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今でもその日の事は昨日の事のように思い出せる。 酷い豪雨の日だった。その記録的な降水は周囲を走る車の音すらかき消して、その一帯を雨の音で埋め尽くす程だった。 外に出た人が傘もなしでは目を開いて歩くことすら適わないと言う。 そんな日にとある病院の中で雨に負けない程大きな声を産声をあげたものがいた。 分娩台の上で母親は、泣きじゃくる赤子を抱える。 生まれたばかりの子供は弱い力で母に触れ、己の存在を示すかのように泣き叫んだ。 それは生まれてきた事に対する歓喜の叫びとも生きることへの恐怖への嘆きとも取れる声だった。 母は赤子を落とさないように包むようにして抱える。 少しでも力を緩めたら落としてしまいそうに思えたからだ。 「大丈夫、大丈夫だよ」 痛みを与えず、安心出来るように自らの子の生を祝福する。 赤子は落ち着き、泣くのをやめる。 その姿を見て私は思ったなんと赤子とは弱いものだろうか…。 ほんの小さな悪意、それからも身を守る手段を持たない。誰かが守ってあげなければ、すぐにでも生まれたばかりの命は尽きてしまうのだ。 少し落ち着きを取り戻し眠りに付く自分の子を見て母は愛おしく思った。 これが罪の始まり…。 愛する事が子のためだと信じた贖いきれない罪の始まり。 私達はあの目の存在を知らないから生きていられる。 あの目の存在を知ってしまったらきっと私達は生きている事ができなくなる。 何故、私はあの目を見てしまったのだろう。何故、私は目を調べようとしてしまったのだろう。 目だ、目がこちらを見ている。目が…目が…。 史竹幸三郎『遺書』最後の1文。 CR 5章 『その日は雨が降っていた』 -1- 第三の騎士 「S-22メインシステムスタンバイモードからアクティブモードに移行。再度システムチェック。」 秋常譲二はS-22ドライリッター胴部にある人が一人やっと入れるほどの狭い操縦ブロックの中でそうメインシステムに向けて音声入力を行う。 譲二のつけるゴーグルに走る文字列はS-22の各部に問題がない事を報告する。 それを確認した後、一息を吐いた後スピーカーから男の声が出力される。 「こちらCMBU司令部からドライリッターへ、聞こえているか?秋常譲二?」 「こちらドライリッター、聞こえている。機体のチェックも終了、問題はない、もうじきシステムも完全に再起動する筈だ。」 「そうかそれは僥倖だ、さて、作戦を始める前にセレーネ女史から君に直接激励の言伝をしたいと承っているのだが受けてくれるのかね?」 「セレーネが?」 譲二は顔をしかめた。 そして、少し考えた後諦めたように言う。 「作戦前だ。手短に頼むと伝えてくれ。」 「了解した、今つなぐ。」 電子的な雑音が発生し、その後、スピーカーから先ほどとは違う女性の声が盛れる。 「あーあー、聞こえてる?聞こえてるかな?譲二?」 「ああ、聞こえてるよ、セレーネ、今作戦前だが何のようだ?」 ぶっきら棒に答える譲二にセレーネ・リア・ファルシルは少し関しそうな声色で、 「何のようだ?ってそれはないんじゃないかね、仮にも君のフィアンセである事の私に向かって…。」 むくれたようにして言うセレーネに譲二はため息を吐く。 「別にあんたとそういう約束をした覚えはない。そういう話をしたいなら、帰ってからで充分だろう?」 「そうすると君はすぐ逃げるじゃないか、今が千載一遇のチャンスなのだよ。」 「――――セレーネ。」 頭に手を当てて咎めるようにして言う譲二。 それに対して笑うセレーネ。 「すまなかった、少し弄ってみたくなったんだ。それでは本題に入ろうか…。」 「作戦開始10分前だ、手短に頼む。」 「秋常譲二、君はこの1戦にどれほどの意味があるのか正しく理解しているかね?」 そう問いかけるセレーネに譲二は黙り込んだ。 「沈黙もまた答えだ。そう、この作戦の失敗は許されない。何故ならば、この1戦がこれから人類が奴らUHと戦えるかどうかの試金石となる戦いだからだ。我々は奴らに勝つ為に採算を度外視して今君の乗っているS-22ドライリッターを作り上げた。その機体にはありとあらゆる最新鋭の技術がつぎ込まれており、それがもしあの鋼獣に対処できないのであれば、もはや我々は両手をあげて奴らに投降すること他ない。もはや我々にはあのイレギュラーな黒い機体すらないのだ。」 「――――っ。」 黒い機体その言葉に譲二は苦いものが口に広がるのを感じた。 脳裏をかすめるのは漆黒の巨体に正体不明の紅の光を纏う悪魔のような鋼機だった。 それはそれまで鋼獣に対抗できる唯一であり、そして譲二からしてみれば羨望の対象だった。 「ただ勝つためだけでは駄目だ、これならば人類は奴らに対抗出来るそう思わせる説得力のある勝ち方を選ばなけばならない。いいか?今君の両肩に乗っているものは重い。」 「―――――ああ、わかってる。」 強く噛みしめるようにして頷く。 レバーを握る手に力が入る。 それに呼応するようにしてS-22ドライリッターの起動が完了する。 「だから、圧勝したまえ、君とドライリッターならば出来る筈だ。時間だ行け、英雄よ!」 譲二のゴーグルに文字列が表示される。 それにはこう書かれていた。 Anlock S-22 Takeoff. 大きな金属音が鳴り、機体は宙に放り出された。 ゴーグルがS-22のアイカメラから捕らえた映像を映す。 そこに瞳で全貌を捉えれるほど小さくなった木々や、山々、建築物などが見える。 風切音が鳴り、視界に移る風景は徐々に拡大されていく。そうS-22ドライリッターは高度1万m上空から機体ごと放り出されたのである。 譲二は落下位置の微調整をするために機体の重心を操作する。 今回の作戦では敵鋼獣が3機いるド真ん中に降下し一機で強襲をかける事になっていた。 緊張か、譲二はレバーを何度も握り直すようにしていじっていた。 一瞬の判断が全てを決めるその場へとまた足を踏み入れる。 そのことに少しの恐怖と少しの感慨が譲二にはあった。 高度が下がり、風景が狭く鮮明になる。 落下予定地点の高原では大きな火花と煙がのぼっているのを確認出来た。 敵鋼獣は犬型が3機、CMBUが率いる鋼機部隊と交戦しているのだ。 手に持ったアサルトライフルを鋼獣に向けて打つ鋼機達。 だが、その攻撃の全ては鋼獣の装甲ナノイーターで無力化され、無残にも1機、また1機とその凶牙に貫かれて破壊されていく。 その光景を目の当たりにして譲二から感じていた恐怖がなくなり別の感情が浮かび上がる。 燃え上がるような熱、全てを焼きつくす炎、人の最も強き原動力、怒りだった。 S-22ドライリッターはパラシュートを傘下させて交戦区域へと乱入する為に減速する。 そしてその真白色の機体は降下予定地に降下する。 譲二はレバー上部のアタッチメントを開きその中にあるスイッチを押した。 機体内でアラームが鳴り響く。 ――――ディールダイン炉加圧開始――全オーバーラインの接続――全駆動系供給150%――制限時間を15秒に設定 ――――『Polar Acceleration Mechanism』起動 S-22ドライリッターの額に3つ目の瞳を開き、肩部と胸部が展開する。 3体の内1体が鋼獣は急に戦場に現れた白い鋼機に気付き、すぐにその牙をもって征そうと走る。 1体がその鋭利な牙でドライリッターの鋼の体を貫こうと飛びかかる。 ドライリッターは腰にあった電装刀を抜き、それに立ち向かった。 交錯する2機、お互いが背中越しに静止する。 どちらにもダメージらしいダメージは見られずお互いの攻撃は当たらなかったかのように見えた。 鋼獣は振り返り、ドライリッターに再び攻撃をしかけようとする。 その時、鋼獣に異常が起こった。 鋼獣の視界が90度ひっくり返り、その鋼の巨体が思うように動かなくなる。 鋼獣は何が起こったのか理解できず困惑する。 それもその筈である。鋼獣の体は横一文字に切断され、上半分が大地に突き刺さるようにして落ちていたのだから…。 譲二はすぐさま残る2機の鋼獣の位置を確認する。 1機は自分に気づき迫り、1機は戦闘中であった味方の鋼機に襲いかかろうとしている。 襲われている鋼機は既に右腕と左脚を欠損しており、とても戦える状況ではない。 しかし、それを助けにいこうとすれば敵に背後を取られる事になりこちらの不利は否めない。 自身の生存を優先するならば、今迫る敵を排除した後、襲われている仲間を助けにいくとするのが正しい判断だろう。 もっとも、仲間を助けられる確率は格段に下がるのは自明の理だった。 それを認識し、 「――――決まってる!」 そう自分を鼓舞するように叫び、譲二は行動を即決する。 PAMの残り時間10秒。 ドライリッターは迫り来る敵に背を向け走り、アサルトライフルの銃口を向ける。 友軍機に牙を突き立てようとする鋼獣の顔面に弾丸の嵐が叩きつけられる。 物理攻撃を食らう特殊装甲ナノイーターがあるがゆえに鋼獣には銃弾による攻撃の効果は薄い。 だが、ドライリッターの左手に持つアサルトライフルは通常の鋼機用のものより口径が大きく、かつ対ナノイーター用の特殊弾である。 それは鋼獣に致命的な打撃を与えるほどのものではないが、その衝撃は確実に襲い姿勢を崩させた。 その間にドライリッターは接敵、即座に右手に持つ電装刀で一閃、真っ二つに叩き斬った。 PAMの残り時間4秒。 だが、それと同時に背後から飛びかかる最後の一匹。 救援に回ったがために、先手を奪われる。鋼獣の牙が迫る。 もはや振り向く時間すらない。ならばこそ、譲二は針の穴に糸を通すような集中力で、肘を後方に打ち付けた。 肘が鋼獣の顎と衝突し、その衝撃で鋼獣は吹き飛ばされた。 PAM残り時間2秒。 既に一息ほどの時間しか残っていない中でドライリッターは身を翻し疾風の如く駆ける。 鋼獣は倒れた体を起き上がらせながら敵を見る。 しかし、立ち上がった時既に眼前にギロチンを振り下ろす処刑人のようにドライリッターが電装刀を上段に構え立っていた。 そしてギロチンの刃が振り下ろされる。 鋼獣はその頭部から縦に真っ二つに切断された。 戦闘終了。 それと同時にPAMの時間が切れ、ドライリッターの全身の冷却装置が起動し上記が各部から吹き出す。 譲二はまだ隠れている敵がいないか索敵を行った後、自分の近くで倒れている鋼機に通信をつなぐ。 「―――生きているか?」 「あ、あぁ…。」 そう声が帰ってくる事を聞いて一息吐いた。 「あ、あんたは一体、それにその機体は鋼機なのか?」 「ああ、自分は、CMBU特務部隊所属の者だ。この機体はS-22ドライリッター。」 「S-22!じゃあ、噂の対鋼獣戦用の鋼機がついに完成したのか!」 驚きと少しの喜びを孕んだ声で半壊した鋼機の操縦者が言う。 鋼機は鋼獣に単騎で勝つことは出来ない。それは今、鋼獣と戦う兵士達にとっては絶対の常識であり、絶望であった。 その絶望を単騎で複数の鋼獣を破壊する事で覆した者がいる。その事実を飲み込み、つい声に喜びと期待の色が出ているかのようだった。 「ああ、そうだな。」 その歓喜の思いを消させないように譲二は笑顔を作って返事をする。 事実この成果は脅威の成果といえる。未発表ながら鋼獣を鋼機が倒すという偉業は既にイーグル鋼機部隊の隊長を務めるシャーリー・時峰の手によってなされているが、それは機体がボロボロになる状況で九死に一生を得ての勝利だった。 だが、今回は違う。単騎で完膚なきまでに敵を圧倒したのだ。 この事実は絶望にくれていた人々の心に大きな希望を宿すだろう。だが、それを成し、本来誇るべきである筈の秋常譲二の表情は晴れない。 頭に思い浮かぶのは一つの戦景だった。 あの最強とも思えた不可思議な鋼機リベジオンを圧倒した白い機体。 UHの首領格とも目されるその機体が起こした超常の数々は衛星映像で譲二も確認した。 その後で、何度も譲二はドライリッターであの機体で挑むシミュレーションを行った。 結果、得られたのは0%という可能性のない数字だけ…。 「ちくしょうっ…。」 誰にも聞こえないほど小さな声で譲二は感情を吐き出す。 結局、例え今人類が鋼獣に対抗する力を得たとしてもあれ1機でその微かな勝機の全てが覆されてしまう。 歓喜に盛り上がり兵たちが凱歌をあげる戦場の中で譲二は一人だけ己の無力さを呪った。 ―2― 混迷の世界 世界政府鋼獣対策本部会議室。 統制庁3階にある会議室の中で円卓を囲むようにして座る人間が5名。 イーグル総司令、秋常貞夫。 その副官である琴峰雫。 イーグル鋼機部隊隊長を務めるシャーリー時峰。 第六機関の長にしてCMBU顧問を務めるセレーネ・リア・ファルシル。 その秘書であるネミリア・バルサス。 イーグルの中心を締める3人を機関長特権を使ってセレーネ・リア・ファルシルが呼び出したのである。 「まずは希望はつながったと見るべきなのかね。」 円卓中央にあるディスプレイには人類の反撃の狼煙ともいえる戦果の光景が映し出されている。 それを見て眉を潜めて言うのは『イーグル』司令である秋常貞夫だった。 彼の率いる『イーグル』は鋼獣と先頭に戦った最大の組織であり、鋼機で数機の鋼獣を破壊した実績がある組織だ。 「不本意そうですね。司令。ご子息のご活躍というのはやはり複雑なのでしょうか?」 その様子を眺めて貞夫の副官である琴峰雫は言う。 貞夫は何か言いたそうに顔を上げるが顎に手を当てて、押し黙った。 「あら、あなた達親子って仲がこじれてるの?」 来賓の一人である第六機関の長でありCMBUの責任者であるセレーネ・リア・ファルシルはくすりと笑う。 未来予知じみた先見の明で第六機関統括区域の全てを立て直した『鉄の処女』が興味深そうに貞夫を見つめる。 「なに、ただの一家庭の事情ですよ、この会議には関係がない。」 貞夫はそう極めて静かにそういった。 その事については語りたくないというニュアンス、それを受け取ってセレーネは頷いた。 「ま、大した問題ではないですか。それに今私達が抱えている問題の方がずっと大きな問題だ。そしてイーグルの方々を今回お招きしたのはその問題について語り合いたいと思ったからですし。」 「抱えている問題?」 シャーリー・時峰は首をかしげる。 彼女は非公開ながらS-21のカスタム機で鋼機を2機破壊するという偉業を成し遂げた兵士である。 現在世界最強の鋼機乗りとしてかの『味方殺し』グレイブ・スクワーマーと双璧をなす者として見られるようになっている。 「ええ、そうです。我々は確かに鋼獣に対する力を得ました。S-22ドライリッターの量産体制が整えば今いる鋼獣との戦闘の勝率は格段に跳ね上がります。」 「S-22か…PAMだったか?ディールダイン炉を大きく加圧する事によってディールダインのエネルギー増幅の効率を上昇させ、それによって生まれたエネルギーを機体全体に循環させスペックを通常の1.5倍ほどに引き上げるシステム。」 「流石、シャーリー・時峰。よくご存知で…。」 「なに、私もCMBU製の鋼機に乗っているんだ。噂ぐらいは聞くさ。確かにあれを使っている時の機体の動きは異常だなまるで鋼獣のようだったよ。だが、あのシステム恐らくは問題がある。」 そう考察するようにディスプレイの中で回収されるドライリッターを見ながらシャーリーは言う。 ドライリッターの各部から蒸気のようなものが吹き出していた。 「ええ、確かにPolar Acceleraion Mechanismには問題があります。エネルギー増幅作用がある物質ディールダインに圧力を加えるとエネルギー増幅効率が跳ね上がる事は4年ほど前から判明していました。」 「では何故実用にこれほどの時間を?」 尋ねる雫。4年ほど前に完成していたのならば、S-21アインツヴァインが開発されていた時点で導入する事が出来たのではないか? そういった疑問が雫の脳裏に走る。 「ええ、問題はこのディールダインは圧がかかるとエネルギーを増幅しすぎるという点が問題だったんです。」 「しすぎる?」 「ええ、おおよそ70倍ほどになります。」 「70!?」 予想以上の数字に声を上げる貞夫。 「ネミリア彼らに資料を配ってくれ…。」 ネミリアと呼ばれたセレーネの秘書官にあたる女性が円卓から立ち上がり、周りの人間に資料を配る。 面々は資料に目を通しはじめた。 「今、お渡ししたのはS-22のスペックの要点をまとめたものだ。なにか質問はありますでしょうか?」 そう尋ねられ、シャーリーは考えこむようにしている。 「ふむ、このオーバーラインと呼ばれる物に加圧時だけディールダイン炉と直結させてエネルギーを循環させると…。しかし、これは…。」 「ああ、稼働し続ければ機体が持たん。」 「機体がもたないというのはどういう意味かね?」 「文字通りの意味だ、秋常司令。臨界点を超えるエネルギーを出し続ければ機体はすぐに爆発する。」 「だが、さっきの戦闘では――――」 「ああ、そうだ。さっきの戦闘では機体が爆発しなかった、それが肝なんだ。S-22はPAMを使うために開発された鋼機でな、基本的なカタログスペックはS-21と比較して頂いてもそれほど大きな差はない。だが、我々が開発したオーバーラインと呼ばれる特殊なラインを通し機体の全身に巡らせる事で臨界点に突入するまでの時間を遅らせる事が出来る。そして臨界点に突入するまでの間、鋼機は鋼獣に匹敵するスペックを有する事になる。それがPAMの概要だよ。」 「時間はどの程度?」 尋ねたのはシャーリーだった。 鋼機を扱う者として興味深くあったのだろう。 「おおよそ15秒。それ以上は危険だと実験結果が出ているのでな、緊急停止プログラムが作動するようになっている。その後に機体に緊急冷却をかけている為、オーバーラインの冷却終了までおおよそ5分その間PAMは使えない。また、オーバーラインへの負担も大きくてな、2回使用すればオーバーライン自体を交換しなければならない。」 「ふむ。」 頷き思案にふけるシャーリー。 リスクは高い、欠点も多い、だがこの機体は鋼獣に対抗するにたる戦力になるのも確かだ。 この機体があれば鋼獣を倒す事は出来るのかもしれない。 だが、ここで誰もの脳裏をよぎる一つの事実があり、その場の全員が沈痛な面持ちでいた。 「S-22の完成によって鋼獣に対抗する手段は得た、だがしかし、あの白い鋼機に勝つことは出来るのだろうか?きっと皆さんはそう考えていらっしゃるのでしょう?」 セレーネは笑っていう。 「ええ、そうですね、あれは我々にとって絶望的な光景でした。まさに――――」 「――――さっさと本題に入らないか?セレーネ・リア・ファルシル。」 セレーネの言葉を遮ったのは貞夫だった。 「本題?」 「ああ、そうだ『鉄の処女』よ、裏のメンバーの一人であるお前がこの状況を想定していなかったわけがないだろう?」 そう告げる。 『裏』、この世界を裏から動かす5人の黒幕。セレーネをその内の一人だと貞夫は言ったのだ。 セレーネは唇に一刺し指を当てて笑う。 「あら、何のことでしょう?」 その言葉に琴峰雫は呆れたように肩をすくめた。 「そもそもその猿芝居を続ける必要があるかすら疑問なのですが、我々が掴んでいる『裏』のメンバー5名の通称は『現実主義者』、『皮肉屋』、『貴婦人』、『道化師』、そして『鉄の処女』。あのですね…もうちょっと正体を隠す努力をした方がいいと思いますよ、あなた。」 その突っ込みに会議室に静寂が訪れる。 そして少しの時間がたった後、くつくつとしたセレーネの声小さく漏れ始める。 「ふふ、あはは、あはははは、よくわかったわね!この私が『裏』の一員だなんて!」 そう先ほどまでの冷静かつ厳格な物言いはなりを潜め、やたらとテンションの高い声でセレーネが言う。 その光景に貞夫とシャーリーは引きつった顔で見つめた。 「いえ、だからあなた隠す気あんまりなかったでしょ…。」 「だって、隠す必要ないんだもの、裏の名簿なんて裏の人間の誰かが横流ししない限り漏れないものだったし…。ま、正体バレてる前提で呼び出したんだけどね。」 快活に答えるセレーネ。 「キャラが違うぞ、こいつ…。」 貞夫はセレーネに聞こえないように雫に耳打ちする。 「あー、一応、私には人を率いてる立場があるからね、あれ、肩凝るのよ結構。ふふ、私が役者としてデビューすればすぐに実力派役者として大成する自信があるわ…流石私、やっぱり私凄い、とっても凄い。」 「うざ…。」 雫は率直な感想を漏らした。 「あー酷いうざいだなんて、そんなの自覚してるけど!でもうざいだなんて酷い!いいもん、私には譲二くんがいるもん!それだけで満足だもん!アイラブ譲二。」 「何を言っている…。」 「え、譲二くんラブという事だけですよ、その為に色々下準備をね…。」 「――――貴様ら、あいつを利用して何をするつもりだ!!」 激昂する貞夫。その眼からは殺意が放たれ、胸から銃を取り出してその銃口をセレーネに向けた。 「司令!」 慌てて静止の言葉をかける雫とシャーリー。 しかし、それに構わず引き金に指をかける貞夫。 「言え!そもそもおかしいと思っていたんだ。あいつのトラウマを考えれば、S-22の操縦者として選ばれる筈などないと…だが、何故かあいつが選ばれた。兵士として欠陥のあるあいつが…その理由はなんだ?『鉄の処女』?」 「あら、冷めてるって聞いてたけど、お父さんの方はなんだかんだで息子の事を心配してるのね。ちょっと良かったなーなんだかんだで親子の不仲って悲しいじゃない?私には両親がいなかったけど、だからこそ、そういう家族愛っていうのに憧れちゃうのよね。」 「答えろ!!」 自分の命が握られているという事実に構わず変わらず笑顔を浮かべるセレーネ。 通常、銃口を向けられた人間というのは何らかの緊張が表情に出るものである。 だが、セレーネにはそれがない。 まるで自分がそれでは死なないとでも思っているかのように…。 「先に1つだけ誤解を解いておきたいんだけど、私達『裏』は別に全員で何かを成そうとしているわけじゃないの。」 「どういう意味だ…。」 「つまりは『裏』っていうのはそれぞれ別の目的の持った烏合の衆だという事よ。それが偶然、目的に到達するまでの道中が途中まで一緒だったから、一緒に協力しあっていたというだけ…。でも、この間のメタトロニウス・アークの覚醒で、ついに私達の道は別れてしまった。実質的な話を言えばもうあなた達の言う『裏』という組織は解体されたも同然ということよ。」 「譲二を巻き込んだのは、そのうちの一人の思惑だと言いたいのか?」 「そ、ま、私なんだけどね。私が見たいのは英雄の誕生。昔からね、私は英雄って存在に憧れていたの…窮地に陥った人々の前に颯爽と現れて悪を挫いていく存在。そんなものが見てみたかった。けれど実際そういう人間を探してみると案外いないものなのよ。ある意味、時峰九条はそうとも言える人間なのかもしれないけど、まーあいつは見ての通りしわくちゃのババアだしねぇ?やっぱりちょっとは顔にもコダワリたかったのよ。」 「それで譲二を選んだということか!」 「そうね、彼は壊れているわ。傷ついていく人が、見ず知らずの者であろうと誰かが死んでしまう事が許せない。例えそれが間違っていると知っていても誰かを助けるために行動をしてしまう。兵士としては欠陥品もいいところね。けどだからこそ彼は英雄の資格がある。」 「英雄?この状況で確かに鋼獣を倒せばあいつは英雄ともてはやされるかもしれん…だがあの白い機体を倒せなければ、結局それも意味がないだろう。」 「そう、そうなのよ。結局の問題はね…。私も黒峰咲があそこまでやるなんて想定外だった。『ダグザの大釜』はね、至宝の中でも最も扱いが難しい至宝なの…なんでも作ることが出来るという事はそれだけ人の脳与える負荷も大きいのよ。あー至宝って言ってもわからないんだっけ、あのなんか不可思議な現象を起こすものね。あなた達と協力関係であった黒峰潤也も使っていた奴。」 貞夫達はリベジオンと呼ばれた機体が持つ黒槍を思い出す。 あの黒槍で突かれたものはありとあらゆるものが塵と化す。 そのメカニズムはまるで解明できずまるで超常現象のようだと思えていた。 「今回、あなた方を呼び出したのはこのままだと秋常譲二は英雄になる事ができなくなってしまう。私のシナリオではS-22だけでもこの逆境に対抗できる筈だったのよ…。でも出来なくなった。だからあなた方を呼び出したの…私の正体を知っているだろうあなた方を…。」 そう真剣に語るセレーナに貞夫は反吐が出そうな気持ちになった。 他の2人も同様だろう。 おそらくは『裏』がいくら関与しているこの事態に自分では収拾がつかなくなったからイーグルにコンタクトを取りに来たと彼女は言っているのだ。 唾棄すべき事である。 (だが、しかし―――) そう貞夫は考え銃をおろし、怒りを沈めるようにして一呼吸した。 「あなたは今人類が置かれているこの状況を人類側にいい形で終わらせたい、そう考えているのだな?」 「理解が出来る人で助かるわ、脳みそまで筋肉な人間だとここで話はご破算だったから…。」 「あなた方は私達に何をさせたい?」 「そうね、その前に一人ゲストを読んでもいいかしら、私よりも胡散臭い男だけど私よりも現状に詳しいわ…。」 「ゲスト?」 怪訝そうにする雫とシャーリー。 「どうぞ、入って…。」 その声と共に扉のノブが回り戸が開く…。 そして、その中から現れたのはこの場にいる一同の全員が知っている顔の男だった。 蓄えられた顎鬚に伸びきった長髪、だらけた着こなしのTシャツに塞がった片目。 面識はない、しかし、この世界に生きるものならばそのほとんどがその顔を知っている。 「初めましてかな?秋常貞夫、シャーリー・時峰、琴峰雫。私の名前は木崎剣之助、人は私のことを―――」 男は笑顔で誇示するように言う。 「―――『現実主義者』または、スーパーニート木崎と呼ぶ!!!」 部屋にいた全員に悪寒が走った。 ―3― 空がない日、染みる痛み 電子音が一定の周期で鳴っている。 ゆっくりとそれでいて断続的に聞こえるその音は寝台で寝ている男を不快にさせた。 「……くそ」 寝台で寝ている男、黒峰潤也は電子音の不快さに舌打ちして寝返りをうつ。 頭になにかがぶつかる痛み。金属の冷たさと硬さが軽い痛みとなって潤也に響く。 寝返りをうった時にベットの柵に頭をぶつけたようだ。 「くそ…。」 瞳が闇しか映さなくなってから既に何日目だろうか…。 外が夜なのか昼なのか視認できなくなった時点で、既に時間の感覚などほとんどなくて、メトロノームのようになる電子音だけが時が進んでいるのを潤也に示している。 右手を握る。 歯車が回るような音だけなるが、右腕の感覚はない。 試しに腹に手のひらを触るようにしてみたら、腹に冷たい感覚した。 搬送された病院で付けられた義手の感覚。 思うように動いてはくれているようだが、感覚が無いため違和感が強い。 試しに体を立てようとする潤也。 全身からきしむような痛みが走り、その激痛に顔を歪めた。 「あらあら、まだ無理はするもんじゃないよ。」 戸が開く音と共に誰かの声が潤也に聞こえた。 その声は聞き親しんだというわけではないが、ここ数日よく聞いてきた声だ。 「ばあさん…か…。」 声の主、時峰九条は潤也の元に近づきまだ生身である左手を握る。 潤也の左手をしわだらけだが、温かい手が包んだ。 「そうさ、あんたの味方の九条婆ちゃんだよ。」 「いつからあんたは味方になった…。」 力なく毒づく潤也。 時峰九条、おおよそ2週間、潤也たちのお目付け役としてイーグルから派遣されてきた老婆だ。 枯れていて今にも折れ曲がってしまいそうな老婆だが、その実、世界最強の名を欲しいままにする程の武芸者でもあり、イーグルの副司令の立場にあるらしい。 実際、人造人間であり、人を超えた能力を持つ藍が手も足も出なかったと藍本人から潤也は聞いている。 「あたしゃ、いつだってつらい目にあってる子の味方さ。ほら、あたしお婆ちゃんだからね、お節介なのさ。」 そういって九条は笑う。 その悪気のない言葉に潤也は感じていた苛立ちが萎える。 怒鳴ろうとした自分が馬鹿らしくなったのだ。 「そうかい…それで何のようだ?」 そうぶっきらぼうに聞く潤也。 九条は驚いたようにし目を開いて 「何って、勿論お見舞いだよ、それなりに付き合いがある仲だしねぇ…。」 「二週間ばかりでそんな大きい縁はなかっただろう?」 「何を悲しい事を言うんだい、偶然どこかで出会って話してみたら意気投合してメールアドレスを交換する事だってだろう?縁は時間じゃないのさ。」 「だからって、そもそも俺はあんたと仲良くやってたつもりは無かったんだがな…。」 事実、潤也はイーグルから監視役でついてきた九条を何度か置き去りにしてその場から去った事がある。 その度に、九条は次の目的地に先回りしてたどり着いていたのだが…。 「あたしが仲良くやってたと思ってたんだから仲良くやってたんだよ。」 「酷い暴論だな、それ。」 「あら、世の中言ったもん勝ちだっていうよ?」 「ああ、わかったよ。それで見舞いにきた?ならこの様だよ。全身ボロボロで目もまともに見えない。右腕に関しては吹っ飛んじまって、今じゃ機械仕掛けの腕にたよる始末だ。」 潤也はそう投げやりに言う。 「ああ、その事で1つあんたには謝らないといけないと思った事がある。」 「謝る?」 「あんたの右腕をふっ飛ばしたのはこのあたしだ。」 「――――っ。」 予想していなかった言葉に詰まる。 「あんたの右腕に貞夫から送られた発信機とか言われていた腕輪があっただろう?まあ、あんたも察してたとは思うがあれは発信機だけじゃなくてね、もしもあんたが人類の敵に回った時に使う為の爆弾も仕込まれてたんだ。そしてそれの起爆装置をあたしは渡されていた有事の時に起爆できるようにね。」 「―――それで暴走状態にあった俺を殺すために起爆したというわけか…。」 「いーや、それは違うよ、それなら致死に至らしめるような爆弾を仕込むさ、あんたが付けられたのは綺麗に右腕だけを吹っ飛ばす爆弾さ、正気を失ってありとあらゆる薬物投与も効かないあんたを操縦を不能にする。つまりは完全にあんたが怨念に取り込まれた時にあんたをこちらの世界に引き戻す為のジョーカーだったというわけさ。」 「―――なるほど、俺が今こうやってあんたとまともに話してられるのはあんた達のおかげって事か…。」 黒峰咲との戦い。あの戦いで勝つために確かに潤也は怨念に取り込ませて戦うという選択をした。 本来ならばその時点で黒峰潤也は黒峰潤也という人格を失い怨念の代弁者と化していた筈である。 しかし、それをすんでのところで右腕を吹き飛ばすという荒業で発する痛みが黒峰潤也を正気に戻したのである。 結果、黒峰潤也は黒峰潤也としての自我を持った状態で今ここにいる。 (けど、どうせなら―――) ふと潤也の頭に暗い考えがよぎる。 九条はそれを察して、 「なんだい、どうせなら自分を殺してくれればよかったのに…あれで死ねたらよかったのに…なんて思っているのかい?」 潤也は口には出さなかった思いを言い当てられ表情を曇らせた。 「まったく、坊やはわかりやすいんだよ。なんだい、あんた死にたかったのかい?」 「さあな、ただ、もう疲れていたのは確かだ…。」 「疲れていた?」 「ああ、あくる日もあくる日も怨念共に精神を蝕まれながら戦い続けてきた。いつか黒峰咲を倒してあいつを止められる。そう信じて色んな苦痛にも耐えてきた。」 「そうだろうね。」 「地獄だったよ…。家族の仇を取るために戦っていたら実はその原因が妹だって知らされて、妹が訳の分からない理想で世界を滅ぼそうとしていて、それを止めないといけなくて…自分を咲に対する呪詛と憎悪で固めて戦ったんだ。そうしなければならないと思ったから…。」 もはや戦う力を失ったからだろうか、潤也は今まで誰にも言うことがなかった思いが口から漏れだしているのに苦笑した。 そして今までせき止めていた思いは防波堤を壊し、止まらずに流れ出る。 「辛かったんだ。苦しかったんだ。なんで俺があいつを殺さないといけない。なんで俺だけしかその力を持っていない。誰かに変わって欲しかった。例えそれが正しい事だとしても俺に咲を殺すなんて宿行背負いたくなんてなかった。納得なんて出来ない。けれどやらなきゃいけない。だから必死に必死に必死に憎んで、あいつを憎む自分を作り上げて戦ったんだ。」 「だから死にたかった?責任を全て放棄したかった?」 「ああ、生きてる限り、あいつが人殺しを続ける限り俺はあいつに相対しなきゃいけない。そして、どうも俺はそれから目と耳を閉じる事も出来ない人間だったんだよ。だから終わりを望んでいた。誰かにこの戦いから解放して欲しかった。」 その声は悲痛という他なかった。黒峰潤也は元々ただの一般人だ。両親は軍事研究者であったが、潤也は両親が何をしていたかなんて、アテルラナにハナバラで知らされるまで知らなかった。 だが、その真実を知らされた時、潤也は変わらざるを得なかった。 世界の為などといった大義で戦う事は出来ない。 大義で戦うという事は、圧倒的多数の世界を守るという事だ。 それはつまり、怨念達につけ込まれる隙になる。ゆえにあくまでたった一人の意志で戦う強い覚悟が必要だった。 その為に選んだ手段が復讐。両親を殺した事実、それを持って咲を両親の仇だと見定めて潤也は復讐者として己を塗り固めたのである。 だが、黒峰潤也という人間の本質は、多大な期待を抱いてそれに応える英雄でもなければ、ありとあらゆるものを蹂躙し、支配する魔王でもない。 「俺は弱いんだよ。そうやって自分を塗り固めていないとすぐにも覚悟が瓦解してしまいそうで、婆さんみたいに強くもないし、藍に尊敬されるような人間でもない。軽蔑するかい?」 そう自分を責めるようにして左腕を右手の義手で握る。その頬には涙が垂れている。 老婆はその義手を握って腕から離して 「そんなわけないじゃないか。坊やがやってきた事は想像を絶するようなことばかりだ。それに耐えて今まで戦って生きている。そんなあんたをどうして軽蔑するっていうのさ…。」 老婆は優しく諭すように潤也にいう。 「―――。」 黙る潤也。 「不満そうだね、けれどこれは本心だよ、坊や。いいかい?この世の誰が責めようと、この時峰九条は必ずあんたの味方でいてあげるよ。たとえ世界を敵に回したってあたしはあんたの味方でいてあげる。けどね―――」 続けようとする言葉に詰まる九条。 これから続ける言葉を続けていいものだろうかと悩む。 九条は病室の窓から外を見た。 外は土砂降りの雨で、窓に雨が滝を作っている。 老婆のその光景を見て胸中にくるのはなにか…。 老婆は自分の指をかざすように見て、意を決するようにして口を開く。 「あんたは1つだけ聞いておかないといけない事がある。」 「―――何をだ…。」 尋ねる潤也。 「あんたにまだ戦う気があるのかっていう事さ…。」 そう静かに九条は言った。 少しの静寂が部屋を支配する。 「――――――言うんだ…」 潤也は俯いて小さな声でぼそりと続けて言う。 「なんで、そんな事を言うんだ…。あんたは…あんたは!俺に一体何を期待しているっていうんだよ!」 「何も期待しちゃいないさ、ただ、どうしたいのかそれだけを知っておきたくね。」 「もう、目は見えない!片手だってなくした!肝心のリベジオンは修復不能な状態まで破壊されて、唯一の対抗手段だった至宝までもを奪われた!!!!あんたは!あんたは俺の何処に戦う力が残っていると思っているんだ!!!」 怒りを露わにして叫ぶ潤也。それに九条は冷静に答える。 「ないだろうね。誰がどうみたって戦える体じゃないし、戦う力だってない。けどね、坊や。それでも戦うという事を諦めるか諦めないかを決めるのはあんただけなんだよ。」 「俺は頑張った…頑張ったんだ!!こんな体になるまで頑張ったんだ…これ以上、俺に何をしろっていうんだ…。そもそも俺は本当は黒峰咲(あいつ)を殺すなんて事したくないんだ!!!」 「そうだね、頑張ったさ。ここで折れたってあたしゃあんたを軽蔑しない。あんたはそれだけの事をしてきたと思うからね。けれどあんたは本当にここで折れてしまっていいのかい?それであんたは本当に納得がいくのかい?」 「いかなかったからなんだって言うんだ!さっきも言ったしあんたも認めただろう、俺はもう戦える力が残っていない。戦う事なんてできない。そんな俺に一体どうしろっていうんだ!」 そう叫ぶ潤也に老婆は優しく諭すようにいう。 「坊やそれは違うよ。あんたは戦う力を確かに失った。けれどあんたは戦う事自体は失っていない。いいかい、坊や、よく聞きな。人はね、どれだけ追い詰められようといつだって戦うことはだけは出来るんだ。それが勝てるか負けるかなんて話は外に置いておいてね。確かにあんたは戦う力を失った、けれどそれで本当に戦う事自体を諦めるのかい?そうあたしは聞いているんだよ。」 「そんなの――――詭弁だ。」 「そうかもね、でもあんたはこれを今決めないとどっちに転ぼうと必ず後悔する事になる。他の人に任せて世界の行く末をその暗闇の中で待ち続けるのもいい。それとも暗闇の中を自分の足で下唇を噛み締めながら歩いてがむしゃらに前を進んでもいい。どちらをいっても地獄だろうさ、だけれどここに停滞し続けるよりはずっといい。だからあんたはそれでも戦うのか戦わないのかそれだけは決めておかないといけない。」 「そんなの―――――」 続けようとする言葉が出ない。 答えなんて決まっている。そう思う潤也だったが、そこから言葉を続ける事ができなかった。 九条はそれを見つめた後、少し悲しそうに笑って席を立つ。 「また聞きにくるよ、今度会う時にまで決めておいてくれ。」 「ばあさん、俺は―――」 そう続けようとした矢先に扉がしまる音が聞こえた。 既に老婆この部屋を発った事を意味する。 「くそっ!!!」 潤也は右手でベットを八つ当たりに殴りつける。痛みは帰ってこない。 それに言葉に出来ないものを感じ頭を抱える。 「くそ…。」 そう力なくいう潤也の頬に一筋の雫が流れていた。
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語り部:ベアトリス・マクスウェル エーテル能力―― 星から排出され、有機無機の関係無く、全ての物質に内包される未知のエネルギー。通称エーテル。 そのエーテルを自らの意思で自在に操って、殺して、壊して、踏み躙る事だけに特化した異能の力。 力を持たない人間……無能力者は私達、エーテル能力者を恐れる。 そして、力の低い低級能力者は力の強い、上級能力者を妬む。 誰もが恐れ、羨む異能の力……こんな力が宿ったせいで、私の全てが狂った。狂わされた。 この力は未来を切り開く力なんかじゃない……ただ絶望と、死を広げるだけの狂った力。 こんな能力があるせいで、何もかも全部、みんな、みんな、私の前からいなくなってしまった。 パパ、ママ、庭師のライコフ、メイドのアリエッタ、コックのサントス、ペットのロッソ、親友のリズ。 命以外の全てを失ったあの日から三年―― ただ死んでいないだけの無意味な命を守るために、私は私以外の他人を踏み躙り続けて来た。 今日も、明日も、明後日も、来週も、来月も、来年も、死神の鎌が私の首に振り落とされる日が来るまでずっと、きっと…… だって仕方が無い。理不尽に抗う術は無く、反抗する力も無いんだから、殺されないように殺すしか無い。 私のせいで、大好きだったあの人たちはみんな死んじゃった。死んじゃった人たちのためにも私は死ねない。 ――ソレハ、ゼンブウソ――タダノ、イイワケ――ワタシハ、シヌノガコワイ――シニタクナイ―― 嗚呼、何て私は醜いんだろう。何て私は情けないんだろう。何で――私は弱いんだろう。 帝国なんか怖いだけで思い入れなんて無いし、共和国に怨みがあるわけじゃない。 地球人類の統一なんてどうでも良い。幸せだった、あの日を返して。 ――お願いします。返して下さい。 帰ってこない穏やかで幸せな日々――それを奪い取る側の立場になったくせに返してだなんて都合の良い話。 自分勝手で何が悪い? 望んで何が悪い? 自分勝手な事を考えても、望んでもどうせ手に入るわけが無い。 せめて、心の中で都合の良い未来を妄想して何が悪い? 悪くない。悪いはずがない。 悪いのだとしたら、どうすれば良い? 無謀にも抗えば良いの? それとも死ねば良いの? ――ふざけるな。フザケルナ。フザケルナフザケルナフザケルナ―― 自分がやっている事が悪い事くらい最初から分かっている。 だけど、抗えるものなら抗っている。抗えなんて簡単に言わないで。 じゃあ、死ねって? 死ぬのが怖いって何度も同じ事を言わせないで欲しい。 怖いから、優しい妄想を思い浮かべるしか残されていないんだから、それに縋って良い筈。 みんな同じ。みんな同じように奪われて、同じように絶望したのに……何で、あの人はみんなと同じじゃないんだろう? 人間狩りに襲われて、目の前で親しい人を多くの人を殺されて、圧倒的な力で抑え付けられたのに何で折れないの? 何で反抗しようとするの? 何で戦えるの? その身に宿るエーテル量は私と同程度、戦いに関しては素人で私よりもずっと弱い。 なのに私の事を同情してくれた、理解しようとしてくれた。私と違う。 エーテルナイトの存在すら知らなかった癖に陸戦騎を奪い取って、簡単に起動させた。 そんな能力者を見た事も無ければ、聞いた事も無い。私たちと全然、違う。 無駄なのになんで? なんで違うの? ――嗚呼、どっちにしても私に殺されるから、なんでなのか聞く事も出来ないのは少し残念。 あの人が差し伸べてくれた手は救いだったのかも知れない。 なのに、それを振り払ってまで、妄想の世界に救いを求めている自分の弱さが嫌になる。 誰か、この世界から私を助け出して……私に気付いて……私はずっと此処で泣いている……! 機神幻想Endless 第二話 エーテルナイト スクレイル帝国本土から遥か南方の広大な海に浮かぶ、七つの小島。通称セブンス。 文明と、時代と共に三国が引き起こした戦争からさえも置き去りにされた楽園。 だが、その楽園も一世紀遅れで惨劇の時を迎えた。 女、子供、老人、病人、怪我人の区別無く、命ある者は全て惨殺され、まるで絨毯の様にその残骸を大地に広げていた。 どれが誰の残骸なのかも定かで無い程の死界。気が狂いそうになるような惨状に人々の無念がセブンスの大空を茜色に覆い尽くした。 そして、この世の地獄と化したセブンスに四つの醜悪なオブジェクトが屹立していた。 セブンスのエーテル能力者と“交渉”するために派遣された人型機動兵器。 スクレイル帝国の主力兵器、エーテルナイト。その一号機、陸戦騎である。 尤も、四機の内一機はセブンスのエーテル能力者、閼伽王によって奪取されている。 最早、交渉の余地など何処にも無く、後は誰が死んでセブンスの土になるか、誰が生きてセブンスから出て行くかを決める為に殺し合うだけだ。 帝国兵が駆る三機の陸戦騎は脚部のローラージェットからエーテル光を放ち、砂塵を巻き上げながら油断無く、閼伽王を包囲した。 エーテルナイト乗り――エーテルライダーとしての経験は素人同然だが、帝国兵達は閼伽王に対して一切の油断も無く、侮りもしない。 本来、陸戦騎のカラーリングはカーキ色だが、閼伽王が奪取した陸戦騎は乳白色に染まっている。 特別仕様に塗装したのでは無い――ある意味、それでも間違ってはいないが、塗料を使って色を変えたのでは無い。 エーテルナイトにエーテルを使用するという性質上、力の強い能力者が搭乗すると、搭乗者のエーテルの色に染まる事がある。 乳白色に染まった閼伽王の陸戦騎。その白濁の色こそが閼伽王のエーテルの色であり、強い力を持つ能力者であるという事を示している。 能力者としての力量は閼伽王の方が遥かに上。その厳然たる事実が彼等から慢心を完全に奪い取っていた。 だが、愛機と共に幾多の死地を踏破して来た実績、三対一という数の利が彼等の表情から悲観の色を打ち消していた。 それに閼伽王が優れた能力者であるとは言え、その能力をエーテルナイトに生かせられるか如何かは別の問題だ。 相手を侮らず、油断せず、慢心せず。さりとて、恐れ過ぎる事無く、三人の帝国兵は一撃必殺の機を虎視眈々と狙う。 竜巻の様な高速旋回。迫り来る津波の様に間合いを詰めたかと思えば、何の行動を起こす事も無く、引き潮の様に間合いを広げる。 間合いの定まらない、その動きは包囲した者に疑心と、焦りを呼び、集中力を磨耗させ、精神力を削り取る。 ――その筈だった。 「こっちは既に右の頬を殴り飛ばされてんだ! 兆倍にして返してやんよォッ!!」 猛る怒りで、冷静な思考力を失った閼伽王に、帝国兵達の動きなど意識に無い。 閼伽王にあるのは、平穏を乱した輩が不愉快で仕方が無い。だから、ブチのめす。徹底的にブチのめす。ただ只管、ブチのめす。 精々、その程度の事しか無く、相手の意図など気付きもしない。 三機の陸戦騎が間合いを詰めた瞬間、閼伽王は白濁のエーテルを背に、弾丸の如く帝国兵の陸戦騎へと肉迫した。 警戒も、躊躇も、恐れも、迷いも無く、抜刀すらせずに拳一つ構えて、砂塵を巻き上げながら一直線に駆け抜ける。 彼等はその様を見て、閼伽王の事を一つの事しか考えていないが故に、迷いも恐れも無い。だからこそ質が悪いと評した。 そして、その評価は概ね正解。と言うよりも、今の閼伽王に余計な思考を差し挟む事が出来るだけの余裕は残されていない。 コクピットと一体化したエーテルジェネレーターが、閼伽王に流れるエーテルを喰らい尽くさんと貪欲に奪い取る。 陸戦騎を操る際に消耗するエーテル量は普段能力を使う時の比では無く、まるで血液ごと抜き取られていく様な虚脱感が全身に圧し掛かって来る。 だからこそ―― 「秒殺されちまいなァッ!!」 咆哮と共に力強い足取りで大地を蹴り抜き、閼伽王は迅雷の如く勢いで正面の陸戦騎に追走する。 それを迎え撃つ帝国兵は閼伽王の陸戦騎に向き直り、腰部にマウントされた強化セラミックソードを引き抜き、斜に構えて攻撃に備えた。 更に閼伽王の背後に回った二機の陸戦騎が強化セラミックソードから水飛沫の様なエーテル光を迸らせ、閼伽王を両断せんと駆け抜けた。 それでも、閼伽王は背後から迫り来る二振りの斬撃を意に介する事無く地を蹴った。 そして、閼伽王の拳が正面に捉えた陸戦騎に炸裂すると共に、頭部への縦一文字、腰部に横一文字、二つの剣閃が閼伽王に喰らい付いた。 閼伽王が放った乳白色のエーテル光を纏った拳打は盾代わりに構えられていた強化セラミックソードを圧し折り 閼伽王に放たれた剣閃は拳同様、装甲表面を満遍なく覆う乳白色のエーテル光に阻まれ、かすり傷一つ付ける事が出来ないでいた。 エーテルナイトは搭乗するエーテル能力者の能力を増幅し、その性能を何倍にも発揮するという性質を持っている。 そして、エーテル能力はより強いエーテルによって打ち滅ぼされる。それがルールであり、摂理である。 それまでに彼等がやってきた数の暴力を質の理不尽で捻じ伏せるというものを、そっくりそのまま閼伽王に返されたのである。 「くぅぅぅたぁぁばれぇぇぇぇぇぇぇッ!!」 帝国兵の硬直は一瞬。だが、その刹那の瞬間を無限に拡張するのがエーテル能力者という存在だ。 刹那の瞬間が無限ならば、最早、目の前の障害などただの案山子でしか無く、案山子を相手に技や構えなど無用、純粋な力が一つあれば事足りる。 閼伽王は逆手に引き抜いたセラミックソードを目の前の案山子の股間から斬り上げた。 閼伽王の怒りが込められた烈火の如き苛烈な一撃は、エーテル震となって空間を蹂躙し周囲を轟音で包み込んだ。 エーテル震が鳴り止むと同時に閼伽王の一撃で、へしゃげた強化セラミックソードごと一刀両断にされた陸戦騎が地面に崩れ落ちた。 その断面は滅茶苦茶に湾曲し、切り裂かれたと言うより力任せに捻じ切ったような有様ではあるものの 電光石火の早業は陸戦騎に乗る帝国兵に断末魔の声すら上げるどころか、自らの死を知覚する暇すら与えていない。 「まずは一機……ッ!?」 閼伽王が意気揚々と声を張り上げると共に分断された陸戦騎から分断された陸戦騎から爆轟が巻き起こり、密着状態にあった閼伽王を弾き飛ばした。 生命や物質が崩壊する際に発生するエーテルの突風――エーテルバーストと呼ばれる現象である。 本来ならば周囲に影響を及ぼす事は無く、エーテル能力者ですら意識を傾けなければ知覚するのも困難なのだが エーテルナイトの力で増幅されたエーテル能力と同様、エーテルバーストもまた増幅され、爆轟となって閼伽王を襲い掛かったのである。 閼伽王にとっては災難だが、帝国兵にとっては状況を打破する千載一遇の好機。 そして、エーテルナイトが破壊された際に発生する強烈なエーテルバーストの事を熟知している帝国兵達は 既に安全圏に離脱し左手に空間が歪曲する程の高密度のエーテルを収束していた。 