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舞園「うわー、流石ですね、山田君。絵がすっごく上手です。漫画絵だけでなく、こういうリアルな画風もこなせるんですね!」 山田「ふふん、伊達に超高校級を名乗ってはいませんぞ!ていうかこれしか取り柄がありませんからな、僕ちん」 舞園「そんなことないですよ。山田君、そういう趣味の割に社交力もありますし。私改めて感心しちゃいました」 山田「いやいやそれほどでも~!なんなら、リクエストなどしてみませぬか?舞園さやか殿の望むもの何でも描いてさしあげますぞ」 舞園「わー、良いんですかー!なら‥」 江ノ島「十神×苗木のヘタレ攻めで」 山田「あ、あのぅ、江ノ盾子殿? リクエストは舞園さやか殿からで、ていうか実在の人物をモデルにしてそのシチュはどうかと‥」 江ノ島「あれ? おかしかった?みんな好きでしょ、こういうの」 舞園「じゃ、その江ノ島さんのリクエストでいきましょう!山田君お願いします!」 山田「ぶぇええええ!? ちょ、ちょっと良いんですか、舞園さやか殿!?確かに僕なら描けなくもないですが!!」 舞園「私こういうのパっと思いつきませんし、それに苗木君が出てくるなら、ちょっと見てみたいかなって思って」 ??「話は聞かせてもらったわよ!あんたたち、私の白夜様の肖像権を無断で使用して何しでかそうとしてるのよ!!」 舞園「この声は、腐川さん!? いつからそこに!?」 江ノ島「えー、良いじゃん、十苗。腐川も一緒に楽しめば良いじゃん!」 山田「まぁまぁお二人とも、ここは腐川冬子の言い分お方が正しいですから、一端従って‥」 ジェノ「十苗だぁぁ!?アホか!! 白夜様は受けに決まってんだろうがよぉ!!腐った常識的に考えて!!」 山田「って、ジェノサイダーかよ!? ちくしょう、助け舟が来たと思ったのにこれじゃ状況が変わらねぇ!!」 江ノ島「苗十ねぇ、一理あるわね。苗木の奴、一見お人よしでたまにしれっと毒吐くとこあるし」 舞園「じゃ、そっちで良いんじゃないですか。 ところで‥この『×』ってどういう意味なんでしょう?」 山田「ああ、さっきからやけに流され気味かと思ったら、このアイドル全然知識がなかっただけだ!」 ジェノ「ああ、簡単に説明するとね。どっちの棒が挿して、どっちの穴に入れるかって意味で‥」 山田「やめろ、ジェノサイダー!彼女を汚してはいけない!!」 霧切「説明するより、直接見てもらった方が早いわね。山田君、さっそく仕事に取り掛かって頂戴」 山田「そして何時の間に現れましたか霧切響子殿!? しかもなんで貴女までやる気満々なんですか!?」 霧切「別に‥、深い意味はないわ」 戦刃「我々には気にせず作業を始めてくれ」 山田「また一人増えてるぅぅ!?」 ジェノ「ごちゃごちゃうっせーな!ひふみんは黙ってペンを動かしてくれればそれでいーの!!リビドーに突き動かされるままにね!」 江ノ島「まさか、ここまで期待させといて、『できない』なんて言わないっしょ?」 舞園「良く分からないけど頑張ってください、山田君。私、応援してます」 霧切「昼休みが終わるまで後20分弱しかない。ここまで言えば分かるわね、山田君(キリギリッ)」 戦刃「(ワクワク、ドキドキ)」 山田(こ、この状況‥!本当に描けというのか!学友が絡み合う姿を艶めかしく!? 僕にその手を汚せというのか!?) 山田(僕は‥ 僕は‥ いったいどうすれば――) ―バシャ 山田「ふぇ‥? 熱、あっつぅぅー!!!?」 舞園「山田君の頭にティーカップが!?」 セレス「山田君。先ほどあなたが煎れてくれたこのロイヤルミルクティー。全然ダメダメですわ、とても咽を通りません」 セレス「悪いのですが、一刻も早く煎れなおして頂けませんでしょうか?」 山田「え‥、でも僕は今ちょっと取り込み中でして、その‥」 セレス「良いからさっさと煎れて来いって言ってんだよ!この豚がぁぁああ!!」 山田「ひ、ひぃぃぃぃぃいい!畏まりました、ご主人様ぁあああああああ!!」 山田「す、すいません、皆さん! この話はこれまでということに!ぶひぃぃい!」 舞園「あー、これじゃ仕方ありませんね。それじゃみなさん、解散みたいですよ?」 江ノ島「っち、あと少しだったのに。余計なことしてくれちゃって」 ジェノ「覚えてろよ!このゴスロリ女! 仕方ねーから本物の十神様の顔でも見てリフレッシュするとすっか」 霧切「まぁ、別に私は構わないわ。最初からそれほど興味があった訳でもないし(溜息)」 戦刃(しょんぼり) 舞園「‥‥それにしても」 セレス「何ですか、舞園さん」 舞園「セレスさんも山田君に対してけっこう優しいところ有りますよね」 セレス「何のことだかまるで分かりませんわ」 舞園「つまり、多恵ちゃんはツンデレってことです」 セレス「あらまぁ、一体どこの誰のことなのでしょうね?その多恵ちゃんとやらは?」 舞園「山田君が帰ってきたら、山田×多恵子でもお願いしちゃいましょうかね、ウフフ」 セレス「おい、そういう冗談はマジでやめてくださいね、この腐れアイドルが」
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苗「…このスレもそろそろ終わりだね」 霧「途中で落ちるどころか、最後まで減速もしなかった…みんな暇なのね」 苗「だから、それは違うよ。貴重な時間を使いたくなるくらい霧切さんが、」 霧「…ふふっ」 苗「ど、どうしたの?霧切さん」 霧「以前もこのスレで、似たような問答をしたわね…」 苗「……うん」 苗「…霧切さん、どうかしたの?」 霧「え?」 苗「いや、あの…ちょっと、悲しそうに見えたから」 霧「悲しくはないわ…ただ」 苗「ただ?」 霧「…ちょっと、寂しいかもしれないわね」 苗「スレが終わるのが?」 霧「ええ……ごめんなさい。場違いよね、こんな気持ち…」 苗「……ねえ、霧切さん。このスレで、僕たちは色んな事を話したよね」 霧「出てくる話題のほとんどは、私とあなたのことだったから…」 苗「こけしを見られて動揺したり、僕のストラップで遊んだり、僕の観察日記をつけたり」 霧「……ホント、ここの人たちは私に何を求めているのかしら」 苗「そうやって、下ネタばかりのレスに拗ねちゃったこともあったよね」 霧「…別に、拗ねたわけじゃないわよ…」 苗「僕の妹を彼女と勘違いしたり、一緒に花火したり、大人になってお酒を飲んだり、もっともっと、いろいろ沢山、」 霧「苗木君…何が言いたいの?」 苗「霧切さんは、楽しくなかった?」 霧「…楽しい?」 苗「僕は、楽しかったよ。霧切さんの色々な表情が見れたし、色々な言葉を聞けたし」 霧「…」 苗「霧切さんを、たくさん知ることが出来た…そんな気がしたんだ。それが嬉しくてさ」 霧「……私も、あなたと過ごせて…楽しくなかった、と言えば嘘になるわ」 霧「けど、だからこそ……このスレが、もうお終い、って言われると…」 苗「…霧切さんの感傷も、もちろん分かるよ」 苗「けれど、終わると同時に、始まるものもあるんだよ」 苗「…ううん、終わりじゃない。このスレでの、いや…前の、一番最初のスレから、ずっと」 苗「続いているんだよ…僕たちの、希望は」 霧「苗木君…」 苗「スレの番号が霧切さんと一緒に歩いてきた足跡だと思うと、僕は達成感みたいなものも感じるよ」 霧「そ、そう言われると…照れくさいわ」 苗「霧切さんが、このスレの最初に言ってくれたでしょ?僕たちに何が出来るか楽しみだ、って…」 霧「……ええ、そうね。楽しみね、次のスレも」 苗「でしょ?」 霧「…あなたは、本当にすごいわね。いつでもそうやって前向きで、私に希望を…」 苗「え?」 霧「…なんでもないわ。苗木君のくせに生意気、って言ったのよ」 苗「えー…」 苗「でも、もうすぐこのスレが終わっちゃうことも、事実だからさ…」 霧「…ええ。最後に、言わなきゃいけないことがあるわね」 霧「このスレで私や、私と苗木君の話を書いたり、色々な語りを書いた全ての人へ」 苗「本当に乙でした。よければ次スレでも、お付き合いください」
