約 1,871,784 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/333.html
爆発自体については、おとーさんは平気でしたが使い魔たちが混乱して暴れています。 「し――― 静かに、娘が起きてしまいます」 おとーさんの電波な言葉で使い魔達は一応落ち着きました。 おとーさんが辺りを見回すと爆発のせいで木っ端や何かの破片が散乱しています。 咳き込みながら生徒たちは机の下から出てきます。 殆どの生徒は無事のようでしたが、逃げ遅れたのか一人の太った生徒が教室の隅でのびていました。 ルイズの方を見ると服はボロボロで全身煤だらけになっています。 「ちょっと失敗しちゃった」 煤を手で払いながらルイズはそう言いますが、生徒からは非難ごうごうです。 シュルヴルーズは最後の気力を振り絞りルイズに教室の掃除と今日一日魔法の使用を禁ずる事を言い渡して そのまま気絶しました。ルイズは元々魔法が使えないのであまり意味はありませんが。 爆発のせいで今日の授業が中止になったので生徒たちはそれぞれの部屋に帰りました。 教室にはおとーさんとルイズの二人だけが残り、爆発の後片付けをおとーさんがしています。 ルイズは机の上に座ってその様子を見ていました。本来ならばルイズが片付けをしなければならないのですが、 私の使い魔だからとおとーさんに押し付けたのでした。 「・・・・また・・失敗した・・・ 」 おとーさんは掃除の手を止め、呟くルイズを見ました。 「いっつも失敗するの。簡単なコモンマジックも使えないの。魔法成功率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』ってみんなバカにするの・・・・」 ルイズの肩が小さく小刻みに震えているのがわかります。 おとーさんは知りませんが小さい頃からルイズは貴族の三女として厳しく育てられてきました。 無論そのこと自体はごく普通なことなのですが、ルイズは魔法が使えないため人一倍厳しく育てられました。 ルイズ自身も人の何倍も努力して魔法が使えるように頑張りました。 それは、トリステイン魔法学院入ってからも続けてきました。ですが、どう頑張っても魔法を使うことが出来ませんでした。 その為、学院の生徒から馬鹿にされ平民からも表立ってではありませんが陰で馬鹿にされていました。 貴族としてその事は恥辱でした。また、使えない自分自身にも嫌悪感をつのらせていました。 「・・・サモン・サーヴァントが成功して・・・ おとーさんを使い魔に出来たから・・・ 魔法が使えると思ったのに・・・ なのに・・・」 ふいにルイズは優しく抱きしめられました。吃驚して顔をあげると抱きしめているのはおとーさんでした。 「ちょ、ちょっと、おとーさん何やって・・・」 ルイズがそう言うと今度は頭を撫で始めました。無言でしたがそれはそれはとても優しく。 そうこうしているとルイズの肩がまた小刻みに震え始めました。 「こここ、子ども扱いしないでよ!!!」 ルイズはそう言うとおとーさんから離れ教室の出口まで駆け出しました 「もう、おとーさんの今日の食事抜き!!」 そう一言残してルイズは教室から出て行きました。 おとーさんはしょんぼりした感じでまた教室の掃除を始めました。 おとーさんの掃除が終わったのは正午を少し過ぎたころでした。 ルイズの部屋に帰ろうとしていましたが、今朝の洗濯物の事を思い出してシエスタの所へ行く事にしました。 洗濯場へ向かっていたおとーさんでしたが、美味しそうな臭いがしてきたのでついついそちらの方へ行ってしまいました。 食堂に着いたおとーさんでしたがルイズから「食事抜き!!」を言われたのを思い出してしまいました。 おとーさんはその場で涎をたらしてぼーっとしていました。 シエスタは食堂の外にいるおとーさんに気がついて近づいてきました。 「使い魔さん。お洗濯物出来上がっているので食事の後で渡しますね~って え? 食事抜きなのですか???」 シエスタは少し考えた後 「ちょっとこっちへ来てください」 と、おとーさんを厨房の方へと連れて行きました。 「余り物で作った賄いのシチューなのですけど、良かったら食べてくださいね」 おとーさんはシチューを頂きました。賄いという事でしたが、朝食べた質素な食事に比べたら遥かに豪華でした。そしてそれはとても美味しいものでした 「美味しかったですか? よかった~。食事抜きの時はいつでも言ってくださいね。 え? 仕事を手伝いたい? じゃぁ、このデザートを配って・・・」 デザートを手にとってシエスタはおとーさんを振り返りました。そこにはメイド服姿のおとーさんが居ました。 「あ、あはは・・・・ 別に服まで着なくてもいいですよ」 シエスタは引きつった笑いでおとーさんにそう言うと、メイド服を脱がせて改めておとーさんに手伝ってもらうことにしました。 (私、なんかとんでもない事お願いしたんじゃ・・・) シエスタはちょっと不安を覚えました・・・・
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3846.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ムスタディオは、村人やシエスタの家への挨拶もそこそこに飛空挺の調査を始めた。 取るべき選択肢は幾つかあった。 シエスタの家で「祖母」の遺品を見せてもらう。 話を聞く。 「祖母」の墓へ赴く。 それらを選ばなかったのは、まず自分の世界で最後に居た場所を見たかった、というだけではない。 ムスタディオは他の選択をしたほうが効率的だと感じながらも、後回しにしてしまった。 仲間の一人が死んでいるかもしれない。 箱の蓋を開けるのはあまりにも恐ろしく、確認する覚悟が未だ、つかなかったからだった。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-09 「地に墜ちた箱舟」の表面は、乾いた色の苔で覆われていた。 三隻の内二隻はかなり損傷が激しく、今にも倒壊しそうだったが、六十年もの間崩れずにいたようだ。 シエスタに話をいくらか聞いてきたが、どうも墜落直後に大規模な調査隊が派遣され、大勢のメイジによる「固形化」の処置が行なわれたのだという。それによって墜落直後の状態を保っており、苔などが付着してもそこから成長できずにいる。 『当時はなんだか、すごい騒ぎだったみたいですよ。アルビオンくんだりからもわざわざ調べに来た方がいたみたいで。 村では我が物顔の貴族達がたくさん闊歩して、迷惑をかけられたみたいです。すごい発見だって貴族の方々ははしゃいでいたけど、この地に生きる自分たちにはいい迷惑だった、って祖父が言っていましたわ。 ……けど、すぐに調査の方々が来てくださったおかげで、祖母は一命を取り留めたんです』 「祖母」はかなり酷い火傷を負って倒れていたのを見つけられた。 しかし二日もしない内に駆けつけた調査隊の水メイジによって治療を施された。 それはいくら何でも早すぎる気がする、と普段のムスタディオなら思っただろう。 しかし今の彼はそんなところに気を回す余裕がなかった。別のことに混乱していた。 その「祖母」が、あの決戦の場、またはその周辺に居た人間なのは間違いない。 しかし、六十年前というのは何故だ。 そのことについてしばらく考えようとして、首を振った。何故六十年前。ひいては何故召還されたか。自分には窺い知れないことだろう。ただ事実としてあること。 ムスタディオは考えを飛躍させ、可能性を考える。 まず、あの戦いの場そのものがこの地に呼び出されていることを鑑みると、この地には爆心地に居た人間、周辺の人間が自分のように召還されているかもしれない、ということ。生物、物、もしかすると敵味方も関係なしに。 そして、ムスタディオがトリステイン魔法学院に、「箱舟」と「祖母」がそれなりに離れたタルブの村に、六十年もの時間差を置いて呼び出されたことを考えると――皆場所・時間をばらばらにして召還されているのかもしれない、ということ。 (……なんだか、空想魔学小説みたいだな) 現実味がない想像。しかしそれは、ムスタディオにとっては恐ろしい実感を伴っていた。 皆、「祖母」のように天寿を全うしているかもしれない。 そもそも、召還直後に火傷から死亡しているかもしれない。 「……くそ」 箱舟の入り口で足を止めている自分に気付く。 あれこれ考えることがある。しかしそれを言い訳にして調べることすら後回しにしようとする自分がいた。 何を怖がっているのか、心当たりが多すぎて考えるほどにうずもれてしまう。 ムスタディオは両頬を思い切り張ると、ブレイズガンを構えて朽ちた飛空挺へ足を踏み入れる。 ◇ それは一番原型を留めている飛空挺だった。 帆柱もプロペラも落ちていないし、船体もそこまで破損していない。 ハッチを探し当て、中に進入してもその印象は変わらなかった。 船底から少しずつ上がっていくが、動物や魔獣が住み着いている様子もない。 隣接した船で炸裂したアルテマの余波、次いだ墜落の衝撃でそこかしこが歪んではいるものの、ゴーグの地下で発見される機械たちよりよっぽど状態が良く、基本の骨格はほぼ保たれている。聖石があれば、案外動くかもしれないな、とすら思った。 甲板への扉を開くと、陽光に目を焼かれた。ぷは、と深呼吸をして船内の淀んだ空気を肺から追い出す。 しかし、日の当たる場所にでたというのに陰鬱な雰囲気は消えない。それどころか悪寒にまで変わりつつあった。 甲板も比較的綺麗な状態を保っていた。剣や魔法で削られた痕もなければ、血痕もない。 ムスタディオは、それだけ確認すると隣の飛空挺を見据えた。 「……やっぱり、あれか」 隣の飛空挺は損傷が一番激しく、半分ほどしか原型を留めていない。火事の後みたいに黒焦げで、ここから見える甲板は周辺部分を残して崩落していた。 陰鬱な雰囲気は、そちらから漂っている。 船底から上がっていくのは損傷の酷さから諦め、ムスタディオは甲板から甲板へと飛び移ることにした。バランスを崩してこの船に寄り掛かるように建っていたので、比較的容易だった。 欄干に掴まりながら、崩落した甲板を覗き込む。 「うわあ……」 墜落直後にかけられた「固形化」のために、炸裂当初の生々しさがそのままそこに残されていた。 しかしそこから見える船の形は――記憶の中にある、最後の戦いの場に何か被る。何よりもこの雰囲気が、「あの場所」であることを物語っていた。 中心部、陥没の一番激しい場所の中空を見る。 血塗られた天使が炸裂した瞬間がフィードバックする。 そしてその際に、仲間達の前に銀色の鏡が浮いていたことも。 『調査隊の方々によると……ええっと、家族からの又聞きの又聞きなんですけど、人型の魔獣みたいな死骸はいくつか見つかった、と思います。でも、人の死体は箱舟の上や、中からは見つからなかったって』 ――やっぱり、皆この地に召還されているかもしれない、と思った。 しかしムスタディオには、その可能性と希望は抱き合わせではないように感じられてならない。 ◇ 穴の底にも降りてみたが、目ぼしい物は何もなかった。 ヴァルゴの聖石はどうなっただろう、と思う。聖天使が倒されたなら、この場所に残っていたはずだ。調査隊が持っていってしまっただろうか。それとも自分が紛失したように、どこかに消えたか。あの石なら足がついていても不思議ではない。 やはり、探さなければ、と思った。 しかしそのためには学院に戻り、まずタウロスとサーペンタリウスの消息を突き止める必要がある。 「…………」 疲労を感じたムスタディオが甲板へ上がると、自分を呼ぶ声が聞こえた。 「ムスタディオさーん!」 ムスタディオが登ってきた飛空挺の甲板の入り口で、シエスタが手を振っている。 「どうしたんだい?」 甲板から甲板へ飛び移り、尋ねる。返事の代わりに、両手に掴んだバスケットが差し出された。 「ええっとですね、お昼になっても戻ってこないから、うちの家族が心配してました。これ、一緒に食べませんか?」 明るい様子のシエスタは、しかしどこか一歩引きたいのを我慢しているように思えた。 それに、と思う。彼女の家族はこんなどこの馬の骨とも知れない自分を心配してくれているのか。その言葉は、シエスタの気遣いではないだろうか。 「……ありがとう。優しいね」 疲れた頭が、柄にもないことを口走らさせる。 「え? あ、いや、そんなことは……ムスタディオさんを連れてきたの、わたしですし。目的地に着いたんだから後は勝手に、なんてできませんし」 「……あはは、そうか」 シエスタのしどろもどろな様子に、笑ってしまった。 気遣いはありがたかった。 シエスタから見れば、自分は脅迫者もいいところだろう。 おびえながらも気を使ってくれていることを申し訳なく思う一方で、何の制限もなく他人と接することを気持ちが良く感じる自分がいた。 「ここ、見晴らしいいですよね」 ムスタディオにバスケットを渡すと、シエスタは欄干を両手で掴んで身を乗り出す。ムスタディオもそれにならう。 そこからは、タルブの村が一望できた。 ムスタディオは目を細めて、しばらく地上を眺めていた。 頭に浮かぶのは「祖母」のことだ。 彼女は、この村で、どんな気持ちで一生を終えたのだろう。 調査隊について行くことだって出来たはずだ。というか恐らく調査隊の方から彼女へ申し出があったと予想がつく。 しかし彼女はそれを断ったのだろう。この村で結婚し、子を産み、農耕に励み、異国の地に眠った。 それは、この地で生きていくと腹を括ったからこその行動だったのではないだろうか。 (……オレは、まだ腹は括れないな) けど、戻れるとも思ってないや。 なのに手がかりに縋りつかざるを得ない、自分の半端さが情けない。 ――「祖母」は、誰だったんだろう、と思う。 名前はまだ聞いていなかった。それすら、後回しにしていた。 「――けど、普段誰も来ないんです。なんだか薄気味悪くって。子供達も、いい遊び場になりそうなものですけど」 「そうだな……ここには良くないものが漂ってるんだ」 「そんなの分かるんですか?」 「ああ、なんとなくだけどね」 そんな会話をしながら、何か、今なら聞く覚悟が持てそうな気がした。 ムスタディオは表情を引き締め、シエスタに問う。 「あのさ、君のおばあさんのこと、改めて聞かせて欲しいんだ」 ◇ ――まず、シエスタから聞いた名前は、全く聞き覚えのないものだった。 敵の神殿騎士だったのかと、思う。これだけ広範囲に渡って大規模な召還が起こっているのだ。周辺に居た女神殿騎士が巻き込まれていても、不思議ではない。 思うのに。 恐ろしい予感は消えないのは、何故だろう。 (――偽名かもしれないんだ) シエスタの口から語られる、祖母のこと。 『箱舟』が60年前に落ちてきた時に、傍らに重症で倒れていた。緊急で到着した調査隊の水メイジにより九死に一生を得る。 変なことを口走るので皆信用しなかった。それ以外は毅然とした働き者で器量もよく、元貴族ではないかと噂される村の人気者。 剣技に長け、何種類かの「おまじない」――白魔法だろう――を用いた。 「先住魔法かって驚かれるし、研究のために誘拐されたり「アカデミー」というところに連れて行かれるかもしれないからって、本当は秘密になってるんですけどね」 ……ムスタディオは考える。 白魔法の心得があり、剣を用いる女性の仲間は四人。 どんな剣技を用いていたのか、訊こうと思った。もしそれが特殊な物なら、さらに二人に絞られる。髪の色でもいい。なんでもいい。 「箱舟の上で見つかった物はどうしたんだい?」 口から飛び出たのは違う質問だった。何をしてるんだ、と思って、自分が酷く緊張していることに気付いた。背中に大量の汗が滲み、服が張りつきかけていた。 「あ、はい、祖母の持ち物や祖母がこれは自分の仲間の物だって言ったものは私の実家にあります。その他は調査隊の方々が持っていったそうですわ」 「そうなんだ。ところでさ、あ、」 核心を尋ねようとして、喉が干上がっていてどもり、それでも無理に言おうとして、 「その品々を、よかったら見せてくれないかい」 やっぱり口から出たのは遠まわしな方法だ。 嫌なことを、考えている。 「彼女」だけではあってほしくない、と願う自分がいる。 同時に、彼女かもしれないと予感する自分がいる。 「え……いいですけど、でもそんなに多くありませんよ」 「そうなのか。じゃあ今、持ってこれるかな?」 「大丈夫ですけど……ご飯を食べてからにしませんか?」 「いや、今がいいんだ。今すぐに確かめたいんだ、頼むよ」 どことなく嫌そうなシエスタに畳み掛ける。そうでもしないと叫びだしそうだった。少しおびえたようになったシエスタが分かりました、と言って船の中に消えようとするが、彼女が家を往復する時間すら耐えられそうにないムスタディオは彼女を呼び止める。 「おばあさんのお墓は、どこにあるんだ?」 あそこですと指差されたのは村の外れだった。 白い墓石の群が見える。 「あの一番外れにあるし、変わったお墓だからすぐに分かると思います」 「そうか。そこでどうしても確認したいことがあるんだ。よかったら、そこに遺品を持ってきてくれないか。頼む。――頼むよ」 身体が居ても立ってもいられなくなっている。その勢いに任せて土下座まですると、何かを察したのかシエスタは慌てて踵を返して行った。内部から反響する足音が聞こえなくなるまで、ムスタディオは身体を震わせながら、待った。 誰かといたら、逆に何かに屈服してしまいそうだった。 誰かの口から証言を取るのは、恐ろしすぎた。 覚悟がついた気がしていたのに。 ――しかし、それでも。 どうしても確認しなければいけない。 嫌な予感に嘔吐しそうだった。 一歩一歩が果てしなく重い。 ◇ タルブの村の外れにある墓地。白く幅広の墓石が並び、人影はなく、どこか閑散としている。 そのまた外れで、ムスタディオは立ち尽くす。 そこには、一振りの剣が突き刺さっていた。 「…………あ」 ムスタディオはもはや声もでない。 焼けていくらか変色し、雨風にさらされて錆の浮いた刀身。 しかし、それは、確かに、今や記憶の中だけに居る、ある騎士が握っていたものだった。 膝が落ちる。剣にすがりつく。錆びた刃は肌を傷つけない。心を抉る。 墓石に目線が下りる。よく分からない、こちらの文字でその人の名前が書いてある。 そしてその傍らに。見慣れた文字が、厳粛に刻まれていた。 「……う、ぁ」 意味のないうめきが口から漏れる。イヴァリースの文字をこんな地でお目にかかるとは夢にも思わなかった。 こんなもの、見たくなかった。 ムスタディオは目をきつく閉じた。 それでも、網膜にその光景が焼き付いて離れない。 その碑文は、たった三文。 ――アグリアス・オークス。享年八十二歳。異界に眠る。 とだけ。記されていた。 わけが分からない、と何度も頭の中で繰り返した。 自分と同じ時を生き、戦い抜いた人間が何故八十二歳なんて老婆で、それどころか骸となって墓の下で眠っているのか。 意味は分かっているのに実感が湧かない。――湧かない。湧かないと思い込もうとしている。 しかしあがく心とは裏腹に、身体が、目から涙を流させ始める。 アグリアスさんは死んだのか、と思った。 そう思った瞬間、何かが嫌な音を立てて正しく嵌ったような気がして。 ムスタディオは口からほとばしる泣き声を止められなかった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1034.html
