約 439,935 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4597.html
~銀河旋風ブライガーより、ブラスターキッド(木戸丈太郎)を召喚~ ゼロの旋風-01 ゼロの旋風-02 ゼロの旋風-03
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1060.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、万全を期していた。 トリステイン魔法学院で二年生に進級する時に行われる『春の使い魔召還の儀』に向けての練習、そしてコンディション。共に完璧。 魔法が使えなくとも、せめて使い魔だけはと言う思考があったのは認めるが、彼女が召還に拘ったのは別の理由がある。 そもそも使い魔とは召喚者。 つまりはメイジのその後の属性を決めるのに重大さを持っている。 確かに、自らのパートナーとしての側面も持ち合わせてはいるが、それは飽くまで二次的なモノ。その証拠に使い魔には代えが利くが、新たに呼び出される者は全て、決定された属性に関係のある生物だからだ。 ルイズは、この属性を決めると言う箇所に望みを掛けていた。 つまり、自らが召還した使い魔の属性を辿れば、自分の魔法の属性を知ることが出来るのでは無いかと。 それ故に、ルイズはこの召喚に失敗する訳にはいかなかった。 「宇宙の果てのどこかを彷徨う私のシモベよ……神聖で美しく、そして強力な使い魔よ、 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに…答えなさいッ!!」 呪文はオリジナルのモノであったが、自分の中にある全ての魔力を注ぎ込んだ呪文は、それに見合っただけの大爆発を起こしてくれたのだった。 「ゲホッ……ゴホッ……」 爆発によって舞い上がった粉塵が、喉に張り付く不快感に咳が出る。 こんなはずじゃない。こんなはずじゃない。 自分は、最高の使い魔を召喚するはずだったのに、なんで爆発が…… 己が『ゼロ』であると再認識させられたルイズは、心の中にあった最後の自尊心すら、自らが放った爆発で粉々に吹き飛ばしてしまい、力なく、その場に座り込んだ。 「あっはっはっ、見ろよ。やっぱり失敗だったんだ」 「所詮、『ゼロ』は『ゼロ』って事よねぇ」 「あ~、これであいつも、ようやく退学になってくれるだなぁ~」 「これで、やっと授業を安全に受けられるよ」 ゲラゲラと耳障りな嘲笑を受けながら、ルイズは空っぽになった心で思っていた。 魔法学校を退学になった自分は、どうなるのだろう。 実家に戻る? あの由緒正しきヴァリエール家に、魔法も使えない自分が? それは我慢ならない。プライドがどうこうでは無い。 そんなものは、先で述べたように砕け散っている。 あるのは、家族に迷惑が掛かるという思いだけだ。 「どうしよう……」 失意の呟きを口に出すが、答えてくれる者はこの場に居ない。 ただ、ゲラゲラと耳障りな笑い声だけが辺りに響く。 何が引き金だったのか、行動を起こしたルイズ自身、分からなかった。 単に堪忍袋の尾が切れただけなのかも知れないし、もしかしたら、ただの気紛れだったのかも知れない。 ともかく、ルイズは思ったのだ。 この喧しい笑い声をしている連中を今すぐ黙らせたいと。 変化は劇的だった。 一際大きな笑い声を上げていた肥え過ぎた生徒の悲鳴が響いたかと思うと、辺りの生徒達もまた、一斉に悲鳴を上げ始めた。 あまりにも煩わしい悲鳴だったので、ルイズはなんとなく顔をそちらへ向けた。 何か、白い何かが生徒の身体を殴りつけている。 その何かは、ルイズがこちらを見ている事に気がついたのか、精肉場に胸を張って持っていける生徒に最後の蹴りを入れ、青草を踏み鳴らしルイズの目の前へと立った。 奇妙な姿だとルイズは思った。 全身が太い白の線と細い黒の線の横縞模様で、その縞模様の間に「G」「△」「C」「T」という形のマークがある。 そして、これが一番の特徴になるのだろうが、頭部に黒いマスクを被っている。 ―――こいつだ 妙な確信がルイズの中で蠢き、契約の呪文を紡がせる。 全ての言葉が自分の口から出終わり、相手の唇に口付けをしようとすると、奇妙な姿の者もルイズが何をしたいのか分かったらしく、膝を折り、中立ちになってルイズの唇を受け入れた。 「あんた……何?」 契約が完了したと同時に、ほぼ無意識の内にルイズの口から言葉が漏れる。 その漏れた言葉に、契約が完了し、左手にルーンを刻まれている奇妙な姿の者は 「ホワイトスネイク―――ソレガ私ノ名ダ」 神託のように深き言葉を紡ぎだした。 「それでコルベール君、被害の方はどの程度に治まったのかのぉ」 厳格な態度と雰囲気を持つ、このトリステイン魔法学校の長であるオールド・オスマンは、冷や汗でただでさえ光を反射する頭皮を、さらに鏡近くまで存在を昇華させている、 コルベールを見ながら厳かに問い質した。 ミス・ロングビルに蹴られながら どうかと思う。 「はい、その、ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔は、召喚されたショックからか、生徒達の中で最も肥満な……失礼、最も体積が大きく目立った、ミスタ・グランドプレを襲って、彼に全治半年の大怪我を負わせました。 幸い、すぐに治療した甲斐もあって、半年が一ヶ月に縮まりましたが、それでも大怪我には変わりありません」 コルベールは必死だった。必死で目の前の光景から目を逸らし続ける。 見たら終わりだ。見たら自分もアレに巻き込まれる。 そんな思いで冷や汗を掻きながらの報告を終えると、丁度良い感じに蹴られ続けたオスマンが立ち上がり、革張りの椅子へ蹴られ続けたお尻を気にしながら座る。 ロングビルも、蹴り飽きたのか自分の仕事へと戻っていた。 「ほ~、中々酷い有様のようじゃったらしいが、ミス・ヴァリエールは『コンタクト・サーヴァント』は済んだのかの?」 「はい。ミスタ・グランドプレを医務室に運んだ後に、私自身が使い魔のルーンを確認しました」 ふむ、とオスマンは一度頷き窓の外へと視線を向ける。 窓の外では、黒い髪のメイドと料理長が雇ってくれと頼み込んできた黒髪の少年が洗濯物を干し、太陽の光を体一杯に浴びていた。 そんな如何にも平和な光景を目にしながら口を開く。 「契約が完了したのならばそれで良い。ミスタ・グランドプレには災難だが、召喚の際の事故は誰にでもある。 このわしでさえ、召喚したての使い魔には色々と苦渋を舐めさせられたものじゃ」 そういって、顔を顰めるオスマンにコルベールは、確かにと同意を口にする。 オスマンの使い魔をコルベールは見た事は無かったが、彼ほどのメイジならばドラゴン並みの魔獣の類を召喚したのだろう。 「では、ミス・ヴァリエールにはお咎め無しと言うことで?」 「うむ」 重厚なオスマンの頷きにコルベールは先程の光景をすっかりと忘れ、では、自分は仕事に戻りますと部屋を出て行った。 オスマンとロングビル。 二人きりになった部屋で、ロングビルが思い出したように呟く。 「先程……」 「んっ?」 何かな、と疑問な顔でロングビルのお尻を撫で回そうと手を伸ばすオスマン。 「召喚したての頃は色々と苦渋を舐めさせられたと言っておりましたが、それは今も変わっていないのでは?」 静かに返答をしながら、伸びてきた腕を思いっきり抓るロングビル。 「何を言っておる」 痛みの所為か涙目になっているオスマンが言葉を返すと、机の一番上の引き出しを開けた。 そこには、彼が楽しみにしていた菓子折りが入ってるはずであったが、 開けた瞬間、彼の目に飛び込んできたのか、白いハツカネズミ。 「なっ、モートソグニル……お主……わしが楽しみにしていた、ゲルマニア産の菓子折りを……」 オスマンは苦渋を舐めたような渋面で、菓子折りの中身をボリボリと食べる使い魔のネズミを見つめるしかなかった。 「う~~~ん」 部屋に戻ってきたルイズは唸っていた。 拙い……拙すぎる。 何が拙いと言うと、先程の自分の醜態である。 召喚の際、爆発が起こり失敗したと思った自分は、一瞬、何もかもが馬鹿らしくなり、全てを投げてしまった。 今になって冷静に考えてみると、一回の失敗であんな風に落ち込むなど自分らしくなく、明らかに普段思い描いている貴族像からも逸脱していた。 さらに痛恨なのが、その落ち込んでいた場面を、あのキュルケに見られてしまった所だ。 (あ~、明日は絶対に弄られるじゃないっ!) キュルケがその豊満な肉体を見せつけながら、自分に対してからかってくる様を想像して、それがあんまりにもリアルだったので、ルイズの唸り声は、一段高くなった。 (それにしても……) とりあえず、キュルケの問題は棚上げにし、ルイズは自分の使い魔となった亜人と思われる生き物を見上げた。 自分のすぐ傍に立っているその亜人は、ホワイトスネイクと名乗り、召喚してからすぐ、マリコルヌを精肉屋に持っていける程にしてしまった。 その様を見たルイズは、胸がスッとしたが、とりあえずあの時は自分の召喚が 成功していたと言う事実の方が頭に浮かび、あまり記憶が残っていない。 それでも、ファーストキスでもある『コンタクト・サーヴァント』をした事は、確りと憶えている。 (あっ、そうか、よくよく考えると、私ってこいつとキスしたんだ……) 人間、何事でも始めての相手には情が移る者である。 ルイズもまさにそのとおり――――――ではなかった。 (こんな……こんな奴が、私のファーストキスだなんて、ぜっっっっっったい、認めないわっ!!) 流石に言葉には出さなかったが、頭を抱えて、う~う~と唸るその様は、傍から見ると不気味以外の何者でもない。 その唸っている自分の本体を余所にホワイトスネイクは、ただ部屋の入り口に立っていた。 ホワイトスネイクは、自分の存在について考えていた。 天国へと行く為の方法によって、ホワイトスネイクと言う存在は、さらなる高みの存在へと昇華し、記憶をDISCとする能力を持った自分は、確かに別の存在になったはずであった。 それが、今はどうだろうか? さらなる高みの存在―――『メイド・イン・ヘヴン』の時の記憶もあれば、世界が『一巡』した新世界における記憶すら今のホワイトスネイクは持っている。 (ドウイウコトナノダ、コレハ……) 自分が、まったく別の存在になった時の記憶も持っている事に、本来ならそのようなモノとは無縁であるはずのホワイトスネイクに、言い知れぬ『不安』と言うものを感じさせていた。 ……感じさせていたが、すぐにその『不安』をホワイトスネイクは忘れた。 『不安』に思う過去など自分には必要無い。何故なら自分はスタンドだ。 自分に必要なものは、本体に絶対服従の忠誠心と能力だけである。 他の事柄など、思考を割くのも無駄である。 そうして、ホワイトスネイクは、自身が何故、存在しているかと言う疑問と、自分と言う存在でない者の記憶が何故あるのかと言う、二つの疑問を無意識のさらに底まで封印した。 これで良い。これで自分は『不安』を持つことは無い。 次にホワイトスネイクは、左手の奇妙な痣の事を考え始めた。 ホワイトスネイクを現す四つのマークではなく、明らかにそれとは違う形をしているこの奇妙な痣。 解析する為に、DISCとして形にしてみると、面白いことが分かってきた。 どうやら、この奇妙な痣は使い魔のルーンと言うらしく、武器を持つことによって自分の上がるものらしい。 さらに言えば、性能を上げるだけでなく、その武器の使い方を瞬時に理解することさえ可能と言う、まさに『兵士』の為のルーン。 (ダガ……私ニハ、不要ノ長物ダナ) ホワイトスネイクの戦闘方法は、まず、敵に触れることにある。 記憶をDISCと出来る自分にとって、相手に触れると言う事は、すでに相手の命を手にしていると同意義なのだ。 その敵に触れる攻撃が一番しやすいのが、徒手空拳。 つまり、素手による殴打である。 確かに、性能の補正は魅力的だが、補正の条件が感情を高ぶらせる事であり、スタンドで、尚且つ冷静と言うよりは、無感動に近い自分には大した補正は乗らないだろう。 以上の事等から、武器などを使うと、逆に自分の戦闘能力は下がってしまうと、ホワイトスネイクは考えた。 そして、最後の問題である現在の自分の本体をホワイトスネイクは見た。 桃色の髪をした幼い少女。 高慢であり自尊心だけが無駄に肥えたこの少女が自分の本体であることに、ホワイトスネイクは特に何の感慨も抱かなかった。 