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無言のままにテーピングを終えて、ブーツを履いてもらう。 履いていないと落ち着かないというのなら、履いてもらうしかない。 落ち着いて、話がしたかった。 僕自身、さっきのアクシデントの連続で跳ね上がっている心臓を落ち着ける必要があった。 ―――――――――――――――――――― 弾丸論破 ナエギリSS 『女の子・5』 ―――――――――――――――――――― テーピングを終えると、僕はベッドの上、霧切さんの隣に腰掛けた。 彼女も雰囲気を察したようで、ベッドの上で足を崩し、僕の方に向き直る。 「…大事な話なんだ」 「…」 霧切さんは、無言。 いつの間にか怯えたような眼は薄れていった。 取り乱してから一転して、いつもの自分を取り戻しつつあるんだろう。 感情の無い目で、ただ僕のことを見ていた。 もうブーツを脱いでいないからか、いつもの調子に戻ってしまっている。 少し威圧感のあるポーカーフェイス。 す、と自分を落ち着けるため、呼吸を整える。 「…霧切さんの今までの人生で、もしかしたらこういう注意をしてくる人はいなかったかもしれないけど」 「そうね」 淡、と少ない言葉で切り返す。 こういう時の彼女は、早く話を切りあげたがっているのだ。 機嫌が悪いか、もしくは苦手な話題なのかのどちらか。 今は多分、両方だろう。 こっちは真面目に話しているのにそっけない返事で、早くも挫けそうになるけれど。 きっと彼女が覚えていないとかじゃなくて、本当にいなかったんだ。 お母さんは亡くなって、お父さんとは絶縁状態。 その上、海外で(おそらく)一人で生活していたんだろうから。 だから、僕が教えてあげなきゃいけないんだ。 「霧切さん、さっき僕が言ったこと、他の人にもやってるの?」 「…」 「女の子は男に…そうやって、簡単に気を許しちゃダメなんだよ」 男なんて、一皮むけば狼だ。 普段どんなに優しそうでも、気が付けば女の子をそういう目で見てしまっている。 そういう生き物。 さっきの僕にしてからが、いい例なんだから。 「…別に気を許しているつもりはないわ。ただ、他人の目を気にするのが面倒なだけよ」 心なしか、霧切さんの声が冷たい。 突き放されている感じはしないけれど、どこか僕を責める色が宿っているようにも感じる。 あまり説教されるのは好きじゃないんだろうな。 「で、でも…気にしないとダメなんだよ」 「どうして?それで迷惑をかけているのならともかく」 まるで、年頃の娘を諭すお父さんの気分だ。 言いにくいこと、恥ずかしいことでも、ちゃんと言葉にして伝えないといけない。 「迷惑じゃないかもしれないけど、霧切さんは女の子なんだから、」 「さっきから、その『女の子だから』という理由が解せないわ。なぜ女子ばかり気にしないといけないの?」 戦時中の男尊女卑じゃあるまいし、と、ジト目で睨まれる。 う、と僕はたじろいだ。 だから、その目は苦手なんだってば… 「男尊女卑とかじゃなくて…た、例えば僕がこの場で服を脱いだら…霧切さん、困るでしょ?」 「?…唐突に脱ぎ出したのなら困惑はするだろうけど」 …ああ、もどかしい。 伝えたいことが伝わらない、このもどかしさ。 もっと僕に語彙や伝達力があれば、彼女にも簡単に教えてあげられるのに。 「苗木君、何が言いたいのかよくわからないわ」 「…うん。僕も、よくわかんなくなってきた」 もっと、直接的な言葉で言わなければ、伝わらないのだろうか。 けれどもそれは両刃の剣。 一歩間違えれば、セクハラだと訴えられても文句は言えないのだから。 それでも。 言わなければいけないんだろうな、と、僕は覚悟を決める。 「…だから。そういう、異性を感じさせるような言動はダメなんだ」 聡い霧切さんなら、この辺で気付いてほしい。 僕が何を言おうとしているのか。 けれど、そんな希望も虚しく、彼女は首を傾げるだけ。 ああ、神様。 願わくばこの後起こりうるであろう一悶着の後も、彼女と友達でいられますように―― 「男は、女の子のそういう姿とか仕種で…興奮するんだから」 「興奮?」 「…いやらしい気持ちになるってこと」 言った。 とうとう言った。 朝日奈さんあたりを相手にしていたら、その場で真っ赤になりながら張り倒されるだろう。 それくらいのことを、言った。 今までのアクシデントとは違う。 彼女が無関心なせいで怒ってしまったわけじゃない。 自分から、自分の意思で、そういうことを彼女に言ったのだ。 「…霧切さんは、美人だし…そういうこと、気をつけなきゃダメだよ」 「…そう」 僕の言葉を、どう捉えたのか。 眉一つ動かさずに、彼女は相槌を打つ。 「…」 「…」 奇妙な時間が流れた。 沈黙とは、少し違う。 僕達は互いに互いを見ていた。 彼女は相変わらず、感情の無い目で僕の瞳を覗き込む。 僕はあんなことを言ってしまった手前、自分から目をそらすことを止めて、やけになって彼女を見返していた。 「――苗木君も?」 不意に、彼女がそう尋ねた。 「え?」 「苗木君も…私がこれまでそういう言動をした時に、いやらしい気持ちになったの?」 ギクリ、と、顔が強張った。 第三者的な見解ではなく、僕がどう思っていたか。 それを尋ねられていた。 その答えを口にすることは、何を意味しているのか。 すなわち、白状するということだ。 僕が彼女に、そういう汚い感情を抱いていたのだと。 「……、なったよ」 「そう…」 偽ることも、出来ただろう。 ただなんとなく、それは止めておいた。 嘘をつけば、それまでの僕の論拠がたちまち怪しくなってしまうかもしれない、と考えた。 なんとなく、目を覗きこんでくるこの少女に嘘はつけないな、とも考えた。 そして、更に考える。 終わりだ、と。 明日から僕は、そういう男子として、霧切さんの目に映る。 自分をいやらしい目で見てくる、不潔な人間だと。 何が、味方になる、だ。 こんな汚いことを考えているのに、彼女の味方になんてなれるはずがないのに。 これじゃあ、彼女をいっそう孤立させてしまっただけかもしれない。 多少でも信じた相手が、穢れていたのだから。 「…ゴメン」 「…構わないわ」 「いいよ、気を使わなくて。気持ち悪いでしょ、僕なんかが、霧切さんに対して、こんな」 「――構わない、と言ったのよ」 強くはない、強くはないけれども凛とした口調で、遮られる。 「苗木君、三度目よ」 「…あの、何が?」 「…『僕なんか』。何度も言わせないで」 やはりジト目で睨まれる。 さっきまでベッドで乱れていた…というと、ちょっと危ない方に誤解を招くかもしれないけれど。 それを微塵も感じさせない、平然とした様子で、彼女は言い放った。 あの弱々しい声や、怯えたような表情は何だったんだろう。 「そうね、クラスメイトの男の子にそういうことを思われているのなら、確かに辟易したかも」 僕の知らない言葉を使って、説明される。 ああ、やっぱり。 あまりそういう常識を知らなかった霧切さんにとっても、嫌な事なんだ。 「けど」 彼女の眼は、僕を射抜いたまま。 その眼光の鋭さに耐えきれず、僕は顔を伏せた。 責められても、罵倒されても、軽蔑されても、殴られても。 文句を言えないことを、僕はしてしまったのだから。 彼女のその無垢で鋭利な目つきに、罪悪感を切り刻まれる心地がして、 「…あなたは例外よ、苗木君」 耳に届いた言葉が信じられずに、僕は顔を上げていた。 「なん、て…?」 「大神さんの言葉を忘れたの?私はあなたに、一目置いているのよ」 「え、でもそれは…根も葉もない、噂だって」 「それは朝日奈さんの噂の方よ。大神さんの言葉に関しては、私は否定していないわ」 どうして、と、尋ねそうになる。 それが彼女の嫌っている言葉だとわかっていても、 どうして、僕なんか、と。 頭が混乱してくる。 何の話をしていたんだっけ。 そうだ、霧切さんが女の子らしからぬ行動ばかりするから。 それを注意しようとして、上手く言葉に出来なくて。 だから、僕自身が彼女に、そういう感情を抱いていることを伝えたんだ。 彼女はそれを、拒まないと言った。 まるで、告白のような。 そんなやり取りだった。 「…ダメだよ」 「構わないわ」 例えばの話。 欲情する男を見て、彼女はそれを許すと言った。 「…あなたはさっき、言ったでしょう。私のそういう言動を、嫌ではないと」 「言った、けど…嫌じゃないって、つまり、そういうことだよ…?」 そう、もし、仮に。 『僕がこの場で霧切さんを押し倒してしまったら――』 彼女はそれでもまだ、構わないと言い続けられるだろうか。 「だから、それでも構わないのよ」 「な、んで…僕なんか、」 「四度目よ。何度言えば分かってくれるのかしら?」 とん、と、彼女が、僕の額を指でつつく。 僕はおもむろに、その指を、彼女の腕を掴み、 「苗木、君――!?」 ベッドの上に、押し倒した。 ――――― ふわり、と、銀色の髪が、彼女を庇うようにシーツの上に広がった。 コートを脱いで肩の線が露わになり、少し目を凝らせば下着の色だって透けて見える。 香水とは違う、女の子独特のいい香りが立ち上り、目がくらくらする。 「はっ…はぁ…っ!!」 盛っている犬のように、息が荒くなる。 シーツの上に投げ出された霧切さんは、禁忌的なまでに艶めかしかった。 片手をベッドに押さえつけ、馬乗りのように、それこそ襲うような体勢になる。 興奮している僕とは対照的に、僕の下で、冷めた目で霧切さんはこちらを見上げている。 軽蔑、されたのだろうか。 「…っ、こういう、ことだよ。男が欲情するって」 息を荒げたまま、彼女に吐き捨てる。 「最低、でしょ。こんな…相手が病人だろうが怪我人だろうがクラスメイトだろうが、関係ないんだよ」 彼女は反論を返さない。 ただ、温度の無い目で僕を、じっと観察するかのように。 いっそ、拒んでくれたら楽だった。 「今の僕は、霧切さんを…どうにでもできる。もちろん、霧切さんの方が強いから、実際にそうとはいかないだろうけど… でも、そういう意思はある。あんなことやこんなこと、良心なんてまるで無視して、欲望のままに…霧切さんを攻撃できるんだ」 「…そうね」 「嫌でしょ…?」 「嫌ではないわ」 嫌だと言ってくれ。 拒んでくれ。 頼むから。 僕の理性はもう、おかしくなってしまっている。 