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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第59話 平和と出会いと流れ星 宇宙怪獣 ザランガ 登場! ルイズたちの旅も、そろそろ前半が終わろうとしていた。 内戦状態のアルビオン大陸も、戦場以外では治安はなかなかよく、盗賊だのなんのには会わずに、 目的地であるウェストウッド村まであと一時間ほどの距離まで来ていた。 「内乱中だっていうから用心してたのに、結局平和なもんだったな」 「そーだな、俺っちも出番あるかもと思ってわくわくしてたのに、期待はずれだったわ、つまんね」 才人とデルフが仲良く髀肉の嘆を囲っている。馬車の旅というのも慣れれば退屈なもので、ラジオや カーステレオがあるわけでもなく、豊かな自然も逆に変化がなくて飽きが早い。カードゲームをしたり 本を読もうかと思ったりもしたが、馬車はけっこう揺れてカードが飛び散るし、この際こっちの文字にも 慣れようかとタバサに借りた本を開いたが、すぐに酔ってしまってやめた。 ルイズやキュルケなどは例によって先祖の誰彼がどうだとか、よく飽きもせずに言い争いを続けているが、 寝疲れてもしまった以上、退屈は最高の敵だった。仕方がないので御者をしているロングビルといっしょに 行き先を眺めた。街道は、旅人や商人が行きかい、こちらも平和そのものだった。 「この調子だと、予定より早く着きそうですね」 「そうですね……うーん」 「? どうかしたんですか」 予定が早くなりそうなのに、なぜか納得のいかない顔をしているロングビルに、才人は不思議そうに 尋ねると、彼女は首をかしげながら答えた。 「いやね。いくらなんでも平和すぎるなって、普段なら一、二度は盗賊に、特にこんな女子供ばっかりの 一行なんてすぐにでも襲われると警戒してたんだけどね」 「そりゃ物騒な。けど、王党派ってのが治安維持に力を入れてるって聞きましたが」 「かといっても、内戦中にそんなに兵力を裂けるはずがないんだけど」 「なるほど、でも襲われるよりは襲われないほうがましでしょ」 才人としても、悪人とはいえあまり人は斬りたくない。だからといって宇宙人や怪獣は殺してもいいのか といわれると困るが、更正の余地があるなら生きてもらいたい。もっとも、「こらしめてやりなさい」の パターンでギッタギタにしてやりたいとは、是非願うところだが。 そうしてまた一〇分ほど馬車を進めていくと、街道の先に槍や剣を持った一団がたむろしているのを 見つけた。最初は盗賊かと思ったが、身なりを見ると役人のようだ。彼らは一〇名ほどで、道端に 転がっている汚い身なりの男たちを縛り上げている。どうやら盗賊の一団が捕まっているようで、 街道を一時的に封鎖されることになった一行は、馬車から降りて役人の一人に話しかけて事の 次第を聞くことにした。 「実は、ここのところあちらこちらで盗賊集団が次々と壊滅させられていて、我々が通報を受けたときには すでに全員気絶させられて見つかるんです。おかげで、ここ最近は盗賊の被害が以前の一〇分の一 くらいに減りましたよ」 こちらが貴族の一行だとわかったようで、役人の対応はていねいなものだった。 「盗賊が次々と? どういうことですの」 「それが、盗賊たちの供述では一人旅をしている女を襲ったら、これがめっぽう強くて気がついたら 気絶させられて捕まった後だったとか」 「たった一人で!? そんな凄腕のメイジがいるんですか」 「いいえ、それが魔法は一切使わずに、盗賊のメイジも体術だけで片付けてしまったとか。もうアルビオンの 全土で数百人の盗賊や傭兵くずれが半殺しで捕縛されています。平民たちの間では、『黒服の盗賊狩り』と 呼ばれてもっぱらの噂になってるくらいですよ」 「『黒服の盗賊狩り』……体術だけでメイジを含む盗賊団を壊滅させるなんて、サイトみたいな人がほかにも いるものねえ」 ルイズは世の中は広いものだと、しみじみ思った。自分の母である『烈風』カリンもしかり、世の中には いくらでもすごい人がいるものだ。 なお、この噂の人物の正体は旅を続けているジュリなのであるが、別に好き好んで盗賊狩りをしている わけではない。若い女性があんまり無防備に一人旅をしているものだから、身の程を知らない盗賊たちが 喜んで集まってきて、その挙句返り討ちにあっているというわけである。この盗賊団にしても、昨日 似たような行為をしたあげく、丸一日野外に放置されて、気がついたときには縛り上げられていたのだが、 この時点では当然ルイズたちがそれを知るよしはない。 顔をボコボコにされて肋骨を二、三本はへし折られたいかつい男たちは、いったい自分たちに何が起こった のかわからないまま、役人に連行されていった。傷の手当てもろくにされずに、この酷暑の中を歩かされて いくのは死ぬような思いだろうが、所詮は盗賊働きをしようとしての自業自得なので同情には値しない。 「失礼しました。どうぞお通りください」 役人たちの事後処理が終わって、馬車は再び走り出した。役人は去り際に、この近辺の盗賊団はこいつらで ほぼ一掃されました。ごゆるりと、旅をお続けくださいと、まるで自分の手柄のように言っていたが、それもまた 彼の顔といっしょに忘却の沼地への直行となった。 一行を乗せた馬車は、それから街道の本筋を離れた森の中の脇道に入っていった。こちらに入ると、 本道のにぎやかさも嘘の様で、自分たち以外にはほとんど人とすれ違うこともなかった。木々の張った枝は 広く、昼間だというのに小さな道は木漏れ日がわずかに射すだけで薄暗い。しかしその分涼しくはあり、 これでやぶ蚊さえいなければ天国といえた。 馬車は、そんな木々のトンネルの中をわだちの跡をたどりながら進んでいく。 「つきましたわよ」 ロングビルに言われて馬車から身を乗り出したとき、一行はそこに村があるのかすらすぐにはわからなかった。 よくよく見てみれば、森の中に数件の小屋と、畑らしきものが見え隠れしている。 その後、ロングビルの言う村の中央に馬車を停め、一行はようやく到着したウェストウッド村を見渡した。 本当に、村というよりは山小屋の集まりといったほうがいい。家々は、この森の中ではたいした存在感を持たず、 畑も自給自足というレベルに達しているのかどうかすら疑わしい。 「ここが、ウェストウッド村……ね」 自分自身に確認する意味も込めて、ルイズは村の名前を復唱した。はっきり言えば、タルブ村より少し小さい 程度を想像していたのだが、その予測は完全に裏切られた。これでは村という呼び方すら過大に見えてしまう。 産業などある気配はまったくなく、ロングビルの仕送りがなければあっという間に森に飲み込まれてしまうのは 疑いようもない。ただ、村の裏手の森が台風に合ったみたいに広範囲に渡ってなぎ倒され、中途半端な平地に なっているのには、前はこんなことはなかったのにとロングビルも合わせて不思議に思ったが、とにかくも 村であるなら住人がいるはずである。 「テファー! 今帰ったわよーっ!」 そうロングビルが、目の前の一軒の丸木の家に向かって叫ぶと、数秒待ってから樫の木作りのドアが 内側から開き、中から緑色の簡素な服と、幅広の帽子をかぶった少女が飛び出してきた。 「マチルダ姉さん!」 「ただいま、テファ」 ティファニアと、マチルダと呼ばれたロングビルはおよそ一年近くになる再会を手を取り合って喜び合った。 けれど、ティファニアと初対面となるルイズ、才人たち一同は感動の再会を見て素直にお涙頂戴とは いかなかった。ティファニアが、ロングビルから聞いていた以上の、妖精という表現をそのまま使える、 美の女神の寵愛を一身に受けたような美少女だったから、というのもあるが、最大の、そう最大の問題は 彼女の胸部の二つの膨らみにあったのだ。 「バ、バストレヴォリューション!?」 と、平静であれば本人でさえ自己嫌悪したと思える頭の悪い台詞を、才人が呆然としてつぶやいたとき、 残った女性一同の中で、その台詞に怒りを覚える者はいても、否定できる者は誰一人としていなかったのだ。 「な……なに、アレ?」 「た、多分……胸」 と、ルイズとシエスタ。 「ね、ねえタバサ、わたし夢を見てるの?」 「現実……」 青ざめて絶句しているキュルケをタバサがなだめている。唯一、年長者たちが何に驚いているのか わからずにアイだけがきょとんとしている。まぁ、阿呆な思春期真っ盛りな一同の気持ちを代弁するとすれば、 ティファニアの胸が彼らの常識を逸して大きかった。それで男の子の才人は思わず見とれてしまい、女子 一同の場合は、胸に自信のないルイズは逆立ちしても勝てない相手に絶望感を味わわされ、バストサイズに 優越感を抱いていたキュルケとシエスタは、完全に自信を打ち砕かれて天から地へ打ち落とされ、タバサは 一見平静を保っているように見えたが、内心では勝ち目〇パーセントの相手に、冷静な判断力を持って 敗北を認めていた。ただし、一時の激情も過ぎれば、それを埋めるための代償行為を要求する。 「このエロ犬! あんた何に見とれてんのよ!」 と、才人に蹴りを入れたルイズなどはその際たるものだろう。ほかの者たちも、小さくても形がよければ とかなんとかぶつぶつと言っているが、現実逃避以外の何者でもない。 けれど、いくら現実を拒否しても時間の流れを停止も逆流させることもできない。ロングビルと再会を 喜んでいたティファニアが、いっしょに付いてきた奇妙な一団に気づいて尋ねてくると、言葉尻を震わせながら 自己紹介をせざるを得なくなった。 「ト、トリステイン魔法学院二年生の、る、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。あ、 あなたのお姉さんには、い、いつもお世話になってるわっ!」 他の者たちもだいたいはこんな調子である。ティファニア本人は、何故この客人たちが動揺しているのか さっぱりわからなかったが、自分も陽光のように明るく無邪気な笑みを浮かべて、自分の名を名乗った。 そうして、一同はそれぞれ大まかなことを語り合った。ロングビルの名前が偽名であることはフーケ事件の 時から一同は察しをつけていたが、本名はマチルダといい、ずっとティファニアのために仕送りをしていたこと、 ティファニアも今はマチルダが魔法学院で秘書をしており、その縁で仲良くなった生徒たちだと聞かされた。 むろん、土くれのフーケについては一言も触れられてはいない。 それから、マチルダはアイを前に出して、この子を預かってほしいと頼んだ。すると、ティファニアは 自分の腰ほどの身長しかない少女の視線にまで腰を下ろして。 「はじめまして、アイちゃん。小さなところでがっかりしちゃったかな」 ティファニアは、「今日からここがあなたの家よ」などと押し付けがましいことは言わなかった。元々、 子供の育成に理想的な環境などではないことくらい彼女も承知している。来るものは拒まないが、 いくら幼かろうと相手の意思を無視してはいけない。しかし、ティファニアの懸念は無用のものとなった。 「いいえ、これからよろしくお願いします。テファお姉さん」 はつらつとアイは答えた。よき親を持った子供はよく育つ、ロングビルが育ての親となって暮らした この数ヶ月、純粋な子供は水と日差しを貪欲に得て伸びる朝顔のように成長していた。単に自由に育てたり、 勉強を押し付けたりするだけが教育ではなく、人はそれを躾といい、ティファニアに快い初印象を与えていた。 「こちらこそよろしくね。よーし、じゃあみんな出ておいで!」 ティファニアがドアを開けっ放しだった家に向かって手を振ると、中からいっせいに歓声をあげて 子供たちが飛び出てきて、一行に群がっていった。 「わっ、こ、こんなにいたのか!?」 才人たちは、この村の住人にとってちょっと久しぶりの歓迎すべき客人になる者たちを、喜んで 出迎えてくる十数人の子供たちに囲まれて、またもうろたえていた。どの子たちも、身なりこそみすぼらしいが、 瞳は明るく強く輝いている。むしろ大人に近いはずの才人たちのほうが力負けしてしまいそうな勢いだった。 「こらこらあなたたち、お客さんを困らせるんじゃないの。それじゃあ皆さん、狭いところですけど、自分の家だと 思ってくつろいでください」 はしゃぐ子供たちを落ち着かせて、ティファニアは困惑する一同を、家の中に誘った。まだまだ話したい ことは山ほどあるが、とりあえず立ち話もなんであった。時間はまだたっぷりとある。こうして、夏休み旅行の 本番は、小さいながらもいろいろハプニングの種がありそうな村で、革命的な胸の持ち主の美少女との 出会いによって始まったのだった。 それから、場所を室内に移して、子供たちにまかれながらいろいろと話し合った結果、一行はこの数ヶ月分の 驚きをいっぺんに使い果たすくらいの驚愕を味わうことになった。 「エ、エルフぅぅっ!?」 と、ルイズとキュルケとシエスタの絶叫が響いたのが、その際たるものだっただろう。ティファニアの正体が エルフであることは、ロングビルが隠す必要がないと言ったおかげで早々に明かされることになったのだが、 ティファニアは驚く三人におびえた様子を見せていたが、一時の興奮が収まると。 「なにを怯えてるんだお前ら、アホか?」 白けた口調でつぶやいた才人の声もあり、落ち着きを取り戻していった。けれども、エルフがハルケギニアの 人間にとって恐怖の対象だということは変わりない。