ただ、前の本体のような性能を自分は発揮できないであろうな、と思っていた。 スタンドとは、もう一人の自分である。 肉体的な自分が本体とするのならば、精神的な自分であるスタンドの強さは、本体の精神の強さに依存する。 その点で言うならば、ルイズの精神は、元の本体のような、『絶対の意思』を持っておらず、ただ只管に脆弱であるだけ。 弱くなるのも当然であった。 「ねぇ、ちょっと、あんた」 自分の使い魔に、精神的に弱い奴と思われていることを知らずに、ルイズはホワイトスネイクを呼ぶ。 ようやく、あのキスは契約の為に仕方なくしたものであり、ノーカンであると言う結論に至ったので、ホワイトスネイクに使い魔として役割を言い聞かせることにしたのだ。 「召喚されたばっかのあんたに、使い魔の役割を説明してあげるから、ありがたく思いなさいよ 良い、まず、第一に使い魔は主人と目となり、耳となる能力が与えられるわ」 そこまで言ってから言葉を区切る。理由は些細な好奇心。 ホワイトスネイクの見ている世界は、どんなものなのだろうと思い、意識を集中してみるが……見えない。 「ちょっと! どういうことよ!」 詐欺られた気分だ。本来なら、簡単に使えるはずの使い魔との視聴覚の共有が出来ないなんて。 心の奥底には、自分が『ゼロ』だから出来ないのでは? と言う考えも浮かんでいたが、それは認める事の出来ない原因だ。 なので、使い魔の所為にすると言う暴挙に出たのだが、ホワイトスネイクは冷淡な目で自分を見るだけ。 ルイズはもしかして、こいつも自分の事を見下しているじゃないのかと、段々と疑心暗鬼の思いで心が侵食されるのを感じていたが、その冷淡な目付きのまま、使い魔が口を開く。 「ソンナ『認識』デハ、出来ルコトモ出来ナイ。モット、強ク『認識』スル事ダ。 空気ヲ吸ッテ吐クコトノヨウニ、HPノ鉛筆ヲヘシ折ル事ト同ジヨウニ、自分ナラ、出来テ当然ノコトト思ウノダ」 「わっ、わかってるわよ!」 ホワイトスネイクの説教染みた言葉に、プッツンしそうになるが、なんとか堪えて意識をまた集中させる。 ―――集中 ――――――集中 ―――――――――集中 ――――――――――――っ! 一瞬、ほんの一瞬だが、自分の姿が視えた。 自分より背の高い者から見た、見下ろされた自分の姿。 それが、ホワイトスネイクの見ている風景だと気付いた時、喜びと……怒りが同時に込み上げてきた。 「なんで一瞬なのよっ!」 そう、何故だか一瞬で消えた映像にルイズは怒りを爆発させていた。 もっと、持続できなければ視界を共有しているとは、まったくもって言えない。 「マダ、『認識』ガ足リナイラシイ。モット、時間ヲ掛ケテ、私ヲ、自分デアルト『認識』スレバ、自然ト見エテクル」 悔しいが、使い魔の言う通りだろう。もっと、もっと、時間を掛けなければ、自分は使い魔の視聴覚を感じられない。 しかし、逆に考えて見れば、時間さえ掛ければ自分は使い魔の目と耳を感じられると言う事だ。他のメイジのように。 「まったく、今、出来ないんじゃ意味無いわよ。次よ、次」 さも不機嫌な感じで言葉を口にするが、内心は自分も、ようやくメイジらしいことが出来るようになるかも知れないと、今すぐにも踊りだしそうであった。 「次は、そう、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、秘薬とかね…… と言うか、あんた亜人だけど、秘薬って分かるの?」 秘薬を見つけるのは、主に動物系の使い魔の仕事だ。 見るからに亜人なこいつでは、見つけるのは無理かなと、聞いてみると、予想通りに首を横に振ってきた。 「まぁいいわ。秘薬なんて、どうせ買えば済む話だし…… それより、これが使い魔の役割で一番大切な事なんだけど、使い魔は主人を守る存在なのよ」 マリコルヌをフルボッコにしたホワイトスネイクをルイズは見ていたが、それで満足する程、ルイズの使い魔に対する注文は低くない。 自分の使い魔であるならば、最強、最優。 そうでなければ、自分の使い魔として意味が無い。 「私を守る為の存在のあんたは、強いの?」 「世界ヲ操ル男ガ、私ノ元本体ニ言ッタ言葉ガアル。 ドンナ者ダロウト、人ニハソレゾレノ個性ニアッタ適材適所ガアル。 王ニハ王ノ…… 料理人ニハ料理人ノ……ナ」 「何が言いたいのよ」 「『強イ』『弱イ』ト言ウ概念ハ、ソレ単体デハ存在シナイ。 ソレガ存在スルノハ、比較スル対象ガ居ル場合ニ限ル。 ダガ、私達ニハ、比較スルベキモノガ存在シナイ。 一人、一人、役割ガマッタク違ウノダカラナ」 確かに同じ役割の中でなら強さを測ることは出来る。 しかし、僅かにでも役割が違う者同士で強さを測ることなど不可能なのだ。 スタンドもそれと同じ。 スタンドの能力は、特別な場合を除き、被る事などありえない。 それ故に役割は決して被らず、その為比較すべき対象が存在しないので『強さ』や『弱さ』も存在しないと言いたかったのだが、 ルイズはその真意を汲み取る事など出来ず、訝しげな顔で饒舌な使い魔を見ている。 「そんな小難しいことを聞いてるんじゃなくて、私はあんたがどのくらい強いかを聞いてるのよ!!」 これにはホワイトスネイクも参る。 仕方なく、子供が遊びで話すスタローンとジャン・クロード・バンダムはどっちが強い? と言うレベルで説明するしかないかと思い、窓の外を飛んでいた梟を窓枠に近づいてきた瞬間、恐るべき速さで梟に反応される前に体をがっしりと掴んだ。 「あんた……」 その早業にルイズは驚きで声を上げそうになったが、使い魔の手前、外見上は眉を動かすだけだ。 こいつ……とてつもなく、早い。 これは期待できるかも、と内心の期待からホワイトスネイクを見つめていると――― ―――ぞぶり、と生理的嫌悪の走る、おぞましい音がルイズの耳に届いた。 なるほど、梟の頭に自分の指を突き刺したのか。 いきなりの使い魔の凶行に、ルイズは完全に思考停止し、その様を見つめていたが、きっかり三秒後には再起動を果たす。 「あっ、あんた、何してのよー!!」 寮の窓近くを飛んでいた事から、誰かの使い魔と思われる梟を、自分の使い魔が、何を思ったのか、頭に指を突っ込んで殺してしまった。 そのあまりのショッキングな内容に金切り声をあげるが、ホワイトスネイクは 「―――出来タ」 と謎の言葉を発し、指を刺した時から動かない梟を、 興味を失った玩具を捨てる子供のように、ポイッと気持ちの良いぐらい、あっさりと窓の外に捨てた。 「なっ!」 その行動に驚きの声をあげるルイズであったが、次の光景を目にした瞬間、自分は現実にいるのか心配になってしまった。 頭に指を刺され、死んだはずの梟が、また窓の外を飛んでいるのだ。 「嘘っ……なんで」 死んでなかった? いや、指を刺されてからぴくりとも動かなかったのに……そんなはずは…… 混乱しているルイズを尻目にホワイトスネイクが、片手を窓の外に振ると、梟がそれに気付き、窓枠に留まる。 ホーホー、と良く響く声で一頻り鳴いた後、梟の頭から何かが出てきた。 ピザをもっと平べったくしたような形をした何かが、からんと音を立てて床に落ち、それにあわせ、梟も先程のようにぴくりとも動かなくなる。 ゆっくりとした動作で梟から落ちた円形の何かを拾う自分の使い魔に、ルイズは知らず、ジリジリと後退していた。 それは恐怖か? それとも、驚きからか? どちらにしても、今のルイズには関係無い。 空気を求める金魚のように、彼女はパクパクと口を開けて、ホワイトスネイクを見ることしかできない。 ホワイトスネイクは、そんな自分の本体に見向きもせずに、手の中で梟から抽出した何かを弄んでいる。 「コレハDISCト呼バレルモノダ」 感情の色がまったく込められていないはずのホワイトスネイクの声が何処となく得意げに聞こえるのは、その力が彼の存在理由だからだろうか。 「私ノ能力ハ、生物ノ『記憶』ヲDISCトシテ抜キトル事ガ出来ル」 記憶を抜き取る。 今、自分の目の前にいる使い魔は確かにそう言った。 「……本当に?」 そんなことが出来るのか? いいや、できるはずが無いと否定の考えが頭に浮かぶが、部屋の床に転がった梟の虚ろな瞳を見て、もしや……と疑問が鎌首を擡げる。 もし、仮にこの使い魔の言う事が全て真実であるとするならば、自分はなんてものを召喚してしまったのだろうか。 記憶を抜き取る自分の使い魔の力に、ルイズの身体は震えていた。 それは、恐るべきものを召喚してしまった恐怖か――― それとも、そのような強力な力を持つ者を召喚してしまった喜びか――― ――――――自分の身体だと言うのにルイズ自身、どちらなのか分からなかった。 『風上』のマリコルヌ……全身を乱打され、重症。 クヴァーシル……『記憶』DISCを抜かれ、生きる目的を失い、再起不能 戻る 第二話
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6409.html
「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」からリンクを召喚 ※よく喋るリンクです。御注意下さい。 ゼロの伝説-01 ゼロの伝説-02 ゼロの伝説-03 ゼロの伝説-04
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2687.html
「金色のガッシュ・ベル」のゼオン・ベル ゼロの雷帝-01 ゼロの雷帝-02 ゼロの雷帝-03 ゼロの雷帝-04
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/407.html
「今の魔法は何だ?答えろ」 そう質問した瞬間ルイズが凄まじい目でプロシュートを睨み付ける だが生憎プロシュートにとっては相手が貴族だろうと平民だろうと、例え王女であろうと対応は変わらない。 「ディティクト(探知)マジック…どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね。驚かせてしまったようで申し訳ありませんでした」 「姫殿下、いけません。姫殿下に乱暴を働いた者に頭を下げるなどと…」 アンリエッタがプロシュートに頭を下げるがそれを見たルイズは必死だ。 もっとも当のプロシュートは涼しい顔でそれを受け流す。 「ああ!ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはお友達!お友達じゃないの!」 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」 ルイズが珍しく緊張した声で言ったが、プロシュートはスデに興味なさそーに椅子に座っている。 「やめて!ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!ああ、もう、わたくしには心を許せる おともだちはいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 「姫殿下…」 ルイズが顔を上げ心底嬉しそうな笑顔でアンリエッタを見付めた。 以下、延々と昔話に華が咲く 「クリーム菓子を取り合ってケンカしてルイズが常に勝っていた」だの「ドレスの奪い合いでアンリエッタのボディブローがルイズに決まって気絶した」だの プロシュートにとってはどうでもいい事なので適当に聞き流していた。 「…知り合いか?」 「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くも遊び相手を務めさせていただいたのよ」 また話がアンリエッタの言葉尻に影が含まれている事に気付いた。 「どうかされたのですか姫様…?」 「…結婚するのよ。わたくし」 「……おめでとうございます」 普通なら祝うであろう王女の結婚報告だがその沈んだ声を察っするに政略結婚という事がルイズにも理解できた。 そこにアンリエッタが宇宙最強の台詞である「それがどうした」が頭に浮かんで暇そーに椅子に座ってるプロシュートに気付く。 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?身を挺してあなたを守ってくれたんですもの」 「はい?恋人?あの生き物が?」 その言葉にプロシュートが一瞬反応する。 もしルイズがプロシュート精神の色を知ることができたなら黒に少しだけ赤が混じった事に気付いたであろうが当然それに気付くよしもない。 「姫さま!あれはただの使い魔です!恋人だなんて冗談じゃありません!」 