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『ジオンの残光』 サモン・サーヴァントを行ったルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、この上なく困惑していた。 数度の爆発を経て召喚に成功したものの、現れた物は、この世界にある物とはかけ離れた物だったからだ。 「なに…?これ」 目の前に現れたのは80メイルはあろうかという巨大な緑色の物体。 だが、その巨体の半分以上を焼け焦がせ異臭を放ち、所々からは火花が巻き上がっている。 「これ…ゴーレム?」 脚は付いていない。ならば飛ぶのかとも思ったが、全く動く気配は無い。 初めはその巨体に驚いていた他の生徒達も、動かない物を召喚したルイズを笑い始めた。 「さすが『ゼロ』だな!壊れたゴーレムを召喚するなんて!」 「ミスタ・コルベール…あの!もう一度召喚させてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚の儀式は神聖なものだ。好む好まざるに関わらず、これを使い魔にするしかないのだよ」 そうは言うが、コルベールの気は重い。 不名誉極まりない『ゼロ』という二つ名を持つ彼女が数度の爆発を経て召喚に成功したのだが、物が物だけに困っていた。 個人的には再召喚させてもいいという心情だったが、公平を期すためにはそれはできない。 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール…例外は認められない。これは…」 そう言って、その物体を指差すが、改めて息を呑む。 表面をかなりの高熱で焼かれたらしく、気泡が現れている部分もある。 こんな大質量の金属をどうやって焼いたのだろうかと、興味を持ったが、すぐに目の前の落ち込んでいる少女の事を考えて自己嫌悪に陥りかけた。 「…今は動かないかもしれないが、呼び出された以上、君の使い魔にならなくてはならない」 「そんなぁ…」 がっくりと肩を落としたルイズが『それ』に近付いたが、契約するにもどこにやればいいのかサッパリ分からない。 これが動いてくれれば、文句無しに喜んで契約するとこなのだが… とりあえず、『フライ』を使ったコルベールに掴まり、頭らしき方に近付いたのだが その時、沈黙していた頭部から一条の光が放たれた。 「あれは…目か?どうやらまだ動くようだね」 一つ目という特異な目だったが、動く事にほんの少し安堵した。 だが、安堵したのも束の間、頭部が後退し、すぐ下の部分が様々な動きを見せ内部が開け放たれた。 「…ミスタ・コルベール。あそこにいるのは一体…」 「私にもよく分からん…だが、怪我をしているようだ」 中に居たのは、妙なスーツで全身を覆った人。 だが、腹部から血を流していた。 (いいか…一人でも突破し…アクシズ艦隊へたどり着くのだ!) 周囲に浮かぶ、様々な巨人に向け言葉を放ち続ける男が一人。 (我々の真実の戦いを、後の世に伝えるために!) その言葉を合図として、周りの巨人が加速し一直線に突き進む。 ただ、ひたすらに、居並ぶ敵艦隊の向こうに存在するはずのアクシズ艦隊を目指して。 (我々が尽きようとも、いつの日か、貴様らに牙を剥くものが現れる!それを忘れるな!!) 壁というべき艦隊と突き抜け、周囲を見渡すが、すでに周りには自分しか存在していなかった。 (最後の…一人か…) そう思うと、声にならない叫びをあげ目の前の艦へと突き進む。 迷いなどあろうはずもない。成すべき事を成し、後に続く者が現れる事を信じて機を推し進めた。 視界が赤く染まり、全ての音が途切れる。 だが、その赤く染まっていた視界が再び開かれ、ぼやけた視界に入った物は…緑色の長い髪だった。 ミス・ロングビル。オールド・オスマンによって採用された秘書であり、理知的で物静かな姿勢から一部生徒達からも人気がある人だ。 もっぱらの悩みの種は、そのオスマンによるセクハラであるのだが 『ゼロ』の二つ名を持つルイズが召喚した大破したゴーレムの中の人の様子を見るようにとオスマンに言われて医務室にやってきている。 「まったく…こんな事する暇があるなら、宝物庫の事でも調べときたいんだけどね」 秘書にあるまじき言葉ではあるが、本職が秘書でないのだから仕方ない。 とりあえずは異常なしとして、戻る事にしたのだが、背後から恐ろしいまでの殺意と咆哮を受け固まった。 「シーマ!?貴様ァーーーーーーーーーー!!!閣下を殺害しておきながら、よく私の前にその姿を晒せたなッ!!」 なに?シーマ?誰?てか何で!? そう思うまもなく一気に組み伏せられる。早い。杖を抜く暇すら無かった。 「お、落ち着いてください!ここはトリステイン魔法学校で…」 必死こいて後ろへと顔を向ける。 長く纏められた銀髪が印象的だったが、おっそろしい程に怒り猛っている。 しばらく視線が交錯したが、手の力が少し緩んだ。 目覚めたてで、思考が鈍っており、そこに仇敵であるシーマ・ガラハウを彷彿とさせる緑の長い髪が目に入ったからなのだが よくよく考えてみれば、サラミスに特攻したはずの自分を、シーマが拾うはずもないと思い、とりあえず状況を掴む事にした。 あの状況で命があったとすれば、十中八九ここは連邦の艦だからだ。 「シーマではないようだが…捕虜というわけか?」 捕虜であるにしろ、このまま黙っているわけにはいかない。 このまま事が進めは、宇宙の晒し者になる事は確実なのだ。 最悪、目の前の女を人質にMSなり戦闘機なりを強奪する気でいた。 「一先ず、話を聞いてください。ここはトリステイン魔法学校で、あなたは捕虜などではありませんから」 「トリステイン…?艦の名か…?いや待て、学校だと。という事はコロニーか?だが、サイド3にもサイド6にもそのようなコロニーは無かったはずだが」 サイド1.2.4.5の修復されたコロニーのどれかとも思ったが、少なくとも、そんな名のコロニーは無い。 それ以前に『魔法』という単語も聞こえたのだが、あえて無視する。 もちろん、状況が掴めない以上は、離す気は無い。 連邦の勢力下だとして、星の屑の中心人物である『ソロモンの悪夢』を、そう簡単に逃がすはずは無いと判断した。 そうしていると、扉が開いて、明らかに軍人ではないような桃色の髪の少女が入ってきた。 「……この…!ミス・ロングビルになにやってんのよ!バカーーーーーー!!」 叫びと共に放たれる蹴り。 だが、間合いも遠い上に、素人の蹴りだ。 不意を付かれでもしない限り本職の軍人が食らうようなものではない。 軽くいなすと支えている脚を払い転倒させた。 「…ロングビルと言ったな。一つだけ聞こう。ここは連邦の勢力下か?」 「連邦…?少なくともトリステインは王国ですが」 「王国だと?ふざけた事を」 そう思うのも無理は無い。 地球の全域は、アフリカなどが影響が弱いぐらいで、全てが連邦の勢力下だ。 宇宙にしても、サイド3のジオン共和国。月のフォン・ブラウンとグラナダ。中立であるサイド6のリーア。そして遠く離れたアクシズ。 少なくとも王国などというものは一切無い。 「とにかく…離していただかない事には話もできませんので…できれば」 倒れて目を回している少女とロングビルと呼ばれる女を一瞥する。 少なくとも、軍関係の者ではないようなので、一先ず離す事にした。 そこで自分の状態に気付く。 無いのだ。ノーマルスーツの上半身部分が。 バイザーが砕けかかったヘルメットは側にあったが、上半身部分が綺麗に切り取られたかのように無くなっている。 そして、銃創と破片によって受けた傷も無い。 「怪我をされていて、着ていたものが脱がせず治療できないとのことでしたので、切り取らせていただきました」 訝しげにしていた様子に気付いたのか、ロングビルが答えるが、切り取ったというとこに納得がいかない。 宇宙にしろ地球にしろ、少なくとも医療関係者がノーマルスーツの着脱法を知らないはずが無い。 さすがに、妙だと思っていると、目を回していた少女が目を覚まし、起きるや否や叫んだ。 「へ、平民が…使い魔が…主人にいきなりなにすんのよ!!」 平民?使い魔?そんな疑問が浮かんだが、状況がサッパリ掴めない。 「名前は!?平民でも名前ぐらいあるんでしょ?」 そう聞かれたが、この規律の塊とも言うべき男からすれば、まず第一に口の利き方がなってない。 「人に名を聞くときは、聞くほうが先に名乗るべきだが」 ぐぅ!と言葉に詰まる。相手は平民だが正論だ。おまけに妙に威圧感がある。 「…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 「アナベル・ガトーだ」 「アナベル?女みたいな名前」 アナベルが男の名前でなにが悪いんだ!俺は男だよ!! 最も信頼する部下の声でそんな言葉が聞こえたが多分幻聴か何かだろう。 少なくとも、名前関係で人と揉め事を起こした事は無い。 一応の自己紹介が済んだが、最も大事な事に気付いた。 「…ノイエ・ジールはどうなった」 どうも今一、記憶がハッキリしない。アクシズ艦隊目指し、追撃艦隊に突入したところまでは覚えているのだが。 「ノイエ・ジール?緑色の大っきいやつ?それなら、草原に転がってるけど、なんなのよあれ」 「馬鹿な!宙間戦闘用MAが転がっているだと!?」 草原というからには、ここが艦ではないという事は分かった。 ならば、コロニーという事になるのだが、転がっているというのは理解しがたい事だ。 漂流したのならば、少なくともノイエ・ジールはコロニーの外にあるのだから。 ルイズに案内され外に出たが、ここがコロニーではないという事を目にする。 コロニーにあるべき物が全く無いからである。 上空に見える地面も無ければ、河も無い。 そして、草原に転がっている半壊状態のノイエ・ジール。 さらに、その上を浮いている人。 「なん…だと!?」 さすがの、ソロモンの悪夢も、その光景には言葉が出ない。 まだ05が飛んでいるといった方が信じられるだろう。重力に囚われたような環境で人が飛ぶなどとは。 「おお、気が付いたのかね。三日も意識が無かったから、どうしたものかと思っていたのだが、無事なようでよかった」 上空から声がかけられたが、返事ができない。 「一体これは、なんなのかね!表面を見た事も無い金属で覆っている!実に興味深い!」 「…まずは、それから離れてもらおう」 ノイエ・ジールはアクシズから寄与された試作MAである。軍事機密の塊と言ってもいい。 ノーマルスーツの腰に付けられている拳銃を抜くと、その銃口を向けた。 だが、拳銃を向けても離れようとはしない。これが武器であるかとも分からないかのように。 一発、上空に向けトリガーを引く。威嚇だが、これで次は無い。 「うわ!な、なんの音だ!」 「次は無いと思え」 「銃…なのかね?それは」 至近距離で銃声を聞いた、ルイズが耳を押さえているが。関係無い。 不承不承の体でコルベールが降りてきたが、それに銃口を向ける。 「私を回収してくれた事には一応感謝しておく。だが…どういうわけだ?」 「きみは、そこのミス・ヴァリエールの使い魔として召喚されたのだよ。手に使い魔のルーンが刻まれているだろう?」 左手を見るが、確かになにやら文字のようなものが刻まれている。 おまけに、なにやら光っている。 さすがにこれは反応せざるを得ない。 「貴様…!私に何をした!」 改めて銃口を向け、手に力を込める。 MSで敵を撃破するか。生身で人を撃つか。形に違いはあれど失われる命に違いは無い。 この男が敵であり、なにか妙な事を施したとでもいうのであれば、トリガーを引くのに躊躇はしないだろう。 コルベールもそれに気付いたのか、幾分か緊張した面持ちになる。 メイジではないが、雰囲気から、この使い魔がどこかの国の軍人であると判断した。 平民が軍人になれる国…それは隣国『ゲルマニア』しかない。 基本的に、実力主義で戦果さえ挙げれば一平卒でも将官への昇進が連邦よりも容易なジオン公国軍。 実力と才能で稼いだ金で地位を買う事のできるゲルマニア。 まぁ似たようなとこはある。 「とりあえず、銃を降ろしたまえ。我々はきみの敵というわけではないよ」 なるべく穏やかに言ったが、ガトーは鋭い目をコルベールに向けたままだが、ゆっくりと銃をホルスターに仕舞った。 