約 439,938 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6199.html
吸血鬼ハンターDからD 魔界都市ブルースから浪蘭幻十、ドクターメフィスト、姫を召喚 ゼロの魔王伝-01 ゼロの魔王伝-02 ゼロの魔王伝-03 ゼロの魔王伝-04 ゼロの魔王伝-05 ゼロの魔王伝-06 ゼロの魔王伝-07 ゼロの魔王伝-08 ゼロの魔王伝-09a ゼロの魔王伝-09b ゼロの魔王伝-10 ゼロの魔王伝-11 ゼロの魔王伝-12 ゼロの魔王伝-13 ゼロの魔王伝-14 ゼロの魔王伝-15 ゼロの魔王伝-16 ゼロの魔王伝-16b ゼロの魔王伝-17 ゼロの魔王伝-18 ゼロの魔王伝-19 ゼロの魔王伝-20 ゼロの魔王伝-21 ゼロの魔王伝-22 ゼロの魔王伝-23 ゼロの魔王伝-24
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2973.html
ポケットモンスターよりラティアスを召喚 ゼロの夢幻竜-01 第一話「 」 ゼロの夢幻竜-02 第二話「意思の継がり」 ゼロの夢幻竜-03 第三話「使い魔の飛翔」 ゼロの夢幻竜-04 第四話「異世界の奇譚」 ゼロの夢幻竜-05 第五話「偽りの姿」 ゼロの夢幻竜-06 第六話「親愛の握手」 ゼロの夢幻竜-07 第七話「ゼロの所以」 ゼロの夢幻竜-08 第八話「矜持の発揮場」 ゼロの夢幻竜-09 第九話「実力の深層」 ゼロの夢幻竜-10 第十話「伝説の再来」 ゼロの夢幻竜-11 第十一話「深海の宝珠」 ゼロの夢幻竜-12 第十二話「虚無の曜日」 ゼロの夢幻竜-13 第十三話「使い手の剣」 ゼロの夢幻竜-14 第十四話「紅の誘い」 ゼロの夢幻竜-15 第十五話「盗賊の狙い」 ゼロの夢幻竜-16 第十六話「漆黒の森へ」 ゼロの夢幻竜-17 第十七話「深海の宝珠(前編)」 ゼロの夢幻竜-18 第十八話「深海の宝珠(後編)」 ゼロの夢幻竜-19 第十九話「二つの手懸かり」 ゼロの夢幻竜-20 第二十話「魅惑の舞」 ゼロの夢幻竜-21 第二十一話「記憶」 ゼロの夢幻竜-22 第二十二話「王女」 ゼロの夢幻竜-23 第二十三話「密会」 ゼロの夢幻竜-24 第二十四話「指輪」 ゼロの夢幻竜-25 第二十五話「出立」 ゼロの夢幻竜-26 第二十六話「助力」 ゼロの夢幻竜-27 第二十七話「恋慕」 ゼロの夢幻竜-28 第二十八話「胎動」 ゼロの夢幻竜-29 第二十九話「開戦」 ゼロの夢幻竜-30 第三十話「光明」 ゼロの夢幻竜-31 第三十一話「一矢」 ゼロの夢幻竜-32 第三十二話「不快」 ゼロの夢幻竜-33 第三十三話「軍師」 ゼロの夢幻竜-34 第三十四話「告白」 ゼロの夢幻竜-35 第三十五話「救難」 ゼロの夢幻竜-36 第三十六話「真実」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1153.html
なんというブチキレコンビ。ギアッチョの怒りは、まるで次はオレの番だと でも言うかのように静かに爆発した。 「ところでよォォ~~・・・ 朝こいつを食った感想はどうだったよお嬢様?」 ギアッチョは波一つない海のように静かに尋ねる。 「最悪だったわッ!・・・そういえばあんたよくも貴族の私にこんなもの 食べさせてくれたわね!後でお仕置きを――」 ゴバァアァ!! 穏やかな海が突然嵐に変わるように、ギアッチョの全身から突然冷気と 殺気が噴き出し始めた! 「うぅッ!?ちょっ・・・何!?こんなところで・・・!!」 ルイズは慌てて辺りを見回すが、周囲の貴族達にはギアッチョの異変に 気付いたようなそぶりは見受けられない。ギアッチョがミスタ達との戦いで 得た教訓の一つ、それは他のスタンド使い達が当たり前にやっている 「自分の能力を安易に敵にバラしたりしない」ということであった。己の命と 引き換えに得た教訓は、彼の心の根っこにしっかりと突き刺さっている。 激しくブチ切れた今も、「周囲に己の能力を悟らせない」という事に関して だけは自制が働いていた。つまり――ルイズが感じた冷気と殺気は、 他でもないルイズただ一人に向けられたものだったのである。 ギアッチョはすっと地面にかがむと左手で食事の入ったトレイを持ち上げ、 背中を曲げた体勢のまま、色をなくした眼でルイズを見る。 「つまりてめーはそんなものをこのオレに食わせるってぇわけだ・・・」 「なッ・・・あんたは使い魔なんだから当然でしょ!?使い魔の上に平民! 貴族と同じ地平線に立つことなんて一生ありえないのよ!!」 ビシッ!! ルイズがそう言い放った途端、最近聞き慣れた音が彼女の耳に響いた。 ビシィッ!!ビシビシビシッ!!ビキキィッ!! この音は、他でもないこの音は。ルイズは恐る恐る、音のした方向へ 眼を向ける。 音がしていたのはギアッチョの持っている食事・・・いや、食事だったもの からだった。パンとスープを載せたトレイは、ギアッチョの左手の上で まるで彫刻のように完璧に凍っていた。 「・・・・・・こんな・・・ええ?こんな『ささやかな糧』でよォォォ~~~~~ てめーの命を守らせようってのかァ?・・・え?おい」 ――てめーの人生のかかった仕事を・・・ 「あ・・・!」 クソみてーなはした金でよォォォ・・・―― バキィィィィインッ!!! ギアッチョがどんな仕事をしていたのか――ルイズがそれを思い出した 瞬間、白磁の彫刻は彼の手の上で「ブチ割れ」、そしてそれと同時に ギアッチョは食堂を震わせるような大声で叫んだ。 「オレ達の命は安かねェんだッ!!!」 いつもの薄っぺらな怒りではない。ギアッチョは本気で「怒って」いた。 ルイズは声も出せなかった。ギアッチョの剣幕に怯えていたのでは ない。一体自分がどれほど酷いことを言ってしまったのか、それを 理解したのである。自分はギアッチョ達を皆殺しにした『ボス』と 何も変わらない。ギアッチョの彼らしからぬ心の底からの叫びに、 ルイズの胸は千切れ飛びそうな痛みを感じた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4754.html
「デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団」より「葛葉ライドウ」と「ゴウト(カラス)」を召喚 (リテイク、改訂版) ゼロの仲魔-01 ゼロの仲魔-02
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1062.html
シエスタは、一週間前から幸せに包まれていた。 一週間前。 水場で洗濯をしている時に、挙動不審な少年を見つけたのが、事の始まりであった。 平賀才人と名乗った、その少年は最初、 ここ何処だよ! どうして月が二つあるんだよ!? つうか、メイド!? えっ? ヘヴン? とか、訳の分からない事を叫んでいたが、どうにか落ち着かせて話を聞いてみると、日本と言う場所から、ここに迷い込んできたらしい事が分かった。 恐らく、才人が他のメイドや魔法学校の職員に見つかっていたなら、彼にはまた違う未来が待っていたのだろうが、運が良かったのか、悪かったのか、才人が最初に遭遇したシエスタは、日本、と言う言葉に聞き覚えがあった。 シエスタの曽祖父が、口癖のように言っていた言葉が日本と言うらしい。 曽祖父の言葉を聞いていた祖父が、自分の息子、つまり、シエスタの父親に話し、父親がさらにそれをシエスタに話していたのだ。 少年に興味を持ったシエスタは、知り合いの中で一番偉い料理長のマルトーに、事の次第を話し、ここで雇ってくれるように頼み、才人がここで働けるように取り計らった。 その時に、気を利かした同室のメイドが別の部屋に移り、何故か才人と同室になってしまったのはご愛嬌である。 基本的に、二人とも、雑用の仕事で忙しい為に、夜に日本と言う場所についてと、才人曰く、別世界である、この世界について会話するのが、この一週間で新しく出来たシエスタの日課である。 そして……才人が二段ベッドの、上の方のベッドで眠っている中、もう一つ追加された日課をシエスタは行っている。 「うふ……うふふ……才人さんの手、とっても綺麗ですねぇ」 眠っていて気が付かない才人の手に頬擦りをして愛でるのが、シエスタの追加された日課だ。 この世に生まれてから見た中で、才人の手はシエスタの中で一番、綺麗で、肌触りが良かった。 昔からこうなのだ。 シエスタは、綺麗な手を見ると、つい触ったり、頬擦りしたくなってしまう。 無論、そんなことを我慢しないでやっていれば、今頃、両親はシエスタの事を水のメイジの元に連れていっただろう。 幼い頃のシエスタも、その事をおぼろげに理解しており、これまでずっと、その手に関する感情をシエスタは隠し続けていた。 だが、才人の手は、そんな我慢を丸ごと無意味であったと言うように、シエスタの手に対する感情のタガを完璧に壊してしまったのだ。 曽祖父の言っていた、日本と言う場所からやってきた少年。 それだけでも、シエスタにとっては特別な存在であるのに、手も完璧とくれば、シエスタでなくとも特別な感情を抱くのは吝かではない。 その浮ついた心が悪かったのだろうか。 ちょっとした、本当に些細なミスを彼女はしてしまった。 アルヴィーズの食堂で、食後のデザートを配っている最中に貴族が床に落としたビンに気が付かなかったのだ。 その貴族は、そのビンが元で、二人の女性からビンタを喰らい、両の頬を真っ赤に染め上げ、シエスタに食って掛かってきた。何故、ビンを拾わなかったのかと。 言い掛かりそのものの怒りを受け、シエスタはすっかり恐怖で萎縮してしまう。 確かに、ビンを気付かず拾わなかったのはシエスタの非だ。 しかし、拾った所でこの結末は結局変わらなかったじゃないかと、傍で見ていた生徒の内の何人かの賢い者達は思っていたが、所詮平民の娘が一人、怒鳴られているだけ。誰一人それを助けようとせず、逆にせせら笑っていた。 誰もがシエスタの味方をしない中で、ただ一人、同じくデザートを配っていた少年がシエスタを責め立てていた貴族に反論し始めした。 平賀才人。 