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前ページ装甲騎兵ゼロ 第6話「決闘」 決闘の準備をするため、部屋へと向かうキリコとその後を追うルイズ。 道中、ルイズは考え直すよう説得していたが、キリコはほぼ無視して部屋に戻る。 そして部屋に入るなりこう言った。 「やつの魔法を教えてくれ。」 戦う相手の情報は、少しでも多いほうが良い。 それは時に、戦場での生死にさえ直結することを、キリコはよく知っていた。 答えを待ち、じっと静かにルイズを見る。 「……どうしても、引く気は無いの?」 やめさせたいルイズは問う。しばし、互いに無言で見つめ合っていた。 やがてルイズは目線をそらすと、大きなため息をつく。 「はぁ~……。わかったわ、そこまでやる気なら、私はもう止めないわ。 ギーシュの魔法も教えてあげる。けどその代わり、一つだけ命令を聞きなさい。いい?」 ルイズはそう言うと、キリコに向けて右手の人差し指を立てる。 頷いて、キリコは了承した。 「『絶対に勝つこと』。主人を無視して、勝手に勝負受けておいて、負けたから謝りましょう? 私はね、そんな恥さらしな真似はぜぇ~~~っっったいにお断りなんだからっ!!」 決意を変えぬキリコに対する、ルイズができる最大限の譲歩だった。 キリコもまた踵をそろえ、無言の敬礼で答えた。 トリステイン魔法学院は、本塔と各属性を現す五本の塔から成り立つ。 五大属性を現す各塔は本塔と通路で結ばれ、さらに各塔を結ぶ形で外壁が構成されている。 その形は、丁度ペンタゴン(五角形)の形になるよう設計されていた。 ヴェストリの広場は周囲五塔のうち、『風』と『火』の塔の間にある中庭である。 構造上西側にあるので、日中でもあまり日の差さないこの広場に今、多くの生徒がひしめいていた。 噂は広がり、賑わいをききつけ、刺激に飢えた生徒はまだまだ集まってくる。 その広場中央のあたりに、杖として使っている薔薇を携え、ギーシュは待っていた。 憂さ晴らしの獲物が来るのを、今か今かと待ちながら。 「ルイズと使い魔の平民がやってきたぞっ!」 生徒達は歓声をあげる、命知らずがやってきたと。人垣をわけ、キリコとルイズがやってきた。 「とりあえず、よくぞ逃げずに来たことを褒めようじゃないか。」 ギーシュの挑発的な言動を聞き流しながら、キリコはぐるりと辺りを見回す。 地面は起伏もなく平坦。遮蔽物となりそうなものは、周囲には見た限りなし。 (正面から戦うほかないか。) 無駄撃ちを避けるため、自動小銃のセレクターをセミオートにしながら、キリコは考える。 ギーシュは戦闘で、主に複数のゴーレムを操るとルイズから聞いていた。 人ではない、命を持たぬ相手。自分の持っている銃で、どの程度攻撃が効くかはわからない。 もし囲まれでもされた時、ゴーレムを倒して抜け出せるか? また仮にゴーレムを倒せても、ギーシュの使う魔法がそれだけとは限らない。 直接的な攻撃魔法を使われて、果たして避けることはできるのか? あらゆる状況を想定し、対応を考えるが、それが実戦で出来るかといえば、否である。 (どの道、やってみるしかない。) 敵の戦力も、戦場もある程度わかっている。準備もしていた。 ならばあとはただ、戦うだけである。 覚悟を決めるキリコ。そのとき左手のルーンの輝きが、少しずつ増していた。 そんなキリコを見ながらギーシュは言う。 「それが君の武器か。あのゴーレムは使わないのかい?」 「……。」 いくら魔法を使うメイジとの勝負といっても、魔法以外は至って普通の人間だ。 これが大軍団ならともかく、流石に一人相手にATを使用する気はキリコにはない。 今のキリコの装備は、常に携帯しているアーマーマグナムと、自動小銃。 それとそれぞれの予備の弾が少々に、ナイフ一本といったところだ。 他にも手榴弾などがあったが、数は多くないので持ってきてはいない。 現状では補給の見込みが期待できない以上、そうやすやすと使うわけにもいかないからだ。 ATを使わないのも、このあたりの事情が関係していた。 何も言わずに睨んでくるキリコが不愉快なのか、ギーシュは内心で苛立つ。 「ふん……では始めようか。勝敗は実に簡単、『降参する』と言ったほうが負けだ。」 ギーシュはそう言うと、薔薇を一振りする。花びらが一枚、宙に舞った。 するとそこから、一体の甲冑を着た人形が現れた。 「……っ。」 キリコは即座にライフルを構える。また身体が軽くなる感覚がした。 「僕の二つ名は『青銅』。この青銅のゴーレム、ワルキューレで君の相手を務めよう。」 (様子見か……。) 現れたゴーレムは一体だけ。力量を図ろうという魂胆だろうか、もしくは余裕の表れか。 全力をださないで戦ってくれるのなら、それはそれでありがたいとキリコは思った。 ギーシュはワルキューレを動かし、一歩一歩、ゆっくりとキリコに向かわせる。 対するキリコは動かずに、その動きを注視していた。 「……。」 ワルキューレがキリコの距離が縮めていくと同時に、ギーシュとの距離は次第に開いていく。 「どうしたんだい、怖気づいて足も動かせないのかな?」 ギャラリーから、醜き笑いと野次が溢れ出る。 「はーっはっはっ!そろそろ命乞いでもした方が良いんじゃねーの!?」 「びびってちゃつまんねーぞ、平民ー!」 「こっちはお前に賭けてるんだ、ちゃんと戦えー!」 実に浅ましき生徒たち。果たしてここは本当に、貴族の子女が通う学院であろうか? 生徒達の声も、キリコは耳に入れることはなく、ひたすらワルキューレに注意を向けている。 ワルキューレが一歩近づいてきた。キリコは動かない。また近づいてくる。キリコはまだ動かない。 近づく。動かず。近づく。動かず。近づく。動かず。近づく。 (……っ!) キリコが駆け出した。ギーシュもワルキューレを突進させる。 どちらも一直線に駆けていき、突進の勢いそのままに、ワルキューレはキリコへ殴りかかる。 ここでキリコは動きを変えた。 左足を横へ僅かに突き出して制動をかけ、そこを軸に身体を捻り、攻撃を紙一重で避けた。 さらにその際、攻撃が空振りして無防備なワルキューレに向け、引き金を引く。 甲高い発砲音が一発、広場に響いた。 時間はほんの少し遡り、学院長室。 図書室から全速力で駆けつけたコルベールは、キリコのルーンについて説明していた。 「ふ~む……行き着いた先が、まさか伝説の使い魔『ガンダールヴ』とはのぅ。」 説明を受けたオスマンは、どこか胡散臭げにスケッチと書物のルーンを見比べる。 「そうです!間違いありません!ほら、彼のルーンをとったスケッチとこの―」 「あ~わかったわかった、それはもう聞いたわい。」 興奮気味な様子のコルベールを、オスマンは落ち着けさせる。 「確かに同じルーンじゃ。それはワシも認めよう。 だがの、それだけで決めるのはちと早計……前にも同じこと言った気がするわい。」 そのときドアがノックされる。 「誰じゃ?」 「私です、オールド・オスマン。」 扉の向こう側から聞こえてきた声は、オスマンの秘書、ミス・ロングビル。 余談だが、彼女に対して、オスマンは数々のセクハラを日常的に行っている。 また、それを叩きのめすミス・ロングビルの戒めも同様だ。 しかし、そんな掛け合いは、決して二人以外知ることはない。 コルベールが来る前にも勿論あったのだが、それはまた別の話。 閑話休題。 オスマンはミス・ロングビルに問いかける。 「何事じゃ?」 「ヴェストリの広場で決闘が行われているらしく、大騒ぎになっています。 教師の方々が止めようとしましたが、生徒の数が多すぎてとても……。」 「かぁ~~~っ……。これだから、暇をもてあました貴族の子女というのは性質が悪い。 誰じゃ、そんな馬鹿げたことをやっておるのは?」 額に手をつけながら、再びオスマンは問いかける。 「一人は、二年のギーシュ・ド・グラモンで、もう一人が……。」 そこでミス・ロングビルは言いよどむ。 「グラモン……あぁあのグラモンとこのバカ息子か。 まったく親が親なら子も子じゃ、どうせ色恋沙汰じゃろ。で、もう一人はどこのどいつかね?」 「それが、その……ミス・ヴァリエールの使い魔の男です。」 オスマンとコルベールは顔を見合わせる。 「騒ぎを止めるため、教師達から『眠りの鐘』使用の申し出が着ておりますが。」 オスマンの目つきが変わった。 「いや、秘宝の使用許可はださん。放って置くように言いなさい。」 「はい、わかりました。」 そう言ってミス・ロングビルは、扉の前から去っていった。 それを確認したオスマンは、壁にかかった鏡に向けて杖を振る。 程なくして、鏡にヴェストリの広場の様子が映し出された。 「伝説が本物かどうか、この目でしかと確かめてみるかのぅ。」 弾丸を受けた衝撃で、ワルキューレはそのまま前のめりに倒れた。 キリコは回転しつつあった身体を止め、銃を構えなおす。 その動きに合わせるかのように、左手のルーンがさらにj輝きを増していく。 銃のセレクターを三点バーストに変え、倒れたワルキューレの首と両膝に撃ち込む。 弾は恐ろしいほど正確に撃ち抜き、首と両膝を破壊した。 するとワルキューレの動きが止まる。 (ある程度の破壊で、無力化くらいはできるか。) 冷静に分析するキリコに向かって、驚愕に染まった顔でギーシュは叫ぶ。 「な、なんだそれはっ!?」 そこから広場の空気は一変していった。 「銃じゃないのか……?あれ。」 「あんな形の、見たこともないぞ。」 ハルケギニアの常識から外れた武器に、皆動揺を隠せないでいる。 「今、連続で発射してなかったか?」 「もしかして『東方』で作られたんじゃ……。」 口々に疑問や憶測を言っていく生徒達。 (銃、銃だってっ?バカなっ!あんな短時間で何発も撃てる銃なんて、聞いたことないぞ!?) キリコの使っている武器。それが『銃』などとはありえないと、ギーシュは思っていた。 ハルケギニアの銃は、火薬を載せた火皿に、火縄か火打石で着火するという方式が主流だ。 銃の形態も、それぞれの方式に長短二種類の銃身がある。 ただ、どれも一発撃ってはこめ直さなければならない上、射程距離も命中精度もよろしくない。 キリコの世界からすれば、もはや歴史博物館の資料レベルに値する代物であろう。 だがハルケギニアという世界の技術水準は、未だにそのくらいのもでしかないなのだ。 キリコは今し方破壊したワルキューレから、それを作り出したギーシュへと視線を向ける。 視線に気づいたギーシュは、慌てて新たなワルキューレを作り出す。 「ワ、ワルキューレェッ!!」 今度は槍を装備したワルキューレが、総勢六体現れた。 (本気を出したか。) 一気に増えた敵を見ながらキリコはそう思った。ふと、違和感を感じる左手を見る。 (光っている……。) いつもより身体が動いたり、銃を正確に撃てたりするのと、このルーンは関係があるのか。 しかしキリコには、未だ何も分からないままだった。 (……まだやることがあったな。) 思い出したようにキリコは思考を切り替え、答えの出ない疑問を封じる。 左手から視線を戻すと、その先には依然キリコを睨みつける、ギーシュと六体のワルキューレ。 (今はこいつに勝つのが先決か。) キリコが再び銃を構えると、それに応じるかのように、左手のルーンがさらに輝く。 倒すべき敵へ向けて、キリコは再び駆け出した。 「くっ、一体倒せたからといって、調子に乗るなよっ!」 ギーシュもキリコへ向け、ワルキューレを突進させて迎え撃つ。 だがその動きは、キリコには緩慢なものに見えていた。 (遅いっ。) 一番近いワルキューレが突き出す槍をかわし、隙の出来た右側の肘と膝にバースト射撃を与える。 倒れる様子を横目で見送ると、次の目標に移る。 一体目の直ぐ右斜め後ろにいた二体目の、首と両膝に向けて撃つ。 両膝から下を失って、突進の勢いそのままに地面に激突。衝撃で、破損した首が千切れた。 後方から迫ってきていた三体目と四体目は、先二体の残骸を避けようと一瞬止まる。 キリコはそれによって出来た隙を見逃さず、素早く三体目の首へ撃ち込む。 その頭部が地面に落ち始める時には、既に四体目の膝に撃ち始めていた。 (ウソだろっ!?なんで僕のワルキューレが、こんな簡単にっ!しかも平民なんかにっ!) ギーシュは焦りと恐怖で、ワルキューレの操作が徐々に雑になっていく。 四体目も、やはり首と膝を撃ち抜かれて地面に崩れ落ちた。 その隙を突こうと五体目が接近するが、無謀にも真正面から突っ込んでいく。 案の定、両肘と両膝を撃たれて、何も出来ずに行動不能にされる。 気づけばワルキューレ六体中のうち、五体を既に倒されており、残りは一体になった。 「も、戻れワルキュ―っ!」 自分の盾として六体目を戻そうと、ギーシュはワルキューレを動かす。 だが動かそうとした瞬間、首と両肘両膝に正確な射撃を食らい、最後の一体も倒れた。 全てのワルキューレを倒され、ギーシュは放心した。 キリコは次の攻撃に備えるが、魔法を使うための精神力は、すでにギーシュにはない。 しばしの静寂が、広場を覆った。 (打ち止めか。) 何も仕掛けてこないことを確認すると、キリコは一気に距離を詰める。 「ひっ!」 あまりの恐怖にギーシュは腰を抜かし、思わず尻餅をついた。 その様子を何の感慨もなく見下ろしながら、キリコは自動小銃の銃口を向ける。 「待った!や、やめてくれっ!撃たないでくれぇっ!」 青銅でできたワルキューレを容易く打ち負かした、見たことも聞いたこともない銃。 そんなもので人が撃たれたら、果たしてどうなるのか。悲惨な想像がギーシュの頭によぎる。 「降参しろ。」 キリコはそう言うと、銃口をギーシュに近づける。 「わ、わわ、わかったっ、降参だ!僕の負けだ!」 ギーシュは負けを認めるが、キリコはやめない。もう一つ確認が済んでいなかった。 セレクターをセミオートに戻し、さらに銃口を近づけながらキリコは問う。 「確認する。謝るか?」 「謝ります謝ります!君にもルイズにも謝ります、絶対にっ!だから銃をしまって! いやしまってください!頼みます、命だけは助けてっ!やめて、お願いしますぅぅぅぅぅぅっ!」 ついには泣き叫び、土下座までして命乞いをするギーシュ。 負けと謝罪の確認をとったキリコは銃を下げて近づき、ギーシュから薔薇を取り上げる。 それを放り投げ、一発。 無慈悲な鉛球が薔薇を捕らえ、その花弁を散らした。 一拍の間を置いて、ヴェストリの広場に盛大な歓声が沸き起こった。 「ホントに、勝っちゃった。」 戦いを見ていたルイズは呆然としていた。 まさか傷一つ負わずにメイジに勝つなど、考えてもいなかったことだ。 だがキリコは勝った。それは紛れもない事実である。 「……。」 「あっ。」 いつの間にか、ルイズの目の前にキリコが立っていた。 「え……っと、勝ったのよ、ね?」 「あぁ。」 キリコはそれだけ言うと、ルイズの脇をさっさと通り過ぎる。 「ちょ、ちょっとどこいくのよっ!?」 ルイズの問いかけに、一度立ち止まる。 「ATを見てくるついでに、夕食もとる。済んだら部屋に戻る。」 そう言って再び歩き出し、キリコはヴェストリの広場から去っていった。 広場の喧騒をよそに、残されたルイズは一人つぶやく。 「っもぅ、使い魔のくせに勝手なことばっかりっ!」 「勝ちましたね。」 「うむ。」 コルベールとオスマンは、決闘の一部始終を見終わっていた。 「やはり、やはり間違ってなかったのです!あの身のこなし、普通の人間には真似できません! ギーシュは最低ランクのドットメイジとはいえ、ただの平民に遅れをとることなどまずない! しかし彼は勝った!間違いありません、彼は伝説の『ガンダールヴ』ですよ、オールド・オスマン!」 コルベールは非常に興奮した様子で、オスマンにまくし立てる。 「わかったわかった、そんなうるさくせんでも聞こえとるわい。」 そう言ってオスマンはコルベールをなだめる。 「これは世紀の大発見!早速王室に報告して指示を―」 「それには及ばん。」 オスマンは厳しい目つきでコルベールを止める。 「ミスタ・コルベール、『ガンダールヴ』はかの始祖ブリミルが用いた使い魔だと聞く。」 「はい。文献によれば、主人が呪文を唱えている長い時間、それを守るための存在であると。 さらにその力は、曰く、千の軍隊をたった一人で相手にできたとか。」 手に持った書物のページを見ながら、コルベールは答える。 「そうじゃ。