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前ページ次ページゼロの赤ずきん ミスタ・コルベールは学院長室の扉を勢いよく空け、部屋の中へ飛び込んだ。 「オールド・オスマン!」 コルベールにオールド・オスマンと呼ばれた老人はトリステイン魔法学院の学院長であった。 白い口ひげと髪を揺らせていた。風もないのに揺れているのは、自分の秘書に対しセクハラを働き、 その秘書に頭を足蹴にされていたからだ。しかし、部屋に入ってきたコルベールの視界へと入る前に、 秘書は机に座って、オスマン氏は腕を後ろに組んで何事もなかったかのように振舞った。まさに早業であった。 「たた、大変です」 「大変なことなど、あるものか。全ては小事じゃ」 「ここ、これを見てください!」 コルベールはオスマン氏に自分が調べていた書物を手渡した。 「これは、『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか、まったく、これがどうしたというんじゃ。えーと?」 オスマン氏は首をかしげた。 「コルベールです!お忘れですか!それはともかく、これも見てください!」 コルベールはバレッタの手に現れたルーンのスケッチを手渡した。 それを見た瞬間、オスマン氏の表情が変わった。目が光り、厳しい色になる。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 秘書のミス・ロングビルは席を立ち、理知的で凛々しい顔をオスマン氏たちに向け一礼し、そして部屋を出て行く。 彼女の退室を見届け、オスマン氏は口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ、ミスタ・コルベール」 ルイズがめちゃくちゃにした教室が片付いたのは、昼休みが丁度終わるころであった。 罰で魔法を使わずやるように言われたことは、さして問題ではなかったが、 手伝ってくれる者がおらず、ルイズの細い腕で重労働をする羽目になったため、時間がかかってしまったのである。 ルイズはひとり、片付け終わった教室で席に座り、打ちひしがれていた。体中が痛い。 精神的にも、肉体的にもルイズは限界であった。 そこに、今のルイズとは対照的なバレッタが、厨房で昼食まで済ませてやってきた。 「ゴメンね♪ 美味しい道草食ってたら スッゲエ遅くなっちゃったのっ、みたいな?」 一度睨んでからルイズはそっぽを向いた。 その様子をみて、バレッタは言った。 「どーしたのぉ?ルイズおねぇちゃん、元気ないみたいだけど?」 誰のせいだ、誰の!! ルイズは心の中で盛大にツッコミをいれた。だが、それを表に出さず、バレッタと目を合わせないようにした。 反応を得られないのがわかると、バレッタは周りを見渡す。教室は確かに片付けられていたが、 魔法を使わずに、ルイズ一人が手作業でやっていたので、元通りとまではなっていなかった。むしろ、まだボロボロだった。 「さっきね、他の人がルイズおねぇちゃんのことを話しているところに通りかかったのね」 ピクリとルイズの肩が動く。 「“あいつは『ゼロ』なんだから魔法使わせるなっての、いっつも失敗して爆発するだけなんだからよ、 こっちはいい迷惑だぜ、今日は『錬金』で教室で爆発させたしな、ありえねーよ”って」 「これってー、ルイズおねぇちゃんがやったってことだよね」 教室の惨状に指をさし、バレッタはルイズに言った。 「魔法って色々なことが出来るんだねぇー。ちょっとうらやましぃーかなっ♪」 その言葉はルイズにとって嫌味にしか聞こえなかった。溜めていたものを全て吐き出すようにルイズは叫ぶ。 「悪かったわね!!どうせ私は『ゼロ』よ!!ああ、あんたは知らなかったはずよね、説明してあげるわよ!」 「私は貴族でメイジなのに、魔法がほとんど使えないのよ!!使おうとすると、いっつも爆発するだけだから『ゼロ』! 皆、私のことを『ゼロ』のルイズって呼ぶのよ!魔法が使えないから。そうね、ぴったりな二つ名じゃない! でもね、私も何も努力してきてないわけじゃないのよ!?あらゆる魔法に関する書物を読んで、 完璧に詠唱を唱えられるように、何度も練習して、杖の振り方だって、毎日の授業だって!!! 血のにじむような努力をしてきてこれよ!あんたにこの悔しさがわかる!!!!?」 「いや、ワカんねーよ」 たったそれだけの言葉しかくれない、自分の使い魔に目を見開いて顔を向けた。 バレッタは蟻にたかられている虫の死骸を見るような蔑んだ目でルイズを見下ろしていた。 「で?」 その場の空気が凍りついた。そのバレッタの言葉でルイズの怒りはどっかに飛んでいってしまっていた。 「で?……って、あんた、その、なんか、だって……もっと、あの……」 目を泳がせているルイズを見て、バレッタは何か閃いたのか手を叩いて笑顔で言った。 「あー、なーるほどー!バレッタわかったよ!」 ルイズの背中に手をやり、慰めるようにバレッタは語りかける。 「ルイズおねぇちゃん。ルイズおねぇちゃんなら、絶対魔法をちゃんと使えるようになるよ、だって一杯、一生懸命 努力して練習してるんだもの、報われないはずがないよぉー、バカにしている人は見る目がないだけなのっ、 だから元気だしてね、ルイズおねぇーちゃん♪」 言い終わるとすぐにルイズに背を向け歩きだした。ルイズはただ呆然とバレッタの言葉を聞いていただけだった。 扉の前まで来ると、バレッタは一度立ち止まった。そして舌打ちをしてから、何事もなかったように教室を出て行った。 「一体、なんなのよあいつ……」 このときのバレッタの真意を今のルイズには知ることはできなかった。 バレッタは教室を出た後、厨房に行くため食堂の前を歩いていた。そうすると生徒達が昼食を終え、 ぞろぞろと食堂から出てきた。そのなかの一団の中に、金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た、 気障なメイジがいた。薔薇をシャツのポケットに挿している。周りの友人は口々に彼を冷やかしている。 「なあ、ギーシュ!今は誰とつきあってるんだよ!」 「だれが、恋人なんだギーシュ!」 気障なメイジはギーシュというらしい。彼はすっと唇の前に指を立てた。 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 自分を薔薇に例えている。気障な見かけに相応しい、気障なセリフであった。 そのときギーシュのポケットから何かが落ちた。ガラスでできた小壜であった。中に紫色の液体が揺れている。 バレッタは迷わず、その落し物を拾ってギーシュに駆け寄った。 「おにーさんっ、落し物だよっ!」 ギーシュは振り返り、壜を目にすると苦々しげに、バレッタを見つめた。 「それは僕のじゃない。君は何を言っているんだね」 バレッタはカチンと頭に来た。善意で拾ったわけではなかったが、この態度はいただけなかった。 「あっ、!イヤーン♪」 こけるふりをして液体の中身をギーシュの顔めがけてぶちまけた。 「っっブッ!!なっ!!!なにをする!平民!」 ギーシュはバレッタに詰め寄ろうとしたが、友人の一言で歩を止めた。 「おお?それ香水じゃないか?しかもモンモランシーの香水だろう!それは!」 「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「そいつが、ギーシュ、お前が持っていたってことは、つまりお前はいまモンモランシーとつきあってる。そうだな?」 「違う、いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」 ギーシュが何か言いかけたとき、後ろから茶色のマントの少女が近づいてきた。 そしてボロボロと泣きながら、少女はギーシュに言った。 「ギーシュ様……やはりミス・モンモランシーと……」 「いや、彼らは誤解してるんだ、ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけ……」 しかし、ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュをひっぱたいた。 「見苦しい言い訳はよしてください、もう結構です!さようなら!」 ギーシュは叩かれた頬をさすった。すると、遠くから一人の見事な巻き髪の女の子が、いかめしい顔で彼に近づいてきた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森に遠乗りをしただけで……」 ギーシュは首を振りながら言った。冷静な態度を装っていたが、冷や汗が一滴、額を伝わっていた。 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?男としてひどいと思わない?」 「そうよ!ひどいよっ!バレッタはギーシュ様にあんなことや!そんなことをさせてあげたのに!他に二人もいたなんてっ!」 突然話に加わってきた赤ずきんの少女をギーシュとモンモランシーは二人仲良く凝視した。 額に青筋を立てて、モンモランシーは拳を頭上高く持ち上げる。 「いや、え?ちょ、ちょっと待っておくれモンモランシー!僕にもよくわからないんだ!本当だっ!こんな平民知らない!」 「へえぇ。でも、このコにも、他の女の子がいるってバレたから、香水をぶっかけられたんじゃないの?」 「へぁあっ!?いやいやいや!!それはこの平民が勝手にコケて、僕に……!!!」 「黙りなさい!!このうそつき!変態!ロリコン!!三股!!!平民にも手を出すなんて、この見境なし!!!」 モンモランシーは拳を打ち下ろし、ギーシュの顔面を殴った。ギーシュはその場に尻餅をつき、鼻から血が垂らした。 そしてモンモランシーは怒気を漲らせたまま去っていった。 呆然としたままギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと鼻血を拭いた。そして、首を振りながら言った。 「前半はともかく、後半は意味がわからない……いや、ちょっと待ちたまえそこの平民!!!絶対待ちたまえ!!!」 何事もなかったかのように、その場を立ち去ろうとしていたバレッタは止まって振り返った。 「ぁあん?」 ギーシュは立ち上がり、勇ましく言った。 「随分なことをしてくれたじゃないか、何を思ってしてくれたかはわからないが、二人のレディの名誉が傷ついた、 それに僕のもだ!!特に僕のが重傷だ!!表を歩くのもままならぬ程にだ!!!どうしてくれる!!」 周りからクスクスと笑いが聞こえてくる。ギーシュの顔が真っ赤になった。バレッタは面倒くさそうに答える。 「青いケツのガキの青臭い恋愛のいざこざなんざ押し付けないでって感じかなっ♪」 笑いがドッと沸き、大きなものに変わる。ギーシュの中の何かが切れた。拳をわなわなと震わせる。 「よくよく見てみれば、あのゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔じゃないか。 よかろう……、君に貴族への礼儀を教えてやろう。丁度いい腹ごなしだ。ヴェストリの広場に来るといい、決闘だ! まあ、来る勇気があればの話だが、いや、だからって逃げるんじゃないぞ!逃げるなよ!フリじゃないからな!!」 「うんっ。いいよ、待っててねっ」 相手の合意を得たのを確認すると、早歩きでギーシュは去っていった。ギーシュの友人もあとに続く。 その直後に、ことの終末をみていたシエスタが遠くから慌しく走ってきてバレッタを抱きかかえた。体をぶるぶると震わせている。 「ああ!!どうしましょう!?貴族を本気で怒らせてしまうなんて!!バレッタちゃんが殺されちゃう!!! 私が盾になっても、その後にバレッタちゃんもきっと……!!!どうすれば……!!!?」 バレッタはシエスタの頭に手をやり、落ち着かせるために撫でた。 「大丈夫よぉ、シエスタおねえちゃん。バレッタね、少しも怪我しないから」 その言葉にシエスタは驚愕した。 そんなわけがない、絶対無事には済まない、メイジは魔法を使い、 火や風、水や土を操る、平民に防ぐ方法皆無、一方的な暴力になる、最終的には殺されてしまう、と言った。 しかし、バレッタはシエスタの話に、さして興味を示さずに言う。 「あのガキ、見上げたことに、あんな目にあったのにもかかわらずにね、わたしのこと傷つけようとは一切思ってねーみたい、 戦いっていう体裁をとってるけどぉ、なんか魔法でちょろっと脅かして、 わたしにトラウマをつくってやろうってぐらいじゃねーの?反吐が出るぐらいのフェミニストつーかぁ……まぁーでも」 シエスタは言葉の終わり間際にバレッタの顔が豹変していくを息が詰まる思いで見つめていた。 「戦いって形をとっている以上ね、奪い奪われが常なの。だから戦いをする時は『覚悟』をしておかないとダーメっ。 でね、それがアイツにはないの。それは相手がわたしだろーからだけど。 知ってる?何も覚悟がないまま、何がなんだかわからないまま殺られるとね、これでもかってくらい目を見開いて 口をポカンと開けたまま死ぬのよ。それがホントーに滑稽に見えてオカシイのっ♪」 目の前のかよわく庇護されるべきであるはずの少女は、明らかに殺気を帯びていた。 何もかも無情に一刀両断してしまいそうな刃を抱いているような感覚襲われ、 シエスタは弾かれるように、バレッタから離れた。 少女は猛獣ですら死に至らしめることが出来そうな鋭い眼光に変わっており、 シエスタの、自分の知っている少女はどこにもいなくなっていた。 「あ、あなたは一体何者なの……?」 バレッタはおどけた風に人差し指を唇にあて、考えている真似をした。 「んー、説明すんのメーンドーイぃ。……だ・か・ら、わかりやすく例えで教えてあげるっ♪」 「わたしは進んで狼をくびり殺す羊」 バレッタが悪魔のような笑みを浮かべる。先ほどの貴族に対して以上の強い恐怖をシエスタは感じた。 シエスタは黙って、バレッタから逃げるように走って遠くへ去っていった。 「『羊の皮をかぶった狼』の間違いじゃないの、バレッタ」 その言葉を聞いたバレッタは話し主を見た。疲れきったルイズであった。 ルイズは、シエスタとの会話を始終聞いていた。呆れたように言う。 「決闘はやめておきなさい、怪我はしないっていってるけど、まず勝てないわ。相手は私じゃないのよ。 正々堂々、正面から戦ってドットとはいえメイジに勝てるワケがないでしょう?言っとくけどこれは優しさからの忠告よ」 この戦いが、どう転がろうが、ルイズにとってはマイナスになるに違いないと思ったから言ったことでもあった。 表情をにこやかなものにしたままバレッタは答えた。 「時たまね、“卑怯だぞ!貴様!正々堂々戦え!”って言う奴がいるけどさぁー、わたし思うのね、 自分が望む戦い方を相手に強要するのが正々堂々なのかってね♪そいつのが卑怯じゃないかなー。 戦うんだったら、背中から刺されても文句言わないで欲しいなぁー」 ルイズはため息をついた。この使い魔、退くつもりない、それだけはわかった。そして自分に止める術はない。 「わかったわよ、お願いだから、万が一勝つことがあっても相手を殺しちゃだめだからね?」 「え゛ーー、どーしよっかなー、殺っちゃおーかなー♪」 ルイズはその言葉に対し切り返さずに、黙ってヴェストリの広場の方向を指差した。 バレッタはお花畑に遊びに行くような軽やかな足取りで向かっていった。 騒ぎを聞きつけてやって来たキュルケがルイズに問いかける。 「ちょっといいワケ!?使い魔死んじゃうわよ!?なんで戦うのを許しちゃったの!?」 ルイズはバレッタが去っていった方向を見つめたまま動かない。 「もしかしてルイズ、自分の使い魔が勝つと思ってるの?そんなわけないでしょ、ドットとはいえ、 ギーシュはメイジなのよ。勝ち目なんてないでしょうに、しかもあんな小さな子に……」 ルイズはゆっくりと口を開いた。 「わからないわ、魔法についてなにも知らないみたいだし、ギーシュがどんな魔法を使うかも知らないはず……。 でもナイフが届く範囲でならギーシュが杖を抜く前になんとかできるんじゃないかしら」 キュルケは呆れたように言った。 「相手を近づけさせるメイジなんているわけないじゃない、大怪我するわよあなたの使い魔、最悪死ぬわよ」 そうね、まだバレッタのことほとんど何も知らないけど、多分それであってる、 でもね、いいの、むしろ心の奥底では怪我をしてくれることを私は望んでいるから。 私ね、バレッタが嫌いなのかもしれない。 前ページ次ページゼロの赤ずきん