嫉妬! 贈り物に気をつけろ! ルイズの部屋に戻った二人は、さっそくデルフリンガーを鞘から抜いた。 「さて、いきなりだがお前が知ってる事を全部話してもらうぜ。拒否権はねー」 「はい何でも喋りますですから命だけは助けてお願い!」 「じゃあ喋りな。『使い手』とは……何の事だ?」 「解んね」 ルイズが杖を構え、承太郎はスタープラチナを出した。 「ちょっ、マジで解んないの! おめーさんを見てたら急に頭に浮かんだだけさね!」 「ねえ。私、ちょっと精神力使い果たしたみたいで、今あの魔法は使えないのよ。 だからジョータローがやっちゃって。遠慮は無用よ」 「仕方ねー。見かけより頑丈そうだが、とりあえずへし折ってみよう」 スタープラチナが刀身を握りしめる。その握力にデルフリンガーはビビッた。 「イヤアアッ! やめて! マジ! 思い出すから! ねっ!? つーかヒントくれよヒント! おめーさん達何者だい? 教えて!」 「……レコン・キスタのスパイという可能性は考えられない? 私達から情報を聞き出すつもりとか」 「しかし……あの武器屋に入ったのは偶然だ。その可能性は低い」 「どちらにせよこっちから情報を与える必要は無いわね。 姫様から秘密って言われてるんだもの。ヒントなんて論外よ」 「こういう時……俺の国では対処法がある。それをやってみよう」 「やってみて」 「オラァーッ!」 地球の叡智が生み出した対処法! それは記憶喪失になった人間や、壊れた機械に対して非常に有効である! ……と一部の人は本気で信じている方法。すなわち、叩く。 しかも承太郎は! 斜め45度の角度で叩くという熟練者っぷりを見せた! 「ギャアアアアアアアアアッ!!」 殴られた金属音をデルフリンガーの悲鳴がかき消す。 構わず承太郎は二度、三度と斜め45度のチョップをスタープラチナで執行した。 結果! 「『使い手』なんだから、俺を使ってくれねーと思い出せるもんも思い出せねーかも」 必死に言い訳をした。 だがそれもそうだと思える内容だったため、さっそく振ってみる事にする。 承太郎の左手のルーンが輝き、デルフリンガーは「おっ」と呟いた。 「どうした。何か思い出せたか?」 「おめーさん、すごいね。体力はあるし、変な幽霊出せるし、ルーンが光ると何かパワーアップするみてーじゃねーか。こりゃおでれーた」 「どうやら俺達の情報が目的のようだな。ぶち砕いてやるぜ」 「デルフリンガーは砕けない! 完! って、待って待って落ち着こうぜ」 「…………」 「いや、何か今思い出せそうになったのよ。このルーン何か懐かしいような。 だからしばらくの間、俺の事は保留にしとこーぜ。何か思い出したら話すから」 「やれやれだぜ」 こうしてデルフリンガーは承太郎が預かる事になった。 もし『使い手』に関する事を誰かに話そうとしたら、即座にジャンクにしてやると脅しをかけまくったので多分大丈夫だろう。 デルフリンガーの起こす騒動はとりあえずこれで終わりかと思った。 が、デルフリンガーが引き金となって大変な事が起きた。 『ルイズが承太郎に剣をプレゼントした』 この事実が! 三人の乙女を突き動かした!! ケース1 微熱のキュルケ 「ダーリン! ルイズに剣を買ってもらったんですって?」 「ん……まあな……」 「何だかずいぶんとボロっちいわね。錆びてるじゃない」 「……ああ」 「でも意外だわ。ダーリンったら、剣まで使えるのね」 「いや、全然」 「え、そうなの? まあいいわ。私からもプレゼントよ!」 「……これは?」 「投げナイフセットよ。竜の羽衣が弾切れを起こした時、困ったでしょう? だから飛び道具もあった方がいいと思って。 ジョータローのあの能力を使って投げれば、そこいらの魔法なんか相手じゃないわ」 「投げナイフは性に合わねーんでな。遠慮しとくぜ」 キュルケ――投げナイフセット、失敗。 ケース2 雪風のタバサ 「これ」 「いらん」 タバサ――タバサ特製はしばみ茶八号、失敗。 ケース3 シエスタ 「あの『ひこうき』に乗る時、寒そうでしょう? ですから、これをどうぞ」 「ほう、手編みのマフラーか。ありがとよ。……ん? これは文字か?」 「はい。あ、ジョータローさんは異世界から来たから読めませんよね。 それはですね、ジョータローさんの名前です」 「こんな字をしていたのか。……こっちは?」 「そっちは……その……私の名前です。め、迷惑ですか?」 「…………しかしずいぶんと長いマフラーだな」 「あ、実はこれ二人用なんです。こうして、二人で……キャッ」 「……やれやれだぜ」 シエスタ――二人用マフラー、成功。 さて承太郎にフラれたシエスタが、なぜプレゼント合戦に参加しているのか。 それは同僚の女の子からアドバイスを受けたからである。 「まだあきらめるには早いわよ。今は駄目でも、あきらめずにアタックし続ければいつか振り向いてくれるかもしれないわ」 という訳でシエスタは承太郎を振り向かせるべく、戦線復帰を果たしたのだ! そんなシエスタにさらなるチャンスが訪れる。 「……ところでシエスタ、頼みがあるんだが」 「はい、何でしょう?」 「俺に文字を教えてくれないか? ……帰るめどが無くなっちまったから、読み書きができねーとこれから不便しそうに思えてな」 「わ、私でよろしければ、ぜひ!」 大喜びで承諾し、チャンス到来春到来とシエスタの頭の中がハッピーになる。 「ちょっと待った!」 が、ここで第四の女が現れる。キュルケ、タバサ、シエスタに続く彼女の正体は!? ケース4 ゼロのルイズ 「ミス・ヴァリエール! どうしてここに!?」 「ジョータロー! 文字なら私が教えて上げるわ。 私はあんたのご主人様だし、実技以外の成績はいいんだから!」 「ま、待ってください。ジョータローさんは私にお願いしてきたんです。 それを横から奪い取るなんて、いくらミス・ヴァリエールでも酷すぎます!」 「フンッ。あんたメイドでしょ? 朝昼晩、メイドの仕事で忙しいわよね? いつ教えるの? ねえ、いつ文字を教える時間なんてあるのかしら?」 「うっ……み、ミス・ヴァリエールだって授業があるじゃありませんか! それに、学ぶのと教えるのとじゃ、勝手が違います! 恐れながら、ミス・ヴァリエールに教師の真似事は難しいかと!」 「そそ、それでもあんたよりはマシよ! 古代ルーン文字だって読めるんだから!」 「解りました。こうなったらジョータローさんに決めてもらいましょう」 「上等よ。さあジョータロー、どっちに文字を習う?」 二人が振り向いた先には、すでに承太郎の姿は無かったという。 ルイズ&シエスタ――文字の勉強、失敗。 ケース5 雪風のタバサ再び 「やれやれだぜ……」 「あ」 「ん? タバサか」 「何かあったの?」 「いや、ちょっと文字を習おうと思ったんだが、いい相手がいなくてな。 コルベールは多忙、ルイズはうるせーし、ギーシュからは習う気がしねー」 「……読み書きできないの?」 「……俺の故郷は遠いんでな。ここで使われてるのとは違う文字を使ってる」 「なら私が教える。お茶とお菓子も用意して――」 「断る」 「……そう」 タバサ――文字の勉強+タバサ特製はしばみ茶八号とお菓子、失敗。 ケース6 微熱のキュルケ再び 「あらジョータロー、どうかしたの?」 「いや何でもない」 「そう?」 キュルケ――事情を知らず不戦敗。 ケース7 雪風のタバサ三度目の正直 「ん? まだ俺に用があるのか?」 「お茶は出さずに字を教える。騙して飲ます気は無い」 「……そうか」 タバサ――文字の勉強、成功。 翌日。 「実家に帰る事になった。ごめんなさい」 いずこかから来た手紙を読んで、タバサは急に実家に帰る事になった。 それになぜかキュルケもついて行く事になるのだが、それはまあどうでもいい。 ともかく承太郎が文字を学ぶチャンスは遠のいたのであった。 ちゃんちゃん。 「……できた、できたわ」 寮のとある一室で、彼女は会心の笑みを浮かべていた。 彼女の前には、小瓶に入ったポーションがひとつ。 「フフフ……後は、これを飲ませるだけ。待ってなさい……」 新たなる事件が目前まで迫っていた。 「待ってなさい、ギーシュ!」 しかしターゲットはギーシュ・ド・グラモン。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1251.html
第14話 サザエさんとは言わせない・後編 「腹減ったァ~」 気だるい声が廊下に響く。仗助の声だ。 あの後、厨房の方まで来たのは良かったが、いかんせん仗助は部外者である。料理人として迎えられたトニオの様にホイホイと入ってはいけない。 「やっぱり忙しいィーみてェーだしよォーーー」 丁度昼時、忙しい時間帯である。どうにかならないものかと頭を悩ませていたときであった。 「あの~、どうかされましたか?」 後ろからの声に振り向くと、そこには1人のメイドの少女が立っていた。 「あ、あんたは・・・・・」 仗助には見覚えがあった。昨夜もいた少女。 「あ・・・・」 少女にも見覚えがあった。昨夜突如現れた2人のうちの1人。奇抜な髪型に奇妙な黒装束の青年。 「あの・・・えっとよォ~~確かァ~~」 「シエスタです。昨日もお会い・・・しましたよね?」 「あ、ハイ。そうッスねェー。あ、俺、東方仗助つーモンです」 「・・・・?珍しい名前でいらっしゃいますね?」 「よく言われるッス」 やはり仗助、あったばかりの人間には結構腰が低い。しかし、それがシエスタに安心感を与えていた。 「(てっきり怖い人かと思ってたらそうでもないです)」朝の叫びや姿を見る限り、怖い印象を持っていたが、そうでもないと言うことが分かり、ニコッと微笑みながら再度聞く。 「ふふ、そうでしたか。それで、どうかなさいましたか?」 「実はよォ~・・・」 ルイズの勝手な、そして理不尽な飯抜きの顛末を伝える仗助。 「まぁ!それは大変ですね!人の身で使い魔になってしまっただけでも災難ですのに」 「分かるか?ったくよォー、トニオさんも忙しいだろうしなァー」 「あの~~それでしたら・・・」 シエスタが控えめに上目遣いで尋ねてくる。 「もしよかったら、賄いの物ですが食べていきますか?」 なんと見計らったタイミングッ!普通なら遠慮がちにするなどの行動に移るが、あいにく仗助はそんなモノどこ吹く風だった。 「マジっスかァ~?そいつァありがてェーー。マジで腹減ってたんスよォー」 仗助。日本人の美徳『遠慮』ゼロ。 「うふふ。わかりました。こちらにどうぞ」 そんな仗助の姿な思わず笑みがこぼれるシエスタだった。 「ウんメェェー!!」 美味。実に美味だ。トニオにこそ及ばないものの、どこか愛情のこもったシチューだった。 「余り物で作ったものですが、沢山ありますから、良かったらおかわりもどうぞ」 「グレートだぜェーー余りモンとは思えねェーゼェーー」 「うふふ、ありがとうございます」 目の前に食いっぷりの良い人間が居るというのは『作る』側から見れば気持ちの良いモノである。 そんなやけに嬉しそうな視線を受けて仗助が尋ねる。 「もしかしてよォーーーこのシチューはシエスタが作ったのか?」 ほのぼのと仗助を見ていたシエスタは慌てて答える。「はっ、はいッ!私が作ったんですよ?」 「グレート。マジにグレートだぜェーーシエスタよォーーーウマイ飯をアリガトよォー」 「あっ、ありがとうございますッ!」 やはりウマイと言ってもらえるのは作り手にとって至上の喜びである。 「しかしよォーーー」 だがこの東方仗助、恩を受けっぱなしでいる様な人間ではない。 「何か俺にも手伝わしてくれ。このまま恩を仇で返すっつーワケにもいかねえしよォー」 「いえ、そんな、大丈夫ですよ」 「是非手伝わしてくれよォー。なんかこのまんまじゃあ気分悪いッスからねェー」 そんな仗助に折れたのか、じゃあ遠慮なく、と言った感じで申し出を受けるシエスタ。 「じゃあ、このケーキを運ぶのを手伝って貰えますか?」 「了解だゼェー」 運びの手順をレクチャーしてもらい、シエスタと共にケーキの配膳をする仗助。 シエスタの他に仕事をしている小柄なメイド達の中に、たった1人、ジョースター家の血統の証とも言える長身に筋肉質な体躯、そして真っ黒な学ラン姿というのは、言うまでも無く浮いていた。 しかし、不思議な事にそれがルイズに見付かることは無かった。 配膳もずいぶんとこなした頃、やけに盛り上がっているテーブルに気が付いた。 「おいギーシュ!お前、今誰と付き合っているんだよ?」 「何を言っているんだい?誰かと付き合う?僕にはそんな女性はいないよ?薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 なんてキザなセリフだ。自分を薔薇に例えるなんざ、きっと頭が沸いているに違ェーねェー こいつはきっと可哀想な境遇なんだわ、どんなに格好よく出てきても、すぐさまフルボッコにされる運命なんだわ。って感じの哀れみ目でギーシュを見つめた。 その時、彼のポケットから物が落ちた。ガラスでできた小壜である。中に液体が入っているようで、なんとなく大事そうな物だと仗助は感じ、哀れみの目のままそれを拾ってやった。 「ポケットから落ちたッスよォー」 そう言ってテーブルの上に置いてやる。 ところがギーシュは苦々しげにそれを押しやった。 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 その小壜に友人達が気付く。 「それはモンモランシーの香水じゃないのか?」 「しかも彼女自身の為だけに調合するヤツだと見たッ!」 「そいつがギーシュのポケットから出てきたということは・・・・」 「「「お前はモンモランシーと付き合っているッ!!!そうだなッ!!」」」 「ち、違う。いいかい?・・・・」 ギーシュが何か言いかけていたが、もはや後の祭りだった。 「ギーシュさま・・・」 「ケティ。いいかい・・」 「さようならッ!!」 ビシッ! 「レバッ!!!」 しかし時は止まらない 「モンモランシー。誤解なんだ!彼女とはただ、ラ・ロシェールね森に遠乗りをしただけなんだ!」 二人で遠乗りが『だけ』ってどーゆー思考してんだ?コイツはよォー 「やっぱりあの一年生に手を!しかも五回もッ!?」 「え!?ちょ、ま・・・」 「うそつき!」 「チョバムッ!!」 モンモランシーはワインの壜で彼の鳩尾に突き出した。そして彼女は栓を開け、中身をギーシュの頭にかけてから去っていった。 ・・・・・・ 沈黙が流れた。 いや、ギーシュだけがピクピクと痙攣を起こしているが・・ 「ひっ、カヒッ!ホヒッ!」 どうやら軽く呼吸困難を起こしているが、まぁ大丈夫なレベルだろうと思い、仗助はシエスタと共に歩き出した。 「ま、ホヒッ。待ちたまえ。コヒッ」 それを呼び止める声が聞こえる。立ち上がったギーシュだ。しかし復活しきれていない。 「なんだァー?」 ギーシュは顔を拭き、椅子に足を組んで座り、ふんぞり返る。キザな行為に頭痛がする。 「君の・・はひっ、せいホヒッ、で二人のレフヒヒ、ディの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだね?」 喋っているうちに治ってきたようだ。仗助はそんなギーシュに呆れて返す。 「そりゃァよォーーー二股なんざかけてるオメェがよォーーー悪いんじゃあねェのか?」 ギーシュの友達がどっと笑う。 「「「そうだ!お前が悪い!」」」 それにしてもこの3人、ノリノリである。 「いいかい?僕があの時・・・ああ、そうか。君なんかに機転を期待した僕が馬鹿だった。君はあのルイズが呼び出した変な平民じゃないか。いきたまえ」 プッ・・・・ 「あァ?何が変だって?」 「ハハハ!平民は自分の異端さも理解出来ないのか!?鏡を見てご覧よ!特にその・・・」 その空間に何処からか13階段をのぼる音が聞こえるが気付くものは居なかった。 「『頭』を!!」 プププッププッププププププププッ 「まるで『鳥の巣』じゃないか!!ハハハハハハ!」 「ギャハハハハハハハ!ウマイッ!」 ププププ、プッツ~~~~~~~~~ン 何かが切れた。決して切ってはいけない、そしてやってはいけない事をやってしまったギーシュ。 「おい・・・・・今、なんつった?・・・」 空気が変わる。半端無くピリピリした空気が辺りを包む。 「な、なんだね?」 流石のギーシュも気付く。何かがおかしい。 「俺の頭がなんだって?・・・・・」 更に空気が重くなる。 「誰の・・・・・・・・」 「誰の頭がサザエさんみてェーーだとォーーーーーー!?」 ブッチーーーーーーン やってはいけない事ッ!それはッ!仗助をプッツンさせることッ! 「なんなんだッ!?そんなこと一言も・・・ていうかサザエさんって誰だーーー!?」 ギーシュが叫ぶが、もうこうなったら手遅れだった。「確かに聞いたぞコラァーーーーーー!!!!」 ドゴォッ! 「ヘブゥッ!」 ズシャアアッ! いきなり殴られ、吹き飛ばされるギーシュ。しかし、仗助は倒れた彼に近づいていく。 「誰の頭がよォーー」 ギーシュの首根っこを片手で掴み、締め上げる。 「イデオンのコスモみたいだってェーーー!?」 「誰だァーーーーーーー!?」 「ドラァーーーーーーーーーーーー!!!!」 ボグシャアッ! 「ウゲェー!!」 そのまま頭からテーブルに落とす。ギーシュの体はテーブルを突き抜け、上には二本の足だけが逆さまに突き出ている。 「クレイジーダイヤモンドッ!」 周りの生徒は見ていた。仗助の体から一瞬だけ『人型の何か』が出てきたのを・・・・・そして・・・ 「み、見ろッ!テーブルが!?」 強引に突き破られたはずのテーブルは原形を取り戻し始め、ギーシュと一体化するように彼の体を拘束する。 上半身はテーブルの下に沈み、手も拘束され、二本の足がキレイに上に出ている。それはまさに、木と人のオブジェであった。 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!ゼロの使い魔がギーシュをのしたーーー!!」 「なんだあれ!?錬金の魔法か!?」 近くで見ていた者はパニックになり、色々な言葉を口に出す。 かくして、トニオと共に名をはせる男の武勇伝の始まりであったのだった・・・・ あのあとギーシュは教師達の手を借りて救助されたが、いかんせん綺麗に一体化していた為、拘束部分をノコギリで精密に切るという手作業になった。 特に、首の部分の切り離しの際には、恐怖のあまり、少々、茶を漏らしてしまったのは本人の秘密だ。 「クソッ!クソッ!クソッ!平民の癖にッ!僕にこんな仕打ちをッ!」 「許さない・・・・・」 To Be Continued・・・・・
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7567.html
