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前ページ次ページお前の使い魔 「さ……寒い。」 清々しい朝の光ではなく、肌寒さでわたしは目を覚ました。 ぼーっとしたまま目を横にやると、わたしの毛布を剥ぎ取って、ぐーすか寝こけるダメダメ使い魔の姿が目に入る。 「起きなさ……!!」 そこまで言って、わたしはこのダメ使い魔こと、ダネットを起こすのをためらい、昨日のことを思い出す。 「あー……まあ、今日ぐらいは勘弁してあげるか。で、でもこれはご主人様としての使い魔への計らいっていうだけだから、勘違いしちゃ駄目なのよ?」 別に誰に聞かれる訳でもないのに、言い訳をしてしまう。 うーむ。昨日のアレはご主人様としてかなりアレだったんではないだろうか? 威厳というものがゼロだった。 泣くにしても、もうちょっとこう目上の者の泣き方みたいなものがあったんではなかろうか? 「んー……まあいっか。それなりに感謝もしてるし。光栄に思いなさいよね?」 昨日、わたしが泣き止むまでずっと抱きしめてくれたダネットを見て、少しだけ笑う。 「むー……」 わたしの独り言がうるさかったのか、ダネットは僅かに眉間にしわを寄せて唸った。 「あ、起こしちゃったかしら。」 だけれど、また夢の世界に旅立ったようで、幸せそうな顔をして寝息をたて始める。 全く、ご主人様から毛布を剥ぎ取ってすやすやと……。どんな夢を見てるのかしらこの使い魔は。 「おまえー……」 あら寝言? しかもわたしの夢みたいね。 きっと優しいご主人様に感謝しまくってる夢ね。 「おまえー……ホタポタを胸に入れても乳でかにはかないませんよー……」 ほほう? 中々に楽しい夢を見てるみたいねえこのダメットは。というか、この寝言には作為すら感じるわ。実は起きてるんじゃないかしらこいつ。 それよりも、っと……確かこの辺に乗馬用の鞭が……お、あった。さぁて、使い魔の調教でもしましょうか。 「ああもう……まったくおまえはバカですねえ……」 「馬鹿はあんたよ!! このダメットおおおおおお!!!!!!」 少しだけ優しくなれたはずの朝は、一転してわたしの怒声から始まった。 「お前、私の頭を何だと思ってるんですか? 楽器みたいにポンポンと。」 「楽器なら綺麗な音が出るだけマシよマシ。ほら、さっさと起きる!!」 昨日までのことが悪夢だったかのように、平和な空気が部屋を満たす。 このままの日常が続けばいいなとちょっとだけ思う。ちょ、ちょっとよ? ほんのちょっぴりよ? 「うー……まだ眠いです。お前、ちょっと顔を洗いたいから水を用意してください。」 「そういうのは使い魔の仕事でしょうが!! 顔を洗いたいならわたしの分まで部屋に持ってきなさい!!」 「たかが顔を洗う為の水を部屋に持ってこさせるなんて、贅沢ですねお前は。親の顔が見たいっていうものです。」 「あんた喧嘩売ってるでしょ? 支払いは金貨でいいかしら?」 「随分と逞しくなりましたねお前。」 「おかげ様でね。はあ……全く……」 全く、この使い魔ときたら、普段はダメダメなのに、こういう時は変に気を使う。 そもそもダネットは、こうやって人をおちょくるタイプではない。どっちかというとおちょくられるタイプだ。 あの笑顔を見るに、多分、少しでも明るくして気分を変えようとしてるのだろう。ただ、問題は 「バレッバレなのよね。全くもう。」 「え? 何かいいましたかお前?」 「何でもないわよ。ほら、早くしないと朝食が食べれないどころか、授業に遅れるわ。」 部屋の外からは、他の生徒の声が聞こえ、窓からも何人かの生徒の声が聞こえる。 早い生徒は、もう食堂に行ってることだろう。わたしも急がないと。 「あれ? でもお前、今日はジュギョーお休みじゃないんですか?」 「あ……そうだったわ」 思い出した。 昨日、泣きながら部屋に戻るとき、騒ぎを聞きつけたミスタ・コルベールに、大事を取って今日は休みなさいと言われたんだった。 「でも、別に平気なんだけどね。」 そう言いながら、わたしは腕をくるくる回してみる。 「はー……お前って丈夫なんですねえ。それとも、こっちの療術師が凄いんですか?」 「何よそのリョージュツシって?」 「怪我を治してくれたりする術師のことです。知らないんですか?」 「知らないわよあんたの田舎の事情なんて。そのリョージュツシってダネットのいたとこの水のメイジの呼び方? でも、何で水のメイジが関係してくるのよ? わたしは怪我なんてしてないわよ?」 それを聞いたダネットは、少し考え込んだ後、笑って手を振りながら答えた。 「あ、何でもないです。お前は気にしないで下さい。ええ、お前は元気いっぱいです。さて! ご飯にしましょう!!」 「待ちなさい。」 「う……。お前? その目ちょっと怖いですよ?」 「なぁにを隠してるのダネットぉおお?」 「か、隠してなんかいません!! お前が凄い怪我をしていたなんてこと、これっぽっちもありません!! ありませんとも!!」 「なるほど。よーくわかったわ。それで? わたしが怪我をしてた理由は何なの?」 「け、怪我なんてしてません!! お前は元気いっぱいです!!」 「ダネット? わたしは真剣に聞いてるの。」 「……言えません。言いたくないです。」 それっきり、ダネットは頬を膨らませて口をつぐんでしまった。こうなると、原因は自分で考えるしかない。 「わたしが怪我をして、その理由をダネットは言いたくない……となると、理由はあの『黒い剣』かしら?」 「……私は黒い剣なんて知りません。知ったこっちゃないです。」 ダネットはそう答えながらも、表情を険しくした。 全く……素直というか、つくづく嘘が付けない使い魔だ。 「ダネット、もしかしてあんた、あの剣に関係してることを秘密にして、わたしを傷つけないようにとか考えてない?」 「…………。」 無言。つまり肯定。 ほんと世話の焼ける使い魔というか何と言うか……。 「あのねダネット。言っとくけど、わたしは誇り高きヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ?」 「そのルイなんとかがどうしたって言うんですか。」 わたしは、そっぽを向きながら、膨れっ面で返すダネットの顔を両手で掴んでこちらへ向けた。 「な、何をするんですか!! 離しなさい!!」 「黙りなさい。あのねダネット? この名前はわたしが貴族であるという証。そして、貴族というのは」 「木が頭からもしゃーっと」 「違うわよ! いいから聞きなさい!! あのね、貴族っていうのは背を向けないの。それがどんなことであっても。例え、自分が傷つくようなことでもね。」 しかし、ダネットは納得がいかないようで、まだ顔をしかめている。 仕方ない。恥ずかしいけど言ってやろう。 「それにね。もし、もしもよ? その……わたしが傷ついちゃった時はその……」 「その何ですか?」 ああもう!! ちょっとは察しなさいよ馬鹿!! アホ使い魔!! ダメット!! でも、それがダネットか。はぁ……。 「わたしが傷ついたり危ないときは、あんたが守るんでしょ!? 違う!? あんた言ったわよね? 『お前の使い魔』だって。だったらご主人様を守りなさい!! わかった!?」 わたしは一気に言った後、赤くなった顔を見られないようにダネットから顔を背けた。 横目でダネットをちらっと見ると、わたしの言ったことに呆気に取られたようで、口をぽかんと開けている。実にアホっぽい。 「そっか……そうですよね。」 「そうよ。わかったんならさっさと話しなさい。」 ようやく話す気になったのか、ダネットは姿勢と表情を正すと、真剣な口調で話し始めた。 「まず怪我のことですが、お前はあの剣を使って石の化け物を倒したっていうことは覚えてますか?」 「石の化け物ってゴーレムのことね。うん、覚えてるわ。」 ダネットはわたしの返事に頷くと、言葉を続けた。 「私はその時、気絶していて見ていなかったんですが、乳でかやタバサに聞きましたし、お前も覚えてるなら間違いないでしょう。じゃあ、続けて聞きます。お前は、石の塊を斬りつけましたが、それで手は平気だったと思いますか?」 なるほど、そういう事か。 「無事じゃすまないでしょうね。」 「ええそうです。お前の手の骨にはヒビが入っていて、他にも足の骨やら肩や腰まで凄い状態だったそうです。」 「う……想像したらなんか痛くなってきた。」 「おまけに、手足の筋肉とかはもう凄まじかったそうです。ぐっちゃぐちゃのハンバーグって感じだったそうです。」 「ストップ。大怪我をしてたことはわかったわ。じゃあついでに聞くわね。あの剣は一体なんなの? あれを使ったせいでわたしはああなって、凄い力でゴーレムを倒した。そして……あんた達を傷つけようとした。」 ついでと言いつつも、実際はこれが本題だ。 あの剣を持っていた時の最後の記憶。ダネットがわたしを説得して止めたときのこと。 