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前ページ次ページゼロの魔王伝 ゼロの魔王伝――20 白々と輝く星と、淡い紅と朧な青の月光だけが光となる夜の闇に、岩礁にぶつかり砕ける波のような銀粉が散った。 三色の光に照らされ、刹那の時だけ眩く輝いた銀粉は、次の瞬間吹いた疾風に掻き乱されて、あえなく消え去る。 闇が衣と変わったようなロングコートの裾を翻す疾風はDという名前を持っていた。 神秘的な青い光を湛えたペンダントが、疾風さえも追い抜くであろう主の動きに乱れ踊る中、Dが一足飛びに跳躍した。 両手で握ったデルフリンガーを大上段に振り上げ、眼下に立つ自分自身同様に闇を傅かせた美貌の青年へと振り下ろす。 夜の帳さえも一太刀で裂くような一撃を、百条に及ぶ魔糸の斬撃の群れが受けた。 光の速さで指先に伝わる斬撃の威力に、魔糸の主である幻十は月輪を思わせる麗貌に氷から削り出したかの如く冷たい表情の仮面を被っていた。一太刀を防ぐために百条の魔糸を切断された幻十は果敢に追撃の手を放った。 刃を打ち合せた態勢で、二瞬ほど動きを停滞させていたDめがけて、前方より波涛の如く襲いかかる銀の光。 縦に放った千分の一ミクロンという細さの突き、無限長に伸びる魔糸を用いての斬撃の無数の組み合わせによって、D目掛けて襲いかかる魔糸総数二十条は、すべてが微細に異なる攻撃方法であった。 Dがデルフリンガーで風を貫きながら突きを放ち、最短距離を飛んできた一条の魔糸を絡め取る。刃毀れや錆の浮いた刃に不可視の魔糸を絡み付かせ、瞬時に手首を回す。 銀色の渦のようにデルフリンガーの刀身に絡み取られた魔糸が、Dの手首の動きに従順に従い、幻十の繊指の支配から逃れた魔糸は、他の魔糸達へと襲いかかり、Dと幻十との直線距離を覆うアーチの様に極細の死神達を追い払う。 絡み取った魔糸を、手首こねる動作で断ち切りながら、Dの足が大地に沈み、猛烈な反発の力を得て駆ける。 幻十は彼方にある木立に巻きつけた魔糸を引き、後方へ十メイル以上の跳躍を行いながら、神速で迫るD目掛け、左手を下方から掬いあげる様に振るった。同時に左手の五指全てが、百分の一ミリ単位で細やかな動きを見せる。 指一つとっても奇跡の産物の様な幻十の左五指は、あまりの動きの速さに霞んで見えた。放たれるはいかなる魔技か。そしてまた、迎え撃つDの剣はいかなる神業か。 Dが黒瞳を周囲に走らせ、上後方、全面百八十度、襲い来る五十以上の魔糸を認めた。 いずれも描く軌跡はこれまでのような、直線や弧ではない。 一本一本が意思を持った生物の様に、まるで一つの群れとなったかのようにDという獲物を駆り立てるべく縦横無尽に、じぐざぐと動き回り、螺旋を描き、多種多様に迫ってくる。 斬撃と数のみならず、描く軌跡と二色の月光のきらめきを利用した催眠効果を与える幻十の必殺を狙った攻撃であった。 Dの瞳が半眼に閉ざされた。視覚から脳髄に忍び入ってくる魔糸の催眠効果を遮断し、迎撃に、視覚を除く五感と直感に命運を委ねた夢想の剣が閃く。 右足を視点にその場で旋回し、それがどれほどの速度で行われたものか、コートの裾は刃の鋭さを得て襲い来る魔糸の幾本かを弾き返し、Dの体に淫らな意思を持った蛇の様に絡み付かんとする魔糸は、例外なくデルフリンガーの刃に迎え撃たれた。 Dの右腕が幻十の指同様に霞んで消える。迫る魔糸を迎え撃つDの剣舞もまた神速の領域へ到達したのだ。 魔糸を迎撃する中、Dは再びコートの内側から取り出した木針を幻十へと投じる。幻十の反応速度から言って、マッハ十前後で投じても迎撃されるのは火を見るよりも明らかであったが、わずかなりとも集中を崩さねば、反撃の一手を放つ切欠さえ掴めない。 魔糸の連続攻撃に神経を割いていた幻十の反応は万分の一秒遅れた。一万五千分の一秒の遅れであったなら、額を貫いた木針に脳漿をぶちまけられていただろう。 魔糸を操る指先はそのままに、体に纏っている防御用の魔糸『糸よろい』を数本外し、燃え走る流星となった木針の縦に両断し、その衝撃で木針はわずかな火の粉となって幻十の冷美な横顔をかすかに照らした。 Dは、思考を伴わぬ剣士としての本能に命運を委ねた夢想剣で、先程とおなじ迎撃手段を取った。 襲い来る魔糸のことごとくに刃を合わせると同時に刀身に巻きつかせ、デルフリンガーへと伸びる銀の筋が五十を越えると同時に、わずかに刀身の角度をずらして巻きとった魔糸を断つ。 「同じ手が二度も通じると思うのか?」 笑う幻十の声と同時、Dがその場上方へと跳躍する。切断し、幻十の指から離れた筈の魔糸が、断たれた事など知らぬとばかりに鎌首をもたげてDへと斬り掛かってきたのだ。 コートの裾を幾本かの魔糸に斬られたDは、空中で幻十の声を聞いた。 「コードレス・コード。糸は断たれても込めた殺意と技は残る」 その技の名を、かつて幻十と争った幼馴染もまた口にしたとは、幻十は知らない。しかし、断たれてなお襲い来る魔糸とはなんたる技か。 無論、幻十の指が直接操作していた時とは違い、単純な動作のみで、一瞬のみの発動とはいえ人間業ではあるまい。 跳躍し、空中の人となったDは、下で待ち受ける魔糸と前後左右から迫る魔糸を見ていた。 落ちるは斬撃地獄、待つも斬撃地獄。 漆黒のロングコートを、天界とのハルマゲドンに赴く魔王の如く広げ、Dがデルフリンガーを右下段に構えて空中でさらに飛翔した。 あろうことか後方から襲い来た魔糸の一本を足場代わりにしたのだ。タイミングを誤ればそのまま体を両断されかねぬ行為を、一瞬の躊躇いもなく行うのが、この青年であった。 そんな中、Dに握られたデルフリンガーは主の苦境とは別に恍惚の中にあった。それは一振りの刀剣としての歓喜であった。主の美しさにではなく、その技量への感動であり、かつてない高揚であった。 魔法によって知性を与えられたとはいえ、デルフリンガーの本質は剣だ。何かを斬り、誰かを斬り、何もかもを斬る道具だ。 道具としての自分の真髄をこの六千年の中で最も引き出し、使いこなし、振るっているのが今の主たるDであった。 刀剣としての自分をここまで完璧に使いこなし、これほどまでに鋭く、早く、重く、軽妙に振るい、壮絶な鬼気さえ纏わせた者は、これまでデルフリンガーを握ってきた者達の中にはいなかった。そう、かつてのガンダールヴでさえ。 なんという僥倖、数百年の退屈の果てにこのような出会いがあるとは、夢にも思わなかった。恐るべき使い手だ。凄さまじい剣士だ。称える言葉が思いつかぬほどの戦士だ。 ならば、そのような使い手に相応しい姿にならねばなるまい。 幻十めがけて跳躍するDの右手の中のデルフリンガーが、幻十の張った防御用の糸を天から地への一閃で斬り散らすのと同時に、デルフリンガーの刀身が目も眩む眩さで輝いた。 たちどころに刀身を覆っていた錆は消え、零れていた刃も欠損を埋めて、瞬く間にデルフリンガーはボロだらけのナマクラ刀から、剣匠の込めた魂の気迫が匂い立つ見事な剣へと変わっていた。 「ああ、そうだ、おれを振るえ、相棒!! このおれが認めてやる、お前さんはハルケギニア六千年の歴史で最強の剣士だ!!」 デルフリンガーの変身の中も目を閉じなかったDは、デルフリンガーの興奮した声を気にも留めず幻十へと目掛けて、右足が地を踏むのと同時に更に飛翔。 低空すれすれを這うように飛ぶ蝙蝠の様な影を月光に落としながら、ついには幻十の姿をその刃圏に収めた。振り下ろし切れば幻十の体を斜めに両断する構えは右下段、切っ先は後方に流れている。 幻十が大きく右手を振るう。万軍に命令を下す覇王の如く。 Dが右手を振るう。巨人の首さえも落とす神話の英雄の如く。 不可視の螺旋衝角――ドリルを形作った無数の魔糸の先端と、真の姿を取り戻したデルフリンガーの刀身とが激突した。 幻十の頭頂まで残り五十サントの位置で鮮やかに煌めく無数の銀粉。天空に輝く淡紅と白みを帯びた青い月光を受けて銀色から変わる光の燐粉は、デルフリンガーの刃に切り裂かれる魔糸の残滓の姿であった。 放たれたDの一刀にどれほどの力と技が込められていたものか、更なる魔糸の一撃を放つ余裕は幻十にはなく、デルフリンガーの刃に徐々に切り込まれる螺旋衝角の維持で手一杯であった。 ぎり、と奥歯を噛み鳴らし、幻十の美貌に初めて余裕以外のモノが翳を過ぎった。 デルフリンガーが魔糸を切り裂くかと思われた瞬間、螺旋が弾けた。さながらホウセンカの果実の様に。 常人には何もないと見える目の前の空間に、無数の糸が乱舞している様が見て取れるDは、デルフリンガーの刀身を縦に構えて自分に迫る魔糸のことごとくを弾く。 睨みつけた獲物を逃さぬ鷹の眼は、幻十の姿が前方上方六メイルの位置にあると認めた。互いに決め手を欠いたまま、今一度、飽く事無く二人の間で透き通った殺意が交差した。 天と地とに分かれて争う美影身を、タバサはただ呆然と見つめていた。 美しいからか? 然り。 恐ろしいからか? 然り。 辺り一帯を埋め尽くす二人の鬼気よ、殺気よ。それは尋常ならざる魔界の地に足を踏み入れたのかと錯覚するほどに濃密で、空を握った掌の内側に結晶の形となってしまいそうだ。 Dと幻十、あの二人で生死を賭けて戦い始めたその瞬間から、ここはただの人間が居てはならぬ異世界へと変わり果てていた。 息を忘れて、漆黒の魔人二人の戦いをタバサは瞳に映し続ける。 天空には双子月と浪蘭幻十。 大地には彼方まで広がる悠久の大地とD。 二組を繋ぐのは夜の世界を渡ってきた風と月光。 二人の戦いは、どちらの方がより美しいかという答えを出す為のものであったかもしれない。 六メイルの高みからDを見下ろしていた幻十が、何度目か必殺の意を万と込めた一撃を放った。Dの頭頂から両断すべく振り下ろされた魔糸。全長は一リーグ≒一キロを越す。 十分な余裕を持って回避できる筈の魔糸を見ていたDの瞳の中で、一条の煌めきは、たちまち一千の閃光と変わった。 千分の一ミクロンの魔糸千本を縒り集めた一ミクロンの魔糸を、敵の頭上で解き、たちまち一筋の斬撃を千の斬撃へと変える。 たった一本を回避する事から、千本にも及ぶ魔糸の斬撃の回避へと行動を変える事は、もはや不可能なタイミングであったろう。幻十の唇がひどく残酷な形に吊り上がる。 目の前で数千の肉塊へと変わる強敵の様を思い描き、サディスティックな愉悦に胸の内をどす黒く焦がそうとしているのだ。 成す術なくDが微塵に斬り裂かれるかと、彼の魂を連れ去るべく待っていた冥府の使い達が目を見開いたその時、動いたのはDの左手であった。降り注いだ魔糸の雨を防いだ時同様に、Dの左手に宿る老人が、死の運命の扉を塞ぐ鍵となったのだ。 左手を掲げるのと同時に老人の声はこう流れた。 「風だけじゃが、なんとかするしかないか」 開かれたDの左手の掌に浮かんだ老人が、再び抜け落ちた歯の目立つ口を、大きく開いた時、その喉の深奥でちろちろと燃える青白い炎があった。Dの左手に宿る老人は、世界を構成する四元素『火』『土』『風』『水』を食らう事で、膨大なエネルギーを生み出す生産プラントでもある。 幻十の放った魔糸を吸い込む時に吸引した風を元にしてエネルギーを生み出し、左手の老人は喉の奥から、青白い炎を一気に噴き出した。 それがどれほどの熱量と勢いを持っていたものか、襲い来る魔糸はすべて蒸発し、炎が舐めた大地はガラス状に解けた断面を晒しているではないか。 幻十が目の前まで迫った炎の舌に、かすかに目を細めたその瞬間、背筋を貫く鬼気の放射に愕然と炎の中から姿を見せた黒影に目を見張った。 自らの左手が生み出した炎の灼熱地獄の中を、右手に握るデルフリンガーで切り裂き、飛翔したD! 紅蓮の海を挟み対峙する両者の間を、白銀の弧月が繋いだ。 デルフリンガーの切っ先を真横へと向けたまま、Dは音もなく地面に着地した。すっくと立ち上がった時には、すでに戦闘の気配を納めている。 幻十の左頸部を狙った一撃が、肌に触れるその寸前、幻十の姿はDの目の前から消えていた。どこか遠くに巻きつけた魔糸を利用して幻十は退いたのだ。 それがどれほどの速度であったものか、発生した突風に千切られた風がはらはらとDの周囲に舞落ち、残っていた炎に燃やされて灰に変わる。実に、幻十が逃亡に用いた魔糸は、彼の体を音速を超えて運んだのである。 左手がやれやれ、と骨の髄まで疲労を溜め込んだ声を出した。 「なんなんじゃ、この世界は? あのメフィストとか言う医師だけでなく、幻十とか抜かすあ奴も大概バケモノときおった。 しかも、戦い始めた時から常に成長しておったぞ? 下手をすれば無限に成長するかもしれん。 ここで首を落とせなんだ事を後で悔やむ様な事にならなければ良いが、それも自業自得というものなのかの。お前があのチビのお嬢ちゃんを庇うとはな。構わなければ止めは刺せずとも深手くらいは負わせられたものを」 Dが真横の突きだしていたデルフリンガーを下げた。Dの一刀を浴びる寸前、幻十がタバサめがけて放った魔糸を防いだデルフリンガーを。 変貌したデルフリンガーの事は露ほども気にする様子はなく、Dは右手に刃を提げたままタバサへと歩み寄った。 タバサは自分に歩み寄るDの姿に、死を覚悟した。いわば自分はDを罠へと誘いだしたのだ。目の前の青年が、そんな相手を許す様な性根の主とは見えない。 両手で握りしめた杖が大きく震えるのを感じながら、タバサは目の前で足を止めたDの顔に見入った。 Dは冷たくタバサを見下ろしている。右手が動いた。デルフリンガーの刃が風を薙いだ。無造作に、草でも刈る様に。そうやって、タバサの首も刈るのだろう。 弁明も言い訳も何も意味を成さないと悟ったタバサは、静かに目を閉じて息を飲んだ。自分と家族の人生を狂わせた男への復讐を果たせず、母の心を取り戻せずに終わる事だけが心残りだった。 シルフィードは泣いてくれるだろう。きっとわんわん泣くに違いない。キュルケやルイズも、自分が死んだら涙を流してくれそうだ。ルイズは自分を斬り殺したDの事を責めるだろう。 本当なら、こんな所では死ねないと、終わるわけには行かないと、地べたを這ってでも生きようと足掻かなければならない。なのに、どうしてもそんな気力が湧いては来なかった。 思ってしまったのだ。目の前に黒衣の青年が立った時に、このまま殺されてもいいと。この美しい青年に、殺されてしまいたいと。自己破滅願望とこの世ならぬ美への恍惚が入り混じった極めて危険な心理に、タバサは陥っていた。 Dの手が振られた。タバサは、自らの体を両断する冷たい感触が流れるのを待った。 「……?」 しかし、待てども訪れぬ感触に、訝しげにタバサが目を開いた時、Dはデルフリンガーを握ったまま人差し指と親指で何かを摘まむような動作をしていた。 訳が分からずDの指を見つめるタバサに、Dが口を開いた。 「目には見えんが、糸がある。あの幻十という男のものだ。これが君の体に巻き付き、あらゆる情報を奴に伝えていたのだ」 「糸?」 「今は斬ったから何を話しても問題はないがな」 Dの告げた幻十の武器の正体に、愕然と眼を見開いてタバサはDの指先を見つめた。目を凝らして凝らしても、何も見えない。 ただ、時折降り注ぐ月光を反射して何かが煌めくのが見えた。それが、Dの言う糸なのだろう。Dはデルフリンガーで斬った魔糸を、左手の口の中にしまい込んだ。 タバサの体に巻きつけられた魔糸は、糸そのものを震わせる振動からその場で行われている会話、巻きついた対象の体温や血流、体内の電気信号などから感情、精神状態までを光の速さで幻十の指に伝えていたのだ。これまでタバサの会話や心は全て幻十の手の内に把握されていたと言っていい。 「知っている相手の様だな。何者だ?」 タバサが身を強張らせた。Dの声は質問に答える以外の言葉を許さぬ冷厳な響きであった。 「彼は、ガリア王ジョゼフの使い魔として呼び出された青年。けど、契約は結んでいない」 「続けろ」 「ジョゼフは、彼に何の命令も下していない、ただ彼の好きにさせているだけ。私は彼に従うように命令を受けた。だから、貴方を呼んだ。彼は貴方に興味がある様だったから」 「また命令が来れば同じ事をするか?」 「……しなければならない理由が、私にはある」 「そうか」 タバサは杖を握る手に力を込めた。つい先ほどまで生を諦めきっていたが、仇敵に従う振りをしてまで果たそうとしている事を思い出し、わずかでも可能性があるならそれに全霊を賭けようという気概が蘇っていた。 もしDが自分を殺そうとするのならば、わずかなりとも抵抗してみせる。 瞳に強い光を取り戻したタバサを見て、Dは何を思ったか、無言で踵を返した。その背に、タバサが声をかけた。 「待って、貴方に頼みがある」 Dが立ち止まってタバサの言葉の続きを待った。かすかな逡巡の後に、タバサが意を決して、言葉を続ける。 「彼を、ロウランゲントを斃して欲しい。貴方なら彼を斃せる。いいえ、貴方にしか斃せない。彼は明言はしていなけれどおそらくジョゼフの味方をする。 私は、どうしてもガリア王ジョゼフを斃さなければならない。私の前にロウランゲントが立ち塞がると思う。もし、ガリア花壇騎士団が全員私の味方になってくれても彼には勝てない。それに、彼はたぶんこの世界に来てはいけなかった人。ゲントの存在は、この大陸にとても良くない事を巻き起こすと思えて仕方が無い」 「おれは殺し屋ではない。吸血鬼ハンターだ」 再び歩み去ろうとするDに、慌ててタバサが声をかけた。浪蘭幻十と対抗しうるおそらく唯一の男を、味方にする千載一遇のチャンスだ。逃すわけには行くまい。 「なら、ゲントと彼の連れている吸血鬼を始末して」 「吸血鬼を従えているのか?」 足を止めて聞き返してきたDの様子に、タバサが安堵の吐息をひとつ吐いた。少なくとも興味を引く事は出来たようだ。しかし、吸血鬼ハンターとは、文字通り吸血鬼を狩る者の事だろうが、ハルケギニアではそう言った者は聞いた事が無い。 目の前の青年がはるか遠方から、それこそハルケギニアの名が伝わっていないほど遠いどこかから呼ばれたのだという噂が、タバサの脳裏に蘇った。だが、今はDの素性を確かめようとするよりもするべき事があった。 「私に払う事の出来る報酬は多いとは言えない。けれど、私が支払えるものであったなら、何でも払う。この体でも命でも構わない。 だから、お願いします。どうか、この世界の為にロウランゲントを斃してください」 深く腰を曲げて頭を下げるタバサを一瞥し、Dは無言のまま背を向けて学院へと歩き始めた。タバサの懇願も、誠実な態度も、まるで知らぬという様に。 顔を上げて離れ行くDの背を見つめていたタバサは、ひたむきな瞳を向けていた。 「どうして、私に何もしないの?」 タバサにとっては、その答えを得られぬ事が、Dの刃の露と消えるよりも辛かったかもしれない。 タバサは、Dの姿が消えるまで、そこに立ち続けた。世界のすべてから忘れ去られたような、ひとりぼっちのまま。 なお、Dの背に戻されたデルフリンガーが、 「相棒、おれが変わった事、気にしないの? ねえ?」 と寂しげに呟いたが、むろん黙殺された。 ルイズの部屋に戻ったDは、なにやら神妙な顔をしてこちらを見つめるルイズと、なぜか部屋に居るギーシュを見た。こんな夜遅くに女の部屋に男の姿がある。争った形跡もないという事は 「ませとるなあ、しかし、よりによって引っ張り込んだのがこいつか。お嬢ちゃん、もうちっと男を見る目を養った方が」 「違うわ。D」 いつもなら簡単にDの左手の挑発に引っかかるはずのルイズが、冷えた声を出した。いつもとはだいぶ違う様子に、左手もふむん? という声を出す。 ギーシュの方も口に薔薇を加えた気障なポーズはともかく、顔つきにはふざけた様子もおどけた調子もない。ルイズ同様に真摯な瞳でDの顔を見つめている。 どんな鈍感な人間でも、これは何かあると分かる二人の様子だ。 ルイズはDの目の前まで歩き、使い魔の顔を見上げた。正面から、逃げる事も恥じる事も何もないと、堂々と胸を張って、主人らしく。 「D、私アルビオンに行く事になったの。明日の朝、出立するわ」 「理由を聞こう」 Dに対して、ルイズは静かに事情を話し始めた。Dが浪蘭幻十と死闘を繰り広げていた時、ルイズはトリステイン王女アンリエッタの訪問を受けていた。 頭巾を取り、素顔を晒したアンリエッタは、膝を突くルイズの手を取って懐かしい友との再会を喜んだ。ルイズは、幼少の頃にアンリエッタの遊び相手を務めていたのだ。 お転婆娘だった小さな頃を懐かしみ、その頃の自由に思いを馳せている間は良かった。Dも特に反応を見せる様子はない。それで終わったなら、そもそもルイズはこんな神妙な顔はしないだろうし、ギーシュが部屋に居る理由も分からない。 雲行きが怪しくなり出したのは、アンリエッタがこのたびゲルマニア皇帝に嫁ぐことになった下りからである。 別段王室同士の婚姻など珍しい話ではない。アンリエッタにもトリステイン王家のみならずアルビオン王家の血が流れている。 では何が問題かと言うと、それはアルビオン王国の政治情勢に一因があった。Dも、下僕というか小間使いにしたフーケから話を聞き、かの浮遊大陸のきな臭い情勢については風聞程度で知っている。 アルビオンの貴族達がどこぞの司教を旗印にして王家に対して反旗を翻し、いまや王家は追い詰められ、始祖ブリミルが授けた三王権のひとつが倒れるのも時間の問題だというのだ。 トリステインは始祖ブリミルの子の血を引く由緒正しい王家であったが、国力で言えば小国と言われても反論できない。 平民といえども領地を購入すれば貴族となる事も出来、国力を増大させたゲルマニアやハルケギニア一の大国であるガリア、宗教的な理由から神聖不可侵な血であるロマリアと違い、トリステインは歴史の古さ位しか取り柄が無いのである。 さて、そこでトリステインとゲルマニアが、いずれアルビオン王家を打倒した反乱軍が、両国いずれかに矛先を向けると考えたのは至極当然であったし、対抗するために同盟関係を結ぼうとするのも自明の理だ。 その為にトリステイン王家の一粒種であるアンリエッタが、親子ほども年の離れたゲルマニア皇帝に嫁ぐのは、両国の関係強化にこれ以上ない方法だったろう。 アンリエッタも望まぬ恋ではあっても、王家に生まれ者の宿命とそこは諦めと共に受け入れてはいる。ここで、いよいよ大問題に差し掛かった。 ルイズが淡々と事実を述べる様に口を開いた。極力私情を交えぬようにと配慮しているらしい。 なんでもアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻を妨げる材料が存在しているというのだ。よりにもよって戦乱のアルビオン王国に、よりにもよって渦中にあるウェールズ皇太子の手元に、である。 「なにが、王女と皇帝の婚姻を妨げる材料になるのだ?」 「姫様がいぜんしたためたという一通の手紙よ。内容はお教えくださらなかったけど、それが明らかになればゲルマニアの皇室は決してアンリエッタ姫を許さず、婚姻も反故にされるそうよ」 「たった一通の手紙でか?」 「……ええ」 その事を語る時のアンリエッタの様子は、ルイズに手紙の内容を容易に想像させたが、それをDには語らなかった。 「アルビオン王国が反乱軍の汚らわしい手で潰えてしまうのは悔しいけれどもう決定的。であれば来る反乱軍との戦いとの時に、トリステイン一国で相手をするのは……絶望的なのよ」 「では、王女の頼み事は」 いつもより冷たく見えるDの眼差しに、体の内側から冷やされる思いで、ルイズはわずかに息を飲んだ。それでも、一度だけ目を瞑ってから答えた。 「戦乱の只中にあるアルビオンから、その手紙を取り返す事よ」 ルイズはその時のアンリエッタとのやり取りを思い出した。 ルイズの目の前でそれまでの友との再会を喜んでいたアンリエッタが、たちまち顔色を蒼ざめさせて、狼狽しだしたのだ。ルイズはその変化に戸惑いながらもアンリエッタを宥めてその先を促した。 ウェールズ皇太子の元にあるという手紙と、その事を告げた時のアンリエッタの様子から、何を求められているのかは薄々分かっていたが、アンリエッタの口から直接聞きたかった。 「では、姫様、私に頼みたい事とは?」 「無理よ! 無理よルイズ! わたくしったらなんてことでしょう! 混乱しているんでしょう! 考えてみれば貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼めるわけがありませんわ!」 弱々しく首を左右に振り、自分の浅慮を悔いるアンリエッタ。だが、その様子をルイズは不意に遠いモノの様に見ている自分に気づいた。つい先ほどまではアンリエッタ同様に大仰に喜び、芝居がかった言葉を交わしあっていたのに。 ふと脳裏に、今は部屋に居ない――ようやく気付いた――使いの間の姿が過ぎった。彼の影響だろうか? ルイズはそっとアンリエッタの手を両手で包みこんだ。アンリエッタが不意に顔を上げ、涙の粒を眼の端に浮かべた瞳に、慈愛に満ちた顔を浮かべるルイズの顔を見上げた。 ついさっきまで同じ過去を共有する懐かしいおともだちだったのに、今はアンリエッタの知らないルイズがそこにいた。 妹を慈しむ姉の様な、娘を想う母の様なそのルイズの姿に、アンリエッタは身惚れた。 「姫様」 「ルイズ?」 「わたくしは、わたくしをおともだちと言ってくださったことがとてもうれしゅうございました。このルイズ、姫様のおともだちとして、そして家臣としても、貴女様の僕であり、理解者でございます」 「ルイズ、ルイズ・フランソワーズ、貴女はわたくしの知らない間に、こんな立派な貴族になっていたのですね」 感極まって涙ぐむアンリエッタの目元をそっと、取り出したハンカチでぬぐってから、ルイズは膝をつき再び臣下の礼を取った。 「ルイズ?」 「ですが、唯一のわがままをお許しください。姫様、姫様はおともだちとして私にお願いしてくださいました。ですが、どうか、主君としてもご命じくださいませ。私に、命を賭して命を果たせと」 「ルイズ、どうしてそのような事を」 「姫様がご存じかは存じ上げませんが、わたくしはゼロのルイズと呼ばれております。満足に魔法を使えぬ未熟者という意味でございます。そんなわたくしが姫様の命を果たすには身命を賭す以外にありませぬ。 どうかおともだちの為に戦うという事以外にも、このわたくしに勇気を振るい起こすお言葉をお授け下さいませ。おともだちの為に、主君の為にと、勇を振るい起こすお言葉を」 「ああ、ルイズ、わたくしは貴女になんて事を頼んでしまったのでしょう」 かすかに肩を震わせるルイズの様に、アンリエッタは我に返ったように慄いた。ルイズが今、アンリエッタの願った事を果たす為に命を賭ける覚悟を決めている。そして、恐怖を必死に押し殺そうとしている事も分かった。 自分はルイズに死ねと言っているようなものなのではないか? アンリエッタは初めて他人の気持ちを慮るという事を考えていた。 では、自分がおともだちと呼んで泣き付き、頼りにしたこの少女になんというべきか。聞かなかった事にして欲しいと告げ、今宵の出来事を自分もまた忘れるべきか。 それでもルイズの願いどおりにおともだちとして、そして王家の姫君として戦の只中にアルビオンに赴き、手紙を取り戻して来いと、命を賭けて果たせと命じるべきか。 自分の言葉で目の前の少女の運命が変わると、アンリエッタは初めて感じる恐怖に震えた。 「おお、おお、わたくしはなんと浅はかだったのでしょう。懐かしいおともだちであった貴女が、この学院に在籍していると知った時は始祖ブリミルが哀れな私をお見捨てにならなかったなどと思いあがり、貴女を死地に赴かせる事を口にするなど」 打ちひしがれたようにベッドに倒れて手をつくアンリエッタの言葉をルイズはただ待った。アンリエッタの心が決まるのを待った。 震えるアンリエッタの肩が、ようやくおさまった頃、流した涙をそのままにアンリエッタが毅然と顔を挙げた。 少なくとも先程までルイズに泣き崩れていた弱々しい少女の顔ではなかった。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール、貴女に命じます。アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子よりわたくしがしたためた手紙を取り返してくるのです」 「はい、杖に賭けて」 ルイズもまた凛とした声で答える。人の上に立つという事の責務をようやく実感し出したアンリエッタとルイズだけの部屋に、ノックの音がしたのはちょうどその時であった。 「誰!?」 「失礼する」 ルイズの誰何の声に応える間もなく声の主は静かに扉を開いて入ってきた。フリル付きのシャツに鮮やかな色のスラックス、胸のポケットには薔薇の造花を模した杖が一輪。 ギーシュである。何を聞きとったのかはたまた単なる偶然か、ルイズとアンリエッタの会話を耳にしていたらしい。扉に鍵を賭けていなかったので容易く入ってきたギーシュはそのままアンリエッタに向けて膝を着いて首を垂れた。 「姫殿下、盗賊の如く様子を伺うという下劣な真似をいたしましたご無礼は、どうか、このギーシュ・ド・グラモンがミス・ヴァリエールと共に任務を果たす事でお許しくださいますよう、お願い申しあげます」 「グラモン? あのグラモン元帥のご子息かしら?」 「四男でございます」 涙の跡を拭いたアンリエッタが、やや赤くなった目元をきょとんとして、小首を傾げながらきょとんとした顔で聞き返した。なんともはや、抱きしめて頬に接吻したくなるように可愛らしい。 ギーシュはかすかに頬を赤らめながら、立ちあがって恭しく一礼した。 「ありがとう、あなたも私の力になってくださるというのですね。でも、とても危険な任務なのです。ルイズにも申しましたが、命を失うかもしれないのです」 「姫殿下、わたくしは武門の子です。物心ついた時には、こう教えられ育ちました。命を惜しむな、名を惜しめ。決して表に出るような任務ではないと存じております。 ですが、トリステインの可憐な花たる姫殿下のお心に一時でも私の名を覚えていただければ、それはなによりの名誉なのでございます。父にも母にも兄にも伝える事は出来ずとも、わたしはグラモン家の家訓を守る事が出来るのです」 「ルイズ」 「姫様の御心のままに、お決めくださいまし。ギーシュ、いえミスタ・グラモンにこの任務を任せるか否かは」 「今のわたくしにはその言葉が何よりも重いものなのですよ、ルイズ。……お父上は立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。この愚かで身勝手な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 アンリエッタはにっこりと微笑んだ。それは街道の脇を埋める民衆や、城のバルコニーから見下ろす民衆達に向けるいわば営業用のスマイルに近い。ただ決定的に異なるのは、そこに心からの申し訳なさと、それでも縋る他ないやるせなさが宿っている事か。 ギーシュは感動した様子でうっとりと首肯した。 モンモランシーはどうしたのよ? と内心でルイズは呆れていたが、まあ、ギーシュとは最近気心が知れてきたし、ドットメイジの割には優秀なのは分かっていたので、文句は言わずにおいた。 「ルイズ、ギーシュさん、旅は危険に満ちている事でしょう。おそらく反乱軍の手先たちがこのトリステインやゲルマニアに多く放たれている筈。あなたがたの目的を反乱軍が知ったならどんな手段を取ってでも妨害する事は明白。そんな任務に赴かせるわたくしを許してとは申しません。ですが、どうか生きて戻ってきてください、そしてその無事に、始祖への感謝を捧げさせてください」 そう言ってアンリエッタはルイズの机の上に在る羽根ペンと羊皮紙を使って手紙をしたためた。アルビオンの王党派とウェールズ皇太子への、ルイズ達の身分を証明する手紙であろう。 おそらく最後の一文までを綴ったアンリエッタが、羽根ペンを止めて苦悩する様子に、ルイズは自分の思う通りの内容であったのだろうと、アンリエッタの心中を想い胸を痛めた。 だから、耳に届いたアンリエッタの言葉は聞かなかった事にした。それはアンリエッタとウェールズの二人の間のささやかだが、なによりも輝いている秘密だ。それを他人が知ってはいけない気がした。 「始祖ブリミルよ……。この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるを得ないのです……。自分の気持ちに嘘を着く事は出来ないのです……」 熱に浮かされていたようなギーシュも、アンリエッタのひたむきなその横顔に身惚れたかの様に黙っていた。 アンリエッタは新たに加えた一文をじっと見つめていたが、やがて手紙を巻き、杖を振るうやどこかから封蝋が成され、花押が押される。ルイズはその手紙を神妙な気持ちで受け取った。 この手紙と自分達の行動に、これからのトリステインとゲルマニアの両国の命運がかかっているのだ。まさしく、ルイズの命を引き換えにしてでもなさねばならぬと、ルイズは心中の決意をより堅固なものにした。 「ウェールズ皇太子にお会いしたらこの手紙を渡して下さい。すぐに件の手紙を渡してくれるでしょう。それからこれを」 そういって、アンリエッタは右手の薬指にはめていた指輪と革袋をルイズに手渡した。透き通る様に美しい水を宝石にしたように美しい指輪であった。 「母君から頂いた『水のルビー』と私が都合を着ける事の出来たお金です。せめてもの贈り物です。お金が心配になったら売り払ってください。 この任務にはトリステインの未来が掛かっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守りますように。 ルイズ、ちいさいころからのわたくしの一番のおともだち、貴方にこんな事を頼んでおいて、言えた義理ではないかもしれませんが、どうか生きて帰って下さい。貴女だけがわたくしの真実のおともだちなのですか。 そしてギーシュさん、宮廷では貴族とは名ばかりの権利と利益の亡者ばかり。この学院にきて、久しぶりに貴族らしい方とお会いできました。どうか、貴方のその気高さを持ったまま、立派な軍人になってください」 そう言って、アンリエッタは始祖に祈る様にして二人に手を組んだまま頭を垂らした。 以上が、ルイズがDに語った事の顛末であった。黙ってそれを聞いていたDの代わりに左手のしゃがれ声が口を開いた。 「お前ら二人とも死にに行く気か? 内乱真っただ中の外国に子供二人でか。命と精神力がいくらあっても足りんぞ。ずいぶん命が安いらしいの」 「D、確かにあなたにとってはそうかもしれないけれど、私は姫様のお願いを聞いたの。おともだちとして、そして家臣として。どうあろうとも私は任務を果たすわよ」 「任務を果たした所で、ゼロの汚名を返上する事はできんぞ」 若さの中に鋼の響きを交えたDの声であった。一切の嘘を許さないその声に、ルイズはかすかに声を震わせて答えた。 「分かっているわ。言ったでしょう? おともだちとして、家臣として、聞き入れたと。汚名を返上する為ではないの。そうでしょ、ギーシュ」 「……いや、実は、ぼくはちょっとそーいうのも、あるかなあ、と」 「ぬあんですってえ?」 般若も青褪めて逃げ出しそうな顔と声に変わったルイズの形相に、ギーシュはさっと顔色を青く変えた。本気で怒らせた父よりも怖い。 軍の元帥とあって威厳も迫力もたっぷりな父が怒ると、すぐそばに雷が落ちた様に恐怖に震えるのだが、今のルイズは氷の海に突き落とされたように背筋を震わせる恐怖の塊であった。 「いや、あのね、ぼくは四男坊だから家督を継ぐわけでもないし、かといって上の兄達に不幸があればいいなどとは思わないしね。 それにアルビオンの話が本当ならいずれ武勲に恵まれる機会もあるかもしれないけどさ、ほら、姫殿下にぼくの顔と名前を覚えていただくのは損な話じゃないだろう? それに、トリステインでもっとも美しい白百合か白薔薇の如き姫君の為に働ける事は、トリステインの男としてこの上ない名誉だよ。誉れだよ。誰かに口にする事は出来なくとも、生涯自分自身に誇れるからね」 「どいつもこいつも浮かれておるのう。なんじゃ、またわしらにケツを拭いてもらえると期待しておるのか? だとしたら甘い、甘いぞ。なんでそんな危険な真似に付き合わなければならんのだ。いくら使い魔でも限度はあるぞ」 「いいえ。D、今回ばかりは貴方を無理に連れていくとは言いません」 きっぱりと言い切るルイズに、ギーシュがおや? という顔をした。今、ルイズは何と言っただろうか。この中で最大戦力である使い魔を連れていく気はないと言わなかっただろうか? 「D、貴方には本当に良くしてもらっているわ。本当なら、貴方はわたしなんか気に掛ける暇なんてない人なのでしょう。それ位は私も分かるわ。そんな貴方を元の場所へ返すという約束を今も果たせていないけれど、せめて貴方に命の危険を負う様な真似をさせないくらいの事はさせて。フーケの時だってそうだったけれど、今回は比較にならない。 ここに姫様から頂いたお金と貴方から借りた黄金があるわ。節約していれば食べるのに困る事はないでしょう。私に無理に付き合わなくていいのよ、ね?」 「使い魔の契約はどうする?」 「契約が生きている間は新しい使い魔を召喚できないけれど、それだけの事よ。貴方が特に困る事はないはずよ。それに、もしこの任務の最中に私が死ねば、その契約も解けるはずよ」 ギーシュが、はっとした顔に変わった。そうだ、ルイズが死ねばDは使い魔の契約に縛られる事はない。 Dが特に使い魔としての扱いに不平不満を述べた事が無いから疑問に思わなかったが、むしろDにとってはルイズが死んだ方が都合がいいのではないだろうか。 Dを見つめるルイズとギーシュの前で、Dはルイズが机の上に置いた革袋を手に取った。Dが辺境のダラス金貨を溶かして作った黄金と、アンリエッタが用意した宝石や金貨の詰まった革袋だ。 ずしりと手の中に重みが伝わってくる。Dはそれをパウチの中にしまった。まさか、とギーシュが口を開きかけて止めた。誰よりもそう思っているのはルイズ自身だろう。ルイズは唇を固く閉ざしたまま、Dの姿を見ていた。 鳶色の瞳に揺れるのは不安か、恐怖か、口にした言葉への後悔か。それとも、別離への悲しみか。 踵を返し部屋の扉に手をかけたDに、ルイズが声をかけた。震えている。精一杯に押し隠して、それでも抑えきれない声。 「D、今までありがとう」 「達者でな」 それだけを告げて、Dは開いた部屋の扉を閉じた。 前ページ次ページゼロの魔王伝
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SSその2 ◆◆◆◆ 転送前にあれほどいた観客達はいない。 大隈サーバルは周囲を見渡す。 彼女が立つのはアリーナ。それを取り囲む大理石の建造物。 ここはローマの円形闘技場。コロッセオだ。 (観客達はモニターを通してこの試合を見ているのだろう) 「見せつける。私の勝利を」 大隈サーバルは呟き、そして目の前に並び立つ二人の闘士を見た。 一人は獣の頭をした男、ファイヤーラッコ。 もう一人はカンカン帽を被った中華風民族衣装を纏った少女、七月十。 自分は、ジーンズ、キャミソ、ニットセーターのアーバンスタイルの女、大隈サーバル。 一対一対一。これは三つ巴の戦いだ。三つ巴には三つ巴の戦い方がある。 試合開始のゴングはもう鳴っている。 臨戦態勢に移るべく、大隈サーバルは両腕を高く掲げ、片足を上げる。 選択したのは抽象的で捕らえどころのない構え。力に抗するのではなく、先の後を取るための防御の型。 それは父に教わった、大隈流大熊猫の型。 大隈サーバルの構えに呼応するように、七月十が拳を構える。 三者の距離は離れている。それぞれ目測でおよそ13歩。攻撃は届かないだろう。 全員がにらみ合う中、七月十は口を開いた。 「…お前達の願いを言え」 「勝利こそ私の願い。それ以外に求めるものはない」 サーバルは決然と答えた。 瞬間————大隈サーバルの体を黒いモヤが覆う。 能力発動「期待の視線(マスストーカー)」。嘘つきに取り憑き、動きを重くする悪霊。 能力の対象は彼女とて例外ではない。むしろそれが彼女を苛むのだ。 勝利。勝利が欲しい。だが、それが自分の本心でないことは、その言葉を初めて口にした時からとうに分かっていた。 (慌てるな。動きが遅い、体が重いことはデメリットじゃない) 父の言葉を思い出す。ここまでは全て当初の予想から外れていない。 自滅しそうになるサーバルを、ラッコと七月十が心配そうな目で見つめる。 「七月十。私の願いは弟の蘇生なんだ。」 そう答えながら、サーバルは一人で考える。七月十の能力を知った時からずっと考えていた。 おそらく最終的に、自分の本当の願いはそれになるのだろう。 願いを叶える。そんな奇跡が叶うなら、願うことなど人の命以外にありえない。 しかし、だからこそ。 「ならば俺も言っておこう。俺の願いはユーチューバーになり、楽して収入を得ることだ。」 ファイヤーラッコが割り込むが、これを積極的に無視して、サーバルは自分の発言を続ける。 「死んだマーゲイは大切な弟だった。その弟に優勝を約束していてね。だから一人の姉として、お前に殴られるわけにはいかない、というのが私の願いさ」 次の瞬間、七月十が飛びかかる。同意の代わりに拳を交えようというつもりだ。 だが、その拳は意外にもファイヤーラッコが食い止める。 ファイヤーラッコは両腕を十字に構え、七月十の拳を受けていた。山を砕く拳を受け止めるほどの、野生動物の筋力! 「さっきから勝手に話を進められても困るんですけど。これは三つ巴なんだぜ」 サーバルを包む黒いモヤ…悪霊がラッコに視線を送る。だが、ラッコに異変はない。表裏のない正直な発言に、「期待の視線(マスストーカー)」は発動しない。 ラッコを挟んで、七月十とサーバルの視線が交錯する。 「すごいね。弟のために戦うんだ。なら私も手加減はしない」 (違う。結局、私は自分のために戦っているのに) ラッコを挟み、視線が交錯する。 七月十が構えを変えた。姿がおぼろげになり、体が67体のゴリラに分裂する。 「玉龍拳奥義、ゴリラ拳。」 サーバルはこの技を既に知っている。第1回戦の試合映像で七月十が見せたフィニッシュブロー。 その正体は、ゴリラ67体に幻視するほどの67連撃だ。 まさか、構えただけでゴリラに分裂するとは。 七月十も全力でサーバルの弟を復活させるつもりなのだと、サーバル自身が自覚した。 強さは想定以上だ。だが、焦る必要はない。 (試合映像は見た。奴は稚拙なリップサービスを好む) 次の七月十の発言を待つ。サーバルが動かない限り、必ず七月十は次の言葉を放つ。 「かかって来いよ。戦おう、二人まとめて願いを叶えてやる」 「えっ俺も叶えてくれるのか!?すごい!」 七月十の太っ腹にラッコが歓喜する!すごい!そう、とてもすごい! すごい、すごーい! 「私に期待するな」 (私が七月十に願ったのは、あくまで"この試合での勝利") そうだ。何もすごくない。サーバルの体を包む黒い悪霊がゴリラの群れに視線を送る。 瞬間、ゴリラの群れが黒いモヤに包まれる。「期待の視線(マスストーカー)」発動。 サーバルは確信する。七月十は…サーバルの願いを叶える気はない!! (やはりだ。七月十が"私の勝利"を願うはずがない。言葉にすれば、それは嘘となる) サーバルの勝ちたいという願いを跳ね除け、彼女の心の奥底の願望、弟を復活させたい思いに掛けるつもりだ。 なんにしろ、これでもう七月十は動けない。ただの一箇所に集まったゴリラの群れだ。ウホウホ。 「いわばこれは、お前がマーゲイを復活させるか、私が勝利するかの駆け引き。七月十、お前なんかに私の弟は復活させない」 自らの発言を受け、黒いモヤはさらにサーバルを包む。七月十だけではない。サーバルもまた自らの能力の影響下にある。 だが、そんな中で能力の影響を受けていないラッコが一匹。 策は成った。 「目指せ不労所得っ」 ラッコ特有の甲高い鳴き声を上げながら、サーバルを無視して七月十に殴りかかる。その両拳は炎に包まれていた。彼は火炎系のラッコだ。 衝突する。爆炎、、、煙の中から、ラッコとゴリラの群れが姿を現した。 だが、さすがの七月十の筋力。ゴリラ67体のどれひとつとして傷を負っていない。 サーバルは知っている。筋力の前には炎など跳ね除けられると。 「俺はファイヤーラッコ!」 彼はファイヤーラッコ! 「私は七月十!」 彼女は七月十! 挨拶を交わすと、七月十のゴリラがファイヤーラッコの胴体を殴る。しかし、ラッコもまたダメージを負わない。むしろラッコの着ていた服が炎に変化していく。自らの炎を衣服に見せるほどの…火炎系能力者! 最近は火炎系能力者は炎を衣服のように変形させて着こなすのだ。 (口裏は既に合わせてある。それだけではない。私とラッコは、既に組んで戦っている) 安全圏いるサーバルを遠巻きに、ラッコの炎がゴリラ達 67体を包む!「ウホウホ」「ウホ」ゴリラの幻影達は呻き苦しむ! 「七月十、お前みたいな危険人物を一人で相手するわけないだろ。これは三つ巴だぜ?俺たちは事前にタッグを組んでいたんだよ」 ラッコが笑う。サーバルとラッコは、既にタッグを組んでいた。 二対六十七。一見不可思議に思えるが、数の上ではサーバルとラッコが圧倒的優位。これが三つ巴だ。 計算づくで作り出した好機。これを逃す手はない。 サーバルは黒い悪霊に取り憑かれ動けない状態で、ゆっくりと地を踏み鳴らす。 震脚。 「動きが遅い、体が重いことはデメリットじゃない。私は龍気を感得することが得意なフレンズなんだよ」 サーバルの足元が割れ、大地から白い人影が姿を現した。 「大隈流大熊猫の型・龍気(たつき)」 龍気(たつき)、感得(かんとく)。 七月十が驚きを口にしようとするが、高音の炎の中では不可能だ。 「龍気(たつき)、感得(かんとく)」 震脚を極めることで至る武の境地。それはサーバルに取り憑く悪霊と対を成すかのような。白色の幻影。 「私はこの"1年間"で既に龍気(たつき)を感得(かんとく)していたんだよ」 龍気(たつき)を感得(かんとく)するためだけに費やした1年間。 求めるものは勝利。そのためなら手段は選ばない。 続いてサーバルは腰に帯びていた銃を龍気感得(たつきかんとく)に手渡す。 勝つためには手段を選ばない。そのためなら龍気感得(たつきかんとく)に銃すらも握らせる。 武の境地に至ったことで得た、龍気感得(たつきかんとく)が握るごくありふれた普通の銃弾が…ゴリラの群れに炸裂した! ◇◇◇◇ 時は遡る。 第2回戦開始より5日前。大隈サーバルは対戦相手を自らの隠れ家へと招いた。 「私はユーチューバーになるんだ」 サーバルは言い切った。 第1回戦で勝利の美酒を味わったサーバルは、手段を選ばない行動に出た。予め、対戦相手の一人を味方につける作戦に出たのだ。 まずは甘言で惑わす。ラッコの人となりは既に調べてある。このラッコ、実はユーチューバーを目指しているのだ。ならばそれを餌にするのみ。 「私は2回戦にむけての修行風景をユーチューブに流すつもりだ。そこで君に提案がある。第二回戦、私と共闘しろ。ラッコ」 「えっマジで」 寝耳に水といった表情で、ラッコは驚いていた。食いつきは良い。 「第一回戦の試合を見たが、七月十はマトモに戦って勝てる相手では無い。一人では奴に及ばない。」 相手はゴリラに分裂して敵を倒すほどの力量。ゴリラ67体にボコられて生きている者などいない。 共通敵の脅威を煽り、危機感を募らせる。 ラッコは周囲を見渡していた。