約 439,895 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5346.html
遊戯王デュエルモンスターズより海馬瀬人を召喚 ゼロの社長-01 ゼロの社長-02 ゼロの社長-03 ゼロの社長-04 ゼロの社長-05 ゼロの社長-06 ゼロの社長-07 ゼロの社長-08 ゼロの社長-09 ゼロの社長-10 ゼロの社長-11 ゼロの社長-12 ゼロの社長-13 ゼロの社長-14 ゼロの社長-15 ゼロの社長-16 ゼロの社長-17 ゼロの社長-18 ゼロの社長-19 ゼロの社長-20 ゼロの社長-21 ゼロの社長-22 ゼロの社長-23 ゼロの社長-24
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/257.html
決着は互いに剣を買って終結した。 もっとも武器としての剣を欲していたのではなく話す剣から情報を引き出すのが目的だったのだが。 剣の名はデルフリンガーというらしく相変わらず兄貴と呼んでくる。 長い上に兄貴と呼んでくる事もありペッシと呼ぶと言うと 泣きながら?『デル公でもいいですからペッシだけはやめてください兄貴』と言われた。そんなに嫌か?ペッシは 3日程経過 特に何事も無く時間の流れに身を任せていたが、プロシュートは奇妙な違和感を感じていた。 「……この視線…人の物じゃあねぇな。とすると…使い魔か…?」 ここ数日明らかに何者かに監視されているという感覚がある。さすがにどこぞの吸血鬼のように『貴様見ているなッ!』というわけにはいかない。 人ならば誰が見ているかというのは分かる。だが探ってみても自分を見ているヤツなど確認できない。 とすると残る選択肢は使い魔を通しての監視しか無い。 夜になりルイズの部屋でどの辺りかを考える。 だが心当たりが無い。イタリアに居た時ならそんな心当たりなぞそれこそ星の数程あったが生憎この世界ではそんな心当たりは無い。 「昼間は仕掛けてこねぇとは思うがな…」 「…何か言った?」 「オメーには関係ねーこった」 「あんたの関係無いは私の不幸に直結してる事が多いから不安なのよ!」 (向こうからこねーならオレ自身を餌にして早めに炙り出す…か) 暗殺者という職業柄プロシュート達は徹底した現実主義者だ。 危険を危険として受け止め、それに対しての対策を素早く練りそれが終われば後は日常と変わらずに過ごす。 先の恐怖を先取りし縮こまるという事はしない。だからこそボスの娘の情報が手に入った時即座に行動を起こしたのだ。 (監視の時点で悩んでも仕方ねーことだな) そう考えると探りたければ探らせればいいという結論に達し…寝た。 (今は……な) 「…でプロシュートはどちらの剣を使うのかしら?」 翌々日例によってルイズとキュルケが揉めていたのだが、その内容がルイズとキュルケの買った剣どっちを使うかというものだった。 武器としての剣が欲しいのではなく欲しいのは情報なのだが二人にとっては意地の張り合いというものがあり揉めていた。 なんだかんだで第三ラウンドに発展し出た結論が 「「決闘よ!」」 「オレの関係無いとこでなら好きにしろ」 我関せずを貫こうとするプロシュートだが決闘内容が「自分を吊るしてそのロープを魔法で切った方が勝ち」などという提案が挙がった時は無言で二人を見据え ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ (この目は…) (間違いなく…) ( (老化させてやろうか?と思っているッ!) ) 二人がそう思った瞬間 「「ごめんなさい」」 さすがの二人も年取って放置されるというのは絶対に嫌らしく同時に謝っていた。 夜になりルイズとキュルケ、タバサの三人が中庭に集まり決闘を始めようとしてるがプロシュートは居ない。 二つ出ている月の元の草原。そこにプロシュートが佇んでいる。無論、月を見ているわけではない。 「早いうちに炙り出されてくれると楽に済むからな…」 学園からある程度離れた場所、夜、そして一人。襲撃するにはこの上ない条件と言える。 襲われる事を知っての行動。 相手もそれは承知の上だろうが確実にやるならこの条件しか無い。 自らを釣り餌にした行動だ。 しばらく経ったが何も起こらない。 ――が僅かな匂いを感じた瞬間 (毒かッ!?) 瞬時にそう判断し姿勢を低くつつ風上に向かう。 風上に移動しつつ周辺を探るが辺りに人は見当たらない。 だがその間も流れてくる匂いは途切れない。 (風上に移動してるってのに誰も見えねぇ上に匂いも途切れやしねぇ…どういう事こった…?) 視界が良好というわけではないが月明かりがある。誰かが居れば分かるはずだった。 (何の毒が知らねーが…これ以上はマズイな…探す発想を『四次元』的にしなくてはいけないんだ…! 使い魔で監視するって事は相手はメイジって事だ…ヤツらを探すにはオレ達の常識外の発想が必要だッ!) 移動しながら考えるがある事に気付き―― 「なるほどな…同じ高さで見つからないって事は下か上って事だ」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨ 上を見上げる…居た。プロシュートから10メートル程離れた上空に揺れるようにしてそいつが居た。 「オレの移動に併せ絶えずそれを流し続けてたってわけか…」 「気付いたみたいね…でもあいつの射程は精々1~2メイル ここまでは絶対に届かない。次はあの薬で――」 そう言おうとした瞬間己の身に力が入らない事に気付いた。 「気温が低い夜とは言え…老化は確実に進行しているんだぜッ!!」 最初に香りを感じた瞬間スデにグレイトフル・デッドの広域老化を発動していたのだが気温が低めな夜という事もあり効果が出るのに時間が掛かった。 「何で…!?あの時は近付いてなきゃ攻撃できてなかったのに…!」 高度が下がり始める。効果は低いとはいえ疲労感を起こさせるには十分だ。よろめいたように地面に着地し…その時それが誰か分かった。 「テメー…あのマンモーニに香水ブチ撒けてたヤツか。確かモンモランシーとか言ったな… どういうつもりか知らねーがオレを倒す覚悟があるって事は倒される覚悟はできてるんだろうな…」 モンモランシーは答えずこちらを凝視してきている。攻撃を仕掛けるべく近付くが 「何…ッ!?」 急に体の感覚が無くなった。正確に言えば、触覚が完全に麻痺し体の動きも鈍い。 「さっきの匂いの正体は…麻痺毒ってわけか」 「麻痺毒?少し違うわね…麻痺してるのは確かだけど痛覚だけは残すっていう高尚なものよ」 「趣味の悪りぃもん作りやがったな…」 「『悪魔憑き』に趣味が悪いって言われたくないわ、ギーシュを虫ケラみたいに殺しておいてッ!」 杖を向け魔法を唱えてきた。恐らくは水系統の魔法。 迎撃しようとするが体の動きが鈍い。つまりグレイトフル・デッドの動きが鈍くなり迎撃が不可能だ。 全て命中した。命中したはずだったがプロシュートはそこに平然とというわけではないが依然として立っていた。 「命中した…はずなのに!」 「賭けだったが…魔法ってのはスタンドに干渉できねーようだな…」 スタンドはスタンドでしか傷付ける事はできない。それを利用し命中する直前グレイトフル・デッドを全面に展開させ全て『受け止めた』のだ。 体の動きが鈍いがG・デッドを前面に出し突き進む。 魔法が飛んでくるが全て命中しない。いや、命中はしているが当たる直前で弾かれている。 触覚が無いため平衡感覚が取れてないが何とか接近し――掴んだ だが、掴んで互いの目が合った瞬間何を狙っていたのかを理解する。 ああ、そうかこいつのこの目 ――こいつ…テメーの命を的にしてやがる バギィ 杖をヘシ折りそのままの勢いで投げ飛ばす 「…どうして殺さないのよ!ギーシュを踏み潰した時みたいに!」 「ハン!こんな人気の無い場所でオレがオメーを殺せば今度は決闘の時みてーにはいかねーからな」 この状況下で正当防衛を主張したとしてもあの連中の事、プロシュートが不利になるのは自明の理だ。 「今のオレの任務は『護衛』だ。この状況でオメーを殺るとルイズを護衛するしない以前の問題になるからな…」 唯でさえ状況が危ないのにここでモンモランシーを殺せば確実にルイズが責任を取らされる事になる。 それでは護衛の失敗だ。 本来なら老死させるとこだが、プロシュートの能力が老化という事はスデに知れ渡っている。 暗殺者とヒットマンの違いがこれだ。暗殺者は常にバレないように相手を殺す。 ギーシュの時は自身の能力を見せ付ける事で恐怖心を周りに植えつけさせこれ以上決闘なんぞを挑まさせる気を無くすのが目的だったが今回はそれが仇になった。 「…ここで私を殺さないとまた襲ってくるかもしれないわよ?」 「来たければ来やがれ、そのぐらい『覚悟』している だが、一つ言うがオレの任務は『護衛』だ。オレじゃあなくルイズを狙えば容赦はしねぇ」 「…………」 その場をふらつきながらに立ち去るプロシュートをモンモランシーはただ黙って見送るしかできなかった。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ ―― 完全敗北(再起可能) 二つ名 香水 「思ったよりヤバいな……」 麻痺しかけた体を半分引きずるようにして中庭まで戻ってきたが毒が回ってきたのか本格的に体が動かなくなってきた。 「助けてくれ兄貴ィィィィィィイイイ!」 遥か上空から声が掛かり上を見てみると…デルフリンガーがロープに吊るされていた。 そしてその下に杖で構えている問題児が二名。 「……何やってんだ?」 「決闘よ。ロープを魔法で切った方の剣をプロシュートが使うかを決めるためのね」 「兄貴ィィィィィイイイ死んじまうぅぅぅぅぅ」 「…別に剣を吊るす事たぁねーだろ」 上の方から「そうだぞー」という声が聞こえるが 「そっちの方がやる気がでるじゃない」 と、スデにやる気満々で止める術は無い。 ルイズがロープを狙い杖を構え魔法を使ったが―― ドッグォーz_ン 「テメェェェェェェ俺を殺す気かァァァァァァアアアア」 デルフリンガーの後ろの壁が見事に爆発しヒビが入った。 「失敗しても爆風でロープが切れると思ったのに…!」 「最初から爆発が前提ェーーーーーッ!?テメー魔法ナメてんのかァァァァァァアアアア」 ギアッチョの如くデルフリンガーがキレる。当然だがキュルケは大爆笑だ。 「ロープじゃなく壁を爆破するなんて『ゼロ』は本当に器用ね!あっはっは!」 敗戦ボクサーのように膝を落とすルイズを後ろ目に今度はキュルケが狙いを付ける。 「『微熱』の二つ名の由縁見せてあげるわ」 杖の先から火球が現れロープに向かい真っ直ぐに飛んでいく。 キュルケの十八番『ファイヤーボール』だ。 「兄貴ィィィィ落ちる!落ちて折れる!折れて死ぬぅぅーーーーーーッ!」 地面に落ちていくデルフリンガーだが上空でシルフィードと共に待機していたタバサが『レビテーション』をかけ激突は免れた。 「私の勝ちね、ヴァリエール!」 勝利宣言も高らかに勝ち誇るキュルケだが、敗者の方はというと…ショボーンという音が聞こそうに座り込み『の』の字を書いている。 