エーテルを纏った陸戦騎の左手首の手甲がスライドし、排煙と共にエーテル発生装置の姿が露になる。 そして、発生装置から三叉槍の様な刀身が形成され、空を引き裂く甲高い音と共に閼伽王に向けて放たれた。 「ッざけてんじゃねぇぞ!!」 やぶ蚊の様に飛び交う二つの飛刃を紙一重の所で身を捩って避けると、鋭く尖ったエーテルの刀身は墓標の様に大地に深々と突き立ち、その動きを止めた。 だが、閼伽王が一息吐いたのも一瞬。 武装名、エーテル制御式ショットランサー。 エーテルによって形成された刀身を持ち、エーテルによって制御される無線遠隔攻撃装置である。 その名が示す通り、エーテルによって形成された不可視の腕に地面から引き抜かれ、再び、勢いを取り戻して閼伽王に襲い掛かる。 立ち上がる暇も無く、地面を転がりながら乳白色の装甲を泥で汚しながら、必死に逃げ惑う閼伽王を嘲笑うかの様にエーテルによって制御されたランサーは 常に最高速度を維持しながら、慣性を無視した軌道で獲物を狙う蛇の如く閼伽王を確実に追い詰めていく。 「しゃらくせェッ!!」 逃げ続けていては埒が開かないと、フラストレーションを溜め込んだ閼伽王は、怒声と共に背中のバネを使って宙を舞う。 その瞬間、ショットランサーの軌道が変わり、閼伽王を刺し貫かんと二条の閃光が空を走った。 そして、閼伽王が装甲全体を補強すると同時に二本のショットランサーが陸戦騎の両肩に突き刺さる。 閼伽王は生唾を飲み込むと同時に機体全体に回したエーテルを両肩に収束し、損傷を最低限に押さえ込むんだ――というのが閼伽王の目論みだった。 だが、閼伽王がエーテルを操作するよりも早く、両肩を捉えたショットランサーは間抜けな音を立てて地面を転がった。 「ああ?」 決死の覚悟とは裏腹にあまりにも間の抜けた結果に閼伽王は肩透かしを食らったような表情を浮かべる。 不発か? 否――帝国兵が企てた計略は、ほぼ完成していると言っても良い。 ただ閼伽王の意識をショットランサーに向ける。それも可能な限り長く。それが彼等の目的だった。 陸戦騎が弾き飛ばされる程のエーテルバーストに驚き戸惑った閼伽王が、愚直な怒りさえも忘れた事を帝国兵達は見逃さなかった。 そこで思考を乱した閼伽王に感知されるだけの膨大な量のエーテルを収束し、その警戒心を煽る。 案の定、閼伽王は膨大なエーテルの収束直後に放たれたショットランサーが一撃必殺の威力を持つエーテル兵器であると誤認した。 だが、事前行動とは裏腹にショットランサーに込められたエーテルは、発動に必要な最低限度の極僅かなエーテルのみ。 クラス分けされる程に差がエーテル能力者を相手に、不利を覆すのは並大抵の事では無い。 ましてやセラミックソードの直撃にも耐え得る閼伽王を相手に、ショットランサーでは威力不足であるのは彼等にとっても承知の上の事だった。 それでも、彼等に撤退の二文字は無い。何故なら、その不利を覆すだけの威力を持った兵器が陸戦騎に装備されているからである。 エーテルキャノン――搭乗する能力者のエーテルを物理的な破壊衝動に変換し撃ち出す、陸戦騎に装備された唯一のエーテル兵器である。 能力者の力量に大きく影響される上、発射準備にかなりの時間を要し、能力者に与える負担も決して無視出来ない程の物だが 大きな代償と引き換えに、大半の戦闘兵器を一撃で消滅させて有り余る圧倒的な火力を誇り、正しく切り札という形容が相応しい兵器である。 そして、帝国兵の思惑通り、閼伽王が長々とショットランサーに気を取られていた隙に、悠々とエーテルキャノンの発射準備を終える事が出来ていた。 陸戦騎の左腕に収束されていた膨大なエーテルはエーテルキャノンの砲口に飲み込まれ、二機の陸戦騎の姿を陽炎の様に揺らめかせた。 次の瞬間、無音の光芒が二条の閃光となって閼伽王の心臓を喰らい尽くそうと獣の様に宙を駆ける。 刹那――視界がセピア色に染まり、閼伽王は流れる時間が遅くなっていくのを感じた。 (どうせ殺るなら一思いに一気に殺りやがれってんだ……!) 時間の流れが遅く感じられても、自分の動きが早くなったわけでは無い。 ゆっくり――ただ只管、ゆっくりと眼前に迫り来るエーテルキャノンの弾光に閼伽王は内心で悪態を吐いて、破壊衝動の波に呑み込まれた。 だが、帝国兵の表情に喜色の色は無く、エーテルキャノンの再チャージを開始する。 エーテルナイト同士の戦いが始めてという事もそうだが、力が増幅された上位能力者との差が大きく広がっている事を嫌という程思い知らされた直後である。 既に彼等の頭の中では、今の攻撃で閼伽王を撃破出来ていなかった場合の対応策が頭の中で練られ始めていた。 そもそも、撃破出来ていない事はエーテルバーストが発生していない事からも明らかであった。 良くて虫の息。最悪の場合、無傷で反撃の機を伺っているという可能性も充分すぎる程に考えられる。 もしも、これで閼伽王が無傷だとしたら、必殺の機会を逃した彼等に勝ち目は無くなったと言っても良い。 今の一撃が彼等に出せる最大の一撃で、何をどう足掻いても先程以上の威力を出す事も、奇襲を仕掛けるのも困難だ。 何の脈絡も無く、唐突にBクラスのエーテル能力者にクラスアップすれば話は別だが、そんなに都合の良い話は滅多に無い。 そして、恐れていた最悪の事態が起ころうとする兆しが見え始め、彼等は思わず息を呑んだ。 セブンス全体を覆い尽くす程の急激なエーテルの高まり。大地から立ち上る、乳白色のエーテル光。 これが閼伽王から放たれているエーテルである事は把握出来るものの、閼伽王の気配は愚か、陸戦騎の姿すら何処にも見えない。 エーテルの出所を探ろうにも閼伽王のエーテルはセブンス全体に満遍なく、均一に広がっており、何処にでも居るような錯覚を起こしそうな程であった。 一回り近く年下の上官に縋り付きたくなる様な気弱な感情を必死に押し殺し、二体の陸戦騎は無言で背中合わせに立って全周囲を警戒する。 だが、一度自覚した恐怖を容易く払拭出来る筈も無く、背後から閼伽王が剣を振り被っているのではと根拠の無い疑心を抱く始末だった。 恐怖を自覚出来る程度には冷静なのだと自身を言い聞かせ、押し潰されかけた自らの意思を奮い立たせようとするが、その思考こそが恐怖に屈した事を意味する。 現に恐怖に破れたが故に彼等のすぐ傍で息を潜めている閼伽王に気付く事が出来ないでいたのだから。 「間一髪って奴かぁ? マジで死ぬかと思ったぜ……流石に年がら年中戦争やってる兵隊サンは場慣れしてやがんぜ」 閼伽王は陸戦騎のコクピットの中で冷や汗を拭う様な仕草をして深い溜息を吐いた。 「けど、使い方は把握した! 一方的にぶん殴られんのは終わりだ、な?」 必要以上にエーテルを膨張させ、帝国兵の恐怖心と、警戒心を煽り、検討違いの方向を警戒させる。 そして、湧き水の様に溢れるエーテルで砲弾を鋳造し、思考の海に浮かぶ砲身へと装填し、錆付いた撃鉄を火花と共に引き落とす。 照準を合わせる必要は無い。三者の距離は殆ど零距離。外しようが無い。 「ブッ飛べェェェェェェェッ!!」 閼伽王の咆哮と共に二機の陸戦騎の足元に亀裂が走り、その破片を押し上げるように乳白色の巨大な光芒が天を貫いた。 そして、光の昇天に呑み込まれた二機の陸戦騎が爆散し、大規模のエーテルバーストを引き起こした。 「畑弄りに能力を使っていたのが、こんな所で役に立つたぁな……世の中、何が役に立つか分かりゃしねぇな」 閼伽王は得意気な口振りで、地中から飛び出し、地表へと降り立った。 エーテルキャノンに飲み込まれる瞬間、閼伽王は足元の地面を溶かし、地下へと逃れ、帝国兵の足元という絶好の射撃ポジションを確保していたのだった。 セブンスに流れ着いて三年。途切れる事無く、能力を使ってセブンスの畑を耕してきた閼伽王にとって地質を操る程度、造作も無い。 それでも、気を抜ける様な状況では無い。セブンスに降り立ったエーテルナイトは四機。そして、始末した帝国の能力者は四名。 そして、セブンスに訪れたエーテル能力者は五名、後一人。セブンスの人間狩りを指揮するエーテル能力者―― 「ベアトリス……何処に行った……?」 一方、ベアトリスはアルトールの小屋から一歩も動かずに閼伽王の戦いを眺めていた。 同格の力を持つとは言え、つい先程、エーテルナイトの存在を知ったような物知らずが陸戦騎を帝国兵から奪取し 何の訓練も受けていないにも関わらず、容易く、陸戦騎を起動させ三人の帝国兵を撃破。 「そんな捕縛対象、見た事も聞いた事も無い……アイツが共和国に渡ったら、帝国は困った事になる……」 少数で戦火を広げ、戦渦を巻き起こし、戦果を得る力を持つ、エーテルナイトの台頭により帝国は圧倒的な力を身につける事が出来た。 それに対する共和国は技術力で帝国に遅れを取っているものの、潤沢な資源、物資、物量だけで帝国と拮抗出来るだけの力を持ち合わせている。 初期量産型の陸戦騎など帝国にとって人間狩りの部隊に宛がうか、廃棄処分して再利用する程度の価値しか無い。 だが、閼伽王が陸戦騎を手土産に共和国へと流れ、大量生産などされでもしたら帝国には打つ手が無くなる。 ベアトリスにとって帝国がどうなろうと知った事では無いが、そうなった場合、彼女に科せられる処遇は――ベアトリスは考えたくも無いと首を振った。 「おいで……」 その小さな呟きに応え、空の彼方から風を越え、雲を突き抜け、天空を自在に舞う第二の騎士がベアトリスの前に降り立った。 姫君に頭を垂れる騎士の様に肩膝を付いて、ベアトリスの搭乗を待つエーテルナイトは細身のシルエットをしており、陸戦騎の様な質実剛健さは無い。 だが、搭載されたエーテルジェネレーターは、陸戦騎に搭載されている物よりも遥かに大容量で、エーテルの循環効率に優れている。 更に血管の様に張り巡らされたオリファルコンの含有量は、陸戦騎の二十パーセント増で、搭乗する能力者のエーテルを余す事無く生かすことが出来る。 Bクラス以上のエーテル能力者の中でも、一際優れたエーテルライダーに支給されるエース専用エーテルナイト―― 「行くよ、空戦騎」 ベアトリスがコクピットに乗り込み、自身のエーテルを流し込み循環させると迷彩模様の空戦騎の装甲が深緑に染まり、額の単眼が深緑の光を放った。 背中のドラム缶の様な形状の二基のブースターから深緑のエーテル光を迸らせ、その名が示す通り空へと飛翔する。 そして、左腕に携えた長槍、強化セラミックランスを構え、閼伽王へと落雷の様に肉迫する。 「そのエーテルはベアトリスか!?」 雷光の如く勢いで急接近するエーテルを察知した閼伽王は、振り向き様に叫びながら剣を水平に振り抜いた。 間一髪――背後から陸戦騎を貫かんとしていた長槍は閼伽王の剣に阻まれ、火花を散らしながら陸戦騎の左肩を掠めた。 硬直する両者。閼伽王はベアトリスが二の手を使うよりも早く、更に一歩深く踏み込みながら、一刀両断にせんと縦一文字に剣を振り落とす。 「やっぱり、騎士の能力者を相手に格闘戦は不利……」 ベアトリスは臆するわけでも無ければ、口惜しげにするわけでも無く、淡々と述べながら残像を残して、斬撃の間合いから逃れる。 「逃がすかよッ!!」 閼伽王の叫び声と共に浮遊していたショットランサーが疾風を切り裂き、空戦騎に襲い掛かる。 「でも、騎士の能力者が魔弾の能力者に飛び道具を使うのは無謀――」 空戦騎の右腕に構えられたエーテルライフルに深緑のエーテル光が収束され、ショットランサーを飲み込んで尚、陸戦騎を穿たんと疾駆する。 「チッ……騎士だの、魔弾だの意味分かんねぇっての!」 閼伽王は吼えながら脚部のローラージェットから、乳白色のエーテル光を吹かしながら、空戦騎の銃撃を避け続ける。 怒鳴ってみせたは良いが、閼伽王の内心は焦りの色が見え初めていた。空戦騎の機動力は陸戦騎を遥かに圧倒している。 その上、空に逃げられたら陸戦騎には追撃の手段が乏しいのにも関わらず、空戦騎のエーテルライフルのチャージ時間は無いに等しい。 「対抗する手段はコイツだけか……」 左肩のエーテルキャノン。陸戦騎を一撃で葬り去る程の威力を持つが、チャージに時間がかかり過ぎる。 エーテルライフルを避け続けながら、チャージを完了させる事が出来るのだろうか? 両者の能力者としての力は同程度。一撃で仕留められる程、容易い相手なのか? 「まあ……知った事じゃねぇよなァッ!!」 一々、考えていては知恵熱を起こして脳が壊死してしまう。そして、閼伽王は自分の頭で考えても結果に繋がらない事を自覚している。 だからこそ、取り合えずやってみれば良い。なる様になるだろうという短絡思考で、迷う事無く動き出す事が出来る男なのだ。 閼伽王はローラージェットから出鱈目な軌跡を描きながら、空戦騎から断続的に放たれる銃弾を避け、エーテルキャノンのチャージを開始する。 「初めてでよく粘る……でも、もうこれまで」 「勝手に決め付けてんじゃねぇ! 俺はお前等なんざとは違うんだよォッ!!」 「そうだね……本当にそう思う。能力もだけど心も強い。此処まで歯向かえる能力者と出会えたのは初めて。 でもね、私も死ぬのが嫌だから……私が生きるために死んで……私から逃げる事が出来ても、もう道は無い」 「勝手に決め付けて、勝手に諦めて、勝手に帝国なんぞに負けてんじゃねぇ! 死ぬのが嫌なら歯ァ食い縛って死に損なえ! 先に道がねぇんなら、テメェで切り開け! テメェに宿ったエーテル能力は何だ! ただの貧乏くじか! テメェより弱い奴を殺す力か! それとも何か! テメェより強い奴に尻尾ふる力かよ! そんな奴等を相手に誰が逃げるかよッ!!」 「五月蝿い! 何も知らないくせに……!」 「自分の事を知らせようともしねぇ他人の事なんざ知るか! 辛いんだったらなぁ! 辛いから助けてくれって腹の底から叫んでみせろ! 勝手に絶望して、勝手に塞ぎこんで、勝手に自己完結してんじぇねよ、馬鹿餓鬼が! 心を殺さなくたってなぁ! 道なんざいくらでも選べんだよッ!」 そして、閼伽王は陸戦騎のローラージェットを停止させ、その動きを止める。 左肩のエーテルキャノンの砲口には乳白色のエーテル光が球状に収束され発射されるその時を今か、今かと待っている。 「ベアトリス。これで最後だ。俺は進むべき道を見つけた。お前はどうする?」 ベアトリスは閼伽王の問いかけに対し、エーテルライフルを下ろして応えた。 「私に同情してくれるって、私の言う事なら何でも聞くって言ってくれて……私の事を理解しようとしてくれてありがとう。 今も私を救い出そうとしてくれてありがとう……私と同じ立場なのに……本当に嬉しかった……」 「ベアトリス……」 ベアトリスの空戦騎が纏うエーテルが苛烈な物から穏やかな物へと変わり、閼伽王の表情が柔らかくなる。 「でも、ごめん」 ベアトリスのエーテルは穏やかでありながら、静かに研ぎ澄まされた殺気へと変貌し、ライフルの銃口には空間が歪んで見える程の高密度のエーテルが収束されていた。 「これが私の選んだ道……後には引けない。だから……さようなら」 ベアトリスにとって閼伽王の言葉はあまりにも甘美な猛毒の様なものだった。後一つ、小さく些細な切欠があれば帝国を棄ててしまいそうになる程の。 だから、ベアトリスは張り裂けそうになる想いを殺意で押し退け、言の葉を銃弾に変えて、閼伽王と共に行く道を撃ち貫いた。 「馬鹿餓鬼が……!」 閼伽王はこれ以上の説得は無意味だと悟り、空戦騎から放たれる光弾を飲み込む程の巨大な光芒を放った。 「本当にごめん……そして、騎士の能力者が、飛び道具で魔弾の能力者に戦いを挑むのは無謀だと言った」 光芒と光弾が衝突する寸前、光弾はその軌道を変え、光芒を縫う様に駆け抜け、陸戦騎のエーテルキャノンを破壊する。 そして、空戦騎へと迫る光芒にベアトリスは眉一つ動かさずにエーテルライフルを構え、光弾では無く、光芒を放つ。 空戦騎から放たれた光の柱はエーテルキャノンの光芒ごと、一瞬にして閼伽王の陸戦騎を飲み込んだ。 巨大なクレーターを穿たれ、セブンスから平穏な日々を謳歌していた島民達の痕跡が消滅し クレーターの中心地では、装甲を欠落させ、満身創痍の体となった陸戦騎が膝から崩れ落ちた。 とは言え、行動不能に陥っただけで閼伽王自身の死には程遠く、ベアトリスは感心の中に苛立ちを含ませた。 だが、それも此処までだ。ベアトリスは躊躇う事無く、エーテルライフルの銃口を陸戦騎のエーテルジェネレーターに向ける。 「バイバイ……嫌いじゃなかったと思うよ」 そして、ベアトリスが無感情にトリガーを引こうとした、その瞬間――空戦騎の右肩が爆発を起こした。 「エーテル攻撃……!」 陸戦騎が戦闘不能に陥った今、ベアトリスの空戦騎にエーテル攻撃を仕掛けられる相手は限られている。 と言うよりも空戦騎に攻撃を仕掛ける命知らずなど一陣営しか存在しない。 「共和国の戦闘航空機……今なら勝てると思ってるんだ……随分と甘く見られている」 ベアトリスが戦いに身を投じるようになって三年。閼伽王の様な敵と戦うのは初めてだったが、空を覆い尽す共和国の部隊と対峙してみて分かった事がある。 「他人の命なんて軽いくらいで丁度良い……」 自分を理解しようとして、必死に声をかけてくる閼伽王を撃った時の気分は最悪以外の何物でも無く、後ろめたさしか残らなかった。 だと言うのに、自分に殺気を向ける共和国の兵に向けて放つエーテルライフルのトリガーは何と軽い事か。 「だから……殺してあげる」 四機の陸戦騎を失った上に捕縛対象の閼伽王は死んだも同然。せめて、共和国の一部隊くらいは滅ぼしておかなければ割に合わない。 ベアトリスの呟きと共に空戦騎からエーテル光が放たれ、空を深緑に染めると同時に共和国の戦闘航空機――ズィーダーは一斉にエーテルキャノンを発射する。 刹那――ベアトリスはエーテルキャノンの弾道、弾速を読み取り、迫り来る弾幕に真正面から飛び込んだ。 そして、砲撃の軌跡が空戦騎の肩や脇、腰の隙間を、紙一重の所で通り抜けていくのを尻目に航空機部隊の中心に躍り出た。 一斉に散開しようとする戦闘航空機の中から、僅かに逃げ遅れた者がセラミックランスをコクピットの中に叩き込まれ、ズィーダーの中で木端微塵に弾け飛んだ。 更に空戦騎は錐揉みしながらエーテルライフルのトリガーを引き、放射線状に光芒を放ち、敵部隊の半数を撃墜し、速度重視の弾丸を鋳造し三連射。 何と無く逃げ足が遅い気がする――曖昧な判断基準で選ばれた敵は必死に回避運動を取ろうとするが、光弾はその軌道を自在に変え、猟犬の様に追い立てる。 そして、光弾を振り抜き、雲を抜けた瞬間、ズィーダーのキャノピーに差す陽光が、暗い影に覆われて途切れ――パイロットの意識は途切れた。 「この程度で私に挑むなんて、とんだ馬鹿……」 ベアトリスの表情から疲労の色は隠せないが、ズィーダーのエーテルキャノンでは脅威足りえるには程遠い。 エーテル兵器とは言え、エーテルジェネレーターで増幅されていなければ、通常兵器に毛が生えた程度の性能しか無いのだから。 それでも、共和国の兵士達は健気にもエーテルキャノンで必死に応戦しようとする。 ――強いエーテル能力は、より強いエーテル能力によって捻じ伏せられる 一斉に逸れた筈のエーテルキャノンの軌跡が鞭の様に撓りながら突如と軌道を変え、豪雨の様に空戦騎に降り注いだ。 閼伽王を撃った事による動揺、能力と性能差のある相手への慢心がベアトリスを窮地に追い込んだ。 「何……!?」 微弱なエーテルの中にその姿を隠していた禍々しいエーテルが急速に膨張し、深緑の空を白濁に染めていく。 だが、閼伽王は未だ陸戦騎と共に沈黙を保ったまま。閼伽王と同じエーテルの色を持ち、尚且つ、ベアトリスのエーテルを侵食する程の力の持ち主―― 「ドゥアーッハッハッハッハッハーイ!! どうよ、帝国の小鳥ちゃんよぉぉぉぉお!!」 「……気持ち悪。濃い、暑苦しい、汗臭い」 実際に顔を合わせたわけでは無く、ただの印象でしか無いが、その印象は概ね正解と言えた。 小麦色に焼けた肌は鍛え抜かれた筋肉で脂ギッシュにテカリを放っており、ズィーダーのコクピットの中で缶詰の様に抑え付けられている。 そして、顔はバナナの様に長く弧を描くように反っており、顎は二つに割れ、顔の半分程もあるのでは無かろうかという程の巨大な口に図太い眉毛。 鶏の鶏冠の様に立派にそそり立つ金髪のモヒカンはズィーダーのキャノピーで押し潰されていた。 これをベアトリスの言葉で簡潔に一言でまとめると―― 「不快」 「人の事を気持ち悪いだの不快だのとよぉぉぉお!! このAクラス能力者ワーグナルド・ミッテルシュナウダー様を舐めてんのかあああん!?」 「名前もウザいし、そもそも、聞いてない」 不快とは言え、Aクラスのエーテル能力者である事には変わりは無い。 そして、その実力はエーテルジェネレーターで能力を増幅していないにも関わらず、仲間の弾丸を操作し、空戦騎を追い詰めた事から察するに余る。 だが、それ以上に―― 「顔見てないけど、顔が生理的に無理」 ベアトリスは空戦騎のエーテルジェネレーターからスパークが迸っているのも無視して、侮蔑の言葉と共にエーテルライフルをマシンガンの様に連射した。 ワーグナルドは少女の声で自身を徹底的に否定され悲しみに暮れている所に銃弾を打ち込まれ、慌てて回避に転じる。 「あんまり手間ぁかけさせるなよォ? 大人しくソイツを渡せば、上には従順だったって報告出来るんでなァ!」 「こうも同じだと本当に嫌になる……」 つい先程の自分を焼き増したようなワーグナルドの言葉にベアトリスは不快感を露にした。 こんな不快な男と同じ言葉を発していた事に――閼伽王は今の自分と同じ気持ちになっていたのかと思うと―― 「……本当に不快」 「いい加減に黙れやァァァァァアア!! お前の言葉は地味に傷付くんだよォ!! そういう事を言っちゃダメって、ママから言われなかったんかぁ!? ああん!? 十八歳未満お断りなお仕置でもされたいんか、アアン!? 寧ろ、ヤんぞゴルアアアアッ!!」 「下衆」 ワーグナルドの怒鳴り声を一言で一蹴し、ライフルの銃口に収束したエーテルを散弾の様に拡散し、弾幕の網でワーグナルドを封じ込める。 「共和国のAクラス能力者ならミスの埋め合わせに丁度良い……私が生き残るために死んで……それに不快」 「まァだ言うか、この雌ガキャアッ!!」 空戦騎のライフルの銃口に深緑のエーテルが、ズィーダーのキャノンの銃口に乳白色のエーテルが収束され、まさに一触即発の状況。 そんな最中、空戦騎のコクピット内に新たな命令が届き、その命令内容にベアトリスは驚いた様な表情を浮かべた。 「現作戦及び、戦闘行動を破棄並びに中断。即時撤退命令……Sグレードの最優先命令……どう言う事……?」 だが、ベアトリスが疑問を差し挟む余地は何処にも無い。 どんな状況下にあろうとセブンスに放置されている四機の陸戦騎の残骸を放置してでも所属基地へと戻れ。それが、ベアトリスに下された命令である。 「エーテルナイトを棄ててでも戻って来い……帝国にとって私はまだ利用価値がある……まだ……生きていられる……」 「なァにをブツブツ言ってやがる!! ぶっっっっっ殺すぞぉぉぉぉああ!!」 「勝手に殺して、死んでいれば良い……下衆に付き合っていられない……」 ベアトリスは空戦騎を反転させ、空間が捻じ曲がりかねない程のエーテル震を巻き起こして、空の彼方へと飛び去った。 「暴言吐くだけ吐いて逃げんのか!? おおい!!」 ワーグナルドが叫び終わった頃には既に空戦騎の姿は芥子粒程の光点になるまで遠ざかっている。 追いかけようにも単機で帝国本土付近の海へと接近する程、無謀な男でも無い。 気を取り直したかの様な表情で、セブンスに穿たれた巨大なクレーターの中心地に横たわる陸戦騎を睥睨した。 「陸戦騎四機分の残骸に死に損ないのBクラスが一人か……」 セブンスのエーテル能力者、閼伽王の存在に気付いていたのは共和国も同じだったが、立地の都合上、帝国を出し抜くのは不可能だった。 其処でワーグナルドは、この事態を静観しつつも、彼の権限で動かせる兵力をベアトリス達に勘付かれない地点に配置させていた。 そして、セブンスで始まった戦闘は彼にとって非常に好都合なものだった。 閼伽王の手によって三機の陸戦騎が撃破され、閼伽王の陸戦騎も比較的綺麗な状態で撃破された。 彼等にとって一番厄介だった空戦騎と、ベアトリスは閼伽王との戦闘でエーテルを消耗し、精神状況も決して良好では無い所まで追い詰められていた。 残った陸戦騎の能力者も消耗状態。貴重なエーテルナイトのサンプルを手に入れる潜在一隅のチャンスが到来したというわけだ。 「空戦騎も欲しかったんだが……まあ、一先ずは成功だなぁーハッハッハッハァッ!!」 誰も為し得る事の出来なかったエーテルナイトの鹵獲。与えられる恩賞は如何程の物かを想像して、込上げる笑いを堪える事無く、大空に大きな笑い声を鳴り響かせた。 一方、帝国では―― 下士官の軍服に身を包んだ若い帝国兵が基地司令の執務室で、虚空に映し出された共和国の将官の立体映像と向かい合っていた。 「其方にエーテルナイトのサンプルと、野良を送った……G計画の進捗はどうなっている?」 「陸戦騎の鹵獲という切欠を得た今、長く見積もっても二ヶ月といった所だ」 「取り合えず、十機程完成させたら此方を襲わせろ。性能を確認しておきたい」 「了解した……相変わらず、随分な暴れようだな?」 帝国の下士官の背後には、帝国の将官や下士官達の骸が折り重なり、壁や天井には、おびただしい量の鮮血が飛び散り、あるいは滴り落ちていた。 「芝居に夢中になり過ぎる癖があってな。偶には塵を塵扱いしておかなければ、本当の自分を忘れそうになるのでな」 「……二ヶ月以内にGによる強襲を仕掛ける。そのつもりでいろ」 帝国の下士官は悪びれた様子も無く、おどけた態度で肩を竦めていると共和国の将官は呆れた口振りで通信を終了した。 「き……貴様……共和国のスパイか……!」 その一部始終を見ていた帝国兵が骸の山から這い出て、呼吸の乱れた荒い声を上げた。 自身の物か、それとも、他人の物かも分からないおびただしい量の血液に全身を染め上げた、その姿は地獄から現れた亡者の様にも見える。 「おやおや……すまんな」 スパイの容疑をかけられた帝国の下士官は、その様が無性に愉快だったらしく、目を細めて、口角を吊り上げ―― ――殺し忘れていた そして、紅い血肉が弾け飛び、新たに鮮やかな紅が執務室を塗り潰した。 【次回予告】 ヴィルゲスト共和国本土に運び込まれる四機の陸戦騎の残骸と、閼伽王。 遂に共和国はエーテルナイトの開発に大きな一歩を踏み出し、帝国に対し反撃の狼煙を上げた。 その最中、閼伽王は時代の影で、人を喰らう異形の群れと戦う学徒――君嶋悠との出会いを果たす。 機神幻想Endless 第三話 覚醒者 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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登録日:2020/01/10 Fri 00 11 30 更新日:2024/01/15 Mon 09 00 53NEW! 所要時間:約 14 分で読めます ▽タグ一覧 STAR_WARS SW ×ハグス将軍 アーミテイジ・ハックス イケメン エリート オールバック コート スター・ウォーズ スピード出世 ドーナル・グリーソン ハックス将軍 ファースト・オーダー プライドの塊 ヘタレ 二世 参謀 司令官 報われぬ人生 将校 将軍 小物 小物界の大物 川本克彦 幹部 愛すべき小物 愛猫家(?) 憎めない悪役 案外有能 残念なイケメン 終身名誉小物将軍 続三部作 苦労人 赤毛 軍人 転落人生 野心家 銀河帝国 「今日こそが共和国最後の日となる」 映画『STAR WARS』シリーズに登場する人物。 アーミテイジ・ハックスというフルネームが一応設定されてはいるものの、公式サイトのキャラクター紹介、スタッフロール、関連商品などでは基本的に「ハックス将軍(原語版ではGeneral Hux)」と表記される。(*1) 俳優:ドーナル・グリーソン(『ハリー・ポッター』シリーズのビル・ウィーズリー役、『ピーターラビット』シリーズのトーマス・マクレガー役など) 吹き替え声優:川本克彦(『『無限戦記ポトリス』のドラゴンブルー役、NARUTO-ナルト-疾風伝』のデイダラ役、『NHK高校講座「ビジネス基礎」』のナレーションなど) ●目次 【人物】 【過去】 【本編での動向】EP7 フォースの覚醒 EP8 最後のジェダイ EP9 スカイウォーカーの夜明け 【EP9没案】 【人物】 「貴様らの運命は定まった…銀河の塵と消え失せるのだ!」 銀河帝国の残党が結成した軍事組織ファースト・オーダーにて最高指導者スノークに仕える将軍。 軍服の上に黒いロングコートを身に纏った痩身の男性であり、ファースト・オーダー最高司令部の指揮官を務めている。 敵対するレジスタンスからの通信に対して降伏は一切認めないことを宣言するなど、冷酷非情な性格の持ち主。プライドが高く、芝居がかった尊大な言い回しを好む一面を併せ持つ。 組織の中での立ち位置としては、旧帝国時代の総督ウィルハフ・ターキンに近い。 もっとも皇帝やダース・ヴェイダーといった錚錚たる面々にすら一目置かれるほど、優秀な司令官・政治家として老成していた彼に比べると、やはり若さ故の未熟さか精神的な余裕の無さが散見される。 またターキンがヴェイダーよりも上の地位に就いていたのに対して、ハックス将軍はカイロ・レンとほぼ同等の位である。 レンからは実戦経験の浅さを理由に見下されており、ハックスもまた彼の存在を不快に思っている。年齢的にはハックスの方が数歳年上らしい。 日頃から主君スノークの評価と寵愛、即ち次期最高指導者の座を巡って、手柄の奪い合いや互いの失敗の告げ口などといった小競り合いを繰り広げ、非常に折り合いが悪い。 スノークも「何故あのような小物を重用するのか不思議に思っているであろう?奴の弱さは上手く操ればよく切れる道具となる」などと陰で彼が将軍の器ではないことを嘲笑し、時には遠距離からフォースによる体罰をも辞さない少々ぞんざいな扱いをしている他、(*2) レジスタンスの者からさえも作戦のためとはいえ散々扱き下ろされたりと、作中では敵味方問わず多方面から軽んじられている節が見受けられる。 しかしながら、彼が収集した情報や立案した作戦によってレジスタンスが幾度も窮地に追い込まれているのもまた事実であり、更にストームトルーパーの育成にも彼が採用した訓練メソッドが大きな貢献を果たしているため、一概に全くの無能とも言い切れない。 前述のスノーク評も裏を返せば、扱い方次第で能力を発揮すると認められているとも言えるし、スノークがハックスの働きぶりを褒めそやす場面も度々見られる。 とはいえレジスタンスを追い詰める度に後一歩の所で出し抜かれている背景にはレジスタンス側の奮闘や仲間の不手際だけでなく、彼自身の判断の甘さも少なからず関係しているのは否めず、ハックスが将軍として周囲からの評価をあまり得られないのも致し方ない部分はあるが。 なお大変どうでも良いことだが、2016年2月、ルーカスフィルムの社員であるパブロ・ヒダルゴ氏が、ハックス将軍はミリセントと名付けた猫を飼っているとSNSで公言した。 これが正式な設定なのか単なるジョークなのかは不明。いずれにせよ彼は自分でもこのネタが気に入ったのか、自アカウントのアイコンを一時期ミリセントと思しき猫を抱いたハックスの画像にしていたりする。 …そもそもスター・ウォーズの世界って普通の猫いるのかな? 【過去】 「良いリーダーというものは、チームの一員でありつつも、周りと馴れ合ってはいけないのだ」 彼の本編に至るまでの来歴は正史(カノン)の小説である『アフターマス』三部作、『ファズマ』、『フォースの覚醒前夜 ~ポー・レイ・フィン~』などで語られている。(*3) アーミテイジ・ハックスは、帝国将校の父と使用人の母との間に婚外子として生まれた。 父ブレンドル・ハックスは息子に対しては一片の愛情も抱いておらず、紙のように貧弱で役立たずだと侮蔑していた。その一方で、仕込めば化けるだけのポテンシャルはあるかもしれないとも思っていたようだが、それは息子への期待というよりも軍人としての見解だったものと思われる。 アーミテイジの幼少期、帝国は歴史的大敗を喫して凋落。彼と父は苦難の末、銀河系の未知領域へと逃げ延びる。 そしてブレンドルを始めとする帝国の元上級幹部ら数人が中心となって、徐々に勢力を拡大した。この一派が後にファースト・オーダーとなるのである。 幼きハックスは、帝国時代に父親の上官だったガリアス・ラックス提督の指導を受ける内、他者を支配するという行為に歪んだ悦びを見出すようになっていった。 さながら自身の抱く心の弱さを打ち消そうとするかの如く、人を思うがまま操って攻撃を行うことに快感を覚え始める。 そのまま大人へと成長してファースト・オーダーを構成する一幹部になった彼は、利害が一致したキャプテン・ファズマの謀略に加担して、自分の父親を死に追いやってしまう。 直接手を下したわけではないにせよ、奇しくも後のカイロ・レンと同様の所業を働いたわけであるが、レンが父親を手にかけることに迷いを抱き、殺めた後も後悔を捨て切れなかったのとは対照的に、ハックスは一切心が揺れることは無かった。 まあ生まれた頃から自分と母を虐待同然に冷遇してきた相手に情が湧かないのも無理はない。結果的にその父親と同じく支配欲に飢えた人間に成り果ててしまったのは何と皮肉なことか。 程なくしてハックスは、トップの思惑も相まって、亡き父の跡を継ぐような形で将軍の座を見事射止める。 将軍に就任して以降は、かつて帝国アカデミーの教官でもあった父が考案した訓練法をベースにしている教育プログラムを採用して、ファズマと共にストームトルーパーの洗脳・増強に尽力した。 昔の帝国と違って公然と徴兵することが出来ないので、兵士の数が少ない分、一人一人の質を高めていく必要があったようだ。 ちなみに彼はトルーパーの育成に当たって、ファースト・オーダーのために戦うことこそが正義であると頭に叩き込ませるという目的の下、訓練生達に毎日2回、自分の演説の映像を強制的に見せていることも発覚する。 単なる罰ゲームとしか思えない実に恐ろしい洗脳手法だと言えよう。 若くして順調に出世を重ねていくハックス将軍。 だが、そんな彼の覇道にも一筋の影が差す。最高指導者スノークが幾年か前より懇意にしていた男が、ついに自分と同格の地位に割り込んで来たのだ。 その男こそがカイロ・レンなのであった。 【本編での動向】 EP7 フォースの覚醒 シークエル・トリロジーの第一弾に当たる本作でシリーズ初登場を果たした。 「あんたの部下では心許ない」 「私のやり方に異論があるのか?」 カイロ・レンと共同でルーク・スカイウォーカーの居場所が記された地図の回収任務を担当することになる。 部下のフィンことFN−2187が裏切ったことで、ストームトルーパーの教育と管理の体制についてレンから皮肉を浴びせられ、ハックスも仕返しとばかりに彼のミスをスノークにばらすなど、この頃から二人の関係の悪さは垣間見えていた。 レイとフィンが地図のデータを持ったBB-8を連れて、ストームトルーパー達の追跡をかわした事実を重く見たハックスは、新共和国がレジスタンスに援助してルーク・スカイウォーカーを発見してしまう前に、新開発の破壊兵器スターキラーを使用して共和国を潰す許可をスノークに求める。 斯(か)くして彼は何千という兵士達が見守る中、至高の新兵器を御披露目する歴史的なセレモニーで大演説を行った。 このどこかナチス感のあるスピーチは、俳優のグリーソン氏および吹き替え声優の川本氏、両者の鬼気迫る熱演が光るので、ぜひ英語版と日本語吹き替え版の両方をご覧頂きたい。 演説全文 「…今日こそが共和国最後の日となる。秩序無き混乱の時代と決別する記念すべき日だ。 今この瞬間ここから遠く離れた星系で、新共和国は厳正に中立を守るなどと綺麗事を言いながら、その裏でレジスタンスに肩入れしている。 諸君が作ったこの恐るべき兵器───この究極の兵器が元老院に最期をもたらす…忌々しいレジスタンスにも。 生き残った星は全てファースト・オーダーの前にひれ伏すのだ…」 「そして今日この日が…共和国最後の日として長く記憶される!」 「発射!!」 ハックス将軍の号令と共にスターキラーは巨大なレーザー光線を放った。 恍惚とした表情を浮かべて光の槍を見上げる彼の視線の遥か先で、幾つもの惑星が塵と化してゆく。 このたった一撃で新共和国の首都があるホズニアン・プライム星系は壊滅。そして一瞬の間に数え切れないほどの命が失われた。 ところで、これまた物凄くどうでも良い話なのだが、演説直後ストームトルーパー達が一斉に片腕を振り上げて賛同の意を示すシーンでは、何故か一人だけ全身を使って元気良くガッツポーズを決めているお調子者がいるので、もし機会があれば探してあげよう。 その後、カイロ・レンが惑星タコダナでレイを捕縛することに成功するも、フォースに目覚めた彼女には地図の情報を吐かせることは出来ず、レンがBB-8を回収していなかったこともあって、ファースト・オーダーは苦境に立たされる。 しかしハックスは、レジスタンスの基地がイリーニウム星系の惑星ディカーに存在することを独自に突き止めており、スターキラーで狙うことをスノークに進言して準備を開始。 「兵器の充填を始めろ!」 一方ファズマは、スターキラー基地に忍び込んだハン・ソロ達に脅迫されて、スターキラー基地を守る防衛シールドを無理矢理解除させられていた。 防衛シールドの解除でレジスタンスの戦闘機部隊が襲撃。ハックスは基地の防衛に当たる。 スターキラーのレーザーが発射されるまで後ほんの数秒という所で、レジスタンスの破壊作戦は成功し、基地は惑星ごと崩壊していく。 敗北を悟ったハックスは基地内部の中央コントロール・センターで、雪原に倒れているカイロ・レンを拾って帰投するようスノークから命を受け、基地を離脱したのだった。 この時、彼はオペレーターから「将軍が逃げ出した」と言われてしまっていたが、一応弁護しておくと、引き際を弁えてスノークに今後の方針を速やかに尋ねようと退室したのは理に適った行動であると言える。 確かに避難を指示せず一人で部屋を飛び出したら部下からそう見られても仕方ないけど。 まあ森の中で死にかけているレンを救出するほどの時間的余裕はあったので、おそらく全員脱出は完了したことであろう。 EP8 最後のジェダイ 今回はかなり序盤から登場する。 「聞こえてないのか?」 「ハーグース〜」 「聞こえてた」 スターキラー基地は破壊されてしまったものの、前作の時点でレジスタンス基地の所在地は判明しているため、艦隊を率いて惑星ディカーへと向かう。自身は旗艦のファイナライザーの艦橋に陣取って、追撃作戦の司令塔に徹する模様だ。 基地から既に逃走していたレジスタンスの船を追いかけると、レジスタンス中佐にしてエースパイロットのポー・ダメロンがファースト・オーダーに交信を求めてきた。 ここからハグス将軍ハックス将軍は劇中で小物キャラとして大っぴらに扱われるようになる。ぶっちゃけ前作ラストの時点で既に小物臭さは微かに見え始めていたが。 ポーはハックスを好き放題イジり倒した後、爆撃部隊を率いて奇襲を仕掛ける。 彼らが多大な犠牲を払って決死の覚悟で攻め立ててきたこともあり、ファースト・オーダーの軍艦ドレッドノートを陥落させられる由々しき事態に。加えて、レジスタンスの勢力がハイパースペースに飛び込んで、どこか宇宙の遠くに逃げ仰せる始末。 「ハックス将軍!」 当然これほどの失態を最高指導者スノークが許すはずもなく、ハックスの前にホログラム体として臨場。言い訳しようとする彼を容赦無く遠距離からフォースで床に捻じ伏せ、そのまま大勢の部下が見ている前で引きずり回した。 だが、文字通り例え転んでもただで起きるハックス将軍ではない。何とか身を起こしながら既に敵の尻尾は掴んであると返答する。 「決して逃しはしません…最高指導者」 彼はレジスタンスに振り切られた時に備え、部下を使ってレジスタンスの艦艇をハイパースペース・トラッカーで捕捉していた。これは相手が仮にハイパースペース・ジャンプを使ったとしても航行先を計算して特定出来るという優れ物。 このシステムは元々、帝国時代にターキン総督が創設した研究チームによって提唱された機構であり、EP4の前日譚『ローグ・ワン A STAR WARS STORY』では、主人公のジン・アーソが惑星スカリフのデータ保管庫でデス・スターの設計図を探している時、これの資料を口頭で読み上げるシーンが確認出来る。 あれから約30年余りの年月が経過して、未だ理論段階で留まっていた研究を引き継いだハックスのエンジニアチームが実用化に成功したとのこと。しかも次作では量産型のTIEファイターもこの装置を搭載して、ミレニアム・ファルコンを延々と追跡してくるのだから恐ろしい。 「レン、レジスタンスは射程外に出た。この距離では援護出来ない。艦隊に引き返せ!」 愛機のTIEサイレンサーを乗りこなし、中隊を引き連れて獅子奮迅の働きを見せていたカイロ・レンに、遊撃を一旦中止して戻ってくるようハックスはメッセージを送る。 自分を補佐する僚機が通信から即刻両方撃ち落とされてしまったこともあって、彼の言う通り分が悪いと察したのか、レンは不服そうに唸りつつも渋々その言葉に従った。 次いでハックスは戦略を変更。 逃げに転じて速力が高い敵艦に追い付けず攻撃を当てられないとしても、構わず背後から撃ち続けることで、逃がさないという姿勢をレジスタンスに示威するよう指示を出した。 このまま攻撃を避けるためにスピードを出し続ければ、先にレジスタンスの方が燃料切れを起こして身動きが取れなくなると読んで、持久戦に持ち込んだのだ。 「では息の根を止めてやれ」 ハックスの思惑通り、医療船アノダインを始めとするレジスタンスの艦隊は長時間の高速航走に耐えられず自滅していき、敵機は残す所、母船ラダス一隻のみになろうとしていた。 更に諸々の騒動を経て、レジスタンスが小型の輸送船に乗り移って惑星クレイト(*4)に逃げ込もうとしていることを知った彼は、攻撃目標をラダスから輸送船へと移行。瞬く間に次々とキャノンで沈めていった。 仲間を乗せた輸送船が何機も撃墜されているのを見過ごせなかったアミリン・ホルド提督はラダスを駆って、最高指導者スノークが乗る母艦のメガ級スター・デストロイヤーに船を向ける。 ハックスはこれを標的から目を逸らすための囮だと判断して、変わらず輸送船を狙い続けたが、それが大きな誤りだった。 「あのクルーザーを撃沈しろ!」 彼女の真意に気付いた頃には時すでに遅し。ホルド提督の命と引き換えのハイパードライブ特攻でメガ級スター・デストロイヤー(とその他随伴していた多数のリサージェント級スター・デストロイヤー)は大きなダメージを受けた。 事態の収拾を付けるため玉座の間を訪れたハックスは、そこで既に事切れていたスノークの亡骸を目の当たりにする。 傍らに気絶したカイロ・レンも横たわっているのを見て、銃を取り出して彼を始末しようとするが、その時不運にもレンが飛び起きてしまう。 ハックスは銃を隠し、何食わぬ顔で何故スノークが死んでいるのか問い質した。レンも澄ました顔で自らが討ち取った主の死をレイの仕業だと偽証する。 スノークが死んだ今、二人の関心はただ一つ… 「全兵力をレジスタンスの基地へ。一気に片を付ける」 「誰に向かって口を利いている?私の軍を指揮するつもりか?最高指導者が死んだ今支配者はもう居ない!」 「最高指導者は…私だ!」 「最高指導者…万歳……」 長きに渡る主権争いは一瞬で決着が付いた。 直接的な戦闘に関しては一般人の域を出ないハックス将軍がカイロ・レンに逆らえるはずもなく、フォース・チョーク(首絞め)で屈服させられ、彼に従うこととなる。 もしハックスが単にレンの寝込みを襲ったのなら、気配で目を覚ましてルークと同じ轍を踏んでしまった可能性が高かったことだろう。だが、メガ級スター・デストロイヤーが崩落した衝撃で体を強く打ち付けられたレンは先程まで完全に意識を失っており、言わば千載一遇の好機だったのだ。 ハックスが後もう少し早く駆け付けてさえいれば、最高指導者の椅子はもしかしたら… そのままファースト・オーダーは、レジスタンスが潜伏している惑星クレイトに進軍を開始する。レンとハックスはユプシロン級コマンド・シャトルに乗って部下達に指示を送った。 「ハックス将軍、前進だ。捕虜は無用。皆殺しにせよ」 レジスタンスを追い詰めた時、そこにルークが登場。AT-M6ウォーカー部隊による一斉射撃を浴びせるも傷一つ付けられなかったため、レンが降りてライトセーバーで雌雄を決することに。 ハックスはこれをルークの罠だと見抜き、今は誘いに乗らずに目的を優先すべきだと異を唱えようとするが、聞き入れられず殴打されてしまった。 その上「私が良しと言うまで軍を動かすな」と言い残して戦場に舞い降りたので、ハックス達には後ろから二人の戦いを見守ることしか出来ない。もっとも彼は殴り飛ばされた時にすっかり伸びていたので、眼前の光景を眺める余裕があったのかさえも疑わしいが。 その間にレジスタンスの生き残りは秘密の通路から抜け出し、レイとチューバッカの操るミレニアム・ファルコンに搭乗して宇宙へ飛び去って行った。 これハックスの言う通りにしてたら一人と一匹(?)を除いて敵を殲滅することが出来てたのでは? レンが相対していたのが、ルークがフォースの力で生み出した幻影だと判明したことを受けて、ファースト・オーダーの一行は基地の内部へと侵攻する。 もぬけの殻となっていた基地の中、カイロ・レンの入った部屋に視線を送るハックス将軍…その目は深い憎悪に満ちた物であった。 EP9 スカイウォーカーの夜明け あれから約1年ほどの月日が流れた。 「ハックス将軍、俺の新しいマスクが気になるのか?」 「いえ…お似合いです」 カイロ・レンがファースト・オーダーの最高指導者として権威を振るう一方、ハックス将軍は見る影もなく落ちぶれていた。 組織の今後の方針、及び組織の情報を漏らしているスパイについて話し合う会議が劇中で開かれたが、席次からしてハックスの地位はもはや他のファースト・オーダーの幹部達と大差無い扱いだった。前作、前々作に渡って3度も敵方に自軍への大打撃を許してしまったためか、単なるレンの嫌がらせかは定かではない。 ハックスは、帝国時代に長年にわたり軍の将校を務めた経験を持つというエンリック・プライドという名の元帥の下に左遷され、軍の指揮権も彼に奪われていた。 ハックス役のドーナル・グリーソン氏は本作のパンフレット内で今作のハックスを取り巻く涙ぐましい状況について次のように語っている。 「彼は、ナンバーワンになることに生活のすべてを捧げてきた男という印象があるからね。そんな男にとって、それに満たないことはすべてが失望に繋がるんだ」 「カイロ・レンにとって、ハックスはもはや眼中にない。カイロ・レンは、ハックスを、失うよりは簡単というだけの理由で、ただ側に置いているんだよ」 悪党ながら何とも世知辛いことだ… レンの修復したマスクにお世辞を並べたり、発言中にフォースで喋れないようにレンに口を押さえられたり、連行中のチューバッカに耳元で吠えられて固まったり、相変わらず何かと残念な描かれ方をしているハックスだったが… 最新作の重大なネタバレ ポー、フィン、チューバッカの3人はファースト・オーダーのスター・デストロイヤーに潜入中、ストームトルーパーの部隊に捕まり、処刑されることになった。そこにハックスが現れ、「自分が彼らを始末する」と部下のストームトルーパーから銃を受け取る。 ハックスの持つ銃が火を吹き、倒れたのは何と部下のトルーパー達だった。 I am the spy! 「 私がスパイだ! 」 そう…ハックス将軍こそがファースト・オーダーを裏切って密かにレジスタンスに情報を漏らしていたスパイだったのだ。 何故仮にもファースト・オーダーで将軍にまで上り詰めたハックスが組織を裏切ったのか?それはカイロ・レンが負ける姿を見たいからという実に彼らしい理由であった。 銀河の支配者になる道を鎖されたことにより、ハックスの抱いていた野心はレン個人に対する私怨へと変わっていったのだろう。彼は小物なりに意地を見せようとしたに違いない。 