以前ジュリと話したときもティファニアは怯えていたが、 ジュリはエルフなど、文字通り星の数ほどいる宇宙生物の一つとしか思っていなかったために、すぐに 打ち解けられていた。また、才人は地球人であるために、エルフとはゲームの中で出てくる人間以外の 種族という印象しかない。けれど今回はあからさまな恐怖を向けられて、彼女は自分が大勢の人から 見たら忌まわしいものなのではと、泣きそうになっていたが、子供たちが怒りの声で糾弾をはじめた。 「テファおねえちゃんをいじめるな!」 その数々の声が、ルイズたちを攻め立て、ティファニアは慌てて子供たちを止めようとしたが、それより 早くルイズが謝罪した。 「ご、ごめんなさい。あんまり突然だったものだから驚いてしまって、失礼したわ」 キュルケとシエスタもルイズに次いで謝罪した。冷静になると、どう見ても弱い者いじめをしているようにしか 見えないし、才人の侮蔑するような視線が痛かった。むしろティファニアに「やっぱり、エルフは怖いですよね」 と、涙ながらに言われると、罪悪感ばかりが湧いてくる。 「いえ、悪かったのはわたしたちよ。エルフなんて見たことないから、怪物みたいなものかと先入観を 持ってたけど、案外人間とさして変わらないのね。けれど、なんでエルフがアルビオンに?」 ティファニアは、訥々と自分の素性についてルイズたちに語った。自分の母はエルフで、東の地から来て、 父は昔はこのサウスゴータ地方一帯を治める大公だったが、ある日エルフをかこっていたことが王政府に ばれて、追われる身となり、両親をその混乱で失い。親戚筋で、彼女を幼い頃から可愛がっていた マチルダにかくまわれてこの森で過ごしていることなどを、途中何度かロングビルの助けを借りながら 話しきった。 「ハーフエルフ……可能性だけは聞いていたけど、本当に可能だったのね」 「母が、なぜアルビオンに来て、父と結ばれたのかは何も語ってはくれませんでした。それでも、母は わたしが生まれてからずっと、国政に関わることもなく、隠遁生活を続けていました」 何故ティファニアの母がアルビオンにやってきたについては、結局娘であるティファニア本人にも わからないということだった。話し終わると、ぐっとティファニアは喉をつまらせた。ルイズたちは、悪いことを 思い出させてしまったと後悔したが、彼女に悪いものは感じられずに、ちょっと無理をして微笑んだ。 「顔を上げて、ミス・ティファニア、あなたが悪に属するものではないということはよくわかりました。 夏の間の短い期間ですけど、しばらくよろしくお願いするわ。そうでしょ、キュルケ」 「ちょっとルイズ、あたしが言おうとしてたこともっていかないでよね。ま、いいわ。休暇の間、仲良く やりましょう。友達としてね……ある意味ライバルだけど」 「わ、わたしも負けませんよって、なに言ってるんだろうわたし!? と、とにかく人間……いえ、エルフも 人間も中身で勝負です! よろしくお願いします、ティファニアさん」 ルイズ、キュルケ、シエスタがそれぞれ、自らの内にあった偏見との別れを告げるべく、強く、そして 親愛を込めて笑いかけると、落ち込んでいたティファニアの顔に紅がさした。 「わ、わたしこそよろしくお願いします。それではわたしのことも、テファと呼んでください。マチルダ 姉さんのお友達なら、わたしにとってもお友達です!」 一同の間に、春の陽気のような暖かな空気が流れた。先程まで恐怖と警戒心を向けていたルイズたちと ティファニアは、仲良く手を取り合って旧知のように笑いあっている。それを静かに眺め見ていたロングビルは、 にこりと微笑んだ。 「よかったわね、テファ」 「姉さん、ありがとう。今までで最高の贈り物よ」 いきなりこんなに大勢の友達を得れて、ティファニアは今さっきとは別の意味を持つ涙を流していた。 元々、ルイズもシエスタもキュルケも、陰より陽に属する性格の持ち主なのである。それは怒りも憎しみも 存在するが、いわれもなく他者を貶めることに快楽を求めたことはない。しかし、そんな様子を同じように 見ていて、後一歩で飛び出そうかと思っていた才人はロングビルに軽く耳打ちした。 「ちょっと、無用心じゃないですか? もし、誰かが激発して彼女に危害を加えたり、秘密を漏らしたり するようなことがあっちゃ、大変じゃないですか?」 「大丈夫よ、オスマンのセクハラじじいのところに入って後悔したときから、人を見る目は磨いてきた つもりなの、じゃあ逆に聞くけどこの面子の中に一人でも恐怖や偏見に従って裏切るような人がいるの?」 そう言われると、ルイズやキュルケが裏切りなどという貴族の誇りを真っ向から否定する行為に手を 染める姿は想像できないし、シエスタも人一倍友愛や人情には厚いタイプだ。一度決めた友情を、 自分から裏切るようなことは絶対にするまい。ただ、三人の誰もまったく全然、どうしようもなく敵わない 二つの巨峰の持ち主に、冷たくすれば返って敗北を認めることになるという、負け惜しみの悪あがきに 近い屈折した感情があったのも事実であるが、それでも彼女たちは宇宙人とでも親交を持った稀有な 経験の持ち主である。エルフであるということを回避すれば、仲良くしない理由のかけらも存在しなかった。 「それでも、秘密を知る者は少ないに越したことはないでしょ」 なぜ、そんなリスクを犯してまでと聞く才人に、ロングビルは古びた木製のワイングラスから一口すすると、 自嘲げに才人に話した。 「実を言うとね。そろそろ私一人でこの子たちを守っていくのが限界になってきてたんだよ。子供はいずれ 大人になるものだしね。いつまでもこの森に隠しておけるはずもないし、今のうちに信頼できる味方を 与えてやりたいと思ったのさ。本来こんなことを頼めた義理じゃないかもしれないが、あの子の力に なってやってくれないか?」 「そういうことすか……でも、さっきのあなたの台詞を借りれば、おれたちが万一にも断ると思ってたんですか?」 才人は、投げられた変化球を同じ形でロングビルのミットにめがけて投げ返した。エルフの血を引く少女と たくさんの子供たち、自分の力だけではどうにもならず、多分ルイズやキュルケたちの地位や財力を頼る ことにもなるかと思うが、できるだけのことはしてやろうと彼は思った。 「まっ、ティファニアくらい可愛い子だったら、守って腐るほどおつりがくるわな」 「サイトくん、嫁にはあげないわよ」 「そういうとこだけは親バカですね。ま、無関心よりゃずっといいか」 親バカなロングビルというのもなかなか親しみが持てると、才人は苦笑しながらも、タバサを巻き込んで 輪に入っていった。 それから、一行は薄暗くなってきた外に合わせるように、夕食の準備を始め、最終的にティファニアの家で 二十人以上が一つの卓を囲んでの大宴会をおこなって、終わる頃にはもうなんらの屈託もなくティファニアや 子供たちと交流できていた。 やがて夜も更けて、子供たちはそれぞれの家に帰って早めの就寝についた。アイは、早めにこの村に 慣れるためということで、エマという子といっしょの家で寝ることになった。 さて、子供たちが大人しくなると、今度は夜更かし大好きな少女たちの時間である。ルイズたちは ティファニアと女同士の話し合い、というか、どうすればどこが大きくなるかという重要会議を始めて、 男性である才人は外に追い出されて、同じように外で涼をとりながら酔いを醒ましていたロングビルと、 ぽつりぽつりと話し合っていた。 「やれやれ、雁首揃えて何を話し合ってんだか」 今、ランプの明かりをこうこうと照らした室内では、”ティファニア嬢との親交と友愛を深めるための会談” が、おこなわれているはずであったが、実際に中から聞こえてくるのは、何を食べているのかとか、 普段どういう運動をしているのかとか、根掘り葉掘りティファニアに尋問する言葉ばかり聞こえてきて、 持たざる者の哀愁を感じざるを得ない。特にルイズは、今後成長期が奇跡的にめぐってきたとしても ティファニアを超えることは物理的に不可能なので、なおさら哀れを感じてしまう。あれはあれでいいもの なのだが…… 「サイトくんには、胸の小さな子の悩みはわからないのかしら?」 「正直あんまりわかりません。けど、やたら大きけりゃいいってもんじゃないと思うがなあ。誰も彼も大きければ 個性がねえし……それよりも、ロングビル……えーっと、マチルダさん」 「どっちでもいいわよ。どのみち帰ったらロングビルで通すんだし。それで、私に何か用?」 ロングビルも、久々の里帰りで機嫌がよいようだ。 「じゃあロングビルさん。あの連中、ほっといていいんですか? どーもテファの教育上よくない気がするんすが」 「なあに、いずれ外で暮らすようになれば嫌でもそういうことは関わっていくことになるから、予行演習には ちょうどいいわ。あの子はちょっと純粋すぎるところがあるからね」 要は、無菌室で育てはしないということか、それに比べて、世の大人には子供にはいつまでも天使の ように純粋でいてほしいと、子供の一挙一頭足まで厳しく制限する親がいるが、それは子供への愛ではなく 自らの妄想が作り出した理想の子供像への執着に過ぎない。そして、親の幻想を押し付けられる子供には かえって有害でしかない。悪魔どもが天使を陥れようと跋扈するのが世の中なのだから。 「純粋すぎますか。けど、テファがあいつらに感化されたらそれはそれで問題な気がしますが」 「……」 誇り高く尊大で暴力的なテファ、お色気ムンムンで男あさりをするテファ、妄想爆発でイケナイ子なテファ、 果ては無口で本ばかり読んでいるテファ、思わず想像してみた二人はぞっとするものを感じた。 「ま、まあそのことは、あとでテファに注意しておきましょう……」 朱に染まれば赤くなるというが、あの連中の個性は朱というよりカレーのしみのようなものだ。一度 ついてしまえば洗っても落ちない。ロングビルは、この際積もる話もあるということで寝る前に悪い影響を 受けてはいないかと確認することにした。 だが、先程の話ではあえて出さなかったが、アルビオンにいるエルフということで、才人は一つ心当たりを つけていた。けれど、それを直接ティファニアに聞くことははばかられたので、ロングビルにそれとなく 話を振ってみようと思っていたのだが、せっかくの再開で機嫌がいいときにそんなときに話を振って よいものかと、才人は今更ながら少々迷っていた。 「ところで、ロングビルさん」 「なに?」 「実は……えーっと」 やはり、いざとなると簡単には踏ん切りがつかなかった。それに、エルフであるからと迫害されてきた ティファニアの素性のことを思うと、聞きたくないという気持ちも同じくらいある。しかし、彼の心境を読んで 先手を取ったのはロングビルのほうだった。 「まあ、言わなくてもだいたいの予測はつくけどね。あの子の母親のことでしょ?」 「えっ!? あ、はい」 こういうところは、さすが元盗賊だなと才人はロングビルの読心術に感心した。とはいえ、そうなれば 話は早い。才人は、覚悟を決めると一気に疑問を口にした。 「タルブ村で聞いた、アルビオンに旅立ったエルフの少女、もしかしてテファのお母さんは……」 「察しがいいわね。私も、タルブでその話を聞いたときは驚いたけど、間違いないわ。あの子の母は、 三〇年前にタルブを訪れたエルフの少女、ティリーよ」 やっぱり、と、才人は予測が当たったことに心中で喝采したが。 「なんで、あのときにすぐおっしゃってくれなかったんですか?」 「時期を見て、順にと思っただけよ。あのとき全部話したら、あなたたちパニックになったでしょう」 「まあ、そりゃそうですね」 才人はロングビルの気遣いに感謝した。けれど、才人の目的はティリーではなく、彼女といっしょに アルビオンに旅立ったもう一人のほうだ。 「ですが、こうなったらもう単刀直入に聞きます。ティリーさんといっしょに、ここにはもう一人、異世界からの 来訪者、アスカ・シンさんがいたはずです。彼がこちらに来てからどうしたのか、知っていたら教えてください」 誠心誠意を込めて、才人はぐっと頭を下げた。しかし、ロングビルから帰ってきた答えは、彼の期待には 副えないものだった。 「ごめんなさい、残念だけど何もわからないの」 「そんな……」 「知っていたら教えてあげたいわ。けれど、何分私はティリーさんと会ったことは何度もあるけど、私が あの人と会ったころに、アスカさんはすでにいませんでしたし、私の実家が没落する際に彼女に関する ものは全て消失してしまって、今となっては……」 「そうですか……わかりました」 残念だが、三〇年も昔であれば仕方がない。だが、才人は同時に運命というもののめぐり合わせの奇妙さに ついて、思いをはせずにはいられなかった。 「それにしても、まさかと思ったけど……こんな簡単に出会えるとはなあ」 元々、アルビオンについた後は可能な限りアスカの、ダイナの足跡を探そうと決意していたが、あんまりの あっけなさには怒る気も湧いてこない。しかし才人は絶望はしていなかった。以前、完全に消息不明と オスマン学院長に言われたアスカの足跡が、今回はこんな簡単に見つかっている。今は途切れてしまったが、 運命というものがあるのだとすれば、その歩調は時代の流れと比例して停滞から速歩、疾走へと進んでいる のかもしれない。ならば、次のステップに進めるのも、そう遠い話ではないかもしれないと、才人は自分に 言い聞かせた。 「さあ、そろそろ子供は寝る時間よ」 「へーい」 気づいてみたら夜も更けて、月は天頂に今日は赤い光を輝かせている。室内では、飽きもせずに女子 五人がわいわいとやっていたが、ロングビルに一喝されてベッドの準備を始めた。