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登録日:2023/05/18 Thu 16 15 00 更新日:2023/05/22 Mon 17 41 29NEW! 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 MAGCOMI あまがえる サイズフェチ ファンタジー マッグガーデン モンスター娘 学園モノ 完結済み 巨大娘 漫画 異種族巨少女セクステット! 魔物娘 僕はもしかすると… とんでもない街に来てしまったかもしれない…! 「異種族巨少女(オーバーサイズ)セクステット!」とは、Web漫画サイト「MAGCOMI」にて連載されていた漫画である。 既刊5巻にて完結済み。 作者は「あまがえる」氏。艦これ好きな人には「初春型駆逐艦初春とショタ提督のおねショタ同人誌を描いていた人」と言えば分かるかもしれない なお一見なろう風だが、原作はないオリジナル漫画である。 概要 タイトルからして分かる通り、巨大娘のヒロインたちと、普通の背丈である少年主人公によるサイズフェチが主軸とした学園もの漫画である。 ただ、主人公は見た目こそショタっぽく、ヒロインたちからは子ども扱いされたりセクハラされたりはするものの、巨大娘なヒロインたちと対等な関係を結ぼうとする姿勢は一切崩さない。 そのため、ストーリー自体は、巨大娘と友情を育んだり刃を交えたり、時に困難を前に共闘したり知恵を絞ったりする王道的な少年漫画である。 一方で、サイズフェチを扱ったりするだけあって、ToLOVEる的なスケベ描写が特徴的であり、 お尻で潰されたり、胸で潰されたり、マッサージで喘いだり、また行為こそ描かれないものの明らかに事後描写があったりする。 なお単行本では乳首が解禁される。 以上より、巨大娘から甘やかされる系のおねショタを望んでいる人にはこの漫画は向いていないかもしれない。 あらすじ 異種族学園へ留学することになった優等生トールは、そこで幼馴染の少女ニッカと再会する。 自分と同じ人間と思っていた少女は、実は巨人族であった。 巨人族の街では食べ物から家具、モンスターまで全てがメガスケールであり、人間の間では優等生であったトールも巨人族の中では子供同然だった。 トールの明日はどっちだ…! 登場人物 トール・ウェイン 人間の13歳。童顔だが人間の中ではそこそこ長身。 人間の教官三人を一度に相手取り勝利するほどの優等生だが、彼自身は父親に憧れて冒険者を目指しており、騎士団や魔術師など数多くの誘いを蹴っている。 狭き門の異種族留学に人間代表として選ばれ、巨人族の女子校に留学することになったが、 人間の中ではトップクラスの実力でも巨人の中では平均以下であり、巨人と比較したら子ども同然の身長からクラスメイトたちからは子ども同然に扱われている。 ただ、小回りの利く身のこなしとその場の機転発想などは巨人たちを遥かに上回るため、身体能力のハンデをどう乗り切るか、巨大娘からどのようにして認められるかがこの漫画の主軸となる。 ラッキースケベ被害者だが身長差体重差ゆえに命懸けであり、もし彼が一般人だったら第一話の時点で圧死している。 ニッカ・コードウェナー オーガ族の14歳。 オーガ族は子供の頃は人間と同じ背丈だがそれ以降は急速に背が伸びるという特徴があり、人間に拾われて自分が大きくなるまで自分が巨人であると気付かなかった。 そのため登場人物の中では人間に対する理解は深い。 トールとは幼馴染の関係であり、子供の頃はトールの方が背が高かった。 その身長差からトールのことを子供扱いしていたが、彼のリーダー気質や機転の速さなどから徐々に認めるようになり、いつしか異性として意識するようになり…。 セラ・コクベツ ヘカトンケイレスの16歳 4本腕でギャル風だが、少女趣味には興味がない戦闘民族気質の少女。 その気質ゆえにトラブルが絶えず、特にレトリとは言い争いが絶えない。 ガサツでトールの前でも堂々と胸をさらけ出すくらいには羞恥心も薄く女子心もない彼女が、魔法少女のコスプレをして夜の街を駆けるなどありえる筈がない… レトリ・コントラリィ トロール族の17歳。半ケモ。 メスケモで豊満な肉付きとは裏腹に生真面目で委員長気質であり、ラッキースケベに遭遇するトールに制裁を加えることもしばしば。ちなみにケモノらしく複乳。 そんな彼女だが、半ケモのお約束である発情期に見舞われることになり… ソメイユ・ロンゲーナ クンバカルナ族(*1)の13歳。 巨人族の中では小柄だがトールとは頭三つほど大きく、親友であるウーナとルームメイトしているがその体格差は完全に大人と子供。 トールと身体を入れ替えるなど特異で強力な魔術を行使できるが、その出生には大きな秘密があり… ウーナ・チェロット サイクロプス族の12歳。 本作最年少だが最大身長にして最大のバストの持ち主。ひとつ目だが常に前髪で目を隠している。 魔法のポテンシャルこそ作中トップクラスだが、本人の臆病で心配症で緊張しがちな気質からその本領が発揮出来ずにいた。 そしてとうとう落第の危機が迫ったとき、トールは彼女の実家に押しかけマンツーマン指導を請け負うことになる。 そんな気弱で奥手な彼女が、夢魔に乗っ取られて愛欲を暴走させるなど、あり得る筈がない…… サヤ・マヤカ トール達が通うノールデン冒険者学校の校長。 一見トールと同じ身長だが、種族はだいだらぼっちであり、この作品の誰よりも大きい。 一方で、小さな身体で大きな女性に甘えたいセクハラしたいというおっさんじみた願望を抱いているが、それを察した周囲の人間より学生から距離を取らされている。 校長だけあって実力はトップクラスであるが、その性格故に人望は皆無。 バブリィ・アイ ゼラチナスキューブの21歳であり、迷宮学科の講師。 スライム体質+巨人族より遥かに大きくなれる巨体より物理に対しても魔法に対してもほぼ無敵で、ただ座っているだけで生徒たちを阻む難関となる。 捕まえたトールに対し(疑似)丸呑みプレイを敢行したが、その寸前でトールはウーナが攻略の鍵だと気付き…。 星狐 椿咲 性感マッサージ付きの旅館を経営している半ケモの巨大狐。 トールを自分だけのものにしたいと執着し、冒険者の道を諦めて自分の寵愛を受けるように全身舐めまわして擦り付けて誘惑するが、あくまでも巨人との対等な関係を望んでいるトールからは拒絶される。 しかし拒絶されてなおトールに執着し、自信の半身をトールに憑依させる。それが大きな騒動を引き起こすことと知らずに… 追記、修正は、巨人たちと対等な関係を望みながらお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 反ケモって何? -- 名無しさん (2023-05-18 19 35 03) ↑「半」の変換ミスだろ -- 名無しさん (2023-05-19 08 28 39) ↑「反ケモ」から「半ケモ」へ修正しました -- 名無しさん (2023-05-19 22 40 10) ウーナちゃんがかわいすぎる&エロすぎる。一つだけ残念なのは、なかなかおめめを見せてくれないこと。 -- 名無しさん (2023-05-20 13 57 32) 個人的に反転ト-ル君回が一番エロイ -- 名無しさん (2023-05-22 17 41 29) 名前 コメント
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前ページ次ページゼロと波動 学院の入り口ではロングビルとシエスタが馬車の御者台に座って待機していた。 街を歩けば誰もが振り向くであろう理知的でグラマラスなメガネの美女と、 隣の美女に負けない豊かな胸の健康的な少女が並んで座っているのだから、ちょっとした絵画に見えないこともない。 そして幌付きの荷台にはルイズ、キュルケ、タバサが乗っており、ルイズとキュルケがぎゃあぎゃあと何かを言い合っている。 その中でタバサは我関せずといった風に革張りの装丁が施された分厚い本を読んでいた。 こちらも御者台の二人に負けない美少女ぞろい。 大人の女から年頃の娘、あと何年かで年頃になりそうな娘。 巨乳、平原。 美女に美少女。 正によりどりみどり。 金持ちの貴族でもこれだけ集めるのは至難の業だろう。 間違いなく極上のハーレムだった。 ここにいるのがギーシュならブリミルに感謝しただろうし、マリコルヌなら死んでしまっていたかもしれない。 幸せ死にというやつだ。 だが、そんな普通の男なら歓喜する極上ハーレムもリュウにとっては自分が保護者にでもなったような気分でしかない。 「あ!リュウさん!こっちですよー!」 リュウに気づいたシエスタが大きく手を振る。 「ダーリン!」 キュルケも気づき、荷台から身を乗り出して負けじと手を振る。 「ちょっと!人の使い魔に向かって何がダーリンよ!?」 ルイズが噛み付く。 「使い魔ったって、リュウは人間なんだから別に恋愛感情抱いてもいいじゃない。なんならあなたもフレイムをダーリンって呼んでもいいわよ?」 「冗談じゃないわ!そもそもトカゲじゃない!」 「んまっ!?トカゲとは失礼ね!サラマンダーよ!?火竜山脈産のサラマンダーなのよ!?ブランドものよ!!?」 自分の使い魔をトカゲ呼ばわりされてヒートアップするキュルケ。 「・・・うるさい」 タバサが本から目を離さないまま、隣に立てかけていた自分の背丈より長い杖を手に取ると短く「サイレント」の呪文を詠唱する。 途端に荷台からは一切の音が消え、静寂が訪れた。 キュルケとルイズは相変わらず何か言い合っているが、口をパクパクさせるだけで声が出ていない。 声が出ないから、二人は取っ組み合いを始めた。 「・・・ちょっと狭いかもしれんが、俺もこっちに座らせてくれ」 リュウは荷台の惨状を見て大きく息をつくと、荷台に乗るのを諦めて御者台に座ることにした。 「わあ!リュウさんだー!リュウさんだー!!」 シエスタが隣に座ったリュウの腕にしがみつく。 自分の腕に頬と胸を擦り付けてくるシエスタに戸惑うリュウ。 リュウは女性の扱いがとても下手だった。 走り出した馬車は至って平穏に山道を進んでいた。 次々と木々が後ろに流れていくのを見ているとちょっとした遠出のようで、とても今から盗賊を退治しにいくようには思えない。 そんな平穏極まりない山の中を小一時間ほどシエスタの他愛無い話など聞きながら進んでいたが、話が一区切りついた辺りでリュウが口を開いた。 「ところで・・・フーケは捕まるとどの程度の罪になるんだ?」 この世界での罪に対する罰とはどの程度のものか知らないリュウが尋ねる。 「もしフーケが平民なら良くて打ち首、悪ければ拷問の末に晒し首でしょうね。貴族ならどういう裁定が下されるかは私には判りかねます」 ロングビルが素っ気無く答える。 「フーケは魔法が使えるんだろう?貴族なんじゃないのか?」 解せないといった感じで聞くリュウ。 「貴族は必ずメイジですが、メイジが必ずしも貴族とは限りませんよ。貴族の名を剥奪されたメイジもいますから」 ロングビルの整った顔に陰が落ちる。彼女は溜息をつくと最後に一言付け加えた。 「私みたいに・・・」 いつの間にかキュルケが荷台から顔を出してリュウとロングビルの会話を聞いていた。 毎晩遅くまで勉強と魔法の練習をしているルイズはキュルケとの肉弾戦に飽きると、馬車の揺れの心地よさに勝てず眠りこけてしまっていた。 一方、夜更かしは美容の大敵と睡眠時間バッチリのキュルケは遊び相手を失ってしまい、暇を持て余していたのだった。 「あら?ミス・ロングビルって貴族じゃなかったの?なんで名を剥奪されたのか聞いてもいいかしら?」 興味津々な顔でロングビルが口を開くのを待つ。 「ごめんなさいね、あまり話したい過去じゃないの」 ロングビルが怒るでもなく、寂しげに答える。 「そりゃそっか、ごめんなさい」 キュルケはばつの悪そうな顔で素直に謝ると、荷台の中に戻っていった。 が、すぐにもう一度現れるとシエスタを引っ張っる。 「っていうか、あなた何でダーリンにくっついてるのよ!こっち来なさい!」 もちろんキュルケの力程度では微動だにしないシエスタではあったが、 貴族の命令とあれば逆らうわけにもいかず「ふぇ~~」などと情けない声をあげながらキュルケと共に荷台に消えていった。 荷台はロングビルとリュウだけになった。 しばらく沈黙が続いたが、やがてリュウは荷台の連中が誰もこちらに来ないのを確認してから口を開いた。 「盗んだ物を返してもらえないだろうか」 前をしっかりと見据えたまま告げるリュウ。 ロングビルがぎょっとした顔でリュウの方を向く。 ――バレているのか?―― もし自分の正体がバレているのなら、この男が相手では万に一つも勝ち目は無い。 何しろ形容し難いほどの殺気をバラ撒き、30メイルのゴーレムを瞬く間に消し去った男だ。 トライアングル・クラスのメイジである自分にはどう転んでも勝てまい。 いや、それどころか、スクウェア・クラスでも勝てるとは思えない。 それでも必死で戦う術を模索する。 負けるワケにはいかないのだ。 ――勝てないまでも、せめて逃げることさえできれば―― が、やはりいくら頭の中でシミュレーションしてみても自分が勝つことはおろか、逃げきれる予測にさえ辿り着かない。 襲い来る絶望感に鼻の奥がジンジンと痛み、体中の毛穴が開く。 口の中はカラカラに渇ききってしまっているが、最大限に平静を装ってなんとか言葉を搾り出す。 「どういう意味でしょう?」 「そのままの意味だ。俺にはあんたが殺されなければならないほどの悪人には見えない」 真っ直ぐ前を見るリュウの顔には表情がなく、何を考えているかを窺い知ることが出来ない。 「ミスタ・リュウ。貴方は私を誰かと勘違いしていませんか?」 脈拍が上がり、背中にはいやな汗がじっとりと浮かぶが表面上にはいっさい出さず、あくまで白を切り通そうとするロングビル。 リュウはロングビルの方に顔を向けると、真剣な顔で告げた。 「俺は”土くれのフーケ”に死んで欲しくないんだ」 ロングビルの目つきが急に鋭くなり、口調も変わる。 「・・・いつ判ったんだい?」 理知的だった美女の顔は消えてなくなり、野生の荒々しさが宿った猫科の動物のような美しさを醸しだす。 誤魔化しきれないと悟り、ロングビルでいることをやめたのだ。 それと同時に自分の命運はこの男の掌の上にあることを覚悟する。 今、リュウの隣にいるのはまさに”土くれのフーケ”だった。 「一番最初にあんたに出会ったとき、少なくともあんたは秘書ではないと思っていた」 「そんな最初から?まったく参ったね・・・”土くれのフーケ”様がなんてざまだい・・・」 ロングビル、いや、フーケがため息をつきながら天を仰ぐ。 「で、あたしがフーケだと判ったのは?」 「学院長室にあんたが入って来たとき、あんたはルイズを見て驚いていた。そして、すぐに安堵したような顔をした」 「・・・で?」 「あんたは大木が直撃してルイズは死んだと思い込んでいたんだ。ところがそのルイズが学院長室にいた。 死んだと思っていた人間が目の前にいるんだ、驚くだろうさ。そして安堵した。少なくとも、殺してしまったと悔いていたんだろう」 フーケはしばらく黙ってリュウの顔を見つめたあと、諦めたように口を開いた。 「あんた、いったい何者なんだい?デタラメに強いだけじゃなくて周りも良く見えてるし頭も回る。なんであたしはこんなのを敵に回しちゃったんだろうねぇ」 言って、大きな溜息をつく。 「盗んだものを返してくれないか?」 リュウがもう一度言う。 「いいよ。元々返すつもりになってたしね」 あっさり了承するフーケ。 「あんたの言うとおり、あたしはあの貴族の娘が死んだと思ってたからね。物を盗るのに誰かを死なせてたんじゃあ、あたしの中じゃ仕事は失敗なのさ。 仕事が失敗してるのに獲物は手元にあるなんて納得いかないだろ? ただ、返そうにも学院が本気になって警備に力を入れたんじゃあ、流石のあたしでもメンドウだからね。 適当な廃屋にでも置いといて、そこに案内しようと思ってたんだよ。 そしたらどうだい、あの娘が生きてるじゃないか。 それで返すか返さないかで迷ってるうちにあんたに正体を見抜かれちまった。ホント、あたしも焼きが回ったねぇ」 「悪いことは出来ないもんさ」 リュウが笑った。 フーケも笑った。 それは裏の世界に生きている人間とは思えないほど、明るく輝くような笑顔だった。 「あんた、いいヤツだね」 フーケは笑うのをやめると、真面目な顔になる。 「でもね、『破壊の珠』は返すけど、あたしは”土くれのフーケ”を辞めるワケにはいかない。何しろ金が要るからね。 平民がまともに稼いでも手に入る金なんてたかが知れてるしさ。それじゃ足りないんだ。 ・・・たとえ捕まって晒し首になるとしても、あたしには金が要るんだよ」 リュウを見つめ、寂しそうに呟く。 「あんたは悪人に見えないと言ってくれたけど、あたしは悪人なんだよ・・・」 フーケは自分がなぜこんな話をリュウにしているのか解らなかった。 『もう盗みはしない』と言ってその場をごまかし、後で隙を見て消え去るのが一番の手だと頭では理解しているはずなのに、自分はリュウに洗いざらい喋ってしまっている。 「なんでだろうね、あんたといると調子が狂うよ・・・で、どうする?あたしはフーケを辞めないと宣言しちまったよ?あたしを捕まえるかい?」 この男は正義感が強い。さっきはもしかしたら見逃してくれるかも知れないと思ったが、盗みを辞めないと断言した以上は自分を捕まえるだろう。 先ほどもシミュレーションした通り、この男から逃げ出せる可能性は殆どないと考えていい。 ”ごめんね、ティファ。もうお金を渡してやれそうにないよ・・・” フーケは覚悟を決めると、再び逃走するための作戦を幾重にも考え始めた。 「いや、好きにすればいいさ」 だが、リュウから返ってきた言葉は意外なものだった。だから、聞き返してしまった。 「え?」 「好きにすればいいさ。俺はフーケの正体が誰なのか知らない。どうやら少し居眠りしてしまったようだ」 「・・・なんで・・・見逃してくれるんだい?」 「言っただろう?俺にはあんたが悪人には見えない。それだけだ」 リュウは真っ直ぐに前を見つめ、力強く言った。 リュウは見た。 『金が要る』と言ったときのフーケの顔を。 それは自身の欲の為ではなく、必要に迫られた悲壮感漂うものだった。 おそらく誰かのために多額の金が必要なのだろう。 自分から大貴族であるルイズやキュルケに頼めばそれなりの額は工面してもらえるかもしれない。 だが、もしそうしてフーケの為に金を用意しても、きっとフーケはその金を受け取らない。 自分がフーケのためにしてやれることは、何も無かった。 目の前にいる人間すら助けることのできない自分。 多少は人より力が強いかも知れないが、それが一体なんだと言うのか。 己の無力さに歯噛みするリュウ。 それに街で聞いた話ではフーケは金持ちの貴族からしか盗まないらしいし、彼女の行動から人の命を奪うこともしないことを知った。 決して褒められたことではないが、誰かの為に何かを成そうとするフーケの行為を止めることなど、無力な自分にできるはずがなかった。 「そんな顔するんじゃないよ。あたしは盗賊なんだよ?」 リュウの思いつめた顔を見て、フーケはリュウが何を思っているのかを悟った。 「さっきも言ったけど、あんたってば本当にいいヤツだね。あんたに気にかけてもらえるなんて、あの貴族の娘が羨ましいよ」 フーケは更に言葉を続けようとしたが思い直して口を閉じ、しばらく無言でリュウの顔を見つめる。 「・・・このまま道なりに進みな。1時間もすれば小屋のある広場に出るからね。その小屋の中に、箱に入れて置いてあるよ」 フーケはメガネを外し、髪を束ねていた結紐を解く。長く美しい緑の髪が風に煽られ大きく広がる。 「ロングビルはこれで終わりだよ。『破壊の珠』が手に入らなかったから、もう学院にいる意味ないしね」 「そうか。何か伝えておきたいことはあるか?」 リュウが尋ねる。 「そうだね・・・オスマンのジジイに礼でも言っといてくれると嬉いね。 あんたの秘書をやってたことに文句はなかった、給料の額だって満足してるって。”土くれのフーケ”様が感謝してたってね。 実際、あのジジイは平民のあたしにも十分良くしてくれたよ。セクハラだけはどうにも我慢ならなかったけどね」 フーケが少しだけ寂しそうに、しかし笑顔で言う。 「物盗りが何言ってやがるって話だけどね」 そう付け加えてけらけらと笑うフーケ。 陽光に照らされるフーケの笑顔はとても眩しく、美しかった。 「元気でな」 リュウが短く言う。 「あんたもね」 フーケは馬車の手綱をリュウに手渡すと、ぐっと顔を近づけた。 「このフーケ様が敵わないって思った相手なんだ、よく顔を見せとくれ」 しばらくリュウの顔を見つめたあと、突然自分の唇をリュウの唇に合わせる。 「な!?何をする!!?」 滑稽なほど慌てふためくリュウ。とにかく、色恋沙汰とは縁遠い男だった。 「見逃してくれた礼だよ。悪くはないだろ?これでも自分の見てくれには自信があるんだ。 ホントは一晩ぐらい相手してやっても良かったんだけどね、それをしちまうと、あたしがあんたに惚れちまいそうだからさ。残念だけどやめとくよ」 フーケはじっとリュウを見つめると、とびきりの笑顔で片目をつぶる。 「じゃあね」 それだけ言うと御者台から飛び降り、フーケはそのまま森の中に消えていった。 ――惚れちまいそうだから・・・か。もう、どっぷり手遅れだよ。 ホント、”土くれのフーケ”がなんてざまだい・・・―― 馬車を見送りながらフーケが自嘲気味に呟いた。 「さて・・・なんて言い訳するかな・・・」 リュウは一人になってしまった御者台の上でルイズ達にどう説明しようかと悩むのだった。 前ページ次ページゼロと波動