だが、地面が揺れる。 「な、なに!?」 全員が思わず息を飲む。 「ゴ、ゴーレム!?でもこんな大きいの見たことない!」 ギーシュ(故)のワルキューレなどとは比べ物にならない程の大きさだ。 蜘蛛の子を散らす。そんな表現がピッタリ当てはまる勢いでルイズとキュルケがゴーレムの移動線上から逃げた。 だが、一人逃げない者が居た。否、逃げれなかった者が居た。 「くそ…今頃回ってきたか」 地面が派手に揺れたせいで倒れたのだが体が麻痺しているせいでこれ以上動けないのだ。 その場を動かないプロシュートに我を忘れたルイズが駆け寄る。 「な、なんで逃げないのよ!あんたってば!」 「後始末の後遺症でな…!」 ゴーレムが近付き二人の頭上でその巨大な足を上げる。 「オレに構うなッ!」 「く…重いのよあんた!」 引きずってでも動かそうとするが体格差が大分ある二人だ。ゴーレムの足からは逃れるには至らない。 覚悟を決めた瞬間シルフィードが滑り込み二人を足で掴み上げた。そしてそのまますり抜けるようにして上空に舞い上がった。 その下でゴーレムがひびの入った壁を破壊し中に進入。 しばらくしてからまた肩に乗りモンモランシーと戦っていた草原へと向かっていく。 「土のゴーレム!?…あの大きさだと操ってるのはトライアングルクラス…以上ね」 「…随分と派手にやってくれたじゃあねーか」 体さえ動けばゴーレムの肩に乗ってロープを着ているヤツに直触りを叩き込んでやるとこだが生憎体は言う事を聞いちゃくれない。 そうしてるとこにルイズが自分を危険に侵して助けようとした事を思い出した。 「助かったから良いが『構うな』と言ったはずだぜ?」 それにルイズが当たり前のように言い放つ 「問題があるとは言え私の使い魔なんだから見捨てたりするわけないじゃない」 「……言ってくれるじゃあねーか」 そう言い放ちまだ少しだがルイズの『覚悟』を認めた。 翌日…当然の事ながら学院は大騒ぎだ。 何せ宝物庫の壁を物理的な力のみでブチ破り壁に 『破壊の杖、確かに領収致しました。土くれのフーケ』 と犯行声明が残されていたのだから。 「土くれだとッ!?盗賊風情が魔法学院に手ぇ出すなぞナメやがってクソッ!」 「HOLY SHIT!衛兵と当直は何をやってたんだね!」 「OH MY GODッ!破壊の杖を盗まれるとは…ドジこいたーーーッ!こいつはいかーーん!王室がお怒りになられるチクショーーー!」 とまぁ教師達がディ・モールトベネな具合にテンパっている。 完全にテンパり責任の擦り合いをしている教師達を尻目にオスマンに眼鏡の女性―ロングビルがフーケの居場所を掴んだ事を知らせていた。 「至急王室に報告を!王室衛士隊に頼んで、兵を向かわせなければ!」 そうU字禿コルベールが叫ぶがオスマンがその年齢らしかぬ怒気を含んだ叫びを上げる。 「王室なんぞに知らせている間に逃げられたらどうするんじゃ!S.H.I.Tッ!! それにこれは我が身の不始末!魔法学院の問題を我々で解決できねばどうする!」 オスマンが捜索隊を結成するため有志を募るが…教師陣は誰一人として杖を掲げようとしない。全員お互いの顔を見合わせるだけだ。 「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」 犯行現場を見ていたため呼ばれていたルイズが杖を掲げる。 「何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」 「誰も掲げないじゃあないですか」 『覚悟』を決めた強い言葉がシュヴルーズの言葉を遮らせる。 それに続くようにしてキュルケ、タバサが杖を掲げた。 それを見てオスマンが笑った。 「そうか。では頼むとしようか」 幾人かの教師達が生徒達だけでは危険だとオスマンに進言するが 「では、君達が行ってくれるかね?」 と問われると全員黙り込んでしまう。 「彼女達三人に勝てる者が居るなら一歩前に出たまえ。 居らんじゃろう?それに彼も居る事じゃし心配あるまいて」 全員の視線がプロシュートに集まった。 「「「悪魔憑き…」」」 どちらかというと教師達はルイズ、キュルケ、タバサの三人よりプロシュート一人にビビっている。 得体の知れない力で一瞬にして人を老化させメイジを顔色一つ変えず殺す事ができるのだからそれも無理ない事なのだが。 誰も前に出ない事を確認するとオスマンが四人に向き直った。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 ルイズとキュルケとタバサが真顔になり直立し―― 「杖にかけて!」 と同時に唱和した。 プロシュート兄貴 ―― ザ・ニュー任務! 二つ名 悪魔憑き 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1578.html
ゼロ戦&少年こと『平賀才人』をルイズが召喚してからしばらくたったが、その肝心の才人が何故か全身包帯の半ミイラ状態でルイズの部屋で寝ていた。 「…ヘンなやつよねこいつ。あいつみたいにスタンドってのも無いのに意地張っちゃって」」 「まー、兄貴の二代目としては何とか合格ってとこだな」 「……あんたが最初ちゃんとやってれば、こんなことにならなかったのよ」 ルイズの目が少し赤いのは寝不足だからだというわけでもないようだ。 「あれだけうるさかったのが、鞘から抜いても全然話さなかったのに」 抜けば要らない無駄口をあれだけ叩いていたデルフリンガーが、あれから一言も口を利かなかったのだ。 「あー…まぁそりゃあな」 それを最後に一人+一振りが押し黙り沈黙が流れる。 少し時間をバイツァ・ダストするが、通称『悪魔の手のひら』こと『ヴェストリの広場』で才人と一人のメイジを囲むようにギャラリーが出来ていた。 まー、何故にこのような状況になったかというと、早い話『決闘』というやつである。 なお、『悪魔の手のひら』の由来は、ギーシュの首を掴んだ見えない悪魔の手という事からだbyマリコヌル 原因は、この『ヴェストリの広場』を『悪魔の手のひら』に変えた者。つまるところプロシュートにある。 才人には全く以って関係無いのだが、平民が貴族を決闘で斃したという事は他の貴族にとっても非常に屈辱的な事だった。 だが、グレイトフル・デッドの能力と現役暗殺者のプレッシャーもあり手が出せないでいた。 それ程ギーシュの死に様は凄まじいものだったのである。 で、そこに新たに現れたのが才人だ。最初こそある程度警戒されていたものの マジに平民と変わりないという事で、前々から良く思っていなかった生徒が決闘を仕掛けた。 一応、ザ・ニューガンダールヴ!という事も知っていたルイズだったが、相手はギーシュとは違うトライアングル。 ド平民という才人を止めはしたが、当人の性格的が負けん気が強いあたりルイズに似ている事もありホイホイついてきてしまったのだ。 ちなみにこのルイズ、一巡した世界というわけではないが、精神的にある程度鍛えられた事もあり寝床はともかく 才人の食事面や雑務などの扱いはかなり良い方だ。そんな事もあり才人のルイズに対しての好感度は結構高めである。 これで胸も多少あれば、のっけから惚れてたんだがナ、というのは初見の感想だ。 もっとも一番好感度を上げていた理由は『謎の組織の工作員で血も涙も無い殺戮マシーン』に殺されかけていたところを助けられたから、という事だが。 召喚され、当面帰れそうにない事と使い魔という事を聞かされた時は凹んでいたが 後ろに┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨という文字を出しながら迫ってくる金髪の殺し屋。 胸は『虚無』だが桃色の髪の美少女。一般的な価値からすれば、どっちを選ぶのは自明の理だ。いや、前者選ぶ人も居るけど才人は後者だ。 そのため、立ち直りは非常に早かった。 「いいのかい?逃げないでホイホイ着いてきて。俺は平民でも容赦しない男なんだぜ?」 「うるせぇ、誰が逃げるか」 才人がデルフリンガーを持っているが、止める気が無い事を悟ったルイズから渡されたものだ。 「ほんとに…!使い魔のくせに言う事聞かないんだから…何の力も持ってないくせに、そういうとこだけあいつに似て… はぁ…いいわ、やるならこれ使いなさい。べ、別にあんたの事を心配してるわけじゃないわよ!あんたはわたしの使い魔で『ガンダールヴ』なんだから!」 『あいつ』というのは気になったが、才人の頭の中に『お美事にございまする』という声が聞こえた程のクリティカルな台詞であった。 2分後 ヘナップ!もうホントごめんなさい。と言わんばかりに直撃を喰らった才人が倒れていた。 「ん?もうかい?ヴァリエールの使い魔のクセに意外に早いんだな」 確かに才人はガンダールヴだったが、その強さはテンションの高さによって変わるものだ。 魔法の事なんぞこれっぽちも知らない才人であるが故に 少しばかりそれが足りないでいたというのもあるが、デルフリンガーが魔法を吸わなかったのが最大の原因だろう。 (な、なんでプロシュートが使ってた時みたいに魔法を吸わないのよ…!) 焦ったのはデルフリンガーを渡したルイズだ。デルフがあればこそ決闘を許可したのだが、こうはなるとは思っていなかった。 才人が立ち上がろうとするが、もうスデにボロボロで、その脚は生まれたての仔馬かパンチドランカーのようである。 「へへッ…!誰が早いだって…?まだゴングは鳴っちゃいねぇ…俺はまだ世界を獲れるぜ…!」 最終ラウンド2ダウンを取られたボクサーのような台詞を聞いたルイズだが、完全にダメだと思った。頭だ。頭を打っている。 「まだ立つのか。…いいこと思いついた。お前、俺の下僕になれ。そうすれば許してやる」 「…とっつぁんよぉ…ちょっと油断しただけだ。良いパンチだったけど誰がお前みたいなムカつくやつの下僕なんかになるかよ」 「ああ…そうか。次は『ウィンド・ブレイク』だ」 風に吹っ飛ばされ壁に打ち付けられ一瞬意識が飛ぶ。ただまぁ、そのおかげで思考が正常に戻ったのだが。 「痛ぇ…参ったな…マジに魔法かよ…」 「サイト!もういいわ…!そこで寝てなさい!あとはわたしがなんとかするから!!」 ブッ倒れている才人の前にルイズが立ったが、鳶色の瞳は潤んでいる。 okこれもド真ん中クリティカルだ。そんな事を思いながら立ち上がろうとしたが、止められた。 「もういいわよ…だからそこで寝てて。わたしが召喚したせいでこんな事になってるんだから…わたしが『責任』とらなきゃいけないのよ」 暗殺者から教えられた行動に伴う『覚悟』と『責任』。短いような長いような時間だったが、少なからずそれを学習していた。 「あんたになにかあったら、プロシュートに何言われるか分かったもんじゃないんだから!」 「…誰だよ、そのプロシュートってのは」 「か、関係無いじゃない!もういいから…!ね!」 現在、心の直撃弾受けっぱなしの才人にとって、それはかなり気になるところだ。言うなれば、対抗心発動というヤツである。 それに伴い、体の痛みが少し和らぎ、剣を杖代わりに立ち上がる。 「…どいてろ!」 