誰かが止めてくれないと、止まれないんだ。 「ただ…少し」 目を伏せもせず、相変わらず僕を射抜いたまま。 「少しだけ、恐い」 少しも怖がる素振りを見せずに、彼女は言った。 「怖い…僕の、男の欲望がってこと?」 違うんだろうな、と分かっていても、他の言葉が見つからずに、尋ねてしまう。 「じゃあ、抵抗して…言葉でも行動でもいいから、僕を拒んで…そうじゃないと、僕は…」 彼女の腕を握っている手に、少し力を込めた。 それだけで、霧切さんは眉をしかめる。 細い腕だった。 尋ねている間にも、僕の視線は意思とは無関係に彼女を犯す。 膨らんだ胸元を、震える唇を、細い腰を、じっくりねっぷりと視姦する。 そこには、少しも色っぽさなど感じられない。 彼女の体自体は魅力に溢れているのに、それ以上に溢れだす自分の中の罪悪感で、萎えてしまうのだ。 嫌な汗が噴き出してくる。 組み敷いているのは僕の方なのに、追い詰められているのも僕の方。 なんともおかしな話だ。 「…欲望が、というのはちょっと違うわね。少なくとも私は、あなた程度なら簡単に今の状態からでも倒すことができる」 それは、なんとなくわかっていた。 探偵業は、護身術にも長けているのだと、以前話していたから。 「けれど、私はあなたを拒まない…いえ、拒めないと言った方が、正しいかもしれないわね」 「拒めない…?」 「あなたを拒んでしまうことが、怖いのよ」 彼女は退かないまま、僕の目を見たまま。 まるで後ろ向きな事を言う。 「戻れなく、なるかもしれないでしょう」 拒むことによって、遠ざけてしまうから、と。 そこでようやく、霧切さんは僕から目を反らし、伏せる。 「あなたとの関係を、私は大切にしたいから。それは、私自身よりも、とても大切なものだから。 あなたを拒んで関係を失うくらいなら…私はいくらでも、あなたに傷つけられても構わない」 僕とは真逆の考え方。 彼女に拒まれなければ、踏み込みすぎて、元に戻れなくなってしまうという僕と、 僕を拒んでしまうと、そこから溝が生まれ、元に戻れなくなってしまうという彼女。 だから、これほどまでに噛み合わないのかもしれない。 「…僕は」 「苗木君…私はあなたを拒まない。それは私の自己責任だから」 だから、の続きを、彼女は言葉にしなかった。 言わなくても分かるだろうと、そういうことなのだろう。 それは私の自己責任だから。 あなたは、悪くない。 ここで私をどれほど辱めても、あなたに責任はない。 拒まない私が悪いのだから。 目が、態度が、そう言っていた。 受動的な肯定。 自分からは決して動かないけれど、僕の言動を受け入れる。 そんなことを、言われたら。 止まれなくなってしまう。 理性を失った僕を止める唯一の防波堤が、それを良しとしてしまったら。 ――ダメだ、止めろ。 思いとどまれ、雰囲気に流されるな。 いいのか、こんなことで手放してしまって。 僕はもっと、彼女を、彼女との関係を、大切にしたかったんじゃないのか。 思いながらも、彼女の体を舐めまわす僕の視線は止まらない。 「なんで、なんで僕を…拒まないの?」 思い上がりとも取れる質問だった。 「言ったでしょう、拒めないのよ。元に戻れなくなってしまいそうで」 「そんな、こと…」 泣き出してしまいそうだった。 言葉を交わすほどに、退路を塞がれてしまう。 「僕なんかとの関係より、自分を大切にしてよ…!」 「…五回目」 ジト、ではなく、ぎろり、と、本気で怒っているような眼が、いっそう強く僕を射抜く。 僕のことも、それくらい強い意志で拒んでくれればいいのに。 僕達はお互いに、自分からは止まれない。 彼女が拒むことをしないから、僕は何かが自分を止めてくれるのを待つしかない。 僕を拒めないから、彼女は僕が止まるのを待つしかない。 相手が止まるのを、相手に止めてもらうのを、待つしかないのだろう。 「なんで、僕だけ…?」 「あなたには一目置いている、と言ったでしょう」 「それは、誤解だよ」 「誤解じゃないわ。私がそう感じているのだから」 彼女を否定する言葉を口にしながら、 僕の手は、彼女へと伸びていく。 止まれ、といくら心で念じても。 霧切さんに、触れたい。 霧切さんを、いじめたい。 霧切さんで、―― そんな欲求を抑えることができない。 「どうして、僕…?」 一目置かれている、そのことには喜びを禁じえない。 けれど。 「…しつこいわ、苗木君。何度聞けば、気が済むの?」 手を出してしまう前に、それだけは知りたかった。 「…あなたには、一目置いている。そして、関係を壊したくない。それ以上の説明は、言葉では難しいわ」 「そ、んな…霧切さん、僕のこと誤解してるよ…」 ピクリ、と彼女の眉が上がったことに、僕は気が付かなかった。 「僕なんて、ホントになんの取り柄も無くて…どこにでもいるような、平凡が服を着て歩いてるような、そんな奴なんだ… 霧切さんが注目してくれるような、そんな人間じゃない。霧切さんの隣に相応しいような人間じゃない。 本当ならこうして、霧切さんに手を上げることなんてまかり間違っても許されないような、」 「苗木君」 その声は。 怒鳴ったわけではない。 張り上げたわけでもない。 ただ、彼女の声は、僕の卑屈を掻き消して、 「――いい加減にしなさい。あなたが私に怒っていたように、それ以上は私も本気で怒るから」 凛とした響きで、僕を叱る。 「いくらあなたでも、自分自身のことでも…これ以上私の目の前で、私の尊敬している人を侮辱することは許さないわ」 それは、僕が聞きたかった、 彼女の口から直に浴びせかけられる、拒絶の言葉に他ならなかった。 「私を傷つけるのはいい。けれど…その人を傷つけるようなことだけは、二度と言わないで」 「っ……」 ぐらり、と、目の前が揺らいだ。 組み敷いているのは、熱に浮かされ、足を挫いて、いつにもなく弱気になっているはずの少女だった。 おまけに、襲われても拒みはしない、とまで言っている。 時代が時代なら、据え膳だというのに。 そんなこと、言われたら。 もう、手を出せなくなる。 止まるしか、無くなってしまう。 彼女へと向かって伸びていた手が、ぽとり、と意思を失って、力なくシーツに落ちる。 「…苗木君?」 拒絶の言葉ではなく、全幅の信頼を以て。 彼女は、僕の暴挙を留まらせたのだった。 ――――― 「…ゴメン、なさい…」 謝って許されるようなことじゃなかった。 「いいけど。謝るならむしろ、何度注意しても自分を蔑む癖を止めなかったことを謝りなさい」 仰向けになった僕の腹の上で、霧切さんはしたり顔。 霧切さんが護身術に長けている、というのは、どうやら本当のようだった。 『もういいのかしら?』 いつかハンバーグを分けてきた時の、聞き分けのない弟を見守るお姉さんのような口ぶりで。 少し眉尻を下げて、困ったように笑いながら。 そんな彼女にもう手を出すことは出来ずに、僕は頷いた。 『気が済んだのね?』 『うん…』 『――そう。じゃあ、ここからは私の番よ、苗木君』 ぐ、と、曲げた膝で腹を押し上げられる。 そのまま巴投げみたいな形で、いとも容易く僕は横倒しにひっくり返されてしまった。 『ぐぇっ』 横転した僕の上に、すかさず霧切さんが跨って、仕返しだとばかりにマウンドポジションを取る。 『あっ…』 『ふふっ…油断したわね』 マウントポジション。 子どもの喧嘩から総合格闘技までにおいて絶対有利とされる、いわゆる馬乗り状態。 さっきまでの僕は、確かに彼女に跨っていたけれど、片腕を押さえつけていただけ。 それとは比べ物にならないくらいの、本気の拘束。 僕の上に跨った霧切さんは、 『ぐふっ…きっ、霧切さんッ!?』 『お返しよ、苗木君』 子どもがいたずらをするような、そんな笑みを浮かべて。 『襲われても構わないとは言ったけれど…怖かったのは本当よ。少しだけ、仕返しさせてもらうから』 そんなわけで、今がその数分後である。 彼女が体重をかけてくる度に、柔らかな質感が腰のあたりに襲いかかってきて。 目を閉じてじっとしているだけでも、彼女の柔らかさや匂いは問答無用で僕を刺激して。 少し手を伸ばせば、彼女のあんな所やこんな所に、僕の手は届いてしまうわけで。 もう、理性がヤバい。 そもそもが限界だったんだ。 彼女を押し倒してしまうくらいに。 それなのに、この仕打ちはちょっとあんまりだ。 体重をかけようと、霧切さんが僕の上でもぞもぞと動く。 その位置は、と、口に出そうとしても、既に遅い。 「…なるほど。いやらしい気持ちになるんだったわね」 「謝るから…なんでも謝るから…、お願いしますそこをどいてください」 「それはダメね。これは仕返しなんだから」 興味深そうにほほ笑まれても、 下半身に血が集まっていくことは止められない。 ぐいぐいと押し付けられて、刺激に従順に反応して、硬くなって。 ああ、もう、僕の馬鹿。 節操が無いというか、さっきの今でこんな… 霧切さんも霧切さんだ。 「もう、注意したばっかりなのに…そういうことしてたらいつかホントに襲われるよ」 「あら、私こそ言ったばかりでしょう。あなたが私にそういう感情を抱くのは、構わないと」 誰だ、彼女が僕を好きだなんて言った奴は。 やっぱり、大神さんの言った通りだ。 こんなの、絶対からかっているだけじゃないか。 