あの素晴らしい手を持った少年である。 「イヤャァァァァァァァァァッ!!」 幸せが根本から崩れる音がする。その音を聞きたくなくて、シエスタは悲鳴を上げた。 彼女の視線の先には、吹き飛ばされる少年の身体。 その少年を吹き飛ばした青銅のゴーレムは、追撃はせずに主であるメイジの指示を待っている。 「強情だな、平民。這い蹲って、一言謝れば許してやると言うのに」 青銅のゴーレムを操るメイジ―――ギーシュ・ド・グラモンが、才人に呆れたように降伏を提案するが、 才人は立ち上がり――― 「絶対、嫌だ」 ファイティングポーズを取り、決闘の続行を態度で示す才人に、ギーシュはやれやれと首を振り、杖を振るう。 その動きと同時に青銅のゴーレム―――ワルキューレは動き出し、才人の顔や腹を手加減無しに殴り続ける。 ―――まるで、サンドバックだな。 シェイクされ続け、まともに機能しない脳でそう考え才人は苦笑した。 無論、殴られている顔の筋肉は、才人の意思通りに動かず苦笑を形作る事さえ出来ないが、もはやそんなことは関係無かった。 「俺、死ぬのかなぁ……」 暢気に呟いたその言葉は、口から出る事さえしない。 痛くて苦しい 辛くて泣きたい 自分がどうしてこんな風に殴られているのか、忘れそうになる。 なんというか、才人には予感があった。 こうなるのでは無いか。 見るも無残なまでに殴られ、顔は腫れあがり、喉は口から流れた血がこびりついて、動きさえしない。 そんな光景が一瞬、頭を過ぎったが、結局、自分は“此処”にこうしている。 思えば……あの予感がした瞬間に、自分は、こうなる『覚悟』をしていたのでは無いだろ―――――― 「グガッ!!」 骨にも、筋肉にも見捨てられた鳩尾に減り込むワルキューレの拳。 ―――効いた。 今のは正直、もう痛みになれたと思ってた身体に、思い上がるなと警告する痛み。 (激痛に、さらに二乗したような感覚だな) その痛みの所為か、鈍っていた思考がクリアになっていく。 おかげで、今、自分の頭に向かってくるワルキューレの蹴りがはっきりと見えた。 ―――まぁ、見えたからって避けられないんだけどな ゴンッ、と鈍い音が広場に響くのと同時に才人の身体は、宙を舞い……桃色の髪をした少女の足元へと辿り着いた。 他のメイジ達の笑い声が、ルイズには遥か遠くのように聴こえていた。 自分の足元に居る少年。 彼は先程まで、貴族に凛とした表情で挑み続け、今、ボロクズのように倒れ伏している。 ―――何なのよ……これは。 その倒れている少年を見ていると、ルイズは自分でも良く分からない感情が、自分の中に生まれている事を感じ取っていた。 それは憐憫か? それとももっと別の感情か? 判断は出来なかったが、これだけは理解できる。 認めたくない事だが、どうやらこいつは、平民の癖にプライドが、敵に媚びないだけの『覚悟』があるらしい。 前々からルイズは思っていた。 ルイズにとっての理想の貴族とは、姉であるカトレアである。 しかし、その姿勢と言うか物事に対する取り組みは長女のエレオノールを手本としている。 エレオノールは何時も凛とし、他者を寄せ付けない雰囲気を出していたが、それは反面、誰にも媚びない、真に誇り高い者が纏うオーラであった。 このようになりたい。 誰にも頭を下げず、誰からも認められる、長女のような貴族に…… そう、胸に秘めてルイズは生きてきた。 だが、現実は甘くは無い。 どうしてもプライドと折り合いを付けなければならない事態はあったし、誰かに頭を下げる事なんて、かなりあった。 故に、自分は今だ理想を体現出来ていない。 だと言うのに……平民でありながら、その理想を体現している者が、今、こうして目の前に現れているのだ。 怒りはあった。 平民なんかが、と言う思いも確かにあった。 けれど、それ以上に、ルイズはこいつに負けて欲しくは無いとも思っていた。 平民が貴族に勝てるはずなど無いのに、何故だか、そう思っていたのだ。 「ソレガ、今ノ君ノ望ミカ、ルイズ……」 主が望めば……その者は、スタンドは動く。 それが例え、実現不可能に近い事であろうと…… 「正直……コノ少年ヲ勝タセルノハ難シイ。ダガ、不可能デハ無イ」 淡々と語る使い魔の言葉に、ルイズは驚愕の表情をホワイトスネイクへと向ける。 「うそ……こいつ、こんなボロボロなのよ? 一体、どうやって勝たせるのよ?」 「ソウダナ……コレガ、勝利ノ鍵ダ」 そう言ってクルクルと左手で回転させているDISCと何処から盗んできたのか、 果物を切る為のナイフを右手に持つホワイトスネイクに、ルイズは、何か言い知れぬ違和感を感じていた。 何か足りない……? 今朝と、今のホワイトスネイクを比べると、何かが足りないようにルイズは思えたが、ホワイトスネイクが視線で訴えてきた。 一瞬で良い、隙を作ってくれと。 隙なんて、どうやって作れば良いのよ、とルイズは心の中で毒づいたが、一つ、名案が浮かぶ。 自分の欲求と彼の勝利。 二つを併せた完璧な案に、ルイズは心の中で笑った。 そうして―――――― 「その決闘、待った!!」 大声で決闘の停止を呼びかけた。 「その決闘、待った!!」 そんな声が、辛うじて残っていた右耳の鼓膜を刺激する。 刺激の元凶を探し、僅かに動く首を回すと、意外にもその刺激の持ち主は近くに居た。 桃色の髪をした少女……その勝気な瞳が、自分と戦っていた相手に向けられている事を 才人が気付いた時、才人は動かない唇を動かしていた。 「な……に……を……ごほっ」 していると続けたかったが、途中で傷付けられた胃から胃液が逆流し、口内の血と交わり朱染めの体液を吐瀉する。 その様子に、ルイズは少しだけ眉を顰めて 「あんた黙ってなさい!」 大声で、そう叫んだ。 なんというか、今の少女の声には有無を言わさない迫力があり、才人は吐いたままの姿勢で立ち尽くす。 座って休まないのは、今、座ったら、もう立ち上がれないからだ。 「なんだね、ルイズ。今は神聖な決闘の最中なんだ。 ご婦人は、大人しく下がっていてくれるかい?」 「残念だけど、そうも行かなくてね。 ギーシュ、私と賭けをしない?」 「賭け?」 生真面目なルイズの口から、そんな言葉が出た意外さにギーシュは不思議そうな顔をしたが、 ふむ、とだけ呟き、首を動かして先を促してきた。 どうやら、このまま抵抗も出来ない平民をボコボコにしても詰まらないと感じたのだろう。 ルイズは、相手が興味を覚えた事に対して、心の中でガッツポーズを取りながら、言葉を続ける。 「賭けの内容は……この平民が貴方に勝つか、どうかよ」 ルイズが宣言した内容に、周辺のギャラリーがざわつく。 所々で、正気か? ついに頭まで『ゼロ』に、とか色々と言葉が飛び交っているが、それを無視してルイズは言葉を続ける。 「そして、賭けるモノは、相手に一つだけ何でも要求をすることが出来る権利よ!!」 堂々と告げるルイズに、ギーシュは何を言ってるんだ、こいつは、と言う視線を送るが ルイズはそんな事関係ないとばかりに口を動かし続け、全員の注目を自分へと引きつける。 (さぁ……これで良いんでしょう、ホワイトスネイク。 ここまでお膳立てをしてやったんだから、必ずその平民を勝たせなさいよ!!) (無論ダ) 誰にも諭されないようにホワイトスネイクは音も無く、才人の後ろへと近づく。 ただの学生である才人には気配なんて感じることも出来ず、ホワイトスネイクの接近を許してしまう。 そうして ―――ズブリ、と頭部にホワイトスネイクの右手が突き刺さった。 (始メマシテガ、コノ場合ノ正シイ挨拶ダナ) (なっ、誰だてめぇ! ……あれ? 俺、声……出てる?) (ココハ、オマエノ精神ノ中……私ハ、直接オマエノ頭ニ語リカケテイル) (どーりで頭に響く訳だ。つーか、何の用だよ。今、忙しいだけど、決闘とか決闘とか決闘とかで) (問題ハソレダ……オマエハコノママデハ、負ケテシマウ所カ、死ンデシマウ。 オマエモ、幾ラ何デモ死ニタクハ無イダロウ) (そりゃあ……死にたくないに決まってるよ……だけど、あいつは、あいつだけはぶん殴らねぇと気が済まないんだよ) 才人は、知らず知らずのうちに歯噛みしていた。無論、顎など疾の昔に砕けているので、出来るはずなど無いのだが、この感覚だけの世界では、不思議と顎に力を入れることが出来ていた。 (……オマエハ、私ノ知ッテイル人物ニ良ク似テイル。 ソイツモ、オマエノヨウニ何度死ヌヨウナ目ニ遭ッタトシテモ諦メナカッタ。 私ハ思ウ。オマエニハ、奴ノヨウナ『黄金ノ精神』ガ宿ッテイル) (なんだそれ? 焼肉のタレの親戚か?) (イヅレ、オマエニモ分カル時ガヤッテクル。 イイヤ、モウ分カッテイルハズダ。 デナケレバ、コノヨウナ勝チ目ノ無イ戦イヲスルハズガ無イノダカラナ……) 段々と頭の中に響いていた声が遠くなっていく。 それと同時に、頭部に何かが入ってくる感触がする。 何かが自分の身体に馴染む感覚。 それが何なのか才人には分からなかったが、その感覚が、才人の意識を外界へと向けていき…… (最後ノサービスダ……オマエノ『痛覚』ヲDISCニシテ抜イテオイタ。 オ膳立テハ、ココマデダ。存分ニ、ソノ力ヲ、私ニ見セテクレ) 「さぁ、どうするの!? 賭けにノるのノらないの!?」 「良いだろう、その賭けにノらせて貰おう……これで良いかい、ルイズ? さぁ、早くそこを退いてくれ。その、平民にトドメを刺せないからな」 余裕の表情で、そう告げるギーシュ。 ルイズは、その言葉に満足げに頷きながらライン越しにホワイトスネイクへと話しかける (そっちはどう? 準備万端?) (何モ問題ハ無イ。ムシロ、君ハ奴ヲ殺サレル方ヲ心配シタ方ガ良イ) (ふぅん、予想以上になんとか出来たって訳……一体どんな記憶DISCを使ったのよ?) (誤解ガアルヨウダガ、今回、私ハ記憶DISCヲ使ッテイナイ) (はぁ? じゃぁ一体どうしたって――――――) 「行け、ワルキューレ! そいつの頭をかち割ってやるんだ!!」 本当なら、ギーシュは平民が謝ったら、すぐにでも決闘を止めるつもりでいた。 だが、中々謝らない強情な平民と、賭けを提唱してきたルイズによって、その考えは捨てるしかなくなっていた。 仕方なく、ギーシュはこの平民を殺す事にした。 別に平民を殺した所で、貴族には罪にならない。 