動物園の檻の中にいるのは初めてなのだろう。近くにいるのは全員が大隈サーバルの協力者達。 フクハラP。父のパンダ。そして…林健四郎。 ラッコはしばし思案したが、やがて結論を出した。 「いいぜ。俺は楽をしたいだけだ。そのためならお前とも協力しよう。具体的な作戦はあるのか?」 「今の私には龍気(たつき)がある。一年で、これを完成させる。」 龍気(たつき)、震脚。震脚を極めた先にある武の境地。 それは同じ大隈流である父ですら至っていない、龍気(たつき)、感得(かんとく)だった。 「ちょっと待て。一年!?長くない?一年も修行すんの?」 ラッコの疑問に、フクハラPが解説を入れる。 「ここに第1回戦でサーバルちゃんが倒した林ケンシロウおじいさんも連れてきてるワ。彼の能力「精神と時と野菜の部屋」は1秒で1年間の修行が出来るの。野菜空間で、三人で修行するのよ。七月十を倒せるレベルまで。その修行風景をユーチューブに流す」 「よろしく」 林健四郎おじいさんが元気よく挨拶しました。 (勝つためにはなんでもする。今度こそ完全なる勝利を得る。他人の命だって掛けてやる。) 「そいつは第一回戦の対戦相手だろ?本当に味方になってくれる保証なんてないだろ」 「安心せい。儂は既に負けておる。いまさら勝者に手を出すはずがない。むしろ儂はたつき感得を見たいのじゃ。だから協力する。ラッコにも一年間の食事と機材を提供してやる」 「ただ飯!?」 目先の欲にラッコが食いついた。彼はこういう感じで釣った方が早いかもしれないとサーバルは感得した。 「もちろん七月十はユーチューブに気づく。奴とて暗殺家系。見逃すほど間抜けではない。じゃが、与える情報は取捨選択する。ラッコの姿も映像に流さない。共闘戦以外にも情報戦がある。これが三つ巴だ」 「待てよ。なら条件がある。俺は楽をしたいラッコ。一年間も修行をするつもりはない」 ラッコは楽して金を得たいだけだ。もちろん、サーバルとてラッコ的モチベーションの低さは想定済み。 しかし、ラッコの身勝手な態度を、サーバルの父のパンダは気に入らなかったようだった。 「なんだと」 「アンタらは黙ってろよ」 何か言おうとしたサーバルの父のパンダを、ラッコは言葉で制した。 「大隈サーバル。お前は随分と周囲にお膳立てしてもらってるんだな?今まで自分で何かを成し遂げたことはあるか?」 「あなたは知らないだろうけど、この子はウチのスターなのよ」 フクハラPが反論する。 「ただ周りの大人の指示に従っただけじゃないか」 「{私は…勝ちたいんだ。勝つためならなんでもする}」 答えたサーバルの周囲を黒いモヤが包む。サーバルは嘘をついている。だが、ラッコはなんの影響もない。嘘つきではないからだ。 (確かに、ラッコの言うことにも一理あるのかもしれない。) サーバルは考える。今の自分に本当に必要なのは何か。 「今のお前に一番必要なのは…不労所得だ。不労所得を得て、経済的に自立するんだ。それが精神的な自立にもつながるんじゃないのか?」 「不労所得」 不労所得。ラッコが不意に口にした不思議と甘美なその響きが、サーバルの脳内に爽やかな鈴の音のように響き渡った。 (すごい。不労所得ってすごいね。今まで考えもしなかった。そもそも不労所得ってなんだろう。) サーバルは…不労所得の虜になった。 「サーバル、なろうぜ!ユーチューバーに!」 ラッコが手を差し伸べる。サーバルは迷わずその手を取った。 「ああ。私はお前のようなバカになることを願っていたのかもしれないな」 いつの間にか、サーバルから黒いモヤが消えていた。 (勝つためには手段を選ばない。そのためならユーチューバーにだってなってやる。) こうしてサーバルとラッコは精神と時と野菜の部屋でユーチューバーになり…1年間を1秒に短縮した圧倒的動画アップにより、龍気(たつき)を感得(かんとく)したのだ。 サーバルが目指すのは、ユーチューバーになって…10万再生を突破!! ◆◆◆◆ 舞台は第2試合会場、コロッセオに立ち戻る。 5日間で1年以上という矛盾した修行を積んだラッコは、ユーチューバーとして歩み始めた自分自身を振り返りながら、第2試合の趨勢を見守っていた。 (やはり、龍気感得(たつきかんとく)は違うな) 銃弾は強い。いかに魔人といえども、銃弾という圧倒的な殺意の前には無力だ。 鈍重なゴリラ67体七月十は、ウホウホと鳴くよりも前に銃弾に貫かれるだろう。 (だが、俺の理想としてはサーバルも相当のダメージを負うこと。ともに1年修行した仲間だが、今は敵。協力するのはあくまで七月十を倒すまで。) 「コォォォオ」 その時、龍気感得が銃を撃とうとしたのと同時に、七月十が一呼吸した。 いや、正確には、火炎に包まれるゴリラの群れの中から確かな少女の息遣いが、ラッコの耳に届いたのだ。 「ぷぅっ!」 肺活量。尋常ならざるただの呼吸が、弾丸にぶち当たる。押し戻され、龍気感得(たつきかんとく)の手に突き刺さる弾丸。 同時に、あまりにも強い息は、ゴリラの群れを覆っていた炎を掻き消す。 「玉龍拳奥義、龍の息吹」 「おいおいおい」 (ダメだ。規格外…過ぎる!!) 即座にラッコは絶望感に襲われた。彼はただ楽をしたいだけで、元よりゴリラの群れに挑むような気概はない。今回はたまたま、サーバルが手伝ってくれると言ったからユーチューバーになっただけだ。 鈍重なゴリラの群れが…ラッコを襲う!かと思われた。 だが、ゴリラの群れの動きが遅い。黒いモヤが纏わりつき、まさにゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ。 (そうだ、当たり前だ。今の七月十は「期待の視線」でマトモに動けないではないか) 「千載一遇のチャンス!」 ラッコは筋肉防御を最大限に発揮し、壁の如き隆々たる体格に変化した。火炎を跳ね除けるほどの筋肉があるからこそ可能な…力技だ! 「ちくしょう…楽に勝つには…サーバルが願いを叶えられて、なおかつ七月十が倒される相討ちが理想系だったんだがな。」 (林のじいさん。今頃なにしてるのかな…) 「今だっやれっ!」 ラッコが背後のサーバルに視線を送る。 サーバルは黒い悪霊に覆われ、白い龍気感得(たつきかんとく)に支えられていた。 もうサーバルは、いかにも誰かに助けて欲しそうな、1年間の獣の表情ではない。あの顔がラッコの同情を誘ったのも事実だが、今のサーバルは真っ直ぐな眼をしていた。 「私は勝ちたい。なぜなら弟のために負けたなんて、姉として思われなくたいから。私が使うのは父の技。だが…今の私はユーチューバーだ!」 悪霊とたつき感得がサーバルの肩を持つ。 「行こう。みんな」 サーバルとたつき監督と悪霊の姿が重なる。 三位一体。震脚ピストル弾。 あらゆる獣の命を刈り取る死神(フレンズ)、白と黒の混在したサーバルは、大熊猫のような渾然一体とした姿に変化した。 「三位一体震脚ピストル弾」 ラッコの姿が死角となり、三位一体震脚ピストル弾を放つ。 魔人能力と武の極致がその身に宿った姿から放たれるごく普通の弾丸。あらゆる拳や蹴りよりもよほど殺傷力が高い。 ラッコの姿が影となり、七月十には弾丸の死線を捉えられない。 「私は嘘つきだ」 弾丸よりも速いスピードで、七月十が呟くのをラッコは耳にした。 七月十は嘘つきだ。その言葉は、七月十が正直者であることを意味し———— 「!?」 刹那の交錯。ファイヤーラッコはゴリラの群れを覆っていた黒いモヤが消失していることに気がつく。 (嘘つきの…パラドックス!?えっそんなんありなの) 嘘つきのパラドックス。「私は嘘つき」その言葉は、発言者が正直者であり、嘘つきではないという矛盾を表す。 期待の視線を送るだけの悪霊には、この矛盾を解決する答えは持ち得ない。 システムエラー、悪霊が行動不能に陥る。七月十からモヤが消えている。 「あのさぁ、試合中に、ウダウダ考えてるみたいだけど」 ラッコの視界から、ゴリラの群れが消えている。 ラッコの視界から、七月十が消えている。 「もっと早く行動を起こすべきだったね」 これまでの稚拙なスピードが夢のように、ラッコが振り返った時には、大隈サーバルはゴリラの群れに突撃されていた。 速度で負ける。大隈サーバルは、コロッセオの大理石の壁に埋まった。 (サーバル場外!!) 七月十の拳が、光り輝いている! 「玉龍拳奥義、果報大願成就一念一殺。こいつの願いは叶えたぜ。さあ、お前の願いを言え」 ラッコには七月十の好戦的な笑みが悪魔のように見えていた。 大隈サーバルの願いが、叶えられてしまった!! サーバルの弟が生き返った!これでもう、戦いへのモチベーションを失ったサーバルは戦えない。 大隈サーバル、脱落————!? 試合場に残っているのは、僅かに黒い悪霊と龍気感得(たつきかんとく)だけだ。 (えっあれ?悪霊と龍気感得(たつきかんとく)残ってんの?) サーバルはギリギリで踏みとどまっている。悪霊と龍気感得(たつきかんとく)が試合場に残っている。サーバルはまだ生きている。未だ闘志を失っていない。 生きて喰らい付いている。獲物は逃さない獣の眼をサーバルは瓦礫の中から七月十に送っている。 そしてラッコが生きている限り、未だサーバルの勝利は生きている…! 試合続行!未だ四対六十七に変わりはない。 「へっ…!どうやら時間は俺たちに味方してくれてるみたいだぜ!」 「…?」 勝利を確信したラッコの発言に、ゴリラ67体は一斉に首を傾げた。 「試合開始から10分だ。知ってるか?試合開始から10分が経ったんだぜ?」 そう、あの時も。そしてあの時も。10分という数字は非常に重要な意味を持っていることを、ラッコは既に学習していた。 ◆◆◆◆ 瓦礫の中から瀕死の大隈サーバルが見たのは、突如として痙攣し、白眼を剥いて凶暴化するラッコの姿だった。 (ギリギリ間に合った。これがあるからこそ、第一試合の映像を見た私はラッコを味方に付けたんだ。) 痙攣しながら首を縦に降るラッコ。これは恋?いいえ、これは真実です。ファイヤーラッコ…否、爆発オチ太郎の真実だ!!!! 「田(wiki構文)!というわけで、はい!突然ですがここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」 ファイヤーラッコが意味不明の言論を発声する!! いや、今の彼はファイヤーラッコではない。多重人格者ファイヤーラッコの主人格…爆発オチ太郎だ! 「なんっ」 何か言おうとした七月十の顔面に、ファイヤーラッコ、いや、爆発オチ太郎がヒザ蹴りを咬ます! 「爆発オチ太郎は、文字数や時間や気分的な問題や試合で10分が経過することによって自然発生する形而上存在です!!」 「意味が…」 狂人に理屈は通用しない。彼にはこの世全てが第三者視点で見えているらしく、脳内でファイヤーラッコの行動やアマゾンのアフィリエイト、wiki構文などが混在して見えているそうだ。 これは、1年間の授業中、大隈サーバルがファイヤーラッコから聞き出したり悟ったりした確かな事実である。 爆発オチ太郎は、狂っていた。彼は生まれた時は人間の赤ちゃんだったが、幼少時に尊敬する歴史上の偉人、西郷隆盛の人生が、家族が死んだり意外と悲惨だったことを知り、ショックで己の顔面の皮を剥がし、代わりに家にあったラッコの剥製を頭に被って、細胞レベルからラッコ化したのだ。 そしてファイヤーラッコの人格が生まれた。これに義憤を感じた爆発オチ太郎の両親は、いつか彼が本当の西郷隆盛のような器の大きい男になれるようにと、全ての事実を伏せ、おたふく風邪の治療の為にラッコになったと嘘を吐いたのだ。 思えば、全ての伏線は当初より存在した。第一試合の勝利者インタビューで、ラッコだけが謎の爆発で中止になった。 それが、ファイヤーラッコの主人格爆発オチ太郎が今年の大河ドラマ、西郷(せご)どんの録画を観るために欠席したのだと、サーバルは運良く早期に気付いた。 (今年の大河ドラマは西郷隆盛。だから、奴が西郷隆盛を原理に動いているとピンときた。西郷隆盛は私も含めてみんなに慕われる英雄だから) そんなことを考えている間に、爆発オチ太郎の背後に亜空間が出現する。空間すらも焼き尽くし、ワームホールを現出させるほどの、高威力の炎!すべては、自らを形而上存在だと思っている狂人だからこそ通る理屈だ。 「よいサイズの石油コンビナート〜!」 二人の頭上によいサイズの石油コンビナートが出現!このまま引火すれば、三人全員が爆発オチで場外になる可能性が大! 「良いぜ物理上存在…私の拳で願いを叶えてやる!」 「俺は形而上存在だ。誰がなんと言おうと形而上存在なんだ…!」 七月十が爆発オチ太郎を挑発する。爆発オチ太郎は、自らが形而上存在であることを証明するために、物理上のパンチを放つ! 「形而上パンチ!」 「うおおおー!」 強さこそが証明である現代の倫理観からすれば、徒手空拳で形而上存在だと示そうとする爆発オチ太郎の行動を、誰が笑うことなど出来ようか。 サーバルが見たのは、爆発オチ太郎と七月十が拳を交えながら空中を二段ジャンプする光景だ。 「玉龍拳奥義、東京大空襲!」 そしてダイナミックな音が鳴り響く。二人の熱に石油コンビナートが引火し、大爆発を起こしたのだ。 空中で二段ジャンプしていたラッコと七月十は爆発から逃れている。 大隈サーバルは爆発に巻き込まれ、ギリギリ堪えていたが、ついに場外へと吹き飛んで行った。 ◆◆◆◆ 大隈サーバルは場外となったが、悪霊と龍気感得(たつきかんとく)はまだコロッセオに立っていた。 「同じユーチューバーとしてラッコの暴走を見ておくままには出来ない。思い出せ、爆発オチ太郎。いや、ファイヤーラッコ」 悪霊はこの1年間の修行で、ファイヤーラッコに友情を感じていた。その思いが、悪霊を踏みとどまらせたのだ。 その熱い気持ちは龍気感得(たつきかんとく)にも伝わった。白い人影は一層人間らしい造形を深め、今やそこに立っているのは社会的信用のある中年男性だ。 「こうなれば我々が奴を止めるしかない。受け取れっ我々の社会的信用だ」 龍気感得(たつきかんとく)と悪霊が空を飛び、爆発オチ太郎の姿に重なる。ラッコ!パンダ!ベストマッチ!! 悪霊と龍気感得(たつきかんとく)。二人の社会的信用を得た爆発オチ太郎の姿が、人間らしい造形へと変形してゆく。 「馬鹿な…あいつは!」 七月十が驚きの声を出す。今の爆発オチ太郎、いや、ファイヤーラッコ、いや、その男の顔面は…俳優の西田敏行にそっくりだ! 西田敏行の顔をした男は、空中で神々しく目を開いた 「きばれ、せごどん(薩摩弁でがんばりない、西郷隆盛。という意味の挨拶)」 今のファイヤーラッコは…三位一体、西田敏行太郎! 西田敏行は西郷隆盛の大ファンであることは業界でも有名だ。その縁故が、爆発オチ太郎を西田敏行太郎の姿へと導いたのだろう。 「ダメだ、作戦は失敗だ。きっと悪霊の社会的信用が足りないせいだ」 「俺のせいにするなよ」 悪霊は龍気感得(たつきかんとく)に怒りを覚えた。 「おいは、この世すべてのせごどんをきばらせようとする西田敏行太郎でごわす。きばれ!せごどん!」 「ダメだ。暴走が止まらない。七月十、頼む。我々が西郷隆盛のまま…こいつを殺してくれー!!」 龍気感得(たつきかんとく)が悲痛な叫び声を上げる! 「ラッコ!お前の求めた日常は西郷隆盛でもなければ西田敏行でもないはずだ!私にはわかる!私を見ろ!私と戦えー!」 七月十の全力の拳が、西田敏行太郎を貫く。 「玉龍拳奥義!果報!大願成就!一!念!一!殺!」 光り輝く拳が全てを包み込み、そして破壊してゆく…!空中では全ての威力が西田敏行に伝わり、ダメージの逃げ場がない!! ◇◇◇◇ 「見よ。二ヶ月前にアップした動画が13回再生じゃ。精神と時と野菜の部屋では1秒が1年じゃから、相当なペースじゃぞ。」 ファイヤーラッコの記憶の中で、林健四郎おじいさんが嬉しそうに言った。 林健四郎おじいさんの能力、精神と時と野菜の部屋で修行を開始してより十一ヶ月。既に大隈サーバルは龍気の感得に成功し、アフィリエイトの収入も僅かであるが増えていた。 「これは…俺の記憶だ」 自らの精神世界で、ファイヤーラッコは悲しそうに呟く。 次の瞬間、場面は変わり、そこには血を吐いた林健四郎おじいさんが力なく横たわっていた。 「バカヤロー!どうして、どうしてだ、ケンシロウおじいさん…!」 「ぐふっ!この野菜空間では…能力者か、敵が死ぬまで闘い続ける。つまり、儂が死ぬしか、お前とサーバルがここを出る術は無いのじゃよ」 ラッコは怒りに任せ、サーバルの胸ぐらをつかむ。 「サーバル!てめー…このことを知ってやがったな!お前はケンシロウおじいさんを殺してでも、自分だけがユーチューバーとして収入を得ようとしたんだ」 「私は勝つためならなんでもする。たとえ他人の命だって天秤にかけてやる」 そう言ったサーバルの姿が黒いモヤに包まれる。ラッコはやり場の無い怒りを感じていた。 「試合以外で殺人を犯した選手は敗退だ。ラッコよ。私は初めから、ケンシロウおじいさんの死をお前の責任に押し付けて、都合よく私だけが勝ち残るつもりだったのさ」 「嘘だ!なら何故そんな黒いモヤに包まれる!俺はただ楽に収入を得たいだけだったのに…いつの間にかお前に友情すら感じていたんだぜー!」 そして更に場面は変わり、そこには爆発オチ太郎が亜空間から石油コンビナートを出現させる光景が広がっていた。 「あれは、俺だ。俺こそが爆発オチ太郎だったんだ」 「突然ですが、ここでオレ様爆発オチ太郎の出番でーす!」 記憶のラッコが悲しそうに、孤独そうに叫ぶ。 「亜空間…!?そうか、このワームホールから、野菜空間を脱出するんだ!まだ林健四郎おじいさんが助かる見込みはあるぞ、ラッコ!お前は大した奴だよ…!」 サーバルが健四郎おじいさんを背負い、自我を失ったラッコにしがみつきながら、石油コンビナートの爆発を利用して亜空間へ放り出された。 「そうか。俺は自分に都合の悪い記憶を封印していたんだ。」 全てを思い出したラッコは…またもや場面が変わり、目の前にデカくてガタイの良い学生が現れるのを目にした。 「よう、久しぶりだな」 「お前は、第1回戦で死んだ俺の対戦相手のチョコケロッグ太郎」 チョコケロッグ太郎。彼は、ファイヤーラッコが第1回戦で倒した対戦相手だ。 「死んでないけどな。ここはお前の精神世界だから、なんでもアリなのさ」 「そうか。ケンシロウおじいさんが助かって本当に良かった。危うく俺は人を殺すところだった。本物のユーチューバーへの道のりは遠いな」 するとチョコケロッグ太郎は、ラッコに手を差し出した。 「受け取れ、コーンフレークだ」 「ありがとう…日常の象徴。俺はなんでもない普通の日常が欲しかっただけなのかもしれないな」 「行くのか?ラッコ」 「ああ、俺にはまだユーチューブがあるからな。シリアルキル…コンプリート!」 コーンフレークを握りしめ、ラッコは亜空間のワームホールへと足を運ぶ。その穴は、丸くてまるでちくわの穴のようだと少し思った。 ◆◆◆◆ 二度の全力。全てを出し切った七月十が目にしたのは、ファイヤーラッコ、いや、西郷隆盛太郎が全身の筋肉を巧みに用いて、さらなる変貌を遂げる絶望だった。 「ちくわああああ!!」 西田敏行太郎の姿が、穴の空いた練り物…巨大なちくわへと変形してゆく! ちくわ…チューブ…ユーチューブ。これが本物のユーチューバーだ!! 「ちくわああああ!!」 「えっちくわ」 一瞬の油断。七月十がちくわに食われる!!食われる七月十。これが自然界の掟だ 「一緒に10万再生を目指そうぜ?」 七月十を食われたゴリラ67体の幻影たちは、慌てふためき逃げ惑う。大将を破られた軍の末路などこんなものだ。 そのゴリラの群れを、ちくわは次々と捕食してゆく。すべては10万再生を達成するために。 圧倒的破壊。もはや試合会場にはちくわしか残っていない。だが、七月十はただ食われただけで、生死不明なのでまだ試合は終わっていないよね。 そして、さらなる異変。ゴリラの力を取り込んだちくわが、黒く変色してゆく。まるでゴリラの体毛のように。 ちくわゴリラホイール。 そこには、一体の巨大なタイヤが宙に浮かんでいた… 「奴はどこまで進化するんだ」 場外になったサーバルは、敗北を確信して尚戦う意思を失っていなかった。場外の領域から、コロッセオのちくわゴリラホイールに向け、無意味な大量のたつき感得を放つ。一体、二体…大量だ。 「ラッコ…日常に戻るんだ」 サーバルは苦しそうに叫ぶ。今のちくわゴリラホイールはいわばラッコと七月十が融合した存在とみなされ、両者健在の扱いのまま試合は続行している。 「こんな形の勝利は…私たちの求める勝利ではない!」 サーバルが、叫ぶ!その声はちくわに届く! 「なれ…ラッコ。本物のユーチューバーに、なれーーーっ!!」 心からの言葉!サーバルを包み込んでいた黒いモヤが、晴れてゆく…! 「お姉ちゃん、カッコいい」 不意に弟の声が聞こえたような気がした。 反射的に振り返るサーバル。 そこには、いた。最愛の弟が。マーゲイが。元気に立って、サーバルを応援していた。 「とりあえず生き返ったんだ。お姉ちゃん。ありがとう。七月十が殴った時に僕は生き返ったんだよ」 「マーゲイ!」 サーバルは最愛の弟に抱きつく。 「もう離さない!もう離さないからな!」 「あはっ痛いよ、お姉ちゃん」 マーゲイが嬉しそうに言う。サーバルが抱くその背中には、奇妙にも小さなタイヤが一つくっついている。 「えっタイヤ」 「お姉ちゃん。もう人類は自分たちの足で歩く必要は無くなったんだよ」 マーゲイが虚ろな目をして微笑む。 ちくわがケロッグコーンフロスティをばらまきながら爆炎を上げる。コロッセオから全世界へ放たれたケロッグコーンフロスティは、世界中の人間に取り憑き、背中にタイヤを生やすという奇跡を起こしたのだ。 「せごどん、きばれ(薩摩弁で、背中にタイヤを生やしなさい西郷隆盛。という意味の挨拶)」 絶望は終わらない。これは、キメラ存在に七月十の願いの力が悪い方向に働き、西田敏行太郎の願いを叶えてしまった結果に違いない。 弟が背中にタイヤが装着され、仰向けになってコロッセオ周辺を高速でドライブし始めた。 「見てお姉ちゃん。僕はもう歩く必要なんてない。これで病気も治ったんだよ」 「ああああーっ!神は!神はいないのかーーーっ!」 大隈サーバルは、自分自身もまた仰向けになり背中のタイヤでドライブウェイしていることにも気付かず、天に向かって叫んだ。 ◇◇◇◇ これは、記憶。七月十が戦うための原動力。 「もう…戦いたくない」 暗闇の室内で、一人の少女が呟いた。その表情は暗く、読み取ることができない。 「もう誰も殺したくないの。あなたも殺したくない。逃げて」 「おいおい、俺はなんでもないごく普通の少年だぜ?お前が家族の為に人殺しなんてさせられてるのは知ってるが、ハイかイイエで答えるためだけの正直さなんて、本当の正直さとは言えねーんじゃねーかな」 少年の姿もまた暗闇の中、明確に見ることは出来ない。彼は少女と向かい合い、対峙している。 「なら…どうすればいい。私はあなたを殺すよう命令を受けてる」 「明確な答えなんてないと思うぜ。ただ…こんな人になりてーって人の真似をすれば良いんじゃないかな」 暗闇の中、確かに少年は笑った。 「笑顔になれナナガツジュウ。笑顔の方が素敵だ」 「私の名前は、その読み方ではない。でも私の笑顔を見たいってことは…告白してるってことでいいのよね?とりあえず私の実家に行こうか」 「えっ」 ◇◇◇◇ 試合開始より5日前。七月十はグロリアス・オリュンピア参加者専用のホテルの一室で、ユーチューブの動画を見ていた。 「ねえ七月十お姉さま。まだ再生できないの?」 「なんで勝手に人の部屋にいるの。佐渡ヶ谷さん、悪いけど集中したいから出て行ってくんない」 「酷いわ〜」 「黙って、動画が始まった」 再生された動画には、「白人男性の講座」とタイトルが付けられていた。 「佐渡ヶ谷さん、見て。白人男性だよ」 動画の中の白人男性は、第1回戦で七月十が戦った対戦相手。佐渡ヶ谷真望のタッグパートナーだった男だ。 「SMとは心だ。真のSMに武器は必要ない。七月十。鞭打。鞭の理合を手に表す。近接拷問術は必ず玉龍拳に取り入れられるはずだ。」 白人男性は、ミラノから七月十へアドバイスを送り続けていた。 ◆◆◆◆ 「玉龍拳は…無体ぶりなんだよ!!!」 ちくわゴリラホイールからジャズの名曲whip lushの口笛が聞こえたかと思うと、少女の怒声が内外に響いた。 次の瞬間、ちくわゴリラホイールの穴から飛び出したのは、67体のゴリラと、女王様に鞭を打つ、白人男性達67体の幻影だった。 「おばあちゃんが言っていた。歩くことを止めた人類はやがて高速移動しながら電柱に頭をぶつけるだろうと」 「七月十、生きていたのか」 サーバルが背中のタイヤで高速移動しながらコロッセオ場内に再入場し、七月十に駆け寄る。 「ああ、ちくわには穴があったから、そこから脱出できた」 ————生物学上の盲点!ちくわには穴がある為、捕食されても脱出出来る! ゴリラと女王と白人男性の群れに囲まれた七月十は、沈痛な面持ちで上空を飛翔するちくわを見上げた。 「すげえよアンタラ、たった二人でここまで…お前たちは初めから組んで戦っていたんだな!全部お前達の仕業なんだな。決着をつけよう、サーバル!」 「えっ」 サーバルが素っ頓狂な声を出すが、テンションの上がった七月十には聞こえない。 「まだ試合終了じゃない!戦おう!サーバル!」 「私はもう場外で負けたわ。巻き込まないで!もうやめてー!」 「断る!」 七月十は構えを変える。 次の一撃で決着をつける。ユーチューブの力は強い。倒すことを諦め、白人男性拳で場外狙い。 手刀を天に掲げ、もう片手を地に向ける。これこそがSMの理合を両手で表す、鞭打の型。 続いて大地を破壊しながら平行移動、加速が頂点に達すると同時に空を飛行し、ちくわにタックルした。 「名付けて玉龍拳新奥義、白人男性拳、一気呵成の型。」 手刀を振り抜き、爆発が起こる。ちくわが爆発に巻き込まれて場外。 67体のゴリラと女王様とそれらに鞭を打つ白人男性が大量にばら撒かれ、エネルギーの幻影となって敵を打ち倒す。 ちくわと龍気感得(たつきかんとく)、悪霊、サーバルが苦悶の表情を浮かべたような気がしたが、全部まとめて吹き飛んでいく。 「この技を食らった者はミラノに行きたくなる。てめーらみてーなクソヤローどもは…ミラノまで飛んでっちまいな!」 三大アニマル大決戦。 ユーチューブVS龍気感得(たつきかんとく)VS白人男性の三つ巴の戦いは、白人男性に軍配が上がった。 ◆◆◆◆ 「えっ場外?」 グロリアス・オリュンピア会場、貴賓席にてエプシロン王国の王女、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロンが言った。 「ちくわ殺してないの?えっどうすんのこれ。周辺の被害とか」 「ちくわが場外になった以上、勝利は七月十のものですが、このままでは全人類に被害が及びますね」 侍女のピャーチが冷静に分析する。 その時、試合場を移すモニターが、七月十の発言を捉えた。 「確か戦った後処理は全部フェム王女がやってくれるんだったな…あとは全部任せたぜ!王女様!」 「と、いうことだそうです。元はと言えばあなたが望んだことですよ、フェム様」 ピャーチが無感情に言い放った。その背中にはタイヤが生えており、室内を高速移動していた。 その時、緊急通信の連絡が入り、五賢臣のビデオ電話が映し出された。 「頼む…フェム王女、もはや君しかいない。我々五賢臣の力では…ぐあああああ電柱に頭をぶつけたあああああ」 五賢臣の連絡は途絶えた… 「NOOOOOOO!!!!」 不労所得の恐怖!フェム王女は叫んだ。背中のタイヤで高速移動しながら叫んだ! ◆◆◆◆ 試合決着より数時間後、疲労困憊で倒れているフェム王女が頭にタンコブを膨れさせてコロッセオに寝転がっていた。その傍らには国王が咽び泣いている。なんとかちくわを説得したのだ。 フェム王女は、ユーチューブの金ボタンと浮遊大陸油田の利権、20万円のポケットマネー(エプシロン王国が保有する財産の一割二分五厘)で手を打った。人類は救われたのだ。 その代わり、フェム王女はさすがにこっぴどく父上に怒られたわけだ。 周辺には、倒れている悪霊太郎、たつき監督太郎、サーバル、そして西田敏行太郎がいた。 「お前たち二人は今まで戦った中でもかなり強い部類だった」 七月十はボロボロの状態で、地面にあぐらをかきながらそう言った。 「私に期待しないでくれ」 サーバルは弟を抱きしめながら、照れくさそうに笑った。 瀕死の西田敏行太郎は、天を仰ぎながらゆっくりと口を開く。 「七月十。ひとつだけ頼みがある」 「なんだ」 「俺たちは勝ちにこだわりすぎるあまり、ユーチューバーとしての道を踏み外してしまった。頼む…俺たちの代わりに本物のユーチューバーに…」 「ああ、任せな!」 交通事故の発生件数は年間40万件を超えています。中には死亡も伴う痛ましい事故が3600件も含まれます。法律を守り、適正な運転を心掛けましょう。長時間の運転や、危険な走行ドリフトなど、決して無理はなさらないで下さい。 ◆◆◆◆
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ドルジの笑顔に癒されました -- (名無しさん) 2008-12-26 10 52 31 * ※ ☆ ※ ※ ☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※ ※ ☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※ ☆ ※ ※ ☆ ※ * * ※ ☆ ※ =⊂⊃=⊂⊃= ※ ☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※☆ ☆※ ※ ☆ ※ * 優勝きたお!! * ※. ヤルオ━━━(__人__)━━━オヤ !!!!※ * * ※ ☆ ※ ※☆ | | .☆※ ※☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※☆ヽ_/☆※ ※☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※ ☆ ※ ※ ☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※ ※ ☆ ※ * * ※ ☆ ※ ※ ☆ ※ * 仮設寸評地 (行数オーバーの為以前のを消すか、此処を潰すか、行数減らすか検討中) +第14回寸評 , 第14回ペナント、セ・リーグ2位 89勝51敗0分 勝率.635 もう駄目かもしれない。千載一遇のチャンスを逃した。まぁ出来れば全盛期の強敵達を倒したい選手が多いだろうから 強くて良かった。 前回寸評とここまで同じ(゚∀゚) 広島を含めセ4球団にきっちり対応出来たが、王者中日に負け越した。 前半首位で折り返したが、最後にその差が出たのだろう。 投手から。 キン肉まんマン選手は衰えを感じるやいなやベンチで堂々と禁止薬物を使用、先発が二人しか居なかった時からの同僚Dammit選手が止めに入るが 逆水平チョップ→掴み→赤川選手のロッカーへ投げ→意味の無い喧嘩キックで活躍中の若手バットオ選手のロッカー破壊→赤川ロッカーに食い込んだDammit選手へ薬を含んだ毒霧攻撃→禁止薬物をデスギモト選手のロッカーへ という完璧なコンボを決め例年通りの高勝率をマーク。 成人漫画家の砂画伯を敬愛するDammit選手も衰えと闘いながらシーズンを過ごす。シーズン序盤、同僚肉マンまん選手に暴行を受けて一時は現役を危ぶまれたが、その時掛けられた薬により例年通りのタフなピッチングでシーズンを過ごす。「アイツ…もしかしてわざと…」こう呟きながらシーズンを終えた。 デスギモト選手も衰退期の影響で登板回数が減ったが彼のピッチングスタイルから予想した通りの好成績をあげた。理由を尋ねた所、「神様が僕に勇気というプレゼントをくれたのさ」と発言。禁止薬物を使ったのは間違いないだろう。素晴らしいピッチングだった。 世界のエース赤川選手は序盤好調でAS豪遊後不調というパターンに近かったものの、セを代表するに相応しい防御率・勝率・奪三振数をあげた。 シーズン序盤に壊れたロッカーを泣きながら修理する姿がチームメイトに目撃されている。何故かバットオ選手のロッカーも直してあげたらしい。 超新星バットオ選手は正直たまたまじゃないかと思われた1年目の成績を更に伸ばして誰もが驚くようなピッチングを披露した。 ただ、問題が無いわけでもない。ロッカールームにて野獣の様な瞳で同僚を見詰める彼の影響か、最近選手達はバスタオルを巻いて着替えをする様になり総練習時間が減少、ツインターボ選手に至ってはシーズン途中で調子を崩す事態に。 ベテランの域に入りつつあるwMr.チアソンは序盤に入団当初期待していた通りのピッチング、一皮剥けたかと思いきや終盤に中継ぎ負担増の影響から失速。来期も辛い査定となりそうで、オバマ新政権に移行しても世界経済の状況はまったく改善しないと予測される。 勝利の方程式、逃亡者ツインターボ号は1年目に近い成績で不調のシーズンとなった。原因はバットオ選手とも言われているが実の所は蹄鉄である。 彼の素晴らしいスタートダッシュは装蹄師の隆幸さんによって支えられていた。だがその隆幸さんがシーズン中一時危篤状態となり、磨り減った古い蹄鉄使用を余儀なくされたツインターボ号はそのままズルズルと後退していった。その後隆幸さんは無事回復して来期からはしっかりサポート出来るとの事…良かった。 横浜三人娘の聖天使猫姫様は今シーズンも期待された通りの勝利を呼び込むピッチング。後半に他の中継ぎ陣同様疲れが出たものの前年同様に今期の序盤で見せた輝きは今後を期待させるに十分な材料だろう。個人的に来期が非常に期待出来る投手だ。 シーズン同様投手陣のとりを勤めるくるーん選手は前半パーフェクトリリーフを披露し無傷のまま折り返した。NOTクルンゴww。シーズン記録男の力を遺憾なく発揮、ASにも出場し子供達にクルンゴwwwをお披露目、シーズン後半も圧巻の守護神振りで最多救援を獲得。衰退期などこの男には関係無いのか… 野手。 銭のカリスマだったその昔、歌舞伎町で愛すら買えると信じきっていた若者東出君だが 中年になった最近では銭じゃ買えなかった愛を得る為女性に優しく接する様になった。だが打率という名の女性からは見捨てられたシーズンに。 落ち込んでいた彼に誰かが言った。「鳥がなぜあの美しい空を飛べるか知ってるかい?」 東出君は答えた「金ーっ、金ッ!金ーーーッ」 東出君に語り掛けた男は泣きながら、優しく諭す様にこう言った。「それはね…自分が飛べると信じて疑わないからだ。俺は飛べる。あの高い高い空を。 自分を信じられなくなった瞬間、鳥は地に堕ち、美しかったあの空へ帰る事は出来なくなるだろう…」 その言葉を聞いた東出君が叫んだ。「来期、特能買う!!」 アルルちゃんには似合わない衰退期という状態に入った今シーズン、アルルちゃんをいつも助けてくれた魔術師(彼氏?)により闘気をGET! 序盤は.340以上をマークしASにも出場、シーズン終了時も.326という素晴らしい打率、45盗塁で見事2回目の盗塁王に。衰退期を見事撃破!したアルルちゃんなのであった。アルルちゃんが嬉しいとチームみんな嬉しい( ^ω^) ざんげちゃんごめんなさい。休日に遠出なんて似つかわしくない行動して更新遅れてごめんなさい。日本一遠くてごめんあさい…もっとつねって!バットオ選手が!バットオ選手がアッー! 成績面をば。衰退期入っても三振数が少ないままだなんて…神秘的過ぎます。盗塁数も中々。マシンガンを支え続けてくれるハマの神様(巨匠)に感謝。 シーズン中WBCに追加召集されるんじゃないかとドキドキ過した大介だが、チーム本塁打シーズン記録を持つハマの4番に(リアルでも有り得るで)相応しい成績で序盤は例年通り驚愕の成績、近年の傾向どおり後半やや落ちたが、そんなところが投手の赤川選手に似ている。そしてタイトルゲット出来る凄さも似ているw余裕の打点王GET!!本塁打はおしかった…最近、製作者が巨人の中井大介本人なんじゃないかという噂が立っている。 ヤシガニ作画すらこよなく愛す四方選手だが今期はアニメの不作っぷりに激怒してその研ぎ澄まされた集中力を野球に注ぎ込んだ。 すると、入団当初からこの男はタイトルを取るんじゃないかと予測していた通りの活躍。3割30本100打点をクリアしポテンシャルの高さを再び示した。打率に至っては隠れ特能マシンガンマニアを発動し.340という驚異的な数字を叩き出した。年俸も随分伸びると予測される彼だがAT-Xの値上げに難色を示しており、金銭に関しても横浜色に染まってしまった選手である。 正直バルパンの成績を期待せず大して気にもしていなかった今期。バルパンサー君は頑張ったよ!横浜初期の様にチヤホヤして欲しいみたいだよ! でもエラー数多いのは残念過ぎる。もっと頑張れバルパンサー!死力を振り絞るんだ! 昨シーズン「そんなスローな南斗聖拳では俺は殺せん」と6さいちゃんに言われ意気消沈したまま今期に臨んだジャギ君、凡打をしてベンチに戻って来る度、小声で「俺は北斗神拳の伝承者ジャギ様よぅ…」と呟く事が多くなった。結局は中々の成績を納めシーズンを終えた彼だがそのスジの関係者筋によると、ジャギ君とバットオ選手が入っていたシャワールームから「そんなものを刺されると…」という呻き声が聞こえてきたらしい… フランス国内でヴァンダム主演の映画が放送される度、笑い者にされているらしいヴァンダムの子供に同情した6さいちゃんは極限まで高めたマッスルの次に打撃の技術力を鍛え始めた。ヴァンダム体型を維持している自分が活躍する事で少しでもヴァンダムの地位向上に貢献しようという32歳の6さいちゃんらしい行動に出たのだ。だが6さいちゃんはフランス国内での野球知名度を知らない様である…今も幼児用パンツを穿く6さいちゃんに敬礼!!打点ランキングの常連にもなってきた。 若返られた事実も日常風景に溶け込んできたたら神は弱冠苦しんでおられる。みんなのタラレバパワーが落ちてきた事が原因だ。近年は定位置に居た頃より実現可能な位置に付けるも、「~だったら」「~れば」という感情が湧き上がらないほどの強さを見せ付けられ敗退。 こんな時こそハマを支え続けるたら神は力を発揮しようと焦っておられる。我らの為に…なんと健気な神様であろうか。 皆に小さな希望が生まれ、タラレバパワーが少しづつ強くなった時、たら神は大成長を遂げるであろう… たった一度でいい…日本一に成れます様に…(-人-) 80勝じゃ無理ならば90勝、100勝してやるつもりで来期を戦おう。 このチームにはその可能性がある筈だ。 前回寸評とここまで同じ(゚∀゚) ひゃ・・・ひゃ・・・ひゃくしょう 今期駄目だった場合は今のベテラン選手の代での日本一は諦めた方が良いように思える。可能性が無いわけじゃないとは思うが 同時に一つの考え方として、4位以下に移籍した場合は能力がアップする可能性、ダウンはしません。とある様に ベテラン達は他チームへ行き能力アップを図って選手生命を延ばす方向も考えられる。 衰退期に入ったが通算の記録が掛かってる選手は尚更その方が良い様にも感じる・・・ 勿論横浜に残ってくれたら手厚く葬ろうww あばば球界を自由に渡り歩く際、日本一になって 前回1位の球団から前回4位以下の球団に移籍した場合は能力がアップします。ダウンはしません。 という絶対状況の方が選手達に優しい状況ではあるが…。 とにかく来期は今迄と同じく強い敵がいるほど燃える精神 を滾らせよう +第15回寸評 , 第15回ペナント、セ・リーグ4位 67勝70敗3分 勝率.489 久々の定位置GET (゜∀´)bグッ 乱戦模様となった第15回、中日・広島・阪神が激闘を繰り広げた。 そして最後に抜け出したのは広島だった。おめでとう。 我が横浜も頑張ったが一時期の勢いはもう無かった。 だが慣れ親しんだ位置だ、ゆっくりしようw 投手から。 肉まんマン・ザ・グレート選手は衰え知らずで15勝を上げた。近年に入り勝率が高いのも相変わらずだ。 Dammit選手、赤川選手同様200勝が達成出来る勢い。だが法廷での争いは苦戦を強いられている模様。 Dammit選手は10勝10敗と若い頃の肉まんマン選手に似た成績で若さをアピール。今期は横浜の先発が誰だろうと当てて来られる傾向にあったが、王者や阪神を完投で返り討ちにする場面を見た。試合終了後に肉まんマン選手と密談している様子がチームメイトによって目撃されている。 修理屋赤川選手は弱冠衰えを感じさせたものの、防御率・勝利数・奪三振ともに一流と呼べる成績だった。 だが新たに手に入れた特能低め○に対して、かつてのダイソン社長同様に疑問を抱き始めた彼だった… 先発に再デビューをしたMr.チアソンは序盤に彼自身が体験した悪夢を彷彿とさせる状況に。 だが成長した彼は前期終盤完封を含める2勝をあげ、後半は勝ち数を伸ばし防御率も改善させた。 移籍予定であるが新天地で大きくなって(特に年俸面を)逞しい姿を我々に見せて欲しい。 花言葉が大好きなバットオ選手も前期苦しんだ。3年目に入り手の内を読まれたのか重いスローボールも打ち込まれる場面が目立った。 悩んだ彼は恋女房のジャギ君に相談。夜な夜な大事なミーティングを重ね後半はバットオ選手らしいピッチングを取り戻した。 蹄鉄師も復帰し完全に復調すると思われたツインターボ選手だったが意気込みすぎてシーズン前からスタートダッシュ その結果栗東でのトレーニングに失敗しスタミナ不足ぎみのシーズンを送った。足場は整っているのでスタートさえ決めれば来期以降安心だろう。 今シーズン、球団と「ネトゲは一日5時間まで」という約束を交わした聖天使猫姫様は球速の伸びも著しく、順調と呼べるシーズンを送ったように思う。だが他の投手達が若い頃に見せる爆発的なシーズンというものはまだ経験していないだろう。その点を踏まえた上で例年の成績を見てみると高い期待を抱いてしまう投手である。 今期から久し振りの中継ぎに回ってもらったデスギモト兼任投手は緩い変化球中心の老獪なピッチングで打者を翻弄。 中継ぎの格として大貢献してくれた。最近ではデス杉本投手と呼ばれても振り向かず、デキ杉君と呼ぶと照れながら振り返る。 守護神くるーん選手にとって、またしても登板機会の少ない試合が多くなった。シーズン終盤まで20に満たないセーブ数(17くらい)だったが 残り10試合ほどで立て続けにセーブを記録、23セーブを記録した。来期こそ、通算記録も期待されるくるーん選手に良い場面で数多く回し 何発もの綺麗な花火を眺めたいと願う吉宗だった。 野手。 今年AHを買って挑んだスピードマイスター東出君、盗塁王はおしくも届かなかったものの全盛期を思い出させる走り 打率も向上させ良い働きをしてくれた。銭闘力の火が衰えていない事に加え、追加特能での可能性を十分残している状態だ。 アルルちゃんも数字上の年齢は中年に差し掛かっているがw変わらず元気な姿を見せてくれた。アルル・ナジャちゃんという名前が 以前から記憶の何かを刺激し続けていたのだが、最近判明した。専用MSはアール・ジャジャで決まりだろう。昨年盗塁王を取ったアルルちゃんだがアルルちゃん平均と言える28個の盗塁を記録し、来シーズンもまだまだ狙えそうである。 ざんげちゃん凄過ぎwww.372でぶっちぎりの首位打者。低迷する横浜を明るく照らしてくれた。打点も100打点をクリアし最も輝いた打者と言っていいだろう。一時期敬遠されたミート多様を装着するという先見性の高さも光る。さすが神様の一人だ。 バルパンサー君が頑張った。泣いた。笑った。そろそろ反動でグッと成績が落ちそうな気がする。 大田泰示が気になってしょうがない中井大介選手は今期も本塁打2位、打点2位といつもと変わらぬナイスラッガー。 スラッガーであり続ける彼は通算記録をどこまで伸ばせるのか非常に楽しみな存在だ。 「不規則に再放送中」本放送の時最終回だけ見逃したのだ。 うろ覚えのみなみけおかえりOPを口ずさんではわからない部分でハニカム四方二三矢選手は選手近影からもわかるように似合いそうなぬこ口習得に励んでいる。研ぎ澄まされた集中力をぬこ口固定に振り向け過ぎてバッティングセンスの塊だった彼としては不調のシーズンを過した。 視聴する番組とぬこ口も定まってきた彼は来期に異次元の集中力を見せてくれるに違いない。 6さいちゃんは今期もHR30本近く100打点近い数字を残し他所に行ったら即主軸の活躍をしてくれている。ユニフォームが試合中に破れる事もしばしば。是非とも場外HRをかっ飛ばす6さい児を見たいのだが、その為にも来期は主軸で爆発的な数字を残して欲しい。 他の衰退者に比べ爆発的な勢いで老化を進行させているジャギ君だが、ベテラン的には疲れるであろう終盤に大活躍していた。 ランナーが溜った所での一発が多いのは若い頃と同じだ。NARUTO的な老化を防ぐ方法はないものだろうか…と考えてるらしい。 野手で肉体が一番若いたら神は大打者への進化を加速させている。今シーズンそれを強く感じたので、新たな肉体との相性の良さに一安心しておられるだろう。良かった。横浜が定位置に沈みタラレバを求める力が増したのも要因の一つだろう… まさかの日本一があったりしちゃったりなんかしますように…(-人-) 久し振りに借金生活となった今期はみんなも辛かっただろう。 だがしかし、チャンスは必ず訪れる と思い込んでみよう。 ほ~ら、少しワクワクしてきた?グヘヘ… とりあえず数年は茶を飲みながらまったり横浜になろう。 何か意味の無い事を呟くように吐き捨ててれば不思議ゾーンが完成するはずだ。 別の意味で恐れられる球団になるのもいいかもしれない。 +第16回寸評 日本シリーズ , 第16回ペナント、セ・リーグ優勝 94勝44敗2分 勝率.681 横浜優勝が、、、、、キタ―――(゚∀゚)―――!! 久々の定位置が続くんじゃないかと思ってたが、まさかの優勝。 選手達が最後の力を振り絞ったようだ。 そして日シリでは悲願の初日本一に輝いた!! 投手から。 セ界超人肉まんマン選手 防率3.10 13勝7敗 どんな薬を打ってるのか想像し難いほどの成績。被本塁打の少なさはセ界一だろう。対中日戦でも完封勝利する等超人を冠するに相応しい活躍。 最近は有名MLB選手とも交流があるらしくDammit選手に英語を教わっているらしい。 Dammit選手 防率3.42 14勝7敗 今シーズンは久し振りに200イニング近くを投げ、防御率・勝率共に全盛期を思い出させるピッチング。衰退期に入ってる筈なのにスペックが衰えない。制球・スタミナ・変化球のキレ、これらを見てると年齢が解らなくなる。だが今期、とうとう肉まんマン選手とは法廷仲間に…2本柱の力が法廷で通用するのか気になるところ。 赤川選手 防率2.84 16勝5敗 ロッカールームの番人赤川選手は悪魔超人肉まんマンの誘惑を頑なに拒否。日夜ロッカールームを見張り仲間達が陥れられるのを防いでいる。 全ての成績がセ界TOPクラスだが、中でも奪三率・与四死率は群を抜いている。奪三振王はおしくも届かなかった。 バットオ選手 防率3.93 10勝4敗 威圧感一本にてベテラン揃いのあばば球界で初年度からここまでやれているバットオ選手。