この村にいる間は 貴族といえども自分のことは自分でやるというのが、最初にルールで決められていた。でなければ、 子供たちの見本にはならない。 「おやすみなさーい!」 一斉にした合図とともに、一行は昼間の疲れも重なって急速に眠りの世界へと落ちていった。後には、 鈴虫の鳴き声と、風の音だけが夏の夜の平穏さを彩り、朝までの安らかな天国を約束していた。 ただ、約一名、いや一匹、理不尽な不幸に身を焦がす者が存在していた。 「きゅーい! おなかすいたのねーっ!!」 村の上空をグルグルと旋回しながら、シルフィードは朝からずっと悲鳴を上げ続けている胃袋の叫びに 呼応して、自分にまったく声をかけようとしない主人に抗議していた。 「まさかお姉さま、シルフィのこと忘れてる? そんなの嫌なのねーっ!」 ここにも、バストレヴォリューションの犠牲者が一人……タバサがティファニアにショックを受けて、 シルフィードにエサをやるのをすっかり忘れていたのだ。けれども、空の上で月を囲んで回りながら叫んでも、 タバサはとっくにすやすやと安眠モードに入っていて、朝まではてこでも動かないだろう。 そんなとき、悲しげに空を見上げたシルフィードの目に、月のそばを横切るように飛んでいく小さな光が 見えてきた。 「きゅい? 流れ星?」 光り輝く小さな点は、夜空を横切って次第に遠ざかっていく。シルフィードは、しばしぼおっとその流れ星を 眺めていたが、ふと前にタバサから流れ星が消える前に願い事を言うとかなうという言い伝えを聞かされたのを 思い出して、前足を合わせて祈るようにつぶやいた。 「おなかいっぱいお肉が食べられますように、おなかいっぱいお魚が食べられますように、おなかいっぱい ごちそうが食べられますように」 なんともはや、自分の欲求にストレートなことである。けれども、シルフィードがたとえば「世界が平和に なりますように」とか願っても、みんな気持ち悪がるだけだろう。シルフィードの幼さもまた、シルフィードの 個性であり魅力でもある。ルイズにしたって「胸が大きくなりますように」と願ったに違いないのだから。 「きゅーい、お星様、シルフィのお願い聞いてなのね……ね?」 そのとき、シルフィードは自分の目をこすって、見えているものを確かめた。なんと、どういうわけか いつの間に流れ星の傍に、もう一つ小さな流れ星が寄り添うようにして飛んでいるではないか。 「きゅいーっ、お星様のお母さんと子供なのね。これなら、シルフィのお願いもよく聞いてくれるかもね。きゅいきゅい」 シルフィードは、このときだけは空腹を忘れて空の上ではしゃいでいた。 だが、残念ながらシルフィードの願いは届くことはないだろう。なぜなら、シルフィードから見て流れ星に見えたのは、 この星の大気圏ギリギリを高速で飛んでいく怪獣の姿だったからだ。 その正体は、宇宙のかなたからやってきた、丸っこい体つきをした、カモノハシとイタチとカエルの あいの子のようなユーモラスな姿の怪獣、ザランガだった。そしてそのかたわらには、ひとまわり小さな ピンク色の怪獣が元気に飛び回り、ときたま前に飛び出ていっていたが、やがて疲れて後ろに下がって休み、 大きなほうは、小さなほうが遅れないようにその間速度を緩めてゆっくりといっしょに飛んで、疲れが癒えたら、 また一生懸命飛び回っていた。そう、それはザランガの子供だった。 ザランガの一族は、この広大な宇宙を時が来れば長い年月をかけて旅をして子供を生み、また元の場所へと 親子で帰っていく渡りの性質を持っている。彼らも今から何年も前に、ここからはるかに離れたある星で親子になり、 子育てをするための元の星へと帰る途中だった。その彼らがこの星に寄ったのも、この惑星が今は宇宙の果ての 水と自然にあふれたその星によく似ていたからかもしれない。 やがて親子は、旅の間のわずかな寄り道にきりをつけて、また宇宙のかなたへと飛び去っていった。 もしかしたら、何百年か先にこの子供か、別のザランガがこの星を訪れるかもしれない。けれども、 ザランガは美しい水が大量にある星でしか子供を生めない。果たしてそのとき、この星はザランガが安心して 子供を生める平和な星であり続けられるのか。流れ星に願いがかけられるように、流れ星もまた願いを かけていた。 ずっと平和でありますように、と。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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わたしの祖父はタルブから遠く離れたサウスタウンという町から来たらしい。 らしいというのはどうやって来たのかが分からなかったし、 誰もサウスタウンを知らなかったからです。 わたしの祖父は物凄く強い、オーク鬼も素手で倒していました。 盗賊のメイジの魔法も気合いで吹き飛ばしていました。 村の人達に「極限流」という武術を教えてくれました。 私にも教えてくれました。 そんな祖父も年には勝てなかったらしく、数年前に亡くなりました。 私は祖父に極限流の奥義と仮面を貰いました。 そして私こと、シエスタ・サカザキは仮面で正体を隠し、 サイトさんを守るため、青銅のゴーレムと戦うのです。 「ちょっと、その仮面はどしたのシエス「私はシエスタというメイドではありません。 私の名はミス・カラテ…、ただの格闘家です」タ……」 ここからは音声のみでお楽しみください。 「飛燕疾風脚」ドガッ バキャッ 「ぼくのワルキューレがっ!くっ、これならどうだ!」 「暫烈拳」ドガガガガガガガガガ、ドキャンッ 「ふっ、さすがにきみも7人のワルキューレが相手ではきみも勝てないだろう」 「メイジが相手なら覇王翔吼拳を使わざるを得ない」 「覇王翔吼拳」ドゴォォォン×7 「ま、参った、僕の負けだ」 「覇王翔吼拳を会得しない限り、私を倒すことはできません!」 決闘終わり 遠見の鏡で一部始終を見ていたオスマン氏とコルベール。 「オールド・オスマン、ミス・カラテとはいったい何者でしょう」 「ミスタ・コルベール。きみ、アホだろう」 翌日 学院では昨日現れた謎の格闘家ミス・カラテの話題でもちっきり。 サイトさんが私になにか聞きたそうにしていました。 私は洗濯が終わったらいつものようにマルトーさんから貰ったワイン瓶で 『ワイン瓶割り』をしてから食堂へむかいました。 嘘予告 シエスタ・サカザキ、サイトさんを守るため、危険な国アルビオンにのりこむ。 アルビオンで彼女をまちうけるものは… 「覇王翔吼拳を使わざるを得ない」 おまけ あの仮面は大切な祖父の形見。いつも肌身離さず持ち歩いてます。 スカートの中に隠して… 「ちょっ、シエスタ!なんか尻にあたってるぞ!」 アッーーー
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【ネオン・ストリート】 双子とスキケレが住んでいる街。 昼は普通の街だが、夜になると数多のネオンに照らされ煌めく。 人間以外にも、獣人やアンドロイドなど、人間には数が劣るが様々な人種がいる。 元々はギャングスタの根城であり、双子と保安庁(警察のような組織)の働きによって数はだいぶ減ったがまだ蔓延っている。 ギャングスタは人身売買も行っており、特に人外や特殊な能力を持つ者などを狙う。 そのため、保安庁はそれに当たる者に危険区域に近付かないように呼びかけている。 以下、5人の住民を紹介。 ナコマ 性別:女 身長:168cm 体重:50.7kg 年齢:17歳 好きなもの:可愛いもの、勉学、双子、本 嫌いなもの:犯罪者・ギャングスタ、下ネタ、セクハラ、不真面目な人、不誠実な人 趣味:お茶、読書 特技:シューティングゲームで高得点を出す、狙い撃ち ネオン・ストリート保安庁長官の娘で特殊部隊隊長。 母は小学生の時に離婚したため、父子家庭(原因は母の浮気)。 スキカとスキセの最初の友達で親友。 超がつく生真面目で、思考も硬い頑固な奴だが、親しい者なら多少の融通はきく。 学校に通っており、自身を「華の女子高生」と言うが、仕事熱心なのも相まってあまり伴ってない。 因みに成績優秀・文武両道な模範生で生徒会長。 双子と知り合ったきっかけは、二人が街に来て間もない頃、スキカとシューティングゲームで対戦したのがきっかけ。 凄腕のスナイパーで、任務中はその腕が発揮される。 スナイパーといっても近接攻撃もお手の物で、ガン=カタを得意としている。 愛用のライフルはスキケレが作ったもので、大きめの拳銃とマシンガンの2つに可変可能。 スキカとは逆に「可愛い」と言われたいのだが、周りは「カッコイイ」と言うので複雑。 これまたスキカとは逆に、「可愛い」と言われると真っ赤になって固まり、しばらく何も言えなくなる。 ナマコと呼ばれると怒る。 一人称:私 二人称:貴方、〜さん 例 「初めまして。私はネオン・ストリート保安庁長官の娘で特殊部隊隊長のナコマと申します。以後、お見知り置き願います」 「(セクハラされて)わいせつ行為及び名誉毀損の罪状により逮捕致します!!!!」 「スキカさん、スキセさん。何かあれば私に必ず、仰ってくださいね。私に出来る範囲内で、お力添え致しますから」 「我々はネオン・ストリート保安庁特殊部隊です! おとなしく豚箱に入りなさいギャングスタ!」 好き要素:黒セーラー、アンダーリム眼鏡、うねった三つ編み、女子高生+武器、三白眼、ありそうでない現代っぽい名前、ガン=カタ 使用制限:ご自由に coming soon...
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爆発自体については、おとーさんは平気でしたが使い魔たちが混乱して暴れています。 「し――― 静かに、娘が起きてしまいます」 おとーさんの電波な言葉で使い魔達は一応落ち着きました。 おとーさんが辺りを見回すと爆発のせいで木っ端や何かの破片が散乱しています。 咳き込みながら生徒たちは机の下から出てきます。 殆どの生徒は無事のようでしたが、逃げ遅れたのか一人の太った生徒が教室の隅でのびていました。 ルイズの方を見ると服はボロボロで全身煤だらけになっています。 「ちょっと失敗しちゃった」 煤を手で払いながらルイズはそう言いますが、生徒からは非難ごうごうです。 シュルヴルーズは最後の気力を振り絞りルイズに教室の掃除と今日一日魔法の使用を禁ずる事を言い渡して そのまま気絶しました。ルイズは元々魔法が使えないのであまり意味はありませんが。 爆発のせいで今日の授業が中止になったので生徒たちはそれぞれの部屋に帰りました。 教室にはおとーさんとルイズの二人だけが残り、爆発の後片付けをおとーさんがしています。 ルイズは机の上に座ってその様子を見ていました。本来ならばルイズが片付けをしなければならないのですが、 私の使い魔だからとおとーさんに押し付けたのでした。 「・・・・また・・失敗した・・・ 」 おとーさんは掃除の手を止め、呟くルイズを見ました。 「いっつも失敗するの。簡単なコモンマジックも使えないの。魔法成功率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』ってみんなバカにするの・・・・」 ルイズの肩が小さく小刻みに震えているのがわかります。 おとーさんは知りませんが小さい頃からルイズは貴族の三女として厳しく育てられてきました。 無論そのこと自体はごく普通なことなのですが、ルイズは魔法が使えないため人一倍厳しく育てられました。 ルイズ自身も人の何倍も努力して魔法が使えるように頑張りました。 それは、トリステイン魔法学院入ってからも続けてきました。ですが、どう頑張っても魔法を使うことが出来ませんでした。 その為、学院の生徒から馬鹿にされ平民からも表立ってではありませんが陰で馬鹿にされていました。 貴族としてその事は恥辱でした。また、使えない自分自身にも嫌悪感をつのらせていました。 「・・・サモン・サーヴァントが成功して・・・ おとーさんを使い魔に出来たから・・・ 魔法が使えると思ったのに・・・ なのに・・・」 ふいにルイズは優しく抱きしめられました。吃驚して顔をあげると抱きしめているのはおとーさんでした。 「ちょ、ちょっと、おとーさん何やって・・・」 ルイズがそう言うと今度は頭を撫で始めました。無言でしたがそれはそれはとても優しく。 そうこうしているとルイズの肩がまた小刻みに震え始めました。 「こここ、子ども扱いしないでよ!!!」 ルイズはそう言うとおとーさんから離れ教室の出口まで駆け出しました 「もう、おとーさんの今日の食事抜き!!」 そう一言残してルイズは教室から出て行きました。 おとーさんはしょんぼりした感じでまた教室の掃除を始めました。 おとーさんの掃除が終わったのは正午を少し過ぎたころでした。 ルイズの部屋に帰ろうとしていましたが、今朝の洗濯物の事を思い出してシエスタの所へ行く事にしました。 洗濯場へ向かっていたおとーさんでしたが、美味しそうな臭いがしてきたのでついついそちらの方へ行ってしまいました。 食堂に着いたおとーさんでしたがルイズから「食事抜き!!」を言われたのを思い出してしまいました。 おとーさんはその場で涎をたらしてぼーっとしていました。 シエスタは食堂の外にいるおとーさんに気がついて近づいてきました。 「使い魔さん。お洗濯物出来上がっているので食事の後で渡しますね~って え? 食事抜きなのですか???」 シエスタは少し考えた後 「ちょっとこっちへ来てください」 と、おとーさんを厨房の方へと連れて行きました。 「余り物で作った賄いのシチューなのですけど、良かったら食べてくださいね」 おとーさんはシチューを頂きました。賄いという事でしたが、朝食べた質素な食事に比べたら遥かに豪華でした。そしてそれはとても美味しいものでした 「美味しかったですか? よかった~。食事抜きの時はいつでも言ってくださいね。 え? 仕事を手伝いたい? じゃぁ、このデザートを配って・・・」 デザートを手にとってシエスタはおとーさんを振り返りました。そこにはメイド服姿のおとーさんが居ました。 「あ、あはは・・・・ 別に服まで着なくてもいいですよ」 シエスタは引きつった笑いでおとーさんにそう言うと、メイド服を脱がせて改めておとーさんに手伝ってもらうことにしました。 (私、なんかとんでもない事お願いしたんじゃ・・・) シエスタはちょっと不安を覚えました・・・・