ルイズを押しのけ相手に向かうが、もうスデに詠唱を完了していたのか相手が杖を振り振り上げていた。 「そうか。それじゃあ…トコトン相手してやらないとな」 杖を振り下ろすと不可視の風の刃『エア・カッター』が才人目掛け飛んだ。 だが、杖が振り下ろされた時点で立ち上がったルイズが再び才人の前に立っていた。 ルイズ自身、前では考えられない行動だったが、考えるより先に行動していた。 (結構、影響されてたのね…) そんな事を考えて目を閉じたが、ルイズ自身は再びサモン・サーヴァントが成功したという事がどういう事かを考えていた。 サモン・サーヴァントは使い魔が死ぬまで行う事はできない。つまり、単身組織に闘いを挑み死んでしまったと思った。 そんな思いもあり、そう行動させたのだが再び突き飛ばされ地面に倒れる。 自分が居た場所に目を向けると、才人が居た。 元より高速で疾る風の刃だ。事前に読んでいれば別だが、軌道に自ら突っ込んだような形ではテンションMaxのガンダールヴでも到底回避できない。 「サイト!」 思わず叫び、切り裂かれる光景に目を閉じたが、誰のものでもない極めて軽い別の声がした。 「『使い手』としては兄貴には及ばねぇけど、相棒としては合格ってとこか」 「剣が喋ってる!?」 「よぉ二代目、デルフリンガー様だ。これからよろしくな」 「…ああ、あんた!うんともすんとも言わないで今まで何やってたのよ!!」 「仕方ねーだろ。ただ『使い手』ってだけで使われたくなかったんだからよ」 武器屋での事は思いっきり忘れているが、まぁこっちも成長はしているのだろう。 「それじゃあ、相棒。さっさと終わらせちまおうぜ」 その言葉と同時にルーンが最も光り体の痛みも全て消えた。 で、時間がキング・クリムゾンし冒頭に戻る。 「兄貴は精神力とかが半端無かったかんなー」 もうすっかり思い出話になっているような形で話していたが、今の使い手はプロシュートではなく才人だ、と思っているのだろう。 と、そこに寝ていた才人が何か苦しそうな声をあげた。 「う…あ…スイマセン…スイマセン…スイマセン!」 何やら謝っているようだが、その声が尋常ではない。 秘薬で治療はしたが、容態が悪化したのかと思いルイズがテンパっているが、なおも声は止まらず呻き声に変化した時は焦ったッ! 「ちょ…!なんだよあんたら!」 そう叫ぶ才人は6人の男に囲まれている。 ハッキリ言ってそのプレッシャーはとんでもないものだ。 踵を返し逃げ出そうとしたが、鏡を踏んだと思ったら何故か首だけの状態になっていた。 「なな、なんだよこれ!」 「お前の首から下のみ、入る事を許可したッ!」 ワケが分からない。さっきまで剣を握って広場に居たはずだ。これも魔法なのか!?と思ったが、目の前の男達は貴族みたいに杖を持っていない。 「ヒラガサイト…天国・地獄・大地獄・天国・地獄・大地獄…喜べ、ディ・モールト良かったな!こいつお前と同じ大地獄だぞ!」 奇妙なパソコンらしき物を持った男が自分のノートパソコンを慣れた手つきで動かしながら個人情報を漁り愉快そうに叫ぶ。 「あ、あまり喜べねぇよ…」 そう言うのはパイナップルのような髪型をした、これまた妙な体型の男が釣竿を持っていた。 「しょぉぉ~~~がねぇ~~~なぁ~~~まぁ、これからあいつと付き合うってのならそれぐらいが丁度いいかもしれねぇがなァ」 どこからともなく、一人では持ちきれないであろうオーディオセットを取り出したのはソリコミが入った坊主頭の男だ。 「根堀り葉堀りの葉堀りってよぉ~~~…去年散って地面に埋まった葉っぱを掘るって事らしいんだが… 掘りってのは分かる……スゲーよく分かる……掘らなきゃ埋まった葉っぱは見付からないからな… だがそれなら、なんで『地堀り』っていわねぇんだよォォォーーーーーッ!それって納得いくか~~おい…オレはぜーんぜん納得いかねぇ… ナメてんのかァーーーーッ!このオレを!掘ってるのは葉っぱじゃなくて地面じゃねーかチクショオーーー!どういう事だッ!どういう事だよクソッ!!」 眼鏡をかけた巻き毛の男が物に当たりながらこっちに向かってくる。 怖い。貴族なんて比にならないぐらい怖い。 「分からないでもないが…そろそろ止めておけ…」 落ち着いたような声がする。視線だけを動かしその方向を見るが、フードを被った男だ。 目の色が怖かったが、止めてくれた事に感謝した。 …が、次に出た言葉と現象にそれを撤回した。 「皆、そろそろ時間だ」 その言葉と同時に男達が整列する。何が起こるのか分からなかったが、瞼に釣り針が刺さりそれを糸で引っ張られ目を閉じれないようにされた。 その痛みに叫び声をあげようとするが、口は氷で固められ言葉を発することはできない。 シパァーーーーーーz_____ンという音がすると顎の下の石が形を変え、顔を斜めに上げるような台になる。 そうすると、目の前にレンズのようなものが空中に現れ太陽光がダイレクトに目に突き刺さる。 「オレ達のチームのスタンドの殆どを味わえるなんて滅多にない事だぜ?おいィーーー」 「オレのジェントリー・ウィープスをレンズ代わりにしやがってッ!クソッ!クソッ!」 「足りないのは兄貴のグレイトフル・デッドだけですぜ」 「こいつが、それを味わう前にオレ達の能力も全部教育しないとといけないな」 「それじゃあ…始めるとするか…」 「ふンがァァァァァァァ」 そうして丸刈りの男が持ってきたオーディオセットのスイッチを入れると大音量で音楽が流れ、六人の男達が一糸乱れぬ動きで踊り始めた。 ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! ズッタン!ズッズッタン! ズッタン!ズッズッタン! ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ………… …………………… 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 勢いよくベッドから身を起こし辺りを見渡す。 部屋だ。ルイズの部屋だ。 「夢…かよ」 全身汗だくだ。ハッキリ言って17年間生きてきた中、最大級の悪夢だ。 ベッドから降りフラフラと立ち上がるが、秘薬で治ったとはいえ病み上がり。さらに最悪の悪夢を見た事で再びベッドに倒れた。 だが、倒れた先は柔らかいベッドの感触ではない。いやまぁ柔らかいっちゃあ柔らかいが、何かこう暖かいモノ。 ルイズが下になっていた。 まだ目を閉じていた事に安堵し慌てて退こうとするが、時スデに遅し。 衝撃で目を開けたルイズが震えだしている。 「…わたしになにをしようとしたの?ねぇ」 「…あーいや、落ち着こう。な。不可抗力だから」 「一ついい事を教えてあげるわ」 笑顔だが、何かヤバイ。そういう顔だ。さっき夢の中で見た気がするんだから間違い無い。 「な、なんでしょうか。ルイズお嬢様…」 「ある人がねぇ…よく言ってたのよ。最初は分からなかったけど、それが今凄くよく理解できるの」 どこからともなく鞭を取り出す姿を見たが、動けない。蛇に睨まれた蛙の気持ちを理解していたッ! 「ブッ殺すと心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっている…っていうのよ………この…この…このエロ犬ーーーーーーーーーーー!!」 「おま…!俺は怪我人だぞ!それに不可抗力だっt………ギャーーー」 10分後、ボロボロになった才人とやっと落ち着いたルイズがマジに不可抗力だったと理解し、テンパりながら治癒の魔法をかけさせにいった事は言うまでも無い。 「…クソッ!マン・イン・ザ・ミラーかと思ったが何だよありゃあ」 ようやっと意識を取り戻し目を開けると見知らぬ部屋の天井だった。 スタンド攻撃かとも思ったが、前にも味わった事があるし何より場の空気が違う事に気付き半信半疑だが結論を出した。 「また、来ちまったってワケか?…洒落にもならねー」 しばらく寝ながら部屋を見回していたが、明らかに現代の、特に言えば日本のものではない。 そうこうしていると、部屋の扉が開き、よーく知っている色の髪が見えた。 ディ・モールト見知っているため文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが、違っていた。 髪の色は同じだが、なんっつーかこう一つだけ、明らかに違っていたからだ。主に胸とかが。 「お目覚めですか?」 「…ここは何処だ?」 「その前に、こちらの質問に答えていただけると助かります。…どこでそれを?」 そう言って指差すのは風のルビーだ。ご丁寧に机の上に置かれているあたり、今すぐには敵では無いと判断した。 敵であるならば、こんな高価な物とうに消えている。 ただ、どう答えるかが問題だ。ウェールズから直接だが、素性も知れん相手に言う気にはなれない。 「…悪いが、誰とも知らんヤツにそれを言うほど、マヌケじゃねぇよ」 憮然とした口調で言ったが、相手は不快になるどころか寧ろ微笑んでいた。 「確かにそうでしたわ。ごめんなさいね。カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌと申します」 (……どっかで聞いたな) 何処だったかと必死こいて考えるが、一つ思い当たる事があった。 常人なら忘れてもいいが、情報を重視する暗殺者ならではと言えるだろう。 『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』 アホみたいに長い名前だったが、一致点はある。 まさかと思ってもう一度見たが、髪の色が同じで ルイズを大きくしたらそんな感じになるという事もあり、確証はまだ無いが心の中で一族か何かだろうと判断した。 「それで、どこでそれを?」 変わらない笑顔だったが、その目の奥底に確固たる意志の光を見た。 「…そいつを知ってんのは?」 「ご心配なく。今のところ、わたしだけですわ」 『今のところ』というからには場合によっては全て知らせる準備があるという事だ。 グレイトフル・デッドで乗り切ってもよかったが、状況の把握もままならないままそれをするのは自殺行為に等しい。 一応、確証を確実なものにするために最後の質問をしなければならないが。 「…ルイズって名前に心当たりはあるか?」 「わたしの小さいルイズをご存知ですの?」 これで確実だ。もう一度その笑顔を見据えるが、目を見て少なくとも現状では敵意は無さそうだ。 元ギャング視点から見ても裏切るようなタイプでもないし、ルイズの血縁であるという事も手伝って、ある程度の部分は隠しながらも話す事に決めた。 「分かってるだろうが他言無用だ。そいつは……」 プロシュート兄貴―ヤバイ『実家』にIN!! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2114.html