ダネットはあの剣のことを知っている素振りを見せた。だからこそわたしを止められた。 多分、いや絶対にダネットとあの剣には何か関係がある。 「……わかりました、教えます。あの剣というのは」ぐぅ 「はい? なに今の音?」 何かダネットの言葉の後に凄い音がした気がする。 「い、今のは気にしないで下さい!!」ぐきゅるる~ 「気にしないでって、無理言わないでよ。」 慌ててお腹を押さえるダネットを見て見当が付いた。 「あんた、お腹空いてるんでしょ? 取り合えず朝食を食べに行きましょうか。」 「うう……真面目な話の時にすいません。」ぐきゅるるるる~ 「気にしないの。わたしもお腹が空いてたし、ちょうどいいわよ。ほら、先に顔を洗ってから食堂に行くわよ。」 未だに恥ずかしそうに顔をしかめるダネットの手を取り、顔を洗いに向かう。 顔を洗い、食堂に向かう途中、空腹の為なのか先ほどのお腹の音のせいか、今も顔をしかめるダネットをふと見る。 「何ですかお前? 私の顔に何か付いてますか?」 「べっつにー」 「あ! お前笑いましたね!! 言いなさい! 私の顔に何を付けたんですか!! 言わないと首根っこへし折りますよ!!」 「ほらほら、急がないと朝食なくなっちゃうわよ?」 「ま、待ちなさい!! 教えなさい!!」 朝の学院を走りながらわたしは思った。こんな日常はきっとずっと続くのだと。 「はー、あんたもダネットもよく食べるわね。タバサも良く食べるけど、負けてないんじゃない?」 「三日も寝てたんだから、お腹空いてるのよ。仕方ないじゃない。」 「太る。」 「タバサ、何か言った?」 「言ってない。」 「ふぉーむむふぁふふぁふふぉ!!」 「ダネット! 口に食べ物を詰めながら喋らないで!! ああもう! こぼれちゃってるじゃない!!」 わたしとダネットは、食堂で会ったキュルケとタバサと一緒に、賑やかな朝食を取っていた。 本来、席は決まっているのだが、キュルケが変に気を使って一緒の席で食事をしようということになったのだ。 「なんか逆に疲れるような気がするのは気のせいかしら。」 「ふぉふ?」 「だから食べ物を口に入れたまま喋るな!!」 朝にしては騒がしく食事を終え、授業の時間が近づいてきた。 わたしは休みだが、キュルケとタバサは通常通り授業がある為、席を立って移動しようとしのだが、そこでふとキュルケが立ち止まり、わたしの方を見て言った。 「ルイズ、あんた達がさっき部屋で話してた事だけど。」 「あ、あんた聞いてたの!?」 「聞こえたのよ。朝からあんなに騒いでたら誰だって気になるじゃない。」 わたしは鞭を手にダネットを追い掛け回したことを思い出し、頭を抱えた。 「それでね、今日の授業が終わった後に、あたしとタバサもダネットの話を聞いていいかしら?」 「何でよ? あんた達には関係な」 「ある。」 わたしの言葉を遮り、タバサが言った。 「タバサの言う通りよ。あんたもダネットもあたしもタバサも、アレのせいで危険な目に会った。無関係じゃないわ。なら、今後のことも考えると、あたし達にも知る権利ってのはあるんじゃない?」 言われて見るとそんな気もしてくる。更に、原因はわたしなので強くも言えない。 「ダネット、どうする?」 わたしに拒否権は無いと悟り、ダネットに決定権を渡す。 話をするダネットが拒否するなら、流石に二人も諦めるかもしれない。 「……関わったら危険かもしれないですよ?」 「危険は承知。」 ダネットの問いにタバサが短く答える。 その答えを聞いたダネットは、珍しく考え込んだ後に言った。 「わかりました。乳でかとタバサにも教えます。」 ダネットの返事を聞き、満足したのかキュルケは笑うと、タバサと二人で食堂を後にし、残るはわたしとダネットの二人だけになった時、わたしはダネットに聞いてみた。 「よく話す気になったわね。」 「…………。」 わたしの問いに、ダネットは無言で悔しそうに唇を噛む。 多分、二人を巻き込んでしまうことが悔しかったんだと思う。なのに二人に話そうと決めた。つまり、それほどあの剣が危険だということ。そして、ダネットだけでは、ああなったわたしをまた止められるとは限らないこと。 しかし、そこでわたしは一つ疑問が浮かんだ。 「あれ? でもあの剣を使わなかったら、もう大丈夫なんじゃないの?」 しかし、ダネットはわたしの言葉を聞いてうつむき、呟く様に言った。 「……後で話します。」 その後、ダネットとわたしは無言で食堂を後にし、ダネットは昼食の時も部屋から出る事無く考え事をしていた。 わたしがシエスタに言って部屋に持ってこさせた食事も、いつもの半分も食べずに残した。 それから時間は流れ、授業の終わりの合図が鳴る。 そんな時、部屋のドアがコンコンとノックされ、わたしはキュルケ達が急いで来たのかと思い、ダネットにドアを開けさせた。 ダネットがドアを開け、来訪者の姿を見ると、体をピクンと震わせて一点を見つめる。 「ミスタ・コルベールに……学院長?」 来訪者は顔を強張らせたミスタ・コルベールと、難しい顔をした学院長であるオールド・オスマンの二人。 わたしは二人の姿を確かめた後、動かないダネットに疑問を持ち、今も動かない視線の先を見た。 「学院長……それは……。」 視線の先にあったのは、学院長が手にしている、『破壊の剣』の名を持つ錆びの浮いた長剣だった。 前ページ次ページお前の使い魔
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第五話 浅倉が広場を後にした、ちょうどその頃。 本塔最上階の学院長室では、魔法によって映し出された広場の光景に、二人の人物が見入っていた。 「オスマン殿、やはり彼は……」 「……概ね間違いはないじゃろう。」 一人は、サモン・サーヴァントの際にルイズたちの監督をしていた、禿げた頭が特徴のコルベールという男。 もう一人、コルベールにオスマンと呼ばれたその人物は、白い髪に白い口髭の年老いた男。 彼こそが、この学院の学院長である。 そんな二人が、なぜこんなことをしているのか。 それは、ギーシュと浅倉が決闘を始める少し前。 コルベールが慌てて学院長室に入ってきたのが始まりである。 コルベールが手にしていたのは、珍しい形のルーンが描かれた一枚のスケッチ。 サモン・サーヴァントの際に騒動を起こした、ルイズの使い魔の平民のものであるという。 コルベールはそれを、伝説の『ガンダールヴ』のものと一致した、と言った。 「なるほど……。じゃが、たまたま似た形のルーンが現れただけかもしれんぞ?」 「しかし、オスマン殿……」 コルベールが言いかけた時、部屋のドアがノックされた。 「失礼します、オールド・オスマン」 入ってきたのは、オスマンの秘書であるミス・ロングビルであった。 「なんじゃね?」 「ヴェストリの広場にて、生徒が決闘をしているようです。」 オスマンが呆れた顔をして、やれやれと呟く。 「して、誰が決闘をしておるんじゃ?」 「一人は、我が校の生徒、ギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」 「もう一人は?」 「ミス・ヴァリエールの喚んだ、平民です」 その言葉に、オスマンとコルベールは顔を見合わせる。 「噂をすれば、ですな。」 「全くじゃ。……丁度いい。様子を見てみるかの。」 そう言うとオスマンは魔法を唱え、広場を映し出した四角い画面を眼前に出現させた。 「駆けつけた教師たちが、『眠りの鐘』使用の許可を要求しておりますが……」 尋ねてきたロングビルに、オスマンは映像を見たまま、振り返らずに答えた。 「平民相手なら使わずとも十分じゃろ。そう伝えといてくれ」 「……分かりました」 失礼します、と一礼すると、ロングビルは映像に夢中な二人を残し、部屋を出ていったのだった。 そして、現在に至る。 決闘の結果は圧倒的なものであった。 様々な武器を自在に操り、瞬く間に敵を蹴散らして退けた、あの平民。 これなら、彼が『ガンダールヴ』だというのも頷ける。 (それにしても……) 窓際に移動し、オスマンは考える あの平民が持っていた、紫色の奇妙な箱。 色や描かれた模様は違えども、この学院に存在する『破滅の箱』と形状が酷似している。 つい最近手に入れた、手にした者は呪われるという秘宝…… 彼なら、何か知っているかもしれない。 (あとで尋ねてみる必要がありそうじゃのう……) 「ところでオスマン殿。この事を王室に報告しないのですか?」 オスマンの思考が一段落した時、コルベールが思い出したように尋ねた。 「なに、あんなやつらにわざわざ報告せんでいい。そんなことをしたら、彼の身が心配じゃ」 「それもそうですな」 コルベールはそう応えると、そろそろ授業がありますので、と言い部屋を出ていった。 (最近は奇妙な出来事が多いのう……) そう考えながら、オスマンは白髭を撫でながら、窓の外に広がる空を見上げた。 