約 1,871,783 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1089.html
グェス……グェスはいねえがあ……悪いグェスはどごだあ……。 「ミスタ・コルベール。わたしの使い魔見ませんでしたか?」 「見たといえば見たが……廊下を北に向かって走っていたな。しかし君、ミスタ・グラモンの使い魔を見たかね。凄いねあの老人は」 わたしから逃げられるとでも思ってるのかしら。 宝物庫の前で何やらゴソゴソやっていたミス・ロングビルを発見。 この人相変わらずいいプロポーションしてるわね。オスマンの狒々爺に触らせるのがもったいないくらい。 「ミス・ロングビル。わたしの使い魔見ませんでした? 平民の女なんですけど」 「全力で走っていた犯罪者風の人? それなら男子寮の方へ向かわれたようですけど」 男子寮? ははーん、ミキタカを味方につける気でいるわけね。 ミキタカやぺティが何と言ったって全力でぶったたいてやるんだから。扉の前でノックノック。 「ミキタカ? グェスいる?」 「いりませんよ」 ん? んん? えーっと……どういうこと? 「入るわよ」 扉を開けた先にはここ数日で見慣れた部屋とミキタカ、せいぜいぺティがいるくらいだと思っていたけど、ぺティではなくなぜかシエスタがいた。 二人並んでベッドに腰掛けているその光景からは、朴念仁だって甘いひと時が想像できる。 何よ阿呆ミキタカ。先にシエスタに目をつけてたのはわたしなのに。だから嫌よ男って。いやらしいことしか頭に無いんだから。 ああ、シエスタの貞操は無事かしら。この阿呆貴族に隠れ巨乳揉みしだかれてたりしないといいけど。 有無を言わさず必殺のルイズヒップドロップを敢行、二人の間に無理やりお尻をねじ込んだ。 咄嗟にシエスタが立とうとしたけど、腕を掴んで押さえ込む。 「シエスタ、あなたグェスを見なかった?」 「ええと……」 相変わらず怯えてるシエスタ。わたしとしては精一杯フレンドリーなつもりなんだけどなぁ。何がいけないんだろ。 シエスタはわたしの頭越しにミキタカを見て、ミキタカは小さく頷き返した。何この二人は恋人的空気。 「私がお見かけした時は食堂にいらっしゃいました」 「ふーん……食堂ね。ありがとうシエスタ」 「あ、あの、ミス・ヴァリエール!」 シエスタが立ち上がりかけたわたしの袖を引く。 「私、負けませんから!」 ……誰が? 誰に? 何で? 主語も述語も目的語もはっきりしていない。 「す、すいません。ご無礼をお許しください」 で、目が合うと謝るし。この娘も情緒不安定ね。お年頃ってやつ? 何かよく分からないけど、わたしはシエスタから挑戦されたらしい。 挑戦か。嫌な響き。またえらく嫌われたもんね……この娘に嫌われるとなぜだかへこむわ。 本当ならわたしを好いてくれるのが基本形だった気がするんだけど、どう考えても妄想以外の何者でもなくさらにへこむ。あーあ。 こんなわたしの傷ついたハートも全てグェスのせいと結論付けて、さらなる怒りを胸に食堂へと足を向ける。 食堂は西日が射して磨いたばかりのテーブルは照り返し……もう夕方だったのね。わたし何時間走り回ってたんだろう。 そこにもグェスはいなかったけど、パイプをふかすぺティとモンモランシーと大蛙と……知らない人間が見たら打ち捨てられているとしか思えない大釜が鎮座ましましていた。 「ねえモンランシー。あなた達グェス……」 「しっ! 静かに!」 何よ何よ。皆でわたしのこと邪魔者扱いして。どうせわたしなんてゼロよ。胸も才能もゼロよ。 「老師、お願いです。今のぼくには生きるための力が必要なんです」 「ねっ。力が必要なんだよ、ねっ」 なになに、弟子入りしようっていうの? 弟の使い魔に? ギーシュ必死すぎじゃない? 「背中を見せれば死ぬ。そのことに絶望していました」 あ、それで釜かついで動いてたのか。そりゃわたしでも絶望するわ。釜背負って外出てくるあたりは大物よね。 「ですが、老師の力を目の当たりにしてぼくの考えは変わりました。ぼくは……ぼくはまだ生きたい。やりたいことはたくさんあります。モンモランシーをもっと愛したい」 カアアアア……ペッ! アア胸糞悪い。何この学院。カップル率高すぎ。そうですか。独り者に死ねと言いますか。 「な、何言ってるのよギーシュ」 洪水のお嬢さん、顔が赤いですよ死ね。何よ目ぇ潤ませたりして。上も洪水下も洪水ですって? バーカバーカ。 「キーシュが言っていました。老師の前身は修行者だと。その技は修行によって身につけたものだと。お願いです、その技を……温かく、力強いその技をぼくに教えてください!」 「わたしからもお願いします、老師。ギーシュは馬鹿で浮気者だけど、それでも死ぬのは……」 モンモランシーも頭を下げた。こいつら何で使い魔相手に敬語使ってるのかしら。 「それはできん相談じゃな」 ぺティ冷たい。考えるふりくらいしてあげてもバチは当たらないでしょうに。 「老師!」 「そんな……!」 「冷たいねっ、ねっ」 ぺティはパイプの火を落とし、大事そうに懐へしまいこんだ。 すげなく頼みを断った爺さんとも思えない、好々爺丸出しの笑顔で大釜に手を当てた。 「この技は習得に骨が折れる。才能のある者でも数年はかかるじゃろう。今のまま挑めば過程で死ぬ」 そりゃそうよね。背中見せられない人間じゃ修行は無理でしょ。 「それにのう少年よ。そなたには必要の無い技なんじゃよ」 どうせ死ぬから必要ないよなんて言わないでしょうね? 「この技術がなぜ生まれたか分かるかね? ある者に近づこうとしたからじゃ」 「ある者……?」 「君の背中にとりついている者、と言えば分かりやすいかな」 大釜の中で、何かが打ち付けられる音が響いた。たぶん立ち上がろうとして頭ぶつけたんだろう。 「ふざけないでください! ぼくは! ぼくはこいつのために!」 「ふざけてなどおらんとも。わしの技……波紋は、人ならぬものに近づくため人間が編み出した技術体系に過ぎん」 「老師! ぼくは! ぼくは!」 大釜が揺れていた。顔が見えなくても何を思っているかはよく分かる。 「……そなた、使い魔を知ろうとしたかね」 「ぼくは……は?」 大釜の揺れが収まっていく。わっかりやすい。 「背中を見せれば主が命を落とす。そこで止まっていたのではないかな」 「それは、その。だって死ぬんですよ」 「誰であろうと一度は死ぬ。その運命から逃れることはできん。死は言い訳にならんよ」 厳しい意見ね。そこまで覚悟してる人ってそうそういないと思うけど。 「使い魔と話し合ってみるといい。何ができ、何ができないのか。それを知るだけでも益はあろう」 「そうそう。もっと話そう話そう。ねっねっ」 ぺティはギーシュのことを話していたんだろう。でもその言葉はわたしにも当てはまった。 そっか……そうよね。わたしはグェスのできることを考えていなかった。 グェス本人がただの平民であることを忘れ、無謀な戦闘行為に付き合わせようとしていた。 使い魔なら従って当然だと思っていた。ふんぞり返って上から押さえつけようとしていた。 そんなの、グェスじゃなくたって逃げて当たり前だ。 「そなたは大地」 「ぼくが……大地?」 「砂か、泥か、岩か、土か、決めるはそなたのみ。芽吹いた植物を生かすも枯らすも己次第と知れ」 大地。ちょっとかっこいいな。わたしも大地になれるだろうか。 「ぼくが……大地……」 アドバイスに対し、御礼の一つも言うつもりだったんだろう。大釜が持ち上がり、そこからギーシュが顔を出した。 ギーシュにとって不幸だった……いやこれは幸運か。幸運だったことは、この場にはぺティだけではなく、モンモランシーがいたということ。 地面から上を見上げれば、当然モンモランシーも視界に入る。モンモランシーのスカートの中も。 「白……? 白? 白! 白! 白かったであります!」 ギーシュの視線を追い、ギーシュの言葉を聞き、その意味を捉え、モンモンシーの表情が哀から怒へと一変した。 モンモランシーのパンツは白、と。メモメモ。ギーシュもたまには役に立つ。 「いい加減にしなさい! あなたの頭の中そればっかりじゃないの!」 「待って! し、仕方ない! これは仕方ない! どうしようもない!」 うん、仕方ない。それは本当に仕方ない。 スカートを押さえて大釜を蹴りまくるモンモランシーに対し、ギーシュは鉄壁の篭城作戦で対抗する。 じゃれあう二人をいつもの笑顔で見守るぺティ。何このトリオ。楽しそうじゃないの。 ていうかわたし完全に無視されてるよね。グェスのこと聞いたのに忘れられてるよね。もういいよ、もういい。 「ちょっとそこの矢印つけた蛙」 「は? 私めのことでしょうか」 あんた意外にそんなのがいますかっていうのよ。 「胡乱な平民の女見なかった? わたしの使い魔なんだけど」 「怪しい方なら中庭の方で見かけたように思いますが……ゲロッ」 これもグェスの計略だったりして。学院中をぐるぐると歩き回らされている。 ま、ご主人様の義務だと割り切ろう。使い魔放っておくわけにはいかないもんね。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7519.html
前ページ次ページLouise and Little Familiar’s Order タルブ村の朝は早い。東の地平線が漆黒から浅い紫に変わる頃から、小さな子供を除くわりと多くの者達が朝餉や一日の労働の準備に取りかかりだす。 シエスタの家でもそれは例外ではない。母親が旦那と八人……いや、今は九人の子供の為、多くの食材と台所用具を相手に格闘していた。 するとそこに、珍しく早く起きてきたらしいシエスタがやって来る。茶色のスカートに草色した木綿のシャツをしていた。 「おはよう、お母さん。」 「おはよう、シエスタ。今日はえらく早いんだね。どうしたんだい?」 「ちょっと早く目が覚めちゃって・・・・・・何か手伝おうか?」 「それじゃあ、お願いされてくれるかしら?」 そういうと母は、木のボウルに入っている沢山の瑞々しい野菜をシエスタのほうにズイッと渡した。 シエスタ喜んでそれを受け取ると、慣れた手つきでそれらの皮を剥き、そして食べやすい大きさに細かく切っていく。 長閑な時間が過ぎていく。母がする朝餉の手伝いなんて本当に久し振りの事であった。魔法学院の奉公に出る前は病気の時を除き一日だって欠かした事は無い。 暫くそうしていると、母がまた話しかけてきた。 「そういえば、昨日来たミーちゃん、だっけ?あたしの気のせいならいいんだけど、何か元気無さそうに見えたよ。何かあったのかい?」 「え?ううん、何でもないと思うけど。元から、ああいう性格なんじゃないかな?」 流石に太陽の様な性格の子供たちを八人育ててきただけあって、母が持つ子供に対しての観察眼は確かだ。 シエスタは二言だけ言った後で、完全に黙り込んでしまう。まさか自分の勤め先で主人に鞭で事あるごとに引っ叩かれているだなんて、口が裂けたって言えない。 それに言ってそれでどうなるという事でもない。貴族の者達が配下の平民をどうしようと、第三者であり、彼ら彼女らと平民でもある自分達には何かを言う権利はない。 おそらくミーも、自分の兄弟達には少し劣るだろうが明るい性格なのだと、シエスタはそう考えている。ただ環境がそれの発現を阻んでいるのであって。 少し浮かない顔をしていたシエスタに、母からもう一度声がかかる。 「あ、あと昨夜はだいぶ遅くまで起きていたみたいだったわね。どうだい?何か分かった事はあったのかい?曾御祖母さんの形見について?」 「うん。ミーちゃんが色々と話してくれたよ。直ぐに寝かせてあげたけどね。」 それで少しはシエスタも気持ちを取り直したらしい。少しは包丁を持つ手が軽くなった気がする。 確かに昨日の夜、ミーに祖母の形見を見せた結果得られた物は、予め用意していた幾つかの羊皮紙に収まるような物では決してなかった。 また、彼女の口から通して語られる事物の中には、長年片身の管理をしていた父親さえも気づかなかった事もあり、正に驚きの連続とも言えた。 500近くにも及ぶポケモンの種類、様々な種類のモンスターボールを駆使した捕獲の方法、多岐に渡るその生態系…… とても5歳の子供が記憶していられるような量ではないために、シエスタと父は更に詳しく聞きたかったが、本人が長旅で疲れている事もあったために、本格的な調査はまた明日ということになった。 恐らく朝日が昇って暫くした頃に起きてくるだろう。完全にこちらの都合で夜更かしをさせてしまった事を思うと、シエスタは苦笑するしか他なかった。 Louise and Little Familiar s Orders「Countdown of ‘Hell or heaven’」 シエスタが起床する約一時間ほど前、アルビオンと接続するトリステインの港町、ラ・ロシェールの遥か上空4000メイル付近をアルビオンの超巨大戦艦、『レキシントン』が航行していた。 そしてその前後左右には、それより大きさが一回り小さい150メイル級戦艦『モナーク』『センチュリオン』『レパルス』『オライオン』の四隻が王を護衛する騎士の如く寄り添って航行している。 更にその前方では、100メイルクラスの戦艦『エリン』『ウォースパイト』『ヴァリエント』『ベレロフォン』『アガメムノン』『テメレーア』の六隻が先述した艦の前衛兼水先案内人として三段構えの航行している。 幾つかはこの二年間の内に新造されたものだが、大体は旧王政府が使用していたものを殆ど横流しする形で使っている。 それはさておき、艦隊の力としては申し分無かった。そう。他国の一部分を一時的にせよ自国の制圧下に置くという点では。 だが、『レキシントン』の甲板にいたボーウッドは内心の不安を上手く隠せないでいた。 彼はこれだけの戦力で、果たして目標としている場所を攻め切り、制圧出来るのかどうかを疑っていたからだ。 彼は政府から一方的に提出された、作戦命令の書かれた書簡を懐からそっと取り出し広げる。それにはこう書かれてあった。 ―『レキシントンを中心とする十一隻の戦艦は、着底可能なトリステインの然るべき平地、タルブに着底後、即日その土地を占領。レコン・キスタの橋頭堡を更に二週間かけて築くべし。 またアルビオンへの連絡港、ラ・ロシェールへは150メイル級戦艦二隻と100メイル級戦艦四隻を派遣。トリステイン王軍を壊滅させた後、可能な限り施設を無傷で手に入れるべし。 