「ふん…何人か足りないね」 人質が集められている食堂に来たフーケだが、集められている生徒と教師を見て数が合わない事に気づいた。 「1、2、3…あの火の小娘とタバサ、コッパゲに…モンモランシーか 最後のはともかく、トライアングルが三人…何企んでるんだかね」 もっとも、フーケ自身はコルベールを自分より下と見ているため、あまり勘定には入れていないが。 「戻ったよ」 「土くれか。どうだ?」 「収穫無しさ。特に何もありゃしない。街で手に入る情報なんてたかが知れてるって事さね」 確かに嘘ではない…が内心では心臓が跳ね上がりそうだ。 焦ったりすれば、メンヌヴィル曰く『感情が乱れれば、温度も乱れる』らしいから、何かしら疑われかねない。 下手打ってバレれば焼かれかねないし、生き延びたとしても異変を察知したあのドSが自分諸共巻き込んであの力を使いかねない。 前門の虎、後門の狼とはこの事だろう。泣きたくなってきたが耐える。 2、3、5、7、11、13、17、19…そんな幻聴が聞こえてきたが、そんなもので平静を保てる人間はそうは居ない。 「温度が乱れている。何かあったな?」 しかし、現実はフーケにとって非常に非情である。 どうもあの義眼を見ると全てを見透かされているようで平静を保てない。 故に、自分でも気付かないぐらい微妙に体温が上がっていたのだが、あっさりメンヌヴィルに気付かれた。 ヤバイ。このままだと本格的にボロが出て焼かれかねない。 思わず辺りを見回したが後ろ手に縛れらているオスマンを見付け咄嗟に言葉が出た。 「ああ、少し借りがあるヤツが居てね…あのジジイさ」 これまた嘘ではない。ロングビル時代に散々に尻を撫でられ、モートソグニルを介して下着を見られ、挙句婚期を逃すとまで言われた。 一度や二度蹴り倒したぐらいでは到底鬱憤を晴らせるものではない。 「少し借りるよ。いいね」 予想外な事ははあったが、ここまでは順調だ。 「ミス・ロングビル、いや今は土くれだったか」 「あら、学院長先生。その節ははお世話になりましたわ。是非ともお礼がしたいんですがよろしいでしょうか?」 口調はロングビル時代のそれになったが、地の底から湧き上るようなドス黒い声だ。 この辺りは演技ではなく本気だ。だからメンヌヴィルにもそれは見抜けなかった。 「それはいいが大事な人質だ。やりすぎるなよ。土くれ」 「そんなに心配なら何人かよこしな。わたしは構わないよ」 オスマンを連れて行くフーケに一人の傭兵をメンヌヴィルが付けたが、その時のオスマンの目は売られていく子牛のようだったという。 場所は変わって通称『悪魔の手のひら』ことヴェストリの広場。 原因が原因だけに、普段から余程の事が無い限りは人が居ない場所ではあるが、一つの人影がそこにあった。 木の陰から顔を出したり引っ込めたりする事数度。完全に不審者だが、状況が状況なだけに仕方ないのだろう。 「な、なに…戦争なんてアルビオンでやるんじゃなかったの?」 金髪縦ロールという典型的なおぜうさまな髪型のご存知モンモランシーだ。 偶然にも目が覚めて、眠れなかったので寮の外をブラついていたら、傭兵が押し入ったので逃げてきたというわけである。 杖は持ってきたものの、相手はプロの上に人数も多い。ついでに言えば、自分は水のライン。 腰抜かして捕まらなかっただけマシだろう。 とてもじゃないが、プロシュートに喧嘩売った時と同じと思えない。 が、あの時はギーシュが逝ったばかりで色々スイッチが入っていた。 捨て身になった人間は非常に強いが、そうでなくなれば案外脆いものだ。 早い話、要はまだ死にたくないという事になる。 実際あの後、緊張からの開放で過呼吸に陥り本気で死に掛けた。それだけ一杯一杯だったのである。 「調子乗って、勝手に死んじゃって…結構寂しいんだから」 かつてギーシュが首をヘシ折られた場所に来るとそう呟いたが、近くで少し物音がした。 他の生徒が食堂に閉じ込められているのは見ているから、少なくとも生徒ではない。 つまり、傭兵か教師か火の塔に駐屯している銃士かになるのだが、傭兵は全員メイジの上この奇襲だ。 残っている教師ではどうなるか分からないし、銃士では相手にならないと思っている。 故に、傭兵が来たと思ったのだが、生憎広場のド真ん中で身を隠すような場所も無い。 確実に近付いてくる足音を聞いてモンモランシーがその場にへたり込んだが、この上なくテンパっている。 「どうしよう…どうしよう~わ…わたし…どうすれば…?」 逃げるのも忘れていい感じに混乱しているが、今の状態は『頭隠して尻隠さず』という諺未満の状態である。 なにせ、隠す場所が存在しないのに、その場で隠れようとしているのだがら、ある意味パントマイマーだ。 空き缶があって人が居れば小銭が稼げるかもしれない。 そんな事をしてても当然状況は変わらないので、遂にジャリ、という音が自分の後ろから鳴った。 その瞬間、モンモランシーの息が止まり、何となくだが感覚がスローモーションになる。 頭に浮かぶのは学院に入学してからの全記憶だ。 その中でも一際鮮明なのが、ギーシュ関係だろう。 ケティから本当に馬で遠乗りに行っただけと聞いた時はしばらく身動きが取れなかった。 ギーシュも悪いっちゃあ悪いが、ある意味決闘の原因になった香水を作ったのは自分だ。 プロシュートに攻撃を仕掛けたのも、そうした思いがあったのかもしれない。 覚悟決めたのか大人しくなったが、次に浮かんだのが何故か現ルイズの使い魔の才人である。 水の精霊との接触に協力してから、語呂がいいのかモンモンと呼んでくる。 極めて馴れ馴れしいのだが、今までそういう扱い方をされていなかったのである意味新鮮味はあった。 そうなってくると、元来気が強い方のトリステイン貴族だ。途端にネガティヴなイメージが消え去る。 「ゴメン、ギーシュ…」 やっぱり、わたしまだ『そっち』には行きたくない。 そう思うと杖を握り後ろを振り向いた。…いや、向いたのだが 「んな体勢で泣いたり謝ったり、麻薬でもキメてんのかオメーは」 と、届いてきたのはそんな想いと覚悟をキレイサッパリ全てブチ切れたギアッチョの如くブチ壊す非常に醒め切った声。 「あ…あ…あんたは…『メイジ殺し』!『悪魔憑き』!『ルイズの使い魔』!…プロひゅ」 「馬鹿かてめーは。お前一人だけなら喚こうが勝手だが、オレを巻き込むんじゃあねぇ」 大声出して人の名前を叫ぼうとしてくれやがったので咄嗟に口を押さえたが、モンモランシーがもがいている。 「…ぅ……ぁ…ム………!!」 一々口で言って大人しくさせるのも面倒なので鼻と口押さえたが、素直に大人しくなってくれたようでなによりだ。 「……ぶはぁ!はぁー…はぁー……何すんのよ!や、やっぱりわたしも殺す気ね!?この人殺し!」 正確に言うと、大人しくなったというより、ぐったりしたという方が正しいだろうが、過程はどうでもいいのである。 「死んで無いだろ、人聞きの悪い。つーか、んなアホな事やってる暇ありゃあ、前、オレに使った毒でも撒いてこい」 「あんな物騒な物とっくの昔に捨てたわよ!見つかったらチェルノボーグ行きよ!」 「てめー、んなもん人に使ってくれやがったのか…」 こいつ今、始末した方が良いんじゃあねーか?とも思ったが止めておく。 少なくともあれから攻撃は受けてはいないし、余計な面倒事は御免被る。 まぁ、そろそろフーケがどうにかしてオスマンを連れてくるはずだ。こいつに構っている場合ではない。 とりあえず放っておいて合流地点に向かおうとしたのだが、さすがにモンモランシーが放置されそうな事に反応した。 「ま、まま、待ちなさい!こんな時に一人にする気なの!?」 それを聞いて、少し後ろ見たが、淡々とした物だ。 「知るか。その杖は何だ?飾りじゃあねーだろ。生きたけりゃあ動け。死にたくなけりゃあそれを使え。それができねぇってんならのたれ死ね」 これがマルトーやシエスタとかの平民連中なら借りも色々あるし考えないでもないが 普段から、メイジだの貴族だの言ってるこいつらには、そこまでする義理も無いし、義務も無い。 この男、普段大口叩いてこういう時に何もしないヤツが一番嫌いなのである。 「なによ…なによ、なによ、こいつーー!」 あまり大声出すと拙いのか微妙な音量のシャウトを聞きながら5歩程進んだが、そこで立ち止まる。 「ま…付いてくるってだけなら、それはオメーの勝手だ。どうするか好きにしな」 直接護衛する気は更々無いが、過程に敵が居れば排除せねばならんので、同じような物だろう。 つまり、かなり遠まわしに、必死こいて食らい付いてくるなら来い。と言っているわけである。 最初のほうで突き放し、後である程度引き寄せる。ペッシ相手に使われていた十八番が見事に炸裂していた。 「…礼なんか言わないわよ」 「いらん。ヘマしたら自分でどうにかしろ」 まぁ向こうが攻撃されれば、自分で何とかしろ。という事ではあるが。 それでも、どうも甘くなったかと思わないでもない。 ペッシあたりならば、あの時点で鉄拳制裁であるというのに。 どうもこちら側だと調子が狂う。久々に勘を取り戻せそうな状況下なのだが、それでもまだ本調子では無いというところだろうか。 前ならば、有無を言わさずこの辺り一帯がスデに老化に巻き込まれていてもいいのだが 後の事を考えたりするようになったあたり、やはり少しばかり甘くなったかと思い、『やれやれ』という言葉が無意識に出て頭に手がいく。 とりあえず、この次遭った敵は溜まったストレスと憂さ晴らしに徹底的にブチのめそうと誓い再び歩き出した。 再び場所が移って、半ば奴隷のような扱いのオスマンを引き連れたフーケだが、風の塔に着いた。 「さて…どうしてやろうかね。とりあえず、そこの糸と釣り針取ってきて。ああ、見たくないなら外で待ってな」 「良い趣味だな土くれ。あの有名な盗賊が拷問好きとは」 「人の事言えないだろ」 「…そりゃあそうだ。違いない。特に隊長はだ。で、何処にあるんだ」 「そこの奥にある。奥にね…」 いいや、限界だ!と言わんばかりのフーケに従い、道具を取りに行くため背を向けたが 傭兵が足元にあるロープを跨いだ瞬間、それが絡み付いて上半身を縛り、手を後ろ手に縛った。 「な…!土くれ、裏切ったのか!」 「悪いね。こちとらやたら性質の悪いのと組まされてる上に後が無いんだ。文句はそいつに言ってくれ」 「人が悪いの。それならそうと早く言って欲しいもんじゃ」 心底安堵したかのようなオスマンを見たが、続く言葉にフーケがキレた。 「やっぱわしに惚れてる?今度は本当の名前も教えて欲しいのぉ。それともロングビルちゃんってよベボォ!」 「調子に乗るんじゃないよ。このヒゲ!」 綺麗な蹴りが入って踏まれたオスマンが咽ているが心なしか嬉しそうなのは気のせいだろう。 「いや~この感触懐かしいわい」 …多分気のせいだ。 そんなやり取りをしていると、手を縛られただけで足は動く傭兵が逃げる。隙だらけなのだから当然だ。 「やば…」 このまま食堂に行かれでもしたら洒落にもならない。 焼死か老化かの二択になり、それは非常に拙い。 後を追おうとしたが、打撃音と共に傭兵が部屋に飛び込んできた。 正確に言うと吹っ飛ばされたのだが、似たようなものだろう。 食堂からは離れているが、異変を察知されると拙いので咄嗟にサイレントをかけたが、それがある意味仇になった。 そろそろフーケとの合流場所の塔の近くに来たプロシュートと必死になって付いてきているモンモランシーだったが 不意に部屋から飛び出してきた男とぶつかった。