約 439,935 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1931.html
遂に艦隊出撃し、どこか人が少なくなったような首都トリスタニアをお馴染みのローブで身を包み歩いているのは、ご存知…もとい久しぶりのフーケだ。 「はぁ…わたしもヤキが回ったかね」 そう呟いたのは、今頃部隊を率いてある場所に向かっているある男のせいだ。 フーケ自身は、裏の情報を生かしトリステインの内情を探るという事で別に動いていたが、正直乗り気ではない。 一応の義理はあっても義務は無いし、あの男を嫌悪しているというのが大きいだろうが、それでもやらなければ己の身が危ないのだ。 そろそろ、合流するかとして人通りの少なくなった通りを歩いていると、後ろから肩に手を置かれた。 ロングビル時代の習慣で蹴りが飛びそうになったが、目立つと不味いので耐える。 「悪いけど、わたしはあんたみたいなヤツは知らないよ。向こうへ行きな。蹴り殺すよ」 少なくともこんなヤツに肩に手をおかれる覚えは無い。 適当にあしらったつもりだったが、その手に力が篭る。 杖を引き抜き、追い散らそうかと思ったが、そうする前に相手が声を出したが…フーケの頭の中に絶望ォォォォだねッ!という妙な髪形の男の声が響いた。 「よォーーー会いたかったぜぇ~?フーケェ」 その声がフーケには地獄の門番の声に聞こえた程だ。 恐る恐る後ろを振り向きフードを被った相手の顔を見て、相手がそれを外した瞬間、息が止まる。 胃が痙攣し反吐を吐く一歩手前だ。 だが、それでも反吐の代わりに声を吐き出そうとするが巧くいかない。 「で、で、で、で、ででででで…」 「あ?何だよ」 「出たァーーーー!!」 「ルセーな。人を化物みたいに扱うんじゃねぇ」 やっとの思いで叫びと共に息を吐き出したが、想定外にも程がある。 「な…なんで、こんな所に…あの娘と一緒にアルビオンに……あぐ!」 「こんな所で何叫んでんだてめーは。そういう事は向こうで話しようや……な?」 かなりうろたえていたフーケが大人しくなったが腹が少し凹んでいる。 グレイトフル・デッドで殴ったためだ。 本気で吐きそうなフーケを半分引き摺りながら人気の無い場所へ連れて行く。 さながら事務所の奥に連れて行かれる債権者のようだ。 人は居たが、全員関わる気は無いようで誰も寄ってこない。 都会が寒いのはどこでも同じである。 「ゲホ…!…いきなり何すんだい!」 「あんな場所で騒いだら困るのはオメーだろ?感謝しろよ」 確かにそうだ。未だフーケの首に掛けられた懸賞金は解かれてはいない。 もっとも、殴る必要も無いのだが。 「…そもそも、なんであんたがこんな所に居るのさ」 「使い魔ってのクビになったからな。仕事探してんだよ」 言いながらスデにルーンの消失している左手を見せたが、半信半疑っぽい。 「馬鹿言うんじゃないよ。契約ってのは死なないと解けないんだ。見たところ、死体ってわけでもないし」 「死人か。ま…似たようなもんだろ」 実際の所イタリアでは死亡扱いなので一回死んでいると言ってもいい。 「で、仕事って何さ」 「クロムウェルって奴を殺りに行くんだが…ワルドと組んでたって事は『レコン・キスタ』だよな。アルビオンの道案内しろ」 「…は?」 「いや、アルビオンに行く方法は分からねーわ。行けたとしても地理が分かんねーわで、お前に会えて助かったぜ」 何言ってんの?この人。という目を向けてきているが、無理も無い。 「聞こえなかったか?オメーの組織の頭を暗殺するから案内しろ。って事だ」 「…何言ってるのか分かってるのかい?つまり、あたしは敵って事だよ」 最初こそテンパっていたものの、そこは一級の盗賊。 暗殺という言葉を聞いて顔付きが変わった。 「その態度、聞く耳持たない。…って事か?」 「他を当たりなよ。せいぜい無駄な努力でもするんだね」 まぁ無理も無い。 敵にいきなり協力しろと言ってするやつは居ない。 「仕方ねーな……ああ、言い忘れたが肌の手入れはしといた方がいいぞ。『歳』取ると…シワが出るって言うからよ……」 「わたしはまだ23だよ!シワなんて……ハッ!」 そこまで言うと思い出した。 こいつの…!この男の魔法を越えた能力をッ! (ま…まさか…) 急いで杖を取り出し、錬金で鉄板を作り覗き込んだが本気でヤバイと思った! 「と…歳を取っているッ!」 「じゃあな。『そのまま』元気でやれよ」 半ば唖然とするフーケを後にとっととその場を後にする。 無論、直で適度に老化させただけとはいえ、永久持続するわけではない。 スタンド能力を詳しく知らないからこそ通用する…ハッタリである。 「ま、待ちなよ!話は最後まで…」 やっとこさ我に返ったが、ぶっちゃけもう居ない。 スデにフーケの遥か先を後ろ手を振りながら歩いている。 一分後 「どうした?そんぐらい走っただけで息切れするたぁスタミナ不足だな」 「ハァー…ハァー…待ちな…って言ってるだろ…!」 「おいおい、聞く耳持たないんじゃあねぇのか?」 程よく50手前ぐらいまで老化していたフーケが猛ダッシュでプロシュートを追いかけていたが やはり老化の影響でもうバテて息が上がっている。 広域老化進行中なら死んでもいいぐらいなのだが、そう考えるとまだ運が良い方だろう。 「き、気が変わっただけだよ。案内するよ。アルビオンをね」 職業柄、多少の脅しや尋問などには意にも介さないだろうが この場合は別だ。 キュルケにおばさんと言われてはいるが、まだ23。 言わば『絶好調ッ!誰も僕を止める事はできないッ』的な年齢である。 だからこそ、この老化の能力はキツイ。女性であるならなおさらだ。 『レコン・キスタ』にもそれ程拘っていないのもあるが、あったとしても多分結果は同じだ。 「いやいや、オレとしても無理言ったと思うしな。オメーにも都合があるだろうし、残念だが他を当たるよ」 多少演技掛かっているが、追い込む為の一手だ。 普段のフーケなら通用しないだろうが、ディ・モールトパニくっているので、こうなればトコトン追い込んで利用しやすくすることにした。 まさに外道…いや、まさにギャング! 「……あ……ない……」 「何ィ?聞こえねーなァーーー」 なおも先へ進もうとしたが フーケの呟くような言葉に対し、某六聖拳伝承者のように返す。 女だろうが、敵であるならば手加減無用というだけに一切の容赦は無い。 スト様もビックリだ。 「わ…わたしに、アルビオンを案内させてくださいッ!!」 「そこまで言われちゃあな。しっかり頼むぜ」 逆に向こうから頼んできたところで、あっさりと承諾の意を示す。 テープがあれば録音しておくとこだが、無いので仕方ない。 手のひら返したように態度を変えたプロシュートにハメられた事に今更気付いたフーケだがもう遅い。 強要され渋々承諾したというのなら、途中で反抗する機を窺う気にもなるが ハメられたとはいえ自分から頼み込む形になってしまったのでは、精神的な残り方が違う。 黄金や漆黒と呼ばれるような精神を持っていれば別だろうが、生憎とフーケはそこまでは持っていない。 「こ、この…悪魔が憑いてるんじゃなくて悪魔そのものだよ……」 地面に手と膝をつき、力なく顔を地面に向けているフーケがやっとの思いで言葉を吐き出したが 敵組織を広域老化でまとめて潰した時なぞ、悪魔はもちろん死神だの何だの言われているので今更気にしたりはしない。 当の『悪魔』は淡々と返すだけだ。 「ああ、よく言われる」 猫に弄ばれる鼠と同じだ。 相手の気分しだいでどうにでもなる。 窮鼠猫を噛むと言うように、隙を見て魔法で攻撃ぐらいはできるだろうが 所詮、鼠の攻撃。少しひるむぐらいですぐに追いつかれる。 そうすれば老化という、ある意味死ぬより最悪な能力が待っている。 まして、射程は200メートル程もある。到底逃げ切れるものではない。 完全に何かを諦めたような目でこっちを見てきているが、全く悪いとは思っていない。 一応、殺る、殺られるを体験した仲なので、殺らないだけマシというヤツだ。 「で…案内するのはいいとして、アルビオンへはどうやって行くつもりだい?」 「その辺りも期待してんだがな。どうやってここまで来たんだよ」 「こっちはワルド連れての隠密。行きだけの一方通行だよ」 「あのヤローか…オメー確か盗賊だったよな。裏のルートとかで無いのか?」 「無理だね。あったとしても、これからドンパチやろうって国に好き好んで行くやつが居るもんか」 「あ?オメーの帰りはどうすんだ。大体、何しにきたんだよ」 戦時とはいえ、フーケが出たとなれば追われる事は確実である。 そんな国に目的も無しにやってくるとは思えない。 「ヤボ用だよ。あんたが気にする事じゃないさ」 「まぁいいがな…仕方ねぇ、ジジイに頼むとするか。あんだけ歳食ってりゃ何か知ってんだろ。行くぜフーケ」 あのジジイになら知られても、何とかなるだろうという事からだったが言いながら後ろを振り向くと、見た瞬間速攻でフーケの肩を掴んだ。 「おい、テメー…言った傍から何逃げようとしてんだ」 「い、いや…あの学院に行くのはちょっとね」 あの場所で一犯罪やらかしたのだから、行きたくないのは当然だが少しばかり様子が妙だ。 「…何か妙だな。何かあんな?おい」 「あー…いや」 ハッキリ言わないので、顔を近付け尋問する。 正直距離が近いが、ペッシ的対応である。 「……メンヌヴィルって聞いたことないかい?」 「知らねーな。誰だよ」 「白炎のメンヌヴィル。伝説とまで言われてる傭兵で戦場とは言え楽しみながら人を焼き殺すような外道さ。そうさね、あんたがあの森の中でわたしの腕を掴んだ時のような目をしてたよ」 そうは言ったがフーケ自身はメンヴィルとプロシュートが似ているっちゃあ似ているが、全く同じだとは思っていない。 メンヌヴィルというのは、人を笑いながら殺せるようなヤツと見たが、プロシュートはそうではないと見ている。 必要があれば老若男女区別なく殺るという点では違い無いだろうが、少なくとも楽しんだりはしていない。 もっとも、『ブッ殺す』と心の中で思った時点で足元に死体が転がっているような男とどっちがマシと言われれば迷うとこだが。 「あいつは、こっちに来る前に、オーク鬼を20匹焼いたんだ。 楽しそうに話してくれたよ、人が好きだから焼く。その焼ける匂いが興奮させるんだと。わたしとした事が背筋が寒くなったよ…あれは」 「で?そのメンヌヴィルがどうした」 「……あー、もう仕方ない、言ってやるよ。 …今、学院を襲ってるのがメンヌヴィルの部隊なんだ。人質にするつもりさ」 そう聞いたが、中々良い手だと思う。 戦争なんだから、何でもアリだ。卑怯もクソも無い。やられた方が悪いという価値観だけに、全く敵対心というものが沸いてこない。 「そうか。ならすぐに人が死ぬ心配はねーな。行くぜ、おい」 「…やめときなよ。助けに行くつもりなんだろうけど」 「誰が助けに行くなんざつったよ。アルビオンに行く為にジジイの手を借りたいが敵が居るから排除する。シンプルで良いじゃあねーか」 「行きたいなら一人で行っとくれ。わたしは死ぬ気は無…」 踵を返そうとしたフーケだが、何かにガッシリと掴まれて動けないでいる。 プロシュートの両手は空いているし、周りに人は居ない。 「そうか、なら選ばせてやるよ。オレと学院に乗り込むか…ここで老化するかだ。オレはどっちでもいいぜ?」 「…ッ!」 選択とあるが、行くも地獄、退くも地獄というやつだ。 ベネ(良し)という選択肢は一切存在しない。 「こ…このドSめ…」 ドSと言ったが、ギャングであるからには自然とそうなるものである。 ブチャラティでさえ、必要があればジッパーを使い尋問をしている。 フーケがカタギであれば別にこうもしないが、メイジであり、敵であるからには容赦はしない。 第一、存在を知られたからには、余計な事を…特にワルドあたりに知られたらやりにくくなる。 一段落付くまで手放す気は全く無い。 「分かったよ!行けばいいんだろ!行けば!」 半ばヤケクソだが、まだ学院に乗り込むほうが先があると判断したようだ。 「心配すんな。白炎って事は火だろ?なら一瞬でカタが付く。オメーの出番はねーよ」 無論、巻き込むだろうが仕方の無い犠牲というやつだ。 巻き込むとは言っても馬鹿みたいに火を放っていなければ、解除すれば十分助かる。 敵が死ななくても、倒れている間に杖をヘシ折るか殺ってしまえば何も問題無い。 (火だと都合がいい…どういう事だ?あの宿の時、偏在はともかく一緒に居たタバサって娘は老化してなかったね。確か二つ名が…) 「雪風…か。そうか、あんたの妙な力は温度で変わるんだ。周りの温度が低ければ効かない。そうだろ?」 「50点ってとこだな。だが、流石だな。名うての盗賊ってだけあった中々の洞察力だよ」 「ま、まだ何かあるのかい…」 「何、そんな大した違いじゃねーよ。周りの温度じゃあなくて、体温ってとこだがな」 「どう違うんだよ」 「体温だからな、氷かなんかで冷やせばそれでいい。ま…動き回っちまえば関係なくなるが」 「…そんな弱点話していいのかい?情報持ってクロムウェルのとこに駆け込むかもしれないよ」 「困るのはオレだしな。オメーを巻き込んで足手まといになられる方が厄介だ。それにだ…」 「へぇ、言ってくれるね」 手の内をある程度晒した事に多少安堵し、メンヌヴィルと組むよりは良いかと思ってきたフーケだったが…甘かった。 フーケの肩をガッシリとグレイトフル・デッドで掴み、スゴ味と冷静さと殺意が混じった声で言い放つ。 「裏切ろうとしたら直を叩き込めばいいだけだからよォ。直触りは…関係無いんだぜ…?」 「あ…あ…」 なおも続けるが、フーケは聞いちゃいない。 「オレに直を使わせないようにしてくれる事を期待してんぜ。えぇ?おい」 そう言ってグレイトフル・デッドの手の力を強めた瞬間、人気の無い裏路地に若い女の叫びが響た。 プロシュート兄貴&フーケ ― チーム『はぐれ犯罪者コンビ』ほぼ一方的に結成 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/642.html