尚、攻撃手段はその現場における司令官の任意による。しかし攻撃の時刻は双方が目標地点に辿り着いた事を相互に確認し終わった時刻に同時に行うべし。』― つまりこれの戦術はチェスプロブレムにおける解法の一種と同じである。あらかじめ戦略的重要箇所に有力な兵を配置していき、時間が来たと同時に一気呵成に攻撃するというものだ。 だが改めて読み直してもこの作戦は馬鹿げている、とボーウッドは同時に思った。 軍議の席でも何度か述べたが、『レキシントン』を派遣するというのであれば港のあるラ・ロシェールの方が戦術的にも示威的にも正しい。 第一、直ぐには本国からの援助も受けられぬそんな内地に、一度に大量の将兵を限られた物資の中ほったらかしにして良い訳が無い。 あっという間に干上がってしまうのは明白でもあるが、それ以上に相手側から大攻勢を受けた場合、苦も無く倒されてしまう可能性がある。 巨大で強力な軍とはいえ二手に分かれさせるのだ。何処かしら穴が出て来てもおかしくは無い。 そして……今のところトリステインとアルビオンは不可侵条約を締結している状態である。こちらから一方的にその条約を破棄し、加えて宣戦布告無しの先制攻撃など、厚顔無恥極まりない戦略と言える。 例えこれでトリステインを打ち倒す事が出来たとしても、その後諸外国に対し、一体どの面下げて外交をしていくというのだろうか……と。 だがそんな彼の提言はクロムウェルや軍最高司令官であるジョンストンによって一蹴された。 彼らが言うには、昼間に正攻法を用いて海岸線を少しずつ攻めて制圧していくより、夜間に奇襲作戦を用いて内陸部の広範囲に大部隊を布いたほうが、手早く全体を手中に収める事が出来ると。 また、仮にラ・ロシェールにてトリステイン王軍と鉢合わせることになったとしても、本格的な戦争状態に陥っていないことから常駐している軍は少ない。 激しい抵抗に会い撤退するようなことがあったとしても、海上へはレコン・キスタの陣容を突破しなければならない。 それに万一抜ける事が出来ても、アルビオンは敵国で、ゲルマニアもガリアも頼れる事は出来ないといったように、彼らの行く先は何処にもありはしない。 かと言って王都の方に逃げようとしても、その途中にはやはりレキシントンを中心にしたレコン・キスタの軍が待ち構えており、突破する事は非常に困難を極める。どちらにせよ彼等は圧倒的な兵力によって挟撃されるのだ。 そしてトリステイン軍が一切の事情を把握し、態勢を立て直す前に、制圧した二箇所における支配を磐石な物とした後、悠々と首都のトリスタニアを攻撃する、と。 なお、不可侵条約破棄と宣戦布告無しの攻撃については、 『幾らでも理由はでっち上げることは出来る。それよりも死に体のトリステインが無くなり、証言する者が誰一人としていなくなるか、或いは圧倒的少数になれば、証言は黙殺され、今回の攻撃は些細な外交上の経緯に過ぎなくなるだろう。』 とだけ答えた。その最後に『戦争では勝った者が始めて正義を口にする事が出来るのであり、歴史すらも勝った側にとって非常に都合の良い物に変える事が出来る。』という、割と当然の事を述べた一言を不気味なニュアンス込みで添えもした。 しかしそれでもボーウッドの心には不安が残っている。戦闘に関しては常に万が一を考えておかなければ不測の事態に対処出来ないからだ。 甲板の中心付近を歩いていたボーウッドは右舷側に近付く。実際に搭乗し生活をしてみて改めて巨大なフネだということに驚きもした。 だが新技術とやらの恩恵なのか、これまでのどのフネよりも早く、そして風石の消費量を抑えていることの方が何倍も驚かされた。 数回会っただけだが、あの胡散臭い風体の技術主任は、本当に何がしかの形でこの世界に技術革命を起こすのではないかとも思えてくるものだ。 それが包括的に見て良い事なのか、それとも悪い事なのかはともかくとして。 そっと地上の方に目をやると、幸いな事に、この場所で近々雨でも降るのか、今晩は眼下に厚い雲が張っている。 もし哨戒中の竜騎士がいたとしても、現在自分達がいる高度と相まって目視する事は流石に難しいだろう。 その時、一人の男が自分の傍に駆け寄ってきた。他の戦艦との連絡係となっている士官である。 「報告します。ラ・ロシェール討伐艦、『フューリアス』、『レナウン』、『アーガス』、『ウェーブ・ナイト』、『トライアンフ』、『ライブリー』は全艦定位置に到着したとの事です。」 「よし。こちらも後一時間半ほどで目標地点に到着する。当初の計画通り攻撃は同時に行う。それまでは何があっても行動してはならない事を伝えよ。」 「了解しました。では、失礼します。」 士官はそう言って敬礼すると、艦尾の方に向かい駆けていった。 風は冷たい。ここはアルビオンの存在する場所よりさらに高度ゆえ、季節は初夏であるにも拘らず、吹き付ける風は南方向から来ているにも拘らず、真冬の北風の様に感じられる。 いずれこんな風がこのハルケギニア全土に吹き荒れる事を予感しつつ、ボーウッドは再びだだっ広い甲板の上を歩き出すのであった。 シエスタの部屋のベッドで眠っていたミーはその日、前日遅い時間に眠ったにも拘らず、かなり早い時間に目を覚ました。何故そうなったのかは本人でもよく分からなかった。 魔法学院で毎日毎日ルイズを早く起こしていたから、その習慣がいつの間にか体に染み付いてしまったのだろうか? 窓の外を見ると、まだまだ太陽は地平線から上がってきていない。隣で寝ていたはずのシエスタは今はいない。 ともかく彼女はベッドから降りようとする。すると、近くにあったかなり小さめのチェストの上にある物を見つけた。 モンスターボールである。今はピンボールほどの大きさのモンスターボールが六個転がっていたのだ。 元の世界の法律でポケモンを持つことが出来る年齢には達してはいないものの、ボールの開閉方法くらいならばミーは知っている。 ボールの中心付近にある小さな凸状の開閉スイッチを押すと、ピンボールほどのモンスターボールはソフトボールくらいの大きさになる。それから始めてポケモンが中から出て来るという仕組みなのだ。 ミーは試しに一つのボールを手に取り開閉スイッチを押してみる。しかしボールは大きくならず、元の大きさのままである。何度押してもそのままだった。 大きくならないのには、開閉システムが破損しているという理由があった。見た目にはなんら異常は無くても、内部機器の老朽化といった目にははっきり見えない箇所における異常故に気付き難い事もある。 通常そういった異常は、ポケモンセンターといった然るべき施設においてきちんと対処するものなのだが、生憎ミーのいるこのハルケギニアではそういった施設は無い。 無理やり開けようとしても、原始的な道具を使うといった生半可な技術では通用しない。どんなに開けようとしても、こればかりは開けようが無いのだった。 それに、もし中にポケモンがいたとしても自分が‘おや’ではないのだから、抵抗されることは必至。 今開けたとして、ピッピとかイーブイとかならまだましだが、もしギャラドスやバンギラスなんて入っていたら……昼頃までに恐らく無条件でこの辺りは更地になっていることだろう。 そんな事を考えていると、ミーは無闇に開閉スイッチを押すのを止めた。 それから彼女は、床でぐうぐう鼾をかいて寝ていたヒメグマをそっと揺り動かして起こす。 しかしヒメグマは相当寝覚めが悪かったのか、目を半開きにしたままふらふらとした足取りでミーの足元にひっつく。 引っ付かれたままでは流石に歩くことは出来ない。そこでミーは両腕で抱えることにした。小さめのヒメグマでもそれなりにそこそこの重さがあるが、こうしていればその内頭の中もはっきり起きてくるだろうと考えたからだった。 取り敢えず、顔を洗いに行こうとしたその時、くぐもった音と共に地面が僅かに震えた。 何の音だろうと思ったミーは、近くにある窓に駆け寄って外を見てみる。しかし外は日がまだ十分出ていないために暗い。 何かの爆発か或いは小さな地震かと考える間もなく、再び地面が遠くで鳴り響く雷鳴のような音と共に震える。 今度のものは先程よりも大きい。得体の知れない不安感に突き動かされ、ミーはヒメグマと共に転ぶようにして部屋から出た。 すると殆ど時を同じくして、他の部屋からもシエスタの兄弟達が寝巻きのまま我先にといった感じで廊下に出てくる。 彼らもやはり詳しい状況が掴めない為、どの子もミーと同じく不安な表情をしていた。 その時、別の部屋で母親の手伝いをしていたらしいシエスタが、兄弟達とミーの元にやって来た。 彼女だけは私服に着替えていたが、やはり何が起きているのか分からないといった表情をしていた。しかし、皆を落ち着かせるように静かな声で言う。 「みんな大丈夫ね。……お姉ちゃんについて来て。何があっても騒いじゃ駄目よ。」 その言葉に子供達は皆震えながら頷く。 それからシエスタを先にして家の出入り口までやって来た。出入り口に程近い窓では両親がやはり不安な表情を浮かべながら外を見つめていた。 だが時間が時間なのでよく見えない。シエスタの父は焦れた様に呟いた。 「あそこに見えるのは艦隊だが……こうも暗くちゃ何処の国の艦隊か分からんな……」 「艦隊だって?いやだね、戦争でも始まるっていうのかい?」 シエスタの母は縁起でもないと言わんばかりに父の顔を覗き込む。だが父はそれをやんわりと否定した。 「まさか。アルビオンとは不可侵条約を結んでいる。この間領主様から御触れが出たばかりだろ。それにガリアかゲルマニアだったとしても、連中はこっちに攻め入る理由が無いじゃないか。」 だが父のそんな考えを真っ向から否定するように、次の瞬間村の中央広場が大轟音をあげて爆発する。突然襲ってきた光と音の刺激に父は母を抱えてとっさに身を伏せる。 その対応は正しかった。両親が身を伏せたその瞬間、猛烈な空気振動によって家中にある窓ガラスが一斉に室内に向かって割れたのである。 一瞬で立て続けに起きたあまりの出来事に、シエスタと子供達、そしてミーは絶叫し、その場にへたり込んでしまう。 だが、父と母は無事だった。母は気絶こそしていたが外傷は見られない。そして父はそんな母を抱えて、目の前にいるシエスタに告げた。 「シエスタ!皆を連れて南の森に避難するんだ!父さん達も後で必ずそこに行く!例の資料に関しては大丈夫だ!例えこの村が相手の物になっても早々簡単に見つかりはしない! さあ、行け!行くんだ!早く!!」 「は、はい!」 シエスタは父のその剣幕に押され、子供達を連れて家から出る。だが既に外では地獄絵図の片鱗とも言える光景が広がっていた。 くぐもった音と地響きの正体は何十リーグも離れた箇所からの一斉砲撃であった。山肌に、草原に、そして村の片隅にある葡萄畑にも砲弾は容赦なく降り注ぐ。 村にある家々からは、村民が着たきりすずめの状態のまま出て来ていた。砲撃した相手が、自分の家を吹っ飛ばさないという保証は何処にも無いからである。 「何が起きてるの?お姉ちゃん?」 「怖いよう……」 年端も行かない兄弟達は口々にそんな事を言い出す。 「みんな、ついて来て!絶対にはぐれちゃ駄目よ!」 シエスタはそう叫んで、父親に言われたとおり南にある森に向かって子供達を引き連れていった。 何かが激しく狂ったような状況は尚も悪しき方向へ進行していく。 十隻あまりのフネ―内一つはそれまで村民の誰もが見たことも無いほどに巨大で異様な形をしていた―は次々に草原に錨を下ろし上空に停泊する。 それぞれのフネの上からは、騎士を乗せたドラゴンが何十騎と飛び立つ。また同時に甲板からはロープが何本も吊るされ、何千人という兵隊達が次々に草原へと降り立った。 やがて村の家々には、ドラゴンのブレスや火矢によって火が放たれていく。実に十五分としない内にタルブの村は業火に包まれた。 その光景をレキシントンの甲板上からボーウッドは心苦しく見守っていた。 彼としては上から指名されたとはいえ、こんな作戦に参加すること自体が恥じ入って然るべきだと考えていたし、非戦闘員には出来るだけ犠牲者を出してはならないという事を自身の信条としていた。 故に不可抗力とはいっても、眼前に広がっている光景にこれからも加担していく事については躊躇いの念すらも覚えた。 だが、彼のそんな厳かな気持ちをぶち壊しにする、子供じみた陽気な調子の声が背後から聞こえてきた。 「これは実に良いものだな!まさかここまでの成果が出るとは……本国に居られる閣下もお喜びになるに違いない!」 声の持ち主はサー・ジョンストン。艦隊司令長官及び、トリステイン侵攻軍の全般指揮を執り行う貴族会議員出身の人物だ。 クロムウェルにやけに気に入られているらしいが、戦場の悲惨さや過酷さの経験なぞ全く無い彼は、ボーウッドにとっては戦艦における雑多な搭載物となんら変わりは無い。 彼はボーウッドが聞いているか聞いていないかも無視して興奮気味に話し続ける。 「この分ならラ・ロシェールの者達も上手くやっている事だろう!いやあ、全く素晴らしい!そうは思わんかね?ミスタ・ボーウッド?」 クロムウェルの腰巾着め、こっちの気持ちも知らないで……場が場なら上下関係を無視して殴っているところだ。だがボーウッドはそれを何とか押し殺しつつ、やっと一言だけ絞り出す。 「そう……願いたいものですな。」 だが、ジョンストンはボーウッドの返事を少しも聞いていないかのように得意気に話し出した。 「しかしまあ、これで君が心配していた事は皆取り越し苦労に終わりましたな。橋頭堡の設営も計画より順調に行くことでしょうな。 それに二週間もせぬ内に本国からは更なる増援も来る。まさかとは思うが……貴殿にはまだ不安要素があるのかね?」 「戦場は生き物も同じです。勿論刻々と状況は変化しますが、常に悪い方へ向く可能性を考えておく事が軍人の務めの一つでもあります。」 ボーウッドの答えに対しジョンストンはふん、と小さく鼻を鳴らす。どこまで行ってもこの二人の相性というものは悪いらしい。ジョンストンは実に嫌みったらしく返す。 「おやおや艦長、君も実にしつこい性格だね。この状況で我々にとって戦況が悪い方に進むといちいち考えるのは無粋じゃないかね? まあ、それが完全に悪いとは言わないが、もし艦長の様な精神を兵士全員が持っていたら、我々は確実に勝てる戦しか出来なくなってしまう。 それに……私は軍議でも述べたが、この国は最早腐り切った家と同じだ。扉を一蹴りすればそれに伴って跡形も無く家は崩れる。そういうものなのだ。 まあ、時をそうかけずしてトリステイン全土も我等の手に落ちるだろう。