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前ページ次ページ虚無の闇 太陽は西へと沈み、世界は夜の帳に覆われている。漆黒に塗り潰された世界を照らすべき双月は、厚い暗幕の向こう側に追いやられていた。 唯一の光源は、カーテンを通して学院から漏れる僅かばかりの光だけだ。一歩でも学院の外に出てしまえば、僅か1メイル先も見通せないほどの闇の深さである。盗賊が仕事をするには最適の天候だった。 ロングビルという皮を脱ぎ去ったフーケは、代わりに黒いローブを着込み闇と同化しながら広場を歩く。予定では今頃、家族と楽しい団欒の時を過ごせるはずが、いまだに彼女はトリステイン魔法学院に居た。 それもこれも、あの無駄口の多いインテリジェンスソードが悪いのだ。フーケは足元に転がっていた石を蹴りつけようとして、音を立てられないので思い切り踏みつけてやった。 あいつが言い争ううちに計画の穴を次々と指摘してくるから、無機物相手に知恵比べで負けられまいと、今日に至るまで予定が間延びしていた。言い返せなかった事が余計に頭にくる。 何が自称千年物の剣だ、とフーケは口中で愚痴を並べた。アンティークとして価値があるならならまだしも、あんなに錆びていては新品より劣るではないか。そんなゴミに負けるところであった自分に嫌悪する。 八つ当たりとして、フーケはデルフリンガーをボロ布でぐるぐる巻きにし、信頼は出来るが扱いはとびきり荒い運送屋でテファが待つウェストウッド村へと送っていた。向こうに着く頃には野菜の山にでも埋もれて、あのお喋りも少しは矯正されているだろう。 「さて、土くれの腕の見せ所、といこうかね……」 自分に張りを持たせるためにそう呟き、フーケは持っていたランタンの火を消した。地面に這いつくばって耳を当て、周囲にメイジや使い魔がないことを入念に探る。 平民の衛兵や生徒の一人や二人に遅れをとる気はさらさらないが、邪魔は少ないほうが良いに決まっている。今回の計画を完璧な物にするためにも、出来る限り発見されたくなかった。 それにフーケは殺しが好きではない。必要なら躊躇わないが、自分の実力も計れずに特攻してきたガキを踏み潰したら夢見が悪いだろう。 フーケは何度も深呼吸しながら精神を練り上げていき、今回の獲物が眠る宝物庫を睨み付ける。あの壁は長い間手こずらせてくれた憎らしい敵だが、それを見るのも今日までだ。 入念な前準備をしただけあって気力の高ぶりは十分だった。フリッグの舞踏会にて、酔っ払ったコルベールから更に宝物庫の弱点を聞き出す事に成功している。柱や壁の構造もなども検討し、衝撃を与えるべきポイントに1週間以上かけて何度も錬金をかけてやった。 予定が遅れている事も、十分に精神力を回復できたと思えば悪くはない。後はただ行動するのみ。 具体的にはゴーレムで思い切り殴りつけてやり、その後はお宝を頂戴して逃げる。言葉にすると実にシンプルだ。 「よし、おっぱじめようか!」 フーケはここ一番の魔力を込め、長い詠唱を歌うように終わらせた。足元の大地が魔力を受けて隆起していく。地響きという胎動と共に巨人が産み落とされ、30メイルはあろうかというゴーレムが天を突いた。 足元に居る自分を踏み潰さないよう、慎重にゴーレムを攻撃の態勢へ移らせる。大きく足を開いて重心を安定させ、土を集めて巨大化させた右の拳にスピードを乗せる。遠くで衛兵が異常に気付いたようだが、もう遅い。 インパクトの瞬間だけ鉄へと変化したゴーレムの拳は狙い通りの位置に着弾し、攻城兵器顔負けの威力と成果を発揮した。天地も裂けよとばかりの轟音が鳴り響き、学院そのものが小刻みに揺れている。 「へ、いっちょあがりさ!」 大規模な魔法の使用によって脱力感を感じたフーケだったが、心中の高揚はたやすくそれを打ち消してくれた。 トリステインで最も強固と謳われた壁には馬車さえも通れそうな大穴が開き、どうぞ入ってくださいと手招きしているようだ。あのセクハラ爺がこの後始末に奔走する様を思えば、腹を抱えて笑いたくなるほど心地よい。 細心の注意を払いながらゴーレムで自身を拾い上げ、作ったばかりの専用通路から宝物庫へと入場する。崩れていく瓦礫を跨ぐのは実にすがすがしい気分だった。 「さて、後はこの金庫を……」 こちらも手こずらせてくれた金庫ではあったが、事前に固定化の呪文を解除し終わっていた。今では単なる鉄の塊に過ぎず、出来のわるい生徒ですら壊せるだろう。 当直さえ日常的にサボられているような、ずさん過ぎる警備体制だからこそ出来た技だった。ご自慢の金庫が砂になっているのを見たときの、オスマンの驚愕の表情が楽しみである。 フーケは軽く杖を振って金庫の一部を小さなゴーレムへと変え、繰り人形が恭しく差し出した巻物を一瞥して懐へと差し込んだ。 「破壊の魔法書、確かに領収いたしました。土くれのフーケ……っと」 ゴーレムを解体し、その土を使って宝物庫の壁へとサインを刻む。普段は彼女にとって慎ましやかと思えるサイズに止めているのだが、今回ばかりは心持サイズを増しておいた。これを見た貴族の顔が見物だ。 壁に耳を当てて気配を探ってみるが、いまだに宝物庫へと近づいてくる人物は居ない。先ほど気付いたであろう衛兵がメイジを呼びに奔走しているとしても、一杯のワインを嗜めるだけの時間は十分に残されている。 フーケはゴーレムの腕を宝物庫の中に差し込ませると、着込んでいた黒のローブを脱ぎ捨てた。巨大なゴーレムの一部を使用して囮を作り出し、土で出来た顔が完全に隠れるほど深く着込ませる。 近くで見れば一発で見抜かれるだろうが、ただでさえ真夜中なのにこの曇天だ。ランタン程度の明かりしか持たないのでは、肩の上に乗っている人影を視認することさえ難しいだろう。 杖を振ってしばし成り行きを見守ると、その正しさはすぐに証明された。 「はっ! 我ながら、完璧だよ……。惚れ惚れしちまうね!」 笑いながらそう吐き捨て、操作出来る限界の距離までゴーレムを歩かせる。騒いでいた人間たちを跨いで"黒ローブのメイジ"を乗せたゴーレムが歩き出すと、彼らは明かりに群がる蛾のように追いかけていった。既に蛻の殻となっているはずの宝物庫に注意を向けているやつなど誰も居なかった。 衛兵が持つランタンの明かりが一つ残らず塀の向こうへと消えるのを見届けたフーケは、更に3つほど数を数えてから次の行動に移る。 普段なら人目が無いのをいい事に、あの穴から嬉々として飛び降りただろうが、今回のフーケは更に用心を重ねていた。分厚い扉の前まで行き、耳を当てて向こう側の様子を探る。案の定、こちら側の警戒もまったくのゼロ。フーケは短く息を吐いて扉へと力を込めた。 「じゃあね、馬鹿どもよ……!」 蝶番にロウを塗りこんだ扉は音もなく開いていくいった。壁を破壊する前に開けておいたのだ。 闇に沈んだ廊下は耳が痛いほど静まり返っており、これだけ時間がたっても教師一人やってこない。フーケはディテクトマジックで周囲を警戒した後、素早く懐から合鍵を取り出して施錠した。 金属の機構が小さくない音を立てる。ドアがしっかりとロックされたことを何度か確かめ、使用したキーに錬金をかけて元の小石へと戻す。 これでフーケとしての仕事は終わった。予測が正しければ数分もしない内に、衛兵か教師かがやってくるだろう。そうしたら劇の始まりである。フーケは自らの完璧な仕事に満足し、大きく頷いた。 当直をサボっていた教師に変わって深夜の見回りをしていた秘書のミス・ロングビルは、フーケ襲撃を察して宝物庫に走ったが、扉を開くための鍵がなくて立ち往生していた、という設定だ。 無能な盆暗どもは、居もしないフーケを求めて捜索隊を出すだろう。そしてプライドと給料だけは高い貴族どもの事だから、王宮に連絡せずに隠密に事件を処理したいとも考えるのが自然な流れだった。誰だって自らのミスを宣伝したくはない。 保管を委託された外部の品であればそうは行かないが、破壊の魔法書は学院長の私物と言っていもいい物であり、建物さえ直してしまえば学院側に被害はない。人的被害も無いから隠蔽は簡単に終わる。後は学院を守る秘書として、その流れを後押しするだけだ。 最近はアルビオンもきな臭いようだし、しばらくしたらそれを理由にして学院を辞めればいい。早く家族の笑顔が見たかった。 「お、おぉぉ! み、ミス・ロングビルッ! ご無事ですか?!」 「え、ええ。大丈夫です。……見回りの最中だったので、急いで飛んできたのですが……。鍵が無いのを、忘れていました」 程なくして、寝巻きのままのコルベールが額まで真っ赤にしながらやってきた。フーケはロングビルとして、困惑しながらも必死に対処しようとする秘書を演じる。 「ミスタ・コルベール……。いったい、何があったのでしょうか? 巨大なゴーレムが、森へと逃げていくのを見たのですが……」 「巨大なゴーレム……。そ、それは、土くれのフーケに違いありません! 大変な事になりましたぞ! こうしては居られません! 急いで宝物庫を確認せねば……! 鍵は、学院長が持っておるはずです! 行きましょう!」 フーケですって、何という事でしょう……。と、フーケは焦った様な返事を返す。 コルベールは胸を張って落ち着かせてくれ、平静を取り戻したロングビルは共に学院長室へと向かった。 まさか犯人が目の前に居るとは思わないだろう。彼と共に廊下を走りながら、フーケは思わず浮かんでしまう下卑た笑みを隠せずに居た。 学院に賊が入ったらしい。 平穏な学院生活に降り注いだビッグニュースは厳かなはずの朝食の場を完全に支配しており、生徒たちは湯気を立てるステーキを放置して会話に花を咲かせている。様々な憶測や作り話などが飛び交い、広い食堂をゴシップが埋め尽くしていた。 口々に騒ぎ立てる名前は土くれのフーケ。土のトライアングルメイジであり、主に金持ちの貴族が持つマジックアイテムを狙う大怪盗。 今回は錬金などの静かな手段ではなく、大胆にも巨大なゴーレムを用いて宝物庫の壁に大穴を開けて行ったらしい。変装用の黒のローブだけを残し、煙のように消え去ったという。昨日の地震はこれだったのかとルイズは思った。安眠妨害もいい所だ。 教師たちは青い顔をして飛び回っているようだが、ルイズにはこれっぽっちも関係ない。対岸の火事よろしく眺めながらアルビオンの13年物で唇を湿らせ、肉厚のステーキを咀嚼する。 年間の食事代だけでも目玉が飛び出るほどの金額になるというトリステイン魔法学院の正餐ともなれば、王都にある一流のレストランにも引けを取らなかった。ステーキ用の肉も高価な部分だけを使用していて、実に美味しい。 最近、食事の好みもかなり変化していた。前はミディアムとウェルダンの中間あたりが好みだったのに、今は血の滴るようなブルーレアがたまらない。それはガリア産の高級食肉牛においてだけではなく、人間に対しても言えた。 エルザは恐怖や絶望がスパイスになると言っていたが、たしかにその通りだとルイズは思う。苦痛なく一瞬で首を撥ねた物より、丹念に痛めつけた固体の方が美味に感じるのだ。エルザによって血抜きされた新鮮な食材には食指が動く。 しかし、痛めつければ誰でもいいという事は無かった。狩猟と隠蔽の容易さから真っ先に試したのはスラムにいた少女だったのだが、肉質はパサパサしている上に味も薄く、決して美味とは言えなかった。 食べている物の良し悪し以前の問題だろう。あそこの住民はどいつこもこいつも痩せていて貧相だし、脂身が少なすぎるのはそれが原因と思われた。 その点、5つほど席を挟んだところに座っている少年などはほどよく肥えていて食べ応えがありそうである。魔法をつかえる固体はそれだけで貴重だ。 魔力の籠もっている貴族のハツに塩コショウをふって、直火で焼いたら美味しそうだった。素材本来の味を引き出すというのだろうか? 冷やした脳みそのシャーベットも捨てがたい。ルイズは口中に唾が沸くことを感じながらワインに手を伸ばした。 「ん……」 グラスを満たしていた緋色の液体を飲み干ほすと、脇から瀟洒なメイド服に身を包んだエルザがワインを継ぎ足す。その姿はぎこちない部分も無く、かなり様になっていた。 これでも最初はおっかなびっくりだったが、よき教師兼餌であったシエスタに仕込まれ、少女は一端のメイドに昇華していた。エリートといっても差し支えないここのメイドに馴染めている。 また根が器用な性格らしく、料理の腕でもメキメキと頭角を現していた。腕のいいマルトー料理長の下で修行を積んでいるだけあって、将来は彼の後を継ぐことも可能ではないか、などとメイドらから持て囃されているようだった。 個人の侍女を持つことに傲慢な貴族のガキどもは文句があるようだが、学院長はルイズの駒である。教師たちを操って反感を黙らせ、それでも騒ぐ者には鼻薬を嗅がせるか、後ろ暗い部分で脅して黙らせた。 「エルザ、片付けておいて」 人間と言う至高の味を知ったルイズはこの食事でも満足せず、贅を尽くした食事の大半を残して席を立った。 そもそも量自体が子供に食べきれるほど少なくないのだ。テーブルに並ぶのはどれも一流に近い食品だというのに、飽食の極みである。 毎回のように出る残飯を王都のスラム街にでも供給すれば餓死する人間は激減するだろう。しかし実際にそのような慈善事業の姿は無く、ただ捨てられて腐るばかり。 それどころかここのコックさえ、味見以外で大っぴらに口にする事は許されず、彼らが賄を作るために別の食材を仕入れる事すらあった。 だが、これは異常ではない。ごく自然なことなのだ。おおよそどこの施設でも似たような事が起きている。これを問題だと思う貴族は居ない。異を唱える平民は左遷されるか静粛される。