前ページ次ページカオスヒーローが使い魔 やっと片付けが終わっての楽しい昼食である。貴族しか立ち入る事が許されない歴史と伝統のある食堂なのだが、 カオスはそんな事お構い無しに当たり前のようにドカっと座っている。異世界に来ても自由なものである。 「朝は気がつかなかったがまわりにある人形、ありゃひょっとして」 「夜になったら踊る」 カオスの質問にタバサが答える。今度はキュルケが質問してきた。 「ねぇ、今朝フレイムと話してたんでしょ?そうなんでしょ?あなた、他の子達ともしゃべれるんじゃない?」 「どうだろうな」 「ちょっと、二人ともなんでそんなに馴れ馴れしいのよ!」 いつの間にか打ち解けている3人を見てルイズが怒鳴る。 「この人の強さに興味がある」とタバサが即答。 「獣たちと話ができる殿方、そんな素敵な人を放っておくなんて失礼だわ」キュルケが熱っぽく答える。 ムキー!とルイズが唸っていると何やら言い争う声が聞こえてきた。 「申し訳ありません!」 「謝ってすむ問題ではない!」 一人の男子生徒が怒鳴り、メイドがひたすら頭を下げている。 「あれってギーシュのバカじゃない?」 「女性に向かって怒鳴りつけるなんて、男のすることじゃないわね」 男子生徒の名前はギーシュ。家柄も容姿も魔法の実力も中々のものである。だが、非常に女癖が悪いのだ。 メイドが何か失礼な事をしてしまったのだろう。自分の非をひたすら謝罪している。 それでもギーシュの怒鳴り声は止まらない。 「君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたんだ、謝っているだけでいいと思っているのかい!?」 それを見ていた周りの生徒が止めに入る。 「おいギーシュ、その辺で許してやれよ」 「元はといえばお前が二股してたのがいけないんだろ?」 「どう見てもお前が悪いぞ」 「シエスタちゃんに八つ当たりするなよ」 「その子は瓶を拾ってお前に届けただけだろ?」 「そうよ、いい子じゃない。むしろ褒めるべきよ」 「アンタの屁理屈で苛めるんじゃないわよ!」 どうやらギャラリーの100%がメイドのシエスタの味方らしい。何でも、ギーシュが落とした小瓶をシエスタが届けた そうなのだが、それがきっかけで二股がばれたとか。何とも情けない話である。 「うるさい!僕は知らないと言ったんだ!だったらそのままその辺においてくれればいいじゃないか!」 ここまで来た以上、ギーシュも後に引けなくなってきた。 「おい、平民!この責任どうやって取るつもりだ!」 シエスタは目に涙を浮かべオロオロするばかりである。 「はっ!何も出来ない平民にそんな事できるわけなかったね。全く、君達平民が暮らせているのは僕達貴族の おかげだって事をわかって欲しいものだね!料理に使う道具も、大工用具も、農耕具、裁縫道具だって貴族の魔法で錬金したり して作っているんだぞ。戦争になれば真っ先に魔法を使えるものが戦線に向かう。君達平民を守るためにね! あ~ぁ、それなのに、その苦労をねぎらう事すら出来ないのかい、君達平民は?」 こう言われては平民のシエスタは何も言えることがない。逆らうものなら打ち首だ。 「シエスタ、気にするな」 「そうよ、あんなバカ。貴族の恥さらしよ」 「貴族がみんなあんな奴ばっかりだって思わないでくれよ」 もはやギャラリーは完全にシエスタを助け、ギーシュのバカを敵に回している。 「き、君達!平民の肩を持つと言うのか?!僕がグラモン家の人間だと知った上での事なんだな?!」 とうとう家柄までだしてきた。そういわれると、かなり不味い。グラモン家という家柄に勝てる人間なんて数えるほど しかいない。 「ふん、わかればいいんだよ」勝ちを確信したギーシュは余裕の笑みをこぼした。 それを見ていたカオスは一人の人間を思い出していた。オザワと呼ばれる一人の人間の事だ。 「・・・嫌な野郎を思い出しちまったぜ。どこの世界にもゲス野郎はいるもんだな」 そういって次の瞬間に、彼は頭に浮かんだ行動を実行していた。 「おいてめぇ、俺はてめぇによく似た人間を知ってるぜ。自分に手出しが出来ないのをいいことに、弱いものを いたぶる最低のゲス野郎だったな。はっきり言って死んで当然の野郎だった。誰もそいつの事を好きじゃ なかったしな」 それを見てたルイズは口をポカーンとあけて何もいえなかった。そして我に帰ってカオスを止めようとする。 「いいじゃない。やらせときましょうよ」キュルケがルイズの腕を掴む。 「何言ってんのよ!あいつが暴れたら死人が出るわよ!」 「彼の実力を見るいい機会。ギーシュには生贄になってもらう」 タバサもキュルケに賛成らしい。 ギーシュはいきなり魔人にそんなことを言われたのでビックリしていた。っていうか彼、物凄く怒ってるよ。 彼と戦って勝てるなんてギーシュはこれっぽっちも思っていない。この展開は死につながっていきそうである。 しかし、ここで引けないのがギーシュの悪い癖である。思いっきり見栄を張ってしまうのだ。 「誰かと思えば、ゼロのルイズの使い魔じゃないか。おっとまだ使い魔じゃなかったんだ。召し使いとでも呼べばいいかな?」 「・・・なんだと、もういっぺん言ってみろ」 「何度でもいってやるさ。まったくゼロのルイズは自分が呼んだ奴のしつけも出来ないのか。もう学院を辞めて帰った ほうがいいんじゃないのか?いい機会だ、僕が君をしつけてあげるよ」 魔人の殺気を味わった事のある生徒達は、急いで食堂から逃げ出した。巻き添えを食らいたくないからだ。それを見た 他の生徒達は不思議そうにしていた。メイドのシエスタは恐怖のあまり立ち尽くす。流す涙すらなくなってしまった。 当のギーシュは余裕の表情だが・・・ (何やってんだ僕はーーーーー!) と心の中で叫んでいる。 「お前が俺をしつける?ふざけんなよ」 声は静かだが明らかに怒りを含んでいる。その様子を見たルイズたち3人は「ギーシュ死んだな」と思った。 そしてカオスは学院中に響き渡る声で怒鳴りつけた。 「全員表に出ろおぉーーーーーーーー!」 その声は建物が揺れ、人間の身体の芯にまで響く強烈な声だった。 「クソガキが!死ぬほど後悔させてやるぞ!」 「おっと、待ちたまえ!まさかこんな所で暴れようってんじゃないだろうね~?ここは食堂、食事をする場所だ。 お互いもっと暴れやすいところ―――」 そこから先は喋れなかった。喋る事すら許されない。喋ったとしても食堂の人間には聞こえなかっただろう。目にも とまらぬ速さ、正に瞬間移動したとしか思えない程の早さでギーシュの側まで移動して、両手でギーシュを頭の上まで 持ち上げると窓の外にぶーん、と投げ飛ばしたのだ。もちろんすごい速度で飛んで行った。 「聞こえてなかったようだな、俺は表に出ろと言ったんだぜ」 飛んで行ったギーシュの所へゆっくり歩いていくカオス。その前にルイズが立ちふさがる。 「ちょ、ちょっと、あいつがバカでも殺しちゃだめよ!平民が貴族を殺したら死刑になるわよ!」 ルイズをにらみ付けカオスが聞き返す。 「じゃあ聞くが、貴族は平民を殺してもいいって言うのか?魔法が使えるって事は何をしても許されるのか?抵抗できない のをいい事に、さっきのメイドをいたぶるのは全く問題ないって言うんだな? クソがッ、やっぱりくだらねぇ秩序だぜ」 そういって外に出て行ってしまった。ルイズは「そんなわけないじゃない!」と反論したがそれ以上言い返せなかった。 外ではガラスを突き破った時に負った傷のせいで血まみれになりつつあるギーシュが辛うじて立っていた。 「は、早くなんとかしないと・・・」 このままでは殺されるのは確実だ。考える暇もなく目の前に死を運ぶ悪魔がやってきた。 「立ってるか。気位だけは人一倍ってところだな」 こうなったらやるしかない。ギーシュは覚悟を決めた。 「黙ってやられてたまるか!ワルキューレ!」 ギーシュが懐からバラを取り出しそれを振ると、青銅で造られた一体のゴーレムが現れた。その姿は戦乙女の姿を 再現したのであろう。細部にわたって細かく造られている。まるで彫刻品のようである。 「行け!悪魔を倒すんだ!」 ギーシュが指示を出すと持っていた剣でカオスに斬りかかった。カオスは剣をよけなかった。そのまま袈裟切りに ワルキューレが剣を振り下ろす。 「やった!斬ったぞ!」 ワルキューレの手元は完全に振り切られている。これでは斬られた方には致命傷になるだろう。 普通の人間だったら。 「おい、今何かしたか?」 平然と答える斬られた筈のカオスがギーシュに問う。 「な、なにがおこった?」 ギーシュはワルキューレの背中越しにカオスを見ているので何が起こったのか、わかっていない。 ギーシュとカオスを追いかけてきたギャラリーにはその訳が一目瞭然だ。 なぜならワルキューレの剣は根元からパッキリ折れているからだ。刃がない剣で相手を切れるわけがない。 カオスは斬られる前に剣を手で払っただけである。それだけで青銅で出来た剣が折れてしまったのだ。 「い、いつ折ったの?」 「・・・見えなかったわ」 「早い」 ルイズは呆然とし、その速さについていけなかったキュルケとタバサは舌を巻く。 「まだだ!まだ終わってないぞ!」威勢だけはいいギーシュ。死を前にしても見栄を張ることを辞めないのは流石である。 今度は3体のワルキューレを作り出した。今度は3体同時のコンビネーションでカオスに挑む。3方向からの同時攻撃。 1体を頂点とした三角形の陣で同時に仕掛ける。だが。 同時攻撃をひらりとかわし、正面から仕掛けてきたワルキューレの頭にポンと右手を置く。 「まったく、のろすぎるぜ」 そういって右手を思いっきり地面に向かって振り下ろす。その圧力に耐えられず、頭から潰され、耳に響く嫌な音を 立てながらペシャンコに潰してしまった。それをみた全員は「あれが人間だったら・・・」と想像して鳥肌を立てる。 もう一体を今度は外壁に向かって思いっきり投げ飛ばした。ギーシュを投げた時とは比べ物にならない力加減だ。 弾丸のように地面と水平に飛んで行ったワルキューレは外壁に衝突。そのまま粉々に砕け散った。 残る最後の一体を今度は空に向かって放り投げた。それは塔にあたり、粉砕した。 「うわああああ!ば、化け物ーーーー!」 残る最後の3体のワルキューレを作り出し、自分の護衛をさせる。しかし作り出した瞬間、真っ赤な炎に包まれて 溶け出してしまった。「あちちち!」と叫びながらギーシュは転がる。 「ま、魔法をつかったぞ!」驚くギャラリー。しかも杖を持っていないのに。それらしい詠唱も聞こえなかった。 「先住魔法!?」 ルイズが目を丸くする。 「さすが魔人・・・。なんでも有りね・・・」 「でもかなり手加減してる」 タバサは冷静に状況を見ている。キュルケは魔人の圧倒的な力に身体が火照ってきた。 「ま、参った!僕が悪かった!降参するから助けてくれ!」 「最後の最後までオザワそっくりだな・・・。無様に命乞い何かしてんじゃねーよ!」 バラの杖を捨て腰を抜かして這い蹲るギーシュを見下すカオス。集まってきたギャラリーに向き直り口を開く。 「いいか、ガキ共!よく聞いておけ!貴族がどんなに偉かろうが、力がなければこの有様だ!家柄や権力なんて所詮 非力な奴が利用するための道具でしかない!最後の最後にモノをいうのは自分の力だという事を腐った脳みそに 叩きつけやがれ!わかったかーーーーーーーー!」 あまりの迫力に全員がシーンとなってしまった。それを見たカオスは 「返事はどうしたぁーーーー!」 とまた怒鳴りつける。返事をしなければやられる!そう直感したギャラリーは 「はぁい!」と学院に入って以来、一番大きく、力のこもった声で返事をした。それを見て「ふん」と満足した様子 のカオス。 ルイズはその様子を見て頭を抱えてしゃがみ込む。キュルケはうっとりした表情でカオスを見つめる。タバサにいたっては ヒーロー戦隊を見る子供達のように目を輝かせている始末だ。 最後にカオスはギーシュに声をかけた 「おい」 「はい!」 「てめー、さっき戦争になったら最前線に行くとか抜かしてたな。だったらもっと強くなれよ。地位だけで強くなった と思ってんじゃねーぞ。大体その程度で偉そうしにしてたら犬にも笑われるってもんだぜ」 「・・・はい」 と消え入りそうな声で返事をするギーシュ。 「しかしまぁ、威勢だけは一人前だな。最後の命乞いがなければもっとよかったんだがよ。途中で逃げなかったのは 褒めてやるぜ」 そういってスタスタと食堂の方に歩いていってしまった。 「僕は、今まで何をしていたんだろうな・・・」 今までの行ないを改めて考えさせられたギーシュだった。 食堂に入るなり、さっき苛められていたメイドのシエスタを探すカオス。さっきの野次馬共の中にはいなかったのだ。 テーブルのある広間には誰もいなかったので厨房の方に行って見ると、イスに座ってガタガタふるえているシエスタが いた。周りのコックや同僚のメイドが励ましているが、シエスタは青ざめたままだ。 カオスはシエスタにまっすぐ近づいて目の前に立つ。周りのコック達はギョッとして思わず離れてしまった。 そんな彼らを尻目にシエスタをジーッと見つめ、色んな角度から様子を見る。そんなカオスに震えながらシエスタが 口を開く。 「な、なにか・・・?」 「さっきの貴族ならもうお前にちょっかいださねーよ。だからそんなに震えないで答えろ」 一拍おいてカオスが訪ねる。 「お前、日本人だな?」 シエスタは何を言っているのかわからなかった。ニホンジン?自分は生まれも育ちもトリステインのタルブ村だ。 「黒い髪、顔つき、肌の色・・・。どれも似てるぜ。多少混じった所もあるみたいだが、それでも今の俺にはわかる」 「いや、あの、おっしゃる意味がさっぱりわかりません」 困惑気味で答える。 「いやーしかし久しぶりに黒い髪を見たぜ。ここの連中はカラルフな色ばっかりでよぉ。目が疲れてしょうがねぇ」 カオスは自然とシエスタの頭を撫でてしまう。本人に全く悪気はない。ただ懐かしくてつい撫でてしまったのだ。 撫でられているシエスタはどうしていいのかわからず、顔が赤くなってきている。 その時強い殺気を感じた。ドアの方を振り返るとなぜかルイズが激怒の表情でにらんでいた。 「なにナンパしてるんじゃ、ボケーーーーー!」 杖を振り回しながら魔法を連発してきた。当然それは爆発する。厨房が爆発で滅茶苦茶になるが、全てを余裕で回避 するカオス。シエスタとコック達は机の下に避難している。まるで地震だ。 「おいおい、その位にしておかないと今日の晩飯が食えなくなるぜ」 その辺にあったパンを手に取り窓から外に脱出するカオス。 「まてこらぁぁぁぁぁ!」 それを追いかけてルイズも外に行ってしまった。 「ったく、なんだったんだよ」 「片付けは俺達がやれってか。これだから貴族は」 「でもあの男の人、食堂で貴族をぶん投げてましたよ」 「マジか!?」 「さっき広場で貴族の坊主をボコボコにしたらしいし」 「いや、俺の聞いた話じゃ貴族全員を秒殺って」 コックとメイドが話しに花を咲かせている中、シエスタは魔人が言っていた「ニホンジン」について、何かひっかかる ような気がしてならなかった。 食堂でカオスヒーローが暴れだした、と言う報告を受けたオールド・オスマンは即「眠りの鐘」の使用を指示。 効かなかった場合は職員全員で彼に挑まなければならない、と伝えた。 だがしかし、「遠見の鏡」で現場を見たとき、その必要はないかもしれないと思った。 眠りの鐘を発動させるために向かった教師が、彼の投げ飛ばしたギーシュのゴーレムにKOされた時は流石にあせったが、 何故かカメラ目線でカオスがこちらを向き、「黙ってみてろ」と伝えてきたのだ。 見られている事に気がついていたのだ。本来なら腰を抜かすところである。この魔人はどこまで強いのか底が知れない。 一部始終を一緒に見ていたコルベールもこちらを見られたときは、思わず声をもらしてしまった。 「死者がでるかと思いましたが、大丈夫だったようですね」 「彼は意外と優しいところがあるな。きっと弱さを知っているんじゃろう。そうでなければあんな真似はしとらん」 「生徒達にも少し見習って欲しいものですね」 この二人はまだ気がついていない。カオスは二人が考えているような目的で、あんな事をした訳じゃないというのに。 噂をすれば何とやら。カオスが学院長の部屋に窓から飛び込んできた。 「よう、邪魔するぜ」 片手にパン。それをむしゃむしゃしながら呑気に入ってきた。 「クソガキをぶっ殺すかとおもったか?」 「そんな事をすれば、我々は君と全面戦争になるじゃろうな」 「勝負は見えてるがな。まぁ本来なら気に食わない野郎だから、あの世に送ってるところだ」 「お願いですからやめて下さい・・・」 「んなことより、俺が帰る手段はどうだ?何かつかめたか?」 「流石に昨日の今日で成果はでんじゃろう」 「仕事が遅いぜ。俺は一つ掴んだがな」 「ほ、本当ですか!?」 「仕事が速すぎるわい・・・」 「つってもまだ調べる事だらけなんだがな。そういえば学院なんだから図書館なんかはあるんだろ?俺もそこに 行っても問題ないよな?」 「もちろんじゃ。手配しておこう」 「それから歴史的に貴重なものを展示したりする博物館や宝物庫はここにあるか?なかったらある場所を教えろ」 「一応この学院にもそういった場所はある。じゃが、やはり価値のあるものが保管されているんでの。勝手に持ち出され たり傷でもついたら大事じゃ」 「俺は盗人じゃねぇよ。まぁ必要になるものがあったらじじいに言ってから持っていくけどな」 それじゃ盗人とかわらんだろ、と二人とも苦笑する。 「いいじゃろう。図書館と宝物庫の入出許可はこっちでやっておこう」 「ところで一つ質問があるのですが」 コルベールがさっきから思っていた疑問を聞いてみる。 「いつ、こちらの世界の文字が読めるようになったので?」 それを聞いてカオスは「やべぇ」とだけ答えた。この魔人、やっぱり大事なところは間抜けである。 前ページ次ページカオスヒーローが使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1083.html