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前ページ次ページゼロな提督 聖地。 この言葉を聴いて、ヤンは何を想像するだろうか。 宇宙暦800年、新帝国暦2年ごろの聖地といえば、地球そのもの。 貿易国家フェザーンの影の主であり、麻薬を使って信徒を洗脳しテロに利用する狂信的宗教集団『地球教』の本拠地のこと。 ハルケギニアと同じ文明レベルの時代の地球で言うなら、それはイスラム教徒を中心としたアラビア世界の宗教的中心地。 かつキリスト教とユダヤ教の聖地であり、長きに渡る泥沼の宗教戦争が行われた悲劇の舞台。 歴史家としてのヤンならば、中東戦争と呼ばれた20世紀前後の地獄のような戦争をも思い浮かべるだろう。 そして、テロの嵐が吹き荒れるパレスチナ。 21世紀のゲットーとも揶揄されるヨルダン川西岸の巨大分離壁【アパルトヘイト・ウォール】。 エルサレムの嘆きの壁で一心不乱に祈りの言葉をささげるユダヤ教徒達。 その壁の上にイスラム寺院アル=アクサー・モスクが建ってる図は、かなり悪趣味なジョークとして記憶の中に含んでいることだろう。 同時に、ハルケギニアの聖地の実情がいかなるものか彼は知らない。始祖ブリミルがらみの地とは知っているが、どんな地なのかまでは分からない。それは大方のハルケギニアの人々も同じことだ。 何しろハルケギニアの人間と聖地に暮らす亜人「エルフ」とは、極めて険悪な関係にあり、両者の接触は大方が戦争と言う形で行われているのだから。 それも、侵攻した人間側の度重なる惨敗という結果で。 ハルケギニアの聖地回復運動は『レコン・キスタ』という名称で現在も行われているようだが、6000年経過した現在に至るまで、一度も聖地を奪還したことはなかった。 ゆえに、すでに聖地がいかなる場所か、ハルケギニアの誰も知らなかった。 では、このヤンが召喚されたハルケギニアの聖地とは、いかなる場所なのだろうか? ヤンを含め、ハルケギニアの多くの人が、砂漠の中に浮かぶオアシス都市を、耳の長いエルフたちが住む石造りの町を思い浮かべるだろうか。 始祖ブリミルがらみの遺構や石碑の一つくらい残っていることを期待もしているだろう。 加えてヤンならモスクや尖塔が並ぶイスラム風の風景も。 いや、おそらくかつてはそういう姿をしていた時期もあったかもしれない。 ゆえに、彼らは驚愕とともに、失望するだろう。 この、聖地の実際を目にすれば。膝を地に付き天を仰ぎ、始祖の福音はハルケギニアから失われたのではないか、と絶望するだろう。ヤンもきっと、涙を滝のように流して悔しがるに違いない。 なぜなら、そこには、何もないのだから。 ここは夜の聖地。エルフに蛮人と蔑まれる人間が奪還を目指す場所。 確かに、何もなかった。 砂漠ですらなかった。 双月の下に、ただひたすら荒野が広がっていた。それも、大きく盆地状にえぐられた大地が。半径10リーグ以上の見事な円形の盆地が、赤茶けた土壌をさらしていたのだ。 そんな盆地の端、盛り上がった土手の上に数人のエルフが立っていた。彼等は盆地の中央を見つめている。 うち一人が盆地の中央を指さした。薄暗い、だだっぴろい大地の先を。 盆地の中央で、何かが光った。 光ると同時に、何かに包まれるように光が阻まれる。 だが、包もうとする『何か』より、『光』の方が強かったらしい。包もうとした『何か』は『光』に吹き飛ばされた。 盆地が光に満たされる。 そして次に盆地中央から、球形に『壁』が放たれた。 それは月明かりでもハッキリ分かるほどの圧倒的破壊力を持って、『光』を中心として盆地周囲へと広がっていく。 土煙を巻き上げて…いや、地盤そのものを巻き上げて、盆地の端にいたエルフ達へも襲いかかろうとしていた。 襲いかかろうとしているのは見えるのに、全てを破壊しながら向かってくるのに、僅かな地響きしか耳には届かない。 『壁』が音速に近いか、音速を超えているからだ。音より早くとどいた地盤経由の振動が足下から音へ変換されて届いたのだ。 「我と契約せし大地の精霊よ。古の盟約に従い我らに加護を」 エルフ達が呪文とも独り言ともつかない言葉を発する。とたんに彼等の眼前で大地が盛り上がり、巨大な土と岩の壁となって彼等を包んだ。エルフ達は月明かりも失い、暗黒の中に守られる。 遙か10リーグ以上彼方から届いた『壁』が、大地の精霊が生み出した壁に衝突する。 瞬間、中のエルフ達の耳に、いや全身に轟音が届いた。彼等の全身を震わせ、内臓をかき回し、鼓膜を破る程の振動が。 大地の精霊が加護してすらなお、エルフ達の命を守るのが精一杯だった。 『壁』が通り過ぎるまで、さほど長い時間ではなかったはずだ。だが彼等にとっては死を覚悟させる永劫の時といってよかった。 『壁』の名残である細かな振動も去り、静寂が再び闇の中に帰ってくる。 大地の精霊は契約を守りきり、エルフ達を双月の下へと解放した。 彼等は盆地を恐る恐る覗き込む。そこには、さっきとおなじ盆地があるだけだ。いや、先ほどより抉られた盆地がある。 『光』は既に消えていた。 「ビダーシャル!あれをっ!」 エルフの一人が天を指さした。ビダーシャルと呼ばれたエルフも天を仰ぎ見る。 星空の中、光が流れていた。 流れ星ではない。明らかに燃えさかる巨大な何かが放物線を描いて落下しているのだ、彼等の近くへ向けて。 それは爆発音を上げて大地と衝突した。 とたんに周囲の大地そのものが触手の如くわき上がり、燃えさかる何かを飲み込む。一瞬にして大地は落下してきた物体を地下深くへ飲み込んでいった。 カラン ビダーシャル達の近くで乾いた金属音がした。 彼が地面を見ると、先ほどの物体の破片が落ちていた。大地の精霊は無害と判断したのかもしれない。それは大地に飲み込まれはしなかった。 ヒョイとエルフの一人が金属片を手に取る。何かプレートの様な物が、爆発の衝撃で本体からはがれたようだ。 黒こげのプレートを袖で拭くと、そこには絵が描かれていた。赤・白・青の三本線、真ん中の白線中央には五稜星 それが自由惑星同盟の国旗であることは、エルフ達の知らない事だった。ほぼ全てが今夜と同じように地の底へ封じられているのだから。 第七話 聖地 ガリア王国。 トリステインとほぼ同じ文化形式を持つ国で人口約1500万人のハルケギニア一の大国。 魔法先進国ともいえる国で、王宮では様々な魔法人形(ガーゴイル)が使われている。王都の名はリュティス。 リュティスはトリステインとの国境部から1000リーグ離れた内陸に位置する。大洋に流れるシレ河の沿岸にある。 人口30万というハルケギニア最大の都市。河の中洲を中心に発展した大都市で、主たる都市機能に加えて魔法学校をはじめ貴族の子弟が通う様々な学校を内包しており、街並みは古いながらも壮麗なものとなっている。 その郊外には壮麗な大宮殿が見える。王族の居城、ヴェルサルテイル宮殿だ。王家の紋章は2本のラインが入ったねじくれ組み合わされた杖。宮殿中心には、薔薇色の大理石と青いレンガで作られた巨大な王城『グラン・トロワ』。そこから離れた場所に、薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』がある。 「――つまり、虚無が集うのを妨害してほしい、と?ビダーシャルとやら」 「そうだ。お前達が聖地と呼ぶ、忌まわしき『シャタイーン(悪魔)の門』、我らでも封じきれないのだ。 風と大地の精霊が奴等の生む嵐を聖地内に押さえ込もうと努力はしてくれている。だがもはや追いつかぬ」 『グラン・トロワ』の一室で椅子に座るガリア王ジョゼフは、異国からの客人を前にしていた。 当年45歳ながら、30歳前後にしか見えない美貌と逞しい肉体の男性は、薄茶色のローブをまとう長身で耳の長いエルフと相対している。 「ふぅむ…いささか信じがたい話だ。お前達エルフですら太刀打ち出来ない、聖地よりわき出す悪魔、か」 「いや、あれは恐らく悪魔ではない。 風と大地の精霊が言うには、あれらは湧きだしたとたんに粉々に砕け、火竜のブレスを上回る炎をまとい、風の精霊もかくやというほどの嵐で大地を抉り、そして死ぬ。しかも数十年に渡り消えぬ毒をまき散らしてから、だ。例え湧き出した瞬間に死ななくとも、直後に地面に叩き付けられて粉々になる。 我らエルフが総力を挙げ、大地の精霊の力を借り、全てを大地の奥底に封じているので、今以上の被害にはなっていない。だが、その毒を一身に受ける大地の嘆きと怒り、もはや収まらぬ。 しかし思うに、門から飛び出したがために、あれらは死んでしまうのだろう。門を通ったがために悪魔と呼ばれるほどの被害を周囲にまき散らすのだ。彼等とて死にたくはなかったろうにな」 「彼等?」 ガリア王家の象徴とも言える青い髪が揺れる。 「そう、彼等だ。ごくまれにだが、あれら『悪魔』には人が入っている事があるらしい。それも、お前達と同じ蛮人が」 「ほほう…それは、会ってみたいものだ」 エルフの長い金髪はサラサラと左右にゆらめく。 「無理だ。さっきも言ったとおり、門を通ると同時に、ほぼ全てが死ぬのだ。後に残るのは灰になった蛮人の遺体。それも残っていればの話だ」 「…なぜ死ぬのだ?しかも、そんな派手に」 「分からぬ。全ては地の底に封じてあるのでな。理由は私も知りたいが、そのためには地の底へ潜り、毒に冒される覚悟がいる」 ジョゼフはふぅ~むと息を吐きつつ、椅子に身を預ける。 「興味深い…実に面白い話だ。それら全てが『虚無』の力、シャタイーンの復活によるものだ、と?」 「うむ。テュリューク統領はじめ、我らネフテスにも懸念が広がっている。この数十年の活発な門の活動とも併せ、世界を滅ぼす大災厄が六千年の時を経て再来するのではないか、 と」 「なるほど、な」 ジョゼフは、ふと何かを思い出したように首を傾げた。 「待て。さっき『ほぼ全てが死ぬ』と言ったが、これまでに生きて門を越えた者はいないのか?」 ビダーシャルは、重々しげに答えた。 「うむ…実は無事に門を越えた先例がある」 「ほほう?詳しく話せ」 とたんにガリア王は身を乗り出す。 「私が知っているのは2例。 一つは60年程前だ。その時は門から光も嵐も起きなかった。それは門から湧き出すと、大地と風の精霊の手を振り切って、西の彼方へと飛び去ったそうだ。その後の事は分からぬ。 恐らく、お前達蛮人の世界へと向かったのだろう」 「ほう…もう一つは?」 「もう一つは、30年ほど前だ。その時も門から光も嵐も起きなかった。代わりに門から、鉄の馬車が走ってきたのだ。馬も無しに走り、車体全てを鋼に覆われたほろ馬車の様なものだ」 「…悪いが、想像がつかん」 王は首を傾げつつも、楽しげに口の端を歪ませている。 「すまんが、私にも上手く表現出来ぬ。それ程までに奇妙なものだったのだ。そしてそれは必死に大地と風の精霊の手から逃れようと、土煙を上げて走ってきた――聖地を囲む土手を乗り越え、砂漠を走り、我らエルフの集落に向けて」 「ほほう!それで、どうなった!?」 ジョゼフは更にエルフに向けて身を乗り出す。 詰め寄られるビダーシャルは、苦々しげに言葉を繋げた。 「その鉄の馬車は精霊に追われ、恐慌状態だったらしく、我らに向かって突っ込んできた。 我らは身を守るため、精霊の力を借り鉄の馬車を止めようとした。 すると、その馬車が火を噴いたのだ」 「火を?」 エルフはゆっくりと頷く。 「荷馬車には大砲が積まれていたのだよ…それも、大地の精霊の加護により築かれた岩の守りを、後ろの同胞ごと貫く脅威の威力を持つ大砲を。反射することも出来ぬほどの、な」 「な!?」 馬車に大砲を積む――もしハルケギニアでそれを行ったらどうなるか。 重くて馬車が動かない、という以前に重量で壊れる。 壊れないほど頑丈な馬車を作っても、重いので地面に沈んで動かない。馬でも引っ張れない。 よしんば岩で舗装した道を走らせたとしても、発砲した反動で馬車ごとひっくり返る。 だがそれでもエルフの先住魔法による防壁を貫けはしない程度の威力だ。いや、『反射(カウンター)』によって全て跳ね返されるだろう。 だが、その鉄の馬車は、全てを易々と実行したということだ。 「結果…その鉄の馬車を止める事は出来た。同時に、その集落は壊滅した」 ジョゼフの頬に、汗が一筋流れる。 「念のために聞くが…その集落には何人のエルフがいた?」 「500は下らぬ。戦える者は100ほどいた」 王は、もはや言葉を失った。 聖地回復運動をいくら行っても、エルフの10倍以上の兵力でもって戦ったとき以外勝てた試しは無い。つまり、その鉄の馬車一台で人間1000人以上の軍勢に匹敵するのだ。 「鉄の馬車を止めた後、数名の同胞がその中を調べてみると、やはり中には蛮人達がいて、その中に一人だけ生存者が気絶していたらしい」 「ほほぅっ!で、今その者はどこにいるのだ!?」 ジョゼフは椅子をひっくり返して立ち上がる。だが、ビダーシャルは残念そうに首を左右に振った。 「いたらしい、と言ったであろう?その者を見つけた同胞は、既に生きてはいないのだ。全員が、意識を取り戻した生存者に殺された。手負いの蛮人一人に、だ。しかも、止めたはずの馬車は再び動き出したのだ。 そして生存者は馬車を駆り、どこへともなく逃げ去った。我らには、もはや追う事は出来なかった」 ジョゼフは座り直し、顎に手を当てて考え込む。 「では、おそらくその者もハルケギニア、いやガリアに向かったやも…」 その言葉に、ビダーシャルは再び首を横に振った。 「期待はできまい。馬車自体が我らとの戦いでかなり破損した。走り去りはしたが、もはや使い物にはなるまい。そして中の生存者も、ただでは済まなかったろう」 「そう、か・・・」 エルフは苦しげに天井へ視線を上げる。 「今にして思えば、我らに否があったのだ。馬車を止めるのではなく、精霊達に彼等への追撃をせぬよう頼めばよかったのだから。だが、あの混乱の中ではもはや手遅れだった。 だからといって、精霊による聖地の封印を解く事も叶わぬ。聖地から湧き出す嵐と毒を最小限に抑えねばならんのだ。 悲しいが、今も聖地では悪魔達が断末魔をあげている。そしてそれはここ数十年、激しさを増している」 ガリア王は、眼を閉じて頭を傾け、じっくりと思索にふける。 しかる後、エルフに向き直った。 「なるほど、卿の話は実に興味深かった。だがまずは、お前達エルフと交渉するとなると、それなりの信用も対価も示してもらわねばならん」 「うむ、それは承知している。まずは交渉の権利を得なければなるまい」 ジョゼフとビダーシャルの会見は、その後もしばらく続いた。 所変わって、トリステイン魔法学院。『フリッグの舞踏会』から数日経った。 ゼッフル粒子発生装置は再び宝物庫で眠りについた…大穴が開いたままだが、もはや秘宝でも何でもないので、別に構わなかった。 斧は次の日、トリスタニアから飛んできたエレオノールと公爵に引き取られた。公爵はヤンの手柄を率直に讃え、エレオノールは高慢で高飛車ながらも、一応「よくやった、褒めてつかわす」と礼を言った。そして今度は騎士達の大部隊に囲まれて去っていった。 なぜ『破壊の壷』と『ダイヤの斧』を無事に取り戻せたのか、公爵もエレオノールも城の衛士達も首を傾げた。 結局、「壷が空と分かったので捨てた。斧はマジックアイテムではないし平民が所有していた物だったので返した」という結論で事件は収束した。 さて、使い魔を見ればメイジの格が分かるという。では今のヤンを見ると、ルイズの格はどうだろう? ダイヤの斧という神話級の逸品と共に、死亡した状態で召喚された。 公爵から箱一杯の金貨を受け取り、王室からの斧の代金も月々受け取る予定の彼は、もはや一介の平民と言うには裕福すぎた。並の貴族より金回りが良い。 アルヴィーズの食堂では、貴族の子弟達を前に怖じ気づく事もなく主を擁護した。 フーケに奪われた『破壊の壷』と『ダイヤの斧』も奪還した。 これだけ聞けば、伝説の英雄とは言えずとも、何かひとかどの人物が召喚されたかとも感じる。 にもかかわらず、彼女の魔法の成功率とも関係なく、あんまりルイズの評価は上がっていなかった。 