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■アリス3 703 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 14 16 24 [ .IDGnam. ] だれかアリスといっしょの後日談書いてくれないかな… 704 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 14 27 03 [ 889dF94o ] いいだしっぺの法則ってのを知っているかい? 710 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 22 55 02 [ bqIsA/Uk ] 703 後日談。 「なぁ」 「なに?」 結局、俺は幻想郷に住んでいる。 アリスと一つ屋根の下、という暮らしにはもう慣れた。 が、彼女達の「弾幕ごっこ」はどうも俺の範疇を超えている。 輝石で盾を形作ることは出来るようになったけどまだまだ。だから…。 「空が飛びたい」 「…空を飛びたい?」 アリスは椅子に深く座りなおして珈琲を一口。 カップを傾ける時に目を瞑る癖が本当に可愛らしい。 「駄目か?」 「う~ん…」 「無理か?」 「…無理ね」 そう。俺は魔法が使えない。 輝石はそれ自体が優れたマジックアイテムだから俺にも使えるそうだ。 「ほら、箒とか、どうよ?」 「…アレは日々の修練の賜物。 それに魔理沙の箒自体は何の魔力も持ってないわ。 形から入るとイメージしやすいから使っているだけよ」 「…むむ」 「貴方の輝石と同じ。想えば想うだけ強くなる」 「…箒に力は無いんじゃなかったか?」 「解ってるじゃない。箒は『イメージすること』を助ける為のシンボルね」 「…むむ」 「解ってないのが解りやすい」 「さっき『解ってるじゃない』って…」 「解ってるかどうかが解らないってことは、結局解ってないのよ」 「…むむ」 アリスは口元に指を添えて楽しそうに笑った。可愛いぜコンチクショウ。 こっちに来てからはずっと彼女にからかわれっぱなしだ。嫌じゃないが。 「ふふ、えっと…そう。空を飛ぶのよね」 「やっぱ無理かな?」 「無理な訳ないわ。ヤル気も十分だし、先生は優秀だし」 「お、お願いします先生」 わざとらしくテーブルに両手をついて頭を下げる。 見えないが、アリスが笑ったのが解る。そう…俺にはちゃんと解る。 ふとアリスの手が俺の頬に触れた。頭を上げると目の前に彼女の顔…。 「先生とキスできる?」 「……は?」 アリス先生、ちょっとお顔がマジですよ。 そういうお顔はかなりグッと来ますよ先生。 『してやったり』って表情が隠しきれてないですよ先生。 まぁ何が言いたいかって言うと急展開についていけないけどキスは出来るよせん 「んっ…」 「ぅをふ」 空を飛ぶってそういう意味ではなくてですね先生ちょっと姿勢が姿勢なんでなんか卑猥ですよ先生少しだけ珈琲の味と香りがしましたよ先生いつもより大人っぽく見えてどきどきですよ先生…。 ――――――― (Y) ,,..-ー7" `ヽー- ..,, /,,.-ー "´ ̄ ̄`゙ー- 、ヽ、 / "i´ |l⌒ヽ、__,ノ´⌒l| ヽ ., l ,.ゝ 、r-、__!r-、__,r-i_ノ_,.イ l , `γ´ ハ λ ハ ゝ r "i ヽ; i レイ._,.レハノ.,_レヽノ i ン ノレ´ .i.-─ ─-i. | 7 从" ¬. ".从 i ちょっと危うくなってきたから 〈./ ri.>r---,.イレ ヽ 〉 続きはスキマの向こうでやってね? __ハ/⌒iイヽニンYー 、 ハイ { 全く、女の子に手玉に取られてどうするの…。 -=ニ ̄ ヽゝ、ノY rー -、ノ  ̄ニ=-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー " ̄ ̄ ̄ ――――――― 711 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/27(木) 23 15 39 [ bqIsA/Uk ] ――――――― (Y) ,,..-ー7" `ヽー- ..,, /,,.-ー "´ ̄ ̄`゙ー- 、ヽ、 / "i´ |l⌒ヽ、__,ノ´⌒l| ヽ ., l ,.ゝ 、r-、__!r-、__,r-i_ノ_,.イ l , `γ´ ハ λ ハ ゝ r "i ヽ; i レイ._,.レハノ.,_レヽノ i ン ノレ´ .i.-─ ─-i. | 7 从" ¬. ".从 i あらごめんなさい。早とちりだったみたい。 〈./ ri.>r---,.イレ ヽ 〉 お姉さんったら少しだけ勘違いしちゃったわ。 __ハ/⌒iイヽニンYー 、 ハイ { 健全な続きをどうぞ~。 -=ニ ̄ ヽゝ、ノY rー -、ノ  ̄ニ=-  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー " ̄ ̄ ̄ ――――――― 「んふ…んっ…、…ぷは」 「ふは…えっと…アリス?」 「…これで飛べるかしら?」 「えと、…まぁ」 いやそれはもう今すぐにでも桜花結界を突き抜けて春満開の冥界へと舞い上がれそうな気分です先生!! 「『悪魔の口づけ』よ」 「…え?」 「ほら」 「ううををを!!?」 アリスが促すように軽くあごを動かすと、俺の身体は急に少しだけ宙に浮かんだ。 驚いた俺は思わず頬に添えてあるままの彼女の手を握ってしまう。 「自分で動けそう?」 「いやっ、あの、そのっ、アリスっ?」 「ちょっとだけ私の魔力を貸したの。まっすぐまっすぐ」 「待て待て待て手を離さないでってばばばばば!!」 「大丈夫。決して落ちると思わないことよ。私を信じて、ね?」 「いやそれは勿論大丈夫ですけどこれはそのなんというか」 「理屈は後。貴方なら出来る。信じてるわ。それ、いち、にの、さんっ」 「おをーっ!?」 落ちる!と思っちゃいけない!浮け!浮く!浮いたッ!! 手をバタつかせれば落ちずに空中でバランスが取れる。 気が付けば椅子の背の上数十センチ離れたところに立ってるぜ…。 これは感動する。 「…どう?」 「とってもおどろいてびっくりです」 「上々ね。ゆっくり降りてこれる?」 「うぅ~むむむ」 少しずつ高度が下がる。アリスは立ち上がって俺に手を差し伸べてくれた。 背伸びしたアリスの手を握れるまであと十五センチ!十センチ!七センチ! 「よしっ!」 「うおっ!」 アリス は ジャンプ して おれ の て を つかんだ 。 しかし おれ は その て を つよく にぎり かえして ひっぱり あげる ! 「ひゃぁ!」 久しぶりに聞いたアリスの可愛い悲鳴。 アリスは驚いて俺に抱きつこうとしたがギリギリのところで堪えた。 「っと」 もう片方の手も取ってアリスを俺と同じ高さまで優しくエスコートする。 ふはは!決まったぜ、完璧に決まった!今の俺はカッコいいぞ! 「すごいじゃない!…まぁ出来ると思ってたけど、さ」 「うわははは!俺とアリスの愛のパワーがあればこのくらい」 「浮いただけよ?」 「…ハッ!」 少しくらいノってきてくれてもいいじゃないかアリス。 それが悔しいから抱き寄せる。そして嬉しいから強く抱き締める。 「ひゃ…」 「俺、飛べるようになれるかな?」 立っている高さが同じでも、アリスのほうが頭ひとつ分低い。 目を合わせようとするとどうしても見上げられる形になる。 「キスだけじゃ無理ね…」 「へ?」 「形式だけだけど、これは一種の取引だから」 「…むむ?」 「魂と魂の契約。与え、捧げ、尽くし、尽くす」 「…解りやすく」 「そうね…そう。愛のパワー。本当に、そうよ」 「…そうなのか?」 「そう。だから…もっと」 「もっと、って…」 「大丈夫。信じて…」 アリスはそう言って、静かに目を瞑った。 4スレ目 703-704 710-711 ─────────────────────────────────────────────────────────── 後日談が止まらない…。続きを投下だぜ。 「無理のし過ぎね」 「悪い…」 身体が重たい。けど頭はどこかふわふわしていてとっても変な感じだ。 俺は半日以上ぶっ続けで飛び回った挙句、倒れてアリスの介抱を受けている。 「…ううん。無理をさせたのは私よ」 「いや、そんなことは…」 「いいの。私の所為にしてゆっくり休んで頂戴」 「心配させてごめん…」 「ふふふ。何だか色っぽい」 「…色っぽい?」 ひんやりとした手が俺の額に触れる。指先がそのまま頬を伝い、手の甲が首筋に触れる。 アリスは曖昧に笑うと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。どうしてか、少し嬉しそうだ。 「目病み女と風邪引き男、ってやつよ」 「…?」 「まだボーっとする?」 「少し…かなり」 「もう一晩ね…。ゆっくり休むこと」 「うん…」 頬にまたひやり、とアリスの手が触れる。アリスは屈み込んで俺の額に軽くキスをした。 落ち着く。彼女の優しさがゆっくりと身体に浸透するようだ。静かに意識が遠退いて…。 そして静かに目が覚めた。どのくらい寝ていただろう…。 身体は依然重たいまま。けど指先や腕は動くようになっているみたいだ。 「アリス?」 「…ん」 何の気なしに呼んだつもりが、俺の胸の上から返事が返ってきた。 …寝てる。可愛い。…身体は起こせないか。勿体無い。抱きしめられないじゃないか。 「…アリス?」 「…うん」 アリスはふっと満足そうに笑った。綺麗でしなやかな手は布団を軽く握っている。 俺の夢を見ているなら…、いや、そうでなくても、この幸せそうな眠り姫は起こすまい。 「ありがとうな…」 髪を撫でると、アリスは小さく悶えて喉を鳴らした。 蜂蜜に黄金を溶かしたような金色の髪。細く引かれた形のいい眉。 整った目鼻のライン、桜色に染まった頬、小さな薄い唇…。 もういつから彼女のことが好きだったのかは思い出せない。 あの森で出会う前は他人だったなんて、もう絶対信じられないな…。 …俺がアリスを守れるようになってやる。アリスがいつまでも俺を信じられるように。 そう思うと腹の底に暖かいものが湧いてくる。彼女のためになら、何でも出来る力が…。 「あぁっ!」 「おわっ」 と、不意にアリスが跳ね起きた。それはもう凄い勢いで。 勢いあまって椅子の背もたれに背中をぶつけ、そのまま身を固めて動かない。 「あ、…あれ?」 「…おはよう」 「あ…うん。おはよ…」 俺の顔を見てパチクリと瞬きをするアリス。急に手を伸ばしてぺたぺたと俺に触れた。 アリスはいろんな感情が入り混じった複雑な顔をしている。…夢の中で何があったんだ。 「…どうした」 「えっと、えと…」 「深呼吸深呼吸」 手を握ってやると、かなり強く握り返してきた。 アリスは俺の手を胸元に当てて、ゆっくりと息を吸って、大きく溜息をついた。 「何の夢を見たんだろ…」 「それは俺が聞きたい」 「凄い変な感じ…」 アリスは両手で、俺の手を何度も握ったり擦ったりしながらキョロキョロしている。 「大丈夫か?」 「……うん」 やっと目が合った。じー、っと、何かを探すように俺の目を覗き込んでくる。 握られた手の指でゆっくり手の甲を撫でてあげると、アリスが徐々に脱力するのがわかった。 「何があった?」 「…契約の副作用かな」 「それって?」 「○○が弱ってるからだよ…」 「俺のせい?」 「私のせい…」 どうも要領を得ない。俺の理解力が乏しいだけかもしれないが。 「大丈夫か?」 もう一度尋ねると、アリスはゆるゆると首を振った。 「待って…」 「待つさ」 また、アリスの手に力がこもる。きゅう、という音が聞こえてきそうだ。 「体、もう動く?」 「まだあんまり…」 と、思ったが、俺の身体は全く抵抗なく普通に起き上がった。 さっきまで腕がようやく動かせる程度だったのが嘘のようだ。 アリスは小さく溜息をついて、握っていた手の力を緩めた。 まだ理解が出来ていない俺の姿を見てやっと安心したらしい。…失礼だな。 「なるほどね」 「どういうことだ…?」 「さっき、私のこと強く意識した?」 「さっきって?」 「私が…起きた時、私のこと考えてた?」 「えっと…まぁ、はい」 「そう。…不思議なこともあるのね」 「…説明よろしく」 「私の魔力が貴方に流れ込んだのよ、きっと」 「…どうして?」 「早く元気になって、って私が願ったからかな」 「そこで俺が、アリスのことを強く想ったから?」 「きっと…私の力になりたい、とか、願ったんでしょう?」 「いや、…いや、そのまんまだな。当たってます」 「やっぱりね。よかったぁ…」 そう言うと、アリスは大きく背伸びをした。 手を握ったままだったせいで、俺は引っぱられて体が傾く。 危うくベッドから落ちそうになったところで、横っ腹にアリスが抱きついてきた。 「おぉぅ?」 「素敵…」 アリスは俺の胸に頭をぐりぐりと摺り寄せてくる。…よく解らないが幸せ。 「アリス?」 「何だか疲れちゃったわ」 「あ、そうか。魔力が…」 「いいのよ。そんな瑣末なこと」 「でもなぁ、結局アリスが…」 そうだ。アリスは俺のために自分の魔力を削った。 俺の方が遠慮してたはずなのに…。これじゃあ意味がないじゃないか。 「それじゃあ、ここで眠ってもいい?」 顔を上げたアリスの瞳は潤んでいた。そんなことでいいのか…。 何故かアリスはすこぶる嬉しそうなんだ。俺、何かしたかな? 「あぁ…それは勿論」 「手、握っててね」 「…おういえ」 こんなことでいいんだろうか。 毎度毎度迷惑をかけてばかり…。人間ってのは無力だな。 「はぁ…大好き…」 …まぁいいか。そんな瑣末なことは。 今は彼女の側にいてあげるだけだ。 この埋め合わせはいつか必ずするよ。 おやすみ、アリス。 4スレ目 738-739 ─────────────────────────────────────────────────────────── 740 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/29(土) 15 32 43 [ Cb3GsBLE ] 問題:『文中でアリスが非常に喜んだ理由を簡潔に述べなさい』 すまぬ、アリスの頭の回転が速すぎてよく解らない可能性大。 というか解らないと思うので気になったら訊いてね…。ちゃんと答えます。 寝ぼけたり慌てたり弱ったりするアリスかぁいいよぅ!…ごめんなさい精進します。 741 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/07/29(土) 17 37 40 [ VATAaZm. ] なに?それはつまり、 アリスが何がそんなに嬉しいのか判るように、 顔を真っ赤にして、わたわたしながらも語ってくれるのか!? そ れ は す ご い ! (ひゅ~ん…)←人形 750 名前: 後日談2 - 3/2 投稿日: 2006/07/29(土) 23 32 26 [ Cb3GsBLE ] 741 「そのっ、ほら、『魂と魂の契約』って言ったでしょ? それのことよ。 両者の魂同士の了解のうちに契約内で魔力の給与が行われたってこと。 はぁ…、これくらい解って欲しいわ。二人とも、口に出して魔力の取引を宣言した訳じゃないでしょう? つまり、私たちの両方が心の底から同じことを同じように強く望んだ、って意味で…。 何が嬉しかったかっていうとその…、貴方が私のことを想ってくれてるのは勿論だし、何より私が…、 …あー! もう! 怒るわ! 解ってるくせに! これ以上言わせると本当に怒るわよ! 全く。…大バカ」 4スレ目 740-741 750 ─────────────────────────────────────────────────────────── 戦利品を抱え、鬱蒼とした森の中を歩く。 別に世の中を悲観して森の奥で…というワケではない。ある所に届けものをする為に、である。 やがて、森の中に静かに佇む小さな一軒家が見えてきた。見慣れた扉を開け中に入る。 「こんちわっす。今日は面白い物を仕入れてきたぞ」 「…あらいらっしゃい。見せて貰えるかしら」 声の主はアリス・マーガトロイド。この家に住む人形遣いで魔女である。 しかし今日はどうも表情が渋い。はてどうしたのやら、と思っていると奥から別の声。 「おぅお前さんか、お久し振り」 「やぁ魔理沙。お邪魔してたのか」 声の主は霧雨魔理沙、同じ森に住む白黒魔砲使い。おそらくまたアリス宅に強引に押し掛けてお茶でもせがみに来たんだろう。 とにかくこの二名が顔を合わせると大概何かが起きる。以前似たような状況になった時は弾幕ごっこが勃発し、とばっちりを受けて危うくMy魂魄が吹き飛ぶところだったことがある。 その時は幸いにも竹林に住む某医師が色々とヤバい治療(通称「ドクターえーりんの密室個人授業(はぁと」)をしてくれたお陰で、たった一つしかない魂魄を繋ぎ止めることができた。 生きてるって素晴らしい。ありがとう先生!ボク、頑張って生きてくよ! …とまぁそんな凄惨な過去は二百由旬の彼方に放り投げ、持ち込んだ荷物を開き反物を取り上げる。 「なんでも、クモの糸を魔力を込めて織り上げたって話だ。クモの糸は頑強だから、人形の素地とかにはいいんじゃないかな、と思ってな」 …魔力の込められた布はそれ自体が優れた魔力媒体として機能する。 例えばグリモワール等といった魔導書の表紙が紙でなく布なのも、本を媒体に魔法を行使する時に色々便利だかららしい、という話を人づてに聞いた覚えがある。 「へぇ、それはまた珍しい物を持ってきたのね…そう、折角だからお茶でも飲んでいかないかしら? さっき茶菓子にクッキーも焼いたし。取り引きはそれが終わってからにしましょ」 「…何だお前、私の時と違って随分気前が良いじゃないか…アレか?愛しのダーリンにはとことん優しく、ってか?」 「無断で手土産一つ持たず人ん家に上がり込むどこぞの野魔砲使いと違って、きっちり等価交換をしてくれる相手なら、物腰が柔らかくなるのは当然じゃなくって?」 「こりゃまた手厳しいことで…」 しれっと受け流すアリスに、これまたしれっと返す魔理沙。いやまぁ彼女のダンナになった、ってつもりはまだないんですが… それでもちゃんとお茶を出している辺り、何だかんだ言って結構気前が良いのかも知れない。多分。 「それはともかくアリス、悪いがクッキーもうちっと焼いてくれないか?」 「…は?私3枚くらいしか口にしてないんだけど?」 「いや…な、美味しかったんで私が全部食べちまった」 ハハ…と笑う魔理沙。机の上には恐らくクッキーが入っていただろうと思われる丸皿が、まっさらな皿地を晒して置いてあった。 所々に残るクッキーの欠片が、かつてそれが入っていたということを証明している。 「・・・・・・・・・!」 一刻の後、素晴らしい高さからの踵落としが、白黒の脳天に炸裂した。 お茶と茶菓子を楽しんだ後、魔理沙は手にした魔導書を読み、自分は上海&蓬莱と遊び、アリスは台所でティーセットの片付けに取り掛かった。 魔理沙はまだ時々頭を押さえてはうんうん唸っている。先ほどの一撃が相当効いているらしい。そりゃあ「めきょっ」とか「ぐしゃっ」とか、そんな感じの音がしたからなぁ。 因みに今日は彼女お気に入りの淡い水色の柄だったのだが、それを口にすると自分も魔理沙と同じ目に遭いかねないので黙っておく。 一方自分はシャンホラと「忠吉さんごっこ」で遊んでいた。言葉は拙いものの、その挙動は人間のそれと殆んど変わりない。 以前あまりにも可愛かったのでちょっとイタズラをしようとしたら、そのことがアリスに漏れて手酷く吊し上げられたことがある。迂濶に手は出さないようにしよう。 アリスはエプロンを身に付け、カップを拭いている。棚に並んでいるカップの数から察するに、どうも片付けは粗方終わっているらしい。 …と、その後姿を眺めていると、自分の脳裏にある「悪戯」が浮かんできた。 自分がとても小さい頃友達同士でよくやっていたものだ。それが、今になって何故か頭の中にむくむくと現れてきたのだ。 腰掛けていたソファーを立ち、台所に入る。 「なぁ、アリスー」 「ん?何かしら」 呼び掛けに無防備に振り返ったアリス。今こそ好機!千載一遇のチャンス!! ぺろん 「ぅひゃう!?」 振り返った彼女の頬を、ぺろっ、と舐めてやった。可愛らしい悲鳴を上げて目を丸くするアリス。あまりにも予想した通りの反応に、笑みが止まらない。 しかし「ぅひゃう」ですってなんて可愛らしい声だこと。それにあのびっくりした表情。それだけでもう自分結界越えて冥界まですっ飛んでしまいそうですようはうはうは… …と、既に気持ちだけは既に彼方へ飛んでっていると… れろっ 「ぅをっ!?」 自分の頬をなぞる異様な感触に、思わず間抜けな声が出る。 視線を正面にやると、そこには「してやったり」というアリスの表情が。 …その瞬間、自分の中の大切な「何か」が音を立てて崩れていった。 …それから後はもう目も当てられない状況になった。 元々自分もアリスも負けず嫌いなところがあったのかも知れない。こちらが舐めれば、アリスも舐め返す、子どもレベルの低次元な争いが果てしなく続いた。 童心に還る、と表せば聞こえは良いかも知れないが、これはその域を超えた、もはや「幼児退行」と言っても差し支えない程度である。 しかし… 「ふぁッ!」 「ひうッ!」 「んひッ!」 「みゃん!」 …頬を舌でなぞる度に上がるアリスの可愛らしい悲鳴に、自分の悪心が徐々に頭をもたげていく。 そして遂に我慢できなくなった俺は、頬を舐める…と見せかけて 「ひぁッ…!?」 彼女の唇をなぞった。さて反撃がくる、そう思ってすぐに身構える…が 「…あぁれ?」 …反撃がこない。不思議に思い目を向けると、驚いた表情のまま凍り付いているアリスの顔があった。 不意打ちを受けて思考が止まっている、そんな感じがした。…これはひょっとして… もう一度、唇をなぞる 「んぁ…ッ」 先程とは違う、艶を帯びた声が漏れる。…と、彼女の顔が一気に朱に染まっていく。 「バ…ババババカバカバカバカバカバカァッッ!!なななんであんなことするのよおッ!びっくりしちゃったじゃない!」 「スマンスマンスマン!!俺の出来心だったんだ!許してくれ!本当にスマンかったッッ!!」 真っ赤になってまくし立てる彼女にこれまた凄い勢いで謝る自分。と、アリスはすっかり赤くなった顔を伏せて 「…恥ずかしかったんだから…」 と呟いた。その可愛らしさ、いじらしさ。 ぷちん 張詰めていた自分の中の何かが、音を立てて切れてゆく。アリスの肩を掴み、顔を近付ける。 「ちょ…や…やめてよ…恥ずかしいって言ってるでしょ…」 「やだ、やめない」 弱気な抵抗を無視し、再び唇をなぞる…と見せかけ、舌を口の中に差し込んだ。そのまま肩を引き寄せる。 「や…そんな顔近付けないんんっ!んむぅっ!」 驚いた表情のアリス。身体が硬直したその隙に舌を更に奥まで差し込む。驚いたのか、放心したのか、彼女は全く動かない。 それを良いことに、自由に口内を動き回り、隅々まで舐め上げてゆく。 「んむっ、んっ、んーっ…ぷはぁッ!」 「んはッ!はぁ…はぁっ…」 やがて息が切れ、二人の顔が離れた。たっぷりと空気を吸い込み、呼吸を整える。 「はぁっ、はぁっ、んはぁ… …バカァ…」 まだ落ち着かないらしく息を切らせながら、そうなじるアリス。 「悪い…ちょっと、辛抱できなかった…」 「…駄目、許さない…」 「本当に済まない…」 「…いきなりで驚いちゃったから…何もできなかったでしょ…」 「…は?」 何もできない?一体何を…言葉の真意が解らない。そのまま時間だけが流れていく。 やがて、 「…もう、落ち着いたわ。…だから…」 そこまで言い、彼女は顔を上げた。 目が、合う。 「もう一度、やりなおして…」 細い腕が背中にまわる。 「…なんだ、結局最初からしたかったんじゃないか」 それに応えて腰を抱き寄せる。 「…我侭かしら?」 「いえいえ、我侭お嬢様の言うことは何でも聞き届けますよ」 「…何か、嫌な言い方ね」 二人してクスリと笑う。 「だから、もう一回さっきのを、ね…んっ」 再び合わさる、唇。 落ち着いた、と言っていた通り、今度はアリスも用意が出来ていたのか、積極的に舌を絡めてくる。 もっと触れ合いたい、その想いが腰に回した腕に更に力を入れさせる。 「ん…んむ…ちゅ…あむ…ぴちゃ…くちゅ…」 「あむ…ん…ちゅ…ふ…んぁ…ちゅく…」 …耳朶を打つ煽情的な音、同調していく互いの鼓動、理性を蕩けさせる甘い香り。 その全てが自分の感情を昂ぶらせ、衝動となって沸き上がっていく。 もう止まらない、止められない… …どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。 「ん…ぷはぁ!」 「んはっ!はぁ…」 唇が、離れた。つ…と銀の糸がかかり、細くなって消えてゆく。 「はぁ…これで満足か、お嬢様?」 返事の代わりに、アリスはぽふ、と顔を胸に埋めてきた。そのまま顔をぐりぐりと押し付ける。照れ隠しだろうか、その行動がなんとも可愛らしい。 「そっか…さて、悪いけど…」 「ん…?」 顔を上げるアリス。 「…悪いが、もう止められそうにないかも知れない…」 正直、今背中を押されたら転がり落ちていく、そうなるという確信があった。だから尋ねた。最後の堤になるかもという可能性を考えて。 彼女はまた顔を伏せた。沈黙が流れる。一刻の間を置き、再びアリスは顔を上げた。 「いい…わよ…」 受諾の意思。 最後の堤防が崩れた。全ての枷を外され、感情だけが奔り始める。 こちらを見つめる目に、感じる既視感。あの夜、初めて彼女を求めた時と同じ視線。その瞳が、昂ぶりを更に加速させる。 欲しい アリスが欲しいアリスの身体が欲しいアリスの心が欲しいアリスの全てが欲しい 欲しい欲しい欲しい欲しいほしいほしいほしいホシイホシイ すっ…と目が細められる、抱き締める腕に更に力が入る。 もはや、この目にはアリス以外映らない、そんな気がした。 「…楽しそうだな?」 その声が聞こえるまでは。 視界が、開けた。 「!?」「わひっ!?」 思わず悲鳴が上がる。因みにこの可愛らしい悲鳴は、残念ながら自分のものなので悪しからず。 世界が急速に広がっていった。 整然と並べられた食器、同じく綺麗に揃えられた調理器具、焼き物に使うのであろう小さな窯、見覚えのあるテーブル、椅子、そしてアリス… 彼女を抱いたまま、寝起きのような焦点の定まらない思考で、しばらく呆然としていた。 急速に思考が覚醒する。確かに声がかけられた。しかもそれは間違いなく第三者から。 しかしここには俺とアリス以外は居ない。しかも人形はあんなにはっきりと喋らない。じゃあ誰が? ゆっくりと視線を向ける。その先には、 見覚えのある、 帽子を被った、 白黒の人物が立っていた。 「ちょ…な…ままま魔理沙!?どどどうしてアンタがここに居るのよ!?」 凄い勢いでどもるアリス。完全に混乱している。多分自分がどんな体勢になってるのかも分かってない。 「どうしてって…私は端っからここに居たつもりなんだが?」 …あぁそうだね、確かに自分がアリス宅に来た時、魔理沙は自分に挨拶してきたんだよね。 しかも一緒にお茶も飲んでたんだよね。そうだったよね。そうなのかー。わはー。 「しかしまぁ面白いもんを見せて貰ったぜ。人前であれだけのスキンシップができるたぁ、お前ら双方無茶苦茶入れ込んでるんだな」 カカカ、と笑う魔理沙。完全に凍り付く俺とアリス。因みにどこぞの⑨の悪戯ではない、念の為。 「その上それだけじゃ飽き足らずにアレか。これじゃあ、人が居ない時は毎日昼間っからエキサイトしてるんだろうな」 もう全く動けない俺とアリス。なお、某鬼の冥土長の仕業ではない、念の為。 と、魔理沙がニヤリと笑った。さながら新しい悪戯を考え付いた子どもか、或いは悪魔のように。 「これはもう…」 箒を片手に、入り口に向かう。 「…特派員として、逃すワケにゃいかんだろう?」 しゅたっ、と挨拶をして出ていく魔理沙。少しして、箒が飛び立っていく姿が窓から見えた。 「………」 「………」 未だに硬直しきりの二名(なお、体勢はあの時のまま)。と、突然胸の中にあった感覚が消える。 直後、何者かが叫びながら凄いスピードで外に飛び出していく。 「MaaaaaaaaaRiiiiiiiiiSaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」 …何かどす黒いオーラが見えたような気がしたが、気の所為ということにしておこう。 そのまま一人ぽつねんと残されていると、不意に何者かに裾を引っ張られた。 「…ん?どうしたんだ?…」 その後、魔理沙からこの事実を聞いたどこぞの烏天狗により「実録!新婚バカップル(注・結婚してません)の蕩けるような昼下がり!」という記事が大々的にスッパ抜かれ、 (版権的にも)色々ヤバいオーラらしきものを纏ったアリスが夜叉の形相で烏天狗を追い回したとか、 事の一部始終を見ていたシャンホラに同じことをして欲しい(キスだけど)とせがまれたとか、 森の外れに黒一色になった(元)白黒魔法使いが、ボロ雑巾になって倒れていたとかあるのだが、 それはまた別の話。 実録!新婚バカップルの蕩けるような昼下がり(取材・霧雨特派員) …現在幻想郷でも一、二を争うネタの宝庫として当誌が独自に取材を続けている、アリス・マーガトロイドさんとAさん。 この二名の呆れるほどに甘い新婚生活(注・結婚してません)が、霧雨魔理沙特派員の突撃取材によって明らかになった。 霧雨特派員によると、二人は特派員が目の前に居るにも関わらず(検閲)というスキンシップをとり、 更に特派員の目の前で(スキマ維持法抵触)という極めて大胆な行為に及んだという。 霧雨特派員は「人前でアレだから、もし人が居なければもっと凄いことをしてるんじゃねえの?」と話しており、 この場に特派員が居合わせなかった場合は更に(スキマ送り)と思われる。 いずれにしろ、(良質な記事確保の為にも)この二人の仲が続くことを願い、今後の動向に注目したい。 なお、当誌では「実録・バカップルの全て」と称し、この二名について随時特集を組んで紹介する予定である。 霧雨魔理沙特派員の話 いやぁ驚いたぜ、まさか目の前であれだけ大胆なことをするとは。 ありゃあ大体2~3分ぐらい…いや、もっと続けてたんじゃねぇの。 しかも普段はクールで私につっけんどんな態度しか取らないあいつが、だぞ。まぁアレだ、「ゾッコン」ってヤツか(笑) 他人が居てあのザマだ、これで誰も居ないときはそれはもう毎日のように(黒塗り) 今は夜だから間違い無いな…いや、今の二人には朝も昼も夜も関係無いか、ハハハ。 そうそう、この前もな、二人で茶を飲んでるときにな、冗談で首筋にキスマークが残ってるぞ、って言うと、 アイツ真っ赤になって鏡を覗き込むんだぜ。そこから思うに、私はあの二人はもう相当凄い関係になってると見てるがね 4スレ目 829(うpろだ0043) 837 ─────────────────────────────────────────────────────────── 多少の無理は承知の上。やっぱ俺って、不可能を可能に…! くいくいっ。 ソファーに座って外界から落ちてきたという小説を読んでいると、何者かが服を引っ張ってきた。 「アノネー、『チュー』シテホシイー」 「はいはい」 …「あの一件」以来、事の一部始終を見ていた人形がキスをせがんでくる、という嬉しいような困ったようなことが起きていた。 多分この二体は、この行為が何を意味するのか、ということは解っていない。ちょっとした遊び程度に思っているのであろう。 とはいえ、飛び切り可愛らしい人形だ、別に悪い気がするわけでもない。 「で、どこにして欲しいのかな」 「ントネー、ココー」 そう言って右の頬を向ける上海。そかそか、それじゃあ… ちゅっ 「…はい、これでよろしいでしょうか?」 「ウン!」 飛び切りの笑顔で答える上海。こちらもつられてほにゃっと表情を崩す。 と、左腕に何かがぶら下がる感触。 「ホライモ、ホライモー!」 「はいはい、ちょっと待って頂戴ね…」 それを見ていた蓬莱もせがんできた。傍から見ると大の大人が人形と戯れている光景にしか見えない。 もしこれが元居た世界で他人に見られたなら、即日「変態」のレッテルを貼られるだろう。 しかしそんなことは気にならない。実際目の前に居るこの人形は小動物的に可愛いのであるし、第一ここは元居た世界とは違う。 恥も外聞も気にする必要はないのだ。っていうのは大げさか?まぁとにかく… 「で、蓬莱はどうして欲しいのかな?」 「ントネー、ンー」 「うおっ…と」 返答は何かが唇に触れる感触。 「…っと、こりゃ一本取られたな…」 「ズルイー!ホライダケズゥルイー!!」 駄々っ子のようにパタパタ転がる上海。このままじゃケンカになってしまいそうだな… 子どものケンカ、程度のものならまだ御の字なんだろうが、何せ曰くつきの人形である、 下手をすれば流れ弾でこちらの命も危ない。となると手段は一つ。子供だまし、と言われればそれまでかも知れないが。 「はいはい、じゃあ上海にも同じことをしてあげる。これで一緒でしょ?」 「シャンハーイ!」 とたんに駄々っ子を止める上海。現金なものである。 さっきの蓬莱と同じように上海の小さな口にキスをした後、おあいこになるように今度は蓬莱の頬にも軽く口を付ける。 これで双方二回ずつ回数も箇所もイーブン、文句は言えまい。 「よし、これで二人とも一緒、だろ?」 「ウン!」「エヘー」 胸元に飛び込んできたシャンホラ。その頭を優しく撫でてやる。 あーもう可愛いったらありゃあしない。子どもができた親ってこんな感じなのかしら。 と、そんな感慨に浸っているとまたも袖を引っ張られる。振り返ると 「ンー」 ワタシニモシテーとせがんでいる、そんな表情の人形が居た。やれやれ仕方ないなぁ… …って、あれ? 「………」 …見なかったことにしよう。今胸元で甘えている人形、この子らより2~3回りは大きい人形だった。 というか俺とそう変わらないスケールじゃね?つかそもそもアリス宅にそんなでっかい人形なんてなかった筈だし。 そうだ、アレは俺の幻覚だ、そうなんだよ、そういうことにしとこうぜロスター… そう強引に納得し、視線を元に戻す。あー可愛いなぁ~お人形さん… ガッ!!ギリギリギリギリ… 「あぁぁだだだだだだだだだ!!!!ちょ、痛い!ムッチャ痛いんですけどちょっとッ!!」 万力でも使われているのかと思えるくらい、有り得ない力で引き伸ばされる頬。 「…この子らにはすこぶる優しくて、私に対する仕打ちは『アレ』なのかしら…?」 ちょっとアリスさんすんごい笑顔ですよてゆかあまりにも作りものっぽくてむしろ怖いですよその笑み。 「いやいや妖夢!そんな暴力的だとするものもしたくなくなあぁぁだだだだだだだだ割れる割れる割れる!!!!」 「何かしらぁ~?よく聞こえませんでしたわぁ~??」 「ヒギィィィィィィィィィィィッッッ!!!!」 追加注文でアイアンクローも頂戴し、意識が落ちるか否かの境界で徹底的に嬲られる俺。 そんな(さっきまでは)まったりと過ぎてゆく休日の午後。…あ、スズラン畑が見えら… ついに意識を手放した俺が最後に挙げた断末魔は… 「コ、コンパロ~…」 4スレ目 847
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戦う理由/其々の道(前編) ◆sXlrbA8FIo 森の中を疾走する影が一つ。 拳銃を片手に鬼のような形相で走るその影は坂上智代と呼ばれた少女だった。 だが怒りに支配されたその表情は昔の面影など最早残ってはおらず、知人でも一瞬では彼女とわからないほどであった。 ハクオロを殺す為、その仲間を殺す為、彼女はひた走る。 目的はそれだけ、他に考えることは何もない。 だが気持ちとは裏腹に全身を痛みが襲う。 自分が思っている以上に走るだけで体力が消費されていくのがわかった。 (もうじき夜が明けるな) 先急いでこの疲労が溜まっているところに、夜に休息を取った人間が現れたら自分の不利は否めない。 少しでも休息を取るか――と考え足を止めようとしたその時、智代の視界に一つの建物の姿が見えた。 すぐさまバックを広げる、おそらく位置と外見から察するにホテルであろう事がわかった。 (――休めという神の啓示だろうか?) 考えながら智代は自嘲しながら首を振る。 馬鹿馬鹿しい、神なんかいない。 いたとしても自分をこんな所に送り込んだ神なんて崇めやしない。 しかし事実休息を取ろうかと思った矢先に利便な場所に辿り着けたのは幸運なことだ。 同じように考えている人間がいるかもしれないが、見つけたら殺せばいいだけだ。 周囲を確認しながらホテルへとゆっくりと近づいていく。 あたりに人の気配はしない。少なくとも外には誰もいないようだ。 そのまま警戒しながら玄関を潜ろうとして破損が激しいことに気付く。 (これは戦闘跡か……?) とりあえずは注意深く玄関を潜る。 柱に隠れながらホール全体を見渡すが、人の気配は感じられないほど静まり返っていた。 そしてフロントのすぐ横に『STAFF ONLY』と書かれた扉があることに気付く。 その扉の前に立つと銃口は扉に向けたままドアノブを軽く捻り――扉は静かに開かれた。 中には誰もいない。 どうやら事務所として使われている部屋のようだったが、横たわれそうなソファーも置かれていた。 扉は内側から施錠出来るようになっており、小さいが窓もある。 これなら突然襲われる可能性も低い上何かがあっても窓から逃げることも可能であろう。 何から何まで至れり尽くせりな環境に智代は微笑を浮かべると、ソファーへと身体を横たえる。 ハクオロへの怒りをその身に宿したまま、幼き殺人者は一時の休息に身を委ね静かに目を閉じた―― ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 森に入ってからもうかなりの時間が経過していた。 地図に間違いがなければとうの昔に目的地であるホテルに着いてもおかしくないほどの距離を歩いたはずだ。 目の前はランタンの光がか細く照らすのみの暗闇。 山中と言う悪条件が延々と続いている足場。 背中に背負った伊吹風子の亡骸。 そして今までの出来事による精神的疲労。 これら全ての条件が重なり、蓄積した疲労が全身に押しかかり北川の動きを鈍らせていた。 北川自身はまったく気付いていないのだろうが、その歩みの速度は這っているのと遜色ないほど落ちていた。 「――潤、大丈夫? 少し休憩しない?」 隣を歩く梨花が心配そうに眉をひそめながら尋ねる。 梨花の目から見た北川の顔は汗が噴出し、今にも倒れそうなほどに蒼白だった。 「……なんてことねえさ」 体勢を整える様に風子の身体を担ぎなおしながら北川は答えると、平静を装うように歩む速度を速める。 だがその直後、思いついたかのように足をピタリと止めると後ろを振り向きながらはにかみながら言った。 「俺のことは良いから、梨花ちゃんがきつくなったらすぐに言ってくれ。 急ぎたいのは山々だけどそれで倒れでもしたらしょうがないしな」 なんて事を言うのだろう、と北川の表情に梨花は一瞬ドキリとさせられてしまっていた。 「……わかったわ。先を急ぎましょう」 なんとかそう答えながら北川に並ぶように歩幅を合わせ駆け出していた。 幾ら男性で幾ら年上とは言え、今までの事で疲れが出ていないわけがない。 風子を背負っているのだから尚更だ。 自分がこれだけきついのだから北川の疲労はその遙か上を行ってるに違いないはず。 そう思ったからこその発言だったのだが……まさか自分が逆に言われるとは思いもしなかった。 (強がっちゃって……) 梨花の思いも当然のことで。 歩く速度が上がったのはほんの一瞬で、北川自身は気付いていないだろうが速度はまた先程と同じまでに落ちていた。 だが、これ以上は梨花は何も言えなかった。 北川はあくまで梨花を守る立場だと考えている。 自分が弱みを見せてはいけない、安心させてやらなければいけない。 そんな事を考えていると言うことが一瞬でわかる微笑みだった。 彼は似ているのだ。 時折見せる行動がかけがえのない仲間である前原圭一の姿とかぶって見える。 思い返してみれば北川の発言はいつもそうだった。 自分に対しても風子に対しても、自分で全てを背負うと言った傾向が多く取れる。 それはやはり子供として見られているせいだからかもしれない。 だが、もう少し自分を頼ってくれても良いじゃないか。 守られる立場……それはこの島ではどんなに有利なことだろう。 だがわけもわからずこの島に来たときとはもう状況が二点も三点も変わってしまってきている。 守られるんじゃない。肩を並べたい、助けたい。 喜びも、苦しみも、目の前の彼と共有したい。 そんな事を考えながら……それでも北川に対して反論することが出来なかった自分が情けなかった。 ジレンマを抱えながら手に持ったレーダーに視線を移す……と、レーダーの範囲ギリギリに表示された五つの光点の姿が目に映った。 「潤! 止まって!!」 叫びながら反対側の手に持ったランタンの光を消す。 かろうじて見えていた景色が一瞬で闇に染まる。 「反応か?」 「……五つあるわ」 両手のふさがった北川に見えるようにレーダーを彼の顔へと近づけ、そして続けるように言った。 「多分距離的にホテルだと思う。そのうち二つは純一達。残り三つは増えた仲間……って考えるのは楽観的かしらね」 「それだったらどんなに良い事だろうけど……ホテルでもなければ純一たちでもない。まったく知らない奴らが戦闘中って可能性もあるな」 「……よね」 「とは言え俺らには進むしか道はないよな」 北川の言葉に梨花は肯定を示すようにこくりと頷く。 不鮮明な足場を手探りで進みながら一歩一歩進んで行くと、木々の隙間から何か建物らしきものがかすかに見えた。 「梨花ちゃん、あれ!」 「ええ、ホテルで間違いないようね」 言いながら再び光点を見やるが、誰も動いたりしている様子はなさそうで最初の場所から動いてはいない。 ホテルのほうからも戦闘らしき音が聞こえてくることもなく、耳には風の音のみが届いていた。 おそらくは戦闘は起こってないだろう……だがこの光が生命反応でない可能性もあることが、自分らの位置に四つの光があることで示されている。 「パソコン使うか?」 「ダメよ。仮にあの中に純一がいても安全かどうかの百パーセントの保証なんて出来ない。 だったら制限回数があるものを私達だけの判断で使うのはもったいないわ」 自分達にとって最良の賽の目。 それは勿論あそこにいるのが純一たちで残りの三つはその仲間であること。 逆に最悪なのは、四人が殺され殺人者が一人ホテルにいると言う可能性。 パソコンで一人の名前がわかったところでどちらとも言えないのだ。 ここで考えているだけではどうしようもないのもわかっていたから……梨花は小さく声を出した。 「潤。私が中の様子を見てくるわ。安全だとわかるまでここで休んでいて」 「……え?」 梨花の突然の言葉に北川が目を丸くしながら間の抜けた声を上げる。 「何を言ってるんだ、一人じゃ危ないだろ?」 「……そんな身体で、もし誰かに襲われたらなんとかなる? 風子を背負いながら?」 「俺が行くよ。梨花ちゃんはここで風子と一緒に待っててくれ」 きっぱりと告げた北川の提案を否定するように梨花は首を振った。 「私より――」 その先を言うのは思わず躊躇われた。 続けるのは北川の心意気を無駄にしてしまう行為。 だがいつまで私は守られなければいけないのか。 そう思ったら自然と口が開いていた。 「――私より、危ないのはあなたよ……潤」 「……俺?」 「どう見たってふらふらじゃない。そんなんじゃもし襲われたらひとたまりもないに決まってる」 「そんなことないって言ってるだろ?」 「そんなことあるのよ!」 「ないよ!」 「ふらふらな潤が行くより、まだ走れる私が行くほうがいいに決まってる。 もしもの時は武器だってある!」 スプレーと指にはめたヒムイカミの指輪を差し出しながら、怒気を隠そうともせず梨花は言い放っていた。 「私を仲間だと思ってくれるなら……少しは力にならせて」 泣き出しそうな悲しげな表情で訴える梨花に、北川は思わず口ごもってしまう。 「……わかった。甘えるよ」 そう言うと北川は風子の身体を地面に横たえると、自身も地面へと座り込んだ。 「ただし、だ――レーダーは梨花ちゃんが持って行くこと。十分たっても戻ってこなければ俺はすぐ後を追って中に入る。 これは絶対に譲れない条件だ」 「……わかったわ。ありがとう、潤」 ◆ 梨花はそう言い残すと、すぐ戻るし身軽のほうが良いからと自身のバックは潤の元へと置いたまま駆け出していった。 残された北川は風子の顔を撫でながらボンヤリと考えていた。 「仲間だと思ってくれるなら――か」 梨花ちゃんの事を仲間じゃないなんて思ったことは無い。 仲間だからこそ守りたいと考えていた。 でも結果的にそれは梨花との誓いを一方的に履行しているのとなんら変わりないのだと言うことに気付いた。 「あの誓いは俺だけじゃなく梨花ちゃんが俺に対してってのも含まれていたんだよな。 自分だけの力で何とかしようなんて仲間を信用してない証拠じゃないか。 何度同じ間違いを繰り返せばいいんだろうな俺は……」 すれ違い続ける梨花との仲間意識の違いに北川は項垂れていた。 梨花ちゃんを信じよう、仲間の好意に甘えよう。 十分だけ、十分だけ休んだらすぐ行動開始だ。 あの世で見てろよ風子。 俺が本気を出したらどうなるか、驚きのあまり声も出ないこと間違い無しだぜ。 そう考えながら風子の頬を撫でる手がだんだんとゆっくりとなり、気だるさに身を任せるように北川の意識は闇のまた闇へと落ちて行くのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 梨花が北川と別れホテルへと向かった頃、ホテルの裏口では小さな音が断続的に響いていた。 音の震源地にはスコップを持つ純一ときぬの姿。 疲れた身体をも厭わずに、二人は無言のまま地面を掘り返していた。 すでに人一人分ぐらいは余裕で入りそうな穴が一つ。 その傍らには先程の戦闘で純一を庇い死んだことり。 一見すればただ眠っているような安らかな表情をしている。 それでも彼女は二度と目覚めることはない。 その眠りを邪魔されることがないように静かに埋葬させたい。 そう考えた純一はホテルに置いてあったスコップを探し出し、きぬにそう提案して今に至っていた。 「なあ純一……」 終始無言だったきぬがぽつりと口を開く。 「ん?」 土を掘り返す手を止め、何事かときぬへと純一は振り返る。 だが呼びかけた当の本人は二の句を告げるのを躊躇していた。 「どうした?」 純一は不思議そうにきぬの顔を見つめるが、きぬは目を合わそうとせず視線は泳がせたままだ。 「呼んでみただけとかだったら続けるぞ?」 そう言って純一は再びスコップを握り締め―― 「あーあーあー、待った待った」 きぬが両手をばたつかせながら純一に駆け寄り、その手を慌てて押さえる。 「えーと……だ。なんだ……その……」 言葉は続けようとしているのだろうが俯き口ごもったままきぬは要領を得ない。 「うん?」 「んと……言いたくなかったり言うのがきつかったら答えなくていいからな」 「わかった」 「その……ことりって純一の事好きだったよな?」 「そう……なのか?」 思いもよらないきぬの質問に純一はポリポリと頭をかきながらお茶を濁すように答える。 「ぜってーそうだって。じゃなきゃ最後にあんな嬉しそうに笑ったり出来ねえって」 「そうか……」 純一は思わずことりのほうに顔を向けていた。 