この世界は貴族の楽園であり、平民のための世界ではないのだから。 校舎を出たルイズは手近な広場へと足を向けた。草原の上に立って首を傾けてみれば、確かに宝物庫の壁には大穴が開いている。 持ち出しが可能で有用な物は根こそぎ奪った後であったし、ルイズの急所とも言うべき悟りの書は全て暗記して燃やした後だ。ガラクタ置き場に用は無い。ネズミが這いまわろうが関係ない。 エルザに命じて、無駄に大事に必要は無いと釘を刺すべきだろうか。かつて目を背けていた数々の邪法は、まだ試した事さえなかった。表側の魔法さえまだ完璧ではなく、それ故ルイズはトラブルを躊躇している。 しばらく思案したが、老獪なグールはルイズが考えるよりよほど上手く問題を捌けるだろうという結論に至った。大まかな意思はエルザに伝えてあるので、自分が頭を悩ます類の物ではない。今は腕を磨くことだけ考えれ居ればいいだろう。 襲撃を瑣末事として切捨て、ルイズは杖を振って空を駆けた。昨日降った雨が残っているのか、多分に含まれた湿気で空気が重い。空は黒い残滓に埋められているが、その隙間から覗く光が何故だか気に入らなかった。 舌打ちし、眼下の森を見下ろす。暇つぶしに生き物を片端から殺して回っているのが不味かったようで、リス一匹気配を感じなかった。不機嫌に眉をひそめる。 自業自得とはいえ面倒だ。人間なら学院にいくらでも居るが、事後処理の煩雑さを考えると使いたくない。これだけ人間が蔓延っているのだから、たかが子供の一人や二人、殺したところで構わないと思うのだが。まったく持って煩わしい。 ルイズは不機嫌に顔を顰め、文字通りの意味での実験動物を探して視線を走らせる。可能なら諜報に適した小動物か、機動力に優れる鳥類が好ましい。 今回試そうと思っているのは、死体を魔物として蘇らせる邪法だった。熟練すればより高度な術式を用いて、完全な無機物にさえ命を与える事が出来るという。新鮮な死体を材料にアンデッドを作るのは、その初歩の初歩の初歩である。 基本的には吸血鬼が作るグールと大差ないが、今のルイズが作れる物では、おそらくその劣化コピーがいい所だ。損傷しても自力では治癒しないし、下手をすれば勝手に肉が腐ってスケルトンになる。大魔王が聞いて呆れる惨状だった。 「……狐か」 四半刻ほど森を探し回ったところで、体長約40サントほどの狐を発見した。ルイズはそれを初の獲物とするか決めかねる。 狐は野生動物としてのすばしっこさと発達した聴力を持つが、それだけである。狼のような戦闘能力はないし、ネズミのような潜入能力も無い。鳥のように空を飛ぶことも出来ない。 しかしながら他に試すべき動物の姿も無かったので、ルイズは仕方なくその狐を選んだ。こういう時にヴィンダールヴのルーンは便利だ。 感覚的に動物の位置や種類が把握できたり、知能の低い対象なら容易に洗脳できたりする。惜しむべきは、他者の使い魔の支配権を奪うには至らなかった事か。 シルフィードのような高度な知能を持つ個体だけではなく、カエルやフクロウに至るまで、ある程度の好感を植えつける程度にとどまっていた。 ルイズは枝を避けながら森の中に降下し、棒立ちになっている狐へ接近する。長らく使い魔だと胸を張って紹介できるような傀儡が居なかっただけあって、予想していたより緊張した。 まずは素体の息の根を止める必要がある。大きすぎる外傷を作っては差し支えるので、出来る限りスマートに殺さねばならない。小指より更に細い氷の針を作り、狐の小さな心臓を打ち抜いた。細い悲鳴が漏れる。 膝を着いて狐に手を当てると、まだ暖かい体温を感じた。目を閉じて、深い淀の中に沈んだ記憶を呼び起こす事に専念する。掌に魔力を集中させる。ハルキゲニアで使用されている言語とはまったく異なる呪文がルイズの口から紡がれる。 黒い光を発する六芒星から光を飲み込む漆黒の霧が立ち上り、穴の開いた狐の心臓へと飲み込まれていった。 「ギギ、ギギギィィィィ!!!」 磨り潰すような甲高い悲鳴。初めての工程だが、誰かに聞かなくとも分かる。見事に失敗だった。 ルイズは唇を尖らせ、貧弱すぎた実験材料を一瞥した。術そのものには問題なかったのだが、注ぎ込む力の調節を間違えたようだ。あまりにも多くを与えられた狐は、赤黒く膨れ上がった肉の塊になっていた。 風船のように膨れ上がった胴体からは、手足の端末と鼻先と尻尾だけが覗いている。生物ならばとうの昔に動きを止めているはずが、異常な生命力を見せる狐の残骸はどうにかして立ち上がろうと空を掻いていた。 無様だ。自分の使い魔には相応しくない。 自ら作り出した造物だというのに、ルイズはそれを躊躇い無く踏み潰した。軽くため息を吐き、血で汚れてしまった靴底を大地に擦り付ける。 ちょいと失敗してしまったが、次こそ成功させればよい。 ルイズは再び杖を振り、雲の消えた青空へと飛び立った。 キュルケは苛立ちを隠さず腕を組み、ほぼ無人の食堂で桃色髪の少女を待ち構えていた。 横目で入り口を見やる。まだルイズはこない。柄でもない緊張が胃を焼く。 フーケ騒ぎのおかげで授業がご破算になった今こそ、ルイズを捕まえるチャンスなのである。今までも会おう会おうとは思っていたが、心のどこかで逃げてしまっていた。この機会を逸したら、きっと永遠に向き合うことは出来ないだろう。 後悔と練習だけは十分過ぎるほどやった。今ならルイズを前にしても、嫌みったらしい口調になってしまう事は無いはずだった。 腕を解いて胸に手を当て、大丈夫、大丈夫、と自己暗示をかける。嫌な冷や汗が背中を伝っていった。 ルイズは他の生徒と共有する時間を短縮するため、可能な限り素早く食事を取る。つまり、いつ通路からルイズが出てきてもおかしくない。 心の準備のために通路を見通せる位置に立ちたくとも、そうなると逃げられるかもしれなかった。キュルケは食堂の壁に背中を預け、苦渋になりかけた表情を無理やり戻す。 前にも一度、謝罪はした。しかし許しは得られていない。許されたいと思うことさえ傲慢だ。自分に出来るのは、ただ地に額を擦る事だけ。 ルイズはどうなった? あの意地っ張りで、怒りんぼで、無力なのに誰よりも強く、そして優しかった少女は。 顔を会わせないからこそ、遠くから見つめるしか出来なかったからこそ、キュルケはルイズの異常を敏感に察知していた。 以前のルイズなら、殊更強調しようとはしなくとも、手に入れた魔法を手放しで喜ぶだろう。 以前のルイズなら、美しい鳶色の目を輝かせながら授業にのめり込むだろう。 以前のルイズなら、あんな死人のように悲しい目はしない。 以前のルイズなら、……。 渦を巻くような自己嫌悪に、キュルケは強く目頭を押さえつけた。吐き気と胃痛が酷い。この期に及んで救いを求める浅はかさに辟易する。 何故私だけがこんな苦しい思いをしなければならないのだ。ルイズを貶めていたのは私だけではない。むしろ悪意しかなかった分、今でさえ笑い続けているクラスメイトたちのほうが……。 流されかけて、キュルケは己の頬を強く打った。今はそんな事を考えている場合ではないのだ。またもや逃げ出そうとしている自分を戒める。 「あ、る、ルイズ……!」 顔を上げた瞬間に食堂に入ってきた少女を見て、キュルケは慌てて壁から体を離した。喉の奥が乾いて張り付くのを感じる。 「……なに、キュルケ」 光を失った瞳が此方を捉えた。その惨状と自らの罪を食み、幾度と無くシミュレーションした言葉が喉につかえた。 言いよどんでしまったのを隠すために歩み寄ろうとすると、ルイズは渋い顔をして後退する。傷ついたキュルケは足を止めた。やはり嫌われていたらしい。 「あ、あの……」 搾り出したそれは、キュルケを知る者が聞けば心臓麻痺を起こすほど、あまりに弱弱しい言葉だった。 キュルケは自分でも似合わないと思っているが、あれほど練習したのに声が音にしかならない。自分の無能さに呻く。 私は何を言えばいいのだろうか。重圧から開放されたいという身勝手で、またルイズを傷つけてはしまわないか。そんな思いが喉を塞ぐ。 「悪いけど」 キュルケが葛藤を整理するより早く、ルイズが口を開いた。キュルケが知っているルイズとは真逆の、ゾッとするほど落ち着いた音色で。 彼女は変わってしまった。私が変えてしまった。時計の針を戻すには、どうすればいいのだろうか。 「あまり近寄らないで欲しいの。キュルケは……。貴方まで、巻き込み……」 予想はしていたが、実際に耳にすると大違いだ。拒絶の言葉に心臓が飛び跳ねる。鼓動に耳を閉ざされ、ルイズの言葉が聞こえない。 動けないキュルケを尻目に、ルイズは用件は終わったとばかりに踵を返して歩き去ってしまった。彼女は何が言いたかったのだろうか。 出来るならやり直したかった。あの頃のように、ライバルといえる関係に戻りたかった。 私は、何を行えばいいのだろうか。 「ルイズ……!」 届かない呟きは、誰の耳にも入ることなく霧散していった。 前ページ次ページ虚無の闇
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前ページ次ページゼロのイチコ 「うぎぎぎぎ・・・たぁ!」 気合の入った声と共に、剣先が握りこぶし一個分ぐらい浮いた。 そして重力に引っ張られて剣が落ちる、その勢いでイチコが地面に埋まった。 学院の中庭に剣を握った手が生えている。 シュールだ。 一旦剣を離すとイチコがヨロヨロと地面から浮き出てくる。 「やりました、ご主人様! ちょっとだけ浮きました」 「振れるようになるまで何年かかるのよ」 ため息が出る。剣を買ったのは無駄な出費だっただろうか? まだ買ってから一日だから分からないが、そもそも剣を振り回す筋力がない。 幽霊とは鍛えれば筋力は上がるんだろうか。 一般的に強力なゴーストやスプライトはその想いの力によって力も変わると言う。 それが憎しみでも愛情でもなんでも構わない。 彼女の場合は『お姉さま』に再び会いたいがために幽霊をやっているわけだ。 しかし、落ち着きの無い彼女を見るとそう強力な想いを募らせてそうには見えない。 思い込んだら一直線な節はあるけれど。 「もうそろそろ授業なんだけど」 「あ、すいません。もうちょっとで出来そうなので練習してても良いでしょうか?」 「いいけど、学院の外にでるんじゃないわよ」 「はい!」 本人はコツを掴んだと思っているようだが、あれはまだまだ先が長そうだ。 午後はコルベール先生の授業だった。 相変わらず話が少々脱線する事が多い、しかもその話を興味ありそうに聞いてる生徒は一人も居ない。 私もその一人で、何か必死に語りだしたコルベール先生の話を右から左に受け流していた。 ふと考えるのは使い魔のイチコの事。 お姉さまと再び会いたいというだけで幽霊になった女の子。 そんなに何度も話を聞いたわけじゃないけど、彼女がどれだけお姉さまを好きだったかはなんとなく分かる。 すぐにとは言えないが。まあそれなりに使い魔として仕事をすればお姉さまを探してやっても良いかもしれない。 ドジは多いけれど基本的に上下関係を理解して尽くそうとしてくれている。 ちゃんと働くものにはちゃんとした褒美を与えないといけない。 今のところ先日のイタズラでマイナス評価なのだけど。 探すと言えば、彼女がどこの国の出身なのか聞いたことが無かった。 顔つきが大分違うし、かなり遠い国なのかもしれない。 確か「セイオウジョ学院」と言っていただろうか。トリステインにある学院ならさほど時間は掛からないと思うのだが。 もし東方だとするならかなり無理がある、そうで無いことを祈ろう。 しかし、そのお姉さまに会ったとたんに成仏してしまわないだろうか。 イロイロと考えた。 わたし、高島一子はただいま猛特訓中です。 というのも昨日ご主人様から剣を頂いたからです。 どうも使い魔というのはイザと言う時はご主人様を守らなければならないらしいです。 確かに、フレイムさんやシルフィードさんを見ると私ってば頼りないなぁとは思います。 しかし、私には他の方々には無い二足歩行、武器を握れる手があります! いえ、歩けませんけど…… ともかく、その利点を十分に活かしていきたいと考える次第です! 「たぁ!」 掛け声一閃、剣先が地面からこぶし二つ分ぐらい浮き上がりました。 「デルフさん、今けっこう浮きませんでした?!」 「ぉお、最高記録の二倍はいったな」 「大分感覚が分かってきました」 剣を振ると言うと、腰を落として重心を低くして。とかイロイロあると思われます。 しかし私は重心がありません。いやあるにはあるのですが地面に対して踏ん張ることが出来ません。 ですから宙に浮こうとする力と剣を振り上げるタイミングでなんとか持ち上げるわけです。 そして、こう見えても幽霊ですから疲れたりはしないんです。 「はぁ、はぁ……」 「相棒、休憩にしたらどうだ?」 と思ってたんですけど結構疲労します。それに夜になると眠くなります。 私って本当に幽霊なのでしょうか? 火の玉も飛ばせませんし、ラップ音も鳴らせません。幽霊としてのアイデンティティーが揺らぎそうです。 デルフさんを芝の上に横たえると、私は手足を投げ出しました。 「デルフさん、何か良いアドバイスは無いですか?」 「ねぇなあ。なんせ俺も幽霊を相棒にするのは初めてだからよ」 「ですよねぇ」 一応上達はしてる、と思いたいです。 小休止し、再びデルフさんを持ち上げようと手を伸ばしました。 すると人影が見えたので顔を上げると、そこにメガネをかけた女性の方が立っていました。 「こんにちは」 とニッコリ微笑まれました。長い髪をした綺麗な方です。 「ごきげんよう、どうかされました?」 「あなたが噂の幽霊の使い魔さん、よね?」 