僕が恥ずかしがって体を捩るのを上から押さえつけて、その反応を見て、ニヤニヤと底意地悪く笑っている。 きっと、僕が男としてカウントされていないんだ。 だからこんな、セクハラじみたからかい方をしてくるんだ。 そうに決まってる。 そうに決まってる、けど。 例え彼女がどれほど僕を弄んだとしても。 僕自身が彼女にやったことの、落とし前は付けなければならない。 「…ゴメンなさい」 「…さっきから謝ってばかりいるけれど」 「うん…それくらい酷いことをしたって、自覚はあるから」 女の子を、押し倒した。 あまつさえ、止まらなければ、その貞淑をさえ奪おうとしたんだ。 その罪は、重い。 許されようとも思わないけれど。 償う覚悟はある。 「なんでもするよ、ホントに」 「…あなた、本当に分かって言っているの?」 また、うっ、となる。 例のジト目で、霧切さんが僕を見ていたからだ。 「私は構わないと言ったのよ。だからあなたに罪はない、償う必要もない。何度もそう言ってるでしょう」 「でも…」 「…そこまで後悔されると、そっちの方が傷つくわ」 はぁ、と、霧切さんはため息を吐いて、額に手をやり、 そのまま前のめりに、僕の上体にもたれかかってきた。 「…霧切さん?」 「…疲れた」 とさ、と、彼女が僕の上で横になる。 彼女の重み…といっても、全然軽いんだけど、それが体中に広がる。 普段なら慌てて抱き起こすところだけど、 なぜか今は、そんな気は起きなかった。 「…ただでさえ熱もあったのに…結構騒いだからね」 「誰のせいだと思ってるの?まったく…」 「えぇ…僕だけのせいじゃないのに」 あれだけたくさんのことが起きて、多少なりとも免疫ができたのだろうか。 それとも僕の方も、気付かないうちに疲れてしまっていたのだろうか。 ただ、体中に広がる霧切さんの体温が、やけに温かくて。 いやらしい気持ちとか、そういうのじゃなくて、 抱きしめたい衝動に駆られた。 「ん…少し、眠いかも」 たぶん、尋ねれば。 また彼女は、『構わない』と言うんだろう。 けれど、今は止めておこう。 このままが、きっと一番いい。 どちらから、急に歩み寄る必要はないんだ。 好きだとか、そういうの。 僕らには、まだ早い。 カララ、 「苗木ー、タクシー着いた、け…ど……、…」 「待って違うんだ朝日奈さんこれは僕の意思じゃなくてホラ霧切さんが上に乗ってるから分かるよねちょっとどこ行くの待って」 「いや、あの、ごめ、ゴメンっ空気読め、読めなくて、あの……、あの、タクシー…メールで連絡するから、後で見てっ!!」 「ま……、待ってーーーー!!!!」 上に霧切さんが寝ているせいで、体を起こすことも出来ず。 羞恥とパニックで頬を染めた朝日奈さんが扉の向こうに消えていくのを、僕は眺めていることしかできないのだった。 ちなみに霧切さんを病院へ運んだのは、呼んでも揺すっても起きなかった彼女が、 自分で目を覚ますまで待った、それから三十分後のことである。 ――――― その日。 初めて私は、苗木君を怖いと思った。 彼の胸板の上で目を覚ませば、苗木君は泣きそうに笑っていた。 どうやら、私が眠っている間に朝日奈さんが来て、この姿を見られてしまったらしい。 私としては、別に構わなかった。 彼女がどう捉えたとしても、それを口に出せば噂となる。 噂は噂。真実ではない。 直接見たのは朝日奈さんだけなのだから、どうとでも誤魔化せる。 彼の方こそ、そんなことを気にするなら最初から、あんなことしなければいいのに。 本当に、襲われるんだと思った。 腕を押さえつけられ、彼の目に灯る炎は、私がそれまで見たこともない熱を宿していた。 探偵として事件に携わっているから、当然そういう事件は見てきたし、知識だってある。 けれど、実際自分がそんな目に携わるとは思っていなかった。 すなわち、強姦。 それを、彼は私にしようとしていた。 何が怖かったかって、拒めないことだ。 私が拒めば、その行為は犯罪となってしまう。 私が拒めば、彼を犯罪者にしてしまうのだ。 それだけは、させてはいけない。 私のせいで、彼に重荷を背負わせるなんて。 考えただけで、彼に怒られた時の数倍の恐怖を感じた。 同意なら、犯罪ではない。 彼を拒まなければ、彼は犯罪者にならずに済む。 『――嫌ではないわ』 どうにか、声は震えないでくれた。 そして同時に、自分を恨んだ。 彼に注意された、数々の言動。 男の子の前で生理だと言ったり、服に手を突っ込んだり。 確かに、はしたないな、とは思っていたけれど。 苗木君なら許してくれると、心のどこかで思っていた。 馬鹿だ、と思う。 そんなの、彼に甘えているだけだ。 彼だって男の子なんだ。 反応しない方がおかしかったんだ。 いや、まあ、その。 そういう露骨なアピールをするたびに、恥ずかしがる彼の顔がたまらなくて、何度も繰り返したというのもあるけど。 それでも、まさかここまで鬱屈とストレスをため込んでいるとは、露とも知らなかった。 知ろうとしなかった。 あげく、彼の忠告さえ無駄にして。 だから、これは罰なんだとも考えた。 彼がそんな私に罰を与えるのは、正当な権利だ。 これから服を剥かれ、嬲られ、どこまで辱められようとも。 決して、拒まない。 嫌とは言わない。 そんな権利など元からなかったけれど、その瞬間に、そんなルールを自分に課した。 覚悟を決めて。 それでも、彼になら、と思った。 ただ、その間際に。 『霧切さん、僕のこと誤解してるよ…』 また、そんなことが聞こえたから。 それだけは正しておこうと、諦めて白くなりかけていた頭の隅で、思ったのだ。 『――いい加減にしなさい』 彼が自分を蔑むのは、主に他人を称賛するために引き合いに出す時か、もしくは罪悪感に苛まれた時だ。 今回は確実に、後者。 それは、違う。 あなたは悪くない。 悪いというのなら、あなたに手を出させてしまった私にこそ、責任と言うものがあるだろう。 あなたはなんでも背負いすぎる。 それだけは、正しておきたかった。 それだけ、なのに。 『…ゴメン、なさい…』 意思を失くしたかのように、彼の右腕がシーツに落ちて。 泣きそうな顔で、彼に謝られてしまったのだ。 ホッとしたのが半分。 もう半分は…ここに書くのは憚られる。 別に、残念だなんて思ってない。全然。これっぽっちも。 せっかく覚悟を決めたのに、と悔しがってもいないし、 だから仕返しに彼にマウントを決めたのも、決してその八つ当たりなんかじゃない。 それでもいつも通りに、彼をからかっているうちに、だんだんと心臓が落ち着いてきて。 不思議なもので、緊張から解放されると、一気に眠たくなってしまって。 もう、苗木君は私に手を出さないだろう。 誰よりも信頼できる、彼の腕の中に、私は自分の体を預けたのだった。 さて、話は病院に搬送されてからに飛ぶ。 「生理というのもありますが…今回は、それに過労と精神的ストレスが加わったのが原因ですね」 「ストレス、ですか」 「心当たりは?」 「…まあ、なくもないです」 隣にいた看護婦…今は看護師だったか。 その女性が意味ありげに笑うのを疎ましく思いながら、診察を受けて。 栄養剤だかなんだか良く分からない点滴を貰って、一時間もせずに解放された。 「……、あ…どうだった?」 そりゃあまあ、あの看護師にしても、ロビーでこんな心配そうな顔をして私を待っている男の子がいれば。 誤解の一つや二つ、しても仕方がないとは思ったけれど。 「疲れてただけよ。もう帰っていいと言われたわ」 「そっか。……よかった」 「言ったでしょう、心配しすぎなのよ。だいたい苗木君は、」 と、そこで言葉を切っておく。 今回ばかりはさすがに、彼一人に責任は押し付けられない。 タクシーで私を運ぶ隣で、あんな後悔と自責に苛まれた表情を見せて。 こちら側から責めることは、酷だ。 彼は、既に自分を責めすぎている。 「…流石に今回は、からかいすぎたかしら」 「え?」 「…こっちの話よ」 謝れば、全てを正直に話せば、楽になるだろう。 からかいすぎて、ごめんなさい。 今回の件は、全部私の自業自得です。 けれど、私が謝ってしまえば、その分だけ余計に、彼はまた自分を責める。 それなら、私は謝ってはいけない。 その代わりに。 「…なんでも、してくれるのよね」 それで、彼の罪の意識が軽くなるのなら。 「…うん。少しくらいの無茶でも、できるだけ、最善を尽くすから」 「料理を」 「…」 「いつか話していた…あなたの手料理を、食べさせて」 「……最善を、尽くすよ」 【エピローグへ】
