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モノクマ「オマエラはこの学園で一生共同生活をしてもらいます。」 舞園「いやです!!皆さん、私のそばに集まってください。」 モノクマ「何をする気なのかね?」 舞園「…テレポート!!」 ブゥン モノクマ「何ぃ!!舞園さんが皆と一緒にテレポートするなんて…!」 ブゥン 舞園「さぁ、皆さん脱出しましたよ。」 苗木「すごいね舞園さん。テレポートまで使えるなんて…」 舞園「…エスパーですから…」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 舞園「…はっ、夢か… …流石に本当のエスパーでもないのにテレポートなんて無理か…」 終わり
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キ~ン、コ~ン、カ~ン、コ~ン♪ 「苗木君!」 「あ、舞園さん!どうしたの?何か用?」 放課後。私はいつもの様に苗木君に声をかける。目的は、勿論一緒に帰ることだ。 でも敢えてそのことは彼には告げず、ちょっとからかってみる。 「はい。そうですけど…何の用事か、分かりますか?苗木君?」 「えぇ~っ…ボクは舞園さんみたいにエスパーじゃないんだし、そんなの分かるわけ無いよ…」 『エスパーだから』言い出しっぺは私だけど…まさか、苗木君は未だに私が本物のエスパーなんだって信じてる…? そんな彼の純情にはさすがに驚きを隠せない。でも、そんなところも苗木君らしいといえばそうなんだけれど。 「じゃあ、答え言っちゃいますね…ズバリ、苗木君、一緒に帰りませんか?」 その言葉を聞いた瞬間、私よりも少し小さい身体がビクッと動く。どうやらこの答えは予想外だったようだ。 「うん、いいけど…ボクと一緒にいてもあんまり楽しいことなんて無いと思うよ?」 この、分からず屋。心のなかで呟く。 私は苗木君と一緒にいるだけで楽しいからいいんです!…出かかった言葉をギリギリで飲み込んだ。 苗木君と一緒に帰る――このチャンスを活かさない手はない。 頭に電流が走る。芸能界を生き抜くためには、頭の回転だって必要だ。 ―今までの学園生活で私が送った様々なアプローチを、彼は見事に粉砕してくれた。 ―苗木君の鈍感さとこれまでの実績から考えると、苗木君が私の想いに気付くのは一回生まれ変わった後でもおかしくはない。 つまり…ここで勝負に出るしか無い!! 「苗木君、あの、もし良かったらちょっと寄り道していきませんか?行きたいお店があるんですけど」 「いいよ。どのへんにある店なの?」 「それが、若干遠くてですね…1人で行くと帰り道が不安だったんです」 「まぁ、確かに最近は暗くなるのも早いしね…」 「あ!別に理由はそれだけじゃないですよ!!苗木君と一緒に行ってこそ、意味のあるところなんですから!」 「……う~ん?舞園さん、それってどういう…」 「ふふふっ、早く行きましょう!このままゆっくりしてるのもいいですけど、それじゃ夜になっちゃいますよ!」 「はぐらかされた…!?」 まずは第一段階突破ってところかな。でも安心はできない。大事なのはこの後だ。 「…大分歩いたね…」 「そうですね…でも、歩いてる間は苗木君とのお話が楽しかったですし、私はあんまり時間は感じませんでしたよ」 「そ、そう…?照れるなぁ…」 う~ん、効果アリ…なんだろうか? 私は目的地だったカフェで苗木君とお茶をしながらも、やはりそんなことばかり考えていた。 残念なことに、私の言葉はイマイチ苗木君には響いていないようだ。 …からかい過ぎたせいだろうか。真に受けてくれてないのかも?少し後悔する。 まぁ、ここで響くようなら私はわざわざ今回のような計画は立てないだろう。今のは軽いジャブみたいなものだ。 苦いコーヒーを啜って、頭を整理する。いつ、勝負に出ようか… 「あ、そういえば、舞園さん。あれって結局どういう意味だったの?」 手元に運ばれてきた砂糖を入れたコーヒーをチョビチョビと熱そうに飲んでいた手を止め、苗木君が不思議そうな顔でこちらを覗きこんでくる。 「?あれって何ですか?」 「いや、さっき言ってた『ボクと来てこそ意味のあるところだ』ってのが気になってさ…」 「あ」 「?」 「それですか…それは…ですね」 「それは?」 「実は…ですね…」 「実は?」 「あのですね…」 「何?スゴく気になるんだけど…もったいぶらないで話してよ」 …………しまった。ココに来て実に初歩的なミスを犯してしまった。 ………考えてなかった… あの時勢いで言ってしまった台詞。 少しでも苗木君の気を引こうと思って、ろくすっぽ何も考えずに適当に言ってしまったあの台詞。 その台詞の『意味』を、全く考えてなかった………! 「ま、舞園さ~ん?あの、もしも~し…」 どうしよう…苗木君はまだ私が嘘をついたってことに気がついていない。 そのことに苗木君が気付いたら…私が嘘をついたんだと、彼が知ったら…!きっと…いや、間違いなく苗木君は私のことを軽蔑するだろう。 ――自分の純粋な感情を弄んだ身勝手な女。自分の放課後の時間を潰し、誘惑してきた悪女。 そう思うはずだ。 「えっと…ですね……」 何とか誤魔化さないと…取り繕うべき嘘を必死で考える。 濁りがちな私の語尾を遮り、苗木君が言葉を投げかけてきた。 「…あの、さ…舞園さん」 「は、はい?…どうかしたんですか?」 「もしかして…ボクの勘違いだったらホントに悪いんだけど……」 固唾を飲んで、苗木君の言葉に耳を傾ける。 「『ボクと一緒でこそ』って言ってたの…あれ…嘘だったの…?」 ……………………………………終った。何もかも、もう、終りだ。 自分の中で総てが崩れ落ちていく音を聞いた。 「…あ、ゴメン…やっぱ違うよね…ハハ……ゴメンね…」 消え入りそうな声で、苗木君が呟く。 『私を傷つけた』―苗木君は、そう思ったはずだ。 今、明らかに苗木君は自責の念に駆られている。 本当に責められるべきなのは私なのに…私が本当のことを言わないから… 苗木君は元々、人を疑ったり、誰かを責めたり、とかいうようなことが苦手なヒトだ。 そんな人に――しかも、自分の意中の人に――私はこんな思いをさせている。 恥ずかしくないの…?私は…! 自分の想いを伝えたい。ただそれだけで苗木君を振り回し、自分のせいで、苗木君に本来背負うべきではない罪の意識まで背負わせて……もう、『勝負』云々なんかじゃない。 ……私は…最低な女だ。 「…違いませんよ。…何も」 「えっ」 「…全部、嘘だったんです…今日のこと」 私は総てを―総てと言っても、私が彼に好意を持っていること以外、だったけど。今更そんなことを言っても、彼を混乱させるだけだと思ったから―話した。 自分に言い聞かせるように。 私はこんなにヒドイことをしてしまったんだ、と戒めるために。 ………彼と別れる決意をするために。 諦めるべきだったんだろうか? 幾重にも重ねたアプローチでも気持ちが届かなかった時点で、気づくべきだったんだろうか? 今となっては、それすらも分からない。 最早彼と一緒にいても、私は彼に十字架を背負わせることしか出来ない。 総てを伝え終った後、私は罪悪感から俯いた顔を上げることが出来なかった。 それでも、苗木君の様子は痛いほど伝わってくる。…これも今までの学園生活の賜物なのだろうか。 だとしても、それは今の私には単に罪の意識を再認識させる働きしか与えてはくれなかった。 「…………」 苗木君は、何も言わない。…それとも、言えないのだろうか。 暫く、二人の間に沈黙が流れた。 その沈黙を破ったのは、苗木君の方だった。 「…ねぇ……舞園さん」 「はい…」 「今日の…舞園さんの言葉……『ボクとの話が楽しかった』とか、『このままゆっくりしてるのもいい』だとか…あれは……全部嘘だったっていうの?」 正確に言えば、嘘じゃない。苗木君とのお話はとっても楽しかったし、苗木君と一緒に放課後をゆっくりすごすのもいいとは、確かに思った。 でもその気持ちより、「苗木君に私の想いを気付いてほしい」という強めのアピールの意味のほうが、ずっと強かった。 「そう…ですね…嘘、みたいな感じです……」 「…………そっか…」 再び、沈黙。 痛いほど、沈黙という名の重圧を感じる。今にも潰されてしまいそうなほど、重々しく私にのしかかってくる。 「………一つだけ…聞いてもいいかな…?」 今回も、苗木君の質問で静寂は崩れ去った。 「はい…大丈夫です…」 ふ、と顔を上げると、苗木君は神妙な面持ちで、真っ直ぐにこっちを見つめていた。 その真っ直ぐさは、私にはとても耐えることが出来ない弾丸となって私を貫く。思わず、顔を背けてしまう。 「何で…そんな下らない嘘なんてついたの?…ボクをおちょくる為……?それを聞いて喜んでるボクを見て……バカにするため…?」 「ッ!!それは違います!私はただ、苗木君に私の気持ちを分かって欲しくて…ッ……!!」 条件反射。 そうとしか比喩できないほどスムーズに、言葉は口をついて出ていた。 さっき『この恋は諦める』と決めたはずだったのに…まだ私はこんなことを言っているのか。 …本当に、どうしようもない女だ。私は。 「…よかった。初めて本音を言ってくれた。…だよね?舞園さん」 …え? 私は、自分の目と耳と頭を疑った。それくらい、苗木君が何を言っているのか分からなかった。 …本音を言った…?…私が…? 「…どういう…こと…です…か……?」 心に浮かんだ言葉が、そのまま口をついて出てきた。 「そのままの意味だよ。舞園さん」 「いや…そのままも何も…!私は、今日一日、ずっと苗木君に嘘をついてたんですよ!? そんな人から急に『気持ちを分かって欲しい』なんて言われて…何で…それが本音だって思えるんですか!?」 「う~ん…何て言えばいいのか分からないけど……何か今日の舞園さん、いつもと様子がちょっと違ったから…だと思うんだ」 「様子が…違った…?」 「うん。何かこう…背伸びしてる感じ…?っていうのかな?その感覚を、さっきは全然感じなかったからさ…『これは舞園さんの心からの声なんだ』って分かったんだ」 背伸びしてる感じ…そこは気付くんだ…。