というか戦闘方面は全くからっきしなように思えたハックスなのだが、至近距離で不意を突いたとはいえ、3名のストームトルーパーの急所を瞬く間に撃ち抜くって意外に凄いのでは… それからハックスは偽装工作のため自分の腕を撃つようフィンに言ったが、彼は無情にもそれを無視して足を撃ち抜いた。 ハックスは多くの罪無き人々の命を奪った人物であり、フィンからしたらストームトルーパー達に非人道的な行いを強いてきた張本人の一人でもあるので、その言葉に従えないのも無理からぬ話だったと言えよう。(*5) 彼らを解き放ち、撃たれた箇所に包帯を巻いて杖をつきながら、侵入者達が逃げ出して手傷を負わせられたとプライド元帥に報告する。 しかし元帥は迷わず、そして何の躊躇も無くハックスを射殺した。ハックスがスパイであることなど彼には完全にお見通しだったようだ。 今まで散々レジスタンスを苦しめてきた宿敵の一人とは思えないほどの呆気ない最期となった。 結局のところ彼が寝返った理由は出世争いに敗れた腹いせ以外の何物でもなく、別に改心したわけでも善の心に目覚めたわけでもなかったので、当然といえば当然の末路だったのかもしれない。 命乞いする暇すらなく死を迎えたハックスは、その瞬間に一体何を思ったのか… 残念ながら本編におけるハックス将軍の出番は 以上で全て終了となる。 彼はカイロ・レンに一泡吹かせるため組織を裏切って命を落とした。 けれどもレンは最終的には、復活して新たな首魁と相成ったパルパティーン並びにファイナル・オーダーを裏切りレイと共闘したわけだ。 よってハックスがポー達を逃がした行為は、別にレンにとってマイナスにはならないどころか、むしろ間接的にはプラスにすらなっているのだ。 言ってしまえばハックスは完全に無駄死だったということになる。それを知らないままこの世を去ることが出来たというのがせめてもの救いか。 最高指導者として銀河に君臨する野望を叶えられず、憎き仇に一矢報いることすら能わず… 確かに小心な冷血漢ではあったかもしれないが、燃え盛る野心を胸に抱き、常に全力で生きてきた男が描き上げた人生の結末としてはあまりにも虚しい。 …ただ紆余曲折を経て、彼の怨敵だったカイロ・レンはレイを救うために死亡し、スカイウォーカーの直系の血筋は完全に絶えることになった。 更には指揮官の座を乗っ取った挙げ句、彼自身の命を奪った上官のプライド元帥もまた失意のままスター・デストロイヤーの爆炎に呑まれるという凄惨たる終焉を迎えたので、ある意味結果だけ見れば満足だったのではなかろうか? 何だかんだ巡り巡って、ハックスの行動は本人も意図せぬ形で憎む相手を揃って道連れにしたのである。 シークエル・トリロジー完結後、ハックス将軍を最後まで演じ切ったグリーソン氏は、「BANGショービズ」というイギリスのニュース提供会社による独占インタビューにて、 ハックスのフィギュアをコレクションしていることを明かした。当人曰くそんなに数は出回っていないらしいが。 また、グリーソン氏はスター・ウォーズファンの集いに参加することについても前向きな姿勢を見せているそうで、今後も彼のハックス将軍に対する思い入れを拝聴出来る機会があると期待したい所。 【EP9没案】 本作の原案としてクレジットされているコリン・トレボロウ監督と脚本家デレク・コノリー氏の両名は、 当初『Duel of the Fates』(直訳すると『運命の闘い』)という副題で、実際に公開された『スカイウォーカーの夜明け』とは全く異なる物語のEP9を制作する予定だったことが公表された。 2020年1月にYouTubeでリークされた脚本及びコンセプトアートが話題となり、自身のTwitterでファンから質問を受けたトレボロウ監督も本物だと認めた次第である。 ストーリーが大幅に変わっているのに伴って、ハックス将軍を待ち受ける顛末も丸っきり違うので、彼を中心に大凡の展開を記載する。 興味のある方は下記を閲覧されたし。 『Duel of the Fates』草案 物語は惑星クレイトでの攻防より年月を経てファースト・オーダーが銀河のほぼ全域の征服を完了した時点から始まる。 組織の本拠地は、かつての銀河帝国と同様に惑星コルサントに置かれており、ハックスは「最高議長」として頂点に鎮座している。 最高指導者の座に就いたカイロ・レンはというと、更なる強大な力を体得するため、今は亡き皇帝シーヴ・パルパティーンの遺言を紐解いて邂逅を果たしたトア・バリューム(*6)の導きを頼りに単独で銀河を巡っていたので、 実質的にハックスがスノーク亡き後のファースト・オーダーを牛耳っているような状態だという。 そして彼は、フォースを操る力を自分も手に入れることに執着するようになったばかりか、どこぞの別の将軍よろしくライトセーバーの収集家になっていた。このフォースへの渇望は、おそらくEP8でレンに辛酸を嘗めさせられたのが発端だと思われる。 捕らえたレジスタンスの者達を尋問すべくレンのようにフォースを使おうとするも、当然全く何も起こらず、捕虜達にすら失笑されるなど、やはり少々冴えない役回りの模様。 他方、スパイの処刑に当たってライトセーバーをギロチンのような形で用いる残虐な一面を見せていたり、助力を求めたレンから信念の無さを指摘されたことで一念発起するという意外な場面も見られた。 苦闘の末レジスタンスは、ファースト・オーダーの工場からスター・デストロイヤーを始めとする様々な兵器や武器を奪った後、 フィン達の懸命な努力によって自身の在り方に苦悩するストームトルーパー達を味方に付けることに成功し、虐げられていた下層市民達も交えて反乱を起こす。 ハックスは残存兵力を投入して、これに応戦する。直にファースト・オーダーが優勢となるが、そこでランド・カルリジアン率いる援軍がレジスタンスに加勢したことで形勢逆転。 レイとカイロ・レンがモーティス(*7)の森で決着を付けようとしていた、ちょうどその頃、追い詰められて観念したハックスは、集めていた1本のライトセーバーで自ら命を断つという壮絶な最期を遂げるのだった。 …以上がリークされたEP9の初期案である。 大人の事情で実現には至らなかったものの、もしかしたらありえたかもしれないハックス将軍のもう一つの未来と言えるのではないだろうか。 コンセプトアートでは、議長室に一人、崩壊する惑星コルサントの都市を背にして、己の胸に真紅の刃(*8)を突き立てる因果応報なれど、どこか切ないハックスの姿が映し出されていた。 ごく短期間ながら銀河の支配者に近しい存在となれた世界のハックス将軍も、最後まで心なしか憐れでありながら、しかし全力で己が野望に生きる男であったようだ。 「気を付けろレン。個人的な興味を指導者の追記・修正より優先させるな」 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 7の終盤でスノークのホログラム室に駆け込んで来る時の走り方が小物丸出しで見る度ジワる。俳優さんの演技力すげえ -- 名無しさん (2020-01-10 00 28 34) まあ偉そうに顎で使ってきてたプライド将軍には最終的に一矢報いられたと言えなくもない -- 名無しさん (2020-01-10 00 31 11) 歴代の敵幹部だとガンレイやクレニック長官に負けず劣らず見てて色々不憫になってくる。もちろん3人とも悪事働いてるから因果応報だけど -- 名無しさん (2020-01-10 00 50 20) 新作での地位と犬死ぶり見てると7終盤で基地ごと爆死するか8終盤でカイロレンに締め殺されてた方がまだ幸せだったかもしれんな。 -- 名無しさん (2020-01-10 01 54 26) SWは完全に死亡確認されない限り胴体真っ二つにされても話の都合のために生還してたことになるし、「腹を撃たれて倒れてフェードアウト」程度じゃ死んだとは信じられない…時系列上の続編でサイボーグ化して生きてても驚かない -- 名無しさん (2020-01-10 01 58 12) ↑生きてたら生きてたで結局レンに仕返ししようとしてやったことが何も意味無かったって知るわけだから結局ビミョーな気が… -- 名無しさん (2020-01-10 02 03 47) ↑↑一応ライトセイバーで斬られた場合出血しないんだから当たり所によっちゃ死なないからモールに関しちゃ筋は通ると思ったんだけどなあ -- 名無しさん (2020-01-10 07 37 09) カイロハックスファズマが悪役として中途半端だったせいでわかりやすい悪役のプライドを登場させたって感じだよな EP9 そういった安直さが非難の的だったりする -- 名無しさん (2020-01-10 07 38 44) スターキラー基地の演説シーンはナチのプロパガンダとして知られる『意志の勝利』をモデルにしたらしい。 -- 名無しさん (2020-01-10 07 52 29) EP7,EP8共にカイロやファズマより遥かに真面目に仕事してたな。結局失敗に終わるのはあれだけど -- 名無しさん (2020-01-10 08 39 49) 旧三部作で言えば、ターキンにもピエットにもなれなかった微妙な中間管理職といったところか -- 名無しさん (2020-01-10 08 44 19) ↑4ハックスにはプライド元帥を上手く陥れて指揮権を奪い返すくらいは意地見せて欲しかったな、最後まで元帥はぽっと出過ぎて愛着湧かなかったし。 -- 名無しさん (2020-01-10 08 55 25) ファーストオーダーの人材不足は異常 -- 名無しさん (2020-01-10 16 52 33) このネタキャラっぷりそんな嫌いじゃない -- 名無しさん (2020-01-10 16 59 49) 本人は絶対に納得行かないだろうけど年齢と経験考えると本来は9の時みたいなポジションで経験積んでって、10年後20年後に司令官になるくらいが妥当だったよね -- 名無しさん (2020-01-10 17 15 05) ↑×3そもそもスノークに次ぐ地位にいるのが若造2人(俺よりは年上だけど)ってのが全く意味不明だった -- 名無しさん (2020-01-10 18 12 15) ↑設定的にはカイロ:数少ないダークサイドの使い手だからハックス:父親のを改良してより効率的なストームトルーパーの育成法を開発したからとなっている。そもそも古い将軍は反乱軍に敗北してるわけだから若いので固めるというのは分からないでもない。 -- 名無しさん (2020-01-10 19 18 21) ↑結局最終的に帝国時代の老人たちに主権を奪われたのは皮肉だな。 -- 名無しさん (2020-01-10 20 26 40) 未熟なカイロ・レンと若造のハックスしか人がいなかったって辺りがファーストオーダーの人材不足を感じさせる、残党なんだから仕方ないが…それでもレンは戦闘能力と操縦技術は頭一つ抜けてたしハックスも指揮は悪くはなかった -- 名無しさん (2020-01-10 20 43 07) 一時期ハックスも実はターキンの孫という設定で、祖父に憧れてるけど未熟だから中々祖父ほど上手く行かない〜みたいなキャラかと勝手に思ってた -- 名無しさん (2020-01-10 21 30 33) ある意味ベン・ソロ闇墜ちによる被害者 -- 名無しさん (2020-01-10 23 10 02) もしかして古参の有能な人材はファイナル・オーダーが先に引き抜きしてたからファースト・オーダーがあの人材不足っぷりだったのでは?(名推理) -- 名無しさん (2020-01-11 01 32 39) レンくんもハグス将軍も育てれば将来有望な人材ではあったんだけどなぁ -- 名無しさん (2020-01-11 01 44 27) 全盛期の帝国だとベイダーですら実質3番手で他の幹部から面と向かってボロクソ言われるような立場だったのにな(フォースで黙らせたけど) -- 名無しさん (2020-01-11 09 11 30) 「反乱者たち」ではカラスがベイダーに初めて会った時、誰だこいつ?みたいな反応してたからそこまで知られてなかったというのもあるんだろうけどね…… -- 名無しさん (2020-01-11 09 22 07) 死後はウィーズリー家の長男として生まれ変わって美人な奥さんもらってるぞ -- 名無しさん (2020-01-11 22 50 01) ほいほい艦隊くれるような連中を信用できるかよという至極真っ当な意見を言ったのに粛清された幹部の人は可哀想だった -- 名無しさん (2020-01-11 23 14 14) ↑あ、あれはカイロくんが幹部さんをリラックスさせてあげようとフォースで高い高いしただけだから…。 -- 名無しさん (2020-01-11 23 19 28) ↑2ハックスに裏切られたのもそうだが、ベン・ソロになった直後にレンプルナイツ(雑造語)が驚く風もなく淡々と襲い掛かってきたあたり、本当に元から人望ゼロだったのが分かって涙出た。あの調子じゃ仕方ないけど -- 名無しさん (2020-01-11 23 33 52) ベイダーは粛清するにしても無能だったりフォースを侮辱したりで理由はあったからな。レン君は正論言われて反論できないから実力行使って感じで小物感が... -- 名無しさん (2020-01-11 23 58 27) 最後のジェダイに出てきたトラッカーは追跡装置というより、敵船がハイパースペースに突入する直前の航跡を詳細に記録してそこからジャンプ先を算出する装置じゃなかったっけ -- 名無しさん (2020-01-12 00 09 24) ↑ごめん。確かに省略しすぎて誤解させる書き方だった。だから補足説明入れて書き直した。 -- 名無しさん (2020-01-12 01 40 18) 正直レンより好き。未熟ながらも芯が通ってるからかな。 -- 名無しさん (2020-01-12 01 54 11) 実質的に多くの星とそこに住む人々を宇宙の藻屑にしたのにどこか憎めないミスターKOMONO -- 名無しさん (2020-01-12 08 23 16) 非正史のレジェンズでも良いからモールみたいにしぶとく生き延びてて欲しい。 -- 名無しさん (2020-01-12 19 14 22) 小物界の中では将来性こそ秘めているものの結局大物には慣れなさそうな器。 -- 名無しさん (2020-01-15 00 17 38) 死んだと見せかけつつ地球のド田舎に逃げ延びて鬼畜うさぎとバトルする日々を送ってるんだろ?知ってる -- 名無しさん (2020-01-18 02 33 47) デマの可能性もあるがトレボロウ監督の原案したスカイウォーカーの夜明けだとハックスがコルサントを支配する予定だったらしい。そこに主人公サイドがスターデストロイヤーをハイジャックして奇襲仕掛けるんだと。 -- 名無しさん (2020-01-18 18 52 59) ↑9会議で「奴らは見返り求めてないんですか?」って聞いてきた幹部にカイロがキレてたのは見返りがレイ殺害だからかと思ってたわ。惑星キジーミごと例のスカベンジャー女ぶっ殺しましょう!って提案してたハックスのことも黙らせてたし -- 名無しさん (2020-01-20 01 14 09) ↑に続いて連投失礼。まあどっちにしろ痛い所突かれて実力行使ってのは変わらんけど -- 名無しさん (2020-01-20 01 14 58) スノークの部屋でカイロレンの始末に成功して最高指導者ハックスになってたらその後銀河はどうなってたんだろうか? -- 名無しさん (2020-01-27 21 45 05) 裏切る動機自体は納得行ったけど死に方が雑過ぎと感じたな…EP9初期案見た後だと尚の事。そりゃそこまで重要なキャラではないからと言われたらそこまでだが… -- 名無しさん (2020-02-13 23 23 15) ネタキャラとしても悪役としても中途半端なんだよな。完全にギャグに振り切ってくれたらこっちもそういうキャラとして見れたのに -- 名無しさん (2020-02-14 21 01 39) ↑英語の読み間違いの部分もあるかもしれないが、降板前の監督のリーク原案見る限りだと、情けない小物なりに最後の最後まで死にもの狂いで足掻いて根性見せるっていう今までのSW本編にはあまり無かったようなボスキャラになる余地がハックスにあったみたいでそこは心残りなんだよな。実際に公開されたEP9のシナリオを否定するわけではないが -- 名無しさん (2020-02-14 21 28 32) あの退場ぶりだと密かに生存して微妙な悪巧みしてるというダース・モールさんルートも充分ありうる。 -- 名無しさん (2020-02-15 05 59 22) 二度続けてすまない。↑↑泥臭く抵抗した後の死亡シーンで没脚本に"He lost the star wars"って下線付きで強調されてまで記載されてたの笑ったわ。レンくんに信念が無いと指摘されて決意を改める場面もあるみたいだし敵側の準主役みたいな扱いじゃんって。 -- 名無しさん (2020-02-15 06 03 44) むしろ速攻看破して処刑したプライド元帥に「なにこの人(帝国軍人なのに)有能!」って感激した(笑) -- 名無しさん (2020-04-18 02 58 14) このキャラを特別好きなわけでもなかったが、実は生きててこの後裏でプライド将軍相手に悪あがきしたりするのではないかと期待するほどには愛着があったようだ -- 名無しさん (2020-04-20 16 20 15) 生存して続編でチョイ役で出てくれたら個人的に嬉しい。 -- 名無しさん (2020-12-28 09 40 11) ↑9まあクレイトの戦いで足引っ張るレンがいないから、無事レジスタンスをほぼ根絶やしにしてファーストオーダーが天下取るんだろうけど、ハックスにそれほど人望があるとは思えないし、数年か下手したら数ヶ月で部下の裏切りに遭ってそう -- 名無しさん (2021-01-22 13 06 38) 絶妙な小物感がでてるキャラクター性は普通に好きだった。それでいて無能ではないという。アクバー提督やラックスのような有能な指揮官の元で経験を積んでたらどうなってたのか妄想させられる。 -- 名無しさん (2022-06-28 23 46 19) 今になって思えば当初想定されていたトレボロウ案のEP9のハックスの活躍を見てみたい気もしなくはない。 -- 名無しさん (2023-04-20 10 16 47) 名前 コメント
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SSその2 ◆◆◆◆ 転送前にあれほどいた観客達はいない。 大隈サーバルは周囲を見渡す。 彼女が立つのはアリーナ。それを取り囲む大理石の建造物。 ここはローマの円形闘技場。コロッセオだ。 (観客達はモニターを通してこの試合を見ているのだろう) 「見せつける。私の勝利を」 大隈サーバルは呟き、そして目の前に並び立つ二人の闘士を見た。 一人は獣の頭をした男、ファイヤーラッコ。 もう一人はカンカン帽を被った中華風民族衣装を纏った少女、七月十。 自分は、ジーンズ、キャミソ、ニットセーターのアーバンスタイルの女、大隈サーバル。 一対一対一。これは三つ巴の戦いだ。三つ巴には三つ巴の戦い方がある。 試合開始のゴングはもう鳴っている。 臨戦態勢に移るべく、大隈サーバルは両腕を高く掲げ、片足を上げる。 選択したのは抽象的で捕らえどころのない構え。力に抗するのではなく、先の後を取るための防御の型。 それは父に教わった、大隈流大熊猫の型。 大隈サーバルの構えに呼応するように、七月十が拳を構える。 三者の距離は離れている。それぞれ目測でおよそ13歩。攻撃は届かないだろう。 全員がにらみ合う中、七月十は口を開いた。 「…お前達の願いを言え」 「勝利こそ私の願い。それ以外に求めるものはない」 サーバルは決然と答えた。 瞬間————大隈サーバルの体を黒いモヤが覆う。 能力発動「期待の視線(マスストーカー)」。嘘つきに取り憑き、動きを重くする悪霊。 能力の対象は彼女とて例外ではない。むしろそれが彼女を苛むのだ。 勝利。勝利が欲しい。だが、それが自分の本心でないことは、その言葉を初めて口にした時からとうに分かっていた。 (慌てるな。動きが遅い、体が重いことはデメリットじゃない) 父の言葉を思い出す。ここまでは全て当初の予想から外れていない。 自滅しそうになるサーバルを、ラッコと七月十が心配そうな目で見つめる。 「七月十。私の願いは弟の蘇生なんだ。」 そう答えながら、サーバルは一人で考える。七月十の能力を知った時からずっと考えていた。 おそらく最終的に、自分の本当の願いはそれになるのだろう。 願いを叶える。そんな奇跡が叶うなら、願うことなど人の命以外にありえない。 しかし、だからこそ。 「ならば俺も言っておこう。俺の願いはユーチューバーになり、楽して収入を得ることだ。」 ファイヤーラッコが割り込むが、これを積極的に無視して、サーバルは自分の発言を続ける。 「死んだマーゲイは大切な弟だった。その弟に優勝を約束していてね。だから一人の姉として、お前に殴られるわけにはいかない、というのが私の願いさ」 次の瞬間、七月十が飛びかかる。同意の代わりに拳を交えようというつもりだ。 だが、その拳は意外にもファイヤーラッコが食い止める。 ファイヤーラッコは両腕を十字に構え、七月十の拳を受けていた。山を砕く拳を受け止めるほどの、野生動物の筋力! 「さっきから勝手に話を進められても困るんですけど。これは三つ巴なんだぜ」 サーバルを包む黒いモヤ…悪霊がラッコに視線を送る。だが、ラッコに異変はない。表裏のない正直な発言に、「期待の視線(マスストーカー)」は発動しない。 ラッコを挟んで、七月十とサーバルの視線が交錯する。 「すごいね。弟のために戦うんだ。なら私も手加減はしない」 (違う。結局、私は自分のために戦っているのに) ラッコを挟み、視線が交錯する。 七月十が構えを変えた。姿がおぼろげになり、体が67体のゴリラに分裂する。 「玉龍拳奥義、ゴリラ拳。」 サーバルはこの技を既に知っている。第1回戦の試合映像で七月十が見せたフィニッシュブロー。 その正体は、ゴリラ67体に幻視するほどの67連撃だ。 まさか、構えただけでゴリラに分裂するとは。 七月十も全力でサーバルの弟を復活させるつもりなのだと、サーバル自身が自覚した。 強さは想定以上だ。だが、焦る必要はない。 (試合映像は見た。奴は稚拙なリップサービスを好む) 次の七月十の発言を待つ。サーバルが動かない限り、必ず七月十は次の言葉を放つ。 「かかって来いよ。戦おう、二人まとめて願いを叶えてやる」 「えっ俺も叶えてくれるのか!?すごい!」 七月十の太っ腹にラッコが歓喜する!すごい!そう、とてもすごい! すごい、すごーい! 「私に期待するな」 (私が七月十に願ったのは、あくまで"この試合での勝利") そうだ。何もすごくない。サーバルの体を包む黒い悪霊がゴリラの群れに視線を送る。 瞬間、ゴリラの群れが黒いモヤに包まれる。「期待の視線(マスストーカー)」発動。 サーバルは確信する。七月十は…サーバルの願いを叶える気はない!! (やはりだ。七月十が"私の勝利"を願うはずがない。言葉にすれば、それは嘘となる) サーバルの勝ちたいという願いを跳ね除け、彼女の心の奥底の願望、弟を復活させたい思いに掛けるつもりだ。 なんにしろ、これでもう七月十は動けない。ただの一箇所に集まったゴリラの群れだ。ウホウホ。 「いわばこれは、お前がマーゲイを復活させるか、私が勝利するかの駆け引き。七月十、お前なんかに私の弟は復活させない」 自らの発言を受け、黒いモヤはさらにサーバルを包む。七月十だけではない。サーバルもまた自らの能力の影響下にある。 だが、そんな中で能力の影響を受けていないラッコが一匹。 策は成った。 「目指せ不労所得っ」 ラッコ特有の甲高い鳴き声を上げながら、サーバルを無視して七月十に殴りかかる。その両拳は炎に包まれていた。彼は火炎系のラッコだ。 衝突する。爆炎、、、煙の中から、ラッコとゴリラの群れが姿を現した。 だが、さすがの七月十の筋力。ゴリラ67体のどれひとつとして傷を負っていない。 サーバルは知っている。筋力の前には炎など跳ね除けられると。 「俺はファイヤーラッコ!」 彼はファイヤーラッコ! 「私は七月十!」 彼女は七月十! 挨拶を交わすと、七月十のゴリラがファイヤーラッコの胴体を殴る。しかし、ラッコもまたダメージを負わない。むしろラッコの着ていた服が炎に変化していく。自らの炎を衣服に見せるほどの…火炎系能力者! 最近は火炎系能力者は炎を衣服のように変形させて着こなすのだ。 (口裏は既に合わせてある。それだけではない。私とラッコは、既に組んで戦っている) 安全圏いるサーバルを遠巻きに、ラッコの炎がゴリラ達 67体を包む!「ウホウホ」「ウホ」ゴリラの幻影達は呻き苦しむ! 「七月十、お前みたいな危険人物を一人で相手するわけないだろ。これは三つ巴だぜ?俺たちは事前にタッグを組んでいたんだよ」 ラッコが笑う。サーバルとラッコは、既にタッグを組んでいた。 二対六十七。一見不可思議に思えるが、数の上ではサーバルとラッコが圧倒的優位。これが三つ巴だ。 計算づくで作り出した好機。これを逃す手はない。 サーバルは黒い悪霊に取り憑かれ動けない状態で、ゆっくりと地を踏み鳴らす。 震脚。 「動きが遅い、体が重いことはデメリットじゃない。私は龍気を感得することが得意なフレンズなんだよ」 サーバルの足元が割れ、大地から白い人影が姿を現した。 「大隈流大熊猫の型・龍気(たつき)」 龍気(たつき)、感得(かんとく)。 七月十が驚きを口にしようとするが、高音の炎の中では不可能だ。 「龍気(たつき)、感得(かんとく)」 震脚を極めることで至る武の境地。それはサーバルに取り憑く悪霊と対を成すかのような。白色の幻影。 「私はこの"1年間"で既に龍気(たつき)を感得(かんとく)していたんだよ」 龍気(たつき)を感得(かんとく)するためだけに費やした1年間。 求めるものは勝利。そのためなら手段は選ばない。 続いてサーバルは腰に帯びていた銃を龍気感得(たつきかんとく)に手渡す。 勝つためには手段を選ばない。そのためなら龍気感得(たつきかんとく)に銃すらも握らせる。 武の境地に至ったことで得た、龍気感得(たつきかんとく)が握るごくありふれた普通の銃弾が…ゴリラの群れに炸裂した! ◇◇◇◇ 時は遡る。 第2回戦開始より5日前。大隈サーバルは対戦相手を自らの隠れ家へと招いた。 「私はユーチューバーになるんだ」 サーバルは言い切った。 第1回戦で勝利の美酒を味わったサーバルは、手段を選ばない行動に出た。予め、対戦相手の一人を味方につける作戦に出たのだ。 まずは甘言で惑わす。ラッコの人となりは既に調べてある。このラッコ、実はユーチューバーを目指しているのだ。ならばそれを餌にするのみ。 「私は2回戦にむけての修行風景をユーチューブに流すつもりだ。そこで君に提案がある。第二回戦、私と共闘しろ。ラッコ」 「えっマジで」 寝耳に水といった表情で、ラッコは驚いていた。食いつきは良い。 「第一回戦の試合を見たが、七月十はマトモに戦って勝てる相手では無い。一人では奴に及ばない。」 相手はゴリラに分裂して敵を倒すほどの力量。ゴリラ67体にボコられて生きている者などいない。 共通敵の脅威を煽り、危機感を募らせる。 ラッコは周囲を見渡していた。動物園の檻の中にいるのは初めてなのだろう。近くにいるのは全員が大隈サーバルの協力者達。 フクハラP。父のパンダ。そして…林健四郎。 ラッコはしばし思案したが、やがて結論を出した。 「いいぜ。俺は楽をしたいだけだ。そのためならお前とも協力しよう。具体的な作戦はあるのか?」 「今の私には龍気(たつき)がある。一年で、これを完成させる。」 龍気(たつき)、震脚。震脚を極めた先にある武の境地。 それは同じ大隈流である父ですら至っていない、龍気(たつき)、感得(かんとく)だった。 「ちょっと待て。一年!?長くない?一年も修行すんの?」 ラッコの疑問に、フクハラPが解説を入れる。 「ここに第1回戦でサーバルちゃんが倒した林ケンシロウおじいさんも連れてきてるワ。彼の能力「精神と時と野菜の部屋」は1秒で1年間の修行が出来るの。野菜空間で、三人で修行するのよ。七月十を倒せるレベルまで。その修行風景をユーチューブに流す」 「よろしく」 林健四郎おじいさんが元気よく挨拶しました。 (勝つためにはなんでもする。今度こそ完全なる勝利を得る。他人の命だって掛けてやる。) 「そいつは第一回戦の対戦相手だろ?本当に味方になってくれる保証なんてないだろ」 「安心せい。儂は既に負けておる。いまさら勝者に手を出すはずがない。むしろ儂はたつき感得を見たいのじゃ。だから協力する。ラッコにも一年間の食事と機材を提供してやる」 「ただ飯!?」 目先の欲にラッコが食いついた。彼はこういう感じで釣った方が早いかもしれないとサーバルは感得した。 「もちろん七月十はユーチューブに気づく。奴とて暗殺家系。見逃すほど間抜けではない。じゃが、与える情報は取捨選択する。ラッコの姿も映像に流さない。共闘戦以外にも情報戦がある。これが三つ巴だ」 「待てよ。なら条件がある。俺は楽をしたいラッコ。一年間も修行をするつもりはない」 ラッコは楽して金を得たいだけだ。もちろん、サーバルとてラッコ的モチベーションの低さは想定済み。 しかし、ラッコの身勝手な態度を、サーバルの父のパンダは気に入らなかったようだった。 「なんだと」 「アンタらは黙ってろよ」 何か言おうとしたサーバルの父のパンダを、ラッコは言葉で制した。 「大隈サーバル。お前は随分と周囲にお膳立てしてもらってるんだな?今まで自分で何かを成し遂げたことはあるか?」 「あなたは知らないだろうけど、この子はウチのスターなのよ」 フクハラPが反論する。 「ただ周りの大人の指示に従っただけじゃないか」 「{私は…勝ちたいんだ。勝つためならなんでもする}」 答えたサーバルの周囲を黒いモヤが包む。サーバルは嘘をついている。だが、ラッコはなんの影響もない。嘘つきではないからだ。 (確かに、ラッコの言うことにも一理あるのかもしれない。) サーバルは考える。今の自分に本当に必要なのは何か。 「今のお前に一番必要なのは…不労所得だ。不労所得を得て、経済的に自立するんだ。それが精神的な自立にもつながるんじゃないのか?」 「不労所得」 不労所得。ラッコが不意に口にした不思議と甘美なその響きが、サーバルの脳内に爽やかな鈴の音のように響き渡った。 (すごい。不労所得ってすごいね。今まで考えもしなかった。そもそも不労所得ってなんだろう。) サーバルは…不労所得の虜になった。 「サーバル、なろうぜ!ユーチューバーに!」 ラッコが手を差し伸べる。サーバルは迷わずその手を取った。 「ああ。私はお前のようなバカになることを願っていたのかもしれないな」 いつの間にか、サーバルから黒いモヤが消えていた。 (勝つためには手段を選ばない。そのためならユーチューバーにだってなってやる。) こうしてサーバルとラッコは精神と時と野菜の部屋でユーチューバーになり…1年間を1秒に短縮した圧倒的動画アップにより、龍気(たつき)を感得(かんとく)したのだ。 サーバルが目指すのは、ユーチューバーになって…10万再生を突破!! ◆◆◆◆ 舞台は第2試合会場、コロッセオに立ち戻る。 5日間で1年以上という矛盾した修行を積んだラッコは、ユーチューバーとして歩み始めた自分自身を振り返りながら、第2試合の趨勢を見守っていた。 (やはり、龍気感得(たつきかんとく)は違うな) 銃弾は強い。いかに魔人といえども、銃弾という圧倒的な殺意の前には無力だ。 鈍重なゴリラ67体七月十は、ウホウホと鳴くよりも前に銃弾に貫かれるだろう。 (だが、俺の理想としてはサーバルも相当のダメージを負うこと。ともに1年修行した仲間だが、今は敵。協力するのはあくまで七月十を倒すまで。) 「コォォォオ」 その時、龍気感得が銃を撃とうとしたのと同時に、七月十が一呼吸した。 いや、正確には、火炎に包まれるゴリラの群れの中から確かな少女の息遣いが、ラッコの耳に届いたのだ。 「ぷぅっ!」 肺活量。尋常ならざるただの呼吸が、弾丸にぶち当たる。押し戻され、龍気感得(たつきかんとく)の手に突き刺さる弾丸。 同時に、あまりにも強い息は、ゴリラの群れを覆っていた炎を掻き消す。 「玉龍拳奥義、龍の息吹」 「おいおいおい」 (ダメだ。規格外…過ぎる!!) 即座にラッコは絶望感に襲われた。彼はただ楽をしたいだけで、元よりゴリラの群れに挑むような気概はない。今回はたまたま、サーバルが手伝ってくれると言ったからユーチューバーになっただけだ。 鈍重なゴリラの群れが…ラッコを襲う!かと思われた。 だが、ゴリラの群れの動きが遅い。黒いモヤが纏わりつき、まさにゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ。 (そうだ、当たり前だ。今の七月十は「期待の視線」でマトモに動けないではないか) 「千載一遇のチャンス!」 ラッコは筋肉防御を最大限に発揮し、壁の如き隆々たる体格に変化した。火炎を跳ね除けるほどの筋肉があるからこそ可能な…力技だ! 「ちくしょう…楽に勝つには…サーバルが願いを叶えられて、なおかつ七月十が倒される相討ちが理想系だったんだがな。」 (林のじいさん。今頃なにしてるのかな…) 「今だっやれっ!」 ラッコが背後のサーバルに視線を送る。 サーバルは黒い悪霊に覆われ、白い龍気感得(たつきかんとく)に支えられていた。 もうサーバルは、いかにも誰かに助けて欲しそうな、1年間の獣の表情ではない。あの顔がラッコの同情を誘ったのも事実だが、今のサーバルは真っ直ぐな眼をしていた。 「私は勝ちたい。なぜなら弟のために負けたなんて、姉として思われなくたいから。私が使うのは父の技。だが…今の私はユーチューバーだ!」 悪霊とたつき感得がサーバルの肩を持つ。 「行こう。みんな」 サーバルとたつき監督と悪霊の姿が重なる。 三位一体。震脚ピストル弾。 あらゆる獣の命を刈り取る死神(フレンズ)、白と黒の混在したサーバルは、大熊猫のような渾然一体とした姿に変化した。 「三位一体震脚ピストル弾」 ラッコの姿が死角となり、三位一体震脚ピストル弾を放つ。 魔人能力と武の極致がその身に宿った姿から放たれるごく普通の弾丸。あらゆる拳や蹴りよりもよほど殺傷力が高い。 ラッコの姿が影となり、七月十には弾丸の死線を捉えられない。 「私は嘘つきだ」 弾丸よりも速いスピードで、七月十が呟くのをラッコは耳にした。 七月十は嘘つきだ。その言葉は、七月十が正直者であることを意味し———— 「!?」 刹那の交錯。ファイヤーラッコはゴリラの群れを覆っていた黒いモヤが消失していることに気がつく。 (嘘つきの…パラドックス!?えっそんなんありなの) 嘘つきのパラドックス。「私は嘘つき」その言葉は、発言者が正直者であり、嘘つきではないという矛盾を表す。 期待の視線を送るだけの悪霊には、この矛盾を解決する答えは持ち得ない。 システムエラー、悪霊が行動不能に陥る。七月十からモヤが消えている。 「あのさぁ、試合中に、ウダウダ考えてるみたいだけど」 ラッコの視界から、ゴリラの群れが消えている。 ラッコの視界から、七月十が消えている。 「もっと早く行動を起こすべきだったね」 これまでの稚拙なスピードが夢のように、ラッコが振り返った時には、大隈サーバルはゴリラの群れに突撃されていた。 速度で負ける。大隈サーバルは、コロッセオの大理石の壁に埋まった。 (サーバル場外!!) 七月十の拳が、光り輝いている! 「玉龍拳奥義、果報大願成就一念一殺。こいつの願いは叶えたぜ。さあ、お前の願いを言え」 ラッコには七月十の好戦的な笑みが悪魔のように見えていた。 大隈サーバルの願いが、叶えられてしまった!! サーバルの弟が生き返った!これでもう、戦いへのモチベーションを失ったサーバルは戦えない。 大隈サーバル、脱落————!? 試合場に残っているのは、僅かに黒い悪霊と龍気感得(たつきかんとく)だけだ。 (えっあれ?悪霊と龍気感得(たつきかんとく)残ってんの?) サーバルはギリギリで踏みとどまっている。悪霊と龍気感得(たつきかんとく)が試合場に残っている。サーバルはまだ生きている。未だ闘志を失っていない。 生きて喰らい付いている。獲物は逃さない獣の眼をサーバルは瓦礫の中から七月十に送っている。 そしてラッコが生きている限り、未だサーバルの勝利は生きている…! 試合続行!未だ四対六十七に変わりはない。 「へっ…!どうやら時間は俺たちに味方してくれてるみたいだぜ!」 「…?」 勝利を確信したラッコの発言に、ゴリラ67体は一斉に首を傾げた。 「試合開始から10分だ。知ってるか?試合開始から10分が経ったんだぜ?」 そう、あの時も。そしてあの時も。10分という数字は非常に重要な意味を持っていることを、ラッコは既に学習していた。 ◆◆◆◆ 瓦礫の中から瀕死の大隈サーバルが見たのは、突如として痙攣し、白眼を剥いて凶暴化するラッコの姿だった。 (ギリギリ間に合った。これがあるからこそ、第一試合の映像を見た私はラッコを味方に付けたんだ。) 痙攣しながら首を縦に降るラッコ。これは恋?いいえ、これは真実です。ファイヤーラッコ…否、爆発オチ太郎の真実だ!!!! 「田(wiki構文)!というわけで、はい!突然ですがここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」 ファイヤーラッコが意味不明の言論を発声する!! いや、今の彼はファイヤーラッコではない。多重人格者ファイヤーラッコの主人格…爆発オチ太郎だ! 「なんっ」 何か言おうとした七月十の顔面に、ファイヤーラッコ、いや、爆発オチ太郎がヒザ蹴りを咬ます! 「爆発オチ太郎は、文字数や時間や気分的な問題や試合で10分が経過することによって自然発生する形而上存在です!!」 「意味が…」 狂人に理屈は通用しない。彼にはこの世全てが第三者視点で見えているらしく、脳内でファイヤーラッコの行動やアマゾンのアフィリエイト、wiki構文などが混在して見えているそうだ。 これは、1年間の授業中、大隈サーバルがファイヤーラッコから聞き出したり悟ったりした確かな事実である。 爆発オチ太郎は、狂っていた。彼は生まれた時は人間の赤ちゃんだったが、幼少時に尊敬する歴史上の偉人、西郷隆盛の人生が、家族が死んだり意外と悲惨だったことを知り、ショックで己の顔面の皮を剥がし、代わりに家にあったラッコの剥製を頭に被って、細胞レベルからラッコ化したのだ。 そしてファイヤーラッコの人格が生まれた。これに義憤を感じた爆発オチ太郎の両親は、いつか彼が本当の西郷隆盛のような器の大きい男になれるようにと、全ての事実を伏せ、おたふく風邪の治療の為にラッコになったと嘘を吐いたのだ。 思えば、全ての伏線は当初より存在した。第一試合の勝利者インタビューで、ラッコだけが謎の爆発で中止になった。 それが、ファイヤーラッコの主人格爆発オチ太郎が今年の大河ドラマ、西郷(せご)どんの録画を観るために欠席したのだと、サーバルは運良く早期に気付いた。 (今年の大河ドラマは西郷隆盛。だから、奴が西郷隆盛を原理に動いているとピンときた。西郷隆盛は私も含めてみんなに慕われる英雄だから) そんなことを考えている間に、爆発オチ太郎の背後に亜空間が出現する。空間すらも焼き尽くし、ワームホールを現出させるほどの、高威力の炎!すべては、自らを形而上存在だと思っている狂人だからこそ通る理屈だ。 「よいサイズの石油コンビナート〜!」 二人の頭上によいサイズの石油コンビナートが出現!このまま引火すれば、三人全員が爆発オチで場外になる可能性が大! 「良いぜ物理上存在…私の拳で願いを叶えてやる!」 「俺は形而上存在だ。誰がなんと言おうと形而上存在なんだ…!」 七月十が爆発オチ太郎を挑発する。爆発オチ太郎は、自らが形而上存在であることを証明するために、物理上のパンチを放つ! 「形而上パンチ!」 「うおおおー!」 強さこそが証明である現代の倫理観からすれば、徒手空拳で形而上存在だと示そうとする爆発オチ太郎の行動を、誰が笑うことなど出来ようか。 サーバルが見たのは、爆発オチ太郎と七月十が拳を交えながら空中を二段ジャンプする光景だ。 「玉龍拳奥義、東京大空襲!」 そしてダイナミックな音が鳴り響く。二人の熱に石油コンビナートが引火し、大爆発を起こしたのだ。 空中で二段ジャンプしていたラッコと七月十は爆発から逃れている。 大隈サーバルは爆発に巻き込まれ、ギリギリ堪えていたが、ついに場外へと吹き飛んで行った。 ◆◆◆◆ 大隈サーバルは場外となったが、悪霊と龍気感得(たつきかんとく)はまだコロッセオに立っていた。 「同じユーチューバーとしてラッコの暴走を見ておくままには出来ない。思い出せ、爆発オチ太郎。いや、ファイヤーラッコ」 悪霊はこの1年間の修行で、ファイヤーラッコに友情を感じていた。その思いが、悪霊を踏みとどまらせたのだ。 その熱い気持ちは龍気感得(たつきかんとく)にも伝わった。白い人影は一層人間らしい造形を深め、今やそこに立っているのは社会的信用のある中年男性だ。 「こうなれば我々が奴を止めるしかない。受け取れっ我々の社会的信用だ」 龍気感得(たつきかんとく)と悪霊が空を飛び、爆発オチ太郎の姿に重なる。ラッコ!パンダ!ベストマッチ!! 悪霊と龍気感得(たつきかんとく)。二人の社会的信用を得た爆発オチ太郎の姿が、人間らしい造形へと変形してゆく。 「馬鹿な…あいつは!」 七月十が驚きの声を出す。今の爆発オチ太郎、いや、ファイヤーラッコ、いや、その男の顔面は…俳優の西田敏行にそっくりだ! 西田敏行の顔をした男は、空中で神々しく目を開いた 「きばれ、せごどん(薩摩弁でがんばりない、西郷隆盛。という意味の挨拶)」 今のファイヤーラッコは…三位一体、西田敏行太郎! 西田敏行は西郷隆盛の大ファンであることは業界でも有名だ。その縁故が、爆発オチ太郎を西田敏行太郎の姿へと導いたのだろう。 「ダメだ、作戦は失敗だ。きっと悪霊の社会的信用が足りないせいだ」 「俺のせいにするなよ」 悪霊は龍気感得(たつきかんとく)に怒りを覚えた。 「おいは、この世すべてのせごどんをきばらせようとする西田敏行太郎でごわす。きばれ!せごどん!」 「ダメだ。暴走が止まらない。七月十、頼む。我々が西郷隆盛のまま…こいつを殺してくれー!!」 龍気感得(たつきかんとく)が悲痛な叫び声を上げる! 「ラッコ!お前の求めた日常は西郷隆盛でもなければ西田敏行でもないはずだ!私にはわかる!私を見ろ!私と戦えー!」 七月十の全力の拳が、西田敏行太郎を貫く。 「玉龍拳奥義!果報!大願成就!一!念!一!殺!」 光り輝く拳が全てを包み込み、そして破壊してゆく…!空中では全ての威力が西田敏行に伝わり、ダメージの逃げ場がない!! ◇◇◇◇ 「見よ。二ヶ月前にアップした動画が13回再生じゃ。精神と時と野菜の部屋では1秒が1年じゃから、相当なペースじゃぞ。」 ファイヤーラッコの記憶の中で、林健四郎おじいさんが嬉しそうに言った。 林健四郎おじいさんの能力、精神と時と野菜の部屋で修行を開始してより十一ヶ月。既に大隈サーバルは龍気の感得に成功し、アフィリエイトの収入も僅かであるが増えていた。 「これは…俺の記憶だ」 自らの精神世界で、ファイヤーラッコは悲しそうに呟く。 次の瞬間、場面は変わり、そこには血を吐いた林健四郎おじいさんが力なく横たわっていた。 「バカヤロー!どうして、どうしてだ、ケンシロウおじいさん…!」 「ぐふっ!この野菜空間では…能力者か、敵が死ぬまで闘い続ける。つまり、儂が死ぬしか、お前とサーバルがここを出る術は無いのじゃよ」 ラッコは怒りに任せ、サーバルの胸ぐらをつかむ。 「サーバル!てめー…このことを知ってやがったな!お前はケンシロウおじいさんを殺してでも、自分だけがユーチューバーとして収入を得ようとしたんだ」 「私は勝つためならなんでもする。たとえ他人の命だって天秤にかけてやる」 そう言ったサーバルの姿が黒いモヤに包まれる。ラッコはやり場の無い怒りを感じていた。 「試合以外で殺人を犯した選手は敗退だ。ラッコよ。私は初めから、ケンシロウおじいさんの死をお前の責任に押し付けて、都合よく私だけが勝ち残るつもりだったのさ」 「嘘だ!なら何故そんな黒いモヤに包まれる!俺はただ楽に収入を得たいだけだったのに…いつの間にかお前に友情すら感じていたんだぜー!」 そして更に場面は変わり、そこには爆発オチ太郎が亜空間から石油コンビナートを出現させる光景が広がっていた。 「あれは、俺だ。俺こそが爆発オチ太郎だったんだ」 「突然ですが、ここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」 記憶のラッコが悲しそうに、孤独そうに叫ぶ。 「亜空間…!?そうか、このワームホールから、野菜空間を脱出するんだ!まだ林健四郎おじいさんが助かる見込みはあるぞ、ラッコ!お前は大した奴だよ…!」 サーバルが健四郎おじいさんを背負い、自我を失ったラッコにしがみつきながら、石油コンビナートの爆発を利用して亜空間へ放り出された。 「そうか。俺は自分に都合の悪い記憶を封印していたんだ。」 全てを思い出したラッコは…またもや場面が変わり、目の前にデカくてガタイの良い学生が現れるのを目にした。 「よう、久しぶりだな」 「お前は、第1回戦で死んだ俺の対戦相手のチョコケロッグ太郎」 チョコケロッグ太郎。彼は、ファイヤーラッコが第1回戦で倒した対戦相手だ。 「死んでないけどな。ここはお前の精神世界だから、なんでもアリなのさ」 「そうか。ケンシロウおじいさんが助かって本当に良かった。危うく俺は人を殺すところだった。本物のユーチューバーへの道のりは遠いな」 するとチョコケロッグ太郎は、ラッコに手を差し出した。 「受け取れ、コーンフレークだ」 「ありがとう…日常の象徴。俺はなんでもない普通の日常が欲しかっただけなのかもしれないな」 「行くのか?ラッコ」 「ああ、俺にはまだユーチューブがあるからな。シリアルキル…コンプリート!」 コーンフレークを握りしめ、ラッコは亜空間のワームホールへと足を運ぶ。その穴は、丸くてまるでちくわの穴のようだと少し思った。 ◆◆◆◆ 二度の全力。全てを出し切った七月十が目にしたのは、ファイヤーラッコ、いや、西郷隆盛太郎が全身の筋肉を巧みに用いて、さらなる変貌を遂げる絶望だった。 「ちくわああああ!!」 西田敏行太郎の姿が、穴の空いた練り物…巨大なちくわへと変形してゆく! ちくわ…チューブ…ユーチューブ。これが本物のユーチューバーだ!! 「ちくわああああ!!」 「えっちくわ」 一瞬の油断。七月十がちくわに食われる!!食われる七月十。これが自然界の掟だ 「一緒に10万再生を目指そうぜ?」 七月十を食われたゴリラ67体の幻影たちは、慌てふためき逃げ惑う。大将を破られた軍の末路などこんなものだ。 そのゴリラの群れを、ちくわは次々と捕食してゆく。すべては10万再生を達成するために。 圧倒的破壊。もはや試合会場にはちくわしか残っていない。だが、七月十はただ食われただけで、生死不明なのでまだ試合は終わっていないよね。 そして、さらなる異変。ゴリラの力を取り込んだちくわが、黒く変色してゆく。まるでゴリラの体毛のように。 ちくわゴリラホイール。 そこには、一体の巨大なタイヤが宙に浮かんでいた… 「奴はどこまで進化するんだ」 場外になったサーバルは、敗北を確信して尚戦う意思を失っていなかった。場外の領域から、コロッセオのちくわゴリラホイールに向け、無意味な大量のたつき感得を放つ。一体、二体…大量だ。 「ラッコ…日常に戻るんだ」 サーバルは苦しそうに叫ぶ。今のちくわゴリラホイールはいわばラッコと七月十が融合した存在とみなされ、両者健在の扱いのまま試合は続行している。 「こんな形の勝利は…私たちの求める勝利ではない!」 サーバルが、叫ぶ!その声はちくわに届く! 「なれ…ラッコ。本物のユーチューバーに、なれーーーっ!!」 心からの言葉!サーバルを包み込んでいた黒いモヤが、晴れてゆく…! 「お姉ちゃん、カッコいい」 不意に弟の声が聞こえたような気がした。 