君も想像したまえ。トリスタニアの王宮の天守に我等の御旗が翩翻と翻る様を。 そうすれば君の肩に入り過ぎている力も、四角四面な考えも少しは和らぐのではないかな?」 慇懃な言葉に返す言葉も無くボーウッドが黙っていると、別の方向から一人の士官が息せき切ってやって来た。 「報告します。この地の領主が持っていると思われる軍が、我が軍に対して攻撃を行いましたが、ワルド子爵率いる竜騎士隊によって程無く討伐されたとの事です。 それと、この地における住民はほぼ全てが南方にある森に逃げ込んだようですが……それに関しては如何なさいますか?」 森に逃げ込んだ非戦闘員まで殺す意味は無い。ボーウッドは『手を出すな。』と言おうとしたが、ジョンストンがそれより早く非情な決断を下した。 「全員生け捕りにしろ。鼠一匹とて逃がすんじゃないぞ。捕まえるのが困難な場合には森に火を放ち、焼き払ってくれても構わん。 取り逃がし、王宮にここの事態が知られる様な事になれば、本国の閣下に対し我々の面目が立たないからな。その後の住人の処遇は追ってこちらから知らせる。」 その命令に士官は「はッ!」と居住まいを正し、自分の持ち場へと戻って行く。 あまりのあからさま過ぎる命令内容にボーウッドは歯噛みした。幾ら相手が平民とはいえ占領地における住民の扱いは丁重にしなければならない。 ましてや貴族である自分達にはそれなりの責任も伴う。こいつにはそれを全うしようというプライドは無いのか。 それに、平民は貴族の生活の一端を担っているのである。今後住民を無碍に殺したり、圧政を敷くような真似をすれば、遠からず人心は乖離し統治は難しくなる。 森にしても焼いてくれて構わんという話。今の攻撃にも言えることだが、こうも闇雲に攻撃してその苦労の結果、当分の間食料も何も生産できないような焼け野原を手に入れても仕方あるまい。 一体こいつはこの地、いや占領地における支配をどう考えているのだろうか? だが、その様子を運悪くジョンストンに見咎められてしまった。 「何か私の今の命令に関して不服でもあるのかね、艦長殿?どうやら君はこの場における上下関係をまだよく理解していないらしいな。 確かに君はこの艦の長だ。だが私は今のこの戦局全体における長なのだ。即ち、ここでは私が下した命令こそがAでありZなのだ。他人にあれこれと横槍を入れられる筋合いはどこにも無いのだよ。 とにかく我々には時間が無い。相手の出方を伺いながら、こんな所でいつまでものんびり足踏みをしている訳にはいかないのだよ。 ずっと軍属にいた君ではいまいち分かりかねる事かもしれないがね。」 話はそれで終わりだと言わんばかりに、ジョンストンは挨拶もせず、含み笑いをしながらその場を後にしていく。ボーウッドは怒りと呆れのあまり何も言うことが出来なかった。 空軍が王立だった頃を彼はよく覚えている。皆自分の領分という物を弁えた上で慎重に言動を行っていた。 少なくとも、皮算用を用いて弾き出された実体の無い勝利に胡坐をかいたりするような馬鹿は、誰一人としていなかった。だが今はどうだろう? 眼下では歓声と共に民家や畑が破壊されていく。時々『アルビオン万歳!神聖皇帝クロムウェル万歳!』といった『万歳』すらも聞かれた。 昔であれば、戦闘中にそんな事をすれば間違いなく上官から激しい叱責を喰らったであろう。 だがボーウッドは小さく頭を振った。今はもう‘昔’ではないのだ。そして自分は一つの戦艦の艦長という駒の一つでしかない。 甲板には尚も冷たい風が吹き付ける。自分達にこれから吹き付けられる風は温かくなるのか、それとも余計に冷たくなっていくのか。 誰も知り得ない答えの探索を諦めたボーウッドは、やがて静かに甲板を後にした。 前ページ次ページLouise and Little Familiar’s Order
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/936.html
食事が終え、おのおの休憩を取り始める。 衛兵の仕事は、当番制だ。 次の当番時間は夜になるということで、一同は仮眠を取るため、奥の寝室へと消えていった。 僕だけは、皆が起きてくる頃には授業も終わっているため、今日の分の衛兵としての仕事はこれで終わりだ。 掃除ぐらいしかした覚えがないのだが。 だったら、別にここに授業が終わるまで居続ける必要もないだろう。 というか、血管針カルテットには悪いが、あまりこの悪臭漂う部屋に長居はしたくはない。 一応、ルイズの従者ということにもなっているので、今、中庭を歩いても咎められはしないだろう。 今の内に、貴族達の顔を覚えておくのも良いかも知れない。 「それでは、僕はヴァリエール嬢の護衛に戻ります」 「おう……。胸当てだけは外しとけよ……」 「それと……槍の整備も忘れるな……」 そういって、彼らは仮眠室へと消えていった。昨日の騒ぎの収拾で、一睡もしていないらしい。 僕は言われるがまま、胸当てを外して、元あった場所に直しておく。 槍も邪魔なので片づけたいのだが、備品は自分たちで整備しなくては成らないらしい。 仕方なく、これは持っていくことにした。 屯所の壁にかけておいた学ランを羽織り直し、中庭へと出る。 遠目に、貴族共が談笑しているのが見えた。 どうやら食事後のティータイムと決め込んでいるらしい。 僕はその中に、見知ったピンクの髪の少女を見つけた。ルイズだ。 朝のおっぱい……じゃない! …赤い髪をした女性も一緒だ。 そしてもう一人、見たこともない、青い髪のちびっ子が見える。 様子を見ながら、少しづつ近づく。 「ああもう! ほんと腹立つわね! 大体なんなのよ、その子!」 「あたしの友達よ。使い魔の儀式で風竜を呼び出したのよ? まともに契約も出来ない誰かさんと、ち、がっ、て」 「な、ななななんですって~~~」 「あ~ら、やる気?」 どうやら赤髪の女性とルイズが、なにやら言い争っているらしい。いや、ルイズがからかわれているといった方が正解か? ちなみにちびっ子の方は、黙々と本を読み続けている。 っと、ついに互いに杖を抜きはなってしまった。 ほっといて、沈静化する様子はない。 少し注意するか。 「ッ!?」 止めに入ろうと近づいて、ようやく気がついた。 ルイズ達のテーブルに、サクランボが山盛りになっている。 ルイズにいえば、一つぐらいくれるかも知れない。 いや、今は弱みを見せてはマズイ! つけ込まれるッ! いや、僕にはこの『ハイエロファント・グリーン』があるッ! コイツを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。 そう! サクランボをとって、舌の上で転がすため、完璧に気配を消してやろう! 少しづつ、サクランボに向けて、僕のハイエロファントグリーンをほどいていく。 確実に手に入れるため、一瞬で、しかもひっくり返さずに手元まで持ってこなくてはならない。 ならば、このハイエロファントで作った網で、マグロを捕まえるみたいに一気に引き上げる! しかし、注意をサクランボに向けすぎたのがまずかった。ちびっ子が杖を抜いたことに気がつかなかったのだ。 後少しでサクランボに手が届くという所で、急につむじ風が吹いた。 つむじ風は、ルイズとキュルケの杖を吹き飛ばした。ついでにサクランボの籠もひっくり返された。 「今は休憩中」 見ると、先ほどまで黙々と本を読んでいたちびっ子が、杖を片手にこちらを向いていた。 どうやら今の風は、この子が放ったようだ。余計なことをッ! 落ちたサクランボに目をやる。全て、今の風でつぶれてしまっていた。 オロロ~ン。 「っと」 風で吹き飛ばされた杖が、こちらの方へと舞ってきた。 僕はそれを二杖とも受け止める。 「あら?」 「あああ、あんた……いつからそこに」 「今さっきですが」 二人とも、僕の姿に気づいたようだ。ちびっ子の方は未だ、興味なさ気に黙々と本を読みふけっているが。 ともかく、僕は両手の杖を二人へと返した。 「あら、ありがと」 「……」 ルイズは僕の右手にあった杖をふんだくるやいなや、僕に対して一気にまくし立ててきた。 「あんたいったい何なのよ! 使い魔召喚の儀式で平民を呼びだしたと思ったら突然暴れて逃げていくし! 仕方なく追いかけて使い魔にしてやろうと思ったらその……キ、キスも避けるし! 前髪は鬱陶しいし! あげくスタンド使いとか訳が分からないこと言い出すし! ほんとなんなのよ、もう!」 好きなだけまくし立てて、荒々しく肩で息をし出すルイズ。 横にいた赤髪の女性は目を丸くしている。 ちびっ子の方も、本から顔を上げてルイズの方を見ている。もっとも表情は変わっていないが。 頭に血が上ることが多すぎて疲れたのか、ルイズはドカッと、荒々しく近くの椅子に座り込んだ。 そしてテーブルの上のケーキをヤケ食いしだした。 それでも、ちゃんと切って食べているのは、教育のたまものなんだろう。 「?」 なにやら、あっちの方の席が一気に騒がしくなった。 「何があったのかしら?」 ルイズは我関せずといった調子で、未だにケーキを食べ続けている。既に3個目だ。 と、見覚えのある格好をしたメイドが、こちらに向かって走っている。シエスタだ。 シエスタはひどくおびえた様子だ。 その様子が気になった僕は、走っていくシエスタの肩を押さえて、事情を聞く。 「シエスタ、何があったんですか?」 「は、離してください!」 いきなり呼び止められて、ひどくおびえた様子のシエスタだったが、何度か深呼吸をさせ、落ち着かせる。 僕は改めて、事情を聞く。 「それで、何故あんなに慌てていたんですか?」 「そ、それが……。才人さんと、グラモン様が決闘を……」 ガタン 誰かが立ち上がるような音がする。 見るとルイズが口元を押さえて、立ち上がっていた。 何か言いたそうにしているが、口の中にケーキが残ったままで喋るのはプライドが許さないようだ。 ともかく、僕はシエスタから、事の詳細を聞く。 「……それで、才人さんが持っていた香水が元で、グラモン様が激怒なさいまして、そのまま決闘ということに…」 どうやら才人が持ってきた香水で、その持ち主の二股がばれて、逆切れ、決闘という運びになったらしい。 その相手というのは相当、どうしようもない奴だな。 ソイツの事はともかく、これはまずい。 ルイズの話によると、貴族は悉くメイジだという。 昨日暴れた時に、こちらに火の玉等を飛ばしてきた奴らを思い出す。 僕は退けることが出来たが、才人にそれが出来るか? 無理だ。そもそも運動神経でさえ、僕に負けている。 生身でどうこうなる相手じゃない。 才人は僕にとって、真の友か? 答えはNOだ。彼には僕のスタンドは見えない。僕という像が見えていない。 けれども友人か? といわれればYESだ。 見捨てられる訳がないッ! 以前の僕なら考えもつかなかった。だが今の僕は、僕じゃない僕を通して、仲間というものを知っている。 もう二度と、ひとりぼっちの花京院典明には、絶対に戻らないッ! 「すみません、シエスタ。その広場というのはどっちでしょうか」 「そこのアーチをくぐった先ですけど…… だめです! 殺されちゃいます!」 シエスタが引き留めようとする。 しかし、僕はそれを振り切って、そのアーチに向かって走り出した。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/196.html
食事を終えて教室に移動する 生徒達は各々横に自分の使い魔を置いて授業の準備をしている ルイズも机に座り準備を始めた シュヴルーズは生徒達にお復習のつもりで淡々と魔法の四元素説明していく そしてそれぞれの元素をマスターする事によってドットからライン、トライアングル、スクウェアとランクを上げていく事も、魔法が無い世界の住人であるロムも理解することが出来た 「ではこの魔法を実際に・・・・、ミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう」 「ふぇ?私ですか?」 ルイズが指名された途端、教室がざわめき始める。 (なんだ?急に部屋の空気が・・・・) ロムが疑問に思う頃にはルイズが席から立ち上がり教壇に向かおうとする 「ルイズやめて、お願い」 キュルケが青い顔をしてルイズに言う 「成功させれば文句無いでしょ」 「でも貴女はゼロ・・・・」 「皆さん冷やかしはお止めなさい、ではミス・ヴァリエール宜しくお願いします」 この会話を聞いていたロムは閃いた (ふむ、どうやらゼロという理由がこれでわかるらしいな) 教壇に立ち、呪文を唱え触媒に杖を向けるルイズ。 その時、触媒が爆発し周りのものがぶっ飛んだ。 煙が明けるとシュヴリーズは気絶しており、ルイズはは真っ黒になりながらも平然と立っていた 「ちょっと・・・・、失敗しちゃった見たいね」 ルイズがそう言うと周りからブーイングが起こる 「何をやっているんだよー!」 「だからゼロのルイズにやらせたくなかったんだ・・・・」 「魔法の成功率ゼロのルイズ!これどうするんだよら!!」 (ケホッケホッ、成る程・・・、だからゼロなのか) ロムは納得した 「マスター、これで終わりだ」 授業の後、二人は罰として教室の片付けを命じられた ロムが言われるがままにテキパキと仕事をこなしたので思ったより早く終わった「あ~も~どうしていつも失敗しちゃうのよ!」 「マスターそんなに癇癪を起こすな。次は失敗しないようすればいいじゃないか」 「それが出来れば苦労してないわよ!」 どうやらそれなりに自覚はしているようである 「は~あ~、こんな事じゃ何時までゼロって呼ばれるわ・・・・、私これからどうなるんだろ・・・・」 そういってもう一つ深いため息をつく そんなルイズを見てロムが下を向いて語り始めた 「どんな夜にも必ず終わりが来る。」 突然雰囲気の変わったロムに驚くルイズ 「闇が溶け、朝が世界に満ちるもの・・・・、人、それを黎明と言う」 「な・・・、何言っているのあんた」 「つまりそういうことだ。今は後先が見えぬ状況でも、必ずそれを打破するきっかけが見つかるものだ。 今日の失敗を乗り越え、明日の成功の為に努力する。 それは魔法使いにでも言える事じゃないのか?」 「・・・・・・・・」 顔を上げて微笑むロム、確かにそうだ 今日失敗した事を明日の成功の為に反省すればよい。 確かにそうだ、確かにそうだが・・・・ 「あんた・・・・」 「ん?」 「ご主人に何説教しているのよー!!!」 