「まず、話をしよう。ここはトリステインだ。きみはどこから来たのか聞かせて欲しい」 そう問われたが、ぶっちゃけあまり聞いていない。 「ジオン公国」 短く答えたが、考えが纏まらない。 コロニーで無いなら、ここはどこになるという事だが、常識で考えれば地球しかない。 だが、それなら、ノイエ・ジールがこんなとこに転がっているはずもない。 八方塞というやつだ。 「ジオン公国…聞いた事が無いな」 ジオン公国を聞いた事が無い。 そんなはずはない。U.C0083に生きる人間にとって、ジオン公国は前大戦の主役の片割れを担っていたと言ってもいい存在だ。 ジャブローの原住民でも、ジオン公国という名前ぐらいは知っているはずだ。 埒があかないので、こちらから質問してみる事にした。 「先程、飛んでいたが…どういう技術だ?」 「『フライ』かね?魔法だが…知らないはずはないだろう?」 『魔法』その単語を聞いて、少し頭が痛くなったが、現実だ。 「…魔法学院とか言っていたな」 「そのとおりだ。ここは、貴族が魔法を学ぶための施設で、君はミス・ヴァリエールの使い魔となったのだ」 「使い魔?どういう事かは知らぬが、私は、そのようなものになった覚えは無い」 「そのルーンが何よりの証拠だ。コントラクト・サーヴァントは君が気を失っている間に済ませてしまったようだが」 話は変わるが、基本的にジオン軍人は、軍人より武人に近いと言われている。 宇宙攻撃軍だけにしても猛将と揶揄されるドズル・ザビ中将を筆頭に、白狼『シン・マツナガ』といった武人気質の人間が非常に多い。 もちろん、そのドズル中将麾下の302哨戒中隊を率いていたガトーも例外では無い。 そんな人間に、気を失っている間に契約しておいたから、使い魔になれ。と、一方的な事を言えばどうなるか。 ただでさえ、多大な圧力を掛けてくる地球連邦に反発し1/30以下の国力がありながら独立戦争を仕掛けたのだ。 当然、次の瞬間には銃を抜いていた。 「動くな。動けば即座に撃つ」 「な、何を…!」 「確か…ルイズと言ったな…私を元居た場所に戻してもらおう」 会話に付いていけず、半ば呆然としていたが、コルベールに銃を突きつけ、そう言ってきた事でやっと我に返った。 「へ…?ああ、無理ね。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。使い魔を元に戻す呪文なんて存在しないわ」 「っく…!ふざけるな!」 「わたしだって、あんたみたいな平民が使い魔なんてイヤよ!大体、大怪我してて、治癒の魔法の秘薬の代金だってわたしが出したんだから!」 「ぬう…」 先にも言ったが、アナベル・ガトーは武人気質の人間で、行動理念の大半は義だ。 確かに、コウ・ウラキに撃たれた傷は塞がっている。 つまりは、命を拾われたという事になるのだが…どうもいま一つ納得しがたい。 「確かめたい事がある。どういう理屈か知らんが、私をノイエ・ジールのコクピットまで運んでもらおうか」 「それは…構わないが、銃をだね…」 指示をしつつ、ノイエ・ジールのコクピットに運んで貰う。 ルイズも付いてきたので中に三人入る事になった。いかに巨大MAノイエ・ジールとはいえ狭い。 おまけに、倒れているため、非常に操作し辛い。これが宇宙なら関係無いのだが。 各部チェックを行うが、武装関係はほぼ全滅でIフィールドも働いていない。 ジェネレーター出力も辛うじて作動していると言っていいLvだ。 それでも、システムを動かすだけなら何とかなる範囲。 ハッチを閉じると、モノアイを通して外の風景が映し出される。 「なにこれ!閉まってるのに外が見える!」 「戦闘記録データ…U.C0083.11/13/00・34・38…このあたりか」 コンソールを動かし操作するとモニターが外の風景から漆黒の宇宙へと切り替わる。 そこに移るのは、大きく輝く地球と周りに浮かぶ、06.09.21などのMSだ。 何かを合図としたかのように、それが艦隊へと向け突き進んだが、映し出されるのは、ミサイルや機銃。護衛のジムの攻撃により次々と脱落していく姿。 しばらくすると、一隻の艦がモニターに映し出され、それが大きくなると、爆発に巻き込まれ画像が途絶えた。 コルベールは黙って見ていたが、ルイズはビームやミサイルがかすめる度に大声を上げている。 そして、ハッチを開け放つと核融合炉を停止させた。 地上である以上役には立たないし、この損傷だ。暴走して爆発でもしたら洒落にもならない。 ガトーが無言でノイエ・ジールの装甲の上に立つ。 「生き恥を晒したというわけではないだろうが…お前に拾われた命だ。好きにするがいい」 「君はいったい…どこから、いや、あれは一体…」 その問いには答えない。というより答える余裕が無い。 日が沈みかけ、ハルケギニアにソロモンの悪夢が降り立ってからの三日目が終わろうとしていた。
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#blognavi オブジェ集 に「笠地蔵」が追加されました。 マスコットがなかなか合わない和風の家にも合いそうですね。 一番端の地蔵は笠をかぶせないで手ぬぐいを被ってる風にするのもありかもw カテゴリ [更新履歴] - trackback- 2009年03月07日 01 47 44 #blognavi
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どんなに物を盗もうと 土くれの心は満たされない どんなに魂を喰らおうと 虚無の中心は満たされない Zero s DEATHberry ――ゼロの死神 『The sword which talks ― master 』 『土くれ』 そう呼ばれる盗賊がいる、彼女は大いに困っていた。 事の発端は数日前にまでさかのぼる。 彼女が、トリステイン魔法学院に秘書『ロングビル』として、潜り込んだ事から始まる。 春の使い魔の召喚儀式から数日が経ち、異変が起きた。 使い魔を介して見た物は、学院のメイドが包丁を片手に構え、もう片方の手に小さな円筒を握っている姿 そして、それを使い魔の目の前に突き出して来る様子。 小規模な爆発があり、それ以降使い魔からの交信は完全に途絶えた。 そこで、新たに使い魔を召喚したのだが 『しなければ良かった』 そう思ってしまうほどに召喚されたそれは、奇妙だった 首から伸びた管のようなもの その先の出鱈目な骸骨と人の皮の様な物 骨の面の様な奇妙な貌 それら全てがはじめて見る物だった そして、自分は今から「それ」と契約をする 「・・・黒崎・・・一護・・・!!」 フーケに聞こえないように使い魔、グランド・フィッシャーが呟き その様子を一人のメイドが満足そうに見ていた 数日後 異変に真っ先に気が付いたのは、学園の人間ではなく使い魔だった 使い魔の名は『黒崎 一護』一応死神である ドドドドドドドドドド・・・・ (この霊圧・・・まさか・・・!! 即座に死神イヒして霊圧の元となっている地点に向かう 其処には、巨大なゴーレムで壁を破壊しようとしている黒服のメイジが居た (!?あいつじゃない? 疑問を持ったままゴーレムに『月牙』を叩き込む ゴーレムはゆっくりと崩れ、そして再び再構築される 暫くの間を空けてタバサ、キュルケ、そして一護の主人たるルイズが到着する タバサが無言でゴーレムの右腕を凍らせ キュルケがもう片方の腕を破壊する ルイズは頭部目掛けて魔法を放とうとして失敗したが、かえって大きなダメージを与えた しかし、やはりゴーレムは即座に再構築される そして壁に向かって止めの一撃が加わろうとしたとき ゴーレムの腕が爆発、その爆風により壁は崩れ落ちた キュルケ談 その時、盗賊はとても錯乱していました ひとまず彼を落ち着けるのが先決だと思い 彼がうわごとのように呟いていた『破壊の杖』を、手渡しました 実際のところ、私がもう少し落ち着いていればこんな事はしなかったでしょう・・・ ルイズ談 その時私はとても錯乱していたので、落ち着くためにとりあえず使い魔を杖で叩き続けました おかげで私はこうして落ち着きを取り戻せました、彼には本当に感謝しています こうして盗賊は目当てだった『破壊の杖』を手に入れ意気揚々と去っていきました 『破壊の剣、たしかに領収いたしました。土くれのフーケ』 という文字を壁面に残して 数刻後 「……それで、犯行の現場を見ていたのじゃな、ミス・ヴァリエール……詳しく説明してくれんかの?」 出来る訳無い 自ら壁に穴を開け、自ら秘宝を手渡し、笑顔で盗賊を見送った報告なんて たとえ皮を剥がれ、肉を裂かれ、骨を砕かれ、神経を解きほぐされようと 出来る訳が無かった 『それは、本能だ!!』とか聞こえたが、何、気にすることは無い そこで、到着したときにはすでに盗賊が去った後だということにしておいた 「追おうにも、手がかりはナシか……」 オスマンが諦め掛けたその時 「手掛かりならあります!!」 ミス・ロングビルが高らかに宣言する 「ミス・ロングビル居間まで何処に?」 心底心配そうにコッパゲが問い ロングビルが答えて曰く 「申し訳ありません、フーケの行方について調査をしておりまして。」 「仕事が速いの。で、結果は?」 「はい。森の廃屋に、黒いローブの男が入って行くところを見たという情報を手に入れました」 「では、捜索を私にやらせてください!」 会話にルイズが割り込む 先ほどの失態を如何にかして埋め合わせたいのである それにキュルケ、タバサと続く 「では、頼むとしようか。ミス・ロングビル、案内役を頼む。」 雨が降っていた・・・・・
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 悲鳴と同時に弾かれるように外に飛び出すタバサとエレアノール、一瞬遅れたキュルケは外に飛び出す前に、景気のいい音と共に小屋の屋根が吹き飛ぶのを目の当たりにした。青く広がる空と、それをバックにして立っている巨大な影。 「ゴーレム!!」 キュルケの悲鳴。それと同時にタバサが杖を振って、唱えていた魔法を解き放つ。巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムへとぶつかって行く―――が、その質量を押し切るほどの力はない。続いてキュルケも炎の魔法を放ち、ゴーレムを火達磨にするが目に見えた効果はほとんど無かった。 「無理よ、こんなの!!」 「退却」 キュルケとタバサは一目散に逃げ出す。エレアノールはそれを横目で見ながら、ルイズの姿を探す。先にルイズに気付いたのはデルフリンガーであった。 「おいおい相棒、娘っ子が無茶してやがるぜ!」 エレアノールから見てゴーレムの向こう側で、ルイズは呪文を唱え杖を振っていた。―――爆発、ゴーレムの背中が弾けるが、その大きさから見て微々たるもの。だが、ゴーレムが背後のルイズに注意を向けるには十分であった。 「ご主人様!! 逃げてください!!」 「いやよ!」 再び杖を振って魔法を放つ―――爆発。 「ご主人様!!」 「いやよ! フーケを捕まえなきゃダメじゃない!!」 ゴーレムは逃げ出したキュルケたち、正面に立つエレアノール、そして背後で失敗魔法を放ち続けるルイズのどれから相手にしようか迷っているようにも見えた。 ―――爆発。その間にもルイズの魔法はゴーレムの表皮を削り続けるが、その都度、土が盛り上がって再生する。しかし、ゴーレムは自分にダメージを与え続けるルイズから相手にすることを決めたのか、ゆっくりとした動作で後ろを向き始める。 「―――!! ルイズッ!!」 エレアノールが地を蹴りルイズの元へと走る―――が、ゴーレムを迂回する分だけ出遅れる。 「私は貴族よ。魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない! 敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶのよ! それに―――」 ―――爆発。ゴーレムの行動を僅かに遅らせる程度でしかない。だが……この局面では僅かな時間が、貴重な時間となる。 「―――それに! 私は貴女に相応しいメイジだと! 貴女の立派な主だって証明しないといけないじゃない!!」 