偽愛! 素直クールに萌えろ! その② 朝起きたら何もかも元通りになってないかな、と思った。 昨晩見たあれはすべて夢で、承太郎は今日も無愛想で寡黙でクールで。 「ルイズ、おはよう」 おはよーなんて言葉、承太郎の口から初めて聞きましたよ。 とルイズは昨晩の出来事が夢ではない事を確認しながら、ベッドから起き上がった。 「……おはよう」 この承太郎をどうしたものかと頭を悩ませながら、ルイズは朝の身支度を整えた。 頭が変になっても承太郎は承太郎らしく、 着替え中はちゃんと自分から部屋を出て行ってくれた。 ベッドの下に放り捨てられていたデルフリンガーもしっかり回収してだ。 その時「覗きなんざこの俺が許さねー」とか凄んでたりする。 また、朝食は厨房ではなく食堂で摂ろうとついてきて、クラスメイトを驚かせたりした。 ちなみにギーシュはモンモランシーを必死に口説いている。 昨晩急に姿を消した事を心配していたのだが、 なぜか朝会ってみたら妙によそよそしかったと、教室でギーシュは説明してきた。 「……そういえば、あの時モンモランシーも一緒にいたのよね。 ジョータローがおかしくなった原因に何か心当たりないかしら?」 「ルイズ。俺は少しもおかしくなってねーぜ」 「……そう?」 確かに今は普段通りに見える、ような気がするけど、何か違う。 いつもより半歩ほどルイズに近づいて立ってるような気がするし、 眼差しが柔らかいというか優しいというかギーシュっぽいというか。 「どう思う? ギーシュ」 「今は普段通り見えるんだが、一晩眠ったら治ったんじゃないか?」 「だといいんだけど……」 異変が顕著に現れたのは、授業後になってから。 今日に限ってなぜか承太郎もギーシュも厨房に来なかったため、 どうしたのかなと思ってシエスタがわざわざ寮まで様子を見に来たのだ。 「ジョータローさん、今日は何か用事でもあったんですか?」 「いや……ただルイズの側にいただけだぜ」 その瞬間シエスタは戦闘体勢に入ったーッ! 今……この学院にキュルケとタバサはいないすなわちッ! ツンデレ・ルイズ! ブラック・シエスタ! 一騎討ち!! 承太郎を挟んでルイズとシエスタが火花を散らす。 「ミス・ヴァリエール……一緒にいる時間が多いからって、なかなかやりますね」 「いや、特に何もしてないんだけど……」 「でも私とジョータローさんはマフラーの暖かい糸で結ばれているんです!」 無言で承太郎はマフラーをシエスタに渡した。 唐突すぎてその行為の意味を理解できずシエスタは首を傾げる。 「シエスタ、悪いがこいつは返すぜ」 「え」 ピシッ、とシエスタは真っ白に固まりヒビが入った。 黒が白に染まる時、それは敗北を意味する。 「ど、どうして……」 「悪いが……ルイズの前で他の女からもらった物を身に着けたくねーんでな」 「なっ!!」 「えっ!?」 この発言にはルイズも一緒に驚いて顔を真っ赤にしてしまう。 一方シエスタは涙目になってマフラーを抱きしめ走り去ってしまった。 「うわぁ~ん!」 泣きながら。 ちょっぴりシエスタに悪い気もしたが、それ以上にルイズは浮かれていた。 つまり承太郎はシエスタより自分を選んだのだ。感激であるハッピーである。 「じょ、ジョータローにもようやく、つつ、使い魔の自覚ができてきたのかしら」 「もちろんだ。俺はルイズの使い魔だぜ、おめー以外は目に入らねー」 「ほほ、ホントに? ホントにそう思ってる? 心から」 「俺が……嘘をつくと思うか?」 「『ああ嘘だぜだがマヌケは見つかったようだな』とか言うつもりじゃないでしょうね」 「ルイズ。お前が俺をどう思おうと、俺の気持ちは変わらない……」 「ああああ、あんたの気持ちって、なっ、何よ」 期待と期待と期待と期待と期待に平らな胸をふくらませてルイズは彼の言葉を待った。 「おめーは俺を惚れさせ――」 「こりゃ駄目だね。魔法で心をやられてら」 が、その言葉は無粋な声にさえぎられた。声は承太郎の背中から出ていた。 「で、デルフ!? ちょっと、今のどういう意味よ!?」 「いやね、こうやって身に着けられてたら、そいつの事は何となーく解んのよ。 こいつ、魔法で精神を操られてるわ。水の魔法かねぇ? それとも一服盛られたか」 「一服盛られ……?」 次の瞬間、ルイズは部屋から猛ダッシュで駆け出してしまった。 一人残された承太郎は、いい場面を邪魔したデルフリンガーをぶん殴ったとか。 アンロックの魔法でモンモランシーの部屋の戸は問答無用で開錠された。 そして目をギラつかせて入ってくるルイズ。 いったい何事かとモンモランシーと、ギーシュが目を丸くして彼女を見た。 「る、ルイズ? ノックも無しに失礼じゃないのかい? というか鍵をかけてあったのに、どうやって開けたんだ?」 「あらギーシュもいたの。実は最近簡単なコモンマジックは使えるようになったのよ」 虚無の魔法を覚えてから、ルイズは説明の通りコモンマジックを習得していた。 ようやく自分の系統を見つけたからこその成長といえよう。 だがそんな事、今はどうでもいい問題だった。 「ところでギーシュ、昨日の夜の事なんだけど」 「昨日の?」 「あのワイン、何か変な物入ってなかったでしょうね」 「ははは、まさか。あのワインはモンモランシーが僕のために用意してくれたんだ。 変な物が入ってる訳ないじゃあないか。ねえ、モンモランシー?」 笑顔で振り向くギーシュ。苦笑で顔をそむけるモンモランシー。 その対照的な反応を見て、ルイズは『犯人』が誰であるか、頭でも心でも理解した。 一方ギーシュも、モンモランシーが冷や汗を垂らしている事に気づき眉をひそめる。 「ど、どうしたんだいモンモランシー? まるで『ワインに何か入れてました』みたいな顔をして……」 「ギーシュどいてそいつ爆発させられない」 ルイズが杖を構えると、ギーシュは慌てて身を引いた。 本当に土くれのフーケを倒した男かと疑問になるくらいうろたえている。 「も、モンモランシー。まさか、君は……」 「あなたが勝手に飲ませたんじゃない!」 ついにモンモランシーは白状した。あのワインに何か入っていたのは確定事項だ。 それを飲まされそうになっていたギーシュは顔を真っ青にする。 「いいい、いったい何を入れたんだい!?」 「ギーシュがいっつも浮気するから悪いのはギーシュよ! 土くれのフーケをやっつけたなんて『デマ』まで使って女の子の気を引いて!」 顔を真っ赤にして怒鳴るモンモランシーの迫力は相当のものだった。 だがそれ以上に迫力のある顔でルイズが怒鳴り返した。 「ギーシュの事なんか『どうでもいい』のよ! ワインに何を入れたの!?」 「……惚れ薬よ」 「ほ……惚れ薬ですって!?」 「お、大声で言わないでよ! 禁制の品なんだから……!」 どうやらデルフリンガーの言っていた事は正解らしい。 承太郎の様子がおかしいのは、薬を盛られたからなのだ。 モンモランシー曰く、ギーシュにこれ以上浮気させないため自ら調合したらしい。 それを聞きギーシュは感激した。 「ああ! モンモランシー……そんな薬に頼らなくても、僕は君の虜さ!」 「ななな、何勘違いしてるのよ! べ、別にあんたとつき合ってるのなんて暇潰しよ! ただ浮気されるのが嫌なだけで、仕返ししてやろうと思っただけなんだから!」 このモンモランシー実にツンデレである。 そしてそのデレっぷりを垣間見たギーシュは思いっきりモンモランシーを抱きしめた。 「僕が浮気なんてする訳ないじゃないか!」 「してるじゃない!」 キィーンッ、という甲高い金属音が響いた。ギーシュの脳内だけで。 モンモランシーの膝がギーシュの股間にめり込み、男にしか解らない痛みが炸裂。 まさに黄金色の波紋疾走。 口を縦長に開いて唇を引ん剥き、白目になって脂汗を垂らすギーシュは、 瞬間最大風速とはいえマルコリヌのブサ顔を超越していた。 その場に崩れ落ちるギーシュを無視して、というか頭を踏んづけて、 ルイズは身を乗り出してモンモランシーを睨みつけた。 「ジョータローを元に戻しなさい」 「そのうち治るわよ」 「そのうちっていつ?」 「個人差があるから一ヶ月から一年くらい」 「ふざけないで。今すぐ何とかしなさい」 「生憎だけど解除薬作るお金がもう無いの。高価な秘薬が必要なのよ。 惚れ薬を作る時に全部使っちゃったし、どうしようもないわ」 「じゃあ実家に頼んでお金を送ってもらいなさい」 「あんたの公爵家と一緒にしないでよ! うちにそんな余裕は無いわ!」 そういえばド・モンモランシ家は干拓に失敗して領地の経営が苦しいと聞く。 ついでにグラモン家も出征のたびに見栄を張りまくって金欠らしい。 となると、この二人は資金面では期待できない。 仕方ないとばかりにルイズは金貨の入った袋を取り出した。 (姫様。ジョータローのために、このお金使わせていただきます) 心の中で感謝の祈りを捧げ、袋を開ける。 モンモランシーは中身を覗き込んで目を丸くした。 「500エキューはあるじゃない。さすがラ・ヴァリエール……」 「これで秘薬を買って、明日中に何とかしなさい。 それとこのお金はとある方からいただいた、とても大切なお金なの。 1エキューたりとも無駄遣いしてみなさい。ただじゃおかないわよ」 渋々といった様子でモンモランシーはうなずいた。 部屋に戻ると、承太郎がデルフリンガーを踏みつけていたのでとりあえずなだめた。 それからルイズは改めて承太郎の様子を観察する。 惚れ薬を飲んだという事は、つまり自分に惚れている訳で。 「ね、ねえジョータロー。私の事、好き?」 などと試してみたくなるものだ。 「ああ。好きだぜ」 素直にクールに恥ずかしげもなく答える承太郎を見て、 逆にルイズは猛烈に恥ずかしくなってベッドの中に逃げ込む。 (明日になれば元通り明日になれば元通り……。解除薬は別に明後日でもいいかな?) なんて考えながら、ルイズは眠りについた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1114.html
モンモラシーは、朝一番でギーシュのお見舞いへと来ていた。 友人には、二股していた奴に、よく会いに行けるわねぇ、と言われたが、仕方ない。 ――――――だって、好きなのだから。 あの浮気性は困り者だが、それさえ無ければ、お調子者で女の子に優しくてキザでドットで………… ………………・・・せめて、浮気性ぐらい秘薬で治しておくべきか。 そういえば、惚れ薬なんて言うのもあったわねぇ、とか考えていると、医務室の前に辿りついた。 でも、なんというか、様子がおかしい。 朝一番と言ったが、空はまだ薄暗い。 だと言うのに、扉が僅かに開いている医務室から話し声が聞こえてくる。 なんだろうと思い、僅かな隙間をそっと広げて中を窺ってみると、そこにはコルベールとロングビルの姿があった。 そして、その二人が囲っているベッドの上には――― 「ギーシュ!!」 扉を勢い良く開け放ち、ベッドの上に居るギーシュへと呼びかける。 コルベールとロングビルは、唐突に響いた大声に、驚いたような表情でモンモラシーを見たが、彼女にそんな事は関係ない。 「あぁ、ギーシュ、ギーシュ! 心配したのよ、私。でも、良かった。なんともないようで……ギーシュ?」 なんというか違和感がある。 目をぼんやりと開けたままのギーシュは、あぅあぅと呟いて、中空を見つめているだけで、自分に対してまったく反応してこない。 「ねぇ、ギーシュ、どうしたのよ、ねぇ、ちょっと、ふざけないで、どうして、ねぇ お願い、返事を、返事をしてよ、ギーシュ!!」 モンモラシーの悲痛な叫びが、早朝の学園に響き渡った。 水差しを洗いに行って戻ってくる途中であったメイドは、その声に、くすりと笑みを溢した。 今朝の目覚めは、ルイズにとって最高であった。 何時も自分で取っていた服が、杖を振るだけで手元へとやってくる。 そんな、メイジにとっての当たり前が、ルイズにとっては、とてつもなく嬉しかった。 そのまま、気分良く着替えていた所で、机の上に置かれている手紙に気が付く。 「ホワイトスネイク」 「ナンダ?」 「これ何?」 ホワイトスネイクの返答は、夜中に扉の下から挿し込まれたらしい。 中を開いて見ると達筆な字で、ルイズが起こした決闘騒ぎの罰が書いてあった。 あの時、オスマンが言ったように、ルイズは謹慎一週間で決定の印が押されていた。 「一週間……暇になったわねぇ……」 この決定にルイズは対して、不満を持っていなかった。 何せ、罪を犯したのは事実なのだから。 その罪と言うのは、勿論、禁止された決闘を行ったことであって、ギーシュから才能を奪って殺害寸前まで追い込んだのは、彼女の中では罪ではなく、ギーシュに対する報いであったのは説明するまでもないが。 「まぁいいわ、あの平民の様子も見に行きたかったし……」 自分の使い魔のルーンをDISCとして差し込まれている、あの少年。 あの時の速さは、通常時のホワイトスネイクを遥かに上回る速度であった。 「使い魔は、もう居るし……無難な所で使用人って所かしら…… 執事って程に落ち着いた様子は無かったし、ん~」 少年を自分専用の護衛として雇う気満々のルイズは、どんな肩書きが少年に合うのか、 じっくりと考えながら医務室まで歩き始めた。 部屋を出て、医務室のある学園の方に行く為の螺旋階段を下りる時、見慣れた赤毛がルイズの目に留まる。 「あっ……」 キュルケはルイズを見つけた瞬間に、元々俯いていたその顔を、さらに俯かせた。 だが、すぐに顔を上げて何時ものように、色気を帯びた笑みを浮かべてルイズに手を振った。 「ルイズ、元気? 昨日は大変だったみたいねぇ! で、どうなの? 噂では、ギーシュの魔法を使えるようになったとか、言われてたけど どうなのよぉ、そこんところは」 明るく振舞うキュルケに、ルイズは煩そうに顔を顰め、腕を軽く振るう。 伸びる腕 押さえつける手 押し付けられる身体 ホワイトスネイクがキュルケの身体を、杖を抜く暇も与えずに、壁に押し付けたのだ。 呆然とするキュルケにルイズは、グイッと顔を近づける。 目を逸らす事も許さない。 強い視線でキュルケの目を見据えながら、ルイズの口が開く。 「良い、よーく聞きなさいよ。 私は、これから医務室に行くの、用事があるからね。 あんたの相手は、その後。精々、魔法を扱える最後の時間を楽しんでおきなさい」 そう言ってルイズは、壁にキュルケを押し付けていたホワイトスネイクを消し、そのまま螺旋階段を下る。 これ以上、言葉を交わす気の無い事を態度と行動で示されたキュルケは、そのままの体勢で赤髪を揺らし、耐え切れぬように叫ぶ。 「ねぇ、ルイズ、何が、何が、貴方をそこまで変えてしまったの? それは、私? 私が原因の事で、貴方は変わったの!?」 キュルケの慟哭にルイズは首を振るう。 変わった……? 違う、私は手段を手に入れただけに過ぎない。 人間とは、泡のようなものだ。 小さな気泡の人間も居れば、大きな気泡の人間も居る。 気泡を大量に持つ人間も居れば、一つしか持たない人間も居る。 千差万別の大きさと数がある気泡達だが、共通している事が二つある。 それは、その気泡の中に入ってるモノが感情であると言う事と もう一つ、その気泡は『起爆剤』さえ見つけてしまえば、理屈も何も無く、破裂してしまう事だ。 そして破裂した泡は、中に溜められていた感情を噴出す。 噴出された感情は、周囲に何があろうと、その発散を止められない。 いや、割れた当人にとっては、止める気もしないだろう。 ルイズは、今、まさにその状態だ。 魔法を奪うと言う、完璧な『起爆剤』を見つけてしまったルイズは、 16年間溜め続けた、使えない者として泡を破裂させてしまった。 記憶の積み重ねが人間であると、ホワイトネスイクは自らの主に言っていた。 ならば、この鬱積した感情もまた、ルイズと言う人間を形作る重要な因子なのである。 例え、その中の感情がドロドロに溶け合った黒であったとしても、だ。 「ルイズ……」 どうすれば、どうすれば、あの少女は、元の意地っ張りだけど、自分に正直な少女に戻ってくれるのか。 考えても、考えても、キュルケの頭には、何も浮かんでこなかった。 そんな親友の苦悩を、螺旋階段の一番上で眼鏡を掛けた少女は静かに見つめていた。 医務室に行って、ルイズが最初に目にした光景は、黒髪のメイドが真っ赤になって使用人になる予定の少年の身体を拭いている場面であった。 「………………」 「………………」 少し血走った目で、半裸の少年の世話をしているメイドもそうであるが、 初めて同年代の異性の身体を直接見たルイズも、時が止まってしまっている。 別に何も後ろめたい事は無い。 シエスタはシエスタで、自分を助けてくれた才人の身体を拭いていただけであるし、ルイズも、ただ医務室の扉を開けただけだ。 だと言うのに静止時間は、こくこくと過ぎていく。 永劫に続くかと言うような、その静止時間は、ブッチギリで10秒を越えた時に少年から漏れた僅かな呻き声で、ようやく進み始めた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのですね! これは、これはその……汗を拭いてあげてるだけでして!」 「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そのぐらい分かってるわよ! べ、別に変な勘違いとか、その、初めて男の子の裸を見たから動揺とか、してないからね!!」 二人して吃って真っ赤な顔をしているその様は、傍から見るととてつもなく変な光景であった。 「そ、そ、そ、そうですよね! 怪我人の身体を拭いてたぐらいで勘違いなんてしませんよね!」 「も、も、も、勿論じゃない! か、勘違いなんて、そ、そんなものしないに決まってるじゃない!」 あはは、と乾いた笑い声を出すシエスタに、ルイズはなんとか平常心を取り戻そうと、息を吸ったり吐いたりしながら、備え付けの椅子へと座る。 ―――私は冷静、私は冷静、私は冷静――― なんとか頭から先程の光景を消そうと試みるが、基本的に箱入りで異性の裸に免疫が無いルイズにとって、それは至難の業である。と言うか、成功なんてするはずも無い。 シエスタはシエスタで、ようやく落ち着いたのか、また才人の身体を拭く作業を再開させている。 両人共、耳まで真っ赤に染めあげ、まるで熟れたトマトのようだ。 ――― ―――――― ――――――――― 幾許かの時が過ぎて、ようやく丁寧すぎる作業が終わったシエスタは、脱がせた才人の服を着せ始める。 かなり長い時間を掛け、若干の平常心を取り戻したルイズは窓の外を見ながら、作業を終えたシエスタに声を掛けた。 「ねぇ……そいつってさ、なんであんなのと決闘したの?」 「それは……私の所為なんです」 そういえば決闘してたのを手助けしただけで、理由までは知らない。 あの時、広場に一緒に居たこのメイドならば知っているのでは無いかと聞いてみると、ある意味、予想通りの答えが返ってきた。 (ふぅん……やっぱりね) 一緒に居たのだから無関係では無いと睨んでいたが、案の定である。 続く、シエスタの言葉で、あの時の詳細を知る。 どうやら、最初の発端は、シエスタがギーシュの香水の瓶を拾わなかったのが原因らしい。 それが元で、二股がバレてその八つ当たりに晒されていたのを、 才人が庇い、そんな才人の態度にますます腹を立てたギーシュが決闘を申し込んだらしい。 「ふん……馬鹿ね」 「確かに平民が貴族に歯向かうなんて馬鹿かも知れませんけど、才人さんは!!」 恩人が侮辱されたと思い、声を荒げるシエスタにルイズは違う違う、と手を振り、 溜め息を吐きながら、自分の言葉が誰に対するモノなのかを明確にする。 「私が馬鹿って言ったのは、ギーシュ……決闘を申し込んだ貴族の方よ。 あんた、落ちてた香水の瓶には気付いて無かったんでしょ? それなのに、責任を追及するなんて馬鹿げてるわ。 おまけに、二人の名誉が傷付けられた? 傷付けたのは誰よ? 少なくとも、あんたやそいつじゃあ無いわね」 フンッ、と鼻を鳴らし不機嫌に呟くルイズに、シエスタは、この人は普通の貴族じゃあ無いみたいと心の中で呟く。 彼女の中の貴族とは、平民に対しての配慮など、まったくしない。 そういう思考回路が最初から存在していないのだ。 だと言うのに、選民思想で凝り固まった今の貴族にしては珍しく、この少女は、もしかして、平民を人間として見ているのでは無いか、とシエスタは思ったが―――――― 「話を聞く限り、やっぱりあいつは貴族として失格ね。力を奪って正解だったわ。 あんなのが、私と“同じ”貴族だったと思うと反吐が出るわ」 その言葉に、シエスタはやっぱり違う、とルイズに聞こえぬように呟いた。 この少女は、心の底まで貴族で出来ている。 確かに、今の彼女には、無実の者に罪を擦りつけられた事に対する怒りもあるが、それ以上に、 『貴族』と言う名を持った者が、無実の者に罪を擦りつけ『貴族』の名に泥を塗った事に対しての怒りの方が占めるベクトルが大きいのだ。 