彼ら貴族にとって、平民と言う肩書きがあるだけで人間では無いのだ。 だから、罪悪感など微塵も感じない。 まるで、ランプに集る小煩い羽虫を潰すような気軽さで、 ギーシュは―――真っ二つにされる、ワルキューレを見た――― 「「へっ?」」 間抜けな声をあげたのは、ギーシュとルイズの両名。 二人とも、目の前の現実が突飛過ぎて脳の処理限界を超えてしまったのだ。 誰が信じられる。 先程まで良いように殴られ続けていた平民が、たかだか果物ナイフでワルキューレの青銅の胴を切り裂いたなどと。 「――――――ッ!」 声など出ない。出してる暇も無いし、出す気も無い。 ただ、痛みも身体の限界も、力学も、空気抵抗も忘れて、才人は走り出した。 自らが標的と定めた敵へと向かって 「わ、わるキュー!!」 慌てて残りのワルキューレを出そうとするが、時すでに遅し、 物理法則を無視したかのような才人の速さは、一息の踏み込みでギーシュの懐へと入り込んでいた。 そして、喉に当てられる刃。 まるで、獲物に喰らいつく猛獣の歯のようにギラつくその刃にギーシュはすっかりビビってしまった。 「コ……降参する! 降参するから、命だけは助けてくれ!!」 だが、首からナイフの刃が外される事は無い。 「頼む……なぁ、頼むよ。謝るから、許してくれ……お願いだ」 ギーシュの懇願が効いたのか、それとも肉体的にすでに限界だったのか、 果物ナイフをギーシュの首元から外し、てくてくと才人は歩き出す。 そして 「あっ……」 殴られ続けた才人を見て、呆然としていたシエスタに笑いかけた。 その微笑みは、顔の筋肉が殴られた影響で腫れあがり、 まともに働かなかった為に随分と歪なものであったが、確かに笑っていた。 「――――――」 その笑顔のまま、口を僅かに動かし、才人の身体は、今度こそ地面に倒れ伏した。 「才人……さん……」 倒れた才人を見て、ペタンと座り込んでしまうシエスタ。 今までの出来事に対し、脳の処理能力が追いつかないのだ。 回りの貴族達も同様であった。 ただ、驚きの表情でこの決闘の一部始終を見つめているだけ。 そんな中で、ルイズとホワイトスネイクだけが正気に戻っていた。 と言うか、ホワイトスネイクは最初からの、この結末になることを知っていたし、ルイズはホワイトスネイクに声を掛けられて、やっと正気を取り戻したのだ。 平民が……貴族に本当に勝った…… ホワイトスネイクがどうにかして勝たせると言っていたが、まさか、こんなに圧倒的とは思っていなかったのだ。 ともあれ、なんとか再起動を果たしたルイズは、悠然とした動作を心がけてギーシュへと近づく。 その顔は、先程の才人が表現したかった満面の笑みで彩られている。 「さぁ、ギーシュ。賭けの清算をしましょう?」 なるべく穏やかに、なるべく優雅に、ルイズはギーシュへと話掛けるが、ギーシュは一度、身体をビクンと一度振るわせた後、ガタガタと肩を揺らし始めた。 最初、ルイズは首にナイフを突きつけられた恐怖に震えていると思っていた。 しかし、事実はまったくの逆。 ギーシュは、限りなく憤っていたのだ。 「ルイズ……この賭けは無効だ……」 腹の底から響かせるように、ギーシュは厳かにそう告げる。 この返答にルイズは、眉を顰めた。 何を言ってるんだ、こいつは。 平民に負けたら、強制的にギーシュの負けである。 なのに、無効とは…… 「何、ふざけたこと言ってるのよ!! 約束を守りなさいよ! あんたそれでも貴族なの!!」 「あぁ、貴族さ! 誇り高きグラモンの末弟にして、土のメイジだ! だから、だからこそ、本気を出せば、あんな平民如きに負ける訳が無い!!」 そう言って、ギーシュは杖を振るい、薔薇の花弁からワルキューレを六体作り上げた。 「あの時、僕のワルキューレは一体だった。 しかし、本来なら僕は七体のワルキューレを扱う事が出来るメイジだ! 故に、あの勝負は全力で挑んでいなかったとして無効だ!!」 速効で勝負を終わらしてしまった事が裏目として出てしまった。 ギーシュに、貴族に対して、平民に負けたと言うのは耐え難い恥である。 もしも、ギーシュが七体全てを出し切って負けていたのなら、こんな事にはならなかっただろう。 しかし、今の彼には逃げ道が、全力を出していなかったと言う“言い訳”が存在してしまっていた。 「憐れね……現実が信じられないからって、そんな逃げ道に走るなんて…… それでも、誇り高き貴族なの?」 本気でルイズはギーシュに対して憐れみを感じていた。 そう……次のギーシュの言葉を聞くまでは…… 「お前に貴族云々を言われる筋合いは無い!! 魔法も使えない癖に、ただ威張り散らすだけの『ゼロ』が!! ハッ、そうか……君、あの平民とグルだったんだろう? それで、魔法を使えない者同士、知恵を振り絞って僕を倒そうとしたんだろ? そうなんだろ? ハハッ、何が憐れだ。君の方がよっぽど憐れだよ。 さっきから貴族、貴族と……魔法も使えぬ奴が貴族を語るな!!」 普段のギーシュならば、こんな言葉を吐かなかっただろう。 だが、平民に自分のゴーレムを壊された事、そして、その現場を他の学生達に…… 特にモンモラシーに見られた事が、彼から余裕と―――危機感を奪っていた。 故に彼は気が付かなかった。 ルイズの握られた拳から、血が流れていた事を…… 誰かが、その、あまりにも強く、手を握り締めた為に爪が食い込み出血しているその拳を見れば、この後の事態を避けられたかもしれなかった…… しかし、運命は無情である。結局、誰一人、その事実に気が付かず、ルイズは一歩、確りと足を踏み出してしまった。 「ねぇ……ギーシュ……決闘しましょう…… 貴方は魔法を使っても良い。勿論、使い魔も良いわよ 私も使い魔を使わせて貰うから、そのぐらい許可するわ」 何の感情も込められていない言葉。 あまりにも怒りに、頂点を一巡して、無感情にまで辿り着いた怒りに、ルイズは静かに向き合っていた。 その様子に気が付いた者が、ギャラリーにちらほらと見受けられてきたが、ギーシュはそんなことに気が付かず 「良いだろう……だが、君は魔法を使えないから実質、君の使い魔のみが、 メイジである僕と戦うんだ。僕のヴェルダンディは出すまでも無いよ」 「そんなこと言わないで……だって、貴方、今度負けたら使い魔が居なかったら負けた…… とか言い出すに決まってるわ。なら、最初から使い魔が居た方が手間が省けるもの」 「何の手間だい? 君が僕に負けて地面に這い蹲って、泣いて部屋に帰る時の手間かい?」 その時は、勿論ヴェルダンディで部屋に送ってやるさ、と呟くギーシュにルイズはもう一歩近づく。 そして、本当に透明な声で…… 「いいえ……貴方の墓穴を掘る手間よ」 ゆっくりと告げた。 瞬間、ルイズの隣に立っていたホワイトスネイクの身体が弾けた。 否、“弾けたような速さ”でギーシュへと肉薄した。 スタンドとは本体の精神エネルギー。 例えば、一人の人間が100メートルを七秒で走れたとしよう。 それが、どれだけ感情を燃やした所で、その人間の限界。 そして、それが世界の法則。 肉体と言う世界に縛られた檻では、感情を幾ら燃やした所で、どうしても限界を超える事が出来ない。 だが、スタンドは精神エネルギーの結晶体。 肉体を持たず、世界との繋がりが緩いスタンドは、世界と言う檻に囚われず、時折、そのスタンドに予め決められていた性能の限界を超えてしまう。 無論、限界とは、それ以上、先へ進めないから限界である。 その為に、スタンドが成長して限界を超える際は、基本的に新たな能力の使い方に目覚める。 すでにして性能が限界に達していたスタープラチナが、限りなく『0』に近い静止した時間を動けるようになったように…… エコーズが、その姿を変えて、能力を変化させたように…… オアシスが、それ以上強くなれない肉体の為に、周囲を脆くする能力を身に付けたように…… だが、ホワイトスネイクは、新たな能力には目覚めなかった。 この世界では無い、世界。 スタンド使いが居た世界で、新たな能力に目覚めず、スタンドの基本性能を一時的に飛躍させ、誇張でも何でもなく『限界』を超えたスタンドが一体だけ居る。 シルバーチャリオッツ。 仲間を殺された怒りが、超えられるはずの無い限界を超えたように、 ルイズのホワイトスネイクもまた超えられぬはずのない限界を超えていた。 有り得ぬはずのスピード。 有り得ぬはずの精密動作 有り得ぬはずのパワー ルイズとギーシュの距離は10メートルは離れていた。 しかし、ホワイトスネイクはその距離を一瞬にして『ゼロ』にして、同時に六体のワルキューレを粉々に粉砕していた。 「ほら……これで貴方を守る存在はいなくなった…… ねぇ、本当に使い魔を呼ばなくて良いの? このままじゃあ貴方……」 ルイズの淡々とした言葉は、ギーシュの耳には届いていない。 何が起こったのか、さっきの平民所の話では無い。 ガチガチと歯がなる。 認められない。認められるはずが無いと。 「ヴェルダンデ!!」 自分の使い魔を呼ぶ。 ヴェルダンデは、主の望むままにルイズの足元に大穴を空け……動かなくなった。 「なっ……何を……」 「ん~、綺麗なDISCね。流石はジァイアントモール……主よりもよっぽど価値があるわ」 手に何か円形のものを持って、ルイズが呟く。 もう、訳が分からなかった。 この状況もそうだが、自分の近くに居たはずのルイズの使い魔が何時の間にか、ルイズの傍に控えている。 その様は、下される命令を待つ兵士のようであり……処刑の号令を待つ、死刑執行人であった。 「さてと……それじゃあ……奪わせて貰うわ……貴方の才能を……ね」 円形のモノを口に咥えたルイズが、つい、と指揮棒を振るように右手を振った瞬間に、ホワイトスネイクがギーシュの眼前へと現れ―――――― 「えっ……?」 訳が分からなかった。 全力で振りぬかれたはずの使い魔の右手は、自分の頭をぶち壊す訳でもなく、ただ通り過ぎてしまった。 これは……もしかしたらチャンスじゃないか…… ギーシュは、最後の最後で油断を見せたルイズを嘲笑った。 ルイズも、ルイズの使い魔も、すでにギーシュに背を向けていた。 その隙だらけの背中に、剣を創り飛ばそうと、ギーシュは呪文を唱えた。 が……それが形になることは無かった。 「な……なんで?」 「お探しのものは、これかしら?」 