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霧切「苗木君一緒に花火をしないかしら。」 苗木「えっ?霧切さん。花火ならこないだみんなでやったよね?」 霧切「あの時の余りよ。ホラ。」 苗木「これは、線香花火?そっか、そういえばやってなかったね。」 霧切「こないだの時は、最後にいきなり桑田君がドラゴンとか派手なのを買い足して来たから、結局できなかったのよ。」 苗木「そっか、じゃあみんなも誘って。」 霧切「・・・これは、私たちだけでやりましょう。みんなでワイワイやる花火でもないし。これだけしか無いもの。」 苗木「そうだね。じゃあ、放課後に二人でやろうか。」 ~放課後~ 苗木「いいよね。線香花火って、なんかこの光をみているとしみじみするというか。」 霧切「花火の儚さを一番感じさせてくれるものね。一番好きな花火かもしれないわ。」 苗木「なんとなく、寂しい雰囲気になっちゃうんだけどね。」 霧切「苗木君せっかくだから、勝負をしましょう。シンプルに、先に落ちた人の負けね。相手に触ったら反則よ。」 苗木「よし、やろう!一緒につけるよ。せーの!」 霧切「・・・・・・。」 苗木「・・・・・・・・。」 霧切「・・・・・・・・・・・。」 苗木「・・・・・・・・・・・・・。」 霧切「なかなかやるわね・・・・。」 苗木「霧切さんこそ・・・・・。」 霧切「苗木くん?」 苗木「うん?何?」 霧切「言い忘れてたけど、私、あなたの事が好きよ。」 苗木「ブフッ!?っえ?」 霧切「あら、私の勝ちね。苗木くんは期待通りの反応してくれるわね。」 苗木「ちょっとやめてよ、霧切さん。そういうのも反則でしょ?」 霧切「触って、はいないもの。最初に言ったでしょ?触ったら反則って。貴方も条件は同じよ。」 苗木「そ、それならもう一回勝負しよう。せーの!」 霧切「・・・・・・・。」 苗木「・・・・・・・・・・。」 苗木「霧切さん。僕、き、君の事が好きだよ。」 霧切「そう。ありがとう。私もよ。」 苗木「!?う、っつ。ほんとだよ今だって、線香花火より霧切さんの顔に見とれてるんだよ?」 霧切「私も苗木くんの顔をずっと見てるわ。」 苗木「・・・・霧切さん。僕の目を見て聞いてくれる?僕本気なんだよ。こんな勢いで言っちゃうけど、ねえ!」 霧切「え?・・・・・そんな・・・苗木くん本当に?」 苗木「あ、僕の勝ちだね。」 霧切「酷いわ苗木くん!勝負のために私の心を弄んだのね。本当にうれしかったのに。」 苗木「ご、ごめん。霧切さん。そんな、傷つけるつもりじゃ。」 霧切「ふふ、やっぱり苗木くんの反応って期待通りね。」 苗木「ちょ、ちょっと霧切さん?!今僕の心を弄んだよね?」 霧切「さあ、何の事かしら。さて、花火もなくなったし、これでおしまいにしましょう?」 苗木「むぅ。まあ、いいか。楽しかったし。誘ってくれてありがとう。」 ~後日~ 霧切「これ、この間の花火代よ。」 桑田「あん?ああ、この前のか。いきなり追加で花火を買って来てくれなんて言うから焦ったぜ。」 霧切「桑田君のおかげで楽しい時間を過ごせたわ。」 桑田「みんな盛り上がってたからなあ。アンタが派手な花火好きってのは意外だったけどな。」 霧切「ふふ、そうでもないわ。思った通り楽しかったわ。」
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僕が彼女と一つ屋根の下で暮らすようになって、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。 無口でクールな女の子という初対面の時の印象。 探偵の仕事にかける深い情熱。 父親に対する複雑な思い。 ふとした時に見せてくれる、とても綺麗で素敵な笑顔。 今日に至るまで、僕は彼女のいろんな顔を見てきた。 そして――ここ最近の間に、僕は彼女の新たな一面を知ることになった。 「響子さん、そろそろ起きないと」 「く、うぅん……起きてる、わよ……」 「いや、そうじゃなくてさ……布団から出てこようよ。もう昼の一時過ぎてるよ?」 彼女は朝に弱い。 それも、ひとかたならず。 探偵として他者の前で自分を律している時には決して見せない意外な弱点――といったところだろうか。 「昨日私が何時にベッドに入ったと思っているの……五時半よ」 布団から顔半分だけを出し、薄目を開けて彼女が答える。 いつもの凛とした佇まいからは想像し難い、くぐもった声だ。 「それは分かってるけどさ。でも、五時半から数えても七時間は寝てるよね」 「うるさい……放っておいてよ、もう……」 それだけ言うと彼女は頭まで布団を引っ被り、もぞもぞと寝返りをうつと僕からそっぽを向いてしまう。 「はぁ……やれやれ……」 本来の彼女は決してルーズな人間ではない。 何事につけても几帳面な性質だし、待合わせの類に遅刻したことだって学生の頃から一度も無かったはずだ。 大人になった今も、普段ならきっかり時間通りに目を覚まし、遅れることなく出かけていく。 しかしながら、『仕事から帰った翌日』で『その日は仕事の予定が無い』という二つの条件が重なった時。 すなわち、探偵としての自分から離れることを許された日の朝の彼女はご覧の通りなのである。 探偵の仕事はとてもハードで、おまけに不規則な生活を強いられるものだ。 僕もそれはよく知っているから、たまにゆっくり休める機会が巡ってきた時にはできるだけ彼女の好きにさせてあげることにしている。 とはいえ、今日に限っては事情が違う。 ここ暫く天気は曇りと雨の繰り返しだったのだが、本日は久し振りの快晴。 そして予報によると、明日からまた曇りがちの天気が続くという。 今日を逃せば、現在彼女の包まっている布団を陽光の下で干せる機会が何時になるか、分かったものではないのだ。 彼女には悪いとは思う。 けれど、僕も本日の家事当番(二人で交代して行うことになっているが、実情はもっぱら僕の専任だ)としての責務を果たさなければならない。 非情に徹する覚悟を決め、僕は彼女の布団に手をかける。 「響子さん、ごめん!」 そして一気に引き剥がす。 ばさり、という音と共に彼女の全身が露わになる。 下着に、昨日家を出た時と同じブラウスを羽織っただけの姿。 裾や胸元から覗く白い肌と黒いレース地のコントラストが昼の日の下では一層際立って見えて、思わずドキリとさせられてしまう。 が、当の彼女はそんな僕の様子を気に留めた風もなく。 「ちょっと、何をするのよ」 「本当にごめん……だけど、今日のうちに布団干しておかないと」 「そんなの……別に今日じゃなくてもいいじゃない」 ようやくベッドから半身を起こすと、彼女はむっつりとした視線を僕に向ける。 薄目のままの気だるげな表情が、普段とのギャップも相まってかひどく艶っぽく見えてしまう。 ――いや、そんな雑念は今は置いておこう。 「明日からまた天気が悪くなるらしいんだよ。だから――」 「この先ずっと悪いままというわけじゃあないでしょう? それ以前に、天気予報なんて当てにならないわよ」 子供のようにそう言い放つ彼女は、心なしか口を尖らせているように見える。 彼女に存外子供っぽい一面があることは僕も重々承知しているが、寝起きの彼女は殊更にその傾向が強い気がする。 そして彼女が僕より弁が立つことは、たとえ寝起きであろうと子供っぽくなっていようと変わらない。 「わかったわね。わかったら、布団を返しなさい」 「い、いやちょっと待ってよ! ていうか二度寝する気なんだ……」 しかし――僕もここは退かない。 いや、退きたくはない。 実を言えば、僕が彼女を起こしたい理由は布団の件だけではないのだ。 「あのさ、響子さん。布団のこともあるんだけど」 「……まだ何かあるの?」 「うん。なんというか……」 正直なところ、出来ることなら口にせずに済ませたかった。 それが結局のところ僕の我侭でしかないからだ。 加えて言えば、言葉にしてしまうのが些か恥ずかしくて、躊躇われてしまう。 でも――僕は思いなおす。 たとえ我侭でも恥ずかしかろうとも、彼女には僕の思うところを知ってもらうべきだろう。 彼女とこうして、共に暮らすようになったからには。 「響子さんは忙しいから……今日みたいに二人で心置きなく過ごせる日も、次はいつになるか分からないでしょ? ほら、前の休みもこんな感じで終わっちゃったし……」 「! それは……」 彼女は一瞬だけ目を見開き、そして僅かに視線を下に落とす。 「そうね……確かにその通りよね」 一拍の間を置いて彼女が再び顔を上げた時には、表情からも声のトーンからも不機嫌さは消えていた。 「ごめん、我侭みたいなこと言っちゃって。だけどさ――」 「いいえ、謝らなければいけないのは私の方よ。ごめんなさい……仕事にばかりかまけていて」 「それはいいよ。僕は仕事している時の響子さん、素敵だと思うから」 「ちょっと……どさくさに紛れて恥ずかしいことを言わないで」 彼女が面映げに僕から目を逸らす。 本気で照れていることは、その横顔から十分察することができた。 そして、僕の気持ちを理解してくれたことも。 やっぱり言葉にするのが正解だったのだ。 良かった――心底そう思う。 「じゃあ、食事の用意するから。その間に着替えておいてね」 ともかく、これでようやく彼女も起きてくれる。 さて、今日はこれからどうしようか。 彼女の朝昼兼用の食事を作って、洗濯物と一緒に布団を干して。 疲れている彼女を連れてあまり遠出は出来ないけれど、近場に買物に行くくらいならいいかも知れない。 それから――。 僕がそんなことを考えながらベッドサイドを離れようとした、その時。 「ちょっと待って。その前に私から提案があるんだけど」 「え?」 声と同時に、するりと伸びた彼女の手が布団を掴んだままの僕の手を捕らえる。 「ちょ、ちょっ!?」 次の瞬間、僕の身体はベッドに引き倒されている。 狼狽したままの僕の上に布団が覆いかぶさり、そして目の前にあるのは彼女の顔。 「あ、あの……響子さん?」 「あなたの我侭と私の我侭を同時に満たす休日の過ごし方……悪くないと思わない?」 「いや、その……布団は」 「言ったでしょう? 天気予報なんて当てにならないって」 そう口にして彼女は小さく微笑む。 いつの間にやらその両腕は首の後ろに回されており、僕は逃げられないことを悟る。 「まったく……もう……」 「あら、不服かしら」 「いや、そうじゃないんだけど、ね……」 願わくば、どうか明日の天気予報が外れていますように。