今でも鮮明に思い出されることりの姿。最後の言葉。最後の笑顔。 流しつくしたと思っていた涙が再び押し寄せてきたのがわかった。 だがそこで純一は握られた手がギリギリと締め付けられるのに気付き、意識は目の前の少女へと戻される。 身体を震わせながら……きぬが言葉を続けた。 「純一は……純一は……ことりの事好きだったか?」 「なんだよ急に」 「いいから!」 その強い口調に適当にお茶を濁すような返事は出来ない義務感に駆られる。 何故いきなりこんな質問を投げかけられているのかはわからないが真面目に答えなければいけないように感じた。。 「ああ、好きだったよ」 「――!」 「大事な……大好きな友達だった」 「そ、そか、Likeか。そっかそっか」 「それがどうかしたか?」 「いやなんでもねー、なんでもねーよ!」 いいながら反射的に純一の顔を見やり、当たり前のように二人の視線が交差した。 瞬間、きぬは顔を真っ赤にしながら後ろを振り返ってしまう。 「蟹沢……?」 「ほらあれだ。ボクってば純一の昔の生活の事なんて聞いたことなかったじゃないか。 だからどんなんだろうってちょっと気になっただけ! そんだけだよ! 純一が誰を好きだって関係ないし、それになんも深い意味なんかないんだかんね!! ほら、さっさと続き続き! 早く埋めてやろうぜ!」 きぬは息継ぎもせずにまくしたてたかと思うと、再びスコップを手に取り土を掘り返しだした。 それ以上純一に何かを聞かれるのを拒むようにきぬは一心不乱に土を掬う。 「蟹沢、一つ良いか?」 きぬの勢いに思わず放心状態に陥りながらも、すぐさま我に返りゆっくりその背中へと歩み寄る。 「俺の友達はみんな死んじまった。もう誰もいない。 でも俺は一人じゃない。仲間が出来た。この場にはいないけれど道を同じくしてくれるつぐみや悠人、北川や梨花ちゃんがいる。 そして隣には蟹沢、お前がいる。だから俺は戦える。理想を理想で終わらせるつもりなんかねえ」 そしてきぬの頭に軽く手を乗せて…… 「だから……ありがとうな」 優しい口調で微笑みながらそう告げていた――が 「……くせえ、くせえんだよっ! なんだその歯が浮くような寒い台詞は!? やばい薬でもやってんじゃねーのか!?」 「な……俺はなんとなく元気がないように見えたから励まそうと――」 「あー、うるさいうるさい。聞こえない。ヘタレの声なんて何にも聞こえないもんねー。しっしっ、寄るなヘタレ菌がうつるわっ!」 と顔を真っ赤にしながら暴れていた。 ◆ 「――あの様子だと敵ではないようね……そして死体が一つにこの場にいないつぐみで四つ……か」 純一ときぬの会話の一部始終を見ていた梨花は、レーダーを見ながら隠れるように状況を整理する。 勿論隠れているのにも正当な理由があった。 と言うより最初純一の姿を見かけた瞬間すぐ声をかけるつもりではあったのだ。 だがいざ声をかけようとした瞬間、なにやら二人の間に重い空気が漂い始めたのを感じつい出そびれてしまったのだ。 そして途中から出て行くことも叶わず覗きのような真似をしながら今に至る……と言うわけである。 「あの二人間違いなく状況わかってないわよね……はあ」 あたりを警戒する様子も無く、傍目からはただじゃれあってるようにしか見えないバカップル……。 本当に純一を信じて大丈夫なのかと疑ってしまいそうになりながら、梨花は愚痴をこぼしつつも二人へと声をかけるのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 暗闇の中で我輩は考え続ける。 我輩を捕まえてこんなところに押し込んだ二人組はどうやら別行動を取ったらしい。 それを聞いた時は好機かとも思ったがなにやら十分で合流するとか言っておる。 一人になったとしてもたった十分しかない。 ならば無理をして今動いて怪しまれるよりまたしばらく機を伺うか。 そう考えた直後だ。 なにやら外から重苦しい音が聞こえてくる。 グガー……と耳に届くそれは教室でよく聞いたあれと同じだ。 そう、我輩の予想が正しければ外にいる人間は豪快にいびきまで掻いて眠っておる。 何が十分たったら後を追う――か。 まあよほど疲れていたのであろう。それについては是非を問うまい。 それよりもこれは間違いなく千載一遇の好機である。 外には一人、しかも快適に眠っておると見て間違いない。 我輩を邪魔するものは今はいないということだ。 だがあと十分で先程別れた者が帰ってくるであろう、いやホテルが安全だとすぐにわかればそれより早いやもしれん。 なればこそいち早くの行動を。 そうだ、支給品リストを奪いこの場から去るのだ。 そう思った我輩は逸る気持ちを抑えながらバックの入り口と思わしき部分に嘴を寄せる。 待っていてくれ祈よ。 今こそ我輩はこの島から飛び立てる望みを得ることが出来たのだ―― 「む?」 ここではないのか。それでは―― 「……ちょっと待つのだ」 考えたくは無い現実から目を逸らそうと我輩は嘴で内側から突きまくった。 「………………」 数十回それを繰り返し、我輩の中で結論が出た。 認めたくはない。 だがこれが現実なのだから敢えて受け入れよう。 「中からは開かんのか……」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「梨花ちゃん……無事で良かった」 「純一、あなたもね……でも、つぐみは?」 「ああ、つぐみは今もう一人増えた仲間と別行動を取ってるけどあいつも無事だ」 「そう、本当に良かったわ」 他にも仲間が増えた。 これで五つの光点の正体がはっきりとわかり、梨花はようやく緊張を解く。 「それより――」 そこで梨花が一人でいるという事実に純一は焦りの表情を浮かべながら尋ねる。 「まさか、風子だけじゃなく北川もなのか?」 「潤は大丈夫、無茶しすぎだったからすぐそこで無理やり休ませて私がホテルの様子を見に来たの。でも風子は……」 「……い」 「ああ、放送は聞いた。一体あれから何があった?」 よく見れば別れるまで綺麗だった梨花の服は真っ赤な血で染まっている。 「それは……」 「……おーい」 本人にそのつもりは毛頭無いのだろうが、言いづらそうに口ごもる梨花を助けるようにきぬが不機嫌そうな顔で声を上げていた。 「シカトすんなよなー、純一」 「ん、ああ、なんだよ」 「これが前話してた古手梨花か?」 そう尋ねるきぬの言葉に、梨花も思わず尋ね返す。 「そう言えば……彼女は?」 「ああこいつは蟹沢きぬ。梨花ちゃん達と別れてすぐ出会ったんだ。色々合って一緒に行動してる」 「そう。本当に信じても大丈夫? ってあの様子じゃ大丈夫そうだけどね」 「ああ、俺が保障する」 「…ら」 「……こっちも色々合ったわ。この場で一言じゃ語れないことが……」 「……話すのが辛いのはわかってる。でも俺達はお互いに話さなきゃいけないんだ。前に進むために」 「勿論、話さないつもりは無いわ。とりあえずここが安全なら潤を連れて来たいんだけど大丈夫かしら?」 「ああ、と言うか俺も一緒に行くよ。ことり御免、ちょっとだけ待っててくれ」 と、純一が横たわることりに顔を向けた瞬間臀部に衝撃が走る。 「……だーかーらー、ボクをシカトするなってーの!!」 痛みに腰が砕けそうになりながら視線を戻すと、きぬが片足を上げながら憤慨していた。 ◆ 「ボク知らなかったねー。純一が真性のロリコンだったなんてさー」 「だからちげーって」 「ボクの相手するより梨花ちゃんみたいな幼女相手してるほうが楽しいんだろー。もう隠さなくてもいいんじゃね? だいじょぶ、ボクそう言うの偏見無いからさ。あ、でも半径三メートル以内には近づくなよ?」 「蟹沢っ!」 「おーこわっ、梨花ちゃーん。純一が怖いんだよ。なんとか言ってやってくれよ」 「純一。ボクにもちょっと近づかれると困るのですよ。にぱー☆」 「梨花ちゃんまで……」 彼らの能天気さは一体どこから来るのか。 梨花は頭を抱えたくなるのを必死に抑えながら二人を北川の場所へと案内していた。 思わず現実逃避に『古手梨花』を使ってしまうぐらいに。 (でも百貨店での私達もこんな感じだったけどね……) 風子の事が思い出される。 あの頃は本当に平和だった、楽しかった。 殺し合いなんか偽りだと感じるほどのように。 ならばこれはこれでいいのかもしれない。 また何かしらの要因ですぐにでも壊れてしまう儚いものだけど。 それを今度こそ壊さないように皆で守っていこう。 梨花はそう心に誓う。 「――なのに」 目の前の光景にたった今立てた誓いがガラガラと崩されていきそうになる。 「なにが十分で絶対後を追う、よ!!!」 いびきまで掻きながら気持ちよさそうに眠り続ける北川の姿を見て、梨花はその場にへたり込むしか出来なかった……。 ◆ 一向はホテルに戻り、梨花は今まで自分たちの身に起こったことを全て話した。 純一ときぬは聞きながら、やるせない感情に襲われる。 「もう彼にはあの事で立ち止まって欲しくないから。 潤自身の口から話す事で再び後悔の念に駆られる姿なんて見たくなかったから。 お願い二人とも……潤を責めないで欲しいの」 風子の遺体はもうここにはない。 北川に黙って埋めることに抵抗も覚えたが、いつまた危険になるともわからない事を考え ことりの遺体と一緒に純一たちが掘った穴へと埋めてきたのだった。 三人の傍らで未だ夢の世界に旅立っている北川を梨花は悲しげに見つめながら言った。 「責めれねえよ……くそっ!」 夢で見た少女の姿。 少し幼い印象を受けたが梨花の話と照らし合わせると確かにあれは風子に思える。 そして風子の独白と確かに一致していた――だから純一はそれを信じられる。 それはすなわち鷹野の卑劣さへと繋がるのだ。 風子は確かに優勝していた。 仲間が一人、また一人と自分の為に死んでいく望まぬ結果。 あの絶望の絶叫を忘れることなんか出来やしない。 純一の心に沸くのは鷹野に対する激しい憎悪。 (この会話もどうせ聞いてるんだろう、鷹野?) 山頂での件といい、どこまで自分達を弄べば気が済むのか。 思わず後ろにあった壁を殴りつけていた。 「――――なんだ!?」 その音に驚きの声を上げながら北川がようやく永い眠りから目を覚ましていた。 ◆ (塔?) (ああ) 北川も交え純一達の行動を聞く中、出てきたキーワードに北川と梨花の顔がクエスチョンマークに変わる。 (それを見つけた瞬間俺の首輪が点滅を始めた。正直もうダメだとは思ったよ) 鉛筆を走らせる純一の姿を続けて目で追う。 あの山頂での警告を真に取るのであれば口頭で説明していることがバレれば今度こそ爆破されるだろう。 四人は他愛の無い雑談をしてる振りを装いながら現状整理の筆談を進めていた。 (俺らが来るときはそんなもの無かったぞ) (ああ、仕組みはわからないが"見えない"ようになっているらしい。俺らが見つけれたのも鷹野にしてみれば想定外だったんだろうな) (怪しいな……) (ええ警告だったにしろ、それだけで首輪を爆発させようとするなんて何かあるわね、やっぱり) 地図に表示されてない何か、それがやはり存在することが純一たちの話ではっきりとした。 となれば廃坑の入り口もどこかに隠されているのは最早間違いないだろう。 机に広げられている純一の地図をそっと指差し、なぞりながら梨花は言っていた。 「首輪で思い出したけど……風子の死体を埋めたんなら首輪を調べるのはどうするつもりだ?」 唐突に北川が梨花へと尋ねる。 「ああ、あれね……嘘よ。」 「う、うそぉ?」 「潤の覚悟を知りたかっただけ、だってほら首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが」 いきなりすっとんきょうな声を上げる北川に驚きながら二人に耳を向け、 「鳥!?」 その後に出てきた単語にきぬは驚きを隠せず叫んだ。 「鳥ってまさか……」 同じように純一もその単語へと反応を示している。 「ちょ、ちょっとそれ見せてくれ。ボクの知り合いかもしんねー。」 「知り合いって……鳥が?」 「あー、うん、鳥なんだけど。なんちゅーか、ある意味人間に近いって言うか。 まあ見りゃわかるって!」 「いや見ても鳥だったんだけど……」 意味も良くわからずながらも梨花は自身のバックをきぬへと渡す。 きぬはそのバックを勢いよく開け放ち中へ手を伸ばした―― ◆ 我輩は焦っていた。 蟹沢がいるのは非常に拙い。 自分が無害な畜生であると装う事が、我輩に取っての最大の"あどばんてーじ"である事なのに。 これではばれてしまうではないか。 この状況で引っ張り出されたらもはや喋れると言う事を隠し通すのも不可能であろう。 どうすれば良いのだ、祈よ。 動けない状況では流れに身を任せるしかない。 土永さんはただ不安に怯えながら外の会話を聞き漏らさぬように意識を集中させていた。 だが、聞こえてきた恐るべき発言に土永さんの身は凍りついてしまう。 『――首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが』 我輩の首輪を取るだと……? それだけはだめだ、なんとか逃げなければ。 でもどうやって。 鞄が開かれた瞬間に飛び立てば……この痛む翼で飛べるのであろうか? 否、無理でも羽ばたかせなければいけない。 外では何かが騒がしいが最早それを聞いていられるほどの余裕は我輩には無かった。 そうしているうちに目の前に眩しい光が押し寄せる。 鞄が開いた――とそう認識したと同時に何者かの手が我輩の身体をがっしりと掴んでしまっている。 そして我輩は間髪いれずにバックの中へと引きずり出されてしまっていた。 急激な光に目の前が真っ白になり、前が良く見えない。 「やっぱり土永さんかよ」 かろうじて耳に届いた蟹沢の声。 つまりこれは蟹沢の手と言うことか……。 我輩は前が見えないのも構わず嘴を勢いよく振り落とした。 「――いてっ!」 我輩の嘴は上手く蟹沢の手に刺さったようだ。 我輩を掴む手から力が抜けたのを確認すると身体を暴れさせ、その手から脱出しようと試みる。 「いてーじゃねーか、なにすんだよっ!」 ボンッと頭を軽い強い衝撃を襲う。 まったく……この娘は加減と言うものを知らんのか。 思わずもう一撃お見舞いしてやろうと嘴を振り上げようとしたところで、我輩の頭に冷たいものが落ちるのを覚えた。 毛並みをたどって嘴まで零れ落ちてきた液体――涙? 曇る視界の中おぼろげに見えた蟹沢の顔からは涙の線が一滴たれ流れていた。 傍らにいるほかの三名は何がなんだかとわからないような表情でそれを眺めていた。 「なんでかなー。わかんないけど涙が出てくんだよね。 鳥相手になにボクってばこんなに喜んじゃってんだろうね、あはは」 「蟹沢……」 もう蟹沢の仲間であったものが佐藤良美を除いて全員死んでいることは知っていた。 しかしまさかそんな事を言われるとは思っても見なかった。 感涙までもされるとも思っていなかった。 土永さんは呆然と目の前の旧友(?)の顔を見つめながら呟いていた。 ◆ 「喋れる鳥とはなあ……わかっちゃいたけどますます俺らの世界とは違うってのが実感できるぜ」 北川が土永さんをまじまじと眺めながら口火を切る。 「ボクたちのとこだって喋れるのなんか土永さんぐらいのもんだよ」 「鳥鳥と、お前ら我輩を馬鹿にしすぎではないのか?」 怒りを示すようにばたつかせる羽根には、北川達が百貨店から持ち出したハンカチが巻かれている。 目の前の鳥が人間の言葉を理解し、話せると言うこと。 そしてきぬとは旧知の仲であると言う事を聞かされた北川と梨花は 撃ってしまったこと、そして首輪を外そうと画策していた事に関して謝罪を入れる。 尤も、鳥相手と言うこともあって訝しげな表情を浮かべたままではあったのだが……。 今までどうしていたと言うきぬの質問に対して土永さんは「どうして良いかわからずただ飛び回って逃げていた」とだけ嘘をついた。 その発言を「まあ鳥だからしょうがないよな」とあっさりと信じられた時は納得がいかない憤りを感じたが (ちと不安ではあるがしばしの盾兼目晦ましな存在にはなってくれるであろう) 無害を装えるのであればそれでいい、と土永さんはそこは触れずに流すことにした。 (話はそれたけど……) と純一が再び鉛筆を握り紙を手に取る。 (ともあれこれからどうするか……だ) (まずパソコンで探したい人物の場所が検索出来るのは大きい。 仲間を集めるのに大いに有利だ。だったらまだ見つかってない知り合いを探すのに良いんじゃないかと思う) (確かに俺も梨花ちゃんも探したい知り合いはいるさ。 でもこれをこんな所で使ってしまっていいのかって疑問が出た。 見つけたいのは山々だ。今この瞬間にも危険な目にあっているかもしれないんだからな。 それでも長い目で見たらまずお前らと合流してから、と言う結論に達した) (……俺も蟹沢も探したい知り合いはすでにこの世にはいない。 こんな辛い思いを経験したから言えるのかもしれないが、使える物は先に使っておくべきだと考えるぜ。 後悔はしてからじゃ遅いんだからな……) (だな、それに俺の方は別に後で構わない) (グダグダ言ってねーでその前原圭一ってのを探しちゃっていいんじゃねーの?) (でもつぐみさんは? 彼女だって武さんを探し出したいはずじゃ――) 「――大事な話の中申し訳ないのだが……我輩とても暇なのである」 土永さんのその発言で四人は思わず目を丸くした。 筆談に集中するあまりカモフラージュの雑談すらするのを忘れていたからだ。 これでは無言の中で土永さんの台詞が不自然に鷹野に聞こえた可能性もある。 「あーあー、そうだな、よしボクとなんかダベってようぜ」 「いや、蟹沢はみなと……」 その先を喋れぬようにきぬは土永さんの口を押さえ込むと乱雑に鉛筆を走らせる。 (だから盗聴されてんだってば! ばれるようなこと言うなっての!) きぬの剣幕に慌てて首を縦に振ると、ようやく手がそこで離された。 「ダベると言っても何を話すと言うのだ?」 「んなことなんでもいいぜ。ってかいつも五月蝿いぐらい喋り捲ってるのに今日の土永さんおとなしすぎるんじゃね?」 「五月蝿いとは失礼な。我輩はお前らの小さな脳みそでも理解できるように、ありがたい説法を聞かせてやっているだけだと言うのに」 「なんだとー!」 「――そんなに怒んなよ、カニ」 「がー、レオの声でそんなこと言うんじゃねえ! ぶち殺すぞこの鳥公!」 人間と鳥の漫才。 呆れた表情を浮かべながら三人はその様子を見つめていたが (あっちは蟹沢に任せてよう。いいカモフラージュだ。俺らも適当に相槌を打っておけばいいさ) 北川の言葉に頷きながら純一も続ける。 (それよりも前原圭一の場所を確認だ。つぐみだってそこまで目くじら立てて怒ることはしないさ) (そうかしら……せめて戻ってからでも……) 悩む梨花の背を押すように北川がパソコンを立ち上げ『現在地検索機能』を起動する。 羅列された名前の一覧の中にあった前原圭一の文字。 それを一回クリックするとカタカタとパソコンが稼動音を上げ、画面には検索中の文字が表示された。 中央のバーが五%、十%と進行情報を示してくれている。 これが百になれば圭一の場所が表示されるんだと直感した梨花の顔に僅かな笑みが浮かんでいた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「人の声――!」 智代は唐突に目を覚ました。 どれくらい眠っていたのかはわからないが、疲れはあまり抜けている様子は無い。 さもすればほんの僅かな時間だったのだろうと考える。 本調子とは到底言えないが、燻る意識の中で自分自身に活を入れながら立ち上がる。 「何者であろうと……この場に居合わせたからには殺す!」 耳障りな笑い声が智代の耳に響く。 何を話しているか内容まではさっぱりわからなかったがその楽しそうな声に苛立ちは隠すことも出来なかった。 誰が何人いるかもわからない状況の中、声のする方角へと慎重に歩を進める。 薄暗いロビーの中、一つの扉の隙間から光が漏れているのがわかった。 そろりと扉に近づくと中の様子を探ろうと耳を当てる。 何人かの声がする。 内容を聞き取ろうと耳に意識を集中させた直後、智代の脳に届いた言葉に持っていた銃を取り落としそうになっていた。 『レオの声でそんなこと言うんじゃねえ』 (今なんと言った? レオ? いや対馬レオはもう死んでいるはずだ。 そうじゃない、その先を思い出せ。中の人間はレオの声だと言った。 土永と呼ばれたと人間がレオの声を使ったと。どう言うことだ? そうだ、それは――) 喜びに身が打ち震え、笑い声が漏れそうになるのを智代は必死に抑える。 自分をこのように変えてしまった原因の一端を担ったもの。 口真似を操る殺人者。 中の会話が本当ならそれが土永と言う者でほぼ間違いは無いだろう。 だが智代にはその名前には聞き覚えがあった。 そう、それはまだ自分がここに来た当初の話。 同じ志を持った一人の少女から知り合いの者の名前を聞いた――その中にいたはずだ。 (それでは何か? 彼女は自身の知る者によってその命を散らされたということなのか?) ――憎い。 (土永ぁぁぁぁぁぁぁっ!) ――憎い憎い憎い。 間髪いれずに湧き上がる不の感情。 ハクオロと比でるほども出来ないほどの憎しみ。 (ただ殺しはしない、今まで生きていたことを後悔するように苦しめてから殺してやる!) その感情に流されるように智代は扉を蹴りつけ、轟音とともに扉が開けはなれた。 178 信じる者、信じない者(Ⅲ) 投下順に読む 179 戦う理由/其々の道(後編) 178 信じる者、信じない者(Ⅲ) 時系列順に読む 179 戦う理由/其々の道(後編) 175 クレイジートレイン/約束(後編) 朝倉純一 179 戦う理由/其々の道(後編) 175 クレイジートレイン/約束(後編) 蟹沢きぬ 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 北川潤 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 古手梨花 179 戦う理由/其々の道(後編) 172 悲しみの傷はまだ、癒える事もなく 土永さん 179 戦う理由/其々の道(後編) 174 おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 坂上智代 179 戦う理由/其々の道(後編)
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疾走する超能力者のパラベラムⅣ ◆hqt46RawAo ◆ 『作戦/疾走する恋情』 ◆ 走る。 とにかく走る。 僕は戦場ヶ原と共に、敵に向って走り続けた。 二人で一緒に、唯一の武器だけを抱えて挑む。 これまで見たことも無いほどの強大な敵へと。 恐怖は、ある。 正直逃げ出したくて堪らない。 けれど僕は、立ち止まるつもりなんて無い。 だって、隣には戦場ヶ原が居るのだから。 彼女が闘うと決めたのだ。 ならば僕も共に戦うに決まってる。 それが彼氏の役割ってもんだ。 「…………お………おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」 気が付けば、咆哮していた。 それは恐怖を紛らわすためか、自分を鼓舞するためか。 ただ勝つために。 そのために……。 僕は最後に、戦場ヶ原の目を見る。 彼女も僕を見ていた。 口では何も言わなかったが、彼女は目で告げている。 ただ一つ。 信じている、と。 全幅の信頼を僕に預けてくれている。 ならばもう迷いは無い。 行こう、戦場ヶ原。 一緒に闘って、ここを生き残って、そして帰ろう。 いままで失ってきた事もたくさん在るけれど、お前だけは僕が守ってみせる。 だから、絶対に勝とう。 全力で、ぶつかろう。 目の前の敵へと。 「「おおおおおおおおおッ!!」」 咆哮はやがて重なり合い、遂に敵の眼前へとたどり着く。 その時、一方通行の手が、我武者羅に動かされていた手が一つの薬ビンに触れたのが見えた。 それはありえない角度でぶつかったにも関わらず、ありえない軌道で僕等に向って飛来してきた。 かわすことなど到底出来ない。 しかし、それを阻んだのはやはりファサリナさんが使う円盤だった。 僕等の目の前で展開される電磁の盾が、一方通行の攻撃を通さない。 「て、めッ!」 一方通行の顔が青ざめていく。 僕らが引き金を引く瞬間、電磁の盾は示し合わせたように消滅する。 そして――。 カチリ。 そんなあっけない音と共に、終わりの燐光が輝いた。 ◆ 『破綻/LEVEL5 -accelerator- 』 ◆ 視界が、光に包まれる。 一方通行はこのゲームが始まって初めて、己が死に直面しているのを感じた。 「はッ……」 やまり、まだ解析しきれない。 時間が無い。 グラハムからの銃撃。 阿良々木と戦場ヶ原による銃撃。 同時に防ぐ事が出来ない。 「ははははははッ……」 徐々に、燐光に押し負けていく。 死が、ハッキリと見えた。 「はははははははははははッ!」 だが笑う。笑えるのだ。 己の死が、どうしようもなく笑えてしまう。 なぜか、どうしてなのか、それは分らない。 けれど、もしかしたら……。 (なンだァ……。まさか俺は……) こうなる事を、望んでいたとでも言うのか。 死ぬ事を、殺される事を、狂った自分を止めてもらえる事を。 その終わりを、願っていたとでも言うのか……。 (はッ……それこそ最高に笑っちまうなァ……) 馬鹿げている。 何故ならば……。 『おお、あったかいご飯はこれが始めてだったり、ってミサカはミサカははしゃいでみたり!』 耳に残るその声が……。 『誰かと一緒にいたいから、ってミサカはミサカは……』 その、存在が……。 「――死ねるかよ」 己を、縛る。 その逃避(死)を許さない。 決して、絶対に、逃がしはしない。 「死ねるかよォォォォォォォッ!!!!」 そう、だ。 逃げるわけにはいかない。 己が死ねば、誰が……。 誰がアイツを守ると言うのだ。 「ッ……うおォァァァァアァァァアッ!!!!」 叫ぶ。 その思いを叫びに変える。 脳回路を焼ききれるくらい酷使して、未知の二射線を死ぬ気で凌ぐ。 「オォォォォオァァァァァアァァァアァッ!!!!!」 だが長くは持つまい。 故に、射線を殺す。 射手を殺す。 それは直前に閃いた気転。 敵が己に有効な攻撃を頼みにするなら、己は己に無効であり、敵に有効な攻撃を――。 すなわち、自分にはノーダメージとなる自爆技。 それを成せるのはこの島でも一方通行だけだ。 こんな破綻した戦法を有効とするのは、彼だけだ。 一方通行は足元のディパックを思い切り蹴り上げる。 そこから飛び出してきたのは合計78発のショットガンの弾丸。 ただの弾丸ではない、戦国武将が行使する超大の炸裂弾。 その凄まじい量の散弾を、一方通行は意図的に、一斉に、暴発させた。 飛び散る弾丸の嵐は周囲全ての事象を巻き込んで。 小規模な爆発は互いに重なり合い。 この瞬間、一方通行を中心に半径十数メートルの空間が、凄まじい炸裂音と共に吹き飛んだ。 ◆ 『破綻/永久に』 ◆ 僕は失敗した。 それを理解する。 目の前が真っ赤になる。 もう少し、もう少しだったのに。 なのに駄目だったのか。 爆炎と砕けた銃弾の嵐に、僕達は包み込まれていく。 戦場ヶ原と共に握っていた銃器も、爆風に飛ばされていく。 これで終わり。これで死ぬ。 死ぬ。 死ぬ。 嫌だ。嫌だ。 嫌だ。 まだ、終わりたくない。 まだ死にたくない。 だって、これからだったんだ。 全部、ここからだったのに……。 やっと戦場ヶ原と会えて、そして一緒に戦うことを決めて。 そして、そして、絶対に守りきる事を決めたのに。 なのに。 なのに死ぬ。 「く……そ……」 僕は死ぬ。 それを知って。 終わりの刹那。 僕は最後に、隣にいる女の子の顔を見る。 「…………」 戦場ヶ原は何も言わない。 言う間もない。 だけど、笑顔だった。 最後に見た彼女は最高の笑顔で僕を見つめていた。 どんな時でも、こんな場合でも。 まるで僕の隣に居る事が、居るだけで、それが幸せなんだと。 胸を張って宣言するように。 僕もそれに返す言葉は無い。 そんな時間は無い。 だから代わりに、繋いだ手をぎゅっと握った。 絶対に、もう二度と離さない。離れないように――。 そして目の前が、黒く染まる。 まるでシャットアウト。 自己と世界が遮断されたような感覚。 無音。 突然。 全て。 これで終わり。 ■ 「……っ」 揺れる視界に構わず、グラハム・エーカーは立ち上がる。 全身にガラスの破片が突き刺さり、体中が血で滲んでいるが、頓着しない。 硝煙と土埃によって再び視界環境は最悪に落ち込んだ。 その中をよろよろと歩く。 歩きつつ叫んだ。 「阿良々木少年っ!」 その少年の名を叫ぶ。 「無事なのか……!? 阿良々木少年!!」 先の爆発は殺傷よりも、グラハムと阿良々木を吹き飛ばす事を目的とされた攻撃だった。 その要因があったからか、傷だらけになりながらも、グラハムは命を拾った。 だがグラハムよりも一方通行に接近していた阿良々木と戦場ヶ原がどうなったのかは分らない。 最悪の事態も想定して、グラハムは煙の中を進んだ。 「……!」 そして見る。 倒れ伏す二人分の影。 間違いなく、阿良々木と戦場ヶ原の二人だ。 「阿良々木少年!!」 近づいて、そして見る。 息を呑む。 そこにはおびただしい血溜まりがあった。 「阿良々……木……」 折り重なるように倒れている少年と少女。 それを中心にして、二人分の血液が流れ出している。 少年には、まだかすかに息があった。 体のあちこちに銃創が有ったが、奇跡的に致命傷を免れたのだろう。 だが少女は……。 「なんという……ことだ……!」 戦場ヶ原ひたぎは、死んでいた。 炸裂した散弾の一発に胸を貫かれ――即死だった。 少女は眠るように目を閉じて、普段の怜悧さなど欠片も感じさせない。 どこか安心したような安らかな表情で、阿良々木の手を握って絶命していた。 「…………くっ!」 グラハムは後悔する。 こうなるのであれば、無理やりにでも逃がしていれば良かったのだ。 こうなることが、分っていれば……。 だが彼は少年と少女の意思に、可能性を見てしまった。 この状況を打開する。その光を見、そして賭けてしまったのだ。 だが賭けはここに敗北を突きつけられる。 グラハムは悔やみながらも、道を見失う事は無かった。 残されたもの、自分に出来る事を考える。 今の自分に出来る事は、残った命を守る事のみ。 意識の無い阿良々木を抱え上げる。 その際、繋がれた二人の手を引き離す事に、強烈な罪悪感を感じながらも。 「……これは……敗北だ……」 呟いて、自認する。 自分達は負けたのだと。 もう逃げる事しかできない敗者なのだと実感する。 それも、逃げる事が出来ればの話であったが。 「待てよォ……」 悪寒と共に、背中に突き刺さる悪鬼の声。 振り返ればそこに、想像通りの怪物がいた。 「逃がすと、思うかァ?」 「そうだな……。 見逃してはくれないだろうな……」 煙がはれていく、 そこから現れたのは返り血に濡れた白髪の少年の姿。 風貌は、いまだ無傷。 「化け物め……」 「ヒャハハッ。 言えてるな」 感心したように一方通行は嗤い。 その手に持ったコーヒー缶を振り上げた。 「ここまで、か……」 この状況を打開する術などどこにもない。 見渡せど、脱出口など皆無。 味方は――白井黒子には既に戦闘は不可能。 見渡せば、ファサリナも薬局の床に倒れ伏して、死んでいるのが見えた。 万策尽きた。 それがグラハムの正直な心境だった。 終わりが来る。 数秒もせぬ内に、死神の鎌がまたしても命を摘み取っていく。 その時、一方通行の背後に。 グラハムは桃色の髪の少女の姿が見えたような気がした。 【ファサリナ@ガン×ソード 死亡】 【戦場ヶ原ひたぎ@化物語 死亡】 ◆ 『救い/優しい幻想』 ◆ どこか凪いだ心境で、ユーフェミア・リ・ブリタニアは戦場に立っていた。 ドアを二枚、壁を二枚を超えたその先は地獄の鉄火場。 危険は承知。 死は覚悟の上。 だがこの戦いだけは逃げられない。 己の我が侭の為に多くの人が戦って、そして命を落としたのだ。 なのに自分だけ逃げる事は出来ない、と。 ゆっくりと、だが力強い足取りで、ユフィは歩く。 もちろん死ぬ気は無い。 己には償わなければならない罪が在る。 知らなければならない、死が在る。 こんな所で、投げ出すわけにはいかない。 けれど今は、ここは立ち向かわなければならない時だと、彼女は決意した。 「…………スザク」 残してきた彼への思いを振り切って、少女は進む。 手には先程爆発音と共に足元に転がってきた巨大な銃器。 足取りは決して軽くは無く、だが力強い。 「行きます」 一瞬俯きかけていた顔を上げ、少女は見た。 己が倒すべき敵の姿を……。 「その敵を……撃つッ!」 こちらに背中を向ける血に濡れた少年。 その背を、狙い撃つ。 燐光が少年へと迫る。 直前で振り返った少年の表情は、確かな脅威を認識していた。 一方通行が伸ばした手がビームに触れる。 またしても彼の対応は間に合った。 むしろ解析が進み、迅速に対応できるようになっていた。 だが背後からの不意打ちという点は大きい。 弾いた燐光の軌跡はこれまでで、一番異質なものとなった。 一方通行を避けるように動くのはこれまで通りだったが、 今回の軌道は上方、天井を突き破って天に飛ぶ。 更には、よろめいて転ぶ一方通行。 それは千載一遇のチャンス。 誰の目にもそう映った。 一方通行は一時的とは言え、このとき完全に敵の姿を視界から外した。 今撃てば、その攻撃は完全に一方通行の認知の外。 この時、この瞬間ならば、あるいは攻撃が通るかもしれない。 ユフィもそう考えたのか、若干焦るように引き金を引いた。 「……そ、そんなっ」 しかし、もう燐光は発射されなかった。 彼女は知らない。 この武器の設けられた制限。 驚異的な威力と連射性をかね揃える代償に、撃てる回数は5発のみ。 それ以上撃つためには、何らかの手段によるジェネレータへのエネルギーチャージが必要になる。 故に今はもうなんど引き金を引こうとも、その砲門から勝利の燐光が放たれる事はない。 「そん……なっ……」 勝利の代わりにもたらされるモノは敗北と死。 手に持っていた銃器ごと、ユフィの胸を銀の閃光が貫通する。 「……ぁ……」 崩れ落ちる少女。 光の消える瞳。 消えいく命。 「……」 己の血の海に倒れ伏した少女は最後に願う。 「……スザ……ク」 彼が、どうかもう一度立ち上がることを。 彼が、一人でも多くの人を救う未来を夢に見る。 ユフィは倒れ伏したまま、己がいま開いてきたばかりの扉を見る。 きっともうすぐ、彼はあの扉から飛び出してきて、もう一度闘ってくれるのだ。 きっともうすぐ……。 皆の為に、自分のために、そうあの日のように、ヒーローのように現れて。 そして己すら救ってくれるに違いない。 彼はもうすぐ、皆を守る為に闘ってくれるのだ。 「ああ……」 それはなんて、素晴らしい。 誇らしい光景なのだろう。 それが、彼女の最後の思考となった。 【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2 死亡】 ■ 静寂が訪れた。 動くモノは無い。 話すモノも無い。 ここに四つの命が散華した。 残された生命は五つ。 その内の三つは敗北者。 皆、床に四肢を投げ出している。 一つは勝者。 彼だけがここに二本の足で立っている。 「思ったより手間取っちまったが……。これで終いか……」 勝者、一方通行は告げる。 戦いの幕を下ろす。 もはや誰も動けない。 誰も逃げられない。 誰にも邪魔されない。 ならば、全て諸共消し飛ばしてしまえば手間はかからないだろう。 「ふ……は……ははは……ヒァハハハハハハハハハハハハッッ!!」 狂喜の歓声と共に。 もう一度、風を集める。 今度こそは全力。 間違いなく、この薬局全てを吹き飛ばす最大出力。 その行使の後には彼しか残るまい。 倒れ伏す敗北者達は残さず塵芥と化すだろう。 終わり、だ。 これで。 「ハハハハハハハッ! ヒャハハハハハハハハハッ!!………………あァ?」 そんな時、音が、聞こえた。 彼は至極面倒くさそうな顔色で、能力行使を止めて振り返る。 聞こえてくる。 コツコツ、と。 小さな、だが確かな足音。 近づいてくる。 そして、やがて、死した桃色の髪の少女のむこう。 薬局奥の扉がゆっくりと開いて……。 「……よォ、お目覚めかよ」 その一つは挑む者。 最後の挑戦者。 悠然に、 強靭に、 騎士の名に恥じぬ確かな意志と、ただ一つの決意を持って。 だが他の誰でもない。 一人の人間として。 ――枢木スザクはそこに立つ。 ◆ 『対決3/疾走する生命』 ◆ 「ずいぶん、暢気にしてたンだなァ……。こっちの仕事は大体終わっちまったよ」 ――聞こえない。 スザクは一方通行の言葉に何も返さずに、目の前で既に事切れている少女に歩み寄った。 「後はテメエをぶっ殺して、きっちり皆殺して完了、と」 ――聞こえない。 スザクは少女にも、やはり何も告げなかった。 言葉は無かった。 ただ、遂に再会した、終ぞ生きて会う事のできなかった少女に触れる。 その冷たい頬に、手を置いた 結局、最後まで会って話す事は出来なかった。 会う資格も無いと思っていたが、こうして二度と邂逅の叶わない現実を目にしたとき。 どれほど自分が彼女に会いたいと願っていたのかを思い知る。 だが、今は、今だけは。 迷いも、後悔も、悲しみすらも感じない。 当然、怒りも彼方に置いてきた。 残るものは、あの熱、あの言葉。 ――憶えている。聞こえていたとも。 『……生きて、ね』 その声を、その命を、その約束を――。 だから今だけは、もう一度だけ、彼女のたった一人の騎士として。 「――生きる」 顔を上げる。 その目は、真紅に染まっていた。 『生きろ』 その目からは、涙が零れ落ちていく。 「俺は、生きる」 その目が、敵を捕らえた。 意思が、闘志が、炸裂する。 「うおおおおおおおォォォォォォォォォッ!!」 咆哮と共に、スザクは駆けた。 「ははッ。イイぜッ! イイぜェ! 来いよォ!!」 ――聞こえない。 ――もう何も聞こえなかった。 ■ 乱れ飛ぶ銀の嵐。 舞い散る閃光。 駆け抜ける生命。 それは弱小の個。 撃たれれば死ぬ。 刺せば死ぬ。 殺せば死ぬ。 ただそれだけの、つまらない命のはずだ。 だというのに、 心臓を押しつぶそうと狙うコーヒー缶。 逃げ場を潰す銀球の散弾。 かわす隙間など無いガラス片の嵐。 触れればそれで最後となる破壊の手。 その全てが人体には致命打となる凶器の奔流。 真人間にはどれ一つ逃げる事など絶対に不可能な筈の災害事象。 にも拘らず、それらは一撃たりとも命中し得ない。 心臓をおしつぶそうと狙うコーヒー缶は、目視のみで避けられる。 逃げ場を潰す銀球の散弾は、障害物を蹴り跳ねて凌がれる。 かわす隙間などない筈のガラス片の嵐は、ありえない角度と挙動で見切られる。 当然、これほどの超反応を成し遂げる相手に、破壊の手など届きはしない 「馬鹿なッ!」 以前に相対した時はこれほどではなかった。 速すぎる。 幾らなんでも常識を超えすぎている。 否、いまだ人体の常識にのっとった挙動だ。 だがあまりに絶妙な体技と心技で、絶死の散弾がかわされていくのだ。 ガトリングもかくやという程の質量の連射。 それを敵は壁を走り、商品棚を蹴倒して、床を転がって、ありとあらゆる方法を駆使して避ける。 接近を許したと思えば、思いきりとび蹴りをくれる。 が、当然敵は反射の壁に阻まれて後方に飛ぶ。 しかし、その後退の勢いすらも敵の回避を助けているのだ。 止めさえすれば刺せる。 止まりさえすれば殺せる。 たが止まらない。 戦闘が始まって以降、敵はまったく停止する気配を見せない。 マックススピードで駆け抜け続ける。 それはどう見ても偶然、運が良かったと言うしかないギリギリの回避運動。 だがそれがもう軽く数十回は発生しているのだ。 繰り返される偶然とは即ち必然。 これは運ではない、敵は確かな確信を持ってその超回避を成し遂げている。 「なンなンだ、いったいッ!?」 なにが変わった? 以前と何が違う? 「その……腕、か? いや違うな」 薬局の治療をもってしても、切断された腕の再生までは為されなかったようだ。 いまのスザクは隻腕となっている。 それが体重を軽くし、的を小さくし、回避率を高めている。 多少はそれも要因となっているだろう。 だがここまでの超回避はそれだけが理由ではない。 「そうか……場所か……」 以前と違うこと、それは闘っている場所だ。 今回の戦場は室内。 しかも障害物がたんまりとある薬局内だ。 一方通行にとっては攻撃が当てにくく。 跳ね回るスザクにとってはかわしやすい、ちょうど良い場になっている。 「だったら……」 ここを見晴らし良くする。 場を崩し、一方通行にとって有利な状況に作り変える。 その考えがあった。 だがその前に……。 「チィッ……そろそろだろォな」 時間制限が近づいている。 二度にわたる全力の能力行使に加えて。 「コイツ相手じゃ力をケチれねえ……」 白井黒子やファサリナに対してかなりの長期戦をなせたのは、 力をセーブしながら戦う事が出来たからだ。 彼女達は積極的に攻撃してくる事はなかった。 それが自滅を誘発すると知っていたからだ。 故に一方通行は隙を見て反射の面積を削ったり、時に完全に止めるほどの余裕を見せていた。 攻撃も散発的で全力には程遠いかった。 だがスザクはそうはいかない。 全力の攻撃も未だに届かない。 しかも、この敵は効かないと承知しているくせに直接攻撃を仕掛けてくる。 なんど弾き返しても、無駄だと分かっているくせに馬鹿の一つ覚えのように蹴りつけてくる。 何かを確かめるように。 これでは反射も万全の状態に保たなければならない。 節約する事が出来ない。 現に今、一方通行の残り時間はみるみる削られていった。 当然の話。 この敵は時間制限を知っている。 粘ればやがて一方通行が力を失うと知っているのだ。 今度は能力切れの演技にも引っかからないだろう。 確実に、なぶり殺しにしてくるはずだ。 「どォする……?」 一方通行は選択を迫られていた。 このまま闘うか、退くか。 すでに時間切れのリスクを負っている。 だがここでスザクを仕留められなければ、一方通行の弱点は広範囲に知れ渡る事になるだろう。 「くそ……」 彼は迷っていた。 迷いながらも力を行使する。 「くッそがァァァァ!」 早く死ね。 今すぐ死ねと、怒りを乗せて。 怒涛の暴力が炸裂する。 ■ 「オオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!」 枢木スザクは咆哮する。 もう、現実の音は何も聞こえない。 薬局内に巻き起こる、炸裂音、激突音、狂気の怒号。 その全ては耳に入らない。 音を置き捨ててスザクは駆ける。 殺意の奔流も、死の刃も、敵の姿すら認識外にあった。 思いは、認識する感情はただ一つ。 その誓い。 その約束。 その命令。 『――生きろ!』 生きる。 『――生きて……』 生きる。 『――生きろ(て)!!』 ――俺は、生きる。 生存の意志だけを引き連れて駆け抜ける。 向かい来る閃光を回避する。 眼前の敵に突貫する。 視界を散弾が覆う。 だが回避する。 反転して、敵に挑む。 そして、生きる。生き抜く。 火花散る視界。 白と赤に染まる意識の中。 もはや意味の無い、言葉の羅列があふれ出していた。 ――ユフィ。 僕は君に、伝えたい言葉があったんだ。 君に返さなきゃいけない答えがあったんだ。 君に会って、話さなきゃいけない事があったんだ。 君に会えて本当によかった。 僕はずっと君に救われていた。 死にたがりの僕は、君のおかげで前をむくことが出来たんだ。 この理想を目指すことができたんだ。 どれほど感謝してもしきれない。 僕は、本当は……。 騎士とか、主とか、そんな関係じゃなくて。 ただのスザクとして、僕は君が好きだった。 誰よりも、君を守りたかったんだ。 僕は……ずっと、君と一緒にいたかった。 ――言葉はもはや永劫に届かない。 叶わない。 それは二度目の離別 短い夢の終わりを知り。 真紅の相貌は疾駆する。 その目から流れ落ちる涙だけを、ただ一つの手向けとして。 ■ 「くそッ! 限界かッ……!」 遂に一方通行は撤退を決意する。 逃げを選んだ。 もう残り時間かが間もない事は自覚している。 ここでスザクを仕留められなかった事は後に響く問題として自覚しているが、 無理に闘って殺されるわけにもいかない。 そうしてベクトル変換で薬局内からの離脱を試みようとした瞬間である。 都合30発目の蹴りが一方通行に命中した。 やはり、反射される。 ……だが。 「なン……だ? いまの嫌な感じは……」 それは違和感。 スザクが何度も近接攻撃を試みてくる真意。 最初は能力限界を早めるためだと考えていた。 だが、スザクは一方通行が使う能力の強弱で限界が変わることなど知りるはずがない。 ならば、なにが狙いなのか。 直感的な焦りに任せ、一方通行はガラス片の弾幕を正面に撃ち出して、後方に飛んだ。 その瞬間である。 空に跳び上がり、ガラス片を回避するスザク。 テレポーターですらかわせなかった移動先を読んだ一撃すらも回避せしめ。 天井を蹴って向ってくる。 そして、一方通行の顔面へとその回転キックを繰り出して―-。 「コイツ……まさか……!?」 その蹴りは全力。 反射に対応するための手加減が無い。 つまり。 攻撃が、通る。 通す気が、在るとでも……。 「――ガッ!?」 その蹴りは果たして一方通行に届いた。 反射の壁を抜けて、惜しくも顔面には及ばなかったものの肩口を蹴り飛ばし、一方通行を跳ね飛ばした。 床を三回ほど跳ね、漸く一歩通行は停止する。 「な……にを……?」 やったのかと、その言葉を言い切る前にスザクは答えを口にした。 「これだけ何度も殴っていれば、仕組みと抜け方くらい分る」 それはこの戦いが始まって初めてスザクが一方通行に声をかけた瞬間だった。 「攻撃を自動的に反射される。ならば、その瞬間に自分から攻撃を逆方向に軌道変更すればいいだけだ。 遠ざかる攻撃はお前自身に反射される。 もう……その力は通用しない……。 諦めろ」 簡潔な事実。 だが分ったところで到底容易には実行できない絶技。 それを当たり前のように述べ、スザクはもう一度地を蹴ろうとし……。 「…………ッッ!!」 そのときには、一方通行は既に薬局の外へと飛び出していた。 商品棚を引き倒しながら、後ろ向きに。 今度こそ完全に入り口を破壊して、撤退する。 「逃げ……られたか……」 ふらりとバランスを崩しながらスザクは呟いた。 ハッタリは、通用した。 スザクもまた限界だったのだ。 治療を終えたばかりにも関わらず、全身を酷使し。 そして人間の限界を半ば超えた挙動で長時間動いた。 その反動が纏めて襲いくる。 ギアスと同調する意志と、スザクの身体能力は確かにその動きを可能にしていたが、人体として限界は当然ある。 あのまま戦い続けていれば、先に限界を迎えていたのはスザクだったかもしれない。 「…………」 周囲を見回す。 静まり返った薬局内。 立っているのは自分ひとりだった。 だが、生存者は何人かいる。 「枢木……スザク……」 声のした方を見れば、金髪の軍人らしき人物が、 阿良々木暦を抱えて佇んでいた。 「詳しい自己紹介も、礼も、今は後にさせてもらう。 ひとまず、けが人の解放を最優先としよう」 男の声に頷いて、スザクは生存者の保護に動き出す。 そのときふと、足もとにふわりとした毛並みの感触がした。 視線を下げると、一匹の猫が擦り寄っていた。 どこか、哀しそうな目をして、スザクを見上げていた。 