互いに倒れはしないが、後ろ手に縛られているだけあって体勢は向こうが悪い。 男の姿形を見たが、少なくとも教師でも無いし生徒でもないし、平民でもない。 なら残った選択肢は傭兵だ。つまり敵だ。排除しても問題無い敵だ。手加減なぞ一切合財する必要の無い敵だ。丁度いい。 腕を少し前に突き出し、指をゴキリと鳴らす。 それの動作と向けられている冷たい眼を見て杖を出すこともできない傭兵が後ずさったが、間髪入れずに距離を詰め肘撃ちが顎に入った。 傭兵が勢いで派手に吹っ飛んだが、その後の悲鳴は無い。フーケがサイレントをかけたらしい。 なら『何をやっても』『悲鳴』が聞こえる事は無いという事だ。丁度いい。 普段はやらない、というか直触り直行だが、それでは気がおさまらんというのがこの傭兵の不幸だろう。 グレイトフル・デッドで頭を掴み無理矢理立たされる形となったが、スタンド使い以外にそれを見る事はできない。 空いた方の手で傭兵の肩を掴み、プロシュートの口が開かれたが当然音は出ない。 読唇術ができるなら『別にお前でなくても良かったんだが…運が悪かったと思って諦めろ』と解読できたはずだ。 それから十数秒の間、近距離型スタンドの如く傭兵を殴り続ける悪魔が居たというのは、後のフーケの証言である。 トドメに直を叩き込んで終わりにしたプロシュートがフーケに近付いてきたが 顔に少し赤い物が付いているのを見て、顔を引きつらせながらフーケが目を反らした。 多分、別の赤い物か何かで血じゃない。例え万が一血であっても、返り血とかじゃあ絶対無い。 「まぁ、あそこまでやる必要無かったな」 目を反らしながらサイレントを解いたが、そこで出た言葉がこれだ。 「なら最初からやるな!」 思わずフーケが突っ込んだが、心の中で思ったならその時スデに行動は終わっているので仕方ないのである。 「気にすんな。で、連れてきたか?」 「まったく、こいつは…ああ、そこに居るよ」 赤い物を指で拭きながら視線を下に向けると仰向けに踏まれているオスマンがそこに居た。 もとい、踏まれているというより自ら下に潜り込んでいるような気がしないでもない。 「やはり白より黒に限ると思うんじゃが、どう…ごめん。止めて。痛い、痛いから」 「…こいつ殺してもいいかい?」 「我慢しろ。そんなでも一応ここのボスだ。それと殺してもなんて使うんじゃあねぇ。殺したなら使ってもいい」 フーケが更に蹴りを入れたが、その上で交わされている会話は非常に物騒である。 「あだだ…ひょっとして、わし命の危機?」 「そんなだから、こいつに付け込まれんだよ…つーか、案外反応が薄いな」 「年を取ると大抵の事では驚かなくなるものじゃ」 言ってる事は中々だが、依然として踏まれているため説得力は一切無い。 「オールド・オスマン…それにミス・ロングビル!」 ロングビルと呼ぶのは現状一人しか居ない。当然必死に付いてきたモンモランシーである。 「おお、ミス・モンモランシ無事じゃったか」 「はい。でも…その一体何を…?」 そりゃあ学院長が辞めたと言われた元秘書に踏まれているのだから気にはなる。 なお、あの一件は当事者(コルベール含む)を除いてロングビルがフーケだと知らされていない。 盗賊を学院長自らが雇ったなど知れたら洒落にもならないという事だ。 無論、そんな事情なぞ知った事ではないヤツには関係無いのだが。 「何だ知らねーのか。そいつが土くれだ」 「は?何?土くれってあの土くれ?それがミス・ロングビル………嘘ぉ!?」 「一々叫ばないと反応できねぇのかオメーは」 もはやリアクション大王と化しているモンモランシーを無視するが、フーケが意外そうな顔をしてオスマンから足を離した。 「わざわざ連れてくるなんてどういう風の吹き回しだかね。明日は槍でも振るんじゃあないか」 「勝手に付いてきただけだ。それよりどうなってる」 「人質は全員食堂に集められてるよ。メンヌヴィル達もそこに集まってる」 他に銃士が居ると聞いたが、人質を取られている以上あまり戦力にはならんと判断した。やはり老化で一気にカタを付けるしか無い。 「つーわけだ。全員老化させちまうが構わねーな」 老化と言っても、そう簡単に死にはしない。むしろ女子生徒や女で編成された銃士なだけあって老化は傭兵達より遅い。 というより、夜だけあって動かないヤツならそうそう進行はしない。 今まで動いていた傭兵連中も時間が経てば体温が下がり利き辛くなる。 仕掛けるなら今が最適なのだが… 「駄目」 「それじゃあ…何ィ!?構わねぇだろうが。死にゃしねぇよ」 「駄目」 「……ガキが小遣いせびってるのを断ってるんじゃああるまいし駄目はないだろーが。何かあんのか」 「…使い魔とメイジは一心同体と言うしな。それが死んでしまえば同じ事じゃて」 確かにまぁ、鼠やフレイムみたいなのは確実に死ぬ。 だからと言って、最も確実な方法をやらないというわけにもいかないが。 「本人が死ぬよりマシだろ。第一贅沢言える状況かよ。切り捨ててでも預かり物を守る。それがお前の任務だろーが」 「生徒も守る。その使い魔も守る。両方しないといけないのが学院長の辛いところじゃよ」 「……ちッ!あのヤローと同じ事言いやがって。……仕方ねぇな。条件付きの仕事は高く付くから覚悟しとけ」 どうして、こいつらはたまにマジになりやがるか。 そう思ったが、その覚悟を持ったブチャラティに敗れたのだから仕方無いと思う事にした。 「まぁ、お主とコルベール君が居ればなんとかなるじゃろうて」 「あいつか…?まぁいい。言うまでも無いだろうが、一応説明しといてやる スタンド名は『ザ・グレイトフル・デッド』。オレの半径200メートル以内の生物は全て朽ち果てると知れよ」 こいつらは知っているため、対処法以外は教えても特に問題は無い。 無論、言葉尻にあまり人に言うなという事は匂わせているが。 「さて、そろそろ戻らないと勘付かれるね」 「気付かれてもオレの事言うんじゃあねぇぞ。つーか言ったらてめーも巻き込むからな」 「さっき仕方ないって言ったばかりだろ…ホント頼むよ」 肩を落としながらフーケがオスマンを連れて食堂に戻ろうとしたが、それを見て呼び止めた。 「待て。オメーなんつってそいつを連れてきた」 「え?ああ。咄嗟だったから借りがあるって言って………ああ、拙いか」 「どうしたんじゃね」 二人の視線の先には極めて元気そうなオスマンが写っている。 フーケは借りがあると言って連れてきたのに、このままというのは非常に拙い。 「まぁ、これも報酬の内だ。諦めろ」 「むむ。そりゃあ一体どういう」 感情の篭ってない声でオスマンにそう言ったが、今一状況が掴めていないようだ。 「いつも鼠を使って下着を除いたり、散々色んな所を撫でてくれた借りを返して貰うって事さ」 「えー、その、つまり…わし大ピンチ?」 杖を取り出し、無言で金属製の鞭を作り出したフーケを見てオスマンが後ずさったが見えない何かに捕まれた。 もちろん、グレイトフル・デッドである。 「と、年寄りをそんな乱暴に扱ったらいかん!平和的に、話し合いで解決をじゃな!」 「話し合いですか。確かにわたくしもこんな事はしたくありません」 「そ、そうじゃろう。だからここは一つ穏便に」 「だが断る。この土くれの最も好きな事の一つは、ボケジジイに裁きの鉄槌を下してやる事だ!」 「OH MY GOD!プロシュート君!ミス・モンモランシ!彼女を止めてくれんか!」 必死になって助けを求めたが、プロシュートは元より、モンモランシーも醒めた眼をしている。 「言ったろ。覚悟しとけって。纏めて老化させてりゃあ、んな目に遭わずに済んだんだよ」 モンモランシーは何も言わないが、土くれとは言え、それだけのセクハラかましていたのだからオスマン株最安値更新大暴落というやつだろう。 「さぁ、お仕置きの時間だ。殺しはしないから安心しな!」 何時に無く生き生きとしたフーケがそう宣言すると、夜も明けない学院に憐れなボケ老人の叫びが木霊した。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1698.html
夏ッ!ムカつかずにいられないッ!この暑さに荒れているクソッ!! どこぞの吸血鬼一歩手前の英国貴族のような出だしだが、ここヴァリエール家領地も夏である。 それだけならまぁどうという事はないが、この前まで科学世界で居た方にはエアコンというものがないこの世界の夏は少々堪えてた。 魔法学院も夏季休暇があるということでルイズあたりが戻ってくるかもしれんとちと警戒していたのだが、どうやら戻ってはこれなくなったらしい。 ターゲットであるクロムウェルの事もそれとなく調べてみたが、現在のアルビオンの皇帝という事だけだった。 「できるなら能力…いや、属性か。そっちも知っておきてーな」 相手は一般ピーポーではなく、少なくとも魔法を使うメイジだ。 グレイトフル・デッドの汎用性が恐ろしく低いだけに、対象の属性を知っておくにこした事は無い。 火ならディ・モールトベネ。土や水ならまだしも、風の場合本体が射程外で遍在を相手にするとなると相性最悪だ。 水と土も苦手な部類に入るだろうがフーケの件を見る限りそんなに離れて操作する事はできないだろうと見ている。 氷の事は必要最低限の連中しか知らないだろうから、大丈夫だとは思うしなんとでもなる。 要は、直すら効かない遍在を持つ風が一番ヤバい。 己のスタンドの能力と弱点を把握する。スタンド使いにとって必須ともいえる事の一つだ。 気付かれないように射程に入ればいいのだが 皇帝と名乗っている以上気付かれずにそこまで接近できるかどうか怪しいものがあるし、どんな魔法があるか分かったもんではないのだ。 「たく…スタンドより厄介なとこがあんな、魔法ってのはよ」 もちろん、能力的に突出しているスタンドも十二分に驚異的だが、魔法の汎用性の高さはスタンドの比ではない。 スタンドなら、大抵は一能力のため能力を見た時に対応策を練れない事もないが、魔法は範囲が広すぎて対応が追いつかない。 能力者以外に能力を付与するマジックアイテムなどもある以上、行き当たりばったりでどうにかなるものではないと認識させられる事になっていた。 トリステインの情勢に関しての情報ならある程度流れてくるが、さすがにクロムウェルの事は入ってこない。 仕方ねーな、と思いつつ仕事をしつつ情報を仕入れていたが…姉さん事件です。 そう…エレオノール姉様ご婚約解消という超一大事が発生したッ! なんでも、婚約者のバーガンディ伯爵との間で 「(解消届けに)印を押させるなァーーーーーー!」 「いいや、限界だッ!押すねッ!!今だッ!」 という感じで婚約が解消になったらしい。 まぁこの元ギャングにとっては非常にどうでもいい事でもあったし、あの性格じゃあそりゃそうだろ。 という具合だったので特に気にしていないが、周りは戦々恐々といった感じで婚約という言葉はあっという間にタブーとなっていた。 面はいいのに、性格がアレ。 なんとなく、どこぞの殺人鬼を彷彿とさせるものがある。 「このわたしとの婚約を解消するなんて、どうしてなのかしら!…聞いてるの?カトレア!」 「え、ええ。どうしてでしょうか姉様」 さすがのカトレアもこの剣幕には押されている。