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数瞬の静寂と、血の気の引いた顔。 あ、怒鳴るな、と、私は先見した。 「苗木君の、馬鹿っ!!!」 彼女をよく知っている人間であれば、誰もが予想し得なかっただろう科白。 吐き捨てて、舞園さんは食堂を飛び出した。 周囲の生徒は唖然とし、その目線はただ一人の少年に注がれている。 机に目を落とし、見るからに沈んでいる『超高校級の幸運』へと。 当人たちは関係を否定するも、校内でもオシドリ夫婦と名高い二人。 そんな彼らが、どんな経緯を以て仲を違うこととなったのか。 超高校級の謎。 この霧切響子、別名『超高校級の探偵』としては、紐解かないわけにはいかない。 別に『最近暇だったからちょっと突っついてみよう』とかいう不純な動機では、決してない。 それに私自身、この事件に少し関係してしまっているのだ。 罪悪感とまではいかないけれど、解決のために責任は負うべきだろう。 事の発端は、一枚のDVD。 『私の初出演の映画なんです…良かったら、見てくれませんか?』 奥ゆかしげに舞園さんがそれを手渡したのは、確か昨日のことだった。 『僕に貸してくれるの?』 『苗木君に、見てほしくて…』 『ありがとう、今日にでも早速見るよ!』 はいはい夫婦夫婦、と甘いムード全開の二人。 苗木君の様子がおかしかったのは、その翌日のことだった。 『舞園さん、コレ返すよ…』 『あ、苗木君。DVD見てくれたんですね?』 『う、うん…』 明るく話しかける舞園さんとは対照的に、苗木君は彼女に目を合わせようとしない。 『どうでしたか?』 『…よかったよ、すごく』 さすがの舞園さんも、そこで彼の挙動不審に気づいたようで。 特に言及することはしなかったが、HRの後に私に相談を持ちかけてきた。 渡されたDVDを見て、原因はすぐに分かった。 舞園さんが演じている役には恋人役がいて、幾度となく彼との恋愛エピソードが描かれている。 決め手は、物語も中盤に差し掛かった頃。その男優とのキスシーン。 実際は上手く角度をつけて、キスしているように撮っているだけで、本当に口付をしているわけではないだろうけど。 あんなに沈んでいた苗木君に、それが見抜けていたとは思えない。 これは、男子特有の悩みだろう。 舞園さんはきっと、真剣に演技をしている、頑張っている自分を見てほしかったのだろう。 けれど、自分以外の男が、好きな女の子に迫っている。 男の子としては、いい気分はしないはずだ。 おまけに相手役の男優は、傍目から見てもかなりの男前。 『確かにこれは、苗木君の様子もおかしくなるわね』 『どういうことですか…?』 全く予想だにしなかったのだろう、舞園さんは首をかしげる。 お得意のエスパー節も、男心には届かないらしい。 苗木君が感じたであろう不安や嫉妬を、私の口からかいつまんで彼女に説明する。 苗木君にしてみれば男のメンツ丸つぶれだろうけれど、このままギクシャクし続けるよりマシだろう。 そう判断したのがいけなかった。 『そんな、私…そんなつもりじゃなくて…』 さっ、と舞園さんの顔が青くなる。 嫌な予感を感じて引きとめる――そんな間もなく、彼女は食堂へとダッシュしていた。 『苗木君!ごめんなさい、私、あのDVD、ホントにそんなつもりじゃ…』 私が追いついて食堂の扉を開ければ、修羅場の真っ最中。 周囲の生徒の視線も気にせず、混乱気味の舞園さんは苗木君に言い寄っていた。 『ちょ、ちょっと落ち着いて舞園さん…』 『映画のラブシーンなんて全部演技だし、キスだってホントに口を付けたわけじゃないんです…!』 ギクリ、と、苗木君の体が強張った。 『な、なんで僕にそんなこと…』 『え?』 『や、舞園さんはホラ、アイドルだから…もちろん、ああいう仕事だってあるわけで』 『でも、私は…』 『僕がそれを見てどう思っても、舞園さんには関係ないことだし…』 『…!』 気遣いな少年ゆえの、舞園さんを思っての言葉。 けれどもそれは、同時に舞園さんの気持ちを裏切る言葉でもあった。 舞園さんは一瞬だけ泣きそうな顔をして、それから肩をわなわなと震わせる。 『…どうして、そんなこと言うんですか…』 『あの…舞園さん?』 『苗木君の、馬鹿っ!!!』 と、ここまでが事の顛末なわけだ。 第三者から見ればどちらの気持ちもわかるし、ある意味起こるべくして起こった事件とも言えよう。 しかし灯台もと暗し。 本人たちはきっと、どうしてこんなことになってしまったのか、ちんぷんかんぷんだろう。 過程はどうあれ、舞園さんにアドバイスを与えた私にも喧嘩の一因がある。 二人の仲を修繕するため、まず私は苗木君のもとへと足を向けた。 「…あ、霧切さん」 放課とともに、舞園さんはそそくさと教室を飛び出して行ってしまった。 いつもなら苗木君とともに談笑しながら帰宅するというのに、余程怒り心頭なのだろうか。 苗木君は自分の席でショックを受けたように立ち尽くしていたが、私が近づくと笑顔を向けてくれた。 あまりにも痛々しい笑顔に、話しかけたこちらの方が申し訳ない気持ちになる。 「相当へこんでいるみたいね」 「はは…」 乾いた空笑い。 「あれから舞園さんとは?」 「一言も…すごく怒らせちゃったみたい」 ため息とともに、彼は目を伏せた。 「同じ中学で、同じ高校で、同じクラスで…向こうは僕のことを覚えててくれて…」 「……」 「舞園さんが優しいからって、思いあがって…知らないうちに調子に乗っちゃってたのかも」 「苗木君、それは…」 「こんなに簡単に嫌われちゃうなんて、思わなかったな」 やっぱり。 二人の関係がこじれた根本的な原因は、苗木君の方にある。 彼は自分がなぜ舞園さんを怒らせてしまったのか、全くわかっていない。 舞園さんが怒ったのは、苗木君が好きだからだ。 だから自分が出演したDVDを見てもらいたいと思うし、ラブシーンの弁解だってする。 それなのに、苗木君は『関係ない』と、自分と彼女との繋がりを断ち切った。 もちろん、彼なりにアイドルである彼女を気遣ってのことだ。 普段仲良くしている自分なんかに気兼ねしてほしくない、という優しさだった。 けれど。 「…あなたはもう少し、女心を理解する必要があるわね」 「え?」 「安直な優しさが、相手を傷つけることだってあるのよ」 女の子は嫉妬してほしいし、特別扱いしてほしいのだ。 好きな男の子には。 「えっと、どういう…」 「もっと自分に自信を持て、という意味よ」 「でも…舞園さんに比べたら、僕なんて一般人もいいところだし…」 「…それは、周りの人間の評価でしょう。舞園さんや、あなた自身の気持ちはどうなるの?」 「舞園さんはともかく、僕自身の気持ちなんてどうでも…」 ああもう、卑屈すぎる。 普段は不必要なくらい前向きなのに、どうして事が他の生徒となれば比べてしまうのだろう。 「…正座しなさい」 「…はい?」 気付きなさい、苗木君。 あなたまで彼女をアイドル扱いしちゃダメなんだと。 「女心の全くわからないあなたに、説教…もとい、講義してあげるわ」 「いや、あの」 「いいから。跪きなさい」 軽く三十分ほど説教をかまし、 「…とにかく。先ずは舞園さんと話し合うこと。いいわね?」 「…うん」 ――――― 続いては、舞園さんの方だ。 彼女の方は、おそらく話は早いだろう。 そそくさと教室を飛び出したのは良いが、きっと一人自分の部屋にいるのも嫌だったんだろう。 彼女の姿は、玄関前のベンチで確認できた。 彼女も彼女で相当沈んでいるようで、側に近づくまで私の存在に気づかなかった。 「霧切、さん…」 「女心のわからない彼氏を持って、大変ね」 隣に腰掛けて、あらかじめ買っておいたコーヒーの缶を手渡した。 「ううん…今回の件は、完全に私が悪いです」 おでこにコーヒー缶をぶつけながら、深い溜息を吐く。 『彼氏』呼ばわりしたことを否定しないのを見ると、だいぶ参っているらしい。 「怒鳴っちゃった…」 辛いところだ。 彼女は全て、わかっている。 苗木君が『関係ない』なんて言ったのは、舞園さんを気遣ってのこと。 なのにそれが許せなくて、悔しくて、 「あんな、酷いこと…きっと苗木君、怒ってる…」 「…まだ、言わないのね。苗木君に、好きだって」 「…言えませんよ」 好きだという感情は一つなのに、告白できない理由は山のようにある。 アイドルユニットが恋愛厳禁であること。 告白しても苗木君がまた今回同様に、彼女を思って退いてしまうかもしれないこと。 アイドルとしての多忙な生活が、まともな恋愛を許してくれないこと。 「勝手に自分の好意を押し付けて、勝手に怒鳴り散らして…子どもみたいです、私…」 不憫な女の子だ。 夢と恋愛の狭間で揺られ、葛藤を強いられる。 「…苗木君は、あなたに嫌われたと思ったそうよ」 「えっ!?」 応援の言葉の代わりに、教えてあげる。 「そんな、私が苗木君を嫌うだなんてこと…!」 「あり得ないとしても。言葉でちゃんと教えてあげなきゃ分からないのよ、男の子には」 私の言葉が終わる前に、舞園さんは立ち上がった。 その顔に、もう沈んだ色はない。 好きな人のために火の中水の中、乙女の顔だ。 「私、苗木君のところに…ちゃんと言葉で…! あっ、霧切さん、ありがとうございました!」 ひらひら、と軽く手を振り、アイドルの少女を送り出す。 全く、私もいい加減お人好しだ。 何か自分の得になる訳でもないのに、他人の色恋沙汰に手を出すなんて。 その後の彼らが果たしてどういう言葉を交わしたのか、私は知らない。 詮索するつもりもないし、余所の惚気に付き合うほど暇じゃない。 ただ、翌日。 「苗木君…もう、関係ないとか言わないでくださいね」 「あ、はは…参ったな」 教室で人目も憚らずにいちゃつく二人。 「……」 砂糖を吐きそうになるほどにラブラブなお二人のご様子から見る限り、 今回の事件はハッピーエンドで解決、めでたしめでたしということでよさそうだ。