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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ ロサイスに対する奇襲作戦は成功し、トリステイン・ゲルマニア連合軍は遂にアルビオン大陸に上陸する。 ダータルネスに艦隊が出現したとの急報を受け、3万の兵を率いて首都ロンディニウムから北上したホーキンス将軍は、 青空へゆっくりと消えていく幻影の艦隊を見て愕然とした。 とは言え、ロサイスからアルビオンの中心部に位置する首都までは300リーグあまり。 細長い大陸を縦断する街道はあるが、途中いくつもの都市や要塞があり、 すぐにアルビオン全土を制圧するわけには行かないだろう。 特にロサイスとロンディニウムの中間点、古都サウスゴータには亜人混じりの革命防衛軍がいる。 水際防衛線があっさり破られた以上、そこで押しとどめねばなるまい。あるいは今度こそ北から回り込んでくるやも知れぬ。 ホーキンスは下唇を噛み締め、ダータルネスの防備を固めさせてからロンディニウムへ戻った。 松下とルイズは3隻の『千年王国艦隊』に戻り、ロサイスへ向かう。その船室で、二人は戦況報告を受けていた。 「ロサイス上陸作戦では、味方の損害は比較的軽微だったようだな。教団兵にもさしたる死傷者はいない。 我々の陽動も功を奏したが、ゲルマニア軍にも新兵器があったというし」 「ふーーーっ、とにかく休みたいわ。『虚無』の魔法は強力で独特だけど、魔力の消耗が激しいのよ。 まだ私は『虚無のドット』ってとこね……」 「ふむ、『虚無』か。伝説によれば、始祖ブリミルには四人の僕がおり、 三人の御子と一人の弟子が指輪と秘宝を授かり、四大王国を作ったと言うが……」 「そうよ。三人の御子はガリア・トリステイン・アルビオンの、弟子はロマリアの王。 アルビオンの王統は、今回の革命騒ぎでほとんど途絶えてしまったし、 ロマリアも王国ではなくなって、教皇聖下が治める都市国家連合になったけど。 ゲルマニアはブリミルの正統を引いていない、成り上がりの集まりよ」 「四人の僕と王国の祖は、違うのだな? 疲れているところ悪いが」 ルイズは怒りもせず、溜め込んだ知識を披露する。実技以外では、彼女は優等生なのだった。 「ちょっと横にならせて。……いろんな説があるけど、まあ、そうでしょうね。 王国の祖が『虚無の担い手』で、四人の僕は『虚無の使い魔』よ。私とあんたみたいにね。 あんたは『神の右手、神の笛』ヴィンダールヴだったわよね? 他には『神の左手、神の盾』ガンダールヴ、これはあらゆる武器の使い手。 『神の頭脳、神の本』ミョズニトニルン、これはあらゆる魔法具を操るそうよ。 もう一人は『名を記すのも憚られる』として、失伝しているらしいわ」 「ふうむ……笛と盾と本、もう一つ、か。四大王国に四大系統、四つの指輪に四つの秘宝。 四人の『虚無の担い手』に四人の『虚無の使い魔』……」 「メシア、ミス・ヴァリエール、もうすぐロサイスに到着します。ご準備を」 シエスタとマルトーが伝令に来た。さて、ロサイスからアルビオン本土をどう攻めるか。 戦いは、これからが本番だ。 一方、その日の深夜。1隻の小さなフリゲート船が、アルビオンから密かにトリステインへ降下していた。 傭兵メンヌヴィルとその部下たち、ベアードやフーケを乗せた、奇襲用のフネだ。 「よーし、どうにか警戒線を抜けたぞ。攻めている側は、案外自分が攻められるとは思わんものなのかな。 ……いや、学院上空には、やはり探知結界が張ってあるな。直接侵入は出来ない。 付近の森林に空き地がある、そこに降ろそう」 操船しているのは、風のスクウェアメイジ・ワルド子爵……に取り付いた、妖怪バックベアードだ。 暴走しかねないメンヌヴィルの目付け役であり、情報収集も担う。 彼の周囲には小さな黒い球体がいくつも漂っていた。それには各々『魔眼』が付き、ベアードの視覚とリンクしている。 到着を前に、メンヌヴィルは檄を飛ばし、部下の士気を高める。 「さあて、野郎ども! 目的はトリステイン魔法学院の制圧と衛兵の始末、 そして貴族のメスガキと教師どもの生け捕りだ! なるべく殺すなよ! 制圧が完了したら、人質以外は殺すなりなんなり、好きにしろ」 うっひひひひひ、と下卑た笑いが起きた。 「……あのさあ、一応レディの目の前で、そういうセリフは自重してくんない?」 「そりゃ悪かったな、『土くれ』のフーケさんよ。まあ、荒くれをまとめるにゃこれが一番さ。 俺は盗みや犯しはしねえ、焼き殺すだけだ。老若男女、平等にな」 ベアードが振り向き、メンヌヴィルに尋ねる。 「好奇心で聞くんだが、なぜそんな物騒な性格になった? 生まれつきか?」 「そうじゃあねえ、この目玉が焼かれちまってからさ……」 到着するまで、ちょっと昔話をしよう。 元々俺はトリステインの下級貴族でね、アカデミーの『実験小隊』ってとこに士官として所属していた。 あんたのいた魔法衛士隊みてえな華やかな仕事じゃねえ、ま、裏方の何でも屋だ。 あれはもう20年も前になる。俺は二十歳になったばかりだった。 トリステインの北の海岸に、ダングルテール(アングル地方)って小さな漁村があった。 アルビオンからの移民が住み着いていた、ちんけで辛気臭ぇ村だ。牡蠣を拾うぐれえしか金目のものはねえ。 で、上の方から、そこで疫病が流行っているから『焼き尽くせ』って命令がきた。 疫病、確かにそうさ! そこは新教徒の巣窟だったんだ。まあ、俺は神様なんぞ信じちゃいねえが。 ……でよ、隊長が俺より少し年上の男だったんだが、こいつが凄い。 酷薄非情で狙った者は皆殺し、火を使うくせに酷く冷てえ、蛇みてえな奴だった。 そのダングルテールを焼き滅ぼしたのも、そいつなのさ。それも一人で! ああ、今でもあの美しい炎の竜巻が、脳裏に浮かぶぜ。夜の海に映って、すげえ綺麗だった。 それにあの、たくさんの人間が焼け焦げる香りと来たら! 何にも代えられない、素晴らしい芳香だった! お蔭で俺は、すっかりイカれちまった。隊長のことが大好きになって、思わず焼き殺したくなった! 咄嗟に杖を向けて、呪文を唱えた。次の瞬間、俺の目玉はこの通りさ。 フーケが、実にいやそうな顔をしている。 「……酷い話だね。よく殺されずに済んだもんだ。まぁ、あんたがイカれてるってのはよーく分かったよ」 「へへへ、こういう仕事は、ちょっとイカれてねえとできないのさ。 それに俺は鼻が利くようになったし、耳も鋭い。ついでに頭もすっきり冴え渡って、 熱の位置や微妙な変化が手にとるように分かるようになったよ。目明きよりよっぽど便利だぜ、この能力は」 「私のような『魔眼』の使い手には、結構いろんなものも見えるんだがな。 まあ、杖を突いて歩くのではなく、振って歩けるのは大したもんだ」 メンヌヴィルが、狼のような口で『にやっ』と笑う。 「ありがとよ。それから俺はトリステインを飛び出して、ゲルマニアで傭兵稼業を始めたよ。 実に天職だね。なにしろゲルマニアやロマリアあたりじゃあしょっちゅう戦争してるし、 あぶれ者やちんけな村を焼き尽くしたって、別に誰も文句を言わねえ。都市を襲えば大金持ちだ。 強いものが自由と富を得て、弱いものはサクサク死んでいく。坊主どもだってそうなんだもんよ」 「なんとも、楽しげだな」 「ああ、実に愉快だ。飯も酒も美味いし、わりと財産も築いた。俺はこうなったのをまったく後悔してねえ。 唯一気に食わねえのは、例の隊長があの後すぐに行方をくらましたと聞いていることだ。 俺はこんなに強く、あいつよりも激しく炎を繰り出せるようになったのに! ああ、あいつを焼きてえ! あいつが焼け焦げて消し炭になる匂いを、胸いっぱいに吸い込みてえ! それだけが、俺の最大の望みであり、悩みなのさ。はは、はははははははははは、ひいはははははは……」 メンヌヴィルは、気が触れたように笑い始めた。いや、彼はとっくに気が触れているのだろう。 ベアードは珍しくもなさそうに見ているが、フーケはぶるっと身震いした。鳥肌が立っている。 こんな妖怪や狂人の同類には、絶対になりたくない。 《彼らはバアルのために高き祭壇を築き、息子たちを火で焼き、『焼き尽くす献げ物(ホロコースト)』として捧げた。 私はこのようなことを命じもせず、定めもせず、心に思い浮かべもしなかった。 …この所をトペテや、ベンヒンノムの谷と呼ばず、『虐殺の谷(ゲヘナ、地獄)』と呼ぶ日が来るであろう》 (旧約聖書『エレミヤ書』第十九章より) 夜明け前、メンヌヴィルたちは魔法学院の裏門に近付いた。 しばらく学院に勤めていたフーケの話から、内部の構造などは知れている。 居眠りしている衛兵を永久に眠らせ、フーケが『錬金』で門扉に穴を空ける。 音も立てず、十数人の小部隊は学院に潜入した。フネは森の中に隠してあり、人質を連れて脱出する手筈だ。 物陰に隠れると、ベアードがふよふよと『魔眼』たちを内部へ飛ばし、衛兵や生徒の居場所を偵察する。 「……ふむ、一般の衛兵が20人ばかり、女子銃士隊が同数。そこそこだな。 衛兵どもは気を抜いているが、銃士は『火の塔』に駐屯して、二交代制で不寝番をしているようだぞ。 教師が数人、オールド・オスマンの姿は見えないな。教師と女子生徒の総数は、情報によれば90人ほど……。 む、あれはタバサ! あの『雪風』のタバサが目を覚ましたぞ!」 フーケがぴくっと反応する。確か、あのルイズやマツシタの仲間だ。 「あのガリア出身のちびメイジか。トライアングル級で風竜も使い魔にしてるし、手強い相手だね。 感づかれたか、どうなのか……他はどうだい? ヤバイ相手は起きているかい?」 「いや待て、今いいところなんだ。よーし、集まれ魔眼ども……」 「何デバガメやってんだい、このロリコン妖怪!!(ばきっ)」 「漫才やってねえで、さっさと情報をよこしな、ミスタ・ベアード」 ともあれ、学院内に大した動きはない。タバサはまたベッドに戻ったようだ。 「……じゃ、内部の構造と衛兵・銃士の配置はこんなところだね。使用人どもは、まあいいか」 「うっし、制圧戦の開始だ。セレスタン、四人連れて銃士のいる『火の塔』を抑えろ。 ジョヴァンニ、てめえらは寮塔だ。俺らは本塔を抑えておくから、メスガキどもをこの食堂に集めて来い!」 突入した分隊は、次々と女子寮の部屋のドアを蹴破り、女子生徒や教師を集める。 寝込みを襲われ、杖も奪われ、皆なすすべなく捕縛された。すすり泣くばかりで抵抗もしない。 衛兵たちは警笛を吹き鳴らし、剣や槍で応戦するが、歴戦の傭兵メイジたちには敵わない。 メンヌヴィル・ベアード・フーケは、占拠した本塔の『アルヴィーズの食堂』で待機している。 続々と人質が集められ、食堂の床に座らされていく。メンヌヴィルが眠たそうに欠伸をした。 「……あーあ、簡単すぎて欠伸が出ちまうぜ。こういうやわな仕事は俺向きじゃあねえな。 もうちょっと歯ごたえのある奴はいねぇのかよ? 俺、まだ誰も焼いてねえし」 「じゃあ、もうちょっと上に行ってみるか。学院長も探し出して、捕らえておかねばな」 「しょうがないね、道案内にあたしも付き合うよ」 人質たちが集められた食堂の壁際を、ちょろっと白いハツカネズミが駆け抜けた。 その頃、傭兵メイジのセレスタンは、『火の塔』を守るアニエスと戦っていた。 戦槌のような『杖』と、平民の磨いた牙である『剣』が交錯する。 「チェッ、いい女なのに勿体ねぇなあ! その牙、引っこ抜いてやらあ」 セレスタンは元ガリアの『北花壇騎士』、その実力はメンヌヴィルに次ぐ。 杖から火球が飛び、アニエスの剣が灼かれて折れ曲がった。 「きさま、火のメイジか! 私はメイジが嫌いだ、特に火を使うやつはな!」 アニエスは曲がった剣をセレスタンに投げつけ、言葉とは裏腹に逃げ出した。 「『騎士』が背中を見せるとは、さすがは平民出身じゃねぇか! その背中、がら空きだぜ!」 セレスタンが『魔法の矢』を放つが、アニエスは身を伏せて避け、振り返り様に拳銃を撃つ! 「私は、『銃士』だ」 「ぶがっ……」 醜い呻き声を立て、セレスタンが額に銃弾を受けて、どさっと斃れる。 彼の率いていた傭兵たちも、銃士隊に追い詰められて討伐された。そこへ、ハツカネズミが走ってくる。 アニエスはそれを見て、にっと笑った。 「よし、この塔は守った。ついて来い、作戦通り残りを掃討する! 耳栓をしろ!」 本塔を昇っていたメンヌヴィル・ベアード・フーケは、急に眠気に襲われた。 塔の上から鳴り響くのは、鐘の音だ。 「チッ、オールド・オスマンのじじい、『眠りの鐘』を使ってやがるね……」 フーケは手早く『錬金』を唱え、耳栓を作った。 