どうしてこう、どうでもいいことばっかり苗木君は気付くんだろう。 「どうでもいいこと、なんかじゃないよ…」 「えっ…!?」 「ち、違ったらごめんね…?」 読まれた…!? …そういえば、今まで私がそれを言うことはあっても、苗木君の方から仕掛けてきたのは今回が初じゃないだろうか? 「…こんなに長い間、一緒にいたんだし…そろそろ、ちょっとは舞園さんが何考えてるか分かってきた、と思ったんだけどさ…」 「じゃあ…何でさっきみたいな質問したんですか…?私が何考えてるか分かるなら…わざわざ聞かなくてもいいじゃないですか…」 「今日舞園さんにつかれた嘘の仕返し…だったりして」 「…もう…いじわる」 私の反応を見て、苗木君は嬉しそうにクスっと笑った。 それに私も連られて微笑んでしまう。 気がつけばさっきあったような沈黙は消え去り、二人の間には和やかなムードが漂っていた。 かと思うと、急に苗木君は改まって私の方に向き直ったかと思うと、その表情は一転して真面目なものになっていた。 「苗木君…?」 「あのさ、舞園さん。舞園さんは…ボクの気を引くために…嘘をついたんだよね?」 「…はい…ごめんなさい…」 「いや、謝らなくてもいいよ!ただ…ボクはさ…」 そこで一瞬だけ顔を俯け、続けた。 「ボクは…素の舞園さんを嘘で塗り固めちゃうのは勿体無いと思うんだ…だって…そんなことしなくても舞園さんは可愛いんだし… それに…その……何て言うか…ボクはいつも通りの舞園さんの素直なところとか……好きだからさ…」 顔を真っ赤にした苗木君は、私にそう告げた。 瞬間、私の頭のなかは真っ白に染まった。 ”好き”―その言葉だけが、その中をループし続けていた。 それは、紛れも無い彼の本心。 それは、私の好感度の計算とか、上っ面だけの言葉だとかのバカな考えなんて遠く、遠く及ばないくらい、私の心に深く染み渡っていった。 なら……私は、どうする? …考えるまでもなかった。 伝えるんだ。私の声で。私の本心を。 もう計算も、打算も、タイミングも、関係ない。 応えなきゃ、苗木君の想いに。届けなきゃ!私の、この想いを!! 「苗木君。私も…そうなんです。私、希望ヶ峰学園で苗木君に会った時から…うぅん、もしかしたら、もっと前から…ずっと…ずっと…苗木君のこと!!」 「!タ、タイム!ゴメン!その先は言わないで!!」 「…え…!?そ、そんな!どうしてですか!!?」 「ホントにゴメン…でも…何か、今起きてることが全部夢に思えてきて…あの舞園さんとボクなんかが一緒にいるなんて未だに信じられないし… だから…舞園さんの気持ちを聞いた時…その時…もし、この楽しい夢が終っちゃったらどうしようって思って…」 『夢』。 苗木君は、今この瞬間をそう形容した。 確かに、夢のように楽しい時間だったことは間違いない。けれど、これは紛れも無い現実だ。だから… 「苗木君」 「何…?舞園さん」 「ちょっと目を瞑ってくれませんか?ほんとに、ちょっとでいいので」 「?べ、別にいいけど…」 そう言って、苗木君は眼を閉じた。少し緊張しているのか、表情が力みがちだ。 そんな初心な苗木君の顔に、唇を近づける。 そして………………………………………………… 「夢なんかじゃ、ないですよ…。苗木君のことが大好きな、舞園さやかは…ちゃんと、ここにいますよ…」 「~~~~~!!!!!!」 次に顔を上げた時、苗木君は必要以上に顔を赤くしていた。 それを見て私は笑ったけど、たぶん、私も人のことを笑えるような状態じゃなかったと思う。 「うぅ…そんなの卑怯だよ…言わないで、って言ってたのに…」 「ふふふっ…だって、苗木君ばっかり抜け駆けしたりして、ずるいじゃないですか」 「ぬ、抜け駆けって…それを言うなら舞園さんの方だって…!」 「ふふっ…先手必勝ですよ…それはそうと、そろそろ帰ったほうがいいかも知れませんね…暗くなり始めてきましたよ」 「え?あ、本当だ!全然気づかなかった…」 支払いを済ませて店を出たのは、夕焼けと宵闇がちょうどバトンタッチを済ませた頃だった。 「ホントに暗いね…こりゃ舞園さんがボクと一緒に来たがるわけだ」 「もういいじゃないですか、その話題は…あんまりしつこいと私、すねますよ…」 「ははっ…冗談だってば…」 「もう……ひゃっ!?」 「舞園さん!?どうしたの?!」 「今…何か冷たいものが首筋に当たって…」 その「何か」の正体は、いとも簡単に突き止められた。 「…雪…だね…」 雪。 さっきからいやに冷えると思っていたけど、まさか雪が降り出そうとは。 あ、そういえば… 「そうだね…これが今年の初雪、だよね?」 「むぅ…それは私の特技なのに…」 「大丈夫!ボクのは舞園さんにしか効かないからさ…」 「そんなこと言ったら、私のだって苗木君専用です!」 「「あっ」」 お互い、思わず凄く照れくさいことを言ってしまったんだと気付き、少しだけ、二人の間に空白ができる。 「………」 「………」 無言。目と目は見つめ合っているけれど、二人とも口を開くことは決して無かった。 それは、とても心地良い沈黙だった。 このまま、いつまでも時間が動かなければいいのに―そんなことすら思った。 しかし、スッ、と差し出された苗木君の手によって、その願望は打ち砕かれた。 「…手、繋いでも…いい…かな…?」 苗木君は二人の間にあった空白を半歩埋め、尋ねてきた。 相変わらず顔は赤いけれど、私を見つめた眼だけは決してそらさずに。 (喜んで…!) 私からも苗木君に、半歩、歩み寄る。 ついさっきまであった二人の間の空白は、もう無い。 差し伸べられた手を、しっかりと握る。 暖かい、苗木君の体温を感じる。 確かに、私たちは今、繋がっている。 手を繋ぐ、っていう物質的なこともだけど、何より、偽りのない゛本心”で私と苗木君は繋がっている。 私たちは結局、お互いに一方通行に気持ちを伝え合っただけで、相手の返事はもらっていない。 でも、今はまだ、それでいいのかもしれない。 何も焦る必要はないんだ。 少しずつだったとしても、躓いたとしても、私たちはここまで来れたんだから。 だから… 「これからも、よろしくお願いしますね、苗木君!」 完
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コロシアイ学園生活開催前日 戦刃「さて、明日は計画実行の日だけど…私はどうすればいい?」 江ノ島「そうねぇ…」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― このとき江ノ島の脳内では学級裁判のような展開がおきていた 江ノ熊(モノクマを持っている江ノ島)「まずは簡単な説明から始めます。 お前らの投票で姉さんをどうするか決めてくださいーい。」 議論開始 江ノ静(クールで物静かな江ノ島)「アタシは… むくろは裏に回っていたほうがいいと思う。」 江ノ勝(男勝りな江ノ島)「賛成だ!! 姉貴が表に出てもメリットねぇからな!!」 江ノ子(子供っぽくてかわいい江ノ島)「それもそうだね。 お姉ちゃん何かとドジしそうだから…」 江ノ暗(暗い雰囲気の江ノ島)「すごく…賛成です…」 江ノ知(知的な江ノ島)「これで決まりですね。 3Zのお姉さまが表に回ってもメリットは0%です。」 江ノ王(女王的な江ノ島)「同士よ!!他意はないな!! では決定する!!」 江ノ島(普通の江ノ島)「それは違う!!(論破) つーか、お姉ちゃんが後ろに回って方が危険だよ。」 江ノ王「それはどういう事だ?同士よ。」 江ノ暗「たぶん…あの江ノ島はこういいたいんだと思います… …残念な姉さんが裏に回っても残念な計画しかしないと…」 江ノ子「それじゃどうするの?」 江ノ島「任せて!!何か閃くから…」 閃きアナグラム開始 み○しめ ↓ みせしめ 江ノ島「そうかわかったぞ!! 表に回して見せしめ役にすればいいのよ!!」 江ノ静「確かに可能かもね…しかし肩書きはどうする? 超高校級の軍人なんてださいだけだ…」 江ノ知「我らの肩書きである超高校級のギャルを使えばいいでしょう。」 江ノ勝「俺はいやだからな!!姉貴に肩書きをかすのなんてよぉ!!」 江ノ島「聞き入れてくれないなら…これで証明する!! (どうせすぐ殺すのだから関係ない)それならいいでしょ。」 全江ノ島「賛成!!」 江ノ熊「それでは投票をお願いしまーす!!」 (戦刃は表に回り見せしめ役にされる) はいはーい!!全員一致で決まりましたー!!」 そして江ノ島の脳内の裁判は終了した ――――――――――――――――――――――――――――――――― 江ノ島「…お姉ちゃんが私に変装して表に回ってよ。」 戦刃(…何か今江ノ島の脳内で私を馬鹿にした裁判が開かれていた 気がする…) 終わり