「ほら、朝だよ」 育郎がベッドの中で丸くなっているルイズを揺さぶる。 「うにゅ~もうちょっとー」 「もう登校してる人達もいるようだし、早く起きないと」 「むー」 仕方なくベッドから離れるルイズ 「そこに洗面器がおいてあるから、顔を洗って。制服はそこ」 「下着…そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しー」 「これだね、授業に必要な物は?」 「鞄に入ってる…」 「着替えはおわったね、はい鞄」 「うん」 「じゃあ、いってらっしゃい」 「いってきます…」 寝ぼけ眼をこすって部屋から出るルイズを見送ってすぐ、 「ってなんか違うでしょおおおおおおおおおおお!!!」 叫びながら部屋に戻るルイズを見て、育郎は (忘れ物でもしたのかな?) 等と呑気に考えた。 「貴方は使い魔なの!使用人じゃないの!そりゃ…似たような事させるつもりだけど」 「なんかあんまりにもナチュラルだったから素直に従っちゃったじゃない!?」 「いい!使い魔は主と共にいるって言ったでしょ! 授業中も一緒にいなきゃいけないってわかんない!?」 「というかあんた、朝ごはんどうするつもりだったのよ!?」 等と道すがら怒鳴られながら食堂に向かう。 育郎は粗末な食事、スープとパンニ切れをもって食堂をうろついていた。 ふとルイズの方を見ると、豪勢な食事を美味しそうに頬張っている。 自分の食事との差に何か釈然としないものを感じないではないが、なにせ本来『使い魔』 とやらは動物(あくまでこの世界のだが)が出てくるらしいので、仕方ないのかもしれない。 とはいえ床に置かれたそれをそのまま食べる気にはなれないので、どこか座れる場所がないか 探している最中なのである。そうしていると、ふと聞き覚えのある声が耳に入ってきた。 「こいつにハシバミ草のサラダを食わせてやりたいんですが、かまいませんね!」 「これ、本当に食わなきゃ駄目かのう?」 オスマン氏が目の前のサラダを見ながら、ミス・ロングビルに一縷の望みを込めて聞く。 「駄目です」 にべもなく断られる。 「しかしのう…」 「駄目です」 「まだなんも言っとらんのじゃが…」 しかたなく三千世界にその苦さが知れ渡るとうたわれたハシバミ草を眼の前に持っていく。 「ばあさんや、飯はまだかのう…」 ボケたフリをしてみた。 「眼の前の物しかありません」 駄目だった。 (こんなに怒らんでもええと思うんじゃが…それにしてもいつにもまして苦そうじゃのう) 頑張って一口食べた。 「こ、これでいいじゃろ…ミス・ロングビル…」 「あらあら、まだこんなにも残っているじゃありませんか、オールド・オスマン」 「………マジ?」 「マジです」 救いを求め周りを見回すが、目があった教職員は『自業自得』という目をしている。 (薄情な連中じゃ…おや、あれは?) 見ると今朝会った少年がこちらを見ている。 「おお、少年!」 今朝会った老人に手招きされたので、先生らしき人達が集まっている場所に近づく。 「おじいさん…その、今日はすいませんでした…」 「ほっほっほっ、かまわんかまわん」 「悪いのはオールド・オスマンですから、イクロー君は気になさらないで」 「今朝あったばかりじゃのに、ずいぶんと親しそうじゃのう… こりゃミス・ロングビルがミセス・ロングビルになる日も近いのかな?」 「おほほ、オールド・オスマンったら…そんな事言ってもうやむやにはしませんからね」 チッ、っと舌打ちするオスマン氏が、ふと育郎が持っているものに気付く。 「おお、そりゃ君の朝飯かね?ずいぶんと寂しい限りじゃな…」 「ええ、まあ…」 「そうじゃ!それだけじゃ足らんじゃろ?このサラダを食べてみないかね?」 「いいんですか?」 「オールド・オスマン!駄目よイクロー君、それは…お尻を触るんじゃぁない!」 オラオラを叩き込まれながらも「は、早く食うんじゃ!」とオスマン氏がせかす。 せっかくの好意(?)なのでサラダを食べようとすると、誰かが育郎のズボンを引っ張った。 「君は?」 見るとルイズと同じ格好の、だがさらに背の小さい、青い髪をした少女が立っていた。 「交換」 そう言って鳥のローストが盛り付けられた皿を差し出してくる。 「…ひょっとしてこれと?」 サラダを指差してみると、こくんと小さく頷く。 「いいのかい?」 「………」 もう一度頷く。 ローストチキンを食べながら、育郎は 「この世界の貴族は、意外にいい人達が多いのかもしれない…」 なんていうことを考えていた。 それだけ オールド・オスマン 当初の予定の3倍のハシバミ草を食わされリタイヤ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2371.html
石造りの床を鳴らしながら歩くのは、銃士隊隊長のアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ。 この前の事件の傷は、アンリエッタの治癒魔法で綺麗サッパリ治っている。 王宮では珍しい剣士を見て、周りのメイジが聞こえよがしに中傷を投げかけるが、一瞥もせずに歩く。 まぁ言うと、前のアンリエッタが攫われた時に現れた男の事が気になっていたからだ。 「陛下をお助けになったのは、ヴァリエール家の御息女達だと聞いたが…ならばヤツは何処に行ったのだ」 途中で二騎が離れていったというから、恐らくそれと戦ったのだろうが、確証が無いし、何より姿を見せないと言うのが妙だ。 味方なら、姿を隠す必要が無いし、敵であるなら、自分達の命は無いはずだ。 死んだとは思えないし思ってもいない。メイジではないようだったが、何か別のような物があると感じた。 「考えたところで仕方無い…か」 そこまで考えて思考を打ち切った。 答えの無い考えをしても仕方ない。それよりは、今目の前にある問題を処理せねばならない。 ただ、次に会った時は、蹴りの一発でも入れてやらねばならないとは思うが とりあえずは、当面の問題を解決すべく、執務室に向かう。 「陛下は今、会議中だ。改めて参られい」 「アニエスが参ったと伝えて頂ければ。私、いつ如何なる時でもご機嫌を伺える許可を陛下より授かっております」 衛士隊の隊員が不承不承の体で執務室に消えていったが、しばらくすると入室の許可がアニエスに与えられ中に入っていった。 「…ったく…なんで、ここはこんなに動物が居んだよ」 いい加減慣れてきたかと思ったが、心なしか数が増えている気がする。 小動物ならともかく、デカイのとかまで。 正直、勘弁してくれとカトレアに言ったのだが 「あら、あなたもその内の一つだったのよ」 「…オレも動物扱いか?洒落なんねーよ」 とのこと。 どうも、カトレアは苦手だ。本調子が全く出ない。 シエスタもストレートに突っ込んだとこまで聞いてくる時があるので苦手な部類に入るのだが、こちらは、為す事全て綺麗に受け流されているような気がする。 正真正銘のド天然である。 頭を掻きながら、渋い顔をする。どうもこっちに来てから、こうする事が多くなった。 そろそろ暗殺チーム苦労人ナンバー1に昇格かもしれない。 (苦労を背負い込むのはオメーの役目だぜ?地獄で笑いながらこっち見てんじゃねーだろうな) まぁ、そう思った本人ですらリゾットが笑っている姿なぞ一切見た事が無いから想像もできない。 これが他のメンバーなら容易に想像ができるのだが。リゾットだけはどう足掻こうが無理、無駄だ。 行ける場所ならすっ飛んで行って殴り飛ばすのだが、生憎自殺願望は無いし、ハイウェイ・トゥ・ヘルも発現していない。 (オレが行ったとき、オメーら全員ジジイじゃあ、グレイトフル・デッドの意味がねーぜ) そこまで生きるつもりがあるというわけではないが、そう思わないとやっていけない。 こういう時は表と裏の切り替えが見事なホルマジオが羨ましくなる。 路上商人などをやらせたら右に出るものは居ないはずだ。 渋面をしながらそんな事を考えていると、逆に笑いながらカトレアが覗き込んできた。 いきなりだったので、さすがに怯む。 下の方を向いていたため、覗き込まれるような感じだ。 一般人なら、かなり動揺するとこだが、そこは元ギャング。その辺りは定評がある。 「あなたって、どこかエレオノール姉様に似てるわ」 「…あいつとか?」 ok。ペッシなら殴ってるとこだ。 「そうやって、難しい顔しながら考え事してるところとかそっくり」 「…オレはあいつ程良い趣味は…いや、気にすんな」 もちろん、この前の『妖精さん』の事だ。 中々に面白い光景だったのだが、一応は他言しないと言ってある。 まぁ、バレたらバレたでオレの知ったこっちゃあねー。という感じなのだが。 で、その妖精さんであるが、ここより離れたアカデミーにおいて、お仕事中である。 だが、明らかに何時もと違うと言うか、なんというか、燃え尽きている。 いつ、領地で妖精さんの件が広まるか分かったもんではないと気が気ではないからだ。 その心境たるや、水族館のある囚人の言葉を借りるとまさに「飛びてェーーーーーー」というところであろう。 「あら!もう姉様と仲良くなったのね」 もうマジにメローネでいいから変われと言いたくなる。 反論しても、妙な方向に話が進みそうだったので答えなかったのだが、カトレアが激しく咳き込んだ。 体が弱いという事は知っているので、別段慌てたりはしないが。 「そろそろか。大分読めるようになってきたからな。まぁ無理すんな」 「ふふ、いいのよ。結構楽しいんだから。外の事も教えてくれるし」 九割方情報目的なのだが、さすがに悪いと思わんでもない。 だが、利用できる物は利用する。そうでもしないとギャング界ではやっていけないのだ。 ただまぁ借りを作るというのも気に入らない。恩にしても仇にしてもだ。 「わたしより、わたしの可愛い妹をどうかよろしくお願いいたしますわ」 「…まだ何も言ってねーぞ」 勘が鋭いってLvじゃあない。メローネが見たらニュータイプだ!と言いそうである。 「戦が近いというのはご存知でしょう?そうなると、あの子は行ってしまいそうな気がする 正直、行ってほしくはないけど、それは、あの子が決める事。だから、よろしくお願いしますわ。騎士殿」 「ハッ…!そんな上等なモンじゃあねーよ。オレは…」 そこまで言って、考える。 スデに使い魔でも無いし、命を救われた借りも返したと言ってもいい。 一般的に言えば、もうどうなろうが知ったこっちゃあないはずだが、関わろうとしている。 