ルイズがギーシュへと振り向く。 その頭には、二枚になった円形のモノの一枚が、頭に突き刺さっていた。 「それは……」 「……貴方、自分から出たモノなのに分からないの? これは、貴方の魔法の才能……土のドットクラスなんてカスだけど、 まぁ、ありがたく使わせ貰うわ」 そう言って、ルイズはこれまで一度も触れなかった杖に触れ、大きく杖を振り上げた。 それに伴い、粉々になったはずのワルキューレ達が、次々に形を取り戻していく。 「中々、便利じゃない……」 感心したように呟くルイズに、ギーシュは、もう自分は、この化け物に勝つことが出来ない事を悟った。 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては……逃げなくては…… 「あぁ、そうそう―――あんたには出て行ってもらうわ」 気付かれた……この世で最も恐るべき存在に気付かれた。 ギーシュは気絶したかったが、襲い掛かる恐怖の波でそれすらも出来なかった。 ただ、震えてルイズの言葉を待つしかできない。 「出て…………行くって…………何処……に?」 「決まってるじゃない」 ルイズは、無感動に無感情に無慈悲に無意義に無意気に 「――――――あの世よ」 お前はこの世に価値が無い。 まるで、無為な者を見るような目で自分を見つめるルイズの視線に、ギーシュが目を逸らそうとした瞬間、目の前が塞がれた。 何かが、頭の中に入ってくる…… そんな感覚がしたかと思うと、ギーシュは自分の首を自分で絞めていた。 「ぐぇぇぇぇっ!!」 苦しそうに呻くが、自分の手だと言うのに、思うとおりに動かない。 「ギーシュッ!!」 ギャラリーの中で、心配で部屋に戻った振りをしてギーシュを見に来ていたモンモラシーがギーシュに近寄り、首に回っている手を外そうとするが……外れない。 「ギーシュ!! ……ギーシュ!! ルイズ、お願い!! 彼を助けてあげて!!!」 何をしたか分からないが、ルイズがギーシュに何かをしてこうなった事は分かっていたので、ルイズに助けを求めるが、 彼女はワルキューレに倒れ伏した平民を担がせて運ぼうとしていた。 呆然としていたメイドもついでに抱えている。 「お願い!! お願いよ、ルイズ!!!」 モンモラシーの嘆願に、ルイズは振り返りさえせず、ヴェストリの広場を立ち去ってしまった。 そうこうしている内に、ギーシュの顔色が青から土色へと変色していく。 もう余裕が無いのは明白だった。 「ギーシュ!! お願い、手を離して、ギーシュ!!!」 モンモラシーが泣き腫らした目と、枯れた声で叫んだ瞬間、彼女の耳に魔法の詠唱が届いた。 「エア・ハンマー」 風の槌がギーシュの頭を酷く叩く。 それによって、ギーシュは気絶し、手に込められていた力もあっさりと抜けた。 「タバサ!!」 普段寡黙でこんなイベントには来ないであろう彼女が来た事に対する疑問はあったが、モンモラシーは素直にタバサがここに居る事を喜んだ。 「ありがとう! 本当に……本当にありがとう……」 泣きじゃくるモンモラシーを余所に、タバサは天国に片足を突っ込んだギーシュへと近づく。 ギーシュの足元、そこに光る何かを見つけたからだ。 円形の形をした何か。 鍋敷きのようであるが、これが、ギーシュに自分の首を絞めさせた原因だろう。 タバサが、それを懐にしまうと、タバサの後を着いてきたキュルケが、ふらふらと広場に到着する。 ギャラリーが騒然となっている中、この騒ぎを起こしたのがルイズだと知ると、キュルケは自責の念で潰れそうになった。 ―――自分が……自分が引き金を引いた所為でこんな事に…… もう遅すぎる後悔が、彼女を絶え間なく責めていた。 第二話 戻る 第3.5話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/938.html
サブ・ゼロの使い魔 第二章 傅く者と裏切る者 ――また、あの夢だった。古びた部屋にいる、誰かになった自分の夢。 だが、今回はいつもと違った。ルイズがその夢を知覚したと同時に、全ての霧はざあっという音と共に消え去り――そしてその瞬間、ルイズは部屋にいる男達のことをまるで遥か昔から知っているように理解していた。 後ろのソファに座って仲良く話している二人・・・ソルベとジェラート。 椅子に座ってテーブルの上の変な物体を叩いている男・・・メローネ。 椅子の背に手を置いて彼の肩越しにそれを覗き込んでいるのは、イルーゾォ。 立ったまま壁に背を預けて本を読んでいるリゾットは、たまにこちらを見てはやれやれといった顔をしている。 そして先ほどから二人して自分に怒鳴り続けているのはホルマジオとプロシュート。 二人がかりの説教を喰らっている自分は・・・そう、ギアッチョだった。 「ギアッチョッ!何度言ったら分かるんだてめーッ!!」 プロシュートが上半身を乗り出して怒鳴っている。 「しょーがねーなぁぁぁ これで何冊目だっつーんだよギアッチョさんよォォ」 右手に持った本だったものの残骸をバンバンと叩きながらホルマジオもプロシュートに加勢するが、当のギアッチョはどこ吹く風で受け流す。 ・・・というか全く聞いていない。 「何で3ページで打ち切りになるんだよォォォ~~~ッ!! ナメてんのかオレをッ!!クソッ!クソッ!!まそっぷって何だ!バカにしやがって!!」 イルーゾォが呆れた顔でプロシュート達を見る。 「だから言ったじゃあないか・・・ギアッチョにだけは物を貸すなってよォー」 「そのくらい諦めるんだな オレなんてパソコンを破壊されてるんだぜ」 同じく顔を上げたメローネはそう言って首を振った。ソルベとジェラートはそんな彼らをニヤニヤ笑いながら眺めている。 「外野は黙ってろッ!今日という今日は許さねぇぜギアッチョ!」 「仲間に対する敬意ってもんが足りねーんじゃあねーか?オイ」 プロシュート達の怒りは全く収まらないようだった。 「やれやれ・・・ お前達・・・その辺にしておけ そんなことをいくら言おうがギアッチョには通じないことぐらい知っているだろう」 パタンと本を閉じて、リゾットがリーダーらしく彼らを制止する。 プロシュートとホルマジオは「甘いぜリゾット」という視線を彼に向けるが、リゾットが続けて「ギアッチョ、お前は弁償しておけ」と言ったのを聞いてとりあえずその場は収めることにした。ギアッチョはその言葉に不満げな表情で財布を出し―― ――場面が飛んだ。 ギアッチョの前には古びた扉がある。決まったリズムでそれを叩くと、少ししてから軋んだ音を立てて扉が開いた。 「仕事は終わったぜ、リゾット」 扉を開けたリゾットにそう報告して、ギアッチョは中に入る。 彼に続いてメローネが入ってきたのを確認して、リゾットは彼らにねぎらいの言葉をかけた。 「・・・ま、今回もくだらねー仕事だったがよォォ どうせやるならもう少し面白みのあるやつを回してもらいてぇもんだ」 とギアッチョが言えば、 「簡単なのに越したことはないさ・・・ こんなはした金で命を捨てたくはないからな」 タッグを組んでいたメローネがそう答える。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすとどっかりと椅子に腰を落とした。 と、ウヒャヒャヒャヒャという聞き慣れた笑い声が場に響き、ギアッチョ達は声を発した男に目を向ける。 ホルマジオはイルーゾォと机を挟んで向かい合っていた。 二人の横にはプロシュートが陣取り、奥のソファには相変わらずソルベとジェラートが座っている。 そして彼ら全員の視線が集まっているのは、テーブルの上にあるチェス盤だった。 ホルマジオは盤からイルーゾォに視線を移して言い放つ。 「チェックメイトだ オレの勝ちだぜイルーゾォ!」 「バ・・・バカな・・・ただのポーンなんかにィィィ!」 イルーゾォが信じられないという顔で叫ぶ。 「クハハハハハハッ!分かってねェーなァァ チェスって奴をよォォー! 駒の強さなんてもんは所詮ここの使い方一つだぜェェ~」 ホルマジオは人差し指で自分の頭をトントンと叩きながら言った。 「クッ・・・クソッ!再戦だ!もう一度やらせろ!」 「ダメだね ほら!とっとと賭け金をよこしなよイルーゾォよォ~!」 イルーゾォの願いをホルマジオはあっさり跳ね除けた。イルーゾォはしばらくの間「再戦の拒否は許可しないィィィー!」等と叫んでいたが、結局彼のスタンド、リトル・フィートにガッシリ押さえ込まれて財布から二割増しで金を抜き取られていた。 「やれやれ どきなイルーゾォ オレが仇をとってやるよ・・・なぁに、ボードゲームは得意なんだぜ」 メローネが自信たっぷりに椅子に座り、 速攻で敗北した。 部屋の隅で頭を抱えているメローネを尻目にギアッチョが挑み、敗北。プロシュートが挑み、敗北。ソルベが挑みジェラートが挑み・・・ 敗北。敗北。敗北。 「てめーイカサマやってんじゃねーだろーなァァーー!!」 「何逆ギレしてんだオイ!しょぉぉがねーなァァアァ!」 度重なる敗北についにギアッチョがブチ切れた。 その瞬間、今がチャンスとばかりにプロシュートがホルマジオを蹴っ飛ばし、そのスキにソルベとジェラートが彼に飛び掛り、イルーゾォが一瞬でその財布を奪い取り、メローネが皆の取り分を計算して分配した。 「ちょっ・・・何やってんだてめーらァァァ!!」 「うるせェェェ!勝負になるかボケッ!!」 七人はギャーギャーと騒ぎ続け、リゾットはそれをいつものことだというような眼で見つめていた。 そしてもう一人、ギアッチョの眼を通してルイズもまた彼らを見つめている。 喧嘩ばかりしているが、ルイズの眼には彼らはとても楽しそうに見えた。 常に四面楚歌で命のやり取りをしているからこそ、きっと彼らは死よりも強い絆で結ばれているのだろう。 バカ騒ぎを続ける彼らを、ルイズの心は羨ましそうに見つめていた。 そうしてルイズの夢はいくつもの場面を映し出す。しかしその内容は、徐々に不穏の色を帯びて来た。 場面が過ぎる度に、自分達の理不尽な待遇に、彼らのボスに対する不満は高まって行くのだった。 そして幾度目かの場面転換の後――ついにそれは起こった。 ドンドンドンドンドンドンッ!!! アジトの扉が猛烈に叩かれる。中で待機をしていたギアッチョとメローネ、そしてリゾットとプロシュートは一斉にスタンドを発現させた。 