ルイズが首が捩れんばかりにそれを否定する。 「使い魔…?人にしか見えませんが…」 「人です。姫様」 「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」 「好きであれを使い魔にしたわけじゃありません」 憮然としてルイズが返すが、アンリエッタが何回目かのため息を吐いた。 ルイズがその原因を問いただそうとするが思い直したかのようにアンリエッタが話を打ち切ろうとした。 だが、ルイズはそれを振り切るようにしてさらに迫る。 「いけません!昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!わたしをお友達と呼んでくださったのは姫様です。そのお友達に、悩みを話せないのですか…?」 その言葉にアンリエッタが決心したかのように頷いき口を開いた。 「今から話すことは、誰にも話してはなりません」 アンリエッタがプロシュートの方をちらっと見てきた。 「オレの任務は護衛だからな…どんな事であれ話は聞かせてもらう」 「メイジにとって使い魔は一心同体。席を外す理由などありません」 そのまま沈んだ調子で語りだす。 「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」 「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!?」 ハルケギニアの地理に全く詳しくないプロシュートがルイズに問う。 「ゲルマニアってのは何だ?」 「トリステインの北東にある国でお金さえ積めば平民でも貴族になる事ができる野蛮な国よ!」 「そうよ。でも仕方がないの。成り上がりの国とはいえ同盟を結ぶためなのですから…」 アンリエッタがルイズにハルケギニアの政治情勢を説明する。 アルビオンで反乱が起き王室が倒れそうであり、このまま行けば侵攻されるのはトリステインであり それに対抗するための同盟をアルビオンの貴族派が望んでおらずそれを妨げる材料を探している事を だがその説明を聞いているプロシュートの精神はさらに朱に染まっていっている。 大体の事情が飲み込めたのかルイズが顔を蒼白にして問う。 「で、もしかして、姫さまの婚姻をさまたげるような材料が…?」 「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお許しください……」 アンリエッタが顔を両手で覆い床に崩れ落ちた。ルイズは半分混乱しているようだがプロシュートは冷めた目でそれを見ている。 ルイズもそれにつられたのか興奮したようすでそれを問いただす。 「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 要は、アンリエッタが王家のウェールズ皇太子とやらいに宛てた手紙をその皇太子が持っており 皇太子が捕らえられ、その手紙が『ヤバイゲルマニアにIN!』すれば同盟の話が消し飛びトリステイン一国でアルビオンとドンパチやらねばならないという事だ。 「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」 「つまり奪還任務ってわけか…?」 心の奥底に沸き立つ赤い物を隠しながらプロシュートがアンリエッタにそう問いかける。 「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ! 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて 危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、 何処なりと向かいますわ!姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけには参りません!」 ルイズは膝を突き恭しく頭を下げる。 「このわたくしの力になってくれるというの?ルイズ・フランソワーズ!懐かしいお友達!」 熱血少年漫画の如く友情を確認しあう二人だが、プロシュートの方は冷静だ。 「アルビオンに赴きウェールズ皇太子を捜し、手紙を取り戻してくればよいのですね?姫様」 「ええ、そのとおりです。ですが礼儀知らずのあの人たちはかわいそうな王様を捕まえて縛り首にしようとしています! わたくしは思います。この世の全ての人々が、あの愚かな反乱行為を赦してもわたくしと始祖ブリミルは赦しませんわ。ええ、赦しませんとも!」 プロシュート達自身が組織を裏切った。いわば組織に対しての『反乱』である。 国と組織の違いとは言え、やっている事は同じだ。 その事をこの世間知らずもいいとこな姫様に『愚かな行為』と言われ『赦さない』と言われた。 それが致命だった。アンリエッタがそういい終えた瞬間プロシュートの精神が全て真紅に染まった。 だが、いい具合に二人の世界に突入しているルイズとアンリエッタは気付いていない。 「一命にかけても。急ぎなのですか?」 「アルビオンの貴族たちは王党派を国の端にまで追いつめています。敗戦も時間の問題でしょう」 「早速明朝にでも出立いたします!」 そうルイズが返し明朝アルビオンに向かう事になったがアンリエッタがプロシュートの方を見つめた。 「頼もしい使い魔さん。私の大事なお友達をこれからもよろしくお願いしますね」 そう言いながら左手を差し出してきた。 だがプロシュートは射抜くような視線をそれに向けただけだ。 「いけません!姫様!そんな、使い魔にお手をを許すなんて!」 「いいのですよ。この方はわたくしのために働いてくださるのです。忠誠には、報いるところがなければなりません」 プロシュートが無言で近付く。 だが二人は気付いていない。プロシュートがそのような事をする為に近付いたのではないという事にッ!! そのままアンリエッタが差し出した左手の前に立ち… 思いっきりッ!その左手をッ!!『踏みつけたッ!!!』 ルイズはその瞬間何が起きたのか理解できなかった。 いや、理解したくなかった。 大切なお友達と言ったばかりのアンリエッタの手を己の使い魔が踏みつけているのだからッ! 「な、なななな何をするだぁーーーーーーーッ!!」 どこぞの英国紳士が憑依したかのようにルイズが叫んだ。 「…ッあ…!」 左手を思いっきり踏まれているアンリエッタだが叫んでは誰かに気付かれるという事もあり声を出さずなんとか耐えていた。 「あんた…!姫様になんて事を…!こここ、この、この生ハ…」 それを言い終える前にプロシュートと目が合ったがそれを見たルイズの声が出なくなる。 目があった瞬間プロシュートの冷徹かつ明確な殺意を持った視線がルイズを刺し貫いていた。 ほぼ同時刻キュルケの部屋 「……なななな何をするだぁーーーーーーッ!!」 「五月蝿いわね…なに騒いでるのかしら…まさかルイズがダーリンを無理矢理…!?」 勘違いもいいとこだが恋は盲目らしく即座に着替えを済ませ隣のルイズの部屋に飛び込んだキュルケが見たものは―― 床にへたり込んだまま動けないでいるルイズと冷徹な目で立ち尽くすプロシュート、そして…手を思いっきり踏まれているアンリエッタがいた。 「ちょっと…これは一体どういう事…?」 一瞬(SMプレイッ!?)と思ったらしいがプロシュートの目を見たキュルケが後日こう語った。 「あ…あの時のダーリンの目…看守が処刑囚でも見るかのように冷たい残酷な目だったわ…『かわいそうだが明日の朝には首だけになってる運命なんだな』って感じの!」 ルイズがそれに押され黙ったのを見るとアンリエッタに向き直り静かに絶対零度まで冷え切った口調で話し始めた。 「テメーに何が分かる…?分かるのか?ええ?おい… 平民が金を積んで貴族に成り上がるのがそんなに野蛮か…?」 「テメーらみてーに生まれ付いての貴族ってのはいいだろうが… その貴族に雑草みてーに踏み付けられてる平民がなりふり構わず成り上がろうとして何が悪い? 成り上がるためにはそれ相応の事をしている…テメーらみたいに生まれた時から平民を支配して当然と思っている貴族共より余程マシってもんだ…」 「ここに召喚されてから感じた事だがテメーら貴族の中に平民と対等に付き合ったヤツがいんのか…? いねーだろうな…オレ自身、あのマンモーニを殺すまで平民の使い魔と呼ばれ貴族共から人間以下の扱いしか受けてなかったからな…オメーもそうだぜ?ルイズよォ~~」 「言うに事欠いて『反乱』が『愚かな行為』で『赦せない』だと? 分かるのか?テメーに…今まで組織に冷遇され『反乱』せざるをえなかったオレ達チームの心がッ! 命がけで任務を成しても何一つ信頼されず『シマ』すら与えられなかったオレ達の『栄光』を求めた『反乱』の何が赦せないだと?」 「アルビオンの貴族連中がどんな理由で反乱を起こしたのかは知らねぇ… だがテメーが言ってる事は踏みつけられた平民が貴族に対して反乱を起こしてもそれを『愚かな行為』だと言ってるのと同じなんだぜ…?」 自分達が命を賭けて起こした組織への反乱。それをこんな何も知らないようなヤツに否定されたと受け取った。 「テメー自身が撒いた種が原因で『不幸な姫』って言ってるのも気に入らねぇ…奪還任務を依頼するってのはいい… 上に立つものが直接やるわけにもいかねーしな…だがオメーはその任務で人が死ぬかもしれないって事を『覚悟』してんのか?」 「その責任を理解せずルイズやオレが死ぬって事を覚悟してねーんならテメー1人で行くんだな… 少なくともオレ達チームのリーダーはその『覚悟』を持って組織を離反したんだぜ…」 そう言い放ちアンリエッタの左手から足を離し部屋の外に出る前にルイズに言う。 「オメー自身が納得できたんならこの任務を受けろ。オレの任務はオメーの護衛だからな… だがそいつがその『覚悟』と『責任』をまだ理解できてねーなら受けるな」 プロシュートが部屋を出てからしばらくすると放心状態だったルイズとキュルケが手を押さえながら蹲っているアンリエッタに気付いた。 「……はッ!姫様!今すぐ治癒魔法!!」 「…構いません」 「ですが…!」 さっきまでとは違い、毅然とした態度でルイズの目をアンリエッタが見据え改めて奪還を依頼した。 「使い魔…いえ、彼の言うとおりです。わたくしはあなたの同情を買うかのようにこの事を頼んでしまいました。 ですが、今は違います。『覚悟』と『責任』を持ってルイズ…貴方に手紙の奪還を依頼します。」 「もちろんですわ…!姫様!」 「この傷は…あなたが無事に戻ってくるまで治さずにおきます」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール&プロシュート兄貴―ザ・ニュー任務! ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1211.html