色々考えたが考えるのを止めた。考えるだけ面倒になっただけだが。 「…まぁそうだな…物好きな暇人ってとこだ」 所変わって再び王宮になる。 やっとこさ自分の順番が回ってきて、アンリエッタの前へと出るが、頭を下げる前に、逆に下げられたのでテンパった。 「へ、陛下!?卑しき身分の私に頭を下げるなどとは!」 「わたくしのために…あなた達、銃士隊があんな怪我をさせてしまいました。いったいどうすれば赦しをこえるのか…」 「頭をお上げください陛下。陛下がやった事ではありません。それに赦せないというのならば、アルビオン連中ではありませんか…」 「そうでしたわね…もう大丈夫です。アニエス」 「それで、調査の件ですが…どうやら内通者が居るようです」 「その者が手引きしたと?」 「正確には王宮を出る際に、『すぐ戻るゆえに、閂を締めるな』と言い外に出た者が一人。 その五分後に陛下をかどわかそうとした一団が。それともう一つ…陛下がかどわかされてからしばらくして、衛兵の装備を奪った者が一人」 後者は当然、我らがプロシュート兄貴の事である。 「装備を奪った者は、内通者に関与しているとお思いですか?」 「関与しているのであれば、時間を置いてわざわざ衛兵の装備を奪うのは妙です。ただ、我々の味方かと問われれば…行動が不自然すぎます」 「…理由は?」 「我々に危害を加えなかった以上、敵とは思えませんが、味方なら姿を現してもいいはずです。陛下を助けたとなれば、恩賞が出るのは確実ですし」 「つまり、現状では分からない…と?」 「残念ながら、そうなります。気にはなりますが…いかがいたしましょう」 「…事前の計画どおり、男の行動を追う事にしましょう。場所をつきとめフクロウで知らせなさい。ただ敵にしろ味方にあるにしろ、正体が分からない者が居るかもしれない以上、気を付けて」 「御意。しかし、泳がすおつもりですか?」 「まさか…あの夜起こった事に関係する全ての者を許しませぬ。国も…人も…全てです」 アニエスは深く一礼し部屋を出たが、今の言を、プロシュートが、いや暗殺チームの誰でもいいが聞いたとすれば間違いなく2~3発殴られるところであるが、幸いな事に暗殺チームも、その生き残りも居ない。 ただ、今修正される事と、このまま突き進むのとがどっちが幸運なのかは誰にも分からないが… もう恒例と化してきたトリスタニアでの情報収集であるが、当面のターゲットであるクロムウェルに関してはどうも、虚無の使い手であるという情報がアルビオンから流れてきた傭兵から入ってきた。 「アレと同じの相手にすんのか…?厄介だな」 もちろん、確定情報ではないが留意しておくにこした事はない。 『ディスペル・マジック』はスタンドに関係無いため問題無いが、『エクスプロージョン』は厄介だ。 ただ、詠唱がクソ長いことも知っているので、即時発動のスタンドなら付入る隙はある。 なるべく、妖精さんのねぐら周りには近付かないでいたが、客が居る事に気付いた。 「VIP待遇ってわけか?バレてねーとは思うがな…」 後ろに二人。尾けてきている。素人ではないが、尾けた相手が悪い。 組織に目を付けられてからは、腐る程尾行を受けていた身である。 それこそ、敵組織と内側からのニ方向から。ある意味、そういう物で歓迎されるのは日常の中に組み込まれていたようなものだ。 チームで、ギアッチョとペッシ以外は、それを撒く術も心得ている。 ペッシは、未熟さから。ギアッチョは尾行でも受けようものなら、そいつを捕まえてブチ割っていたからであるが。 とりあえず、わざとらしく走って、適当な道を曲がる。 これで大抵反応が分かる。 裏通りに面した人もあまり居ない一本道、普通なら尾行を撒くような場所ではない。普通ならだ。 気だるそうに上着を脱ぎ、壁に背を預け座っていると、二人の人影が、その通りに入ってきた。 「…ここを曲がったはずだが」 「隊長はメイジでは無いと言っていたからには、確かなのだろうが…行き止まりだ、この通りは」 顔は知らないが、装備に見覚えはある。銃士隊だ。 「おい、そこのお前。今ここを通って行ったやつはどこに行った」 「…駄目だな、聞こえていない」 そりゃあ、この今にもボケんばかりの老人が、追跡対象だと思うはずはない。 これでバレたら、そいつはメローネ並の変人だ。 「…仕方無い。隊長には見失ったと言うしかないか」 二人が背を見せると、逆尾行開始だ。尾行をしていると思っている方が、尾行されているというのは結構ある。 ランダムに年齢と、ついでに髪も弄ってたため、後ろを向かれても気付かれる事も無く尾けれたのだが、やはり、この手の事は、メタリカ、マン・イン・ザ・ミラー、リトル・フィートに分がある。 しばらく尾けていると、特に覚えている顔を見た。 「首尾は?」 「すいません隊長。どうやら撒かれたようです」 「……そうか。お前達は引き続きヤツの周りを探れ」 「了解」 アニエスが一人になったが、なにやら考えている。 言っちゃあ悪いが隙だらけだ。 「VIP扱いってのは悪くねーが、接客がなってねーぜ。あんなんじゃ金も払えやしねぇ」 「な…っ!」 「まぁ、まずはリスタ(献立表)を見せて貰いてーな。アニエスだったか?何の用だよ」 後ろから、アニエスの肩に肘を置いて、銃を抜き取り、それを観察する。 「うお、単発の火打ち式かよ。こんな骨董品、映画でしか見た事ねー」 「貴様…!」 アニエスがもう片方の銃を抜いて銃口を向けてきたが、別段動じない。 「止めとけ。こっちはそうでもねーが、オメーに向けてる方は致命傷になんぜ」 頭に銃口を突きつけた零距離射撃と、体勢が悪い上、身体を捻られれば弾がそれるかもしれない二つの銃。 不利なのは、アニエスの方だ。撃つ気があるなら、とうに脳漿ブチ撒けられている。 ついでに言えば、グレイトフル・デッドで銃口を抑えてある。 「っ…!この間といい、今といい…何者だ貴様…!」 「さぁな。で、何か用か?殺る気があんなら、相手してやってもいいが、そうじゃあねーだろ?」 尾行者の反応を見る限り、襲撃や暗殺の類では無いだろうと思い、面倒なので直に聞き出す事にしたのだが、予想どおりというとこだ。 「王宮に侵入した正体不明の者を放っておけると思うのか」 「……そりゃあそうだな。ほらよ、返すぜ」 別に銃自体はどうでもいい。スタンドがある分、こんな骨董品使うぐらいなら何も持たない方がマシだ。 「えらく騒がしそうじゃあねーか、何かあんのか?」 「貴様には関係無い事だ」 「まぁな。アルビオンの事なんざオレには関係ねー事だしよ」 「!?」 「…そこまで分かりやすい反応してくれっと、オレとしても引っ掛け甲斐があって逆に気持ち良いよ」 この時期だと、アルビオン関係の事と思いカマかけてみたのだが、いい反応だ。 やはり、このぐらい分かりやすい方が扱い易い。 最近は掴み辛いカトレアの相手が多かっただけに清清しさすら覚える。 「…ッ!謀ったな…!」 「騙される方が悪りぃんだよ。オレ達の世界じゃあ特にな」 なんだかんだ言っても、まだまだギャングである。そう簡単にその思考は変わりはしない。 アニエスを見るが、何かもう言葉を出そうとして出ないといった感じだ。 引っ掛ける事はあっても引っ掛けられるって事には慣れてないって感じの! 「それじゃあ、何やってんのか話してもらおうか。アルビオンの事だろ?ええ、おい」 もう完全にプロシュートのペース。スタンドバトルにしても、会話にしても、主導権を握るというのはいいものである。 「お前みたいな怪しいやつに話せるか」 「仕方ねー自分で調べるか。好きにさせてもらうぜ」 「な…ッ!」 マズイ。ここで、こいつに勝手に動かれては、作戦が破綻するかもしれない。 そうなっては、全て台無しだ。折角の復讐を遂げる機会が永久に失われてしまうかもしれない。 「……私と共にいろ。最低限の事ぐらいは教えてやる」 「オレの監視も兼ねるって事か。まあ悪くねー判断だな」 実際、自分で調べるといっても、確かな情報源なぞ持っていないので調べようが無いのだが向こうから情報を提供してくれる事になった。スタンド能力とハッタリは使いようである。 「宮廷内の裏切り者の尻尾を掴むため動いている」 「そいつが、アルビオンの連中と繋がってるってわけか。分かりやすいな。…金か?」 「そうだ。最近になって、そいつは、軽く見て7万エキューという裏金をバラ撒いている」 「どこも変わんねーな」 パッショーネも幹部連中が裏金を作っているというのはあった。代表的なのはポルポであろう。 バレれば粛清の対象なのだが、ポルポの場合、ブラック・サバスの能力がそれ以上だった為、半ば黙認されていたようだが。 (しっかしこいつの目…こいつぁ捕獲する目じゃねーな。ハナっから殺す気か) それは別に、こいつと対象の問題なのでどうこう言う気は全く無いが、繋がっているというだけで、殺すつもりというのは考えがたい。 逆手に利用すれば、アルビオンへの情報操作にも使えるからだ。 (ま…怨恨ってとこか。オレ達と同じってワケだ) となると、残りは怨恨。復讐しか無い。それも、並の恨みでは無いのだろうと思う。 「そんで、オメーはこれから何すんだ?セオリー通りなら、これから探り入れんだろ?」 「夜を待って、そいつの屋敷に向かうが…妙な真似をしてみろ。即座に撃ち殺すからな」 「おい、オメーこの前といい、殺す殺すウルセーぞ…オレ達の世界では…ああ、オメーはギャングじゃねぇな。忘れろ」 つい習慣染みた言葉が出た。やはり当分の間ギャング気質は抜けそうに無い。 「やはり裏の世界の人間か、お前。日陰で大人しくしていればいいものを、何が目的だ」 「この前の、ツケの回収ってとこだ。あんな連中二度と相手にしたくねーぜ」 正直言えば、死体の相手なぞやりたくない。直喰らって動こうとする相手など初めてだ。 「…まぁいいだろう。来い」 プロシュートを前にして、アニエスが方向を指示しながら歩く。 後ろから何時でも撃てる体勢だが、結構感心している。 この稼業では、臆病なぐらい警戒するにこしたことはない。臆病すぎるのもペッシみたいになるので問題があるが、合格点というとこだろう。 「しばらく、ここで時間を潰す。私の視界から消えたら、どうなるか分かっているだろうな」 「信用されてねーな。ま…オレがオメーでもそうするがよ」 むしろ、ここで逆に簡単に人を信用するようなヤツの方が信頼できない。 そういう意味でこいつは、戦力になり得ると判断した。 特にやる事も無いので寝ていると、アニエスに起こされた。 もう夜だ。ついでに言えば雨が降っている。 「銃を向けられているというのに寝るか?普通」 「気にすんな、撃つ気があんならさっきやってんだろ?」 もちろんグレイトフル・デッドを控えさせ、急所は防御しているので問題は無い。 「抜けてるのか図太いのか分からんヤツだ…時間だ、行くぞ。ここから馬を使う。それとこれを着ろ」 そう言って渡されたのは、衛兵が装備する軽装の鎧と剣だ。 「メンドクセーな。このままでも構わねーだろうがよ」 「構うに決まってるだろうが!銃士隊と行動する平民という奇妙さを考えろ!!」 仕方ねーとして着替えたが、やはり軽装とはいえ鎧は嫌いだ。慣れるようなもんじゃあない。 馬を進めると、高級住宅街に入る。 どれも、これも無駄にデカイ。その中の一角、二階建ての広く巨大な屋敷の前に着いた。 横でアニエスが唇を歪めている。 (やっぱ恨みか) そこで、アニエスが大声で叫び来訪を告げると、門の小窓が開き小姓が顔を出してきた。 「こんな時間にどなたでしょう」 「女王陛下直属の銃士隊、アニエスが参ったとリッシュモン殿にお伝えください。急報ゆえ夜分に申し訳ないが」 首を捻りながら小姓が屋敷に消えていったが、少しすると戻ってきて門の閂を外された。 馬の手綱を小姓に預け屋敷に向かうと、暖炉のある部屋に通される。 そうすると、寝巻き姿のオッサンが現れた。 (ウサンクセー面してやがんな。ペリーコロのジジイといい勝負だぜ) そんな思いをしているとは露知らず、話はどんどん進んでいく。 「女王陛下が、お消えになりました」 「かどわかされたのか?この前も似たような誘拐騒ぎがあったばかりではないか。アルビオンの陰謀かね?」 「調査中です」 (親父は親父でも…狸親父ってとこだな) 内通者というのがこいつの事なのだろうとは思うが、よくまぁこれだけ腹芸ができるもんだと感心する。 