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前ページ次ページゼロな提督 聖地。 この言葉を聴いて、ヤンは何を想像するだろうか。 宇宙暦800年、新帝国暦2年ごろの聖地といえば、地球そのもの。 貿易国家フェザーンの影の主であり、麻薬を使って信徒を洗脳しテロに利用する狂信的宗教集団『地球教』の本拠地のこと。 ハルケギニアと同じ文明レベルの時代の地球で言うなら、それはイスラム教徒を中心としたアラビア世界の宗教的中心地。 かつキリスト教とユダヤ教の聖地であり、長きに渡る泥沼の宗教戦争が行われた悲劇の舞台。 歴史家としてのヤンならば、中東戦争と呼ばれた20世紀前後の地獄のような戦争をも思い浮かべるだろう。 そして、テロの嵐が吹き荒れるパレスチナ。 21世紀のゲットーとも揶揄されるヨルダン川西岸の巨大分離壁【アパルトヘイト・ウォール】。 エルサレムの嘆きの壁で一心不乱に祈りの言葉をささげるユダヤ教徒達。 その壁の上にイスラム寺院アル=アクサー・モスクが建ってる図は、かなり悪趣味なジョークとして記憶の中に含んでいることだろう。 同時に、ハルケギニアの聖地の実情がいかなるものか彼は知らない。始祖ブリミルがらみの地とは知っているが、どんな地なのかまでは分からない。それは大方のハルケギニアの人々も同じことだ。 何しろハルケギニアの人間と聖地に暮らす亜人「エルフ」とは、極めて険悪な関係にあり、両者の接触は大方が戦争と言う形で行われているのだから。 それも、侵攻した人間側の度重なる惨敗という結果で。 ハルケギニアの聖地回復運動は『レコン・キスタ』という名称で現在も行われているようだが、6000年経過した現在に至るまで、一度も聖地を奪還したことはなかった。 ゆえに、すでに聖地がいかなる場所か、ハルケギニアの誰も知らなかった。 では、このヤンが召喚されたハルケギニアの聖地とは、いかなる場所なのだろうか? ヤンを含め、ハルケギニアの多くの人が、砂漠の中に浮かぶオアシス都市を、耳の長いエルフたちが住む石造りの町を思い浮かべるだろうか。 始祖ブリミルがらみの遺構や石碑の一つくらい残っていることを期待もしているだろう。 加えてヤンならモスクや尖塔が並ぶイスラム風の風景も。 いや、おそらくかつてはそういう姿をしていた時期もあったかもしれない。 ゆえに、彼らは驚愕とともに、失望するだろう。 この、聖地の実際を目にすれば。膝を地に付き天を仰ぎ、始祖の福音はハルケギニアから失われたのではないか、と絶望するだろう。ヤンもきっと、涙を滝のように流して悔しがるに違いない。 なぜなら、そこには、何もないのだから。 ここは夜の聖地。エルフに蛮人と蔑まれる人間が奪還を目指す場所。 確かに、何もなかった。 砂漠ですらなかった。 双月の下に、ただひたすら荒野が広がっていた。それも、大きく盆地状にえぐられた大地が。半径10リーグ以上の見事な円形の盆地が、赤茶けた土壌をさらしていたのだ。 そんな盆地の端、盛り上がった土手の上に数人のエルフが立っていた。彼等は盆地の中央を見つめている。 うち一人が盆地の中央を指さした。薄暗い、だだっぴろい大地の先を。 盆地の中央で、何かが光った。 光ると同時に、何かに包まれるように光が阻まれる。 だが、包もうとする『何か』より、『光』の方が強かったらしい。包もうとした『何か』は『光』に吹き飛ばされた。 盆地が光に満たされる。 そして次に盆地中央から、球形に『壁』が放たれた。 それは月明かりでもハッキリ分かるほどの圧倒的破壊力を持って、『光』を中心として盆地周囲へと広がっていく。 土煙を巻き上げて…いや、地盤そのものを巻き上げて、盆地の端にいたエルフ達へも襲いかかろうとしていた。 襲いかかろうとしているのは見えるのに、全てを破壊しながら向かってくるのに、僅かな地響きしか耳には届かない。 『壁』が音速に近いか、音速を超えているからだ。音より早くとどいた地盤経由の振動が足下から音へ変換されて届いたのだ。 「我と契約せし大地の精霊よ。古の盟約に従い我らに加護を」 エルフ達が呪文とも独り言ともつかない言葉を発する。とたんに彼等の眼前で大地が盛り上がり、巨大な土と岩の壁となって彼等を包んだ。エルフ達は月明かりも失い、暗黒の中に守られる。 遙か10リーグ以上彼方から届いた『壁』が、大地の精霊が生み出した壁に衝突する。 瞬間、中のエルフ達の耳に、いや全身に轟音が届いた。彼等の全身を震わせ、内臓をかき回し、鼓膜を破る程の振動が。 大地の精霊が加護してすらなお、エルフ達の命を守るのが精一杯だった。 『壁』が通り過ぎるまで、さほど長い時間ではなかったはずだ。だが彼等にとっては死を覚悟させる永劫の時といってよかった。 『壁』の名残である細かな振動も去り、静寂が再び闇の中に帰ってくる。 大地の精霊は契約を守りきり、エルフ達を双月の下へと解放した。 彼等は盆地を恐る恐る覗き込む。そこには、さっきとおなじ盆地があるだけだ。いや、先ほどより抉られた盆地がある。 『光』は既に消えていた。 「ビダーシャル!あれをっ!」 エルフの一人が天を指さした。ビダーシャルと呼ばれたエルフも天を仰ぎ見る。 星空の中、光が流れていた。 流れ星ではない。明らかに燃えさかる巨大な何かが放物線を描いて落下しているのだ、彼等の近くへ向けて。 それは爆発音を上げて大地と衝突した。 とたんに周囲の大地そのものが触手の如くわき上がり、燃えさかる何かを飲み込む。一瞬にして大地は落下してきた物体を地下深くへ飲み込んでいった。 カラン ビダーシャル達の近くで乾いた金属音がした。 彼が地面を見ると、先ほどの物体の破片が落ちていた。大地の精霊は無害と判断したのかもしれない。それは大地に飲み込まれはしなかった。 ヒョイとエルフの一人が金属片を手に取る。何かプレートの様な物が、爆発の衝撃で本体からはがれたようだ。 黒こげのプレートを袖で拭くと、そこには絵が描かれていた。赤・白・青の三本線、真ん中の白線中央には五稜星 それが自由惑星同盟の国旗であることは、エルフ達の知らない事だった。ほぼ全てが今夜と同じように地の底へ封じられているのだから。 第七話 聖地 ガリア王国。 トリステインとほぼ同じ文化形式を持つ国で人口約1500万人のハルケギニア一の大国。 魔法先進国ともいえる国で、王宮では様々な魔法人形(ガーゴイル)が使われている。王都の名はリュティス。 リュティスはトリステインとの国境部から1000リーグ離れた内陸に位置する。大洋に流れるシレ河の沿岸にある。 人口30万というハルケギニア最大の都市。河の中洲を中心に発展した大都市で、主たる都市機能に加えて魔法学校をはじめ貴族の子弟が通う様々な学校を内包しており、街並みは古いながらも壮麗なものとなっている。 その郊外には壮麗な大宮殿が見える。王族の居城、ヴェルサルテイル宮殿だ。王家の紋章は2本のラインが入ったねじくれ組み合わされた杖。宮殿中心には、薔薇色の大理石と青いレンガで作られた巨大な王城『グラン・トロワ』。そこから離れた場所に、薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』がある。 「――つまり、虚無が集うのを妨害してほしい、と?ビダーシャルとやら」 「そうだ。お前達が聖地と呼ぶ、忌まわしき『シャタイーン(悪魔)の門』、我らでも封じきれないのだ。 風と大地の精霊が奴等の生む嵐を聖地内に押さえ込もうと努力はしてくれている。だがもはや追いつかぬ」 『グラン・トロワ』の一室で椅子に座るガリア王ジョゼフは、異国からの客人を前にしていた。 当年45歳ながら、30歳前後にしか見えない美貌と逞しい肉体の男性は、薄茶色のローブをまとう長身で耳の長いエルフと相対している。 「ふぅむ…いささか信じがたい話だ。お前達エルフですら太刀打ち出来ない、聖地よりわき出す悪魔、か」 「いや、あれは恐らく悪魔ではない。 風と大地の精霊が言うには、あれらは湧きだしたとたんに粉々に砕け、火竜のブレスを上回る炎をまとい、風の精霊もかくやというほどの嵐で大地を抉り、そして死ぬ。しかも数十年に渡り消えぬ毒をまき散らしてから、だ。例え湧き出した瞬間に死ななくとも、直後に地面に叩き付けられて粉々になる。 我らエルフが総力を挙げ、大地の精霊の力を借り、全てを大地の奥底に封じているので、今以上の被害にはなっていない。だが、その毒を一身に受ける大地の嘆きと怒り、もはや収まらぬ。 しかし思うに、門から飛び出したがために、あれらは死んでしまうのだろう。門を通ったがために悪魔と呼ばれるほどの被害を周囲にまき散らすのだ。彼等とて死にたくはなかったろうにな」 「彼等?」 ガリア王家の象徴とも言える青い髪が揺れる。 「そう、彼等だ。ごくまれにだが、あれら『悪魔』には人が入っている事があるらしい。それも、お前達と同じ蛮人が」 「ほほう…それは、会ってみたいものだ」 エルフの長い金髪はサラサラと左右にゆらめく。 「無理だ。さっきも言ったとおり、門を通ると同時に、ほぼ全てが死ぬのだ。後に残るのは灰になった蛮人の遺体。それも残っていればの話だ」 「…なぜ死ぬのだ?しかも、そんな派手に」 「分からぬ。全ては地の底に封じてあるのでな。理由は私も知りたいが、そのためには地の底へ潜り、毒に冒される覚悟がいる」 ジョゼフはふぅ~むと息を吐きつつ、椅子に身を預ける。 「興味深い…実に面白い話だ。それら全てが『虚無』の力、シャタイーンの復活によるものだ、と?」 「うむ。テュリューク統領はじめ、我らネフテスにも懸念が広がっている。この数十年の活発な門の活動とも併せ、世界を滅ぼす大災厄が六千年の時を経て再来するのではないか、 と」 「なるほど、な」 ジョゼフは、ふと何かを思い出したように首を傾げた。 「待て。さっき『ほぼ全てが死ぬ』と言ったが、これまでに生きて門を越えた者はいないのか?」 ビダーシャルは、重々しげに答えた。 「うむ…実は無事に門を越えた先例がある」 「ほほう?詳しく話せ」 とたんにガリア王は身を乗り出す。 「私が知っているのは2例。 一つは60年程前だ。その時は門から光も嵐も起きなかった。それは門から湧き出すと、大地と風の精霊の手を振り切って、西の彼方へと飛び去ったそうだ。その後の事は分からぬ。 恐らく、お前達蛮人の世界へと向かったのだろう」 「ほう…もう一つは?」 「もう一つは、30年ほど前だ。その時も門から光も嵐も起きなかった。代わりに門から、鉄の馬車が走ってきたのだ。馬も無しに走り、車体全てを鋼に覆われたほろ馬車の様なものだ」 「…悪いが、想像がつかん」 王は首を傾げつつも、楽しげに口の端を歪ませている。 「すまんが、私にも上手く表現出来ぬ。それ程までに奇妙なものだったのだ。そしてそれは必死に大地と風の精霊の手から逃れようと、土煙を上げて走ってきた――聖地を囲む土手を乗り越え、砂漠を走り、我らエルフの集落に向けて」 「ほほう!それで、どうなった!?」 ジョゼフは更にエルフに向けて身を乗り出す。 詰め寄られるビダーシャルは、苦々しげに言葉を繋げた。 「その鉄の馬車は精霊に追われ、恐慌状態だったらしく、我らに向かって突っ込んできた。 我らは身を守るため、精霊の力を借り鉄の馬車を止めようとした。 すると、その馬車が火を噴いたのだ」 「火を?」 エルフはゆっくりと頷く。 「荷馬車には大砲が積まれていたのだよ…それも、大地の精霊の加護により築かれた岩の守りを、後ろの同胞ごと貫く脅威の威力を持つ大砲を。反射することも出来ぬほどの、な」 「な!?」 馬車に大砲を積む――もしハルケギニアでそれを行ったらどうなるか。 重くて馬車が動かない、という以前に重量で壊れる。 壊れないほど頑丈な馬車を作っても、重いので地面に沈んで動かない。馬でも引っ張れない。 よしんば岩で舗装した道を走らせたとしても、発砲した反動で馬車ごとひっくり返る。 だがそれでもエルフの先住魔法による防壁を貫けはしない程度の威力だ。いや、『反射(カウンター)』によって全て跳ね返されるだろう。 だが、その鉄の馬車は、全てを易々と実行したということだ。 「結果…その鉄の馬車を止める事は出来た。同時に、その集落は壊滅した」 ジョゼフの頬に、汗が一筋流れる。 「念のために聞くが…その集落には何人のエルフがいた?」 「500は下らぬ。戦える者は100ほどいた」 王は、もはや言葉を失った。 聖地回復運動をいくら行っても、エルフの10倍以上の兵力でもって戦ったとき以外勝てた試しは無い。