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苗木君と初○○○した翌日の霧切さん。 (○○○には各自で好きな言葉を入れてね!) 苗「あ……お、おはよう霧切さん」 霧「……おはよう。今朝は随分遅かったのね」 苗「う、うん……」 霧「まあ、私も人のことは言えないけれど」 苗「……」 霧「……」 苗(霧切さん、いつも通りだな……。ボクなんか未だにドキドキしてるのに) 霧「……」 苗(な、なんだか沈黙が気まずい……いや多分気まずいのはボクだけなんだろうけど。 なんというか、出会ったばかりの頃を思い出すな……。 何か話題は……こう、自然に切り出せる話題はないか?) 苗「ええっと……そうだ、他のみんなは?」 霧「もうとっくに朝食を終えて出て行ったわよ。もうこんな時間だし」 苗「あ、ああ……そりゃそうだよね」 霧「……ところで、これからコーヒーを淹れるところなんだけれど。あなたも飲む?」 苗「あ、ああ、うん! それじゃあ、お願いしてもいい?」 霧「わかったわ。少し待っていて」 苗(ほんっとにいつも通りだな……昨日のことが嘘みたいだ。 ボク一人だけソワソワしてるのが恥ずかしくなってくるような……。 流石というかなんというか、きっちり気持ちの切替ができてるのは霧切さんらしいけど、ちょっと寂しいかも。 でも、これくらいじゃないと探偵なんて務まらないのかな?) 苗(それにしても、昨日の霧切さん可愛かったなあ。 またあんな顔の霧切さん見てみたいな……思い出したらまたドキドキしてきた……) 霧「どうしたの、ニヤニヤして」 苗「わぁっ!?」 霧「……何?」 苗「い、いや、なんでもないよ! うん、なんでもない!」 霧「……まあ、別になんでもいいけど。はい、あなたの分よ。砂糖とミルク入りで良かったわよね?」 苗「う、うん。ありがとう。それじゃあ、いただきます」 苗「ぶほぁ!?」 霧「? どうしたの?」 苗「しょ、しょっぱ……! 霧切さん、もしかして砂糖と塩間違えた?」 霧「そんなはずは……ちょっとカップを貸して」 苗「え、あ、ちょっ……」 霧「(ズズッ)確かに……塩ね。ごめんなさい、すぐに作り直してくるわ」 苗「いいよ。ついでで淹れて貰っただけなんだし、今度は自分で淹れてくるよ」 霧「いいえ、私がやるわ。私のミスは私に償わせて」 苗「そ、そう? そこまで言うなら……わかったよ。お願いするね」 霧「ええ。すぐに淹れてくるわ」 苗(霧切さん、ナチュラルにボクのカップに口をつけてたんだけど……いや、今更気にすることじゃないか。 それにしても、霧切さんでもこんな間違いをすることがあるんだなあ) ―――――― 霧「お待たせしたわね……」 苗「ごめんね。二回も淹れてもらっちゃって」 霧「私のミスが原因なんだから、気にする必要はないわ。今度こそ間違いなく砂糖入りの……きゃっ!?」 ガッシャアァァン 苗(何もないところでコケた!? あの霧切さんが……って、そんなことより!) 苗「大丈夫!?」 霧「つぅっ……。カップ、割れてしまったわね。弁償しないと……」 苗「それより、霧切さんは!? 怪我とかない?」 霧「え、ええ……私は大丈夫だけど」 苗「そっか、良かった……」 霧「でも、スカートに少しコーヒーがかかってしまったわ。洗濯しないと……」 苗「え?」 ジジジジッ 苗「ちょ、ちょ、ちょっ……! き、霧切さん何やってんの!?」 霧「? 何?」 苗「こ、こんなところでスカート脱いだら……!」 霧「え? …………………………あ」 苗「……」 霧「……」 苗(砂糖と塩を間違えたことやコケたことはいいとして、これはいくらなんでも……。 なんだか、やっぱりちょっとおかしいぞ、今日の霧切さん。これってもしかして……) 苗「……あの、霧切さ」 霧「……そ、そうだわ。掃除道具、掃除道具をとってこないと……!」 苗「あ、ちょっと、霧切さん! そんなに走ったら」 霧「きゃっ!?」 ズシャァ 苗「またコケた!?」 ―――その後、二人で掃除をして、霧切さんが部屋で着替えて、もう一度コーヒーを淹れ直しました――― 苗「……あ、今度はちゃんとおいしい」 霧「三度目の正直……というべきなのかしら。 ごめんなさい、朝から見苦しいところばかり見せてしまって」 苗「あ、いや。そんな謝らなくてもいいよ。ボクとしてはさ……」 霧「ボクとしては……何?」 苗「こんな霧切さんも可愛いかな、なんて」 霧「……」 苗「あれ、『苗木君のクセに生意気ね』ってのはないの?」 霧「言いたいのは山々だけど、あんな醜態を晒した直後にそんなこと言えるわけないじゃない。 分かって言ってるでしょう、あなた」 苗「え、あ、いや……そういうわけじゃ」 霧「素で言ってるなら尚更タチが悪いわよ」 苗「ご、ごめん」 霧「まったく……」 苗「あ、あのさ。ついでに一つ聞いていい?」 霧「何のついでなのよ……。まあいいわ、何?」 苗「さっき霧切さんの様子がおかしかったのって……やっぱり……ボクのせいだったりする?」 霧「! そ、それは……」 苗「……それは?」 霧「……本当に……生意気だわ。今日のあなた……」 苗「……」 霧「……何よ」 苗「いや。霧切さん、やっぱり可愛いなあって」 霧「いい加減にしなさい……バカ」
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苗「霧切さん、寒くない? マフラー貸そうか?」 霧「別に平気よ。気持ちだけもらっておくわ」 苗「そう言わないでよ。ほら、使って」 霧「あなたが寒い思いをするわよ?」 苗「僕は大丈夫だから。パーカーのフードもあるし」 霧「…そこまで言うなら…わかったわ。借りるわね」 ◇ 霧「……」 苗「どう? マフラーがあるだけでも違うでしょ?」 霧「…あなたの匂いがするわ」 苗「あ…ごめん、そこまで気が回らなくて。嫌だったよね…」 霧「そんなこと一言も言っていないわよ。むしろ…借りて正解だったと思っているわ」 苗「そっか…なら良かった…え? 『借りて正解』…? それって…」 霧「それより、あなたはどうなの? 寒くない?」 苗「あ…ああ、うん。僕は平気だよ」 霧「そう。まあ、『やっぱり寒いから返して』なんて言われても返す気はないけど」 苗「そ、そうなんだ…」 霧「…ああ、そうだわ。二人で半分ずつ使うという手もあるわね。試してみる?」 苗「えぇ!? そ、それは…その…」 霧「…冗談よ」 苗「だ、だよね…ハハ…」 霧「……」
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「――― 好きだから」 「好きだから」「この状況に陥れた」 「好きだから」「檻に入れた」 「好きだから」「首輪をかけた」 「好きだから」「逃がさない」 「好きだから」「容赦しない」 「好きだから」「あんたが欲しい」 「好きだから」「絶望に染まりきったあんたの姿が見たい」 「好きだから」「武器を持たせた」 「好きだから」「怒りを持たせた」 「好きだから」「あんたの前にばかり現れた」 「好きだから」「嘘をついた」 「好きだから」「あんたをこちら側につかせたかった」 「好きだから」「死にたかった」 「……好き、だから」「殺されたかった」 ―――「好きだから」「愛してよ」 「好き……だから……」「愛してよ……苗木、誠」 「………………………」「好きだから、愛してるから」 「ボクが、好き、ならば、ボクを、愛してるなら」 「………………………」 「――――― 生きることに、希望を持ってよ」 「それだけは、出来ない」 「好きだから」 「それがいい」 「嫌いじゃないのか」「嫌いだよ」 「他の言弾は」 「いらないよ」 「やっぱり」 「…………?」 「好きだから?」 「それは違うよ」 「好きだから」 「論破して」 ―――――。 「苗木君」 「霧切さん」 「泣いてるの?」「そうみたい」 「どうして?」 「わからない」 「……………」 「どうして、だろ」 「……………」 「……………」 「泣きなさい」 「濡れちゃうよ」 「良いのよ」 「……………」 「あなたは、頑張った」 「……………」 「自分を、誇りに思いなさい」 ―――――。 「好きだから」「さよならは言わない」 「好きならば」「また会える」 「返事は」 「また会った時に」 「待ってるよ」「待てるのかい?」 「辛くても」 「……………」 「あんたの為なら」 「ありがとう」 「それじゃあ」 「……またね」