晴れ渡った青空の中に、幾ばくかの薄雲が漂っていた。 その日の夜。 「ねえ、昼間のあの変な格好、何? あ。あと、あのでっかい蛇! 教えなさいよ!」 ルイズは自室で浅倉を質問攻めにしていた。 「うるさい奴だ。俺はもう寝る」 そう言うと、浅倉は部屋の隅で寝転がった。 両手を頭にあて、すぐに目を閉じる。 「ち、ちょっと待ってよ! せめてあんたの名前くらい教えなさい! それぐらいならいいでしょ!?」 「浅倉だ」 目を開けずに、浅倉は答えた。 「アサクラ? アサクラね。それと……」 「じゃあな」 「あああ待って! 最後に一つだけ!」 浅倉が目を開け、ルイズを睨む。 「しつこい奴だ。そんなに俺をイライラさせたいのか?」 その形相に、ルイズは思わずひっ、と声をあげた。 「ほ、本当に最後よ! ……あんた、私のことどう思ってる?」 真剣な目付きでルイズが問う。 浅倉はしばらく天井を見て考えると、目だけをルイズの方に向け、答えた。 「この生活は悪くない」 「え? それってどういう……」 ルイズが言い終える前に、浅倉は再び目を閉じた。 (結局、よく分からなかったわ……) 満足のいく答えを得られなかったルイズは、両手で頬杖をつき、ふぅ、とため息を吐いた。 もう一度、寝ている浅倉を見る。 「でも、私と一緒にいるのは嫌じゃないみたいだし……大丈夫、かな」 そう自分を納得させるように呟くと、ルイズは浅倉から視線をずらし、窓の方へと目をやった。 雲に覆われた二つの月が、その隙間から弱々しい光を放っていた。 所変わって、部屋の片隅に大きな置き鏡がある、学院のとある一室。 その鏡の中に広がる虚像の世界に、銀色の鏡のような空間が出現していた。 それは少しずつ大きくなっていき、しばらくすると、人型の白い物体を四つばかり吐き出した。 吐き出すと同時に、謎の空間は跡形もなく消滅した。 二メイルほどもあるその四つの物体は、しばらくすると不気味な呻き声をあげながら、ふらふらと立ち上がった。 鈍重な動きで顔を動かし辺りを見回すと、おぼつかない足取りでどこかへと去っていく。 後には、何事もなかったかのように部屋の様子を映し出す、その大きな置き鏡があるのみであった。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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何時もの夢。 何時か見た戦場の光景。 何時か嗅いだ血と硝煙の臭い。 何時かの断末魔の叫び。 どれもこれも、俺が銃で作った物だ。 「=%&¥%&‘()?」 その見慣れていた世界に、見慣れないピンクの人影が現れた。 ―殺セ ―殺セ殺セ ―殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ 彼女は何か叫んでいる様だが、耳鳴りの所為で全然分からない。 何を言っているのか近付いて尋ねたいが、体が自分の意志で動かせない。 機械仕掛けの人形の様に俺は少女に銃の狙いを付け……引き金を引いた。 【青い鬼火の使い魔】『Cold Maid』 普段通り目覚めは最悪だ。 しかも、今日は寒気までする。 何かこう……腰から膝の辺りまでがスースーしている気がする。 「お目覚めになりました? ああ、此処は魔法学園の医務室です。 使い魔さんが突然倒れられたので、皆さんが運び込まれたんです。」 目を開けると、黒髪のメイドさんがいた。 片手には尿瓶を持っている。 もう一方の手は、俺のズボンとパンツをずり下ろしている。 そして、淡々と状況を説明している。 検査とかで下着姿を見られた事はあるけど、それでもこれは恥ずかしい。 そもそも、催してないし。 一先ず何としてもズボンを引き上げようとする。 流石に話し掛ける時にこんな格好はイヤだ。 「ねぇ、メイド!! わたしの使い魔、まだ眼を……覚まさな……いの……?」 丁度パンツを引っ張り上げた所で、あのピンク髪の女の子が部屋に入って来た。 顔が真っ赤だけど、俺の方も顔の温度が上がってるのが分かる。 そんなにマジマジと見ないで下さい。 そう言えば、何時の間にか俺にも女の子は理解出来る言葉で喋っている。 俺の方をちらちら見て『一本ダタラ』とか変な事を言っているけど、 一先ずさっきまでの『理解以前に聞く事自体が不可能な言葉』とは違う。 俺が帝国の人間と分かったから言葉も切り替えたのかと思ったけど、 さっきのは良く考えてみたら俺じゃ無くてメイドさんに話し掛けていたみたいだし。 「ああ、ミス・ヴァリエール。 丁度良かった。 代わりに採尿して下さいます? やっぱり使い魔さんにはご主人様の方が。」 『は?』 尿瓶を渡されて固まる女の子と淡々と使い方を説明するメイドさん。 あのメイドさんは多分、 キスの手伝いとか言って人の頭をグリグリと押したりした事とかがあるに違いない。 正直、リアクションに困る。 呆気に取られた俺は、メイドさんがお辞儀をして出て行くのを止められなかった。 女の子に至っては、尿瓶を片手に視線を虚空を彷徨わせてる。 オーランドですが、医務室の雰囲気が最悪です。 See You Next Time!
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影の使い魔 Shadow Familiars 出典 Secrets of Magic 228ページ 使い魔は、共生関係の中で自分自身を人間に結びつける。シャドウキャスターのウィッチ、特に夜の守護者を持つものは、影の力に精通している可能性が最も高い。他にも、影の血脈を持つソーサラーや闇の領域のクレリックなど、影の使い魔を持つものは他にもいる。 影の使い魔 Shadow Familiar アンコモン 影 出典 Secrets of Magic 229ページ 使用権 シャドウキャスターであること 必要能力数 7 与えられる能力 暗視、操作能力、主人形態、抵抗([氷雪]および[負のエネルギー])、影歩き 術者や儀式執行者の中には、使い魔を招来して拘束するのではなく、自分の影を使い魔に変えるものもいる。これらの術者は、その場所の光のレベルに関係なく影がないことや、身に着けている衣類や宝石が奇妙に落ち着いて見えることで識別できる。用心深い人や迷信深い人にヴァンパイアやその他のアンデッドと間違われることもあるが、それでもこれらの術者は、自分の影と使い魔の固有な能力とを交換する取引に価値を見出している。 影の使い魔は特定の使い魔の一種である。全てのシャドウキャスターはこの使い魔への使用権を持つ。影の使い魔を得るための適切な魔法を学ぶ別の経路もある。 影化 [one-action] Become Shadow 影 変成術 出典 Secrets of Magic 229ページ 影の使い魔は、その体をかろうじて形を持った影に変える。使い魔は君のレベルの半分に等しい全てのダメージ([力場]を除く)に対する抵抗を得るが、肉体を必要とする全てのアクションを使用できなくなる。加えて、使い魔は幅2インチまでの隙間に入り込むことができ、“無理矢理入り込む”により幅1インチまでの隙間に侵入できる。使い魔はこのアクションをもう一度行うことで、通常の姿に戻ることができる。 このアクションは君の魔法系統に対応する特性(君が術者でない場合は伝承)を持つ。 影の中のすり足 Slink In Shadows 出典 Secrets of Magic 229ページ 影の使い魔はクリーチャーあるいは物体の影にいるときに“隠れ身”を行ったり“忍び足”を終了したりすることができる。 影盗み [one-action] Steal Shadow 死霊術 出典 Secrets of Magic 229ページ 頻度 10分に1回;効果 影の使い魔は君の呪文攻撃ロール修正値に等しい攻撃ロール修正値で近接攻撃を1回行う。この“打撃”が成功したなら、目標は虚弱状態1となり、影が消えてしまう。24時間後、この虚弱状態は終了し、影は元に戻る。虚弱状態を取り除く効果は影も同様に回復させる。 このアクションは君の魔法体系に対応する特性を持つ。君が術者でない場合、伝承を持つ。 使い魔能力 闇喰い Darkeater 出典 Secrets of Magic 229ページ 能力種別 使い魔 君の使い魔は影の中で自然回復する。薄暗い光あるいは暗闇の中で連続した10分を過ごした後、君の使い魔はヒット・ポイントを君のレベルの半分だけ回復する。この能力は影の使い魔専用だ。しかし、シャドウキャスターはいかなる種類の使い魔にもこの能力を選択できる。 影歩き Shadow Step 出典 Secrets of Magic 229ページ 能力種別 使い魔 この能力は影の使い魔専用である。しかし、シャドウキャスターはいかなる種類の使い魔にもこの能力を選択できる。君の使い魔は“影のステップ”アクションを得る。君がこの使い魔能力を使い魔に選択させるには、君は7レベル以上でなければならない。 “影歩き” [one-action](召喚術、影、瞬間移動) 必要条件 使い魔が薄暗い光あるいは暗闇の中にいる。効果 使い魔は自身を30フィートまで瞬間移動させる。到着地点は薄暗い光あるいは暗闇の中でなければならず、使い魔から視線と効果線が通っていなければならない。このアクションは君の魔法体系に対応する特性を持つ。君が術者でない場合、伝承を持つ。