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「なんだか眠れないなぁ・・・・あっそうだ」 苗木はポケットからあるものを取り出した。 「この睡眠薬大丈夫かな? 死体のように眠れますって書いてるけど・・・ええい なるようになれ!」 そう言って苗木は睡眠薬を飲んでやっと眠ることができた。 次の日 「今日苗木君見なかったけどどうかしたのかな?」 そういいながら霧切は苗木の部屋の前に来ていた。 コンコン コンコン 「苗木君ー 居ないの? どこ行ったのかしら・・・・・あら? カギが開いてる」 カギが開いてるのに気付き恐る恐る部屋をのぞいてみた。 そこに苗木はいた。 「苗木君寝てるのかしら・・・・お邪魔します」 霧切はそう言って部屋に入った。 やはり苗木は眠っていた。 「ふふ、かわいらしい寝顔ね 幸せそうに眠ってる」 そのころモノクマ操作室。 「あー絶望的に退屈ですわぁ~ っん? アレは苗木と霧切・・・あっ いい事考え付いた」 霧切が苗木の寝顔を見て30秒くらいたったぐらいにモニターの電源がついた。 「あら、何かしら?」 「あーあー校内放送校内放送、マイクは言ってるよね そんじゃ行くよー」 「死体が発見されました!」 「えっ死体?・・・・・まさか!」 霧切は嫌な予感がしていた。 「苗木君、起きて ねぇ苗木君」 しかしいくらゆすっても苗木は起きなかった。 「やっぱり死体って・・・・苗木君なの・・・そんなはずはないわ。なにか起こす方法はないの」 霧切は懸命に考えた、 そして 「人工呼吸・・・しかないわよね」 そう言って霧切は苗木の胸に手を当てマッサージを始めた。 「苗木君! 起き て! お願い だか ら」 7回ほどマッサージをして次は人工呼吸と言うときに一瞬戸惑った。 なんせこれが彼女にとってファーストキスだからである。 「(落ち着くのよ私、たかがキスくらいで慌てちゃいけないわ。相手は苗木君なのよ・・・苗木君)」 彼女の顔が次第に赤くなって行った 「でもそんなこと言ってられないわ・・・ごめんね苗木君」 そう言って苗木の唇に自分の唇を押しつけた。 「(ん? なんだか柔らかいものが唇に当たってるような・・・・)」 「ん・・・・ちゅ」 「(って 霧切さん!?) んーんんー んー」 苗木は驚きのせいで眠気が吹っ飛んだ。 「苗木君! 良かったぁ」 「霧切さん いいいいいっいいい一体なななななな何を」 「苗木君死にかけてたのよ モノクマに死体扱いされてたけれど」 「死体?・・・あっ まさかこれのせいか」 「何かしら?」 「睡眠薬だよ、保健室にあったのをちょっと貰ったんだ。 ほらここに死体のように眠れますって」 「なんて人騒がせな人なのよあなたは。 私がどれだけ心配したと思ってるの?」 「ごっごめんね霧切さん。 ん? でもじゃあ死体って一体」 「うぷぷー大成功♪ 苗木の部屋だけに死体コールしたら何が起きるかなって思ってたらまさかの人工呼吸。 いやぁこれは外の連中に希望を与えちゃったけどいいわ、それを絶望にするのが楽しいのだから うぷぷー」 結局死体なんて無かった 誰も死んでなかった。 「誤作動か何かだったんだよきっと」 「誤作動にしてはタイミングが良すぎるわ。 そのせいで私は苗木君と・・・・」 「霧切さん何か言った?」 「なっなんでもないわ」 「そっか。 ねぇ霧切さん」 「なにかしら?」 「その・・・・もう一度キスしていいかな?」 「え?」 「だって僕は眠ってて意識が無かった訳だし霧切さんだけずるいというか・・・」 「苗木君 あなたって人は」 霧切は顔が真っ赤になっていた。 「あっ ごめんね。 嫌だよね僕となんて」 「嫌なわけじゃないわ」 「え?」 「私は構わないわ。 ただし苗木君、今度はあなたからしなさい」 そう言って彼女は眼を閉じた。 「じゃあ 行くよ霧切さん」 そう言って僕は霧切さんの唇に僕の唇を押しつけた。 これが僕にとってのファーストキスだった。
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「ボクが『超高校級の絶望』……?」 「と、とんでもない……」 「ボクの名字が江ノ島?」 「それは違うよ」 「江ノ島さんの下の名前、盾子……さん、だよ」 「ボクは男。江ノ島さんは女性。性別からして違うし…… ああ、でも、勘違いする可能性はあるか」 「大丈夫、怖がらないで。希望を持って」 「これからもキミが希望を失わないように、 ほんの少しの絶望が込められた言弾を優しく撃ち込むだけだから」 「うんうん、希望を持って、笑って笑って」 「ああ、あっち?」 「――――― 『超高校級の絶望』、江ノ島盾子さんが受け持ってるから大丈夫だよ」 「アタシが『超高校級の希望』……?」 「とんでもないッ!!」 「私様の名字が苗木?」 「それは違うわ」 「苗木クンの下の名前、誠……クンだよ?」 「私は女性。苗木クンは男。性別からして違うではありませんか。 ああ、でも、勘違いする可能性はありますね」 「大丈夫ぅー、怖がらないで、キャッ☆ほぉら絶望を持って☆」 「これからテメェらがリビルド(再生)的絶望を永久に抱くよう、 デストロイ(破壊)的希望が込められた言弾をオレが盛大に撃ち込んでやるだけだからさ!!」 「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ…………そうそう、絶望を持って、笑って笑って!!」 「ああ……あっち……ですか……?」 「―――『超高校級の希望』、苗木誠が受け持ってるから大丈夫だよ」 ―――――。 「お疲れ様、苗木」 「お疲れ様、江ノ、島……さ……ん……。………………」 「………………どうしたの?誠」 「……お前はいつもやりすぎだ!!盾子!!」 「あ、やっぱ……いつも通り、怒ってる?」 「当たり前じゃないか!!………こっちは普通にいってるのに、キミはいつもいつも……」 「ルール破ったのは重々承知してるよ。知った上で破ってるんだし、アタシ、甘んじておしおきを受けます」 「『規則をやぶったら、おしおき』。 キミの場合、本当どうかと思うけど、それに代わるものがないからな……。 帰ったら、みんなに頼んでおしおきセット用意して貰わない……と。 って、いつものことだからって、用意されてるんだろうな……。 ああ、もう!!今日のおしおき当番、モノクマじゃないか!! クソッ!!あいつの場合、連帯責任……ボクもおしおきだッ!!」 「オマエと一緒にお・し・お・き!? ああ、それってなんて、絶望的な希望で、希望的な絶望なのッ!! これからももっともっとアタシの絶望を発揮していかなきゃ!!もしかしたら、常人には許容範囲超えいっちゃうかも!! 苗木誠、あんたは希望を失わないでアタシを止められるかしらん??」 「……………。はあ……終わってからの、ある意味絶望コース、無限に終わらない気がしてきたよ……。 けど、ある意味希望コースに進むこと、ボクは諦めないけどね。 …………もし、ボクの許容を超える絶望をお前が振りまくならボクは容赦しない。 江ノ島盾子、ボクは負けない。どんな絶望が降りかかろうが……希望を失わないで、全力でお前を止めてみせる!!」 「「―――― はっ!」」 「あー、えっと、うん、ゴメンね~? いつものノリなんだよ、アタシ達の」 「それは違うよ!!いつもじゃないでしょ、というかノラせるのそっちでしょ!? 世間一般的にはボクは普通の中の普通人って認識なのに……キミと一緒にいると………」 「希望と絶望、表と裏、でも、紙一重な関係。 お互いが希望も絶望も受け入れて一緒にいることを選んだんだから、それくらい、どうでもいいって顔をしなさいよね。苗木」 「………なんてね、元々、そのつもりだよ。江ノ島さん」 「うぷぷぷぷ。 じゃあ、改めまして」 「……………ボク達が何者なのかって、質問に答えるね」 ―――――。 「ボク達は……」「アタシ達は」 「「―――― 【超高校級の(希+絶)望】なんだ」」
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突然メイド服で現れるセレス様 苗木「どうしたの、その格好!? メイド服?」 セレス「学園祭のメイド喫茶の予行演習ですわ。今だけ特別に、あなたのメイドになって差し上げましょう」 苗木「そ、そう。ありがとう」 セレス「まず、何とお呼びしましょうか。『ご主人様』? 『旦那様』? 『苗木様』? 『誠様』?」 苗木「(あんまり調子に乗ると怒られそうだ……ここは無難に……)じゃあ、『苗木様』で」 セレス「では、苗木様。メイドとは、何をすればいいのでしょう? 何か仕事を下さい」 苗木「う~ん……よくわからないけど朝、起こしに来たりとか?」 セレス「かしこまりましたわ。とりあえず朝7時に起こして差し上げます。 その前に身支度などありますので、苗木様がわたくしを朝5時に起こして下さいね」 苗木「それ、あんまり意味ないよね……」 セレス「他に仕事はありませんか、苗木様。何なりとお申し付け下さい」 苗木「メイドさんの仕事……やっぱり家事かな。炊事、洗濯、掃除」 セレス「……思ったより、地味ですわね。というより、まるで……」 苗木「奥さんみたいだね」 セレス「…………」 苗木(!! ……しまった、地雷だったか!?) セレス「……あ、あなたがどうしてもと言うのでしたら」(ボソッ) 苗木「えっ?」 セレス「い、いえ! ……やはり変ですわね。誰かに仕えるなんて、わたくしのイメージではありませんもの」 苗木「まあ、そうかも……」 セレス「予行演習は中止です。よろしいですね?」 苗木「う、うん」 セレス「では、わたくしは元の服に着替えて来ますので。……ごきげんよう、苗木様」 苗木(……何だったんだ……)
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「苗木っち、俺の相談に乗ってくれ~」 放課後の帰り際、葉隠康弘に頭を下げられて、苗木誠はげんなりした。 きっとろくなことがない。以前に内臓を売ってくれと言われたことがある。今度はどこだろう。眼球あたりだろうか。 なにはともあれ、葉隠の部屋で相談を受けることになってしまった。 宿屋まで歩き、葉隠と別れ、自室へとつづく扉の鍵を差し込んで回す。 かちゃりと音を立てるはずのそれは、手ごたえもなくすんなりと回る。 「……はぁ」 苗木はため息をついてかぶりをふる。 本来なら今朝閉めたはずの鍵が開いていたら焦るところだが、彼は取り乱したりしない。開いている理由がわかっているからだ。 「ただいま」 小さく言って、後ろ手で扉を閉める。すぐに出るのだから鍵は閉めない。部屋の明かりが点いていた。 「……来てたんだね、霧切さん」 「…………ええ」 苗木が呆れた声とともに部屋に入ると、霧切響子は『なにか問題あるかしら?』と言わんばかりの雑な返事をした。 彼女は時折、家主である彼の許可を得ずに勝手に部屋に上がる。始めの内は抗議していたが、なにか悪さをするわけでもなく、おとなしく本を読んでいるだけなので次第になにも言わなくなった。 苗木は鞄をどさっと置いてまたため息をついた。 彼女が部屋に来ること自体は正直うれしい。しかしどうやっているのか勝手に鍵を開け、ベッドに座ってくつろがれるというのは間違っている気がする。 苗木は気がつかれないように霧切の姿を確認する。