「おいッ!!開けろ・・・!!大変なんだよ!!ジェラートが殺されたッ!!」 「リゾットッ!!オレだ、ホルマジオだッ!!早くここを開けろォォォ!!」 決められたノックをしないことにリゾット達は不審を抱いていたが、その声はどう聞いてもイルーゾォとホルマジオだ。そして彼らが口にした言葉は、彼らにとってこれ以上なく衝撃的なものだった。 プロシュートのザ・グレイトフル・デッドを使って扉を開ける。最初に転がり込んできたイルーゾォの襟首を、ギアッチョが強引に掴んで引き上げた。 「てめーイルーゾォ!!タチの悪い冗談はやめろッ!!」 ギアッチョが人を殺しかねない剣幕で怒鳴る。しかしイルーゾォは苦渋に満ちた顔で答えた。 「嘘じゃない・・・!!『罰』と書かれた紙を身体に貼り付けて・・・ッ!!」 サイレントの魔法がかかったかのように、その場は静まり返った。 ――・・・そんな・・・嘘・・・ ルイズは崩れ落ちそうになった。勿論、今はリプレイされるギアッチョの幻に宿るただの意識である彼女には不可能なことであったが。 ギアッチョの仲間は、リーダーを除き全てが死んだ・・・それは理解しているはずだった。 しかしギアッチョを通して幾つもの場面を共有した今、ルイズに彼らの死を無関心に眺めることなど出来るはずがない。 だがそんな彼女の気持ちなど一顧だにせず、場面は無情に進んで行く。 ジェラートは自宅のソファで、恐怖に顔を引き攣らせて絶命していた。 「ジェラート・・・おいジェラートッ!!」 プロシュートがジェラートを揺さぶる。リゾットは彼の肩を掴んでそれを止めた。 「やめろ・・・プロシュート ・・・ジェラートはもう死んでいる」 「クソッたれがッ!!」 プロシュートは怒りを吐き捨てて立ち上がった。逆にメローネは、その場にがっくりと膝を落とす。 「・・・ボスだ・・・ボスの正体を探ったことがバレて・・・・・・」 ギアッチョは唇を噛んで怒りを耐えていた。ギリギリと音がするほど噛まれた唇からは、彼らの心を代弁するかのように血が流れている。 「・・・ホルマジオ イルーゾォ ソルベはどこだ?」 リゾットが二人に向き直るが、彼らは俯いたまま黙って首を横に振った。 「クソッ・・・!お前達・・・ソルベを探せ!!」 リゾットは焦燥感も露に叫んだ。 そして場面はまた一つ飛ぶ。 ギアッチョ達はアジトに集合していた。彼らの足元の床には、七十サント四方程の箱が数えて三十六個転がっている。 その箱にはガラスのケースに額縁を嵌めたようなものが入っていて、その中に何か気持ちの悪いものが、 ――・・・そんな 彼らは最後の一つまで開封して、やっとそれが何かに気付いた。 ――やめて ・・・いや、解ってはいたが・・・気付かない振りをしていた。彼らが送られてきた順にそれらを並べてみると、 ――お願いだからもうやめて・・・! 三十六個に斬り分けられた、輪切りのソルベが、 ――あぁあぁああああああぁああああッ!!! ルイズはいっそ気絶してしまえたらどんなに楽だろうかと思った。 しかし今はただギアッチョを通して彼の過去を見ている「意識」だけの状態であるルイズには、気絶どころか顔を覆うことも背けることも出来ず・・・彼らの為にただ涙を流すことすら出来なかった。 しかし、眼前の場面は冷徹なまでに滞りなく流れ続ける。自分達を嘲笑うかのように警告の道具としてソルベを惨殺したボスに、誰もが怒りを必死に押し殺す中―― バギャアッ!!! ギアッチョの我慢は限界を超えた。 「あの野郎ォオオォオォォオオーーーーーーーーーーーッ!!!!」 テーブルを叩き割り、ギアッチョは天地が割れんばかりの声で叫んだ。 「殺すッ!!!オレが殺してやるッ!!!」 額縁を梱包していた箱を踏み破りながら、ギアッチョは悪鬼の如き凶相で扉へと向かう。 プロシュートが「早まるんじゃあねぇ!」と手を伸ばすが、ギアッチョは彼に眼も向けずにその手を払いのけた。 しかし、その先でギアッチョの足がピタリと止まる。扉の前に、リゾットが立ちふさがっていた。 「どけよ・・・リゾット!!」 怒りに沸き立つギアッチョの双眸がリゾットを射抜く。しかしリゾットは充血した両眼でギアッチョの視線を真っ向から受け止めた。 「リーダーとして・・・ギアッチョ、お前を行かせるわけにはいかない」 「何故だッ!!」 ギアッチョは激昂して叫ぶ。 「ええ!?オレ達は一体何年屈辱に耐えてきた!?命を賭けて組織の敵を排除し続けてよォォーー・・・オレ達は文字通りパッショーネに命を捧げてきたッ!!いつか忠誠が報われる日が来ると信じてなァァ!! それが何なんだこのザマはッ!!オレ達の誇りだけじゃあ飽き足らず、ボスの野郎はソルベとジェラートを無惨に殺し・・・そしてその死まで侮辱したッ!!ここまでされてよォォォー!!一体いつまで耐え続けろっつーんだッ!!」 ギアッチョは怒りに任せてまくし立てた。 「落ち着けギアッチョ・・・! オレは・・・いや、オレ達の誰一人としてこの状況を受け入れている者はいない・・・ だが耐えるんだ!」 リゾットはそう言うと、ギアッチョが何かを言う前に続ける。 「ボスの正体を探ろうとしたんだ・・・オレ達が関わっていようがいまいが、ボスは既に・・・間違いなくオレ達を監視下に置いているはずだ そんな状態で一体何が出来る・・・?刺し違えるどころか、ボスに辿り着くことすら出来ないだろう」 ギアッチョはぐっと言葉を詰まらせる。 「今は伏して耐えるんだ・・・ ボスを倒す『チャンス』が来るまで!」 リゾットの眼は『覚悟』している者の眼だった。ギアッチョは壁を一発猛烈な音を立てて殴りつけると、その拳を震わせながら収めた。 ルイズは今度こそギアッチョの気持ちを理解した。彼女の耳には、食堂でギアッチョが叫んだ言葉が木霊していた。 『オレ達の命は安かねェんだッ!!!』 これだけの言葉に、一体どれほどの無念が込められていたのだろう。 ルイズにはもう結末が分かっている。リゾットの部下は、全員が死亡する。 ならば例え彼がボスに打ち勝ったとしても、一体その勝利にはどれほどの意味があるのだろうか? 仲間を失くし、ボスを殺して生きる目的までも失ってしまったならば、リゾットはもはや一人で生きていけるのだろうか。 そして、殆ど全ての仲間を失って唯一人生きながらえてしまったギアッチョは? 己が立っていた足場を失い、拠り所にしていた支えも失い――彼は一体何を思って生きているのだろうか。彼は自分を命の恩人だと言う。だけどそれは本心からのものなのだろうか?自分はギアッチョに、ただ終わることすら許されない痛みを与え続けているだけなのではないか―― ルイズには何も解らない。ただひたすら辛く、そして悲しかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2372.html
翌日、朝と昼の真ん中ぐらいの時間に宿を出る。 貰った軽装の鎧は放置して、若干生乾きのスーツを着てリッシュモンを張っていると、馬車が用意されどこかに向かう。 馬鹿正直に馬で追うわけにもいかんので、かなり距離を離しながら自身を老化させているが、やはりメタリカやリトル・フィートの方が便利だ。 鐘が11回鳴り時間を告げると馬車が劇場っぽい建物の前に止まった。 「勢揃いじゃあねーか。よっぽどこの狸狩りに力いれてんだな」 少し離れた場所から見えたのは、ルイズ、才人、アンリエッタ、アニエス。 魔法衛士隊もやってくると劇場の周りを取り囲む。中々の手際だ。 アンリエッタが中に入り、アニエスが馬でどこかに向かったので、アニエスの方へ向かう。 こいつの最終目標はリッシュモンの命だ。ならこっちを尾けた方が早いし、なにより身元が割れていない。 したがって尾ける気はなかったので走ってる横に付ける。 「よ、昨日ぶりだな」 「お、お前!どういうつもりだ!」 「ルセーな…こっちにも色々事情ってもんがあんだよ。ああ、鎧と剣だが宿に置いてあっから要るなら取りに行けよ」 「どれだけ自己中心的だ貴様!仮にも王宮の備品だぞ!」 「知るかよ。……今なんか悲鳴が聞こえたような気がするが気のせいか?」 「知らん。お前の気のせいだ」 実際のところ気のせいではなく、ルイズによる才人の調教が行なわれている真っ最中である。 「で、だ。殺るんだろ?」 「……ああ。お見通しか」 「殺るのは構わねーが、聞きてー事があんだよ、オレも。その後なら好きにしろ」 かなり物騒な会話だが、それだけの恨みがあるという事だろう。 しばらくすると、排水溝を介した通路が見える。多分どこかに繋がっているはずの通路だ。 通路に入り、しばらく無言で歩いていると明かりの中に人影が見えた。 「狸かと思ったがドブネズミ…いや、下水よりはマシか」 「おやおや、リッシュモン殿。変わった帰り道をお使いで」 アニエスはこの上なくドSな笑みを浮かべていたが、プロシュートの方は別に変わりない。 「貴様ら…どけぃ。貴様らと遊んでいる暇はない。この場で殺してやってもいいが面倒だ」 NGワード発動。この男の前で『殺してやってもいい』とかは禁句だ。 「おい、てめー。殺してやってもいいだと?殺すとかいう台詞はな…終わってからいうもんだぜ?オレ達の世界ではな」 「私はすでに呪文を唱えている。あとはお前達に向かって解放するだけだ」 「能書きたれてねーで、一つ答えな。クロムウェルってのは何処にいる?」 「知ってどうする。貴様もトリステインを裏切る気か?だが、平民なぞ何の役にも立たんわ」 「生憎オレは、この国やアルビオンがどうなろうと知ったこっちゃあねーんだよ。答える気はねーか。ほらよ、オメーの好きにしな」 特に期待していなかったが、こいつも相手から見れば下っ端のようなものだろう。 裏切り者は寝返った相手にも大抵信用されないものだ。故に当面は危険な任務に付かされる事が多く、重要な情報なぞ与えられる事はまず無い。 用は無いとして、アニエスに促すと搾り出すように、言葉を切り出した。 「私が貴様を殺すのは、陛下への忠誠ではない。私怨だ…忘れたとは言わさんぞ、ダングルテールを」 「なるほど、うわはははは!貴様はあの村の生き残りか!」 「貴様に罪を着せられ……なんの咎なく反乱の汚名を着せられ我が故郷は滅んだ! ロマリアの異端審問『新教徒狩り』。ロマリアからいくら貰った?