「だーかーら!あんたはなんで毎朝毎朝主人と一緒に起きてるのよー!たまにはあたしを起こしなさいよー!」 「ルイズ…他力本願は良くないよ。人間、自らの努力を忘れては」 「あんたが努力しろーっ!」 「んじゃ、デル君に頼もうか」 「あ・ん・た・が!努力しろっつってんのよーーっ!!」 二人はそんな会話をしつつ、食堂へと走っていた。 こんな光景を毎朝見せる主人と使い魔では、どんなに上がった評価も次の瞬間には地の底まで落ちるだろう。 ルイズはこんなに寝坊する生徒ではなかったはずなのだが、すっかりヤンに毒されたらしい。 それでなくても、いつももダラダラしているとしか見えない態度で、半分寝ている目で、ちょっと猫背なのだ。見た目はもう、ホントに、冴えない中年男なのだから。 そんなヤンは一ついつもと異なる所がある。両手に白い薄手の手袋をはめている。オスマンから左手のルーンが『ガンダールヴ、伝説の使い魔の印』と知らされたヤンは、すぐルーンを隠す事にした。 さて、その日の午前。 本塔最上階の学院長室では、今日もオスマンが重厚な造りのセコイアのテーブルに肘をつき、鼻毛を抜いていた。 おもむろに「うむ」とつぶやいて引き出しを引き、中から水ギセルを取り出した。 すると部屋の隅に置かれた机に座ってデスクの上の書物を鞄に収めていた秘書が杖を振る。水ギセルが宙を飛び、秘書の手元までやってきた。 つまらなそうにオスマン氏がつぶやく。 「年寄りの楽しみを取り上げて、楽しいかね?ミス・ロングビル」 「オールド・オスマン。あなたの健康を管理するのも、私の仕事なのですわ」 秘書は鞄を手にして立ち上がり、部屋を出ようとする。だがその前に机の下へ杖を向けようとした。 オスマン氏は、顔を伏せた。悲しそうな顔で、呟いた。 「モートソグニル」 秘書の机の下から、小さなハツカネズミが現れた。オスマン氏の足を上がり、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。 オスマン氏はネズミにナッツを与えつつ、ネズミに耳を寄せた。 「そうか…見えなかったか。残念じゃ」 秘書は鞄を自分のデスクに置き直し、しかるのち、無言で上司を蹴りまわした。 「ごめん、やめて、痛い、というか、最近老人いびりが、きついぞい」 「学院長には、ほとほと愛想が尽きそうですわ!ヤンの件で分かりました。老人といえど、甘い顔をしてはならないと!セクハラが全女性に対する侮辱であり犯罪だという事を、身を持って教えて差し上げますわっ!」 ロングビルにしてみれば、『破壊の壷』が単なるガラクタと分かった以上、もう学院に無理にいる必要はない。単にフーケ騒ぎのほとぼりが冷めるのを待っているだけだ。なので、学院長のセクハラに我慢する必要は無かった。 ゼーゼーと息をつきながら、改めて本を収めた鞄を手にする。 「それでは、私は図書館でヤンに講義をしてきます。学院長はちゃんと仕事をしてて下さい!」 「そ、その、ミス・ロングビルや…秘書の仕事は?」 ギロリ、と釣り上がった眼で睨まれた学院長が、ヘビに睨まれたカエルの如く縮こまる。 「今朝は急ぎの用はありません!全部、午後に済ませますわ」 ドカンッと盛大な音を響かせて扉を閉めたロングビルは、図書館に向かっていった。 ロングビルは図書館に向かう前に、女子トイレに入った。 手洗い場の鏡を前にして、学院長を蹴り回して乱れた髪を直す。そして口に紅をひく。 服装も正して、鏡の前で自分の姿を最終チェック。 そして改めて、鼻歌交じりに図書館へ向かった。 その姿を、朝食を片付ける二人のメイドが見かけた。 「あらー?あれってミス・ロングビルよね。鼻歌歌ってるなんて、珍しいわねぇ」 「ああ、あれよカミーユ。図書館でヤンさんにぃ…こ・じ・ん・じゅ・ぎょ・う!」 「ええー!マジマジ!?ドミニック、マジなのー!?」 「そーなのよぉ!ヤンさんったら、あんなぼんやりしてても、ホントはすっごいのねー」 「そうねー、ヤンさんって不思議な人よねぇ~。おまけに今や並の貧乏貴族より、よっぽどお金持ちだしねぇ」 二人のうわさ話は留まる所を知らない。更に通りがかった他のメイドも加わり、益々話は盛り上がる。 そんな感じで、ヤンは実力以外の所で評価、というか話のネタにされていた。 鼻歌交じりに図書館へやって来たロングビル。窓際のテーブルにヤンの姿を見つけるや、笑顔が僅かに引きつった。 なぜならヤンはお茶を片手に、お盆を手にして立ってるシエスタと楽しげに談笑していたからだ。 「へぇ~、タルブのワインって美味しそうなんだねぇ」 「そうなんですよ!とっても良質なブドウが沢山採れるんです。是非一度来て下さいな、ヤンさんも絶対気に入りますよ!」 こほん、とロングビルがわざとらしく咳をする。 慌ててシエスタが事務的なメイドの顔に戻り、秘書に向けて一礼した。 「それじゃ、ヤンさん。ミス・ヴァリエールのお部屋の掃除と洗濯はお任せ下さい」 「あ、いや、それは僕が後で」 いいんですよー、と一声残してシエスタは去っていった。 ロングビルは、周囲に誰もいなくなったのを確認してから、ヤンの前にどっかと腰を降ろした。 「さすが将軍様。英雄色を好む…てやつかい?」 睨まれたヤンは慌てて首を振る。 「おいおい、ちょっと世間話をしていただけだよ。第一、僕には妻も子もいるからね」 「どーだかねぇ…ま、気をつけな。あんたの手に入れた金を目当てに近寄ってくるヤツは、ゾロゾロ湧いてでるだろうからねぇ。この国に関しちゃ世間知らずなのを良い事に付け入ろうとするやつらが、ね」 「そうだね、気をつけるよ。ところで、その鞄の中身は頼んでおいた物かな?」 ヤンの視線は彼女がもつ鞄の方へと向いている。 「ああ。始祖ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリと、ガンダールヴ伝説についてさ。といっても、おとぎ話程度くらいしか伝承が残ってないけどさ」 「それで構わないよ。簡単にでも教えてくれればいいから」 そんな感じで、二人はお昼まで授業を続けた。 お昼になり、ヤンは厨房で食事を取る。 ヤンは普段、食事の時間も惜しいくらいに図書館の本が読みたかった。なので昼食はほとんどサンドイッチのような軽食を頼んでいた。 パンに挟まれた食事を見てると、サンドイッチ、ハンバーガー、クレープと挟むものだけは得意と言っていた妻のフレデリカを思い出す。ハルケギニア召喚前になって、ようやくまともな食事を出してくれた気がするが、さて今頃はどうしているのだろう、と郷愁に囚われる。 その郷愁を生む原因になったアルジサマはどうしているのか、と気になって厨房から食堂を覗き込む。そこにはテーブルに座って昼食をとるルイズの姿があった。 テラスに教師はおらず、生徒達は皆、気楽に歓談しながら優雅な貴族の昼食を楽しんでいる。だがルイズは誰とも言葉を交わすことなく、黙々と食事をしている。そして食べ終わると、すぐに食堂を一人で去っていった。 後には学生達の談笑の輪が残る。 ヤンはかつて養子のユリアンに「運命は年老いた魔女のように意地の悪い顔をしている」と語った事がある。ハルケギニアの年老いた女性メイジ達は、普通に年をとった顔をしていたので、この点は間違っていたようだ。 だが運命がヤンに望みもしない軍人生活を10年以上強いたのは事実だ。そしてルイズにも『ゼロ』と蔑まれる生活を強いた。有力貴族に生まれた出来損ないメイジ。その苦痛はいかほどか、考えるだけでもヤンの心にさざ波が広がる。 「戦争孤児だったユリアンはトラバース法(軍人子女福祉戦時特例法)で僕の所に養子として来てくれて、色々僕の面倒を見てくれたっけ…というか、僕の面倒を押しつけられたという感じかもしれないなぁ」 そんな独り言をいいつつ、彼は一旦ルイズの部屋へ向かった。 「よー、お前さんの勉強は終わりかい?」 シエスタに掃除されて綺麗になったルイズの部屋。壁に立てかけられたデルフリンガーが鞘からピョコッと飛び出す。 「うん。ガンダールヴについて色々聞いてきたよ。それじゃ、改めて『使い手』について教えてもらおうかな?」 ヤンはロングビルから聞いた事をデルフリンガーに語って聞かせる。そして最後に「何か思い出さないか」と尋ねる。 剣の回答はいつもと同じだった。 「ぜーんぜん思いださねー!」 カクッとヤンの頭が垂れる。 「そんなこと言っても、君は六千年生きているんだろ?つまり、始祖と同時代。そして僕のルーンを懐かしいって感じるんだろ?だったら『伝説の使い魔ガンダールヴ』を知ってるってことじゃあないのかい?」 「いや、そうは言われてもなぁ…六千年前のことだぜ、覚えてるわけがないわな」 今度は溜め息をついてしまう。 「君って無駄に人間並のAI組まれてるんだねぇ」 「それ、褒めてんのか?」 「うん、褒めてる」 「嘘つけ」 「ばれたか」 コンピューターなら外付けの記憶装置をいくらでも付けれるが、この剣にはどう見ても端末だの端子だの付けれそうにない。なら、トコロテン方式で古い記憶を忘れていかないと新しい記憶を入れる容量が出来ない。 なにもそんな所だけ科学的にしなくても、と肩を落とすヤン。結局この日の午後は徒労で時間を潰したのだった。 そして放課後。 デルフリンガー片手のヤンは、また厩舎の前でルイズと落ち合った。 「おっそいわよ!さぁ、今日もみっちり特訓するからね!」 ルイズの持つ乗馬用のムチが、鬼教官の教鞭に見えたのは、多分、気のせいではない。 「ゲルマニアについて知りたい!?」 ヤンの馬と並走しながら、ルイズは素っ頓狂な声を上げた。 「バカ言わないでっ!なんであんな成り上がりの国の事なんか知りたいのよ!?」 相変わらずおっかなびっくり馬に乗りながら、ヤンは頑張って答えた。 「うん、そろそろ他の国の事も知りたいと思ってね。それに、今度お姫様が嫁ぐんだろ?お隣の国ってこともあるし、ヴァリエール家のすぐ隣がゲルマニアなんだってね」 ジロリ、とルイズがヤンを睨み付ける。 「そうよ…あのツェルプストーよ。先祖代々の仇敵よ」 「なら話は簡単だよ。孫子曰く『敵を知り、己を知れば、百戦危うからずや』。ああ、孫子というのは僕の国の兵法学者ね。敵の情報を集める事は政戦両略の基本だよ」 むぅ~、と不服げな声を上げるルイズ。渋い顔で手綱をさばいている。 「あんたの言いたい事は分かるけど、私はそれほどゲルマニアに詳しくないわよ」 待ってましたとばかりにヤンは声を上げた。 「んじゃ、講師を呼ぼうかな!」 ルイズの顔は、ますます渋くなった。 「なーるほどねぇ!よぉく分かってるじゃないのぉ。ま、ゲルマニアの事なら私にまっかせなさーい♪」 「では、よろしくお願い致します。ミス・ツェルプストー」 というわけで、日が暮れてからルイズの部屋にはキュルケが来てくれた。もちろんルイズは非常にイヤそうな顔だ。 そんなルイズの顔とは裏腹に、キュルケは満面の笑みを浮かべている。そして当然のように、キュルケの後ろにはタバサが付いてきている。 「全く、なんでキュルケなんかを私の部屋に入れなきゃいけないのよ!ご先祖様になんてお詫びすればいいの!?」 肩を震わせるルイズだが、キュルケはケロリとしたものだ。 「だぁってぇ~、今度うちの皇帝のアルブレヒト三世とトリステインのアンリエッタ姫が結婚するんでしょ?軍事同盟のために。 だったらぁ、私達も過去の怨恨は水に流さなきゃいけない、とは思わなぁい?」 むぐぐーっとルイズも反論出来ずに口を閉ざしてしまう。 「んじゃ、ヤンの要望通りゲルマニアについて教えてあげるわね。ありがたくよーっく聞きなさいよ!」 壁に立てかけられたデルフリンガーがいきなり声を上げる。 「おうおうヤンよ!若い娘に囲まれて、鼻の下伸ばしてんじゃねぇぞ!」 「デル君!バカな事を言わないでくれよ」 と言いつつもヤンは顔が赤くなる。 と言うわけでテーブルを囲み、キュルケのゲルマニア講座が開かれた。 タバサも黙って椅子に座る。キュルケの話を聞くつもりのようだ。 「・・・というわけで、あの皇帝ったら自分が戴冠するため、政敵の親族をぜーんぶ塔に幽閉しちゃったのよ! 頑丈な扉の付いた部屋に閉じこめて、食事はパン一枚に水一杯。薪の暖炉は週に二本っていう有様よ!」 「うわぁ、酷い事するわねぇ」 「相変わらず王族のやるこたぁえげつねぇなぁ」 キュルケの口から語られるのは、勢力争いの果てに皇帝の座を勝ち取った野心の塊のような男の悪事。デルフリンガーがうんざりした感想をつぶやく。聞かされるルイズも恐れ呆れるが、ついつい話にのめり込む。 タバサは相変わらず無表情。でもちゃんと聞いているらしい。 「どーお?ヤンもこーんな酷い皇帝は、なかなかお目にかからないでしょ」 キュルケに話を振られたヤンは、うーんと唸って天井を向いた。 「えーっと、僕の隣の国では、それと似たような事をして皇帝になった人がいるんだ」 ルイズが隣に座るヤンをチラリと見る。 「ふーん、それって例のフリー・プラネッツでの事?」 「いや、フリー・プラネッツは僕の国の名前。その皇帝は、えーっと、ローエングラム王朝を建てた、初代皇帝ラインハルト1世って言ってね」 ふとヤンは、こんな遠い異国の話なんて興味あるかな、と気になり3人に視線を戻す。 だが意外にも3人とも興味ありそうな視線を投げかけてくる。 なので、なるべくハルケギニアと共通する言葉を使って話を続けることにした。 ――帝国軍三長官を一身に集めた帝国軍最高司令官となり門閥貴族勢力を打倒。 帝国宰相を排除し、自らが帝国宰相を兼任。幼い皇帝の元で事実上の支配者となる。 門閥貴族の残党に幼帝を誘拐させ、同盟に亡命させる事で、戦端を開く口実とする。 ゴールデンバウム朝から皇帝位の禅譲を受ける。実態は簒奪であったが。 23歳にしてローエングラム王朝を建て、初代皇帝ラインハルト1世として即位する。 なお帝国宰相一族の女子供は辺境に流刑。10歳以上の男子は全て死刑―― ここまで話した所で、女性陣の反応は・・・ ルイズは、かなり嘘臭そうに顔をしかめていた。特に23歳の皇帝という辺りで。 キュルケは、素直に感心したような感じに見える。 タバサは、やっぱり無表情。でもちゃんと聞いているのだろう。 デルフリンガーは、さらにえげつねぇニーチャンだなぁ、と呆れた。 とりあえず最後まで聞いてもらえたので、ヤンは満足した。 「まぁそんなわけで、僕の国は最初から最後まで、その皇帝に負けっぱなしだったんだ」 最後まで聞いてもらえたのはいいけど情けない話だなぁ…と気が滅入りそうになる。 で、改めて女性達を見ると、ヤンの顔を真っ直ぐ見つめ、そして何かを納得したようにそろって頷いた。 何について全員頷いたのか、ヤンは聞く気にはなれなかった。 「へぇ~、凄い皇帝なのねぇ。ねぇねぇ!あなたのお国の話、もっと聞かせてくれないかしらぁ?」 そう言ってキュルケがヤンにずずずいと近寄り、胸をすり寄せる。 「いや、あの、僕はゲルマニアの話を・・・」 寄られるヤンはタジタジだ。自分の半分くらいの年齢の女性に戦略的撤退を余儀なくされてしまう――つまり、後ずさる。 ヤンを挟んで反対側にいたルイズがグイッとヤンを引っ張り寄せる。 「何してんのよあんたは!真面目にやんなさいよ!」 「あーら、いいじゃないのよぉ~。あたしの国ばっかりじゃなくてぇ、ヤンの国の事だって知りたいじゃないのぉ」 二人の若い女性に引っ張り合いをされるという、彼の人生で滅多に無かった体験。ヤンも大汗を流して困り果てる。その有様にデルフリンガーの笑い声が重なる。 タバサは講義が終了した物と判断し、鞄から本を取り出して読み始めた。 そんなこんなで、ルイズの部屋からは深夜まで黄色い声が響いていた。 夜も更けて、皆がアクビを出し始める。 「ふわぁ~。ありがとうございました、ミス・ツェルプストー」 「ああんもぉ~、いい加減キュルケって呼んでよねぇ~」 「呼ばせないわよ!さぁさぁ、もう帰りなさいよ!」 「はいはい、それじゃ、また明日ぁ~」 キュルケとタバサは自分の部屋に戻っていった。 「ふわぁ~…それじゃ、ルイズ。僕はトイレに行ってくるよ」 「…はふぅ…すぐ帰ってくるのよぉ」 ヤンは部屋を出て、寮塔からも出る。女子寮塔は女子だけなので、女子トイレしかない。 だから使用人用のトイレへと向かった。 「よぉ、見てたわよ」 トイレから帰る途中、ヤンは女性の声に呼び止められた。 寮塔の前に立っていたのはロングビル。 「おや、どうしたんだい、こんな夜更けに。新しい獲物の品定めかい?」 「よしとくれ。職業柄、夜型なのさ。だから軽く夜の散歩でもと思ってね。そしたら寮塔の窓にあんた達の姿が見えてねぇ」 そういってロングビルはヤンに歩み寄る。 「それにしても、意外だねぇ。あんた、あのアルジが嫌いだと思ってたよ」 「うん?何の事だい?」 とぼけたように肩をすくめるヤン。 だがロングビルは真面目な顔でヤンを見つめている。 しばし沈黙した後、ヤンは諦めたように息を吐き、月を見上げた。 「僕には息子がいたんだ。戦争孤児でね、ユリアンっていうんだ」 ロングビルは黙ったままヤンの話を聞く。 「あの子は国の政策で、僕の所に養子として来てくれてね。色々僕の面倒を見てくれたんだ…というか、僕の面倒を押しつけられたという感じだね」 「あんた、手間がかかりそうだもんねぇ」 「まぁね。無駄飯食いと呼ばれたのは伊達じゃないよ」 「いばッて言う事かい?」 クスクスと緑の髪を揺らして笑う。 ヤンも笑い出す。 「あの子は、政府に僕の所へ行けと命じられて、僕の息子という立場を押しつけられた。でも、あの子は文句を言うどころか、本当に僕の面倒をよく見てくれたよ。掃除も、洗濯も、食事に茶の入れ方まで、本当に完璧に家事をこなしてくれた。 それどころか、軍にまで入って、僕を必ず守ると言ってくれたんだ」 ロングビルは笑うのを止める。ヤンの瞳に寂寥が含まれているのが分かったから。 「で、自分を見てどうなんだろうって思ってね。 使い魔という立場を押しつけられた時、僕は即座にルイズの下を出て行こうとした。当然家事なんて出来やしない。ルイズを守ると言っても、彼女がこのハルケギニアの貴族制度の中で生きていくのを守るなんて、僕には難しいよ」 「…で、せめて、あの子に友達の一人でも…てか?」 「う、ん…まぁ、ね。我ながら、傲慢で身勝手な考えだと思うんだけど」 「あんたを奴隷にしようとした娘だよ?」 「でも僕は奴隷にならなかった。なら、その事は水に流していいんじゃないかな」 ヤンは恥ずかしげに頭をかく。 そして笑われるか、呆れられるかと思ってロングビルを見直した。 だが、彼女は微笑んでいた。 「あんた、本当に軍人らしくないねぇ」 感心したように、嬉しそうに言うロングビル。 「うん、自分でも向いてないと思う」 ヤンはロングビルの端正で知的な眼を見る。月明かりに照らされた緑の髪がキラキラと輝いている。 思わず赤面して、顔を下に向けて更に頭をかいてしまった。 そんなヤンの丸まった背を、ロングビルはバシッと叩いた。 「なーに縮こまってンだ!そんなんで、あの子を守れると思ってるのかい!?」 「ごふっ!い、いや。守るッて言われてもなぁ…僕はいつまでハルケギニアにいるかも分からない身だし」 「だったら!いる間はあの子を守ってやんなよ。どーせ迎えが来るかどうかさえ分からないんだろ?」 「うん、まぁ、そうだね」 「んじゃ、早くあの娘ンとこに帰りなよ。きっと寂しくて泣いてるぜ」 「それは無いと思うけど。それじゃ、おやすみ」 ヤンとロングビルは手を振ってそれぞれの寝床へ帰って行った。 二つの月は夜の闇の中でも学院を明るく照らし出している。 それは、何か聖なる場所のようにも見えた。 第七話 聖地 END 前ページ次ページゼロな提督