「アーサー、君も、生きていたか……」 これもまた、終わる戦いに残された小さな生命。 共に、先に負傷者へと赴いた男の背中に追従する。 「……行こう、か」 けれど最後に、桃色の髪の少女を振り返る。 胸を真っ赤に染め、二度と起きる事のない少女。 二度と会うことの出来ない少女。 終わった幻想の残滓。 もう一度、心が弾けんばかりに、揺れた。 けれど叫びたくなる衝動を今度は押さえつけ。 自分の頬に、手を当てる。 もう、涙は零れていなかった。 ■ 【E-4 薬局内部/二日目/黎明】 【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 [状態]:疲労(大)、左腕切断(処置済)、 [服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し) [装備]: [道具]:鉈@現実 [思考] 基本:生きて、ユーフェミアの約束(命令)を果たす。 0:ユフィ……。 1:とにかく今は怪我人の介抱を最優先。 [備考] ※ラウンズ撃破以降~最終決戦前の時期から参戦。 ※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。 ※一回放送の少し前に、政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。 ※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。 ※二日目深夜に、ルイスの薬剤@ガンダムOOを飲みました。 ※一方通行の反射の壁を越える方法を理解しました。 【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】 [状態]:疲労(中)、全身にガラスによる刺し傷 [服装]:ユニオンの制服 [装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30 、GN拳銃(エネルギー残量:小) [道具]:基本支給品一式、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、ゼクスの手紙 双眼鏡@現実、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実 サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20、1万ペリカ 『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム~戦場の絆~』解説冊子 ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル [思考] 基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。 1:怪我人の保護を最優先とする。 2:天江衣をゲームから脱出させる。脱出までの間は衣の友達づくりを手伝う。 3:主催者の思惑を潰す。 4:首輪を解除したい。首輪解除後は『ジングウ』を奪取または破壊する。 5:スザクは是非とも仲間に加えたい。 6:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。 7:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。 8:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。 9:可能ならば、クレーターを調査したい。 10:【憩いの館】にある『戦場の絆』を試したい。 【備考】 ※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています。 ※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。 ※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。 ※エスポワール会議に参加しました。 ※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。この情報だけでは首輪の解除は不可能です。 ※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。 ※『黒子の仮説』を聞きました。 ※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。 ※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。 ※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。 ※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。 ※衣の負債について、気づいていません。 【阿良々木暦@化物語】 [状態]:気絶中、疲労(大) 、全身に銃創(致命傷は無し、治療中)、ただし出血(大) [服装]:ボロボロの直江津高校男子制服 [装備]:レイのレシーバー@ガン×ソード 、ベレッタM1934(5/8) [道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実 ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、衛宮邸土蔵で集めた品多数 [思考] 基本:誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。 0:……。 1:――戦場ヶ原……。 2:憂はこのままにはしない。桃子、ルルーシュに対しては警戒。 3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。 4:浅上らの無事を願う。 5:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。 [備考] ※アニメ最終回(12話)終了後から参戦。 ※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。 ※サポート窓口について知りました。また、原村和が主催側にいることを知りました。 ※衛宮邸の土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。 ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。 ※衣の負債について、気づいていません。 【白井黒子@とある魔術の禁書目録】 [状態]:気絶中、疲労(極大)、全身に切り傷、刺し傷、擦り傷、多数、右肩口をコーヒー缶が貫通 [服装]:ボロボロの常盤台中学校制服、両手に包帯 [装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録 [道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、1億1310万ペリカ [思考] 基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。 0:士郎さん…約束…。 1:薬局へペリカを届ける。 2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す 3:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする 4:士郎さんが心配、意識している事を自覚 5:士郎さんはすぐに人を甘やかす 6:士郎さんを少しは頼る 7:お姉さまが死んだことはやはり悲しい。もしお姉さまを生き返らせるチャンスがあるのなら……? 8:アリー・アル・サーシェス…… 9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう? 10:危険人物を警戒。藤乃のことは完全に信用したわけではないが、償いたいという気持ちに嘘はないと思う。 [備考] ※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です ※空間転移の制限 ・距離に反比例して精度にブレが出るようです。ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。 ・その他制限については不明。 ※エスポワール会議に参加しました。 ※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。 そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。 ※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。 ※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。 ※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。 ※衛宮士郎の能力について把握しました。 ※衣の負債について、気づいていません。 ※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。 【?-?/???/二日目/黎明】 【インデックス@とある魔術の禁書目録】 [状態]:ペンデックス? [服装]:歩く教会 [装備]:??? [道具]:??? [思考] 基本:??? 0:バトルロワイアルを円滑に進行させる。 1:友達が何なのかを知りたい。 2:天江衣にもう一度会ってみる。 3:自分に掛けられた封印を解除する? 4:友達が何か解ったら、咲に返事をする。 5:風斬氷華とは…………。 ※インデックスの記憶は特殊な魔術式で封印されているようです。 時系列順で読む Back 疾走する超能力者のパラベラムⅢ Next 疾走する超能力者のパラベラムⅤ 投下順で読む Back 疾走する超能力者のパラベラムⅢ Next 疾走する超能力者のパラベラムⅤ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ 一方通行 280 疾走する超能力者のパラベラムⅤ 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ 白井黒子 282 ひたぎエンド(ビフォー) 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ 戦場ヶ原ひたぎ GAME OVER 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ ファサリナ GAME OVER 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ 阿良々木暦 282 ひたぎエンド(ビフォー) 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ グラハム・エーカー 282 ひたぎエンド(ビフォー) 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ 枢木スザク 282 ひたぎエンド(ビフォー) 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ ユーフェミア・リ・ブリタニア GAME OVER 280 疾走する超能力者のパラベラムⅢ インデックス 290 許せないのどっち(前編)
https://w.atwiki.jp/bmrog/pages/1810.html
【GM】 よろしくおねがいします 【GM】 2d6 【GM】 ……しまった!? 【GM】 1d6 【GM】 1d8 【GM】 1d100 【GM】 くっ!? 【GM】 それでは、あらためてよろしくお願いします。 【ゼルル】 よろしくおねがいしまーっす! 【GM】 2d6 【ゼルル】 nanaGM - 2D6 = [5,2] = 7 【Dice】 nanaGM - 2D6 = [1,1] = 2 【ゼルル】 撤退! 【GM】 D100 【GM】 1d100 【Dice】 nanaGM - 1D100 = [73] = 73 【GM】 ちょっと成長したらしい(違 【ゼルル】 w 【GM】 さて。自己紹介をお願いします。 【ゼルル】 りょーかいですわ! 【ゼルル】 【ゼルル】 自信を取り戻すために受けた依頼で難なくオークを倒し村に逗留するゼルルへ、ありえない再会が齎される。 【ゼルル】 倒したはずのオークが、再びあの忌まわしい花の香りを漂わせながら村に現れ、村人全員を誘引してしまう。 【ゼルル】 悪戦苦闘しつつも何とかオークを撃退したゼルル。だが村人に囲まれ、魔物に犯される快感と興奮は残り続けて…。 【ゼルル】「ワタクシはゼルルと申します。森の外には恐ろしい魔物だらけなのですね…負けていられません。」 【ゼルル】「もっと強い力と武器が必要ですね…どんな魔物がきても、二度と、あのような無様を晒さない為に!」 【ゼルル】 決意を新たにするも、あの日からうずき続ける身体を揺らして、無自覚に人目を引く踊子衣装の豊満ボディなエロフのお姫さま。 【ゼルル】 衣装は変えるわけにもいかない為、世話役メイド達と協力しつつ新たな依頼やゼルルに相応しい弓の存在を探しています。 【ゼルル】 http //www.usagi-o.sakura.ne.jp/TRPG/wiki/wiki.cgi/HC?page=%A5%BC%A5%EB%A5%EB%28%A5%E9%A5%F3%A5%C9%A5%EB%29 【GM】 では、そんなゼルルのもとに、ある日、知らせがやってきます―― 【GM】 情報屋「はい、お求めの情報。持ってきたよ」 【GM】 帝都のメイデンたちが集う酒場兼宿屋「乙女たちの純情」亭にて。 【GM】 いかにも、裏事情に通じてそうな露出度の低い胸薄めの偵察兵っぽい運動系メイデンが、キミの席へとやって来る。 【GM】 彼女は、情報屋、あらゆる情報に通じた、冒険者メイデンだ。 【GM】 情報屋「強い弓、がお求めだよね? しっかり、見つけて来たよ」 【GM】 ▽ 【ゼルル】「まぁ!本当ですか?ぜひ、お話をきかせてくださいな♪」同じくらい露出度が高いのに運動は最低限、動くのにジャマそうな胸を揺らして席にエスコート。テーブルに胸を載せながら前のめりになってお話を伺います! 【ゼルル】 ▽ 【GM】 情報屋(ストレート系)「………」 突き出された胸を見ている 【GM】 情報屋「……でも、まぁ、かなりやばいネタであることは確かなんだよねー。 【GM】 なにせ、あのオークシティが噂の出どころだし」 【GM】 情報屋「それでも、聞きたい?」 【GM】 ▽ 【ゼルル】「お、オークですか・・・?///」オークと聞いて、つい先日の出来事を思い出し、フェイスベールの下の表情を曇らせる・・・無意識にぎゅっと肩を寄せた防御姿勢は、逆に視線を吸い寄せる谷間をつくりつつも・・・数秒の沈黙の後 【ゼルル】「えぇ、お願いいたしますわ・・・わたくしには、力が必要ですの。」そういって胸元…というか谷間から代価の硬貨を取り出すと覚悟を決めた顔で情報屋さんに差し出します。途中でなかったことにーなんていわないよという誠意と覚悟の表れだ。 【ゼルル】 ▽ 【GM】 情報屋「……なんでも、伝説級の魔法の弓、神々の武器かってくらいのいわくつきの聖弓 ゾディアック ってのが、オークシティに持ち込まれた、って話」 【GM】 情報屋「かつて、百年前の戦争で山を撃っただの魔族を滅ぼしただの伝説があって、でも、今じゃ誰も使えないから神殿に飾られていたんだけどね」 【GM】 情報屋「でも、そいつがオークシティのオークどもに略奪された、って話よ」 【GM】 情報屋「……なにせ、伝説によれば、あの弓は今のオークシティと関係があるとか、ないとか」 【GM】 情報屋「偶然ならいいけど、伝説付きの魔武器だし、何があってもおかしくはないと思うわ」 【GM】 情報屋「いって、見る?」 【GM】 ▽ 【ゼルル】 最初は驚き、続いて興奮気味にふんふんvっと頷き、最後にはちょっと気後れしたように俯いていたけれど・・・情報屋さんの声に顔を上げて 【ゼルル】「ゾディアックという弓、たしかにお兄様が若い頃のお話にでてきた事があったとおもいますわ。王家でも魔法の弓はめったに触れられなかったのですが・・・そのような物が森の外にある事にも驚いた事を思い出しましたわ。ぜひ、拝見したいとおもいます・・・オークシティへの順路、お教えくださいな。」そういって追加の情報料をチャリンチャリン、谷間から出して積み上げるよ! 【ゼルル】 ▽ 【GM】 情報屋「まっとうな手段じゃ入れないわ。 あの街は高い城壁に、古代魔術を利用した防御兵器までそろっているくらいだから」 【GM】 情報屋「でも、西側にある港は、城壁と比べればずいぶんとマシよ」 【GM】 情報屋「その、港に出入りする奴らとは、ちょっとした伝手があるから、そこから荷物に紛れて密航することなるわ」 【GM】 情報屋「……上陸したら、スラム街にクリスって名前の男が潜んでいるわ。あたしの紹介といえば、多少は力になってくれるはずよ」 【GM】 ▽ 【ゼルル】「密航ですか・・・心苦しいですが、しかたありませんわね。お話、大変興味深く聞かせていただけました。その差配にも満足しております。魔法の弓を手にすることが叶いましたら、細やかながら祝宴を開きたいと思っております。どうかご招待に応じてくださいね?その、クリス様も含めて♪」法を犯すことに少し憂いを覚えつつもそこは割り切り、情報や手配への感謝に応える為と、自信の表れとして成功した時の祝杯へのお誘いまで添えておきます。 【ゼルル】 冒険者の人たちがたまにやっているこのやり取りにちょっと憧れていて、ついいってみたくなったっていうのはほんの少しだけです。 【ゼルル】「では、さっそく出立の準備を整えてきますね?席を外すことをお許しください。では。」そういって丁寧すぎる挨拶で席を立つ・・・その所作一つ一つが洗練されているのに自然すぎるので高貴さは隠せていない・・・恰好とのアンバランスさは最近どんどん顕著になっているのでした。 【ゼルル】 ▽ 【GM】 情報屋「ま、がんばってね」(あの町から戻ったメイデンって、聞いたことないけど) 【GM】 というわけで、情報屋さんが手配してくれた船に乗り、オークシティへと向かうことになりました。 【GM】 空は良く張れ、波も穏やかで、絶好の公開日和です。 【GM】 客船というには少々武骨すぎる、戦船のような船に乗って数日。 【GM】 はるか向こうに、うっすらと霧に閉ざされた街、オークシティが見えてきました。 【GM】 船長「そろそろだ、見えるか?」 【GM】 日に焼けた顔に、いくつもの古傷を刻んだ、中年の船長が船室にいる貴方に声をかけました。 【GM】 船長「もっとも、見たらすぐに、荷物に偽装してもらわなきゃならねぇけどな、がっはっはっはっは!」 【GM】 ▽ 【ゼルル】「はい!初めての船旅で随分ご迷惑をおかけしてしまった事お詫びと感謝を・・・荷物に紛れるのは、森での伏せ方とは違うのでちゃんとできているかご教授くださいね?」初めての船で最初はぐったり、いろいろお世話をされた・・・けど世話され慣れているお姫様は存分に便り、いろいろ赤裸々な部分をみせつつも旅を楽しみ、目的地への到着に胸を高鳴らせるのでした! 【ゼルル】「それにしても・・・あの霧は不自然ですわね?潮風にも吹き散らせないとは、あれがあの街の防壁魔術でしょうか?」興味深そうに霧をみつめ、エルフの森の結界とは違う様子に船の縁に乗り上げながら観察と分析をしちゃってます。無防備にお尻を振りながら。 【ゼルル】 ▽ 【GM】 船長「ああ、なんでもミアスマがおかしくなっているって話だ。そのせいで、まともに軍隊も送り込めやしない。俺たちも、港に入ったらすぐに出るしかしかたないのさ。 耐性のないやつがあまり長くいたら、無気力になっちまう」 【GM】 船長「まぁ、あんたは大丈夫だって話は聞いている。安心しな」 そういって、船倉に案内してくれます。いくつもの木箱や樽がありますが、そのうちの一つが、貴方が隠れて入り込むためのものです。 【GM】 ▽ 【ゼルル】「えぇ、森の加護はあの程度の霧など吹き散らせますもの♪この中にはいればいいんですわね?んしょ、んしょ・・・ちょっと、息苦しいですね?」自慢の加護をドヤっと胸張りしつつ案内されたタルの一つに入り込んでみるよ!体育座りする様に入ると胸とお尻がつっかえそうですね・・・! 【ゼルル】 ▽ 【GM】 船長(いい眺めだ) 【GM】 船長「んっ、んん。閉めるぜ。 じゃあ、幸運を祈る」 ばたん、そうして、箱の蓋が閉じられました。しばらくの時間のあと、貴方の入った箱が持ち上げられ――周囲の空気の気配が変わり―― 【GM】 ――そして、運び終わったのか。貴方の入った箱は、どこかへと降ろされました。 【GM】 周囲からは、荷物を運ぶ何人もの足音が近づいては、遠ざかり、そして―― 【GM】 知力判定:難易度10です 【GM】 ▽ 【ゼルル】 楽勝楽勝! 【ゼルル】 2d6+7 知力7 ファンブル以外成功! 【Dice】 N07_zerr - 2D6+7 = [2,1]+7 = 10 【ゼルル】 あっぶない!? 【ゼルル】 フラグのパワーが影響しているのかにゃ・・・? 【GM】 遠ざかる足音。 【GM】 誰かの近づいてくる足音。 【GM】 箱の前で立ち止まった足音。 【GM】 そして、 【GM】 呟かれる言葉が、箱越しにも聞こえてきました。 【GM】 ???「ぐふふふ、これが、例の荷物か」 【GM】 ▽ 【ゼルル】「・・・?(例の荷物・・・とはワタクシの事をしっている?…クリス様でしょうか?でも、ちがったらたいへんですわね・・・)」と、声を出すか出さないか悩みつつもひとまず静観の構えで息を殺して潜み続けるのだ! 【ゼルル】 ▽ 【GM】 ――では、箱の中にいる貴方に向かって、攻撃を仕掛けてきます。 戦闘を開始します。 【GM】 一発、???の攻撃を受けてから、通常の戦闘行動に入りましょう。 【ゼルル】 ひえーー?! 【GM】 1d6+15 ダメージ 【Dice】 nanaGM - 1D6+15 = [5]+15 = 20 【GM】 20点ダメージ、箱の外から冷気が次々に襲い掛かってくる――! ▽ 【ゼルル】 ちゅよい! 【ゼルル】 -5 受動/単体 魔力分ダメージ軽減 シールド(MP3)で15点を胸に受ける!!1点のこった! 【ゼルル】 あくとはないよ! 【GM】 では、その衝撃でばらばらとなった箱の外、港の倉庫らしき建物の中に、一匹のオークがいます。 【GM】 目の前には、双角帽をかぶり、 【GM】 左手が鉤爪となった、いかにも海賊といった様子のオークが、 【GM】 獲物を狙う瞳で、現れたキミの様子を見ています。 【GM】 海賊オーク「なかなかの上玉じゃあねぇか! こういう貢物を最初に受け取れるってんだから、やっぱり役得だよなぁっ!」 ▽ 【ゼルル】「っ!?これは、、きゃぁぁぁっ///な、何者ですか、無礼者!名を名乗りなさい!///」ひやりとした瞬間、ぎりぎりで展開した魔力障壁が破られるわずかな時間で樽からとびだしました!・・・だけど、攻撃がかすったのか、胸元を覆う下着はほとんど破り取られて、先っぽをわずかに隠せているていどしかのこってません///羞恥に胸元を隠す…のは悪手と気付き、羞恥を堪えて弓を構え、凛とした声で喋るオークに問いかけます。 【ゼルル】 ▽ 【GM】 ドラッド「俺様はオーク船長 ドラッド――!」 【GM】 ドラッド「このオークシティの、海賊の頭! この俺こそが、海を支配するもの!」 【GM】 ドラッド「その証拠に、お前の密航も、ちゃあんと知っていて迎え入れたのさ――お前も、戦利品だからな!」 【GM】 ▽ 【GM】topic 【ドラッド IV6】【ゼルル】 【ゼルル】「くっ・・・まさかオークたちにそれほどの知性があるなんて・・・!」オークといえば怪力だが不潔で愚鈍、性交と暴力、餌の事しか考えないともっぱらの噂。密航がばれるなど想定外でした・・・けれど、最後の一言だけは強く否定します。 【ゼルル】「残念ですが、戦利品にはなり得ません・・・先ほどの一撃、ワタクシを倒す千載一遇のチャンスを逃した事、後悔なさいませ!」流れる所作で大きくのけぞり胸の上で弓を引く独特の構え。わずかな布で支えられた胸は今にも零れそうですが、弓は殺気を纏ってぎりぎり弦を鳴らしています! 【ゼルル】 ▽ 【ドラッド】「お前こそ、後悔するがいい。オークシティの最底辺、一匹の奴隷に堕ちる己の運命を、な――!」 【GM】 ドラッドはボスです。勝利した場合は、成長処理が入ります。 【GM】 ▽ 【ゼルル】 まけない!! 【GM】 では、改めて戦闘再開です。どうぞ。 【ゼルル】 開幕ナシだよ! 【GM】 ありません。ゼルルの行動からですね 【ゼルル】 らじゃー! 【ゼルル】 では、強化された弓技をくらえ――! 【ゼルル】 4d6+3-3 白兵/単体/3回攻撃 マルチプルスナップ&ファントムサード&ツイスター(MP6+2+2)いち! 【Dice】 N07_zerr - 4D6+3-3 = [3,5,5,2]+3-3 = 15 【ゼルル】 4d6+3-3 白兵/単体/3回攻撃 マルチプルスナップ&ファントムサード&ツイスター(MP6+2+2)にぃ! 【Dice】 N07_zerr - 4D6+3-3 = [1,4,2,6]+3-3 = 13 【ゼルル】 4d6+3-3 白兵/単体/3回攻撃 マルチプルスナップ&ファントムサード&ツイスター(MP6+2+2)さん! 【Dice】 N07_zerr - 4D6+3-3 = [6,2,3,5]+3-3 = 16 【ゼルル】 15・13・16点のダメージだよ! 【GM】 ドラッド「くぅっ!?」次々に矢を受けて、驚きの声を上げます。 【ゼルル】 弓を引きながら、下腹部にズグン!っと疼きにも似た熱を感じつつ・・・高まった魔力を込めた螺旋の弓術三連射!オークの脂肪も貫通する強力な矢だ! 【ドラッド】「――だが、まだまだぁっ! 海よ、白く輝く大いなる北の海よ! 俺に力をかせぇっ!」 矢を引き抜き、血を流しながらも、反撃してきます。 【GM】 《能 ヘイルストーム 4~》 【ゼルル】 ひえぇぇぇ!? 【GM】 1d6+15 【ゼルル】 nanaGM - 1D6+15 = [3]+15 = 18 【GM】 《能 ヘイルストーム 4~》 【GM】 1d6+15 【ゼルル】 nanaGM - 1D6+15 = [1]+15 = 16 【GM】 《能 ヘイルストーム 4~》 【GM】 1d6+15 【ゼルル】 nanaGM - 1D6+15 = [4]+15 = 19 【ゼルル】 わひーv 【GM】 最初の3つ、18、16、19点です。 【ゼルル】 では18点を胸に受けて、胸を飛ばし! 16点を腰で受けて2点になって19点が腰を飛ばして 胸腰AP0です! 【ゼルル】 絡みつく舌/大きすぎる胸EX/魔性の果実/過敏な突起 で CP7SP4 もらう! 【GM】 ドラッドの魔力――そう、オークでありながら、剣ではなく打ち出された魔力が、箱から姿を現したばかりの貴方を打ち据え、身にまとっていた衣服を濡らし、吹き飛ばしていきます。 【GM】 気が付いた時には、倒れ込んだ貴方の視界いっぱいに、オークの顔が近づいていました。 【GM】 ドラッド「どうだ? このオレの、三連砲は……?」 貴方の顎を強引につかみ、さらに顔が近づいていき――その唇と、唇が重ねられていく。 【GM】 ▽ 【ゼルル】 まるで津波の様な水弾を3連続で受けてしまい、地上に居ながらおぼれてしまうゼルル・・・口に入った水を吐き出すのに必死で気づいた時にはオークに接近を許してしまっていて・・・ 【ゼルル】「…水遊びが得意な豚がいるとは、思いませんでしたわ。くっ///放しなさい!やめ・・・むぅぅっっ///」ジトリ、睨みつける様にこちらをのぞき込む鋭い視線を飛ばそうとしますが・・・顎にて当てられ強引に唇を奪われた瞬間、水で冷え切ったはずの身体が一気に燃え上がってしまいます・・・必死に引きはがそうとする両手も、逃げ出そうとする足も、渾身と呼べるほど力が入らず・・・重なった唇の熱が伝わるほどにちからがぬけていき・・・唇がうっすら、開いてしまいます・・・ 【ゼルル】 ▽ 【ドラッド】「口でなんといっても、こっちは正直だなぁ……!」 たっぷりと唇を舐め挙げたオークは、荒い呼吸を繰り返しながら、貴方の顔を見下ろしました。 【GM】 そして、その手は、衝撃で下着から零れ落ち、豊かな丸みを見せる乳房へと延びていきます。 【GM】 水魔術を放った冷たいオークの手が、熱を帯び始めた乳房の上を撫で回し、尖り始めつた乳首を玩具のように弄びます。 【GM】 まるで、そうするのが、貴方にとって快感であることを、わかっているかのように――▽ 【ゼルル】「んむっvむぅ・・・っぁ・・・///」必死に我慢するように唇を閉じていたのに、それがほどけて、薄く開いた唇から声が漏れる・・・そんな状態で話された唇は、オークの唾液にぬれてかりながらどこか物悲しそうにこえをあげて、離れた唇を追いかける様に舌がぴろんと伸びていて、間抜けな顔になってしまっています。そんな自分の顔をそらす為に顔を背ければ無防備になった胸元に伸びる手・・・ 【ゼルル】 どくんどくん!っと高鳴る鼓動で震えているのかぷるぷるvかわいい振動で揺れる巨乳は、寒さのせいかびん!っと勃った先端をオークに向けてピン!っと尖らせていて… 【ゼルル】「んくぅぁっぁんっ///ふ、くぅうっ・・・ひんっ・・・オークの、愛撫など・・・感じ、、、ないっ///わたくしは、エルフの、、、一員として・・・立派にっ・・・きゃぅんっ///」弓を手放さないまま、無意識に引き抜いていた矢を掴んだままの手、その甲で漏れそうになる声を必死に隠そうと唇に押し付けて我慢する・・・そう、我慢してしまいます・・・今すぐはねのけて反撃すればいいのに・・・下腹部からの熱に抗えず、オークの、 【ゼルル】 ドラッドの愛撫をうけいれてしまったのです・・・素直に 【ゼルル】 ▽ 【GM】 オークの指先が、ぴんと尖り切った乳首を弄りながら、囁きます。 【ドラッド】「足を、広げな――。そこが、熱く燃えているんだろ?」 【GM】 淫らな囁きとともに、貴方の耳朶をオークのぬめった舌先が舐めあげていきました。 【GM】 ▽ 【ゼルル】「ひんっvひきゅぁぁんvだめ・・・まだ、、、だめですわ・・・この程度、で、屈するなど、、、姫として、、、ありえませんっ///」一瞬、開きかけた膝を再びぎゅっと閉じると背けていた顔を正面にむけて、堂々と、姫を名乗ります・・・なめれた耳は真っ赤になり、どろりとした唾液が垂れる最中でも、凛とした表情は極上の美でキラキラ輝き・・・次の瞬間台無しになる。 【ゼルル】「まだ、この程度の・・・愛撫と接吻では・・・あの、蔦のオークに及ばないではないですか・・・もっと、激しく、乱暴に・・・されなければ・・・屈する事など、できませんわ///」キラキラ輝くひとみの奥には、二度の淫香と中出しで根付いた被虐の快感がべっとりこびりついていて・・・ぎりぎり、っと頭上で弓を構えながら、無防備に唇と胸を出しだしている・・・ 【ゼルル】 ▽ 【ドラッド】「激しく――か?」 にやり、オークの豚面に、いやらし笑みが浮かんだ、次の瞬間――。 【GM】 オークの両腕が、無造作に伸びて―― 【GM】 《特:淫らな遊戯(強):0》 【ゼルル】 ひーん/// 【GM】 ――策士入りましたっけ? 【ゼルル】 こういうのは入るはず! 【ゼルル】 一般判定全般だから 【GM】 2d6+6+2+4 【Dice】 nanaGM - 2D6+6+2+4 = [4,6]+6+2+4 = 22 【ゼルル】 ひーーん/// 【ゼルル】 2d6+7 知力7 絶対成功でも足りない/// 【Dice】 N07_zerr - 2D6+7 = [6,5]+7 = 18 【ゼルル】 にゃーん!/// 【GM】 2d6+2 ダメージ 【Dice】 nanaGM - 2D6+2 = [3,4]+2 = 9 【ゼルル】 その他を飛ばします!・・・乱暴されたければ、邪魔な風止めろっていわれちゃうのかな・・・v 【GM】 ――その腕は、強引に風を引き裂き、ゼルルの両足を大きく持ち上げながら、二つ折りにしていく。 【GM】 隠されていたはずの秘所も、尻穴までも、強引に割広げられ、曝け出されたまんぐり返し――! 【GM】 ▽ 【ゼルル】「かふっ!?くぎぅ・・・あ、ひぎゅぅ・・・苦しいっ///なんて、強引な・・・女性の扱いが、なって、いませんわ!///」屈辱的な恰好で固められ、不自由なまま真上に見えるオークに向けて怒鳴る・・・けれど、その声音はどこか甘ったるく、まんぐり返しされ丸見えになった秘所はどぷりvと悦びの淫蜜をたっぷりこぼして垂れてしまいます・・・まっとうな女性なら痛みか恐怖が勝り、それこそ扱いを間違えているような行為をされているのに・・・ 【ゼルル】 ゼルルの身体はそれが正解だという様に膣を開き、アナルがひくつき、むわり!と加護の風の中に閉じ込めていた雌の香りをときはなってしまいました。 【ゼルル】 ▽ 【ドラッド】「女の扱い? 雌の扱いとしては、十分だろう? 今にも、あふれ出してきそうじゃねぇか――!」 【GM】 襞腕の鋭い金属光沢の柿爪が、むき出しの秘肉の狭間をゆっくりと掻きまわし、蜜の糸を引かせながら引き抜かれていく。 【GM】 濡れ具合を、ゼルル自身に見せつけるように―― 【GM】 ▽ 【ゼルル】「んぎゅぅv冷たいvそんなもの、で、かき回さないでください・・・vあっvあっvあっvんひきゅぅぁっぁあんっ///ぁ、ああぁぁん///そんな、いやらしい、蜜、沢山、、、わたくしのおまんこから・・・なんて///」指ですらない、鋭い金属の爪相手に足をピン!っと伸ばして快楽に悶え、ぷしゅ!っと蜜が膣から吹き出す・・・オークの肘まで飛び散るほどの蜜を吐き出したおマンコからホカホカと湯気を出すほど熱せられたかぎづめをみせつけられて・・・羞恥に真っ赤になった顔がフェイスベール越しにもわかるほどだった・・・ 【ゼルル】 ▽ 【ドレッド】「いい貌じゃねぇか。このまま、雌奴隷になるのがふさわしいくらいに、な」 【GM】 鉤爪についた蜜をぺろりと舐めあげながら、オークは嗤った。 【ドレッド】「さぁて、そろそろこいつをぶち込んで、やるかぁ……!」 【GM】 片手で器用にズボンの前を開くと、すでに勃起しきったオークのちんぽが、ゼルルの視界の先、濡れ光る雌肉の先に、その雌を犯したがって震える姿を見せた。 【GM】 ▽ 【ゼルル】「だ・・・れが、雌奴隷・・・なんかにぃ///」オークに蜜を舐められ、悔しさにうなりつつも、オークの怪力に逆らえずマンぐり返しのまま、手探りで3本目の矢を手に集める・・・至近距離で放てばさすがのオークも耐えきれないと、まだ、まだ、引き付けなければならないと・・・誰に聞かせるでもなく考え、実行する。 【ゼルル】「っ・・・おおきぃ・・・おーくのおちんぽvそんな、ぶっといのvおまんこされたらvわたくしのvエルフの狭い膣、もどらなくなってしまいます・・・どうか、やめてくださいまし///あぁ/// 【ゼルル】「っ・・・おおきぃ・・・おーくのおちんぽvそんな、ぶっといのvおまんこされたらvわたくしのvエルフの狭い膣、もどらなくなってしまいます・・・どうか、やめてくださいまし///あぁ///難でも、致しますから、どうか・・・それだけはぁぁ///」どこか演技っぽい、けれど、使う言葉は実に情けなさを醸し出し、プライドの高いエルフの美女が言うだけで、男の理性は簡単に崩せる・・・ 【ゼルル】 ただし、エルフの王族が使うには文字通りプライドを捨てた誘惑だった・・・その奥に、自らの欲望を隠しきれないままそんな王族の恥じを利用し、機会をうかがい・・・それ以上に興奮をおぼえてしまっている・・・ 【ゼルル】 ▽(プライドの崩壊T CP3 SP3 宣言します・・・/// 【ドレッド】「そうだなぁ……雌奴隷になったが最後、ペットになるか、娼婦になるか、はたまた一匹の家畜となって乳を搾られるか――どんな飼い主になろうが、おまえのおまんこは濡れっぱなしだろうなぁ……!」 【ドレッド】「俺様は、そいつを案内してやるだけだ。いやらしくまんこを広げて、発情してるお前と違って、なぁ…!」 【GM】 鉤爪の先端で、肉襞からぷっくりと姿を見せた肉真珠を突きながら、にやりと楽し気に笑みを浮かべている。 【GM】 ▽ 【ゼルル】 奴隷・ペット・娼婦・家畜・・・乳しぼりをされる自分を想像した。 それぞれの自分を思い描くだけできゅんきゅんvっと子宮がうずき、うねうねと膣がうごめいておまんこがくぱくぱv物欲しそうに口を動かす・・・頭上のドレッドの言葉がそのおマンコの動きだけで真実だと証明されてしまうのを感じて、かぁぁぁぁっvっと羞恥に顔が熱くなる。 【ゼルル】「んひぅvあひゅvんくぅぁぁんv案内、など、不要・・・ですわ・・・今、欲しいのはオークの、、、貴方のv、ドレッドのぉっvオークちんぽだけですvどうか、この、えるふおまんこに・・・どうか、ぶちこんで、くださいましぃ///」どきり!と図星を突かれたタイミングで弄り回されるクリトリス・・・こちらの意図がばれているのではないか、密航もばれていた、その焦りから、ここまで言うつもりのなかった直接的過ぎるおねだりまで使って。 【ゼルル】 とうとうオーク呼ばわりもやめ、ドラッドの事を、「男」と認める発言をしながらマンぐり返しになった足から力を抜き、迎え入れる様に腰を振り誘惑し始めます・・・とびちる愛液を自分で浴びながらv 一度崩壊した矜持はどんどん堕ちていく速度をはやめてしまうのです。 【ゼルル】 ▽ 【ドレッド】「ぶちこんでください、かぁ……! くっくっく、いい格好だなぁ……! このオレに、雌穴の奥までされして、まるで犯されたがっているみたいだな」 【GM】 ぶしつけな視線が、堕ちたゼルルの肢体を、曝け出された雌穴の奥を覗き込みながら、楽しげに笑う。 【GM】 だがー― 【ドレッド】「そんな言葉は、武器を手にして言うもんじゃあないな、雌。もっとも、身体のほうは、今すぐになにもかも手放して、一匹の雌になりたがっているみたいだがな!」 【GM】 ▽ 【ゼルル】 びくん!っとあと1センチで矢を番えることができた弓を握る腕が振るえる・・・やはり、見透かされていた・・屈辱を堪えて、悶える身体から手綱を離さないように必死に我慢し続けたすべてが無駄だったと理解すると同時に・・・ここで抵抗しても無駄だと理解できてしまい・・・フェイスベールの下で唇を噛みながら、何でもないように装い、会話を続ける・・・ 【ゼルル】「何のことでしょう?御覧の通り、弓は、ただ、、、ドレッド様の責めが良すぎて、握りしめていないと気がくるってしまいそうだっただけの事・・・弓も無意識に握ってしまっていたのは、エルフの宿命ですわ・・・ほら、これで、ワタクシは無防備な雌///そんな事より、はやく、このいやらしい雌エルフに、オークの立派なおちんぽvぶちこんでくださいましv」図星を突かれた人物と特有のまくしたてるような勢いを隠しきれないまま 【ゼルル】 動揺しつつも弓を手から落とし、矢もぽとり、ぽとり、床に落とす。一糸まとわず、無手のエルフ姫は、かくかくとマンぐり返しのまま、頭上で手を組み無防備に秘所を晒して揺らしますv 【ゼルル】 ▽ 【ドレッド】「ならば、狂ってしまえばいいさ――一匹の雌に、なぁ!」 【GM】 無防備に曝け出されたゼルルの身体に、オーク船長の巨体がのしかかっていく。 【GM】 頭上で組まれた両腕を鋭い鋼の鉤爪で抑えつけながら、 【GM】 たっぷりと脂肪のついた身体が、大きく広がった両足を間に割り込んでいく。 【GM】 剛毛の間からにょっきりと姿を見せる勃起した肉が、ゼルルの濡れた肉襞の狭間へ、入り込もうと―― 【GM】 ▽ 【ゼルル】「あぁvくるvきちゃうvオークちんぽv犯されてから、忘れられないvおちんぽの味vまた、きちゃうv今度は、耐えられない・・・狂っちゃう!///・・・だから、絶対に・・・ハメさせては、いけないのですっ!!」とろけ切った顔が、一瞬で切り替わり、マンぐり返しのまま背後に組んだ腕で描いた魔法陣を起動させる。 【ゼルル】 弓が壊れた時の為の緊急手段、魔力で矢を打ち出す力技は狙いなどつけれないけれど・・・子の近さなら関係ないとばかりに一気に魔力を放出させる! 【ゼルル】 【ゼルル】 9d6+3-3 白兵/単体/3回攻撃 マルチプルスナップ&ファントムサード&ツイスター&ファイナルストライク*3(MP6+2+2+CP9) いーち! 【ゼルル】 N07_zerr - 9D6+3-3 = [1,6,6,5,4,2,6,6,6]+3-3 = 42 【ゼルル】 9d6+3-3 白兵/単体/3回攻撃 マルチプルスナップ&ファントムサード&ツイスター&ファイナルストライク*3(MP6+2+2+CP9) にーい!! 【ゼルル】 N07_zerr - 9D6+3-3 = [6,1,1,1,1,6,6,3,6]+3-3 = 31 【ゼルル】 9d6+3-3 白兵/単体/3回攻撃 マルチプルスナップ&ファントムサード&ツイスター&ファイナルストライク*3(MP6+2+2+CP9) さーん!! 【ゼルル】 N07_zerr - 9D6+3-3 = [5,6,2,1,1,6,1,5,6]+3-3 = 33 【ゼルル】 42・31・33点のダメージ!どうだーー! 【GM】 その反撃の最中――! 【ゼルル】 ひにゃ!? 【GM】 ここで、一瞬、手心を加えれば――一匹の雌になれるという願望が、過る――! 【GM】 調教刻印による、判定―8 ×2回です。 【ゼルル】 ひにゃぁぁん/// 【GM】 抵抗しますか? 【ゼルル】 2回のうち、最初の一回は受け入れて・・・二つ目をCP3で抵抗します! 【GM】 どうぞ 【ゼルル】 一瞬、めり込んだおちんぽの事を考えて、、、でも、ダメ!って意志を強く持とうとする! 【ゼルル】 3d6 調教抵抗! 【ゼルル】 N07_zerr - 3D6 = [6,5,1] = 12 【ゼルル】 あふーー!耐えた! 【ドレッド】「ばか、なー―」 【GM】 その一撃をみて、信じられないものを見たような表情で、ドレッドは倒れます。 【GM】 それと同時に、倉庫の外側が次第に、騒がしくなっていきます、 【???】「ドレッド様はどこだー!?」 【???】「今の爆発音は何だー!?」 【GM】 ▽ 【ゼルル】「た、倒れた・・・のですよね・・・?」過去にゼルルが倒したオークが復活し襲われた経験から、外が騒がしくなっているのを知りつつも、拾い集めた弓で三連射、しっかりとドレッドに止めを刺し、動かないか確認をします! 【ドレッド】(びくびくっ、矢を打ち込まれて痙攣するのみ) 【ゼルル】 ほっと胸をなでおろすと・・・引きちぎれた服の残骸と、適当な布を一枚とって その場から離れます! 【ゼルル】 ただ最後の一瞬・・・ちらりとドレッドのほうを見て・・・きゅんvっとおまたをうずかせながら 【ゼルル】「あの時、、、もし、あの誘惑にのっていたら・・・どんな、結果になっていたのでしょうね///」と笑いながら目礼と、股から垂れた蜜を残して立ち去るのです。 【GM】 逃げ出したところで、本日のセッションは終了となります。お疲れさまでした。 【ゼルル】 はぁいv 【GM】 総獲得CPと獲得SPを申告して下さい。 【ゼルル】 あ、それでそうだんなのですが 【GM】 はい、何でしょうか? 【ゼルル】 途中のRPでクリちゃんいじりされたので・・・シーンアクトとして淫肉の真珠 使用したことにしていいですか? 【GM】 はい、OKです 【ゼルル】 ありがたやー! 【ゼルル】 総獲得CP14 SPは8 です! 【GM】 経験点+64点、ミアスマ+8点 名声+1 です。 【ゼルル】 わーい! 【ゼルル】 Lv3になって上位武器になれる! 【ゼルル】 次回のセッションの結果次第で 伝説の弓を装備できるかも?v 【ゼルル】 あ、今回のシナリオタイトルってなんですかね? 【オーク都市からの脱出:1】です。 【ゼルル】 らじゃー! 【GM】 あと、申し訳ありません、装備の変更は、オークシティで補給ができないので、現在一時的にできない状況です。 【ゼルル】 うんvなので次回のシナリオ次第っと・・・v 【ゼルル】 とりあえず~ 1時間オーバーしちゃってるので・・・また来週 ごそーだんいいかしら? 【GM】 はい。 本日はありがとうございました。 【ゼルル】 今夜はログ上げしつつ解散!でv 【ゼルル】 こちらこそなの! 【ゼルル】 とってもエッチな誘惑RPできたの たのしかったーw 【ゼルル】 駆け引きのあれこれもめったにできないのですごくよかったのーv 【ゼルル】 ありがとーv 【GM】 こちらも、駆け引きができたのは楽しかったです。ストレート以外もいいものですね。 【GM】 おやすみなさいませ 【ゼルル】 おやすみなさーいv(むぎゅ~v