「驚いたわねー…」 ルイズの部屋の外にシルフィードが浮かび、その上には例によってキュルケとタバサが乗っている。 どうも、五月蝿かったので様子を覗いていたらしい。 「そりゃあ、貧弱貧弱ゥゥなルイズよ?でも、アレを見ても動揺一つすらしないなんて」 タバサは例によって興味なさそーに本を読んでいる。 まぁ今まで着替えを渋々やらされていたからなのだが、それはキュルケの知らない事である。 「興味が無いってわけじゃないんでしょうけど…さっきもメイドと何か話ししてたし…何だかルイズが可哀想になってきたわね…」 思わず涙が出そうになるが、何かタバサも睨んでいるような気がしたので話題を変える事にした。 「それに、あそこまであたしのアプローチ拒まれると、ついつい気になっちゃうのよね」 今まで、自分の求愛を拒んだ男はいない。それがキュルケの自慢でもあり自信に繋がっている。 まあ、本当はそんなことはないのだが、自分に都合の悪い事はすぐに忘れてしまうのだ。 良く言えばポジティブ。悪く言えば楽観主義者というところか。 「よく考えると彼の事よく知らないのよね。ここに来る前に何をやってたのとか。あまり自分の事を話してくれた事なんてないし」 「彼は」 そんなのでよく惚れたなという視線をタバサが向けていたが、今まで黙ってそれを聞いていたタバサが口を開く。 「少なくとも仲間のためなら命を賭けれる人。そして、その精神力は非常に高い」 アルビオンでの事を思い出す。半覚醒のデルフリンガーである程度流したとはいえ『ライトニング・クラウド』を受けて意識を保ち その後も、偽装していた空賊船に一人で乗り込み、ニューッカスル城での脱出時は、大量に血を流している状態から能力を保ち続け、ルイズを運んだ。 常人ならあの傷を負った時点で気絶していてもおかしくはない。そして止血のため赤熱した剣を傷口に刺すというあの行為。 5秒。その時間は本来なら短い。だが、激痛などが襲っている時の5秒は精神的に数倍の時間を要する。 結局は気を失ったのだが、剣を引き抜くまで意識を保っていた事にタバサは驚いたものだ。 「成し遂げなければならない目的があるはず。だから多分…無駄」 自分と同種の人間だという事は少なからず感じ取っている。 これは知らない事だが、プロシュートがイタリアに戻り、仲間達が栄光を掴んでいる姿を見届けるか、そうでなければボスにその報いを受けさせるという事と タバサが母を守り叔父―ジョゼフに、母をあんな風にした報いを受けさせる事。 行動原理としては、ほぼ同一に近い。 もっとも、はしばみ草の事は予想外だったが。 「分かってないわねタバサ。無駄、無理なんていうのは聞き飽きたし、あたしの辞書にそんな言葉は無いのよ?」 これだ。と溜息を吐きつつも、やはりこの友人が好きだった。自分には出来ない考え方ができ、それを実践できるキュルケが。 「なんにしても少し作戦練らないと駄目ね。手堅くプレゼントってのがいいんだろうけど…何かこうインパクトのあるやつでないと」 う~ん、と唸って考えるがどれも今一しっくりこない。 さらに考えるがさっきタバサが言った『少なくとも仲間のためなら命を賭けれる人』というのを思い出して頭の上に豆電球が出現した気になり手を叩いた。 「…そうよ!冒険ね…!冒険の中、あたしがピンチの時、颯爽と彼が命懸けであたしを助けてくれ…そしてそのまま…」 熱の流法に突入したご様子のキュルケさんをタバサが『巻き込まれるんだろうな』という目で見ているが気にしない。 「冒険に付き物といえばやっぱり財宝とかよね、それに地図とかも必要だし…準備するわよタバサ!」 「了解」 しゃーんなろーと叫ばんばかりに拳を天に突き上げるキュルケから目を離し本に目を戻していたが内心興味はあった。 先住魔法とも系統魔法とも違うあの力が。 老化は役に立たないが、プロシュートの居た場所には違う能力。『スタンド』と呼ばれる力には治す力というのもあるかもしれない。 毒を盛られ精神が崩壊してしまった母を治す為の手掛かりは大いにこしたことはない。だから半分呆れながらも了承の答えを出した。 2日程経過してやっとこさルイズを引き篭もり状態から連れ出したのだが、色々な条件を付けられた。 勝手に行動しないだの、マンモーニと呼ばないだの、レッスン4『敬意を表せ』だの。 面倒なのでまぁ一応は了承したのだが、初めて扱うタイプなので結構戸惑っていたりする。 「やれやれ…ペッシやギアッチョとは違った意味で手の掛かるヤツだな。…リゾットに昔、従妹がいたって聞いたが…あいつもこんな感じだったのか…?」 空を見上げるとチーム一の苦労人が特徴のある目でこちらを見ているような気がした。 昼飯を食っている時にキュルケが寄ってきていつもの事だと思いつつ続けていると 「貴族になりたくない?」 と聞いてきて思わず噎せかけた。 「別に貴族って名前には興味ねーな」 名ばかりの称号に興味など無い。それはパッショーネで十分経験済みだ。 求めるのは実利と栄光のみ。だからボスを殺し麻薬ルートを押さえようとした。 「キュルケ、平民のプロシュートが貴族になれるわけないじゃないの」 「トリステインならそうだけど、ゲルマニアなら話は別よ? お金と能力さえあれば誰であろうと土地を買って貴族の姓を名乗れるし、公職の権利を買ったり、中隊長や徴税官になることだってできるのよ」 「だからゲルマニアは野蛮――」 ルイズがそこまで言いかけたが慌てて口を閉じた。 アンリエッタが手紙の奪還を依頼してきた日の事を思い出したからだ。 あの時のプロシュートの怒りゲージは尋常じゃなかった。 あの殺意を含んだ視線で本気でヤバイと思い何もすることができなかったぐらいだ。 「?、まぁいいわ、とにかくゲルマニアじゃ実力さえあれば平民でも貴族になれるの」 「金のアテが無いな。ツテもねぇしコネも無い」 「フフ~ン、だからこれからそれを捜しに行くんじゃない」 バッっとキュルケがその場に羊皮紙の束を広げた。 「…なんだこいつは?」 その紙の束を見つめるが、地図らしきものが描いてある。 「何って宝の地図に決まってるじゃない。財宝を見つけてそれを売ってお金にして貴族の地位を買う。そうすれば好きなことができるわよ?」 「随分とまたウサンクセーな」 「あら、そりゃあ殆どがクズかもしれないけど、中には本物もあるかもしれなじゃない!『栄光』を掴むには徹底的にやらなくちゃあダメなんじゃないかしら」 暗殺者というだけあって現実主義者であり、宝の地図などというものにはあまり食い付かないのだが 列車で亀に隠れたブチャラティを探し出すために列車全体をスタンド攻撃に巻き込んだ事があるだけに、徹底的にやるという所には納得できるとこはあった。 「徹底的にか。…まぁ帰る為の手掛かりも見付かるかもしれねーしな。破壊の杖みたいなものがあるかもしれないからやる価値はあるが…」 視線をルイズの方に移す。一応条件を付けられているだけあって単独行動をするわけにはいかない。 う~~、とルイズが唸っている。手掛かりが見付かればイタリアに帰ってしまうかもしれないというのが迷いの原因だ。 数分唸っていたが 「…分かったわ。その代わり勝手なことしないでよね。あと……こ、この前の事…ちゃ、ちゃんと、あ、謝りなさい」 (こいつは、まだ気にしてんのか…) この前まで、着替えやらされていたせいなのだが、トドメを刺したのはデルフリンガーだ。 視線をそっちに向けると一瞬だがビクッ!とデルフリンガーが震えたような気がする。 まぁ高濃度の沸騰した塩水が入った鍋の上にデルフリンガーをロープで釣り上げ そのロープをロウソクで焼き切れるかどうかの微妙な位置に置き拷問ダンスをやっていたからなのだが。 ともかく、クラッカーの歯クソ程にも悪いとは思っていないが、色々と厄介なので折れる事にした。 その時、『泣く子は餅を一つ多く貰える』という某民族の諺が思い浮かんだのだが気にしない事に決めた。 「…悪かったな」 「それだけ?」 少しイラっときて説教しそうになるが、こらえた。この世界に来てからそっち方面に関して結構忍耐強くなったとそう思う。 というか、イタリアと同じ感覚で説教してたら色々と持ちそうに無い。主に声帯とかが。 「悪・か・っ・た・な!」 ルイズの頭に手を置きぐ~りぐ~りとイジり倒す。無論強めにだ。 「や、やめ…ていうか子ども扱いするなぁ~~~~~!!」 頭を押さえつけられもがいているルイズとほんの少しだが薄く笑っているような顔のプロシュートを見てのキュルケの感想は 「仲良さそうでいいんだけど、こうして見てるとなんか兄妹みたいよね~」 そして、黙ってみてたタバサが 「似てる」 と言うと、二人が同時に口を開き 「「一緒にすんな(しないで!)」」 と見事に声がハモった。 ギャーギャー五月蝿いルイズを黙らせるとキュルケに手筈の確認を取る。 「で、何時やるんだ?」 「やると思ったらその時スデに行動は終わっている。つまり今からよ!」 凄まじく馴染みのある言葉を聞いた気がするのだが、そこにシエスタが割り込んできた。 「わ、わたしも連れてってください!」 「ダメよ。平民なんか連れて行ったら、足手まといじゃない」 「バカにしないでください!わ、わたし、こう見えても……」 シエスタは、拳を握り締め、わなわなと震えた。 何か超スゴイ能力を持っているのかもしれないという視線がシエスタに集まる。 「料理ができるんです!」 「そりゃあな」 「「「知ってる!」」」 全員が突っ込むが、むしろ自信を持ってシエスタが答えた。 「でも! でもでも、食事は大事ですよ? 宝探しって、野宿したりするんでしょう? 保存食料だけじゃ、物足りないに決まってます。わたしがいれば、どこでもいつでも美味しいお料理を提供できますわ」 はしばみ草を食べられる味覚のプロシュートとタバサを除いた二人は根っからの貴族であり不味い食事などに耐えられそうに無い。 シエスタ、キュルケ、ルイズがまだ何か言っているようだがプロシュートは一人で考え事をしていた。 (金はある事にこしたこたぁねぇがチームの運用関連はリゾットに任せっきりだったからな…) 帰るために、情報を集めねばならない。そうなれば必要になるのは金だ。 ルイズもまぁ手を貸してくれるかもしれないが、そうするとさらに借りを作る事になり堂々巡りになる。 (あいつは、経営者やっても結構巧くやるかもしれないな) こうして考えると、暗殺チームがリゾットの手腕によって維持されていたというのがよく分かる。 「仕事はどうするのよ?勝手に休んでいいの?」 「マルトーさんに『プロシュートさんのお手伝いをする』って言えば、いつでもお暇は頂けますわ」 どうも何か少しばかり勘違いしているマルトーの事だろうから多分そうなるのだろうが。 「分かったわ。勝手にしなさい。でも、言っておくけど、危険よ? 廃墟は遺跡や森、洞窟には危険な敵がたくさん居るんだから」 「へ、平気です! プロシュートさんが守ってくれるもの!」 そういって、シエスタがプロシュートの腕を掴んだのだが、ルイズの方は腕に当てられた双球をジト目で見ている。 「だから、守る事に適した能力じゃあない」 「…そういえば、グレイトフル・デッドだっけ?あれって一体なんなの?」 「まだ、デルフにしか話してなかったな。…まぁそのうち説明してやる」 タバサもしっかり聞いていたりするのだが、直接説明したのはデルフリンガーだけだ。 キュルケ、ルイズは今、説明して欲しそうな顔をしていたが、この場合プロシュートがそのうち話すと言っているので今は聞き出す事は不可能だろうという結論に達し 納得はいってない様子だったが、頷くと、一同を見回し、高らかに宣言した。 「それじゃあ準備して、いやむしろ準備した!なら使ってもいいわ!」 『それ』は消去されたはずの存在だった。 だが、ほんの一部が完全に消去される前に、何の因果かこの地に流れ着いた。 『それ』は最初は、ほぼ無意識に動いていた。 ただ、己を維持するためだけに。 少しづつ、少しづつ、栄養を得ると、ほんの少しだが『成長』した。 『成長』するにつれ、本能がさらに栄養を求めた。 求めるにつれ、『飲む量』も増えていった。 一先ずだが本能が満たされると何かを思い出そうとする。 完全ではない。体も本来の2/3程度だし思考能力や記憶も断片的なものしか無い。 「……『ここ』…いっ……ど……すか?」 誰かに問うが、その誰かすら思い出せない。 もちろん、その誰かからは返事は無い。 「…ど…し……たか?……ー…」 しばらく経っても何も無いので『それ』はその場所を動く事にした。 「NGUUUUUUUIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」 オーク鬼―好物が人間の子供という豚の頭を持った醜悪な生物が奇声を上げ叫ぶ。 自分達の縄張りに火の跡。つまり敵であり、餌がいるという事だ。 十数匹のオーク鬼が建物から飛び出てくるが、めいめいに奇声を上げ猛る。 「ポルポを2周りぐらい小さくすりゃあ、あんな感じになるか?」 「兄貴のとこにもオーク鬼って居るんだな」 「いや、ポルポは一応人間だぜ」 「それで人間ってオーク王間違いだろ?」 「……可能性はあるな」 プロシュートとデルフリンガーが軽口を叩くが、他の三人(シエスタは退避)はオーク鬼相手という事で結構緊張している。 「なんであんなに余裕あるのかしらねー。まぁそこが頼もしいとこなんだけど」 キュルケが木の上から、一人と一振りを見ているが、オーク鬼が集まっている中心点から爆発が起こった。 「PUGIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 オーク鬼が2~3匹吹っ飛ぶが、厚い皮下脂肪と皮に阻まれ致命傷になっていない。 続けて爆破しようとするが、後ろから無数の氷柱が飛来し、負傷しているオーク鬼に突き刺さった。 タバサの得意呪文『ウィンディ・アイシクル』がオーク鬼にトドメを刺し、それに続いてキュルケが『フレイム・ボール』でもう一匹の頭を焼き尽くした。 「こ、この!」 タバサとキュルケは強力な呪文を連射する事はできないが、ルイズの爆発は別だ。例えスクウェアクラスの呪文だろうとコモンマジックだろうと同じ爆発を引き起こす。 「AGIIIIIIIII!!」 