬのか!!」 怒鳴り声に合わせて、ユウカのすぐ近くから炎が立ち上る 「あちちち!!」 牽制のつもりで撃たれた炎だが、彼女の身体の先端を僅かに炙った。 それだけで、脱兎のごとき勢いで逃げていく。 勿論、不浄猫の死骸も一緒に。 「あ、ありがとうございます。」 「馬鹿者が。王が罪人を処刑する間ぐらいは静かにせぬか。」 デマオンとしては、ユウカも邪魔な地球人ではあるが、処すべきは自分を謀った吉良の方だ。 先程のやり取りの間に、またも吉良は逃げ出そうとする。 だが、魔王がナナとユウカの争いを止めたのは、吉良に対する慢心ではなく余裕。 そして、王たる自身に不届きな行為を行った相手を、処刑するための会場の準備だ。 「ドカン、ドカン」 後ろを振り返り、吉良はまたも爆弾と化した空気弾を撃つ。 「無駄だと言ったはずだ。」 しかしデマオンはナナを雑に地面に置いた後、新たな魔法を練る。 持ち前の魔法で追い風を起こし、空気弾を真逆の咆哮へと飛ばす。 空気弾の爆発のタイミングを、自由に決定できるのは吉良のみだ。 だが、それがデマオンに近づくことは無い。 そのまま風に乗って、吉良も逃げようとするが、その足が動かない。 「風と共に逃げるつもりか?生憎だが、わしら魔族を利用しようとした地球人は、常に八つ裂きの刑を受けて来た。」 先ほどナナに対して使った念力を、今度は吉良に使う。 手足をばたつかせ、必死で魔力に抗おうとするも、革靴を履いた足を地から離される。 さらに指をパチンと鳴らすと、吉良のすぐ下から炎が出る。 まるで炙り焼でも作っているかのような有様だ。 「もう逃げられんぞ。わしが何かの気まぐれを起こしたり、そこの石に躓いて魔法を解いたりすれば、きさまはすぐにでもバーベキューよ。」 「く……くそ……。」 吉良はスタンドを出すが、近距離パワー型スタンドであるキラークイーンでは、魔王に届かない。 「あの爆発する使い魔を出しても無駄だ。奴は炎に反応して向かってくるのだろう?」 正確には高温に反応して動くのだが、そのために吉良のすぐ近くに炎を出した。 唯一離れた敵に通じるシアーハートアタックも、上手く動かない以上はどうにもならない。 「さて、最後に言い遺すことはあるか?」 (くそ……何かこの男を攪乱できる方法はないのか……。) デマオンの燃え盛る炎のような瞳に見つめられながらも、必死で吉良は思考する。 これが最後のチャンス。逃せば後は無い。 とはいえ、相手は大魔王。ちんけな嘘では逆鱗に触れるのは目に見えているし、申し開きや命乞いをする相手でもない。 「そう怯えなくともよい。貴様は地球人にしては良く戦った。一思いに消し炭にしてくれよう。」 デマオンの右手に炎が宿る。 彼の高鳴る鼓動に合わせて、吉良吉影という殺人鬼の命が、カウントダウンを刻み始める。 そんな中、デマオンの近くにいた少女に目が入った。 (!!!!!!) その瞬間、吉良は閃いた。 起死回生の一手、などと呼べるほど素晴らしい物ではない。 0%だった生存率が、10%に上がれば良いという程度だ。 それでも、この魔王から逃れるために、やってみる価値はある。そんな方法だった。 「じゃあ、最後に聞いておきたいことがあるんだが、答えてくれるかな?」 吉良のえらく冷静な態度に、デマオンは聊か戸惑うも、すぐに立て直す。 ここからならばどう足掻かれようと魔王が勝ち、吉良が破れる。余程のへまをしない限りは、それは決まっている。 だから、適当に質問を聞き流して、切りの良い所で魔法を放とう。そう考えていた。 「大魔王である君に問いたいことだが、私以外に裏切者が近くにいた時はどうする?」 この瞬間、心拍数が一番ハイペースになった者は、吉良からナナに変わった。 だが、彼女は平静を突き通す。 確かに自分は吉良に、デマオンやアイラを裏切った上での同盟を持ちかけようとした。 だが、この状況なら、自分のことを名指しで言われても苦し紛れの虚言と惚ければいいだけの話だ。 「隣にいる彼女はね、たしかに私にこう頼んだんだよ?『わたしと一緒に参加者を殺せ。』とね。」 柊ナナは思わず、足が出てしまいそうになった。 吉良の顔面を殴り、その口を塞ごうという衝動に駆られる。 (落ち着け……コイツの言ったことが本当だという証拠はない。) 勿論、そんなことを言われても、魔王はただのつまらぬウソだと考えてしまう。 目の前の地球人はこの期に及んで自分を言いくるめようとし、内輪揉めを狙っているにちがいない。 低くて聞き心地の良い声だけが取り柄のエセモラリストを焼き殺し、それでこの戦いを終わりにするだけ。 味方陣営にいる他の誰かから、柊ナナを疑えとでも言われなければ。 ――デマオン様、あの柊ナナという少女はどう思いますか? ――ただの地球人の子供ではないか……何が言いたい。 ――何か分からないものを感じます。もしかすると私達を利用しているかもしれません。 ――たとえそうだとしても、ワシや部下のきさまが地球人1人に後れを取る訳なかろう。 デマオンは図書館で柊ナナに会ってから、最初の放送までの間、アイラからナナという少女が疑わしいと言われていた。 もしもの話、デマオンがアイラから忠告を受けていなければ。 吉良の言葉など、取るにならない嘘だと一蹴しただろう。 ここで、魔王の脳内に初めて葛藤が生まれた。 早くこの男を殺せと言う言葉と、話を聞くまで待てと言う言葉だ。 一度疑ってしまうと、疑念は関係のない所まで広がる。 図書館の放火は、襲撃者が柊ナナと結託して行われたことだとか。 そこで、そんなはずはないと自らに否定の言葉をかける。 現に自身が満月博士に襲われた際に、柊は満月博士を攻撃した。 だが、あの躊躇のない攻撃は、どうにもあの地球人の少年たちと同じ人間だとは思えない。 大魔王デマオンとは、悲しいほど何かを疑うことに慣れていない生き物なのだ。 彼は長い生涯、地球を手に入れることに力を注いできた。 地球は悪魔族が代々望んできた惑星であり、それを手に入れることに何の疑いも無かった。 だから、些細なことでも疑うことに時間をかけてしまう。 事実、地球人ナルニアデスが悪魔達の仲間になったふりをして乗り込んだ際、裏切りに気付くのに時間を要してしまった。 「話を逸らすようで悪いが、君の世界では蝙蝠という生き物はいるのかな? だとしたら知っていると思うが、裏切りで有名な彼らは何の道徳も哲学も持たず、日陰から自分の安全な日陰へと移動するしか能のない生き物だ。」 (今、この男は何と言った?) しかし、彼の言葉に反応したのは、柊ナナの方だった。 吉良吉影が言った蝙蝠の例えは、自分のことだと気付かないほど、ナナは鈍感ではない。 自分を、能力者たちを殺す任務を承った自分を、あろうことか道徳も哲学もない人間と言ったのだ。 彼女の気持ちを知ってか知らずか、吉良は宙づりにされたまま訥々と語る。 傍から見れば、どちらが追い詰められているのか分からない。 デマオンの胸の中で、薄々嫌な予感が湧き始めた。 この男を野放しにせず、すぐに殺してしまえと。胸の奥で何かが告げる。 左手の炎の弾を飛ばす準備をする。 「それだけなら飼ってやる価値もあるかもしれないが、あろうことか奴ら感染症の原因となる病原体を保有している。 温情のつもりで味方にしてやったはいいが、奴らが媒介する細菌には気を付け……」 自分の能力に胡坐をかき、好き放題やった悪人の分際で何を言うか。お前のような奴に私の両親は殺されたんだ。 吉良吉影のあまりの勝手な態度に、そんな言葉がナナの胸の内をよぎった。 デマオンが殺す前に、徒手空拳でもいいからこの男を殴らねばならない。 その時、奇跡が起こった。 「どういうことだ……。」 吉良にとって最高の、デマオンにとって最悪の奇跡が。 死んだ。 悲鳴を上げる暇さえ無く焼け死んだ。 柊ナナは、悲鳴も上げずに、魔王の放った炎によって灰燼に帰した。 いくらナナが動揺し、デマオンの前に出たと言っても、魔界で一番の力を持つ彼が間違って彼女に当てるようなことはない。 この場に、吉良とナナ、デマオン以外の誰も居なければ。 吉良の支給品にあったもう一匹の不浄猫が、主を守ろうと、そして主に歯向かう者を殺そうとした上での結果だ。 不意に吉良への足を止められた柊に、災厄が襲い掛かった。 柊と不浄猫は、共に炎に包まれ死んでいた。 自身の部下を殺害するという、してはならないことをした魔王は、一瞬だが集中力を手放し、放心状態になった。 それは、ひどく大魔王にあるまじき行為だった。 地球人など命の内には入らないし、不手際を犯した部下や裏切った部下を、顔色一つ変えずに粛清して来た。 