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リグル1 1スレ目 102 リグル「~~♪~♪♪ ~♪~~~♪」 満天の星空… 川沿いを散歩していると、小川に足を浸して鼻歌を歌うリグル=ナイトバグに遭遇! このシチュエーション…どうやら神は俺に微笑んでいるらしい。 今こそこの胸にたぎる思いをかの虫姫に打ち明けなければ! さあ、いくYo! 俺「すぅ~…ヘイ!メェーン!!」 リグ「ッ!!!」 俺「俺のソウル溢れるこのFankyな思いを受け取ってくれYo!」 「Yo!メン、俺はお前のそのプリティーな触覚が大好k」 リグ「…嫌者『黒光羽蟲(ごきぶり)夜行』!」 俺「iだ?え?!ぐほふぁbんしお…」 Bad-End … 最初の一声 夢子「どうなさいました神綺様?」 神「うふふ…ちょっとバカな男の散りザマを見て笑ってただけよ。」 夢「左様でございましたか。そろそろお休み下さいませ。」 スレ汚してゴメン…_| ̄|○○| ̄|_ ─────────────────────────────────────────────────────────── 1スレ目 432 「(百足、蜘蛛、蛆、蛭を見せて)君、この子たちのこと嫌いでしょ。じゃあ駄目」 「そんなことない、この子たちだって大好きだ!」 虫たちを頭にやさしくのせ、リグルの手をとりとびっきりの笑顔。 →ハッピーエンド 「そんなことはない、この子たちだって大好きだ!」 虫たちを頭からおいしくいただき、リグルの手をとってとびっきりの笑顔。 →バットエンド ─────────────────────────────────────────────────────────── 1スレ目 884 この幻想郷ってとこに来てかなりの年月がたつ……んだが、日本に帰ろうって気も起きないんで幻想郷で暮らしてる。 そう思うようになった頃から、俺は夜には散歩に出るようになった。 お目当てはもちろん…… 「……あ、アンタまた来たんだ?」 「おう、こっちの水は甘いぞ~、ってな」 蛍を連れ、川に素足をつけて涼んでるこの蛍少女、リグル・ナイトバグ、である。 俺を見つけると笑いながら手を振る彼女。 幻想郷には外の世界じゃ絶対に見られないものがいくつかあったりして、 そのひとつがこんな妖怪さんたちってわけで…。 最初に出会ったのは迷い込んだときだったか。 気がつけば夜になってて、蛍の明かりを頼りにたどり着いたのがこの小川で、 そのときに彼女と出会った。 隣に座って、コップに入れた白い飲み物を渡す。蛍には甘い水。 「今日はどんなの?」 「ああ、特製健康飲料、『白汁』」 ……………静寂。 「……何だって?」 「乳酸飲料に蜂蜜とレモン汁を混ぜたものでございます」 つい昔聴いた言い回しを使ってしまって思いっきり白い目で見られた。ごめんねリグル。 「ふ~ん。そのにゅうさんいんりょうってアンタの世界のものだよね。どうやってもってきてるの?」 「こーりんが時々持ってきてくれるんだ。『いいブツが出に入ったぞ』って」 白汁を飲みながら聞く彼女。甘い飲み物はやはり好きらしい。 妖怪に効くかは知らないけど人には疲労回復とかに効果がある。だって乳酸飲料とレモン汁だし。 そんな馬鹿なことをやりながらしばらく涼んでいた。 「……ねぇ」 「ん?どうしたリグル?」 ふと、目線をやると、彼女はコップを両手で抱えたままこちらを見つめていた。 目線をやった拍子に目線がはっきりと合う。 「その……アンタ、蛍とか…好き?」 今更と言えば今更な話だ。嫌いならここにくる事も、ましてやリグルに会うこともなかったし 「………ああ、蛍は昔っからよく探し回ったもんだ」 笑いながら、見つめてくるリグルに答える。 「でも……一番好きなのは、お前だけど」 「え!?」 「………あ」 ……しまった、いつも以上に可愛かったから つい口をついてそんな言葉が出てきてしまった。 強烈に驚いた表情のまま凍り付き、コップを川に落とすリグル。 「な……あ、の…」 「あ……あ~………」 互いにあたふたする俺ら。 ……心臓が何か別の生物にでもなったかのようにドクドク言っていた。 「そ、それ……ほんき?」 「お、おう…」 「もしかして…愛情のほう……?」 「……ああ」 それ以上目をあわせられず、明後日の方向へ緊急退避する俺。 きっと、今の自分は下戸が酒をのんだように真っ赤なのだろう。 「……私も、好き……だよ」 そんな俺の背中にかけられる声。 見れば、リグルは頬を朱に染めながらこちらを上目遣いに見ていて、 そしていつの間にやら俺の服の袖をしっかりとつかんでいて… 「……あっ」 そっ、と 抱き寄せる。 抵抗もなく、すっと、腕の中に納まるリグル。 衣服を通して感じるささやかなふくらみ。 ……いや、それはともかくまずは… 「好きだ、リグル……」 「うん………」 … …… ……… ……気持ちをしっかりと伝えるのって大事だよな。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 2スレ目 98-102 所詮虫じゃねぇ…… ボロボロの私に追い討ちをかける言葉 たまたま見知らぬ妖怪と喧嘩になって、そして私は弾幕勝負に負けた。 その言葉は、所詮人間じゃ妖怪には勝てない、とかその程度のニュアンスだったんだと思う。 けど、私はひどくナイーブになっていて、必要以上に傷ついて泣いてしまった。 それは虫だからという理由だけで心ない言葉をかけてくる輩が少なからずいたから。 もちろん私の光をきれいだと言って眺めてくれるひともいる。 けれどそんなひとでも私に近づいて直接触れて可愛がってくれるひとはいない。 結局のところ私は嫌われているんじゃないか、そんな風に考えだしたらもう止まらなかった。 夜の森、木々に囲まれて星の光も届かない草むらの上にぺたんと座って 淡い私の光だけがぼんやりとあたりを浮かび上がらせていた。 「お、なんか明るいと思ってきてみたら、こんなとこで何泣いてんだよ辛気くさいなぁ」 そんな私にその人は実に無遠慮に声をかけてきた。 少ししゃがれてて無粋な大声、けれど何処か暖かい、それが第一印象だった。 「迷子かぁ? ママのおっぱいが恋しくなったのかこいつ、ハハハ」 前言撤回、ただの無神経馬鹿。 「そんな分けない! あんた何? 私になンノよ、用よ!」 ヤバ、声がうわずっちゃった……だってこんなときに声かけてくるんだもん。 もう、うっとうしい人間、憂さ晴らしに弾幕で追っ払ってやろうかとも考えた。 キッと睨みつける。けれど彼は私の視線なんてまるでおかまいなしの笑顔で私に近づいてきた。 「え、ちょと何するの」 「いいから黙って、ほらよっと」 彼は軽々と私を持ち上げると自分の肩の上に私を乗せた。 いわゆる肩車。 動作があまりにも自然であっという間だったので私の体をつかむ手を振り払えなかった。 何より、初めて男の人に触れられて抱き上げられた瞬間だった。 「コラ、変態、おろせ!」 「おいおい、変態はないだろ、やんちゃだなぁ。それよりも回り見て、意外といい景色だろ」 彼はそう言って私を肩に乗せたままぐるっとその場で回転した。 それも超高速で。 「わわわ、ひぇぇ」 振り落とされないように無意識に彼の頭をつかみ眼を瞑る。 やがて速度が落ちてきて、こわごわと眼を開けると、それは確かに意外な景色だった。 初めての、背の高い男の人の背中の上から見るいつもより少し線の高い風景。 それは、もっと高く飛べる私からしたらいつもと些細な違いでしかなかったけれど 普段見ない木の枝の付け根とか葉っぱの裏から見る空とか、何気ない物が新鮮に見えた。 そう、ほんのちょっと視線を変えるだけでまだまだ気がつかなかった新しいことが見えてくる。 いつの間にか、私が落ちないようにしっかりと彼が私の足をつかんでくれていることに気がついた。 首を上向けて私の顔を覗き込みニッと笑う彼。 ドキッとした。その笑顔に、初めて私を嫌悪の情もよこしまな考えもなくしっかりとつかんでくれた彼に。 「泣き止んだみたいだな。俺もさ小さい頃親父にこうしてもらったんだよ」 「……」 彼はかがんでそっと私を地面におろした。 「あ……」 「ん? 何? もっとやる?」 「い、いいよもう」 「そっか」 「そ、それよりも、あなたこの辺じゃ見ない人間だよね」 「ハハハ、じっつはさぁ、最近こことは違う世界から紛れ込んじゃったみたいでさ。この森の外れに空き家があったから 勝手に住み着いたんだけど、冷蔵庫とかないわけよ、あったらあったでおかしいけどさ。んで、こうして食べ物を探しに森を散歩してたのさ」 大きな声、だけど明るくて人懐っこくて可愛い話し方。なんだか放っておけない。 「この辺は危ないんだよ、夜は妖怪が出るから」 「んー、そう言う君も妖怪だろ? 実は! なんて? あれ、俺食べられちゃうとか」 「そんなことしないよ、でも本当にそう言う妖怪もいるんだから、出歩いちゃだめ!」 「ハハハ、わかったわかった、君みたいな恐い妖怪もいるからね」 もう、この人全然私のこと信じてない。というか完全に子供扱いっぽい。 悔しいから恩を売って私の方がすごいって所見せつけてやろう。 「この辺の森のことなら私が詳しいから、あなたがどうしてもって言うなら案内してあげようか?」 「マジ?! それすげー助かる! ありがとーーーぅ」 素っ気なく言ったつもりだが、彼はもう満面の笑顔で私の手を取り大きくぶんぶんと振った。 ぎゅっと握られる。思わず顔が赤くなる。 そんなことおかまいなしに私の手をつかんだままどんどん歩き出す彼。 「さぁ行こう、どんどん行こう、実は俺おなかぺこぺこだったっんだよねー」 言葉通り彼のおなかがグゥと鳴った。 それから、食べられる野草やキノコの生えている場所、きれいな泉、木の実の在処なんかを案内して回った。 いちいち子供みたいにはしゃぎ回る彼。 毒キノコを股間に挟んだり私に水をかけてきたり熟れた木の実をぶつけてきた時はどうしてやろうかとも思ったけれど。 でも、こんなに自然にひととふれあったのは初めてで、とにかく時間を忘れるくらい楽しかった。 それから彼とは森で何度も会うようになった。 一度など私が水浴び中に後ろから目隠ししてきたから思わず本気の弾幕で吹き飛ばしてしまった。 もう、まったく……馬鹿なんだから。 それから少しして、彼がやってこないので反省してるのかと思って私から彼の家を訪ねた。 まだ昼だというのに、枯れ草を集めた布団の上で彼は思いっきり気持ち良さそうに寝ていた。 ムカついたので蹴っ飛ばしてみたがムニャムニャとよくわからない寝言を言って起きる気配はない。 私は彼のベットの横に座り、そっと彼の顔に触れてみた。 かわいい寝顔…… !! よく見ると掛け布団がわりの薄布一枚の下は上半身裸だった。 つくづくこの男は、私が来ることなどこれっぽっちも考えてなかったのだろうか。 いや、そんなこと関係ないか。今までだってこんな感じだった。多分これからもこの人は変わらないだろう。 そっと布越しに彼の胸板に手をやる、思った以上に厚くてかたい。 そして暖かい。 壊れた窓から差し込む太陽の光がぽかぽかと心地よい。 私はそっと彼の胸板に頭をのせ、一度ぐいぐいと後頭部を押し付けたりしてみた後 彼の心臓の音を聞きながら一緒に寝てしまうことにした。 起きたらびっくりするかな? これで驚かれなかったらショックだなぁ……あれ、なんでそんなにショックなんだろう…… そっか……きっと私は……この人が…… ………… 日が傾いて部屋を真っ赤に染めている。 声が自慢の仲間たちの歌が聞こえる。 ここは、いつもの私のねぐらじゃない。 頭を優しくなぜる大きな手を感じた。彼が私の顔を覗き込んでいる。 じっと見つめている。だって私は寝ぼけていたし、彼の笑顔はもう私にとってなくてはならない自然だったから。 ぐっと両手を伸ばして彼の首に巻き付けて当たり前のように言葉が出た。 好き 自分でも不思議なくらいの自然な笑顔ができた。 彼は、ちょっと驚いたようだ。やった、なんだか勝った気分。 ぐいっと首を引っ張って顔を近づける。 まさかここまで来て、彼が私を裏切るなんてないだろう。 もうそこまで信じれるほど私は彼に夢中だった。変なの、自分じゃないみたい。 ゆっくり顔が近づいておでこがあたる。 そのまましばらくの間0距離で見つめ合った。 彼は意外にも何かためらっているようだった。もう、今更もどかしい! 私は自分から唇を重ねた。 ふわふわふわふわ。 しばらくして彼の反応も柔らかくなった。きっと緊張してたんだ、ウブなんだからっ。 たっぷり時間をかけてそっと唇を話した。 「ね、私のことどう思ってる?」 キスの後にきくなんて我ながら卑怯だと思ったけど、いいじゃない、この人に遠慮はいらないの。 彼は私の肩に手を置いて、まっすぐ私の眼を見てる。だから私も見つめ返す。 甘いにらめっこの後彼はハァと一息ため息をついた。 まるで何かに観念したかのよう。そして言ってくれた。 「俺もお前が好きだよ、コンチクショウ!」 言ってしまって放心したのか彼は別途にパタンと仰向けに倒れて天井を見た。 私も彼の胸板のを枕にして一緒に天井を見た。 そっと彼の手を握る、彼は握り返してくれた。 真っ赤な部屋でふわふわぎゅぅぅって。 「しかし、俺がこんな趣味だったなんて思わなかったよ、お前のせいだぞ」 なんだか悔しそう、もしかして私の見た目のこと言ってるのかな、最初から子供扱いだったしね。 「でも、本当はあなたより私のが年上だよ」 「いや、見た目の問題だからさ、もし君がもっと年上に見えたら正直こんな気持ちにならなかった」 あれ、真性のロリコンなのカナこの人は。まいいや、それならそれで問題なーい……いや ここ幻想郷じゃそれは大問題かもしれない。早くもこんな心配してる私が新鮮で恥ずかしい。 「でも、そう言う趣味は私だけにしてね、私だってこんなこと言えるのあなただけなんだから」 「ハハハ、もちろんだよ、しかしまさか 俺がショタコンだとは思いもしなかった超びっくり。 」 ん、今何つった? 「美少年ハァハァ」 あぁそうか、いろんな謎が今解けた。 「この大バカ!!!私は女だ!!!!」 思わず彼の手をつかんでぐいっと私の胸に押し付けた。 ほら、確かにちょっとわかりにくいけどこれでも立派な乙女なの! 「びみょぅ」 ゲシ!! ふぅ。 人間にこのキックを使ったのはずいぶん久しぶりだ。 反対側の壁に吹き飛んだ彼は複雑な表情でダウンしている。 はぁ。 はぁぁぁぁぁ。 ため息が出た。 そして 涙が止まらない。 だって、せっかく好きだって気がついて気持ちが通じたのに、こんなことって、こんなのひどいよ…… 「ぅぅぅ……グスン」 ベットで泣く私を突然大きくて暖かい物が包み込んだ。 「泣かないでよ、ごめん俺が馬鹿だったことは認めるよ」 「もう、いいよ! 言い訳なんてきかない!」 彼の手を払って逃げ出そうとするが、初めてつかまれた時のように、いやそれ以上に強く抱きしめられ 私は動けなかった。 「君も誤解してる。だって、俺は君が男とか女とかそんなことを通り越して君自身が好きだっていったんだぜ。それはあの時も今も変わらない。むしろ、今ならもう何の遠慮もなく君を愛せるよ。だから泣き止んで」 今度は彼の方から私の唇は奪われた。 それは激しいキス。ぎゅうぅぅっと何も考えられないほどに抱きしめられ唇を押し付けられた。 ふわふわした気持ちまでギュゥッと引き締められ、ただただ強く彼を感じた。 もう私は、自分が虫だとか、男の子に見えるとかそんなことは気にしない。 彼はありのままの私だけを見て受け入れてくれたから。 ね、あなた、ずっと幸せでいようね happy end うん、リグルきゅんかわいいよりグルきゅん 95の望みとは違う気がしたが だが俺は謝らない!! 女の子視点の方が書きやすいと思い始めた今日この頃。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 2スレ目 113 172 空を眺めていた 空は煌びやかな色で埋め尽くされ 其に惚れた 時刻は子の刻――もう少し遅いか 何かが一つ、落ちてきた しかも、こちらの上に 「いきなり……」 後ろの言葉を言おうとして、相手を見て止める 言ったら殺される、心の中でそれに気づいた 「あー、もしもし起きてる?」 どうやら気絶しているらしい 「空から降ってくるなんて普通じゃないよな…… 妖怪――なら貴重なものなんだけれども……」 生きた妖怪――ならものすごく貴重だろう 連れて帰る事にした 「さて、と貴重なサンプルだし……絵にでも描き写しておくか」 沢山の色を取り出す 「うぅん」 殆ど描き終わった所で目覚められてしまう ……出来るなら描き終わってから元の場所に戻そうかと思ったのだが 「ここは……」 即座に絵を隠してから話しかける 「ここは適当な人里だよ」 「なんで人里なんかに?」 混乱しているらしい、最も混乱しないはずが無いが 仕方が無いので誤魔化して見る事にした 「気にするな、俺は気にしない」 「普通気にするって」 「あー悪い悪い、それより帰るのか?」 「そうするつもりよ」 「ならこれでも持って行くか?」 そう言って帽子を渡す 「これ付けてないと妖怪だってバレるだろ?」 向こうはきょとんとしている 「意思疎通が出来る妖怪を失うのは痛いと思うんだけど?」 「そういう理由なのね」 「じゃあね」 どうやら本当に帰るようだ 「今度は落ちるなよ」 そういう皮肉を返してみる ……彼女が去った後、少々寂しさが残る 「全く、彼女いない暦=年齢の俺が初恋とはね……しかも妖怪相手に」 一人で愚痴を言う 「ここはあの噂を確かめさせてもらうかな」 そう言って駆け出した 白昼の時 其の家に向かった 彼らに聞けば真相は分かる 故の策 家の扉を勢いよく開ける 見知った顔が二つ出る、だが必要なのは店主じゃない 「この辺の地図一枚、後……そこの人間を借りて行くよ」 そして少女の方へ向き直り、地図を見せる 「ここまで連れて行ってくれないか?」 「しかたないな、乗れよ」 少しすると、少女のほうから話しかけてきた 「なんでこんな人間の里まで行きたがるんだ?」 答えない理由も無いので答えてみる 「ちょっと噂の真相を確かめにな、元はお前から聞いたものだし」 「そんな事言ったか?」 「とりあえず運んでくれれば問題ないからな」 「お前達、空から何の様だ」 「如何やら噂通りのようで」 多少おどけて言って見る 「妖怪は此処から先へは通せん」 「私は善良な普通の人間だぜ?」 多分話しても無駄だと直感する 「魔理沙、引き返そう。もう十分だ」 「空を高速で駆けているのが普通の人間なのか?」 「人間を襲ったりはしないぜ」 多少諦めながらも呟いてみる 「お前ら、人の話を聞けよ」 ……結局その後、論議では決着が付かず 弾幕で勝負する事となった こちら、後に乗っている人間からしたら良い迷惑だ 「結局帰れたのが夜で、しかも気持ち悪いのは誰のせいだ?」 愚痴を言う、恐らくは聞いてても無駄だと思うが 「まぁ、真実は見た、後は説得か……」 その後、あの「落ちてきた」少女と出会った所に行けたのは 数週間後となった 「久しぶりだな、帽子を大事にしててくれて有難うな」 さらに続けて言う 「良ければ、だけど……村に来てくれないか?」 「妖怪は駄目なんじゃないの?」 「頭の固い人たちを説得したんだ…妖怪と人間が共存している村があるって ……それから」 自分の持ってきた紙を広げる 「指輪は……駄目だったから……せめてこれ受け取ってくれないかな」 「これって…私の絵?何時の間に描いたのよ?」 無言で居る事にする 「分かった……受け取るわよ」 「良かった」 次の言葉をさらに言う 「実は……指輪作れないのも君の名前を聞き忘れてて」 「馬鹿なのね」 彼女は答えてくれた、彼女の名前を 「リグル……リグル・ナイトバグよ…そっちの名前はなんなの?」 「俺は……」 その時だった、何か明るい光を横から感じたのは 「人間と妖怪が愛を語っているなんて珍しい事です ばっちり新聞に書かせていただきます」 ……迂闊だった、としか言えない 天狗には追いつけないだろうし、明日にはこれが周知の事実になっているだろう 「一日で周りにばれる恋って言うのも面白いわね?」 それから、交換のように帽子を返される 「この帽子、返すね」 月並みかもしれないけどその後は幸せに暮らした ……指輪も、ちゃんと送りなおした Ring Was Inscribed On " To W" ─────────────────────────────────────────────────────────── 246 今日はいい天気、散歩するには最高の日和だ。 ってなわけで僕は自分の住んでいる森を散歩することにした。 でもこういうときに限ってなんかあるんだよな・・・ 「ひぇぇ」 ん?今変な悲鳴が聞こえたような・・・気のせいか。 「わーっ!いやーっ!来るなーっ!」 ・・・行ってみるか 僕が見たのは触角をつけ、マントを羽織った妖怪が随分とデカい妖怪に追いかけられているところだった。 「おーい・・・大丈夫か?」 「これが大丈夫に見えるのーっ!?助けてーっ!」 「いや、助けてーって言われても・・・僕は普通の人間・・・」 「いやーっ!喰われるーっ!」 ・・・仕方が無い、役に立つかは分からないが・・・おとりぐらいは出来るな・・・ 「すぅ・・・オイコラそこのウドの大木!!獲物はこっちだぞ!!やーい、のろま!!悔しかったらこっちまで来てみろってんだ!!」 「グゥゥ・・・ガァァァァァァァァ!!!!」 「ほらほらどうしたぁ!(尻を叩いて)バッチ来ーい!フォー!」 「ガァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」 「っと、やべっ!逃げろーっ!」 逃げ足には自信があるのでその妖怪は簡単に撒くことが出来た。 さて、さっきの場所に戻ってと・・・ 「もう大丈夫だぞ、出て来いよ」 「うう・・・本当に?」 「ああ、妖怪は撒いたぞ」 「ふぅ・・・良かった~」 「こっちは死ぬとこだったぞ・・・で、何であんなのに追っかけられてたんだ?」 「うん、綺麗な水を探してたんだけど何故かあの妖怪の尻尾を踏んじゃったの」 「・・・おっちょこちょいだな・・・」 「えへへ・・・」 「ハァ・・・ああ、そういえば君の名前は?」 「私?私はリグル、リグル=ナイトバグだよ」 「僕は○○、今後仲良くしような」 「うん!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「おーい、リグル?」 ・・・どこ行ったんだ?アイツ・・・ 「ったく・・・せっかく綺麗な泉を見つけてやったのに・・・」 思わず愚痴がこぼれてしまう。 僕はそこに座ってしばらく森を眺めていたが、急に視点が暗転した。 「ふふっ、だーれだ?」 「・・・こんなことする奴は一人しかいない・・・リグル、お前か・・・」 「あらら・・・やっぱり分かっちゃったか。うーん、残念」 「ったく、声でわかるっつーの・・・綺麗な泉を見つけたから行くぞ」 「本当!?やったぁ!」 ~蟲少女&青年移動中~ 「ほら、ここだ」 「わぁーっ、すごい綺麗!」 「これぐらい綺麗なら泳げるかな?」 「え、○○泳ぐの?」 「ん、まぁたまにはいいかなって」 「じゃあ私も泳ごうかな」 「いやちょっと待て、お前水着を持っているのか?」 「・・・?そんなの無いよ」 「・・・じゃあ、どういうカッコで泳ぐつもりなんだよ!」 「裸」 「・・・いや、即答されても困るんだが・・・僕がいるのに裸で泳ぐのか?」 「いいじゃん別に、私と○○の仲なんだしさ」 「そういう問題じゃ・・・」 「とにかく!私はここで泳ぐからね!」 そういうとリグルはいきなり服を脱ぎだした。 「いや、ちょっ、待てリグル、早まるな」 「○○も早く脱ぎなよ!一緒に泳ご♪」 「い、いや、遠慮しtってオイ脱がすな!こ、こらよせ!やーめーれぇーっ!」 ・・・結局、生まれたときと同じ状態に・・・ ちなみに服はリグルが呼んだ虫によって運ばれていきました・・・何処逝ったんだろ・・・ 「・・・うう・・・(木陰に隠れて)」 「どうしたの~?早く泳ぎなよ」 「・・・年頃の女の子とスッパで一緒に泳げるかっつーの」 「もったいないよ。こんなに綺麗なのに」 「・・・じゃああれだ、僕が入ったら水が汚れる」 「そんなことないってばぁ。んもう、じれったいな(水からあがる)」 「ふわっ!リグル、やめれ!そんなカッコで僕に近づくな!」 「フフフ・・・捕まえた~(抱きつき)」 「んあっ!リ、リグル?何をしt」 「さぁ、一緒に泳ごっ♪(抱き上げそのまま泉へDASH!!)」 「ちょっまっ、うわぁぁぁぁぁ!(ドボーン)」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ったく・・・なんだってこんな目に・・・(ぶくぶく)」 「○○~、気持ちいいねぇ~」 「・・・まぁ、気持ちいいっちゃいいんだけどさ・・・(本当にお尻が光るんだ・・・って何を見てんだ僕は)」 「どうしたの?早く泳ぎなよ。さっきからずっと岸に掴まりっぱなしじゃん」 「・・・恥ずかしいんだよ・・・」 「そんなこと言わないで泳ごうよ・・・(ニヤリ)」 「い、いいよ。僕はここに浸かっているだけで」 「・・・わっ!キャーッ、助けて○○ーっ、溺れるーっ」 「なっ!?今行くぞリグル!!大丈夫か!?」 「んふふ・・・引っかかった~♪(ガシッ)」 「は?」 「ここまで来ちゃったね○○、もう逃げられないよぉ~」 「えっ?じゃあ今のは・・・」 「溺れたフリしてただけだよ」 「・・・汚ねェ・・・」 「(抱きつき)ん~っ、○○の体ってあったかい・・・」 「うう・・・」 ・・・結局、リグルと○○は半刻ほど泳ぎ続け、二人そろって唇が紫になったとか・・・ リグルと泳ぎたかった。それだけだ。 ・・・なんつうかその・・・いろいろとスイマセンでした・・・ ─────────────────────────────────────────────────────────── 253 「未練はないが……故郷を思い出すなぁ。 毎年ドカ雪が降らないと冬と思えない」 カーテンを開けると、暗い外が見渡せる。そして、降り積もる雪。長い冬が始まっているのだ。 雪の量はかまくら作りにも申し分ないほど積もってきている。 ……リグルと一緒に住むようになってから、ようやく落ち着いた。 住まいはこーりんの家のすぐ隣。魔理沙から引き取ったガラクタを 転売してかなり儲けているらしく、家を建てるなど造作もないことらしい。 「リグル~、夕飯にしよう」 「ん、は~い…」 寝室で寝ているリグルを呼ぶ。 どうやら寒くなると活動が鈍るらしく、部屋の電気毛布の布団に包まってもぞもぞしているか あるいは居間にある掘りごたつに入ってお昼寝をしていることが多くなった。 虫の習性かは知らないが、布団つむりとか、こたつむりのリグルはかわいいので良しとしよう。 そして家事全般はそのリグルのため俺がやる。朝から晩まで、冬に備えて溜め込んだ作物から、 どんなメニューを作ろうか考え、そして実行する。洗濯などもあるが。 暮らしてて解ったことだが、蛍はきれいな水のある場所を好む。それは蛍少女であるリグルも同じらしい。 ただし、通常、羽化した成虫の蛍は夜露のみでわずかな命を生きるが、蛍とはいえ妖怪なので 寿命は人間の比ではなく、普通の食事も食べれないわけじゃないようだ。 … …… ……… 食事の後、片付けるのも無論俺。 リグルはストーブの真ん前のコタツに座って(椅子ではなく。そもそも無い。)白汁を飲んでたりする。 行儀が悪いが、彼女くらい軽ければ簡素なコタツもゆがむことはあるまい。 「どこかの冬の忘れ物とか、真っ赤な館のメイド長ならともかk……」 ―――ガッ! 「な、なに今の音!?」 「…あ~、せっかくの家に穴開いた」 ……地獄耳かあのDIO様は。 にしてもなんだ、このレールガンか何かで加速したかのような貫通力は。 壁を突き破ってさらに反対側の壁に突き刺さってるぞコラ。 「まぁ、幸い風も強くないから今塞いどくよ。 リグルは冷えないうちに部屋に戻った方がいいかな」 「うん、じゃぁ、おやすみ……」 ――ほどなくして壊れた穴を修繕。 こーりん、怒るだろうなぁ…… 部屋に戻ると、電気はすでに消え、月の光を雪が反射してリグルの緑色の髪が布団の隙間から覗いていた。 ……ふむ、眠っちゃったか。となると、これは…… にア 千載一遇のチャンス到来! おとなしく寝るか… やっぱり、王道と言うか……いやいやいや と言うわけで、布団が4枚重ねになっているリグルの寝床にもぐりこんで添い寝を図る。 …布団の中には、先ほど眠ったばかりと思われるリグルがすうすう寝息を立てていた。 あどけない顔が心底安心しきった表情で、それにささやかな喜びを感じ、 同時に、この少女の笑顔が自分は何より好きで、何よりも守りたいものだと実感する。 「ん……」 と、目前で見つめていたせいか、薄目を開けて俺をちらりと見てきた。 もう夢の中だったらしいが、気がつかず、目前にいた俺に抱きついてきて、一言 「す…き……ずっと、いっしょ…」 ……じわり、と暖かいぬくもりがココロに感じられる。 たとえ寝ぼけていても、うれしかった。変わらず好きでいてくれたこと。 だから、そのちいさい額にキスをして 「ああ……いっしょだからな」 「ん~」 夜が明けるまで一緒にいよう。 夜が明けてからも一緒にいよう。 喧嘩しても仲良く共に在ることを誓おう。 ……さて、明日の朝、目が覚めたらどんな顔するかな、愛しい君は。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 513 眠る草木にいたずらし放題な丑三つ時の森の中。 とある男女が、小川で向き合っていた。 「こ、これ……」 そういって鮮やかな緑色の髪に、触覚が似合う少女が男に差し出されたのは小さな袋。 ――男も決して鈍感ではない。この日、この時にこのようなものが出ることの意味ぐらいわかっている。 差し出す少女の顔は真っ赤で、上目遣いにちろちろと男を見ていて、 そして、少女の手には絆創膏がいくつもついており、袋の中身のために如何に苦心したか察するに余りある。 「リグル…」 「人間って、こういうのプレゼント……する…んでしょ?」 「ああ。…いただくぞ?」 「うん……どうぞ…」 開けた袋の中には、丸い小さなチョコが4つ。 いただいたのだから、その場で食べなければという意思の下、男はそれを食べる。 ……少し苦味が強いが、ちゃんとしたチョコレートの味がした。 蟲の妖であるリグル。自分が本来忌み嫌う火を使うのもなれない……いや おそらくは初めてだったろうに、必死で頑張ったのだろう。 おそらくは、この日のために。 「どう……かな?」 それ心配げに見守るリグル。 「ああ……美味い。美味いぞ」 そして、それに答えるように男はやさしく微笑み、リグルは花が咲いたように表情を喜一色にする。 ――どちらからでもなく、互いに手を伸ばし、リグルが男の胸の中に納まる。 「…ありがとうな、こんなになるまで……。大変だったろ?」 「でも、喜んでくれたからいいの」 それこそが全てであるように、彼女は応える。 「……ホワイトデイ、待っててくれ。 絶対、気合入ったもの作って、プレゼントする」 「うん……今から楽しみ」 半ば本気に笑って言う男と、それに花のような微笑で返す少女がそこにいた。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 4スレ目 187 189-198 187 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 08 39 44 [ sI.Rk0Jw ] 「これを、貰っていただけますか?」 夕暮れの湖畔、リグルが僕に差し出したのは小瓶に蜂の巣の欠片が入った蜂蜜だった。 「仲良しの蜂たちから特別に分けてもらったんです。甘くて美味しいです」 そう言うリグルの顔は夕日に照らされ紅く染まっていた。 「良いのかい? こんなに貴重な物を貰ってしまって」 僕が訊くと、蟲の姿をした少女は微笑みながら喋りだす。 「はい。いつもお世話になってますから、そのお礼です」 「そう、それならありがたく戴きます」 彼女の小さな手から小瓶を受け取る。触れ合う指が柔らかい。 「あと、それからこれも……」 少女はポケットの中から小さな笛を出した。細長く、丸い。 本来は銀色なのだろうけど、今は西日が反射し、朱色に輝いてとても綺麗だ。 「これは?」 「蟲笛。これを吹けば空気が震えて私の翅に伝わります。 これで私を呼んで下さい。必ずあなたのもとへ参ります」 「わかった。大事に使わせてもらうよ」 笛を受け取ると、少女は首をフルフルと振った。 「だめ……。『大事に』では嫌です。毎日吹いて欲しい……」 鈴虫が鳴く様に小さな声で彼女は言う。頬に紅みが増したのは、夕焼けの所為では無さそうで、 「そうだね」 その儚さに、僕は彼女を抱きしめる。華奢で小さなその肩を、壊さないように、愛しむように、そっと。 吐息の音さえ聴こえる距離で、葉のざわめきも水面の揺らめきも聴こえず、二人の影法師は一つになった。 おしまい 189 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 21 47 45 [ YwOdBeoI ] 187 一回吹くとリグルが、 二回吹くとリグルのおかんが、 三回吹くとリグルのおとんが呼ばれて飛び出るわけだな! 190 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 21 49 29 [ YNGQ2Mm. ] 189 つまり「お父さん。娘さんを僕に…」ってわけだな 191 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 21 58 09 [ tySV9rvQ ] 190 君にお父さんと呼ばれる筋合いは無い。帰りたまえ! 192 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 22 39 24 [ yKwEmETo ] 191 待ってくださいお父さん!僕は真剣にリグルさんの事を愛しているんです! 193 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 22 50 24 [ ftU0au1w ] 192 君の気持ちが本当だというなら……まずは私を愛してみせろ! 194 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 22 51 34 [ QTvUmnNw ] 193 お父さん……普通に無関係の方向に話が飛んでます。 195 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 22 55 42 [ ftU0au1w ] 194 君に言われるまでも無く、判った上でやってるのだよ。名も知らぬ青年 196 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 23 00 06 [ YNGQ2Mm. ] ここら辺で「もう、お父さんいいかげんにしてよ!!」って言いながらリグルが飛んでくるんですね。 197 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 23 21 56 [ 1VYp/8gM ] もう、お父さんいいかげんに 死 ね ィ ッ !! ガ ッ シ ィ ィ ン ッ ぬぅッ 流石は我が父! よくぞ今の蹴撃を止めた! こうですか? 分からなくてもいいような気がしています。 198 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/06/22(木) 23 25 05 [ QwQk25/Q ] 196 リグル! お前は向こうの部屋へ行っていなさい! これは男と男の話し合いだ! ……今時こんな堅物親父は現存するのか。まあ幻想郷だしいいか ───────────────────────────────────────────────────────────
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活人剣の道険し ◆cNVX6DYRQU その女をはじめて見た時から、甚助には嫌な予感があった。 しかし、甚助はその予感を特に深刻には捉えなかった。そもそも、甚助は女人が苦手なのだ。 幼い頃から剣の修行にのみ打ち込んで来て、母以外の女人と接した事が碌にないのだからそれも当然だろう。 まして、このような場で正体不明の、それでいて無腰の女と出会えば戸惑って当然。 故に、甚助はその女を見た瞬間の嫌な感覚について深く考えはしなかった。 もしも、甚助がもう少し剣客としての経験を積んでいたならば、その感覚の正体もわかったのだろうが…… 甚助をその女の元に導いたのは、同行していた上泉伊勢守である。 と言っても、信綱がその女を目指していた訳ではない。 甚助と出会った時から、信綱が第一に目指していたのは、一度はこの剣聖を退けたという獣のような剣士。 あの凄まじい獣性から他の剣士達を、そして彼自身をも救う事を、信綱は己に課している。 その為に、信綱と甚助は服部と別れた後、城下町へと入っていた。 他者への憎しみに囚われたあの男は、人の気配が多い城下町へ向かった可能性が高いと判断したからだ。 そして、城下に入った二人を真っ先に出迎えたのは無惨に首を切られた少年の遺体。 これは百万の言よりも雄弁に、この殺し合いの危険性を物語っていた。 しかも、信綱の見立てによれば、下手人は彼等が追っている「獣」とは別人であろうという。 信綱によれば、彼と戦った「獣」の剣は、技も理もない正に野性の剣であったとか。 対してこの死体を作った者の剣筋は、荒々しくはあるが正当な剣術を修めた跡がくっきりと見られる。 とすると、城下には彼等が追っている男以外にも「いぞう」なる危険人物がいるという事だ。 いや、それだけではない。 城下のあちこちから感じられる鋭い殺気と血の臭い……この地が既に修羅界に呑まれている事は甚助にもはっきり感じられた。 さすがの伊勢守も城下の異様な雰囲気に戸惑ったのか、しばらく瞑想していたが、急に眼を開くと、 「こちらだ」 と甚助を促して、傷と老体を感じさせない早足で歩き出す。 最初は信綱が急に目的地を定めた事を訝る甚助だったが、しばらく進むとかれもその殺気に気付いた。 殺気と言っても、他に幾つもある籠もった殺気とは質が違う。 現在進行形で斬り合いを行っているかのように、激しく鋭い殺気が断続的に発せられているのだ。 しかし、斬り合っているのならば当然あるべき、対手側の殺気あるいは剣気は全く感じられない。 という事は、戦う気が、あるいはその手段がない者を誰かが一方的に攻撃している、という事態も考えられる。 そう悟った甚助は、足を速めて信綱の先に立ち、殺気目掛けて進んで行った。 結論から言えば、甚助はそこまで急ぐ必要はなかった。 二人の前に現れたのは、熱心に剣の素振りをする男。剣を振る度に凄まじい殺気が放出されている。 どうやら、仮想の敵を想定して、それを相手に鍛錬をしているらしい。 女物の小袖を着た華奢な男だが、剣を振る姿を見れば相当の修羅場をくぐって来た一流の剣客である事は一目瞭然。 甚助はこんな状況でも修行を怠らない男に尊敬の念を覚えたが、気配に気付いた男がこちらを見るとそれも吹き飛ぶ。 その禍々しき眼、加えて甚助達を確認しても剣気を抑えず、逆に呑んで掛かろうとするかの如き不遜な態度。 先程の稽古を見るに、この男も一目で伊勢守の剣聖たる格を見抜く程度の腕前はある筈。 にもかかわらず、この大先達に対して挑みかかろうとする素振りすら見られる。 恐らくは剣の正道を外れた邪剣士……そう見究めた甚助の手が刀の柄に伸びるが、それを見た男は嘲るように笑う。 つられた甚助が激発しようとした瞬間、機先を制して信綱が男に声を掛けた。 「見事な太刀筋。一手、お相手願えぬか?」 互いに剣を構えて向かい合った瞬間、小袖の男……武田赤音は礼もせずに横合いに向けて走り出す。 しばし駆け続けた後に立ち止まって振り向くと、そこには年を感じさせぬ動きで追って来る老人の姿。 暫時そのまま睨み合うが、もう一人の男が追いついて来る様子はない。 (上手く引き離せたな) 心の中でそう呟く赤音。いきなり駆け出したのは、敵の二人を引き離すのが狙いで、その狙いの通りになったと。 だが、本当にそうなのだろうか。それにしては、赤音の表情からは策が図に当たった爽快感は見られない。 或いは、老人と供の男が揃って追い掛けて来るというのが赤音の見込みだったのではなかろうか。 そうして、彼等をあの場から、あの女から引き離すのが本来の目的ではなかったのか。 最早この問いへの答えが得られる事はないだろう。元来、人の心とは複雑怪奇で移ろい易く矛盾に満ちたもの。 ましてや、武田赤音のような歪みきった人間の本心など、余人は無論、赤音本人ですら、把握するのは困難だ。 何より、赤音の心からは既にこの件に関する事はすっかり拭い去られてしまっている。 仮に赤音の本意があの女を守る所にあったとしても、事ここに到っては赤音にこれ以上できる事は何もない。 加えて、赤音が対峙している老人は、おそらく剣士としての格では赤音を数段上回る強敵。 余計な雑念を捨てて、全身全霊で掛からねば勝ち目はないだろう。 それを悟った瞬間から、赤音の心は刃のように研ぎ澄まされ、気まぐれで拾った女の事などすぐに忘れ去ってしまった。 一度は助けた女の事を心から捨て去り、全力で目の前の老人を葬らんとする赤音。 しかし、猛る心とは裏腹に、その身体は老人と対峙したまま動けずにいた。 本来ならば、如何に相手が強敵であろうとも、積極的に攻め込むのが赤音の戦い方だ。 実際、それで体力勝負に持ち込めれば、若く睡眠をとって体力を回復したばかりの赤音が絶対に有利だろう。 にもかかわらず、赤音は動けない。 どのような技で攻めようとしても、全て相手に読まれている感覚を覚え、技を繰り出す事が出来ないのだ。 実際に老人が赤音の技を読みきっているのか、それとも全て剣客としての格の違いが見せる幻想なのか。 どちらにせよ、相手に技を読まれているという感覚は必然的に赤音の心に動揺を生み、 動揺を抱えたまま攻撃を繰り出せば、どうしても技は乱れ、隙を作る事になる。 それ故に赤音は攻勢に出ることが出来ず、ならばと隙を見せて攻撃を釣り出そうとしても老人は乗って来る気配がない。 結果、赤音は身動きが出来ないまま、空しく殺気だけを放ち続ける事となった。 格上の相手との対峙で神経を消耗しつつある赤音の脳裏に、一人の老人の姿が浮かぶ。 目の前にいる、静かに佇んだまま格の違いで威してくる老人とは対照的な、神速の剛剣の使い手を。 自分にもあの老人のような雲耀の剣が使えたならば、技を読まれているなどという疑いは無視して攻め込めただろう。 だが、今の赤音の剣にはそこまでの速さはない。軌道を完璧に読まれても尚、防御を許さず達人を切り捨てる程の疾さは。 とはいえ、それで諦めるほど武田赤音は甘い剣士ではない。 これが完全に一対一の試合ならさしもの赤音も打つ手がなかったかもしれぬが、実際は数十人が入り乱れての殺し合い。 一対一で戦っていても、常に他の剣士が不確定要素として紛れ込む余地が残されている。 そして、予想外の事態が起きれば、役に立つのは老人の経験よりも赤音の即応能力の方。 故に、赤音は先程から、精神力の浪費とも思える殺気の放出を繰り返しているのだ。 赤音が稽古で発した殺気に誘われてこの老人達が現れたように、今発している殺気が別の剣士を呼ぶ事に賭けて。 あっさり結果を言ってしまうと、赤音はこの賭けに勝った。それも、かなり恵まれた形で。 岡田以蔵は孤独であった。 四乃森蒼紫との戦いの中で取り戻した理性は、己が受けている傷がどれだけ危険な物かを教えてくれた。 そして、自身が複数の気配に追われており、この状態でその者達に出会えば勝ち目はないだろう事も。 理性の声に従い、民家に隠れて傷の手当てをする以蔵だったが、そうして追われ隠れる体験が過去の記憶を呼び覚ます。 政変によって土佐勤王党が勢いを失い、京で一人潜伏していた日々の記憶だ。 その記憶は、幕吏によって捕えられ、武士ではなく無宿者として扱われた屈辱の体験へと繋がって行く。 更に土佐藩に引き渡されての拷問、最後には敬愛する師の裏切り……いずれも以蔵を深く苛む記憶ばかりだ。 なまじ理性を取り戻してしまったが故に、以蔵の苦しみは増し、胸の奥に燃える炎はより激しく猛り狂い、以蔵の身を焦がす。 そんな以蔵が、赤音の剣気を感じて、追われているのも忘れて姿を現したのは当然と言える。 師によって己も一端の志士であるという自覚を真っ向から否定された以蔵にとって、残されたのは剣だけだ。 斬り合いの場では家柄も学問も思想も関係ない。誰もが以蔵を畏れ、或いは頼った。 人斬りの記憶が、今となっては蔑まれ続けた以蔵の人生の中の唯一の光芒となっているのだ。 それ故、岡田以蔵は姿を現した。剣以外の何も持たずとも、剣においては己こそが最強である事を示す為に。 以蔵が現れると、睨み合っていた二人の剣士は、ただならぬ気配を感じてそちらに目を向ける。 中でも年老いた方の剣士……上泉信綱は、以蔵を見た瞬間に瞠目して気を乱す。 単に岡田以蔵と再会しただけなら、信綱が動揺する事はなかったろう。そもそも彼を追って城下にやって来たのだから。 問題は以蔵の腕に施された応急処置。傷の手当てをしたという事は、彼の理性が戻っている事を示す。 以前は理性を失って暴れる以蔵に対し退くしかなかった信綱だが、理性が戻ったのなら打つ手はいくらでもある。 予期せずして千載一遇の好機に出会い、信綱の注意が一瞬、対手である赤音からそれたのも無理ないだろう。 無論、それを見逃す赤音ではない。信綱の動揺を察知すると同時に、突進して最速の剣を叩き付けた。 赤音の剣が走り、一瞬遅れてその軌道に赤い線が現れる。 信綱が赤音の振り下ろしを避けきれず、逆刃刀の切っ先が信綱の顔をかすめ、負傷させたのだ。 これは、信綱の気が逸れた瞬間に赤音が仕掛けた為という事も勿論あるが、それだけで一撃を受ける程、剣聖は甘くない。 にもかかわらず信綱が負傷したのは、赤音の剣が予想より……赤音自身の予想よりも更に速かった為である。 その為、赤音の動きから剣速を予測した信綱の目算が狂い、回避が遅れたのだ。 とはいえ、剣速が己の目論見と狂うのは、速いにせよ遅いにせよ、利は少なく害が多い。 今回の赤音も、予想以上の神速の振り下ろしで信綱に手傷を負わせたのは良いものの、己の激しすぎる勢いに体勢を崩す。 そこに襲い掛かる凄まじい殺気……対峙する二人に馳せ寄った以蔵が、折り良く隙を見せた赤音に斬り付けたのだ。 赤音もただではやられぬと、素早く刃を翻し、以蔵を切り上げる。 そして、二人の得物が交錯する瞬間、信綱の刀が割って入り、三本の剣は数瞬からみ合った後、三方に弾き飛ばされた。 弾かれた三人は間を置かずに駆け寄ると、激しく斬り合う。 しかし、それぞれの思惑……そしてそこから導かれる戦い方には大きなずれがあった。 この戦いを最も楽しんでいるのは赤音だろう。 先程は自身の剣が速すぎた為に危機を招いたが、把握さえしてしまえば速さが増すのが剣士にとって悪い事の筈がない。 どうも、東郷重位の雲耀の剣に触発されての稽古が、赤音本人の予想を超える成果を上げているようだ。 ここで二人の達人を実験台として更なる修練を積めば、予想よりもずっと早く雲耀の域にまで達せるかもしれない。 そんな剣士としての高揚感を胸に、赤音は刃の間で躍っていた。 以蔵の必殺剣が迫れば信綱を盾にし、信綱が押さえ込もうとして来れば以蔵をけしかける。 上手く立ち回って危険を避けつつ、機会を捉えて技を試す。ある意味、剣客の鑑のような振る舞いと言えようか。 対して以蔵の動機は単純明快。信綱と赤音の両者を殺す事だけを狙い、必殺の剣を振るい続けるのみ。 彼にとっては、二人が何者なのかも、どんな剣を使うのかも関係ない。 信綱がこの島で初めて戦った相手だという事すら気付いているかどうか。 仮に気付いていたとしても、以蔵にとってそんな事は無意味。彼は人斬り。天災の如く無差別に、ただ殺すだけだ。 信綱はそれとは全く対照的。哀しみと狂気を秘めた二人の若者を何としても救う。それが剣聖の目的である。 老いた信綱にとっては、若き達人二人との立ち回りは相当の難事だ。 以蔵が理性を取り戻した事や、赤音が自身の予想以上の剣速を完全には扱いきれていない事に最大限に付け込んだとして、 それでもこの二人を殺さずして制圧し、彼等を救う端緒を作るのが如何に困難か。 加えて、赤音と以蔵が互いに殺し合うのをも信綱は止めなくてはならないのだ。 おそらく、三人の中で最も危険な立場にいるのが信綱であろう。それでもやるしかない。それが活人剣の道なのだから。 三者三様の剣が交錯し、城下町の剣気は更に色濃く、熟成されて行く。 【へノ参 城下町/一日目/早朝】 【上泉信綱@史実】 【状態】疲労、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷、顔にかすり傷 【装備】オボロの刀@うたわれるもの 【所持品】なし 【思考】基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。 