その『ガンダールヴ』である彼は、確かミス・ヴァリエールの使い魔じゃったか。」 「えぇ、確かにそうです。最初召喚されたときは、ただの平民だと思っていたのですが。」 「ミス・ヴァリエールはメイジとしてどうなのかね?」 「え?あー、その、魔法が失敗ばかりで、なんというか、まぁ……。」 どう答えて良いものか、コルベールは言葉を濁す。 「メイジとしては、決して優秀なわけではないじゃろう?」 「まぁ、そういうことになりますな。」 苦笑いでコルベールはそう返した。 「うむ。そして問題はここからじゃ。」 オスマンの表情が、一層険しくなる。 「そんな彼女が、なぜ伝説とまで言われるほどの使い魔を呼び出したのか。全くもって謎じゃ。」 「言われてみれば、確かに……。」 オスマンの言葉に頷くコルベール。オスマんは立派な髭をなでながら続けた。 「彼についても同様じゃ。 出自は不明、所有物は鋼のゴーレムにみたこともない強力な銃。 また彼自身がメイジというわけでもない、いってみればごく普通の平民。 いや、そもそも人間が使い魔というだけでもかなり異例か……。」 考えれば考えるだけ、謎は深まっていくばかりの現状に頭を抱えるオスマン。 「加えて『ガンダールヴ』ですからね……。 一体何者なんでしょう、彼は?」 「それがわからんから、君に調べさせとるんじゃっ。」 「す、すみません。」 まるで他人事のように言うコルベールの言葉にオスマンがツッコむ。 「しかし、本当に何者なんじゃろうな……。」 オスマンは昨夜提出された、コルベールが作成した報告書を再び読んでいく。 そして書類のある単語に眼が留まった。 「異世界、か。 案外、分からんことが全部この一言で説明ついたりしてな。」 「おぉ……!」 自説が的中かと、また熱くなるコルベール。 しかし「確かめるすべもないがな」とのオスマンの言葉にがっくり肩を落とす。 「まぁともかく、このことは機密扱いじゃ。もし王室のロクデナシどもに報告でもしてみぃ。 宮廷にいる暇を持て余した戦好きな連中が、彼らの力を利用して戦でも起こされたらかなわんわい。」 「ははぁ、学院長の深謀には恐れ入ります。」 「だからこの件はワシが預かる。口外もせんように。わかったの?」 「は、はいっ、わかりました!」 予告 恋とは、実に甘美な果物である。 それは同時に、時に理性を壊し、人を狂わせる猛毒も孕んでいた。 しかし誰もが知りながら、止めることなくそれを食す。 例え壊れてでも、得がたい愛があるのだと。 夜の学院に、愛に溺れた狩人がキリコを狙う。 次回「微熱」 キュルケは魅惑の焼夷弾。 炸裂、爆裂、ご用心。 前ページ装甲騎兵ゼロ
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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 『東方の神童・悪魔くん』こと、松下一郎がハルケギニアに召喚されてから、約4ヶ月。季節は夏。 松下の領地となったタルブは、僅か2ヶ月ほどで焦土から目覚しく奇跡の復興を遂げ、高度成長期を迎え、 今やラ・ロシェールと肩を並べる、いや相乗効果で共に栄える軍港都市へと発展しつつあった。 はぐれメイジや傭兵団、怪しげな商人や貧民、貧乏貴族も、ここにくれば(能力に応じてだが)平等に、 仕事と出世の機会を与えられる。戦争で手柄を立てれば、王国の勲章だって得られるだろう。 ラグドリアン湖周辺からの移民も、しっかりと農業・商業・手工業などの職を与えられて精勤している。 主な産業は『魔女のホウキ』の量産、ベラドンナ草の栽培、ヒキガエルの香油の精製などだ。 「うむ、見事だ。シエスタとその家族も、よく住民の監督官(エピスコプス)を勤めているようだね。 そろそろ、自前の艦隊でも建造してみようかなぁ。ホウキもいいが、竜騎士団も欲しいところだ」 「光栄です、『我らのメシア』。千年王国の教義を小冊子に纏めて、住民に配布ないし回覧いたしました。 文盲の者たちには、毎日の礼拝と御説教聴講への参加を義務付けています。 メシアよ、『信者』はそろそろ千人に達します。やがて御教えは全土に、大陸中に広がりましょう」 松下は『第二使徒』シエスタを連れて、毎日ホウキを駆って領内の見回りをしていた。 「そうか。王国やブリミル教会との折り合いは、ぼくがやっている。トリスタニアにも宣教団を派遣しよう。 ぼくを始祖ブリミルの生まれ変わりとして、崇拝する集団も出てきているようだが……」 シエスタはひざまずき、狂信の眼差しを小さなメシアに注ぐ。 「そうでは、ないのですか? はした女にお教え下さい」 「そうかも知れないな。いや、ルイズが『虚無の担い手』の一人だから、転生体は彼女なのかも知れん。 ぼくはブリミルより上の存在、『唯一神』の遣わした救世主であるから、ブリミルとも同格以上だろう」 松下は天を指差す。シエスタは恐れ戦き、大地に五体を投げ出して、松下を礼拝した。 トリステイン魔法学院は、明日から2ヵ月半もの夏期休暇。 大多数の生徒諸君は、故郷の領地や王都トリスタニアに住む家族のもとへ帰郷する。 ルイズも一応、ラ・ヴァリエール公爵領に帰郷する予定、だったのだが……。 「女王陛下からの、親書……!」 アンリエッタ陛下から、フクロウによってルイズに書簡が届けられた。 それを読んだルイズは、タルブ戦で使った遠隔通話魔法具で、松下を呼び出す。 「これも正しく『召喚』ね。『召還』かも知れないけど。 あいつは私の使い魔なんだから、こっちへ還って来るのはあいつの方なのよ!……早く出なさい!」 『……もしもし、松下だが。……あぁ、きみか。ホットラインがあったのを忘れていたよ。 ……なに、女王陛下が呼んでいる? そんなこたぁいいんだよ、忙しい時に』 「いいこたぁないわよ!! 勅命だから、さっさと『魔女のホウキ』で飛んできなさい! さもないと例のエロイムエッサイムの呪文で『召還』するわよ!」 『爆発とともに現れるのは勘弁願いたい。分かった、すぐ行くよ』 通話を終えて、ふん、と松下は鼻息をつく。 女王陛下とルイズは、あくまでぼくを『ルイズの使い魔』という扱いにとどめておきたいようだ。 「まあ、ここはしばらく、自律的発展に任せよう。『第二使徒』シエスタ、きみと家族をぼくの名代として残す。 あとで連絡先を知らせておくから、何か変事があればホウキで飛んできてくれ。 そちらの情勢も、逐一ぼくの私兵メイジたちにチェックさせて、書き送ってもらうが」 「承知いたしました、『我らのメシア』。もし再度アルビオンから侵攻があったとしても、 我々がメシアの御光臨まで持ちこたえてご覧にいれましょう」 王宮に現れた二人を、女王は温かく迎えた。密談室に通され、『東方』産の高価なコーヒーと菓子が振舞われる。 「わざわざお呼び付けして、申し訳ありませんでした。けれど、内密にお伝えしたいことがございまして」 「何でしょう? この間の件なら、しっかり報酬は頂きましたが。タルブ伯領地の拡大と、国内の余剰人材の提供、 それに褒賞金が少々とマジックアイテムの下賜。貴女の生命や王国に比べれば安いものです」 「そうですね、改めて感謝いたしますわ、タルブ伯マツシタ殿」 ルイズが、じとっと松下を睨む。どこまで傍若無人なのだ、こいつは。 アンリエッタ女王の話は、次のような内容であった。 アルビオンは、艦隊が再建されるまで、正面からの侵攻を諦め、不正規な戦闘を仕掛けてくる。 国家の事業を妨害し、国内の反体制派を煽り、暴動や反乱、破壊活動を援助する……いわば無差別テロだ。 カネや魔法や『アンドバリの指輪』で操った人間をテロリストにし、王侯や高官を暗殺にかかるかもしれない。 勿論、王都の大商人や高官を買収し、情報戦・謀略戦を仕掛けても来るだろう。 先だっての皇太子事件とて、悪魔以外にも手引きがあったはずなのだ。 「……そういうわけで、我々は『治安維持法』を制定し、国内……特に王都周辺の治安維持を強化しています。 憲兵や一部近衛兵も忠誠心の高い平民から取り立て、私の身辺警護に当てています。当然、女性ばかりですが」 「ご自慢の魔法衛士隊とて、グリフォン隊もヒポグリフ隊も壊滅し、残るはマンティコア隊だけですからな。 陛下の身辺の安全と治安の維持が優先されるのには、賛同いたします」 女王は微笑み、話を続ける。 「有難う。そこで、お二人には1ヶ月ほど、『身分を隠しての情報収集任務』をご依頼します。 平民の間に立ち混じり、不穏な動きや噂を調査して、私に直接知らせていただきたいのです。 此度の戦争で、かなり民衆には負担を強いることになりますのでね」 一種のスパイか。まぁ、日本が先の戦争に負けたのも、軍部が暴走して貴重な情報を軽視し、 無謀な戦争へ国を導いてしまったのが原因だ。戦前の諜報活動は、国内外に向けられるべきものだろう。 だが……。 松下は、コーヒーカップを片手に、椅子の背もたれに寄りかかる。 「しかし、陛下。このぼくとルイズに、そんな役が出来ると、本当にお思いですか? ぼくは『ただの平民の子供』として行動する事など出来ないし、公爵家令嬢のルイズは言わずもがなです。 それより、ぼくの私兵集団に調べさせた方が、よほど効率がよろしい」 「こ、こら、マツシタ!」 「ルイズが、ぼくが目を放した隙に、敵の手に落ちたら? 『使い魔の責任』として、ぼくは縛り首ですか? ぼくが、『何者か』の手にかかって暗殺されたら? タルブ伯領はどうなります? 今やぼくには、千人に及ぶ私兵集団が付いているのですよ。勝手な真似はできませんし、危ない橋は渡りません。 もし、そうなったら……お分かりでしょう? アンリエッタ女王陛下」 松下が、女王に脅しをかける。地球で一度暗殺されているため、以前よりは慎重になっているようだ。 もはや彼は、ただの8歳児の使い魔でも、『東方』のメイジ見習いでもない。 狂信者の集団を従え、国内に確固たる勢力基盤を築きつつある、危険な『悪魔くん』なのだ。 とは言え、彼のような存在を統御できなければ、国家を治める女王としての資格はない。毒を以て毒を制す、だ。 アンリエッタは内心冷や汗を掻きつつ、次の手を打つ。 「それは分かっております。しかし、不穏な動きはすでに兆候を見せています。 例えば、このような張り紙はご存知ですか?」 リッシュモン高等法院長から枢機卿が入手した、例の張り紙を松下に見せる。 「ほほう、『薔薇十字団』とはね!」 「おや、ご存知でしたか?」 「ええ。ぼくのいた……『東方』で昔流行していた、魔術的秘密結社です。 確かロマリアやゲルマニアでは、今から30年以上前に話題になったはず。 なんでも開祖のローゼンクロイツなる人物は、かつてサハラや『東方』を旅し、 その知識を持ち帰って弟子たちに密かに伝えたと言われ、死んでから120年後に復活したとか……」 喰い付いて来た。アンリエッタはにこやかな笑顔を浮かべたまま、続ける。 「それは興味深い。是非とも、魔法に造詣の深い貴方に調査して頂きたいですわ。 『東方』で流行していたというなら、国内のメイジでは理解しにくいでしょうし。 まさかゲルマニアのメイジにこんなことは頼めませんもの、ねぇ」 松下は、してやられた、と苦笑する。興味のあることに関してつい饒舌になるのは、悪い癖だった。 「ウワッハッハハハ、まっ、いいでしょう。陛下をいじめても、はじまりませんからね」 ルイズはすっかり蚊帳の外で、いじけ始めた。コーヒーは苦くて、ミルクと砂糖をたっぷり入れなくては飲めないし。 「それじゃあ、息抜きがてら、しばらく平民としての生活を楽しんでみましょうか。 それで、ぼくとルイズに、その秘密結社について調べろと?」 「ええ、お目付けと言ってはなんですが、私の直属の部下を付けさせてもらいます。 アニエス、お入りなさい」 女王が杖を振って『開錠』し、鈴を鳴らすと、扉が開いてその人物が入室する。 長身の女性、それも20代前半。短く切った金髪の下で光る、警戒心の強そうな、きつく吊り上った碧眼。 百合の紋章が描かれたサーコートの下には、鎖帷子が光っている。姿勢を正し、びしっと軍礼をする。 「帯剣はしていませんが、武装姿で失礼します。この度『シュヴァリエ(騎士)』として銃士隊の隊長に取り立てられた、 アニエスです。平民出身ゆえ、『ラ・ミラン(粉挽き女)』などと呼ばれていますが」 ルイズは、貴族風を吹かそうと立ち上がる。 「平民が、シュヴァリエだなんて……それに、そんな恰好、陛下にご許可を頂いたの!?」 「ぼくは平民出身だとて差別はしない。よろしく、アニエス」 「彼女は忠実な私の衛士。女だてらに反乱兵鎮圧などに大きな手柄を立て、めでたくシュヴァリエに叙勲されました。 今回の任務で、さらに手柄を重ねさせて上げたいのです。忠誠には、報いねばなりませんから」 ルイズがぐっと押し黙り、着席する。 「『民の声は神の声』と古代の政治家は言ったものです。しっかりと、忌憚無く民衆の意見を聞き出して下さい。 期間は明日より1ヶ月。週に一回、報告書を提出して頂きます。その他はご自由に」 「いいですよ。ただしタルブに何か変事があれば、ぼくはルイズを連れて最優先でそちらへ行きますからね」 「ええ。それ以後は、夏期休暇をお楽しみ下さい。ルイズも帰郷を遅らせて、済みませんね」 アニエスは、蚊帳の外でいじけるルイズをあやしつつ、松下に警戒の目を向ける。 20年前、身寄りのない平民の孤児だった彼女を拾い上げ、成人まで世話してくれたのは、若き日のマザリーニ。 そして即位してからのアンリエッタは、彼女を引き取って直属の部下とし、軍功を立てさせた。 まさしく、枢機卿と女王の『子飼い』の部下なのだ。王国に対してよりも、彼らへの忠誠心は並大抵ではない。 彼女自身は、主人に使い潰されればよいと信ずる根っからの武人。 魔法こそ使えないが、剣術も武術も、拳銃を操る術も達人級である。 ワルドの裏切りで、メイジを信用し難くなったアンリエッタには、うってつけの護衛であった。 それに、アニエスには一つ、これまでの人生を賭けてきた望みがある。 これが叶えば、あとは死んでもよい、というほどの望みが。 それは20年前、自分の村と家族を焼き滅ぼした、あの事件の主謀者を……この手で殺す事。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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ゴング。 同時にレフェリーを務めるコルベールが、リング上で拳を交える二人を引き離す。 「ゴング! ゴングだ!」 双方は一瞬にらみ合った後に振り返り、肩で息をしながらもしっかりとした足取りでニュートラルコーナーへと戻った。 セコンドにより椅子が出され、一分間で少しでも体力を回復するための道具が次々と取り出される。 赤コーナーの椅子へ座り込んだのは、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 現在、HBC(ハルケギニアボクシング評議会)のランキング3位に属する、異例の女性ボクサーである。 ぶかぶかの赤いボクシングパンツに、白い無地のTシャツを着ていた。 「ルイズ、やったじゃねぇか! あいつのフィニッシュブローを破ったぜ!」 セコンドの一人を務めるのは、腹巻に坊主頭、左目の眼帯と異様な格好の中年男性だ。 名を、丹下段平。ルイズによってこのハルケギニアに召喚された、かつて異世界で名を馳せた名ボクサーである。 「あれだけ特訓したんだから、当然でしょ! 次のラウンドで勝負をかけるわ!」 疲労困憊であるにも関わらず、ルイズはニヤリと笑ってみせる。 「動かないで」 腫れ上がったルイズの顔を、魔法で出した氷で冷やしていたタバサが呟いた。 ルイズの級友である彼女もまた、セコンドを勤める一人である。 「それにしても、まさかあんたが本当にここまで強くなるとはね……。 女の癖にボクシングなんてバカじゃないかと思ったけど、あんた才能あるのね」 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが呆れたように漏らした。 その名の通り、ツェルプストー家の一員である彼女は、ヴァリエール家のルイズとはまさしく犬猿の仲である。 が、ルイズが「ボクシングやるから。絶対やるから。