違う。それらは全てデマオンの意志でやってきたことだ。 意志にそぐわず、しかも姑息な地球人の策略に嵌められたことで、部下を殺したことが問題だ。 「ドカン」 魔法が切れたことで、宙づりから解放された吉良は、炎が燃え盛る地面に空気砲を打つ。 元々デマオンが集中力を切らしたことで、弱まっていた炎は、完全に消えた。 1割あるかないかの賭けに成功した。このチャンスを無駄にするわけにはいかない。 「待て!地球人よ!!たかが少しの幸運ぐらいぐらいで逃げられると思うな!!」 その怒声は、先程よりも勢いが薄れていた。 逃がしてはおけない。 柊ナナを殺したのはこの男が原因だ、そして彼女が吉良と手を組もうとしたからだ。 そんな体のいい言葉で、自分を誤魔化す。 部下を他者に嵌められて殺したことなど、王たる者として一番やってはならないことだからだ。 今から殺せばいい。まだ間に合う。 しかし、焦りが如実に表れる為、魔法のコントロールが乱れている。 破壊したのは、森の中の木々のみだ。 炎を纏った樹木が倒れ、下敷きになりかけるも、必死で走る。 魔王は倒れた木をもさらに吹き飛ばし、地球人を追いかける。 「岩よ!雷となり、地球人を打ち砕け!!」 岩の邪精霊は、不気味な声と共に倒れた木を吹き飛ばす。 ついに吉良を捕らえたと思ったら、何かが爆ぜた。 「吉影ェーーーーーーッ!!!!」 写真だ。 空を飛ぶ写真が間に入りこみ、吉良を魔法から庇った。 吉良の敵になる精霊あらば、彼の守護神になる幽霊も存在する。 「!?」 一体何なのか、吉良自身も一瞬混乱した。 この世界線の吉良は、まだ写真と化した父親に出会っていない。 確かに父の声をしていた何かが、自身を助けてくれたのだと理解した。 自身の父親が繋いでくれた一瞬を、彼は無駄にはしない。 「まだ逃げるか!地球人よ!!」 猶もデマオンが追いかけてくる。 だが、逃げる算段が付いた以上は、恐れることは無い。 「そこで点火だ。」 「!!?」 デマオンの足元で、地面が爆ぜた。 地面に散らばった木の欠片をスタンドで爆弾に変え、簡易的な地雷とした。 魔王の生命力があるため、足が無くなったり、ましてや命が失われることは無い。 それでも、走ることが出来なくなるくらいにはダメージを受けた。 そして、自分が狙おうとしていた獲物を逃がしてしまった。 騒がしかった森は、瞬く間に静寂に包まれる。 柊ナナと1匹の不浄猫の死骸、そして生き残ってしまった魔王を残して。 「そうだ……再び作戦を練らねば……あの、赤い地球人はどうしている……。」 吉良が去ってからしばらして、デマオンはそう呟いた。 その言葉を聞く者は誰もいない。 だというのに、何故か言葉を紡がずにはいられなかった。 だが、彼は知らない。 あの時不浄猫を殺したことが原因で、悲劇はまだ終わっていないということを。 [柊ナナ@無能なナナ 死亡] [写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 破壊] [残り 18人] 【D-4 森・南 午後】 【デマオン@のび太の魔界大冒険 】 [状態]:ダメージ(大)片足にダメージ(大) 魔力消費(大) 嵌められて柊ナナを殺したことによる放心状態 [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2 [思考・状況] 基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する……はずだったが? 1.どうすればいい……? 【D-5 荒野 午後】 【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:ダメージ(大)スーツがボロボロ 苛立ち(中) [装備]:空気砲(65/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 [道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2 [思考・状況] 基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。 1.邪魔者を殺し、この場からさっさと逃走する。 2.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す 3.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問 4.ヤン達からは距離を置きたい。 5.絵の中の少女、秋月真理亜の手が欲しい ※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です ☆ (ふざけないでよ……何なのよアイツは……!!) 火柱で丸焼きにされることを辛うじて避け、ひたすらにユウカは逃げていた。 余りの恐怖で、柊ナナを殺す千載一遇のチャンスを奪われた怒りも失せていた。 もう少しあの場で待っていれば、仇敵の死を見ることが出来て、溜飲の一つも下がったかもしれないが だが、一度離れると、自分の町に待ったお楽しみを邪魔された怒りがわき上がって来る。 彼女は、柊ナナが学校で言った『人類の敵』など半信半疑だったし、どうでも良かった。 けれどはっきり分かった。あの男が、人類の敵なのだと。 柊ナナはその人類の敵と結託して、能力者たちを殺していたのだと。 シンジと結ばれるためには、たとえデマオンが人類の敵じゃなくても、倒さねばならない。 そのためには、不浄猫などより比べ物にならないほど強い死体を手に入れるしかない。 ひとまずバツガルフの下に戻ることにする。 死体集めの為には、彼もまたいなくてはならない存在だ。 同盟解消の時間が来るまで、力になってもらおうと考える。 その場所に来ると、先程襲って来た女剣士とバツガルフが、何もせずにただ睨み合っていた。 彼女は知らない。秘密裏にバツガルフが自身を捨て、アイラと組もうとしているなど。 (仕方ないわね……手助けしてあげるから、勝ちなさいよ。) 不浄猫を走らせ、アイラを襲わせる。 知らないからこそ、横槍を入れることが出来る。 味方か敵か、どちらが有利になるか分からない横槍を。 ☆ (どうすればいいのよ……) アイラはなおも、目の前の敵を倒すべきか、はたまたナナを助けに行くか決めかねていた。 「一つ言っておこう。ワタシとは違い、あのユウカとかいう小娘は人を殺そうとしている。 早く助けに行く方が良いんじゃないのか?」 「………。」 バツガルフの言うことは最もだ。 彼女自身もそう思っている。 少し離れた場所から爆発音を聞くたびに、その気持ちが加速する。 だが、この男を逃がしてしまったことや、後ろから刺されることを考えると、どうにも言うことを鵜吞みに出来ない。 そんな中、ひときわ大きい爆発が森の中に響く。 やはり、デマオンやナナの安否の為にも、一旦この男を置いておこう。 そう決断することにした。 「分かったわ。でもあなたを許した訳じゃないか……!?」 何かが、アイラの足を斬りつけた。 爪のような、刃物のような何かだ。 「やっぱり、後ろから攻撃しようとしていたのね……。」 「!?」 だが、ある意味これで良かった。 これで躊躇なくバツガルフを倒して、それからナナ達の下へ行けるから。 すかさずアイラは、怪我してない方の足で地面を蹴り、颯爽と敵の近くへ向かった。 「疾風突き!!」 まずはバツガルフの腹に一発、ディフェンサーからの突きを見舞う。 「ま……待て!!」 「今更遅いわよ!!」 突きから、そのまま斬り上げに一発。 「く…バツバリアン展開……」 「させるか!」 バツガルフは魔法を出し、彼女を無力化しようとする。 だが、杖から出たのは黒い煙だけ。 彼の杖を縦笛とするなら、魔力は杖に送り込む呼気。魔法はそこから出る様々な音。 笛にヒビが入れば正しい音が出ないように、アイラの一撃をモロに食らった杖は、一時的に魔法が出なくなった。 「これで終わりよ。剣の舞!!」 すぐにとどめを刺すためにも、アイラは切り札を切る。 舞の道と剣の道、踊り子と戦士。二つの技術を積まねば出来ぬ4連撃だ。 袈裟斬り、横薙ぎ、くるりと回転しながら逆袈裟。上空で縦に一回転して兜割り。 大剣が、バツガルフの電子頭脳を破壊する。 「く……おのれえ……。」 バツガルフのアイセンサーから、光が消えた。 (終わった……?