一:岡田以蔵と武田赤音を殺さずに制圧する 二:甚助と合流し、導く 【備考】※岡田以蔵と武田赤音の名前を知りません。 ※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。 【岡田以蔵@史実】 【状態】左腕に重傷(回復する見込み薄し、応急処置済み)、全身に裂傷打撲多数、この世への深い憎悪と怒り 【装備】野太刀 【所持品】なし 【思考】基本:目に付く者は皆殺し。 一:上泉信綱と武田赤音を殺す。 【備考】※理性は取り戻しましたが、尋常の精神状態にありません ※上泉信綱と武田赤音の名前を知りません。 【武田赤音@刃鳴散らす】 【状態】:健康、疲労(中) 【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心 現地調達した木の棒(丈は三尺二寸余り) 竹光 殺戮幼稚園@刃鳴散らす 【所持品】:支給品一式 【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。 一:上泉信綱と岡田以蔵を実験台に剣を練磨する。 二:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。 三:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。 四:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。 五:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。 【備考】 ※人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、 ※伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。 ※道着より、神谷活心流と神谷薫の名を把握しました。 ※上泉信綱と岡田以蔵の名前を知りません。 武田赤音と上泉信綱が走り去った後、林崎甚助は訝しげな顔で辺りを見回した。 甚助としては、自分も信綱と共に赤音を追うつもりだったのだ。しかし、走り出そうとした甚助に信綱が一言。 「この場は任せる」 この場に何があるのか、何を任せると言うのか。甚助は不得要領のまま辺りを見回した。 と、信綱と赤音の気配が完全に消えてから、甚助はその場、民家の中にもう一つ気配が残っていることに気付く。 赤音の禍々しい剣気があまりに強烈で、それに紛れてもう一つの気配を感じ取れなかったようだ。 戸を開けて中に入ろうかとも思ったが、両手が自由にならない状態で襲われたら甚助には為す術がない。 「そこに居るのは何者だ!」 声を掛け、警戒していると、家の中で人が緩慢に動く物音がし、戸を開けて出て来たのが、神谷薫であった。 先にも述べたが、甚助は女人が苦手。ましてこのような特殊な状況で出会った女にどう接すれば良いのか。 無腰の女、しかも、今眠りから醒めたばかりの様子の女に必要以上の警戒を見せてしまった事を恥じる気持ちもあり、 同時に、あの見るからに危険な男の連れである以上、この女に対しても気を許すべきではないとも思える。 女の方はそんな甚助の逡巡を気にする様子もなく、無邪気に問いかけて来る。 「あの、剣心は?」 剣心などという名は知らなかった甚助だが、状況から武田赤音がそれだと考えたのも無理はあるまい。 「剣心?あの優男か」 武田赤音を評したこの表現が緋村剣心にも当てはまるものだったのは誰の不運であろうか。 甚助とて、どちらかと言えば優男の部類なのだが、彼は華奢な体格による剣腕の不足を必死の修練で克服して来た。 そんな彼が、女物の小袖という赤音の姿に反感を持つのも当然で、それが棘のある言い方に繋がったのかもしれない。 「今頃は伊勢守様に打ち倒されているであろう」 その言葉を聞き、顔色を変えて駆け出そうとする薫に対し、甚助は素早く抜刀して首に刀を突き付けて動きを封じる。 ああは言ったものの、小袖の男は油断ならぬ剣士。 この女が乱入して戦場が混乱すれば、まさかの番狂わせがないとも言えない。 もっとも、素手の女に刀を突き付けるような所業は甚助の望むところではないのも事実。 「心配せずとも伊勢守様は有情の方。あの優男の高慢をへし折りはしても傷付けはしない筈だ」 そう言って薫を静めようとする甚助だが、それは遅かった。 甚助の口からその言葉が発せられる直前に、叫び声が辺りを圧したからだ。 「薫殿!!」 そう大音声で叫びながら剣心は走っていた。 わざわざこんな大きな音を立てて自身の存在を触れ回れば、危険人物を招き寄せる危険がある。 危険人物でなくても、殺気立って走り回る剣心を見れば警戒するだろう。 それを承知の上で剣心は駆け回っていた。何としても薫を見付け、保護しなくては。 薫が剣心にとって大切な存在だというのもあるが、薫がこんな事に巻き込まれたのは己のせいだという責任感もある。 この御前試合の場で出会った剣士達は、いずれ劣らぬ超一流の剣士ばかりであった。 他にも名簿に載っていた幕末の動乱で活躍した剣士達や、伝説でのみ知る戦国から江戸期の剣豪達。 彼等が本物だとすれば……志々雄真実の存在を考えると本物の可能性が高いと思われるが……やはり最高峰の剣客ばかり。 そんな中、神谷薫の存在は、この御前試合の中で明らかに浮いている。 確かに彼女も剣客ではあるが、その実力は、天下無双を争える域には遠く及ばない。 にもかかわらず、どうして薫がこの島に呼ばれたのか。 考えられる事はただ一つ。薫を危機に曝す事で剣心の中の人斬りを呼び覚まそうというのだろう。 つまり、彼が薫を巻き込んだ事になる。その認識が薫への想いと相まって、剣心を追い詰めていた。 どれくらい捜し回ったか、剣心は遂に見付けた。喉元に刀を擬せられて絶体絶命の薫を。 その瞬間、剣心の中で何かが膨れ上がり、叫びながら駆け出していた。 「薫殿!!」 女を鎮める為に発そうとした言葉をかき消して叫び声が木霊する。 そちらを振り向いた甚助の目に飛び込んで来たのは、刀に手をかけて走って来る血まみれの男。 「剣心!」 男の叫びに呼応して女も叫ぶ。すると、女が言っていた剣心とはあの男か。では、小袖の男は一体…… 甚助が不審に思っている間にも男は凄まじい走力で近付き、間合いに入ろうとしていた。 居合いの本義は納刀した状態から一挙動で切り付ける事で、相手が応戦の準備を整える前に倒す事にある。 裏を返せば、攻撃の機を逃せば先制されて無防備のまま攻撃を受ける危険があるという事だ。 それだけに、甚助は危険が迫れば事情がどうあれ自動的に居合いを使えるよう訓練を積んである。 素早く剣を引いて納刀し、居合いの構えを取るとそれだけで神経が研ぎ澄まされ、最適の行動が啓示の如く思い浮かぶのだ。 甚助は納刀して抜刀術の構えを取るが、限界以上の速度で走って来た剣心は既に間合いの間近まで迫っている。 このまま居合いを放っても剣心に対して振り遅れるのは必定……だが、そこは甚助も居合いの中興祖と言われる程の使い手。 疾走して来る剣心に対して自身も駆け寄り、相対速度を思い切り上げる。 居合いを奥義とする流派だけあって飛天御剣流の剣士は間合いの見切りに優れており、剣心も例外ではない。 とはいえ、限界を超える速度で疾走中に相手にも駆け寄られれば、流石に抜き打ちが間に合わず、振り遅れた。 互いに振り遅れた同士ならば事態は一転、後から動く甚助の方が有利になる。 抜き掛けた剣の柄を剣心の柄にぶつけて弾き、反動で横を向いて距離を確保すると、素早く納刀し、今度こそ抜刀術! 剣心も素早く刀を納めるが、弾かれた分だけ挙動が遅れて抜刀術は間に合わない。 その時、刀を抜こうとする甚助の耳に異音が届き、精神集中が失われて一瞬だけ動きが止まる。 剣心の神速の納刀によって凄まじい鍔鳴りが発生し、甚助の聴覚を揺さぶったのだ。 甚助はすぐに立ち直って居合いを放つが、その間に剣心も体勢を整えており、結果、二人の抜刀術が真っ向からぶつかり合う。 ギイイィィィン! 抜き打たれた二人の刀が衝突し、負荷に耐えかねた二本の武器が悲鳴を上げる。 耐え切れずにどちらかの得物が砕けるかと思えた時、二人の身体が同時に吹き飛ぶ。 剣心は鞘による抜き打ちを、甚助は鞘を半ば抜きかけての突きを、それぞれ相手に叩き込んだのだ。 全身への衝撃に耐えつつ着地し、素早く納刀する甚助。 鞘による攻撃を叩き込んだ点では両者同様だが、鞘を抜き放った剣心は再び居合いの構えを取るのに一挙動余計に掛かる筈。 その隙に抜刀術を叩き込もうと剣心の方を向いた甚助の前には、既に攻撃準備を整えた剣心の姿が。 緋村剣心と林崎甚助。剣の腕では優劣つけがたいが、強敵と戦って傷を受けた経験では剣心が遥かに勝る。 加えて、薫の危機で精神が高揚している剣心は、甚助の打撃の痛みを無視して即座に攻撃に出たのだ。 無論、再び抜刀術の体勢を整える暇はなかったが、彼の剣術は抜刀術以外も超一流、問題はない。 「九頭龍閃!」 突進しつつの九連撃が甚助を襲う。余程の剣士でなければ回避も防御も不可能な飛天御剣流の大技だ。 だが、欲を言えば剣心は土龍閃のような技で、甚助が居合いの構えを取る前に攻撃を仕掛けるべきだったかもしれない。 林崎甚助は、熊野明神に居合いの奥義を神授されたという、居合いに関しては神懸かった達人。 納刀して柄に手を掛けるだけで、正に神に憑かれたかのような冴えた動きを見せるのだ。 甚助は、剣心が乱撃術で襲って来るのを見るや、大地に転げて剣心に近付く。 九頭龍閃は九種の異なる斬撃を同時に放つ技。しかし、地に転げた相手に横薙ぎや切り上げは通用しない。 その上、乱撃術はどうしても一撃一撃の深さに欠ける為、切り下げや突きでも十分な打撃は与えられないだろう。 このまま九頭龍閃を強行すればいたずらに隙を作るだけの結果になりかねない、そう考えた剣心は技を止める。 その間に甚助は剣心の足元まで転がり寄ると膝を着き、十分な鞘引きを伴う座居合で真上にいる剣心を狙った。 (居ない!?) 必殺の居合いを放った甚助だが、その時点で剣心の姿はそこにはない。 甚助は一瞬動揺しかけるが、どうにかそれを抑え込んで刀を引き戻し、再び抜刀術の構えを取った。 そうして感覚が冴え渡ると、すぐに真上に剣心の気配が感じられる。 迷わず真上に向かって居合いを放つと、ちょうど上空から甚助を狙った剣が振り下ろされ、再び両者の剣はぶつかり合う。 甚助が足元に潜り込んだ瞬間、剣心が天狗の如き跳躍力で上空に逃げ真上からの反撃を狙って来たのだ。 剣を咬み合わせたまま剣心は着地し、甚助の剣を絡み取って武器破壊技を仕掛けてくる。 ギリッ 己の剣の軋みを聞き取った甚助はその峰に手を添えて守り、そこを支点に身体を回転させ、柄で剣心を狙う。 しかし、剣を抜いた後の立ち回りではやはり剣心が数段上手。 甚助の動きに合わせて自身の身体を回転させると背後に回りこみ、その背中を峰打ちで強打した。 背中に衝撃を受けて吹き飛ぶ甚助。 吹き飛びながらも辛うじて剣を鞘に納め、背後から追って来る気配に向けて居合いを放つ! 対して、吹き飛んだ甚助を追っていた剣心は、甚助がこちらの位置を十分に確認せずに居合いを放つのを見て足を緩める。 甚助は頻繁に居合いを使って来るが、そもそも居合はかわされると敵に大きな隙を見せる諸刃の剣。 しかも、敵に背を見せた状態からの居合では、外した後に先程のような鞘による突きを放っても相手に届かない。 ここで剣心が甚助の居合いを見切ってかわせば、急所にもう一撃を叩き込んで打ち倒す事ができるだろう。 そう見込んで刀を構えた剣心だが、次の瞬間、腹部に衝撃を受けて逆に吹き飛ばされる。 背後の敵への居合いでは確実に相手を捉えるのは不可能と見た甚助が、鞘ごとの抜き打ちを放ったのだ。 結果、振られる刀の遠心力によって鞘が半ば抜け、剣の間合いの外に居た剣心を強かに打った。 吹き飛ばされながらも超人的な身ごなしで着地した剣心は、再び甚助に突進しようとし…… 「うぐっ!?」 吐血してその場に膝を付く。 剣心は甚助に一撃を受けたが、その打撃自体は中空の鞘による物なのだから、高が知れている。 だが、それ以前に剣心の身体はもう限界に達しようとしていたのだ。 志々雄真実、三合目陶器師、林崎甚助と強敵との三連戦。 しかも、戦いの合間は休みも傷の手当てもせずに全速力で駆け回っていたのだ。 如何に武術の達人とはいえ、剣心も人の子。 これまでは薫への強い想いで痛みも疲労も無視して来たが、如何に思いが強くても生物学的限界をも無視できる筈はない。 その生物としての限界が間近に迫っているのだ。 それでも何とか立ち上がり、甚助を見ると、鞘を半ばまで抜いての異様な居合いの構えを取っている。 「卍抜けか……」 緋村剣心はかつて、抜刀術の全てを知り極めたと称して抜刀斎を名乗った程の剣士。 甚助が林崎流の剣客だという事はとうに悟っているし、その奥義である卍抜けについても知っている。 そして、甚助ほどの達人が使う卍抜けに対抗し得る技は、飛天御剣流の多彩な技の中でも一つしかないという事も。 飛天御剣流奥義――天翔龍閃。この技ならば卍抜けにも十分対抗可能だという自信が剣心にはあった。 だが、今の傷付き疲労した身体で、完全な天翔龍閃を放つ事が出来るかどうか…… 「剣心!」 声に振り向くと、薫がこちらに向かって駆け寄って来ていた。 同時に、こちらの注意が逸れたのを感じた甚助も駆け寄り、卍抜けを放とうとする。 もし剣心が避ければ、代わりに薫が卍抜けの餌食になるかもしれない。 こうなれば剣心の選択肢はただ一つ。全身全霊を賭けた奥義で卍抜けを打ち破るのみ! その交錯は常人には……いや、剣士として一通りの修練を積んだ神谷薫にすら感じ取れない刹那の出来事であった。 飛天御剣流「天翔龍閃」と神夢想林崎流「卍抜け」。二つの奥義が真っ向からぶつかり合い、倒れたのは緋村剣心の方。 傷や疲労のせいで天翔龍閃が不完全だった……という訳ではない。 むしろ、大切な人への強い思いが籠もった天翔龍閃は、師の比古清十郎すら眼を瞠るであろう程の超々神速を発揮した。 実際、単純な速度だけならば天翔龍閃が卍抜けを一枚上回っていたであろう。 しかし、林崎流の居合いは相手が戦闘態勢を整える前に討つ為の技であり、より重視されるのは速さよりも早さ。 天翔龍閃は左足の踏み込みで剣を加速するが、それは剣が鞘から抜けるまでの必要距離が長くなる事に繋がる。 対して、卍抜けでは天翔龍閃とは対称的に、抜刀の際に鞘を引く。 これによって鞘走りによる加速距離が短くなり、最終的な速度が抑えられる代わりに、剣が鞘から離れる瞬間は速くなる。 速度では天翔龍閃には及ばない為、もしも剣心が防御に徹していたならば、或いは凌ぎ切られた可能性も零ではない。 しかし、抜刀術の撃ち合いという事になれば、相手より一瞬でも早く刃を敵の身体に届かせる事が全て。 そういう勝負ならば、甚助の卍抜けはこの御前試合の参加者の誰にも負ける事はないだろう。 もっとも、甚助も無傷ではない。剣心の天翔龍閃によって右腕に深手を受けている。 卍抜けが剣心に届くのがあとほんの少し遅れていたら、骨にまで達していたかもしれない。 甚助は素早く刀を左手に持ち替え、剣心にとどめを刺そうとするが、ここで薫が二人の元に辿り着いた。 「やめて!」 そう叫び、神谷薫は無謀にも素手で林崎甚助に躍り掛かる。対して甚助は、薫に向けて何とも散漫な一撃を放ってしまった。 甚助が負傷した為に、剣心に対する卍抜けの一撃は完全ではなく、致命傷は与えていない。 腕に深傷を負って居合いが使えない状態で、もしも剣心が立ち上がって来れば、甚助の勝ちは覚束ないだろう。 よって、すぐに薫を排除して剣心の息の根を止める必要があるのだが、だからと言って素手の女を斬るのは主義に反する。 その辺りの葛藤が甚助に中途半端な一撃を放たせる要因となったのであろうが、これは剣客にあるまじき油断だ。 まあ、甚助にも言い分はあるだろう。動きを見れば明らかなように、甚助と薫では竜と子猫ほどの実力差があった。 仮に竜が油断したとしても、子猫がどうにかできる筈もない。竜にとっては気のない一撃でも、子猫は肉塊になるしかない。 しかし、ここは蠱毒の島。中で剣が打ち合わされ、血が流れる度に剣士達に邪なる力が流れ込む。 その結果、竜は大海を治める龍王にも勝る大竜となったが、子猫も猛虎ほどの力を手に入れた。 まともに戦えば勝敗は揺るがないが、猫も竜が油断をすれば眼球に牙を突き立てる程度の事は出来るようになっているのだ。 今回、猫は竜がいい加減に繰り出した尾を加え、牙を突き立てた。つまり、薫が甚助の刀を白羽取りで止めたのである。 「何!?」 実力差を考えれば有り得ない現象に動揺した甚助は剣を捻って薫を振り払おうとするが…… ギンッ 剣心との激闘で既に限界が来ていたのだろう。剣はあっさりとへし折れ、甚助と薫は揃って体勢を崩した。 そして、ここで倒れた龍の牙が風を巻き起こす。 天翔龍閃はただ速いだけの抜刀術ではない。その超神速の剣が真空の空間を作り、それが第一撃を凌いだ敵を縛る。 剣心は卍抜けに倒れたとはいえ、その時には既に、天翔龍閃は普段以上の速度で放たれていた。 それによってできた真空が、一拍の間を置いた今になって漸く元に戻ろうとしているのだ。 無論、剣心が斃れている以上、風に動きを封じられた甚助を切り裂く爪は存在しない。 その代わり、甚助と薫は真空を埋めようとする空気の流れに引き寄せられ…… 神谷薫は信じられない思いで己の手を見詰めていた。林崎甚助の末期の血に染まった手を。 天翔龍閃で生まれた真空に引き寄せられた時、偶然にも薫が持っていた刀の切っ先が甚助の喉元に突き刺さったのだ。 自らの手で人を殺してしまうという、活人剣を標榜する者としてはありうべからざる大不祥事。 如何に偶然の事故とは言え、殺人という事実は、薫の活人剣士としての道を、非常に険しい物とする事だろう。 だが、今はそれを考えている時ではない。早く安全な所に行って剣心を手当てしなくては。 薫はそう思い直すと、剣心を抱えて歩き出す。血の臭いが充満した城下に、更なる血化粧を施しながら。 ここで疑問が一つ。今回の件は本当に偶然の事故なのだろうか。 甚助の負傷と蠱毒による力があったとはいえ、薫が林崎甚助のような剣豪を討つなどという事はまず有り得ぬ事だ。 無論、普通なら有り得ない番狂わせが時に起きるのが真剣勝負というものではある。 しかし、参加者の中で場違いなほどに技量で劣る薫が、たまたま金星を挙げるというのは少し出来過ぎではないか。 そもそも、神谷薫は何故もっと腕の立つ剣士達を押しのけてこの御前試合に招かれたのか。 緋村剣心は自身を追い詰めて積極的に戦わせる為の駒として薫が呼ばれたと推測していたようだが、 それなら剣心を呼んで妙な小細工をせずとも、歴代の比古清十郎の中から好戦的な者を呼んで来れば良い筈だろう。 薫には何か別の役割が期待されているのか、それとも普通に参加者の一人として招かれたのか。 どちらにせよ、薫が他の剣士と戦い、実力通りにあっさり殺されてはわざわざ呼んだ意味がないというものだ。 現に甚助を破った事と考え合わせると、薫には何らかの庇護が与えられているのかもしれない。 例えば、技量に劣る分を埋め合わせる分だけ幸運に恵まれているとか。 だとすると、今回の甚助の死も偶然ではなく、薫の意志が介在している可能性がある。 その場合、薫は二度と活人剣などと言えなくなるが。 果たして真実は何処にあるのか。そして、それが明らかになる日は来るのであろうか。 【林崎甚助@史実 死亡】 【残り六十四名】 【へノ肆 城下町/一日目/早朝】 【緋村剣心@るろうに剣心】 【状態】気絶、全身に打撲裂傷、肩に重傷、疲労大 【装備】打刀 【所持品】なし 【思考】基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。 一:川に落ちた神谷薫を探す。 二:志士雄真実と対峙している仲間と合流する。 三:三合目陶物師はいずれ倒す。 【備考】 ※京都編終了後からの参加です。 ※三合目陶物師の存在に危険を感じましたが名前を知りません。 【神谷薫@るろうに剣心】 【状態】打撲(軽症) 精神的ショック 【装備】なし 【道具】なし 【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。 一:安全な場所で剣心を手当てする。 二:人は殺さない。 【備考】 ※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。 ※人別帖は確認しました。 ※へノ肆に、林崎甚助の行李と折れた長柄刀が放置されています。 時系列順で読む 前話 霊珠に導かれて 次話 すれ違う師弟 投下順で読む 前話 霊珠に導かれて 次話 すれ違う師弟 戦慄の活人剣 上泉信綱 すくいきれないもの 戦慄の活人剣 林崎甚助 【死亡】 血だるま剣法/おのれらに告ぐ 岡田以蔵 すくいきれないもの 真宵 武田赤音 すくいきれないもの 真宵 神谷薫 すれ違い続ける剣士達 真宵 緋村剣心 すれ違い続ける剣士達
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HAPPY END(13)◆ANI2to4ndE ◇ 「さて、色々と聞かせてもらおうか」 フォーグラーの外壁に突き刺さり、むなしく回転音を響かせるラガンを尻目に、ジンが安堵する。 ラガンがコクピット席に運悪く不時着――コクピットの破壊の心配が無くなったからだ。 昼寝をした兎は夜にヘマをしなかった。躍起になって亀にリベンジを果たした。 しかし事態は褒められたものではない。そこらに撒き散らされた出血の跡が、ジンの傷の悪化を物語っている。 『JING! まさかこれはアンチ・シズマフィールドではありませんか!?』 やや不可解さが残るジンの一連の行動に、たまらずマッハキャリバーが口を出す。 ギルガメッシュの顔が不機嫌そうに歪んだが、手を出すまでには至らなかった。 彼もまた、マッハキャリバーと同じく疑問を抱いたからであろう。 『アンチ・シズマ管は最後の一本が行方知れずだったのでは……』 「何が、足りないって? 」 だが確かにあったのだ。マッハキャリバーの解析データをも狂わせるリアルが、目の前に。 マッハキャリバーだけではない。ねねねも舞衣もスパイクもゆたかも、この場にいれば目を疑っていた。 幻の第3のアンチ・シズマ管。フォーグラーの胎内で踊る。 『確かに同一のエネルギー反応が……どこでそれを!?』 余談だが、ジンとシズマ・ドライブの出会いは、丸一日前に遡る。 足となり籠となり活躍していた――消防車を運転し続けた彼には、ある疑問が浮かんでいた。 “朝昼晩と走らせているのに、燃料が減っている気配を全く感じない”。 ひょんな好奇心でエンジンを調べた少年は、未知の世界へと足を踏み入れたのだ。 「簡単な話さ……2つの物を3人で公平に分けたい時――どうすればいいかな?」 断っておくが、消防車の持ち主である“めぐみ”の住む世界にはシズマ・ドライブが存在しない。 この消防車は彼女の愛車をシズマ・ドライブ仕様にチューンナップした別物なのだ。 消防車本体ではなく、運転マニュアルと鍵“だけ”を支給された理由にも、この意図が含まれていたのかもしれない。 消防車本体はめぐみの所有物とは言い難い物になっている、と。 「貧乏性に救われたよ」 それから、彼は暇をみては各施設の動力炉を適度に物色していた。 この世界に存在する一部の施設は、螺旋王による建造だと推測をつけた理由も、この考えが基。 ただ、彼が出会った者はシズマ・ドライブを知らなかったので、発想の昇華には至らなかった。 消防車の持ち主も見つからなかった事を加え、いつしかシズマ・ドライブはジンの脳の隅に追いやられていた。 「スカーが調べてくれた」 本題に戻るが、彼の好奇心が再び目を覚ましたのは、ヴィラル&シャマルと対峙する直前だった。 ねねねがスカーに人知れずアンチ・シズマ管の簡単な調査を依頼していたのだ。 「“未知の物質ゆえ、俺の手には負えそうにない。 だがこの上なく安定している。こんな物質は見たことが無い”ってね」 ドロボウは金のなる音を聞き取っていたのだ。活路という砂金が湧き出る音を。 ねねねがスカーの言葉に失望できる理由は、そして心の奥に隠していた彼女の狙いは、なんだったのか。 スカーの返答は彼女を落胆させるものだったのだが、その依頼に意味が無いはずがない。 「酸素を盗もうなんて洒落てるよねー……固唾を呑む大捕物。窒息しちまいそうだ。 ところが事実は小説より奇なり……世界中の酸素を消滅させる危険は、大怪球を作った世界では未然に済んじまった。 10年は持っちゃうんだよね。その間にシズマ・ドライブを壊して、酸欠で死んだ人間なんていなかった」 ジンがねねねからシズマ・ドライブの話を聞き出せたのは、それからすぐ後だった。 ねねねがガッシュと戦闘の準備をしていたので、やや手間がかかったが、それなりの収穫をジンに与えた。 詳細名簿と支給品資料集を読んだねねねの記憶……BF団、国際警察機構、フォーグラー、シズマ・ドライブの情報。 「あ、そうそう。スカーはこうも言ってたかな。 “これも同じく……溶液と核はともかく、それを包む特殊ガラス管は特色のないものだ”」 ジンの抜け目の無さはここにある。 この世界のとある場所から拝借していた普通のシズマ管を、彼はこっそりスカーに見せていたのだ。 スカーの鑑定はアンチ・シズマ管の時と同じく不透明だったが、その鑑定は黄金の鉱脈を掘り当てた。 「アンチ・シズマ管もしかりさ。 みんながあれほど駄々草に扱っていたのに、機能に問題は生じなかった。 それだけフォーグラー博士たちが作り上げたこのシステムは素晴らしかった。 その性能が薬であれ害であれ極上の安定性を持っていたんだ。 常に沈み静まりエネルギーを運ぶ半永久機関だったわけで……こんな話を聞いたらさ―― ――"3/等/分"したくなっちゃう 俺ってばケチな泥棒ですから。切った張ったのイカサマは慣れてるし……方法は企業秘密だけど」 ◇ 2本のアンチ・シズマ管から溶液を三分の一ずつ抜き取り、別の空の容器に移す。 さすれば等量の溶液が入った管が3つできる。3本目の容器は普通のシズマ管を拝借すればいい。 『本物の2つが両端に挿入されているのも狙い通りですか』 「ビンゴ。-/+/-(負正負)のバランスも考えて、ね」 もちろん悔いはある。どんな副作用が起こりえるのか、それは誰にもわからない点。 特筆すべきは3つの溶液のそれぞれに入る核。内1つは、従来のシズマ管に頼らざるえなかった事実。 アンチ・シズマ管とシズマ管の、核と溶液の正確な差異は、スカーをもってしても解読できない代物。 『万が一の事があったら、どうするつもりだったんですか。 濃度、質量、システムの微細な変動で、どんな拒絶反応が起きるか……』 2本分の溶液は3つにできても、肝心の2つ核を3等分する危険は冒せなかった。 3本とも本物に近づけるために、彼が選んだ妥協は"元の3分の2になったシズマ管を3本用意する"ことだった。 「それはそれで千載一遇(狙い通り)なのさ」 アンチ・シズマフィールド発生による全シズマ・ドライブ救済が失敗に終わるとき。 それはBF団エージェント、幻夜が起こした地球静止作戦におけるシズマ・ドライブ破壊現象の再来を招くのか。 事態はそれに留まらず更に悪化するかもしれない。何しろ肝心のアンチ・シズマ管さえ不完全なのだから。 従来のシズマ・ドライブをフォーグラーに装着させた場合を含めて、これまでとは一線を画す実験なのだ。 「2本揃っただけでも……“惨劇”を起こすには、十分だったのかな? 」 地球静止作戦を超える災害。完全なるエネルギー静止現象“バシュタールの惨劇”の再来。 即ち、菫川ねねね著“イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ”の実現もジンは覚悟していた。 もっとも、彼はねねねの本を読んでいたわけではないし、ねねねの口から聞いたわけでもない。 「ま、この真ん中に刺さってるレプリカにもちょっと細工を"施し続けている"けどね」 ともかくジンは舞衣とカグツチをフォーグラーの内部に無理やり突っ込ませようとしなかった。 わざわざフォーグラーから距離を取らせたのは、惨劇の巻添えを防ごうとした魂胆があったのかもしれない。 ねねねの心に隠れる本音を、ジンはそれとなく感じ取っていたのであろうか? 「無様だな」 満身創痍のドロボウの高説をギルガメッシュが吹き飛ばす。 相変わらずの口調で、相変わらずの態度で、相変わらずの視線で。 王ドロボウの賭けに、彼は成果を見出せずにいた。 「身を削って鍵を手にしたはいいが、貴様には夥しいほどの赤い錠が絡みついた」 「久しぶりの窮地(デート)だったから、おめかししたくてね」 「死女神と逢引きするためにそのまま後世へ婿入りか」 ふんぞり返る王の前で、ジンは永遠の忠義を誓う兵隊長のようにお辞儀をする。 そして懐から血塗(love wrapped)の鏡を取り出し、大げさに差し出した。 「これを我に渡してどうするつもりだ。口止め料か」 「寿命三ヶ月分をはたいて手に入れました。何も言わずこれを受け取って頂きたく……身だしなみに役立つかと」 彼が手渡した鏡は、日常品どころか非日常の貴重品。 かつてガッシュ・ベルの世界で生まれた究極の魔力タンクになる魔鏡なのだから。 魔力を使うギルガメッシュには、まさしく分相応なお歳暮だ。 「――その度々吐く下卑た口ぶりを止めろ。何が王ドロボウだ」 しかし王ドロボウの微笑みに、英雄王は真面目腐った。 相手へ慇懃さを感づかせるのにジンの振る舞いは今更すぎた。 「これで何度目だ。我と余計な争いを避けようとしているのか?―――身の程を弁えろ。 盗んだ金の毛皮を被った羊が、王に"譲る"とは何事か!ならば最初から衣を借るでない!!」 もはや英雄王には王ドロボウが口先三寸の卑屈屋にしか見えなかった。 財を奪う才能に長けているかどうかはともかく、行動は不愉快の連続だった。 一度盗んだものでも、持ち主が見つかればあっさり宝を返す。 挙句、次から次へと献上してご機嫌を取ろうとするばかり。 「いけないかな?見返りがなければ、泥棒は協力なんてしない」 その皮も剥がれてしまった。 顔を上げて笑うジンに、ギルガメッシュの怒りが篭る。 「……貴様はどこまで我の期待を裏切ってくれる」 「投資。これは投資なんだよギルガメッシュ。投資させるしか能のない品を、持っててもしょうがないよ。 働き者の王ドロボウは剣も門も鏡も揃えたんだぜ。チップをくれたっていいじゃないか」 ぼんやりと抱いていた疑問へのあっけない答え――献上ではなく出資。 お気に入りの財は、盗んだ当人から持て余されたゆえに、三品と値切られてしまったのだ。 『――JING!あなたはそんな腹積もりで私たちと接していたというのですか!?』 この宣戦布告に等しい愚弄に、第三者も黙っていられなくなったようだ。 王の具足として働くマッハキャリバーは、本当は王と王の対立に関して、最後まで見届けるつもりだった。 鴇羽舞衣一行に接触したときのように、我が道を進まんとするギルガメッシュが、わざわざ先回りしてジンに会ったからだ。 だからマッハキャリバーは、ジンとギルガメッシュの双方に……何らかの狙いがあると信じていた。 「何時も王が王であるように、泥棒はどこまでいっても泥棒なのさ。 そこで“王子様”にもう一つ頼みがある。ナンパして欲しい女がいるんだ。イザラっていう、夜が似合う娘でね――」 しかし王ドロボウの侮辱はマッハキャリバーの信頼をも裏切った。 デバイスとしての立場であるゆえに、その思いも一塩どころの騒ぎではない。 「この悪党が」 "それ"ゆえだったのかは定かではない。 有機体と無機体の間で感情の交差が生じていたのか。お互いの思いは等しく同一であったのか。 マッハキャリバーとギルガメッシュは、動いていた。お互いの脳と心がまるで繋がっているかのように。 その動きは神速、流麗。ギルガメッシュの制裁は、ちっぽけな人間の若き血潮を、風のキャンパスに塗りつけた。 「……出来心、だった……反、省は」 泥棒は全身から鮮血の花を満開させる。 死を招いたのは献花に仕込まれていた翻意のトゲ。 そして、心に巣食う悪の種。 「し、て……い、な…………」 薄汚れた心を皮肉るように、命の一輪挿しは艶やかに色めく。 地に伏した泥棒は枯れ草となり、いずれ野に帰るだろう。 赤い赤い種子を巻き散らして、大地に芽を蒔いたのだから。 「花泥棒のフリはよせ。余罪がないとは言わせんぞ」 ああ哀れな哀れな王ドロボウ。救われず掬われて、裏切りの道を―― 「我を盗んでおいて」 ――いまだ、歩まず。 ◇ 『King!どうしたのです、いつものあなたなら有無を言わさず処罰を下している!』 マッハキャリバーの意見はもっともであり、至極真っ当だった。 ギルガメッシュは前のめりになって倒れている下手人を睨む。 怒っている。心の底から怒っている。しかしそれ以上は進まない。進められない。 王の心に絡むのは違和感。有り触れているようで、どこか有り得ない揺らぎ。 考えてみれば、それはずっと前から始まっていた。 「さて何処で盗まれ始めていたのか」 「……わかってるくせに」 死んだはずの男が、懐から種明かしを放り投げる。 空の容器がカンッと地面に跳ね返り、ギルガメッシュにラベルを見せる。 深紅王の赤絵の具(クリムゾン・キング・レッド)。 古今東西の死骸を沈めた血底湖(クリムゾンレイク)から生まれし、最高純度の出汁(クリムゾンレーキ)。 「――欲ってのは金と一緒で困りモノ。多くても少なくても厄介で。この世に存在する全てそのもの、さ」 甦るドロボウの転職先はゾンビにあらず、真っ赤な大嘘を着込んだ詐欺師。 慇懃の殻はついに破れ、むき出しになった意識は獲物を舐める。 王ドロボウが王ドロボウ足る究極の証明書。その支配は生命の如何に関わらず万物の心を侵し喰らうのだ。 ギルガメッシュは己の根底に潜む“欲”をジンに盗まれていた。 「だがな、そんな欲さえ自分の手足同然にコントロールできる奴が、王ドロボウなんだよ」 ジンがギルガメッシュを盗もうと動き出したのは、高速道路の移動中のこと。 初対面の対応と印象を踏まえ、早急に手を打つべしと考えていた。 その第一歩は、直接的な“支配”その物ではなく確認。 博物館に到着する頃、ジンは彼の実力と気質を客観的に半分以上読み取っていた。 “慢心しても油断はしない”という不可解なロジック。 人知を超えた存在であり、人間らしい惑いを持つ男を取り囲む二律背反。 「落とし所は、都落ち……でも、無駄な戦いはお互いのためにならない」 博物館の問答から数度の献上の儀式まで、全ての振る舞いは王ドロボウの計算。 だがこれらの行動は間接的に過ぎない皮算用。見積もりはどこまで行っても見積もりで、決定打には程遠い。 妥協点の模索に、ジンは徒に時間を消費するばかりだった。 「すっかり忘れていたよ。自分の専売特許を」 ジンが打開案を閃いたのは――いや、思い出したのは首輪の解除で螺旋王の介入がほんの少し崩れた時。 使用許可証がおりたので、“欲の支配”のブランクは明けて微小な復活を遂げた。 ……己の力がそれまで封じられていた事をジンは本当に気づいていなかったのだろうか? そして力が解き放たれた瞬間を、本当に気づいていなかったのだろうか? 偶然にせよ必然にせよ、機は巡った。 ギルガメッシュの殺意は、危害を加える頃にはすでに掠め取られていた。 彼の怒りは過去に入札されて攻撃の気概を失ってしまった。ゆえにジンを仕損じたのだ。 「フェアじゃないのは百も承知さ。俺にはあんたに殺されてもいい場面が少なくとも10回はあった。 だけど……“必要とするときだ”と割り切って、先手を打たせてもらったよ」 「我の他にも、その力を施す事はなかったのか? 」 「こういうのは、やたら滅多に使うもんじゃないのさ」 この世の全ての欲の支配。そこに待つのは、無垢で無知で無害な者からの財の放棄。 何と刺激のない物盗り。何と謂れのない賞金首か。 人民総ドロボウ時代になっても、決して成りえぬ世界(エデン)。 「このまま我の慢心を全て支配する、か」 だがギルガメッシュは焦らない。焦る必要がないからだ。 彼の器は幾万年から続くこの世そのもの。無から始まる“存在”の肩書きを持つ全てが彼の欲。 「侮るな。この程度の支配、撥ね付けられなくて何が英雄か。この世の全てはとうに背負っている。 仮に貴様が世を支配できたとしても、我を染めたければその3倍の力を持って来いというのだ」 王は全てにおいての超越者であり孤高の存在なのだ。 その英雄王の欲は、人智では計り知れるはずがない。全てが奪われるなど、通常では到底ありえない。 「……ん~と、おっかしいなあ」 下賤な者たちの王を気取りながら、その実、何の背景も感じられぬ泥沼のような少年。 王と肩を並べようと奮闘した朋友のような輝きもない。 王の高みを目指し歩を揃えて進もうと望んだ臣下のような輝きもない。 王の考えを理解できないと別の道を選ぶ民衆のような輝きもない。 「ちゃんと連れてきたんだけどなあ」 思えばこの男は、真っ向から関わろうとしていたのか。 英雄王から何かを感じ取ろうとしていたのか。これまでの喜怒哀楽はどこまでが本当なのか。 欲を支配できる男の欲は湧き上がる心の思念さえ怪しい。 節々から漏れる念は“理解できない”呆れより、“最初から理解するつもりなどない”放棄。 「ほら」 王ドロボウは、英雄王に対し理解しないことを最大の理解と考えていたのだろうか。 “誰か”が彼を理解している。だったら“誰か”に委ねてしまえ、と。 「ピンピンしてるぜ」 ジンはギルガメッシュに汚れたアイパッチを差し出した。 真の持ち主はギルガメッシュと決闘した衝撃のアルベルトだが、彼には知る由もない。 ギルガメッシュがこの世界で見た持ち主は別人だ。彼もよく知っている―― 「――やめろ」 王ドロボウが空けた英雄王の心の隙間に、捨て去った過去のカケラが飛び込む。 一度去ったものの二度は入ることの叶わぬ檻に2人の侵入者の笑い声。 同盟者でも、好敵手でも、暗殺者でも、泥棒でもない。 「だから、なんだというのだ……!!」 それは、ほんの少し前に忘れ去ったはずだった。 蜘蛛のようにクセのあるアルト。鎖のような硬さが残るテノール。 止まっていた友愛の囁きが、ギルガメッシュの拳を握らせる。 『僕たちは、かつて君と一緒にいたが死んでしまった。君と共に歩むことは、もうできない』 『でもあたしたちの傍に金ぴかがいたように“金ぴかの傍にはあたしたちがいた”。それは変わらないでしょ』 ギルガメッシュの背中に、二重奏のエレジーが浴びせられる。 その声にはかつてないほどの郷愁を思わせる稀有な口調。 今の彼には誰が後ろに立っているのかわかっている。そ知らぬ振りが、いつまでもつか。 「……中々ふざけた物を見せてくれるなぁ王ドロボウ!こんなまやかしに我が今更――」 神より産まれたギルガメッシュ。 彼の眼がそんなにも赤いのは、日がな一日、空を見続けていたからなのか。 彼の傲慢は傲慢に違いないが、それは万象を救う希望になろうとした為のものなのか。 人類を導く希望は……これからも酷薄な世界に裏切られるかも知れない。 『不思議、だよね』 しかし――昨日歩いた道々は彼を裏切らない。 『あたしたち、あんたと一緒にいるの、意外と楽しかったんだから』 「――っ!!」 太陽 泣かすにゃ 刃物は要らぬ。狐 黄泉入り 涙雨。 意固地 ほどくにゃ 刃物は要らぬ。鎖 寂れて 腐り縁。 とどのつまり、逸予な泥坊は扇って歌っていただけ。 第三者から見れば、事態の深刻さを理解するには無理な話。 『『だから“その時”まで』』 姿形さえ無い者だったとしても。二度と会えぬ者だったとしても。 一生省みなかったとしても。永遠に彼方に忘れ去らせたとしても。 近すぎず、遠すぎず、熱すぎず、冷たすぎず。 “彼ら”はギルガメッシュに寄り添いながら、見つめ続けてくれているのだ。 『『待ってるよ』』 太陽のように……ずっと。 ◇ 「迂闊に愚者へ機嫌をとらせるもんじゃないよ。胡麻を摩っていた鉢の中に、賢者の心臓を放り込むんだから」 大怪球フォーグラーから一筋の蒼い線が空に伸びる。 トラック地点で準備する陸上選手のように、ギルガメッシュはウィングロードを目視していた。 外壁の狭間を吹き抜けて、強風は競技開始のファンファーレを鳴らす。 「世の中には賢者も愚者もちょっとずつ必要なのさ。だから俺みたいな罪深い職業も成り立つわけ」 この世界を動かしたのは善良な聖者でも狂った悪魔でもない。 螺旋遺伝子を奮い立たせて螺旋力に覚醒した者。 一辺通りの枠に収まろうとせず、己を伸ばして先を行かんとする者たちだった。 「さーて大魔術第二幕の始まり始まり」 ジンは腕を限界まで伸ばし天を指差す。目標は遥か空に聳えるバスクの女。 予てからこの世界の結界に大きく絡んでいると目星を付けていた、月。 「あんたが全力を出せばアレは絶対に落ちる」 ギルガメッシュから離れて数m、フォーグラーのコクピット。ジンは大股を開いてぶっきら棒に座り、空を見上げる。 彼はギルガメッシュが正真正銘の本気を出すのを望んでいた。 相手はお高くとまった箱入り娘。射止めるためには一握の慢心も薮蛇になる。 「何か言いたげそうだけど……ま、深く考えないでよ。そのご自慢の武器は英雄王ギルガメッシュが選んだ財だ。 どんなに慢心を失おうとも、全てを奪われちゃこっちが困る。全部が奪われたら、あんたがあんたでなくなる。 そうなったら財の価値は十二分に発揮されるのか……ちょい不安」 かつて王ドロボウは言った。輝くものは星であろうと月であろうと太陽であろうと盗むと。 ギルガメッシュは、太陽を化身である英雄王への比喩と解いた。 王ドロボウは、英雄王たる所以の“慢心”もまた、化身そのものと解いていた。 「英雄王は、慢心せずして成らずさ」 仮に慢心を捨て去れたとしても、その境目をギルガメッシュが気づくことは決してない。 どこまでが慢心なのか否かの線引きは人の数だけ答えがある。欲も本能も基点も過去も。 ギルガメッシュ本人でさえ、己が納得する慢心の放棄の確認自体が“慢心”になるかもしれない。 「これが博物館で問われたギルガメッシュに対する俺の答え」 手元に未来永劫あらんとするが、一度盗られれば決して取り返すことの出来ない財。 それは生涯という房から一秒一秒を実として落とす、時の流れのように。 慢心は英雄王が英雄王でなくなって初めて消える。それはギルガメッシュが王の立場を追われてこそ。 王のままでは、心の奥底のそのまた奥の底のずっと先に、無尽蔵のお神酒が湧き続ける。 成されると仮定された消失に収束するまで、ギルガメッシュは王ドロボウに永遠に盗まれ続ける。 「――憎らしい男だ……だが許そう」 進みゆく喪失感にギルガメッシュはフラッシュバックする。 思慮を教授せし友人と王の道を辿ろうとした儚き従者を失った、あの瞬間。 それでもギルガメッシュは歩いた。決して悔やまず、決して退かず、決して媚びず。 彼らが信じた道が間違いではないことを示すために、再び孤高に身を投じた。 「盗られた分は貴様にくれてやる」 しかし現れた。また現れたのだ。 王の道を、今度は理解ではなく盗むことで辿ろうする只管な愚か者。決して省みることの無い覇道の跡を、全て奪おうとする影。 あまつさえ過去を掘り起こし、呼び出そうとする始末。 3度目は得られぬであろう、と考えていた巡り合わせが、英雄王の傍に再びやってきたのだ。 「奪い尽くせるのならやってみせよ」 かくして英雄王と王ドロボウの奇妙な寸劇は、第一幕を閉じた。それぞれの道を進む王は、本来ならば交わらぬはずだった。 互いにわかっていたことはただ一つ。 彼らはこれからも己が信じた道を進む。鏡のように立ちはだかる相手が現れても、それは変わらない。 勝手に皮肉り、勝手に嘲笑し、勝手に気遣い、勝手に気配る。 「これもまた“美しさ”か」 英雄王は笑う。王ドロボウに、盗まれてしまったから。 懐かしき己の詩に流れる涙、未来を省みれなくなるくらいの過去。 そして、いずれは“これから”も。 「盗みの永久機関……誠心誠意、循環させていただきます」 劇はまだまだ終わらない。終わり無き旅路が前にあり、旅の足跡もまた終わり無し。 今度はきっと大丈夫だろう。影が失われることはないのだから。 「我が振り向くのは、もう少し先でいい」 英雄王は、省みない。 ◇ 王ドロボウに 盗まれたんじゃ 絶望だ だが その絶望は、 なんと 希望に似ていることか―― (隻腕指揮者エギュベル著 『未亡人たちの演奏旅行』プロローグより) ◇ 「南の国の英雄王、北極星に旅立った」 吹き抜ける風に顔を覆いながらも、ジンは大怪球フォーグラーの外壁を伝い、空を昇る。 ギルガメッシュの一件が片付いたので、彼は次の仕事に取り掛かっていたのだ。 「風の靴を供につけ、筆耕寝子が起きるころ。王子は行方をくらませた」 その仕事とは、フォーグラーの外壁に突き刺さったまま、何の動きも見せようとしないラガン。 空回りだったにしろ、一度はラガンはグレンの投球によってジン達を襲撃しようとしていたのだ。 ヴィラルとシャマルが何を思ってこんなことをしたのか、ジンには確証がなかった。 「東も西も南も北も、家族は必死で探したが――」 ラガンはアンチ・シズマフィールドが展開した後も、何もしてこなかった。 ギルガメッシュがフォーグラーから飛び出した後も、ずっとこのままの状態を保っている。 ギルガメッシュの力を恐れて沈黙を守っていたにしては、なんとも不気味な待機。 「旦那!賽はもう投げられたんだ。この後に及んで、妾(フォーグラー)に走るのかい。 人生はゲームじゃないんだ……帰りなよ。後押ししてくれた奥さんが草葉の陰で泣いてるぜ」 ジンは超伝導ライフルを、外しどころの無い相手の顔に突きつけて、引き金に指をかける。 そこはかとなく聞こえるエンジン音から察すれば、ラガンの機能はまだ停止していない。 しかし返答はない。無機質な顔が綻びるはずもなく、沈黙は貫かれたまま。 「?!?!?」 ――が、応答アリ。 大規模な振動が湧き上がり、赤ん坊をあやす様に大怪球を揺り動かせる。 それはこの世界の崩壊を示す自然災害ではなく、限定された異常事態。 乖離剣・エアに開けられたフォーグラーの風穴が、着々と塞がり始めていたのだ。 「……愛こそ天下、か」 ジンはラガンの登頂に飛び乗り、超電導ライフルを白く包まれたラガンの防風壁に向ける。 機体とパイロットを傷つけぬよう、銃口は壁のヘリを水平に突きぬけるように狙う。 敵を気遣ったのは、その先に隠れる諸悪の根源の存在を暴くため。 「とっくに巣立っていたとはね」 破れた壁から中を覗いたジンは感嘆の息を漏らす。 白月の夜空に晒された操縦者ヴィラルの意識は、既に途切れていた。 両手はしっかりとレバーを握り締めているが、目は曇り口からは涎を垂らしっぱなし。呼吸の有無はわからない。 口は開けど再度は閉じず。目は開けど光は見えず。ただ倒されるは握られたレバー。 「あんた達の愛は、生きる事さえ凌駕しちまうのかい」 ラガンの外傷は修復を始め、ヴィラルを再び外界から遮断させる。 死んでいるのかも生きているのかもわからない生命が、螺旋の殻に包まれる姿にジンは納得した。 2人にとって愛の巣だった機神は、そのまま棺桶になっていた。 ヴィラルとシャマルはあの激闘の終焉と共に、眠りに就いていたのだ。 