もう決めたから」とぬかし、 周囲を仰天の嵐に巻き込んだ際、初めにそれを応援した人間でもあった。 要は、何だかんだ言って親友なのである。 『微熱』の通り名を持ち、恋に生きると公言してはばからないような女性であるキュルケにとって、 その理由が納得いくものだったからかもしれない。 「そりゃそうでしょ」 ルイズが真顔に戻り、呟いた。 「絶対サイトの仇を討つって決めたから。そう、誓ったんだから」 そうして、向かいの青コーナーを睨みつける。 そこには、不適に笑う元婚約者――HBC現王者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドの姿があった。 ハルケギニア大陸において、ボクシングとは全てである。 六千年前、ブリミルと呼ばれる人物が編み出したとされるその競技は、瞬く間に大陸全土へと広がった。 現在において、各国の代表を出す国際戦が最早代理戦争と化していることからも、その人気ぶりは知れよう。 そして、貴族の誇りとは、強いボクサーであることであり、即ちボクシングで勝つことである。 現在を生きる全ての貴族の男子にとって、ボクシングで強くなるのは確固たる目標であり、遥か遠い夢だ。 HBC上位ランカーともなれば、下級貴族の三男坊などでも結婚相手は選び放題、生涯の成功は最早約束されたと言ってもいい。 その妻も、夫の試合となれば必ずセコンドに立ち、声を枯らして応援。 勝てば抱き合ってリング上で接吻し、負ければ控え室で涙を流した。 『俺のセコンドに立ってくれないか』というプロポーズの言葉は、最早使われすぎて陳腐であるにも関わらず 『好きな異性に言いたい/言われたい台詞ランキング』で132年連続一位ぶっちぎり独走中。 ちなみにランキングの集計が始まったのは132年前である。 要は。どいつもこいつも、バカみたいにボクシングに燃えているのだ。 ルイズが、使い魔契約の儀式で異世界の二人――平賀才人と丹下段平を召喚したのは、もう二年前のことになる。 二人はやがて、ボクサーとセコンドとしてHBCランキングへ参加。 グローブをはめると身体能力が向上するという、伝説の『ガンダールヴ』のルーン、丹下段平のやたら根性部分に特化した指導、 喋るインテリジェンスグローブ『デルフリンガー』などもあり、瞬く間に上位へと上り詰めた。 しかし、その年のトリステイン王国代表決定戦。決勝戦において、ワルドの繰り出したフィニッシュブロー、 『ライトニング・クラウド・アッパー』によって、終始優位にあった才人は逆転負けした。 ルイズはその時、婚約者と使い魔、どちらのセコンドに着くか悩んだ挙句、賓客用観客席という中途半端な立ち位置に居た。 そして見たのだ。絶対に見た。二人がコーナーで戦っていたせいで、自分以外には誰にも見えなかったろうが、 しかしそれは確かだったとルイズは確信している。 フィニッシュブローを撃つ瞬間、ワルドは才人の足を踏んでいた。 そして、試合終了から三時間十二分後。 平賀才人は、絶命した。 試合から数日後。 ルイズは、ワルドを問い詰めた。何故だ。何故、あんなことをしたのか。 ワルドは哂った。高らかに哂っていた。 「まずい、まずいんだよルイズ。あそこで負けてしまっては、僕はルイズと結婚出来ない。 ヴァリエール家の麗しきご令嬢と結婚するんだ、HBC現王者くらいの立場は必要だろう?」 くくく、と堪えきれない哂いを漏らす。その眼は、何か名状しがたきものに侵されていた。 明らかに尋常では無い様子に、表情を硬くするルイズ。 その腕を突然、ワルドが掴む。 「さぁ、もう十分だろうルイズ。僕はHBCの頂点、ハルケギニアにおける全ての男子の頂点に立ち、九回それを守り抜いた。 かつての伝説、『イーヴァルディの闘士』と並ぶ大記録。ああ、ああもう十分だ、そうだろう? 君と僕は結ばれる。誰にも邪魔はできない。そして君の、『虚無の拳』の力がついに――!」 恐怖。しかし、それ以上にルイズの心を埋め尽くしたのは、憤怒だった。 ルイズは腕を振り解き、ワルドを睨みつける。それを気にもせず、相変わらず、哂い続けているワルド。 ワルド――いや、こいつが何を言っているのかはわからない。 だけど。 これだけはわかる。 「そんなことのために……!」 その目的は、あいつ――才人に比べれば、屑にも劣る最低の代物だということだけは。 「サイトを……!」 あいつを。いつまで経っても従おうとしなかった、小憎たらしい使い魔を。給仕やら、他の女性にすぐ傾く惚れっぽいあいつを。 でも、……どうしようも無い程、どうしようも無くなる程に好きだったサイトを! 「殺したのねっ!」 ルイズは先日の自分を悔やんだ。何故、自分はこいつとサイトを比べて、しかも迷いなんてしたんだろう。 こんなにも。こんなにも、私の気持ちは分かりきっているというのに! 「……いいわ。あなたがもう一度だけ、その王座を守りきったなら、私はあなたの妻になる」 「どうしたんだい? 僕の愛しいルイズ。別に、今すぐにでも僕は構わな――」 「その口で、次に『愛しい』と言って御覧なさい。――その口、引きちぎってやるから」 ワルドは哂い止み、値踏みするような眼でルイズをじろり、と眺めた。 完全に様子は一変し、実につまらなそうな、退屈そうな眼をしている。 「ふん。……成る程。君は僕の、『敵』になったと、そういうことなのかな、ルイズ?」 「ええ。完膚無きまでにね、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」 「くくく。もう『ワルド様』とは呼んでくれないのだね、僕のルイズ。 だが、まぁいい。僕が次に勝ちさえすれば、全ては問題とはならない。 いくら君が反対しようとも、前人未到のHBC王座十連続防衛を果たした男となれば――君のお父上にほんの少し働きかければ済むことさ。 それで? 残りの一回、君は誰をけしかけるつもりなのかな?」 馬鹿にしきった様子のワルドを前に、しかしルイズは動じなかった。 眼を煌々と光らせ、胸を張り、怒りの炎に身を焼いて、誰よりも誇り高く、彼女はそこに居た。 「私よ。私自身が、あなたに挑む」 「セコンドアウト!」 ロープを乗り越えながら、ルイズのセコンド達が次々に声をかける。 「いいか、ルイズ。足だ、足を使え。かき回した所に、お前のフィニッシュブローを叩き込んでやりな!」 「……本で読んだ言葉。あなたに。……Stand, and Fight.(立って、そして戦いなさい)」 「頑張りなさいよ。サイトのためなんでしょ?」 ルイズは僅かに微笑みをこぼし、そして相対する敵へと向かっていった。 着ているTシャツを握り締める。かつて、彼女の使い魔がこの世界に召喚された時に着ていたものだ。 「サイト」 何かを噛み締めるように、ルイズはその使い魔の名前を呟く。 「らぅーん、えいと! ふぁいっ!」 ゴング。 開幕直後、ワルドは冷静に牽制の左を放つ。 速く、鋭く、確かな芯のあるジャブ。『エア・ニードル・ジャブ』。 『閃光』の二つ名の元になった、ワルドの主武器の一つである。 ルイズも動じず、ステップとガードで対処する。 しばし、静かな攻防。盛り上がる観客席とは正反対に、凍りついたような緊張感がリングには満ちていた。 ――と、その空気を打ち破るかのように、ワルドが大きく下がる。 そのまま腕を広げ、オープンガード。そして、あろうことか対戦相手であるルイズへと話しかけた。 「いや、驚いたよルイズ。まさか、君が――君自身が! 僕に挑むと聞いたときには、正直正気を疑ったがね。 僕の『ライトニング・クラウド・アッパー』を破るとは、やるじゃないか」 『ライトニング・クラウド・アッパー』。ワルドが幾多もの敵をリングに沈めてきた、彼の必殺技である。 その拳は相手に命中すると同時に、グローブすら焼き尽くす強力な電撃を発し、その動きを止める。 ガードも不可能、当たったらそこで終わり。まさしく、『フィニッシュ』ブローだ。 (尚、スレ住人の皆さんは技のあまりのネーミングセンスに眉をひそめていることだろうが、 これは筆者の趣味では無く、名作ボクシング漫画――アレをボクシングと呼称するのなら、という前提だが―― 『リングにかけろ』へのリスペクトである。知らない人はググってwikipedia。すげーネーミングだから) ルイズは警戒。試合中に対戦相手に話しかけるなど、正気の沙汰ではない。コルベールが困っている。 「驚いたよ。本当に驚いた。まさか、『虚無の拳』の力を、僅かとはいえ引き出すとはね。 それに敬意を表して――僕の、正真正銘、本当の本気を見せるとしよう!」 そう言い放つと、ワルドは突然詠唱を始める。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 ルイズはワルドへと突き進んだ。まずい。何の詠唱をしているのかはわからないが、本能が告げている。 あの呪文を、完成させてはならないと。 「っ!」 ワルドの顔面へ、右ストレートを放つ。 そして、誰もがその眼を疑う光景。 その拳が、ワルドの頬を『貫通』した。 「!」 驚愕に凍り、動きが止まるルイズ。面前のワルドの姿が、かき消える。 そして、 「ユビキタス。――風は、遍在する」 ルイズの背後。そこに、五人のワルドが立っていた。 振り返ったルイズの顔が、更なる驚愕で歪む。 「風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ルイズは混乱しながらも、必死でジャブをうつ。 涼しい顔でそれを防ぐ、ワルドの一人。 「物理的影響力を持ち、ある程度の衝撃なら消えることもない。そのそれぞれが意思を持っている。 ――どうだい、僕の愛しいルイズ? これが僕の、本気だよ」 一人がルイズのパンチをガードしている間に、もう一人が懐に潜り込み、ルイズの気をそらす。 更に二人が牽制のジャブを放つ。 「くっ!」 ルイズは必死で、それをかわそうと『イリュージョン・ステップ』を使う。 自分自身の幻影を作り出し、敵を翻弄する足捌き。 先ほど『ライトニング・クラウド・アッパー』を破ったのもこの技だ。 しかし、 「無駄だ!」 そして、最後の一人はルイズの死角へと回り込んで―― 「これで終わりだ! 『エア・ハンマー・フック』!」 「――――!」 空気の塊を伴った拳は、その力を元の数倍にまで増大。 ルイズの顔面を捉え、悲鳴をあげることすら許さず数メイルの距離を吹き飛ばした! きもちいい。 なんだか、すごくきもちいい。 めのまえがぐにゃぐにゃする。なにもみえないや。 ああ、ねちゃいそうだなぁ。 「――――!」 なんだか、とおくでたくさんのひとがさわいでる。 うるさいなぁ。 わたしはもう、ねたいのに。 「――――!」 ああもう、ほんとうにうるさい。 たちあがることなんて、もうできないのに。 「――って!」 え? いま、なんて……。 「立って! ルイズ!」 リング上、ピクリともしないルイズ。勝ち誇り、ロープへもたれかかるワルド(×5)。 それを見つめながら、キュルケは呻く。 「分身……。ボクシングで五対一なんて、勝てるわけがないじゃない……!」 「…………」 無言のままのタバサ。 3。 「ちくしょう……。ルイズは、ルイズはあんなに頑張ったのによぅ……!」 丹下は俯き、何かを堪えるように歯を食いしばっていた。 「…………」 無言のままのタバサ。 5。 「……限界ね」 倒れたまま動かない姿を見、キュルケがタオルを取り出す。 止める丹下。 「待て! そいつぁダメだ! ルイズを、あいつの気持ちを裏切るつもりか!」 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」 「せめて、10カウントの間は――」 「一刻を争う状況だったらどうするつもりなの!? その数秒が、あの子を殺すかもしれないのよ!」 「…………」 無言のままのタバサ。 8。 「ダメだ! そいつはやらせられねぇ!」 丹下がキュルケに、タオルを投げさせまいと食らいつく。 そうしながらも、叫ぶ。 「立(て! 立つんだ、ルイズ!)――」 「立って!」 割り込むかのような突然のタバサの絶叫に、丹下は言葉を止められてしまう。 タバサはルイズを見つめ、何かを訴えるように、目に涙を浮かべながらも叫ぶ! 「立って! ルイズ!」 その一言で、心臓に火が入った。 足が動かない。 頭はグラグラだ。 体中が痛みを訴えている。 ――それでも。 その全てを屈服させて、ルイズは立ち上がった。カウントは、9。 霞む視界の中、リング下のタバサを捉える。 そちらに向けて、頷いた。 ――そうだ。 驚くワルドが見える。 ――負けられない。 足を一歩、動かす。 ――絶対に、 「負けないんだからっ……!」 ワルド達が、再びルイズへ襲い掛かる。 先手を取り、重い左手を必死で動かして、ジャブ。 どうしようもなく鈍いそれを、ワルドは苦も無くガードした。 先ほどと同じ流れか、と誰もが思ったその瞬間。 ガードをしたワルドが、跡形も無く消え去っていた。 「な――!」 驚きで動きを止めるワルド達。馬鹿な。あの程度のパンチで、分身が消え去るなどあり得ない。 更に連続でルイズのジャブが放たれる。 一発。一人のワルドが消える。 一発。また一人のワルドが消える。 残るワルドは、二人。 「馬鹿な、そんな筈は!」 混乱するワルド。そこに、ルイズがぽつりと、だが確かな強い声でその技の名前を告げた。 「――『ディスペル・ジャブ』」 「っ! 『解除』したというのか、僕の分身を!」 更に、一発。更にワルドが消えうせる。 残るは本体。たった一人の、ワルドのみだ。 「僕は……僕は負けないっ! 『虚無の拳』を手に入れ、ボクシング界の全てを手に入れるまで、決して!」 錯乱したワルドが、ルイズへ吶喊する! 「あ、ああああああああああああああっ!」 再び、『ライトニング・クラウド・アッパー』を放つ。 決まれば、間違いなく終わる。その威力を秘めた一撃。 しかし。その技は既に―― 「ああああああああああああああっ!」 命中! ワルドの眼に、電撃に撃たれながら吹っ飛んでいくルイズの姿が映る! 「あああああああああああああ、ああ、あ……?」 再び倒れるルイズ。電撃で体中が焼け焦げ、見る影も無い。 「あ、ああ、は、ははははははは! 勝った! 『虚無』に、伝説に、僕は勝ったんだ!」 ワルドは気づくべきだった。 ルイズにその拳が命中した――否、そう見えた瞬間。 しかしそれに反して、その手には何の感触も無かったことに。 倒れていたルイズの姿が消える。 「ははははははははっはああははは、はぁ? あれ?」 『イリュージョン・ステップ』。 そして、 「喰らいなさいっ! サイトの――仇っ!」 ワルドの目の前から放たれた拳は、 「『スマッシュ』――」 その顎にクリーンヒットし、 「――『エクスプロージョン』!」 大爆発によって、ワルドを上空十数メイルまで吹き飛ばした! 一瞬の沈黙。 その会場にいた全ての人間が、歓声一つ上げず、、空中のワルドを見つめていた。 ぐしゃり。 何かが潰れるような音と共に、ワルドがリング外へ顔面から墜落する。 コルベールがそれを覗き込み、――その両腕を、頭上で交差させた。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 歓声が爆発し、ゴングはこれでもかと鳴り響く! 「やった! ついにやったぜ、ルイズ!」 「……やった」 「あの、バカ……! 心配させて……!」 コルベールがルイズの腕を、高々と掲げる。更に音を増していく観客の声援。 腕を下ろされたルイズは、その中を、ふらふらとニュートラルコーナーへ戻る。 「っ! タンゲ! 椅子!」 「言われるまでもねぇわっ!」 出された椅子に、崩れるように座り込むルイズ。 「ちょっとルイズ? 体は、大丈夫なの?」 「待ってろ。今、わしがとっておきの薬を――」 「要らない。水のメイジが医務室からすぐに来る」 「ルイズ? ……ちょっとルイズ? ルイズ!」 「おいルイズ! 返事しねぇか!」 「…………救護班、早く!」 ねぇ、サイト。 やったよ。 私、あんたの仇を討った。 サイト。 もう一度だけでも、あんたに会いたいわ。 言いたいことがあるのよ。 前には言えなかったけど、今なら、素直になれそうな気がする。 でも。 燃え尽きちゃった。 燃え尽きちゃったわ。 真っ白にね……。