何だかいやにあっさりしているけど……。) 彼を倒したアイラは、何とも不完全燃焼、といった気分を味わった。 それまでの、斬っても付いても全く倒れる様子が無かった相手が、嘘のようにあっさりやられた。 まるで自分が不意打ちで倒したかのようだ。 倒したという達成感など、あった様なものではない。 その時、ザッ、と何かが木の葉を擦った音がした。 (何があったの?あの男と一緒にいた女の子が戻って来たとか?それとも別の敵がいたの?) 静かで鋭く、狩りに慣れた獣のような動き。 それが森の茂みの中を走る。 アイラは動かなくなったバツガルフを置き去りにし、その敵を追いかける。 足を怪我したため少し動きが鈍っているが、問題は無い。 「ギラ!」 閃光魔法を放つが、そこには当たらない。 そして、出てくることは無い。 今度は火柱を立てる。手ごたえが無い。それも外した。 急に、アイラは嫌な予感を覚えた。 先程まで動き回っていたはずの何かが、全く動く気配がしない。 木の上から、ドサリと何かが落ちてくる音がした。 それは、猫を彷彿とさせる、生き物だった。 やけに長い爪を持っていたことから、自分の足を斬りつけたのはこの魔物だと考える。 (死んでる……。どういうこと?さっきの攻撃は当たってないよね……?) まるで自分が戦いをすることを忘れていたかのように動きの鈍いバツガルフ。 襲って来たかと思いきや、いつのまにか死んでいた猫の魔物。 何が何だか、全く分からないといった状況だ。 その瞬間、地面が揺れた。 敵が使って来たじひびきのような、明らかに敵にダメージを与えることを仮定した地震だ。 それだけで倒れることは無い。だが、確実に彼女に隙が生まれた。 その時、一筋の光線が、アイラの背中に命中した。 「アイスビーム。」 (これは!?) 患部から氷がじわりじわりと広がり、彼女を動けなくさせる。 ほとんどの状態異常を無効化させるイツーモゲンキを付けているが、火傷や凍結状態など、温度変化に影響するものは意味を為さない。 アイラが驚いたのは、未知の魔法ではない。 そこに殺したはずのバツガルフが立っていたことだ。 (どういうこと?確かに倒したはずなのに……。) 殺し損ねたということは無い。 それをアイラは確かに断言出来た。 頭を砕かれて生きているはずなど無いし、1人だけでこんな回りくどいことをする必要はない。 「メガサンダー。」 アイラの頭上に雷が落ちる。 動きを封じられ、避けることも出来ない。 鋭い痛みと共に、視界がまばゆい光に包まれてぼやけていく。 そんな中、バツガルフの後ろであの金髪の少女の姿が見え、ようやく気付いた。 あの金髪の少女が、死体を操る能力を持っていたのだと。 猫の魔物やバツガルフが生きていたり死んでいたりするのも、そういうからくりがあったのだと。 嵌められたのは、バツガルフの方だったと。 そんなことが分かった瞬間、もう一発雷が落とされた。 (あーあ、最悪。) 薄れゆく意識の中、頭の中でそんな言葉を紡ぐ。 目の前のバツガルフに最後の攻撃をしても意味が無いし、こんなことになった金髪の少女を攻撃するには遠すぎる。 氷に閉じ込められたまま、それでも右手だけを氷から引きはがし、指を鳴らす。 そして、最後の火柱を放った。 バツガルフでもユウカにでもなく、自分自身に。 氷が溶けても、ダメージが大きすぎる以上は、反撃に出ることは出来ない。 それでも、目的は一つだけある。 死ぬことよりも、あんな年端も行かないヤツにいいように扱われ、メルビンやシャークを傷付ける方が真っ平ごめんだから。 だから、そんな自分なんか焼き払ってしまえと。 剣と盾を残し、彼女の肉体は灰へと消えた。 ☆ 「あーよかった。でもこれ、同時に使う必要ないじゃん。」 まだ彼女がバツガルフから奪っていたのは、コートの袖だけだ。 バツガルフから死体を回収し、支給品のPOWブロックを鞄に入れる。 死体を操るトリガーには、死者の持ち物が必要である以上、道具はあればあるほどいいし、本来の道具として使うことも出来る。 うっかり自分のミスで彼を殺してしまった際にはどうしようかと一瞬パニックになったが、結果は大成功だった。 不浄猫の死骸を捨て、すぐにバツガルフの死体を手に取ったのが功を奏した。 もしもの話、デマオンが不浄猫を殺すことが無ければ。 ユウカの死骸を囮とした作戦は通用せず、彼女の方が倒れていただろう。 魔王の牙にかかったのは、彼の敵だけではなかった。 死骸となった男は、ユウカに跪く。 傲岸不遜を極めたような男がするとは到底思えない仕草だった。 [アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 死亡] [バツガルフ@ペーパーマリオRPG 死亡] [不浄猫×2 新世界より 死亡] [残り 16名] 腹の底で溜めていた笑いを、一気に吐き出す。 「あははははははははははは!!」 成果は上々。邪魔な参加者が2人死んで、武器も手に入った。 デマオンに睨まれた恐怖も、高揚感でいくらか薄まった。 アイラの死体から、彼女の世界の情報を聞けなかったのが少し残念なくらい。 バツガルフという強い力を持った死体を、デマオンにぶつけてやればいい。 そして今度こそ、柊ナナを殺す。 そんなことを考え、[C-4]を出た瞬間だった。 「随分と馬鹿笑いをしているんだな。良い事でもあったのか?」 そこにいたのは、ハイラル駅で見た、緑色の服の青年だった。 彼はまだユウカのことを知らない。 だが、因縁の相手であったバツガルフと同行している時点で、同罪のようなものだった。 【C-3 森・東 午後】 【佐々木ユウカ@無能なナナ】 [状態]:ナナへの憎悪(極大) デマオンへの恐怖(中) [装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG [道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4 不浄猫の死骸@新世界より+不浄猫の毛玉 ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV 魔法の盾@ドラゴンクエストVII まだら蜘蛛糸×3@ドラゴンクエストVII [思考・状況] 基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する 1:どうにかしてナナを殺す 2:この場から逃げたい ※まだ昼ですが、太陽が隠れたため、ネクロマンサーの能力を使えるようになりました。 ※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。 ※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。 ※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動) 【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】 [状態]:死亡 ユウカの能力で操られている。 [装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7 [道具]:基本支給品 なし [思考・状況] 基本行動方針:×××× 1:佐々木ユウカに仕える 【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】 [状態]:ハート1/6 肋骨一本損傷 服に裂け目 所々に火傷 凍傷(治療済み) 疲労(中) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大) [装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス トルナードの盾@DQ7 アイスナグーリ@ペーパーマリオRPG [道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2 水中爆弾×5@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス アルスのランダム支給品1~2 (武器ではない) 正宗@Final Fantasy IV 柊ナナのスマホ@無能なナナ 火縄銃@新世界より 美夜子の剣@ドラえもん [思考・状況] 基本行動方針:主催を倒す 1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺す。 