「なっ・・・・!」 ルイズが突然の怒鳴り声に驚くロム、確かにロムの言っていた事は筋が通っている しかし自分は貴族。 ロムは平民でしかも自分の使い魔。 使い魔に説教される貴族なんて末代まで言えぬ恥である。 ロムは無意識にルイズのプライドを傷つけたのであった。 「あんた、今日一日ご飯抜きよ!でも雑用はしっかりやってもらうからね!」 そういうとルイズは真っ赤な顔で教室から出ていき、ロムだけが残された。 (う~む、前の戦いから取り入れたエネルギーは今日の朝のみ、その量も多いとは言えない。 流石に今日一日はキツいな) そんな事を考えながら食堂の前を通り掛かると 「あの~」 「ん?」 「今お一人でしょうか?」 後ろを向くとメイド服を着た少女、シエスタが立っていて自分に語りかけた 「ああ、一人だ」 「じゃあ厨房に来てくれませんか?料理長が呼んでいますので」 (料理長?何故俺に用があるんだ?) 不思議に思いながらもシエスタに連れられ厨房に付いたロム 「マルトーさーん!連れてきましたよー!!」 「おおー来たかー!そこのテーブルに座らせてやってくれ!!」 「はーい!では、ちょっと待っててくださいね」 言われるままに待っているとシエスタは焼き立てのパンと湯気のたったスープを持ってきた 「これ、食べてもいいのか?」 「はい、私達の賄い食の余りですがどうぞ」 ロムの質問に微笑みながら答えるシエスタ、この世界に来て初めて人の心の暖かさに触れた気がする 「有難い!では、いただくとする」 そういうと綺麗に食べて行くロム、うん、これこそ究極のパンだと心の中で頷く 「いやーいい食いっぷりだね兄ちゃん!全く俺はあんた見たいな人に飯を作りたいよ!!」 奥から男が現れる 「俺は料理長のマルトーって言うんだ!宜しくな!!」 「俺はロム・ストール、貴方がこの料理を?」 「ああそうだ!」 「感謝する」 ロムが礼を言うとマルトーは笑う 「わっはっは!いいって事よ!同じ平民じゃねえか!」 「平民?じゃあここにいる人達は皆?」 するとシエスタが答える 「はい、皆貴族様にご奉仕する為にここで働いているのです。 でも昨日平民が貴族様の使い魔になったって噂になったから皆心配だったんですよ」 「案の定シエスタがあんたが貴族どもの横で床下に座りながらパンにかじりついていたのを見ていてよ、それを聞いた俺は頭にきていたんだ!」 ロムはそのパンを作った人間が誰かを聞こうとしたがやっぱりやめた 「いや~それにしてもあんた立派な鎧を着ているな!」 「どこかの騎士だったのですか?」 「いや・・・・まあ、そんな感じだ」 異世界から来たなんて信じられないようなので言わないでおく 「それより、食事の礼をしたいのだが」 「そんなのいらんいらん!」 「いや頼む、一応の礼儀は突き通したいのだ」 「じゃあお皿を並べてもらいましょう。もうすぐお食事の時間ですし」 厨房から出ると授業を終えた生徒達が食堂へと入ってきて、その中で長いテーブルの上に黙々と皿を並べていくロム そこへ金髪の少年がバラをくわえながら複数の取り巻きと共に入ってくる 「なあギーシュ、結局君の彼女は一体誰なんだ?」 「ふっ、僕の心の中には特別な女性なんかいないよ。それぞれが僕の花なんだ」 ギーシュがギザっぽく取り巻きの一人の質問に答える するとギーシュのマントから紫色の小瓶が落ちる 皿並べを終えてシエスタと共に厨房に戻る途中のロムがそれに気付き拾う 「君これを落としたぞ」 ロムが声をかけられギーシュが振り向く、 (あ!この男昨日の!昨日はよくも・・・・ん・・・・?) ロムの持つ小瓶に気付くと顔に焦りが表れ始める 「君、それは僕のでは無いよ、勘違いしていないかい?」 「いや、確かに君が落としたものだ」 (ちぃぃぃぃ!平民を本気で殴りたいと思ったのは始めてだ!) 「あっ!その紫色の香水はモンモランシーが特別に調合したものじゃないか!」 「っということは本命はモンモランシーか!」 ギクっ!と焦りが更に顔に表れる そして横を見ると可愛らしい栗毛の女の子が涙を目に溜めてギーシュを見つめていた 「ギーシュ様、やはり貴方はあの人と・・・・」 「ち、違うんだよケティ。僕の心には何時も君が・・・・」 ばちん、と音がしてギーシュが頬を赤く腫らした後「さようなら」っと言って少女が走り去って行く 「まっ待ってケティ話を・・・・」 ギーシュが追おうとすると・・・・ 「待てぃ!!!」 「!!!???」 ギーシュと取り巻き、それにロムとシエスタが声の出場所に向くと強烈な光がありそこに誰かが立っていた 「一つの恋を通さず、平気で別の恋をする不純な気力。 人、それを『浮気』という・・・・」 「誰だ!?」 「貴様に名乗る名前は無い!!」 光が消えるとそこに立っていたのは腕を組んで鬼の様な形相をしたカールが目立つ少女であった・・・・ 「げぇ!モンモランシー!ちっ違うんだよこれは・・・・」 「あんたやっぱり他の女の子と会ったのね!喰らえ!乙女の怒り!彗星脚!!」 「がふう!」 モンモランシーの踵落としが炸裂する、ギーシュは無惨にも床に叩きつけられた そして少女は去っていく 「す、凄かったですね・・・・」 「・・・・・・・・何なんだ一体」 あまりの気迫にロムとシエスタは固まっていた、特にロムは色んな意味で固まっていた・・・・ 「とっとにかく厨房に戻ろう」 「待ちたまえ!」 一声出して立ち上がるギーシュ、凸は真っ赤になっている 「君のおかげで二人の女性の名誉が傷ついてしまった・・・・、どう責任とっつくれるのかい?」 どう考えてもお前が傷ついている 「それは君が浮気をしていたから悪いのだろう」 あっさりしたロムの反論に周りが肯定する 「ふっ・・・・、平民がこの僕に・・・・、よし、決闘だ!」「何・・・・?」 周りが突然ざわつき始める 「お待ち下さい貴族様!貴族同士の決闘は禁止されています!!」 シエスタがなだめるが 「これは貴族の決闘ではない。貴族と平民の決闘だよ。互いの名誉を賭けたね さあどうする?」 「・・・・・・・・」 果たしてロムは決闘を受けるのか!? (それにしてもモンモランシー、いつあんな魔法を覚えたんだ?)
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1518.html
PEPPERMINT 朝になりました。村の広場に甘噛みされたシエスタXXさんの死体が見つかったようです...。 PEPPERMINT /chjoin メイドイン 3 (メイドイン) メルレイナ あー PEPPERMINT 村人の皆様、今日も一日ゆっくりしていってね! 3 (メイドイン) メルレイナ 狩りくさいところが PEPPERMINT 昼の部スタート! 1 (ぺんぎん村) すねすき リュファさん● ニンジャー。なんか目立たない位置にいる感じなので気になって占ったらこれだよ! シエスタXX すきすきなびこ! 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ 占いCO SEIRIOSさん○ ずいぶん寡黙だったので 1 (ぺんぎん村) リュファ おはようございます・・・。 1 (ぺんぎん村) Jareky やっほい 1 (ぺんぎん村) SEIRIOS おはよう 1 (ぺんぎん村) こるくびん おはようございます ごめんなさいね 3 (メイドイン) メルレイナ すねちゃま狂人だな 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ すねすきさんの○がいなくなった・・・ 3 (メイドイン) PEPPERMINT すねちゃま・・・ 1 (ぺんぎん村) こるくびん おや● 1 (ぺんぎん村) リュファ すねさんにせもの確定・・・ 1 (ぺんぎん村) BBL うん 3 (メイドイン) PEPPERMINT やさしいすねちゃまが黒を! 3 (メイドイン) ナナツボシ おにやでw 1 (ぺんぎん村) Jareky こんどはすねすきさんから●が出た 3 (メイドイン) PEPPERMINT さすがツムリスト 1 (ぺんぎん村) すねすき うおぅ、自分の白が悉く死ぬとは 1 (ぺんぎん村) Eleanoa おはようございますー 3 (メイドイン) ナナツボシ これはちょっと 1 (ぺんぎん村) すねすき 黒出たよ! 3 (メイドイン) メルレイナ 今日のニンジャーはいつもよりしゃべってるとおもうけどねw 3 (メイドイン) ナナツボシ 歴史に残るやもしれぬ 1 (ぺんぎん村) BBL 最大3吊りかあ 1 (ぺんぎん村) SEIRIOS 寡黙ですまん 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ どうします?リュファさん?霊媒食べられたらわからないけど 3 (メイドイン) PEPPERMINT 村のニンジャは真っ黒ニンジャー? 3 (メイドイン) シエスタXX おつん 1 (ぺんぎん村) こるくびん 現在眠くてほとんど機能していません。トンチンカンな指示をし始めたら容赦なく突っ込んでください 3 (メイドイン) メルレイナ セイさん占いはいい占い先だったとおもう 3 (メイドイン) メルレイナ おつつ~ 3 (メイドイン) メルレイナ 結構怪しいところだった 1 (ぺんぎん村) BBL リュファさん吊りでいいのかな 3 (メイドイン) PEPPERMINT おつかれ~ 1 (ぺんぎん村) Jareky もし、霊媒が本物であればすねすきさんの仕事が終わってる 3 (メイドイン) シエスタXX ニンジャブラック!ジライヤ! 1 (ぺんぎん村) BBL ですね 1 (ぺんぎん村) すねすき 吊ってちょ吊ってちょ 3 (メイドイン) PEPPERMINT おもしろくなってきたな 3 (メイドイン) ナナツボシ おつー 3 (メイドイン) ナナツボシ ほんまにおにやでw 3 (メイドイン) jinjahime 村のニンジャは真っ黒パンツだったようです! 1 (ぺんぎん村) Eleanoa うーん・・・ますますわからなくなってきた・・・ 1 (ぺんぎん村) こるくびん 8→6→4 1 (ぺんぎん村) Jareky 狂人の吊りアピール? 3 (メイドイン) シエスタXX あかさんグレーだっけ? 3 (メイドイン) メルレイナ 暫定白 3 (メイドイン) あかみさと いえ、○もらってました・・・ 1 (ぺんぎん村) すねすき にゃ、自分の黒を吊ってほしいなーと・・・ 3 (メイドイン) jinjahime すねちゃまの白だった 1 (ぺんぎん村) リュファ ・・・私吊りでもいいですけど、すねすきさんも吊ってほしいです。 1 (ぺんぎん村) こるくびん 吊り数稼ぎに来たのか、あるいは真だったのか 1 (ぺんぎん村) すねすき まだ余裕ある感じなのかな 3 (メイドイン) メルレイナ そこ吊るならすねちゃまかこるくさん吊りでいいとおもった 1 (ぺんぎん村) こるくびん あと2回失敗できるのかな? 3 (メイドイン) シエスタXX やっぱびんさんパニクってたか 3 (メイドイン) あかみさと まぁぎりぎりの指定だったからなぁ 1 (ぺんぎん村) こるくびん 私視点狼1 3 (メイドイン) あかみさと 弁明の暇もなかった 1 (ぺんぎん村) BBL バランス吊りをしている余裕はあるのかな? 3 (メイドイン) メルレイナ 吊り3かいだよ~こるくさん 1 (ぺんぎん村) Jareky 狩人GJだけど、占いアタックだった可能性が高い気がします。状況的に。 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ すねすきさん狂人だとすると本物の●引き当ててしまう可能性あるのに●だすかな・・・ 1 (ぺんぎん村) BBL だと思います 3 (メイドイン) jinjahime 狩人出せばいい (T) ナナツボシ > ちょっと!あのスナイプ狂人なんとかしてよ!w 1 (ぺんぎん村) BBL ? 1 (ぺんぎん村) こるくびん リュファさん→すねすきさん吊って最終日という線も 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ いや、すねすきさん●じゃないかなーって でもリスクたかいよなぁ (T) > ナナツボシ 前回の村でも、狂人が狼スナイプしてたな。うけるw 1 (ぺんぎん村) BBL ヨロイモグラさんそれは自分が偽であると言うことですか? 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ 真狼じゃないかと 1 (ぺんぎん村) すねすき こるくさんは完全にではないけど自分から見て信頼度高めだのぅ 1 (ぺんぎん村) BBL あー 1 (ぺんぎん村) BBL なるほど 1 (ぺんぎん村) BBL でもリスク高いですね 3 (メイドイン) メルレイナ だから 3 (メイドイン) メルレイナ 村目のところに 3 (メイドイン) メルレイナ 黒ダシタンダヨ 1 (ぺんぎん村) SEIRIOS 私は余裕あるうちにすねすきさんを吊りたいかな 3 (メイドイン) jinjahime 霊媒真で見るなら、バランスとかしなくていい。すねちゃま吊るところでしょ 1 (ぺんぎん村) リュファ だって、ここで黒出して他に吊り先向けるなんて、 1 (ぺんぎん村) Eleanoa 私はもぐらさん真なのかなーって思ってるー 1 (ぺんぎん村) リュファ 自分が吊られたらまずいからでしょう? 3 (メイドイン) メルレイナ セイさんに黒だったら吊ってもよかったとおもう 1 (ぺんぎん村) こるくびん 個人的な意見としては 1 (ぺんぎん村) すねすき ヨロイモグラさんは自分から見て狂人だと思ってる 1 (ぺんぎん村) リュファ 狼の可能性も充分あります。 1 (ぺんぎん村) Jareky 霊媒はもう真視します。