つまり、その鉄の馬車一台で人間1000人以上の軍勢に匹敵するのだ。 「鉄の馬車を止めた後、数名の同胞がその中を調べてみると、やはり中には蛮人達がいて、その中に一人だけ生存者が気絶していたらしい」 「ほほぅっ!で、今その者はどこにいるのだ!?」 ジョゼフは椅子をひっくり返して立ち上がる。だが、ビダーシャルは残念そうに首を左右に振った。 「いたらしい、と言ったであろう?その者を見つけた同胞は、既に生きてはいないのだ。全員が、意識を取り戻した生存者に殺された。手負いの蛮人一人に、だ。しかも、止めたはずの馬車は再び動き出したのだ。 そして生存者は馬車を駆り、どこへともなく逃げ去った。我らには、もはや追う事は出来なかった」 ジョゼフは座り直し、顎に手を当てて考え込む。 「では、おそらくその者もハルケギニア、いやガリアに向かったやも…」 その言葉に、ビダーシャルは再び首を横に振った。 「期待はできまい。馬車自体が我らとの戦いでかなり破損した。走り去りはしたが、もはや使い物にはなるまい。そして中の生存者も、ただでは済まなかったろう」 「そう、か・・・」 エルフは苦しげに天井へ視線を上げる。 「今にして思えば、我らに否があったのだ。馬車を止めるのではなく、精霊達に彼等への追撃をせぬよう頼めばよかったのだから。だが、あの混乱の中ではもはや手遅れだった。 だからといって、精霊による聖地の封印を解く事も叶わぬ。聖地から湧き出す嵐と毒を最小限に抑えねばならんのだ。 悲しいが、今も聖地では悪魔達が断末魔をあげている。そしてそれはここ数十年、激しさを増している」 ガリア王は、眼を閉じて頭を傾け、じっくりと思索にふける。 しかる後、エルフに向き直った。 「なるほど、卿の話は実に興味深かった。だがまずは、お前達エルフと交渉するとなると、それなりの信用も対価も示してもらわねばならん」 「うむ、それは承知している。まずは交渉の権利を得なければなるまい」 ジョゼフとビダーシャルの会見は、その後もしばらく続いた。 所変わって、トリステイン魔法学院。『フリッグの舞踏会』から数日経った。 ゼッフル粒子発生装置は再び宝物庫で眠りについた…大穴が開いたままだが、もはや秘宝でも何でもないので、別に構わなかった。 斧は次の日、トリスタニアから飛んできたエレオノールと公爵に引き取られた。公爵はヤンの手柄を率直に讃え、エレオノールは高慢で高飛車ながらも、一応「よくやった、褒めてつかわす」と礼を言った。そして今度は騎士達の大部隊に囲まれて去っていった。 なぜ『破壊の壷』と『ダイヤの斧』を無事に取り戻せたのか、公爵もエレオノールも城の衛士達も首を傾げた。 結局、「壷が空と分かったので捨てた。斧はマジックアイテムではないし平民が所有していた物だったので返した」という結論で事件は収束した。 さて、使い魔を見ればメイジの格が分かるという。では今のヤンを見ると、ルイズの格はどうだろう? ダイヤの斧という神話級の逸品と共に、死亡した状態で召喚された。 公爵から箱一杯の金貨を受け取り、王室からの斧の代金も月々受け取る予定の彼は、もはや一介の平民と言うには裕福すぎた。並の貴族より金回りが良い。 アルヴィーズの食堂では、貴族の子弟達を前に怖じ気づく事もなく主を擁護した。 フーケに奪われた『破壊の壷』と『ダイヤの斧』も奪還した。 これだけ聞けば、伝説の英雄とは言えずとも、何かひとかどの人物が召喚されたかとも感じる。 にもかかわらず、彼女の魔法の成功率とも関係なく、あんまりルイズの評価は上がっていなかった。 「だーかーら!あんたはなんで毎朝毎朝主人と一緒に起きてるのよー!たまにはあたしを起こしなさいよー!」 「ルイズ…他力本願は良くないよ。人間、自らの努力を忘れては」 「あんたが努力しろーっ!」 「んじゃ、デル君に頼もうか」 「あ・ん・た・が!努力しろっつってんのよーーっ!!」 二人はそんな会話をしつつ、食堂へと走っていた。 こんな光景を毎朝見せる主人と使い魔では、どんなに上がった評価も次の瞬間には地の底まで落ちるだろう。 ルイズはこんなに寝坊する生徒ではなかったはずなのだが、すっかりヤンに毒されたらしい。 それでなくても、いつももダラダラしているとしか見えない態度で、半分寝ている目で、ちょっと猫背なのだ。見た目はもう、ホントに、冴えない中年男なのだから。 そんなヤンは一ついつもと異なる所がある。両手に白い薄手の手袋をはめている。オスマンから左手のルーンが『ガンダールヴ、伝説の使い魔の印』と知らされたヤンは、すぐルーンを隠す事にした。 さて、その日の午前。 本塔最上階の学院長室では、今日もオスマンが重厚な造りのセコイアのテーブルに肘をつき、鼻毛を抜いていた。 おもむろに「うむ」とつぶやいて引き出しを引き、中から水ギセルを取り出した。 すると部屋の隅に置かれた机に座ってデスクの上の書物を鞄に収めていた秘書が杖を振る。水ギセルが宙を飛び、秘書の手元までやってきた。 つまらなそうにオスマン氏がつぶやく。 「年寄りの楽しみを取り上げて、楽しいかね?ミス・ロングビル」 「オールド・オスマン。あなたの健康を管理するのも、私の仕事なのですわ」 秘書は鞄を手にして立ち上がり、部屋を出ようとする。だがその前に机の下へ杖を向けようとした。 オスマン氏は、顔を伏せた。悲しそうな顔で、呟いた。 「モートソグニル」 秘書の机の下から、小さなハツカネズミが現れた。オスマン氏の足を上がり、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。 オスマン氏はネズミにナッツを与えつつ、ネズミに耳を寄せた。 「そうか…見えなかったか。残念じゃ」 秘書は鞄を自分のデスクに置き直し、しかるのち、無言で上司を蹴りまわした。 「ごめん、やめて、痛い、というか、最近老人いびりが、きついぞい」 「学院長には、ほとほと愛想が尽きそうですわ!ヤンの件で分かりました。老人といえど、甘い顔をしてはならないと!セクハラが全女性に対する侮辱であり犯罪だという事を、身を持って教えて差し上げますわっ!」 ロングビルにしてみれば、『破壊の壷』が単なるガラクタと分かった以上、もう学院に無理にいる必要はない。単にフーケ騒ぎのほとぼりが冷めるのを待っているだけだ。なので、学院長のセクハラに我慢する必要は無かった。 ゼーゼーと息をつきながら、改めて本を収めた鞄を手にする。 「それでは、私は図書館でヤンに講義をしてきます。学院長はちゃんと仕事をしてて下さい!」 「そ、その、ミス・ロングビルや…秘書の仕事は?」 ギロリ、と釣り上がった眼で睨まれた学院長が、ヘビに睨まれたカエルの如く縮こまる。 「今朝は急ぎの用はありません!全部、午後に済ませますわ」 ドカンッと盛大な音を響かせて扉を閉めたロングビルは、図書館に向かっていった。 ロングビルは図書館に向かう前に、女子トイレに入った。 手洗い場の鏡を前にして、学院長を蹴り回して乱れた髪を直す。そして口に紅をひく。 服装も正して、鏡の前で自分の姿を最終チェック。 そして改めて、鼻歌交じりに図書館へ向かった。 その姿を、朝食を片付ける二人のメイドが見かけた。 「あらー?あれってミス・ロングビルよね。鼻歌歌ってるなんて、珍しいわねぇ」 「ああ、あれよカミーユ。図書館でヤンさんにぃ…こ・じ・ん・じゅ・ぎょ・う!」 「ええー!マジマジ!?ドミニック、マジなのー!?」 「そーなのよぉ!ヤンさんったら、あんなぼんやりしてても、ホントはすっごいのねー」 「そうねー、ヤンさんって不思議な人よねぇ~。おまけに今や並の貧乏貴族より、よっぽどお金持ちだしねぇ」 二人のうわさ話は留まる所を知らない。更に通りがかった他のメイドも加わり、益々話は盛り上がる。 そんな感じで、ヤンは実力以外の所で評価、というか話のネタにされていた。 鼻歌交じりに図書館へやって来たロングビル。窓際のテーブルにヤンの姿を見つけるや、笑顔が僅かに引きつった。 なぜならヤンはお茶を片手に、お盆を手にして立ってるシエスタと楽しげに談笑していたからだ。 「へぇ~、タルブのワインって美味しそうなんだねぇ」 「そうなんですよ!とっても良質なブドウが沢山採れるんです。是非一度来て下さいな、ヤンさんも絶対気に入りますよ!」 こほん、とロングビルがわざとらしく咳をする。 慌ててシエスタが事務的なメイドの顔に戻り、秘書に向けて一礼した。 「それじゃ、ヤンさん。ミス・ヴァリエールのお部屋の掃除と洗濯はお任せ下さい」 「あ、いや、それは僕が後で」 いいんですよー、と一声残してシエスタは去っていった。 ロングビルは、周囲に誰もいなくなったのを確認してから、ヤンの前にどっかと腰を降ろした。 「さすが将軍様。英雄色を好む…てやつかい?」 睨まれたヤンは慌てて首を振る。 「おいおい、ちょっと世間話をしていただけだよ。第一、僕には妻も子もいるからね」 「どーだかねぇ…ま、気をつけな。あんたの手に入れた金を目当てに近寄ってくるヤツは、ゾロゾロ湧いてでるだろうからねぇ。この国に関しちゃ世間知らずなのを良い事に付け入ろうとするやつらが、ね」 「そうだね、気をつけるよ。ところで、その鞄の中身は頼んでおいた物かな?」 ヤンの視線は彼女がもつ鞄の方へと向いている。 「ああ。始祖ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリと、ガンダールヴ伝説についてさ。といっても、おとぎ話程度くらいしか伝承が残ってないけどさ」 「それで構わないよ。簡単にでも教えてくれればいいから」 そんな感じで、二人はお昼まで授業を続けた。 お昼になり、ヤンは厨房で食事を取る。 ヤンは普段、食事の時間も惜しいくらいに図書館の本が読みたかった。なので昼食はほとんどサンドイッチのような軽食を頼んでいた。 パンに挟まれた食事を見てると、サンドイッチ、ハンバーガー、クレープと挟むものだけは得意と言っていた妻のフレデリカを思い出す。ハルケギニア召喚前になって、ようやくまともな食事を出してくれた気がするが、さて今頃はどうしているのだろう、と郷愁に囚われる。 その郷愁を生む原因になったアルジサマはどうしているのか、と気になって厨房から食堂を覗き込む。そこにはテーブルに座って昼食をとるルイズの姿があった。 テラスに教師はおらず、生徒達は皆、気楽に歓談しながら優雅な貴族の昼食を楽しんでいる。だがルイズは誰とも言葉を交わすことなく、黙々と食事をしている。そして食べ終わると、すぐに食堂を一人で去っていった。 後には学生達の談笑の輪が残る。 ヤンはかつて養子のユリアンに「運命は年老いた魔女のように意地の悪い顔をしている」と語った事がある。ハルケギニアの年老いた女性メイジ達は、普通に年をとった顔をしていたので、この点は間違っていたようだ。 だが運命がヤンに望みもしない軍人生活を10年以上強いたのは事実だ。そしてルイズにも『ゼロ』と蔑まれる生活を強いた。有力貴族に生まれた出来損ないメイジ。その苦痛はいかほどか、考えるだけでもヤンの心にさざ波が広がる。 「戦争孤児だったユリアンはトラバース法(軍人子女福祉戦時特例法)で僕の所に養子として来てくれて、色々僕の面倒を見てくれたっけ…というか、僕の面倒を押しつけられたという感じかもしれないなぁ」 そんな独り言をいいつつ、彼は一旦ルイズの部屋へ向かった。 「よー、お前さんの勉強は終わりかい?」 シエスタに掃除されて綺麗になったルイズの部屋。壁に立てかけられたデルフリンガーが鞘からピョコッと飛び出す。 「うん。ガンダールヴについて色々聞いてきたよ。それじゃ、改めて『使い手』について教えてもらおうかな?」 ヤンはロングビルから聞いた事をデルフリンガーに語って聞かせる。そして最後に「何か思い出さないか」と尋ねる。 剣の回答はいつもと同じだった。 「ぜーんぜん思いださねー!」 カクッとヤンの頭が垂れる。 「そんなこと言っても、君は六千年生きているんだろ?つまり、始祖と同時代。そして僕のルーンを懐かしいって感じるんだろ?だったら『伝説の使い魔ガンダールヴ』を知ってるってことじゃあないのかい?」 「いや、そうは言われてもなぁ…六千年前のことだぜ、覚えてるわけがないわな」 今度は溜め息をついてしまう。 「君って無駄に人間並のAI組まれてるんだねぇ」 「それ、褒めてんのか?」 「うん、褒めてる」 「嘘つけ」 「ばれたか」 コンピューターなら外付けの記憶装置をいくらでも付けれるが、この剣にはどう見ても端末だの端子だの付けれそうにない。