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キュルケは褒められた。もんのすんごく褒められた。 三十メイルもあるゴーレム相手に一対一で圧勝するっていうくらいだから褒められるに決まってる。 褒められるだけじゃなく、使い魔に関していろいろと質問攻めにされたらしい。自慢してた。 「シュヴァリエ」の爵位ももらえるということで、これ以上ないくらいの有頂天だった。ふんっ。 タバサも褒められた。こっちもかなり褒められた。 各地を賑わせた大泥棒・土くれのフーケを捕まえればそりゃ褒められるわよ。 「シュヴァリエ」の爵位はすでに持っているとのことで、精霊勲章が授与されるらしい。 すでにシュヴァリエだったっていうのはスゴイわね。人は見かけによらないわ。 モンモンランシーもちょっとだけ褒められた。ヨーヨーマッがマリコルヌを助けたからね。 助ける以外の意図があった気もするけど、それはこの際見なかったことにするらしい。 ギーシュはちょっとだけ評価が上がった。 大釜を担いでいる状況下で自分の安全よりも先にモンモランシーを助けた態度が評価されたらしい。 話を聞いて、たらしっぷりを嫌っていた連中もちょっとは見直したみたい。 しかしあの大釜、どういう原理で動いてるのかしら。自力じゃ絶対移動できないと思う。 ミキタカとぺティは褒められたわけじゃないけど感心された。 時間を置いていてさえ、後片付けの使用人達が顔をしかめる激臭の中で平然としていた二人はたしかにびっくりね。 で、その他。 「あのねグェス。マリコルヌが褒められないってのはよく分かるわ。だって彼足手まといだったもの」 「そうよねー、リアルで腰が抜けた人なんて初めて見ちゃった」 「問題はね、腰が抜ける等のアクシデントに見舞われなかったにも関わらず何もしなかった人だと思うの」 フーケの杖を奪ったのはたぶんグェスなんでしょう。 まさか本当に失くしたわけないだろうし、グェス以外の人がとったなら名乗り出てるはずだし。 何より得意げに見せびらかしていたことがいい証拠よ。 これはこれで立派な殊勲だと思う。褒められるべきことだと思う。 二十メイルは離れていた距離で、おそらくは肌身離さず携えていた杖を奪い取るなんて。 それも大泥棒・土くれのフーケから! 単なるこそ泥には絶対できることじゃない。でもね……。 もしここで「ジャンジャジャーン! 実はフーケの杖を奪い取ったのはうちのグェスでした!」なんて発表しようものならどうなることか。 「そうか、ルイズの使い魔は物を盗むのが得意なのね」って思う人がいるでしょ。 そうなれば「あれ? そういえば最近ちょっとした物がなくなったりしたけど」と考えることもあるはず。 で、「ひょっとしてルイズの使い魔が盗んでたんじゃ……」となって、 「それじゃ私の金貨も」「ひょっとして俺の剣もじゃないか」ってなる。 つまり手柄を誇ると同時に罪科までついてきてしまうという形になるの。意味無いじゃない。 誰にも知られない手柄なんて、何もしなかったのと変わらないわ。 誰が喋ったのか、「ルイズが人質になって足を引っ張っていた」なんて噂まで広まってるし。 「わたしよりマリコルヌの方がよっぽど足手まといだったっていうのよ」 「あまり他人の悪口言うもんじゃないわ。せっかくの可愛いドレスが台無しよ」 グェスに諭されるし。もうわたしは人として駄目なのかもしれないわね。 「ほら、できた。きれいなルイチュかわいいルイチュ。頬ずりしたくなっちゃうくらいよ」 慣れない化粧はグェスに任せた。おかげで鏡の中のわたしはいつも以上に美少女してる。 胸元が開いているせいで貧弱なバストサイズをアピールし、バレッタでまとめた髪は鬱陶しい。 白い手袋なんてして、汚れたりしないかしら。 「うーん。さすがに首輪はアウトよね。このネックレスなんてどうだろ」 「……ねえグェス、本当にきれい?」 「もちろんキレイよ、あたしのルイチュ」 「誰があんたのものですって?」 「もう怖い顔しないでよ。ジョークよジョーク。そんなにムキにならないでさー」 調子に乗りやすいんだから。謙虚な主とは大違いね。 「それじゃ大人しく待ってなさいよ。人の物に手を出したりしちゃ駄目だからね」 「わかってるってばァ」 「あとね」 「何よ」 「ありがとう、グェス」 どんな顔をされるか見たくなかったから後ろを振り返らずに控え室を出た。 調子に乗られるのは癪だけど、杖を盗ってくれなかったら命が無かったもん。 逃げるしか能が無いと思っていたグェスが、わたしの数百倍は役に立ってくれた。数千倍、数万倍かもしれない……はぁ。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール嬢のおなーりー!」 おなーりー……ってなんとなく卑猥な響き。 でも今のわたしは犬以下のモグラ。それが相応しい女よ。 キュルケはホール全体の中心だ。普段から人気のある子だけど、今日はさらに特別だもんね。 高い鼻は一層高くなり、自負と自信が彼女を包み込んでいる。本当にわたしとは対極的な存在ね。 嫉妬にかられた誰かがカマイタチでも使って服も下着も切り裂いてくれないかしら。 スカッとするし眼福もあるしで二度美味しい……友達の不幸まで願うようになったらおしまいね。今のは無かったことにしましょう。 キュルケがこちらに手を振っていたので舌を出してやったらおっぱいを揺らされた。くっ。 キュルケの取り巻き達がわたしにチラッと目をくれて、すぐに逸らした。ふん。 ダンスを申し込んでくる男の子も何人かいたけど、皆わたしに同情してくれているのね。ありがとう、気持ちだけはいただいておくわ。 「ヨォールイズ。メッチャクッチャキレェーだなァーッ」 そう言ってくれるのはあなただけよドラゴンズ・ドリーム。 あなたはわたしより先にご主人様見てあげてね。詰め込みすぎて頬が三倍に膨らんでいるようだから。 例のごとく、ミキタカはシエスタと話し込んでいるみたい。 ミキタカと話す分には料理長も文句を言わないし、シエスタもやりたい放題ね。強くなったわ……本当に。 モンモランシーは大釜とダンスを踊っていた。さすがに恥ずかしそうだけど、相手の大釜は楽しそうに踊っている。 一年生らしき女の子が何も見ていない目で大釜を見ているけど……ギーシュの浮気相手かな。 彼女達の未来に幸あれかし。わたしにはそれくらいしか言うことがない。 モンモランシーの使い魔はメイドに混じって給仕をしてた。 ゴーレムに踏まれて以来、妙に動きが良くなった気がする。 頭の中の蛙も潰れた、なんて意味の通らないことを言っていたけど何なの? なんだかんだでみんな楽しそう。大切な人と楽しみを分かち合っている。楽しめないのはわたしだけ。 ホールには居場所が無くて、わたしはバルコニー、通称さびしんぼゾーンに出た。こういう気分の時はここでやり過ごすに限るわね。 バルコニーの枠で頬杖をついてため息。何かあるたび思い知らされるのよね。わたしって本当に役立たずだ。 誰かの役に立ちたいとか、誰かに褒められたいとか、誰かと仲良くなりたいとか、何一つ上手くいかない。 本当はもっと違った気がするのよ。ギーシュと決闘してこてんぱんにするとか、フーケをやっつけて皆に一目置かれるとか、キュルケに迫られるとか。 シエスタと一緒にお風呂に入るとか、タバサに舌入れてキスされるなんてのもあるわね。 全部妄想なんだけどさ。現実じゃ何一ついいことないもの。 かといってミキタカほど妄想方面に突き抜けることもできないわたしは中途半端一直線。 中途半端なりになんとかピリッとした解決策を望んでいるんだけど……むう。 お酒でも飲んで憂さを晴らしたいけど、わたしって舐めただけでもダウンしちゃうからなぁ。 もう少し強かった気もするんだけど、それもまた妄想なんでしょうよ。 「あ……」 一人たそがれてるのに、空気を読まずベランダへ踏み込んでくる気配を感じて振り向いた。 そう、空気が読めない人といえばこの人をおいて他に無いわよね。 「マリコルヌ……」 「ちょっと、いいかな」 よくないって言っても聞きやしないんでしょうね。はいはい。 「何? なるだけ簡潔に済ませてもらえる? わたしもうちょっと一人でいたいの」 「うん……あのさ」 何か躊躇しているというか……言いにくいことでも言おうとしてる? 不可解なその態度は、わたしに一つの事実を思い出させた。