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正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE- ◆F.EmGSxYug 夜、晴れ。星が瞬き、月が輝く中。地上でも、新たな星が生み出され、ぶつかり合っていた。「ハァ!」ベジータの蹴りが、ブロリーへ叩き込まれる。しかし無意味。腹部を狙った回し蹴りは、ブロリーの掌によって逸らされる。そのまま脚を掴もうとする魔手をもう片方の足で弾き飛ばしながらバク転。距離を開けたベジータに対し、ブロリーは焦ることもなく悠然と歩を進める。――ブロリーは、なんらラウズカードを使っていない。ただライダーシステム・ブレイドアーマーを身に纏っているだけ。身体能力強化と防護以外の機能を真っ当に活用しようとはしない。そもそも、支給品を有効活用しようという発想がブロリーにはない。しかし、それでも十分に過ぎた。意気揚々と突っ込んだベジータであったが、少しずつ来た道を戻りつつある。位置的にも精神的にも、着実に圧されつつあった。ベジータとて、本来ならば惑星を砕く程度容易く出来る。だが、ブロリーはその惑星を従える太陽であろうと容易く吹き飛ばすだろう。どちらも星だ。だが所詮、地球など太陽より遥か小さな天体であるように……一対一では、勝てない。それがブロリーに対する者に課せられる世界の摂理。「くそったれェェエエ!!!」かと言って、今更退く事などできはしない。ヤケ気味に、ベジータは両手からエネルギー弾を連射し始めた――。■『ともかく、私をあそこで倒れているあの紅い髪の女性に渡してください』一方、ベジータについてくる形で到着した美希に対し……事情を単刀直入単純明快に話した後、マッハキャリバーはそう話を結んだ。「わかったの。よくわかんないけどわかったの!」『どっちだ』美希の言葉にツッコミを入れるディムロス。ちなみに美希のゆとり日本語をわかりやすく日本語訳すると、「事情はまだ把握しきってないけどやるべきことは分かった」である。美希が走り出そうとした矢先、妙な悲鳴が響き渡った。「ほわぁあ!!!」「え?……わわ!」慌てて首をすくめる。自分の頭の上数mを、見事にベジータが吹っ飛ばされていったのだ。そして、それを追っていくブロリー。それに焦りを見せたのは、ディムロスだった。『あの方角は……まずいな』「どういうことなの?」『あちらは南、つまり来た方向。サンレッドたちがいる方角だ。 このままでは動けないサンレッドも巻き込まれてしまう』「ええ!?」『ともかく今は脚を進めろ。 これを渡してから先回りしてサンレッドたちの所へ戻り、危機を知らせるしかない』「でも、今のサンレッドさんを戦わせるのは……」『確かに奴は無理だ。だがいるだろう、まだ戦える「彼女」が。 三対一にしてなんとかサンレッドが休んでいる場所から引き離すしかあるまい』「あ、そうか、おにぽんがいたの!」ぽん、と美希は手を叩く。問題は、いかにブロリーの目を掻い潜ってサンレッドたちがいる場所へ先回りするかだが……それはこの夜闇とベジータに賭けるしかない。覚悟を決め、美希は走り出した。■無数のエネルギー弾が突き刺さり、ベジータの目前で煙が巻き上がる。ブロリーの姿がそれに紛れて消える。しかし、それも一瞬。すぐに鎧を纏った巨体が煙の中から現れ、その豪腕を振るった。例えガードしていても、その衝撃は抑えきれるものではない。ベジータが地面に叩きつけられた、その時だった。 「決闘準備!」 『Standby, ready. Drive ignition』 周囲に、はっきりと分かるほど湧き上がる気の流れ。左之助には魔力やそういったものがなかった。彼はあくまで、ただの喧嘩屋だ。だから、純粋に身体能力を補助する道具としてのみマッハキャリバーを使えた。だが、美鈴は違う。自分や周囲に流れる気を制御し、自分の体に流し或いは打ち出すことなど彼女にとって基本中の基本。そう――例えば、亀仙流や鶴仙流のように。「ようやく復帰しやがったか……モタモタしやがって」「……チッ」ベジータの表情に希望が戻り、ブロリーが盛大な舌打ちをする。振り返り、走り始めた美鈴目掛けて気弾を放つブロリー。だが、美鈴は止まらない。それどころか、自分の足元に呼びかけた。 「加速して!」 『Gear Second』 身を屈めながら、紅の影が滑る。気弾はその上を通り抜け、無駄に爆発した。 更に連射力を上げるブロリー。だが連射性に気を割けば当然それだけ威力は弱まる。 それを待っていたといわんばかりに、美鈴は静止して両腕を回した。 「――水形太極拳」 『Protection and Revolver Shoot』 「何ィ!」 それはまるで悠久なる長江の如く。 美鈴が生み出した気にブロリーの弾幕は飲み込まれ、逆に美鈴が打ち出す気弾の糧となる。 咄嗟に回避行動を取ったその巨体に、尚も追尾し食い下がる美鈴の気弾。 それに苛立ったものの、こちらにばかりかまけているわけにはいかない。 なぜなら。 「ビックバン・アタッーク!!」 背後で構えている敵が、いるのだから。 水形太極拳を左腕で弾き飛ばすと共に、素早く向き直って右腕をベジータへと向ける。 月光よりも明るく闇を照らす超新星。それが篭手とぶつかり合い、火花を散らす。 「ヌァァァァァアアアアアアアア!!!」 大地を揺るがすような声を響かせて、ブロリーは右腕を振り上げた。水形太極拳と同様、ビックバンアタックはあらぬ方向へと弾き飛ばされた。だが無駄ではない。ブレイドアーマーの右腕部分に、はっきりとした亀裂が入っている。いける、とガッツポーズを美鈴が取った一方で――対照的にベジータの顔は渋かった。(……このままでは、足りん!)ブロリーの実力を誰よりもわかっている彼だからこそ、わかる。このままでは、あの鎧を破壊しきる前にこちらの気が尽きる。ベジータに作戦はある。これが決まればブロリーであろうと確実に倒せるという手が。しかしそれは最低限、美鈴と会話しなければできない。そして、そんな隙などブロリーが与えはしない。(ならばどうにかしてブロリーの奴をぶっ飛ばし、隙を作る!)そう覚悟してベジータは突進した。美鈴も同じタイミングで突っ込んでいく。速度上先に到達したベジータが右正拳を叩き込むが、それは剛腕一本で容易く止められる。ごく僅かにブロリーは踏ん張った、それだけ。びくともしない。だが、構わない。遅れて接近した美鈴にもう片方の腕をブロリーが向ける、その前に彼女は一手を打つ。「黄震脚!」「ヌッ!?」強靭な踏み込みに、地面が割れる。逆転の発想だ。ブロリーが崩れないなら、地面を崩してバランスを崩させる――!予想外の事態にブロリーは姿勢を戻そうとする。それはほんのコンマ数秒。一方で美鈴は崩れない。否、震脚による踏み込みこそが次の一撃へと繋がる。咄嗟に手を出したブロリーの懐へ潜り込み、低い姿勢から繰り出すは裡門頂肘。しかし……腹部を狙った一撃は、ブロリーが素早く出した蹴りに止められた。それどころか、その凶脚は肘を弾き飛ばして彼女の顔面目掛けて奔っている。「この、足癖の悪い――!」倒れこむような形で、美鈴はそれを避けた。いや、倒れてはいない。左腕を地面に突いて体を浮かせ、そのまま腕一本で体を支えつつ右足を振る。斧刃脚。敵の左脛に吸い込まれるように命中したそれは、ブロリーのバランスを更に崩した。そこで顔目掛けて動くベジータの左腕。響く渡る、仮面が軋む鈍い音。だが、30mは吹き飛ばすつもりで打った一撃は僅かに6mほど後退させるに留まった。この程度の距離では、作戦会議したところで丸聞こえだ。(く、全力で叩いてコレか…… やはり計算は当たっている……どうやっても、俺達の体力が足りん!)荒い息を吐きながら、ベジータはそう結論せざるを得なかった。脇では美鈴が口から血を流している。言うまでもない、ベジータが来る前の戦闘によるダメージだ。それに対し、仮面でブロリーの呼吸ははっきりとは聞こえないが……それでも、荒くはない。「クク、どうした? 追撃してこないのか……?」(クソッタレが! わかっていて挑発してやがる!)ブロリーの言葉に、ベジータが歯噛みした瞬間。突如、ブロリーの上半身が大きく仰け反った。ベジータが振り返ると、そこにあるのは一人の少女の姿。「……サイコキネシスでこれとは」騒ぎに気付いたおにぽんが、慌てて駆けつけてきたのだ。美希とはちょうど入れ違いの形になったが、それも逆に功を奏した。美希が呼ぶよりも、かなり早くここに来れたのは間違いない。ベジータにとっては、千載一遇のチャンスと言っていい。「女! ここに来い、今すぐにだ」「女じゃなくておにぽんですが……」「30秒でいい。時間を稼いでブロリーの注意を引き付けろ」「難しいのか簡単なのかよく分かりませんね」やれやれと言った様子で歩きながらも、おにぽんは命令通りブロリーの前に進み出る。それに対して笑い声を上げたのは、ブロリー本人だった。 「ククク、そうかァ。ならば貴様は15秒で殺してやろう」 「……難しいみたいですね」おにぽんがさいみんじゅつを放ったのと、ブロリーがそれを無視して突っ込んだのは同時だった。ナッパですら餃子の超能力を容易く無効化するのだ。ブロリーに催眠術程度が通じるはずもない。とっさに回避行動を取ったおにぽんだが、間に合わず腕を派手に殴り飛ばされる。それを見ているベジータは支援に入ることもせず、すぐに美鈴に駆け寄った。「そっちの女。話がある」「女じゃなくて紅美鈴で……」「そんなものはどうでもいい、時間がないんだ!」美鈴はむっとしたが、ベジータは完全に無視して話を進める。彼の言葉に対し、美鈴が質問する時間などなかった。 10秒フラットで吹き飛ばされたおにぽんが、脇に叩きつけられたのだから。 「く、ここまでとは……聞いたな! あとは俺の話したとおりにやれ!」「ああもう、本当に頼み方が下手よね……やれっていうなら、やるけど!」 『Ignition. A.C.S. Standby』 響くリロード音。重傷に鞭打って、美鈴は走り出す。バリアジャケットなど展開しない。している時間も余力も知識もない。細かい制御はデバイスに任せて、美鈴は最大速度でブロリーへと突っ込んでいく。それを撃ち落とそうと放たれるブロリーの弾幕。その隙間を潜り抜け、蛇行しながら美鈴はマッハキャリバーと共に走る。「背水の陣だッ!!!」「蝿の真似の間違いだろう……すぐに叩き落としてやる」更にブロリーが弾を追加しようとした瞬間、美鈴の脇を閃光が走りぬけた。ベジータが両手に気を集中し、ギャリック砲を放ったのだ。ふん、とだけ息を吐いてブロリーはそれを払いのけた。その隙にマッハキャリバーは最大加速し、再度敵の懐へと潜り込む!「――紅砲」 『Knuckle Duster』 奔る気。そこにマッハキャリバーによって上乗せされる魔力。近代ベルカ式と気の混合は、こと身体能力強化においては普段以上の力を発揮する――!とっさにブロリーが展開したバリアと、リボルバーナックルは激しく衝突した。だがブロリーは強い。ナックルが弾かれる。止めない。弾かれた勢いのまま半回転。美鈴は体勢を戻し、マッハキャリバーは先ほどぶつかり合ったバリアの波長を計算する。そのまま低い姿勢から蹴り上げられる鋼鉄の蹄! 「天龍脚ッ!」 『Barrier Break』 「ヌゥ!?」 音もなく砕け散るバリアに、ブロリーが息を呑む。 障壁を突き破ったマッハキャリバーは、そのままブロリーの左足とぶつかり合った。 バリアが持たないと直感的に知って、とっさにブロリーも反撃に出たのだ。 交差する飛び蹴り。鏡合わせにブロリーの左脚と、美鈴の右脚がぶつかり合う。 あまりにも強烈な衝撃に、逆に美鈴の肋骨が軋む。 美鈴の表情が歪んだ、その瞬間。 「ッ!!!」 『protection』 勝ち誇った笑みを崩さぬまま、ブロリーは同時に左腕でエネルギー弾を三発放っていた。マッハキャリバーが展開していたバリアごと、突撃してきた方向へ美鈴は蹴り戻される。土煙が巻き上がり視界が遮られる。それを意に介さず、再び土煙から現れるあざやかな紅。ブロリーがそちらへ掌を向ける、そこで突然マッハキャリバーは急ブレーキを掛けた。「くく……いまさら怯えでも……?」ブロリーの言葉は、美鈴が跳躍した瞬間に途切れる。彼には土煙と美鈴の鮮やかな髪に隠れていたベジータの姿など、見えてはいなかった。ましてやベジータが右手から投げつけた、気円斬など。――現在のブロリーに掛かっている制限は三重だ。そして気円斬は戦闘力一万程度のクリリンでさえ、戦闘力百万以上の第二形態フリーザに傷を負わせられるほどの技。制限によって戦闘力差が大幅に縮まっている今ならば、気円斬は確実に通じる!目くらましは成功した。完璧なタイミングで飛行する気円斬。ブロリーの脚は止まっている。勝った、とベジータが思考した瞬間、悪寒が走った。気円斬の制御を放棄してベジータは飛ぶ。蹴りと共に放った気弾のうち、美鈴を吹き飛ばしたのは一つだけ。残り二つは土煙の中へ潜んだ後に時間差で動き出し、先ほどまで美鈴とベジータがいた場所をそれぞれ粉砕していた。その衝撃で気円斬の軌道はズレ、ブロリーの右太股を掠めて虚空へと消えていく。「そんな……」「女、避けろ!」「っ!?」ベジータの声に、美鈴は着地と同時に地を蹴った。ベジータと反対側へ。更に追ってきたエネルギー弾が美鈴の左太股を掠める。痛みに美鈴は声を漏らしかけたものの、ブロリーが更に追加した気弾を視界の隅で捉え、そんな暇など無いと気付かされた。マッハキャリバーに魔力を流して、走り続ける。回避のための回避。攻撃に再び移る隙など皆無。向こうでは回避に成功したベジータが、次の回避に移っていた。一度放った以上、同じ技を使えばブロリーは警戒するだろう。あの場で仕留められなかったのなら、このままでは勝機は無い。先ほどのような奇襲はもう通じない。だけど、それでも――。「おにぽん、フレイム」声が響いた。そうこの場には、もう一人いた。倒れていたおにぽんが放ったかえんほうしゃが、ブレイドアーマーを包み込む。だが。「大人しくしていれば苦しまずに済んだものを……!」ブロリーはおにぽんの攻撃に何ら苦痛を見せず、ただ冷酷に気弾を撃ち返した。かえんほうしゃは容易く押し返され、五秒を待たずに消えた。そして、気弾は消えない。受ければ彼女は死ぬ。代償は、ほんの一瞬の静寂。気弾の雨が止む台風の目。おにぽんの姿が見えたのは美鈴だけ。だからそれを見逃さなかった美鈴が掛けた。轟く轟音。砕け散るおにぽん。それさえも加速するための材料にする。未だ余裕を崩さない男の懐に潜り込んで狙い打つはただ一点、ブロリーの腹部。作戦会議のときに聞いた、アーマー越しでも容易く致命傷になるであろう場所。加速したまま、拳を全力で振り上げる。 そこで美鈴は気付いた。敗因は気弾が掠めた左太股だと。 真正面、至近距離、攻撃態勢に入った瞬間に、ブロリーは美鈴に視線を戻した。戻してしまった。 距離にして30cm、時間にして一秒もない、傷による遅れ。それが明暗を分けていた。 とっさにマッハキャリバーがカートリッジをロードする。だが無意味。 腹部を狙ったはずの一撃は、素早くブロリーが回避行動に移ったことで右太股へと突き刺さる。 そこは、先ほど気円斬が掠めていった箇所。アーマーが切り裂かれた場所に、美鈴の拳は直撃した。 確かに大きな打撃だった。確かに鈍い、骨が折れる音がした。――けれど、それは決して、致命傷などではなく。続いてカウンターの形で放たれたエネルギー弾。それが、美鈴を吹き飛ばしていった。「貴様ァ!!!」べジータが絶叫する。仲間意識があるわけではない。所詮、ほんの少し前に会ったばかりの仲だ。しかし、自覚する間もなくベジータは叫び、掌に気を集めていた。その髪はいつも以上に逆立ち、金色に染まっている。「ザコどもが、やってくれたな……加減もなく、消し飛ばしてくれる!」「手加減できるならしてみろ。その瞬間貴様を宇宙のチリにしてやる」同時に、ブロリーの気もまた膨れ上がる。足首だけでなく太股まで完全に折られてしまった右足は、紛れもなく大きな損失だ。もはや完全に使いようにならない。彼が苛立つのも当然と言える。逆ギレに近いが。ブロリーが片腕を向けるのを確認しながら、ベジータは思考する。勝算があるとすれば、美鈴が与えたダメージ、そして疲労の二つ。あれだけ気弾を連発してきたブロリーが、スーパーベジータの全力を込めた攻撃を押し止められるのか。それが勝算。「ファイナル──」「……フン」「──フラァァァァシュ!!!」怒号にも似た叫びと共に、ベジータが合わせた掌から光が放たれる。同時にブロリーも掌から小さな気弾を放ち……それは、ファイナルフラッシュに激突した瞬間巨大化した。この会場において最強である二人の力が激突し、地面が割れる。舞い上がった岩は容易く蒸発し、周囲はまるで真昼のような照明に包まれていく。目が眩むほどの閃光の中で、ベジータはファイナルフラッシュが圧され始めたのを見た。この状態にしてこれほどまでの気を保てるならば、勝算などない。ブロリーに、衰えなどありはしなかった。ファイナルフラッシュを飲み込みながら、緑色の流星がベジータへと迫る。金色になっていた髪が黒に戻ったベジータを、流星は飲み込んでいく。――横から圧倒的な熱量が突撃してきたのは、その時だった。ベジータの視界の端に、突如太陽が割り込んだ。それは心強い見た目の通りに、ファイナルフラッシュで威力の鈍ったギガンティック・ミーティアを押し止めた。「――次から次へと、小ざかしい蝿どもが!」大技の打ち合いに、ようやく息を荒げ始めたブロリーが顔を歪ませる。地面に倒れこみながら振り返ったベジータの先。正義の味方が、そこにいた。「サンレッドさん、戦っちゃ駄目って……!」「んなことはどうでもいいんだよ! それより、ベジータの奴を頼む」「え……で、でも」「返事!」「は、はいなの」襤褸切れのようになったスーツ。元から赤い外套は、己の血が更に紅に染めている。明らかに傷が癒えていない。明らかに回復していない。それでも歩いていく。フン、とブロリーはそれをあざ笑った。「脚一本奪った程度で、この俺を倒せるとでも思って」「何言ってやがる。思ってるに決まってんだろ」「いるのか何ィ!?」「ベジータ達は命がけでそこまで戦果を挙げた。なら、俺はそれに応えないわけにはいかねぇ。 俺はサンレッド――ヒーローだからな!」「クズ共が、次々へと…… 貴様らが何度来ようと俺が負けることはないと言うことを教えてやる……!」「教えるのは俺のほうだ。しっかりとお前に叩き込んでやる。 ――怪人は最後に必ずヒーローに倒されるってお約束をよ!」■「まいったわね、全く……」月下、寒村に一人残された咲夜は一人でため息を吐いた。休んでから一時間。それであっさり静寂は破られた。ここに響いてくるくらい派手な戦闘音に、サンレッドはすぐに反応した。それより無理やり押し止めて、おにぽんを行かせるということで納得させたのが三十分前。そして入れ違いで入ってきた美希が戻っていた際、咲夜が目を放した隙にサンレッドが抜け出したのは二十分前になる。「……もう少し、私が強いってことを言っておけば無茶はしなかったかしらね?」失策にため息を吐く。サンレッドたちに自分のことは「投げナイフが得意なメイド」程度のことしか言っていない。時間を操ることや「傍に立つもの」についてはノータッチだ。だから、サンレッドが咲夜の戦闘力を低く見積もっているが故に無茶な行動に出た可能性は十二分にある。「さて、どうするべきか」最早疑うまでもない。今戦っている相手はブロリーだ。咲夜としては、言うまでもなくあんな化け物と戦うのは金輪際御免だ。しかし、聞く限りでは結構な数の参加者がブロリーと戦っているらしい。もしかすると、これがブロリーを倒せる最後のチャンスということもありうる。(その場合、私も戦闘参加するしかないのだけど……さて。 行くとしたらせめてフジキをある程度回収してから行きたいところね)考え込む咲夜は知らない。彼女にとって真の失策は、誰が戦っているのか美希に聞かなかったことだという事実に。■ブロリーの弾幕を避けながら、サンレッドは疾走する。光景だけみれば何かのヒーローショーのようだし、ある意味その一種ではある。違うのは、悪役が本当に宇宙を破壊しかねない存在であるということだが。(ち、なんとか近づかねえといけねぇけどよ……!)狙うは接近戦。右足の機能停止。ブロリーの機動力低下は見るまでもなく明らかだ。片足の喪失を最大限にサンレッドが活かせるのは、ブロリー相手の場合接近戦だ。ブロリー相手に離れているなら、例え後ろにいたところで気弾が襲ってくるだろう。故に、それを撃たせる暇もなく攻撃できる位置が望ましい。だがブロリーも本能的にそれを避けようと、小さな気弾を連射する。呼吸が荒くなってきているとは思えない量に、サンレッドは辟易しながら毒づいた。(まだ、やっと疲れが見えてきたって段階なのかよ。奴のスタミナは底なしか!?)持久戦になれば先に体力がなくなるのはサンレッドだ。一時間休んで回復したのは、僅か三分程度戦えるだけの体力。なんとしてもそれまでに、ブロリーに一撃を加えなくてはならない。いっそ特攻でもするか……そう思い始めたサンレッドの目の前で、突如ブロリーの右足に爆発が起こった。「く、死にぞこないが……!」「……へっ」痛みで転倒しかけながら顔を歪ませ、横を向くブロリー。そこでは、精根尽き果てた様子で倒れこむベジータと、慌ててそれを支える美希がいた。「……あの野郎……まともに動くことさえ出来ないだろうに、無茶しやがって……」嬉しそうにぼやきながら、サンレッドは走る。最後の気力を振り絞って、ベジータが気功波を放ったのだ。当然、それを見逃すサンレッドではない。ブロリーの弱点、右側から一気に詰め寄る。最早なんども行われた接近。しかし、今までのそれとは大きな違いがある行為。「ち、貴様らごときがこのカワイイ!ベルトとこの俺を破壊することなど!」「ふざけんな。俺にはわかる。 そのアーマーは、そこに居る人を守りたいという思い…… 人を愛するということを知っているヒーローが使ってきたものだ」構える。今までブロリーが接近戦に勝利できたのは、脚が動いていたから。ブロリーの強みは耐久力だけではなく速度。類稀なる反射神経とその移動速度が、美鈴とベジータの攻撃を潰してきた。しかし、右足が潰され、更に僅かだが疲労が噴出した今、それは大幅に減衰している。故に、防御は間に合わない。「お前に、そのスーツを着る資格なんざねえッ!!!」単純極まりない正拳突き。前の戦いで、ブロリーには二つの大きな傷があることをサンレッドは見ている。一つは腹。一つは首。ブロリーがどちらを防御しようとするか。サンレッドにとってそれは賭けだった。彼はブロリーが腹を防御することに賭け、首を目標とした。賭け金は、ここにある全ての命。その、結果は――「オラァ!」「グ……ハァ!」首元のブレイドアーマーを粉砕しながら、サンレッドの拳がブロリーの首に叩き込まれた。吹き飛ぶブロリー。だが……これは決して、ヒーローの勝ちを、意味しない。(……笑っていやがる、だと!?)サンレッドは見た。ブロリーの表情が、勝ち誇った笑みに染まっている。理由は単純だ。彼にとって、これは想定の範囲。勝利への道筋。ブロリーはまだ首に攻撃されても持ちこたえられると判断したからこそ、腹を防御した。そのまま宙へと浮かぶ。左手に緑色の光を集めながら、ブロリーは空へ上っていく。飛び道具を撃つつもりか。そうサンレッドは予測し、腰に力を入れた。この程度の高度ならば、ジャンプして飛び掛れば簡単に引き摺り下ろせる。しかし、それを見越したようにブロリーは嘯いた。「接近していいのか?」「……? 何言ってやがる?」「お前は無事だが、後ろの二人は粉々だぞ? ククク……」「!! テメェェェェエエエ!!!」ブロリーの言葉に、サンレッドは歯軋りした。禍々しい剛腕は、既に美希達の方へ向いている。美希はただ体が伸びるだけ。世界チャンピオンのような力は持っていない。気絶しているベジータを運んで走るような体力など、持ち合わせてはいない。彼女がブロリーの攻撃を避けることなど、どうやっても無理だ。「そこでじっくり、俺がパワーを溜めるのを見ているんだな…… お前達はとっておきで葬り去ってやる……フハ、フハハハハハハハハ!!!」ブロリーらしい単純かつお粗末だが、同時に凶悪な作戦。舌打ちしながら、サンレッドは美希達のところへ駆け寄った。敵が撃ち出すのは、今まで連射してきたような低威力のものではない。おそらく連射力や消耗を度外視し、パワーだけを重視したもの……ベジータのファイナルフラッシュを容易く打ち消した、ギガンティック・ミーティア。サンレッドの思考がめまぐるしく回転する。体力も限界近い。今……自分に出来ること。それを、走る数秒で考え。たった一つ思いついたことに苦笑しながら、サンレッドはブロリーを見上げた。「やっぱ、みんなを助ける手段はこれしか思いつかなかった……」「え?」「美希……だったっけ? ベジータをしっかり掴んでくれ、離すなよ。 お前の体ならちょうどいい感じのクッションになるだろうからよ」「???」顔を動かさないまま、美希の傍らで足を止め。彼女の方を見ずにサンレッドは話す。その様子から、彼の考えに気付いたのはディムロスだった。『……我を使え、サンレッド。 あれだけ多数の者が命を賭けて我だけが命を賭けないなどという道理はない』「そうか。付き合わせて、悪ィ」「わ、ちょっと!?」そう呟くと同時に、サンレッドは右腕でディムロスを受け取って。同時に、左腕でベジータごと美希を抱きしめた。「終わりだ、チリ一つ残さず消し飛ばしてやる!」「もし内田かよ子って女に会ったら、すまねぇっていっといてくれ」ブロリーが気弾を放つのに合わせて、そう呟くと共に。サンレッドはベジータ諸共、全力で美希をブン投げていた。「え、え……!?」美希が混乱する中、ブロリーの気弾がサンレッドと衝突した。死ぬ。修造の言葉さえ忘れて、美希の頭の中が埋め尽くされる。希望も熱血も何もかもなくして、迫る緑光を目の当たりにする。だというのに。その破壊から離れていく美希でさえ絶望するというのに。サンレッドは怯まず、その破壊に対して剣を叩きつけていたのだ。投げられた勢いのまま宙に浮きながら、美希はその姿を見た。光で僅かにしか物体を視認できないこの場で、全ての視線を縫いとめるという矛盾。星を砕く暴力をその身一つで受け止める、あってはいけない奇跡。だが、それを起こす存在が、正義の味方が、そこにいる。ブロリーの放った気弾。それを、サンレッドは自分の体とディムロスで受け止めていた。その光景を目に焼き付けながら、気弾が引き起こした暴風と共に美希はその場から離れていった。■サンレッドが美希とベジータを強引な手段で逃がしたのは、ブロリーも確認している。だが追えない。追うはずもない。目の前で起きている、事態ゆえに。「……な、なんて奴だ!?」その光景に、ブロリーすら畏怖すら覚えざるを得ない。同然だ。銀河をも吹き飛ばすかの一撃を、身一つで受け止めるなど誰が信じられよう?「チィ!」余裕は消える。掌に全てを注ぎ込む顔は、今まで決して見せなかったものだ。今の自分にある全てをかけなければ、この敵を倒すことはできないと。ブロリーですらそう思わざるを得ないほどの奇跡が、目の前にある。だからこそ、注意は完全にサンレッドだけに向き……ブロリーは右腕目掛けて飛んできたそれに、反応できなかった。スパリと響く、軽い音と――同時に、ブロリーの右腕が、落ちた。「な、なにぃ……!?」振り返るブロリー。そこには、左腕と左脇腹を失いながらも、かろうじて生き残っていた美鈴が横たわっていた。ブロリーへ、右腕を向けて。――気円斬。先ほどの一戦でベジータの使っていたそれを見た美鈴は、それを自分なりの形で模倣し、気をまとめ、放ったのだ。不可能なことではない。難しいことでもない。彼女の扱う能力は気。修行さえ積めば、かめはめ波だって撃ってみせる――!「貴様ァ!」その気性故に、ブロリーはとっさに残った腕で美鈴へ向けて気弾を放つ。炸裂する新たな気弾。だが、その間にサンレッドへ放たれた気弾の圧力は消えていき。素早くサンレッドへ向き直った瞬間、首に何か熱いものを彼は感じた。「……ァ?」ブロリーが声を上げようとしても、できない。それどころか、呼吸すら。混乱したまま、ブロリーは地面に叩きつけられる。見下ろす自らの首に、折れた剣が突き刺さっていた。ブロリーの攻撃に耐え切れず折れたディムロス。それを、よそ見した隙にサンレッドが投げたのだ。ルガールが与えたその傷にディムロスだったものは深々と刺さり、致命傷を与えた。(――ふざけるな! たかが首を貫かれた程度で、この俺が死ぬものか!)ブロリーが吼える。いや、吼えようとする。だが出来ない。傷は気管を両断して塞いでいる。いかにサイヤ人と言えども、呼吸できなくては生存できない。彼が力を込めていたはずだった気弾は、サンレッドとディムロスによって虚空へと消えていた。やがてブロリー自身も膝を付く。それでも、顔を上げた。サンレッドが仁王立ちしたまま、彼の無様を見下ろしている。(まだだ……俺が死ぬはずなど……な……い……)それでも消えゆく意識の中、立ち上がろうともがく。最後まで自分の死を受け入れられないまま、ブロリーの意識は潰えた。■「ベジータさん、しばらくここで隠れてるの!」駅の一室にベジータを隠して、美希は再び走り出す。彼女の疲労も、かなり大きなものになっていた。大人一人を抱えて走ったのだから当然だ。ほとんど引きずるような形になったとは言え、完走しきっただけ彼女は褒められていい。それでも彼女は休むことなく、サンレッドたちが戦っている場所へ向けて再び走る。だが、駅から出た後目的地にたどり着く前に。「ちょっと待って。戦いならもう終わってるわよ」通りがかったメイドに、話しかけられた。「あれ、えーと……」「咲夜よ。十六夜咲夜」「美希は美希なの。終わったって、どういう……」「死んだみたいね、ブロリーは。遠目で確認しただけだから、まだなんとも言えないんだけど」「本当なの!?」「だから、遠目で確認しただけよ。近づきたくないわ。 もし生きてたりしたら怖すぎるもの」渋々、と言った様子で美希は頷いた。確かにその気持ちは美希にも理解できる。死んだと思ったブロリーが動き出す様子は、美希も簡単に想像できた、というかしてしまった。お化け屋敷が幼稚園児の遊び場に見えるような体験が出来るに違いない。「そっちの質問は終わったようだし、こっちから質問していいかしら。 ……この帽子の持ち主。まさか、ブロリーと戦っていたの?」そう言って、咲夜は拾ったらしい一つの帽子を取り出した。飾りとして星のあるソレを。それは美希にも見覚えがある。自分がものを渡した相手なんだから当然だ。……そして、美希は、彼女がブロリーを殴った後吹き飛ばされるのを見ていた。だから、それで彼女は死んでしまったと思っていた。結論は間違っていない。過程は誤認しているが。「どうなったの?」「……それは、その」「……そう。死んだのね」それだけ言って、咲夜は俯いて押し黙った。月下に、重苦しい沈黙が数秒続いた後、それに耐え切れずに美希は口を開く。「知り合いなの?」「一応、ね。 ……ほんと馬鹿。私達が誰のために命を掛けるべきかさえ、忘れるんだから」目を閉じて、呟く咲夜。月が僅かにその影を照らす。一瞬その言葉に美希は首を傾げたが、疲労と焦りからすぐに考えるのをやめた。やめて、しまった。「咲夜さんは、しばらくそこにいていいの。後で一緒にお墓作るの。 じゃ、私はまずサンレッドさんが無事か確かめに……」「いいえ、確かめる必要はないわ。 だって貴女は、死ぬんだもの」え、と美希が声を上げる暇もない。咲夜の背後に雄雄しいヴィジョンが現れ、そして。時は、止まった。………………………………「――そして時は動き出す」気が付けば、美希は喉に大穴を開けてその場に倒れこんでいた。(……なんで?)かろうじて残った意志で視線を動かすと、咲夜がナイフの血を拭き取りながら、美希のデイパックから食料を回収していくのが見えた。(……なんで、なの?)何一つ確認できないまま、美希の視界は永遠に閉ざされ。咲夜はそれを意に介することなく、その場を歩き去っていった。絶対に、振り返らないと心に決めて。一緒に戦いの場に戻ってから美希を殺せば、より多くの道具が手に入っただろう。たくさん出た死者から、道具を奪えただろう。けれど、咲夜はそれをしなかった。理由は簡単だ。――美鈴の遺体を見たくないからだと、咲夜自身がよく分かっていた。■「うっわー」遅れること数十分。ブロリーたちが殺しあった場所に、ひょっこり姿を現す姿が一人。アカギに散々玩具にされまくったフランドール・スカーレットである。アポロの血を吸ったことである程度傷は治ったとはいえ、依然として精神的にはかなり不安定だったのだが……かなりイライラしていた彼女の頭を冷やすものがそこにはあった。言うまでもなく、ブロリーの遺体だ。彼女はそろそろと、様子を窺うように歩み寄っていく。「死んでる……んだよね。やったのは……」ぽんぽんと死体の頭を叩いた後、次にフランが向き直ったのは、立ちっ放しのサンレッドだった。「ねー。あなたがやったのー? ねー、聞いてるー!? ……なんか様子がおかしいなぁ」いくら叫んでも反応を見せないサンレッドに、首を傾げながら近づいていく。そのままつつくと、サンレッドだったものはあっけなく倒れていった。――そう。彼は既に、死んでいた。それでも立ち続けているのは、類稀なる強靭な彼の遺志か、あるいは奇跡か。ヒーローはようやく戦いの終わりを知ったかのように、月に照らされながら地に落ちた。「……ブロリーと相打ちになったのかなぁ。凄いや。 あ、そういえば持ってる道具でなんか撃てば凄くなるのが……」彼女の言葉は途切れる。暗闇に飲み込まれるように消えていく。だってそれは当然だ。呟いているうちに、見慣れたものを見つけたのだから。「……うそ」声にも、歩調にも、先ほどまでのような暢気な様子はない。ただ、愕然としながら、足を進めていく。「うそ、だよね」足が止まる。フランに付いて来た影も同時に止まる。星の光も、雲の流れさえも。星が照らし出されていた川の前に、それはあった。紛れもない――紅美鈴の、遺体が。戦いが、終わっても。殺し合いはまだ、終わらない。 【サンレッド@天体戦士サンレッド 死亡】 【紅 美鈴@東方project 死亡】 【ブロリー@ドラゴンボールZ 死亡】 【星井美希@THE IDOLM@STER 死亡】 ※それぞれ死亡者が持っていたものはそれぞれの遺体の側にあります。 但し美希のデイパックからは食料が抜き取られています。 またおにぽんとディムロスは破壊されました。 sm202 Inanimate Dream 時系列順 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm202 Inanimate Dream 投下順 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm193 熱血と冷静の間 サンレッド sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK 紅美鈴 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK ブロリー sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK 星井美希 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm193 熱血と冷静の間 十六夜咲夜 sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm201 LIMIT BREAK ベジータ sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表) sm194 アポロ13 -そして誰もいなくなるか? フランドール・スカーレット sm203 正義の味方 -Round ZERO BLADE BRAVE-(状態表)