「はい、高島一子……ではなく、イチコ・タカシマと言います」 「私はロングビル。ここの学院長の秘書をやらせてもらってるわ」 さすが秘書の方というか、とても上品な物腰です。笑顔もとても穏やかですし。こういうのが本当の淑女という方なのでしょう。 よく暴走してしまう私としては見習いたいと思います。 「それで、ご用件は?」 と聞くとロングビルさんは少し顔を曇らせてこう言いました。 「実は、少し頼みたいことがあってね。少し時間をいただけるかしら?」 「構いませんけど、どうしたんです?」 「ちょっと付いてきて貰えるかしら」 そう言って建物のほうへと歩いていきます。 私は慌ててデルフさんを持ち上げ、地面に突き刺しました。 「すいませんデルフさん、ちょっと待ってて貰えます?」 「ぉう、早くしてくれよ。あんまりなげぇと錆びちまう」 途中何人かの先生方とすれ違い、挨拶しつつ私たちは薄暗い塔へと入りました。 そこは入ったらいきなり右方向に折れて螺旋階段が続いています。 わたしはその後ろをふわふわと浮きながら付いていきました。 そこは窓も無く明かりもロングビルさんが出した灯りの魔法だけが頼りでした。 その灯りも蛍光灯のような明るさは無く、ふらふらと揺れるランタンのよう。怖い雰囲気が出ています。 こんな所で幽霊でも出たら思わず叫んでしまいそうです。 「付いたわ」 と階段の先にあったのは大きな鉄扉。 大きな魔方陣が描かれています。 「実はね、私はこの宝物庫の管理を任されているのだけれど……」 ロングビルさんの話によると鍵のような物を紛失してしまい、一度魔法を解いて鍵を掛けなおさないと防犯上危ない。 だけど予備の鍵も無いため困っていた。 しかし中に入って内側にどんな文字が書かれているかさえ分かれば熟練の魔法使いになら簡単に開けることができる。 それで私の壁抜けで中に入って文字を教えて欲しいという事だそうです。 「なるほど、分かりました」 「文字は分かる?」 「いえ、その……ごめんなさい」 この世界は私の住んでいた世界とはまるで違う文字が使われている。 もしかしたら何処かの国の文字かもしれないけど私には分からなかった。 「いいのよ、それじゃあ意味が分からなくても良いから丸暗記してきて」 「はい、いってきます」 もしかしたら魔法ですり抜けられないんじゃないかと思いましたが。 案外あっさりと抜けることが出来ました、ご主人様の話では私のような幽霊が他にも居るという事ですが、防犯上大丈夫なのでしょうか。 使役できる魔法使いがほとんど居ないとか? 部屋の中は薄暗い、字は読めないけど足元が分かる程度の照明で照らされていました。 宝物庫の中は金銀財宝、と思ってましたが兜や鎧や剣、杖に書物がほとんどで指輪などもありましたが宝石類が多いというわけではありませんでした。 表面に複雑な文字が書かれているものが多いので何かの魔法が掛かっているのだと思います。 魔方陣はドアの裏側に書かれており、外と同じ円陣なのですがかなりの量の文字が書き込まれていました。薄暗い部屋なので文字がよく見えません。 四苦八苦しながらギリギリの光源で文字を凝視し、覚えて、外で言葉と空書きで中に書かれている魔方陣を伝える、そしてまた中に入る。これを繰り返しました。 文字が多くて何十往復もする事になってしまいましたけど。 時間が結構たってしまいましたがデルフさんは大丈夫でしょうか? 「これで間違い無い?」 「はい、こんな感じだったと思います」 最後の確認を二回ほどして、いよいよ開錠になりました。 ロングビルさんが杖を振り私には意味がわからない呪文を唱えます。するとドアからカチリと音がして音も無くドアが開きました。 「ありがとう、助かったわ」 「いえいえ、どういたしまして」 苦労したけど無事に開くことが出来て良かった。 もし私が魔方陣の文字を間違って爆発でも起こしたらどうしようかと思ってました。 「今はちょっとお礼になるものを持ってないのだけど、また後でお礼に伺うわね」 「いえいえ、本当に気にしないで下さい。そんな大したことはしてないので」 「奥ゆかしいのね」 と微笑まれた。私もとっさに微笑み返した。ちょっと顔がぎこちなかった気もします。 淑女の道は果てしなく遠いです。 「それでは、デルフさんを待たせているので失礼します」 「ぇえ、本当にありがとう」 そう言ってロングビルさんと別れた。帰り道は建物の壁を突き抜けて一直線で戻りました。 次の日、宝物庫から破壊の杖が盗まれた事が判り。 犯人は生徒やメイドの証言により学院長の書記、ミス・ロングビルであることが判明した。 前ページ次ページゼロのイチコ
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前ページ次ページ虚無を担う女、文珠を使う男 第8珠 ~文珠使いの1週間~ 「ヨコシマ。ちょっとあんたに聞きたい事があるんだけど」 夕食を済ませた後、特にやる事もなく藁布団の上でごろごろしていた横島だったが、その声でルイズの方に注意を向けた。 何でも、文珠で病気の治療は出来るかどうか知りたいらしい。 ダメな事もないんじゃねーのか、と思っていた横島だったが、いざ具体例を思い出そうとして、その考えが全然根拠の無いものだったと気付く。 過去に数度は厄介な病気の現場に立ち会ったが、文珠で解決した覚えがさっぱりなかったのだ。 仕方がないので、当たり障りのない返答をする横島。 「病気? 試した事ないからなー 分からん。 でも何でだ? 病気なんか魔法でちょちょいのちょいじゃねーのか?」 「魔法はあんたが思ってるほど万能ってわけじゃないのよ。残念だけど。 そういう意味じゃ、その文珠の方がずっとすごいアイテムよ。 まぁ三日に一回、ほんの少しの間しか魔法が使えないって考えると、あんたはドット以下って事になるけどね」 「そりゃ確かに俺は文珠が無きゃほとんど何にも出来ないけどさ、わざわざそんな事言わなくてもいいじゃねーか」 「ち、ちょっと不思議な力持ってるからって調子に乗らないように、気をつけてあげてるのよ! 文句ある!?」 高飛車なルイズのオーラに、意思に関係なく土下座の姿勢になって「すんません」を連呼する横島の体。 それに満足したのか、ルイズは話を再開する。 「…それで話は戻すけど、病人に使ったら逆に危ないとかそういう事はないわよね?」 「効果が無い事はあっても、危ないなんて事はさすがにねーと思うぞ」 「それなら安心ね。今度の文珠、病気の治療に試してみるから」 一瞬、横島は何を言われたのかを理解できなかった。文珠は、かなり貴重な物である上に、彼自身の命を護る切り札だ。 そんな文珠を、まるでデパートの試食品をつまむかのような気軽さで取りあげるなんて、そんなまさか… 思わずもう一度聞き返したのだが、残念ながら返ってくる返事は同じだった。 見ず知らずの奴の為になんだって貴重な(特に今は手持ちが0だ)文珠を使わにゃならんのだ、と言い返す横島だったが… 「あんたは使い魔なんだから、つべこべ言わずに私の言う事を聞いてればいいの!」と、ある意味で懐かしい感じがする台詞が返ってくる。 だが、彼の上司である、色気たっぷりな美神さんに言われるのとは訳が違う。 「そ、そんな事言うと使い魔なんてやめちまうぞ! こんな事やらんでも、文珠1個売れば一生暮らしていけるくらいの金には困んねーんだからな!」 「何バカな事言ってるのよ。あんたの力は無闇やたらに公表したらまずいって言われたばっかりじゃない」 横島の作り出す文珠は、使い方によっては億単位の価値があるアイテムと同様の働きをする。そんな事をいくら言ってみてもダメだった。 悲しいので、「どうせなら、キュルケさんやロングビルさんの使い魔になれれば良かった」とぼやく横島だったが… それは、延々とルイズの実家・ヴァリエール家と、キュルケの実家・ツェルプストー家の因縁を聞かされる羽目になっただけだった。 (ふーん。美神さんとエミさんの関係、みたいに思っておけば間違い無さそうだな。 だけどなー エミさんみたいにええチチしてるキュルケさんがライバルなら、美神 さんポジションのルイズちゃんだってもってこう、ボンキュッボンってなっててもいいと思うんだけどなー) 「というわけで、キュルケはだめ。禁止」 (で、フレイムはさしずめタイガーの役どころっと。 虎じゃなくてトカゲだけど。 そういや、あいつここ最近は「出番無くて悲しいんじゃー」 とか言ってたが… 元気にやってっかなー) まぁ、こんな感じで全然真面目に聞いちゃいなかったわけだが。 「分かった? そう言うわけで、あんたが文珠作ったら… それを病気の治療に使えるようにして頂戴。 私の使い魔が生み出す、珍しい水の秘薬って事にして送るから」 話はいつの間にか再び元に戻っていて、横島もいい加減面倒になったので了承した。 そして翌日。 いつものように横島が目を覚まし、ルイズを起こそうとするが… 「今日は虚無の曜日だからお休みなの~ あんたもまだ寝てていいわよ~」 それならそうと昨日のうちに言っておけ、と思った横島だったが、これはこれで好都合。 ちょっと朝の散歩に、なんて似合わない事を言っても、寝ぼけているルイズは特に気にせず許可を出す。 「ふっふっふ。好機、今こそ来たりっ! 待ってて下さい、ロングビルさーん!!」 心の底から叫びながら横島はルイズの部屋を飛び出した。 そんな叫びを聞くは、休日でも規則正しい生活を心がけている数名の女生徒達。 ルイズが呼び出したのは、平民は平民でも変態の平民である事が、こうやって徐々に広まっていくのであった。 横島は、どこから準備したのかほっかむりをして顔を隠しつつ、一心不乱にロングビルの部屋を目指していた。 そのカサカサという擬音が聞こえそうな姿は、どこからどう見ても立派な変態だ。 ところが… そんな変態へ声をかける猛者がいた。 「むむ! そこにいるは、ヨコシマ君じゃな!?」 何を隠そう、学院一のエロじじい、オールド・オスマンだ。 彼はロングビルのいる部屋へ向って飛んでいる最中に、頭に頭巾のようなものを被っている横島を見つけたのだった。 「お主、こんな所で何をやっておるんじゃ?」 オスマンが疑問に思ったのも仕方が無い。彼がいるのは、ロングビルの部屋を窓から覗ける位置。つまり建物の外側というわけだ。 そんな彼に見つかった横島も、当然建物の外側にいる。しかもロングビルの部屋は1階にあるわけではない。 どういう事かというと… 彼は、垂直な壁をまるでごきぶりのように4本の手足を使ってよじのぼっていたのだ!! 万が一手をすべらしたら良くて大怪我、運悪く頭でも打てばそれどころでは済まない…のだが。 「またまたー オスマンの爺さんだって俺と同じっしょ? 今日は休日なんすよね? もしかしたら、まだベッドの中でお休み中のロングビルさんに会えるかも知れないじゃないっすか」 なんとこの男、ロングビルの寝姿(+α)を見たいが為だけに、命を懸けている! オスマンだって、毎度毎度ロングビルから折檻される事を覚悟して尻をなでまわしているわけだが… それとこれとは全く意味合いが違う。 オスマンの場合、カーテンが閉まってたり、ロングビルがすでに起床していたとしても、ただそのまま残念に思うだけだ。 しかし横島の場合、そのようになーんの成果も得る事が出来なかったとしても、落っこちる危険性が無くなるわけではない。 いや、そもそも目的地へたどり着くより前に落ちる事だってありうる。 そんな状況なのに、「ちょっと散歩に来ました」のような軽いノリで自らの目的を述べる横島に… オスマンは、正直感服した。 長いこと生きてきたが、ここまで自分の欲望に忠実な奴はいただろうか、いやいない。 「ヨコシマ君よ。ワシは今、猛烈に感動しておる! 長年君のような人材を探しておったのじゃ。 どうじゃね、ワシと一緒にミス・ロングビル同好会を…」 夢にまでみた同好の士に、思わず熱が入るオスマン。 コルベールも同好と言えなくはないのだが、いかんせん彼はくそ真面目すぎる。 それに比べて、横島は放って置くと目的と手段が入れ替わってしまうような、そんなバカらしさにあふれている。実にいい。 だが、オスマンは重要な事を忘れていた。 考えるまでもないことだが、ここはすでにロングビルの部屋を窓から見れる位置。 そんなところで、特に注意もせずにしゃべっていたりでもすれば… 「学院長、また覗きに来たんですか? あれほどやめて下さいと… それにヨコシマさん、そんな所にいたら危ないですわよ?」 とっくに着替えていたロングビルが、窓を開け放して二人にあきれたように声をかける。 「ああ、ロングビルさん、いつ見ても綺麗っすね!! ところで、今日はお休みなんすよね!? 二人でどこかに行きませんか!?」 「ほっほっほ。ミス・ロングビルや。ワシはたった今、このヨコシマ君と二人でミス・ロングビル同好会を立ち上げたのじゃ。 その名誉会長のワシにキスをしてくれても構わんぞ。 ほれほれ、どうした、やらんのか?」 「…はいはい、いつまでもバカな事を言ってないで、朝食を食べに行きますわよ」 やれやれ、といった顔のロングビル。 その後、三人は朝食を取り(横島は学院長の計らいで、特別に一緒に食べられる事となった)、その席で大いに親交を深めたのだった。 (実際は、横島とオスマンがセクハラ魔人となる中、ロングビルが適当にあしらいつつ文珠の情報を引き出したり、横島を軽く誑かそうとしていたのだったが) それぞれにとって楽しい、または意味のある長時間の朝食会が終わった後、虚無の曜日とは言え仕事が残っているという二人と別れた横島は、ルイズの部屋へと戻っていた。 