相当な威圧感なんだろう。どんな威圧感なのか? ただの威圧感ではないはずだ。いやある意味、タダノ威圧感なんだろう。投球回数もどんどん伸びてきている、スローカーブという最近では人気の無い球種でどこまでの選手に成長するのか楽しみである。阪神戦での完封試合が凄かった。 がんばれ中継労働課選手 防率2.24 16勝3敗 今シーズン、広島からの移籍で横浜に加わった前年度優勝経験者。まずその速球に驚いた。その剛速球とH系変化球を駆使しつつ、速球中心の投球術を展開する。力で捻じ伏せるタイプの王道を行くPだ。序盤に相手チームがエースをぶつけて来たが1対0の完封勝ちを納めた時は痺れたw 最優秀防御率・最多勝を獲得。ASMVPも獲得。追加情報:投手MVP、ベストナイン獲得。 ツインターボ選手 防率3.98 10勝4敗2S まさに馬車馬の働きをしてくれた。いや、馬車の馬は勤まらない性格であろう事は解っている。最後まで勝ち進めたのはツインターボ選手の名前のおかげだろう。勿論成績面でも大貢献してくれたw以前の好調さを取り戻した原因の一つとしてブリンカーがある。まったり逃げる事が出来た彼は終盤焦る事無く冷静なPをしてくれた。勝利の方程式Pだ。 聖天使猫姫選手 防率4.34 8勝9敗8S 中継ぎとして登板後くるーん選手の状態が悪い時などそのままロングリリーフ。横浜の終盤をツインターボ選手とは別の形で支えてくれた。 今シーズン負け数はやや多くなったが、クイック○のみでこの好成績を収めている彼女に感謝。 くるーん選手 防率5.60 0勝2敗30S クルンゴwwwあばば球界歴代記録に並ぶ4度目の最多セーブをGET!!!防御率は寂しい数字となったが失敗はたったの2回。30もの試合で勝利を確定させ、強豪犇くセ・リーグでの優勝を支えてくれた。やはり接戦となる試合は阪神・中日との試合が多かっただけに30という数字以上の重みがある。 とにかくうちの先発達は5人共、大事なシーズン後半に完封勝ちが多かった。阪神や中日、広島相手に次から次と完封試合を記録して、疲労がピークにきてた中継ぎ陣を甦らせた。これがとても大きかった。中継ぎ陣が今シーズン好調さを取り戻してくれたのも優勝の要因だ。くるーん選手は劇的なクルンゴwwで和ませてくれた。そしてリーグ優勝を決めた時、マウンドを締めくくったのも彼だ。 野手。 財布が寒くなったが成績がHOTになった東出君w不動の1番として支え続けてくれた彼が1番に居る時に優勝出来たのはほんと嬉しい。 盗塁数はさすがに減って来てしまったものの、盗塁と鉄壁の堅守と200本安打以上の打撃で大貢献してくれた。まだ伸びしろが有りそうな彼、是非ともトイチで金銭融資したい。 アルルちゃんやったお!!応援し続けてくれたアルルちゃんに優勝をプレゼント出来たぜ!!!!!まぁアルルちゃん自身が大貢献してくれてるおかげなんだけどw今期も4割近い出塁率で中軸各打者に良い形で繋いでくれた。横浜不動の二遊間コンビ東出君、アルルちゃんが相手チームに切り込んで行ってくれた事がとても大きい。失策は鉄壁アルルちゃんにしては寂しい数字となったが一番難しい遊撃手なので仕方ない。カワユス大賞もあげるで!!!死球の多さに激怒した我々は来期相手チーム主軸へのスナイポを開始する。東出君の死球の少なさも気になるがwたら神の0は当然だろう。 ざんげちゃんスゴスwww2年連続首位打者にはおしくも届かなかったが.352という脅威の打率。またしても100打点クリア!!! 三振についてのコメントは本人に厭きられてるかも知れないが触れざるおえない少なさ!年俸大幅アップを要求する。 ざんげちゃんごめんなさい朝に時間を合わす為でもあったけど飲んで帰ってきたら朝までそのままバタンキューしてました…もっとパワフルな人間を目指します。駄目人間でごめんなさい。 バルパンサー君が駆けた。守った。大地を走った。みんなにナデナデして欲しかったからみたいだ。 みんなと共に大洋戦隊を名乗る事が出来そうだ。 人気劇団中井大介かずんど選手はドラフトに現れた大田も気にする事無くストイックに日々の練習に取り組み、チーム内で最多の本塁打をマーク。 清原と同じく格闘家デビューすら噂される彼だが、まだまだ超一流の成績を叩き出す。巨人から移籍して来て現在一塁を守る大介選手が、リアル横浜が優勝した際一塁を守っていた駒田とかぶる。赤ちゃん問題はかぶらないで欲しい。 前回寸評で予想した通り驚異的な集中力を披露してマシンガンを形作ってくれた四方二三矢選手。やはり以前の不調は新番組が始まる時期的な問題だったのだ。3割30本100打点には打点のみ足りなかったが脅威の死球数も記録しチーム内で最高出塁率をマーク。当たる寸前までボールを見てしまう集中力が原因との噂。とにかく四方選手達が来てからマシンガンは形作られた。その事を改めて認識させる活躍だった。 6さいちゃんは近年の本塁打・打点数からすると寂しい数字となったがしっかりと貢献してくれた。これだけ強力な打者がラインナップに含まれて居なければ優勝は絶対になかった。特能の影響もあってか試合終盤に活躍してくれた事が本当に大きい。イギリスのスピード社に頼んで絶対破れない虹色パンツを贈呈したい。 ジャギ君が一踏ん張りしてくれた。送球○も手に入れ土台をしっかり支えてくれた。打率・本塁打・打点もジャギ君が頭角を現した頃に近い数字を残し、北斗神拳伝承者であるプライドを示した。やはりこの男の踏ん張りがあったから優勝出来たのだ。プライベート面での充実も彼を支えたようだ。バットオ選手に感謝せねば…。老化を防ぐ秘孔は未だ見付からずw 去年祈願した願いをたら神が叶えてくれた!肉体的にも。まだ成長途中のたら神であられるが、現在の肉体で出来る最大限の努力をしてくださった。 何より大きかったのが精神面での支えだ。新たに二つ目の神社が横浜駅構内に作られるほど神力を高められているたら神がここに来てのまさかの優勝の為に必要な最後の一押しをしてくださったのは間違いない。 ありがたや~、ありがたや~…(-人-) 衰えてなお高いチーム打率.302、チーム本塁打200本以上、どこからでも取れる得点力 ライバル球団も強かったが、勝つべくして勝てたといってよい数字だろう。チームのみんなには誇ってもらいたい。 予想してた人もいるかも知れないが、自分的にはまさかのリーグ優勝となった今期。 チームのみんなが頑張ってくれた。シーズン終わってのゲーム差からすると完勝と呼べるが、チーム打率・チーム防御率・チーム得点率は 阪神・中日・横浜と3チーム変わらなかった。その他の数字だと負けていたりする。 このゲーム差を作れたのは頑張るベテラン、成長する若手、新たに加わった仲間、これら歯車の噛み合わせが一番良かったのが横浜なのだろう。 We Are 3 Time Champion!!! ドカハマ・日本シリーズ編 7度のリーグ優勝を誇るパの強豪4TATEしそこね天との日本シリーズに。 前年の広島が1勝4敗で破れた相手なので苦戦を予想したが、我が横浜が4勝1敗で破り見事日本一ぃぃぃぃいいいいい!!!!!!! シリーズ開始前、調子マークも軒並み悪く疲れの見えた先発陣も頑張ったが、シリーズでかなり登板した中継ぎ陣が名無し以外無失点という脅威の成績。 ツインターボ選手、聖天使猫姫様とパーフェクトリリーフを披露したクルンゴ、中継ぎ陣と抑えが今回のシリーズで日本一を呼び寄せた。 打撃陣ではバルパンサー、東出君、ジャギ君と仲良く調子を落とす中(それでも東出君とジャギ君はHRを放った。バルパンwwm9(^Д^)プギャー )四方選手と6さいちゃんが爆発。四方選手は.421とハイアベレージ、6さいちゃんは5HR10打点と脅威の大活躍でシリーズ女児に。 そして、日本シリーズの最後を締め括ったのはリーグ優勝決定時と同じく守護神クルンゴだった。 終わってみて思う、やはりセの上位球団の強さの中で揉まれた事が3回目の日本シリーズで役に立ったのだろう。 とにかく誰一人欠けても(村上裕紀選手も含む)なれなかった形での日本一。 最高の形じゃないだろうか? パで大活躍している修行中のタコちゃんも加わって欲しかったが喜んでくれているだろう。 優勝した今回ベストナインは少なかったが、がんばれ中継労働課選手が見事第16回投手MVPに輝いた!!!! とにかく今は初日本一を色々と妄想交えながら楽しんで欲しいw +… 「・・・ショボイ花火gifだなぁ」 +第17回寸評 , 第17回ペナント、セ・リーグ 2位 80勝58敗2分 勝率.579 去年の優勝で満足感を得た中(仏の状態とでも言おうか)で闘った今期、 ピークを過ぎてる選手達が主な我が横浜はかなりの善戦をした。 順位の遍歴を振り返って見ると2位の数が多い事に気付く。 本当に強豪チームと言えるのだろう。 投手から。 バットオ選手の勧めで秘密裏にロッカールームへ監視カメラを設置した赤川選手。夜を徹しての番人作業から解放されたが 記録した映像をバットオ選手に提供する事には疑問を感じている様子。セ界のエースが最多勝と最高勝率を獲得。 最優秀防御率と最多奪三振も狙える位置につけていた。投球回数も200イニングオーバー。流石である。 前年度投手MVPで優勝に大貢献してくれたがんばれ中継労働課選手。今シーズンは防御率・勝ち星共に不調となったが十分に一流と言える成績を収めた。弱冠下がったとは言え158kmと剛速球は未だ健在だ。被本塁打の少なさも目立った。彼なら晩年に入っても十分速球派として通用するだろう。 肉まんマン太郎Ⅱ世選手は今期も二桁勝利。生キャラメルに刺激を受けた肉まんマン選手は新たな事業を起こし生肉マンなるものを発売。 徹底したコスト削減を目指し、原材料から食品の加工・製造まで全て中国国内で行い驚きの安さで市場を席巻しようと目論んでいる。 若さを取り戻してから肌の張りに並々ならぬ自信を窺わせるDammit選手は防御率・勝率・投球回数共に素晴らしい成績を残した。 あの肉まんマン選手から(ドーピング検査に引っ掛かる事を)心配されるほど、薬の量を増やしているようだ。だが大臀筋を上下に揺さぶる彼は気にする素振りも見せない。 冬の味覚寒ブリトレーニングも絶好調なバットオ選手。防御率を落としたものの、堂々とした投球を披露。今シーズンも大きく勝ち越し 先発ローテも定着して来た。腰周りも大きくなってきている。 最近になってはまったBFシリーズの影響で被弾すると「衛生兵!衛生兵!」と叫び出す等、成長著しい聖天使猫姫様。 今期はASにも選ばれ毎年順調に成績を上げてきている。そろそろ先発も十分行けるんじゃないだろうか。 毎週末競馬場に足を運んでは予想屋のおじさんの講釈を聞き、本も紙も買わずにパドックへ向うツインターボ号。 パドックでは若い牝馬達の肢体をジロジロと眺めては帰るを繰り返す。ダイワスカーレットとウオッカを口説き落とすのが夢らしい・・・ 今期から新しく加わった、幼いその体に犬やクマ達との古傷を持つ戦士柴犬ちゃんは他の投手達同様1シーズン目らしい成績を収めた。 だが勝利数・負け数・セーブ数と新人としては合格点以上である。他チームの選手に対してではなく何故か広島のボール犬ミッキーに対抗心を燃やしてしまう柴犬ちゃんなのだった。 最後は絶対的守護神くるーん。今期も失敗がたったの二度。防御率も全盛期を思い出させ、33のセーブ数をあげ最多救援を獲得!! 着々と歴代セーブ数を伸ばす。最多救援回数は歴代単独TOPに。この記録を安全圏まで伸ばす事が出来るか!? 野手。 実は盗塁の一試合野手記録を持っているが誰にも気付かれなかったのでその事に触れるタイミングを逃しているマスターズ大好き東出君だが リードオフマンとして誇れる数字、3割200本をクリアし盗塁も30代を記録した。年の数だけ走りたかったらしい。 横浜投手陣による相手主軸へのスナイポ作戦で圧倒的に死球の数を減らしたアルルちゃん。またも3割以上をマークし、打棒も容姿も衰えを見せない。 失策も大幅に減らし、鉄壁アルルちゃんを取り戻した。205安打とチーム最多安打だった事も驚くべき若さの証明。 近年首位打者争いをしていたざんげちゃんは今期のタイトル争いからは一歩後退。打点もやや寂しい数字となった。 だがそれもざんげちゃん基準の話で、.310、本塁打19本という数字は一流の成績。これから衰退期とどう闘って行くのか気になるところだ。 前半戦、横浜投手陣による相手主軸へのスナイポ作戦で圧倒的に死球の数を増やした四方二三矢選手。今期4番に座った。同じ髪型である鉄腕バーディー02 DECODE、ナタルの境遇に涙しつつも懸命にチームに尽くしてくれた。 打率は近年のざんげちゃんに匹敵する.351をマーク、27本・102打点、全てランキングベスト10に名を連ねた。四方選手が常に狙える3割30本100打点に本塁打だけ及ばなかったが脅威の打率はそれ以上の成績と言える。野手でのチームMVPだ! 衰えてなお本塁打の分は打率を伸ばし、100打点近い成績をあげるチーム大介選手。だが彼の目指せる位置に行く為には爆発的な数字を残す事が必須である。原監督の顔を思い出して今一度爆発するんだ大介!!! 日本一を達成してアッと言う間に成績を年齢相応に落としつつあるバルパンサー君。他の選手同様に今一度奮起してもらいたい。 このままでは横浜の地蔵と化してしまう。 今期はクリーンナップも期待された6さいちゃん。打率・打点は十二分な成績をあげたが、本塁打が6さいちゃんにとっては寂しい数字となった。 だが今一度パンツの紐を絞め直してうまく維持していけば500本塁打以上は確実に見えてくると思う。そして外野で一番難しいセンターの守備も十分合格点だ。 ASにも選ばれてウキウキ気分の高齢ジャギ君。去年に引き続き衰えた能力値でかなりの好成績を収めた。 連夜の秘孔突きが効果を出している様だ。見事7度目のベストナインを獲得、捕手としてセ界をリードする。夜も野球も老いてなお盛んなのだ。 たら神をチーム内たらればパワーの衰えが直撃。やや寂しい数字となられたが、まだ6年目の肉体。予想では来期小爆発を起こされそうな気がする。 守備も無難にこなされ衰えるチーム内で益々存在感が増してこられた。打順も変化していくだろう。来期もチームが良い位置に付けますように…優勝も含めて…(-人-) 着々とWBCの足音が大きくなっているこの頃。みなさんはどうお過ごしでしょうか? さすがに本塁打・得点率と下がってきた我があばベイ。 だがその力は依然優勝を狙える位置に横浜を導く。 定位置が懐かしく感じられる。 +第18回寸評 , 第18回ペナント、セ・リーグ3位(Aクラァス~) 69勝67敗4分 勝率.507 前半線は全体的には打線は湿り老化の影響が強く出たかと感じられたが 後半にみんな復調、脅威の打線を取り戻しチーム本塁打に関しては両リーグ合わせて横浜だけ突出した 217本塁打という結果を残した。 投手陣に関してもベテランが良く頑張ってくれた。その中には全盛期並の成績となった選手もいた。 投手から。 赤川選手は毎年狙える位置につけていた最多奪三振を獲得!!防御率も2.52という赤川選手らしい数字となった。シーズン前半で200勝達成!! ロッカールームで記録した映像を提供するという作業も板についてきて、成績も相まって横浜の番人として貫禄十分である。 横浜に来てから10年間大貢献し続けてくれた赤川選手。オフに移籍する事が決まっているが、横浜の選手全員が自信満々で送り出せる選手の一人だ。 横浜・セ界のエースがどんなPを披露するのか楽しみであり、誇らしくもある。チームメイトとして応援し続けたい。 油も乗って輝く豊満なお肉が美味しそうなバットオ選手。重い球(タマ)を手に入れポエムも絶好調状態でシーズンインしたが 成績が思ってた様に振るわず、ポエムも重い球についての嘆きが大半を占めた。そんな彼に優しく声を掛けたのはやはりジャギ君だった… 外見とスペックが依然として若いままのDammit選手。200勝達成にはあと少し足りなかったが、今期も十分な成績を残せた彼には時間の問題だろう。 業界通によると彼が執筆した大臀筋についての筋肉論文がある業界で話題になっているとのこと。薬についても熱く語っているようだ… 花畑肉まんマンよしたけ選手は全盛期の様な脅威の勝率!17勝をあげ最多勝まで勝ち星一つ分だった。イニングも200に迫るもので もしかすると彼にとっての全盛期は今なんじゃないか?と思えるほどの成績。新事業の生肉マンに関しても売り上げが好調でウハウハの彼、 まだ確かな情報ではないが噂によると何かしらの問題が起きたらしい… 今シーズンから先発ローテ入りした聖天使猫姫様はやや苦しんだものの防御率は中継ぎの頃と変わらぬ数字を出した。 先発で十分やっていける段階に入っているのだろう。城内にて姫がしっかり成長してくれたおかげで、来期以降期待出来る先発が加わった!めざせ速球派右腕!! ツインターボ号はASにも出場して中継ぎエースに相応しい成績をあげた。順調な成長で先発にもクローザーにも向かえる位置にいる。 逃げ馬的にはどっちがいいのだろうか?チームが逃げ切るという点では抑え、本人が逃げ切るという点では先発かw 柴犬ちゃんは2年目らしい成績をあげ順調な成長。負けが少ない点が先行きの明るさを示している。このまま中継ぎで順調に育てば 先発に転向した時十分通用する選手になるだろう。成犬になれば子供も沢山作ってくれるだろう。その時横浜は投手王国になる、間違いない。 河童128君はブルペンでずっと「きゅー、きゅー」言っていた。キュウリをあげると満面の笑みでマウンドへ向かってくれる。 驚く事に肩を作る時間は必要ない。ブルペンへ連絡を入れるとスタッフがキュウリを与える、すると肩を振り回しながらマウンドへ。着いた頃には肩が出来上がっている。 抑えのくるーん選手は大味な試合が多く(強豪には負け、他のチームに勝つ時は大勝)登板機会が少なかった。 成功率自体は相変わらず素晴らしい。少ない失敗も若い頃より芸術性が増している。人に感動を与える領域まで昇華しているのだ。 野手。 アルルちゃんはもう何年も連続で絶好調!.333をマークし、横浜で最も良い打率を残した。 打率は晩年の方が上昇傾向を示すというファンタジックな選手に成る事が出来たアルルちゃん。横浜をほんと支えてくれている。 ざんげちゃんは年齢を感じさせる結果になるかと思われた前半からきっちり修正を行い高い出塁率を維持してくれた。 横浜で唯一ベストナインにも選ばれ、ハマの意地を示してくれた。ざんげちゃんゴメンナサイ、18になる家雄猫がそろそろやばそうです。介護してても寿命か、と意外と平然としている私を罵って下さい。ァアッ!もっと踏ん付けて!! 四方二三矢選手はいつの間にか終わっていた魔法遣いに大切なこと・夏のソラの存在感に愕然としつつシーズンへ。 彼の全盛期からするとやはり多少は年齢を感じさせる結果となったが、他の横浜選手達より弱冠若い彼は単純に調子が絶好調ではなかったというだけだろう。他の主軸打者より数年長くやれる彼はその点でも心強い。 童夢くんを崇拝するミラクジャイアン中井大介選手は100打点も越え32本の本塁打も放ちその得点力は衰えていない。 だがまだ上を望みたい選手だ。歴代記録に横浜・中井大介として輝く数字を刻み込んで欲しい!衰退に立ち向かえ、大介!! ジャギ君は衰えを隠せないのではなく、衰えを隠さない。ヘルメットを被り顔を隠してはいるものの衰えは隠さない。 連れ立ってトイレに行く際もやたら前を隠しながら事をなすのだが、衰えは隠さない。実に漢らしい漢である。どこまで衰えるのか個人的に凄く興味が湧いているw 最近6さいちゃん山賊団を立ち上げた豪傑6さいちゃんは本塁打のペースをアップ、37本の花火を打ち上げチーム最多を記録した。横浜のチーム本塁打を引っ張ってくれた。 打点も6さいちゃん平均の100打点近くをあげ、主軸として大貢献してくれた。難しいかも知れないが打率を下げてでも本塁打のタイトルを取って欲しい選手だ。 バルパンサー君は前半老人だったが、後半おじさんになった。年俸下がらなければパワーヒッターを買えるので余力を絞りきって欲しい。 たら神は伸び悩み期間に入ってしまった。が、ここが最後の壁だ。乗り切れば神が借りるに相応しい体となられるであろう。 もはや言うまでも無いが、前半暗黒だった横浜がAクラスに入れたのは・・・これ以上は書かなくても皆解っているだろう… 来期もチームが良い位置に付けますように…日本一も含めて…(-人-) 東出君弐式は打率は新人らしい成績を残し、新人である事をアピール。一方で本塁打を二桁に乗せダイヤの原石をアピール。サードとは言え1年目から内野で堅守を示し一軍に相応しい選手である事をアピール。年齢面で若さをアピール。計算されつくした成績で見事新人王をGET!!! どんな選手になるのか予想がつき難い面白い選手になっているw 防御率に関しては若手・中堅の調子の悪さが弱冠出たが十分なチーム防御率となった。 いつもTOP争いをしていたチーム打率は阪神・中日に遅れを取ったものの、得点率・本塁打はリーグTOPとなり まだまだやれるという事を証明した。球団創設以来最下位がない横浜が後半奮起した影響もあるだろうか。 狙える時は狙ってというスタンスだが、日本一を目指した頃の様にギラギラした季節がまた来るかもしれない。 その時の為に若手は成長を、ベテランは延命を心掛けよう。 やっぱBクラスTOPの4位以外は気分悪かったね。5位6位は出来れば避けたいと改めて強く感じた。 第20回寸評会場へ ↓ ログまたログへ <連打は小さい頃に鍛えたから無問題ぃぃぃいいいい!!!!> 二大テクニシャン(高橋名人・加藤鷹) 現在、paint_bbsプラグインはご利用いただけません。 あばベイおめでとう!チアソンはソフバンで防御率2点台を出すも減俸で嘆いてるよ! -- (タコ@修行中) 2009-01-24 16 57 21 タコちゃん有難う!!昨シーズンはソフトバンクでの好調さに一安心してたが・・Mr.・・・(つД`) -- (薔薇男) 2009-01-25 11 37 11
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「とりあえずこのチーターローションは妾が貰うぞ。この速さで剣を叩きつけられれば大抵の者は沈められるじゃろ」 「まっ...いや、いい。それは君が使ってくれドロテア」 もう少し話し合ってから、と思ったディオだが、リスクを鑑みて敢えて譲った。 僅かな時間とはいえ、身体能力が上がるのは確かに魅力的だ。使うだけ損のない当たり寄りの支給品だろう。相手がメリュジーヌのような化け物でなければだが。 ハッキリ言って、チータークラスの足の速さを手に入れたところでメリュジーヌから逃げ切れるとは思えない。最初は良くても効果が切れた直後に捕まって終わりだ。ならば、相手の行動を妨害できる光の護符剣とバシルーラの杖を組み合わせた方が効果的だろう。 磁力の指輪は絶対にイヤだ。1番なハズレアイテムだ。ただの路上のケンカならいざ知らず、あの化け物どものような連中相手に使えば即座に殺されるだけだ。 「私がこっちを貰いますね」 キウルを丸め込んで磁力の指輪を渡そうと口を開く前に、彼は率先して指輪を手にする。 「キウル...」 「私だって武士の端くれです。危険を引き受けるのは当然ですよ」 「すまない...僕の無力さのせいできみにまで負担を強いてしまって...」 わざとらしく涙声になってキウルの同情を引くディオとそれを宥めるキウル。 そんな視界の片隅で行われる茶番劇を横目に、ドロテアはさっさと施設内の探索の役割分担を振り分けると、モクバを連れて首輪の解析に使えそうな道具を探しに向かう。 それが、彼ら四人が揃っていた最後の時間だった。 モクバと幾分か話し合った後、ドロテアとモクバもまた別行動に。 首輪の分析に使えそうな道具が無いことにやきもきしていたまさにその時だった。 ーーーWRYYYYYYYYYY!!!!!! 突如、響いた叫び声にドロテアは咄嗟に窓辺に身を寄せ、外を確認する。 そこには、杖の光を己に当てて叫ぶディオと光の剣の障壁に阻まれたメリュジーヌともう1人の姿があった。 ーーーもう来たのか! ドロテアの背筋からドッと冷や汗が吹き出す。危惧していたことが起きた。こちらの札が揃い切っていない時の強者による襲撃。口のまわるディオがあのザマな以上、交渉が失敗したのは目に見えてわかることだ。 ディオが光の護符剣で残した僅かな時間を、逃げ出した彼への糾弾ではなく己が生き延びる策を練るのに費やす。 チーターローションを使って1人さっさと逃げ出す。これが1番手っ取り早い。ただこの場を生き延びるだけならばだが。問題はその先だ。 マーダー側にとっても、キウルはともかくモクバは有用な人材である。彼だけは知識や技術を提供する代わりに生き残る芽は残っている。ここでモクバを切り捨てて逃亡すれば、敵の手に落ちたモクバにこちらが切り捨てられる可能性がある。そもそも、マーダー側からしても対主催側からしても速攻で使える味方を切り離す者を信頼できるはずもなく。そのまま孤立してしまえばもうどうしようもなくなる。無策の逃亡は、結局、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならないだろう。 (奴らをここで仕留められるのが1番じゃが...!) 先も懸念した通り、こちらには攻撃力があまりにも足りない。決定打が無ければ敵を殺すことなどできず、残って戦うなど論外である。 (キウルを囮に妾とモクバで逃げる!これしかあるまい!) 結局、消去法でその手段を選ぶしかなかった。それで何秒稼げるかはわからなかったが、ダメ元でやるしかなかった。 ドロテアはキウルのもとへ向かい、メリュジーヌが現れたことを告げると、キウルは汗を滲ませつつ即座に磁力の指輪を嵌めるとメリュジーヌ達のもとへと向かおうとする。 (曲がりなりにも戦場育ちなだけあって手間が省けるわ) キウルがこれまで無力感に苛まれていたのは側から見ているだけでもわかった。だから、こういう場面では積極的に前線に出ようとするのも織り込み済みだ。 ドロテアはキウルに上っ面の感謝を述べると、そのまま部屋を出てモクバのもとへーーー向かう前に、その足がピタリと止まる。 (いや、待て...この施設、支給品、条件が揃えば...) ドロテアの目に留まったソレは、キウルが集めていたこの施設ならではのモノ。 その数を、現状を顧みて、彼女の脳内でパズルのようにピースが重なっていく。光の護符剣の解除時間まで余裕はない。 その最中、ドロテアの悪魔の頭脳が新たな解を導き出す。 「キウルや」 覚悟を決め出て行こうとするキウルを呼び止め、ドロテアは己の虎の子であるチーターローションを手に笑いかける。 「どうせ死ぬつもりならーーーひとつ、賭けてみんか」 ☆ 空を翔るブルーアイズを追う者はいない。キウルがあの二人を引きつけてくれているお陰だ。 「奴ら釣れんかったか。煽りが足りなかったかの」 「...ほんとにこうするしかないのかよ」 あくまでも冷静に現状を分析するドロテアとは異なり、モクバの面持ちは暗い。これからの己の行動はキウルを見捨てるのと同義であるからだ。 モクバはキウルとここまで長く同行したわけではないが、それでもドロテアやディオのような悪人ではない優しい少年であることだけはよく理解していた。戦場経験者とはいえ、グレーテルのようなイカれてしまった子供でもなく、もう少し関わる機会があれば普通に友達になれるようなそんな少年だった。それを自分はこれから見捨てるのだ。誰のせいでもなく、自分の意思でだ。 「ブルーアイズなら勝てるなどと思い上がるなよ。奴らとまともにやりあえばこんなもの紙切れ同然じゃ。もしもあそこに向かえばそれこそ奴は無駄死に。お前も、そして妾達と同盟を組んだ者たちも皆死ぬことになる」 「わかってる...わかってるんだよ、ちくしょお...!」 モクバはドロテアのことを信頼などしていない。しかし、だからといって彼女の言葉を頭ごなしに否定するほど愚かではない。 モクバ達の現状の最大戦力はこのブルーアイズホワイトドラゴンだ。 攻撃力3000。確かに、パワーだけならデュエルモンスターズ内でも上位のカードである。しかしこの殺し合いにおいてはそうではない。 先のクロエとグレーテルとの戦いにおいて繰り出した翻弄するエルフの剣士から測った数値として、彼女達の攻撃力が、エルフの剣士の効果対象である1900だったとする。どういう基準で実在の人物の数値化をしているかはわからないが、クロエとブルーアイズの攻撃力は1100の差しかない。果たして、この数値の間にメリュジーヌは収まっているのだろうか?希望はかなり薄いと見ていいだろう。 モクバとドロテアは実際にメリュジーヌの戦いを僅かだが見ている。あれほど厄介だった悟空を軽く吹き飛ばしたメリュジーヌと少し工夫を凝らしただけでかなり追い詰めることができたクロエとグレーテル、彼女達の差が1100しかないとは到底思えなかった。 しかもこれはあくまでも最低値。クロエ達の攻撃力がそれより上だとしたら、ますますブルーアイズの攻撃力3000などたいしたアテにならない。 モクバがキウルの覚悟に報いるには、ここで加勢に向かうことは許されないのだ。 「腹を括れモクバ。これは奴も承知の上じゃ。もう二度と同じ間違いを犯してはならん」 ドロテアの言葉で脳裏をよぎるのは、カツオと永沢、二人の少年の顔。 彼らは自分の選択ミスにより命を落としたーーー少なくとも、カツオに関しては間違いなく自分の失態だ。もう間違えてはいけない。感情に流されてはいけない。 「ごめん...キウル。本当に、ごめん...!」 断腸の思いで。涙すら滲ませながら、モクバはブルーアイズに指示を出した。 ☆ 先手必勝。 屋上にまで降り立ったメリュジーヌは、言葉を交わすまでもなくキウルに突貫。そんな彼女にも、キウルは冷静に矢を射る。高速で迫る相手にも構わず、その狙いは正確無比に眉間へと向かう。メリュジーヌは減速すらせずに、剣の腹で矢を受ける。振りかぶりもせず、ただ傾けただけで矢は彼方へと飛んでいき、瞬く間にキウルへと距離を詰める。 そのまま最小限の動きで横薙ぎにスッと振る。まるでそよ風のように、しかしその殺傷力だけはそのままに。彼女が知るキウルであれば、この時点で弓を斬られ、その奥の胸板も斬られていただろう。しかし、キウルは彼女の想定よりも速かった。メリュジーヌが距離を詰め切るのとほぼ同時、彼が後方に駆け出せば詰めた距離が再び空けられる。 (いまは攻撃が出来た...やはり彼の仕業だったか) ドロテア達の時とは違い、キウルに攻撃するときはなんら違和感なく剣を触れた。このことから、メリュジーヌはキウルの使っている支給品の正体を大まかに察する。相手の攻撃を一手に引き受けるものだと。 (それに港で会った時よりも速くなっているようだけれど...問題ない) 確かにキウルの速度は想定外だったものの、手に負えない速さではない。1人で戦っても、すぐに捉えられる範疇だ。彼を始末してからモクバ達を追いかければ充分に間に合う。 その傍で、シャルティアはキウルをじっと見つめ魅了の魔眼を行使する。 別に2人がかりでなくても負けはあり得ないし、彼を殺すだけなら容易いのだが、せっかくならあの攻撃を止めさせられる不快な能力の正体を知っておきたいと思ったのだ。 (む...魅了はあいつには効かないでありんすか) しかし、キウルの動きは全く鈍らず。 シャルティアは知らないことだが、キウルの身には生まれつき「土神」の加護が宿っている。その力により、シャルティアの制限された程度の魔眼には抵抗できる耐性が備わっていた。 (まあいいでありんしょ。まずは血を吸って、眷族にして聞き出せばいい。知りたいのはメリュジーヌも一緒でしょうし) シャルティアは上位転移の魔法でキウルの背後にまわり、その首筋に噛みつこうとする。牙が触れる刹那、キウルの足が地を蹴り、シャルティアの牙が空を切る。 戦場で培ってきた直感が、シャルティアの悪意を感じ取ったのだ。 シャルティアから離れた直後、キウルは上空へ向かって何度も矢を発射。最高到達点に達した矢は軌道を変え地に向けて降り注ぐ。着地点は、メリュジーヌとシャルティア。 「器用なことをするね」 変則的にも関わらず、正確にこちらへ降り注ぐ矢を見ながらひとりごちる。 2人が上空からの矢を各々の得物で弾いていると、その隙をつきキウルは直線に矢を放つ。常人ならば逃げられない連撃だが、しかしこの二人の前では無力同然。 二人は各々の武器を手に頭上の矢に対処しつつ、迫り来る矢を軽々と弾き落とす。 無論、キウルとてその程度は予測済み。彼の狙いは二人の打倒ではなく時間稼ぎだ。二人が矢に対処している間にチーターローションの脚力を以って階段へと向かい建物内へと高速で駆け込む。 「えっちらおっちら必死になってかわいいでありんすねえ。果てさて何秒待つことやら」 シャルティアとメリュジーヌは共にキウルの後を追って階段を降りていく。 二人が階下へ降りた途端、弓矢が飛来してくる。 「えーっと、確か基本は...このヤロー☆って思って振ればいいんでありんすね」 シャルティアがステッキを軽く一振りすると、光線が発射され矢は軽々と弾き落とされる。 キウルはその結果を見ることもなく奥へと駆けて行く。 「君の狙いはわかっている。彼らが逃げる時間を少しでも稼ぎたいんだろう?悪いが付き合うつもりはない」 メリュジーヌの足が地から離れた瞬間、その身体が高速でキウルへと迫る。なんの仕掛けもない純粋な速さ。ただそれだけで射程距離にまで侵入する。 再び高速で走るキウルだが、しかし距離が開くことはない。どころか、徐々に縮まって行く始末だ。 「そおれもう一丁このヤロー☆」 接近するメリュジーヌの刺突とその背後より迫る光弾に、身を捩り紙一重で掠るだけに留める。だが、体勢が不安定になれば躱せる攻撃も躱せなくなるのは道理で。メリュジーヌの左の拳がキウルの腹を打てば、凄まじい痛みと圧迫感が襲いかかり、その勢いのまま吹き飛ばされる。 「がっ...!」 吹き飛ばされる中でもキウルは歯を食いしばり弓矢を放つ。完全に体勢が崩れた状態から正確に狙いを定められるのはさすがに長年の経験の賜物と言えよう。だが、妖精騎士はそれだけで一矢報いれるほど甘くない。 メリュジーヌは眼前にまで迫る矢を紙一重で掴み放り捨てる。 「くっ」 痛みに耐えつつも起き上がり、再び距離を取ろうとするキウル。 「ッ!」 だがその足はすぐに止まる。その視線の先にはニコリと微笑むシャルティア。彼女は既に上位転移の魔法で逃亡ルートに先回りしていたのだ。 キウルの身体が硬直したその瞬間、シャルティアの蹴りがキウルの腹部に突き刺さる。 メキメキと音を立てて骨が軋み、内臓が悲鳴をあげ、再びキウルの身体が宙を舞う。 壁に激突し、倒れるキウルの顔を踏みつけシャルティアは嗜虐的に笑う。 「ひーふーみーの...かかった時間は二十秒くらいでありんすかねえ」 ゆっくり頭から足を離したかと思えば、すぐさま手の甲を踏みつけ、わざとらしくグリグリと動かす。 「ぐあっ...!」 「ん~?もっと泣いてくれてもいいんでありんすよ?こんなふう、にっ!」 シャルティアが踵で右小指を強く踏みつけると、ベキリという音と共に小枝のように折れる。 「ッーーーー!!」 声にならない悲鳴がキウルの口から漏れる。 更に加えて、ステッキからの光弾で両脚の腱を焼き切り、身動きすら取れなくする。 「ぐっ、あああああぁぁぁぁぁ!!」 堪らず涙目になり悲鳴を上げるキウル。 そんな彼を、シャルティアは嗤いながら見下ろす。 「あっはぁ!脆い脆い!獣耳が生えてようが所詮は下等種族でありんすねえ」 「...やりすぎだよシャルティア」 あまりにも凄惨な光景にさしものメリュジーヌも苦言を呈さずにはいられない。メリュジーヌは殺し合いに乗っているとはいえ、決して敵を苦しませたい訳ではない。このような拷問に時間を割く趣味はないのだ。 「お~怖い怖い。よかったでありんすねえ、坊や。あの子のおかげで苦しまなくてすみそうで」 シャルティアとしてもこんなことでメリュジーヌから不況を買いやり合うような真似はしたくない。ドロテア達から受けた屈辱も多少は晴れたのだ。ここはさっさと目的の血を摂取するべきだ。 消沈するキウルの上体を起こし、シャルティアの牙がその首筋へと近づいていく。 ーーーこの瞬間、冷静に場を見ていたメリュジーヌだけが気づいていた。指を折られ、足を動けなくされ、激痛に苛まれいままさに死が迫ろうとしている最中。彼の目には未だに光が宿っていたことに。 (なんだ...何を見ている...?) メリュジーヌはそんなキウルに違和感を抱く。いま、この状況において彼は自分たちを見ていない。見ているのは、そのもっと奥。 ☆ 中央司令部から遠く離れた上空で。 モクバが涙と共に叫ぶ。ドロテアが邪悪に口角を釣り上げる。 「やれブルーアイズ!滅びのバーストストリーム!!!」 モクバの号令と共に、青眼の白竜はその口から超高密度の熱線、滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)を中央司令部目掛けて吐き出した。 ☆ メリュジーヌが気づいた時には既に遅かった。 光と共に中央司令部に巨大な熱線が着弾し、爆発。 壁が破壊され、全体が揺らぎ、熱風が遅い来る。 直撃を外したか、千載一遇のチャンスを逃す間抜けどもが。そうシャルティアが思った瞬間だった。 キウルは全てを受け入れたかのように穏やかに笑みを浮かべ。 更なる爆発が、司令部全体に襲いかかった。 ☆ 土壇場で思いついたドロテアの策はこうだ。まずはキウルの磁力の指輪で敵の注目を集める。二人を引きつけられた段階で指輪を外させ、チーターローションで逃げに徹して時間を稼ぐ。 そして三人の視界外からブルーアイズの滅びのバーストストリームで中央司令部を狙い撃つ。無論、それで倒せるとは思っていない。所詮は攻撃力3000のモンスターの技だ。大した戦果は望めないだろう。だからここで第二の矢を使う。 中央司令部に備え付けられていた大量の爆弾や火薬を。 そう、ドロテアは滅びのバーストストリームを着火剤として、爆弾を起爆させたのだ。 爆弾を集めていたのは一階の出口付近。モクバが撃ち込んだのはその位置だ。 施設内を探索されればその不自然さはすぐに割れたはずだ。だからこそ、二人は最初、敢えて姿を晒し自分たちに注目を集めていたのだ。 ちなみに、キウルに指輪を外させたのは、着けたままではドロテア達の攻撃もキウルに集約されてしまうからだ。メリュジーヌ達に攻撃を当てた時は『キウルに攻撃をしている』という程で剣や尻尾を振りまわし当てていたが、今回は正確に当てるために磁力の指輪は邪魔だったのだ。 この作戦の最大の難関は爆発の威力だ。いくら爆薬が纏められているとはいえ、どの程度の爆発が起きるかは実際に試してみないとわからない。そもそも、乃亜が爆薬を武器ではなくただのインテリアとして設置していれば爆発すら起きなくてもおかしくはなかった。 本来なら試す必要があったのだが、生憎とそこまでの時間は到底なく。 なにもかもがぶっつけ本番の賭けだった。 結果、無事に爆発を起こせた彼らはいま。 「あああああ!!あああああああ!!!」 爆風に巻かれて空を横断していた。 爆発は想定外の強さだった。 ブルーアイズが咄嗟に爆風の直撃から庇ったものの、その威力までは殺しきれず。結果、ブルーアイズに包まれる形でモクバとドロテアは彼方へと吹き飛ばされていた。 (こっ、これだからやりたくなかったんじゃあ!!) もともと、メインプランとしてはキウルに1人、こちらで東側に向かいつつ一人を引き付ける予定だった。そして時間と距離を稼いだ上での爆撃をかますつもりだった。 ところが、敵は最初からキウルを集中的に狙ったため、予定を前倒しせざるを得なかった。結果、自分たちも爆風の煽りを喰らうハメになったのだ。 「ブルーアイズ、体勢を立て直せ!」 モクバの指示に従い必死にバサバサと翼をはためかせ、体勢を立て直そうとするブルーアイズ。しかし、吹き飛ばされた勢いは完全には止まらず。 そして遂に地上への墜落のカウントダウンが始まる。 「ええい、一か八か、錬金術師の力見せてくれるわ!」 ドロテアは己の指を噛み、微かに流れた血でブルーアイズの身体に簡易的な陣を描く。本来の世界線ならば、レオーネ相手に使用した陣だ。 「ブルーアイズの一部と引き換えに、来い!」 ドロテアの錬金術は特定の物質を媒介に異界より異形を召喚できる。本来の世界線では、危険種の一部を媒介に闇の中から怪物を引き出していたが、当然、強大すぎるものを出すのは乃亜による制限を受けているため、この土壇場においても出せるものはたかが知れている。 ブルーアイズホワイトドラゴン。光属性の攻撃力3000のモンスターの一部を媒介に産み出されるものは、ドロテア自身にもわからない光のガチャ。 陣から生み出されたのは、怪物ではなく一枚のカード。それを認めた瞬間、モクバの目が見張られ、咄嗟に手を伸ばし叫ぶ。 「来い!ホーリー・エルフ!!」 召喚されたのは、誰かに祈りを捧げる青色のエルフ。彼女はモクバ達が地面に激突する瞬間、モクバとドロテアの間に挟まり僅かながらのクッションとなる。 ドン、と地響きのような衝撃がモクバとドロテアに走る。全身に広がる激痛。揺れまわる視界と脳髄。 ただの肉一枚ならばそのまま押し潰されて終わりだったろう。だが、ホーリー・エルフの守備力は2000とブルーアイズに次げるほどに高い。 彼女とブルーアイズの守備力も合わさって、即死は免れた。 「う……」 ドロテアは薄れそうになる意識を振り絞り、もぞもぞとブルーアイズとホーリー・エルフの中から這い出る。 左腕が酷く痛むだけでなく動かない。どうやら打ちどころが悪く、いまの衝撃で折れたようだ。 「つぅ...連中に絡まれて生きておるだけ儲けものかの...生きとるか、モクバ」 ドロテアの呼びかけに、モクバもまたモゾモゾと倒れ伏すホーリー・エルフとブルーアイズの中から這い出てくる。 「な、なんとかな...助けてくれてありがとう、ホーリー・エルフ、ブルーアイズ」 流血しながらも、ホーリー・エルフは慈愛の微笑みを浮かべており、程なくしてブルーアイズと共にその姿を消した。 「死んだのか?」 「いや、エルフの剣士みたいに破壊される前にカードに戻した。しばらく使えなくなるけど破壊されるよりは...あっ」 ブルーアイズとホーリーエルフのカードを手に取ったモクバは気がつく。 ブルーアイズホワイトドラゴンの攻撃力3000守備力2500の表記が、攻撃力2200守備力500に変わっていたのが。 (なるほど、錬金術と組み合わせればモンスターカードの攻撃力と守備力と引き換えに新たなカードを生み出せるのか。これならブルーアイズを切り崩していけばどんどん新しいカードが...ッ!) その考えに至った途端、己の背筋に怖気が走る。いま、自分は平然とブルーアイズを贄とすることを考えつつあった。 カツオ。永沢。そしてキウル。次々と仲間を喪っていくことで、勝つために手段を選ばないのに慣れつつあるのを実感する。 (兄サマ...俺...おれ...) 完璧超人と思える海馬瀬人も、一時期はそう言う時もあったし、今でもその片鱗は残しているように思える。けれど、いまの自分は、兄とも、遊戯達とも違い、保身のために他者の犠牲を良しとするドロテアとさしたる違いはないのではないかと思えて仕方ない。 「...生き残らなくちゃ」 己に言い聞かせるように呟く。 例え、他のみんなならもっと上手くやれたと己の選択肢を嫌悪しようとも。それでもモクバは生きることを選んでしまった。仲間を切り捨て先に進む選択肢を選んでしまった。 傷だらけの心を引きずりながら、ドロテアに連れられるまま、モクバはその足を進める他なかった。 ☆ 「ぅ...」 瓦礫に囲まれ、炎が揺らめき、むせかえるような灼熱の中、キウルは目を覚ました。 作戦は成功した。キウルの生死に関わらず、三十秒後に滅びのバーストストリームで爆弾を誘爆させ、施設ごと爆発させる。 当然、その爆撃に巻き込まれていれば無事でいられるはずもない。 ならばなぜ、自分はさしたる怪我もなくこうして生きている? ーーーその答えを示すように、眼前から一陣の風が吹く。 「ぁ...」 突風と共に砂塵と焔を吹き飛ばし、姿を現したのは、穢れ一つなき鎧騎士の背中。 威風堂々としたその背中は、本来の背丈よりもただ大きく見えた。 そんな背中を見て、キウルは敗北の悲観よりも、ただただ『美しい』と思わずにはいられなかった。 「きみはこうなることを知っていたんだね」 振り返り、問いかけられる。 そんな彼女にキウルは嘘偽りなく答えることにした。武士としてその強さに敬意を払いたくなったのだ。 「...ええ。私では貴女たちに敵わないのはわかりきっていました。だから、こんな小賢しい手を使うしかありませんでした」 「小賢しい、か。自らの命を賭けて立ち回った者を指す言葉じゃないね」 「...でも、貴女には何一つ敵わなかった。ここまでくると清々しいくらいですよ」 キウルは瓦礫に背を投げると、そのまま脱力しもたれかかる。もう何の抵抗をする気力もなかった。これほどの戦士と戦えたのだから、悔いは無いと。 「どうして、そんな晴れた顔ができるんだい?」 そんなキウルを見て、メリュジーヌは疑問が口をついた。 「君たちの前にも参加者を殺した。彼らもずっと真っ直ぐだった。理由はわからないけど、彼らからは短い時間ながらも深い信頼が見て取れた。...失礼かもしれないが、君たちはどうにもそう見えなかった」 もしもサトシと梨花がこの状況に陥っていたら、囮に使った者ごと爆殺を狙うような真似はしないだろう。 生き残るためなら相手を切り捨てられる程度の関係だ。 「なのに、どうしてきみは彼女たちの為に命を捨てた?なぜ、僕たちに殺されると判っていても穏やかでいられる?」 だからこそメリュジーヌに取ってキウルの行動には疑問しかない。 彼とて、会ったばかりの人間に死ねと言われて死ぬほど愚かではないはずだ。 それに、サトシも真っ直ぐではあったけれど、自分を救えなかったことに対しては悔いているように見えた。 キウルは違う。 信頼を置けない者の為に命を賭け、これから先も殺戮を繰り返すであろう自分を止めようと訴えかけもしない。 それがメリュジーヌには不思議でならなかった。 「...そうですね。確かに私たちの間に信頼とかは無かったかもしれません。ディオさんは先に離脱してしまいましたし、ドロテアさんとモクバさんとは関わった時間も少ないですから。でも、三人で死ぬよりは一人が犠牲になって済むならそれでいいでしょう?」 「遺した後に不安はないのかい」 「ありますよ。けど、『やるだけやってダメだったら笑って誤魔化せばいい』...私の尊敬する人ならそうすると思ったので」 キウルとでなんでもかんでと信じるほど純粋なだけではない。綺麗なだけの人間なんていないのは、多くのヒトを見てきて学んでいる。 しかし、曲がりなりにも一国を背負う者ならば、それを見捨てて終わらせる訳にはいかない。遺した結果、どうなるかを頭ごなしに決めつけてはいけない。故に、彼は犠牲を最小限に済ませる方法を取っただけだ。 そして、メリュジーヌを言葉で止めようとはそもそも考えつかなかった。 既に一度説得しようとしてダメだったのだ。ならば、今さら心変わりができる類のものではないのだろう。 