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――― 誰が一番強いのか? ――― あらゆる次元から人材を募る時空管理局はその都度、優秀な魔導士を数多く排出してきた。 その中にはもはや伝説的な逸話を持つ輩も少なからずいる。 例えばあの三提督のように。 そんな武装隊の面々の間でしばしば話題に上がるのがズバリ、これである。 下世話なランク付けだとは思うが、彼らが腕を頼りに職務を全うする人種である事を考えれば 興味の矛先がそこに向かうのも仕方の無い事かも知れない。 事に最近では、ニアSクラスを出来得る限り集めて結成された八神はやて率いる機動6課。 彼女達は後にも先にも「これ以上はない」と言われるほどのドリームチームと言われ 局全域に近年稀に見るほどの話題を提供する事になったという。 スバル達、新人が口に出して盛り上がっていた話題は、実は局中で口に上がっていた話題でもあったのだ。 そんな中、やはり皆の口から最も多く名前が上がったのが―――その名にしおうエースオブエース・高町なのは。 生い立ちと人気と実力。 教導官として幅広く活躍する彼女ゆえ、ファンが多いというのもある。 数々のドラマティックな逸話を持ち、やや童顔でありながらも凛々しさを称えたルックス。 そして達成してきた任務の数、困難さ。 戦技披露会での圧倒的な強さ。 おまけに年若い女性魔導士だ。 これだけの要素を持っているのだから注目されない方がおかしい。 教導隊全ての総称とされていた「エースオブエース」を己が代名詞としてしまうほどに、なのはは今や万人に認められる存在となった。 だが――――そうしたある種、祭り上げられたエ-スオブエースの威名と並行するかのように 機動6課において高町なのはよりも強いのでは?と囁かれる存在があった。 「なのはさんも強えけど、俺はシグナム姉さんが負けるとこなんて想像出来ねえなぁ」 これはとある陸曹の言葉である。 そう、6課内においては烈火の将シグナムこそが実力は上ではないかという見方も数多くあった。 彼女はなのはとは対照的な古代ベルカ式の使い手。 その質実剛健の働きぶりは見るものを唸らせるほど凄まじいものであるが、裏腹に過度に名声が先立ってしまう事はほとんどない。 恐らくそれは夜天の主の僕としての分を弁え、決して表に出たり目立つ事を良しとしない性格故か。 また脛に傷持つ彼女の経歴が、なのはとは違い、局全体がプロパガンダとして使用するのを躊躇う空気もあったからであろう。 だがそれでも彼女の圧倒的な強さは隠しようがない。 以前、行われた戦技披露会においてのエースオブエースとの「血戦」は語り草である。 修羅さながらの潰し合い。 魔力ダメージによる攻防などという事実は衝撃だけで砕けるBJによってすっかり忘れ去られ 吐血しながらも相手の肉を、骨を砕かんと激突する両者の形相は殺し合いでは?疑うほどのもの。 見物人の顔面を蒼白に染め上げるに十分な死闘が繰り広げられる事、数十分。 闘いが終わり、使い込まれたボロ雑巾のようになった両者が笑いながら引き上げていったその後 会場は恐怖と驚愕を称えた沈黙に包まれ、生唾を飲み込む音すらしなかったという。 今となっては微笑ましい、それは昔の物語。 なつかしくも儚い彼女達の黄金時代である。 閑話休題―――そして、舞台は現代へ。 ―――――― 剣を持つのは高町なのはをも追い詰める力を持った烈将。 かつてない最強の敵を前に、その眠れる力を解放する。 今はもう呼ばれなくなって久しい―――かつて次元を恐れさせた一騎当千ヴォルケンリッター。 一騎打ちなら負けは無しとまで言われた最強の剣士……あの烈火の将が炎を纏いて顕現したのだ。 現世でも逢世でもない隔世で、彼女は誰にも見せる事のなかった本当の力を解放する。 空からの圧倒的な火力で焼き尽くす「空爆」と呼ばれる殲滅戦。 本来の航空機動隊の戦い方がこれである。 敵を寄せ付けぬ圧倒的なパワー、スピード、防御力。 ミッドチルダの犯罪者達を震え上がらせ、抵抗は無意味とまで悟らせる管理局武装隊のその力。 トップクラスの騎士の手による凄まじい轟音と爆風を伴った攻撃が、竜の尾が蜘蛛の子を蹴散らすかのような光景と共になお続く。 「ぶ、ぁ………あぶねッ!」 相手もまた凡庸とは程遠い、星の記憶に刻まれた英霊。 苛烈な将の攻撃を紙一重、皮一枚で残して見せるが……それでも、もはや時間の問題だろう。 魔導士フェイトテスタロッサハラオウンの完璧なフォローの存在が彼らの反撃の可能性を余さず潰しているからだ。 雌雄一対の役割を微塵の狂いもなく果たすライトニング隊にはもう一寸の隙も無く 勝ちの目が無いサーヴァント達はまさに王手飛車角取りをかけられた状態だ。 ―――残り10minute 決定的優位の元に、彼女達は最後の攻防の火蓋を切って落としたのである。 ―――――― ??? ――― かつてミッドチルダを恐怖で震撼させた聖王の揺り篭が、決して余人の踏み込む事のない次元の狭間にて、その巨大な全身を横たえていた。 といってもそれは本来の10%の性能も持ち得ないレプリカであったのだが…… 形だけは大層なハリボテを本拠とする者たちは、強大なロストロギアの力によって開催された祭を取り仕切る実行委員でもある。 同時に祭会場にばら撒かれた無数の宝を、あわよくば拾い集めようと目論む浅ましくも悲しい敗残者たち。 しかしてその巣窟において場違いな男が一人、モニター越しに映る戦いを興味無さげに見つめていた。 黒衣のカソックに身を包んだ四肢をソファに横たえ、我ながら良い身分になったものだと皮肉げに哂う男。 その表情にはまともな人間らしい感情が宿っているかも疑わしい。 「剣の英霊……あいつ苦しそうだったな…」 変わってぽつりと漏れた言葉は、神父の脇に侍っていた少女のものである。 先の邂逅で出会った騎士王の安否を気遣うこの少女は戦闘機人のナンバー5・チンク。 スカリエッティが生み出せし姉妹の5女にして、異邦の客人の世話係としてこの男に付き従う羽目になった今回一番の被害者である。 狂気とやらが生み出したにしてはあまりにも愛くるしい愛玩人形の如き相貌。 人好きのする性格。 嫌な任務でも腐らず、へこたれずに健気にこなす姿は愛らしいの一言では到底片付かない。 「彼女はどうすれば私を受け入れてくれるのだろうか? そもそも、あいつは大丈夫なのか? 神父」 「私に答えられるわけもなかろう。 怪しげな茶番の舞台に強引極まりない方法でサーヴァントを顕現させたのはお前達だ」 「確かに……あの方法については未だ不明な点が多い。 一刻も早い掌握が必要なのだが…」 「そも拾った宝に名前を書いて己が物とする……それは紛う事なき盗人の所業だ。 仮にも私は神の代行者でな。 不心得者に口徳を授けるというのも職業柄、抵抗がある。」 「……神父の仕える神様は一宿一晩の恩というものを教えてはくれなかったのか?」 流石にムッとして床に伏せたまま反論するチンク。 その銀の長髪を称えた頭に―――目の前の皿に盛られた内包物を無言でぶちまける神父……否、人でなし。 「えっ………??」 何が起こったのか分からずに間の抜けた声をあげてフリーズした少女が―― 「、ッッッッあっづォォォォーーーーーーー!!?」 直後、怪鳥音じみた悲鳴を応接室に木霊させる。 ぐつぐつに煮立った餡かけが頭頂部を犯し、後頭部を経てスーツの間から背中に進入。 火を司る料理と言われる中華の熱さを文字通り体感した少女が悶絶して転げ回る。 「な、何てことをするんだっ!?」 「一宿一晩が聞いて呆れる。 未だ私はまともな飯の類を口にしていないわけだが? 客人に生ゴミを食わせる輩が恩義などとよく口に出来た……そんな事であの剣の英霊を手なづけられるものか」 銀髪を振り乱して床をのたうち回ると、その頭からゴロゴロと転がるゴムのような物体があった。 それは彼女が「豚のカクニ」と称して神父に出した、セイバーとの友情の証……もとい、滋養豚の残骸だった。 「な、なまっ!? そんな食べもしないで!」 「生憎、セイバーのように昏倒させられる気はない。 全く世話係などとよく言えたな。 優秀な機械人形と嘯いてはいるが貴様、その実何も出来んのではあるまいな?」 「失礼な……妹やゼストの世話は全部、私が担当したのだぞ! 料理は初めてだから勝手が分からないが個体の洗浄などは大得意だ……!」 「―――ならば洗浄して貰おうか―――」 「へ……?」 憤然と神父と相対していた少女がカエルの詰まったような声を出した。 その前で……おもむろに上着を脱ぎ出す神の御使い言峰綺礼―――― ―――――― 業に入らば郷に従え、とは現地のニンゲンのコトワザだ。 ならば嗜み物も舞台に合わせるのが粋であろう。 男の手に持っているのはサロン・ブランド・ブランブリュット。 10年で僅か3回しか造られない幻のシャンパーニュである。 そんな貴重な葡萄酒を片手に神父と語り合おうと部屋を訪れたのは 言峰綺礼とは対照的な出で立ちの白衣の男、天才科学者ジェイルスカリエッティ。 だがしかし、彼が客間の前まで来た瞬間――― 「うわああああああああああんッッ!!!」 目の前の鉄扉がバタァン!と凄まじい音を放ち、内側から脱兎の如く逃げ出す影一つ。 人外の脚力を発揮し、トップスピードに乗ってあっという間に見えなくなった――― その後姿と、なびく銀髪だけが辛うじて博士の視界に残る事となった。 「ふうむ………………取り込み中だったかね?」 「そうでもない。 少し考え事がしたかったのでな……小娘には出て行って貰った。」 ほどなくお前が来たので何の意味も成さなかったが、と付け加えた神父。 鍛え抜かれた強靭な上半身を再びカソックで隠す仕草の何と絵になる事だろう。 「それは済まない事をしたねぇ。私はてっきりキミが……」 「私が何だ?」 「キミが我が娘に情欲を催してくれたのではないかと淡い期待を抱いたのだが。」 随分と歪な「淡い」もあったもんである。 「しかし姉妹の中でも随一の気骨を持つチンクがあんな声を発して逃げ惑うとは…… 滅多に無い反応が見れて僥倖の極みだよ。 キミは彼女をどう思う? 綺礼。」 どう思うと言われても返す言葉が無い。 生憎、幼女を私物化して侍らせるという好事家にとっては狂喜乱舞するようなシチュエーションも 人が幸せだと思う事にとんと無頓着な言峰綺礼には猫に小判である。 「もしかしたらキミを強く意識しているのかも知れないねぇ。 これが噂に聞く思春期というやつか……」 「気持ちの悪い事を言うな。」 「いやいや実に興味深い。 私は残念ながらニンゲンというものが今一、理解出来ない。 あの娘たちは悲しいかな外界から閉ざされた純正培養の中で育ってきた。 だから今までは戦闘機人の 人 の部分を学習させるに至らなかったわけだが…」 芝居がかった大仰な仕草でいつもの演説を始める白衣の科学者。 「ニンゲン……それもキミほどの強力な毒を持った個体は実に珍しい! その毒は娘たちにも何らかの影響を与えてくれるらしいねぇ! ああ……それは実に喜ばしい事だ……最悪の生きた見本としてキミは極めて良い教材になれるだろうよ! いっそ義理の娘としてキミにチンクを預けてしまおうか! そう! 大事だからこそキミに預けたい! 私が求めてやまぬ生命の揺らぎ……ッ、ことにキミは他人を揺さぶる事にかけては絶品だ! ふふふ、つくづくキミに目をつけた私の目に狂いはなかったといえるだろう。 ああ言えるとも!」 「お前だけには言われたくないと憤慨すれば良いのか私は? 否定はせんが――」 狂乱の白とは対照的な黒が気の無い返事を帰す。 相変わらず人を食った、どこまでが冗談か分からぬ男だった。 ある意味、娘の成長を憂い喜ぶ父親に見えない事もないが(それはもう慈愛に満ちた好意的な解釈をもって)まあ何にせよ、だ。 生まれ故郷を遠く離れた地に、既に死した身を叩き起こされて、まずさせられる事が家族ゴッコだというのだから良い迷惑である。 ことにあの小娘の銀髪を見ていると、どうにも琴線に触れる。 どうやら自分の種から生成されたらしい娘も銀の長髪だと聞いたが、ソレと被って居心地が悪いとでも言うのだろうか? (ふ……馬鹿な。 そんな殊勝な心の持ち主でもあるまい……私は。) 本来、持ちえぬ記憶を持った偽りの自分。 歪なイレモノに感情というデータのみを書き換えられた偽りのコトミネキレイは、ただ溜息をつくのみ。 かつて世界の毒として生を受けたこの身は、もはやあの世界に戻る事も影響を及ぼす事もない。 今回、自分は何の当事者でもない。 この茶番劇において狂言回し以外の役割を担う事もないだろう。 以前のような悪意と狂気に満ちた行動力は既に枯れ、暢気に晩酌などを嗜んでいるその目下。 かつての自分の使い走りが悪戦苦闘している様を精気の抜けた双眸にて見下ろすのみ。 (―――それにしてもランサーよ。) 自身と同様の哀れな姿にも気づかず、令呪による縛りから解放されて全力で駆ける男の姿が瞳に映る。 (そんなザマでも思うままに飛び跳ねられるのが嬉しいのか……) まるで首輪を外されてはしゃぎ回る犬ッコロだと、にべのない感想を抱くのも忘れない。 冬木の地で凌ぎを削ったサーヴァント達が今、再び蟲毒の檻にて踊り狂う。 だが聖杯に変わり、英霊召還の無理を押し通すオーバーテクノロジーのシステムはそのまま彼らを好き勝手に弄ぶ傲慢な縛鎖に他ならない。 戯れに戯れを塗り込んだ無礼に過ぎる仕様。 彼らはもはやギルガメッシュの言った通りの紛い物の人形だった。 ランサー。 ライダー。 そして、セイバー。 正視出来ぬほどに歪になってしまった地球の神秘、幻想の具現たち。 何も知らずに舞い狂う彼らも、いずれはその袋小路の運命に絶望するのだろう。 ………無表情の男の口元が微かに歪む。 「せめてそれまでは足掻いて欲しいものだな。 ことにランサー……せっかく私の手綱から逃れたのだ。 ろくに観客を笑わせぬうちに退場する道化もなかろうよ」 含んだ笑いと共にかつての自分のサーヴァントに彼なりのエールを送る神父。 その相貌が矯笑に騒ぐスカリエッティの視界の外で暗く――――どこまでも暗く淀み沈むのであった。 ―――――― 果たして槍兵にとっては全く嬉しくない人物からの応援が届いたか否か――― 推し量れるほどに男は今、生易しい状況に置かれてはいなかった。 何せ怒れる火竜の蹂躙がすぐそこにある。 轟炎の剣士と炎の剣精のデバイス。 JS事件における最終決戦で初めてその身を同化させたシグナムとアギトが叩き出した破壊力は 恐らくは全リミッターを解除したなのはと同等以上という壮絶にして余りある数値を叩き出した。 この世にパワーバランスを司る何かが働いているのだとしたら、二者を引き合わせてしまったのは明らかに彼らの職務怠慢だろう。 まるで竜種そのもの――それは正しく人ではない、大空に駆ける飛竜だ。 轟々と燃え盛る炎を纏い、生物の頂点に立つ最強の亜種。 竜の威厳と変わらぬそれを以って、剣士は二体のサーヴァントを蹴散らし続ける。 「………」 「ランサー?」 加えて電撃使いの雷のダメージは体の外側でなく芯に残り、直撃すれば骨も残らぬ剣閃烈火が頭上スレスレを通り過ぎるのも幾度目の事か。 このままでは丸焼けになるか塩漬けになるか……勝機はおろか生還すら絶望的な状況だ。 そんな明らかな劣勢において、普段は騒がしい槍のサーヴァントが沈黙している。 訝しむ騎兵。 敗色濃厚で意気消沈するとは情けないと皮肉の一つも投げてやるべく、その相貌を覗き見る。 果たしてその横顔は――― 「竜殺しか……………こりゃいい。 喰いでがありそうだ」 ―――憎たらしいほどに、いつも通りの男の顔であった。 「命脈尽きてなお巨頭に挑む機会を与えてくれた古今東西の戦の神に感謝するぜ。 アレは俺の相手だ……お前にゃ渡さねえよ。」 ここに来てまだ一騎打ちにこだわっていたりする槍兵。 仮にこの地で討ち果たされても本望という意思さえ感じ取れる。 流石は戦バカ……否、戦ヲタク。 とても並の神経では理解できない。 (どうしたものか…) 当然、対面のライダーの思考は対照的だ。 彼女はここで果てる気などはない。 戦いに結果以外の意味など求める性分ではないし、この槍兵と一緒に討ち果たされる義理も無い。 狂人に付き合って枕を並べて討ち死になど笑い草も良いところだ。 唯一心残りなのは頭上、あの炎の騎士の遥か後方でこちらを見下ろす黒衣の魔導士。 もはや到底あれに手が届く状況ではないのだが……それにしても口惜しい。 (ペガサス――) ―――は、駄目だ。 神殿を破られた影響で自身の体内に残る魔力がほとんどない。 弾奏に残った最後の一発は周囲全てが敵である乱戦ではとても使えない。 (何とか再び彼女らを引き剥がせれば、また話は違ってくるのですが……) あの美しい獲物を取り逃がすのは癪だ…… しかしいよいよとなれば隣の男を盾にしてでも撤退を決め込むしかないだろう。 既に佳境に入ったこの戦い。 四つの思考が乱れ飛ぶ中――― Last assault 開始後2分 ――― 時限を現す時計の針が五分の一ほど進んだ事を場に示していた。 ―――――― ラストアサルト――最後の急襲作戦は既に発動した。 よっしゃあ絶好調! シンクロもばっちりだぜ! 「……」 もはや後戻りは出来ない。 オーバードライブの安全弁を開けてしまった今となってはやり直しも効かない。 その攻勢の第一波を思う存分、サーヴァントを追い散らす事で果たしたシグナムとアギト。 10分20分と暴れまわったように感じた彼女らが、改めて要した時間は2分にも満たず。 こちとら力が有り余ってるんだ! 見てろ……一泡も二泡も吹かせてやるぜ! 「調子に乗るなアギト。」 (わ、分かってらぁ…) 圧倒的優位にて序盤を折り返すユニゾンシグナム。 しかし遠巻きから見てなお、相手の動きにも目の内に宿った闘志にも衰えはない。 果たしてこのまま決めさせてくれのか? 騎士の心胆には未だ暗雲が立ち込めていた。 回避の一点張りを決め込む二対を相手にどうしてもクリーンヒットを奪えない。 一撃でもまともに当たればそれで終了だというのに…… 凄まじい火力に追い立てられ、一方的に削られて、ほどなく動けなくなるとしても 今は頭を伏せ、あるか無いかの一瞬のチャンスを待ち続けているようにも見える敵。 凄まじい胆力だ。 それだけで驚嘆に値する所業であるが…… (感心している場合ではないな……終盤の一手を誤れば詰まされるのは我らだ) 苛烈に、そしてあくまで冷静に二体を追い立てるシグナム。 その懐から鞭のようにしなる火竜の尻尾を再び眼前に叩きつけ――― また一つ、巨大なクレ-ターを場に刻む。 ―――――― シグナムが振り被った炎尾の業火を掻い潜る英霊二体。 相手にセイバー並の剣速がなかった事がせめてもの救いであるが、それも不幸中の幸いに過ぎない。 加えて高速で飛来するフェイトが巨大なザンバーを構えて彼らを強襲。 後方支援に徹するかと思いきや、隙を見せれば一足で踏み込んでくる……それがこの魔導士の恐ろしいところだ。 ソニックインパクトのトップスピードは英霊を凌ぎ、到底カウンターを合わせるどころではない。 戦闘機によるぶちかましを髣髴とさせる当たりでランサー、ライダーを吹き飛ばす。 再び散り散りにされる蒼と紫。 そして尻餅をついたライダーの腕に―――将の蛇腹剣が巻きつく。 ジュウ、という肉を焦がす音と匂い。 諸共に凄まじい牽引力が騎兵の身体を引き摺り始める。 そのままライダーを引き回し、先ほどの返礼とばかりに力任せに叩きつけようとするシグナム。 「むう……!」 だが騎兵とてそう簡単に力負けはしない。 彼女が四肢を……否、捕られられた右腕以外の三肢をフル稼働。 片腕両足の指を地面に食い込ませて場に踏み止まる。 ガクン、という凄まじい抵抗を受け、驚くべき手応えに将が息を呑む。 灼熱の蛇腹剣に二の腕を締められているのだ。 だのに食い込む刃を意にも介さず、女怪は右手で剣を掴みながら騎士と互角の力比べに挑んでいる! 「ふッ――!」 「こいつッ! つくづく…」 どっかおかしいんじゃ無いのか、あの女ッ!? ルーみたいな顔しやがって!と悪態をつく妖精を尻目にシグナムの脳裏に過ぎるは 地球において最もポピュラーな昆虫――甲虫最強の一本角のアレであった。 木や地面から引き離される際、そうはさせじと四肢を踏ん張り、驚くべき抵抗を見せる彼らを彷彿とさせる光景だ。 何の! ぶっこ抜いちまえッ!! 「言われるまでもない!」 更なる出力を発揮する空の騎士。 女怪の地を食む片手両足がミシミシと悲鳴をあげ、爪にビシリとひびが入る。 それでも大地に根差した大木のように動かない痩身。 怒れる竜と、その尾を掴んだ魔性の怪物――幻種同士の剛力比べが始まった。 ―――――― (……シグナムっ!) 止まらぬ連携が――止まった! 否、力づくで止めたライダー。 魔導士に焦燥が浮かぶ。 途切れたコンビネーションの隙を見逃す相手ではない。 防戦一転、ランサーが一気呵成に反撃に出る。 10を超える射撃魔法を残らず撃ち落とし、男はあっという間にフェイトに肉薄。 「世間様に迷惑ばかりかけて来た怪物が、たまには人の役に立つじゃねえか! そのまま一時でいいから抑えとけ! すぐに―――終わるからよ」 豪壮無纏に槍を回転させてフェイトの体に照準をピタリと合わせる男。 凛とした佇まいに淀み無い殺気。 対面するフェイトの心胆に氷柱が打ち込まれる。 何度相対してもゾクっと総身を貫かれるような感覚にまるで生きた心地がしない。 無数の矢を再び装填し、槍兵に突撃を敢行するフェイト。 肌にジャストフィットしたボディスーツにスパッツ。 露になった肩から二の腕、太股の辺りまでしか覆っていない下半身。 奇しくも男のそれに勝るほどの超軽装は、あの騎兵を凌ぐ疾走を見せた彼女の決戦モードだ。 「嬢ちゃん。 こうなった以上、主義も主張も関係ねえ……悪いが一気に叩き潰させてもらうぜ!」 「やれるものならやってみろ…!」 先ほど後れを取ったランサーに再度、臆せず斬り込む魔導士。 その顔に気後れなどは微塵も無い。 二撃三撃と打ち込みながら先の二の轍を踏まぬように軌道修正。 スピードと引き換えに失った各種ステータスは決して馬鹿に出来ず 四者の中ではっきりと自分が一番、体力、耐久力では劣っている事を自覚しているフェイト。 故に速度よりも馬力とタフネスがものを言うこうした乱戦下では、間違いなく自分が一番撃墜される可能性が高い。 少しでも気を抜けばバッサリとやられる。 考えている暇などない。 あっという間に景色が流れ、色々なものを追いてきぼりにする両者の交錯は既に始まっている。 当然のようにレッドゾーンを超えてアクセルを開けなければならないこの現状。 絞り潰されそうな心臓の動悸を無視して押さえ付け、執務官はサーヴァントと交戦する。 男の四方を撹乱しながら一瞬でランサーの後方に回り込み、彼女はノーモ-ションで肩口に鎌を振り下す。 「潔さは買う……だが甘えッ! 打ち込む気まで消せれば完璧だったがなっ!」 負傷した目を突いた死角からの一撃を事もあろうに眼で追いもせず、後ろ向きのままに上段で受けるランサー。 こんなのは時代劇でしか見たことがない……研ぎ澄まされた心眼、相手の行動に対する読み。 やはりこの男――最上級の達人だ! しかしこれで終わりではない! 途端、ランサーの前方よりフェイトの雷の矢が飛来する! 男の後方に回り込む前に既に撃ち放ったプラズマランサーだ。 自身の放った弾丸すらをも追い越す速度を持つフェイトだからこそ可能な全方位移動攻撃の真髄。 上方の鎌を受けて晒した男の胴に、このままでは矢が突き刺さるは必定。 無防備な胸と腹部に襲い掛かる鋭い先端が勢い良く飛び荒び、ランサーの目前に迫る。 「おらあああっ!!」 「うっ!??」 しかし槍と鍔迫り合っていたフェイトがバルディッシュごと前方に引き摺られる。 男が受けた鎌ごと強引にフェイトを引っこ抜き、背負い投げの要領でぶん投げたのだ。 視界ごと天地が引っくり返り、軽々と投げ放たれるフェイトの痩身。 前方に投げ放たれた先には自身の放ったプラズマランサーが今なお飛び向かってくる。 このままでは墓穴―――己の放った矢に全身を串刺しにされてしまう! 「何…!?」 だがそこで驚愕したのはランサーだった。 指向性を持った魔法の矢……それがフェイトのプラズマランサー。 コンマの速さで揺れ動く戦況に際し、フェイトの戦術思考は聊かの遅れもなく追随し、修正を開始。 衝突する筈だった彼女と無数の雷は、矢の方がまるで意思を持ったように彼女の体を回避し 歪な鋭角軌道でフェイトの体を避けて、その全てが再びランサーに降り注ぐ。 「野郎っ! 器用な真似しやがる!」 自由になった両手で扇風機のように魔槍を回転させて矢を弾き散らすランサー。 だが最中、敵の様相を見据えて再び舌打ちをする。 投げられ、地面と平行に滑空しながら魔導士は手の平をこちらへとかざしていた。 背中と頭を地面に擦るような低空飛行で、逆さまの姿勢のままに打ち放つフェイト18番の砲撃――サンダースマッシャーだ! 「うおおっ!?」 槍で弾き返すには大きすぎる大砲を、なりふり構わず地を転がって回避する槍兵。 すぐ横を黄金の射線が通り過ぎる。 地面を転がり、すぐさま立ち構える槍兵と、こちらも地を滑って投げの勢いを殺し、迎え撃つように立ち上がるフェイト。 「役不足だ、なんて二度は言わせないぞ!」 普段は優しくておとなしい性格の彼女だが、突き付けられた屈辱を跳ね除けられないような弱虫では断じてない。 その顔、その目には先ほどの槍兵の言葉……「相手にならない」と断ぜられた事に対する反骨心がありありと浮かぶ。 「いやいや不足どころか実際、大したタマだぜ…」 通常、あれもこれもと手を出せばどっちつかずの中途半端な代物にしかならないが あの娘は全範囲、全方位において全ての距離を高い水準でモノにしている。 正直一番嫌なタイプであり、その技量――評価しないわけにはいかない。 (あっちは何時まで持つか……つうか何で宝具を使わねえんだ、あの馬鹿) 凌ぎを削るライダーとシグナムの方をチラっと見る男。 立ち塞がる美貌の少女。 英霊とはいえ、これを一息に飲み込む事は至難だ。 ただの人間がサーヴァントに比肩するだけの天才的なセンスを発揮するなどという事が本当にあるのか? 「何にせよ、信条の違い―――覆すには刃で証明するしかないもんなぁ。 もう止めろとは言わねえよ……俺の理屈、否定出来るものならやってみやがれっ!」 吼えるランサー。 空気がビリビリと震える。 Last assault 開始後3分 ――― 例え刹那の出来事だったとしても刃で語り合えるのならば―――男にとってその時間はかけがえの無い宝だ。 再び槍を唸らせ踏み込むランサー。 フェイトも意を決したように、相手の突撃に合わせて低空飛行。 地面スレスレを潜りながら槍兵の足元をサイスで狙う。 決して正面からはぶつからない。 この男とまともに切り結んだら潰されるだけだ。 上空三方向から牽制の矢を降らせ、敵の攻め手を殺ぐ魔導士。 男が射撃を弾いた一瞬の間でフェイトはミドルレンジにまで後退。 三日月の刃――中距離射出魔法ハーケンセイバーを飛ばす。 (これは多分、避けられる……けどっ!) それを追いかけるように飛翔する黒衣。 腰の燕尾が突風ではためく。 美しいムーンサルトの機動を描き、常に男の死角へ死角へと回り込むフェイト。 その逃げていく金の髪をどこまでも執拗に追いかけるランサー。 赤き魔槍の連突も激烈さを増す。 (さすが……なら、これで!) 空中で回転し、遠心力でデバイスをアッパースイング気味にランサーに叩き付ける。 それはサイスの時には感じなかった凄まじい重さを持つ戦斧の一撃だ。 「む……!?」 間を詰めようとした男が重い一撃で後方に半歩下がる。 状況に応じて変化する武器が攻防においてこれほどに有効に作用するとは―― 彼女の機動力も相まって、まるで別の武器を持った何人もの敵を相手にするようだ。 当然、持ち主にピーキーな技量を要求するマルチウェポンはフェイトを主とするならば何の不足もない性能を発揮する。 「ロックオン……バルディッシュ!!」 間髪入れずに大砲の砲身を相手に向けるフェイト。 男に命中させるのは困難だろう。 しかし―――その背後! 「!! おいライダー! 避けられるなら避けな!」 「――――、!」 男が、炎の騎士と力比べをしていたライダーに向けて叫ぶ。 「サンダースマッシャー!!」 と同時に放たれたサンダースマッシャー。 同時ロックオンによる砲撃が同一軸線上に並んだサーヴァント二人を薙ぎ払う。 一人は中空。 一人は必死に身をよじり、金の濁流から命辛々身をかわす。 必殺の雷撃が薙いだ刻印を大地に刻み付けるその矢先―― 「おおおおっ!!」 支えを失い宙に浮いたライダーを、捕らえた右手ごとシグナムが振り回す。 その肉体が数回転ほど宙を彷徨い―――勢い良く地面に叩き付けられる! ゴシャァッッ、と鈍い音が辺りに木霊し、地面をバウンドして滑るその体。 衝撃に声の無い苦悶を漏らすライダー。 紫の髪が泥に塗れ、無様に這ったその横で―― 「おかえり。」 「…………」 槍のサーヴァントがばつの悪そうな顔で佇んでいた。 「……成果は無しですか? 口だけ男」 「俺もなまったのかね……いや、あの嬢ちゃん、マジで強えんだよ」 窮地を脱する千載一遇のチャンスだったにも関わらず、それを生かせず再び合流した事に対する苦笑いが双方に浮かぶ。 ゴール直前で振り出しに戻る双六のやるせなさを存分に感じ取れる瞬間だ。 「どうにもならんか……いよいよ持ってジリ貧だな」 槍兵がいちかばちかの覚悟を決め、騎兵が何とか窮地を脱出しようと画策し―― Last assault 4分経過 ――― 追い詰められているのはサーヴァント。 しかして背水の陣を敷き、じりじりと相手を攻め立てながら「時限付き」の攻勢を消化していく魔導士と騎士。 焼け付く体内を推しての戦いはなお続く。 彼女らに残された時間はあと6分足らず。 それまでに―――それまでに敵を沈黙させねば…… ―――――― 「提案があります」 「あとにしろ。」 言うまでもなくチーム戦では個々の能力よりもパートナーとの相性が重要となってくる。 故に思う―――やはりというか予想通りというか、つくづく相性が悪すぎる。 敵同士とはいえ、火急の事態で共闘を余儀なくされるケースは決して少なくはない。 先ほどまで本気で殺し合っていた者同士が新たな敵に対して見事な連携を見せて戦う。 戦場においてそういった光景は珍しくはない。 しかしながら二人は思う。 こいつとは……どんなに戦いを通じても―――駄目だろうな、と…… 「提案があります」 「うるせえな! 今忙しいんだよ! さっさと言え!」 「では言います。これでは埒があかない。 死ぬほど嫌ですが貴方に私と協力する権利を与えましょう。 何とかして彼女らを分断し、一対一へと持っていく手助けをしなさい。」 「オマエな……脳みそ湧いてんのか? 第一、協力などせんでも……うおっとぉ!」 頭上を通り過ぎていく火竜の尾を屈んで交わす二人。 背中の肉が焼け焦げて削れる。 それだけでも人間ならば致命傷だ。 「協力などせんでも、お前がどっか行きゃ済む話じゃねえのか?」 「済みませんよ。 フェイトの射撃は明らかに私と貴方を離脱させまいと放たれています。 どうやら向こうは我々が敵同士だと気づいているようですね。 袋の鼠は一緒に叩く――彼女らは実によく分かっている。」 「感心してる場合か阿呆! 敵の思惑が分かっていながら、こっちは足を引っ張り合って何も出来ねえ! これじゃネズミ以下だぜ俺たちは!」 「このままでは二人揃ってここで倒されますね。 サーヴァントが文字通り雁首を揃えて敗北……初戦敗退の不名誉と相成って後世に恥を残す事に。」 流石にそいつはいただけない……彼らには一様に誇りがある。 召還された自分が「取るに足らないサーヴァントだった」などという不名誉は彼らにとっては耐え難く そんな無様な結果を残したくないという感情は全サーヴァント共通の本能のようなものだ。 「一回だ……一回だけ協力してやる」 「決まりですね。 私はフェイトの相手をします……文句は無いでしょう?」 「好きにしな。 こちらも好都合だ」 鉄の結束を見せるライトニングの二人に対して、今にも止めを刺されそうになり ようやく精一杯の譲歩を見せた両者にインスタントな絆が芽生える。 「おらっ! 今だ!」 相変わらず間断なく降らせられる剣撃の雨あられ。 触れれば即、体のどこかを持っていかれる苛烈な攻撃を掻い潜り その中の一撃を選んでまずはライダーがアクションを起こす。 シグナムの横薙ぎを避け損ない、紫の肢体が無様にきりもみ状に吹き飛ばされた。 騎士の剛剣がついに強敵の片翼をなぎ払っていたのだ。 「―――、」 否、そう見せかけて自分で飛んだ! 重爆撃のような衝撃に逆らわず、身を預けるように宙に浮いたライダー。 その彼女に向かって槍の男が駆ける! 「おっしゃ! 飛ぉべぇぇッッ!!!!!」 一足飛びで騎兵に肉迫する蒼い肢体。 上空、騎士と魔導士の顔色が変わる。 今までとは違う動き、違うリズム。 何より互いに敬遠し合っていた相手が初めて呼吸を合わせたのだ。 無様に飛ばされた筈のライダーがそれを見越したかのように反応。 自在に空中で姿勢を変え、駆けつける槍兵に両足を向ける。 そしてランサーの飛び蹴りが突き出したライダーの足に炸裂! ライダーの身体がピストンで打ち出された弾丸のように暴発じみた速度で――打ち出されたっ! 「なっ!?」 爆発的な加速で射出された騎兵の髪が尾を引いて、流れ星のような軌跡を描く。 フェイトをも遥かに超えた速度にて、一瞬で相手の間合いを犯したライダーが獲物に組み付かんと迫る。 ニ敵を射抜く見事な軌道。 流石は投擲自慢の槍兵の射出と言わざるを得ない。 強力なサーヴァント達が初めてチームとして機能した結果だ! 改めて空の敵を射殺そうと放たれたあれこそ本当の紫電の煌き。 ライトニングの二人をして、相手の即興のコンビネーションは計算していなかった。 いなかったが故に―――回避が間に合わない! 「ぐ、あっ!?」 シグナム…!? うわぁ!?? 薄紫の髪をはためかせて空を切り裂く騎兵ミサイルがまずはシグナムに追突し、あっさりと吹き飛ばす。 高熱で形成される四枚の羽の一枚を難なくぶち砕かれ、バランスを崩して墜落する将。 必死でリカバーするが意識を持っていかれるほどの衝撃は彼女に瞬時の戦前復帰を許さない。 そしてシグナムを抜いた騎兵が真に狙うは―――― 「貴方ですよ。 フェイトッ!!」 ―――後方の司令塔フェイトテスタロッサハラオウンに他ならない! 敵のまさかのアクションに圧倒的に反応が遅れたのはフェイトも同じ。 直上へ回避しようとした魔導士が、あっ!?と息を呑んだ時には――― あの禍々しい縛鎖が自らの足首を捕らえた後だったのだ! ジャラリ、と右足に生じた感覚はまるで忌わしき毒蜘蛛の糸が足首に巻きついているかのよう。 罠にかかった猫の如く、ほとんど反射的に空中に舞い上がるフェイト。 (ここで撃墜されたら全てが台無しになる…!) バックアップを失った前衛では、あの速い相手を時間内に仕留められる確率は五分以下に落ち込んでしまう。 Last assault 5分経過 ――― 魔導士がライダーを振り剥がすべく、最大全速にて―――雲を突き抜け離陸した。 前 目次 次
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「そ~れっ!」 黄色い声が元気にこだまする。 ここはバレーボールの練習場だ。 紺色のブルマーと真っ白のシャツに身を包んだ、2年生エースのハルカが飛び跳ねる。 172cmの長身と驚異のジャンプ力で2年生にしてジュニアのエースに駆け上がり、近いうちの 全日本代表間違いなしと言われている逸材だ。 また、実力だけでなくアイドル顔負けのルックスとスタイルで早くもマスコミを騒がせている人気者でもある。 そんなハルカが休憩時間に休んでいると、隣の練習場で練習していたはずの男子ボクシングチームの 1人が姿を現した。 「ハルカちゃん、お疲れ様。」 男子ボクシング フライ級代表の加藤が声をかける。 「お疲れ様です!ボクシングの皆さんも休憩ですか?」 「いやそれがお願いがあってさ。練習中に飲むはずのドリンクを無くしちゃったんだよね。 そっちに余ってるのがあったら分けてもらえないかなと思って。」 「たくさんあるから大丈夫だと思いますよ。あのドリンクサーバー1つ持って行って良いですよ。」 「ありがとう。で、申し訳ないんだけど俺これじゃない。ちょっと運んでもらってもいいかな?」 加藤はボクシンググローブで覆われた自分の手を見せる。 親切なハルカは2つ返事でOKした。 ボクシングの練習場に入ったその瞬間であった。 「キャー!何するんですか!」 加藤がハルカのお尻をなでまわしていた。 「たまんねーよ、ハルカちゃん。その顔、スタイル、かわいらしい声。俺ら禁欲生活を送ってるから、 そんな刺激的な格好されたら我慢できなくなっちゃうよ。」 ブルマーのお尻を舐めまわすように見る男子ボクシング部員たち。 「ちょっと、わたし帰ります。」 帰ろうとしたハルカを遮るように、入口の前に立ち、後ろ手でカギを絞める加藤。 「いいじゃんかよ。一発やらせてくれよ。素直に言うこと聞けば傷めつけたりしねーから。 それとも処女だったか?まあ、処女膜が破れての出血は痛めつけたうちに入らないよな。」 信じられない事を言ってくる。 ここには4人のボクシング代表選手がいたが、いずれも昔は札付きのワルばかりであった。 更生したように見えても本来の性質の悪さは隠しようもなかった。 「酷いじゃないですか。こっちは親切でドリンクを持ってきてあげたのに。どうしてそんなことするんですか?」 「決まってんじゃん。君がかわいすぎるからだよ。かわいいって罪だよなw」 ゲスな笑いを浮かべる男子部員達。 「さあどうする。素直に1発やらせるか。はむかって痛い目に合うか。」 答えられないハルカ。 「よ~しわかった。じゃあ、チャンスをやるよ。グローブを付けてリングへ上がりな。 それで1ラウンド3分間俺の攻撃を耐えきることができたらそのまま帰してやるよ。 その代わり耐えきれなかったら俺ら4人と1発やる。どうだ?」 本来なら取引にもならないむちゃくちゃな要求だったが、思わぬ事態でパニックに陥っている ハルカには冷静な判断が出来なくなっていた。 わずかでも、わずかでも助かる可能性があるならとそちらへ飛び着いてしまった。 それが加藤の罠であるとも知らずに。 「わかりました。本当に3分耐えられたら帰してくれるんですね?」 「ああ、俺は約束を守る男さ。誠実さだけが取り柄なんでね。」 しめしめ、やっぱり女はバカだな。ど素人が、しかも女がオリンピック代表選手のパンチを3分も耐えられると思ってんのか? ドSの加藤はハルカを痛めつける姿を想像し、早くも股間を膨らませていた。 8オンスグローブ、ヘッドギアなし、10カウントもしくは3度のダウンで試合終了。 ノックアウトされずに1ラウンドを乗り切ったらハルカの勝ちというルールになった。 ハルカにとっては生まれて初めてつけるボクシンググローブだ。 バレーシューズとブルマーとボクシンググローブを付けている美少女がリングに上がっている姿は ラウンドガールの様にしか見えない。 しかし、これから行われる試合は真剣勝負である。プロのリングでボクサーがラウンドガールに 殴りかかっている光景を思い浮かべてほしい。 如何に異様な変則試合が行われようとしているか想像できるだろう。 両者がマウスピースを口に含んで試合開始だ。 カーン! 運命のゴングが打ち鳴らされた。 加藤は典型的なドSだった。今回も一番の目的はハルカとのセックスではなく、まさに今行われているように ハルカをリングに引きずりだし、文字通り徹底的に痛めつけることだった。 簡単には終わらせねえ。3分間た~ぷりいたぶってやるからな。 まずはジャブを繰り出す。しかし顔に当てる気はない。まずはガードしている腕を徹底的に痛めつけてやる。 パンッパンッパンッ! 軽快なジャブがハルカのグローブをはじく。ハルカはガードを固めて亀ガードする事しかできない。 「ふふ、いつまでそのガードを上げてられるかな。」 今度はもう少し力を入れたジャブをさらにガード目がけて打ちこんでいく。 バンッバンッバンッ! バンッバンッ! バンッバンッバンッ! まったくパンチをよけられないハルカは全てのジャブをグローブや腕でうけてしまった。 「はは、まあど素人じゃガードを固めることくらいしかできないだろうな。だがな、ボクシングってのはガードしても 腕にダメージが溜まっていくもんなんだ。すぐに苦悶の表情を浮かべてガードを下げることになるだろうぜ。」 加藤は余裕の表情でそんなことを考えていた。 試合は1分を経過した。相変わらず加藤のジャブがハルカのガードを叩く展開が続いていた。 おかしい。こいついつまでガードを上げていられるんだ?これだけ打ち込めばボクサーですら普通は ガードが下がってくるもんなのに、なんでいつまでもガードを上げていられる? まあそうか。貞操が掛かってるとなりゃ死に物狂いにもなるか。だがな、ボクシングのパンチはジャブだけじゃないんだぜ。 右ストレートはジャブの何倍もの威力があるんだ。これでガードをこじ開けてやるぜ。 加藤はこの試合、初めての右ストレートを繰り出した。 過去何十人もの対戦相手をノックアウトしてきた、加藤の一番の得意パンチである。 バーン!! 先ほどまでとは比べ物にならない激しいパンチ音が場内にこだまする。 手ごたえありだ!これであいつも苦悶の表情を浮かべてガードを下げているはずだ。だ?あぁ!? しかし、加藤の思惑とは裏腹にハルカのガードは微動だにしていなかった。 皆さんはバレー部員のアタックを受けたことがあるだろうか?一度受けただけで腕が真っ赤に腫れあがり、 骨まで染みるような痛みを味わったはずだ。1流のバレー選手はそんな激しいアタックを1日に何回も 何十回もいや何百回も受けるのである。刀を作る際、叩けば叩くほど強い刀になるように、彼女達の腕は 数え切れないほどの激しいアタックを受け続けたことにより、常人では計り知れないほどに衝撃に強い 腕になっていたのだ。そんな彼女からしてみれば、たかだかフライ級ボクサーのパンチを受けとめることなど 造作もないことだったのである。 なんだろう?加藤さん、さっきから軽いパンチを私の腕に当ててくるだけで、全然倒しに来ない。 初めて右のパンチも出してきたけど、これもそんなに強いパンチじゃないし、これならいつも受けている ユカちゃんやメグちゃんのアタックの方が全然威力があるよ。 あ!そうか!加藤さんあんなこと言ってるけど冗談なんだ。あんなこと言って私を脅した振りして、 ちょっとリング上で遊びたかっただけなんだ。あ~良かった。よく考えたら当たり前だよね。 そんなことするわけないもんね。 ハルカは安堵感から思わず笑みがこぼれてしまった。 しかし、その笑みは加藤にはまったく逆の意味で伝わっていた。 あのアマ!笑ってやがる。俺の渾身のストレートを受けて余裕の笑みを浮かべてやがる! 俺のパンチなんか効かないってか!舐めやがって、もう遊びは終わりだ。 ガードの隙間を狙って、ボディ・顔面を打ち抜いてやる!血反吐を履いて倒れるがいい!! 加藤は渾身の左フックを今度はボディめがけて思いっきり打ちこんだ! ドボオォ! ハルカのガラ空きのボディにパンチがめり込んだ! ハルカはさっきまでの攻防で、これが真剣勝負ではなく遊びだと誤解していたため、加藤のパンチに対して まったくの無防備となっていた。不意に打たれたパンチは通常とは比較にならないダメージを与える。 ハルカは立っていることができず、膝をついてしまった。ダウンだ! 「見たか!このアマ!男を、ボクサーを舐めるんじゃねえぞ!」 バカにされたと誤解している加藤は、ようやくハルカにあたえられたダメージに興奮していた。 「げほぉ、げほぉ。酷い、酷いです。どうしてこんなことするんですか?遊びだったんじゃ無いんですか?」 苦痛に顔をゆがめながらハルカが訴える。 「いまさら何言ってやがる!遊びなわけねーだろ。真剣勝負だ真剣勝負。」 「じゃあ、3分耐えられなかったら・・その・・・あれ・・・っていうのも?」 「あれって何だよw ハッキリ言えよw」 「いや、その・・あれ・・私が・皆さんと・その・・セ・セック・・・を・・」 「なにカマトトぶってやがる。それともあれか?本当に処女なのか?いや~これは楽しみだぜ!」 ハルカは愕然とした。 やっぱり、やっぱり本気なんだ。遊びなんかじゃない。本当に3分耐えられなければあれをさせられるんだ。 いやだ、そんなの絶対いやだ。耐えてみせる。絶対に耐えきってやる! お腹の苦しさに耐えながら、ハルカは何とかカウント9で立ちあがった。 「へへ、良く立ちあがったな。まあ、アレで終わりじゃもの足りねぇ。もっと痛めつけさせてくれなきゃな。」 加藤がじりじりとハルカとの距離を詰める。 ハルカは考えた。 ここはボクシングのリング。相手はオリンピック代表ボクサー。まともにボクシングしたんじゃ勝てっこない。 わたしはわたしにできることをやらなきゃ。わたしにできること、そう、バレーボール。わたしには バレーボールがある。競技は違えどバレーで身につけた知識と技術を駆使して戦うの。 大丈夫、自分を信じてハルカ!絶対にあきらめないで!あんな腐った連中の思い通りになんか 絶対にならないんだから! 加藤は先ほどダウンを奪った左フックを再びボディに繰り出した。当たる! しかし、加藤は奇妙な光景を目の当たりにした。 ハルカは下向きに両手を伸ばしてグローブ同士をくっつけて、そう、バレーのレシーブの体制を取った。 バーン! 加藤の左ボディはハルカのレシーブに完全にブロックされた。 「はぁ!?なんだそのガードは?そんなものボクシングのセオリーに無いぞ。」 再度左右フックをボディに放つ。 バン!バン! 先ほどと同じく、レシーブに防がれる。 くそっ、想像以上にボディのガードがかてえ。じゃあ、お望み通り顔面にパンチをブチ込んでやるよ。 そのきれいな顔を、男が寄り付かないようなボコボコの顔に変形させてやる。 加藤は顔面に向かって渾身の右ストレートを打ち込む。 バン! これは先ほどまでと同様、がっちりと亀ガードに防がれる。 ボディを狙えばレシーブで、顔面を狙えば亀ガードで、加藤のパンチはハルカの堅いガードをまったく 崩す事が出来ない。 そうこうしているうちに、1ラウンドの残り時間が少なくなってきた。 まさか?倒しきれないのか?この俺が、オリンピック代表ボクサーのこの俺が、ど素人のバレーボール選手を、 ブルマー姿の女子バレー選手を倒しきれないっていうのか? 俺はパンチが無い方じゃない。全日本選手権でも、世界選手権でも何度も1ラウンドKOを演じてきた。 その俺がこんなど素人の女子高生を倒せないだと?うそだ!そんなことはあり得ない。あってはならないんだ。 何をやったっていい。どんな手を使ったっていい。とにかくコイツを、この女をマットに這わせるんだ! 加藤は拳を握り込むと、ハルカの下腹部へ向けて思いっきりパンチを打ち込んでいった! ローブローである。もちろん反則行為だ! しかも、反則行為であるがゆえに、ローブローは非常に避けるのが難しい。意図的に狙われたローブローを 避けることは一流のプロボクサーにすら難しい行為だ。それでいてとてつもないダメージを与えられる。 だからこそ禁止されている、本当に危険な行為であった。 しかし!! ハルカはそのローブローにさえ素早く反応した! 先ほどから見せているバレー式のレシーブである! バレーボールのレシーブは、普通に構えると、まさに、下腹部を隠す角度になるのだ! つまり、ボクサーではないがゆえに、バレボール選手であるがゆえに、ハルカはローブローを 完璧にブロックすることが出来たのである。 これは、本職のボクサーには絶対にできない芸当であった。 どんな手を使ってでも!という思いで繰り出した渾身のローブローを防がれ、予想だにしていなかった 結果に動揺し、加藤の思考が、動きが一瞬止まる。 と、ハルカの目の前に前傾姿勢になった無防備な加藤の頭が投げだされる。 あれっ?これってどこかで見たような? そうだ、ボールだ!サーブを打つ時のボールだ! ハルカには目の前にある加藤の頭が、サーブを打つ時のボールに見えた。 よ~し!