「この耳栓を使えば多少は防げる、さっさと学院長室に殴りこもう!」 「狸寝入りでもしていたのか? ミスタ・ベアードの魔眼にも、見抜けないもんはあるようだな」 「やかましい。お前は盲目だからいいが、私の魔眼と目を合わせたら命はないぞ。 オスマンのじじいも睨み殺してやるさ」 三人は耳栓をして、階段を駆け上がる。 だが、鐘の音は『下』……さっきまでいた食堂の周囲からも、響いていた。 三人はバアンと学院長室に殴りこむが、誰もいない。 「隠れていても分かるぜ、そこだァ!」 メンヌヴィルが天井を火球で貫くと、オールド・オスマンがふわりと降りてきた。手には『眠りの鐘』がある。 オスマンが鐘を床に投げたので、三人はひとまず耳栓を外した。 「久し振りじゃの、三人とも。まだ生きておったか」 「そいつぁこっちのセリフだぜ。二十年以上前からじじいのくせに、あんた何百年生きてんだ? まあ、あんたなら相手に不足はねえ。確か『土のスクウェア』級だよな?」 「好戦的な男じゃのう。そこのフーケとワルドの実力も知っておる、生半なメイジでは相手にならんな。 では、わしがおぬしら三人をまとめて相手にしてやる。かかってこい!」 オスマンが杖で床を叩くと、床は溶岩のように煮えたぎって激しく渦を巻き、三人を窓の外へ吹き飛ばす。 三人は『フライ』で宙に留まるが、オスマンのいる部屋には、地面や他の塔から砂や石材が飛んできて集まる。 ゴゴゴゴゴゴと物凄い地響きがして、土砂は本塔の上半分を包み、獅子の体を備えた巨大な石の獣の姿となる! その顔は、内部にいるオールド・オスマンそっくりだ!! 「「うわっははははは、これぞ我がゴーレム『スフィンクス』じゃ!! スクウェアメイジを甘く見るでないぞ!! そおおれ、メガトンパンチを食らえい!!」」 スフィンクスの顔がオスマンの声で高笑いし、塔のように巨大な腕が振り回される。 三人は青褪める。まさか、いきなりここまでやるとは! 「てっ、てめえじじい、状況が分かってんのか? 俺らは学院の貴族の子女を人質にしてるんだぞ? 殺さねえまでも、攻撃をやめねえとそいつらの耳や鼻や指を……」 「「分かっちょるわい、おぬしらの奇襲なんぞ全部まるっとお見通しよ。わしの使い魔モートソグニルくんがのう。 それに食堂に集まった傭兵どもは、隠れさせておいたミセス・シュヴルーズの『眠りの鐘』でとっくに夢の中じゃ。 今頃は耳栓をした銃士隊に捕縛されているじゃろう。戦いは情報網と物量じゃよ諸君、ひょひょひょ」」 オールド・オスマンとアニエスたちは、学院のテロ対策をしっかりしていたようだ。 モートソグニルとネズミたちが学院内外を警戒し、非常時には合図を送って連絡する。 そして敵が一箇所に集まったところを、二つの『眠りの鐘』で人質ごと一網打尽。さらには、これだ。 「じょ、冗談じゃないよ! あのセクハラじじい、こんなバケモノだったなんて!!」 「ええいフーケ、気休めかも知れんが、お前もゴーレムを出せ! 私は『魔眼』の姿に戻る!」 「しゃあねえ、俺は食堂に戻るぜ。……いや、『火の塔』から銃士が出て来たな、あれから片付けるか」 バックベアードが黒煙とともに現れ、フーケのゴーレムがスフィンクスのパンチを受け止める。 スフィンクスは目から怪光線を放ち、ウオーーーッと咆哮する。妖怪・怪獣大決戦の始まりだ!! その頃、『火の塔』の傍らにあるコルベールの研究小屋では。 「これは『神秘幻想数学』、これは古代サハラの数学書、アリストテレスなる哲学者の著書、 『光輝(ゾハル)の書』に『東方魔法大全』! ああ、一生かかっても読み切れない! これを解読できれば、ハルケギニアはまさに革命的変化を……!!」 コルベールは感涙に咽びながら、『薔薇十字団』から送られてきた注釈付きの魔法科学書に没頭している。 そこへ、二人の生徒が駆けこんできた。外からズズズズズという地響きもする。 「コルベール先生! 未だにこんなところで何をしているんですか、大変なんですよ!」 「おお、ミス・ツェルプストーにミス・タバサ、こんな深夜に何事かね」 「敵襲。アルビオンの傭兵団が学院を急襲し、生徒及び教職員約90名を人質に取った。 我々は脱出して無事。反撃の体勢を整えるため、あなたを捜していた」 「な、なんだって!? ……時に二人とも、アレは何かね?」 「は?」 二人がコルベールの指差す方を振り返ると、バックベアードとゴーレムが巨大なスフィンクスと戦っている!! 「きゃーーーーーーーっ!!? な、何よアレ!?」 「あの黒い眼は、以前ニューカッスル上空に出現したものと同じ。ゴーレムはフーケのものと同じデザイン。 ならばあのスフィンクスは、恐らくオールド・オスマンのもの」 「そうだ。我々銃士隊と学院長が連携し、テロリストの大半は作戦通り捕縛した。 残るはあのバケモノどもと……こいつだ」 いつの間にか、アニエスも近くに来ていた。体にいくつか火傷を負っている。 そして向こうから歩いて来る大柄な男に、銃を向けた。キュルケとタバサも、杖を構える。 「おやおや、熱と硝煙の匂いを頼りに追ってきてみれば、かすかに懐かしい香りがするなァ。 さっきの女銃士が一人、火メイジと風メイジの女、それにもう一人。おい、おまえの名前は何だ?」 男を見たコルベールの表情が、さっと変わった。温和で臆病な普段からは想像できない、冷たい顔だ。 「……久し振りだな、『白炎』のメンヌヴィル」 その声音を聞いて、メンヌヴィルはあっと驚くと、両手を広げて心底嬉しそうに笑った。 「おお! おおお!! お前は『炎蛇』! 『炎蛇』のコルベールではないか!! 覚えていてくれたのか! 久し振りだな隊長殿、20年振りだ! あのダングルテール以来だ!!」 「!!」 アニエスは、対峙する二人を物凄い表情で睨み付けた……。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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前ページ次ページT-0 オールド・オスマンの部屋を目指して、『炎蛇』の2つ名を持つメイジことコルベールは走っていた。 肩が揺さぶられ、服が着崩れ寸前になっている事も、体力にはそこそこ自信があるにもかかわらず、 息が切れ掛かっている事もお構いなしだ。 それほど大事な、2つの報告があった。 それも、片方は下手をすれば国を揺るがすほど重大かも知れない、機密的な報告が。 だからコルベールは走っていた。この事実をオスマンに、恩師に「伝えなくては」と。 いよいよオスマンのいる学院長室の扉が見えたとき、彼はいつも何気なく通る道が果てなく思えた。 ここは、実はコレほど長いものだったのか? という錯覚すら覚えていた。 ターミネーターは足を少し上げると、ほぼ歩く要領でワルキューレを顔から踏み潰した。 薄っぺらく変形した青銅が地面に落ち、持っていたハンマーが手からずり落ちた。 目の前で起きたことが信じられないのは、何も対峙しているギーシュだけではない。 彼らを囲う見物人たちも、開いた眼や口が閉じそうに無い者が大勢いる。 てっきり、一方的な弱者暴虐が見れるとばかりに心を躍らしていた彼らは、 しきりに隣近所のやつと顔を見合わせたりして、これがリアルである事を確かめ合っていた。 そして、一寸遅れた後に、彼らはざわざわと騒ぎ始め、事実を認めたくない何人かのお調子者どもは 矢継ぎ早にギーシュを冷やかし始めた。 「おいおいおいギーシュ? 本気出せ――っ!!」 「さすがにお優しいな――ッ、ギ・ー・シュ・さ・ま……ハハハハハッ!!」 「真面目にやれ――っ!!」 ヒートアップしてきた彼らの口からは、 とても貴族様のお言葉とは思えないほどの汚さと醜さに満ちた言葉が吐き出される。 「くそっ……」 別にそのヤジに乗せられた訳ではないが、 ギーシュは焦りの中で杖を構え直し、今度は造花の花弁を2枚振り落とした。 出てくるのはやはり、甲冑の女性像ワルキューレ。 ただ、今度の2体はそれぞれ青銅で練り固められた剣を握っている。 だが、その2体も使い魔の男に傷一つつけることなく、 剣を振りかぶった一瞬に、男が無造作に払った右腕によってゴミクズのように空を舞った。 殴打された部分がグシャグシャに潰れ、特に片方は腰をやられていたせいか、 上半身と下半身の真っ二つに引き千切れていた。 男は地面に横たわるワルキューレの残骸を興味深そうに一瞥したが、 さして興味を誘わなかったのだろう、くっと目を先に上げて、ゆっくりと視線をギーシュに戻した。 「くっ!」 視線の交わりに気圧されかけたギーシュは思わずしりもちを付きそうになったが そこは持ち前のプライドと意地で何とか堪えた。 男は黙ってギーシュを見ていたが、それに飽きたのか、はたまた様子見が終わったのか、 唐突に首を少し傾けるとゆったりと身体を動かし、永い眠りから目覚めたばかりの獣のように緩やかに歩き出した。 「報告があります、オールド・オスマン! ノックもしない無礼はこの際お許しください」 うまくロレツ回らない舌で早口言葉のように言い切ると、勢いまかせに扉を開けた。 目の先に、長い白髭を十分に蓄えた偉大な魔法使いが…… ――眼鏡の似合う理知的な女性に踏みつけられ、床に這いずっていた。 「……何してらっしゃるんでしょうか……?」 床に四散している書類を踏まないように気をつけ、オスマンの目の前まで移動した。 恩師の無様な姿に思わず言葉を失いそうになったが、力を振り絞ってみれば震える口から何とか言葉を出す。 コルベールを見上げていたオスマンはきょとんとした顔になり、飄々とした態度で白髭を撫でた。 「『何』って……ミス・ロングビルに腰のマッサージしてもらっとったんじゃが……?」 最後に「のう?」と付け加え、真上に見える女性に同意を求める。 オスマンを踏みつけている女性――ミス・ロングビルはクスクス笑いながら、言った。 「ええ。何か誤解をされてるようですが、オールドオスマンの仰った通りですが?」 「そ、そうでしたか。ミス・ロングビルが仰るならその通りなのでしょうな! いや、全く……」 てっきり、『また』セクハラしたオスマンに怒ったロングビルが、折檻しているところなのではないか? とそれに近い事を言いかけたが、なんだかロングビルの笑顔が怖い上、怪しく光(っているように見え)る目が これ以上何も言うなと語っていたので言わぬが吉だと判断を下した。 ところでどうでもいい話だが、このミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書であり、コルベールから見て女性の理想に近い。 無駄の無いすらりとした体系に、整った顔立ち。 ややきつめの印象がある目の上にかけられた眼鏡が知的な色気に加え、デキる女である事を見るものに思わせる。 しかも見てくれだけでなく、実際仕事ができるために、ロングビルという高嶺の花はコルベールには一層眩しく遠くに見えていた。 まぁ、要するにコルベールは、42にもなって片思いというやつをしているのだった。 「あ――で、何のようじゃったかのうミスタ・コルベール? 最近物忘れがちと激しくての……」 「まだ何も言ってませんよ、オールド・オスマン」 なんだか終わりそうに無い漫才となりそうなので、 コルベールは咳払いを一つして気持ちを切り替えると、真剣な表情でオスマンを見据えた。 まだミス・ロングビルがいるが、彼女は信用できる。まぁ、言っても差し支えは無いだろう―――― グシャ…… ターミネーターが無情にもワルキューレの残骸たちを踏みつけ、また一歩ギーシュへと近づいた。 その足取りは相変わらずゆっくりなのだが、確実に近づいてくる分その遅さが逆に恐怖を煽る。 ギーシュは後ずさりしながらだんだんと追い詰められ、とうとう硬い壁に背中を預ける形となっていた。 もう、後には引けない。 既にワルキューレは全7体を出し切り、今ギーシュの前に立っているのは武器も持たない2体だけだ。 残りの5体――後に出した2体は一撃でオシャカにされた――は皆地面に崩れ落ち、ターミネーターに踏み潰されている。 予想の斜め上を行く――……『平民』と『貴族』というものの本来の優劣が逆転した構図にも見えるこれは、 それまでまだお気楽な見世物見物の気分だった周囲の貴族達、及び偶然居合わせた何人かの使用人(平民)たちの言葉を奪い、 彼らの胸中に不安と期待を植え込ませた。 それは主人のルイズも例外ではなく――――彼女は3割の不安と2割の期待、そして5割の好奇心を混ぜ合わせた瞳で事の経過を見守っていた。 彼女の脳裏を同時進行を促す記憶は、ターミネーターの台詞とあの悪夢の事――。 自分がターミネーターに対し負けろと言った事など、驚愕したのを機に脳の片隅へと押しこめて、 とっくに忘れていたことだった。 突如として現れた人形は青銅で出来たものであり、ターミネーターではなかった。 初めて出現したときは、その製造工程からメモリにあるT-1000の姿とダブって見えもしたが、 壊してみれば所詮単純なつくりで、しかも出来の悪い青銅人形だった。 青銅よりはるかに硬度に、そして精密に造られた自分自身――T-800――の敵ではない。 案の定、それらは手を振るわせただけで簡単に潰れ、攻撃すれば自身が潰れるという体たらく。 ターミネーターはこの戦いにおける勝率を、ゆるぎなく99・9パーセントと定めた。 赤い前方表記越しに見える人間の子供の顔は、断定は出来ないが恐怖か哀しみかのどちらかに染まっていると判断できる。 