ラフな私服に、いつもしている手袋をはめ、文庫本に目を通している。 その様子からは、自らがおかしな行動をとっているとはまるで思っていないように見える。 彼女の前方、小さなテーブルの上には、お茶の入ったペットボトルがある。いつも苗木が飲むメーカーのものではない。わざわざ彼女が買ってきたのだろう。 部屋に勝手に上がるくせに冷蔵庫は開けないのか。苗木は霧切の倫理観がどうなっているのか理解できない。 たぶん頭の作りが違うから、考え方の根本の部分から違うのだろう。それで納得することにした。 「ボク、これから葉隠クンの部屋に行かなくちゃいけないんだけど……」 「そう」 ……あれ? おかしいな。家主が家を空けると言っているのに、帰るそぶりも見せないなんて。 霧切が文庫本のページをめくる。文字を目で追っている視線からは迷いが見えない。居座る気満々だ。 苗木は口を尖らせる。自らが軽んじられているようで面白くない。やりたい放題の彼女の行動は、人のいい彼のプライドを刺激した。 彼女が苗木の家にいる時間は長くないはずだ。 苗木は葉隠に話しかけられたせいで少し帰りが遅くなったが、まっすぐ家に帰っている。霧切が放課後すぐに苗木の部屋に向かったとしてもタイムラグは10分ほどだろう。 彼女がいままで無断で侵入したのは、こうしたタイムラグの時間だけだ。さすがに長時間、彼が家を空けるときに居座っていたことはない。そのあたりの常識は持ち合わせているんだな、と苗木も安心していた。 しかし今日は何ということだろう。明確に家を空けると伝えたのに動く素振りも見せない。 ボクらは仲がいいと思う。入学以来二人で何度も探偵の依頼をこなしてきたし、一緒にテスト勉強だってする。……たいていボクが教えてもらうだけなんだけど。 でもね、霧切さん。ボクらは長時間家を預けるような、そんな関係にはなっていないんだよね。 間違いなく、その一線は超えてない。苗木にはその自信があった。 超えているならば、部屋を預けることに躊躇はない。 「ねえ霧切さん」 「なに?」 「さすがに、おかしいと思うよ」 「私があなたの部屋の鍵を持っていることが、かしら」 平然と言ってのけた彼女の言葉に苗木は目を丸くする。 「え、どういうこと?」 「……あなた、気づいてなかったの?」霧切が軽く目を見張って苗木を見る。すぐに冷静さを取り戻すように息を吐いて、「じゃああなたはどうやって私があなたの部屋に入っていると思っていたの?」 霧切の呆れたような言い方に、苗木は思わず身を引いた。怒られているわけではないのだが、『これぐらいはわかっていると思ってた』と言われている気がして情けなくなってくる。 考えてみれば、鍵の閉まっている扉を開けて中に入るには鍵を開けるしかない。鍵を開けるのに必要なのは、鍵だ。 「……いつの間に複製していたの?」 「よく覚えていないわ」 確定。霧切さんは、ボクの部屋の鍵を持っている。 彼がそう思ったとき、霧切が苗木に向かって何かをふんわりと投げた。「わっ」と両手で包むように受け取る。 「……これは?」 「私の部屋の鍵よ」霧切はバツの悪そうに目をそむける。「……いつかは渡さないといけないと思っていたのよ」 「えっと、なんで?」 「不平等だから」 「……それって、ボクが霧切さんの部屋に勝手に上がってもいいってこと?」 「そうよ」 期待していた返事とは違うものが帰ってきて、苗木は半笑いしてしまう。 それは違うんじゃないかなあ。普通嫌がるでしょ。 「……晩ご飯は出ないけど」 「はい?」 「晩ご飯は出ないといったのよ」 聞こえなかったわけじゃない。苗木は霧切がなぜそんなことを伝えてくるのか理解できないのだ。 「仮にボクが霧切さんの部屋に行ったとしても、晩ご飯はいらないよ」 「……そうでしょうね。あれだけ料理ができるのだもの。私の手料理なんて比較にならないわ」 霧切は苗木の部屋に侵入すると、なんだかんだ理由をつけて夜まで居座る。 苗木はそんな彼女に晩御飯を毎回ふるまっている。頼まれたわけでもないのに、自発的に。彼はだれかと囲む食卓が好きで、自分の分のついでにもう一人分作ることを苦に思わない。 「もしかして、霧切さんって料理できないの?」 「…………」 どっちだろう。苗木は判断がつけられなかった。なんとなくそつなくこなす気もするし、カップラーメンが精いっぱいでもおかしくない気もする。 「霧切さんがボクの部屋に入ってくるのは、晩ご飯が目的だったり?」 「あなたから見た私は、そんな卑しい女に見えるのね」 「えっ? いや、違うよ。ひょっとしたらそうなかって……」 「……違うわ。いつも言っているように、私があなたの部屋に行くのは依頼の話をするためよ」 どうやら本当の理由を答えるつもりはないらしい。 依頼の話をするだけなら無断侵入などせずに、堂々とその旨を伝えればいい。 そうしないのはなにか別の理由があるはずなんだけど……。 「結構時間が経っているけど、葉隠君の部屋に行かなくていいのかしら?」 「……そうだった。それでね霧切さん、ボクは部屋を空けるから、自分の部屋に戻らない?」 「どうして?」 「どうしてって……。いつボクが戻るのかわからないのに、霧切さんがここにいるのは変じゃない?」 霧切は瞳に悲しみの光を宿らせて「あなたはそう思うのね」と小さくつぶやくように言った。 予想外の彼女の対応に、苗木は「霧切さん?」と困ったように頬を掻く。 「いいえ、なんでもないわ」霧切はかぶりをふった。挑発的に笑って苗木を見る。「私をここにいさせてくれるのなら、ボーナスをあげるわ」 「ボーナス?」 「依頼を手伝ってもらっているし、晩御飯だって何度もごちそうになっているのに、私はあなたに何もしてあげられていないもの」 苗木からすればそんなことはないのだが、彼女は後ろめたいところがあるらしい。 後ろめたいところは、不法侵入のところで持っていてほしかった。 「ボーナスなんていらないけど、なにをくれるつもりなの?」 「なんでもいいわよ」霧切がにっと笑う。「本棚の奥に隠してある本のようにしてもらってもね」 苗木はバッと本棚を見る。彼の部屋の本棚は奥行きが二冊分もある。その部分にエロ本を置き、前方から見える部分に普通の本を置いて隠している。 彼は気まずそうに彼女を見る。 「ばれていないとでも思っていたのかしら」 「なんでわかったの? 表紙まで変えていたのに」 「それは隠し方の定番よ。バカ正直な苗木君」 いまにも「ふふん」と聞こえてきそうなしたり顔。苗木はその表情をどうにかして余裕のないものに変えてやろうと思った。負けっぱなしは癪だ。 「本当に霧切さんにできる? あの本のように」 霧切は苗木の反応に驚いたのか、意外そうな顔色を見せる。それでもすぐさまましたり顔を見せて、「ええ、もちろんよ」と元から短いスカートをたくし上げだした。 苗木は思わずスカートの動きを注視する。徐々に徐々に、いじらしくいじらしく上がっていくスカートは彼の理性をはがしていく。 「ま、待って!」苗木は手を前に突き出す。「わかったから! ボクが悪かったよ!」 「あら?」霧切は面白がっているような愉快な声を上げた。苗木に近づいて彼の手首を握る。「なにが悪いのかしら。苗木君が女性の身体に興味を持っていても悪いことなんてないわ」 苗木は妖艶ともいえるいまの彼女の迫力に押されて、なにも言い返すことができなかった。 その様子を面白がったのか、霧切がさらに彼を刺激する。 「ほら、触ってもいいのよ」 霧切によって苗木の手が彼女の胸に近づいていく。 「あ、あの。ちょっと……」 「ボーナスよ。遠慮しないで」 胸に当たる。想像していた以上に弾力のあるそれに、ゆっくりと苗木の手のひらが吸い込まれていく。 彼は自分のなかにあるなにかが、生唾を飲んだ衝撃で崩れ去るのを感じた気がした。 「あ……」 霧切が小さくこぼす。苗木によってベッドに押し込まれた彼女の顔は赤くなっている。 「あの、苗木君……?」 押し倒され、上に彼が自分の顔を見下ろしている状況は、彼女にとって想像していなかった事態なのかもしれない。 苗木はそう思った。彼女の顔が炒め物ができそうなほどに熱そうだったからだ。 「霧切さんが、悪いんだよ」 苗木は霧切のTシャツの裾に手をかけて胸の上まで押し上げる。 「ま、待って……」 抵抗にならない抵抗の声を霧切が上げるが、苗木はその口を自らの口でふさぐ。 すぐに離して彼女と目を合わせ、また押し付ける。彼女の身体からは力が抜け、抵抗は完全になくなった。 その体制のまま、ブラジャーをずらして乳房を掴んだそのとき、部屋の扉がいきなり開いた。 「苗木っち、見捨てないでくれよ~」 葉隠の声だった。 苗木は身体を即座に起こして彼を見る。 気まずい気まずい、胸がごわごわするような沈黙が場を支配する。 「……すまん」 やがて葉隠が声を絞り出して逃げ出した。 「あの、葉隠クン。これは違うんだ」 呼び止める声はむなしく部屋に響いただけで、効力を持たなかった。 「違うってどういうこと?」 「え?」 霧切の言葉から怒りを感じて苗木は彼女に目を向けた。 じろりとのぞき込むような瞳で見つめられ、心臓が高鳴る。 「ここまでさせておいて、ここまでしておいて、なにが違うというのかしら」 「あ、あの、これはその、なんというか、勢いで」 「勢いで……?」霧切が息をのみ、ぽかんと口を開ける。 「そうなんだ。悪気はなかったんだ。ごめん、霧切さん」 苗木は両手を合わせて頭を下げる。 「ひ、ひどいっ!」 苗木がびっくりして彼女を見ると、鼻の頭が赤くなっており、涙が小さなあごまでつたっていた。 「私は本気だったのに……!」 涙声をあげながら、霧切は苗木から逃げていく。 慌ただしく揺れる髪の毛が見えなくなるそのときまで、苗木は声を出すことも動くこともできなかった。脳みそがショートしていた。 少しの間、呆然と座っていたが、やがて立ち上がり扉をけ破るように部屋を飛び出した。 霧切の部屋の前まで行き、扉を叩く。 「霧切さん! 霧切さん! 話を聞いて!」 なかなか部屋に入れてもらえなかったが、長い時間粘っていた甲斐もあって招いてもらい、話し合い、素直な思いをぶつけあって、二人は恋仲になった。 翌日は一日中、クラスの全員から奇異の目で見られ、居心地が悪いようなむずがゆいような気分で過ごすことになった。