ゴーレムが足を高く上げ、ルイズ目掛けて踏みつけるように落とす。視界一杯に広がるゴーレムの足にルイズは硬く目を閉じた。しかし、僅かの差で横から飛び込んできたエレアノールがルイズを抱きかかえ、一気に走り抜けた。同時にエレアノールはその場にアイスを数個展開し、ゴーレムが踏み込むと同時に起動させる。キィンという音と共に数メイルほどの氷塊が生まれ、ゴーレムの片足を包み込む。 その足止めが効力を発揮している間にエレアノールは十分な距離を走り、そこでルイズを降ろす。呆然とするルイズに、エレアノールはその頬を平手で叩いた。 「ルイズ! 何で逃げなかったのですか!!」 「え……え、だって……だって……」 ルイズの目から涙がぼろぼろとこぼれだす。エレアノールは硬く引き締めていた表情を、フっと和らげて微笑みを浮かべる。 「誇りをもって命を賭すのと、虚栄のために無謀なことに挑むのは別物です。それに……、ご主人様は気高き誇りを既にお持ちじゃありませんか。何人にも折ることの出来なかった、決して諦めず投げ出さなかった誇りを……」 スっと立ち上がると背後に顔を向ける。エレアノールの視線の先には足を覆っていた氷塊を砕いて、体勢を立て直しつつあるゴーレムの姿があった。 「私には、それがとても眩しく思えるのですよ……お仕えするに値するほどに」 ―――それは憧憬の声――― 「エレアノール……貴女……」 エレアノールの背中越しに聞こえてきたのは、かつて夢の中で聞いた昏い声。それと同じものを含んでいた。 「―――あのゴーレムは私が相手をします。ご主人様は安全な場所へ」 「エレアノールッ!!」 エレアノールはデルフリンガーを握り直すと、ゴーレムに向かって駆け出した。ルイズは悲鳴にも似た叫びを上げてその後を追おうとしたが、目の前にタバサが跨ったシルフィードが舞い降りて立ち止まる。 「乗って」 「でも、エレアノールが!」 「わかってる。でも、貴女が先」 ルイズは渋々とタバサの手を取り、シルフィードの背中へと引っ張りあげてもらう。ルイズがしっかりと跨ったことを確認すると、タバサはシルフィードへ指示を与える。 「キュルケとエレアノールとロングビル、ゴーレムの隙があり次第順次回収」 「きゅいきゅい!!」 シルフィードは翼を大きく広げ、空へと舞い上がった。 ぶんッ―――重々しい音と風圧がエレアノールのすぐ脇を通り抜け、一瞬後には地面を揺らす衝撃となって響きわたる。それを引き起こしたゴーレムの拳は、一メイルほどの大穴を地面に作ってめり込んでいた。それが引き上げられようとする瞬間、周囲にアイスが次々と設置されて即座に起動する。凍結し、ゴーレムの右手を地面へと縛りつける。 「えい!!」 地面から跳び、ゴーレムの左肩から胸にかけて斬りつける。残された左手を振り回してくるが、それをゴーレムの身体を蹴った反動で距離を稼いで避ける。 「やるな、相棒。でも見てみな、斬ったところがまた再生してやがるぜ」 「そのようですね」 大きく斬り裂かれていた箇所が、徐々にくっ付き元通りになる。 「向こうの再生力がどれほどかは分かりませんが、このままでは消耗戦に持ち込まれると厄介です」 「あの手のゴーレムは術者のメイジを叩けばいいんだが、隠れたまま出てこねーみたいだな」 ガキンっと右手の氷塊を砕いてゴーレムが立ち上がる。 「そういや相棒はさっきから氷で凍らせてるみてーだが、あれで一気に全身を凍らせるのは出来ねーのか?」 「これだけ大きいと無理です―――ね!!」 地を駆けて、立ち上がったゴーレムの足の間を一気に走り抜ける。同時に右足を斬りつけて、左足にアイスを設置する。潜り抜けると同時にアイスを起動させ左足を氷で止め、残った右足が再生しきる前に完全に両断しようと振り返って斬りつける。 ―――ガキィィィンッ 「ッ!?」 「いでででででッ!?」 今までの土とは違う手ごたえと衝撃に、デルフリンガーを握る手が痺れる。先ほどまで土だったゴーレムの右足が、鉄へと変わっていた。 「お、おでれーた、相棒の攻撃を読んで鉄に錬金して防いだぜ」 左足を拘束していた氷塊もあっさりと砕け散って、ゴーレムは自由を取り戻す。 「それに氷を砕くコツも掴んできたみたいですね―――!!」 ビュンという風斬り音を響かせ殴りかかってくるゴーレムの拳を、後ろに跳んで避けて距離を取る。しかし、歩幅の違いからすぐに距離は詰められる。 「相棒! 右から来るぜ!」 「分かってますッ!」 ゴーレムの拳を紙一重でかわし、逆に連続して斬撃を叩き込む。一瞬、ゴーレムの左腕は崩れかけるが、すぐに再生する。 ギーシュの青銅ゴーレムと違い、圧倒的な質量と再生能力を誇るフーケの土ゴーレムに、エレアノールは決め手に欠けていた。ルーンの効果による身体能力の向上もゴーレムからの致命的な一撃を回避するには有効だが、逆に致命的な一撃をゴーレムに与えるには力不足であった。 (正直、これは攻め切れませんね……) エレアノールの顔に焦りの色が浮かび始めた。 ゴーレムとエレアノールの戦いにロングビル―――フーケは、顔に驚きの表情を浮かべたまま見入っていた。当初の予定通り、四人をゴーレムに襲わせ『雷の宝珠』を使わせるつもりだったのだが、エレアノールの予想外の健闘にその目論見は崩れつつあった。 「―――何なんだよ、まったく。あの女は!?」 ゴーレムの足に『錬金』をかけ終えて、小声でぼやく。本当は殴りつける腕に錬金をかけるはずだったが、エレアノールの動きに反射的に足にかけて辛うじて防ぐことができた―――もし、土のままでは両断されて倒れていただろう。 「それにしても、さっきから氷漬けにされるのが厄介だねぇ」 先ほどからゴーレムの拳や足にまとわりつく氷塊に眉をひそませる。最初は空からタバサが魔法をかけてるのかと思ったが、それにしてはエレアノールの攻撃とのタイミングが合いすぎる。無論、エレアノール自身がそれを行っているのなら説明がつくが、そうだとすれば杖も呪文詠唱もなしに氷塊を生み出していることになる。 「つくづく謎の多い使い魔だね―――チッ!」 ぼやいている間に左腕の三箇所に深い斬撃を入れられ、崩れ落ちようとしていた。慌てて再生させるために精神を集中させて、それらをつなげ直し―――消耗した精神力に軽いめまいを覚える。 (このままじゃジリ貧だねぇ……) フーケの顔にもまた、焦りの色が浮かんでいた。 上空からルイズはエレアノールとゴーレムの戦いを、ハラハラしながら見つめていた。ちょうど、木々の間から『フライ』で飛び上がって合流してきたキュルケも、落ち着きのない眼差しで眼下に視線を向けていた。 彼女たちが見守るエレアノールの戦いは、ギーシュとの決闘の時に見せた疾さでゴーレムを翻弄しているようにも見えたが、斬りつける端からゴーレムは再生し、決め手に欠けているのは一目瞭然であった。 そしてタバサは二人と違い、戦いそのものより時折ゴーレムの行動を阻害する氷塊を注意を払っていた。氷塊を生み出しているのは状況から見てエレアノールの仕業、なのに杖も持たなければも詠唱すらもしている様子がないと―――タバサの思考にそれらの信じがたい事実が深く刻まれる。 「タバサ! お願い、エレアノールを助けて!!」 「近寄れない、今は注意を引くのが精一杯」 シルフィードは何度かゴーレムの間合いギリギリを飛んでいるが、ゴーレムの方はそれをほぼ無視してエレアノールに攻撃を加え続けていた。上空から援護するしようにも、タバサの『エア・ハンマー』程度ではゴーレムの表皮を軽く削る程度、トライアングルスペルの『エア・ストーム』は至近距離にいるエレアノールを巻き込みかねない。 それでも注意を可能な限り引くために、タバサは『エア・ハンマー』を唱えて放つ。後ろではルイズが同じように杖を振って、魔法を放つ。タバサの『エア・ハンマー』は狙い通り正確にゴーレムの頭へ、ルイズの『爆発』はゴーレムの胸に炸裂する。 「効果なし。これ以上は精神力を消費しすぎる」 「だからって、何もしないわけにはいかないでしょ!!」 ルイズの叫びにシルフィードに乗り終えたキュルケが頷いて、杖を振って火球をゴーレムへと叩きつける。 「そうね、こればかりは同意するわ」 火球を受けてもビクともしないゴーレムに、ルイズが再び杖を振って魔法を放つ。―――爆発、ゴーレムの肩が弾け飛ぶ。 先ほどまでと変わらない威力であったが、今度の攻撃に対してゴーレムは上空に顔を向けると、右手の手のひらに土の塊―――恐らくは自身の身体の一部―――を生み出し、それを三人目掛けて投げつけてきた。空中でそれらは砂礫になり、弾幕となってシルフィードへと襲い掛かる。 「避けて」 「きゃあぁぁぁ!?」 緊急回避のために大きく翼を羽ばたかせるシルフィード。しかし、砂礫は容赦なく襲い掛かった。 「きゅい~~~!?」 一際大きな塊がシルフィードの頭と翼に当たり、地面へと墜ち始める。キュルケがとっさに『レビテーション』を唱え、ルイズを抱きかかえて宙に舞う。ほぼ同時にタバサも宙に舞い、辛うじて墜落するシルフィードから飛び出し、何とか三人とも着地に成功する。 先に墜ちたシルフィードは何とか起き上がろうとしているが、墜落のダメージが大きいのかその場で悶えていた。 (退却の選択肢が削れた) 森の中を散開して逃げる手も残されているが、下手すれば遭難する―――『フライ』の使えないエレアノールはほぼ確実に。タバサは杖を握り締め、エレアノールとゴーレムの戦いを見つめた。 「エレアノール……」 そしてルイズは、戦いを思いつめた表情で見つめていた。 エレアノールは何度目―――二十何度目になる斬撃をゴーレムの胴体に入れ、そしてまったく同じようにしぶとく再生を続けるゴーレムにため息をつく。 「これほどとは……、厄介ですね」 「あー、でも再生にも精神力使うから、このままいけば勝てるじゃね?」 デルフリンガーの言葉どおり、最初に比べてゴーレムの再生速度も明らかに遅くなっているが、状況は決して楽観できるものではない。フーケが次の一手を打って状況を打開しようとする前に決着をつける必要がある、とエレアノールは考えていた。ブゥン、と風切り音と共に視界に広がるゴーレムの拳をバックステップで回避―――しかし、先ほどのゴーレムの攻撃で地面に降りてきたルイズたちに攻撃の矛先が向かないように、最低限の距離に留める。 (仕方ありません。何とか両足を断って、撤退するための時間を稼ぎ―――) 「『雷の宝珠』! 私に応えて!!」 エレアノールの思考を中断させたのはルイズの必死の叫び。振り向くといつの間にか『雷の宝珠』―――トラップカプセルを掲げていた。エレアノールのために何か出来ることを、と考えた上でタバサから強引に受け取っての行動。だが、トラップカプセルはルイズに応えない―――魔法との相性の悪さゆえに。 「お願いッ!! お願いだから!!」 「ご主人様! 早く逃げて―――あッ!!」 エレアノールはルイズが掲げているトラップカプセルを見て気付く。自分が使っているアイスのトラップカプセルでは、膨大な質量のゴーレムの足止めにも使えない―――だが、攻撃力に優れたサンダーのトラップカプセルなら? 「ご主人様、それをこちらに! 『雷の宝珠』を!!」 「え? ……ええ、分かったわ!」 ルイズから投げられたトラップカプセルをエレアノールは地を蹴って跳び―――その直後、ゴーレムの一撃が彼女の立っていた場所に叩きつけられる―――空中で受け取り握り締めた。振り返りながら着地し、ゴーレムへとトラップカプセルを向ける。 「これで―――」 左手のルーンが一際大きく光り輝き、ゴーレムの足元に八個のトラップが設置される。 「―――終わらせて頂きます!!」 そして起動。―――眩い雷光と轟く雷鳴がゴーレムを包み込み、弾けた。 「おでれーた、すっげぇ雷撃だぜ」 デルフリンガーの呆気に取られた声が、雷鳴が消え去った後の静けさの中に深く響いた。雷撃の真っ只中にあったゴーレムは全身からブスブスと焦げ臭い煙を上げており、徐々に崩れつつあった。 ルイズはその様子を呆然と見つめていたが、ゴーレムが完全にただの土の塊になると安心して放心したのかその場に崩れるように座り込んだ。タバサはゴーレムの最後を見届けると、「きゅい~~~」と痛みに耐えているシルフィードの元へと向かい、キュルケも驚きと喜びの表情を浮かべてエレアノールの元へと駆け寄る。 