反射的に振り返るサーバル。 そこには、いた。最愛の弟が。マーゲイが。元気に立って、サーバルを応援していた。 「とりあえず生き返ったんだ。お姉ちゃん。ありがとう。七月十が殴った時に僕は生き返ったんだよ」 「マーゲイ!」 サーバルは最愛の弟に抱きつく。 「もう離さない!もう離さないからな!」 「あはっ痛いよ、お姉ちゃん」 マーゲイが嬉しそうに言う。サーバルが抱くその背中には、奇妙にも小さなタイヤが一つくっついている。 「えっタイヤ」 「お姉ちゃん。もう人類は自分たちの足で歩く必要は無くなったんだよ」 マーゲイが虚ろな目をして微笑む。 ちくわがケロッグコーンフロスティをばらまきながら爆炎を上げる。コロッセオから全世界へ放たれたケロッグコーンフロスティは、世界中の人間に取り憑き、背中にタイヤを生やすという奇跡を起こしたのだ。 「せごどん、きばれ(薩摩弁で、背中にタイヤを生やしなさい西郷隆盛。という意味の挨拶)」 絶望は終わらない。これは、キメラ存在に七月十の願いの力が悪い方向に働き、西田敏行太郎の願いを叶えてしまった結果に違いない。 弟が背中にタイヤが装着され、仰向けになってコロッセオ周辺を高速でドライブし始めた。 「見てお姉ちゃん。僕はもう歩く必要なんてない。これで病気も治ったんだよ」 「ああああーっ!神は!神はいないのかーーーっ!」 大隈サーバルは、自分自身もまた仰向けになり背中のタイヤでドライブウェイしていることにも気付かず、天に向かって叫んだ。 ◇◇◇◇ これは、記憶。七月十が戦うための原動力。 「もう…戦いたくない」 暗闇の室内で、一人の少女が呟いた。その表情は暗く、読み取ることができない。 「もう誰も殺したくないの。あなたも殺したくない。逃げて」 「おいおい、俺はなんでもないごく普通の少年だぜ?お前が家族の為に人殺しなんてさせられてるのは知ってるが、ハイかイイエで答えるためだけの正直さなんて、本当の正直さとは言えねーんじゃねーかな」 少年の姿もまた暗闇の中、明確に見ることは出来ない。彼は少女と向かい合い、対峙している。 「なら…どうすればいい。私はあなたを殺すよう命令を受けてる」 「明確な答えなんてないと思うぜ。ただ…こんな人になりてーって人の真似をすれば良いんじゃないかな」 暗闇の中、確かに少年は笑った。 「笑顔になれナナガツジュウ。笑顔の方が素敵だ」 「私の名前は、その読み方ではない。でも私の笑顔を見たいってことは…告白してるってことでいいのよね?とりあえず私の実家に行こうか」 「えっ」 ◇◇◇◇ 試合開始より5日前。七月十はグロリアス・オリュンピア参加者専用のホテルの一室で、ユーチューブの動画を見ていた。 「ねえ七月十お姉さま。まだ再生できないの?」 「なんで勝手に人の部屋にいるの。佐渡ヶ谷さん、悪いけど集中したいから出て行ってくんない」 「酷いわ〜」 「黙って、動画が始まった」 再生された動画には、「白人男性の講座」とタイトルが付けられていた。 「佐渡ヶ谷さん、見て。白人男性だよ」 動画の中の白人男性は、第1回戦で七月十が戦った対戦相手。佐渡ヶ谷真望のタッグパートナーだった男だ。 「SMとは心だ。真のSMに武器は必要ない。七月十。鞭打。鞭の理合を手に表す。近接拷問術は必ず玉龍拳に取り入れられるはずだ。」 白人男性は、ミラノから七月十へアドバイスを送り続けていた。 ◆◆◆◆ 「玉龍拳は…無体ぶりなんだよ!!!」 ちくわゴリラホイールからジャズの名曲whip lushの口笛が聞こえたかと思うと、少女の怒声が内外に響いた。 次の瞬間、ちくわゴリラホイールの穴から飛び出したのは、67体のゴリラと、女王様に鞭を打つ、白人男性達67体の幻影だった。 「おばあちゃんが言っていた。歩くことを止めた人類はやがて高速移動しながら電柱に頭をぶつけるだろうと」 「七月十、生きていたのか」 サーバルが背中のタイヤで高速移動しながらコロッセオ場内に再入場し、七月十に駆け寄る。 「ああ、ちくわには穴があったから、そこから脱出できた」 ————生物学上の盲点!ちくわには穴がある為、捕食されても脱出出来る! ゴリラと女王と白人男性の群れに囲まれた七月十は、沈痛な面持ちで上空を飛翔するちくわを見上げた。 「すげえよアンタラ、たった二人でここまで…お前たちは初めから組んで戦っていたんだな!全部お前達の仕業なんだな。決着をつけよう、サーバル!」 「えっ」 サーバルが素っ頓狂な声を出すが、テンションの上がった七月十には聞こえない。 「まだ試合終了じゃない!戦おう!サーバル!」 「私はもう場外で負けたわ。巻き込まないで!もうやめてー!」 「断る!」 七月十は構えを変える。 次の一撃で決着をつける。ユーチューブの力は強い。倒すことを諦め、白人男性拳で場外狙い。 手刀を天に掲げ、もう片手を地に向ける。これこそがSMの理合を両手で表す、鞭打の型。 続いて大地を破壊しながら平行移動、加速が頂点に達すると同時に空を飛行し、ちくわにタックルした。 「名付けて玉龍拳新奥義、白人男性拳、一気呵成の型。」 手刀を振り抜き、爆発が起こる。ちくわが爆発に巻き込まれて場外。 67体のゴリラと女王様とそれらに鞭を打つ白人男性が大量にばら撒かれ、エネルギーの幻影となって敵を打ち倒す。 ちくわと龍気感得(たつきかんとく)、悪霊、サーバルが苦悶の表情を浮かべたような気がしたが、全部まとめて吹き飛んでいく。 「この技を食らった者はミラノに行きたくなる。てめーらみてーなクソヤローどもは…ミラノまで飛んでっちまいな!」 三大アニマル大決戦。 ユーチューブVS龍気感得(たつきかんとく)VS白人男性の三つ巴の戦いは、白人男性に軍配が上がった。 ◆◆◆◆ 「えっ場外?」 グロリアス・オリュンピア会場、貴賓席にてエプシロン王国の王女、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロンが言った。 「ちくわ殺してないの?えっどうすんのこれ。周辺の被害とか」 「ちくわが場外になった以上、勝利は七月十のものですが、このままでは全人類に被害が及びますね」 侍女のピャーチが冷静に分析する。 その時、試合場を移すモニターが、七月十の発言を捉えた。 「確か戦った後処理は全部フェム王女がやってくれるんだったな…あとは全部任せたぜ!王女様!」 「と、いうことだそうです。元はと言えばあなたが望んだことですよ、フェム様」 ピャーチが無感情に言い放った。その背中にはタイヤが生えており、室内を高速移動していた。 その時、緊急通信の連絡が入り、五賢臣のビデオ電話が映し出された。 「頼む…フェム王女、もはや君しかいない。我々五賢臣の力では…ぐあああああ電柱に頭をぶつけたあああああ」 五賢臣の連絡は途絶えた… 「NOOOOOOO!!!!」 不労所得の恐怖!フェム王女は叫んだ。背中のタイヤで高速移動しながら叫んだ! ◆◆◆◆ 試合決着より数時間後、疲労困憊で倒れているフェム王女が頭にタンコブを膨れさせてコロッセオに寝転がっていた。その傍らには国王が咽び泣いている。なんとかちくわを説得したのだ。 フェム王女は、ユーチューブの金ボタンと浮遊大陸油田の利権、20万円のポケットマネー(エプシロン王国が保有する財産の一割二分五厘)で手を打った。人類は救われたのだ。 その代わり、フェム王女はさすがにこっぴどく父上に怒られたわけだ。 周辺には、倒れている悪霊太郎、たつき監督太郎、サーバル、そして西田敏行太郎がいた。 「お前たち二人は今まで戦った中でもかなり強い部類だった」 七月十はボロボロの状態で、地面にあぐらをかきながらそう言った。 「私に期待しないでくれ」 サーバルは弟を抱きしめながら、照れくさそうに笑った。 瀕死の西田敏行太郎は、天を仰ぎながらゆっくりと口を開く。 「七月十。ひとつだけ頼みがある」 「なんだ」 「俺たちは勝ちにこだわりすぎるあまり、ユーチューバーとしての道を踏み外してしまった。頼む…俺たちの代わりに本物のユーチューバーに…」 「ああ、任せな!」 交通事故の発生件数は年間40万件を超えています。中には死亡も伴う痛ましい事故が3600件も含まれます。法律を守り、適正な運転を心掛けましょう。長時間の運転や、危険な走行ドリフトなど、決して無理はなさらないで下さい。 ◆◆◆◆
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試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(前編) ◆0hZtgB0vFY 水飛沫を浴びた裸体は昇ったばかりの陽光を照り返し、夜を徹して動き続けた目に眩しく映る。 一糸纏わぬ姿で腰まで水に浸かり、ゆっくりと水面に沿うよう手を伸ばす。 火照り赤みを帯びた肌に、染み渡るような冷たさが心地良い。 「……うぁっ……」 時折全身を貫く痺れるような感覚は、苦痛ではなく悦楽を誘う。 全身を水下に埋める。 興奮と歓喜に上気していた頬が、今度は刺すような冷たさに怯え震える。 左手の甲に右手の平を置く。 ゆっくりと滑り上げ、肘裏、二の腕、肩、そして胸元を這わせた後、今度は下へとずれ動く。 体の正中を嘗め下り、鳩尾、腹部、そして…… 「んふぅっ……」 水中より顔を上げると、右手の平に、愛おしげに舌を這わせる。 動くのに飽いたのか体中を弛緩させ、全てを流れるに任せた。 ぽかっと顔のみが浮いていたのが、徐々に胸元から下へ、下へと浮かび上がる。 完全に水平になる頃には長髪は大輪の花のように広がり、くすんだ青に彩を添える。 世の女性が揃って羨む程の白き肌を惜しげもなく陽光に曝け出すが、惜しいかな白磁には月こそが相応しい。 「……んっくっ……」 僅かな刺激すら拾ってしまう敏感な体は都度僅かに水面下へと沈み込むが、それもまた雅なりと逆らう事もせず為されるがまま漂う。 どれ程そうしていただろうか。 頃合は良しと身を起こし、ざぶざぶと水から上がる。 均整の取れた肉体は装飾など不要とその美しさをひけらかす。 不健康とすら思える程の白い肌の下には、しなやかでいて強い筋肉が脈打っている。 ただ歩いているだけで猛きバネを予感させる両の足や、何気なく振られる腕の位置が武術の理にのっとっていたりと、わかる者が見ればただものならずと見てとれよう。 局部を隠す事すらせぬのは余程の自信があるせいか。 確かに、それは繊細な容姿に似合わぬ剛直、聳え立つ五重塔、天をも貫く神の槍であろう。 全身に痛々しい打撲傷を負っていながらも、その男、明智光秀は確かに美しかったのだ。 明智は近くの民家にあった衣服を身につけると、どうにも収まりが悪いのか首を何度も傾げる。 上下濃い黒のスーツ、中には律儀に白いワイシャツを着込んでいるが、流石にネクタイまではしていない。そもそもやり方がわからぬのかもしれない。 部屋に張ってあったポスターを参考に身につけてみたが、着物より随分と着易いし、何より生地が良い。 どう織ってあるのかもわからぬ細かな織り目といい、まるでざらつく事のないすべすべの触れ心地といい、明智の知る衣服より数段上等な造りとなっていた。 襟元は少し苦しいせいかボタンを二つ外している。 当人に良し悪しの判別はつかないが、細身の体のせいか、すらっと伸びた長い足のせいか、はたまた背なにかかる程の長髪故か、ラフに着こなしたスーツはこれ以外無いというぐらい明智に似合っていた。 「さ、て、どうしたものでしょうか」 荷物を手に取った明智は、そう一人ごちた。 ◇ 利根川は意を決して扉を開いた。 案の定、まさか人が居るなどと想像もしていなかった衛宮士郎は、驚き大きく後ずさる。 「うわっ! 人!?」 「ああそうだ。わしの名は利根川幸雄。このゲームの参加者の一人だ。お前は?」 うろたえながらも士郎はしかしきちっと名乗り返す。 「え、衛宮士郎です。えっと……そ、そうだ。利根川さんは、その、殺しあって生き残ろうと思っていますか?」 「わしのような老人に殺し合いなど出来てたまるか。お前もそうであってくれるとありがたいのだが」 「も、もちろんですよ! 殺し合いなんてしてたまるか!」 相貌を崩した利根川は、隣の部屋に居た事と申し訳ないが聞き耳を立てていた事を正直に口にする。 事情を察した士郎は快くこれを許し、部屋の中にいる黒子と澪に声をかけ、四人での話し合いの場が設けられた。 激しい動揺を見せていた澪も、黒子の慰めのおかげか既に随分と落ち着いていた。 簡単な自己紹介を交わした後、利根川は皆が先走った行動など起さぬよう注意深く話し始めた。 「まず最初に明言しておきたい。わしには人殺しなぞ出来んし、そのつもりもない。それでも死にたくは無いので何とかこの地を脱出したいと思っている」 改めてそう口にした後、核心に入る。 「わしはこのゲームを企画進行している『帝愛グループ』に所属していた」 三人が息を呑むのが利根川にもわかったが、すぐに畳み掛けるように言葉を繋ぐ。 「だが、奴等にとって好ましくない存在であったわしは、今こうしてこの地に首輪付きで放り出されている。もしお前達が脱出をと考えているのであれば、わしの知識が役に立つかもしれん」 すぐに黒子が口を開こうとしたが、利根川はそれを手だけで制する。 僅かに腰を落とし、震える澪の前に立つ。 「驚かしてしまったな、すまない。だが最初に言った通り、わしは誰も傷つけるつもりはないし何とか皆で脱出をと考えておる。信じては、もらえんか?」 先程士郎にも見せた笑み、人の心をくすぐるあけっぴろげな笑顔には、親しみや友愛といった感情が満ち溢れていた。 「え……えと……」 「はははっ、構わぬよ。無理はせずとも少しづつわかってもらえればいい」 利根川幸雄は生まれながらにして帝愛のナンバー2であったわけでは無論無い。 彼にも若い頃はあり、下積みの時代があり、部下より上司の方が多い時代はあったのだ。 下手な会社なぞ比較にならぬ程厳しい競争を勝ち抜いてきた彼が、ギャンブルに強いだの、会長の機嫌取りが優れているだののみの男なはずはないのだ。 事に人をまとめるといったスキルを、膨大な配下を抱える帝愛のナンバー2まで上り詰めた男が苦手としているはずがない。 それは、非現実を日常としていた黒子や、歪んでいると評される士郎が相手でも通用する、いや、人間が相手であるのなら通じぬ相手など居ない応用力に富んだスキルだ。 集団の中で自分の望むポジションを得るよう立ち回るなど、彼にとっては息をするのと同じぐらい自然に行える事であろう。 「利根川さん、それで帝愛というグループはそもそもどういった存在なのか……」 「あの遠藤とかインデックスっていうのは……」 「…………(もじもじおどおど)」 三人(二人?)の質問にも丁寧に答え、簡単な自己紹介と共に四人は帝愛に関する共通認識を得た。 帝愛グループとは財閥のような利益を追求する集団であり、関わる事業は多岐に渡る。 カジノなどのギャンブルも範疇であったが、それが高じてのゲームである可能性が高い。 ただ利根川が居た頃は少なくとも魔法などという話は無かったし、ましてやここまで露骨な形で法を犯すような事もなかった。 遠藤もインデックスも聞いた事の無い名前であり、二人はあくまで表に出る顔であって恐らく企画運営している者は他に居るだろうと。 「随分と悪趣味なグループにいらっしゃったのですね」 黒子の言葉に利根川は苦笑で返す。 「事業は多岐に渡ると言ったろう。右手と左手が何をやっているのか知っているのは極一部のみだ。元々ギャンブル部門と金貸し部門はリスキーすぎてわしは好かんかった」 「後ろ暗い気配ぐらいはわかりそうなものですけど」 「だとしても家族や部下の生活を放って仕事を投げ出す真似も出来ないし、確たる証拠を手にしているわけでもないしな。まだ……若い君達には難しい話かもしれんが」 利根川の世知辛い話に重苦しい空気が漂うが、殊更に明るく利根川は続ける。 「だが、事ここに至ってはそんな事も言ってられん。大人は、大人の責任を果たすとしよう」 「アテにさせていただきますわ」 利根川に非難出来る部分はあるにせよ、彼の立場も理解出来た黒子はそれ以上の追求を行わなかった。 無論全てを無条件で信用するつもりもないが、少なくともこうして堂々と姿を現し、自らに不利とも思える情報をすら忌憚無く提示する姿勢からは、疑わしき所作は見受けられなかったのだ。 「あっ、あのっ……」 不意に、今にも消え入りそうな声が聞こえた。 澪は熱心に利根川から様々な事を聞きだそうとしている黒子と士郎を見ている内に、自分が何も出来ず怯えるのみな事を恥ずかしいと思うようになっていた。 同い年の士郎はこんな信じられない事件に巻き込まれているというのに、自分の意見をはっきりと持っていて、相手が大人でも物怖じせずに話しかけている。 同じ女の子でしかも年下の黒子に至っては、あの怖い黒服の人相手に堂々と渡り合うなんて真似までしていた。 翻って自分はどうだと考えた時、これを恥じる程度には澪は自尊心を持ち合わせていた。 だから、ともかく、口を開こうと思った。 「あっ、あのっ……わ、私も、手伝う。何が出来るか、わかんないけど……その……」 何と言ったものかわからぬままに、どもりがちにぽつりぽつりと告げる澪。 黒子と士郎は同時に笑みを見せ頷くと、澪はやはり顔を赤らめるが、今度は俯いたりはせず照れた顔のまままっすぐに三人を見返していた。 放送が、船内に響き渡ったのはこの直後である。 ◇ 黒服からギャンブルの内容を確認したグラハムと衣は、利根川が帝愛の人間であるとの言葉は真実だと確信する。 そもそも、こんなゲームに無理矢理参加させられた者達の前で、帝愛の人間であったなどと口にしたらいきなり袋叩きにされてもおかしくはない。 黒服のように自身を守る何かが無ければ、到底出来る事ではなかろう。 ついでとばかりに利根川という人物について訊ねてみたが、やはり「知らん」とにべもない返事である。 ではと戻ろうとした二人の足を止めたのは、ギャンブル中でも聞き落とす事のないよう、備え付けの船内放送からも聞こえるようになっていた定時放送であった。 グラハムは問題無い。未掲載の人物にも死者にも知り合いは居ないのだから。 衣はどうかと様子を伺ったグラハムは、彼女が両手をきゅっと握り締めたまま震えているのを目にする。 「……知り合いが居たのか?」 すぐに返事があったのがグラハムには意外であった。 「つい先日、大会で戦った者の名が……池田は、あまり覚えておらぬが、加治木は中々に猪口才な奴であった……」 「麻雀の大会か?」 「うむ……正直、信じられぬ。あの時卓を共にした者が既におらぬなどと……」 透華を失った瞬間を思い出したのか僅かに身震いすると、すがるようにグラハムを見上げる。 潤んだ瞳で、しかし訊ねる事すら憚られるのか口を真一文字に引いたまま、グラハムの瞳をじっと見据える。 グラハムは、なるほど、子供を持つというのはこういう事かと小さく息を吐く。 「私の名はグラハム・エーカー。フラッグファイターにして、宿敵ガンダムを倒す者。愛成就するその日まで、決して倒れぬ者の名だ」 昂然と胸を張るグラハムに、ただそれだけで衣が笑みを取り戻せたのは、為した男がグラハム・エーカーであるからだろう。 例え言葉の真意はわからなくても、グラハムが自らに刻んできた生き様が、発する言葉に覇気をもたらす。 ガンダムを倒す、その為だけに幾たびも死線を潜り抜け、更なる死地へと身を躍らす勇猛果敢なる兵士の言葉が、凡百のソレと同等であろうはずがない。 恐れる気も無く死地へと向かう勇敢な軍人達の信頼を一身に受けて尚、小揺るぎもせずグラハム・エーカーであり続けた男は、このゲームの中にあっても、やはりグラハム・エーカーのままであった。 「無用な心配は兵士への侮辱だぞ衣」 「……うんっ!」 戦友からの信頼とはまた別種であるが、衣が向ける希望に満ちた視線は、グラハムに新たな力を与えてくれると信じられたのだ。 とても居心地悪そうにしている黒服を他所に、ほほえましく見つめ合う二人。 頼むから他所でやってくれと嘆く黒服へのフォローは、思わぬ所からなされた。 「む?」 グラハムがその気配に気付いて目をやると、少女が階段を駆け下りギャンブルルームへと姿を現したのだ。 「ひっ!?」 グラハム達の姿を認めるや、小さい悲鳴をあげギャンブルルームを通り過ぎ、更に下へと逃げていく。 恐怖に歪んだ顔が印象的であった少女。咄嗟の事にどう判断したものかグラハムが迷っていると、上から更に別の人間が駆け下りてくる。 「秋山! おい秋山待てって!」 少女と同い年ぐらいの男が現れると、迷っていたグラハムも行動を起す。 銃を抜き、強い口調で静止するよう警告すると彼は足を止めた。 「君が誰かは知らないが、怯え惑う少女を追いかけるのは一体どういう理由からだ?」 男、衛宮士郎は人が居た事に驚いた様子だったが、慌ててグラハムの行動を咎める。 「お、おいっ! ここで戦闘は厳禁だろ! それ撃ったらアンタが危ないぞ!」 「民間人を守るのが軍人の役目だ」 ちらっと黒服を見て動く様子が無い事を確かめたグラハムは、薄笑いを浮かべ士郎に向き直る。 「……やはり相打ちに持ち込む程度の猶予はあるようだな」 「待ってくれ! 誤解だって! あの子知り合いが放送で呼ばれたせいで錯乱してるんだ! 今の状態で外になんて出たら彼女が危ない!」 与えられた情報は少ないが、時間も無い事を理解したグラハムは衣を見下ろす。 「わかった。衣はここで隠れているんだ。黒服が何を言おうとギャンブルには手を出すんじゃないぞ」 衣もまた状況を把握したのか、何かを言いたそうにしつつも口をへの字に曲げて我慢する。 グラハムは良い子だと衣の頬に手をやると銃を懐に収める。 「すぐに戻る。急ぐぞ少年」 「え?」 「私も共に行く。君が不埒な行為をせぬよう監視する意味でもな」 「え? え? あ、ああっ、えっと、……はい」 急な展開に頭がついていってない士郎であったが、急がないと彼女が危険であるので色々聞きたい事を後回しにして一緒に追う事にした。 ◇ 部屋に残るは二人。白井黒子と利根川幸雄。 衛宮士郎に後を任せた黒子は、改めて放送の内容を間違えぬようメモ帳に書き記す。 ただえんぴつの走る音のみが妙に大きく部屋に響く。 ぱきっ 芯が折れた音。 こちらは名簿に直接書いていた利根川が音に気付き顔を上げるが、シャープペンに持ち替える黒子を見て、問題無しと作業を続ける。 利根川は随分と筆の遅い黒子に合わせて時を待ち、メモ帳をしまった所で声をかけた。 「そちらで知人が呼ばれるような事は無かったのか?」 利根川は黒子への評価を一段階下げる。 予期されていたはずの質問なのに返事が遅すぎた。 「……いえ」 「そうか」 以降言葉を発する事もなく、中野梓の名が続けて呼ばれた事で大きく取り乱し部屋から逃げ出していった澪を待つ。 衛宮士郎は健康そうな若い男性であり、同い年とはいえ澪に追いつくのも難しくは無いだろうと、その点に関して特に心配はしていなかった利根川は、にも関わらず無用に不安を感じているのか無言になった黒子に僅かながら失望する。 賢すぎるのも良くないが、かといって愚かすぎるのも考え物だ。 小娘一人が喚き逃げ出した程度でここまで大人しくなるなどと精神が脆すぎる。今までは強がっていただけか。 無言のままでいれば向こうから耐え切れず発言すると踏んでいたのだが、どうやら利根川の方から話を振らねば進まないと口を開きかけた所で、黒子はぼそっと呟く。 「一人、居ました。すみません」 「ん?」 「御坂美琴14才、エレクトロマスターのレベル5、極めて強力な電撃を操ります。破れ死亡したという……言葉が信じられぬ程に」 「電撃? エレクトロ……何だって?」 「自在に電気を操る超能力です」 素っ気無くそれだけを伝えると、席を立って一言だけ利根川に断る。 「顔を、洗ってきます」 有無を言わせず立ち去る黒子に、利根川は良いとも悪いとも答えず見送った。 廊下の足音に聞き耳を立て、不審な挙動が無い事を確認すると、トイレにでも行ったかと思考を継続する。 考えるべき事は山ほどあるのだから。 客室にトイレは備え付けられていたが、年頃の少女が出会って間もない男性が居る中これを使用出来ぬのも道理であろう。 自身の持つ超能力に関して一切伝えられていない利根川は、走り去った澪を追うのに黒子の能力が適しているにも関わらず使用しなかった点も追求しようが無いはずだ。 そんな言い訳を自分に施し、ここでならばと今にも破裂しそうであった理性の檻の封を切る。 こんな状態で、瞬間移動など出来るはずがない。 女子用トイレ洗面台の前に立ち、溜めに溜め込んでいた毒気を肺が空になる勢いで吐き出す。 目の焦点が合わず、呼吸も千々に乱れ、恐らく脈拍すら正常を保ててはいまい。 血管が浮き出る程に充血した目、荒々しく上下するもいからせたまま落ち着く気配すら感じられぬ両肩、可憐さと美しさを伴った容貌は見る影もない程醜く歪んだまま凝固している。 爪が食い込む程握り締めた手、黒子はこれを振り上げ、正面の鏡に叩きつける。 手の甲ではなく並んだ四本の指側を鏡にぶつけると、歯止めが利かなくなったのか逆の腕でも同じ事を始める。 「馬鹿っ!」 壁にすえつけられた鏡は、破壊を目的とせぬ打撃では微動だにせず。 「馬鹿っ! 馬鹿っ! 馬鹿嘘つきっ!」 続いて放たれた左手は、それと意識せず拳槌にて行われ、みしっと鏡は音を立てる。 「嘘ですわっ! こんなヒドイ嘘っ! ひどすぎる嘘をっ!」 繰り返される衝突は、黒子の意識によらず効果的な打撃を生み出す時もある。 「どうしてあんな事言うんですの!? お姉さまは、私は、そこまで恨まれるような事をしましたか!?」 手ごたえが変わる。そこからは早かった。 「嘘つきっ!」 一筋の亀裂。 「嘘つきっ!」 四つ又に別れ、更に八つに。 「嘘つきいいいいいいっ!!」 粉々に砕けた鏡。黒子は、洗面台に縋りつくように崩れ落ちる。 呼吸をすら放棄した運動は容易く限界を迎え、後に意識の空白を残す。 失われた酸素を充分に取り戻した黒子が、最初に思ったのは両手に感じる鈍い痛み。 「……どう、しましょう、これ」 砕けたガラスの破片で切れた両手。 激昂が収まりまず気にかかったのは、自身の痛みと他人から見られる自分の姿である事が、黒子は無性に悲しかった。 ◇ グラハム達が去った後、残された衣はというと誰が来ても良いように隠れる場所を探していた。 まず目に付いたのはルーレットを行う台の下。 大きめの台は彼女の小柄な体が隠れるに充分であったが、下の柱が随分と太く、台自体も低く作られているせいかうまく入りきる事が出来ない。 それでも苦労して奥へと入り込むと、ようやく一安心とばかりに息をつく。 黒服男は参加者達に味方する事を当然禁じられていた。 だが、あまりといえばあまりにすぎるので思わず口をついて出る。 「……おい、尻が丸見えだぞ」 スカートで覆われてはいるが、身をかがめているせいかお尻のラインが綺麗に写る。 無論こんなガキに興味なぞない黒服にそういった意図は無いし、むしろあったら放置しているだろう。 「うひゃうっ!」 大慌てでもぞもぞと動くが、やはり隠れきれず、逆にスカートがたくしあげられてその下がほのかに見え隠れしはじめた。 「こ、これでどうだ?」 繰り返すが黒服はガキなぞに興味は無い。 例え世に幾百幾千とこの状況を、素敵なパライソラッキースケベを期待しているロリコン共が居ようと、彼にとっては死ぬ程どうでも良かった。 「……それ以上入れないのならそこは諦めろ」 黒服は黒服なりにこの場で参加者を待ち構える間、恐らく繰り広げられるだろうコンゲームを期待していた。 命を賭けた必死なやりとりを、一部の隙すら許さぬギリギリの戦いを、と心構えを整えていたらコレである。 注意深い者達が容易くギャンブルに手を出さないのは予測出来た事だが、その為にこの場に居る人間としては、是非ギャンブルに挑んで欲しいとも思う。 そんな黒服の願いは即座に叶えられる。 「おいっ! そこの黒服! ここは本当にエスポワールなのか!」 衣が慌ててルーレット台に隠れようとして失敗している。 最早こんなガキに用なぞ無くなった黒服は、期待に満ちた心が表に出ぬよう自制しつつ用意してある言葉を紡ぐ。 「そうだ! ギャンブル船、希望の船『エスポワール』のギャンブルルームへようこそ!」 帝愛でも有名であった他に類を見ない常識外れの男。 身一つで利根川を破り、当時の会長兵藤和尊にまで手をかけた奇跡のギャンブラー、伊藤開司のような男を、黒服は待っていたのだ。 なので、その後ろにひっついている衣より小さい子供の存在はさらっと無視する事にした。 カイジが黒服からギャンブルルームの説明を受けている間、真宵は暇そうに足をぶらぶらと振っていた。 衣は、これぞ千載一遇、審念熟慮も必要であるが、機を逃しては道は開けぬと前へ進む。 友達は作れる、そう信じ続けていればとグラハムも言ってくれたのだ。 衣は彼を信じるように、彼の言葉もまた、信じてみる。 「わ、私は天江こよも……じゃ、じゃなくってころも、衣だ!」 真宵に向かって自己紹介。 返事を期待していると察した真宵は、つまらなそうに視線を向ける。 「話しかけないでください。あなたのことが嫌いです」 大きく真後ろにのけぞった後、衣はへなへなとしりもちをつき、ここに第一ラウンド終了と相成ったわけで。 黒服との会話の途中であったカイジは見るからに嫌そうな顔をする。 「……お前それ会う奴全員に言ってるのか?」 「うるさいですカイイジさん」 「名前を間違えるなと何度言わせる気だ……」 「失礼、かみました。カジさん」 「完全に別人だろそれ……」 つっこみスキルというには甚だ心許ないが、それでもこの数時間でそれなりに返事はするようになったらしいカイジ。 「誰しも失敗はあります。こよもさんも間違えてころもと名乗っておりましたし……」 涙目でしゃくりあげかけていた衣は、何くそと不屈の闘志で立ち上がる。 「違う! ころもはころもだ!」 「ほら、またかんだ」 「かんだのはこよもの方だ! ころもはころもで! それ以外に名など無いっ!」 「わかりましたころもさん。それと繰り返しになりますが、あなたが嫌いなので話かけるのは遠慮してください」 痛烈なカウンターにより二ラウンドKO。 完全にやる気を削ぎ取られた衣は、俯き加減にひっくひっくとしゃくりあげる。 目の端からこぼれる雫は敗北の証。 大慌てなのはカイジである。いきなり出会った少女を泣かすなぞ、まともな人間なら心が痛んでしかるべきである。 「こ、こらお前! 何て事言い出すっ! あー、えっと、ご、ごめんなさい」 しかしカイジ、幼女を慰める術なぞ知らぬ。 そもそも対人折衝能力も著しく低い、社会不適合者である。 女っ気なぞと無縁なカイジが、同世代の人間とのスムーズな交流すら為せぬカイジが、接点すら存在せぬ子供を相手にしたカイジが、どうして衣を慰められよう、いや出来まい。 際物なれど、社会人として立派に成立していたグラハムとは比べるべくもないのである。 案の定、びえーんと泣き出してしまう衣。 「あー、カイジさん最低です。女の子を、それもこんな小さな子を泣かすなんて貴方は本当に人の子ですか? いや変質者なのは知っていますが」 「誰がどう見てもお前が原因だろうが!」 わいわいと騒々しいギャンブルルーム。 呆れ顔の黒服のみが、新たな乱入者の登場に気付けた。 「ようこそ、ギャンブル船エスポワール、ギャンブルルームへ」 乱入者は黒服に一瞥をくれた後、唯一居る顔見知りに向け、黒服同様呆れ顔で問うた。 「……お前は一体、何をしているんだカイジ?」 聞き覚えのある声に顔を上げるカイジは、その先に、捜し求めていた相手を見つける。 「やっぱりここに居やがったか利根川っ!」 ◇ ギャンブル船を下りた士郎とグラハムの二人は、桟橋から離れた角を曲がる人影を見つけ、これを追う。 グラハムは軍人であり、パイロットとして訓練も重ねており、並の男では太刀打ち出来ぬ体力を誇る。 並ぶ士郎はというと流石にそこまでの訓練は望めないにしても、剣の英霊をして体力は充分と言わしめる程常日頃から鍛錬を行っていた。 なればこそ、走りながら会話というより疲労を増すような事も平然と行えるのだろう。 「名は?」 「衛宮士郎。あんたは?」 「グラハム・エーカーだ。彼女は足が速いのか?」 「そこまで彼女を知ってるわけじゃないけど、俺達より早いって事は無い……と思う」 あちらこちらと二人で走り回り澪の姿を探すが、どんな逃げ方をしたものか彼女の姿を見つける事は出来なかった。 先に足を止めたのはグラハムだ。 「ここまでだ士郎」 いきなりファーストネームで呼ばれた事に少し驚いたが、さして気にする事でもないので黙認する。 「ここまでって……」 「連れを残してこれ以上船から離れるわけにはいかん」 「そりゃ……そうだけど、秋山はどうするんだよ」 「単に動転しただけなら落ち着けば戻ってくるだろう。お前が彼女を脅すような真似をしていなければだが」 「しないよそんな事。でもそれまでに危ない奴に出会ったらどうすんだよ」 「地図にある目立つ船だという事を考慮に入れれば、どちらがより危険かは自明だろう」 士郎も残してきた黒子や利根川が心配ではある。 不承不承であるが、グラハムの提案を受け入れた。 「一度戻って白井達に断ったら、俺はもう一度探しに出るぞ」 と条件を付けはしたが。 グラハムは微笑で答える。既に士郎が悪辣な人間ではないとグラハムは見ていた。 そして士郎もまた、見ず知らずの少女の為、ギャンブルルームで銃を抜くなんて真似をしてくれたグラハムを、まるで疑っていなかったのだ。 もし、後少しグラハムの判断が遅かったなら。 家を一軒挟んだ所で疲れきって座る澪を見つけられたかもしれない。 無論彼を責める事など誰にも出来はしない。 神ならぬ身のグラハムが全てにおいて最善を選びうるはずもないのだから。 だから、息の整った澪が、驚きに目を見開いているのも、グラハムに責任のある事ではない。 「どうかしましたか、お嬢さん?」 そう声をかけてきた大剣を背負ったスーツ姿の男。明智光秀に澪が見つかってしまったのも、全ては間が悪かった故、それだけである。 「あ……わ、私……」 長身の彼にすら大きすぎる剣を無造作に肩に背負う姿は、澪にとって馴染みの深いスーツという現代衣装をまとってすら、畏怖と恐慌の対象となろう。 「なるほど、その首輪……あなたも殺し合いに参加している方ですね」 「ち、ちがっ……わ、わたし、は……」 「貴女のような年端も行かぬ少女まで……業の深い事です」 背なに陽光を受けるせいで明智の表情まで見えぬのが、澪にとって幸運であったかどうかなど、この出会い同様見極められる者などいはしなかった。 ◇ 利根川は伝えるべき事を伝えきれずなし崩しに半数が欠落してしまい、どうしたものかと思案にくれていた。 そうこうしている間に黒子も部屋を出てしまい、一向に戻ってくる気配が無い。 もし三人に騙されているとするなら、これは由々しき事態であろう。 だが利根川は心底それは無いと確信している。 三人の善意を信じているわけでは無く、自身の人物眼に自信があるだけだが。 部下を使って仕事をするのに慣れすぎたのか、こうして自分が動く感覚がまだ思い出しきれずにいる。 ガキ共の機嫌取りなど本来利根川の仕事ではない、とはもう考えない。 覚悟を決めたのだ。壇上から見下ろすのではなく、自らも会場に降り立ち、泥に塗れ、手間を、労苦を重ね、勝利に至ると。 自己暗示の一つや二つ、容易く出来ずして帝愛でのし上がるなど夢のまた夢よ。 数十年の時を社会の暗部にて生き抜いた男は、暗き誇りを胸に部屋を出る。 戻らぬ黒子にメモを残し、再度グラハム、衣と対決する為に。 階段を降り、ギャンブルルームに至った利根川は、その場に居た人物を見て幸運は我にありとほくそ笑む。 伊藤開司、絶望的な生存率のギャンブルを、不屈の闘志と見事な機転で乗り切った超がつくイレギュラー。 この男も参加していると聞いた利根川は、是非とも手駒、いや、共に戦う同志としてカイジを欲した。 のだが、こうして出会えたカイジはというと、子供相手にぎゃーぎゃーと場も弁えず騒いでいた。 失望の大きさは察してあまりある。 それでも自制が利いていたおかげで、乱暴なコケにするような口調は避けられた。 「……お前は一体、何をしているんだカイジ?」 すぐに気付いたのか怒鳴り返してくるが、そこに死地を乗り越えた圧倒的なまでの生命力は感じられない。 「やっぱりここに居やがったか利根川っ!」 グラハムの姿は見えず衣は何だか知らんがガキっぽくぴーぴー泣いているし、もう一人ガキが増えている。 武装の有無と、室内の隠れ得る場所に注意しつつ、利根川はカイジに歩み寄る。 「何をしている、と聞いたんだ。カイジ、このゲームに参加させられたお前は、一体何をしているのだ」 意図が察しきれぬのか睨みつけながらも、カイジの怒鳴り声が止む。 利根川は言下の意味すら取れぬカイジを見て、今の利根川をして自制が難しい程の怒りを覚えた。 「平和を享受しぬるま湯に生きた余人ならいざしらず、お前までもがまだ『本気』になっていないというのか!?」 「な、何を言って……」 突如現れた利根川の怒声に、衣は驚き泣くのをやめ、真宵もまた呆気に取られたまま利根川とカイジを交互に見るのみ。 「予想は出来ていた! ああ、出来ていたとも! あれほどの集中力と勝負強さ、ここ一番の覚悟がありながらエスポワールへと墜ちてきたお前には、決定的でどうにもならぬ弱点があるだろうとな!」 黒子達との邂逅では完全な自制に成功したが、利根川を地獄の底に叩き落した張本人であるカイジを前に、その無様な姿を目にして冷静でなどいられなかった。 「お前は追い詰められるまで、いや、お前の精神が限界と認めるまでは例え追い詰められていようと決して動かない! いや、体は動いている。だがっ! 肝心要のお前の脳が働いていないのだ! 白痴のごとく状況に流されるのみで、 状況改善に動こうとしない! お前は! どうしようもない程に! 社会生活が困難なレベルで怠惰な人間なのだよ! それだけならばただ他人の餌として無様に飲み込まれていくだけだ。だがっ! お前はもう知っているのだろう! 自分にどれだけの力があるのか! 戦いさえすれば誰にも負けぬ覚悟を自身にすら見せ付けているのだろう! なのに何故まだそんな惚けた顔で遊んでいるっ! 何時まで眠っているつもりだ! さっさと目を覚ませカイジ! ここは既に何時死んでもおかしくない戦場の只中だぞ! 本気を出す前に死ぬ真のクズに成り下がるつもりか!? お前ならば! とうに脱出に向けてプランの一つや二つ、実行に移していてもおかしくはないはずだろう!」 利根川は一方的にカイジを弾劾する。その気迫は、コンビニで店長に逆らう程度が関の山であるカイジに抗えるレベルではない。 「そ、それは……お、お前を見つけて、聞くべき事を聞きだしてから……」 弱腰なカイジの言葉が燃え盛る利根川の怒りに油を注ぐ。 「このっ……馬鹿者が! わしを見つけてどうする!? 何故そこから思考を進めない! ハナっからわしを頼るだと!? こんな、こんな大馬鹿にこのわしが…………わしが全てを知っているとでも!? わしにさえ会えれば脱出出来るだと!? これは帝愛の仕掛けた死のゲームだぞ! そんな安易で甘えた思考が通用しないのはお前も良く知っているだろう! こうして説教を受ける事自体ありえぬ幸運だと何故わからん! ああっ、くそっ! 目覚めてから出直せと言いたい所だが、 今のわしにもそんな猶予は無いっ。だからそのままでも構わん。わしが貴様を叩き起こしてやるっ……」 「お前、一体何を言ってる……」 「わしと共に来いと言っているんだ! 目覚めたお前とわしならば! 事がギャンブルなら絶対に負けんっ!」 まさかまさかの共闘の申し出。 「はっ、ははっ、利根川。まるでお前も単なる一参加者だと言っているように聞こえるぞっ……! それを、信じろというのか利根川!」 「会長の死、わしの首輪、あくまで判断材料の一つであって、決定的な証拠たりえぬ…… しかし、その決定的な証拠とやらをこの場にて一体誰が証明してくれる。 何か一つでも確証を持てるような事柄がこのゲームにおいて存在すると思っているのか? 万事に確証を得られぬリスキーな戦いっ……! なればこそのギャンブルだろうっ……!」 利根川の言葉を遮るように、カイジはルーレット台に拳をたたきつける。 「ふざけるなっ……! 俺は、お前がやった事を決して忘れないっ……! 石田さんや佐川の無念を! 犠牲になった者達の絶望を! 俺の命を弄んだ怒りを! 俺は、お前の口車にだけは金輪際乗ってやらんっ……!」 カイジに向け、ゆっくりと歩を進める利根川。 その眼前に憤怒の顔を突き出す。 「そうだカイジ。ようやく、らしくなって来たではないか……野良犬には野良犬の誇りがある。 如何に強大な相手であろうと決して怯まぬ、考えられぬ捨て身っ……! 自暴自棄とは似て非なる、奴隷が皇帝を滅ぼすそれが最後の、絶望の光だっ……!」 至近距離にて睨みあう二人。既にカイジは利根川に気圧されてなどいない。 「俺がお前を監視する。ここが例え地の底、地獄の最奥であろうと、お前の好きにだけはさせないっ……!」 「やってみろ。お前という抑止力がわしの逃げ道を塞いでくれる。この地を圧倒的な勝利と共に脱出する。その為だけに全てを注ぎ込めるよう、わしを抑え続けてみせろ!」 カイジは利根川をいまだ倒すべき強大な敵であると考えていた。 そして利根川もまた、カイジに敗北し、その実力を自らに匹敵すると認めている。 互いが互いを、全てを賭して倒すに足る相手であると信じていればこそ、極限のゲームにおいて、信用ではなく信頼に足る相手として見られるのだ。 「このゲームの真髄、それは……『信じる事』だ。わかるかカイジ」 「全てを疑うのではなく、信じられる部分のみを信じる。帝愛のルール、出会った人間達、お前の言葉……全てに嘘がある。しかし、同時にある真実を掬い出し、見極めるっ……!」 「全てを疑い、同時に全てを信じる……僅かでも間合いを見誤れば死だ。そこまで踏み込んで、初めて勝利の道が見えて来るっ……!」 唐突にカイジは振り返り、真宵をまっすぐに見据える。 「真宵、お前が幽霊だったって話、俺は信じよう。帝愛が言う魔法も、全てを俺は受け入れてやるっ! その上でっ!」 誰よりも自身に向けてカイジは言い放つ。 「このゲームに……ふざけた人殺し共に……俺は勝つっ!」 時系列順で読む Back 夢を過ぎても(後編) Next 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 投下順で読む Back 夢を過ぎても(後編) Next 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 天江衣 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) グラハム・エーカー 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 利根川幸雄 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 白井黒子 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 秋山澪 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 衛宮士郎 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 伊藤開司 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 094 試練/どうあがけば希望?(後編) 八九寺真宵 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編) 088 届かなかった言葉 明智光秀 試練2/逃げ場なんて、無いかもよ(後編)