得意の天井サーブ決めてやれ~! ハルカは加藤の頭を左手のグローブで押さえつけると、天井サーブを打つ要領で、膝を曲げ、勢いを付け、 そして全身を伸ばしながら、加藤の頭を右手で思いっきり下から上へと打ち抜いた!!!! 「そ~れっ!」 バキーーーーーーーー!!!! 300グラム近いバレーボールを何十メートルも打ち上げる天井サーブである。 小柄なフライ級ボクサーの顎など簡単に跳ね上げられた! 「グハァ!」 加藤の足がもつれる、ガードが下がる、あきらかなダメージだ! よろめく加藤の頭がハルカの胸の高さにさらけ出される。 よし!今度はサイドハンドサーブだ! ハルカは思いっきり身体を捻ると、加藤の頭めがけて、腕を思いっきりフルスイングした!! 「そ~れっ!」 バーーーーーーーーーーーン!!! ハルカのこぶしが加藤の顔面にめり込む。 ズダーーーーーーン!! 小柄な加藤の体はボロ雑巾のように吹っ飛ばされ、キャンパスへなぎ倒された! 加藤はまったく受け身を取れず、後頭部を打ちつけ、白目をむいて失神した。 ビィーー! 1ラウンド3分の終わりを告げるブザーが鳴り響く。 その時、リングに立っていたのは紺色のブルマー姿の女子1人。 本職の男子ボクサーは大の字に倒れ、ピクリとも動かない。 ハルカの、文句なしのノックアウト勝利だ! 「やったー! 今のブザー1ラウンド終了の合図ですよね。3分間立っていたから私の勝ちですよね。 これで帰してもらえるんですよね? よかった~! あっ、いけない!早く加藤さんをお医者さんに見せないと大変。ごめんなさいよろこんじゃって。 よろこんでる場合じゃないですよね。」 3分間立っていたどころの話ではない。相手を、本職のボクサーを完全にノックアウトしたのだが、 本人はその快挙にまったく気が付いていない。ただただ、難を逃れたことだけを純粋に喜んでいた。 さらには倒してしまった相手の事まで心配している。 この天然さが、純粋さが、男子ボクサーたちをさらに苛立たせた。 「ちょっと待ちな。このまま帰すわけないはいかねーな。」 男子ボクシングチームのエース、ミドル級の竹村がハルカを呼びとめる。 「わかってます。ちゃんと医務室へ連れて行きますから。手伝っていただけますか?」 「バカヤロー!そんなことを言ってるんじゃねえ。油断したとはいえ女に倒されるような情けない奴の事など知らん。 その辺に転がしておけ。それよりも、お前を解放するわけにはいかねーと言ってるんだ。」 「どうしてですか?3分間耐えられたら帰してくれる約束じゃないですか?約束を破るんですか?」 「約束は守るぜ。だがそれはお前がルールを守ったらの話だ。 さっきのパンチはなんだ。加藤の頭を押さえてただろ。あれはボクシングの世界じゃルール違反、 反則パンチなんだよ。反則した以上、お前が3分間耐えきったとは認められない。お前の反則負けだ。」 「そんな・・わたしボクシングのルールなんて知らないし・・」 「知らないじゃ済まされないぜ。反則は反則だ。」 これは言いがかりに等しい話だった。たしかにボクシングのルールを厳密に適用すればハルカのパンチは 反則と判定されてもおかしくは無い。しかし、さっきのパンチはインパクトの瞬間に左手を加藤の頭から 離しており、実際のボクシングの試合の流れの中ではよく行われる、ほぼ問題にされないレベルの反則だった。 もし公式戦でこの程度で反則負けを宣告されれば、負けた選手がクレームをつけるだろう。 むしろ、加藤の放ったローブローの方が、はるかに悪質な反則であることは誰の目にも明らかだった。 しかし、卑怯な男子ボクシング部員はハルカの無知につけ込んだ。 「さて、本来ならお前の反則負けだが、やさしい俺たちはお前に再チャンスをやるよ。今度は俺の相手をしな。 ただし、再チャンスだからな。条件は厳しくさせてもらうぜ。決着はKOのみだ。どちらかが倒れるまで続ける。 どうだ?悪い話じゃないだろ。」 ミドル級の竹村はフライ級の加藤とは比較にならない体格、パワーの持ち主だ。 加藤に対しては体格で上回ったハルカだが、竹村は身長、体重、体格、全てにおいてハルカを凌駕していた。 しかも、先ほどとは違い、KO決着のみということで、ガードで耐えきって時間切れを待つこともできない。 ハルカにとっては到底勝ち目のない、「悪い話じゃない」どころの話では無かった。 しかし、反則負けを許してもらえると負い目を感じているハルカは、この申し出を断ることができなかった。 「わかりました。それで反則負けを許してもらえるなら。 でも、その前にボクシングのルールを教えていただけますか?また知らないうちに反則しちゃうかもしれないし。」 「いいよいいよ、面倒くさい。今度は反則とかちんけな事いわねーから、好きなようにやりな。 あ、ただしチンコをうつのだけは禁止だぞ。ハハハ!」 竹村はハルカを完全に舐め切っていた。 カーン! 第2試合開始のゴングが鳴り響く。 竹村は、日本人として初めてミドル級での世界選手権メダリストとなり、オリンピックでも金メダル候補に あげられている、まさに日本のアマチュアボクシングを背負う存在だ。 と同時に素行の悪さも有名で、数々のストリートファイトや問題行動を起こし、オリンピック代表の座を剥奪されそうな 危機も一度や二度ではなかった。 それでも代表に選ばれたのは、やはり、その圧倒的な実力が故であった。 判定決着が多いアマチュアボクシングにおいて、竹村はその勝利のほとんどをKO・RSC勝ちで飾っており、 数少ない負け試合は、全てがアウトボクサーにポイントアウトされての負けであり、KO・RSC負けは一度もない。 つまり、KO決着オンリーという今回のルールで戦う限りにおいて、竹村と渡り合えるボクサーは、上の階級を別にすれば 世界中に誰1人存在しないのだ! そして、もちろん、ハルカの体重は、竹村よりはるかに下の階級だった。 竹村がジャブを繰り出す。 バン! 加藤のパンチとは比較にならない衝撃がハルカの腕を襲う。思わず顔をしかめるハルカ。 ジャブに続くストレート。 バーン!!! 加藤のパンチではビクともしなかったハルカのガードが弾き飛ばされる!顔が無防備にさらされる。 「これで終わりだな。」 竹村はハルカの顔面へ右ストレートを放った。 ビュン!! すんでのところでかわすハルカ。思わず竹村から距離を取った。 「よく避けられたな。だが、まぐれは何度も続かねーぜ。」 またも強烈なパンチでガードを弾き飛ばし、今度は左フックを顔面へ見舞う。 ブン!! ハルカは必死にしゃがみこみ、またしても被弾を防ぐ。 「ちょこまかとうざってえ。さっさと捕まりやがれ!」 1発KOを狙って大ぶりのパンチを繰り出す竹村。しかし、その全てをハルカは驚異的な反射神経で避けまくった。 1流ボクサーのパンチのスピードは、トップスピードで時速30km程度と言われている。それに対して、 バレーボールのスパイクは女子の1流選手でなんと時速100kmを超えるのである! 実に1流ボクサーのパンチの3倍を超えるすさまじいスピードである。 女子バレーでは、そんな凄まじいスピードのボールを1瞬の判断でブロックやレシーブをしたり、また、 インかアウトかを見極めたりする動体視力や反射神経が要求される。 そんな世界で鍛えられているハルカにとって、ボクサーの1発狙いの大ぶりパンチを見切ることは そう難しい事ではなかった。 「くっそー。ど素人にしてはやけにパンチへの反応が良いな。その反射神経の良さだけは認めてやるよ。 だがな、ボクシングには色々な崩し方ってものがあるんだ。反射神経だけではどうにもならない 領域ってものがあるんだよ。それを教えてやるぜ。」 竹村はハルカのボディーめがけて左フックをふるう。 上半身と異なり、下半身はそう簡単に素早く動かせるものではない。ハルカもパンチに反応することはできたが、 避けきることは出来なかった。 バーン! ビリビリビリ!! 先ほどの試合でも見せたバレー式レシーブで何とか直撃を避ける。しかし、加藤のパンチとは比べ物にならない 威力で、レシーブしたハルカの腕にダメージを与える。さらにはレシーブ越しにボディにも衝撃が伝わってきた。 「うっ」 思わずうめき声を発するハルカ。 「へっ、さすがに効いたみたいだな。反射神経には驚かされたが、まぐれもここまでだ。さて、いつまでそのガードを 続けられるかな。」 竹村のボディ連打がハルカを襲う。3発、4発、5発、6発・・無数のパンチがハルカの腕に、レシーブに突き刺さる。 バレーで鍛え上げられたハルカの腕もついに限界を迎えようとしていた。 鉄壁と思われたハルカのバレー式レシーブがなぜ崩されようとしているのか?竹村がミドル級であること、 世界的なハードパンチャーであること、それも大きな理由である。しかし、もうひとつ見逃してはならない大きな 理由があった。 この試合では両者8オンスグローブを使用している。通常ボクシンググローブは大きければ大きいほど逆に 相手にあたえるダメージは小さく、小さければ小さいほどあたえるダメージは大きくなるのだ。 現在、危険性などを考慮し、アマチュアでは全階級10オンスのグローブを、スペクタクル性を売りにするプロの リングでさえ、重量級は10オンスグローブを着用している。 つまり、ミドル級選手のパンチを8オンスグローブで受けるなどということは、プロのリングですら認められていないほど、 威力があり過ぎて危険とされているのだった。 それを階級がはるかに下の、ボクシングど素人の、ブルマー姿のジュニア女子バレー選手相手に行っているのだから、 いかに男子ボクシングチームが卑劣な悪党かということがわかるだろう。 さらに忘れてはならないのは、ハルカはこの日2試合目であり、1試合目でも腕に相当数のパンチを受けているのだ。 そんな卑怯なことをされてしまえば、さすがに鉄壁のハルカのレシーブも崩されざるを得なかったのである。 痛い、腕が痛い。ダメ、このままじゃいつか倒されちゃう。考えて、考えるのよハルカ。諦めなければ絶対道は 開けるんだから。そう、私はバレーボール選手なんだから。バレーボールをやればいい。ここをリングではなく コートだと思って、バレーボールをやろう! バレーボールだったらあんなウスノロなんかに絶対負けないんだから。見てなさいよ! ハルカのガードが完全に下がった。 「ふふ、もう限界だな。じゃあ、決めさせてもらうぜ。死ねやー!」 左ボディがハルカの右わき腹を狙う。ガードも上がらない。もらった! 勝ちを確信した竹村の視界に、想像だにしなかった光景が映し出された! ダンッ!! なんと、パンチの当たる瞬間、ハルカはキャンパスに向かって、自ら横っ跳びにダイブしたのだ! そしてそのまま体を一回転させ、リングの上に片膝をついた格好でしゃがみこんだ。 そう、バレーボールの回転レシーブの動きである! 「はあぁ?何やってんだお前!キャンパスに手を突いたり、横になったり、片膝をついたり、 全部反則だ!早く立ちあがりやがれ!」 「あれ?竹村さん言いましたよね。反則なんてちんけなこと言わない。好きなようにやれって。 ただし・・・」 ここで少し言いよどむ。 「あの、その、お、おチンチン・・・を打つのだけは禁止だって。」 消え入るような声で、顔を真っ赤にしながら、竹村の決めたルールを復唱するハルカ。 「うっ。てめえ、この・・」 竹村は面食らった。たしかにそういう発言はした。ただし、彼の頭にあったのはあくまでもボクシングという 競技の範囲内での反則。頭を押さえる行為、ホールディング、背中や後頭部への打撃、オープンブローや バックブローなど通常の試合で起こりえる範囲の反則行為しか想定していなかった。 しかし、今ハルカが行ったのは、そもそもボクシングという競技をまったく無視した、もはや反則という概念にすら あてはまらない行為であった。 しかし、認めてしまったのだ。好きなようにやれと。言葉尻をうまく利用されてしまったと気づいても、もはや 後の祭りであった。 「まあいい、多少面食らったが、殴り倒せばいい事に変わりはない。舐めた真似しやがるから 余計に痛めつけてやりたくなったぜ。」 しゃがみこんでいるハルカにじりじりとにじり寄る竹村。 ハルカの頭の位置はキャンパスから1mあるかどうか。こんな低い的は打ったことが無い。 竹村は普段よりも大幅に身を低くして、ハルカに殴りかかった。 しかし、不自然な体勢からのパンチなので切れが無い。あっさりとハルカに回転レシーブで逃げられてしまう。 またしてもハルカは片膝をついた格好で竹村と対峙する。 「このアマ、ちょこまかと!」 竹村はハルカに向かって一直線に走り込み、低い体勢でおもいっきりパンチを振るっていった。 ハルカのボクシングとは思えない動きに影響されたのか、または、なかなかパンチをあてられない焦りからか、 ボクシングの基本を忘れたかのような、大ぶりパンチとなっていた。 竹村の右パンチに対して、ハルカは左側にダイブして避ける。 と、竹村の顔面が自分の右脚から近い位置にあることに気づく。 え?これって、今脚を振り上げたら当たるんじゃない?ううん、考えている暇はないわ。とにかく思いっきり 脚を振り上げよう! 「え~い!」 ハルカは紺色のブルマーから伸びた健康的な脚を、バレーボールのジャンプで鍛えたムチムチの脚を、 思いっきり、竹村の顔面に向かって蹴り上げた!!! ゴキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!! 竹村の走り込む勢い、パンチを振るう勢い、ハルカのダイブの勢い、そして驚異のジャンプ力を生むハルカの 鍛えられた脚から生み出されるキック力! その全てが完璧なタイミングでカウンターとなり、竹村の顔面を直撃した!! バターーーーーーーン!! 竹村は受け身を取ることすら出来ず、顔面からキャンパスへダイブした!! 「うっ、うっ」 竹村はなんとか身を起こそうとするがなかなか立ち上がることができない。 それはそうだろう。絶妙のカウンターで強烈なキックを顔面に食らったのだ。普段の公式試合で、10オンスグローブと ヘッドギアに守られている公式試合で受けるパンチとは比較にならない破壊力だ。 世界の1流男子ボクサーを相手にダウン経験のないタフネスを誇っていた竹村が、女子の、格闘家では無い女子の、 ブルマー姿の女子バレー選手のキックにダウンさせられた。 あごの骨が折れたのか。口から大量の血を流している竹村を見てハルカが心配そうに声をかける。 「大丈夫ですか?ごめんなさい、ちょっと力を入れすぎちゃいました。ボクサーの人に私のキックがこんなに効くなんて 思わなかったので。すぐにお医者さん呼んできますね。」 自分が襲われていたことも忘れ、あくまでも竹村の体を心配して、リングを降りようとするハルカ。 「ま・まて・・。まだ・・勝負は・・終わってないぞ・・。逃げるんじゃ・・ねえ・・」 キャンパスに這いつくばりながら、息も絶え絶えに竹村が声を発する。 残る男子ボクシング部員もハルカを遮るように出口をふさぐ。 「なに言ってるんですか。酷い出血じゃないですか。勝負なんて言ってる場合じゃないです。早くお医者さん に見せないと。」 「ボクシングには・・ダウンや出血はつきものなんだ。・・バレーみたいなお嬢様スポーツと一緒にするな。」 ついに竹村は立ちあがった。 この間、ダウンしてから立ちあがるまで、ゆうに1分は経過していた。 ボクシングルールを適用するならこの時点でハルカのノックアウト勝ちだった。 しかし、すでにこの試合はボクシングのルールを大幅に逸脱しており、いまさら10カウントルールなどは 何の意味も為さなかった。この試合の決着は、相手の戦意を喪失させるか、相手を完全に失神させるかでしか もたらされないだろう。 竹村は立ちあがりはしたもののダメージはありありで、なんとかロープに寄りかかって、体を支えている状況だ。 いま、ハルカが攻撃に行けば、素人のパンチでも、女の子のパンチでも簡単に倒せるだろう。 しかし、こころのやさしいハルカは、あれだけの事をされてもなお、弱っている人間を、攻撃してこない人間を 自分から攻撃することは出来なかった。 そして、お互いに見合うこと数分間。ついに竹村は足を動かせるまでにダメージから回復した。 「へへ、バカが。俺がダメージを負っている間に止めを刺さなかったことを後悔させてやるぜ。 千載一遇のチャンスだったのになあ。もうあんなチャンスは2度とないぜ。」 竹村はパンチを放つ。 だが、やはりダメージが残っており、先ほどまでとは比べ物にならないほど、スピードも威力も欠けたパンチだった。 ハルカは余裕を持ってパンチをかわす。 続いてボディブローを放つ。 パン! しかし、威力の落ちたパンチでは先ほどのようにハルカの堅いガードを崩す事は出来ない。あっさりとレシーブされて しまった。 「もう諦めて下さい。今の竹村さんの体じゃ、わたしを倒すパンチは打てません。さっきの一撃で勝負は ついたんです。わたし、看護の勉強もしてるのでわかります。人間の体はあれだけのダメージを受けたら、そんなに 短時間では回復できません。もうこれ以上の勝負には何の意味もありません。私は竹村さんを必要以上に 傷つけたくないんです。お願いです。もうやめましょう。こんな意味のないこと、もうやめましょうよ!」 竹村の体を案じ、必死に説得を試みるハルカ。 しかし、この言葉が竹村のプライドをさらに刺激する。 「俺を傷つけたくないだ?なに上から目線でしゃべってやがる!お前の生殺与奪を握ってるのは俺なんだよ! 勘違いするな。ボクシング日本代表の俺様に対して、バレー選手ごときが、女ごときが偉そうなこと抜かすな!」 竹村はこりずにハルカの顔面に向かってパンチを放つ。 ハルカが先ほど同様、余裕を持ってかわそうとしたその時! ガシッ! ガシッ! ロープ際に立っていたハルカの両足を、リングサイドで見ていた2人のボクシング部員が掴んだ! 身動きが取れないハルカ! バーン!! 避けきれないと悟ったハルカは何とかガードを戻し、間一髪のところでパンチの直撃を免れた。 「はははは!このアマちゃんが!ここがボクシングチームの、敵のアジトの真っ只中ってことを忘れたか! 女に負けておめおめと諦めるとでも思ったか!どんな手を使ってでもお前を痛めつけて、レイプしてやる! 陵辱してやるぜ!無事に帰れると思うなよ!」 竹村は身動きの取れないハルカをロープ際で滅多打ちにした。 ハルカは驚異的な反射神経で顔への、美しいアイドル顔への直撃だけはなんとか逃れていたが、 ボディや腕には何発も良いパンチを打ち込まれた。 プツン ハルカの中でなにかが切れた。 子どもの頃から厳格な両親に厳しくしつけられてきた。人の嫌がることをしてはいけません。人にやさしくしなければ いけません。人を憎んではいけません。そして、人を傷つけてはいけません。 忠実に守ってきた。小学、中学、高校とハルカは常に優等生で、明るく素直でまっすぐで、誰に見られても 恥ずかしくない人生を送ってきた。 「あんなやつ死刑にしちゃえばいいんだよ!」 犯罪報道を見て同級生が過激な事を発言する。 そのたびにハルカはたしなめてきた。「そんなこと言ってはいけない。生まれながらに悪い人はいない。人を憎むの ではなく、犯罪の元を立つようにしなければ」と。 今回も理不尽な勝負を挑まれた。卑怯な手を使われた。それでも相手を憎んではいけない。傷つけることを 望んではいけない。誠実に話し合えば相手にもわかってもらえる。そう信じていた。 しかし、こんな人間もいるんだ。いくら誠実に話し合ってもわかってもらえない、常に卑劣な事ばかり考えている、 そんなクズみたいな人間もいるんだ。今までの17年の人生では学べなかったことだ。 お父さん、お母さん、ごめんなさい。ハルカは初めて人を憎みます。初めて自分から望んで人を傷つけます。 でも間違ったことはしてません。自分の行動に恥じることもありません。だから、だから、許して下さい。 「わかった。あなたはそういう人間なのね。もう情けをかけるのはやめる。本気で相手してあげるわ。」 「あぁ、本気だぁ?この状態から何ができるっていうんだ。強がりもたいがいにしな。」 「その手を放しなさい!」 ハルカは足を掴んでいる部員の手を簡単に振りほどく。 驚異のジャンプ力を誇るハルカの脚力の前では、ボクサーの腕力など及ぶべくもない。 「もう手遅れだ!食らえ!」 竹村の右ストレートがハルカの顔面を襲う。 ハルカはしゃがみこんでそのパンチをよける。そして 「レシーーーブ!!」 といいながら、手をレシーブの形に構え、そのまま竹村の顔面に向けて思いっきり振り上げた! バキーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 両こぶしで振り上げたレシーブ式アッパーは、ボクシングのアッパーの2倍の威力で竹村に襲いかかる! 竹村の体が前のめりに倒れかける。 ハルカはふたたびしゃがみこみ、今度はバレーボールのトスの要領で、両手で竹村の顔面を跳ね上げる。 「トーーーース!!」 バシーーーーーーー!!! 竹村の顔面が上を向く。もう、まったくガードする体制は作れていない。無防備な状態だ! ハルカはバレーボールで鍛えた驚異のジャンプ力で思いっきり飛び跳ねた! 「アタッーーーーーーーーーク!!!!」 ハルカのこぶしが、3メートルを超える高さからすさまじく加速されたこぶしが、ハルカの全体重を乗せて、 とてつもない破壊力となって、竹村の顔面に撃ち落とされた! バキィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーンンンンンン!!!!!!!! リングサイドから見上げていた男子部員には、照明に照らされながら上空から落ちてくるハルカの姿が まるで雷のように見えた。 雷が大木を直撃した! ぐしゃぁぁぁ!! 竹村は文字通り雷に打たれたように、その場に膝から崩れ落ち、両手や首は力なくキャンパスへ横たわった。 当分起き上がれないであろう。命の危険すら感じる、完全失神KOだった! ハルカは残り2人のボクシング部員をリング上から見下ろす。 「まだやるの?やるんだったらリングに上がって。」 しかし、今まで見たこともない凄惨なKO劇を見せつけられた2人は、恐怖に足が震えていた。 目の前の女は、自分たちの雲の上の存在である竹村を、畏怖の対象であった竹村を、完膚なきまでに叩きのめした。 たとえ2人掛かりであっても、とてもではないが、向かっていく勇気を持つことは出来ない。 「い、いえ。やりません。やりません!僕らの負けです。すいませんでした。 どうか、どうか許して下さい。」 真っ青な顔をしてハルカに許しを請う。 「もう2度とこんな真似しない?また同じような事をしたらその時は。わかってるわよね。」 「はい!絶対にやりません。2度とこんなバカな真似はしません。神に誓います。 すいませんでした!本当にすいませんでした!」 土下座せんばかりに深々と頭を下げる。 ハルカは無言でリングを降り、出口へと向かった。 と、何かを思い出したように振り返り、声をかける。 「ねえ。」 「はっ、はい!」 直立不動で返事をする2人。やっぱり許してもらえないのか、俺らも制裁を受けることになるのか。 恐怖で震える2人に対し、ハルカの掛けた言葉は意外なものだった。 「竹村さんと加藤さん、早くお医者さんに見せてあげて下さいね。」 「ハルカ~どこ行ってたのよ?もう休憩終わってるよ!」 「ごめん、ごめ~ん」 ハルカはコートを見る。メンバーみんなが元気に飛び跳ねては、アタック、レシーブを繰り返している。 やっぱりこれだ。バレーボールはこうじゃなくっちゃ。 殴ったり、殴られたりとかそんなの大っ嫌い。 もう2度と、バレーボールの技で人を傷つけたりなんかしない。絶対に。 みんなが笑顔になれる楽しいスポーツ。それがバレーボールなんだから。 「ちょっとハルカ、なにニヤニヤしてるのよ。なんか良いことでもあった?」 ハルカは澄み切った笑顔を浮かべてこう言った。 「先輩 やっぱりバレーボールって最高ですね!」 バレーボール編 完
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クレイジートレイン/約束(中編) ◆guAWf4RW62 「――――千影ぇぇッ!!」 「…………悠人、くんっ!?」 現われたのは、ショベルカーの後を追い掛けていた高嶺悠人だ。 悠人は状況を把握すべく全体を見渡し、最初に千影の姿を発見した。 見れば千影は、息を切らしながらも懸命に、巨大なショベルカーと戦っている。 「ク――待ってろ千影、今助ける!!」 再会を祝っている暇など無い。 一も二も無く悠人は疾走し、ショベルカー目掛けてベレッタM92Fを撃ち放った。 だが当然の如く銃弾は防弾ガラスに弾き飛ばされ、大した戦果を挙げぬまま無力化した。 驚きの表情を浮かべる悠人に、千影が警告を投げ掛ける。 「悠人くん、駄目だっ……! あの機械に銃は効かない!」 「分かった!」 悠人は直ぐにベレッタM92Fをデイパックへと戻し、代わりに日本刀――トウカが愛用していた物――を取り出した。 元々悠人の得意とする戦法は剣を用いての近接戦、銃弾が効かぬと分かった以上、拳銃に頼る意味など無い。 悠人はまるで臆する事無く走り続け、ショベルカーとの間合いを縮めてゆく。 「――カトンボが一匹増えたくらいで!!」 新たなる敵対者の存在を認めた名雪が、即座に攻撃目標を変更し、横薙ぎにシャベルを振るった。 広範囲に渡るその攻撃は、正しく死の旋風と呼ぶに相応しい。 しかし悠人は天高く跳躍する事で、迫る一撃を空転させた。 「ハアアアアアァッ!!」 空中に浮いたまま、ショベルカーの防弾ガラスに狙いを定めて、思い切り日本刀で斬り付ける。 悠人の攻撃動作はアセリアに比べると少々稚拙だが、一発一発の威力だけで見れば間違い無く最強だ。 その威力は、いかな防弾ガラスと云えども完全に防ぎ切れるものでは無い。 「えっ…………け、けろぴーが!?」 この戦いに於いて初めて、名雪の表情が狼狽の色に染まった。 悠人が放った剣戟は、防弾ガラスに刻み込まれていた皹を肥大化させていた。 それを好機と取った悠人は、連続して剣戟を繰り出し、その度に皹がより一層広がってゆく。 誰の目から見ても、耐久力の限界が近いのは明らかだった。 「う、あ、このっ……!!」 不利を悟った名雪は、堪らず操縦用のレバーを動かして、一旦悠人から距離を離そうとする。 しかしながら悠人が、後退しようとする敵を黙って見逃す筈も無い。 一気に勝負を決めるべく、大地を蹴り飛ばして疾走する。 だがそこで鳴り響く、一発の銃声。 悠人は脇腹に焼け付くような痛みを感じ、もんどり打って転倒した。 「あぐっ……が……!?」 「――ふふ、また会ったね悠人君」 「ぐ……お前は……!」 悠人が身体を起こし、銃声のした方へ振り向くと、そこには数時間前に交戦した佐藤良美が立っていた。 良美は心底可笑しげに微笑みながら、悠人に向けてS W M627PCカスタムを構えている。 とどのつまりは、良美が悠人を狙撃したのだ。 未だ良美の正体を知らぬ千影が、訝しげに眉間へ皺を寄せた。 「良美くん……、一体何のつもりだい……?」 「一々説明しないと分からないのかな? 見ての通りだよ」 「……つまり君は、殺し合いに……乗っているという訳か」 千影の質問に、良美は笑みを深める事で応えた。 良美はもう正体を隠すつもりも、この場から逃亡するつもりも無かった。 自分の正体を知る悠人が出現した事で、千影を騙すのはほぼ不可能になった。 だからこそ逸早く思考を切り替えて、この場に居る人間全ての排除を目標にしたのだ。 平時であれば、殺し合いに乗った自分は、人数的に不利な戦いを強いられる。 しかし名雪という無差別殺人者が居る今ならば、立ち回り方次第で、悠人と千影の両方を始末出来る筈だった。 「糞っ――良美! お前どうして、そこまで楽しそうに人を襲えるんだよ! ことりみたいな良い子を殺して、心は痛まないのかよ!?」 「……ちょっと待ってくれ、悠人くん。ことりくんが……死んだ、だって……?」 千影が聞き返すと、悠人は表情を深く曇らせた。 「ああ。ことりは良美と戦って、それで……」 「……ことりくん。君まで……逝ってしまったのか……」 また一人知り合いが死んでしまったと分かり、千影は悲しげな声を洩らした。 白河ことりとは少し会話しただけの仲だったが、彼女が善良な人間であったのは分かる。 こんな所で殺される謂れなど、ある筈も無い。 一方千影と対照的に、良美は何時も以上の笑顔を湛えていた。 苦渋を舐めさせられた怨敵が死んだと聞いて、上機嫌になっているのだ。 「そっかあ、やっぱりことりちゃんは死んだんだね。うん良いよ、折角だから質問に答えてあげる。 心が痛む? そんな訳無いじゃない。お人好しが一人減って、寧ろせいせいするよ」 「っ……コイツ、何処までも腐り切ってやがる……!」 三者三様の表情を見せる三人。 悠人は怒りの表情を、良美は愉悦の表情を、そして千影は悲嘆の表情を露としている。 だがそれも、長くは続かない。 ルール無用の殺人遊戯に、開戦の合図など不要。 良美は唐突に腕を持ち上げて、S W M627PCカスタムのトリガーを引き絞った。 千影が直感に身を任せて跳ねるのとほぼ同時、唸りを上げる357マグナム弾が、彼女の頬を掠めた。 「――遅いよっ!」 良美の攻撃はそれだけに留まらず、立て続けに銃弾が放たれてゆく。 後手に回ってしまった千影と悠人は、否応無く回避を強要される。 疲弊した千影と脇腹を撃ち抜かれた悠人にとって、それは決して楽な作業で無かった。 「っ…………!」 業を煮やした千影が、苦し紛れにショットガンを撃ち放ったが、散弾は狙った位置から大きく逸れてしまった。 回避しながらでは、照準を合わせる余裕など無かったのだ。 そして無理な反撃を行った千影は、良美にとって格好の標的に他ならない。 しかし良美は千影に銃撃を浴びせようとせず、突然横方向へと飛び退いた。 その直後、良美の傍を巨大な物体が通過してゆく。 「――あははははははっ、一人残らずペチャンコにしてやるぅうううう!!」 ショベルカーに搭載された拡声器から、狂った笑い声が放たれる。 獲物達同士で交戦し始めたのを見て取り、名雪はここぞとばかりに攻めに転じた。 上手く奇襲を躱した良美にはもう目もくれず、前方に残る二人の標的へと意識を集中させる。 名雪の駆るショベルカーが、一直線に悠人達の方へと向かってゆく。 それを迎え撃つ形で、悠人もまた勢い良く駆け出した。 徐々に明るみを帯び始めた大空の下、鋼鉄の怪物と鍛え抜かれた戦士が衝突する。 「っ…………く、そ――――」 悠人の動きには、先程までのようなキレが無い。 乱暴に振り下ろされたシャベルを、サイドステップで躱したものの、そこから反撃に転じれない。 撃ち抜かれた脇腹の怪我が原因で、行動一つ一つの速度が大幅に低下しているのだ。 間合いを詰め切る前に、ショベルによる第二撃が飛んで来て、悠人は後退を余儀無くされる。 今の身体で接近戦を挑むのは、分が悪いと云わざるを得なかった。 「でも……それならそれで、やりようはある!」 ならばと、悠人はデイパックからベレッタM92Fを取り出した。 これならば無理に間合いを詰めなくても、離れたままで攻撃出来る筈。 シャベルの射程外で、悠人は弾切れまでトリガーを引き絞る。 しかし名雪も、大人しく銃撃を受け止めたりはしない。 防弾ガラスの損傷が深まっている今となっては、銃弾一つ一つが致命的な損害に繋がりかねない。 素早くレバーを操作して、ショベルカーの車体をジグザグに揺らす事で、被弾部位をズラそうと試みる。 それでも銃弾の幾つかは防弾ガラスに命中したが、破壊し切るには至らない。 そして銃弾を再装填する暇など与えんと云わんばかりに、ショベルカーが再び接近して来て、悠人は守勢に回る事となった。 「チィ――――」 「逃げろ逃げろ! 虫ケラみたいに醜く逃げ惑え!!」 傷付いた身体に鞭打って戦う悠人と、限界の近い機体を酷使する名雪。 両者の戦いは、互角と云っても差し支えないだろう。 そんな二人から少し離れた場所では、千影と良美が苛烈な銃撃戦を繰り広げていた。 「――千影さん、もっと頑張らないと当たっちゃうよ?」 「…………くっ」 轟く銃声、忙しい足音。 千影のすぐ傍の空間を、猛り狂う銃弾が切り裂いてゆく。 済んでの所で命を繋いだ千影は、散弾銃の照準を合わせようとする。 だがそれを遮るような形で、良美の構えたS W M627PCカスタムが火を吹いた。 「――つ、あ……!」 千影は即座に銃撃を中断し、ぎりぎりのタイミングで上体を捻った。 真っ直ぐに迫り来る銃弾は、千影の右肩を軽く掠めていった。 千影は激痛を噛み殺して反撃しようとするが、それも良美の銃撃によって阻まれる。 古いタイプの回転式拳銃を用いている良美と、高性能の散弾銃を用いてる千影。 武器だけ見れば、どう考えても千影に分がある。 しかし休憩を取ったばかりの良美と違い、千影は未だ疲労困憊の状態だ。 故に良美は行動一つ一つの速度で千影を上回り、常に先手を取る形となっていた。 「ハァ――フ――、ハ―――」 呼吸を荒く乱しながら、千影は回避に専念し続ける。 秀でた動体視力など持たぬ千影が銃弾を避けるには、照準を合わされぬよう常に走り続けるしかない。 苦し紛れの反撃すらも許されない、余りにも一方的な展開。 それでも千影の瞳には、諦めの色など微塵も浮かんではいなかった。 (まだだ……絶対に好機は来る。トウカくんなら……絶対に、諦めない……!) 生きている限り、そして自分から勝負を捨てない限り、勝敗の行方は分からない。 桁外れの実力を誇ったネリネ相手ですら、トウカは最後まで希望を捨てず、そして絶対的な劣勢を覆したのだ。 だから、自分も諦めない。 どれだけ見苦しかろうとも、死を迎えるその瞬間まで諦めず、一縷の勝機が到来するのを待ち続ける。 「く――――は、――――あ――――!」 身体の限界を感じつつも、千影は懸命に良美の猛攻を耐え凌ぐ。 絶えず跳んだり跳ね回ったりして、敵の銃撃を躱してゆく。 そして千影が思っていたよりも早く、反撃の時は訪れた。 「…………?」 千影は激しく動き回りながらも、一抹の疑問を感じ始めていた。 それまで絶えず降り注いでいた銃弾の雨が、急に飛んで来なくなったのだ。 見れば良美は、鞄の中に片手を突っ込んだまま、狼狽の表情を浮かべている。 まさか――千影の推測を肯定するように、良美の口から焦りの言葉が零れ落ちた。 「――た、弾切れっ……!」 つまりは、そういう事だ。 あれだけ一方的に攻め立てれば、何時銃弾が尽きてしまっても可笑しくは無い。 その事実を正しく認識した瞬間、直ぐ様千影は攻めに転じた。 右手にショットガンを握り締めたまま、左手で鞄から永遠神剣第三位"時詠"を取り出す。 唯一無二の好機をモノにすべく、自身の全戦力を揃えた上で敵目掛けて疾駆する。 「……ことりくんの仇、取らせて貰うよ――!」 「ち、かげ――――さん――――!!」 千影は走りながら一発、二発とショットガンを撃ち放った。 片手での、そして動き回りながらの射撃が命中する筈も無いが、十分牽制にはなる。 今は当たらなくても良い、良美の後退を防げればそれで構わない。 焦らずとも、近距離まで詰め寄ってしまえば、広範囲に渡るショットガンの攻撃は確実に命中する筈だった。 前に進む足は決して止めぬまま、良美の後退を遮るような形で、何度も何度も引き金を絞る。 そのまま狙い通りに間合いを縮め切って、ゆっくりとショットガンの照準を定めようとして――瞬間、良美の顔に冷笑が浮かんだ。 「……莫迦だなあ、千影さん。本当に弾切れだったら、わざわざ報せてあげないよ」 「――――ッ!?」 千影が照準を定めるよりも早く、良美のS W M627PCカスタムが水平に構えられた。 咄嗟の判断で千影が"時詠"に魔力を注ぎ込むのとほぼ同時、一発の銃声が鳴り響いた。 「……へぇ。まさか、今のを避けるなんてね」 「あ……ぐ…………」 結果から云えば、銃弾が千影の身体を捉える事は無かった。 千影はタイムアクセラレイト――自分自身の時間を加速する技――を発動させて、間一髪の所で難を逃れたのだ。 だがその代償として、残る全ての魔力と体力を消耗してしまった。 手足の先端にまで痺れるような感覚が奔り、喉はカラカラに乾き切っている。 最早、銃撃戦を続けられるような状態では無い。 千影と良美の距離は約15メートル。 苦しげな表情を浮かべる千影に、S W M627PCカスタムの銃口が向けられる。 「どうやって躱したのか教えて欲しいけど……どうせ断るよね?」 「……ああ。君みたいな人間に……手を貸すつもりは無い」 「そう。それじゃ、今すぐ殺し――――!?」 そこで、良美の背後から、巨大なエンジン音が聞こえて来た。 「死ねっ死ねっ!! 佐藤さんも千影ちゃんも、皆死んじゃええええええええええッ!!」 悠人との戦闘を中断した名雪が、良美と千影を一纏めに始末すべく突撃する。 良美は死に物狂いで横に転がり込んで、迫る脅威から紙一重のタイミングで逃れた。 しかし未だ体力に余裕のある良美とは違い、千影にはもう何の力も残されていない。 「アハハハハハハハハッ、バイバイ千影ちゃん!!」 「う、く、ァ――――――」 シャベルが容赦無く振り下ろされる。 千影は懸命に真横へ逃れようとするが、明らかに速度不足。 どう考えても避け切れない。 だが千影の危機を前にして、悠人が大人しく手を拱いている筈も無い。 「――させるかあああああああっ!!」 悠人は恐るべき勢いで駆け付けると、千影の身体を抱きかかえて跳躍した。 天より降り注ぐ鋼鉄の牙が、悠人達のすぐ真横の地面を大きく抉り取る。 「こ……の……カトンボがあああぁぁぁ!!」 「遅い――――!」 激昂した名雪がシャベルを横に払おうとするが、それは無駄だろう。 悠人は既に後方へ下がり始めており、このままショベルの射程範囲から逃れ切る筈。 横薙ぎに振るわれる鋼鉄の牙が、獲物に噛み付く事は無い。 そう――空気を引き裂く、一発の銃弾さえ無かったのなら。 「――惜しかったね、悠人君」 「…………ガアアアッ!?」 苦悶の声が木霊する。 良美の放った銃弾が、悠人の右太腿を完璧に貫いていた。 グラリ、と大きく悠人の身体がバランスを崩す。 悠人は一瞬の判断で、それまで抱き抱えていた千影を、安全圏へと突き飛ばした。 その、直後。 「あ――――――」 今度は、呻き声を上げる余裕すら無かった。 ショベルカーに搭載された鋼鉄の牙が、悠人の身体を正確に捉えていた。 悠人はゴミのように吹き飛ばされ、少し離れた地面に背中から衝突した。 「がはっ――――ぐ、ごふっ……!」 「ゆ、悠人くん……!!」 倒れたまま咳き込んだ悠人の吐息には、紅い血液が混じっていた。 手足の感覚は消え失せて、全身が砕け散ったような錯覚すら覚える。 圧倒的な衝撃で、内臓は酷く痛め付けられた。 肋骨の内数本は折れ、かろうじ骨折を免れた部位にも皹が入っている。 「づ……あ……ぐ……」 悠人は必死に立ち上がろうとするが、身体が反応してくれない。 どれだけ必死に命令を送っても、腕や足が思うように動かない。 それだけのダメージを、受けてしまった。 「フ――ハハ――――アハハハハハハハハハハハハッッ!! 醜く地面を這いずり回って、カトンボにお似合いの姿だね!」 とうとう獲物を捕らえた名雪は、余裕綽々たる面持ちでショベルカーを停車させて、高々と哄笑を上げていた。 這い蹲るカトンボを天からじっくりと見下ろすのは、名雪にとってこの上無い快感だ。 「どうだどうだっ、やっぱりけろぴーは無敵なんだよ! 私は無敵なんだよ! あはっ、あははははははははっ!!」 気分が高揚し切った名雪は、すぐにトドメを刺そうとはせず、唯只哂い続ける。 だが名雪は少し横に視線を移し、大きな違和感を覚えた。 悠人同様に絶体絶命である筈の千影が、こちらを見ていないのだ。 単に余所見していると云う訳では無い。 千影の視線は、名雪よりも更に上方の位置へと寄せられていた。 「…………?」 疑問を解消すべく、名雪が頭上に視線を送ると、そこには―― 「――良く頑張ったね、名雪ちゃん。お陰で悠人君達を殺せそうだよ」 「え……ひ、あ、ひああああっ!?」 嘗ての倉成武と同じように、佐藤良美がショベルカーの天井に張り付いていた。 「でもね、これでもう名雪ちゃんは用済みなの。だから――そろそろ死んでよ」 良美はS W M627PCカスタムを取り出すと、防弾ガラス上の皹が密集した部分に狙いを定めて、思い切りトリガーを引いた。 至近距離から何度も何度も銃弾が吐き出され、同じ箇所に叩き付けられてゆく。 ピンポイントを狙ったその銃撃に耐え切れず、とうとう防弾ガラスの一部が砕け散った。 すかさず良美は、その開いた穴から片腕を侵入させる。 「ヒッ――は、はああ、ひううっ……、嫌だ、助けて、死にたくない…………っ!!」 良美を振り落とすべく、名雪が必死に機体を前進させようとするが、遅い。 良美は怯える名雪の姿を、何処までも愉しげに眺め見た後―― 「さて、何が起きるかな?」 右人差し指に嵌めたフムカミの指輪を使用した。 瞬間、良美が指を向けた先――即ち、名雪に向かって幾重ものカマイタチが放たれる。 「ひぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああッッ!!!」 名雪の喉から、獣の如き悲鳴が吐き出された。 荒れ狂う風の刃は、容赦無く名雪の身体を蹂躙してゆく。 服を裂き、肌を裂き、酷い箇所では血管すらも断ち切られている。 舞い散る鮮血により、防弾ガラスが真っ赤に染め上げられた。 「ぎっ……がっ……ごああ……ガァァァアアア!!」 凄まじい激痛から意識を逸らすように、名雪は操縦用のレバーを滅茶苦茶に動かした。 それは何か明確な狙いがあった訳では無い、只の苦し紛れに過ぎぬ行動だ。 だがその行動こそが、名雪の命を薄皮一枚の所で繋ぐ結果に繋がった。 まるで操縦者の苦悶に反応するかのように、ショベルカーが不規則な動きで走り出す。 「……っ、くあ、無茶苦茶、だね……!」 良美は慌てて攻撃を中断して、転げ落ちぬよう態勢を安定させる事に専念した。 ショベルカーは慌しく左右に方向転換し、その度に良美の身体を衝撃が襲う。 まるでロデオ。 暴れ狂う馬に乗っているかのような感覚。 結局このまま張り付いていては危険と判断し、良美はショベルカーから飛び降りた。 