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「あなたも律儀なものね。セレスさんのあんなただの悪乗りに付き合って、一人寂しく居残りなんて。 それにこの時期はまだ冷えるでしょう? 風邪を引いても知らないわよ」 「はは……心配してくれるんだね、やっぱり霧切さんって優しいよ」 「呆れているだけよ、こんな貧乏くじ、サクラの木の下にでも埋めればいいだけなのに」 「それはなんか怖いからいいかな……。それに、ボクは貧乏くじとも思ってないしね」 「……どういう事?」 さっぱり言っていることが理解出来ないようで、霧切さんは露骨に表情を崩した。 普段ではあんまり見られないものだから、ボクまで面喰ってしまった。けど、すぐに言葉を続けることにした。 あんまり見られないってだけで、全く見ないってことではないからな。ちょっと嬉しくなるのは否めないんだけど。 「なんかさ、祭りの後の空気って良いと思わない? 夢の跡というか……昼間の華やぐ明かりの名残というか……。 ボクはさ、昔からみんなの賑やかさの中にいるのが結構好きなんだよ。ボクなんて才能と個性が溢れるこの学校の生徒の中では、浮いたような存在だからさ。 だから楽しいんだよ。普通では居られない、この場所の空気を味わえるってことが。しかもこの空気を一番長く味わえているのはボクだしね。 ……やっぱりボクって幸運なんだな。普段は寧ろ逆に思えるんだけどね。それこそ貧乏くじばっかり引かされているようで」 いつもの癖で、つい頬を指で掻いて、苦笑してしまった。……だってしょうがないじゃないか。 こんならしくもない恥ずかしい言葉を並べて、熱にのぼせ上ってしまったんだから。やっぱりボクも空気に浮かされているみたいだ。多分それだけではないんだろうけど。 なんか霧切さんの反応を見るのが怖くて、顔を俯かせてしまう。どんな顔をしているのかな? 笑っているのかな? 呆れているのかな? しょうがないとはいえ、目線を上げてそれを視界に入れるのが怖かった。……でも、案外悪い気分でもないのかもしれないな。 いつもそうだった気がする。霧切さんと接している時は。 初めて会った時から気難しくて、人を寄せ付けない雰囲気を発していて、ある程度仲がいいと言える関係になった時期も、クラスのみんなの中では遅い方だった気がする。 だけど、霧切さんとの距離の取り方を伺う時間は、不思議な空間に迷い込んだような錯覚があった。 冷淡とは言えないけど、そっけなくて、表情も堅くて、会話もあんまり広げてくれないけど、それでもボクは結構嬉しかったんだ。 ……なんでかな。上手く言葉に出来ないや。 情感に酔っていると、不意に、夜風がボクの火照った身体を冷ました。霧切さんの言った通りで、この季節の夜は、まだまだ冷え込んでいるみたいだ。 露出している手はかじかむし、頬を突き刺すような鋭い寒気は、とても冬が終わったとは思えないものだった。 ……だけど、鼻腔にだけは、四月の香りが広がっていて、くすぐるような匂いはちょっとだけボクの心を暖かくした。 「相変わらずの前向きさね。不運も幸運も、結局はその人の受け取り方次第ってことかしらね。 ……ふふっ。あなたはきっと、才能や個性に欠けている人間じゃないわよ。これは、超高校級の探偵の名を、自ら学園に売り込みをかけた私の推理よ。外れているはずがないわ」 力強い、断定するような口振りは、紛れもなく霧切さんのそれだった。 言葉の節々にある温もりですら、紛れもなく霧切さんのそれだった。 自然と面持ちを上げ、霧切さんの方へ顔を向けた。 ……目線が交わることは無かった。ボクが見ているものと、霧切さんが見ているものが違ったから。 霧切さんの視線の先にあったのは、電灯と更待月のスポットに当てられた、満開の夜桜だった。 いや、満開と呼ぶには語弊があるかもしれない。風に散る桜吹雪の規模は小さいものではないし、花の質量は八分咲きにすら近いかもしれない。 それでもその趣を損なう要員は欠片も無く、寧ろ昼間の華やかな賑わいと照らし合わされていたような木とは、一線を画していた。 綺麗だった。 「……確かに、あなたの言っていることは正しいのかもしれないわね。私も好きよ。祭りの後の空気って」 ボクが見ているのは、はにかむように桜を見上げ、かじかむようには見えない、厚い手袋を付けたその手で、風に靡かせた長い銀髪を押さえている、霧切響子だ。 「夜の桜も趣が違うわね……こんな綺麗なものを見られるのだから、遅くまで残っていることも、そんなに悪いものではないみたいね。……それに、あなたと一緒だから」 彼女に見惚れていたボクの思考を呼び戻したのは、数秒遅れて付けたされた、甘い響きだった。 思わず、頭がクリアになる。……いくらなんでもおかしいような。素面で言えるような台詞じゃないだろ……。 もしかして夢? いやいや、なに考えてんだよ。だったらこの火照りはどう説明すればいいんだ? ……素面。……あっ。 思い出した。悪乗りついでに、江ノ島さんが度の強い日本酒の瓶を持ち出していたことを。 『大丈夫だって! どうせばれても希望ヶ峰学園の生徒なんだから圧力でどうにでもなるって!』 咎めるボクに言ったのはそんなとんでもない言葉だったっけな……しかもただの麦茶や水に紛れ込ませて、被害者がそれなりに出た気がする。 ボクはなんとかどんちゃん騒ぎには巻き込まれないで済んだけど……。それに霧切さんだってさっきまでは普通だったよな。 しかもあの常に神経を尖らせている超高校級の探偵の霧切さんがそんな手に引っ掛かるか? ……わざと飲んだとか? ……いや、まさかね。 「苗木君。さっきから表情を変えすぎよ。そんなにおかしいかしら? 私が素直に好意を示したら」 相変わらず微笑を続けている。ボクの動揺に機嫌を損ねることも、良くすることもなく、安定した存在がそこにあった。 ……なんかもうお酒がどうとかどうでもよくなって来たな。 「……ううん、おかしくないよ。今の霧切さん、とっても綺麗だから」 「……えっ?」 「いつもそうしていればいいのになぁ……霧切さんってとってもかわいいのに、滅多に笑ってくれないから。 いや、最近はそうでもないのかな。でも、今みたいに笑ってくれるとボクなんて一瞬で持っていかれちゃうよ。本当に霧切さんはかわいいなぁ!」 「し、素面では言えない言葉ね、本当に思っていたとしても、バカ正直で、どうしようもないぐらい隠し事が下手くそで、 ちょっと揺さぶっただけで簡単に見透かせるようなあなただとしても、 そこまでキザな台詞を言えるような人間には見えないわね。もしかして超高校級のプログラマーが作った偽物の苗木君なのかしら? それに、希望が峰学園の技術力なら、ホログラムを実体に見せかけるぐらいは出来そうだしね」 「……実体かどうか、確かめてみる?」 「……ちょ、ちょっと。苗木君」 思考力を的外れな方向へ向けて、あらぬ言葉を捲し立てる霧切さんの身体を、そっと抱き寄せた。 ボクより目線が高い彼女は、笑っちゃうぐらい華奢で、今だけは男女の差を自覚させられた。 「……結構さ、霧切さんって暖かかったんだね」 「……なによ、それ。私が冷たい人間とでも言いたいのかしら?」 「……違うよ。初めて知ったから、嬉しくなっただけ」 「……そう」 「苗木君、お酒臭いわ」 「……やっぱりバレた?」 もう夜も更けるまでじっとしていた気がするけど、沈黙を破ったのはそんな名推理だった。 「てっきり霧切さんも飲んでるからおあいこなのかなぁ……って思ったんだけど」 「私があんな手に引っ掛かるわけないでしょ。あなたじゃないんだから」 「あはは……やっぱり」 確かにどんちゃん騒ぎには巻き込まれなかったけど、運よく迷子になっていた子供の案内をしていただけで、お酒自体は飲まされてしまっていた。 帰って来たらあの惨状で、誰も後片づけを出来そうになかったから、ギャンブラーのセレスさんがくじ引きで一名に押し付けようとしたのが事の発端だった。 運がいいのか悪いのか、ボクはそのくじを引いてしまって、熱に浮かされてしまって、霧切さんとなんか思い出を作ってしまったらしい。 ……やっぱり超高校級の幸運って合っているんじゃないか? 「……あれ? ということは、霧切さんはお酒を飲んでいなかったんだよね?」 「だからそう言っているでしょう?」 「じゃあさっきのあれって……」 「……帰るわよ、もう日付が変わっているんじゃないかしら」 「あっ、待ってよ!」 お決まりのように、帰路につく霧切さんの後ろを追いかけて行った。 霧切さんの心の内なんてボクに推理出来るはずもないけど、少しだけ、距離を縮められた日にはなったかな。