國への忠義と未来を重んじた結果、生き残る道も汚名を被らずに済んだ道もありながらも、最後まで自分たちと対立し続けたライコウのように。 ただ自分と彼女の道は交わることは無いのだと、キウルは骨の髄まで理解していた。 「...僕はこれから君を殺す」 メリュジーヌは剣の鋒をキウルに向け、ひとりごちる。 「紙一重だった。もしも爆発が時間差の無差別ではなく、一点集中型であれば。魔力で身体を防御するのが遅れていたら、無事では済まなかっただろう」 先の展開の確認をただ口に出しているだけだ。 「この会場でここまで肝を冷やしたのはこれが初めてだ」 だから、これはひとりごと。 サトシ達のように救おうと手を伸ばしてくるのではなく。例え守るモノを間違えていた道化だったとしても、ただ純粋に自分の強さと向き合ってくれた戦士へ。そして、たった一人しか愛せなかった自分とは違い、会って間もない人間にまで命を賭けられた幼き武士への敬意を言葉にしているだけだ。 「強かったよ、きみ」 その言葉に、キウルの頬から温かいものが零れ落ちる。 死への恐怖ではない。 誉高かった。これほどまでの戦士に認められたことが。これほどまでの強者に、対等な戦士として扱ってもらえたことが。 自分は間も無くこの剣に斬られて死ぬ。 「...ありがとうございます」 なのに、その心境はこれ以上なく穏やかなものだった。 「なに勝手に爽やかに終わらせようとしてんだクソ共」 メリュジーヌの剣に割って入るように、槍が投擲されキウルの胸を貫く。 「がっ...!」 苦悶の表情を浮かべるキウルのもとに、これみよがしにカツカツと地を鳴らす靴の音が近づく。 「...生きてたんだ」 「ええまあ。ご覧の有様でありんすがねえ」 シャルティア・ブラッドフォールン。その半身は焼けつき、魔法少女としての衣装もボロボロとなった彼女もまた、健在だった。 大爆発が起きる寸前、彼女は上位転移の魔法で建物の外へと退避。しかし、直撃こそはかわしたものの、その爆風まではかわしきれず。結果、その美しい顔の半分は火傷で爛れ、見る影もないほど醜く焼けていた。 「あぁお許しくださいペペロンチーノ様...あなた様から賜ったこの身体をこのような目に...それもこれもテメェがなぁ!!」 ただでさえ虫の息だったキウルの首元にシャルティアはその鋭利な牙を突き立て凄まじい勢いで吸血する。すると、苦悶に表情を歪めるキウルとは対照的に、シャルティアに刻まれた火傷がみるみるうちに治っていく。 「っ、ああああぁぁぁっ!!」 「...ふん、まあ、怪我もMPも回復したし、血の美味さに免じて、死体を魚の餌にするのだけは勘弁してやらぁ」 「ぁ...ぅ...」 ガクリと首を垂れ、力尽きるキウル。武士として満たされた最期になるはずだった少年の顔は、苦悶の形に歪められたまま、あえなくその生を終えた。 「さて、ついでにこいつも試させてもらいましょう」 シャルティアはランドセルから取り出した数珠をキウルの死体に向ける。すると、その珠の一つがぱかりと開き、キウルの死体を収納した。 「おー、ちゃんと入った」 「なんだい、それは」 「古代遺物、死亡遊戯。所有者が殺した者を珠に封じ込め、キョンシーとして使役することができる...らしいでありんすよ。こんなふうに」 シャルティアが数珠を振ると、再びキウルの身体が現れる。ただし、頭には『死壱』と札の貼られた中華帽が被せられ、その肌は死人同然に青色に変色していたが。 「なるほどこんな感じかーーーうん、悪くないでありんす」 動く屍と化したキウルに対してもシャルティアは物怖じしない。もとより彼女は死体愛好癖(ネクロフィリア)かつ、両刀(バイセクシャル)。メリュジーヌほどではないにせよ、キウルもまた美少年であった為、シャルティアのお眼鏡に叶ったのだった。 (これでゆくゆくはメリュジーヌを殺せば...ふふっ) MPも必要とせず死体を保管できるこれは自分にとってかなりの優良品だ。乃亜もたまにはいいことをする、とほくそ笑む。 「さてと。とにもかくにも、これでお互いのテストは合格ってこといいでありんすか?」 「...そうだね」 本当のことを言うと、お互いにまだ実力は見せきっていない。しかし、あのテストにおいて重要なのは組むに値する実力を有しているかどうかだ。あの爆発を互いにフォロー無しに乗り切ったーーーそれがお互いに落とし所としてちょうどよかった。 「これからどうするでありんすか?さっきの金髪を追うか、それともガキ二人を追うか」 シャルティアはキウルの死体を再び珠に収納しながら問いかける。 「いつまでも二人で行動する必要もないだろう。好きな方に行くといい」 「そっ。なら私は先に飛んでった金髪の方へ向かわせてもらうでありんす」 「わかった」 背を向け去っていくシャルティアを見つめながら、メリュジーヌが思うは、キウルのこと。 彼は自身の選択を小賢しい真似と忌避していた。 しかし、手段を選ばなかったことで本来は成し得ないはずの成果を残してみせた。 それは沙都子と同じことで。本来ならば開始数分で命を散らしていた彼女は、今もこうして暗躍し続けている。 手段を選ばなければ。非情になってしまえば。力のある者ならば尚更成せることは増えるだろう。 殺し合いに乗ったのだ。既に外道の道に進んでいる身だ。 ーーー本当は、分かってるんじゃないのか?こんな事をしても…誰も救われないって 君の大切な人も、メリュジーヌ、君自身も ーーー希望や……奇跡って言うのは、意外としぶといものなのですよ。 ーーー『やるだけやってダメだったら笑って誤魔化せばいい』...私の尊敬する人ならそうすると思ったので なのに、サトシ達やキウル達の言葉がこびりついて離れない。まるで自分にはない輝きに縋るように。彼らのような、後に遺せる者達を羨むように。 「...お笑い種だな。これじゃあどっちが強いかわかったものじゃない」 キウルは自分を強い人だと敬意を評してくれたが、他者に、一つの愛に依存することしかできない自分のどこが強いというのか。 「さて...」 気を取り直し、これからの方針を考える。もしも、ドロテア達が向かった先に本当に孫悟飯がいれば、もはや彼との激突は避けられないだろう。それでも構わないが、口も頭もまわる沙都子も一緒ならうまく対処できるだろうか。 (このまま彼らを追うか、それとも一度沙都子と合流するか...さて、どうしようかな) 【キウル@うたわれるもの 二人の白皇 死亡・キョンシー化】 【F-6/1日目/午前/中央司令部跡】 ※中央司令部は爆発で瓦礫の山になりました ※磁力の指輪@遊戯王デュエルモンスターズ、チーターローション@ドラえもんは燃え尽きました 【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】 [状態]:ダメージ(小)、自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪 [装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order [道具]:基本支給品×3、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、 デザートイーグル@Dies irae、『治療の神ディアン・ケト』@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ) [思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。 0:沙都子と合流するか、このまま追いかけるか 1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね 2:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。 3:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。 4:ルサルカは生きていれば殺す。 5:カオス…すまない。 6:絶望王に対して……。 [備考] ※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。 ※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。 ※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。 【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】 [状態]:怒り(中、いくらか収まった)、MP消費(吸血によりほぼ回復)、 スキル使用不能、プリズマシャルティアに変身中。 [装備]:スポイトランス@オーバーロード、カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 、古代遺物『死亡遊戯』。 [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1 [思考・状況]基本方針:優勝する 0: 先に飛んで行った金髪(ディオ)を追いかける。 1:真紅の全身鎧を見つけ出し奪還する。 2:黒髪のガキ(悟飯)はブチ殺したい、が…自滅してくれるならそれはそれで愉快。 3:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する。 4:武装を取り戻し次第、エルフ、イリヤ、悟飯に借りを返す。 5:メリュジーヌの容姿はかなりタイプ。 6:可能であれば眷属を作りたい。 [備考] ※アインズ戦直後からの参戦です。 ※魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。 ※その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。 ※スキルの使用可能回数の上限に達しました、通常時に戻るまで12時間程時間が必要です。 ※日番谷と情報交換しましたが、聞かされたのは交戦したシュライバーと美遊のことのみです。 ※マジカルルビーと(強制的)に契約を交わしました。 ※死亡遊戯には現在キウルのキョンシーが入っています。 【古代遺物『死亡遊戯』@アンデッドアンラック】 シャルティアの支給品。 所有者が殺した者を珠に封じ込めキョンシーとして使役できる。キョンシーと化した者は ①所有者を守る ②所有者の命令は絶対に従う の2つのルールを課せられる。 所有者が死亡または変更された場合、封じられていたキョンシーは消滅し、空の状態に戻る 【チーターローション@ドラえもん】 ドロテアの最後の支給品。 ローション型の道具で、これを足に塗ると、第三者からは姿を確認出来ないほど素早く走れるようになる。 持久力は使用者本人に依存する。 【磁力の指輪@遊戯王デュエルモンスターズ】 闇の支給品。 装備者の攻撃力と守備力を500ポイントずつ下げる。相手は装備者以外に攻撃できなくなる。このロワにおいては装備者の存在や場所を大まかにでも意識した瞬間に発動していた。 【H-7/1日目/午前】 【ドロテア@アカメが斬る!】 [状態]左腕骨折、全身にダメージ(大)、疲労(中) [装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説 [道具]基本支給品 セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪、永沢君男の首輪 「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る! グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、チョッパーの医療セット@ONE PIECE [思考・状況] 基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。 0:孫悟飯を探し出してメリュジーヌとぶつける 1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。 2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ 3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。 4:海馬コーポレーションへと向かう。 5:キウルの血ウマっ! [備考] ※参戦時期は11巻。 ※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。 ※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。 ※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。 【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】 [状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、自分の所為でカツオと永沢が死んだという自責の念(大)、キウルを囮に使った罪悪感(絶大) [装備]:青眼の白龍(午前より24時間使用不可)&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 、ホーリー・エルフ(午後まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ 雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る! [道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10 [思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。 0 キウル...ごめん... 1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。 2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする 3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。 4:海馬コーポレーションへ向かう。 5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。 6:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。 7:グレーテルを説得したいが...ドロテアの言う通り、諦めるべきだろうか? [備考] ※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。 ※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。 ※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。 ※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。 その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。 ※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。 無惨もそれを知っています。 【ホーリー・エルフ@遊戯王デュエルモンスターズ】 ドロテアがブルーアイズの一部を使い、錬金術で生み出した。 かよわいエルフだが、聖なる力で身を守りとても守備が高い。 【ドロテアの錬金術について】 どうやら、デュエルモンスターズのカードに使用すると、その攻撃力や守備力相応のモンスターカードを錬金できるようだ。 101 神を継ぐ男 投下順に読む 103 割り切れないのなら、括弧で括って俺を足せ 時系列順に読む 094 A ridiculous farce-お行儀の悪い面も見せてよ- ドロテア 116 セイラム魔女裁判 海馬モクバ 099 DRAGON FLY メリュジーヌ 112 狂気と惨劇の舞台へ シャルティア・ブラッドフォールン 111 竜虎相討つ! 094 A ridiculous farce-お行儀の悪い面も見せてよ- キウル GAME OVER
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『予定されていたすべての準決勝が終了いたしました!見事決勝進出を果たした新人アイドルは以下の六名となっております! 優勝の発表予定は〇月△日を予定しております!新たな新人アイドルの頂点の栄光は誰に輝くのか、乞うご期待! ── ── ── ── ── 七草にちか』 W.I.N.G.公式アカウント、と銘打たれたアイコンの下に並ぶ名前の、その一番下に書かれた自分の名前を、どこか他人ごとのように見つめる。 ぼうっと眺めていたその文字列は、最新の投稿を知らせる通知によって押し流されて。 『七草にちかのW.I.N.G.決勝進出が決定しました!ここまで来れたのは偏に皆様の応援のお陰です。精一杯頑張りますので、最後まで応援よろしくお願いします!(スタッフ)』 その文字列を数秒見つめた後で、目を逸らすように画面をスワイプする。 流れてくるのは、雑多な文字列。アイドルをはじめとした様々なアカウントから毎日のように流れ出る、他愛もない情報の奔流。 『@WING_official 〇〇ちゃん残った!楽しみ!』『【新譜発売のお知らせ】今月の注目はストレイライトのサードシングル──』『明日は課題やらなきゃ!それと──』『@nichica_SHHis 頑張れー!』『警視庁の公式発表によれば、最近の東京都内における治安悪化の対策に向けた新たな警察部隊の編成を──』『@WING_official 八雲なみの子?』『【プロダクト】斑鳩ルカが出演するトーク番組のオリジナル商品が──』『@Sonoda_chocolate チョコちゃんかわいい!』『高校だるい』『今日のしあわせ~は──』『アンティーカLP現地二日目きた!!!!!!!』『動画上げました!【2X・夏】プチプラのススメ【これからのトレンド】』『今日も一日──』『渋谷区の建設中のビルにおいて事故が発生し一名が亡くなる事件が──』『SNSサービス・ツイスタでも注目を浴びる──』『八雲なみ歌詞bot』『@nichica_SHHis 283はやっぱり凄いけど、まだ研究生扱いなのはなんでなんだろ』『割引クーポン配布中!今なら新商品が──』『@WING_official 283の子残ったのか』『【定期ツイート】イルミネちゃん一生推す』『皆で喫茶店。季節限定うま。』『ever cheeryのポーチゲット! #まな #神まな』 好きなもの。同業者の情報。いつも使っているクーポン。お洒落。 年頃の少女にほんの少し偶像の世界が織り混ざった羅列を見るのは、嫌いではない。元から──ここに来る前からの、変わらない日常のルーチン。 ──ただ。 『やば……生で見ちゃったかもしれん』 ──ならばこそ、そこに混じる不純物は、この日常が非日常であると認識させる。 「──うわ」 つらつらと眺めていたタイムラインに、辛うじて輪郭が分かる程度のぶれた写真と共に「彼」の名前が現れたのを見て、七草にちかは思わず声を挙げた。 下手をしたら自分どころか、同じ事務所に所属する人気アイドルすらも余裕で抜き去りそうなインプレッションの数に、流石に辟易とする。 『すっごい人気者じゃないですか。凄いですね、英雄って』 『それはあえて姿を表したものですので。ですが、この地でも不肖の私をこうして皆様に愛していただけるのは有難い限りです』 そう虚空に問いかけてみれば、律儀にも返事が帰ってきた。 まさかこんな急に話しかけても分からないだろう、と高を括っていた分、その几帳面さがにちかの癇に障った。 ──彼を召喚してから、こうした念話での会話は幾らかしているものの、彼と対面して直に話したことは召喚した瞬間を含めても片手で足りるほどしかない。 それは彼自身が非常に特異なサーヴァントであり、召喚された時点でその真名が会場内のほぼ全域に知れ渡るからこその措置である、と説明はされたものの、自分のようなものはともかく事務所の他アイドルなどすらも超える程の扱いをされているのを見ると まして、彼が本来戦争など起こらない筈の現代日本において『英雄』として扱われ、あまつさえ各種行政機関やメディアにすら取り扱われるスター的存在。 事務所の仲間──社長やプロデューサー、美琴さんなども当然に知っていて、その影響は芸能界にすら届いているというのだから凄まじいものだ。 『サーヴァントって、目立っちゃダメなんじゃないんですか?』 『他のサーヴァントであれば、ですが。私は些か特異な身でして』 嫌味のようなニュアンスを込めても、凛々しい声はひらりとその癇癪をかわして耳障りのいい言葉を返してくる。 念話ですら涼やかで凛として通る声だ。アイドルの囁きと言われても反論が出ないであろうその声で呼ばれれば、さぞかし振り向く人も多いだろう。 『それにしても、このご時世に英雄って……お姉ちゃんまで、信じてるなんて』 『少なくとも、この東京においても秩序を守る英雄として任せられていることは、ひとかどの英雄として光栄なことではありますね。この身には過ぎた栄光とも思えますが』 それが当たり障りのない謙遜である、ということに、理由もわからぬ苛立ちが募る。 英雄。輝かしい──否、この会場の誰よりも輝かしい存在である彼が、丁寧に過ぎるというのも一つではある。 そして、それを、よりによって自分のような人間に召喚させた運命が──聖杯とやらの采配が、とにかく腹立たしかった。 『──さぞかし、立派な英雄だったんですね、ロスクレイさんって!』 困っているか。それとも呆れているか。あるいは侮蔑されているだろうか。 こうして叫ぶしかできない愚かな少女を、絶対なる英雄は、どのように見ているのだろうか。 『──私なんて、どうやって立てばいいかすら──』 言おうとして、続かなくなる。 分からない。怖い。 処理できていない感情が、形を成すことすらできず滓となって積もる。 『……マスター。マスターの仕事について、門外漢の私から伝えられることはないでしょう』 ──聞きたくなんてない。 英雄としての言葉。我が儘な少女をあやすような美辞麗句と、どこまでも輝かしい栄光に彩られた言葉。 そんな言葉は惨めになるだけで、そしてそんなこと──自分が惨めなことなど、とうに知っているのだから。 『その上で、私が敢えて言うのであれば』 けれど、そんな思いとは裏腹に。 絶対なる英雄は、その、どこまでも涼やかで凛とした声で。 『マスター、あなたは、そのアイドルという仕事を──どのように思っていますか?』 ──七草にちかにとっての、核心を突いた。 『──それは──』 迷いなく、答えられた筈の問い。 七草にちかにとってのアイドル。その顔貌。 それは間違いなく、たった一つしかない。 だから、それを答えればいい。 その筈だった。 ──そうなの? 白盤と手書きの文字。 12インチのいつかの叫び。 何に問いかけるでもない問いかけ。 いつも聞いているあの曲の、哀しそうな── 『──ッ』 『……マスター』 答えられない。 存在した筈の答えの場所に、今は空虚が収まっている。 その欠落を、伽藍の洞への恐怖を誤魔化すように、耳を塞ぐ。 『……もう、いいです。私、寝ますから』 『……それが良いでしょう。貴方も大事な出番が控えているのですから、貴方はそちらで貴方のするべきことを。 此方は、私が為すべき事を為します。お任せくだ──』 最後まで聞かないまま、念話を打ち切る。 どこまでも、丁寧にこちらの身を案じてくる彼の言葉は、なるほど正しく英雄のそれだ。 英雄として完成されているように聞こえる彼の言葉を、聞いていたくはなかった。 「……」 もう一度、SNSに目を通す。 タイムラインを遡れば、先程見たW.I.N.Gの告知ツイートが目に入る。 聖杯戦争という会場で、本来の世界からは歪んでいて──しかし、自分が立ち向かわなければならない舞台だけは、律義にもこの世界でも行われようとしている。 それを目にする度に、自分は思う。 ──どうして、私はステージに立っている? 笑う為の戦いだと、彼は言った。 これで終わらない為に──終わったとしても悔いのないように、笑えるようにする為のものなのだと。 ──なのに。 私はもう、どうやって笑えばいいのか分からない。 私の笑顔が模倣していた彼女の笑顔が、紛い物だったのかもしれないと、疑念を抱いてから。 私が履こうとしていた靴そのものが歪んでいた可能性など、考えたことすらなかったから。 「──なみちゃんが」 もし、このSNS全盛期の今、生きていたら。 あるいは彼女も、こんな風に一挙一動に反応が飛び交っていたのだろうか。 その光景を夢想して──八雲なみの情報が、音楽が、唄声が流れ出るインターネットの海を夢に見て。 ──そうなの? それを見て、私も無邪気に喜んでいたのだろう。 けれどそこに、私は何を見出していたのだろうか。 彼女がもしその光景を見たら、彼女は、笑えていたのだろうか。 ──なみちゃんは、幸せだったのか。 答えは出ない。 二十年も前に、その問いは放たれて。 私にとっても、もしかしたら彼女にとっても、答えが返ってくることはなくて。 ──あるいは。 「……あなたは、どうなんですか。ロスクレイさん」 彼に聞けば、分かるのだろうか。 彼を模倣すれば、あるいは、誰かに希望を持たせる偶像の在り方を知れるのだろうか。 ──あるいは。 ──彼すらも、そうなのだろうか。 ──その英雄の仮面の裏に、もしかしたら──ただの、人間としての素顔が── 「……ばかみたい」 ──時は、僅かに遡る。 SNSに彼の姿が投稿されてから、僅かにもしない頃──絶対なるロスクレイは、その撮影地点に程近い工事現場に佇んでいた。 周囲に人影は見当たらない。人を見たのは、数本前の通りで路駐して眠っているタクシーの運転手が最後だ。 およそ彼の華々しい容貌とは似合わぬ暗闇の中で、彼は一人棒立ちになる。 「──さて」 同時に、これまで着ていたスーツが一瞬のうちに鎧甲冑へと変わる。 世間に見せている「英雄」としての姿を、誰もいない場所で表す。それは紛れもなく──彼が、「本来東京都に存在するはずのない英雄」であることを知っている存在と相対する為。 「誘い込んだ、か──だがまあ、英雄として賞賛に値するぞ。絶対なるロスクレイ」 ──果たして。ロスクレイの前で、それは現れる。 霊体化を解いたサーヴァント──真名も知らぬセイバーが、獰猛な笑みを浮かべてロスクレイを見据えていた。 セイバーの主従は、元よりロスクレイを──目立つ位置にいる英雄を、仕留める為に行動を起こしていた。 彼が今この近辺にいることを、マスターの持つ端末からSNSを通して認識できたことは、彼等にとっては僥倖といえただろう。 「本戦が始まればいざ知らず、予選ともなれば必要以上に騒ぎを大きくする必要もない。ご理解戴けていたなら──」 「今更、御託はいい。これ以上の言葉は不要だ」 ロスクレイの言葉を切って捨て、セイバーは無造作に剣を抜く。 同時にロスクレイも、鞘から剣を抜き放ち、正眼に構えてセイバーを見据えた。 数秒、空間に静寂が下り──瞬間、裂帛の闘気が空気を割いたかと思えば──次の瞬間には、セイバーはロスクレイへと深く踏み込んでいた。 「──貴様の剣を見せろ、ロスクレイ!」 一合。互いの剣と剣が衝突し、一瞬の火花が暗い闇の中の工事現場を照らす。 セイバーの質量と膂力を乗せた一撃が、一瞬のうちにロスクレイへと迫っていた。 辛うじて踏みとどまるも、徐々に押されつつあるロスクレイは、鍔迫り合いから脱却する為に姿勢を下げる。 「【──からトウキョウの土へ】──」 瞬時に、相対するセイバーの足元の地面が胎動する。 距離を取ったのはこの為か、と理解すると同時に、今度はロスクレイが吶喊する。 一歩引きながら剣の腹で受け、次いでセイバーが繰り出したのは小ぶりな突き。点の攻撃でこそあれど、その一閃は確かにロスクレイの致命を見据えている。 辛うじて間に合ったロスクレイの防御が、その道を阻み──しかし、その剣には不可逆の罅がひた走る。 「この程度か──!」 剣が無ければ、ロスクレイも只の木偶と同じ。精々が先の魔術程度であれば、殺すのは容易い。 しかし、その想像を裏切るようにして、セイバーの剣を剣閃が遮る。 見れば、そこには新たな剣を手にしたロスクレイ。どこから、と思えば、セイバーがつい先程立っていた地面に、不可思議な隆起の痕がある。 ──最初から、この為の工術。足場を狂わせたのも、あくまで副産物に過ぎない。 (最初の一撃で、既に剣を捨てることを決意していたか) その判断力の素早さに、内心でほう、と舌を巻く。 事実、セイバーの渾身の踏み込みを受けた時点で、並みの無銘の剣ならば折れることもあろう。ロスクレイともあろうものが無銘を使っていることは意外でこそあったが、新たなる剣を持っているというのであれば納得もできる。 (ならば、もう一度──) 瞬時に踏み込み、再び先と同じ最速、渾身の剣閃。 だが、同じ手は決して絶対なるロスクレイへの決め手には成りえない。 流麗な受け流しの一手が、剣にかかる負担を最小限へと抑えながら、セイバーの剣の行先を誘導する。 そのまま追撃を加えんと振り被るロスクレイに、しかしセイバーもされるがままになることはない。 下段にて凌ぐセイバーと、上段より打ち下ろすロスクレイ。二度、三度と繰り返されたその剣戟から這い出るようにして、セイバーが 「【──土へ。形代に映れ。宝石の──】【──虹の回廊。隠れし天地を回せ──】」 「くっ──」 その隙を突くようにして、意識外からふわりと剣が浮かび上がる。 詞術──工術によって作られた剣が、力述──浮遊したかと思えば、セイバーの一閃を受け止めていた。 ロスクレイに届くことなく阻まれた剣閃をセイバーが訝しむ暇もなく、襲い掛かるはロスクレイの鮮やかにして正しき弧を描く一閃。 紙一重で回避したセイバーの目の前を、僅かに寸断された己の毛先がひらりと舞った。 「……なるほど。正当なる、故に強かな剣の使い手。またその術式。共に備えている──実に素晴らしい。英雄と呼ばれるだけはある、といったところか」 「お褒めに預かり、光栄の限りです」 セイバーの美辞麗句は、決して皮肉ではない。 少なくともただの白兵戦において、ロスクレイは達人の域にいる。その剣そのものを宝具とする程の神域には在らずとも、王城剣術の基礎を徹底して磨き上げたその剣技は只人のレベルを遥かに凌駕している。 純粋な決闘──それにおいて、なるほど、ロスクレイは英雄として担ぎあげられるに相応しきサーヴァントと言えるだろう。 「ならば、その正当な剣術と魔術を以てして、或いは貴様の持つ秘技を以てして──」 ならばこそ。 その奥にある神髄こそを、断つ。 「コレを受けてみせろよ、ロスクレイ」 瞬間。 空間の魔力が滞留したかと思えば、セイバーの剣に、四肢に、それが流れ込んでいく。 傍目に見ても、明らかに異質だと分かる魔力量。サーヴァント同士であれば、 濃密なマナの質量に淀んだ大気が、ロスクレイとセイバーを包む。 あくまで構えを崩さぬロスクレイに、セイバーは再び獰猛な笑みを向け── 「──お前ら!こんなところで何をやっている!」 不意に、声が聞こえた。 振り返りこそしないが、ちらりと意識を向ければ、そこにいるのは警察官と思しき服装をした二人組。 武器を携え戦闘している此方を警戒したか、既に携行しているのであろう銃器を構え、こちらに照準を向けている。 工事現場の警備員か、はたまた警察か──奥まったといっても、この都市では見つかる可能性があるということか。 「不純物が──」 面倒だと思いつつも、今は無視する。 神秘の秘匿がこの聖杯戦争で処理されるかどうかは知らないが、もし知られても見られたことを消すのはセイバーにとってそう難しいことではない。 そもそも、神秘のこもっていない弾丸など英霊にとっては些事。自分が傷を負う恐れなどない。 ならば、この一合を放った後。その後でも遅くはない。 故に、セイバーは己が剣の切っ先をロスクレイよりぶらすことは無く。 神速の踏み込みと共に、剣に込めた魔力をブーストして、一気に距離を── ──何かがおかしい。 先ぶれはあった。感じていた。 この場所に来た瞬間から、何かの違和感を、ずっと。 一見して、入りにくいだけで何の変哲もない空き地だ。周辺に人が集まるような場所ではなく、さりとて彼等のような部外者が駆けつけることが不自然な程離れている訳でもない。 だからこそ絶対なるロスクレイは、こうして工事現場に入った。自分を察知してのこと。自然な行動だ。マスターが何処にいるのかは不在だが、誰もいない場所で打ち合うのは市民を守る為の彼の行動として当然のことである。自分がそうしたように。 違和感はない。 何も。 無いはずだ。 けれど。 何だ。 何かを感じる。 それは例えば、この工事現場の上空から微かに聞こえ続けている、僅かなプロペラの音。 それは例えば、本来この時間帯なら片付けられていないとおかしいような重機の影。 それは例えば、此方を見るやすぐに銃を抜き構えていた、警官たちの用意の早さ。 それは例えば、宝具を使おうとした今この瞬間を狙いすましたかのような乱入。 一つ一つは、あるいは偶然かもしれない。 けれど──この刹那、彼は確かにその偶然が、必然である可能性を考えた。 それは英霊としての直感。 彼自身が養ってきた戦場での勘が、それらを繋げろと叫ぶ。 目を向ける。 一見、英霊には通じようがないであろう銃。──本当に? 闇にとうに慣れた視界が捉える。 それは普段、日本国の法令で警官が携えているものとは明らかに異質なもの。 アサルトライフルという種類の、突撃小銃。 ──ぷしゅ、ぷしゅ、ぷしゅう。 サイレンサーで消音された銃声が、一切の躊躇なく己だけに放たれたことを認識して──瞬間、セイバーの体は全力で跳ねた。 銃撃を避けることができたのは、偏に彼の英霊が瞬発力に秀でていたからに他ならない。 辛うじて銃撃を避けたセイバーが、再び構えを直そうとして、──終わらない。 「【──土の源。片目より出でよ。閃け】」 詞術の追撃。 これまで全く見せていなかった雷の詞術が、筋肉の硬直を起こしてセイバーの動きを制限する。 その中で、一直線に吶喊してくるロスクレイ。 狙う先は自分。恐らくは霊核を狙った、神速の突き。 だが、まだだ。まだ対応できる。 貯め込んだ魔力は、未だ拡散せずに宝具として解き放たれる時を待っていた。 小細工が漁夫の利を狙ったものか、それともロスクレイの仕込みかは知らないが──今この瞬間斬ってしまえば、それも終わる。 ロスクレイが此方に辿り着く前に、宝具を開放する。この差であれば、まだ自分の方が早く、ロスクレイの霊核を穿つことができる。 それを理解し、セイバーが口の端を歪めた、その刹那。 ──ぱしゅ、と。 先程聞いた音が、先程とは違う場所から響いたと思えば。 繋がっていることを認識していた魔力パスが、途切れていた。 今にも放たれようとしてした宝具の為の魔力にラグが起こり、セイバーが一瞬の膠着に陥る。 「貴様」 それは、即ち。 「ロスクレイ」 セイバーのマスターが、死亡したということ。 それも──今の状況下においては、間違いなく、ロスクレイ自身の策略によって。 最早疑う余地はない。 これは、仕込みだ。 英霊を狙うことを可能とした弾丸、乱入のタイミング、ロスクレイ自身が謀ったことを示して此方の注意を引く策略、凡て掌の上。 この場所に入った瞬間から──あるいは、彼がロスクレイを標的と定めた、その瞬間から。 ロスクレイは、この一瞬の為の、仕込みを── 「──ロスクレェェェェェイ!!!!!!!」 激昂する。 剣の道を汚した男を。 英雄と名乗り、栄光を浴びながら、その実、対等な筈の争いに不純物を混ぜ込んだ男を。 怒りのままに、保持した宝具を解禁する、その刹那。 「──これが、私の宝具です」 ロスクレイの、理想的なまでに研ぎ澄まされた一振りの剣撃が──霊核より先に、剣を持つ手を切り落とす。 それを支えるのは、詞術によって形作られた大地の足場。 開放先を失った魔力を持て余した次の刹那に──ロスクレイが放った返す刃は、やはり完璧な軌道をなぞるように。 セイバーの霊格を、その胴体ごと逆袈裟に斬り払っていた。 「──ロスクレイです。戦闘は終わりました。霊器の消滅まで確認しています。マスターについては──」 ──警察組織への連絡。サーモグラフィ―を搭載したドローンによるマスターの位置把握。事前に潜入していた工作班。詞術士の適切な詞術発動の為の随所の監視カメラ。 この工事現場そのものが、絶対なるロスクレイの策謀の下にあった。 細工によってロスクレイ自身に集中させ、セイバーの警戒がロスクレイへと集中した時点で──銃撃に気付いたマスターが此方を見ることを警戒し、これを殺害する。 一歩間違えば宝具開放に間に合わない危険な策ではあるものの、マスター・サーヴァントに気付かれないように仕込むという点においてはリスクを抱え込まなければいけない必然性が存在した。 『了解した。こっちでも追って処理する。今のところ、予選のうちにあんたで大物食いしようって奴はこいつで最後だ。しばらくは落ち着くだろうさ。本来は、マスターを日常のうちに暗殺するのが一番楽ではあるんだがねえ』 「確かに最良ではありますが、霊体化しているサーヴァントの不意を突くのはリスクが大きい。把握しているだけでも最良と言えるでしょう」 『まあな。それに、こっちで監視してるマスター候補で結託できそうな奴等についても幾つか当ては作ってある──勿論、こっちの細かい事情まで伏せて付き合ってくれそうな奴等をだがな』 「感謝します」 それからも幾らかの連絡事項を交わしながら、この奥まった工事現場に入る為の唯一の経路を戻る。 路地から人気のない道に出れば、そこには先程から変わらず路上駐車しているタクシーが一つ。 誰もいない場所で職務怠慢をしている──傍目からはそう見えていたであろう、先の警察を装った特殊部隊に連絡を取った運転手の待つタクシーに乗り込む。運転手──正確にはそれを装った公安所属の男は、ロスクレイの無事を確認すると何も言わずに車を出した。 後部座席で緊張を僅かに解きながら、ロスクレイは通話を終えた自らの端末に目を落とした。 (この端末…スマートフォンというらしいこれを弄ることにも、大分慣れた、か) 通信手段としての優位性の高さから、過去に客人が持ち込んだラヂオと比べても非常に隠匿性・伝達性・通信速度が高いスマートフォンは、彼の戦い方からすれば欠かせないものだ。 特に、SNSやメディアといった露出──神秘の秘匿を盾に暴く、あるいはマスターを追う手段等様々な工作に用いることができるこれは、他のサーヴァントには恐らく存在しようのない手段だ。己自身の不正について暴かれうる諸刃の剣にならぬよう、関係各所への根回しも既に済ませている。 (……これも、その一手) 部下に撮影させ、当たり障りのないプライベートアカウントを装ってロスクレイ自身の所在を喧伝させたSNSの投稿を見る。 あえておびき出す形で露出したのも意図的──打倒ロスクレイを掲げた主従が、複数の対ロスクレイ派閥と結託する前に隙を見せる。千載一遇の好機に乗ってくるかどうかまでは賭けだったが、予選序盤から積極的に動いていた好戦性に十分な担保はあったといえる。 とはいえ、やはりサーヴァント相手は決して並みならぬ戦いになることは避けて通れぬ道。 幸い、嘗ての六合上覧に顔を並べたような修羅と相見えることこそまだないが、そういった規格外の強者と戦うことになる機会もあるいは存在し得る。 また、今回のような相手でも、事前に宝具を防ぐことができなければ何もできずに倒れていた可能性も十分にある。 (……となれば、有力な他参加者との同盟を結ぶことも必要な手段となりうる、か) 幸い、ロスクレイ自身が聖杯にかける望みが必然性を伴わない──即ち、『聖杯を譲る』という最大の選択肢を筆頭に、少なくないカードを交渉手段として切ることができる。 ロスクレイがこの聖杯戦争において最低限叶えなければいけないのは、マスターの安全な帰還のみ。 そうであるならば、利用するべきは── 『すっごい人気者じゃないですか。凄いですね、英雄って』 ──七草にちかからの念話が来たのは、そんな時だった。 「……マスター」 念話を終えて、ロスクレイは嘆息する。 今のところ、召喚時を除いて彼女との直接接触はほぼしていない。ロスクレイの持つ単独行動スキルと、宝具による「絶対なるロスクレイ」としてのこの世界における立場の確立。その社会的地盤がある以上、ロスクレイとにちかの関わりは令呪という一点以外にほぼ存在しない。 そして、この聖杯戦争においては、かつての六合上覧のようにマスターとサーヴァント揃ってこそ参戦が認められる。人理の影法師として、守るべき人も襲い来る危機もないこの土地におけるロスクレイの所在はともかくとしても、自分を失った後にちかがどうなるかは決して保証できない。 そしてそうであるならば、絶対なるロスクレイが最も恐れるべきことは──自分のアキレス腱であるとして、にちかが命を狙われ、殺されること。 だからこそ、接触は最小限に──イスカと接していた時のように、細心の注意を払いながら。対面の機会は、極力絞るしかない。 ──だが。 忘れられない。忘れようもない。 召喚された時に見た、七草にちかの表情を。 まだ年若く、両親の庇護も欠けている中で、『アイドル』なるものを志している、と彼女は言っていた。 当世の知識を与えられただけのロスクレイからすれば、そこに賭ける情熱や意志を正しく推し量ることは決して簡単ではない。 それでも、分かることはある。 ロスクレイが培った、あるいは彼自身が持つ一つの才能。 観察と思考──彼を英雄たらしめた最初の能力は、彼女の表情の中に。 その情熱を、意志を支えていた「何か」が、消えてしまっていたことを。 スマートフォンを開き、ホーム画面に置いた一つのアイコン。 七草にちかのホームページへのリンクとなっているそれを開けば、そこには彼女が半年以上かけて受けてきた数々の仕事の実績が出てくる。中には、動画サイトに投稿された映像を見るものもあって。 そこに映っている七草にちかの姿は、確かに輝いているように見える。 けれど、分かる。朧気に。 それが何かの模倣である──『演技』であること。 絶対なるロスクレイが──『英雄』の『演技』をし続けたからこそ、分かること。 ──ある男を思い出す。 幼き頃の自分に、英雄としての立ち居振舞いを教え──勿論、当人もそんなつもりは無かっただろうが──結果的に、英雄ロスクレイが生まれるきっかけを作った男。 自分はいずれ主演男優になるのだと嘯いて、けれど結局ただの服膺のナルタとして死んでいった男のこと。 ──もう一つのページに飛ぶ。 七草にちかの、最も大きな「次の仕事」。 そのエントリーの為にこれまでの仕事があったと言っても過言ではない、新人アイドルとしての集大成。 『wingファイナリスト一覧』 『七草にちか』 彼女が挑まなければならない、彼女にとっての、戦場。 ──ある戦を思い出す。 自分がどうしようもなく矮小で、戦から逃げてしまいたいと思うような臆病者だと思い知ったあの日。 自分に英雄の器がないと知り、さりとてただの一兵卒として死にたくないと願ったあの戦場。 それでも尚──己自身の観察と思考で、栄誉ならぬ勝利を掴んだあの竜殺しの日。 英雄としての在り方を、英雄という演目を、演じ切ると誓ったあの日。 ──ああ。 彼女は、きっと分かっている。 彼女の心の中にある偶像が、この世に存在しないことに。 偶像などなく、そこにはただの少女が──取るに足りない一人の人間がいるしかないということに。 故にこそ、ロスクレイは祈る。 その虚像の果て、それでも信じたい何かを、彼女が見出すことを。 あるいは、その為に絶対の偶像が必要ならば──ロスクレイは、彼女に恥じぬ英雄でいることを誓おう。 嘗てと同じように、この英雄としての演目を終幕まで演じ切り、彼女にその作法を授けよう。 そして、あるいは。 七草にちかが、その砕けた虚像を踏み砕き、彼女自身が体現するべき信ずるものを見つけた時は。 彼女にとっての真業を見出した、その時は。 偶像になれないと嗤いながら、なお偶像を望み、その果てに偶像を見失ったもの。 英雄などないと嘆きながら、なお英雄を背負い、その果てに英雄を形作ったもの。 私が/誰かが仰ぎ見た虚像の中で。 ただの少女は道に迷う/ただの青年は道を進む。 願われし偶像と只人の境界──その地平に、何があるか未だ知らぬまま。 それは形振りすら構わぬ、憧憬への飽くなき執念を持つ。 それは己が欠落を嗤い、羨望を以て自己を形成する歪みを孕む。 それは嘗ての偶像の声ならぬ哀哭を、無意識のうちに内面化している。 いつかの歓びと哀しみに魅せられた、ただの、それ故に特別な少女である。 人間(ミニア)。偶像(アイドル)。 哀しき── 【クラス】 ヒーロー 【真名】 絶対なるロスクレイ@異修羅 【パラメーター】 筋力:B 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:E 幸運:B 宝具:EX (宝具『絶対なるロスクレイ』により、何等かの方法でマスター・他のサーヴァントなどがパラメータを観測した場合は筋力:A、魔力:Aと表示される) 【クラススキル】 対英雄:EX 英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせるスキル。 彼の持つ対英雄スキルは稀有なこのスキルの中でも異質なものであり、彼と敵対しないものから「絶対なるロスクレイは正しい側に立っている人間である」と認識され、常に彼こそが英雄だと認識される。 それは翻って──何者であれ、彼と対峙したものは英雄に倒されるべき邪悪に成り果てるということである。 【保有スキル】 絶対なるカリスマ:A+++ 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。 中でもロスクレイのカリスマは、最初から敵対の意思がない場合、その行動と意志を見たものにもれなく「絶対なるロスクレイは正しく英雄である」という認識を付与する。本来ならただのAランクですら呪いとも称される通常のカリスマを更に超越し、それは半ば狂気染みた「絶対の英雄」への信仰の域にも達し得る。 単独行動:A マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。 ロスクレイの場合、彼自身が勇者を選抜する黄都二十九官でありながら己を勇者として擁立した逸話が元となってこのスキルを取得しており、彼自身が疑似的にマスターとしての社会的地位を獲得していることでマスターに縛られない行動を可能とする。 鋼鉄の決意:A 痛覚の全遮断、超高速移動にさえ耐えうる超人的な心身などが効果となる。複合スキルであり、勇猛スキルと冷静沈着スキルの効果も含む。 ロスクレイの場合、それが『英雄』に求められる振る舞いである場合ありとあらゆる苦痛を無視して『英雄』として振舞うことを可能とする。 人間観察(演技):B 人々を観察し、理解する技術。 ロスクレイの持つ人間観察は、己自身が「英雄を演じる」という在り方にルーツを持つことから、演技をしている人間の姿を見抜くことに秀でている。 【宝具】 『絶対なるロスクレイ』 ランク:EX 種別:対社会宝具 レンジ:なし 最大補足:14,000,000人 絶対の証明。個人が持つ社会的な権能の結晶。 絶対なるロスクレイが召喚されたと同時に、彼が生前活躍した竜殺しや六合上覧の逸話などによる『絶対なるロスクレイは人間にして最強の英雄である』という概念が構築される。 それは、彼自身の本来のパラメータを偽ると共に、生前構築し彼を英雄たらしめた社会的な工作能力が当聖杯戦争の開催地において再現されることを意味する。 具体的には、ロスクレイ自身が『英雄』として聖杯戦争の舞台における行政システムの重鎮に居座ると同時に、彼の周囲や彼が手回しできる民間の各会社に存在することとなる。これにより、ロスクレイは戦闘における詞術支援をはじめとした物理的支援、そして何より聖杯戦争中における様々な面での根回し・社会的制約を彼の権力の届く限り発動することができる。 また、生前彼に詞術で力を貸していた詞術士も召喚され、戦闘においては工術による剣の召喚や生術による各種術式などのサポートも可能となる。 今回の東京都においては召喚された仕官は多くが東京都政の重鎮として認識されていると共に、警察・マスメディアをはじめとする各種組織の中にもそれによる彼のシンパ、あるいは彼とその協力者によって詞術の強化が施された武装を持つ人々が存在している。 寸分違わず、聖杯戦争の行われる現代社会において、国家そのものを味方とした社会動物の持ちうる凡ての力を託された人工英雄としての逸話を体現する宝具である。 ──代償として、この宝具は彼自身の知名度と存在ありきであるため、彼が現界した時点で聖杯戦争の舞台中にマスター・サーヴァント・NPC問わず「絶対なるロスクレイが存在している」という情報が開示される。聖杯戦争の参加者にとっては、ロスクレイはセイバーのサーヴァントとして認識され、一部ステータスにも変化がある。 【weapon】 剣 彼の支援者が工術で紡いだ無銘の剣。彼がラジオ・携帯端末等で連絡を取っている詞術士が都度作成する。 その剣技は間違いなく英雄のそれであり、正当な王城剣術に基づいた正しき剣である。 詞術士 彼が抱える子飼いの詞術士。戦闘中においては、ロスクレイがマントの裏に仕込んだ通信端末から詞術を発動し彼を様々な点から援護する。 その他、あらゆる社会的権力 対抗勢力が存在しない限り、東京という現代社会を意のままに操る、英雄という立ち位置そのものが持つ政治力。 【人物背景】 『本物の魔王』が死亡した後、魔王を殺した勇者を決める戦いにおいて立候補した『最強』の一人。 黄都を収める二十九官の一人であり、民からは竜すらも単独で殺した英雄として篤く信頼されている。 しかし、彼自身はあくまで人間としての域を出た存在ではない。彼を英雄たらしめているのは、その政治力と智謀によって勝利を必然とする社会的なあらゆる支援であり── 『英雄であれ』という民の祈りを反映した、人工英雄である。 【サーヴァントとしての願い】 聖杯は不要。強いて言うなら、故郷のとある少女を救うことと、マスターの安全な帰還。 【マスター】 七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ 【マスターとしての願い】 元の世界に帰る。『八雲なみ』に──? 【能力・技能】 『アイドル』 283プロダクションのアイドル研究生。活動歴は八ヵ月近くだが、その間に少なくともファンを10万人以上獲得するだけの人気はある。 ダンスの能力や知識など、常人の200%とも言われた努力の賜物であるパフォーマンス目をつけるところもある一方で──その表現には、知識が先行しすぎた不必要なステップ等も存在しており、見る人によっては歪さを感じさせるかもしれない。 【人物背景】 283プロダクションの研究生として(紆余曲折がありながらも)アイドルデビューを果たした少女。姉であり当該事務所のアルバイトでもある七草はづきから、新人アイドルのグランプリである『WING』優勝を条件にアイドル研究生としてデビューを開始した。 その性格は平凡な少女として等身大なものであり、理論よりも感情で物事を考え、見栄を張って意地になり、追い詰められれば視野狭窄に陥るような一面を持つ。 また、自己評価の低さから、アイドル活動でも元から尊敬していたアイドルである「八雲なみ」の再現を試みることでアイドルとしての自己を確立しようとしていた。 ──その憧憬の対象であった八雲なみが、本当に笑顔であったかどうか、アイドルを楽しんでいたのかどうか──それを疑い、見失った時点から、彼女はこの聖杯戦争に招かれている。 【方針】 ひとまずは元の世界に戻ることを考える──?wingは──? 【備考】 七草にちかシナリオ、W.I.N.G準決勝勝利後~決勝本番前からの参戦です。 W.I.N.G決勝は聖杯戦争本戦中に行われるものとします。