そうだ、わたしはこいつに弱みを握られていた。 これはアレかしらね。「秘密を暴露されたくなければ言うことを聞け」ってやつ。みなさーん、ここに犯罪者がいますよー。 「ちょっと……その、謝りたいことがあって」 謝りたい? こいつに謝られるようなことって何かあったっけ? 「フーケを捕まえた時、ぼく一人だけ何もできなかっただろ」 何もできなかったっていう自覚はあったわけね。 「それで、君を危険な目に合わせちゃっただろ」 申し訳なく思ってたってわけか。意外と馬鹿真面目なところがあるのねぇ。 「別にあなたが謝る必要はないわ」 「うん……」 わたしとしてはさっさと向こうへ行ってほしいんだけど、マリコルヌは動こうとしない。 「まだ何かあるの?」 「あの……さ。もし次があったら」 「次があったら困るでしょ」 「もしだよもし。もしも、次があったらって話だよ。もし次があったら腰が抜けても魔法を使うよ」 うーん……本人は決意表明しましたってところなんでしょうけど……微妙ね。 正装で決めてるんだけど衣装に着られている印象が拭いきれない。言うなれば大人の格好を真似してみた子供。 そんなマリコルヌが腰が抜けても魔法を使うって失笑ものじゃない? わたしは笑わないけど。 「決意は買うけど、腰を抜かさずに魔法を使った方がいいんじゃない?」 「……それも頑張るよ」 そっちを頑張りなさいよ。あんた優先順位間違えてるんじゃないの。 優先順位……優先順位か。ふーむ。なるほど。これはこうしてあれがあれで。 そうなるわよね。つまりわたしは……ちょっと面白いこと思いついちゃったかもしれない。 プロジェクト名は……使える女ルイズ計画とでもしておきますか。 「じゃあねルイズ。君をパートナーにしたい人も少なくないみたいだから早く戻ってきた方がいいよ」 「余計なお世話よマリコルヌ。ところで……」 どうしようかな……でもここで聞いておくべきよね。聞かないままでいるってのは精神衛生上良くないもの。 「わたしの方からも聞きたいことがあるんだけど……いい?」 「何だい?」 「あのね、ほら、一昨日の夜……わたしが学術的な好奇心からキュルケの本を読んでたじゃない?」 「うん」 「それで……あなた、その事誰にも言ってないわよね?」 「そうだね」 「どうして?」 わたしの知る限り、最もわたしを馬鹿にしていたのがこのマリコルヌだった。 ゼロと呼んだ回数はキュルケよりも多かったんじゃないかと思う。 キュルケはかわいがるって感じだけど、こいつの場合は笑い者にしてやろうって感じなのよね。 言われるたびに風邪っぴきと言い返して、罵りあいに発展、先生に怒られたってことがどれだけあったかしら。 「あなたはゼロのルイズを馬鹿にするのが好きなんでしょう? だったら皆に触れ回るべきだったんじゃないの? 学術的好奇心からとはいえ、淑女が読む本ではないもの」 「……ぼくはあまり魔法が得意じゃない」 わたしの前で魔法が得意じゃない宣言とは……喧嘩売ってる? 「魔法を使えない君を馬鹿にすることで、自分が上にいるような気になってたんだと思う」 やーな男ね。 「でもさ。ぼくは君を散々馬鹿にしてきたのに、君はぼくの使い魔を笑わなかったろ」 あ、そうだ。ひっついているだけで何もできないマリコルヌの使い魔蛙。 嫌ってほど馬鹿にしてやろうと思ってたのに、色々ありすぎて忘れてた……。 「それだけじゃなく……元気を出せって励ましてもくれた」 危なかったわ……もし思った通りのこと口に出してたら、今頃わたしここにいないわね。 「あとさ……」 パーティーの喧騒に紛れるくらい声を落としてこう付け加えた。 「もしもぼくが君の立場だったら……やっぱり黒い場所を爪でこすったと思うんだ。たぶん君よりも熱心に」 どちらからということもなく顔を見合わせた。 ちょっと躊躇したけど、自然に浮かんだ苦笑いを抑えられなかった。 マリコルヌは頬を朱に染めて照れ笑いしてる。 「どうしようもない人ね、本当に」 「君に言われたくないよ」 本当にどうしようもない。口に出しただけじゃなく、心から思っている。でも、わたし達は笑った。 こちらもまた心から笑った。自嘲なんかじゃなく、なんていうか……楽しかったのよね。不思議と。 わたしはドレスの裾を両手で持ち上げ膝を曲げて一礼、 「わたしと一曲踊ってくださいませんこと。マリコルヌ・ド・グランドプレ」 マリコルヌはそれを受けて胸に手を当て一礼、 「ぼくでよかったら喜んで。ルイズ・フランソワーズ」 わたしの手をとり、ホールの隅に導いた。 キュルケやその他あでやかな人達が目立つ場所で踊る中、わたし達はひっそりとステップを踏んだ。 僻んでいるわけでもいじけているわけでもない。わたし達には隅が相応しい。 だって、目立つところで秘密のお話ってわけにはいかないでしょう。 「マリコルヌ。あなたもああいう本持ってるわけ?」 わたしは小さく囁き、 「さすがに異世界の書物は……でも『メイドの午後』の無修正版なら」 マリコルヌは小さく囁き返す。 「焚書の憂き目にあったっていう無修正版? スゴイもの持ってるのね。後で見せなさいよ」 「いいけど。汚さないでくれよ、大事なものなんだから」 「フリッグの舞踏会」の伝説に反し、恋人と結ばれるなんてことにはならなかった。 でも、それはそれでいいと思う。ここには恋人よりも手に入れ難い……同志がいるんだから。
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第一回最強おっぱいトーナメント――優勝者キュルケ――を終え、ほくそえむ。 これは面白い。ただの眼鏡は願い下げだけど、この眼鏡なら使い魔にする価値がある。 「ミスタ・コルベール。わたし、この眼鏡を使い魔にします」 「納得してくれたかね。それでは儀式を続けなさい」 野次馬どもがまた笑った。そりゃそうよね。眼鏡使い魔にするメイジなんて天地開闢以来初めてだろうし。 甘い甘い、浅慮浅慮。見た目で良し悪しを判断する愚物どもよ、笑わば笑え。最後に笑うのはこのわたし。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 ブリッジをつまんで両手でささげもった。生涯の相棒となるであろう相手は太陽の光を受けて輝いて見える。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え……」 ここで詠唱は中断させられた。眼鏡が手から落ちた。 はじめは汗か何かで手が滑ったのかと思った。でもそんなわけない。しっかり持っていたもの。 次に思ったのは、落としたらやばいってこと。割れたら終わる、とも思った。 時間よ止まれ、と思った。でも止まらない。眼鏡が地面めがけて落ちていく。 手を伸ばしたけど、しょせんはわたしの反射神経、どう考えても届かない。 眼鏡は地面に落ちて砕け散る直前でフレームを伸ばし、見事に軟着陸した。 二本のフレームを交互に動かし、小刻みだが素早く駆けていく。 「えっ」 伸ばした手が行き場を失い、中途半端な位置で停止した。 わたしを含めた一同、口を半開きにして眼鏡が消えていく様を見守るだけ。 振り返ることさえせずに、眼鏡は茂みに消えていった。 「ちょ、ちょっと! 何!? 何なの!?」 わたしは大馬鹿だ。こんこんちきだ。後から考えれば本当によく分かる。 特殊な眼鏡だったってことは知ってたんだから、動くくらいは予想しなくちゃいけなかったのに。 眼鏡、眼鏡、どこへ消えた。怒ったりしないから帰ってきて。本当に。お願いだから。 呆然としていたクラスメイト達も、ようやく現状が笑うに値する状況だと気づいたらしい。 またドカン。笑い声。誰も手伝ってくれないから、わたしは一人で草原を走り回る。 偉大なる始祖ブリミエルよ。これは好奇心に従い他人の裸を見るだけに終わらずランキングまでつけてしまったわたしへの罰ですか? 結局眼鏡は見つからなかった。 わたしは延々と草原の中を這い回っていたせいで膝が擦り切れそうに痛い。 疲労も極地、足腰ガクガク、目ぇ見開いてたせいで頭も痛くて医務室のベッド直行コース。 あの眼鏡め。どこかに逃げたのか。それとも誰かがこっそり持っていったのか。 ふん、どっちにしたってすぐに見つかるだろうけど。魔法で探すそうだから。 次会った時は覚えてなさいよエロ眼鏡。 皆は眼鏡を探すわたしを少しばかり不審に思っていたみたいだ。 嫌だ嫌だとゴネていたのに、いざ無くなってみれば必死で探し回る。そりゃ怪しいよね。 でもあれは特別な眼鏡。ただの眼鏡じゃない、わたしの使い魔。必死で探すだけの価値がある。 コルベール先生にだけは言うべきだったのかもしれないけど、やっぱり言えないこんなこと。 「眼鏡をかけたら皆が素っ裸でそこにいました。ウヒヒヒ」 はい、アウトー! キュルケはわたしの視線に気がついていたみたいだし、モンモランシーの虫刺されも聞いた。 