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『借金苦』 31KB いじめ 虐待 野良ゆ 赤ゆ 都会 現代 虐待人間 うんしー 借金怖い。長さの割に、今回も微妙かも? 借金苦 ポマギあき 街の歩道。人が行き交う交差点に、鬼威参は居た。ゆっくりを虐待する為に、散歩をしているのだ。 そうやって道を歩いていると、ゆっくりと出くわした。道端で歌を歌っているのは、れいむ親子。 「ゆっくりのひ~」 「「まっちゃりのひ~」」 親れいむ、赤れいむ、赤まりさの二匹だった。周囲には人はいたが、皆、親子の前を通り過ぎていく。 「ゆゆ! まってね! れいむたちのおうた…ゆぅ…またいっちゃったよ…」 「ゆ…ぢゃれも、れいみゅたちのおうちゃきいちぇにゃいんぢゃにゃい?」 「ゆぅ…まりしゃはきょんなにゆっくちしちぇるにょに…」 三匹は揃って愚痴をこぼした。もっとも、歌声は騒音以外の何物でもないのだが。 鬼威参はそっと親子に近づくと、屈んだ。親子はそれに反応して、騒ぎ出す。 「ゆ! れいむたちのおうたをきいてたんだね! おかねはらってね!」 「はらっちぇにぇ!」 「いっぴゃいぢぇいいよ!」 金を払えと宣う親子に、鬼威参は首を横に振って答えた。 「ダメだね。そんな歌で金はあげられないよ」 「ゆうううううう!!? くそじじいはゆごべっ!」 親れいむは、鬼威参に飛びかかった。しかし、宙を舞った瞬間鬼威参の右手によってはたき落とされた。 親れいむは、地面に突っ伏すとプルプル震えながら起き上がった。 「いだいいいいいいいいいい!! なにずるのおおおおおおおおお!!?」 赤ゆ達も抗議の声を上げる。 「ひぢょいこちょしにゃいぢぇにぇえええええええ!!」 「おきゃにぇはりゃええええええええええ!!」 対して鬼威参は、冷静に言葉を続けた。 「いいか? そんな歌じゃ金は貰えないんだ」 「どぼぢでぞんなごどいうのおおおおおお!!?」 親れいむが鬼威参の言葉に狼狽える。鬼威参は特に気にすることなく、話しを再開した。 「だからな、お前の歌声では人間はゆっくりできないの」 「ゆうううううううううう!!?」 「だから、金は払えない」 「ぞんなあああああああああ!!」 絶望の淵に追いやられる親れいむ。鬼威参はそんな親れいむに優しく言葉を掛けた。 「でもな、貸す事は出来る」 「ゆ?」 目が点になるとはこの事か。親れいむは鬼威参の言葉に目を丸くしていた。 「金を貸す事は出来るんだ。ただし、担保が必要だがね」 「たんぽ…? たんぽってなあに?」 鬼威参は担保の説明を始める。借金をするのに必要なもの。もし、返済できなかった場合はそれらを没収される事。 それらを踏まえた上で、鬼威参は金を借りるかどうかを親れいむに問いかけた。 「どうする? 借りるか?」 「ゆ…で、でも…たんぽなんて…」 鬼威参は親れいむの側で、訳が分からないと云った表情で佇む赤ゆ達を指さした。 「あれを担保にすればいいじゃないか」 「ゆ!?」 驚愕の表情を浮かべる親れいむ。赤ゆ達は自分達が指さされた事に、戸惑っていた。 「ゆぅ? ゆっくちぢぇきるにょ?」 「ゆ? ゆ? なんのこちょ?」 親れいむは狼狽えた。大事な赤ゆを担保にする訳にはいかない。しかし、鬼威参の言葉によってその心は揺らいだ。 「あのな、よく考えてみろ…担保になるって事は、俺の物になるって事だろ?」 「ゆん…」 「俺の物になるって事は、どういう事かよく考えてみろ」 親れいむは目を瞑って考え始める。赤ゆ達が人間の物になるという事。それは、自分の赤ゆを引き渡すという事。 そもそも親れいむはシングルマザーで、育児も大変。そこにゆっくりを担保に金を貸してくれる人間が出てきた。 これは千載一遇のチャンス。人間の物になるという事は、飼われるという事。飼われるという事は、念願の飼いゆっくりになるチャンス。 「ゆ! たんぽにするよ! せめて…おちびちゃんだけでも…ゆ!」 「決まり…だな」 鬼威参はニヤリとした。どうせ、ゆっくりなんて自分にとって都合の良い方向にしか、物事を考えない奴等だ。 騙されたと知った時の絶望した顔。あれは非常にエクスタシーを感じるというもの。 鬼威参は、財布から百円玉を三枚取り出すと、親れいむの目の前に置いた。 「さあ、これが金だ」 「ゆ…お、おかね!」 親れいむは、金をペロペロと舐め始める。そもそも使い方を分かっているのかどうかすら怪しい。 赤ゆ達も目を輝かせながら、百円玉を見ていた。 「ゆわあああああ!! ちょっちぇもゆっくちしちぇるよおおおお!!」 「きょれがありぇば、ゆっくちぢぇきるんぢゃにぇ!」 鬼威参は微笑みながら、それに答えた。 「ああ、でもその代わりお前らは担保として貰っていくからな」 「「ゆ!?」」 赤ゆ達はその餡子の容量のせいか、自分達が担保にされたことを理解していなかったらしい。 鬼威参にとってはそんな物は関係ない。赤ゆ達を引っ掴むと、自分のブルゾンのポケットに仕舞い込んだ。 「ゆ! だしちぇにぇ!」 「くりゃいよ! ゆっくちぢぇきにゃいよ!」 ポケットの中で暴れる赤ゆ達に、鬼威参は親れいむから説明するよう求めた。 「ゆ! あのね! おちびちゃんたちは、たんぽさんになったんだよ!」 「「たんぽっちぇにゃにいいいいいい!!?」」 ポケットの中で狼狽する赤ゆ達に、親れいむは言葉を続ける。 「ゆ! たんぽっていうのはね、とってもゆっくりできるんだよ! かいゆっくりとおなじだよ!」 その言葉を聞いた赤ゆ達は、ピタッと暴れるのを止めた。しばしの沈黙の後、ポケット越しに喋り始める。 「ゆ…やっちゃあああああああ!!」 「ゆわああああああい!!」 喜ぶ赤ゆっくり達に、親れいむも満面の笑顔で答えた。 「よかったねおちびちゃん! これで、ずーっと、いーっぱいゆっくりできるよ!」 「「ゆん!」」 鬼威参はポケットから赤ゆ達が落ちないように、そっと手でポケットを覆った。 そして親れいむに背中を向けて去ろうとした。だが、言い忘れた事があったので迷わず伝えた。 「金を返す気になったら、ここで会おう。利子は一日で、十パーセントだ」 「ゆぅ?」 一体何の事かと訝しげな顔をする親れいむ。 「お前は三百円借りたからな。二十四時間経過する度に、三十円の利子が発生する。明日また、ここにくるから、三百三十円を用意しておけ」 「ゆ? おかねさんかえしたら、おちびちゃんたちどうなるの?」 「勿論、これは担保だ。お前の下に返すさ」 親れいむは全身をブルブルと横に振って、それを否定した。 「だめだよ! おちびちゃんはたんぽなんだよ! おかねはぜったいにかえさないよ!」 その声を聞いて、ポケットの中の赤ゆ達も声を連ねる。 「しょーぢゃしょーぢゃ!」 「まりしゃはたんぽなんぢゃじょー!」 鬼威参はクスッと笑うと、分かったと頷いて家へと帰っていった。 残された親れいむは、満足そうな顔をしていたが、すぐに歌を歌い始めた。 「ゆ~ゆゆ~」 鬼威参は家に帰ると早々に、透明な箱に赤ゆ達を放り込んだ。 「ゆぺっ!」 「ゆべっ!」 透明な箱の底に叩きつけられると、赤ゆ達は奇妙な呻き声を上げた。 そしてムクッと起き上がると、鬼威参に抗議し始めた。 「ゆううううううう!! いちゃいぢぇしょおおおおおお!!」 「もっちょやさしくしちぇにぇええええ!! まりしゃちゃちは、たんぽにゃんぢゃよおおおおおお!!?」 鬼威参はフッと笑うと、担保について説明し始める。 「あのな、担保ってのは俺が好き勝手に出来るって事なんだよ」 人間社会に於いて、実際はそうではない。赤ゆ達は疑問に感じて、問いかけた。 「しゅきかってって…にゃあに?」 「ゆぅ? まりしゃをゆっくちさせちぇくれりゅんぢぇしょ?」 鬼威参は腹を抱えて笑い出した。赤ゆ達はその様子を見て怒り出す。 「ゆううううう!! にゃにがおかちいにょおおおお!!?」 「ゆっくちさせちぇにぇ! いっぴゃいぢぇいいよ! ぷんぷん!」 鬼威参は笑うのを止めると、赤ゆ達に再び説明し始めた。 「あのな、俺はゆっくりさせるなんて一言も言ってない。その上、担保ってのは俺が好き勝手に出来るってことだ。 それはつまり、お前らを好きなように出来ると言う事。つまり…分かるな?」 鬼威参は赤ゆ達に目を向けた。その冷たい目は、赤ゆ達に状況を理解させた。そしてパニックに陥らせた。 「ゆ…ゆわあああああああああああ!! ゆやぢゃあああああああああああ!!」 「ゆっぐぢぢゃぢぇぢぇぐれるんぢゃにゃいにょおおおおおおおおおお!!?」 鬼威参は鼻で笑って答える。 「そんな訳無いだろう」 赤ゆ達は更に絶叫した。 「ゆやああああああああん! うしょつきいいいいいい!!」 「おきゃあしゃんのばきゃああああああああああ!!!」 鬼威参は泣き叫ぶ赤ゆ達を面白く思った。そして、透明な箱にそっと近づくと、語りかける。 「でも大丈夫だ。お前らのお母さんが、明日金を返してくれれば、お前らはお母さんと、またゆっくりできるぞ」 鬼威参の言葉を聞いて、赤ゆ達は安堵した。 「ゆふぅ…しょれなら…」 「だいじょうびゅ…ぢゃね…」 鬼威参は笑顔のままで言葉を続けた。 「でもなぁ、お前らのお母さんは金を返す気が無いって云ってたしなぁ」 「「ゆ!?」」 驚愕の表情を浮かべる赤ゆ達に、鬼威参は更に言葉を続けた。 「それに、お前らは金を貰ったことが実際にあるのか?」 「「ゆ…」」 歌という名前の騒音で金を貰った事は無かった。親子が貰ったものと云えば、罵声と唾ぐらいな物だ。 さすがに赤ゆ達でも、これがどういう状況か理解できた。赤ゆ達は、しくしくと泣き始める。 「ゆぐ…ゆぐ…どぼぢぢぇ…ごんなごぢょに…」 「ゆぐ…まじじゃ…まじじゃのゆっぐぢ…おぎゃあじゃんのぜいぢぇ…」 赤ゆ達は嘆いていた。鬼威参はそっと透明な箱から離れると、リビングでテレビを見始めていた。 下らないバラエティ番組に、鬼威参は腹を抱えて笑い続けた。 やがて夕方になった。赤ゆ達は腹が減っている。しかし、食事の催促をすれば何をされるか分かったものではない。 赤ゆ達は腹の虫が鳴るのを、ジッと堪えていた。それから少しして、なんだか美味そうな匂いが漂ってきた。 「ゆ…おいちちょうなにおい…」 赤れいむが反応した。赤まりさが赤れいむに近寄って、云った。 「きっちょ…きのせいぢゃよ…じぇったいに、きのせいぢゃよ…」 「ゆ…そうぢゃね…おいちいものにゃんか、にゃいよ…そうぢゃよ…」 赤ゆ達は現実逃避を始めた。腹の虫と、漂う美味い匂いに心が張り裂けそうになる。 泣き喚いて、食事をさせてくれと暴れたくなる。しかし、それでは自らがゆっくりできなくなるだろう。 赤ゆ達はそう考えて、この匂いは偽物だ。嘘っぱちだと思い込む事にした。 やがて、美味そうな匂いは段々と強くなってくる。赤ゆ達の我慢が限界に近づく頃、鬼威参がナポリタンスパゲティを持って、透明な箱に近づいた。 「やあやあ、お腹減ったかい」 鬼威参は赤ゆ達の前でスパゲティをボソボソと食べ始めた。赤ゆ達の我慢の糸が、ついに切れた。 「ゆやあああああああああ!! おにゃかへっちゃああああああああああああ!!」 「ちゃべたいよおおおおおおお!! まりちゃにもたべちゃちぇちぇええええええええええ!!」 泣き喚く赤ゆ達を余所に、鬼威参は舌鼓を打ちながら、スパゲティを平らげた。 「ごちそうさまでした」 空っぽの皿を見つめて、涙を流す赤ゆ達。 「ゆぐ…ゆぐ…ごはんしゃん…」 「まじじゃのぉ…まじじゃのなのぉ…」 鬼威参は腹をさすると、満足した顔でリビングに去った。赤ゆ達は涙を流しながら、呻いていた。 翌朝、赤ゆ達はすっかりと衰弱しきっていた。無理もない。赤ゆはエネルギー変換の効率が、著しく悪いのだ。 それは人間とて同じ事。狩りも満足に出来ない小児を保護するのは、親の役目だ。しかし、肝心要の親は側にいない。 親れいむが、担保について大きく勘違いをしていたのが原因だ。そのしわ寄せは真っ先に、赤ゆ達へと来ている。 「ゆぐ…おにゃがへっぢゃよぉ…」 「まじじゃ…あみゃあみゃ…」 鬼威参は昨日とは違う服装で、湯上がりの顔で出てきた。シャワーを浴びてきたのだ。 「あーあ、すっきりした。さて、返済できるか確かめてこようか」 鬼威参は透明な箱から赤ゆ達を取り出すと、昨日のようにブルゾンのポケットに突っ込んだ。 赤ゆ達が逃げ出さないように、そっと手でポケットを押さえるのも昨日と同じだ。 鬼威参は昨日来た、道端へとやってきた。相変わらず親れいむは下手くそな歌を歌っていた。 「ゆ~ゆゆ~」 鬼威参は、そんな親れいむに声を掛けた。 「やあ、金を返す気になったか?」 「ゆ? おにいさん! やだよ! おかねさんはかえせないよ!」 親れいむは微笑みながら答えた。鬼威参も微笑んで切り返した。 「お前のおチビちゃんが、虐待されてもか?」 「ゆ?」 鬼威参はポケットから赤ゆを取り出して、親れいむに見せつけた。 「ゆやああああああああ!! たしゅけちぇええええええええ!!」 「きょのくしょおやあああああああ! まりしゃをだましちゃにゃああああああ!!」 親れいむはキョトンとした顔をしてから、狼狽えた。 「ど、どういうごどなのおおおおおお!!?」 「昨日は何も食べさせなかったよ」 「ど、どぼぢでえええええええええ!!?」 「だって、こいつらは俺の担保だからな。 俺の物は、俺がどうしようと勝手だろう」 「ゆうううううううううううう!!?」 親れいむはここに来て、ようやく担保の意味を理解した。鬼威参は金の返済を求めた。 「さあ、金を返しておくれ」 「ゆ゙…あ、あまあまにつかっちゃったから…」 言葉に詰まる親れいむ。鬼威参は親れいむに問いかけた。赤ゆ達は体を捻って、掌から抜け出そうと奮闘している。 「甘々? 何に使ったんだ?」 「ゆ…ちょこれーとさん…」 驚く事に、親れいむは金をチョコレートに換えていた。ゆっくりを相手に商品を売りつける人間が居る事に、鬼威参は少々驚いた。 そして、その言葉を聞いた赤ゆ達は激昂した。 「なにやっちぇるにょおおおおおおおおおお!!?」 「おきゃねかえしゃなかっちゃら、まりしゃはいじめられちゃうんぢゃよおおおおおお!!?」 親れいむは更に狼狽えた。 「ど、どぼぢでごんなごどに…おがねざんがえずがら! がえずがら、おぢびぢゃんゆっぐじがえじでね!」 鬼威参は答える。 「それは分かってる。最初からそういう約束だからな。で、金はどこだ?」 親れいむは狼狽しつつ云った。 「ぞ、ぞれはあどでがえずがら!」 鬼威参は首を横に振って、それではダメだと答える。 「ど、どぼじでぇ!?」 当然の事だが、親れいむに信頼はない。赤ゆを先に親れいむに返したとしよう。 すぐに逃げるに決まってる。従って、金と赤ゆは同時交換せねばならない。鬼威参は、そのように説明した。 「じんじでよ! れいぶ、ぢゃんどおがねがえずがら!」 「いいや、ダメだ。現時点で無いなら、赤ゆは返せない」 「ど、どぼずればいいのおおおおおお!!?」 「簡単だ。金を稼いで金を返済すればいい。今日は三百三十円…明日は三百六十円だな」 親れいむは金額を聞いて、涙を浮かべた。そもそも、ゆっくりは三の数までしか数えられない。 それ以上は沢山として認識される。沢山が、もっと沢山になっているのだ。今まで稼いできた金額はタカが知れている。 「れ、れいぶがわるがっだでずうううううう!! あやばりばずがら、おぢびぢゃんがえじでぐだざいいいいいい!!」 親れいむは地面に額を擦りつけて、謝罪した。しかし、鬼威参は首を振ってダメだと答える。 よじる赤ゆ達をポケットに戻すと、鬼威参は云った。 「また、明日来る。三百六十円。雁首揃えて用意しておけ。それが無理なら、お前のおチビちゃんは酷い目に会う」 親れいむは待って下さいと云った。鬼威参はそれを無視して、人混みに消えていった。 赤ゆ達の声は張り裂けんばかりの悲鳴であった。 「ゆやあああああああああ!! ゆっくぢぢゃぢぇぢぇえええええええ!!」 「ゆんやあああああ!! おきゃあしゃんのばきゃああああああああ!!」 親れいむは謝った。何度も何度も、目の前に居ない赤ゆ達に対して、何度も謝った。 「ごべんね…ごべんね…ぜっだいに…ぜっだいにだずげであげるがらね…」 絶対に助ける。親れいむは、強い意志を持った。そして、再び歌い始めた。 「ゆ゙~ゆ゙ゆ゙~」 涙声のそれは、人々の興味を誘った。 「さて、どうしようかな」 家に帰った鬼威参は、震える赤ゆ達を透明な箱に入れた。そして、どうやって虐待をしようか考えていた。 目玉を抉る。あんよを焼いて、動きを封じる。単純に針を刺す。或いは熱湯に浸けてやろうか。 様々な考えが浮かんだ。鬼威参はまず、あんよを焼く事にした。 「お前ら喜べ」 「「ゆ…」」 「これから、あんよを焼いてやる」 その言葉を聞いて、赤ゆ達は一瞬だけ沈黙した。そして、泣き喚く。 「ゆやあああああああああああ!! やべぢぇにぇえええええええええ!!」 「ゆやぢゃああああああ!! まじじゃのしゅんそくしゃんぎゃああああああああ!!」 まだ焼かれていないというのに、赤ゆ達は既に焼かれた様な騒ぎになっていた。 鬼威参は二匹を透明な箱から取り出すと、キッチンまで連れて行った。二匹をシンクの上に置く。 「ゆやあああああああああ!! やぢゃやぢゃああああああああ!!」 「ゆっぐぢにげ…どぼぢでにげらりぇにゃいにょおおおおおおおお!!?」 赤ゆにとって、シンクから床までの高さは致命的に高かった。この高度から落下すれば、命はないだろう。 赤ゆ達の中枢餡が警告を発した。そして、鬼威参はマッチ棒を取り出して、それを擦った。 ボスッという音がすると、マッチの先端から火が出た。失禁しながら、怯える赤ゆ達。 鬼威参は赤れいむを持つと、マッチの先端をあんよに近づけた。火が、あんよを覆った。 「ゆぎゃああああああああああああ!! あぢゅいいいいいいいいいいいいいいい!!」 「やべぢぇええええええええ!! れいみゅにひぢょいごぢょじにゃいぢぇえええええええ!!」 あれよあれよという間に、赤れいむのあんよは黒こげになっていった。マッチの長さは半分になっていた。 鬼威参は赤れいむをシンクに置くと、再びマッチを擦って火を灯そうとする。 「ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!」 「れいみゅ! れいみゅ!」 痙攣する赤れいむを、赤まりさは舐めて慰めた。鬼威参はというと、マッチに火を灯すのに苦労している。 中々、火が点かない事にイライラしていると、赤まりさはある決断をする。 ここから飛び降りて、一か八か逃げてやろう。そう思うと、赤まりさは赤れいむを置いてシンクから飛び降りた。 「おしょらとんぢぇぶぎゅっ!」 赤まりさは床に着地した。中枢餡の警告を無視して、飛び降りたのだ。当然、無事であるはずがない。 赤まりさの皮が裂け、餡子が大量に漏れ出ていた。鬼威参はそれを見ると慌てて、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。 「ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!」 「ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!」 姉妹揃って仲良く痙攣している。しかし、とりわけ赤まりさは深刻な事態だ。 今、赤まりさが死んでもつまらない。鬼威参は、そう思った。 赤まりさは側面に大きな亀裂を作っていた。鬼威参は、それを指で閉じるとオレンジジュースをたっぷりと掛けた。 見る見るうちに赤まりさの傷は塞がっていった。やがて、痙攣も収まってくる。 「ゆっ…! ゆっ…! ゆっ… ど、どぼぢぢぇにげらりぇぢぇにゃいにょおおおおおおお!!?」 赤まりさは絶叫した。前後の記憶がないらしい。鬼威参はオレンジジュースを冷蔵庫にしまうと、今度こそマッチ棒に火を灯した。 赤まりさを手に持ち、赤まりさのあんよをマッチの火で焼いていく。 「ゆぎゃああああああああああああああああ!! あぢゅいよおおおおおおおおおおおお!!!」 しばしの絶叫。マッチが一本、燃え尽きる頃に赤まりさのあんよは黒こげになった。 先程のオレンジジュースが関係のないところまで、回復を促しているかと思うと鬼威参は不快に思った。 「まじしゃのあんよぎゃあ…あんよしゃんぎゃあ…しゅんそくしゃんぎゃあ…」 俊足と自称する赤まりさも、このあんよでは歩く事すらままならない。 鬼威参は痙攣する赤れいむと、狼狽える赤まりさを手に持って透明な箱へと戻した。 直後に、赤れいむが目を覚ました。周囲を確認して、自分のあんよが動かない事に気付くと涙を浮かべた。 「どぼぢぢぇ…どぼぢぢぇ…れいみゅのあんよしゃんうごきゃにゃいにょ…?」 赤れいむの嘆きに、赤まりさが呼応した。 「れいみゅぅ…れいみゅぅ…」 「まりしゃぁ…まりしゃぁ…」 二匹の間に開いた微妙な間隔。僅か十センチにも満たないそれは、今の二匹にとって、とても長い距離だった。 二匹は埋められる事のない距離を埋めるが如く、それぞれの名前をか細い声で呼び続けていた。 「れいみゅ…れいみゅぅ…」 「まりしゃぁ…まりしゃぁ…」 それから昼になった。この頃になると、それぞれの名前を呼び合う体力もないらしい。 赤ゆ達はぐったりとしていた。視線は下を向いており、口をあんぐりと開けている。 「ゆぅ…」 「ゆ…」 時たま放つ言葉は、これだけだった。絶望と悲しみに囚われた声は、鬼威参の心をくすぐった。 鬼威参はキッチンへと向かった。そこから人間には刺せない、尖っていない注射針の付いた注射器を取り出した。 そして、オレンジジュースをコップに移す。コップに注がれたオレンジジュースを注射器で吸い上げると、透明な箱へと向かっていった。 「ゆぅ…ゆぅ…」 「ゆ…ゆ…」 鬼威参は衰弱しきった二匹に近づくと、透明な箱の前で語りかける。 「やあ、元気してるか?」 二匹は返事なのか呻きなのか分からない位に、か細い声で答えた。 「ゆ…」 「ゆぅ…」 鬼威参は満面の笑みを浮かべると、オレンジジュースが入った注射器を二匹に注射した。 「ゆぴゃあああああああああああ!!」 「ゆぴいいいいいいいいいいいい!!」 二匹は刺さった針の痛さで絶叫した。オレンジジュースが注射器から無くなると、二匹の体力はみるみる内に回復していった。 「ゆ…だしちぇにぇ! きょきょからだしちぇにぇ!」 「ゆっくちしにゃいぢぇ、たしゅけちぇにぇ!」 助けろと喚く二匹を、鬼威参は無視した。鬼威参は注射器とオレンジジュース、コップを片付けるとリビングへと向かった。 何度も体をよじったが、全く動かなかった。あんよは役立たずで、透明な箱からは出られそうもない。 その事実を知ると、二匹は静かに涙を流した。ただひたすら、親れいむの助けを待つしかないのだ。 「ゆっぐりのひ~! まっだりの゙ひ~!」 その頃、親れいむは相変わらず路上で歌っていた。何としてでも赤ゆを取り返さねばならない。 愛するわが子を取り戻すべく必死で歌うが、思うように上手く歌えない。涙声でしか歌えないが、それでも必死に歌った。 目を瞑り、愛しの我が子とゆっくりしている未来を想像した。とめどなく涙が溢れ出てくる。 「ゆぐっ…ゆぐっ…ゆぐりのひ~!」 滅茶苦茶な歌を歌っていると、カランと、何かが転がる音がした。親れいむが目を開くと、そこには百円玉が転がっていた。 そしてその先にいるのは、見知らぬ男だった。親れいむは額を擦りつけて、感謝の意を表した。 「あじがどうございばず! あじがどうございばず!」 男は答えた。 「いや、泣きながら歌うゆっくりなんて滅多に見ないからな。これぐらいはいいだろ」 男はそういうと、額を擦り続ける親れいむを背に去っていった。 親れいむは、それからも啜り泣きながら歌い続けていた。何だかんだで、金は集まった。 「それで、たった三百円か?」 翌日になって、鬼威参は赤ゆをポケットに詰めて、親れいむのいる道端までやって来ていた。 親れいむが集めたのはたった三百円。鬼威参が利子とついて、返済を求めているのは三百六十円。 六十円の差は大きかった。親れいむは必死に値切り交渉をした。 「おでがいじばず! これでがんべんじでぐだざい!」 三百円を鬼威参の足下に、舌で押しやって額を擦り続ける親れいむ。鬼威参の手には二匹が握られていた。 「たぢゅげぢぇえええええええええええ!!」 「あんよしゃんうごきゃにゃいにょおおおおおお!!」 親れいむは、そんな赤ゆを眼前に必死に頭を下げ続けていた。 「おでがいじばず! おでがいじばず!」 鬼威参は答える。 「無理だな。三百円を稼いできたのは偉いぞ。しかし、六十円足りない。足りないという事はどういうことか。 それは、赤ゆを返せないという事だ。お前が返さないなら、赤ゆは俺の物であることに変わりはない」 親れいむは涙声で狼狽した。 「ぞ、ぞんなぁ…どぼぢで…」 「じゃあ、そんな訳で、明日は九十円稼いでこいよ」 鬼威参は赤ゆと小銭をポケットに詰めると、その場を後にした。帰宅すると、透明な箱に赤ゆ達を放り込む。 「ゆぴぇっ!」 「ゆぴっ!」 赤ゆ達は痛がった。焼かれたあんよでは、起きるのもやっとなぐらいだ。 二匹はただただ、痛みと恐怖にブルブルと震えていることしかできなかった。 やがてしばらくすると、鬼威参がマイナスドライバーを片手に透明な箱の前にやってきた。 赤れいむを掴み上げると、その右目に突き立てた。素っ頓狂な悲鳴を、赤れいむは上げた。 「ゆっぴゃあああああああああああああああ!!」 赤まりさが突然起きた出来事に、悲鳴を上げた。 「ゆやああああああああああああああああ!!!」 そのままグリグリとマイナスドライバーを、あちこちの方向に動かし続けていた。 目玉は完全に潰れ、抉り取られた。鬼威参はその目玉を口にした。ゴクンと嚥下する音が響いた。 そして絶叫がこだまする。 「ゆっぎゃああああああああああああ!! れいみゅのおびぇびぇぎゃあああああああああああ!!」 「ゆやあああああああああああ!! 」 鬼威参は赤れいむを透明な箱に投げ入れると、今度は赤まりさを掴み上げた。そして右目にマイナスドライバーを刺した。 「ゆっぎょおおおおおおおおおおお!!!」 赤まりさも、赤れいむ同様に痛みに打ちひしがれた。左目があちこちに動く。 涙が鬼威参の手を伝ったが、鬼威参は気にすることなく作業を続けた。そして赤まりさの目玉を抉り取ると、口に頬張った。 「ゆ゙っ…!ゆ゙っ…!ゆ゙っ…! まじじゃの…まじじゃのおびぇびぇぎゃあああああああああああ!!!」 赤まりさの絶叫の後、赤れいむが再び叫んだ。 「ゆんやああああああああ!! もうやぢゃおうちかえりゅうううううううう!! かえりゅっちゃらかえりゅうううううう!!」 鬼威参はそれに答えるかのように話し始めた。 「いいや、ダメだよ。君達のお母さんがお金を返してくれないとね。九十円だぞ? チョコレート一枚ぐらいの価値があるんだ」 二匹は狼狽えた。 「むりにきまっちぇるううううううううう!!」 「もうやべぢぇえええええええ!! どぼぢぢぇぎょんなひぢょいごぢょじゅるにょおおおおおお!!?」 鬼威参は鼻で笑うと、リビングへと行ってしまった。取り残された二匹はというと、何もする事がなかった。 出来る事も無い。出来ると言えば、文句や歌う事ぐらいだ。しかし、そんな事をする余裕は二匹には残されていなかった。 それに、余裕があっても、叫ぼうものならばすぐさま鬼威参に舌を抜かれるだろう。二匹はゾッとした。 鬼威参はリビングでテレビを見ながら、考えていた。 金を借りずに、そのまま頑張って歌っていれば金を稼げたのにと。担保の意味も分からないまま、易々と赤ゆを差し出した事も。 まったく、自分達にとって都合の良い方にしか考えられない。ゆっくりとはお花畑の塊だ。いざ、自分に危機が迫った時にしか、物事を考えられない。 鬼威参は、いつしか眠りに就いていた。気付いた時には夕方を回っていた。 鬼威参は起き上がると、透明な箱へと近づいた。赤ゆ達はブルブルと怯えていた。 「やめ…やめちぇにぇ…」 「きょわいよぉ…きょわいよぉ…」 怯えながら後ずさりしようとする赤ゆ達。しかし、焼かれたあんよは言う事を聞かない。 鬼威参はそれを見ると微笑んだ。やがてキッチンへ向かうと、料理を作り始めた。 美味そうな匂いが、再び漂ってきた。赤ゆ達はグッと堪えて、その日を過ごした。 夜になる頃には、再びオレンジジュースの注射をされた。赤ゆ達の心は、限界だった。 翌朝を迎えて、鬼威参は赤ゆをポケットに詰めた。そして親れいむのいる道端までやってくる。 親れいむは鬼威参を目の当たりにすると、ボロボロと涙を流し始めた。 「おでがいじばず…おでがいじばず…」 鬼威参はそれを無視して、言葉を発した。 「で、いくら儲けたんだ? 九十円は返して貰うぞ?」 親れいむが舌を使ってお兄さんの前に差し出したのは、五十円玉が一枚だけだった。 鬼威参は鼻で笑うと、ポケットから赤ゆを取り出した。 「おきゃあしゃん…たしゅけちぇぇ…」 「おみぇみぇ…みえにゃいよぉ…まじしゃの…まじしゃの…」 親れいむは、愛する子供達の右目が潰れている事に驚愕した。 「ゆううううううううう!!? どぼぢでおぢびぢゃんのおべべがづぶれでるのおおおおおおお!!?」 「丁寧なご解説をどうも。明日は七十円を用意しておけよ」 鬼威参は茶々を入れると、五十円を拾ってとっとと家に帰った。親れいむは自分の不甲斐なさを嘆くように、シクシクと泣いていた。 お兄さんは帰宅すると、手を洗う事もせずに赤ゆをキッチンへと連れて行った。いつもと違う場所に、あんよを焼かれた場所に赤ゆ達は恐怖していた。 「なに…なにしゅるにょおおおおおおお!!?」 「やめちぇにぇええええええええ!!」 鬼威参は赤ゆの悲鳴などお構いなしに、赤ゆの髪の毛を毟り取り始めた。ビリビリと音がする。 毛穴の辺りからは微量の餡子が滲み出ていた。 「ゆっぴゃああああああああああああ!!」 「ゆぎゃぎいいいいいいいいいいいいいい!!」 二匹の悲鳴が張り裂けんばかりに、キッチンに響いた。鬼威参が一通り毟り終えると、二匹はすっかり丸坊主になっていた。 「れいみゅの…れいみゅのしゃらしゃらへあーじゃんぎゃあああああああああ!!」 「まじじゃの…ぶろんぢょへあーしゃんぎゃあああああああああ!!」 鬼威参は赤れいむにだけ、飾りのリボンを結び直した。それはハチマキのように、某アクション映画の俳優を連想させた。 鬼威参は思わず笑ってしまう。赤ゆ達はそれを見て、怒鳴った。 「にゃにぎゃおかちいにょおおおおおおおお!!?」 「どぼぢぢぇぎょんなごぢょしゅるにょおおおおおおお!!?」 鬼威参は笑いながら答える。 「それはだって、君達は担保だから」 鬼威参は、アハハと笑うと赤ゆ達を透明な箱に投げ入れた。そのままリビングに向かって、テレビを点けるとくつろぎ始めた。 赤ゆ達は透明な箱でプルプルと、ブルブルと震えている。 「まりしゃぁ…どうなっちゃうにょ…」 「わきゃらにゃいよ…きっちょ…きっちょおかあしゃんがたしゅけちぇくれりゅよ…」 その願いが果たして叶うかどうか、総ては親れいむの稼ぎに掛かっていた。 「おでがいじばずううううう!!」 この頃になると、親れいむは歌うのを止めて、金をくれと人々にせがんでいた。 人々が親れいむをチラチラとは見る物の、金をくれる人間はいなかった。 「おでがいじばず! おぢびぢゃんをがえじでもらうのにひづようなんでず!」 「詳しく説明してくれないか?」 通りがかった男が、親れいむに声を掛けた。男は屈んで、親れいむの話しに聞き入った。 それなりにゆっくりしていた事。金貸しに酷い目にあっている事を、親れいむは伝えた。 「ぞういうごどなんでず!」 「そういう事なのか…」 男は顎に手をやって考え始めた。 「幾らか分かるかい?」 「わがじばぜん…おがねざん、いっばいひづようなんでず!」 親れいむが狼狽した。男はまたしばらく、考えに耽った。 「まあ、借りるのはいいけど、返せなきゃダメじゃないか。今回は百円をやるよ。それで解決できたらいいけどな」 男が財布から百円玉を取り出した。親れいむの目の前に置かれる。親れいむは額を擦りつけて、感謝の意を表した。 「あじがどうございばず!」 「まあ、いいんだけどさ。きっと、上手くいかないだろうし」 男はそれだけいうと、去ってしまった。上手くいかないとは一体何の事なのか。 親れいむには今の時点では、分からなかった。それよりも、金が入った事で今度こそ返済できるかも知れない。 親れいむは、心の中で赤ゆ達に詫びると同時に、ようやく救えると安堵した。 「ゆっ! ゆっ! ゆっ!」 百円玉を咥えて、植え込みのダンボールまで持って行く。そこにあるのは、食いかけのチョコレートだけだった。 チョコレートは親れいむが、その甘さ、美味さから殆どを食い尽くしてしまっていた。 親れいむは、赤ゆ達と一緒に食べようと考えていた。しかし、いざ食べてみると止まらない。 食べる事を止められなかった。気付けばチョコレートは殆どが無くなっていた。狩りも全くしていない。 親れいむは歌を歌い続け、赤ゆを取り戻す為だから仕方ないと、自分に言い聞かせた。それは赤ゆ達への言い訳でもあった。 「なるほど、よくやったじゃないか」 鬼威参は親れいむのいる道端まで来ていた。無論、ポケットには赤ゆが詰め込まれている。 「おでがいじばず! おぢびぢゃんがえじでぐだざい!」 親れいむが狼狽えながらも、赤ゆを返すように迫った。鬼威参はポケットから赤ゆを取り出して、親れいむの前に置いた。 「はい、返したっと」 親れいむは、その姿に愕然とした。あれほどゆっくりしていた、赤ゆ達。しかし、今は右目を潰され、あんよを焼かれている。 挙げ句には髪の毛を全て毟られて、飾りが申し訳程度に乗せられているだけ。親れいむは叫んだ。 「ゆんやああああああああああ!! どぼぢでおぢびぢゃんがごんなごどにいいいいいいいいい!!?」 親れいむが叫んでいる間に、鬼威参は金を回収した。過払いの金など、返す気は毛頭無い。 「ゆっ…おきゃあしゃん…たしゅけちぇ…」 「まりしゃを…ゆっくちさせちぇ…」 衰弱しきった赤ゆ達。オレンジジュースの注射から大分時間が経っている。このまま放置しておけば、死ぬ事は確実だろう。 「どぼずればいいのおおおおおお!!?」 ダンボールに僅かに残されたチョコレートの事も忘れて、親れいむは叫んだ。 そこに鬼威参が、良い提案があると言葉にした。 「いいていあん…なんなの!? はやぐおじえでねえええええええ!!」 二日後、親れいむは道端でまりさとすっきりしていた。側には赤ゆはいなかった。 「すっきりぃ!」 「…すっきりぃ…」 親れいむは売春をしていた。ニョキニョキと緑々しい茎が、親れいむの額から生えてくる。 「ゆゆ! それじゃあ、まりさはかえるのぜ!」 「ゆん…」 親れいむはそのまま、鬼威参宅へとやって来た。 「ゆっくりただいまだよ…」 鬼威参が出迎えてくれた。玄関付近の透明な箱に、赤ゆ達は入っていた。 「ゆっくちおきゃえりなしゃい…」 「うぎょけにゃいよぉ…ぽんぽんへっちゃよぉ…」 衰弱した赤ゆ達に、親れいむは少し待ってくれと云った。鬼威参は親れいむに近づくと、額に生えた茎を毟り取った。 「ゆぎっ!」 親れいむの若干の悲鳴の後、茎に実った実ゆっくり達の表情は苦しげになる。 鬼威参はそれを透明な箱に放り込んだ。赤ゆ達は茎を、実ゆごと食べ始める。 「むーちゃむーちゃ…ちあわちぇー…」 「ちあわちぇー…」 鬼威参は、それを見て親れいむに言った。 「じゃあ、俺の分もよろしくな」 「ゆ…はい…」 親れいむはトボトボと玄関を出て行った。再び売春をするのだ。 鬼威参の提案とは、売春だった。家賃代わりとして実ゆっくりを、鬼威参に払うよう持ちかけたのだ。 赤ゆ達の食事も実ゆっくり。それは厳しい都会に於いて、オアシスを提供してくれるようなものだった。 雨風は凌げ、寒い思いもしない。れみりゃに襲われる危険性もない。それは動けぬ赤ゆ達にとっては、生き延びる為に必要な環境だった。 鬼威参はそれを提示した。そして、親れいむはそれを呑んだ。今まで棲んでいたダンボールを引き払い、鬼威参宅で暮らす事になったのだ。 暮らすといっても、許されたスペースは玄関脇だけ。それより奥は、鬼威参に蹴飛ばされてしまう。 あまりに酷いようならば、外に追い出すとも云っている。親れいむは売春を続けるしかない。 一つは赤ゆ達の食事の為。そして二つ目は鬼威参への家賃として。 親れいむには未来がなかった。このまま産む機械同然の働きを行って、赤ゆ達をゆっくりさせるしかない。 赤ゆ達は今はゆっくりしてないが、いつしかゆっくり出来る事だろう。親れいむはそう考えていた。 唯一、自分が死んだ後の事は考えていなかった。親れいむが死んだら、一体誰が赤ゆの世話をするのか。一体、誰が家賃を払うのか。 鬼威参は、親れいむの寿命が迫った時に、その事実を伝えるつもりだった。 なぜならば、騙され、裏切られたと知った時のゆっくりの表情は、とってもゆっくりできるから。 終 あとがき 最近あったこと。 医者「ウォッカはやめてください」 俺「安定剤もやめていいですか? 眠くて眠くて…」 医者「分かりましたから、ウォッカはやめてください」 俺「じゃあ、ワインはオッケー?」 医者「……じゃあ、まあ、ワインなら…」 俺「ハラショー!! ウラー!」 医者「飲み過ぎないで下さいね」 俺「うん」 独り言 ハードディスクがカッコンするねん。なんなのねん。本当に心臓に悪いからやめてほしいねん。 お前seagateやろ。seagateやったら、海の男いうイメージあるやろ。そんなにカッコンしてどないすんねん。 新しいHDD買わないとあかんなぁ。
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荒木を殺して帰り吸血鬼となる。 そう決心した後、再び持ち物の確認を進める…… ストレイツォは歓喜した。 最初はハズレと断定した支給品の釣り針と糸、そしてメガネ。 しかし、よくよく考えればこれほどの当たりアイテムは無い。 彼の能力―波紋―これを使う上で糸という武器は非常に有効だからだ。 肉体を武器とする波紋。 対吸血鬼用の技とはいっても人間を気絶させる位なら朝飯前であるこの能力の最大の弱点はリーチの短さにある。 通常は波紋というのは己の手や足から流し込む物だ。 つまり、吸血鬼の気化冷凍法等といった一部の技には非常に弱い。 だが、道具を介して波紋を流せれば? それも糸のような長くて変化に富む物であったら? ――敵に接近せずに戦える上に暗殺や罠を仕掛けることも可能となる。 しかし荒木もそんな万能な武器を無条件で渡すわけが無く、一つだけ悩みがあった。 それは――― (この糸は波紋が通りにくい…) そう、ナイロン製の釣り糸は波紋を通し辛く現状では武器としての用途を果たせないのである。 だが、そんな致命的な弱点をあっさりと解決できる裏技が一つだけ存在した。 (仕方ない、油でも探す事にするか) 油等の液体を塗る、こうする事によって本来波紋を通さない物質からも波紋を流す事が出来る。 彼はバッグの確認が終わったらひとまず油を探す事を決定した。 次にストレイツォは驚愕した。 ジョナサン・ジョースター、ディオ・ブランドー、ウィル・A・ツェペリ、ダイアー この四名の名を名簿に見つけてしまったからだ。 (荒木は吸血鬼で彼らは屍生人なのか?) こんな疑問が脳裏を掠めてすぐに消えた。 (ありえん話だ。彼らの他にこの名簿に載っている黒騎士ブラフォード、タルカスは波紋で塵も残さずに消えたはず。 又聞きではあるが、波紋で消えたのは事実。 いくら吸血鬼であろうともカスすら残っていない残骸を屍生人にはできまい。) 荒木は吸血鬼では無い。そんな結論を自らの脳内で導いたストレイツォ。 (しかし、吸血鬼でもないのにこんな事ができるとは。 荒木…貴様の素性に興味が湧いてきたぞっ!!) 荒木の存在に好奇心を抑えられないストレイツォ。 だが、ストレイツォは絶望した。 リサリサこと“エリザベス・ジョースター”の名を見つけてしまった事によって―――― ☆ ★ ☆ 何故だ!何故あの子を巻き込んだ!? 吸血鬼となり、人間としての自分を捨てようとした自身の最後の心残り。 自分の愛弟子であり、娘でもあった彼女。 二十年、人生において四分の一以下ではあったものの彼女と過ごした年月はこれほどまでに無く長く充実していた。 初めての赤ん坊の世話に戸惑いながらも、手探りで進み続けたあの頃。 幼い彼女の一挙動にもはらはらしながら過ごしたあの日々。 波紋の厳しい修行にも文句も言わずに取り組んでいた彼女。 確かにあの素晴しい才能には嫉妬してしまう事はあったが、むしろ親として誇らしく思っていた方が多い気がする。 そして結婚した彼女は私の下から飛び立って行った。 私には弟子がいる、だから私は孤独ではないはずなのだ。 なのに、彼女が去ってからは日々に魅力を感じなくなっていた。 確かに、数年もすれば彼女がいない生活に嫌でも慣れたものだ。 ただ……時々物足りない気分になってしまうだけ…… これから吸血鬼となる私は永遠を手に入れる事ができる。 それでも彼女と過ごした年月に勝るような時間を手に入れることはできないのだろう。 私はそう考えてしまうほどに深く彼女を愛してしまっていた。 しかし、人としての愛や幸せを捨ててしまうほどに若さを欲した。 いや、違う。 こんな事になってやっと理解する事ができた。 確かに若さが欲しかったのは本音であり、矛盾した表現であるが今までなら若さを手に入れたら死んでもよかったはず…… だけど、その若さを求めようと思った最大の原因に気が付くことは無かった。 いや、私は気が付いていたのだろう。 私の頭がそれを無かったことにしようとしてるだけ。 私が若さを求めたのは逃避、なまじ幸せな時間を過ごしたせいでその快感を再び得ることが出来ない現実からの逃げであった。 手に入るのは空白の時間だけだというのに…… ただ、彼女の変わりに永久を求める決意をしても彼女を殺す決心がつくことはなかった。 吸血鬼になる上で彼女のような優れた波紋使いは生かしておいては厄介すぎる。 なのに吸血鬼になってからのプランに彼女の殺害を入れることが出来なかった。 いくら彼女が優れた波紋使いでも、私なら不意を突いて殺せるにも関わらずだ。 そんな彼女がこのゲームに参加させられている。 ゲームに乗るということは自分の命と彼女の命を天秤に掛ける事。 私にそれができるのか? ―分からない 彼女は生き残る事が出来るのか? ―分からない 彼女に仲間はいるのか? ―分からない だが、彼女に仲間が出来たら私の事を間違いなく紹介するはず…… そんな中で私がゲームに乗ったことがばれたら? 当然彼女は信用を失ってしまうはず。 いや、それどころか誰かが彼女に危害を加える可能性まである。 人殺しの娘の評判がいいはずがない。 最悪、暴走した仲間に殺される可能性も…… ならば私はゲームに乗るべきではないのか? ―分からない 分からないことばかりだが、唯一分かった事。 それは自分と彼女が助かるための手段はただ一つ、荒木を殺して脱出するしかないという事だった。 ……その答えを出した彼の瞳は濁っていた。 自分の心の中で結論を出したのはいいが、彼はまだ吸血鬼になる事を諦め切れていない。 実際、このゲームを脱出した所で彼はあの幸せな時間を忘れる事が出来ないであろう。 だから彼は逃避の手段として吸血鬼になる事だけは変えれない。 ストレィツオの目の色は濁りきっている。 先ほどまでの澄んだ邪悪の色に愛といった不純物が混じった事によって、純粋な正義でも、純粋な悪でもない曖昧な色に―― ★ ☆ ★ 「おい、そこにいるお前!ちょっと止まりな!!」 ベンジャミン・ブンブーンが自分達の前方二十メートルほどを歩いていた男を止めようと声をかけた。 そして立ち止まった男であったが、非日常的な会場に置いても彼の格好は異様と思わざるを得ないものであった。 具体的に言えば全裸、腰に布が~~~とかそういうレベルじゃなくてまさに全裸。 しかも、男はそれを気にした様子がなく、少なくとも三人の目には堂々としているように見えた 殺し合いの会場で堂々と闊歩する全裸の巨人。 それは殺人の経験すらある現代日本に置いては重犯罪者の音石明でさえ、コイツとは関わりたくねぇ……と思わせる圧倒的破壊力を持つ。 「殺し合いに乗ってないなら荷物をこっちに投げろ!」 そんな音石の考えをあっさりスルーしてブンブーンは全裸の男に話しかける。 一見すれば、人のいい対主催。 相手に完全に猶予を与えてしまう甘ちゃんの行動にも見えてしまうかも知れない。 だが、口では相手と仲間になりたいと言ってはいるが、実際はこれっぽっちも彼のことを信用していなかった。 ブンブーンは保険を掛ける為にミセス・ロビンスンにこっそりと耳打ちをする。 「おいロビンスン」 「どうしたんだブンブーン?」 「オメェが最初に俺たちに攻撃したあれがあんだろ? 保険のためにいつでもそれでアイツに攻撃できるようにしときなっ。 万が一の時は……殺してもかまわねぇ」 「承った。だが俺の力はお世辞にも殺傷能力が高いとはいえないからあんまり期待すんなよ?」 「その辺は分かってる。足止めさえ出来れば……ってやつだ。 で、ちぢくれボーズ。お前の出した変な像、アレの能力は遠くの敵に有効なのか?」 「いや…俺のスタンドは戦闘向けじゃない……」 「かぁ~使えねぇなぁ、本当にLAのほうがまだマシだぜ」 (だからLAってだれだっつーの!?) 能力が戦闘向きで無いと嘘を付いた自分が悪いのだが、使えない発言みイラッときて、早々と同じ突込みを心の中でする音石であった。 けれども心中のツッコミが通じるはずが無く、ブンブーンは会話を打ち切って再び全裸に話しかける。 「おい!もう一回言うぜ?荷物をこっちに投げな!!」 残念な事に全裸こと“サンタナ”はブンブーンの警告を受ける気がなかった。 彼は完全にゲームに乗っていて既に一人を『食って』いる。 しかし、長い間の絶食生活が開けたと思いきや再び絶食生活を送る羽目になった彼は非常に餓えていた。 一応さっきの女で体力は回復したものの彼の欲求は止まらない。 食べたい、人を、吸血鬼を、生き物なら何でも良かった。 そして腹をある程度満たしたら“ナチス”とやらの基地から脱出したように、ここからも脱出するつもりであった。 ここにいる、仲間のカーズ達と共に――― リーダーが脱出派の集団と脱出する気の個人、ある意味では彼らは志を共にしているのかもしれない。 だが彼ら全員の認識は全くバラバラだった。 サンタナは目の前の三人を仲間や敵ではなく『餌』とみなしていた。 ブンブーンは脱出派だったが、息子の救出を参加者の命より優先している。 音石は意志が弱く、自分のスタンスすら明らかになっていない。 ロビンスンに至っては優勝する気が満々である。 ブンブーンの警告を完全に無視して三人の下に走ってくるサンタナ。 この姿を見た三人の意識は共通していた。 ――やつは、ゲームに乗っている―― ロビンスンが虫で攻撃する 飛ぶ小さなゴミ 全弾命中 気にせずに向かってくるサンタナ 虫に目潰しをさせようと飛ばす 全てをキャッチするサンタナ 驚愕するロビンスンを他所にスタンドを発動するブンブーン 立ち向かう黒い蜥蜴 それは一瞬、一瞬であったがサンタナの動きを止めてみせた。 だがサンタナがその手足に力を込めて抵抗すると、爆発するかのように蜥蜴の姿が崩れて辺りに砂鉄が飛び散る。 磁力によって再結合を図るも、柱の男の瞬発力には敵わない。 そしてサンタナは三人の目の前で腕を薙いだ――――― ★ ☆ ★ 町一つの電力を使えば敵はいない…そう考えていた時期が俺にもあったよ畜生! あんな化け物に勝てるわけねぇだろうが…… 半泣きの俺は涙を拭ってこれからの事を考えることにした。 さっきの怪物、アイツは正真正銘の怪物だ。 確かに力やスピードのみなら恐らくフルパワー時の俺のスタンドのほうが上だ。いや、そう信じたい。 だけどヤツには勝てる気がしねぇ。 あの得体の知れない能力に関わるのはもう懲り懲りだ!! 全速力で走ったおかげで荒れまくっていた息が少しずつ整っていく。 しかし未だに足の震えは止まらないし、心臓も痛いほど鳴っているのが分かる。 初めて人を殺っちまった時もここまでは焦んなかったぜ… いや実際、問題は切実だ。 この殺し合い、もしかしたらヤツよりも強いやつがいるのかもしれない。 そんなヤツがいた時に俺はどうやって生き残ればいい? 大体電気すらない会場で俺はどうすればいいんだ? ―――これからの方針は案外アッサリと決まった。 荒木飛呂彦、ヤツの能力は底が知れなさ過ぎる。 承太郎やあんな化け物を一度に連れて来る能力。 多分、ヤツは時を止める以上に凶悪なスタンド能力を持っているのだろう。 そんなのに対して、ちょっと仲間がいる程度で勝てると思うか? 俺は絶対に思わねぇ…… かといって、この殺し合いで次々と殺していって優勝できる気もしない俺に残された方法は? ………やっぱり仲間は必要だよな。 多少落ち着いた俺の頭が導き出した答えはそれだった。 承太郎や仗助ならあの化け物をぶっ殺してくれるかもしれない。 それに承太郎の判断力は異常だし、仗助の能力も仲間になったら頼りになりすぎる! 億泰の野郎も頭はあれだが一応スタンドは強いしな。 だが、奴らが俺の仲間になってくれるんだろうか? 億泰の兄貴をぶっ殺して、ついさっきまで仗助の親を殺そうとしていた俺が… そんな都合のいい話がある訳ねぇよな~ それどころか俺を危険人物として広げてるかもしんねぇ…… ブンブーンのおっさんみてぇな人がいいヤツもまだまだいるだろうしな。 あいつらがチームを作ってたってなんら不思議はねぇぜ。 と、なると俺は承太郎達と接触してないヤツを探して仲間になるのが先決ってやつか? 兎に角信用を得なければどうにもならねぇ。頼むから乗ってないやつに会わせてくれよ…… まぁ、俺は乗っているんだけどな ジャリッ 「ヒッ!!」 自分で踏んだ砂利の音にビビリまくる彼。 ヘタレな彼のステルスマーダー道は険しい? 【現在地不明/一日目・深夜】 【音石明】 [時間軸] チリ・ペッパーが海に落ちた直後 [スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(ほとんど戦えない状態) [状態] 健康、酷く焦っている [装備] なし [道具] 基本支給品、不明支給品 [思考・状況]基本行動方針:優勝狙い 1.優勝を狙う 2.とりあえず仲間が欲しい 3.チャンスがあれば民家に立ち寄ってパワーを充電をしたい 4.ミセス・ロビンスンをスタンド使いだと思っています 5.サンタナ怖いよサンタナ ★ ☆ ★ クソっ! どうなってやがる!! 俺の虫を全て潰された時点で俺はアイツとの間にある絶望的な力の差を感じてしまった。 ジャイロ・ツェペリが使ったチャチな鉄球なんかじゃねぇ純粋な身体能力。 それは高速で飛ぶ虫、しかも1匹2匹なんて数字じゃすまねぇ数、それを全て捕捉した上に掴みとりやがった! しかも、こちらへ走ってくるスピード。 これもまた人智を超えたものであり、野生の獣でも出せないような圧倒的な速さであった。 つまりヤツは動体視力、反射神経、脚力がずば抜けてるってことだ。 ……だけど“それだけ”なら俺らが負ける事はなかったかもしれねぇ。 ここからが本当の地獄ってやつだった… こっちに走ってきたあいつが何かやったのは分かった。 ただ…理解できたときはもう完全に手遅れってヤツだ…… ブンブーンの足が消し飛ばされたって分かったときにはな…… そっからの記憶? んなもんねぇよ! こちとら自分一人を守るので精一杯だったってのによ~ あ、これだけは見えたぜ。 音石の野郎が一目散に逃げる姿だけはな。 まぁ、俺も人のことが言えないがな…… 【現在地不明/一日目・深夜】 【ミセス・ロビンスン】 [現在地] 不明 [時間軸] チョヤッを全弾喰らって落馬した直後 [状態] 健康 [装備] なし [道具] 基本支給品 [思考・状況]基本行動方針:優勝してレースに戻る 1.アイツはやばすぎる! 2.何とか生き残って優勝したい 3.サンドマンやマウンテン・ティムなどの優勝候補を率先的に潰す ※虫の数が激減してます ★ ☆ ★ オトイシとロビンスンの野郎共が逃げていくのが、半分薄れていく意識の中でやけにクッキリと見えた。 畜生!ワシはここで終わっちまうのか? ヤツにやられた時、自分が“食われた”のだと理解する。 無くなった右足に不思議と痛みは無い。 ただ、自分の足から命が流れて行く実感だけがあるのみだ。 意識が少し遠のいてゆく、そんな中でワシは無意識の内に“銃弾”を掴んでいた。 ―――銃弾?アンドレの血がついた銃弾? 遠のいた意識がハッキリとしてゆく。 目の前にはあの化け物が俺に覆いかぶさろうとしているのが分かった。 食われる!?いや、食われるわけにはいかない!! アンドレがワシの助けを待ってる以上諦めるわけにはいかねぇ。 とっさに自分の能力“スタンド”だったかを発動する。 