「お疲れ様、エレアノール! ギーシュの時もそうだったけど、貴女には本当に驚かされるわね!」 「いえ、それほどでも……。それより、ゴーレムを操っていたフーケは?」 その言葉にキュルケは首を振る。フーケを探していたが見つからなかった、と。 「そうですか……。あと、ミス・ロングビルは見かけられませんでしたか?」 「そういえばどうしたのかしら―――あ、いたわよ。どうやら無事みたいね」 辺りを見回していたキュルケが、ある一方へと指差した先に森の中から歩いてくるロングビルの姿があった。 「皆さん! ご無事ですか!?」 「ミス・ロングビル! 今までどうしてたのかしら?」 キュルケの問いかけに、ロングビルは顔を伏せる。 「申し訳ありません。森の中で突然当身を入れられて、つい先ほど、気付いたばかりなのです……」 「じゃあ、そっちもフーケに襲われてたってこと?」 「恐らくは……、黒いローブも着込んでいたみたいですし」 ロングビルはキュルケとの問答を切り上げると、エレアノールに顔を向ける。 「それにしてもミス・エレアノール、貴女は『雷の宝珠』を扱えたのですね?」 「ええ……、私も同じものを持ってますし」 デルフを地面に突き刺し、空いた手で服の中から手持ちのトラップカプセルを取り出す。『雷の宝珠』と寸分違わぬ見た目のそれに、ロングビルと近くにいたキュルケ、そして放心状態から立ち直って寄ってきていたルイズが目を丸くする。 「ええええ~~~!? な、何で貴女がこれを持ってるのよ!?」 ルイズの叫び声は、静けさを取り戻しつつあった森に強く響いた。キュルケはその叫び声の大きさに顔をしかめ、ロングビルは口をパクパクさせながらエレアノールのトラップカプセルに見入っていた。 「これは知り合いの学者さんが作った魔法を応用したトラップカプセルというものです。中に決まった種類のトラップ、魔法仕掛けのカラクリが入ってまして、こういう感じに―――」 手近な地面に設置するように操作する。パシュっという軽い音と共に、なだらかな起伏をもった板状のアイスが設置された。 「望んだ場所を決めて設置して、好きなタイミングで起動させるように考えれば、それを読み取ってくれるのですよ」 キィンという音と共にアイスが起動し、先ほどのゴーレムに対して使ったときよりも小さめの氷塊を生み出す。 「では、先ほどの『雷の宝珠』も同じ方法で使えるのですか?」 「……ええ、その通りですよ」 ロングビルの言葉にエレアノールは頷いて同意する。 「なるほど……。あの、その正体が何であれ学院の秘宝であることは間違いありません。『雷の宝珠』をこちらに……あと、見比べてみたいので貴女のトラップカプセルもお借りしてもいいですか?」 「構いませんよ」 手を伸ばしてきたロングビルに、『雷の宝珠』とトラップカプセルを手渡す。 「―――でも、魔法そのものとは相性が悪くて、メイジには使えないものらしいです」 「ッ!?」 エレアノールの言葉にロングビルの表情が固まった。二つのトラップカプセルを持つ手も、僅かながら震えている。 「それじゃあ、あたしたちには使えないの? ミス・ロングビルの次に試してみようと思ったのに」 キュルケがトラップカプセルを見ながら残念そうに呟く。 「作成した学者さんも言ってましたし、先ほどもご主人様が使えなかったので間違いないですね。……ミス・ロングビルも、『今までに一度くらい』は試されたことはありませんか?」 エレアノールは微笑みながら、自然な動作でデルフリンガーの柄に手をかけて、僅かながら重心を移動させる―――引き抜いていつでも斬りかかれるように。キュルケやルイズは気付いていないが、目の前のロングビルはそれに気付いて瞳に動揺の色を浮かべていた。 「それではミス・ロングビル、そろそろ私のトラップカプセルを返して頂けますか? 学院に戻るまで、フーケが再び襲ってこないとも限りませんし、迎え撃つにしてもトラップカプセルがある方が有利なので」 「そうね。タバサのシルフィードも回復したみたいだし、そろそろ戻るべきよね」 ルイズの視線の先では、タバサの回復魔法で痛みが治まったシルフィードが「きゅいきゅい♪」と元気に鳴いていた。エレアノールも横目で見ながら、ロングビルから自分のトラップカプセルを受け取り、服に仕舞い込む。 「それじゃあ帰りましょ。……でも、シルフィードもいるのに帰りも馬車なのは嫌よねぇ」 キュルケのもっともな言葉に、シルフィードの治療を終えて歩み寄ってきたタバサが口を開いた。 「上空の偵察役と地上の馬車役、二手に分かれればいい」 馬車はゴトゴトと音を立てて学院への帰路を順調に進んでいた。 馬車の上には御者のロングビルとデルフリンガーを抱えたエレアノールの二人、残りの三人はシルフィードに乗って上空を優雅に学院への帰路を辿っていた。 「ねぇ……」 ロングビル―――フーケが前を見たまま、エレアノールに話しかけたのは道のりの半分を終えた辺りであった。 「あんた、いつから気付いていたんだい?」 「確信はもてませんでしたが……気付いたのは、あの廃屋の中で『雷の宝珠』を見つけた時ですね。―――違和感は、宝物庫で貴女が伝えてきた目撃情報を聞いたときからずっとありました」 鞘から若干刀身を覗かせているデルフリンガーが、興味深そうにカチャカチャと鍔を鳴らす。 「へぇ……? あたしが持ってきた証言のどこがおかしかったのだって?」 「どこがというより、一通り全部ですね。昼間でも暗い森の中で黒ずくめの男を目撃したという農民。そんな深夜に真っ暗な森で黒ずくめの人など見えるものじゃありませんし、目撃者が灯りを持っていたのならフーケも気付いているはずです」 「ああ、言われてみればそのとおりだね……やれやれ」 淡々と話すエレアノールに、フーケは苦笑しながら肩を揺らす。 「その目撃者が貴女の聞き込みに応じる―――朝から聞き込みを開始したのであれば、少なくとも学院の近くまで目撃者が来ていたことになりますけど、馬で四時間以上もかかるほどに距離が離れているのであれば、偶然にしても出来すぎてます。……もちろん、目撃者がフーケかその協力者で誤った情報を貴女に伝えた、と言い逃れできますけど」 「ははは……、言い逃れさせる気があるのかい?」 苦笑を通り越した、明るい―――しかしどこか空虚な笑い声。 「農民が真実フーケの目撃情報を知らせたものと考えるにしては、不自然なほどの偶然の連続。一方で誤った情報を掴まされたとしたら、『雷の宝珠』があの場所にあること自体がありえません。……しかし、実際に置いてあった以上、フーケには何かの『目的』で置いておく必要があったのと、私たちが回収してもそれを取り戻す『手段』を持っていたということです」 一呼吸言葉を置いて、エレアノールはフーケの様子を伺う。笑い声は収まっていたが自分のミスに呆れているかのように、押し殺した含み笑いで肩を震わしている。 「―――その『手段』は、メンバーの中にフーケかその協力者がいるだけで容易に達成できますしね」 「それであたしが怪しいって……わけか」 「ええ、それにあの時、あわよくば私のトラップカプセルも盗ろうと考えたのでしょう?」 フーケは肩を竦めて聞こえるようにため息をついた。そして自嘲気味な笑い声を交えて答えてくる。 「やれやれ、欲張りすぎたって話だね……。ああ、目的は『雷の宝珠』の使い方だよ。売り払うにしろ使うにしろ、使用方法がわからなきゃ価値もつかないし意味がないだろ? ゴーレムで襲えば、使い方を知ってる奴が対抗するために使うと踏んでいたの……だけどねぇ」 ガタンゴトン、と大き目の石を車輪が轢いて、馬車が大きく揺れる。その揺れに合わせるように、フーケは肩を落とした。 「それで……あたしをどうしようって言うんだい? このまま学院に連れて帰って、オールド・オスマンのセクハラ爺に突き出す気かい?」 「……貴女は何で貴族ばかりを狙われるのです? 確かに見返りは大きいですが、危険も相応に大きいですよね?」 自分の命運をかけた問いかけ―――答え次第では全力で逃げることも想定していた―――に、問いかけで返されてフーケは肩透かしを食らった気分になる。 「……あたしは貴族が嫌いなんだよ。偉そうに振舞っているくせに、自分の欲望に忠実な自制心のないケダモノじゃないか。それに、見返りの大きいというのも大切なんだよ。倉に貯めこまれているより、もっと有益に使われるべきなんだし」 「そうですか……」 エレアノールは相槌をうつと、そのまま黙り込む。ゴトゴトという馬車の車輪の音が大きく響いた。その沈黙にフーケは最初は我慢していたが、すぐに気になるように後ろを振り向く。 「……黙ってられたら気になるじゃないか、何とか言って欲しいもんだね」 「いえ、ちょっと知り合いを思い出していたもので……失礼しました」 どこか慈しむような微笑みを浮かべてエレアノールは頭を下げる。 「念のために聞きますが、『雷の宝珠』や私のトラップカプセルはまだ狙っておられるのですか?」 「メイジには使えないのだろ? その手の盗品を裏で買い取ってくれそうな貴族様はメイジばかり。でも、使えもしなければ、平民の反抗するための牙になりそうな厄介な秘宝を、欲しがるわけがないじゃないか。安く買い叩かれるのがオチだね」 言葉の最後に、貴族に恨みを持つ平民に渡すのも一興かもね、と愉快そうに付け加える。 「……じゃあ、もう私たちに手出ししないというのであれば、何も言いませんよ。私たちは『土くれ』のフーケを追撃して取り逃がしたが、辛うじて『雷の宝珠』を取り戻した。それだけのことです」 「気前がいいねぇ―――で、何が望みだい? それだけ羽振りがいいこと言うからには、交換条件で何かあるんだろ?」 「察しがいいですね。……貴女がもつ情報網で調べて欲しいことがあります」 「調べて欲しいこと?」 フーケの声色に好奇心が混じる。エレアノールは一息深呼吸すると、トラップカプセルを手にとって見つめる。 「このトラップカプセルは私の世界―――遠い故郷の産物です。『雷の宝珠』に関してはオールド・オスマンに後でお聞きしますが、それ以外にも帰るための手がかりが必要なのです。貴女には、変わった噂や事件……そういったことを調べて教えてもらいたいのです」 「へぇ……、てっきりヴァリエールのお嬢ちゃんに仕え続けるのかと思っていたけど、里心でもわいたのかい?」 「それをお答えする必要はありますか?」 フーケはエレアノールの答えに、呆れたように肩をすくめる。 「つれないねぇ……。ま、いきなり拉致紛いの召喚で使い魔にされたら、普通なら激怒するだろ? それなのに、あんたは嫌な顔を一つせずに忠実に従ってる。はっきり言って信じられないよ―――あんたみたいな名家、しかもかなりの上級貴族の出自の者だとね。正直、今さらって感じはあるね」 「私が上級貴族と? その根拠は?」 「雰囲気に物腰。……メイジじゃないのが不思議だけど、言い換えればメイジじゃないこと以外は、貴族としての教養をまともに受けてるように見えるねぇ」 エレアノールはその言葉を聞いて深く考え込む。しばしの間、馬車の音が再び大きく響いたが、今度はフーケも急かすことは しなかった。 「……別に私は強引に連れてこられたとは思っておりませんよ。気がついたら使い魔になっていたというのは少々呆れましたが、ご主人様も良い方ですから不満はありません―――正直なところ、帰れたとしてもまたお仕えするために戻ってくるかもしれませんし、ね」 言葉を区切り、感慨深げにふぅ、と息をつく。 「……それに、私も貴族としての名を剥奪された、みたいなものです」 「へぇ……」 フーケはどこか親近感―――同じ境遇の者へ向ける好意の感情―――を秘めた視線をエレアノールに向ける。 「―――話は飛びましたが、今言ったことを調べていただけますか?」 ゴトゴトと馬車は順調に学院への帰路を進んでいた――― 「いいさ、その条件を飲んでやるよ! 正体を知られた以上、あんたに命を握られているに等しいからね。投獄されて処刑されるのに比べれば、その条件なら天国みたいなものさね!」 「よろしくお願いします、ミス・ロングビル―――いえ、フーケとお呼びするべきですか?」 「人前じゃロングビルって呼んでもらいたいね。本名も別にあるが……教える気はないよ」 ―――その馬車の上で大貴族の令嬢に仕える使い魔と、貴族専門の大盗賊との間に紳士協定に等しい盟約がその時、結ばれた。 