2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く 3.アルスの想いを継いで、仲間を探し、デミーラを必ず倒す ※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。 ※地図・名簿の確認は済みました。 ※奥義は全種類習得してます 【ルビカンテ@Final Fantasy IV】 [状態]:HP 1/8 魔力:中 疲労(中) [装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG [道具]:基本支給品 [思考・状況] 基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う 1.リンクと共に、殺し合いに乗っている者を倒す ※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。 ※アイラの剣と盾以外の支給品、および柊ナナの支給品は、焼失しました。 [支給品紹介] [不浄猫×2@新世界より] 吉良吉影に支給された意思持ち支給品。呪力による変異を利用した品種改良で強化された猫で、何らかの理由で「不要」と判断された人間を密かに始末するための生物兵器。 先の尖ってない牙で敵を絞め殺したり、尖った爪で引き裂いたりする。2匹1セット。 Back← 093 →Next 092 Twilight Trail 時系列順 094 見え始めた光明 投下順 084 炎と森のカーニバル デマオン 095 しかし、誰が四枚目のカードになるのか? アイラ GAME OVER バツガルフ 佐々木ユウカ 096 赤くて痛くて脆い(前編) 077 イントゥ・ザ・ウッズ 柊ナナ GAME OVER 吉良吉影 095 しかし、誰が四枚目のカードになるのか? 083 影濃くなれども リンク 096 赤くて痛くて脆い(前編) ルビカンテ
https://w.atwiki.jp/fireinki3/pages/43.html
301 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 22 54 ID 6t/3E4Wt0 292 それは違うと思う。 残留争いと優勝争いを同列で論じるのは暴論だと思うぞ。 現に優勝争いをしている大分以外のチームで露骨なメンツを行って、尚且つジャイアントキリングを許したチームはないわけだから。 第一、大分のスケジュールって他と比べてそんなにハードだったか?? 302 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 24 39 ID rSAj2Q83O 若手の成長、選手のコンディション維持より、 疲弊した選手を使えと犬飼は言うわけだけど、 日本では昔から「二兎追う者は一兎も獲ず」と 言われているのに、ホントに馬鹿な奴だな。 304 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 27 14 ID 6U/P7AGq0 278 似てるw ほんと似てるw 305 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 27 27 ID nds9iFTiO 294 一個人の意見が、あるチームのサポーターの総意、なんてことはないだろうからね。 ただ、ターンオーバーについて言えば、そういう手法が生み出された背景に、故障回避やコンディション維持の目的もあると思うから、『温存』の側面も否定できないと思うよ。 306 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 28 15 ID u63CI2lN0 なんでこんなマジキチが会長になっちゃったんだろ? 307 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 28 59 ID 8o8e+FTS0 現状は犬飼の改革についていけないクラブも多いだろうね だけどはじめっから否定するのもどうかと思うよ 308 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 29 02 ID DUgxF73U0 306 川淵の最後っ屁 309 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 29 15 ID brdyooRw0 296 まあ、もう少し書けば「欧州のサッカーチームがリーグとカップで選手を入れ替えた事」ってのが サッカー界で「ターンオーバー」という言葉が使われた起源なんだけどね。 まさに今回は「ターンオーバー」の是非を問われたケース。 310 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 30 38 ID izJOCuZZ0 301 8日間で3試合だよ大分。 311 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 30 44 ID u63CI2lN0 307 だったら理念に賛同するクラブだけで新リーグでも作ってそっちで勝手にやってくれ どれくらい集まるかは知らんがな 312 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 32 01 ID o1/CFrd/O 戦術は同じじゃないよ実力的にはほぼ均等だが ラツィオ時代のエリクソンが守備の固い相手の国内戦用と 攻撃力のあるチャンピオンリーグ戦用で最終ライン以外の選手を入れ換えてたのを 指して言ってたのが最初 つまりトップチームが二つあるということ 313 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 32 44 ID NX4j9gHxO 浦和なしではJは生きていけないからなぁ 浦和のアウェイ動員は美味しいよなぁ 314 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 34 27 ID brdyooRw0 313 それなんて一昔前の巨人? 315 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 34 46 ID 6t/3E4Wt0 310 それってACL出たチームとかはこなしてるよね。 海外移動も含めて。 なんにせよルール化してないわけで、大分の社長が謝罪してるわけだから今回はこれ以上責めるのはおかしい罠。 316 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 35 12 ID 9HTI5jih0 今季のバルサ好調の理由 ttp //sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/0809/spain/text/200811100015-spnavi_2.html 317 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 35 29 ID rSAj2Q83O そもそもクラブはサッカー選手として選手に給料を払ってるのだから どういう起用をしようが、リーグからクレームがつくのはおかしい。 しかも、サッカーは連携が重要なんだし、ある程度コンビネーションが 取れている組み合わせにするのは普通だろ? 318 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 37 44 ID nds9iFTiO 301 大分には失礼な言い方になるけど、大分の選手層はさほど厚い訳ではないし、浦和、鹿島、ガンバのように、常に優勝を視野に入れて戦えるほど、資金がある訳でもない。 そう考えれば『千載一遇の好機』を、何としてもモノにしたい、と監督が考えても、不思議ではないと思うよ。 一時はチームの存続さえ危ぶまれたのだから、本当に必死なんだろう、という風に自分は考えてる。 