そして、子供と、ターミネーターを遮るように立つあの青銅の人形は、これ以上出してこないことから見て、 どうやらあれらが最後の2体である可能性が高い。それとも、無駄だと悟って出してないのかも知れないが、この際別にどっちでもよかった。 それよりも、気になる問題は先程から身体機能に生じる、『妙な負荷』だ。 あの人形を破壊する直前、刹那の間に等しい一瞬電子機能がハッキングされたように白く弾け、 次に前方表記画面が元に戻ったときには、運動及び行動をつかさどる一連の機能が過負荷を起こしたようにうねりを上げ、 設計されている耐久以上の過負荷を事実として全身に轟かせていた。 通常なら望まない過負荷が掛かった場合、この時点でCPUが警告を発して運動機能を一時的に停止させるはずなのだが、 今、ターミネーターの前方表記には警告の文字が一つとして見られなかった。 計算される負荷は確かに限界地を超え、通常のT-800モデル以上のパワーを生み出しているはずなのにだ。 一応自己検査を行ったのだが、何度やっても結果は問題無と表示されるだけで原因は不明なまま。 計算計器が狂っている事も含めて検査を続けるも、相変わらず異常無と問題無が表示されるだけに終わった。 そういえば、文字を刻まれたと聞いた左手から、 ちりちりと焼けるような痛みが時々するのだが、果たして関係あることなのだろうか? 死刑台に足を乗せているような心境だった。とてもじゃないが『生きている心地』というものが感じられない。 まさか、平民だと愚弄し、タンカを切った相手がここまで怖いとは思いもしなかった。 ワルキューレを紙くずのように引き千切ったパワーに、青銅の一撃で全く傷つかない防御力。 ギーシュは思った。 あの平民の男は本当に平民……いや、それ以前に人間なのか? と。 ともかく、わかっている事は使い魔の繰り出すあの一撃をまともに受けては、華奢な自分などどうなる事かということ。 ……想像しただけで吐き気を催した。 いやだ! まだこんなところで死にたくは無い! バッ、と花びらの散って丸ハゲになった杖をターミネーターに向ける。しかし、気力だけ。 ギーシュはまだ知る由も無いが、恐怖や恐れの無いターミネーターにそんな脅しが通用するはずも無かった。 「と、止まれ! 止まらないともっと痛い魔法をお見舞いするぞ!!」 上ずった声で叫びとおす。しかし、言葉の意味が解からない――仮に解っていたとしても――ターミネーターの足は止まらない。 慌てふためいてバランスを崩し、背後の壁にもたれ掛かった。迫りくる恐怖を前に、ギーシュはある種の絶望をかみ締める。 (パニくって考えなしにワルキューレを生産したのがまずかったな……もう、殆ど魔法を繰り出せる精神力が残っていないや……) 考えろ。 頭の中でもう一人の、プライドが高く諦めの悪い面の自分が叫んだ。 ココで諦めてはいけない。この判断こそが、自分の命だけでなく、家名や……愛する者まで傷つけてしまいかねない。 考えろ! あせりと恐怖に飲まれそうになるのを、息を整えて落ち着く事で阻んだ。 最善の方法を今ココで、この状況で判断するんだ、見つけ出すんだ…………。 だが、現実は甘いものではない。 考えを張り巡らせ、可能性を導き出すほど今が本当に『どうにもならない状況』だという事が身に染み渡った。 虚ろになって空を見上げる。もうだめだ……そう思ったのと同時に、身体の力がずるりと抜けた。 見上げた際に重心が後ろになり、これでほぼ全体重が壁にもたれ掛かることとなる。 (この壁みたいに、僕が強くて逞しかったらな~……) 自分を支える壁を横目を通してちらりと見やる。 太く大きな石で固められた、くすんだベージュ色の壁は何も答えてはくれなかった。 (ん? 壁…………!!!) ギーシュは飛び上がって振り返った。 見物客がそれを見て高らかな歓声と悲鳴をあげたが、今のギーシュには届いていない。 彼はひたすら壁の存在を確かめるように撫でまわし、叩き、蹴った。 ――ふっ! 先程までとは打って変わり、やたらときびきびした動きに戻ったギーシュは意気揚々と踵を返し、 今まさにワルキューレたちに手をかけようとしていたターミネーターを指差した。 その奇行に、驚いたわけではないがターミネーターは動きを止めた。 「君を倒す算段がついた!!」 ギーシュは自身を秘めた大声で叫んだ。 「決闘は僕の勝利で終わらせてもらう!!」 決意の篭った強い声が広場全体に響き渡ると、広場の雰囲気ががらりと変わった。 お調子者たちは拍手喝采。全員総立ちでギーシュの人知れぬ自信に期待を寄せる。 無論、ターミネーターには関係ないが。 表情を変えぬまま彼が足を再び動かそうとしたとき、それよりも先にギーシュは大げさに杖を振るった。 前ページ次ページT-0
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前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち ~第12話 伝説:1+1/3×3~ 時は少し遡る。 午前最後の授業が終わるよりも前、中堅の教師であるジャン・コルベールは学院の図書館にいた。 学院本塔にある図書館の蔵書は膨大であり、30メイルを下らない高さの本棚が壁際に並んでいる。 その中で、彼がいるのは“フェニアのライブラリー”。教師のみが閲覧できる区画だ。生徒たちも 利用できる一般区画には、彼の求める答えはなかったのである。巨大な本棚に押し込まれた無数の 書物に、コルベールは次々と目を走らせていく。 ――あの使い魔たちのルーン、どうしても気になる それは、学院の生徒であるルイズとタバサ、2人の召喚した使い魔たちを調べるためだ。落ちこぼれと 呼ばれるルイズが風竜を召喚したことには驚いたが、それ以上に興味を引いたのは、あの見慣れない ルーンだった。また、タバサが召喚した、3名もの使い魔たち。複数の召喚などという話は聞いた ことがなかった上に、彼らのルーンもやはり珍しかった。そして、四者それぞれのルーンを見比べた 時、更に驚愕することになった。 その驚きはすぐさま好奇心へと変わり、コルベールは一心不乱にそのルーンを調べていた。そして、 やがて目当ての答えは見つかった。“始祖ブリミルの使い魔たち”という、書物の中に。 目を見開き、自分の持つスケッチと、その中のルーン図を見比べる。そひて、それが間違いで ないことを知るや否や、コルベールは矢のような勢いで図書館を後にした。魔法学院の学院長、 オスマンの部屋へと向かう。 図書館の上、本塔の最上階にある学院長室のドアまで来ると、軽く身なりを整える。逸る心を 押さえつつ、ドアをノックしようとすると、中から声が聞こえてきた。 「カーッ! 王室が怖くて魔法学院学院長が務まるかーっ!」 やたら気合のこもった声が響いたかと思えば、今度はなにやら鈍器で泥炭袋を殴る様な音が耳に 飛び込んでくる。 「あだっ! 年寄りを。きみ。そんな風に。こら! あいだっ!」 次いで、聞くに堪えない情けない声を聞き、コルベールは溜息をついた。どうやら、オスマンは 自身の秘書であるロングビルに不埒な真似を働いたらしい。オスマンのセクハラ癖と、それに対する ロングビルの報復は、教職員の間では密かに有名だった。 一気に気分が冷めそうになるが、自身がここに来た理由を思い出すとすぐに昂りを取り戻す。 折角の興奮に水を差される形となったコルベールは、もどかしさも手伝って乱暴にドアを開けた。 「オールド・オスマン!」 「なんじゃね?」 先程聞こえてきた声が嘘のように、部屋の主とその秘書は泰然とした姿で出迎えてきた。恐るべき 早業で体裁を繕ったのだろう。きっちりとそれはばれているのだが、コルベールは優しい気持ちで 気付かないふりをした。 コルベールはセコイアの机に肘をついたオスマンの許へ駆け寄ると、持っていた書物を見せる。 白く染まった髪と髭(ひげ)を長く伸ばしたオスマンは、いかにも齢と経験を蓄えた風貌をして いる。齢100とも300ともいわれる国内でも高名な老メイジは、コルベールの差し出した本を つまらなそうに一瞥した。 「まーたこのような古臭い文献など漁りおって。そんな暇があるなら、たるんだ貴族たちから学費を 徴収するうまい手でも考えたら」 「そんなことより! これも見てください!」 学院長の戯言を遮り、コルベールは件(くだん)の使い魔たちのルーンのスケッチを手渡した。 そこで、オスマンの表情が変わる。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 その言葉に、ロングビルは立ち上がって一礼する。長い緑色の髪と、知的な美貌が眩しい眼鏡の 秘書は、余計な言葉もなく部屋を後にした。実によくできた女性である。 「詳しく説明するんじゃ。ミスタ……なんだっけ?」 「コルベールです! お忘れですか!」 雇い主はあれであるが。 そして、コルベールはルイズとタバサに召喚された使い魔たちとルーンのことを話していった。 そして、それを調べていった先に、この書物でその答えを得たことを。 「ふむ、始祖ブリミルの使い魔、“ガンダールヴ”か……」 コルベールのスケッチと、書物の中のルーンを見比べながら、オスマンが呟いた。 「そうです! ミス・ヴァリエールの召喚した風竜、その左前足に刻まれたルーンは、伝説の使い魔 ガンダールヴに刻まれていたものと全く同じであります!」 口から泡を飛ばしながら、コルベールは言葉を続ける。 「更に、ミス・タバサに召喚された使い魔たち! 彼らのルーンはかなり妙な形で刻まれていますが、 間違いなくガンダールヴに関わるものです! つまり、4体もの伝説の使い魔が現れたということ です!」 熱く語れば、ふむ、とオスマンが髭をしごいてみせた。 「確かに、その使い魔たちが伝説と関わる存在なのかも知れんが、ルーンだけで判断するのは早計かも しれん」 「それもそうですな」 真面目な顔と声で語る学院長を前に、コルベールは多少落ち着きを取り戻す。そこへ、ドアがノック された。 「オールド・オスマン、至急、お耳に入れたいことが」 扉の向こうから聞こえてきたのは、ロングビルの声だ。 「なんじゃ?」 「ヴェストリの広場で、決闘を起こしている生徒がいるようです。止めようとした教師たちも、 生徒たちの妨害で手を出せない様です」 それを聞き、オスマンが呆れたように頭(かぶり)を振る。 「まったく、暇を持て余した貴族ほど、性質(たち)の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れて おるんだね?」 「1人はヴィリエ・ド・ロレーヌ」 「あの、ロレーヌんとこの莫迦息子か。確か、去年もミス・タバサと決闘騒ぎを起こしていたが、 まさかまた彼女と悶着を起こしたのか?」 そこで、ロングビルは一瞬言葉を切る。 「いえ、彼女本人ではありません。彼女の使い魔の少年のようです」 コルベールとオスマンは顔を見合わせた。 「教師たちは、決闘を止めるために“眠りの鐘”の使用許可を求めております」 「アホか。たかが子どもの喧嘩に秘宝なんぞ使えるか。放っておきなさい」 「判りました」 ロングビルの立ち去る足音が聞こえると、コルベールはオスマンを見据え、オスマンが壁に 掛かった大鏡に杖を振る。それにより、“遠見の鏡”と呼ばれるマジック・アイテムがヴェストリの 広場の様子を映し出した。 そして、オスマンとコルベールは、騒動の一部始終を見るのだった。 「オールド・オスマン」 「うむ」 「あの少年、勝ちましたな。ラインのメイジを相手に……」 「うむ」 若干腑に落ちない気持ちで、コルベールはオスマンに尋ねる。 「やはり、彼はガンダールヴなのでしょうか?」 「ふむ。ミスタ・コルベールよ、ガンダールヴの伝承は知っているじゃろう?」 逆にオスマンに問い返され、コルベールは頷いた。 「はい。始祖ブリミルの用いた4体の使い魔の1体、ガンダールヴ。その姿や種族は記述が ありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」 始祖ブリミルは、その系統である虚無の強大さ故に、呪文の詠唱が長いという弱点があったと いわれる。そして、呪文詠唱中のメイジは無力。その間を守護するための存在がガンダールヴで あったと伝説は語っていた。 「そして、ガンダールヴの強さは千の軍勢に匹敵し、並のメイジでは全く歯が立たなかったと いわれるが……」 コルベールの言葉を引き継いだオスマンは、思案するように髭を撫でる。 「彼の戦いぶり、せいぜい剣士として一流というのがいいところじゃのう。伝説というには大袈裟 (おおげさ)すぎる」 コルベールは頷いた。あの勝利は、どちらかというと彼を平民と侮っていたヴィリエの油断や、 あの羽の生えた光の助言によるところが大きそうだ。 「ですが、彼のルーンの状態を見ればそれも仕方がないのかもしれません」 「確かにのう」 そこで、オスマンが1つ息をついた。 「全くどういうことなのかのう、“3分割されたガンダールヴのルーン”とは」 そう、オスマンが言った通り、タバサの使い魔たちのルーンは、ルイズの風竜に刻まれた7字の ルーンを3分割したものだった。少年の左手に最初の3字が、光る生き物の左の上羽に次の2字が、 仮面型の幻獣の触手に最後の2文字が刻まれている。 「ミスタ・コルベール。今折檻(せっかん)を受けているあの少年、彼は本当にただの人間だったの かね?」 主人であるタバサに罰を受けている少年を魔法の鏡越しに指すオスマンに、コルベールは頷いた。 「はい。