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (12)復讐の連鎖 (父さま…父さま………父さまっ!) 誰かが泣いている。 胸を締め付ける子供の泣き声が響く。 こんな真っ暗闇の中で、誰が泣いているんだろう。 力になってあげたい、そう思ったタバサは泣き声の主を探してみることにした。 闇のほかにも何も無い、空虚な世界。 こんな場所で泣いているなんて、あまりにも可哀想と思ったからだ。 小さな声を標にして近づいていく。 幸い、すぐに声の主の元にたどり着くことが出来た。 そこには床に倒れた人が一人と、それに縋りついてなく少女の姿。 顔は―――闇に隠れて見えない。 (父さまっ……ひっく、ひっく…父さま…) こちらに気付かぬまま泣き続ける小さな女の子、タバサはそのそばに近寄ると、そっと背中を抱いてあげた。 「悲しいの…?」 (うん…父さまが…死んじゃった…どうして、どうしてっ) 「…そんなに、泣かないで」 タバサは精一杯の言葉を尽くして、少女を慰めようとする。 けれど、その口から出てくるのはたどたどしい言葉ばかり。 母を襲った悲劇の日から、シャルロットは感情と言葉を捨ててタバサとなった。 誰にも頼れぬ孤独の中で、己の心を凍てつかせてタバサとなった。 そんなタバサの口からでは、思ったような慰めの言葉をかけてやることもできない。 だから、ほんの少しだけ、あの頃の自分に戻ることにした。 「私も、一緒に泣いてあげるから、そうして一杯泣いたら、その後は、元気に笑って」 (うっ…えっぐ……ひっく…) しゃくりあげながら、女の子が振り向いてタバサを見た。 そうして顔を向けた少女は、なんと五年前のタバサ自身であった。 (一緒に泣いてくれる…?父さまの為に泣いてくれるの…?) 「え…ええ」 何ということだろうか、過去の自分に現在の自分が哀れみをかけるなどとは。 (嘘つきっ!!) 突然に浴びせられる少女の罵声。 唐突な思いもよらぬ言葉に目を瞑るタバサ。 再び目を開いた時、そこにいたのはシャルロットではなく、別の少女であった。 (人殺しっ!人形娘!あんたには人の心が無いんでしょう!?だからこんなことが出来るんだわっ!) そう彼女を糾弾したのは自分と同じ青い髪をした娘、イザベラ。 そして、いつの間にか横たわる人影は、ガリア国王ジョゼフへと変わっていた。 イザベラ、父を謀殺し母を狂わせた仇敵ジョゼフの娘。そして、自分のたった一人の従姉妹。 「私は………殺して、無い…」 (見殺しにしたのが殺したのと、どう違うのよっ!) 「―――」 (あんたは自分の復讐を果たしたのよっ! どう!気分は爽快かしらっ!満足?ねぇこれで満足なの!?さぞや満足でしょうね! あんたにとっては憎い憎い仇だものね、私の父上は!) タバサの心のいたるところに振り下ろされる、刃物のような言葉の数々。 続いて黙って聞くことしか出来ないタバサに、悪鬼の如き形相のイザベラが、獣のような敏捷性を発揮して飛び掛った。 そうして馬乗りになったイザベラは、タバサの白くほっそりとした首に手を回す。 (あんたが復讐したのなら、私にもそうする権利があるっ!あんたがそうしたように、あんたを殺して復讐を果たす権利があるっ! 「自分の復讐は綺麗な復讐、私のする復讐は汚い復讐」だなんて思っては無いでしょうねっ! あんたも父上と同じ、所詮は人でなしよっ!) タバサの口がパクパクと開く、それは空気を求めるようでも、何かを伝えようとするようでもあった。 (命乞いっ!?許すわけが無いでしょうっ!私の父上を殺したあなたなんかを!) 窒息しかけるタバサ、けれどその口は懸命に何かを伝えようとしていた。 (死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死んでしまえっ!) 霧散していく意識の中、必死に手を伸ばす。 タバサはただ一言を伝えたかっただけなのだ。 「ごめんなさい」と。 「――――――ッッ!!」 タバサが勢い良くベットから上半身を起こした。 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ―――!」 浅い呼吸を細かく何度も繰り返す、酸素を求めて何度も何度も。 首には、今も生々しくイザベラに締められた手の感触が残っている。 いかに聡明なタバサといえども、動転した頭では、先ほどまでの光景が夢であったことを理解するのに時間を要した。 「タバサッ!ねえタバサッ!大丈夫!?」 だから、自分が寝かされていたのがトリステイン魔法学院の寮の自室で、心配そうに自分を覗き込んでいる少女がいることに気付くのにも時間がかかった。 「突然うなされたから心配だったけど、起こそうとしたら自分から飛び起きるんだもの。逆にこっちが驚かされたわ」 「………ここは?」 「ここ、って……魔法学院よ?もしかして倒れる前のこと覚えてないの?…それとも寝ぼけてる?」 混乱した頭が徐々に普段の冷静さを取り戻し、思考の欠片を繋ぎ始める。 ジョゼフの死、イザベラ、囚われた牢獄、脱出、飛翔。 そうしてタバサは、トリステインにつくまでの経緯を思い出し、ようやく自分が無事にガリアを脱出して目的地にたどり着くことができたという事実を理解して安堵した。 「大丈夫…思い出した」 「そう……それなら良かったわ。ちょっと待っててね、今水を持ってくるわ」 そう言って立ち上がろうとしたルイズの裾がタバサに掴まれていた。 「……母さまは?」 「お母様?あのご婦人なら、今はキュルケの部屋で休んでもらっているわ。執事のペルスランさんと、あの変なフードも一緒よ」 それを聞いて胸を撫で下ろすタバサ、その仕草を見て、ルイズはタバサがいかに母のことを想っているかが分かった。 部屋の入り口横、そこに据えられた机に置かれていた水差しを持って、ルイズが戻ってくる。 タバサの部屋には、基本的にものというものが少ない。 ベットにクローゼット、あとは小さなテーブルがあるくらい。 「それにしても、あなたの部屋って初めて入ったけど。随分と殺風景ね。机に花でも置いたらどう?」 渡されたカップに口をつけながら、タバサはルイズを横になったまま見上げる。 「………考えておく」 水を飲み、落ち着きを取り戻したタバサ、その額に浮いていた汗をルイズがそばにあった手ぬぐいで拭った。 「………看病」 「え?」 「看病、してくれたの?」 真正面から見つめ、尋ねるタバサ。 静謐な色をたたえる美しい瞳で問われたルイズは、自分の頬が紅潮していることを自覚しながら明後日の方向を見て答えた。 「別に、こんなことくらい当然でしょ。アルビオンから帰ってきた後は世話になったんだし。…それに私たち、友達、だし…」 言いながらやはり最後をごにょごにょと濁すルイズ。 そんな素直になれない同級生を見ていたタバサは、唐突に彼女に伝えなければならない用件があることを思い出した。 「ワルドが、生きてる」 「…え?」 唐突に何を言うんだろうか、この娘は。 そう思いながらタバサに向き直ったルイズ。 その目に飛び込んできたのは、一片の冗談も無く真剣を形にしたような表情。 これを見ては、流石のルイズも軽口を叩ける雰囲気ではないことを悟った。 「…幽霊、じゃ無いわよね?」 こくりと頷く寡黙な少女。 ニューカッスルの城、自分の放った暴走した虚無に巻き込まれて、跡形も無く消滅したと思い込んでいたワルドが生きている。 にわかには信じがたい話であったが、タバサが嘘をついているとも思えない。 確かに、同じように巻き込まれたはずのウルザが生きていたのだから、ワルドが生きていたという道理が通らない訳ではない。 しかし、彼が生き残ったのは異世界のメイジという彼の背景があってのことと、納得している。 その彼がワルドの死についてははっきりと明言していた。 何の背景も持たないワルドが、あの場を生き延びたということに、ルイズは引っ掛かりを覚えた。 「………ミスタ・ウルザにも伝えるべきね」 ルイズがそう呟いたのと、静まり返っていた階下が騒がしくなったのはほぼ同時であった。 誰かが大声で何かを喚いているような―――女性の金切り声。 「………何の騒ぎかしら?今の学院に人なんて…」 「……っ!母さま!」 言いかけたルイズを遮るようにして、タバサが寝ていたベットから飛び降りた。 タバサの格好は学院に到着した時のボロボロの肌着ではない、ルイズとモンモランシーの努力によって真新しいシャツが着せられている。 しかし、身に纏っているのはそれ一枚。 そんな格好で飛び出したタバサに対してルイズが慌てたのは仕方が無いことであろう。 「ちょっとタバサ!服!服っ!」 小さな体躯には似合わぬ勢いで飛び出していくタバサに遅れること一呼吸、ルイズも廊下へと飛び出した。 タバサを追いかけたルイズがたどり着いたのは、自分の部屋の隣、つまりキュルケの部屋であった。 そこには今、タバサの母親、それに執事のペルスラン、フードの女、それに今入っていったばかりのタバサがいるはずである。 開け放たれたままのドアから立ち入ったルイズは、先ほどから絶え間なく響く声の正体を知った。 キュルケのベット、そこには意識を取り戻したタバサの母の姿があった。 だが、その姿はどう見ても尋常であるとは思えなかった。 ぎょろりと開かれた瞳は光を失い、何も映してはいない。 タバサと同じ青い髪は伸び放題に伸ばされ、長いこと手入れをされていないのが分かる。 かつては美しかったであろう体は痩せこけ、死人を連想させるような病的な白さを、キュルケの部屋が際立たせていた。 「下がりなさい!無礼者!」 そう叫んだタバサの母は、ベットにあった枕を娘の頭に投げつけた。 「………」 それをぶつけられても、微動だにしないタバサ。 キュルケの部屋の中にはベットに横たわるタバサの母、それから入り口近くでおろおろと立ち尽くすペルスラン、最後にベットの前で俯くタバサ、その三人がいた。 「恐ろしや、この子がいずれ王家を狙うなどと…、わたくし達は静かに暮らしたいだけなのです…」 タバサの母は誰にとも無く呟きながら、手に持った綿のはみ出した古い人形に頬ずりした。 「母さま…」 「おいたわしや、シャルロット様…」 異常な光景に飲まれたルイズが、横に立つペルスランの言葉で我に帰る。 「…何よこれ…、どういうことよ、あの人はあの子のお母様なんでしょう!?どうしてそれが、タバサにあんなことをするのよ!? それに、シャルロットってどういうことなの?何がなんだか分からないわ!」 「………わたくしはオルレアン家の執事を務めておりますペルスランと申します。 失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 私は…私はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。タバサの、友人よ」 ルイズは執事ペルスランに促されて、キュルケの部屋から廊下へと出た。 そして、ペルスランは廊下に誰もいないことを確認してから語り始めた。 「先ほど、ヴァリエールさまは『タバサ』、と仰いましたね」 「ええ、でもシャルロットがあの子の本当の名前なんでしょう?何であの子はタバサなんて名乗っているの?」 「お嬢様は、タバサと名乗っておいでなのですか…」 「私も偽名っぽいとは想ってたけど…、どうして偽名を使って留学してきたの?」 「留学は、お嬢様の叔父である国王の仰せです」 「叔父、ってことは、あの子はガリアの王族ってこと?」 ルイズの言葉に、ペルスランは一度切って、一息おいてから答えた。 「シャルロットさまのお父上、今は亡きオルレアン公は現国王…いえ、もう前国王でしたか。ともかく、その弟君でございました」 「今は亡きってことは、タバサのお父様は…」 「殺されたのです」 はっとしたルイズがペルスランを見上げる、そこには長い時間を苦悩と共に過ごした老人の顔があった。 「お嬢様が心許す方なら構いますまい。ヴァリエール様を信用してお話しましょう。 オルレアン公は王家の次男でありながら長男のジョゼフ様より魔法の才に秀で、何より人望と才能に溢れておいででした。 五年前、王が崩御された時、どちらが王の座に相応しいかということで、宮廷が真っ二つに分かれてしまったのです」 「継承問題ね…」 「左様。そんな醜い争いの中…オルレアン公は謀殺されました。そして、ジョゼフ様を王位につけた連中は将来の禍根を絶とうと、次にお嬢様を狙いました」 「五年前って、それじゃその頃タバサは…」 「はい、まだ十になったばかりの頃です。 ある晩のこと、奥様とお嬢様は晩餐会に招かれました。しかし、その最中、とある貴族からお嬢様へと渡された杯には、毒が盛られておりました。奥様はそれを知り、お嬢様を庇って自ら毒杯を呷られたのです。 それはお心を狂わせる水魔法の毒が仕込まれておりました。ことは公となり、その貴族は断罪されました。ですが…それ以来、奥様は心を病まれたままなのでございます」 ルイズは黙って老人の告白を聞き続ける。 「タバサというのは、奥様がお嬢様にプレゼントされた人形の名前なのです。 そして今現在、奥様の腕の中にある人形、奥様が自分の娘だと思い込んでいるあの人形こそがタバサなのであります。 あの日から、快活で明るかったシャルロットさまは別人のようにおなりになりました。まるで、言葉と表情を自ら封印されてしまったように。 …わたくしは、そんなシャルロットさまに何もして差し上げることが出来ないのです。この身の不甲斐なさ、この悔しさ…筆舌に耐えがたく、わたくしは我が身を呪うような日々を送ってまいりました。けれど、お嬢様はそれ以上の苦しみを味わっておいでなのです」 言いながら涙を流すペルスラン。 聞かされたルイズは………怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。 「それじゃあ、あの子はずっと、五年間もそんなものを背負ってきたって言うの!?」 想像してみる、自分の父が殺され、母が狂ってしまった光景を。 思いつきもしない。 自分には父がいて、母がいて、厳しいけれど想ってくれている上の姉、優しくて甘えさせてくれる下の姉がいた。 自分が十歳だった時、とても幸せだった。少しばかり寂しい思いをしたのは否定しない、しかしそれがなんだというのだろう。 十歳のタバサの気持ちを想像することもできない。 ルイズは怒っていた、恵まれた自分に、そして何も言わないタバサに。 あの子はきっと一番の親友であるキュルケにもこのことを話していないに違いない。 全部、全てを一人で背負い込む気であろう、そんな彼女に猛烈に腹を立てた。 ルイズは確かに何も知らなかった、けれど「助けて」と、そう言葉にしなければ、人には伝わらないものなのだ。 「これはなんの騒ぎかね、ミス・ルイズ」 走り出そうとしたルイズにかけられる言葉。 ああ―――本当にこの使い魔はいつもなんて良いタイミングで出てくるのだろうか。 ルイズはそう思い声の主に振り返った。 罪を贖うことは出来ない ―――コルベール 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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元スレURL 海未「すみません、遅れました」ストン ブゥー 概要 関連作 タグ ^高坂穂乃果 ^園田海未 ^南ことり ^西木野真姫 ^星空凛 ^小泉花陽 ^矢澤にこ ^東條希 ^絢瀬絵里 名前 コメント
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そらそうよ(第一九十二代目) http //hato.2ch.net/test/read.cgi/base/1304001273/ 940 名前:代打名無し@実況は野球ch板で[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 23 53 44.67 ID dTTXg3pg0 ニッカンの写真はえぐいよ 941 名前:代打名無し@実況は野球ch板で[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 23 55 48.09 ID K7OBSWhv0 [8/8] 940 http //www.nikkansports.com/baseball/news/photonews_nsInc_f-bb-tp0-20110511-774362.html おお、もう・・・ ※注 【オリックス】岡田監督「ズルズルか…」 http //www.nikkansports.com/ajaxlib/root/baseball/news/f-bb-tp0-20110511-774362.html <ソフトバンク5-3オリックス>◇11日◇福岡ヤフードーム オリックスが連敗で今季最多借金8となった。6回表に逆転しながら、3-1で迎えた6回裏に、朴賛浩投手(37)が2ランなどで3失点。リードできたのは、ほんの5分ほどだった。試合後に緊急ミーティングを開いた岡田彰布監督(53)は「ズルズルいくのか、いかんのか。そういう問題や。打てませんでした、打たれましたで終わるのか」とナインに奮起を求めた。 [2011年5月11日23時2分] ★ズルズルいくのか、いかんのか。 ★打てませんでした、打たれましたで終わるのか