「あんたねー 一体どこまで散歩に行ってたのよ!? もうこんな時間じゃない」 「もうこんな時間っつったって、まだ昼前じゃねーか。無断でいなくなったわけじゃねーのに、なんで怒ってんだよ」 「本当は今日、あんたを街まで連れて行ってあげようと思ってたのよ。 この時間だと、帰りが夜遅くになっちゃいそうだからダメだけど」 「街? なんだ、街には何か面白いもんでもあんのか? 言っとくけど、俺金なんか持ってねーかんな? 金のかかる遊びなんか出来ねーぞ」 「あんた、たまにはちょっと考えて物言いなさいよ。 いい、あんたが力を使うと、使った分だけ文珠を作るペースが落ちるんでしょ?」 「まあな。どっちも俺の霊力を元にしてるのは一緒だし」 「それで、私は出来るだけ早く文珠が欲しいのよ。 だからあんたが余計な力を使わなくてもいいように、剣を買ってあげようと思ったの。分かった?」 「言いたい事は分かった。非常に良く分かった。 でもなー 俺、剣なんか買ってもらっても多分うまく使えないんじゃねーかなー? 俺のハンズ・オブ・グローリーは、ある程度俺の自由な形になるっていうのがミソなんだから」 「何言ってるのよ? 正直、文珠がレアすぎて忘れがちになるけど、あんたにはもう一つ、使い魔の能力があるじゃない。 普段は普通の剣を使って、どうしてもダメだって時以外は力を使うのは止める事。 それに剣を持っていれば、あんたみたいな平民が私のような名門貴族の側にいても、護衛だって言えば面倒な説明をしなくてもすむしね」 ここまで説明されて、ようやく事の次第を理解した横島。 いざ街に行くと決まれば、次はそこがどんな街なのかが気になるのも道理で… そのまま、ルイズ先生によるトリステイン講座が始まったのだが… 「あんたは私がわざわざ説明してあげてるのに、どうして寝てるのよー!!」 「しゃーないやんか、何か聞いてると眠くなるんやー」 「あんた、やっぱり不思議な力があるからって調子に乗ってるんじゃないの? 普通貴族相手にそんな態度とったら、下手すれば打ち首だってこの間言ったばっかりじゃない!!」 「そんな事ねーよ。霊能力つける前から俺はこんなだしなー」 「何それ、本当? あんたの国って一体どうなってるのよ。良くそれでやっていけるわね」 「俺の国? こことはもうまるっきり正反対って言ってもいいぞ。 魔法使いやら貴族やらはかなり少ない、というかむしろ魔法使いなんて国中探しても数名いるかいないかじゃねーか? 代わりに、と言えるほど多いわけじゃねーけど、俺みたいな霊能力者は数いるけどなー」 とまぁ、その内容はほとんど雑談のような物であったのだが、別に魔法を使わないとならないような場面もなく、ストライクゾーンからはハズレまくってるとは言え、美少女が相手だという事もあり、それなりに楽しい一日を過ごした両者であった。 それからの1週間は、瞬く間に過ぎて行く。 まず最初に記すべきは… ルイズの努力の甲斐むなしく、とうとうある授業の最中に、ゼロの渾名の由来が横島に知れてしまった事。 魔法の成功率ほぼゼロという不名誉な理由に、使い魔がバカにしてくるのではないかと不安になるルイズ。 そんな彼女に横島は… 「あー、この間、冥子ちゃんの事話した時に泣いてたのって、自分も上手く力が使えないからって事か」 初めてみたご主人様の失態だというのに、手馴れているように周囲の掃除をしながら、何でもないように声をかけていた。 実際のところ、ちょっと感情を高ぶらせるだけで、家一軒ダメにしてしまう暴走娘が知り合いにいるのだ。 その被害を受けたことも一度や二度ではない横島にとってみれば、部屋が半壊する程度の事はそれほど驚く事でも無かった。 「まぁ俺の知り合いには、ふとしたきっかけで今まで上手く使いこなせていなかった力をコントロールするようになった奴もいるし、そのうち何とかなるんじゃねーかな。 俺も何か出来る事があれば手伝ってやるし。 …でも冥子ちゃんは今でも結構暴走させてるんだよなー」 「なんであんたは最後に不安になるような事言うのよ、ばかー」 なんて事があり… 次に記すべき事は、ロングビルの横島へ向けたアプローチだろう。 毎日というわけではないが、ロングビルと食事をとっている横島の姿が、数度ほど目撃されている。 ルイズにしてみれば、キュルケに誑かされるよりははるかにマシ、一応自分の言う事も聞いているし、ロングビルが今は平民であるという話も横島から聞きだしたため、黙認をしているそうだ。 また、クラスを偽っている理由について聞いてみたい横島ではあったが、その度に上手くはぐらかされてしまい、未だに聞き出すには至っていない。 そして最後になったが、やはり文珠による病気の治療について述べなければなるまい。 横島には言ってないが、ルイズが治したいと思っている人物は、ヴァリエール家の次女、つまり彼女の姉であった。その名を、カトレアと言うのだが… 【治】の文珠を早馬にて送った際、カトレア宛てにだけは、本当の事を書いて手紙をしたためていた。 自分の使い魔が人間である、という事は、到底信じてもらえそうにない事であったが… 魔法が使えなくて、いつも家族から叱られていた自分の、ただ一人の味方だったカトレアにだけは、嘘をつきたくなかったのだ。 その結果は、翌日の夜に伝書フクロウにて戻ってきた。 うさんくさいと言う両親の反対を押し切って、カトレアは文珠を使い… 結果、数時間ほどの間だけであったが身体の調子が今までに無いほど回復したそうだ。 その後、残念ながら体調は元に戻ってしまい、治療という意味ではさほど前進しなかったのだが… 急な発作が起きた場合の一時しのぎに使える為、数個ほどさらに送って欲しいと言う事。 そして、その使い魔と同種の生物を探す為に… エレオノールを魔法学院に向わせる、という事が記されていた。 「ま、まずい事になったわ…」 エレオノール、つまりヴァリエール家長女であり、アカデミーに勤めているルイズの姉であるが… アカデミーというのは、先日注意されたばかりの、「何をしでかすか分からない組織」の一つである。 どう考えたってまずい。 来訪の予定は未定との事だが、近日中にやってくる事は間違いないだろう。 ある意味で自業自得なのだが、ルイズはこの件でここ2・3日の間、ずっと頭を悩ませ続けていたのだった。 前ページ次ページ虚無を担う女、文珠を使う男
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ルイズ「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 ドカーン! ルイズ「やった、成功したわ!」 抜作「いきなり尻見せ!」 ルイズ「みせるなぁ!」ドカーン! 抜作はルイズに吹っ飛ばされました。 翌日・・・ 抜作「それでは授業を始めまーす」 ルイズ「なんでアンタが先生をやってんのよ!」 抜作「うるさい、文庫小説で深夜アニメのくせに。こっちは週刊誌連載でフジの土曜ゴールデンタイム放送だぞ!」 ルイズ「ワケ分かんない事言ってんじゃ無いわよ!」 抜作「では授業を続けます」 ルイズ「聞きなさいよ!」 抜作「練金のお手本をみせるので後でみなさんにもやって貰います」 むむむむむむ・・・・パァーン! 抜作の頭が爆発しました。 抜作「では、ルイズさん、やってみて下さい」 ルイズ「出来るかぁ!」 予告状 魔法学院様へ 今夜、宝物庫にある不老長寿の巻物を 盗みに参上します。 怪盗とんちんかん オスマン「おのれ、怪盗とんちんかんめ!」 コルベール「ノリノリですな」 オスマン「そうでも無いわい。えらく久々なセリフでけっこうドキドキだったんじゃぞ」 『あーはっはっはっは!』 オスマン「何者じゃ!」 『微熱のレッド!』 『風雪のシロン…』 『青銅のグリーン!』 『『『怪盗・とんちんかん、参上!』』』 抜作「そして私がリーダーです」 ルイズ「あっ、怪しい・・・」 オスマン「ええい、衛兵ども、とんちんかんを捕まえるのだ」 衛兵「「「わーっ」」」 ドカ、バキ、グシャ、 オスマン「ええい役立たずの衛兵どもめ、予定通りにやられおって!こうなればワシ自ら・・・はっ、アナタは!」 抜作「キミは!」 オスマン「先生!」 抜作「オスマン君!」 オスマン「いやぁ、懐かしいですねぇ先生、300年ぶりでしょうか・・・」 抜作「ところでオスマン君」 オスマン「はい、何でしょう先生。」 抜作「不老長寿の巻物を下さい」 オスマン「はい、どうぞ」 レッド「ね、リーダー、巻物にはなんて書いてあるの?」 シロン「・・・。」 『長生きの方法 死ななければよい』 グリーン「は?」 シロン「・・・。」 抜作「はっ、しまった。これは私が昔書いたものだった!」
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前ページ次ページゼロの視線 第一話 開幕 「よおおおおっしゃあ!」 毎度おなじみ世界の危機・・・・・・・もとい春の使い魔召喚の儀。 魔法成功率ゼロ、故に異名を「ゼロのルイズ」と呼ばれし少女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの 気合は拳を持って天を衝かんがごとくであった。 まさに「わが生涯に一片の悔い無し」な感じである。 「いや・・・・・その・・・・・・・・・いいのかね?ミス・ヴァリエール」 「何がです?」 コッパゲの問いに、拳を突き上げた姿勢のまま答える「ゼロのルイズ」 「彼は、確かに見た事も無い服装ではあるが杖も持たずマントも羽織っていない。 ぶっちゃけただの平民にしか見えないのだが」 そう、われらがルイズは、こともあろうに魔獣聖獣幻獣でもない、ただの獣ですらない 黒髪の平民を呼んでしまったのだ。 「ふっ 浅はかですね、コルベール先生。 彼をよく見てください・・・・・・・・・・・・美形です!」 「だからどおしたぁ!」 その場にいる全員からの壮烈なツッコミに怯む事無く説明を続けるルイズ。 「たとえ使用人であろうと、平民達は結局心の底では私達貴族に反抗をしているもの。 それが悪いとは申しません。 心の奥底まで縛り付けることなど愛し合う男女すら適わぬもの。 しかしわたしに使い魔として召喚されたこのハンサムは魂の奥底ですら私に従わずには居れないのです。 だから、例えば想像してみてください・・・・・・・ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 夜のバルコニーで、星空を見上げ寛ぐルイズ。 そんな彼女に、黒髪の使い魔が呼びかける。 「ルイズさま、ワインをお持ちしました」 使い魔を見ようともせずワインを受け取った彼女は、可愛らしい顔に嫌悪の表情を浮かべる。 「不味い 換えてきなさい」 「しかしこれは間違い無くルイズさまが「くどい!」 主が投げつけた杯が、使い魔の端正な顔を直撃する。 「わたしが換えて来いといったら換えてくるのよ」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー そしてこの美形は、額から血を流し、この美しい黒髪からワインをたらして歯を食いしばり しかしわたしに逆らおうと考える事すら出来ないのです・・・・・・・・・」 なにやらヤバげな表情を浮かべながら白昼夢を語る少女。 その場にいた女性陣の全てが、その風景を思い浮かべて一斉にぐびり、と生唾を飲み込む。 恋多き情熱の少女は勿論の事無表情な眼鏡少女すら、それは例外ではなかった。 「どうかされましたか、コルベール先生」 「いや・・・・・・・・この年になってもまだ抱き続けてきた『女の子への幻想』ってヤツが 木っ端微塵に粉砕されましてね・・・・・・ まあそれはどうでもいい、はやく『コントラクト・サーヴァント』を行いたまえ」 「合点承知!おっしゃあ!」 どこぞの三代目に匹敵しかねん見事なダイブをかましたルイズは、呪文を唱えながら口づけをおこなう。 「ぷはぁ」 豪快に口元をぬぐうルイズ。 親父臭さ全開だ。 (しかしこの男性は何者なのだろう) コルベールは考える。 (筋肉のつき方から、戦士であるのは間違い無い。おそらく戦い、殺す事が日常だっただろう。 なのに周囲でこれほど騒いでいながら目覚めない・・・・・・・・何かあるのか?) などと考えていると、その黒髪の男性の左手甲になにやら紋章のような物が浮かび上がる。 「ぐ・・・・うぅ・・・・・・・・・・ぐううううう」 気を失ったまま呻き、身をよじる「使い魔」 その、男でありながらなんとも色っぽい情景に再び「ぐびり」と生唾を飲み込む女性たち。 中には「ちがうんやー 俺は女の子が好きなんやー!」とのた打ち回るマリコルヌとかもいたりするのだが。 やがて『彼』がゆっくり目を開ける。 「ようやく目覚めたわね」 「ここは・・・・・・・・」 しばらく横臥したまま呆然としていた『彼』はやがてがばりと起き上がると慌てて周囲を見回す。 「ここは何処だ?そして朧は?」 「オボロって何よ?アンタはこのあたしが召喚したんだからね。 たった今からあたしに絶対の忠誠を誓いなさい! そういえばアンタ名前は?」 「わたしの名は・・・・・・弦之介。甲賀・・・・・・弦之介」 「とりすていん・・・・・・そしてさもん、さーばんと・・・だと?」 以前他所の忍が地面に面妖な模様を描いて呼び出した奇怪な獣と戦った経験があるので その辺は簡単に受け入れた。 「で、どうやったら帰れる?」 「帰れるわけ無いでしょ。送り返す魔法なんか無いんだから」 なんとも素晴らしい答えが返ってきた。 まあよかろう。 一族十人集悉く死に(幾人かは自らの朧への想いが殺したのだ)向こうに未練も戻るべき理由も存在しない。 そう考えて振り向いた弦之介は、己が目を疑った。 子供達が、一斉にそらを飛んでいるのだ。 「こ・・・・・・これは?」 「アンタ『フライ』も知らないの?心底田舎者ね」 ふらい?・・・・・・・南蛮の揚げ物料理の事か? いや手足も無く地を這う者や壁や地面に潜り込む者が居るのだ。 ならば空を飛ぶ術があっても普通だろう。 卍谷の面々や鍔隠れの者達を思い出す。 「で、るいずどのはふらいをせぬのか?」 「出来ないのよ・・・・・・あたしは『フライ』も『レビテーション』も何一つ出来ないのよ!」 その悲しみに満ちた声に、朧を思い出す。 (弦之介さま・・・・・・・・・わたくしは・・・・・鍔隠れ集の棟梁にあるべきはずなのに・・・・何も出来ませぬ) 「ならば出来る事をすればよい。出来る事が無いのなら出来る事を探せばよいのだ」 薄く笑った弦之介は、少女を背負う。 「な、何すんのよ」 「しっかりつかまっておれよ」 言うや否や、弦之介は走り出す。 空を飛ぶメイジはおろか馬より早く風を抜く。 「うわぁ、サラマンダーよりはやーい」 「・・・・・・さらまんだーとは何だ?」 「女の子が早い乗り物に乗った時はこう言わなきゃいけないの。 決まりよ決まり」 主となった(らしい)少女が寝具でふやふやと寝息を立てている。 あの後、この世界の幾つかの取り決めや常識を教わった。 ・・・・・・・・それがどの程度信用できるのかは疑問だが。 (しかし、まこと遠くへ来てしまったのだな) 夜空に、月が二つ浮いている。 甲賀を遠く離れれば星の並びも異なるのだと聞いた事があるが、まさか月すら異なるとは。 朧・・・・・・わたしはこのような所に来てしまった。 お前は・・・・・・あのまま死んだのか? はい、本当にここまでです 「奇怪な獣」云々は勝手に出しました なんていうか風太郎ワールドならそのくらいありえるのではないか、と思いまして 前ページ次ページゼロの視線