念のためディテクト・マジックでも確かめてみましたが、見た目通りただの平民の少年の ようでした」 「ふむ、ちなみに、あのけったいな仮面については? 人間の使い魔もそうじゃが、生き物でさえ ないマジック・アイテムを使い魔にしたなど聞いたことがないぞ」 「ええ。あれはどうやら幻獣の一種のようです。実際、ディテクト・マジックにも反応がありません でした」 「なんじゃと?」 そう言うと、オスマンが目を丸くする。 「と、いうことは、あの仮面が使った魔法は、一体なんじゃ?」 「あっ!?」 そこで、コルベールはその事実に気が付いた。 「ディテクト・マジックに反応しない魔法……もしや先住魔法?」 「いや、それはあるまい」 コルベールの疑念を、オスマンは否定する。 「先住魔法を使う者とは、わしも対峙したことがある。しかし、あの仮面もどきの使ったものは全く 違う」 言葉を探すように、オスマンは間を置いた。 「先住魔法は、もっと具体的に何をどうさせるかを言葉にし、それを効果として現すものじゃ。 しかし、さっきのはどうじゃった? まるで抽象的な物言いばかりで、しっかりと効果を出しおった」 「では、未知の魔法だと?」 「そうなるのう」 厳粛な顔で、オスマンは口を開く。 「ミスタ・コルベール。この件を口外することはまかりならん」 「は? 事が事ですし、王室の指示を仰がれた方がよいのでは?」 「事が事だから、じゃよ」 瞳を鋭くするオスマンに、自然コルベールは姿勢を正す。 「この件は、まだまだ不可解なことが多すぎる。彼らが本当にガンダールヴなのか、その内3体は何故 3分割などという奇妙な形でルーンが刻まれたのか、そしてあの仮面はなんなのか、そしてミス・ タバサは何故3体もの使い魔を得たのか、全く謎だらけじゃ」 「そうですね」 「とにかく、宮廷のボンクラどもにこんなことを教えても、厄介事にしかならんわ。ガンダールヴの 力を以って、戦を始めようなどといいだしかねん」 それに、とオスマンは続けた。 「ミス・タバサの境遇を考えると、余計にな」 深いしわの刻まれた顔に、やりきれない様な色が浮かんでいる。その表情に、コルベールは自分の 短慮を恥じた。オスマンのいうタバサの境遇については何も知らないが、あのネコにつける様な名前を 名乗る少女が並々ならぬ事情を持っているのだろうという事は察していたからだ。 「この件はわしが預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」 「畏まりました。学院長の深謀には恐れ入ります」 オスマンは遠見の鏡を元に戻すと、窓の外を見て呟いた。 「伝説の使い魔ガンダールヴか……。一体、どのような姿をしておったのだろうなあ」 「あらゆる武器を使いこなしたという伝承ですので、腕と手はあったのだと思われますが」 「……手のない奴の方が多くないかの?」 「……ですね?」 決闘から3日目の朝、才人たちは厨房を訪れた。 「おはようございまーす」 「おはようございます」 「邪魔するぞ」 三者三様の挨拶でドアをくぐれば、真っ先に気が付いたシエスタが笑顔で駆け寄ってきた。 「皆さん! いらっしゃい!」 「シエスタ。おはよう」 可愛い女の子からの歓迎に頬を緩めると、メイドの少女が気遣わしげな表情を見せる。 「サイトさん、大丈夫ですか? その、お仕置きの傷は」 「あ、あはは……。まあ、大丈夫だよ」 誤魔化すように笑って見せるが、自分でも無理がある笑い方になっていることが判った。タバサから 受けた罰を思い出すと、それだけで体が痛む。 「ヒャハハ、3日も動けずで、大丈夫もないものだろう」 「うっせ! っつーか、お前がタバサに余計なこと吹き込んだせいだろ!」 意地悪く笑うムジュラの仮面に言い返すが、逆に相手は笑みを深めた。 「うん? 莫迦な意地を張ってボロボロになって、主に迷惑をかけたことは棚上げにするか?」 そう返されると、サイトとしては言葉に詰まる。 「そりゃ、そうだけどよ……」 「なら、オレを怒鳴るより反省した方がいいな」 ヒャハハ、と甲高く笑う同僚を、才人は恨めし気に睨んだ。 「ったく、なんでそうお前性格悪いんだよ」 「そうでもないぞ? 根性が曲がっているだけだ」 「いや、同じだからそれ」 呆れた溜息をつく横で、シエスタはくすくすと笑っている。傍から見ると、漫才じみて見えるの かもしれない。 「それじゃあ皆さん、こちらへどうぞ。コック長も、皆さんに会いたがっていましたよ」 「あのオヤジさんが?」 初日に会った豪快なコックの姿を思い出しながら、才人たちはシエスタの案内に従った。 「よう、来てくれたか! “我らの剣”に“我らの光”に“我らの面”!」 そして、出会った瞬間に、マルトーの抱擁を受けることとなる。 「お、オヤジさん!? なにごと!?」 突然抱きしめられて目を白黒させると、マルトーが興奮した口調で話しだした。 「何事だって? そりゃお前、我らが勇者たちの出迎えに決まってるだろうが!」 「勇者たち?」 ナビィが聞くと、マルトーは満面の笑みで頷く。 「おうよ! お前らはあの生意気な貴族の小僧に真っ向から挑んでいって、その上勝っちまったんだ! 俺たちにとっちゃ、正に勇者だ!」 熱く語るマルトーに、なんとなく合点がいった。要するに、マルトーは自分たち、特に彼と同じ 魔法の使えない才人がメイジに勝ったという事実に感動したのだ。そんな風に喜ぶ理由は、実際に メイジと闘った才人には判る気がした。この世界の平民にとって、貴族はそれだけ逆らい難い力を 持っているのだ。そして、それをいいことに平民を蔑む高慢さも。だからこそ、それを平民が倒したと いうニュースは、マルトー達にとって喜ばしいことだったのだろう。 「だから、お前らは俺たちにとっちゃ特別な存在だ! サイトが我らの剣で、ナビィが我らの光、 ムジュラが我らの面だ!」 嬉しそうに言うマルトーに、厨房の面々がうんうんと頷いている。傷つきながらも立ち向かい、 最後には手にした剣でメイジを下した才人。その才人に的確な助言をし、魔法を破るための道を 開いてみせたナビィ。メイジを逆に魔法で一泡吹かせ、更に被れば平民でも魔法が使えるように してくれるムジュラの仮面。人気が出ないはずはなかった。 「(オレはむしろ勇者と敵対した側なんだがな)」 ムジュラの仮面が何か呟いていたが、小声だったために誰にも聞こえていない。 「なあ、お前は何処で剣を習った? 何処で習えば、メイジを倒せるような腕前になるのか、 俺にも教えてくれよ」 マルトーが、才人の肩に腕を回して聞いてくる。それに対し、才人は眉をひそめた。 「それがよく判んないんだよ。剣術なんてやったことないのに、なんでか剣を握ったら体に力が 湧いてきたんだ。それに、あれは俺だけの力じゃなくてナビィのアドバイスのおかげでもあるし」 正直にそういうと、何故かマルトーは顔を輝かせる。 「お前たち! 聞いたか! 本当の達人というものは、こんな風に己の腕前を誇ったりしないものだ!」 勝手に盛り上がったコック長の声が、厨房中に響き渡る。それとともに、そこかしこから感嘆の ざわめきが聞こえてきた。 「本当にそんなんじゃないんだけどなあ」 持ち上げられて悪い気はしないが、ここまで興奮されると少し心苦しい。なんだか、人の良い 大人をだましている気分だ。 「ただ、なんだか判んない力が勝手に湧いてきたってだけで……」 「火事場の莫迦力というやつか?」 ムジュラの仮面に聞かれ、才人は考えてみる。 「うーん、そういうのともちょっと違う気がするな」 そこで、あの時左手のルーンがぼんやりと発光していたことを思い出した。もしかすると、この ルーンが何か関係しているのだろうか。 再び思案に暮れそうになるが、それよりも早く胃袋が自己主張をはじめる。 「あのさ、朝飯もらえるかな」 「あ、はい!」 才人の頼みに、傍で控えていたシエスタが笑顔で応えた。 「さあ、サイトさん。こちらへどうぞ」 「あ、ありがと」 シエスタが引いてくれた椅子に座ると、そこへ次々と豪勢な料理が並んでいく。 「おお、すっげー!」 その豪華さと食欲をそそる香りに、才人の胃袋が早速逸りはじめた。 「さ、どうぞ!」 「たっぷり食ってくれ! 我らの剣よ!」 「んじゃ、遠慮なく! いただきまーす!」 大きめに切った熱々のチキンステーキを一噛みする。途端、ジューシーな肉汁と甘酸っぱい ソースの味が広がり、才人の舌を心地よく刺激した。 「うまい! いつもうまいけど、今日はまた一段と!」 「うふふ、おいしいですか? サイトさん、病み上がりなんですから、しっかり栄養をつけて くださいね」 愛らしく微笑むシエスタに対し、一方才人は苦笑する。 「はは、決闘の傷じゃなくてお仕置きの痛みで3日もくたばってたってのが情けないけど……」 頭を掻きながら言うと、シエスタが何か思いついた顔をした。 「そういえば、サイトさんは普段どちらで寝ておられるんですか? お見舞いの時にミス・タバサの お部屋に入れていただきましたけれど、サイトさん用のベッドがあったわけではありませんでしたし」 「あー、その……」 不思議そうに首を傾げられ、才人は少し返答に困る。しかし、結局言い訳が思い付くことも無く、 正直に話すことにした。 「実はさ、タバサと一緒のベッドに寝かせてもらってるんだ」 瞬間、シエスタは目を見開く。 「サイトさん! いけません、そんなの!」 そうかと思えば、猛烈な勢いで才人に詰め寄ってくる。 「年頃の女性と男性が寝床を共にするだなんて! ましてや主人と使い魔なのに! もう倫理的にも 主従関係的にもダメダメです!」 「お、おう」 何故か必死の形相で迫るシエスタに、才人はたじたじになった。言っていることはその通りだとは 思うが、迫力が圧倒的すぎる。シエスタは見るからに真面目な感じであるし、こういうことには うるさいのかもしれない。 「でも、ダメっていわれても他に寝る場所があるわけじゃないしなあ」 ステーキを口に運びながら呟くと、ナビィが声を掛けてくる。 「それなら、間に合わせの寝床を作るっていうのはどう? ワラの上に毛布を敷くとか」 「ワラでしたら、馬の餌用のものが用意できますよ」 妖精の少女の提案にメイドの少女が乗ってくるが、提案された才人は渋い顔を作った。 「うーん、確かに代用品にはなりそうだけど、なんかニワトリ扱いが加速しそうだな」 何の因果か日本人の名前イコールニワトリの名前と思い込んでいる主人の勘違いに、才人は呻く。 ニワトリの巣の様な藁の寝床なんて、ますますそのイメージを助長しそうだ。 「なんというか、ごめんね」 「まあ、今更仕方ないけどさ」 体ごと頭を下げるナビィに、才人はそう返した。彼女の発言が本で起こった誤解であるが、決闘で 助けてもらった恩を考えるとこの程度で怒ることはできない。それより、今は寝床をどうするかだ。 「フローリングじゃなくて畳だったら、そのまんま寝っ転がれるんだけどなー」 故郷のそのまま座って寝れる床を思い出し、才人は郷愁の念を感じた。 「ほう、チキュウとやらにも畳があるのか?」 そこに、ムジュラの仮面が反応してくる。 「もって、タルミナってとこにも畳あんのか!?」 「一般的ではないが、町の剣術道場の上座に少し敷いてあるぞ」 「おいおい、えらく和風だな……」 かなり意外だった。召喚初日にタルミナのことを聞いた限り、ハルケギニアと同じヨーロッパ風の 世界を想像していたのだ。 実際には、タルミナもハイラルも地球で例えるとヨーロッパを基調に世界各地の文化が雑多になった 様な土地柄であるのだが、流石にそこまでは才人が知る由もない。 そこで、才人はふと思いついた。 「そうだ、それならさ、お前の力で畳作れないか?」 「ああ、その程度ならできるだろう」 あっさりと肯定され、才人は軽くこぶしを握る。 「よっしゃ、それなら後で頼む!」 「でもそれなら、ベッドの方を作った方が早いんじゃない?」 ナビィに言われるが、才人は首を横に振る。 「いや、やっぱり畳の方がいいよ。どうせなら故郷のもんを感じられる寝床のがいいし」 言いながら、才人は切り分けた鶏肉をほおばった。地球にいた頃はベッドで寝ていたが、いざ離れると 日本を感じられるものを求めてしまう。人間の性であった。 「しっかし、ホントにうまいなこれ。タバサたち、いっつもこんないい肉食べてんのか」 流石は貴族、と妙に感心していると、シエスタが小さく笑う。 「最近は特別ですよ。もうすぐ“フリッグの舞踏会”ですから、それに備えて今の時期から材料も 普段よりいいものを仕入れる様にしているんです」 「フリッグの舞踏会?」 尋ねてみると、シエスタは答えてくれた。 「毎年の春に行われる舞踏会ですよ。なんでも、新入生の方々を歓迎するレクリエーションとして 開かれるとか」 そこまで言うと、シエスタは夢見る様な表情になった。 「それから、そこで躍ったカップルは結ばれるという伝説があるそうですよ」 ロマンティックですよねー、とうっとりとした声で言うシエスタに、才人は苦笑した。何処の 世界でも、女の子はこの手の話が好きらしい。 その話をしている時、シエスタがちらちらと才人の方を見ていたことに全く気付かないのは、 才人の才人たる所以である。 「舞踏会か。タバサ様、どんなドレスを着るのかな?」 楽し気なナビィの呟きで、才人もそのことに気が付いた。 「タバサのドレス姿か、興味あるな」 食事の手を止めて、ドレスで装ったタバサの姿を想像してみる。黒を基調にし、レースやフリルで 飾られた、俗にいうゴシック・アンド・ロリータ系のドレスをまとったタバサ。彼女の小柄な肢体が 小悪魔的なドレスに包まれ、更にスカートの端を摘まんで会釈する姿を想像するだけで、口許が だらしなく緩んでいく。 ――って、おいおいおいおい! だから自嘲しろっての俺! タバサに欲情したりしたら、もう色々と 終わっちまうじゃねーかよ! そこまで想像――あるいは妄想――してはっと我に返り、才人は必死で頭(かぶり)を振った。 2つしか離れていない少女に対し、その思考はかなり失礼であるのだが、本人は気付いていない。 「なんでこいつは時々首を振りだすんだ?」 「癖なのかな?」 そして、同僚たちの呟きにも、まるで気付いていないのだった。 「まあ、あの愛想も素っ気も無い小娘が着る服に迷う姿など、想像できんけどな」 「いえてんなー」 ムジュラの仮面が言うと、雑念(ロリコンの呪縛)を振り切った才人は同意する。まだ付き合いは 浅いが、タバサという少女があまりおしゃれに関心はなさそうだということは気が付いていた。 「服といえば、俺も着替えがほしいな」 着ているパーカーを軽くつまみ、ぽつりと言ってみる。ムジュラの仮面の力ですぐに洗濯はできるが、 着たきりスズメではどうにも落ち着かない。 「着替えの服くらい、オレが作れるが?」 「うーん、畳はともかく、こういうのはプロに任せたいな」 ムジュラの仮面の言葉を、軽く拒む。彼には悪いが、餅は餅屋というやつだ。 「ルーンのことも気になるし、タバサに相談してみるか」 ~続く~ 前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち