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浴室用洗剤の泡と共に浴槽の水垢をシャワーの水で簡単に濯いでパネルの"湯はり"ボタンを押したらお風呂の準備は完了した。 後はお風呂が沸くまで待つだけとネクタイを緩めながらリビングに戻ると、響子さんが二人掛けのソファを独占するように横になっていた。 「あっ、ごめんなさい……。こんな行儀の悪い格好で」 「いいよ、そのまま足伸ばしてて。お仕事お疲れさま」 「あなたの方もお疲れ様」 申し訳なさそうに肘掛の部分に乗せていた足をどかそうとしたので、やんわりと止めておく。 長時間の運転で足が張っているのだろう。 少しでも早くその痛みから解放できるようにするのが支えるパートナーの務め。 お風呂が沸くまでのしばしの間、フローリングの床に座って待つくらい何のそのだ。 ~ キリキス vol.1 ~ 「響子さんの運転、隣で見ていたけどカッコよかったよ?」 「どういたしまして。久しぶりの運転に加え、左ハンドルではなかったから緊張したわ」 「けれどさ、いつ運転免許なんて取っていたの?」 「それは……日本に来日する前にハワイで取得したのよ」 「えっ、ハワイで?」 「当時ハワイ州は市民権を持てば短期間で自動車免許を取得できたの。筆記試験に合格すればすぐに仮免許が、一般道路での試験をクリアすれば直ちに発行してくれるわ」 「へぇ、そうなんだ……」 "自動車での尾行・追跡・逃走は探偵業には欠かせないじゃない――?"という理由に納得する。 ふと、目の前にある響子さんの脚に目が行く。 ほぼ一日中ペダル操作を行っていたことでいつもと違う足回りになっていることに気づく。 「ねぇ、響子さん……。ちょっと揉んでいいかな?」 「えっ……? い、いきなり何を言い出すの誠君?」 「あっ、ごめん。言い方が悪かったね、脚のことを言っているの」 「私の脚……?」 「うん。脚が張ってて何だか辛そうだから、揉んで少しでも疲れを取ってあげようと思ってさ。……ダメ、かな?」 「もう……。そんな顔で頼まれたら私が断れないじゃない……。いいわ、あなたの好きにして」 「ありがとう」 そう言って響子さんは両足をソファの肘掛け部分から僕の近くに下ろした。 まずは左右のふくらはぎの硬さを触って確かめてみる。 ――うん、右の方が左より若干硬いな。 次は左足の膝裏に両手を添え、親指でゆっくりと3回圧してみる。 「……っ」 「ごめん、痛かった?」 「……大丈夫。平気よ」 同じように右足の膝裏に手を這わせて、親指で3回圧す。 左足に比べて若干硬いので圧す時間は気持ち長めに。 今度は足首を圧す。足首の内側に出っ張っている骨とアキレス腱の間を3回。 それを左右2セットずつ行ったら両手で足首を掴んだまま、膝下まで引上げる。 最後に両足のふくらはぎの硬さを比較するため、もう一度触って確かめる。 ――うんうん。 クニクニと揉んで弾力具合を確かめてみると、マッサージする前と比べたら幾分か柔らかくなった感じがする。 「それで、整体師さん……。あなたの診療はこれで終わりかしら?」 「うん。後はお風呂に入って体全体の血の巡りを良くしよう」 「……ありがとう、誠君」 「どういたしまして」 そう言ってクスクス笑うと僕の息が脚にかかってくすぐったかったのか、彼女の足がピクリと震えた。 そんなリアクションを見て、僕の中に芽生えるイジワル精神がムクムクと湧き上がった。 彼女の右太股の内側を添えるように触れ、太股の外側にそっと唇を寄せてみる。 そして羽で撫でるかのようにそっとキスをしてみる――。 「……誠君?」 訝しげな呼び声に下から窺うように彼女と視線を合わせる。 「ダメ、かな……?」 「もう……」 先程と同じような確認を行うと、諦めにも似たような響きの溜め息が響子さんの口から漏れた。 それを僕は許可と受け取り、彼女の太股にキスの雨を降らせる行為に没頭した――。 舌でチロチロとゆっくりと丁寧に舐め、太股から脛へと降りていく。 時折ワザと音を立てるようにキスもしてみる。 ただの口づけ。 接吻。 キス。 幾度となく彼女と重ねた行為だというのに――。 普段触れたことのない箇所に唇が触れただけでこんなにも愛しくてたまらなくなってしまう。 僕の頭は既に霞がかって熱くなってしまう。 でも、やめられない――! 「……今度は私の番ね」 「えっ? ……うわっ!」 足の甲へのキスに没頭していたら、頭の上から響子さんの声が聞こえる。 "私の番――?"なんて疑問に思っていたら僕の体は素早くひっくり返された。 "パカー"と恥ずかしい姿の僕に響子さんが覆いかぶさる。 「ちょっと、響子さん?」 「あなたも甘んじて受けて……。いいわね?」 そう言って僕の右足の靴下をスルスルと脱がす。 そして僕の裸足に響子さんは顔を寄せてきて――。 「……っ、ぁぁあっ!」 「……フフッ」 僕のリアクションがご満悦のようで、彼女の目尻が緩む。 そして一指し指、中指と順番にキスをしてくる。 「ん、あっ、んくぅ、きょ、きょうこさ……ふぁっ!?」 あまりの恥ずかしさに目を瞑るのが拙かった。 今度は指と指の間を這うように舌先でなぞられる。 猫が皿のミルクを舐めるようにチロチロと――! 「や、やめてよ、響子さんってば!」 僕の悲鳴に似た叫びでピタリと止まる足の愛撫。 安堵の溜め息と同時に目を開けると、どこか不満そうな瞳で響子さんは僕を見つめている。 「あー、その、なんていうか、ほら……僕の足って汚いでしょ? 靴下の臭いとかも残ってさ」 「……あなたにされた行為をそのままお返ししただけじゃない。そもそも私達はそれ以上恥ずかしい箇所に触れた後もキスをするでしょう?」 「いや、確かにエッチの時にお互いのを舐めっこした後にキスはするけどさ……。あれは気持ちが昂ぶってたまらなくなるっていう「そもそも、この行為が汚いって言うならば……」 僕の反論を遮るように響子さんが二の句を告げようとした時、お湯が沸いたことを告げるアラーム音がリビングに響く。 「綺麗に洗い流せばいいじゃない?」 僕の手を取って起き上がらせてくる。 そして響子さんはその手を離さず浴室へと歩くのだった。 その行動でようやく気づいた。 僕だけじゃなく、響子さんも蕩けていたんだって――。 お互いスイッチが入っているだけに、これが只の入浴だけでは済まないことはわかっていた。 「ねぇ、響子さん。晩御飯はこの際だから手っ取り早くカップ麺でいいよね……?」
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がたん、ごとん。 日付も変わろうかという時刻のローカル線に、乗客は驚くほど少なかった。 広い車内に僕ともう一人だけの、ただ二人きり。 他に人影を探そうとすれば、スライドドアを開けて隣の車両へ行かなければならない。 そして、周囲に響き渡るのは電車の走行音のみ。 こんな時間まで外を出歩くなんて生活とはとんと無縁だった僕からすれば、それは極めて奇異な光景である。 物珍しいものを目にすれば、まぁ大抵の人は、大なり小なりそこに何がしかの感慨を覚えるものだと思う。 無論、平凡中の平凡を自認する僕も例外ではない。 ――本来なら。 視覚が捉えた眼前の光景を『奇異なもの』として認識することはできる。 だが、その後が続かない。 思考が『ああ、なんだかおかしな感じだな』というところで止まってしまう。 目下のところ、僕にはそんなことに思いを巡らせている余裕はないのだ。 なぜなら、そう。 僕のすぐ隣で起きていることに比べれば、その程度の奇異さはまるで取るに足らないことなのだから。 肩に感じる、僅かな重み。 その重みの主は、僕以外でこの車両に乗っている唯一の人間にして僕の大切な――大切なクラスメートであり、友人だ。 そしてまた、ごく一般的な高校生であるところの僕が、こんな時間にローカル線に揺られている理由の主でもある。 霧切響子さん。 彼女が僕の肩に寄り掛かって、眠っている。 つまりは、それが僕の置かれている現状だ。 ---------- ちょっとしたきっかけから僕が霧切さんの『仕事』の手伝いをするようになって、もう二ヶ月ほどになるだろうか。 彼女の下に舞い込む依頼は様々だ。 時にはクラスメートからのごく身近なレベルの頼まれ事。 時には彼女の敬愛する祖父を仲介として、警察をはじめ思わず身構えてしまいそうなところから持ち込まれた仕事。 また時には――彼女とは複雑な間柄である、希望ヶ峰学園長直々の特命。 誰からのどんな依頼であろうと、ひとたびそれを受諾すれば彼女はすぐさまに捜査を開始し、そしてどこへでも飛んでいく。 学園から遠く離れたところまで足を運ぶことも、そう珍しいことではない。 しかしながら、ここまで帰宅が遅れたのは今日が初めてだ。 今回の依頼は人探し。 霧切さんにとっては至極簡単な仕事だろうとタカを括っていたけれど、そんな僕の読みは甘かったと言わざるをえない。 探し人の足跡は思った以上に少なく、じきに捜査は行き詰ってしまった。 ようやく突破口が開けたのは、もう夕方に差しかかろうかという頃。 手持ちの情報を整理しながら今後の方針を話し合っていた最中、突如として彼女に天啓が降りてきたのだ。 思い立ったが即断即決。 彼女に先導されるまま、気がつけば僕らは聞いたこともないような名前のローカル線に乗車していた。 それから片道二時間の道程を経てやって来た山中深くの集落で、ようやく確たる手掛かりを掴むことができたのである。 ――が、なにしろそこに至るまでが長かった。 どうにか帰りの電車に駆け込んだ時には僕はもうクタクタで、それは彼女も同じ様子だった。 証拠を手にした時の静かな興奮は陰を潜め、いつものように今後の捜査の展望について意見を交わすこともなく。 僕らは言葉少なに、ただ電車に揺られていた。 そうして、二駅ほど過ぎたあたりだっただろうか。 不意に、自分の肩に誰かが寄り掛かってきたのは。 