「やれやれ、相棒はお優しいねぇ」 「このことは秘密ですよ、デルフ」 「わかってら! おれっちだって空気くらい読める!」 一人、会話に入れなかったデルフリンガーは、少々寂しそうに鍔を鳴らしていた。 タバサは二人の会話を聞いていた。正確には、風の魔法を使ってシルフィードに二人の声が届くようにして、聴覚を同調させることで聞いていた。ロングビルの正体とその目的、そしてエレアノールがそれを見逃すことも全て。しかし、タバサはそれ以上に重要なことを聞き逃さなかった。 (『私の世界』……言い直していたけど、確かにそう言った) その言葉がもつ意味を考える。後ろで軽い口喧嘩を始めているルイズとキュルケの声が、雑音として響くが思考を妨げるほどでもない。 (つまり彼女はここを『別の世界』として考えている) 思考を一つ一つ進めて解を求める。聖地の向こう―――ロバ・アル・カリイエのことを最初に考えるが、それはあくまで『東の世界』であって『別の世界』ではない。次いで思い浮かべたのは、文字通りの『異世界』、子供向けの寓話や小説でまれに出てくる概念だった。 (ありえない……、本当に『ありえない』ことばかり) 眼下に広がる草原、その中で学園への帰路を順調に進む馬車を視界に捉える。エレアノールとフーケの会話は歓談へと変わりつつあったが、タバサはそれらの言葉も逃さないように一言一言を脳裏に刻みはじめた。 学院に帰還した五人の報告にオスマンは顔を綻ばせてそれを讃えて、エレアノールとフーケを除く三人に爵位と勲章の授与申請を、フーケに金一封の進呈を約束する。エレアノールにも金一封を渡そうとしたが、それを丁重に断って話したいことがあると申し出て学院長室に残った。ルイズは残ろうとしたが、エレアノールの申し訳なさそうな顔とオスマンの退室を進める言葉に、他の三人と一緒に渋々と部屋から出て行った。 「さて、話したいこととは何じゃね? もしやわしの側に仕えたいと申されるのかのぉ? それならば、次席秘書としてミス・ロングビルと共に―――」 「いえ、そのようなことではなくて、『雷の宝珠』についてお伺いしたいことがあります」 エレアノールに一言であっさりと否定され、オスマンは明らかに残念そうな顔をする。しかし、一瞬後には元の表情へと取り繕い直す。 「あの『雷の宝珠』は私が居た世界の道具―――トラップカプセルという道具です。私も同じものを持っています」 「ふむ……、確かに『雷の宝珠』と同じものじゃの」 エレアノールの差し出したトラップカプセルに、目を細めて頷く。 「それで『雷の宝珠』をどこで入手されたのでしょうか? 少なくとも、こちらの世界では手に入らないはずです」 「『私の居た世界』に『こちらの世界』か……、なるほどのぉ」 エレアノールの『世界』を故意に使った推し量るための言い回しに、オスマンは何やら納得するように頷く。 「いや、ミス・エレアノールの言葉で合点がいった。それの持ち主も同じようなことを言っておった」 オスマンは懐かしさと、そして軽い後悔が混じった表情を浮かべて、三十年前に『雷の宝珠』を入手した経緯を話し出した。 ―――森でワイバーンに襲われたときに一人の男性に『雷の宝珠』で救ってもらったこと、そして瀕死の重傷を負っていた男性は看護の甲斐なく亡くなったこと、そして形見として『雷の宝珠』と彼が所持していた幾つかの物品を持っていることを。 「彼はベッドの上でうわごとを死ぬまで繰り返しておったの。『ここはどこだ? 何故、時の航路図が使えない?』とな。……『時の航路図』とやらは、これのことかの?」 机の引き出しから取り出された金色に鈍く光る、一見すると幾つかの時計が組み合わさったようなアイテムに、エレアノールは息を呑む。 「……ええ、それは確かに『時の航路図』です。私たちの間では移動用のアイテムとして使っていました。もちろん、制限はありますが。少し、お借りしてもよろしいでしょうか?」 時の航路図。遺跡と地上を瞬時に移動でき、また既に入ったことのある遺跡ならば自由に移動できる冒険者の必須アイテム。 震える手で時の航路図を受け取り、移動したいと思うだけで起動するその機能を試す。 ―――しかし、何も起こらない。 「どうじゃの?」 「……やはり、壊れてるみたいですね」 元の持ち主の言葉から薄々予想はついていたが、期待が打ち砕かれてエレアノールはため息をつく。遺跡の中では時の航路図が使えない場所もあるため、本当に壊れているかどうかは分からなかったが、少なくとも役に立たないことには変わりなかった。時の航路図をオスマンへと返し、自分と同じ異邦人の詳細を知るための疑問を投げかける。 「それでその男性はこちらにどのようにして来たとか、何か言っておりませんでしたか?」 「ふぅむ……、意識が朦朧としておったからのぉ。わしも聞いてみたのじゃが、あまり要領を得なかった。他に言っておったことと言えば『俺は早くバルデスさんの仇を取るんだ』とか言っておったが」 「―――ッ!? それは、確かに言っておられたのですか?」 「ああ、そうじゃ。間違いなく言っておったのじゃが……それがどうかしたのかの?」 「いえ……、何でもありません」 震える声を隠し切れないエレアノールに、オスマンは怪訝な顔をする。 (私と同時期の誰かが、『三十年前』のこちらの世界迷い込んだということになるのでしょうけど……) 遺跡―――精神世界アスラ・ファエルの時空が乱れているのは、冒険者の間では周知の事実であった。ある遺跡の階層では、一日を過ごしても地上では一瞬のことであったり、逆に地上での一ヶ月が僅か十数分で過ぎ去る階層もある。同時に同じ階層に多くの冒険者が入っても、並列する別の時間軸に分かれてお互いに会うこともなかった事例。そして、数日前に行方不明になった冒険者が死後数ヶ月を経過した状態で発見されて、その後に遺跡に入った者が行方不明になる前の『生きていたときの冒険者』と出会っていた事例すらあった。 「何やら考え込んでいるようじゃが、話は以上かの?」 「え? はい、色々とありがとうございました」 エレアノールは礼を述べると、学院長室を後にしようとし――― 「ところで、ミス・エレアノール。その左手のルーンについて知りたいことはないのじゃろうか?」 老練さと威厳さ、そしてどこか愛嬌を感じさせるオスマンの声色に、エレアノールは目を瞬かせた。 ルイズは学院の着付け部屋の前で、まだ終わってないエレアノールを待っていた。先ほどまでにぎわっていた生徒と教師は既に舞踏会会場へと立ち去っており、着付けを手伝っていたメイドたちもほとんどが会場での他の仕事のためにこの場を後にしていた。 辛抱強く待っていたルイズであったが、我慢の限界が近づいたのか着付け室を覗こうと思い出したとき、ちょうどそれを見計らったようにドアが開いた。 「お待たせしました、ご主人様」 「遅かったじゃないのよ!」 口では文句を言いつつも、ルイズはエレアノールの美しさに目を見張っていた。長い黒髪をフィッシュボーンにまとめ上げて銀細工の髪飾りのアクセント、青いドレスは引き締まった身体のラインを美しく見せ、麗しい雰囲気を引き立てていた。自分の見立ての正しさを誇りつつ、ルイズは表情を取り繕い腕組みをする。 「なかなか似合ってるじゃない。私の従者として合格よ」 「ありがとうございます、ご主人様も似合っておられますよ」 ルイズの可憐な高貴さを引き立てる衣装へのエレアノールの褒め言葉にに、「当然じゃない」と言い、顔を背ける。それは照れ隠しの動作だと見え見えであった。 「……あ、あと、もう『ご主人様』って言わなくていいからね! 特別に、『ルイズ』って名前で呼ぶことを許してあげるんだから!」 「よろしいのですか?」 「貴女は態度もいいし、それくらい構わないわよ。それに……『雷の宝珠』奪還の立役者に、せめて私から報奨を与えないと不公平じゃない!」 ルイズの態度にエレアノールは微笑みを浮かべて頷く。 「では、ルイズ様。そのようにいたします」 「じゃあ、早く行くわよ。 『フリッグの舞踏会』はもう始まってるのよ」 照れた表情を見せまいと先を歩き出すルイズの背中を見ながら、エレアノールは胸中で呟く。 (その真っ直ぐな心があるのなら大丈夫でしょうね。……いつかは貴女も気付くでしょう) かしずかれ傲慢に他を見下して腐敗する貴族と、それに苦しめられている平民。魔法の使えないと嘲笑されているルイズは、皮肉なことに見下される苦しみを知っている稀有な貴族であった。それゆえに、貴族社会に一石を投じる存在になりえる可能性を秘めているとエレアノールは感じていた。 (貴女ならきっと大丈夫です……、そのことを祈ります) 「ちょっと! 早くついてきなさいよ!」 「はい、ただいま行きます!」 廊下の端から呼びかけるルイズに、エレアノールはドレスの裾を摘んで小走りで追いかけた。 同時刻、女子寮のルイズの部屋。 「そりゃあ、おれっちは錆が浮いてて見栄え悪いけどよぉ。置いていくなんて酷すぎじゃね?」 まったく人気のない寮の静けさが、デルフリンガーの孤独感を一層かき立てていた。静けさゆえに、遠くから聞こえてくるパーティの歓談が、孤独感をかき立てるように室内に響いてくる。 「せめて会場の外に置いておくとか気を利かせてくれよ、相棒ぅ」 ―――それは悲哀の声 間違いなく、確かに、一点の曇りも、誰もが疑う道理の全くない悲哀の声ではあったのだが、窓から差し込む月光と室内の家具だけがそれを聞いていた。無論、聞いていたが何か特別な変わったことがあるわけでもなかった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第25話 狙われたサハラからの使者 ロボット怪獣 ガメロット 登場! このハルケギニアと呼ばれる世界で、六千年の昔に大きな戦争があった。 それはエルフの伝承では大厄災と呼ばれ、一度世界中を完膚なきまでに破壊しつくしたと言われ、恐れられている。 しかし、それほどの大戦争がなにが引き金になったのか、何者が引き起こしたのについては今なお謎が多い。 時間軸を遡り、六千年前の過去に飛ばされてしまった才人はそこでヴァリヤーグと呼ばれていた光の悪魔を目の当たりにした。怪獣を次々と凶暴化させてしまうこのヴァリヤーグによって、世界が滅亡への道を辿ったのは間違いない事実であろう。 それでも、謎は残る。 六千年前、ヴァリヤーグという存在によって大厄災が引き起こされた。しかし、その前はどうなのかはほとんどの記録が沈黙している。 大厄災が起きる前のハルケギニアはどんな土地だったのか? どんな人々が住んでいたのか? どんな文化があったのか? 翼人のような亜人はどうしていたのか? エルフはどうだったのか? 不思議なことに、どんな記録や伝説を見ても、六千年前以前の歴史は切り落とされたかのように消滅しているのである。失われた古代史……エルフや翼人は、大厄災の混乱で記録が消失してしまったのだと結論づけているものの、いくつか残された古代の遺跡にも大厄災以前についての記述だけはないのだ。 だが、唯一六千年前より以前からハルケギニアで生き続けてきた水の精霊だけは、その秘密を知っていた。 当時、わずかな人間たちしか住んでいなかったラグドリアン湖に前触れもなくやってきた奇妙な異邦人たち。彼らは最初こそ友好的な態度を示したが、やがて本性を表した。 異邦人たちの目的は、自分たちの勢力拡大のための戦争に使う生きた駒として住民を利用することだった。 苦痛だけ与えられて、勝敗のつかない堂々巡り。そんな茶番劇が延々と続くと思われたが、これは悪夢の序章に過ぎなかった。 カトレアが語るのをためらい、キュルケでさえ聞いたことを後悔するような所業。それを水の精霊は見てきたのだという。 「こんなこと、絶対に世の中に知られちゃいけない。けど、このハルケギニアって世界は、いったい……」 話のあまりの重さに苦悩するキュルケ。だが、運命の潮流は彼女に迷っている時間を与えてくれなかった。 迷い込んだ墓地で突然襲ってきた亡霊たち。そして、続いて現れた、キュルケの見知らぬ砂漠の民の女。 「アディール? ネフテス? それって確か、ルクシャナの言っていたエルフの国の都と政府のこと? あなたが、エルフの国の使者だっていうの?」 「声のでかい蛮人だな。だが、あの変人学者のことも知っているならなお都合がいい。