「ハートに火が点いちまってるというのに……まだ、諦めていない」 そして取り残された膨大な螺旋力だけが、彼ら――グレンとラガンを動かしていた。 あの投擲は、ヴィラルとシャマルの意思が乗り移った『ラガン・インパクト』だったのだろう。 敵がどこにいるのかもわからぬまま、当てずっぽうに放たれた非常識。 いくら螺旋遺伝子に反応するとしても、グレンラガンは直接の生命の持たぬ機械なのに。 「でも、これ以上は狂気の沙汰よ。披露宴は終わったんだ」 ジンはラガンから、外壁が完全に直りつつあるフォーグラーの内部に、飛び降りた。 行き過ぎた愛をガソリンとして、ラガンが動き続けるのなら、フォーグラーの修復は合点がいく。 偶然にもフォーグラーに突き刺さったラガンは、アンチ・シズマフィールドごと本体を乗っ取ろうとしているのだ。 落日した三日月が太陽になれば、あの悪夢が甦る。今度の聖誕祭はいつもより赤が増えるだろう。 「そろそろ地獄巡り(ハネムーン)にでも行って――」 ジンは天使の羽根のようにふわりとコクピットに着地する。 「――っ!?」 その刹那―― 無防備に舞っていた蝶を絡めるが如く、数多の触手がジンの体に巻きついた。 縄は一気に緊張し、蜜柑の果汁を搾り出すように下手人を締めあげる。 「ガッ!!!……ガフッ……! 」 嘔吐。コクピットの椅子に、溢れるほどの赤が降り注ぐ。 この赤は絵の具のように手垢のついた模造品ではなく、人が生けるための必需品。 「……あの世行き……の……切符、に」 ドロボウをお縄に頂戴させた保安官の正体。 それは大怪球フォーグラー――いや、螺旋の力に乗っ取られた臨界球フォーグラーガン自身だった。 外壁の表面に装備されていた沢山のレーザーアームが、己が体を突き破ってまで、襲い掛かったのだ。 彼らは内部にいた異分子(ウイルス)の存在を本能で察知し、追い出そうと考えたのかもしれない。 「払い戻しは、きかないん……だよ……! 」 転生を迎えたフォーグラーの胎内でジンの弱音が空しく響く。 骨身に染みる圧力に、五臓六腑たちが悲鳴を上げていた。もう強がりだけでは隠し通せない。 即ちこれは、王ドロボウもまた、この世界で幾多の無茶を潜り抜けてきたという証明なのだ。 「なんせ俺たちは、生まれつき極刑を言い渡されてるんだからな」 凍てついた視線を亡霊たちに向けて、ジンは右手を淡い緑色に輝かせる。 光は右手から銃全体に染み渡り、更なる輝きを増していく。 正体不明の眩さは留まることなく、ジンを中心として広がっていった。 「どのみち、こんな窒息しそうな棺桶は……ご免こーむる……」 ――幼少期の王ドロボウには、右手を懐へ隠す癖があった。 理由を尋ねられても“必要とするときじゃないから”の一点張り。 母親から五年越しの誕生日祝いに、とあるプレゼントが贈られるまで、やりとりは繰り返されていた。 「こっちにはどんな物語にも、どんな文献にも載ってない」 思い出の品の名は“王の罪(クリム・ロワイアル)”。 お披露目会で破壊され日の目を見ることのなくなったジンの必殺技。 エム・エルコルド(Amarcord)産の知られざる傑作となったのも今では良き思い出だ。 鳥の相棒から乳離れして以来、産まれて初めてになる単独発射(一人立ち)。 「誰もが笑顔でハッピーになれる」 狙いは超新星の核の中心にあたる、コクピットに備え付けられた自爆装置への誘爆。 侵食に純応し過ぎてエゴとなった塊は、芯から根こそぎ駆除しなければならない。 結果あらゆる迸りを受けたとしても、彼には相応の覚悟がある。 それは職業柄、分かりきっていることなのだから…… 「――――パーティーが待ってるんだ!!!」 少年は、迷わず引き金を引くのだ。 ◇ 余すところ無く軋轢と閃光を走らせて、大怪球が崩れていく。 二次災害も甚大。円らな瞳が大粒の涙を散布するように、周囲を巻き込んでいく。 その上空で、どこ吹く風と言わんばかりにカグツチが舞う。 銀の龍の背に乗るは、この発破解体の前兆を偶然にも感知した鴇羽舞衣一行。 「これで……よかったの? 」 舞衣は誰かに向かって問いかける。面と向かって言わなかったせいか、誰も彼女に答えようとしない。 彼女は知っていた。ジンが何のためにフォーグラーに行ったのか。 運び役も買って出たし、ジンの頼み通り迷うことなくゆたかたちを避難させた。 しかし最後の最後でHIMEは騙された。ジンの用意した三本目のアンチ・シズマ管の種明かしを知らなかった。 “イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ”の存在も、彼女はまだ知らなかった。 「ねぇ!よかったっていうの!?」 舞衣の質問に何も答えることができず、ゆたかはフリードを強く抱きしめて俯く。 彼女は何も聞かされていなかった。舞衣がジンと空に上昇する少し前から、彼女の意識は闇に落ちていたから。 眠り姫が覚醒したときには、何もかも終わった後だった。 「爆発が起こったのは、アンチ・シズマフィールドが発生した後だ」 ジンが余分に保管していたシズマ管をデイバッグから取り出して、しれっとねねねが返事をする。 彼女の右手で淡く光るシズマ管の内容物は、とても穏やかに状態を保っている。 一度アンチ・シズマフィールドが展開されれば、シズマ・ドライブが世界を崩壊させることは永遠に無い。 螺旋王に作られし酸素欠乏のバッドエンドは、遂にお蔵入りとなったのだ。 「作戦は失敗じゃない。あたし達が無理に付こうもんなら……終わってたよ」 抑揚を押し殺して話すねねねは、この結末を薄々予感していたのかもしれない。 “イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ”は彼女の悲願だった。 存在を直接伝えずとも、情報を回りくどく、ジンに仄めかしていたのかもしれない。 「……ジンが一度でもそう言った!?ねねねさんが彼に聞かなかっただけじゃない!!」 ジンが皆に絵空事を話し始めてからカグツチに乗るまで、ねねねは彼を止めることはできなかった。 “それでもジンならやってくれる”という得体の知れぬ期待を、ねねねは選んでしまったのだ。 淡々とする彼女の態度は、椿姫の役を買って出た裏返しかもしれない。 「聞かなくたって分かるだろ」 ねねねの肩を掴んで迫る舞衣を、無骨な男の腕が引き止める。 この現状に堪え切れないと目で訴える彼女に、スパイクは一枚の手紙を見せた。 “領収書”と銘打たれたその筆跡に、舞衣は見覚えがあった。 「いい奴だったさ。俺たちが知ってる通りのな」 舞衣が手紙を受け取ると、スパイクはそれっきり何も言わず、葉巻に火を点けながら背を向けた。 ◇ “領収書” 王様からの永遠のお預け 確かに盗ませていただきました 太陽も月も紛い物ですが 民が飢え死ぬことはありません 盗んだ物を“使う”のは もっと相応しい方にお譲りします 根無し草の王ドロボウは 盗むことにしか興味がありません なぜなら盗むことは 多分 最高の賛美だから 今までも 未来も 終わることなく この世が賛美に値する限り 王ドロボウは 盗み続けるでしょう ◇ スパイクは未だ自壊し続けるフォーグラーの末路を見届けながら、煙を吸い込む。 口に広がるかすかな苦味が、湿りきっていた顔を歪ませた。 彼が吸っている葉巻は、先ほど地上で口から落とした一本ゆえ、少し砂がついていた。 (メメント・モリ……失敗しても、せいぜい死ぬだけってか) 砂埃は払ったつもりだったでも、こういった物はなかなか落ちないものだ。 本当は不衛生極まりないのだが、スパイクは敢えて煙を味わった。 この葉巻はジンから譲り受けた、言わば置き形見であり、最後の接触に立ち会った証だから。 (螺旋力とやらがそっぽを向くわけだ) いまいち腹の底が見えずとも、どこか脱力させられるあの少年は、信頼に値していた。 そのジンがいつの間にかスパイクのズボンに初心表明を投函していたのだ。 あの質問に対するジンの答えがこれだとしたら、自分は何と答えるべきだろう。 (本当に“死ぬには良い日”だったのかよ。冠を捨てちまった王様は、眠るしかねぇんだぞ) 月明かりで淡くなった夜に、深く長く煙を吐き出すと、スパイクはチラリと後ろを見る。 向こうではジンの手紙を食い入るように読みながら、同志が思い思いの感情をぶつけていた。 心の奥底では孤独を良しと受け入れているスパイクとは違い、彼女たちはどれほど真っ直ぐか。 (あいつらみたいに、惹かれてみろってのか。涙が出るくらい――……ん?) ぼんやりと見ていた両目を擦ってスパイクは視界を明確にする。 小さな小さな何かがカグツチに向かって来たからだ。 飛来物はねねねたちの肩を通り過ぎ、持ち前の動体視力で捉えていたスパイクの右手にパシッと綺麗に収まった。 それはジンが持っていた死芸品、夜刀神。刀身には一枚の紙が結び付けられていた。 『あなたの頭上に輝く星が流れた夜に あなたの故郷でお会いしましょう HO! HO! HO! 永らえの王ドロボウ』 咥えていた葉巻を投げ捨て、賞金稼ぎはすっくと立ち上がる。 顔をぐしゃぐしゃにしている淑女たちへこの紙切れを渡すために。 文面の意図を読みとれば、これは待ち合わせの約束。 いつどこで会えるのかはわからない。実に気の長い話だ。 (またな、王ドロボウ) ……それでも、遅かれ早かれ――巡り合えるはずだ。 含み笑いを添えて、スパイクは同志に手紙を差し出す。 あんたは、どうなんだい DO YOU HAVE COMRADE? 時系列順に読む Back HAPPY END(12) Next HAPPY END(14) 投下順に読む Back HAPPY END(12) Next HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ヴィラル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) シャマル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) スカー(傷の男) 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ガッシュ・ベル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 菫川ねねね 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) スパイク・スピーゲル 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 鴇羽舞衣 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 小早川ゆたか 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ジン 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ギルガメッシュ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) カミナ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ドモン・カッシュ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 東方不敗 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ニコラス・D・ウルフウッド 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) ルルーシュ・ランペルージ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) チミルフ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 不動のグアーム 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 流麗のアディーネ 285 HAPPY END(14) 285 HAPPY END(12) 神速のシトマンドラ 285 HAPPY END(14)
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天国とは神のおわすことなり ◆JvezCBil8U 暗く、眩い星の海を、硝子の階段が一直線に割っている。 いや、硝子と見えたのは錯覚か。 蛍のような淡く白い光の粒子が、階段の形を描き出しているのだ。 その輪郭は薄らと滲み、虚空の闇へと溶け消えていく。 ここには天も地もない。 ただ黒一色の空間に、彩光の渦が配置されているのみだ。 もしかしたらそれらは星ですらないのかもしれない。 生き物のように細動を繰り返す煌めきは、重力から解き放たれた雪とも呼ぶべき幻想的な光景を見せつけてやまないのだから。 例外は一つ。 何処から続いているとも知れない儚い道、高みへと続く梯子だけ。 その行き着く先に――在り得べからざるモノが現出していた。 本来そこに鎮座しているべき宮殿、あるいは聖堂は、今は白い霧に包まれ姿を隠している。 その霧は、まるで意志を持つかのように感情を大いに表して、昂ぶっていた。 ――しばしの沈黙と蠢き。 そして、不意に。 霧を構成する水滴の一つ一つが、何かを穿つかのように一点に凝集する。 豪風を生む。 天災が降誕する。 凄まじい勢いで、天の果てを貫く。 同時――世界を埋め尽くす雷の帯が、この空間を支配した。 地獄の猛犬の叫びすら赤子の声にも等しく感じられる咆哮が、耳に聞こえる全てとなる。 霧の白と、雷の白。 二つの意志によって生み出された、二つの白。 闇がしばし塗り替えられ、然る後に静寂を取り戻す。 ――何一つ変わらない光景が、ただそこに存在していた。 彼らの試みは大いなる流れに呑み込まれ、塵一つとて残さない。 * シンセサイザーと歌い声のハーモニー。 あるいは、遠目より響く唄への不協和な伴奏。 嵐を呼ぶ風と共に訪れた不意の客。 大きな大きな女性の像の、その作り出す異常な状況に傾注していた4人――いや、3人にとって、闖入してきた電子音は唐突に過ぎた。 ある者は悠然と笑い、 ある者は目を細め、 ある者は口を開け、 三者三様の反応は、目を細めた一人に収束される。 視線を受けてひとまずの治療を終えたゾルフ・J・キンブリーが懐に入れて取り出したるは、2つの携帯電話。 その片割れが、この場で最も避けるべき騒音を奏で続けている。 ――キンブリーに支給された物品の一つこそ、これら一対の携帯電話である。 「う、うわ、うわわわぁ……っ! き、キンブリーさん! それっ、取れっ……じゃなくて、取って下さいっ!」 「はて、『取る』……と言いますと?」 慌てふためく森あいは、そこでようやくキンブリーが『携帯電話』の知識がないという事に思い当たる。 見ればキンブリーは形容しがたい種類の笑みを浮かべ、目の前の物体を矯めつ眇めつしているようだ。 ……このまま放っておけば相手が諦めて電話を切ってしまうかもしれない。 となると、その人に迷惑がかかってしまう。こんな状況で電話をかけてくる程度には友好的な相手が、だ。 それは、この心細い状況で自ら蜘蛛の糸を振り払ってしまうように思えて――、 「ちょ、ちょっと貸して! ……下さいっ!」 仕方なく森は、キンブリーの弄ぶカラクリの小箱、その片方に手を伸ばす。 『なぜキンブリーが携帯電話を持っているのか』 『持ち主が使い方も知らない携帯電話に掛けてくる相手とはいったい誰なのか』 『どうして、この図ったようなタイミングで電話をかけてきたのか』 そんな事に思い至る暇もないまま、日常の習慣で森はぱかりと画面を開く。 そこに示された名前は、彼女の知らない外国人の名。 「じょん、ば……?」 何も知らない森は、ついついその名を読みあげようとして――、 「あっ……!」 更に横から、掻っ攫われた。 趙公明が胡散臭いほどに爽やかな笑みを浮かべ、ウィンクしつつ通話ボタンを押す。 と、ぽん、と小さな風とともに自分の肩に手が置かれた。 ようやく気付く、ウィンクをして見せた先は自分ではないのだ、と。 「ふむ……、分かりました。 あいさん、どうやら私たちではなく彼が担当すべき事案のようです。 邪魔をしてしまうのも悪いですし、少し離れたところでこちらの――彼女の処遇をどうするか決めるとしましょうか」 振り返れば、キンブリーが狐のように目を細めて微笑を浮かべている。 肩に置かれた手の存在感が、何故か気持ち悪い。 大した力は入っていないのに、まるで万力で締め付けられるかのように伸ばした手が動かない。 首元の手がまるで刃物のように感じられて、森は自分でも気付かないうちにキンブリーの言う通りに動いている。 動かされている。 * 「……やあ! 数時間……いや、既に半日ぶりだね」 橋の方に向かったキンブリー達が十分に離れたのを確認し、ようやく趙公明は第一声を放つ。 「“彼”の部下としての役職名と、君自身の持つ能力と――、 二重の意味で“ウォッチャー”である君がわざわざどうしたんだい?」 電話の相手が、何がしかを囁いた。 轟、と、吹きつける風の音に掻き消され、声の主の台詞は趙公明以外の誰にも聞き咎められることはない。 「……御挨拶だね。あそこにあるだろう映像宝貝は僕が千年もかけて作った舞台装置だよ? 所有物を取り戻しに行って、何が悪いのかな」 巻く風は朝方に比べ次第に、着実に強くなってきている。 見れば、空の彼方に黒雲の帯が手繰り寄せられつつあるのが確認出来た。 雨か、雪か、はたまた嵐か吹雪か。 遠からず、この島は天の気まぐれに付き合わされることになるのだろう。 「あそこで起こるであろう舞踏会への招待状を握り潰すなんて! 普段の僕ならば聞き入る耳を持たないが、“彼”のお達し……という訳ならば話は別か。 トレビアーンな美的センスの同志の言葉とあらば、確かに僕も無視はできないからね!」 ――そう。 天候を統べることこそ、“神”にとっては古来より最も普遍的に弄ぶ力の一端だ。 遥か悠久の昔から、人は天の神に祈る。 雨をもたらし、豊かな恵みを下賜したまえと。 岩戸を開けて、陽光を眼下に与えたまえと。 「だが――、華やかなるステージを見て僕に動くな、というのはあまりに残酷! 無碍に断るのも好ましくないから、様子を見る段階は確かに踏まえよう。 だが、最終的に僕がどう動くかは僕が決めさせてもらう! 僕はあくまで利害の一致に基づく協力者、という事を忘れた物言いは感心しないな」 神を覆う薄靄のヴェールは、今まさに着々と剥がれ続けている。 「……まあ、“彼”の事だ。 こう告げる事で結果的に僕がどう動くのかすら、最初から織り込み済みなのだろう? 要するに、僕がどれだけ好き勝手にやろうと予定に狂いはあり得ない。そして、僕もそれで構わないよ。 何故なら“彼”は“ユーゼス”や“ゴルゴム”、そういう次元に佇む存在なのだからね!」 趙公明が言葉を切る。 すると電話相手はそれを待っていたのか、別の話題を新たに振った。 彼の妄言はその殆どが聞き流されていたのだろう。 あからさまに疲れたような溜息が、確かに受話器の向こうから届く。 天に太陽は輝いているのに、張り付くように辺りの気温は一向に上がらない。 心なしか、吐く息が白く色づいてきてさえいるかもしれない。 「……成程ね。“ネット”も思惑通りに軌道に乗り始めているのか。 となると、その掲示板とやらに麗しき僕の動画をリンクとして張り、皆に知らしめるのも面白いかもしれない! いや、blogとやらを拓いてみせるのも面白いかもしれな――、ん?」 電脳の海を使ったロクでもない催しを脳内に展開する趙公明の耳に、少しばかり予想外の話が届く。 「……ふむ。いいだろう、代わってみたまえ。 一体僕にどういう用事かな?」 聞けば、電話を代わって自分と話したい御仁がいるらしい。 見知った相手の名前を聞かされ、趙公明は鷹揚と頷いた。 そして耳に入るは、まさしく最強の道士と謳われる傍観者のその声が。 『何時如何なる時でもあなたは全く自分というものがブレませんね、趙公明。 それは確かに、あなたの強さではありますが』 「申公豹! 君がわざわざ僕に連絡を取るとはどういう風向きだい?」 旧友と出会った時のように声に喜色を滲ませて、気取ったポーズを虚空に見せる。 様にはなっているものの、いちいちその所作は演技臭く、くどいと言わざるを得ない。 『……いえ。いくつか不測の事態が発生しましてね。 あくまで我々にとっては、ですが。 王天君などは不満を隠すどころか苛立ちを露骨に表に出していますが……、おそらく分かっているからこそでしょう。 口では予定が狂った、などと言いつつも、その実掌の上で駒を踊らせているだけの“彼”の性格を』 なんでも紅水陣を用いての雑用に赴かされたのだとか。 封神計画の裏の遂行者であった頃からの苦労人ぶりに、ぶわっと趙公明は目の幅の涙を流す。 「――なるほど、確かに“彼”ならば僕たちにさえ全てを告げないのはむしろ当然だろう。 おそらくあのムルムルであっても全貌は知らされていないだろうね。 それどころか、僕たちがそれぞれに知らされた断片情報を持ち寄ってさえ、その意図にたどり着けないかもしれない! 全く、実に素晴らしい脚本家だよ、“彼”は!」 まあ、そんな気遣わしげな所作が長続きするはずもなく、趙公明はコロコロ表情を切り替える。 既にその眼の中にはキラキラと輝く星が散りばめられていた。 “彼”とやらによほど近しいものを感じているのだろう、美的センスの相性もあって親愛すら抱いているらしい。 そんな奇矯者に対する反応も手慣れたもので、申公豹は相手の言葉を遮って話を切り出した。 『まあそれは置いておいて、本題に入るとしましょうか。 ……私は現時点を以って主催者を辞め、傍観者に戻ります』 ――沈黙。 珍しく、趙公明が顔の表情全てを消す。 僅かに言葉を口の中で転がして、平坦な口調で紡ぎ出した。 「…………。 太公望くんが斃れたからかい? それとも、他に理由があるのかな。 このバトルロワイヤルに僕や王天君を誘った当人が、最大の目的が消えてしまったから手を引くというのは――、 いささか、身勝手に過ぎないかな?」 また――一迅。 強く、鋭く、寒風が吹き付け走り去った。 貴族衣装が音とともにはためいて、ふわりと棚引いては落ち着いていく。 『無論、太公望の肉体の喪失が理由の大きな部分を占めているのは確かです。 始まりの人に戻る前の太公望と戦える――、それがまたも難しくなった以上はね。 ですが理由は、それだけではない』 一拍の静寂を置いて、申公豹は語る。 『……見届けてみたくなったのですよ、あなた達全員の行く末を。 その為には当事者よりも傍観者――“観測者”と言い換えてもいいですが――が望ましい。 その意味では、私は今しばらくこの祭事に関わり続けます。 場合によっては、また積極的に関わらせて頂くことになるかもしれませんね。立場は変わるかもしれませんが。 その時はあなたたちと敵対する可能性すらあるかもしれません』 台詞の最後の一文に、趙公明は僅かに表情を取り戻す。 そこに現れたのは紛れもない、羨望だった。 「“彼”に牙を剥いたのかい? 申公豹」 敵対の可能性の示唆。即ち『戦い』がそこに生まれ出るという事は。 因果の因となる何らかを、申公豹は試みたのだという事。 そして戦いを至上とする趙公明にとって、それは胸を焦がすほどに手を伸ばしたい代物なのだ。 『そこまでのものではありません。ただ、“彼”という存在を試してみたくなったのですよ。 なにせ、『太公望が早期に退場する』という事を分かった上で敢えて私に協力を要請したとあらば、 “彼”は最初から利用するためだけに私に近づいたという事なのですからね』 「そしてそれは、ほぼ確実なことである――、と」 口端だけを、歪めて答える。 申公豹の機嫌を損ね、しかしこの催しに何ら障害が出ていないという事は。 申公豹が、淡々と事実だけを連ねているという事は。 『……ええ。 なので私と、タイミング良く彼に意見を申し立てようとするもう一人とで“彼”と相対することになったのですが。 やはりといいますか、私では――私たちでは、“彼”に傷を与える事にすら手が届かないようです』 「ほう?」 まさしく、思った通り。 『雷公鞭を放ったところで、雷の全てが“彼”の横を通りすがって行くのですよ。 まるで、十戒の導き手が海を割るように。 その中で“彼”は悠然とただ立っていました。指一つ動かさずにね』 素晴らしい、と、その一言しか思い浮かばない。 “彼”との接点を作ってくれたこと。 それはまさしく申公豹に感謝すべき事で、だからこそ身勝手さと相殺して進ぜよう。 極上の笑みを浮かべながら、趙公明は一人頷いた。 『“彼”の前に力は無意味です。 手を届かせることが出来るとすれば、それは力ではなく――』 そして、受話器を手にしたまま、ゆっくりと首をを動かしていく。 視線の先に在るものをしっかと捉えながら、呟くように話を打ち切った。 「……失礼。どうやらエルロック・ショルメくんが来訪してしまったようだ」 言葉だけ見れば、唐突な闖入者に対応する字面。 されどその態度は穏やかに過ぎて、分かっていて敢えて聞かせたのかとさえ勘繰る事が出来てしまう。 一連の、会話を。 「さて、招かれざるマドモアゼルこと、ガンスリンガーガールあいくん。 キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね?」 優雅な一礼を披露しながら、趙公明は携帯電話の電源を落とす。 そのまま念を押すかのように告げた言葉には、一切の温かみが存在していなかった。 酷薄な笑みとともに、金の髪持つ男は少女を見下ろして動かない。 ――何処から聞いていたのだろう。何時からそこにいたのだろう。 森あいも、ガクガクと体を震わせたまま動かない。 彼女は、知らないのだ。 キンブリーが、趙公明が“神”の陣営に座する事を知った上で、敢えて手を組んでいた事を。 「彼は持っている異能も頭脳の聡さも特別だからね。 こうして僕のようなものが近くにいるのも――、全く以って不思議ではない、と思わないかい?」 だから、こんなにも簡単な口車で勘違いをしてしまう。 『善良かつ蘇生の力を持つキンブリーを監視するために、趙公明が彼を騙して側にいたのだ』と。 趙公明は、嘘を吐いてはいない。 だからこそ、その言葉の響きが確からしさを伴って森に突き刺さった。 幾重もの雑多な考えが、森の脳内を乱舞する。 それは取り留めもなく拡散し、これからどうすべきかというのも纏まらない。 「……ぁ、」 ただただ、目の前の男が自分たちをここに放り込んだ連中の一味だと、それを知ってしまった恐怖が膨れ上がり、渦巻いている。 ごく、という唾を呑む音がやけに生々しく響いた。 キンブリーに頼りたい、という選択肢が真っ先に浮かび、しかしそれは趙公明の第一声が否定し尽くしている。 キンブリーくんにこの事を告げたらどうなるか……、分かっているね? 何度も何度もその一声がリフレイン。 もう、彼女にキンブリーを疑う余地はなくなっており――、だからこそ、彼の下に戻る事はできなくなった。 趙公明を出し抜かねば未来はないと、彼女の脳は勝手に決断を下してしまう。 植木を蘇らせるという小さな願いを叶えるために、キンブリーをこの男の魔の手から助けねばならないのだ、と。 押し潰されそうな重圧の中、一人ぼっちの彼女は息を荒くする。 不意に、じり、と音がした。 気がつけば静かに、趙公明はこちらににじり寄ってきていた。 「……う、ぁ、やだぁ……っ、ひゃ」 ずい、と押し出された手が禍々しく、トマトを握り潰すように脳天を掴もうとしている。 そこが、限界だった。 訳の分からない衝動が風船を割るかのように弾け飛ぶ。 「ひ、ぁ、わぁぁぁああぁぁあぁああぁぁあぁぁぁああぁああああぁぁぁああああぁぁぁ……っ!」 何処へ向かうとも知れず――、森あいは、駆けだした。 キンブリーを趙公明から救い、優勝させ、皆を蘇らせることだけをよすがとして。 そんな儚い砂の城だけが、今の彼女を彼女たらしめる唯一の頼り。 その幻想がぶち殺された時、彼女は果たしてどこへ落ちていくのだろうか。 知るとするならば、それはきっと“神”だけだろう。 【H-08/三叉路付近/1日目/午前】 【森あい@うえきの法則】 【状態】:疲労(中) 精神的疲労(中)、混乱 【装備】:眼鏡(頭に乗っています) キンブリーが練成した腕輪 【道具】:支給品一式、M16A2(30/30)、予備弾装×3 【思考】: 基本:「みんなの為に」キンブリーに協力 0:……植木……ごめんね…… 1:キンブリーを優勝させる。 2:鈴子ちゃん…… 3:能力を使わない(というより使えない)。 4:なんで戦い終わってるんだろ……? 5:趙公明からキンブリーを助け出したい。 6:趙公明に恐怖。何処でもいいから急いで逃走。 7:安藤潤也に不信感。 【備考】 ※第15巻、バロウチームに勝利した直後からの参戦です。その為、他の植木チームのみんなも一緒に来ていると思っています。 ※この殺し合い=自分達の戦いと考えています。 ※デウス=自分達の世界にいた神様の名前と思っています。 ※植木から聞いた話を、事情はわかりませんが真実だと判断しました。 ※キンブリーの話を大方信用しました。 ※趙公明の電話を何処まで聞いていたかは不明ですが、彼がジョーカーである事は悟っています。 ※どの方角へ向かったかは次の書き手さんにお任せします。 小さくなる彼女の背を一瞥し、趙公明はやれやれと嘆息する。 淑女たるものもっと優雅に振舞うべきだというのに。 少し脅し過ぎたとはいえ、せめてその銃で自分を打倒しようという気概くらいは見せて欲しかった。 聞かれてしまったのは少し注意不足だったかもしれない。 だが、フォローのおかげでこれはこれで面白い事態になったと言えるだろう。 戦闘快楽主義たる趙公明は、だから再度電話を手にすることにした。 掛ける先はWatcherでも最強の道士でもなく――、 * 見よう見まねで電話を取ったキンブリーが趙公明と待ち合わせたのは、橋の手前。 ――灰色づき始めた空を見渡せる、拓けた空間に二人の男が集い合う。 「……やれやれ。 だから勝手な事はするなと言ったのに」 あらぬ方向を見ながら独りごちるキンブリーの言葉は、無論森あいという少女に向けたものだった。 「おや、反応が薄いね。 少しばかり残念がるか、あるいは僕に憤ってくれた方が面白いのに!」 道化じみた態度を崩さない趙公明への対応も最早手慣れたもの。 眉を下げたうすら笑いを返しつつ、両手を開いて肩を竦める。 「その状況ではあなたの対応は及第点ですよ。 要は私に信を預けたという状態がクリアされてれば良い訳ですからね。 しかし――、これはあなたに同行することがやや難しくなったという事でもある。 今しばらくは平気でも、場合によっては後々別行動を考えなくてはいけないでしょう」 つまり、これからどうするか。問題はそこに集約される。 ひとまず趙公明は、向こうに見える巨大な女性の立体映像に関しては静観するよう釘を刺されたらしい。 が、この男の事だから、首を突っ込むのも時間の問題だろう。果たしてどこまで言いつけを守るやら。 他にも聞かされた話のいくつかでは、ネット、とやらにも興味が惹かれる。 この携帯電話という道具でも接続できるらしく、後で試してみようと心中呟く。 そして、それ以上にいろいろ楽しめそうな玩具が一つ。 「それにこちらとしても面白い素材を見つけましてね。 まあ、これ以上あの少女に構っても時間対効果は低いですし、丁度いい頃合いですよ」 目を向けた先には、倒れ伏した血塗れの少年が転がっていた。 肉体的にも精神的にも疲れ切ったのか今はぐったりとしており、しばらく目を覚ます事はないだろう。 正直な話、森あいにはこの少年との遭遇当初の険悪な雰囲気をもう少し耐えて欲しかったところだ。 血塗れで言動も支離滅裂なこの少年に恐怖を感じたのも仕方ないとはいえ、自分が彼と相対したほんの少しの隙に勝手に趙公明に助けを求めたとは。 その試みも何の意味もなかった上に、仕込みの仕上げを完了させることも出来なかった。 けれど、過去を振り返っていても得るものは何もない。 さしあたって今は目の前の少年――安藤潤也でどう面白おかしく遊ぶかを焦点にしよう。 邂逅のその瞬間を思い出す。 錯乱さえ感じさせる言動とともに覚束ない足取りでこちらの方へと駆けてきたこの少年は、 妲己や兄貴、金剛などと気になる単語をいくつも吐いていた。 どうやら何処の誰かは知らないが、下拵えを完璧に整えてくれていたらしい。 キンブリーでさえ舌を巻くその手腕は実に大したものだ。 また、この少年はキンブリー自身の事をどこかで聞きつけていたらしく、 自己紹介の折に『蘇生が出来るのは本当か』などと凄い剣幕で詰め寄ってきた。 無論、と鷹揚に頷いてやったら、その場で力尽きたらしくがくりとへたり込んでそのまま沈むように眠ってしまったのだ。 恐らくは先に仕込みを終えた白雪宮拳経由の情報だろう、種が育ってまた新たな種を育む様は見ていてとても嬉しいものである。 まさしく文字通り、糸を切ったように唐突に眠り込んでしまった少年。 まだまだ詳しい話は全く聞いていないが、それは目覚めてからのお楽しみにしておこう。 もう一つの問題として、さて、この治療を施した少女をどう扱うか、というものがある。 こちらもまた目覚める様子はなく、予定通り打ち捨てておくのが賢明か。 なにせ森あいがいなくなったとあれば、まさしく不要な代物でしかないのだから。 どうせはぐれるのなら、せめて無駄に力を使う前にしてほしかったですね、と内心愚痴をこぼすキンブリー。 まあ、一見ガラクタにしか見えないものにも使い道が残っている時もあるのも確かだ。 ひとまずこちらは保留とすべきか。 「――話を戻しましょう。 やっと合点がいきましたよ、私にこんなものが支給された理由がね。 あのカタログにあった“交換日記”――それがこの、ケイタイデンワ、とやらの機能だったとは」 この鬼札と彼自身の遭遇さえ予定されたこと。 そのサポートの道具まで目の前にある事に嘆息するも、悪い気はしない。 つまりはそれだけ、自分は“神”の陣営に近しいと見込まれているということなのだから。 頬肉をわずかに吊り上げ、く、と快を漏らす。 「まさしくお誂え向きに僕たちのために用意されたものだろうね! たとえ別行動をしたとしても互いに連絡し合い、フォローをしあうことが出来るアイテムだ!」 未来日記所有者7th――戦場マルコと美神愛。 本来は彼らが持っていた未来日記こそが、今、キンブリーと趙公明がそれぞれ手に持つ“交換日記”だ。 その機能は簡潔に説明すると、お互いの未来を予知し合うというものである。 片方だけ用いるならば“雪輝日記”とさほど性能に差はないが、二つ組み合わせることで所有者たちの“完全予知”を行う事が可能となる。 総合的な情報量が多いが雪輝中心の未来のみを予知する“無差別日記”+“雪輝日記”と違い、 情報量そのものは少ないものの使用者たち双方の未来をカバーすることが出来る性質を持つ。 逆に言えば。 所有者自身の未来を予知する事は出来ず、有効活用するためには相方との連携が必須とされる未来日記でもある。 「……加えて、使用にはリスクが伴う。 使用者の首輪から半径2m以内でこの“プロフィール欄”を編集し、本人の名前を入力することにより機能を解放することが出来ますが――、」 本来ならばマルコと愛専用の未来日記をこの殺し合いで用いることが出来るようにする措置なのか、 手順を踏むことで予知対象を変更することが可能だと説明書きには記されている。 “マルコ”の携帯電話からは“愛”の携帯電話の使用者の、“愛”の携帯電話からは“マルコ”の携帯電話の使用者の予知が可能となるようだ。 一見便利にもほどがあるアイテムだが、しかしキンブリーは使用に躊躇する。 そうは問屋が卸さないとばかりに説明書きの続きには無視など到底できない記述が存在していたのだ。 はあ、と心底渋い顔で長い長い息を吐く。 「……止めておきましょうか。現状そこまでの危難も存在しませんし、使う必要はないでしょう」 研究対象としても非常に興味深いし、未来予知によるリターンは非常に魅力的だが、致し方あるまい。 何より、この未来日記を使用するには相方への絶対の信頼が必要不可欠だ。 自分の未来を予知されては、いざ敵に回った時に確実に詰む。 ……特に。 現在の自分の相方のような、絶対に油断のならない存在に対しては、尚更。 向こうの行動を予知できるのはこちらも同じだが、地力の差が圧倒的だ。 策を弄してもその策まで知られてしまうようではお話にならないのだから。 確かに感性の近さなどから親近感のようなものは無きにしも非ずだが、流石に自分の未来を預けられるほどではない。 そもそもが唐突な出会いだったのだ、何時この協働関係が崩れてもおかしくない以上、身を委ねるには不安が過ぎる。 内心の不信を押し隠しながら、ちらり、と横目で趙公明を見る。 「……な、」 絶句。 さしものキンブリーであろうと、ただ、絶句するしかない事態がそこにはあった。 珍しく口をあんぐりと開け固まったキンブリーの耳に、ゲーム版封神演義のカラオケで披露された麗しき子安ボイスが入り込む。 「この電話が破壊された時、プロフィール欄に記された名前の持ち主もまた、死亡する……? 構わないじゃないか、戦いにはリスクが付き物だ! 自身が敗れる可能性もないまま力を振るうのは断じて僕の望む闘争などではない――、ただの子供の癇癪さ」 趙公明は目の前で、己自身の名前をプロフィール欄に入力して見せていた。 そして――、にこやかにそれを自分に放り投げてよこすのだ。 動けない。 目の前の奇行に理解が及ばず、時が完全に凍りついている。 だってそれは、心臓を手に握らせるのと同じこと。 キンブリーが今、受け取った携帯電話をちょいと割り折っただけで、たったそれだけでこの男は死ぬことになるのだ。 だと言うのに、趙公明は静水の如く全く揺らがない。 態度の意味が、分からない。 絞り出した声は途切れ途切れで、キンブリーの脳内は白に塗り潰されそうなのが目に見える。 「……一体、何を……考えている、のですか? 仮に今ここで私がこの携帯電話を破壊したら、あなたはあっさり死ぬことになるのですよ? 正面からあなたを倒すのは難しいでしょうが、握った電話の破壊だけならやってやれない事はない。 折しも今、あなた自身の言った通りに」 困惑を通り越し、狼狽とさえ呼べる反応を返すキンブリー。 趙公明はそれを見て満足したのか破顔し――、 「ハァーッハハハハッ! 愛さ、愛だよキンブリーくん!」 場違いな単語で、疑問の全てに答えて見せた。 「愛……?」 「そうとも。僕は君がそんな事をしないであろうという事を確信している。 親愛、信愛、友愛、人愛、敬愛、恩愛……。 僅かな時間の付き合いながら、君の嗜好は僕がそれらの感情を抱くのに十分だった。 僕は君のその美学に敬意を払い、同時に親近感を抱いているのさ。 数多ある感情の全てに共通する一字があるのなら、それこそが真実。 これを愛と呼ばずに何と呼ぶのだろう!」 ブワリと趙公明の周りに何処からともなく黄金の花弁が舞い散った。 じぃ、と星を抱いて自分を見つめる真摯な瞳。 意識せずに、キンブリーの頬が思わず朱に染まる。 顔が熱を持つのを、自覚してしまう。 「愛――それは一なる元素。 僕はその愛を、これからも君と深めていきたいと思う!」 飛び込んで来いとばかりに鷹揚と両手を広げる趙公明。 何処までもまっすぐな視線は、確かにキンブリーへの十全の信頼を証明していた。 「……やれやれ。そうまで言いきられてしまっては、ね。 此方としても断ったら立つ瀬がなくなってしまうではありませんか」 キンブリーは、その強さに耐えられない。 目線を逸らす――、きっとそれは陥落を意味していたのだろう。 キンブリーは照れを隠すように頬を掌で隠し、自分自身の携帯電話を取り出した。 慣れない手つきで一字一字、慈しむように自分の名前を打ち込んでいく。 「……この催しを更に楽しむために最適な手段だと思ったからこそ、こうするだけですよ。 決して、あなたの為にした訳ではありませんからね」 相変わらず目線を合わさないキンブリーに、趙公明は静かに頷いた。 「無論、今はそれでいいとも。今は……ね」 「――ッ……!」 不意の言葉に息を呑み込む。 ようやく名前を打ち込むと、そこには確かに、手を取り合った自分たちの未来が示されていた。 「……ご自愛を。 流石に自分自身の命くらいは、己の手に収めておくべきですよ」 ゆっくりと歩み寄り、パートナーに電話を返す。 手と手で受け渡されるそれは、まるで指輪の交換のようだった。 観測者はここに、薔薇の花を幻視する。 いつしか真っ赤な花が、確かに咲き乱れていた。 【H-08/橋の手前/1日目/午前】 【趙公明@封神演技】 【状態】:健康 【服装】:貴族風の服 【装備】:オームの剣@ワンピース、交換日記“マルコ”(現所有者名:趙公明)@未来日記 【道具】:支給品一式、ティーセット、盤古幡@封神演技 橘文の単行本 小説と漫画多数 【思考】: 基本:闘いを楽しむ、ジョーカーとしての役割を果たす。 1:闘う相手を捜す。 2:映像宝貝を手に入れに南に向かいたいが、お達し通り様子見。 しかし、楽しそうなら乱入する。 3:カノンと再戦する。 4:ヴァッシュに非常に強い興味。 5:特殊な力のない人間には宝貝を使わない。 6:宝貝持ちの仙人や、特殊な能力を持った存在には全力で相手をする。 7:映像宝貝を手に入れたら人を集めて楽しく闘争する。 8:競技場を目指したいが……。(ルートはどうでもいい) 9:キンブリーが決闘を申し込んできたら、喜んで応じる。 10:ネットを通じて遊べないか考える。 【備考】」 ※今ロワにはジョーカーとして参戦しています。主催について口を開くつもりはしばらくはありません。 ※参加者などについてある程度の事前知識を持っているようです。 【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】 【状態】:健康 【服装】:白いスーツ 【装備】:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記 【道具】:支給品一式*2、ヒロの首輪、不明支給品×1、小説数冊、錬金術関連の本 学術書多数 悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数 【思考】 基本:優勝する。 1:趙公明に協力。 2:首輪を調べたい。 3:剛力番長を利用して参加者を減らす。 4:森あいが火種として働いてくれる事に期待。 5:参加者に「火種」を仕込みたい。 6:入手した本から「知識」を仕入れる。 7:ゆのは現状放置の方向性で考える。 8:潤也が目覚めたら楽しく仕込む。 9:携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。 【備考】 ※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。 ※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。 ※制限により錬金術の性能が落ちています。 ※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。 【安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX】 【状態】:疲労(大)、精神的疲労(大)、情緒不安定、吐き気、 右手首骨折、泥の様に深い眠り 【服装】:返り血で真っ赤、特に左手。吐瀉物まみれ。 【装備】:獣の槍、首輪@銀魂(鎖は途中で切れている) 【所持品】:空の注射器×1 【思考】 基本:兄貴に会いたい。 0:……。 1:旅館に行って兄貴と会う。 2:キンブリーから蘇生について話を聞く。 【備考】 ※参戦時期は少なくとも7巻以降(蝉と対面以降)。 ※能力そのものは制限されていませんが、副作用が課されている可能性があります。 ※キンブリーを危険人物として認識していたはずが……? ※人殺しや裏切り、残虐行為に完全に抵抗感が無くなりました。 ※獣の槍の回復効果で軽度の怪我は回復しました。 【ゆの@ひだまりスケッチ】 【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、洗剤塗れ、気絶 【服装】:キンブリーの白いコート 【装備】: 【道具】: 【思考】 基本:??? 1:ひだまり荘に帰りたい。 【備考】 ※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。 ※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。 ※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。 ※混元珠@封神演義、ゆののデイパックが三叉路付近の路地裏に放置されています。 ※切断された右腕は繋がりましたが動くかどうかは後続の作者さんにお任せします。 【交換日記@未来日記】 未来日記所有者7th、戦場マルコ&美神愛の所有する未来日記。 我妻由乃の“雪輝日記”の様に、特定の一人だけを予知する機能を持つ二つで一つの未来日記である。 使用者自身の予知は出来ないが、互いに未来を予知し合う事で完全予知を実現する。 今ロワには7thが参加していないため、携帯電話のプロフィール機能を用いることで予知の対象を変えることが出来る措置がなされている。 具体的には、使用者の首輪から半径2m以内でプロフィールの名前欄に本人の名前を入力することで機能が解放される。 予知の対象はもう片方の交換日記のプロフィールに記された名前の相手となる。 ただし未来日記のルールに則り、名前を入力した時点から携帯電話の破壊=使用者の死亡となる。 “無差別日記”や“逃亡日記”などで予知の対象変更が可能かどうかは不明。 * 1:【生きている人】尋ね人・待ち合わせ総合スレ【いますか】(Res 6) 1 名前:Madoka★ 投稿日:1日目・早朝 ID:vIpdeYArE スレタイ通り、人探しや待ち合わせの呼びかけをするためのスレです。 どこで敵の目が光っているか分からないので、利用する際にはくれぐれも気をつけて! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 6 名前:ポテトマッシャーな名無しさん 投稿日:1日目・午前 ID:mIKami7Ai 森あいさんと潤也さんのお兄様を探しています。 ご本人か行き先を知っていらっしゃる方がいましたら、ご連絡ください。 * 光の飛沫が形作る独演会。 半透明なパイプオルガンから噴水のように吹き上げては降り注ぐ金粉の流れが、天上の舞台を描き出している。 同心円状に拡散する煌めく粒子は、円盤の端に辿り着くと滝に呑まれて眼下に降り注いでいった。 まるで古代人の描いた地球のような円盤状の大地。 全天を闇と彩雲に包まれたその場所で、二つの影が世界を睥睨する。 木枠と扉だけが無数に宙に漂っており、その開いた向こう側には数多の人の生き様が映し出されていた。 ひとつは、純白のスーツに身を包み、長髪を後頭部で括った青年。 ひとつは、異形の剣を異形の身に佩く髑髏の男。 「事象を一面から捉える事は叶わぬ。 誰もが悪夢と罵る催事であろうと、兆しを待つ者には深淵へと渡された蜘蛛の糸として、千載一遇の好機となる折さえ在る。 我等の様に」 馬上の騎士が呟いたその声に、青年は応えを返さない。 ただ、その手に摘まんだ一輪の花を鼻に近づけ――、 「この美しく整った盤面に、願わくば」 虚空へと、投じた。 「なるべくなら良き日々が多くありますよう――」 花は光の濁流に飲み込まれ、千切られ、翻弄され――見えなくなる。 そして、誰も見届けることのない流れの中で、闇の中へと融け消え入った。 花の名前は曼珠沙華。またの名を彼岸花。 意味する花言葉は――、 時系列順で読む Back 燃えよ剣(下) Next 厨BOSS BATTLE-BERSERK- 投下順で読む Back 燃えよ剣(下) Next 厨BOSS BATTLE-BERSERK- 115 燃えよ剣(下) 安藤潤也 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻 108 Guilty or Not Guilty ゾルフ・J・キンブリー 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻 108 Guilty or Not Guilty 趙公明 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻 108 Guilty or Not Guilty 森あい 125 「あの未来に続く為」だけ、の戦いだった 108 Guilty or Not Guilty ゆの 126 ゆのっちが橋のたもとで錬金術師と出会ったの巻