オーク鬼達はメイジとの戦いが一瞬で決まる事を熟知している。斃された仲間は二匹だったが…この爆発の数は異常だ。 さっきの攻撃と合わせても十数人の数のメイジと誤認しても無理のない事だった。 数が同じ程度ならメイジを相手にするのは不利だ。そう思ったのか一匹のオーク鬼が逃げる。 その逃げ出した先に右手に剣を持った男が逃げ道を塞ぐように現れた。 メイジならヤバイが剣を持っているという事は戦士だ。 訓練を受けた人間の手練の戦士の五人分に相当すると言われているオーク鬼からすれば、鎧袖一触の存在であり一瞬でカタが付く。 人間大の大きさの棍棒を男に向かい振るうが当たる手前で何かに止められた。 「パワーだけは…まぁBってとこか。人外に広域老化がどれだけ効くかどうか分からなかったが、その脂肪で燃焼してるだろうから内側からよく効くだろうよ」 「豚だな、豚」 何かに掴まれている棍棒を振り解こうとするが、力が入らない事に気付いた時はもうスデに地に崩れ落ち天寿を全うするハメになった。 老死したオーク鬼を一瞥すると首から頭蓋骨の首飾りをしているのを見つけた。 獣特有の悪臭が鼻をつくがそれを見ても別段、特別な感情はしない。 生きるために殺すという事に、暗殺稼業で生き延びてきた自分がどうして怒りなどという感情を持てようか。 いや、むしろ報酬などの俗なものが無いだけ、オーク鬼の方がまだマシかもしれない。 「……どっちが化物だかな」 「なんか言ったか?」 「いや…それより残りを始末するぞ」 残り12匹が固まってこちらに向かってくるが、老化が人間と同じように通用する以上、遠慮する必要は無い。 「グレイトフル・デッド!」 メイジの群れ(オーク鬼はそう思っている)から逃げ出してきたオーク鬼がこちらを何の感情も持たない視線で見据えているプロシュートに気付くと本能でヤバイと感じた。 ただの人間に負けるはずはないという気はあるが、本能がヤバイと告げている。 それが何か分からないが、どう足掻いても逃れられないものだという事は本能で理解した。 だが、経験と常識でそれを無視し、叫び声を上げながら襲い掛かったのだが、敵の動きが妙に早い事に気付く。 4匹が首を落された時点でようやく気付いた。敵が早いのではない。自分達が遅くなったのだと。 最後の一匹になり、周りの死体を見た瞬間さっき感じた逃れられないものの正体を悟った。 それが、生物全てが逃れられない『老い』であるという事を。 プロシュート一人でオーク鬼12匹を三分で始末したのだが、対生物相手の集団戦闘こそグレイトフル・デッドの真骨頂だ。 体温を下げられない限り何匹居ようと、それが変わるわけではない。 「相変わらず、無茶苦茶な魔法ね…」 「魔法じゃあねぇ。まぁついでだ、一息ついたら説明してやる」 シルフィードも上空から降りてくるが、フレイムは体温の下げようがないので広域老化に巻き込まれたら、それこそ即死しかねないので自宅待機だ。合唱 もちろん、射程範囲内の全員は氷を持っている。キュルケの場合、『フレイム・ボール』使っただけちょっと危なかったのだが、その分氷を多めに持っていた。 「さすがダーリン!一人でオーク鬼を12匹も倒しちゃうなんて!」 「凄いです!あのオーク鬼たちを一瞬で!プロシュートさん凄いですっ!」 木から下りてきたキュルケと物陰に隠れていたシエスタがプロシュートに同時に抱きつくが、ルイズはそれを見て、む゛~~、と唸っている。 タバサは老死したオークを杖で突いたりしていた。ラ・ロシェールの酒場でも見たがあの時はゴタゴタがあってよく確認する暇が無かった。 (やっぱり、老化してる…これがスタンド) 驚くと同時に少し恐怖する。先住魔法でも系統魔法でもない、ある意味『死』を司るような『虚無』でもできるかどうか分からない力が。 プロシュートが居た場所には、こんな使い手がゴロゴロいるという事だ。 だが、それだけ期待値が高いということでもある。 「さて、この寺院の中の祭壇の下にはチェストが隠されてて その中には司祭が寺院を放棄して逃げ出す前に隠した、金銀財宝と伝説の秘法『ブリーンシンガメル』があるって話よ」 「ブリーンシンガメルってなによ?」 「黄金でできた首飾りで、『炎の黄金』で作られているらしいのよ。聞くだけでグッくるわね!」 キュルケが興奮気味に喚きたてるが、冷静組みの二人と一振りは醒めた目でそれを見ている。 「兄貴はどう思う?」 「…あるわけねーな。逃げる時隠す余裕があんなら持って行くだろ。大体なんで数十年前程度に逃げて放棄したもんに地図があんだよ」 「はしばみ草を賭けてもいい」 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/946.html
かつての名城と謳われていたニューカッスル城だが今現在は限りなく無残なものだった。 城壁は崩れ去り死体がそこら中に転がっている。 一方からしか攻撃できないという地形的要因もあり密集隊形のレコン・キスタ軍に魔法と大砲の一点集中砲火が加えられ莫大な被害を出した。 だが、先陣がそれを突破し兵が城の中に雪崩れ込んでしばらくすると異変が起きた。 城に突入した先陣の兵のほとんどが帰ってこなかったのである。 何名か帰還してきてから最突撃を慣行したものの、士気はガタ落ちで傭兵達は進もうとしなかった。 それでも、貴族の直属部隊が突入したのだが城の中の光景は常軌を逸していた。 敵味方を問わず全ての生き物が枯れ木のように朽ち果てている光景を見て誰が驚かずにいられようか。 本来、落城した城で見られる財宝漁りや死体からの戦利品の収拾は全く行われていない。 呪い、先住魔法、などと騒がれそんな気になれないでいた。 老化に巻き込まれ運よく生き残った兵士達は口を揃えて『全ての物が朽ち果てていく様子は悪夢を見ているようだった』と答え その日からニューカッスル城は『名城』から『死城』と名を変え、その攻城戦は『ニューカッスルの悪夢』と永劫に語り継がれる事となった。 (しょ…~~~~がねぇ…ァ~…) (最後の…を振り…ぼれぇぇぇぇ…) (ひっかか…やがっ…なッ…ザマぁ…やがれ…ェーーッ…) (おれ…ベイ…ィ・フェ…スの残…をひ…いい…いいッ…) (なん…って…エ…エェェ…ェェ…) (ひと…では…死…ねえっ…) ……… ……………… ……………………………… 「…ってぇ…」 何時もとは比べ物にならないぐらい力ない声でそう呟き身を起こす。 思考が重い。手で額を押さえる。 また、あの夢を見たのだが…今回は違っていた。 仲間の最期の声が聞こえ、それがより夢のリアリティさを上げていた。 ここに着てからこれだけ時間が経過しているのだ。いい加減それがどういう事か認めざるをえなかった。 (あいつらのこった…ボスを倒してるか…全滅してるかのどっちかしかねぇな…) 残りの仲間はペッシ、メローネ、ギアッチョ、リゾットの四人。全員がそれ相応の戦闘能力を持っているがブチャラティ達の能力と覚悟も侮れない。 それは直接ブチャラティと戦った自分が一番よく知っている。 (あいつらがボスを倒してたとしても今更このオレがどの面下げて会えるってんだ?ええ?おい?) 深く息を吐き出した結論は一つだった。 「ったく………戻れるわけねーな」 あいつらなら受け入れてくれるだろうが…自分自身がそれを享受できないであろう事は誰よりもよく知っている。 珍しく思考が弱気になり、視線を宙に向けると扉が開きシエスタが入ってくるが身を起こしているプロシュートを見るなり一気に泣き顔になった。 「……よか…ったぁ…ほん…とに」 このギャング実にこの様な場面に遭遇した事が無い。寝込みを襲われた事は腐る程あるが起きてすぐ人に泣かれた事など全く無い。 いや、起きてすぐ説教かましてペッシを半泣きにさせた事はあるが、少なくとも何もしてないのに泣かれた事は無い。 どう対処していいか分からずに思わずグレイトフル・デッドを発現させるが、意味ねー事に気付き頭を掻いた。 「……オメーが居るって事は場所は学院か。……何日だ?」 この体のだるさからみて結構日数が経っているのだろうと首をコキャっと鳴らしながら予測を付ける。 「ふぇ…7日も…目が覚めなかったんですよぉ…」 「7日だと?頭がイテーわけだ…」 (傷もあるがそれに加えてグレイトフル・デッドを限界まで使ったのもあるな…) 「血まみれのプロシュートさんを見た時…死んでしまったのかと思ってましたよぉ…」 このギャング説教はAだがこの手の対処能力はブッチギリでEである。 (こういうのはメローネ担当なんだがな…) 半分顔を引きつらせながら相槌を打つがグレイトフル・デッドをフルパワーで使った時以上に精神力を使っている。 「いいからちったぁ落ち着け…死んでねーんだから泣くこたぁねーだろうがよ…」 「で、でも…」 まだ泣いているシエスタを見て一瞬、説教という選択肢が頭に浮かんだがさすがに自分の身を案じているカタギの女の子に説教かます程空気が読めないわけではない。 まぁそれでも相手に非があれば誰であろうと一切容赦しないのがプロシュートのプロシュートたる由縁なのだが。 「あーもう、泣くな。こっちまで気が滅入る」 ボフッっとシエスタの頭に手を置いてワシャワシャと弄くりたおす。 「え…!いや…あの…その…すいません…」 泣き顔から一気に顔を赤くさせしどろもどろに何とか答える。 (他人から心配されるか…今までんな事は無かったが…まぁ悪くはねーな) 「…そういやルイズはどうしてる?あいつも気絶してたはずだが」 「ミス・ヴァリエールの怪我は軽症でしたので治療を済ませた後、ずっとプロシュートさんの看病をしてらっしゃったんですよ」 その言葉に思わず眉を上げる。 「治癒の呪文の秘薬の代金もミス・ヴァリエールが出してくれたので心配しなくても大丈夫ですよ」 こちらの貨幣価値はまだよく分からないが秘薬というからにはそれ相応の値がするという事だ。 「…また借りができたな」 「?何か言いましたか?」 「いや、こっちの事だ」 そう言いながらベッドから起き上がり立とうとするがそれをシエスタが慌てて止めようとする。 「ま、まだ無理ですよ!あれだけ血を流してたんですから!」 手を握り力を入れる。少し力が入らないが問題ない範囲とし立とうとするが、重大な事に気付いた。 「……ヤバイな。着るもんがねー」 至るところが破れ血に塗れていたスーツを思い浮かべる。誰がどう見ても再起不能だろう。 「それでしたらミス・ヴァリエールからこれを預かってるのですが……本当に大丈夫なんですか…?」 そう言って渡された物は例によってここの教員用の服だった。さすがに生徒用のは無理があるのでルイズがコッパゲに頭下げて借り受けてきたらしい。 「無いよりかマシってとこだな…」 若干不満気に袖を通すが、贅沢は言ってられない。ちなみにメイジではないためマントは付いていない。まぁ付いていたとしても付けないであろうが。 着替えを終えたプロシュートを見たシエスタだが、妙に教師姿が似合っているプロシュートを見て目を丸くしていた。 プロシュート兄貴―ギャング界において最も教師が似合う男 担当教科『国語』 教える物『栄光のつかみ方』 多分、世界が一巡したら教師やってる。いや絶対。 「…似合って…ますね」 一瞬、黒板をバックに貴族のマンモーニ連中を説教しながら授業している己の姿を思い浮かべて胃が痛くなった。 「冗談じゃあねー…マンモーニは一人で十分だ」 「でも、ふふ…本当に良く似合ってますよ」 ようやく笑ったシエスタを見るが、笑われてるだけなのも何なので少しイジっておく事を心に決めた。 「…まぁいい。世話になったみてーだから何かあれば言ってくれて構わねーぜ」 そういいながらまたボフッっとシエスタの頭に手を置きイジる。 傍から見ればまぁ微笑ましい光景であろうが、やられている当人はオーバーヒート寸前というところである。 「ひゃ…!いえ…わ、わたしなんかなにも…してませんし…」 十二分にテンパっているのを確認すると『計画どうり』という幻聴が聞こえたが、まぁそれを無視して部屋を出た。 (ああ…それにしても……金が欲しい…!!) のっけからどこぞのアゴが妙に尖った博徒のような思考を張り巡らせているのは我らがルイズだ。 (なんで、たかが服なのにあそこまでするのよぉ~~~!) 起きる前に再起不能になったスーツの代わりを新調しそれを渡して思いっきり恩を売り掃除、洗濯等の雑用も押し付けるつもりだったのだが… 高かった。異様なまでに高かった。 見たことも無い素材。そして技法。それに加えて他の注文を押しのけて最優先で同じ物を作る。 