とすると後1W 1 (ぺんぎん村) リュファ (その場合狂人が不明になりますけど・・・) 1 (ぺんぎん村) こるくびん リュファさん吊って、続いたらすねすきさというのがいいのかなと PEPPERMINT あと2分 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ あぁ・・・狂人が・・・ 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ イナイ 1 (ぺんぎん村) BBL すねすきさん偽だとすると噛みがよくわからないのですが 3 (メイドイン) メルレイナ 実はわたしが狂人だったら狼からタコ殴りにされそうw 1 (ぺんぎん村) Jareky リュファさんかすねすきさんでいいかと思います 3 (メイドイン) PEPPERMINT めるれいなくるってる! 3 (メイドイン) あかみさと ( ’д’⊂彡☆))Д´) 3 (メイドイン) シエスタXX 流石にすねすきさんも慣れてるなぁ 3 (メイドイン) ナナツボシ ( ・∀・)彡☆))Д´) 3 (メイドイン) jinjahime 今日は結局、まともに人狼やれてないなw 1 (ぺんぎん村) こるくびん 両方吊ってもまだ大丈夫だけどどうします? 1 (ぺんぎん村) BBL 私はリュファさん吊りたいかな 3 (メイドイン) メルレイナ さすがに3日目に噛まれる予感がするこのメンバーでは 1 (ぺんぎん村) Eleanoa メモ取ってたら会話が見えなくなっちゃった・・・ PEPPERMINT あと1分。 1 (ぺんぎん村) SEIRIOS 信頼かせぐために出した白をかんでるじゃないかな<噛み 3 (メイドイン) メルレイナ 狂なら占いでるお… 1 (ぺんぎん村) BBL なるほど 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ んー すねすきさん吊りたいです 1 (ぺんぎん村) Jareky リュファさんの方がいいか 1 (ぺんぎん村) リュファ すねすきさんに票入れます。 1 (ぺんぎん村) すねすき んーみゅ・・・ 1 (ぺんぎん村) こるくびん じゃあとりあえずリュファさんで、ダメならすねすきさんでいいですか 3 (メイドイン) メルレイナ ニンジャー狩りだったらやばいぞ~ 1 (ぺんぎん村) BBL でもあかみさとさん吊ったのは事故だしなあ 1 (ぺんぎん村) Jareky 占いは真狂濃厚な気がしますけどね 3 (メイドイン) シエスタXX あらすねさん劣勢 1 (ぺんぎん村) ヨロイモグラ リュファさん狩人の可能性もあるので・・・ 1 (ぺんぎん村) こるくびん 続けばすねすきさんは破綻だし 1 (ぺんぎん村) こるくびん うーむ 3 (メイドイン) あかみさと 事故死 3 (メイドイン) PEPPERMINT すねちゃまー! 1 (ぺんぎん村) すねすき そういえばなぜみさとさん指定だったのだろう・・・ 1 (ぺんぎん村) こるくびん ごめんね役に立たない軸で 1 (ぺんぎん村) Jareky 自分はリュファさん吊りがいいかと 3 (メイドイン) メルレイナ 狩り保護ですねちゃまでいいとおもうけどなぁ 1 (ぺんぎん村) BBL 時間がなかったからかと>すねすきさん 1 (ぺんぎん村) PEPPERMINT -------------------- 1 (ぺんぎん村) PEPPERMINT 終了。会話ストップ。 1 (ぺんぎん村) PEPPERMINT -------------------- 3 (メイドイン) jinjahime 狩人は占い鉄板してるだろうな。GJ出たことを考えると 3 (メイドイン) メルレイナ これジャレさん狼もあるな~ PEPPERMINT 夜が近づいて参りました。皆様、今日の尊い犠牲者を投票にてお選びください。(会話ストップ) PEPPERMINT 投票は私にTellにてお伝えください。 (T) こるくびん > リュファさんー (T) SEIRIOS > すねすきさんに投票します (T) ヨロイモグラ > すねすきさんでお願いします 3 (メイドイン) ナナツボシ いったいどうなってしまうのか・・・ (T) BBL > リュファさんに投票します (T) Eleanoa > すねすきさんをお持ち帰りしたいです(一票) 3 (メイドイン) あかみさと 最近割とみんなみさとって呼んでくれるようになってきた 嬉しい (T) Jareky > リュファさんに投票 3 (メイドイン) ナナツボシ やぁ あかさん (T) リュファ > あぐぐ~。まさか狂人の反逆にあうなんて。・・・すねすきさん。 3 (メイドイン) あかみさと そっちでもいいよ! 3 (メイドイン) メルレイナ 3 (メイドイン) jinjahime ジャレさんとかメルーファさんとかグリムさんアタリは潜伏狼だと怖いよね。ジャレサンしかいないけど (T) すねすき > 票を全力でヨロイモグラさんにシュート!さぁどうなる!! 3 (メイドイン) メルレイナ でも前回の人狼の放課後村では 3 (メイドイン) ナナツボシ 私なんか最近早死に・・・ 3 (メイドイン) メルレイナ 墓場含めて誰も最終日わたし疑ってなかったじぇw 3 (メイドイン) PEPPERMINT 8人・・・であってるよね・・・ 3 (メイドイン) jinjahime そして、ジャレさんは共有だとかわいい(*´ω`*) 3 (メイドイン) メルレイナ グレーなのにカヤの外ひゃっはー 3 (メイドイン) PEPPERMINT うん、あってるな 3 (メイドイン) ナナツボシ うん PEPPERMINT あと1分。 3 (メイドイン) メルレイナ 8であってるお 3 (メイドイン) jinjahime ああ、ビオラが輪に入ってるように見えるな 3 (メイドイン) jinjahime まったく、エロの格好が紛らわしいから。 投票内訳: すねすき4 リュファ3 ヨロイモグラ1 PEPPERMINT さらばすねすきさん...あなたの勇姿は3秒くらい忘れない。 PEPPERMINT /chjoin メイドイン 3 (メイドイン) メルレイナ お PEPPERMINT 日没です。おとなもこどももおねーさんも寝る時間です。 PEPPERMINT 役職の方は私にTellにて役職行動をお伝えください。 すねすき ぬぉ!? 3 (メイドイン) シエスタXX まあすねさん逝くよね 3 (メイドイン) ナナツボシ すねちゃーん! 3 (メイドイン) jinjahime お、そっちに言ったか (T) こるくびん > すねすきさんは何色のカタツムリかなー? 3 (メイドイン) ナナツボシ じゃねえw 3 (メイドイン) メルレイナ フィニュハンマーの叩く部分がかわいすぐる 3 (メイドイン) PEPPERMINT あってる・・・ミスてない・・・ダイジョウブ 2 (おいぬさま) リュファ ・・・た、たすかった・・・? 3 (メイドイン) ナナツボシ ぬぉ じゃねえw 2 (おいぬさま) PEPPERMINT ダイジョウブ。ワタシトウヒョウミスッテナイ。 3 (メイドイン) メルレイナ 座るとみえるお! 3 (メイドイン) すねすき |ω・)ぬおー 3 (メイドイン) あかみさと まじで!? 2 (おいぬさま) リュファ 3 (メイドイン) ナナツボシ おつーw 3 (メイドイン) メルレイナ おつかれさま~ 3 (メイドイン) あかみさと おつかれさまです 3 (メイドイン) jinjahime おつかれさまー 3 (メイドイン) PEPPERMINT おつんー 2 (おいぬさま) リュファ ・・・さて、問題はこの後・・・ (T) ヨロイモグラ > BBLさんでお願いします 3 (メイドイン) jinjahime すねさまの動きが怖い 3 (メイドイン) すねすき うねうね (T) > こるくびん すねちゃまはホワイトツムリでした!村人! 3 (メイドイン) メルレイナ これヨロイさん狼だったらすごいなw 3 (メイドイン) jinjahime なんか、伊藤潤二のホラーに出てきそうな動きでwww (T) > ヨロイモグラ BBLさんはムラービトでした!しろーい! 3 (メイドイン) ナナツボシ なんつーか すねすきさん すっげーうれしいオーラがもれてんなw 3 (メイドイン) すねすき ヽ(・ω・)ノ (T) ヨロイモグラ > 驚きの白さ! 3 (メイドイン) ナナツボシ たのしそうw 3 (メイドイン) すねすき MoEでかたつむりの殻が見られると幸せ 2 (おいぬさま) リュファ こるくさん・・・といきたいけど、続いてる時点ですねさん○なの明白だし・・・ 3 (メイドイン) メルレイナ すねちゃまのかたつむり装備はデザイナーだから無条件でもらえたの~? (T) Jareky > ヨロイモグラさんを護衛ですの 3 (メイドイン) シエスタXX すげー失礼かもだけど 2 (おいぬさま) リュファ ・・・どっちみち勝ち目は薄いけど・・・ 3 (メイドイン) すねすき そうそう、振り込まれた 3 (メイドイン) メルレイナ お~ 3 (メイドイン) シエスタXX すねすきさんて (T) > Jareky らじゃー!守り抜くのね! 3 (メイドイン) jinjahime _(・ω・_)@_ こんなかんじか 3 (メイドイン) シエスタXX ニュタコ?にゅたお? 3 (メイドイン) すねすき にゅたこだよ! 3 (メイドイン) メルレイナ どうみてもにゅたこ! 3 (メイドイン) シエスタXX お、そうなのか 3 (メイドイン) メルレイナ まぁニンジャーをにゅたおと間違えてたわたしがいえることじゃないけど! 3 (メイドイン) シエスタXX わかんないんだよぅ>< 3 (メイドイン) PEPPERMINT 、d 3 (メイドイン) PEPPERMINT デザイナーはふりこまれるのか・・・ 3 (メイドイン) PEPPERMINT すばらしい PEPPERMINT あと2分 3 (メイドイン) メルレイナ 条件もうすこし緩和してくれればな~ 3 (メイドイン) ナナツボシ 座るしたら殻だけコロンってころがるとたのしいのに (T) リュファ > ・・・ヨロイモグラさん! 3 (メイドイン) メルレイナ 塩かけて溶けるモーションも追加で! 3 (メイドイン) jinjahime イトウくんだっけ。かたつむりは 3 (メイドイン) メルレイナ うむ~ 3 (メイドイン) ナナツボシ イトウくんだね (T) > リュファ レラン的に?りょーかーい! PEPPERMINT あと1分。 3 (メイドイン) シエスタXX ビースーツとレディバグと並んで欲しいな 3 (メイドイン) ナナツボシ 私はレディバグウィングがあればしあわせだ・・・ 3 (メイドイン) シエスタXX ムシ全般ダメなんだけどね 3 (メイドイン) すねすき 1週間ぐらい前に「振り込まれるからマイペ空けといてね!」ってメールが来たのだ 4日目へ 6日目へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2469.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、一本の道を歩いていた。 隣では仗助くんと億泰くんがいて、一緒に馬鹿話をしている。 道の左手からは、露伴先生が現れて、一緒に取材に行こうとぼくを誘う。 康一どのー!という声が聴こえた。右手から玉美と間田さんが合流する。 やれやれだぜ・・・。という声が聴こえた。後ろでは承太郎さんがぼくたちを見守ってくれている。 由花子さんが道端に立ってぼくを待っていた。並んで歩く。 仲間達と共に歩く。 こうして歩いていれば、ひょっとしたら雨が降るかもしれない。小石に躓いて転んでしまうかも。 でもぼくには仲間がいる。寂しくなんかない。 この道は、杜王町へと続いている。 えーんえーん・・・ 康一はふとあたりを見回した。 子どもの泣き声が聴こえる気がするのだ。 康一は道をはずれ、その声の主を探しにいくことにした。 声を追い、藪を分け入って進むと、小さな池が現れた。 池の真ん中には小船が浮いていて、鳴き声はそこから聞こえてくるようだ。 子どもが池に一人取り残されて泣いているんだ。と康一は思った。 康一は池の中に踏み込んだ。そこまで深くはない。腰ほどの高さだ。 じゃぶじゃぶと水をかき分けて進む。 船にたどりつくと、ピンクブロンドの髪の女の子が毛布にくるまっていた。 女の子は小船の中で、独りぼっちで泣いていたのだ。 「もう大丈夫だからね。」 康一はその女の子を抱き上げた・・・。 康一は目を開いた。 知らない天井?いや、馴染みこそないが、ぼくはこの部屋を知っている。 コンコン、とノックがあり、扉が開いた。 目を向けると、黒髪でメイド姿の少女が現れた。 「コーイチさん。目が覚めたんですね!」 「し、シエスタ!?」 シエスタは胸に手をあて、大きく息を吐いた。 「よかった・・・。心配したんですよ・・・。あんなに大怪我して・・・!」 康一はようやく、自分が何をしていたかを思い出した。 「そっか・・・。ぼく、気を失っちゃってたんだ・・・」 「はい。三日三晩ずっと眠り続けてました。」 「そんなに!?」 徹夜でゲームをしてしまった翌日だって、そんなに眠ったことはない。 「頭を強く打ってましたから、そのまま起きないんじゃないかって心配しました・・・。」 康一はワルキューレに散々殴られたり蹴られたりした時のことを思い出した。 「他にも、両腕にはヒビが入ってましたし、歯も折れてました。肋骨は3本ほど折れて、一本は肺に突き刺さっていたそうです。」 「う、うわぁ。重症じゃないか・・・。」 康一は他人事のように答えた。自分の体を触ってみる。 「でも・・・あれ?その割には痛くないんだけど・・・。」 脇腹を触ってもうずく程度でそんなに痛くはない。腕にもあまり違和感はない。舌で口の中を確認したが、折れたはずの歯が元に戻っていた。 「ええ。コーイチさんをここに運び込んだミス・ヴァリエールが、先生に頼んで、水魔法の治療を施してくださったんです。」 シエスタは窓を開けた。 窓から日の光が差し込んできて、康一は目を細めた。 そして気づいた。 自分のベッドのうえにルイズが頭を乗せて眠っている。 ピンクブロンドの髪が太陽の光を反射してきらきらと光っている。 「ミス・ヴァリエールはこの三日間、ずっと学校にもいかず、ほとんど寝ないでコーイチさんの看病をしていたんですよ?」 「そうなの!?」 康一はルイズの寝顔を見つめた。 この我が侭娘が、そんなにぼくのことを心配してくれたのか・・・! 