約 439,916 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1695.html
「こりゃひょっとして…」 「何かわかるのか、デルフ!?」 タバサの母の様子に、育郎の背のデルフが何かに気付いた。 「ああ、こりゃたぶん水魔法だな…なあ、母ちゃんがこうなったのはいつからだ?」 「…5年前」 デルフが母の症状について、何か知っている事に少し驚ろきつつもタバサが答える。 「じゃ間違いねぇ。そこまで効果が長く続くのは先住魔法、それもエルフどものだ」 やはり、とタバサが頷く。 今まで腕の立つ水魔法の使い手に見せたり、水の秘薬などを母に試してきて、 全て効果がなかったのだ。エルフの先住魔法である事は予想はしていたが、 それでも断定されるのはショックだった。 エルフの先住魔法…その力の前には、貴族の操る系統魔法など、子供の遊戯の ようなものだとさえ言われている。 「デルフ…どういう事なんだ?」 一人何も分からない育郎に、デルフが言いにくそうに告げる。 「あ~なんだ。たぶんこの娘の母ちゃん………毒盛られたんだ。 しかもまず人間じゃどうにもならねぇ。相棒に頼むもうと思ったのも無理ねえな」 「「継承争いの犠牲者?」」 ルイズとキュルケが同時にペルスランに問い返す。 「そうでございます。今を去ること五年前……先王が崩御されました。 先王は二人の王子を遺されました。一人は今王座についておられるご長男の ジョゼフ様。そしてもう一人はシャルロットお嬢様のお父上のオルレアン公。 しかし、オルレアン公は王家の次男としてはご不幸な事に、才能と人望に溢れて おいででした。対してご長男のジョゼフ様は、お世辞にも王の器とは言い難い 暗愚なおかたであったのです」 「ガリアの無能王…」 ルイズがつぶやく。 始祖ブリミルの血を受け継ぐ王家に生まれながら、まともに魔法も扱えぬガリアの 無能王。その噂は隣国のトリスティンにすら伝わっている。 「…そしてその事が、宮廷を二つにわり、あの悲劇を生んだのです」 「無能な長男を廃して、優秀な次男を王座へ…というわけ」 そう言うキュルケの国、ゲルマニアの現王も、過酷な継承者争いを勝ち抜き王と なったのである。もっともそのような事は、この世界では珍しい話ではないが。 ペルスランが頷きつつ話を続ける。 「はい、そしてオルレアン公は狩猟会の最中、毒矢で胸を射抜かれ…この国の 誰よりも高潔なお方が魔法ではなく、下賎な毒矢によってお命を奪われたのです。 その無念たるや………しかし、本当の悲劇はそれからだったのです」 ペルスランは胸を詰まらせるような声で続ける。 「ジョゼフさまを王座につけた連中は、次にお嬢様に狙いをつけたのです。連中は お嬢様と奥様を宴を開くと宮廷に呼びだしました。しかしお嬢様の料理には毒が 盛られていたのです。それに気付いた奥様は、お嬢様をかばってその料理を口に されたのです。それは心を狂わせる水魔法の毒でした。奥様はお嬢様の目の前で お心を病まれ……その日より快活で明るかったお嬢様は、無理もないですが、 まるで別人のようになってしまわれました。それでもお嬢様はご自分と、そして 奥様の身を守るため王家よりの命に、困難な、生還不能と思われた任務に志願 するようになったのでございます。しかし王家はそうまでして忠誠を知らしめた お嬢様に、シュヴァリエの照合のみを与え、外国に留学させたのです。そして、 未だに宮廷で困難な汚れ仕事が持ち上がると、お嬢様を呼び出すのです!」 ルイズの視線に気付いたキュルケが首を振る。確かにタバサは、何もいわずに 幾日か姿を消す時があったが、その理由を聞いたことはない。 「父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇にまるで牛馬の如くこきつかわれる! 私はこれほどの悲劇を知りませぬ。何処まで人は残酷になれるのでありましょう」 口惜しそうに吐き捨てるペルスランを、ルイズとキュルケは黙って見つめている。 「……失礼、年甲斐もなく興奮してしまって。 お嬢様は、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね? その名はお忙しい奥様が、お嬢様が寂しくないようにと、手ずからお選びになり お嬢様に贈られた人形に、お嬢様自身がつけた名前にございます。そして奥様は、 今はその人形をシャルロットお嬢様と思い込んでおられるのです…」 「それじゃあ…」 背後にタバサの祈るような視線を感じながら、育郎は姿を変え、騒がないように 魔法によって眠らされたタバサの母の前に立ち、己の鋭い爪で斬った傷から流れる 血を飲ませた。 「………!」 タバサが驚きに目を見開いた。 心を病んでから、衰弱する一方だった母の身体が、みるみるうちに健康な人間の それに変わっていくではないか! さすがにやつれた身体はそのままだが、それ以外は思い出の中で、自分に微笑を 向けてくれた、あのかつての優しい母の姿となっている。 「あ……ぅ…」 育郎の血の効果か、魔法によって眠らされているタバサの母が、今まさに目を 開けようとしている。 「母さま!」 思わず駆け寄り、母の手をとるタバサの心の中には、自分の魔法を打ち破った 育郎の血が、母を救ってくれるとの希望が生まれていた。 「シャル…ロット………?」 目覚めた母の言葉に、タバサの顔に笑みが、先程の寂しげな笑みとは全く違う、 安堵の笑みが浮かぶ。 「……かあ………さま?」 だが、母は娘の手を振り払い、傍においてあった人形を抱きしめた。 「おおシャルロット…ここにいたのね?私の…私の可愛い娘……」 タバサの母は、実の娘に見向きもせず、ボロボロの人形にほお擦りをする。 タバサはその光景を黙ってじっと見つめる事しかできなかった。 「………すまない」 何とか搾り出したその声に振り返った、タバサの顔を見て育郎は愕然となった。 その表情は…いや、表情はなかった。 もうその顔には何の感情も浮かんではいなかったのだ。 『雪風』 彼女の二つ名そのままに、その心が凍り付いているかのような表情だった。 違う… 育郎は自分の考えを否定した。 凍りついたのではない、この少女は己の心を無理やり凍りつかせているのだ。 絶望に踏み潰されない為に、この小さな少女は、自分の感情を封じ込めているのだ。 そうすることでしか、タバサは前に進めなかったのだ。 「謝る必要は…」 タバサの言葉が途中で止まる。 育郎は泣いていたのだ。 流れる涙が育郎の頬をぬらしていた。 「………いいんだ」 タバサは自分の頬に、熱い物を感じる。 「あぁ…!」 それが何か理解した時、彼女にはもう、それを止めることはできなかった。 たまらず育郎に抱きつきながら、声をあげて泣くタバサの心に小さな疑問が浮かぶ。 自分は悲しみの涙を流しているのに、どうして安らぎを感じているのだろう? だがその疑問は、あふれる感情の前にすぐに消えて行った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2519.html
「うきゅう」 足元で潰れたような声がするけど気にしてはいけない。 頭を抑えて地面に蹲っているシルフィードが涙目になっているのも気のせい。 「うう、酷いのね。おねえさまが心配だっただけなのに」 「うるせぇ!だからって飛び付く馬鹿がどこにいやがる」 鬱陶しいと言わんばかりにプロシュートが吐き捨てたが、荷物背負ってやっとの思いで村に戻ったと思ったら 出会い頭にシルフィードがアメフトかと言わんばかりのタックルをかましてきた。 肝心のタバサはというと、ジジの家の中でデス13と遊んでいる頃だ。 なぜにこうなったかというと、タバサの今の姿にある。 前衛を勤めたのはプロシュートなので怪我なんぞこれっぽっちもしちゃいないが、洞窟前から村まで運んだのは当然プロシュートだ。 一回動脈切ったから手は血塗れで、額の傷も完全に塞がってないから流れてきた血をまた手の甲で拭う。 自分の汚れは気にするが、他人の汚れなんざこれっぽっちも気にしないため村に付いた時はタバサの服は血でベトベトだった。 その姿を見たシルフィードが180度ぐらい勘違いをして突っ込んできて 『おねえさまがミノタウロスにやられちゃった』などのような事を言いながら人の上でわんわん泣いていたので 手加減の手の字もなく、綺麗な右フックがシルフィードのつむじにブチ込まれたというわけだった。 「ふぁ……夜中になにやってんのさ」 呆れ顔で家の中からフーケが出てきた。 いっそ、そのまま戻ってこないで欲しかった、と思っていたのは決して口には出さない。だって命は大切な物だって両親から教わったから。 欠伸をしたりして眠そうにしているあたり、それなりに疲れていたようで寝ていたらしい。 「カタは付けた。くたばってるから見たけりゃ見に行けよ」 「まぁ死ぬとは思ってなかったけど、結構手間取ったみたいだね。珍しい」 服は少々土で汚れ、顔に至っては乾いた血の跡で汚れている。 やろうと思えばこの村ぐらいなら一時間程度で全滅させられる力を持った男にしては珍しい姿だっただけに、いったい何があったのかと興味はある。 「別になんもねー。大したヤローだったのは事実だがよ」 「?どういう事さ」 まるで人間でも相手にしたような口ぶりにフーケが疑問符を浮かべたが、答えが返ってくる事はない。 