リッシュモン」 余裕を崩さない態度でリッシュモンが答える。かなり油断していると見えるが、裏稼業の人間としてなら失格というとこだ。 「賄賂の額なぞ、いちいち覚えておらんな」 「金しか信じておらぬのか。あさましい男よな」 「お前が神を信じる事と、私が金を愛する事と、如何ほどの違いがある。よければ講義してくれ」 アニエスは唇を噛み切らんばかりに噛み締めているが、この元ギャングの価値観からすれば、ややリッシュモンに近い。 むしろ神なぞ全くもって信じていない。信じるのはマジに信用できる仲間と己の能力と栄光のみ。 ただ一つ違うとすれば、目的を達成するために取った行動に伴う責任というか、降り注ぐ恨みを覚悟してやっているという事だ。 「金な。結構な事じゃあねーか。だが…当然恨みを買うってのは覚悟してやってんのか?それが出来てなけりゃあ話になんねぇ」 「貴族の技を使うのは勿体無いが…これも運命かね。殺してやる」 杖の先から巨大な火の弾が膨れ上がったが、好都合だ。これなら一瞬でケリが付く。 上も巻き込んじまうが、まぁ問題無い。わざわざ体温を上げてくれてるのだから利用しない手は無い。 「なが…馬鹿な…体が…」 「殺してやる。溜めた金は地獄で使え!」 老化した。まぁ元々年食ってたから分かり辛いが、弱ったリッシュモン向けアニエスが突っ込む。 そのまま、懐に飛びこんだアニエスがリッシュモンの胸に剣を突き立てた。 「…な…!何故、剣が…!」 突き刺した。現に切っ先はリッシュモンの胸に向かっているが、手前で何かに止まっている。 「チッ…限界か」 老化を解除。これ以上やれば上にも影響が出る。騒ぎになるのはマズイ。 「驚いたぞ…平民風情がよもや私を追い込むとはな。だが狙うなら胸ではなく首にするべきだったな」 リッシュモンがローブを脱ぐと中には空いた手で草が生えた植木鉢を持っていた。 「ギャァーーーーーース!」 「なんだこれは…!」 「命令も聞かんし、厄介なやつだが自分が攻撃されたと思ったみたいだな。怒っているぞ?」 ただの草かと思っていたが、目がある。口がある。そして、鳴声をあげている。猫そのものだ。 そして、こいつの目線は今、グレイトフル・デッドを追っている。 つまりこいつは… 「この前の猿といい、…こいつもか!」 動物のスタンド使いは珍しくもないが、こいつは別だ。 ホワイト・アルバムのように装甲を身に纏っているわけでもない。かといって、こんな猫見た事すらない。 防いだ手段もまだ分からない。能力で防いだなら何らかの形で見えるはずだ。 明かりはリッシュモンが灯している光と、アニエスが用意した灯しか無く薄暗いとはいえ見逃すはずはない。 厄介な事になった。能力を隠しているのならまだしも、能力が見えないというのはマズイ。 対策のしようが無いというのがマズイ。スタンド使いとの戦いにおいては敵の能力をいち早く知るというのは必須事項だ。 スタンドバトルは情報戦でもあるのだ。 グレイトフル・デッドを身構えさせ備えるが、興味ねーといった感じに視線を外し、猫目をアニエスに向けている。 猫ゆえの気まぐれというやつだろうか。少なくとも攻撃しない限り攻撃されるという事は無さそうだ。 「…今何に止められた」 「わ、分からん…何なんだあれは…?猫か?草か?」 「両方…だろうが、本体が物質と一体化するなんざ聞いた事ねーぞ」 初めて見るタイプだけに余計困惑する。スタンドヴィジョンも本体その物と思った方がよさそうだ。 問題は能力だが、受けたアニエスにも分からないでいる。 能力が分からないというのは、メタリカなどの例があるように分からないでもないが、能力が見えずに攻撃を受けるというのが妙だ。 ホワイト・アルバムしかり、リトル・フィートしかり何らかの影響が必ず出る。 つまり透明でいて、直接触っても影響が無い物。そんな物は滅多にあるもんじゃあない。 「これは、並みのメイジ以上の風の先住魔法の使い手でな。扱いは難しいが、貴様ら平民などより余程役に立つ」 ok。こいつが馬鹿で助かった。スタンドバトルにおいて自分の能力をひけらかし話すなぞ自殺行為に等しい。 リッシュモンは風と言ったが、ただ、単純に風ではないと判断する。 風ならば、この狭い通路。こっちにも届くだろうし、アニエスを止めるのではなく吹き飛ばすはずだ。 もちろん、防御のためだけ。とも考えたが、その可能性は低い。 もう少しで何かに行き当たりそうだったが、考える時間を与えてくれそうにないらしい。 リッシュモンが杖を振っている。ただ、詠唱が恐ろしく短い。攻撃に使うような魔法じゃあないはずだ。 「うぉおおおおおおおッ!」 「何!?」 叫びに反応して横を見ると、アニエスが火に包まれている。 マントに仕込んだ水袋のおかげで再起不能というわけではないが、鎖帷子を熱く焼き、肉の焼ける嫌な臭いがする。 「馬鹿な…今のは…コモンマジックの着火のはず」 あれだけの火に包まれて倒れない精神力には感心したが、少しばかり妙だ。 リッシュモンが使った着火の魔法。 着火というからには何かに点火したという事だ。つまり、その点火物があの猫草(仮)の能力。 「どうやって燃やされた。少しでもいいから思い出せ。ささいな事でいい」 「知るか。ヤツが杖を振ったら急に私の装備が燃え上がった。ただ…その時、さっき止められた時と同じような感触がした」 「そんだけ分かれば十分だ」 あの猫草が操っているのは、恐らく空気。 草だけあって光合成もするのだろうが、アニエスの周りに飛ばしたのは酸素の塊といったとこだろう。さしずめ酸素弾といったところか。 高濃度の酸素で包まれた状況で服にしろ何かに着火されれば一気に燃え上がる。 さっきアニエスを止めたのもその能力だろう。空気が見えないのも当然の事だ。 厄介なのが、猫草がアニエスに対してかなりの敵意を持っているという事。 草だけあって体温なぞがあるかどうか分からないし、植物に広域老化で効果が出るには時間がかかる。 それまで待っていれば、上なぞ阿鼻叫喚の事態になるはずだ。こちらに敵意を持っていない事は幸いだが、下手にリッシュモンにも攻撃できない。 「おい、オメー。殺す覚悟があんなら、殺されるかもしれねーって覚悟はあんのか?」 「…あいつを殺せず逃がすのなら死んだほうがマシだ」 「なら、行け。くたばったら骨ぐらいは拾ってやる」 火傷の痛みに耐えてアニエスがリッシュモンに突っ込む。 「ふん。無駄な足掻きを。畜生にやられて死ね」 「フギャァァアアア」 猫草が大砲のような形状をとっている。恐らく、空気弾を飛ばすためだ。 それに構わずアニエスが突っ込む。再びリッシュモンが呪文を唱え杖を振り下ろそうとした。 が、それより早く持っていた灯を消すと同時に、アニエスから抜き取っていた銃をリッシュモンが振り上げていた手目掛けブチ込んだ。 銃は扱いなれているが物が骨董品。一発勝負の上、外すかもしれんので破壊力Bのグレイトフル・デッドでブン投げる。 「うぐ…杖を…!だが私への攻撃は……」 衝撃で杖を手放した事で灯りが消え通路が闇に包まれる。 そして、リッシュモンの口から出たのは言葉ではなく鮮血。 「馬鹿な…なにをやっている…どうして防がない…」 「草っぽいからやってるんだろうが…知ってるか?光合成ってのは光がねーとできねーんだぜ」 これで猫草が大人しくなるかどうか怪しかったが成功したようでなによりだ。 ベースが草だけあって植物の性質が強いらしい。 「メ…メイジが平民ごときに……この貴族の私が…お前達のような平民に…」 「さっきから平民平民ウルセーぞ、てめー。さっさと」 「剣や銃がおもちゃだと抜かしたな?これは牙だ。貴様ら貴族に喰らい付くためのな。その牙で」 「「死ね」」 「さて…こいつ、どうすっか」 闇の中の視線の先には爆睡している猫草だ。こうしてみると普通の猫と変わりない。 枯らすというのも悪くはないが、何かに利用できそうとも考える。 少なくとも、攻撃しない限りは攻撃してこないヤツだ。暗くすれば活動が止まるというのもいい。 そんな事を考えていると、カチャリという音がする。銃の撃鉄を引いた音だ。 「お前がクロムウェルに近付こうとしている理由…聞かせてもらおうか」 「お前の知った事じゃあねーよ」 「トリステインがどうなろうとも知った事ではないと言ったな…二つ数える間に選べ。生か、死か」 頭に銃をつき付け、アニエスがカンテラに灯を付けたが、逆効果だ。 猫草は僅かな光さえあれば十分に活動できる。そしてさっきの事もまだ忘れてはいない。 「フギャアーーーーース!」 さっきと同じ大砲のような形を取る。どのぐらいかは分からないが、殺傷力ぐらいは持っているだろう。 放っておいてもいいが、こいつに死なれて騒ぎになっても厄介だ。 「面倒だが…後で礼ぐらいしろよ」 「ぐが…!貴様…ここで…死んでたまるか…まだ…ま…だ…」 かといって、唯一の光源を壊して闇の中道に迷うのも嫌なので、とりあえずスタンドで殴りアニエスを気絶させ弾丸を奪い投げた。 「ニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」 「とりあえず、ここはこれで収まったが…こいつオレの事なんか勘違いしてねーか?」 崩れ落ちたアニエスを引っつかむと、弾にじゃれてた猫草を上着で覆って大人しくさせたが、どうもこう、状況が悪化しているような気がしてならない。 情報も特に手に入らなかったし収穫が草ってどうよと思いながら着た道を戻ると、アニエスを排水溝近くの場所に放置した。 これで見付からずに死んだらこいつの運の無さだが、昼だし多分見付かるだろう。 暇を得るために、また纏めて2~3日徹夜で働らかにゃあならんと思いつつ人気の無い通りを進むと、路地から悲鳴のような叫びとかが聞こえた。 やはり気のせいではなかったらしい。 「へへ、陛下と一晩を共にしたですってぇ~~~~!?しかも抱き合ったって何考えてんのよこの犬!」 振るわれる鞭の動きに合わせ、犬のような悲鳴をあげている少年、いや犬が一匹。 成長してねーなと思いながら歩を進めると服の隙間から猫草が『ウニャン』と鳴いて犬を興味深そうに見つめていた。 猫草―持ち帰ると、やたらカトレアを気に入る。 彼の行動理念は『本能にしたがって生きる』であるため、好きな時に寝れて、好きな時に食べれて、好きな時に遊べればなんだっていいらしい。 ちい姉様―こちらも猫草を見て「まあまあまあ、素敵な猫ちゃん」などとのたまい気に入ったようだが、マジにド天然だと思い知らされる。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2336.html