職人総出の徹夜作業が続き、なおかつ他の顧客への迷惑料も換算するとえらい額になり 試作10号にしてやっとこさほぼ同じ物が完成したのだが、今朝届いた請求書を見てブッ飛んだ。 普段なら払えない額ではないだろうが プロシュートの秘薬の代金。キュルケとの意地の張り合いの結果自腹出したデルフリンガーの代金。あの時飲みつくした酒の補充代で金が無かった。 ルイズ財政破綻一歩手前というところである。 『ぐにゃ~~』という音と共になんか周りが歪んで泣きそうになった所に後ろから声がかかった。 「よ」 「わひゃあ!」 「…お前は、驚く事しかできねーのか?」 「うう、後ろから急に声かけられたら驚くに決まってるじゃない!」 「ちったぁマシになったと思ったが…まだまだマンモーニだな」 「そんな事言うためだけにわたしを驚かしたんじゃないでしょうね…?」 あの土壇場で自分を信頼していてくれていたが、もう評価を落されたんじゃあないかと少し不安になった。 「ああ、秘薬ってやつの代金だしてくれてたみてーだな…一応礼は言っておく」 「あ、あんたはわたしの使い魔なんだから当然じゃない!…って一応ってなによ一応って!」 「オメーの爆発の分も怪我に入ってんだからな」 「な、なななによそれぇーーーー!あんたがやれって言ったんじゃない!」 表情に出さず心で薄く笑いながらそれに返答する。 「…冗談だ。まぁあの場面でよくやった方だな」 「ふ、ふん!わたしは貴族なんだから当然よ!」 シエスタと同じように頭に手乗せてイジってやろうと思ったがコイツの場合面倒になりそうだと思い止め、寝ている間に何かあったかを聞き出す事にした。 (そーいや抜き取った宝石の事も忘れてたが…まぁそっちは今は言わなくてもいいな。) 「ウェールズから姫さんに伝言頼まれてたんだが…言いそびれたな。どうだった?」 「……姫様は殿下に亡命を勧めてられてたわ ……気丈に振舞ってたけど姫様の悲しみは深かったわ。…やっぱり殿下を気絶させてでも連れ帰った方がよかっわぎゃ!」 ショボーンと俯いているルイズの頭を叩くと寝起きの説教が開始された。ただしプロシュートも寝起きはかなりの低血圧のためその温度は低いが。 「てめーでやった事を後悔するんじゃあねぇ…この際ハッキリと言っておくが 『ブッ殺すと心の中で思ったならその時スデに行動は終わっている』ってのは生半可な覚悟で『ブッ殺す』と思うなって事なんだからな…」 暗殺チームは別に趣味で殺しをやっているわけではない。 生きるために仕事でやっているからこそ相手を殺すと思うという事は、己の身にそれ相応の覚悟と責任が圧し掛かるという事だ。 「分かってるわよ…というかその考え方どうにかならない?心臓に物凄い悪いんだけど」 「ならねー」 「……はぁ…まぁ…いいわ。期待してなかったし…朝ごはん行くわよ」 その相変わらずの即答ぶりに肩を落すルイズを先頭に食堂に向かった。 意外かもしれないがプロシュートが朝食事時に食堂に入るのはこれが初めてである。 前述のとおりかなりの低血圧に加え元々朝食は摂らない方なので外で待機しているかそこらへんをうろついているかのどっちかだったが 今回は7日間ぶっ続けで寝ていたのでさすがに何かを食う気になっていた。だが… 「…なんだこいつは?」 「なにって…朝食だけど?」 例によって無駄に豪華である。ヘヴィと言っても過言では無い。 「今日から皆と同じ物食べていいわ。べ、別にこの前助けてくれたからってわけじゃな「重い」だから…って、ええ?」 「重い。朝からずっとこれだったのか?…ポルポみてーになんぞ?オメー…」 仲間内ではポルポとプロシュートの食事量を足して2で割れば丁度良いんじゃあないかと言われているぐらいだ。 ルイズのポルポって誰よ?の疑問にポルポの特徴を挙げていく 「まぁ部屋から出れねーぐらいの豚だ。オレも初めて見た時はベッドかと思ったぜ」 ものすごーく夢に出てきた精霊様と姿が似ていて思わず視線が杖に移り…一気に食欲が減退した。 祈りが唱和され食事が始まるが、ルイズのペースはめっさ遅い。 プロシュートの方はだるそーにパンと肉に少し手ぇ付けただけでサラダに突入している。 見ているだけで胃が重くなるのだが、まぁサラダなら別だ。 それを見たルイズも半分放心したように無意識にサラダを口に入れたが… 「ふぎゃ!…にっがぃ…これ、はしばみ草じゃない!」 水で後味を流し込みながら視線を横に移すが、プロシュートのサラダの皿は空だったッ! 「……なに?なんで皿に何も乗ってないのよ」 「そりゃあ食ったからな」 「…ウソぉ」 「まぁ不味くはねぇ」 サラダを口に入れる瞬間『ロオォォォォドオォォォォォォ』という聞き慣れた幻聴が聞こえたのだがまぁ特に気にしないで無視した。 ただ単に味に対して無頓着であるというのもあるが、それを知らないルイズはドン引きだ。 「外で待ってっから食ったら来い」 それだけ言うと席を立つプロシュートを放心したように見送るルイズだったがやっとの思いで口を開いた。 「あ、ありのままに(ry」 そして、そのポルポル君と化しているルイズを無視し出口に歩いているプロシュートを某首斬り判事神父の如く眼鏡を光らせ見ていたタバサが低く呟いた。 「……同志」 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/661.html
ニューカッスル―王軍最後の拠点でもあるこの城は岬の突端に聳えるようにして建っている。 雲に隠れつつ大陸の下を潜り込むように進路を取る。制空権は反乱軍旗艦『レキシントン』が押さえておりこの船では相手にすらならないらしい。 「あの艦の反乱が全てが始まった。我々にとって因縁の艦さ。このまま雲中を進み 大陸の下からニューカッスルに近付く。そこに我々しか知らない秘密の港がある」 その言葉どおり大陸の下には直径300メイル程の穴が開いている場所がありそこをハリアーのように垂直に昇っていく。 しばらく昇ると白い光るコケに覆われた鍾乳洞に出る。 これが港らしくもやいの縄が飛び岸壁に引き寄せられるようにして係留され木でできたタラップが取り付けられた。 老メイジが現れウェールズと会話をしているがその様子と会話を見てプロシュートが検討を付ける。 (ハナっから死ぬ気か。この腑抜け野郎がッ!) 自分達チームならどんな状況に追い込まれようが死ぬつもりで行動したりはしない。 『死ぬ覚悟』は常にしているが、最初から『死ぬつもり』なぞ毛頭無い。 どんな、劣悪な状況であろうとも常に相手のノドに食らいついてきた。 だからこそ暗殺という死亡率が高い任務でもあの時まで9人全員欠ける事無くやってこれたのだ。 キュルケとタバサの方はその辺りの事は多少慣れているらしいが、やはり明日全滅する軍を見て迷いのあるような目をしている。 そして、ルイズの方も『敗北』という言葉に顔色を変えている。 ウェールズ達が明日死ぬかもしれないというのに心底楽しそうに笑っているのを見てそれが理解できなかった。 「さて…手紙だったね。私の部屋に保管してある。付いてきたまえ」 ルイズとワルド、そして多少イラついているプロシュートと共にウェールズの自室に向かう。 ちなみにキュルケとタバサはトリステインの者ではないという事から別の場所に居る。 「下手に関わるとロクな事にならないからねー」 「同感」 もう片足突っ込んだとこまで関わっているのは気にしない。 ウェールズが椅子に座り机から宝石が散りばめられた小箱を取り出しネックレスの先に付いている鍵でそれを開けた。 蓋の内側にはアンリエッタの肖像がある。 その中からボロボロになった手紙を取り出す。スデに幾百と読まれてきたであろう手紙をもう一度だけ読むと 手紙を丁寧にたたみ封筒に入れルイズに手渡した。 「これが姫からいただいた手紙だ。この通り、確かに返却したぞ」 「ありがとうございます」 「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル号』がここを発つ。それに乗ってトリステインに帰りなさい」 ルイズがその手紙を食い入るように見ていたが、やがて意を決したかのように口を開いた。 「あの……殿下。さきほど港で栄光ある敗北とおっしゃっていましたが…王軍に勝ち目はないのでしょうか?」 「我が軍は三百。それに対する敵軍は五万。勝つ可能性など万に一つもありはしない。我々にできる事は勇敢な死に様を連中に見せつけるだけのことだ」 「殿下の討ち死にされる様も、その中には含まれるのですか?」 「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」 そのやりとりを見ていたプロシュートだが 『真っ先に死ぬつもり』 これを聞いた瞬間動き出していた。 (腑抜け野郎がッ!テメーが先に死んで後は他人任せかッ!?このマンモーニがッ!!) 上に立つ者である以上、最期の最期まで指揮を取る必要がある。 暗殺チームもそうだ。リゾットが居なければチームなぞとうの昔に瓦解している。 それだけ皆のリゾットに対する信頼は厚かったし、その信頼に答える事ができる能力をリゾットは持っていた。 そして、その責任を負うべきはずの者が『真っ先に死ぬ』などという事は責任を放棄して逃げ出しているとしか受け取れない。 だが、プロシュートがウェールズに肘撃ちをブチ込もうとするが次のウェールズの言葉でそれを中止する。 「…ここで我々が『誇り』を見せなければ、我々の為に戦い死んでいった兵達になんと言って詫びればいいか分からないからね」 『誇り』…自分達暗殺チームが二年前にソルベとジェラードをボスに殺されてから今まで失っていたものだ。 それを失っていたからこそ『誇り』を見せるという事はプロシュートにもよく理解はできた。 もちろん、『真っ先に死ぬ』などという事は論外だが、ひとまずこの場は抑えておく事に決めた。 鉄拳制裁をしようとしていたプロシュートに気付かずにルイズが一礼に口を開いた。 「殿下…失礼を承知で申し上げたい事がございます」 「なんなりと、申してみよ」 「…この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫様のご様子…そして先ほどの小箱の内蓋の姫様の肖像 手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい…もしや、姫様とウェールズ皇太子殿下は………」 「恋仲であったと言いたいのかね?」 「そう想像いたしました。とんだご無礼を、お許しください。してみるとこの手紙の内容とやらは……」 「恋文だよ。君が想像しているとおりね。彼女が始祖ブリミルの名において永久の愛を私に誓っているものだ。 この手紙が白日の下に晒されればゲルマニアの皇帝は重婚の罪を犯した姫との結婚を破棄し同盟は成り立たなり一国で貴族派に立ち向かわなくてはなる」 「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」 ワルドがよってきてルイズの肩に手を当てるがそれでも収まらない。 「お願いであります。わたし達と共にトリステインへいらしてください!」 「それはできんよ」 「…姫様の願いだとしてでもですか?姫様のご気性からしてご自分の愛した人を見捨てるとは思えませぬ! おっしゃってくださいな殿下!姫様は、たぶん手紙の末尾にあなたに亡命をお勧めになっているはずですわ!」 「そのような事は一行たりとも書かれていない」 ウェールズは首を振り言葉を紡ぐ。 「私は王族だ、嘘はつかぬ。姫と、私の名誉に誓って言うがそんな事は書かれてなどいないよ。アンリエッタは王女だ。自分の都合を国の大事より優先させたりはしない」 だが、それは嘘だ。苦しそうな口調でそう言っている。ブチャラティでなくとも一発で嘘と分かる。 「……君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。 だが、そのように正直では大使は務まらんよ、しっかりしなさい。…しかし、わが国への大使としては君が適任かもしれないな」 「明日にも滅ぶ政府は誰よりも正直だ。なぜなら守るべきものが『名誉』以外にないのだから そろそろパーティの時間だ。君達は我らが王国が迎える最後の客人だ。是非とも出席していただこう」 ルイズとプロシュートは外に出たがワルドだけはその場に居残った。 パーティは城のホールで行われた。簡易の玉座が置かれそこに現在のアルビオンの王『ジェームズ一世』が鎮座している。 明日滅ぶとは思えないような華やかさだ。 