連中のいる場所までの案内を重ねて要請する。わたしはネフテスから全権を預かってきた者である」 警戒心を隠しもせずに睨みつけるキュルケと、尊大に命令するもう一人の女。しかし、この誰も予想していなかった邂逅が、彼女たちにとってもハルケギニアにとっても極めて重大な意味を持つことを、まだ彼女たちも知らない。 そして、墓場での戦いから十数分後、招かざる配役を交えて物語は再開される。 がたん、ごとんと馬車の車輪が道を踏み、車内の椅子に心地よい振動を伝えてくる。 しかし今、馬車の中は一種異様な空気が充満していた。 「なんであなたがわたしたちの馬車に乗っているかしら? ミス・ファーティマ」 「気にするな。命を救ってやった貸しを親切で安く取り立てているだけだ。正直歩き疲れていたのでな、乗り物が見つかったのはちょうどいい」 「あらあら、まあまあ」 「え? なに? なんなのこの眺め。シルフィーがお昼寝してるあいだに何があったというのね?」 まるで、鉢合わせしたドラコとギガスのように一触即発の空気。唖然としているシルフィードの目の前で、視線の雷がぶつかりあって見えない大戦争を繰り広げている。 キュルケと相対して、殺伐とした空気を振りまいている招かれざる同乗者の名はファーティマ。フルネームはファーティマ・ハッダードといい、元はエルフの水軍の少校を勤めていた。 もしここにティファニア本人がいたならば、喜んで歓迎の意を表しただろう。しかし、ティファニアの従姉妹だといい、エルフの評議会からの使者だというファーティマをキュルケは信用できないでいた。どうしてかといえば、確かに容姿は目つきの鋭さを除いてティファニアにそっくりではあるけれど、ティファニアや、百歩譲ってルクシャナと比べても、ファーティマの人間に対する蔑視は露骨であったのでキュルケも不快を禁じえなかったのだ。 「あなた、本当にテファのご親戚なの?」 「そう言っている。血統書でも見せなければ満足できんか? いいから黙ってあの娘たちのいるところへ連れて行け。それがなによりの証明になるとなぜわからん」 「怪しい相手を友人の下に連れて行くバカがどこにいるっていうんですの?」 そもそも、エルフの国からティファニアの元へと使者が送られてくるということ自体がキュルケにとっては寝耳に水だった。むろん、ティファニア個人に対してではないが、想像もしていなかったのは事実である。 なぜなら、才人たちが東方号ではるか東方の地のサハラへの遠征をしているちょうどその頃、キュルケはガリアに囚われて幽閉され、外部の情報からは完全に隔離されていたからである。だから東方号のことや、アディールで起こったヤプールとの一大決戦についても何も知らなかった。対してファーティマは、キュルケがそれらについてティファニアやルクシャナの知り合いならばわかっているだろうという前提で話しているので、両者が噛み合うはずがなかった。 キュルケは、図々しくも馬車に同乗を決め込んできたファーティマを苦々しく睨んでいる。シルフィードはあまりの空気にどうすることもできずにいて、カトレアだけが物珍しげに笑顔を浮かべていた。 「こんなところでお友達を連れてらっしゃるなんて、キュルケさんの交友関係はとても広いのですね」 「ミス・カトレア、わたくしは友人は選んで付き合っているつもりですのよ。と、いうより今日初めて会ったばかりの、こんな横柄なエルフを友人にする趣味なんて持ち合わせていませんわ」 「エルフエルフとうるさい女だ。サハラもハルケギニアも変わらぬと言いにきたのは貴様らだったろう。なら、エルフのわたしがどこにいてもそれは自然の摂理というものだ」 「それならば、海の上とか火山の噴火口でとかをおすすめしますわよ。サラマンダーと輪舞をなさるなら、極上のお相手を紹介いたしますわ」 互いに相手を牽制しあい、歩み寄りの気配など微塵もなかった。ファーティマに対し、キュルケは始めから機嫌が最悪だったこともあり、考えたいことがほかに山ほどあって、この無礼なエルフに対してとても愛想よくする気にはなれなかったのだ。 ファーティマは、どこへ向かっているのか聞いてもいない馬車に揺られながらも、特に焦ってはいないように見えた。大方、どうせ案内させることになったら方向転換させればいい、とでも思っているのであろうが、その図々しいまでの神経の太さだけは感心に値した。思えば、エルフが一人で堂々とハルケギニアに乗り込んでくることなど正気のさたではない。ルクシャナにしても、当初は念入りに正体を隠していたのだ。 人間のエルフへの恐怖はそれほど深く、同時にエルフの人間に対する侮蔑もまた深い。このふたりの対立は、まさに人間とエルフという二種族の縮図ともいえた。 しかし、その一方でキュルケの心の片隅では、先ほどカトレアから語られた伝承が消えずに繰り返されていた。あの伝承が正しいとすれば、その人間とエルフの対立自体、まったく意味のないものになるのではないだろうか。気に入らない女だが、そう思うと少しだけキュルケにも冷静さが戻ってきた。 「とりあえず、先ほど助けられた恩義だけはありますから、借りは返したいけれど……はぁ、まったく、乗ってきたものは仕方ないとしても、ミス・ファーティマ、わたしにはあなたを悠長にエスコートしている時間はないんですわよ」 「時間がないなら作ればよかろう。お前の用がなにかは知らないが、わたしの用より重要だとは思えん」 できるだけ柔和にお断りの意志を伝えてもファーティマはにべもなかった。そういえば、水軍の士官だと名乗っていたなと思い出した。軍人ならば居丈高な態度も納得できるというものだが、だからといって要求にこたえてやるわけにもいかないのも事実だ。 今の自分たちにはタバサを救うという大切な使命があるのだ。余計なことに関わっている時間はないと、キュルケは焦っていた。 すると、そんなキュルケのいらだちに気づいたのか、カトレアが両者をなだめるように、キュルケの抱いている疑問を代わりにファーティマに尋ねた。 「まあまあ、お二人とも。そんなに自分の意見ばかりを主張しては始まりませんわ。ところでファーティマさん、わたしは少し前にあなたのお国にお邪魔したお転婆娘の姉なのですが、よろしければそのときのことを少しお聞かせ願えませんか? お土産話を楽しみにしていたのに、あの子ったらとても忙しいらしくって」 カトレアの柔和な表情と声が、馬車の中の張り詰めた空気をやや解きほぐした。しかしなぜ彼女がこうした質問ができたかといえば、アンリエッタを通して以前のルイズたちの活躍をすでに知っていたからであった。 ファーティマは、カトレアの温和な空気に少し毒を抜かれたようで、軽く息を吐くと以前のアディールでの戦いを語って聞かせた。 サハラの地にやってきた人間たちの船『東方号』。人間とエルフの和睦を目指してやってきた彼らと、それを妨害せんとするヤプール。そしてアディールでおこなわれた大怪獣軍団との決戦。結ばれた、人間とエルフの間の確かな絆。 それらのことを、キュルケやシルフィードはこのときはじめて知ったのだった。 「ルイズやテファたちが、そんなことを……!」 「シルフィたちが捕まっているあいだに、あのちびっこたちすごいのね!」 このときの彼女たちの心境を地球流に表現すれば、浦島太郎というほかなかったろう。ほんの何ヶ月か牢の中にいただけだというのに、まるで何十年も時間が経ってしまったかのように思えた。とても信じられなかったが、つこうと思ってつけるような嘘ではないことは確かだった。 すると、ファーティマのほうもようやくキュルケたちとの意識の差を理解した。 「呆れたものだな。トリステインから来た蛮人たちのことは、今やサハラで知らない者はいないぞ。それなのに、こちらでは民はおろか連中の友人たちすら知らぬとは、どうなっているのだ」 「わたしたちは、少々込み入った事情があるんですのよ。ミス・カトレアはこのことを?」 「ええ、聞き及んでおります。しかし、事が事だけに、公にするにはいましばらくの用意がいると姫様からはうかがっておりましたが」 エルフに対して、悪鬼の印象を植え付けられているハルケギニアの民に、その意識を百八十度転換させるには上からの押し付けではとても無理なことをアンリエッタも理解していた。そのため、周到に根回しを進めていたのだが、まさかそれを始める前にこんなことになるとは予想だにできなかったことだろう。 キュルケとシルフィードは、自分たちが留守にしているうちに世界がめまぐるしく動いていたことを知った。ルイズや才人たち、クラスメイトや友人たちは自分がいないあいだにも世界を救おうと必死に努力していたのだ。 だが、引き換え自分はどうか、こんなところでつまらない問題につき合わさせられている。まあ、事情を最初から知っていたとしても、このファーティマというエルフは気に食わなかったであろうが、心の中の嵐が静まってくると、キュルケはある思いを持ってファーティマの顔をじっと見た。 「なんだ? わたしの顔になにかついているのか」 「いえ、失礼いたしました。そして、どうやらあなたのおっしゃることは正しかったようですわね。無礼を、お詫びいたしますわ」 相手はエルフ、ハルケギニアでの恐怖の象徴。しかし、今のキュルケはそのエルフを恐れる気持ちにはどうしてもなれなかった。 人間とエルフは不倶戴天の敵。しかしそれは宇宙が始まったときからの法則に記されているわけではなく、後年の誰かが勝手に決めたことだ。そしてその起源は……あの伝承が確かだとすれば、根底から無価値だったということになる。 ファーティマは、怪訝な様子で押し黙ってしまったキュルケを見ている。しかしその瞳には、侮蔑や傲慢とは違った光が少しだけ隠されていた。 ”おかしな女だ。怒ったと思ったら急に沈みこんだり。しかし、素直に謝罪の言葉が出るとはなかなかできた人物ではあるようだな。少なくとも、少し前のわたしにはできなかったことだ” 内心で自嘲したファーティマは、それまでキュルケたちに見せていた傲慢な態度とは裏腹な感想を抱いていた。 そう、一見して人間を見下している態度に徹しているかのように見えているファーティマだが、その本心ではかつてティファニアが命を懸けて灯した友情の炎が消えずに灯っていたのである。 が、ならばなぜファーティマはキュルケをあおるような態度を続けるのだろうか? いや、それはエルフが人間と変わらない心を持つ生き物だということをかんがみれば、察することもできると言えよう。そして彼女は、実はずっとキュルケたちを観察していたのだった。 ”ものわかりの悪い女だが、わたしの素性に確信がいくまでテファに会わせまいとするあたりは情のある人物ではあるようだな。不満は残るが、ようやく信用に足る人物を見つけられたか” 重ねて述べるが、トリステインはエルフにとってはいまだに敵地である。そこへ踏み込み、特定の任務を果たすためには一時の油断も許されないのだ。 実際、ここに来るまでにファーティマは誰も信じられない孤独な旅路を送っていた。ルクシャナの百倍は生真面目な彼女が、人間に対する態度を硬化させたとしても仕方がないであろう。 本当にキュルケたちを見下していたのであれば、キュルケに案内の役が務まらないことを知った時点で馬車を去っていればいい。しかしそれをしなかったのは、任務遂行の使命感と、かつて自分を救ってくれたティファニアを忘れていなかったからだ。 ただし、それらとは別に、彼女には使者としてのほかに、もうひとつ隠された目的があった。 ”魔法学院とやらで連中の行方を聞いても、どうにもわからず行き詰まっていたが助かった。しかし、この国をざっと見てみたが、やはりテュリューク統領やビダーシャル卿は変わり者だ。あのときやってきた連中はまだしも、まだ蛮人たちの大半は大いなる意思の加護も理解できず、この国も国内すら統一しきれていない。こんな連中と接触したところで、我々に害をなすだけではないのか? だがまあ、任務は任務だ、もうひとりの女は多少は話がわかるようだし、わたしの運もまだ尽きてはおらんだろう。ともかく、これをあの連中に渡すまで、万一のことがあってはいけない” ファーティマは心の中でつぶやき、懐の中に忍ばせた”あるもの”を確かめた。 それは、彼女がサハラから来るに際して、テュリューク統領とビダーシャルから厳命された任務だった。 「よいかね、ファーティマ上校。