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やわらかるいず 外伝 OP ジョセフに謀らせて その暗殺謀らせて 謀って ポイ!! 謀って トー!! ジョセフに謀れぬ事はない ジョセフに謀らせて その戦争謀らせて 謀ってガキーン!! 謀ってハイッ!! ジョセフに謀れぬものはなーーい!! 魔法使えない 実は虚無だった 長年 長年磨いた シットのパワー ガリア王 ジョセフ!! ガリア王 ジョセフ!! 実の娘は 実の娘は ちょーぉ 二 ガ テ 「何?イザベラが使い魔を召喚しただと?」 「はい、見事召喚なされました」 「いったい何を召喚したんだ?」 「はぁ、よろしければお確かめになって頂きたいとイザベラ様が・・・」 「ふむ・・・」 中庭~ 「あら、お父様 今日はあの奇妙な使い魔はご一緒では無いのですか?」 「私のミューズになんという事を言うか、でお前の使い魔ってのはどこだ?」 「あそこですわ」 「あそこって、お前どう見ても壁だろ」 「上を見上げて下さいな」 「上?・・・・・・・・・・」 「おおくわがたのマリ子さんです」 「城よりデカイおおくわがたって・・・・・・」 「ふふん、どうですかお父様、お父様の呼び出した子供くわがたよりも素晴しいでしょ」 (なぁ・・・どっちも結局 虫なんだよな?) (馬鹿!!お前そんな事聞かれたら 首飛ぶぞ) 「どうですか、お父様」 「上からみてんな・・・・・・っつぞ こら」 「え?お、お父様?」 「図っぞ こらぁ!!」 「お父様!?」 「寸法測るぞ こらぁ!!」 「お父様!?メジャーを出し入れって、それ威嚇のつもりですか!?」 「上から下まで容赦なくはか・・・ブベェ」 「いい加減にしろよ くそ親父 第一はかるの意味がちげぇだろがよぉ!!」 「は・・・・はかっぞ・・・・・こらぁ」 終われ
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前ページ次ページゼロの使い魔×相棒 ~トリステイン魔法学院特命係~ プロローグ 神戸尊は沈鬱な気分を抱えながら廊下を歩いていた。こちらからは右京に連絡がまったく取れない。 もしかしたら右京の行き先を知っているかもしれないと思い、小料理屋『花の里』の女将で右京の元妻である宮部たまきに事情を話して尋ねてみたが、返事は芳しくなかった。 「わかりました。ありがとうございました」尊はたまきに礼を述べて、電話を切った。 「たまきさんも駄目か…。くそっ、どこにいるんだよ…」 尊は、八方ふさがりになりつつある状況に苛立った。 右京が外出しようとしたときに行き先を聞けなかったことを、尊は今さらだが悔やんでいた。 尊が右京の身を案じ、特命係の行く末に頭を悩ませているのは、彼が右京を慕っているというよりは、彼が特命係に配属された事情によるところが大きい。 尊は、表向きの階級は警部補であるが、実際は警察庁警備局に所属する警視である。 彼は警察庁上層部から、特命係と右京が警察にとって必要かどうかを判断するために、右京と身近に接して調査せよという「特命」を受けているのだ。 そのため、いわゆる「庁内エス(警察庁から警視庁に送られるスパイ)」として、二階級降格による左遷を口実に、特命係に半年の期限つきで潜入することになった (右京には当然秘密にしており、警察庁時代からの知り合いである警視庁警務部人事第一課主任監察官の大河内春樹にも適当にごまかしていた。なお、調査の目的やなぜ尊がその役目に選ばれたのかは定かではない)。 その目的に加え、右京という人間に個人的にも興味を抱くようになった尊は、ことあるごとに右京と行動を共にするようにしていた。 だが、最近は特に右京が興味をそそられるような事件もなければ、回ってくる雑用も簡単なものばかりで、尊は正直なところ退屈で、少々気が抜けていた。 そこへ、右京が突然「少々、出かけてきます」と扉を開けながら言ってきたのである。意表をつかれて慌てた尊が「どちらへ?」と問うたときには、あの謎の鏡に右京が飛びこんでしまった後だった。 不測の事態とはいえ、右京が姿をくらませてしまったことは、尊にとって非常に都合が悪い。 警察庁の上役にこのことを包み隠さず正確に報告したところで、内村同様信じてはくれないだろう。むしろ、気の緩みから調査対象に逃げられたとして、自分の責任を追及されかねない。 さらに、こちらの事情を知らない内村によって、今日中に右京が見つからなければ特命係の解散と解雇を申し渡されてしまった。かねてから特命係の廃止を狙っていた内村にとっては、渡りに船だっただろう。 もし明日まで右京が行方不明のままだった場合、警視庁と警察庁との無用の混乱を避けるために内村の人事勧告が受理され、理不尽にも切り捨てられてしまう可能性もある。 冗談じゃない。こんなわけのわからないことでクビにされてたまるか。 こうなったら、無駄だとわかっていても右京が行きそうな場所をしらみつぶしに当たるしかない。尊は、黙って最後通告を待つつもりはなかった。 廊下の十字路に出たところで、尊は出くわした人物に声をかけられた。 「おお、これはこれは神戸警部補」 「米沢さん!」 それは、ふちの太いメガネをかけた、坊ちゃん刈りが特徴の警視庁刑事部鑑識課員、米沢守だった。 第四章 トリステイン魔法学院の学院長室は、本塔の最上階にある。その中で、重厚な作りのセコイアのテーブルに肘をついて気の抜けた顔で鼻毛を抜いている、いかにも暇をもてあました白く長い口ひげと髪をたくわえた老人が、学院長のオスマン氏であった。 そして、部屋の端に置かれた机に座って、オスマン氏とは対照的に真面目に書き物をしている、緑色の長髪が綺麗な女性が、学院長秘書のミス・ロングビルである。 オスマン氏は横目でミス・ロングビルを見やると、水ギセルを魔法で取り出し、口元に運んでいく。 しかし、オスマン氏がくわえる寸前に、水ギセルはミス・ロングビルの手元に収まってしまった。彼女が羽ペンで水ギセルを操ったのだ。 ミス・ロングビルが、呆れたような声でオスマン氏に注意した。 「オールド・オスマン。水ギセルはこれで十二本目ですよ。健康のためにもご自制ください」 「ふう…まだ若い君にはわからんだろうが、この歳になると、一日々々をいかに過ごすかが何より重要な問題になってくるのじゃよ」 オスマン氏は眉間に皺を作り、重々しく目を瞑りながら、机で書き物を続けるミス・ロングビルにさりげなく近づいていく。 「だからといって、たびたび私のお尻を撫でたり、ご自分の使い魔を悪用なさるのはおやめください」 ミス・ロングビルが、小さなハツカネズミを『レビテーション』で浮かせ、遠くに落とした。 目論見を見破られたオスマン氏が、自分の肩に乗ったハツカネズミにナッツをやりながら、いかにも哀愁漂う様子で話しかけた。 「おお、この年寄りの数少ない楽しみを奪うとは…老いぼれはさっさと死ねということか。わしが心許せる友達はもはやお前だけじゃ、モートソグニル。して、今日の色は?」 モートソグニルは、ちゅうちゅうと鳴いた。 「おお、そうか今日も白か。しかし、ミス・ロングビルは黒が最も映えると思わんかね?」 「オールド・オスマン」 ミス・ロングビルの、絶対零度を思わせる声がした。 「今度やったら、王室に報告します」 「カアッ! 王室が怖くて魔法学院学院長は務まらんわッ!」 オスマン氏が目を大きく見開いて怒鳴った。その迫力は、百歳とも、三百歳を超えているとも噂される老人のものとは思えなかった。 この気力と精神力の強さがオスマン氏のメイジとしての実力を物語っているといえるだろう。 「減るもんじゃなし、下着を覗かれたくらいでカッカしなさんな! そんなお堅いことだから婚期を逃すのじゃ!」 開き直った上にコンプレックスをついてくるセクハラジジイに、ミス・ロングビルの中で何かが切れた。 思い切り尻を蹴り上げてやろうと足を振りかけたとき、学院長室の扉が勢いよく開けられた。 「オールド・オスマン! 至急お耳に入れたいことが!」 息せき切らして入ってきたのは、コルベールだった。 「どうした?」 オスマン氏は、何事もなかったかのようにコルベールを迎え入れた。一方のミス・ロングビルも、机で書き物を続けていた。魔法にも勝る早業であった。 あと少しのところで色ボケジジイに私刑を与えられなかったミス・ロングビルが、その理知的な顔をわずかに歪ませて舌打ちしたことに気づいたものはいなかった。 「昨日、ミス・ヴァリエールが召喚した使い魔の平民のことで図書館で調べものをしていたところ、大変なことがわかりまして…」 「大変なことなどあるものか。すべては小事じゃ」 「まずはこれをご覧ください」 コルベールが、一冊の古い書物を手渡した。 「んん? 『始祖ブリミルの使い魔たち』とは、まーたずいぶんと古臭い文献を引っ張り出してきたのう。これがどうしたね、ミスタ…ええと…」 「コルベールです!」 「おお、そうじゃったそうじゃった。君はどうもせっかちでいかんよ、コルベールくん。で、いったい何がわかったのかね?」 「こちらをご覧ください」 コルベールは一枚の紙を示した。それは、右京の左手に刻まれたルーンをスケッチしたものだった。 開かれた書物のページとスケッチを見比べたオスマン氏の表情が変わった。目が光り、厳しい色になった。 「ミス・ロングビル。しばらく席を外しなさい」 「はい」ミス・ロングビルが立ち上がり、部屋を出て行った。 彼女の退室を見届けたオスマン氏は、静かに口を開いた。 「さて、詳しく説明してくれ。ミスタ・コルベール」 シュヴルーズを医務室に連れていったルイズと右京――医務室に勤めるメイジの治癒魔法に目を奪われていた右京をルイズが引きずって出てきた――を待っていたのは、教室の片づけであった。 普通であれば、授業を中止にしたことと教師に怪我を負わせた罰として、謹慎なり出席停止なりの処分が下されるのだが、彼女たちに与えられたのは、魔法の使用を禁じた教室掃除だけ ――ルイズは元から魔法をほとんど使えないから意味はなかったが――で済んだ。生徒たちの警告を無視して、ルイズに魔法を使わせたシュヴルーズにも一定の落ち度があるという理由からであった。 掃除を自分でやったことがほとんどないルイズでは、教室の修復は相当時間がかかるだろうと思われたが、意外にも昼食が始まる前には終わってしまった。 右京が休みなく、無駄のない動きで手際よく窓ガラスを運んで張替えたり、机を並べなおしたり、煤だらけの壁や床を雑巾で綺麗に磨いたりと、作業のほとんどを一人でこなしてしまったからであった。 ルイズがやったのは机を拭くことだけだった。それすらも、最後のほうは右京に手伝ってもらった。 二人は昼食をとるため、食堂へと歩いていた。 道中、二人はしばし無言だった。 「ねえ」先に口を開いたのはルイズだった。暗い声であった。 「はい?」 「あんたは、もうわかってたんでしょ?」 「何をでしょう?」 「だから……わたしがなんで“ゼロのルイズ”って呼ばれてるか、よ」 ルイズは言いにくそうにしていたが、自分から話を切り出した手前、絞り出すようにしてなんとか言い切った。 右京は、少し間を置いてから、ルイズに質した。 「ミス・ヴァリエール」 「え?」 「この世界では、メイジが魔法に失敗すると爆発が起きるのですか?」 今のルイズには、右京の言い方は皮肉にしか聞こえなかった。顔を歪めて、烈火のごとく吠えた。 「わたしだけよ! 普通は失敗したら何も起きないの! 悪かったわね、才能も成功率も“ゼロ”の落ちこぼれメイジで!」 ルイズの剣幕に怯むことなく、右京は確認する。 「では、あなただけが魔法を使おうとすると爆発するというわけですね?」 「そう言ってるでしょ! なによ、あんたまで馬鹿にするわけ!? 使い魔の分際で…」 「おかしいですねえ」 目に涙を滲ませて怒りを露にするルイズであったが、突然発された右京の違和感の表明に、矛を収めた。 「普通ならば魔法に失敗したら何も起きない。しかしミス・ヴァリエールだけが魔法を使おうとするとすべて爆発。単純に同じ『失敗』でくくるには、この二つの結果はあまりにもかけ離れているとは思いませんか?」 「だからなによ? 使いたい魔法が使えないんだから『失敗』なのは同じじゃない」 右京は、左手の指を立てて反論した。 「いいえ。大きな違いです。何もないところを爆発させたということは、何らかの力がそこを爆発させるように働いたことに他なりません。あなたが事前に爆弾ないしは火薬の類を仕掛けておき、 杖を振るタイミングに合わせてそれらを起爆させているというなら話は別ですが」 「そんなわけないでしょ! なんでわたしがそんなことしなくちゃならないのよ?」 答えながらルイズは首をかしげた。右京の説明は回りくどいので、何を言いたいのかが最後の結論を聞くまでわかりにくい。 「おっしゃるとおり。『魔法を使うと爆発する』ということは、すなわち『爆発の魔法を使った』と言い換えることができます。ですから、あの爆発は紛れもなく、ミス・ヴァリエール、あなたの魔法なのですよ」 ルイズははっとさせられた。右京はさらに続ける。 「周りの方々がおっしゃるように、本当に魔法の才能がないのなら、爆発させることさえできないでしょう。そもそも、昨日僕を召喚し、使い魔の契約を交わしたことで、あなたは少なくとも『サモン・サーヴァント』と『コントラクト・サーヴァント』の 二つの魔法を成功させているのですから、『才能も成功率も“ゼロ”』というあなたへの評価は、適当なものではありません」 「……!」ルイズは、右京の意図をようやっと悟った。 言葉が、出てこなかった。 「それどころか、前例がない『人間の召喚』を実現し、さらに契約を成功させたことを考慮すると、あなたには才能がないどころか、むしろ特別な才能を秘めていると見るべきだと僕は思うのですが、これは素人考えでしょうか?」 言い終えると、右京は穏やかな微笑を浮かべた。 ルイズは、一瞬時間が止まったような錯覚に陥った。 ヴァリエール家の末娘として将来を嘱望されていたにもかかわらず、幼少のころから魔法を使おうとすると爆発させる「失敗」しか起こせなかった。 父や母は失望を隠さず、長姉には厳しく叱られ、いつしか“ゼロのルイズ”と呼ばれるようになってしまった。自分を慰め、認めてくれたのは体の弱い次姉と、今は疎遠になってしまった歳の離れた婚約者だけだった。 学校で本格的に習えば魔法を扱えるようになるからと、両親に頼み込んで入った全寮制の魔法学院でもそれは変わらなかった。劣等感と無力感、そして“ゼロのルイズ”と呼んで侮蔑する者を増やしただけだった。 挙句の果てに、家族からは「家に帰って花嫁修業をしろ」といわれる始末だ。 そんな状況であったから、『サモン・サーヴァント』で人間を召喚してしまったことも、魔法の才能がない“ゼロのルイズ”ゆえの、いつもの「失敗」の一つとしか周囲は受けとめなかった。 自分でさえそう思っていた。まともな使い魔一匹すら召喚できないのかと。 だが、考えてみれば確かに右京の言うとおりだ。 わたしは、誰もやったことがないことをやってのけたんだ。 憐憫や慰めでも、叱咤激励でもなく、実例をあげて論理的な説明でもって自分の力が認められたのは、ルイズにとって初めてのことだった。 授業の前に言っていた「他の人にはない才能を秘めている」とは、そういう意味だったのか。 そこまで考えたとき、ルイズの胸中に熱いものがこみ上げた。 ぐっと唇をかみ締める。そうしないと、マグマのように噴き上がる感情が涙となってあふれてしまいそうだったからだ。 「ミス・ヴァリエール」 と、右京が突然声をかけてきた。 「…え?」 「僕は教室の修繕が完了したことを学院長に報告にまいりますので、先に食堂へ行っていただけますか?」 「なんで? ていうか、あんた学院長室の場所知ってるの?」 「ええ。昨日学内を出歩いたときに、部屋の配置を確認しておきましたので。では、失礼いたします」 そう言うと、右京は踵を返して歩いていってしまった。 「あっ、ちょっと! …もう、主人を差し置いて勝手なことばかりするんだから…」 だが、言葉とは裏腹に、ルイズは右京を強く引き止めようとはしなかった。 小さくなっていく右京の背中を見つめ、見えなくなったところで、誰にも聞こえないほど微かな声でこう呟いた。 