しこたま疲れていたというのもあるし、なにより牛公が人間を辞めていたという事を説明するのはダルい。 しかも、そいつが十年前に村を救ったやつだったなど説明すればするほどややっこしくなってくる。 面倒なので無かった事にして無遠慮にジジの家のドアを空けると壁に背を預けた。 贅沢を言えば寝る前に一服やりたかったところではあるが、無い物強請りだ。 体力の消耗とスタンドパワーの消耗で眠気はすぐに襲ってきた。 それでも意識を手放す前に、あのラルカスの姿が浮かんだ。 肉体は死んでいたのに魂だけで動いていた。 並みの精神力ならとっくの昔に飲み込まれて、この村なんて無かったかもしれない。 もしこっち側の人間だったら立派なギャングになっていたと思う。 「……ホント大したヤツだったよ。オメーは」 誰にも聞こえないぐらい小さく呟くと、長い一日にようやく終止符を打った。 「水」 昼前ぐらいに目を覚まし状況を確認すると、第一声がそれだった。 手と顔のあたりは血が乾いて赤黒く変色している。 ここが外だったら間違いなく死体認定されているような有様である。 幸い上着はスタンドで持っていたので血の汚れは無いが、身体の方は血と土汚れで気色悪い。 ここがイタリアだったら、今頃は声に反応したペッシが水を持ってくるところだが、生憎とド辺境。 蛇口を捻れば水が沸いて出てくるような場所でもなく、この村には井戸が一つしかないのですぐに用意できるはずもない。 他のやつらはと、周りを見てみたが、シルフィードはまだ寝ている。ついでに、他は誰も居ない。 一瞬、放っておこうとも考えたが、呑気そーに涎まで垂らしているアホ面を見ていたらなんか無性にムカついてきた。 自分だって今まで寝てたんだから言えた義理じゃあない。ただ舎弟ってのは常に兄貴より先に起きておくもんである。 ギャング世界なら教えるまでも無い事だろうが、そんな事知ったこっちゃないシルフィードは当然のようにブッチして爆睡ブッこいている。。 いくら負担が掛かるといっても限度ってもんがある。やる事やってりゃスタンド攻撃という事にしてやってもよかったが、昨晩から寝てるだけなので叩き起こす事に決めた。 仕事しないやつには厳しい。これ暗殺チームの常識。 バキィ、と首を鳴らすとシルフィードの首根っこを掴んで動かす。 必要以上に持ち上げる気など一切無く、引き摺るように引っ張っているから色んなところにぶつかっている。 人様の家とかいう気遣いは一切無い。 ちなみに、今のシルフィードの服はタバサのマントにロープ一本巻き付けただけという極めて適当なもので どこかに引っ掛けたりすれば、少々よろしくない事になるが、プロシュートは全く気にしていない。 まぁ、ここまでされて起きる気配が微塵も無いっつーのだからどっちもどっちと言うべきか。 井戸まで引き摺って行くと、もうスデに先客がいた。 「よう、役立たず」 「……おはよう」 いきなり精神的に再起不能になりそうな言葉をぶつけるが、あの無表情面がこの程度で参るようなタマじゃない事ぐらいは知っている。 というより、本気ならもっとキツいのと同時に蹴りが入っているところだ。 手を離すと引力に引かれてシルフィードの頭が落ちた。 一度、一メートルぐらい持ち上げてから落としたのだが、まだ何か寝言をほざいているあたりダメな方に食らいついている。 「……いい根性してんじゃねーか」 こいつは多分、自分の欲望(三大欲求的な意味で)に対しては際限が無いやつだ。 もしギャングやってたら結構いいセンいってたと思う。 そろそろ蹴りの一発でもくれてやろうかと考え始めると、一足先に着替えていたタバサが無言で水の入った桶を手渡してきた。 季節が季節のだけあって井戸から引き上げたばかりの地下水ってのは相当に冷たい。 人間、冷たさを感じてそれが一定を超えると、冷たさが痛みとして認識されるようになる。 さらに突き詰めると痛みすら感じなくなってしまうのはホワイト・アルバムでご存知のとおり。 もちろん、それを知った上で盛大で、それでいて正確に寝ボケ竜の頭に中身をブチ撒けた。 「い、痛いのね!鋭い痛みがゆっくりやってくるのね!?」 どこのブチャラティだ、と突っ込みたくなるような悲鳴をあげるとシルフィードが文字どおり跳ね起きた。 半分寝ボケているのもあって両手を挙げてその辺をぐるぐると走り回っているあたり日本の漫画の一シーンっぽい。 「ふぎゃん!」 最終的に石につまづいて動きが止まった。 倒れ方といい地面への入射角といい完璧なまでにギャグ漫画だ。 「いい朝だな」 「もう昼前」 何事もなかったかのように光り輝くさわやかさとさえ感じられる朝の挨拶と、それに対する突っ込みが上の方で繰り広げられているが 肝心のシルフィードは顎に膝蹴りをボギャァア!と叩き込まれたダルメシアンのようにピクピクしている。 もちろんそこには、何をするだァーーッ!ゆるさん!とか言ってくれる人なんて全く居やしない。 数秒間、大地の精霊と親睦を深めていたシルフィードがゆっくりと顔をあげると、モロに突っ込んだせいかあちこちに擦り傷が出来ているのが見て取れる。 そしてあっという間に目には大粒の涙が溜まって顔がふにゃりと崩れた。 「……いたい。……痛い、痛い、痛い!痛いのね!きゅいきゅいきゅーい!」 ガキの泣き声は宇宙最強の音波兵器だ。と、誰か偉い人が言っていたと思うが、まさにそのとおり。 元の姿が元だけに、その音量は半端無い。泣き声で空気が振動して伝わってきているが、原因が分からなければスタンド攻撃だッ!って思うぐらいだ。 さすがのプロシュートも防御不可能の音波攻撃には耳を塞ぐしかなく対処のしようがない。 「うるせェーーーーーッ!さっさと!なんとかッ!しやがれッッ!!」 直を叩き込んで無理矢理黙らせるという手もあるが、朝からんなしょーもない事でスタンドパワーを浪費するのも馬鹿らしく結局は飼い主に丸投げする事にした。 「…………」 「聞こえねーぞ!」 口が動いているあたり、なにか言っているんだろーが、元々の地声が小さいし叫ぶようなやつでもないので全く聞こえない。 自我があるスタンドを持っているなら、間違いなく『S.H.I.Tッ!』と言っているような状況である。 聞こえないと悟ったのか、小さく首を縦に振ると軽いため息を吐いて泣き喚くシルフィードの前に歩いていく。 軽い擦り傷程度ならタバサでも秘薬なんぞ使う必要も無く、杖をシルフィードの顔に向けて呪文を唱えた。 「きゅい……きゅ……きゅい……」 傷が治っていくにつれ泣き声のボリュームが下がっていく。 まだグズっているが、やっとこさ静かにはなった。それでもボスの大冒険に例えるなら『精神力が一下がった』というところか。 「クソ……朝っぱらからひでー目にあったぜ」 「だからもう昼前」 基本的に、起床時刻が不定期な人間にとって時間の区切りの概念は薄い。 例え夜でも寝起き=朝って考えになってしまっているがどうでもいい話。 ちなみに、その横ではグレイトフル・デッドが井戸から水を引っ張り上げている。 こういう時スタンドはディ・モールト便利だが、見える場合ディ・モールトシュールな光景だ。 「そういやオメー、偽名だったんだな。どっちがいい」 「タバサ」 昨日、確かシャルロットとか言っていたような気がしたので聞いてみたが、本人がそれでいいというならそれでいい。 別にタバサだろうがシャルロットだろうが、名前が違えばそいつ個人が変わるわけでもない。 本人がそう名乗ってる以上、そう呼んでやるのが一番楽でいい。 とりあえず適当にあったボロ布かなにか濡らして顔と髪を拭くと、やっとこさメタリカ臭い臭いから開放されて一息付ける状態になる。 が、それもつかの間。もう聞きなれたというか、聞き飽きた音が聞こえてきた。 「それはそうと、おなかがすいたのね」 もはや背景に擬音が出そうな音を出したのは、もちろんシルフィードの腹の虫。 さっきまで超音波かと言わんばかりに大泣きしていたのにもうケロッとして飯の心配をしている。 音が鳴り止むと数秒の静寂がその場に流れたが、額を押さえながらプロシュートが露骨なまでの不機嫌を隠さずに言った。 「……殴っていいか?」 「きゅい!?」 本来なら、何も言わずに一、二発ぶん殴っているところだが さっきみたいにガン泣きされてはたまらんという事で、心の中で思ったらその時スデに行動が終わっている男にしては珍しく言葉より先に手が出ていない。 「我慢して」 「きゅいきゅい!?」 タバサもタバサで、ミノタウロスを始末したからには、この村には用は無いと言わんばかに言い放つ。 この村に立ち寄ったのは、ミノタウロスという強敵と戦う事によって得られる経験であり、本来遂行すべき任務は他にあるのだ。 上位者二名にあおずけ宣言を出され諦めるかと思ったが、当のシルフィードは眉をハの字に曲げてぶつくさ愚痴を言い始めた。 「きゅい……シルフィは不幸なのね。この先、しゃべることすらできない、下賎な火竜の手にかかるかもしれないのに、ごはんも満足に食べる事ができないのね」 この世の全ての不幸が降りかかったような声と表情で地面に膝を付いているが、時折ちらちらと二人の顔色を伺っているあたり演技のようだ。 「おい、こいつ、何時もこんなか?」 「……だいたいあってる」 脳が足りてないとは言わないけど、近い。というのはタバサの言である。 ぶっちゃけ、そこいらの子供がショーケースのお菓子を駄々こねて買ってくれとわめいているようなもんだ。 