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前ページ次ページ無から来た使い魔 ルイズ達が町で買い物をしてから数週間がたった。 朝、バッツはいつもの日課として生徒達が起きてくる前にテントから出るとルイズを起こしに行く。そしてルイズをノックで起こした後、 二人で食堂に行き彼は彼女の給仕を務める。ルイズの給仕をする時に時々キュルケが彼に給仕を頼む事もあるが、 大抵はバッツは特に気にした様子を見せずにキュルケの給仕も勤めてしまう。 この時ルイズがキュルケの存在に気づかなければ、特に問題なく食事を終えるのだが、 キュルケの存在に気がついた場合は、バッツを叱りつつキュルケに食ってかかり、ちょっとした騒動になる。 その騒動は、ルイズがキュルケに言い包められ、悔しがった後バッツにもうキュルケの給仕をしないように注意して終わる。 もっとも、バッツは頼まれると断れないため、この注意にあまり意味は無い。彼女達の食事が終わると、バッツは厨房へ行きマルトー達と共に食事をする。 バッツが朝食を食べる頃には、ルイズたちの授業が始まるため、バッツは食事の後、2時間目の授業が始まるまでは薪割りやシエスタの手伝いなどをして時間を潰す。 そして2時間目の授業からルイズの隣に座り一緒に授業を聞く。時々休み時間などに、自称キュルケの恋人がバッツに襲撃をかけるが、【とんずら】【煙玉】で逃げたり、 巧みに【隠れて】やり過ごしている。 なお、このときの光景を他の生徒達はバッツが逃げ切るか、相手の生徒達が追いつくか賭けをしていたが、 毎回バッツが逃げ切るため、賭けの内容が、追いかける生徒がいつ頃教室に戻るか? に変り、さらに最近ではバッツを捕まえた人に賞金が出るようになっている。 予断だがタバサとキュルケもこの賭けに参加しており、毎回バッツが逃げ切る方に賭けているらしい。 昼食や午後の授業も午前中とほぼ変わらない。そして一日の授業が終わるとバッツはルイズを部屋まで送った後、テントへ戻る。 テントに戻ると、まず学校での逃亡劇でチキンナイフの切れ味がどれくらい上がったか確認をする。 嫉妬に狂った暴徒から逃げるのはチキンと認識されにくいのか、切れ味の上がりはあまりよくない。切れ味の確認が終わると他の道具の手入れを行う。 体に馴染んだ竜騎士の能力を駆使し、購入した槍の柄を簡単には壊れないように補強し、刃を研ぐ。吟遊詩人の知識を駆使して竪琴の調律を、 吟遊詩人と風水師の知識を使いベルや鐘の調整をする。そして錆びたインテリジェンスソードのデルフリンガーは、 買い物をしたその日の夜に、バッツはデルフリンガーで【りょうてもち】をして【まほうけん ファイア】を試してみると、 デルフリンガーが「おでれーた」と驚きながらも、自分が魔法を吸収できることと、わざと錆びた姿になっていたことを思い出している。しかし、 肝心の錆びた姿から元の姿に戻る方法は思い出せなかった。 そのため、下手に手入れをして本来の姿に戻れないと困るのでデルフリンガーの手入れはしない。 「なぁ相棒。槍や楽器だけじゃなくて俺も手入れしてくれよぉー」 「取りあえずデルフは元の姿に戻ってからな。その代わり話し相手位はするからそれで我慢してくれ」 デルフとそんな感じで話をしながら楽器の手入れをし、それが終わる頃になると彼のテントに一匹の風竜、タバサの使いまであるシルフィードがやって来る。 そしてシルフィードはバッツに期待のまなざしを送る。 期待のまなざしを向けられたバッツは、苦笑しながら調律の終わった【ゆめのたてごと】を取り出すとゆっくりと奏でる。 彼の竪琴が鳴り始めるとシルフィードは竪琴にあわせるようにきゅいきゅいと歌う。その竪琴の音と歌に釣られるかのように1匹また1匹と使い魔達が夜の音楽会に加わってゆく。 使い魔たちは毎日ではないが、このようにバッツの奏でる音楽を聴いたり歌ったりするために来る。 この小さな音楽会は何曲か歌うと使い魔達が解散するので、その後デルフと少し会話をしてから寝るの彼の日課になっていた。 一方、部屋に戻ったルイズは、買ってきた本を読み、虚無の魔法を調べる。 しかし、ブリミルが魔法を使う様子などが描写された場面はあっても呪文について書かれているものはまれであった。 彼女は最初の内はその呪文を虚無をイメージしながら部屋で唱えていた。その呪文で何も起こらないこともあったが、通常の魔法と同じく爆発を起こし、 部屋が大惨事になることのほうが多かったため、今では部屋でそれらしい呪文をいくつか憶えると、こっそり中庭に出て試すのが日課になっていた。 しかし、この日は普段と違うことが起きる。 始まりはルイズがいつものように、中庭で調べた魔法が使えるか実験をしている時である。普段は自分の付近で爆発が起こっていたが、 気分転換に遠くをイメージしたのがいけなかったのか宝物庫のある塔の壁に爆発が起こり、壁にひびが入る。 ルイズは宝物庫の壁に爆発が起こったが塔の壁と軒距離が遠いこと、【ゼロ】の自分の失敗魔法で大切な物が保管されている宝物庫を傷つけられると思っていないので、 壁にひびが入ったことには気づかない。せいぜい 「爆音で誰か来るかもしれないから遠くをイメージするのはやめましょ」 程度の認識で、彼女はそのまま魔法の練習を再開しようとする。その時、先ほど爆発した塔の近くに巨大なゴーレムが現れた。 ドカーン ドカーン 現れたゴーレムは先ほど彼女の魔法が発動した辺りの壁を殴る。 ルイズは突然現れたゴーレムに唖然としていると、やがてゴーレムは宝物庫の壁を破壊してしまう。 「え? もしかして賊!」 宝物庫の壁が壊れる音で正気に戻ったルイズはゴーレムを凝視する。 すると、先ほどは気が動転していたため、気がつかなかったがゴーレムの肩に黒いローブを着たメイジの姿を発見する。 メイジはルイズが見ていることに気づいていないのか、ゴーレムが開けた穴から宝物庫へ入って行く。 「せ、先生を呼ばないと・・・・・・ でも今から呼びに言っても間に合わないわ。 わたしがなんとかしないと!」 ルイズは杖を握りなおすと、失敗魔法の爆発でゴーレムを倒そうと詠唱の短い呪文を唱え始める。 ルイズが魔法をかけるたびゴーレムの近くで小さな爆発が起こるが、巨大なゴーレムに対して爆発の大きさはあまりにも小さい。 ルイズの努力もむなしく宝物庫から筒状の物をもった黒ローブのメイジが再びゴーレムの肩に戻ると、ルイズの失敗魔法を気にもくれずに学園の外へと移動を始める。 「止まれー! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」 ボン ボン ドカーン ルイズは立ち去ろうとするゴーレムに、一生懸命魔法をかけ足止めしようとゴーレムの足元に爆発を起こす。 しかし、ゴーレムはバランスを崩さない、たとえわずかにゴーレムの足にひびがが入っても、肩にいるメイジがすぐに直してしまい足止めすら出来ない。 泣きそうになりながらも、一生懸命に失敗魔法を使うルイズを嘲笑うかのようにゴーレムは学園の塀の近くまで来た時、事態は変化する。 学園側から大量の攻撃魔法が一斉にゴーレムに叩き付けられる。 『このトリステイン魔法学院に忍び込んだのが運の尽きだ! 土くれのフーケ!』 ルイズがゴーレムに使っていた失敗魔法の爆音が、学院で酒を飲んでいた教師達が何事かと顔を出し攻撃魔法を放ったのだ。 「くっ」 思わぬ乱入者に黒ローブのメイジは小さく舌打ちをすると、自分を塀の上に立つと巨大なゴーレムを教師達の方へ向かわせる。 『うわー』 教師達は酒で気が大きくなっていただけだったため、自分達の魔法を受けてもびくともしないゴーレムに逃げ惑う。 もしもこの時、教師達が酒を飲んでいなかったら彼等の魔法で賊のゴーレムは倒れていたかもしれない。しかし、彼等は酒を飲んでおり、 自分達が精神力が普段よりも弱い状態で使っていることにも気づかず、ただフーケが自分達の魔法が効かないほどの凄腕のメイジと誤認するだけであった。 「先生! でも、今があの賊を捉えるチャンス!」 ルイズはメイジが教師達に気を取られている隙にメイジが立っている塀を失敗魔法で爆破しようとする。 しかしメイジはそれを読んでた様で、巨大なゴーレムは怯える教師達を無視し、ルイズに向け宝物庫の壁を破壊した時に出来た瓦礫を投げる。 「え? きゃあ」 ドーン 呪文を唱えていたルイズの近くに瓦礫が落ち、その衝撃でルイズは杖を落としてしまう。ゴーレムはそのままルイズに向かい歩き出す。 一方教師達は恐怖で動けない。 ルイズはなんとか杖を拾い、ゴーレムに対し呪文を唱えようとするが、先ほどの瓦礫の恐怖で杖を持つ手は震え、うまく呪文も唱えられない。 「い、いや、こ、来ないで! せ、先生、ちい姉さま、お母様誰か助けて!」 ゆっくりと近づくゴーレムに、ルイズは恐怖で助けを求める声を上げる。 ヒュン ドゴン! スチャ 空から何かがゴーレムに落ちゴーレムの動きが止まる。そしてゴーレムに落ちた何かはゴーレムから跳び、ルイズの前に着地する。 「ルイズ、大丈夫か?」 空から来た何かは、槍を持ったバッツであった。 「へ? バッツ!? って何で高所恐怖症のあんたが空から来るのよ!?」 「いや、他の使い魔達と歌ってたら、学園の方に巨大なゴーレムが現れルイズの爆発が沢山見えたから、 何か危険なことになってると思ってな。シルフィードに無理言って乗せて貰って来たんだ。それに俺は高いところは苦手なだけで、緊急事態なら高いところだってガマンできるさ」 「あ、そうなの? って暢気に話している場合じゃないわよ! ゴーレムが!!」 ルイズがあわててゴーレムのほうを見る。ゴーレムの全身に大小様々なひびが入り今にも崩れそうになっている。そしてそのままゴーレムは崩れ落ち、辺りに砂煙が舞う。 「ごほごほごほっ え? 何でゴーレムが崩れるの?」 「ありゃ? 確かにまだ動きそうな気配があったよな?」 いきなり崩れたゴーレムに疑問を憶える二人だったが、砂煙が晴れるとルイズはゴーレムが崩れた理由に気づく。 「あ! 塀の上に居た賊がいない!」 「へ? 賊?」 「そうよ! さっきのゴーレムもその賊が作ったのよ。 バッツ、シルフィードから降りる時に何か見なかった?」 「いや、ゴーレムに向かって【ジャンプ】してたから塀の上は全く見てなかった」 その後、二人はゴーレムに襲われた恐怖と酒で混乱している教師達をなだめた後、教師達と共に学院長であるオスマンにこの事を伝えに行こうとする。 しかし、自分達の失態を隠す言い訳を考える時間が欲しい教師達は、既に夜も遅い事を理由に教師達に明日の朝一緒に報告すると言う。 そんな教師達の考えを知らないルイズ達は、言われたとおりにその日は寝ることにした。 そして次の日、生徒達が起きる時間よりも早く起きたルイズ達は、教師達と共に学院長室へ行く。 ルイズは昨晩のゴーレムが現れた時の様子と、黒いローブのメイジが筒状の道具を盗んでいた事を伝え、 教師達は自分達の失態を隠しながらも、その手口と巨大なゴーレムから犯人は土くれのフーケであると伝えた。 一応バッツもその場に居た一人として念のため、学院長室に呼ばれているが現場に到着したのが一番最後であるため、報告できる事は無かった。 一通り報告を聞いたオスマンは白いひげを撫でながら、 「ふむ、ミス・ヴァリエールの報告が確かならば土くれのフーケが盗んだのは、【破壊の杖】じゃな」 「破壊の杖?」 「うむ、このトリステイン魔法学院にたった一つしかないマジックアイテムじゃ。 これは宝物庫の中でも重要な物でのぉ。 なんとしても取り戻さなければならん!」 オスマンはいつもと違い真剣な表情でそう言った。 