319 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 38 57 ID NSZyO/4z0 301 鹿島、浦和、名古屋、川崎、大分の現時点での上位組の中で、大分のチーム規模は… 320 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 39 58 ID NX4j9gHxO もう勝ち目のない戦いをするだけ無駄やで・・・ 千葉さんも早く土下座しとこうや・・・ 所詮犬飼さんの掌の上や・・・ 321 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 41 50 ID cYxH/fje0 305 まったくその通りだと思う、温存から生まれた策だと思う。 言っちゃあ何だ協会がいくら権威を大会に押し付けようとサポが求める栄冠は別にあるって所だな。 俺らには俺らなりに目指したいタイトルがある訳だし、それと天皇杯を同等に見ろと 言われても今更この流れは変えられないだろう。 322 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 41 57 ID 1hErnKUO0 ムカついたら根拠無く処分できるなんてありえないんだよ 犬害が浦和にムカつくわけないし 浦和に勝ったら処分されかねん やらせるわけにはいかないよ 323 名前:酉[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 43 32 ID hzoD7jB+0 正直これで今季のカップ戦は全て辞退とするといわれて ナビスコ奪われたしないかと戦々恐々です。 メンバーについては彼らだって登録選手、十分戦ったと俺は思っている。 空回りしてるのが多い印象だったけどね。 324 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 44 09 ID fE3S6rafO mixiの追放コミュもじわじわ人が増えてきたな 支援よろ 325 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 45 54 ID rSAj2Q83O ターンオーバーしても勝ち抜けるようなクラブが最高なのになぁ。 欧米かぶれのくせにひょっとしたら、知らないんじゃねーか? ドイツ人あたりに言われたらさっさと考えを変えたりして。 326 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 46 26 ID txWFsZMX0 おいおい磐田なんか総とっかえじゃん。 [J30節(10月25日)スタメン] GK 1 川口 能活 DF 15 加賀 健一 DF 5 田中 誠 DF 3 茶野 隆行 MF 25 駒野 友一 MF 38 ロドリゴ MF 17 犬塚 友輔 MF 14 村井 慎二 MF 24 松浦 拓弥 FW 18 前田 遼一 FW 8 ジウシーニョ 327 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 47 59 ID 3gpLErvpO あれ?チップさん涙目で逃亡?w 328 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 48 19 ID 9ipI+pG6O 一般サッカーファンと犬飼教信者の対決を 焼き豚がニヤニヤしながら見ていますw 329 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 48 48 ID +awMNVw90 チップスターよ 何故磐田はメンバー入替えOKなのかにも答えてよ 330 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 51 58 ID tCwRi6CgO 323 ナビ剥奪まで言い出したら、元官僚の社長に頑張って貰うしかない。 省が違うからいろいろあるだろうけど、高級官僚のツテをつたっていけば、 監督官庁の文科省まで繋がるだろ。 331 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 19 54 59 ID Fw7jgnIg0 329 入れ替えても、勝てるメンバーだったからだろ。 鳥栖には悪いが、その前の2試合で9失点もしている、しかも下位リーグのチームだよ。 そこにメンバーを落として、惨敗している大分の姿勢を問われているんだよ。 332 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 55 11 ID 6U/P7AGq0 330 そんなことしたら他サポだって黙ってないから 安心しるw 333 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 57 28 ID brdyooRw0 ゲームの中で、選手は選手なりにマネージメントするのが当たり前なわけで、例えばキックオフ直後から 全力で走り続ければ途中でスタミナが尽きて総体的に見ればその選手はマネージメントを間違えたと言えるし チームのゲームの中でのネガティヴポイントと評価される。 まあ、それは極端な例だとしても、選手は自分のスタミナが許す範囲で、ゲームの中で「ここだ!」というところでスプリントをする。 それが最もチームの勝利に近づく為の最善の策だから。 視点を変えて、チームのマネージメントについても似た事が言える。 全てのゲームでよっぽどの故障が無い限り能力の高い選手を出し続ける事が、リーグ戦カップ戦通して チームの勝利に近づく為の最善の策なのか、そうじゃないのか。 プロなのだから常に全力で走り続けるべきっていうのは正に愚策としか言いようが無い。 「キモチガハイッテナイヨ!」って言われても、気持ちだけではどうにもならない部分もある。 リーグの終盤になってスプリントができないチームは、マネージメントを失敗したと言うべきだし それはプロとして恥ずかしい行為だとも言えるかもしれない。 何が言いたいかというと、犬飼のバーカ。 334 名前:酉[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 57 45 ID hzoD7jB+0 330 荒唐無稽だとは思うけど、今の犬飼だとそれも言い出しそうで本当怖い。 ウチの社長は正直図に乗りやすいし脇も時々甘いお調子者の馬鹿だけど、 トリニータへの気持ちはホンモンだし、西川や上本の件で選手を守ったり して今年は見直した…というより男を上げてる部分が多いんだよね。 今回謝ったのは本当に「大人の対応」をしようよってことだったんだと思う。 でも犬飼側がそれを受けなかったから、処分がそういう最終段階まできたら 多分ウチの社長は戦うと思うよ。 他サポさん、この件ではご迷惑をおかけしていますがどうか力をお貸しください。 335 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 00 18 ID vnkJsJBu0 ちんこ巻き社長は世の渡り方をわかってるからのう 336 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 00 22 ID JDB6SfuWO まあ犬害のキチガイぶりも、劣頭脳だから仕方ない。 337 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 01 49 ID tCwRi6CgO 332 今でも黙ってないからこんな伸びてるんだけどなw 実際こんなん許したらその後犬飼の気分次第で何でもありになっちゃう 338 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 03 44 ID DIMvdydP0 サッカー協会への抗議はコチラ 財団法人 日本サッカー協会 〒113-8311 東京都文京区サッカー通り(本郷3丁目10番15号)JFAハウス 電話 03-3830-2004(代表) FAX 03-3830-2005 339 名前:牛[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 04 37 ID 9kJ/VV4Q0 334 選手を守りたいっていう社長の心意気は ウチも五輪の時味わったからすげーわかる。 