君にはネフテスの名代として人間たちの国へと向かってもらう。道筋は、以前ルクシャナ君の記したものがあるから海から回ってゆくとよいじゃろう。本来なら、ビダーシャル君にまた行ってもらいたいが、あいにく今は彼を欠いては蛮人、いや人間世界に詳しい人物がおらなくなってしまうからのう。君には苦労をかけるが、使者としてティファニア嬢と血縁関係にある君以上の適任がいないのじゃ」 「先のオストラント号の件で、歴史上はじめて人間がネフテスに来て以来、多くの者が人間と接触はした。だが、まだ大衆はあの船の人間だけしか知らず、ハルケギニアの人間の大多数が我らを恐れていることへの実感が薄い。今のうちに理想と現実の差を埋めておかねば、後で大変なことになるのは目に見えているからな。それから、使者としても当然だが、君に預けるそれは、恐らく今後の世界の命運を左右する可能性を秘めている。必ず、あの船の人間たちに届けてくれ」 「はっ! 鉄血団結党無き後、水軍を放逐されていておかしくなかったわたしに目をかけてくれた統領閣下方のためにも全力を尽くす所存です。ご安心ください」 ネフテスから人間世界への使者へと、もうひとつ、東方号へと、ある重要な物品を届けることがファーティマに課せられた使命であった。それを果たすまでは、些事にこだわって余計な遠回りをするわけにはいかない。 しかし、任務の重大さとは別に、ファーティマ自身はこの任務に必ずしも乗り気ではなかった。なぜなら、ファーティマは以前に才人たちがサハラに乗り込んだとき、反人間の過激派組織である鉄血団結党の一員であり、その手によってティファニアの命が脅かされたこともある。現在は鉄血団結党は解体したけれど、ファーティマ自身人間への偏見を完全に忘れたわけではないし、自分の素性を知っている向こうにしても少なくとも好んで顔を見たい類の相手ではないであろう。 ただし、今はそんなことまで口にする必要はない。ファーティマは、相手の警戒心を解くために、現在のサハラが今どうなっているのかを語った。それによれば、現在のサハラは先のヤプールとの決戦で甚大な被害を受けたアディールを一大要塞都市に作り変えて、反攻のために戦力を整えている。そして、そのリーダーシップをとっているのが、先の戦いで信望を深めたテュリューク統領なのだとキュルケたちは聞かされた。 「エルフは完全に戦うつもりなのね。それなのに、わたしたち人間ときたら、いまだに各国の意思の統一すらできていないんだから、うらやましい限りだわ」 「当たり前だ。我々砂漠の民は、滅ぼされるのを待ち続ける惰弱の民ではない。過去の人間たちとの戦い同様に、侵略は断固として迎え撃つ。しかし、先の戦いで敵の戦力がお前たちと戦うよりずっと強力であることがわかったのでな。お前たちのようなものでもいないよりはマシだろうと、来るべき決戦に参加させてやりにわたしが来たまでだ」 「そういう態度をこちらでは手袋を投げつけに来た、と言うのよ。けど、実際に的を射ているから頭が痛いとこなのよね。まったく、せめてジョゼフさえいなければねえ」 エルフの世界に比べて、ハルケギニアのなんというガタガタ具合かとキュルケは呆れたようにつぶやいた。 ベロクロンの戦いの後、現在のアンリエッタ女王はヤプールの侵略に対して各国で協力体制を作るよう呼びかけてきたが、それは一年以上経った現在でも成し得ていない。アルビオンとは友好国であるし、ゲルマニアは信頼関係こそ乏しいがアルブレヒト三世が現実主義者であるため同盟国という立場はとれている。ロマリアは立場上中立としてもいいが、問題はガリアであった。アンリエッタがいくら呼びかけても、のらりくらりと回答をかわして、今に至ってもまともな関係は築けていない。それがどうしてかというならば、キュルケにはもうわかりすぎるくらいわかっていた。 「ジョゼフがいる限り、ハルケギニアの一体化を邪魔し続けるでしょうね。しかしそれにしても、あなたみたいなのが使者に遣わされるなんて、統領さんはなにを考えているのかしら」 と、キュルケがつぶやくと、ファーティマはつまらなさそうに答えた。 「知らん。だが、とにかくわたしは自分に課せられた使命には忠実でいるつもりだ。お前たちに危害を加えるつもりならば、とうの昔にやっている。わたしがこの地に出向いてきた、テュリューク統領の意思は平和と友好のふたつにこそある」 そう言いながら、ファーティマは自分が言ってこれほど白々しい言葉もないなと自嘲していた。ほんの半年ほど前の自分には夢にも思わないことだ。あの頃の自分だったら、いずれ水軍の大提督になって人間世界へ攻め込むことを夢見ていただろう。 人間のことが気に食わないのは今でも変わっていない。しかし、あの頃の自分は今思えば血塗られた夢に酔っていたのかもしれない。砂漠の民の力があれば、蛮人など鎧袖一触と無邪気に思い込んでいた無知な自分。ただエスマーイルの言葉に踊らされて、鉄血団結党の一員であることに有頂天になっていた。それでいい気になって蛮人どもを襲撃したら、軽く返り討ちにあったあげくにその相手に助けられているのだからざまはない。 そして、奴らのひとりはこう言った。お前だけが不幸だなんて思うなよ、あんたみたいな復讐者は何人も見てきたと。あのときほどの屈辱は、それまでになかった。おまけに、あのシャジャルの娘ときたら、まったく心底自分の器の狭さを思い知らされた。 しかし夢は夢、覚めてしまえば夢は過去へと流れていく。表面は蛮人に対してとげとげしく取り繕って、内心では心を許せないもどかしさを感じていたファーティマだったが、その葛藤は意外な形で晴らされることになった。 「まあ、まあまあまあ! 素晴らしいですわ。ファーティマさん、私、小さいときからいつかエルフの国へ行ってみたいと夢見てましたの。エルフと人間の友好、こんなにうれしいことはありませんわ」 カトレアの、喜びに満ちた声が馬車の中のよどんだ空気を吹き飛ばし、思わずカトレアを見たキュルケとファーティマの目に、カトレアの満面の笑顔が太陽のように映り込んで来た。 驚いて、とっさの言葉が出てこないキュルケとファーティマ。しかし、カトレアは立ち上がってファーティマの手をとると、優しげに口を開いた。 「慣れない土地での旅、ほんとうにご苦労様でした。こうしてここであなたとめぐり合えたのは、始祖のご加護と、あなたには大いなる意思のお導きがあったからなのでしょう。これほど祝福された出会いはないと思いませんか?」 「あ、ああ、出会いに感謝を。このめぐり合わせは偶然ではない。正しきことを後押しする大いなる意思の見えざる手が導いてくれたのだ」 「でしたら、もっとうれしそうな顔をしましょう。あなたが正しいことをしにはるばる参られたのなら、わたくしたちは心から歓迎いたしますわ。さっ、あなたたちもこっちにいらして」 そうして、カトレアは唖然としているキュルケとシルフィードを呼び寄せると、彼女たちの手をとってファーティマの手に重ねた。 「今はわたくしたち四人だけですけど、エルフと人間と、韻竜も、こうして手を結び合うことができるのだと証明されましたわ。ファーティマさん、手を繋げばどんな種族でもこんなに近い。とてもすばらしいことですね」 「う、うむ。い、いや! 形は形だ。実際の交渉や同盟が、そんな甘いものではないことくらい承知している」 カトレアの優しすぎる笑みに、思わず納得してしまいそうになったファーティマは慌てて現実を盾に取り繕った。また、キュルケやシルフィードも、異なる種族がそう簡単に近くなれるものではないと、額にしわを寄せている。 だが、カトレアはわかりあうことへの抵抗を除けないでいる三人の手を両手で包み込むと、諭すように語り掛けた。 「では、まずはここにいる四人から友情をはじめていきましょう。すてきだと思いませんか? ハルケギニアがどんな種族でも仲良く生きられる世界になる第一歩をわたくしたちの足で踏み出すんですよ」 カトレアの言葉に、三人はしばらく呆然とするばかりだった。腹の探りあいと、どうしてもぬぐい得ない不信感をぶつけあっていたのに、カトレアの笑顔にはひとかけらの濁りもなかった。 この人は、いったい? 返す言葉がとっさに浮かんでこない三人。そのうちのキュルケが、どうしてそんな無防備な笑みができるのかと目で尋ねているのに気づいたカトレアは、そっとささやくように答えた。 「キュルケさん、あなたの言いたい事はわかりますわ。けれど、思い悩んだところで生まれを変えられる者などいません。わたしも、何度も自分の存在が世界にとってあっていいものだったのかを思い悩みました。でも、その度に思い出すことがあるんです」 「思い出す、こと?」 「ええ、皆さん、わたしは実は昔、大病をわずらって長くは生きられないと言われていました。でも、ともすれば自ら命を絶ってもおかしくなかった日々で、わたしを支えて生かしてくれた友達は、必ずしも人間ではありませんでした」 そう言うと、カトレアはシルフィードのほうを見た。するとシルフィードははっとして、いまさらながら気づいたように言った。 「そういえば、カトレアお姉さまからいろんな生き物のにおいがするの。こんなにたくさんの生き物のにおいを持ってる人、これまで見たこともないのね!」 驚くシルフィードにカトレアは語った。自分の住むラ・フォンティーヌ領では、多くの動物や、中には怪獣までもが仲良く住んでいることを。 シルフィードはそれで、自分がカトレアに対して不思議な安心感を持てていたわけを悟った。自分が鈍いからと言うだけではない、それほどに多くのにおいを持つカトレアは、人生のほとんどを自然の中で生きてきたシルフィードにとって、まるで故郷に帰ってきたかのように安らげる空気の持ち主だったからだ。 そう、カトレアにはラ・フォンティーヌ領で世話をしてきた数え切れないほどの生き物のにおいが染み付いている。それも、そのすべてがカトレアに対して好意を持っていることを示す香りであったために、シルフィードは疑問に思うことすらもなかったのだ。 「最初は、思うように動けない自分の代償のつもりだったかもしれません。けれど、病気が治った後も、彼らはずっとわたしの友達でいてくれました。そして気づいたんです。生き物が生きていく上で、共に生きるべき相手は必ずしも同族でなければいけないということはないということに」 「きゅい、シルフィも誇り高い韻竜だけど、人間とは仲良くしたいと思うの。ねえ赤いの、前にお姉さまといっしょに、人間と翼人を助けたのを思い出さないかね?」 「そうね。あれは、タバサとわたしたちでやった初めての冒険だったわね。もう、あれからずいぶん経つのねえ」 懐かしそうに、キュルケは思い出した。 エギンハイム村での、翼人と人間のいさかいから始まったあの事件のことは忘れない。軽い気持ちでタバサの手助けをしようとして、そのまま宇宙人と怪獣を交えての大決戦にまでなったあの事件では、人間と翼人の両方が力を合わせなければ勝てなかった。そしてその後誕生した人間と翼人の夫婦の幸せそうな顔。思えば、自分たちは一度すでにいがみあっていた異種族をつなげることに成功している。増して、ルイズたちは自らエルフの首都に赴いて帰ってくるという前代未聞な冒険を成功させているではないか。 異種族が共存することは、決して不可能ではない。その前例は、すでにたくさんあった。キュルケは、そのことを知っていたはずの自分を恥じて、しかしそれでも納得のいく答えを求めてカトレアに視線を移した。 「あなたにも、忘れてはいけない大切なことがあったのですね。ねえキュルケさん、さきほどの話の後で話そうと思っていたことがあるんです。ファーティマさんとシルフィードちゃんも聞いてください。確かにこの世界では、人間とそれ以外の生き物でバラバラに別れています。そして、わたしたちはそれぞれに簡単に相手を信用することのできない理由も抱えているでしょう。けれど、だからこそそのしこりをわたしたちの代で消し去っていこうと思うのです」 「しこりを……消し去る?」 「そうです。事はわたしたちだけの問題ではありません。わたしや、キュルケさん、ファーティマさん、シルフィードちゃん、それにあなたたちの知っているすべての人の子供や孫の世代にも関わっていくのです。率直に聞きますが、皆さんがいずれ子供や孫を持ったときに、友達を残してあげたいと思いますか? 