「しかし、これまでの報告では、手がかりが無さ過ぎるのも問題じゃのぉ。 所でミス・ロングビルは何処に行ったのかのぉ? あのお尻を撫でればわしの頭脳も活性化して良いアイデア浮かぶんじゃがのぉ~」 「オールド・オスマン幾らなんでもそれは・・・・・・」 「かーっ!! 女性のお尻に興味の無い男なんて居ないわ!」 男性教師達はオスマンの言葉にこっそり共感を覚え、女性教師達とルイズは冷たい視線をオスマンに向ける。 そんな微妙な空気の中、ロングビルがあわてて学院長室に入ってくる。 「おぉ、今日は遅刻かね、ミス・ロングビル? 遅刻の罰にその豊満な胸を・・・・・・」 バキ オスマンの行き成りのセクハラ発言にロングビルの拳がオスマンの顔面にめり込む。 「ご冗談を、実は先ほどまでフーケの調査をしておりました」 「調査を? 何時の間に?」 現場に居なかった教師の一人であるコルベールがロングビルに聞く。 「ええ、実は私もそこにいらっしゃる先生方と同じように昨日の襲撃を目撃したのです。 しかし土のラインである私が、土のトライアングルであろうフーケに対抗できません。 そこで皆様を囮にしてこっそりフーケの後を追い、見失った周辺で聞き込みをしてフーケの隠れ家を突き止めてきました」 「なんですと!? フーケの隠れ家を!!」 「ええ」 フーケの居場所がわかったことで、教師達が大きくざわめく。 「ではすぐに王室に報告を!」 「馬鹿モン! わざわざ王室に借りを作る必要があるか! ここはトリステイン魔法学院じゃ。身に掛かる火の粉くらい払えなければ何のためにここに居るのじゃ!? それに今から王室に報告したところで間に合わんわ! ・・・・・・コホン ではこれよりフーケ討伐隊を編成する。われは、と思う者は杖を掲げよ」 しかし教師陣は誰も杖を上げようとしない。それどころか昨晩実際にゴーレムに襲われた教師達は体を震わせ、 「何故我々がそんな危険な事を・・・・・・」「危険な仕事は王室に任せるべきだろ」と、怯える始末である。 「・・・誰もおらんのか? 貴族の誇りはどうした? フーケを捕まえ名が上げようという、勇敢な者はおらんのか?」 オスマンが発破をかけるが誰も杖を上げない。そんな中ルイズが杖を上げる。 「ミス・ヴァリエール! 何をしているんですか? 貴方は生徒ではありませんか! これは遊びではないのですよ! このような危険な任務、あなたが行く必要はありません!」 「誰も杖を上げないじゃないですか! 誰も行かずにみすみすフーケを見逃す事など、わたしには出来ません! わたしが心配ならシュヴルーズ先生も来て下さい」 「それは・・・」 ルイズは既に自分がフーケ討伐に行く事を決心し、教師達が止めようとしても「なら一緒に来てください」と答え、教師達は一人また一人とルイズの説得を諦めてゆく。 「あー、ちょっと聞いてもいいか?」 「ん? おぉ君は確かミス・ヴァリエールの使い魔の青年か、聞きたい事とは?」 「どうしてもフーケを捕まえないといけないといけないのか? 確かに学院から物を盗んだのだから捕まえられるなら捕まえた方がいいのだろうけど、 今の状況だとフーケを捕まえられそうにないと思うぞ?」 「貴様! 使い魔の分際で我々を愚弄する気か?」 「まぁ落ち着きなさい。では、君はフーケを見逃せというのかのぉ?」 「いや、フーケを捕まえるのは難しいから、盗まれた【破壊の杖】を取り戻すだけでもいいんじゃないか? と思うんだけどどうかな?」 「ふむ。 確かに【破壊の杖】が戻るなら無理をしてフーケを捕まえる必要は無いのぉ」 バッツの質問にオスマンは髭を撫でながら答える。 「なら、俺にも【破壊の杖】奪還の任を任せてくれないか?」 バッツはさらりと言い放つ。 「魔法をまともに使えないミス・ヴァリエールと平民だけでそんなことできるわけ無いだろ!」 「確かに俺は魔法は使えない。 けど色々な経験がある。 たとえばこの部屋そこの壁には隠「うむ! よかろう!!」とかな」 バッツが何か言いかけたが、オスマンがあわてて大きな声で許可を出す。 「オールド・オスマン? そこの壁が?」 「いや、何もない! 何もないのじゃ! わしが許可を出すのはこの青年は・・・・・・ えーと、そう! 学生とは言えトライアングルの生徒達からも逃げた実力があるからじゃ、うまくやれば【破壊の杖】の奪還のみなら可能かもしれんからのぉ。 まだ文句があるなら文句のあるものに行ってもらう」 不振がる教師達にオスマンはやや目をそらしながらそう答える。教師達はオスマンの言葉、特に後半の一言で一斉に静まる。 「では、改めてフーケの居場所を知るミス・ロングビル、ミス・ヴァリエールとその使い魔の三人に【破壊の杖】奪還の任を与える。 後、奪還に必要なものでこちらで用意できるものがあるのなら用意しよう」 『ハッ』 三人は元気よく返事をすると【破壊の杖】を奪還するため、学院から馬を三頭借り出発した。 前ページ次ページ無から来た使い魔
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前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia オスマンとコルベールは学院長室から『遠見の鏡』で決闘の一部始終を見終えると、顔を見合わせた。 鏡面に映し出されたヴェストリの広場では、未だ鳴り止まぬ拍手と歓声が続いている。 2人の少し後ろの方で、『眠りの鐘』を用意して戻っていたロングビルも興味深げにその光景に見入っていた。 「オールド・オスマン、あのメイドが勝って……、 あ、いえ、勝負無しということにはなったようですが……」 「うむ……」 驚きの表情をありありと顔に浮かべたコルベールとは対照的に、オスマンにはさほど動揺した様子がない。 ロングビルはそれをじっと見て、疑問を口にした。 「あの、学院長は……、こうなることを見越しておられたのですか?」 「ん? 何故そう思うのかね、ミス・ロングビル」 「それは、あまり驚かれた様子がありませんし……、 これをすぐ使えと言われなかったのも、不思議に思っていましたから」 そういって、折角運んだというのに出番のなかった掌中の小さな鐘を示す。 まあ自分にとって本当に重要なのは宝物庫へ入る口実の方だったので、無駄足だったなどとは思っていないが。 オスマンは長い白髭を少しさすると、首を横に振った。 「まさか。こんなもん読めておったわけがなかろう。 年を取ると大概の事では動揺を見せなくなるというだけじゃよ、ちゃんと驚いておるしそれなりに感嘆もしておる。 ……ま、その鐘を使わねばならんような大事にはなるまい、とは思っておったが……」 オスマンはそう言ってロングビルとの会話を打ち切ると、鏡面を見ながら何やら物思いに沈んでいく。 ロングビルはまだ釈然としなかった。 このエロ爺がセクハラ発言のひとつも無しにさっさと会話を済ませるとは、一体何にそれほど注目しているのだろうか? ……まあ、いいだろう。 気にはなるが、今は絶好の機会。 単なる好奇心を満たすよりも先に、もっと重要な事を成すべきだ。 「それでは、私はこの鐘を宝物庫に戻してまいりますわ」 「うむ……。すまんが、そうしてくれ」 一方ヴェストリの広場の方では、盛り上がりが一段落したところでやっと教師たちが介入し、生徒らを促して授業に向かわせだす。 もう昼食時間はとっくに過ぎ、午後の授業を始めなければならない時間になっていた。 ディーキンは自室へ戻っていくシエスタの後姿をじっと見送ってから、ルイズのところへ向かった。 そして、いろいろ質問したそうなルイズを押し留めると、自分は応援した手前もうちょっとシエスタと話がしたいし、 他にも色々やりたい事があるから午後の授業への同行を免除してもらえないだろうか、と願い出た。 「はあ? ちょっと、何言ってるのよ! 勝手にまたこんな目立つことをしておいて、この上まだ何の説明もしないで、私を放って……」 ルイズはルイズで今の決闘の成り行きとかについていろいろと聞きたいことがあったし、今日は使い魔の顔見せの日でもある。 おまけに仮にも使い魔が御主人様を放って、あのメイドとこれ以上一緒にとか……、とにかく、色々と不満だ。 したがって怒鳴りつけて即座に却下しようとしたのだが、ディーキンは怯まなかった。 さりとて自分の要求は正当で認められて当然なのだというような偉ぶった態度を取るわけでもなく。 ただ普通に彼女の言い分を聞いて謝るべきところは謝りつつ、それでもあえて自分がそうしたい理由を説明して、根気よく交渉する。 シエスタには決闘に関わらせてもらった縁があるのに、何も言わずにさっさと別れるのは礼儀に反すると思う。 ルイズが聞きたいことは同じ部屋で過ごしているのだし今夜にでもちゃんと話すから、それまで待ってほしい。 教師への紹介は今これだけ目立っていたのだからどうせ顔も名前も知れ渡っただろうし、無用だろう。 むしろ今ディーキンが教室に行ったら、きっと決闘の件で注目されて生徒らに騒がれる。 そうすると授業の邪魔になって、教師からの心証が悪くなるかもしれない……。 「それに、あの人との約束通り、今の決闘の歌も考えなきゃいけないし。 もしかして考え事に夢中になって鼻歌とか口ずさんだりしたら、迷惑だろうからね。 ディーキンが教室にいないことで他の人達ががルイズを嗤うのなら、何故いないのか説明してやればいいの。 それでも分かってもらえないようなら、後でディーキンがちゃんとその人に説明して、分かってもらえるようにするから。 ……ね、どう?」 「う、うー……、」 もしディーキンが感情的に怒鳴り返したり、自分の要求は認められて当然、お前の意見は愚かだ……とでもいうような態度を取ったりしていたなら。 おそらくルイズは激怒し、正規契約をしていないとはいえ、仮にも使い魔である者の不従順に対して罰を言い渡していただろう。 しかしながらルイズは癇癪を起こしやすく独占欲が強い反面、真摯に誇りを重んじる貴族でもあるのだ。 頭を下げて許可を求めに来て、落ち着いて交渉している相手を一方的に怒鳴ったり無下にするような真似はできない。 そう言った点が以前の主人であるタイモファラールに似ていなくもないので、ディーキンにとっては懐かしいというか、対応し易かった。 もちろん邪悪で気まぐれなタイモファラールに比べれば、ルイズは遥かに話の分かる相手だが。 「……分かったわよ、あのメイドもあんたにお礼とかいいたいだろうし……」 ディーキンは相手の立場や考えを尊重して、軽々に批判したり見下したりはしない。 かといって卑屈になるわけでもなく、自分の意見はしっかりと主張してくる。 ルイズとしては内心複雑ではあったが、ともかくディーキンが自分の事を軽んじていないのは理解できたし、彼女にとってはそれが一番大切な事だった。 本当はまだ不満はあるし、メイドのところへ行く前にまずこっちに説明してからにするか自分も同行させろ、くらいは言いたいところなのだが……。 そんなことをしていたら、授業に遅れてしまう。 基本的に真面目な性格かつ実技が壊滅状態なルイズには、やむにやまれぬ事情があるわけでもないのに授業をサボる事などできない。 それゆえ、渋々ながらディーキンの言い分を認めることにしたのだった。 「ただし、夜までには絶対に戻って来なさい。約束通り説明してもらうからね!」 「もちろんなの。ディーキンはお泊りなんてしないよ?」 そんなこんなでルイズと別れると、ディーキンはさっそくシエスタの部屋に向かった。 彼女が中にいる気配があるのを確かめてから、扉をノックする。 「………?」 シエスタは部屋に戻ってしばしぼうっと物思いに耽った後、鎧を脱いで着替えをしている最中だったが、ノックの音を聞いて首を傾げた。 学院の教師がやってきたのだろうか。罰を申し渡されるのならば、受け入れなくてはなるまい。 理由はどうあれ自分は貴族に逆らい、決闘などを承諾して規律を乱す真似をしたのだから。 でなければ、使用人仲間の誰かか……。 「はい、どなたですか? 少しお待ちください。取り込み中なので、終わりましたらすぐに――――」 「ディーキンはディーキンだよ。 わかったの、ええと、3分間くらい待ってればいいかな?」 「! ……ディ、ディーキン様? す、すみません、すぐに開けます!」 シエスタはディーキンの声が聞こえるや、あたふたとドアを開けると膝をついて恭しく頭を下げた。 たとえ貴族に対してでも、ここまで畏まった態度を取ることは滅多にないだろう。 まあ、ドアの前で待たせるよりも、上着が脱げかけた姿で応対する方が礼儀にかなっていると言えるのかどうかは、また別の問題ではあるが。 一方突然そんな態度を取られたディーキンはきょとんとして、自分の目線と同じくらいの高さにきたシエスタの頭を見つめながら首を傾げた。 「……アー、ええと……、シエスタ、もしかしてさっきの決闘で耳がおかしくなったの? ディーキンはディーキンだよっていったの。別にディーキンは王様だからぺこぺこしろとか、言ったわけじゃないよ?」 そういってもシエスタは顔を伏せたまま、畏まった態度で返答を返す。 「それは……、だって、あなたは私を救ってくださった方です。 それに、天使様ですから――――」 「……うん? ええと、もしかして、おかしいのはディーキンの耳の方だったのかな。 シエスタは今、『天使』って言ったの?」 「はい、そうです。ディーキン様は、天使様なのでしょう?」 シエスタはそう答えると、ますます恭しく、深く頭を垂れた。 その態度には、決してお世辞や冗談などではない本当の崇敬の念が感じられる。 どうやら本気でそう信じ込んでいるらしい。 