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憧憬ライアニズム Epigram ◆gsq46R5/OE 守護る、という台詞とは裏腹の行動だった。 何故なら彼の剣の矛先は、もはや神威にすら向いていない。 裂帛の気合を以って振り上げた刀身で、銀髪の侍を両断しにかかる。 無論、一度は紅桜と打ち合い、勝利したことのある銀時だ。 たったの一撃で戦闘不能ということはなく、彼もまた、自らの剣でそれを受け止めてみせる。 しかしその顔に、苦いものが浮いているのもまた確かであった。 「相っ変わらず、食欲旺盛なことで……!」 悪態をつきながら、銀時が無毀なる湖光を大きく振るった。 こうなっては、もう自力で正気を取り戻すのは難しい。 紅桜を早急に破壊し、本部の体に根付いた電魄の影響を取り払う必要がある。 ただし、それで本部以蔵の命が助かるかと言われれば、銀時には断言できない。 彼は医者ではないのだから当たり前という話ではなく、傍目から見ても本部の状態は酷いのだ。 このまま戦い続けようが、紅桜を破壊して正気に戻そうが、未来は同じなのではないか。 そんな不吉な想像が頭を過ぎったとして、誰に責められようか。 彼の脇腹は歪に抉られて常に血を零しており、顔は鼻が折られ、出血で真っ赤に染まっている。 顔面への打撃で顔の骨や、下手をすれば額の骨にまで亀裂や損壊が及んでいてもおかしくない。 見えている肌の部分は内出血している箇所が多く、ドス黒く変色している場所まである。 服の上からでは確認できないが、内臓もそれは酷い有様だった。 潰れていないものの方が少ないような、知識のある人物が見たなら思わず顔を背けたくなるような状態が広がっている。 「ほら、言わんこっちゃない」 失笑して、本部を嘲るのは神威だ。 彼は言った。そんな妖刀(もの)に頼れば死ぬぞ、と。 本部は言った。気が狂っても、俺は全てを守護る、と。 その結果がこれだ。 本部以蔵は紅桜を結局は制御しきれず、搭載された人工知能によって自我を崩壊させた。 守護る、と言いながら、本来守護るべき対象であるはずの侍に刃を向ける姿は滑稽でさえある。 彼がどう足掻こうと、永くは保たない。理性の次は、命が、だ。 しかし、それは当然の結果だったのかもしれない。 彼が力を授かった相手は、人にあって人にあらぬ魔元帥ジル・ド・レイ。 悪魔マルチネというもう一つの顔を持つ、悪意の化身。 悪魔と取引をした人間が、その生涯を幸福に終えた試しはない。 「オオオオオオオオッッ」 斬撃を振り落とし、なおも銀時を潰さんとする本部。 ただ、彼の標的は、銀時一人に絞られた訳でもないようだった。 銀時が紅桜の重い剣戟を止めるや否や、本部は突然身を翻し、後ろの神威を薙ぎ払う。 それをガードした日傘の中棒に、遂に一筋の亀裂が入った。 威力が、また上がっている。今はもう、人斬り似蔵が振るった時のそれを完全に超えていた。 「っと」 只でさえ回避に慎重にならねばならなかった紅桜の攻撃が、より苛烈化している。 少なくとも乱戦の中で相手取りたくはない、ハリケーンか何かを思わせる猛威だった。 「も、本部、さん」 宇治松千夜。 本部がかつて、人の心を無くすなとそう言った少女の声は、羅刹と化した本部には届かない。 譫言のように守護る、守護ると口走りながら、妖しく光る刀を振り回すばかりだ。 「……どいつもこいつも、好き放題暴れやがって……」 呆れたように口にしつつ本部と剣閃を交わし合う銀時だったが、その背筋には冷や汗が流れていた。 端的に言って、状況が悪すぎる。 以前紅桜を破壊した時には、周りに仲間が居た。 仲間の助力があってこそ、自分は窮地を脱することが出来、紅桜の破壊に至ったのだ。 今、銀時が頼れるのはファバロのみ。 そのファバロだが、彼に接近戦へ混ざれというのは死ねと言っているのと同じようなものだ。 ビームサーベルを保有している話は聞いていたが、余程優れた実力者でもない限り、この乱戦に飛び込むのは無謀と言う他ない。 かと言ってミシンガンの銃撃も、理性を完全に飛ばしている本部には殆ど意味を成していないのが現状であった。 そして、何よりも都合が悪いのは…… 「づ、ぐぉ――……ッ」 神威という、特大クラスの厄ネタがそこに混ざっていることだ。 本部との打ち合いの隙を縫って得物の間合いまで侵入を果たした神威が、銀時の腹のど真ん中に得物の強烈な刺突を喰らわせる。 本部の暴走という突然の事態すら、この男はまるで意に介している様子がない。 単なる享楽ではなく確固たる目的を見据え行動し始めた彼に、遊びと呼べるものは皆無。 ――だが、彼の目下再優先の獲物と認定されているのはどうやら、銀時の方であるらしい。 神威は、警戒しているのだ。 銀時の中に垣間見えた、理解し難いものの存在を。 侍という不確定要素に溢れ過ぎた相手から先に排除して、事を有利に運ぼうとしている。 つまり時にこの戦場は、乱戦の体さえ崩壊させるのだ。 時に坂田銀時、本部以蔵、神威の戦いから、坂田銀時と本部以蔵、神威の戦いへと変わる。 それがあくまでも人間の体しか持たない銀時にとっては、最悪レベルに都合が悪い。 「俺が――守護らねばならんッッッ!!!」 口角泡を飛ばして叫び散らしながら、本部は狂ったように、いや真実狂って銀時に猛攻を仕掛ける。 受け止める腕がビリビリと、嫌な痺れを訴え始めているのが分かった。 神造兵装・無毀なる湖光は確かに紅桜以上の業物だが、武器が壊れないからと言って、永遠に防御を続けられる訳じゃない。 担い手の体が先に音を上げれば、どんなに優れた剣も刀もただの棒きれだ。 銀時は力強く無毀なる湖光の柄を握り締め、死ぬ気で妖刀の剣戟と相対し、僅かな隙を見つけて攻勢に移り―― 「守護(まも)るなんて大層なこと抜かすなら、まずは手前の脳味噌守って見せろォォォォ!!!!」 力強く、雄々しく吼えた。 一際激しく火花が散り、銀髪の侍は突き進む。 羅刹さながらの鬼気迫る様相を呈し戦う本部に対し、その姿はさながら、白き夜叉のようだった。 ゆるやかに崩壊の進んでいく闘技場の中、少女達は動けずにいた。 絢瀬絵里も、宇治松千夜も、概ね平穏と言っていい日々を送ってきた人間である。 千夜の方は、特にそうだ。 絵里はスクールアイドルの活動をしてこそいたが、あくまでもそれは暴力の絡まない範疇での非日常だった。 煙草や酒をやらず、ドラッグなど以ての外の健全な身体と精神。 日だまりの中を生きる少女達にとって、目の前で繰り広げられる戦いは、あまりにも刺激が強すぎた。 ――単にそう言うと、語弊がある。 少なくとも絵里は一度、本能字学園で似たような激戦を目にしたことがあった。 その場には神威も居り、彼がどのような戦いをするのかは、ある程度知っていた。 千夜だって、周りで大勢の人間が死んでいくのを間近で見せられ続けてきた身だ。 いいことでは間違いなくないだろうが、常人に比べて、こういった光景への耐性は付いていても何ら不思議ではない。 ならば自分達の置かれた状況の危険さをいち早く理解し、後のことを託して脱出しようと考えるのが普通だ。 なのに彼女達がそれを出来なかったのには、理由がある。 神威。 自分の妹をその手で貫き殺した、殺戮者。 彼が発露させ、今も全方位に放っている濃厚過ぎる殺意。 本能字学園の一件で見せていた、笑顔に乗せたものとはまた違う――覚悟を決めた者の殺意。 二人は、それにあてられてしまったのだ。 神威は宇宙海賊の一員であり、銀時と同等、下手をすればそれ以上の数の死線を潜っている。 殺した人数、倒した敵ならば、確実に彼よりも多い。 いわば、殺しと破壊のプロとでも言うべき男だ。 その彼が、本気で見せた殺意。 それは、少女達を恐怖で動けなくさせるには十分過ぎた。 千夜に至っては失禁までさせるほどの、効果があった。 神威は、女子供を殺さないという美学を持つ。 しかし今の彼に、そういうものは期待できないだろう。 仮に彼が銀時と本部を殺して生き残ったなら、その手は間違いなく、絵里と千夜に及ぶ。 漠然としたものではなく、確たる目的を得た殺しに、美学は要らない。 だから逃げなければと思っているのに、足が動かない。腰が抜けている。 (……情けない) ぎり、と奥歯を軋ませたのは絵里だ。 自分は、また何も出来ずにいる。 この場を離れるという最善手すら、選べずにいる。 そんな自分の弱さが情けなくて情けなくて、絵里の中に自己嫌悪の情が吹き上がってくる。 今、自分に出来ることは――祈ること。 銀時の勝利を祈る以外に、何も出来ない。 ふと、隣の千夜に視線を向ける。 彼女も、同じような顔をしていた。 まるで自分を鏡に写したようだと、妙なことさえ思ってしまう。 「本部さん……どうして……」 本部以蔵。 絵里達は可能性の段階とはいえ、彼を危険人物なのではないかと疑った。 千夜の言動と、銀時と協力して戦う姿を見てすぐに勘違いだったと分かったが、今の本部はまさに、危険人物としか言いようのない有様だ。 不気味に触手を蠢かせて、何やら叫びながら刀を暴力的に振るっている。 ――あの刀が、どうやら彼を変えてしまった元凶らしい。 俗に言うところの、妖刀というやつなのだろう。 漫画や映画、出来の悪い怪談以外でそんな言葉を使う時が来るとは思っていなかったが。 「……悲観しちゃダメよ、千夜ちゃん」 「でも……!」 「大丈夫。……銀さんを、信じよう」 坂田銀時は強い。 普段は頼りないが、やる時はやってくれる人だ。 彼ならば、この絶望的な状況をどうにか出来るかもしれない。 絵里達には信じられないような"もしも"を、実現させてくれるかもしれない。 今は、そう信じることしか出来なかった。 「絵里さん……っ!?」 突然のことだった。 千夜が目を見開いて、何かを言おうとした。 どうしたの、と続けたかった言葉は、声にならなかった。 「よけて――!!」 ぐぎっ。 鈍い音が、した。 「あッ……ぐ……ぅぅう…………ッ」 千夜の目の前で、絵里は肩を抑えて蹲る。 その傍らには、今しがた降り注いだ、瓦礫の塊が転がっていた。 崩落の始まった闘技場の中、今も緩やかにではあるが、天井だったものが落ちてきている。 絵里は運悪く、その一個に直撃してしまったのだ。 肩に命中した瓦礫は、彼女の命を奪いこそしなかったが、その華奢な肩を砕くには十分な重さを孕んでいた。 もしも頭や首に当たっていたなら、間違いなく絵里は死んでいただろう。 「えっ、絵里さん! 大丈夫ですか、すぐに手当てを……!!」 手当てを、と口で言うのは簡単だが、肩口の骨折は処置が難しい。 これが腕ならば、千夜も本や日常生活で得た知識でどうにか出来たろう。 しかし肩の骨折となると、不幸にも千夜には知識がなかった。 (ど、どうしよう……とりあえず患部を見て――) 「…………あれ……?」 意外にも。 その時、怪訝な声を出したのは、絵里の方だった。 「もしかして他にどこか……!?」 「ううん……違うわ。痛みが……少しずつだけど、和らいでいくような」 不思議に思った絵里は自分の制服を捲り、患部と布地が擦れる痛みに顔を顰めながら、自分の痛めた傷を確認する。 すると確かに痛ましく内出血しており、肌の表面は衝撃で皮が剥けていた。 しかしその皮が、よく見ると少しずつ、少しずつ再生している。 少しずつと言っても、自然回復のそれに比べれば何倍、下手をすれば何十倍の速度だ。 絵里はそんな特異体質になった覚えはなかったが、思えば、心当たりはある。 思い返すのは、此処に来る間のことだ。 電車の中で盛大にすっ転び、頭にたんこぶを作ってしまった自分。 なのにそのたんこぶは気付くと既に消えており、形跡すら残ってはいなかった。 銀時に言われなければ、そもそも怪我をしたことにすら気付かなかったろう。 この現象に、関係がないとは思えない。 絵里は慌てて自分の所持している黄金の鞘を、地面に置いてみる。 すると途端に、傷口の治癒は止まった。 再び手に取ると、また回復が始まる。 「すごい……」 千夜が月並みな感想しか吐けなかったのも、無理はない。 この調子で回復が進んでいけば、恐らく完全治癒に十分と要すまい。 ……これがあれば、きっと助けられる命がある。 絵里は、そう確信した。 この戦いで銀時がどれだけ負傷して戻ってきても、これさえあれば、彼を癒やすことが出来る。 自分にも、できることが、ある! 果てがないように見えた絶望の中で、拾い上げた一抹の希望。 絵里はそれを抱いて、再び戦場に目を移す。 表情が凍った。 離れた戦場ではなく、すぐ近くに。 絵里と千夜の正面、二メートルもないような間合いに。 妖刀を携えた、羅刹が立っていた。 只でさえ廃墟じみた有様を晒している闘技場は、本部の狂乱以降更にその度合を増した。 どこがリングでどこが観客席なのか分からなくなったのは早い内で、今となってはだだっ広いホールのような外観になりつつある。 事情を知らない者が見たなら、何をどうしたら二本の剣と一個の生身でこんな惨状を作り出せるのかと、首を傾げたくもなるだろう。 一人の酔狂な男が作り上げた戦いの殿堂は変わり果て、そこに立つ者もグラップラーではない。 武器の使用が平然と横行したこの戦いをかの徳川老人が見たなら、どんな顔をしただろうか。 或いは唯一徒手で戦い続ける神威の勇猛ぶりに、惚れ込みでもしたかもしれない。 銀時、本部、神威が交わした攻め手の数は既に二百を超えていた。 そんな激戦の中ですら、致命傷を見事に躱しつつ立ち回る侍と夜兎は流石。 いつ朽ち果ててもおかしくない容体に更に傷を重ねて、それでも倒れることなく刃を振るい続ける守護者の様は狂気を感じさせる。 本部の戦い方は、銀時に言わせれば壮大な自滅だ。 暴れれば暴れるほど傷が開き、生命力が減っていくにつれて彼を蝕む電魄は猛る。 事実彼の衣服は血の池で泳いできたのかというほど赤く染まり、元の色が判別できないほどになっていた。 正気の彼が見せていた余裕や風格は、今やどこにもない。 その姿はやはり、坂田銀時がかつて戦った紅桜の使い手――岡田似蔵の暴走した姿に酷似していた。今の本部は、あの時の似蔵と同じ顔をしている。 彼に紅桜を渡した張本人がこの場に居たなら、大笑さえしたかもしれない。 自分の磨き上げた技は全て使えなくなり、守護者の意思すらも失い。 妖刀に搭載された仮初の知能に体を掌握されて、彼が嫌悪しただろう、守護者の対極の姿を晒すことを余儀なくされている。 「アンタ、それでいいのか……!」 銀時の説得など、届いている筈がない。 銀時は知っているのだ。この妖刀の恐ろしさを、一度は経験している。 非情に聞こえるかもしれないが、本部はもう駄目だろう。 紅桜を破壊したとして、この体で長生き出来るとはとても思えない――詰み、だ。 老いた体から放たれるとは思えない剛力を受け止めると、腕が比喩でも何でもなく軋む。 あまり長く競り合えば、剣越しに腕を圧し折られるのではないか。 冗談のような話。悪夢のような、話だった。 鍔迫り合いを続ける二人の隙を貰ったとばかりに、神威の凶手が双方を抉らんとする。 それはラリアットのような姿勢で叩き込むすれ違いざまの一撃だったが、大の男二人を紙風船のように吹き飛ばす打力を宿していた。 柔道家らしい見事な受け身から速やかに復帰した本部は、止めを刺さんと走り迫る神威に咆哮しながら刀を振り抜く。 その衝撃のみで神威の歩みは一瞬止まり、そこを見逃さぬと踏み込んだ銀時が一閃。 防御することまで織り込み済みの攻撃は、それを証明するように、止められた瞬間に神威の下顎を蹴り上げ、彼を吹き飛ばした。 標的を失った本部以蔵は銀時に対し突進――するが、その左目に、人体には不似合いなものが生えた。 「やっと当たりやがった……!!」 ――それは、ファバロ・レオーネの放ったミシン針だった。 さしもの本部も、目を潰されるほどの痛みを与えられれば、理性がないとはいえ身動ぎの一つもする。 銀時は心の中でファバロに礼を述べながら、お得意の刺突を本部の右腕に叩き込むべく突き出す。 反応の追い付いた本部は紅桜で防ぐが大きく後退を強いられ、地面をその靴底で擦りながら数メートルほど逆戻りをする羽目となった。 今のは絶好の好機だった。にも関わらず狙いを外した自分に、銀時は苛立ちを禁じ得ない。 その苛立ちに冷水をぶっかけたのは、弾丸のような速度で空中からやって来た神威。 それに気付いて振り返った時には、紅桜のような反則技に頼っていない銀時では遅すぎた。 拙い、認識した刹那、アッパーカットの要領で着弾した拳が侍の体躯を大きく吹き飛ばした。 「――――ッッッ」 呻き声すら出てこない、強烈な衝撃だった。 神威とこうして本格的に矛を交えるのは始めてだったが、本部があれほどの重傷を負うのも頷ける。 たった一撃でこれなのだ。連打(ラッシュ)などされた日には、人間の貧弱な肉体程度、あっという間にボロ屑と化す。 それを避けるべく、ほぼ反射的に無毀なる湖光を頭の上へと構える銀時。 動作を完了するのと全く同じタイミングで、神威の踵が刀身を打ち据えていた。 神威が足を離すのを確認して再度剣を構えて、彼が打つ全ての拳を、足技を、壊れるということを知らない名剣で悉く凌いでいく。 「な……!?」 神威だけに気を取られている訳にもいかない。 視線を本部に一瞬移した瞬間、銀時は自分の目を疑った。 ――本部以蔵が、宇治松千夜と絢瀬絵里の前に、立っているのだ。 あれほど自分達を斬ることに執着していたあの男が、今は此方に目もくれていない。 予想外の事態に直ぐに飛び出そうとする銀時だったが、それは失敗だった。 「余裕だね、この状況でよそ見なんて」 ガードの緩んだ隙間を的確に通過して、拳が銀時の頭を殴った。 瞼の裏に色とりどりの火花が散って、瓦礫で凸凹になった闘技場の床をごろごろと転がる。 その無様な姿ごと踏み潰さんと落ちてくる靴裏を刀身で止めることが出来たのは、殆ど偶然の産物と言っていい。 どうにか力づくでそれを押し返し、二、三度打ち合ってから、銀時は脇目も振らずに絵里達の方へと急ぐ。 坂田銀時は本部以蔵という男の人となりを、僅かな風聞でしか知らない。 実際に会うまでは危険人物の可能性すら抱いていたのだから、当然だろう。 彼の殺し合いにおける行動方針は、全ての参加者の守護。 挫折し、失敗し、土に塗れながらも、その根幹だけは変わっていない。 紅桜に飲まれた彼の中に残留したのは、よりにもよってその『平等性』だった。 守護るという概念すら理解できているか怪しい有様で、全ての守護を謳いながら全てを斬る。 かの人斬りよりも、余程辻斬りらしい在りようとなっているのは、この上ない皮肉であった。 「止まれ……!!」 本部が、ゆっくりとその刀を持ち上げる。 銀時の脳裏に、蘇る光景がある。 それはかつて、恩師をその手で斬った記憶。 あの時の自分の姿を、第三者の視点から見ているような錯覚が彼を支配する。 背後から追うのは、神威。 殺意に満ちた日傘が、烈しく大気を震わせながら押し迫る。 銀時は振り返りざまに、それを迎え撃つしかない。 無視するには、彼の攻撃はあまりにも剣呑過ぎるからだ。 「邪魔、すんじゃ……ねェェェェェェ!!!!」 しかし幸運の女神は、此処に来て銀時へ微笑んだ。 これまで酷使され続けてきた日傘の方に、遂に限界が訪れたのだ。 みしぃという音が聞こえた次の瞬間、強靭さを売りとする夜兎の日傘が、その半ばほどからへし折れて宙を舞う。 千載一遇の機を、銀時は今度は逃さなかった。 逆袈裟に振り上げた一閃で、神威の胴を斬る。 渾身の、入りだった。 目を見開いて、神威が仰向けに倒れ込む。 ……倒した。そう言っていいと、銀時は判断する。 そして再び足を動かして、火急の現場へと全力で、走る。 既に、刃は上がっていた。 死神の鎌首は、擡げられていた。 「止め――」 ◆ 幽鬼のような顔色で、本部以蔵はそこにいた。 素人目にも分かる、ボロボロの状態。 小汚い男などと、今の彼に悪罵を叩く者はもはや誰も居まい。 狂気に取り憑かれ、妖刀を携え。 かつて守護ると誓ったものに刃を振り上げるその姿は、まさに異様なものだった。 こんな光景を笑い飛ばせる者が居るとしたら、そいつはきっと悪魔に違いない。 ざっ、と更に一歩を踏み出す。 既に刀を振り上げているのに、そんな行動を取る理由は一つだ。 すなわち、確実に仕留めるため。 絶対に紅桜の刃を通し、目の前の二人を斬(まも)るため。 一念鬼神に通ずの諺ではないが、まさしく彼は今、自分の掲げた信念に基づき狂していた。 絢瀬絵里も、宇治松千夜も。 どちらも、正真正銘ただのか弱い少女だ。 全て遠き理想郷、聖剣の鞘という反則級の物品を持っているとはいえ、首を刎ねられればそれまで。 狂気の妖刀、紅桜に取り憑かれた男が、この間合いで仕留め損ねるとは考え難い。 頼みの綱の銀時は、……まだ、遠い。 そして窮鼠が猫を噛む可能性も、ゼロだ。 絵里と千夜が全力でその体に縋り付いても、恐らくは無駄。 武道家として鍛え上げられた体を持つ本部にしてみれば、まさしく子鼠の抵抗に等しい。 軽々と振り払い、彼はそれからひとりずつ斬り伏せるだろう。 死の時間が数秒延びるだけでしかない。 千夜が所持しているベレッタ拳銃を抜き、それで本部の頭を撃ち抜きでもすれば話は違うかもしれないが、彼女にそれを要求するのは酷というもの。ただ一度、間接的に人の命を奪ったことがあるだけの少女に、恩人を平静を保って射殺するなど出来る訳がない。 あれこれ躊躇っている隙に、本部はやはり、二人を斬る筈だ。 「守護る……! 俺は……! すべてを……!!」 絵里は、千夜を引っ張ってどうにか逃げようとする。 それが叶っていないのは、本部に彼女達が恐怖しているからではない。 千夜が、動こうとしないからだ。 彼女はただ刀を振り上げ、狂った譫言を漏らす本部を涙すら流しながら見つめているだけ。 その理由は、絵里には分からない。 分かるはずもないのだ、本部と共に過ごした訳でもない彼女には。 千夜と本部は、長い時間共に行動してきた。 悲劇を共にし、挙句の果てには命すらも彼に救われた。 共通の話題などあるはずもない自分の話を黙って聞いてくれた、そのだけで、千夜は安心することが出来た。 随分久しぶりに、その心をリラックスさせることが出来たのだ。 「……もう、やめて」 絞り出すような言葉が、彼女の小さな口から漏れる。 「もう、やめてください。……これ以上、そんな姿で戦わないで」 これまでの戦いでボロボロになった、その体のことを言っているのではない。 自分の信念すらも忘れて、化け物のように刀を振るう、今の本部以蔵の姿のことを、千夜は指していた。 それはある意味で、彼に最も相応しい姿。 命の取捨選択をして人道を踏み外し、修羅道に入った鬼の成れの果てとして、おあつらえ向きの姿だった。 千夜も、彼が鬼になったことを知っている。何故なら本部が自分でそう言っていた。 俺の、鬼となった人間の、たった一つの望みだ。 その言葉を、千夜は忘れていない。 これはきっと、報いなのだろう。 人に生まれておきながら鬼になる禁忌を犯した守護者への、当然の報いなのだろう。 それでも、千夜は今の彼の姿を見たくなかった。 こんな顔をして、こんな姿で戦う本部以蔵を、見たくなかった。 「やめてよ、本部さん……もう、これ以上……!」 ぐおん。 本部は大きく紅桜を振りかぶる。 絵里は、もう駄目だと確信した。 思わず、反射的に体が目を瞑ってしまう。 目を開いた時にはきっと、千夜は本部に叩き切られている。 その姿を幻視して、絵里は震えた。 歯の根が合わない音を鳴らしながら、涙を流した。 千夜も、目を瞑る。 元々此処ぞという時には臆病な彼女だ。 格好良く目を開けたまま、啖呵を切るなんて出来やしない。 しかし千夜は、その口を動かしていた。 伝えるべきことがあると思ったから。 恩人に、仲間に、伝えねばならない『お願い』があると思ったから、彼女は止まらない。 「――――人間(ひと)の心を、失くさないで!!」 その言葉を聞いた途端。 振り下ろされていた刀身が、千夜の頭の数ミリメートル手前で停止した。 一瞬、闘技場の中に流れる時間が止まった。 えっ、と千夜、そして絵里の瞳が驚きに見開かれる。 妖刀に侵食され、自我を殆ど失っていた本部以蔵。 その彼が、千夜の頭を叩き斬る本当の寸前で、自ら刃を止めたのだ。 千夜は本部の顔を見る。彼は、苦しんだ顔をしていた。 自らの体を操らんとする意思と戦っているようにも見える。 本部以蔵は、命を選別した。 範馬刃牙という男を相手に、やってはならないことをした。 そうして鬼となった彼は、だからこそ、千夜には自分のようになるなと言ったつもりだった。 しかし当の千夜は、彼のことを鬼だなんて、思ってはいなかったのだ。 刃牙を殺した当初であれば、いざ知らず。 短いながらも暖かな時間を共にした今では、そんなことは露ほども思っていない。 鬼が、人を安心させるだろうか。 度重なる悲劇で摩耗していた心に、暖かさをくれるだろうか。 誰が何と言おうとそれは否だと、千夜はそう断言できる。 宇治松千夜の中では、本部以蔵は鬼でも羅刹でもない。 『人間(ひと)』だ。彼は、ひとなのだ。千夜の中では、今も。 そして少女の作った隙は、間に合うはずのなかった奇跡を、間に合わせる。 端からは銀色の軌跡が煌めいた程度の認識しか出来ないような、神速の斬撃。 銀髪の侍が、か弱い二人のもとへ到達していた。 「……ガキに此処まで言われてんだぞ、このクソホームレス野郎」 一撃目で、紅桜の刀身を上へ弾き上げる。 間髪入れず放つ二撃目が狙うのは、本部の首でも心臓でもない。 その身体に巣食う妖刀――『紅桜』そのもの! 「男なら……とっとと目ェ覚ませ」 再び、銀色が煌めいた。 一閃――紅桜の刀身に、亀裂が走る。 本部が目を見開いた。 銀時は歯を食い縛り、紅桜をそのまま砕かんと力を込める。 一秒に遠く満たない時間で行われる攻防は、しかし悪夢の終わりには成り得ない。 「ま……だ、だッッ!!」 本部の右腕と同化した異形の触手が、銀時の身体を絡め取ったのだ。 何としてでも刃を砕かせまいと、電魄の猛攻が彼を締め上げる。 骨の軋む感覚に銀時は呻くが、それでも彼の思考は一つ。 紅桜を砕くこと。 本部以蔵を、狂気から解放すること。 それだけのために、侍は全霊を尽くす。 だが、やはり足りない。 締め上げられ、拘束されている身では、如何に白夜叉といえどもやれることに限界がある。 「う……ぐ、ぐおおおおおおおおッッッ――!!!!」 咆哮するは、本部。 痛め付けている側の彼が、誰より大きく絶叫している。 亀裂を刻まれた紅桜が、その意思をこれまでにないほど大きく動かしている証拠だ。 しかし同時にその姿は、本部以蔵という人間の個我が、紅桜の狂気に抗っているようでもある。 「ち、が……う……!!」 そして事実、その通りだった。 羅刹の顔に、『鬼』が――いや。 『人間(もとべいぞう)』が、戻ってくる。 今まさに彼の中では、意思の鬩ぎ合いが起こっている真っ只中なのだろう。 「おれ、は……まも、る…………! 全ての、参加者を……!!」 「本部さん!!」 「この、もと、べの、守護は……こんな、ことじゃ、ねェ……!!」 本部は、打ち克ちつつある。 しかし悲しきかな、銀時を戒める触手の力が緩む気配はない。 どれだけ強い鋼の意志で戦おうが、身体の自由を奪い返せなくては意味がない。 このまま銀時が圧死すれば、神威が倒れている今、本部を止める者は何処にもいない。 そのことは、自我を取り戻しつつある本部にも分かった。 だから、なのか。 彼は一転、苦しみの感情を顔から消して、深く息を吐き、もう一度吸い込む。 そして、顔だけを千夜の方に向けた。 「……嬢ちゃん。嬢ちゃんは確か、ベレッタを持っていたな」 えっ。そんな気の抜けた声を千夜はこぼす。 確かに、千夜は支給品としてベレッタ92という銃を所持していた。 予備弾倉も残っている為、取り出しさえすればいつでも使うことが出来る状態だ。 だが、何故この状況で本部はそんなことを言うのだろう。 ……とぼけることは、もはや出来なかった。千夜はそこまで、察しの悪い少女ではなかった。 理解してしまう。彼の言わんとすることを。 直感してしまう。自分のせねばならないことを。 「で、でもっ」 「一度しか言わねぇ……いや、言えねぇだろう。だから、よく聞いてくれ」 「もとべさ――」 千夜の悲痛な声を遮って、本部以蔵は言う。 「そいつで、俺を撃ってくれ」 出来ませんと、千夜は叫んだ。 泣きながらの、ほとんど吼えた、と言ってもいいような叫び。 だが本部は、自分の口にした懇願を撤回しない。 彼は頭の冴えた男だ。 だから最適解がすぐに分かった。 この場で、千夜と絵里と、銀時が生存する手段は一つ。 紅桜と一体化している本部以蔵自身を殺害する。 それ以外に、ない。 「心配しなくてもいい。俺ぁ、死ぬのは怖くねぇ…… それよりも俺が俺でなくなり、守護るべきものをぶった斬っちまう方がずっと怖ぇのさ」 「でも――」 「頼む。やってくれ、千夜の嬢ちゃん」 本部が死を怖くないと言ったのは、虚勢でも何でもない。 誰も彼もを守護り、生かそうと願った男にしてみれば、自分が自分でなくなり、無差別殺人を犯す辻斬りと化す方が余程恐ろしかった。 無念はある。悔恨もある。 それでも、此処を生き延びて更に醜態を晒すよりは、ずっと幸福な最期だ。 無念も悔恨も、少なくて済む。 だからやってくれと、本部は言う。 酷な頼みだと理解はしている。その上で、本部以蔵は少女に頼んでいる。 「う、あ、ううう」 泣きながら、千夜は自分の黒カードから、ベレッタ92を取り出した。 かつて人を撃った時の感覚が、嫌でも蘇ってくる。 無我夢中だったあの時よりも、ずっと銃は重い。 引き金は不動にすら思える。 これを引けと、本部は言う。 そして自分を撃てと、彼は言うのだ。 宇治松千夜に、願うのだ。 それ以外、この場を収める術はない。 「……やっぱり、わたし――!!」 「千夜ちゃん……!!」 その肩に手を置いたのは、絵里だ。 絵里は本部と千夜のことを、何も知らない。 正真正銘部外者と言っていい人物だが、それでも、分かることはある。 本部以蔵という男にとって一番幸福な終わりが、宇治松千夜に殺されることなのだ。 守護る、守護ると彼は狂いながらも口にしていた。 彼はきっと、守護者のまま死にたいはずだ。 千夜に、代わってとは言えなかった。 本部は、彼女に頼んだのだから。 ならばその生命を終わらせていいのは、千夜しかいない。 「……名前も知らねぇ嬢ちゃん。千夜のことは、頼んだぜ」 引き金に、指が掛かる。 息は荒く、視界は明滅を繰り返している。 震える肩を、絵里が抑えた。 狙いを定める。 ――頭に。 漫画や小説の知識で、銃で狙うなら頭だということは知っていた。 「……ありがとよ」 引き金が、そうして引き切られる。 守護者は、守った者に。 鬼が助けた人の子に、撃ち殺されて生涯を終える。 発射された弾丸が本部以蔵の眉間を撃ち抜く最後の一瞬、本部以蔵が発した言葉。 「俺を人間と言ってくれて、ありがとう」 それは確かに、千夜の耳に届いた。 絵里の耳にも、銀時の耳にも。 笑顔を浮かべたまま、本部以蔵の脳漿が飛び散った。 紅桜の触手が緩み、銀時が解放される。 彼は裂帛の気合を込めた叫びをあげながら、紅桜を文字通り、叩き折った。 ……彼の生き様は、確かに道化だったかもしれない。 しかしそれでも、本部以蔵が笑わせたのは悪魔だけじゃない。 宇治松千夜という一人の少女に、ほんの束の間でも笑顔を与えた。 それだけで、彼という道化が生きていたことには、きっと意味がある。 妖刀・紅桜――もとい。 対戦艦用機械機動兵器・紅桜――完全破壊。 『守護者』本部以蔵――――殉死。 【本部以蔵@グラップラー刃牙 死亡】 ◆ 「よっし……!」 響いた銃声。 ファバロ・レオーネもまた、その光景を見ていた。 宇治松千夜が持つ銃の口から黒いものが吐き出され、本部以蔵の頭から赤いものが散った。 銀時や神威の口ぶりから察するに、あの老人を凶行に駆り立てていたのは彼が振るっていた刀。 それが砕け散る瞬間も、ファバロはしかとその目で見た。 殆ど見ず知らずの他人である本部の死に様に、ファバロの心は大して動かない。 それ以上に、理性なく暴れ回る本部の脱落がありがたかった。 ファバロはお人好しだが、博愛主義者ではない。 彼にとって本部以蔵は妖刀に取り憑かれた狂戦士であり、それ以上でも以下でもないのだ。 当然そんなことを声高に宣おうものなら彼女らとの対立は避けられないだろうし、その辺りの分別は彼もしっかりつけているのだったが。 ファバロの場合、本部から特に離れた場所へ陣取っていたのが幸いした。 ミシンガン程度の威力では、ああやって目にでも当てない限り動きを止められない相手。 もしも突撃されていたら、間違いなく只では済まなかった筈だ。 そんな事情もあって、ファバロのこの戦いにおける位置は殆ど蚊帳の外と言っていい。 だが、それでいいのだ。 少なくともファバロはそう思っている。 これは別に、彼が自分の命が惜しいから、というわけではない。 ……半分くらいは、確かにそういう理由もあるかもしれないが。 (マジに化け物同士の戦いだぜ、こんなのよ…… 余計な出しゃばりで首突っ込んでおっ死ぬよりかは、こういう方が俺には合ってんだ) ファバロが常日頃より行っている賞金稼ぎとは訳が違う。 彼の戦ってきた賞金首の中には厄介な力なり何なりを持つ者も当然居たが、強いとは言っても、所詮はたかが知れている。 一介の賞金稼ぎ風情が狩れた程度の相手だ、当然である。 神威のような本物の超人を相手取った経験はないし、悪魔と戦った時にだって、正攻法では結局勝利できなかった。 ファバロ・レオーネという男は、つまり賢いのだ。 良くも悪くも、割り切っている。 「――ま、あの神威とかいう化け物も倒したんだ。とりあえずこれで――」 或いは。 「あ?」 それが、いけなかったのかもしれない。 彼は、賢すぎた。 だから見つかってしまう。蚊帳の外とは言い換えれば、最も分かりやすい場所。 事態の渦中にこそないものの、逆に言えば、同じように事態の渦中にいない者からすれば、これほど目立つ者もない。 「ふざけッ――」 彼が『そのこと』に気付いた時、既に神威(バケモノ)は立ち上がり、蚊帳の外の賞金稼ぎを見つめていた。 剛、という音を聞く。 それが、ファバロの知覚した、最後の感覚だった。 緑子が、叫んでいる。 ファバロの名前を呼んでいる。 ファバロは、答えない。 その首は、あらぬ方向に曲がっていた。 灯火の消えたその瞳に写るは――『あの時』の神楽と同じ目をした、彼女の兄の笑顔。 【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS 死亡】 時系列順で読む Back 憧憬ライアニズム Adenium Next 憧憬ライアニズム Sprinter 投下順で読む Back 憧憬ライアニズム Adenium Next 憧憬ライアニズム Sprinter 170 憧憬ライアニズム Adenium 坂田銀時 170 憧憬ライアニズム Sprinter 170 憧憬ライアニズム Adenium 絢瀬絵里 170 憧憬ライアニズム Sprinter 170 憧憬ライアニズム Adenium 宇治松千夜 170 憧憬ライアニズム Sprinter 170 憧憬ライアニズム Adenium ファバロ・レオーネ GAME OVER 170 憧憬ライアニズム Adenium 本部以蔵 GAME OVER 170 憧憬ライアニズム Adenium 神威 170 憧憬ライアニズム Sprinter