ナビスコ剥奪なんてマジでやりやがったら 協会に抗議メール毎日送るわ。 340 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 04 58 ID 7M3K8hEY0 331 磐は勝って大分は負けた、だから大分だけが問題ってのは結果論に過ぎないだろ(犬なんか負けただけなのにとばっちりw) 基準がぶれてるというかブレる以前に定まってないんだよ犬飼は・・・ 334 去年の赤の件とか磐の件とか犬の件とか、無知っぷりというかダブルスタンダードっぷりが酷いから もしそんな事を言い出したらサポもマスコミなど各所に凸しまくれ。当然うちも応援したる 341 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 05 09 ID BJnuHFxSO むしろ問題は狂人の暴走を止める気配がない協会にある カワブチの時と変わらず独裁政治、どーしよーもねーなー 342 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 05 33 ID M2RHmuum0 いいから擁護してる浦和サポは去年ポンテワシントンなど数人 温存して愛媛に負けたことにも触れろよ。 人数が違う?ポンテワシントンがいなきゃ何も出来ないんだから負けるのわかってたろ。 部分的にせよ犬飼擁護する奴って何で決まって浦和サポなんだろうな・・・ 343 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 07 39 ID M2RHmuum0 331 直前とほぼ同じベストメンバー(笑)で負けてもやはり叩かれるということですね。 あれ、じゃあ緑はw? 344 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 09 47 ID 1Pq4rXuOO 犬飼は「遡及処罰を合法化しろ」と法務相を訴えるかねんな 345 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 10 55 ID JXtO+hAB0 記事によると、鬼武チェアマンは「ルールを改正しなければ」っていう 発言になってるね。今の時点での処分には言及してない ルール破ってないのに責めてるのは同じだけど、何かしら行動を起こすなら なんとか来年以降の変更として、というふうに持っていって欲しい 事後法で2チームを裁くなんてことだけは許しちゃいけない 346 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 11 29 ID VrVb5DBqP まあ普通にこれはどこのチームも抗議してしかるべきだと思うけどな 何のルールなくても会長のさじ加減で自由に処分可能、 なんてことが当たり前になったらこれから先そんな奴ばっかり出てくるぞ 347 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 18 56 ID INLMGpEkO 去年の川崎とかに文句言うのはおかしいけど、さすがに大分はやり過ぎただろ… でも、謝ったんだから許してやれとw 348 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 19 57 ID K5fg6OGh0 磐田はリーグ組と天皇杯組に分かれて練習してるって散々報道されてたのに、 それに関して事前に全く発言しなかったのは何故だ。 349 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 20 57 ID kOcEO3bW0 川崎サポだけどさ 去年のウチが柏戦の時にメンツ落としてそれを犬飼がイチャモンって、チャーター機云々の 件も含めて少しはわからんでもないよ(ルール守ってる以上納得はいかないけど) ただ、ならなんでそれを柏に負けた直後に言わないんだよ 犬飼が言い出したのはウチがセパハンに敗退した試合の直後に等々力のスタ内でだぜ? 今回の事もそうだけど、結局感情的でダブルスタンダードなんだよな 高見の見物してる他チームも、今は大丈夫・・・と思ってても後でとんでもないイチャモンつけられるかもしれんよ 350 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 33 05 ID n6gewp+d0 明文化されていないルールで処罰はおかしいのは火を見るより明らかだし 大体選手温存の何が悪いのかわからん あるクラブにとって天皇杯より大事なものがあって何かおかしいのか totoがどうのつったってターンオーバー当たり前の欧州でも賭けは成立してるし 351 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 33 14 ID fE3S6rafO 解任までage 352 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 35 13 ID qquqqrrw0 348 勝てば官軍なんだろうね。 犬飼さんに広島VS東京Vの感想でも聞いてみたいところだw 353 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 36 33 ID Z/Thksc/O ベストメンバー規定なんて廃止したらどう?失笑もんだよ 354 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[age] 投稿日:2008/11/11(火) 20 44 06 ID W3w/k6BL0 最強メンバーww どこの小学生って話だよな (-人-)1日でも早く犬っころが解任されますように 355 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 45 49 ID o1/CFrd/O 345 鬼武は部下が上司になっちゃった という悲惨な境遇 しかも天皇杯は協会の主催なので処分に直接関われない 356 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 47 46 ID kOcEO3bW0 そもそも今回の件、同じ様な事したけど勝った磐田が処罰無しで、 負けた大分と千葉は処罰有りなんて、そんな馬鹿な話があるかい 357 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 47 48 ID nds9iFTiO 334 万一、今回の件で大分が処分を受けるようなことがあれば、多くのサッカーファン(及びスポーツファン)がトリニータを応援すると思うよ。 きちんと定められたルールの下、厳正に運営されるのがスポーツの大原則。 (あくまで建前だとしても) 事後法やら事後裁定の横行は、スポーツマンシップを破壊するようなもの。 それに、大分のナビスコ制覇は、地方クラブに希望を与えた快挙でもあるのだから。 358 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 48 42 ID E/fjsq0MO 物事を一方向からしか観れない こうだと1度考えたら、他の声に一切聞く耳を持たない 自分の考えが通らないと発狂 ま さ に 劣 頭 脳 359 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 51 31 ID kZTBTJda0 125 スルガ銀行の本店は沼津にある 360 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 54 36 ID V+zd6j4r0 今なら、ドッキリと書かれた看板持って、 「ウッソぴょ~ん!」 って言ったら丸く収まるぞ!<犬飼 361 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 55 48 ID b3yBr4CQO 本当にバカだよな犬飼 こんなの上から強引に押さえつけたら反発が出るだけなのに。