他に乗客なんていないというのに、それを霧切さんだと認識するまでにしばしの時間を要したことを、やけにはっきりと覚えている。 ---------- そして、今に至る。 密室の中で、綺麗な女の子と二人きり。 それも、頭と肩と腕だけとはいえ、体が密着している。 世の平均的男子高校生ならば、きっとドキドキせずにはいられないシチュエーションだと思う。 そして平均的男子高校生の代表選手たるこの僕が、例外であろうはずもない。 さて、僕はどうするべきなのだろうか。 疲れきった女の子のひとときの休息を妨げるのは少々気が引ける、というのも事実だ。 いろいろな意味で僕よりずっとタフな霧切さんが、今日ほど疲れた様子を表に出していたのは珍しい。 だから、尚更そう思えてくる。 だけど、このまま身体が密着した体勢を維持し続けるのはどうなのか。 僕らはまだ恋人だとか、そういう関係じゃあない。 クラスメート、もしくは探偵と助手の間柄でしかないのだ。 にも関わらずこんなピッタリと――って、待て。 ちょっと待て苗木誠。 今の『まだ』ってのは一体何だ、『まだ』ってのは? お前は一体彼女に何を期待しているんだ? ――いや、今はその話は置いておこう。 というか、あれだ。 考えてみれば、下車するまでのどこかの時点で、遅かれ早かれ彼女には目を覚ましてもらわなければならないのだ。 身体が密着しているのを分かっていながら下車ギリギリまで起こさなかったりしたら、霧切さんはどう思うだろう? ジト目で睨まれるくらいで済めばいい。 が、下手をすればしばらく口も利いてくれなくなるなんてこともあり得るかもしれない。 とすれば、今起こしてあげるのが最善と考えることもできるんじゃないだろうか? よし、決めた。 腹を固め、僕は霧切さんの方へと視線を動かす。 僕の肩に寄り掛かる銀色の頭。 角度のために、その表情を窺い知ることはできない。 果たして彼女はどんな寝顔をしているのだろう。 甘ったるくない、さっぱりとした清涼感のあるいい匂いが鼻腔をくすぐる。 これほど近くで彼女の香りを感じるのは初めてのことだ。 響き渡る電車の走行音と震動の中に、彼女の小さな寝息が聞こえてくる。 ささやかな、ほんのささやかな息づかいなのに、驚くほどはっきりと感じられるのは距離が近すぎることだけが理由だろうか。 垂れ落ちた彼女の長い髪の一房が、膝の上にある僕の手の甲をそろりと撫でる。 もっと、触れてみたい――そう思わないといえば嘘になる。 取り留めない思いが頭を巡るうちに、僕の意識は寄り掛かる彼女の身体の存在へと傾いていく。 直に触れる彼女の肩は、僕がイメージしていたよりずっと小さかった。 そして腕の感触はとても柔らかい。 いや、別に『筋張ってごつごつしてそう』だとか思っていたわけではないけれど。 ただ、僕が彼女に対して抱いていたシャープな印象にそぐわないその感触に、多少の意外さを覚えたのは事実だ。 女の子の身体の柔らかさ。 これもまた、僕にとっては初めて味わうものだ。 そしてこの腕を隔てた向こう側にはきっと、もっと柔らかい―― ごくり。 我知らず、僕は唾を飲み下していた。 待て。 待て待て待て待て! 何を考えているんだ僕は!? つい先刻、彼女を起こすことを決めたばかりじゃないか。 確かに、その、今のこの状況を手離すのは惜しいという気持ちもある。 それは否定できない……というかこの期に及んで否定しても白々しいだけだ。 だけれど、それは置いといて。 何よりまず、霧切さんは僕の大切な――大切なクラスメートであり、友人なのだ。 決断を先延ばしにして、あるいは判断を誤って、その為に今の彼女との関係を損なうようなことは、僕の望むところじゃあない。 なら、どう行動すべきかは自明のはずだ。 煩悩に惑わされるんじゃない。 行け。 行くんだ僕。 「き、きり……」 決意を新たに声をかけようとした、その時。 「ん……うぅ……」 霧切さんの口から、彼女らしからぬ不明瞭な声が漏れる。 いつだってハキハキとした声で歯切れよい物言いをする彼女にはとても似つかわしくない、可愛らしい呻き声。 それと同時に彼女の頭がもぞもぞと動き、僕の肩からずり落ちる。 ずり落ちた先は――僕の二の腕の上。 頭が動いた拍子にか、彼女の香りがふわりと周囲を舞う。 「あ、え……?」 彼女に掛けるべき台詞の代わりに、意味を成さない間抜けな声が漏れる。 完全に出鼻を挫かれた形だ。 その間にも彼女の身体は重力に引っ張られ、ずるずるとずり下がっていく。 重みが、存在が、肩の上にあった時よりも一段とはっきりしたものとなって伝わってくる。 そして終着点――それ以上ずり下がりようのないところで、ようやく彼女の頭は移動を止める。 すなわち、僕の膝の上で。 膝の上……膝の上? 「え……えぇ!?」 えっと、ちょっと待て。 なんだこれ。 なんだこれ。 これはつまり、その、俗に言うところの膝枕というやつなのか。 何で? どうして僕が霧切さんに膝枕? いや、何でかといえば今この目で見た通りなんだけれども、そういうことではなく。 ……本当になんだこれ。 客観的に見れば、先刻から彼女の姿勢が幾分変わったというただそれだけなのに。 その些細な変化に、僕はどうしようもなく動転させられている。 彼女は相変わらず、小さく寝息をたてるのみだ……僕の膝を枕代わりに。 というか、位置がヤバい。 膝の上の彼女の頭から然程離れていない僕の足の付け根には、その、アレがあるわけで――って、おい。 また何を考えているんだ僕は。 ――落ち着け。 落ち着くんだ、苗木誠。 そう、状況はさして変わっていないんだ。 膝枕という言葉の甘い響きに惑わされるんじゃない。 何も慌てる必要なんてないし、僕のやるべきことも変わらない……そうだろう? 三度目の正直、というか何というか。 気を取り直し、僕は改めて霧切さんに声をかけようとする。 「あの、きりぎ……」 が。 またしても。 僕は機先を制されることになる。 「なえ、ぎ……くぅん……」 名前を呼ばれた瞬間。 どくん、と心臓が一際高く鳴る。 寝言、なのだろうか。 先ほどの呻きと同じ、可愛らしいトーンの声がひどく艶っぽく聞こえてしまう。 この状況に当てられて、僕の耳までもがおかしくなっているのだろうか。 早くも気勢を削がれつつある僕をよそに。 霧切さんの攻勢は尚も止まらない。 「うぅ……ん……」 僕の膝に頭を乗せたまま、彼女が小さく身をよじる。 その結果――まるで猫が頬ずりするかのように、彼女の顔が僕の膝に擦り付けられる。 そして、さらに。 「ここまで……すれば……わかる、わね……?」 「……へ? えぇ!?」 僕の身体も思考も、そこで完全に停止した。 ---------- 『間もなく~△△~。△△~』 あれから、どのくらい経った頃だろうか。 車内アナウンスが僕らの下車駅の名を告げたのは。 結局それまで、僕はずっと硬直したまま、ただ自分の心臓の鼓動を聞いていた。 そして、ようやく。 「んん……」 うたた寝の最中でも、駅の名前は聞き逃さなかったのだろうか。 ようやく、霧切さんが僕の上からのそりと起き上がる。 「あ……霧切さん」 「……眠ってしまっていたのね、私」 「お、おはよう……」 寝起きであることを感じさせない、明瞭な声。 僕のよく知る、聞き慣れたトーンの彼女の声だ。 「どうも迷惑をかけてしまったみたいね……ごめんなさい」 「え……? いや、迷惑なんてことはなかったけどさ……霧切さんの方は、その……」 「何?」 深く澄んだ薄紫色の瞳が僕を見返す。 一切の揺らぎの無いポーカーフェイス。 いつも通りの、まったくいつも通りの彼女の顔。 「い、いや……ゴメン。何でもないよ」 「……そう。なら、私もいいわ」 『△△~。△△です~。○○線にお乗換の方は三番乗り場~。□□線へは……』 気がつけば電車は既に停車しており、そして間を置かずホームへと続くドアが開かれる。 「行きましょうか」 霧切さんが、これまた普段通りのしなやかな所作で立ち上がる。 「あ、う……うん」 ワンテンポ遅れで、僕も彼女の後を追う。 腑に落ちないというほどではないけれど、なんだかモヤモヤしたものを胸に抱えながら。 ジト目で睨まれることも、口を利いてくれなくなることもなかったのは……ラッキーと言うべきか。 だけれど、彼女の立ち居振る舞いが、本当に何事もなかったかのようで。 まるで先刻のことが夢か何かだったのではと思えてきてしまう。 肩に、腕に、そして膝の上にあった彼女の感触は、はっきりと思い出すことができるというのに。 いつも通りに見えて、実は寝ぼけていたりするのだろうか。 それとも、僕が全く異性として見られていないということか。 あるいは……うたた寝していたのは彼女ではなく僕の方だったのか。 「それにしても……」 並んでホームに降り立ったところで、不意に彼女が呟く。 そして僕は更なる困惑に陥ることとなる。 「結局……自分から指一本触れようとしなかったわね、あなた。まあ、紳士なのは悪いことじゃあないけれど」 「……へ?」 「なんでもないわ……独り言よ。忘れてちょうだい」 それだけを口にすると、彼女は改札へ続く階段へと歩を進めていく。 カツカツとブーツの踵を鳴らしながら、立ち尽くす僕を尻目に。 ええっと、あの。 今のは――一体どういうことだ? 僕が自分からは彼女に触れようとしなかったのは、その通りだけれど。 なぜ霧切さんは、自分が眠っている間のことを知っているんだ? それはつまり――。 いや、仮にそうだとして。 僕でも簡単に分かるような矛盾に、あの霧切さんが気付かないなんてことがあるのか? もしかしたら、彼女はそれと知ったうえで、あえて矛盾のある台詞を口にしたんじゃないだろうか? そして、独り言だと言っていたけれど……本当にそうなのか? 僕にはそんな風には聞こえなかった。 ならば――。 「どうしたの? ここで野宿でもする気?」 数メートル先から僕を振り返る彼女の瞳は、やはり深く澄んだ薄紫色。 その瞳に、僕は、 「あの、霧切さん。さっきの……」 問い掛けようとして、僕は慌ててそれを中断する。 今はまだ、彼女に僕の言葉の弾をぶつける時ではない。 すんでの所で、そのことに思い至ったからだ。 『ここまで……すれば……わかる、わね……?』 先刻、彼女が僕の膝の上で発した言葉がリフレインする。 僕の推測が正しかったとして、では何故彼女は『あんなこと』をしたのか? その問いに答える――いや、応えるための弾丸は、今しがた彼女が僕に渡したものでは足りない。 多分、僕が僕自身の中から見つけ出さなければならないものこそが、それにふさわしいはずだ。 実を言えば、僕にはその弾丸が僕の胸の内の何処にあるかはもう見当がついている。 けれど、それを取り出して装填するには、まだ少々の時間と、そして少々の勇気が必要だと思う。 ついでに言えば――シチュエーションも、もうちょっとばかり相応のものを選びたい。 「何かしら?」 「……や、ごめん。何でもないよ」 「さっきも同じ台詞を聞いたわね。別にいいけれど」 くるりと身を返し、霧切さんが再び歩き出す。 僕も急いでそれを追い、そして彼女に並ぶ。 忘れて、と彼女は言った。 きっと彼女も僕と同じように考えているのだ――と思う。 だから今、この場は彼女の言う通りにしよう。 いずれ、その時はやって来るはずだ。 ――いや、その時を作り出さなければならないのは僕だ。 遠くないうちに、必ず。 それまでは僕の胸の内にしまっておこう。 彼女が僕に提示した矛盾点も、それを貫く弾丸も。 「……意気地なし」 「え? 霧切さん、今何か言った?」 「別に。独り言よ」