才人に対し、治療費を出してくれた事などから、平民に対しての理解はあるらしいが、それも上の立場から見た者の理解である。 対等とは程遠い。 そう思うと、才人や自分を昨日、ここに運んでくれた事や、秘薬の代金を全額負担してくれた事に対する有り難みの気持ちが薄れていくのをシエスタは感じていた。 「ところで、今日はどのような用事でここに来られたのですか?」 なんとなく突き放したような感じの言葉を吐いてしまった自分に、心の中で失敗した、と思ったが、言ってしまった言葉は戻らない。 相手も、言葉に含められていたニュアンスに気が付き、目を鋭くさせたが、まぁいいわ、と呟いて、すぐにその鋭さを取り払った。 「そいつの様子を見に来たんだけど……まだ、目覚めてないみたいね」 「治療をしてくださった方のお話では、もう目覚めても良いとの事ですが……」 磨耗した精神が休息を欲しているのか、それとも、もっと別の要因なのか。 「目覚めても良いって事は、もう治療は終わってるのよね?」 「えぇ、治療自体は昨日、全て終わっていますけど」 「なら……問題は無いわね」 シエスタの言葉に、ルイズはホワイトスネイクを出現させる。 唐突に現れたホワイトスネイクに、シエスタは驚愕の表情を浮かべていたが、ホワイトスネイクが現れた事は、さらなる驚愕への布石であった。 「ホワイトスネイク、あいつを起こしなさい」 命令が下されると同時に、ホワイトスネイクの手にDISCが出現する。 それを寝ている才人の頭に差し込んだ。 「何をしてるんですか!?」 「『覚醒』のDISCよ。 どれだけ深い眠りだろうが、DISCの命令には逆らえない」 自慢げに説明するルイズの目の前で、ベッドの上に寝かされていた才人の身体が震える。 「うぅ……うぅん……」 そして、DISCを差し込んでから僅か三秒 上半身を起こして、間の抜けた欠伸を才人は披露した。 そこは、ハルケギニアではなく、もっと、もっと遠く、そして辿りつけない世界。 知る者が語れば、悪鬼の巣窟とも、この世の天国とも答えるその場所は秋葉原と言う、日本と言う国の電気街であった。 その街の一角の、古ぼけた店に修理を頼んでいたパソコンを取りに来た才人は、突然の事態に目を丸くしていた。 なんというか、気が付いたら皆、全裸なのだ。 下着一枚身に着けていない通行人達を見て、才人は一瞬、ぽかーん、と大口を開けていたが、 すぐに自分も服を着ていない事に気が付いた。 何が起こったのか分からないが、このままでは警察に捕まると、凄まじい勢いで才人が服を着終わる頃に、街を歩いていた通行人達も、この不可解な現象に叫び声を上げ始めていた。 とりあえず、面倒になるのは嫌だったので、早足でその場を立ち去る。 預けていたパソコンを回収することも忘れて、駅へと向かった。 とりあえずは、家へと帰ろう。 そう思い、駅への近道である路地裏を通ろうとした時に『ソレ』は現れた。 自分の身長以上もある鏡。 これは、なんだろうか? 疑問に思った才人は、石を投げ込んでみたり、家の鍵を差し込んでみたりと色々試した挙句に、結局、その中に入る事にした。 中に何が待ち受けているのか、才人は分からなかったが、何故だか分からない予感だけは存在した。 多分、この鏡を通過したら、自分は『別の世界』に行くのでは無いかと言う予感が…… そうだ……それで俺は…… その予感の通りに月が二つある異世界に来てしまったのだ。 始めは、この突飛な事に、才人は驚いた。 驚いたが『絶望』はしなかった。 何故だか分からない世界で、一人だけだと言う事実すら『絶望』を才人に与える事は出来なかった。 何故なら、そういう予感があり、こうなると言う『覚悟』を才人は無意識に持っていたからだ。 そうして、自分はシエスタと出会って……それから…… あの桃色の髪の少女と、出会ったのだ。 「ふぁぁぁぁぁ……ん」 ピキピキと起きたばかりの筋肉が張る音を、ぼんやりと才人は聞きながら、大きな欠伸をした。 なんというか、もの凄く目覚めが良い。 十時間以上グッスリ眠った後の目覚めも、ここまで爽快感を与えてはくれないだろう。 そんな事を、つらつらと考えていると、急にベッドに押し倒された。 「にぇ、にゃんだ!?」 回らない舌で、叫んだ声は自分で聞いても酷く間抜けで泣きたくなったが、 それよりも、今、自分に抱きついてきてる者の方へと意識がいく。 「良かった……良かった……才人さん、本当に、良かった……」 抱きついてきた少女は、泣きながら才人の覚醒を喜び、その胸の中で、彼の暖かさを感じていた。 「ごめん……心配掛けた……」 泣いている少女を安心させる為に、才人も確りとその細い身体を抱きしめる。 二人がお互いの体温を感じている中、ルイズだけが不機嫌そうにその光景を眺めていた。 「ちょっと」 一分か二分か、まぁ、ともかく時間が暫く経過すると、ルイズは、とうとう我慢しきれずに声を掛けた。 その声に、才人は、うわわわわぁ、とあからさまにうろたえて、シエスタは、と言うと、なんだか物凄い目でルイズを見てきた。 その目は明らかに、空気を読んでくださいと言っていたが、あえて無視する。 「あんた!」 「はい、なんでしょうか!」 ルイズの怒声に、才人は、これは逆らうとマズいなと感じて、思わず敬語で返答する。 と言うか、さっきから予感が訴えてくる。 これから、この少女に扱き使われると言う、あまりにも叶って欲しくない予感が…… 「あんたを、これから私専属の使用人に任命するわ。 この私の世話が出来るのよ、ありがたく思いなさいよ」 「なっ! どっ、どういう事ですか!?」 桃色の少女の言葉に、シエスタが噛み付いているが、才人は、多分、少女の言った通りになる事を感じていた。 (『覚悟』はあった……『覚悟』はあったけど、正直、泣きてぇよなぁ……) これから起こるであろう苦難の道の『予感』に、才人は溜め息しかでなかった。 アルヴィーズの食堂での豪勢な昼食を前にして、キュルケは昨日と今朝のルイズの様子を思い出してブルーになっていた。 そんなキュルケの隣には、目の前の料理をパクパクモグモグハグハグと次々に胃袋へと収める暴食魔人が座っている。 「ねぇ……タバサ」 そんな暴飲暴食娘に、キュルケは声を掛ける。 何時もの彼女らしくなく、とても弱々しい声。 「どうして……ルイズは……」 その先は続かなかった。キュルケは、言葉を詰まらせ、テーブルの上に載っていたワインを呷る。 タバサは、ルイズの事を魔法が使えないメイジであり、それを理由に周囲から苛められていたぐらいのことしか知らない。 だから、ルイズの事は『危険』だと認識していた。 虐げられていた者の所へ、虐げていた者達に復讐するだけの力が手に入ったなら、 どんな聖人や天使だろうと、その力を振るう。 何故なら、そういう者達は信じているからだ。 虐げられている自分達の事を助けてくれる何かが、何時か、きっと自分達を救ってくれると。 タバサ自身、そんなものに一片の希望すら持っていないが、心の底ではもしかしてと思っている。 もし、あの使い魔を召喚したのが自分であるならば…… 自分は、何の疑問も抱かずに祖国へと戻り、あの男を―――――― そこまで考え、タバサは首を振るう。 本筋から話が逸れている。 今は、そんなIFを考えている暇では無い。 おくびにも出していなかったが、タバサは昨日からキュルケの護衛をしている。 もしも、自分がルイズであるならば、仇敵の家柄であり、尚且つ、自分に対してからかいの言葉を毎日掛けてきたキュルケを狙いに来るだろうと考えたからだ。 キュルケ自身、あのからかいの言葉にそこまでの意味を見出していなかったが、あの言葉はルイズの自尊心を傷付けるのに、十分な威力を持っていた。 そんな言葉を毎日のように掛けていたのだ。殺意を抱かれる恐れは多いにある。 と言うか、今朝の言葉からして、ルイズがキュルケに対して殺る気満々なのは、疑う余地も無かった。 「そういえば……今朝から、モンモラシーを見ていないわね……タバサ、知ってる?」 話題を変えよう、別の娘の話を振ってきたが、振ってから、 キュルケはモンモラシーがギーシュの恋人である事を思い出した。 恋人が突然、メイジでは無くなったのだ。 かなりショッキングな出来事だったのだろう。 「ちょっと、様子でも見に行こうかしらね……」 心配そうに立ち上がるキュルケの手を掴み、そのまま椅子へ座らせる。 困ったような顔をしているキュルケに、皿一杯に盛られた料理を差し出す。 「今は、良いわよ。食べる気分じゃないから」 「そう言って、昨日の夜から何も食べていない。 おまけに目の下にクマも出来ている」 その言葉に、慌てて手鏡を取り出して目の下を確かめるキュルケにタバサは、ゆっくりと声を掛ける。 「大丈夫、彼女の様子は私が見に行く。 だから、貴方は食事をして、部屋で休むべき」 「別に大丈夫よ。 今はダイエット中だし、それにこのクマも、大したことじゃあ無いわ。だから―――」 「―――お願い」 休むように懇願するタバサの姿に、キュルケは溜め息を吐いて、わかったわ、と呟いた。 それに満足したタバサは、モンモラシーの様子を見に行く為に食堂を後にする。 勿論、自分の代わりの護衛を用意するのも忘れない。 タバサが居なくなった後の食堂では、変なテンションの青髪メイドが、キュルケの口に無理矢理食事を運ぶと言う珍妙な光景が見られたとか。 「あの……シエスタ」 「………………」 「その、怒ってるのは分かるよ、けどさ……」 「………………」 「話ぐらいは聞いてくれても良いんじゃないのかなぁと、ぼかぁ思うんですけど……」 「………………」 現在の時刻は夕刻。 朱色の空と二つの月が合わさって、絶景を作り上げていたが、そんな事を気にしている暇では無かった。 私……怒ってます。物凄く怒っています。 そんな、怒ってますオーラを身に纏って才人の事を無視するシエスタに、正直、才人はビビッていた。 ルイズが宣言した使用人になれ、と言う発言に、猛然と噛み付いたシエスタだったが、他ならぬ才人自身が、別に構わない、と言ってしまったので、どうにもならなくなってしまったのだ。 そんな訳で、晴れて才人はルイズの使用人となってしまった訳であるが、それも明日からの話だ。 別に才人としては今日からでも良かったのだが、幾ら秘薬で治療したと言っても、怪我をしてから一日しか経っていない。 万が一と言う事もあるので、シエスタの提案で今日も医務室で夜を過ごす事となったのである。 しかし―――――― 「おーい、シエスタ。あの、マジでそろそろ限界なんだけど、あの降りていいかな?」 昨日の昼から気絶していた才人は、当然の如く尿意を催しており、 その排泄をしようとベッドから立ち上がろうとすると、シエスタが無言で止めてくる。 その目は、怪我人ですからベッドから立つなんてとんでもございません、と告げていたが、 はっきり言って、シエスタのお仕置きであるのは疑うまで無い。 使用人のピンチだと言うのに、姿の見えないルイズは、昼頃までここで話し込んでから姿を消している。 と言う事で、現在、医務室には才人とシエスタしかおらず、シエスタに完全にビビッている才人にとっては動くに動けない状況なのだ。 「あの~、シエスタさん。本当、本当、ちょっと、トイレに行くだけですから、勘弁してください、お願いします」 涙目で訴えてくる才人に、シエスタも限界であることをようやく悟り、無言だった口から、 久方ぶりに、仕方ありませんね、と発音が聞こえる。 やった! と叫びのをグッと堪えた才人が、ベッドから降りようとすると、シエスタが手で静止してくる。 あれ、許可してくれたんじゃないの? 「はい……才人さんは怪我人ですから、怪我人の方のトイレは“コレ”ですよね?」 シエスタの手に微妙に黄色い尿瓶が握られているのを見た才人は――――――泣いた。 同時刻 静寂が支配する部屋の中で、赤色の明りに照らされたキュルケは俯いてベッドに座っていた。 夕焼けの赤と地の赤で、彩色された髪で隠れた顔には、 普段の彼女ならば絶対にするはずの無い愁いの表情を張り付かせている。 「……ルイズ……」 何処か、遠くへと行ってしまった友人の名を呼ぶように、意地っ張りで素直では無い桃色の少女の名を呼ぶ。 返答など期待していない。 喪失感を紛らわす為だけに発した、その言葉に――― 「なぁに……キュルケ?」 ―――反応したのは、血の様に赤い空と二つの月を背にする漆黒のローブを羽織る少女であった。 氷柱を背中に突っ込まれたような気分だ。 自分一人だけしか存在していなかった部屋に、物音一つ立てずに、この少女は現れた。 息が……苦しい。 ルイズの放つ威圧感に、キュルケは呼吸すら忘れてしまっていた。 「ねぇ……何か用なの? せっかく、私が足を運んできたのだから、面白い話題なんでしょうねぇ?」 ケラケラと童女のように笑うルイズは、なんというか、言い知れぬ不気味さと人を惹きつける魅力を身に纏っている。 ―――違う こいつは、こんなのはルイズじゃあない。 自分の知っているルイズは、あんな化け物みたいな笑い方はしないっ! 「貴方……誰? どうして、ルイズの姿をしているの!?」 敵意を込めた視線に、ルイズは、フンッ、と鼻を鳴らし、右手を掲げる。 瞬間、ホワイトスネイクが背後からキュルケの頭を一文字に薙ぎ払い、DISCを奪い取った。 込み上げる喪失感に泣きそうになるのを我慢しながら、キュルケはルイズを睨むのを止めない。 その様子に、使い魔から渡されたDISCを頭に差し込んだルイズは口を開く。 「一体、何を言っているのか、さっぱり分からないけど、私は私よ。 他の誰でも、他の何者でも無いわ」 淀みなく答えるその言葉に、キュルケは首を振る、違う、と 「私の知っているルイズは、我慢が出来なくて、すぐになんでも癇癪を起こすけど、それでもこんな事をする娘じゃあ無かった! 他人から力を奪うような娘じゃあ、絶対に無かったわ!!」 我慢していたはずの涙が流れているのを、キュルケは気が付かなかった。 18年間共に歩んできた才能を奪われたのだ。無理も無い。 しかし、今、ここでその悲しみに泣き崩れていたら、もっと大切なモノを失ってしまう。 「ねぇ……ルイズ、もう止めましょう。 奪った才能を返して、また何時ものように一緒に学びましょう? そうして、他人から奪った才能なんかじゃあ無くて、貴方自身の才能を育てて行けば良いじゃない……」 「………………」 「こんな事をしたって根本的な解決にはならないわ。 ねぇ、お願いよ、ルイズ。何時もの優しい貴方に戻って。 努力家で、意地っ張りで、誇り高い貴方に―――」 「五月蝿い! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!!!!」 髪を振り回し、取り乱したように叫ぶルイズに、キュルケは近づこうとするが、動いた瞬間、ホワイトスネイクに床に叩きつけられた。 「がはっ―――!」 肺の中から追い出された空気が、口から漏れる音を自身で聞いたキュルケは、それでもルイズに言葉を掛け続ける。 今なら、先程のような余裕を持っていない今ならば、自分の言葉もルイズに届くはずだ。 いや、届かせなければならない。 「こんな……こんな力に振り回されるのは貴方じゃあ無い! 今の貴方は、この使い魔の力に酔っているだけ! お願い! 正気に戻って! ルイズ!!!」 最後の言葉を吐き出したと同時に、キュルケの口から血が噴出す。 上から踏みつけてくるホワイトスネイクに、何処か、生きるのに重要な器官が潰されたのかも知れないが、それでも止める訳にはいかない。 大切な、友達を助ける為に…… 「ルイズ……」 「うるさいって言ってるでしょ! 戻れですって!? あの魔法を使えず、侮辱され続け、屈辱を投げつけられていたアレに!? 冗談じゃない! 私は戻らない! あんな! あんな! 最低の場所に戻るなんて絶対イヤ! 酔っているだけ? 違う! 私は『使いこなしている』だけ! この力で、貴方達を、私を『ゼロ』と馬鹿にした連中全てを、私は―――!!」 感情のままに吐露するルイズの言葉を、キュルケは遮ろうとするが、それはまったく別の形で中断された。 窓側の壁全てが、一瞬にして破壊されたのだ。 見晴らしの良くなった部屋の中で、乱れた髪を気にも留めずに、ルイズは壁を壊した闖入者へと目を向ける。 蒼い髪に眼鏡を掛けたその少女は、ウィンドドラゴンの幼体の上に立ち、 その身体に似合わぬ大きな杖を、迷い無くルイズへと向けていた。 「二度目よ……貴方が、私の邪魔をするのは……」 ポキリと散らばった廃材を踏みつけ、ルイズはドラゴンへと一歩踏み出す。 キュルケを踏みつけていたはずのホワイトスネイクも、その後に続いていく。 「貴方……『覚悟』はしているのでしょうねぇ 人の邪魔をするって事は、排除されるかも知れないって言う『覚悟』を」 淡々と語るルイズに、タバサは僅かに口を開く。 「昼間……モンモラシーとギーシュに会った……」 「何を言っているの?」 ルイズは、疑問符を頭の上に浮かべていた。 何故、ここでギーシュの話題なのか。 この眼鏡の娘は、ギーシュと何か親密な中で、その為、邪魔をしているとでも良いたいのだろうか? そんなルイズの困惑を余所にタバサは言葉を続けた。 「彼は……壊れていた。心も、記憶も……何もかも」 それは、無感動な彼女にしては珍しく、誰が聞いても怒っていると分かる、静かな怒声であった。 それが異常な事だと分かったのは、倒れているキュルケだけで、普段のタバサを知らないルイズは、ただ、壊れたの、と詰まらなそうに呟く。 「情けないわね……私は、16年間、魔法を使えない事に耐えてきたのに。 一晩も耐えられないなんて……貧弱ね」 蔑むような声色を発した、その『敵』へ、タバサは呪文を紡ぐ。 ウィンディ・アイシクル タバサの最も得意とする、トライアングルスペルの一つだ。 「へぇ……」 感心したようなルイズの声に、タバサによって作り上げられた氷の矢が、一斉に襲い掛かる―――が 「ウオシャアアアアアアアアアア!!」 ホワイトスネイクの烈火の如き叫び共に繰り出された拳で、全て叩き落された。 「―――ッ!」 あの使い魔が有能な事は、能力から見て推測出来たが、まさかここまでとはタバサも思っていなかった。 しかも、氷の矢を真正面から叩き壊したと言うのに、ホワイトスネイクの両手には傷一つ存在していない。 辛い、戦いになる。 シルフィードの背中の上で、次なる呪文を紡ぐタバサは、これまでの戦いの中で最も困難な事になるであろう事を感じていた。 一方、ルイズも内心は焦りを持っていた。 ホワイトスネイクは有能だ。 本体の性能も言わずもがな、その能力は、使い方さえ考えれば、最強の盾にもなり、矛にもなる。 が、射程距離の内部であるのならばの話だ。 ルイズにとっての一番の問題は、どうやって空を飛ぶ敵に近づくのか、だ。 今奪ったばかりの魔法で叩き落すと言う選択肢もあるが、今の一撃から、魔法の技量は、今まで奪った二枚のDISCの中に記憶されているモノよりも、遥かに上であることが理解できる。 そんな相手に、地面から相手よりも下手な魔法を撃った所で、通用するはずも無い。 長期戦になれば、人が来る。 否、もうすでに壁の破壊音に気が付いて、宿直の教師が近づいてきているかも知れない。 となると、ここは出し惜しみ無しで、ホワイトスネイクを至近距離まで近づかせ、短期決戦で勝負をつける。 奪ったDISCの中で使えそうな呪文を全て引っ張り出しながら、ルイズは、敵意を剥き出しにして、タバサを睨みつけた。 そんな二人が激突するのを見ている事しか出来ないキュルケは、満足に呼吸が出来なくなった身体で、静かに立ち上がった。 もうすでに戦いの場は、キュルケの部屋から移り変わり、二つの月が浮かぶ空が、戦闘の場となっている。 「何故……」 どうして二人が戦わなければならないのか。 どうして私は、二人を止める事が出来ないのか。 キュルケは悔しくて堪らなかった。 そんな彼女の足元に、きゅるきゅると鳴きながら、今まで部屋の隅で震えていたフレイムが擦り寄ってくる。 口元を紅く染める主人を心配するようなフレイムに、キュルケは大丈夫と告げると、動くだけで激痛を訴える身体に鞭を打ち、二人の後を追っていった。 第3.5話 戻る 第五話