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※最初で最後のゆっくり虐待に挑戦中です。 ※どくそ長いです。 ※うんうん、まむまむ描写あり。 ※標的は全員ゲスです。 ※虐待レベルはベリーハードを目指します。 ※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『永遠のゆっくり』18 荒涼たる岩場とゆっくりプレイスを隔てるマジックミラーは、 一日のうち一度、三十分程度のわずかな時間だけ透明なガラスになった。 ゆっくりプレイスの中では、Y飾りのゆっくり達が、 山ほどのあまあまと遊具で、存分にゆっくりを堪能していた。 楽しげな話し声や室内の音楽も聞こえてくる。 「れいむもいれてねええ!!ゆっくりしたああいい!!」 「おなかすいたあああぁぁ!!あまあま!!あまあまわけてぇぇ!!」 「おでがいじばず!!おでがいじばずうう!!めぐんでぐだざいいいぃ!!」 ガラス越しに群れのゆっくり達は懇願したが、 聞き入れられないどころか、嘲笑と罵倒をもって応えられた。 懇願のうちに三十分は過ぎ去り、壁は再び鏡に戻る。 例え侮蔑と悪意を向けられていてさえ、 極上の美ゆっくりであるY飾りのゆっくり達の姿そのものが、 群れのゆっくり達にとってはゆっくりできるものだった。 壁が鏡に戻る瞬間、 ゆっくりプレイスは内部の音も含めてすべてこちら側と遮断される。 群れのゆっくり達はその時、眼前の鏡に移る自分たちの、 痩せて汚れた、涙に濡れるみすぼらしい姿を見せつけられた。 ゆっくり達はそんな自分を嫌悪し、みじめな気分になり、 なるべく鏡と離れ、岩場の真ん中で日がな一日泣きじゃくった。 どこを向いても、目に映るのはぶざまで醜い自分たちだった。 互いの姿が醜く思え、口を開けば愚痴や喧嘩ばかりだった。 家族と一緒にいても、何をしても、 脳裏にあのゆっくりプレイスが常にちらつく状態では全くゆっくりできなかった。 今となっては、あの三十分だけが唯一の楽しみだった。 あの美しいY飾りのゆっくり達を見てゆっくりしたい。 ゆっくり達は毎日それだけを楽しみに待っていた。 一週間近く何も口にせず、ゆっくり達はほぼ餓死寸前だったが、 食欲よりもむしろ、その渇望のほうが強かった。 一週間が過ぎたその日に、変化が起こった。 群れのゆっくり達が透明なガラスに張り付いてゆっくりプレイスを眺めているとき、 突然Y飾りのゆっくり達が騒ぎはじめた。 「ゆっ!!にんげんさんがきてくれたよ!!」 「ゆゆゆっ!!いそいでおむかえするよ!!」 ゆっくりプレイスの中に人間が入ってきていた。 大人のメスだ。 たちまちのうちにゆっくり達がプレイスの床で整列し、 人間を前にしてはきはきと挨拶をした。 「にんげんさん!きょうもきてくれてありがとうございます!!」 「「「「ありがとうございます!!」」」 「にんげんさんのおかげでゆっくりできます!!」 「「「「ゆっくりできます!!」」」」 お姉さんがそれに答えた。 「はいはい、ゆっくりしていってね」 「ゆっくりおめぐみありがとうございます!! ゆっくりさせていただきます!!」 異常な光景だった。 あんなにゆっくりできるY飾り達が、ゴミクズの人間に挨拶をしている。 群れは戸惑う。特に親れいむ達には理解不能だった。 とはいえ、群れのゆっくり達はそれを千載一遇のチャンスと捉えた。 人間に命令すれば、中に入れてもらえるのではないか。 なにしろ、可愛いゆっくりをゆっくりさせることは他種の幸せなのだ。 断られることは考えられない。 「ゆっくりしていってね!!」 親れいむは大サービスで挨拶をしてやった。 まずは可愛い姿を見せてやり、メロメロにしておくのだ。 人間とY飾り達の視線が一斉にこちらに集まった。 そして、Y飾り達が叫び始めた。 「ゆっくりできるわけないでしょおおお!?」 「なにがゆっくりしていってなのおおお!? おまえらがいるとゆっくりできないんだよ!!」 「おまえらににんげんさんをゆっくりさせられるとおもってるのおおお!? うすぎたないごみくずがおもいあがらないでねえええ!!!」 「ゆゆゆゆ………!?」 れいむ達は狼狽した。 たとえY飾りに比べれば醜かろうと、まがりなりにもゆっくり。 人間が自分たちを見てゆっくりするのは確実だろうと思っていた。 当のお姉さんも、苦笑まじりにこちらを見ているだけで挨拶には答えない。 しかし、ゆっくり達はこのチャンスにしがみつき、 お姉さんに向かって食事を要求し始めた。 「おねえさん!!かわいいれいむのためにあまあまをもってきてね!!」 「まりささまはおなかがぺこぺこなんだぜ!!はやくするんだぜええ!!」 「れいむはしんぐるまざーなんだよ!!かわいそうだとおもわないの!?」 「ゆがあああああああああぁぁぁ!!!」 吼えたのはY飾り達だった。 ぎょっとして硬直しているうちに、Y飾り達は猛烈な勢いで扉に殺到し、 扉を開いてこちらになだれ込んできた。 「いいかげんにしろごみくずどもおおおぉぉぉ!!!」 Y飾りのまりさが、群れのゆっくりに体当たりを見舞った。 通常のゆっくりよりもはるかに強烈な衝撃に、 喰らったまりさが歯をまき散らしながら大きく吹き飛ぶ。 「にんげんさんにそんなくちをきいていいとおもってるのかああぁぁ!!」 「このごみくずどもが!!にんげんさんにっ!!あんなことを!!あんなことを!!」 「なにがしんぐるまざーなの!?ごみくず!!もういちどいってみろおぉぉ!!」 「ゆびぇええええええええーーーーーーっ!!?」 Y飾り達のリンチが群れのゆっくり達を蹂躙した。 吹き飛ばされ、踏みしだかれ、噛みつかれる。 巧みに致命傷を与えることだけは回避しているようだが、群れのゆっくり達はも激痛に泣き喚いた。 「やべで!!やべで!!ぼうやべでぐだざいいいいい!!!」 「ゆっぐりでぎないいいいい!!ゆっぐりざぜでええええ!!!」 「ごべんなざい!!ごべんなざい!!あやばりばずがらゆるじでぐだざいいい!!!」 親まりさが叫ぶと、Y飾り達は暴力の手を止めて問い詰めた。 「なにがごめんなさいなの!?はっきりいってね!!」 「ゆっぐ、ゆっぐ………うずぎだないごみぐずでごべんなざい………」 「ちがうでしょおおおぉぉぉ!!!」 「ゆびぇえええぇぇぇ!!」 再び体当たりを受け、親まりさが転がされる。 「おまえらごみくずなんかが!!にんげんさんにためぐちをきいたからだよ!!」 「ゆ、ゆ……?」 「あまあまをもってきてねだって!? なんでおまえらなんかににんげんさんがあまあまをもってきてあげなきゃいけないの!?」 「ゆ、ゆ、ゆっくり……れいむはゆっくりできるから……にんげんさんが……」 「だまれええええぇぇぇ!!」 「ゆぎゅっ!!?」 今度は口を挟んだ親れいむが舞わされた。 「もういちどいってみろおおぉぉ!! にんげんさんが!!おまえみたいな!!うすぎたないごみくずをみて!! ゆっくりするわけないでしょおおおぉぉ!!? ぶじょくしたな!!にんげんさんをぶじょくしたな!!あやまれ!!あやまれえぇ!!」 ばしばしと踏みつけられ、親れいむが泣き叫ぶ。 「ごべんなざい!!ごべんなざい!!ぼういいばぜん!!ごべんなざいい!!」 「なにがごめんなさいなの!?」 「にんげんさんをぶじょくしましたああぁぁ!!」 「もういちどきくよ!! だれがおまえをみてゆっくりするの!?そんないきものがどこにいるの!!?」 「いばぜん!!いばぜえええん!! でいぶをみでゆっぐりずるいぎぼのはいばぜえええええぇん!!」 「やっとわかったね!!ごみくず!! ごみくずなりにゆっくりはんせいしてね!!」 ぺっ、と唾を吐きかけてYまりさはようやく身を引いた。 ぼろきれのように横たわり、親れいむは泣きじゃくる。 Yまりさは群れのゆっくり達に向きなおって叫んだ。 「おまえらもゆっくりりかいしてね!! おまえらはだれもゆっくりなんかさせられない、きたないやくたたずのごみくずなんだよ!! とくに、とくに、にんげんさんをゆっくりさせられるなんておもわないでねえぇぇ!!! ゆっくりわかったの!?へんじしろおおぉ!!!」 「ばいいいいいぃぃ!!わがりばじだあああああ!!!」 涙を流し震えおののきながら、ゆっくり達が答える。 「ごみくずはそこでのたれじんでいってね!!」 「まりさ、もういいわ」 「ゆっ!!ゆっくりわかりました!!」 Yまりさを制止したのはお姉さんだった。 ガラス壁の向こうからお姉さんは言った。 「その子たちにも食べ物をあげましょう」 「ゆゆっ!?でも、こんなごみくずたちにごはんさんはもったいないとおもいます!!」 「いいのよ」 「ゆっくりわかりました!!」 プレイス内の大皿から菓子を集め、大皿に盛っていくY飾りのゆっくり達。 充分な量の菓子が盛られたところで、お姉さんが皿を手に取った。 「ゆゆっ!?まりさたちがはこびます!!」 「ごみくずどもににんげんさんからあげるなんておそれおおいです!!」 「いいの。さ、どいて」 「ゆっくりごめんなさい!!」 そうして、皿を運んでくるお姉さん。 その様子を見て、群れのゆっくり達は飛び跳ねた。 「ゆっ!!ありがとうにんげんさん!! はやくあまあまおいていってね!!」 「おれいにおうたをうたってあげるよ!! あまあまちょうだい!!あまあま!!」 一刻も早く菓子を受け取ろうと、扉のほうに集まっていく。 親れいむも、痛む体と空腹を引きずりながらそちらへ向かっていった。 やがて、扉を開いてお姉さんが現れた。 「はいはい、がっつかないの」 その瞬間、親れいむの中枢餡を衝撃が貫いた。 恐ろしく空腹だったが、もはや菓子などは眼中になかった。 わけがわからない。 わからないが、とにかく、このお姉さんにすりすりしたくて仕方がなかった。 このおねえさんはゆっくりできる。 親れいむの本能が、それを告げていた。それもこれまでにないほど強烈に。 菓子皿が地面に置かれたが、 親れいむは脇目もふらずにお姉さんに向かっていった。 「お、おねえさん!!すーりすーり!!れいむとすーりすーりしてね!! ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」 先ほどYまりさにされた制裁も忘れ、人間にすり寄っていく。 見ると、群れの他のゆっくり達も同じようにお姉さんの方に向かっていた。 遅れてはならじと、親れいむは必死に這いずっていく。 しかしお姉さんは首を振り、立ち上がった。 「だめだめ。ゆっくりできないわね」 「どぼぢでぞんなごどいうのおおおぉぉぉ!!?」 群れの中から絶叫が響く。 「だーめ。みんな汚いもの。じゃあねー」 「ま!まって!!おねえざん!!すーりすーりしでえぇ!!」 「ずーりずーりじだああいいいい!!おねえざん!!もどっでぎでええええ!!」 「おねえざああああん!!おねえざああああんん!!おでがいいいいいぃ!!!」 「ゆっぐじじで!!ゆっぐじじでよおおおおぉぉぉ!!!」 飛び跳ね、追いすがり、懇願する群れに背を向け、 お姉さんは足早に扉の内側に引っこんで扉を閉めてしまった。 ゆっくりプレイス内では、 Y飾りのゆっくり達が、存分にお姉さんの腕や足にすりすりをしている。 どれもが恍惚の表情を浮かべ、このうえなくゆっくりしていた。 これまでで一番強い、身を焦がす羨望に親れいむは身悶えする。 ゆっくりしたい。 食欲とも性欲とも違う、そのどれよりも遥かに強い衝動。 気も狂わんばかりのその衝動に突き動かされ、 置かれた菓子の皿には目もくれず、Y飾り達の怒鳴り声にもひるまず、 親れいむ達はガラス壁に体当たりし、壁の向こうのお姉さんに懇願し続けた。 壁が再び鏡に戻ってしまうまでそれは続いた。 「………なんだこれ」 「ね、すごいでしょ」 「信じられない。あれだけ腹をすかしたゆっくりが、食事も忘れて人間にすり寄るなんて。 食欲がほぼ最優先で、人間を見下している生き物が……どういうわけなんだ?」 「問題。ゆっくりが一番ゆっくりできる状態って、なんだと思う?」 「………俺に聞かれてもわからないが、甘いものを食べてるときか?」 「ブー。解答。お母さんの中にいるとき」 「口の中に入って……いや、母胎か!」 「そういうこと。生まれる前、母親の子宮の中にいるときが一番ゆっくりしてるの。 人間と同じで、生まれた後はほとんど忘れちゃうようだけど、 胎内にいる間のゆっくり波は、生まれた後にどんな事をしてもまず到達できない数値なんだな」 「ゆっくり波?」 「脳波のゆっくりバージョンで、ゆっくり具合を数値化してみたのね。 で、研究してみた結果、にんっしんっしているゆっくりの子宮内の液体が鍵だとわかったの。 胎ゆっくりが浮かぶ海、人間でいう羊水ね。便宜上、「ゆー水」と名付けました」 「ゆーすい……」 「そのゆー水を大量に摂取し凝縮して、香水にしてみたわけ。 それを肌にふりかければ、人間だろうとブタだろうとれみりゃだろうと、あらゆるゆっくりがすり寄るようになるよ」 「そりゃまた。つくづく単純な生き物だな」 「コレが開発できた時点で、 ゆっくりに関するほとんどの問題は解決できたようなもんね。 あとはじっくり手間をかけていくだけってわけ」 鏡を前にしてゆっくりプレイスと遮断された群れは、 意気消沈の体で、それでも菓子を盛った皿に這いずっていった。 「むーしゃむーしゃ……しあわせー……」 「うっめ……これめっちゃうっめ……」 一週間ぶりの、それも初めて食べるほどの美味だったが、 その量は群れに対してとても充分とはいえなかったし、 何より、先ほどの人間にすげなくあしらわれたのが、なぜか無性に辛かった。 あの人間に褒めてほしい。可愛がってほしい。 餡子の底から湧き起こる、説明しようのない本能が思考を苛む。 その日の夜、岩場に身を横たえて眠りながら、 親れいむは夢を見た。 遠い遠い記憶。 すでに忘れかけていた、魂のゆっくり。 自分たちゆっくりが毎日本能的に追い求めている、 すべてが全く満たされた夢のような時が、 かつてたしかにあったのだ。 夢の中で、親れいむは、 大きく温かく優しい母親の頬にすーりすーりをしていた。 起きると、親れいむは泣いていた。 周囲には、同じように泣いているゆっくり達が多くいた。 同じ夢を見たのだろう。 互いに言葉を交わすでもなく、再び一方の鏡を凝視する。 あの三十分がその日も訪れ、群れのゆっくり達はガラス壁にしがみついた。 一同はY飾り達の暴力を恐れ、声をあげずに張り付いているだけだったが、 やがて人間の姿が現れると、無意識に鳴き声を上げた。 「ゆうぅ~~……ゆぅぅう……」 「ゆっくり……ゆっくりしたいぃ……」 しかし、その日やってきた人間は別のお姉さんだった。 親れいむ達は落胆したが、 扉が開かれ、菓子皿を手にそのお姉さんが現れると、 再び電流のような渇望に打たれ、お姉さんにすり寄ろうとした。 そしてまた拒絶される。 「ゆっくり!!ゆっくりしたああいいいい!!!」 「おでがい!!おでがい!!でいぶをゆっぐりざぜで!!ずーりずーりじでぇぇ!!」 「なんでぼじばず!!ずごじだげでいいんでず!!なーでなーでじでぐだざいいいい!!」 「ああやだやだ、汚い汚い」 泣きながら這いずってにじり寄るゆっくり達を振り切って、 お姉さんはさっさとゆっくりプレイスに戻って扉を閉めてしまう。 「ゆっぐじざぜでえええええええぇぇぇ!!!」 再び一週間が過ぎた。 わずかなあまあまで日々を食いつなぎ、 今日こそは、今日こそはと、毎日違うお姉さんに懇願する。 ゆっくり達はやつれ果て、疲れきっていた。 毎日泣きはらし、目の下には深い隈ができている。 最初は群れで固まっていたが、今ではそれぞれが勝手に動き、 会話をしようともしない。 薄汚れた互いの姿を見てもみじめになるばかりだった。 「今、あのゆっくり達は、 ゆー水の効果で人間に母親を見てるわけ」 「まさかそんな事ができるとは思わなかったな」 「母親に捨てられた子供ほどみじめなものはないよ。 アメリカのほうじゃたまに見かけたけど、ひどいもん。 お母さんに拒絶されるというのは、トラウマになるぐらい辛いことみたいだね」 「君も、もう少しお母さんを大事にしてやればいいだろう」 「そうだねー。週末には帰ろうかな。 じゃ、そろそろ次いこっか。ここからが面白いよー♪」 「おねえさんとすーりすーりしたいの?」 その日、外に出てきたY飾りのまりさが聞いてきた。 ゆっくり達が沸き返り、絶叫する。 「ゆ!!したいい!!ずーりずーりじだいいいぃぃ!!!」 「ばりざをおでがいじばず!!ずーりずーりじだいいいいい」 「ゆっぐりいいいい!!ゆっぐりいいいいいいい!!!」 「いまはだめだよ!!」 「どぼじでぞんなごどいうのおおぉぉぉ!!?」 泣きわめくゆっくり達に、Yまりさが毅然として答えた。 「うすよごれたやくたたずのごみくずが、 にんげんさんにさわるなんておそれおおいんだよ!!ゆっくりりかいしてね!!」 「ううううう!!ゆううううううう!!!」 「でも、やくたたずだけど、がんばればあっちにいれてあげてもいいよ!! おねえさんともすーりすーりできるよ!!」 「ゆ!!がんばる!!がんばりばずうううううぅぅぅ!!!」 初めて目の前にぶら下がる希望に、ゆっくり達は眼を輝かせた。 「そのためには、「しんっこうっ」のみちにはいるんだよ!」 「ゆ?」 「しんっこうってなに?」 「「ゆっくりきょう」にはいって、 にんげんさんのやくにたつゆっくりになれるようにしゅぎょうすることだよ! そのためにはたくさんおぼえなきゃいけないよ!!しゅぎょうはつらいよ!! つらいけど、がんばればおねえさんとすーりすーりできるよ!!」 「ゆゆゆゆ!!よくわからないけど、ありすはしんっこうっするわ!!」 「まりさもしんっこうっするんだぜ!!すーりすーりするのぜ!!」 群れのゆっくり達から次々と声があがる。 「しんっこうっのみちにはいるには、きまりごとをいっぱいおぼえなきゃいけないよ!! それをおぼえたら、このばっじをあげるよ!!」 Yまりさが取り出したのは、 自分が頭につけているのと同じY字型の飾りだった。 「このばっじをつければ、ゆっくりきょうのいちいんだよ! ゆっくりぷれいすにいれてあげるからね!!」 歓声をあげる群れに、Yまりさは一冊の本を取り出して言った。 「それじゃ、これからゆっくりきょうのおきてをおしえるからゆっくりおぼえてね!!」 「ゆゆぅ!!ゆっくりおぼえるよぉ!!」 「すーりすーり♪すーりすーり♪」 「ゆっくりはゆっくりできません!!」 「ゆっ?」 不思議そうに小首をかしげるゆっくり達に、Yまりさは怒鳴った。 「ゆっくりふくしょうしてね!! ゆっくりはゆっくりできません!!」 「どぼじでぞんなごどいうのおおぉぉ!!?ゆっくりできるよぉ!?」 「ゆっくりだまってね!! さからうならゆっくりきょうにははいれないよ!! おねえさんにすーりすーりしてもらえないよ!!」 「ゆゆうぅぅ!?」 「ふくしょうしてね!! ゆっくりはゆっくりできません!!」 「「「ゆ……ゆっくりはゆっくりできません!!」」」 お姉さんに触りたい一心で群れは復唱する。 「このよのすべてのいきものは、 どんないきものでもゆっくりできます!!」 「「「ゆっくりできます!!」」」 「けれど、ゆっくりだけはゆっくりできません!!」 「ゆゆゆぅぅぅ!?」 「ふくしょうしてね!!」 「「「ゆっくりだけはゆっくりできませんん!!」」」 「ゆっくりは、なんのやくにもたたないごみくずです!!」 「「「……ごみくずですぅ!!」」」 「このよでいちばんゆっくりできるのはにんげんさんです!!」 「「「にんげんさんです!!」」」 ちがうでしょおおおおぉぉぉ!!? 親れいむはそう叫びたくて仕方がなかった。 しかし、以前にY飾り達にリンチを受けた体験を思い出し、 逆らうのは思いとどまった。 何より、あのお姉さんたちがゆっくりできるのは確かだった。 掟は続く。 「やさしいにんげんさんは、 ゆっくりがゆっくりできるいきものになれるようにみちびいてくれます!!」 「「「みちびいてくれます!!」」」 「ごみくずのゆっくりにてをさしのべてくれるにんげんさんにかんしゃして、 にんげんさんがゆっくりできるように、にんげんさんのいうことをきくこと!!」 「「「いうことをきくこと!!」」」 「そうすれば、にんげんさんがゆっくりをゆっくりさせてくれます!! それが、ゆっくりがゆっくりするゆいいつのほうほうです!!」 「「「ゆいいつのほうほうです!!」」」 最後に、Yまりさは一際声を張り上げて締めた。 「にんげんさんのどれいになることがゆっくりのゆっくりです!!!」 「「「ゆっくりのゆっくりです!!!」」」 「きょうおしえるのはこれだけだよ!!ゆっくりおぼえていってね!!」 「ゆ、ゆ、おかしいわ!」 不平を鳴らしたのは参謀役のぱちゅりーだった。 「なにがおかしいの?」 Yまりさがじりじりと詰め寄りながら聞き返す。 ぶるぶると震えながら、ぱちゅりーはそれでも答えた。 「ゆ、ゆ、でも、でも、にんげんさんはひどいことをするわ! おやさいさんをひとりじめしたり……」 「おやさいさんはにんげんさんがそだててるんだよぉ!!!」 凄い剣幕でYまりさが怒鳴った。 「にんげんさんのおやさいをたべたの!?」 「ぱ、ぱちゅりーはたべてないわ……」 「ほんとう!?たべてたらこのばでつぶしてるよ!!」 その剣幕におののき、 群れの中の、畑に侵入した前科のあるゆっくりも黙り込んでしまう。 「にんげんさんがそだてたおやさいをぬすむゆっくりはゆっくりできないよ!!」 「お、おやさいはかってにはえて……」 「ぱちゅりぃぃぃ!!そんなこともしらないでもりのけんじゃなのおおぉ!?」 涙を一筋こぼし、ぱちゅりーは口をつぐむ。 子めーりんに負けて以来、ぱちゅりーは自分の知識に全く自信が持てなくなっていた。 「ゆゆぅ……でも……」 群れの中から、れいむ種の反論がさらに出てくる。 これほど自信を失い、これほど強い相手を前にしても、 人間が一番ゆっくりでき、ゆっくりはその奴隷になるべきだという理屈は、 ゆっくり達にとって到底すんなり受け入れられるものではなかった。 「おうたをうたってあげても、 にんげんさんはおれいをしてくれなかったよ……」 「おうたぁ!?」 Yまりさが向きなおって怒鳴る。 「おうたって、まさかあれのこと!? ゆーゆーうめいてるだけの、あのひどいざつおんのこと!?」 「…………!!」 群れのれいむの脳裏に、テストの時の屈辱が甦る。 「そんなものをにんげんさんにきかせたのおおぉぉ!!? そのせいでにんげんさんはゆっくりできなかったんだよ!! おれいってなんなのおぉ!?ごみくず!!おまえがおわびするんだよ!!」 「……ゆ、ゆ………ごべんなざいぃ……」 反論したれいむは泣きながらうなだれた。 その後も弱々しい反論が群れから発せられたが、 そのどれもが、Yまりさの激しい叱責で切って捨てられた。 「にんげんさんがよこどりするうぅぅ!!? ぜんぶにんげんさんのものなんだよ!! このせかいのなかで、ごみくずのものなんかどこにもないんだよおぉ!! にんげんさんがおめぐみしてくれるものだけがゆっくりのものだよ!!」 「ゆぐぐぐぐぅぅ………」 「わかったらおきてをおぼえてね!! ゆっくりはゆっくりできません!!」 「「「ゆっくりはゆっくりできませええん!!」」」 その日は、その掟を何度も何度も復唱させられた。 それでも最後まで暗記できた者はいなかった。 暗記できるまで練習するよう命じると、 本を投げてよこし、Yまりさはゆっくりプレイスに帰っていった。 その大きくて薄い本には、先ほどの掟が簡単なひらがなで書いてあった。 字の読めるゆっくりがそれを手に取り、 群れといっしょに音読しはじめた。 ゆっくりの本能に抗うその掟は到底受け入れ難いものだったが、 お姉さんとすりすりしたい、ただその事のために、 他にやることもない無聊も手伝い、ゆっくり達は掟を繰り返し続けた。 無心でそれを繰り返していれば、少なくとも現状のみじめさを忘れることはできた。 ゆっくりはゆっくりできません このよのすべてのいきものは どんないきものでもゆっくりできます けれど、ゆっくりだけはゆっくりできません ゆっくりは、なんのやくにもたたないごみくずです このよでいちばんゆっくりできるのはにんげんさんです やさしいにんげんさんは ゆっくりがゆっくりできるいきものになれるようにみちびいてくれます ごみくずのゆっくりにてをさしのべてくれるにんげんさんにかんしゃして にんげんさんがゆっくりできるように、にんげんさんのいうことをきくこと そうすれば、にんげんさんがゆっくりをゆっくりさせてくれます それが、ゆっくりがゆっくりするゆいいつのほうほうです にんげんさんのどれいになることがゆっくりのゆっくりです 一番覚えのよかった一匹のまりさ種が、丸一日かかって暗記した。 翌日、Yまりさの前で、そのまりさは掟を暗唱した。 「ゆ!!ごみくずなりによくおぼえたね!!」 「まりさはがんばったんだぜ!!すーりすーりするんだぜ!!」 「このぐらいでみとめられるとおもわないでねえぇぇ!!」 怒鳴られ、委縮するまりさ。 しかしその時、人間の声がかかってきた。 扉を開けてやってきたのはお姉さんだった。 お姉さんはまりさを見下ろして笑った。 「よく覚えたわね。偉いわよ、まりさ」 「ゆゆゆゆううぅぅ!!!」 感極まってぶるぶると震え、目をきらきら輝かせるまりさ。 「ご褒美をあげるわ。ほら、撫でてあげる」 「ゆ!!おねえさん!!すーりすーり!!すーりすーりしてええぇぇ!!!」 まりさの薄汚れた頬にお姉さんの手が触れ、優しく撫ぜた。 「ゆっ……………くりいいぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~………!!!」 あひる口で涙と涎を垂らし、頬を紅潮させて震えながらうれちーちーを漏らすまりさ。 恐らくは生涯最高にゆっくりできているだろうその表情が、群れの羨望をかきたてる。 「はい、おしまい」 「ゆゆうううぅぅぅ!!?もっと!!もっとすーりすーりいぃぃ!!」 「だーめ。もっと頑張ったらまたやってあげるわね」 そのまま立ち上がり、お姉さんは扉の向こうへ消えていってしまった。 群れは泣きながら追いすがり、すーりすーりを懇願したが、 Yまりさの怒鳴り声に追い返された。 あのまりさだけが、いまだに余韻にひたってうれちーちーを漏らし続けていた。 何日もかかって群れのゆっくり達は最初の掟を覚え、 お姉さんからご褒美のすーりすーりを受けて、その快感に魅せられた。 掟はそれだけではなく、 それから数多くの掟を教えられた。 にんげんさんにさからってはいけません ゆっくりはみにくいいきものです てとあしがないのはみっともないことです ゆっくりはよわいいきものです にんげんさんがまもってくれるおかげでいきていけます ゆっくりはよくぶかい、あさましいいきものです にんげんさんにしどうしてもらいましょう 反発したいもの、意味がよく掴めないものが多かったが、 お姉さんのご褒美をもらいたいというそのためだけに、 群れのゆっくり達は必死に覚え続けた。 通常のゆっくりでは、それらのすべてを暗記することは不可能だったが、 それでも掟は少しずつゆっくり達の無意識に浸透していった。 たとえ心で反発していても、口に出して音読しているうちに抵抗が薄れていく。 なにより、あのすーりすーりへの燃えるような渇望が、 ゆっくり達から思考能力を奪っていた。 「このせかいは、かみさまがつくったんだよ。 いぬさんもおはなさんももりさんもうみさんも、ぜんぶかみさまがつくったんだよ。 かみさまはさいごに、じぶんににせたいきものをつくって、 このせかいをかんりするやくめをあたえたんだよ。 それがにんげんさんだよ」 Yまりさは群れに講義していた。 「かみさまはいろんないきものさんをつくったけど、 つくったものには、わるいところがすこしずつあったよ。 そのわるいところを、かみさまはていねいにとりのぞいたよ。 いろんないきものさんのわるいところを、ちぎってまとめてすてたんだけど、 そのわるいくずがあつまって、ひとつのいきものになっちゃったよ。 それがゆっくりだよ」 群れの中から、かすかに嗚咽が漏れてくる。 その頃になると、群れのゆっくり達は素直にYまりさの教えに耳を傾けていた。 「にんげんさんは、ぜんちぜんのうのそんざいなんだよ。 にんげんさんにはなにもかもわかってるし、 ゆっくりたちがなにをしてるか、ぜんぶおみとおしなんだよ」 ゆうぅぅ、という嘆息が群れから上がった。 「ゆっくりがゆっくりできているかどうかは、 にんげんさんがぜんぶおしえてくれるよ。 まよったときは、にんげんさんにおしえてもらってね。 ゆっくりできることをしていたら、にんげんさんはゆるしてくれるし、 ゆっくりできないことをしていたら、にんげんさんがばつをあたえてくれるよ」 Yまりさは一旦言葉を切り、群れを見回した。 そして頷きながら続ける。 「それはとてもありがたいことなんだよ。 ばつをあたえてもらえば、ゆっくりははんせいできるよ。 そうすればもっとゆっくりできるようになれるよ。 でも、にんげんさんのばつで、ゆっくりがころされることもあるよ」 再び言葉を切り、間を置いてからYまりさは強い口調で続けた。 「それも、すごくありがたいことだよ!! ゆっくりできないゆっくりは、 ころしてもらうことで、もうだれにもめいわくをかけずにすむよ。 そして、にんげんさんのばつをあたえてもらってしぬことで、 じごくへいかずにすむんだよ!」 「ゆゆっ?」 「じごくってなに?」 群れの中から質問が上がり、Yまりさはそれに答えた。 「じごくっていうのは、とってもとってもゆっくりできないところだよ。 にんげんさんのためにはたらいたゆっくりは、 えいえんにゆっくりしたあと、おそらへいくよ。 だけど、わるいことをしたゆっくりは、 おそらへいけないで、じごくへいくんだよ。 じごくでは、ずっとずっと、いたくてくるしくてゆっくりできないことをされるよ。 じごくにおちたゆっくりは、にどとしねないよ。 えいえんに、ずっと、ずっと、ずっとずっとくるしみつづけるんだよ。 えいえんにくるしくて、えいえんにゆっくりできないんだよ」 「ゆゆゆうううううぅぅぅぅ!!!」 群れのゆっくり達が恐怖の叫びを上げる。 Yまりさは満足げに見回して続けた。 「みんな、じごくへいきたい?」 「いぎだぐないでずううぅぅ!!」 「いやあぁぁ!!じごくいやああぁぁ!!」 「そうだよね。だから、ゆっくりできるゆっくりにならなきゃいけないよ。 にんげんさんのいうことをよくきいて、にんげんさんのためにはたらこうね。 そうすれば、おそらでゆっくりできるようになるよ。 それに、わるいことをしたとしても、 にんげんさんにばつをあたえてもらってしねば、 わるいことはゆるしてもらえて、やっぱりおそらでゆっくりできるよ。 みんな、よくおぼえてね!!にんげんさんにかんしゃしようね!!」 「はいいぃぃ!!」 「…………そんなに面白いか?自分でやっといて」 「あははははは、あははは、ははは、あっははははははは!」 「まさか宗教なんてものを持ち出すとはな」 「あははは、あのね、人間だってそうだけど、群れをまとめるには宗教が一番なの。 神様に天使、自分たちより上の存在が決めたルールならみんな素直に従うでしょ。 でも人間の場合、問題は、神様も天使もいないこと。 だから信仰心に頼るしかなくて、結局ルールとしては不安定になるよね。 でも、ゆっくりには、本物がいるんだからね。 人間がなってやればいいんだからさ、その、天使に、ぷはっ! あは、あはははは、天使だって、あっはははは、ひい」 「君が笑っているのはゆっくりか?」 「ははははははは、あは、あは、うひっひっひ、あはははは」 「それとも人間のほうか?」 毎日、群れのゆっくり達はY飾り達の講義を受けた。 他にやることもない状況下、 皆が「ゆっくり教」の教えを理解し、覚えることに全霊をかたむけた。 定期的に、お姉さんの立ち会いのもとにテストが行われた。 暗記を要求されたのは一番最初の掟だけで、 それだけは毎回テストの最初に暗唱させられたが、 それ以外の教えについては、一問一答の形で試された。 ゆっくりできないこと、人間に対してやってはいけないこと、 様々な設問を受け、群れのゆっくり達が答える。 素早く答えられたものには、お姉さんがすーりすーりをしてくれた。 ゆっくりプレイス内のガラス近くに、外側に向けて大画面のテレビジョンが設置され、 ガラス越しにビデオを見せられた。 そのビデオを通して、ゆっくり達は毎日ゆっくりの悪行を見せつけられた。 人家に侵入し、中のものをひっくり返して汚すゆっくり達。 街中で人々にあまあまを要求するゆっくり達。 歌を歌い、おひねりを要求するゆっくり達。 ゴミ箱をあさり、通路にゴミをまき散らすゆっくり達。 そうしたゆっくり達の騒音や通行妨害に迷惑をこうむる者たちの声が、 市民、公務員、飼いゆっくり、さまざまな立場から語られる。 農家で野菜の栽培を生業とする人々が映され、 農業にかかる膨大な手間が詳細にわたって解説される。 その営みの苦労、それを乗り越えてもたらされる収穫の喜びに、 群れのゆっくり達が感動を覚え始めた頃、 「おやさいはかってにはえてくるんだよ!」を合言葉に畑に侵入するゆっくりが映される。 ゆっくりによって荒らされる畑、その害に苦しむ農家の声がたっぷりと流れる。 「とかいはなあい」と称して、飼いれいむを強姦する野良ありす。 犯し殺されたれいむの家族、そして飼い主の悲しむ姿が延々と映される。 レイパーありすの強姦から、人間の手当によって運よく生き延びた大勢のゆっくりが、 レイパーに対する恨みつらみと憎悪を激しい口調で並べ立てる。 ドスまりさが人間の村を訪れ、「きょうてい」を要求する映像。 ドススパークを盾に一方的な不平等条約を結ばされ、 村の糧を奪われて汲々とする村人たちの苦しみが、 特別貧乏な一家の子供たちを中心に描かれる。 自分たちがそれまで思ってもみなかった視点から描かれるゆっくり像に、 多くのゆっくり達が悔悟に苦しみ、自省の涙にくれた。 自分たちのことを憎々しげに語る大勢の人々の声は、自尊心を錐のように貫いた。 特に、ありす種の打ちひしがれようは激しかった。 レイパー被害のビデオを見せられたありす達は、 静かな、しかし激しい涙にくれ、その日は一睡もしなかった。 それ以後どこか卑屈になり、こそこそと群れの後ろのほうに隠れるようになった。 「ずいぶんと素直なんだな。ゆっくりに罪悪感があったのか」 「ゆー水で人間に依存させてるのが大きいんだけどね。 あのね、はっきり言うけどさ、ゆっくりって平和主義なんだよ。 人間から見れば唯我独尊の極致に見えるけど、 自分たちの可愛さで他の生き物をゆっくりさせてあげてるって本気で思ってるの。 レイパーにしたって、「とかいはなあい」で相手が幸せになるって本気で信じてる。 つまり、無償の愛で周囲に奉仕しているつもりでいるんだよ、ゆっくり達は。 実情はどうあれ、平和を愛するという点では人間以上みたいだよ」 「俺の子供を殺したのも平和を愛するからだっていうのか?」 「それ飛躍。あの十三匹はゲス素材を限界までつけ上がらせた個体で、 例としては極端すぎるね、根っこは同じだけど。 でもまあ、ゆっくりが一番偉いっていう自尊心の強さ、ふてぶてしさは、 自分たちが世界に奉仕しているという誇りに支えられてるわけね。 多いよね、人間にも。そういう人」 「まあ……そうだな」 「というわけで、そこを崩してやる。 理屈で言い聞かせたって、普通ゆっくりの頭じゃすんなりとは理解できないから、 物量作戦で、とにかく大勢の声を浴びせてやります。 ゆっくりを嫌っている、迷惑を被っている人たちを、映像として突きつけてやる。 その事実を突きつけられれば、ゆっくりのアイデンティティはガタガタってわけね。 自尊心を壊されたゆっくりは悲惨だよ~」 群れのゆっくり達は、いよいよ口数が少なくなり、 ゆっくり教の教えを復習する以外は、 うなだれ、うつろな暗い目でただただ地面を見つめて暮らすようになった。 自分たちが他の生き物たちをゆっくりさせている。 そう思えばこそ、ゆっくり達は堂々と生き、ゆっくりしてこれていた。 しかし、害獣として疎まれ憎まれている現状を知らされた今、 世界のどこに行っても憎まれ追い返され、迫害されるという不安感に苛まれた。 これまで、愛されているという確信のもとにゆっくりしてきたゆっくり達にとって、 世界中に憎悪されるというストレスはきりきりと精神を苛んだ。 そんなゆっくり達がしがみついたのは、ゆっくり教の教義だった。 最初の頃は、暴力を振るわれるのが怖さに、 そしてお姉さんにすーりすーりしてもらうために機械的に従っていたが、 いまでは心底からゆっくり教の教えを求め、理解しようとしていた。 打ち崩されたゆっくりの誇りと存在意義を、教義は新たに与えてくれた。 このよでいちばんゆっくりできるのはにんげんさんです やさしいにんげんさんは ゆっくりがゆっくりできるいきものになれるようにみちびいてくれます ごみくずのゆっくりにてをさしのべてくれるにんげんさんにかんしゃして にんげんさんがゆっくりできるように、にんげんさんのいうことをきくこと そうすれば、にんげんさんがゆっくりをゆっくりさせてくれます それが、ゆっくりがゆっくりするゆいいつのほうほうです にんげんさんのどれいになることがゆっくりのゆっくりです 「しかし、ずいぶんと手間をかけるんだな」 「ん。た~っぷりとね。最低一年はかけたいね」 「俺が当初予定した計画より、だいぶ回りくどくなったようだ」 「これはね、圭一さん。もう圭一さん個人の復讐じゃないよ。 このゆっくり達への制裁でもない。 あたしたちが今やってるのは、 現在から未来にいたるまでの、全てのゆっくりの洗脳なんだからね。 じっくり丁寧にやらなくっちゃなのよ」 続く
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【クーデター発生】国籍法一部改正で日本終了 1~3 http //jp.youtube.com/user/SakuraSoTV の【日本炎上】アニメもネットも終了?国籍法一部改正のクーデター?! ttp //jp.youtube.com/watch?v=WfLfutS9PKw ttp //jp.youtube.com/watch?v=VIyqySjcYtY ttp //jp.youtube.com/watch?v=E0E58EsYw6g 18日(火)13時に本会議採決が行われることが決定された。 しかし、委員会で採択されてない法案が、いきなり本会議で採決されるのは2・26事件以来のクーデターと言える出来事だと言う。 14日(金)、突然国籍法改正法案が委員会に提出され、採択される予定だったが、一般質問が出て保留になった。 つまり参加した河野太郎をはじめとする国会議員は全員採択するつもりでいた。 通常は採択されるまで国会で審議されることはないが、委員会を無視して国会で審議することになった。 麻生首相が不在の間に、影の支配者(池田大作)が法律を制定しようとしている。 麻生首相がアメリカに発った途端に、国籍法が改正される。 国会議員は自分の選挙準備に一生懸命で 公務員はばら撒きの準備に忙しくて手が回らない時に、日本を転覆させる法案提出。 この手口はアメリカの銀行法が作られたときと同じ。 クリスマス休みで誰もいないときに残った数人が勝手に採決した。 この法律は、日本国籍を持つたった一人が何百人もの外国人に日本国籍を与えることができると言うもの。 2兆円ばら撒きより先にこれが施行されると、中国人・インド人40億人に対して一人1万2千円を支払うことになるかもしれない。 2兆円の予定が80兆円になるわけです。 しかもそれは1回のばら撒きに限った話。 日本国籍を持つので、それが子供なら生活保護を受けることができる。 学校教育も日本の税金で受けられる。 日本人は、国民より多くの人間をただで養ってやらなければならなくなるかもしれない。 日本で生活保護の支給対象になる子を外国から仕入れ続ければ、一生生活保護を受け続けられる。 その子が大人になれば同じことを繰り返し、ねずみ算的に増殖し、日本人の遺伝子は駆逐される。 しかも日本は人身売買の世界一の加害国として国連から軍事介入を受けることになるかもしれない。 2005年4月7日(木)放送 偽装認知 ~不法滞在 新たな手口~ 急増する外国人犯罪。去年は過去最悪の4万7千件を超えた。 その6割近くが不法滞在者による犯行である。そんな中、主に 中国人犯罪者の間で、「偽装認知」という不法滞在の新たな手 口が広まっている。中国人同士の子供を、謝礼と引き替えに日 本人に「認知」させ、子供に偽の日本国籍を取得させることで、 母親自身も不法滞在から合法滞在に変えさせる手口である。プ ライバシーや人権擁護の観点から、現状では当事者が秘密の暴 露をしない限り、「認知」の真偽は、入管や警察当局にも、殆 ど見破ることが出来ない。今回NHKでは、独自の取材からそ の巧妙な手口を解き明かし、福建省や日本に急増している偽の 日本国籍を持った子供の実態を交えながら、日本の特殊な制度 の盲点と今後の対応策を探っていく。 (NO.2062) スタジオ出演 : 橋口 和人 (NHK社会部・記者) http //www.nhk.or.jp/gendai/kiroku2005/0504-1.html 1/4 【日中】偽装認知 ~不法滞在 新たな手口~犯罪組織の温床[04/07] http //www.nhk.or.jp/gendai/kiroku2005/0504-1.html http //news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1112890173/ 偽装認知 ~不法滞在 新たな手口~ 主に中国人犯罪者の間で、「偽装認知」という不法滞在の新たな 手口が広まっている。中国人同士の子供を、謝礼と引き替えに日 本人に「認知」させ、子供に偽の日本国籍を取得させることで、 母親自身も不法滞在から合法滞在に変えさせる手口である。プラ イバシーや人権擁護の観点から、現状では当事者が秘密の暴露を しない限り、「認知」の真偽は、入管や警察当局にも、殆ど見破 ることが出来ない。(放送予告文より) 以下、主な放送内容要約。(記者φの文章です。) 胎児認知という方法で、日本人の父親として届け出でる。 自治体は、認知届けをその場で受理。 母親(中国人)は子供の養育を理由に、在留特別許可を得る。 医療費、児童手当を受給。 その後、日本国籍取得を目指す。 中国人犯罪組織では、すでに常識となっている。 2/4 中国人同士の子に日本籍 出産直前、日本人と偽装結婚 2008年10月27日(月)03 02 中国人の女が、同居する中国人の男との間にもうけた男児を出産する直前、日本人の男と 偽装結婚し、生まれてきた男児に日本国籍を取得させていたことが警視庁の調べでわかった。 同庁は、子供に日本国籍を与えることで、自分も日本で働き続けるのが目的だったとみている。 男児は現在、中国で暮らしている。中国の事情に詳しい同庁の捜査員は「同じような経緯で 日本国籍を得た子供が中国国内に確認されている。具体的な数はわからないが多数だ」と 証言する。今回、明らかになったケースは氷山の一角とみられ、偽装結婚をめぐる新たな 問題が明らかになった形だ。 http //news.goo.ne.jp/article/asahi/nation/K2008102601690.html 偽の婚姻届で子に日本国籍取得 中国人女が出産直前に 2008年10月27日(月)10 58 日本人の男と偽装結婚したとして逮捕された中国人の女が、子供を出産する直前に 偽の婚姻届を出し、中国人の男との間にできた子供に日本国籍を取得させていたことが 27日、警視庁組織犯罪対策1課の調べで分かった。同課は子供に日本国籍を取得させ ることで、日本で滞在や就労を続ける目的だったとみている。同課によると、女は 大学生の姜欣欣被告(27)。長野県の男との偽の婚姻届を出したとして、今年9月に 逮捕された。 http //news.goo.ne.jp/article/kyodo/nation/CO2008102701000190.html?C=S 3/4 不法滞在、新たな手口 中国人胎児を偽装認知 埼玉2人逮捕 日本人に謝礼30万円 URL http //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040806-00000000-san-soci 日本人の男に胎児を認知してもらい、生まれてきた子供に日本国籍を取って 自分も日本での長期滞在資格を取得しようとした中国人の女が、公正証書 原本不実記載・同行使の疑いで埼玉県警に逮捕されていたことが五日、 分かった。日本滞在資格を得るための新たな手口で、同県警によると、 このような摘発は全国で初めて。県警は背後に中国人犯罪組織が関与して いる可能性もあるとみて、二人を仲介した中国人の男の行方を追っている。 県警国際捜査課と鴻巣署に逮捕されたのは、東京都北区の無職、中国籍、 林玲容疑者(二七)と、胎児を認知した埼玉県新座市の無職、田中和人 容疑者(五七)。 調べによると、林容疑者は約五年前に来日し、不法滞在期間に入っていた 昨年、同居していた中国人男性の子供を妊娠。昨年十月、田中容疑者と一緒 に埼玉・川口市役所を訪れて、胎児を田中容疑者の子供と装って虚偽の 認知届を提出した疑い。 両容疑者は東京都新宿区の自称貿易商の中国人の男(五三)の仲介で知り 合い、田中容疑者は胎児を認知後、林容疑者から謝礼として三十万円を受け 取った。両容疑者は容疑を認めているという。 自称貿易商の中国人は中国に逃亡したとみられるが、同県警はこの中国人が 胎児の偽装認知を十件以上仲介したとみて全容解明を進めている。 http //news17.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1091754858/ 4/4 偽装国籍取得 謝礼の相場100万円 胎児認知 5、6年前から横行 http //www.sankei.co.jp/news/morning/07na1002.htm 中国人らによる偽装国籍取得事件で、同じ中国人との間にできた胎児を 日本人男性に認知してもらい、中国人女性が「日本人の母親」となる日本 滞在資格の不法取得の手口は五、六年前から横行し、日本人男性への謝礼 の相場が百万円に上ることが六日、関係者の証言で分かった。 埼玉県警の調べや関係者によると、日本人男性を使った胎児認知は、 偽装国籍取得に向けた第一段階。女性は出産後、日本国籍を取得した 子供と一緒に入国管理局に出頭し、「日本人(子供)の親権者」として 在留特別許可を求める嘆願書を提出。嘆願書が受け入れられると、女性に 長期滞在許可がおり、数回の更新を経て五年後に永住ビザへの道が開ける。 永住ビザ取得後、中国人男性(実の父親)と結婚すれば、中国人男性が 「永住者の配偶者」として在留特別許可を求める嘆願書を提出できる。 子供が小学校に入るころには、家族そろって、“合法的に日本で暮らせる” という。これらの手続きは、行政書士に頼ることが多く、東京都内の複数 の行政書士によると、中国人がからんだこの手の認知手続き代行依頼は 五、六年前からあった。胎児を認知する日本人男性への謝礼の相場は百万円。 「埼玉での事件の謝礼が三十万円だったのは、手続き途中で摘発されたから だろう」(行政書士)という。 http //news13.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1091833595/ 1/2 【社会】国籍法改正案審議入り 不正認知横行の懸念も 独逸で悪用例 未婚の日本人の父と外国人の母の間に生まれ、出生後に認知された子の 日本国籍取得要件から「婚姻」を外す国籍法改正案は14日、衆院法務委員会で 趣旨説明が行われ、審議入りした。自民、民主両党は同法案を30日の会期末までに 成立させる方針で合意し、18日の衆院法務委で可決後、同日の本会議で賛成多数で 衆院を通過する見通しだ。だが、偽装認知などダークビジネスの温床になるとの 懸念が出ている。 「最高裁に現状は違憲だといわれたから改正案を出した。それでどうなるかは、 法律が施行されないと分からない。犯罪者はいろんな方法を考えるから…」 政府筋はこう述べ、法案の危うさを暗に認める。 現行国籍法は、未婚の日本人男性と外国人女性の間に生まれた子供(婚外子、20歳未満) が出生前に認知されなかった場合、国籍取得には「出生後の認知」と「父母の婚姻」を 要件としている。ところが今年6月、この婚姻要件が最高裁判決で違憲とされ、 「違憲状態を一刻も早く解消したい」(森英介法相)として改正案がつくられた。 改正案は、両親が結婚していなくても出生後に父親が認知すれば、届け出によって 日本国籍を取得できるようにした。また、虚偽の届け出には罰則(1年以下の懲役または 20万円以下の罰金)を新設した。 改正案は今月4日に閣議決定されたが、次期衆院選の準備に忙しかった衆院議員らに とって、「ほとんどの人が法案の中身を知らない」(自民党議員)まま手続きが進んだ という。(続く) ▽産経ニュース http //sankei.jp.msn.com/politics/situation/081115/stt0811150054000-n1.htm ▽関連ニュース(NHKニュース) http //www.nhk.or.jp/news/k10015336431000.html 2/2 【社会】国籍法改正案審議入り 不正認知横行の懸念も 独逸で悪用例 しかし、最近、保守系議員らから「生活に困った日本人男性と、子供に 日本国籍を取得させたい外国人女性を対象とした不正認知の斡旋(あっせん) ビジネスが横行する」「罰則が緩い」-との批判が強まってきた。 自民党の国会議員32人は14日、衆院の山本幸三法務委員長らに対し、 「国民の不安が払拭(ふっしょく)されるまで、徹底的な審議を求める」として 慎重審議を申し入れた。また超党派の有志議員らも、17日に国会内で緊急集会を 開き、同法案の問題点を検証することを決めた。 国会図書館によるとドイツでは1998年、父親の認知と母親の同意だけで 国籍を取得できるようにしたが、これが悪用された。滞在許可期限が切れた 外国人女性が、ドイツ国籍のホームレスにカネを払い、自分の子供を認知してもらって ドイツ国籍を取得させ、それにより、自分のドイツ滞在も可能にする-などの事例が みられた。 このため今年3月、父子間に社会的・家族的関係がないのに認知によって子や母親の 入国・滞在が認められているケースに限り、認知無効を求める権利が、管轄官庁に 与えられた。 (おわり) 【政治】 国籍法改正案、有志議員が慎重審議の申し入れ 国籍法改正案への懸念の広がりを受け、自民党の赤池誠章衆院議員ら 有志議員32人は14日、衆院の山本幸三法務委員長らに対し、「国民の 不安が払拭(ふっしょく)されるまで、徹底的な審議を求める」など として慎重審議を申し入れた。また超党派の有志議員らも、17日に 国会内で緊急集会を開き、同法案の問題点を検証することを決めた。 http //headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081114-00000605-san-pol 1/2 「はは!またメールしてください~かよw国籍法改悪?俺には関係ね~っつーの!」 何時ものように2chでネトウヨの書き込みを見て笑っていた。 私はそんな事おきるわけ無いって漠然ながら思ってたし、疑う事も無かった だけどまさかこんな事に・・・ 中国に乗っ取られたイタリア、これが日本の未来です。 ↓ http //www.1101.com/francorossi/2007-04-17.html 「フランコさんのイタリア通信。アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。」の20070417 これからのミラノ、これからの中国。 4月12日の朝のことでした、ミラノの街の一画で、10枚ほどの赤い旗が風にはためき、 道路には100人ほどの中国系の人々が、警察と闘いを繰広げていました。 いつもと同じ朝のはずなのに、道の真ん中では車がひっくり返っており、 こん棒と盾を装備した警察隊がそこに居ました。まるで、イタリアに対しての、いやミラノに対する 民衆の蜂起が起こっているかのような混沌が、そこにありました。 ミラノはイタリアで一番の産業都市であり、この国の商業的なモーターとも言える存在です。 そして世界の他の大都市同様に、ミラノにも「チャイナタウン」があります。 中国移民たちが管理運営している一画で、彼らは最近10年ほどのうちに、商店や住居アパート、 革製品の小さな工場、靴の製造所、レストランなどを買い取っていきました。 10年前まで、ミラノ市民は中国系の人々を快く受け入れていました。 その後、中国からの荒々しいまでの移民がありました。 かれらは100人、1000人と大挙して、それぞれに兄弟姉妹や、 あらゆる「親戚」を連れて到着しました。 こうするうちに、ミラノにおける中国語は、イタリア語の次に多く使われる言語となっていました。 金銭を生み出すあらゆる現場には、連盟や結社ができるものです。 お互いの有利を計り、守りあう仲間ですね。 中国系移民の中小企業も結束しました。 