うっおとしいと思うより、よくこんなのと組んでられるなという方が先にきてしまっている。 そんなシルフィードを見るとプロシュートが頭をかきながら、ったく、と言いつつため息を吐いた。 「食いモンならなんでもいいか?」 「きゅい!おいしいものならなんでもいいけど……やっぱりお肉がいいのね!あ、でも、あのブヨブヨしたまがいものは断固として拒否するのね!」 脊髄反射もとやかくという勢いでさっきまで沈んでいたシルフィードの表情が一気に明るいものになったが、対照的にタバサはちょっと困ったような顔をしている。 本の虫という表現が最も似合う存在だけあって、タバサは生活費のほとんどを本に注ぎ込んでいるので、基本的に金はあまり持っていない。 前にも言ったと思うが、甘やかしすぎると色々と困るのである。 もちろん、それはおめーらの間での問題だ、って事で知ったこっちゃないプロシュートは構わずに続ける。 「って事は牛の肉なら『なんであろうと』問題ねーって事だな?」 「きゅい!」 元気よくシルフィードが返事をした瞬間、あっという間にその場の空気が変わった。 背景の擬音は間違いなくドドドかゴゴゴである。 それに気付いたのか、タバサもプロシュートの方を見たが、もの凄く何かを企んでいるというか、悪い顔をしているのを見た。 「まだ転がってるだろうしな。残さず食えよ?」 質問への返事を待たずにギャーz__ン!と擬音が出んばかりにシルフィードを指差すと再びシルフィードを谷底に突き落とす単語を突きつける。 「ミノタウロスをなァ!」 「ミノ……タウロス……?」 若干エコーが掛かって聞こえたのはたぶん気のせい。 「牛だったら『なんであろうと』問題ねーって言ったよな?骨の一本、皮の一切れも残すんじゃあねーぞ」 確かに牛は牛。言ってる事に間違いは無いが、ミノタウロスは亜人でデカイし無駄に堅い皮膚を持つ。 さすがに冗談だろうと思ったが、視線の先にあった顔は、今にも『計画どおり』と言わんばかりの悪党面。 「きゅ、きゅい。お、おねえさまは、ミノタウロスを食べろとか言わないのね?」 最後の希望をタバサに託してみたが、その表情はいつもと変わらず、それでいて冷たいものだった。 「あなたが望んだ事。だからそれはあなたの問題。だからわたしには関係無い」 冬の突風の如き冷たさで切り捨てられると、シルフィードの頭の中が真っ白になって、何故かモノクロで血を吐いている自分の顔が写る。 当然、そこに付く文字は『再起不能(リタイア)』の四文字。 今度こそ本当にこの世の不幸が全て降りかかったような顔で力無く地面に膝をついた。 「ったく……これで、ちったぁ懲りるといいんだがよ」 「たぶん、二、三日で忘れると思う」 喉元過ぎれば熱さを忘れる。 得てして子供ってのはそんなもんだろうが、この際二、三日でも大人しくしていれば上出来だ。 しかし、これだけ手間かけた報酬があの小銭だと思うと色々とやる気が失せてくる。 いっそあの牛公をマジにこいつの餌にでもして出費を抑えるかと本気で考え始めると、シルフィードが屍生人のように無言で立ち上がった。 「お、おねえさまと……おにいさまの……」 俯きながら小刻みに震えながら呟き、新鮮な空気を目一杯吸い込むと、エコーズAC2も真っ青な音を出した。 「バガーーーーーーーーッ!」 大音量で叫ぶと、脱兎のごとく走り去る。 見事ジョースター家伝統の戦法を披露してみせたシルフィードだが、何がなにやらといった感じだ。 「……のヤロー、逃げやがった」 後に残されたのは罪悪感の欠片も持っていないギャングと やれやれだぜと言わんばかりにため息を付いて、無言で本を読み始めるメイジの二人のみ。 納屋の藁に頭突っ込んで必死に隠れようとしたシルフィードを見つけて 一体何やらかしたんだあのド畜生はとフーケが背筋を寒くしたのはそれから約十分後のことだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/608.html
育郎が目を覚まし、窓の外を見てみると、どうやらまだ夜明けと言った様子である。 ベッドの方を見ると、ルイズがすやすやと寝息を立てている。 「こうしている、と普通の女の子なんだけどな…」 この少女が魔法使いで、しかも自分をこの世界に呼び出したとはとても思えない。 だが事実は事実。 「とりあえず洗濯でもしよう…」 昨日ルイズが脱いだ下着を、服でくるんで持ち、部屋の外に出る。 ちゅうちゅう(大佐、侵入に成功した) 「うむ、よくやった。そのままミッションを遂行するのじゃ」 職員用宿舎の、とある一室の前で、窓から部屋の中を伺う老人がいた。 その視線の先には、彼の秘書たるミス・ロングビルの部屋に潜り込んだ、 彼の使い魔のネズミがいる。 ちゅうちゅう(大佐、目の前に齧りかけのチーズがある。食べてもいいか?) 「ふむ、時間をかけたかけたくない、無視して進むんじゃ」 ちゅうちゅう(食欲を持てあます) 「よいかモートソグニル。このミッション… 『ミス・ロングビルは黒に限るぞ計画』の困難さと重要性を良く考えるのじゃ。 今からお前は、黒いパンツ意外をかじり、下着を使い物にならなくすると言う、 変われるものなら変って欲しいミッションを必ず成功させねばならん」 ちゅうちゅう(駄目だ大佐、我慢できない) 「むう…早く済ますんじゃぞ」 ちゅうちゅう(了解した…なに!?大佐、まずい!) 「どうしたんじゃモートソグニル!?モートソグニィィィィィィィィルッ!!!!」 「あの、すいません」 「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 部屋の中を覗くのに集中していたため、突如声をかけられ、飛び上がらんばかりに驚く。 すぐさま振り向いて凄い勢いで弁解しだす。 「ち、違う!違うんじゃ! こ、これはミス・ロングビルの部屋に入り込むいけない妖精さんが見えて、しかたなく… だから内緒に!って」 そこまで言って目の前にいる少年が自分が見たことのない人間であると気付く (い、いかーん!見回りの衛兵かと思えば全然知らん顔じゃぞ!? これならボケたフリをしとくんじゃった!) 「あの、ちょっと聞きたい事があったんですが…」 「き、聞きたい事!?なんじゃね?遠慮呵責なく聞きたまえ!いやもう、バンバンと! ほらはやく、ワシの気が変らんうちに!」 「はぁ…」 少年の言葉に過剰に反応し、うやむやにしようとするが、そうは問屋が卸さなかった 「ミスター・オスマン…」 声と共に『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』と効果音が聞こえてくる程の殺気が襲ってくる! 「な、なんじゃね?」 後ろを振り返ると、理知的な顔をした女性がパジャマ姿で立っていた。 「そのいけない妖精とはこのハツカネズミではないでしょうか?」 ひょいと、手に持っていたネズミ捕りを持ち上げ、罠に掛かったネズミを見せる。 「う、うむ。ミス・ロングビル、たぶんそのネズミを見間違えたんじゃろ…」 なるべく威厳を持って答えようとするが、声が震えている。 「そうですか、ところでこのネズミはオールド・オスマンの使い魔ではありませんか?」 「何を馬鹿な事を言っとるのじゃ! ワシのモートソグニルを、そのような薄汚いネズミと一緒にするでない!」 「ネズミさん、YESなら尻尾を振ってください。貴方はモートソグニルですよね?」 「………」 「………ほ、ほれ、ただのネズミが答えるわけ」 「正直に言ったらネズミ捕り用に買ったチーズを全部上げます」 ちゅう!(YES!YES!YES!YES!YES!YES!YES!YES!!) 「OH MY GOD!!(このネズ公、なんて勢いで尻尾をふりおるんじゃ!)」 「オールドオスマン…」 あまりの迫力に、オスマンはケツの穴にツララをブッ刺された気分を味わっていた。 (このアマ…ワシをやる気じゃ!『マジ』じゃ! 秘書のクセにこのワシを始末しようとしている… こやつにはやるといったらやる………『スゴ味』があるッ!) 「あの…」 「「ん?」」 その声に二人が振り向くと、この状況についてこれず、困惑した表情をする少年がいた。 「えーと…どなたでしたっけ?オールド・オスマン」 「いや、わしも知らんよ。おお、そうじゃ!少年よ何か聞きたい事があったんじゃないかね? ならこのミス・ロングビルに聞くがよい。ワシは用事を思い出したんでここらでサラバじゃ!」 「あ、オールド・オスマン!」 飛んで逃げる老人を追いかけようとするが、自分がパジャマ姿であることを思い出し踏みとどまる。 悔しげに空を見上げた後、コホンと咳払いをしてから、少年に向きなおる。 「あの、聞きたい事があるとの事ですが?」 「はい…その、洗濯できる場所がどこにあるのか、あのおじいさんに聞きたかったんですが… すいません、なんだかお邪魔しちゃったみたいで」 「いいんですよ。こちらこそお見苦しい所を…ところで貴方、見かけない顔ですがどなたです?」 「えーと、僕は………使い魔、だそうです」 「まさか貴方が噂のミス・ヴァリエールの使い魔だったなんて…」 「噂…ですか?」 「ええ、平民が使い魔だなんて前代未聞ですもの。あ、あそこが水場です」 「すいません、わざわざ案内までしてもらって」 「いいんですよ、私も洗濯物が貯まってましたし」 そう言って微笑む。 「そうですわ、せっかくですから、一緒に洗って差し上げます」 「そんな、そこまでしてもらうわけには…」 「遠慮なさらずに、魔法を使えば早く終りますから」 桶の中で回転する洗濯物を感心した顔で見る育郎。