ただ服が消えて見えただけじゃなく、それにかこつけたウォッチングはバレバレになる。 貴族の子弟にあるまじきこと。淑女としての地位は失墜、阿婆擦れのそしりは免れない。 翌日には噂になってるんだ。わたしの二つ名がゼロからむっつりに変わってるんだ。 わたしのような美少女が好色だなんてことになれば、思春期全開の連中を喜ばせてしまうじゃないの。 肉コルヌあたりに「よう、むっつりルイズ! 今日も元気に欲求不満か?」なんて言われるんだ。 ああ、なんてこと。考えるだけでハラワタが煮えくり返る。むっつり助平を馬鹿にするな。 そもそもおかしいと思うのよね。世間の風潮ではオープン助平の方がいいみたいになってるじゃない? でもね、そんなことはないと思う。心の中でだけ助平なんて慎ましやかでしょ。 オスマンの爺さん見れば分かるように、性犯罪なんてみんなオープン助平がすることなんだから。 自己を抑圧したむっつり助平が犯罪に走るなんてことをしたり顔で言う自称事情通がいるけど、それって見当はずれもいいとこ。 そもそも犯罪に走った時点ですでにそれはむっつりじゃないっていうのね。 むっつりっていうのは墓の下に入るまで、自分の中だけで空想を完結させるからむっつりっていうの。 誰かに迷惑をかけたりするのはマコトのむっつりじゃない。ただの外道だ。 むっつりとはそんなものじゃない。もっと大きくて、自由で、豊潤で……ビバむっつり助平。 ということを機会があれば熱弁してやろうと思っているけど、幸いにしてその機会には恵まれなかった。 医務室の扉がノックされた。 「どうぞ」 抑えた口調ながら内面はかなり興奮してたりする。 誰だろ誰だろ。コルベール先生かな。先生だったら眼鏡捕まえたってことだよね。うっひょう。 「ルイズさん。教えてほしいことがあるのですが……」 扉の向こうから出てきた顔はわたしの予想外だった。というか予想以下だった。 ほとんど話したことのないこいつに比べればキュルケやマリコルヌやモンモランシーの方がまだましだ。 「なにかしら……」 あ、やばい。名前思い出せない。ええっとなんだっけなんだっけ。グラモンは確実なんだけど。 いつも阿呆とか呼んでるから名前忘れちゃった。 「……ミスタ・グラモン。あいにく体調が悪いからお役に立てるとは思えないけど」 「それで私の聞きたいことというのはですね」 聞いてないよね? わたしの話聞いてないよね? 婉曲的な拒否とか分かってないよね? ベッド脇の椅子に腰掛けてるけどわたしの許可もらってないよね? むう、噂通り油断のならぬ男よ。こいつに騙された生徒もかなりいるって聞いたぞ。 今のわたしってばちょっと弱ってるじゃない。気をつけないと危ないね。 「あなた、眼鏡を召喚しましたね」 「……ええ」 「その眼鏡をかけた時、何かおかしな物が見えたりはしませんでしたか?」 ん……んん? この男……?
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前ページ次ページ風船の使い魔 彼、ギーシュは焦っていた。こんな風船みたいな使い魔、自分の自慢のゴーレムなら 一発当てれば抵抗しなくなって後はルイズが来るまでジワジワトいたぶれるだろうと思っていた 実際抵抗という抵抗はしてこなかった・・・・が、こちらの攻撃が一発も当たっていない だからといって相手が必死になって避けているのか・・・といえばそうでもなく余裕の表情で避けているのだ これでは完全に自分が遊ばれている・・・という状況なのだ 実際のところは一枚の羽毛に対して攻撃するかのように自分の攻撃の風圧で相手がフワフワと避けているようなのだが それにしても一発ぐらい入ってくれてもいいのだが何故か一発も入らない むきになった彼は薔薇の花を振り更にゴーレム・・・ワルキューレを数体呼び出す そして2体のゴーレムがクラウドを掴む・・・剣筋はヒョイヒョイ避けていたのに何故かあっさりと捕まってしまう、コレも風船ゆえか・・・ 動けなくなったクラウドにワルキューレの剣筋が振り落とされる・・・と言う時にやっと広場にルイズが駆け込んでくる 「クラウド!」 「遅かったねミス・ヴァリエール、今君の使い魔に止めを刺すところだよ」 「やめて!お願いだから!!」 周りの観客はとどめ・・・?と聊か疑問に思っていたがこの絶体絶命の状況確かにとどめか・・・と納得もしていた そしてルイズが静止を訴えている中ワルキューレの剣筋が完全にクラウドを捉えた 間違いなくワルキューレの剣筋はクラウドを貫いた・・・・筈だった 「プワ?」 「何?」 見るとクラウドに怪我は無く別に何てこと無いという顔をしている 「フッ、どう避けたのか知らないけどそう何度も避けれはしないだろう!!」 再び、いや何度もワルキューレの剣筋がクラウドを切りつける、切りつけている筈なのだがクラウドは何とも無い顔を変えなかった まるで雲を切っているかのような感触にギーシュは不気味さを覚え一旦離れる 「剣が効かない・・・?一体どうなっているんだ?」 剣が効かない・・・つまり煙のような体なのかはたまたアレは幻なのか、しかし2体のゴーレムが横から押さえつけているところを見ると確かに実体は存在している・・・ と思った直後、クラウドは2体のゴーレムの手の中から抜け出した。 どうやって抜け出した!?と再び掴みにかかるが今度は実体が無いのかいくら掴もうとしてもすり抜けてしまう そしていい加減相手が自分に敵意を向けていることに気づいたクラウドはギーシュに対して敵意の込めた目で睨み付ける その魂の篭っていない・・・一片の光も無い瞳に恐怖を感じたギーシュは7体全部のワルキューレをクラウドにぶつける・・・がやはり効果が無いようだ 「な・・・何だって言うんだ!?この使い魔は!?」 「クラウド・・・貴方・・・?」 その時クラウドの体から何ともいえない生暖かい風が吹く・・・ その生暖かい風は広場一帯を包み込み観客達も巻き込んだ 生暖かい筈なのに寒気がする、背筋がゾクッとする、ハッキリ言って気持ち悪い。 膝を突く生徒や嘔吐しそうになる生徒も居るぐらいだ 『あやしいかぜ』、相手に対する追加効果は無いが一定の確率で自身の攻撃・防御・特殊攻撃・特殊防御・素早さを上昇させるゴースト攻撃 物理的ダメージは低く魂を持たないゴーレムに効果は無いはずなのだが何故か目の前のゴーレム達が崩れ去っていく 「なっ!?そんな僕のゴーレムが!?」 ギーシュが慌てて花弁を振るう・・・がそれは出来なかった 何故かと言うと先ほどの妖しい風で花弁・・・ギーシュ特有の杖が萎れていた 「何!?何で皆苦しんでるの!?」 周りのもの全てを巻き込んでいるはずの妖しい風だがクラウドの主たるルイズだけは巻き込んでいないようで 彼女自身はバタバタと倒れていく周りの生徒の異常な光景にこれまた恐怖していた 観客の中に青い髪の小柄な少女、タバサも混ざっていたが彼女はガタガタと本気で震えていた アレはあんな可愛い顔をしていながらとんでもない事をしている・・・ 何よりこの生暖かく寒気がするという矛盾をはらんだ風、これは色々な書物で表記されているある物に酷似している そう、幽霊が現れる時に共に発生する『おどろおどろしさ』とでも言う不気味な風・・・ その事に気づいた直後、タバサは全力でその場から逃げ出していた 妖しい風のダメージによって膝を付くギーシュ、それにクラウドがフヨフヨとゆっくり近づいてくる その瞳には何も映っていない、見ているだけで自分の魂が引き込まれそうになる 「ヒィッ!?!?く、来るなああぁぁぁ!!!!!」 使い物にならなくなった杖をブンブンと振る、が当たっている筈でもスカスカとすり抜けてしまう 再び恐怖に駆られ奇声をあげながら魔法使いとしての証でもあるその杖を捨てて足元に転がっている石を投げつける 苦しみながらもまだ見ている観客達は「ああ・・・終わったな」と思っていた、ギーシュの敗北という意外な形で・・・ しかしギーシュの投げた石はクラウドに当たった 「プワ!?」 へ・・・?と呆気に取られた顔をするギーシュ、涙を流しながら石の当たったところを痛そうにさするクラウド 試しにもう一つ石を投げてみる・・・再びクラウドに命中、プワッ!と痛そうな声を上げる 「フフハハ・・・ハハハハハハ!!そうか!石に弱いのか!!」 急に強気になるギーシュ、そして足元にある石を次々と投げる、頭が暴走しているギーシュの投げるそれは数発しか当たらなかったがクラウドには十分致命傷である 「ちょっ、ギーシュ!!それが貴族の戦い方!?完全に蛮族のやり方じゃない!!」 「うるさい!ミス・ヴァリエール!!杖もこうなってしまった以上、使える物は何でも使う!貴族に負けは許されないのだから!!」 「く、狂ってる・・・」 実際今のギーシュは狂っていた、先ほどから今まで味わったことの無いような屈辱と恐怖、その二つを存分に味あわされて彼の中で何かが壊れてしまっていた しかし一つの石が当たった時、風船らしからぬカシャンと高い音がした と、同時に嗅ぎなれた匂いがギーシュの鼻腔内に届く 「これは・・・モンモラシーの香水?」 