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「お姉さま! 早く行きましょ! おなかがすいたの! おにく おにく!」 ガリア王都リュティス。人の群れでごった返す町並みを、 青髪の少女がふたり、連れ立って進む。 「でも めずらしいのね 普段なら 真っ直ぐお屋敷に帰るのに?」 そう言ったのは、件の風韻竜、シルフィード。 タバサは普段、人前でシルフィードに人語を喋る事を禁じている。それが彼女には苦痛である。 と言って、人里に降り立つ度に、いちいちシルフィードを化けさせるのも煩わしい。 自然、城下での買い物は最小限とし、寄り道もせず目的地へ向かうのが常となっていた。 タバサは無言で進んでいく。 彼女の目的は、先の任務中に出くわした『異変』に対する情報の収集である。 ガリアで北花壇騎士の勤めを続けていく以上、いつ又、先の怪物と遭遇するか分からない。 いや、状況によっては、今後あの化け物を追討を命令される可能性も少なくはないだろう。 哀れなセレスタンと同じ轍を踏まぬためにも、少しでも異変の正体に繋がる手がかりが欲しかった。 -と、 不意に、むわっとした靄の中に全身を包まれるような感覚に、タバサの意識が引きずり込まれる。 むせ返るような血の臭いが鼻腔を襲う。先の湿地で味わったのと同じ、例えようのない違和感。意味不明な焦燥。 「お姉さま?」 タバサの尋常ではない様子にシルフィードが問いかける。 いつしかタバサを包む靄は去り、平穏な日常が戻っていた。 タバサは暫くの間、キョロキョロと辺りを見回していたが、ある一点で目を留めた。 後方、ひょこひょこと片足を引き摺りながら歩いていく、行商人風の背中。 平和な昼下がりの雑踏の中にあって、その男だけが妙におかしい。 胸騒ぎがタバサの本能に訴えてくる。 先の感覚は、すれ違いざまにあの異形から感じ取ったに違いあるまい。 「食事はおあずけ・・・!」 使い魔の抗議も聞かず、タバサが踵を返す。 食事時の繁華街、人波を掻き分けながら、何とか異形を追いかける。 行商風の男は、まるで手品のようにひょこんひょこんと人の間をすり抜け、みるみる小さな点になっていく。 やがて、男が小さな路地へと消えていく。ややあって、タバサが追う。 男の姿は既にそこには無い。路地の先は、高い建物に囲まれた袋小路であった。 人並みに揉まれる使い魔の声を遠くに聞きながら、タバサは町に留まる必要を感じていた。 異変はその日の夜、王宮で起こった・・・。 紅一色の視界 白骨の玉座 屍体と肉片の折り重なった島 膝まで覆うぬるりとした赤黒い大河 死臭、獣臭、腐臭、血と汗と糞尿のにおい・・・ 私の手にはずしりとした無骨な斧。死刑執行人の使う、首を斬るためだけの斧。 目の前にいるのは、両手両足を絶たれ、地虫の如く這いつくばった・・・私。 涙と鼻水を垂れ流し、金魚のように何事か口をパクパクとさせている顔。舌が無いので命乞いもできない。 一息に、脳天を唐竹割りにする。滑稽にも、真っ二つになった顔面に突き刺さる斧。 同時に腹部に熱いものが走る。見覚えのある下半身を残し、私の体が仰向けに転がる。 間をおいて、鮮血を噴水の如く噴出しながら半身が崩れ落ちる。臍の下から桃色の紐がこぼれる。 目の前にいたのは、涙と鼻水を垂れ流し、歯を食いしばって大剣を振りかぶる・・・私。 腕が跳ね、脳漿がこぼれ、目玉が飛び出し、串刺しになり、喉を絞られ、杵で潰され、首が舞う。 殺すのも私、殺されるのも私。 殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され殺して殺され 「ここは地獄だ! 地の池地獄! 無間地獄! 私は何度殺せばいい! 私は何度殺されるんだ!」 只一つ、最後にボウガンで貫かれたのだけは私ではなかった。 私と同じ、青い髪をした少女であった・・・。 プチ・トロワの主、ガリア王女イザベラはそこで目を覚ました。 寝汗がぐっしょりと全身を濡らしている。 頭を振るい、鉛のように重い半身を起こす。窓の外には、未だ双つの月が爛々と瞬いていた。 ―権力者の歴史とは、陰惨な血に裏打ちされた、謀略と暗殺の歴史である。 ハルケギニア随一の大国であり、同時に多くの貴族を抱え、門閥を築いては有史以来政争に明け暮れていたガリアでは殊更であった。 イザベラの父、ジャゼフ一世からして、即位の折、有能なる自らの弟を排除することで、現在の地位を磐石なるものとしたのだ。 あるいは先程の夢は、ガリアの王族に流れる血の記憶が紡いだものではないのか? イザベラがそんな埒も無い発想を抱いたのは、夢の最後、自らの従兄弟に突き刺さった矢の由来を思ったからである。 ―ふと、イザベラが室内の違和感に気づいた。 部屋の中央、血で染め上げたように紅い反物が転がっている。 どこかで見覚えのある・・・ そう、昼間の行商人が売りつけていった物だ。 普段ならば下賤の品物と思い、買い求めたりはしない彼女であったが、 その時は丁度、任務に失敗して戻ってきたガーゴイル娘を散々っぱら罵倒した後で、エラく機嫌がよかった。 またその布に、どこか得体の知れない、突き放しがたい魅力があったのも事実である。 ―と、思考を巡らすイザベラの眼前で、反物が突如、ころころと転がりだした。 大きく伸びた布の先端がふわりと浮いて、見えない空中の何かへ、しゅるしゅると巻きついていく。 「イ・・ザベ・・ラ・・・ イザベラ・・」 「・・・ッ!?」 紅い布のカタマリが、何事か人語を喚く。 地の底から響くような、人間とは思えぬ低い声、にも関わらず、イザベラははっきりと声の主を直感した。 「わがむす め・・・ アルビオ・・・コイ・・・白の クニ・・・ 纐纈城・・・」 「父上ッ!?」 イザベラが駆け寄る。 途端、布は重力に引かれてストンと落ち、単なる反物へと還った。 「お父上はご病気なのでございます。」 突然、部屋の隅から聞こえた声にイザベラが驚いて振り向く。 そこにいたのは、片足の悪い、件の行商人。 「な ん・・・病気?」 「纐纈布に惹かれましたな 地獄を夢に見ましたな 血の記憶を辿りましたな 長上長上 さあ 白の国へ・・・纐纈城へと参りましょう」 ひょこり、と男が動く、あわせてイザベラが後ずさる。 「白の国・・・アルビオン? それにコウケツ? 貴様は何を言っている!?」 「私は御城主様の お父上の使いの者です 御城主様の病を治すため イザベラ王女にご足労願いたいのでございます」 「ふざけるな! 下賤の輩がッ! 一国の王女の寝室に踏み込んだばかりか 父の名を語ろうとは! ここで私が成敗してやるッ!」 そう叫ぶと、イザベラは机に置いてあった杖を拾い上げる。 「成敗? 成敗!? ハハハ それは困りますな やむを得ませぬな アルビオンにお越し願うのは 一部だけということで・・・」 ひゅん、と何かがイザベラの眼前に飛んでくる。 イザベラは咄嗟にのけぞり、無様に尻餅を付く。 なにものかは脇の窓硝子を叩き割り、男の元へと戻る。 つ・・・、とイザベラの頬を紅い粒が伝う。 イザベラを襲ったのは腕である。3メイルはあろうかという細長い腕が、男の右肩から、新たに一本にょきりと生えていた。 「ご病気を癒すのに欲しいのは 薬の材料だけでございます。 あなた様のキモを頂いて ヒッヒ! 新鮮な内に纐纈布へとくるんで持ち帰ると致しましょう」 「ヒッ・・・ この バケモノめ!」 イザベラが部屋を飛び出す。叫び声をあげながら長い廊下を駆ける。 足がもつれ、幾度と無く転倒する。 ひょこん、ひょこんと三本腕が後ろから迫る。 「誰か・・・ 誰かいないのか!?」 四つん這いで、転がるように階段を下り、広間の扉を必死の形相で押し開く。 扉の先は、夢の続きであった。 床一面を覆う、真紅の絨毯。 苦悶の形相で首を捻じ切られた兵士。 前衛芸術のように、無造作に床に投げ捨てられた侍女たちの部分。 混ざり合い、あちこち転がされてどれが誰のか判別もつかない。 死臭、獣臭、腐臭、血と汗と糞尿のにおい・・・ 現実感を喪失した光景を前に、イザベラが立ち尽くす。 一方で、彼女の中の冷静な部分が、彼女自身を罵倒する。 しっかりしろ! この程度の事で呆けて動けないだと! それでも一国の王女か! 役立たずの給料泥棒どもは死んだ! 不従順な女どもも死んだ! それがどうした! 化け物が一段一段 階段を下りてくる音が聞こえないのか!? 大体お前は奴らの事が大嫌いだっただろうが! 意思も無ければプライドもなく ビクビクとこちらの顔色を伺っては追従の笑いを浮かべる! それでいてお前がいなくなれば容赦無く陰口を叩き 何かと従兄弟の肩ばかり持つ! 数分前まで 一緒になっていじめていた共犯者であるにも関わらずだ! あんな奴らは死んで当然! お前は違うだろイザベラ とっとと我に返って足を動かさないか・・・! 二階に到着した三本腕が見たのは、広間の中央で立ち尽くすイザベラの姿だった。 「ハ ハハハ 私の事を待っていて下さいましたか 長上 長上」 「・・・・・・」 「どうなさいます? 御一緒にアルビオンまでお越し願えますかな? その方が五臓も新鮮でいい 尤も 遅かれ早かれ 首から下とはお別れせねばなりませ・・・」 「オラァッ!」 「ギョッヒャアアア!!」 厭らしい笑みを浮かべた男の顔面に、イザベラが振り向きざま、鉄仮面を思い切り投げつける。 メイジ、それも一国の王女とは思えぬ野蛮な不意打ちが直撃し、異形が叫ぶ。 鼻血が宙を舞う。 「汚らわしい化け物の三下風情が よくも私の庭で好き勝手やってくれたじゃあないか! 女王イザベラを舐めるで無いよッ!!」 「・・・ギヘ! これは・・・ いやはや・・・ 流石はあのお方のお子様 いいでしょう こちらも張り合いがあるってものでさあああ!!」 「フン!」 走り出そうとした三本腕の先を取り、イザベラが杖を振るう。 直後、男の両脇にあった死体の中から、二体の重騎士が飛び出してくる。 「・・・! ガーゴイル!? こんな小細工ガァ!」 両手でガーゴイルの頭部を抑えた男の眼前に、今度は壷が飛んでくる。 男が三本目の腕で叩き割る。 中の水が男の全身を濡らす。 「どうしたァ!? こんな こんな・・・なっ!?」 「舐めるで無いと言った!」 「これは・・・ こ 凍る!?」 イザベラは魔法の才能に恵まれていない。 通常ならば、対手の体を丸ごと凍らせる魔法など、行使できる筈が無い。 ただし、通常の場合なら だ。 ガーゴイルで体を固定し、全身を濡らした水が容赦なく敵の体温を奪っていく条件下でなら話は別である。 「さあ・・・! 凍れ・・・凍れッ! 凍っちまいな!」 「クハッ ハ アハ・・・ これはお見事 実にお見事! ・・・だが!」 「!? な・・・!」 男の腹から、筋骨たくましい腕が新たに二本、ずぼりと飛び出してくる。 ガーゴイルを振り払い、凍りかけた全身を持ち上げると、男は驚くべき速さで腕だけで走り出した。 魔法に集中していたイザベラに、回避する余裕は無い 体当たりを腹部に受け、息が詰まる。 視界が一瞬赤く染まる。 肋骨の折れる音を聞きながら、5メイル程勢いよく吹き飛ばされた。 「やや!? イカン! 腹を狙ってはイカンのだった!」 心底困った表情を浮かべながら、のっしのっしと男が迫る。 「王女様 ハラワタを傷つけないようにやりたいんで これ以上抵抗しないで貰えませんかね?」 「・・・殺して ・・・やる!」 イザベラが必死で杖を構えるも、視界がぼやけてマトモに動けない。 異形が長い腕を振りかぶる。 ―直後、広間の硝子を突き破り、複数の氷の槍が高速で飛び込んでくる。 狙いすました連劇が、男の手足を根こそぎふっ飛ばし、更に一本が脇腹を直撃する。 勢いのままに男が真横へと転がる。 「ギャガガガガガッ! だれだ! だれがこんなヒドイ事をッ!?」 「・・・七号ッ!」 突き破った窓から、広間の中に飛び込んできたのは、北花壇騎士団の七号・『雪風』のタバサだった。
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