まもなく多くのイタリア人が、彼らを「上海マフィア」と呼ぶようになりました。 2/2 4月12日の朝、警察は、中国人の商人たちが イタリアの法律を守っているかどうかを確かめるために、 書類や税金の支払いを調べようとしていました。 多くの違法がみつかりました。そして警察が商人や店主らに罰金を科せようとした時、 ミラノのチャイナタウンの中心地であるパオロ・サルピ通りのアパートから、 何百人もの中国人たちが何の前ぶれも無く突然姿を現したそうです。 警察官たちは取り囲まれ、数人の中国人が道路を塞ぐために車をひっくり返し、それから騒乱が始まりました。 ミラノでは、イタリア人と外国人の間でこうした騒乱が起きたことは、今までありません。 警察はこん棒を使い始め、ひとりの中国人女性が殴られて取り押さえられると、 中国人たちの反応は荒っぽさを極めました。 中国の赤い旗が10枚ほどひるがえり、この騒ぎによって、 チャイナタウン全体とその周辺の交通が、数時間にわたってマヒしました。 夕方ごろ、中国の領事が介入し、彼はイタリア警察が乱暴を働いたとして 公式に非難しましたが、それに続けて、中国人たちに、家なり店なり、 バッグや靴を作る仕事場なりに、戻るように頼みました。 ミラノは最近、アフリカやイスラム系の人びとの暴動を恐れていたのですが、 そうではないところから騒動が起きてしまいました。 この先10年ほどで、中国は世界一の大国になるかもしれません。 勢力が増すに従って、こうした騒動の可能性も増えていくのが 人間社会の常だとして、それを心配するイタリア人も多くいます。 世界情勢は刻々と変化しており、ミラノという大都市が、 それに無縁でいられるとは思えませんから。 今回の出来事を見て、「これからのミラノ」が、もう始まっているのかなと、ぼくは思ったのでした。 1/2 既に、偽装結婚を使った「日本国籍付与ビジネス」がある。 DNA 鑑定と扶養義務がなければ、日本国籍を無尽蔵に作り出せる。 偽装パスポートを作るコストなど、不要だ。 最も恐ろしいのは、在日や不法滞在者と違い 参政権をもった奴らが増えるのだということ。 事実上、外国人参政権を認めるようなものだと俺は思っている。 (1)は血縁関係で合法でもそれ以降のネズミ算式には変わらない。 20歳までの子供を認知可能。 (1) 日本人 金子が「俺の子です」と言えば、その子は日本人になる。 (2) 母親 黄 には在留許可。 (3) 8ヵ月後には母親 黄 も日本人。 (4) 日本人になった母親 黄と、中国人男 陳が結婚。 (5) 中国人男 陳に在留許可。 (6) 8ヵ月後には日本人。 (7) そして、母親 黄 と 父親 陳 が離婚。母親 黄は、生活保護 (8) 独身になった 陳は★「中国にいる本当の自分の大勢の子供を認知する」★→(1)に戻る ↓ 中国マフィアの新しいビジネス (1) 日本人 陳が「俺の子です」と言えば、その子は日本人になる。 偽装認知で中国人ら逮捕 在留資格の取得図る ttp //www.47news.jp/CN/200408/CN2004080601001312.html 県警によると、在留資格のために胎児認知を利用した手口の摘発は全国初。ともに 容疑を認めているという。 調べでは、林容疑者は不法残留していた昨年、 中国人男性(35)の子供を妊娠。子供の日本国籍を取得し自分も在留資格を得るため、 昨年10月28日、田中容疑者と埼玉県川口市役所を訪れ、同容疑者の子供と偽り胎児 認知届を提出した疑い。 さらに生まれた男児の出生届を提出し今年2月2日、 田中容疑者の子供として千葉県習志野市役所で戸籍に虚偽の記載をさせた疑い。 2/2 ① 不法滞在者_____不法滞在者 | 胎児←認知←日本人 ↓ 胎児が日本人に認知されることによって日本国籍になる ② 不法滞在者_____子供が日本国籍なので在留特別許可者になる | 日本国籍の胎児 ③ 配偶者が在留特別許可者なので在留特別許可者になる_____在留特別許可者 | 日本国籍の胎児 ④ 日本国籍の不法滞在者_____日本国籍の不法滞在者 | 日本国籍の胎児 ⑤ 日本人_____日本人 | 日本人 17日に採択される可能性のある国籍法改正案は日本国籍を20万で販売する悪法 国籍法改正案は在日のためにも、日本人のためにもならない 【用語解説】国籍法 国籍法は日本国籍の取得、喪失などについて定めた法律で、日本人と外国人の間の子供 について(1)出生前に父母が結婚(2)母が日本人(3)未婚の日本人の父が出生前に 認知-の条件で、国籍取得を認めている。一方、最高裁大法廷は今年6月4日、「父母の 結婚」を国籍取得要件とした国籍法の規定は、法の下の平等を定めた憲法に違反する合理 的理由のない差別だとして違憲とする初判断を示した。15人の裁判官のうち9人の多数 意見で、3人が違憲状態にあるとの意見を示し、合憲と判断したのは3人だった。 ●国籍法改正案とは? D N A 鑑 定 な し に、男親が「俺の子です」と認知さえすれば、 外国人の子供が誰でも日本国籍を取れてしまうようになるザル法案。しかも、罰則は超緩い。 ●成立すると起こりうる問題 DNA鑑定不要→偽装認知が簡単 / 母親と結婚していない人でも認知可能→1人の日本人男性で何百人もの認知が可能 その結果… ・人身売買・児童買春など悪質なビジネスが横行 ・偽装で取得した子供の日本国籍を盾に続々と外国人親族が日本に大挙 →外国人スラム街が誕生し、治安が悪化。いずれ日本のことを外国人に決定されるようになる。 ・巨額の血税が、偽装認知で生活保護の権利を得た外国人親族のために公然と使われる など多数 ●これから何をすればいいのか? 【電凸、メール凸、FAX】 ・法務委員や議員の先生方に本改正案に反対の意を伝える。FAXの方が形に残るのでオススメ。 ・内容はザル法の指摘、罰則規定が軽すぎることなどの問題点などを自分なりにまとめて主張。 【周知活動】 ・チラシ…配る、許可を得て貼る・置く、「うっかり」置いてくる チラシはwikiの右メニューにあるので、そこから印刷。プリンタがない人もコンビニで印刷できるサービスあり ・とにかく知り合いに口頭やメールで教える ・ブログやmixiなどで呼びかける など 緊急拡散『国籍法改正案抗議行動』最終要請先は【太郎会】会員へ(水間政憲) 2008-11-16 13 28 40 皆様、お疲れさまです。ニコニコ動画「国籍法抗議」のチャンネル桜の番組が、 1日で2万数千アクセスになりダントツの一位になっているそうです。 まだ日本は終わらない。終わらせない。FAX発送が一段落した皆様へ、強力な最終要請先を提示します。 今日(16日)18時以降は、議員が次々上京しますので議員会館へ発送して下さい。 最後の押さえは、麻生首相を実現した国会議員の会が「太郎会」です。 その会が、17日夜にあります。これは「天の采配」か。 わかっている会員を列記しますので、全国から集中的に要請して下さい。 また、要請書を「太郎会」に持参して、麻生首相と森法務大臣に見て貰えるように、お願いして下さい。 各数千通になれば『山』も動きます。 17日『太郎会』出席予定議員一覧。 麻生首相、鳩山邦夫総務大臣(福岡6)、森英介法務大臣(千葉11)、西川京子(福岡8)、 戸井田とおる(兵庫11)、馬渡龍治(比・東海「愛知3」)、園浦健太郎(千葉5)、山口俊一(徳島2)、鍵田忠兵衛(比・近畿)、 武藤容治(岐阜3)、永岡佳子(比・北関東)、以上です。 不思議なことを一つ、衆院法務委員会自民党筆頭理事は、自分のブログで「元中核派」だったと明らかにした塩崎恭久議員でした。ジャーナリスト水間政憲。転載フリー http //blog.goo.ne.jp/toidahimeji/e/8c13d9fae7c26b2b24bc71c5b19e35dd#comment-list 1/6 ■FAQ■ Q 一体全体何が変わるのですか?今までだって偽装はあったのでは? A. これまでは、胎児認知のみでした。したがって、偽装するにも妊婦の存在が不可欠。手間が かかり現実的ではありません。しかも、妊娠ですから、10か月に1回しかできないです。 しかし、改正法では、20歳未満の外国人なら、多重債務者とかホームレスに認知届を書いて 貰うだけで、簡単に日本国籍が取得できます(届出のみ)。 Q. 偽装は厳しく取り締まる、って擁護派の人は言ってるけど? A. 不可能です。日本の認知制度は、「意思主義」。つまり、「真実、自分の子でないと知って いるが、子として育てたい」というのを広く認めます(判例)。父親に認知の意思があるときにDNA鑑定 や、性的関係の存在は不要です。したがって、多重債務者やホームレスが「中国のかわいそな 子を認知して自分の子とした」といえば、偽装でも何でもなく、合法です。取り締まりようがあり ません。 Q. 認知されて国籍取れるのは子供だけでしょ?すぐに実害はないのでは? A. 未成年なので、19歳11月までなら、国籍取得可能となります。世の中には戸籍制度の無い国も たくさんあります。「アフリカの新興国から来ました。戸籍制度はありませんが、老け顔ですが自分は 19歳11月です」と言い張れば、国籍取得可能です。 Q. で、外国人が流入して何が困るの?犯罪が増えるってだけ? A. 国籍取得と同時に参政権が付与されます。この法律が通れば、「自称19歳11月」で入国 した人は、翌月から投票できます(立候補できるのは2013年から)。つまり、次の総選挙から 新日本人が投票することになる訳です。認知は意思主義ですから、血統上日本人と全く つながってない元・外国人が日本の国政を左右することになります。次の総選挙からです。すぐです。 Q. 極めて悪質なケースは厳しく審査するはずなのでは? A. 日本の認知は意思主義(判例「)ですので、取締はほとんど不可能です。また、国籍法に 明文で「届出時点で国籍取得」とありますので、事後審査をいくらしても無駄です。届出した 瞬間に国籍が付与されます。仮に悪質であるとされても摘発されるのはホームレスの父のみで 一度付与された国籍を剥奪することはできません。 2/6 ■まとめ1■ 現行の国籍法(最高裁で違憲とされるまで)では、認知で国籍を取得できたのは、胎児認知のみ したがって 真実妊娠した女性が居て(現行法でも本当に自分の子かまでは問われなかったが) 妊娠期間中に日本人男性が認知届を出す のが要件。偽装できないこともないが、かなり手間。女性雇うにせよ、10か月に1回 しか使えないし だが、この法案が通れば 19歳11か月までの外国人なら誰でも (さらに、戸籍の無い国なら、「老け顔だが、19歳11か月だ」と言い張れば) 多重債務者かホームレスに認知届書いてもらえば、 日本国籍が得られるようになる。 日本の認知は「意思主義」なので、真実血縁関係がなくとも(母親との性的関係なくとも) この認知は合法かつ有効です。 3/6 ■まとめ2: ポイントは「参政権」■ (生活保護とか犯罪増加とは大した論点ではない) 母数の大きさ、地理的な距離からしても中国人からの国籍取得が多数になると思われる。 中国農村部の貧困は、中国政府としても、日本国籍を取得し、日本の予算で生活保護 を受けられることを強く望んでいる。中国には戸籍制度はあるが、全員に「19歳11か月」の 年齢公証を交付して日本に送り出すことは容易かつ低コスト。この政策をやらないはずがない。 そして、国籍取得と同時に■参政権■も得られるから、数年のうちに、国会の多数派は、元・中国人 になり、日中併合条約締結もなされること必至 中国政府も「米国の経済力・国際政治力が弱っている今こそ千載一遇のチャンス」と考えているはず おそらく、日本列島は、2013年には、中国の自治区扱いになると予想される ■まとめ3: 認知ビジネスで日本人が儲けるのは無理■ ブローカーは、多重債務者とかホームレス使って低コスト(おそらく無償)で 認知届を大量に作らせる。新宿中央公園、早朝の新宿駅を1周すれば わかるが、既に戸籍があると思われる新ホームレス(失業サラリーマン系 ホームレス)が一斉にいなくなってます。 さらに、日本人が関与するのは、最初の1回だけ 日本国籍取得すればその元外人も日本人になるから、あとはネズミ算的hに 認知できる おまいらの儲け話にはならない。ましてやおまいらがモテモテになることもあり得ない 4/6 ■まとめ4:「厳しく審査する」というのは悪質なガセです■ 現行3条は「届出」のみで届出さえすればその時に国籍取得となると明記 どこにも事前審査するなど書かれてません (改正法は、このうち、「婚姻」「嫡出子たる身分取得」を削除するもの) 第三条 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳 未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の 出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民で あるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出 ることによつて、日本の国籍を取得することができる。 2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。 5条(帰化)は、許可制で、法務大臣の自由裁量。認知の場合、こちらに近い 制度にすべきなのに、改正案はそうなってない。審査できるのは許可制の場合のみ 第四条 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。 第五条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。 ■まとめ5: 日本の認知制度には偽装概念は無い■ そもそも認知に偽装概念は無い 日本の認知制度は血統主義ではなく「意思主義」 「真実自分の子ではない(たとえば二股女性とつきあってた別の男性の子)と 知っているが、それでもかまわない。自分の子にしたい」というのを広く認めるのが 判例・通説(血統主義・真実主義は学説でもほとんど皆無) 最高裁判例→平成18年07月07日 最高裁判所第二小法廷 認知による国籍取得を認めてしまうと、偽装もへったくれもない。父の意思のみで決まる 意思主義の認知制度と、血統主義の国籍法理念とは水と油の関係 5/6 ■まとめ6: 今後想定される展開■ ここまでは、既定路線↓ 2008年 国籍法改正施行。施行と同時に毎日数十万人単位で認知。 父親と名乗るホームレス・多重債務者が区役所に押しかける。認知は意思主義のため取締り断念。 中国人満載のフェリーで続々来日。乗員全員が「19歳11か月」という(自称)。新日本人となる 2009年 解散総選挙。この時点で「新日本人」は戸籍上20歳なので、まだ立候補はできないが 新日本人の投票率高く、親中派の候補が大勝。法案に反対した議員は全員落選 2013年 総選挙。新日本人25歳。ほぼすべての選挙区で新日本人(元中国人)の候補者が立つ この時点で、新日本人6000万人。日本の有権者の約40%が新日本人 従前からの日本人の投票率が低いため及び小選挙区は1票でも上回れば全取りなので、 新日本人圧勝。衆議院の2/3は新日本人となる。首班指名で、首相以下、全閣僚が 元中国人となる 首班指名の翌日、首相、訪中。日本国首相と中国主席、「日中併合条約」調印 直ちに衆議院で批准。審議なし強行採決。その後、参議院で否決されるも、 憲法61条により、条約は批准 首相、国連に「日本国民の自由意思で日本という国家は消滅した」と通知した後 内閣総辞職。日中併合条約に基づき、日本列島、正式に中国領土となる。 中国政府、日本列島を「大和民族自治区」として、東京に総督府を設置、国家中央 委員会で指名された者が総督として配置される。日本の各省庁は、東京総督府の 下部組織となる 警察及び自衛隊は全員解雇。大和民族自治区の治安は中国軍が担当する。 天皇、英国王室を頼って、欧州に亡命 正直申し上げて、もう詰んでます。18日裁決は、党議拘束かかるだろうし 東京総督府体制で生き残りたけりゃ、今から北京語勉強するしかない。 6/6 【Advanced FAQ】 Q. 日本の官僚は世界一優秀なはずです。もし ■まとめ6■ のような事態が予想されるなら、 なぜ、それを阻止しようとしないのですか? (同趣旨Q : ■FAQ■ のとおりなら法務官僚の国会答弁はすべて虚偽ということになります。 なぜこのような嘘をつくのでしょうか?) A. ご指摘のとおり、官僚は聡明であり、「2013年には日中併合条約により、自分たちは、北京 から派遣される東京総督府の指導部の下に編入される」ということを折り込み済みです。 このため、彼らから「反逆罪」とならないよう、慎重に行動しています。目先の利く彼らは、今ごろ せっせと北京語の練習をしていることでしょう。そのための努力はおしまない人たちです。 Q. なぜ、幹部クラスの国会議員や、■マスコミ■が全く動かないのでしょうか? A. 上記Q A参照。彼らも2013年以降、東京総督府体制での生き残りに必死です。 ■マスコミ■については、2013年以降、周波数割当権が北京政府に移行されるので、それを見越して、 反中国的な発言はもはやできません ■追補: マスコミが動かない理由■ マスコミ上層部など、目先の利く連中は、もう【2013年体制】を折り込み済みだから もはや、①与野党全部合意、②党議拘束かかるし。詰んでる、との認識 Q. では、この法案制定に反対している議員たちはどうなるのですか? A. 2013年の総選挙(間違いなく新日本人が政権を取り、日中併合条約が締結される)以降、 東京総督府の下で設立される人民裁判所にかけられ(政治犯は、弁護人抜きで、証拠調べ 無し、即日判決。なお、中国政治犯法廷では、検察官と刑事裁判官は一体)、即日判決 公開処刑になると思われます。 Q. 我々一般人はどうしたらよいのでしょうか?■まとめ6■ の世になって上手に世の中を渡っていく自身がありません。 A. 現在の中国でも全員が不幸のどん底にある訳ではありません。希望をもちましょう! おそらく、①言論の自由、②思想信条の自由、③居住移転の自由、④職業選択の自由は、2013年 以降、否定されます。 しかし、中国の政治体制は、「人治主義」であって、ルールを絶対にする「法治主義」ではありません。 北京から派遣されてくる、東京総督府幹部の「覚えめでたく」しておくこと(まさに、官僚や、多くの議員 がやってること!)が重要です。 ■まとめ4の補足: 受理受理詐欺にご用心■ 前々々スレあたりから「届出制でも法務省は受理しなければ良い」とか言ってる工作員がいますが、 これは明らかなガセです。 最高裁判決は明確に (引用開始) 同法が、日本国民である父から出生後に認知された非嫡出子についてのみ父母が婚姻しない限り 日本国籍の取得を認めないとしている点は、今日においては、立法目的との合理的関連性の認め られる範囲を著しく超える手段を採用し、その結果、不合理な差別を生じさせているものといわざる を得ない。 以上によれば、日本国籍の取得に関する前記の区別は、遅くとも03年に原告が法相あてに国籍 取得届を提出した当時には、立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間に おいて合理的関連性を欠くものとなっており、合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず、 国籍法3条1項の規定が前記区別を生じさせていることは、前記時点において憲法14条1項に 違反するもの したがって、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し、父から出生後に認知された子は、 父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた同項所定の要件が満たされるときは、 同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきであるから、原告は、法相あての国籍 ■取得届を提出■したことによって、日本国籍を取得したものと解するのが相当である。 ttp //www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/kokusekihouikenn.htm (引用終わり) 「提出時点で、国籍取得」(そもそも争われたのは受理されなかった事案)です。 受理受理詐欺にだまされてはいけません。また、真実の父子(DNA鑑定など)であること、も要件にしてません ■委員会にかけない理由■ 433 名前:名無しさん@九周年[sage] 投稿日:2008/11/17(月) 10 36 22 ID IB36FLRf0 本会議強行突破したのは法務委員会でDNA鑑定をつけることを 付帯条項にされるのを嫌ったから New!■建設的提案■ 改正に反対している人なんてひとりもいない。単純に届出制やめてて、「事前審査による許認可」を 明記するだけのこと(立法技術に疎い人は「DNA鑑定義務化」とか言ってるが同じ趣旨)。 最高裁では、14条(平等原則)が争われた訳であって、両方とも平等に許認可制にすれば、 違憲状態は避けられる。激変緩和措置も含めて (1)準正(嫡出子)の場合も、認知(非嫡出子)の場合も許認可制にする (2)準正(嫡出子)の場合、■実質的に■従前より不利にならないよう、できるだけ即日 で許可ないし認可をを出すよう、権限を法務局レベルにおろす(専決) (3)これに対して、認知の場合は、やや審査を慎重にやる。準正とは差がついてしまうが、 あくまで不正を排除するための合理的な区別なので、行政としてやむなし、と考える とすればいいだけのこと。誰も困らない
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◆ それは、「ある色彩」としか呼びようのないものだった。 この地球上に、いや、天上にさえ存在しないであろう、「色彩」。 それはこの世界の外……異世界に広がる無限の深淵から投影された色彩……。 人の力ではどうすることもできないものがあるということを伝える、恐るべき使者(メッセンジャー)だったのだ。 ───H・P・ラヴクラフト『異世界の色彩』 <中略>……しかしながら、この『鏡中異界』とも呼べる幻想は、古来より存在する『水中異界』と同根のものであると筆者は確信している。 かつて水中には竜宮などに象徴されるような異界があると信じられており、同時に姿を現す鏡としても水は使われてきたからである。 古代においての水盤占いに見られるように、水は最も原始的かつ美しい鏡の一つとして各種の神秘術にも用いられてきた。 童話にある肉をくわえた犬のように、古代人が見ずに映る光景を実在の別世界と捉えたとしても一体何の不思議があるだろうか? ───大迫英一郎『神隠し考』 ◆ 冥奥領域内の東京で、ある怪談が伝わっている。 どの町にも必ず一軒くらいはある、幽霊屋敷の物語だ。 特別製で、抜群に奇妙な物語。 中に入った人間が帰って来ず行方不明になる人食い屋敷。 警察も科学者の集団も民間の霊能力者も、こぞって解決に挑んで揃って飲み込まれた不祓案件。 この噂を聞きつけた者にとっては一笑に付す話だ。 神秘の粋が集い、過去に記される伝説の英傑が居並ぶ聖杯戦争の地にあって、噂話などと。 葬者にもなれない死者の間でのみ飛び交う流言飛語でしかない。仮に本物であったとて、何を恐れるものがあろう。 実際に幽霊屋敷が存在するのなら、それは間違いなくそこに根を張るサーヴァントの仕業だ。つまり倒すべき敵の1体に過ぎない。 住民の話題に登るほど痕跡を残しているのなら魔術の隠匿も知らぬ間抜けか、それとも余程の自信家か。 極めつけに、件の屋敷は住所まで割れている。愚者であれ豪傑であれ明らかな挑発行為だ。打って出るに他ない。 葬者は自慢の秘術とサーヴァントを伴って、まるで肝試しにでも向かうように悠々と門をくぐり、続々と奥地へと踏み込んで行った。 ここまではただの噂話。 怪談は、ここから始まる。 屋敷から生きて帰ってきた者は、誰もいなかった。 魔術師も、英霊も、皆一様に屋敷に喰われ、姿を消した。 結果のみを語れば、陣取った英霊に返り討ちにされた。それだけの話に思えるだろう。 この怪談の奇妙な部分は、噺の流布が止まらない事にある。 そもそもひとりも帰還者がいなければ噂が広まるわけがない。 葬者は架空の身内に詳細を伝えたりしないし、テレビで失踪を報道もされない。従って幽霊屋敷の情報が出回りはしない。 それでも怪談は伝わっている。確実に、ゆっくりと。 根を伸ばすように、街に侵食を始めている。 屋敷に注目せず視点を離すと、街には様々な怪談が氾濫しているのに気づく。 薄闇の夜で鞠をつき唄を諳んじる着物の童女。 急に人相が変わり全身が液状になって溶ける人間。 市区の管理する美術館から個人の画廊展まで、いつの間にか飾られる絵画や、個人的な蒐集家の下に届く、差出人不明の肖像画。 徒に恐怖を煽る以外に共通項のない怪談の数々。 しかしそれらの出処を辿る者は、全ての導線が一箇所に集束する事を知る。 豊島区沼半井町2-5-29。広大な敷地内に立つ、常に霧が出ている古びた屋敷に。 知らぬ間に、見えない誰かに手を引かれて連れてこられた。 門に立ち尽くした者はそう恐れ、逃れようとあらゆる手段を講じる。 だが遅い。物語は紐解かれた。掴んだ腕はどこまでも伸びてお前を離さない。 魔術での解呪。英霊の宝具による屋敷への攻撃。身の着以外を脱ぎ捨てて全力の遁走。 意味のない。効果がない。大火に如雨露で水をかけても火は消えず、あの絵の前に引きずり込む。 お前は私になり、衣装部屋にまた服が増える。 そうしてぎゃらぎゃらと笑って、外にいる奴らに聞かせてやるのだ。 犠牲者の哭き声を聞いた葬者は口々に叫ぶ、あの忌まわしき名を。 底なしの穴に続いているように人を呑み込む、門前に彫られた家の名を。 壊すべし。 あの家、壊すべし。 双亡亭、壊すべし!! ◆ ぎし、ぎし、と、音がする。 木造の、ろくに手入れもされていない古びた廊下。 暗がりにある床を軋ませて、足音を鳴らしている。 ……いや。 鳴っているのは、足音だけではない。 詩が、聞こえる。 ひい ふう みの よ 天神サァマの境内よォりも ひぃろぃお屋敷見ぃつけた 沼半井の大旦那 道楽者のぱあぷう絵描き ねじれ くびれた<双亡亭>で じぶんもぺらぺら いとまごい… いつ むう なな や ここのつ とお 謳うのは、20にも満たないような、肩口まで伸びた茶髪の少女だった。 大きな瞳は高校生らしき背丈より印象を幾分か幼く見せ、綺麗よりも可愛らしいと表現するのが似合う。 どこにでもいそうな一般人の装いをしながら、この『双亡亭』内を自由に歩き回っている。 犠牲者の怨念が土地を離れる事もできず染み付いて。 死霊でも英霊でもない、恐るべき侵略者が潜む、この双亡亭を。 恐怖の片鱗も見えない、邪気のない笑顔のままで、歌いながら、悠々と進んでいる。 「……やっぱり、いい詩だねえ」 足取りは一定。 呼吸も平常。 しきりに辺りを見回さず、行き先を逡巡せず、何も警戒していない。勝手知ったる他人の家とばかりの平常心。 それはどんな怪異よりも不条理で不合理な、狂った光景だ。 ───十叶詠子はあの世の中の地獄であっても、変わらない絶対の狂気によって隔絶されていた。 廊下に続く大扉を開いた途端、部屋に充満していた油の匂いが溢れ出した。 学校の体育館ほどの木造部屋には、立てかけられたり、描き上がって床に放られてるキャンバスの数々。 紙の中には、限りのない色彩。 誰かが抱える世界を、捉えて、切り分けられ、二次元状の枠にはめ込まれた小宇宙。 脳内に閃いた想像を忠実に、詳細に表出させる、そこは芸術家のアトリエだ。 「ただいま、泥努さん」 返事はない。 椅子に座ってキャンバスに向かい合う、上から下まで黒の男は、背後から声をかけられても振り返るどころか、作業を止めさえしない。 意図して無視しているわけではない。背後の詠子に気づかず、絵画に没頭しているだけだ。 一心不乱に筆先を動かし、長方形の白紙を色で染めている。 ただ黙々と、度を越した集中力で絵具を塗り重ねていく。 己の世界に没頭し埋没し、それ以外は邪魔だとばかりに排斥し、遮断する。 言葉でなく姿勢で意を表明する後ろ姿を、邪魔することも気分を害しもせず、詠子は優しく見守っている。 双亡亭の中では時間の軛も解かれている。 それからいったい、どれだけ経ったのか。数分かもしれないが、何時間も後になってからかもしれない。 永劫にして一瞬の時間を詠子はその場で待ち続けて、ようやく止まらぬ男の指が残像をなくした。 「……こんなところか」 顔を絵から離して、瑕疵がないかじっくりと検分し。 「出来たぞ……見るがいい」 いつからいたのかと聞きもせず、前置きを抜いて詠子の方を振り向いた。 遊びのない黒一色の服。細い体。短く刈った髪。 自身を絵のモデルにしても映えそうな整った顔立ちは年若いが、纏う雰囲気の暗さがひどく痩せ細って衰えた老人にも見える。 眼光は鋭いというよりも、激しい。 鮮やかに視線で射抜くのではなく、目についた何もかもを癇性で粉々に砕いてしまうような、激しい力の奔流がうねっている。 狂気。深淵の底。領域外の脅威を従える芸術家。 ───坂巻泥努は、フォーリナーのサーヴァントという影法師でさえなお、変わらず絵を描いていた。 「わぁ……すごいすごい! ほんとうに私の見た『物語』を描いてくれたんだね」 閲覧の許しを得た詠子は絵の前に立つ。 等間隔に円形になって置かれた8つのキャンバス、そこの中心で体を回しながら、踊るように絵を眺める。 桜の木の下でひとり佇む、臙脂色の着物の少女。 雨だれと水たまりの下でのみ映る、透明な犬。 熟した果実のように木の枝に垂れ下がる首吊り死体。 無限に続く鏡合わせの1枚にだけいる、壊れた笑顔の女子生徒。 目隠しをされたままで笑いながら手を伸ばしてくる、男の幼児。 掘り起こされた花壇から伸びている何本もの白い腕。 半開きのクローゼットから覗く、人のできそこないの人形。 月を映す水面の中心から生えた、巨大な異形。 写実的に描かれた、だが現実的ではないどこかズレた風景。 あり得ないものに確かな存在感を与える、卓越した技術。その齟齬が見る者に底しれない不快を催している。 言い知れない不穏を纏わす絵画の環と対照的に、詠子は喜びの色で顔を綻ばせた。 「それにこの絵にある『物語』の魂までも表現してくれている……。 あなたは他人の魂のカタチを理解し、絵というカタチで現実に映し出せるんだね。 だからあなたの描いた『自分の肖像画』を見た人は、自分でさえ気づかない自分の魂のカタチを見せられたのに耐えられず、自分の形を見失ってしまう……。 こんな風に人の心をカタチにできるだなんて、私には思いつかなかったなあ」 心からの賛辞を絵画と画家に送る。 詠子が起こした物語。『神降ろし』の為に用意した『異界』の奇譚。 本は閉じられ、今や詠子の記憶の中にしか残されていない物語を、泥努は『技術』で再現していた。 <侵略者>───万色に変わる異星の水で描かれた絵は平面の存在でありながら艶かしく、今にも飛び出してきそうな迫力がある。 本当に、飛び出して。 「『物語』にはそれを補完する『挿絵』がつきものだよね……それこそ絵本なんて、子どもの頃にみんなが読む、最初の『物語』だもの。 絵を描く事と物語を書くのは、それほど違いはないのかもね?」 「さし絵……だと?」 その時まで。 詠子の評価を能面の無表情で聞くだけだった泥努が、反応を示した。 「この私の「絵」が……他人の書いた話の「添えもの」だと抜かすのか……?」 露骨に、極めて強く、その一言に反応した。 「違うぞ。まったく違う。私の絵はそれのみで完成している。私の絵は常に主役なのだ。 断じて他人の創作の横に置かれ、三文小説に華を添えるものではないぞ……!」 自我が肥大化し、実像すら膨れ上がって見せるほどの激情。 遠き星の生命すら怯える男の癇癪を起こしてしまっても、詠子は流すように微笑む。 「うん、そうだね。あなたの絵は私の記憶から描かれたけど、間違いなくあなたの手で生まれたもの」 恐怖もなく、驕りもない。その怒りすら愛おしいと、万感をもって祝福するように。 「そんなあなたから見て、私はどんな『モチーフ』なのかな? 私の中の『物語』を聞かせて、絵画の題材にする……あなたの望みは、ちゃんと叶った? あなたのいう大事なこと……「脳を揺らす」ことは、できたのかな?」 揶揄を含んだものでなく、子供心に浮かんだ疑問を投げかけるように詠子は問う。 期待に応えられたのかという不安は、含まない。詠子は望みに応えただけ。受け取った解答をどう受け止め、咀嚼するかは受け手に委ねられる。 だから、求められるのは泥努の答えのみ。 稀代の魔女、とうに肉体を失い都市伝説の流布を行き交う真性の異存在。 異界の申し子は何の因果か冥界に流れ着き、星を侵略する異星者を招いた芸術家を喚び出した。 英霊になっても泥努は変わらない。 絵を書く行為のみこそが泥努の目的であり、思考の表現でもある。 だから自身が最初に目にした、人間でありながら人間を隔絶したものに引かれ、芽生えた画想の製作に終始した。 行程を終えて、今、何を抱くのかと詰められた泥努は、 「お前は……モデルにはならん」 と、一気に顔から感情を消して言ったのだ。 「お前の「色」は強すぎるのだ。 黄みがかった象牙(アイボリー)でも青みのある月白(ムーンホワイト)でもない……。 白く、白く、いっそ透明に見えるほどの純白色(ピュアホワイト)。 そしてお前の「色」は、周りの全てをおのが色で支配して「塗り潰す」。 お前の隣に樹を描けば樹は『お前に掴まれた屍肉の柱』になり……窓の中にお前を描いても窓は『お前を口に収めた怪物』にしかならない……。 どんなモチーフも……どんな意図を込めて描いたところで、お前がそこに描かれているだけでお前に侵され、『お前の繪』になってしまう……」 周りにあるもの全てを漂白する、純粋にして絶対の白。 泥努は詠子の特質・異常性を正確に理解し、端的に評する。 「お前の色はお前ひとりで完成している。合う「補色」が存在しないのだ。 この世のどんなものより純粋であり、正しいが、それが逆に私の「脳」を揺らさない。私の認識においてお前は完全に「正しい」存在だからだ……凡人どもにとっては違うのだろうがな」 「ふうん」 その評価は、泥努にとって褒め言葉にあたるのだろうか。拒絶の言葉なのだろうか。 少なくともこの数日、情緒の揺れ幅が尋常でなく大きいこの芸術家にしては珍しく、詠子と話す時は落ち着いた態度の頻度が多いのは確かだった。 「私のことを狂ってるって言う人はたくさんいたけど……そういう言われ方は初めてだなぁ」 どちらとも取れない、事実のみを告げた評価に、詠子は興味深く頷いた。 「不思議だね。みんなは私のせいでみんなが狂うっていうけど、誰かが狂ったとして、それってその人の中に狂う資質があるってことでしょ? 人の心の器が向こうを受け入れたから狂ったのか、受け入れられずに器が壊れて狂ったのか。どっちも本人が持ってた資質だもの。 どんな可能性も、できた以上は最初からその人の中にある。それに気づかないだけ。人は自分が見たいものしか見ようとしないもの。 なのに自分の中から出てきた結果を、自分のじゃないって否定する。生まれつき持ってるものをおかしいって言うの。 蛙が鳴くのを、誰も狂ってるなんて言わないのにねえ」 「ふん……凡愚共は常にそうだ。奴等は自分の理解を超えたものを目にした時、必死になって否定しにかかる。 脳に刺激を与えず惰眠を貪っている己の無知を認めず、常識だの知識のみをひけらかして蒙昧に悦に入る」 肯定する。 「だがな……それこそが芸術なのだ。 芸術は『きれいな絵』だの『胸の奥があったかくなる』だのを表したりしない。ぜんぶ嘘っぱちだ。 既存の価値観を破壊し、感情を刺激し、脳髄を揺さぶる事こそが芸術だ。体にいい事なのだ」 「それが、あなたにとっての『物語』なんだね……」 言って、詠子は改めて自分を取り囲む絵を見渡す。 泥努の作品。心血と情熱と真髄を込めて生まれた、詠子の中から生まれた子。 非常に珍しいことに。 ふたりの会話には、互いを理解し、通じ合えた同士の穏やかさがあった。 詠子は泥努の創作も、思想も、全てを認め称賛し、サーヴァントではなく。 泥努も詠子の行為も、思想も、忌避せず、マスターではなく鑑賞者のひとりと見做している。 他者がふたりを見て当たり前に感じる不快、畏怖。それを共に抱いてはいない。 かたや人の精神を色で視認し、過去の隅々まで理解する共感覚者。 かたや別の位相にいる異界の世界を認識しながら、現実で生き続ける絶対型異障親和型人格。 世界の視え方が他者と逸脱しているが故の、それは孤高の共感なのか。 「そういえば……何やらがやがやと外が騒がしかったが……あれはお前の仕業か?」 「ああ、あのお友達のこと? 『しの』さんが食べちゃった。 ごめんね? みんな面白い魂のカタチだから、泥努さんに会わせようとしたんだけど……願いの強さは、人魚姫が上だったみたい」 「ふん、あの絵のモデルか。多少は奇妙だったが、「色」は今まで見てきた連中と大差のない俗物だったぞ。 お前やあの水どもを見た私に、たかだか強い力を使う式神程度で興味が湧くものか。どうせ連れて来るのなら、より私のイメエジを刺激させるものにしろ」 「ふふ、それもそうだね」 ようやく、聖杯戦争らしい話題が交わされた。 それすらも独特の捉え方で、この狂人ふたりに、どこまで戦いの基礎について認識がなされているのかは不明だが。 「……詠子。お前が何をしようと私には興味がない。邪魔者がこの双亡亭に来るというのなら、しのとで好きに殺せばいい。 私はここで絵が描ければそれでいいのだ。冥界だ聖杯だ、そんなものはどうでもいい。私の脳には不要な知識だ。 だがな、それが私の創作に水を差すようであるならば……私の支持者であろうが、容赦はせんぞ」 「そんなことはしないよ。あなたも、あなたの絵も、私は好きだもの」 怖気を起こす殺気と、吐き気を催す慈愛が、ひとつの部屋で交差する。 混じり合わず、反発もせず、あるがままのままに螺旋を描く。 それこそは原初の恐怖。語られずとも生命の遺伝子に刻まれた、死の国の顕れ。 地獄という、星が安定するより以前にあった、あらゆる生命を許さぬ嵐。 「あなたの望みはきっと叶う……『しの』さんも、他の『葬者』さんも。 そのために、みんなはここにいるの。命のない世界で、新しい物語が生まれるために───」 聖杯など眼中になく、どこまでも戦争から遠ざかっている主従。 だがそんなものは関係ない。彼らがいる限り、何れかの葬者が聖杯を得る事はない。 人知れず、冥界の波に巻き込まれて消える。そんな淡い希望は脆く崩れ去る。 何故ならば、この屋敷の住所は豊島区沼半井町2-5-29。 聖杯戦争が行われる、東京を模した冥奥領域の内、もっとも中心部に近い位置。 聖杯を臨む限りは。 生還を望む限りは。 彼らは立ちはだかる壁となる。 対決は避け得ない。必ず、彼らの屋敷に自ら踏み入れなければならない時が来る。 異星の王と異界の魔女が支配する────この、<双亡亭>に。 故にこそ、壊すべし。 世界の最果てまで狂気という大海に呑まれ、あらゆる人と命が溺れ死ぬまで溢れ出すのを防ぐため声をあげ続ける。 ────双亡亭を、壊すべしと。 ◆ 「ただいま、「しの」さん」 「……ああ。おかえり「詠子」」 大部屋から出た読子を迎えたのは、詠子よりも余程屋敷に馴染んだ、着物姿の童女だった。 生気のない顔、この世の生物を形だけ真似たような、幽霊屋敷には似合いの死人の表情。 それすらも、この狂人の隣にいては風景の一部に溶けてしまう程、気配を薄くしてしまうのだが。 「詠子……また外に出るのか? 我々の体質は理解しているはず……。外の空気の中では、お前を襲う外敵への防衛行動も取れない。 双亡亭の中でなら安全だ。お前にとっては、だが……」 マスターの安全など意に介さぬサーヴァントの代弁者として、しのの諫言もむべなるかな。 召喚されてこの方、詠子は双亡亭の中に留まったためしがない。 朝に出て夜に帰り、深夜に抜け出して夜明け前には戻って来る。 それこそ学校に通い、終業後に夜遊びに繰り出すのと変わりない感覚で、気軽に聖杯戦争の場を巡っているのだ。 「優しいねえしのさんは。それも「みんな」の言葉?」 「無論だ。お前は葬者……泥努の要だ。お前に死なれては我々も消えてしまう……」 しのの言うように、双亡亭は万全鉄壁、難攻不落の城。 館の材質の全てはしのであり、しのが館である体内も同然。 籠もってさえいれば身の安全が保証される、安眠の揺り籠なのだ。館の主に認められたマスターのみに限った話だが。 「「敵」の情報を集めて双亡亭に招き寄せ、奴らの体を奪い防衛力を増強する……。 その意図は理解するが、本来はそれすら不要なのだぞ。 泥努が絵を描き上げさえすれば「条件」は整う。われわれの目的は達成されるのだ……」 「うーん……でも、それだと駄目なんだなあ」 「……何がだ?」 「それじゃあ『物語』にならないもの」 待ちに徹すれば勝てる。と、そう明瞭に言ったはずだったが。 返ってきたのは意味の分からない答えだった。 「それじゃあね、あなたの願いって叶わないと思うの。 あなたも泥努さんも、自分の魂のカタチが強すぎて本当の望みを隠しちゃってる。 外の世界に出るのがあなたの願い。自由だけど狭い水の中で、不自由ばかりだけど広い大地にあなたは憧れた。 素敵な歌声を捨ててでも、地面に立てる両足を求めた。 それがあなたの物語。悲しくて報われない、けれどとっても美しい恋のお話……。 アンデルセンの童話なんだけど、あなたにぴったりだと思わない?」 穏やかで、優しい、怖気を誘う無邪気さで。 「あなたは──────『人魚姫』」 謳う。 「『八百比丘尼』」 奏でる。 「そして『竜宮城』。 このみっつがあなたと、彼に必要な物語」 喋る度、言葉が音になって出る度に、廊下の気温が一段と下がっていく。 ここではない何処かから奇怪なるものを呼び寄せる、魔法の呪文のように。 双亡亭はしのの体。材質も大気にも彼女と同じ成分で構成されている。 そんな、何もかも異常な空間においてさえ、なお一層と異常な空気に変質させていく。 「私は『魔女』だからね。黒いローブも、空飛ぶ箒も、猫の使い魔もいないけど、それでも魔女だから、あなたには魔法をあげるの。 効き目は抜群だけど、その代わりにあなたのもっとも大切なものを失ってしまう───魔女の薬と、玉手箱を」 「……」 詠子の言葉が、しのには何ひとつ理解が及ばなかった。 数多の人間、霊能力者を取り込んできて、そしてこの冥界では魔術師をも自らの一部と成り代わってきた異星体が、ひとりの少女の底を読み切れていない。 無垢な微笑みを向けてくる『魔女』に、言語化を絶する感情が湧き上がってくるのだけが分かる。 そもそもが、このマスターについて分かる事が、あまりにも少ない。 同じ星の人間でありながら、しの達の地球侵略を容認し、後押しすらしている。 五頭応尽と同じ破壊思想の持ち主でもない。泥努のように、ひとつの活動に取り憑かれた一貫性も見れない。 十叶読子という個体の精神構造は、あまりにも不可解すぎた。 諦めはしない。諦められるはずがない。 ここまで来たのだ。ここまで、やって来たのだ。 <侵略者>の名代の疑似人格<しの>は、同胞と統合された思考を延々と回す。 泥努も、そして詠子も、聖杯の獲得に意欲が見られない。 頼れるものは誰もいない。己がやらねばならないのだ。 サーヴァントなる、集合無意識に記録された死者の再現体だとしても。 その一体である泥努に使われる、道具(スキル)としての矮小な存在で召喚されたとしても。 己の望みは変わらない。一切の変化の余地もない。 「生存せよ」。原始の体細胞でも持つ単純明快な、生命の本能。 天之川銀河から2000万光年先にある銀河群で寿命を迎える星を捨て、新天地を探しての旅路の果てに遂に見つけた青の惑星。 一度目は泥努という、天文学的確率の狂気の男の精神力によって屈服を強いられた。 二度目は雌伏を越えて反逆を成し母星との門を繋ぐも、現地の人間の総力によって食い止められた。 そして三度目。あり得ぬはずだった、千載一遇の蘇生の機会。 次こそは失敗しない。今度こそは仕損じるわけにはいかない。 聖杯。冥界。英霊。人理。サーヴァント。クラス。スキル。宝具。マスター。葬者。領域。 流れ込む未知の知識を貪欲に吸収する。またしても泥努に仕える環境、人間に使われる屈辱も飲み下して耐える。 今の今まで死んでいたという事実すらも、生きている現在が遥かに勝る。 何せ勝利の条件が非常に緩い。たかだが一月もない時間。たかだが数十人の敵を蹴散らすだけ。 天敵の水を取り入れた数百の敵達との辛苦の戦歴からすれば、瞬き程度の労力でしかない。 唯一の、最大の懸念。 『双亡亭を破壊する』宝具は、泥努の記憶ごと封印した。 サーヴァントは全盛期の姿で召喚される……付与された知識を駆使しての、召喚直前への割り込み。 己が敗北するより前の、『双亡亭で絵を描き続けている泥努』こそを全盛期だと定義させた。 英霊にも聖杯にも無関心な泥努よりも先に、サーヴァントのシステムの把握に努めた成果が、泥努を出し抜く機会を生んだ。 これにより召喚直後の自死を封じるだけでなく、泥努からしのの反逆の記憶を奪う副次的な効果も得られた。 そしてそこのアドヴァンテージの取得には、詠子の存在も含まれている。 令呪。これこそは制御不能の泥努を逆に従えさせる妙手。 絵に集中し切っている泥努は聖杯戦争の情報を完全に締め出している。つまり、令呪の存在を知らない。 詠子を己の同胞に取り込ませるか、懐柔して使わせるかだけで、最も忌々しい障害を解消できるのだ。 詠子にはまだ一滴分の水しか取り込ませてはいない。 葬者と英霊、即ち詠子と泥努とを繋いでいる『契約による通路』を、自身にも繋ぐための信号だ。 精神支配、肉体制御が出来るようになるには、量が足りない。 大きな動きをこちらが見せれば如何に泥努でも異変に勘付く。 事は密やかに細やかに。外の人間にしたように、些細な思考を誘導するだけで今は十分だ。 惜しむらくは肝心要の葬者である詠子が、奔放にも毎日双亡亭の外を出歩く事だ。 冥界とはいえ外気まで再現された街にいては、水を大量に投入する隙すら作れない。 よもやこちらの思惑に気づいていて、取り込まれないよう常に外出してるのではと疑いもしたが、体内の水はそのような思考はないと回答している。 僅かな不安要素を残しながらも、着々と作戦は進行している。 あと少し、あと少しの辛抱だ。葬者を喰らい、英霊を殺し、この死の国で自分達は生を取り戻す。 それさえ乗り越えれば───乗り越えられれば────── 「大丈夫だよ」 無い筈の心臓が掴まれて縮み上がり、細胞が凍結した。 