そう、この決闘の原因にもなったモンモラシーの香水である、まだクラウドが持っていたのだが先ほどの石が一つビンに当たってしまい割れてしまったようだ それが拙かった、一つは先程まで狂っていたギーシュがその匂いで意識がハッキリと戻ってしまったこと、 そしてクラウドの持っていた持ち物が無くなったという事・・・・その二つである 意識が戻ったギーシュはそれでも投石攻撃をやめなかった、見ればもうボロボロであと2~3発ぶつければ勝てると思ったのだ しかしその石はクラウドに当たることはなかった、意識がハッキリとして狙って投げた石がである 「へ・・・・?」 思わず口から間抜けな声が上がる、しかし目の前の風船が有り得ない速度で動いているのでそれはまた仕方の無い事とも言えよう 軽業・・・フワンテ属しか持たないその特性は持ち物を失うことで発揮され自身の素早さが2倍になると言うものである そのまま先程の風船のような間抜けな動きでなくなったクラウドは一瞬でギーシュの眼前まで詰め寄った 「うひゃぁ!?!?」 ギーシュが理解するまえに目の前に現れるクラウド、必死で石を投げようとするがもう既に石は投げつくしてしまった ギーシュの精神はもはや限界に達していた、がそれと反比例するようにルイズの心は高ぶっていた 自分の使い魔が貴族相手に圧倒しているのである、それは心も高揚するだろう そして今ギーシュにとどめを指さんとするクラウドにルイズは精神がハイになっていた 「やっちゃえ~!!クラウドー!!!」 それが拙かった。 クラウドは今の命令をしっかりと聞いて実行に移したのである、自身の最強の技で 早い話が大爆発である。 結果的に言うと決闘はクラウドの勝ち・・・の筈だったのだがお流れになってしまった。 広場は謎の大爆発に包まれ観客をも巻き込んで崩壊したのである。 その結果ルイズが二人の決闘に水を差したのだ・・・と 「私は何もしてない~!!!」と彼女は語るが誰も信じる者はいない・・・ルイズがまた爆発させたんだと信じて疑わなかったのだ ギーシュと使い魔の決闘は引き分け・・・という事になったが当のギーシュは完全な敗北感に打ちひしがれていた そしてクラウドは大爆発したにもかかわらずケロッとした顔でルイズの傍らをフワフワと浮かんでいた 前ページ次ページ風船の使い魔
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契約! クールでタフな使い魔! その② 承太郎が左手を押さえてうめいていると、コルベールがやって来て刻まれたルーンを見た。 「ふむ……珍しい使い魔のルーンだな。さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」 そう言って彼は宙に浮く。その光景に承太郎は息を呑んだ。 いつぞやのポルナレフのようにスタンドで身体を持ち上げている訳ではない。 本当に宙に浮いているのだ、恐らく魔法か何かで。 そして他の面々も宙に浮いて城のような建物に飛んでいった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 フライ。どうやらそれが空を飛ぶ魔法のようだった。 そしてその魔法が使えないらしいルイズと二人きりで承太郎は残される。 「……あんた、何なのよ!」 「てめーこそ何だ? ここはどこだ? お前達は何者だ? 質問に答えな」 「ったく。どこの田舎から来たのか知らないけど、説明して上げる。 ここはかの有名なトリステイン魔法学院よ!」 「…………」 魔法学院。本当にこいつ等は魔法使いらしい。ファンタジーの世界らしい。 それでも念のため、ここが地球であるという願いを込めて承太郎は問う。 「アメリカか日本って国は知らないか?」 「聞いた事ないわねそんな国」 仮にも人を平民呼ばわりする文化圏の連中が、世界一有名なアメリカを知らぬはずがない。 つまりここは地球ではない可能性が極めて高い。 「じゃあここは?」 「トリステインよ」 魔法学院と同じ名前……すなわち……。 承太郎の推理が正しければ! ここ! トリステイン魔法学院はッ! ほぼ間違いなくッ! 国立だッ!! ド―――――z______ン もっともこの学院が私立だろうと国立だろうと知ったこっちゃない話だ。 重要なのは。 「つまりこういう訳か? お前達は魔法使いだ……と」 「メイジよ」 「…………」 どうやら呼び方にこだわりがあるらしい。 とりあえず当面はこのルイズからこの世界の基礎知識を学ぶ必要がありそうだ。 他に今のうちに訊いておく事はあるだろうか? 承太郎はしばし考え――。 「てめー、何で俺にキスしやがった」 ルイズが真っ赤になる。そりゃもう赤い。マジシャンズレッドより赤い。 「あああ、あれは使い魔と契約するためのもので……」 「この左手の文字。使い魔のルーンとか言ってたな」 「そうよ。それこそあんたがこの私、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になった証よ。 つまり今日から私はあんたのご主人様よ、覚えておきなさい!」 「…………やれやれだぜ」 こうして校舎まで戻ったルイズは、承太郎を入口に残して教室へと入っていった。 そして授業が終わってルイズが出てくるまで、承太郎は考え事をしていた。 空条承太郎。十七歳。 母ホリィの命を救うため、百年の時を経て復活した邪悪の化身DIOを倒し、 仲間を喪いながらも日本へ帰ってきて数ヶ月……。 DIOとの戦いで受けた傷もすっかり癒え、 祖父母のジョセフとスージーQはアメリカに帰り、 少し真面目に高校生活を送るようになっていた。 そんなある日、彼の前に突然光る鏡のようなものが現れた。 スタンド攻撃かと思った。 戦闘経験の豊富な承太郎がその光に警戒しない訳がない。 だが……その時の承太郎は電車に乗っていたのだ。 座席は埋まり、車両内には何人かの乗客が吊革を手に立っていた。 承太郎もその中の一人だ。 そして、突然目の前に光が現れて、避けようと思ったが、みっつの要因により失敗した。 ひとつ、車両内に逃げ場がほとんど無かった。横には乗客が座っているし、上は天井だ。 ふたつ、承太郎は物思いにふけっていたため反応が遅れた。 みっつ、光の鏡は電車ごと移動するような事はなく、承太郎は電車の速度で鏡に突っ込んだ。 そして気がついたら、ここ、トリステイン魔法学院にいた。 「……やれやれだぜ」 日が暮れる。腕時計を見る。 本来なら今頃、適当な花屋で花を買って、花京院の墓に添え、帰りの電車に乗っている時間だ。 結局墓参りどころか、花さえ買えずこんな所に来てしまうとは。 (こういう訳の解らないトラブルはポルナレフの役目だぜ) 何気に酷い事を考える承太郎だったが正しい見解でもあった。 そして授業を終えたルイズに連れられ、承太郎は学生寮のルイズの部屋に通される。 十二畳ほどの広さの部屋には、高級そうなアンティークが並んでいた。 そこで承太郎はルイズが夜食にと持ってきたパンを食べながら、 開けた窓に腰かけて静かに夜空を眺めている。 「ねえジョー……えっと、名前なんだっけ?」 「承太郎だ」 「ジョータロー。あんたの話、本当なの?」 「…………」 無言。肯定なのか否定なのかも解らない。ルイズはちょっと苛立った。 「だって、信じられない。別の世界って何よ? そんなもの本当にあるの?」 「さあな……。少なくともここは、俺の知る世界じゃねぇ。あの月が証拠だ」 「月がひとつしかない世界なんて、聞いた事がないわ。 ねえ、やっぱり嘘ついてるんでしょう? 平民が意地張ってどうすんのよ」 「俺を平民呼ばわりするんじゃねえ!」 一喝すると、ルイズはすぐ驚いて黙る。それだけ承太郎の迫力がすごい。 だがプライドが非常に高いルイズは負けっぱなしではいない。 すぐに何か言い返そうとして――承太郎が懐から何かを取り出すのを見た。 「何よ、さっきパン上げたでしょ? 食べ物を持ってるなら最初からそれ食べなさいよ」 承太郎が取り出したそれを口に運ぶのを見てルイズは意地の悪い口調で言った。 承太郎は細長い棒状の食べ物を咥えたまま、ルイズを睨む。 実は普通にルイズに視線を向けただけだが、睨まれたとルイズは思った。 「てめー……タバコを知らねーのか?」 「は? タバコ? あんたの世界の食べ物?」 「……やれやれだぜ」 そう呟くと、承太郎はタバコを箱に戻し、懐にしまった。 「食べないの?」 「食べ物じゃねえ」 この世界にタバコが無いとすると、今持ってる一箱を吸い終わったら補充不能。 それは喫煙家の承太郎にとってかなりの苦痛だった。 「ルイズ、てめーの説明でこの世界の事はだいたい解った。 ハルケギニアという世界だという事も、貴族……メイジと平民の違いも。 