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4402.html
281 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 00 52 40 ID DR7K5sgB 「さ、さて、あ、あ、あ、明日からと、とと、冬期休暇なんだけど」 ルイズは肩を震わせて才人に言った・・・ 踏みつけた状態で。 「そうでございますね」 才人は地面に転がりぼろ雑巾よりひどい格好で相槌をうった。 「も、も、もう一度言ってごらんなさい?い、犬?」 「わん」 たしか半年前にも同じ様なやり取りがあった気がする、と才人は既視感を覚えていた。 「つ、ついてこないってど、どういうことかしら?べ、弁解の機会をあげるわ」 だから順番が逆だろうと思いながらも、才人は弁解を始めた。 「あのですね、アニエスさんがですね・・・」 と言って才人は一枚の手紙を取り出した。 アニエス?あの女、いったい才人になんの用かしら? ルイズは怒りを抑えながら才人から手紙をひったくるとシエスタも覗き込んできた。 「 サイトへ 学校もそろそろ休みだろう?久しぶりに剣の修行をしてやろう。 すぐに城まで一人で来い。 来ない場合は・・・・ PS 姫様も楽しみにしてらっしゃるからな、わかっているな? アニエス 」 282 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 00 54 42 ID DR7K5sgB あ、あ、あ、あのあばずれ女どもぉぉぉ!! ルイズはその桃色の髪をふりみだして怒った。 すでに、アンリエッタまであばずれ呼ばわりである、親友じゃなかったのか。 こ、この休みはサイトと二人で家に帰って、そんでそんで、父さまに会ってサイトが 「お父さん!」 「貴様にお父さんと呼ばれる筋合いは無い!!」 「お願いです、ルイズを僕に下さい! ルイズがいないとダメなんです!」 なーんて、もうサイトったら。うふふふふ それでねそれでね?新しい年を二人で迎えて 「愛してるよ、ルイズ。あんなメイドなんてもうどうでもいいさ。 僕には君だけだよ。」 そこまで言うんだったら少しぐらい許してあげちゃったりなんかしちゃったり・・ ・・・のはずだったのにぃぃぃぃぃぃ!!! なんかもう、矛盾だらけである。大体シエスタがくっついてくるだろうとか 第一人称僕ってなんだとかは触れないでおこう。 とにかく、怒りながら妄想するという離れ業をやってのけたルイズであった。 と、立てかけてあったデルフが口を開いた 283 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 00 56 14 ID DR7K5sgB 「モテる男はつらいだーね、相棒」 デルフが左右にカタカタゆれながら言った。 やめてデルフ、火に油をそそがないで、意識が朦朧としながら才人は思った。 と、その時踏みつけている感触が一つ増えた。 なんだ、と思って上を見上げると、シエスタがこの世の物とは思えない 冷ややかな笑顔で足を乗せていた。 「 いいですねぇ、モテモテですねぇ、サイトさん。いいなぁ、うらやましいなぁ」 笑みを崩さずに足をえぐるようにねじこんでくる。 怖いです、シエスタさん。と考えながら、才人は気絶したフリをすることにした。 というか、二人の迫力に上を向いていられなくなったのである。 「寝た振りするな、犬」 「わん」 即バレだった。 「こ、こ、こここ、こうなったらしかたないわね、ねぇシエスタ?」 「えぇ、ミス・ヴァリエール」 なにする気だろうと才人が黙っていると・・・ 「「白黒はっきりさせましょう」」 セリフと同時に才人を思いっきり踏み抜いた。 そして本当に才人は意識の闇に堕ちていった・・・ 〈 続く? 〉 304 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 18 05 31 ID DR7K5sgB 才人が目覚めると、そこは馬車の中だった。気絶している間に乗せられたのだ。 「起きたかい、相棒」 横に立ててあったデルフが声をかけてきた。 「しかし、おめーさんも難儀だねえ。」 「うるせえ」 鞘に戻そうとして手を伸ばそうとしたが・・・ 「ん? あれ? なんだこれ?」 「あぁ、さっき嬢ちゃん達が人質だっつってふんじばってたぜ」 「なんだって〜!!」 才人はみごとに簀巻きにされていたのである。 「目ぇ覚めたわね、犬」 向かいに座っていたルイズが声をかけてきた、 引きつった笑顔で。 「あの〜、これはいったいどういう・・・」 「実家行きは中止にしたわ。ちょっと先に邪魔な虫を退治しなきゃ」 「いや、その、あの」 「そうでしょ? い・ぬ?」 「わ、わん」 隣にいるシエスタもさっきから硬い笑顔を崩さない、二人とも相当きているようだった。 305 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 18 07 20 ID DR7K5sgB おそらく才人の寿命が半分以下になったであろう所でトリステインの城に到着した。 ルイズの権限でさっさと城のなかに入ると、大広間にアンリエッタとアニエスがいた。 「おぉ、やっと来たかサイト・・・ ってなんだお前らは」 「まあ、ルイズじゃないの!どうしたのですこんな所に」 どうしたのじゃないわよ白ばっくれて、とルイズはハラワタ煮えくりかえしながら とりあえずは傅いてアンリエッタに今回の目的を告げた。 「実はですね、この犬のご主人様は誰なのかをはっきりさせようかと思いまして」 「だめですよルイズ、犬だなんて。シュヴァリエ・サイトはもうれっきとした 貴族なのですから。ねぇ?」 アンリエッタは、そう言って転がっていた才人に近づいて微笑んだ。 ちょっと待ちなさいよ、あんたついこの間まで私が犬呼ばわりしてても 気にしなかったじゃないの、なんなのこの泥棒猫。 ・・・いや、泥棒猫は言いすぎだろう 306 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 18 08 47 ID DR7K5sgB 必死で暴言を吐かないように気をつけながらも、やっぱり肩を震わせながら告げた。 「自分がサイトといっしょに居たいからといって、こういう方法は少し 汚いのでないですか?兵隊にこっそり手紙を持たせたりして」 「あら、サイトさんを城に呼び出そうって言い出したのはアニエスの方からですよ?」 言われて、ルイズがばっと部屋の隅をみると、そこには木刀を二本持ったアニエスが 邪魔をされたといわんばかりに、つまらなそうに頬を膨らませていた。 やべぇアニエスさんかわいい、それに姫さまアンモード入ってるうぅぅとサイトが鼻の下を伸ばしていたら ルイズに踏みづけられ、おまけにシエスタまで冷ややかに笑っ・・・いや睨みつけられていた。 「それにサイトさんといっしょに居たいというのは、あなたもいっしょでしょうルイズ?」 「な、な、なななな、な、なな、なんのことでしょう。わ、わ、私にはさ、さっぱり」 さっきと打って変わって顔を真っ赤にしてうろたえるルイズ。しらばっくれているつもりだろうが無駄な努力である。 307 名前:サイト争奪杯[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 18 10 01 ID DR7K5sgB 「いや、みんな五十歩百歩だぁね、サイトといちゃつきたいって思ってんのはよ ・・・ってすいませんごめんなさいやめてくださいとかさないでいやむしろつえを こっちにむけないで、はい、だまってますすいません」 茶化そうとしてルイズに睨まれたデルフはさっさと黙り込んだ。 デルフもルイズが虚無を覚えてからは頭が上がりにくくなっている。 落ち着かせるように2,3度深呼吸をしたルイズは、アンリエッタを睨みつけて告げた 「わかりました、姫さまがそこまで仰るのなら致し方ありません」 そこまでいうとルイズはひとつため息をついて 「サイトを賭けて・・・・・・・・」 「・・・勝負です」 こうして、ある意味人権無視の四つ巴の争奪戦が始まった。 そして、またもやサイトは賞品扱いであるため枢機卿に引っ張られていった。 <たぶん続く> 308 名前:284[sage] 投稿日:2006/12/16(土) 18 12 58 ID DR7K5sgB 今回は以上です ようやく入り口ですが、この後どうしよう、と 駄文スマソ。描写へただなぁ、俺・・・ 463 :サイト争奪杯 :2006/12/22(金) 01 28 29 ID h9ClZOz0 お城から少し離れたところに立つ、歴史を思わせる建物の中 四人の女性と二人の男性、そしてその六人を見下ろすように 取り囲む数千人の人間がいた。どうやら催し物が行われているらしい 「第一回! ご主人様は誰だシュヴァリエ・サイト争奪大会〜〜〜!!」 そんなお約束とも呼べる宣言の後に、観客席から割れんばかりの歓声が響いた。 「司会・実況は私、オールド・オスマンがお送りします。どうぞよろしく そして解説にデルフリンガー、審査員兼賞品にシュヴァリエ・サイトさんに お越しいただいております。本日はよろしくお願いします」 「あいよ、よろしくだぁね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ど、ども」 まって、なんでここにオスマンさんがいるの?ていうか俺はどうしてここにいるの? そもそもキャラ違くない?何その口調 など半ば錯乱状態の才人を尻目に、観客からは盛大の拍手やら歓声やらがあがった。 「サイトだかなんだか知らんが羨ましすぎるぞー!!」 「またお前か〜〜!!」 「むしろ死ねコノヤロー」 ・・・・歓声というわけではなさそうだった。 464 :サイト争奪杯 :2006/12/22(金) 01 29 35 ID h9ClZOz0 「えー、本日はここトリステイン王国直営コロッセオよりお送りします。 ・・・ゴホン 今日はの、四人によるバトルロイヤルで行う。 事前に城にいる皆に、見てみたい競技方法を書いた紙を提出して貰った。 その中から競技をしていき誰かが二勝した時点でその者の勝ちと言う訳じゃ。 もちろんわしらも書かせて貰っておるぞ?」 ある程度戻った口調でオスマンが説明を始めた 「そして! 勝者には約束通り、この冬期休暇からブリミル祭が終わるまでの間 このシュヴァリエ・サイトを独り占めにできる権利が与えられる!! ちなみに現権利者は、ラ・ヴァリエール嬢となっておる。一応」 才人はオスマンが高らかに宣言した直後、目の前の四人からえもいわれぬ闘気が のぼったのを感じた。 当の本人たちは説明を聞きながらも思い思いに腐りかけた思考をめぐらしていた ふむ、とりあえずそれだけの期間があったら、思う存分修行が出来るな。まぁ姫様には 悪いが、ここはしっかり勝たせていただこう。そしたら朝から夕方ぐらいまでみっちり 稽古して、そしたらいっしょにお風呂に入ってそのまま夜の方の稽古へ・・・いかんいかん 集中せねばな。とか ひ、独り占め? ということはあの胸だけメイドとか、メガネチビとかにも邪魔されなくてすむってことよね! ふ、二人っきりよね。なな、な、何して貰おうかしら。とか ここで勝てたらサイトさんと一緒にタルブの村へ行って、お父さんに 挨拶しにいこう! うんそうしよう。とか やっぱりアンになって毎晩慰めて貰うのがいいかしら、いえやっぱり・・・。とか ちょ、ちょっとみんな怖ぇよ。助けてデルフさん。そんな妄想の餌食になっているサイトは泣きそうな目で相棒の方を見た。 「いやぁ相棒、もてもてだぁね。うらやましいねぇ」 ・・・・・・・・・・・・楽しんでいた。 465 :サイト争奪杯 :2006/12/22(金) 01 30 46 ID h9ClZOz0 「さぁ、それでは第一回戦にいこうかの。第一回戦は・・・・」 会場中が息を呑む中高らかに告げた 「・・・料理対決っ!!」 ひときわ大きい歓声があがった。 「制限時間は45分! それでは、始めっ」 四人は銅鑼の音と共に一斉に準備された調理場へ走った。 「さあ、どんな料理が出来上がってくるのか楽しみだのぅ?サイトくん」 「そ、そうですね」 大丈夫かなあ。と才人はつぶやき、会場の方へ目を向けた。 そこには本来のご主人様、ルイズがいた。 りょ、料理よね。料理だったら夏の間に頑張ったんだから、大丈夫、よね。 見てなさいサイト、惚れ直させてあげるんだから! と、ルイズは夏の記憶を思い出しながらなんとか進めていった。が ・・・料理?ちょっとまって料理ってたしか・・・ そう思って急いでとなりをみると、そこには勝ち誇った顔をしたシエスタがいた。 「ミス・ヴァリエール。残念ですが、この勝負いただきますね。少なくとも 料理に関しては負ける気がしませんから。」 し、しまったああぁぁぁ ルイズは少なくともシエスタに勝てる気がしなかった。 466 :サイト争奪杯 :2006/12/22(金) 01 32 04 ID h9ClZOz0 そんなこんなで・・・・・・・ 「45分経過。終―――了――――」 才人の前に四つの銀の皿が運ばれてきた。 「順番に行きましょうか。それではまずミス・ヴァリエール嬢から」 「は、はい」 ルイズは緊張した面持ちで自分の料理のふたをあけた。 そこには、何の変哲も無いシチューが乗っていた。 「ジェ、ジェシカに教えて貰って、お、おお、覚えてたのがこれだけだったの」 髪の色より真っ赤にした顔をうつむけて、ルイズはつぶやいた。 ご主人様か、かわええ。もうおれ何でも食えそう。 と、スプーンをとって一すくい口に運んだ。 「ん? おぉ、うん。」 ルイズが心配そうにこっちを見つめてきた。 「うん、うまいよこれ」 「ほ、本当!?」 さっきの泣き顔とは打って変わって安堵したような笑顔になるルイズ。 「ほんとほんと。やるじゃんルイズ」 その言葉を聞いて笑顔をたたえながらルイズはシエスタに向かって、ガッツポーズを向けた。 才人はシエスタの周りの空気が若干変わった気がした。 467 :サイト争奪杯 :2006/12/22(金) 01 33 15 ID h9ClZOz0 「続きまして、アンリエッタ姫」 「はい」 アンリエッタはしずしずと料理にふたを開けた、が・・・ 「ひ、姫さま。あ、あのこれは・・?」 「すいません、小さいころから料理などしたことがなくて」 「は、はぁ」 や、やっぱお姫さまだ〜と才人が改めて下に視線を向けると、そこには 高そうな皿に乗った黒焦げの何かが乗っていた。 「こりゃ、食えねぇな相棒」 「続いて、アニエス」 「ん、どれ」 豪快にふたをとりはらうと、こんがりとした動物が一匹寝転がっていた。 「コレを食べろと?」 「ん? あたしの作った料理が食べられないのか? 才人」 もはや、いろんな意味で料理じゃない。そう思って才人は覚悟を決めた顔で・・・・・ 「すいませんふたりともかんべんしてください」 ・・・・・・・土下座した。 「そこまで食べたくないかねえ、相棒。あ、ごめん悪かった、悪かったから 丸焼きに突き刺さないで。やだ、なんか変な色の油がぁああああ」 食べなくて正解だったようだ。 468 :サイト争奪杯 :2006/12/22(金) 01 34 15 ID h9ClZOz0 「最後に、シエスタ」 「はい、召し上がれサイトさん」 シエスタがふたを空けるとふわっとした湯気が立ち込めた。 「あ、これって」 「はい、ヨシェナヴェです」 あぁ、シエスタはこれがあったんだ。と才人はためらいなく料理を口に運んだ。 「わ! あちち、ちょっと熱いよこれ」 「あ、すいません。じゃあ冷ましてあげますね」 そういって才人の手から箸をとると、自分の口の中に入れた。 「はふはふ、ん、いいかな。はいサイトさん、あーん」 才人はその一連の動作に完全にKOされた。 「あーん」 「あーん」 シエスタ最高だぁぁ、知らない、ルイズがさっきから直視できないほど怖いけど そんなの知らない。みなかったことにしよう。 「それでは、サイト君。判定してもらおうかの」 サイトは迷うことなくシエスタの札をあげた。 喜ぶシエスタの姿と杖をこっちに向けてマジ切れしているルイズの姿が 意識が途切れる前に才人がみた最後の光景だった。 <続く> 469 :284 :2006/12/22(金) 01 37 34 ID h9ClZOz0 以上です。 ども、おじゃましました。 なんかどんどんキャラがおかしくなっていますが、勘弁してやってください。 それではスレ汚しスマソ。またこんど 569 :サイト争奪杯 :2006/12/25(月) 03 08 21 ID VG6LTYap 二回戦の徒競争でアニエスがぶっちぎりで優勝したり、アンリエッタが礼儀作法対決で さすがの貫禄を見せ付けたり、ルイズが巨大迷路早抜け対決で辛くも勝利したり、 虚無のとばっちりを受けたオスマンが強制撤去されたりと・・・・・・・ ・・・・・・・とまあそんなこんなあって 「それではただいまより最終戦をとりおこないます」 オスマンの代わりの従者が淡々と告げた。 「最終戦の内容は・・・・・・」 会場中が固唾を呑んだ、どうあがいてもこれが本当に最後なのだ。 「・・・・仮装対決です!」 「「「「・・・・・・・え?」」」」 あれ、こんな状況前にどっかで・・・なんか俺じゃない俺が、運動会だ何だって 言ってたような・・・ま、いいや。 簡単に状況を受け入れる才人の性格がここでも発揮されたらしい。 「え〜、ルールとしましてはこちらで複数の衣装が用意してありますので、 30分以内に各自コーディネートしてください。 そして、審判員のシュヴァリエ・サイト様に判定していただいて、優勝者を決定します。」 たしか、俺が選んだ服もあったはず、誰が着るんだろう。 とにやけ顔で妄想する才人を尻目に戦いのゴングが鳴らされた。 570 :サイト争奪杯 :2006/12/25(月) 03 09 41 ID VG6LTYap 「それでは・・・始めっ」 四人は、いっせいに駆け出した。 あ、あ、あ、あの犬が喜びそうな服装よね、どんなのがあるかしら。 これは、インパクトが薄そうだし・・・と服の山を引っかきまわしていると、ルイズが あるものを発見した。 「な、なな、なによこれぇぇぇぇぇ!!」 で、でもコレなら・・・ やっぱ、サイトさんでしたらあのもらった服が一番ですよね。あ、でもここにあるかしら・・・ あ、あったあった。これで優勝ですね。 