「……ありがと……」 聞こえてはいないはずだが、口に出してしまったら無性に気恥ずかしくなって、ルイズは早足で食堂に向かった。いつの間にか熱い感情は凪ぎ、不意に涙がこぼれることはなくなっていた。 右京は、迷うことなく最上階にある学院長室に向かっていた。 ルイズには「修繕が終わったことを学院長に報告に行く」と言ったが、実際にはそのようなことは指示されてなどいない。学院長のオスマン氏に会うための口実だった。 彼の目的は、今朝キュルケが「元の世界に帰る方法を知っている人物」として教えてくれたオスマン氏からその情報を入手すること、そして自分とルイズを取り巻く状況について問い質すことだった。 右京が先ほどルイズにかけた言葉は、最初から彼女を励ますために出てきたわけではなかった。今まで得た情報をもとに、自分の身辺について思案を巡らせる中で出てきたものだった。右京の考えは、ルイズに言ったことのもっと先にあったのである。 それは、事と次第によっては、容易に元の世界に帰ることができなくなるかもしれないという危惧を右京に抱かせるほどのものだった。だから一刻も早く確認しなければならない。 ハルケギニアに強い好奇心と魅力を感じていた右京ではあったが、長居するつもりはなかったのである。 学院長室の前までやってきた右京に、緑色の髪を持つ知的な印象の女性が挨拶した。右京も挨拶を返す。 女性は、学院長秘書のミス・ロングビルと名乗った。 右京は、さっそくミス・ロングビルに尋ねた。 「オスマン学院長にお会いしたいのですが…」 「どういったご用件でしょう?」 「私と我が主人のことで、至急学院長にご相談したいことがございまして」 ミス・ロングビルは少し考えた。自分を退出させるときは大抵重要な話をしているときだから、そんな用事はまず後にしろといわれるに違いない。 しかし今回は、コルベールの言葉から推測するに、自分の目の前にいるこの男のことについて話しているようだ。ならば、一応オスマン氏に言っておくほうがいいだろう。 ミス・ロングビルは、右京の目を見すえて答えた。 「わかりました。ですが、オスマンはただいま重要なお話をされていますので、面会できるかどうかは保証しかねます。その点はあらかじめご了承ください」 「了解いたしました。よろしくお願いいたします」 ミス・ロングビルは、学院長室の扉に体を向けて、ノックした。 学院長室では、コルベールが口角泡を飛ばして、右京の左手に浮かんだルーンについて調べた結果たどり着いた自説を、オスマン氏に説明していた。 「ふむ…始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』か…」 「そうです。彼の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のものとまったく同じであります!」 オスマン氏は、コルベールのスケッチと書物のルーンをまじまじと見比べた。 コルベールがなおも興奮した様子でまくし立てる。 「すなわち、あの男性は『ガンダールヴ』ということです! これが大事でなくてなんなんですか! オールド・オスマン!」 「確かに、ルーンは同一のものじゃ。ルーンが同じならば、ただの平民であったその男が『ガンダールヴ』になった、という説も考えられぬ話ではないのう」 「どういたしましょうか?」 オスマン氏は、身を乗り出したコルベールを手で制した。 「まぁ、落ち着きたまえ。現時点では『可能性がある』というだけの話じゃ。それだけでそう決めつけるのは早計じゃろう」 そのとき、扉がノックされた。 「誰じゃ?」 「わたしです。オールド・オスマン」 扉の向こうから聞こえてきたのは、ミス・ロングビルの声だった。 「なんじゃ?」 「オールド・オスマンに、至急面会をしたいという方がいらしています」 「誰かね?」 「昨日、ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔の男性、スギシタウキョウさんです」 まさしく、今自分たちが話題にしている男の名前を聞いたコルベールが、慌てた様子でオスマン氏に伺いを立てた。 「オールド・オスマン!」 「これも、始祖ブリミルのお導きか…。わかった、入ってもらってくれ」 オスマン氏は渡りに船だと考えた。向こうのほうから面会を、しかも至急に求めているとは――いったいどのような話をするのか、興味がわいたのである。 オスマン氏の許可を受け、扉が開けられた。話題の使い魔が二人の前に姿を現した。 「ご多忙の中、お時間を割いていただき、まことにありがとうございます。私は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔をしております、杉下右京と申します」 右京は、かしこまって挨拶をした。 「私は、トリステイン魔法学院の学院長、オスマンじゃ」 「私は、当学院で教職を仰せつかっております、コルベールです。二つ名は、『炎蛇』のコルベールです」 簡単に自己紹介してから、オスマン氏がしみじみとした調子で言った。 「そうか、君が…ミス・ヴァリエールが召喚した、人間の使い魔か。私に話したいことがおありのようじゃが、何用かな?」 「お聞きしたいことがいくつかございますが、まずは単刀直入に申し上げます。このハルケギニアと、別の世界をつなぐことができる方法をご存知ありませんでしょうか?」 右京の突拍子もない質問に、二人は驚いたようだった。 「『別の世界』とは……いったいどういうことかね?」 「僕は、この世界の人間ではありません。ミス・ヴァリエールによって召喚された、別の世界の人間なのです」 右京の言葉を聞いたときの二人の顔は違っていた。怪訝な顔をしたコルベールに対し、オスマン氏は厳しい目で右京を品定めするかのように見据えたのだった。 前ページ次ページゼロの使い魔×相棒 ~トリステイン魔法学院特命係~
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653 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/03(金) 10 17 26.02 ID ZBgXwzQm0 [1/9] 「さやかちゃん」 「この声はセクハラされたがってる声、まどか…いやらしい子」 「ち、違うよ///」 654 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/03(金) 10 31 25.37 ID +DtaLldv0 [1/9] 「ま~どかっ!」 「この声は…さやかちゃんがわたしを好きだって!わたしと結婚してくれるの…!? 子供は3人だなんてそんなのまだ早いよぉ…わたし達中学生なのに…えへへへ///」クネクネ 「捏造すんな!///(べしっ!)」カァァァ 「あうっ!」 655 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/03(金) 10 40 47.24 ID An/Bsaw50 [1/4] 「まどか・・・」 「・・・うん、いいよ・・・///」 「まどかぁーっ///」 「さやかちゃぁーっ///」
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前ページ次ページゼロのイチコ 「うぎぎぎぎ・・・たぁ!」 気合の入った声と共に、剣先が握りこぶし一個分ぐらい浮いた。 そして重力に引っ張られて剣が落ちる、その勢いでイチコが地面に埋まった。 学院の中庭に剣を握った手が生えている。 シュールだ。 一旦剣を離すとイチコがヨロヨロと地面から浮き出てくる。 「やりました、ご主人様! ちょっとだけ浮きました」 「振れるようになるまで何年かかるのよ」 ため息が出る。剣を買ったのは無駄な出費だっただろうか? まだ買ってから一日だから分からないが、そもそも剣を振り回す筋力がない。 幽霊とは鍛えれば筋力は上がるんだろうか。 一般的に強力なゴーストやスプライトはその想いの力によって力も変わると言う。 それが憎しみでも愛情でもなんでも構わない。 彼女の場合は『お姉さま』に再び会いたいがために幽霊をやっているわけだ。 しかし、落ち着きの無い彼女を見るとそう強力な想いを募らせてそうには見えない。 思い込んだら一直線な節はあるけれど。 「もうそろそろ授業なんだけど」 「あ、すいません。もうちょっとで出来そうなので練習してても良いでしょうか?」 「いいけど、学院の外にでるんじゃないわよ」 「はい!」 本人はコツを掴んだと思っているようだが、あれはまだまだ先が長そうだ。 午後はコルベール先生の授業だった。 相変わらず話が少々脱線する事が多い、しかもその話を興味ありそうに聞いてる生徒は一人も居ない。 私もその一人で、何か必死に語りだしたコルベール先生の話を右から左に受け流していた。 ふと考えるのは使い魔のイチコの事。 お姉さまと再び会いたいというだけで幽霊になった女の子。 そんなに何度も話を聞いたわけじゃないけど、彼女がどれだけお姉さまを好きだったかはなんとなく分かる。 すぐにとは言えないが。まあそれなりに使い魔として仕事をすればお姉さまを探してやっても良いかもしれない。 ドジは多いけれど基本的に上下関係を理解して尽くそうとしてくれている。 ちゃんと働くものにはちゃんとした褒美を与えないといけない。 今のところ先日のイタズラでマイナス評価なのだけど。 探すと言えば、彼女がどこの国の出身なのか聞いたことが無かった。 顔つきが大分違うし、かなり遠い国なのかもしれない。 確か「セイオウジョ学院」と言っていただろうか。トリステインにある学院ならさほど時間は掛からないと思うのだが。 もし東方だとするならかなり無理がある、そうで無いことを祈ろう。 しかし、そのお姉さまに会ったとたんに成仏してしまわないだろうか。 イロイロと考えた。 わたし、高島一子はただいま猛特訓中です。 というのも昨日ご主人様から剣を頂いたからです。 どうも使い魔というのはイザと言う時はご主人様を守らなければならないらしいです。 確かに、フレイムさんやシルフィードさんを見ると私ってば頼りないなぁとは思います。 しかし、私には他の方々には無い二足歩行、武器を握れる手があります! いえ、歩けませんけど…… ともかく、その利点を十分に活かしていきたいと考える次第です! 「たぁ!」 掛け声一閃、剣先が地面からこぶし二つ分ぐらい浮き上がりました。 「デルフさん、今けっこう浮きませんでした?!」 「ぉお、最高記録の二倍はいったな」 「大分感覚が分かってきました」 剣を振ると言うと、腰を落として重心を低くして。とかイロイロあると思われます。 しかし私は重心がありません。いやあるにはあるのですが地面に対して踏ん張ることが出来ません。 ですから宙に浮こうとする力と剣を振り上げるタイミングでなんとか持ち上げるわけです。 そして、こう見えても幽霊ですから疲れたりはしないんです。 「はぁ、はぁ……」 「相棒、休憩にしたらどうだ?」 と思ってたんですけど結構疲労します。それに夜になると眠くなります。 私って本当に幽霊なのでしょうか? 火の玉も飛ばせませんし、ラップ音も鳴らせません。幽霊としてのアイデンティティーが揺らぎそうです。 デルフさんを芝の上に横たえると、私は手足を投げ出しました。 「デルフさん、何か良いアドバイスは無いですか?」 「ねぇなあ。なんせ俺も幽霊を相棒にするのは初めてだからよ」 「ですよねぇ」 一応上達はしてる、と思いたいです。 小休止し、再びデルフさんを持ち上げようと手を伸ばしました。 すると人影が見えたので顔を上げると、そこにメガネをかけた女性の方が立っていました。 「こんにちは」 とニッコリ微笑まれました。長い髪をした綺麗な方です。 「ごきげんよう、どうかされました?」 「あなたが噂の幽霊の使い魔さん、よね?」 「はい、高島一子……ではなく、イチコ・タカシマと言います」 「私はロングビル。ここの学院長の秘書をやらせてもらってるわ」 さすが秘書の方というか、とても上品な物腰です。笑顔もとても穏やかですし。こういうのが本当の淑女という方なのでしょう。 よく暴走してしまう私としては見習いたいと思います。 「それで、ご用件は?」 と聞くとロングビルさんは少し顔を曇らせてこう言いました。 「実は、少し頼みたいことがあってね。少し時間をいただけるかしら?」 「構いませんけど、どうしたんです?」 「ちょっと付いてきて貰えるかしら」 そう言って建物のほうへと歩いていきます。 私は慌ててデルフさんを持ち上げ、地面に突き刺しました。 「すいませんデルフさん、ちょっと待ってて貰えます?」 「ぉう、早くしてくれよ。あんまりなげぇと錆びちまう」 途中何人かの先生方とすれ違い、挨拶しつつ私たちは薄暗い塔へと入りました。 そこは入ったらいきなり右方向に折れて螺旋階段が続いています。 わたしはその後ろをふわふわと浮きながら付いていきました。 そこは窓も無く明かりもロングビルさんが出した灯りの魔法だけが頼りでした。 その灯りも蛍光灯のような明るさは無く、ふらふらと揺れるランタンのよう。怖い雰囲気が出ています。 こんな所で幽霊でも出たら思わず叫んでしまいそうです。 「付いたわ」 と階段の先にあったのは大きな鉄扉。 大きな魔方陣が描かれています。 「実はね、私はこの宝物庫の管理を任されているのだけれど……」 ロングビルさんの話によると鍵のような物を紛失してしまい、一度魔法を解いて鍵を掛けなおさないと防犯上危ない。 だけど予備の鍵も無いため困っていた。 しかし中に入って内側にどんな文字が書かれているかさえ分かれば熟練の魔法使いになら簡単に開けることができる。 それで私の壁抜けで中に入って文字を教えて欲しいという事だそうです。 「なるほど、分かりました」 「文字は分かる?」 「いえ、その……ごめんなさい」 この世界は私の住んでいた世界とはまるで違う文字が使われている。 もしかしたら何処かの国の文字かもしれないけど私には分からなかった。 「いいのよ、それじゃあ意味が分からなくても良いから丸暗記してきて」 「はい、いってきます」 もしかしたら魔法ですり抜けられないんじゃないかと思いましたが。 案外あっさりと抜けることが出来ました、ご主人様の話では私のような幽霊が他にも居るという事ですが、防犯上大丈夫なのでしょうか。 使役できる魔法使いがほとんど居ないとか? 部屋の中は薄暗い、字は読めないけど足元が分かる程度の照明で照らされていました。 宝物庫の中は金銀財宝、と思ってましたが兜や鎧や剣、杖に書物がほとんどで指輪などもありましたが宝石類が多いというわけではありませんでした。 表面に複雑な文字が書かれているものが多いので何かの魔法が掛かっているのだと思います。 魔方陣はドアの裏側に書かれており、外と同じ円陣なのですがかなりの量の文字が書き込まれていました。薄暗い部屋なので文字がよく見えません。 四苦八苦しながらギリギリの光源で文字を凝視し、覚えて、外で言葉と空書きで中に書かれている魔方陣を伝える、そしてまた中に入る。これを繰り返しました。 文字が多くて何十往復もする事になってしまいましたけど。 時間が結構たってしまいましたがデルフさんは大丈夫でしょうか? 「これで間違い無い?」 「はい、こんな感じだったと思います」 最後の確認を二回ほどして、いよいよ開錠になりました。 ロングビルさんが杖を振り私には意味がわからない呪文を唱えます。するとドアからカチリと音がして音も無くドアが開きました。 「ありがとう、助かったわ」 「いえいえ、どういたしまして」 苦労したけど無事に開くことが出来て良かった。 もし私が魔方陣の文字を間違って爆発でも起こしたらどうしようかと思ってました。 「今はちょっとお礼になるものを持ってないのだけど、また後でお礼に伺うわね」 「いえいえ、本当に気にしないで下さい。そんな大したことはしてないので」 「奥ゆかしいのね」 と微笑まれた。私もとっさに微笑み返した。ちょっと顔がぎこちなかった気もします。 淑女の道は果てしなく遠いです。 「それでは、デルフさんを待たせているので失礼します」 「ぇえ、本当にありがとう」 そう言ってロングビルさんと別れた。帰り道は建物の壁を突き抜けて一直線で戻りました。 次の日、宝物庫から破壊の杖が盗まれた事が判り。 犯人は生徒やメイドの証言により学院長の書記、ミス・ロングビルであることが判明した。 前ページ次ページゼロのイチコ