一方、ディーキンは目をぱちくりさせた。 天使とはフェイルーンでは主にエンジェルを、広義ではそれも含めて善の来訪者であるセレスチャル全般を指す言葉だが……。 言うまでもなく、コボルドはその中に含まれない。 ディーキンは少し考えるとおもむろに屈み込み、シエスタの顔を下からじーっと覗き込んだ。 シエスタは突然の事に驚いてどぎまぎした様子でさっと目を逸らす。 ディーキンは横を向いたシエスタの顔の前にささっと回り込むと、今度は爪の生えた指でシエスタの目蓋を広げて目の奥まで覗き込む。 更に額と額を当ててみたり、頬を撫でてみたり――――。 「……ななな……!? あああの、何をされてるんですか??」 シエスタはディーキンの行動にどぎまぎして、顔を赤くしたり、目を白黒させたりしている。 「ンー、見た感じ目は普通だし、熱とかもなさそうだけど……。 ディーキンが天使に見えるってことは、目がおかしいか、頭がぼーっとしてるかじゃないかと思ったの」 「……え、あの?」 「アア、それとももしかして、シエスタは天使の血を引いてるけど、天使の出てくる物語は聞いたことないとか? 天使っていうのは綺麗で、きらきらして、ふわふわして……、言うことがいつも、真面目で完璧な感じなんだよ」 ディーキンはそこでエヘンと胸を張る。 「ディーキンはそりゃ美男子だけど、光ってないし、ごつごつしてるし、ジョークだって言えるからね。 天使じゃなくてコボルドの詩人なのは、確定的に明らかだよ。 すごい英雄と悪いドラゴンとじゃ、同じ格好いいのでも感じが全然違うでしょ?」 シエスタはそれを聞いて当惑したように視線を泳がせ、そわそわと身じろぎした。 「そんな、でも。それは、その……、」 嘘です、と言いかけたが。 天使を嘘吐き呼ばわりするなど非礼の極みだと慌てて口を噤み、顔を伏せて、正しい言葉を探す。 「………本当の事ではない、と思います。 きっと深い考えがあって隠されるのでしょうけど、私には、わかりますから――――」 ディーキンの方は、それを聞いて困ったように肩を竦めた。 どうも何か大きな誤解をされているようだが、原因はなんなのだろう? 「ええと……、ディーキンはシエスタに、隠し事なんかしてないの。 それじゃシエスタは、なんでディーキンを天使だと思うの?」 そう尋ねると、シエスタはよく聞いてくれたと言わんばかりにばっと顔を上げて、熱弁を始めた。 「だって、天使様の言葉を使っておられて、それで私を助けてくださったじゃないですか! おばあちゃんが少しだけ習っていて、聞かせてもらったことがあります。 一度聞いたら絶対忘れられない響きです。 何よりグラモン様が心を改めてくださったのも、あなたがおられたお陰です。 私を助けてくださるため、正義を護るために神様が遣わしてくださったのでなければ、なんなのですか? いえ、それ以外ありえません!」 素晴らしい美少女が頬を上気させ、上着が少し肌蹴た状態で、自分に向けてあからさまに憧れとか畏敬とかの念が篭った笑顔を浮かべている。 人間の男だったら誤解を正すのなんかやめて手を出してしまいそうな状態だが、幸か不幸かディーキンはコボルドである。 「……あー、なるほど。 シエスタが信じてることは、分かったよ」 どうやら、ワルキューレとの戦いの際に呪歌と共に用いた《創造の言葉》が、誤解を招いた主たる要因であるようだ。 それは世界創造の時に用いられたという失われた言葉であり、現在のセレスチャルが話す天上語の前身であるとも言われている。 その断片だけでも知っている者は既にセレスチャルの中にも少ないそうだが、シエスタの祖母はたまたま学んだことがあったのだろう。 そんなものを用いて自分を手助けしてくれたとなれば、誤解されるのもやむなしか。 それにしたってコボルドを天使だの神の使いだのと考えるのは極端だとは思うが……、まあ、善良で信心深い人なら、そんなものなのかもしれない。 ディーキンはとりあえずシエスタを促して室内へ入り、向かい合うように椅子に腰かけて説明を始めた。 「じゃあ、ひとつずつ説明させてもらってもいいかな? まず、シエスタがなんて言ってもディーキンはやっぱり天使じゃないし、別に神さまのお使いとかでもないの」 「で、ですが、それなら………、」 「さっき歌う時に使った言葉は、シエスタのおばあちゃんと同じで、天使から習ったんだよ。 ディーキンは天使じゃないけど、天使の知り合いはいるからね」 それから、どういう経緯でそうなったのかを、リュートを爪弾きながら語り聞かせる。 アンダーダークで大悪魔メフィストフェレスの罠にかかり、ボスと一緒に一度は死んで、地獄へと送られた事。 そこで、遥か昔から想い人を待って眠り続けていた、『眠れる者』と呼ばれる偉大な天使、プラネターに出会った事。 ボスの尽力あってついに目覚めて想い人に巡り合うことができ、深く感謝してくれた彼とは地獄を逃れた後にも交友が続いた事。 そして年古く強力な天使ゆえに太古の言葉にも通じていた彼が、ディーキンが詩人であることを知って《創造の言葉》の秘密を教えてくれた事――――。 シエスタはそれらの話に、熱心に聞き入った。 地獄に送られてなお、悪魔を討って生還してくる英雄たち。 想い人を求めて天上の楽園を去り、寒く昏い地獄の果てで待ち続けた天使。 そんな人たちと一緒に旅をすのは、どんなに素晴らしい事だろう。 一体、どこまでが本当の話なのか……、嘘をついているとかではなくて、きっと物語だから脚色もあるのだろうけど……。 「―――――とまあ、そういう感じなの。 だから頭とか下げられてもディーキンは困るの、わかった?」 「えっ、あ……、は、はい!」 物語の世界にすっかり入り込んで夢想に浸っていたシエスタは、慌てて返事をする。 それから、そっと頭を下げて、言葉を選びながら訥々と続ける。 「その、お話、ありがとうございます。 ……ディーキン様が天使でないことは、分かりました」 どこまでが本当の話なのかはわからないが、天使に出会って学んだというのはきっと本当なのだろう。 目の前の人物が、種族としては天使ではないのは納得できた。 しかし………。 「ですが、私とグラモン様を救ってくださった方であることは変わりません」 シエスタにとっては、最善のタイミングで手を差し伸べて、すべてを上手く行かせてくれたのがディーキンだ。 天使であろうがなかろうが、彼の介入は、シエスタにとっては偉大で慈悲深い神や運命の導き以外の何物でもなかった。 「……それに……、いえ、 つまり、ですからやはり、あなたは私にとっては恩人で、神様の御遣いなんです!」 あくまで敬いの態度を変えないシエスタに、ディーキンはちょっと顔を顰める。 「ンー……、それはシエスタの考え違いじゃないかな。 お礼を言ってくれるのは嬉しいけど、いくつか間違ってると思うの」 「えっ?」 ディーキンはシエスタの肩をつついて顔を上げさせると、ちっちっと勿体ぶった態度で指を振って見せた。 ちょっと気取って講釈を始めようとする教師のように。 「まず、シエスタは仮に、ディーキンが神さまのお使いだったとして。 もしかして神さまの手助けがなかったら、さっき自分は上手くやれなかったって思ってるの? ディーキンはただ、英雄の活躍を見逃したくなかったから出しゃばっただけなの。 お手伝いなんてしなくても、結局は同じことだったはずだよ?」 それを聞いたシエスタは、ぶんぶんと首を横に振る。 「そ、そんなわけないじゃないですか! 私があの方と……、貴族様と戦えたのは、みんなあなたのお力で―――」 「ふうん? じゃあ、シエスタは……、仮に、ディーキンが応援しなかったとして。 あのワルキューレとかいうのにボコボコにやられたら、降参して謝っていたの?」 「え…? い、いえ! 間違った事に頭を下げるなんて!」 「なら、シエスタは。 あのギーシュっていう人のことを、もし相手が降参しなかったら死ぬまで殴っておいて、絶対謝らない人だったと思ってるの?」 「そんな! あの方は過ちを犯されましたけれど、そんな非情な方では……」 それを聞いて、ディーキンは得意げに胸を張る。 「でしょ? シエスタはどんなにやられても諦めたりしなかったし、相手は死ぬまで殴るような人じゃなかった。 なら、ディーキンがいなくたって、シエスタは上手くいってたってことなの。 ちょっと余計に怪我はしたかも知れないけど、結局最後には分かってもらえたはずでしょ?」 「そ、それは……、」 返事に困って視線を泳がせるシエスタに、ディーキンは誇らしげに胸を張った。 「たとえ力がなくても正しい事ができるのが、本当の英雄ってもんなの。 絶対にそういうものなんだから!」 先程までのシエスタにも劣らず熱っぽい様子で瞳をきらめかせながら、ディーキンは熱弁した。 シエスタと同様に頬が上気しているかどうかは、ウロコに覆われていて分からない。 「そ、そんな…………」 自分が敬う相手から逆にそんな目で見られたシエスタは、頬を染めて口篭もる。 「……その。あるいは、そうかもしれません。 でも、私が戦う勇気を出すことができたのはあなたが居てくださったおかげです、ですから……」 なおも食い下がるシエスタに、ディーキンは腕組みして(コボルドにしては)重々しく、威厳ありそうな感じの声を作る。 「オホン……、 『ならば、それは私の力ではない。私を見て何かを学んだというなら、それは君自身の才能と情熱のおかげだ。 友よ、手柄はあるべき所に帰すべきだ』」 「……は? あ、あの、」 いきなり感じが変わったのにきょとんとしているシエスタを見て、ディーキンは得意げに胸を反らせた。 「―――イヒヒ。 今の、『眠れる者』の真似なの。似てた?」 「は、はあ……? いえ、私、その天使様の事を知りませんから………」 何とも微妙な顔をしているシエスタに対して、ディーキンは少し真面目な顔に戻って更に言葉を続ける。 「それに、ディーキンが本当に天使とか神さまのお使いだったとしても、天使はそんな風に拝んでもらいたいとは思わないよ。 彼もそういってたし、ディーキンが知ってる他の天使もみんなそうだったからね」 パラディンであるボスは最初、今のシエスタのように『眠れる者』に対して敬意を表していた。 だが、彼はそのような扱いに当惑し、自分は身に覚えのない崇拝を望まないと言った。 彼らは真の善の化身であり、その目的は善を奨励する事であり、自分達が崇められるよりその崇拝をより偉大なものに向けさせることを願うのだ。 「『私はより偉大な栄光に仕える天使だ。私に価値を見出すならば、私よりも高貴な愛や美があることも知るといい』 ……彼は、そういってたの。ディーキンも、それに賛成なの。 ボスやシエスタは大した英雄だからね、天使とかディーキンとか拝んでないで、もっと大きな目標を持って、とんでもなーく凄い人になるの。 そうすればディーキンももっともっといい物語が書けてカッコいい詩が歌えるし、他のみんなも喜ぶでしょ? もしディーキンが神さまだったら、シエスタにはきっとそうしろっていうね」 ディーキンはそういうとちょっと首を傾げて、シエスタの頭を撫でた。 「アー、だから……、つまり。 まとめると、ディーキンはディーキン様とか呼ばれるのには反対だってことだよ。 ディーキンはディーキンであってディーキン様じゃないからね、余計なものはくっつけない方がいいの。 俺様とかって、何か悪役っぽくてよくないでしょ? 様をつけていいのは怖いご主人様とか威張った王様とかだよ、素敵なコボルドの詩人にはつかないよ!」 シエスタは英雄なんだから英雄には自分より立派な存在でいてほしい、敬われても嬉しくない……、 というのはまあ、本当だが。 実のところ敬称を遠慮したい理由は、それだけでもなかった。 ボスはもちろん、自分を純粋に対等の仲間として扱ってくれる。 だが、今まで自分は、上位者として扱われた経験はない。 コボルドをそんなふうに扱う奴は普通同族しかいないし、それにしたところで地位の高いコボルドに対してに限られる。 礼儀作法上とかではなく本心から敬われる、などというのは初めてであって、照れ半分、困惑半分、どう対応していいのかわからないのだ。 シエスタは頭を撫でられて少し頬を染めつつも神妙な、若干不満げな面持ちで話を聞いていたが……。 やがて、微笑みを浮かべて頷いた。 「……わかりました、ディーキンさ……んがそういわれるのなら、きっとその通りなんだと思います。 私、もっと善い事ができるように、頑張りますね」 「オオ……、よかったの。 ありがとう、それならディーキンは、これからもシエスタの事を応援するよ」 ほっとした感じでうんうんと頷き返したディーキンに、 シエスタはしかし、意味ありげに目を細めると、また頭を深々と下げた。 「―――――はい。 つきましては、そのためにも是非、あなたにお願いしたいことがあります!」 「……ウン?」 「私の先生に、なってくれませんか?」 ディーキンは目をしばたたかせると、困ったように頬を掻いた。 「ええと、その………。 どういうことなのか、ディーキンにはちょっとよくわからないけど。 ディーキンと契約して魔法少女になりたいとか、そういうことじゃないよね?」 シエスタは顔を上げると、にこにこ微笑みながら質問に答える。 「私……、先程の戦いのとき、『声』を聞いたんです。 グラモン様が考えを改められて、私に剣を差し出してくださった時に――――」 「?? 声……、」 ディーキンは唐突な話にきょとんとして、少し考え込む。 が、ふと思い当って首を傾げた。 「ええと、それって……、もしかして『召命』の声のこと?」 じゃあ、シエスタは、パラディンになれって言われたの?」 