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10話 後編 勢いを盛り返したキュルケとタバサがラングラーを追い詰める。 「いくわよ、タバサ!」 キュルケの声とともに、複数のファイア・ボールがラングラーに殺到するッ! それと同時にラングラーは鉄クズの弾丸を二人に向けて放つが、 タバサのウィンド・ブレイクがそれらを全て元の軌道からそらす。 二人を貫くはずだった鉄クズはギリギリのところで二人には当たらず、 その後ろの壁に突き刺さる。 そしてラングラーも、自分に向かってきたファイア・ボールは 全て唾を吐きかけた掌で消滅させる。 互いの技術と能力が、互いの攻撃を無力化する。 このままでは、押し込まれかねない。 ラングラーはそう思った。 相手の小娘メイジは二対一で戦うことで精神力の磨り減りを遅くしている。 しかしさっきから鉄クズを撃ちまくっている自分は、残弾にあまり余裕がない。 チョロい仕事だと思って補給二回分の鉄クズしか持ってこなかったのが、 この状況ではかなり痛い。 一回目の補給は既にしてしまったので、次の補給が最後になる。 今までのようにハイペースで撃ちまくることは出来ない。 しかし――手数を減らす事はできない あの青髪の小娘。 あれがいる限り、こちらの攻撃が直撃する事は望めない。 加えて今はこっちの攻撃を防御するのに徹してるからいいが、 こっちの攻撃の度合いが弱まればすぐ攻撃に参加してくるだろう。 接近戦に持ち込む、というのも考えたがすぐに止めた。 そんなことをしたら確実にホワイトスネイクが動く。 赤髪の小娘の炎を消しつつ、 JJFの射撃をほぼ凌ぎきったホワイトスネイクと接近戦で立ち回れるほど JJFは器用じゃないし、自分もそうじゃない。 このままでは、詰まれる。 その焦りが、ラングラーに一つの決断をさせた。 この二人の小娘を、カラカラのミイラにしてやると。 こんな小娘相手に「これ」をやるのは腹立たしいが、 やらずに負けて死ぬよりはずっとマシだ。 そしてキュルケのファイア・ボールの弾幕が一瞬途切れた瞬間、 ラングラーはJJFの両腕のリングを開いた。 鉄クズの弾幕が途切れる。 それと同時にタバサが素早くルーンを唱え、身の丈より長い杖を軽く振る。 ラングラーがJJFの腕のリングに唾を素早く吐き入れたのは、 それのコンマ一秒、二秒ほど後。 直後、タバサのエア・ハンマーがラングラーに襲い掛かる。 ゴォアッ! 唸りを上げて自分に迫る風圧の塊をラングラーはモロに食らい、 壁に叩きつけられる。 ドグシャァッ! 「があッ!」 自分の体に走った衝撃と鈍痛にラングラーが呻いた。 だが顔を苦悶に歪めながらも、ラングラーの口は笑みの形に歪んでいた。 JJFの腕のリングは既に閉じ、高速で回転していた。 そのリングの中で、先ほど吐き入れられた唾は拡散、分散し、 リングの中の全ての鉄クズに付着した。 無重力の世界を生み、さらに真空の世界を作り出すラングラーの唾。 それが、弾丸として発射される鉄クズをコーティングした。 この世界でラングラーが編み出した、 JJFの究極にして最悪の戦術が始まった。 「ようやく・・・追い詰めたってとこかしら?」 タバサのエア・ハンマーで確実なダメージを受けて膝を突くラングラーを見て、 キュルケはそう呟いた。 「まだ油断できない」 タバサはそれを制するように言い、杖をラングラーに向ける。 キュルケはそれに頷くと、タバサと同様に杖を構える。 二人とも残りの精神力にはあまり余裕が無い。 決着をつけるなら、次しかなかった。 そのときだ。 「しかし・・・お前らは・・・よく頑張ったよ」 ラングラーが二人に声をかけた。 エア・ハンマーをまともに食らった割には、その声に張りがあった。 「・・・どういう意味よ?」 警戒しつつ、キュルケが答える。 「まだハタチにもならねえってのに・・・トライアングルで・・・ オレとここまで・・・やりあえるとはな・・・恐れ入ったよ」 「だから何が言いたいのよ!?」 明らかに追い詰められた状況でありながらも余裕を崩さないラングラーに、 キュルケは得体の知れない恐怖を感じた。 タバサも口こそ開かなかったが、キュルケと同様にそれを感じていた。 「だがな・・・お前らは・・・これから詰まれるんだぜッ!」 瞬間、JJFがリングに残る全ての鉄クズを、部屋中に無差別に撃ち放った。 ドドドドドドドドドドドッ! 放たれた鉄クズは、あるものはキュルケ、タバサ、そしてルイズへと向かい、 またあるものは壁に突き刺さり、またあるものは壁を跳ねた。 タバサは自分たちの方向へ飛んでくるものを正確に見極め、 ウィンド・ブレイクで射線をずらす。 ルイズへと向かうものは、ホワイトスネイクがルイズのベッドをひっくり返し、 それを盾にしてガードした。 タバサはこの防御で、これでラングラーの攻撃が終わったと思った。 自分の方に向かってきた鉄クズ全てに対処しきったからだ。 だが――ラングラーの攻撃はまだ終わっていなかった。 ホワイトスネイクにはそれが分かっていた。 部屋全体にばら撒くような射撃。 ホワイトスネイクもこれでダメージを受けた。 この攻撃における、ラングラーの狙いは―― 「ソイツハ『跳弾』ダ! 警戒シロ!」 ホワイトスネイクが二人に向かって叫ぶ。 だが、それは遅すぎた。 いや、仮に遅くなかったとしてもこの世界には「跳弾」などという言葉は無い。 故にタバサがその言葉の意味を理解し、正確な防御に移る事は不可能だった。 ドシュシュシュシュシュシュッ! 直後、キュルケとタバサは全身に鉄クズの銃撃を受けた。 同時に二人の体から鮮血が飛び散る。 「がはっ・・・・・・」 「っ・・・く・・・・・・」 呻き声を上げながら崩れ落ちる二人。 「キュルケ! タバサ!」 ルイズが悲鳴を上げる。 「そんな・・・・・・なんで・・・・・・」 「『跳弾』ダ。鉄クズヲ撃ツ角度ヲ調節シ、 壁ヤ天井デ鉄クズノ弾丸ガ軌道ヲ変エルヨウニシタノダ」 「な、なによそれ・・・弾丸が壁とか天井とかで跳ね返って、 それがキュルケたちを攻撃したの? そんなの、ありえないわよ!」 「ダガ現実トシテ二人ハ銃撃ヲ食ラッタ。 ソシテ私モ、先程ソレデダメージヲ受ケテイル」 「そんな・・・・・・」 ホワイトスネイクの言葉に、打ちひしがれるルイズ。 「その通り・・・・・・だ。 そして今の弾丸・・・ただ身体に・・・穴が開くだけじゃあ・・・ない。 もっと・・・・・・面白く・・・なる」 「面白クナル・・・ダト?」 「そうだ・・・・・・見ていろ・・・・・・。 奴らの血で、この床と天井に真っ赤な水彩画を描いてやるぞ・・・」 場所は変わってまたトリステイン魔法学院の校庭。 ある者は命がけで戦い、ある者は盗みを働こうとするこの日の夜。 そんな夜に、二人の男女が校庭を歩いていた。 少女の方の名前はモンモランシー。 二つ名は「香水」。 そして一週間前に、恋人のギーシュに二股かけられた本人だ。 そして男の方は―― 「ああ、モンモランシー! 君は本当に美しいよ! 天高く輝くあの双月も、君の前ではその美しさが霞んでしまうほどに! いや・・・きっと彼らもわかっているんだ。 どれだけ輝こうとも君の美しさには敵わないってね。 だからああして輝きを弱めて、君の美しさを引き立てているのさ! きっとそうだよ! 僕の愛しいモンモランシー!」 …一週間前、モンモランシーがいながら二股をかけた、ギーシュその人であった。 そもそも何故最悪な関係に陥っていたはずの二人がこうして一緒に歩いているのか、それを説明せねばなるまい。 事の発端はギーシュがモンモランシーを夜の散歩の誘ったことであった。 ギーシュは二股かけてたことがバレて傍に女の子がいなくなった状態が一週間も続いていた。 それで寂しくなったからモンモランシーに泣きついたのだ。 だが実際に傍に女の子がいなくなる、という状況に陥って、真っ先にモンモランシーのところに来る辺り、 ギーシュとしての本命はモンモランシーなのだろう。多分。 浮気ばっかりしてるけど、多分そうに違いない。多分。 そしてモンモランシーの方も、それまではホワイトスネイクとの決闘で死に掛けたギーシュを心配はしたものの、 二股をかけられたことが思い出されて、あまりギーシュとは一緒にいたくない気分だった。 だが「一週間経ったから許してあげようか」という気持ちと、 やはりギーシュに対するまだ捨てきれない気持ちがあって、夜の散歩を了承した。 そしてさっきからもう10分もの間、ギーシュの歯が浮くようなお世辞をノンストップで聞き続けているのだ。 普通の女の子なら耳が痛くなってくるようなお世辞の数々だが、 モンモランシーには、むしろそれが気分がよく感じられた。 モンモランシーはおだてに弱いタイプだった。 だからこそ、ギーシュが他の女の子にフラフラと近づいて そのままお近づきになってしまうのをその時こそは怒っても、 そのうちすぐに許してしまうのだった。 二股駆けるギーシュがダメダメなのは言うまでも無いことだが、 モンモランシーも何だかんだでダメだった。 でもそうだからこそ、似合いのカップルなのかもしれないが。 ひたすらモンモランシーに愛の言葉を重ねるギーシュ。 それを頬を紅潮させながら聞くモンモランシー。 二人はまだ知らない。 今この瞬間も、この学院の中で死闘が続いていることを。 「くぅっ・・・・・・タバサ・・・大丈夫?」 「・・・大丈夫。まだ、やれる」 「ウソ・・・でしょ、それ・・・。 ギリギリのところで使えた魔法を、殆どあたしを守るために・・・・・・」 「・・・・・・大丈夫、だから・・・・・・」 そう言うタバサの顔は青ざめている。 無理も無い。 タバサが先ほどの攻撃で受けた傷は、鉄クズの直撃が右足に3つ、右腕に2つ。 鉄クズのかすり傷が、脇腹に1つ、肩に1つ。 また、キュルケは鉄クズの直撃が左足に1つ、左腕に1つ。 それのかすり傷が左大腿に一つ、頭に一つ傷が出来ている。 ラングラーの射撃が二人を襲う直前、タバサはウィンド・ブレイクを使っていた。 しかしそれは、魔力を殆ど込める間もなかった弱弱しいものだった。 にもかかわらず、タバサはそれの殆どをキュルケを守るために使った。 そのため彼女が受けたダメージはキュルケのそれよりも、 ずっと多く、そして深いものになったのだ。 傷の激痛で奪われそうになる意識を必死に留めながら、 タバサは思考を回転させる。 このままではまずい。 あの男・・・こちらが思っていたよりも遥かに強かった。 まさか、天井や壁で撃った鉄クズを反射させて、 想定外の方向からこちらを狙うなんて。 さっきのエア・ハンマーでダメージを受けたように見えたのは演技だったのか、 それともダメージを押してあの攻撃を仕掛けてきたか。 いずれにしても、今度は完全にこちらが追い詰められてしまった。 もう一度あの射撃を仕掛けられでも、今の自分ではそれを防御出来ない。 そう考えていると、ふと自分の体に奇妙な違和感を感じた。 体が、軽い。 まるで風に巻き上げられた落ち葉のように、まるで自分の体に重みを感じない。 さっきまで、あの男から受けた傷の激痛で体が鉛のように重かったのに・・・。 いや、違う! 「軽く感じている」などという程度ではない。 自分の体が浮いている! 風も無いのに、何かの力が働いているでも無いのに、 自分の体が宙に浮き上がっている! いや、そればかりではない。 手や足を動かすたびに体がグルグルと回転し、重心が定まらない! これは、一体。 「タ、タバサ・・・こ、これ!」 声がした方を見ると、キュルケの身体も宙に浮き上がり、空中で二転三転している。 一体何が起きた? さっきの弾丸に、何か特別な魔法でも仕掛けたのか? でもこんなことができる魔法は、系統魔法の中には無い。 ならば、こいつが使っているのは――。 「エルフの先住魔法・・・か?」 突然タバサに、ラングラーから声がかかった。 「オレと戦ったものは・・・皆・・・そう言う。 先住の魔法・・・エルフの魔法・・・とな。 当然だ・・・火の魔法・・・風の魔法は・・・使うことすら出来ず・・・ 土の魔法・・・水の魔法は・・・まともなコントロールさえ・・・出来ない。 このオレが・・・・・・『魔法殺し』と・・・呼ばれるのは、そのためだ。 だが・・・オレが使うのは・・・そんなものではない。 それらより強力で・・・それらより凶悪なものだ・・・。 その力で殺されることを・・・誇りに思うがいい・・・・・・」 先住の魔法ではない? だとしたら、一体何がこれを引き起こしている? 考えても考えても、自分に起こったこの現象が説明できない。 とにかく自分の体を固定しなければ。 そう思い、杖を振ってレビテーションを唱え始める。 一体どういう原理で浮き上がっているのかは不明だが、 レビテーションなら身体を魔法で浮かせ、身体を空中に固定できるはずだ。 そう判断してのことだった。 そして、状況が変化したのはその瞬間だった。 傷口から流れ出ていた血の勢いが、突然強くなった。 まるで傷口から血が噴出すように、溢れ出るように流血し始めた。 そして次第にそれすらも通り越し、瞬く間に流血の勢いは強くなり、 まるで噴水のように傷口から出血しているッ! 「こ・・・これは・・・・・・」 「・・・・・・」 自分の身に起こった現象に呆然とするキュルケ。 そして自分の体から血が吹き出るという現実に驚愕したのはタバサも同じだったが、 風のメイジであった彼女にはそれ以上のことが理解できた。 自分の周りから、極端に空気が少なくなっている。 それに呼吸もしにくくなっている。 このままでは窒息してしまう。 それ以前に全身の血液がなくなって、干からびてしまう! どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる! 自分はまだ、死ぬわけにはいかないのに・・・・・・。 そしてその様子を、ルイズも見ていた。 ルイズは、自分を責めていた。 何も出来ないばっかりに守られて、 それで守ってくれる人が死にかけているのに、それでも何も出来ない自分を。 守られていながら、助けることさえ出来ない自分を。 自分が水のメイジだったなら、二人を治療できた。 火や風のメイジだったなら、アイツと戦えた。 土のメイジだったなら、ゴーレムの一つでも錬金して時間稼ぎが出来た。 なのに自分はそのどれでもない。 自分は「ゼロ」だ。 何の魔法も使えない、役立たずの「ゼロ」。 一週間前のギーシュとの決闘は、自分に何か光が見えたように思えた。 爆発しか起きない「ゼロ」の自分でも、 役立たずの「ゼロ」じゃないんだと思えた。 だが現実は違った。 結局自分は何も出来ない、役立たずの「ゼロ」だった。 自分を助けてくれた人が窮地に陥っても、 それに何の助けも出せない「ゼロ」だった。 ルイズにはそれがどうにも許せなくて、そして悔しかった。 悔しさで涙がこぼれそうになった、その時。 「マスター」 自分の前に立っているホワイトスネイクから声がかけられた。 顔はこちらには向いていない。 「・・・なによ。ホワイトスネイク」 こぼれそうになった涙を拭って、ルイズは不機嫌に聞こえるように答える。 「アノ二人ノタメニ命ヲ賭ケラレルカ?」 「・・・当たり前よ。何でそんなこと聞くのよ」 「今アノ現象ハ、アノ二人ヲ中心ニ起コッテイル。 ソシテ二人ヲ助ケルニハ、マスターモアノ近クヘ行カネバナラナイ。 マスターガラング・ラングラーニ殺サレタナラ、二人ノ努力ガ無駄ニナル。 デアル以上、マスターハ私トトモニ行動シ、私ガ護衛シナケレバナラナイ。 故ニマスターモアノ症状ガ出ル空間マデ行カネバナラナイ。 ・・・ソレデモ助ケルノカ?」 「それでも、よ」 ルイズの言葉に、迷いは無かった。 「・・・キュルケトカイウ女ハマスタートハ不仲ダ。 ソシテタバサトカイウ小娘ハ今日初メテ会ッタバカリ。 命ヲ賭ケルニハ、アマリニモ安イ間柄ダ。 ナノニ、何故ソノ二人ノタメニ命ヲ投ゲ出セル? 親友デモ、血族デモナイ相手ニ何故ソコマデデキル?」 それは、ホワイトスネイクにとって率直な疑問だった。 以前ホワイトスネイクがいた世界 ――かつての自身の本体、プッチ神父とともにあった世界でのこと。 あの世界で戦った男――空条承太郎は、 娘を守るために千載一遇の勝機を捨てた。 そしてその空条承太郎の娘、空条徐倫もまた、 父親の記憶のためにプッチ神父を仕留めるための最大の好機を逃した。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親子だからだ。 互いに血を分けた存在だからだ、とホワイトスネイクは考えていた。 また、スタンドを探して世界中を巡った旅の中で、 プッチ神父を友の仇、親友の仇として襲うスタンド使いもいた。 そうしなれば、プッチ神父にスタンドを奪われることも、 その後にドロドロにされて死ぬことも無かったのに。 なのに彼らはプッチ神父に挑まざるを得なかった。 挑まなければ、自分の心に決着を付けられなかった。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親友だからだ。 互いが互い無くしては生きては行けない存在だからだ、 とまたホワイトスネイクは考えていた。 だが、この状況は違う。 今自分の主人の前で死に掛けている二人の小娘は、 主人の血族でもなければ主人の親友でもない。 なのにこの小さな主人は、そんな二人のために命を賭けると言っている。 何故そんなことが出来る? 何故自分の命をそこまで簡単に扱える? それが、ホワイトスネイクには理解できなかったのだ。 「ソシテ助ケタイ、トイウノハ自己満足カ? ソレトモ偽善カ?」 さらにホワイトスネイクは厳しい問いをぶつける。 「・・・そうかもしれない。 役立たずになりたくないって気持ちが、わたしの中にあるもの。 でもそれは二人を助けない理由には絶対にならない。 だから、助けるのよ。 わたしが助けたいから、助けるの」 それが、ルイズの真摯な思いだった。 確かにキュルケには気に入らないところもある。 タバサって女の子に至っては、助ける義理も何も無い。 それでも、見殺しには出来ない。 だから、助ける。 自分が助けたいから、助ける。 それが、ルイズの答えだった。 「ソウカ」 ホワイトスネイクはそう短く言うと、ルイズに向き直る。 そしてルイズを片手で抱え上げる。 「覚悟ハイイナ?」 「いつでも」 ホワイトスネイクの問いに、ルイズが短く答える。 「承知ッ!」 その答えにホワイトスネイクが力強く応えるッ! そして床を強く蹴り、二人の少女の下へと疾走するッ! 「なッ、なにしてやがるッ!!」 それに驚いたのはラングラーである。 無傷で確保しなければならない相手が自分が作り出した死の空間へと、 何のためらいも無くホワイトスネイクとともに突っ込もうとしているのだ。 このままでは「無傷での確保」は不可能。ならば、阻止するしかないッ! ラングラーは最後の補給を終えたばかりのJJFに腕を構えさせる。 ドンドンドンドンドンドンッ! そしてホワイトスネイクの動きを追うように、 JJFにありったけの鉄クズを撃ち放たせるッ! 計画性のカケラもない行動だった。 だが任務を完遂することの方が、ラングラーには重要だった。 しかしホワイトスネイクは速い。 放たれた鉄クズの半数はホワイトスネイクが通り過ぎた直後の空間を貫き、 ホワイトスネイクにはかすりもせず、 しかし残り半分はホワイトスネイクへと殺到する。 だがホワイトスネイクはそれらを拳で弾き飛ばそうとはしない。 逆にルイズを庇うようにガードを固める。 ドシュシュシュッ! そのホワイトスネイクに、いくつもの鉄クズが突き刺さるッ! その数、4発。 足に、脇腹、腕に、そして頭に着弾し、頭部に命中したものはその一部を吹き飛ばしたッ! しかしホワイトスネイクは止まらないッ! 苦しみもがきながら空中を漂うキュルケとタバサの元へと一直線に駆けるッ! そして、キュルケとタバサを苦しめる症状 ――真空の魔の手が、ルイズにも襲い掛かる。 ルイズの鼻から、突然鼻血が噴出す。 同時に、ルイズの呼吸も苦しくなってくる。 ホワイトスネイクが自身の腕からDISCを抜き取ったのはその瞬間だった。 そして抜き取ったDISCを間髪いれずにルイズの頭部に差し込むッ! 「命令スル。『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』」 ホワイトスネイクが、静かにそう命令する。 と同時に、ルイズの鼻血が止まった。 外気圧と体内気圧の差のために体内から血液が押し出されるのを、 この命令によって防いだのだ。 しかし、ルイズの呼吸が苦しいのは変わらない。 ルイズの周囲に殆ど酸素が存在しない状況を変えることは、 ホワイトスネイクのDISCの命令ではできないからだ。 しかし、血液が全て体外に押し出されてミイラになるよりは、 まだ死ぬのが遅い。 その僅かなタイムラグに、ホワイトスネイクは全てを賭けたのだ。 やがて、酸欠でルイズが意識を手放す。 ルイズは自分の意識が真っ白になっていくのを感じながら、 ホワイトスネイクが、二人を救ってくれることを祈った。 そしてホワイトスネイクは、キュルケとタバサの元へ到達した。 スデに意識を失っていた二人に、ルイズにしたものと同じ命令を差し込む。 後数秒でも遅れていたならば二人の命は無かっただろう。 しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。 あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。 そう決意してキュルケとタバサを背負うと、ラングラーのほうへ振り向く。 そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。 「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・。 ホワイトスネイク・・・テメー一体・・・何を、しやがった・・・」 「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」 そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。 真空の発生源であるキュルケとタバサはホワイトスネイクに担がれているッ! つまり、この状況は―― 「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」 ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。 だがすぐに壁に背がぶつかる。 もう後ろには下がれない。 正面から迫るホワイトスネイクは、 自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。 ならば―― 「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」 咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。 そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ! 「くらえッ!!」 ドンドン! そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。 だが狙いは甘かった。 大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。 ラングラーが一瞬抱いた真空への恐怖が、 その照準を正確なものにしなかったのだ。 だが、3つ。 それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。 しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。 だがホワイトスネイクは避けようともしない。 自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、 真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ! ドシュシュッ! そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。 ホワイトスネイクの、膝が落ちる。 勝った、とラングラーは感じた。 だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。 落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、 レスラーがタックルをかけるようにラングラーへと襲い掛かるッ! ホワイトスネイクはスタンドである。 そして今のホワイトスネイクは、 本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ! そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ! 「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」 それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、 壁にたたきつけられる。 JJFで防御する余裕すらなかった。 そして、真空の範囲にラングラーが入った。 真空が、ラングラーに襲い掛かるッ! 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。 そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ! (マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ! 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!) 完全に追い詰められた状況ッ! そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ! 「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」 ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ! 追い詰められ、生へとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、 壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ! そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。 そしてラングラーの体が、その後ろから押さえつけるホワイトスネイクのパワーに押され、ルイズの部屋から空中に放り出された。 その瞬間。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」 ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ! そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、 二人を取り囲んでいた真空地帯へ吹き込んだ突風に、 木の葉のように吹き飛ばされるッ! ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、 ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ! しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ! 手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。 (解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、 外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!) ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISCを抜き取る。 そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISCを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。 だがまだ油断は出来ない。 地上が、眼前に迫っている。 今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。 ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。 ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。 ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。 そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。 だが今ホワイトスネイクが抱え、背負うのは三人の人間。 抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。 そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。 しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。 着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。 出来るか。 ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。 その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。 そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。 無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。 だがホワイトスネイクは膝を突かない。 膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。 そして、耐え切った。 そのことを実感すると、 ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。 ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。 衝撃の発生源は腹部。 そこに目を向ける。 自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。 そして、やられた、と思った。 JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。 空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、 風圧に耐えていた。 そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。 落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。 そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。 ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。 もはや両足で立つこともできない。 そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。 ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。 「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・生かしておくつもりはねえッ!」 そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。 それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。 ダメージは、あまりにも大きかった。 これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。 そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。 「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」 そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。 「勝ったッ!!」 ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫んだ。 ドグシャアッ! ドシュンッ! 直後、二つの音が交錯する。 JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、 そしてそれとは別の音が校庭に響いた。 そして視界が真っ暗になる。 何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。 捻りかけて、理解した。 自分の額に、あの忌々しいDISCが突き刺さっている。 そのDISCに目隠しされているのだ、と。 そしてそうだ。 「これ」はさっき見ていた。 これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。 ホワイトスネイクはこのDISCで、自分の真空から三人を守っていた。 しかし、だとしたらその効果は一体・・・。 「ソノDISCノ効果・・・教エテヤロウ」 「!!??」 バカな!? 何故ホワイトスネイクが生きている!? ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。 手ごたえも十分にあった! …いや、本当にそうだったのか? 本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか? インパクトの瞬間、オレはヤツのDISCで目隠しされたんだ。 だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。 「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」 暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。 『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと? …何だとッ!? じゃあまさか、これからオレはッ!? 「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、 ペシャンコニナル。 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」 その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。 まず、息が出来なくなった。 正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ! そして破壊はさらに進行するッ! ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、 ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ! 「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」 声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。 呻きながらも、JJFに指示を出す。 自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。 だが、それもすぐに止められた。 JJFの腕が、動かない。 ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、 そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ! 「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」 しかしラングラーは止まらない。 JJFへの指示を止めはしない。 そして主人のダメージに従ってボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、 主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!! それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。 JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。 今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。 撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に当たり、 そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。 巨大なゴーレムの一撃ですら破壊できない壁に、目に見える形で損傷を与えた。 そして残弾が完全に尽きたのと同時に、 ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。 ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。 「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」 ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。 そして周りを見回す。 見回して、ひどい有様だと思った。 周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。 ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。 全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。 もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。 (シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?) 自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。 その時―― 「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」 バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。 どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。 「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」 「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」 声の主はやっぱりギーシュだった。 そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。 しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。 「・・・・・・何シニ来タ」 ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。 「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。 それで・・・感動したんだ! 不届き者から三人のレディーを守り、 満身創痍になりながらも勝利した君の姿に! そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ! 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう? それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、 レディーのために戦ったんだね! あのメイドを僕の勝手から守ったのも、 レディーを守るという君の新年に基づいたものだったと分かったんだよ! はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ! 何も言わずとも分かる! 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」 延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。 やったのはモンモランシーである。 しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。 一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。 お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく色々と心配だ。 そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、 じろりとホワイトスネイクをにらむ。 ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。 「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。 でも・・・・・・」 そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。 すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。 水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。 ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。 「この三人がケガをしてるのは別の話よ。 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ? ・・・だったら私がしてあげるわよ。 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、 水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、 魔法薬での治療が必要になるけど。 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。 勘違いしないでよ」 「・・・覚エテオク」 ホワイトスネイクがそれだけ言うと、 モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。 そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。 「どうしたのよ、ギーシュ?」 「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」 「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」 「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」 モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、 ギーシュが指を差しながら何か言っている。 だがモンモランシーには何が言いたいのか全く理解できない。 かろうじて、何がしたいかが理解できたホワイトスネイクが、 ギーシュが指差す先を見ると―― 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。 To Be Continued...