康一はルイズの頭を撫でた。 ルイズは、う~ん・・・とムズがっていたが、不意に目を開けると、がばっと起き上がった。 自分の頭に手を当てて顔を赤くする。 「ななな何してんのよ!!」 「いや、寝顔が可愛かったから・・・つい。ずっと看病してくれてたんだって?」 ルイズの顔が、ボッっと音を立てて真っ赤になった。 「ば、馬鹿じゃないの!犬のくせに・・・!自分の使い魔が怪我したら、面倒を見るのは当然でしょ!!」 そしてはっとした表情になった。 「そういえば、体は大丈夫なわけ・・・?」 心配そうに尋ねる。 「うん。もうなんともないよ!」と腕を振り上げて見せた。 実はその瞬間、脇腹にビキッっとした痛みが走ったが、辛うじて表情には出さずにすんだ。 「そう・・・よかったわ・・・。」 ルイズはほっと胸をなでおろした。 「あんまり無茶するんじゃないわよ。あんた、下手したら死んでたのよ?」 「ごめん・・・。」 康一は頭をかいた。 ルイズはそんな康一に一つ溜息をつくと、立ち上がる。 「じゃあ、どいて。」 「え?」 「わたし、あんたが寝てる間ほっとんど寝てないの。眠いの。」 「え、ご・・・ごめ・・・」 「だからほら!ベッドを空けなさいよ!」 ルイズは康一をベッドから引き摺り出すと、そこにするりと飛び込んだ。 毛布にもぞもぞと猫のように包まる。 そしてそのまま寝息を立て始めた。 「追い出されちゃったよ・・・。」 苦笑いするとシエスタと目があった。 ふふふっと笑いあう。 「それじゃあ、ちょっと厨房にいらっしゃいませんか?お腹が減ってるんじゃないかと思うんですけど。」 「そういわれると・・・」 代わりに康一のお腹がグルグルキューと返事をした。 「・・・減ってるみたい。」 「よかったぁ。」 シエスタは嬉しそうに手を合わせた。 「マルトーさんに、コーイチさんの目が覚めたら連れてくるようにって言われてたんです。」 シエスタは康一に、あの学生服を手渡した。 「寝ておられる間に、洗って修繕しておきましたから。」 康一にとっては、こちらで持っている唯一の服である。 「ありがとう!助かったよ!」 康一は、寝ている間に着せられていたのであろう、パジャマのような服を脱ぐと、いつもの学生服に着替えた。 そしてシエスタについて、厨房へと向かうことにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3060.html
前ページ次ページZERONATORオーガン 第五話「真夜中のシエスタ」 スリの大群を全滅させてから約30分後、ようやくオーガンはルイズたちと合流した。 勢いあまってスリの集団を皆殺しにした事を報告したオーガンを、ルイズたちは絶句しながら見ていた。 一方、衛士たちは混乱していた。 裏通りから聞こえる怒号と悲鳴を聞いて駆けつけたときには、既に死体が浮かぶ血の海だけが残されていたからだ。 隊長は、死体の中で見覚えのある顔を多数発見した。 そして、瞬時に死体の山がスリグループの成れの果てであることに気付いた。 「皆殺しか…」 さらに死体の切断面を見て顔を歪めた。 「骨ごとバッサリか…」 「隊長、その程度は序の口ですよ。アッチにあったメイジのなんかスポンジケーキですよ」 「マジかよ…」 「あとコイツらが武器を手に、トリステイン学院の生徒と、その付き人のメイドと執事を追い回していたのを目撃した人が結構いました。証言を統合すると、コイツらを殺ったのはどうも執事みたいですよ」 「襲い掛かってきた百人以上の暴漢をたった一人で返り討ち。正当防衛ってワケね。で、その執事の特徴は?」 「ポケットがたくさん付いたジャケットを着ていて、1.5メイル以上の剣を背負っていたそうです。ひょっとしたらあの武器屋にいた、両手にインテリジェンス・ウェポンを持ってた執事かもしれません」 「となると、残りの3人はあの時の生徒2人と黒髪のメイドさんか」 「どうします?」 「貴族の子女に襲いかかろうとしてその付き人に皆殺しにされたって報告するしかないな」 その頃、ルイズたちは洒落た宝石店に入っていた。 ギーシュの目的である、「モンモランシーとケティとシエスタへの侘びの品」を買うためである。 ちなみに、シエスタへの侘びの品は、ルビー、サファイア、エメラルドがついた高そうなブローチであった。 店の中でルイズだけは微妙に浮いていた。 この店による途中、露店で買った頭巾みたいな奇妙な帽子を被っていたからだ。 ルイズは買った際に、「ヒコー帽」という帽子であることを露店の親父に教えてもらっていた。 店員が店内にいる間は帽子を脱いでもらおうと注意しようとしたが、店長が止めた。 この店の店長、ルイズが被っている飛行帽を本来被るべき人種と縁ある女であった。 ちなみに彼女は、さっきまでオーガンのボマージャケットを「褒め回すように」見ていたが、今度はルイズの飛行帽を「魅入るように」見ていた。 仕事しろよ。 つばの広い帽子を深々と被ったメイジがルイズとオーガンをまじまじと見た後、気付かれないように店を出た。 「カトレア宛の手紙を盗み読んだときは面食らったけど…、本当みたいね。ちびルイズが『究極の使い魔』を召喚したのは。そして…あれが人間に化ける能力を習得したことも」 エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール嬢は、最高の研究対象を見つけたせいか、舌なめずりしながらそう言った。 一方、ヴァリエール公爵邸にある、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの私室。 カトレアの横で跪いている人の形をした紫の異形が、言葉を発した。 「マダム・カトレア、報告が来ました」 「彼女は何と?」 「ルイズ様が召喚した使い魔、監視の結果、我らが知る『デトネイター・オーガン』で間違いないとのことです」 「あらあら」 ヴァリエール家に送られた連絡には、「ルイズが自我を有したゴーレムらしきものを召喚した」程度の内容しか書かれていなかった。 もし「デトネイター・オーガンを召喚した」と書いたら最後、『アカデミー』に所属する長姉、エレオノールが黙っていない事は明らかだし、両親の方も力ずくでオーガンを領軍に組み込む可能性があったからだ。 しかし次姉、カトレアだけは、ルイズが自分宛に送った手紙から、妹が召喚したのが「デトネイター・オーガン」である事を知っていた。 手紙の内容を一緒に見ていた自分の使い魔たちの発言と反応から、彼らが知っている「オーガン」と同一の存在であるかどうかが気になったので、前日から使い魔の片割れである『彼女』に監視させていたのだ。 「ただ、エレオノール様もその事に勘付いたそうです。どうやらあの手紙を盗み読んだかと」 「あらら…釘を刺しておかないと。それと、いくら因縁があるからといっても、彼を襲撃してはだめですよ」 「御意」 場所は宝石店に戻る。 シエスタは気付いていなかったが、貴族の一人が彼女を数回チラ見していた。 数分後、モンモランシーとケティの分の侘びの品も買い終え、宝石店を出たルイズたちは足早にその場を離れた。 数十分前にオーガンがやらかした「スリグループ皆殺し」が原因である。 帰りの馬車の中、ルイズがオーガンを叱った後は朗らかな会話が続いた。 「人間に化ける能力ねぇ…。まるで先住魔法だな」 「人間に化ける魔法がるの?」 「ああ、韻竜が使うヤツでな、面倒ごとを避けるために使うのが殆どだ」 「もっとも、肝心の韻竜そのものには滅多なことじゃお目にかかれないのが実情さ」 オーガンの人間に化ける能力について談議するルイズとデルフリンガーとフリッケライガイスト。 その一方でシエスタがギーシュに話しかけていた。 「ミスタ・グラモン、ありがとう御座います。わざわざこのような高価な物を…」 「シエスタ、そのブローチは君へのお詫びとしてプレゼントしたんだ。遠慮する事はないよ」 ギーシュに続いて、今度はオーガンが口を開いた。 「ギーシュの言うとおりだ」 「オーガンもこう言っているんだからさ、ね?」 会話を弾ませながら、馬車は学院へと走っていった。 その上空を一匹のドラゴンが飛んでいたが、談笑に夢中だったオーガンは気付かなかった。 その日の夕食後、オーガンはオスマンに呼ばれ、学院長室の前に来た。 ノックしてからオーガンは自分が来た事を告げた。 「誰じゃ?」 「フレッシュ・オスマン、私だ」 「鍵は開いておる。入りなさい」 「失礼する」 オーガンが部屋に入ると、室内にはオスマンだけでなくコルベールもいた。 「コルベール先生、一体どうしてここに?」 オーガンは何故か教師陣の中でコルベールだけは「先生」と呼ぶ。 「実はね、君に教えておきたいことがあってね」 「それならわざわざフレッシュ・オスマンの部屋でなくとも…」 「この部屋でなければ話せぬことだからじゃ」 オスマンが会話に割って入った。 「この部屋でなければ?」 「オーガン君、これから話す事は、オールド・オスマンの許しが出るまで絶対に他言しないでほしい。ミス・ヴァリエールにもだ」 「それ程知られてはマズイことなのか?」 コルベールは無言で首を縦に振り、『始祖ブリミルの使い魔たち』の「始祖の使い魔のルーン」のページを見せた。 「このページの『神の盾』のルーンと、君自身のルーンを見比べてくれ」そう言われたオーガンは本に書かれているルーンと、自分の左手に刻まれているルーンを見比べ、完全に一致している事に気付いた。 「ガンダールヴ………!!」 「その通り、もう分かっただろう? 他言しないよう頼んだ理由が」 「私が、ガンダールヴだからか…」 「オーガン、強大な力を持つおぬしがミス・ヴァリエールによってこの地に再び召喚されたことは既に王宮に知られ、おぬしを引き渡せとの声も出始めとる。もしおぬしがガンダールヴになったのを知られたら最後、王宮のバカヤローどもは確実に強硬手段に出るぞ」 「例えば?」 「ミス・ヴァリエールを人質にとるか…、最悪身内を人質にしておぬしに王宮へ出向するように命令させるか。いくらでも考え付くのぉ」 直後、オーガンは元の姿に戻った。 左手のルーンが禍々しく鈍い輝きを放っていた。 「二百数十年…、それ程経ったのに、王宮に仕える者たちは今になってもあの時のような連中しかいないのか!?」 怒りに震えながら、言葉を搾り出すオーガンの姿を、オスマンとコルベールは見ることしか出来なかった。 「オーガン…」 「オーガン君…」 数分後、うな垂れながらオーガンは学院長室を出た。 ガンダールヴのルーンは未だに鈍い輝きを放っていたが、ルイズの部屋に戻る頃にはすっかり沈静化していた。 ルイズは何について話していたのかをオーガンに問いただしたが、オーガンは口止めされている旨を正直に報告した。 「口止めされてる?」 「はい、フレッシュ・オスマンの許可が出るまで絶対に他言しないようにと、コルベール先生に言われました」 「そう…。よほど重要な事なのね」 「はい」 さらに数分後、ルイズはオーガンを連れて大浴場にいた。 「御主人様、流石にそれはマズイのでは?」 「大丈夫よ。元の姿に戻っているんだから」 「説明になっていませんが」 「シャラップ! 大人しくついて来なさい!!」 「……はい」 「素直でよろしい。ところで、人間に化けている時に着ている服とかはどうなってるの?」 ルイズの疑問に答えるように、オーガンは黙って胸部装甲を開き、中心部の窪みから人間に化けている時に着ている執事服とボマージャケット、デルフリンガーを出した。 「圧縮空間?」 「だと思われます」 「本当に何でもアリね…」 「色々ありましたから」 デルフリンガーが出てきたことはとりあえずスルーしたルイズであった。 「おいコラ! 二人とも俺のことスルーすんじゃねぇ!!」 半強制的にオーガンを連れて、ルイズは女湯へと入っていった。 当然先に入っていた女子たちは騒然となった。 モンモランシーが文句を言ったが、ルイズの反応はにべもないものだった。、 「ちょっとルイズ、何で女湯にオーガンを連れてきてるのよ!」 「使い魔だから」 「理由になってない!」 「いいじゃない、人間に化けていないんだから」 モンモンがさらに吼えたが、ルイズにはどこ吹く風であった。 しばらくして入ってきたキュルケとタバサが見たのは、満面の笑みで浴槽につかっているルイズと、その横で正座しながら浴槽につかるオーガンであった。 「何でオーガンもいるのよ」 「オーガンが私のものだってことをあんたに見せ付けるためよ」 「それだけのために…?」 「大人気ない」 ルイズの回答に、キュルケだけでなくタバサまで呆れ返った。 一方、モンモランシーはオーガンの様子が少し変なことに気付き、声をかけた。 「オーガン、少し呼吸が荒いわよ」 「……分かるのか?」 「お風呂場は音が響くから」 ルイズのとっても甘い匂いにクラクラきているオーガンを見て、何となく気の毒に思ったモンモランシーであった。 キュルケはルイズの暴走に呆れながら、心の中で呟いた。 (探してた武器屋は店主が連行されてて潰れてたし、オマケにルイズがオーガンを連れて女湯に入ってるのを見せ付けられるなんて…。今日も散々だったわ…) 次の日、学院長室。 オスマンが書き終えた書状が巻かれ、それを待っていた貴族に渡された。 その貴族は、あの宝石店でシエスタをチラ見していた男であった。 「学院のご理解とご協力に感謝致します」 「王宮の勅命に理解も感謝もないと思うがの」 「これは手厳しい。ところでオールド・オスマン、つかぬ事をお聞きします」 「何じゃ?」 「かの「デトネイター・オーガン」がこの世界に再び現れたそうですが、彼の新たな主は「禁機」の保有許可証をお持ちですかな?」 その貴族の一言に眉をひそめながらオスマンは言い返した。 「モット伯、オーガンは「禁機」にあらず。命を有するものじゃ」 「これは失礼、何せ我々が知る「ソリッドアーマー」は人が身に纏うものばかりですから。では、これにて失礼します」 そう言って、その貴族―ジュール・ド・モット伯爵―は学院長室を後にした。 「禁機」、それは異世界から流れ着いた幾多の「機械」の内、世界に悪影響を及ぼしかねないが故に許可なき使用を禁じられた物の総称。 オーガンが眠っていた間、いくつかの「地球製ソリッドアーマー」がリンクマンごとこの世界に流れ着いた。 その当時は、リンクマン以外の人間を経由してもたらされた機械の構造を知り、錬成で機械を作れるメイジたちが出始めていた頃だった。 