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第18話 遠い星から来たお父さん 前編 エフェクト宇宙人ミラクル星人 緑色宇宙人テロリスト星人 登場! トリステイン王国の首都、トリスタニア 今日も、トリスタニア一の大通り、ブルドンネ街は人々でごったがえしていた。 あのツルク星人と銃士隊との戦いからも、すでに5日が過ぎ、人々はたくましい生命力と商魂を発揮して、 あちこちの店から威勢のいい声が飛んで、騒々しいが平和な賑わいを見せていた。 そして、そんななかを歩くひときわ目立つ6人組の一団があった。 端的にいえば、桃色と青色と赤色の髪をした少女が3人と、緑色の髪の眼鏡をかけた妙齢の女性が ひとりに、黒髪のメイドがひとり、あとたくさんの荷物を抱えてひいこら言っている黒髪の少年がひとりだった。 「こらサイト、早く来なさい。いつまで待たせるのよ」 「こ、この……こんな量、ひとりでどうにかできるわけないだろう。もう20キロは軽くあるぞ……もうだめだ」 両手いっぱいに野菜やらワインやらを持たされていた才人は、とうとう根を上げて地面にへたり込んでしまった。 それを見たルイズは不機嫌そうなまなざしを彼に向けたが、かばうようにその半分くらいの荷物を持っていた メイド、シエスタがこぼれ落ちた才人の荷物を拾い上げながら言った。 「まあまあ、いきなり不慣れな仕事をさせられてもうまくいくはずありませんって。本来わたしの仕事ですから サイトさんは楽にしてください」 シエスタはそのまま才人の持っていた荷物の半分を取り上げると、自分の荷物に加えて、あっという間に ふたりの荷物の量が逆転した。そしてそれをよいしょっととさほど問題なく持ち上げる。彼女の華奢な 体つきからは信じがたいが、この世界は地球と違って電化製品など無く、家事仕事はすべて手作業でこなさざるを 得ないために、メイドなんて仕事をしていれば、自然体力も現代の高校生の平均など軽く突破する。 才人のほうもハルケギニアに来て以来、いろいろと鍛えてはいるがまだ1ヶ月とちょっと、筋肉がつくには まだまだ早い。目の前で、今まで自分が必死になって運んでいた荷物を軽々持つ女の子に、情けなさを 感じるものの、やせ我慢にも限度がある。 「サ、サンキュー、助かったよシエスタ」 「いえいえ、どういたしまして」 本来ならこの反対であるべきだが、現実はいかんともしがたい。 それを見ていたルイズは当然呆れた顔をした。 「まったく、荷物運びもろくにできないなんて、ほんとどうしようもない駄目犬ね」 「この、人の苦労も知らないで……だいたい必要の無いお前の荷物が5つもあるじゃねえか」 才人の反論に、ルイズは「知るか!」というふうにそっぽを向いた。 と、そんなふたりが愉快に見えたのか、キュルケが笑いながら話しかけてきた。 「こーらルイズ、そんなこと殿方に言ったら嫌われる一方よ。かわいそうなダーリン、ねえこんな薄情な子 置いておいて、あたしともっと楽しいところ行かない?」 「ツ、ツェルプストー!! あんたまた勝手に人の使い魔に何言ってくれてるのよ!!」 ルイズはむきになって怒鳴るが、当然それはキュルケの予想のうち。 「あーら、使い魔と馬車馬の区別もつかない誰かさんとは違って、わたしは正当な評価と待遇を与えて あげようとしてるだけよ。さっ、重いでしょ、わたしが手伝ってあげるわ」 キュルケが杖を振って『レビテーション』を使うと、才人の荷物のいくつかが宙に浮き上がった。 ルイズは、それで才人がキュルケに「ありがとう」と笑顔を向けるものだからさらに気に喰わない。歯噛み しながら才人に持たせていた荷物をひとつふんだくるように取り上げた。 「か、かんちがいするんじゃないわよ。使い魔の面倒を見るのが主人の当然の務めなんだから、別に 当たり前のことしてるだけなんだからね!」 「それ、元々お前が衝動買いしたアクセサリーだろ、しかも一番軽いやつ」 ルイズの右上段回し蹴りが才人のこめかみにクリーンヒットした。才人は荷物を放り出して悶絶したが、 数秒後には荷物を拾って起き上がってきたからさすがである。 そんな様子を、タバサが後ろからいつものようにじーっと眺めていた。 とはいえ、それでも荷物の量は最初の1/3程に減って、だいぶ軽くなっていた。 「ふう、とりあえず助かった。死ぬかと思った」 やっと一息つけて、才人はうきうきしながら立ち上がった。 が、喜んだのもつかの間、やっと減った荷物の上に、またどかどかと新しい荷物が積まれていった。 「げ!? ロ、ロングビルさん?」 見ると、ロングビルが眼鏡の下から涼しい瞳でこちらを見ていた。 「またまだですよサイトくん。年に一度のフリッグの舞踏会、必要な物はまだたくさんあるんですからね」 「ひえーっ!」 思わず泣きそうな声を才人はあげた。 彼らは今、翌日に迫った魔法学院の年一度のイベントである『フリッグの舞踏会』のための食料品や 飾りつけのための品をいろいろと買い込むために、このブルドンネ街までやってきていた。 ただ本来なら、学院お抱えの商人が必要な物資を学院まで運んできてくれるのだが、今年は3度にわたった 怪獣災害のせいで、直前になってキャンセルになり、秘書に復帰したロングビルが直接買出しに来たというわけだ。 が、なぜシエスタはともかく才人以下の顔ぶれがいるかというと。まずロングビルがたまたま空いていた シエスタに買出しの同行を頼み、シエスタがそれをまた、たまたま食堂に来ていた才人に。 「ちょっとした買出しなんですが、よろしければ、いっしょに来てくれれば、うれしいな、なんて……」 それで1も2もなく承諾した才人だったが、それをルイズにかぎつけられて。 「あんた、またあのメイドとふたりでどこ行くつもりよ!?」 それでルイズも無理矢理同行することになり。 学院を出発したと思ったら、これまたたまたまキュルケに見つかって。 「タバサ、ルイズが街に出かけたの。あなたの使い魔じゃないと追いつけないから、またお願いするわ」 と、キュルケがタバサを巻き込んでシルフィードで追っかけてきて、最終的にこうなったという三段コンボであった。 だが、いざ来てみれば、とても1人や2人では運びきれない量になったから、結果的に人手が増えたことは 幸いであった。 やがて昼も過ぎ、才人が死にそうになり、ルイズとキュルケの手もいっぱいになり、タバサまで買い物袋を 持たされたところでやっと買い物は終わり、駅に停めてあった馬車に荷物を運び込んだところでようやく皆は 一息をついた。 「はーあ、疲れた。まさか舞踏会ひとつにここまで物がいるとは思わなかった」 「はい、わたしもここまでとは思いませんでした。でも、わたしだけじゃ3、4往復はすることになったでしょうから、 助かりました。皆さんありがとうございます」 馬車のふちに腰掛けながらシエスタが皆にお礼を言うと、才人は照れくさそうに、ルイズたちはなんでもなさそうに 「どういたしまして」 と、答えた。 「じゃあ、ロングビルさんが戻ってきたら出発だな……お、うわさをすれば」 見ると、駅の係員に料金を払いに行ったロングビルが戻ってくるところだった。 だが、うかない顔で戻ってきたロングビルの口から出たのは予想しない言葉だった。 「え、出発できない?」 「ええ、どうもこの先の街道で事故が起きたらしくて、しかもどうやら王立魔法アカデミーの馬車だったらしくて、 当分のあいだ通行止めですって」 それを聞いたタバサ以外の全員の顔が「ええーっ!」というようなものになった。 「それで、通れるのはいつごろになるんですか?」 「早くて日暮れ、遅くて明日の朝ですって、悪くしたら今夜はここに一泊することになるかもね」 やれやれと、ロングビルは肩を落とした。 だが、合法的に外泊できるとわかったキュルケやルイズは頭の切り替えが早かった。 「早くて日暮れなら、こんなところにいる理由はないわね。ダーリン、あたしといっしょに遊びにいきましょう。 すっごく楽しい大人の遊び場に招待してあげるわ」 「キュルケ!! 勝手に手を出すなって何度言えばわかるのよ! 来なさいサイト、舞踏会用のドレスを買いに行くわ!」 「ぷ、お子様用のドレスなら、あたしのお下がりをあげましょうか?」 「き、きーっ!! この成長過剰色ボケ女ぁ!!」 というふうに、アボラスとバニラさながらのバトルに突入してしまった。 才人としてはバニラに原子弾を撃ち込む気にはなれなかったから、経過を見守っていたが、漁夫の利を 狙うようにシエスタが才人の手をとってきた。 「いまのうちいまのうち……サイトさん、わたしといっしょに来ませんか? こないだ来た時にすっごくおいしい ブルーベリーパイのあるお店見つけたんです」 「え……でも」 「いいですから、早く!」 そう言って強引に連れて行こうとしたが、才人がしぶったために結局はふたりに見つかり、誰についていっても ほかの恨みを買うことになるため、仕方なくタバサとロングビルも連れて食べ歩きに行くことに落ち着いた。 そうなるとさすが女性5人のパワーはすごいもので、あっちの店からこっちの店へと、たったひとりの男性である 才人はただただ連れまわされることになった。 「ほらサイトさん、あっちがさっきわたしが言ってたお店です。ささ、早く早く」 「ちょ、シエスタ、そんなに引っ張るなよ。ルイズ、お前も杖を取り出すな!」 「なに言ってるの? 使い魔が不埒なことをしないように見張るのは主人のつとめじゃない。さあ、こっちよ、 ブルーベリーパイなんかよりクックベリーパイのほうがおいしいんだから」 こういうふうにふたりが才人を取り合えば、キュルケが余裕の態度で笑って見て。 「まったく、そんな子供っぽいのばかり食べてるから胸が成長しないのよ。あら、タバサあなた何食べてるの? ちょっと味見させて……苦っ!?」 「はしばみ草のパイ……」 「あ、請求は王立魔法学院のオスマン学院長宛にお願いします。はい、はい、全部です。ふっふっふ、 待ってなさいよあのセクハラジジイ」 それで、最後にロングビルが領収書を取りながらついていくといったところである。 だがやがて、長い夏の日差しもしだいに赤くなり、薄暗い空にうっすらとふたつの月が見え始めた。 「そろそろ日が落ちるな。そろそろ帰らないか?」 いいかげん何かを食べさせられるのにもくたびれた才人は、疲れた声でそう言った。 「む、そうね。そろそろ店も閉まってくるころだし、街で聞いた話じゃ街道の事故はまだしばらくかかるって いうし、宿をとりましょうか?」 シエスタと才人の腕の取り合いを続けていたルイズも、ようやく力を抜いてくれた。 ただ、宿、といっても半分が貴族のこの面子を泊められるだけのレベルのホテルとなると、今彼女達の いるほうと反対側にしかなく、それなりに歩く必要があった。だがそこでシエスタが大きく手を上げて言った。 「じゃあわたしに任せてください。以前来たときに近道を見つけたんです。ショートカットです」 そう宣言すると、さっさと才人の手を引いて裏道に入っていく。もちろん慌ててルイズ達も後を追う。 だが、裏道をいくらか進んだところで、道はとぎれて、目の前に瓦礫と、焼け焦げて荒れた家々が 立ち並ぶだけの廃墟に行き当たってしまった。 「あ、あら? おかしいですね……以前来たときには、ここを道が続いていたのに」 あてが外れて呆然とするシエスタの背中に、ルイズの冷たい視線が突き刺さる。だが、後から来た ロングビルがこの廃墟を見て言った。 「このあたり一帯は1ヶ月前のベロクロンの襲撃で燃え落ちたところですね。けれど、再建には表からやって いくものだから、裏通りのこのへんにまでは、まだ再建の手が及んでないんでしょうね」 「ど、どうもすいません。わたしが差し出がましいことをしたばっかりに」 シエスタは何度もぺこぺこと頭を下げて平謝りしたが、今更引き返したところで、本道へ出て宿まで 行くのは時間がかかりすぎる。そして、キュルケやルイズは元々気の長いほうではない。 「いいわ、ここを突っ切っちゃいましょう」 キュルケがかけらも迷わずに言った。 「えっ!? そんな、危ないですよ」 その言葉にシエスタは驚いて止めようとした。こういう廃墟には、喰いっぱぐれたごろつきやチンピラの 溜まり場になっていることがよくある。女子供ばかりの一団など、いいカモと思うに違いなかったが、 才人の背中にかけられていたデルフリンガーがカタカタ笑いながら言った。 「心配ねーよ、メイドの娘っ子。お前さんが盗賊の立場になって考えてみろ、この面子にそこらのチンピラが敵うと思うか?」 「あ」 言われてみればそのとおり、キュルケとタバサは学院で1、2を争うトライアングルクラスの使い手、 ルイズの爆発の威力は学院の者なら知らぬ者はなく、ロングビルも学院長の秘書を任されるほどの 使い手と聞く。実はこのときまだロングビルは魔法を使えないままだったが、盗賊フーケとして裏の世界で 長年生きてきたキャリアは伊達ではない。そして最後に才人はメイジに勝つほどの剣の使い手、 このなかで非戦闘員なのはシエスタ本人くらいだ。 「じゃあさっさと行きましょう。こんな廃墟で日が暮れたら面倒だわ」 そういうわけで、一行は廃墟のなかを歩き始めた。町並みが崩壊しているとはいえ、通り道としては 使われているらしく、人が通れるように道は整理されていた。 そのなかを、一行は才人を先頭に、周りに注意しながら進んだ。 「誰もいないようだな……」 幸いにも、懸念していた盗賊の襲撃などはなかった。もしかしたら、先日のツルク星人の一件で、 ここに居た人々は逃げ出したのかもしれない。 だが、ある廃屋の角を曲がったとき、急に廃墟の先が開けて、半径70メイルくらいの、学校の運動場くらいの広場に出た。 「ここは……?」 一行は、歩を止めてその広場を見渡した。さっきまでの狭苦しい雰囲気とは裏腹に、夕日が広場全体を 紅く染めて、一種の美しさすら感じる。 「ここは、この地区の集会場かなにかだったのかしら?」 キュルケがぽつりとつぶやいた。 広場は、土がほどよく踏み固められていて、かつては多くの人がここを歩いたのだということがわかる。 周囲が廃墟でなければ、子供の遊び場としてちょうどいいだろう。 しばらく彼女達は、ぼんやりとその光景を見回していたが、才人の視界に、なにか光るものが入ってきたかと 思った瞬間、彼の頭にこつんと小石のようなものが当たったような痛みが走った。 「いてっ!」 思わず頭を押さえたが、たいしたものではなく、すぐに痛みは治まってこぶもできていないようだった。 「なんだ?」 身をかがめて才人は自分に当たった何かを探した。すると、彼のすぐ足元に小さく透明なものが 転がっているのをが見つけた。 「ビー玉?」 それは、彼の言ったとおり、地球ではラムネのビンに普通についてくるようなありふれた形と色のビー玉だった。 なんでこんなものがと、才人は不思議にそのビー玉を見つめていたが、そのとき彼の右手の廃墟から 唐突に声がした。 「返して!」 「!?」 とっさに彼らはそれぞれの武器をとって身構えた。才人がデルフリンガーを握って前に立ち、両脇に ルイズ達が立って、背後にシエスタをかばう体勢だ。 だが、廃墟の影から出てきたのは、盗賊などとは似ても似つかない、才人の腰くらいの背丈しかない、 年のころ7、8才くらいの茶色い髪の毛をした小さな女の子だった。 「アイのビー玉、返して!」 その子は、才人のそばまで駆け寄ると、恐れる様子もなく才人に手のひらを差し出して要求してきた。 才人は一瞬驚いたが、返さない理由など何も無い。にっこりと笑うと、その子の手のひらの上にビー玉 を乗せてやった。 「これはきみのだったのか、ごめんね」 ビー玉を受け取ると、そのアイという子は宝物を取り返したように、満面の笑みを浮かべた。 「ありがとうお兄ちゃん」 「君の宝物かい、まるで魔法がかかってるみたいにきれいなビー玉だね」 「そうよ、おじさんからもらった、アイの宝物なの」 アイは、うれしそうにそのビー玉を才人達の前にかざした。才人やシエスタにとっては、夕日を浴びて 輝くビー玉は大変きれいに見えたが、宝石を見慣れたルイズやキュルケにはただのガラス玉でしか ないようだった。 「ふーん。でも、特に魔法がかかってるようには見えないわね。たんなるガラス玉みたい」 「そんなことないの! これはおじさんが、いつでもお父さんとお母さんに会えるようにってくれた、 魔法のビー玉なの!」 それを聞いて、彼女達はすでにアイの両親がもう二度と彼女と会えないところに行ってしまったんだ ということを悟った。 「ご、ごめんね。けど、お姉ちゃん達も魔法使いなんだけど、魔法がかかってるようには見えなかったから」 「じゃあ見せてあげる! これをかざして見ると、見たいものがなんでも見れるんだから!」 そう言うとアイはビー玉をキュルケに差し出した。 「うーん……やっぱり、なにも見えないわ」 キュルケは、それをかざして見てみたが、やはり何も見えなかった。順に、タバサ、ロングビル、シエスタにも 回して見てもらったが、やはり何も見えなかった。 「……」 「……悪いけど、マジックアイテムの類じゃないわね」 「そんなこと言っちゃかわいそうですよ。皆さんだって、小さいころに自分だけの宝物とか大切にしたことあるでしょう」 アイは、すっかり泣きそうな顔になっている。 そして最後にルイズと才人の番になった。