戒厳令が敷かれ、街道と港の封鎖が決まり退出しようとしたところで、アニエスが立ち止まった。 「閣下は…二十年前のあの事件に関わっておいでだと仄聞いたしました」 「ああ、あの反乱か。それがどうした」 「『ダングルテールの虐殺』は閣下が立件なさったとか」 低い、怒りを押し殺したような声だ。 「虐殺?冗談を言うな。アングル地方の平民どもは国家を転覆させる企てをしていたのだ。鎮圧されて当然だろう。昔話など後にしろ」 それを聞くと部屋から退出しようとするが、鳴き声が聞こえた。 「ほう…閣下は猫を飼っておいでで?」 「それが関係あるのか?つまらん事を聞く暇があるなら、陛下を探し出せ」 二人が外に出たが、部屋に猫はいない。ただ、植木鉢に植えられた草があるだけだった。 外に出たとこで、今まで黙って聞いていたプロシュートが口を開いた。 「オメーは、ダングルテールの虐殺ってやつの生き残りってわけだ」 それには答えない。苦虫を噛み潰したような顔をしている。 「ま、オレには関係ねーがよ」 言いながら空を見上げる。恨まれる事に関してなら、多分そのリッシュモンにも負けていないはずだ。 それだけ殺しもしてきたし、関係無いヤツも老化に巻き込んではいる。 まぁ、巻き込んだ方に関しては、そんなに死人出してないとは思うが。 実際、列車の中で巻き込んだものの、老死したヤツは居ないはずだ。 広域老化は範囲が広い代わりに、寿命が尽きるまでの時間が結構長い。 その弱った相手に止めを刺すのが、本体の仕事である。 色々骨とか曲がったりするだろうが、解除すれば戻るので問題無い。 小姓から馬を受け取り、アニエスが黒いローブを着るとフードを被り戦支度をすると馬に跨る。 すると、雨の中から誰かがこっちに走ってきたが仕事柄夜目が利くプロシュートはそれを見てマジに辟易した。 「げ…悪ぃ。急用だ。後でな」 「お、おい!どこに行く!」 疾きこと風の如し。追う暇も無くプロシュートを見送るアニエスに、声がかかった。 「待って!待った!お待ちなさい!馬を貸して頂戴!急ぐのよ!」 白いキャミソールを泥と雨で汚し、靴を脱いで裸足で駆けてくるのは妖精さんこと、ご存知ルイズだ。 「断る、邪魔だ」 「わたしは陛下の女官よ!警察権を行使する権利を与えられているわ! あなたの馬を…って確か銃士隊隊長のアニエス!なにやってるのよ!おめおめと陛下をさらわれて!」 「陛下の女官…?しかし、なぜ私の名を?」 「この前、倒れているあなたを見たのよ!とにかく、馬を貸して頂戴!」 この前倒れているというと、あの時しかない。 となると、この少女は… 「では、あなたが…この前、陛下をお救い下さったド・ラ・ヴァリエール殿か。 お噂はかねがね。お会いできて光栄至極。一頭しか無いので貸すわけにはいかぬが…乗られい。事情は説明いたそう」 ルイズに手を差し出すと、そのまま引っ張り上げる。 「陛下は無事だ。…それにしてもヤツめ…どういうつもりだ」 「陛下は無事なの!?そして、ヤツって誰!?」 「気になされるな。恐らく今回の件とは関係無い者だ」 そう言うと、馬を進め駆け出す。二人は夜の闇にと消えていったが、その後ろから一騎が出てくる。雨のおかげで足音は届いていない。 もちろんプロシュートだ。 「危ねー…マジどうなってんだよ」 まぁ、バレても問題無いっちゃあ問題無いが、確実な暗殺遂行にはなるべくこちらの存在を隠しておく必要がある。 敵であれ味方であれだ。 能力を知らないヤツには姿を見せてもいいが、能力を知っているヤツに知れるとスタンドという特殊な力だけあって、一気に広まりかねない。 それでなくとも、トリステイン貴族の中では『悪魔憑き』だの言われていたりするのだ。 「さて…オレとしては、どうすっか」 後を追ってもいいが、内通者の正体が明らかになった以上、そっちを張ってもいい。 というか、クロムウェルの情報が欲しいので、リッシュモンを張って、アニエスが殺る前に口を割らせねばならない。 とりあえずは、アニエス達が片割れを捕らえるなりして、親玉が動くのは明日だろうとして適当な宿に泊まる事にした。 安っい木賃宿を見つけると、金を払いニ階の部屋に通される 別に質はどうでもいい。ホルマジオなぞ、小さくなって下水で寝ていた事もある。それに比べりゃあ屋根があるだけマシだ。 塗れた鎧を捨て、楽な格好になる。服も濡れてはいるがそのうち乾く。 基本的に、どんな場所でも、どんな状態でも寝れるというのが暗殺者だ。今更気にしたりはしない。 ただ、夜になるまで寝ていたので、今は寝る気にはなれなかったが。 壁にもたれながらどうやって口割らせたものかと考え、結局パッショーネ伝統のアレにするかと思っていると、隣の部屋から声が聞こえてくる。 聞き耳立てる趣味はないが、知っている声だったのでもう引力か何かだと思って諦める事にした。 「あの夜わたくしが…自分を抑えきれずに、操られていたウェールズ様と行こうとしていた時…あなたは止めてくださいましたね」 声の主は、現在最も説教したいヤツランキング。ブッ千切ってナンバー1のアンリエッタだ。 「あの時、行ったら斬ると。嘘は許せないと。愛に狂ったわたくしに、そうおっしゃってくださいました ならもう一人は誰かと思ったが、すぐ分かった。 「え、ええ。い、言いました。はい」 現在説教ランキングナンバー2のマンモーニこと才人だ。 ちなみにナンバー3は特に決まっていない。つまり現状対象はこの二人のみである。 「…これを見てください」 「どうしたんですか?少しだけ残ってるこの手の傷」 ああ、もうスゲー心当たりがありすぎる。というか実行犯。 「ある依頼をしようとした時に、ルイズの使い魔の方に踏まれたんです」 「姫様の手を!?なんっつー事を…」 そりゃもう、容赦なくグリグリと踏んだとも。むしろ、それだけで済んだのが奇跡的だ。 肘撃ちからの顔面蹴りが5発ぐらい入っても不思議じゃない。 「あの方は…愚かな事を言った、わたくしにも本気で接してくれました。 それなのにわたくしは、あなた達を殺そうとした。あの方が見ていれば、また踏まれていたでしょうに」 実際のところ、その程度で済まない。 それこそ、『あなた…覚悟してる人ですよね?人を殺そうとするって事は殺されるかもしれないって覚悟してきてる人ですよね』 と言わんばかりに殺されても文句は言えないはずだ。 そう言った意味では、ものスゴクアンリエッタは運が良い。 「だから、お願いしますわ。新しい使い魔さん。また何か愚かな行為をしそうになったら…あなたの剣で止めてくださいますか?」 「なんだって!?」 ブチャラティかと言わんばかりの叫びが聞こえてきたが、まぁ当然だろう。 「その時は、遠慮なく斬ってくださいまし。ルイズは優しいから、そんな事はできないでしょう。ですから…」 「できませんよ!…そんな弱くてどうするんですか。あなたは女王様なんだ。自分の意思で皆を守らなくちゃ」 壁一枚隔てた壁から、そんな会話が聞こえてきたが、甘いなと思う。 上に立つからこそ、それに比例して責任が大きくなる。 まして、5万という大軍を私怨にも近い感情で動かすからには、ドジこいた時に一回死んだぐらいでは済まされない。 暗殺チームも私怨で離反したようなものだが、アレは全員がそうだったからで、こいつの場合そうではないのだから。 「どうなろうとオレの知ったこっちゃあねーがな…届く範囲で影響なけりゃあよ」 別に、侵攻作戦が失敗しようとも、周辺に影響が無ければそれでいい。 全部を面倒見てやれるほど、万能でもないし自惚れてもいない。 「ただ、まぁトチったら…そんときゃオレがキッチリ始末してやんよ。オメーをな」 ルイズや才人が斬れないなら、オレが殺ってやる。大体、他人に止めてもらう事を前提にしてるってのがムカついてきた。 もうなんか、今こいつを殺っちまった方がいいんじゃあねーか?とも思ったが押し止める。 依頼もされてないし、廃業したばかりというものあるが、どうもこう、アンリエッタを見てると、ペッシとギアッチョを足してメローネで割ったような感じだ。 足した意味もよく分からんが、とりあえず今殺すようなタマでもないと判断した。 ギャングというものは基本的に自己中心的思考なのである。 正義感溢れるやつなら、この姫様のために。とか言って必死こいて頑張るか、責任の重さに対して熱く語るかだろうが、そこまで面倒見る気も無いし、責任なぞ自分で理解せにゃ一生分からんと思っている。 だからこそ、ペッシに厳しくしていた。 もっとも、出れる状況なら『ナメた事言ってんじゃあねーぞ、このクソガキが!』とマジに殴っているが。 特に聞くような情報も無かったので、眠気が襲ってきた。 常に襲撃があるかもしれない状況だったので、寝れる時に寝ておくという習慣みたいなものだが これも、まだ抜けそうに無い。いい加減慣れにゃあならんと思って目を閉じると、隣から扉を叩く音と 『ズキュウウウウン』というような音が聞こえてきたが、まぁこっちは幻聴かなにかだろう。 そうして、しばらくするとこっちの扉も叩かれる。面倒なので放っていると破かれた。 「ウルセーな…なんの用だ」 「王軍の巡邏の者だ!犯罪者が逃げてな、順繰りに全ての宿を当たっている!さっさと開けんか!」 「で、ここに、その犯罪者ってのはいんのか?」 そりゃもう、世界が違えば特A級の犯罪者がここに。 しかしながら、この世界では未だフリーマン。真っ白である。ギーシュ殺ったけど。 「いや…邪魔をした。行くぞ」 「そう思うなら来んな」 「こっちだって好きでやってるわけじゃない。隣の部屋なんてお楽しみの最中だぜ」 「シケてんな、オメーらも。見てて哀れになってきたぜ。ほらよ。その代わり、何があったのか聞かせろ」 そう言って投げ渡したのは数枚の金貨。別段金に困ってるわけでもないし、余裕もある。伊達にヴァリエール家で働いているわけではない。 「お、悪いな。詳しくは言えないが、ある方がさらわれ、それを捜索中でこの雨の中駆けずり回ってんだ」 「…そういうわけか。ああ、もう行っていいぜ」 衛兵を見送ったが、どういう状況かを纏める。 隣に居るのがアンリエッタならば、捜しているのはそれだ。 そして同時に居るのが、才人ならかっさらわれたというわけではないし、アニエスの行動も妙だ。 「テメーを餌にしてるってわけで…その餌に喰らい付くのは明日ってとこか。随分とデケー狸狩りじゃあねーかよ」 そう結論付けると寝る事にした。衛兵が隣の部屋はお楽しみとか言ってたが、別にどうこう言う気も無い。 当人の問題だ。その結果がどうなろうともそいつの責任。基本この元ギャング。その手の事に関しては完全不干渉である。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8127.html
「仮面ライダーディケイド」より海東大樹を召喚 ゼロの怪盗-01 ゼロの怪盗-02 ゼロの怪盗-03 ゼロの怪盗-04 ゼロの怪盗-05
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3319.html
ドラゴンズウィルより、スピノザを召喚 ゼロの英雄-1 ゼロの英雄-2 ゼロの英雄-3 ゼロの英雄-幕間 ゼロの英雄-4 ゼロの英雄-5 ゼロの英雄-後日談 ゼロの英雄外伝-イザベラ様の大冒険-前編 ゼロの英雄外伝-イザベラ様の大冒険-後編 アンサイクロペディア的な元ネタ解説 ※ドラゴンズウィル ラノベ作家榊一郎氏のデビュー作。 妹のお尻に恍惚とした顔で頬ずりする英雄が出てきたり 微笑を浮かべたまま歴戦の兵士の首を折ることが出来るメイドさんが出てきたりする作品。 激しくメタファンタジー、勇者ですか? 魔王ですか? でもそんなのかんけーねぇ! やっぱ時代はメイドだよ! アニキ! ※スピノザ ドラゴンズウィルの主役、どう見てもドラゴンです本当にありがとうございました。 旧知の仲の雌とサカった後(ひょっとするサカってる最中に)他の女の下へと一直線。 本人は知らないが一児の父であり、続編で彼の息子が件の女の甥と大冒険を繰り広げたり広げなかったり。 趣味は農業で菜食主義者、そのため捕人反対運動を推進している。 ※破竜剣 竜以外は何も切れないなまくらの代名詞。 しかも選ばれた人間しか使えない、挙句選ばれた人間すら作中一度も手を触れていないと言う駄目っぷり。 某二次創作のデルフよろしく激しく血に餓えていると思われる。 今回使ったのは先代の ダンテ 、見た目は不明だったので勝手に決めました。 ベルセルクのアレを想像してください。 初期プロットでは人間の存在を 英雄 に変換する外道兵器だったくさい、しかも使用後は世界の敵にリサイクルとかどんだけー。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2218.html