「あぐ、あうっ、ぐ……よくもよくもぉ! 殺すッ、絶対に皆殺してやるぅぅぅぅぅぅう!!!」 名雪が駆るショベルカーはそのまま、明後日の方向へと走り去って行った。 スピーカーから、苦悶と憎悪の声を撒き散らしながら。 そして地面に降り立った良美は、逃亡するショベルカーを追い掛けたりしない。 フムカミの指輪が巻き起こした現象は驚愕に値するが、そのような事に意識を取られている暇も無い。 今は生死を賭した激戦の最中であり、全員が敵対者を仕留めるべく動いているのだ。 ならば次に何が起こるなど、考えるまでもない事だろう。 良美は大地を蹴って、素早くその場から退避した。 次の瞬間、それまで良美が居た空間を散弾の群れが引き裂く。 「甘いよ千影さん。悠人君を囮にするくらいじゃないと、私の裏は掻けないよ?」 「――――っ」 散弾を放った張本人である千影が、焦りを隠し切れぬ顔付きになる。 良美の背後に回り込み、照準をしっかりと絞り込んでの奇襲。 千載一遇の好機だった筈なのに、それすらも読み切られてしまった。 良美はS W M627PCカスタムに銃弾を詰め込みながら、千影をじっくりと眺め見る。 「千影さんもなかなか頑張ったと思うけど、そろそろ限界みたいだね」 その言葉に、千影は反論を返せない。 何とか自分の足で立ってはいるものの、それで殆ど限界だった。 時詠を介しての魔術はもう使えぬし、銃撃から身を躱すような動きも望めない。 度重なる連戦によって、魔力も体力も完全に底を突いているのだ。 対する良美も、万全の状態であるとは云い難い。 左手の小指は消失してしまっているし、右手にも軽くない傷を負っている。 体力も、一時間程度の睡眠では回復し切れていない。 それでも良美には未だ、動き回るだけの余力が十分にある。 とうに限界を越えている千影と比べれば、どちらが有利かなど明白だ。 両者が戦えば、一分も経たない内に決着が着くだろう。 だが、決して失念してはいけない――この場には、もう一人戦士が居る事を。 「ぐ――う――やらせる……かよっ……!」 「――悠人くん!?」 驚きの声は、千影のものだ。 満身創痍の風体を晒しながらも、悠人が懸命に起き上がろうとしていた。 口元にこびり付いた血を拭おうともせず、トウカの刀を杖代わりに用いて。 慌てて千影は、悠人の無謀な行いを制止しようとする。 「悠人くん、無茶だ……! 此処は私が――」 「駄目だ。ことりは最後までコイツに立ち向かった……腹を撃たれても戦い続けて、一矢報いたんだ。 それなのに、俺だけ逃げる訳にはいかないさ」 それに、と悠人は続ける。 「俺は衛やお前を守るって決めたんだ! お前達を何としてでも守ってみせるって、約束したんだ! だから絶対、コイツに勝ってみせる!!」 そう云って悠人は、日本刀を深く構えた。 その瞳には、警戒に値するだけの強い光が宿っている。 肋骨の幾つかが折れ、内臓も酷く傷付けられているにも関わらず、良美に立ち向かおうと云うのだ。 通常ならば、まず考えられない状況。 だが良美は、目の前で繰り広げられた光景に対して、驚きなど感じていなかった。 「……やっぱりね」 良美にとって、この事態は予想の範疇。 自分は既に、過去何度も同じような経験をしている。 前原圭一も白河ことりも、追い詰めれば追い詰める程、驚異的な底力を発揮した。 そして――その度に、苦渋を舐めさせられてきた。 「私、分かったんだ。悠人君みたいなタイプの人は、どれだけ痛め付けても止まらない。 どれだけ絶望させようとしても、奇麗事を吐き続ける」 もう、嫌という程思い知った。 こういった類の相手と戦う際には、一瞬の油断が命取りとなる。 相手がどれだけ傷付いていようとも、腹部を撃ち抜こうとも、気を抜けばその瞬間に負ける。 余分な思考は、只の足枷にしか成り得ない。 「だから決めたんだ――もっと恨もうって……もっと憎もうって! 二度と喋れないよう、五臓六腑まで引き裂いてやろうって!!」 そう――必要なのは、純然たる殺意のみ。 相手の想いを上回る、圧倒的な憎悪のみ。 そこで良美がS W M627PCカスタムの銃口を持ち上げ、構え終えた時にはもう銃弾が発射されていた。 三発。 群れを成した銃弾が、悠人目掛けて襲い掛かる。 悠人は上体を捻って避けようとしたが、今の身体で全てを凌ぎ切る事は不可能だった。 放たれた銃弾の一発が、悠人の左肩に突き刺さる。 「俺は……守ってみせる」 それでも、悠人は止まらない。 ことりは止まらなかったのに、自分だけが止まれる筈も無い。 トウカの刀を握り締めて、傷付いた足で一直線に駆け続ける。 「私は……憎い」 そして良美もまた、一歩も引き下がろうとはしない。 人を信じる、人を守ると云った悠人達の生き方は、絶対に認められない。 傷だらけの両手で、何度も何度も銃を撃ち放つ。 「衛を――そしてアイツの姉妹を、絶対に守ってみせる! もう衛が悲しむ所なんて見たくない!!」 悠人は良美の銃撃を、左右にステップする事で掻い潜った。 ――これまで自分を支え続けてくれた少女、衛。 これ以上彼女が悲しむ所なんて見たくない。 「圭一君が――そして悠人君のような、偽善者達が憎い! 私の全てを奪った世界そのものが憎い!!」 良美は弾の尽きた拳銃を仕舞い込んで、鞄から名刀"地獄蝶々"を取り出した。 ――自分にとって最も大事な存在だった、霧夜エリカと対馬レオ。 彼女達を奪った世界そのものが憎い。 「だから俺は――」 「だから私は――」 二人は、互いの剣が届く位置にまで踏み込んだ。 良美は地獄蝶々を、悠人はトウカの刀を振り上げて、 「「絶対に負けられないんだぁぁぁぁあああああああ!!!」」 己が想いを思い切り叩き付ける――!! 二本の刀が鬩ぎ合う。 絶対に譲れぬ想いと想いが衝突する。 だが、それはほんの一瞬。 あっという間に均衡は破られた。 「くぅ――――!?」 甲高い金属音と共に、良美の手から地獄蝶々が弾き飛ばされる。 いかに満身創痍と云えども、高嶺悠人はラキオスのエトランジェ。 只の一般人である、そして左小指を失った良美が、斬り合いで勝てる道理など無い。 「貰ったぁぁぁぁああああ!!」 得物を失った良美目掛けて、悠人が日本刀を振り下ろそうとする。 至近距離から放たれる剣戟を、今の良美が防御する方法は存在しない。 されど――良美とて覚悟を決めし修羅。 どんな極限状態であろうとも、諦めたりしない。 守れぬと云うなら、攻撃に全力を注ぎ込むだけの事……! 「まだ、だよ…………っ!!」 「ッ――――!?」 手を伸ばせば届く程の至近距離で、良美はフムカミの指輪を使用した。 猛り狂うカマイタチが、悠人の身体を次々に切り裂いてゆく。 だが、どれも致命傷に至るようなものでは無い。 その程度の攻撃で、悠人は怯んだりしない。 「ク……オオオオォォォォォ――――!!」 悠人は風圧で吹き飛ばされながらも、刀を最後まで振り下ろした。 しかし距離を離されてしまった所為で、刀の先端しか届かない。 放たれた剣戟は、良美の左肩を浅く切り裂くに留まった。 二人はよろよろと後退して、十メートル程の間合いを置いた状態となる。 「グ、ガアァッ…………」 「あ、くうっ…………」 悠人と良美は揃って呻き声を洩らす。 最早悠人は、自力で立てているのが不思議な程の状態だ。 対する良美も相当のダメージを負っているものの、悠人に比べればまだ浅手。 身体の状態ならば良美が、素の実力ならば悠人が大きく上回っている。 故に、両者の戦いは互角。 このまま戦い続ければ、どちらが勝つか全く分からない。 だがそんな二人の戦いは、第三者の手によって終止符を打たれようとしていた。 (悠人くん、悪いけど……横槍を入れさせて貰うよ。 君を……此処で死なせる訳には、いかないからね……) ショットガンに銃弾を詰め終えた千影が、良美の横顔に照準を合わせる。 先程までは悠人を巻き込む可能性もあった為、狙撃する事が出来なかった。 しかし両者の間に十分な距離がある今ならば、確実に良美だけを仕留められる筈。 一騎打ちの邪魔をするのは少々気が引けるが、今は悠人の命を守るのが一番重要だ。 千影は引き金を絞ろうとして――そこで、絶望的な何かが近付いて来るのを感じ取った。 「な――――」 思わず千影は言葉を失った。 良美も悠人も戦いを中断して、迫り来る物体に視線を寄せている。 黒光りしているボディ、特徴的な煙突。 ショベルカーを遥かに凌駕する圧倒的スケール、スピード。 見間違う筈が無い。 木々を薙ぎ倒して疾駆するソレは、蒸気機関車と呼ばれている代物だった。 「っ…………!!」 良美の判断は素早かった。 ショベルカーならばともかく、あんなモノが相手では犬死にするだけだ。 燃え盛るような憎しみを抑え込んで、直ぐ様逃亡を開始した。 先程弾き飛ばされた地獄蝶々を拾い上げて、即座にデイパックに押し込もうとする。 慌てていたのもあり、デイパックから何かを落としてしまったが、そんな些事に構ってはいられない。 一分一秒でも早くこの場を離れるのが、生き延びる為の絶対条件。 そのまま良美は脇目も振らずに、全速力で戦場から離脱した。 「――ハ、――ハァ――フ――」 斬られた左肩がじくじくと痛む。 銃撃の反動を押さえ続けた所為で、両手は感覚が無くなり掛けている。 悠人と千影には十分な損害を与える事が出来たし、後は放っておいても、あの機関車が始末してくれる筈。 だが今回のような戦い方をずっと続けていては、とても身体が保たないだろう。 ……いい加減、限界だ。 敵は大抵徒党を組んでいるのだから、こちらも集団化しなければ、余りにも不利過ぎる。 「なら――狙い目は、殺し合いに乗った人だね」 恐らくもう自分の悪評は広まり切ってしまっただろうが、殺人遊戯を肯定した者相手ならば、未だ交渉の余地はある。 自分と同じく、人数的な不利を痛感している殺戮者は多い筈なのだ。 交渉に成功したとしても、勝ち残れるのは一人だけである以上、信頼の伴わぬ一時的な協力関係に過ぎない。 だが、それで十分。 勝ち残れる確率が1%でも上がるのなら、何であろうと構わない。 「私は負けない……。どんな手を使ってでも、絶対に偽善者達を根絶やしにしてやる……っ!」 何処までも昏い声で紡がれる独白。 傷だらけになって尚、少女は全てを憎み続ける。 【F-4下部 /2日目 早朝】 【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】 【装備:フムカミの指輪(残使用回数0回)@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、破邪の巫女さんセット(巫女服のみ)】 【所持品:支給品一式×3、S W M627PCカスタム(0/8)、S W M36(5/5)、 錐、食料・水x4、目覚まし時計、今日子のハリセン@永遠のアセリア(残り使用回数0回)、 大石のデイパック、地獄蝶々@つよきす、S W M627PCカスタムの予備弾3、.357マグナム弾(40発)、肉まん×5@Kanon、オペラグラス、医療品一式】 【状態:疲労大、左肩に銃創と穴(治療済み)、重度の疑心暗鬼、巫女服の肩の辺りに赤い染み、右手に穴・左手小指損失(応急処置済み)、左肩に浅い刀傷】 【思考・行動】 基本方針:あらゆる手段を用いて、優勝する。 1:ゲームに乗った者と共闘関係を築く(行き先は次の書き手さん任せ) 2:魔法、魔術品を他にも手に入れておきたい 3:あらゆるもの、人を利用して優勝を目指す 4:いつか圭一とその仲間を自分の手で殺してやりたい 【備考】 ※ハクオロを危険人物と認識。(詳細は聞いていない) ※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ) ※大空寺あゆ、ことみのいずれも信用していません。 ※大石の支給品は鍵とフムカミの指輪です。 現在鍵は倉成武が所有 ※商店街で医療品とその他色々なものを入手しました。 具体的に何を手に入れたかは後続書き手任せ。ただし武器は無い) ※襲撃者(舞)の外見的特長を知りました。 175 クレイジートレイン/約束(前編) 投下順に読む 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 時系列順に読む 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 朝倉純一 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 蟹沢きぬ 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 小町つぐみ 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 高嶺悠人 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 佐藤良美 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 千影 175 クレイジートレイン/約束(後編) 175 クレイジートレイン/約束(前編) 水瀬名雪 175 クレイジートレイン/約束(後編)
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『明日の夜明け、町の西の外れで待ってる』 ミィレスのその言葉に、ソラリアの心は揺れていた。 ミィレスの誘いは考えるまでもなく「一人で来い」と言う誘いだ。 「ミィレスさん……私と同じ魔神……」 同種族の同胞とは言え、出会ったばかりの相手を簡単に信用して良いのだろうか。 だがこれは千載一遇のチャンスかもしれない。そう思うと、ミィレスを信じたくなってくるのだ。 「黒い月と言う所に行けば……本当に私、記憶を取り戻せるのでしょうか」 ソラリアは可能性を示されたのだ。記憶を取り戻し、タクトととの大切な何かを思い出す可能性を。 ミィレスは感情を取り戻したいと言った。それが本当なら、彼女もソラリアと同じ、可能性に縋っているのでは無いのか?ソラリアはそう思った。 もし黒い月に行くのに一人では無理な理由があるなら、ミィレスが自分を誘う事の説明も付く。 ソラリアが自分に都合の良い理論展開を考えていた時、宿のドアを叩く音が聞こえた。 「はい、どなたでしょう?」 「カイラです。少し良いですか?」 「はい……?」 夜、ソラリアの部屋のドアを叩いたのはカイラだった。 カイラが会ったばかりのソラリアに一体何の用があるというのか? カイラは理由を告げぬまま、ソラリアと共に宿を出て行った。 (ん?) しかしその光景を目撃した者があった。一人部屋で酒を飲んでいたエルだ。 (あれはソラリアとカイラ。こんな時間に一体?) 時刻はとっくに深夜と呼べる時間帯だった。 シエラとカイラの出来すぎた出会い。そしてカイラがソラリアを見た時に見せたあの表情。エルの背筋に嫌な汗が溢れ出た。 「あの、魔神について知っている事って」 「……」 カイラがこんな深夜に初対面のソラリアを呼び出せたのは、魔神について教えると誘い出したからだった。 ソラリアは今ミィレスの誘いに乗るか否か迷っていた。 それを判断する為の情報を少しでも欲しかった矢先、カイラの申し出は渡りに船だったろう。 勿論、カイラはミィレスの誘いの事など知らない。魔神の情報をダシに使ったのは、単に事前にソラリアが記憶喪失と言う情報を得ていたからに他ならない。 だが運命の悪戯か魔神とカイラの宿命か、二つの歯車は全くの偶然に、完全に噛み合ってしまったのだ。 「魔神……黒い月に居る悪魔」 「悪……魔?」 カイラは俯いたままゆっくりと語り出す。 それはあたかも、ソラリアに向けられた呪言のように、ソラリアの心に深く深く浸透して行く。 「精霊無しで魔法を使う、この世界の住人ではない存在。神と精霊に嫌われた世界の異分子。我々の天敵」 カイラの言葉にソラリアの中で昼間の光景がフラッシュバックする。 『私達魔神はこの世界の敵。居ればみんなを不幸にする』 ソラリアの中にミィレスの言葉が蘇る。 実感のなかった大げさなセリフが、今確かな真実味を持ってソラリアの中で再生された。 「あ……あぁ……」 ソラリアは後退りペタリと尻餅をついた。 信じたくなかった言葉が今、現実の物となったのだ。 それまで平和に暮らしていたタクト達が、何故急にこれ程過酷な運命に巻き込まれてしまったのか。 ソラリアにはその理由が今こそ分かったような気がした。 『もしかしてぜんぶ、わたしとであったせい?』 天地がひっくり返りそうな衝撃に、最早ソラリアは正気を保つ事は不可能であった。 焦点の定まらぬ瞳は虚空を彷徨い、すがるべき何かを探している。 だがカイラはそんなソラリアに、追い打ちをかける一言をかけるのだった。 「そして、私とシエラの両親の仇」 「ッ!!??」 ソラリアは目を見開きカイラを見返した。 カイラも真っ直ぐにその瞳を見返す。 カイラの瞳に嘘は無い。全て偽りなき真実だからだ。 古き言い伝えにこうある。「魔神の征く所、必ず戦乱の嵐が吹き荒れると言う」 その伝承の通り、魔神は、ソラリアは、周囲に戦乱と死を振りまく存在だったのだ。 己の意思とは不関係に、それが魔神に科せられた宿命、いや、呪いであるかのように…… 「あなたに直接怨みは無いけれど……シエラから離れてもらうわ。永遠に」 カイラは放心状態となったソラリアを見て、彼女がもう抵抗する力も気力も失った事を確認した。 「死んで」 そして翼腕を構え、心で風の精霊にカマイタチを願ったその時、何かが二人の間の闇を切り裂いた。 「っ!? 誰っ!?」 カイラが振り向いた先、宿の方向を見た時、そこに居たのは悲しそうな顔をしたエルその人だった。 「カイラ……」 「ダークエルフの!? くっ、着けられていたとは!」 カイラが目撃者を消すべく、起ったカマイタチをエルに向けて放とうとした時、エルの影から一番巻き込みたくなかった人物が姿を見せた。 「お姉ちゃん!」 「シ……シエラ……」 それはシエラだった。 エルはカイラがソラリアを連れだしたのを見た時、怪しいと思いシエラを連れて二人を追っていたのだ。 そして間一髪、ソラリアがやられる前に間に合った。 「どうして!? どうしてこんな事するの? 教えてよ、お姉ちゃん!」 「シエラ、私は――」 カイラがシエラに手を伸ばす。だがその翼腕が可愛い妹の肩を掴む事はなかった。 「シエラ下がれ! そいつは傭兵なんかじゃない、ファルコの手下だ!」 そう、エルがシエラを下がらせたのだ。 エルは思い出したのだ。ファルコの四元魔将はまだ一人残っていた事を。 そしてその者の名は、災厄を齎す者(テンペスター)と言った事を。 昼間見た翼竜と竜巻を起こす程の風の精霊術師との戦い。そんな使い手など、大陸にもそう居なかったからだ。 「シルフ!」 「くっ、風で矢の軌道を……!」 次に放った矢はカイラを狙って射った矢だったが、これはいともアッサリと風で防御される。 エルは唇を噛んだ。やはり正面から挑んでは実力が違いすぎるのか!? 「いかにも私はファルコ軍四元魔将が一人、風の魔将テンペスター・カイラ」 「四元魔将!?」 シエラが驚きの声を上げる。それもその筈、四元魔将とはファルコ軍で最強の称号を持つ軍団長だからだ。 その軍団長に何故、優しい自分の姉がなっているのだろうか。シエラには理解出来なかった。 「何故妹の友達に手を出そうとした! 何故妹を騙した!」 「こうするしかなかったのよ!」 エルは続け様に弓を射るが、その悉くが風に煽られて決して当たる事が無い。 エルは自分が手加減されて居ると感じ、またしても己の無力さに唇を噛んだ。 「シエラ、聞きなさい! 私達の両親はね、本当は殺されたの」 一方、カイラは防戦一方に見え、その実全く本気を出していなかった。エルと戦う事が目的ではなかったからだ。 カイラの思いはシエラを守りたい事、エルの思いもシエラを守りたい事。 何故同じ思いを持つ者同士戦わなければならないのか? それはきっと、エルの思いがカイラよりも純粋でないから…… 「遺跡探索者(ルーインエクスプローラー)だった私達の両親は黒い月に近づき、そして魔神に殺されてしまった」 「そ、そんなの……そんなの聞いてないよ! 殺されたって何!? どう言う事なの?」 エルはその話を聞き、弓を引く手を止めた。 シエラが本当の事を知りたがっている。この場にもう自分の役割は無い。 シエラに必要とされていないと思った時、エルの手から世界樹の枝で作った弓がスルリと地面に落ちた。 「魔神は世界の敵、遥か古代の負の遺産! 絶対に倒さなければならない!」 それを見てカイラはシエラに近づいた。 この場にはもうそれを止める者はいない。カイラはシエラの両肩を掴み、未だ地面にへたり込むソラリアに向けて叫んだ。 「そしてそのソラリアと言う娘が、現代に甦った魔神なのよー!」 ソラリアとシエラの視線が交錯する。だがソラリアはシエラの目を真っ直ぐに見る事が出来ない。 それは先程のカイラとの会話によって、ソラリアの心に後ろめたさが植え付けられていたから。 「ソラリンが、私のお父さんとお母さんを殺した種族の……仲間……?」 「わ、私……私は……」 ショックを受けるシエラに何か言ってあげたい。だがソラリアには何も返す言葉が浮かばなかった。 自分の事も分からない者の言う事など、一体どうして信じる事が出来ようか。 再びグラリと視界が回り、ソラリアはその場に倒れそうになる。そこにやっと異常を察知してやって来たタクトが、倒れるソラリアの肩を支えた。 「ソラリア! 一体どうしたんだ!? 大丈夫か!?」 「タクト……さん……」 タクトはソラリアを後ろから抱きしめた。 あんなに強いソラリアが、今は力を入れたら砕けてしまいそうな程儚く、か細い。 それ程までにソラリアの心は今、ダメージを受けていたのだ。 「確かに私はファルコの手先となった。けどそれは魔神に復讐する為。そしてシエラ、あなたをファルコと魔神から守る為よ」 それでもカイラは構わず続ける。シエラの瞳を真っ直ぐ見つめて、伝えるべき真実を全て、心まで伝える為に。 「私達は空のオルニトも地のオルニトも追われた。そのせいであなたには辛い思いをさせてしまったけれど……全てはファルコの仕組んだ事だったのよ」 ファルコの企み、魔神の恐ろしさ、全て妹に伝えて、そして共に手をとって戦う為に。妹を守り抜く為に。カイラはーー 「風神ハピカトルに見えない”空の死角”の軌道を進む、黒い月へ行った事があるのは私達だけ。だからあの男は――」 あぁ、しかし何と言う事か。 カイラはシエラに想いを、真実を全てを伝え切る事が出来なかった。 「えっ!?」 「あぁ!」 シエラの脇を抜け地面を焦がした一筋の光。 続いて漂ってくる肉の焼けた匂い。 「お――お姉ちゃーーーん!!」 シエラに崩れかかるように倒れたカイラの胸には、ハッキリと金貨大の風穴が空いていたのだった。 「くそ!」 これにはそれまで力なく立ち尽くしていたエルも反応する。 猛禽類の目を除けば、最も目が良い部類に属するエルの目でも、暗闇の中カイラを狙撃した相手の姿は、影も形も見つける事が出来なかった。 (い、一体何をされたんだ? 光……光の精霊魔法なのか?) 「お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」 「動かしちゃ駄目だ! 早く医者のところへ――」 突然の事に慌てふためく一同。 シエラはカイラの胸の穴から溢れ始めた、どす黒い液体を止めようと手で押さえながら泣き叫び、タクトがそれを止めようとする。 エルは周囲を警戒しながらシエラに覆いかぶさり次なる攻撃から守ろうとしている。 一瞬にして混乱の坩堝と化したその場で、ただ一人冷静なのは以外にもカイラだけであった。 「私は……もう助からないわ……」 「そんな事無いよ! きっと助かるよ! 助かってくれなきゃやだよ!」 シエラの顔を撫で、落ち着かせようとするカイラ。 その一方で考えていた事は、誰が自分を攻撃したのかと言う事。 光――それはファルコとミィレスが得意とする魔法の属性。だがこの攻撃の瞬間、精霊の息吹は全く感じられなかった。 だとすると犯人は…… (これは……ファルコの精霊魔法じゃない……そうか、結局私も両親と同じように……) カイラは両親が死んだ日の事を思い出した。 ――あの時、お母さんお父さんはこんな気持ちだったのかな―― 不思議と犯人への怒りや憎しみは無い。いや無いと言うより、そんなものどうでも良くなってしまうのだ。 犯人や自分の事よりも、もっと遥かに大切な事が他にあるから。 「シエラ……逃げて……」 「嫌だー! 絶対やだーーー!!」 「シエラ……」 シエラの姿に昔の自分を思い出すカイラ。 もう自分の事は良いから早く逃げてよ。あなたさえ助かってくれるならそれで良いのに。そんな思いに反し、シエラは固くカイラを抱きしめて放さない。 そんなシエラが愛おしくて、大切で、涙が出るほど嬉しいのが悲しい。 カイラはシエラに何も言えなくなって、もうどうして良いか分からなくなって、そんな時、シエラのもう一人のお姉ちゃんがシエラをカイラから引き離した。 「何か……言い残す事は?」 「シエラを……頼みます……」 「分かった」 カイラはそれを聞いて、安心して目を閉じる。まるで、もう思い残す事は無いと言うように。 「お姉ちゃーーーん!!」 冷静になったタクトとエルの手によってカイラは医者の所へと運ばれていった。 その場に残ったのは、子供のように泣きじゃくるシエラと、呆然とただ虚空を眺め続けるソラリアだけだった。 「……」 カイラを担ぎ込んだのは、地球式医学を学んだと言う触れ込みの、怪しい街病院だった。 そこの廊下で、一同は暗い空気に包まれていた。 カイラは面会謝絶で、地球で医学を学んだと言う怪しい若い医者から手術を受けている。 ハッキリ言って生死不明の重体だ。 廊下の椅子で一言も喋らないシエラに対し、皆何と声をかけたら良いか分からずに居た。 「シエラさん、あの……」 そこで初めて口を開いたのは、以外にもソラリアだった。 もし万が一カイラが死ねば、シエラは天涯孤独となる。 その最悪の事態を考えた場合、根拠も無く下手に希望的観測を述べて励ますのは、返って悲しみを増大させる結果となる。 希望を持ちたい。だが希望が潰えた時、人はより深く絶望する。 きっと、シエラも姉に助かって貰いたい反面、心の何処かで覚悟を決めなければならないと思っているのだ。 だがその覚悟を持つ事自体、姉が助かる事を信じない事になるのではないか? そして非科学的な考えだが、姉が助かると信じ切れなかった為に、祈りが足りずに助からないかもしれないと言う思いもあるのだ。 ソラリアは自分が魔神で、人々に不幸を撒き散らす存在だと知ってしまった。 事の責任の一端は自分にあると思っているのだ。 だからシエラを少しでも励まそうと声をかけたものの、やはり何と言っていいかわからず、こうして再び黙ってしまったのだった。 だがこの事が、シエラに珍しい怒りと言う感情を呼び起こす結果となってしまった。 「……何で何も言わないの?」 「えっ」 シエラが椅子からゆらりと立ち上がった。 そしてそのままゆっくりとソラリアの前まで来ると、翼腕をだらりと垂らしたまま虚ろな瞳で話し出したのだ。 「あの時、精霊力を感じなかった……前にソラリンが魔法を使った時と同じだったよ」 「っ!?」 感情の籠らない声でそう言うシエラ。 いつもの明るく元気な声からは想像もつかない、ゾッとする程冷たく静かな声に、ソラリアは身動き一つ取る事が出来なかった。 (まさかミィレスさん? そんな、どうしてなの?) 幽鬼の如くソラリアの前に立つシエラを見て、エルは嫌な予感しかしなかった。 これから最悪の事態になる。戦闘種族であるダークエルフの感がそう告げて居た。 (やっぱりカイラは魔神に……ソラリア以外にも魔神がこの街に来て居たのか) 魔神には気配が無い。気配を消して居るとか気配が薄いとかではなく、初めからそんな物魔神は持ち合わせないのだ。 あの時、エルの視界の外からミィレスはカイラを正確に撃ち抜いた。 それはカイラが潜在的にマスターであるファルコの敵であった為か?いや、或いはもしかしたら、カイラと戦闘になりそうだったソラリアを守る為に…… エルはもう一人の魔神よ目的が分からず考え込もうとしたが、それを止めたのだ突然の怒声だった。 「お姉ちゃんはソラリンと同じ魔神にやられたんだよ! 私の両親だって!!」 「私は……私はその……」 その大声はシエラの声だった。 誰も見た事が無いシエラの怒り。もうこの先何が起こるのか、一番付き合いの長いエルにも分からない。 ただ一つ言える事は、今のシエラは何をするか分からないと言う事。 「ソラリンも魔神なんでしょ!? 何とか言ってよ! 何か言ってよぉ!!」 「もうよせシエラ!」 エルはシエラを後ろから羽交い締めにした。今やシエラの顔はソラリアに噛みつかんばかりに近づいていた。 エルがあと一瞬、動くのが遅ければシエラはソラリアに掴みかかっていたろう。 シエラの怒気はそれ程の物だった。 「お前が悲しいのはみんな分かってる! でも、これ以上は……ただの八つ当たりだ」 「う……」 そう、エルの言う通りだった。 シエラのソラリアへの怒りは完全な八つ当たり。そんな事誰もが、シエラだって分かって居た事だったのに…… 「うわぁぁぁぁぁん! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 シエラはエルに抱きついて泣いた。 エルはシエラの頭を撫でながら、もう何も言わなかった。 エルがシエラを守り始めたのは、彼女のセンチメンタルだった。 そのセンチメンタルはシエラの実の姉が現れた事で崩れ去った。 今は違う。これからは、エルはシエラを大切な仲間として守るのだ。大事な友達だから守るのだ。 エルの中で何かが変わり始めた。 「ソラリア、行こう」 「タクトさん、私……」 どうして良いのか分からず、ただ下を向いていたソラリアを助けたのは、やはりタクトだった。 「今はそっとしておこう。時が経てば……シエラも分かってくれるさ」 「はい……」 ソラリアはタクトの優しさに素直に甘えた。 しがみ付いた腕は思っていたよりもずっと太くて硬く、それだけでソラリアは不安を忘れる事が出来るようだった。 「わあぁぁぁぁぁぁぁ……」 廊下に響くシエラの泣き声は、深夜まで続いた。 『あの時、精霊力を感じなかった……前にソラリンが魔法を使った時と同じだったよ』 宿に戻ったソラリアはベッドで今日起った事を思い返していた。 カイラ、シエラ、二人の姉妹を襲った悲劇は今も続いている。 (カイラさんを攻撃したのはミィレス……あなたなの?) そしてその悲劇をもたらしたのは、ソラリアと同じ魔神のミィレスだ。 ミィレスは何故そんな事をしたのだろうか?誰かに命令された?一体誰に。 そう考えてまず頭に浮かんだのはファルコと言うオルニトの神官だった。 だがその考えは矛盾している事にソラリアはすぐ気付く。 ファルコ軍の精鋭である四元魔将のカイラを、何故ファルコが殺そうとするのか。 『私達魔神はこの世界の敵。居ればみんなを不幸にする』 再び頭の中でミィレスの言葉がリフレインする。 あの時カイラはソラリアを殺そうとしていた。もしミィレスがカイラを攻撃した理由が、ソラリアをカイラから守るためだったら? (だとしたら、カイラさんがあぁなった原因の一つは、紛れもなく……) ソラリアは思う。自分が目覚めてからの戦いの連続を。 きっとこんな事普通じゃないんだ、と。 「世界の……敵」 スワンもミィレスもカイラも魔神の事をそう言っていた。魔神とは一体何なのか? 何故こんなに憎まれ、そして戦いを呼んでしまうのか。 考えても考えても答えは見えてこない。ただ一つ確かな事、それはソラリアが紛れもなく魔神であると言う事。 「シエラさんごめんなさい……カイラさん……エルさん……タクトさん」 その答えを見つけるには一つしか方法はない。だがそれは今まで共に戦って来た仲間への裏切りになる。 「みんな、ごめんなさい……」 それでもソラリアは答えを求めずにいられない。 自分が何なのか分からなければ、これ以上一歩も進めない気がするから。 (こんなに悲しいのに、シエラさんのように涙が出ない) ソラリアは自分の選択が自分勝手な選択だと分かっていた。罪悪感も孤独感もあった。 それでも、ソラリア黒い瞳からは、一滴の涙も流れ落ちないのだ。 「私は……悪魔なんだ……」 ソラリアは、そのまま静かに目を閉じた…… 「シエラ落ち着いたか?」 「うん……」 翌日の朝、シエラが落ち着きを取り戻したのは、カイラの手術が成功したとの報せを受けてからの事だった。 それまでエルはずっと、付きっ切りでシエラを落ち着かせようと頑張っていた。 シエラにとって今が一番辛い筈だ。誰かが支えてあげなければならない。それが今出切るのは自分しかいないとエルは思った。 「私、ソラリンに酷い事言っちゃった……」 一方、平静を取り戻したシエラは、自分が仲間に言ってしまった事を後悔していた。 「ソラリン、許してくれるかなぁ」 あの状況で、ソラリアがシエラに何か言える筈がない。 にも関わらず、ソラリアは何とかシエラを励まそうと思ってくれていたのに、その思いを完全に踏みにじる行為をしてしまったのだ。 こんな事をしたら嫌われて当然だとシエラは俯いた。 「きっと分かってくれるよ」 「エル」 そんなシエラをエルがまた励ます。ソラリアは心の優しい娘だ。それが分かっていたから、エルは二人は仲直りできる筈だと信じていたのだ。 だが事態は、エルが想像していたよりも遥かに悪い方向に進み始めていた。 「あれ? 居ない」 朝方宿に戻ったエルとシエラは、ソラリアに謝ろうと真っ先に泊まっている部屋に向かった。 しかしノックをしても反応がない。仕方なくドアを開けてみると、そこにソラリアの姿はなかった。 「もう起きてたのかな?」 「……そのようだ」 シエラがキョロキョロと部屋を見回す中、エルの目はもぬけの殻となったクローゼットを見ていた。 「そんな……ソラリン、私のせいで……私があんな事言ったから」 ソラリアはどこを探しても居なかった。 宿にも、宿の近くにも、三人で街中探し回ったが全く姿が見えない。 昨夜の事を考えれば、それは誰の目にも「出て行った」としか思えなかった。 「シエラは悪くない。誰も悪くない。悪いのは――」 再び宿に戻って結果を報告しあい、芳しくない結果に責任と罪悪感を感じて泣くシエラ。 それをエルが慰め、タクトがソラリアの行きそうな所はまだ無いかと必死で考えていると、窓の外から誰かが話しかけてきた。 「あ~まんまとしてやられちゃったね」 三人が一斉に声のした方を振り向く。 そこにはこれから葬式に出るのかと思うほど、全身黒尽くめで顔も見えない喪服の女性が立って、こちらを見ていたのだった。 「朝からデバガメみたいな真似して申し訳ない。私は元老院の聖騎士アルトメリア」 「聖騎士だと!?」 「嘘、本物? 本物の聖騎士!?」 素早く弓を構え臨戦態勢を取るエル。一方、噂でだけ聞いた事がある都市伝説めいた存在に、妙に浮き足立つタクト。 そんなタクトを殴って静かにし、エルはシエラを庇うように立ちアルトメリアに向き直った。 「で、スラヴィアの戦闘貴族にも匹敵すると言われる聖騎士様が、私らに一体何の用だい?」 「魔神を退治しに来た」 と、アルトメリアは事も無げに話した。 しかし実際ソラリアの戦いを間近で見た事のあるエルは、昨日の怪獣大戦争めいた戦いを見ても、聖騎士が魔神をすんなり倒せるとは思えなかったのだ。 いや、今はそんな事が重要なのではない。この聖騎士が、何を目的に昨日からちょっかいを出して来ているのかと言う事が大切なのだ。 その目的、何を知り、何をしたいのか。それを聞き出す必要がある。 エルは駄目元で顔の見えないアルトメリアに話を聞いてみる事にした。 「魔神の――ソラリアの事を知っているのか?」 「多少はね」 案外簡単に、エルの呼びかけにアルトメリアは答えた。 まるで待っていたかのような気軽さだ。これがこの聖騎士の性格なのだろうか? とにかく、アルトメリアは聞かれてもいないのに、エル達に情報を与え始めた。 「かつて魔神は聖剣を持つ聖騎士によって倒された。だが今はその聖剣も殆ど残っていないからね」 かつて魔神を倒す為、神が人に与えた兵器――それが聖なる剣『聖剣』だった。 そして現代に残る数少ない聖剣の所持者の一人が、アルトメリアが所属する聖騎士団の団長、スパイク=エンフィールドだった。 だがその彼とて、魔神と戦った事がある訳ではない。遥か古代から甦った魔神と、現代でも戦える者がいるのか? それは正直な所、やってみなければ誰にも分からない。 ただ、これまでのソラリアの戦績、そして発掘されて即ファルコの右腕となったミィレスの実力から考えて、人の身で太刀打ちできる者は殆ど居ないだろう。 「だから代わりに腕の立つ者達が聖騎士の役割をやっているって訳さ」 「ソラリンを殺すの?」 シエラは核心を突く質問をする。 そう、タクト達にとって重要なのはそこだ。ソラリアはタクト達の仲間だ。その仲間を殺すと言うのであれば、アルトメリアはタクト達の敵と言う事になる。 聖騎士と戦って勝てる見込みは殆どないが、それでも我が身可愛さに仲間を見捨てるような薄情者は、ここには一人もいない。 三人に緊張が走る。次のアルトメリアの返答いかんで、聖騎士と戦うか否かが決定されるのだ。 「そのつもりだったが……どうやら、ソラリアと言うその魔神は悪い奴じゃなさそうだね」 アルトメリアはそう言うと、表情が読めない三人に気遣ってかオーバーなジェスチャーでやれやれとやって見せた。 一安心した三人だが、アルトメリアの話はまだ終わらない。 「だがファルコとその右腕、魔神ミィレス……そして黒い月は許さない」 アルトメリアはやれやれのジェスチャーを止めて、片手の拳を握り締める動作をした。 聖騎士にしてもファルコは、そして魔神はそれ程忌むべき相手と言う事らしい。 ここに来てだんだんと、朧気ながらエルとタクトにはアルトメリアの目的が見え始めた気がした。 そこでタクトは更に突っ込んでみる事にした。 ソラリアと出会い、四元魔将と戦い、度々登場する『黒い月』と言う単語。 それが一体何なのか?タクト達はまるで知らないままだったからだ。 「カイラも言っていたがその黒い月ってのは一体何なんだ? それが重要なものなのか?」 「行けば分かるよ」 「何?」 アルトメリアはそう言うと、顔を覆っていた黒いレースをめくって見せた。 「その為に私はここに来た」 レースの下から出てきた顔は、まだ歳若い女の顔。それも地球人女性の顔だった。 日光が顔に当たり、アルトメリアは顔に火傷を負い始める。太陽光に弱い、それはスラヴィアン独特の特徴だった。 もともと与えられた神力が少なく、スラヴィアンとして最低ランクの力だった為、こうして太陽光への拒絶反応も比較的弱くて済んでいるのだ。 これがもし強力な神力を持った古い貴族だったなら、一瞬で石のように固まり、ものの数分で風化して自然に還る事だろう。 「シエラ=ウィンザード。黒い月へ至る道を教えてほしい」 「なっ――」 だがそんなアルトメリアとて太陽光に長く当たっていられる訳ではない。 シエラを見詰めるアルトメリアの顔は、その僅か数秒間で火傷を負い、女の顔がどんどん傷付いていった。 その光景を前にしてシエラは戸惑った。何故なら黒い月の事など、小さい時の事すぎてほとんど覚えていないからだ。 この聖騎士が自らの弱点を曝け出してまで、願い乞うような情報をシエラは持ち合わせていないのだ。 「アルトメリア=リゾルバの名において命ず。出でよワイバーン!!」 シエラがそうこう考えて居る内に、アルトメリアが昨日カイラと激戦を繰り広げた時に使役した翼竜を召喚した。 この翼竜に乗って飛んで行こうと言う事か。 「ソラリアも、もう一人の魔神とファルコと共にそこにいる筈だ。再び神魔戦争を起こさない為に……頼む」 辺りは早朝だと言うのに、昨夜に続き現れた翼竜に驚いた住民達が集まりざわめき始めている。 アルトメリアはそのざわめきの中、翼竜の上でシエラを誘うように手を伸ばしている。 「シエラ……」 「……」 ソラリアがどこに行ったかわからない。だがもし本当にソラリアが、ファルコやもう一人の魔神に連れられて行ったのだとしたら? その可能性は高いとエルとシエラは直感した。 このアルトメリアと行く事が、ソラリアを探す一番の近道かもしれないと。 『行こう! 黒い月へ!!』 シエラとエルの声が重なった。 「ミィレス……本当に黒い月まで行けば、私もあなたも失った物を取り戻す事が出来るの?」 「行ければ取り戻せる。絶対に」 ソラリアとミィレスは街の外に出た広野を飛んでいた。 目指すはファルコ軍の野営地、ファルコの下である。 「ミィレス……あなたも……」 ソラリアはミィレスの表情を窺った。しかしミィレスは相変わらず無表情のまま前を向いて飛行するばかりである。 ミィレスは心を失っていると言った。心を取り戻したいと。 心が無ければ悲しみや苦しみや罪悪感に苦しめられる事も無いのだろう。 しかしそれは同時に喜びや楽しみや感動もないと言う事になる。 何も感じない、それは死んでいる事と何が違うと言うのだろうか。 ソラリアはミィレスを可哀想だと思った。 「よく来てくれた、もう一体の魔神よ」 そしてとうとう着いたファルコ軍陣営で、ソラリアはファルコに出会った。 立派な体格に手入れの行き届いた翼。服は一目で良い物を着ていると分かる物で、首や足首や体の至る所に金銀宝石の飾りが輝いている。 これこそ、今までこの男がどれ程の村を襲い、奪ってきたかを証明する姿に他ならない。 ソラリアは目覚めてからの短い生の経験の中で、初めて嫌悪感と言う物を感じた。 「私はオルニトの神官ファルコ。私が君達を黒い月へ招待しよう」 「イエス、マイマスター」 「お願い……します」 ソラリアはその嫌悪感を抑えてファルコと握手を交わした。 この場で感情のまま握手を拒めば、ソラリアを連れて来たミィレスの立場を悪くする。 それに何より、ソラリアはみんなの事を裏切ってここまで来たのだ。今更立ち止まるわけにはいかなかったのだ。 「ふふふ……コマは全て揃った。後は行くだけだ」 ファルコが今までの失敗の繰り返しを思い出す。 カイラから聞き出した黒い月の軌跡から辿り着いた『門』には二つの鍵穴があった。 一つはミィレスの持つ鍵の剣で開く。だが鍵の剣はもう一本必要なのだ。 二本の鍵の剣を同時に回さなければ門は開かない構造らしく、また、鍵の剣の複製はドワーフ達の技術力を持ってしても不可能だった。 開門に失敗し、現れた門番三人に部隊を壊滅させられる事数回、ファルコが半ば諦めていた時、ソラリアの噂が耳に入った。 (私が魔神達の王となりオルニトを、いや、世界を手に入れる日も近い) 学者達の見解によれば、黒い月には魔神達が眠っていると言う。そして目覚める時を待っている。そこに最初に到達して、ミィレス同様自分がマスターだと言ってしまえば…… 「ふふふ……はーーーっはっはっはっはっ....」 ファルコは込み上げる気持ちを堪える事なく、高らかに勝利の笑い声をあげた。 異世界の空を漂う黒い球体型の建造物。その軌道はカオス理論によって算出した空の死角を縫って航行するように設計されている。 嵐神の力で浮遊している浮遊大陸オルニトとは違う原理で飛行するこの物体は、悠久の時をこうして過ごしてきたのだ。 「そうですか。ここに向かってくる者がいると」 その巨大球状物体の中、色取り取りで大きさも様々な灯りが灯る暗い部屋の中で、一人の女の声が響いた。 「本当ですか? もしそうなら我々が待ち望んだ時がついに……」 微かな灯りに照らし出される一人の女。その視線の先には光る窓のような四角い灯りがあり、その中で別の女が何かを話している。 「あの悲劇の日から幾星霜……早く、早く来て下さい。我らが主様……早く……早く……」 明るい窓が消え、部屋にはまた元の静寂が戻った。 まるで時が止まったかのような闇と静寂が支配する場所で、女は男の到着が待ちきれないように、その手を下腹部に伸ばすのだった。 ※異世界冒険譚-蒼穹のソラリア- ④ へ行く 独自色の強いシリーズだけど迷わず走り抜けるのは清々しい。このシリーズが世界観に合っているか?というよりもどうやればしっくり世界観に馴染むかを考えてしまうくらいの気持ちよさがあった -- (名無しさん) 2013-01-18 17 27 24 物語として最後はどういうゴールをきりたいのか一区切り終わって気になったんやな -- (名無しさん) 2013-01-18 21 52 45 最初は違和感があったがここまで通しで読むと作者の気合みたいなものを感じて清々しい -- (名無しさん) 2013-02-08 00 32 29 本来いるはずのない自分への懐疑と他者の運命を狂わせるという思いは今のソラリアには厳しい仕打ちでしょうね。状況も悪化し周囲の人が傷ついていくというのも読んでいて辛さが重いですね。ファルコの目論見と魔神の心が剥離していっているようにも感じましたがやはり結末は黒い月でとなるのでしょうか -- (名無しさん) 2015-12-20 19 41 07 名前 コメント すべてのコメントを見る