泣く子も黙るとはこの事だろう。 だが、泣く子すら老化させ無理矢理黙らせるこの元ギャングは遠慮が無かった。 一応、表の職に就いているからには仕事仲間ができる。 そして、当然ながらエレオノール様ご婚約解消というネタは、その中で密かに話される事になる。 「おい…知ってるか?エレオノール様のご婚約が解消されたそうだ」 「あのバーガンディ伯爵が『もう限界』って言ったらしい…」 そんな話が使用人達の中で密かに話されているが、えてしてそういう物は本人に聞かれているものである。 (使用人がそんな口を利くなんてどうしてくれようかしらね!) 廊下の曲がり角から今にもゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音が鳴らんばかりに殺気立っているのは話題の人物エレオノール姉様だ。 鞭片手に、今にも飛び出さんばかりだったが、それはできなかった。 「プレストンはなんでだと思う?」 ちなみにプレストンはポルトガル語で生ハムの意味し、カトレア以外はこれで通してある。 「オレが知るか。まぁあの性格じゃあな。そりゃ三十路にテンパイ掛かって婚約解消されもすんだろ。自業自得だ」 「…結構言うな」 ストレート。そりゃもうド真ん中160キロの直球だ。 エレオノール姉様、現在リーダー:リゾット・ネエロと同じ28歳。 この世界において23歳であるロングビルことフーケですら行き遅れと呼ばれているのだ。 ハッキリ言えば超ヤバイ。 影で婚約話をされていた事はあったが、あくまで遠慮しがちというか、タブー扱いされていた。 だが、本人を目にしてではないが、ここまで思いっきり言われたのは初めてだ。 男勝りな性格のエレオノール姉様とはいえ…いや男勝りだからこそ今まで言われたことの無いストレートな精神的攻撃というのはキツイものである。 「ふふ…三十路…三十路ね…」 ルイズが見たら、己が目を疑う事間違いなしのような力ない声でそこからエレオノールが離れていくが 見る者が見れば再起不能(リタイヤ)という文字が見えていたであろうかという様子だった。 「エレオノール姉様、元気がなかったけど、何かご存知?」 「さぁな。婚約解消の事じゃあねーのか?」 「…そうかしら?それだけじゃないような気がするの」 第7回『動物達と本を読む会』主催:カトレア 参加者:プロシュート兄貴with動物 が開催されている中での会話だったが、原因となる本人はエレオノールが居たことを知らないのでこの返答だ。 精神的に大ダメージを受けた者が居るヴァリエール家から離れ、こちらルイズと才人。 夏季休暇と言う事で、実家に戻る予定だったが、中止になった。 アンリエッタから身分を隠しての情報収集任務を依頼され、それを受け休暇返上で働く事になったのだが… 一名様が、『震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!刻むぜ!山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!』 と叫ばんばかりに悶えている。 理由は、何時もの制服とは違う服を着たルイズにあるのだろう。 「なんで、わたしが軍服なんて着なくちゃならないのよ…」 「バカ言うなッ!確かにこっちでは水兵服かもしれませンッ! だがッ!俺の世界ではァーーー女の子はそれを着て学校に通うッ!セーラー服はァァァアア世界一ィィィィイイイイ」 ビシッ!とポーズを決めているが、常人が見ればドン引きである。 興奮しつつ、水兵服を買ったはいいものの正直持て余していたのだが 身分を隠しての任務だという事で裁縫が得意なシエスタに至急仕立て直して頂いた。 ちょっとこわばった表情で、これを渡されたシエスタも引いてはいたが、ルイズの身分を隠すためと言われ納得したようで快く引き受けてくれた。 それで完成した一品をルイズに渡したのだが、元が軍服であるだけに不満そうだったが、アンリエッタの任務という事で装備している。 本物。平賀才人の趣味全開だったが、その本物ですら予想の斜め上をいくものが二つあった。 ルイズが大体何時も着ているニーソックスと桃色がかったブロンドの髪のギャップだけは、この本物も予想外だった。 「…グッド!」 親指を立て怪しく呟く。 今のこの本物なら、屍生人の一匹ぐらい余裕で倒せる。そのぐらいの何かが吹き出ていた。 ルイズも服そのものには不満そうではあったが、わざわざ買った物を仕立て直してくれた事と、この前の『守る』発言により、まぁ悪い気はしていない。 そんな感じでトリスタニアに向かう事になったのだが、そのルイズを怪しく見送る一つの影がそこにあった。 「けけ、けしからんねぇ…まったくおたくけしからんッ!」 『風上』のマルコリヌル。彼の中で何かが目覚めた瞬間だった。 そんな感じで徒歩で向かうこと二日。トリスタニアに着き手形を現金に変えたりで歩き回っていたが 貴族とは見られていないが目立っているっちゃあ目立っていた。 「…余計目立ってる気がするんだけど」 「当然だ。俺の世界の魅惑の魔法が掛かってる」 「あんたの世界って魔法無いんじゃなかったっけ?」 歩きながら腕を組み己が考案したコーディネイトを見て満足気に頷く本物。 なお、サイズが少し大きめなのも当然この本物の指示だ。 だが、そんな二人に迫る大きい人影が一つ。 「あら~~ルイズちゃんじゃないの久しぶりね。そのお洋服も『魅惑』の魔法がかけられてるのね。んん~~トレビア~~ン」 そのごつい男の声と女言葉に反応した才人が思わず振り向いて息を呑んだ。 (た…太陽の光の中に…うぉお…なんてこった…い…いけねぇ…!大変な事に…!絶対にまずい!) そう…後ろに居たのは、太陽光をバックに『キュィイイイン』という音を出さんばかりに究極生物のようなポージングを決めている人物ッ! その輝きに一瞬だが才人も美しいと感じてしまった程だ。 『究極の生命体(アルティメット・シイング)スカロンの誕生だーーーーーーーー!』 もう今にも「フン」とか言いそうではあったが、興味深そうに二人を見ている。 「あ…えと…スカロンさん…」 「…ルイズ…お前の知り合いなのか?」 「…うん…ちょっとね…」 このオカマとルイズが知り合いという事にマジにぶっ飛びかけたが、先代絡みである事を聞いて一応納得した。 「それでルイズちゃんは、そんな素敵なお洋服を着てなにやってるのかしら? あらやだ!ここで立ち話ってのもなんだし、とりあえずうちの店にいらっしゃい」 そう言うと、腰を振りながらスカロンが歩く。 それを見て、さっき見た美しさを幻覚かなにかだと自分に言い聞かせながら付いていくのだがルイズはあまり乗り気ではない。 が、馬を使わずに歩きでこのクソ暑い中歩いてやってきたのだ。 乗り気以前に休みたいと言う事で体は勝手にスカロンと同じ方向に歩き出していた。 首都の通りを歩くフードとマントで姿形を隠して彷徨うように歩く一つの人影。 その正体はご存知エレオノール姉様だ。 珍しくと言うか、ここに来て人生初めて本気で凹んでいる。 休日に特にトリスタニアに用があるわけではなかったが、まぁその、なんだ。 歩きたかったというか、しばらく婚約という言葉すら聞きたくなかったのでふらついている。 今のとこ実家にも戻る気にはなれないでいたので、現状この有様だ。 要は荒れているのである。 そんな感じで通りを彷徨っていると、ごついオカマの後を歩くルイズを見つけた。 「ちびルイズじゃない。あの子ったら何やってるのよ」 ルイズを見付けたら見付けたで、何だか無性にムカついてきた。 病弱なカトレアに当たる事もできなかったし、あの場であの使用人に当たると余計傷口広げそうだったので凹むだけだったのだが ルイズという格好の標的を見付けた。まぁ早い話八つ当たりだ。 それで後を追ったのだが、入っていた所は宿屋兼酒場の『魅惑の妖精亭』である。 もちろん、主な客層は平民であり、貴族も来るっちゃあ来るが、大衆Lvの物件だ。 「名門ラ・ヴァリエール家の三女が、あんな場所に入っていって…ホントにあの子は…何考えてるのかしら」 半分呆れ、半分怒りが混じった声だが、とりあえずどうしたもんかと悩む。 ルイズ以上にプライドが高いこのエレオノールにとって、この手の場所に進んで入りたいものではないからだ。 「ちびルイズ…ただじゃあおきませんからね」 小一時間ほど迷っていたが、ルイズをつねりあげるという感情が勝利し、どうやら中に入る事にしたようだ。 「いらっしゃいませ~~~あら!こちらおはつ?わたしは店長のスカロン。 まあ綺麗!なんてトレビアン!店の女の子がかすんじゃうわ!今日は是非とも楽しんでくださいまし!」 対応してきたのはピッチリとした革のスーツのキモい店長だったが、最後の方で褒められたっぽい事は分かったので良しとしておく。 「さっき、ここに入っていった桃色の髪の子を呼んでくださる?」 「あら!さっそくのご氏名?ただ今お呼びいたしますのでこちらのお席にどうぞ」 席に案内され店内の様子を見回すが、一般的に見てもきわどいというLvの服装の女の子達が働いている。 まさかとは思ったが、しばらくしているとその予感が的中する事になる。 「……ご、ご指名、ありがとうございます」 初指名という事で、ひきつった笑顔を必死に見せやってきたのは白いキャミソールを着込んだルイズだ。 生涯初の接客という事で、この有様なのだが、肝心の客はフードを被り何も言わず何か妙なオーラを出していた。 注文を聞こうと近付いた時、思いっきり手を掴まれた時は流石のルイズも血の気が引いた。 「げげげ、下郎!あああ、あんたわたしを誰だと思ってんの?」 その迫力は本来なら相手はたじろいでもいいものだったが…生憎相手が悪かった。 「誰…?誰ですって?いいでしょう教えて差し上げますわ」 ルイズが放ったものより数段上の迫力があり、なにより思いっきり聞いた事のある声に逆にルイズがたじろいだ。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…誇り高きラ・ヴァリーエル家の三女… それがこんなところで…なにやってるのかしら…?ちびルイズーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」 「あいだ!ほわだ!でえざば(姉様)!どぼじでごんばどごろに(どうしてこんな所に)!」 「どうして?それはこっちが聞きたいわ!おちび!」 「ほでにば!ほでにばわげが~~~!(これには!これにはわけが~~~!)」 眉を吊り上げてルイズの頬をつねりあげる。叫んだのは『ちびルイズ』のくだりからだったがさすがに何事かとスカロンが飛び出てきた。 「あらあらあらあらぁ~~~お客様、うちの店はそういうプレイは」 プレイ云々以前の問題なのだが、当然それで収まるエレオノール姉様ではない。 もちろん、事を荒立てて『ラ・ヴァリエール公爵家の三女』が こんなとこで一時といえど働いていたなどという事を知られるわけにはいかないので奥で話を付ける事になった。 「似てると思ってたけどルイズちゃんのお姉さんだったのねぇ。