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中編へ 『霧切さん。ボクが今日、ここに来た理由は二つあるんだ』 『ひとつは、大事な《約束》を果たす為――』 『もうひとつはね、霧切さん――』 『――――君にお別れを言いに来たんだ』 彼が放った無情の言葉は、凶弾となって私の心を撃ち砕いた。 ――ほんの少し前まで、彼と私は笑い合っていた。 もう戻らないと思っていた大切な時間をもう一度手にしたと思っていた。 あの日からずっと、私の想いと彼の想いが繋がっていると感じていた。 なのに―― 私と彼との間で、何かが大きく、決定的に違っていた。 …… … 「霧切さん。あの日の事、覚えてるよね?」 彼――苗木君の声に呆然としていた意識が引き戻される。 私はまだ、彼の両腕の中にいた。 急な覚醒に思考が追い付かず、彼の言葉の意味をすぐには理解できなかった。 「ボクは霧切さんが学園からいなくなるなんて嫌だった。ずっと一緒にいたい、傍にいてほしいって本気で思ったんだよ」 「でもそれはボクの身勝手な我が侭で……。正直、ボクなんかが霧切さんと付き合えるだなんて、思い上がってた部分もあるよ」 「苗木君、それは――」「霧切さん」 私の言葉を、彼は冷たい口調で遮った。 「同情なんか要らないよ。ボクは君に同情してほしくて此処に来た訳じゃない」 「ボクは君にお別れを言いに来た。でもその前に、はっきりさせておきたい事があるんだ」 『お別れを言いに来た』――。 さっきの彼の言葉が白昼夢では無かったのだと思い知らされる。 「あの時、ボクは霧切さんの決断を受け入れるつもりだった。寂しいけれど、誇りを大事にしている君の事を応援しようと思ったよ」 「……ボクたちは恋人という関係にはなれない。だけど、ボクたちはずっと友達で、信頼し合える仲間だと思ってた」 「そう、思ってたのに……」 「……なのに君はボクを裏切った。何も言わずに、何も残さずに、君は学園から――ボクの前から姿を消したんだ」 絞り出すような憎悪の声。 初めて向けられる彼の悪意に、私の身体は小さく震えていた。 「最初はさ、霧切さんの身に何かあったのかと思ったよ。……怖かった。本当に、心配したんだ」 「後で君が学園を出ていったと聞かされた時だって、すぐには信じられなかったよ」 「だって、友達だったんだよ? 霧切さんが何も言わずに出ていく筈が無いって……そう思ってた」 あの優しかった彼が、私を糾弾している。 本当に苗木君なのか疑ってしまうほど、私には信じられなかった。 「……君がいなくなって、ボクは寂しかった」 「いつか学園を出ていくと知ってたけど、あまりにも突然で、心の準備なんか出来てなかった」 「『きっと急なお仕事で学園を離れただけだ』って、『帰ってきたら文句のひとつでも言ってやるんだ』って」 「……そうやって自分を誤魔化しながら、あの部室でずっと君の帰りを待ち続けた」 彼の言う光景は簡単に想像できた。 旧校舎の片隅にあった、小さな空き教室。『探偵同好会』の部室。 私と彼、二人で過ごした思い出の場所。 ――そこで毎日、一人きりで私の帰りを待つ彼の姿。 そのとき彼は、どんな気持ちだったか。 もし私が彼の立場だったら、と考えて、急に胸が締め付けられた。 ――孤独感。 同じ時間を過ごした相手を失う寂しさ、戸惑い…… 私の想像に及ばないこの感情を、彼はずっと一人で抱え込んできた。 「そんなボクを、クラスの皆は心配してくれたよ」 「落ち込んだボクを精一杯励まして、ボクを元気付けようといろんな場所に連れて行かれた」 「だって、あの石丸君がだよ? カラオケに行こうだなんて言い出した時はボクもビックリしたよ」 はは、と乾いた笑い声もすぐに彼自身の溜め息によってかき消された。 「……だけど、なんか違ったんだ。心の何処かで、以前のように皆と楽しく過ごせないボクがいた」 「正直、苦痛だった。皆の中にいればいるほど、そこに霧切さんはいないんだって思い知らされた」 「それでも、皆に心配掛けないように元気になったフリをした。立ち直った自分を演じてみたりもした」 「そしたら今度は、いつの間にか嘘を吐くのが上手になってしまった」 「……もう、霧切さんに『バカ正直』って言ってもらえないんだ、って思ったら……辛かった」 私は、どうしようもなく愚かだった。 私の身勝手さが、彼を苦しめ、歪ませてしまった。 彼の心に深い傷を負わせてしまった。 取り返しのつかない事をしてしまった。 ――全部、私の責任だ。 「……ごめん、なさい」 「ごめんなさい、苗木君……」 「本当に、ごめんなさい……」 だけど私には、謝る事しかできなかった。 謝る以外の償い方を知らなかった。 ――だから、許してもらおうとは思わなかった。 「…………霧切さん」 だけど、 「……まだボクの話は終わってないよ」 私には、彼の傷を慰める事さえできない。 「霧切さん。ボクは君に謝罪を求めている訳でもないんだ」 「そもそも君が謝る理由なんて無いよ。ボクが勝手に傷付いて、勝手に苦しんだ。ただそれだけなんだ」 「苗木君……話を聞いて」 「ゴメン、まだ君の話は聞けないんだ」 「苗木君っ!!」 これ以上、彼に傷付いてほしくなかった。 彼に、自分を追い詰めてほしくなかった。 口汚く罵られてもいい。 殴ってくれても構わない。 どんな乱暴をされたとしても、彼の気が済むのならそれでもよかった。 だけど、彼は何もしない。 私の罪を掲げたまま、決して罰を与えてはくれない。 それが尚更、償う術を知らない私に罪の重さを意識させた。 「……だったらさ、ボクの質問に答えてよ」 「――――どうして、君は何も言わずに学園を出ていったの?」 言葉に詰まる。 私が、彼に別れを告げなかった理由。 「それ、は――」 彼だからこそ、別れを告げられなかった理由。 「あなたと別れるのが、辛かったから……」 ――あのとき私は、最後まで自分の未練を断ち切れなかった。 お爺様――霧切家当主に呼び戻された時から、私はずっと迷っていた。 霧切としての誇りも、苗木君と過ごす時間も、私にとって大切なものだったから。 無理だと分かっていたのに、両方とも失いたくないと考えてしまった。 だから私は、天秤に掛ける事を放棄した。 誇りという大義名分の下に、彼への想いを閉じ込める事を選んだ。 だけど、その時だった。彼に告白されたのは。 ――『ボクは、霧切さんの事が好きだよ……』 彼の言葉が、偽っていた私の心を撃ち抜いてしまった。 零れ出した感情に流されてしまいそうで怖かった。 誇りを投げ出す事が、自分を止められなくなる事が、何よりも怖かった。 これ以上、彼の前で気持ちを抑えられる自信が無かった。 「だから私は、貴方に別れを告げられなかった……」 「――――よ、霧切さん」 「……え?」 「それは違うよ」 だけど彼は、私の答えを斬り捨てた。 「霧切さん、それは矛盾してるよ。ボクとの別れが辛いのなら、どうして何も言わずに出ていったの?」 「何を、言ってるの……?」 私は、彼への想いを捨て切れずにいたからこそ、別れを告げる事ができなかった。 それが偽りない真実だから。だから、彼の言う矛盾が理解できなかった。 「分からない? あの《約束》だよ」 ――《約束》。 最後の品評会で交わしたあの約束。 「霧切さんが言い出したんだよ? 『ボクたちが再会したらコーヒーを淹れる』っていう約束」 「なんでもない只の約束に聞こえるけど、ボクにとっては大事な約束だった。……ボクにとっては、ね」 「だけど、霧切さんは何も言わずに学園を出ていった。行き先どころか連絡先ひとつ残してくれなかった」 「しかも日本を離れてロンドンにいるなんてさ……偶然バッタリ出会うなんて、どう考えても有り得ないよ」 「それとも君の方から会うつもりだった? 三年間、一度も連絡をくれなかった君の方から?」 「君は変えてしまったけど、ボクは携帯の番号もメールアドレスも、ずっとあの日のままにしていたのに」 「そこで、ふと思ったんだ」 「そもそも君は、ボクとの《約束》を果たすつもりがあったのかな?」 「あの《約束》は、君に振られたボクに同情しただけの、只の口約束だったのかもしれない」 彼の抱いた疑惑が、私の胸に突き刺さった。 違う、と叫びたいのに声が出てくれない。 ――どうして、私と彼の間で、こんなに大きくずれてしまったのだろう。 「……霧切さん。君はこう思ったんじゃないかな」 「――『ボクの事なんか忘れてしまいたい』」 「ボクとの繋がりを絶つ事で、ボクの事を忘れてしまおうと考えたんだよね?」 ――どうして、こんなにもすれ違ってしまったのだろう。 