時折 「まるで洗濯機だな…」「そうか、魔法が機械の変わりなんだ…」 等とつぶやいている。 それを見て密かにほくそえむミス・ロングビル。 ミス・ロングビルは唯の親切心で育郎を手伝っているわけではない。 (ふふふ、もしかしたらラ・ヴァリエール家のお宝の情報が得られるかも) ミス・ロングビルとは世を忍ぶ仮の姿。 土のフーケ 彼女の正体は、今世間を騒がす怪盗なのである。 とはいえ、流石にそう簡単にいくとは思ってはおらず、半分以上は好奇心であるのだが。 「ところで貴方はどちらから召喚されたのですか?」 「信じてもらえないかもしれませんが…僕はどうやら異世界からきたみたいです」 (ひょっとして東方からきたの?) 流石に異世界からの来たなどと言われても信じられないので、彼女はそう判断した。 東方といえば、いまや交流もない秘境である。 嘘か真か、東方伝来という触れ込みの『お茶』という飲み物も結構な値で取引されている、 つまりお金になる。 「あの、イクロー君…こう呼んでかまいませんよね? 疑ってるわけじゃないですが、何か証拠はありませんこと?」 「証拠…ですか?」 なにせ着の身着のまま逃げていた身である。 所持品といっても少々の現金以外大した物は持っていない。 (そういえば聞いた事がある… 紙幣の印刷は偽造防止のために最新技術が使われていると… 特に日本の紙幣は世界トップクラス!もしかしたら…) そう考えてズボンのポケットの中か数枚の紙幣を取り出す。 「これ、僕の世界で使われているお金何ですけど…」 (こ、これはいったい!?) 出された札を見てフーケが驚愕する。 人物像に緻密に書き込まれた紋様と見たことがない文字。これだけらならまだ良い、 問題は真ん中にある、角度を変えると浮かび上がる顔と、同じように角度を変えると、 紋様まで変わる光る部分である。 魔法のアイテムかと思ったが、ディティクト・マジックでも魔力は感じない。 なにより驚かされるのは、まったく同じ絵が数枚存在している事である。 自分でも錬金するのは不可能な代物なのに、それを大量生産するなど… 一般人為や唯のメイジならこの特殊性に気づく事はないだろう。 しかし土のトライアングルメイジにして、多くの宝物を見てきた彼女には、 これが普通の代物ではないと看破する事が出来たのである。 「あの、ロングビルさん?」 「ああ、はい…ちょっと、これだけでは私にはわかりかねますね」 「そうですか…」 「…少し調べてみたいので、一枚預からさせて頂いてもよろしいですか?」 「ええ、いいですよ」 (ラッキー!もーけー!) 「それじゃあイクロー君、またねー! あ、そうそう、貴方が異世界から来たってあんまり言わない方が良いわよ!へんな誤解を招くから」 そう忠告をして、勿論本心は『他人に儲け話を知られたくないから』なのだが、 とにかくルンルンとスキップしながら去っていくミス・ロングビルを見て育郎は (なんて親切な人なんだろう…) と思ったが、それはまあそれだけの話。
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/62569.html
【検索用 せろのゆかみ 登録タグ 2016年 UTAU collt(ですか) せ 曲 曲さ 音飛女クユ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:collt(ですか) 作曲:collt(ですか) 編曲:collt(ですか) 唄:音飛女クユ 曲紹介 曲名:『ゼロの歪』(ゼロのゆがみ) 歌詞 綻ぶ宇宙の ヒモを手繰り寄せ 迎えた終焉は 100と0の鍵 山は谷となり 秘密のトンネルへ 何もない「時」は 逆さまの天地を 宙に落ちて行く 林檎は無言のまま 観測されぬまま 置き去りにされた 無数の焦点へ 1と1の壁 刹那死を選ぶ 秘密の箱を開け 何もない「今は」 逆さまの視野から 空に落ちて行く 過去は意味を失う 辿り着く収束の果てに あー思い出す生まれた日を 凍える星空を渡る 刹那に生まれた幾千の日々へ ゆらぎを掻き分けて 探した罅から 応える「はじまり」は 陰陽の嵐で 粒子に射抜かれた 秘密の抜け穴で 何もない「空」は 何もかもが満ちて 夜に溶けて行く ゼロのエネルギーで 眩しい星星の海に あー 思い出す別れた道 謳えよ 仮の物語 刹那に奏でる 幾千の日々へ 辿り着く収束の果てに あー思い出す生まれた日を 凍える星空を渡る 刹那に生まれた幾千の日々へ コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/460.html
「大乱闘スマッシュブラザーズDX」のMr.ゲーム&ウォッチが召喚される話 ゼロの平面-1 ゼロの平面-2 ゼロの平面-3 ゼロの平面-4 ゼロの平面-5 ゼロの平面-6
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/49.html
旧ゼロの影-01 旧ゼロの影-02 旧ゼロの影-03 旧ゼロの影-04 旧ゼロの影-05 旧ゼロの影-06
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/757.html
その日の朝、 「う~ん、もうちょっと~」 「はやく起きないと遅刻するよ」 「何いってんのよ~今日は虚無の曜日だからやすみ~」 等と言う事があった2時間後、 「何で起こさないのよ!今日は買い物に行くつもりだったんだから! これじゃ帰る頃には真っ暗になってるじゃない!」 育郎は馬に乗りながら、何時ものようにルイズの理不尽な怒りを受けていた。 「それで、買い物って?」 3時間程馬に乗った後、ついた街の門のそばにある駅に馬を預け、 映画のセットのような街並みを歩きながら、育郎が隣を歩くルイズに尋ねる。 「剣よ」 何故か80年代なビキニアーマーを纏ったルイズが、剣を抜く様が頭をよぎった。 何かが色々足りない気がした。何が足りないかはよくわからなかったが。 「…似合わないんじゃないかな、君には?」 「はぁ?なんで貴族の私が剣なんて持たなきゃいけないのよ? あんたのに決まってるじゃないの」 「僕の?」 「そうよ!」 ビシッ!っと育郎を指差して続ける、 「昨日の一件であんたが馬鹿力なのはわかったわ! けど、やっぱりそれだけじゃ私の使い魔として不満なの。 剣でも持てば少しはマシになるでしょ?」 いらないと反射的に答えそうになるが、もしもの時、あの力を使わずとも良くなる かもしれないと考えなおす。 「すまない…でもお金は大丈夫かい?」 「あのねぇ、私は由緒正しい『貴族』なのよ?剣の一本や二本どうってことないわ。 アンタに渡した財布の重さでわからない?」 言われてみれば、下僕が持つ物と言われて持たされた財布は、ヘルメットだったら 母さんです…と言ってしまいそうな程ずっしり重かった。 「スリには気をつけてよね。これから行く所は物騒なんだから」 そう言って入った狭い路地裏は、なるほど如何にも危ない雰囲気が漂っている。 「ルイズ、危ないから離れないで」 育郎が差し出した手を、不思議そうな顔をしてルイズは見る。 「何、これ?」 「いや、危なそうだから手をつないだ方が」 一瞬の沈黙の後。 「な、なに言ってるのよ!私は貴族なのよ!危険なんてあるわけないじゃない! それにね、平民が気安く貴族にさわろうとしないの!」 そう怒鳴ってどんどん先に進むルイズであった。 武器屋の親父はなんともたるんだ顔で、パイプを吹かしながら暇を潰していた。 最近は土くれのフーケなんぞという盗賊があらわれたせいで、貴族が下僕に剣を 持たせようとする事がはやってると言われているが、実際は傭兵を雇うことが多く、 思われているほど儲かってるとは言いがたいのだ。 「どこぞの物を知らない貴族でもこねーもんかな…思う存分ぼったくってやるのに」 「そんな美味しい話あるわけねーだろ」 誰もいない所から声が上がるが、親父は特に不思議がる事も無くその方向に言い返す。 「うるせーぞデル公!だいたいテメーはいつも客にいらん事を」 「おっと親父、客が来たみたいだぜ」 「なぬ!?それを早く言えデル公!」 早速顔を引き締め、この界隈に相応しい悪党面にかわる。 「もっと愛想のいい顔しろよ…」 「うるせえな!荒くれども相手にゃ舐められたら終わりなんだよ! ていうかおめえ、客のいる間だけでいいかちゃんと黙ってろよ!」 「ヘイヘイ」 薄暗い店の奥を見ると、こちらを見て胡散臭げな顔をする店主の顔が見えた。 しかしルイズが貴族と気付くと、表情は一変し営業トークを繰り出す。 「いやー若奥様、うちにこられるとはお目が高い!」 「これなんてどうですかい?業物ですぜ」 「もっと太くて大きいのがお望みで?ちょっと待っててくだせえ。 奥からとっておきを持ってきやすんで」 (おい、親父。舐められたら終わりじゃなかったのかよ?) (うるせーデル公!世間知らずの貴族なんて、適当におだててりゃいいんだよ) (そーいうもんかね?) 「ねえ、まだ見つからないの」 「へえ若奥様、いますぐに!いいか、絶対しゃべるんじゃねえぞ?」 「さあ、どうですかい若奥様!かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の作。 