どちらが先に見るかは少しもめたが、才人が持ってふたりで 同時に覗き込むということで落ち着き、いざ、とばかりにふたりは夕日にかざしたビー玉の中を覗き込んだ。 すると。 (わっ、なんだこりゃ!?) ビー玉の中が一瞬泡だったかのように見えた後、ビー玉の中に映像が映った。いや、直接ふたりの 頭の中に映像が投影されたといったほうがいいだろう。その風景にふたりは見覚えがあった。 炎に包まれたトリスタニアの街、その街並みを踏み潰しながら暴れまわる一匹の超獣。 (ベロクロン……) それは、1月前に初めてベロクロンがトリスタニアに現れたときの映像であった。 やがて空からグリフォンや飛竜の軍団が立ち向かっていったが、ミサイル攻撃によって、あっというまに 全滅していった。 勝ち誇るベロクロン、足元には逃げ遅れた人々が炎にまかれながら必死に逃れようとしている。 そんな中に、ふたりは手を取り合って走るふたつの人影を見つけた。 「アイ、頑張って走るのよ!」 「お母さん、こわいよお」 ひとつはアイ、もうひとつは彼女の母親であった。 親子は、暴れまわるベロクロンと、街を覆う炎から必死に逃げ延びようとしていた。だが、ふたりの すぐ隣の石造りの建物に、流れ弾のミサイルが当たり、ふたりの頭上に大量の岩が降り注いできた。 「アイ! 危ない!!」 「あっ! お母さん? お母さーん!!」 背中を突き飛ばされて、前の地面に転がり込んだアイが振り返って見えたものは、目の前を埋め尽くす 瓦礫の山だけだった。 「お母さん? ……わあぁぁっ!!」 たかが8才程度の子供に、その光景を受け入れるのはあまりにもきつすぎた。 街を覆う炎はさらに勢いを増して、泣き叫ぶアイの周りを包んでいく。だがそのとき、路地からひとりの 男性が飛び出してきた。 「きみ、はやく逃げるんだ!」 「でもお母さんが、お母さーん!」 男はアイを抱きかかえると、すぐさま安全なほうへ駆け出した。 映像は、ふたりが炎から逃げ切ったところで再び泡に包まれて終わった。 「そうか……最初のベロクロンの襲撃のときに」 ビー玉を下ろし、悲しそうに才人は言った。 「お兄ちゃんにも見えたのね!?」 「うん、それでそのとき助けられたおじさんから、このビー玉をもらったんだね」 アイにビー玉を返して、才人はそう聞いた。 「そうよ、アイ、ひとりぼっちになっちゃったんだけど、おじさんがずっと守ってくれたの」 誇らしそうに言うアイに、ルイズも優しくたずねた。 「いい人ね。こんな時勢じゃ、子供を狙う人攫いもあとを絶たないってのに。でも、こんなすごいアイテムを 持ってるってことは、高名なメイジなのかしら?」 「わかんない、おじさんはおねえちゃんたちみたいに杖を持ってないし、でも、いろんなところを旅してきた から、すごく物知りなのよ」 どうやらアイには難しい質問だったらしい、ルイズが苦笑すると、後ろにいたキュルケ達が驚いたように言った。 「ルイズ、あんたたち、そのビー玉に、その子の言うものが見えたの?」 ルイズと才人がうなづくと、キュルケは今度こそ本気で驚いた。 「ええっ!? なんでわたし達に見えないのに、ゼロのあなたと平民のダーリンが!? どんなマジックアイテムよ、それ」 「平民はシエスタもでしょ。ゼロは関係ないわよ、マジックアイテムにもいろいろあるってことでしょ、知らないわよ」 突っ返すように答えたが、ルイズには自分と才人にだけ見えた理由に心当たりというより確信があった。 ふたりに共通することは、ウルトラマンAと同化しているという一点しかない。もちろんそれを口に出すことはしないが。 と、そのときアイの出てきた廃屋から、ひとりの男性が現れた。 「アイちゃん」 それは、たった今アイのビー玉で、ルイズと才人が見たあの人だった。 年齢は見たところ40前後、やや丸顔で、年相応に薄くなり始めた頭頂部と、短く伸びたひげ、服装は ハルケギニアで標準的な平民のもので、特徴らしい特徴のない、普通の男性に見えた。 「あっ、おじさん」 アイは、彼の姿を見つけるとうれしそうに駆け寄っていった。 「あまりひとりで遠くに行ってはいけないよ。危ないからね」 「うん、アイね。このおねえちゃんたちとね!」 まだ会ったばかりだというのに、アイは彼にルイズたちのことを紹介していった。元々かなり奔放な子なのだろう。 とはいえ、まだ名前も言ってないのだから、途中からルイズ達が自己紹介していったのだが。 「そうですか、あなた方がこの子と遊んでくれてたんですか、どうもありがとうございます」 「えっ、いやわたしたちは……ううん……」 そう言われて、6人は顔を見合わせたが、まだ日が落ちるまでには少し時間があることから、ちょっとだけ アイと遊んであげることになった。 「わーすごーい、お姉ちゃん氷でなんでも作れるんだ。次はお馬さん作って」 「……なんでも、じゃないけどそれなりには、お馬さんね、了解」 「んじゃ、いくわよタバサ、あたしたちの芸術センスを見せてあげましょ」 「危ないからあまり近づかないでね。飴は好き?」 アイは、タバサが作った氷の塊をキュルケが炎で溶かして動物の像を作るのを、ロングビルからもらった お菓子を食べながら楽しそうに見ていた。 「すみません、見ず知らずの人にこんなに親切にしていただいて、あの子もしばらく遊び相手がいなかったものですから」 男が頭をぽりぽりとかきながら、すまなそうに言うと、シエスタが笑いながら答えた。 「お気になさらずに、みなさんああ見えて優しい人ばかりですから。それに、子供ははだしで外を走り回って遊ぶ ものでしょう。ふふ、わたしも行ってきます」 シエスタも、そう言って輪に入っていった。 残ったのは、彼と才人とルイズ。 「ルイズ、お前は行かないのか?」 「ふん、ヴァリエール家の人間がツェルプストーといっしょに遊べるもんですか!」 「わたしも遊びたいって顔してるように見えるのは気のせいだろうね」 2月近くもつき合って、才人もそこそこルイズの顔色が分かるようになってきていた。 だが、冗談はさておき、キュルケたち5人の意識が向こうに向いていることを確認すると、才人は小声で 男に話しかけた。 「ところで、あなたはこの星の人じゃありませんね」 すると、男とルイズの目が一瞬見開かれた。 特に、ルイズはバム星人のときのようなことになるのではと、懐の杖に手をかけたが、才人は軽く手で 制して話を続けた。 「あのビー玉は魔法なんかじゃない、ハルケギニア以外の星の高度な科学力で作られたものだ」 「……驚きましたね。確かに、私はこの星の人間じゃありません……そういえば、あなたもこの星の 人には見えない服装ですね。その服の合成繊維なんかは、この星の技術力では到底作れないでしょう」 彼は、一目見て才人のパーカーがポリエステル製であることを見破ったようだ。才人とルイズは、 正体を知られたことでその宇宙人が、何か反応を起こすかもと警戒したが、彼には殺気のようなものは 一切感じられなかった。 彼も、才人とルイズに敵意がないことを感じ取ったらしく、穏やかな口調のまま話を続けた。 「あなた方も、悪い人ではないようですね。はい、この星の人の姿を借りてはいますが、私はこの星の 住人ではありません。ミラクル星、それが私の故郷の名前です」 「ミラクル星人、やっぱりそうだったんですか」 その名前を聞いて、才人は万一のためにいつでも取り出せるよう用意していたガッツブラスターの 安全装置をかけなおした。 ミラクル星人、怪獣頻出期には数多くの侵略宇宙人が地球に襲来したが、その中でもごくわずか ではあるが地球人と友好を結んだ平和的な星人もいて、ミラクル星人もそんななかのひとりだった。 「心配ない、ルイズ、この人に敵意はないよ」 「ほ、本当に?」 ルイズは才人の言葉に怪訝な顔をしたが、少なくとも宇宙人に関しては自分より詳しい才人が そう言うのだからと、ゆっくり杖から手を離した。 「わかったわ、あんたを信じる。けど、なんでわざわざハルケギニアに来たの?」 「あなたは、この星の人ですね。私の星は、ここよりも文明が進んでいるのですが、文化が遅れ気味 でしてね。それで、豊かな文化形態を持っている、このハルケギニアにそれを学びに来たのです」 「留学生ってわけ……ヤプールの手下じゃないのね?」 彼はこくりとうなづいた。 「私がここに来たのは、ハルケギニアの暦で5年前です。そのあいだ私はガリアやロマリア、アルビオン から東方まで、様々な文化風習を学んできました。そして最後にこのトリステインに来たのですが……」 「そこで、ベロクロンの襲撃に会い、アイちゃんと出会ったんですね」 「ええ、あの子は家族ともどもロマリアからこちらに逃れてきたそうです。あそこは、寺院による重税と 異端狩りが激化しているそうですから、恐らく彼女の両親も新教徒だったのでしょう。ですが、ようやく ガリアまで逃れてきたところで、領主同士の対立の紛争に巻き込まれて、父親はそのときに。そして 母親といっしょに必死で逃げ延びてきたこのトリステインでも……」 才人とルイズはやりきれない思いでいっぱいになった。年端もいかない子供が国から国へと逃げ延びる のには、いったいどれほどの苦労があっただろう。しかも、逃げ延びてきた場所でも安住の地は無く、 両親までも失って、あんな小さな子に何の罪もないのに、なぜそんな残酷な目にあい続けなければならないのか。 「悲しいものです。なぜあんな純粋な子供が苦しまねばならないのでしょう。しかも、この世界の 大人達は、皆、神のため、正義のため、国を救うためといって彼女のような子供を作り続けています。 ヤプールは明確な侵略者ですが、そんな人々はいったい正義をかかげて何がしたいんでしょう。私は、 それだけはわかりませんでした」 ふたりとも、返すべき言葉が見つからなかった。 「でも、あなたとめぐり合えたから、今あの子はああして笑っていられるんでしょう」 耐え切れなくなった才人がそう言うと、彼は悲しそうな顔をした。 「いえ、実を言うと、私はもう自分の星に帰らなければなりません。ミラクル星では、大勢の仲間が 私の帰りを待っています。どうにか、あの子の引き取り先も見つかりました。裕福な商家ですから 大丈夫だと思います。ですが、あの子が寂しがるといけませんので」 「あのビー玉を渡したんですか」 「はい」 どこまでも優しく、ミラクル星人の男は言った。 やがて、太陽も山陰に姿を消しかけ、ルイズ達はアイといっしょに、旅立たねばならないミラクル星人を 町外れにまで送っていった。 別れ際に、アイは涙を浮かべて言った。 「おじさん、どうしても行っちゃうの?」 「ごめんよ。おじさんもいつまでも君といっしょにいたい、けれどもおじさんの国ではおじさんの友達が ずっとおじさんの帰りを待ってるんだ。心配はいらない、そのビー玉を見れば、いつでもおじさんに 会えるから……じゃあ、行くね」 彼は、アイの頭を優しくなでると、夕闇の中を一歩、一歩と歩いていった。 そして、20歩ほど歩んだところで、彼は振り返りながら、ゆっくりとフクロウを擬人化したような ミラクル星人本来の姿に戻った。当然それを見てキュルケやシエスタ達は仰天したが、彼は 穏やかな声で最後に別れの言葉を告げた。 「さようなら、アイちゃん」 そう言うと、ミラクル星人の姿は、すうっと夕暮れの暗闇のなかに消えていった。 「おじさーん!!」 輝きだした星空に、アイの声だけがどこまでも響き渡っていた。 「宇宙人にも、あんな善良な人がいるのね」 「人間なんかよりずっとな」 ルイズと才人は、それぞれひとり言のようにつぶやいた。 やがて完全に日も落ち、双月が太陽に代わってあたりを照らし始めた。 だが、そのとき天の一角が割れて現れた真赤な裂け目から、巨大な円月刀を持つ怪人が降り立った ことに、気がついた人間はいなかった。 「ゆけ、テロリスト星人よ。ミラクル星人から、この世界の調査資料を奪い取るのだ!」 「ふはは、たやすいこと。奴を抹殺し、資料を奪ってやる。そして、この星のガスはすべて我々 テロリスト星人のものだ!」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (8)虚無の目覚め ウルザの色眼鏡の奥、そこに収められたものからマナが迸り、ルイズへとその奔流が流れ込む。 強大な魔力の放出の余波を受け、ウルザの体も小さく痙攣する。 「そうだ、何もかもを忘れ…一つのことだけを考えるんだ…」 この娘の力を開放する二つの鍵、そのうちの一つを自身のもので代用する。 「それは雑念だ、ファイアーボールなど、使わなくていい…ただ、君の中にあるものを表に出したまえ」 少々強引だが、不完全な形での覚醒であっても構わない。 「そうだ、その中から…取り出すのだ、分離させるのだ、純粋なる力を」 ルイズの焦点の合わぬ瞳がゆっくりと開かれていく。 刹那 閃光が世界を支配する 「――――!っ!ハッ!ハアッ!わ、私、今…!今!今っ!まほ、魔法をっ!」 ―――そうだ、これは私の推測の重要な裏づけになるだろう! ウルザはただ、微笑むのであった。 翌朝、ルイズ、ウルザ、キュルケ、タバサの四人は院長室へ呼び出されていた。 院長室には既に、教員達が召集されていた。 恐る恐る、キュルケが口を開く。 「あ、あの…オールド・オスマン、私達は別に昨日は…」 「今日呼び出したのは、君達が昨日何をしていたかを問う為ではない。君達が、昨日宝物庫で何かを見ていないかを聞くためじゃ」 横にいた、コルベールがウルザの方を一瞥し、話し始めた。 「良いですか?この事はくれぐれも内密にお願いしますよ、皆さん。 実は昨日の夜、宝物庫の一部が破壊され、その中から貴重なマジックアイテムが盗み出されました。犯人は『土くれのフーケ』。最近巷を騒がしている盗賊です。 今日あなた方を呼んだのは、あなた方が荒らされる前の宝物殿に、一番近づいていたからです。」 これには流石のルイズもぎょっとして、慌てて意見する。 「ちょ、ちょっとミスタ・コルベール!それではまるで私達の中に土くれのフーケがいるようではありませんか!」 「いえ、ミス・ヴァリエール。別の生徒が学院から逃げるように去っていった黒いローブの人影を目撃していますから、私達もそうは考えていません。しかし、犯行現場を目撃したとしたらあなた達しかいないのです」 「そんな事言われたって…キュルケ、あんたは何か見た?」 「いいえ、見ていないわ。始祖ブリミルに誓って」 「他の二人はどうかね?何かに気付かなかったね?」 二人も首を左右に振るばかりであった。 「そうですか、分かりました。………しかし、参りました。これで手掛かりは途絶えてしまいました…」 「ミスタ・コルベール。それで、フーケに盗まれたというのはどのようなマジックアイテムなのですか?」 「それは………」 ルイズの質問に対し、コルベールが困ったようにオスマンを見る。 「『禁断の剣』と呼ばれるものじゃ」 「『禁断の剣』?」 「うむ、わしがこの学院の学長になる前、先代の学長の時代以前より学院に保管されておったマジックアイテムじゃ。世界の均衡を崩しかねない強大な力を秘めておると伝えられる品じゃ」 「な、何でそんな危険なものが学院にあるんですか!」 「学院だから、じゃよ、ミス・ヴァリエール。魔法学院に居るのはほとんどがメイジ、それに宝物庫には強力な固定化の魔法がかけられておった。 『禁断の剣』を保管にするに、トリステインでここより適した場所は無いと考えられておったのじゃ。 しかし、その油断を突かれたのぅ、まさか賊に襲われるなど、わしとて夢にも思わんかったからのぅ…」 世界を均衡を崩しかねないマジックアイテム、それが盗まれたこと、そしてその責任の所在が自分達であると追求されることを考えて教員達は青くなるのであった。 「ところで、ミスタ・コルベール、ミス・ロングビルはどこへ行ったのかの?」 「はぁ…それが、朝から姿がなく…」 「この非常時に何をしとるんじゃ…」 「すみません!!遅くなりました!」 噂をすれば何とやら、件のロングビルの登場である。 「ミス・ロングビル!どこへ行っていたのですか!?大変ですぞ!事件ですぞ!」 「申し分かりません!実は…今朝方からの騒ぎを聞きつけて急いで調査をしておりましたの」 「ほほう、流石はミス・ロングビル、仕事が早いのぅ」 「それで、結果は!?」 「はい、フーケの居所が分かりました」 その後、ロングビルの調査によって森の廃屋にフーケが潜伏していることが突き止められたと説明され、『禁断の剣』捜索隊を派遣することになった。 「では、我こそはと思うものは杖を掲げよ」 シーン 「どうした、フーケを捕らえて名をあげようという貴族はおらんのか?」 「ミセス・シュヴルーズ、あなた当直だったのでしょう!?」 「そうですが、ミスタ・ギトーもまともに宿直していました!?」 「そんな事おっしゃるなら、今までだって………!」 「私!やります!」 ここで、誰もが予想しなかった立候補者が現れたのである。 事情を聞くために呼ばれ、そのままなし崩し的に部屋にとどまっていたルイズであった。 すかさずシュヴルーズが反論する。 「あなたは生徒ではありませんか!ここは私達教師に任せて……」 「先生方はどなたも杖を掲げないじゃありませんか!でしたら…私が、私が行きます!」 「そ、それは………」 そこで、教員達は気付いた、この桃色の髪の少女から溢れる自信に。 昨日までのルイズ・ド・ヴァリエールにはなかったもの、それが今のルイズには溢れている。 「ルイズってば、何考えてるのよ……、しょうがないわねぇ――― あたくしも志願します。ヴァリエールには負けられませんわ」 「ツェルプストー、君まで――」 その横ですっと杖を掲げるタバサ。 「え!?タ…タバサ!?あんたはいいのよ?関係無いんだから、こんな馬鹿な事に付き合わなくても」 「私も行く………心配」 「では、この三人、いや四人に頼むとするかの。」 「反対です!生徒達を危険に晒すなんて!」 「じゃあ君が行くかね?」 「い、いえ、私は体調が優れませんので………」 「それに…」 オスマンが視線をタバサに向ける。 「ミス・タバサは”シュヴァリエ”の称号を持つ騎士だと聞いている。この若さでそれを持つ彼女の実力は確実なものじゃ。」 続いてキュルケ。 