「サイトさんは渡しませんよ、ミス・ヴァリエール」 しかし、仮想など不思議勝負ですわね。でも、少し楽しいかもしれませんわ。 この格好はしたことがありませんしいいかもしれませんわね。 アンリエッタは山の中からあるものを引っ張り出した。 むぅ・・・ いつもの格好以外したことないし、どんな格好をしたらいいのかさっぱり分からんな。 しかたない、適当に目を瞑ってコレとコレと・・・ってなんだこれはぁぁぁぁぁ いやしかしもう時間が無いし、ええい仕方ない。 571 :サイト争奪杯 :2006/12/25(月) 03 11 24 ID VG6LTYap ―――――――三十分経過 「それではこれより、審査を始めます」 四人は大きなローブに身を包んでいた 「じつはけっこう楽しみにしてるだろ、相棒」 「え、う、うんまぁこんな機会滅多にないしな」 優勝者を決定した後におこるであろう修羅場を全く予想していない 才人は嬉々として言った。 「それではまず、ミス・ヴァリエール」 ルイズは一歩前に出て、ローブを脱ぐとポーズを決めて言った。 「きょ、今日は、あ、ああ、あなたがご主人様にゃん」 それは昔才人を慰めようとして失敗したときのあのネコ耳姿だった。 な、なな、なにしてんすかご主人様〜!才人は思わず鼻をおさえていた。 「次、シエスタ」 あなたがそう来るのでしたら、こっちは・・・ シエスタは高々とローブを投げ上げ、くるっと回って一言 「お・ま・た・せ」 お約束通りのセーラー服だった。 あぁ、もう。シエシエ最高、たまんね〜。 日本だったら間違いなく逮捕されているだろう・・・・ 572 :サイト争奪杯 :2006/12/25(月) 03 12 39 ID VG6LTYap 「次は・・アンリエッタ姫」 みなさん、すばらしいですわね。えぇとこの格好でしたら・・・ アンリエッタ姫は静々とローブを脱いだ 「えっと、おかえりなさいませ、ご主人様」 そうくるかぁぁ、姫様ぁぁぁ!メイド姿ぁ万歳ぃぃ!この背徳感、病み付きになりそうだぁぁぁ!!・・・・ アンリエッタは、ふわふわのメイド姿で微笑んでいた。 「初めてなもので、いかがでしょうか?」 「最高です」 「好き物だぁね、相棒も」 「最後、シュヴェリエ・アニエス」 ばさっとローブを脱いでアニエスは、才人に向き合った。 「む、なかなか動きやすいなこれは」 アニエスさん、あんた優勝。いやむしろ反則ですそれ。才人はついにパーカーを真っ赤に 染め始めた。 アニエスは三角形の申し訳程度に下半身を覆う黒い布に、そのはちきれんばかりの胸で たくし上げられているTシャツほどの服に身を包んでいた。 ・・・・・そう、体操着+ブルマーの極悪コンボである。 あぁぁ、アニエスさん、それ以上は。やめて、ブルマを指で直さないで、鼻血止まんない。 「それでは、シュヴァリエ・サイトに判定して貰います」 才人は散々迷った挙句、一枚の札を上げた。そこに書いてあったのは・・・ 1 ルイズ 9-281-1 2 シエスタ 9-281-2 3 アンリエッタ 9-281-3 4 アニエス 9-281-4 5 ???10-348
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1790.html
猫の姿なぞ見えないのに猫の鳴声がするだのでプチ幽霊騒ぎが起こっているが、正体はもちろん猫草である。 その猫草がヴァリエール家に住み着いてから約二ヶ月。 「…マジか?」 「ええ、明日の夜ぐらいに着くって姉様がフクロウで」 「ウニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」 ボールを転がして遊んでいる猫草の鳴声を背景に出た言葉が『マジか?』である。 覚悟はしていたが遂に来た。元ギャングをしてこれほどの反応を示す物。 つまり、遂にルイズがここに帰ってくるという事だ。 無駄に広い領地なので老化もあるし、まぁ大丈夫だとは思うが一応警戒態勢に入らねばならない。 「ニャギ!フギャ!ニャン!ニャ!」 「ルセーぞ」 何かヒートアップしてきた猫草の上に布を被せる。 しばらくもがいていたが、寝たようだ。自由奔放もいいとこである。 草だが猫。猫だが草。奇妙という言葉が最も似合う生物。 そして、その奇妙な生物を見て一発で猫だとのたまったカトレアのド天然さも。 ある意味似た者同士かもしれない。違うのは健康の問題ぐらいか。 この後、カトレアが先発して旅籠まで出迎えに行った。もちろん、動物満載の馬車で。 なお、猫草は居残りである。こいつ、猫だけあって人の好き嫌いが結構激しい。 多分、エレオノールあたりを見れば空気弾を撃ちこみかねない。 布の下でゴロゴロ音を出して爆睡している猫草の顎の下を触る。 紛れもない植物の感触に僅かに伝わる音の振動。…イタリアは猫が多いが、こいつ程好き勝手やってる猫もいねーだろとマジに思う。 とりあえず今は、来るべき来訪者に備え仕事を済ませておかねばならなかった。 そのヴァリエール家領地を進んでいるのは、ルイズ、エレオノール姉様、犬、シエスタの四名。 この前から三日後。さらに犬がアンリエッタとキスしていたという事で、色々格下げである。 まぁそれだけ気になっているという事かもしれんが。 職業メイドたるシエスタも何故居るかというと、エレオノール曰く『ど、道中の侍女はこの娘でいいわ』とのことだが、実際のところ理由は別にある。 ルイズを連れ戻しに学院に乗り込んだ姉様であるが、幾分勝手が分からないので見当違いなところまで入ってしまっていた。 「まったく…あの子ったら、戦争に着いていくなんて勝手なことを言って」 文句たれながら院内を歩くエレオノールだが、戦争という事でそれなりにルイズの事を心配しているようだ。 次に入ったのは風の塔。いい加減魔法でこちらの存在をアピールしようかと思ったが、そんな事やったら多分マズイので自重する。 人に聞けばいいのだが、不機嫌オーラ全開でドS丸出しのエレオノールに近付きたがる人はあまり居ないらしい。 メイジであれ平民であれドMはそうそう居ないものだ。 段々ムカついてきたのだが、倉庫の前で声が聞こえた。 丁度いい。人が居るなら聞こう。というか口を割らす。 ギャングの考え方になってきたが、妖精さんの件で一杯一杯なのである。 だが、入ると同時にエレオノールの顔が歪む。 視線の先には水兵服とスカートに身を包んだ…いやそれだけならまだいいが、小太りの『メーーーーーン!』だったからだ! 「はぁ…んぉ、ハァハァ…かか、かわいいよ…」 しかもなにやら悶えているご様子。扉を開けた様子にすら気付いていない。 「ぼ、ぼくはもう…う、うあああ」 生涯初めて見てはいけない物という物を見てしまった気がするが、気の強いエレオノール。これしきの事でひるんだりはしない。 「あなた、なにやってるの!」 「ひぃぃいいいいい」 その声に逃げようとした人が足をもつれさせ床をのた打ち回っていたが、その近くには『嘘つきの鏡』があった まず真っ先に嫌悪感が先行したし、こんな人の居ないとこでコソコソ怪しい事をやているということで、その背中を思いっきり踏んだ。 「使用人の分際で、こんな場所でなにやってるのかしらね…しかも、そんな格好で…汚らわしいわッ!」 踏んでいる足の力を強める。あの使用人(兄貴)に頭が上がらなくなったせいで、ストレスというものが溜まっているのだ。 「あ!んあ!あ!ふぁ!」 豚のような悲鳴をあげていたが、少々上気した顔で男が答え始めた。 「こ、この服があまりんも可憐すぎて…で、でもぼくには着てくれる人が居ないから…う、うぉぉお!」 「それで自分で着て、その『嘘つきの鏡』でって事?…情けないわねッ!」 グリィ! そんな音が聞こえそうなぐらい足をグリグリと動かすと、男が悲鳴をあげるが、どことなく悦んでいるような気がする。 「ハァハァ…あの時見た姿はまさに感動だ!ぼくのハートは可憐な官能で焦げてしまいそうさ! だから、その想いのよすがに、せめてこの鏡に自分の姿を映して…ああ、ぼくは…ぼくはなんて可憐な妖精さんなんだ…!あぁああああッ!」 即席とはいえ士官訓練を二ヶ月終え、空軍に配属され水兵服を見て彼が思い出したのは、あのルイズの姿。 乗艦する前に水兵服を一着かっぱらい、わざわざ抜け出して学院に戻ってきてのご乱行である。 そして『妖精さん』。今最もエレオノールが聞きたくない言葉にして忘れたい言葉だ。 それをわざわざ思い出させてくれたこのド変態をどうしてくれようかと思い、さらに踏む力を強める。 「あ!ああ!誰か知らないけど、あなたみたいな美しい人に踏まれて、我を忘れそうだ!う、うお、うおお!」 「おだまり!」 「ふひぃぃ!こんなところで可憐な妖精さんを気取ってしまったぼくにもっと罰をッ!お願いだ!ぼくの顔を踏んでくれ! 我を忘れた僕の罪と一緒に押しつぶしてくれ!そうだ、圧迫だ!呼吸が止まるぐらい!もう耐えられないッ!踏んでくれ!早く!」 「 『 圧 迫 祭 り 』 だ ッ ! ! 」 「まだ言うか!」 二回目の禁句。それに従い、顔を思いっきり踏み付け、鞭を取り出し打つ。 「もっとだ!もっと乗って!強くッ!ふぎぃ!?あぐ!ほごぉ!あぎぃ!」 「黙れと言っている!この豚!」 「ぶ、豚……?ああ、そうさ、ぼくは豚だ…!この醜くて卑しい豚にもっと罰をォーーーーーーー!!あ!あ!んああぁああああ!」 別世界に到達した男が気絶したが、その表情は達している。 「まったく…平民はこれだから…」 養豚場の豚を見るような目で気絶した男を見ているが、実際のところ平民ではなく、ここの生徒である。 が、扉の方から音。 そこにいたのは、かなり顔を赤らめているメイド。ご存知シエスタだ。 「ああ…やっぱり貴族の方達って、あの小説に書かれているような事を……」 『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 トリスタニアで今人気の読み物らしく、倹約派のシエスタも自費で購入し読んだばかりである。 内容は『高貴な女性の口にはできない欲求が積もり積もって…』。言うまでもなくR指定相当の物だが、この世界にそんな概念など無い。 今のシエスタの目の前の光景は、どう見てもドMの豚に鞭を振るって悦に入っているドSの女王様なのだから、そう思うのも仕方無い。 小説にもそんな話があっただけに、もう間違いない。 ふとエレオノールと視線が合う。 マズイ。イケナイモノを見てしまったと思い、下手すれば次に鞭が振るわれるのは自分だと判断したようだ。 「ごご、ごめんなさい!」 踵を返し走り去ったが、テンション絶賛上昇中である。 どこか、うっとりしたような感じで顔を赤らめながら走っているが、まぁ無理も無い。 だが、エレオノールはそうはいかない。 『HOLY SHIT!』である。当人にしてみれば、そんなつもりは無かったが、状況的にそうなってしまっていると今更ながら理解した。 顔を踏んでいた足。手に持った鞭。『豚』発言。 状況証拠だけで殺人罪が立件できそうな勢いだ。 そしてそれを見られてしまった。 「ごご、ごめんなさい!」 そう言って顔を赤らめさせながら逃げ出したメイドを見て、血の気が本気で引く。 『妖精さん』だけではなく『女王様』という称号まで頂いてしまえば、再起不能どころか自殺モノだ。 さらに平民の中での噂が伝わる速度が恐ろしく早い事も知っている。 そして、それは何時か貴族の中にも… 『ヴァリエール家の長女が婚約を解消された理由は、夜な夜な伯爵を鞭で打っていたからだ』 「ま、待ちなさい!ていうか待って!お願い!」 そんな噂が貴族社会で流れる事を想像しながら、必死になって追いかける。 生涯これ程焦った事は無い。前回の件を一気に更新して最高記録である。 そして誰も居なくなった倉庫の中で、散々踏まれ、鞭で打たれ、罵られた男。 マリコヌルが達してしまっている顔で何かに目覚めていた。 というわけで、必死こいて説明し監視も兼ねて連れてきたという事である。 なお、半分涙目だったのは言うまでも無い。 「サイトさん…世の中知っちゃイケナイ事って結構あるんですね…」 「一体何が…」 どこか遠くを見て達観したような表情のシエスタと才人が乗った馬車と その後方にエレオノールとルイズが乗った馬車が続くが、前の馬車よりも立派な後ろの馬車からは妙なオーラが滲み出ている。 「ね、姉様…学院でなにふぁいだ!いだい!あう!」 「いい事、ちびルイズ?世の中には知らないでいい事が沢山あるの。それなのに、なんで見に寄ってくるのかしらね……?見なくてもいいものをッ!!」 今にも、この世はアホだらけなのかァ~~~~ッ! と言いながら目に指を突っ込まんばかりにルイズの頬をエレオノールがつねる。 今ならギャングのボスも立派に務まりそうだ。 「わ、わかりまひた…」 「戦争に行くだなんて。あなたが行ってどうするの!しっかりお父様とお母様に叱ってもらいますからね!」 「で、でも…この前の任務の時は…」 「あなた、戦争がどういう物か分かってるの?街での任務なんかとは一緒にしない!」 情けない声をあげて押し黙るが、エレノオールですらこれだ。ルイズには烈風を説得できるか非常に不安だった。 そんなギャングのボスと化さんばかりのエレオノールを乗せた馬車の前の才人だが、気分は暗い。 ルイズが戦争に参加するという事は、自分もゼロ戦ひっさげての参陣となる。 戦争なぞ17年生きてきて初めての体験だ。正直言えばやりたくなぞないが あの時のアンリエッタを見て『この可哀想なお姫様の手助けをしてやりたい』という気持ちが湧き上がっていた。 そういえば、姫様も結構胸が大きかったなー。 ああ、この戦争終わったらセーラー服着た姿見たい。多分、いや絶対似合う。清純そうだし。 そんな、けしからん妄想を犬がしていると、シエスタが曇った顔をして話しかけてきた。 「サイトさんも、アルビオンに行くんでしょう?」 「え?…ああ、うん」 シエスタも似合いそうだなー。と引き続き煩悩モード満載だったが、とりあえず現実に戻った。 「わたし、貴族の人達が嫌いです…自分達だけで殺し合いをすればいいのに…わたし達平民も巻き込んで…」 「戦争を終わらせるためだって言ってたけどな」 「戦は戦です。サイトさんが行く理由なんて無いじゃないですか」 元が同じ故郷という事で、それなりに、というかかなり親しくはなった。 「そうなんだけど…あいつが、そのままいるんだったら…多分、ルイズと一緒に行ってたと思うんだ。だから俺も」 実際のところ、その『あいつ』は親玉狙いで真正面からドンパチやる気は全く無い。 「死んじゃ嫌ですからね…知ってる人がいなくなるってのは、もう見たく無いんです」 ああ、もう可愛いなチクショー。ルイズとは大違いだ。いや、ルイズも可愛いけど精神的な意味で。 そんな事を思いつつも、プロシュートとの距離は確実に狭まっていた。 「こんなもんか」 一通りの仕事を終えて一息つく。 後ろで猫草がゴロゴロ鳴きながら寝ているのがムカつくがまぁ良しとしよう。 後は他のヤツに任せて適当にバックレてれば大丈夫なはずだ。 大体何時も飯食うときにあんな人並ばせる必要があんのかと。 刺客が紛れてたら死ぬぞ。と、元暗殺者として常々思う。 メイジといっても飯時を狙われたらどうしようも無いはずだ。 常に警戒してんのか、単に城の中に居るから安心しきってんのかのどっちかだとは思うがイタリアなら軽く2~3回は死んでいると考えなくもない。 プロはリスクを恐れてこういう所はあまり狙いたがらないのだが、追い込まれてテンパったカタギが自爆覚悟で襲撃してくる事がある。 後先考えていないだけに、そういう素人が一番怖い。 もちろん、暗殺チームはそんな事関係無しに殺ってきたが。 適当にバックレてる間に飯も終わったようで、一応の警戒はしているが視界の範囲にルイズの姿は無かった。 が、カトレアの部屋の方からルイズの短い悲鳴。数人の使用人が何事かと出てきたが 続いて『ニャーン』という鳴声が聞こえたので猫草だな。と納得した。 普通はああいう反応だろう。やはりカトレアは何かが違う。 次いで遭遇するとマズイのがシエスタだが これは、性格的に勝手が分からない場所だけあって、あまり部屋の外から出ないから大丈夫なはずだ。 そして、問題無いのが才人だ。 老化してりゃあバレやあせんだろうし、顔を合わせたのも一回だけだ。 むしろ、ここは後退するより前に出て才人から近況情報手に入れるのが得策かもしれないと判断した。 そう決めると早速行動開始だ。軽く捜したがすぐ見付かった。 つーか、負のオーラ全開でマンモーニさを限りなくアピールしていた。 説教した後のペッシがあんな感じだ。 元暗殺者に完全ロックオンされたとは露知らず、改めて身分差というものを痛感させられていた才人が浸っていると声を掛けられた。 もちろんヴァリエール家仕様で、髪型変えて、老化しているダンディさ300%増しのプロシュートである。 「シケた面してなにやってやがる。使い魔がルイズの側にいなくていいのか?」 「え、ああ。凄い城なんで、なんだか気後れしちまって。って、いいんですか?お嬢様を呼び捨てにして」 「構うこたぁねー。バレなきゃいいんだよ。バレなけりゃあな」 限りなくタメ口で軽く話しかけてきた男に気が緩んだのか、多少才人が明るくなる。相変わらず立ち直りだけは早いようだ。 「で…どんなだよ?使い魔ってのは」 「どんなって……優しい時もあるけど、犬って言われたり、鞭で叩かれたり…」 叩かれていたりするのは、まぁ自分に責任があるのだが、ダーティ入っている時、人はどんどんそっちに進むものである。 「たっく…全然、変わってねーな」 「昔から、あんなだったんですか?」 昔っつっても、月単位の事だ。そうそう変わりはしない。 「ああ、一回怒ると中々おさまんねーからな。そんなに嫌なんだったらさっさと逃げちまえ。稼ぎ口ぐらいは紹介してやんぜ?」 「それはできませんよ。一応、俺はあいつの使い魔だし……それに逃げたら、前のヤツに負けたような気がして」 (意地だけは一端ってワケか) よもや目の前の男が、先代だと思っていないようでどんどん話してくれるが 纏めると『あまりの貴族っぷりにビビって身分の違いを思い知り凹んでいる』という事らしい。 「少しそこで待ってろ」 プロシュートが厨房に消えていったが、しばらくすると壜を一本持ってきてそれを投げてきた。 「うわ!危ねぇ…これ、何ですか?」 「見りゃ分かんだろ。酒だ」 落としそうになったがなんとか受け取る才人だったが、不思議そうな顔をしている。 「いや、それは分かりますけど」 「適当にかっさらってきたが…まぁそこいらの安酒よりは良いモンだと思うぜ」 「いや、いいんですか?ここで働いてるのに」 「ハッ…!言ったろーが、バレなけりゃあいいんだよ。部屋がアレだろーからな。酒ぐらいは良いモン飲んでも構わねーだろ?」 全ての思考は、『ギられた方が悪い』。まさにギャング。 「あ、ありがとうございます」 「じゃあな。面倒だろうが、やるならトコトンやりな」 ナイスミドル!! 軽く笑いながらの顔を見て才人が本気でそう思う。 今の精神状態ならホイホイついていってしまいそうだ。 無論、誘ってもいないので、ついて来られても困るのだが。 ヴァリエール家に来てようやく人間扱いを受けたような気がして泣きそうな才人だったが とりあえず、廊下で飲むのもなんなので部屋に戻る事にしたのだが、先客がいた。 