「ところで、どうしてフーケがここにいるのかしら?」 一段落ついたのでとりあえずオスマンの待つ学院長に一同揃ったのだが 今更になってキュルケがフーケが気付いたのかそう聞いてきた。 「来たくて来たんじゃあない」 どこか諦めたような表情でそう言ったが、当のプロシュートはフーケの肩に肘を置き涼しい顔をしている。 「……そういう事。もう年なのに大変ね」 二人の様子からある程度は察したのか、少しばかりの同情を含めて返したが、さりげなく禁句を入れているあたり流石と言えよう。 「だ、誰が年ですって?わたしは『まだ』23よッ!」 「あら、23といえば十分婚期を逃しているんじゃございませんこと?」 「小娘が…どうやらあんたとは決着を付けた方がよさそうだね…」 「よろしくてよ、おばさん。この微熱のキュルケ、謹んでお相手つかまつりますわ」 売り言葉に買い言葉とはこの事か。 あっという間に二人のボルテージが最高潮にまで到達しオスマンの前という事もすっかり忘れ睨み合い。 「おいオメーら、話あんだから大人しくするか別の場所でやれよ」 「「五月蝿い!」」 二人ともやる気満々という具合だが、今ここでんな事されても邪魔なだけだ。 今にも杖を出しそうな二人の間に無理矢理割り込むと、ガッシリと二人の首に腕を首に回す。 俗に言うアームロックである。 そして、続けて一つだけ宣告をする。これで止まらないのならどうなろうと知ったこっちゃあない。 「……なんなら、その程度の年の差なんぞ分からないようにしてやってもいいんだがよ」 テーレッテー こうかは ばつぐんだ! 二人の頭の中にそんな音楽と言葉が聞こえてくるとほぼ同時に、同じような震えがプロシュートの両腕に伝わってきてきた。 「い、いやねぇ、じょ冗談よ、冗談。ほ、ほらこんなに仲良し。ねぇ?」 「そ、そうさ。わたしももう気にしてなんか……だ、だからその腕をーーー!」 ぎこちなさ6割増しで無理矢理笑顔を作り出し、互いに向き合うキュルケとフーケを見てやっとこさ腕を放したが人選間違ったかもしれんと思えてきた。 「なんで、きみはそういう事をしても怒られんのかのぉ」 そうして聞こえてきたのはご存知オスマンの羨ましそうな声。 「わしなんて…わしなんて尻撫でただけでも蹴られとるというのに……」 そう言いながらフーケに触ろうとして近付き、綺麗なカウンターを繰り出しオスマンが3回転半しながら地面に倒れた。 流石に、教え子に手を出さないだけマシなのだろうが、知ったこっちゃあない。 「クソ……馬鹿ばっかだ……」 一応、こっちは真剣にやってるんだからもう少し合わせろと言いたいのだが、とりあえず今は説教している暇は無い。 倒れたオスマンを無理矢理立たせると、本命の話を出す。 「でだ、アルビオンに『密航』したいんだが、なんか手段を出せ」 「うん、無理」 瞬間、少し乾いた音が部屋に鳴る。 間髪入れずに返してきた返答に突っ込んだ…もとい軽く殴った。 「一秒も経ってねーのに無理ってのはオレをナメてんな?それともボケたか?この際ついでにもう200歳ぐらい歳とってみるか?ええ?」 「いや、ホント無理。『密航』って事はバレたくないって事だからのぉ。補給艦に潜り込んでもバレるよ?それは」 戦時だけにそういうチェックは厳しい。 リトル・フィート、マン・イン・ザ・ミラー、メタリカなら気にしないでいいが、そうもいかない。 さすがに正規乗員で無い限り老化してもバレるし、バレてもいいのなら相手を始末すればいいだけなのだが、状況が違う。 おまけに、アニエスに知られた以上はなるべく早く行動したい。 「……他は」 「ふーむ。そういえばスカロン店長が女の子達を連れて、慰問に行くとかもしれないとか言ってたような」 「却下だッ!」 ああ見えて口が堅い事はしっているが、何されるか分かったもんじゃあない。 今のところ、唯一にして明確なプロシュートの弱点というやつだろう。 「へぇー、あんたにも苦手な相手が居たのかい。こりゃ今度話を聞いてみないとね」 フーケが笑いをかみ殺しながら仕返しかと言わんばかりにそう追求してきたが、それだけは避けねばならない。 「…そういや、襲ってきた連中は全滅したって報告するんだったよな」 「そうじゃな。学院の生徒を人質に取ろうとしたんじゃから、宮廷の連中が見逃すはすはあるまい」 「……ならオメーが生きてるってのは不自然なわけだ。全滅したんだからな。つーこたぁ分かるか?オレの言ってる事」 フーケの方へ視線を向け、指を鳴らしながら手をフーケの前に出した。 顔が青くなっていったあたり、どういう状況か理解できたらしい。 「ま、まさか……」 「60歳ぐらいに抑えといてやるから安心しろ。なに、一瞬だ」 一気に後ろに後ずさる。その素早さたるや台所の黒いアイドル顔負けというやつだろう。 そうなるのも当然と言えるのだが、しかしながらここは学院長室。 オスマンの私室ともいうべき場所であるからには、そんなに広くはないのですぐに壁に突き当たった。 「わたしのそばに近寄るなぁぁぁあああああ」 四体倒地し顔だけこちらに向け必死で叫ぶ。 が、唯一この場でこの能力がヤバいと理解してくれそうなキュルケは思いっきり顔を逸らしているので助けになりそうもなく 肝心のプロシュートもかなりの無表情で手を伸ばしてきているあたり止まりそうにない。 「そ、そうだ!わたしに危害を加えない事が条件だって言ってそれを飲んだじゃないか!」 「何言ってやがる。きっちり元に戻るんだから危害を加えるって事にはならねーよ それに、オメーがそのままで向こう行くとバレた時に厄介だからな。今のうちに慣れさせといてやるよ」 思い出したかのように学院に向かう前の条件を切り出したが 本人全く一切の聞く耳を持たず。プロシュート的に危害=負傷、元に戻らないぐらいの老化。なので問題無いのである。 「暴れんじゃねーぞ。加減が狂って手遅れになっても知らねーからよ。大体オメー一回食らってんだろーが」 「い、いや…さ、触わらないで、お願いだから…」 泣きそうかつ逃げようとしている女に無理矢理触ろうとしているとなるとちょっと絵的にアレだが、本人にその気はまったくなく ただ単に直食らわせてフーケだとバレなくしようとしているため、むしろスタンドパワー使うんだから感謝しろという具合である。 「まぁ、渡る方法もまだ分かってないんだし、今はいいんじゃないかの」 「……そいつもそうだな」 オスマンの言を聞いて2~3秒考えたが、持続力Aとはいえ老化させっぱなしというのもパワーを使う。 スタンドを戻し手を引いたが、一杯一杯なフーケを見て『死にゃしねーんだから大した事ぁねーだろうが、このマンモーニが』 と内心思っているのはご愛嬌。 もっとも、悲しきかなは価値観の違い。プロシュート的には60歳はまだ大した事は無いが キュルケやフーケの価値観としては60歳というのは寿命一歩手前に等しいのである。故に ――今、この瞬間だけありがとう…… と、秘書時代を通してこれ程オスマンに感謝したのは初めてかもしれない。 仙人っぽい外見のオスマンが本気で仙人のように後光が指して見えたのも仕方ない事なのである。 そんなフーケをガン無視して別の場所から思いっきり高圧的な声。 「歳食ってんだから、何か知ってんだろ。頭絞って考えろよ」 「人使い荒いね君…わし、一応ここで一番偉いんだけど」 二人を対比すると、ちょっとボロ雑巾気味のオスマンと 椅子に座ってはいるが、机に足を投げ出して思いっきり偉そうにしているプロシュート。 この事から敬意など一欠けらも持っていない事が凄くよく分かるであろう。 「ウルセー、それならそれなりの仕事してみせやがれ」 地位や立場より、実績や報酬を重視するタイプなので、いくらオスマンが偉大なメイジなどと言われていても、見ていないのでこういう扱いである。 おまけに、例の一件からただのエロジジイと認定しているため、恐らく余程の事が無い限りこの態度は覆るまい。 「悲しいのぉ…年寄りはもっと丁寧に扱うべきじゃよ。もっと敬老精神というものを持ちたまえ」 「生憎、オレはそういうモンは持ってねーし オメーみたいな化物にんなもん必要ねぇ。手ぇ抜いたつっても直食らって外見が変わんねーってのはどういう事だ」 「化物って酷くない?わしはただの可哀想な年寄りじゃよ」 「ほーう。可哀想な年寄りってのは、そいつの足元にネズミを潜ませたりすんのか?なんなら寿命でくたばらせてやってもいいんだぜ?」 やっとこさ立ち上がったフーケの足元に小さいハツカネズミがそこに居た。 「な…!このジジイいつの間に!」 「おお、モートソグニルわしの為に、お前は本当に可愛いのぉ。よぉ~~~しよしよしよしよし」 「オメーがやらせたんだろうが」 どこぞの元医者のようにモートソグニルを撫で回すオスマンに冷静に突っ込んだが、いい加減その髭面をブン殴りたくなってきた。 「知ってようが知っていまいが……二秒やるから、知ってる手段ってやつを吐け」 「案外せっかちじゃな。もっとゆっくり真実というものを考えてみたらどうかね」 「ウーノ(1)」 「ちょ、ちょっと待とう。な?ほら、よく言うじゃろう『ゆっくりしていってね!』って」 「ドゥーエ(2)。じゃあいっその事永遠にゆっくりしてみっか?え?」 『ゆっくりしていってね!』という言葉にやたらムカき2を早め、ついでに大往生させてやろうかとも思ったが それより先にオスマンが答えを出してきたので何とか止まった。 「仕方ないのぉ…竜にでも乗れればいいんじゃろうが、気難しい生き物じゃからな」 「…ああ、そういやそんな手があったな」 野生のやつなんぞ乗りこなす気なぞ全く無いが、アテは一つある。 少々カオスな状況の学院長室とは所変わって女子寮の部屋の一室。 その中で青い髪、ご存知タバサが多少眠そうにしながら本を開いていた。 「おねえさまに言われたとおりにあの人を連れてきたのね!シルフィ偉い!」 と、部屋の窓一杯に映っているのはこれまたご存知のシルフィードだ。 「おねえさま、ご褒美は美味しいものがいいのね」 「……二個?」 「きゅいいっ、きゅいーーーッ!きゅい!」 「三個……?イヤしんぼ」 と、そこに部屋のドアから軽いノック音がしてきた。 「きゅい?誰かきたみたいだけどいいの?」 「構わない」 襲撃なんぞがあったのだから、今日の授業は無いだろうから慣習に従い本を読む事にすると決めたのでどうやら無視する事を決め込んだようだ。 ぶっちゃけ言えば、シルフィードですら邪魔と言いたいのだが、一応の功績があるので好きにさせているという具合だ。 しばらく反応が無かったが、少しするとさっきより大きい…ドアを叩くような音がしてきたが手早く『サイレント』をかけ 音がしなくなると満足したような表情で本に向き直った。 だが、何時の時代も個人の平穏というやつは破られるものである。 勢いよくドアが開かれ…もといブチ破られたためだ。 キュルケならアンロックで開けるだろうし、他の生徒達にこんな真似をする者はいないので杖を引き寄せ身構えたが 聞こえはしないが、重苦しい音をさせながらこちらに近付いてくる人物を見てサイレントを解いた。 「居るんなら返事ぐらいしやがれ。それとも聞こえなかったとかいうんじゃあねーだろうな」 破壊力Bのスタンドで思いっきりドアをブン殴った、ご存知プロシュート兄貴である。 「……やっぱり似てる」 「あ?何がだ」 過去、ルイズがタバサの部屋のドアを爆破したという黒歴史的な出来事を思い出しての感想だが、プロシュート自身は知った事ではない。 「何か用?」 普通というか、こういう乱入者は魔法でお引取り願うのだがそうはしない。 手短にそう言ったが、ここまでやるからには何かあるのだろうと思う。 もっとも、杖を向けた瞬間スタンドとかいうやつで容赦なく攻撃されるだろうという考えもあったからだが。 