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「ふわぁ~、朝早く目が覚めたのはいいけど……な~んか暇だなぁ」 欠伸をしながらPCの電源を落とす。 春休みに入って数日が経った。 この数日間は、漫画・DVD・積ゲーの処理を寝る間も惜しんでやった。 もちろん、合間合間にネトゲもやった。 集中的に遊びすぎて、さすがにどれも飽きてきた感がある。 「今日はかがみ達と会って遊ぶかねぇ」 現在時刻は朝の8時30分。 今から誘いをかければ午後からたっぷり遊べるだろう。 もちろん、ただ遊ぶだけが目的ではないのだけれども。 今年はこの短い休みにも宿題がきっちりと出されていた。 できることなら、最終日までに余裕をもって写しておきたい。 宿題を写して憂いを絶つ、それもかがみを誘う目的のひとつだ。 それはそうとして、だ。 いったい今日は何月何日で、休みはあと何日残っているのだろうか。 確認するためにカレンダーを見る。 まあ、カレンダーは好きな絵師のところで止めてあり、ここ何ヶ月も捲っていないので見たところで無駄なのだが。 「あ。そういえば」 ベッドを置いてある方の壁を見る。 そこには日めくりカレンダーが掛かっていた。 『今日が何月何日かぐらい常に把握しろ』 とか言って、お節介にもかがみが勝手に掛けていったものだ。 まあ、自分が持て余してたのを持って来ただけなのかもしれない。 ちなみにこのカレンダー、私はまだ一度も捲ったことがない。 捲っているのはかがみだ。 この部屋に遊びに来るたび、文句を言いながら4~5枚捲っている。 『私がせっかくプレゼントした意味がないじゃないの!』 とかなんとか言いながら。 今は、かがみが最後に家に遊びにきた日――3月25日――で止まったままだ。 「たまには、自分でめくってみようかネ」 記憶をたどり、深夜アニメを見た回数分だけびりびりと捲る。 今期は割と良作が揃っていて、毎日アニメを見ているから捲る枚数を間違えることは絶対にない。 極めて私流ではあるが、このカウント方法に頼るのが1番確実だったりする。 捲ったカレンダーはくしゃくしゃにまるめて、ゴミ箱にポイだ。 「……ほほう」 カレンダーが示している日付を見て、ニヤリと笑う。 体のダルさが吹き飛び、頭の中が冴え渡ってくる。 その日付表示は、私のエンジンに火をつけたのだ。 4月1日。 そう、今日はエイプリルフール。 つまり、嘘をついていい日。 なんだか、よくわからない使命感で み な ぎ っ て き た 。 よし!毎日の勉強で疲れているだろう友人達に、最高のユーモアをプレゼントしてさしあげようじゃないか! かの有名な“ド○えもん”という作品において、源し○か氏はこのような事を言っていた。 『人を喜ばせておいて、がっかりさせるような嘘はよくない』 『だから、嘘とわかった時に喜べるような“親切な嘘”をつくべきだ』 ここに高らかに宣言する!私はつこう、親切な嘘を!! ☆ まずは、かがみからだ。 携帯に電話をかける。 休みだというのに既に起きて活動していたのであろう、数回のコールですぐに出た。 「もしもし、こなた?あんたにしては珍しく早起きね」 「……かがみ……」 「どうしたのよ、なんか元気ないわねー。休みボケかぁ?」 「はは……そんなとこ、かな」 「ちょ、ちょっと、ホントに大丈夫なの?」 かがみの声色が心配を含んだものに変わる。 ここまでは順調。 「う、うん。まあ、だいじょぶ」 「そう?ならいいけど。それで、用件は?」 「えっとね、実は、私……や、やっぱいいや!」 「はぁ?」 「うん、悪いけど今のナシ。忘れて!じゃあね!」 「あっ、待ちなさいよ!」 ここで一方的に電話を切る。 かがみの性格からしてすぐにでも電話が……よし、かかってきた! 少し間を置いてから電話にでる。 「も、もしもし?」 「ちょっと、こなた!さっきの電話は何なのよ!?一方的に切ったりして!」 「なんでもないよ」 「とりあえず用件を最後までちゃんと言いなさいよ!気になるじゃない!」 「だから、なんでもないって」 「だから、なんでもないなら最後まで言えばいいって言ってんでしょ!?」 「しつこいよ!!なんでもないんだってば!!!!」 「……」 「……ごめん。怒鳴ったりして」 「……ううん。私もちょっと、大人気なかったわ。えっと、もう切るわね」 「あ、待って!……ねえ、かがみはさ……私の友達、だよね?」 「何?急にどうしたのよ?」 「いいから答えて!言っとくけど、私、真剣だよ?ネタとかじゃないよ?」 「……もちろん友達よ。親友って言ってもいいわ」 さあ、盛り上がってまいりました。 かがみの声は真剣そのもの。 微塵も私が演技をしていると疑っていないことうけあい。 いやあ、私もなかなかの演技派だネ。 「ありがと、本当に嬉しいよ……実はね、私、虐められてるんだ」 「イジメ?そんな……ウソ、でしょ?」 「かがみには隠してたけど、同じクラスのみんなから、私……私ッ!」 「何よソレ!!許せない!!いつから!?いったい誰が!?」 「去年の11月くらいから、カナ。始めたのは……その……つかさ、だよ」 「なっ……!!」 さて、仕上げに移りますか。 「ね、かがみ。いろいろ相談したいからさ、できればウチに来てほしいんだ」 「……いいわ。いつ行けばいいの?」 「じゃあ、1時頃に来てくれる?もちろん、つかさとみゆきさんには内緒で」 「ええ。わかったわ」 「ねえ、かがみに電話したこと、2人には内緒にしといてもらえるよね?」 「大丈夫よ、安心して。何があっても、私はあんたの味方だから」 「ありがと。かがみ」 「お礼なんていらないわよ」 「ついでに、春休みの宿題を見せてくれると嬉しいんだけどなぁ」 「ふふっ、いつもの調子が戻ってきたじゃない。ま、考えとくわ。じゃあ1時にね」 これでよし。 ウチに来たら全てをばらして、その後は一緒に遊べばいい。 完璧な計画だ。 ☆ さて、ターゲットは残り2人。 次の狙いは当然つかさだ。 早めに攻略しておかないと、かがみへの嘘がバレるかもしれないしね。 携帯に電話をかける。 3回も留守番電話センターに接続され、諦めようかなんて思い始めた頃にやっと出てくれた。 「もしもし、つかさ?」 「もしもし~、こなちゃん?……ふわぁ~、おはよ~」 「おはよ。ごめんね、朝早くに電話しちゃって」 「ううん、いいよ~。今日は早く起きるつもりだったし」 「そうなんだ」 「うん。今日から宿題をがんばろうかな~って。えへへ」 つかさの声はまだ眠そうだ。 この様子だと、少しばかり荒唐無稽な嘘でも信じてくれるだろう。 「ねえ、つかさに相談したい事があるんだけど」 「え?相談?」 「うん。いいかな?」 「うん。いいよ~。でも、私よりお姉ちゃんやゆきちゃんの方が――」 「つかさじゃなきゃダメなんだよ」 「えっ?」 「あの2人には、相談できないんだ」 「えっ?ど、どういうこと?」 急に真剣みを帯びた私の声に、つかさが戸惑いをみせる。 我、機を得たり。 ここからは一気にたたみかけよう。 「実はね、私、みゆきさんのモルモットにされてるんだ」 「も、もるもっと?」 「うん。いわゆる実験動物。いろんな薬を飲まされたり、注射されたり……」 「へ、変な冗談はやめてよ、こなちゃん。ゆきちゃんは、そんなことするような――」 「かがみも被害者なんだよ?かがみは私よりずっと前からみゆきさんに遊ばれてたんだ」 「お、お姉ちゃんが?」 「私もかがみから同じように相談されてさ、その時は何かのネタだと思って信じなかった。でも、それが間違いだった」 「う、嘘!嘘だよね、こなちゃん!?ねえ――」 「私はかがみを救えなかったんだ……今のかがみはみゆきさんの命令に逆らえなくなってて、私を監視しているみたい」 「そんなの嘘だよ!こなちゃん、いくら私でもいいかげん怒るよ!?」 「お願いだから信じてよ、つかさ……ねえ、最近さ、かがみの様子に何か、その、違和感とか感じなかった?」 「あ……」 つかさが黙り込む。 なんたる幸運。 何かしら思い当たる事でもあったのだろう。 だとしたら、これ以上の演技は蛇足だ。 そろそろ仕上げに移ってもいいだろう。 「ね、つかさ。いろいろ相談したいからさ、できればウチに来てほしいんだ」 「……うん。いつ行けばいいの?」 「じゃあ、1時半頃に来てくれるかな?わかってるとは思うけど、かがみとみゆきさんには内緒だよ」 「うん」 「もちろん、私がこんな電話をしたことも内緒だよ?つかさだって無事じゃいられないかもしれないし」 「う、うん。わかった。気をつけるよ」 「ありがと。つかさ」 「お礼なんていいよ。私もひとりじゃ心細いし」 「それと、出かける時だけどさ、かがみには図書館で宿題してくるとか言ってごまかせばいいと思うよ」 「うん。そうするよ。えっと、1時半だよね」 これでよし。 これで、つかさがかがみに接近する可能性はぐっと低くなった。 かがみへの嘘もバレにくくなったという訳だ。 それに、つかさは宿題の道具を持って移動することになるから、ばらした後に一緒に宿題をすることもできる。 我ながら完璧な配慮だ。 先に着いているかがみと一緒になってネタばらしをして楽しめば、かがみの怒りもいくらか収まることだろう。 さてさて、ターゲットは残り1人。 ☆ 「それで、みゆきさんに相談したいことがあってさ。いいかな?」 「はい。私でよろしければ、遠慮なくどうぞ」 ラストバッターは陵桜の誇る秀才、みゆきさんだ。 かなり手ごわい相手といえるだろう。 嘘を信じさせるためには、相手のバランスを崩しスキをつくらなければならない。 かがみは、親友が虐められているという情報にカッとなりスキが生まれた。 つかさは、まあ、いつものとおりスキだらけだった。寝起きだったしね。 「つかさにはまだ内緒にしててほしいんだけどさ、私ね、去年の冬休み初日にかがみに告白されたんだ」 「はあ。告白、ですか?」 「うん。愛の告白ってやつ」 「ええっ!?し、しかし、泉さんとかがみさんは、その……」 「うん。女の子同士、なんだよね。もちろん私はそういった趣味ないからさ、きっぱり断ったんだ」 「は、はあ」 「翌日からはいつもどおりの関係に戻ろうねって話で決着がついたから、みんなは気が付かなかったと思うけど」 「そうですね。少なくとも私は、まったく気がつきませんでした」 「だよね。だから私は、かがみもちゃんと諦めてくれたんだ、と思って安心してたんだけどね……でも、そうじゃなかったんだ」 「ということは、かがみさんと何かあったのですか?」 「……襲われちゃったんだ」 「え?襲われ?え?……ええっ!?」 「春休みの前日、いつものようにかがみが家に遊びに来たんだ。その日は家に私しかいなかったんだけど――」 「い、泉さん!悪質な冗談はやめてください!私には、かがみさんがそのような事をするお方に思えません!」 「私だって!!!!私だって、かがみがそんなことするなんて思ってなかった!!!!」 「あ……」 「私はその日、写真まで撮られた。その日からかがみはその写真をネタに、私のことを毎日のように――」 「そんな……嘘……嘘です。そんな、ひどいこと……」 そこからは私の妄想を織り交ぜつつ、かがみが私を襲った状況を簡単に説明。 みゆきさんを崩すには、みゆきさんの知識・経験が乏しい世界を舞台にする必要がある。 つまり、18歳未満禁止かつアブノーマルな、とっても危ない世界。 バーチャルとは言え、私の方は経験豊富なのだ。 この土俵で闘えば、私が負ける要素はほとんどない。 「ね、みゆきさん。できれば会って相談したいんだ。ウチに来てくれないかな」 「……わかりました。いつ、お伺いすればよろしいのでしょうか?」 「急で悪いんだけど、今日の2時とかじゃダメかな?その時間、家は私ひとりになっちゃうし」 「わかりました。2時、ですね」 「それから、この話なんだけどさ」 「はい。誰にも話しませんので、安心してください」 「ありがと。みゆきさん」 「いえ。私でお力になれるかどうか」 「それと、かがみが感づいた時のために、表向きは今日は勉強会ってことにしてほしいんだ」 「わかりました。勉強会、ですね」 みゆきさんは『恐れ入りますが、まだ泉さんの言い分を全て信じた訳ではありませんので』と言ってから電話を切った。 ううむ。この辺りはさすがに手ごわい。 まあ、とりあえずミッションコンプリートだ。 これで、上手くいけば2時には4人が勉強道具持参で我が家に集うわけだ。 それまで何をして待っていようかなぁ。 あ、そうだ。 一応、嘘をついたおわびとして手作りお菓子でも用意して待っていよう。 そうと決まれば台所へ行きますかネ。 よっこいしょういち、っと。 ☆ まさか、こなたがイジメをうけていただなんて。 しかもつかさが、私の妹が、その犯人だなんて…… 一刻も早く事の詳細を知りたい。 いてもたってもいられない。 約束は1時だが、30分程度なら早めに行っても問題ないだろう。 お昼はパンでも買って食べて、さっさとこなたの家に向かおう。 手早くまとめた荷物をもって自分の部屋から出ると、つかさとばったり出会ってしまう。 つかさも出かけるところなのか、私と同じように荷物を持っている。 思わず睨みつけそうになるが、ぐっと我慢する。 私がイジメの事を知っていると悟られたら、情報源のこなたに迷惑がかかるかもしれない。 「おはよう、つかさ。今日は早起きね」 「おおお、おはよう。お、お姉ちゃん。え、え~っと、何だか目が覚めちゃって」 「何をそんなに慌ててるのかしら?」 「えっ!?あ、慌ててなんかないよ?お、お姉ちゃんこそ、恐い顔してどうしたの?」 いけない。怒りが顔に出てしまっていたようだ。 「な、なんでもないわ。宿題でわからない問題があって、少しイライラしてただけ」 「そ、そうなんだ」 「そういえば、つかさも出かけるところなの?」 「あ、うん。お姉ちゃんも?」 「そうだけど……ねえ、もしかして……つかさは、こなたの家に行くつもりだったりする?」 「え!?ううん、ち、違うよ!!……図書館!そう、私は図書館に宿題をしに行くんだよ!」 ☆ 最近、お姉ちゃんの様子がおかしい。 食事の量も減ったみたいだし、お菓子もあまり食べようとしない。 些細な事ですぐイライラするようになったみたいで、私も何度か怒鳴られたりした。 もちろん、その度に後から謝ってはくれるのだけど。 机にふせっていることが増えたし、夜こっそりと出かける回数も増えていた。 ――こなちゃんの言ってたことは、やっぱり本当なんだろうか。 こなちゃんは1時半って言ってたけど、もう行ってしまおうかな。 こんな状態でお姉ちゃんと同じ屋根の下にいたら、私の気持ちがまいっちゃうよ。 とりあえず、早く相談して、早く解決しなきゃ。 カモフラージュ用の勉強道具をバッグに詰めて部屋を出る。 しかしそこで、タイミング悪くお姉ちゃんと会ってしまった。 「――つかさは、こなたの家に行くつもりだったりする?」 「え!?ううん、ち、違うよ!!……図書館!そう、私は図書館に宿題をしに行くんだよ!」 「ふーん……珍しいわね」 「そ、そろそろ頑張ろうかな~って思って」 「それが本当なら、いいことなんだけどね」 こなちゃんの言った事は、やっぱり本当だ。 お姉ちゃんの様子はやっぱりおかしい。 私のことをじっと睨みつけてきたかと思えば、品定めするようにジロジロと見てくる。 それに何故か、私の行き先がこなちゃんの家かどうか、なんて質問を突然にしてきた。 こなちゃんの家に私が行くと都合が悪いのだろうか? もしかして、こなちゃんの身に何かが…… そうか!もしかしたら、まさに今、ゆきちゃんがこなちゃんのことを狙っているのかもしれない! だから、他の誰かがこなちゃん家に行ったら不都合なんだ。 お姉ちゃんは、私がこなちゃん家に行かないよう監視しているんだ。 そうだ!そうに違いない! 私がこなちゃんを救わなきゃ! 「お姉ちゃん、私いそいでるから!もう行くから!」 「え?あ、うん。気をつけていってらっしゃい」 私は家を飛び出し、全力で自転車をこぐ。 「待っててね、こなちゃん!」 ☆ 窓から外を見ると、つかさの自転車が猛スピードで遠ざかっていくのが見えた。 つかさってあんなに早く自転車をこげたんだ。 それにしても、さっきからのつかさの慌てっぷりは異常だ。 こなたの名前を出した瞬間、わずかに顔色が変わったのを私は見逃さなかった。 つかさが犯人だなんて思いたくなかったけど、まさか本当に…… そこまで考えてハッとする。 何故、つかさはあんなに慌てていたのか。急いで出かけたのか。 もしかして、つかさは私とこなたの電話でのやりとりを聞いてしまったのではないだろうか。 あの時は私も興奮して大きな声を出していたから、その可能性は十分にある。 だとしたら、今つかさが向かっている先は…… マズイ。 最悪の事態だ。 私も急いでこなたの家に向かわなくては! 私はすぐに家を飛び出し、妹を追いかけるように必死に自転車をこぐ。 「待ってなさいよ、こなた!」 ☆ 4月1日。 今日、私は友達に嘘をついた。 後は至福のネタばらしが残るのみ、ときたもんだ。 私はその瞬間を楽しみにしながら、お菓子作りに精を出していた。 「よっし。こんなもんかな」 程なく手作りクッキーが完成する。 つかさ程ではないにしろ、我ながらなかなかにいい出来だ。 やはり、気分がノッている時は何をやっても上手くいくものだ。 時計を確認。 おっと、もう12時を過ぎている。 かがみが来るまであと1時間もない。 あまり時間が無いので、今日のお昼はカップ麺ですませることにする。 お湯を注いで居間へと移動。 あと3分♪ 特にやる事もないので、とりあえずTVをつける。 お昼の時間ということで、どこも面白い番組はやっていない。 適当にチャンネルを変え、リモコンを放置する。 あと2分♪ お気に入りのマグカップにお茶を淹れ、ささやかな昼食の準備が整う。 いやぁ、日本茶は心が落ち着きますなぁ。 その時、つけっぱなしのTVから信じられない言葉が聞こえた。 『――こんにちは。3月31日、お昼のニュースです。本日、○○内閣の――』 なん……だと……!? 重力に惹かれ、鈍い音と共に不時着を敢行するマグカップ。 そして、景気よく床にぶちまけられる適温の緑茶。 馬鹿なッ!! 今日はエイプリルフールではなかったというのかッッ!! 頭が真っ白になる。 いままでかいたことのない類の嫌な汗が、体中からドッと噴き出す。 天国から地獄。 私の気分は真っ逆さまに光の世界から暗闇のどん底へと叩き落される。 麺がのびのびになってカップから溢れ出た頃、私はようやく我に返った。 ☆ 「待っていてください、泉さん」 泉さんのお宅まであと少し。 泉さんは2時と言っていましたが、1時間以上も早めに来てしまいました。 事の真偽を早く確かめたくて、どうしてもじっとしていられなかったのです。 それに、もし泉さんの話が全て本当だった場合、かがみさんの行動を警戒する必要があります。 かがみさんが休みに乗じて泉家に来る可能性は高いですから、ゆっくりしている暇はありません。 泉さんとの約束の時間を違えてしまうのは失礼かとは思いますが、事態は急を要します。 一応ですが、携帯の方には早めに伺う旨をメールで送っておきましたし―― 「ゆ、ゆきちゃん!?」 「え?……あ、つかささん?」 何やら慌てている様子のつかささんと出会いました。 何故でしょうか、大変驚かれているようです。 それにしても、ここで会ったという事は…… 「つかささんも、泉さんに会いに来たのですか?」 「え。えっとね、わたしは、その……」 「?」 「ぐ、偶然通りかかっただけだよ~」 「そうなのですか?」 「う、うん。そうそう、偶然なんだ」 つかささんが嘘をつく理由は無いでしょうから、本当に偶然なのでしょう。 何かとても不自然な気はしますが。 「ゆきちゃんは、こなちゃんの家に行くんだ?」 「はい。その、泉さんに勉強会をしようと誘われたものですから」 「そ、そっか」 「つかささんは、何をしていたのですか?」 「え。え~っとね……」 「2人とも、何の相談をしているのかしら?」 つかささんと話していると、突然、背後から声を掛けられました。 振り返ると、今は一番会いたくなかった人が腕を組んで立っていました。 ☆ 「お、お姉ちゃん!?」 「つかさ、あんた図書館に行ったんじゃなかったの?」 まさか、つかさとみゆきが合流するとは。 みゆきまでもがこなたイジメに参加していたとは思わなかった。 いや、思いたくなかった。 冷静に考えてみれば、みゆきが自分の身近で起きているイジメの兆候を見逃すはずなど無いのだ……自分がイジメる側でない限りは。 私という邪魔者が現れたことに機嫌を悪くしたのか、みゆきがこちらを軽く睨んだように見えた。 「こんにちは、かがみさん。こちらへは何をしに来られたのですか?」 「こんにちは、みゆき。私はこなたの家に遊びに来たの。一緒に勉強もする予定よ」 「あら、奇遇ですね。私も泉さんと勉強会をする予定なんですよ?」 「へえ。そうなんだ」 「ええ。そうなんです」 「私は、こなたに誘われてきたんだけど?」 「もちろん私も、泉さんに誘われたから来たんです」 心なしかみゆきの言動が余所余所しい、というか冷たい。 それにしても、よくもまあ堂々と嘘をつくものだ。 私には分かる。みゆきが言っている事は嘘だ。 今のこなたが、加害者サイドのこの2人を自宅へ誘うはずが無い。 そういえば、こなたが私に相談したことをみゆきは知っているのだろうか? つかさから既に情報を得ている可能性はあるが、まだ知らない可能性もある。 それに仮に情報を得ていたとしても、みゆきならばつかさからの情報を100%信じることはないだろう。 我が妹ながらつかさは少しばかりぬけているところがあるからだ。 とりあえず、みゆきを油断させるためにも、今は事情を知らないフリをした方が良さそうだ。 「そう。じゃあ、こなたは4人で勉強会を開くつもりだったのかしらね」 「それなんですが、つかささんは誘われて無いみたいですよ?」 そう言って、みゆきはつかさの方をチラリと見た。 これは……つかさに別行動をとるように促しているのか? よくわからないが、みゆきの作戦か何かなのだろうか? だとしたら、阻止しておいた方がいいのかもしれない。 最初の実行犯を逃がすわけにはいかないし、できれば4人が揃った状態でケリをつけたい。 私の目的はこなたを救うことだけでは無いのだから。 難しいかもしれないが、私はこの4人の間にあった友情を取り戻したいのだ。 「……それなんだけど、こなたから電話があったのって、つかさが出かけた後だったのよ」 ☆ 「それでつかさも誘おうかと思ったんだけど、図書館に行くって言ってたから携帯にかけるのは遠慮したの」 「そ、そうだったんだ」 「あんたマナーモードにしないでしょ?だから、頃合を見計らってメールでもするつもりだったんだけどね」 「メール?」 「そ、メール。つかさもこなたの家で一緒に勉強しないか、ってね。」 これは、どういう状況なんだろう。 ゆきちゃんとお姉ちゃんの間に、なにかトゲトゲしい空気が流れている。 お姉ちゃんはゆきちゃんに従わされているハズなのに。 もしかして、今のお姉ちゃんは薬がきれたりとかで正気に戻っているのだろうか? お姉ちゃんはなんでここに来たのかな? なんで私を誘ってるのかな? えっと……今、お姉ちゃんはこなちゃんと合流してゆきちゃんを何とかしようとしているところか何かで―― それで、私にも協力をしてほしがっている―― そうか。そういう事だったのか。 つまり、これは、千載一遇のチャンスなのだ。 「じゃ、じゃあさ、私も一緒に行っていいんだよね、お姉ちゃん?ほら、ちゃんと勉強道具も持ってるし」 「そうね。いいんじゃない?……ね、みゆき?」 「……そうですね。人数が多い方が、勉強会らしくていいのではないでしょうか?」 「じゃあ、決まりだね!」 ほんの僅かだけど、ゆきちゃんの表情が陰るのがわかった。 ゆきちゃんは、少し悲しそうな顔で私の方を見た。 ……ごめんね、ゆきちゃん。 でも、ゆきちゃんがやっていることは、良くない事なんだよ? 大丈夫。きっと明日からは、また前までのように4人で仲良くできるよ。 そうなれるように私が頑張るよ! 私は決意を胸に秘め、こなちゃん家への一歩を踏み出した。 ☆ かがみさんは頭の良い方です。 もしかしたら、私の態度から何か察するところがあったのかもしれません。 つかささんを勉強会に誘ったのは、私に対する牽制でしょうか。 つかささんがいれば、私はかがみさんのことを問い詰めにくくなります。 しかし、かがみさんの行為が泉さんの話すとおりであるならば、それは許される事ではありません。 こんな悲しい出来事は、一刻も早く、できれば今日の内にでも断ち切ってしまわなければなりません。 例えつかささんがいようと、私はそれをやらなければならないのです。 できれば、つかささんにはすべてが解決してからお話をしたかったのですが。 ……いえ、実の姉と友人との話ですから、つかささんも立ち会うべきなのでしょう。 つかささんには大変辛いお話になるかとは思いますが、これも運命なのでしょう。 ふと、つかささんの方を見ると、その顔は心なしか頼もしく見えました。 そして、つかささんは一歩一歩、泉さんのお宅へと歩んでいきます。 まるで迷える私を導くかのように。 ふふっ。いけませんね。私が弱気になっては。 泉さんにつかささん、そしてかがみさんを救うという役割が私にはあるのですから。 再びいつもの4人組として楽しく笑いあえるよう、私は頑張ります! 「では、参りましょうか。かがみさん」 ☆ 私は今日、わりと洒落にならない嘘をついた。 もし今日が4月1日なら、私にはまだ救いの道がある。 もし今日が3月31日なら、私に残された道はひとつしかない。 それは、間違いなく地獄に続く道。 慌てて家中のあらゆるモノで日付を確認する。 TV、ラジオ、携帯、パソコン……思いつく限りのモノで。 何を見ても3月31日。そう、まぎれもなく3月31日。 あの日めくりカレンダー以外の全てが、今日が最悪な1日になると告げていた。 どうしよう。 どうしたらいいんだろう。 といっても、もう、なるようにしかならないのだけど。 なんで、どうして、こんなことになったんだろう。 日めくりを捨てたゴミ箱を漁ってみる。 2枚重ねて捲る、などといった漫画のようなミスはしていない。 捲るべき枚数も絶対に間違っていない。 今朝の私の行動自体にミスは無かった筈だ。 それならば、何故? ……?? ……!? ……!! 思い出した!!そういうことだったのか!! そう、今朝の時点で私のカレンダーには1日分の誤差が生じていたのだ。 かがみが最後に遊びにきた日、こんなことがあった。 『ちょっと、こなた。またカレンダー捲ってないじゃないの』 『ん~、そだね~』 『そだねー、じゃないっての。もう、いい加減にしなさいよね』 『かがみの楽しみをとっておいてあげたのだよ』 『こんなのが楽しみなわけが無いっつーの!まったく!』 びり、びりびり……びりりっ! 『あれ、かがみ。今日は確か24日だよ?捲りすぎじゃない?』 『あ、あんたが横からいろいろ言うから変に力がはいっちゃったのよ!』 『あ~あ、これじゃあせっかくのカレンダーが台無しだよ~』 『ど、どうせ捲らないんだから1日くらいいいじゃない!そう、これは明日の分よ、明日の分!』 このことを忘れてきっちり捲ったせいで、日付を間違えてしまったということだ。 日付を間違えた原因はわかったが、だからといって何の解決になるわけじゃない。 覚悟を決めよう。 ここは潔く、1人1人、来た順に謝るしかない。 ☆ 「こなちゃん、少し早いけど来ちゃったよ~」 「こんにちは、泉さん。すみません、早く来てしまいました。メールは送ったのですが……」 「おーす、こなた。ちょっと早いけど、いいわよね?」 何 故 全 員 揃 っ て い る。 「いいいいいいい、いらっしゃいいいい、みみみみ、みんななな。ずずず、ずいぶん早かったたたネ」 「なに慌ててんのよ?……まあ、心配しなくても、大丈夫よ」 「そうですね。私がいますから何も心配しなくて大丈夫ですよ、泉さん」 「こ、こなちゃん、私がいるからね!」 あれ?何この雰囲気? そうか、お互いがお互いを牽制しあっているんだ。 主に私の嘘のせいで。 これは、本当の事を言い辛いってレベルじゃないよ。 何とかして1人ずつ相手をするようにしなきゃ。 とりあえずは、みんなに私の部屋まであがってもらって…… 「ええっと、ジュースでも持ってくるね。それで、誰か運ぶの手伝ってほしいんだけど」 「私が行くわ!」 「いえ。かがみさんはゆっくりしていてください。ここは私が」 「ゆきちゃんもお姉ちゃんとゆっくりしてなよ。私が行くから」 「2人とも、そんなに気を遣わなくていいわよ。ここは私が――」 「そうですね。かがみさんもつかささんも気を遣わないでください。やはり私が――」 「わ、私は気を遣ってないよ。ただ、こなちゃんを手伝いたいだけ。だから私が――」 「ちょ、みんな。落ち着いてよ。か、かがみ。かがみでいいよ」 「ほらね。こなたもこう言ってるし、私が行くわ」 「泉さん、遠慮なさらずにおっしゃっていただいてもいいんですよ?」 「こなちゃん、私じゃ頼りにならないかなぁ?」 「い、いや、そんな大したことじゃないし。それにすぐに戻ってくるから」 「じゃあ、早く行きましょ。こなた」 台所で人数分のジュースとクッキーを用意する。 とりあえず、この時間を利用してかがみに謝っておこう。 「あ、あのさ、かがみ」 「わかってる。ごめんね、こなた。びっくりしたでしょ?つかさとみゆきが一緒じゃやっぱり辛いよね」 「い、いや。そうじゃなくって――」 「でもね、こうなったら仕方ないわ。少し早いのかもしれないけど……私ね、今日決着をつけちゃおうと思ってるの」 「ちょ、かがみ、私の話を――」 「わかるわ、不安よね。でも大丈夫。私がついてるから。何があっても守ってあげるから。さあ、行きましょ!」 「あっ、待ってよ、かがみ――」 「いいから、ここは私に任せなさいって。とりあえず、2人に謝ってもらうところから始めなきゃね!」 あんまり遅くなると怪しまれるわよ、と言ってかがみはクッキーの皿を手に部屋へと戻っていった。 優しい笑顔を残して去るかがみを呆然と見送ることしかできない私。 かがみに謝るどころか、謝られちゃったよ。てへ☆ ……いや、そうでなくて。 今のかがみの様子からすると、1人ずつ相手をしていくという私の計画は難しそうだ。 何があったかのかは知らないが、かがみはテンションが上がりきっていた。 さっきの部屋でのやり取りから察するに、おそらく他の2人も似たような感じだろう。 私の話を聞いてくれる心の余裕がなさそうだ。 それに、3人とも私が他の誰かと2人きりになるような状況はなかなか許してくれなさそうだ。 ……こうなったらもう、みんながもめ始める前に土下座でも決めるしかない。 どこか遠いところへ逃げたくなる気持ちを抑え、私は地獄へと続く廊下をゆっくりと進む。 いつもの倍以上の時間をかけて自分の部屋の前までくると、既にヒートアップした3人の声が聞こえてきた。 「まだわかんないの!?まず、こなたに謝れって言ってんのよ!!あんた達、こなたが苦しんでるのがわからないの!?」 「ですから!何度も言うようですが、人のせいにしないでください!!かがみさんが泉さんを苦しめているのでしょう!?」 「やめなよ、ゆきちゃん!隠さなくても、もうみんなわかってるんだよ!?」 「そうよ!つかさの言うとおり、私はみんなわかってるのよ!?みゆき、あんた少しは反省したらどうなの!?」 「あくまで人のせいにすると言うのですか!?つかささんだって、苦しんでいるのですよ!?」 「はぁ!?だからなんだってのよ!つかさは自業自得じゃない!!元はと言えば、つかさのせいなんだから!」 「ひどい!相談もしてくれずにそんな言い方ってないよ!ねえ、なんで最初がこなちゃんだったの!?なんで、私じゃなかったの!?」 「何よ!?私があんたのことを一番にかまわなかったのが原因だとでも言いたいの!?甘ったれんじゃないわよっ!!」 「つかささんにまで当たらないで下さい!!かがみさん、見損ないました!……あなたは間違っていますッ!!」 「っ!?……みゆきぃっ!よくもっ!よくも、ぶったわねっ!!このっ!!」 「きゃあっ!?」 「や、やめなよ、お姉ちゃん!ゆきちゃんも!暴力はよくないよ!!……ひゃあっ!?」 うん。わかっているとも。 今すぐ部屋に飛び込んで土下座、それ以外に選択肢はないよね。 ☆ 「ごめんなさい」 「おまっ……謝って許されるとでも……!!」 「泉さん。いくらなんでも、これは……!!」 「ひどいよ。私、本気で信じたのに……!!」 事情はひととおり説明したが、当然笑って許してくれる筈もなく。 三者三様の絶句の後は、ただただ、重苦しい沈黙が場を支配する。 私は土下座したままの姿勢で固まることしかできない。 穴が開くのではないかと思えるほどに、じっと床の一点を見つめ続ける。 申し訳なさ過ぎて、みんなにあわせる顔なんてない。 あんなに仲の良いみんなが、勘違いとは言え私のせいで喧嘩までしたのだ。 みゆきさんはかがみの頬を平手で打ち、かがみはみゆきさんに掴みかかった。 あと一歩間違えれば、私達の友情は消えてなくなっていたかもしれない。 床にシミがひとつ、ふたつ……あれ?私、泣いてる? 床のシミはみるみるうちに数を増やしていく。 「……泉さんに悪意が無かったという事は、わかりました」 「……そうだね。もともと、こなちゃんは私達と遊びたかっただけなんだよね」 「……こなたらしいいたずら、ってとこね。あまりにも度が過ぎてたけど」 優しい言葉。 勇気を振り絞って顔をあげると、みんな少し呆れたように笑っていた。 私は胸がいっぱいになる。 「ごめん、本当にごめんなさい、ごめんね、みんな。うあ、うわああああああん」 「ほら、泣かないの」 「ぐすっ。だって、こんな私を笑って許してくれるなんて、なんだか嬉しくって」 「あら、誰が許すって言ったかしら?」 「ふぇ?」 「もちろん、それなりのお礼はさせてもらうわよ?」 「そうですね。1回は1回ですよ、泉さん」 「あはは、こなちゃん。これで終わりだと思ってるだなんて、どんだけ~」 「ちょっ、みんな、目がこわいデスヨ?……いったい何を……」 「そうね、私達もこれからひとつずつ嘘をつかせてもらうわ」 「う、嘘を?……あれ?それだけ?」 「はい。それだけです」 「なぁんだ。びっくりさせないでよ。そんな簡単なことなら――」 「ねえ、こなた。あんた今日は、とっ~ても平和に過ごすわ。嫌と言うほどね」 「泉さん。泉さんは今日という日を、驚くほど簡単に忘れてしまえるでしょう」 「こなちゃん。こなちゃんにとって、今日がいっちばん幸せな日になるんだよ」 「え?……も、もしかして、それが嘘?……ってことは……あ……やめっ――!!!!」 ☆ 今日は正真正銘の4月1日、エイプリルフールだ。 せっかくだから、嘘をついてみようと思う。 『昨日はとても楽しかった。 突然遊びに来たかがみとつかさとみゆきさんが、私に素敵なプレゼントをくれたのだ。 昨日という日は、私にとって今までで一番幸せな日だったんじゃないかと思う。 でも、きっとそれもすぐに忘れてしまうことになるんだろう。 とても平和だったという点においては、いつもとなんら変わらないただの1日だったから。 そしてまた、素敵な1日が始まろうとしている。 私はかがみから呼び出しなんかされていないし、つかさも一緒に待ち構えていないし、集合場所はみゆきさんの家ではない。 まあ、偶然にもみんなと会うことがあれば、たぶん昨日の事について幸せな気分で笑いながら語り合うことになるだろうね。 ああ、できることなら、誰も私の事を助けないでほしい。神様が本当にいるのなら、どうか私の事を救わないでほしい』 うん。我ながら上出来だ。