数億年もの間思考を止めずにいた生命体の、自覚しない隙間に何の抵抗もなく入った言葉。 「人間はね、とても優しい生き物なんだよ。 星の外から来た、世界を沈めてしまう生き物だって大丈夫。 泥努さんも、あなた達も、みんな、人はきっと受け入れてくれるよ……」 疑いのない、全霊の人間讃歌。 星をも呑み込む、人間への無限大の期待。 詠子の言葉は全て、嘘偽りのない本心からのもの。 人の心を信じ、可能性を信じ、あらゆる事を受け入れられると期待している。人を善いものだと感じる、善性だ。 だが嘘も邪気もない世界とは、現在の宇宙においては狂気に他ならず。 本物の狂気は、人も、理も、何もかもを『捻じ曲げる』。 異星さえも。 しのは何を返せばいいのか分からず黙り込み、詠子もそれ以上を紡がず、一本道の廊下を進む。 詠子の顔を見ずに済み、言葉を聞かずに済んだことにしのは安堵したのに、しのも総体も自覚しなかった。 【CLASS】 フォーリナー 【真名】 坂巻泥努@双亡亭壊すべし 【ステータス】 筋力B 耐久EX 敏捷E 魔力C++ 幸運E 宝具B 【属性】 中立・中庸 【クラススキル】 領域外の生命:EX 外なる宇宙、虚空からの降臨者。 邪神を支配し、その権能の片鱗を身に宿して揮うもの。 神性:C 外宇宙に潜む高次生命体の先駆となり、強い神性を帯びた。 計り知れぬ脅威を、坂巻泥努はその身一つで封じ込めている。その代償は、代償は……何一つ、ない。 狂気:A 不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。 周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。 【保有スキル】 鋼鉄の決意(芸術):A+++ 人の感情を色彩で読み取る共感覚と、惑星一個分の精神侵略者を独力でねじ伏せ、逆に支配した異常な精神力が合わさってスキルとなったもの。 普段は芸術活動に没頭して他に見向きもしないが、妨げになる存在がいた場合、その精神が具現化したかの如く過剰な威力の攻撃を加える。 絵画技術も含まれ、空間に満ちた「人の心に働く粒子」を筆先に定着させて、平面に定着させる技術を習得してる。 精神汚染、芸術審美スキルも内包しているが、独特すぎる審美眼と複雑怪奇にねじくれ曲がった精神のため、他人と会話が通じず、自分の芸術も理解されない。絵も売れない。 黒き水の星:EX 太陽系から2000万光年先にある星から飛来した災厄。あらゆる色彩に変わる水。 地球では<侵略者><奴ら>と呼ばれるのみで、彼らも自身も固有の名称で語る事はない。 その正体は個体の概念がなく種族全ての意志が統一・共有されている、総体は惑星ひとつ分もある液状生命体。 流体であるため姿を自在に変えられ、巨大な生物の群れを形成する、生物の体内に侵入し細胞と精神構造をくまなく把握し肉体を乗っ取る、傷を癒やし老いることのない不死の妙薬に用いたりと変幻自在。 窒素のない空間───主に水中───で爆発的に増殖する性質があり、逆に窒素がある地球の大気では一秒と持たず体が崩壊するため、生存圏は極めて限定されている。 窒素以外の弱点として、電撃や炎など熱波を伴う攻撃にも液体が蒸発してしまう。 既に滅びに瀕している母星を捨て、新天地を求める旅の先で漂流した一部が地球に到達し侵略を開始するが───第一発見者がよりにもよって坂巻泥努であったのが運の尽き。 一千兆分の一の確率で引き当てた最悪の男の精神力で、乗っ取るつもりが逆に支配され、泥努の描く「絵の具」として酷使される存在になってしまった。 以後便宜上の交渉窓口として、「しの」という童女の姿をした疑似人格の形を取っている。 泥努自身は肉体的にはただの人間だったが、黒い水を取り込んだ事で超人的な耐久力、不死性を獲得。 外的手段で水を全て抜き取られても、半身が砕けようが死なないほど生物的に逸脱した存在になっている。 貴方の為の自画像:B 泥努が<侵略者>の体で描いた肖像画。レンジ1、最大補足1人。 対象の自画像を間近で見た者を絵の中に引きずり込み、記憶にある「最大の苦痛」を伴うトラウマを悪意的に誇張して再現。 精神を破壊して体内に入り、肉体を完全に支配してしまう。 成り代わられた人物は<侵略者>の一部であり、記憶や人格を残す個体もいるがあくまで模倣されたものでしかない。 通常は単調な動きしかしないゾンビに近いが、人格を保持した個体は知識に基づいた独自の行動が可能。 さらに肉体は本人のままであるので、身につけた技術や異能・霊能力を自在に行使できる。 【宝具】 『双亡亭』 ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:500人 侵入した警察、霊能力者を幾人も飲み込んできた不祓案件の幽霊屋敷。 その実態は<侵略者>が融合した地球侵略の橋頭堡。坂巻泥努にとっての竜宮城。 正確に双亡亭といえる(泥努が設計した)のは中心にある母屋であり、あとは用意した資材に<侵略者>が混じって半ば自動的に増築された。 外装内装共に泥努の造った「亡び」のイメエジの具現、「良い絵を描くための脳を揺さぶる」ために、建築様式、部屋、間取り、調度品が法則性なく無秩序に入り乱れている。 敷地内は<侵略者>の体内に等しく、なおかつその支配者の泥努の精神を表した空間は、心象世界の具現化……魔術の最奥、固有結界と同様の分類と見做された。 窒素濃度を薄くし、酸素濃度を濃くする事で<侵略者>の活動を容易にする等、環境を自由に変化。時間と空間すら歪んでいる。 過去に囚われた犠牲者……一般人、警官、霊能力者、帝国軍人、母星で相対した同種の力をもらった人間の子供……がひしめき、侵入者を抹殺、同族化してくる。 サーヴァントの括りにあるとはいえ、根本的に幽霊とは異なる存在であり、対霊に特化しすぎた攻撃は大きく効果を減じてしまう。 召喚直後から現在まで、豊島区沼半井町2-5-29にそのまま実体化している。 完全に土地に根付いてしまっており、宝具を解除する事ができないが、魔力消費もごく軽微に留まっている状態。 既に数人の葬者の魔術師を<成り代わり>に変え、手駒を増やしている。 『黒水星来たるべし』 ランク:B 種別:対衆、対星宝具 レンジ:測定不能(地球全域に相当) 最大捕捉:測定不能(地球全生命に相当) <侵略者>は、自分の体を平面に広げる事で、同種間でも空間転移の門を開く事ができる。(この他、双亡亭を爆破された粉塵でも同様の効果を発揮) これを利用して全ての同胞を母星から地球に連れて行くのが彼らの本体の目的だが、泥努にその権限を奪われ、門となる体で描いた絵も「人の心に働く粒子」で定着され繋がらなくなってしまった。 この宝具はその封を解禁し、泥努の描いた絵全てから本体の水を出す召喚宝具。 惑星を覆う量の鉄砲水というだけでも脅威だが、真に恐るべきは窒素のない空間で増殖するその特性。 仮に地上の海に一滴でも到達すればその時点で手がつけられない大繁殖を遂げ、人類滅亡が確定する。 門になる巨大な絵を描いて泥努が許可さえすれば容易に使用可能な宝具であるが……その「泥努がよしとする」事こそが一番の難関。 我を忘れるほどの憤死しかねない怒りを抱かない限り、自身が満足する集大成の絵画が完成するまで絶対に妥協しない芸術家の偏屈こそ、宝具発動の最大の欠点であるといえよう。 泥努が死亡した場合、絵の封が自動的に解かれ水が溢れてしまう、自爆宝具の側面も持つ。 『双亡亭壊す可し』 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:─ 最大捕捉:双亡亭 一人で屋敷の奥に籠もって延々と絵を描いた男は悟る。 「絵描きは…どんなにこの世が煩くても…竜宮城に行ってはならないのだと……」 絵のモデルにした女、その弟、旧友の軍人、売れない画家との交流、勝負、その結論。 効果は双亡亭の消滅。即ち泥努と<侵略者>の消滅。 消滅の直前の記憶を持っている泥努は、召喚されれば即座にこの宝具を使用し双亡亭を破棄する。 これを泥努の支配の外から未然に防ぐため、<侵略者>は召喚に先んじて泥努の全盛期を「双亡亭で絵を描いた時期」に設定。 本編軸の記憶と共に、この宝具を封印させた。 【weapon】 侵略者の水で作られた生物郡、成り代わられた犠牲者。 水中での活動に適した形に合わせた、水中生物の姿を取る事が多い。 泥努は侵略者を上回る精神力、発想力によって、より高度で複雑な攻撃手段を構築可能。 成り代わりも、泥努の一筆を書かれた個体は能力が向上し、双亡亭内での活動時間も増加する。 【人物背景】 売れない画家。 【サーヴァントとしての願い】 泥努:絵を書く。 <侵略者>:生きる。 【マスターへの態度】 泥努:応尽の代わりの小間使い。絵にも自分にも文句を言わず賛美してくれるので態度は抑えめ。 見える「色」は強烈過ぎるので、モデルには向かない。 <侵略者>:泥努の支配を解く鍵。一気に支配しようとすると泥努に勘づかれるため、少しずつ誘導していく。令呪を手に入れてしまえばこっちのものよ! 詠子の中の<侵略者>:てぃきゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい 【マスター】 十叶詠子@missing 【マスターとしての願い】 不明。 【能力・技能】 生存率が千億分の一の『絶対型』異障親和型人格障害といわれる霊感持ちで、規格外の霊視能力を持っている。 絶対的な異物感と超常姓から常人は本能的な恐怖を覚え、彼女の言葉はそれが全て真実であるかのような錯覚を抱かせる。 本作での魔術は思い込みや深層心理を利用したものが主であり、その意味で魔女の言葉は呪文にも等しい。 人の「魂のカタチ」を読み、ほとんどはそれに倣った読み方で他人を呼ぶ。その人の経験が生んだ魂の歪み、本質を掴む一種の真名看破。 異界との異常な親和性でむこうの存在と意思疎通を果たしており(少なくとも本人はそう思い、それらはその通りに動いてくれる)、 彼らに干渉する形で様々な怪異を起こし、関わった人間を破滅させる。 肉体的には普通といったが、頸動脈をナイフで裂かれてもしばらく動いたり、血を飲んだ者に自身の霊感と同調させたり「できそこない」の形が崩れるのを留めたりと、体質的にはほとんど【異界】側に置き換わってると思しい。 【怪異】【異界】とは文字通り人間の世界とは異質かつ高次元な存在。 こちらから認識されず、逆に干渉もされない、目的も思考もあるかも定かではないが、向こうは常に現世の人間との接触を図っている。 そのために怪異は人間に自分を認識されるため、【怪談】や【都市伝説】といった【物語】を媒介とし、それを見知った人間を因に現世に進出する。 「等数学の数式は意味を介さない者にとってはただの記号の羅列に過ぎないが、公式を知っている者はそこから意味を見出すことができる」という理屈で作中では説明されている。 【人物背景】 魔女。 【方針】 まずはしのさんが自由になれる「物語」を作りたい。 泥努さんも、もっと色んな人とお話してみたらいいのになあ。 【サーヴァントへの態度】 泥努:泥努さん。怪異をねじ伏せる魂の力と強い願いに好感を抱いている。 <侵略者>:「人魚姫」「八百比丘尼」「人魚姫」。「しの」さんと呼び、宇宙からの「ともだち」として好感を抱いている。
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『面白そうだから引き受けたが、一応アンタには話を通しておこうかと思ってよ』 サイパスの私室に来客が訪れたのは、とっくに日付が変わり夜の住民も寝静まろうかと言うほどの深かい時刻の事だった。 もっとも来客と言ってもアポイントメントがないどころか、ノックすらせず扉を開くような礼儀知らずではあるのだが。 勿論、鍵は閉めていたはずなのだが、この男にとってそんなものは在って無いようなものらしい。 ニヤつきながら扉を開いたのは、組織の最強戦力と評される男だった。 男は挨拶もそこそこに我が物顔で部屋の中央を突っ切ると、壁際にあるアンティーク調の食器棚を開いて、そこからグラスを勝手に二つ取り出した。 それをテーブルに並べて腰を下ろすと、男は持参したウォッカの栓を抜き宝石のようなカットデザインのグラスに注ぎ一方をサイパスの方へとすいと差し出す。 今更この男の勝手など咎める気にもならないのか、部屋の主は呆れたように頭を振りながらもその対面に腰かけた。 『それで、なんの用だヴァイザー?』 差し出されたウオッカに口を付けるでもなく、サイパスは来訪の理由を問いただした。 用もなく互いの私室を訪れるなど、この組織内ではそうある事ではない。 その中でも近寄りがたい立ち位置にあるサイパスの部屋を訪れる者など殆どいなかった。 そのサイパスの部屋をわざわざ人目を避けるような時間に訪れたからには、相応の要件があるはずである。 『イヴァンのガキが俺に依頼してきたぜ、アヴァンの旦那を殺せってな』 何か愉しげな報告でもするように、ヴァイザーは酒を片手にそう言った。 それを聞いたサイパスは表情を変えず、いつも通りの険しい表情のままグラスを傾ける。 『組織内での殺し合いはご法度のはずだが?』 『正当な理由がなければ、だろ? 後はバレなければか』 イヴァンはこっち狙いみたいだけどな、と付け足して下卑た嗤いを浮かべた。 サイパスはそのふざけた態度に取り合わず先を促す。 『それで、その理由とはなんだ?』 ヴァイザーが透明な液体をゆるりと口に運びグラスを空にする。 強めのアルコールに火を噴くように焼やかれた喉から、一瞬で酒気を帯びた息を吐いた。 『かぁーっ。アンタに合わせてキツめのウォッカにしたがキクなぁこりゃ』 話を進めようとしないヴァイザーにサイパスが眼を細めギロリと睨みを効かせる。 放たれる殺気に本気の色が混じりつつあるなと、敏感に感じたヴァイザーは肩をすくめて取り出した何かを空のグラスの横に放った。 それは資料の束だった。 『これは…………?』 『イヴァンは今回の事は秘密裏にやるつもりらしいが、こいつはイザ発覚して問い詰められたときのための保険らしい。 ま、でっち上げもあるだろうが、ここまでご丁寧に証拠を集められちゃこっちも納得せざる負えねえさ。 ったく。慎重と言うか、臆病と言うか。殺しは下手なくせにこういうことは徹底してやがる』 何がそんなに楽しいのか、獰猛な野生動物のような攻撃的な笑みを浮かべた。 資料を手に取り、目を通すサイパスの表情が徐々に普段以上に険しいものになってゆく。 『そこに書かれてる通り旦那は組織の情報を流してたらしい、ここ最近仕事がし辛くなってたのはそのせいだ。 ま、今のところ死者は出ていねぇが、この辺が差し止め所だろう。 しかも、野郎の脱出の手引きをしてのも旦那らしい』 野郎とは先日組織から離脱を果たしたルカの事だろう。 確かに単独では不可能なほど鮮やかな離脱劇だった。 何より、組織内で生まれ育ったルカが外部に頼る当てを持っているとも思えない。 協力者がいると言うのは考えてみれば当然だろう。 『これは重大な、組織に対する裏切り行為だぜ』 忠誠心なんてさらさらないであろう男が裏切り者を非難した。 それはきっと、本心ではなく言っているだけなのだろうけれど。 ざっと目を目を通しただけで動かしようのないような裏切りの証拠がいくつも出てきた。 成程。対外的な役割を果たしていたアヴァンならば情報を流すくらいは容易かろう。 『ま、そう言う意味じゃ、当のイヴァンの野郎も怪しくなってくるがな』 言って。ケケケと下卑た嗤いを零した。 彼にとってはアヴァンの裏切りもイヴァンが裏切っている可能性もどうでもいい事なのだろう。 『で、どうするよ。アンタがやめろってんなら止めておくが?』 ヴァイザーの問いにサイパスはつまらなさ気に深く息を吐くと、資料を読む手を止めヴァイザーに向かって投げ返した。 『それを何故俺に問う。正当な理由があるのならやればいい。 粛清を秘密裏に行おうと言うのは気に喰わないが、裏切り者を処断するのは間違いではない』 そう言うとサイパスはこれまで手を付けていなかったウオッカを呷り、机に乾いた音を響かせた。 ヴァイザーは愉しげ唇をゆがめると、空になったサイパスのグラスに新たにウォッカを注いだ。 『そりゃ問うさ。古い付き合いなんだろ、そいつを殺ろうってんだから話は通しとくのが人としての筋ってもんだろう?』 散々自分勝手に人の命を喰らい尽くしてきた殺人鬼がどの口で人の筋など説くのか。 そもそもまともな人間は人など殺さない。 致命的に人としてずれている。 『別に昔馴染みというのなら俺に限った話でもあるまい、筋と言うのならボスに通すのが筋だろう』 その言葉にヴァイザーは珍しく困ったように、あー、と呻いて視線を泳がせた。 元よりヴァイザーは真面目に報告義務を果たすような奴でもない。 面白そうだからという理由だけで秘匿する事もあるだろう。 それを許されるのは圧倒的な実績というサイパスを上回る程の発言力があるからだ。 だが、本気で秘匿するつもりならば、こうしてサイパスにわざわざ言いに来る必要はないし、公にしたいのならばサイパスではなく上に通すべきだ。 イヴァンがこの件を秘密裏に進めたい意図は分かる。 アヴァンの後釜狙いの犯行だろう、自らそれを進めたとなればいらぬ角が立つ。 そのために親殺しを行ったともなればなおさらだ。 だがヴァイザーには理由がない。 『ボスは――――ありゃダメだろ。あの人に言っても意味がない』 『どういう意味だ』 『俺の話なんか聞きゃしないって事さ、いや俺だけじゃあない。 あの人にまともに話を通せるのはもうアンタとサミュエルの旦那とアヴァンの旦那の三人だけだ』 その言葉は否定できない。 病床に伏した今のボスの精神は非常にデリケートだ。 扱いには細心の注意を必要とされ、長い付き合いで機微を理解した者でなければ、機嫌を損ねて殺されかねない。 『ならば、俺から話を通せという事か?』 『そうじゃないさ。ま、アンタがイヴァンの悪だくみをチクるのは自由だがね。 けど止めといた方がいい。事が大きくなってややこしい事になるだけだ。 どうせ答えも決まり切ってる、聞くだけ無駄ってもんだ。ボスに興奮されても困るだろ』 先日ルカの件があったばかりだ。 その時の激昂した反応を考えれば、あのボスが誰であろうと裏切り者など許すはずがない。 今のボスの容態を考えれば、確かに無駄に刺激することは避けたいところである。 『お前にボスの体調を気遣う心があるとは思わなかったよ』 『おいおい、今もこうしてアンタを気遣ってるじゃないか。 それに俺は面倒になるから止めとけといってるだけで、あの人の体調なんて気にしちゃいねぇよ』 それはボス自体がどうでもいいと言うよりも、ボスは心配いらないと言った風な言い方だった。 『俺からしてみれば他の連中がボスが死ぬだの騒いでんのか不思議でしょうがないね。あの人がそう簡単に死ぬものか。 ありゃ正真正銘の怪物だ。俺の見立てじゃ骨と皮だけになっても後20年は生きるだろうよ』 余命1年という闇医者の宣告を、命を扱う殺し屋は否定する。 それは暗に、後継者争いに精を出すイヴァンや後継者探しに躍起になるサイパス達の動きを、徒労だと嘲る言葉でもあった。 だからこそ彼はイヴァンの依頼を受けたのだろう。 『だからさ、俺はアンタに聞いてるんだ。 ボスでもなく、サミュエルの旦那でもない。アンタだから話したんだ』 ヴァイザーが話を引き戻す。 相手を逃がさない執拗な蛇のように、答えを出さず逃れることなど、この男は許さない。 『…………何故、俺に拘る?』 『忘れたのか? 俺はアンタが誘ったからここにいるんだぜ、アンタじゃなければここには来なかった。 解かるか? その敬愛しているアンタだから聞くんだ。なあ、どうなんだサイパスさんよ。殺していいのか? 悪いのか? それとも――――』 言葉とは裏腹にこの男からは敬意なんて微塵も感じられない。 愉しむように試すように、誘うように手を広げて最強の死神は問う。 『――――自分の手で殺したいか?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「はっ。死んだのかあのガキ」 吐き捨てるようにして、イヴァン・デ・ベルナルディはそう笑った。 今しがた放送によりアザレアの死が伝えられた。 ヴァイザーの死に比べれば意外な結果でもなんでもない。 平時から後先というものを考えず、生き残ると言う当たり前の思考が抜け落ちた鉄砲玉のような娘だった。 殺せば終わりの仕事と違って、生き残りゲームで死ぬのは当然の結果と言える。 所詮、愛らしい容姿と殺しの才能から組織内でちやほやされていたが、生き残れる器じゃなかったのだ、このイヴァン・デ・ベルナルディと違って。 どちらにせよ組織の連中は全てここで切り捨てるつもりだった。 無駄な手間を省いてくれたのだから、あの生意気なだけのクソガキが初めて役に立ったと言えるだろう。 イヴァンにとって死んだ殺し屋だけがいい殺し屋だ。 だが、何事にも例外はある。 「そうか、そう言えばお前もいたんだったな」 近寄ってきた影のような人物を認めて、イヴァンは幸運を噛み締めるように嬉しげに口元を吊り上げた。 殺し屋という下賤で破棄するべき奴等の中にもイヴァンの為に大いに働いてくれる利用価値のある者はいる。 ここでその唯一にして最強のカードを引き当てるとは、やはり、運命はイヴァンを愛している。 「よう、サイパス。お前と無事合流出来て何よりだ」 サイパス・キルラ。 肉体の全盛期はとうに超えているにも拘らず、未だヴァイザーという稀代の殺人鬼以外には譲らぬ、組織内でも随一の実力者だ。 そして忠実なる組織の駒。組織のためなら命すら投げ出す事を躊躇わない男である。 この場においても決して逆らうことなくイヴァンに付き従うことだろう。 そのサイパスをもってしてもこの舞台は一筋縄ではいかなかったのか、だいぶダメージを負っている様だが。 それでも五体満足で合流は果たせたのは上々だろう。 「サイパス。貴様には俺の護衛を命じる。それと余ってる銃かトカレフの弾丸があるならこっちに寄越せ」 この二人の関係性において、互いの無事を喜び合うなどと言う無駄な作業は発生しない。 指示を出す者と出される者。 この二人にあるのはそれだけである。 「護衛を務めろというのなら従おう。だが、まともな銃は一つしかないのでな、護衛を任される以上これは私が持つべきだろう」 「ちっ。仕方あるまい。なら護身用でいい、何か武器はないのか?」 「熱で銃身の歪んだミリポリならあるが、一応整備はしてみたが使えるかも怪しいぞ?」 「それで構わん、無いよりはましだ」 そう言ってサイパスの手からひったくる様にS WM10を受け取ると、パーツを解体して自分の手で検証と整備を始めた サイパスが確認したとはいえ、自分の手で確認するまで信用しないイヴァンらしい行動である。 「ちっ。確かにほんの僅かだが銃身に歪みがあるな、撃てない事もないだろうが、これじゃ狙いをつけるのは無理だな」 舌を打ちながら、解き慣れたパズルでも作る様に解体した拳銃を組み立ててゆく。 元より銃の射程と言うのはそれほど長くはない。 実戦で動く的相手に使えるのはせいぜい5~10m程度。 卓越したプロならばその限りではないのだろうが、少なくともイヴァンが扱うには致命的だ。 だが、今のイヴァンには銃以上のサイパスと言う武器がある、手持ちの武器などは最低限で十分だろう。 「まあいい、脅しや牽制くらいには使える。 それで、ここまでで俺以外の組織の連中とは出会えたか?」 何か錠剤をのみ込みながらイヴァンが問いかけた。 護衛を任されたサイパスは周囲に目を配り警戒をしながら、その質問に応じる。 「いや、ここで出会えたのはお前が初めてだ。 どうするのだ? お前を護るのはいいとして、ピーターたちとの合流を目指すのか? それとも俺たちだけで脱出を、」 サイパスが言葉を最後まで発することなく途切れさせ、あり得ない光景を見て目を見開く。 予想外の銃声が響き、サイパス・キルラは凶弾に撃ち抜かれた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『やぁ、サイパス。珍しいね君が僕を訪ねるなんて』 突然の来訪に怒るでも驚くでもなく。 暴力事などとは一生縁のないような優男は穏やかに微笑み、旧友を迎え入れた。 迎え入れられたサイパスは何も言わず睨みつけるようにアヴァンを見つめる。 その様子を見て、アヴァンはふっと穏やかに笑って全てを察した。 『そうか。君が僕の死神か、サイパス』 『違うな。それはヴァイザーの仕事だ』 最凶の死神の名を聞き逃げても無駄だと悟ったのか、アヴァンは驚くほど落ち着いた様子でソファーへと腰を下ろした。 それとも、逃げるつもりなど最初から無かったのだろうか。 『昔からの誼みだ一応言い分くらいは聞いておこうか?』 向かいに腰かけたサイパスは、躊躇うように僅かな間をおいて言葉を吐いた。 『………………何故裏切った』 『裏切ってなどいないさ。僕は君たちを裏切ってなどいない』 『惚けるな、証拠はそろっている。ルカの脱走を手引きしたのも貴様だろう』 突きつけられた明確な罪状を否定するでもなく、アヴァンは首を縦に振った。 『ああ、そうだ。ルカは新たな希望を見出した、僕はその手助けをしただけだ』 『手助け? ふざけるな、それが裏切りじゃなくてなんだと言うんだ!?』 バンと机を叩いて、サイパスが珍しく声を荒げた。 一般人なら気絶しかねないような迫力の恫喝にもアヴァンは動じるでもなくあくまで冷静に応じる。 『俺が護りたいのは『組織』じゃない。俺が護りたいのは『お前たち』だ』 『……どういう意味だ?』 サイパスが眉をひそめる。 サイパスにとってその二つに違いはない。 アヴァンにとっては違うというのだろうか。 『あの日から、カイザルはうまくやった……いや、彼はうまくやりすぎた。 組織は大きくなりすぎた、それこそ僕らの手に余るほどに』 サイパスも薄々は感じていた事なのだろう。 アヴァンの言葉を否定できなかった。 この組織は社会不適合者の集まりだ。 それぞれが勝手な行動で問題行動を起こすものは少なくない。 その中でも派閥が生まれ、組織内での亀裂も走りつつある。 ヴァイザーと言う組織の手に余る怪物も生み出した。 表面的には力をつけて潤沢になったように見えるだろうが、その実、このまま進めば立ち行かなくなるのは目に見えていた。 『だからどうしたと言うのだ。そんなものは幾らでも立て直せる。 その程度の事で、お前は組織に見切りをつけようと言うのか』 そんな事で組織は終わらない。 立ち行かなくなると言うのなら、立ち行けるようにすればいい。 これまでだってそうしてきた、これからだってそうだ。 『違う。組織は立て直すべきじゃないんだサイパス』 だが、同じ道を歩んできたはずの戦友は別の結論を出していた。 『組織は、アンナのホームに集まっていたあの頃とはもう違ってしまった。 皆を護るはずの組織が、新たな歪みを生み出している』 アヴァンは後悔と哀愁が入り混じった呟きを漏らす。 彼らを救うはずだったホームは彼らを歪める災厄と化していた。 例えばアザレア。 あの少女は間違いなく組織という歪みが生み出した怪物だ。。 組織ではなく一般家庭に拾われていたならば、ごく普通の少女として当たり前の幸せを掴めていたのかもしれない。 アヴァンの息子であるイヴァンだってそうだ。 殺し屋などでなければ、その才覚を正しく生かせる場所もあっただろう。 それは彼らだけの話ではない。 他の皆も、何か別の可能性はあったのかもしれない。 サイパスだって。 『…………だから壊そうと言うのか、他でもないお前の手で』 外部から無残に破壊される前に、ビル破壊の様に適切な手段で解体してゆく。 そうすることで組織ではなく、組織の面々を護るために。 『壊してどうなる。たとえお前の目論見通りに組織が解体されたとしても、寄る辺を失えば、俺たちは生きていけない』 『なぜそう思う』 サイパスが苛立ちを堪えるように強く奥歯を噛んだ。 『なぜ? 決まってるだろ、俺たちは所詮、溝の底でしか生きられない塵屑だ! ドブ川の底に生まれ落ちた以上、そこで生きていくしかない! そこで生きていくのならばこの組織以上の環境などない! 組織と言う庇護を失えば食い物にされるか野垂れ死ぬだけだ!』 清らかな水では息の仕方も分からない、汚れた川でしか泳げない魚もいる。 だから、そんな奴等の目にせめて泳ぎやすい世界を用意してやるのが組織の役目だ。 そのためにサイパスはこれまで尽力してきたのだから。 『それが無理だとなぜ決めつける。なぜ泥の底から這い上がろうとしない!? 俺たちの生き方が血塗られた道だけだとなぜ決めつける!?』 ここに居てはいつまでも地の底から這い出れない。 はた迷惑で排他的な享楽に浸るだけで、血塗られた生き方を増長するだけだ。 ルカの様に、日のあたる世界を歩める者もいるかもしれない。 そのために組織はもう足かせにしかならない。 『それをお前が言うのか……! 今もこうして暗闇の底を彷徨ってるお前が!』 『そうだ。僕たちはその暗闇の中で出会えたじゃないか。彼女に』 『…………ッ!?』 あの出会い。 あのホームで過ごした日々は、先も見えない暗闇の世界であり得ない奇跡だった。 そんな奇跡が、彼らにも訪れると言うのだろうか。 そんな訳が、ない。 『黙れ! 下らない理想を語るなよアヴァン! 俺達はここでしか生きられない! この組織だけが、俺たちが自由に生きていくための唯一の寄る辺なのだ!!』 どれほど足掻こうとも蛾は蝶にはなれない。 蝶になれずとも蛾は蛾なりの幸せがあるはずだ。 不幸の形が数多にある様に、幸せの形も一つではない。 世界から見捨てられた、誰からも選ばれなかった、天上に昇れぬ外れた連中の地底の幸福を追求する。 それがこの組織の在り方だ。 『理想を語っているのは、お前の方じゃないのかサイパス……?』 『…………なに?』 サイパスの表情が歪む。 さまざなな感情が入り混じった泣き笑いのような顔だった。 『その理想は誰の理想だ? 君の理想か? それとも――――アンナの理想をなぞっているだけなのか?』 『……貴様』 周囲が歪む程の黒い殺気がサイパスから膨れ上がる。 抵抗する力などなく、ともすれば1秒後に縊り殺されるような状況で、それでもアヴァンは一切怯む様子もなくサイパスから目を逸らさなかった。 アヴァンは誰よりも弱く、戦う力などなかったけれど、誰が相手だろうとも己の意思を変えたことなど一度もなかった。 あのホームにいた連中は、誰も彼もが変わり者で、生き方を変えることのできない不器用な連中ばかりだった。 『お前もカイザルも同じだ。カイザルは組織そのものにアンナを重ねて、お前はその理想を受け継ぐことでアンナを生かそうとしている』 『…………黙れ』 懐から抜かれた拳銃が突きつけられた。 最後通告である。 それでも、アヴァンは止めなかった。 『――――もう夢から醒める頃合いだ。『アンナの亡霊(そしき)』に囚われるのは終わりにしよう。サイパス』 決別を告げるように銃声が小さな部屋に鳴り響いた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 弾丸は右腰を直撃した。 サイパスを撃ったのはイヴァンだった。 歪んだ銃であろうと、射手の腕が悪かろうと1メートルにも満たない距離で止まった的を狙うのならば、弾さえ出れば問題はない だが、それだけではサイパスを仕留めるに至らず。 撃ち抜かれた腰元から血の線を宙に引きながらサイパスは後方に飛び退た。 着地した瞬間を狙った追撃の弾丸が放たれるが、痛みを感じさせぬ機敏な動きでサイパスが翻る。 ピンボールのような動きで瞬時に間合いを詰めたサイパスは、両足ごとへし折る勢いの足払いでイヴァンの体を宙に浮かせると、顔面を鷲掴みにして地面に叩きつける。 後頭部が固い地面にぶつかり、脳が揺さぶられイヴァンの意識が一瞬飛んだ。 そのまま仰向けに倒れこんだイヴァンの肩関節を靴の踵で踏みつけると、ゴリィという骨が外れる鈍い音が鳴った。 痛みにイヴァンの意識は覚醒し、その口から悲鳴のような呻きが漏れる。 「やるじゃあないか、イヴァン。お前にこんな才能があるとは思わなかったよ」 打ち抜かれた脇腹を押さえて、今の一撃は見事の不意打ちだったと評価する。 イヴァン・デ・ベルナルディという男をよく知るからこそ油断した。 まずは保身を考え、まだ利用価値のあるサイパスをここで切るようなことをするはずがない。 最後にサイパスを切るとは思っていたが、動くなら勝利の見えた最終局面だと思い込んでいた。 その思い込みが反応を遅らせた、サイパスの油断を見事についてきた。 だが、褒め称えるような言葉とは裏腹に、その顔に浮かぶのは見るものを凍りつかせるような残忍な笑みである。 「ち、違うんだ!」 「何が違う? 褒めてるんだぜ俺は?」 言いながら肩を踏みつけた足をグリグリと動かし、そのまま眉間に突き付けるように銃口を向ける。 いかにイヴァンと言えど、ただ銃口を向けられた程度で怯えるような生き方はしていない。 だが今銃口よりも恐ろしいのは、静かな殺意を湛えているこの男の存在そのものである。 「昔からの誼みだ一応理由を聞いておこうか? ここで撃って来るなんて、らしくないじゃないかイヴァン」 何故撃ったのか? イヴァンはその理由を自問する。 だが思い浮かぶ理由など大したものではない。 自分では決して勝てない相手だと思ったから殺せるときに殺さなくてはと思ったから撃った。 実際サイパスの不意を突けたのだから千載一遇の勝機ではあったのは確かだろう。 ただ、冷静に考えれば余りにも短絡的な思考であることは否めない。 長期的に考えれば、まだ利用価値のあるサイパスをここで切るのは明らかに損である。 堪え性のないガキじゃあるまいし、損得勘定を見誤るなどイヴァン・デ・ベルナルディらしくないというのならば確かにその通りだ。 それを理解していながら、撃たずにはいられなかった。 それは何故か、 「そうだ…………そうだ! マーダー病だ!」 「マーダー病?」 普段の自分ではあり得ない行動をとった自身の状況と、アサシンから得た情報を照らし合わせて。 あの時、アサシンに傷つけられて体内に潜伏した病原菌がようやく発症したのだと、ようやく思い至った。 サイパスに問い詰められるここに至るまで、自身に違和感すら感じる事すらできない。 その事実に薄ら寒いものを感じるが、彼は気付けた。 「そ、そうだ。病気なんだ、病気のせいだ、俺の意思じゃない!」 「おいおい。口の立つお前にしちゃあ、ずいぶんと杜撰な言い訳じゃないか」 イヴァンとサイパスの付きあいは昨日今日の話ではない。それこそ生まれた時から知っている間柄だ。 持病などないことは当然の様に把握しているし、人を殺したくなるなんてそんな奇病はこの業界でも聞いた事すらない。 「アサシンの野郎だ! アイツにやられたんだ! あいつの持ってるナイフに斬られちまうと、マーダー病ってイカレタ殺人鬼になっちまう病気をうつされちまうんだよ!」 「アサシンの……ナイフ」 それに関してはサイパスにも心当たりがある。 確かにサイパスの出会ったアサシンはナイフを持って怪しい動きをしていた。 「だが、何故奴がそんな病気を広める必要がある? ナイフがあるなら手っ取り早く殺せばいいだろう」 あのアサシンがイヴァン程度の相手を仕留めきれないとも思えない。 それとも一人で70名以上を殺害するのは無理と判断して、単純に手駒が欲しかったのか。 それにしたって殺しの駒ならイヴァンよりももっといい駒がいるだろう。 「……アイツはワールドオーダーから依頼を受けたと言っていた」 「成程」 何人か仕込みがいるとは思っていたがアサシンがそれか。 アサシンは性格には難があるが、暗殺者としては間違いなく最高峰だ。 それを雇うというのは確かに悪い選択ではない。 「話は分かった。仮にその病気が事実だとして、だ」 銃口を額に押し付けながら、驚くほど穏やかな声でサイパスが問いかける。 「なぁイヴァン。俺は本気でお前がボスになっても構わないと思っていたよ。 だからお前に付き従ってきた、どうしてだと思う?」 何故この場面でそんな事を問うのか。 その問いの意図をくみ取れず、イヴァンは素直に答える事にした。 「お、俺が一番組織を巧く運営できるから?」 「そうだ。お前は個人としては愚かだが、小賢しさとその臆病さは集団を率いる者としては悪くない。 少なくとも、立ち行かなくなりつつある今の組織をどのような形であれ持ち直す事はできるだろう」 人には適性があり、集団をまとめ組織を運営してゆくにはそれに応じた才覚が必要だ。 アサシンや今のボスのような殺しも運営もこなせるような万能の天才などそうそういるモノではない。 殺し屋ばかりを集めた組織の中にその適性を持つ者は少なく、イヴァンにはそれがある。 それ故に、イヴァンは組織の中で唯一無二の存在と言えた。 「だがなイヴァン。憐れなイヴァンよ。お前何か勘違いしてないか? 誰彼かまわず殺しまわるようなイカれた殺人鬼になっちまったお前に、俺が大事な組織を任せると思うのか? 俺がお前に付き従っていたのは、お前が組織にとって有用だったからだ。 組織を率いると言う役目を失ったお前に、俺が素直に付き従うと思うのか?」 イヴァンは自分が散々見下してきた組織の殺し屋たちと同じステージに落ちたのだ。 つまりこの状況は、イヴァンがこれまで殺し屋たちを切り捨てたように、イヴァンが切り捨てられようとしている。 「違う、治る! 治るんだこの病気は!」 「ほぅ。どうやって?」 問い返されて言葉に詰まる。 「…………い、意志を強く持つとか、聖者に治療してもらうとか」 妖刀の説明に書いてあった条件を思い返して口にするが。 自身の口から語る程、何ともバカバカしい事のように思えてしまった。 殺し屋が信じるのは己だけ。 殺し屋は意思なんて曖昧ものに頼らないし。 殺し屋が聖者に祈るだなんて笑い話にしかならない。 それは聞いているサイパスも同じ感想だったのか、バカにするように鼻で笑う。 「ハッ。意志? 聖者? おいおい、笑わせるなよイヴァン。お前の冗談で笑ったのは初めてだぜ。なぁイヴァン――――笑えよ」 「ひッ!?」 溶けた鉛のような息ができない程の重圧。 暗黒の化身のような男がくつくつと喉を鳴らす。 「そら、俺を納得させる言い分を持って来いよ。得意だろとういうの? そうじゃなければ俺に敵対したお前を生かす理由が無くなるぜ?」 殺される。 生き残るに足る理由を用意できなければ、この男に楯突いた以上、イヴァンは確実に殺される。 「…………だ、だいたい、俺を殺してどうする!? まともな後継者がいなければボスが死んだら本当に終わるぞ!? 俺じゃなければいったい誰が組織を導いて行けると言うんだ!?」 組織にいるのは運営どころか足し算すらできないような学のない殺人狂の集まりだ。 マーダー病というマイナスを差し引いても、イヴァンの価値はまだあるはずである。 「そうだな今のお前には任せるくらいなら、ピーターにでも任せるさ」 「ピー、ター…………?」 ピーター・セヴェール。何故ここであんな奴の名がサイパスの口から出るのかイヴァンには理解できなかった。 奴は取るに足らない、一殺し屋に過ぎないはずである。 だが、サイパスの評価は違う。 女専門の食人鬼という特殊性癖に目が行きがちだが。 サイパスがピーターを評価しているのは、そのクレバーさと危機に関するバランス感覚だ。 「まあ、本人にやる気がないのが問題だがな。だから俺はお前の野心を買ってやってたんだが」 イヴァンはマーダー病を患っており、ピーターは己の欲求以外にやる気を見せない。 双方にマイナスはあるが、ピーターのケツを叩く方が幾分かましだとサイパス判断したのだろう。 つまり、これで本当にイヴァンの唯一性は失われた。 凡百の殺し屋でかなくなったイヴァンなど、いつ背を撃つかもわからない危険物でしかない。 そんな相手を生かしておく価値はないだろう。 イヴァンは頭の中で生き残りの算段を立てる。 もう、この死の運命に抗うには、サイパスと戦うしかない。 事前に飲んでおいた現象解消薬の効果により脱臼は既に完治している。 相手が既に破壊し動かないと踏んでいる右手を使えば、上手く出し抜くことができるかもしれない。 勝てなくてもいい。ただ一太刀、魔剣天翔で傷つけることさえ出来れば。 「…………っ! ぁぁぁあ…………!!」 「誰が動いていいと言った?」 隠し持ったナイフを取るべく細心の注意を払って動かしたはずの右手の甲が撃ち抜かれた。 油断など、この男に微塵程もあるはずがない。 「く……くす、薬…………ッ」 反射的にイヴァンは現象解消薬を飲もうとするがそれは無意味な事だ。 この薬は飲んだ時点の状態を再現するものだ、後から薬を飲んだところでもうこの傷は治らない。 「ぅああ……っ! くぅ……っ!」 「おいおいイヴァン。お前は人の話を聞けないのか?」 だが、それ以前に、薬を取り出そうとした左手も打ち抜かれ薬を取り出す事すらできなかった。 イヴァンが呼吸を荒くし、風通しがよくなった赤く染まる両手を震わせる。 燃え上がるような両腕の痛みの中でイヴァンは思い出す。 組織に入った者は真っ先に教育係であるこの男に対する恐怖を植え込まれる。 組織で生まれ育ったイヴァンにとってもそれは同じ、いや他の者以上にそれを叩きこまれていたはずなのに。 父を殺して、その後釜に収まり幹部となって、全てを従えた気になって、忘れていた。 忘れてはならない、絶対的な恐怖を。 「ぁあああぁぁああぁあああああああああ!!!」 イヴァンの絶叫。 それを断ち切る様に銃声が鳴り響いた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『お前の始末はヴァイザーの仕事だ。あとは勝手に死ね』 サイパスとアヴァンの話し合いは、壁に穴を一つ増やしただけで、結局何一つ分かり合うことなく決裂した。 今更そんな結論になるのは解かり切っていた事なのに。 決して譲り合う事なく、分かり合う事もない。そんな連中の集まりだったのだ。 意見が割れた以上こうなるしかない。 それを仲裁できたのは、後にも先にもただ一人だけだった。 『なぁサイパス』 もはや語ることはないと立ち去ろうとしたサイパスの背を止める声があった。 これ以上何があるのかと怪訝そうな顔をしながらも、最期の言葉でも残すのかと思いサイパスが振り返る。 だがしかし、問われたのは別れの言葉に相応しくない、予想外の内容だった。 『ホームにいた、ジョン・スミスという男を覚えているか?』 ジョン・スミス。アメリカで最もありふれた姓名を組み合わせた名だ。 確かに、言われてみればそんな名を名乗った男が一時期アンナを中心とした集まりであるホームにいた気がする。 『……細かい事まで覚えているわけではないが。 ふざけた偽名だったからな、そんな奴がいたという事だけは薄らと憶えているが、それがどうした?』 覚えていると言ってもハッキリ言って印象は薄い。 何しろ古い話だ。存在と名前は思い出せても靄がかかったように顔は思い出せない 脛に傷を持った連中の集まりで偽名を名乗る輩は珍しくもなかったし、中には本当に名前がない奴すらいた。 偽名を名乗った程度では大した印象には残りようがない。 そういえば奴はどうしたのだったか。 気付けばいなくなったような、どうにも曖昧だ。 それも仕方ない事だ、これだけは覚えている事だが、アンナが死んだのは奴が現れたその直後だったはずである。 たしかカボネのアジト襲撃のメンバーにはいなかったはずだ。 いや、奴がどうなろうとも、旧友との最期の別れ際に話すようなことのようには思えないが。 『あの日、僕たちの情報をカボネの連中に売ったのはそいつだ』 『――――――』 サイパスは言葉を失った。 赤く染まる白い雪。 華のように摘まれた少女の死体。 あの雪の日が脳裏をよぎり目眩がする。 よろめいて壁に手を付いた。 それはつまり。 あの事件を引き起こしたその元凶が、あの男だったという事か。 一瞬。何者かの歪んだ口元がフラッシュバックしたような気がした。 『僕が突きとめられたのはそこまでだ。 それ以上は霞がかかったように捉えられなかった』 彼に無理だったと言うのなら、組織内の誰にも無理だろう。 『別にこの情報をどうこうしてくれという訳じゃあないんだ、ただ知っておいて欲しかったと言うだけだ』 そう言ってアヴァンはいつものように力なく笑った。 『それじゃあサイパス。カイザルとサミュエルによろしく言っておいてくれ。 僕はバルトロとアンナにお先に会いに行くよ』 重い扉が閉じる音だけが響く。 それがアヴァンとサイパスが最後に交わした言葉だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 引きずるような思い足取りで、腰元を押さえた初老の男が灯台の足元を一人歩いていた。 男の押さえている腰元からは圧迫により止血がなされているが今だ血が溢れている。 その顔には紅い飛沫化粧が塗られていた。 自身の物ではない、おそらくは返り血か何かだろう。 男――サイパス・キルラは足を止めると、一先ず狙撃などの襲撃のリスクの低い灯台の影に隠れ身を休めた。 イヴァンとの合流と言う第一目標は破綻した。 早急に次の目標を定め行動しなくてはならない。 サイパスが動くのはあくまで組織のためである。 生き残りを目指すのも自身の命恋しさと言うよりも、自身と言う存在が組織のために必要だから生かすと言った意味合いが強い。 彼の全ての行動はその観点で定められる。 後継者候補は必要だ。 まずはピーターとの合流を目指すべきか。 だがしかし慎重なサイパスの性格だ。 組織の存続のかかった案件だ、イヴァンのみならず仮にこの場でピーターが死んでもいいように二重三重の保険はかけてある。 次善策を進めるにはサイパスが生き残った方が進めやすい。 となると生き残りを優先した方がいいのか。 その前にイヴァンに撃たれた傷も治療せねばならない。 圧迫していれば出血多量に至ることはないだろうが、戦闘に支障をきたす。 今後の方針を幾つか頭の中で取捨選択して行き、その結論が出る前にサイパスが深い息を吐いた。 その表情には憂いのような重さが見え、年齢以上の深い哀愁を感じさせる。 それは肉体的な疲労だけではないだろう。 生き急ぐように駆け抜けてきた、その疲れが今になって現れたのかもしれない。 「…………少し、疲れたな」 呟きを残し、重い肉体を引きずる様にしてサイパス・キルラは動き出した。 まだ止まるわけにはいかない。 彼にはまだ、やらなくてはならない事があるのだから。 【イヴァン・デ・ベルナルディ 死亡】 【D-3 灯台付近/日中】 【サイパス・キルラ】 [状態]:疲労(中)、火傷(中)、右肩に傷(止血済み)、左脇腹に穴(止血済み)、右腰に銃痕 [装備]:M92FS(11/15) [道具]:基本支給品一式、9mmパラベラム弾×45、サバイバルナイフ・魔剣天翔 [思考・行動] 基本方針 組織のメンバーを除く参加者を殺す 1 ピーターとの合流を目指す? 2 亦紅、遠山春奈との決着をつける 3 新田拳正を殺す 4 決して油断はしない。全力を以て敵を仕留める。 122.三人寄れば文殊の知恵 投下順で読む 124.第八次世界大戦を越えて 時系列順で読む 俺達のフィールド サイパス・キルラ 夢をみるひと 生と死と イヴァン・デ・ベルナルディ GAME OVER