「ああ、オメーに用があるってわけじゃあねーんだが」 「じゃあ何」 用が無ければ、人の部屋に乱入したりはしない。タバサの疑問も至極当然といえる。 「オレが用があんのは……外に居るそいつだ」 「ぎゅい!?」 睨み付けるかのような視線を窓の外のシルフィードに向けると、どこか詰まったような鳴声が返ってきた。 「あんな場所から何の準備もなく落とされたからな…本当にオシマイかと思ったよ…いや、マジに恐れ入った」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ という擬音を背景に部屋の真ん中に進んだが、窓の外のシルフィードは何かこう、テンパっている。 (シルフィード) (は、はい…!) (説明して) 質問は拷問に変わっているんだぜ?というような尋問が行われたが、シルフィードの答えは至極簡単である。 「つまり、シルフィードに落とされた?」 「100点満点だ。褒美をやりてーとこだが、そうもいかねぇ」 (メイジじゃないって事を忘れてただけなの!悪気は無かったのね!) (黙ってて) (きゅい…) 「オレは今からお前にごく簡単な質問ってやつをする。イエスかノーか二つに一つってやつをだ」 こういった尋問役は、本来ホルマジオかメローネ(変態的な意味で)なのだが、まぁそうも言ってられない。 「オレはそいつに簡単なスカイダイビングをさせられたわけだが……それはオメーの指示か?どうなんだ?答えろよ…」 タバサの後ろからそう質問したが、これがブチャラティなら汗を舐めているところだろう。 よくよく考えれば、あのチームで一番マトモそうなヤツが実のところ一番変態とも言える。 結局のところギャングにマトモな神経のヤツなど一人も居ないという事か。 まぁ、タバサ自身は汗なぞかいてないし動揺もしていないが。 「シルフィードが見つけた時にあの場所に連れてきて欲しいと言ったのは事実」 (おねえさま……) 小さい窓から部屋の中を無理矢理覗き込んでいるシルフィードは気が気ではない。 下手に答えれば『ブッ殺した』という過去形で語られそうな展開になるかもしれないと思っているからだッ! そして、そんなシルフィードをに構わず、いつものようにタバサが言った。 「だけど……落とせとは言ってない」 (きゅいぃぃぃ!お、おねえさま、それはぁぁぁぁ!) (五月蝿い) 「まぁ、あんときオメーはブッ倒れてたからな……つまり、あいつが勝手にやったって事でいいんだな?」 「そうなる」 (う、売ったぁぁぁ!おねえさまひどいの!シルフィきっとすっごく怒られちゃうのに!…ハッ!) シルフィードが気付いた。プロシュートの物とは違う冷たい雪風のような視線がこちらに向けられている事に。 (お、おねえさまのあの目…シルフィの前に並べられたご飯を見るような冷たい目なのね…『残念だけど20秒と持たない運命なのね』って感じの!) ぎゅい~、と絹が裂けるような鳴声と共に恨みがましい目をタバサの方に向けていたが それよりも数段目立つ、スゴ味を感じさせる眼を見てさらにテンパる事になる。 しかも、その眼が無駄に足音をたてながらゆっくりと向かってくるのである。 (うう、怒られるだけで済めばいいけど……だけど、お肉が食べられなくなるのはイーーーヤーーーーー) どうやら、老化させられると判断したようで年老いて歯がボロボロになった自分を想像したらしい。 空を飛べる翼があるのだから逃げてもいいのだが、そうすると今度はタバサにお鉢が回るかもしれない。 自分の身体(主に食を司る部分)か主人のタバサか。 シルフィードにとってどちらも譲れる問題ではないため、未だ窓の外に止まっている。 そんな事やってるうちに遂にプロシュートの腕がシルフィードを捉えるべく、まるで鎌首を上げ獲物を捕らえる蛇の如くゆっくりと持ち上げられたッ! (きゅいぃ…最後に沢山お肉食べたかったのね…) もう諦めたのかシルフィードの頭の中には今まで食べた美味しかった物が次々と現れては消えていっている。 走馬灯に近いものがあるのだろうが、全て食的なものしか現れていないあたり、本人の欲望が最優先されているといっていい。 「待った」 しかし、そんなシルフィードに救世主現れた! 意外!それはタバサッ! 「確かに、私が命令したわけじゃない。でも……使い魔の責任は主人の責任」 「すると、オメーが身代わりになるって事か?」 そう問うと、タバサが小さく頷いた。 (……で、でもダメなの!シルフィよぼよぼのおねえさまなんか見たくない!) (…変わりにお肉は抜き) (お、おねえさまぁぁ!ならシルフィも一緒!) 何かこう、主人と使い魔との絆が一層強まったようだが、何話してるかさっぱり分からないプロシュートには知ったこっちゃあない。 「悪りーが、オレとしては誰かの責任を他人が身代わりに被るってのを認めるわけにはいかないんでな」 誰かに身代わりになってもらうようでは、そいつは一生成長しない。 まぁ、ギャングの中にそういう連中はものスゲー居るわけだが。 右手を窓の外のシルフィードの額に当てる。 タバサが少しばかり批難めいた目でジーっとこっちを見ているが特に気にしない。 (お肉…でも、おねえさまが無事ならそれでいいの…でも、お肉…) (シルフィード…) あくまで食事の比率が大きいのか、最後まで気にしていたようだが目を閉じ、来るべき老化を覚悟していたが 次にシルフィードが感じたのは老化による疲労などではない。 シルフィードが感じたのは、額を数度ノックするような音。 まぁ実際竜の硬い皮膚を人の手がコツコツと叩いているのだからノックとも言えなくも無い。 「…きゅ、きゅい?」 「結果論としちゃあ、あれで先手取れたようなもんだからな。穴も開いてねーし、あの件に関しては貸しって形で終わりにしといてやるよ」 元より、落とされた事で来たわけではなく、目的は別にある。 「で、だ。オレとしてはその貸しを今すぐ返して貰いたいってわけだ」 「返す?」 「こいつ貸せ」 そう言って指差すのは勿論シルフィードだ。 「そいつなら、アルビオンに行けんだろ。前も行ってたしな」 普通の竜なら無理だが、シルフィードならタバサ経由でなんとかなる。 この際、どんな小さな貸しだろうと利用してシルフィードを使うと決めたようだ。というよりそれしか方法が無いのだが。 「どうしてアルビオンに?」 そりゃあこれからドンパチやろうかという場所に行くというのだから、その疑問も当然だ。 「あー?気に入らねぇやつが居るからな。厄介な事になる前にそいつを始末しにいくだけだよ」 死者に老化が通用しない事もあるが、やはり偽りの精神を与えるなどという誇りを踏み躙るようなやり口が気に入らないというところが大きい。 この際、いい機会だからボスにやる予定だった分も全部纏めてクロムウェルにやっちまおうという事である。 人、それを八つ当たりと言う。 「……クロムウェル?」 「よく分かったな。まぁ、オメーもアレを見たから分かるだろうがな」 プロシュートは簡単に言ったが、一国の皇帝を一人で始末するという事である。 クロムウェルをガリア王に置き換えれば、それがどれだけ遠い道かタバサにもよく分かる。 それを気に入らないというシンプル極まりない理由でやろうというのだから呆れるしかないというやつだろう。 少しばかり怪訝な表情でこっちを見てきたタバサに気付いたのか、さも当然という風にプロシュートが返した。 「ああ、そういや言ってなかったな。オレ達は向こうじゃそれが本業だ。 さっきのは条件付いてたから手間取ったが…次からは遠慮する必要なんてねーから楽なもんだ。 スタンド使いでも無い連中なら、オレにとっては何人居ようが関係ねぇ」 射程距離半径200M。全員がオスマンみたいなのなら問題だが、最初からフルパワーで老化させていけば 軍隊組織そのものを相手できるとまでは思っていないが、純粋な対人に限れば千人だろうと、その気になれば例え一万人だろうと関係ない。 つくづく暗殺というより殲滅向きな能力だと思うが、ホワイト・アルバムよりはマシというところか。 むしろ、少数で風の遍在でも送り込まれるほうが余程厄介というべきだろう。 そう言うとどこからか、何か興奮気味の声が聞こえてきた。 「やっぱり凄いのね!おねえさまも手伝ってもらえばいいの!」 (シルフィード!?) (きゅい!?…ま、間違えたのね) どうやら少しハイになって間違えたらしいが後の祭り。しっかり聞かれてしまっていたりする。 「おい……何か言ったか?」 「……気のせい」 「どっかで聞いたことあんだよ…今のは」 部屋を見たが他に人は居ないし、何よりタバサの口調ではない。 となると、残ってるのは窓の外に居るシルフィードなのだが、これは竜だ。 と思ったが、ここはバカデカイ島が丸々一個空に浮いてるようなブッ飛んだ世界であるし 竜というのはファンタジー映画基準からすれば結構口が利けたりする生物だ。 タバサは口を割りそうにないし面倒なので直接本人(本竜)に聞いてみる事にした。 (何言われても答えちゃダメ) (わ、分かってるの。シルフィ絶対喋らないのね) 「口が利けるってんなら答えろ。答えない場合は『目の中に親指を突っ込んで殴り抜ける』」 親指どころか、拳が丸々入るだろうという突っ込みは横に置き、選択肢YES or yes。拒否権一切無しの質問…もとい尋問に 一秒も経たずに綺麗サッパリ洗いざらい全部まとめて喋ってくれました。 「メンドクセーことしやがる。大して変わんねーだろーが」 「そうでもない。韻竜は数が少ないから」 「オレはそれより、そいつを使い魔ってのにしたオメーの方が気になるがな。さっきも言ったがマジで何モンだよ」 使い魔=メイジの実力がここの方程式だ。となると、その珍しい韻竜を召喚したタバサもかなり珍しい部類に入ると踏んだ。 「きゅい!それはシルフィが説明するのね。おねえさまはガリア王家の王女さまなの」 「ほー、それが何でこんな所に居やがる」 「それはとっても悲しい話なの…おねえさまのお父さまは暗殺されて、お母さまも食事に毒を盛られておかしくなっちゃったのね」 ここまでは下手な本の中にもよくある話だ。というより、型に嵌り過ぎてむしろ拍子抜けしたという方が正しい。 「で、それをやったのが、こいつの親父の兄貴か弟ってとこか?」 「その通り!よく分かったのね」 「よくある話じゃあねーか。ま…こんなに近くにいるとは思わなかったが」 王族と聞いても態度は一切変えない。メローネじゃないがタバサの生まれや育ちが何だろうとどーだっていいのである。 「それだけじゃないのね!おねえさま、ずっと昔から北花壇騎士団っていうのに入れられて 危険な任務を与えられてるの…この前だって吸血鬼を退治しろだなんて言われて、死ぬかと思ったのね!」 「シルフィード、それ以上は言わないでいい」 「でも~…」 「……ダメ」 「……分かったのね」 「ヒネたガキだとは思ってたが、そりゃあそういう事やってりゃあそうなるな」 パッショーネの構成員の中にも今のタバサぐらいの年齢のやつは腐るほど居る。 ナランチャやフーゴ、ペッシあたりがそうだ。 だが、シルフィードの言い方からすると、それより遥かに前から任務をこなしていた事が理解できる。 ヒネたガキと言ったが、この場合むしろ汚れ仕事を押し付けられているあたり、よくもまぁこの程度で済んだなと感心したぐらいだ。 「で、汚れ仕事をこなしても報酬は殆ど無くて拒否権も無ぇ。おまけに、少しでも反抗しようとしたらお前か母親が始末されるってとこか」 「それでも復讐しようとして生き延びてきたら、こうなったってわけだ。よくやんぜオメーもよ」 「……知った風に言わないで」 珍しく感情を含んだ声でタバサがそう呟いたが、それこそそういう風に言われる筋合いは無い。 「ガキが誰に物言ってやがる。オメーこそ知った風な口利いてんじゃあねぇ…!」 「組織に良い様に使われるってのは、オレ達が一番よく知ってんだよ 仲間二人見せしめに殺され、それでも何もできずに飼い殺しにされて、やっと掴んだボスの手掛かりを追って反逆したが 戻ってみりゃあ、あいつらもボスもくたばってやがった。オメーはまだいいぜ。復讐する相手がいるんだからな…ッ!」 言い終えると同時に重い音が部屋に響いた。 