敵を残してあげたいと思いますか?」 その答えは決まっていた。キュルケもシルフィードも、ファーティマでさえ言葉には出さなくても顔には同じ答えを浮かばせている。 「確かに世の中には、どうしても理解しあえないような卑劣で邪悪な相手もいます。けれども、人間やエルフの多くの人はそんなことはないということを、あなた方はもう知っているでしょう?」 カトレアの言葉に、三人はじっと考え込んだ。世に悪人は間違いなくいる。しかし、毎日を正しく一生懸命に生きている人はそれよりはるかに多くいることに。 かつて、ウルトラマンタロウは言った。少ない悪人のために、多くのいい人を見捨てることはできないと。カトレアも、数多くの命と向き合ううちに、本当に邪悪な相手はほんの一握りだと思うようになっていっていたのだ。 「わたしはこれまで、多くの生き物の生き死にを見てきました。動物の寿命は、人に比べればとても短いものもあります。けれど、そんな彼らも世代が進んで仲間が増えていくごとに、生き生きと力強く生きるようになっていくのです。それで思うようになりました。わたしたちはみんな、次の世代に幸せをつなぐために生きているのだと」 「次の、世代に……?」 「そうです。過去になにがあったにせよ、わたしたちの後に続く人たちが平和に楽しく暮らせる世の中が来るのならそれでよいではありませんか。そうして積み重ねていけば、大昔のことなんか笑い話ですむ時代がいずれやってきます。その一歩を、わたしたちの手で進める。この上ない名誉と幸福だと思いませんか?」 どこまでも純粋で優しいカトレアの笑顔を見て、三人はそれぞれ自分の中での葛藤を顧みてみた。だが、三人共に共通していたのは、いずれも今の自分たちのことしか考えていなかったということだった。 対して、カトレアは次の世代のそのまた先。十年後、百年後、いいや千年後まで視野に入れて考えている。三人は、それぞれ思うところは違いはしたけれど、カトレアの思う生き方に比べたら、自分たちのこだわりが笑えるほど小さなものに思えて口元がほぐれてきてしまう。 ただ、現実にハルケギニアの異種族同士はわかりあえずに六千年を過ごしてきている。それを忘れてはならないという風に、ファーティマは言った。 「お前の理想論、険しいという言葉では済まされない道だぞ」 「わかっています。今日初めて会ったばかりの相手を、すぐに信用できなくて当然ですわ。けど、今ここにいる四人はこれからきっといいお友達になれます。大丈夫ですよ、だってほら、誰の手のひらにも同じようにあったかい血が流れているんですから」 カトレアの重ねた四人の手からは、ゆっくりとそれぞれの体温が相手に伝わっていった。それは、熱くも冷たくもない、生きているものの発する生命の暖かさ。人間もエルフも韻竜も、魔物でも幽霊でもないことを示すぬくもりを感じて、キュルケ、シルフィード、それにファーティマは、言葉に表すことは難しいけれど、自分の中でのなにかが変わっていっているような不思議で、しかし快い感触を覚えていた。 人は、大きなものを見据えることで小さなこだわりを捨てることができる。そして、人と人は小さなこだわりを捨てることで友情を結ぶことができる。大自然の中で自由に心を育んできたカトレアの思いが伝わって、重なり合った手のひらに誰からともなく新しい力が加わっていった。 けれども、カトレアは豊かな心を持っていても、無知な野生児ではない。キュルケやファーティマが持っていた警戒心が薄れたことを確信すると、その瞳に鋭い知性の光を宿らせてファーティマに問いかけた。 「ところでファーティマさん。聞けば、先ほどはキュルケさんが亡霊に襲われて危ないところを助けていただいたとか。しかし、キュルケさんには亡霊などに襲われる所以はありませんし、そもそも亡霊などというものに早々お目にかかれるとは思えません。もしかすると、本来亡霊に追われていたのはあなたなのではないですか?」 その瞬間、ファーティマの背筋がびくりと震え、表情に明らかな動揺が見えた。 「そ、それは……」 「それに、最初から気になっていたのですが、サハラからトリステインへの大事な使者であるにも関わらず、あなたはたった一人でここまで来られたのですか? いくらエルフが人間に比べて強いとはいっても、普通なら水先案内や護衛のために、あと数人はいっしょにいておかしくないはず。ひょっとしてファーティマさん、あなたには他にまだ隠している役目があるのではないですか?」 ファーティマはすぐに肯定も否定もしなかったが、その短い沈黙だけでもシルフィードはまだしもカトレアやキュルケは過不足なく察することができた。 再び馬車の中に緊張が走る。しかし、対峙する姿勢に入りかかったキュルケとファーティマをカトレアはすぐに抑えた。 「落ち着いてください。キュルケさん、ファーティマさん。わたしは尋問をしようとしているわけではありません。ですがファーティマさん、わたしたちは今、大事な目的を持って旅をしています。もしかすると、この世界の行く末を左右するかもしれない重大な意味を持つ旅です。正直に言って、あまり時間はありません。けれども、できればあなたの望みもかなえてあげたい。ですからお互いに、隠し事はやめて打ち明けあいましょう。そうすれば、もっとあなたの助けにもなれるかもしれません」 カトレアに諭すように告げられて、ファーティマは金髪を伏してじっと考え込んだ。カトレアはキュルケとシルフィードに視線を移し、話してよいですかと目で尋ねた。キュルケは一瞬躊躇したけれど、意を決して自分から旅の目的をファーティマに語って聞かせた。 タバサのこと、ジョゼフのこと、異世界への扉を求めてラグドリアン湖に向かおうとしていることなどを、キュルケはすべて包み隠さず話した。そしてファーティマの反応をうかがうと、ファーティマは驚いたようではあったが、ふうとため息をついてからキュルケやカトレアを見返して言った。 「異世界へ、か。どうやら、わたしがお前たちとめぐり合ったのは本当に大いなる意思の導きらしい。わかった、わたしも全てを話そう。わたしのもうひとつの使命は、ある物をお前たちの仲間に届けることなのだ」 ファーティマは、懐から小さな小箱を取り出して、その中身を見せた。 「なんですの? 見たことない形の、カプセル……かしら?」 それを見てキュルケは首をかしげた。小箱の中身は、手のひらに収まるくらいの楕円形の金属でできたカプセルで、表面には焼け焦げた跡があった。 しかし、よく見てみると表面には細かな文字でなにかが書いてあり、それに汚れてはいるけれど、文字の上にはなにやら紋章のようなものが描かれていて、キュルケはふと既視感を覚えた。 「先日、我らの聖地の近辺で発見されたものだ。そのときは、もっと大きなケースに入っていたのだが、すでに何者かに攻撃された形跡があった。ともかく、その字を読んでみろ」 「ううん、かすれてて見にくいけど……あら? このマーク、どこかで同じものを見たような。それに、この文字は……えっ!」 キュルケは、カプセルに書かれていた文字を読んで愕然とした。それは、つたないトリステインの公用語で書かれていたが、その中に記されていた固有名詞や人物の名前は、キュルケにとってとてもよく知っているものだったからである。 「思い出したわ! この翼のようなマークは、確かタルブ村で……」 だが、キュルケが記憶の淵から呼び戻してきたそれを口にする前に異変は起こった。 突如、爆発音とともに激震が馬車を襲い、中にいた四人はもみくちゃにされた。頭をぶつけたシルフィードが悲鳴をあげ、馬車を引いていた馬の悲鳴もそれに重なって響く。 高級馬車の車軸でも吸収しきれない揺れにより、車内のランプが落ちて割れ、灯油がぶちまけられて刺激臭が鼻をつく。だが、そんなものに構っている者は一人もいなかった。それぞれが多寡は違えども戦いの中を潜ってきた経験を持つ者たちである、今の不自然な揺れと爆音が、自分たちを危機へと追い込む悪魔の角笛だということを理解していたのだ。 「なに! 今の爆発音は、まさか」 「そ、外なのね! うわっ! 森が燃えてる。きゅいぃぃぃ! みんな、空を見てなのね!」 頭のたんこぶを押さえながら窓から外を見たシルフィードの絶叫。続いて窓を開けて空を見上げた三人の目に映ってきたのは、空に浮かぶ三十メートルはあろうかという巨大な鉄の塊だったのである。 なんだあれは!? 異様すぎる浮遊物体の巨影に、キュルケやシルフィードは唖然とし、まさかジョゼフの放った刺客かと身を固めた。 しかし、それはジョゼフの刺客などではなかった。百メートルほど上空にとどまり、こちらを見下ろしてくるような鉄塊を見て、ファーティマが忌々しげに吐き捨てたのだ。 「くそっ! もう追いついてきたのか!」 「なに? あなたあれを知ってるの」 「今の話の続きで話そうと思っていた。サハラを出てからこれまで、ずっとあいつに付け狙われていたんだ。共にアディールから出た仲間はみんなあいつにやられた! まずい、攻撃してくるぞ、飛び降りろ!」 その瞬間、鉄塊に帯状についている無数の赤いランプが断続的に輝き、ランプからそれぞれ一本ずつのいなづま状の赤い光線が馬車に向かって発射された。七本の光線は一本に集約して馬車に直撃し、馬車は火の塊になって飛び散る。 だが、ファーティマの警告が一歩早かったおかげで、馬車から飛び降りた四人は間一髪で無事だった。 「きゅいいい、し、死ぬかと思ったのね」 「あと一瞬逃げ出すのが遅れてたら、わたしたちは丸焼けだったわね。ミス・カトレア、大丈夫ですの?」 「ご心配なく、こう見えて野山を駆け回るのが日課ですから。それよりも、ファーティマさんにお礼を言わなければいけませんね」 「勘違いするな。せっかくの大いなる意思の導きを台無しにしては冒涜だからだ。だがそれも、生き延びれたらの話ではあるが……下りてくるぞ! 気をつけろ」 燃える馬車の炎に照らされる四人の前に、空飛ぶ鉄塊がゆっくりと下りてきた。敵意を込めて、鉄塊を睨みつける四人。その眼前で、鉄塊は真の姿を現していく。 まず、上部の穴から頭がせり上がってきた。洗面器を裏返したようなツルツルの表面に、かろうじて目と口だと見えるくぼみが三つついている。 続いて、左右から腕が生え、下部から足が生えて地面に着地した。その胸元には、先ほど破壊光線を放ってきたランプが赤く輝いている。この人型の巨大ロボットこそが鉄塊の正体だったのだ。 「きゅいい! で、でっかい人形のおばけなのね!」 「なんて大きさ。こんなガーゴイルがこの世にいたなんて」 「いえ、これはガーゴイルじゃないわ。きっと、以前にトリステイン王宮を襲った機械竜と同じもの。そして、あのときの亡霊といい、そんなことができるものといえば」 「そういうことだ。こうなったらお前たちも一蓮托生だ。奴の思うとおりにさせたら、砂漠の民も蛮人もすべて滅び去る。だから知らせねばいかんのだ。ヤプールが再び動き出したのだということを!」 聞きたくなかった忌まわしい侵略者の名が吐き捨てられ、巨大ロボットは電子音と金属音を響かせながら動き始めた。 「モクヒョウヲカクニン。ケイコクスル、タダチニコウフクシテ、ソノソウチヲアケワタシナサイ、サモナケレバ、キミタチゴトハカイスル」 「断るわ!」 シルフィードがドラゴンに戻り、キュルケ、カトレア、ファーティマが魔法攻撃の体制に入る。 燃える馬車の炎に照らされ、逃げ去っていく馬の悲鳴を開幕のベルとして戦いが始まった。 だが、その一方で、始まったこの戦いを離れたところから見守っている目があった。 「あれはガメロット……確かあれはサーリン星のロボット警備隊に所属するロボット怪獣だったはずだが、やはりロボットだけでは星を維持できなくなってヤプールの手に落ちたか。しかし、このシグナルに従って来てみたが、リュウめ、相変わらず荒っぽい作戦を思いつくやつだ」 彼の手には、激しいシグナルを発し続けているGUYSメモリーディスプレイがあった。そして、ファーティマの持つカプセルにもまた、メモリーディスプレイに記されているのと同じ翼のシンボルが描かれていたのだ。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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