「はい!」 その時の事を思い返して興奮と喜びに目をきらめかせているシエスタを見て、ディーキンはようやく得心がいった。 いくら天使の言葉を話したにしても、恩人であるにしても、ちょっと態度が極端で大げさすぎやしないかと思っていたが。 なるほど、この状況に加えて更にこれまでの人生一変させるような出来事まで重なったとなれば……。 それに大きく関わったディーキンの事を、自分に遣わされた天使かなにかだと思い込むのは無理もない話だ。 実際、これはシエスタにとっては確かに運命的なものなのかもしれない。 多元宇宙に働く何らかの意志が、しばしばそのような導きをもたらすことは、ディーキンも知っていた。 とはいえ………、 「ウーン、つまり、シエスタはディーキンにパラディンになるための勉強を教えてほしいってこと?」 「そうです、私はまだぜんぜん力もありませんし……、パラディンの事も、おばあちゃんを見て教わった事以上には知りません。 あなたの望まれるような英雄になるためにも、せひ私の先生になってください!」 「いや、ええと……、ディーキンはバードなの。パラディンじゃないよ。 バードとパラディンっていうのは、プレインズウォーカーと頑固爺さんくらいに違うの」 ディーキンはよく分からない例え話をして、シエスタの願いを断ろうとした。 バードには、パラディンのような生き方はできない。 パラディンの生き方が善き規律に支えられたものであるのに対し、魂に訴えかけるバードの旋律は自由な魂から生まれるものだからだ。 少なくともフェイルーンで、パラディンになるための訓練でバードに師事する、などという話は聞いた事もない。 「ディーキンは、たまにボスみたいになるか試すの。 立派なことだけ考えて、それから、神聖でいようと頑張ってみて……、 でもすぐおかしなことを考えて大笑いしちゃうの、それがけっこうつらいんだよね。 だからディーキンは、シエスタの考えてるみたいな立派なパラディンのための先生にはなれないと思うの」 「いいえ、おばあちゃんだってよく笑ってましたし、その『ボス』という方も、あなたのお話からすると朗らかな方なんでしょう? 真面目に生きるということは、決して朗らかさをなくすことと同じではないと思います。 それに、あなたは素晴らしい英雄の方と旅をされていたし、天使様ともお知り合いなのですから。 その方々の生き方を、もっと歌や話にして聞かせてください。私にとってはそれが、素敵な勉強になると思います。 剣とか、その他の訓練は……、もし教えてくださることができないのでしたら、自分で頑張りますから!」 それでもなお熱心に頼んでくるシエスタを見て、ディーキンは困ったように首をひねる。 「ン、ンー……、それは、ぜひ聞いてほしいけど……。 別に先生とかでなくてもディーキンはいつだって喜んで聞かせるし、パラディンの訓練なら他に、いい人がいるんじゃないかな?」 大体、バードとパラディンは進む道も違えば、能力的にもほとんど似つかない。 どちらも魅力に優れ、交渉などの才を持ち合わせてはいるが、共通点と言ったらせいぜいその程度だろう。 パラディンは若干の信仰魔法を用いる戦士、バードは秘術魔法を使う何でも屋だ。 普通に考えれば同じパラディンに師事するのが最善だろう。 そうでなければ、剣の訓練をするならファイターとか、信仰を鍛えるならクレリックとかが、おそらく適任のはず。 渋るディーキンに対して、シエスタはぶんぶんと首を横に振った。 「いいえ! ……いいえ、そんなことはないです。 何と言われようとあなたは私の恩人で、私に可能性を掴ませてくれた憧れなんです。 私はあなたよりも自分の先生に相応しい方なんて知りません!」 「う! うーん?? そ、その、そんなことはないと思うけど、ありがとう。 ディーキンはなんだか、すごく照れるよ……」 詰め寄らんばかりの勢いで熱弁してくるシエスタに、ディーキンもたじろいでいる。 「この学院におられるのはメイジの方ばかりです。 みんな貴族としての誇りを重んじられる立派な方々です、けれど、パラディンの教師に向いておられるとは思いません。 学院の外でも、強い方と言ったら大体メイジの方ばかりで……、 剣を使うのは傭兵とかだけですし、そんなすごい達人とかは、私は知りません。 それに私は、おばあちゃんの他にはパラディンは一人も知りません。 おばあちゃんはきっと、この世界には『声』が届かないんだろう、っていってました」 「アー…、そうなの?」 初耳だが、よく考えればこの世界にはバードもクレリックもいないのだった。 メイジの力が支配的で、かつ系統魔法と先住魔法しか知られていないというのだから冷静に判断すればパラディンだっているはずがない。 シエスタにだけは召命の声が聞こえたというのは、彼女がアアシマールであることを考えればそれほど不思議な話でもあるまい。 パラディンたり得るものはフェイルーンでも希少だが、天上の血を引くアアシマールにはすべからくその適性が備わっていると言われている。 剣の力についても、確かに昨夜読んだ本ではほとんど触れられていなかった。 おそらくフェイルーンの古の魔法帝国アイマスカーなどがそうだったように、この世界では剣の技は廃れてしまっているのだろう。 強いファイターは滅多におらず、概ね低レベルのウォリアーくらいしかいないのだとすれば、シエスタが長期的に師事するのには些か不足だ。 そうなると、ディーキンに教えを乞うというのもまんざら悪い選択ではなく、むしろ良い選択なのかもしれない。 「ウ~……、でも、先生なんてディーキンはやったことないの。 ディーキンが教わった先生は気が向いた時にだけ教えてくれて、そうでないときには寝ぼけて体の上にのしかかったり……、 機嫌が悪い時にはディーキンの体を麻痺させて歯を抜いたりもする、ドラゴンのご主人様だけなの」 「誰だって最初はやったことがないはずです。 それにディーキンさんは、そんなひどい教え方はなさらないです、信じてます。 ……さっき、私の事を応援してくださるって言われましたよね? でしたら、さあ、私が立派なパラディンになるために力を貸してください。応援するって、そういうことでしょう?」 シエスタは、ここぞとばかりに先程のディーキンの発言を持ち出して畳み掛ける。 このためにいったん譲歩してみせて、言質を引き出したらしい。案外したたかな面もあるようだ。 パラディンは邪悪な行為をしてはいけないが、最終的に善を推進するためのちょっとした計略くらいは問題ないのである。 ディーキンは困った顔をして、しばし考え込んだ。 別に秩序な性格ではないので口約束なんて場合によっては無視してしまうのだが、それでシエスタに嫌われたりするのは嫌である。 かといって大したことが教えられるとも思わないし、それはそれでシエスタを失望させることになってしまわないか不安だ。 が……、まあ、彼女に教えるのもそれはそれで確かに新しい楽しい経験になるかも知れない。 何より彼女はボスの話を聞きたいと言ってくれたし、それはこちらとしても存分に語りたいことだ。 返事は決まった。 「……うーん、わかったの。 ディーキンは今ルイズの使い魔をしてるから、お願いしてみないといけないけど。 いいって言ってもらえたら、シエスタのためにできるだけの事はするよ」 シエスタはそれを聞くとぱあっと顔を輝かせて、ディーキンを思いきり抱き締めた。 「ありがとうございます、先生! それじゃあ、これからよろしくお願いしますわ!」 「オオォ……!? ちょっとシエスタ、痛くないの?」 シエスタは今、上着がちょっと肌蹴た状態でディーキンを強く抱き締め、喜びのあまり頬ずりとかまでしている。 人間の男なら嬉しくてそれどころじゃないかもしれないが、ディーキンは彼女の柔らかい肌が自分の硬いウロコに擦れて、傷つかないか心配だった。 「………!? あ、わああ! すす、すみません!」 そういわれて漸くシエスタは今の自分の格好に気付くと、途端に顔を真っ赤にしてぱっと離れ、大慌てで胸元をさっと覆った。 慌てたり緊張したり、必死に熱弁したりで、今の今まですっかり失念していたらしい。 「? 別に、シエスタが謝るところじゃないとおもうけど……、 それよりディーキンはその、先生っていうのは――――」 「……だって先生は先生じゃないですか。 これは誤解とかそんなことは関係なく、先生ですから問題ないです。 学院の生徒の方々だって、みんな教師の方の事はそう呼んでいらっしゃいますわ。 私だってそうお呼びしないと失礼です、ええ、絶対そうしますから」 シエスタは上着をしっかりと着直すと、まだ少し頬を赤くしながらも澄ました顔で得意げにそう答える。 結局、彼女は最終的には、ディーキンをある種の敬称で呼ぶ許可をちゃんと取り付けたのだった。 「ニヒヒヒ……、ウーン、なんか、先生になったの」 仕事に戻らないといけないからというシエスタと別れたディーキンは、少しにやけながらぶらぶらと人気のない廊下を歩いていた。 先程は突然の申し込みに困惑していたが、自分が先生などと呼ばれて敬意を払われる立場になったのかと思うと、徐々に嬉しさが湧き上がってきたのだ。 様づけで呼ばれるのはどうにもむずむずするし、ご主人様みたいで遠慮したいところだが。 先生というのは、それとはまた違う感じがする。 どう違うのか、上手く説明はできないが……、なんにせよ、何の悪意も含みもない態度で褒められたり認められたりするのは嬉しい事だった。 まあ正確にはルイズの許可を得られたらということだが、それについては後ほどシエスタと一緒に頼もう、ということに決めておいた。 たぶん渋られるだろうが、ちゃんとお願いすれば説き伏せられる自信はある。 ……そういえば、元々シエスタの部屋を訪れたのは、挨拶がてら約束の歌の件について相談しようと思っていたのだが……。 予想外の話の展開に、すっかり元の用件を忘れてしまっていた。 だがまあ別に急ぐ用事でもないし、彼女が生徒になりたいというのなら今後も話す機会はいくらでもあるだろうから、今はいいか。 「ええと……、これから、どうしようかな?」 まだ大分時間はあるが、ルイズの授業には今日は出ないと言ってしまったし、図書館へでも行くか。 この世界の事はまだまだよく分かっていない、調べたいことならいくらでもある。 あるいはシエスタにどんな指導をするか考えて、その準備をしておくか。 引き受けた以上は、しっかりとやりたいところだし。 「ウーン………、ん?」 いろいろと考えながらふと窓の外に目をやると、妙な人物が目に留まった。 タバサだ。 今は授業中のはずだが、何故か空を飛んで、学院の外の方へ向かっている。 他に生徒はいないようだし、課外学習という風にも見えない。 遠目ではっきりとはわからないが、何だか急いでいる様子だ。 ……何かあったのだろうか? こういう事があるとすぐに首を突っ込みたくなるのが冒険者の、そしてバードの、何よりディーキンという人物の性分である。 好奇心の命じるままにぴょんと跳び上がって手近の窓を開け、外へ飛び出すと、そちらの方に向かって翼を羽ばたかせ始めた。 前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia
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Vocal miko 幺九牌に 幺九牌に 幺九牌に ごっすんごっすん五寸釘 イーアルサンイーアルサン ワンツースリーワンツースリー いちにーさーん イーアルサンイーアルサン ワンツースリーワンツースリー いちにーさーん アイン ツバイン グーテンモルゲン イーアルイーアル いちいちいちいち ひふみ ひふみ ひふみ ひふみ ひひふー ひふみ ひふみ ひふみ ひふみ ひひふー ひふみ ひふみ ひふみ ひふみ ひひふー ひひひひひひひひひひひひひ ひふみよ ひふみよ 対子対子対子対子 対子対子対子対子 刻子刻子刻子刻子 刻子刻子 槓しないわ 暗刻暗刻暗刻暗刻 暗刻暗刻暗刻暗刻 明刻明刻明刻明刻 明刻明刻 役がないわ 搭子搭子搭子搭子 搭子搭子搭子搭子 順子順子順子順子 槓子槓子槓子槓子 安牌安牌安牌安牌 七対子七対子七対子七対子 混一色 清一色 地和 天和 九蓮宝灯 大三元 嫌いキライ loving (あん ああん あん ああん あん) 誰がダレガ can t be alive without you どうしてなぜかしら (あん ああん あん) why why why why don t I miss you a lot, forever? 知らないわ(あんああん) そんなルール(あんああん) 割れ目で和了(ホーラ)れたら ハコっちゃう(あんああん) あなたとは(あんああん) 違うから (あんああん) ひとの親場まで 簡単に流さないで (断幺ー) 一索 一索 一索 一索 一索・・・・ 立直 立直 立直 立直 立直・・・・ 河底 河底 河底 河底 河底・・・・ 聴牌聴牌聴牌聴牌聴牌 洗牌 砌牌 壁牌 王牌 風牌 白板 緑發 紅中 嶺上開花 国士無双 近いミライ turning(ゆん ゆゆん ゆん ゆゆん ゆん) 遠いオモイ can t be alive without you どうしてなぜかしら (ゆん ゆゆん ゆん) why why why why don t I miss you more, forever? 知ってるわ (ゆん ゆゆん) 燕返し (ゆん ゆゆん) いつでも山の中隠してる(ゆん ゆゆん) あなたとは (ゆん ゆゆん) 違うから (ゆん ゆゆん) ひとの上がり牌 簡単に盗まないで (聴牌即リー)