もうすっかり日が沈んだ人気の無い宿場街の出口へ向かう影五つ。 老婆が一人、メイジが二人、韻竜が一匹、そして元ギャングが一人という混成チームと相成っております。 その集団の中から、ものスゴクたるそうな、やる気の無い声が聞こえてきた。 「歩きで三時間か……」 「なにせ、エズレ村はわずかな畑があるだけの何も無い村なんですえ。ですから、ほとんどが歩きだけになっておりますのじゃ」 平均的な人間の徒歩の速度が時速5km。この婆さんだともう少し遅くなる事や休憩を計算に入れると、約十~十二kmというところか。 それでも冗談じゃあねー、というのが本音だろう。 普通ならまだいいのだが、酒が入っているのでダルいのである。 予定外の事をやらねばならなくなったためというのもあるが、とにかくダルい。 ダルいだけにさっさと終わらせたいのだが、徒歩で三時間なぞ御免被るというところだ。 シルフィードが人間形態を取っているため、この場合の最速の移動方法は馬ぐらいしかないのだが 夜、しかも主要な街道から外れた宿場街だけに、正規の手段では手に入りそうにない。 まぁ盗んでもいいのだが、最低三頭は必要な上に、足手纏いが居るので下手打って厄介な事になる可能性高い。 騒ぎになっても面倒なので、他になんかないかと考えていたが、うってつけの移動手段がある事を思い出した。 「だからってあんたら……」 少し時間が経ち、今のフーケの目に映るのは、『ライト』で照らしながら本を読むタバサ、爆睡しているシルフィード さっきから怯えてしがみ付いているドミニク婆さん、そして店から持ってきた酒を瓶のまま飲むプロシュートの四人。 「わたしのゴーレムを馬車代わりにするんじゃあないよ!」 自慢のゴーレムの上で思いっきりくつろがれている様子に、さすがのフーケもこれには怒鳴った。 「構やしねーだろ。減りゃあしねぇんだからよ」 「減るんだよ……!精神力とかが思いっきり!」 何時になく強気だが、自分はゴーレムを動かすために命令とか出さなくちゃあならないのに ドミニク婆さんを除いて、こうもゆったりされてはそりゃあムカつきもするというものだろう。 肩を掴まれ振り向いてみると、すっげぇ良い顔をしながら『ゴーレムを出せ』だ。 表情こそ若干笑顔寄りだったのだが、酒せいか、それとも素でそうなのか、目だけは全く笑っていなかった。 正直、いつもの数倍怖かったので、言われるがままにゴーレムを出したのだが、さすがに、いいや限界だッ!というところだ。 この際、振り落としてやろうかとも思ったが、それはそれでディ・モールト後が怖いので考え直した。 第一、振り落としてもゴーレムにしがみ付かれてそのまま老化させられそうな気がする。 中の自分に言い聞かせつつゴーレムを動かしていたが、三十分もすると例のエズレ村が見えてきた。 「ほら、見えたよ」 ゴーレムの手が下に降りると各自地面に降りたが、一人だけ動こうとしない。 「ふにゃ……もうお肉食べられないのね……」 そんな寝ぼけた声を出すのはご存知シルフィードだ。 起こそうと一発頭を叩いたのだが、潰れたような声をあげると、またぐーすか寝息をたてはじめた。 「このヤロー……」 あんだけ食ってまだ食い物の夢を見るとは大したタマだが、放っておくわけにもいかない。 雪山での遭難者を起こす要領でシルフィードを起こそうとしたが、それより先にタバサがドミニク婆さんに聞こえないように小声で話しかけてきた。 「人の姿に化けてる時は脳の疲労が凄く大きい」 それを聞いて起こすのを諦めた。 今のシルフィードは、ギアッチョがジェントリー・ウィープスを展開し続けているようなものだ。 そう考えればエネルギーの消耗も半端ではないのだろう。 それに、ミノタウロスのアジトは洞窟だと聞いた。 竜の姿に戻っても通れやしないだろうし、人の姿のままでは極めて役立たずである。 それならば、このままでも特に問題はない。 完全に起きる気配が無いので、猫を扱うかのようにシルフィードの首元を掴むとそのまま背負う。 「ちッ……見かけより重いなこいつ……」 そう文句を垂れたが、元の質量がこの姿に収まっていると思えば、まだ軽い方だ。 「さすが、おにいさまはお優しい事で」 棒切れで造った貧相な門に近付くが、横からフーケの茶化すような声が届く。否、確実に茶化している。 「なら、てめーが代われ」 「ゴーレム作って疲れたからね。絶対にノゥ」 その返事に思わず舌打ちをしたが、さっきまでゴーレムの上でくつろいでいたので、仕方ねぇと思うことにした。 タバサはミノタウロスと戦るにあたって精神力を温存しておきたいだろうし、ドミニク婆さんはどちらかというと背負われる方である。 つまるところ、自分でやるしかないのだ。 無論、背中で無駄に良い夢を見ている寝ボケ竜が起きてくれれば、それが一番いいのだが。 「それでだ、ミノってのは何時から居んだよ」 「ミノタウロスが現れたのは先週の事でして……その時に手紙を村の広場の掲示板に貼り付けていったんです」 ドミニク婆さんが一枚の獣の毛皮を差し出したが、内側に血文字が書かれてある。 『一週後の晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意するべし』 「……先週ってこたぁ……今日じゃねーかッ!」 「ですから、騎士様の姿をお見かけした時は、藁にもすがる思いでお頼みしたのでございます……」 よくやんぜ、まったく……と本気でそう思う。 一週間の時間的余裕があるなら、とっとと逃げるなりすればいいはずだ。 といっても、それは生粋の現代イタリアンの思考。 この世界の一般的な価値観は村は全てで、一度それを捨てれば他の場所で受け入られるかどうかの可能性はそう高くは無い。 そもそも、村中をかき集めて集まった金が三エキューにも満たないようでは、野垂れ死には確実だろう。 毛皮をタバサに渡しながら門をくぐると、ゴーレムの足音で外に出ていたのか、あちこちから村人が家から出てくるのが見える。 「騎士様を連れてきたよ!」 ドミニク婆さんが声をあげると、分かりやすい杖を持っているだけに、ゴーレムもタバサが出したのかと思った村人が、わらわらと集ってきた。 完全に村人の関心はタバサに移っているので、半ば放置されているプロシュートとフーケだが 村人達の姿を観察していると、少しばかり様子がおかしい事に気付いた。 「妙だな」 「……そうだね」 村人の意識がタバサに集まっている事は分かる。 ミノタウロスを倒しにメイジが、こんな何も無い寂れた村にやってきたというのだから当然だ。 解せないのは、村人がドミニク婆さんと目を合わせようとしない事。 村にとって救世主的な存在を、やっと連れてきたのだから 連れてきた方にも、なんらかのアクションがとられてもおかしくはないのだが、それが全く無い。 どいつもこいつも、例えるなら『全焼した家の前に、やっとやってきた消防車』でも見るかのような目をしている。 大方、十中八九ドミニク婆さんにとって、あまり喜ばしくない結果が待っているという事だ。 「どうも、後手に回ったみてーだな」 やれやれだ、と思いながら息を吐き出すと、出した量だけ吸い込んだ。 冷えた温度と、森の澄み切った空気が酔いを醒ましていく。 イタリアの淀んだ空気では、こんな事すらやる気にならないだろう。 タバサとミノタウロスがどうあれ、殺し合いの場に出向くのだから酒に酔ったままというのも問題がある。 あまり酒に酔わない方なので、あのままでも特に問題無いのだが、万が一でも酒に酔ったせいで死んだなど言い訳にもならないのである。 どうせ殺られるなら万全の状態で。というのが暗殺チームの慣例だ。 もっとも、あくまで『殺られるなら』であり、大概は殺られるより先に殺ってきたので、『殺るなら』自分が万全の状態で、となっていたのだが。 タバサがドミニク婆さんに、家はどこかと促したが、肝心の当人は気付いた様子は無い。 場合が場合だけに必死なんだろうが、これから数十秒後にどうなるかと考えただけで頭が痛くなる。 ただでさえ割に合わない仕事なのに、これ以上厄介な事が上乗せされては、精神的にも赤字というやつだ。 ギャング的に考えるなら、搾り取れるだけ搾り取るのだが、正直この村自体から取れる物が全く無い。 あるとすれば家や土地ぐらいだろうが、そんなもんあってもどうしようもないし 現金化するにも、こんなド辺鄙な村の猫の額のような土地なぞ二束三文にもならないし面倒だ。 となると、残された物は命ぐらいしか無いのだが、生命保険も無いような世界では同じように意味は無い。 「しょうがねぇ……か」 少々思考が危ない方に向いていたが、昔の仲間の口癖を聞こえない程度に言うと頭の中を切り替える。 こうなれば、精々タバサに頑張ってもらって出番が回ってくるような事態にならない事を願うだけだ。 「これって最悪のパターンよねぇ」 フーケも似たような結論に達したらしく、ドミニク婆さんと少し距離を取っている。 少し歩くと、プロシュート視点からすれば、素朴というより貧相というドミニク婆さんの家は村外れにあった。 ドミニク婆さんが扉を開くと、どう見ても若い娘には見えない女性が一人で泣いているところだった。 「……ジジは、ジジはどうしたんだい!」 ただならぬ様子にドミニク婆さんが問いただすが、返ってきた返事は、思ったとおりだった。 「あの娘は……あの娘は、自分のために、誰かが犠性なるのは耐えられない、と言ってミノタウロスの所に……」 予想的中。 やはり事後だったようで、プロシュートとフーケが気付かれないように家の外に避難した瞬間、家の中から大きな泣き声が聞こえてきた。 「せ、せっかく騎士様をお連れしたっていうのに、あ、あんまりだよ!この世の幸せを一つ知らんで死ぬなんて……!」 どっかの炎の柱の男のように、ドミニク婆さんが泣き喚いていたが、それを見ていたタバサがぽつりと小さく言った。 「どのぐらい前?」 「さ、三十分ほど前です」 少し考えたようだったが、短く答えた。 「まだ間に合う」 それを聞いて外の二人が、さらに三歩下がった。 「おおお、ありがとうございますだ!ありがとうございますだ!ジジを、ジジをよろしく頼みます!!」 「後生でございます!どうか!どうか娘をお助けください!」 絶叫ともいえるような声と共に、ドミニク婆さんとジジの母親がタバサの足にすがりついて泣いている。 その光景を見て、外に出ていて良かったと本気でそう思う。 なにせ、今の婆さんと母親の顔の表面は涙と鼻水の混合物で溢れているのだ。 その状態で、あんな風にすがり付かれたのではたまったもんじゃあない。 よく、アレに絡まれて平気な面してんなー、と思っていたが、タバサがドミニク婆さんに向け、何時もどおりに言った。 「洞窟まで案内して」 そして次にプロシュートを振り向いて同じ調子で言った。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5349.html