バカだからそういうの理解できないんだろうな。 たぶんこれから、天皇杯直前に、天皇杯に向けての全力練習中に怪我して全治1~2週間って人が増えるだろうね 362 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 20 58 07 ID izJOCuZZ0 大分が8日で3試合で大変、けが人も多い、千葉は適用したとしてもベストメンバー規定に違反して いないとちゃんと報道してるマスコミってあったっけ? 363 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 20 59 41 ID rW9Ld/7H0 これが「プロ野球を反面教師」にした結果のリーグ運営ですか。 遡及処罰なんてナベツネでもやらんわ。 364 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 01 12 ID kOcEO3bW0 後、スポンサーっていうけどさ 大会の方のならそんな重要な大会に代表の強化試合かぶせるなよと思うし、 千葉からすればJ2落ちのこの危機に天皇杯なんて・・・って思うだろうな>スポンサー 365 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 01 52 ID 4+zhQoFv0 ,. -‐'""¨¨¨ヽ (.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! |i i| }! }} //| |l、{ j} /,,ィ//| i| !ヾ、_ノ/ u { }//ヘ 『川淵のほうがましだった』 |リ u } ,ノ _,!V,ハ | /´fト、_{ル{,ィ eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが / ヾ|宀| {´,)⌒`/ | ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった… ,゙ / )ヽ iLレ u | | ヾlトハ〉 |/_/ ハ !ニ⊇ / } V ヽ 頭がどうにかなりそうだった… // 二二二7 T /u __ / /`ヽ / ´r -―一ァ‐゙T´ "´ / /-‐ \ 院政だとか川淵企画だとか / // 广¨´ / / /´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ ノ / ノ `ー-、___/ // ヽ } _/`丶 /  ̄`ー-{ ... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 366 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 02 08 ID LozfP+Jj0 マガ巻頭の西部コラムでばっさり 367 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 02 08 ID SAL5+m/P0 【サッカー】犬飼会長が提唱するJリーグ秋春制、将来構想委員会が「7月開幕・5月終了」をシミュレーション 1 名前: すてきな夜空φ ★ [sage] 投稿日: 2008/11/11(火) 06 43 34 ID ???0 日本サッカー協会・犬飼基昭会長(66)が提唱するJリーグのシーズン移行問題に 関連して、日本協会・Jリーグ将来構想委員会が「7月下旬開幕・5月下旬シーズン 終了」をシミュレーションしていることが10日、分かった。 「秋―春制」は実質「夏―春制」として、各クラブの社長クラスが出席する 実行委員会(J1・11日、J2・12日)で議論が本格化される。 7月下旬―5月下旬シーズンとなると、現在の「3月上旬開幕・12月上旬閉幕」より 期間は約1か月長くなる。関係者によると、その大きな理由は2つ。 観客動員が期待できる夏休みの開催と、日本代表の活動期間確保のためという。 日本協会では10―11年シーズンからの移行を目標に各クラブに理解を求めていく。 ソースはhttp //hochi.yomiuri.co.jp/soccer/jleague/news/20081111-OHT1T00080.htm 368 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 03 10 ID PP/1qsyR0 今更予選から参加と言われても、参加できない件について・・・ サッカー協会の会長なのに、天皇杯予選の実態を把握しとけと。 682 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 19 45 05 ID rYg02J7D0 天皇杯スレより 248 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch 投稿日:2008/11/11(火) 19 33 08 ID WRscfERy0 247 あのー千葉県はもう2010年元旦決勝の大会の1回戦始まってるんですけど? ttp //www.chiba-fa.gr.jp/06category1/category1champ_block.html プログラムに載ってる本大会だけが一回戦じゃねえんだよ 本当の底辺の底辺の試合はもう始まってるんだ、犬飼めバカにしやがって ということだそうだ。 369 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 05 18 ID od0S6JMYO カワブチ→犬飼 政府→田母神 要はそんな人間をトップに任命する奴らは責任感じて、辞めさせるべき… 370 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 06 58 ID n6gewp+d0 367 結局酷暑の中でも試合をやるし 寒気にさらされても試合をやるわけだ こりゃ選手もサポも大変だなあ 371 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 07 05 ID W9PfYziF0 犬養ナベツネ以下wwww 372 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 08 09 ID 7AGOFS1V0 15日の試合に行く人はぜひ「犬飼ヤメロ」の横断幕を揚げてクダサイ! 373 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 08 33 ID kOcEO3bW0 つか、真夏の試合開催は勘弁してほしいわ 選手が危険だってーの 374 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 10 02 ID BG7RYmSGO 犬飼やめろあげ。 375 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 10 36 ID CrvFF1+E0 349 ただ、ならなんでそれを柏に負けた直後に言わないんだよ 犬飼が言い出したのはウチがセパハンに敗退した試合の直後に等々力のスタ内でだぜ 犬飼が川崎の社長を罵倒したのは、たしかセパハン戦の直前。 大一番の直前にチームの社長が公衆の面前で罵倒された。 ACL担当が聞いてあきれる。足引っ張っているだけ。 ちなみに、07年は浦和はホームで川崎に敗退している。 376 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 10 57 ID H0K4AnAK0 雷の危険性、とかはどうでもよくなってるなw 377 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 14 11 ID JFKrg0h5O 去年の柏vs浦和での闘莉王の肘うちを処分しなかったのってビデオによる処分は規定にないからとかだったような・・・ 378 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 14 24 ID wriUvDjh0 ベスメンでまず川崎に因縁 →川崎サポから総スカン ものすごいアバウトにメリットを強調して秋春制主張 →東北、甲信越クラブと対立 大分、千葉にケンカ売る →新たに2チームが嫌犬飼に 秋春じゃなくて実質夏春 →秋春賛成派も首を傾げる 犬飼ってマゾなの? 