なら、トコロテン方式で古い記憶を忘れていかないと新しい記憶を入れる容量が出来ない。 なにもそんな所だけ科学的にしなくても、と肩を落とすヤン。結局この日の午後は徒労で時間を潰したのだった。 そして放課後。 デルフリンガー片手のヤンは、また厩舎の前でルイズと落ち合った。 「おっそいわよ!さぁ、今日もみっちり特訓するからね!」 ルイズの持つ乗馬用のムチが、鬼教官の教鞭に見えたのは、多分、気のせいではない。 「ゲルマニアについて知りたい!?」 ヤンの馬と並走しながら、ルイズは素っ頓狂な声を上げた。 「バカ言わないでっ!なんであんな成り上がりの国の事なんか知りたいのよ!?」 相変わらずおっかなびっくり馬に乗りながら、ヤンは頑張って答えた。 「うん、そろそろ他の国の事も知りたいと思ってね。それに、今度お姫様が嫁ぐんだろ?お隣の国ってこともあるし、ヴァリエール家のすぐ隣がゲルマニアなんだってね」 ジロリ、とルイズがヤンを睨み付ける。 「そうよ…あのツェルプストーよ。先祖代々の仇敵よ」 「なら話は簡単だよ。孫子曰く『敵を知り、己を知れば、百戦危うからずや』。ああ、孫子というのは僕の国の兵法学者ね。敵の情報を集める事は政戦両略の基本だよ」 むぅ~、と不服げな声を上げるルイズ。渋い顔で手綱をさばいている。 「あんたの言いたい事は分かるけど、私はそれほどゲルマニアに詳しくないわよ」 待ってましたとばかりにヤンは声を上げた。 「んじゃ、講師を呼ぼうかな!」 ルイズの顔は、ますます渋くなった。 「なーるほどねぇ!よぉく分かってるじゃないのぉ。ま、ゲルマニアの事なら私にまっかせなさーい♪」 「では、よろしくお願い致します。ミス・ツェルプストー」 というわけで、日が暮れてからルイズの部屋にはキュルケが来てくれた。もちろんルイズは非常にイヤそうな顔だ。 そんなルイズの顔とは裏腹に、キュルケは満面の笑みを浮かべている。そして当然のように、キュルケの後ろにはタバサが付いてきている。 「全く、なんでキュルケなんかを私の部屋に入れなきゃいけないのよ!ご先祖様になんてお詫びすればいいの!?」 肩を震わせるルイズだが、キュルケはケロリとしたものだ。 「だぁってぇ~、今度うちの皇帝のアルブレヒト三世とトリステインのアンリエッタ姫が結婚するんでしょ?軍事同盟のために。 だったらぁ、私達も過去の怨恨は水に流さなきゃいけない、とは思わなぁい?」 むぐぐーっとルイズも反論出来ずに口を閉ざしてしまう。 「んじゃ、ヤンの要望通りゲルマニアについて教えてあげるわね。ありがたくよーっく聞きなさいよ!」 壁に立てかけられたデルフリンガーがいきなり声を上げる。 「おうおうヤンよ!若い娘に囲まれて、鼻の下伸ばしてんじゃねぇぞ!」 「デル君!バカな事を言わないでくれよ」 と言いつつもヤンは顔が赤くなる。 と言うわけでテーブルを囲み、キュルケのゲルマニア講座が開かれた。 タバサも黙って椅子に座る。キュルケの話を聞くつもりのようだ。 「・・・というわけで、あの皇帝ったら自分が戴冠するため、政敵の親族をぜーんぶ塔に幽閉しちゃったのよ! 頑丈な扉の付いた部屋に閉じこめて、食事はパン一枚に水一杯。薪の暖炉は週に二本っていう有様よ!」 「うわぁ、酷い事するわねぇ」 「相変わらず王族のやるこたぁえげつねぇなぁ」 キュルケの口から語られるのは、勢力争いの果てに皇帝の座を勝ち取った野心の塊のような男の悪事。デルフリンガーがうんざりした感想をつぶやく。聞かされるルイズも恐れ呆れるが、ついつい話にのめり込む。 タバサは相変わらず無表情。でもちゃんと聞いているらしい。 「どーお?ヤンもこーんな酷い皇帝は、なかなかお目にかからないでしょ」 キュルケに話を振られたヤンは、うーんと唸って天井を向いた。 「えーっと、僕の隣の国では、それと似たような事をして皇帝になった人がいるんだ」 ルイズが隣に座るヤンをチラリと見る。 「ふーん、それって例のフリー・プラネッツでの事?」 「いや、フリー・プラネッツは僕の国の名前。その皇帝は、えーっと、ローエングラム王朝を建てた、初代皇帝ラインハルト1世って言ってね」 ふとヤンは、こんな遠い異国の話なんて興味あるかな、と気になり3人に視線を戻す。 だが意外にも3人とも興味ありそうな視線を投げかけてくる。 なので、なるべくハルケギニアと共通する言葉を使って話を続けることにした。 ――帝国軍三長官を一身に集めた帝国軍最高司令官となり門閥貴族勢力を打倒。 帝国宰相を排除し、自らが帝国宰相を兼任。幼い皇帝の元で事実上の支配者となる。 門閥貴族の残党に幼帝を誘拐させ、同盟に亡命させる事で、戦端を開く口実とする。 ゴールデンバウム朝から皇帝位の禅譲を受ける。実態は簒奪であったが。 23歳にしてローエングラム王朝を建て、初代皇帝ラインハルト1世として即位する。 なお帝国宰相一族の女子供は辺境に流刑。10歳以上の男子は全て死刑―― ここまで話した所で、女性陣の反応は・・・ ルイズは、かなり嘘臭そうに顔をしかめていた。特に23歳の皇帝という辺りで。 キュルケは、素直に感心したような感じに見える。 タバサは、やっぱり無表情。でもちゃんと聞いているのだろう。 デルフリンガーは、さらにえげつねぇニーチャンだなぁ、と呆れた。 とりあえず最後まで聞いてもらえたので、ヤンは満足した。 「まぁそんなわけで、僕の国は最初から最後まで、その皇帝に負けっぱなしだったんだ」 最後まで聞いてもらえたのはいいけど情けない話だなぁ…と気が滅入りそうになる。 で、改めて女性達を見ると、ヤンの顔を真っ直ぐ見つめ、そして何かを納得したようにそろって頷いた。 何について全員頷いたのか、ヤンは聞く気にはなれなかった。 「へぇ~、凄い皇帝なのねぇ。ねぇねぇ!あなたのお国の話、もっと聞かせてくれないかしらぁ?」 そう言ってキュルケがヤンにずずずいと近寄り、胸をすり寄せる。 「いや、あの、僕はゲルマニアの話を・・・」 寄られるヤンはタジタジだ。自分の半分くらいの年齢の女性に戦略的撤退を余儀なくされてしまう――つまり、後ずさる。 ヤンを挟んで反対側にいたルイズがグイッとヤンを引っ張り寄せる。 「何してんのよあんたは!真面目にやんなさいよ!」 「あーら、いいじゃないのよぉ~。あたしの国ばっかりじゃなくてぇ、ヤンの国の事だって知りたいじゃないのぉ」 二人の若い女性に引っ張り合いをされるという、彼の人生で滅多に無かった体験。ヤンも大汗を流して困り果てる。その有様にデルフリンガーの笑い声が重なる。 タバサは講義が終了した物と判断し、鞄から本を取り出して読み始めた。 そんなこんなで、ルイズの部屋からは深夜まで黄色い声が響いていた。 夜も更けて、皆がアクビを出し始める。 「ふわぁ~。ありがとうございました、ミス・ツェルプストー」 「ああんもぉ~、いい加減キュルケって呼んでよねぇ~」 「呼ばせないわよ!さぁさぁ、もう帰りなさいよ!」 「はいはい、それじゃ、また明日ぁ~」 キュルケとタバサは自分の部屋に戻っていった。 「ふわぁ~…それじゃ、ルイズ。僕はトイレに行ってくるよ」 「…はふぅ…すぐ帰ってくるのよぉ」 ヤンは部屋を出て、寮塔からも出る。女子寮塔は女子だけなので、女子トイレしかない。 だから使用人用のトイレへと向かった。 「よぉ、見てたわよ」 トイレから帰る途中、ヤンは女性の声に呼び止められた。 寮塔の前に立っていたのはロングビル。 「おや、どうしたんだい、こんな夜更けに。新しい獲物の品定めかい?」 「よしとくれ。職業柄、夜型なのさ。だから軽く夜の散歩でもと思ってね。そしたら寮塔の窓にあんた達の姿が見えてねぇ」 そういってロングビルはヤンに歩み寄る。 「それにしても、意外だねぇ。あんた、あのアルジが嫌いだと思ってたよ」 「うん?何の事だい?」 とぼけたように肩をすくめるヤン。 だがロングビルは真面目な顔でヤンを見つめている。 しばし沈黙した後、ヤンは諦めたように息を吐き、月を見上げた。 「僕には息子がいたんだ。戦争孤児でね、ユリアンっていうんだ」 ロングビルは黙ったままヤンの話を聞く。 「あの子は国の政策で、僕の所に養子として来てくれてね。色々僕の面倒を見てくれたんだ…というか、僕の面倒を押しつけられたという感じだね」 「あんた、手間がかかりそうだもんねぇ」 「まぁね。無駄飯食いと呼ばれたのは伊達じゃないよ」 「いばッて言う事かい?」 クスクスと緑の髪を揺らして笑う。 ヤンも笑い出す。 「あの子は、政府に僕の所へ行けと命じられて、僕の息子という立場を押しつけられた。でも、あの子は文句を言うどころか、本当に僕の面倒をよく見てくれたよ。掃除も、洗濯も、食事に茶の入れ方まで、本当に完璧に家事をこなしてくれた。 それどころか、軍にまで入って、僕を必ず守ると言ってくれたんだ」 ロングビルは笑うのを止める。ヤンの瞳に寂寥が含まれているのが分かったから。 「で、自分を見てどうなんだろうって思ってね。 使い魔という立場を押しつけられた時、僕は即座にルイズの下を出て行こうとした。当然家事なんて出来やしない。ルイズを守ると言っても、彼女がこのハルケギニアの貴族制度の中で生きていくのを守るなんて、僕には難しいよ」 「…で、せめて、あの子に友達の一人でも…てか?」 「う、ん…まぁ、ね。我ながら、傲慢で身勝手な考えだと思うんだけど」 「あんたを奴隷にしようとした娘だよ?」 「でも僕は奴隷にならなかった。なら、その事は水に流していいんじゃないかな」 ヤンは恥ずかしげに頭をかく。 そして笑われるか、呆れられるかと思ってロングビルを見直した。 だが、彼女は微笑んでいた。 「あんた、本当に軍人らしくないねぇ」 感心したように、嬉しそうに言うロングビル。 「うん、自分でも向いてないと思う」 ヤンはロングビルの端正で知的な眼を見る。月明かりに照らされた緑の髪がキラキラと輝いている。 思わず赤面して、顔を下に向けて更に頭をかいてしまった。 そんなヤンの丸まった背を、ロングビルはバシッと叩いた。 「なーに縮こまってンだ!そんなんで、あの子を守れると思ってるのかい!?」 「ごふっ!い、いや。守るッて言われてもなぁ…僕はいつまでハルケギニアにいるかも分からない身だし」 「だったら!いる間はあの子を守ってやんなよ。どーせ迎えが来るかどうかさえ分からないんだろ?」 「うん、まぁ、そうだね」 「んじゃ、早くあの娘ンとこに帰りなよ。きっと寂しくて泣いてるぜ」 「それは無いと思うけど。それじゃ、おやすみ」 ヤンとロングビルは手を振ってそれぞれの寝床へ帰って行った。 二つの月は夜の闇の中でも学院を明るく照らし出している。 それは、何か聖なる場所のようにも見えた。 第七話 聖地 END 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ次ページゼロと波動 学院の入り口ではロングビルとシエスタが馬車の御者台に座って待機していた。 街を歩けば誰もが振り向くであろう理知的でグラマラスなメガネの美女と、 隣の美女に負けない豊かな胸の健康的な少女が並んで座っているのだから、ちょっとした絵画に見えないこともない。 そして幌付きの荷台にはルイズ、キュルケ、タバサが乗っており、ルイズとキュルケがぎゃあぎゃあと何かを言い合っている。 その中でタバサは我関せずといった風に革張りの装丁が施された分厚い本を読んでいた。 こちらも御者台の二人に負けない美少女ぞろい。 大人の女から年頃の娘、あと何年かで年頃になりそうな娘。 巨乳、平原。 美女に美少女。 正によりどりみどり。 金持ちの貴族でもこれだけ集めるのは至難の業だろう。 間違いなく極上のハーレムだった。 ここにいるのがギーシュならブリミルに感謝しただろうし、マリコルヌなら死んでしまっていたかもしれない。 幸せ死にというやつだ。 だが、そんな普通の男なら歓喜する極上ハーレムもリュウにとっては自分が保護者にでもなったような気分でしかない。 「あ!リュウさん!こっちですよー!」 リュウに気づいたシエスタが大きく手を振る。 「ダーリン!」 キュルケも気づき、荷台から身を乗り出して負けじと手を振る。 「ちょっと!人の使い魔に向かって何がダーリンよ!?」 ルイズが噛み付く。 「使い魔ったって、リュウは人間なんだから別に恋愛感情抱いてもいいじゃない。なんならあなたもフレイムをダーリンって呼んでもいいわよ?」 「冗談じゃないわ!そもそもトカゲじゃない!」 「んまっ!?トカゲとは失礼ね!サラマンダーよ!?火竜山脈産のサラマンダーなのよ!?ブランドものよ!!?」 