素手で思いっきり部屋の壁を殴ったのだが、壁から少量の血が流れ落ちている。 ボスはブチャラティ達に倒されたが、落し前は自分の手で付けたかったというのが本音というところか。 自分の知らない所で復讐対象が倒されていた場合、後に残るのは振り下ろす相手の居ない拳と同じだ。 「…ちッ!どうもガラじゃあねーな。物に当たんのはギアッチョの担当だ」 勢いに任せて壁をブッ叩いたが、それでもどうにもならん事ぐらい理解している。 まぁ、素手でカーステレオをブッ壊すギアッチョなら今頃壁はボコボコであるのだが。 「って事だ。その冷めた面見てるとますますオメーがリゾットに見えてきたぜ。 こっちの仕事が片付いたらお前の方も考えといてやるよ。ただし、高いがな」 「考えておく」 「迷うことないのね!おにいさまに手伝ってもらえばすぐ終わるのに」 ……なんだってェェェェ!? 妙に聞き慣れない言語がシルフィードから飛び出たため、タバサとプロシュートの思考が同時に一瞬止まった。 「……おい、てめー今なんつった」 「手伝ってもらえばすぐ終わるって言ったのね」 「違う、その前だ」 「きゅい?おにいさま?」 「それだ。どういうこった、ええ?第一オメー幾つだ。どう見てもタバサより年上だろお前」 兄貴ならともかく、『おにいさま』と呼ばれたのは人生初めてだ。しかも、自分より明らかに長生きしてそうなナマモノにである。 「だっておねえさまの他にお話してもいい人だし、だからそう呼ぶって決めたの」 「わたしは話してもいいとは許可してない」 「きゅい……でも、失敗は前向きに生かさないとダメだと思うのね」 「オメーまでリゾットみたいな事言うんじゃあねぇよ。で、歳は」 「よく覚えてないけど200歳ぐらいだったと思うのね」 「200!?オスマンのジジイと同じでババァじゃねーか!」 「きゅい!?おにいさま酷い!人間と竜は寿命が違うのに!」 人間としての的確な突っ込みにシルフィードが竜として抗議したが、そこにタバサが付け加えてきた。 「竜の200歳は人間で言うと10歳ぐらい」 「……14~5秒ってとこか」 「……なにが?」 人間一人寿命寸前に追い込むのに一秒程度だが、竜相手だとそのぐらいかかるという事だ。 火でも吹いてくれれば別だが、やはり竜は敵に回したくない相手というところだろう。 「オメーがタバサ以上にガキってのは分かったが、もう少しどうにかしろ。気が抜ける」 「嫌なの?それじゃあ…美味しそうな食べ物っていう意味の…『生ハムさん』ってのはどう?」 「それはマジで止めろ」 そのままじゃねーかと言う突っ込みは置いといて、『生ハム』とそのままの意味で呼ばれるのは遠慮願いたい。 ペッシを魚料理、リゾットを雑炊、メローネをメロンと呼ぶようなものと思えばご理解頂けるだろうか。 「それじゃあやっぱりおにいさまなのね」 「……あー、もう好きにしやがれ」 生ハムと呼ばれるより幾分かマシだとしたが、少しばかりペッシとデルフリンガーが懐かしくなってきた。 まぁ、シルフィードの声で兄貴と呼ばれるのもどうかと思わないでもないが とりあえず悪い方向に転んでは無いので少なくとも当面それで妥協する事にした。 プロシュート兄貴――人外の舎弟?二匹目ゲット! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/631.html
「くそ…左腕の『部分』はもう使い物にならねぇな…」 言いつつ左腕を見るが、左手首から肩にかけて完全に焼き焦げ明らかに再起不能である。 …もっとも再起不能なのはスーツであり左腕は当然再起可能だがやはり傷は重い。 左腕の焼き焦げた部分を引き千切る。どのみちもう使えないのだから破った方が早い。 破った下は燦々たるものだ。特に電流が奔った近くは焼き焦げた布に爛れた皮膚がヘバリ付き持っていかれている。Lv3の火傷は伊達じゃなあい! 「兄貴ィ…大丈夫か?」 「…痛そう」 さすがの一人+一振りも心配そうに怪我を見るが、『たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ!』が信条のプロシュートだ。当然この程度で参ったりはしない。 手早く荷物から布を取り出し腕に巻きつけ、さらにその上にタバサが作った氷を当てさらに布を巻く。応急的なものだがやらないよりはマシだ。 だが、やはり直触りを発動したというのに白仮面の男が老化しないというのは納得がいかない。 試しにグレイトフル・デッドでデルフリンガーの刀身を掴み直触りを仕掛けてみる。 「GIYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!NO!兄貴!NO!それで掴まれると老化すんだろォーーーーーー!?」 ズキュン! 「終わった…さよなら…俺の活躍シーン………ってあれ…なんともねぇ」 「生物じゃあないんだから当然か…だとするとあの仮面はどういう事だ…?ゴーレムってわけでもないだろうしな」 「自我を持つゴーレムならいるかもしれねぇが、魔法を使ってきたからにはありゃ確実に人だぜ兄貴」 こればかりは幾ら考えても答えが見付からない。無機物でないなら生物。生物なら老化する。だがあの仮面は老化しなかった。 「…浮いてる」 考えが纏まらずデルフリンガーを掴んだままだがスタンドが見えないタバサが不思議そうにそれを見る。 「これ他のヤツには見えてないのか?」 「少なくともオレの世界じゃあ同じ能力を持つ『スタンド使い』以外は見る事ができないな。物質と一体化してるやつは別だが」 「…兄貴がいた場所はこんな、上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色のヤツばっかか?」 「スタンド使いによって違う。人型、群体、まぁ色々ある。」 だが『上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色』、これを聞いた瞬間タバサの顔色が青くなる。 『雪風』のタバサ:嫌いなもの ― 幽霊 多分見えていたら気絶してる。タバ茶が生産されるかどうかは各人の想像に任せるッ! 「オメーと同じで意思を持つ刀のスタンドってのもあったらしいな。今はどなってるか知らねーが」 もちろん我らがアヌビスの事であり、一説によると折られた刀身を再加工されあるスーパーコックの包丁になっているらしいとか。 顔が青いタバサ尻目にスタンド談義をデルフリンガーにしている間にシルフィードが桟橋の上空に着く。 だが眼前に写るのは一本の大樹。そしてその枝の先にぶら下がるようにして船が係留されていた。 「………ギアッチョがここ来たらキレっぱなしだぜ?おい」 もはや何も言うまい。ここまで来たら何でもアリだとそう思う。 シルフィードが高度を下げるとプロシュートが飛び降り、アルビオン行きの船の場所を適当な船員を探し出し問いただす。 「アルビオンってとこに行く船ってのはどれだ?」 「さっき出港したばか…グェェ!」 そう言われると同時に船員の首を思いっきり掴んでいたッ! 「どういうこった…?朝にならないと出港できねーって聞いたぜ…?」 ギリギリと不幸な船員の首を締め付ける。その手から脱しようともがくが離れない。尋常ならざる力だった。 「…がッ!…貴族…が…風石の分を…補う……と言って…出港が早まった……」 そう聞くと首から手を離す。 「チッ…仕方ねーな」 それだけ確認するとシルフィードの元へ戻る。後ろで船員が悪態を付いてるのは気にしない。 「船はもう出たようだな…。こいつで後を追えるか?」 コクリとタバサが頷き手早くシルフィードに乗り込み上昇する。 ただシルフィードだけなら船を上回る速度は出せるが人が乗っている以上振り落とされない程度の速度で追跡する事になる。船の速度と同程度というとこだ。 そのまま気流に乗りアルビオンへと飛行を開始する。 数時間経過したが何もする事は無い。正直言えば暇だった。 タバサの方はさすがに深夜というだけあり眠そうにしていたが、巡航速度とはいえかなりの速度だ。シルフィードの上で下手に寝れば落ちかねない。 「……落ちねーようにしといてやるから寝てろ。肝心な時に戦力外になられても厄介なだけだ」 暗殺という仕事柄1日や2日の徹夜など別にどうという事は無い。問題なのは暇な事だけだ。グレイトフル・デッドでタバサを支えるが 支えられている方は『上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色』という幽霊にも近いものという認識が頭から離れないらしく若干顔を青くしているが やはり限界点がきているのかそのまま眠り込んだ。 陽光でタバサが目を覚ますが『上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色』の 『グレイトフル・デッドのような幽霊』に追い回されていた夢を見たためまだ顔が青かった。 プロシュートの方は昼食のパン片手に興味深そーに前方に巨大な大陸を見ている。 昨日『何でもアリ』と思ったばかりだが即日撤回だ。さすがにこの巨大な質量が中空に浮いている事には驚嘆せざるをえない。 視界が良好になり前方がよく見渡せるようになっているが、桟橋で見た形の船が一回り大きい黒い船に曳航される形で進んでいるのを見付けた。 「追いついたみたいだが…あの黒い船はなんだ?」 「旗が揚ってない……十中八九『空賊』」 「拿捕されたってわけか。…メンドクセーな。黒い方の上にいけるか?」 タバサが2~3シルフィードに呟くと黒い船の甲板上に相対速度を合わせるように飛行する。 「何かあったらすぐ退いて知らせに行け」 それだけ言うとデルフリンガーを掴み甲板へと飛び降りた。 (広域老化は使えねーな。列車と違って操舵手を老化させれば墜落は確実か。左腕がこの状態だと右手塞いだまま直に拘るのは逆に危険だな) 5分程時間をバイツァ・ダストしてこちら捕虜三人組 空賊船の頭に引き合わされたのだが問答を繰り返しているうちに話が意外な方向に発展していた。 「トリステインの貴族は気ばかりが強くてどうしようもないな……だがそれがいい」 頭がそう言い放ち笑いながら立ち上がる。ルイズ達はこの豹変っぷりに戸惑うだけだ。 「失礼した。名乗らせて頂く。アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官…もっとも本艦『イーグル』号しか存在しない無力な艦隊だが…」 言いながらカツラと眼帯を取り付け髭を剥ぎ堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・デューダーだ」 それを見たルイズは半ば放心している。キュルケに至っては何時もの悪い虫が出たのか口説こうという気持ちが鎌首を擡げているが さすがにこの状況下では空気を読まざるをえない。唯一ワルドのみ興味深そうに皇太子を見据えている。 「その顔だと空賊風情に身をやつしているのか?というところか。敵の補給線を断つのは戦いの基本 それに奪った物資がこちらの補給物資にもなる。空賊を装ったゲリラ活動というところかな」 依然として呆けているルイズに説明するようにウェールズが言うが当のルイズはまだ呆けたように突っ立っている。 「トリステイン王国魔法衛士隊、グフィフォン隊隊長ワルド子爵。アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」 こんな所で目的の人物に会えると思っておらずテンパっていたルイズに変わりワルドがそう言った。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその友人アンハルツ・ツェルプストー嬢にございます」 だが、ルイズが確認の為に預かった水のルビーとウェールズが付けている風のルビーを近付けた虹色の光が振りまかれた時部屋の中に兵士が飛び込んできた。 「し、失礼します!」 「今、大使殿達と大事な話をしているんだが何かあったのか?」 「申し訳ありません!ですが…て、敵襲です!」 それを聞いた瞬間ウェールズの目が鋭くなる。 「敵戦力は?」 「敵兵力は…唯一名であります!」 「一人だと…?余程の手練という事か…!」 敵船に乗り込み一人で白兵戦を仕掛けてくるという事は空賊を相手にした戦い方ではない。