「遅い」 「…シシ、シエスタさん?」 部屋の中には、グビィと荒れている英国貴族を髣髴とさせる飲みっぷりのシエスタがいた 目が完全に据わっている。なんというかギャングっぽい。 「せっかく遊びにきたのに、居ないってのはどういう事れすか」 「い、いや、ちょっと話してて」 「ミス・ヴァリエールとですか。なんだかんだ言ってやっぱりそうですか」 「俺はルイズの事はなんとも…」 「まぁいいサイト。お前も飲め」 スゴ味を含ませた声でシエスタが呟く。ドスが効いててなんか怖い。 「い、いただきます」 怖いので差し出されたままの酒を飲む。 この後、才人が潰れるまで酔っ払いと使い魔によるほぼ一方的な酒リレーが行なわれる事になった。 酒リレーが開催されている中、ルイズはカトレアの部屋にまだ居た。 何故か知らんが、猫草を挟んで一緒に寝ている。 最初は驚いたものの、猫草が出す空気クッションが気に入ったらしい そのうちルイズが毛布被って外に出て行ったが、向かった部屋の先はある意味地獄に近かった。 「あら、いらっしゃい。ミス・ヴァリエール」 「なな、なんであんたがいるのよ!」 「する事が無いので遊びにきただけれすけど」 酒で顔を赤くしているシエスタと、なにか分からんが喰らえッ!的な感情で赤くしているルイズ。 こちらも対照的である。 そして、潰れている才人。もう少し飲んでいれば、ドッピオみたいに釘を吐いているような姿が見られたかもしれない。 「ミス・ヴァリエール」 「な、なによ…!」 こんな部屋でなにやってたのかと想像して、沸騰しかけのルイズだったが、シエスタの妙な迫力に押されていた。 「飲め」 ズイィっと差し出される酒瓶。プロシュートが見るに見かねて才人にギってきたのを渡したやつだが、もう半分程開いている。 「どうしたのよ、これ」 「とりあえず、飲め」 「そんな事いいから、自分の部屋に戻りなさい」 負けじと言い返したが、シエスタがルイズに顔を近づけてきた。 「サイトさんの事、好きなんでしょ?ハッキリ言ったらどうですか」 「な、な…!」 唐突に本丸を攻められルイズがうろたえる。『ジャーーーン ジャーーーーン』という音が聞こえそうなぐらいに。 「ち、違うわよ!な、なんでこんなヤツ…」 必死になって否定したが、気になっている事は確かで、現在心拍数絶賛上昇中だ。 そんな様子のルイズをシエスタがジーっと見つめ… 「……汗かいてますね」 「こ、これは暑いだけで、べ、別に…ひゃわん!」 ルイズの頬を伝う汗を舐めたッ! 「この味は…嘘をついてる味です…!ミス・ヴァリエールッ!」 「あ、あう…うぅ…ふひゃあ!」 「どうなんですか?…質問は既に…拷問に変わってるのれす」 汗を舐められるなぞ初体験だったので戸惑っていたのだが、続けざまにシエスタがルイズの平原…もとい胸を触っている。エロイ 「や、やめ……この、ぶぶぶ、無礼者…ひぁ!」 「無駄です。無駄無駄。そんな板じゃサイトさんは振り向いてくれません。わたしが大きくしてさしあげます」 遂に両の手でガッシリとつかみ始めた。…つかむ箇所があるかどうか知らんが。 「い、板じゃないもん」 「一度言った事を二度言わなきゃ分からないってのは、その人の頭が悪いって事です。贔屓目に見ても板です」 完全にギャングと化したシエスタだが、構わずにルイズの平原を掴んで手を動かしている。 とりあえず満足したのか手を離すと転がっていた酒瓶を抱えると外に出ていった。 「ひっく。早めに捕まえないと待ってるだけになるんですから」 「あ……」 少しだけ落ち着いた口調でそう言ったが ここ数ヶ月任務やら、ザ・ニュー・使い魔のおかげで頭の隅に追いやってあまり考えなかったが、意味する事に空気の読めないルイズも気付いた。 「そういえば、そうだったっけ…死んだかもしれないなんてとてもじゃないけど言えないわ……」 実際のとこ生存云々どころか同じ場所にいるのだが、全く気付かれては無いというのはプロと素人の差というやつだろう。 そして、寝るべく廊下を闊歩しているプロシュートの視界に入った珍妙な生物がそこに居た。 「…なんだこいつは」 目の前に映るのは、空の酒瓶抱いて廊下で倒れている非常によく見知った顔。 さすがにメイド服ではないが、猫草に負けないぐらい爆睡かましているシエスタだ。 「うお…酒クセー。なんであいつにやった酒持ってんだこいつ」 とりあえず、邪魔というか、こんなとこで寝てられても困る。 こんだけ潰れてれば起きないだろうとして抱えると運ぶ。とりあえず、部屋の場所は聞き出せたので運んだ。 「オレはこんなキャラしてねーぞ」 文句言いながら、シエスタをベッドに放り投げるように運んだが、介護キャラじゃあない。 相手を介護が必要にさせるように追い込んだ事は数え切れないが。 そんな事を考えながら、ドアの方に向き直って外に出ようとしたが、後ろからプレッシャーというかスゴ味を感じた。 そう…擬音が出んばかりにシエスタが立ち上がっていたからであるッ! 「な…ッ!バカな…こいつ起きて…!うぉおおおお!?」 急だったので、さすがの元ギャングも対処できずに押し倒される形となったが、色々とヤバイ。 何だ、この状況は!?カタギに元ギャングが倒されるってどういう事だよッ! それ以前に、このヤローどういうつもりだ!起きてたならせめて言いやがれ!クソッ馬鹿にしやがってッ! いや、この場合ヤローって言うのか?男じゃねーしな。あー、もうそんな事はどうでもいい。メローネでもいいから助けやがれってんだド畜生が! http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0411.jpg http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0409.jpg 0.5秒の間にそんな事を考えたが、バレちまったモンは仕方無い。 ルイズとかにバレるよりはマシだ。 失敗は前向きに利用しなくてはならないとリゾットも言ってたはずだ。 「おい、オメー…とりあえず退け。どういうつもりか知んねーがな……こいつ……寝てやがる」 反応が無いので妙だと思ったがどうも寝ボケていただけのようだ。 一先ず安堵したが、そう安心してられない。 こんだけ焦ったのも久しぶりだ。 シエスタを引っぺがすが、スーツに涎が付いている。ヴァリエール家の私物の方だからいいが、持ち込んだ方だったら説教かましてるとこだ。 壁に背を預け溜息を吐いたが、引っぺがしたシエスタが重力に従ってもたれ掛かってきた。 試しに頬を少し強めにつまむ。 反応は無い。まぁ大丈夫だとは思う事にした。 というか、最近マジで胃が痛くなってきたかもしれない。今度水のメイジにでも診てもらおう。 手を離したが、シエスタは変わらない顔で爆睡している。 「しっかし…のん気そーな面ぁしてやがんぜ」 ペッシを除いた暗殺チームは寝ている時もかなり神経使っていた。 ギアッチョやイルーゾォはともかくとして、プロシュートは殆どの時はスタンドを出して寝ている。 今もそうだ。これも結構スタンドパワーを使うのである。 ルイズ達もそうだったが、かなり無防備な寝顔のシエスタを見て、少しばかり羨ましくなった。 襲撃を気にせず寝ていた時なぞ何時以来だったかと思ったが、思い出せそうに無い。 難儀な商売やってたなと思ったが、別段後悔はしない。 相変わらず、涎垂らして爆睡決め込んでいるシエスタだったが、なんかの夢でも見ているのだろうか腕を掴まれた。 「…やっと捕まえ…もう離しま……から……」 「なに見てやがんだかな」 この元ギャング、よもや自分の事だとは全く思わないし、思おうともしない。この元ギャングも大概ド天然である。 いい加減出たいので、腕を振るが、ガッシリと掴まれて離れない。 手でこじ開けてもすぐ、また掴んで離れない。 「……起きてんじゃねーだろうな」 これで狸寝入りだったら相当黒い。ブラック・サバス並に真っ黒だ。 どうしたもんかと、髪掻きながらマジに考えたが対処法が思いつかない。 典型的な強打者タイプのボクサーだ。普段が打つ方だけに、こういう打たれ方をされると弱い。 しかも、悪意無しにされると反撃のしようも無い。ある意味、こういうのが真の邪悪というのかもしれない。 「こいつまだ持ってたのか。メローネに売りつけられたモンなんだがな…そんな良い物か…?」 面倒だと思いながら視界に入ったのは、この前くれてやった飾りだ。 メローネに半分押し付けられんばかりに売りつけられたのだが、案外気に入っていた。 それを欲しい言われた時は、まぁ世話なってたしくれてやったのだが、他人がそこまで常備するようなモンでも無いだろとは思う。 徹夜で他のヤツの仕事引き受けて、バックレるための暇作っていたため、多少なりとも寝ておきたかったのだが 現状、無理矢理引っぺがすにしても何か知らんが妙に喰らいついてくる。 腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!と言わんばかりに これ以上強くやると起きて面倒な事になりかねない。かといってこのまま寝ると洒落にならない気がする。 「仕方ねー…気が済むまで居てやっが、これでゼロ戦の貸しはねぇからな」 その内離れんだろと思っていたが、結構粘る。一時間経っても離れやしない。 「くそ…何なんだこいつ…」 元ギャング。しかも暗殺者にこんだけ遠慮が無いヤツってのは見た事が無い。 いい加減もうどうでもよくなってきた。 出たとこ勝負。そう考えると寝る事に決めた。 眠いものは眠い。こいつが起きるより早く起きればいい事だ。 バレたらバレたで黙らせばいい。こんだけ広けりゃルイズ達には聞こえないだろう。 何時もと同じようにグレイトフル・デッドを出したが思い直す。 横でアホみたいに涎垂らして爆睡しているヤツを見たら、スタンド出して寝るのがバカらしくなってきたからだ。 メタリカなら気にしなくてもいいんだがな、と思うと寝た。 同じ場所で寝る元ギャングと現役メイド。相変わらず実に奇妙な組み合わせであった。 ルイズ― 潰れている才人を見てムカついたのか一発蹴り入れてカトレアの部屋に戻った。 …が板と言われた上、色々やられたので部屋に付く頃には半泣きだった。 猫草―常に18時間ぐらいは寝て、起きている時は食ったり遊んだり、犬とは違って充実している。 マリコルヌ―覚☆醒! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1089.html
グェス……グェスはいねえがあ……悪いグェスはどごだあ……。 「ミスタ・コルベール。わたしの使い魔見ませんでしたか?」 「見たといえば見たが……廊下を北に向かって走っていたな。しかし君、ミスタ・グラモンの使い魔を見たかね。凄いねあの老人は」 わたしから逃げられるとでも思ってるのかしら。 宝物庫の前で何やらゴソゴソやっていたミス・ロングビルを発見。 この人相変わらずいいプロポーションしてるわね。オスマンの狒々爺に触らせるのがもったいないくらい。 「ミス・ロングビル。わたしの使い魔見ませんでした? 平民の女なんですけど」 「全力で走っていた犯罪者風の人? それなら男子寮の方へ向かわれたようですけど」 男子寮? ははーん、ミキタカを味方につける気でいるわけね。 ミキタカやぺティが何と言ったって全力でぶったたいてやるんだから。扉の前でノックノック。 「ミキタカ? グェスいる?」 「いりませんよ」 ん? んん? えーっと……どういうこと? 「入るわよ」 扉を開けた先にはここ数日で見慣れた部屋とミキタカ、せいぜいぺティがいるくらいだと思っていたけど、ぺティではなくなぜかシエスタがいた。 二人並んでベッドに腰掛けているその光景からは、朴念仁だって甘いひと時が想像できる。 何よ阿呆ミキタカ。先にシエスタに目をつけてたのはわたしなのに。だから嫌よ男って。いやらしいことしか頭に無いんだから。 ああ、シエスタの貞操は無事かしら。この阿呆貴族に隠れ巨乳揉みしだかれてたりしないといいけど。 有無を言わさず必殺のルイズヒップドロップを敢行、二人の間に無理やりお尻をねじ込んだ。 咄嗟にシエスタが立とうとしたけど、腕を掴んで押さえ込む。 「シエスタ、あなたグェスを見なかった?」 「ええと……」 相変わらず怯えてるシエスタ。わたしとしては精一杯フレンドリーなつもりなんだけどなぁ。何がいけないんだろ。 シエスタはわたしの頭越しにミキタカを見て、ミキタカは小さく頷き返した。何この二人は恋人的空気。 「私がお見かけした時は食堂にいらっしゃいました」 「ふーん……食堂ね。ありがとうシエスタ」 「あ、あの、ミス・ヴァリエール!」 シエスタが立ち上がりかけたわたしの袖を引く。 「私、負けませんから!」 ……誰が? 誰に? 何で? 主語も述語も目的語もはっきりしていない。 「す、すいません。ご無礼をお許しください」 で、目が合うと謝るし。この娘も情緒不安定ね。お年頃ってやつ? 何かよく分からないけど、わたしはシエスタから挑戦されたらしい。 挑戦か。嫌な響き。またえらく嫌われたもんね……この娘に嫌われるとなぜだかへこむわ。 本当ならわたしを好いてくれるのが基本形だった気がするんだけど、どう考えても妄想以外の何者でもなくさらにへこむ。あーあ。 こんなわたしの傷ついたハートも全てグェスのせいと結論付けて、さらなる怒りを胸に食堂へと足を向ける。 食堂は西日が射して磨いたばかりのテーブルは照り返し……もう夕方だったのね。わたし何時間走り回ってたんだろう。 そこにもグェスはいなかったけど、パイプをふかすぺティとモンモランシーと大蛙と……知らない人間が見たら打ち捨てられているとしか思えない大釜が鎮座ましましていた。 「ねえモンランシー。あなた達グェス……」 「しっ! 静かに!」 何よ何よ。皆でわたしのこと邪魔者扱いして。どうせわたしなんてゼロよ。胸も才能もゼロよ。 「老師、お願いです。今のぼくには生きるための力が必要なんです」 「ねっ。力が必要なんだよ、ねっ」 なになに、弟子入りしようっていうの? 弟の使い魔に? ギーシュ必死すぎじゃない? 「背中を見せれば死ぬ。そのことに絶望していました」 あ、それで釜かついで動いてたのか。そりゃわたしでも絶望するわ。釜背負って外出てくるあたりは大物よね。 「ですが、老師の力を目の当たりにしてぼくの考えは変わりました。ぼくは……ぼくはまだ生きたい。やりたいことはたくさんあります。モンモランシーをもっと愛したい」 カアアアア……ペッ! アア胸糞悪い。何この学院。カップル率高すぎ。そうですか。独り者に死ねと言いますか。 「な、何言ってるのよギーシュ」 洪水のお嬢さん、顔が赤いですよ死ね。何よ目ぇ潤ませたりして。上も洪水下も洪水ですって? バーカバーカ。 「キーシュが言っていました。老師の前身は修行者だと。その技は修行によって身につけたものだと。お願いです、その技を……温かく、力強いその技をぼくに教えてください!」 「わたしからもお願いします、老師。ギーシュは馬鹿で浮気者だけど、それでも死ぬのは……」 モンモランシーも頭を下げた。こいつら何で使い魔相手に敬語使ってるのかしら。 「それはできん相談じゃな」 ぺティ冷たい。考えるふりくらいしてあげてもバチは当たらないでしょうに。 「老師!」 「そんな……!」 「冷たいねっ、ねっ」 ぺティはパイプの火を落とし、大事そうに懐へしまいこんだ。 すげなく頼みを断った爺さんとも思えない、好々爺丸出しの笑顔で大釜に手を当てた。 「この技は習得に骨が折れる。才能のある者でも数年はかかるじゃろう。今のまま挑めば過程で死ぬ」 そりゃそうよね。背中見せられない人間じゃ修行は無理でしょ。 「それにのう少年よ。そなたには必要の無い技なんじゃよ」 どうせ死ぬから必要ないよなんて言わないでしょうね? 「この技術がなぜ生まれたか分かるかね? ある者に近づこうとしたからじゃ」 「ある者……?」 「君の背中にとりついている者、と言えば分かりやすいかな」 大釜の中で、何かが打ち付けられる音が響いた。たぶん立ち上がろうとして頭ぶつけたんだろう。 「ふざけないでください! ぼくは! ぼくはこいつのために!」 「ふざけてなどおらんとも。わしの技……波紋は、人ならぬものに近づくため人間が編み出した技術体系に過ぎん」 「老師! ぼくは! ぼくは!」 大釜が揺れていた。顔が見えなくても何を思っているかはよく分かる。 「……そなた、使い魔を知ろうとしたかね」 「ぼくは……は?」 大釜の揺れが収まっていく。わっかりやすい。 「背中を見せれば主が命を落とす。そこで止まっていたのではないかな」 「それは、その。だって死ぬんですよ」 「誰であろうと一度は死ぬ。その運命から逃れることはできん。死は言い訳にならんよ」 厳しい意見ね。そこまで覚悟してる人ってそうそういないと思うけど。 「使い魔と話し合ってみるといい。何ができ、何ができないのか。それを知るだけでも益はあろう」 「そうそう。もっと話そう話そう。ねっねっ」 ぺティはギーシュのことを話していたんだろう。でもその言葉はわたしにも当てはまった。 そっか……そうよね。わたしはグェスのできることを考えていなかった。 グェス本人がただの平民であることを忘れ、無謀な戦闘行為に付き合わせようとしていた。 使い魔なら従って当然だと思っていた。ふんぞり返って上から押さえつけようとしていた。 そんなの、グェスじゃなくたって逃げて当たり前だ。 「そなたは大地」 「ぼくが……大地?」 「砂か、泥か、岩か、土か、決めるはそなたのみ。芽吹いた植物を生かすも枯らすも己次第と知れ」 大地。ちょっとかっこいいな。わたしも大地になれるだろうか。 「ぼくが……大地……」 アドバイスに対し、御礼の一つも言うつもりだったんだろう。大釜が持ち上がり、そこからギーシュが顔を出した。 ギーシュにとって不幸だった……いやこれは幸運か。幸運だったことは、この場にはぺティだけではなく、モンモランシーがいたということ。 地面から上を見上げれば、当然モンモランシーも視界に入る。モンモランシーのスカートの中も。 「白……? 白? 白! 白! 白かったであります!」 ギーシュの視線を追い、ギーシュの言葉を聞き、その意味を捉え、モンモンシーの表情が哀から怒へと一変した。 モンモランシーのパンツは白、と。メモメモ。ギーシュもたまには役に立つ。 「いい加減にしなさい! あなたの頭の中そればっかりじゃないの!」 「待って! し、仕方ない! これは仕方ない! どうしようもない!」 うん、仕方ない。それは本当に仕方ない。 スカートを押さえて大釜を蹴りまくるモンモランシーに対し、ギーシュは鉄壁の篭城作戦で対抗する。 じゃれあう二人をいつもの笑顔で見守るぺティ。何このトリオ。楽しそうじゃないの。 ていうかわたし完全に無視されてるよね。グェスのこと聞いたのに忘れられてるよね。もういいよ、もういい。 「ちょっとそこの矢印つけた蛙」 「は? 私めのことでしょうか」 あんた意外にそんなのがいますかっていうのよ。 「胡乱な平民の女見なかった? わたしの使い魔なんだけど」 「怪しい方なら中庭の方で見かけたように思いますが……ゲロッ」 これもグェスの計略だったりして。学院中をぐるぐると歩き回らされている。 ま、ご主人様の義務だと割り切ろう。使い魔放っておくわけにはいかないもんね。