自分の使い魔をトカゲ呼ばわりされてヒートアップするキュルケ。 「・・・うるさい」 タバサが本から目を離さないまま、隣に立てかけていた自分の背丈より長い杖を手に取ると短く「サイレント」の呪文を詠唱する。 途端に荷台からは一切の音が消え、静寂が訪れた。 キュルケとルイズは相変わらず何か言い合っているが、口をパクパクさせるだけで声が出ていない。 声が出ないから、二人は取っ組み合いを始めた。 「・・・ちょっと狭いかもしれんが、俺もこっちに座らせてくれ」 リュウは荷台の惨状を見て大きく息をつくと、荷台に乗るのを諦めて御者台に座ることにした。 「わあ!リュウさんだー!リュウさんだー!!」 シエスタが隣に座ったリュウの腕にしがみつく。 自分の腕に頬と胸を擦り付けてくるシエスタに戸惑うリュウ。 リュウは女性の扱いがとても下手だった。 走り出した馬車は至って平穏に山道を進んでいた。 次々と木々が後ろに流れていくのを見ているとちょっとした遠出のようで、とても今から盗賊を退治しにいくようには思えない。 そんな平穏極まりない山の中を小一時間ほどシエスタの他愛無い話など聞きながら進んでいたが、話が一区切りついた辺りでリュウが口を開いた。 「ところで・・・フーケは捕まるとどの程度の罪になるんだ?」 この世界での罪に対する罰とはどの程度のものか知らないリュウが尋ねる。 「もしフーケが平民なら良くて打ち首、悪ければ拷問の末に晒し首でしょうね。貴族ならどういう裁定が下されるかは私には判りかねます」 ロングビルが素っ気無く答える。 「フーケは魔法が使えるんだろう?貴族なんじゃないのか?」 解せないといった感じで聞くリュウ。 「貴族は必ずメイジですが、メイジが必ずしも貴族とは限りませんよ。貴族の名を剥奪されたメイジもいますから」 ロングビルの整った顔に陰が落ちる。彼女は溜息をつくと最後に一言付け加えた。 「私みたいに・・・」 いつの間にかキュルケが荷台から顔を出してリュウとロングビルの会話を聞いていた。 毎晩遅くまで勉強と魔法の練習をしているルイズはキュルケとの肉弾戦に飽きると、馬車の揺れの心地よさに勝てず眠りこけてしまっていた。 一方、夜更かしは美容の大敵と睡眠時間バッチリのキュルケは遊び相手を失ってしまい、暇を持て余していたのだった。 「あら?ミス・ロングビルって貴族じゃなかったの?なんで名を剥奪されたのか聞いてもいいかしら?」 興味津々な顔でロングビルが口を開くのを待つ。 「ごめんなさいね、あまり話したい過去じゃないの」 ロングビルが怒るでもなく、寂しげに答える。 「そりゃそっか、ごめんなさい」 キュルケはばつの悪そうな顔で素直に謝ると、荷台の中に戻っていった。 が、すぐにもう一度現れるとシエスタを引っ張っる。 「っていうか、あなた何でダーリンにくっついてるのよ!こっち来なさい!」 もちろんキュルケの力程度では微動だにしないシエスタではあったが、 貴族の命令とあれば逆らうわけにもいかず「ふぇ~~」などと情けない声をあげながらキュルケと共に荷台に消えていった。 荷台はロングビルとリュウだけになった。 しばらく沈黙が続いたが、やがてリュウは荷台の連中が誰もこちらに来ないのを確認してから口を開いた。 「盗んだ物を返してもらえないだろうか」 前をしっかりと見据えたまま告げるリュウ。 ロングビルがぎょっとした顔でリュウの方を向く。 ――バレているのか?―― もし自分の正体がバレているのなら、この男が相手では万に一つも勝ち目は無い。 何しろ形容し難いほどの殺気をバラ撒き、30メイルのゴーレムを瞬く間に消し去った男だ。 トライアングル・クラスのメイジである自分にはどう転んでも勝てまい。 いや、それどころか、スクウェア・クラスでも勝てるとは思えない。 それでも必死で戦う術を模索する。 負けるワケにはいかないのだ。 ――勝てないまでも、せめて逃げることさえできれば―― が、やはりいくら頭の中でシミュレーションしてみても自分が勝つことはおろか、逃げきれる予測にさえ辿り着かない。 襲い来る絶望感に鼻の奥がジンジンと痛み、体中の毛穴が開く。 口の中はカラカラに渇ききってしまっているが、最大限に平静を装ってなんとか言葉を搾り出す。 「どういう意味でしょう?」 「そのままの意味だ。俺にはあんたが殺されなければならないほどの悪人には見えない」 真っ直ぐ前を見るリュウの顔には表情がなく、何を考えているかを窺い知ることが出来ない。 「ミスタ・リュウ。貴方は私を誰かと勘違いしていませんか?」 脈拍が上がり、背中にはいやな汗がじっとりと浮かぶが表面上にはいっさい出さず、あくまで白を切り通そうとするロングビル。 リュウはロングビルの方に顔を向けると、真剣な顔で告げた。 「俺は”土くれのフーケ”に死んで欲しくないんだ」 ロングビルの目つきが急に鋭くなり、口調も変わる。 「・・・いつ判ったんだい?」 理知的だった美女の顔は消えてなくなり、野生の荒々しさが宿った猫科の動物のような美しさを醸しだす。 誤魔化しきれないと悟り、ロングビルでいることをやめたのだ。 それと同時に自分の命運はこの男の掌の上にあることを覚悟する。 今、リュウの隣にいるのはまさに”土くれのフーケ”だった。 「一番最初にあんたに出会ったとき、少なくともあんたは秘書ではないと思っていた」 「そんな最初から?まったく参ったね・・・”土くれのフーケ”様がなんてざまだい・・・」 ロングビル、いや、フーケがため息をつきながら天を仰ぐ。 「で、あたしがフーケだと判ったのは?」 「学院長室にあんたが入って来たとき、あんたはルイズを見て驚いていた。そして、すぐに安堵したような顔をした」 「・・・で?」 「あんたは大木が直撃してルイズは死んだと思い込んでいたんだ。ところがそのルイズが学院長室にいた。 死んだと思っていた人間が目の前にいるんだ、驚くだろうさ。そして安堵した。少なくとも、殺してしまったと悔いていたんだろう」 フーケはしばらく黙ってリュウの顔を見つめたあと、諦めたように口を開いた。 「あんた、いったい何者なんだい?デタラメに強いだけじゃなくて周りも良く見えてるし頭も回る。なんであたしはこんなのを敵に回しちゃったんだろうねぇ」 言って、大きな溜息をつく。 「盗んだものを返してくれないか?」 リュウがもう一度言う。 「いいよ。元々返すつもりになってたしね」 あっさり了承するフーケ。 「あんたの言うとおり、あたしはあの貴族の娘が死んだと思ってたからね。物を盗るのに誰かを死なせてたんじゃあ、あたしの中じゃ仕事は失敗なのさ。 仕事が失敗してるのに獲物は手元にあるなんて納得いかないだろ? ただ、返そうにも学院が本気になって警備に力を入れたんじゃあ、流石のあたしでもメンドウだからね。 適当な廃屋にでも置いといて、そこに案内しようと思ってたんだよ。 そしたらどうだい、あの娘が生きてるじゃないか。 それで返すか返さないかで迷ってるうちにあんたに正体を見抜かれちまった。ホント、あたしも焼きが回ったねぇ」 「悪いことは出来ないもんさ」 リュウが笑った。 フーケも笑った。 それは裏の世界に生きている人間とは思えないほど、明るく輝くような笑顔だった。 「あんた、いいヤツだね」 フーケは笑うのをやめると、真面目な顔になる。 「でもね、『破壊の珠』は返すけど、あたしは”土くれのフーケ”を辞めるワケにはいかない。何しろ金が要るからね。 平民がまともに稼いでも手に入る金なんてたかが知れてるしさ。それじゃ足りないんだ。 ・・・たとえ捕まって晒し首になるとしても、あたしには金が要るんだよ」 リュウを見つめ、寂しそうに呟く。 「あんたは悪人に見えないと言ってくれたけど、あたしは悪人なんだよ・・・」 フーケは自分がなぜこんな話をリュウにしているのか解らなかった。 『もう盗みはしない』と言ってその場をごまかし、後で隙を見て消え去るのが一番の手だと頭では理解しているはずなのに、自分はリュウに洗いざらい喋ってしまっている。 「なんでだろうね、あんたといると調子が狂うよ・・・で、どうする?あたしはフーケを辞めないと宣言しちまったよ?あたしを捕まえるかい?」 この男は正義感が強い。さっきはもしかしたら見逃してくれるかも知れないと思ったが、盗みを辞めないと断言した以上は自分を捕まえるだろう。 先ほどもシミュレーションした通り、この男から逃げ出せる可能性は殆どないと考えていい。 ”ごめんね、ティファ。もうお金を渡してやれそうにないよ・・・” フーケは覚悟を決めると、再び逃走するための作戦を幾重にも考え始めた。 「いや、好きにすればいいさ」 だが、リュウから返ってきた言葉は意外なものだった。だから、聞き返してしまった。 「え?」 「好きにすればいいさ。俺はフーケの正体が誰なのか知らない。どうやら少し居眠りしてしまったようだ」 「・・・なんで・・・見逃してくれるんだい?」 「言っただろう?俺にはあんたが悪人には見えない。それだけだ」 リュウは真っ直ぐに前を見つめ、力強く言った。 リュウは見た。 『金が要る』と言ったときのフーケの顔を。 それは自身の欲の為ではなく、必要に迫られた悲壮感漂うものだった。 おそらく誰かのために多額の金が必要なのだろう。 自分から大貴族であるルイズやキュルケに頼めばそれなりの額は工面してもらえるかもしれない。 だが、もしそうしてフーケの為に金を用意しても、きっとフーケはその金を受け取らない。 自分がフーケのためにしてやれることは、何も無かった。 目の前にいる人間すら助けることのできない自分。 多少は人より力が強いかも知れないが、それが一体なんだと言うのか。 己の無力さに歯噛みするリュウ。 それに街で聞いた話ではフーケは金持ちの貴族からしか盗まないらしいし、彼女の行動から人の命を奪うこともしないことを知った。 決して褒められたことではないが、誰かの為に何かを成そうとするフーケの行為を止めることなど、無力な自分にできるはずがなかった。 「そんな顔するんじゃないよ。あたしは盗賊なんだよ?」 リュウの思いつめた顔を見て、フーケはリュウが何を思っているのかを悟った。 「さっきも言ったけど、あんたってば本当にいいヤツだね。あんたに気にかけてもらえるなんて、あの貴族の娘が羨ましいよ」 フーケは更に言葉を続けようとしたが思い直して口を閉じ、しばらく無言でリュウの顔を見つめる。 「・・・このまま道なりに進みな。1時間もすれば小屋のある広場に出るからね。その小屋の中に、箱に入れて置いてあるよ」 フーケはメガネを外し、髪を束ねていた結紐を解く。長く美しい緑の髪が風に煽られ大きく広がる。 「ロングビルはこれで終わりだよ。『破壊の珠』が手に入らなかったから、もう学院にいる意味ないしね」 「そうか。何か伝えておきたいことはあるか?」 リュウが尋ねる。 「そうだね・・・オスマンのジジイに礼でも言っといてくれると嬉いね。 あんたの秘書をやってたことに文句はなかった、給料の額だって満足してるって。”土くれのフーケ”様が感謝してたってね。 実際、あのジジイは平民のあたしにも十分良くしてくれたよ。セクハラだけはどうにも我慢ならなかったけどね」 フーケが少しだけ寂しそうに、しかし笑顔で言う。 「物盗りが何言ってやがるって話だけどね」 そう付け加えてけらけらと笑うフーケ。 陽光に照らされるフーケの笑顔はとても眩しく、美しかった。 「元気でな」 リュウが短く言う。 「あんたもね」 フーケは馬車の手綱をリュウに手渡すと、ぐっと顔を近づけた。 「このフーケ様が敵わないって思った相手なんだ、よく顔を見せとくれ」 しばらくリュウの顔を見つめたあと、突然自分の唇をリュウの唇に合わせる。 「な!?何をする!!?」 滑稽なほど慌てふためくリュウ。とにかく、色恋沙汰とは縁遠い男だった。 「見逃してくれた礼だよ。悪くはないだろ?これでも自分の見てくれには自信があるんだ。 ホントは一晩ぐらい相手してやっても良かったんだけどね、それをしちまうと、あたしがあんたに惚れちまいそうだからさ。残念だけどやめとくよ」 フーケはじっとリュウを見つめると、とびきりの笑顔で片目をつぶる。 「じゃあね」 それだけ言うと御者台から飛び降り、フーケはそのまま森の中に消えていった。 ――惚れちまいそうだから・・・か。もう、どっぷり手遅れだよ。 ホント、”土くれのフーケ”がなんてざまだい・・・―― 馬車を見送りながらフーケが自嘲気味に呟いた。 「さて・・・なんて言い訳するかな・・・」 リュウは一人になってしまった御者台の上でルイズ達にどう説明しようかと悩むのだった。 前ページ次ページゼロと波動