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前ページ次ページ虚無を担う女、文珠を使う男 第8珠 ~文珠使いの1週間~ 「ヨコシマ。ちょっとあんたに聞きたい事があるんだけど」 夕食を済ませた後、特にやる事もなく藁布団の上でごろごろしていた横島だったが、その声でルイズの方に注意を向けた。 何でも、文珠で病気の治療は出来るかどうか知りたいらしい。 ダメな事もないんじゃねーのか、と思っていた横島だったが、いざ具体例を思い出そうとして、その考えが全然根拠の無いものだったと気付く。 過去に数度は厄介な病気の現場に立ち会ったが、文珠で解決した覚えがさっぱりなかったのだ。 仕方がないので、当たり障りのない返答をする横島。 「病気? 試した事ないからなー 分からん。 でも何でだ? 病気なんか魔法でちょちょいのちょいじゃねーのか?」 「魔法はあんたが思ってるほど万能ってわけじゃないのよ。残念だけど。 そういう意味じゃ、その文珠の方がずっとすごいアイテムよ。 まぁ三日に一回、ほんの少しの間しか魔法が使えないって考えると、あんたはドット以下って事になるけどね」 「そりゃ確かに俺は文珠が無きゃほとんど何にも出来ないけどさ、わざわざそんな事言わなくてもいいじゃねーか」 「ち、ちょっと不思議な力持ってるからって調子に乗らないように、気をつけてあげてるのよ! 文句ある!?」 高飛車なルイズのオーラに、意思に関係なく土下座の姿勢になって「すんません」を連呼する横島の体。 それに満足したのか、ルイズは話を再開する。 「…それで話は戻すけど、病人に使ったら逆に危ないとかそういう事はないわよね?」 「効果が無い事はあっても、危ないなんて事はさすがにねーと思うぞ」 「それなら安心ね。今度の文珠、病気の治療に試してみるから」 一瞬、横島は何を言われたのかを理解できなかった。文珠は、かなり貴重な物である上に、彼自身の命を護る切り札だ。 そんな文珠を、まるでデパートの試食品をつまむかのような気軽さで取りあげるなんて、そんなまさか… 思わずもう一度聞き返したのだが、残念ながら返ってくる返事は同じだった。 見ず知らずの奴の為になんだって貴重な(特に今は手持ちが0だ)文珠を使わにゃならんのだ、と言い返す横島だったが… 「あんたは使い魔なんだから、つべこべ言わずに私の言う事を聞いてればいいの!」と、ある意味で懐かしい感じがする台詞が返ってくる。 だが、彼の上司である、色気たっぷりな美神さんに言われるのとは訳が違う。 「そ、そんな事言うと使い魔なんてやめちまうぞ! こんな事やらんでも、文珠1個売れば一生暮らしていけるくらいの金には困んねーんだからな!」 「何バカな事言ってるのよ。あんたの力は無闇やたらに公表したらまずいって言われたばっかりじゃない」 横島の作り出す文珠は、使い方によっては億単位の価値があるアイテムと同様の働きをする。そんな事をいくら言ってみてもダメだった。 悲しいので、「どうせなら、キュルケさんやロングビルさんの使い魔になれれば良かった」とぼやく横島だったが… それは、延々とルイズの実家・ヴァリエール家と、キュルケの実家・ツェルプストー家の因縁を聞かされる羽目になっただけだった。 (ふーん。美神さんとエミさんの関係、みたいに思っておけば間違い無さそうだな。 だけどなー エミさんみたいにええチチしてるキュルケさんがライバルなら、美神 さんポジションのルイズちゃんだってもってこう、ボンキュッボンってなっててもいいと思うんだけどなー) 「というわけで、キュルケはだめ。禁止」 (で、フレイムはさしずめタイガーの役どころっと。 虎じゃなくてトカゲだけど。 そういや、あいつここ最近は「出番無くて悲しいんじゃー」 とか言ってたが… 元気にやってっかなー) まぁ、こんな感じで全然真面目に聞いちゃいなかったわけだが。 「分かった? そう言うわけで、あんたが文珠作ったら… それを病気の治療に使えるようにして頂戴。 私の使い魔が生み出す、珍しい水の秘薬って事にして送るから」 話はいつの間にか再び元に戻っていて、横島もいい加減面倒になったので了承した。 そして翌日。 いつものように横島が目を覚まし、ルイズを起こそうとするが… 「今日は虚無の曜日だからお休みなの~ あんたもまだ寝てていいわよ~」 それならそうと昨日のうちに言っておけ、と思った横島だったが、これはこれで好都合。 ちょっと朝の散歩に、なんて似合わない事を言っても、寝ぼけているルイズは特に気にせず許可を出す。 「ふっふっふ。好機、今こそ来たりっ! 待ってて下さい、ロングビルさーん!!」 心の底から叫びながら横島はルイズの部屋を飛び出した。 そんな叫びを聞くは、休日でも規則正しい生活を心がけている数名の女生徒達。 ルイズが呼び出したのは、平民は平民でも変態の平民である事が、こうやって徐々に広まっていくのであった。 横島は、どこから準備したのかほっかむりをして顔を隠しつつ、一心不乱にロングビルの部屋を目指していた。 そのカサカサという擬音が聞こえそうな姿は、どこからどう見ても立派な変態だ。 ところが… そんな変態へ声をかける猛者がいた。 「むむ! そこにいるは、ヨコシマ君じゃな!?」 何を隠そう、学院一のエロじじい、オールド・オスマンだ。 彼はロングビルのいる部屋へ向って飛んでいる最中に、頭に頭巾のようなものを被っている横島を見つけたのだった。 「お主、こんな所で何をやっておるんじゃ?」 オスマンが疑問に思ったのも仕方が無い。彼がいるのは、ロングビルの部屋を窓から覗ける位置。つまり建物の外側というわけだ。 そんな彼に見つかった横島も、当然建物の外側にいる。しかもロングビルの部屋は1階にあるわけではない。 どういう事かというと… 彼は、垂直な壁をまるでごきぶりのように4本の手足を使ってよじのぼっていたのだ!! 万が一手をすべらしたら良くて大怪我、運悪く頭でも打てばそれどころでは済まない…のだが。 「またまたー オスマンの爺さんだって俺と同じっしょ? 今日は休日なんすよね? もしかしたら、まだベッドの中でお休み中のロングビルさんに会えるかも知れないじゃないっすか」 なんとこの男、ロングビルの寝姿(+α)を見たいが為だけに、命を懸けている! オスマンだって、毎度毎度ロングビルから折檻される事を覚悟して尻をなでまわしているわけだが… それとこれとは全く意味合いが違う。 オスマンの場合、カーテンが閉まってたり、ロングビルがすでに起床していたとしても、ただそのまま残念に思うだけだ。 しかし横島の場合、そのようになーんの成果も得る事が出来なかったとしても、落っこちる危険性が無くなるわけではない。 いや、そもそも目的地へたどり着くより前に落ちる事だってありうる。 そんな状況なのに、「ちょっと散歩に来ました」のような軽いノリで自らの目的を述べる横島に… オスマンは、正直感服した。 長いこと生きてきたが、ここまで自分の欲望に忠実な奴はいただろうか、いやいない。 「ヨコシマ君よ。ワシは今、猛烈に感動しておる! 長年君のような人材を探しておったのじゃ。 どうじゃね、ワシと一緒にミス・ロングビル同好会を…」 夢にまでみた同好の士に、思わず熱が入るオスマン。 コルベールも同好と言えなくはないのだが、いかんせん彼はくそ真面目すぎる。 それに比べて、横島は放って置くと目的と手段が入れ替わってしまうような、そんなバカらしさにあふれている。実にいい。 だが、オスマンは重要な事を忘れていた。 考えるまでもないことだが、ここはすでにロングビルの部屋を窓から見れる位置。 そんなところで、特に注意もせずにしゃべっていたりでもすれば… 「学院長、また覗きに来たんですか? あれほどやめて下さいと… それにヨコシマさん、そんな所にいたら危ないですわよ?」 とっくに着替えていたロングビルが、窓を開け放して二人にあきれたように声をかける。 「ああ、ロングビルさん、いつ見ても綺麗っすね!! ところで、今日はお休みなんすよね!? 二人でどこかに行きませんか!?」 「ほっほっほ。ミス・ロングビルや。ワシはたった今、このヨコシマ君と二人でミス・ロングビル同好会を立ち上げたのじゃ。 その名誉会長のワシにキスをしてくれても構わんぞ。 ほれほれ、どうした、やらんのか?」 「…はいはい、いつまでもバカな事を言ってないで、朝食を食べに行きますわよ」 やれやれ、といった顔のロングビル。 その後、三人は朝食を取り(横島は学院長の計らいで、特別に一緒に食べられる事となった)、その席で大いに親交を深めたのだった。 (実際は、横島とオスマンがセクハラ魔人となる中、ロングビルが適当にあしらいつつ文珠の情報を引き出したり、横島を軽く誑かそうとしていたのだったが) それぞれにとって楽しい、または意味のある長時間の朝食会が終わった後、虚無の曜日とは言え仕事が残っているという二人と別れた横島は、ルイズの部屋へと戻っていた。 「あんたねー 一体どこまで散歩に行ってたのよ!? もうこんな時間じゃない」 「もうこんな時間っつったって、まだ昼前じゃねーか。無断でいなくなったわけじゃねーのに、なんで怒ってんだよ」 「本当は今日、あんたを街まで連れて行ってあげようと思ってたのよ。 この時間だと、帰りが夜遅くになっちゃいそうだからダメだけど」 「街? なんだ、街には何か面白いもんでもあんのか? 言っとくけど、俺金なんか持ってねーかんな? 金のかかる遊びなんか出来ねーぞ」 「あんた、たまにはちょっと考えて物言いなさいよ。 いい、あんたが力を使うと、使った分だけ文珠を作るペースが落ちるんでしょ?」 「まあな。どっちも俺の霊力を元にしてるのは一緒だし」 「それで、私は出来るだけ早く文珠が欲しいのよ。 だからあんたが余計な力を使わなくてもいいように、剣を買ってあげようと思ったの。分かった?」 「言いたい事は分かった。非常に良く分かった。 でもなー 俺、剣なんか買ってもらっても多分うまく使えないんじゃねーかなー? 俺のハンズ・オブ・グローリーは、ある程度俺の自由な形になるっていうのがミソなんだから」 「何言ってるのよ? 正直、文珠がレアすぎて忘れがちになるけど、あんたにはもう一つ、使い魔の能力があるじゃない。 普段は普通の剣を使って、どうしてもダメだって時以外は力を使うのは止める事。 それに剣を持っていれば、あんたみたいな平民が私のような名門貴族の側にいても、護衛だって言えば面倒な説明をしなくてもすむしね」 ここまで説明されて、ようやく事の次第を理解した横島。 いざ街に行くと決まれば、次はそこがどんな街なのかが気になるのも道理で… そのまま、ルイズ先生によるトリステイン講座が始まったのだが… 「あんたは私がわざわざ説明してあげてるのに、どうして寝てるのよー!!」 「しゃーないやんか、何か聞いてると眠くなるんやー」 「あんた、やっぱり不思議な力があるからって調子に乗ってるんじゃないの? 普通貴族相手にそんな態度とったら、下手すれば打ち首だってこの間言ったばっかりじゃない!!」 「そんな事ねーよ。霊能力つける前から俺はこんなだしなー」 「何それ、本当? あんたの国って一体どうなってるのよ。良くそれでやっていけるわね」 「俺の国? こことはもうまるっきり正反対って言ってもいいぞ。 魔法使いやら貴族やらはかなり少ない、というかむしろ魔法使いなんて国中探しても数名いるかいないかじゃねーか? 代わりに、と言えるほど多いわけじゃねーけど、俺みたいな霊能力者は数いるけどなー」 とまぁ、その内容はほとんど雑談のような物であったのだが、別に魔法を使わないとならないような場面もなく、ストライクゾーンからはハズレまくってるとは言え、美少女が相手だという事もあり、それなりに楽しい一日を過ごした両者であった。 それからの1週間は、瞬く間に過ぎて行く。 まず最初に記すべきは… ルイズの努力の甲斐むなしく、とうとうある授業の最中に、ゼロの渾名の由来が横島に知れてしまった事。 魔法の成功率ほぼゼロという不名誉な理由に、使い魔がバカにしてくるのではないかと不安になるルイズ。 そんな彼女に横島は… 「あー、この間、冥子ちゃんの事話した時に泣いてたのって、自分も上手く力が使えないからって事か」 初めてみたご主人様の失態だというのに、手馴れているように周囲の掃除をしながら、何でもないように声をかけていた。 実際のところ、ちょっと感情を高ぶらせるだけで、家一軒ダメにしてしまう暴走娘が知り合いにいるのだ。 その被害を受けたことも一度や二度ではない横島にとってみれば、部屋が半壊する程度の事はそれほど驚く事でも無かった。 「まぁ俺の知り合いには、ふとしたきっかけで今まで上手く使いこなせていなかった力をコントロールするようになった奴もいるし、そのうち何とかなるんじゃねーかな。 俺も何か出来る事があれば手伝ってやるし。 …でも冥子ちゃんは今でも結構暴走させてるんだよなー」 「なんであんたは最後に不安になるような事言うのよ、ばかー」 なんて事があり… 次に記すべき事は、ロングビルの横島へ向けたアプローチだろう。 毎日というわけではないが、ロングビルと食事をとっている横島の姿が、数度ほど目撃されている。 ルイズにしてみれば、キュルケに誑かされるよりははるかにマシ、一応自分の言う事も聞いているし、ロングビルが今は平民であるという話も横島から聞きだしたため、黙認をしているそうだ。 また、クラスを偽っている理由について聞いてみたい横島ではあったが、その度に上手くはぐらかされてしまい、未だに聞き出すには至っていない。 そして最後になったが、やはり文珠による病気の治療について述べなければなるまい。 横島には言ってないが、ルイズが治したいと思っている人物は、ヴァリエール家の次女、つまり彼女の姉であった。その名を、カトレアと言うのだが… 【治】の文珠を早馬にて送った際、カトレア宛てにだけは、本当の事を書いて手紙をしたためていた。 自分の使い魔が人間である、という事は、到底信じてもらえそうにない事であったが… 魔法が使えなくて、いつも家族から叱られていた自分の、ただ一人の味方だったカトレアにだけは、嘘をつきたくなかったのだ。 その結果は、翌日の夜に伝書フクロウにて戻ってきた。 うさんくさいと言う両親の反対を押し切って、カトレアは文珠を使い… 結果、数時間ほどの間だけであったが身体の調子が今までに無いほど回復したそうだ。 その後、残念ながら体調は元に戻ってしまい、治療という意味ではさほど前進しなかったのだが… 急な発作が起きた場合の一時しのぎに使える為、数個ほどさらに送って欲しいと言う事。 そして、その使い魔と同種の生物を探す為に… エレオノールを魔法学院に向わせる、という事が記されていた。 「ま、まずい事になったわ…」 エレオノール、つまりヴァリエール家長女であり、アカデミーに勤めているルイズの姉であるが… アカデミーというのは、先日注意されたばかりの、「何をしでかすか分からない組織」の一つである。 どう考えたってまずい。 来訪の予定は未定との事だが、近日中にやってくる事は間違いないだろう。 ある意味で自業自得なのだが、ルイズはこの件でここ2・3日の間、ずっと頭を悩ませ続けていたのだった。 前ページ次ページ虚無を担う女、文珠を使う男