そのため、機械を危険視する声が既に出ていたが、ソリッドアーマーの流入がそれに拍車をかけた。 結果、ソリッドアーマーを始めとする、世界に悪影響を及ぼしかねない物は「禁機」と称されるようになり、保有許可証無き者の所持と使用が禁止される事となった。 もっとも、闇工房で作られたソリッドアーマーを秘密裏に有するメイジは多かったりするが。 モットが退室したのを見て、外で待機していたオスマンの秘書、ロングビルは頭を下げた。 「今度、ご一緒に食事でもどうですか、ミス・ロングビル」 モットの視線がすぐに自分の胸に移ったことに気付いたロングビルは、思わず両手で胸を覆った。 「そ、それは光栄ですわ、モット伯」 「フフフ、楽しみにしていますよ…」 「は、はい…」 モットが立ち去り、完全に姿が見えなくなった直後、ロングビルは敵意がこもった顔でその方向を睨み、すぐに学院長室に入った。 「王宮は今度はどのような無理難題を?」 「最近巷を騒がせる、「土くれのフーケ」なるに気をつけるようにと勧告に来ただけじゃ」 「あの、義賊気取りで有名な?」 「そうじゃ、ここ最近派手に動き回っておるらしい。それにこの学院には『魔人の槍』や『守護者たちの鎧』があるからの」 その一言を聞いたロングビルは、妖しい笑みを浮かべた。 「『魔人の槍』に『守護者たちの鎧』…随分と勇ましい名前で」 「フーケとやらが如何に優れていようとも、数名のスクウェアクラスが幾重にも固定化を重ねたここの宝物庫を破る事はできぬよ。それに、今はオーガンがおる」 「彼にかかれば、泥棒の一人や二人、楽勝と言うわけですね」 「その通りじゃ」 さらに次の日。 シエスタは女子寮を見上げていた。 しかし、彼女は両手に大きなカバンを持ち、服は私服だった。 その旨には、ギーシュからプレゼントされたブローチがついていた。 時間は過ぎて昼食時、オーガンは厨房で食事にありついていた。 食事をあらかた平らげ、ふと違和感を感じたオーガンはそれを言葉にした。 「親方さん、シエスタの姿が見当たらないが、どうかしたのか?」 周囲の空気が凍り、マルトー親方はやっとの思いで口を開いた。 「……我らの槍よ、聞いてくれるか?」 「その表情…、何かあったんだな」 オーガンがマルトー親方から聞いたのは、モットによってシエスタが強引に召し上げられたこと、モットが学院を訪問するたびにそれをやっていた事であった。 オーガンのルーンが禍々しい光を放つ。 周囲の者たちはそれを見て、オーガンが『怒っている』ことを悟った。 「我らの槍よ、どうするつもりだ」 「決まっている。シエスタを助ける!」 「殴りこみかい? オーガン」 その言葉を聴いたオーガンが顔を向けると、出入り口のドアを開けたギーシュが立っていた。 「ギーシュ、いつの間に」 「今朝からシエスタの姿が見えないのが気になってね。料理長なら何か知っていると思って来てみたら、まさかモット伯に召し上げられていたとは」 「止める気か?」 「まさか、僕の方は手伝う気満々だよ」 「ギーシュ…」 「これも彼女への償いさ。それに、僕はモット伯が大嫌いだ。男なら、自分の魅力だけで女性を虜にすべきだ」 「感謝する」 「君は僕の「友人」だからね。世の中、友の無茶に手を貸す友情だってあるのさ」 ギーシュはキザにウインクして見せた。 「こちそうさま、親方さん。失礼する」 「ああ、晩飯時になったらまたこいや。……我らの槍、貴族の坊ちゃん」 「どうした?」 「何か?」 厨房を後にしようとしたオーガンとギーシュに、マルトー親方はいきなり頭を下げた 「シエスタの事、よろしく頼むぜ」 オーガンとギーシュの答えは決まっていた。 『絶対に連れて帰る』 厨房を出て、歩きながらオーガンとギーシュは話を進めた。 「モット伯とは一体何者だ?」 「ジュール・ド・モット伯爵、王宮に仕える水のトライアングルクラスで、二つ名は「波濤」。自分の役職の性質をいいコトに、平民の女性を見繕っては汚い手段で買い入れ、自分の夜の相手も兼ねたメイドにしている。それ以外にも黒い噂が絶えない」 「汚い手段とは?」 「家族のことを持ち出す、故郷に累が及ぶと脅かす、相手の懐事情に漬け込んで金に物を言わせる、とにかく反吐が出るものばかりだ」 「シエスタは、家族か故郷の話を持ち出されたと見るべきか?」 「そう考えるべきだな」 「さっき言っていたモット伯の黒い噂とは?」 「媚薬の中でも使用が禁止されているタチが悪いものの常用、許可証を持っていないのに「禁機」を保有している、他にも色々あるが、真実味があるのは今言った二つぐらいだ」 「そうか。話の腰を折るようで悪いが、「禁機」とは何だ?」 「禁機っていうのは、世界に悪影響を及ぼしかねない機械の総称だ」 「いつの間に機械がこの世界に…」 「君が元いた世界に戻って、再び召喚されるまでの二百数十年間、ハルケギニアには様々な種類の機械が異世界から来た。「ホチョウキ」や「サイレン」などの『あってもいいな』と思えるものから、「ソリッドアーマー」みたいな『あったらマズイ』だろと思えるものまで」 「ソリッドアーマーがこの世界に?」 「少し長くなるが、説明しよう」 ギーシュは、「禁機」という言葉ができた経緯を説明した。 「……その結果、ソリッドアーマーやその他の強力な武器は「禁機」として、所持と使用には保有許可証が必要になった、という訳だ。ちなみに、許可証の取得は試験こそないが、国家や王家への忠誠心や精神状態といった人間面で厳しく審査されるから、そこら辺が疎かだと確実に落とされるね」 「もし許可証無しで所持していたらどうなる?」 「罰則自体は禁機の没収と収入に見合った分の罰金、月単位の謹慎で済む。犯罪目的で使用でもしない限り厳罰にはならないな。ただし、基本的に罰則が軽い分、王宮や司法院から長期に渡って監視される事になるけどね。」 「そうか。しかし、いいのか? もし殴り込みがバレたら君の実家に累が及びかねないぞ」 「覚悟の上だ。君だって、後でルイズにお仕置きされるのを承知の上で助けるつもりなんだろ?」 「ああ……。で、モット伯の屋敷はどこに?」 「人間が歩いて1時間ほどかかるところだ。僕が案内する」 「いつ決行する?」 「流石に今すぐは無理だ。時間帯とタイミングを考えると、夕食が終わった直後だな。その頃になったら宝物庫の前に集合だ。」 「分かった。それで、移動手段はどうする? 私はこの姿でもかなり早く走れるが、君の方は馬を使った方がいいぞ」 「そうさせてもらおう」 数時間後、宝物庫前。 いつもより早く夕食を終え、一足先に待っていたオーガンの前に、馬に乗ったギーシュが現れた。 「遅れたかな?」 「私のほうが早く夕食を終えただけだ。早く出発しよう、シエスタが危ない」 「了解」 ギーシュを乗せた馬とオーガンは、足早にモット邸へと走り去った。 二人がいないことに気付いたルイズとモンモランシーが、マルトー親方から殴りこみのことを聴かされ、偶然側でそれを聞いたキュルケとタバサと一緒に、シルフィードに乗ってモット邸に向かったのはそれから40分後であった。 モット邸、モットの自室。 室内には、モットとシエスタの二人がいた。 シエスタの着ているメイド服は、胸の谷間が露出し、スカートも短かった。 「他のものから聞いたが、なかなか優秀なようだな」 「もったいないお言葉です…」 「そう謙遜するな…」 「はい…」 「雑用のためだけに雇ったわけではないのだからな…」 モットはシエスタの肩を抱き、顔をうなじに近づけた。 シエスタはほほを赤くし、同時に心の中でつぶやいた。 (オーガンさん…) 「こんな時間だ、身を清めてきなさい」 「はい…」 シエスタが浴室に行ってから10分後、オーガンとギーシュは正門に到着していた。 馬は近くの森につなげ、待機させている。 「ここはどうする?」 「強行突破だね」 「ではそうしよう」 二人が正門に近づくと、門番が立ちふさがったが、オーガンのボディーブローで敢え無く気絶した。 門をデルフリンガーで切り裂き、オーガンとギーシュは屋敷の中目掛けて走り出した。 衛兵たちが立ちふさがったが、全員なす術もなくオーガンの鉄拳と、ワルキューレのみね打ちで叩きのめされた。 「今回は殺すなよ」 「分かっている」 屋敷の中に突入した二人を、今度はガーゴイルが待ち構えた。 「デルフリンガー、頼むぞ」 「まかしとけい!」 オーガンがデルフリンガーを振り回し、それと同時にガーゴイルたちが切り刻まれていった。 人間に化けている間は、元の姿と比べて格段に弱いとはいえ、それでもオーガンは強かった。 「お前、まさか『使い手』とはな。お前とオスマンに再会できたのが嬉しすぎて今まで気付かなかったぜ」 「口止めされているから、主には黙っていてくれ」 「りょーかい」 自室にいたモットは混乱していた。 突如として響き渡る悲鳴と、何かが切り裂かれる音が原因だ。 しかし、室内にノックもしないで入ってきた衛兵が敵襲を告げたことでで我に帰った。 そして敵が、メイジと平民の二人組みで、平民の方はガーゴイルを易々と切り捨てたと聞き、本棚を動かして抜け道へと姿を消した。 その抜け道は、禁制品を保管する地下の隠し倉庫に繋がっていた。 ガーゴイルを一通り片付け、ギーシュと二手に分かれていたオーガンは、シエスタの荷物を発見、回収してホールに戻った。 ほぼ同じタイミングで、シエスタを抱きかかえたギーシュが戻ってきた。 「ジャストタイミングだ、ギーシュ」 「そういう君はどうだった?」 オーガンは手に持ったカバンを両手で持ち上げながら答えた 「メイドたちの部屋にあった。ちゃんとブローチも入っているぞ」 そう言って、オーガンはカバンを投げ、ギーシュに抱きかかえられたシエスタは見事にキャッチした。 「長居は無用だ、急いで学院に……ガハッ!?」 突如として床から生えた腕がオーガンの脇腹に直撃し、壁に叩きつけた。 「オーガン!」 「オーガンさん!」 素早く立ち上がり、その腕を見たオーガンは戦慄した。 「ソリッドアーマー!」 床を突き破り、ソリッドアーマーがその全貌を現した。 そのソリッドアーマーを操縦しているは、モットであった。 「貴様が、衛兵が言っていた『ガーゴイルより強い平民』か。このソリッドアーマーの一撃を食らってもすぐに立てるところを見る限り、嘘ではないようだな」 「ジュール・ド・モット伯爵か!」 「如何にも。私こそ『波濤』のモット。何ゆえ我が屋敷に攻め入った?」 「貴様に強引に召し上げられたシエスタを助けるためだ!」 「シエスタ…、あのメイドは正式に雇い入れたのだ!」 「断れないように家族か故郷の事を持ち出してから雇い入れたんだろ?」 「ぐ…」 一瞬、モットの言葉が詰まった。 「図星か…。貴様のした事は誘拐と大して変わらん!」 「貴族をここまで愚弄するとは…。貴様のような愚かな平民は初めてだ!」 モット伯のその一言を否定するようにオーガンは叫び、元の姿に戻った。 左手のルーンから禍々しい輝きを放ちながら。 「悪魔めっ、許さんっ!」 オーガンが元の姿に戻る様を見て、モットは驚愕し、ギーシュとシエスタは固まった 「何だ、あの濁った色合いの輝きは!!」 「怒ってる…。オーガンさんが怒ってる…」 モットが口を開く。 「貴様、何者だ!」 「私は…オーガン……かつての「デトネイター・オーガン」だ。そして今は…ゼロネイター・オーガンだ!!」 「デトネイター・オーガンだと……!! 噂には聞いていたが、本当にあの絵とは姿が変わっていたと…」 今度はモットが言い終わる前にオーガンのパンチがソリッドアーマーの頭部に命中した。 直後に額のカバーが開き、オーガンはP.E.Cキャノン発射態勢に入った。 それを見たデルフリンガーが叫ぶ。 「今度は標準装備かよ!?」 「ウオォォォォォォォ――――――――――ッ!!!」 絶叫と共に発射されたP.E.Cキャノンは、ソリッドアーマーの右腕を消し飛ばし、当たらなかった部分を衝撃で破壊した。 シルフィードに乗ってモット邸へと急いでいたルイズたちが見たのは、屋根を貫通し、すぐに消えた光の柱であった。 ルイズが呟く。 「何だったの、あれ?」 「恐らく、ぺクサー・キャノン」 「ぺクサー・キャノン?」 「オーガンが額にフリッケライガイストを装着している時だけ使えた技。バンビーナ団戦記にはそう書かれていた」 「フリッケライガイストを…、ちょっと待ってよタバサ、フリッケライガイストは今は私が持ってるのよ」 そういってルイズは懐からフリッケライガイストを取り出した。 同時にフリッケライガイストが喋った。 「たぶん、一度元の世界に戻った時に、新しく装備したんだろ」 「その可能性が高い」 玄関前に着陸し、ルイズたちは屋敷内に入った。 そこで目にしたのは、デルフリンガー片手に立ち尽くすオーガンと、あわてて側に駆け寄ったギーシュとシエスタ、そしてソリッドアーマーが半壊した衝撃で気絶したモット伯であった。 ルイズは即行でオーガンの目の前に立った。 「オーガン、話は料理長から聞いたわよ」 オーガンだけでなく、誰もが、ルイズが怒号を浴びせると思っていたが、彼女は満面の笑みでこう言った。 「何、固まってるのよ、帰るわよ。……どうしたの、オーガン?」 オーガンは茫然自失となった。 「…いえ。てっきり、この場でお仕置きされるものかと思っていたので…」 「何言ってるの? 悪い事してないのに何でお仕置きしなきゃならないの」 「あの、充分『悪い事』をしてしまったつもりですが…」 室内に散らばる気絶した衛兵とガーゴイルの残骸、そして天井にあいた大穴を見渡しながらオーガンが言った。 「そういえば、私に一言も言わずに学園の敷地から出たわね」 「あの、それ以外にも…」 「“それ以外”は、シエスタを助けたから帳消しにしてあげるわ。それと、無断で敷地外に出た分のお仕置きは帰ってからするから。ほら、帰るわよ」 「………はい」 話を強引に切り上げ、ルイズたちは帰路に着いた。 モンモンはギーシュと一緒に馬で、オーガンはそれに併走して、残りはシルフィードに乗って学院へと向かっていた。 飛んでいるシルフィードの背の上で、シエスタは疑問をルイズにぶつけた。 「ミス・ヴァリエール、モット伯のお屋敷に殴りこんだことについて、何故オーガンさんを怒らなかったのですか?」 「あんたを助けたから。それだけよ」 「それだけ…ですか?」 「あんたには、オーガンのご飯の事で迷惑かけちゃったから」 学院に帰り着き、ルイズたちは宝物庫前で解散し、自分の部屋に戻った。 時間は過ぎて、大浴場の女風呂、ルイズは再びオーガンを連れていた。 「これが、お仕置きですか?」 「そうよ」 ルイズがアッサリと答えたので、オーガンは頭を抱えそうになった。 今回は、正座で浴槽につかっているオーガンの膝の上に乗りながら、ルイズがその平べったい胸板を押し付けていた。 前回、ルイズの甘い匂いにクラクラしていたオーガンの頭は、10分もしないうちにショートした。 オーガンの頭部から漏れ出す煙を見たモンモランシーは、ルイズの近くにいながらこう言ってしまった。 「ルイズの……外道」 「コラ、洪水! 誰が外道よ、誰が!!」 「私は『洪水』じゃなくて『香水』よ!」 ルイズとモンモランシーの、浴槽をリングにした全裸キャットファイトを、タバサと一緒に冷めた目で見ながらキュルケはため息をついた。 「外道呼ばわりしたくなるわよ…」 「同意」 後日、モットは禁制品の所持と、禁機であるソリッドアーマーの無断保有を王宮に知られ、数ヶ月の謹慎と、莫大な罰金支払いを命じられた。 なお、オーガンとギーシュがモット邸に殴り込んだことに関しては、オスマンが司法院に圧力をかけたため、うやむやとなった。 「ホッホッホッホッホォ。あの程度のヤンチャをもみ消す事など簡単じゃい」 前ページ次ページZERONATORオーガン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1886.html