「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出身で、彼女の炎の魔法もかなり強力だそうでないか」 そしてルイズ。 「ミス・ヴァリエールは……」 ちらりとその横の使い魔メイジを見やり、元に戻す。 「ミス・ヴァリエールは、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵の息女で、将来有望なメイジと聞いておる」 ウルザ。 「その使い魔、ミスタ・ウルザはトライアングルメイジだとも聞いておる。 彼の力を持ってすれば、土くれのフーケに遅れを取ることはあるまい」 そして最後に全員に。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する!」 「「はい!杖にかけて!」」 私の計画は順調に進んでいる。今度こそ。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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『ジオンの残光』 サモン・サーヴァントを行ったルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、この上なく困惑していた。 数度の爆発を経て召喚に成功したものの、現れた物は、この世界にある物とはかけ離れた物だったからだ。 「なに…?これ」 目の前に現れたのは80メイルはあろうかという巨大な緑色の物体。 だが、その巨体の半分以上を焼け焦がせ異臭を放ち、所々からは火花が巻き上がっている。 「これ…ゴーレム?」 脚は付いていない。ならば飛ぶのかとも思ったが、全く動く気配は無い。 初めはその巨体に驚いていた他の生徒達も、動かない物を召喚したルイズを笑い始めた。 「さすが『ゼロ』だな!壊れたゴーレムを召喚するなんて!」 「ミスタ・コルベール…あの!もう一度召喚させてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚の儀式は神聖なものだ。好む好まざるに関わらず、これを使い魔にするしかないのだよ」 そうは言うが、コルベールの気は重い。 不名誉極まりない『ゼロ』という二つ名を持つ彼女が数度の爆発を経て召喚に成功したのだが、物が物だけに困っていた。 個人的には再召喚させてもいいという心情だったが、公平を期すためにはそれはできない。 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール…例外は認められない。これは…」 そう言って、その物体を指差すが、改めて息を呑む。 表面をかなりの高熱で焼かれたらしく、気泡が現れている部分もある。 こんな大質量の金属をどうやって焼いたのだろうかと、興味を持ったが、すぐに目の前の落ち込んでいる少女の事を考えて自己嫌悪に陥りかけた。 「…今は動かないかもしれないが、呼び出された以上、君の使い魔にならなくてはならない」 「そんなぁ…」 がっくりと肩を落としたルイズが『それ』に近付いたが、契約するにもどこにやればいいのかサッパリ分からない。 これが動いてくれれば、文句無しに喜んで契約するとこなのだが… とりあえず、『フライ』を使ったコルベールに掴まり、頭らしき方に近付いたのだが その時、沈黙していた頭部から一条の光が放たれた。 「あれは…目か?どうやらまだ動くようだね」 一つ目という特異な目だったが、動く事にほんの少し安堵した。 だが、安堵したのも束の間、頭部が後退し、すぐ下の部分が様々な動きを見せ内部が開け放たれた。 「…ミスタ・コルベール。あそこにいるのは一体…」 「私にもよく分からん…だが、怪我をしているようだ」 中に居たのは、妙なスーツで全身を覆った人。 だが、腹部から血を流していた。 (いいか…一人でも突破し…アクシズ艦隊へたどり着くのだ!) 周囲に浮かぶ、様々な巨人に向け言葉を放ち続ける男が一人。 (我々の真実の戦いを、後の世に伝えるために!) その言葉を合図として、周りの巨人が加速し一直線に突き進む。 ただ、ひたすらに、居並ぶ敵艦隊の向こうに存在するはずのアクシズ艦隊を目指して。 (我々が尽きようとも、いつの日か、貴様らに牙を剥くものが現れる!それを忘れるな!!) 壁というべき艦隊と突き抜け、周囲を見渡すが、すでに周りには自分しか存在していなかった。 (最後の…一人か…) そう思うと、声にならない叫びをあげ目の前の艦へと突き進む。 迷いなどあろうはずもない。成すべき事を成し、後に続く者が現れる事を信じて機を推し進めた。 視界が赤く染まり、全ての音が途切れる。 だが、その赤く染まっていた視界が再び開かれ、ぼやけた視界に入った物は…緑色の長い髪だった。 ミス・ロングビル。オールド・オスマンによって採用された秘書であり、理知的で物静かな姿勢から一部生徒達からも人気がある人だ。 もっぱらの悩みの種は、そのオスマンによるセクハラであるのだが 『ゼロ』の二つ名を持つルイズが召喚した大破したゴーレムの中の人の様子を見るようにとオスマンに言われて医務室にやってきている。 「まったく…こんな事する暇があるなら、宝物庫の事でも調べときたいんだけどね」 秘書にあるまじき言葉ではあるが、本職が秘書でないのだから仕方ない。 とりあえずは異常なしとして、戻る事にしたのだが、背後から恐ろしいまでの殺意と咆哮を受け固まった。 「シーマ!?貴様ァーーーーーーーーーー!!!閣下を殺害しておきながら、よく私の前にその姿を晒せたなッ!!」 なに?シーマ?誰?てか何で!? そう思うまもなく一気に組み伏せられる。早い。杖を抜く暇すら無かった。 「お、落ち着いてください!ここはトリステイン魔法学校で…」 必死こいて後ろへと顔を向ける。 長く纏められた銀髪が印象的だったが、おっそろしい程に怒り猛っている。 しばらく視線が交錯したが、手の力が少し緩んだ。 目覚めたてで、思考が鈍っており、そこに仇敵であるシーマ・ガラハウを彷彿とさせる緑の長い髪が目に入ったからなのだが よくよく考えてみれば、サラミスに特攻したはずの自分を、シーマが拾うはずもないと思い、とりあえず状況を掴む事にした。 あの状況で命があったとすれば、十中八九ここは連邦の艦だからだ。 「シーマではないようだが…捕虜というわけか?」 捕虜であるにしろ、このまま黙っているわけにはいかない。 このまま事が進めは、宇宙の晒し者になる事は確実なのだ。 最悪、目の前の女を人質にMSなり戦闘機なりを強奪する気でいた。 「一先ず、話を聞いてください。ここはトリステイン魔法学校で、あなたは捕虜などではありませんから」 「トリステイン…?艦の名か…?いや待て、学校だと。という事はコロニーか?だが、サイド3にもサイド6にもそのようなコロニーは無かったはずだが」 サイド1.2.4.5の修復されたコロニーのどれかとも思ったが、少なくとも、そんな名のコロニーは無い。 それ以前に『魔法』という単語も聞こえたのだが、あえて無視する。 もちろん、状況が掴めない以上は、離す気は無い。 連邦の勢力下だとして、星の屑の中心人物である『ソロモンの悪夢』を、そう簡単に逃がすはずは無いと判断した。 そうしていると、扉が開いて、明らかに軍人ではないような桃色の髪の少女が入ってきた。 「……この…!ミス・ロングビルになにやってんのよ!バカーーーーーー!!」 叫びと共に放たれる蹴り。 だが、間合いも遠い上に、素人の蹴りだ。 不意を付かれでもしない限り本職の軍人が食らうようなものではない。 軽くいなすと支えている脚を払い転倒させた。 「…ロングビルと言ったな。一つだけ聞こう。ここは連邦の勢力下か?」 「連邦…?少なくともトリステインは王国ですが」 「王国だと?ふざけた事を」 そう思うのも無理は無い。 地球の全域は、アフリカなどが影響が弱いぐらいで、全てが連邦の勢力下だ。 宇宙にしても、サイド3のジオン共和国。月のフォン・ブラウンとグラナダ。中立であるサイド6のリーア。そして遠く離れたアクシズ。 少なくとも王国などというものは一切無い。 「とにかく…離していただかない事には話もできませんので…できれば」 倒れて目を回している少女とロングビルと呼ばれる女を一瞥する。 少なくとも、軍関係の者ではないようなので、一先ず離す事にした。 そこで自分の状態に気付く。 無いのだ。ノーマルスーツの上半身部分が。 バイザーが砕けかかったヘルメットは側にあったが、上半身部分が綺麗に切り取られたかのように無くなっている。 そして、銃創と破片によって受けた傷も無い。 「怪我をされていて、着ていたものが脱がせず治療できないとのことでしたので、切り取らせていただきました」 訝しげにしていた様子に気付いたのか、ロングビルが答えるが、切り取ったというとこに納得がいかない。 宇宙にしろ地球にしろ、少なくとも医療関係者がノーマルスーツの着脱法を知らないはずが無い。 さすがに、妙だと思っていると、目を回していた少女が目を覚まし、起きるや否や叫んだ。 「へ、平民が…使い魔が…主人にいきなりなにすんのよ!!」 平民?使い魔?そんな疑問が浮かんだが、状況がサッパリ掴めない。 「名前は!?平民でも名前ぐらいあるんでしょ?」 そう聞かれたが、この規律の塊とも言うべき男からすれば、まず第一に口の利き方がなってない。 「人に名を聞くときは、聞くほうが先に名乗るべきだが」 ぐぅ!と言葉に詰まる。相手は平民だが正論だ。おまけに妙に威圧感がある。 「…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 「アナベル・ガトーだ」 「アナベル?女みたいな名前」 アナベルが男の名前でなにが悪いんだ!俺は男だよ!! 最も信頼する部下の声でそんな言葉が聞こえたが多分幻聴か何かだろう。 少なくとも、名前関係で人と揉め事を起こした事は無い。 一応の自己紹介が済んだが、最も大事な事に気付いた。 「…ノイエ・ジールはどうなった」 どうも今一、記憶がハッキリしない。アクシズ艦隊目指し、追撃艦隊に突入したところまでは覚えているのだが。 「ノイエ・ジール?緑色の大っきいやつ?それなら、草原に転がってるけど、なんなのよあれ」 「馬鹿な!宙間戦闘用MAが転がっているだと!?」 草原というからには、ここが艦ではないという事は分かった。 ならば、コロニーという事になるのだが、転がっているというのは理解しがたい事だ。 漂流したのならば、少なくともノイエ・ジールはコロニーの外にあるのだから。 ルイズに案内され外に出たが、ここがコロニーではないという事を目にする。 コロニーにあるべき物が全く無いからである。 上空に見える地面も無ければ、河も無い。 そして、草原に転がっている半壊状態のノイエ・ジール。 さらに、その上を浮いている人。 「なん…だと!?」 さすがの、ソロモンの悪夢も、その光景には言葉が出ない。 まだ05が飛んでいるといった方が信じられるだろう。重力に囚われたような環境で人が飛ぶなどとは。 「おお、気が付いたのかね。三日も意識が無かったから、どうしたものかと思っていたのだが、無事なようでよかった」 上空から声がかけられたが、返事ができない。 「一体これは、なんなのかね!表面を見た事も無い金属で覆っている!実に興味深い!」 「…まずは、それから離れてもらおう」 ノイエ・ジールはアクシズから寄与された試作MAである。軍事機密の塊と言ってもいい。 ノーマルスーツの腰に付けられている拳銃を抜くと、その銃口を向けた。 だが、拳銃を向けても離れようとはしない。これが武器であるかとも分からないかのように。 一発、上空に向けトリガーを引く。威嚇だが、これで次は無い。 「うわ!な、なんの音だ!」 「次は無いと思え」 「銃…なのかね?それは」 至近距離で銃声を聞いた、ルイズが耳を押さえているが。関係無い。 不承不承の体でコルベールが降りてきたが、それに銃口を向ける。 「私を回収してくれた事には一応感謝しておく。だが…どういうわけだ?」 「きみは、そこのミス・ヴァリエールの使い魔として召喚されたのだよ。手に使い魔のルーンが刻まれているだろう?」 左手を見るが、確かになにやら文字のようなものが刻まれている。 おまけに、なにやら光っている。 さすがにこれは反応せざるを得ない。 「貴様…!私に何をした!」 改めて銃口を向け、手に力を込める。 MSで敵を撃破するか。生身で人を撃つか。形に違いはあれど失われる命に違いは無い。 この男が敵であり、なにか妙な事を施したとでもいうのであれば、トリガーを引くのに躊躇はしないだろう。 コルベールもそれに気付いたのか、幾分か緊張した面持ちになる。 メイジではないが、雰囲気から、この使い魔がどこかの国の軍人であると判断した。 平民が軍人になれる国…それは隣国『ゲルマニア』しかない。 基本的に、実力主義で戦果さえ挙げれば一平卒でも将官への昇進が連邦よりも容易なジオン公国軍。 実力と才能で稼いだ金で地位を買う事のできるゲルマニア。 まぁ似たようなとこはある。 「とりあえず、銃を降ろしたまえ。我々はきみの敵というわけではないよ」 なるべく穏やかに言ったが、ガトーは鋭い目をコルベールに向けたままだが、ゆっくりと銃をホルスターに仕舞った。 「まず、話をしよう。ここはトリステインだ。きみはどこから来たのか聞かせて欲しい」 そう問われたが、ぶっちゃけあまり聞いていない。 「ジオン公国」 短く答えたが、考えが纏まらない。 コロニーで無いなら、ここはどこになるという事だが、常識で考えれば地球しかない。 だが、それなら、ノイエ・ジールがこんなとこに転がっているはずもない。 八方塞というやつだ。 「ジオン公国…聞いた事が無いな」 ジオン公国を聞いた事が無い。 そんなはずはない。U.C0083に生きる人間にとって、ジオン公国は前大戦の主役の片割れを担っていたと言ってもいい存在だ。 ジャブローの原住民でも、ジオン公国という名前ぐらいは知っているはずだ。 埒があかないので、こちらから質問してみる事にした。 「先程、飛んでいたが…どういう技術だ?」 「『フライ』かね?魔法だが…知らないはずはないだろう?」 『魔法』その単語を聞いて、少し頭が痛くなったが、現実だ。 「…魔法学院とか言っていたな」 「そのとおりだ。ここは、貴族が魔法を学ぶための施設で、君はミス・ヴァリエールの使い魔となったのだ」 「使い魔?どういう事かは知らぬが、私は、そのようなものになった覚えは無い」 「そのルーンが何よりの証拠だ。コントラクト・サーヴァントは君が気を失っている間に済ませてしまったようだが」 話は変わるが、基本的にジオン軍人は、軍人より武人に近いと言われている。 宇宙攻撃軍だけにしても猛将と揶揄されるドズル・ザビ中将を筆頭に、白狼『シン・マツナガ』といった武人気質の人間が非常に多い。 もちろん、そのドズル中将麾下の302哨戒中隊を率いていたガトーも例外では無い。 そんな人間に、気を失っている間に契約しておいたから、使い魔になれ。と、一方的な事を言えばどうなるか。 ただでさえ、多大な圧力を掛けてくる地球連邦に反発し1/30以下の国力がありながら独立戦争を仕掛けたのだ。 当然、次の瞬間には銃を抜いていた。 「動くな。動けば即座に撃つ」 「な、何を…!」 「確か…ルイズと言ったな…私を元居た場所に戻してもらおう」 会話に付いていけず、半ば呆然としていたが、コルベールに銃を突きつけ、そう言ってきた事でやっと我に返った。 「へ…?ああ、無理ね。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。使い魔を元に戻す呪文なんて存在しないわ」 「っく…!ふざけるな!」 「わたしだって、あんたみたいな平民が使い魔なんてイヤよ!大体、大怪我してて、治癒の魔法の秘薬の代金だってわたしが出したんだから!」 「ぬう…」 先にも言ったが、アナベル・ガトーは武人気質の人間で、行動理念の大半は義だ。 確かに、コウ・ウラキに撃たれた傷は塞がっている。 つまりは、命を拾われたという事になるのだが…どうもいま一つ納得しがたい。 「確かめたい事がある。どういう理屈か知らんが、私をノイエ・ジールのコクピットまで運んでもらおうか」 「それは…構わないが、銃をだね…」 指示をしつつ、ノイエ・ジールのコクピットに運んで貰う。 ルイズも付いてきたので中に三人入る事になった。いかに巨大MAノイエ・ジールとはいえ狭い。 おまけに、倒れているため、非常に操作し辛い。これが宇宙なら関係無いのだが。 各部チェックを行うが、武装関係はほぼ全滅でIフィールドも働いていない。 ジェネレーター出力も辛うじて作動していると言っていいLvだ。 それでも、システムを動かすだけなら何とかなる範囲。 ハッチを閉じると、モノアイを通して外の風景が映し出される。 「なにこれ!閉まってるのに外が見える!」 「戦闘記録データ…U.C0083.11/13/00・34・38…このあたりか」 コンソールを動かし操作するとモニターが外の風景から漆黒の宇宙へと切り替わる。 そこに移るのは、大きく輝く地球と周りに浮かぶ、06.09.21などのMSだ。 何かを合図としたかのように、それが艦隊へと向け突き進んだが、映し出されるのは、ミサイルや機銃。護衛のジムの攻撃により次々と脱落していく姿。 しばらくすると、一隻の艦がモニターに映し出され、それが大きくなると、爆発に巻き込まれ画像が途絶えた。 コルベールは黙って見ていたが、ルイズはビームやミサイルがかすめる度に大声を上げている。 そして、ハッチを開け放つと核融合炉を停止させた。 地上である以上役には立たないし、この損傷だ。暴走して爆発でもしたら洒落にもならない。 ガトーが無言でノイエ・ジールの装甲の上に立つ。 「生き恥を晒したというわけではないだろうが…お前に拾われた命だ。好きにするがいい」 「君はいったい…どこから、いや、あれは一体…」 その問いには答えない。というより答える余裕が無い。 日が沈みかけ、ハルケギニアにソロモンの悪夢が降り立ってからの三日目が終わろうとしていた。