再び現れる砂鉄製の大蜥蜴、さっきはパワー負けしちまったが今回は勝つ! それは、気合でも根性でも奇跡でもねぇ。 俺“達”の能力が成し遂げることなんだ!! 地面から湧き上がるように出現する大蜥蜴。 先ほどよりも遥かに機敏な動きで化け物に組み付く。 さっきの様に化け物は俺のスタンドを振り払おうと力を入れる。 だが、離れない。 明らかに先ほどより力を入れているようで、全身に血管が浮いているのが見える。 それでも離れない。 一部が弾け飛んだが、俺の呪いに嵌った今ではその程度なんでもない。 弾け飛んだ砂鉄が銃弾の様な勢いで化け物に張り付いていく。 これは…いけるんじゃねぇか? いや、現実はそんなに簡単に物事を解決させてはくれない。 「MMMMMMMMM!OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」 雄たけびを上げた化け物が更に力を入れて、衝撃で砂鉄を吹き飛ばそうとする。 ちっ!ちょっと厳しくなってきやがった。 黒い蜥蜴のあちこちに罅割れが生まれてくるのを見てワシは焦燥感に狩られた。 一部であったらすぐに再生できるが、一気に吹き飛ばされたら再生前にあの瞬発力であっという間に間を埋められて即アウト!本当にふざけた化け物だな畜生ッ! 本当ならこの隙に逃げてぇ所なんだけどよ、この足の所為で逃げらんね~んだよな。 だから生き残る為にはここでヤツをぶっ殺すしかねぇ! 俺は切り札であった銃弾をヤツに投げた。 血液が飛び、ヤツの脇腹辺りに付着して一瞬で吸い取られるかのように消えた。 だが、それでもアンドレの分はキッチリ発動したらしい。 再び力の増した大蜥蜴にヤツは為すすべなく取り押さえられる。 さて…傷口でも塞ぐか。 顎のプロテクターの一部を使って傷口を完全に覆う。 当然一時的な処置であって長持ちするとは思えねぇ、だがなっ!こいつを倒すまでには余裕だぜ! ★ ☆ ★ ブンブーン一家の能力は磁力。 更に一人より二人、二人より三人といった形で人数に比例して強くなってゆく。 その特性ゆえに、べンジャミン個人での発動、支給品であったアンドレの分の発動と徐々にサンタナの磁力は増していった。 磁力が増す。 つまり鉄を引き寄せる力が強くなり、砂鉄でできた蜥蜴がより強い力でサンタナに張り付こうとすると言う事だ。 大蜥蜴との格闘を続けるサンタナ。 振りほどこうとしても振りほどけない。 だが彼は気が付いていた。この蜥蜴が目の前の男によって生み出されているということを。 何も身体能力と触れるだけで人間を食う事が柱の男の能ではない。 多彩な技、これも柱の男達の真価の一つである。 だが、彼らが人間の上の存在である所以をブンブーンは知らない。 唐突なことだった。 サンタナの体を突き破った肋骨が蜥蜴を易々と貫通しブンブーンを襲う。 あくまでもサンタナから発生する磁力を力としている大蜥蜴にはそれを止めるパワーは無く、 更には右足が無い彼にそれを避ける術がある筈もなく、胴体に二本突き刺さった。 サンタナが吸っている所為か突き刺さった腹部からの出血は少ない。 だが内臓の一部をやられて倒れたまま痙攣するブンブーン。 この怪我ではきっと長くは持たないはず… しかし、ブンブーンの抵抗はまだ終わらなかった。 それは生への執着?それとも息子を助けるため? 重症の彼を動かしたのがどっちであるかは本人にしか分からない。 兎に角、彼は自分の死という結果には納得する気が無いらしい。 蜥蜴をサンタナの後ろへ回りこませて再び取り押さえさせる。 纏わり付く砂鉄にバランスを崩してそのまま後ろへ倒れるサンタナ。 半分無理矢理抜けた肋骨により広がった傷口に顔をしかめながらも、砂鉄でサンタナを覆い地面に貼り付けにする。 (畜生!この怪我は流石にヤべーんじゃねぇか? でもよぉ、ついさっきアンドレに“あんな”事言っちまったからな…弱音を吐くわけにはいかねー!) 貼り付けにしたサンタナにこれ以上近寄りたくもないし、かといって放置し続けるのも辛い。 しかも止めを刺すにも、自分の能力で直接的な殺傷能力を持つ技は一つもない。 つまりは完全に詰んでしまったというわけだ。 いや、正確に言うと一つだけ方法はある。 彼に回ってきた支給品の一つ拡声器、これを使って助けを呼ぶ事だ。 確かに、誰が来てもサンタナの始末をするのを手伝う位はやってくれるだろう。 この会場に来てから出会った参加者が二人とも異能を持っている上に、 おかしな能力を見せたマウンテン・ティムまで参加している事から彼はこの殺し合いに参加するメンバーが常人ではないことに薄々勘付いていた。 だから、動きを封じたコイツを安全に殺せる連中はいると確信している。 だが、そのメンバーがサンタナを殺した後どうするか? その懸念がブンブーンに拡声器を使わせる事を躊躇わせていた。 しかし、彼は使う事を決心した。 自身の体力が限界に近づいている事を悟ったから。 もぞもぞと砂鉄が動きだしているのがハッキリと視認できるようになったから。 そう、その後を考える余裕など彼には残っていないからだ。 ★ ☆ ★ 「すまねぇっ!誰くぁッハーハァ助けてくれ!人をハァ人を食う化け物に襲われちまったんだ!! まっ、まだ俺が食い止めてるが状況は最悪だ!誰でもいい!助けに…グッ」 明らかに中年男性のものであろう大声が聞こえた。 方角から察するに恐らく南西。 内容によると助けを求めているようだったが行くべきか否か? あの声から察するに嘘を付いている様子は無い。 それに、人を食ったのが本当なら相手は吸血鬼か屍生人であろう… ならば私が行くべきなのか? いや……しかし、私はこの殺し合いでどう生きていくか決まっていない。 だが、吸血鬼達は私の方針がどうなろうとも敵として立ちはだかるだけなのでは? あいつらは殺し合いに抵抗を持つどころか嬉々として乗るだろう。 ならば、私が万全な今の内に仕留めておくべきなのでは? 助けを求める事が出来る時点で、その男はある程度抵抗出来ていると言うわけだ。 つまり、多少なりとも吸血鬼は消耗している! この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない! もしかしたら石仮面の手がかりを握っている可能性もある。 いや!それどころか支給品が石仮面だった可能性だって十分ありうる!! どっちにしろ、私の野望への第一歩にはなるわけだ。 さて、向かわせてもらおうか。 ★ ☆ ★ ストレイツォがたどり着いた時、既にブンブーンは限界であった。 だが、彼は賭けに勝ったのである。 息も絶え絶えになってしまっているが、その瞳からは希望の色が見えた。 しかし、彼のそれはぬか喜びに終わる。 「あんた…逃げな……ここにいるやつは危険すぎヒュッ。 この足を見ろよ…あいフー、あいつに触れられただけでこの様だ。」 老人が来たことに落胆しながらも、ストレイツォに逃げるよう促すブンブーン、 しかし、ストレイツォは引いたりしない。 「逃げろ?私は君が生まれる前から化け物の退治を生業としてきた。 安心しろ、ここは私が引き受ける」 そういって構えを取るストレイツォ。 彼の口から流れ出る呼吸音を聞いてサンタナの反応が一変する。 先ほどまでの抵抗とは違うまさに必死の抵抗が見られた。 そう、彼は覚えていた。 絶対的強者であった彼に初の敗北をもたらしたジョセフ・ジョースター。 彼の使う波紋と呼ばれる技の存在を。 当たったらダメージは必至。 そんな極限下で彼が下した判断は 上が駄目なら下。 この一見シンプルな考えは実際には実現が難しい。 何故なら、地面と言うものは意外と硬くて掘りづらい物だからだ。 ただし、これには普通の人間だったらいう条件が付属する。 そう、サンタナの柱の男の身体能力は重し付きでそれを成し遂げる位の力は優にある。 手足や肋骨で少しスペースを作り、その後はドリルのように体を回転させて掘り進む。 ある程度離れた所為かブンブーンの能力も解除されたようで、体に纏わりつく砂鉄は消えていた。 だが彼は引かない。 自身のプライド、食事を邪魔された怒り。 このドス黒い復讐心が彼の体を突き動かす。 突如、ストレイツォの後ろから飛び出すサンタナ。 ストレイツォはそれに反応して蹴りを繰り出す。 「爺さん、アイツに直接攻撃は止めろっ!!」 ……ブンブーンの助言は空しく響くだけ ストレイツォのキックは止まらない。 これから起こる惨劇に目を背けそうになるブンブーン。 しかし目を背ける前に、失血やスタンドの酷使で気絶してしまったが…… だが、彼が恐れていた事態は一向に訪れなかった。 普通にヒットするキック。 成人男性と比較しても、遜色が無いどころか遥かに鋭いであろうその蹴りを食らったサンタナは倒れこむ。 が、立ち上がった彼に致命傷を負った気配は全く無い。 いや、キックを喰らった箇所が多少融けてはいるが動きに支障は無さそうだった。 (なにぃ!?波紋を直撃で喰らって死なないだと?こいつは吸血鬼じゃないのか?) しかし、それではさっき見た異常なスピードでの地中堀りが納得できなくなる。 それに、波紋が全くノーダメージという訳でもない。 つまりこいつは吸血鬼の上位の様な存在なのでは?と推測するストレイツォ。 その推測をろくに考える間は無かった。 サンタナの猛攻が始まったからだ――― ストレイツォは焦っている。 先ほどからヤツの攻撃をさばき続けているが一向に隙が見えない。 いや、隙はある。 ただ、自分の体がそれを突いていけないだけだ。 本当に醜く老いたこの体が憎い。 早く吸血鬼となって若さを取り戻したい。 そんな邪念が災いしたか、強力な一撃を脇腹に貰う。 「ぐっ!」 内臓がやられたか、自分の血が口から垂れてゆくのを感じた。 この身体能力…… 接近戦でやりあうには相当キツイ…… 先ほどの釣り糸に己の血を垂らして波紋の伝導率を上げる。 打撃よりは威力には劣るものの仕方あるまい。 不慣れな武器でどこまでやれるか…… まぁいい。いざという時はこの男を犠牲にして逃げればイイだけだ。 ★ ☆ ★ ワシは……寝てたのか? 目の前でジジイと化け物が戦っている。 糸で戦ってるジジイ。 化け物にもその攻撃が効いてるというのが驚きだが、やはり致命的ダメージにはならねぇ。 あっ!一撃喰らいやがった!! 吹き飛ぶジジイ。 俺は見た。やつの持っている糸の先に付いた小さな針を。 それが夜の闇のなかで金属特有の光の反射を見せた事を。 どうやら……俺の出番ってヤツか? 既に俺の体はボロボロで、能力一つでも致命傷になりかねない。 だがそれがどうした? さっきもいったが、あそこでジジイが負けたら俺は死ぬしかねぇ。 ならば一か八かでも生き残るほうに掛けてぇに決まってるじゃねぇか。 渾身の力を振り絞った能力発動。 今の磁力はブンブーン一家勢揃い並みには出てるんじゃね~のか? ★ ☆ ★ 急に釣り針の軌道が変わった。 まるで引き寄せられるかのように、サンタナの元へと飛んでゆく針。 さっきまで飛ぶ方向が微妙で苦戦していたストレイツォは思わぬ援軍に驚く。 (これは……あの男の能力なのか? いや、今はそんな事を気にしている場合ではないな) くっ付いた針を支点としてサンタナを簀巻きにするかの如く糸を操作するストレイツォ。 全身の力をフルに使って抵抗するサンタナ。 軍配はストレイツォに上がった。 ナイロンの頑丈さ、波紋。 この二重の縛りから逃げることはたとえサンタナの力を以ってしても不可能である。 そしてストレイツォは呼吸を溜める!溜める!!溜める!!! 「このストレイツォ!容赦せん!!」 ベストの時に限りなく近付いた波紋。 それがサンタナの体を焼いてゆく。 「UOOOOOOOOOHHHHHHHHHH!!」 苦悶の表情を見せるサンタナ。 既に彼の上半身と下半身は泣き別れていて、更にそこから波紋がサンタナの体を蝕んでゆく。 これを見て、決着は付いたものだと思い、ストレイツォはブンブーンの元へ行った。 「おい、まだ生きてるか?」 息遣いが非常に危ういがギリギリの状態で生きているブンブーンは弱弱しく頷いた。 「すまないが、一つだけ聞かせてもらいたい――――」 ストレイツォは本当は 「今のはお前の能力だな。あれは一体なんなのだ?」と聞きたかった。 しかし、明らかに能力の所為で弱ってしまっているブンブーンを見て、口から思わず出た言葉はこれであった。 「お前は何で命を懸けるんだ?今の能力はお前の生命力を削って出したんだろ?」 「そりゃあ…爺さんが負けたら……俺も死ぬからじゃねぇか」 安堵したか、苦しそうながらも軽口を叩くブンブーン。 ストレイツォにとってブンブーンの返事はある程度予想の範囲内。 それでもストレイツォは質問を続ける。 「だが今のお前は相当辛そうではないか?そこまでして生に執着する理由があるのか?」 相当な愚問であるとストレイツォは自覚していた。 吸血鬼になるために、どんな思いをしても生きようとしているのは自分なのに…… 何となく、本当に何となくの質問であった。 「あぁ…おクハッ、俺の息子が荒木に……利用さ…されててな…… 絶対に…助けに…行かなきゃならねぇんだよ……」 雷が落ちた。 このような表現はよく聞くが、実際に体験する羽目になるとは夢にも思っていなかった。 息子がいる。 つまり、この中年男性は父親なのだ。 自分と同じ父親。 その上、自分の息子が荒木に利用されているらしい。 彼になら、この胸の内を打ち明けられるのでは? 別の父親からの意見が聞きたい。 そんなストレイツォの望みが叶う事は無かった。 上半身から肉片を飛ばして来るサンタナ。 波紋を帯びたストレイツォにとってはその程度問題にならず、一瞬で肉片を塵へと変える。 しかしブンブーンは? 波紋使いではない彼は、当然肉片の餌食となる。 徐々に侵食されてゆく感触を感じとりながらも、限界を更に超えてブンブーンは自らのスタンドを発動させた。 グジャア 二人には何が起こったのか分からなかった。 特に、磁力によって肉片を引き剥がそうとしたブンブーンにとっては予想外すぎる結果である。 引き剥がそうとしたら飛んできた。 この超常現象の答えを説明するために少し前に戻ろう。 上半身と下半身が真っ二つになった状況でサンタナは考える。 人を食って回復しなければ死にかねないと。 しかし、波紋使いであるストレイツォの所為で接近はできない。 それに肉片を飛ばしてもブンブーンの能力で引き離されてしまう。 ならば、その能力を逆手にとればいい。 サンタナの知能がその策を即座に生み出す。 下半身をこっそりと二人の裏へと移動させる。 奴らは会話をしているのか、サンタナの下半身に気が付く様子は無い。 ちゃんと目的地に着いた下半身を確認して、サンタナは自らの体から肉片を飛び散らせる。 肩の下辺りまでを犠牲にしたこの攻撃をストレイツォはあっさりと塵にしてしまった。 が、ここまでは計算内。 問題のブンブーンの方は能力を発動させて―――― 予測通りに引き付け合う上半身と下半身によってプレスされた。 ★ ☆ ★ サンタナはブンブーンの体に入ろうと、右足の切断面を狙う。 止血に使っていた鉄を軽々と引き剥がし、痛がるブンブーンを無視して体内へともぐりこんだ。 「!?」 ストレイツォは完全に出遅れた。 気が付いた次の瞬間にはサンタナに操られたブンブーンの拳を喰らって吹き飛んでいる。 サンタナに食われてゆくブンブーン。 彼の執念が最後に一言残すのを神に許させた。 「なぁ…爺さんよ……息子を………アンドレをた……」 途中で途切れた遺言。 だが、その意思は確かにストレイツォへと届いた。 そしてそれはかつて彼が持っていた黄金の精神を揺り動かす。 (名も知らぬ男性よ!お前の遺言は波紋戦士ストレイツォが確かに受け継いだ!) 自らを波紋戦士と呼んだストレイツォ。 彼の瞳に迷いはもうない。 若き日に持った、吸血鬼から人々を守るという決意。 コイツを倒す、その熱き思いが彼に再び力をもたらす。 接近戦。 人の皮を被ったサンタナには釣り糸からの波紋は通じにくいと判断したストレイツォの唯一取れる手段である。 波紋を帯びたパンチ。 それを普通に手で受け止めるサンタナ。 やはり波紋が中までしっかり通らないらしく、怯んだ様子すら見られない。 だけどもストレイツォは焦らない。 掴まれた手を支点にして――唯一むき出しの部分である右足に波紋を帯びたドロップキックを叩き込む。 「GUUUUUUU!」 効いた。 ブンブーンの顔をしたサンタナが苦痛に悶えている。 追撃として足に蹴りの嵐を食らわせるストレイツォ。 そこでサンタナが取った行動は、波紋に蝕まれた足を切り離す事だった。 足を失って、互いのハンディは無くなる。 いや、サンタナは右足が無いとはいえ十分な戦闘能力はある。 しかしストレイツォは波紋が効きにくい今、常人より上程度の能力しか残ってない。 片足で器用にバランスを取りながら両腕、肋骨と計十本の攻撃をしかけるサンタナ。 まず右手を左手で受け止める。 続いて飛んでくる左手を次は右手で受け止める。 肋骨の内四本は足でガードする。 残りの四本の内三本は胴体で止めた。 だが残りの一本が――――― 肺に突き刺さった! 「がっ、がはっごほっ」 先ほどの喀血よりも酷い流血。 そして、肺へのダメージ。 波紋使いにおいて肺へのダメージは致命的なものである。 ジョセフとの戦いでそれを学んだサンタナは迷い無くストレイツォの肺を狙ったのであった。 バリッ!バリバリバリ 裂けたような音を出して、脱皮したかのようにサンタナがブンブーンの中から出てくる。 抜け殻となったブンブーンの体がシナシナと崩れ落ちる。 弱点となる柱の男の部分をさらけ出した理由。 そう、それはもうストレイツォは波紋を練れまいと見切ったからだ。 一歩、また一歩。 徐々にサンタナが近付いてくるのがストレイツォも理解できている。 (ここで俺も食われるのか?すまない!すまないッ!!) 心の中で名も知らぬ男に心からの謝罪を繰り返す。 だが、最期はやって来ない。 サンタナの警戒心。 ジョセフにしてやられた経験が、彼に慎重さを与えてくれた。 取り込む前に確実に息の根を止めるっ! これが苦い敗北で得た、波紋使いへの対処法であった。 重い蹴りが一発、ストレイツォの胴体へと食い込む。 ギリギリで練り上げた波紋により致命傷は防いだものの、肺が一つ潰れている状態で練った波紋では碌な防御になるはずも無く、木の葉の如く吹き飛ばされていった。 致命傷。 この攻撃で死なないとしても、彼にはもう体力も気力も残っていない。 嬲り殺しにされるのは秒読みかに思えた。 駆け寄ってくるサンタナ。 その姿はほぼ完璧のフォルムを保っていて、美しくも見えた。 そして後五メートル、四メートル―――― 美しいフォルムを維持したまま見事にサンタナは後ろにずっこけた。 同時に宙を舞う黒い粒子。 ストレイツォは理解した。 ブンブーンの砂鉄に足を取られてサンタナが滑ったと言う事を。 ★ ☆ ★ これが偶然の産物であると言う事は分かっている。 だけど、私はこれをあの男からの贈り物だと思いたい。 ――あの最期まで息子の事を思って死んだ男からの。 そう考えると不思議に力が湧いてくる。 それは、残った肺が生み出している波紋の力なのだろうか? いや違う。 私には波紋を練るだけの力は既に残っていなかった…… あの男が教えてくれた力。 大事な何かを守るための力。 それが私に再起を促す力となったのだ。 そうだ、私も命を懸けなくては。 ここで逃げたら自分をエリザベスの父親と誇れなくなるではないか。 よろよろと立ち上がる。 相手も立ち上がったが問題ではない。 深仙脈疾走(デイーパス・オーバードライブ) 呼吸すらままならない私が唯一使える切り札。 当然、これの行使は命懸けとなるがやる価値はある。 ヤツがこっちへ近寄ってくる。 私は自らの生命エネルギーを右腕へと集中させた。 老いぼれの上に死にかけてる体にもここまでの力は宿るのだな…… これを見ると、若さを求めた自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。 いや、無駄な考えは止めよう。 ヤツが目の前に立った。 「究…極ッ!深…仙……脈…疾……走ッッ……!」 私は足に力を入れて右手をヤツに叩きつける。 型もへったくれもない、乱雑な一撃。 それがヤツの肩をブチ抜いて――― ★ ☆ ★ 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 傷口から体の肉が蒸発してゆくサンタナ。 それを霞んだ目で見つめるストレイツォ。 悶え苦しもうが、一部の傷口を切り離そうが波紋の勢いが途絶える事は無い。 そして、波紋傷が頭部へと昇り……サンタナは消滅した。 カララァン 金属音を放ちながら持ち主を失くした首輪が落下する。 この戦闘に勝ち残ったストレイツォ。 しかし、彼には足りていなかった。 生きてゆくために必要な力が。 生命を保つ上で必要不可欠なものを使ってサンタナを倒した彼には余力など微塵も無い。 だが彼は歩いてゆく。 もう一人の父親、ブンブーンの元へ。 「子供とは……いいものだな……」 そう言い残してストレイツォはブンブーンの傍らへと倒れこんだ。 ★ ☆ ★ あぁ、私はもう駄目なのだな。 しかし、今では一欠片の後悔も私の心には無い。 今思えば、中々の人生でなかったのではないか? 空を仰げば……エリザベスが迎えに来ている? いや、見間違いだろう。 彼女は強く、そして私の様に道を踏み外すはずもない。 この殺し合いでも生き残って―――― 幸せになってくれエリザベス。これが父親としての最期の願いだ。 ★ ☆ ★ 二人の父親は元の世界で目的のためには殺人すら厭わないような人物であった。 それでも彼らは子供の為に命懸けで戦い、散っていった。 彼らの精神は何処かへ繋がれて行くのだろうか? この会場に残る親達は彼らの様に子供の事を思う者ばかりである。 彼らの意思はきっと何処かに受け継がれてゆく。 【ストレイツォ 死亡】 【サンタナ 死亡】 【ベンジャミン・ブンブーン 死亡】 【残り 72人】 ※戦いはE-6でありました ※二人の死体のすぐ傍にサンタナの首輪があります ※ブンブーンのデイバッグも落ちています。支給品は拡声器、その他不明支給品が0~2個です ※アバッキオの現在地は不明です。 もしかしたら、決着を見たのかもしれないし、全然追いついて無いのかもしれません ※ストレイツォの支給品は拷問セット(5部)でした 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 15 第一章 ストレイツォ ―その穢れたる野望― ストレイツォ 29 未来からの/未来への伝言 サンタナ 36 灰色い(あやしい) 音石明 60 おかしな3人 36 灰色い(あやしい) ミセス・ロビンスン 84 虫と恐竜 36 灰色い(あやしい) ベンジャミン・ブンブーン
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【希望崎学園】STAGE 試合SSその1 Opening 1『俺の勝手』 「ママは私を産んだわけじゃなくて、私を造ったの。人造生命体(ホムンクルス)っていうやつ」 カレンの無感情な声を、グレイタウルは呆然と聞いた。 「……なんだそりゃ」 「ええと、ママの細胞を高速培養して、魔導成形して、圧縮情報呪文を詰め込んで教育を」 「造り方を聞いてるわけじゃねえよバカ!」 怒鳴られてもカレンはきょとんとしている。 それがまたグレイタウルを苛立たせた。 「道理で、母親が空から降ってくるにしちゃ反応が薄いと思ったぜ。何がママだ。娘どころかお前、あのクソ魔女の劣化コピーじゃねえか!」 無謀な相手に挑み大敗した母親の最期の始末を、娘が付ける。 そういう物語なのだと思っていた。 ならば、賭けに負けた以上力を貸すのもやぶさかでは無い。 グレイタウルはそう思っていた。 その前提が崩れたのだ。 「一人でてめえの尻拭いしてるようなモンだろうが。付き合わされる方の身にもなりやがれ」 「おお、お黙りなさい馬鹿狼!」 カレンの帽子に一つ目が開き、甘やかしの悪魔フェリテが激しい声を上げる。 「何という暴言でしょう。何も知らずに勝手なことを!」 「何も知らずに? 当たり前だろうが、黙ってやがったんだからよ! てめえら信用できねえんだよ!」 ランタンに姿を変えている道しるべの悪魔シアランが、不安げにキシキシと軋む音を出す。 同時に、カレンの周囲の風景がぼやけ始めた。 「みんな落ち着いて。もう転送が終わる。話はまた後」 探索者の準備が整おうが整うまいが、迷宮は待ってくれないものだ。 気持ちはバラバラのまま、カレンと、契約する悪魔達は次の戦場へと転移した。 Opening 2『LEGACY』 私立希望崎学園。 東京湾に浮かぶ巨大な人工島に建てられたこの学校は、次第に全国から手の付けられない魔人生徒を呼び集め、生徒会と番長グループに分かれて激しい衝突を繰り返した。 誰が呼んだか、戦闘破壊学園ダンゲロス。 それがこの危険地帯につけられた異名である。 もっとも、今この場に存在する魔人はわずか二人。 何らかの力で無関係な人物を排除しているのか、それともここが本来の希望崎学園を模した別の空間なのか、判断する術は誰にもない。 「がっこうだー!!」 魔人の一人、場違いに明るく健やかな柏木エリの歓声が教室内に響き渡った。 「きりーつ! れい! ちゃくせき!」 「……よく知ってるな」 灰色のトレンチコートを羽織ったスーツの男、島津徹矢は感心する。 任侠の世界にどっぷり浸かった島津にしてみれば、高校の教室などもはや遠い異世界のようなもの。非現実感で頭がくらくらする。 はしゃぐエリの声は一種の救いだ。 「根性おじちゃん、出席をとってください!」 「そんなことまで知ってんのか」 真似事とはいえ、教壇に立って出席を取る自分など想像したこともない。 島津は柄にもなく緊張しながら声を出した。 「あー……柏木」 それはエリの本当の苗字ではない。柏木というのは、あくまでエリが世話になっていた柏木園の園長の姓だ。 他に呼びようもなく、そう呼ぶしかなかった。 「はーい!」 元気な返事が返ってくる。 エリは聡明な子だ。 あるいはこの茶番も、再び戦いに臨む島津の緊張を少しでも和ませようという無意識の産物なのかもしれなかった。 「にょろにょろさーん、次の時間当てられそうだから宿題見せてー」 「どこで覚えてくるんだ、そういうの……というか、宿題は自分でやるもんだ」 ヘビのぬいぐるみを動かし、学生にありがちな言動を真似て遊ぶエリに、島津は目を細めた。 エリがこんな風に普通に学校に通い、友達と笑いあい、まっとうに生きる。 そういう未来を用意してやりたい、とは思っている。 ただ、正直に言えば不安は尽きない。 願いを叶えて再び生を得たとしても、その先はどうするか。 ヤクザ以外の稼業などやっていける気もしないが、今さら元の組には戻れまい。 他の組でも受け入れてもらえるかどうか。 島津が信じるもの――すなわち仁義は、世間から失われていく一方に思える。 もはや義理と人情を重んじる任侠など絶滅危惧種なのだ。 「あいきゃんすぴーく、いんぐりっしゅー」 「きゅきゅきゅー」 にょろにょろさんと戯れるエリの声に、島津は我に返る。 とにかく今は目の前の一戦を乗り越える事だ。 それなくしては全てが皮算用にすぎない。 (……しかし、学校とはな) 本来魔人ひしめく希望崎学園とはいえ、学校と言う場が戦場に選ばれたことが島津に一つの懸念を与えている。 武田信玄は稀有な存在だった。 根本的に、生き物としての格が違った。 そんな印象を受けたからこそ、子供の外観を持っていても全力で戦えた。 だが、もしも次の相手が、願いを叶えるために勇気を振り絞って、必死に挑みかかってくる子供だったりしたら――それを叩き伏せられるだろうか。 (子供と戦わせるのは勘弁してくれ) 島津は願う。願うとは、誰に? 苦笑せずにはいられなかった。 神にしろ悪魔にしろ、こんな時ばかり都合よく発せられた願いに応える義理はないだろう。 「エリ。そろそろ行こうや」 「はぁーい」 教室を出て、その扉を注意深く後ろ手に閉めたところで島津は気が付いた。 エリもまた、遠く渡り廊下の先に人影を見出し、にょろにょろさんを強く握りしめている。 (……やってくれるぜ) 思わず神の采配に文句の一つも言いたくなる。 あろうことか、現れた対戦相手はエリと同じ金髪の、少女だったのだから。 かくして、私立希望崎学園、本校舎三階――東西渡り廊下。 二人の魔人と、魔人に与する者達は邂逅した。 Round 1『SUKIKATTE』 屋内では、採石場での戦いのように上空からの奇襲は難しい。 カレンはシアランの炎を頼りに注意深く索敵を行っていたが、運悪く渡り廊下の先に居る相手に見つかってしまった形だった。 「アア? なんで向こうは二人居やがる」 「幻覚かも。もしくは、どっちかは能力で作ってるのかもしれない」 「ケッ。俺だって一人で戦えるならそうすんのによォ」 カレンの分析にも聞く耳持たず、グレイタウルは不満げな声を上げる。 一歩、また一歩と、会敵した両者は歩いて近づいた。 それは互いに遠距離からの攻撃手段を持っていないことを示している。 お互いの声が十分に届く間合いまで接近すると、先手を取ってエリが叫んだ。 「こんにちは!! 柏木エリ!! です!!」 エリは聡明な子だ。 得体の知れない相手であっても臆さずに挨拶ができる。 むしろ、絵本で見るような魔女の格好をした女の子を相手に、普段よりちょっとテンションが上がっていた。 「カレンです」 カレンがぺこりと頭を下げると、かぶっている三角帽子がふわりと揺れる。 テンションの上がりきったエリは、勢い余ってそのまま島津を紹介した。 「こっちは根性おじちゃんです!」 「根性おじちゃん……」 「し、島津だ!」 島津は慌てて名乗った。戦う相手に延々と『根性おじちゃん』と認識され続けるのはキツい。 それは島津のキャラではない。 なんとなく紹介の量にアンバランスさを感じたのか、カレンは手に持った箒を紹介した。 「こっちの箒は、皆殺しの悪魔グレイタウルさん」 「や……やめろ! この姿で俺の名を広めんな!」 言い争う箒と持ち主の声を聴き、島津は察した。 (悪魔ってのはよく分からんが……なるほど、向こうも一人じゃねえわけか。なら、やりようはあるな) 島津はエリを庇うように一歩前に進み出る。 「エリ!」 「ヘイ!」 エリは聡明な子だ。 一声かけられただけで、島津がこの場面で何を要求しているか察したのである。 にょろにょろさんの口に手を突っ込み、わさわさと胴体をまさぐって取り出したものを手渡す。 島津の愛刀、白鞘に収められた長ドスだ。 そしてエリは、島津だけを戦わせはしない。 一緒に頑張ると約束したのだ。故に、エリは叫ぶ。 「学校の廊下、すごいつるつるですごいね!」 エリの魔人能力『花まる金メダル』は、声援を送った対象がちょっと背伸びする(がんばる)ことができる。 学校の廊下はワックスが塗られ滑りやすい……そんな床が、ちょっと背伸びする(がんばる)とどうなるか。 それはもう、ハチャメチャに滑る。下手に動けば転倒間違いなしである。 「うっ……!」 床のつるつる具合に気が付いたカレンは箒を下に着き、内股になってプルプル震えていた。 まるでゲートボール大会終盤に体力を使い果たした老人のような姿勢! 箒に乗って空を飛べば良い、と思うかもしれない。 甘い! そんな一瞬の気の緩みすら許されないほど逼迫した状況なのだ! 対戦相手にとってはまさに千載一遇の好機。 島津は何をしているのか!? 「くっ……くうっ!」 島津もまた、ガニ股の状態で一歩も動けずにいた! 額にはじっとりと汗がにじんでいる。 すごいつるつるの床は誰に対しても平等に牙を剥くのだ! 「エリ! ちょっと、ちょっとアレだ、いったん止めよう! 床をつるつるにすると話が進まねえ!」 「がってん!」 エリは聡明な子だ。 聡明な子だけど、まあ、こういう事もあるよね。 床のつるつるが解除され、カレンと島津は足の屈伸運動に勤しんだ。 島津は思わずうめいた。 絶妙にしまらない、ゆるい空気が流れている。 直ちにこの場をシリアスな空間に引き戻さねばならない。それが島津の役割だ。 島津は長ドスを腰だめに構え、突進した。 狙いはあくまでカレンの武器。武器を破壊して、降参を促す。 それならば子供相手でも何とかやれる。 しかし、長ドスの刃は箒とかち合い、甲高い音を立てた。 「なるほど。喋る箒は、やっぱりただの箒じゃあねえわけだ」 島津は膂力に任せて刃を押し込もうとするが、カレンは箒に捻りを加えてその勢いを流す。 上体の崩れた島津を箒の穂が薙ぐが、これは空を切った。 そのまま刃と牙のぶつかり合う音が二度、三度と響く。 「おじちゃん、負けないでー! ボディボディ! オフサイド!」 エリが跳ねるたびに、にょろにょろさんがビタンビタンと床に叩きつけられる。 多分ルールが分かっていない……! しかしそれでも、エリがほぼ無意識に発している『花まる金メダル』の力は、島津の動きを加速する。 応援してくれる限り、島津はちょっと背伸びできる。 全力からちょっと背伸びできるということは、常に限界を超えられるということなのだ。 その証拠に、カレンは受けに回る回数が増え、次第に押され始めた。 「ああ、クソッ! おいガキ! もっと速く振りやがれ!」 「これが限界。グレイタウルさん、勝手に動かないで」 「テメェの動きがすっトロいからだ!」 先の戦いで得たはずの経験値はどこへやら、カレンとグレイタウルは息の合わないちぐはぐな動きを繰り返していた。 当然、それは致命的な隙を生む。 「おらあ!」 受け止められた長ドスに力を込めながら、島津はあえて素拳で箒を打った。 拳の肉が抉れ、白骨が露出する。 だが、しかし。 「がはッ!?」 折れた牙がバラバラと床に落ちた。ダメージが大きいのはグレイタウルの方だ。 根性をキメた侠気の拳は、鋭利な凶器に勝る。 「ク……ソ、が! 腐ってやがる。こいつ、屍人(ゾンビ)かよ!」 「おじちゃんは腐ってないよ! 新鮮ですよー!」 グレイタウルが毒づくのを聞き逃さずに、エリが猛抗議する。 「ああ、そうだな。まあ、魂までは腐っちゃいねえつもりだ」 「うるせえ、クソッ! おいガキ! 何か策を出しやがれ!」 叱責を受けたその瞬間、カレンは渡り廊下の窓ガラスを破って外へと飛び出していた。 「――は?」 箒にまたがり、手短な詠唱と共に魔女は飛行を開始する。 対戦相手に背を向けて。 「おい、おいお前! 何やってんだ! 逃げんのかよォ!?」 グレイタウルの怒号が遠ざかっていくのを見送り、島津はエリと顔を見合わせる。 「おトイレかな?」 「それは無いと思うが……とにかく、追うぞ」 緊張した状態が長引けば、エリが消耗する。 島津としては短期決戦を望んでいるのだ。 「あ、待っておじちゃん」 エリがにょろにょろさんの中に手を突っ込んで、うんせ、うんせと何やら取り出した。 ゆるいネコのイラストが描かれた絆創膏である。 「ばい菌が入ったら大変!」 「……」 島津の眉が八の字になるが、エリには敵わない。 観念して、任侠に生きる男はネコと肉球マークが描かれた絆創膏を拳に貼り付けた。 ファンシー! Round 2『ONCE AGAIN』 本校舎の渡り廊下から遠く離れ、カレンは半ば箒から振り落とされるようにして地面に降りた。 SSダンジョンでの戦いは戦闘領域を離脱すれば敗北扱いとなるが、希望崎学園の校舎は本校舎、旧校舎、芸術校舎と、いくつにも分かれている。 その全てが戦場の内だ。敷地は広大である。 「どういうつもりだテメエ! 」 怒りに満ちたグレイタウルの声を受けて、カレンはぽつりと呟いた。 「あの子の願いがわかった」 「ハ?」 「エリちゃんは、あのゾンビの……島津さんを、生き返らせたいんだと思う」 確かに、そうだったとしてもおかしくはない。 だが、それが何だというのか。 「ああ。そうかもな。だから何だよ?」 グレイタウルは思ったままを口にした。 「私が勝ったら、エリちゃんの願いは叶わない」 「だ・か・ら! 今更何言ってんだよテメェはァ!?」 ダンジョンで願いを叶えるためには、約四戦を勝ち抜く必要がある。 カレンが負かした相手は願いを叶える権利を失う。 そんな事は当然承知のはずだ。 一戦を終え、二戦目に挑んでいる今になって言い始めるのは不可解だった。 依然としてカレンに表情はなく、言い知れない違和感が募る。 (何なんだよ、こいつは。何を考えてんだ?) 思わず黙り込んだグレイタウルの前で、カレンの帽子に一つ眼が浮かぶ。 「おお、おお……可哀そうなカレン」 敵にその存在を伏せておくため、フェリテはなるべく口を開かない。 それでも、この場は自分が出て語るべきだと判断したのだろう。 「もう誰も、死なないと思っていたのでしょう。運命とは何と意地の悪いもの」 「何?」 「このダンジョンなら――大丈夫だと思った。協力してくれる悪魔も、道具として持ち込めば元に戻る。負けた人も生き返る。だから、誰も死なないと思ったのに」 (何だ、これは? 俺は、何を間違えてる?) 何かが違っている。 語られている内容と、グレイタウルがカレンに抱いている印象がかみ合わない。 「お前……」 ようやく、グレイタウルは飲み込めた。 カレンの行動原理はシンプルだった。 「誰にも任せねえで、自分でやることに拘ってんのは……誰も犠牲にしないように、だったのか?」 「それでも、ママを遠隔視した人は、呪い殺されちゃった。私が見てって頼んだから。私は失敗した」 グレイタウルはようやく違和感の正体を悟った。 人造生命体であるカレンに、おそらく『悲しむ』という挙動が教育(インストール)されていない。 本来ならば成長と共に身に着くはずの、その動作、表情が欠落しているのだ。 そう見えないからわからないだけだった。 カレンはずっと悲しんでいたのだ。 母の運命が決まった時。自分と関わった者が死んだ時。 普通の少女が悲しむように、胸を痛めていたのだ。 怒髪天を突く勢いで箒の穂先が逆立ち、バリバリと音を立てて裂けた。 「あの、クソ魔女が……中途半端なモン、造りやがって……!」 理由のはっきりしない怒りがこみ上げ、グレイタウルの中に渦巻いていた。 「バカがよ! 何で最初からそれを言わねえんだよ!?」 「おやめなさい、馬鹿狼。最初から正直にすべてを話したら、あなたはカレンのことを信じたのですか? そうではないでしょう!」 そう言われると返す言葉がない。 最初からカレンが大魔女ヴェナリスのコピーだと知っていれば、何を企んでいるのかと警戒するばかりだっただろう。 現に、この戦いが始まった時のグレイタウルはカレンの事が全く信じられなくなっていた。 敵前逃亡するほど追い詰められている姿を目にして、カレンの言葉にようやく信憑性が湧いているのだ。 「クソ……結局、どうすんだ。諦めんのか」 「……諦めない。五秒待って」 カレンは深呼吸をした。 原門りんごの願いを断ったことについても、命を奪わなかったから許されるわけではない。 ならば同じように、柏木エリの願いをも断たなければならない。 それが結果として、島津の命を取り戻す道を断つことであっても。 たとえば、島津を宇宙最強のヤクザとして生き返らせる、というような願いにしてもらって、勝ちを譲ってもいいだろうか。 確実に四戦を勝ち抜いてくれる保証がない。 それに、彼らのその後の生活まで、全てを変える決断をさせなくてはならない。 九つの薬草の魔法で、島津の命を救えるだろうか? 無理だろう。万能の薬も、失われた命までは取り戻せない。 この先、DANGEROUS――命の保証なし。 カレンは罪を背負う覚悟をキメた。 「シアランに、探してほしいものがある」 ランタンはカタカタ鳴って了解の意を示した。 「フェリテは、私の指示した時以外に能力を使わないで。私がどんな傷を負っても」 「おお、おお、カレン……誓いましょうとも」 帽子に開いた一つ眼が、一度大きく瞬きした。 「それから、グレイタウルさん」 「……オウ」 三つ編みの先端を握りしめ、小さな魔女は狼に一つ頼みごとをする。 「保険を作っておきたいから、ちょっと爪を貸してくれる?」 エリと島津は敷地内を走り回り、芸術校舎の屋上にようやくカレンの姿を発見した。 非常用階段を伝って屋上まで上がり、エリを引っ張り上げて、島津は息を呑んだ。 先ほどまでとはカレンの顔つきが違う。 理由は不明だが、少女の顔が戦士の顔へと変貌している。 戦意を喪失し逃亡したのならば、降参を促して終わらせるつもりだった。 それは甘い考えだった。 「こいつは、さっきよりよっぽど根性キメなきゃならねえな……」 「根性おじちゃんは、いっつも根性ですね!」 「俺はそれしか知らねえ。だが、結局いつだって根性は必要になるもんだ」 カレンは箒を構え、島津は長ドスを構える。 再び斬り合いが始まった。 (やっぱりな。さっきとは何もかも違う) カレンの打ち込みが重く、鋭くなっている。 意思を持って動く武器との連携も段違いだ。 気を抜けば一瞬で殺られる。 島津が再び拳を箒に打ち込もうとした、その時だった。 カレンは、自分の身体をあえて島津の攻撃の軌道上へ投げ出した。 必殺の拳がカレンの頭蓋を叩き割り、予想外の動作と感触に島津は動きを止めた。 カレンが悪魔フェリテによって三度まで攻撃を無効化できる事など、一回のヤクザである島津が知る由もない。 故に、それは絶好の好機。 「残り二回です。今!」 「言われるまでもねえ!」 綺麗に振りぬかれた箒の一閃は、正中線に沿って島津の肉体を縦に両断した。 「うわー! おじちゃーん! おじちゃんがー!」 島津へ駆け寄るエリの姿を、グレイタウルとフェリテは陰鬱な目で見た。 その表情が絶望に歪むのを予感したからだ。 カレンもまた、表情を変えないままに罪の痛みに耐える覚悟をした。 用意した仕込みは使わずじまいとなったが、これで決着だ。 と、思ったら甘いぞ! エリは聡明な子だ。 だから、自分が為すべき事を本能で知る。 二つに分かれてしまった島津の身体を、どうすべきかを知る! 「おじちゃんが、へ~ん! しん! とぉおー!」 島津の胴ににょろにょろさんが巻き付き、零れ落ちかけた内臓ごとキュッと締め上げた! 「おおおおおお……ッ!?」 島津は胸を張り、ちょっと背伸びして(がんばって)吼えた。 祝え! 花まる金メダルが結びつけ、深く根性がキマッた新たな魔人。 にょろ島津、生誕の瞬間である! 「時はきた! みゅーじっく、すたーと!」 エリは吹き口を咥え、鍵盤ハーモニカを吹き鳴らす! ロックンロールの始まりだ! 「きゅきゅー!」「行くぜ……!」 にょろ島津は掛け声とともに地を蹴り、一瞬でカレンへと肉薄した! 「ウ、ウワー!? 何だこいつら! 来んなァアアア!」 さすがのグレイタウルも怯んでいる。 カレンは無表情だが、これはヘビのぬいぐるみと真っ二つにしたゾンビが合体した時の表情が教育(インストール)されていないからだ。 それは当たり前じゃないか……? そんな表情がインストールされてる奴、この世に居るか? そして次々と繰り出されるにょろ島津のパンチ! キック! ジャンプ&ターン! 「ぐ、ぐああ! なんだコイツらァ!」 「さっきまでと、動きが……違う……!」 重傷を負ったにも関わらず、島津のパワーとスピードは明らかに先ほどより跳ね上がっている。 何故なのか!? その理由は第一に、縦に二分割されたことで島津の右脳と左脳が独立し、完全なる並列動作が可能となっているためである。 つまり今の島津は情報の処理能力が通常の二倍! そうはならんやろ――と思うかもしれない。 だが、あなたは経験したことがあるのだろうか? ゾンビヤクザになった上で頭を半分に割られた経験がおありなのか? 無いのならば、目の前の現実を否定するのはやめていただこう! 第二に、エリが吹き鳴らしている鍵盤ハーモニカだ。 トランス状態となったエリの演奏テクニックは神業の領域。 指さばきはあまりに高速であり、かえってスロー(Slowhand)に見えるほどだ。 吹き鳴らされるのは熱い情熱と激励のメロディー。 島津の全身に高効率のバフを叩きこむ! なお、エリが演奏している曲『にょろにょろさんっていいな』には歌詞が存在する。 しかし、口で吹く鍵盤ハーモニカを演奏中のエリは歌う事ができない。 ならば誰が歌うのか……? 無論、画面の前のあなた達だ! 『♪にょろにょろさんっていいな』 さくし・うた 柏木エリ いいな いいな にょろにょろさん にょろにょろさんってい・い・な いいな いいな にょろにょろさん にょろにょろさんってい・い・な 体長くてにょろにょろ とても長くてにょろにょろ かわいいね すてきだね 意外にソフトなてざわり 夢 希望 三おく円 何でも入るよ その体 神のみわざか あくまのしわざか それとも~ N・Y・ORO N・Y・ORO 何がいいのか聞かれると こんな感じに落ち着くけれど いいな いいな にょろにょろさん にょろにょろさんってい・い・な あんまり長くほめ続けると トーンダウンはまぬがれないよ いいな いいな にょろにょろさん にょろにょろさんってい・い・な にょろにょろさんってい・い・な 「ロック・ユー!」 みんなが歌う専用BGMをバックに襲い掛かってくるやつに勝てるわけないだろ! 島津(右)の拳が唸りを上げて振り下ろされる。 グレイタウルは咄嗟にしなり、それを弾いた。 間髪入れず島津(左)の拳が地面すれすれから飛び上がるように襲い掛かる。 グレイタウルは無理やり身体を捻り、それを捕らえた。 「ぐっ、ううッ!」 さらに島津(右・左)の拳がまとめて叩き込まれ、ついにグレイタウルはへし折れた。 「がああッ!」 「グレイタウルさん……!」 グレイタウルは無残にも穂と柄に分かたれ、地に転がる。 柄にひっかけていたランタンのシアランもまた、地に落ちてがしゃりと音を立てた。 契約の効果で道具に変わっているため、グレイタウルが即座に死ぬことはない。 しかし、体を真っ二つに引き裂かれる痛みまで消えてくれるわけではない。 (痛ッてえええええ! 嘘だろ!? あのゾンビはこんな痛みに耐えてんのか? それともゾンビに痛みはねえのか? があああああ! 痛てェ! 痛てェー!) みるみるうちに、グレイタウルの胸の内に灯った戦意が消えていく。 あれほど猛り狂っていた炎が消えていく。 皆殺しの悪魔に、”死不(しなず)の島津”ほどの根性はキマっていない。 得物を失ったカレンは後ずさり、すぐに屋上のへりを背にして立ち止まった。 もはや逃げ道はない。 残り二度の無敵など、島津がその気になれば瞬きの間に使い果たすだろう。 「降参は、してくれねえんだろうな」 長ドスを手にした島津がゆらりと動き、構える。 エリが半狂乱で演奏に熱中しているのは幸いだった。 島津はエリのために戦っているが、丸腰の少女を切り刻む姿など見せたくはない。 (クソ痛ェ……何で俺がこんな目に遭わなきゃなんねえんだ。ガキのお守りなんざ、ガラじゃねえんだ……) 朦朧とした意識の中で、グレイタウルは自分に視線が向けられていることに気が付いた。 絶体絶命の窮地にあって、カレンはただグレイタウルを見ていた。 もはや作戦は瓦解している。それでも何かを信じ待っている、深いグリーンの瞳。 (あのガキ……!) 態度がどうであれ、過程がどうであれ、今の自分はカレンが縋りついた希望の糸だ。 グレイタウルに”死不の島津”ほどの根性はない。 ただ、自負と、意地と、怒りはあった。 (俺を、誰だと思ってやがる。皆殺しの悪魔グレイタウルだ。ナメるんじゃねえ。このまま終わってたまるか!) 「グアオォオオオオオオオッ!!!」 グレイタウルは雄たけびを上げた。 空気がびりびりと震え、ほんの一瞬、柏木エリの演奏をもかき消した。 にょろ島津も一瞬注意を奪われた。 その一瞬で充分! 「風渡り、秘儀の枝、エーテルを掴め!」 詠唱と共に、カレンは地を這うように低く飛ぶ。 にょろ島津の脇を通り抜け、二つに折れたグレイタウルの穂の部分、そして床に落ちたシアランを手に取った。 箒を持っていないカレンがどのようにして飛行を可能にしたのか? 種は、カレンのブーツの中にあった。 先刻切り落とした三つ編みの先端をボールペンに結わえて作った、小さな箒である。 箒が有れば魔女は空を飛べる。それが急ごしらえの、即席の箒であっても。 仮にグレイタウルを手放す羽目になっても機動力を失わないための、保険だった。 髪を切って使うアイディアは、先の戦いにヒントを得たものだ。 グレイタウルを右手に、シアランを左手に、カレンは高く空へと舞い上がった。 青空に小さく浮かぶ黒衣の魔女を見上げ、島津は自問する。 