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前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia オスマンとコルベールは学院長室から『遠見の鏡』で決闘の一部始終を見終えると、顔を見合わせた。 鏡面に映し出されたヴェストリの広場では、未だ鳴り止まぬ拍手と歓声が続いている。 2人の少し後ろの方で、『眠りの鐘』を用意して戻っていたロングビルも興味深げにその光景に見入っていた。 「オールド・オスマン、あのメイドが勝って……、 あ、いえ、勝負無しということにはなったようですが……」 「うむ……」 驚きの表情をありありと顔に浮かべたコルベールとは対照的に、オスマンにはさほど動揺した様子がない。 ロングビルはそれをじっと見て、疑問を口にした。 「あの、学院長は……、こうなることを見越しておられたのですか?」 「ん? 何故そう思うのかね、ミス・ロングビル」 「それは、あまり驚かれた様子がありませんし……、 これをすぐ使えと言われなかったのも、不思議に思っていましたから」 そういって、折角運んだというのに出番のなかった掌中の小さな鐘を示す。 まあ自分にとって本当に重要なのは宝物庫へ入る口実の方だったので、無駄足だったなどとは思っていないが。 オスマンは長い白髭を少しさすると、首を横に振った。 「まさか。こんなもん読めておったわけがなかろう。 年を取ると大概の事では動揺を見せなくなるというだけじゃよ、ちゃんと驚いておるしそれなりに感嘆もしておる。 ……ま、その鐘を使わねばならんような大事にはなるまい、とは思っておったが……」 オスマンはそう言ってロングビルとの会話を打ち切ると、鏡面を見ながら何やら物思いに沈んでいく。 ロングビルはまだ釈然としなかった。 このエロ爺がセクハラ発言のひとつも無しにさっさと会話を済ませるとは、一体何にそれほど注目しているのだろうか? ……まあ、いいだろう。 気にはなるが、今は絶好の機会。 単なる好奇心を満たすよりも先に、もっと重要な事を成すべきだ。 「それでは、私はこの鐘を宝物庫に戻してまいりますわ」 「うむ……。すまんが、そうしてくれ」 一方ヴェストリの広場の方では、盛り上がりが一段落したところでやっと教師たちが介入し、生徒らを促して授業に向かわせだす。 もう昼食時間はとっくに過ぎ、午後の授業を始めなければならない時間になっていた。 ディーキンは自室へ戻っていくシエスタの後姿をじっと見送ってから、ルイズのところへ向かった。 そして、いろいろ質問したそうなルイズを押し留めると、自分は応援した手前もうちょっとシエスタと話がしたいし、 他にも色々やりたい事があるから午後の授業への同行を免除してもらえないだろうか、と願い出た。 「はあ? ちょっと、何言ってるのよ! 勝手にまたこんな目立つことをしておいて、この上まだ何の説明もしないで、私を放って……」 ルイズはルイズで今の決闘の成り行きとかについていろいろと聞きたいことがあったし、今日は使い魔の顔見せの日でもある。 おまけに仮にも使い魔が御主人様を放って、あのメイドとこれ以上一緒にとか……、とにかく、色々と不満だ。 したがって怒鳴りつけて即座に却下しようとしたのだが、ディーキンは怯まなかった。 さりとて自分の要求は正当で認められて当然なのだというような偉ぶった態度を取るわけでもなく。 ただ普通に彼女の言い分を聞いて謝るべきところは謝りつつ、それでもあえて自分がそうしたい理由を説明して、根気よく交渉する。 シエスタには決闘に関わらせてもらった縁があるのに、何も言わずにさっさと別れるのは礼儀に反すると思う。 ルイズが聞きたいことは同じ部屋で過ごしているのだし今夜にでもちゃんと話すから、それまで待ってほしい。 教師への紹介は今これだけ目立っていたのだからどうせ顔も名前も知れ渡っただろうし、無用だろう。 むしろ今ディーキンが教室に行ったら、きっと決闘の件で注目されて生徒らに騒がれる。 そうすると授業の邪魔になって、教師からの心証が悪くなるかもしれない……。 「それに、あの人との約束通り、今の決闘の歌も考えなきゃいけないし。 もしかして考え事に夢中になって鼻歌とか口ずさんだりしたら、迷惑だろうからね。 ディーキンが教室にいないことで他の人達ががルイズを嗤うのなら、何故いないのか説明してやればいいの。 それでも分かってもらえないようなら、後でディーキンがちゃんとその人に説明して、分かってもらえるようにするから。 ……ね、どう?」 「う、うー……、」 もしディーキンが感情的に怒鳴り返したり、自分の要求は認められて当然、お前の意見は愚かだ……とでもいうような態度を取ったりしていたなら。 おそらくルイズは激怒し、正規契約をしていないとはいえ、仮にも使い魔である者の不従順に対して罰を言い渡していただろう。 しかしながらルイズは癇癪を起こしやすく独占欲が強い反面、真摯に誇りを重んじる貴族でもあるのだ。 頭を下げて許可を求めに来て、落ち着いて交渉している相手を一方的に怒鳴ったり無下にするような真似はできない。 そう言った点が以前の主人であるタイモファラールに似ていなくもないので、ディーキンにとっては懐かしいというか、対応し易かった。 もちろん邪悪で気まぐれなタイモファラールに比べれば、ルイズは遥かに話の分かる相手だが。 「……分かったわよ、あのメイドもあんたにお礼とかいいたいだろうし……」 ディーキンは相手の立場や考えを尊重して、軽々に批判したり見下したりはしない。 かといって卑屈になるわけでもなく、自分の意見はしっかりと主張してくる。 ルイズとしては内心複雑ではあったが、ともかくディーキンが自分の事を軽んじていないのは理解できたし、彼女にとってはそれが一番大切な事だった。 本当はまだ不満はあるし、メイドのところへ行く前にまずこっちに説明してからにするか自分も同行させろ、くらいは言いたいところなのだが……。 そんなことをしていたら、授業に遅れてしまう。 基本的に真面目な性格かつ実技が壊滅状態なルイズには、やむにやまれぬ事情があるわけでもないのに授業をサボる事などできない。 それゆえ、渋々ながらディーキンの言い分を認めることにしたのだった。 「ただし、夜までには絶対に戻って来なさい。約束通り説明してもらうからね!」 「もちろんなの。ディーキンはお泊りなんてしないよ?」 そんなこんなでルイズと別れると、ディーキンはさっそくシエスタの部屋に向かった。 彼女が中にいる気配があるのを確かめてから、扉をノックする。 「………?」 シエスタは部屋に戻ってしばしぼうっと物思いに耽った後、鎧を脱いで着替えをしている最中だったが、ノックの音を聞いて首を傾げた。 学院の教師がやってきたのだろうか。罰を申し渡されるのならば、受け入れなくてはなるまい。 理由はどうあれ自分は貴族に逆らい、決闘などを承諾して規律を乱す真似をしたのだから。 でなければ、使用人仲間の誰かか……。 「はい、どなたですか? 少しお待ちください。取り込み中なので、終わりましたらすぐに――――」 「ディーキンはディーキンだよ。 わかったの、ええと、3分間くらい待ってればいいかな?」 「! ……ディ、ディーキン様? す、すみません、すぐに開けます!」 シエスタはディーキンの声が聞こえるや、あたふたとドアを開けると膝をついて恭しく頭を下げた。 たとえ貴族に対してでも、ここまで畏まった態度を取ることは滅多にないだろう。 まあ、ドアの前で待たせるよりも、上着が脱げかけた姿で応対する方が礼儀にかなっていると言えるのかどうかは、また別の問題ではあるが。 一方突然そんな態度を取られたディーキンはきょとんとして、自分の目線と同じくらいの高さにきたシエスタの頭を見つめながら首を傾げた。 「……アー、ええと……、シエスタ、もしかしてさっきの決闘で耳がおかしくなったの? ディーキンはディーキンだよっていったの。別にディーキンは王様だからぺこぺこしろとか、言ったわけじゃないよ?」 そういってもシエスタは顔を伏せたまま、畏まった態度で返答を返す。 「それは……、だって、あなたは私を救ってくださった方です。 それに、天使様ですから――――」 「……うん? ええと、もしかして、おかしいのはディーキンの耳の方だったのかな。 シエスタは今、『天使』って言ったの?」 「はい、そうです。ディーキン様は、天使様なのでしょう?」 シエスタはそう答えると、ますます恭しく、深く頭を垂れた。 その態度には、決してお世辞や冗談などではない本当の崇敬の念が感じられる。 どうやら本気でそう信じ込んでいるらしい。 一方、ディーキンは目をぱちくりさせた。 天使とはフェイルーンでは主にエンジェルを、広義ではそれも含めて善の来訪者であるセレスチャル全般を指す言葉だが……。 言うまでもなく、コボルドはその中に含まれない。 ディーキンは少し考えるとおもむろに屈み込み、シエスタの顔を下からじーっと覗き込んだ。 シエスタは突然の事に驚いてどぎまぎした様子でさっと目を逸らす。 ディーキンは横を向いたシエスタの顔の前にささっと回り込むと、今度は爪の生えた指でシエスタの目蓋を広げて目の奥まで覗き込む。 更に額と額を当ててみたり、頬を撫でてみたり――――。 「……ななな……!? あああの、何をされてるんですか??」 シエスタはディーキンの行動にどぎまぎして、顔を赤くしたり、目を白黒させたりしている。 「ンー、見た感じ目は普通だし、熱とかもなさそうだけど……。 ディーキンが天使に見えるってことは、目がおかしいか、頭がぼーっとしてるかじゃないかと思ったの」 「……え、あの?」 「アア、それとももしかして、シエスタは天使の血を引いてるけど、天使の出てくる物語は聞いたことないとか? 天使っていうのは綺麗で、きらきらして、ふわふわして……、言うことがいつも、真面目で完璧な感じなんだよ」 ディーキンはそこでエヘンと胸を張る。 「ディーキンはそりゃ美男子だけど、光ってないし、ごつごつしてるし、ジョークだって言えるからね。 天使じゃなくてコボルドの詩人なのは、確定的に明らかだよ。 すごい英雄と悪いドラゴンとじゃ、同じ格好いいのでも感じが全然違うでしょ?」 シエスタはそれを聞いて当惑したように視線を泳がせ、そわそわと身じろぎした。 「そんな、でも。それは、その……、」 嘘です、と言いかけたが。 天使を嘘吐き呼ばわりするなど非礼の極みだと慌てて口を噤み、顔を伏せて、正しい言葉を探す。 「………本当の事ではない、と思います。 きっと深い考えがあって隠されるのでしょうけど、私には、わかりますから――――」 ディーキンの方は、それを聞いて困ったように肩を竦めた。 どうも何か大きな誤解をされているようだが、原因はなんなのだろう? 「ええと……、ディーキンはシエスタに、隠し事なんかしてないの。 それじゃシエスタは、なんでディーキンを天使だと思うの?」 そう尋ねると、シエスタはよく聞いてくれたと言わんばかりにばっと顔を上げて、熱弁を始めた。 「だって、天使様の言葉を使っておられて、それで私を助けてくださったじゃないですか! おばあちゃんが少しだけ習っていて、聞かせてもらったことがあります。 一度聞いたら絶対忘れられない響きです。 何よりグラモン様が心を改めてくださったのも、あなたがおられたお陰です。 私を助けてくださるため、正義を護るために神様が遣わしてくださったのでなければ、なんなのですか? いえ、それ以外ありえません!」 素晴らしい美少女が頬を上気させ、上着が少し肌蹴た状態で、自分に向けてあからさまに憧れとか畏敬とかの念が篭った笑顔を浮かべている。 人間の男だったら誤解を正すのなんかやめて手を出してしまいそうな状態だが、幸か不幸かディーキンはコボルドである。 「……あー、なるほど。 シエスタが信じてることは、分かったよ」 どうやら、ワルキューレとの戦いの際に呪歌と共に用いた《創造の言葉》が、誤解を招いた主たる要因であるようだ。 それは世界創造の時に用いられたという失われた言葉であり、現在のセレスチャルが話す天上語の前身であるとも言われている。 その断片だけでも知っている者は既にセレスチャルの中にも少ないそうだが、シエスタの祖母はたまたま学んだことがあったのだろう。 そんなものを用いて自分を手助けしてくれたとなれば、誤解されるのもやむなしか。 それにしたってコボルドを天使だの神の使いだのと考えるのは極端だとは思うが……、まあ、善良で信心深い人なら、そんなものなのかもしれない。 ディーキンはとりあえずシエスタを促して室内へ入り、向かい合うように椅子に腰かけて説明を始めた。 「じゃあ、ひとつずつ説明させてもらってもいいかな? まず、シエスタがなんて言ってもディーキンはやっぱり天使じゃないし、別に神さまのお使いとかでもないの」 「で、ですが、それなら………、」 「さっき歌う時に使った言葉は、シエスタのおばあちゃんと同じで、天使から習ったんだよ。 ディーキンは天使じゃないけど、天使の知り合いはいるからね」 それから、どういう経緯でそうなったのかを、リュートを爪弾きながら語り聞かせる。 アンダーダークで大悪魔メフィストフェレスの罠にかかり、ボスと一緒に一度は死んで、地獄へと送られた事。 そこで、遥か昔から想い人を待って眠り続けていた、『眠れる者』と呼ばれる偉大な天使、プラネターに出会った事。 ボスの尽力あってついに目覚めて想い人に巡り合うことができ、深く感謝してくれた彼とは地獄を逃れた後にも交友が続いた事。 そして年古く強力な天使ゆえに太古の言葉にも通じていた彼が、ディーキンが詩人であることを知って《創造の言葉》の秘密を教えてくれた事――――。 シエスタはそれらの話に、熱心に聞き入った。 地獄に送られてなお、悪魔を討って生還してくる英雄たち。 想い人を求めて天上の楽園を去り、寒く昏い地獄の果てで待ち続けた天使。 そんな人たちと一緒に旅をすのは、どんなに素晴らしい事だろう。 一体、どこまでが本当の話なのか……、嘘をついているとかではなくて、きっと物語だから脚色もあるのだろうけど……。 「―――――とまあ、そういう感じなの。 だから頭とか下げられてもディーキンは困るの、わかった?」 「えっ、あ……、は、はい!」 物語の世界にすっかり入り込んで夢想に浸っていたシエスタは、慌てて返事をする。 それから、そっと頭を下げて、言葉を選びながら訥々と続ける。 「その、お話、ありがとうございます。 ……ディーキン様が天使でないことは、分かりました」 どこまでが本当の話なのかはわからないが、天使に出会って学んだというのはきっと本当なのだろう。 目の前の人物が、種族としては天使ではないのは納得できた。 しかし………。 「ですが、私とグラモン様を救ってくださった方であることは変わりません」 シエスタにとっては、最善のタイミングで手を差し伸べて、すべてを上手く行かせてくれたのがディーキンだ。 天使であろうがなかろうが、彼の介入は、シエスタにとっては偉大で慈悲深い神や運命の導き以外の何物でもなかった。 「……それに……、いえ、 つまり、ですからやはり、あなたは私にとっては恩人で、神様の御遣いなんです!」 あくまで敬いの態度を変えないシエスタに、ディーキンはちょっと顔を顰める。 「ンー……、それはシエスタの考え違いじゃないかな。 お礼を言ってくれるのは嬉しいけど、いくつか間違ってると思うの」 「えっ?」 ディーキンはシエスタの肩をつついて顔を上げさせると、ちっちっと勿体ぶった態度で指を振って見せた。 ちょっと気取って講釈を始めようとする教師のように。 「まず、シエスタは仮に、ディーキンが神さまのお使いだったとして。 もしかして神さまの手助けがなかったら、さっき自分は上手くやれなかったって思ってるの? ディーキンはただ、英雄の活躍を見逃したくなかったから出しゃばっただけなの。 お手伝いなんてしなくても、結局は同じことだったはずだよ?」 それを聞いたシエスタは、ぶんぶんと首を横に振る。 「そ、そんなわけないじゃないですか! 私があの方と……、貴族様と戦えたのは、みんなあなたのお力で―――」 「ふうん? じゃあ、シエスタは……、仮に、ディーキンが応援しなかったとして。 あのワルキューレとかいうのにボコボコにやられたら、降参して謝っていたの?」 「え…? い、いえ! 間違った事に頭を下げるなんて!」 「なら、シエスタは。 あのギーシュっていう人のことを、もし相手が降参しなかったら死ぬまで殴っておいて、絶対謝らない人だったと思ってるの?」 「そんな! あの方は過ちを犯されましたけれど、そんな非情な方では……」 それを聞いて、ディーキンは得意げに胸を張る。 「でしょ? シエスタはどんなにやられても諦めたりしなかったし、相手は死ぬまで殴るような人じゃなかった。 なら、ディーキンがいなくたって、シエスタは上手くいってたってことなの。 ちょっと余計に怪我はしたかも知れないけど、結局最後には分かってもらえたはずでしょ?」 「そ、それは……、」 返事に困って視線を泳がせるシエスタに、ディーキンは誇らしげに胸を張った。 「たとえ力がなくても正しい事ができるのが、本当の英雄ってもんなの。 