太くて硬くて暴れっぱなし!店一番のビッグマグナムでさ! 魔法がかかってるから青銅だろうが鉄だろうが青銅だろうが青銅だろうが一刀両断! まあ、その分お高くなりやすが…」 見れば宝石が散らばり、見事な細工も施され、いかにも名剣という感じである。 「おいくら?」 「ルイズ…こんな高そうなもの」 「いいのよ!ほら、いくらなの!?」 高価そうなので、思わず育郎が止めようとするがルイズは聞こうとしない。 「へい!エキュー金貨で二千!新金貨で三千でさ!」 あまりの値段にルイズが文句を言おうとしたその時、誰もいない方向から声がかかった。 「おいおい、親父。そんなナマクラ押し付けといて、ボリすぎだろう!」 武器屋の親父の顔色がさぁっと青くなる。 「てめ、デル公!黙ってろって言っただろ!い、いやあのですね」 「まさか貴方、貴族を騙そうとしたんじゃないでしょうね!」 「い、いえいえ、滅相にございません!」 主人を詰問するルイズをよそに、育郎が声のした方に近づく。 「誰かいるのかい?」 「いるのかい?じゃねーよ、おめえの目の前だろ?おでれーた! こんなヌケてて剣を降ろうってか?冗談じゃねえぜ!」 「まさか…『君』なのか!?」 「そうだよ、このトンチキがッ!」 しかして、育郎が見つけた声の主は錆びの浮いた剣だった。 「剣がしゃべるなんて…」 「それってインテリジェンスソード?」 主人と言い争っていたはずのルイズが、いつの間にか傍に来て『剣』を見ていた。 「そうでさ若奥様!世にも珍しい意思を持つ魔剣、インテリジェンスソード! どこのアホ…もとい、魔術師が始めたんでしょうかね?剣をしゃべらせるなんて。 とにかくこいつは口は悪いは客に喧嘩は売るわ…デル公!お客様に失礼だろうが! これ以上失礼な真似をしたら、貴族に頼んでてめえを溶かしてやるぜメーン!」 「うるせえクソ親父!逆にお前のタマ○ンをちょん切ってやるぜメーン!」 「なんだと!なら俺はてめーのそこ以外を切り刻む!」 顔を真っ赤にして『剣』に近づく主人を育郎が止める。 「なんですかい?」 「ちょっと待ってください…ルイズ、この剣を買おう」 「え~~~!やーよ、なんかメーンとか言ってるし」 顔、声共にこれ以上ないぐらい嫌そうにするルイズ。 「このまま溶かされたら可愛そうじゃないか…」 「いいじゃない別に。メーンとか言ってるし」 「それにほら、僕はこの国の事を良く知らないから、何かの時はこの剣に聞けるし…」 「でもねぇ…メーンとか言ってるし」 「あの、いいですかい?」 何とかルイズを説得しようとする育郎を見て、主人が声をかける 「それなら厄介払いの値段込みで百で結構なんですが… あ、それとうるさいようでしたら、鞘に入れると黙りやすんで」 「じゃいいわ…メーンとか言ってるけど、買ったげる」 「ヘイ、毎度!」 「ありがとう、ルイズ!」 「い、いいのよ。安かったし…メーンとか言ってるのがあれだけど…」 金貨を渡して、剣を受け取ると、『剣』が早速喋りだした。 「にしてもおめえ、人が良いよな。剣に可哀想はねーだろ」 「まったくね、メーンとか言ってるのに」 「よろしく、デルコー」 「ちがわ!デルフリンガー様だ!この…」 急にデルフリンガーが押し黙る。 「どうかしたのかい?」 「おでれーた、こいつはおでれーた…てめ『使い手』か?」 「使い手?」 「いや、それだけじゃねーな…はーこりゃスゲーや。おでれーた」 「………わかるのか?」 「ま、俺は『剣』だからな。使う奴の事ぐらいわからーな」 「なによ、二人でこそこそと。またメーンとか言ってるの?」 「いや、なんでもない…デルフリンガー、その…」 「わーってるよ、嬢ちゃんには内緒にしといてやる」 「なー、相棒…」 馬に乗って帰りの道を急ぐ育郎にデルフリンガーが話しかける。 「なんだい?」 「いやな…どうってことねーんだが…」 少し戸惑いながらデルフリンガーが口を(?)開く。 「あのな、相棒…相棒がスゲーのはよくわかったんだが…」 「?」 「なんだか俺いらねーんじゃねーかって気がしてきてな…」 「………」 「な、何とか言ってくれよ相棒!?」 「そろそろ店閉まいにするか。おい、デル公…っていねーんだったな… まったく、あいつの厄介払いが出来て、百ももらえたんだから今日は万々歳だぜ」 武器屋の親父が、つい何時ものクセで誰もいない店の中で喋りだす。 「それにしてもあれだな、随分と長い付き合いだったぜ…ったく あいつのせいで何度儲け話が駄目になったか…」 何時もならここでデルフリンガーが反抗してくるのだが、もう彼はいない。 「へっ、随分静かになっちまったもんだ…」 武器屋の親父は自分の部屋へ行き、2時間眠った… そして……目をさましてからしばらくして… デルフリンガーが居なくなった事を思い出し………泣いた………
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/863.html
「で…だけど、本当にアンタ、何も思い出せないわけ?」 「ああ、本当だ」 ここは、ルイズの部屋だ。ここが『トリステイン』の『魔法学院』ということは教えてもらった。 さっぱり意味がわからん。ルイズの話のことじゃない。 俺はどこにいて、何をしていて、なぜここに来たのか? ルイズの話では、『召喚』というのはこの世界のどこかから『使い魔』というのを連れてくるらしい。 困った事に、オレの故郷はさっぱり思い出せない。 故郷なら知り合いもいるだろう。そうすればきっと名前だってわかるのに……。 そこで、先ほどのルイズの質問と相成ったわけだ。 「でも困ったわね…アンタを『使い魔』とするのに『下僕』とか『犬』じゃあ呼びにくいし… 人前ではカッコがつかないわ……」 「じゃあ…そうね、喜びなさい! このルイズ・ド・ラ・ヴァリエール様が名付け親になってあげるわ!」 「名付け親?」 「そうよ! フフン! わたしのネーミングセンスの見せ所ってワケね!」 ルイズはそう言ってちょっとの間考え込んだ。 「そうね…『トリステインに吹く熱風』と言う意味の! …う~ん、イマイチ、今の忘れて」 ルイズはベッドから立ち上がって窓の側に行く。空は底抜けの碧さだった。 「いい天気ね……」 「ああ…」 「よし、決めた、決めたわ。アンタの名前は『ウェザー』…ウェザーよ」 ウェザー……『天気』か…。 「けど貴族の使い魔になるんだから苗字も必要ね……。ヴァリエールの名はあげられないけど…」 そう言って窓の外を見つめるルイズ。空の蒼と薄桃の髪が対照的だ。 「ウェザー…ウェザー・ブルースカイ……」 今度はこっちを見てきた。けどまた窓のほうに顔を向ける。 「いえ、違うわ……そう、これよ、『ブルーマリン』……アンタの名前よ」 「ウェザー……ブルーマリン?」 「そうよ、ウェザー…『ウェザー・ブルーマリン』、わたしの使い魔」 ウェザー…ウェザーか……いい名前だ。 「ありがとうルイズ。いい名前だ。気に入った」 俺は心から礼を言った。嘘偽りは無い。が、ルイズにはそれが気に入らなかったみたいだ。 「ちょっと! 平民の、それも使い魔の分際で! 貴族を呼び捨てにするとは何事よ!」 どうやら自分の名前を呼ばれたのが気に食わなかったみたいだ。 「いいこと!? わたしを呼ぶ時は『御主人様』というのよ! わかった!?」 「アンタは名前の無い俺に素敵な名前を付けてくれた。この名前はオレの宝物だ。 だからオレのほうもアンタの事を名前で呼びたい。……ダメか?」 「なな…何よ、宝物なんて言っちゃって……当然でしょ! 貴族が名付け親なのよ! け、けど、そそ、そこまで言うなら、な、名前で呼んだって構わないわよ? ありがたく思いなさい!」 「ああ、ありがとう。ルイズ」 「陽が暮れてきたな……」 夕焼けが部屋を赤く染める。 窓の側に立っていたルイズの顔は、夕日よりいっそう赤く見えた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1664.html
「くそ…馬を奪われたおかげで、追いつきゃあしねぇ」 だが、馬にも体力というものがある。常時全速では当然バテてスピードも落ちるものだ。 特に、一人余分に乗せているヤツは、それが顕著だ。 馬が倒れない程度に走らせていると、敵が視界に入った。 「…あの女のいう事そのままだと…連中、痛覚が麻痺してるヤク中か…考えたくねぇが死体ってことか?」 前者ならともかく、後者を相手にするとなると恐ろしく相性が悪い。 広域老化は死体には全く効かないからだ。 対応策を練っていると、二人乗っている馬以外のうち2体がこちらに向かってきた。 足止めのための時間稼ぎをするつもりらしい。 「やるしかねーみたいだな」 グレイトフル・デッドを発現させると同時に馬の速度を落とし、地面に降りる。 落馬なんぞしたら洒落にならないからだ。 10秒もすると、馬が急激に老化を始めた。 「あんだけ走りゃあ、温まってるだろうよ」 向かってきていた馬が等しく脚を朽木のように枯れさせ倒れていっているが、微塵も油断していない。 さっき聞いた様子では落馬程度では大したダメージにならないからだ。 投げ出された敵の一人に素早く駆け寄るとが、やはり老化はしていない。 「…マジに死人かよこいつら!」 体は確実に死んでいるのに、精神だけはしっかりと存在する。スタンドで操っているようなヤツとは比較にもなりゃしないだろう。 