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前ページ次ページとりすていん大王 色々とありつつ始まります とりすていん大王 9回目 「特急、ラ・ロシーェル発、アルビオン行き~、ラ・ロシーェル発、アルビオン行き~ご乗船ありがとうございます」 お父さん一行はラ・ロシーェルの桟橋でアルビオン行きの船に乗りました 「やはり飛空船は駅弁だね」 「そうね、ワルド様、あとお茶ですわ」 「駅弁サイコー」 「まぁ タバサったら(ぽっ)」 「ツェルプストー自重しなさい お父様お茶どうぞ」 「ははは(ずずず)」 なんだかんだと一行が呑気にご飯を食べている間に船はアルビオンに到着しました そして・・・ 色々すっとばして舞台はアルビオン城の礼拝堂、お父さん一行はいきなりピンチに見舞われたのです 「ふふふ、そうだ僕はレコン・キスタだ!!」 「ワルド様!!」 「ルイズ、僕と共に行こう」 「ワルド様、頬にご飯粒がついてますわ」 「え?ああ、急に場面が変わるからさ」 ウェールズ王子の胸に杖をつき立てルイズを無理やり小脇に抱えたワルドが勝利の高笑いを響かせます 「はははは、ウェールズ王子の命!!僕の花嫁ルイズ!!そしてアンリエッタの手紙、目的は全て達した!!」 今までの存在感の無さが嘘の様にその存在感をアピールするワルド お父さんもルイズが人質となっているので動けません 「ははは!!お前らもレコン・キスタに参加すれば命は助かるぞ!!」 その言葉に反応したのは意外にもモンモランシーでした 「ふ、ふざけないでよ!!誰がレコン・キスタなんかに参加するものですか!!」 その言葉を聞いた瞬間にワルドの顔が能面のように感情を無くしました そして厳かに告げます 「そうか、だったら選べ、今 僕に殺されるかレコン・キスタの兵士に陵辱の限りを尽くされ死ぬか」 ぎりりと歯を強くかみ締める音が二つ、ルイズとモンモランシーの二人です そして・・・ その声はぴたりと重なりました 「「誰があんたの思い通りになるんもんですか!!」」 「なら纏めて死ね!!ライトニング・クラウド!!」 強力な雷撃がモンモランシーを襲います モンモランシーが恐ろしさの余り、目を瞑ったその時、目の前に立つ影がありました 「お、お父様!!」 そうです、お父さんがみんなの前に出て魔法をその身で受けたのです お父さんの所々が黒く焦げ、煙が上がってます 「ふふふ、さすがモンモランシー伯 だが次はどうかな!!」 勝利の美酒に酔いながらワルドがさらにお父さんに向けて一撃を放ちました 「いやぁ!!」 「やめてぇ!!」 モンモランシーやルイズの絶叫が礼拝堂に響きました ですが当のお父さんは何かを確信したように呟いたのです 「・・・きたか」 瞬間、お父さんの眼前の地面が爆発しました そして出てきたのは 「おでれーたー!!俺様 相棒と大とうじょぉーーう!!」 デルフリンガーを持った黒髪の少年でした 「師匠、おくれてすんません!!」 いきなり現れた黒髪の少年なんとデルフリンガーで魔法を吸収してしまいます 「な、なんだと!?うぉおお!?」 いきなりの闖入者にワルドが驚いていると急にワルドの足場が崩れ落ちましたその拍子にルイズを離してしまいました 「し、しまった」 慌ててルイズを捕まえようとしたワルドの前に地面から7体の戦乙女を模した青銅のゴーレムが現れてワルドの邪魔をします 「乙女の心を踏みにじるヤツ・・・」 土煙の中からあの男の声がします 「乙女の夢を壊すヤツ・・・」 段々と薄れていく土煙にあの見覚えのあるシルエットが写ります 「そんな女性の敵は、このギーシュ・ド・グラモン・・・いや」 モンモランシーは高鳴る胸を押さえ、ワルドは薄れゆく土煙を鋭い目つきで睨み、ルイズは不安そうな瞳で見つめ、 キュルケは戸惑い、タバサは無表情ですが素早く次の行動を頭の中で計算し、お父さんは深く頷きました 「新しく生まれ変わったこの僕!!ギーシュ・ザ・グレートが許さない!!」 土煙が晴れたそこには、以前お父さんに(無理やり)修行の旅に連れて行かれて久しい級友、あのギーシュ・ド・グラモンが立っていました そして彼を見て一同は叫んだのです 「「「「「へ、へ、変態だぁーーー!!」」」」」 ギーシュの姿は筋肉ムキムキの体に青いブーメランパンツ一丁にマントを羽織り、杖と同時に何故かバカみたいにデカい斧をぶら下げてるのですから 「・・・・・・いい」 「へ?タバサ何か言った?」 「ううん」 心なしかワルキューレもアマゾネス化してるような気がします 「な、なんなんだ一体?ぶべらぁ!?」 突然の闖入者たちに放心状態になっていたワルドがいきなり吹っ飛ばされました ふたりに殴られたのです 「いくぞ、サイト!!」 「おう、ギーシュ!!」 さらに二人の闖入者は互いに顔を見ると頷き拳をおもいっきり振り上げました 「「往生せいやぁ!!」」 ガゥワコーンと言う音をたててワルドが吹っ飛んでいきます 「たわらばぁ!!」 奇妙な声を上げてワルドが空の彼方へと飛んで行きました まぁ吹っ飛びながらも 「僕はあきらめないぞー」 とか言ってるので大丈夫でしょう 礼拝堂ではお父さんとモンモランシーの魔法の治療で一命を取り留めたウェールズ王子と城で別れルイズにキュルケとモンモランシー、タバサが ギーシュが掘った穴を潜り抜けアルビオン城を脱出したのでしたが、何故かこの礼拝堂に残った影が三つ 「さて、ギーシュ、君は逃げなくてよかったのか?」 堂々と仁王立ちで押し寄せてくるレコン・キスタの大群を見つめサイトはにギーシュに問いかけます 「モンモランシーを虐めた奴らを許せはしないな、そういうサイト、君こそウエストウッド村に待ってる人がいるんだろ?」 「あいつらをほおっておくとテファになにするかわからないからな」 お互いの顔を見てにやりと笑うギーシュとサイト、そして 「やぁ、二人とも では殿を務めようか」 お父さんが二人の前に歩み出ると二人は恭しくお父さんに礼をしました それを見てお父さんは頷くとあらん限りの声でこれからレコン・キスタの大群相手に始まる大活劇の為に気を入れたのです 「ぶるうううああああああああああああああああああ!!」 続く 前ページ次ページとりすていん大王
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元スレURL 【SS】せつ菜「イヤホンが壊れました!」 概要 歩夢さんと一緒に買いに行きます! タグ ^優木せつ菜 ^上原歩夢 ^天王寺璃奈 ^園田海未 ^桜内梨子 ^近江彼方 ^短編 ^コメディ ^あゆせつ 名前 コメント
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キュルケは、ゲルマニアの人である。 彼女はゲルマニア貴族の中でも評判の美女だが、身持ちがかたく、どちらかというと無口で陰気な人柄であった。 しかし、彼女も十代の頃は炎のように燃え上がりやすく、恋多き奔放な乙女だったそうだ。 それがどうしてこのようになってしまったのか、人に尋ねられても彼女は決して語ろうとはしなかった。 ある春のこと。トリステインのモット二世という若い貴族が、たまたま彼女と話す機会を得た。 「良い季節になりましたね」 挨拶がてら時候を話題にすると、キュルケは不機嫌な顔になった。 「私は春が嫌いよ」 「それは、またどうして」 冬や夏が嫌いというのはよく聞くけれど、春が嫌いだと言う人は珍しい。 キュルケは遠くを見るような目をしていたが、ぽつりぽつりと、学生時代のことを語り始めた。 その当時、彼女はトリステイン魔法学院へ留学生としており、多くの男子生徒を恋路に明け暮れていた。 二年生への進級試験として、毎年この時期には使い魔を召喚する儀式が行われる。 この時キュルケは立派なサラマンダーを召喚して、風竜を召喚した親友と共に大いに注目を浴びた。 でも、もっとも注目を浴びたのは、ルイズという女子生徒が召喚した使い魔だった。 彼女が召喚したのは、見たこともないおかしな服装をした平民の女だったのである。 その女は遥か遠い国からやってきたものらしく、初めは戸惑っていたようだが、すぐに、はいはいとルイズに従った。 「夫に先立たれて子供もなく、親類の家に厄介になろうと思っておりましたところ、あなたに召喚にされました。これも何かのご縁でございましょう。どうぞ、使い魔にしてくださいませ」 女はこんなようなことを語っていたそうだ。 人間の使い魔なんて……と、ルイズは不満そうだったが、担任の教師に促されたことと、相手の従順さも手伝って、結局この女を使い魔にした。 その夜。キュルケは何となくルイズとその使い魔の様子が気になり、隣部屋であったことを幸いに、そっと聞き耳をたててみたが、別に変わった様子はない。 なんだつまらないと思って、その夜は約束していた相手もいなかったので、早々にベッドに入ってしまった。 ところが、その夜はどうにも寝つきが悪く、寝ているのか起きているのか、よくわからない状態が長く続いた。 そんな中、ふと耳をすませてみると隣の部屋から、何か声が聞こえる。 「痛い……痛い……」 ルイズの声で、そんなことを言っているようだった。 キュルケは朦朧とした気分であったので、最初は変な夢を見るわねえ――ぐらいにしか思わなかった。 だが次第に意識がはっきりしてくるに従い、得体の知れない胸騒ぎがしてきたので、使い魔を従えて、そっとルイズの部屋までいってみることにした。 ドアの前まで近づいたところ、サラマンダーが異常に興奮し始めた。 これに嫌なものを感じたキュルケは、いつでも炎を飛ばせるように杖を振るって呪文を唱え、蹴破るようにして部屋へ踏み入った。 部屋には、ぎょろりとした丸い目玉の、藍色の怪物がいた。 キュルケが攻撃魔法を放つ前に、怪物は乱杭歯をむき出して一声叫ぶと、窓を突き破り外へ逃げ出していった。 学院中は大変な騒ぎとなり、生徒も教師もほとんど総員のような形で怪物の行方を追ったが、結局怪物はそのまま姿を消してしまった。 使い魔の女は、どこにも姿が見えなかった。 しかし、ルイズの部屋には、女が着ていた衣服と、その女の皮が残されていたという。 「それで、そのルイズという女子生徒はどうなったのですか?」 モットが聞いたが、キュルケは詳細を語ることはなかった。 ただ、 「あの子は、髪の毛と頭の一部しか残ってなかった」 このように、いつも以上に陰鬱な表情で語ったという。 ※トリステイン王立図書館蔵、『古今怪異録集』より――
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「・・・・」 失神しているルイズの前で、おとーさんは困っているように見えます。 すると、ドアが開いてある人物が顔をだしました。その人物はおとーさんにここに至った経緯を説明してくれました。 その人物は(こんなドアあったっけ?)と、家に新しく出来たドアに近づいてじろじろ見ていました。 すると、突然ドアが開いて、中を覗こうとした女の子と鉢合せをしてしまいました。その距離実に20センチ。女の子は固まっていましたが、その人物は吃驚することもなく気さくに話しかけました。 「やぁ、僕りすのターくん。カリフラワーじゃぁないんだよ」 その台詞をちゃんと聞いたかどうかは分かりませんが、女の子はターくんが話し終わると同時に失神して倒れてしまいました。 「旦那。と、言うわけなんですよ・・・」 おとーさんはその話を聞いた後、おもむろにベッドの方を見ました。 ター君はその様子をみてポンと手を叩き「なるほど」と呟きました。 二人はベッドへルイズを運びました。おとーさんはター君へこの部屋に入らないようにと告げるとそのまま自分の家にター君を帰しました。 「・・カリ・・フラワー・・・んんんん」 ルイズは少々うなされている様でした。 おとーさんはそんなルイズを見てしばらく待ってからルイズを起こしました。 ルイズは飛び起きると目の前にいるおとーさんを捕まえて 「あああ、あのドアの向こうは、どど、どうなってるのよ!!!」 おとーさんは不思議そうにルイズを見ています。ルイズはその様子を見て(あれは夢だったのかしら?)と考え 「な、なんでもないわよ」 と言い、おとーさんに着替えを手伝うようにいいました。おとーさんは服を取りに行く為にルイズに背を向けると「くすくす」 と笑っていました。 着替えが終わり支度を済ませたところで 「朝食にいくわよ。付いて来なさい」 ルイズはおとーさんにそういいました。 (なんかこの使い魔私をバカにしてるみたいなのよね。食事で上下関係をハッキリ認識させてやるんだから) ルイズはそんな事を考えながら部屋を出ました。 するとキュルケとばったり出会ってしまったのでした。 「あら、ルイズ。おはよう」 「・・・おはよう、キュルケ・・」 ルイズはあからさまに嫌そうな顔をしています 「この白いゴーレムがあなたの使い魔?よく召喚できたわね~」 「うるさいわねぇ。正真正銘、私が召喚したんだからケチつけないでよ!!」 「そんなに怒らなくてもいいじゃない。フフッ・・・これが私の使い魔、フレイム。サラマンダーよ。しかも火竜山脈の・・・。 好事家に見せたらきっとかなりの高値をつけてくれるでしょうね・・・。」 キュルケとルイズがサラマンダーを見ると、おとーさんとフレイムが見つめ合っていました。そのうちフレイムは滝のような 汗を流し始めついには地面に這い蹲りました。 「フレイムどうしたの?・・・まぁいいわ、行くわよ」 サラマンダーの行動に首を傾げるキュルケでしたがそのままどこかへ行ってしまいました。 「あんた、何やったの??」 ルイズがおとーさんに尋ねると、おとーさんは一言こういいました。 「おとーさん・・・にらめっこ強い」 それを聞いたルイズはその場で吹き出して笑い始めました。 おとーさんはそんなルイズをみてなんだか少し嬉しそうでした・・・