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。 いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我等王軍に、反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる」 「この王に、諸君等はよく従い、よく戦ってくれた。 しかしながら明日の戦いはこれはもう、戦いではなく一方的な虐殺であろう。朕は忠勇な諸君等が傷つき斃れるのを見るに忍びない」 老王が半ばウェールズに支えられる形で演説を始め、1~2度咳をすると再び言葉を繋げた。 「従って朕は諸君等に暇を与える。長年、よくぞこの王につき従ってくれた。 熱く礼を述べるぞ。明日の朝、巡洋艦『イーグル』号が、女子供を乗せてここを離れる。諸君等もこの艦に乗り、忌まわしき大陸を離れるがよい!」 王により出された暇。つまり自分を見捨てて逃げろと言っている。 だが臣下達の中にそれを享受する者は一人も居ない。むしろさらに老王への忠誠が高くなっているようだった。 感慨深げに目頭を押さえた老王の言葉と同時に辺りが喧騒に包まれた。 キュルケはパーティという事もありそれなりに楽しみ、タバサは亜空の瘴気と化したかの如く料理を食べ進めている。もう今にも『ガオン!』という文字が現れそうだ。 ルイズは死を前にした貴族達が明るく振る舞っているという事に感じるとこがあったらしく、その空気に耐え切れずその場から居なくなりその後をワルドが追う。 一人になったプロシュートは料理を食らうわけでもなくワインを飲んでいた。 「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔の……」 「…プロシュートだ」 「そうか、しかし人が使い魔とは珍しい」 「フン…一つ聞くがハナっから死ぬ気か?」 ここで『そうだ』とでも答えようものなら間髪入れずに肘撃ちが飛んだのだがウェールズは違う風に受け取ったらしく笑いながら答え 「案じてくれているのか私達を!君は優しいのだな」 「…オレ達チームの他のヤツなら、例えどんな状況になろうとも死ぬことを前提に行動したりはしねぇ 『たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようとも』最期まで相手のノドに食らい付こうとするッ!」 プロシュートが語気を強める。一線を越えればすぐにでも『この腑抜け野郎がッ!何だ!?そのザマは!ええ!?』と言いつつ殴りかねない。 「誇りってのはオレにもスゲーよく分かる…オレ達チームも二年前それを失ったからな… だが、それでも『栄光』を掴むために戦った。『死ぬ覚悟』は常にしているが『死ぬつもり』で行動した事なんて一度も無いんだからな」 「守るべきものがある、その大きさが死の恐怖を忘れさせてくれる」 「…誇りか?」 「それもあるが……我々の敵である『レコン・キスタ』はハルケギニア統一をしようとしている。『聖地』を取り戻すという理想を掲げてな 理想を掲げるのはいい。だが奴等はその過程で流されるであろう民草の血を考えず、荒廃するであろう国土の事を考えていない」 これはプロシュートも思うところがあった。娘を奪うという目的のために列車の乗客を広域老化に巻き込んだ事があるからだ。 「だからこそ勝てずとも、勇気と名誉の片鱗を見せつけハルケギニアの王家は弱敵ではないと示さねばならぬ。 奴等がそれで『統一』と『聖地の回復』という野望を捨てるとも思えぬが…それでも我々貴族が先に立ち勇気を示さねばならぬ」 「……『覚悟』はできてるみたいだな」 「はは…覚悟ができていなければ、ここに居やしないよ」 「自暴自棄になって死ぬ事しか考えていないマンモーニなら蹴りくれてやろうと思ったがその必要は無いようだな」 「怖いな…そうだ、一つ頼まれてくれないか。 アンリエッタに会ったら『ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいった』と」 「オレが生きていればな」 「頼む」 それだけ言うとウェールズは座の中に戻っていく。 残されたプロシュートはまだ微妙に痛む左腕の事を思い出し治療場所を探そうとするがそこに後ろからワルドに肩を叩かれた 「…わざわざ左肩叩くって事は喧嘩売ってんのか?テメー」 「ああ、怪我をしていたんだったな。だがきみに言っておきたいことがある。明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 「ここでか?」 「僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ王子に頼みたくなってね 皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に僕達は式を挙げる。きみも出席するかね?」 「オレ個人の任務はあいつの護衛だからな」 「ルイズなら僕が守る。それに君が残れば帰れなくなる」 「…オメーらはどうすんだ?」 「私とルイズはグリフォンに乗って帰る」 プロシュートは押し黙ったままだがワルドはそれを肯定の意と受け取ったようだ。 「では、君とはここでお別れだな」 薬を貰って痛みが和らぎ寝る場所を探すため廊下を歩いていると窓を開けて月を見ている人影を見付けた。 「なにやってやがる」 「あの人達…ウェールズ皇太子はどうして死を選ぶの?姫様が…恋人が逃げてって言ってるのに」 そう言うルイズは半泣き状態で目から涙が零れ落ちていた。 「色々守るもんがあるんだとよ」 「…なによそれ。愛する人より大事なものがこの世にあるっていうの?」 「オレが知ったこっちゃねぇがな。少なくとも覚悟はできてたみたいだぜ」 「…もう一度説得してみる」 「止めとけ」 「どうしてよ」 「あの目はオレ達が組織に反乱を起こした時の目と同じだ。だからオメーがどう説得しようと止める気はないだろうよ」 「それでも…!」 「なら、気絶させてでも連れ帰るか?オメーにそれをやるだけの覚悟があんのならやってやってもいい」 その案を本気で考え込むがさらにプロシュートが続ける 「だが、オレの見たところあの王子はそれで連れ帰ったとしても 自分一人無様に生き残ったと思い命を絶つタイプだな。その責任に耐えれるなら何時でも言いな」 「…早く帰りたい」 そう呟とさらに涙が頬を伝い地に落ちる。 「そういやオメー明日ワルドと結婚するんだってな」 「……え?」 「…聞いてねーのか?決戦前に皇太子を媒酌に式挙げるって言ってたんだがな」 「…聞いてない」 「覚悟も決めさせねーうちにやらかすのもどうかと思うが… まぁいい。オメーとワルドの問題からな…オレが口を出す事でもない」 それだけ言うと短く「寝る」といい去っていく。徹夜してたのだから当然眠い。 (本人に知らせてないってのが妙だな…気になる事もある…カマかけてみるか) 後に残されたルイズは明日急に行われる結婚という事自体を半ば受け入れられずにいる。 「……あいつが言う覚悟ってどういう事よ?」 それだけ呟くがギャング的『覚悟』をルイズが理解する事はまだできないでいた。 翌朝、非戦闘員は船への乗り込み、戦闘員は戦闘準備をする中プロシュートがワルドを見付けた。 「ここを出る前に話がある」 「式の準備で忙しいんだが…まぁいい聞こうじゃないか」 「人が居ない場所が都合がいいんでな…」 それだけ言うと来いと促し人気の無い場所へワルドを連れて行く。 「さて…話と言うのを聞こうじゃあないか よもや僕とルイズの結婚に反対してるとかいう話じゃないだろうね?」 「いや…結婚するにあたって受け取ってもらいてぇもんがあってな…」 「ほう…」 その言葉と共にワルドに近付き肩に手を当て何でもないかのように言い放った。 「『グレイトフル・デッド』っつーんだが『直』に受け取ってくれよ」 その瞬間、閃光の二つ名に相応しいスピードでプロシュートの手を振り払いワルドが離れた。 「おいおい…オレはオメーに受け取って欲しいもんがあっただけだぜ?逃げるこたぁねーだろうがよ」 「……貴様…何時から気付いた!」 「ハン!…自白したのはテメーだぜ?おい」 「なんだと…!?」 「オレはオメーに『グレイトフル・デッド』と言った事はねーし オメーを直接掴んだ事も無い。ルイズ、キュルケ、タバサを除けば知ってるのは…『土くれ』と『白仮面』だけだぜ?」 もちろんスデに死亡しているギーシュは員数外だ。 「この前は直が効かなかったみてーだが…その慌て振りからすると今は効くみてーだな…」 だが、そこに別の方向から声が聞こえる 「この前はというのは正しくないな」 後ろを振り向こうとするがその前に風に吹き飛ばされた 壁に打ち付けられ立ち上がるが再び正面を見据えるがそこに居たのは…全く同じ顔した人物…二人のワルドだったッ! 「カハ…ッ!…双子…か?随分と狡い真似を…してくれるじゃあねーかよ…」 「双子か…そんなチャチなものと比べないで貰いたいな。 風のユビキタス(偏在)……。風は偏在する。一つ一つが私自身でありそれぞれが独立した意思を持つ」 そうして分身が懐から取り出した仮面を被る なるほど、と理解した。魔力で作られた分身である以上、分身に老化が通用しないという事だ。 だが、今回は本体はそこに居る。広域老化で本体もろとも巻き込めばいいだけのことだ。 「おっと…酒場で見せたやつを使うつもりかな?止めておいたほうがいい 私だけではなく城の防衛を担っている貴族達まで巻き込んでしまっては、すぐに我が軍が雪崩れ込んでくる事になる」 射程半径200メートルにも及ぶグレイトフル・デッドの長大な射程。敵組織を纏めて壊滅させるという攻め向きの能力であり 味方が射程内に多数居る状況下では逆に不利に要因になっていた。さすがに五万という数を相手にするにはスタンドパワーが足りないし流れ弾の危険性もある。 軽く舌打ちをする、広域範囲が使えないなら本体に直を叩き込み分身を消すしかない。そう考え持ってきたデルフリンガーを握る。 「兄貴…あいつ敵だったのか!?」 「そうみてーだな、覚悟決めろよデルフよォーーー」 覚悟を決め接近すべく駆け出そうとするが意外な言葉がワルドからもたらされた。 「フッ…聞けば君はアンリエッタに『「反乱」が「愚かな行為」で「赦せない」だと?』と言ったそうじゃないか 君が元居た場所でも僕達と同じような事をしていたんだろう?そこでだ、僕達に加わる気はないか?君のその一人で何千人も相手にできる能力は正直欲しい」 「……オレにルイズを裏切れって事か?」 「違うな、ルイズは僕と結婚する。つまり僕の仲間になるわけだ。君が裏切るって事にはならないさ」 「…なるほど…な」 そう低く呟くプロシュートの声をワルドは了承と受け取った。 「了承したなら、礼拝堂に来たまえ。そこで式を行う」 「……どうやら…本気で死にてーようだな」 絶対零度の声でそう言い放つ。 「オレ達チームが組織を裏切ったのは組織がオレ達の信頼を裏切ったからだ… 分かるか?ええ、おい…?オメーはオレ達が裏切った組織と同じ事をやってんだ…そんな連中にオレが従うと思ったら、もう老化が始まってんぜ?」 その言葉に悪鬼のような形相でプロシュートをワルドが睨む。仮面をしていて分からないが多分、分身も似た様な感じだろう。 「…たかが平民に世界を手に入れる機会を与えてやったというのに、まぁいい!ルイズさえ手に入れば目的の一つは達せられるッ!!」 「兄貴!『エア・ハンマー』だ!」 「「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ…」」 本体と分身二つの声が重なり同時に魔法が詠唱されようとしている。 吹き飛ばされたせいで間合いが開いている。後ろは壁、横は回避できる程のスペースは無い。 ならば正面へ突っ込み詠唱が終えられる前に攻撃する。だが、『エア・ハンマー』の詠唱は本来殺傷能力がある呪文より短い。 こちらの射程に達するまえに空気が爆せた。 『エア・ハンマー』の同時詠唱。その威力は練兵場での手合わせで見せたものより遥かに上だ。 それを理解した瞬間風の塊をモロに食らい吹き飛ばされ壁に体の左側から打ち付ける。 風の塊に吹き飛ばされている途中背骨が軋み壁に打ち付けられた瞬間、視界が赤く染まり全ての音が途切れた。 口や体中から血を流しピクリとも動かない。 「…言ったはずだ、本物のメイジには勝てないと」 そう吐き捨てるように言うと分身が消えワルド一人だけになる。 「少々手間取ったが…礼拝堂へ行かなくてはな」 プロシュート兄貴 ― ? ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/920.html