「そりゃあ、効かねーわけだ……だがなッ!」 確かに、体温がほとんど存在しない以上、広域老化は効きはしない。 だが、直は別だ。直なら有機物である以上冷やしていようが、お構い成しに老化させる。 新鮮と言えばアレだが、死んだばかりの死体のような感じだ。 死体に直触りなどする必要もなかったし、やろうとも思わなかったのでやった事は無いが、老化させれらる自信はある。 そう!スタンドとは精神!出来て当然と思い込む事こそが重要ッ!! 「老化しちまえば…動きたくても動けないからな。死人は黙って寝てな」 これでもかというぐらい直を叩き込んだが、これで効かなければお手上げだ。首を落そうにもデルフは無い。 一瞬間をおいたが、掴んだ敵がみるみる干からびていく。 林檎などの果物も老化させられるのだ。死体といえど、特に変わりは無いのだが…。 「いや…マジに…恐れ入ったよ…まだ…動けんのか」 枯れ果てた敵が動く。いや、動こうとしている…と言ったほうが正しい。 直触りをモロに喰らえば、死なないまでも寿命寸前まで追い込まれる。普通なら気絶するはずだ。 立ち上がろうとするが、背骨が音をたて歪み立てないでいる。 杖を振ろうとするが、手や指先がボロボロになって崩れていき、杖を落す。 魔法の詠唱をしようとしているが、歯のほとんどを抜け落ちさせている。 だが、それでもこいつは動こうとしている。B級映画でもこんなのお目にかかれないはずだ。 「おおおおおおおおッ!さっさとあの世へ行きやがれぇーーーーーーこのクソがァーーーーーーーーーーッ!!!」 そいつの頭を蹴り飛ばし首をヘシ折り、さらに続けざまに、グレイトフル・デッドで殴りつける。 後ろから、もう一人の魔法が背中をかすめたが攻撃を止めない。 気が付くと老化した敵は全身の骨を砕けさせるようになっていたが、砕けさせた場所はすぐに治っているようだった。 老化を解けばすぐにでもこちらに襲い掛かってくるだろう。 鬼人の如き形相で後ろを振り向き、もう一人の敵に駆け寄る。 魔法を使っては来ているが、飛んできたのが氷の槍だったのが幸いした。 これならばスタンドで受けられる。風や火などは実体が無いだけに受けられないのだ。 「グレイトフル・デッドッ!!」 時間は少し遡り場所はラグドリアン湖。 ルイズ、才人、タバサ、キュルケがそこに居た。 なんでまた居るのかと言うと、タバサの帰省に合わせてオプションよろしく付いてきたのだ。 それで、タバサの実家に来たのだが、紋章を見てルイズとキュルケがブッ飛んだ。才人は紋章の事など分かっちゃいないので無反応だが。 ガリア王家の紋章そのものだったからである。 ただ違うのはXの傷が入った不名誉印だった事だが。 そこで、執事のペルスランから本人が居ないところでタバサに関する事を聞いた。 毒を盛られタバサの母が精神を壊し人形を娘だと思うようになってしまった事。 汚れ仕事を押し付けられ、シュヴァリエの称号のみを与えられ、トリステインに留学させられた事。 そして今も、解決困難な事があると、呼びつけられているという事を知った。 当然の事ながら才人とキュルケは、その凄まじい経緯に言葉を失っていたが、ルイズは少し違った。 (そんな危険な事させられて、与えられたものがシュヴァリエの称号だけだなんて…なんか…あいつと似てる) 先代ことプロシュートが属していた暗殺チームと、今現在のタバサの状況は似ていた。 だからこそ、タバサに与えられた指令を何の迷いも無く手伝うと言えた。 他の二人も思うところは違うが、結論は同じだ。 それで、ラグドリアン湖の水位が急激に上昇しているために、その原因と思われる水の精霊の討伐に向かったのだが 現代日本人の才人が「いや、倒す前にまず水位を増やした理由とかを聞いた方がいいんじゃないか?ゲームでも大体そうだし」 と、非常にゲーマー的な答えを導き出した。 本来なら、タバサが風の魔法で空気の層を作り水に触れず湖底を歩き キュルケが炎で精霊をあぶるという戦法だったのだが、ぶっちゃけ二名ほど役立たずである。 空気の球が破れ少しでも水に触れると、操られるため危険極まりないのだが、そこで出たのが才人の答えだ。 「水の精霊と交渉するって事?でも誰が?」 「……モンモランシーなら」 そう言うルイズだが、声は暗い。 原因は、やはり『アレ』にあるのだろう。 知らない才人は「なら、早く行こう」的な態度だったが、知ってるキュルケはちと不安げである。 「あー…頼み辛いのは知ってるから無理しなくてもいいわよ。あたしとタバサで倒せばいいんだし」 「頼み辛いって、喧嘩でもしてんのか?」 「…シルフィード借りるわ。すぐ戻るから」 そう言うとルイズと才人を乗せたシルフィードが学院へと飛び立っていった。 「嫌よ、なんでわたしがそんな事しなくちゃいけないのよ」 もう爽やかさすら感じられる即答である。 「なんでだよモンモン」 「誰がモンモンよ!」 「やっぱりまだギーシュの事…」 「ギーシュ?誰だそりゃ」 その疑問に答える者は居ないが、何となく非常に気まずいという事は分かる。 しばらく黙っていたが、モンモンが少しからかい気味に条件を出してきた。 「…そうね、ここで土下座でもしてくれればやってあげてもいいわ」 「土下座!?いくら喧嘩してるからってそこまでさせることないだろ!」 「これは、わたしとルイズの問題よ」 才人の抗議を、その一言で押し止めルイズを見る。 少し震えてるようだったが、まぁ想定内だ。 モンモン自身、あのルイズがそんな事できるわけがないッ!x4と思っていたからだ。 (次は、怒りながら杖を出してくるってとこかしらね) だが、違った。床に膝を付いている。やる気だ、こいつは焼き土下座でもするという目だッ! そう思ったか知らないが、才人が止めに入った。 「や、止めろって!そんな似合わないことするなんて、お前らしくないって!」 「いいの!わたしがこうしたいんだもん!」 「あーーーもう!土下座なら俺の方が得意だろ!俺が代わってやる!」 得意とか不得手とかそういう問題ではないだろうが、そんなテンパり気味の二人を見てモンモンが呆れたように言い放った。 「分かったわよ、行けばいいんでしょ行けば」 「でもまだわたし…」 「ホントは最初から分かってたのよ…仕方ないって。あんなのに決闘挑んだんだから」 「じゃあなんで土下座なんてさせようとしたんだ?」 「『覚悟』…っていうのを見てみたかったってとこね。ホントにするとは思わなかったけど」 「じゃあ、解決したんだな。ならラグドリアン湖に戻ろう。ルイズ、モンモン」 「だから……モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ」 「長い。やっぱモンモンだな」 「やっぱり行くの止めようかしら」 「ごめん、だから行こう。な?」 三人がシルフードに乗り空に浮くとモンモランシーが小さく呟くように言った。 「これが、さよならを言うわたしよ、ギーシュ」 シルフィードが飛び立った後、その場所に薔薇の花びらが7枚舞った。 そして再び、森だが 「っぁ…ハァーーー…ハァーーー…クソが…」 もう一人も直で老化させたのだが、さっきのと同じように枯れ果ててはいるが、まだそいつらは動こうとしていた。 息が荒いのは珍しく我を忘れていたからだろう。 老化させて脆くなった骨をヘシ折ってもすぐ治るわで死なないのだ。 「ハァー…どうなってやがんだよこいつは」 一度息を大きく吐き出すと冷静さを取り戻したが、やはり胸糞が悪い。 老化が継続している限り危害は無いだろうが、正直言うとキモイ。 なにより、一刻も早くカタを付けたかった。 「……燃やすか」 ここまで来るとゾンビ扱いだ。となると燃やすのが一番手っ取り早いと判断した。 念のために老化させた草を集め、持ち込んだライターで火を付ける。 水分なぞ、ほとんど飛んでいる敵と草だ。非常によく燃える。 まぁだからこそ、まだ動こうとしている事がありえないのだが。 燃え尽きた死体を見て忌々しげに呟く。 「ギアッチョが居りゃあな…」 ホワイト・アルバムなら、絶対零度で凍結させ粉微塵に砕くことができる。 そんな事を考えていると、聞きなれた音が聞こえてきた。 「…あいつらも来たのか」 遠目だが、街道を低空飛行するシルフィードが目に入った。 森に入って死体を焼却処分していたため気付かれる事は無いだろうが、一応木の影に身を隠しながら高速で移動しているシルフィードを見送る。 「あれなら、すぐ追いつくだろうが…オレも行った方が良さそうだな」 老化で一度足を止めさせ直を叩き込んだ自分でもこれだ。ルイズ達だけだと、危ないかもしれんと判断し後を追う事にした。 10分程バイツァ・ダスト 「アンドバリの指輪でウェールズ皇太子を蘇らせて姫様をさらうなんて… やっぱり、あの時似てるって思ったのは気のせいなんかじゃなかったんだわ!」 「実は生きてたんじゃねぇの?」 「そりゃねぇな相棒。兄貴が完全に死んでるって言ってたし、城の中に敵が雪崩れ込んできたしな」 アルビオン以降にやってきて状況を知らない才人にデルフリンガーがカタカタと音を出しながら説明をしている。 万が一生きていたとしても、あれだけの敵が雪崩れ込んできたのなら、確実に首を取られるはずだ。 「銃士隊の人たち…大丈夫かしら…」 モンモランシーを連れてくればよかったと思ったが、無理言って水の精霊を呼んでもらったのだ。戦いになるかもしれないのにこれ以上巻き込みたくなかった。 