絶対にそういうものなんだから!」 先程までのシエスタにも劣らず熱っぽい様子で瞳をきらめかせながら、ディーキンは熱弁した。 シエスタと同様に頬が上気しているかどうかは、ウロコに覆われていて分からない。 「そ、そんな…………」 自分が敬う相手から逆にそんな目で見られたシエスタは、頬を染めて口篭もる。 「……その。あるいは、そうかもしれません。 でも、私が戦う勇気を出すことができたのはあなたが居てくださったおかげです、ですから……」 なおも食い下がるシエスタに、ディーキンは腕組みして(コボルドにしては)重々しく、威厳ありそうな感じの声を作る。 「オホン……、 『ならば、それは私の力ではない。私を見て何かを学んだというなら、それは君自身の才能と情熱のおかげだ。 友よ、手柄はあるべき所に帰すべきだ』」 「……は? あ、あの、」 いきなり感じが変わったのにきょとんとしているシエスタを見て、ディーキンは得意げに胸を反らせた。 「―――イヒヒ。 今の、『眠れる者』の真似なの。似てた?」 「は、はあ……? いえ、私、その天使様の事を知りませんから………」 何とも微妙な顔をしているシエスタに対して、ディーキンは少し真面目な顔に戻って更に言葉を続ける。 「それに、ディーキンが本当に天使とか神さまのお使いだったとしても、天使はそんな風に拝んでもらいたいとは思わないよ。 彼もそういってたし、ディーキンが知ってる他の天使もみんなそうだったからね」 パラディンであるボスは最初、今のシエスタのように『眠れる者』に対して敬意を表していた。 だが、彼はそのような扱いに当惑し、自分は身に覚えのない崇拝を望まないと言った。 彼らは真の善の化身であり、その目的は善を奨励する事であり、自分達が崇められるよりその崇拝をより偉大なものに向けさせることを願うのだ。 「『私はより偉大な栄光に仕える天使だ。私に価値を見出すならば、私よりも高貴な愛や美があることも知るといい』 ……彼は、そういってたの。ディーキンも、それに賛成なの。 ボスやシエスタは大した英雄だからね、天使とかディーキンとか拝んでないで、もっと大きな目標を持って、とんでもなーく凄い人になるの。 そうすればディーキンももっともっといい物語が書けてカッコいい詩が歌えるし、他のみんなも喜ぶでしょ? もしディーキンが神さまだったら、シエスタにはきっとそうしろっていうね」 ディーキンはそういうとちょっと首を傾げて、シエスタの頭を撫でた。 「アー、だから……、つまり。 まとめると、ディーキンはディーキン様とか呼ばれるのには反対だってことだよ。 ディーキンはディーキンであってディーキン様じゃないからね、余計なものはくっつけない方がいいの。 俺様とかって、何か悪役っぽくてよくないでしょ? 様をつけていいのは怖いご主人様とか威張った王様とかだよ、素敵なコボルドの詩人にはつかないよ!」 シエスタは英雄なんだから英雄には自分より立派な存在でいてほしい、敬われても嬉しくない……、 というのはまあ、本当だが。 実のところ敬称を遠慮したい理由は、それだけでもなかった。 ボスはもちろん、自分を純粋に対等の仲間として扱ってくれる。 だが、今まで自分は、上位者として扱われた経験はない。 コボルドをそんなふうに扱う奴は普通同族しかいないし、それにしたところで地位の高いコボルドに対してに限られる。 礼儀作法上とかではなく本心から敬われる、などというのは初めてであって、照れ半分、困惑半分、どう対応していいのかわからないのだ。 シエスタは頭を撫でられて少し頬を染めつつも神妙な、若干不満げな面持ちで話を聞いていたが……。 やがて、微笑みを浮かべて頷いた。 「……わかりました、ディーキンさ……んがそういわれるのなら、きっとその通りなんだと思います。 私、もっと善い事ができるように、頑張りますね」 「オオ……、よかったの。 ありがとう、それならディーキンは、これからもシエスタの事を応援するよ」 ほっとした感じでうんうんと頷き返したディーキンに、 シエスタはしかし、意味ありげに目を細めると、また頭を深々と下げた。 「―――――はい。 つきましては、そのためにも是非、あなたにお願いしたいことがあります!」 「……ウン?」 「私の先生に、なってくれませんか?」 ディーキンは目をしばたたかせると、困ったように頬を掻いた。 「ええと、その………。 どういうことなのか、ディーキンにはちょっとよくわからないけど。 ディーキンと契約して魔法少女になりたいとか、そういうことじゃないよね?」 シエスタは顔を上げると、にこにこ微笑みながら質問に答える。 「私……、先程の戦いのとき、『声』を聞いたんです。 グラモン様が考えを改められて、私に剣を差し出してくださった時に――――」 「?? 声……、」 ディーキンは唐突な話にきょとんとして、少し考え込む。 が、ふと思い当って首を傾げた。 「ええと、それって……、もしかして『召命』の声のこと?」 じゃあ、シエスタは、パラディンになれって言われたの?」 「はい!」 その時の事を思い返して興奮と喜びに目をきらめかせているシエスタを見て、ディーキンはようやく得心がいった。 いくら天使の言葉を話したにしても、恩人であるにしても、ちょっと態度が極端で大げさすぎやしないかと思っていたが。 なるほど、この状況に加えて更にこれまでの人生一変させるような出来事まで重なったとなれば……。 それに大きく関わったディーキンの事を、自分に遣わされた天使かなにかだと思い込むのは無理もない話だ。 実際、これはシエスタにとっては確かに運命的なものなのかもしれない。 多元宇宙に働く何らかの意志が、しばしばそのような導きをもたらすことは、ディーキンも知っていた。 とはいえ………、 「ウーン、つまり、シエスタはディーキンにパラディンになるための勉強を教えてほしいってこと?」 「そうです、私はまだぜんぜん力もありませんし……、パラディンの事も、おばあちゃんを見て教わった事以上には知りません。 あなたの望まれるような英雄になるためにも、せひ私の先生になってください!」 「いや、ええと……、ディーキンはバードなの。パラディンじゃないよ。 バードとパラディンっていうのは、プレインズウォーカーと頑固爺さんくらいに違うの」 ディーキンはよく分からない例え話をして、シエスタの願いを断ろうとした。 バードには、パラディンのような生き方はできない。 パラディンの生き方が善き規律に支えられたものであるのに対し、魂に訴えかけるバードの旋律は自由な魂から生まれるものだからだ。 少なくともフェイルーンで、パラディンになるための訓練でバードに師事する、などという話は聞いた事もない。 「ディーキンは、たまにボスみたいになるか試すの。 立派なことだけ考えて、それから、神聖でいようと頑張ってみて……、 でもすぐおかしなことを考えて大笑いしちゃうの、それがけっこうつらいんだよね。 だからディーキンは、シエスタの考えてるみたいな立派なパラディンのための先生にはなれないと思うの」 「いいえ、おばあちゃんだってよく笑ってましたし、その『ボス』という方も、あなたのお話からすると朗らかな方なんでしょう? 真面目に生きるということは、決して朗らかさをなくすことと同じではないと思います。 それに、あなたは素晴らしい英雄の方と旅をされていたし、天使様ともお知り合いなのですから。 その方々の生き方を、もっと歌や話にして聞かせてください。私にとってはそれが、素敵な勉強になると思います。 剣とか、その他の訓練は……、もし教えてくださることができないのでしたら、自分で頑張りますから!」 それでもなお熱心に頼んでくるシエスタを見て、ディーキンは困ったように首をひねる。 「ン、ンー……、それは、ぜひ聞いてほしいけど……。 別に先生とかでなくてもディーキンはいつだって喜んで聞かせるし、パラディンの訓練なら他に、いい人がいるんじゃないかな?」 大体、バードとパラディンは進む道も違えば、能力的にもほとんど似つかない。 どちらも魅力に優れ、交渉などの才を持ち合わせてはいるが、共通点と言ったらせいぜいその程度だろう。 パラディンは若干の信仰魔法を用いる戦士、バードは秘術魔法を使う何でも屋だ。 普通に考えれば同じパラディンに師事するのが最善だろう。 そうでなければ、剣の訓練をするならファイターとか、信仰を鍛えるならクレリックとかが、おそらく適任のはず。 渋るディーキンに対して、シエスタはぶんぶんと首を横に振った。 「いいえ! ……いいえ、そんなことはないです。 何と言われようとあなたは私の恩人で、私に可能性を掴ませてくれた憧れなんです。 私はあなたよりも自分の先生に相応しい方なんて知りません!」 「う! うーん?? そ、その、そんなことはないと思うけど、ありがとう。 ディーキンはなんだか、すごく照れるよ……」 詰め寄らんばかりの勢いで熱弁してくるシエスタに、ディーキンもたじろいでいる。 「この学院におられるのはメイジの方ばかりです。 みんな貴族としての誇りを重んじられる立派な方々です、けれど、パラディンの教師に向いておられるとは思いません。 学院の外でも、強い方と言ったら大体メイジの方ばかりで……、 剣を使うのは傭兵とかだけですし、そんなすごい達人とかは、私は知りません。 それに私は、おばあちゃんの他にはパラディンは一人も知りません。 おばあちゃんはきっと、この世界には『声』が届かないんだろう、っていってました」 「アー…、そうなの?」 初耳だが、よく考えればこの世界にはバードもクレリックもいないのだった。 メイジの力が支配的で、かつ系統魔法と先住魔法しか知られていないというのだから冷静に判断すればパラディンだっているはずがない。 シエスタにだけは召命の声が聞こえたというのは、彼女がアアシマールであることを考えればそれほど不思議な話でもあるまい。 パラディンたり得るものはフェイルーンでも希少だが、天上の血を引くアアシマールにはすべからくその適性が備わっていると言われている。 剣の力についても、確かに昨夜読んだ本ではほとんど触れられていなかった。 おそらくフェイルーンの古の魔法帝国アイマスカーなどがそうだったように、この世界では剣の技は廃れてしまっているのだろう。 強いファイターは滅多におらず、概ね低レベルのウォリアーくらいしかいないのだとすれば、シエスタが長期的に師事するのには些か不足だ。 そうなると、ディーキンに教えを乞うというのもまんざら悪い選択ではなく、むしろ良い選択なのかもしれない。 「ウ~……、でも、先生なんてディーキンはやったことないの。 ディーキンが教わった先生は気が向いた時にだけ教えてくれて、そうでないときには寝ぼけて体の上にのしかかったり……、 機嫌が悪い時にはディーキンの体を麻痺させて歯を抜いたりもする、ドラゴンのご主人様だけなの」 「誰だって最初はやったことがないはずです。 それにディーキンさんは、そんなひどい教え方はなさらないです、信じてます。 ……さっき、私の事を応援してくださるって言われましたよね? でしたら、さあ、私が立派なパラディンになるために力を貸してください。応援するって、そういうことでしょう?」 シエスタは、ここぞとばかりに先程のディーキンの発言を持ち出して畳み掛ける。 このためにいったん譲歩してみせて、言質を引き出したらしい。案外したたかな面もあるようだ。 パラディンは邪悪な行為をしてはいけないが、最終的に善を推進するためのちょっとした計略くらいは問題ないのである。 ディーキンは困った顔をして、しばし考え込んだ。 別に秩序な性格ではないので口約束なんて場合によっては無視してしまうのだが、それでシエスタに嫌われたりするのは嫌である。 かといって大したことが教えられるとも思わないし、それはそれでシエスタを失望させることになってしまわないか不安だ。 が……、まあ、彼女に教えるのもそれはそれで確かに新しい楽しい経験になるかも知れない。 何より彼女はボスの話を聞きたいと言ってくれたし、それはこちらとしても存分に語りたいことだ。 返事は決まった。 「……うーん、わかったの。 ディーキンは今ルイズの使い魔をしてるから、お願いしてみないといけないけど。 いいって言ってもらえたら、シエスタのためにできるだけの事はするよ」 シエスタはそれを聞くとぱあっと顔を輝かせて、ディーキンを思いきり抱き締めた。 「ありがとうございます、先生! それじゃあ、これからよろしくお願いしますわ!」 「オオォ……!? ちょっとシエスタ、痛くないの?」 シエスタは今、上着がちょっと肌蹴た状態でディーキンを強く抱き締め、喜びのあまり頬ずりとかまでしている。 人間の男なら嬉しくてそれどころじゃないかもしれないが、ディーキンは彼女の柔らかい肌が自分の硬いウロコに擦れて、傷つかないか心配だった。 「………!? あ、わああ! すす、すみません!」 そういわれて漸くシエスタは今の自分の格好に気付くと、途端に顔を真っ赤にしてぱっと離れ、大慌てで胸元をさっと覆った。 慌てたり緊張したり、必死に熱弁したりで、今の今まですっかり失念していたらしい。 「? 別に、シエスタが謝るところじゃないとおもうけど……、 それよりディーキンはその、先生っていうのは――――」 「……だって先生は先生じゃないですか。 これは誤解とかそんなことは関係なく、先生ですから問題ないです。 学院の生徒の方々だって、みんな教師の方の事はそう呼んでいらっしゃいますわ。 私だってそうお呼びしないと失礼です、ええ、絶対そうしますから」 シエスタは上着をしっかりと着直すと、まだ少し頬を赤くしながらも澄ました顔で得意げにそう答える。 結局、彼女は最終的には、ディーキンをある種の敬称で呼ぶ許可をちゃんと取り付けたのだった。 「ニヒヒヒ……、ウーン、なんか、先生になったの」 仕事に戻らないといけないからというシエスタと別れたディーキンは、少しにやけながらぶらぶらと人気のない廊下を歩いていた。 先程は突然の申し込みに困惑していたが、自分が先生などと呼ばれて敬意を払われる立場になったのかと思うと、徐々に嬉しさが湧き上がってきたのだ。 様づけで呼ばれるのはどうにもむずむずするし、ご主人様みたいで遠慮したいところだが。 先生というのは、それとはまた違う感じがする。 どう違うのか、上手く説明はできないが……、なんにせよ、何の悪意も含みもない態度で褒められたり認められたりするのは嬉しい事だった。 まあ正確にはルイズの許可を得られたらということだが、それについては後ほどシエスタと一緒に頼もう、ということに決めておいた。 たぶん渋られるだろうが、ちゃんとお願いすれば説き伏せられる自信はある。 ……そういえば、元々シエスタの部屋を訪れたのは、挨拶がてら約束の歌の件について相談しようと思っていたのだが……。 予想外の話の展開に、すっかり元の用件を忘れてしまっていた。 だがまあ別に急ぐ用事でもないし、彼女が生徒になりたいというのなら今後も話す機会はいくらでもあるだろうから、今はいいか。 「ええと……、これから、どうしようかな?」 まだ大分時間はあるが、ルイズの授業には今日は出ないと言ってしまったし、図書館へでも行くか。 この世界の事はまだまだよく分かっていない、調べたいことならいくらでもある。 あるいはシエスタにどんな指導をするか考えて、その準備をしておくか。 引き受けた以上は、しっかりとやりたいところだし。 「ウーン………、ん?」 いろいろと考えながらふと窓の外に目をやると、妙な人物が目に留まった。 タバサだ。 今は授業中のはずだが、何故か空を飛んで、学院の外の方へ向かっている。 他に生徒はいないようだし、課外学習という風にも見えない。 遠目ではっきりとはわからないが、何だか急いでいる様子だ。 ……何かあったのだろうか? こういう事があるとすぐに首を突っ込みたくなるのが冒険者の、そしてバードの、何よりディーキンという人物の性分である。 好奇心の命じるままにぴょんと跳び上がって手近の窓を開け、外へ飛び出すと、そちらの方に向かって翼を羽ばたかせ始めた。 前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia
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