「…なあ、相棒」 「なんだいデルフ?」 早朝、ルイズの服&下着を洗濯する育郎に、傍に立てかけてあるデルフリンガーが 話しかけた。 「ちょっと俺を振ってみねえか?」 デルフリンガーはここ数日、不安で不安で仕方が無かった。 自分の今回の『使い手』は、彼を今まで手にしてきた人間達の誰よりも強力なのだ。 どれぐらい?と言うと 自分を使わなくてもいいんじゃない? そんな感じなのである。 そこで彼は考えた! ここで『使い手』、『ガンダールヴ』に選ばれた人間全員にプレゼントされる特典を 展開すっ飛ばして教えてしまおうと! 「かまわないけど…何故?」 「いや、ちょっと良い事思いだしてな。教えてやろーって思ったんよ」 そして育郎がデルフリンガーをつかんだ瞬間、彼の左手のルーンが輝きだした! 『ガンダールヴ』のルーンを持つ者が武器に触れたその瞬間! ルーンは光り輝き、その真の力を解放するッ! 人間は普段その潜在能力の30%しか使っていないと言われている… しかし『ガンダルーヴ』は100%、いや、精神の昂ぶりによりそれ以上の力を 発揮させることが出来るのだ! そ し て ッ !!! 育郎の脳内に住む寄生虫『バオー』の分泌液は、その『ガンダールヴ』の力によって 限界を超えるが故に生まれる弊害を異常と反応し… 『ガンダールヴ』が生み出す効果を完全に打ち消したのだッ!!! こ れ が 『 バ オ ー 』 だ ッ !!! 「こうかな、デルフ?」 剣を振る育郎がデルフリンガーに尋ねる。 「………」 「デルフ?」 「あ、ああ!そうそう、えーっとな、ちょっといい事ってなぁ… ほ、ほら相棒、おめーの左手のルーンが光るんよ!」 見れば確かに光っている。 「本当だ…」 「はなせば消えるぜ」 試してみると、デルフが言った通りルーンが光るのを止めた。 「へー、面白いな」 「だ、だろ?いやー相棒に喜んでもらえて嬉しいぜ。はは、ハハハハハハハ!」 デルフリンガーの渇いた笑い声が、日の出の空に吸い込まれていったとさ ゼロの来訪者・外伝 デルフリンガーの憂鬱 ~終~ 「やっべ、はやく色々思い出さねーと本気でいらねー子に…」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1096.html
ふう、どうしたものか……。 才人と共に、ルイズの服を洗濯しながら、僕は空を見上げた。 衛兵の立場にありながら、昨日の騒ぎを収めるどころか率先して煽っていたと言うことで、僕は三日間、衛兵の仕事を干されることになった。 仕事を干されている間、僕はルイズから生活の糧を得るしかない。 しかし、既に昨日僕らは、三日間の御飯抜きを宣告されている。 言われた時点では、冗談だと思っていたのだが。 まさか本当に、その日の夜のご飯を抜いてくるとは。 乗馬鞭を調教と称して振り回したり、彼女は加減というものを知らないのか? そもそも僕が何時、彼女にゼロと言ったのだ。 八つ当たりじゃないか。 僕の中のルイズ株は、連日ストップ安を記録している。もっとも上場を初めて、まだ三日目だが。 色々思い出して、凄く腹立たしい気分になった。 まあ、嫌なことでも仕事は仕事だ。 ここは我慢しよう。 ひょっとしたら、これから株価が上がるかも知れない。 そんな淡い期待を抱いて、洗濯を続ける。 「この、この!」 「?」 隣で洗濯していた才人が、突然、気張った声を挙げた。 見ると、ピンピンに伸ばす事で下着の紐を切っている。 ……人が我慢をしている時に、どうしてお前はそれを無に返すんだ。 昨日洗った洗濯物を締まって、部屋のホコリを軽く取り除く。 ルイズは朝食の為、今、部屋にはいない。 コレで、ようやく一息つける。 そう思うと、空腹感が一気に襲ってきた。 正直、あのルイズなら、本気で三日ぐらいご飯を抜きかねない。 どうにかして、食事を手に入れる算段を考えなくてはならないな。 「そういえば昨日、才人は厨房で賄い食を分けて貰ったんでしたね」 「ああ。今からまた、もらいに行こうと思ってるんだが……お前も来る?」 「ええ、是非」 昨日の才人の様に手伝いをする必要があるかもしれないが、食事が得られることを考えると割は良い。 借りを作りすぎるのは遠慮したいのだが、どうこう言っている余裕が僕には存在しなかった。 「よう! よく来たな『我らの剣』!」 厨房に入るなり、40そこそこの男を中心として、コックやメイド達が僕らの来訪を歓迎してくれた。 才人が、僕らが食事を抜かれたということと、手伝いするので、食事を分けて欲しいと云うことを伝える。 目の前の親父(話しぶりから、ここの料理長であろう)は、話を聞くなりほほえんで、メイド達に僕らを厨房の適当な席に着かせるよう言う。 「それ、我らの剣に食事の用意をしてやりな!」 「へい、マルトー親方!」 席に着くなり、先程の親父…マルトーさんが、僕らの食事を持ってくる様、他のコックに呼びかける。 その際、マルトーさんがしきりに僕の方を見てきた。 「……」 じろじろと暫く眺めた後、マルトーさんは表情を崩して、厨房の奥へと入っていった。 何だったのだろうか? 椅子に座るなり、メイド達がすぐさまぱっと、席を作っていく。 この歓迎ぷりに、僕はいささか目を丸くした。 簡単な賄い食を分けて貰う程度のつもりだったのだが、これではまるで上客の接待ではないか。 僕たちは彼らに対して、何かをしただろうか? 考えていた事が、顔に出ていたのだろう。近くにいたシエスタが、僕に話しかけてきた。 「貴族って、私たち平民にとっては本当に怖いんです。私みたいな普通の平民には、特に」 「?」 「でも、お二人とも貴族を前にあんな毅然として…… 凄く、格好よかったです」 つまり僕たちは彼らにとって越えられない壁をぶち破った、平民代表という訳か。 なるほど。だから『我らの剣』だと。 「まぁ、マルトーさんが貴族嫌いだっていうのもあるんですけどね」 シエスタはそう、つけたして、僕ににっこりほほえんだ。 僕は、素直にかわいらしいと思った。 そういえば才人の方はどうしているだろうか。 僕は才人の座った席へ目をやる。 マルトーさんや、他のコックにもみくちゃにされながら、うらやましそうな目でこちらを見ていた。 そうこうしている間に、食事が運ばれてくる。 白い、ふかふかしたパンと、温かい、具材の多く入ったシチューだ。 僕と才人は、その料理を目の前にして、手を合わせる。 「「頂きます」」 「うまい!うまいよ! あのスープとは大違いだ!」 「これは、かなりおいしい……」 僕は一口食べ、その美味しさに驚愕した。 父さんや母さんと様々なレストランに行ったが、これほどの味に巡り会ったことはほとんど無い。 出されたシチューは、具材、ルー共に丁寧に作り込まれていて、口に入れればほぐれるようにとろけ、舌全体に味を行き渡らせる。 パンはもちもちとしていて、少ない唾液で芳醇な甘みを引き出している。 少し濃いめのルーが、程良い水気を帯びたパンの甘みと程良くマッチする事による、絶妙なハーモニーッ! 最高に『美味いぞ~~~!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハーッ! そんな僕らの様子にマルトーさんは気をよくし、得意げに語り出した。 「そうだろ。そうだろ。こうやって料理を絶妙の味に引き立てるのも、一つの魔法さ。そう思うだろ? サイト、ノリアキ」 「全くその通りだ!」 「ええ、本当に。強く同意しますよ」 これは建前とかではない、僕の本心からの声だ。 たぶん才人もそうだろう。 マルトーさんは僕らの返答に、より一層気をよくして、僕らの首根っこに手を巻き付けてきた。 少々もさもさしている腕毛が、微妙に気持ち悪い。 「良い奴らだな。お前ら、全く良い奴らだ!」 マルトーさんは少し間をおく。 「いや、ノリアキははじめ、シエスタから魔法を使うって聞いてな。どんないけ好かない奴かと思ったが、なかなかどうして良い奴じゃないか。よし、『我らの剣』! 今から俺はお前らの額に接吻するぞ! こら! いいな!」 僕が返事をする前に、マルトーさんの唇は僕の額に触れていた。 なま暖かい感触がする。 うわああああああ…… 「その呼び方と、接吻は止めてくれ」 僕の方を見ていた才人が、口を開く。 その言葉を聞いて、マルトーさんは僕の額からようやく唇を離した。 ナイスアシストだッ! 才人ッ! 「どうしてだ?」 「その、どっちもむずがゆい」 よし! 良いぞッ! 空気の読めない才人の事だから、気持ち悪いとか言い出すかと思ったが、実に良いッ! ディ・モールトな断り方だ! 才人の言葉を聞いて、僕らの首にかけていた手を離し、両腕を自分の前に持っていく。 そして力強く、厨房の全員に聞かせるように言う。 「おまえは貴族のゴーレムを叩ききったんだぞ! わかってるのか、どういう事か!」 「ああ」 嘘をつけ。どうせ後先考えずに、怒りにまかせてつっこんだだけだろう。 その後、才人は槍を何処で習った、貴族が怖くないのかなど、質問攻めに合いながら、もみくちゃにされていた。 しかし、あまり僕の方に話しかけてくる人間はいない。 そう考えていたのが、またも顔に出ていたのか、シエスタが僕の思ったことに答えてきた。 「怖いんです。魔法が使える平民は、乱暴な方も多いですから」 またメイジと勘違いされている。もう、いちいち訂正する気も起きない。 いっそ、メイジだと突き通しておこうか? まぁ、それはともかく。 「じゃあ、シエスタは僕が怖くないんですか?」 「ノリアキさん、友情に厚い方だって知ってますから。普通、力があっても助けに行くなんて、中々出来ないです」 「友情に厚い……ね」 友情か。 確かに僕と才人は友人だ。 だが、昨日までの時点で、僕は真の友がいるか? と言われて、Yesとは答えられなかった。 あのとき決闘に乱入しようとしたのも、結局は記憶の僕が、仲間と云うものを知っていたからかもしれない。 本当に僕は、友情というものを感じているのだろうか? ああまでこだわった、真に心の通じ合う友人とは、何なのだろう。 「友情って、なんなんでしょうね」 「はい?」 「いえ、ふと思っただけです」 「友情ですか……」 シエスタはう~んと首をひねって、考え込む。 というか、出会って二日目の少女に何を聞いているんだ、僕は。 「すみません、シエスタ。今のは……」 「一緒にいて、楽しいとか、気が合うとかじゃダメなんでしょうか?」 一緒にいて楽しい。気が合う。 相手を立てるとか、そういうことばかり考えていた僕には、あまり強く考えていない感覚だった。 「そういうものですか」 「はい。私もはっきりとは言えないんですけど……」 一緒にいて楽しい。気が合う。 そういうことを考えながら、才人の方を見る。 まだマルトーさん達にもみくちゃにされながらも、相変わらずうらやましそうに、僕の方を見ていた。 「プッ!」 僕はあそこまで空気が読めない訳じゃないし、自分で言うのも何だが、三枚目というわけでもない。 一緒にいて楽しいかもしれないが、気は合いそうにないな。 そう思いながら、僕はこの食事の時間を楽しませて貰ったのだった。 「っと、すみません。いきなりこういう事を頼むのも何なのですが……」 「なんだ。『我らの剣』」 食事が終わり、そろそろルイズも部屋に戻るであろう所で、僕はあることを思いついた。 もう少し、親しくなってからとも思ったが、やはり言える内に言っておいた方がいいだろう。 下手に親しいと、返って切り出しにくい。 「何か、2,3人入れるぐらいの大量の水のはれる…そう、例えば古い鍋とかを譲ってもらえませんか?」 「鍋?」 不思議そうな顔をして、マルトーさんは首を傾げる。 だが、理由は聞こうとせず、 「まあ、いいさ。我らの勇者達と、この厨房との親愛の証として持っていけ!」 と快く、僕のお願いを聞き入れてくれた。 そうして、厨房の裏手にあった古い大鍋を手に入れた僕は、それを広場の端へ持っていく。 ここなら、塀が影になってばれることも無いだろう。 それじゃあ…… 「作りましょうか」 「ああ」 「「五右衛門風呂を!」」 僕らは日本人ですから、お風呂は心の洗濯でありまして…… ここにあるようなサウナ風呂では、心の洗濯にはならないし、ゲロの臭いも落ちた気がしないので。 そうして僕らは早速、お風呂作りに取りかかったのだった。 To be contenued……