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哩「……転んで縄が絡まってしまった。やけんいじめて」 京太郎「文脈がつながってないですよ」 哩「動けないのをいいことに後輩に乱暴されて……よかね」 京太郎「勝手に盛り上がらないでください。後、部室で転んで亀甲縛りはどうやっても無理ありますよ」 哩「……一人で縛るんちょっと大変やったとよ?」 京太郎「むしろどうやったんですか!?」 哩「さあ!ここに動けない女の子がおるんよ!?いじめるしかなかやろ!?」 京太郎「もうやだこのドM部長」 ガラッ 仁美「まーたやりよる」 美子「部長も好きやねー」 京太郎「先輩方!」 哩「ちっ、邪魔が入ったか」 仁美「なんもかんも部長のせいやから」 美子「あんまりやりすぎっといかんよ?」 京太郎「そうです、もっと言ってやってください」 美子「今日はうちらがやるんやけんね?」 京太郎「……はい?」 仁美「よし、部長は端っこの方に縛ったまま置いといて……」 哩「こ、こら!なんばしよっか!!」 美子「いつも部長や姫子ちゃんばっかり……うちらも、してほしかとよ?」 京太郎「えっと……それはどういう…」 仁美「早い話3人でってことやね」 京太郎「なんですかそれ!お二人は真面目な人だと思ってたのに!!」 仁美「かわいい後輩は欲しいし?」 美子「うちも……少しならいじめられてよかよ?」 哩「こらー!離せー!!放置プレイはよかけど寝取られは好かん!!」 仁美「普段独占してるし……ゆっくり、ね?」 美子「ね?胸はあんまなかけど……好きにしてよかよ?」 京太郎「ちょ……待っ……」 哩「離せー!!」 その後4人に増えました カンッ!!
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注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 「HELLSING」のアーカードを召喚 ゼロのロリカード-01 ゼロのロリカード-02 ゼロのロリカード-03 ゼロのロリカード-04 ゼロのロリカード-05 ゼロのロリカード-06 ゼロのロリカード-07 ゼロのロリカード-08 ゼロのロリカード-09 タバサとゼロの吸血鬼 ゼロのロリカード-10 ゼロのロリカード-11 ゼロのロリカード-12 ゼロのロリカード-13 ゼロのロリカード-14 ゼロのロリカード-15 ゼロのロリカード-16 ゼロのロリカード-17 ゼロのロリカード-18 ゼロのロリカード-19 ロリカードとギャンブラー-1 ロリカードとギャンブラー-2 ゼロのロリカード-20 ゼロのロリカード-21 ゼロのロリカード-22 ゼロのロリカード-23 ゼロのロリカード-24 ゼロのロリカード-25 ゼロのロリカード-26 ゼロのロリカード-27 ゼロのロリカード-28 ゼロのロリカード-29 ゼロのロリカード-30 ゼロのロリカード-31 ゼロのロリカード-32 ゼロのロリカード-33 ゼロのロリカード-34 ゼロのロリカード-35 ゼロのロリカード-36 ゼロのロリカード-37 ゼロのロリカード-38 ゼロのロリカード-39 ゼロのロリカード-40 ゼロのロリカード-41 ゼロのロリカード-42 ゼロのロリカード-43 ゼロのロリカード-44 ゼロのロリカード-45 ゼロのロリカード-46 ゼロのロリカード-47 ゼロのロリカード-48 ゼロのロリカード-49 ゼロのロリカード-50 ゼロのロリカード-51 ゼロのロリカード-52 ゼロのロリカード-53 ゼロのロリカード-54 ゼロのロリカード-55 ゼロのロリカード-56 ゼロのロリカード-57 ゼロのロリカード-58 ゼロのロリカード-59 ゼロのロリカード-60 ゼロのロリカード-61 ゼロのロリカード-62 ゼロのロリカード-63 ゼロのロリカード-64
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使い魔召喚の儀式 神聖なものであるこの儀式は、本来厳粛な空気の中で行われるものである。 しかし今、その厳粛であるはずの空気はどこにもない。 タバサを除いた、その場に居る者全員―それは監督役の教師も例外ではない―が爆笑しているのだ。 尤も教師の方はすぐにまじめな顔に戻ったが。 生徒達が爆笑したのは何故か。 それはタバサという少女が呼び出した使い魔が原因である。 その使い魔は以下のような特徴を持っていた。 小脇に本を抱えている 鼻の上にはちょこんと乗った小さなメガネ 知的な瞳 地味目の服 即ち、召喚主であるタバサに似すぎていたのだ。 それが大きなネズミである事を除けば。 当のタバサは普段の無表情を少々憮然としたものに変えていたが、そのネズミと呼ぶにはあまりにも異質なものが持つ本を見た途端にその表情を一変させた。 それは驚き。 本を持っているということはそれ即ち高い知性を持っているということである。人間の言葉を解するかどうかは定かではないが、恐らく独自の文化形態を持っているであろう。 母が煽った毒は異質な物であった。人間の創造しうる物ではない。 ならば召喚されたこの異質な者が解毒方法を知っている可能性もあるかも知れない。また解毒は出来ないにしても何らかの手がかりは得られるかもしれない。 何せ博識である彼女が見たことも聞いたことも無いのだから。 あまり強そうでないのは少々残念ではある。ではあるが、母の治療が最優先事項である。 なればこそ、この使い魔と確実に契約しなければならない。 そう決心し、一つ頷いてタバサは契約に向かった。 しかしその歩みと同級生の爆笑は使い魔の放った一言によりピタリと止まることとなる。 「ええと、僕は召喚されてしまったのでしょうか?」 その問いに答える者はいない。たっぷり30秒は経った辺りで生徒達がざわめきだした。 「コルベール先生、タバサの呼び出した獣・・・あれは韻獣にござるか?」 「左様」 「左様って・・・」 コルベールとタバサだけの表情だけが変わっていない。そう、ミスターハゲもまた呼び出されたものの特異性に気づいていたのである。 尤も内心は驚いている様で、口調はおかしくなっていたが。 一方のタバサはというと、冷静にこれを分析していた。 一般に韻獣と呼ばれる存在は総じて知能が高い。また先住魔法を操る事も多い。つまり使い魔としては「当たり」である。 その上この韻獣は本を所持していることや、学者のような風体をしていることから特に高い知性を持っていそうなのだ。 思わず顔が綻ぶ。そして再びその歩みを進めた。 そして先程の問いに答える。 「そう」 「え?」 「さっきの質問。貴方には私の使い魔になってもらう」 「使い魔・・・ですか。つまり貴方に仕えろと、そういうわけですね?」 「そう。断ったら実力行使」 「ええええええ、ひどいです!ひとでなし!」 「貴方の力が必要。・・・・・・だめ?」 「・・・・・・・ハァ。わかりましたよ、わかりましたからそんな捨て犬のような目で見ないでください」 「ありがとう」 礼の言葉を呟き、呪文を唱え、キス。 こうして異世界より呼び出されたポケット族の賢者はタバサの使い魔となったのであった。 使い魔との契約を終えたタバサは、使い魔の能力を把握せんとしていたが、背後から聞きなれた爆発音が響くのを耳にするとその開きかけの口を閉じ、召喚を試みている生徒の方へと向き直った。 自らの使い魔と同じくらいその生徒に興味があったのだ。何せ如何なる魔法を使っても爆発という現象が起きるのだ。前代未聞である。 彼女が通う魔法学校に於いて一、二を争う識者である彼女ですらその様な現象は知らない。それがその生徒に興味を持った理由だった。 その生徒の失敗魔法による数回の爆発の後、白く輝く美しい蟲が現れた。これまたタバサの知らぬモノである。 「おや、あれは轟蟲ですねえ。中々珍しい物を…」 どうやらこの韻獣はアレを知っているようだ。 「知っているの?」 「ハイ。あれはですね、轟蟲というとても硬い外骨格を持つ蟲です。産卵直前になるとえらく凶暴になって特定の蟲―鏡蟲というんですが―を捕食するという習性を持ちます。 そしてその鏡蟲を捕食すると外骨格が更に硬質化します。さながら強化外骨かk…ゲフンゲフン。ともかく、とっても硬くなるんです。生息数は大変少ないので、こうして召喚でもされない限りはまずお目にかかれません。また……」 えらく詳しく説明された。やはりこのネズミ、只者ではないと確信するタバサであった。 延々と続く蟲に関する説明を聞いていると 「さて、最後の召喚も終わりましたな。皆さん帰りますぞ」 教師の帰還を促す声が聞こえた。話し込んでいる間に契約が終わったらしい。 さて帰るかと飛行の呪文を唱え、「ちょ、待ちなさい!」という言葉に後ろを振り返ったタバサは目の前の光景を目にし硬直。直後に意識を失った。 何が起こったのか。端的に言えば、桃色の髪を持つ生徒の使い魔が彼女に激突したのである。 ところで貴方は昆虫の腹を見たことがあるだろうか?見たことのある人はわかるであろう、昆虫の腹というのはよくよく見ると実に気味の悪いモノなのだ。 巨大な昆虫ともなればその気色悪さは数十倍(オリコ○調べ)にもなる。 そして衝突の寸前にタバサが最後に見たのは凄まじい速さで迫る昆虫の腹側。あとは言わなくてもわかるであろう。 !タバサの苦手なものに昆虫が追加されました。 目を覚ますと、見慣れた天上が見えた。どうやら自室のベッドにいるらしい。はて、何故だろう。 体を起こし、無表情のまま首をひねっていると 「やれやれ、やっと目を覚ましましたか。」 飲み物の載ったお盆を抱えた私の使い魔が部屋に入ってきた。 そうだ。私は使い魔を召喚したのだ。そして……どうなった? 使い魔を召喚し、部屋に戻ろうとした。そして………… ムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイ ムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイ ムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイムシコワイ 「蟲はイヤ!」 「はい!?何ですか唐突に」 そうだ。落ち着かなくては。感情を表に出してはいけない。落ち着け、落ち着け。 「なんでもない」 「何でも無いようには見えませんでしたがねぇ。悪い夢でも見たんじゃないんですか?」 ヤレヤレといった様子で肩をすくめるネズミ。少々腹が立ったので、それ以上この話を引っ張るなという意思を込めて睨んだ。 あまりこたえた様子は無かったが黙ったので良しとしよう。 さて。 「状況説明」 「はい?」 「私が気絶した理由と、その後の経過を報告して」 そう、まず原因を究明しなければならない。 「ええとですね、まず貴方が飛行の魔法で空に浮かびました。ここまでは覚えてますよね?」 当然、覚えている。ので、コクリとひとつ頷く。 