撃沈さえすればいいのだ。 一人という事はスクウェアクラスのメイジ。しかも目的は皇太子である我が身の捕縛。瞬時にウェールズはそう判断した。 「大使殿、済まない、敵の目的が私であるかもしれない以上ここが戦場になるかもしれない」 「わたしも薄汚い反乱軍に屈したりいたしません。手伝わせて頂きますわ」 「いいぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ」 「一人で襲撃してくるだなんて随分とナメられたもんじゃない」 それだけ言うとルイズ、ワルド、キュルケが返してもらった杖を握った。 一方こちら甲板に飛び降りたプロシュートだが当然の如く船員から手厚い歓迎を受けていた。 もっとも相手は一般兵であり印の効果が発動しているプロシュートの相手にはならずほぼ一方的に攻撃を与えているのだが。 「兄貴ィ!こいつら止め刺さなくてもいいのか!?」 「再起不能にすれば問題ねぇからなッ!」 右の敵を右手に持ったデルフリンガーで斬りつけ左の敵はグレイトフル・デッドで殴り抜ける。負傷しているとはいえ殴るだけなら問題はない。 船員を老化させ船長室の場所を聞き出す。大抵の集団は頭を押さえればそれでカタが付く。 稀にナンバー2が頭の座を狙い反逆しようとするがそれはそれで問題無い。その場合はナンバー1を解放すれば後は勝手に自壊してくれる。 狭い通路と細い階段を駆け上がり後甲板にある船長室へ向かう。 途中メイジにも遭遇したが通路の細さを利用し船員を盾にしつつ殴り抜け排除する。 船長室とおぼしき扉の近くまで行くがさっき吹っ飛ばしたメイジの一人が部屋の中に駆け込もうとしている。当然それを見逃す程甘くはない。 「逃がしはしないッ!」 その言葉と同時にグレイトフル・デッドで頭を思いっきり掴み、そのままの勢いでドアを蹴破った。 「早い…もう来たみたいだな…!」 時間が経つにつれ騒音と悲鳴が大きくなり当然部屋の中の四人もそれに比例し緊張感が高まる。 敵船に一人で乗り込みそれを打ち破れる程の敵。一般的な価値観からすればそれ相応の手練が相手という事になる。 「…がし……ないッ!」 だがルイズの耳に微かだが声が聞こえた。 そしてその声を聞いた瞬間この間見た夢の内容がフラッシュバックされる。 『そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?』 『もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~』 ディ・モールト嫌な予感がし自分の顔が青ざめていくのが理解できたッ! ドグシャァアアア その音と共にドアが蹴破られルイズ以外の全員が身構えるが次にその場の全員が見た物は――― 右手にデルフリンガーを持ち左腕に布を巻きつけその手にもがいているメイジの頭を無造作に掴んだ御存知プロシュート兄貴だッ! 「オレとしては…手早く見つかったから楽でいいんだが、この場合はどうすりゃあいいんだ?」 若干拍子抜けしたような声でそう言い放つが、ルイズとキュルケは半分放心しているが もちろんそんな事しらないウェールズの方は殺る気満々で杖を構えている。 「貴様…貴族派か!」 状況がどうあれ自分に杖を向けているヤツなら排除対象だ。 そう判断し魔法の詠唱が終えられるまでに距離を詰めグレイトフル・デッドで杖を奪う。 そのまま足を払い、背を取り平伏させ頭を踏みつけつつ頭の先にデルフリンガーの刃を当てながら 「攻撃してくるって事は…敵だなテメー」 『敵か!敵かッ!敵かッ!敵かッ!くらえ!くらえッ!おらっ!おらっ!おらっ!!』と言わんばかりに蹴りを入れようとするが 一瞬早く正気に返ったルイズに止められた。 「で、でで殿下に何やってんのよ!このバカ使い魔ーーーーーーッ!!」 「殿下…?説明しろ。空賊の船に何でそいつが乗ってんだ」 その後プロシュートにこの船が空賊を装った王軍の船であるという事を説明するのに10分 ウェールズにプロシュートが自分の使い魔で主人の乗っている船が空賊に拿捕されたと思いこの船を襲撃したと説明するのに15分 甲板上空で浮いてるタバサを呼ぶのに7分。計32分を要する事になる。 「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔はかなりの使い手のようだな…単身で軍船に乗り込んでくるとは」 苦笑いしつつさっきまで踏まれていた後頭部をさすりながらプロシュートを見る。 「…申し上げありません殿下…ってあんたも謝りなさいよ!」 「知ったことか」 ルイズは土下座せんばかりに頭を下げているがプロシュートの方は意にも介していない。 「君のような猛者が我が親衛隊に10人ばかりいれば、今日のような惨めな戦局になってはいなかっただろうに。してその密書とやらは?」 ルイズが一礼し手紙を手渡すとウェールズが慎重に封を開けそれを読みはじめる。 真剣な顔で手紙を読んでいたウェールズが、そのうちに顔を上げルイズ達に問うようにして聞いてきた。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は…」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表しすと再び視線を手紙に戻すと一文字一文字噛み締めるかのように読み、それを最後の一行まで終えると、微笑んだ。 「了解した。姫の望みは私の望みだ。…だが今すぐ手紙を返したいとこなのだが、今手元にはない。 万が一この船が拿捕されでもして手紙が貴族派に渡っては面倒な事になるからね。多少面倒だがニューカッスルまで御足労願いたい」 雲に紛れるようにして海岸線を進むがその道中、プロシュートがスーツの左腕を失い布を巻いている事に気付いた。 現れると同時にウェールズの頭を踏ん付けていた事にテンパって今まで気付かなかったのだ。 「…どうしたのよ?それ」 「大したこたぁねー」 「あんな大事そうにしてた服を破ったなんて事が大した事ないわけないじゃない。見せなさい!」 プロシュートが舌打ちしながら布を外す。 初期の段階に氷で冷やしていたため水ぶくれこそ起こしていないが手首から肩にかけてミミズ腫れが続いている。 「…どうしたのよこの傷!」 「オレの不始末だ。オメーが気にする事じゃあねぇ」 「『ライトニング・クラウド』か…本来なら命を奪う魔法だが、よく命があったものだな」 傷の正体をワルドが明かすが一つプロシュートに疑念が生まれる。 (こいつ…どうしてオレが食らった魔法の名前が分かった…?雷を生む魔法がそれしかないっつーのなら分かなくもないが) 「…ラ・ロシェールの船に乗るまでワルドはオメーの近くに居たのか?」 小声でワルドに聞こえないようにしてルイズに問う。 「どうだっていいじゃないそんな事。今は傷の手当が先よ…!」 「いいから答えろ」 「…ずっと側に居たわよ。これで満足?満足したなら治療を受けてちょうだい…」 (…考えすぎか。そもそもオレが一階に降りるまでの僅かな時間にゴーレムの肩から酒場まで行けるわけねーしな) ルイズが水のメイジを探す。…が水のメイジは居るには居たがプロシュートが思いっきり吹っ飛ばし行動不能に追い込んだため治療不可である。 したがって本格的治療はニューカッスルに着くまで待たねばならなかった。 プロシュート兄貴 ― スーツ左腕部廃棄 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/814.html
「少年よ、ある種の事柄は死ぬことより恐ろしい…」 闇の底から声が響いていた。 「お前の『肉体』やわたしの『能力』がそれだ………」 闇の一点が蠢き、人の形が現れる。 巨大な男の影、恐るべき力を持った魔人。 「わたしも、おまえも同じだ………」 男の姿が闇に溶け、そして次の瞬間そこには蒼い異形が立っていた。 『 化 物 』 だ ! ! 「……………ッ!!」 育郎が尋常でない勢いで飛び起きる。 「夢か…」 荒い息を整え、右腕の袖を肘辺りまで捲り上げると、そこには爛れた肌が見えた。 青い、そこは人間の肌にはありえない色をしている。 「どうした相棒?」 すぐ傍に立てかけてあった剣、意思を持つ魔剣デルフリンガーが育郎に声をかける。 「デルフ…いや、何でもない」 「そうかい?のわりにはうなされてたぜ、相棒」 服の袖を戻し、目を閉じて先程の夢を思い出す。 「悪い夢さ…」 「ねえルイズ、貴方の使い魔なんか変じゃない?」 ミセス・シュヴルーズの授業中、キュルケがひそひそとルイズに話しかける。 「別に普通じゃない?ていうか、何であんたがそんな事気にするのよ… まさかまだあいつの事狙ってるんじゃないでしょうね?」 「あら、まさか私がそんな簡単に諦めると?」 「なんですっムガ!?」 ルイズの口が、ミセス・シュヴルーズが杖を振って出現させた赤土によって塞がれた。 「ミス・ヴァリエール、授業中に大きな声を出してはいけませんよ。 そもそもむやみに声を張り上げるのは、淑女としても褒められたものではありません」 怒られるルイズを、ニヤニヤしながらキュルケが見る 「淑女失格ですってよ、ミス・ヴァリエール。貴方の胸とおんなじね」 「ムガー!!(なんですってー)」 「ミス・ヴァリエール!」 「ムガ……」 しゅんとするルイズの様子に、教室にどっと笑いがおこる。 「はいはい、みなさん静かに、静かに! ハァ…まったく、少しはミス・ヴァリエールの使い魔を見習いなさい」 その言葉に、何人かが教室の後ろに立っている育郎を『何で平民なんかに?』 という目で見る。 最初の授業の一件以来、ミセス・シュヴルーズは礼儀正しい育郎を気に入り、 このように授業中騒ぎが起こった時には、何かと引き合いに出すのだった。 当の育郎はその騒ぎをよそに、今日の夢の事を考えていた。 「『化物』か…」 夢に出てきた男について考える。 名前も知らない男だったが、忘れることの出来ぬ相手だった。 「………」 授業を受ける魔法使い達を見る。 あるいはあの男がこの世界に生まれていたらどうなっていただろう? 受け入れられ、ごく普通の人生を過ごすこともできただろうか? 周りの使い魔たちを見る。 見慣れた動物もいるが、地球には存在しない異形の生き物もいる。 しかし、それは地球で生まれた育郎から見た話であり、この世界で彼らは、 唯そういう生き物であるというだけだ。 自分が今ここで『あの姿』になったら、この人達は自分をどう見るだろう? 珍しい生き物ぐらいに思うだろうか? だがその『力』を見たら? 「きゅるきゅる」 気付くとキュルケのサラマンダー、フレイムが心配そうな顔でこちらを見ている。 (やめよう…考えても仕方の無い事だ。 あの力を使えばルイズにも迷惑がかかる。使わないに越した事は無い) しゃがみこみ、フレイムの頭をなでてやる。 「ありがとう、大丈夫だから」 「きゅる…」 「ムガ…」 ルイズがミセス・シュヴルーズにばれない様、そっと後ろを振り返ると、育郎が フレイムの頭をなでているのが見えた。 「ムガムガ(なによ、キュルケの使い魔なんかと仲良くして…) ムガムガ(キュルケが変とか言うから、具合が悪いのかと思ったじゃない)」 そう思うと何故か怒りがこみ上げてくる 「ムガムガー!(というかなんで私がそんなこと心配しなきゃいけないのよ!) ムガー!(先生に怒られたし!)」 「ミス・ヴァリエール、授業に集中しなさい!」 「ム、ムガ…(す、すいません…)」 「親父…今何してやがんのかな…」 そのころデルフリンガーは、一人ルイズの部屋に取り残された寂しさからか、 武器屋の親父の事を思い出していた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3433.html
「真・女神転生III」より、人修羅 ゼロの魔人-00 ゼロの魔人-01 ゼロの魔人-02 ゼロの魔人-03
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4484.html
作品名:テイルズオブシンフォニア 召還されたキャラ:ミトス・ユグドラシル ゼロの天使-00 ゼロの天使-01 ゼロの天使-02