だが一番重要な事をまだ説明してもらってねーぜ……それは……」 「何よ?」 「俺が元の世界に帰る方法はあるのか?」 「無理よ」 曰く、異なる世界をつなぐ魔法などない。 サモン・サーヴァントは元々この世界の生き物を使い魔として召喚する魔法。 何で別の世界の平民を召喚してしまったのかなんて全然ちっとも完璧に解らない。 だいたい別の世界なんて本当にあるのかルイズは信じきっていないようだ。 何か証拠を見せろ、と言われたが承太郎の持ち物は財布とタバコ程度。 後は電車の切符くらいだ。 ルイズ相手にいくら話をしても無駄に思えてきた承太郎は、口を閉ざしてしまう。 ルイズはというと、そんな承太郎の態度に怒りをつのらせる。 だって、平民ですよ? 使い魔が平民ですよ? 使い魔は主人の目となり耳となったりするが、そういった様子は無い。 一番の役目である『主人を守る』というのも無理。 平民がメイジやモンスターと戦える訳がない。 嫌味たっぷりにそう言ってやった時、承太郎はなぜか視線をそらした。 ルイズはそれを『図星を突かれた』と判断した。 という訳で承太郎ができる事など何もないと思い込んだルイズは命令する。 「仕方ないからあんたができそうな事をやらせて上げるわ。 洗濯。掃除。その他雑用」 「…………」 無言。肯定とも否定とも取れない。 でも文句なんて言えないだろうしルイズは勝手に肯定の意として受け取った。 「さてと、喋ってたら眠くなってきちゃったわ。おやすみ平民」 「待ちな」 ようやく、承太郎が口を開く。窓を閉めてルイズを睨みつける。 「な、何よ……もう眠いんだから、話はまた明日って事にして」 「俺の寝床が見当たらねえぜ」 ルイズは床を指差した。 「……何が言いたいのか解らねえ。ふざけているのか? この状況で」 「はい、毛布」 一枚の毛布を投げ渡され、承太郎はそれを受け取る。 直後、ルイズはブラウスのボタンを外し始めた。 「……何やってんだてめー」 「? 寝るから着替えてるのよ」 「…………」 承太郎は無言で背中を向けた。その背中に、何かが投げつけられる。 「…………」 承太郎は投げつけられた物を手に取り、無言で立ち尽くしている。 「それ、明日になったら洗濯しといて」 それはレースのついたキャミソールに白いパンティであった。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 承太郎は無言で振り向き、 ネグリジェに着替えたルイズにキャミソールとパンティを投げ返した。 「……これは何の真似?」 「やかましい! それくらいてめーでやりやがれ!」 「な、何よ! あんた平民でしょ! 私の使い魔でしょ!?」 「俺はてめーの使い魔になるつもりはねえ」 「フーン? でも私の言う事聞かないと、衣食住誰が面倒見るの?」 「……やれやれだぜ」 承太郎はそう言うと、毛布に包まって床に寝転がった。 それを見たルイズは満足気に微笑み、やわらかなベッドで眠った。 承太郎が「うっとおしいから今日はもう寝よう、洗濯はしねえ」と考えていて、 使い魔になる気ゼロな事に微塵も気づかずに。 戻る 目次 続く
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ゼロの使い魔からの支給品 デルフリンガー 北岡秀一に支給 平賀才人の相棒である150cmほどの長剣。 主な能力に魔法の吸収、触れた者の力量を測るなどがある。 本来は錆びを自由に落とせるのだが、ロワに参戦した時期にはまだ思い出していない。 ルイズの杖 水銀燈に支給 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使う杖。 破壊の杖 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに支給 正式名称M72 LAW。 アメリカ製の携帯式対戦車ロケットランチャー。 黄金の剣 シャナに支給 150cmほどの大剣。 鉄をも一刀両断するという触れ込みだが、実はかなり脆い。 エロ凡パンチ・75年4月号 山田奈緒子に支給 どうみてもただのエロ本です。本当にありがとうございました。 実はアニメ版にしか出てないのだが、気にするほどのことではない。 惚れ薬 高良みゆきに支給 水のメイジであるモンモランシーが調合した薬。 飲んでから最初に見た異性に熱烈な好意を抱くようになる。 解除には水の精霊の秘薬が必要で、効果が続いている間の記憶は残る。 秘薬に順ずるものでも解除出来るかもしれない。 タバサの杖 カズマに支給 タバサが使用する木製の杖。 かなり大きいので鈍器としても使用可能。 眠りの鐘 銭形警部に支給 この鐘を鳴らすことで、周辺にいる人間を浅い眠りの誘う。 ただし一度使ったら、二時間は使うことができない。
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前ページ次ページ創世の使い魔 創世の使い魔 第0章 ―とある酒場にて― ――『彼』の話を聞きたいって? 珍しい事もあったものだ。『彼』の話を聞きに来たのは君が初めてだ。 おっと、気を悪くしたかな。いつもは船に関係することばかり話してるものでね。 ああ、『彼』の事はよく知ってるよ。『彼』の事を調べるのはとても興味深いからね、まぁ私の数少ない趣味さ。 『彼の伝説』の伝説は至る所に存在する。 例えばフランスの昔からあるおとぎ話で、杖を携えた少年が暴君を倒すというお話は、とても有名だ。絵本にもなっているね。 実のところ、かの王を殺したのは『彼』ではないのだけれど、少なくとも関係者であるという資料は残されている。 そも『彼』の伝承を遡ると、実は文明発祥の時代まで遡ることができる。 いや正確には、それ以上遡るための資料がないと言ったほうがいいかもしれない。 アフリカにその頃に描かれた壁画が残されているんだけど、『彼』の特徴と一致する人物の絵が複数箇所で発見されている。 他にもチベット仏教の経典には、『輪廻の外に在る者』『未来の導手』『昼と夜の間に立つ人』という称号とともに『彼』の名が残されていて、 その扱いは最高指導者であるダライ・ラマと同等であるともされているんだ。ただ、ラマたちと異なっているのは『彼』は 輪廻する事無く――つまり死ぬこと無く、今もどこかで生きているとされている点だね。 他にも『飛行機』を発明できたのは『彼』のおかげだという話もあるし……そうそう、ファーストフードの代名詞であるハンバーガーの考案に 協力した、なんていうのもあるね。 冗談みたいだろう?同一と思われる人物が世界各地の異なった時代に――しかも20世紀まで、その痕跡を残してるなんて。 一度だけ、考古学の分野で彼の事が取り上げられた事があるんだけど、そのときは一笑に伏されてしまったらしい。 まったく、悲しいことだね。 旧約聖書の創世神話はあれだけ人々に信じられているのに、たった一人の英雄が人類文明を『復活』させた、というのは 彼らにとってみれば陳腐な妄想にすぎないようだ。 あぁそうそう。時に君は、『オーパーツ』という言葉を知っているかい? 場違いな工芸品――Out Of Place Artifacts、略してOOPARTS。 考古学上、当時の文明では加工する事や製造することが困難な出土品の事を指す言葉だ。 さて、いま私が首から下げているネックレスだがここにはまっている宝石がなにか、君は知っているかい? ラピスラズリ? アイオライト? ターコイズ? 残念、どれも違う。 この石はね、『プライムブルー(原初の蒼)』というんだよ。 素敵な名前だろう。 うん? 何の関係があるって? いやいや、それが大有りなんだよキミ。 この『プライムブルー』こそが、そのオーパーツと呼ばれるべき宝石なんだよ。 それは何故か。それはね、この宝石の元素と分子構造は特殊でね。地球上にはまず存在しない物質なんだそうだ。 これは、学者先生のお墨付きだよ。 落下した隕石に含まれたんじゃないかって? それはまた夢のない話だ。人を納得させる説得力としては、まぁ十分だけどね。 で、これがなぜオーパーツと呼べる物なのか。 ちょっと、見てくれ。きれいな形をしてるだろう?まるでカットしたかのようだ。 この宝石は『このままの状態』で発掘されたんだ。おおよそ、六千年前の遺跡からね。 どうだい、夢のある話じゃないか。 他にも………。 ………。 ………。 ――いや、そうか。失礼した。 ここにいる時点で気づくべきだったね。 君はわざわざ、この『私』に『彼』の話を聞きに来たのだから。 その理由なんて、たった一つしかありはしない。 いいだろう。『私』までたどり着いた事に敬意を評して、話そうじゃないか。 この私――クリストファー・コロンブスが見聞きし、調べ上げた本当の物語を。 光と闇の使者、『アーク』によって創りだされた『天地創造』の神話を……。 前ページ次ページ創世の使い魔