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とある山の山腹にあるゆっくりの研究所 その地下の一室で、胴付きゆっくりフランが四肢を拘束している鎖から逃れようともがいている。 「ふ・・・うう・・・ふうぅっ・・」 その身体には実験当初の2倍近くの媚薬ローションが塗り込まれており、身体を少し動かすたびにあの感覚が大波のように襲ってくるために満足な動きができていない。 と、部屋の扉が開いてフランをここに拘束している男が現れた。 「ふむ・・・さすがにここまで塗り込めば効果はでかいな。 調子はどうだ?」 「ふ・・・う・・・うーっ! ゆっくり・・・しねぇっ!!」 「あまり死ねという言葉を連発するな。 それは決め台詞として使った方がいい」 訳の分からないことを言ってフランに近づく男。 男はフランに近づくと、手にした小さめの箱からよく分からない器具を次々と取り出した。 ふしくれだち、少し反りのある棒のようなものや、以前男が教えてきた『数珠』のようなもの、紐の先に豆のような物が付いているものなど。 それが何なのかなど分かるはずも無いが、男が用意するものにろくなものが無いのは分かり切っている。 「う・・・う・・・? やめて・・・くるなっ!」 「これは電動式の張型で、こっちも電動式の・・・何だったかな、何とかビーズとか言うものだ。」 「きいて・・・ないっ! くるなぁっ!」 「お前がちゃんと言うことを聞いてくれればこんなものは使わずに済むんだが・・・どうだ?」 今だ! すぐそばまで来て目線を合わせようとした男の首筋に思い切り噛み付くフラン。 しかし、男は血の滲む首筋に動じる様子も無く、フランを噛み付かせたままで 「人間の血の味は嫌いとか言ってなかったか? いや、今はそんなことを言ってるんじゃなかった。 そっちがそういうつもりなら、ほれ」 言うが早いか、いきなりフランのそこに紐の付いた豆(のようなもの)を挿入する男。 「ううっ・・・うーっ!」 フランは、異物が挿入される感触にビクりと身体を震わせるが、若干ではあるが慣れてきた事もあり、そのままさらに強く噛み付く。 「ほ・・・お。 顎筋力はかなりいい感じになったな。 ゆっくりに筋力と言うのもあれだが・・・でもな」 男はフランの首を片手で掴み、 「ふっ!」 「ぐ・・・あ、がぁっ・・・」 思い切り締め上げた。 「人間に手を出すなと教えたはずだぞ。」 「あが・・・が・・・く・・・」 「人間の世界で生きていくと決めたのはお前だ。 教えられたことは守れ。」 「か・・・あ・・・ぁ・・・」 ギリ・・・ギチ・・・ 男はフランの目が虚ろになりかけたところで手を離す。 「げはぁっ! がは、ごほっ!」 激しく咳き込みながらも、フランの目に恐怖や恭順の色は全く無く、ぎらぎらとした光を放っている。 「はぁ・・・この状況になってなおその目か。 人間以上の精神力なんじゃないか? いや、逆にゆっくりフランだからと考えるべきか・・・?」 ぶつぶつとつぶやきながら、男は紐の先のスイッチをスライドさせる。 「う・・・あうっ!? かはぁっ!?」 胎内でいきなりブルブルと動き出したそれに驚き、その感覚で一気に男から注意をそらしてしまうフラン。 「それは、・・・ええと・・・ローターと言うものでな。 ただ振動し続けるだけのものなんだが・・・なかなかのものだろう?」 「う・・・ふうぁっ! あ・・あうぅっ!」 フランの両手は吊り下げられているため、どうにか脚でそれを身体から引き抜こうとするのだが、太腿をすり合わせることでローターは更に奥へと侵入していく。 「ふあぁっ! やめ・・・ぬけっ! ぬ、ぬい、てぇ・・・」 「本当は精神を極力弄りたくなかったんだが・・・ここまで我が強いと一回心を少し折っておかないとどうにもならんしな」 「な・・・なにいって・・・あぁうっ!」 「お前が屈服するまで続けると言うことだ。 さて、ダメ押しをしておくか」 男はそう言うと、器具の山から輪になっていない数珠のような物を取り出してローターに気をとられているフランの後ろに回り、後ろの蕾に何の予告も無くその先端を挿入した。 「ふぎぃっ!? あううぅあっ!」 「それは・・・あーと・・・アナルビーズ、というものだ。 どんな感じだ?」 説明書らしきものを読みながら興味深げに聞いてくる男に対し、フランは羽を思い切り振り回しながら 「うく・・・し、しねっ! しねぇっ!」 と狂ったように絶叫した。 しかし男は羽根が当たっても特に動じる様子も無く、ビーズの珠を一つずつゆっくりとフランの蕾に飲み込ませていく。 「うっ・・・ううぅあああっ!」 未知の感覚に対する恐怖と屈辱から涙を滲ませ、歯を軋むほどに食いしばって男をにらみつけるフラン。 男はそんなフランをまぶしそうに眺め、 「・・・俺が部屋を出たらお前の腕の拘束を緩める。 それからお前がどうするかは自由だ」 「ゆ・・・う・・・? な、なに・・・?」 「それを引き抜こうがどうしようがお前の勝手と言うことだ。 別に壊したっていいんだぞ? 俺としちゃちょいと困るが・・・」 「う・・・こ、こわしてやる! こわして、おまえも、ころし」 「だから軽々しくそういう言葉を使うな。 カメラ・・・よし、と。 じゃあ2時間後にまた来る。」 そう言って男は部屋を出て行った。 男が言ったとおり、男が部屋を出てすぐに腕の鎖が伸び、(枷ははまったままだが)自由に動かせるようになった。 (こわしてやる・・・ぐちゃぐちゃにこわしてあいつにたたきつけてやる!) フランは歯軋りしながらそこに手を伸ばし、ローターのスイッチ部分を掴み、 「う・・・う・・・あぅ・・・」 引き抜くことができなかった。 (う・・・うそだ・・・うそだうそだうそだ!!) フランは自分の身体に起こっていた変化に驚愕し、必死に否定しようとする。 しかし。 (こ・・・こんな、こんなのが・・・) 憎んでいるあの男に無理やり挿入されたこのおぞましい道具が。 (きもち・・・いいなんて・・・ぜったいうそだぁっ!) 男によって幾度も刺激を与えられた身体は、既にその感覚を快楽だと知ってしまっていた。 基本的にゆっくりの身体は外からの感覚に順応しにくい。 なので、自分に必要の無い異物が体内に入ると苦痛や嫌悪感といったサインが現れ、吐き出すかあるいはなるべく順応しないように反発する。 しかし、普通ならば異物である媚薬を定期的に塗りこまれ続けた身体はその異物に順応してしまい、反発反応(=嫌悪感)をかなり薄めてしまっていた。 なので最初の頃の嫌悪感>"その感覚"という図式が崩れ、"その感覚"をそのまま快感として受け入れてしまったのである。 いくら反発しようとしても、身体は既にその感覚を快感としか認識しない。 さらに、幻覚剤の依存性がその快感を否定することを拒んでいる。 「う・・・うあ・・・ううううぅーっ!!」 初めて認識する快感への恐怖、そしてそれを圧倒的に上回る屈辱で、フランの目から涙が溢れ出す。 そんなフランの心とは裏腹に、フランの指はローターの挿入されているそこを弄り続けている。 フランのそこは異常なほど体液を分泌してぬめり、フランの指を何の抵抗も無く受け入れていた。 「うっ・・・ううっ・・・うああああああーーーっ!!!!」 屈辱に顔をゆがませ涙をこぼしながら、フランは始めて覚えた自慰の快楽を味わい続けた。 2時間後。 「・・・ふん。 なかなかいい顔になったな、フラン」 「・・・ふぅ・・・ひゅぅ・・・」 フランの目は相変わらず憎悪をたたえて男をにらみつけていたが、その目の下には隈ができ、隠し切れない疲労が表に出てしまっている。 フランに挿入されていたローターは既に抜け落ちてしまっていたが、フランはそれを壊す気力も無いようだ。 体重を壁に預け、時折身体をピクンと痙攣させる以外はほとんど動かない。 「さて・・・と。 これから最終段階に入るが、その前に・・・ほら。 水だ。」 「・・・・・・・・・」 フランの周りにはフランから分泌された体液が広がり、甘い匂いがあたりに充満している。 普段余り水分を必要としないゆっくりでも、これだけ体液を流せばさすがに喉が渇くだろう。 「別に何も入ってない、普通の水だ。 喉が渇いているだろう? 遠慮なく飲めよ」 男の言葉にフランは、 「はぁ・・・は・・・ん・・・んく・・・んぐ・・・」 なんとおとなしく男の用意した水を飲み始めたのだ。 「そこらの川の水じゃないぞ。 由良高山の高級雪解け水だ。 美味いだろう?」 「・・・・・・・・・」 フランは何も言い返さず、ふいっと顔を背けるだけだったが、男は特に不満顔もせず満足そうだ。 それもそのはず、わめきも暴れもしない、以前のフランのみを知る者が見れば仰天するであろうおとなしい反応だ。 「さて、喉も潤ったところで最後の試練だ」 男は幾分嬉しそうな、うきうきした様子で持ってきた荷物を開き始める。 今までに無い順調さに心ときめいているのだろう。 対するフランは、今までのようにむきになって反発する様子は無く、ただ静かに男の作業を眺めている。 その顔に浮かぶのは静かな憎悪と疲労、そして幾分の・・・諦念? 「さて・・・と。 ほら、これが特注品の催淫香だ。」 と言って男が取り出したのは、一見どこにでもある普通の香鉢。 「・・・・・・?」 フランは香鉢の存在は知っていたが(以前男が部屋で炊いていた。 妙な香りだった)、"サイインコウ"と言う名は初耳だった。 ただ、またろくでもないものだろうことは理解できる。 「これは人間用というわけじゃなくてな。 ゆっくりにも、妖怪にでも効くらしいんだ。」 男は香鉢に香を落としながら続ける。 「今までの人間用と違って、お前にも絶大な効果が見込めるんだよ」 「・・・・・・はぁ・・・」 またあんなのが、しかもあれ以上の強さでくるのかと思うと疲労が何倍にも増した気がして、フランは大きなため息をついた。 同時にゾクリとした快感も走ったのだが、フランの自我はそれを全力で否定した。 「そして・・・駄目押しにこいつらだ。」 「ゆゆー? ここはどこ?」 「ゆっきゅりあったかいね!」 この間連れて来たばかりの野良ゆっくり一家、そのうちの親れいむと子れいむが1匹ずつ籠の中から現れた。 「おい、あそこにフランがいるだろう?」 「ゆゆ? ふ、ふ、ふらん!?」 「ああ、大丈夫だ。 ほら、ちゃんと鎖で縛られてるだろう」 「ゆゆっ、ほんとうだね! おちびちゃん、ゆっくりちかよらないでね!」 「ゆっきゅりわかったよ!」 「お前達は、俺が迎えに来るまで適当にゆっくりしていればいい。 そうすればこれからもゆっくりした生活をさせてやるからな。 「ゆっくりわかったよ!」 そういってフランから距離をとり、部屋の隅でゆっくりし始めるれいむ親子。 「よし。 じゃあまた2・・・いや、1時間後に来る。」 「にどと・・・はぁ・・・くるな・・・」 ため息を吐きつつも毒づいてくるフランに苦笑しながら、男は香に火をつけて部屋を出た。 「ゆっゆっゆー♪ おちびちゃん、すーりすーりしようね!」 「ゆっくりしゅーりしゅーりしゅるよ!」 部屋の隅で親子のスキンシップをしているれいむ親子がうるさいが、フランは怒鳴りつける気力も無く壁にもたれかかっていた。 と、香の煙がフランよりも香鉢に近かったれいむ親子の下にたどり着いた。 「ゆ・・・ゆゆぅ? なんだかゆっくりしてきたよぉ~?」 「ゆゆ~。 ゆっきゅりできりゅねぇ~」 「・・・・・・?」 れいむ親子の様子がおかしい。 顔が紅潮し、目がとろんとして、酔っ払ったような表情になっている。 「ゆっくりできー・・・ゆ゛っゆ゛っゆ゛っ!」 「ゆゆ・・・ゆぅ・・・ゆっきゅりちちぇいっちぇにぇえ!」 と、ほとんど間をおかず発情したように(実際発情して)目を血走らせ、ブルブルと痙攣し始める親れいむ。 普通と違うのは、その発情した目が自分の子供に向けられているところだ。 「ゆ゛っ・・・ゆ゛っ・・・あがぢゃん! ゆっぐりじでいっでねえええええぇ!!」 いつもの何倍もの声を張り上げて自分の子供に突進していく親れいむ。 対する子れいむも、 「おきゃあしゃん! ゆっきゅりちちぇいっちぇにぇ!」 尋常ではない様子の母親におびえる様子も無く、ろれつの回っていない舌で声を張り上げている。 「う・・・う・・・? ・・・・・・ッ!?」 れいむ親子を訝しげに眺めていたフランの顔色が変わった。 竹林の薬師特製の香が、フランの元に届き始めたのだ。 「う・・・うぅっ! うぁ・・・ッ!」 いつものローションと同じくらいに考えていたフランだが、この感覚はまず種類が違う。 あのローションは身体の外側からじわじわと快感が染み込んでくる感じだった。 しかし今回は、身体の芯から快感と、同時に言葉では表現し難い衝動がダブルで襲ってきているのだ。 「はっ・・・はっ・・・はぁっ・・・」 無意識に手を下へ下ろそうとするのだが、あいにく両腕の鎖は緩んでいない。 フランは、必死に太腿を擦り合わせて渦のような快楽に耐えている。 「んっふうううううぅぅぅ!! あがぢゃあああああん! ゆっぐりじでねぇえええええ!!」 「ゆぎゅっ! ぎゅっ! ゆっぐぢじでるよおおおおお!! おがあぢゃんもゆっぐぢじぢぇにぇええええ!!」 そんなフランをよそに、れいむ親子は交尾に勤しんでいた。 しかし親れいむはともかく、のしかかられて今にも潰れそうな子れいむまでが恍惚の表情をしている様は異常としかいい様が無い。 子れいむの皮は圧迫に耐え切れず所々裂け中身が漏れ出しているのだが、全く頓着していない。(痛みを感じていないのだろうか?) 「んっほおおおおおおおおおぉぉぉ!!」 「ゆっぐ・・・ゆぴゅっ!」 ブチャアッ! 親れいむが絶頂と同時に勢いをつけて子れいむにのしかかり、子れいむは恍惚の表情のまま破裂した。 「ゆふぅ~・・・ゆふぅ~・・・あがぢゃんぎもじよがっだよぉ~・・・ゆゆゅ?」 発情が少し収まった霊夢は、目の前に小さめの潰れた饅頭が転がっているのに気づいた。 「ゆっ・・・ゆゆっ! あまあまさんだよ! れいむがたべるよ!」 大声で宣言し、饅頭と一緒に潰れているリボンも気にせずかぶりつくれいむ。 「むーしゃ、むーしゃ! しあわせ~!! ゆぅ?」 小さな潰れ饅頭をぺろりとたいらげたれいむは、目の前にあった饅頭とはまた違う甘い匂いが漂っているのに気づいた。 「ゆっゆっ! あまあまさんのにおいだよ! こっちにあるね!」 「ふっ・・・うぁ・・・はぁっ!」 甘い匂いの元を探すれいむの視線の先には、顔を紅潮させて自分の秘所を必死に弄り続けているフランがいた(腕の鎖がいつの間にか伸びていたが、気づくはずもなかった)。 早くも甘い匂いの元に気づいたれいむは、ついさっき自分で絶対に近づくなと言ったフランの元へぽいんぽいんと跳ねて行く。 「ゆっ、ゆっ、れいむにあまあましゃんちょうだいね!」 「ふぁ・・・は・・・んう?」 自分の中から湧き上がってくる快感に夢中だったフランは、目の前で叫ばれて初めてれいむの存在に気づいた。 見れば、ゆっくりにあるまじき形相で目を血走らせ、フランのもっとも濃厚な香りを放っているそこを食い入るように睨み付けている。 「ゆ・・・ふふ・・・うふふふ・・・」 「ゆっゆっ! 早くれいむにあまあましゃん・・・ゆゅ?」 フランは両手を伸ばすとれいむを掴み上げ、自分の秘所に押し付けた。 「ゆ・・・ゆぶぶ・・・べーろ、べーろ、あまあま~!!」 「ふ・・・はぁっ!」 れいむがそこを舐め回し、大声で叫ぶたびにフランにゾクゾクとした快感が走る。 そこから溢れてくるフランの蜜を必死に舐め取っているれいむの血走った目を見ているうちに、フランの本能がむらむらと湧き上がって来てしまった。 「べーろ、べー・・・ゆぐっ! むぐぐぐぐ・・・」 「ふぅ・・・うふふっ・・・あ・・・ははっ・・・」 フランはれいむを掴んでいる両手に力を込め、より強く自分に押し付け始めた。 息ができないれいむは時折白目をむいているが、それでもあまあまを求めて舌を動かし続けている。 そんなれいむを見るフランには、快楽に蕩けた表情の中に獲物を見る酷薄そうな視線も混ざり、何とも言えない妖艶な雰囲気をかもし出していた。 「ゆぐ・・・もっど・・ゆぶぇ・・・も・・・ど・・・」 「う・・ふふふ・・・もっと・・・もっともっと!」 ギリ・・・ギチ・・・ミリミリ・・・ 双方同じようなことを口にしながら、フランはさらに強くれいむを自分へ押し付け、れいむはもう満足に動かない舌でなおフランの蜜を舐め取ろうとしている。 爪をつき立てられているれいむにはいくつもの傷ができ中身があふれ出し、血走った眼球がポロリと落ちそうなぐらいに飛び出しているが、何ら気にする様子は無い。 そして、フランの目がニィッと歪み、 ギヂ・・・ヂ・・・グヂュ・・・バヂュウゥッ!! れいむを思い切り自分へ押し付け、そのまま押し潰した。 「ゆぶ、ぶ・・・ぐびゅえぁっ!?」 「うふふ・・・は、は・・・あはははははっ!!」 れいむの中身が勢いよく飛び散り、そこらじゅうにばら撒かれる。 フランは顔にかかった餡子をべろりと舐め取り、 「うふ・・・あはは・・・きゃはははははっ!!」 哄笑しながら潰れたれいむをさらに細かくズタズタに(と言うよりは粉々に)引き裂いていった。 「注意、この香には催淫作用のほかにその種の本能も引き立てる副作用があるので、取り扱いには注意が必要、か。」 「あ゛・・・あ゛・・・あ゛・・・」 「しかし・・・実際に見ると凄まじいもんがあるな。 そう思わんか? まりさ。」 「ゆ゛あ・・・あ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・」 男と一緒にモニターを見ているのは、今潰れたれいむのパートナーであり、れいむに潰されて貪り食われた子れいむの父親であるゆっくりまりさだ。 れいむが子れいむを食べたところまではものすごい叫び声をあげて暴れまわっていたのだが、そのれいむが潰されるシーンを見てから反応がほとんど無くなった。 まあ普通に考えて無理も無いことだろう。 ゆっくりを見慣れている男をして"凄まじい"と言わしめる事態が自分の家族に起こったのだから。 「さて・・・これ以上放っておくと本当に壊れかねんな。 一度香を止めて経過を見なければ・・・お前は、」 「あ゛・・・ああ゛・・・ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・」 「どうにもならんか。 まあ好きにしてくれ。 扉は開けておくからな。」 涙を流してうめき続けるまりさにはもう興味を示さず、男は地下室へ行く準備をし始める。 と、 「ん? 何だ。 お前も行くのか?」 「んゆぅ~♪」 男について部屋を出たゆっくりゆゆこに意外そうな顔をしながらも、男は急ぎ足で地下室へと向かった。 「換気扇、異常なく起動・・・と。 よし、ドアロック解除」 さすがに今度は換気扇をつけて男は部屋に入った。 「よし。 調子はどうだフラン? うぉっ!?」 「ふぅあっ!!」 ジャララッ・・・ガキン!! 男を見るなり飛び掛ってきたフランに驚き、のけぞる男。 フランの鎖を伸ばしたまま忘れていたのだ。 「ふぅー・・・ふふふっ。」 「これはまた・・・威勢のいい顔になったもんだ。」 男への怒りはそのままに、野生の本性を丸出しにした酷薄そうな笑みで飛び掛られた男は、苦い顔をして香鉢に歩み寄る。 「この香の効果は煙が消えても最低数時間持続するらしいからな・・・今まで突っ込んだ知識が白紙に戻ったら適わん。 一度消すか・・・」 と言って男が香鉢の元にたどり着いたその時。 シュウ・・・ガシン! と、いきなり扉が閉まった。 「なッ!?」 § このとき男がとるべき最良の行動は、手元にある香鉢をいち早く消し止めることだった。 しかし、焦った男は扉に駆け寄ってしまった。 扉のロック解除装置のある左の壁でも香鉢でもなく、扉本体へと。 まあ普通なら決してひとりでに閉まることの無い扉が勝手に閉まったのだから、仕方のないことと言えなくも無いが・・・ § ガン! 「なぜ扉が・・・!? この扉に誤作動など起こり得るはずが・・・!」 と、その時さらに、 カシュウウウウ・・・ 換気扇までが止まってしまった。 「馬鹿・・・な! いかん、香を・・・」 と、付き合いの長いフランでさえ始めて見る焦燥の表情を見せながら香鉢へ駆け寄る男。 しかし、換気扇が停止した今、香鉢から出る煙は四方へ満遍なく噴出されている。 当然、男のいる方向も例外ではない。 「う・・・あ゛・・・がッ!?」 香をまともに吸い込んだ男に強い貧血のような感覚が走り、そのまま崩れ落ちてしまう。 そしてこの状況では最悪なことに、男は貧血のときに反射的にやってしまう行動、深呼吸をしてしまったのだ。 「はあぁ・・・う゛ッ・・・か・・・ア゛・・・」 男は浅く速い呼吸を繰り返し、 「フッ、フッ・・・フゥー・・・」 ほどなくしてその呼吸が平常時に近づくと、男は何事も無かったかのようにむくりと起き上がった。 しかし、 「フゥー・・・フラン。」 「う・・・あ?」 その表情は一変していた。 その目は真っ赤に充血してぎらぎらとした光を放ち、全体的に尋常ではない雰囲気があふれ出ている。 それは、こんな状況にあるフランでさえ思わず怯んでしまうほどに。 「フラン・・・フラン。」 「な・・・なに・・・?」 「フラン・・・今かラ・・・お前、ヲ・・・犯す・・・」 「え? な・・なん・・・ッ!?」 その時、男とフランがいる部屋の前の廊下では。 「ん~ふふ~♪」 男の後をこっそりと付いて来ていたゆゆこが楽しそうに歌って(?)いた 「はかせがしんだら~♪ ふらんもはかせもたべていいの~♪」 間延びした声で歌いながら庭へ向かうゆゆこ。 「にんげんは~はじめてだから~たのしみ~♪ どんな~あじかな~♪」 一人と一匹の死体が出来上がるまでなどという歌を歌いながら、ゆゆこはフランの甘味と人間の未知なる味に心躍らせていた。 「うっ・・・ぐうっ・・・」 「ハァ・・・グ・・・ウ・・・」 フランを力ずくで押さえつけ、組み伏せる。 そしてフランの身体にまだ付いていた親れいむの餡子をべろりと舐めあげると、男は壁のボタンを思い切り殴りつけた。 と、フランの四肢を拘束していた鎖の手錠部分がガチャリと音を立てて外れた。 「ふ・・・ふぅっ!・・・うあ!?」 「クアァ・・・フゥッ!」 千載一遇のチャンスと男に飛び掛るフランだったが、男の動きに一歩遅れをとってしまった。 男は飛び掛ってきたフランの爪が服や皮膚を傷付けても何の動揺も無くフランを組み伏せ、 「あぅ・・・はな・・・せぇッ!」 「フゥ・・・クアアァ!」 フランの脚を力任せに広げさせると自分の異常に膨れ上がった怒張を取り出し、 「う・・・うぁ・・・? や・・・やめ・・・!」 「フゥッ!」 クチュ・・・グブリ・・・ フランのそこに何の遠慮も無くいきなり突き入れた。 「う・・・あ・・・ああああああぁっ!?」 「クゥア!」 フランの絶叫が響き渡った。 しかし男は思い切り突き込んでいる様子だが、サイズの大きすぎるそれはフランの小さなそこには到底収まりきるはずも無い。 怒張は先端が挿入されたまま、それ以上の進入を拒まれていた。 「い゛・・・あ゛・・・あぎ・・・や・・・やめ・・・ッ!!」 「フウウウゥ・・・」 男はそれでも自らの全てを突き入れようと無理やり腰を下ろしていく。 フランの方も、それによってもたらされる感覚が苦痛だけならまだ抵抗できたのだが・・・ これまでの積み重ねと催淫香の効果により、秘所をミヂミヂと押し広げられる激感に頭が痺れ、身体が勝手に痙攣してしまう。 抵抗どころか、自我を保つことさえ難しい状態だった。 そして、 ギヂ・・・ミヂ・・・ヂ・・・グブリ! 「が・・・っかはああああっ!?」 「ハァッ!!」 とうとうフランのそこを押し広げ、男の怒張が全てフランの胎内に収まった。 ありえないくらいの苦痛と快感にフランは白目を剥いて口から泡を吐き、痙攣するだけになっている。 フランのそこは今にも裂けそうなほどに拡張され、真っ赤に充血していた。 「フゥ・・・フウゥー・・・グヂュリ・・」 男はフランの口からたれている泡を舐めとると、フランの身体を床に押し付けたまま腰を動かし始める。 「ゴボッ・・・あ゛う゛っ! あ゛がっ! あ゛う゛あ゛あ゛ぁっ!!」 「フッ、フゥッ・・・ハァッ!」 まともな言葉すら発することのできないフランの片足を上げさせ、男の動きはどんどん速くなっていく。 そして・・・ ゴボォッ! 「かは・・あ゛う゛・・・ ッ!? ああああ゛あ゛あ゛っ!?」 「カアァッ!」 男の精が、異常なほどの勢いでフランの胎内に吐き出された。 異常な量の吐精は終わることを知らず、収まりきらなかった分が繋がっている男とフランのわずかな隙間から零れ落ちていた。 「あ゛・・・あ゛あ゛・・・はあぁ・・・は・・・」 「フゥ・・・フウゥ・・・」 ようやく収まった男が、フランから自分自身を引き抜く。 フランの秘所は無惨に拡がり、吸収し切れなかった男の精が溢れ出ていた。 虚ろな目でがくがくと痙攣するフランのそこを眺めていた男は、おもむろに未だ全く衰えない怒張をぶら下げながらフランを抱えあげた。 「フウウウゥ・・・」 「あ゛・・・あ゛う゛・・・」 そして、フランの秘所の少し後ろにある小さな蕾に自分の怒張を突き立て、 グボォッ! 「う゛ぁ・・・? っぎいいいいイイイイィッ!?」 「ガアアァ!」 何のクッションも置かず最後まで一気に突き入れた。 「い゛ぎ、あ゛っ! がっ! いぎいいいぃっ!!」 先ほどのボロ人形のようなフランのどこからこんな声がと言うような絶叫を上げるフラン。 その蕾も秘所と同様限界まで押し拡げられ、ギチッギチッと悲鳴を上げている。 「フウ・・・ウゥッ!」 抱き合うような体勢で自らをフランに突き入れたまま、男はフランの身体に両腕を廻し、へし折れんばかりに抱きしめた。 男の体に密着する形になり、ちょうど男の肩の辺りが目の前にあったフランは、何を思ったか 「が・・・あ゛あ゛・・・がぁうっ!」 男の肩に思い切り噛み付いた。 フランは人間の血は嫌いなので、この行動も香の影響で破壊本能が刺激されただけなのだろう。 しかし、鬼気迫る様子で体を動かし続ける男とその男の肩から流れ出る血を舐めとるフランには、一種この世のものではないような淫靡さがあった。 そして 「ッグウウウゥァッ!」 「くうあああああああっ!!」 血と精に塗れたまま、男とフランは同時に絶頂まで昇り詰めた。 「かはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」 「ウ・・・グウウウゥッ!」 男はまだ衰える様子も無く、フランの頭を掴み上げると、その口に自分を勢いよく突き入れた。 フランも今度は冷静に(?)男のものに噛み付き、爪を男の体に突き立てる。 男は急所に噛み付かれても平気でフランの頭を動かし続け、 「グ・・・グゥ・・アァッ!」 「むぐうぅっ!」 フランの喉奥に精を放った。 「むぐ・・・がはっ!」 「グゥアァッ!」 男はぎらぎらと光る目でまたフランを組み伏せようとする。 フランも、うっすらと笑いながらそんな男に自慢の牙と爪を向けた。 「クゥ・・・クク・・・カカカッ!」 「う・・・フフ・・・ウフフフフフッ!」 香の火が落ちたのがそれから30時間後。 香の効果が消えたのは48時間後。 香の効果が完全に消えるその時まで、二人きりの饗宴は続いていた。 「・・・・・・あ゛~・・・」 「・・・ん?」 「何で生きてんだ・・・? 奇跡としか言いようがねぇ・・・」 「・・・はぁ」 「しかし・・・体が動かん・・・脱水症状も酷ぇ・・・」 「あたりまえ」 研究所の地下室には、頬がこけて体中傷だらけで転がっている男がいた。 そして、少し離れた壁にもたれかかって、棚から取り出したスポーツドリンクを滅茶苦茶マズそうな表情で飲んでいるゆっくりフラン。 「しかし・・・あ゛~あ゛・・・また失敗かよ・・・俺には才能も運」 「はかせ」 「・・・あん?」 「ふらん・・・ん・・・わたし、は、これからはかせにきょうりょくする」 「・・・・・・あ? 何で? どういう風の吹き回しで・・・」 「わたし、は、いままで、どんなはかせでもこわくなかった」 「ああ・・・だろうな。」 「でも、こわれたはかせは、なんでも、こわかった」 「何でも・・・何よりも、か? つうか思い出させんでくれ。 死にたくなる・・・」 「だから、はかせ、が、こわれないように、きょうりょくする」 「ああ・・・サンキュー。 しっかし・・・実験体のお情けで成功なんざ、口が裂けても言えねえなぁ・・・」 「ふん・・・」 そのころ研究所の庭では。 「んうぅ~・・・おなかすいたぁ~・・・」 ゆっくりゆゆこが頬をこけさせ、消耗しきった顔でひなたぼっこをしていた 。 ゆっくりゆゆこもやはりゆっくり。 男を閉じ込めてしまえば、当然食事も来なくなることに気付けなかったのだ。 仕方ないので雑草や虫などを食べていたのだが・・・ ゆっくりゆゆこは一般的なゆっくりによく見られる好き嫌いというものが無いので、雑草でも十分美味しく頂きますだった。 しかし、いかんせん量が少なすぎるのだ。 大食らいのゆゆこにとって、この3日間は地獄だった。 「んゆぅ~・・・しにそう~」 悲しげな顔でつぶやいたとき、塀の隙間から小さなゆっくりまりさが入って来ている事に気付いた。 見れば身体も帽子もボロボロで、どんな修羅場を潜り抜けてきたのかと言うような風体だ。 「ゆ・・・ゆ・・・おかーしゃん・・・おとーしゃん・・・まりしゃあるいたよ・・・」 「んぅ~?」 「まりしゃいいこだよ・・・おいてかにゃいでぇ・・・」 と、その時、庭の片隅から小さいまりさに対する返答があった。 「ゆ・・・ゆ・・・まりさ? まりさなの!?」 「おとーしゃん!?」 家族が目の前で発狂し、潰しあって粉々にされる様を見せ付けられて廃人と化していた親まりさだった。 「まりざああああああ!! おどーざんどゆっぐりじようねえええええ!!」 「おとーしゃあああん! ゆゆ? おしょらをとんでるみちゃー・・・ゆぴゅっ!?」 「ごっくん♪」 「・・・ゆ?」 親まりさには何が起こったか一瞬理解できなかった。 ええと、まりさの可愛いおちびちゃんがまりさの方に寄ってきて、そのときゆゆこが舌べらを出してまりさのおちびちゃんが・・・? 「あ・・・あ・・・ああああああああああああああああーーーーー!!!!」 「んゆ?」 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー」 家族を一気に、しかもあんな惨いやり方で奪われた絶望の中にただ一筋差し込んだ光であるおちびちゃん。 そのおちびちゃんを目の前でまた失った。 いともあっさりと、そして残酷に。 まりさには、もうゆっくりと言う言葉はただの一欠片も無くなっていた。 「わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!!」 ガブゥッ! 「ゆぎゅああっ! ゆびゅっ! ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ・・・」 視点すら定まらないほどの怒りを万全に込めた体当たりは、ゆゆこの一噛みにあっさりと打ち砕かれた。 「ん~・・・これはほぞんしょく~」 四分の一程度を齧り取られ、もううめき声でリズムを取るだけの饅頭と化したまりさを放って、ゆゆこはひなたぼっこに戻った。 3日ぶりに味わった甘味の余韻を味わいながら。 余談ではあるが、ゆゆこはこの後男が地下と自分の身体を直して庭に出てくるまでの4日間、更なる空腹地獄に苛まれ続けた。 人を呪わば穴いっぱい ****************************************************************************************************************** 大富豪でリクエストいただいたゆふらんちゃんウフフなSSでした 以前私が書いたSSの番外編・・・と言うよりはパラレルストーリーです リクエストくれた"ROMにいさん"へ 1ヶ月以上待たせて本当に申し訳ない 就活頑張って下さい 598より
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Template 日本の内閣総理大臣? 近衞 文麿(このえ ふみまろ、明治24年(1891年)10月12日 - 昭和20年(1945年)12月16日)は、日本の政治家。第5代貴族院議長。第34、38、39代内閣総理大臣。 爵位は公爵であり、かつ五摂家筆頭である近衛家の当主。後陽成天皇の12世孫にあたる。 来歴・人物 生い立ち 1891年(明治24年)10月12日、公爵近衛篤麿と旧加賀藩主で侯爵前田慶寧の三女・衍子の間の長男として、東京市麹町区(現:千代田区)で生まれた。文麿は皇別摂家の生まれであり、父系をさかのぼると天皇家に行き着く。しかし母は文麿が幼いときに病没、篤麿は衍子の妹・貞を後妻に迎えるが、文麿はこの叔母にあたる継母とはうまくいかなかった貞が「文麿がいなければ私の産んだ息子の誰かが近衛家の後継者となれた」と公言していたのが理由といわれる。一方の文麿は貞を長年実母と思っており、成人して事実を知った後の衝撃は大きく、以後「この世のことはすべて嘘だと思うようになった」(『近衛文麿公清談録』)。このことが文麿の性格形成に与えた影響はあまりにも大きかった。。 父の篤麿はアジア主義を唱え、東亜同文会を興すなど活発な政治活動を行っていた。ところが、1904年(明治37年)に、篤麿は41歳の若さで死去。文麿は12歳にして襲爵し近衛家の当主となるが、父が残した多額の借金をも相続することになった。近衞の、どことなく陰がある反抗的な気質はこのころに形成された、と後に本人が述懐している。 この苦境を救ったのは、同じ公家出身の政治家・西園寺公望である。西園寺は、篤麿とは政敵とも言える状況にあったが、文麿の聡明さは高く評価して援助を惜しまなかった後に近衞は、西園寺のもとを初めて訪れたとき、西園寺が家格が上の近衞を上座に据えて「閣下」と呼ぶので、子供心に非常に居心地が悪かったと回想している。。後に第一次世界大戦後のパリ講和会議に日本全権として参加した際にも近衞を秘書として伴っている。こうして文麿は、父のアジア主義よりも、西園寺の欧米型自由主義に感化されることとなったが、自らの後継者を育てたいという西園寺の思惑とは裏腹に、文麿は次第に目先の新しいものに目移りする無定見さを見せ始めるようになるこの頃近衞は『英米本位の平和主義を排す』という論文を書いて英米覇権主義を批判、西園寺を困惑させている。。 学習院中等科を修了後、華族の子弟は学習院高等科にそのまま進学するのが通例だが、当時旧制一高の校長であった新渡戸稲造に感化され、一高を受験して進学。続いて東京帝国大学(戦後の東京大学)で哲学を学んだが飽き足らず、高名な経済学者であり、当時急速にマルクス経済学に傾倒しつつあった河上肇に学ぶため、京都帝国大学(戦後の京都大学)法学部に転学した。在学中の1914年(大正3年)には、第三次『新思潮』に、オスカー・ワイルドの『社会主義下における人間の魂』を翻訳し、「社会主義論」として発表した。しかし、これは発売頒布禁止処分となり、近衞は宮内省に呼ばれて厳重注意された。 なお東大時代には、のちに「宮中革新派」などと呼ばれて政界で活躍する木戸幸一(後に内大臣)や原田熊雄(後に西園寺公望秘書)などの華族の子弟と親交を深めている。 政界へ 1916年(大正5年)、満25歳に達したことにより公爵として世襲である貴族院議員になる。1918年(大正7年)に、雑誌『日本及日本人』に論文「英米本位の平和主義を排す」を執筆。1919年(大正8年)のパリ講和会議には全権西園寺公望に随行し、見聞を広めた。 その後、1927年(昭和2年)には旧態依然とした所属会派の研究会から離脱して木戸・徳川家達らとともに火曜会を結成して貴族院内に政治的な地盤を得るとともに、次第に西園寺から離れて院内革新勢力の中心人物となっていった。 また五摂家筆頭という血筋や、貴公子然とした端正な風貌(当時の日本人にあっては長身であった)に加えて、対英米協調外交に反対する現状打破主義的主張で、大衆的な人気も獲得し、早くから首相待望論が聞かれた。1933年(昭和8年)貴族院議長に就任。 1936年(昭和11年)の二・二六事件直後には岡田啓介首相の後継として初めての大命降下があったが、この時は健康問題を理由に辞退している。辞退の真因に関しては各説あるが、近衞が親近感をもっていた陸軍皇道派の勢力が相沢事件とそれに続く二・二六事件により失墜していたことから、政権運営の困難を感じていたのではないかとの説がある。 第一次内閣 1937年(昭和12年)6月4日に、元老・西園寺の推薦の下で、各界の期待を背に第1次近衛内閣を組織した。その直後には、「国内各論の融和を図る」ことを大義名分として、治安維持法違反の共産党員や二・二六事件の逮捕・服役者を大赦しようと主張して、周囲を驚愕させた。この大赦論は、荒木貞夫が陸相時代に提唱していたもので、かれ独特の国体論に基づくものであったが、二・二六事件以降は皇道派将校の救済の意味も持つようになり、真崎甚三郎の救済にも熱心だった近衞は、首相就任前からこれに共感を示していた。しかし、西園寺は、荒木が唱えだした頃からこの論には反対であり、結局、大赦はならなかった。 7月7日に盧溝橋事件をきっかけに日中戦争(支那事変)が勃発。7月9日には、不拡大方針を閣議で確認。7月11日には現地の松井久太郎大佐(北平特務機関長)と秦徳純(第二十九軍副軍長)との間で停戦協定が締結されたにもかかわらず、内地三個師団を派兵する「北支派兵声明」を発表。しかし、その後の国会では「事件不拡大」を言い続けた。7月17日には、1,000万円余の予備費支出を閣議決定。7月26日には、陸軍が要求していないにも拘らず、9,700万円余の第一次北支事変費予算案を閣議決定し、7月31日には4億円超の第二次北支事変費予算を追加した。 8月2日には増税案を発表。この間に宋子文を通じて和平工作を行い、近衞と蒋との間で合意が成立した。国民政府側から特使を南京に送って欲しいとの電報が届くと、近衞は杉山元陸相に確認を取り、宮崎龍介を特使として上海に派遣することを決定した。ところが海軍を通じてこの電報を傍受した陸軍内の強硬派がこれを好感せず、憲兵を動かして宮崎を神戸港で拘束し東京へ送還してしまう。このため折角の和平工作は立ち消えとなってしまった。 この件に関して杉山は関係者を一切処分しなかったばかりか、事情聴取すら行わず、結果的に事後了解を与えた形になっていた。杉山本人も当初は明解な釈明が能わない有様で、以後近衞は杉山に強い不信感を抱くようになる。 8月8日には日支間の防共協定を目的とする要綱を取り決めた。8月9日に上海で、蒋介石軍の挑発による上海事変が勃発。それに応じて、8月13日に、二個師団追加派遣を閣議決定。8月15日には、海軍による南京に対する渡洋爆撃を実行し、同時に、「今や断乎たる措置をとる」の声明を発表。8月17日には、不拡大方針を放棄すると閣議決定。 