「その直後に貴方の後ろに居た男子生徒が飛び上がったんですが、その際轟蟲―これも覚えてますか?あの白い蟲です―を召喚した女子生徒を、あの表情から察するに、侮辱したんですね。」 ここまで聞いても未だ予想が付かない。先を促す。 「それを察知したのか、その女生徒の使い魔である蟲の片方が主を侮辱した男子生徒に突進したんです。使い魔同士である為か、その蟲、面倒なので”彼”と呼びますが、彼の怒りが感じ取れましたので、まぁ間違い無いでしょう。」 なるほど。予測がついた。一応確認を兼ねて更に説明を聞く。 「で、かなりの勢いで突進していった彼ですが、その渾身の一撃をかわされてしまったんですね。それで勢い余った彼は、射線の延長上に居た貴方に激突したと。そういうワケです。」 謎は全て解けた。犯人はヤス。 「……その男子生徒の特徴を教えて」 「特徴ですか?えー……そうですねぇ、軽くウェーブした金髪でしたね。それに金属製、恐らくは青銅製の、薔薇の造花を携えていましたよ?」 なるほど。なるほどなるほど。 あのキザ男が全ての元凶らしい。フ、フフ、フ…… 「ひっ!」 思わず浮かんだ笑み。それを見たネズミが何やら怯えている。どうしたの?ワタシコワイ? 「いいいいいイイエ、なななナンデモナイデス ヒメイナンテアゲテマセンヨ?エェ。」 そう。ならいい。 ……あ。 「何ですか?痛いのは嫌ですよ!?」 「名前。」 「はい?」 「貴方の名前。まだ聞いていない。」 そう、唐突に思い出したが、名前を聞いていなかった。 「ああ。そういえば名乗ってませんでしたね。僕の名はラクシュン。ポケット族の長より『見聞者』の称号を賜っています。」 「私はタバサ。よろしくラクシュン」 「はい、こちらこそよろしくお願いします。」 何故こんな大事な事を忘れていたのだろう? ……ああそうか。あのキザ男の所為だ。フフ、フフフ… 私に新たな精神的外傷(トラウマ)を与えてくれたあの男。どの様に復讐してやろうか。 「ご主人、怖いです……」 一日目 終了 次の日の朝 ボロ雑巾のようになったギーシュが学園の壁に磔にされておったそうな。
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前ページ次ページゼロのエルクゥ 「……あの」 「なんだい?」 ちーちちち……と小鳥の囀りが響き渡る昼下がりの陽光の中を、二人は馬車でゆったりと進んでいた。 御者台で手綱を引いているのは、草色の髪を風に揺らすマチルダ。後ろに乗っているのは、物珍しい漆黒の髪を同じく風に流す楓だった。 「本当に、良かったのですか?」 「いいって言っただろ? 元々少しの骨休めのつもりだったんだし、どうせトリスタニアぐらいまでは行かなくちゃいけなかったんだしね。ついでさ、ついで」 かっぽかっぽ、という蹄の音が、なんともうららかな風景であった。 「ま、それに、あの子があんなに必死に頼み事をするなんて、初めてだったからね」 苦笑とからかいが半々に混じり合ったようなマチルダの言葉に、楓は少し頬が熱くなってしまう。 それは、昨夜、その『あの子』と友人の契りを交わした後の事だ。 『マチルダ姉さん、お願い! カエデさんを恋人さんのところまで案内してあげて!』 魔法学院には戻れない事を言うに言えず、承諾させられてしまった。 先ほどまで馬車に揺られながら、『学院長のセクハラに耐え切れず放り出してきたから戻るのはバツが悪い』というある意味真実な事情を楓に話したところだ。 「人の事情も知らないで無茶言うんだから、まったく……」 当の魔法学院でフーケ扱いされていないという事実はトリスタニアで情報を集めた時に知る事になるのだが、今はそうぼやくしかない。 しかしその言葉は、呆れと共に確かな慈愛が感じられるものだった。 「……すいません」 「別にあんたが謝る事じゃないさ。逆に感謝してるぐらいだよ」 「えっ?」 「良くも悪くも他人の事ばっか気にして生きてきたあの子が、少しでもワガママ言えるようになったって事だからね。大進歩さ」 「マチルダさん……」 「はは。私がこんな事言ってたなんて、テファには言わないどくれよ?」 「はい」 微笑み合う二人を乗せた馬車は街道を外れていく。 「道を外れていくみたいですけど、いいんですか?」 「ああ。急いで行きたいんだろ? 明日の夜はスヴェルの月夜って言ってね。二つの月が重なるんだ。そして、アルビオンが一番ハルケギニアに近付くのがその翌日なのさ。船乗り達は風石を節約するために、ここ数日辺りはあんまり船を出さないんだよ」 「ふうせき?」 マチルダは首を傾げた楓に、彼女はハルケギニアの外から呼ばれたらしいという妹の説明を思い出した。 「風の魔法の力が篭った石でね。ものを浮かしたりする力があるんだ。それを使って、船を空に飛ばすんだよ」 その説明に、燃料のようなものかな、と楓は納得した。なるほど輸送業にとって燃料代は大事な問題だろう。 「ありがとうございます。魔法の事はよく知らなくて」 「遠くから来たって話だけど、そこには魔法がないのかい?」 「はい。物語や、空想のお話の中だけの存在でした」 「ふぅん……」 馬車はどんどんと道から遠のき、荒れた地を進む。ごろごろ転がっている大きめの石に車輪が取られ、揺れが酷くなる。 マチルダが舌打ちしながら小さなタクトのようなものを振るうと、揺れが少なくなった。 「歩くならいいけど、馬車で通るのは億劫だねえ。まあ、モグリだからしょうがないか」 口振りからすると、魔法で道をならしたらしい。 それよりも楓には、マチルダの言葉の中の一つが気になった。 「モグリ?」 「ああ。今向かってるのは、モグリの竜籠屋さ。値段は張るけど、対応の速さは信頼できるとこだよ。……ああ、竜籠ってのは、風竜の手に人が乗る座席を持たせた乗り物の事。竜が目立つもんだから、街ん中には作れないんだ」 楓は、時代劇で見るような『籠』を思い浮かべて、納得した。 「驚かないんだね」 「……そういうのを否定する気はありません」 「そういうのを利用するマチルダ姉さんは、もしかしたら、このままあんたをさらって遊郭に売り飛ばしちまうかもしれないよ?」 「あなたの……ティファニアさんに対する思いを、信じていますから」 「……やれやれ。テファもとんだ奴をお友達にしちまったもんだ」 降参、とマチルダは両手をあげた。 § 夕方頃に到着したその竜籠屋というのは、地下に作られていた。 容易には発見できないようにカモフラージュされた入り口をマチルダは難なく開け、地下に下りていくと、大きな空間が広がった。 鍾乳洞のような洞窟だった。それも、かなり大きなもの。少なくとも数十メートルの高さはあるその中に、何頭もの大きな竜が羽を休めていた。 奥には、浮遊大陸の側面に開いていると思われる外に続く大穴があり、雲が垣間見える真っ青な光景が覗いている。 耕一が見ていたアニメの、ロボットが発着する為の格納庫というかカタパルトというか……そんなものを思い出させた。 マチルダが近くにいた男に二、三言話し掛けると、竜籠はすぐに用意された。 座席を広くした観覧車のような『籠』に乗り込むと、器用に竜の足がそれを掴み、大穴からその翼をはためかせた。 「…………すごい」 籠には、四方に窓がつけられていた。後ろを見ると、雲が高速で流れ、巨大な岩の塊のような陸地が、みるみる遠ざかっていくのが見える。 一度、耕一のところに行くとき、能登から飛行機で羽田まで行った事がある。その離陸時に見た地上が遠ざかっていく速度と比べても、遜色ないように感じられた。 そうして半日ほど飛んだだろうか。夕方から夜を通り越して早朝と呼べる時間に、竜籠は地上へと降り立った。 そこは、ダングルテールと呼ばれるトリステインの辺境一帯の山中だという。あまり人の住んでいない地域らしく、裏組織のアジトなんかが多いらしい。 そこからさらに乗用の風竜と御者を一騎チャーターし、首都トリスタニアまで一日。この世界の金銭感覚がわからない楓でも値段が張る事ぐらいは理解できたが、マチルダは自分の為でもあるから気にするなと言うだけだった。 『土くれ』のフーケ包囲の為の検問が怖い故に陸路を使わないというのがその理由だった。今こうして風竜で飛んでいる際にも、直線では向かわず、巡視をかいくぐるようなルートを通っている。 これまでと違って魔法学院では、束ねた髪と伊達メガネで誤魔化していたとはいえ、自分の顔を多くのメイジに晒している。少し腕の立つ土メイジなら、覚えた顔の人相書きを作る事ぐらいは十分可能だ。 さすがに何百枚も作るのは金も骨も折れる作業だろうが、あの魔法学院から宝物を盗み出したのだ。面子を何よりも気にする貴族連中の事、数日経てば国中に手配書が行き渡ると考えるのは妥当な判断と言えるだろう。 結論から言えばそれは杞憂だったのだが、そのおかげで通常三日はかかる道程を一日で踏破できたのだから、楓にとっては幸運だった。 そして、一つに重なった大小蒼紅の双子月が煌々と照らす夜を過ぎ、徐々に空が明るみ始めた早朝。それまで地上に垣間見えていた小さな集落ではなく、外れに大きな宮殿を構えた立派な街並が見えてくる。トリステイン王国首都、トリスタニアであった。 正面門ではなくその裏手に降り立った風竜は二人を降ろし、そそくさと飛び去っていく。 「正面門から出てすぐの交差を西にいけば魔法学院さ。私はこれ以上ついていけないけど、ま、うまくやりなよ」 「はい。本当にありがとうございます」 「落ち着いたら、コーイチ君を連れてテファのところに顔を出しておあげ。きっと喜ぶだろうからね」 そう笑い、楓に宿代と馬の賃料だと言って金貨の詰まった袋を渡すと、マチルダはばさっとフードを目深に被り、足音無く朝もやの中に消えていった。 楓はもう一度マチルダの消えた方向に向かって深く頭を下げ、街の外周を回って正面門へ辿り着くと―――そのまま自らの二本の足で走り出し、馬と見紛うようなスピードで街道沿いに西へと向かい始めた。 § そこに到着した頃には、気持ちの良い朝の空が広がっていた。 高い城壁。立ち並ぶ塔。まさに中世ファンタジーという趣のトリステイン魔法学院は、既に活動を始めているようだった。 「……耕一さん」 城壁の外から塔を見上げながら、その存在を感じてみる。 「…………?」 なんとなく、遠い感じがした。すぐそこの建物にいるというのに、以前と変わらないぐらいの、おぼろげな存在感。 異世界故の精神ネットワークの異常だろうか、と不安を抱えながらも、楓は正門に立っている衛兵に、マチルダに教えられた通りの言葉をかけた。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢に面会をしにきました。カシワギカエデ、と言えばわかると思います」 少し眠たげな顔をした衛兵が少々お待ちください、と詰め所に声をかけると、使いらしき別の衛兵が学院内に走っていくのが見えた。 「申し訳ありません。ヴァリエール嬢は外出中らしく、現在学院にはいらっしゃらないとの事です」 しばらくして戻ってきた衛兵は、戸惑った顔を隠さずにそう告げた。 楓は軽く途方に暮れかけるが、目的がここにある事は間違いない。このまま退散する道理はなかった。 「……どこに行ったとか、いつ頃戻るとかは わかりますか?」 「いえ、そこまでは……」 「……そうですか」 言葉を濁す衛兵に、楓は落胆を隠せなかった。 これからどうしようか、と正門から中央にそびえる巨大な塔を何ともなしに見上げる。マチルダの話によると、あの中に男子寮、職員寮、食堂、浴場、図書館、宝物庫等々主要な施設が詰まっているそうだ。大きいはずである。 そんな楓の視界に入る朝の光が、さっと何かに遮られた。 「あなたが、ミス・カシワギ?」 「……あなたは?」 それは、背の高い女性だった。燃え盛る炎のような、軽くウェーブがかった長い赤の髪が、よく陽に焼けた艶やかな肌にまとわりついている。 ボタンを意図的に外しているらしいブラウスからは、豊満な谷間が覗いている。自分か初音と同じぐらい線の細い体に不似合いな爆弾がくっついているティファニアと比べると、体のバランス自体は非常に健康的なものだった。というかむしろアレが異常すぎるのだ。 「私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。お見知りおきを」 長い。長い上に、なんだかそこらじゅうからそれらしい名前をちぐはぐにくっつけたような、不思議な名前だった。 「……柏木楓です。あの」 「ええ。存じておりますわ、ミス・カシワギ。