天になき星々の群れよりフリーダを召喚 ゼロの工作員-01 ゼロの工作員-02 ゼロの工作員-03 ゼロの工作員-04 ゼロの工作員-05 ゼロの工作員-06 ゼロの工作員-07 ゼロの工作員-08 ゼロの工作員-09 ゼロの工作員-10 ゼロの工作員-11 ゼロの工作員-12
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1171.html
「…………」 「…………」 学院長室にて、オスマン氏とコルベールが遠見の鏡を呆然としながら眺めている。 「…………」 「………み、ミスタ・ココペリ」 「…………」 「…ミスタ・コエムシ、聞いとるのかね?」 再度オスマン氏がコルベールに呼びかけるが、まったく反応が無い。 「……おい、毛根全滅男」 「誰の毛根が全滅しているんですか!まだサイドは生き残ってます!」 「もういっその事、そっちも剃った方がすっきりするような気もするが…」 「私は諦めません!諦めは何も生まないという事を、私は知っています!」 「まあ、それは良いとして。見たの?」 「ええ見ましたとも!彼は…彼はやはり『ガンダールヴ』なんでしょうか?」 「どうじゃろうな…」 オスマン氏が口髭をいじりながら答える。 「それにしては……『ガンダールヴ』は始祖ブリミルが、呪文詠唱中の 無防備な状態を守るために用いたと言われておる」 「はい…姿形は記述がありませんが、その力は千人の軍隊を一人で壊滅させ、 並みのメイジではまったく歯が立たなかったと!」 「そして伝承にはこうもある。 『ガンダールヴ』はあらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したと…」 「はい」 「『武器』……使っとらんかったの」 「あっ!」 「というか、あれで『武器』なんかいるのかのう?」 「そ、そうですね………」 感じる!今どこかで、俺の存在意義が否定された! このデルフリンガー様の存在意義が…ッ! 「ま、それはそうとして…彼は本当にただの平民だったんじゃな?」 「はい、どこからどう見ても。念のためにディティクト・マジックで確かめたのですが 反応は無く、正真正銘ただの平民の少年でした」 その言葉を聞いて、オスマン氏は頷く。 「うむ、ではあの少年はどうやってあの姿になったんじゃ? 魔法も使わず、どうやってゴーレムを溶かしたのじゃ?あの雷は? そして…あのグラモンの息子をどうやって治したと言うんじゃ?」 「それはその…先住魔法でしょうか?」 口ごもりながらコルベールが答える。 「では何故君のディティクトマジックに反応がなかったのかのう? 先住魔法も魔法の力、まったく反応がないという事は無かろう」 「………わ、わかりません」 その言葉にため息をつくオスマン氏。 「うむ、ではあの少年を召喚した生徒は誰なんじゃ?優秀なメイジなのかね?」 「いえ、召喚したのはミス・ヴァリエールで…真面目な生徒ですが、メイジとしては…」 「謎がまた一つというわけじゃ…」 「と、とにかく彼が『ガンダールヴ』であろうと無かろうと、これは一大事件です! 王室に報告して、指示を仰がない事には」 「それはならん!」 オスマン氏が厳しい声でコルベールの提案を否定する。 「し、しかし…」 「ミスタ・コルベール!宮廷で暇をもてあましとる連中に、あの少年とその主人を 引き渡したらどうなると思う!?」 ハッとなってオスマン氏を見るコルベール。 「彼奴らはあの『力』を手に入れようと躍起になるじゃろう! 二人の命を彼奴らが考慮に入れると思うかね?…君ならわからんでもあるまい」 「………はい」 オスマン氏の言葉にコルベールは過去を思い出していた。 かって自分が隊長を務めていた、魔法研究所実験小隊での最後の任務を。 ダングルテールで自分が犯した、消す事のできない罪の記憶を… 「ありがとうございます、オールド・オスマン。私は危うくまた…」 「よいよい……… 言っても無駄じゃと思うが、あまり自分を責めてはいかんぞ。 君は上から命令に従っただけじゃ、悪いのは、腐った宮廷の連中じゃよ」 「すいません、学院長…」 重苦しい空気が流れる中、オスマン氏が口を開く。 「とにかく、このまま放っておくわけにいかんじゃろう。 まずはあの少年から直接話を聞かねばな」 「では私が彼を連れてきます!」 「いや、その必要は無い」 外に飛び出そうとするコルベールを、オスマン氏が引き止める。 「おー、相棒。災難だったな…」 呆然とするルイズの手から放たれたデルフリンガーの声に、育郎がルイズたちに気付く。 「デルフ!それにルイズも…」 「ひでーぜ相棒!俺を放っておくなんて。 なんか俺いらねー子になったんじゃねーかって、不安で不安で仕方が無かったぞ」 そう言いながらも、どこかデルフの声は嬉しそうだった。 「すまない、デルフ…」 「わ、わかってくれればいーんだよ。というか、これからどうすんだ相棒」 「…………」 その言葉に、途端に押し黙る育郎。 このままではルイズに迷惑をかけてしまうかも知れない… 姿を消そう!誰にも会わず、誰にも見られず……… 「相棒…行くんなら俺もついてくよ」 「デルフ…」 「おっと、気にする必要はねーぜ。俺は剣で、相棒だからな。 それに俺がいたほうが便利だって。だからさ、置いてかねーでくれよ…」 「さっきから何を言ってんのよ…置いてくって?」 それまで黙っていたルイズが、そのやり取りに不安を感じて会話に割り込む。 「ルイズ…すまない」 「な…何謝ってるの?その、あの事を黙ってたのは許してあげるから…」 そんな事を言っているのではないとわかっている。彼らが何を考えているのかは、 鈍いルイズでもうっすらとは分かってはいたが、それを口にするのは嫌だった。 「娘っ子…短い付き合いだったな」 「ごめんね、使い魔になるって約束したのに」 「ちょ、ちょっと待ってよ!」 育郎は、ルイズの手からデルフリンガーを受け取ろうとするが、ルイズはデルフを 離そうとしない。 「な、何なのよあんた!?あんな格好になれると思ったら、今度は…」 それを言うのは嫌だったが、口にしなければならない。 「どっか行っちゃうつもりだなんて!どういうつもりのなのよ!?」 「そう言うなよ、相棒も娘っ子の約束を破る事になってつれーんだ」 「だったらなんで!?」 「あのな、娘っ子。黙ってたのも、これから行くのもな…… みーんな娘っ子を心配しての事なんだよ。だからあんまり相棒をこまらせんな」 「………え?」 今のルイズには予想だにしなかった言葉だった。一瞬体から力が抜け、その隙に育郎は ルイズの手からデルフを奪い取る。 「さよならルイズ…」 立ち去ろうとする育郎を、ルイズはなんとか止めようとしがみついた。 「だ、だからちょっと待ちなさいって!」 「そうです、ちょっと待ってください!」 まだ呆然としている生徒達の中から、誰かが二人に声をかけた。 「貴方は、ロングビルさん!?」 しかして、群集を掻き分け現れたのは、オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビル その人だった。 「イクロー君。学院長がお呼びです、いっしょについて来てもらえますね?」 ここから去るのは、学院長の話を聞いてからでも遅くないですよ。 どこか…頼れるところがあるわけじゃないでしょ?」 「ですが…」 渋る育郎に、ミス・ロングビルは育郎の手をとり続ける。 「無理やりにでもついて来てもらいますからね。それが私の『仕事』なんですから。 来てもらわないと、私が叱られちゃいます…だから、ね? イクロー君は私が叱られても良いなんて、冷たい事は言いませんよね?」 そう言って、少し悪戯っぽく微笑む。その顔に、さすがに育郎の表情も少し弛む。 「わかりましたロングビルさん」 「それじゃあ」 ミス・ロングビルの後について歩き出す育郎。 「って相棒、娘っ子はいいのか?」 「……ハッ!ちょ、ちょっと私も行くから待ちなさい!」 デルフリンガーの言葉に状況について行けなかったルイズが、二人の後を追いかける。 「ていうか何でミス・ロングビルと知り合いなの!?なんか仲良さそうだし!?」 なんだか良く分からないが、腹が立ってくるルイズであった。 「まさかこのような事態を見越して、ミス・ロングビルに使い魔をつけているとは… 学院長の深謀には恐れ入ります」 コルベールの賞賛の言葉に、ばつが悪そうにオスマン氏が首を振る。 「いや、二人の仲人を勤めるかもしれんのーとか思っての…ほら…なりそめとか… それに盛り上がりようによっては、今日にでもおっぱじめるかなーとか、若いし」 「…………」 「……はっ!」 ルイズが去った後、決闘の観客の一人だったキュルケがようやく自分を取り戻す。 「た、タバサ、彼って一体…」 隣にいる親友、いつも本を読んでいて、大抵の事は知っている青髪の少女に話しかける。 「………」 しかしタバサからの返事は無かった。 「…タバサ?」 そしてキュルケは気付いた。 「た、立ったまま気絶している………ッ!?」 悪 魔 降 臨 !! 変身する育郎を見て、そんな風な言葉を連想したとかなんとか。 なんかこう、生っぽい変身は反則とか、心の準備が欲しかったとか。