9月2日には「北支事変」という公式呼称を「支那事変」と変更を閣議決定し、戦域を拡大した。9月10日には、臨時軍事費特別会計法が公布され、「支那事変」が日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦と同列の戦争と決定され、不拡大派の石原莞爾参謀本部作戦部長が失脚。12月13日に南京攻略。 翌1938年(昭和13年)1月11日には、御前会議で支那事変処理根本方針が決定され、ドイツの仲介による講和(トラウトマン工作)を求める方針だった。しかし、1月14日に和平交渉の打切りを閣議決定し、1月16日に「爾後國民政府ヲ對手トセズ」の声明を国内外に発表し、講和の機会を閉ざした。更に、汪兆銘政権を樹立し、石原莞爾らの独自和平工作を完全に阻止した。5月5日には、支那事変のためとして、国家総動員法や電力国家管理法を成立させ、経済の戦時体制を導入し、日本の国家社会主義化が開始された。なお、国家総動員法や電力国家管理法は、ソ連の第一次五ヶ年計画の模倣である。3年後の1941年(昭和16年)に制定された国民学校令は、ナチス率いる当時のドイツのフォルクスシューレを模倣した教育制度である。 この頃に近衞は、閑院宮陸軍参謀総長らに根回しをすることで杉山の更迭を成功させた。後任には小畑敏四郎を考えたが、摩擦が生じることを懸念。そこで不拡大派の支持があった板垣征四郎を迎えることを決意し、山東省の最前線にいた板垣への使者として民間人の古野伊之助を派遣している。この時期の内閣改造では、陸軍の非主流派や不拡大派の石原莞爾らが、以前閣僚にと考えていた人たちが主に入閣し、これにより軍部を抑える考えがあったものとされるが、板垣は結局「傀儡」となり失敗した。この際に近衞は、宇垣一成を外相に迎えたが、宇垣の和平工作を十分に助けようとしなかった。宇垣はこれに不満を覚え、また近衞が興亜院を設置しようとしたこともあり、9月に辞任した。 8月には、麻生久を書記長とする社会大衆党を中心として、大日本党の結成を目指したが、時期尚早とみて中止した。これは、大政翼賛会へと至る独裁政党への第一歩である。11月3日に「東亜新秩序」声明を発表。1939年(昭和14年)1月5日に内閣総辞職する。 新体制の模索 近衞の後を承けたのは前枢密院議長の平沼騏一郎だったが、平沼内閣には近衛内閣から法相(兼逓相)、文相、内相、外相、商工相(兼拓務相)、海相、陸相の七閣僚が留任したうえ、枢密院に転じた近衞自身も班列としてこれに名を連ねたため、あたかも首をすげ替えただけの様相を呈すことになった週刊『アサヒグラフ』はこれを「平沼・近衛 交流内閣」と皮肉っている。「交流」とは、今で言う「合流」「合体」といった意味。。 8月23日に独ソ不可侵条約が締結されると、防共を目的としたドイツとの同盟を模索していた平沼は衝撃を受け、「欧州の天地は複雑怪奇」という迷言を残して内閣総辞職した。その一週間後にはドイツがポーランドに侵攻、これを受けてイギリスやフランスがドイツに宣戦布告したことで第二次世界大戦が始る。 平沼の後は陸軍出身の阿部信行と海軍出身の米内光政がそれぞれ短期間政権を担当したが、この間の近衞は新党構想の肉付けに専念した。1940年(昭和15年)5月26日には、木戸幸一や有馬頼寧と共に、「新党樹立に関する覚書」を作成。再度、ソ連共産党やナチ党をモデルにした独裁政党の結成を目指した。6月24日に「新体制声明」を発表している。 欧州でドイツが破竹の進撃を続けるなか、国内でも「バスに乗り遅れるな」という機運が高まっていた。これを憂慮した昭和天皇が「海軍の良識派」として知られる米内を特に推して組閣させたという経緯があったのだが、陸軍がそれを好感する道理がなかった。半年も経たない頃から、陸軍は政府に日独伊三国同盟の締結を執拗に要求。米内がこれを拒否すると、陸軍は陸軍大臣の畑俊六を辞任させて後任を出さず、内閣は総辞職した。かわって大命が降下したのは、近衞だった。この際、「最後の元老」であった西園寺は近衞を首班として推薦することを断っている。 新党構想などの準備を着々と整え、満を持しての再登板に望むことになった近衞は、閣僚名簿奉呈直前の7月19日、荻窪の私邸・荻外荘でいわゆる「荻窪会談」を行い、入閣することになっていた松岡洋右(外相)、吉田善吾(海相)、東條英機(陸相)と「東亜新秩序」の建設邁進で合意している。 第二次内閣 1940年7月22日に、第2次近衛内閣を組織した。7月26日に「基本国策要綱」を閣議決定し、「皇道の大精神に則りまづ日満支をその一環とする大東亜共栄圏の確立をはかる」(松岡外相の談話)構想を発表。新体制運動を展開し、全政党を自主的に解散させ、8月15日の民政党の解散をもって、日本に政党が存在しなくなり、議会制民主主義は死を迎えた。 しかし、一党独裁は日本の国体に相容れないとする「幕府批判論」もあって、会は政治運動の中核体という曖昧な地位に留まり、独裁政党の結成には至らず、10月12日に大政翼賛会の発足式で「綱領も宣言も不要」と新体制運動を投げ出した。 また、新体制運動の核の一つであった経済新体制確立要綱が財界から反発を受け、小林一三商工相は経済新体制要綱の推進者である岸信介次官と対立、小林は岸を「アカ」と批判した。近衞は革新官僚を「国体の衣を着けたる共産主義者」として敵視し、12月の平沼騏一郎の入閣で、経済新体制確立要綱を骨抜きにさせて決着を図り、平沼らは更に経済新体制確立要綱の原案作成者たちを共産主義者として逮捕させ、岸信介も辞職した。この間、新体制推進派は閣僚を辞職し、平沼は大政翼賛会を公事結社と規定し、大政翼賛会の新体制推進派を辞職させた。 thumb|left|175px|「仲よし三國」 br / small 三国軍事同盟締結を促進するための世論操作を目的とした1938年の宣伝絵葉書 上段の丸枠の写真は左から[[アドルフ・ヒトラー|ヒトラー独総統、近衞総理、ムッソリーニ伊首相]] 9月23日、北部仏印進駐。9月27日に日独伊三国軍事同盟を締結。 1941年(昭和16年)4月13日に日ソ中立条約を締結。近衞らは日米諒解案による交渉を目指すも、この内容が三国同盟を骨抜きにする点に松岡洋右は反発し、松岡による修正案がアメリカに送られたが、アメリカは修正案を黙殺した。 6月22日に独ソ戦が勃発、ドイツ・イタリアと三国同盟を結んでいた日本は、独ソ戦争にどう対応するか、御前会議にかける新たな国策が直ちに求められた。陸軍は独ソ戦争を、仮想敵国ソビエトに対し軍事行動をとる千載一遇のチャンスととらえた。一方海軍も、この機に資源が豊富な南方へ進出しようと考えた。大本営政府連絡会議では松岡外相は三国同盟に基づいてソ連への挟撃を訴えた。 7月2日の御前会議で「情勢ノ推移ニ伴フ帝国国策要綱」が決定された。この国策の骨格は海軍が主張した南方進出と、松岡外相と陸軍が主張した対ソ戦の準備という二正面での作戦展開にあった。この決定を受けてソビエトに対しては7月7日いわゆる関東軍特種演習を発動し、演習名目で兵力を動員し、独ソ戦争の推移次第ではソビエトに攻め込むという作戦であった。一方南方に対しては7月28日南部仏印への進駐を行なったが、これはアメリカによる経済制裁を招く結果となる。アメリカでの日本の経済活動がすべてアメリカ政府の管理下に置かれ、そして日本の南部仏印の進駐を確認した上で、石油の対日輸出が全面禁止された。 これらを受けて近衞は7月18日に内閣総辞職した。 第三次内閣 1941年(昭和16年)7月18日に、第3次近衛内閣を組織。これは、アメリカの要求を飲んだかのように見せかけたもので、実際はもう既に足枷でしかなかった松岡洋右を更迭しただけで、殆ど変わっていないのが実情であった。代わって外相には、南進論の豊田貞次郎海軍大将を任命した。7月23日にすでにドイツに降伏していたフランスのヴィシー政権からインドシナの権益を奪い、7月28日に南部仏印進駐を実行し、7月30日にサイゴンへ入城。しかしこれに対するアメリカの対日石油全面輸出禁止により日本は窮地に立たされることとなった。 9月6日の御前会議では、「帝国国策遂行要領」を決定。アメリカ、イギリスに対する最低限の要求内容を定め、交渉期限を10月上旬に区切り、この時までに要求が受け入れられない場合、アメリカ、オランダ、イギリスに対する開戦方針が定められた。 御前会議の終わった9月6日の夜、近衞はようやく日米首脳会談による解決を決意し駐日アメリカ大使ジョセフ・グルーと極秘のうちに会談し、危機打開のため日米首脳会談の早期実現を強く訴えた。事態を重く見たグルーは、その夜、直ちに首脳会談の早期実現を要請する電報を本国に打ち、国務省では日米首脳会談の検討が直ちに始まった。しかし、国務省では妥協ではなく力によって日本を封じ込めるべきだと考え、10月2日、アメリカ国務省は日米首脳会談を事実上拒否する回答を日本側に示した。 陸軍はアメリカの回答をもって日米交渉も事実上終わりと判断し、参謀本部(陸軍管轄)は政府に対し、外交期限を10月15日とするよう要求した。外交期限の迫った10月12日、戦争の決断を迫られた近衞は豊田貞次郎外相、及川古志郎海相、東條英機陸相、鈴木貞一企画院総裁を荻外荘に呼び、対米戦争への対応を協議した。いわゆる「荻外荘会談」である。そこで近衞は対中撤兵による交渉に道を求めたが、これに反対する東條英機陸相は総辞職か国策要綱に基づく開戦を要求し、両者は東久邇宮稔彦王を次期首相に推すことで一致し、10月16日に内閣は投げ出され、10月18日に総辞職した。ただし、東久邇宮内閣案は皇族に累が及ぶことを懸念する木戸幸一内大臣らの運動で実現せず、東條が次期首相となった。近衞は東條首相を推薦した重臣会議を欠席しているが、当時91歳の清浦奎吾が出席していたのと対比されて後世の近衛批判の一因となった。 終戦工作 1941年(昭和16年)12月8日の太平洋戦争(大東亜戦争)開始後は、共に軍部から危険視されていた元外務次官・駐英大使の吉田茂と接近するようになる。1942年(昭和17年)のシンガポール占領とミッドウェー海戦の大敗を好期と見た吉田は、近衞をスイスに派遣し、英米との交渉を行うことを持ちかけ、近衞も乗り気になったため、この案を木戸幸一に伝えるが、木戸が握り潰してしまった。近衞に注意すべきとの東條の意向に従ったものとされる。 1943年(昭和18年)から、近衞とそのグループは、やがて「近衛上奏文」につながる軍部赤化論や共産革命脅威論を唱え始める。発端は皇道派軍人の真崎甚三郎や小畑敏四郎たちであった。殖田俊吉もこれに共感し、吉田に近衞と会うべきと言われていた殖田は、小畑と共に近衞にこれを説いた。以降、近衞は、彼らグループの中心として、親ソ的な現在の陸軍首脳部を追うことで終戦を目指すようになる。 1944年(昭和19年)7月9日のサイパン島陥落に伴い、東條内閣に対する退陣要求が強まったが、その際には「このまま東條に政権を担当させておくほうが良い。戦局は、誰に代わっても好転することはないのだから、最後まで全責任を負わせるようにしたらよい」と述べ、敗戦を見越したうえで、天皇に戦争責任が及びにくくする様に考えていた。 1945年(昭和20年)2月14日に、近衞は昭和天皇に対して、早期和平を主張する「近衛上奏文」を奏上したが、昭和天皇に却下された。 戦局が悪化するにつれ、近衞は独自の終戦工作を展開した。それは、スイス、スウェーデン、バチカンなどの中立国を仲介とするものではなく、ソ連による和平仲介だった。しかし、近衞のモスクワ派遣は、スターリンに事実上拒否された。近衞の交渉案は、全ての海外の領土、琉球諸島、小笠原諸島、北千島を放棄し、労働力として日本軍将兵を提供するものだった。 戦犯容疑 1945年(昭和20年)8月15日に太平洋戦争が終結すると東久邇宮内閣で近衞は国務大臣を務めた。10月4日に、近衞は連合国軍総司令官ダグラス・マッカーサーを訪ね、持論の軍部赤化論を説いて、開戦時には天皇を中心とした封建勢力や財閥はブレーキの役割を果たした、と主張し、皇室と財閥を除けば日本はたちまち赤化すると説いた。マッカーサー、サザーランド参謀長およびアチソンGHQ政治顧問はこれに肯き、近衞に憲法改定を託したTemplate 要出典?。 しかし、国内外の新聞では、戦時体制を敷いた近衞の責任問題の追及が激しくなり、白洲次郎たちは近衞がマッカーサーに憲法改定を託されたことを宣伝して回り、近衞を助けようと試みた。しかし、メディアの反応を恐れたマッカーサーは、11月1日に、近衞の憲法改定にはGHQは関与しないとして、近衞を切り捨てたTemplate 要出典?。また近衞の責任追及も行われるようになり、砲艦に呼び出され軍部と政府の関係について質問があった。 thumb|200px|近衞の遺体を検死する[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQのMP(1945年12月17日)]] 近衞は、すでに1921年の演説で、統帥権によって将来軍部と政府が二元化しかねない危険性を説き、その後それは現実となったのだが、このような状況はアメリカ側には理解し難い内容であった。しかし、昭和天皇への責任追及を避けるために、統帥権という語は口にできなかった。近衞は、何も答えられなくなった。 近衞は『世界文化』に、「手記~平和への努力」を発表し、日中戦争の泥沼化と、太平洋戦争の開戦の全責任を軍部に転嫁し、自分は軍部の独走を阻止できなかったことが遺憾であると釈明した。1945年12月6日に、GHQからの逮捕命令を聞いて、A級戦犯として極東国際軍事裁判で裁かれることを知った。巣鴨拘置所に出頭を命じられた最終期限日の1945年12月16日、荻外荘で青酸カリを服毒して自殺した。昭和天皇に戦争責任が及ばないようにという、皇室の藩籬として、そして五摂家筆頭としての自覚奇しくも先祖藤原鎌足が中大兄皇子と大化の改新を始めたのがちょうどこの1,300年前のことだった。が促した、苦渋の選択だったというTemplate 要出典?。 自殺の前日、次男の近衛通隆に遺書を口述筆記させ、「自分は多くの過ちを犯してきたが、戦犯として裁かれなければならないことに耐えられない…僕の志は知る人ぞ知る」と言い残したこの遺書は翌日にGHQにより没収されている。。 葬儀は1945年12月21日に行なわれた。 墓は京都市の大徳寺にある。 荻外荘 杉並区荻窪の「荻外荘」(てきがいそう)は、元は大正天皇の侍医頭だった入澤達吉が所有していた郊外の別荘だった。近衞は南に斜面をもった高台に立地し、近くは善福寺川から遠くは富士山までの景勝を一望のもとに見渡せるこの別荘に惚れ込んで、入澤を口説き落としてこれを買い受けている。 名称の「荻外荘」は額面通りの「荻窪の外」で、特に故事成句に因むような深遠な意味はないということになっている。しかし近衞に頼まれてこれを撰名したのは有職故実の奥義に通じた西園寺公望なので、実のところはどうなのかはよくわからない。 近衛家には目白(現在の新宿区下落合)に本邸があり、荻窪の方はあくまでも別邸なのだが、近衞はこの荻外荘がことのほか気に入った様子で、一度ここに住み始めると本邸の方へは二度と戻らなかった。 官邸の喧噪とはうってかわって静寂な荻外荘のたたずまいを、近衞は政治の場としても活用した。「東亜新秩序」の建設を確認した昭和15年7月19日の「荻窪会談」や、対米戦争の是非とその対応についてを協議した昭和16年10月15日の「荻外荘会談」などの特別な協議はもとより、時には定例会合の五相会議までをも荻外荘で開いており、大戦前夜の重要な国策の多くがここで決定されている。昭和16年9月末に近衞から対米戦に対する海軍の見通しを訊かれた連合艦隊司令長官の山本五十六が、「是非やれと言われれば初めの半年や1年は随分と暴れてご覧に入れます。しかし、2年、3年となれば、全く確信は持てません」という有名な回答で近衞を悩ませたのも、この荻外荘においてであった。 こうした変則的な政治手法から「荻外荘」の三文字が新聞の紙面に踊る日は多く、この私邸の名称は日本の隅々にまで知れ渡るようになった。後には吉田茂の「目黒の公邸」、鳩山一郎の「音羽御殿」、田中角榮の「目白御殿」などがやはり同じように第二の官邸のような機能をもつが、その先例はこの荻外荘に求めることができる吉田茂は、近衞の死後この荻外荘を一時近衛家から借りて私邸代わりにしていたことがある。あるとき来客から「なぜまたこちらに」と聞かれた吉田は、「ここにぼくが寝ていたらそのうち近衛が出てくるだろうと思ってね」と平然と言ってのけたという。。 荻窪一帯は空襲を免れたため、荻外荘は現在でも近衞が自らの命を絶った日とさほど変らない姿をこの地に留めている。現在でも近衛家の私有地なので内部の見学はできないが、歴史の重みに満ちたその片鱗は塀の外からでも十分に垣間見ることができる。 荻外荘 杉並区荻窪 2-43 JR/丸の内線 荻窪駅 南口徒歩10分 近衞一族 系譜 近衞家 本姓は藤原氏日本の苗字7000傑 姓氏類別大観 藤原氏総括。藤原忠通の子基実を始祖とする。江戸時代初期に嗣子を欠いたため、後陽成天皇の第四皇子が母方の叔父・信尹の養子となり信尋として近衛家を継いだ。文麿はその直系十一世孫にあたり、その血統は当時は大勢いた皇族よりもずっと天皇家に近かった明治維新後に創設された宮家はほとんどが伏見宮家の系統で、その伏見宮は遠く南北朝時代の崇光天皇の第一皇子・榮仁親王(1351−1416)を祖としている。。「昭和天皇に拝謁した後の近衛が座っていた椅子の背もたれだけはいつも暖かかった」というのは、文麿が天皇に対して抱いていた親近感を示す有名なエピソードである。 藤原忠通─近衞基実──基通─家実─兼経─基平─家基─経平─基嗣─道嗣─兼嗣─忠嗣─房嗣─政家─尚通─稙家─┐ │ │ ┌──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────┘ │ │ └─前久─┬信尹===┌信尋─尚嗣─基熈─家久─内前─経熈─基前─忠熈─忠房─篤麿─文麿──文隆===┌忠煇 └──前子 │ └武子 ├─昭子 ┠────┴後水尾天皇 ┃ ├─温子 後陽成天皇 大山巌──柏 │ ┠────護熙 │ 細川護貞 │ └─通隆 家族 thumb|lerightft|150px| small 近衞はちょび髭を生やしていたことから[[ヒトラーに似ていると揶揄されることがあった。そのためもあってか、次女の結婚式前に催した仮装パーティーでは諧謔を弄してヒトラーに扮し物議をかもしている。]] 妻の千代子とは、公爵という身分には珍しい恋愛結婚だった。華族女学校で一番の美女だったという千代子を一高の学生だった文麿が見初めた一方的な一目惚れだったという。結婚当時は京都帝大在学中だったが、その生活は「学生結婚」という言葉にはそぐわないほど豪勢なものだった以上、参考文献『日本の肖像 旧皇族・華族秘蔵アルバム』九毎日新聞社編。京都の新居には女中もいれば書生も抱えており、一般サラリーマンの平均月収100円の時代に、一月当たり150円の生活費をかけていた。ちなみにこの時の新居は宗忠神社の事務所として現存している。。結婚生活は円満だったが、当時の大身の例にもれず数人の妾を囲い、隠し子もいた『宰相近衛文麿の生涯』有馬頼義 著。。 次女の温子(よしこ)は1937年(昭和12年) 4月、当時まだ京都帝大在学中だった細川護貞と結婚した。その直後に父は総理となり、夫は総理秘書官となる。三年後の昭和15年(1940年)8月、父が総理に返り咲いて間もなく、温子は腹膜炎をこじらせて小石川の細川邸で死去した。享年23、夫と父に看取られての最期だった。この温子と護貞の短い結婚生活のなかで恵まれたのが、後に総理となる長男の護熙と、近衛家の養子となった次男の忠煇である。 不仲だった継母の貞は戦時中京都の別邸(現・陽明文庫所在地)に単独で疎開、そこで栄養失調により死去。1945年8月15日のことだった。 実家 父:篤麿(貴族院議長) 母:衍子(旧加賀藩主 前田慶寧公爵の三女) 嫡子:文磨 継母:貞(前田慶寧の四女、実の叔母にあたる) 異母妹:武子(大山巌公爵の次男 大山柏に嫁ぐ) 異母弟:秀麿(指揮者 作曲家) 異母弟:直麿(雅楽研究者) 異母弟:忠麿(→水谷川家を継ぐ、春日大社宮司) 自家 妻:千代子(元・豊後佐伯藩主 子爵・毛利高範の長女) 長男:文隆(シベリア抑留中病死) 庶孫:東隆明(俳優) 長女:昭子(島津公爵家当主 島津忠秀に嫁ぐが、整体師・野口晴哉と駆け落ちして後に結婚) 次女:温子(細川侯爵家当主嫡男 細川護貞に嫁ぐ) 外孫:細川護熙(内閣総理大臣) 嫡孫:忠煇(→ 近衛家を継ぐ、日本赤十字社社長) 次男:通隆(東京大学教授) 文献 自著 『平和への努力 ― 近衛文麿手記』(日本電報通信社, 1946年) 『失はれし政治 ― 近衛文麿公の手記』(朝日新聞社編, 朝日新聞社, 1946年) また、近衛が開設した陽明文庫には近衛の関連資料が所蔵されている。 評伝 矢部貞治著・近衛文麿伝記編纂刊行会編『近衛文麿(上・下)』(弘文堂, 1952年/「歴代総理大臣伝記叢書」第25巻として復刻, ゆまに書房, 2006年) 内容を圧縮したものとして同『近衛文麿』(時事通信社, 1958年/新装版, 1986年)がある。 岡義武『近衛文麿 ―「運命」の政治家』(岩波書店[岩波新書], 1972年) 杉森久英『近衛文麿』(河出書房新社, 1986年/河出文庫(上・下), 1990年) 中川八洋『大東亜戦争と「開戦責任」― 近衛文麿と山本五十六』(弓立社, 2000年) その他 平泉澄『日本の悲劇と理想』 原書房 1977年3月 平泉澄『悲劇縦走』 皇学館大学出版部 1980年9月 早川隆 『日本の上流社会と閨閥』 角川書店 1983年 8-14頁 関連項目 Template Commons? 華族 第1次近衛内閣 第2次近衛内閣 第3次近衛内閣 近衛新体制 陽明文庫 ゾルゲ事件 尾崎秀実 後藤隆之助 石渡荘太郎 『TIME』誌 脚注 Template reflist? 外部リンク 近衛文麿 | 近代日本人の肖像 近衛文麿の紀元2600年記念式典詞(1940年) (mp3ファイル) 近衛文麿上奏文と終戦 近衛 文麿 / クリック 20世紀 近衛文麿公関係文書 出典 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』_2008年10月6日 (月) 11 19。
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登録日:2020/01/24 (金) 23 55 00 更新日:2024/04/21 Sun 15 19 38NEW! 所要時間:約 11 分で読めます ▽タグ一覧 SAN値チェック しのちゃん ひまわり銀河 クトゥルフ神話 コズミックホラー ミイラ取りがミイラに ラスボス 不幸にも最悪の相性の敵と当たってしまった人 不死身 不運 全ての元凶 全体主義 双亡亭 双亡亭壊すべし 合理主義者 因果応報 地球外生命体 坂巻泥努 外道 奴隷 宇宙からの色 宇宙人 寄生虫 対話不可能 尊死 極悪非道 液体生物 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ 滅ぶべき存在 災厄 生き汚い 精神攻撃 絵の具 肉体侵略 自業自得 藤田和日郎 邪悪 邪悪ロリ 面従腹背 顔芸 寿永元年春、星ぞ降りにける。 東の空真紅に燃えぬ。 上下殊に驚き恐るる。甚だ不吉なりと。 降りにし沼こそ湧き返りにけれ─── 藤原貞宗『星月記』 おまえの カラダをよこせ。 〈侵略者〉とは『双亡亭壊すべし』に登場するキャラクターである。 【概要】 坂巻泥努が建造した本作の舞台「双亡亭」に巣食う存在であり本作最大の敵。 その正体は黒い液体の体を持つ地球外生命体。 劇中の双亡亭で出てくる〈侵略者〉はごく一部に過ぎず、本体は遠い銀河の先にある巨大な惑星1つを丸ごと覆い尽くすほどに膨大な黒い海そのもの。 性根の悪辣さ及び存在のスケール共に藤田作品の敵の中でもトップクラスのスケールと危険度を誇る化け物なのだが、泥努からの扱いは便利な絵の具以外の何物でもなく、扱いは奴隷も同然。 ミイラ取りがミイラになってしまった彼らだが、それでも尚反骨心自体は失われておらず、泥努にこき使われながらも泥努の支配から逃れるための方法を模索している。 劇中、しのは泥努のことを「一千兆分の一の確率で存在するあの男」と評していたが、逆を言えば〈侵略者〉は一千兆分の一の確率でしか存在しない最悪のババをピンポイントで見事に引いてしまったことになる。 ちなみに故郷の星は地球のある太陽系を含めた天之川銀河から2000万光年先にある銀河群の中の1つ「ひまわり銀河」の中のとある星。 風速300キロ以上の暴風が吹き荒れる過酷を極めた自然環境であり、地球人類が生存することは不可能。 【性格】 人間と同等の高度な知性を持ち意思疎通も可能だが性格は高慢で悪辣極まりないド外道。 合理的な勝利の為なら人のトラウマを抉って心を踏み躙る卑劣な手段を嬉々として実行し、プライドの高さから自分達を「最も優れた存在」と考えて、他の生命体を露骨に見下して餌や道具程度にしか考えていないため、対話の余地は皆無。 何事においても合理を優先する傾向にあり、「感情」を廃した徹底的な効率化と合理性の追求によって20億年もの年月を掛け現在までの進化を果たした。 だが、合理とは程遠い人間の意志の力を甘く見積もりかちな価値観や、機械的なその在り方を坂巻泥努に酷評された挙句隷属させられる羽目になった。 劇中でも感情という概念を理解できない事や人間を見下す傲慢な思考回路によって度々形勢逆転を許す詰めの甘さが最大の欠点と言える。 その行動原理の根底にあるのは「生きたい」「死にたくない」という純粋な生存欲求。 合理主義を突き詰めた結果辿り着いたのは生物らしい生存本能の一念であった。 【生態】 巨大な液体状の身体を種族全員の統一された意志で共有・支配する「全体で一つ」という在り方で活動する。 地球上では黒っぽい水や鏃に似たヒルのような姿となって活動。人間の精神を攻撃する際もヒルのような姿を取る。 種族特性として窒素に致命的に弱く、多量の窒素を含む地球の大気に触れると肉体が瞬く間に溶解・蒸発してそのまま死滅するため、基本的に双亡亭の絵の中以外の地球環境下で活動することは原則不可能とかなり不利。 だが一方で水中などの窒素の非常に少ない環境下ではまさに独壇場。 例え小さな破片であろうと水に触れると小さなヒルのような姿から急速に肉体が変異し何十倍にも膨張。深海魚を掛け合わせて更に醜悪にしたかのような不気味な異形の巨大な怪物に姿に変貌する。 仮に彼らが地球の河川を通り一滴でも海に侵入した場合、大繁殖した末に人類滅亡が確定する。 その他液体の身体を平面の物質に均等に覆う事で、その物質を「門」と呼ぶ本体の居る母星と繋がるワープゲートとして扱う事が可能。 おまけに双亡亭を爆撃した場合、爆炎の煙をゲートにして襲来できてしまう。 また終盤では体を固めて硬質化させることで高硬度の皮膜短を形成。皮膜を殻のようにして短時間ながら地球の外気に耐える手段を会得している。(*1) 窒素以外の弱点と言えるのは超高温の炎や電撃による熱量攻撃。 液体生物という性質上流石に物理的に無理矢理蒸発させられるような攻撃には弱いようで、最終盤で あの人 のバックアップを受け大幅に強化されたジョセフィーンが繰り出す超火力の超巨大火球を受けた際は、あわや消滅寸前にまで追い込まれていた。 精神侵略 窒素に満ちた地球上の大気内で活動するための手段であり能力。 坂巻泥努が描いた「自画像」の中に標的を引きずり込むと、標的の脳内記憶にある「最大の苦痛」である過去のトラウマを再現。 標的に再現した記憶を追体験させて、標的の精神を破壊してから体に寄生して乗っ取り、肉体を支配するというもの。 おまけにただ再現するだけでなく、その記憶を悪意満載に誇張或いは歪曲させて、より記憶の醜悪さと恐怖を増幅させることで効果を高めている。 これによって精神が破壊された人間の肉体を乗っ取り自分達の「仮初の器」として運用。双亡亭の敷地内限定だが自由に活動することができる。 この手法で何十年と犠牲者と器を増やしてきた関係から人間の精神構造を熟知しており、天敵にして支配者である泥努からの直接干渉を除けば、外部からの精神攻撃耐性には無敵と言わんばかりに滅法強い。 ただし肉体を掌握するのではなく掌サイズの欠片程度の大きさとなって脳内に巣食う場合は亭内でなくとも活動可能。 この場合は通常のように精神を破壊し肉体を乗っ取るまではできず、思考を捻じ曲げたり一時的な洗脳状態にする程度に力が弱まる。 この攻略手段は再現されたトラウマから逃げず、受け入れて立ち向かうこと。或いは強烈すぎる意志力で再現されたトラウマを捩じ伏せる他ない。 他作品で例えると影との対峙に近い攻略法なので、戦闘力での戦いではなく純粋な精神力の戦いになる。 仮に条件を満たせるのであれば何の能力も鍛錬も受けていない一般人であっても突破して寄生を防ぐ事が可能。 【個体一覧】 しの 天神サァマの境内よォりも ひぃろぃお屋敷見ぃつけた 沼半井の大旦那 道楽者のぱあぷう絵描き ねじれ くびれた<双亡亭>で じぶんもぺらぺら いとまごい… 泥怒に支配された〈侵略者〉の意思を代行する存在として、泥怒がイメージを固定させた〈侵略者〉の一部。 例えるなら人為的に生み出されたこの人。 見た目は着物を着て鞠を付くおかっぱの童女で、感情の無い冷徹な目つきが特徴。 外見のモデルは泥努の姉しのぶの幼き頃の姿だが実態は〈侵略者〉と同じ液体生物であり、あくまで意思疎通のため人の形を模しているだけに過ぎない。 その為滅ぼしても自身を描いた絵を介して復活する。双亡亭と一体化した同族を利用し、双亡亭内の様子を全て知覚することが可能。 第1話のナレーションで遊んでいた少女の正体であり、地球に飛来した〈侵略者〉の指揮官に相当するポジション。 支配者でありながら一切の指揮を執らない泥努に代わり双亡亭で〈侵略者〉達の陣頭指揮を執る地球上における代表者も務める。 一見無感情なクール系ロリと思いきや、こっちも泥努に負けず劣らずの豊富な顔芸を披露する激情家。 性格は〈侵略者〉らしく合理性を尊び、非合理な行動や思想を忌み嫌って他者を騙し陥れることに微塵の躊躇いもない、冷酷で傲慢な外道にして下衆。 …なのだが自分達の支配者である泥努に対しては、「理解が一切できない」「コイツ人間じゃねぇ!(意訳)」と称してファーストコンタクトの段階で心が完全に折れて怯えてしまい、泥努が与える「恐怖」に怯えながら服従させられる屈辱の日々を送っている。 おまけに母星の本体は刻一刻と種族滅亡の危機に瀕している為、何だかんだで余裕も持ち合わせていない。 …とはいえ〈侵略者〉側にとっては泥努との唯一の交渉窓口を担っている為、絵を描く事以外に興味関心のない泥努の機嫌や反応をうかがい、度々「双亡亭からの自分達の解放」を懇願しては泥努に懇願を無視され、合理性とはかけ離れた泥努の奇行に頭を悩ませつつ、地道に交渉しながら目的のため日々策を練る(自業自得とはいえ)悲しい中間管理職となってしまった。 だが実際の所感情という概念がない彼らに喜怒哀楽は愚か恐怖の概念もないため、これまでの感情表現豊かな表情は「擬似個性」と呼ばれる手段で表面的に人間らしい感情を模倣したことによる演技。 内心は「下等生物にプライドを傷つけられた挙句奴隷のように扱われる屈辱」が思考の大部分を占めていた様子。 そして裏では密かに五頭応尽と内通しており、泥努抹殺のために様々な策謀を張り巡らせ叛逆の時を虎視眈々と狙い続けていた。 読者や協力者である五頭応尽からのあだ名は「しのちゃん」。 イチバン お前を倒すために最適な形態は人間と同じ姿で、人間の殺人技術を持つ個体。 「ヨンバン」「サンバン」「ニバン」 どれも足りぬ…そうだ、青一… 私が 双亡亭 の中で最強の、「イチバン」だ。 前線に一切出なかったこともありか弱い童女を思わせていたが、実態は 侵略者 最強の強化個体「イチバン」。 外見は首から下を泥努のような黒いタイツで覆い、四肢を硬化した 侵略者 の鎧で覆った派手さのないシンプルなもの。 両手首足首には鋭利な短い刃がそれぞれ生えている。 戦闘スタイルは近接格闘戦特化。 小柄ながら大型兵器すら素手で破壊し敵を正面から殴り飛ばす体術と身体能力 侵略者 本星とリンクすることで本体の膨大な知性を利用することで戦う相手の行動パターンをシミュレートし、攻撃を先読みする計算能力 を駆使して理詰めで敵を排除していく。 だが真の恐ろしさはあくまでしのは地球で行動するためのアバターでしかなく、たとえ肉体を破壊されても双亡亭と 侵略者 本星がリンクしている限り際限なく復活し、なおかつ同スペックの「しの」の量産すら可能であることにある。 ただし完璧ではなく、戦術の要のシミュレーションもあくまで自分達の想定・把握する情報の上で成り立つもの。 そのため自分達の想定外の要素が存在すると、僅かに行動が読み切れない。 人ならざる者達 泥努の肖像画に取り込まれ、〈侵略者〉に精神を破壊され肉体を奪われた犠牲者達。 地球における〈侵略者〉達の器も兼ねている。 基本的に支配された者達は自我を失い〈侵略者〉に肉体を操られる理性のない亡者のような状態になるが、肉体限界を無視して動くため相対的に身体能力が増大。 生前何らかの霊能力や超能力を備えていた場合能力を生前と同じように行使が可能。 生者でなければ寄生できないというわけでもなく、やろうと思えば死体に寄生して操ることもできる。 なお理性のない亡者になる事なく、過去の詳細な記憶を保ったまま変異した者もおり、その場合は寄生される前と変わらない言動を取る。 ただしこれは寄生した〈侵略者〉が脳内の記憶を元に再現・模倣しただけに過ぎず、厳密には死体同然。おまけに〈侵略者〉の悪意を反映して全員性格が凶暴化した上に悪意に満ちた歪んだものに成り果てている。 このタイプは肉体構造すらも大幅に変質しており、身体の部位が伸縮・変形するだけでなく物理攻撃に対しても高い耐性を獲得。体内の水が滅びない限り死なない不死身となっている。 基本は理性のない犠牲者を指揮する指揮官役を担う事が多い。 人ならざる者には絵の外部及び双亡亭の屋敷の外で長時間に渡り活動できる力はなく、やがて肉体は爆ぜたり溶け出すが、外部での行動可能範囲は徐々に広がりつつある。 後に泥努の「一筆」を受けたことで能力が強化。双亡亭の建物の屋外にでても身体が溶けることなく活動可能となり、戦闘力も増した。 朽目(くちめ) 洋二(ようじ) 人ならざる者達の中では最初のネームドキャラ、 修験者だが、肩には薔薇のタトゥーを刻み腰には現代風のアクセサリーを身に着けたパンクな出で立ちの青年。 自らの強さに鼻を掛けた傲慢な性格で、欲に塗れた言動とチンピラのような態度を取るかなりの女好き。 修行で鍛えた霊力で金儲けなどの私利私欲に用いていたせいか、紅からは「外道」と呼ばれ唾棄されていた。 とはいえ傲慢な態度を取るだけあって実力は確か。 「験力(げんりき)」により強烈な衝撃波を発生させ敵を吹き飛ばす豪快ながらも乱暴な戦い方を取る。 双亡亭破壊作戦に関わるが、屋敷内に飾られた肖像画に取り込まれて人ならざる者と化す。 その後は完全に〈侵略者〉に掌握されるとマーグ夫妻と交戦し瀬戸際まで追いつめるも、紅とアウグスト博士の支援を受けたジョセフィーンの火炎によって燃え尽きて敗北する。 鬼離田(きりた)菊世(きくよ) 人ならざる者達の中の準レギュラーその1。 現代最高の感知能力を持つと言われる占い師の三姉妹の長女。 三姉妹の眼を一人に集中させることで千里眼とし、感知能力を引き上げる「宿眸(すくぼう)の法(ほう)」を発動したまま取り憑かれたため、侵略者に優れた感知能力を与えてしまった。 鬼神を招請・使役する道術もそのままであり、人ならざる者達の指揮官のようにふるまい破壊者、そして妹である雪代と琴代と死闘を繰り広げた。 だが立案した作戦が悉く失敗に終わり、最後は雪代と琴代との鬼神対決の末に凧葉のイラストを依り代とした荒鬼神の前に敗北。 死の間際琴世本来の人格を取り戻したかのような表情を浮かべ、宿眸の法を解除するだけでなく自らの目を妹達に渡した瞬間溶けて消滅した。 残花班(ざんかはん) 人ならざる者達の中の準レギュラーその2。 正式名称「帝国陸軍東京憲兵隊沼半井小隊所属第四分隊」。 双亡亭に入った際肉体を乗っ取られてしまった黄ノ下残花の部下達。 憲兵服に外気対策のガスマスクを身に付け、罅割れた眼球を有する異様な集団。 双亡亭の警護と侵入者の抹殺が主任務で、泥努を「司令官」と呼ぶ。 残花には一応上司であるかのように振る舞うが言動は露骨に見下しており、性格も皆犠牲者の例に漏れず残虐非道。 全員が日本刀で武装しており、強化された身体能力と軍人として鍛えられた剣術、集団戦法で敵を追い詰める。 現在の構成員は10名。部隊長代行は班付憲兵准尉「井郷(いごう) 照清(てるきよ)」。 子供達 〈侵略者〉にとっての天敵になりうる青一や緑郎への対抗策として動員された人ならざる者。 かつて青一と共に異星で〈侵略者〉と戦った青一の友達の死体を乗っ取り「器」としている。 生前の記憶・能力も得ているため、それらは自由に利用可能。戦闘では強化された身体能力と、青一のドリルと同じ「手足の武器化」を用いて戦う。 だが性格は〈侵略者〉の思想を反映した結果、生前とは似ても似つかない極めて傲慢かつ残忍なもの。 結果人類を見下し、人を傷付け甚振ることを娯楽として考え、嬉々として殺しに来る極悪非道のクソガキ集団に成り果ててしまった。 劇中では一般人に擬態して油断を誘って騙し討ちを仕掛けたり、友達だった彼等の記憶と思い出がよみがえり攻撃できない青一を只管嘲笑いながら徹底的に痛めつけた。 その他個体 ウツボ 「あの人」と呼ばれる異星人の星を侵略していた際の戦闘形態。 ウツボという名前はあくまで地球人が付けた呼称なので正式名称は不明。 全長400mものサイズを誇る醜悪極まりない深海魚のキメラような外見で、生物でありながら宇宙空間でも活動が可能。 体内に共食いする小型の同胞を巣食わせてミサイル代わりに使用する。 有事にはこのサイズの怪物を無数に生み出して艦隊のように並べ、敵に攻撃を仕掛けていた。 魚(仮称) 「地球の水中環境下で合理的に生きる生物」として乗っ取った地球人の記憶を参考に変化した地球上での戦闘形態。 外見は極めて醜悪な魚型のモンスター。全長は約数mほど。 頑強な外殻で覆われた肉体と鋭利な牙や棘を生かした噛み付きや体当たりを武器とするが絵の外では極短時間しか生きられない。 なお母星側には100mを超えるサイズの「魚」が平然と蠢いている。 ヨンバン 泥努の提言を受け、自分達に足りない「意力(*2)」を高めるべく、 侵略者 同士の殺し合いと共喰いの結果生き残った強化個体。 強化個体は総じて空中を自由に舞い、地球の大気に触れても自己崩壊を起こさない強靭な身体を持つ。 外見は蛇に似た長い身体と人間に似た形状の大きな口を持つ異形の魚類。 武器は強固な肉体を利用した体当たりと噛み付き。 サンバン 共喰いによって誕生した強化個体。 外見は触手が無数に生えた巨大な目玉の化け物。 武器は伸縮自在の触手と、隠し持つ巨大な口による強烈な吸い込みによる捕食。 ニバン 共喰いによって誕生した強化個体。 外見は鳥のような頭部を2つ持つ双頭の蛇。 2つの口から大気に触れても自己崩壊しない大量の小型の同族を放出し、ウツボが使った「ミサイル」のような攻撃ができる。 【略歴】 〈侵略者〉の星は核の対流が止まり、太陽の有害粒子を防げなくなった事で死にかけており、奴らも粒子に蝕まれ、種族滅亡の危機にあった。 その状況を打開するため、自分達と似たような体を持つ「あの人」を栄養として取り込み、自身を増やそうと目論んでいた。 当初は順調に進んでいたが「あの人」達と融合した青一達が反撃を開始した事で存続が危ぶまれるほどにその数を減らし、 侵略者 はいよいよ滅びに瀕していた。 そんな中、「予知」の力を持つ〈侵略者〉は双亡亭に大きな力が働き、門が開くことを感知。一斉に地球に向けて逃げ出しそのまま地球を第二の母星にせんと目論む。 しかし、「あの人」が全ての力を使って攻撃を仕掛けたことで奴らが大挙して地球に押し寄せる、という事態は何とか防がれた。 その頃、地震の新天地を探す名目で宇宙全土に散らばった 侵略者 の1体は長い長い宇宙の旅の果てに地球に漂着。 平安時代の日本、後の東京都豊島区沼半井町となる土地に墜落すると、墜落した先の沼地で休眠状態となり、約700年もの間眠りについた。 その間、侵略者が眠る土地は埋め立てられたが、人も動物、虫に至るまであらゆる生物が寄り付かない荒地のままだったという。 そして700年後の昭和4年に、偶然双亡亭の地下室の床から湧き出した 侵略者 を泥努が発見し、彼らの身体で絵を描いた結果「門」が完成。 新たな新天地となりうる星の生命を調べるため泥努を絵の中に引きずり込み、泥努を侵食し存在を乗っ取るため泥努との同化を実行する。 だが 侵略者 にとってそれこそが最大最悪の悪手だった。 泥努の精神力を完全に見誤っていた 侵略者 は泥努の狂気の精神力によって逆に自身が侵食され、肉体の主導権を奪われ始める。 おまけに合理性と効率性に特化しすぎた種族の繁栄方針を「何の面白味もない」と侮蔑され、あっけなく自分達の存在と精神構造を掌握されてしまう。 き、危険だ!我々が使っていなかった「直感」が叫んでいる!「逃げよ」!「逃げよ」! だからキサマらの体にはただ漠然と「色彩」どもがひしめいているだけなのだ! 私の、「絵の具」になるがいい。私がキサマらで「絵」を描いてやろう ふ…「合理的」か…20億年も生きてきて キサマらは本当に、 薄っぺらいヤツらだ。 