姉妹揃ってトレビア~~~ンだわ」 身をくねらせるスカロンをシカトしてエレオノールの説教会が隅っこで開催されている。 「で?こんなところで『ルイズちゃん』は帰郷もせずに何をやってるの?」 口調こそ穏やかだが、迫力はものっそい。ある意味一番怖い問われ方だ。 「あ、あう…姫様から直々に任務を受けて…だから身分を隠しているんです…」 「姫様?…陛下の事ね」 任務内容も秘密にしておきたいとこだったが、何も言わないで居ると余計悪化しそうってか悪化するので正直に言う事にした。 スカロンに関しては、前着た時に貴族だと知られていたのだが、気にしないしバラしもしないと言う事だ。 まだ疑っているようだったエレオノールにアンリエッタの許可証を見せると、ようやくルイズがアンリエッタ直属の女官であるという事を認めたようだ。 だが、いかに勅命とはいえラ・ヴァリエール家の娘が、こんな場所で働くという事は認められない。 まして『烈風』カリンが知ったら、この辺り周辺『カッター・トルネード』である。 「ちびルイズ。その任務は他の者に任せて、あなたはラ・ヴァリエールの領地に戻りなさい」 「いくら姉様でも、それは聞けないわ。陛下はわたしを必要としてくれているの。だから、今は戻れないの!」 その態度にエレオノールが驚いた。ルイズがこう逆らってくる事など、これが初めてだからだ。 ちなみにアンリエッタから出された手形で変えた金貨は結構あり わざわざ働かなくとも、情報は集められただろうが、やはり生の情報は直接関わった方が手に入りやすい。 服装は恥ずかしかったが、任務のためということでこらえている。 宿の質についてはちとアレだったが、安物の宿じゃよく眠れないなどと言えば 先代なら『この腑抜け野朗がッ!』と言われ説教されるだろうと思い諦めていた。 なんだかんだでそれなりに成長はしているようである。 もちろんエレオノールはそんなこと知ったこっちゃあない。 そこで、ルイズが話題を変えようとある事を言ったのだが…当然タブーのアレだ 「そ、そういえば姉様。ご婚約おめでとうございます」 瞬間、グィィっとつねりあげられる。痛そうってか痛い。 「ふみゃ!いだい!あう!」 「婚約は解消よ!か・い・し・ょ・う!」 「な、なにゆえにっ!」 「さあ?バーガンディ伯爵様に聞いて頂戴!なんでも『いいや、限界だッ!』だそうよ!とにかく!あなたは領地に戻ってなさい!」 空気の読めないルイズのおかげで、見事に本来の目的を思い出しルイズをさらに強くつねりあげる。 しかし、元ギャングにより多少なりとも成長したルイズだ。ただ黙ってつねられているだけではない。 「ふぇ…で、でも、もう昔のわたしじゃないの!絶対に戻らないんだから!」 「…ルイズ、あなた自分が何を言ってるのか分かってるの?」 「わたしだって、もう姉様につねられてるだけじゃないの!姉様だって、そんなだから…こ、婚約を解消されるんだわ」 最後の方は小声だったが、しっかりとエレオノールの耳に届く。 普通ならさらに怒りを呼ぶのだが、この前ストレートに言われていた事があるだけに、ものっそい効いた。 『かはぁ』と息が漏れ一気に凹む。それはもう普段からだと考えられない程に。 「ね…姉様…?」 言ったほうもこれには予想外で、ちょっと慌てている。 だが、少しするとゆっくりとエレオノールが顔を上げた。 「フゥ~~~…」 顔を上げながら、ゆっくりと息を吐くエレオノールを見て、ルイズがマジにヤバイと感じた。 こう、10年ぐらい修羅場をくぐり抜けたかのような目をしている。 (こ、この目は!あの時のプロシュートの目と同じ!) 殺る気だ。姉様は本気で殺りに来る気だと感じ取り後悔した。 「んんんん~~~!ダメね~~~!そんな怒った顔してちゃダメ!せっかくのトレビアンが台無しよ?スマイルが大事。ス・マ・イ・ル!」 そこにズイィィっと二人の間に割り込むのはご存知スカロン。 ルイズの目には天使に映った程のナイスなタイミングだ。 身をくねらせながらエレオノールに向き直り、二人がぶっ飛とぶ事を言った。 「せっかくだから、この際あたなもお店のお仕事体験してみない?ここで素敵な笑顔を身に付ければもっと輝くわよ」 あのエレオノール姉様が?有り得ない。聞いた瞬間ルイズが思った事がこれだ。 それは本人も同じで0.5秒で否定している。 「あら、残念ね。あなたになら、うちの服がとっても似合うと思ってたんだけど」 似合う。そう聞いてルイズが少し想像して、見てみたいと思い、試しに少し挑発してみる事にした。 「姉様『には』、笑顔なんて『無理』ですもの。たぶん、バーガンディ伯爵様もそれで…」 「なな、なんですってぇ~~~~!」 こうなってくると意地と意地の張り合いである。 両者とも似たタイプだけにそれは余計加速する事になった。 「あまり来たくはないんだが…情報源としては、ここが最適だからな…」 わざわざ、カトレアに用意して貰った竜が馬の変わりをしている馬車を使って来たのだが、来たくないと思う原因は、やはり精神的ダメージ元のスカロンだろう。 バレるという心配は一切していない。よもや老人に近い男が、同一人物だと思うやつは居ないはずだ。 こういう事に関しては結構応用が利く能力である。 一応フードも被っているのでこれで正体を見破れるやつは、余程の捻くれ者か何かだろう。 店に入ると、スカロンに応対されたが、やはりバレた気配は無い。 とりあえず、適当なやつに一杯奢ってなんか聞くかと周りを見渡すと思わず吹いた。 「……なにやってんだよあいつは」 何故かは知らんがルイズが働いている。老化した姿を知られているだけにちと計算外だ。 なるべく目深にフードを被り顔を隠すが、さらにアレなモノを見る事になる。 「……おったまげたな。マジでどうなってやがんだよここは」 元ギャングも月までぶっ飛びそうになる。それもそのはず、エレオノール姉様もそこに居た。 ルイズよりひきつった顔をしているが間違いなく本人だろう。 「しかし…なってねーな、ありゃあ」 しばらく二人を観察していたが、ここで働きトップエースの名を得ていた者から見れば、接客応対ほぼ全てが不可である。 辛うじてルイズは客とトラブルを起こす一歩手前で踏みとどまっているようだったが エレオノールに至っては、なんかもう色々と説教したい。 客の一人にワインを頭からかけた時なぞマジに出て行こうかと思った程に。 まぁ酔って手ぇ出そうとした客も悪いのだがいきなりあれは減点だ。 少しばかり騒ぎになりかけたが、そこは歴戦の店長スカロン。すっ飛んできてフォローを始めている。 逆に客が可哀想になるぐらいのアレだったが。 隅っこで見学を言い渡されたエレノールだが、キレないのは生意気にも『ちびルイズ』が挑発してきたせいだろう。 ルイズはアンリエッタ直々の任務を成し遂げたいという意地。エレオノールはルイズに、ああも言われて黙ってられるかという意地。 要は、一日限りの姉妹同士の意地と意地のぶつかり合いだ。 正直、よくやんな。と思い、つまみをかじりながら見ていたが、厨房にも知った顔を見付けた。 「オレの行く先、勢揃いってわけか?スタンド使いでもあるまいしよ」 これでキュルケとタバサも居たら、マジにスタンド使いとメイジは引かれ合うという新しい法則を作りそうになるとこだ。 視線の先にはマンモーニこと才人が店の刺繍の入ったエプロンを付け慣れない手付きで皿を洗っていた。 「ちょっと!お皿が無いじゃないのよ!」 「す、すいません!ただいま!」 「あ~もう、かしてごらん。布で両面を挟んでグィィっと磨くのよ」 怒鳴っている方にも見覚えはある。信じがたい事だが、スカロンの娘ことジェシカだ。 正直、これも聞いた時ベイビィ・フェイスが欲しいと思った。 そうこうしていると、皿が一枚割れる音が厨房から聞こえる。 「あー!なに割ってるのよ!」 「娘?あの店長の?」 「そうよ。ほら、しゃべってるだけじゃなく手も動かす!」 どうやら、向こうも同じ思いに到達したようである。 「ねえねえ、ルイズとどんな関係なの?貴族なんでしょ?あの娘」 「首突っ込まない方がいいぞ」 なるべく低い声で言うが好奇心の塊のジェシカさんには通用しない。 「んーじゃあ変わりにもう一つ。兄さんとはどんな関係?」 「…兄さん?誰?」 「プロシュート兄さんよ。結構前に金が必要だから働かせてくれって、来たのよ」 「あいつもここで?」 「うん。最初は、あんたと同じ皿洗いとか、酔ってどうしようもなかったお客の相手やってたけど、妙に手馴れた手付きだったし 猫の手も借りたいぐらい忙しかったから給仕してもらったんだけど、兄さんが給仕してから女のお客さんがすっごく増えたのよ」 マジですか。どんだけー。と思ったようで、半分唖然としながら聞いている。 「チップレースだって、あのまま辞めなかったら歴代最高記録だしてたわね」 半分ぐらいは叩き出した酔っ払いが置いていったものだが、まぁ気にしない。 「兄さんは貴族なんかじゃなかったけど、ルイズや一緒に来てた二人とも知り合いだったみたいだし…どうなの?」 「…知らねぇ」 「…ホントに?」 「知らねぇって」 「ホントにホント?」 ズィィっと身を乗り出し、才人に顔と胸を近づける。 胸元が開いているワンンピースなので才人の視線は、当然というべきかそこに釘付けとなっていた。 また貴様はアレか。そんなリンゴみたいな大きいのが好きか。 横目で厨房を見たルイズが見たものは、ジェシカの胸に視線を完全ロックオンしている犬の姿である。 そういえば、キュルケを筆頭に、あろうことか姫様の胸も観察してたかもしれない。 そう思うと、ルイズの髪がラブ・デラックスの如く逆巻いた。 こちとら、我慢してやってるのに犬は一体なにをやってるのかと。 兄さんことプロシュートだって、汚れ仕事やらされてきたんだから、わたしだって頑張ってみる。って事でやってたのだが 顔を弛緩させ、胸の谷間をガン見している才人を見て何かがキレた。 「あのヤロー、なにやらかす気だ」 下手に動けないので観察だけに止めていたのだが、明らかにキレたルイズが厨房に入っていくのを見た。 ありゃ長くねーな。と思い、視線を外したのだが、扉が開き新しい客の一団が入ってきた。 ポルポを2~3周り程小さくしたような大きさで、額に薄くなった髪をのっぺりと貼り付けさせている。 正直、まだコルベールの方が潔い。 見たところ、下級ながら全員貴族のようだった。 「これはこれは、チュレンヌ様。ようこそ『魅惑の妖精亭』へ…」 貴族の一団が入ってきた事に店が静まり返り、あのスカロンがもみ手をせんばかりの勢いで、それに近付いていく。 「ふむ。おっほん!店は流行っているようだな?店長」 「いえいえ…とんでもない!今日はたまたまと申すもので…」 「なに、今日は仕事ではなく客としてやってきたのだ。そのような言い訳などせんでもいい」 「お言葉ですがチュレンヌ様、本日はこのように、満席となっておりまして…」 「わたしにはそうは見えないが?」 それと同時に取り巻きの貴族が一斉に杖を抜くと、それに怯えたほとんどの客は酔いが醒め、一目散に入り口から消えてしまった。 残っているのは完全に潰れている客と、隅の方に居る数人だろう。 もちろん、プロシュートも残っている。さすがに、全員出るようなら目立つので出るかと思ったが。 