「…見つけた」 シルフィードの目を通してタバサが、前を走る三頭の馬を見つけ馬の前にシルフィードを出した。 「ウェールズ皇太子!」 ルイズが叫び驚愕する。やはりウェールズだった。 才人はウェールズを知らないが、そのやり口が気に入らなかった。 ウェールズ自身にではなく、指輪を盗み偽りの命を与え、意のままに操っているクロムウェルが。 「あんたはもう死んでるんだろ!?姫様を返せ!」 「初めて見るが、君は誰かな?」 「平賀才人。ルイズの使い魔だよ」 「おや…ミス・ヴァリエールの使い魔は…確かプロシュートというんじゃなかったのかな?」 「どうでもいいだろ、そんな事!」 その叫ぶような声に対してウェールズは微笑を崩さない。 「返せと言ったね。それはできない。彼女は彼女の意思で、僕に付き従っているのだ」 「姫様!こちらにいらしてください!そのウェールズ皇太子は、アンドバリの指輪を持つクロムウェルによって偽りの生命を与えられた皇太子の亡霊です!」 ウェールズの後ろからガウン姿のアンリエッタが現れルイズが叫ぶが、アンリエッタは唇を噛み締めたまま動かない。 「そんな…姫様…」 「見てのとおりさ。さて…取引といこうじゃあないか」 「さて…面倒な事になってやがんな。こいつは」 ウェールズ達から離れる事、約5メートル。追いついたプロシュートが森の中の大木に背を預け立っていた。 もちろん、ルイズ達からは見えない方にだ。 気配を消しながら観察していた時、ルイズ達以外に見知った顔を見つけた 「それにしても、あの時のマンモーニが、オレの後継いで『ガンダルーヴ』ってのになってるたぁな」 顔を確認してあのマンモーニと判断したのだが、とりあえず傍観する事に決めた。 ウェールズが取引という言葉を吐いたからには、今すぐにどうこうあるまいと判断したからだ。 「取引だって?」 「そうだ。ここで君達とやりあっては馬を失う事になってしまうかもしれないからね。そうなっては道中危険だし、魔法も温存したい」 その瞬間タバサが問答無用で『ウィンディ・アイシクル』を叩き込んだ。 『ブッ殺すと心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!!』と言う声が聞こえそうなぐらい躊躇が無い。 何本もの氷の槍がウェールズを貫いたが、倒れず傷口が塞がっていく。 「無駄だよ。無駄無駄、君達の攻撃では、僕を傷つける事はできない」 「見たでしょう!それは皇太子じゃない!別のなにかなのよ姫様!」 傷が塞がる光景を見て顔色を変えたアンリエッタだが、左右に首を振り苦しそうな声を出した。 「お願いよ…ルイズ。杖をおさめて…わたし達を行かせてちょうだい」 「姫様!それは『アンドバリの指輪』でクロムウェルに操られているだけなんです!」 喉が裂けんばかりにルイズが叫んだが、アンリエッタは鬼気迫るような笑みを浮かべている。 「そんな事は知ってるわ。百も承知よ…でも、それでも構わない!ルイズ、あなたは人を好きになったことがないのね。 本気で好きになったら、何もかもを捨ててもついて行きたいと思うものよ。嘘かもしれなくても、信じざるをえないものよ。 わたしは、水の精霊の前で誓約の言葉を口にしたの。『ウェールズ様に変わらぬ愛を誓います』と。だから行かせてルイズ。わたしからの最後の命令よ」 アンリエッタの決心の固さに負けたのかルイズが杖を降ろし一同がそれを呆然と見送ろうとし、唯一の生者を含んだ死者の一行がその先へと進もうとしていた。 木の影でそれを見ていたプロシュートが、ゆっくりとグレイトフル・デッドを発現させる。 さらに近付き、距離にして4メートル。不意を突き直をぶち込むには十分すぎる距離。 バレちまうが、この際仕方ないとしたのだが、不意にそれを中断する。 ウェールズ達が進もうとする先に、デルフリンガーを構えたマンモーニが居たからだ。 「姫様…悪いけど言わせて貰うよ。俺は生きてる頃の皇太子様とも会った事が無いし、恋も、愛も知らない。 ルイズを今まで助けてきたのだって、俺じゃない。でも、そんなのが愛じゃないって事ぐらいは分かるんだよ!」 「これは命令よ…どきなさい!」 全身を震わせながら叫ぶ才人と、精一杯の威厳を振り絞りアンリエッタの叫びが重なる。 「あいにく、俺はあんたの部下でもなんでもねぇ。 俺はルイズの使い魔だ。使い魔は主人の命令しかきかないんだよ。どうしても行くって言うんなら……仕方ねぇ。俺はあんたをたたっ斬る!」 それを聞くとグレイトフル・デッドを引っ込め木に背中を預け目を閉じた。 「マジにあいつ、あそこでオレに土下座してたやつか?ま…しばらくはオメーに任せてやるよ、しばらくはな…」 もちろん、最後の最後に危なくなれば出ていくつもりだったが、どんなヤツかという事も見てみたくなったからだ。 目を閉じていると、魔法が飛び交う音が聞こえてくる。 キュルケが炎が効く事に気付いたようだが、天から一滴、水が落ちてきた。 「不味いな…」 雨が降れば火の威力が削がれる。魔法がそれに当てはまるかどうかは知らないが、とにかく不味いと判断した。 木の下にいるだけあって、そう濡れてはいないが、街道で戦っている方は、本降りになった雨をモロに受けている。 「杖を捨てて!あなたたちを殺したくない!雨の中では『水』には勝てはしないわ!」 「…そうなんか?」 アンリエッタの勝ち誇ったような叫びを聞き、才人がウェールズ以外の死者を焼き払ったキュルケに尋ねたが、『やれやれだぜ』と言わんばかりに肯定された。 「こんなに雨が降ってちゃ、あたしの『炎』も水の壁に遮られるわね。タバサの壁と、あなたの剣じゃ傷を付ける事もできないし…打ち止め。負け!」 「しかたないわ…逃げましょう。ここで、あんたたちを死なすわけにはいかないもの」 皆が逃げようとするが、才人だけはそこに留まっていた。 「なにやってるの!勝ち目無いんだから、逃げないと!」 「なぁ…デルフから聞いただけなんだけど、プロシュートってやつは逃げたのか?」 「どうでもいいじゃない!そんな事!!」 「ニューカッスルってとこでも、死にそうになりながらでも敵に向かっていったんだろ?」 「そりゃな、『一度敵のノドに食らい付いたら、なにがあろうと離したりしない』ってのを地で行くのが兄貴だったし」 「じゃあ俺もそうする」 それを聞いてルイズが絶句した。 (あの馬鹿ハムッ!居なくなったのに妙なとこで影響ださないでよ!!) 心底そう思うが、言う相手が居ないのでどうしようもない。 「あんたとあいつは違うの!だから逃げる!命令よ!」 「違うって、何が違うんだよ。お前を守ってたんだろ?だから俺もお前を守ってやる」 本物のド平民の才人と現役暗殺者でスタンド使いだから違うという事だったが、妙にプロシュートに対抗意識を燃やしている才人は気付く術は無い。 ちなみに、プロシュートからは『守る』とか言われた事はないので直接才人に言われた分、ルイズの心拍数は上がっている。 無駄にルーンが光出すと、デルフが間の抜けた声をあげた。 「あー、わり、忘れてた。あいつ、随分と懐かしい魔法で動いてやがんなぁ」 「はい?」 「いや相棒、マジごめん。でも俺が思い出した。 あいつらと俺とは根っこは同じとこで動いてんのさ。『先住』の魔法ってやつでさ。ブリミルもあれにゃあ苦労したぜ」 「言いたい事があるなら、ハッキリ言いなさい!役立たずね!」 「役立たずはどっちだよ…バカの一つ覚えみてーに『エクスプロージョン』ばっか連発じゃねぇか そいつは強力だが、精神力を激しく消耗する。この前みたいなデカイのなんて兄貴でもない限り、一年に一度撃てる撃てねぇかだ」 「じゃあどーすんのよ!」 「ブリミルが対策練ってるはずだぜ。祈祷書のページをめくってみな」 ルイズが祈祷書をめくると、新たに文字が書かれたページを見つ文字を読み上げる。 「…ディスペル・マジック?」 「そいつだ。『解除』魔法。それならアンドバリの指輪の効果も消えるはずさ」 逃げ出さないルイズ達を見て、アンリエッタが悲しげに首を振ったが顔をあげ呪文を唱える。 「これ以上…行く手を阻むなら…!」 「愛している。アンリエッタ」 その言葉とウェールズの笑みを見ると、アンリエッタの心が熱く潤む。 僅かに頷くと、二人が同時に詠唱を始めた。 『水』『水』『水』そして『風』『風』『風』。 水と風の六乗。 通常ならトライアングル同士といえど、このように魔法を重ねるなどほとんどできはしないが、選ばれし王家の血が可能にする。 王家のみに許されたヘクサゴン・スペル。その圧倒的破壊空間は、まさに歯車的水竜巻の小宇宙ッ! 謳うようなルイズの詠唱を聞き勇気が沸いてきた才人だったが、デルフリンガーがヤバそうに呟く。 「やっべぇなぁ。やっぱ向こうが先みてぇだ」 慌てたキュルケがウェールズとアンリエッタに炎を放ったが、全て二人の周りを回る水竜巻によって掻き消され水蒸気を出している。 「…どうしようか」 勇気は沸いていたが、さすがにどんどん膨らんでいく水竜巻を見て、その言葉が出た。 「どうするもなにも、あの竜巻を止めるのがお前さんの仕事だよ。ガンダールヴ」 「俺かぁ…でも不思議だ。あんなでっかい竜巻だってのにちっとも怖くねぇ」 「詠唱中の主人を守るのがガンダールヴなんだからな。相棒の仕事はそれだけだ 主人の詠唱を聞いて力がみなぎるってのは、母親の笑い声を聞いて赤んぼが笑うのと同じで、そういう風にできてんのさ」 「簡単でいいな。…プロシュートってやつもそうだったのか?」 