上空からの攻撃。エリを守りながら撃ち落とせるか。 島津(右)はエリを守り、島津(左)は魔女を落とす。 それでいい。相打ちになれば島津は引き裂かれるだろうが、そうなれば残ったエリの勝ちだ。 (違う。待て。そうじゃねえ) 一度カレンを確かにとらえたはずの拳は、何のダメージも与えられなかった。 あの時、帽子から聞こえた「あと二回です」という言葉。 あれが能力の回数制限を意味しているのならば、相打ちになどならない。 こちらの攻撃はあと二回無効化されるのだ。 「……エリ。頑張れ、って言ってくれるか」 「うん!」 エリは聡明な子だ。 島津がこんなことを頼むのがどういう意図なのか、理解している。 エリは島津にしがみつき、両手で頬を掴んで叫んだ。 「頑張れ。頑張れおじちゃん! いっぱい大丈夫だよ! 絶対負けないよ!」 ネコの絵が描かれた拳の絆創膏に触れ、島津はイメージする。 この身が鉄の壁であれと、鋼の城であれと願う。 あらゆる災厄からエリを守れる存在であれと、深く、深く心に刻み込む。 真上から落下してくるカレンを前に、ビキビキと音を立てて島津の肉体が硬化する。 『花まる金メダル』の効果は、対象の想いの強さに比例する。 島津がエリを守ろうとする思いは何より強い。 果たしてそれは、魔女と悪魔の力に勝るのか。 カレンは激突した。 その攻撃は最初からエリも島津も狙っていなかった。 目指していた落下地点(・・・・)は、床。 箒を振るいながら砲弾と化したカレンが激突することで、屋上の床が割れた。 「残り一回です……カレン!」 フェリテのアナウンスと共に、全員がそのまま校舎の中へと落下する。 島津が鼻をつく異臭の正体を察した時には、既に手遅れだった。 (ガス……!?) エリ達と再会する前にカレンがシアランを使って探したのは、家庭科室の位置。 ガスの元栓は全て開き、部屋の中に可燃性の気体を充満させている。 そして今、カレンが飛び込んだことにより――ランタンの炎が引火する。 カレンの表情に余裕はなかった。 仕掛けが成功したなどという高揚はなかった。 ガス爆発の衝撃は二度発生する。 まず、爆風によって生じる強大な空気圧が人体を容易に破壊する。 そして、爆心地に発生した真空状態に空気が戻ろうとすることで起こる爆風もまた、同程度の衝撃をもたらす。 フェリテの力を使うことで、カレンは一度目の衝撃を無効化できる。 しかし、二度目の衝撃は無効化できない。 故に命の保証はない。これは一種の賭けであった。 「ごめんね。みんな」 カレンは改めて、こんな無茶へ巻き込んでしまう仲間たちに詫びた。 音と、熱と、光が弾けた。 Round 3『I REP』 「おい! 目ぇ開けろ! 聞こえるか! おい! しっかりしろ! カレン!」 初めてグレイタウルに名前を呼ばれた。 鼓膜が片方破れているのか、その声が妙に遠く、聞こえにくい。 視界も半分赤黒く染まっていた。 何より、呼吸一つ、指先一つ動かすだけで、信じられないほどの痛みが全身を貫く。 一瞬でも気を抜けばそのまま意識が闇に飲まれそうだ。 ぐらぐらと揺れながらカレンは身を起こす。激痛に耐えて立ち上がる。 吐き気がするのは何か所か骨が折れているのだろう。 それでも、自分を呼ぶ声に向かってのろのろと歩み始める。 その眼前に、人影が立ちはだかった。 カレンはそこに信じられないものを見た。 島津の頭は半分欠け、右肩、脇腹、右足も半ば吹き飛んでいる。 あちこち焼け焦げ、ヘビのぬいぐるみも、トレンチコートもスーツもずたぼろになっている。 だというのに。 島津は、エリを庇うように抱きしめたまま立っていた。 エリにはかすり傷一つついていなかった。 目を閉じて、ただ静かに意識を失っている。 まるで島津が、エリの分まですべての痛みを一人で引き受けたようだった。 あり得ないこと。不可能なこと。 島津は己の信念によってそれを実現したのだ。 再び前に歩き始めたカレンの足に、床に転がった長ドスが触れた。 カレンはそれを拾い上げる。 島津はエリを床に横たえ、骨がむき出しになった足で歩み、グレイタウルを拾い上げる。 「何だてめえ! 触んなボケ!」 グレイタウルは喚き声をあげて島津の手に噛みつこうとしたが、牙が届かない。 得物が入れ替わったまま両者は歩み寄った。 そうして互いに斬りかかれる距離に達した時、カレンは長ドスの柄を島津に向けて差し出していた。 おそらく、そのまま斬りかかった方がカレンは有利だっただろう。 グレイタウルの爪は本人の意思に応じて出し入れできる。島津が振るっても、ただの箒にしかならないのだ。 それでも、こうするべきだとカレンは感じていた。 目の前の男から、命以外のものを奪うことはしたくなかった。 島津の口角がわずかに上がった。 島津は無言で差し出された長ドスを受け取り、カレンもまた、無言で島津から差し出された箒の穂を受け取る。 一瞬の間をおいて、何の合図もなく、二人は同時に斬りかかった。 カレンの胸、島津の頭部、両方から血飛沫が上がる。 島津の斬撃の方がわずかに深い。 斬られながらも懐に入ったカレンは、手にした箒に振り回されるように回転していた。 二、三、四、五。続けざまの斬撃が島津を切り刻む。 島津の肉体は、たとえばらばらの肉片になろうとも生前と同じように動く。 いくら斬られようとも問題ない。 だが、初撃によって両目を失っていた。 剣を振るうべき相手がどこに居るのかつかめない。 長ドスが再び地に落ち、胴、腰、足が地に落ちた。 荒い息を吐くカレンの体からは血液とともに力が抜け、全細胞がこれ以上の稼働を放棄したがっている。 (まだ、終わってない) この迷宮におけるカレンの対戦相手は、あくまで島津徹矢ではなく柏木エリだ。 エリは意識を失っているが、戦闘不能とは見なされていないらしい。 目を覚ましたところで降参などするはずもない。 戦闘領域から追いやるのも、今のカレンには不可能だ。 故に、殺さなければならない。 近づくと、エリは安らかに、眠るように呼吸をしている。 カレンの背後からは島津が必死に床を這う音が複数聞こえていた。 体をバラバラに引き裂かれてなお、島津はエリを守ろうとしている。 カレンは震えていた。 島津の執念に震えていた。 こうまでして守られているものを――かけがえのない尊いものを、今から自分が手にかけなくてはならないという事実に震えていた。 「……悪魔の仕業だ」 グレイタウルはぽつりと呟く。 「お前じゃねえ。これからやることは、お前が下僕にした、悪魔の仕業だ」 「ううん」 その甘言をカレンは拒んだ。 カレンの傷は深く、意識もおそらくあと数秒ともたない。決断の時だ。 「私がやることは、私の罪だよ」 人も、悪魔も、それ以外も、何も変わらない。 夢を果たすために迷宮を訪れ、大切なもののために命を賭ける。 けれど、勝ち残るのは一方だけだ。それは残酷な絶対のルール。 だから。 (私は今、あなたを殺す。――でも、その先の未来は守ってみせる) カレンは手にした箒の穂を振るい、エリの身体を切り裂いた。 何の痛みも苦しみも感じることのないように、一瞬で終わらせた。 瓦礫が散乱する床に、ぽつりと赤い雫が落ちる。 それはカレンの潰れた右目から滴った血の雫だった。 【STAGE:希望崎学園】 勝者……冬知らずの魔女、カレン Ending 1『GO ON』 「……負けちまったか」 目を覚ました島津は、自分が洞窟の内部ではなく入り口に戻されている事に気が付いていた。 すぐ傍にはエリが居て、にょろにょろさんをぎゅっと握っていて。 島津が戦いで負った傷は何一つ残っていない。 ズタボロになったはずの衣服まで元に戻っている。 しかし同時に、自分の身体に生命が無いということも島津は実感した。 願いを叶えることができなかった以上、それも今まで通りだ。 「すまねえな。エリ」 そう言い終わるか終わらないかのうちに、エリは島津に飛びついて胸に顔を埋め、肩を震わせ始めた。 「……泣くなよ」 これが一番応える。 体を真っ二つにされようが、切り刻まれようが、島津は平気だ。 そんなものは所詮知覚だ。根性で耐えられる。 だが、自分のものでない痛みはそうはいかない。 エリの痛みは殊更に耐えがたい。 「だって、言ったのに。おじちゃん、また約束忘れちゃうんだもん……」 俯いてそう言うエリの声に、島津は胸が締め付けられるような気持になる。 『もう、一人で動かなくなっちゃだめだよ』 『私の為に動かなくなるのは、やめてください』 エリは言った。 島津はその言葉を聞き、約束をしながら、本当は聞く気などなかった。 (馬鹿だな。俺は) エリは聡明な子だ。 島津の約束が口先ばかりのものだと知っていて、何度もそれを破らせて、平気なはずもない。 (約束ってのは、守らなきゃならねえもんだよな) それは、宿題を自分でやらなければならないのと同じくらい当然のことだ。 今更になってそんなことを学び直した。 エリから教えられることはたくさんある。 もしかしたら、島津がエリに教えてやれることと同じか、それ以上に。 島津は、自分が戦った魔女の事を思った。 あの時、長ドスを返したカレンという少女の中に、島津は仁義を感じた。 失われていくばかりだと思っていたそれは、広く世界に目を向けてみれば意外にあちこちに転がっているのかもしれない。 エリが生きていく世界がそういう世界であるならば、島津は嬉しい。 「……行くか」 「どこに?」 トレンチコートの襟を立て、島津は薄く微笑む。 この身体がいつまでもつのかは知らない。 永遠にエリを守り続けることはできないだろう、と思う。 そもそも大人は子供より先に死ぬものだ。 だが、まだ終わりじゃない。 「根性キメて、次の手を探しにだよ」 エリは涙をぬぐった。 にょろにょろさんを高々と掲げ、元気よく返事をした。 「行くー!」 「きゅっきゅっきゅー」 柏木エリと、にょろにょろさんと、死不の島津は立ち上がる。 敗北は、所詮強靭な意思に勝てない。 たとえ折れても根性キメて、何度だって立ち上がればいい。 花まるの未来を掴むために、二人と一匹の戦いは続くのだ。 Ending 2『YELL』 戦いを終えたカレンは、押し黙ったまま次のフロアへの転送を待っていた。 「おい、カレン。次で三戦目だ。やる気なくしてんじゃねえぞ」 洞窟の中ではどの程度時間が経っているのかわからない。 空間的に様々な場所と接続されているこのダンジョンと外では、時間の流れさえ異なっていてもおかしくはない。 だが、少なくともまだ世界は滅んでいない。 だからまだ終わりではない。 「大丈夫だよ。ありがとう、グレイタウルさん」 「待てコラ。何がありがとうなんだ」 礼を言われたグレイタウルが居心地悪そうに聞き返すと、カレンは目をぱちくりさせて首を傾げた。 「だって今の、心配して言ってくれたんでしょ?」 「ハッ! お前はどうしても俺をお人よしにしたいんだな! 『皆殺しの悪魔』を信じて、どんな結果になっても知らねえぞ!」 カレンはもう一度首を傾げ、口を開く。 「でもグレイタウルさんの『皆殺しの悪魔』っていう二つ名は、ただの自称だって、ママが……」 「あっのクソ魔女が……余計な情報ばっか教育しやがって……!」 身もだえするグレイタウルを見て、カレンはくすりと笑う。 「クソ、もうその話はいい。そうだ、お前結局歳いくつなんだよ!」 無理やり話題を変えようとすると、カレンが指を四本立てたのでグレイタウルはぎょっとした。 「ま……まさかお前、四歳……!?」 「ううん」 冬知らずの魔女カレンは、なんでもない事のように涼しい顔で答えた。 「四ヶ月だよ」 【大魔女ヴェナリス 地球到着まであと三日】 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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Let s_sing_a_song ◆YOtBuxuP4U 十、二十、三十。 一斉に降ってくるそれらは、流星群か、はたまた散弾銃か。 答えを確かめる暇は無い。地面にいる二人は後ろに飛んで、その攻撃を回避する。 砂地に落ちたそれらはどどど、と鈍い音を立てて地面にめり込み。 あるいは林立するクルミの木にぶつかって、ばこんと大小の枝を折る。 衝撃で巻き上がる砂が晴れれば、あちこちに出来たクレーターの中心にはそれの正体が見えてくる。 何の変哲もない、ごくありふれた普通のクルミ。 しかしこれは知る人が見れば、沢山の人々を無差別に殺してきた正真正銘の凶器なのだ。 ほんの些細な誤解から始まった不毛な戦いは、いまだに続いている。 クルミが渦巻く世界の中、地面の二人を見下ろすように竜と竜に乗った男は空に居た。 飛ばしたクルミを避けられて、竜の背中に乗る男はまた眉間の皺の数を増やす。 緑の体を揺らして空を泳ぐ竜は、それを見かねて男に言葉をかける。 「……かがみさん、かっがーみさん」 「なに? 竜」 「大丈夫アルか? さっきから吐く息が妙に荒いアル。 もしかして、疲れてるんじゃないアルか。この固有結界、確かに凄い魔法アルけど…… それだけに、かがみさんに負担がかかっているように見えるアル。もうずっと発動してるアルし」 「疲れてなんかないわよ。これは――興奮よ、興奮してるの。 ふふ。だってあの二人、どちらもとっても可愛いんだもの。お人形みたいでさ。 あっちの金髪の娘はいい声で鳴いてくれそうだし、紫っぽい娘の方はいい表情をしてくれそう。 絶対に○してやるわ……」 大きく深呼吸をして、柊かがみ(6/)は怒鳴るように叫ぶ。 「だからあんた達! いい加減に抵抗を諦めて、さっさとその尻(ケツ)差し出しなさいよ!」 「お断りです」 「お断りだよ!」 答えたのは、飛んできたクルミをやり過ごし、いまだ地面を踏みしめる二人の戦士。 正義のプリキュア、キュアフルムーンとキュアヴィントブルームである。 二人は拳を突き上げながら、上空のかがみと竜に言葉を返す。 「僕たちに言うことを聞かせたいのなら――」 「あなたたちこそ、こっちの言い分を呑むべきよ! いい加減、降りてきて戦いなさい!」 「……あんた達ほんとバカね! そんなの呑むはずがないでしょーが。 降りて来い降りて来いってね、肉弾戦相手に距離を取るのなんてあったりまえよ!」 「そうアル。勝負ごとは自分が有利になるように進めるのが定石アルヨ。 正々堂々真正面から戦おう、なんて、日本昔ばなしでもあんまりないアル」 「う。 でもさ、こっちは遠距離攻撃なんてできないんだよ? これじゃ勝負にならないよ!」 「それにあなたの攻撃もずっと単調だし。なんというか、絵にならないと思う」 「まあ確かにそれはそうアルが」 「ちょ……竜まで味方すんな! ぐぬぬ、言わせておけばなによ! こっちはあんた達の顔に傷が付かないように手加減してあげてんのに!」 露骨に悪評を叩かれて、かがみ(6/)はテンプレっぽく額に青筋を浮かべた。 「だいたいあんた達も正義の味方気取りならこう、遠くでも攻撃できる必殺技とか持ってなさいよね! 手からビーム的な何かくらい出せるでしょ普通! ドラゴンボールだってそんな肉弾戦ばっかじゃないわよ!」 「そう言われても……必殺技。あるのかな、ヴィントブルーム」 「分からないよね、えーっと、フルムーン。結局、なんでこう呼んじゃうのかも分からないままだし」 あったら教えて欲しいよ、と、プリキュア二人は口を尖らせる。 その間も、ジェット機かと思うような速度で竜(とその背中のかがみ)は飛び回り続ける。 戦闘が始まって、すでに一時間半。 通常放送の三倍もの時間ずっと膠着状態では、視聴者もとい読者も飽きてしまう。 実際、今回の戦闘には完全に巻き込まれた形の竜は、完全に飽きが来てあくびをしてしまう有様だった。 「ふああアル」 しかしながら、竜は思う。 みんなちょっと真剣にやりすぎじゃないかアル、と。 どうせ人間なんて矮小な存在、百年やそこらで死んでしまうものなのに。 上に乗せているかがみ(6/)も、地面のプリキュア二人も、 方向性や信条は違えど、まだ瞳に炎を宿らせて言い争いをし続けている。争い、続けている。 (ホント……もし生まれ変わったとしても、人間にだけはなりたくないアルネ) 竜が飛び続けないと死ぬ生き物なんだとしたら。 きっと人間は、争い続けないと死んでしまう生き物だ。 だからこそ――誰とも知れない他人が殺し合う姿を見て、何か感情を揺さぶられることもあるのだろう。 竜は楽しくはなかった。面白くもないし、ひどいとも思わないし、怒りさえ覚えない。 ただ、早くこのつまらない遊戯が終わらないかなあと、それだけを考えていた。 「ちょっと竜。あんた何あくびなんかしてんのよ。スピードちょっと下げなさい、もう一回攻撃するわよ」 「またアルか? どうせさっきまでみたいに避けられるだけアルよ。無駄無駄アル」 「無駄かどうかはあたしが決めることだわ。それに……」 「アル?」 「あたしもそろそろ、『飽きてきた』わ。物語を、動かすわよ」 「おや。そいつは嬉しい話でアルアル」 「アルは一回」 「はーいアル……アルッ☆」 「うぜえー!? ああもう、あんた達! あと十秒! あと十秒でいい返事しなかったら、今度こそ殺す気でいくからね!」 じゅーう、きゅーう、と間延びしたカウントダウンが、固有結界の隅々まで響きわたる。 さっきからこんなやりとりが繰り返されること、実に10回目。 かがみ(6/)のクルミ攻撃は確かに、回数を重ねるごとにだんだんその激しさを増している。 しかしプリキュアの力で常人よりも高いスピードを出せるキュアフルムーンとキュアヴィントブルームにとって、 直線的なクルミの雨を避けることは容易い。 そして。今回はそれだけでは、ない。 (満月ちゃん) (うん、分かってる、マシロくん) キュアフルムーン――満月と、 キュアヴィントブルーム――マシロは目で言葉を交わす。 この一時間半。アニメでいえば三話分の戦闘を耐え抜いて、二人のプリキュアとしての経験値はさらに上がっていた。 ゆえに、分かっていた。 この固有結界、敵の男が『無限の胡桃』と呼ぶこの空間が、本当は無限に続くものではないということを。 いつか必ず、終わりの時が訪れることを。 ごー、よん。カウントダウンの数字が減っていく。 そう。ほんの少しずつ、気づかれないほどにゆっくりと、この場からはいろんなものが減っている。 クルミが飛んでくる速度、相手の攻撃のパターン数。 あるいは、こちらに向けて放たれる挑発の言葉の勢い。それと……周りにあるクルミの木の数。 (最初は二十本以上あった。それが、今はたったの四本しかない。 攻撃の余波で枝が折れることはあっても、消えるなんてことはないはずなのに。 もし、あれがクルミの在庫量をつかさどってるとしたら。そろそろ向こうは、限界が近いってことだ) (あの男はたぶん、これに気付いていない。 ずっと竜の背中に乗ってめまぐるしく視界を移動させてるんだもの、気付かないのも無理はないわ。 仕組みに気づいてるのは、私たちだけ。これは大きなアドバンテージよ) にー、いち。 マシロと満月は、キュアフルムーンとキュアヴィントブルームは、静かに空を見上げる。 これ以上ないくらい不快そうな顔をした男の顔が、地面からでも確認できた。 あの男を。まるで何かのついでのように目の前で人を殺した男を、二人は止めなければならない。 プリキュアとしての正義感だけではない。二人の、神山満月とマシロの意思として。 答えは無言、戦闘体勢だけを取る、 「ぜろ」 かがみのカウントダウンが、終わる。 「ぜろ。ぜろ。ぜろぜろ、ぜろぜろぜろ! 0よ! ったく懲りないわねぇあんた達……。 さあて、それじゃあ殺してやる! 食らえ、クルミの斉射――全方位バージョン!」 「なっ」 「え、」 「言ったでしょ? 殺す気で行くって」 一、十、百? 二百? いやもっとだ、 これまでのクルミの最大顕現数を遙かに上回るクルミが、ドーム状になって二人の回りを取り囲む。 かと思えば、二人に向かって発射されてゆく。 しかもご丁寧に、いっぺんに対処できないよう微妙にタイミングをずらしながら! 「フルムーン!」 「分かってる! 数が多くても――軌道が一直線なのは変わらないわ!」 二人は地面を蹴りあげ跳ぶ。 遅れてクルミ群が元いたところに集中して着弾、爆音と砂塵が舞う。 かろうじて避けた……が、息吐くヒマはまるでない。 上から、横から、前後から。クルミの雨が、矢のような速度で二人に迫る。 「はぁぁぁあああ!」 「やぁあああ!」 いくつか弾きながら走る。 二人の足音を追うように、クルミが着弾して足跡をクレーターに変えていく。 なるほど――今までのクルミはすべて、最初に動き始めた方向に一直線に加速していた。 それが今回は、発射時にプリキュア二人の近くを狙うようになっているのだ。 取れる最善の行動は、移動し続けて狙いを定まらせないこと。 それもルートが読める単調なものじゃなく、複雑に、読まれないように動かないといけない。 (ここにきてこんな――でもこの数。クルミの木は?) 後ろからのクルミをデイパックで受け流し、ヴィントブルームは辺りをちらと見回す。 クルミの木はやはり0本。よし、これなら、 「ヴィント……ヴィントブルーム、二手に!」 「あ、ああ!」 「ほらほら、ほらほらあ! 墜ちろ落ちろ倒れろ死ね! まだまだクルミはたくさんあるわよ!」 怒号というか気がふれているかのようなかがみ(6/)の叫びが空間を脅す。 竜はさっきから無表情。 二手に分かれたプリキュアは無軌道に駆ける、 が、追いづらくなったはずのそれらを難なくクルミは捕捉してくる。 それでも。二手に分かれたぶん、相手が使わないといけないクルミの数は二倍となり――消耗を誘える。 肘で。 膝で。 爪先で。 拳で。 避けきれないクルミを迎撃しながら、狙うは弾切れただ一つ。 (あの男は間違いなくこの攻撃に賭けてる。だから、ここさえ乗り切れば。戦況は一気にこっちに傾く。 だけど、僕たちも消耗してるのは同じだ。どうにかここで……!) ヴィントブルームは右に飛んだ。風を切る音とその大きさで、次のクルミの方向を予測。 デイパックで受け流すしかない――が、そもそも何度もクルミの攻撃を耐えられるようなものじゃない。 案の定、次に飛んできたクルミを受けると、デイパックが軽くなった。 裂けてぶちまけられた中身は、基本支給品の水入りペットボトルに、裁縫セットと、一枚のカード。 『六芒星の呪縛』という名前のカードは、確かフルムーンのほうに『融合』という名前の似たカードがあったな、 と思ってフルムーンの方を見れば、ほぼ同時に彼女のデイパックも宙を舞っていた。 こちらは中身が入ったまま、デイバック自体が吹っ飛ばされている。 とはいえ、ヴィントブルームのものと同様、使い道が分からないものが入っていたのは確認済みだ。 問題は、防御に使える物がもう無いこと。地面にクレーターを作るほどの威力を持っているクルミを、 ここからはどうしても体で受けなければならないこと。 「う、がはっ……!」 「ヴィント――きゃ……うう!」 空中に残るクルミはあと僅か。 しかし、かすめたクルミが服を裂き、当たったクルミが肌にアザを作る。 手が、足が、思うように動かなくなっていく。視界がかすんで、世界がぼやける。 当たり前だ。 ずっと竜に乗って動いていないかがみ(6/)と違って、二人は一時間半の間クルミを避け続けていたのだ。 どちらがより疲れているかなんて議論するまでもない。 「でも……負けられない!」 擦り傷、切り傷をあちこちに作りながら、少年少女はまだ倒れない。 走り続ける。クルミの海の中を泳ぎ続ける。 なぜ負けられないのか。自分が生き残るため? 貞操を守るため? どちらも、違う。 自分の意思を、みんなを守るという志を貫くため。 どんなに無謀でも、どんなに理不尽な相手でも、マシロと満月は負けるわけにはいかなかった。 走って、ぶつかって、転んで、起き上がって、また走って。 そして、クルミの攻撃が、ついに止んだ。 「……ふぅん、やるじゃない」 竜の上から身を乗り出し。 クレーターだらけになった地面を見て、かがみ(6/)は思わず賞賛の言葉を漏らす。 聞こえる息の音は、二つ。 「褒めてあげるわ。あのクルミの攻撃を受けて、まだ意識を保っているだなんてね。 でも勝負はあたしの勝ち。あんた達はもう、動けない」 「はぁ、はぁ……っ」 「っう……くそぉ……」 キュアフルムーンとキュアヴィントブルームは――生きていた。 そしてしっかりと大地を踏みしめ、上空のかがみ(6/)を見据えながら立っていた。 ただし、ヴィントブルームの肩をフルムーンが借りる形で、だ。 「ごめ、ん、ヴィントブルー、ム。わた、し……はぁ、足、引っ張っちゃ、った」 「謝らないで、フルムーン。大丈夫、僕がついてる」 「竜、地面スレスレで。降りるわ。ふふ、ちょっとピンクな展開になるから、嫌なら上空を飛んでなさい」 「……いいアルカ? ジェリーに噛まれても知らないアルヨ?」 「あたしはトムじゃないわ。ほら早く」 「はいはいアル」 「……はい、は一回よ」 「はいアルアル☆」 「もう突っ込む気も失せたわ」 ゆるゆると高度を落とし、竜の背中からかがみ(6/)が地面に降り立つ。 竜はけんぜんなシーンを視界に入れたくないのか、単に興味がないのか、再び空へと昇っていく。 勝敗は決し、ここからはワンマンショー。舌舐めずりを一つして、悪魔は天使に問いかける。 「さて――どんな気分かしら? これから犯されると分かっているのに、一歩も動けず反抗もできない気分は」 絶対の自信を表すように胸を張って、一歩一歩獲物との差を詰めていくかがみ(6/)。 男の姿をしながら女口調で喋るその姿は、まるで何かに取り憑かれているようで。 「悔しい? 苦しい? 痛い? それとも怖い? 大丈夫、心配する必要なんてないわ。嫌な感情はぜんぶ忘れさせてあげる。カオス仕込みの快楽でね」 ぞっとするようなことを言う。即興で作ったような笑顔を浮かべる。 迫りくる男の行動ひとつひとつが、プリキュア二人には理解できなかった。 「……なんで、こんなことをするんだ」 言葉を返したのはキュアヴィントブルーム。 単純な疑問と、ある種の諦めが混じった声だ。 「はあ? 意味わかんないこと言わないでよね。理由なんてないわ、むしゃくしゃしたからやってるだけよ?」 担いでいたフルムーンを一旦地面に座らせて。 ヴィントブルームは彼女を守るように矢面に立つ。 だが彼も、フルムーンと比べれば多少マシとはいえ、立っているのがやっと、というほどふらついている。 それでも。拳を握りしめながら、ヴィントブルームは語り始める。 「意味わかんないのは、こっちだよ。正直いって僕には、あなたのことが理解できない。 ここに来る前の生活で僕はいろんな戦いを見てきた。 でも……それは自分の正義のため、誰かのため、 あるいは、生きるため。どんな人でも、そうしなければいけない理由があって戦っていたよ。 僕は殺人は否定しない。こんな場所なら、仕方なくってこともある。 もちろんできればそんなことしてほしくないけど、願うだけでゼロにできるはずがない。 世界はそんなに甘くないよ。綺麗事を並べるには、広すぎる」 「へぇ、ただの正義馬鹿にしては珍しく、ものわかりが良いじゃない。 それで? あたしのことが理解できないのは、いったいどうしてなのかしら?」 「……それは、あなたに戦う理由がないからだ。分かってるはずだよ、あなたは、殺すのを何とも思ってない。 まるで、殺し合いが義務づけられてる世界から来たみたいだ。理由もなしに人を殺していいと思ってる。 生きたいとか誰かのためとかじゃない、ただ自分の利己のために。そんなのは、僕は許されないと思う」 「――敢えて突っ込まないわよ。続けて?」 にやけ顔で歩いていたかがみ(6/)が、ぴくりと眉を動かして不快そうな表情をした。 ヴィントブルームは続ける。顔を上げて、前を見る。 「僕は、誰かを守るためなら自分の命もかえりみない人たちを知っている。 僕のために戦ってくれる子たちを、知っている。ここには僕しかいないけれど、 だからこそ、僕は彼女たちのように、誰かを守るために戦おうと思う。 それをあなたが邪魔するというなら。誰かを襲い続けるというなら。 僕はあなたを止めなきゃいけない――たとえあなたを、殺してでも!!」 瞬間。 もう動かない『ように見せかけていた』、足を動かしてヴィントブルームは駆けた。 「いっけええ、ヴィントブルーム!」 「ああ! かがみさん、やっぱり罠だったアルヨ!」 「あらホント」 すべてはこの瞬間を作るための策だった。 負けたように見せかけ、かがみ(6/)に降りてきてもらってからの、不意打ち。 本当にギリギリだったけれど――ヴィントブルームはどうにか余力を残せたのだ。 前方、かがみ(6/)との距離はそう大きくない。クルミの木が無い以上、迎撃は不可能。 一撃。たった一撃、それだけ入れることができれば優位に立てる。 後ろからフルムーンの声援を受け、千載一遇のチャンスに乗って、ヴィントブルームは拳を振り上げた。 突然のことにかがみ(6/)はぽかんとしている。ように見える。 一時間半ずっと能力を使い続けて、やはり同じように消耗していたのだろう。反応が遅い。 これならいける、勝つことが出来る、はず。 きっと。たぶん。おそらく。 「はああああああああああ!!」 そう、数々の推論のもとに立てられた仮説に則って。それが間違いである可能性も、考えず。 例えば、いまだ地面にびっしりとおちたままのクルミにも気づかずに――、 ヴィントブルームは咆哮した。 柊かがみは、心からの笑顔を見せた。 「爆発しろ☆」 ひとこと。 そう言い放ったのを、ヴィントブルームの耳が捉えたかと思えば。 ばん! ばん! ばん! と、爆竹が爆ぜるような音がばん! ばん! ばばばばん! と地面からばん! とそれはそれは大量にばばばばばば! と響き、 気がつけばヴィントブルームは……いや、変身が解けたマシロ・ブラン・ド・ヴィントブルームは、 地面に情けなくうつ伏せになって砂に顔を埋めてしまっていた。 「が……はっ?」 「マシロくん――!!」 「あー、あんたちょっと黙ってろ。はい、クルミのツタ」 驚愕するマシロ、助けようと立ち上がろうとしたフルムーンに、地面から現れたクルミのツタが絡みつく。 四肢の自由を奪い、地面から少し浮かせて拘束。 かがみ(6/)が人差し指を振るうと、大きなクルミがどこからともなく現れ、 何か叫ぼうとしていたフルムーンの鳩尾へクリーンヒットする。変身が解け、神山満月がぐったりと項垂れた。 この間、二秒。 「なん……で……?」 「あんた達が犯した間違いは、四つ」 思わず疑問符を口に出してしまったマシロを見下ろしながら、かがみ(6/)は解説を始める。 「一つ目は、この固有結界に関して。 あんたはどうやら、この結界の維持にはそれなりのリスクがかかると思い込んでいたらしいけど。 そんなものは無いわ。この技は基本ノーコスト。カオスロワのチート力を舐めてもらっちゃ困るわね。 二つ目は、クルミが爆発しないと思っていたこと。 爆発するわよ、クルミだもの」 いや爆発しないだろう、というツッコミは通じない。 実際に地面のクルミはマシロの近くのものだけ爆発し、中の身や破片がマシロを襲ったのだから。 「じ、じゃあ! クルミの木がだんだん減ってたのは何だったんだ! あれがあったから僕らは……」 「クルミの木? 減ってたかしら? ふふ……もう一度周りを見回してみたら?」 言われてマシロはもう一度辺りを見回す。そして驚きで目を見開く。 クルミの木が、元の本数に戻っている。 いや、むしろ増えている。まるで閑散としていた砂地が、林に変わり森になり、樹海へと変わるくらいに。 「クルミを創造できるってことはね、消滅も再生も自由自在ってことよ? クルミの木だってクルミだわ」 「あ……ああ……」 「三つ目の間違い。あたしに勝てると思っていたこと。対等な戦いをしていると思っていたことよ。 あたしはずーっと、最初から、あんたたちをいじめてただけ。 いつでもヤれるのを、あんた達が万策尽きるまで遊んでやってただけなのよ。 分っかりやすぅいフラグを立ててあげて、それっぽいバトルを演出してあげて……楽しかったわよ?」 虫籠から出ようと足掻いてるバッタみたいで、とっても愛おしかったわ。 そう言うとかがみ(6/)は、6/の、男性の体を最大限に生かして、伏しているマシロの胴体を蹴り飛ばす。 うつ伏せの体があお向けになるくらいに、思いっきり。 「うぁ……! げっ、あ、……か、はっ!」 「さてもう一度聞こうかしら。ねぇ、今、どんな気持ち?」 「く……く、そ……」 「何にもできずに踊らされて、そんで犯されちゃうわけだけど。 それでもまだ懲りずにあたしを否定するのかしら? 自分の利己のための殺しはダメ、許されない? はぁ? あんた根本的に勘違いしてるわよ。 これが四つ目の間違いね。 殺しはねぇ? どんだけもっともらしい理由を付けようが、やりたいからやるもんなのよ? 誰かのためだとか。生きるためだとか。あたしを止めるためだとかさあ。 それは結局、自分のためだろ? あんたは、お前らはさ。自分が人を殺す理由を、何かのせいにしてるだけだろうが! ……あたしは偽らない。正当化なんて糞食らえ。やりたいからやる、それだけのこと。 殺したら殺されるって、分かっててやってるわ」 好き勝手に放たれる言葉が、マシロの心に突き刺さっていく。反論したいのに、できない。 確かに、どんな理由があったとしても、殺すことは殺すことだ。 それでもそこに正当な理由があってほしいなんていうのは、マシロの一方的な願いでしかない。 二つの主張が、ぶつかるとき。 通って正義になるのは、戦いに勝ったほうの主張だ。 そしてもはや、マシロにここから勝つ策はない。さらに満月はクルミのツタに捉われ、意識を失っている。 命を握られているのと同義だ。……抗うことは、できない。 「……満月ちゃんには、手を出すな。その代わり、僕は何でもする」 「話が分かる子は嫌いじゃないわ。まぁ――その願いは聞かないけどね! あははは!」 「そん、な」 手が伸びた。救いを求めて天へ伸びるマシロの手、獲物をいたぶらんと、地へと伸びるかがみ(6/)の手。 少年の手は、空を切り。青年の姿をした変態少女が、己のエゴのために少年の服の襟をつかんだ。 引き上げて、はだけられた胸を観察する。 「あら? 思ったより肩幅が広いし、胸筋もあるわね……あ。男の臭いだ。 へえ。そういう趣味だったのねぇ。ま、あたしはどっちでもいいけど。穴があれば」 「頼むから……満月ちゃんには……」 「うっせぇ黙れ」 かがみ(6/)はポケットからパンツを一つ取り出して、マシロの口に詰めた。 「むが! むが……む、う!」 「さてさて、これで口の中を切る心配も無くなったことだし……一発いっとこっか♪」 「……!?」 「この握りこぶし。何に使うか分かるわよね」 返事は聞いてない。かがみ(6/)はマシロの頬骨あたりを狙って、素早くジャブを放つ。 ぱぁん、と小気味よい音がして、マシロの鼻からつつ、と血が垂れていく。 「がっ……」 「あんたホントいい顔するわね。まずその表情、分かんなくなるまでぼっこぼこにしてあげるからね! そら!」 二発目は下からのアッパー。 衝撃は顎から後ろに向かって脳を揺さぶり、一瞬白目をむいたマシロは再び仰向けに倒れる。 すかさず馬乗りになって、マウントポジションをとったかがみ(6/)はニタニタと笑いながら、 「おら! おらおら、さっきまでの威勢は? どこ行ったの? ほらほらしっかりしないと連れの両穴がっばがばになるまで○しちゃうけどいいのかしら? あはは、不細工な顔! アンパンマンみたいよ! ふふ、ヒーローになれて良かったじゃない!」 左から、右から、無遠慮に無慈悲に、マシロの顔に殴打の雨を浴びせる。 終わらない。止まらない。 唯一止められる立場にある竜は、かがみ(6/)が逆転してからもう地上を見てすらいない。 マシロの整った顔立ちはたちまち腫れ上がっていく、目がまともに開かなくなって、呼吸が辛くなっていく。 薄れていく世界の中で、ぼやけてかすれていく頭の中、マシロはふと思う。 ああ、これじゃあ。こんな顔になってしまったら、もう王女の影武者なんて出来ないじゃないか。 苦しい――辛い――でも、くっするのだけはいやだ。 そしたらもう――し、……、 「あら? あらあらら? ねぇねぇどうしちゃったの? もう口答えできなくなった? え? 死ぬの? バカなの? 死なせないわよ? そんなに簡単に、あたしがあんたを殺すとでも思ってたの?」 「――うぅが、あがっあ!」 次は首を絞められる。飛びかけていた意識が、生命の危機を感じて引き戻される。 かがみ(6/)は殺すとはひとことも言ってない。犯す、と言ったのだ。 つまりそれは、身体だけでなく、精神まで支配する、ということ。 柊かがみの心の飢え。 6/と仲違いしたことから生まれたそれは、知らず知らずのうちに自分に服従してくれる忠実な犬を求めていた。 自分の言いなりになって、何があってもそばにいてくれて、何をしても文句を言わない。 そんな都合のいい存在を、強欲にも求めてしまっている。 「……ほら」 だから、首を絞めて。 「観念しなさい」 生きるか死ぬかの瀬戸際で放す。立場を、認識させる。 「あんたの生殺与奪は――あたしが握ってるんだ」 「う……あ、ぁ」 繰り返し、繰り返し。続けられる虐待じみた行為によって、マシロの心はどんどん消耗していった。 七回、八回、一度呼吸をするごとに、沈められた海から這い上がる感覚。 したはずの決意、想ったはずの正義、全部水に流されていくようなひどいノイズが頭を埋めて、 マシロの心を黒く塗りつぶしていく。 揺れる、揺れる。気持ちが、揺れる。いのちごい、なんて選択肢が、 泣きそうなほどに頭の中で大きくなって。 「た……す……」 「あら、何よ? くすくす」 「……、け、」 その言葉をマシロが発そうとした、そのときだった。 (――Let s……sing a song――) 歌。 穢れきった場の空気を浄化するかのような、澄んだ歌声が固有結界内に満ちた。 小さくて、かぼそい声。でもとても優しくて、張りつめた空気を弛緩させるような柔らかな声。 それでいて、どこか力強さも感じられる声。 広い広いクルミの世界のすみずみまで浸透していったその声は、どこから生まれてきたのか。 マシロにも、 かがみ(6/)にも、 空でゆっくりと遊泳していた竜にも、 歌声の発生源はすでに特定できていた。 「……アル?」 竜は不思議に思う。なんで今になって、歌なんて歌うのか。 「なんのつもり……?」 かがみ(6/)も同じだった。 ボコられてる相棒を尻目に歌を歌い始めるなんて、ついに気でも違えたのかと思った。 「…………満月ちゃん!?」 ただ一人。 マシロだけが、『キュアヴィントブルーム』だけが、声の主の意図するところを体で感じ取っていた。 遅れて二人と一体は、声の主がいる場所へ目を向ける。 そこにはクルミのツタに囚われた神山満月がいて――いつのまにかキュアフルムーンに再度変身している。 しかしどうにも様子がおかしい。マシロが話しかけても、歌を歌い続けるばかりで全く反応を示さないのだ。 ただ目を閉じて、歌うことだけに集中している。代わりにマシロの体から、不思議と力が溢れてくる。 (これは……? まさか、この歌が?) 歌に乗せて、力が流れ込んでくる。 ぽかぽかと体が暖かくなって、壊れかけていたマシロの心を癒していく。 伝わってくる――満月ちゃんは、僕のために歌ってくれている。この絶望的な状況でも、諦めずに信じている。 僕を、僕たちの勝利を、信じてくれている。 そうだ、何を弱気になっていたんだ。僕は一人じゃないのに。月が欠けることはないって、言ったのに。 満月ちゃんが、力を貸してくれている。あとはそれに、僕が応えるだけだ。 「――――あぁあアァあアぁああアアッ!!」 「ん、なっ!?」 どこからそんな力が湧いてきたのか。 吹っ飛ばすようにしてマシロはかがみ(6/)を退ける。 立ち上がって、乱れた髪を軽く振ると、恐怖に濡れていた瞳はもう勇気を取り戻していた。 クルミに切り裂かれたはずの服や肌、殴られて腫れ上がったはずの頬が、どんどん元に戻っていく。 光に包まれたマシロの体が、再びキュアヴィントブルームへ変身した時には、 戦いが始まる前より元気なほどに、身体も精神も回復していた。 「フルムーンの……乙HiME(オトメ)の力、受け取ったよ」 自分の意思とは無関係に呟いた言葉は、さらにヴィントブルームの姿を変化させる。 王族衣装に似たコスチュームから、元居た世界で彼を守ってくれていた、乙HiMEに似た服装へ。 守られる側から、守るために戦う側へ。 「もう一度だ。まだ僕らは負けてない。もう一度、あなたを止めるために僕らは戦う。 いつまでもあなたってのも他人行儀かな。ねえ、教えてよ。名前」 「なぜ回復したのかしら? ……そっか、この歌の効果ってやつか。 イヤボーンなんて都合いいわねえ、あんた達愛されてるわよ。でもね、名前を人に聞くときは――、 自分がまず名乗るもんじゃないかしら?」 かがみ(6/)は皮肉を吐きながら、フルムーンを捕らえているクルミのツタに命令を送る。 ツタはしゅるしゅると伸びてフルムーンの口へ。首を絞めることも考えたが、差し当たってはこっちの方が確実。 どんな効力だか知らないが、歌がこの状況を生んでいるのは明らかだ。口さえ塞げば、 「そうだね、そうするよ。だから、もっと正々堂々やろう。騙し合いはなしだ」 阻止された。 かがみ(6/)がフルムーンの口を塞ごうとした瞬間、ヴィントブルームの姿がその場から消え、 かと思えばクルミのツタはずたずたに切り裂かれた。 砂塵の中から現れたのは、フルムーンをお姫様だっこしたヴィントブルーム。 姿はさらに変化していた――背中に光の羽を生やし、大きな長剣を携えたその姿は、 必殺技どころか第二形態と呼ぶに相応しい姿だった。 (ちょっと遊びすぎたかしら。やっべーの呼び起こしちゃったわね) 冷や汗を一滴流しながらも、かがみ(6/)はあわてずに周囲の様子を観察した。 視界の隅を竜が悠々自適に飛んでいる。これは変化なし。 発現させたクルミの森、クルミの砲弾。これも変化なし。 攻めの手はまだ、死んでいない。 ただ――気絶させたフルムーンの方に意識を向けていなかったのはミスだった。 祈るように目を閉じ、ヴィントブルームに抱き上げられながら、 綺麗なメロディを詠唱するフルムーンにはなぜか隙がない。 どこから攻めても『なにか』に阻まれてしまう、そういうビジョンが頭の中で組みあがる。 今の状況からも分かるように、こっちにちょっかいを出すのは負けフラグ。 ……今までの経験からくるフラグ勘のようなものが、かがみ(6/)の脳内で警告のブザーを鳴らす。 続けて前を見る。 紫銀の髪を揺らしながら、さっきまでとは別人のようにしてかがみ(6/)の前に立ちふさがる少年。 フルムーンを静かに地面に立たせ、すっと息を吸い込んで、 「僕はマシロ・ブラン・ド・ヴィントブルーム。といっても、これも偽名だけどね。 本当の名前は、教えちゃいけないことになってる」 と片目を瞑る動作なんか、強者の余裕さえ感じられる。 支えだ。 不安定になっていた心、精神を、あの歌が支えている。 もはや今までのような絡め手は効かないだろう。正々堂々、正面から力で打ち負かさない限り、 二人のプリキュアの信念を曲げることはできない。服従させることも。 「あははは、このあたしが正々堂々だなんて。お笑い種もいいとこね。 ――ようやく、退屈しなさそうじゃない。 オーケー、教えてあげるわ。あたしの名前は、柊かがみ。ロワに呪われたツンデレコンビの片割れよ」 ヴィントブルームに羽根が生えた以上、竜に乗って空には逃げられない。 かがみ(6/)に残された選択肢は、目の前の正義の味方と戦う悪へとなりきることだけだった。 でも、それは。今までとなにか違うことをするとか、そういうことじゃない。 いつだってかがみ(6/)は悪であり、そうなることで目立ってきたのだから。 目立つことで、死を逃れてきたのだから。 後悔なんて、一つもない。 「クルミの大剣」 ここは『クルミの固有結界』。……なにもかもがクルミで演出できる空間。 かがみ(6/)は右の手へとクルミを集めていく。 自在に形を変えるクルミは次第に、ある一つの形へと収束していく。 巨大な、剣。まがまがしいオーラを放つ、クルミの大剣へと。 かがみ(6/)が剣を構えたのを見て、ヴィントブルームも地面に差していた長剣を引き抜く。 そして同時に、呟いた。 「「二つの主張が、ぶつかるとき。 通って正義になるのは、戦いに勝ったほうの主張だ!」」 火花散る。 空間を満たす歌の中、二人の思いが剣となって――戦いは乱戦から、一騎打ちへと進行した。 (おおー、かっこいいアル。BGMもいい演出アルネ。 と、まあそれはいいんアルけど……いつ終わるんアルヨ、この戦い?) その戦い上空から眺める立場の竜は、また一つ欠伸の数を増やすのだったが。 ぼーっとしすぎていたからか、竜もこの空間に起きていた異変には気づかなかった。 ぴし――、と、クルミの天井がほんの少し割れて。 青く晴れ渡った空がそこから、わずかに覗き始めたことに。 柊かがみは一つだけ嘘をついている。 カオスロワで許されるチートが、オールロワで同じように許されるとは、限らない。 【1日目 午前/C-5 クルミの固有結界内】 【柊かがみ(変態仮面)@パロロワクロスネタ投下スレ】 【服装】上半身裸 【状態】ほぼ健康、外見は◆6/w氏(クロス) 【装備】大量の下着、クルミの大剣 【持ち物】支給品一式、不明支給品0~1 【思考】基本:やりたいようにやる 1:6/の代わりに服従してくれる犬を作る 2:目の前の2人を正々堂々犯す 3:脱出方法を探す 【備考】 ※クルミの固有結界の維持限界が近いことを隠しています。 【竜@まんが日本昔話】 【服装】全裸 【状態】健康 【装備】なし 【持ち物】支給品一式、不明支給品0~1 【思考】基本:ロワはどうでもいいアル 1:いつになったらバトルは終わるアル? 2:かがみよりも6/さんが心配アル 3:生まれ変わっても人間にだけはなりたくないアル 【備考】 ※飛び続けないと死にます。 【神山満月@満月をさがして】 【服装】プリキュアっぽい服 【状態】軽傷、疲労(大) 【装備】ピンキーキャッチュ@Yes! プリキュア5 【持ち物】 【思考】 1:いろいろと危険な人(かがみ)を止める 2:マシロとアカギ(零)と一緒に都市で殺し合いを止めるための仲間を探す 【備考】 ※ピンキーキャッチュ@Yes! プリキュア5でキュアフルムーンに変身可能。変身中は病気が悪化することは無いようです。 ※キュアフルムーンの容姿は原作のフルムーン状態です(金髪ツーサイドアップの16才ver、ステージ衣装っぽいプリキュアっぽい服) ※必殺技「キュアフルムーンソング」歌ってる間味方を支援する技。回復効果(中)。 【マシロ@舞-乙HiME(漫画)】 【服装】乙HiME仕様のプリキュアっぽい服 【状態】健康 【装備】ピンキーキャッチュ@Yes! プリキュア5、長剣、光の羽 【持ち物】なし 【思考】 1:いろいろと危険な人(かがみ)を止める 2:満月とアカギ(零)と一緒に都市で殺し合いを止めるための仲間を探す。 3:満月が心配。 【備考】 ※ピンキーキャッチュ@Yes! プリキュア5でキュアヴィントブルームに変身可能。 ※キュアヴィントブルームの容姿はマシロとの違いは特になし(髪はカツラではなくなる。王族衣装みたいなプリキュアっぽい服) ※必殺技「キュアダイヤモンドヴァルキリー」味方の支援を受けて乙HiMEの力を使う技。 光の羽と長剣を生成し、原作5巻の最後みたいな感じに服も変化する(支援する仲間が多ければ多いほど強くなる) ※マシロのデイパックが破れ、DMカード「六芒星の呪縛」@ニコロワと裁縫セット@現実が固有結界内に落ちています ※神山満月のデイパック(中身はDMカード「融合」@ニコロワ、不明支給品1)が固有結界内に落ちています ※クルミの固有結界にヒビが入り、外から見えるようになりました。 時系列順で読む Back 笑う蛇 Next それはとっても嬉しいなって 投下順で読む Back ねえ、キスして Next ユメノアト 【誤解連鎖】 柊かがみ(変態仮面) きっと奇跡も、魔法も、あります! 【誤解連鎖】 竜 きっと奇跡も、魔法も、あります! 【誤解連鎖】 マシロ きっと奇跡も、魔法も、あります! 【誤解連鎖】 神山満月 きっと奇跡も、魔法も、あります!