「ふん、まあいい」 腹をゆらしながら、空いた真ん中の席に着くと、誰も来ない事にイラついたのか店に難癖を付け始めた。 「おや!だいぶこの店は儲かっているようだな!このワインはゴーニュのものだし そこの娘の着ている服はガリアの仕立てだ!どうやら今年の課税率を見直さねばならないようだな!」 取り巻きの貴族もそれに同意している中、厨房の中の三人が何者かと尋ねている。 「この辺の徴税官を勤めているチュレンヌっていって、管轄区のお店にきてはたかってくるの。 嫌なやつなんだけど機嫌を損ねたら、とんでもない税金をかけられてお店が潰れちゃうから、みんな言う事聞いてるの」 「トリステインの貴族の風上にもおけないわね…!」 プルプルとルイズが震えている。誇り高きラ・ヴァリエール家三女としては、ああいう手合いは許せないらしい。 「女王陛下の徴税官に酌をする娘はおらんのか!この店はそれが売りなんじゃないのかね!」 チュレンヌが喚くが誰も寄ろうとはしない。 「触るだけ触ってチップ一枚よこさないあんたに、誰が酌なんか。兄さんなら追い出してくれてるんだけどなぁ」 そこんとこ流石に無理とは思っているが、居ないからこそ、そう愚痴りたくなるものである。 ジェシカがそう呟くと、ルイズが出ていこうとする。あんなのが名前だけとはいえ、アンリエッタの名を騙っているという事が我慢ならんようだ。 だが、それより先にチェレンヌに近付く影が一つ。 「ね、姉様…!?」 エレオノールがワインが乗ったお盆を持って近付いている。 顔は微笑んでいるが、こめかみの方がピクピク動いている。 アレは確実にキレている証拠だ。 「なんだ?お前は?」 何も答えずにチュレンヌの前にワインを置く。 あくまで表面上は微笑を浮かべているのでキレている様子に気付いた様子は無い。 「なんだ、胸は小さいが…中々の美人ではないか。どれ、このチュレンヌ様が大きさを確かめてやろうじゃないか」 プッツン 止めの一撃。チュレンヌ自ら断頭台(ギロチン)の綱を断ち切った。 「こぉのトリステイン貴族の面汚しがァーーーーーーー!!」 テーブルに置いたばかりのワインを手に取ると、それをチュレンヌの頭に思いっきり叩き付けたッ! 「な、何をする貴様!」 周りの貴族が一斉に杖を抜くが、当然そんな事でひるむ人ではない。 「まったく…女王陛下の徴税官たる者が、その権威を笠に平民からたかるなどと言語道断ッ!」 ビシィッ!と腰に手を当て、仁王立ちで宣言する。 その雰囲気に気圧されそうになるが、ただの平民と思っている貴族達は杖を構えている。 「姉様!」 「ちびルイズは引っ込んでなさい!」 エレオノールの前にルイズが出るが、それを引っ込めようとしている。 もちろん、そんな隙を見逃さなかった貴族達が杖を振り上げたが、それより早く貴族達にワインの瓶が数本投げつけられた。 「……いい加減にしろ」 「サイト…」 エレオノールは『誰?』という感じだったが、それを投げたのは厨房から出てきた才人だ。 「き、貴様…よくも貴族に向けて…!」 「貴族?俺の目にはおっさん達は貴族として映ってねぇよ」 こいつは精神的にも貴族だッ!というわけではないが、少なくともチェレンヌを貴族として扱うなどできはしないのだ。 「こ、この者達を捕らえろ!死刑だ!死刑にしてやる!」 「誰が誰を捕まえるって?あいにく俺は、幸か不幸か伝説の力なんていうもんをもらっちまった…」 そううそぶき、背中に手を回すが、皿洗いしてた身、当然デルフリンガーは無い。 「ヤッベ…!邪魔だったから伝説を部屋に置いてきちまった…」 「こいつと、洗濯板娘『達』を捕まえろ!」 チュレンヌと取り巻きの貴族が杖を振りかぶる。 「タ、タンマ!」 もちろん、それで止まらない。 チュレンヌだけ、別の魔法のようで一足先に才人に向け杖を振り下ろそうとした。 「にゃ、にゃにぃ!」 数本歯が折れて、言葉が少しままならないチュレンヌが詠唱を終え、杖を振り下ろしたのだが、腕は何かに掴まれたように動かないでいる。 腕が動かない原因が分かっている者は、この場でただ一人。 「グレイトフル・デッド…なんで、オレが一々ケツ拭かなけりゃあなんねーんだよ」 そうは言うが、チーム一面倒見がいいこの元ギャング。しっかりフォローはしている。 近距離型ではあるが、腕を伸ばせばそれなりに射程はある。鍛えられていない人間の腕を止めるにはそれでも十分だ。 続いて、小型のロープが竜巻のように現れ、才人を包み込もうとしたが、その瞬間閃光が起きて貴族達を吹っ飛ばした。 その閃光が収まるとテーブルの上に仁王立ちになっているのは、ルイズだ。 『エクスプロージョン』が見事に炸裂したのである。 貴族達は入り口近くまで吹っ飛び慌てているが、エレオノールは慣れているようで同じく仁王立ちだ。 どうやら、未だに失敗による『爆発』だと思っているらしい。 「洗濯板は…ないんじゃない…?なんでそこまで言われなくちゃならないのよ。あろうことか姉様にまで」 10年間修羅場をくぐり抜けてきたスゴ味と冷静さを感じる目が貴族達をビビらせていたッ! 逃げ出そうとしているが、それよりもルイズが杖を振る方が早い。 入り口の前の地面が『エクスプロージョン』で消し飛び、大きな穴ができ、そこに貴族達が落ちていった。 「な、何者?あなた様達は何者で!どこの高名な使い手のお武家様で!?」 穴に落ちたチェレンヌを、養豚場の豚を見るような目付きでルイズとエレオノールが睨んできたので、そう尋ねた。 ものっそいプレッシャーである。 そして、そのままアンリエッタの許可証を無言で見せ付ける。 「へへ、陛下の許可証!?」 「わたしは女王陛下の女官で、由緒正しい家柄を誇るやんごとない家系の三女よ。この方はわたしの姉様。あんたみたいな木っ端役人に名乗る名なんてないわ」 「しし、失礼しましたァ!ど、どうかそれで命だけは!お願いでございます!」 チェレンヌが平伏し財布を差し出すと他の貴族もそれに習い、同じようにする。 涙目のルカも見習いたくなるような上納させっぷりである。 「今日見た事、聞いた事、全部忘れなさい。じゃないと命がいくつあっても足りないわよ」 「はいっ!誓って!誰にも口外いたしません!」 もんどりうって逃げていくチェレンヌを見送り、姉妹が颯爽と店の中に戻ると、スカロンを初めとした店の娘たちや、残っていた客から拍手が襲った。 だが、その中にフードを被った怪しい客は居ない。 「凄いわ!ルイズちゃん!お姉さんもかっこよかったわぁ~」 「あの徴税官の顔ったらねぇぜ!」 「胸がすっとしたわ!最高!」 客からはチップが飛び交い、スカロンやジェシカ、店の娘達がルイズとエレオノールを取り巻く。 だが、我に返ったルイズは、恥ずかしげに俯むいている。 「あ、あの…姉様…ごめんなさい…」 「ちびルイズ!」 「は、はひぃ!」 まず間違いなくつねられる。そう思って反射的に返事したのだが、次のエレオノールの言葉は予想外だった。 「帰るわ。任務を受けたのなら最後までしっかりやりなさい!」 「え…それって」 「父様と母様には、わたしからは言わないであげるけど、バレたら自分でなんとかなさい」 「あ、ありがとうございます!姉様ぁ~~~」 プロシュート兄貴とエレオノール姉様、やはりこのあたり同じタイプである。 「ふぁ…」 軽く欠伸をして、元の服に着替えたエレオノールが通りを歩く。 アカデミーの仕事がある。戻る時間も考えれば今日は徹夜かと思いながら帰路につこうとしたのだが、声をかけられた。 「乗っていかれますか?お嬢様」 「確か、プレストンとか言ってたわね…丁度いいわ。使用人風情が、このわたくしに、あんな無礼な事を言ったんですから覚悟はできて?」 「ああ、聞いてたのか。悪い」 エレオノールがそう言うと、口調が何時ものようにになる。 明らかに雇った方の人間に言う言葉ではないが、さっきの件で色々ムカついているエレオノールは気にした様子は無い。 「言いたい事はそれだけのようね?」 ぶっちゃけ言うと、洗濯板と言われた分も加算されている。 チェレンヌに報いを受けさせるつもりだったが、ルイズに先を越されたので鬱憤が溜まっているのだ。 お美事なまでの八つ当たりである。 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ とスタンド使い同士の戦いが始まるかの如く空気が震えたが、戦いは起こらなかった。 「中々似合ってたぜ?『妖精さん』はよォ」 軽い含み笑いで、何気なくそう言ったが、エレオノールは『かうはぁ!』と息を吐いてその場に崩れ落ちた。 「み…見られていた…このエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールのあんな姿を使用人に…」 「心配すんな。誰にも…クク…言わねーからよ」 一応公言する気はないと言ってはおいたが、聞いちゃいないようで顔を真っ赤にして崩れている。 多分、この先二度とお目にかかれないであろう姿だ。 よろよろと立ち上がり後ろの馬車に乗ったが、魂が完全に抜けているようで、ただ指でアカデミーの方角を指差すだけだ。 この日、エレオノールの頭の上がらない人物リストに『ラ・ヴァリエール公爵』『烈風カリン』に続き『プロシュート兄貴』の名が加えられる事になった。 エレオノール姉様―精神的にしばらく再起不能 プロシュート兄貴―燃え尽きたエレオノールを運ぶと、この後寝た。ちなみに、代金は払っていない。食い逃げである。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3066.html
サモンナイト3より、アティを召喚 ゼロの教師-01 ゼロの教師-02 ゼロの教師-03 ゼロの教師-04 ゼロの教師-05
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/712.html
「修羅の刻」の陸奥雷(アズマ)が召喚される話 ゼロの修羅-1 ゼロの修羅-2 ゼロの修羅-3 ゼロの修羅-4 ゼロの修羅-5
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/49.html
「ロマンシング サ・ガ2」の最終皇帝 ゼロの皇帝1 ゼロの皇帝2 ゼロの皇帝3 ゼロの皇帝4 ゼロの皇帝5 ゼロの皇帝6 ゼロの皇帝7 ゼロの皇帝8 ゼロの皇帝9 ゼロの皇帝10 ゼロの皇帝11
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3984.html
アニメ版『ジャングルの王者ターちゃん』から梁師範 ゼロの武侠-01 ゼロの武侠-02 ゼロの武侠-03 ゼロの武侠-04 ゼロの武侠-05 ゼロの武侠-06 ゼロの武侠-07
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3791.html
「ファイナルファンタジータクティクス」より、ラムザ・ベオルブ ゼロの騎士-01 ゼロの騎士-02 ゼロの騎士-03 ゼロの騎士-04 ゼロの騎士-05 ゼロの騎士-06 ゼロの騎士-07