「…あー、いや。兄貴は…どうだろうな。まぁいいか。任せた」 使われていたデルフリンガーすら分からない。なにせ攻撃が最大の防御を地で行くあのギャングである。とてもじゃないが想像できなかった。 「楽勝だ。俺は虚無の使い魔だぜ」 そう言うと竜巻を迎え撃つべく向き直ったが、デルフリンガーが少し異変に気付いた。 「お…見ろよ、何か竜巻の大きさが小さくなったみたいだぜ」 「本当だな」 ヘクサゴン・スペルの詠唱を行っていたアンリエッタが、僅かだが、ウェールズとの詠唱が合わなくなっている事を感じていた。 (そんな…どうして…!) 体のあちこち、特に関節が痛くなり、疲れが出てくる。 まるで、極限まで無理をして魔法を使った後のような感じの疲れだ。 二人の呪文が完成し、水竜巻が放たれたが、本来の威力とは程遠いものだ。 才人がその前に出てデルフリンガーで受け止めた。 「これなら…なんとかなりそうだぜ相棒」 デルフリンガーを中心にして水竜巻が回転する。 飲み込まれそうになるが足を踏ん張り耐えていると、デルフリンガーが水竜巻を全て飲み込んだ。 「ごちそーさん」 「お前、ホント伝説なんだな」 「あたぼーよ」 そうこうしていると、ルイズが詠唱を完了させたのか、後ろから『ディスペル・マジック』を叩き込んだ。 アンリエッタの周りに、眩い光が輝きウェールズが崩れ落ちる。 それに駆け寄ろうとしたアンリエッタだったが、不完全だったとはいえヘクサゴン・スペルを使った精神力の消耗と謎の疲労のおかげで意識を失い地面に倒れた。 だが、倒れ意識を失う瞬間に、その謎の疲労は霞のように消えてく事を感じていた。 「ふん…オレの老化に巻き込まれてそれだけで済んだなんざ、運の良いヤツだぜ」 ヘクサゴン・スペルは選ばれし王家の血を持ち、息が合わねば不可能だ。 広域老化を発動させたのは、キュルケが二人に向け炎を放ち、それが二人の周りを回る水竜巻に掻き消された時。 「水蒸気がある分、蒸し暑いだろーからよ」 夜、しかも雨が降っている状態では、体は当然冷えて広域老化の効きは非常に悪い。 だが、キュルケが放った炎の熱量は相当なものだ。掻き消されたとはいえ、それなりの水を蒸発させ水蒸気を発生させる。 もちろん、その湿度を伴った温度がダイレクトに届くわけではないが、ほんの少しアンリエッタの体温を上げるには十分だった。 しばらくしていると、アンリエッタが目を覚ました。 冷たくなり、転がっているウェールズを見て悪夢から覚め正気に戻ったらしい。 「わたくし…なんてことをしてしまったのかしら…」 「目が…覚めましたか?」 両手で顔を覆っているアンリエッタに、いつもの感じの声で問うた。 「なんと言ってあなたに謝ればいいの…?わたくしのために傷付いた人々になんと言って赦しを請えばいいの?教えてちょうだいルイズ…」 「謝るのは後ですよ姫様。向こうで銃士隊の人が沢山倒れてるんです。早く助けないと手遅れになっちまう」 特に、一人離れていた場所で気絶していた人なぞ、早く手当てしないと本当に死んでしまうかもしれなかったからだ。 「そうだわ…アニエスにもひどい事をしてしまったわね…」 ウェールズの死体を木陰に運ぶと、銃士隊の面々が倒れている場所へと戻っていった。 見えなくなると木の後ろに居たプロシュートが出てくる。 こっちに持ち込んできたタバコを咥え火を付けた。 「…ちッ!」 だが、タバコは完全に水に濡れていて火は付かない。 本来、吸う事は滅多に無いが、そうさせたのは心の奥底に沸き立つドス黒い感情からだろう。 (何時以来だったかな…こんだけムカついてんのはよ) 少し考えたが、思い出した。 というより、あまり思い出したくなかったので忘れようとしていただけかもしれない。 「ソルベとジェラートの時…か」 ジェラートが猿轡を飲み込み死に、ホルマリン漬けにされた輪切りのソルベが送られてきた時。 あの時も、今のようなドス黒い感情が湧き出ていた。 殺すだけではなく、その死体すら利用するボスのやり口を見た時と同じだ。 誇りも何もあったもんではない。 暗殺チームに属しているからには、常に死ぬという事を覚悟してやってきているが、その覚悟している死すらも踏みにじるような行為を見た時だ。 あの時は、ギアッチョが今にも飛び出しそうな勢いだった。 リゾットが何時もと同じ、冷静さを保った顔で抑えていたが、それにギアッチョが反発していた。 「腑抜けやがったのかてめーはッ!?仲間が殺されてんだぞ!オレ達は暗殺チームだろーが!『恩には恩を仇には仇を』が、あんたの流儀だったんじゃあねーのかよ!」 もちろん、今動けば何もできないという事は理解していたが、このドス黒い感情からプロシュートも一瞬だが、ギアッチョに賛同しかけた。 「抑えろ…今、行動を起こせば。オレ達はボスに近付く事すらできない…耐えろ…仇は…必ず返す…!」 だが、続くリゾットの言葉に、そのドス黒い感情が四散した。 言葉だけなら、そうならなかっただろうが、リゾットの肩からカミソリが飛び出し血を流していたからだ。 リゾットは常に感情を抑え、一定の態度を保ち続けている。冷徹と思われてるかもしれないが、実際のところそうではない。 チーム1の苦労人でもあるが、チーム1諦めが悪い男でもあるからだ。 メタリカが暴走しかけているのにリゾットは冷静さを保ち、チームを纏めようとしている。 そんな姿を見たからこそ、そのドス黒い感情を抑えた。 だが、この感情はその時の物を遥かに上回る。 死体を利用するという点では同じだが、死体だけではなく、精神…魂すらも踏みにじっている。 ウェールズの肩を掴んだときに感じた冷たいものは、多分そのせいだろう。 仮定の話として、リゾットやメローネ…チームの仲間が、偽りの精神だけ与えられていればどうするか。 決まっている。速やかにブチ殺し、そんなナメた真似したやつに生まれてきたことを後悔させるような方法で殺す。それだけだ。 そんな事を思いながらウェールズの死体に近付いたのだが…。 「やぁ…どこかで見たと思ったら…やはり君だったのか」 「…ッ!」 まだ動くか。そう判断し直を叩き込もうとしたが、着ている白いシャツに赤い染みが広がるのを見て止めた。血が流れ出ると言う事の答えは一つだ。 「…手間かけさせやがって。やっと戻ってきたみてーだな」 「ヘクサゴン・スペルの最中にアンリエッタの息が合わなくなったのは君の力なんだろう?…おかげで、アンリエッタが誰も傷つけずに済んだ…」 「ハ…ッ!てめーは思いっきりやっといてそれか?ナメた口利いてんじゃねぇ」 「はは…耳が痛いな…最後に一つ頼みがある」 「死人の分際でなに贅沢抜かしてやがる」 「アンリエッタを赦してやって欲しい…彼女は悪い夢を見ていただけなんだ。ウェールズ・デューダーという仮初の悪夢を」 「オメー1人の責任だって事か?確かにオメーがそそのかしたみたいなもんだからな……だが断る」 「…!?」 「赦す?ナメんな。一発言ってやらなきゃあ分かるモンも分かんねーんだよ。同じ事やらかしたら、次なんてねーんだからな…」 ギャングの…特に暗殺の世界において、二度目というのは、ほぼ無いと言っても等しい。 だからこそ、一度失敗をした時には、それを教訓として心に刻まねばならない。 ペッシをブン殴っていたのもそれが理由だ。だからこそ、その言葉には重みがある。 「そうか…なら言い直すとしよう。君にもアンリエッタを頼みたい」 「暇がありゃあな…で、どうすんだ?これ以上利用されねーようにしてやってもいいが」 そう言うと手を翳す、老化させれば利用することもできないだろうと思ったからだ。 「それはアンリエッタに頼むとするよ。君には改めて礼を言わせて貰う。ありがとう…」 「死人の礼なんざオレの耳には聞こえねーよ」 踵を返しウェールズの元を離れる。そうすると銃士隊の治療を終えた一行が戻ってきた。 正直言えば、アンリエッタに蹴り入れて説教したいとこだったが、例のドス黒い感情が上回っておりそれはしなかった。 「クロムウェルだったな…」 言われていた名前を反復する。 これからどうするかと思っていたが、一つの結論に達してドス黒い感覚が一気に消え去った。 何のことは無い。いつもやっていた事をやるだけだ。つまるとこ暗殺を。 そう結論付けると、侵攻が起こった時どうするかと考えていた事がバカらしく思えてきた。 ルイズが行きたいというのなら行かせてやればいい。マンモーニだが、そこそこ根性のある使い魔も居るようだ。ならオレは勝手に得意な事をやらせてもらう。 いっその事、干からびたクロムウェルとかいうヤツの死体をアンリエッタに投げつけてやるというのもいいかもしれないと思った程だ。 もちろん、暗殺である以上は、これまでどおり姿を隠し情報を集めるなどをしておかねばならないが。 しばらくすると、ウェールズを乗せたシルフィードがどこかに向かって飛び立ち、木の影からそれを見送る。 「オメーに言うのは二回目だったな……アリーヴェ・デルチ」 いつの間にか巨大な雨雲は去り、二つの月が森を照らしていた。 プロシュート兄貴―暗殺執行前、潜伏進行中 ルイズ&才人―進んだような進まないようなそんな微妙な感じ。 ギーシュ―ようこそ…思い出の世界へ… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/91.html
「武装錬金」のパピヨンが召喚される話。 ゼロの蝶々-1 ゼロの蝶々-2 ゼロの蝶々-3 ゼロの蝶々-4