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『シャア専用』が領土を獲得するまでの歩みをギルマス目線で紹介 「勝利の栄光を君に!」 ○STEP1 アルデバランサーバーの最強ギルドPRIDEに戦法を学ぶ (※PRIDEに恨み等は一切ございません) 第1回 【テーマ】 領土戦を体験しよう! 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 11月25日21 06 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 ? × 【宣戦コメント】 特に無し 【参戦メンバー】 1.mappoi 2.rioa 3.STEED 4.もも花 【領土戦を終えてのコメント】 7倍近くの相手に何も出来ませんでした。動きが止められて攻撃すら出来なかったです。 収穫は領土戦を体験できた事、薬が必須である事、STEEDが矢倉を建てる事に成功した事。 戦が終わった時のPRIDEのリーダーの「やめ!」という白チャにメンバーがきちんと従う様は、ギルドとしてまとまっているなと感心させられました。STEEDを見て、ウチには無理だと思ったのはオレだけかな?w 「またお願いしま~す」との発言に、「またくるの?」との返答が・・・オレのハートに火がついたのは言うまでもない。 第2回 【テーマ】 矢倉を建ててみよう! 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 12月02日21 06 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 359,842 × 【宣戦コメント】 「先週の敗戦を踏まえ2機の新たなモビルスーツの投入を決定!皆で夢をみようぜ!『シャア専用』は夢見る峰に宣戦します。星」 【参戦メンバー】 1.rioa 2.もも花 【領土戦を終えてのコメント】 仕事でもともと参加できませんでしたが、リオとももちゃんの2名が代表して戦ってくれました。精霊2名で攻めるってどうなの?という内部批判もありましたが、オレからしたら伝説達成おめでとう! PRIDEの方々も優しく相手をしてくれたみたいで、感謝です^^ 第3回 【テーマ】 矢倉を建ててみよう!(継続) 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 12月09日20 03 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 1,603,276 × 【宣戦コメント】 「連敗してしまいましたが、やっぱり皆で夢をみようぜ!今回も『シャア専用』は夢見る峰に宣戦します。」 【参戦メンバー】 1.STEED 2.もも花 3.アスナス 【領土戦を終えてのコメント】 週に一度の楽しみも残業で参加できず(涙) STEEDが矢倉を建てるもやはり、圧倒的な戦力の前に為す術が無かったとの事。 ももちゃんが最近getした白馬で「戦場を駆け回れたから良かった」という話が唯一の明日への希望の光だ。 第4回 【テーマ】 矢倉を建ててみよう!(継続) 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 12月16日21 00 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 2,285,237 × 【宣戦コメント】 3連敗中です、連敗の疲労を取る為に「休息の丘」にバケーションへ行こう!→やっぱり『シャア専用』は夢見る峰に宣戦します。」 【参戦メンバー】 1.mappoi 2.rioa 3.STEED 4.もも花 5.アスナス 6.あとるしゃん 7.フィグオノア 8.Uザク(応援) 【領土戦を終えてのコメント】 夢の2PTで臨む事ができました!え?7名だって。いや正真正銘の2PTです!! 城外・城内に矢倉を建てる事に成功!課題達成です^^ 個人的には悔いの残る領土戦となりました、開戦後、間もなく家のブレーカーが落ちて、戦場にいたのは実質1分ちょいでした(涙)再起動してINしましたが、既に領土戦は終了していましたとさ。 マスターの駄目っぷりとは逆に活躍を見せたのは、サブマスのSTEED!この男、領土戦時には一歩先いきます! 投石機の操り方を習得し、一人で敵陣へ特攻!敵10人に追いかけ回されている姿は、まさに「男前」の一言に尽きる。その後タコ殴りにあったのは言うまでもないが... メンバー・傭兵とも徐々に増えてきています!来週こそ10分以上戦おう♪ 第5回 【テーマ】 耐えろ!10分以上戦おう★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 12月22日21 15 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 12,157,683 × 【宣戦コメント】 【参戦メンバー】 ギルマス不参戦につき、現在調査中orz 【領土戦を終えてのコメント】 非常に残念ながら、仕事の都合により参戦できませんでした。 メンバーの報告では、今回のテーマは達成されなかったとの事で、誠に遺憾であります。 しかしながら、相手側の主力部隊に対して8分戦闘できた事は、パチスロ『北斗の拳』でいう所の、白オーラでラオウのゴウショウ破2発に耐えて6連したのと同じ価値があると、私の中では思っております! 「微妙~~~~~~~~♪」 ※PRIDEギルマス部隊=主力部隊と勝手にこちらで推測しているだけですので、情報に誤りがあったとしても許してねw また、名物STEED日記に記載のある「昨日の領土戦の一番は最後のあとるんの白チャが最高でしたけどねww詳しくは本人に聞いてねんw」につきましては、判明次第報告できればと思います。 来週は今年最後の領土になります、2007年の良い思い出を作りましょう^^b 【備考】 あとるんの白チャが判明しましたので、ご報告致します。 「よわぞう(RIDEギルマス)だけを倒せ~w」って打ったそうです。 白チャで、二枚も三枚も巧い返しを喰らったそうでw やっぱり、相手は格が違うかもw 第6回 【テーマ】 今年最後だ!テーマなんていらねぇ~よ★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 12月29日21 15 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 13,200,979 × 【宣戦コメント】 【参戦メンバー】 1.mappoi 2.rioa 3.もも花 4.狛狼 5.あとるしゃん 6.フィグオノア 7.*エマ* 8.Uザク 9.ドズル・ザビ 10.るいあ 11.ちょこべびー 12.月隠 刹那 13.カレーナ 14.ラクロワ 15.xxレイルxx 16.一歩 【領土戦を終えてのコメント】 今回、同時刻にPRIDEはELYSIONとB・BLUEとの戦いもあり、どちらも大きなギルドである為、PRIDEはそちらに戦力を傾けていたのでしょう、領土戦開始時に『シャア専用』が実際に戦った相手戦力は1PT弱でした。人数はこちらのが上!チャーンス♪やばいよ、やばいよ(出川風)領土getできちゃうよ! 攻撃側なのにいつも守備を強いられている状態の為、初めて相手側に攻撃しにいくと相手兵力いないのに矢倉にバンバン倒されていくレッドスター軍団の精鋭達。矢倉硬いし威力強す!!こうなったら投石器投入だ!と操作を試みるが相手側まで運べねぇ~orz 千載一遇のチャンスは長いはずはありません。B・BLUEとの戦いが終わったメンバーが合流(それでも10名弱だったと思いますけどw)し、獣を中心に投石機をこちらの陣まで持ち込まれ、あとはいつもの展開です(TT)。クリスタルが~~~ 実質、獣族2匹と戦士1名と精霊1名の4名に撃破される形となりましたとさ!凄い連携で倒したくても倒せないww 投石機の使い方と、メンバー連携が非常に大事だと強く感じさせられた今年最後の領土戦でした。 でも最後に言わせて下さい。「皆最高です!!」負けたのに何が最高だって?オレにとっちゃ勝ち負けなんて大した問題でなく、メンバーがリアル忙しいのに領土戦にかけつけ参加してくれた事が最高でした^^b LV制限無しでLV24~LV95の幅広いLV帯の領土戦初心者のメンバーで「こうしよう!ああしよう!」と試行錯誤しながら領土戦を皆で作っていくって面白いよね♪ 何と3PT!!!2007年最後の領土戦、最高♪ 来年も楽しもうぜ! 第7回 【テーマ】 新年1発目タイマン勝負!!どうせ倒れるなら前に倒れろ★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 1月6日21 03 侵攻 PRIDE 夢見る峰 LV3 500,000 21,423,789 × 【宣戦コメント】 【参戦メンバー】 1.mappoi 2.らっこくん 3.STEED 4.狛狼 5.あとるしゃん 6.フィグオノア 7.ドズル・ザビ 8.るいあ 9.カレーナ 10.大串君 11.王昭君 12.xxレイルxx 13.tonytony1(応援) 14.西施(応援) 【領土戦を終えてのコメント】 いや~PRIDE強す! 新年早々から強さ見せ付けられて、8分で撃沈ですorz こっちのクリスタルの前に何人いるんですか?並びすぎだっちゅ~のw 今日の領土の為にレベル上げたのに、全く無意味でしたよ(TT)責任とってください♪ メンバーが増えて来ましたが、今の『シャア専用』の力はまだまだです、それを再認識できた事を今回の収穫として、また今年も抵抗勢力としてメンバ-諸君!がんばろうじゃあ~りませんか!!! だってさ「壁は高ければ高いほど、登れた時に達成感があるものだよ!」 皆前に倒れてたから、テーマ達成♪ね^^次回に続く。。。 ○STEP2 アルデバランサーバーの強豪ギルドに挑む! (※PRIDEが強すぎるからじゃないよ(TT)w) 第8回 【テーマ】 PRIDE戦で培った防御力を見せろorz★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 1月11日21 18 侵攻 不夜城 凍骨の氷原 LV3 30,000,000 56,562,386 × 【宣戦コメント】 【参戦メンバー】 100時間制限が解除されていないメンバー3名の応援を含め、26名位?でした!人数多くなってる上、ギリギリに皆INするんでPT編成で一杯一杯の為、チェックするの無理ポ~~~♪名前明記出来ずに、申し訳ございませんでしたorz 平日にも関わらず、嬉しい誤算でした^^ 【領土戦を終えてのコメント】 いや~またまた記録更新しちゃいましたよ!何と4PTでございます!!!!領土戦には負けましたが、ある意味勝利でしょ~~♪ PRIDEよりは、やはり少し力は下って思いましたが、領土もってるギルドはどこも強いってのが感想ですねTT、圧倒的な数で負けているって感じではなかったですけど、やっぱ強す!ま~簡単に勝っても喜びが少ないんで、こうでなくっちゃw はうザク(弓使)がコッソリ投石器運んで仕掛けていたり、フィグ(精霊)が領土で初めて相手を倒したり、ドズル(戦士)が相手の弓使を頑張って追い回してたり(逃げられて最後はやられていたようですけどw)、それぞれが自由に楽しく遊べていたし、それでいて勝利を目指していたし、今週も素敵な領土となったのではと思います。 それにしても相手側の「グフ」はインパクト大でしたねw矢倉と大きさ変わらなかったもんねww 来週はどこいっちゃいましょうかね~~♪ 第9回 【テーマ】 60Mの価値ある戦いをせよ~ギルマスは風隊に勝利~★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 1月19日21 18 侵攻 猫まっしぐら 戦場ヶ原 LV3 60,000,000 64,202,522 × 【宣戦コメント】 初めて領土オークションで競合しちゃいましたorz風隊とw 25M→60Mで勝利♪メンバーからは安い場所に変更しよう!なんて意見も出ましたけど、「何人もオレの邪魔はさせん!!!」。カッコいい事書いてますけど、もう1回上乗せされてたら負けてましたwwいや~痛い出費っす(涙) 【参戦メンバー】 仕事の都合上参戦出来ず(TT)、参謀からの情報では26名(参加者名までは聞いておりませんorz)!! 今は亡きノリックだけど「きてます、きてます♪5PT」 ↑ノリックとマリックの勘違いですorz 【領土戦を終えてのコメント】 参加できていないので、以下伝聞になりますけどw 領土戦は30分近くに渡って繰り広げられたとか!記録更新じゃん♪でもね、よくよく聞いてみると、数でも26対70(おおよそねw)、その上、転生者の数も違けりゃ、非転生者のレベルも格段に違かったらしくて、速攻でクリスタルを破壊できる戦力にも関わらず、実践訓練相手にされたとの情報が。。。。 キャットフードだけじゃ足らずに、誉れ高いRedStar軍団をも舐めるとは...この屈辱は倍にして返してやりますとも!合言葉は「猫真っ青ら♪」orz 冗談はさておきw、敵は多いだけじゃなくて、PT毎にまとまって行動し連携をとって攻撃してくるそうで、チームワーク抜群だったとの事!メンバーの中には「勉強になった」との声も上がるほどに。 前々からメンバーに知って欲しいと思っていた、『チームワークの大切さ』を知るいい機会になったのではと思います。ほら60M出した甲斐あったでしょ?やっぱりオレってセンスあるわorz 今回もテーマ達成ですねww ここから下はメンバー向けになりますが、領土に勝つ為にはチームワークが必須と強く思ってるメンバーもいると思います(あとるんを筆頭にww)。それはそれで良いと思います!練習して領土で実践してみるのもOK。領土前のPT編成で今回は練習したメンバーで組みたいと申し出てもらえば勿論優先させて頂きます。(いつも適当なんでw) ただオレ様としては、前から言ってる様に、PT練習してセオリー通りの動きをして勝ちたいとは思っていません!それじゃ大手ギルドとかわらないからねw色がないんだよ♪それにね!ゲームで練習なんてしてられっか~~~~。 ここで、なぜPT連携に捕らわれない領土をしようとオレが思ったのかエピソードを紹介しよう!遡る事4ヶ月前、『シャア専用』設立の少し前だったかな、前のギルドに所属していた当時のオレは抜群のチームワークを誇る白熊隊に所属し、数々のギルドを撃破していた。ある日、弱小ギルドとの領土戦があった、そこで見たものは『衝撃』であった!!一人縦横無尽に戦場を駆け回って暴れている戦士がオレの視界に入ってきたのだ。戦士といえばスタンで相手の動きを止めるってのが役割だが、彼は違っていた。いきなりドラゴン、斧から素手にチェンジしてタコ殴りと思いきや、今度は剣でスキルを連発。当時のオレにはセオリーを無視した無茶な戦いをするアフォな戦士としか思えなかった。高レベルの戦士だったのであろう、1対1の白兵戦では無類の強さを見せていた彼だが、我が白熊隊のチームワークには勝てるはずもなく目の前で力尽きた。戦場で相手にササなどしないオレが、なぜかは分からないが、その戦士に「なぜ、貴方はそんな戦い方をするんだ?」とササをしていた。彼からの返答は... 「オレ海賊王になる!!」 その一言であったが、戦争には勝ったがPTチームの中の一つの歯車になっていた自分と、戦争には負けたが戦場の主人公になっていた彼を比べた時に、本当の勝利者は彼だった事を認識させられたのである。それからオレは、一人一人が輝けるそんなギルドを作ろうと、最強白熊隊より脱隊した。ちなみに、その戦士の名前は「STEED」、今の『シャア専用』のサブマスだ。 ここまで読んだ人、さ~せんorz 上のエピソードは作り話ですorz 前のギルドで領土に出た事もなけりゃ、STEEDが強い戦士なわけもありませんwただ一つ真実なのは「オレ海賊王になる」って台詞をSTEEDが言ってた事かなwww コメント欄だったのに、つい悪ふざけをorz 本題に戻りますが、チームワーク無しで、自由に動いて勝つ?どうやって?答えは簡単!!!数で圧倒w 勧誘やってこ~~~ぜ♪ 来週も、色々経験して楽しみましょうね^^ ※あとるんからの情報だと、猫まっしぐらより、PT戦の模擬練習などを合同でやってもいいよ。みたいな話をくれた様で、なかなか好意的に見てくれてとの事でした。いいギルドです!「猫まっしぐら」。機会作って、イベントできればいいかもしれないですね。 メンバー諸君忘れるなよ、やられたらやり返す!合言葉は「猫真っ青ら♪」www 第10回 【テーマ】 アルデバラン3強ギルドに赤(Redstar軍団)の衝撃を与えろ★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 1月25日21 06 侵攻 ELYSION 疾風平原 LV3 500,000 119,001,920 × 見てやって下さい返金上限が100M超えてますよ!ウチもやっと中堅ギルドの仲間入りだと思われます^^ 20M超えた時にSTEEDが「ウチも中堅だぜ!」って、おいお前は割り算もできねぇ~のかwそんな素敵なサブマスです♪ 【宣戦コメント】 いつもはオレの単独で決める宣戦相手ですが、ロード第3弾からは4強相手という事で、はっきり言ってどこでも同じwメンバーに「希望あるかな?」、フィグから「エリザベスのエリで!」、即採用でしたw 【参戦メンバー数】 26名とかそんなもん! 絶対数増えたけど、金曜日はリアル都合で参加できない人もいて、6PT無理でしたorz らっこみたいに土・日と思い込んでギルドページみないヤツは論外ですけどw メンバー増加につき、全員は把握しきれないので、今後は数でいきま~~すorz 【領土戦を終えてのコメント】 他のギルドとは違って、速攻をしかけてくるのではなく、最初は空中からの偵察をしてきた上で、Aルートで何PTかが仕掛けてきつつ、Bルートで投石器PTが突っ込んできていました。そのお陰でタイマン勝負(牛乳もいたかorz)にも関わらず15分の領土戦時間となり、いつもより少し長く領土戦を楽しめました♪ 某領土ギルドから移籍してきてくれたメンバーから、「Aルートから攻めて来てるよ!」というギルチャが流れてきたんですけどね、Aルート?どこじゃ~そりゃorz。。。「マップ見て下さい!」との回答、私勉強不足でした(TT) ELYSIONの印象は、手堅い作戦と後衛が強す!って感じがしました。いつもは前線で硬い戦士と合間見える形ですが、それほど硬い戦士がいないにも関わらず、どこからか攻撃を喰らって、はい!もどり~~~orzでしたねw 投石器が多かったのか、そこまでは良く覚えてないですが、クリスタル付近まで攻め込まれてから、他の対戦したギルドの中で一番最速でクリスタルを壊された感じがしましたねorz そんな相手にRedstar軍団ですが、成長の姿が著しい!!今まではPT毎にまとまって移動なんて事はなかったのに、今回は適当に決めたPTにも関わらず、PT毎にまとまっていた感じがします!!オレ反省。。過去振り返るとオレが開始時に馬で特攻して、メンバーを振り切ってた事を。。。orz 個人的に一番の収穫は、流れの中で自陣の入り口にて、STEEDと鉢合わせる場面があって、敵の戦士を二人で殴ってたら、結構あっさり倒せちゃいました♪いつもは一人で殴っていて、強豪Gメンは個々が強いと思っておりましたが、複数で敵に攻撃を仕掛けると、こんなに簡単に倒せるものなんだ!という連携の大切さを実感できた事です。 実際殴ってる途中、これは卑怯な構図だと思って、別の敵を殴ろうかと一瞬思いましたwでもSTEEDがタイマンで勝てる訳が無いという情けから生まれた出来事というのは内緒ですけどwwwこれまでは一人で敵を倒すという美学に重きをおいておりましたが、協力して敵を倒すのも悪くないと思った瞬間でした^^ この戦いにおいて記憶に残るといえば、あとるんの「ニルでてこいや~~♪」の白チャ(もはや恒例のあとるんの白チャとなっておりますけどw)でしたね。フレが敵同士で戦うってのも非常に面白いモノだと思います^^あいにくオレのフレはINしておらず、戦えなかったのは残念でしたけど あとは、敗北がほぼ決まりかけていた時の新加入アーシェの白チャが最高でした!!!! 「本当のコアはオレだ!オレを狙え」 男ながら惚れましたねw 領土は操作に必死で、なかなかチャットを打つ事ができないのですが、流石です!領土経験豊富な方は違います! 来週は負けそうになったら、メンバー全員で「本当のコアはオレだ!オレを狙え」という予定ですw少しは相手も惑うかな?wwww 負けてしまいましたが、今回も色々収穫はあった領土戦となりました^^少しずつでもメンバー全員で成長できればいいですね!その先にはきっと勝利があるはずさ♪ 残念ながら赤の衝撃を敵に知らしめるとまではいかなかったと思うので、課題は未達成とし、来週に持ち越しにしま~~~すww 第11回 【テーマ】 アルデバラン3強ギルドに赤(Redstar軍団)の衝撃を与えろ★(継続) 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 2月2日21 09 侵攻 沙羅双樹 安息の丘 LV3 500,000 139,468,092 × 【宣戦コメント】 特に無し 仕事の都合で、参謀に領土オークお願いしました。ありがとう!よくやった^^b 【参戦メンバー数】 30名!惜しい、6PTに届かず。でも時間制限で参加できないメンバーが居たので、来週こそは フフフフ。。 【領土戦を終えてのコメント】 今回の敵は沙羅双樹さん。新たな課題を2つも提供してくれましたorz 敵はゆっくりと正面から確実に侵攻してきました。(実際はこちらが攻める側なんですけどねw現状仕方ないww) 先週の領土戦後に実施したPT練習(厳密には遊びですけどw)の成果を見せる時だ!城門で纏まって敵を倒せ~~~~♪ おや?梅雨の時期でも無いのに空から青白い雨の様な光が降ってきました?? ドゥ~~~~~~~~~~~ン 周りにはRedStar軍団の亡骸が無数、自分のHPも残りわずか。。。 後からメンバーに教えてもらいましたが、その青白い雨の正体は魔道師の「レイニー?」という範囲攻撃でした。 いやねぇ~ これがまた汚い位の破壊力でして、相手PTに近づけないorz それからは死に戻り→切り込み→遠距離からのレイニー→相手PTまで後一歩→死に戻りのループでございましたorz 敵も同時防衛が無く時間に余裕があったのでしょう、クリスタル攻撃は少な目の人数で左右両矢倉撃破を狙うという、なかなかナメた事を。。。私思い出しましたよ!1980年代初頭のなめ猫ブームをw なんとか一矢報いる為にと、護符が回りに回りながらも、魔道に切り込み、攻撃範囲までたどり着き、魔道を叩くが・・・精霊がきちんとヒールいれている事もあるのでしょうが、異常に硬え~~~~~w どんな装備かとプレイデータを覗きみようとしましたが、死亡してると見れないんすねw オレの目に映った他のメンバーはというと、投石器を引いて敵に突進していく、弓使いのはうんどw 同じ戦士で魔道に特攻して、攻撃レンジまでたどり着けないドズルw 死に戻り場所で「バフくださ~い」と叫ぶるいあ、「バフありがとう^^」と領土中でもお礼をきちんとするティアラ。 ウチのカラーまるだし!最高です♪ 今の『シャア専用』が例え読売ヴェルディーにあしらわれる昔の浦和レッズだとしても、いつかは強くなれると信じて疑わないギルマスですw 遠距離攻撃に対する対処方法という課題の他、もう1点が、タゲ妨害のペットの存在。本当に邪魔w 勝つ為にそこまでやらなくても。。。次回は抗議してやろうかと思ったら、あとるんが「オレも出してたよ!」。。。おいおい、抗議できねぇ~じゃんw なので対処方法募集中! テーマである赤(Redstar軍団)の衝撃を与えろですが、逆に緑の衝撃を与えられちゃいましたw このテーマはレベル高かったかな? とりあえず未達成ですw 第12回 【テーマ】 猫真っ青ら♪★ ※継続となっているテーマ「アルデバラン3強ギルドに赤(Redstar軍団)の衝撃を与えろ★」は、現在の戦力では、ちとハードルが高いので、もう少し後にとっておく事にしました。私、先走り過ぎですorz 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 2月9日21 06 侵攻 猫まっしぐら 疾風平原 LV3 20,000,000 180,000,000 × 【宣戦コメント】 特に無し ここを選んだ理由は、風隊に上乗せしたかったから!いつぞやの出費の恨みを晴らしました!オレって人間できてないですorz いいんです!メンバーが「ソレ微妙」とか言っても、STEEDが支持してくれればw 次回はBudsに上乗せしちゃる♪領土戦で勝てなくても、領土オークじゃ負けなしよww 結果的に、猫まっしぐらへのリベンジとなるし、宣戦費用高い&弱いから放棄の可能性も少ないし、抵抗勢力としては良い宣戦になったはず!w 【参戦メンバー数】 仕事につき不参加でしたので、把握しておりませんが、5PT以上はいたらしいよ! 【領土戦を終えてのコメント】 交流もなけりゃ~、フレもいない、おまけに同時刻の領土戦でもないですが、B・BLUE領土獲得おめでとう♪ 関係ない冒頭で申し訳ございませんw 新しいギルド名が勢力図に載った事が、なぜか嬉しい今週の領土戦。 んで、我がRedStar軍団はというと!。。。 負けたかw 同時刻に領土戦のあったELYSIONとRecallerはというと、ELYSIONのみ領土獲得でした。猫まっしぐらは2領土防衛成功。 つまり、猫まっしぐらはウチとRecallerにメンバーを分散して戦ったというわけで、速攻を喰らって負けない限りは、負けたとしても楽しめたはず!そこでメンバーに領土戦についてヒアリング♪ 返ってきた言葉は、「すぐ負けちゃいましたw」 やっぱり、速攻でやられてしまったのかorz まだまだメンバー数が足りないのかorz と思っていると、新たな情報が! 実際はというと、敵が居ないと思って、自陣クリスタルに誰も残らずに、3ルートの内、2ルートを使って投石機を相手陣地に運び込んで相手クリスタルを攻撃。これが放棄ってヤツか、内容はともかく念願の領土getできちゃう♪なんて浮かれるRedStar軍団 すると画面に良く無い事だが見慣れてしまった『敗北』の二文字が… そうなんです!3ルートの内、残りの1ルートから1PTで攻め込まれていたのに気づかなかったというオチだったらしいのですorz ま~これもある意味速攻負けですね>< この敗北の原因はオレの一言だったのかも知れません。オレの予想では相手はウチのみの防衛だと踏んでいたので、戦力が上の相手に一泡ふかす為には、全てのPTで固まって突進!例え勝てなくともテーマは達成できるだろうと思い、メンバーには前日に「何があっても守るなよ!ひたすらに攻めろ~♪攻めずに勝利の文字はない!」なんて話してた訳で。。。いけないのはオレですよorz やっぱりイイ味出してるな~、I LOVE RedStars♪ また、翌日猫まっしぐらでウチとの戦いの指揮をとっていたRさんと霜振PTで偶然一緒になって聞いた話しだと、2PTのみでウチと戦っていたらしく1つは守備PT、もう一つは攻撃PT。8番塔に矢倉が建っていたら、勝っていたかわからなかったとの事でした。 メンバー諸君!今回の失敗で学んだ教訓(①矢倉を建て忘れるな!②相手の全体的な動きを把握すべし!)を活かして、次の領土をやってやろ~ではありませんか! 今週のテーマは見事にクリア^^b タイマン勝負じゃなく、勝ってもいないけど、相手に敗北を少しでもチラつかせたと思うのでねw そもそも、オレが居ない時に初勝利なんて、まっぴら御免だwww 第13回 【テーマ】 偵察部隊導入で相手の動きを把握しろ★ 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 2月16日21 15 侵攻 Gullfaxi 天照す鏡 LV3 500,000 179,168,908 × 【宣戦コメント】 特に無し ロードも終わりに近づいてきました^^b これで領土を持つPRIDEを除く強豪5ギルド全てと対戦です! B・BLUEに宣戦ってのも有りだったんですけど、いきなり2億って@@ 財力あるギルドは違うな>< 今ではPRIDEと肩をはるGullfaxi。どんな戦いが待ってる事やらw 「受けてたとうフルボッコ!」。弱くても、勝てなくとも、いつも上から目線は忘れないw 風隊かBudsに上乗せ計画は、周囲からの批判により、お預けとなりましたとさww 【参戦メンバー数】 5PT 【領土戦を終えてのコメント】 はい出た!速攻負けorz あっという間でした>< では振り返ってみよう! 先週の苦い経験を踏まえ、初めて役割分担(偵察部隊、矢倉部隊、クリスタル防衛部隊、投石部隊、遊撃部隊)を決めて戦いに臨んだ。とはいえ、出来る範囲でやればいいだけであり、自由にやりたくなったら好きにやっていいというスタンスに変わりはないのであるがw その割に偵察部隊からは、それっぽい情報が流れてくるし、矢倉部隊からも建設完了の報告がきちんと入ってくる♪ 様になってるじゃん@@ 相手の情報はBルートから1PTちょいの部隊がまとまってくるのみ、今回は猫まっしぐら、不夜城が同時にGullfaxiに攻めている状況の為、弱小のウチには最小のPTしか送り込んでこなかったのであろう♪ 数は圧倒的にウチのが上、今までの反省を活かせば、負けるはずが無い ニヤッ Bルートから獣3匹が投石機を引いてやってきました、その周辺には戦士や精霊が数人見えるだけ、セオリー通り獣以外の敵をやっておしまい!と迎撃開始、獣以外の4人をあっさりに倒す! 残るは投石機でクリスタルを攻撃している獣のみ。いくら硬いとされる獣といえど、タゲを合わせて攻撃すれば倒せるはず。この時点でクリスタルは30%弱削られているが、この攻撃を凌げば我が投石部隊と全員総攻撃で一気に形勢逆転だ♪ 「削ってやるで~~~~、いつもやられているフルボッコを味わうといい」心の中でオレの悪の魂が踊る踊る!! ・・・・・・ がび~~んorz 獣にタゲあわせられねぇ~~~~ 獣が投石機の間にスッポリ入っていて。。。私色々な角度から挑戦しましたよ、ソリャもう。一つのモノに対して、あんなに色々な角度から見たのは、最初に友達からエロ本をもらった時以来ですわ>< どうしても投石機にタゲがいってしまうorz 獣3匹で投石機3機、クリスタルの削られるスピードは予想以上に早い。 横では、ゆずかりんちゃんが必死に獣を攻撃している模様、でも、ゆずってLV50代のオムツ戦士、相手は転生している獣...多分無理w でもね、ゆずのその勇ましい姿は印象的でしたw なんとかしなければ!ワイルドなアイデアが閃きましたよ!! 投石機ごとやってしまえ!ってね。 獣を攻撃すると投石機HP減るかどうか知りませんが、1台HPが減っている投石機が確かにそこにあったのです。範囲だせば獣にも攻撃与えられるし、ひたすらにワイルドにオレ様叩きましたよ。 でもね、硬え~~~~~~~orz そうこうしている内に「敗北」の文字が... 敗因は経験の無さと個のLVの違いですねww 後から聞きましたが、ALTを押しながらだとタゲが取れるって事と、タゲが取りづらい場合はタゲが取れているメンバーに「協力体制」する事でタゲを取れるって事でした。 あとは、地上ばかりに眼がいってましたが、空中からきちんと精霊がヒールかけていたとの事でした。 領土の基本知識って色々あるのね。。。 リアル忙しい中、領土に参加してくれているメンバーや、領土初体験のメノスと一緒に長い戦闘時間を楽しめなかったのは残念でしたが、今回も勉強となる領土でした。 次回は今回の教訓を活かして、投石機の獣を倒しちゃります!!! 「がおぉぉお~~」(一歩風)w 第14回 【テーマ】 成長したRedStar軍団を魅せつけてやれ!あくまでも魅せろw 戦争時間 侵攻・防衛 対戦ギルド名 領土名 領土レベル 宣戦費用 返金上限 勝敗 2月24日21 00 侵攻 PRIDE 風砂の峰 LV3 500,000 174,897,514 × 【宣戦コメント】 特に無し 仕事の都合で、参謀にお願いし見事に入札成功! どこに入札したのかと思ったら、原点回帰のPRIDEかよwしかもタイマンってw 色々考えて決めたらしいのですが、なかなか男前な選択で! 久々に味わってやろ~~ぜ♪フルボッコ! 新人の皆さん、これも貴重な経験になるよb 個人的な目標は、4人と同時に戦い、一名を道連れにしてやるぜ! 【参戦メンバー数】 5PT 【領土戦を終えてのコメント】 書かなくてもいいかな結果?w 負けましたよ>< どいつもこいつも転生してやがってw 最強軍団と呼ばれる事はあるわw 自陣クリスタル前の敵転生者の壁を久しぶりに見ましたわ、あの壁はベルリンの壁より、確実に硬いはずw崩れる気配すらねぇ~~w 数的には、それほどいなかったと思うけど、個々がやっぱり強すぎって印象でした。 強いだけじゃなく、攻めてくるスピードも尋常じゃないってのが凄い!ウチは矢倉建て終わってなかったとかorz むしろ、ウチが矢倉建てるスピード遅いって話もあるけどねw しかしね、単純に敗北するだけの誉れ高いRedstar軍団ではありませんよ!! いつもと違ったのは、攻める姿勢でごわす! 非転生獣2しかいないという状況でも、転生戦士が投石引っ張って攻めましたよ♪ STEEDとオレ様が投石引っ張ってAルートから、相手クリスタルに向けて、そして勝利に向かって進む進む♪ 相手は油断して矢倉は建ててないはず、そして真正面のBルートから来ると予想し、Aルートをチョイス! 半分過ぎた辺りで相手1PTと遭遇@@流石に誰にも見つからないとはいきませんでしたけど、こちらは投石PTと援護PTの2PT。数的有利 負けるはずねぇ~ ニヤニヤ オレの前を行くSTEEDは攻撃されるも、果敢に進む進む、最近装備した90防具が輝いてますわw っと、ここまでは良かったのですが。。。 相手1PTに一人一人倒されていくRedstarの精鋭達orz PTメンバーのHP見てると一撃でのHPの減りが半端じゃない>< 後から聞いた話だと1撃で死んだメンバーもいるほどの火力だったとか。。メンバーの口からは「ウルトラが~」「ウルトラが~」とw そんなスキルあったっけ? オレは知らなかったんですけど、アルデバラン屈指の弓使の名前だそうで、ほとんどのメンバーがその猛者にやられたらしいです>< 頑張っていたSTEEDも魔法集中砲火を受けて、あえなく撃沈。。 良くやったSTEED!あとはオレに任せろ!っとSTEEDの屍を躊躇無く踏みつけて、援護PTと相手PTが戦っている隙を見て、投石機を引っ張って進むオレ様。 見えましたよ相手の城が!それはまさにディズニーランドのシンデレラ城を京葉線から見た風景 城外には精霊と妖精の2名が待ち受けてましたが、動きを止められない薬を使って特攻! 2名位で倒れるオレ様ではありませんからね ほ~ほっほほほw クリスタル発見!削ってやる~~♪ が、薬が切れて、クリスタルの直前で動きを止められてしまったorz 周りには相手が一人増えて3名、3名なら耐えられる!援護PTが来ればこっちのもの ニヤ ・・・ 援護メンバーが誰もいねぇ~~~~w レーダーにも誰の影もない→誰もこねぇ~~~~w それでも薬・スキルを駆使して、動きを止められながらも、クリスタルへ進みましたよ! あともう少しで攻撃範囲まで辿り着け・・・ 見てしまいましたよ!衝撃の事実を! ウチのメンバーも自陣で頑張っていたのでしょう、何名か相手が死に戻ってオレに向かってくる様をww メンバー諸君、変な所で頑張るなwww 結局最後は1PTにフルボッコにされて、あともう一歩の所で死亡>< 諦めきれないオレは復活の巻物で生き返りを計りましたが、速攻やられましたw 1回死んでも投石器の巻物あれば再度その場で使用できるのかな? 死に戻りの後は、壁との戦いです! えぇ~い1体でもヌッコロしてやる!相手精霊が絶妙なヒール、無理ぽ~~w そんなこんなで終了となりました今回の領土戦、テーマは見事達成♪ なぜって? 参謀が相手からササで「強くなったね」って言われたから!テーマ達成で、間違いないでしょ~b オレ的には、PRIDEに上から目線で「強くなったね」なんて言われる事自体が屈辱以外の何者でもないのだがw 今度こそ見てろよ~~~~^^ ギルドとしては領土戦未体験のメンバーが領土戦を経験できたし、個人的には獣戦士として覚醒できたし、意味のある今週の領土戦だったと思いました。 何の根拠も無いが、来週は勝つ!