あああ 我々の方が…「支配」されるなど… あああああ!! トドメとばかりに同化した際にうっかり恐怖の感情を学習してしまったせいで「恐怖」の感情に縛られてしまったのが決定打となり、 泥努に精神的に完全敗北を喫し 侵略者 は絶望に嘆きながら泥努に強制的に隷属させられた。 泥努の命令で「しの」というアバターを構築して以後は、泥努の絵の具兼奴隷の扱いを強いられる羽目になる。 この過程で、自分達が地球上で活動するための拠点を得る為双亡亭の母屋及び泥努が調達した建築資材と融合。 独自に双亡亭を増改築して「囲い」とし、双亡亭から窒素を排出する事で現在の異様な外観の双亡亭へと造り変えた。 だが未だ地球を我がものにすることは諦めておらず、泥努に怯えながらも面従腹背の姿勢を取り、海へと進出し繁殖して人類を食い尽くして地球を支配せんとする計略を企んでいる。 その過程で雇ったのが不老不死の呪禁師「五頭応尽」であり、双亡亭の塀の外で色々な雑務を与え活動させていた。 なお地球侵入時に海・河川・湖などに着陸していればその時点で勝利が確定していたし、休眠せずさっさと海を目指していたり、そもそも日本の関東地方なんかに墜落していなければやはり勝利が確定していたので、そういった意味でも神がかり的に運がなかった点は、〈侵略者〉を語る際読者からよくネタにされやすい。 現代 そして現代では「双亡亭から解放され、自分達の繁殖地となる河川や海に辿り着き移住する」という目的のために、 総理大臣が就任する度に「肖像画」を送り付けて総理大臣を支配下に置き、双亡亭と河川を繋げる工事を実行させようとする。 肉体を奪った人間の身体を使って人力で地下を掘削させ地下水道と双亡亭を繋げるトンネルを掘る。 五頭応尽と共謀し、自分達を縛り続ける坂巻泥努の抹殺 という3つの計略を主軸にして暗躍。 その中で双亡亭に侵入してきた人間達を肖像画の中に取り込んで自分達の肉体に変え続けて来た。 だが現代に至るまでそれらの作戦は遅々として進まず暗礁に乗り上げていたが、千里眼を持つ鬼離田琴世の肉体を手に入れたことで作戦は好転していく。 だが青一や凧葉達双亡亭破壊メンバーの奮闘もあり計画は難航。 そして凧葉が自分達の出入り口となる「絵」を封じる力がある可能性に気がついたことで、急遽凧葉抹殺にも乗り出すことになる。 こうして凧葉抹殺も兼ねた双亡亭破壊メンバーに刺客を送り込んでいくが、刺客は軒並み壊滅し凧葉抹殺にすら失敗するz だがそれでも応尽に強奪させた「転換器」で泥努に致命傷を与えることには成功。 その中で自分達のこれまで双亡亭破壊メンバーに対して行った行動の全てが、「泥努の精神支配を打ち破る「強さ」を持った人間の選抜試験及び、研究・調査・実験」であったと暴露する。 そして見つけ出した結論が「勇気」であると結論づけると、勇気を出した人間の感情を疑似再現することで遂に反逆に成功させる。 だが凧葉抹殺の失敗の余波に加えてあくまで彼らが理解したのは感情の上部だけに過ぎず、「破壊者に泥努を殺させる」という泥努抹殺の計略の歯車は狂って失敗してしまう。 最終決戦 ほう……いいことを聞いた これからこの 双亡亭 に人間達の火砲による、 一斉射撃が開始されるのだな。 人間の姿をしていると思わぬ情報収集ができる。 自分達のタイムリミットも迫る中、地球侵略の最終作戦として「自衛隊の火力兵器による総攻撃による爆炎を利用して母星に繋がる大規模な門を開き、本体を地球に呼び込む」ことに着手。 日本国民の恐怖を煽って双亡亭への爆撃を誘い、何としてでも本星の同胞を呼び寄せようと画策する。 その過程で最大の障壁と判断した青一を排除すべく、しのはイチバンとしての本性を発露。真っ向勝負にもつれこんでいく。 (移動だ!移動だ!) (我々は永らえる!新しい地への「門」が開いた!) (その惑星「地球」の〈海〉なる場の水中で、エネルギーを摂取し、繁殖し、「地球」を支配する。) 遂に門が開いたか…すべてよい… この千載一遇の好機を前に青一との戦いを完全に放棄し「海への到達」という宿願を最優先として、双亡亭地下にある暗渠を経由して河川を経て海に辿り着かんと行動を開始。 液状の体の表面を硬い外殻で覆った顔のない蛇のような姿になると、東京の河川を爆走していく。 〈侵略者〉の海への到達を阻むべく立ち上がった自衛隊並びに異星人からのバックアップを受けた双亡亭攻略メンバーとの総力戦を重ねていく。 この総力戦でどんどん体積を減らし消耗し続けてしまった挙句、最後の最後で宿敵ともいうべき青一が立ち塞がる。 自衛隊のバックアップを受けた青一との汐入公園河川での戦いも、自衛隊が投入した大量の窒素ガス発生器の前に苦戦。 青一のドリルで抉られたこともあって外殻の護りを失い、急速に肉体が窒素に晒され溶けだしていく。 (わ…我々は…絶対に…海まで……) (絶対に…海まで……!) 行くのだあああ~~~ カンジョーガ ナイナンテ イッテタケド、 シノ!イマオマエ カンジョーダラケダ。 …! ヤァイ! うるさい青一!だまれえええ!! こうして怒り狂いながらも、大量に生み出した同族の怪物を利用した数の暴力で青一を圧倒。 勝利を確信して海まで到達しようとした最中、異星人が振り絞った最後の力の影響で辿り着こうとした隅田川河口付近~江東区若杉海浜公園一帯の海水が凍結。 これまで栄養としか見ず見下していた異星人のおもわぬ逆襲に怒りながら急遽方向を転換し、陸上を突っ切って凍結していない別の河川目がけて侵攻を開始しなければならない事態に陥ってしまう。 青一の追撃を受けつつも邪魔な市街地の障害物を薙ぎ払いながら死に物狂いで目的地目がけて突き進む〈侵略者〉だが、生存本能に突き動かされ只管前進していく。 だがここにきて双亡亭での凧葉と泥努の最終決戦にも決着が付き再び「門」が閉じられたことで、これまで推進力の要であった本体の流入すら停止。 動揺しながらも目前に迫った海の光景を見て、地球支配の野望をたぎらせて只管進む〈侵略者〉だが、またしても最後に立ち塞がるのは青一だった。 青一…おのれここ迄再三邪魔をしてくれたなぁ…… ゆるさん!!! キサマの得意な武器で 殺してやるぞォォ!! コイ! 残った身体をドリルに見立てて高速回転させ突撃し青一との最後の戦いに臨むも、弱体化しすぎてしまった結果呆気なく砕け散り四散。 更に小さくなってしまうも「一滴でも海に入れば我々の勝ち」という希望を頼りに海へと迫る〈侵略者〉だが、その姿は冷酷や合理性からは程遠く、青一ですら攻撃を躊躇ってしまったほどの生存欲求に突き動かされる、怨念の如き執念であった。 あそこまで行けば! もうすぐ海だ… もう少し もう少しで…… 海だ… 海だ… ああ… ああ海だ…海だああああ!! 外殻すら捨て、これまで乗っ取ってきた人物の姿に代わりながら突き進むがそんな必死の執念も、最後の最後で斯波総理と桐生防衛大臣の手で阻まれ失敗。 唖然とした表情を浮かべながらも、最後は合理性に基づて諦めたような表情を浮かべながら蒸発した。 われわれは、ここまで…やった それでも、かなわぬのなら… しかた……ない…… いとまごい 観念したかのように諦めて消滅したかに思われた〈侵略者〉だが、なんと最終話でしぶとく生きていた。 実は泥努が紅の体内に黒い水を流し込んだ際、ごく一滴のみ残留しており休息状態を取って潜伏し、機を見計らって紅の肉体を支配して再び海に辿り着かんとするという余りにも生き汚い姿を見せつけた。 青一との最終決戦で怒りの感情に飲まれてしまい、合理性すら捨てて戦ってしまったことが己の敗因と考え、「だがもう私はそのようなものに影響されぬ」と豪語する。 だが紅が並行世界に消え行方不明になっていた凧葉と青一との再会を果たした結果事態は一転。 この通り、この女の生体機能は完全に把握しているからだ。 私は感情などというものに影響を受けることはない。 ただ… ただひとつだけ、誤ったことがあるとすれば、 私は視野情報を得るために、この女の「目」に近づき過ぎていた。 そして…その時私は自身の保全を一ミリセカンドだけ忘れてしまっていた。 何故 この女が目から体液を流すのか 何故 全身が「感情」で満ち満ちているのか。 そして何故 私がそれを 「美しい」と感じたのか その理由は 分からない。 紅の肉体構造の全てを理解していた〈侵略者〉はそう述懐すると、涙として体外に排出され蒸発して消えていった。 【余談】 元ネタは恐らくハワード・フィリップス・ラヴクラフトが描いたクトゥルフ神話に登場する宇宙生命体「異次元の色彩」と思われる。 壊すべきは何ぞ 壊すべきは何ぞ 風吹く真夏の砂原で ひねもす 兵隊ねじ締める 砂がぱらぱら 螺旋は板に穴うがつ ゆがんできしんで音立てる おれの目玉は銃口だ 敵はどれだ 味方はだれだ 見えなかったナンにもな うっすら笑って死んでった あいつの墓は埋まってござる 日は暮れて 夜風が口笛吹くけれど 兵隊それにも気がつかず 目ン球ねじで締めつける 坂巻泥努 (一九〇四〜没年不明) 追記修正よろしくお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 怪異側が人間相手にSAN値チェック失敗ってどういうことなの…(畏怖)まあこれもジュビロ流の人間賛歌なんだろうとは思うが -- 名無しさん (2020-01-25 02 39 27) 初代であるうしとらも突き詰めれば徹底した「人間」の物語だったし(からくりもそうだし)、すごくジュビロらしいとは言えるよね -- 名無しさん (2020-01-26 11 21 26) ゼパる2号 -- 名無しさん (2020-05-12 03 51 25) FGOのゴッホと虚数海イベントが、この双亡亭の侵略者の話と似てると思ったけど、どっちもこの「異次元の色彩」を下敷きにしてる(と思われる)から類似点が出ただけなのか -- 名無しさん (2021-04-21 11 33 36) 最後の最後で死因が尊死とはなあ…。ある意味成長したのかな -- 名無しさん (2021-07-21 20 15 35) やっていることはド外道だが、目的は純粋に「死にたくない」ってことだから、生物としては当然のことなんだよな -- 名無しさん (2021-12-07 21 44 57) 最後の最後で嫌いじゃなくなったよ、人の心を理解したがゆえに泥怒の支配から抜け出せたのに感情を知ったから怒りに任せて戦闘して負け、最後は感動によって死ぬという最悪なやつなんだけどきれいだった -- 名無しさん (2022-05-13 08 31 15) よくよく考えたら本当に感情がないなら青一たちと出会う前の「あの人」みたいに滅びに身を任せてたはずなんだよね。死にたくないという恐怖もそれに抗う勇気の感情も自覚してないだけで最初から持っていたという -- 名無しさん (2023-01-27 08 20 27) 1000兆面ダイスで2以上なら成功のところをファンブルするという伝説を打ち立てた生物 -- 名無しさん (2023-03-24 20 32 41) 「最初の漂着の時点で地球の表面に7割もある水に満ち溢れた海(公式にすら「海に辿り着かせてしまえば勝利が確定してしまっていた」と明言されている)ではなく3割の周囲が高濃度の窒素に満ちた地表のド真ん中、幸い窒素による自滅こそ免れたものの水源と縁遠い場所に辿り着いてしまったまま休眠状態に入っていたら埋め立てられてほぼ手詰まりになってしまった挙げ句種族存続の危機の真っ只中700年間も寝過ごす羽目に。ようやく足掛かりとなる隷属対象候補の原生生物を偶然の遭遇で得たと思ったらよりによって自分達の支配を完全に覆せる例外中の例外の個体だったために逆に隷属させられ都合よく利用され続ける屈従を更に何十年も強いられ停滞する羽目に」とつくづくここまで壊滅的な運と間の悪さが重なりながら最後の最後は彼岸成就にあと一歩まで迫ってみせた巻き返しぶりと邪悪さと狡猾さの割にはとんだ波乱万丈ぶりだな……。 -- 名無しさん (2023-03-26 21 58 59) 子供達の死体はどっから回収したんだろ -- 名無しさん (2023-07-12 15 18 24) 最期の瞬間、彼(?) -- 名無しさん (2024-02-21 23 44 26) 途中送信しちゃった。最期の瞬間、彼(?)の脳髄はゆれていたのだろうか。 -- 名無しさん (2024-02-21 23 46 02) 名前 コメント
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← 「ペルソナァッ!!」 主の怒りはそのままマガツイザナギの力と変化。 長得物を振るい、闇を切り裂く雷光を発生させる。 広範囲の敵を巻き込み焼き潰すスキル、マハジオダインが破壊者を貫く。 誰もが命中を確信しただろう光景は、ジョーカーの想像でしかないらしい。 長得物へ電撃が迸った時既に、ディケイドは禍の魔人の真横を通り過ぎた。 接近へジョーカーが気付くも剣は振り抜かれた後。 呼吸を忘れそうになる悪い予感へ、防御は即座に排除。 アンクレットが超人的な脚力を付与、近付きつつある死から歯を食い縛って逃れる。 関節の痛みも気にかけていられない、無茶苦茶な体勢での回避行動。 ショルダーアーマーを掠める程度で済み、安堵の暇無く続けて叫ぶ。 「アルセーヌ!」 シルクハットの怪人が二つのスキルを放ち、ディケイドの力を削ぐ。 ラクンダとスクンダ、耐久力と敏捷性の低下を引き起こした。 これで少しは戦い易くなると、そう楽観視するには敵は強大。 速さを落とした筈が瞬きの間に急接近、腹部へ蹴りが叩き込まれる。 「ごっ…」 骨が砕け、内臓も潰れた。 そう錯覚を抱きかねない威力に、目の奥からチカチカと火花が散る。 ディケイドの攻撃を受けたのはこれが初めてじゃない。 だとしても、一撃の威力が風都タワーの時とは比べ物にならないくらい凶悪だ。 『ATTACK RIDE SWORD VENT!』 ドラグセイバーを召喚し装備、双剣の餌食となるのはジョーカー。 ではなくもう一人のライダー。 動きを阻害しそうな姿とは裏腹の軽やかな跳躍で、アークワンの元へ到達。 長剣と青龍刀、異なる二本の得物が振るわれた。 二方向からの脅威もアークワンの演算能力は予測を終えている、取るべき最適解を叩き出す。 「ぬがぁっ!?」 ではこれは何だ、何故こうなっている。 躱して逆に斬り付ける筈が掠りもしない、そればかりか敵の刃は二つともこちらの装甲を切り裂いた。 アークワンの演算能力に不調が起きたのではない。 単純に、アークワンが対処に動くよりもディケイドが速いというシンプルな理由。 攻撃がどこから来るかが分かったとしても、反応が間に合わなければ無意味。 ディケイドのスペックが強化されたのみならず、JUDO自身の装備品の効果もあった。 モノモノマシーンを使い手に入れたアクセサリーの名は、ほしふるうでわ。 装備者のすばやさを2倍に上昇させ、ディケイドを更なる脅威へと変えたのだ。 一度攻撃が通れば流れは自分が掴んだも同然。 片方の剣を防がれたなら、もう片方で突きを繰り出し。 片方の剣を躱されたなら、もう片方が胴体を走る。 巧みな剣捌きに致命傷は防げども、着実にダメージは蓄積していく。 「頭に乗るな貴様っ!」 だがアークワンとて、プログライズキーを使うライダーシステムでは脅威のハイスペックを誇る戦士。 おまけに変身者のギニューもフリーザ軍で上位の実力を誇る男。 何も出来ずにやられるしかない弱者と、舐められたままでは終われない。 ――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き 水の呼吸最速の突き技で、双剣の乱舞を真っ向から打ち破る。 負けは許されぬ、ここで死ねばフリーザ復活も水の泡。 己を追い立てる言葉を幾つも胸中で並べ、尋常ならざる執念で技の完成度を引き上げた。 胸部の経帷子、ヒストリーオーナメントを直撃。 収められたライダーカードに破損は無くとも、装甲越しへ鋭い痛みが襲い掛かる。 ――水の呼吸 捌ノ型 滝壷 呻き後退るディケイドから、明確な隙の糸を読み取った。 畳みかけるにはここしかない。 跳躍し真下目掛けて虹を振り下ろす、単純ながら威力は水の呼吸の中でも随一だ。 逃げられはしない、逃がす気も無い刃の襲来。 『ATTACK RIDE SLASH!』 『ATTACK RIDE SLASH!』 尚もディケイドに焦りは無く、二枚続けてカードを装填。 次元エネルギーとリザードアンデットの力で、強度・切れ味・剣速の全てを強化。 「ぐがぁっ!?」 斬り上げたライドブッカーで虹を打ち返し、遮るものの無くなった体を刀身が撫でる。 生身であれば死は免れない斬撃も、アークワンの装甲により命を繋ぎ止めた。 と言っても自分の無事を喜べる余裕は全く無い。 むしろ装甲を纏っていながらここまでの痛みに苛まれる事へ、混乱が強まる。 「まさかとは思ったが今の技…あの時の剣士か。よもや屈辱を晴らす機会がまだ残っていたとはな」 「…っ。ふん!今更気付いたのか間抜けめ!」 アークワンの剣技を見間違える筈がない。 二回目の放送の少し前に自分を敗北へ追い詰めた、許し難い痣の少年と同じ動きだ。 それなら自分を見た時の反応にも納得がいく。 何故放送で死亡を発表されたのに生きているのかは重要ではない。 破壊を逃れて勝手に退場したと思ったが、今度こそ自分の手で完全なる終わりを与えてやる。 「お前達!そいつらの相手は後回しにしてオレを手伝え!」 ディケイドから目を逸らさないまま、仮の協力者二人へ指示を出す。 一人相手に複数人で袋叩きというのは美しくない、そんなのは百も承知。 ナメック星での悟空との戦いで不意打ちを仕掛けたジースを叱り飛ばしたように、本来ギニューは一対一のフェアな戦闘を好む。 しかし今のディケイドには、上手く言えないが何かがおかしいと感じる。 姿が変わって前より強くなったのだとしても、受けたダメージが幾ら何でも大き過ぎやしないか。 強いと言うより異常と言った方が正しい、得体の知れなさを秘めている気がしてならない。 戦士としてのプライド以上に、ディケイドを早急に排除するべきという危機感がギニューに判断を下させたのだ。 元々9つのライダー世界を旅した時から、ディケイドは明らかに自身より能力が上の怪人やライダーにも効果的なダメージを与え、有利に立ち回った。 これらはディケイドの本質である「破壊の力」が、一種の補正に近い形として作用した結果だろう。 でなければ如何に数多のライダーの力を使えるとはいえ、たった一人で全ての仮面ライダーを破壊するのは不可能に等しい。 現在のディケイドは破壊者としての使命を受け入れた激情態になった上で、コンプリートフォームへの変身を行った。 その為DIOとの戦闘時以上に、仮面ライダーへ対する特攻性が高まっている。 「何人で来ようが末路は変わらん。当然貴様もだ」 「くっ…!」 ライドブッカーが振り下ろされ、刀身が向かう先には黒い戦士。 アークワンへ意識が割かれた隙にホウオウのスキルを発動、傷を癒した傍からまたすぐに戦闘再開だ。 敵が不可解な強さを持つのにはジョーカーも気付き、故にここからは一撃だろうともらえば死も同然の心構えで挑む。 マガツイザナギを呼び出し長得物で防御、押し返さんとすれば羽のように跳び退く。 仮面を変えアルセーヌがスラッシュを放ち、同じタイミングでこちらへやって来たライダー達が仕掛ける。 それら全てが無駄と言わんばかりに、破壊者は己が力を存分に振るった。 ○ 敵が変わった所でやる事に何ら変化は起きない。 生け捕りの必要が無い以上、より明確な殺意を以て攻撃に出るのみ。 トリガーを引き、高熱硬化弾を自身の武器から吐き出させる。 照準は敵の急所へ正確に合わせ、外すようなヘマはしない。 なのに一発も命中しないのは、今更銃弾数十発程度で怯む相手ではないから。 ライドブッカーで弾を斬り落とす様は、無駄の無さも相俟ってある種の芸術に見えなくもない。 生憎ブラッドスタークは審美眼を持ち合わせておらず、瞳は先程からずっと冷え切りディケイドを睨む。 『KAMEN RIDE!ZERO-ONE!』 『飛び上がライズ!ライジングホッパー!』 『"A jump to the sky turns to a rider kick."』 ブラッドスタークが銃を撃っている間、他の二人も各々動く。 ライダーカードが力を解放し、指輪の魔法使いから全く別の姿に変身。 蛍光イエローの装甲と赤い瞳の輝きは暗闇の中で映え、ゼロワンの存在感を一層知らしめた。 ライジングホッパープログライズキーのデータを再現、黄色い残光を発しながらディケイドの元へ疾走。 脚力特化の性能はエターナルとの戦闘時から変わっていない。 加速の勢いを味方に付けた蹴りを放ち、ディケイドへ靴底が叩き込まれんと迫る。 『ATTACK RIDE BEAT!』 しかし尋常ならざる速さを武器とするのはディケイドも同じ。 ほしふるうでわが移動のみならず、動作の一つ一つを最速の域へ押し上げる。 打撃の威力と速度、両方を強化させ迎え撃つ。 拳と蹴り、己の四肢を武器に変えた一撃が激突、互いへ届かせるべく幾度も放たれた。 それぞれ腕と脚が数十本に分かれたのかと見紛うスピード。 DIOのザ・ワールドとも互角に打ち合ったゼロワンの爪先が、魔弾の如く胸部へ突き進む。 されどディケイドもまた別のカード効果とはいえ、同じスタンド使いのラッシュに打ち勝った強者。 脚部を裏拳が叩き軌道を逸らされ、ゼロワンの体勢に僅かな揺らぎが生じる。 復帰までは迅速であっても、破壊者が付け入る隙としては余りに大きい。 一歩踏み込み懐へ潜る、僅かな身動ぎだけで触れる程の距離。 拳が来ると思った時にはもう、腹部からの鈍痛を脳が伝えた。 「っ…!」 戦闘で集中力を欠くのは悪手、基本中の基本だ。 まして目の前に立つのが強敵であれば尚更の事。 頭では分かってはいても、痛みというやつは人間の思考を掻き乱すのに最も有効な手段。 回避・反撃・防御。 取らねばならない次の行動があるのに、頭の中は「痛い」の二文字で埋め尽くされる。 無論、数秒も経たぬ間に持ち直すがそのほんの僅かな時間が命取りだった。 既に反対の拳は二撃目を放つ準備を終えているのだから。 「戦兎さんから、離れて……!」 であるならば、彼の危機を彼女が黙って見過ごす訳がない。 右手に構えるは通常形態と同じ武器、無双セイバー。 威力はウォーターメロンガトリングが圧倒的に勝る分、こちらは安定した使い易さを誇る。 エナジーチャンバーは満タン、たっぷりと溜め込んだエネルギーを弾に変換し撃ち出す。 高性能なカメラアイが射撃能力を高めるが、この程度をディケイドは脅威に思わない。 ライオンアンデットの力を付与したままの片腕を振るい、光弾は呆気なく霧散。 それでもゼロワンへ放つはずだった一撃が止まったのも事実。 地を蹴り拳の範囲内を離れ、ディケイドからのアクションを待たず背後を取った。 『FINAL ATTACK RIDE ZE・ZE・ZE ZERO-ONE!』 脚部の跳躍装置、ライジングジャンパーによって引き上げられた力が最高潮に達する。 両脚にバッタの能力を付加させ、跳躍力と速力を倍増。 振り返ったディケイドと視線が合う前に蹴り上げた。 身動きの取れない上空へ強制的に移動された破壊者の更に頭上を取り、叩き落とすべく再度蹴りを放つ。 『ATTACK RIDE ONIDUME!』 「っぁ…!」 決めの一発を阻む痛みは胸元から。 突き出されたディケイドの拳は届いていない、しかし手の甲から伸びた爪が突き刺さっている。 仮面ライダー響鬼が使う奇襲技も、激情態はディケイドのままで使用可能。 蹴りの連続でトドメの一撃へ繋げるゼロワンの技は中断されて、自分の番と言わんばかりに振るわれるライドブッカー。 自慢の脚力も蹴り付けるものが無い空中では宝の持ち腐れか。 否、ゼロワンの足底はライドブッカーの刀身を蹴って自ら地面へと急降下。 非常に高い脚力の反動から保護する脛部装甲の恩恵により、無傷で着地を果たす。 攻撃の失敗を悔やむだけ時間の無駄だ、手札を切り続けなければ勝ちは望めない。 『KAMEN RIDE ZI-O!』 『仮面ライダージオウ!』 高らかに名乗るは正に恐れを知らぬ王の如し。 腕時計をモチーフにした仮面を被り、長短二つの針が天を突く。 黒地のボディスーツの上を走る、これまた腕時計のベルト部分を思わせる装甲。 何より目を引くのは、己が存在を見る者全てに知らしめる『ライダー』の四文字。 仮面ライダージオウ。 最高最善の王、或いは最低最悪の魔王の未来を約束された常磐ソウゴの始まりの姿。 異なる世界線の戦兎と万丈が出会った戦士だが、それは省略する。 『FINAL ATTACK RIDE ZI・ZI・ZI ZI-O!』 今重要なのはジオウの力でディケイドを倒せるか否かのみ。 地面へ降り立った瞬間を狙い、『キック』の文字に取り囲まれた。 標的はただ一人、跳躍と同時に文字がジオウの右足へ収束。 足底に刻まれた同じく『キック』の二文字が破壊力を増幅し、後は直接叩き込む。 ――ROCKET!STEAM ATTACK!ROCKET!―― ディケイドへの攻撃をジオウ一人には押し付けない。 フルボトルの成分が銃弾を強化、左腕に銃身を置きブラッドスタークが狙いを付ける。 煙を描きながらロケット弾を発射、ジオウの蹴りに負けず劣らずの高火力だ。 『ATTACK RIDE CLOCK UP!』 だが届かない、破壊者から勝利を奪うには余りにも程遠い。 電子音声を聴覚センサーが拾った時点で、全員が地から足を離していた。 ジオウの蹴りは標的を見失い、反対に蹴り飛ばされ。 ブラッドスタークのロケット弾も外れ、胸部装甲から火花が散り。 斬月もまた無双セイバーのエネルギー補充を行うタイミングで、ライドウェア越しに拳が突き刺さった。 「――がっ!?」 「あぐ……!?ひぅ……痛い……」 何が起きたのか分からない。 気が付いたら地面へ倒れ、遅れて痛みがやって来たのだから。 『……っ、ああまたかよ!慣れたくねぇなこいつは!』 唯一攻撃の正体に察しが付いたブラッドスタークだが、毒を吐く裏で首を傾げる。 ディケイドが高速で移動するには別のライダー、ファイズに変身した上で更にアクセルフォームになる工程が必要だった筈。 なのに今のは明らかにカード一枚の装填という、ワンアクションでやってのけた。 前回とは違う姿になっているのが原因なのか。 アクセルフォームと今回使ったクロックアップは別物だが、懇切丁寧に説明してやる気は皆無。 ライダーへの変身を挟まずにアタックライドを使える事も、一々教える義理は無い。 倒れ伏す三人へ求めるのはたった一つ、破壊による死だけだ。 ○ 「っぶねぇ…!」 身を屈め横薙ぎの一閃をやり過ごす。 大ショッカーが作りし特殊鉱石の刃の犠牲となったのは白髪数本。 首は未だ繋がっており、血の一滴も流れてないなら上出来だ。 「ピカピカ~!!(ひえ~!お助け~!)」 涙と鼻水で顔面を崩壊させながらも、でんこうせっかで蹴りを回避。 いきなり現れ破壊だ何だと物騒な事を言ったかと思えば、有無を言わさず殺しに来たのだ。 視界一杯に映り込んだ爪先へ、動くのが後ちょっと遅かったら可愛らしい顔がミンチとなっていただろう。 「仮面ライダーでなくとも逃がしはせん。大人しく破壊を受け入れろ」 「断るに決まってんだろうが!」 死ねと言われて、どうぞご自由にと返す自殺志願者なら今の今まで生き残ってはいない。 随分と勝手な言い草へ怒鳴り返し、顔面目掛けて銃剣刺突を繰り出す。 常日頃から戦闘とチタタプ用に研いでいたのだ、切れ味を侮ってもらっては困る。 尤も外れてしまえば肝心の鋭さも分からず終い、そもそも分かりたいとも思わない。 敵兵に反撃の機会を与えず突き殺した銃剣は呆気なく躱され、再度杉元へ刃が迫った。 軍刀とも日本刀とも違う種類の剣が、不死身の兵士の血を求め襲来。 電光石火もかくやの速さで歩兵銃を引き戻し、銃剣部分で弾き返す。 (重てぇし速過ぎんぞこいつ!遺影貼り付けて出来る動きじゃねぇだろ!?) 以前、白石と共に見付けた江渡貝剥製所にでも置いてそうな奇怪極まる見た目。 どう考えても動き辛そうなのに実際はどうだ、冗談かと思えるくらいに素早い。 次の動きへ支障が出ない範囲で身を捩り、時には銃剣で受け流す。 対処が間に合わず刃が柔肌を走るも、深い傷は一つも無い。 (……おい、どうなってんだこりゃ) 左肩に浅い切り傷が丁度三つできた所で違和感に気付いた。 傷が再生していない。 幾ら完全再生までは時間が掛かると言っても、この程度の浅い傷なら1分も経たない内に治る筈だろうに。 傷が塞がり元の白い肌に戻る気配はまるでない。 何より不自然なのは巨人との戦闘で付けられた傷は問題無く再生してるにも関わらず、ディケイドに斬られた箇所だけが治らないのだ。 (こいつまさか…) どういう仕掛けかはさっぱり分からないが、受け入れざるを得ない。 ディケイド相手に蓬莱人の不死は無効化される。 数時間前、エターナルメモリの影響で不死となったDIOを破壊したのと同じだ。 激情態のディケイドの前には永遠の命も無意味、問答無用で破壊される末路以外にない。 不死身の肉体はこの瞬間不死身では無くなった。 傷の再生が無効化される以上、恐らくあと一回の復活もディケイドが相手では発動されない。 殺されたら本当にそこで終わり、アシリパとの再会叶わず他人の体で死ぬ。 たった一つの命しか持たない、どこにでもいる人間と一緒。 つまりそれは 「今までと同じってだけだよな!」 歩兵銃を肩に掛け、間髪入れずに抜刀。 鬼の副長の愛刀が破壊者の剣を防ぎ、金属同士が擦れる不快な音が発生。 古今東西、どんな名刀も所詮は人の領域で打たれたに過ぎない。 大ショッカーの技術力を以て作り出されたライドブッカー相手では、砂糖菓子のように砕け散るのが関の山。 「うおりゃああああっ!!」 だが刀の銘は和泉守兼定。 新政府軍を斬り殺し、戦場に夥しい血の雨を降らせた剣豪の魂の一部。 人の身でありながら英霊に上り詰め、狂戦士として異界の闘争に馳せ参じた男の刀なれば。 破壊者だろうと安易に破壊は出来ぬものと知るだろう。 「ピカ~!」 弾き返されたたらを踏んだディケイドの視界を塞ぐ、複数体の黄色い獣。 かげぶんしんの妨害も、目障りと口に出す事なく一振りで消滅。 まんまと逃げおおせた本体を見やり、急速に接近する殺意へ意識を引き戻された。 不死身の兵士は死を跳ね退ける。 肉体の能力ではなく、自分自身の力を駆使して。 ○ 状況が悪いのは隠れているナナにも見て取れた。 ギニューと他二名の仮面ライダーを相手にしていた時は、戦兎達の勝利がほぼ確実だったというのに。 奇怪な姿のライダー、曰くディケイドと名乗った乱入者に全員が苦戦気味。 敵対中のギニュー達ですら、今はディケイドの猛攻を凌ぐのに手一杯の様子。 (マズいな…せめてしんのすけがいれば話は変わって来るのだろうが……) ギニューが変身したアークワンをも追い詰めた、宇宙最強の戦士の体となった少年。 だが希望とも言える彼は今、ディケイドの手で身動きを封じられている。 離れた場所から見ていたナナには分かったのだ。 しんのすけを緑の光が包み、ディケイドの手元には奇妙な四角い物体が握られていたのを。 支給品か、ディケイド自身の能力か。 どちらにしても恐らくあの四角い物体にしんのすけは閉じ込められたのだろう。 それを奪えばしんのすけは自由を取り戻せる。 問題はディケイド相手に奪うという、特大級の難関をどう解決するかだが。 念力でこっそり奪おうにも、ディケイドの反応速度は異常だ。 余計な真似に出たと分かれば即座に殺しに来る。 戦兎達ですら複数人掛かりで苦戦している相手に、自分が戦おうなどと命知らずになる気はない。 「なあ相棒の弟!俺っち達いつまでこうしてんだ?あの音楽室野郎をどうにかしなくて良いんか?」 「ですから!今私達が出て行っても余計に足を引っ張るだけなんです!」 自分がいなかったら後先考えずに飛び出し、呆気なく殺されていたのは想像に難くない。 燃堂へ振り回されるのは今に始まった事で無くとも、つくづく頭が痛くなる。 というか音楽室とは一体何を言っているのか。 ややあってディケイドの見た目は確かに、音楽室へ飾られた著名な作曲家の肖像画のようだと納得。 (いやそんなことはどうでも良くて……) 燃堂の馬鹿な発言に充てられてか、ついつい思考が脱線してしまう。 そんな場合じゃ無いだろうと頭を振って、気を引き締め直す。 ナナとて現状を打破できるものならそうしたいが、無策で戦場に突っ込むつもりはない。 今は隠れて様子を窺い、こちらでアシスト可能なタイミングがあれば動く。 最悪の場合は燃堂を連れて逃げる事も視野に入れねばなるまい。 そうなったら後々余計に頭を抱えるのは確実、しかしその最悪が現実と化す可能性も十分にある。 いざとなった時の決断も迅速に行わなければ、待ち受けるのは取り返しのつかない末路だ。 (とにかく、すぐに動ける準備だけでもしておかないと) フリーズロッドを取り出し、必要とあらばいつでも振れるよう構える。 長続きはしないが凍結させれば多少の足止めは可能。 心情的にも念力を使うよりは、こういった道具に頼った方がマシな気持ちも無い訳ではないが。 一定の使用後は砕けるらしいが今の所その兆候は無い。 悪いタイミングで壊れるなよと思いつつ、戦況の冷静に観察し、 「お――――」 誰もが各々の戦いへ意識を向け、ナナも目を逸らさない中。 この場で最も弱い少年だけがソレに気付いた。 ヘブラ山頂の氷を精錬し作られたフリーズロッドは、未だ砕けず輝きを失わない。 透き通るような美しさの氷は鏡の役目も果たし、持ち主のナナを映し出す。 もう一体、本来ならば映る筈のない存在。 カメレオンに似た姿の、異形の化け物も。 「――――」 その時燃堂が一体何を思ったのか。 変なのが映っているとナナに教える事も出来た。 目の錯覚と思い一度視線を逸らす事も出来た。 普段通りの呑気さで、鏡の中の化け物に声を掛けた可能性もある。 それらは全て、現実の燃堂が選ばなかったもの。 野生の直感とでも言うべき何かが、彼の中で働いたのか。 深く考えずにとりあえず動いてみようと思ったのか。 ナナも、闘争に身を委ねる者達にも答えは知り様がない。 或いは、斉木楠雄がこの光景を見ていたら。 もしかしたら、別の展開があったのかもしれない。 ドン、と横からの衝撃に倒れ。 突き飛ばされたとすぐに気付き、一体何の真似だと顔を顰め。 振り返った時にはもう、言おうと思った文句の全てが頭から離れて行った。 「え……?」 自分の目に映っている光景が何なのか、理解が追い付かない。 思考放棄を許される場では無いだろうに、対能力者用の訓練を思い出せ。 そうやって厳しい言葉を紡ぐ自分の冷静な部分が、やけに遠く感じる。 「何で――」 何故、どうして。 目の前に化け物がいて、燃堂がそいつに爪で貫かれているのか。 この化け物はどこから来たのか、燃堂はどうやって存在に気付いたのか。 違う、そうじゃない、間違って無いけど、聞きたいのはそんな事では無くて。 「相棒の弟」 斉木楠雄は超能力者である。 普通では無い彼の周りには、同じく変わった人間で溢れている。 両親と兄を始め、毎度毎度騒動を引き起こす個性的過ぎる面々が。 頭を抱えた事は一度や二度じゃない。 胸中で辛辣なツッコミを向けるのは最早日常茶飯事。 いい加減にしろと思ったのなんて、数える方が馬鹿らしくなるくらいだ。 だけど、どれだけ面倒に思っても。 本心から嫌いにはなれない、呆れながらもついつい超能力で助けてしまう。 変人揃いの癖に、友情は決して裏切らない連中だから。 海堂瞬も、窪谷須亜蓮も、そして燃堂力も。 そんな奴らだからこそ、超能力者としてだけではなく。 「ダチを助けるのに理由なんていらないだろ?」 一人の友人として、彼を死なせたく無かったのだろう。 ブチリと引き千切れる音がして、それっきり声はしなくなる。 ポニーテールを揺らす少女の顔は見当たらない。 不快な咀嚼音が耳へ届けられ、視線は地面に落ちた首輪から化け物口へ移る。 あの中かと思った自分がどんな顔でいるのか、柊ナナには分からなかった。 【燃堂力@斉木楠雄のΨ難(身体:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ) 死亡】 ◆ 「ピカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」 誰もがそれに気付いた時、全て手遅れだったと現実を突き付けられた。 間に合わなかった、遅過ぎたという後悔と怒りを自らの力に変える。 この瞬間は、善逸の中から恐怖が完全に消失。 自らの不甲斐なさと死を振り撒く悪鬼達への憤怒が光となり、遥か頭上より裁きを下す。 さながら神の鉄槌の如き一撃が破壊者を貫いた。 「がはっ…!?」 苦悶の声を発し破壊者は膝を付く。 破壊衝動が高まりつつある中で己の意思とは裏腹に、体は命令に逆らい動かない。 かみなりの直撃はコンプリートフォームのディケイドだろうと、流石に無傷でやり過ごせなかった。 天候で命中率が左右される分、威力は10まんボルト以上。 全身の痺れに動きが鈍り、倍となった素早さもこれでは無意味だ。 殺すなら今しかない。 時間を置かずにディケイドは再び自由を取り戻す、その前に攻撃をするべき。 千載一遇のチャンスを捨てる馬鹿がどこにいる。 正論を捻じ伏せ杉元は踵を返し疾走。 今動かなければ死ぬ奴がいる、ここで走らねば本当の意味で無駄となってしまう。 鬼神もかくやの強さと容赦の無さを持ち合わせるのが杉元という男。 だけど同じく、情を決して捨てない男でもある。 接近を察知した化け物…バイオグリーザがぶつけるのは苛立ちの視線。 食事の途中で横槍を入れられ、満たされぬ空腹に溜まり続けたストレスは呆気なく爆発。 邪魔をするなら逆に捕らえ、腹の中で溶かしてやろう。 悪魔の実の力で得た獣の爪を叩きつける。 ミラーモンスターの腕力へ動物系の強靭な身体機能が加算されれば、地球上の生物を超える力も安易に発揮可能だ。 「~~~~!?」 しかしバイオグリーザの爪が引き裂いたのは少女の体ではない。 弾ける感触が伝わったのも一瞬のこと、猛烈な痺れが体中を襲う。 皮肉にも服従した主と同じように。 爪が肉に食い込まれる寸前、杉元が投げ付けた黄チュチュゼリーがバイオグリーザの腕へ命中し破裂。 杉元自身も味わった支給品の効果は、かみなり程では無いが動きを止めるには十分だ。 「食いたきゃこれでも食ってやがれ!」 開けたままの口へ右手を突っ込む。 握られているのは明治時代にはない回転式拳銃、コルト・パイソン。 引き金を引くのに一切の躊躇も必要無し、装填された神経断裂弾が内部から喰い千切る。 動物系の高い生命力も、内側から傷付けられれば一溜りも無い。 数発の弾は貫通せず体内に留まったが、バイオグリーザには耐え難い激痛だろう。 対未確認生命体用の特殊弾はミラーモンスター相手にも効果を発揮。 破裂した弾丸が神経をズタズタに切り裂き、バイオグリーザは怪鳥のような悲鳴を上げ悶え苦しんだ挙句、やがて動きを止めた。 「っ…!」 獣の死に何かを思う暇も無く、再び破壊者の相手をしなくてはならないらしい。 背後で動き出す気配に振り返れば案の定、立ち上がったディケイドが善逸へ斬り掛かる場面があった。 10まんボルトを放とうにも、溜めの隙を作れない。 でんこうせっかを駆使し避けてはいるが、一撃もらえば死はほぼ確実。 予備の弾を装填する時間も惜しいと駆け出し、腰の刀を振り抜いた。 一部始終はバイオグリーザを従えた本人、ディケイドも把握している。 大方空腹に我慢が出来ず襲い掛かった、そんなところか。 仮にバイオグリーザが仮面ライダーとの闘争へ乱入したなら、相応の処罰を与えた。 しかし今しがた殺されたのは仮面ライダーでもなければ、戦う力も持たない只の人間。 破壊の対象に含まれているとはいえ、正直言って優先度は低い。 「直に貴様たちも奴と同じ場所へ行く事になるがな」 「がぁ…っ!」 アルセーヌの蹴りを片手でいなし、もう片方のライドブッカーが切り裂く。 強化皮膚に覆われてはいても、耐久性をほとんど無視したような攻撃だ。 直に体を斬られたような激痛に眩暈がした。 霞む視界が元に戻るのを待っていられず、アルセーヌがスラッシュを放つ。 刀身を弾いた程度の一撃だが、跳び退くだけの時間は稼げた。 ジョーカーへの追撃を阻むかのように飛び出る複数の影。 尤もアークワン達に助けるという意図はない。 目下最大の脅威が別の敵に引き付けられた、だからそこを狙ったまで。 『SKULL!MAXIMAM DRIVE!』 装填されたメモリがスカルマグナムの威力を最大まで引き上げた。 後年に風都を守ったダブルと違い、スカルのマキシマムドライブはメモリ使用者をも死に至らしめる。 比喩ではない、正真正銘「必殺」の弾丸を撃つ。 『風遁の術!』 遠距離がスカルなら近距離での攻撃はプロトタイプビルドが行う。 四コマ忍法刀のトリガーを引く回数は3。 ペン型の剣先から発生した風を刀身に纏わせ、竜巻状に変化。 敏捷性に優れた忍者フルボトルの成分も駆使すれば、ロクな抵抗も許さず一刀の元に撃破可能な斬撃だ。 尤も、相手が世界の破壊者でなければの話。 ――水の呼吸 弐ノ型 水車 足りない分はもう一本の剣で補う。 虹を構え横に回転、本来の動きと違いは有れど破壊力は一切劣らない。 広範囲を巻き込む技故に、回避しようとも決して刃から逃さない。 三方向から脅威が迫り逃げ道を塞がれる。 相手が並の力しか持たない怪人程度であれば、オーバーキル以外のなにものでもない。 知らぬ者が見たら標的となった方へ同情の念を向けるだろう光景。 『ATTACK RIDE TIME!』 真に憐れまれるのは、攻撃を仕掛けた者達の方だが。 「ぐおおおおおおおっ!?」 悲鳴を上げたアークワン本人ですら、何が起きたか分からない。 自分達三人はディケイドへ一斉に技を放った。 全員が狙いは正確、間違っても味方を攻撃するようなヘマは犯さない。 その筈だったというのに、彼らの攻撃は互いを痛め付けるに終わった。 ディケイドのやった事を説明するなら、そう難しい内容でもない。 アタックライド・タイム。 スカラベアンデットの力で一定範囲内の時間を止める、所有カードの中でも特に強力な一枚。 但し既に脱落したスタンド使い達と違い、時間停止中は敵へ攻撃を行っても無意味。 ダメージを与えるには時を再び動かさなければならない。 止まった時の中でディケイドは三人の攻撃の範囲内から離れた、それだけである。 後は自ら能力を解除すれば、本来の標的を失った事で互いへ命中。 この場にDIOや承太郎がいたら気付けただろう絡繰りも、彼らが死んだ今ではたらればでしかない。 『ATTACK RIDE KOTAEWA KIITE NAI!』 『ATTACK RIDE MACH!』 『ATTACK RIDE BLAST!』 「全員破壊してやる、答えは聞かん」 三枚連続でカードを装填、揃って怯んだ者達へ追い打ちを掛ける。 右手にはライドブッカー、左手にはデンガッシャー。 どちらもガンモードへ変形済み、そこへ加わるのはジャガーアンデットの脚力。 ほしふるうでわにより素早さが倍になった上で行う高速移動だ、ライダーの視覚センサーを以てしても捉えるのは困難を極める。 円を描くように駆けながら双銃を乱射、無数の光弾がアークワン達に当たっては弾け火花を咲かせた。 無論、ジョーカーも例外ではない。 拳とペルソナで弾き落とす余裕も与えられず、全身を襲う痛みに叫ぶしか出来なかった。 銃撃が止み、立っているのは破壊者ただ一人。 アークワンとジョーカーは言わずもがな。 比較的軽症だった祈手達のライダーですら、ディケイドとの僅かな攻防で無視出来ない程の被害を受けた。 たった一人でここまで追い詰めたが破壊者の心は満たされない。 敵はまだ生きている、生命の灯火が消えない限りは湧き出る衝動も無くならない。 「まずは貴様だ」 指を差され最初に死を宣告されたのは風都の守り手たる骸骨。 言葉無く立ち上がる姿は非常に弱々しい。 スカルメモリは使用者に痛みを感じない体を授ける。 だがあくまで痛覚を失うに過ぎず、攻撃を受ければ当然傷は付く。 痛みが無いだけでダメージ自体は蓄積し、スカルの動きへ支障が現れ出した。 弱った相手に同情も情けも向けはしない。 破壊者が与えられるのは通り名が示すように、破壊以外に存在しないのだから。 『KIVA!KAMEN RIDE EMPEROR』 ケータッチの画面に表示されたクレストをタッチ。 電子音声が流れると共に、ディケイドの胸部に変化が起きる。 9人それぞれ異なるライダーのカードが、一瞬で同じカードになった。 だが外見の変化など些細なもの、真に驚くべき存在がディケイドの隣へ現れる。 蝙蝠を象った仮面は同じ、違うのは纏った鎧。 真紅の拘束具を脱ぎ捨て、目も眩む黄金に身を包んだ姿の何たる神々しいことか。 誰もが平伏し、口を揃えてこの者こそが王だと崇めるに違いない。 仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム。 全ての鎖を解き放った、ファンガイアの王の真の姿。 コンプリートフォームとは、ディケイド自身のスペックを底上げするだけが全てでは無い。 その真価は士が絆を結んだライダー達を、最終フォームの状態で召喚させること。 と言ってもここにいるキバに自我は存在しない、あくまでディケイドの能力の産物。 本物の紅渡やワタルではないが、それでも破格の性能だ。 士本人ならともかく、BADANの大首領は単なる傀儡としか見ていなかった。 『FINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI KIVA!』 カードを取り出しライドブッカーへ装填。 ディケイドと同じ動作を一ミリのズレもなくキバも行う。 召喚されたは共通してディケイドの行動に同調し動く。 ディケイドが高威力の技を放てばライダーも同様、通常形態のディケイドを遥かに超える破壊を生み出す。 蝙蝠が噛み付いた大剣、ザンバットソードを掲げる。 ファンガイアの王のみが持つ事を許された魔剣がライフエナジーを吸収。 紅に染まる刀身に合わせ、ディケイドのライドブッカーも輝きを放つ。 二振りの剣に魔皇力が最大まで溜められた今、最早斬れぬものは一つもない。 王と破壊者が判決を下す時が来た。 「や…めろ……!」 苦痛に苛まれる中で、絞り出した声は聞き届けられない。 震えて伸ばした手は何も掴めず、救えない。 あそこにいるのは鳴海荘吉の体だけ、精神は完全に別人。 そもそも自分と荘吉は赤の他人同士、気に病む必要はどこにもない。 分かっている、改めて考えずともそんなのは分かっている。 なのに ――『あの子を頼んだぜ…』 ――『似合う男になれ』 真っ赤に汚れた白スーツが。 帽子を託した『あの人』の最期が。 自分自身の記憶のように、焼き付いて離れなかった。 真紅に染まった魔剣が振り下ろされる。 一切の抵抗を許されず、魔皇力はスカルを死へ誘う。 探偵であり父でもあった男を、親子の物語を奏でた戦士が終わらせた。 光刃が肉を焼き骨を断つ。 血は一滴も流れず、されど彼を生かすもの全部が流れ落ちる。 死体の如き体となった男は本当の死を与えられ、やはり言葉無しにこの世を去った。 祈手たる彼が何を思ったか、ここにいる誰にも知られぬまま。 「あ……」 その全てを目の当たりにして、ようやっと喉の奥から出たのはたった一文字。 『あの人』がどうなったかは見たものが全てだ。 記憶の中のように、言葉を残して去りはしない。 いたのは体だけが本人の、『あの人』ではない別のナニカ。 立場的には自分達の敵だったのだ、大手を振って喜びこそしないが深く悲しむ必要もない。 それでも、自分の中で欠ける感触があった。 目の前に落ちた、焼け焦げた白い帽子からどうしても目が離せなかった。 【ボンドルドの祈手@メイドインアビス(身体:鳴海荘吉@仮面ライダーW) 死亡】 →