自分の体に火をつけて崖に向ってダッシュしてるようにしか見えん 379 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 14 57 ID CrvFF1+E0 367 犬飼の挙げた秋春制のメリット ゲリラ豪雨の回避 炎天下の入場行列回避 選手と家族の夏休み 猛暑試合による選手消耗の回避 「7月下旬開幕・5月下旬シーズン 終了」をシミュレーションしている はぁ??? 380 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 15 12 ID De5+WdNOO 375 この件といい、千葉の件といい、結局ただの逆恨みじゃないか。 ひょっとしたら、大分の件だって、浦和が有利になるように仕組んだナビスコで優勝した事への逆恨みじゃないか? 381 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 15 23 ID uTbyY92Q0 368 下を見れば天皇杯県大会予選の参加権を争うトーナメントまであったはず。 もちろん犬飼は把握して無いだろうが 382 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 20 18 ID CrvFF1+E0 380 恨みというより、浦和に不利な相手を蹴落としただけに感じる。 何しろ、ガンバが日本を代表して決勝進出したのに 「浦和が負けてがっかりした」って言う奴だからな。 本来ならお得意の 「Jクラブはガンバ大阪を応援しています」って キャンペーンの先頭に立つべきだろ。 383 名前:U-名無しさん [sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 21 39 ID ofwL6T6s0 357 犬飼にスポーツマンシップ求めるの無理でしょ。そもそも犬なんだからw 384 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 21 50 ID kOcEO3bW0 377 IDが城福だなw 385 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 22 06 ID tCwRi6CgO 375 大一番の直前にチームの社長が公衆の面前で罵倒された。 しかも犬飼自ら記者を引き連れてな。 さすがに記者達も異常だと思ったんだろうな、記事は川崎寄りだった。 386 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 22 55 ID izJOCuZZ0 選手と家族の夏休み、キャンプにはいかないの? 387 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 23 33 ID iQ+HRGoJ0 382 ヒント:脚は天皇杯(ベスメン汁)のあと赤戦 388 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 23 33 ID aZYJk8V50 38 僕も抗議電話送った。 本当に届くんだろうか… 389 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 24 21 ID PP/1qsyR0 379 ゲリラ豪雨が多いのは、7月末~9月中旬までだと思うんだが。 回避になってないじゃん。 390 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 25 25 ID kOcEO3bW0 天皇杯の決勝ってシーズン終了した後だからこそなんていうか神聖なイメージもあったけど シーズン中じゃ単なるカップ戦で権威落ちそうだな 391 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 28 46 ID aZYJk8V50 176 メール送るところが無い 392 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[] 投稿日:2008/11/11(火) 21 30 24 ID JFKrg0h5O 7月下旬開幕の5月下旬閉幕だとした場合 来期契約をしない選手にはいつまでに伝えるのだろうか? 現行は3月開幕で11月末までに伝える。 現行に準拠するなら4月末までになる。 393 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 30 27 ID 2Oo5L9UqO 俺も夕方に電話したよ。 なかなか繋がらなかったから、受話器外されてるのかと思った。 受付の女性に「会長の発言ですけど」と言ったら「答えられないですがご意見伺います」と。 矛盾してる点を伝えたが、上にいくのかな。いくといいな。 394 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 31 24 ID bj3ja+/T0 「あれがベストメンバーというならとリーグ最終戦は 全チーム天皇杯4回戦と同じメンバーで戦うこと!」 と言われてもそんなに困らないのが千葉。 395 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 31 27 ID nds9iFTiO 379 もはや『移行すること』それ自体が目的化していて、客観的にメリットとデメリットを検証できなくなっているんだろうね。 犬飼氏が『バックパス禁止』やら『大分、千葉を処分』等の少々不可解な発言を繰り返すのも、鳴り物入りでぶち上げた『秋春制移行』が、なかなか上手く行かないせいかも知れない、とも思う。 まあ、過去に何度か俎上に上がりながら、その都度見送られたプランを実行するには、もっと綿密な計算が必要なコトくらい、わからなかったのかなぁ。 396 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[age] 投稿日:2008/11/11(火) 21 31 50 ID ZKR3Pz3A0 387 ここまで考えてそうで怖いなw 犬は。。 まじで解任してほしい 397 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 32 33 ID wriUvDjh0 いかねーだろそりゃw ただ行動することは大事 398 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 32 54 ID 8P6a1Qc40 こいつは・・・ 天皇杯の件で大分と千葉をスケープゴードにしてまで、秋春制に移行したいんだろうね。 どこの国の独裁者でつか? 来年から天皇杯はJ1チームボイコットでいいんじゃね? 選手死ぬよ マジで。 どこもJ2落ちるのは嫌でしょ? J2は寂しくて苦しいよ~。 もう一回言うけど、本当に選手死ぬかもよ。 こんなチンケな奴が会長か。。 独立リーグ作ろうぜw 399 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 33 20 ID DUgxF73U0 393 こういう抗議の電話なんて内容より数だよ 400 名前:U-名無しさん@実況はサッカーch[sage] 投稿日:2008/11/11(火) 21 35 41 ID 8wbYcsE30 こういうダンマクを次の天皇杯で出したい。 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃.代表招集でベストメンバーが組めません.┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━┛