「それに気付いた瞬間、ボクは愕然としたよ」 「ボクは『霧切さんに会いたい』と思っていたのに、霧切さんは『ボクに会いたい』と思ってないんだ」 「ボクは君との《約束》を大切に思っていたけど、君はボクとの《約束》を何とも思ってないんだ」 「ボクと君は、こんなにもすれ違っていたんだ、ってね……」 ――私は、彼の事を忘れようと思っていたのかもしれない。 彼を想い続ける事が苦しくて、 彼と過ごした時間が温かくて、 彼と紡いだ思い出が眩しすぎて…… 再会の《約束》も、思い出の一部に綴じてしまっていた。 彼がどんな思いをして、どんな想いを抱えていたのか、分かってあげられなかった。 自分の事だけを考えて、彼を傷付けてしまった。 だから、彼に嫌われてしまうのも当然だった。 ――苗木君に、嫌われた。 あの優しい笑顔も、心配してくれる声も、差し伸べてくれた手も、全部失ってしまった。 そう思った途端、目の前が真っ暗になった。 世界が色を失う、という表現がぼんやりと理解できた。 「……今日の事は全部、嘘だったの?」 「私は、また苗木君と笑い合えて、嬉しかった……だけど」 「貴方は、そうじゃなかったの……?」 びくり、と彼の身体が揺れた。 「……嘘なんかじゃないよ。ボクも嬉しかった。あの頃に戻れた気がして、本当に嬉しかった」 「だったら……」 「それでも――」 ほんの少しだけ通じ合えた想いも、今の彼の心には届かない。 私の後ろで、彼が静かに首を振った気がした。 「それでも、あの頃には戻れないよ。ボクは変わってしまったから」 「ボクはもう、霧切さんが知ってるボクじゃないから。……本当に、ゴメン」 「どうして、謝るの……?」 彼が変わってしまった。 その原因は、私にある。 私の身勝手さが、彼の心を傷付け、歪めてしまったから。 なのに、どうして、 ――どうして、貴方が謝るの……? 「霧切さん。ボクはね、おかしくなってしまったんだ」 「どういう、意味……?」 だけど彼は、私の質問には答えずに独白を続けた。 「ボクはどうしても、霧切さんに会いたかった。会って、君との《約束》を果たしたかった」 「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、それがボクの生きがいだったんだ」 「その為なら何だってするつもりだったし、実際に何だってしてきたよ」 「……クラスの皆にも心配掛けて、迷惑掛けて……最後は裏切るような真似もした」 「次第に皆、ボクの傍から離れていった。……いつしか誰も、ボクの事を相手にしなくなった」 信じられなかった。 私が知っている彼は、クラスの中で誰よりも周囲から慕われた存在だった。 皆の為に悩んで、行動して、いつも皆の架け橋となって頑張っていた。 だから、そんな彼が周囲から軽蔑される姿なんて想像も付かなかった。 「ボクは……それでもいいと思ってた。……霧切さんに会えるなら、それでもいい」 「そうやって、君との思い出に縋って、逃げ込んで……現実から目を背けてきた」 「皆から貰った特別なもの――《希望》って言ったらいいのかな」 「その《希望》がひとつずつ、ボクの手から零れ落ちていくのが分かった」 「いつの間にか、全部無くしてしまった」 「いつの間にか、本当に空っぽになってしまった」 彼の声には深い後悔が滲んでいた。 ただ私に会う為にクラスメイトを裏切った、と彼は言った。 そうしてまで私に会いたかった、と彼は言ってくれた。 ――本当に、自分の愚かさが許せなくなる。 「そんな時に言われたよ。『今のお前を、一体誰が受け入れてくれるんだ』って」 「皆から貰った《希望》を失ったボクは、もう誰にも受け入れてもらえないって……」 するり、と私を抱いていた腕が離れていく。 ふらつきそうになる身体を、何とか踏み止まった。 「……当然だよね……ボクは皆を、裏切ったんだ……」 「……裏切って、しまった……だから、もう……」 「……受け入れられない……空っぽのボクは……」 「……《希望》なんて……霧切さんだって……」 「……霧切さんだって、こんなボクを、受け入れてくれない」 「苗木君っ!!」 その言葉を聴いた瞬間、頭の中で何かが切れた。 気が付けば、私は彼に掴み掛かっていた。 彼にもそれは予想外だったようで踏み止まれず、そのままバランスを崩し―― 「うわっ!?」 「きゃっ!?」 二人してフローリングの床に倒れ込んだ。 私はすぐさま、仰向けに倒れた彼の上に跨り、彼の頭の横に両手を突いて詰め寄った。 マウントを取られた彼は、状況に付いていけず、驚いた顔で私を見上げている。 だけど、今の私にはそんな事はどうでもよかった。 私は、目の前の彼にどうしても言わなければならない事があるのだから。 「苗木君。私は、貴方がクラスの皆と何があったのかは知らないわ」 「あの、えっと」 「だけど、これだけは言わせて。私が貴方を受け入れない、なんて勝手に決め付けないで」 「……え?」 「苗木君は私の事を信用できないかもしれないけれど、私は今でも貴方の事を信用しているわ」 「…………」 「だから、『誰にも受け入れられない』なんて言わないで。少なくとも、私が貴方を受け入れてあげる」 ――白々しい。 誰よりも先に、彼の気持ちを裏切ったのは私なのに。 ここまで彼を追い詰める原因を作ったのは、他でもない私なのに。 それでも、言わずにはいられなかった。 自分を追い込む彼を、放っては置けなかった。 謗りなら甘んじて受けるつもりだった。 彼の矛先が、彼自身ではなく私に向くのならそれでもよかった。 だけど、 「……ずるいよ」 「え?」 「やっぱり、霧切さんはずるいよ」 「苗木君……」 「卑怯だよ……そんな言い方」 だけど、彼は笑っていた。 泣きそうな顔で、ただ静かに笑っていた。 「……ねえ、霧切さん。最後にひとつだけ聞かせて」 『最後に』と言われて、彼の言葉が頭をよぎった。 ――『君にお別れを言いに来たんだ』 彼が、いなくなる。 此処で別れれば、きっと彼の方から会いに来る事は、もう二度と無い。 ――心が騒ぎ始めて、落ち着かない。 「嘘も誤魔化しも同情も理屈も要らない。……だから、君の本心を聞かせてほしい」 薄らと涙の滲んだ彼の目が私を捉えた。 目を逸らす事は許されない。 きっとこれが、彼に対する罪滅ぼしになる筈だから。 ――胸が苦しくなる。 「霧切さんにとって、ボクは何だったの?」 漠然とした質問。 だけど、その答えを、彼はずっと探し求めていたのだ。 だから、私は伝えなければならない。 三年間、彼が孤独と戦い、傷付きながら求めたその答えを―― 「私にとって、苗木君は……」 ――温かな、私の居場所だった。 私はそれまで、人の温かさがよく知らなかった。 きっと、母と死に別れ、父が家を出たあの日から見失ってしまったのだろう。 私はずっと、霧切の新たな担い手としてお爺様に厳しく躾けられてきた。 それは今でも感謝しているし、私も霧切の探偵になる事に誇りを持っていた。 だけど、心の何処かに小さな違和感を抱えていた。 それが、孤独なのだと教えてくれたのは苗木君だった。 希望ヶ峰学園に入学してからも、私は常に独りでいた。 そうする事が正しいと信じていたから。 なのに、気が付けば、いつも隣には彼がいた。 彼の隣は、いつも温かかった。 陽だまりのような温もりが、欠けていた私の心を満たしてくれた。 それが、私が見つけた唯一の居場所だった。 私はようやく、失くしてしまった人の温かさを手に入れた。 「だから、失いたくなかった……」 そんな時だった。お爺様からの手紙が届いたのは。 霧切の誇りと温かな居場所、どちらかを失う日が来てしまった。 私の人生において、霧切の誇りは絶対だった。 そこには揺るぎない《誇り》を名乗るだけの価値観があった。 ただ、それと引き換えに彼と過ごす時間を失うのが怖かった。 だから私は答えを曖昧にしたまま、選択から逃げてしまった。 「だけど、貴方は私を好きだと言ってくれた……」 ――『ボクは、霧切さんの事が好きだよ……』 今でも忘れられない――忘れたくない、彼の言葉。 こんなに卑怯で臆病な私を、彼は好きだと言ってくれた。 嬉しかった。 だけど同時に、失う事を恐れてしまった。 そうやって私は、選択の答えだけでなく、彼からも逃げてしまった。 でも、その時に気付くべきだった。 私が逃げ出す事は、同時に彼の居場所を奪ってしまうという事に…… 「私は、貴方に孤独を押し付けてしまった……」 自分が傷付く事を恐れ、自分の居場所を奪われる事を恐れ―― その結果、私は彼を傷付け、彼の居場所を奪ってしまった。 ずっと私の傍にいてくれた彼を、 人の温かさを教えてくれた彼を、 私を好きだと言ってくれた彼を、 私は裏切ってしまった。 「ごめんなさい、苗木君……」 「貴方から逃げて、ごめんなさい……」 「貴方を傷付けて、ごめんなさい……」 「貴方を裏切って、ごめんなさい……」 ポタポタ、と彼の頬に雫が降り注いだ。 彼は避ける事も拭う事もせず、ただ真っ直ぐに私を見つめていた。 「……それが、霧切さんの本心?」 答えたくても、漏れ出す嗚咽を堪えるのに精一杯だった。 だから私は、ゆっくりと頷いて――ぽすん、と彼の胸に頭を埋めた。 違う。彼に抱き寄せられていた。 「――ありがとう」 「ありがとう、霧切さん……」 「君の気持ち、やっと聞けたよ……」 「本当に、ありがとう……」 その声が優しくて、抱き寄せた手が私の頭を何度も撫でるから、 「う、あぁ……あああぁぁああぁぁああっ!!」 遂に私は、彼の胸に縋り付いて、子供のように泣き叫んでしまった。 「酷い事言ってごめん」 「怖がらせてごめんね」 「でもね、霧切さん……覚えていてほしいんだ」 「恋人になれなくてもいい……一緒にいられなくてもいいから……」 「ボクと過ごした時間を、ボクがいたという事を……ボクは君が好きだという事を」 「……どうか、忘れないでいてほしいんだ」 「…………《約束》だよ?」 何も、答えられなかった。 燻ぶっていた感情を吐き出す事しか出来なかった。 きっと彼も、そんな私を察したのだろう。 私が泣き止むまでずっと、彼は私の頭を優しく撫で続けていた。 苗木side編へ エピローグへ