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登録日:2012/05/17 Thu 23 03 11 更新日:2024/07/01 Mon 01 54 34NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 FE FEヒーローズ NTR おばさんパーマ みんなのトラウマ もう一人の主人公 アルヴィス イケメン エンペラー カリスマ コメント欄ログ化項目 セイジ ダークヒーロー バーハラの悲劇 ファイアーエムブレム ファラ ファラフレイム ファラ直系 ラスボスの風格を持つ中ボス リカバーリング ロプト ヴェルトマー 不幸 仇敵 傀儡 兄 全てを手に入れて全てを失った者 切れ者 加害者にして被害者 哀しき悪役 因果応報 圧倒的な強さ 圧倒的攻撃力 報われない 天使と悪魔を誕生させた者 嫌われ者 子世代 孤独 宿敵 寝取り 強敵 悲しい過去 悲劇 悲惨な末路 戦犯 本当は優しい人 業が深い 権力の衰退 正義と悪は表裏一体 正義のためなら人間はどこまでも残酷になれるんです 正義はあっても正解はない 歪んだ正義 残忍なイケメン 母親想い 法治主義 炎 炎の紋章 父親 異母兄 異父兄 皇帝 簒奪者 美形悪役 聖戦の系譜 自己保身 行き過ぎた正義感 裏切り者 親世代 謀略 賛否両論 贖罪 赤ワカメ 近衛軍指揮官 近親相姦 速水奨 運命に押しつぶされた哀れな人 運命に翻弄された者 過去の栄光 野心家 野望 闇堕ち 陰謀 首謀者にして犠牲者 高潔 私は、炎の聖戦士ファラと聖騎士マイラの血を受け継ぐ者として、この世界を、差別のない、誰もが住み易いものに変える。シグルドには悪いが、彼にはそのための犠牲となってもらう。 出典:ファイアーエムブレム ヒーローズ、任天堂、インテリジェントシステムズ、2017年2月2日配信開始(C) 2017 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS 『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』に登場するキャラクター。 CV:速水奨(FEヒーローズ) 概要 略歴 ユニット性能 アルヴィスについての評価 ファイアーエムブレム 覚醒 ファイアーエムブレム ヒーローズ 余談 概要 ヴェルトマー公爵家の現当主にして、十二聖戦士の1人で魔法戦士ファラ直系の血を受け継ぐ、神器ファラフレイムの継承者。 国王からの信任も厚い優秀な人物で、グランベル王国の近衛軍指揮官も兼任している。 父ヴィクトルは母シギュンを愛していたが凡庸だった己に強いコンプレックスを抱いており、 周囲の反対を押し切ってまで正妻に迎えた美しい妻が自分を本当に愛しているのか自信を持てずにいた。 その鬱屈した思いを晴らすように酒と女に溺れて愛人を囲い、結果としてアルヴィスには腹違いの兄弟が何人もいた。 ある日、ヴィクトルはシギュンがグランベル王国のクルト王子と不倫していることを知ってしまい、2人を呪う怨嗟の遺書を残して自殺。 いたたまれなくなったシギュンは、幼い息子を残して人知れず失踪してしまう。 立て続けに両親を失い弱冠7歳で家督を継ぐ事となったアルヴィスは母や自分に尽くしていた心優しい下女と、彼女が父に暴行されたことで産まれた異母弟のアゼルのみを残して、他の兄弟達とその親や従者達も全てヴェルトマー家から追放した。 この下女とアゼルは貴族や王族の間で孤立していた自分の数少ない味方であり、愛すべき家族であった。 下女はのちに亡くなってしまうが、彼は残されたアゼルを自身の弟以上に大切に育てることとなる。 だがその愛情が孤独な彼の心の闇から生まれたものである事を本能で察していたアゼルからは「恐怖」と捉えられた。 また、母シギュンからは微弱ながら暗黒神ロプトの血を受け継いでおり、 このことが世に知られることに怯えながらも「これは暗黒神ではなく人間のために戦ったマイラ(ロプトウスの血族の1人だが、ロプト帝国に反乱を起こしたため13人目の聖戦士とも呼ばれた)の血である」と言い、自らの誇りとしている。 略歴 初登場はシグルドが挙兵したばかりの序章。 グランベル国王アズムールの命令を受けて現地の視察に訪れ、ヴェルダン軍と交戦するシグルドに王から託された銀の剣を渡した。 そして、ヴェルダン軍の討伐とシグルド軍に参加したアゼルの世話を一任し、自身は国王警護のため王都バーハラに戻って行った。 この時点では単なる高潔で良い人物だが、同時に蛮族相手に手こずるシグルドを陰ながら見下す等、既にきな臭さを漂わせる登場であった。 その後は各地で起こる戦乱をよそに、ロプトウスを信奉する暗黒教団「ロプト教団」と接触。 ロプトの血を受け継いでいることが世間に露呈されることを恐れ、激しい弾圧対象だった彼らを被差別対象から救うことを約束して協力を取り付ける。 聖戦士ファラ、そしてマイラの血を継ぐ者として「差別のない、誰もが住みやすい世界」を築くため、教団を利用して自らがグランベル王国の皇帝となる事を画策。 ドズル家のランゴバルト卿、フリージ家のレプトール卿ら反クルト王子派の有力諸候と密約を結び、計画の障害となるクルト王子を謀殺。 そして王子の側近であるバイロン卿(シグルドの父)が属するシアルフィ家に、ことごとくその罪をなすり付ける。 元々信任が厚く高潔な人物だったことに加え、孫娘の存在を初めてアルヴィスによって知らされたアズムール王は、あっさりとディアドラとアルヴィスの結婚を了承。 それどころか「ナーガの血を絶やしてはならないのでディアドラと早く子を成せ」とまで命令する。 そしてシレジアに侵攻する姿勢を見せ、用済みとなったランゴバルト卿とレプトール卿をシグルド軍に嗾ける事で自ら戦うことなく排除。 さらにシグルドとその仲間達をも凱旋と称して王都バーハラ付近にまでおびき寄せた上で、グランベル王国への反逆者の汚名を着せ、不意打ちによりその大半を処刑した。 これが後の世に伝わる「バーハラの戦い」である(~五章 運命の扉)。 ちなみに大沢版の漫画ではシグルド殺害のシーンがさらにえぐくなっており、彼を至近距離からのファラフレイムで不意打ちした上に一瞬で灰にしている。 彼が狂喜する中、愛する者を目の前で殺害され憔悴しきっていたディアドラに向けとどめに、 「どうしたの? 疲れた?」 と表情も変えずに問いかけ…彼女の心を完全に破壊した。 その様は、どこか子供の心の無い残酷的な行動に似ており、壊れた操り人形を動かし続けるかのような虚無を感じさせた。 政敵となる有力諸候をあらかた失ったことで、アルヴィスはグランベルの実権を完全に掌握した。 国王であるアズムールが亡くなった後、彼はイザークの他に先のシグルド軍との戦いで疲弊していたヴェルダン、アグストリア、シレジアといった独立国家や地方を次々と制圧。 残りのトラキア地方については南トラキアについては傭兵国家で協力関係にもあったため明確な敵対はしていない(そもそも土地的に旨みも少ない)。 そして武力の差で南トラキアが容易に手出し出来ない状況にしつつ、電撃戦により豊穣なレンスター(トラキア北部)地方の大半を制圧して南部は放置。 グランベル帝国の建国を宣言し、その初代皇帝となる。 この前後に、シグルドの元妻で、マンフロイによって記憶を奪われたディアドラと正式に結婚。 長男ユリウスと長女ユリアの二児をもうける。 しかし、この幸せな結婚こそがマンフロイが仕掛けた最大の罠であるとはアルヴィスは知る由もなかった。 即位からしばらくの期間は、徹底的な法の下、多少窮屈ではあるが住みよい統治が行われ、アルヴィスは有能な皇帝であるという風評が部下や市民の間にも広がっていった。 元々ランゴバルトやシャガールといった強欲で凡愚に過ぎる統治者が多かったというのもあるが、最初の内はその統治もうまくいっていたのである。 しかし実はディアドラは前述のグランベル王国のクルト王子と、アルヴィスの母シギュンの不倫の末に生まれた不義の子で、アルヴィスの種違いの妹にあたる。 しかも、彼女もまた母親からマイラ傍系の血を受け継いでいたのだ。 この2人の近親婚により双子の片割れであるユリウスに流れるロプトの血が直系になるほど濃くなってしまい、 さらにマンフロイから闇の魔道書ロプトウスを譲り受けた事で覚醒し暗黒神ロプトウスの化身となってしまう。 ユリウスと暗黒教団の絶大な力の前に実権を奪われたアルヴィスは傀儡となり、暗黒教団主導の恐ろしい圧政が始まってしまう。 かつての暗黒教団と同様に、信者以外は大人も子供も教団からのノルマや気まぐれ的に連れ去られたり、辱めを受けたり殺されるのは当然の世の中。それもただ殺すのでは飽き足らず苦しんで死ぬように火あぶりの刑が世界中のあちらこちらで行われる絶望の時代の到来。 ロプトウスに唯一対抗しうるヘイムの血(光魔法ナーガを使う力)を持っていた妻ディアドラはユリウスによって殺害される。 同じくヘイムの血を持つユリアはユリウスの手に掛かる直前にディアドラが逃がしたものの、そのまま行方不明となってしまう。 自分が利用していたはずが、実は自分自身が利用されていた… アルヴィスはようやく自分の過ちに気付いたが、その時には既に全てが遅すぎた。 しかもアルヴィスによるグランベル帝国建国についてもマンフロイが望んでいた方向であり、これも罠であった。 地下で追いやられ、見つかれば即火あぶりという激しい迫害を受けていた暗黒教団にとってはこれこそ千載一遇のチャンスであり、そのためならロプトマージ達は命すらなげうつ覚悟であった。 つまり彼らの執念とマンフロイの采配がアルヴィスの政治力を、ファラ直系としてなんとかしようにもユリウス(ロプトウス)の力が自分の大きく上回っていたのである。 時は流れ……シグルドの息子・セリス率いる解放軍が目前に迫る中、アルヴィスはユリウス打倒を彼らに託す事を決意し挙兵。 各地を解放する若き指揮官を目にし、かつてシグルドに仕えていた司祭パルマークに、 保管していた聖剣ティルフィングをセリスに渡すように指示(ただし自分が渡した事は決して口外しないよう命令した)。 自らはシグルドの祖国であるシアルフィの防衛につき、セリスに討たれる覚悟で戦場に立つのだった。 そして…… 小説版では上記の流れがアルヴィスの視点から描かれている。両親への愛憎、親族との権力闘争の末若くして公爵の地位を継ことになったこと、さらに士官学校を首席で卒業し近衛師団に任命されたことから野心家の性格になったと語られている。 合理的かつ知的だがやや人を見下す悪癖もしっかりとえがかれている。 母のことで負い目を感じていたクルトは後見としてアルヴィスを支援しており、本人も父より好いていたようだが、反面母が出ていく原因となったと憎んでもいたようでもある。このことがクルトの謀殺にどの程度関係しているかは定かではない。 ちなみにゲーム中でも語っていた「差別のない、誰もが住みやすい世界を作る」という望みは(過程はともかく)真実であり、クルト王子暗殺と犯人擦り付けはあくまでもその手段の地位簒奪に必須という関係上、感情とはあまり関係ないと思われる。 また、以下の裏設定の点から上記は概ね独自設定である。いずれにせよ父よりも好感度は高そうだが。 クルト王子はアルヴィスに負い目があるため裏からアルヴィスを支援していた。 アルヴィスはクルト王子が母が出ていく原因であることは知らない(クルト王子はゲーム中でも心配されているほど周囲に女っ気がなく、原因を知っていたらめぐりめぐってナーガ直系のディアドラは自分の異父兄妹である可能性が極めて高いと推測できる) 記憶喪失のディアドラの正体はアルヴィスとしても当然気にしていたし母のようにどこかに行くのでは…とも心配していた。そのために行方不明の妻がいるシグルドの前につい出してしまった。あれは煽りではなくただ不安だったが故の行為。その結果シグルドの妻だったことが明らかになり、バーハラの悲劇後に調査してディアドラの出生を知った。つまりここでクルト王子の件も分かったと思われる。 士官学校時代にロプト帝国が滅びたのは解放軍がまとまって周囲の国々を味方につけていったのに対し、帝国は戦力を分散させ連携が取れなかったためと分析している。 皮肉にも自らが建国し、後にロプト教団がのっとったグランベル帝国は同じように圧政の末に解放軍に周囲を囲まれる形で滅びることになった。 ユニット性能 ○ステータス(親世代) セイジ LV25 HP 60 力 15 魔力 30+10 技 27 速さ 30 幸運 0 守備 8+10 魔防 22+10 指揮官LV ★★★★★ スキル 連続(兵種)/見切り 所持品 ファラフレイム/リカバーリング/5000G ○ステータス(子世代) エンペラー LV30 HP 80 力 27 魔力 30+10 技 30 速さ 30 幸運 4 守備30+10 魔防 30+10 指揮官LV ★★★★★ スキル 大盾(兵種)/カリスマ(兵種)/見切り 所持品 ファラフレイム/銀の大剣/6000G 序章では同盟ユニットとして登場。 カンストしている魔力・技・速さをはじめ全体的にステータスが高く、一見しただけで只者ではないと分かる。 そしてプレイヤーが初めて目にする神器の圧倒的威力により、聖戦士が持つ力の強大さを見せつけてくれる。 速さが最大値の30とはいえ神器の重さで攻速は15程度だが、補正のおかげで守備が18と並の物理職程度には高い。 そして魔力補正込みで攻撃力は作中ダントツの70。 もし仲間として使えればフォルセティ持ちのレヴィンに次ぐ地雷として活躍しそうである。 この時は基本的に「シグルドに話しかけるように動く」AIで、範囲内にシグルドが居ない+攻撃範囲に雑魚がいた場合だけファラフレイムの炎で消し炭に変えていく。 ちなみにゲラルド(ボス)はこのAIの攻撃対象に入っておらず、やっつけてくれない……と思いきや、上手く誘導することでゲラルドにアルヴィスを攻撃させ、返り討ちにさせる方法でならゲラルドを瞬殺してくれる。ただし同盟軍なので残念ながら戦闘アニメーションは強制OFF。 なお、守備力18+回避70なので、雑魚のヴェルダン兵からも攻撃してくる。 基本的に避けまくるため攻撃が当たることはないと思われがちだが実は命中0ではなく、アルヴィスが道に立っていた時などはたまに攻撃が当たる。 ……が、アルヴィスはリカバーリングを持っているので、かすり傷が蓄積しようとダメージは残らない。 「なんだこのNPC強すぎない!?」となること請け合い。 敵として戦う際のクラスは専用クラスであるエンペラー。 闘技場でゼウスというエンペラーも登場するが、ストーリー上で戦うのはアルヴィスのみ。 ただしその戦闘能力はゼウスとは比較にならない程強大。 バロンの上位互換となる重歩兵系ユニットで、スキルに一定確率でダメージを無効にする「大盾」と周囲に支援効果をつける「カリスマ」を持つ。 カリスマは自分には効果がないが、彼の3マス以内にメティオ持ちファイアマージがおり、指揮官補正と合わせて命中、回避+50という強烈な補正がかかっている。 パルマークに会うにはメティオ持ちファイアマージの並ぶシアルフィの防衛線を通り抜けないといけないが、奥側に居る連中は非常に命中率が高く、危険。 さらに必殺・特殊剣を無効化する「見切り」を持つため、流星剣によるゴリ押しなども無効。 ちなみにセイジの頃に持っていた「連続」は兵種スキルだったため消えている。クラスチェンジしたら消えるスキルって…。 とはいえもし連続持ちだったら恐ろしい難敵になっていたのは違いないだろう。 装備による魔防補正等を抜きにすれば全ステータスがカンストしていてもHP満タンから即死するという理不尽極まりない存在となる。 能力値は力と運を除いた全てが最高値である「30」という脅威的な数値を誇る。 そこへさらに城の地形補正、指揮官LV5による補正、神器ファラフレイムによる補正が加わり、化け物じみた強さを発揮する。 ファラフレイムは神器魔法の中で一番重いのだが、速さ30によってそれすらも感じさせない。 回避率は素のステータスではそこまで高くはないのだが、前述した城の地形補正(+30)と指揮官LV5による補正(+40)で合わせて70上乗せされており、実際の回避率は100を超えている。 更に守備魔防共に40という鉄壁。 いくら追撃がとれるように工夫しても、生半可なキャラ、武器では城の自動回復で相殺されてしまう。しかも大盾で防がれることもある。 何より十分なHP・魔防を備えていなければファラフレイムの一撃で即死するため、手出しすら許されない。(*1) 頼みの綱のフォルセティすらも炎と相性が悪いために命中が下がってしまい(アルヴィスの速さのせいもあり60%がせいぜいである)逆にボコられる可能性が高い。 単純な地力ならラスボスであるユリウスを軽く凌ぐ能力を持ち、終章を前に最大の壁としてプレイヤーに立ちはだかる。 最適な攻略法としては、魔防に強力な補正がつくティルフィングを手に入れたセリス、 あるいはティルフィングには劣るものの魔防補正のあるミストルティンを持つアレスが鍵を握るだろう。 特にセリスはティルフィングの補正以外にも父親の因縁もあるため、一対一でぶつけてみるのもいいだろう。 この2人を軸に、支援効果や他の神器を総動員すれば、厳しいながらも勝機は見えてくるはず。 単発火力だけならロプトウスはおろかナーガをも凌ぐが、再攻撃や必殺攻撃は仕掛けて来ない為、 ファラフレイムの一撃さえ耐え凌げれば、まず事故死することはないだろう。 ちなみにセリスで止めを刺すとシグルドとディアドラの亡霊との会話イベントが発生する上に、 強力なアイテムであるライブの指輪も入手出来る。 物語的にもセリスで倒すのが王道。是非セリスの手で父の仇を討ってあげてほしいところ。 なおファラフレイム以外に銀の大剣を持っているが、護身用なのか権威の象徴なのか戦闘では大剣を振るうことはまずない。 (上述の通り魔防が40もあり、プレイヤー側の魔力はマジックリング込みでも最大で35が限界なので、サイレスの杖でファラフレイムを封じることも不可能) 実は指揮官補正や地形補正を含めれば、相性不利であるにも拘わらずナーガ相手でもそこそこやり合えるほどの強さがあるらしい。 また同じく相性不利なロプトウスが相手の場合、作中最高の魔法攻撃力も35まで低下し、魔防35のユリウス相手には理論上1ターンにつき1ダメージしか与えられないため、 作中でも台詞にしていた通り息子相手には本当に無力同然で逆らえるような立場ではないことがわかる。 もっとも、そのユリウスも1回の攻撃につき父親には僅か15ダメージ程しか与えられず、攻速も互角なので確実な追撃も期待出来ないわけだが。 アルヴィスについての評価 マンフロイからも指摘されたように、彼はロプトよりもファラの血を色濃く受け継いでおり、 暗黒神の復活など望んでおらず、やり口はどうであれ、彼は彼なりに純粋に世界の平和を願っていた。 ディアドラの事も政治的な意味合いなど関係なく、ただ1人の男として本気で愛していた。 彼もまたマンフロイ、ひいては暗黒神の血に翻弄された被害者でしかないのだ。 とはいえ、どんな理由があったとしても結局彼は無実だった者達(*2)を大勢死に追いやり、 結局理想とは正反対の圧政をしいたことで世の中を滅茶苦茶にした戦乱と混乱の元凶、ユグドラル大陸における史上最大レベルの戦犯である事に変わりはない。 ファンの間では「倒したくなかった敵」という声も聞かれるが、同時に「こいつを擁護する奴の気が知れない」「自分一人で何でもできると思い込んでる節があるし、それでああなる訳だからその辺り無能」という手厳しい声も非常に多い。 親世代での悪逆非道三昧な行いから全てを許せることは絶対に不可能であり、しかしロプトの迫害を収めるのは彼のマイラの血(=迫害対象の証)がなければ説得力のないものとなっていた。 何よりストーリー上で主人公の妻を寝取るわ主人公に散々汚名かぶせて殺すわ、その後の段取りに失敗して世の中をぐちゃぐちゃにするわとプレイヤー的には好印象を抱けない行動も多い。 絶対悪とは言い切れないどころか善悪の二元論で語るとどうしてもぶつかり合いが起きてしまい、相当に賛否が分かれるキャラ。おそらく意図的にどちらにもとれるように描写されているのだろう。 今作の要所で匂わされ裏のメインテーマと呼ばれる「近親相姦」を最も端的に描写されたキャラ。 アルヴィスはディアドラが妹だということと、シグルドは妹の夫だという事は当初は知らなかった。 それらに気付いたのはシグルドを殺した後の事だったという。 元々アルヴィスは幼い頃失踪した母親の帰りをずっと待っており、ディアドラに惹かれたのも母親の面影を感じたからだという。 しかしディアドラは時折自分ではない誰かを見つめているような気がしてならず、 ディアドラが母親のように突然自分を置き去りにして失踪するのではないかという不安に駆られていた。 そんな時にシグルドに失踪した妻がいるという噂を聞いて「もしかして?」という気持ちが沸き、5章の最後、ついシグルドの前にディアドラを連れ出すという行動をとってしまった。 一通りの事が済んだ後、アルヴィスはディアドラの過去を調べ始め、 精霊の森でシギュンが最期を遂げた事、ディアドラが自分と同じ母の子……自分の妹だという事を知ってしまったという。 アルヴィスは、シグルドが夫だったという事と自分と異父兄妹である事をディアドラが知れば悲しむのではないかと考え、 ひたすら真実を隠し通す事に努めていたと加賀氏は語っている。 最後に発売当時から許容派と非許容派でそれはそれは不毛な議論が繰り広げられていたことをここに併記し、アルヴィスを倒した際のシグルドのセリフをもって評を〆させていただく。 「セリスよ、人の悲しみを知れ 真実は一つだけではない それがわからなければ この戦いは無意味となろう……」 ファイアーエムブレム 覚醒 魔符の1つとして登場。クラスは賢者……ではなくソーサラー。 そのため、本編では見られない闇魔法を使うアルヴィスが見られる。 ファイアーエムブレム ヒーローズ 理想を成すために犠牲はつきものだ。たとえそれが、人の道を外れて見えたとしても……。 ソーシャルゲーム「ファイアーエムブレムヒーローズ」では、2017年10月開催の大英雄戦で実装。 召喚時期としてはシグルドを殺し、王国を乗っ取った後の様だ。 ホームでの台詞もタッチでの台詞も理想の実現や、そのために多くの命を犠牲にしたことなど自分の責務についての言及だが、 唯一撃退時のセリフでのみ「ディアドラ……ユリア……」と妻子の名前に言及している。息子の名前を呼ばないのは既にロプトに……。 固有武器にゲーム本編でも使用していた「ファラフレイム」、奥義に発動は遅いが広範囲にダメージを与える「爆火」、 Bスキルに毎ターンHPを回復するこちらも固有スキルの「リカバーリング」、Cスキルに魔防が自分より低い十字方向の敵の守備を下げる「守備の謀策」を持つ。 「ファラフレイム」は他の神器同様の攻撃力14と高水準。 かつ特殊効果として自分より魔防の低い十字方向の敵の能力値を下げる「謀策」系スキルの効果が仕込まれており、攻撃と魔防を同時に4下げるという強烈な物。 Cスキル、聖印と合わせれば、なんと全種類のデバフをばら撒く事が可能。 Bスキルのリカバーリングは「回復」の上位互換で、あちらが最速で2ターンに1度10回復に対し、こちらは毎ターン10回復。 アルヴィス自体は低防御なので壁としてはあまり期待出来ないが、 おあつらえ向きに空いているAスキルに、攻撃の度にHPを削る変わりに全能力をアップさせる「獅子奮迅」を継承してやればデメリットを低減することが出来る。 能力値的に高速アタッカーの傾向が強いため「獅子奮迅」自体との相性も非常に良い。 同じく空いている補助スキルに、指定した味方と自分のHPを入れ替える「相互援助」を継承すれば、 杖ユニットを組み込まずに高い回復量を見込めるサポーターとしても立ち回れる。戦禍の連戦等の長丁場のイベントでは攻撃と回復を1人で担えるため、重宝することだろう。 もしくは対象のHPを10回復し、自分のHPを10減少させる「献身」を継承すればリカバーリングによって事実上無傷で対象を回復させる事が出来る。 余談だが献身はディアドラが初期習得しているスキルでもあり、ディアドラから献身を継承させると原作の近親相姦の再現となってしまう。。。 (ディアドラは星5でしかでないため、フロリーナ等を使った方が無難である) 持久力を活かすために錬成武器に持ち替えてHPを補強してやるのも一つの手。 奥義の「爆火」は炎の神器の使い手であるアルヴィスのイメージとは合致しているが発動までが遅くユニット性能に合わない。 火力を追求するならば、魔防をダメージに加算する「氷蒼」「氷華」を継承してやるのも手。 イメージ的に合わないのが欠点と言えば欠点だが、実用性ならこちらに軍配があがる。 発動が速く、とりあえずどんなユニットでも使いやすい安定の「月虹」もオススメ。 弱点としては前述のとおり耐久面の脆さ。「謀策」を持つため魔防の能力値は高く、魔法相手なら苦手属性でも釣り出しも出来るが、HPと守備が低く物理相手は滅法苦手。 速さが高いため追撃は受けにくいものの、一撃が致命傷になるため配置には充分に気をつけよう。一度凌ぐ事が出来れば「リカバーリング」の回復でリカバリーが効きやすいのが救いか。 以上のように、スキル構成をしっかり組み立てれば、時にアタッカー、時にサポーターと局面によって様々な役割を持たせる事が出来る非常に器用なユニット。 このゲームであればシグルド、ディアドラとも支援が組めるため、もし迎えいれることが出来れば彼らとも仲よくしよう。 「私は王家の簒奪を謀った反逆者シグルドを殺した」とか相変わらず空気読まないこと言ってるけど。 2020年10月に追加された武器錬成により、『ファラフレイム』の効果がターン開始時、自身を中心とした縦3列と横3列の敵の攻撃、魔防が-5になり、さらに特殊錬成によって戦闘中に敵が受けている弱化の合計値を自身に加算するようになった。 これは息子であるサイアスの特殊錬成の『軍神の書』も同じ効果なので、さすがファラ直系の血といったところか。 しかし縦3列というのは......原作でのバーハラの悲劇でのシグルド軍を思い出す範囲である。 余談 シギュンが姿を消した時アルヴィスは7歳であり、その一年以内にディアドラが生まれているだろうから年齢差は7~8歳になる。第一部のディアドラは推定17か18歳なので初登場時のアルヴィスは24歳前後になる。 実はディアドラとの子供を儲ける前に、側近のアイーダとの間にもサイアスという子供が生まれており、トラキア776に登場している。 超有能な上、ファラの血を濃く受け継いでいるため、存命なら彼がファラフレイムを受け継ぐ事になる。 だが、親子関係は皆無であり認知されてない模様で、帝国軍ながら部下の1人として働いていた息子の未来は如何に……。 この親子関係もドラマを感じさせる。 サイアスの年齢は27歳をイメージしているとの事なので一部の時は約10歳。つまりアルヴィスが15歳前後の時の子供という事になる。 血は争えないというべきか、あまりある人間性の塊である彼の新たな一面に開いた口がしまらなかったファンもいるのではなかろうか。 もっとも、憎んでいた父親と同じことをやらかしていたことで、それまで彼に同情的だったファンが一斉に掌を返したとか ラスボスのユリウスさえも凌駕しかねない程の強大な戦闘能力を誇る彼ではあるが、これは元々はユリウスではなく彼がラスボスを務める予定だった名残である。 攻略本に記載されたスタッフインタビューによると、シナリオ上の本来のラストバトルはアルヴィス戦だったのだが、 色々あって急遽ユリウスがラスボスに変更になったとの事。 聖戦の系譜でツッコミどころとしてあげられる「ユリアを生存させたこと」についてだが、 これは元々「娘のユリアを人質に取る事でアルヴィスを牽制する」という目的が作中でしっかり語られている。 アニヲタか……よく来たな その勇気はほめてやろう だが、おまえも この項目を追記・修正する運命にある 親子ともども哀れなものよ…… △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 コメントログ 彼はなんだかドラクエ8のマルチェロと似た者同士に感じる -- (名無しさん) 2022-05-29 21 29 41 強い野心、独裁政治、大量虐殺、肉親にも冷淡とFE版ギレンといっていい -- (名無しさん) 2022-06-24 19 03 21 レプトールの3章クリア後の発言からすると、まさか自分にとっての義理の父親にあたるクルト王子暗殺(実行犯はバイロンに罪を擦り付けたランゴバルド)もアルヴィスの計画の一端だったとするなら自分の跡取りを抹消した人間に丸め込まれるヘイムの末裔アズムール国王とは老齢で病に苦しんでいたとはいえ一体… -- (名無しさん) 2022-07-29 13 13 46 10章で「セリスか…よく来たな その勇気はほめてやろう」とセリスと会話するシーン、名前で呼ぶのが不思議だったけどセリスも血の繋がりのない義理の息子(妻の前夫との子供)と考えるとまた違った情感が出てくるシーンだな…。 -- (名無しさん) 2022-07-29 21 28 00 ディアドラのとアレコレは置いといて、シグルド含め盟友として戦ってくれた人達を最悪の形で謀殺して、手に入れた権勢は世界を壊す為に使われる。有能なゴミカスという評価が相応しい。 -- (名無しさん) 2022-07-31 08 15 05 ランゴバルドやレプトールが万一シグルド撃破してしまった場合は今度はトラキア辺りに「味方につくならグランベルの資源なり土地なり取引材料を用意しよう(意訳)」とそそのかして、ランゴバルドやレプトールと共倒れさせる計画でも練っていたのかねぇ? -- (名無しさん) 2022-08-03 22 11 18 こいつの主張の「私は聖戦士ファラと、聖騎士マイラの末裔としてこの世界を変える」という野心というか目的は皮肉かどうかは知らないが同じロプトの血流れているとはいえ元を辿ればそのマイラの末裔だったというセリス(バルド直系、ヘイム傍系)が成し遂げるというか、新たに作り直すことになるとは -- (名無しさん) 2022-08-20 23 08 36 異母兄弟が山ほどいるので、確率的に低いとはいえそのあたりからなんかの間違いで聖痕が出る可能性があるのだよなあ -- (名無しさん) 2022-09-15 09 38 44 ゲーム始まっていた時点でほぼ詰んでいた(いくら足掻いても滅びの末路しか残されてなかった)シグルドとは対象的に、秀頼みたいに従兄弟に当たる秀次切腹の遠因になったように産まれてきたのがある意味では不幸だったのかもしれないねえ -- (名無しさん) 2022-11-18 13 23 41 この世界の歴史書では永遠にボロクソ書かれるんだろうな。「実は暗黒教団の幹部で人のよさそうな前半生は全部演技。後半生の世界を滅茶苦茶にしたのが本性」「人を殺したり苦しめたりするのが何より好きな人非人」みたいな感じでどんどん尾鰭背鰭が付いてって。自業自得だし自分がシグルドに押し付けようとしたことそのまんまだけど。 -- (名無しさん) 2023-02-21 13 54 51 出自のために覇道を歩まざるを得なくなり、なまじそれが可能な力を持って生まれてしまった人。それはそれとして私人としてアレな部分も多いので是非地獄に堕ちてもらいたい -- (名無しさん) 2023-03-31 01 42 29 ガーネフに唆されたハーディンと同じく、流石にマンフロイより悪いとは思えない。もっともそのマンフロイもガーネフと違って時代の被害者としての側面があるから一概に責めづらいが… -- (名無しさん) 2023-08-08 01 20 13 漫画だと父親と同じ過ちは犯さないと言いながらも結局は父親以上に愛そうとしていた女の心を傷つけた挙句に物扱いしてしまった皮肉。血は争えんということか・・・。 -- (名無しさん) 2023-09-03 00 44 18 報告にあった荒らしコメントを削除しました。 -- (名無しさん) 2023-12-30 20 00 23 ↑4 ED後にセリス(とヴェルトマー当主になるであろうアゼルの子)がどういう形で収めたのかは少し気にはなる。民間の評価とは別にごく一部の貴族の間だけで共有される真実が、的な形になるんだろうか。 -- (名無しさん) 2023-12-30 20 32 45 普通にやりすぎ 同情できない 殺されて当然って感じのキャラ -- (名無しさん) 2024-01-04 06 18 50 結局どうあがいても無駄ってのを体現したキャラでしょ。まあ全部引いてる血のせいなんだが -- (名無しさん) 2024-03-08 15 03 32 グランベル王家の生き残りであるディアドラの夫になる事でスムーズに簒奪に成功した訳だが、アルヴィスの当初の計画にはディアドラの存在は無かった筈。本来の計画ではどうやってグランベル王国を支配するつもりだったんだろうな -- (名無しさん) 2024-04-14 11 47 38 ↑親世代終盤で王がほとんどアルヴィスに任せてたから、その内全権譲ってもらうつもりだったんじゃない? -- (名無しさん) 2024-04-14 12 25 19 ↑近衛騎士団長ってだけでグランベルの支配者と認められるかは少し怪しいと思う。近衛騎士達は良いとしても宮廷貴族が素直にアルヴィスの言う事を聞くのか。グランベル王家の分家筋(ターラ公爵とか)の新王擁立に動かないとも限らない。アズムール王はヘイムの血筋が絶えるのを恐れていたから自分の子孫ではないにしてもヘイムの血筋が残るならまあ、と公爵の王位継承を認めた可能性がある。そうなった場合アルヴィスにとっては面倒な事になるがそれを阻止する方策は果たしてあったのか -- (名無しさん) 2024-04-15 23 29 42 聖戦関連の項目のコメントログ見てるとなんか色々な気持ちが沸き起こってくるよね -- (名無しさん) 2024-05-09 16 48 05 …バーハラの愚行は、ディアドラがシグルドの嫁である事を知った上での事だとしたら、どうしようもないゲス野朗だな。全くもって同情などで出来ん。もっと惨たらしくくたばってほしかったぜ -- (名無しさん) 2024-05-15 05 33 21 ただ、死ねって言っても作中最強なので簡単に死んでくれるような相手ではないんだよなぁ。ロプトウスとティルフィングが苦手なだけで。 -- (名無しさん) 2024-05-19 22 25 13 ↑14 それを防いで「差別をなくすという理想のために歩んだ者」「その過程で数多の人々と自分自身を苦しめた者」と正負両方の面を残してくのが、人の悲しみを知ったセリスの役目なんだろうな。 -- (名無しさん) 2024-06-03 01 44 05 24時間以内に反対意見がなければコメントフォームに警告文を追加します。 -- (名無しさん) 2024-06-07 08 07 12 ↑一応、なんて書く予定なの? -- (名無しさん) 2024-06-07 11 33 26 ↑「キャラクターや作品に対しての誹謗中傷等を~」 -- (名無しさん) 2024-06-07 12 10 37 個人的な見解ですが、アルヴィスというキャラクターそのものがプレイヤーのヘイトを集める事を想定して作られた上の性質である為、ヘイトスピーチが増えやすいというのはごく自然なものである事と、コメント欄自体が言葉尻こそ過激ではあっても談笑の域は脱してるとは言えないので、そこまで警告をする段階には行ってないように思います。 -- (名無しさん) 2024-06-07 13 13 41 ↑それだとコメント欄撤去のほうが良いのでは…あまりにも感情的で過激なコメントが目立つので -- (名無しさん) 2024-06-07 13 27 46 ↑それでもいいんじゃないか。本当かは怪しいけど、聖戦リメイクのリークあるし。今でダメなら本当にリメイクされたら主人公の仇なんだからこのレベルでは済まないだろう -- (名無しさん) 2024-06-07 13 41 25 名前 コメント すべてのコメントを見る