あなたが用があるのは、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールではなく、その使い魔。コーイチ・カシワギなのでしょう?」 余裕綽々、という言葉を体現したかのような微笑みで言葉を続ける、キュルケと名乗った女性。 「…………」 楓は、事情を知っている人に会えたという僥倖に喜ぶよりも、警戒心を先に持った。 鋭く細められる楓の瞳に、キュルケはどこか懐かしいものを見るように目を細め、そのままさっと頭を下げる。 「ごめんなさいね、そう身構えないで。さっきそこの衛兵に話を聞いて、ちょっとお話したいと思っただけなのよ」 「……あなたは……?」 「うふふ。あなたの恋敵、ですわ」 「っ!?」 ばさぁっ、と髪をかきあげて、キュルケは余裕の笑みを妖艶なそれに変えて再び笑った。 § キュルケに連れてこられたのは、城壁にある小さな塔の一つだった。 そこは女子生徒の寮らしい。しかし案内された一室は、『寮』と呼ぶにはいささか豪華な部屋だった。部屋は広く、家具には豪奢な飾りがつき、なんと大きな浴槽がでんと一つ置かれている。どこからか、ふんわりと香水の香りが漂っていた。 「お掛けになって」 楓は警戒を緩めないまま、手近にあった椅子に腰を下ろす。 「さて、これからちょっとお話を聞きたいと思うのだけど……その前に」 キュルケはベッドに腰かけ、男を誘うような仕草で脚を組んだ。 「あなたは、どうやってここまで来られたの?」 「どうやって……?」 「彼は、とても遠くから来たと聞いているわ。とても歩いていけないようなところからと。さて、彼と同じ名前をもつあなたは、一体どこからいらしたのかしら?」 「…………」 話すべきだろうか、と迷った。キュルケは何かしら事情を知っているようだが、その意図が読めない。『話を聞きたい』などというのは理由になっていないし、何より……恋敵、という言葉だ。 耕一が浮気をしているなどとは思わないが、目の前の女性から漂う色気を間近に見ると、一抹の不安を覚えてしまうのも仕方のない事であっただろう。 ただスタイルがいいだけではなく、それを最大限に活かして男を誘う術を身につけている。そんな雰囲気を纏っていた。 「ああ、あまり深い意味は無いの。実はこの近くに住んでいたのか、本当に遠くから彼を探しにきたのか、その程度でいいのよ」 「……?」 まだ意図が掴めず、首を傾げて先を促す楓。 「残念ながら、ヴァリエールとコーイチは、本当にどこかに出かけていていないの。彼を探してここまで旅をしてこられた、というなら、帰ってくるまで泊まるところが必要でしょう?」 「……そう、ですね」 「お話を聞く代価として、私のお客様として学院の客室に部屋を用意してあげようと思っただけなのよ。タダで人を動かそうなんて、ゲルマニアの誇りに傷がつきますもの」 帝政ゲルマニア。トリステインの東に位置する、始祖を縁とする古い王権から独立した新興国家。 貴族ではなく商人の国、とも揶揄されているぐらいの、実力(拝金)主義の国だと、道行く雑談でマチルダが言っていた。魔法の使えない平民でも、お金で領地を買えば貴族として扱われるとか。 つまりは、これも取引、という事だろうか。しかし、恋敵、と称した自分の話にそこまでする価値があるとは思えなかった。自分という恋人から耕一自身の話を聞いて、簒奪の参考にするとか、そういう事だろうか? 「どうかしら?」 なんだかやりかねない雰囲気の女性ではあるが、確信は持てなかった。小さな頃から耕一一筋だった自分には、色恋の駆け引きなんて全く経験がないのだ。 それに……そういう方向に考えが向くように、わざわざ女の自分相手に色気を振りまいているようなフシが無いわけでもない。 おいしい話には裏がある。が、その『裏』を看破する事は、楓にはまだ出来なかった。 「……あなたは、なぜ私から話を聞きたいのですか?」 だから、聞いてみる事にした。どうせ交渉なんて出来ないのなら、真正面からぶつかるしかない。 ……なんだか、ティファニアの時にも同じような事を思ったような気がする。元の世界に戻ったら少しは人見知りを直そう、と密かに決意した。 「興味があるから、じゃダメかしら?」 「……何に、興味を?」 「色々、よ。彼の事も、あなたの事も、故郷の遠いところっていうのも。私の二つ名は『微熱』。好奇心という微熱から、身を焦がすような情熱は生まれますの」 「好奇心?」 「そう。本当に単純な興味よ。未知の場所から召喚された未知の異邦人。興味がないなんて言ったらゲルマニア貴族の名がすたるってものですわ」 腐った伝統を廃し、革新を取り入れ、ゲルマニアは力を付けてきたのだから、とキュルケは笑った。 それは、おそらく嘘ではない。しかし……全てを語っているとは到底思えなかった。 「……では、恋敵、というのは?」 「あら、鋭いのね」 キュルケは笑みを崩さない。楓は知らず、眉を寄せて睨みつけてしまう。 「そう怖い顔をしないで。そうね、素敵な殿方でしたから一度誘ってはみたのですけど、恋人がいるからってすげなく断られてしまいましたのよ。さて、奪い取るのも悪くはないかなって思ってたんですけれども……」 じっと、眉を寄せた楓を見つめて。 「身を引きますわ。勝てない戦はしない主義ですの」 そう、にっこりと笑った。 「…………」 その明け透け過ぎる笑顔に、楓は呆気に取られてしまった。 絶妙な距離で纏わりつくように思わせぶりな事を言っていると思ったら、あっという間に手の届かないところまで一直線に退却。なんとも自由奔放だった。 「ふふ。奪うのも奪われるのも世の常と思っていますけれど、誰かの『一番』には手を出さないようにしてますの。さ、お返事を聞かせてくださる?」 キュルケの邪気の無い笑顔に、楓は知らず張っていた肩をそっと下ろした。 なんというか……言葉で抵抗しても無駄、という気がした。どれほどの向かい風を与えても平気な……いや、向かい風を吹かせれば吹かせるほど、煽られて燃え上がる炎を相手にしているような。 「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます」 「いいのよ。ギブアンドテイクですもの」 キュルケは、まるで理想の男を口説き落としたかのような笑顔で、にっこりと笑った。 「さて、お返事がそうという事は、本当に遠くからいらっしゃったのかしら?」 「はい。おそらくこのハルケギニアとは別の世界から、ある人の唱えた召喚魔法に便乗してやってきました」 「……はい?」 それまで常に余裕を保っていたキュルケの眼が点になる。楓は少しだけ溜飲が下がり、小さく微笑みを浮かべた。 § 「……本当の未知っていうのは、未知である事すら未知、って事なのねぇ」 楓の話を全て聞き終えたキュルケは、肩を揉み解しながら一言だけぼやいた。 彼と彼女は、魔法の存在しない月が一つの別の世界から来たという事。 精神感応能力で召喚ゲートの波動を感じ取り、それに乗ってきた事。 この学院に耕一らしき人物が使い魔として召喚されたことを聞き、訪れた事……。 「自分で言うのもなんですが、信じるとは思いませんでした」 「それが全部嘘だとして、誰が得をするのよ?」 「……さっき散々あなたにやり込められた私が、あなたの驚く顔を見て」 真偽は利害で見抜ける。そう言い切らんばかりのキュルケの声に、楓は少し悪戯っぽい声を出した。 話すがら、この人は取引だと言いながら、実のところ善意で協力してくれているのだとわかったから。 「あっはっは! そりゃ一本取られたわね!」 笑い転げるキュルケに、騙されたという感じは見受けられない。 「ま、事情はわかったわ。というわけで、ルイズ達が帰ってくるまで、あなたは私のお客様。好きなだけここにいてくれていいから」 「ありがとうございます」 「いいのよ。それじゃ、適当な空き部屋貸してもらえるように言っておくわね」 楓はもう一度頭を下げた。思えばこの世界に来て以来、人の善意に甘えてばかりだ。 素性が不明な自分の面倒を見てくれたティファニア。 その頼みでここまで案内してくれたマチルダ。 事情を知って(本人は取引だと嘯いてはいるが)協力してくれるキュルケ。 もし自由に会う事が出来るのなら、友人として付き合いたいと思う人達ばかりだ。 でも、帰らなくてはならない。大切な姉妹達を放っておくわけにはいかないのだから。 ……相談もなく勝手にこっちに来てしまった自分が言える事じゃないのかもしれないけど。 「ふぅ……」 主が出ていった部屋は、どこか寂しげだった。 手持ちぶさたに窓の外を眺めながら、ため息を一つ。 「……耕一さん」 耕一とその主人が何処に出かけたか、誰も知らないらしい。 公休扱いになっている事から学院長の許可は得てあるようだけど、それ以上の事はわからない、とキュルケは話してくれた。 一昨日の朝、朝早く馬に乗って出かけていくところは見ていたという。こんな事なら後を追っかけておくんだったわ。あぁ、でもそうしたらカエデと会えなかったわね。などとわざとらしく肩を竦めていたキュルケを思い出し、楓は微笑みを浮かべた。 ―――そして、それは急激に訪れた。 「あ、ぐうっ!?」 がくん、と楓の体が波打ち、椅子から投げ出され、床にくずおれた。 「あ、あ、あ、あ……っ!」 例えるなら、ドアノブを握って静電気が火花を散らしたショックの万倍のそれが、体の中心を貫いたような、途方もない衝撃。 それは、以前にも感じたことのある物だった。 「こ、耕一さん、耕一さん、耕一さんっ!!」 そう、それは―――『エルクゥ』が覚醒した時の、悦びの咆哮。 一年前、千鶴の鬼氣を受けて目覚めさせられた耕一の鬼が顕現した時と同じ―――いや、その何倍、何十倍もの衝撃と、激情。 どんな距離も無意味に、世界中に響き渡る怨嗟。同じエルクゥであれば、否応無く叩きつけられる衝動。 それは、遥か記憶の彼方、次郎衛門がエディフェルを看取った際のそれに似ていて……。 「だ、ダメえっ! 耕一さあんっ!!!」 「カ、カエデっ!? どうしたのっ!?」 楓が叫んだ瞬間、ドアが開き、慌てた様子のキュルケともう一人、小柄な女の子が部屋に走り込んでくる。 「耕一さんが、耕一さんがっ!」 「ど、どうしたのよ? コーイチがどうしたの? あのテレパシーってやつなの?」 楓の性格を、だいぶマシとはいえタバサのそれと同類と見ていたキュルケは、その今にも泣きそうな必死の表情に面食らっていた。 届けられる慟哭。直接楓に向けられているわけではなく、ただ全てに振りまいているだけの波紋でありながら、その場所まで特定できそうなぐらいに強いそれは、楓を強く焦燥に駆り立てていた。 「あ、アルビオン……!?」 「アルビオン? アルビオンがどうしたの? もしかして、アルビオンにいるっていうの?」 感じ取ったその場所は、楓が最初に降り立った場所……アルビオンの方向だった。 「う、あ、ああっ……!」 「ほら、しっかりなさいっ!! 何か異変が起こってるなら、助けに行かなきゃいけないでしょっ!?」 「っ!? あ……?」 キュルケの一喝に、楓の瞳に理性の光が戻る。 「落ち着いた?」 「は、はい」 「そう。それで、ルイズ達はアルビオンにいるのね?」 楓は、ためらいがちに頷いた。 「あなたが行って、どうにかなりそうなの?」 「……わかりません。でも」 耕一が、『エルクゥ』の力を解放した。 自分は、その傍に行かなければならない。居なければならない。 「そ。タバサ?」 言葉を続けなかった楓の目からその決意を読み取ったキュルケが、一緒に部屋に飛び込んできた少女に声をかける。その少女は無言で頷き、さらりとその蒼い髪を揺らした。 タバサと呼ばれた少女は、指を口元に当て、ピィー、と甲高い口笛を鳴らす。 「行くわよ、カエデ!」 「え、ええっ!?」 タバサが窓を開け、そのまま空中に向かって何のためらいもなくジャンプを敢行した。 楓を抱きかかえたキュルケもそれに続く。 何かを考える間もなく、三人の体は、思ったより遥かに小さな衝撃と共に着陸した。 「え……?」 ばさあっ、と大きな翼が風を凪ぐ音。 そこは見覚えがあった。つい数時間前まで乗っていたようなところ……風竜の背中だ。 「さあシルフィード! 目標アルビオン! 全速前進っ!」 キュルケが空の向こうに向かってびしぃっと指を差し、タバサは無言で背びれに背を預け、本を広げて読み出した。 三人を乗せた風竜、タバサの使い魔シルフィードは、きゅーい! と一鳴きして、ぐんぐんと空を昇っていった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