夜風が頬を撫でる。 うっすらと漂っていたもやは晴れて、今は蒼の月だけが夜空にかかっていた。 シエスタは今、だだっ広いバルコニーの隅に立っていた。 元々は野外舞踏会用に作られた設備であり、最上階部分を利用して作られたそこはほぼ、敷地面積の半分に匹敵する。 その真ん中を蠢く影がいる。 豪奢な衣装に身を包んだソレは、名をジュール・ド・モットと言った。 仲間の貴族連中に接するときは、緩慢な微笑を浮かべる面長な容貌は、今は憤怒に歪んでいる。 屋敷の中を出口を求めて彷徨っているうちに、偶然遭遇した彼女はここまで追い立てられてしまった。 どうやら、一連の騒動の原因をシエスタであると間違って認識したらしい。今も、そのことを彼女に問い詰めている最中だった。 「お前が、お前が来た傍からおかしくなった!妙な賊に襲われるわ、傭兵どもは逃げるわ、メイドどもは全員姿は消すわ……貴様、一体何者だ?何のためにこんなことをした?」 ソレに対して、シエスタは無言で首を左右に振るばかりである。貴族に対する恐怖が、完全に彼女から言葉を奪っていた。 だが、相手はそうとは取らなかったようである。顔を一層の憤怒に染めて、シエスタに詰め寄った。 「貴様!貴様が犯人だろうが!白ばっくれるな!」 そうして、何かを決意したようにモット伯は杖を掲げた。 「まあ良い!もういい!初物だからどうかと思ったが、貴様は今この場で命を奪ってやる。君子危うきに近寄らずというからな。不安材料は消すのが一番だ」 元になった故事の意味合いを完全に曲解したことを言って、モット伯は呪文を詠唱した。 「ウォータープレス!」 深海の水圧で相手を包み込む魔法である。この技をかけられた相手は、元の姿を留めぬまで一瞬で破壊されてしまう。文字通りシエスタは肉塊と化すはずであった。だが―。 「させません!」 炎の独楽が飛び、モット伯の作り出した水塊を弾き飛ばした。もうもうと立ち込める水蒸気の渦。その中を赤毛の人物が駆け抜け、シエスタの元に辿り着いた。 「大丈夫?なーんにもサレなかった?」 「ツェルプトー様!」 見覚えのあるトリステイン魔法学院の制服に身を包んだ美女が、激しく音を立てそうな勢いでウインクした。 「どうして、ここに?」 「やーね。助けに来たのよ。ヴァリエールやコウガも一緒よ。ねね?ほんとーにナンにもされなかった?指とか、先っちょとか、舌とか……入れられなかった?」 「ナンにもされてません!本当に、もうっ!」 なにやら目を輝かせながら尋ねるキュルケに、顔をまっ赤に染めてシエスタは反論した。 「あの、それでさっきはありがとうございます。間一髪のところ、助けていただいて」 妙な猥談を振ったのは、恐怖に怯えていた自分を正気を取り戻させるためだったとシエスタは後で気付いた。兎に角、気を取り直した彼女はキュルケに頭を下げた。先ほどのモット伯の水の魔法を打ち破ったのは、火のメイジであるキュルケだと思ったのだ。 それに対して、赤毛の美人は掌を振ってシエスタの言葉を否定した。 「あは!違うわよ。私はなーんにもしてない。シテくれたのは、彼女」 「え!?」 キュルケの指差した方向を見たシエスタは、驚きに声を失った。 「シャチー、さん?」 やっと、それだけを口にするとモット伯と対峙していたメイド姿の女性はにっこりと微笑んだ。 既に、先ほどの水の魔法と炎の魔法のぶつかり合いで生まれた水蒸気は消えつつあった。そのために、シャチーと呼ばれたヒトの異常は、シエスタにもはっきりと分かった。 「人間じゃあ、ない」 今や、シャチーはほぼ人間の姿を捨てていた。上体が裏返り、融合した少女たちの顔がしっかり浮彫になっている。後頭部と側頭部には融合したメイジの顔があった。左右反転した腕は肘の先から消えて、足元の渦からたくさんの腕の華が咲いていた。 「貴様は」 モット伯は「むう」と眼を細めた。 「私たちに、見覚えが「知っている」ないでしょ……知っているの?」 モット伯の意外な言葉に、シャチーは困惑をあらわにした。 「知っているとも、気づいているとも」 腕組をし、大仰にうなづくモット伯。 「そこの女」 そう言って、モット伯はシャチーの胸の、左の端の少女の顔を指さした。 「私の領土の出身だ。確か、結婚式の最中だったのを無理矢理連れていったのだったな。花婿や親族の絶望に染まった顔は、今でも覚えているとも。そして次」 そうして今度は、右上の少女の顔を指差し。 「お前は、トリスタニアの商家の娘だったはずだ。主人に恨みを持った乳母にここ迄連れられてきた。確か乳母は、五千エキューでお前を売ったはずだ。妻を亡くした父親は、ずい分お前を溺愛していたらしいな。破瓜の血でまみれたお前の衣装を屋敷に届けてやったら、次の日に首を吊ったそうだ」 その以外にも……。様々な、様々な犠牲者の事をモット伯は語り続けた。その顔は己の為した事に悦に入り、完全に陶酔し切っている。 その間じゅう、モット伯の話を聞いたシャチーの胸の辺りから嘆きの声が漏れ出ていた。 「最後にお前」 モット伯はシャチーの胸のレリーフの一番上に刻まれた幼女の顔を指視した。 「どこぞの村からかどわかされたのを、この私が買ってやったのだ。ありがたく思え。幼い割りに身体の発育だけは良かったな。この屋敷に来る他の者にも抱かせて、すぐ孕みおった。仕方がないので使い物にならなくなったお前を、有効利用させて貰った」 そして「クク」と喉を鳴らして哂って。 「お前の胎にいたのは、男と女の双子だった。男のほうはすぐ殺したが、女の方はゲイティ伯の子息が興味があるとかでなにやらやっていたな。最後に見ると、赤子の下腹に大きな穴が開いていたようだ」 そうしてモット伯は、シャチーの顔を嘲るように見つめた。 「下らん!下らんなあ!何かと思えば貴様ら、この私に恨みつらみがあるとかで彷徨い出てきたのか?もう一度殺してやろう!今度は塵一つ残らぬようにな!」 大きく杖をうち振るうと、モット伯の周囲に何条もの太い水の柱がのたうった。まるで巨大な蛇を何匹も従えるように、モット伯は水の柱の中にその身体を置く。 「我が二つ名は『波涛』!文字通り波の一打ちで木っ葉微塵にしてくれよう!」 「あああああああああああああああああああっっっ!」 恐怖からか、怒りからか、顔を蒼白に変えたシャチーが叫び声を上げながら風と炎を操った。足元の黒き渦がモット伯の元へ飛び、無数の女の腕で捕らえようと伸びる。 「馬鹿者がぁっ!その程度の力で!」 水の柱の一本がのたくり、迫り来る腕をなぎ倒した。さらにもう一本が炎の独楽を撃ち落し、もう一本が扇状に広がり風の刃を防ぐ。残り数本が鎌首をもたげ、はるか高みから大瀑布となってシャチーに降り注いだ。 水の圧力に負け、シャチーの身体が吹き飛んでゆく。 「それで、お終いか?」 再びモット伯の声がして、伏せていた顔を上げたキュルケとシエスタは息を呑んだ。 「シャチーさん!」 見れば、ぐったりとなったシャチーが水の柱に五体を束縛されて、宙吊りになっていた。 モット伯はその前までやってきて、皮肉そうに口を歪める。 「化け物にまで身を落として、手に入れた力がその程度か?とんだ見込み違いだな。下らん」 宙吊りにされたシャチーは、弱々しく目を開いた。 そして、目の前のモット伯ではなく、バルコニーの隅に抱き合う二人の少女に弱々しげに微笑みかける。 「逃げなさい」 「え?」 「逃げなさい……私は、“これ以上抑え切れない”から」 シャチーが、胸のレリーフの少女たちが小さくうめき声を上げる。同時に、周囲に禍々しい瘴気のようなものが噴き上がった。 「これって、まさか」 これまで、二度遭遇した事のある異様な雰囲気にキュルケは反応した。なにやら思い当たる事があるというように、しきりとうなづく。 「そう……そういうことだったのね」 「なんだ?何が起きるというのだ?」 突然起こったシャチーの変化に、戸惑いを隠せないモット伯。二人から逃れるように、キュルケはシエスタをバルコニーの出入り口方向へと誘導していった。 「どうして、逃げるんです?」 キュルケの行動の意味をはかりかねて、シエスタは疑問の声を上げた。 「シャチーさんを、助けないんですか?」 「あの女(ひと)は、私たちに逃げるよう言った……これはつまり、今からとんでもない事が起きるってことよ」 「でも!」 「気がつかなかった?あのシャチーってのが、全然ホラーらしくなかったって事。実際今まで、ほんとはホラーじゃあなかったのよ。何かで堪えていた。それが今、ヤバくなってきてるの!」 シャチー……おそらくそれは、モット伯の下で不幸になった少女達の意識の集合体なのだろう。そして、大勢の人間の魂が一つにまとまることで、本来ホラーに侵食されるべき心を守っていたのだ。 だが今、シャチーがモット伯に倒されたことで、意識の集合体が力を失ってしまった。そのため、再びホラーが身体の主導権を握ろうとしているのだ。 今、シャチーはホラー ラゴラへと変わろうとしていた。 石が砕けるような乾いた音と共に、シャチーのまっ白だった肌が乾き、黒く染まっていった。胸のレリーフの少女の顔が、見る見る風化して髑髏となる。癒合した二体のメイジの容貌が乾き、ミイラを思わせるソレへ変わった。 漆黒の渦から伸びた女性の腕が、灰色の節くれだった異形のものへと変化する。 その腕が、目の前の変化にとまどうモット伯を捉まえた。杖を奪い取り、そのままじりじりとシャチーの眼前まで引き寄せてゆく。 「馬鹿な!やめろ!」 ただ一つ残った、落ち着いた印象の美女の顔がニタリと笑う。次の瞬間、枯葉を砕くような音を立ててシャチーの顔から皮が剥がれていった。その下にあったのは、豚と髑髏を混ぜたような容貌である。顎がガクン!と外れ、人一人分がすっぽり収まる空間が姿を現した。 「うわああああっ!」 迫り来る巨大な顎(あぎと)に、モット伯は絶叫した。 キュルケ達が見ている前で、モット伯は頭から飲み込まれていった。顎が上下するたびに、噛み締める音が聞こえて、手足が小刻みに揺れる。 やがて、ホラーの口からはみ出した手足が力なく垂れた。もはやモット伯が生きていないことは明白である。残った下半身もほどなくしてラゴラの中に消えていった。 「あれは…」 これまで、何もなかったラゴラの右側頭部に新たなデスマスクが浮かび上がった。それはモット伯にとても良く似ていた。 ホラー ラゴラはゆっくりと辺りを見回した。そうして、逃げる途中だったシエスタとキュルケ、二人の少女を見つけ出した。 「やれやれ」 キュルケは額に脂汗をにじませながら呟いた。 「今度は水と風と火の三種混合魔法ってわけ?これはちょっとやばいわねえ」 三体のデスマスクが呪文を詠唱し始めた。空中を浮かぶ腕のうち、三本がメイジの杖を握っている。ゆっくりと杖が掲げられ、振り下ろされようとしたその時。 「あんた、何してるのよ!」 水と、雷撃と、未知の爆発魔法がラゴラを襲い、呪文の完成を妨げた。 『やれやれ。どうやら間に合ったようだな』 《ザルバ》の安堵の声と共に、鋼牙はキュルケたちとラゴラの間に立った。 『気をつけろ。鋼牙。ラゴラは“千手を持つモノ”だ。兎に角手数は多いぞ。それにどうやら、メイジを三人も取り込んでいるらしい。魔法を使われたらコトだ』 「分かっている。狙うのは、本体だけだ」 魔戒剣を鞘から抜き、鋼牙はホラー目がけて身構えた。左腕を突き出し、刀身を《ザルバ》をはめた中指に添って滑らせる。夜の空にかすかな金属音が響き、それが途切れるや否や魔戒騎士はホラーに討って出た。 鋼牙とホラーの戦いを、五人の少女は見守っていた。 その内の一人、シエスタはラゴラをみつめ、ブツブツと呟いている。 「……やっぱり……真実を……もう一度ホラーを拒めば……きっかけ……」 やがて顔を上げた彼女は、傍らに立つキュルケの袖を引いた。 「ん?あによ?ちょーどいいとこなのに」 「お願いがあるんです」 だが、シエスタは不満げなキュルケにかまう事無く、言葉を続けた。 「どうか私を、ある場所に連れて行ってください!あのヒトを―」 鋼牙と戦うホラー、正確にはその中に居るはずのシャチーを見つめてシエスタは言った。 「私は、あの人を助けたいんです!」 ラゴラとの戦いは、対ホラーと言うよりもむしろ対メイジ戦の様相を呈していた。 それはラゴラが融合補食した、三人のメイジの力によるものだった。騎士による対メイジ戦の実体は、相手に攻撃の隙を与えず、いかに素早く自分の攻撃を叩き込むのかに終始している。だが、この場合相手をするメイジの数が実質三人である事が、戦うことを困難にしていた。 「はっ!」 気合と共に、鋼牙は振りかぶった剣を車輪の如く回転しながら連続して叩き付けた。 魔戒騎士に向かっていった腕の群が弾かれ、次々と地面に叩き落されていった。回転は連続して続き、ホラーへと迫ってゆく。 二回、三回、四回。 もはやホラーの姿は目前だ。軸足に力を込め、一気に距離を詰めようと鋼牙は跳躍した。 「エア・ハンマー」 圧縮された空気の塊による横なぎの一閃。 ホラーの眼前まで近づいた鋼牙の身体は吹き飛ばされた。バルコニーの端まで転がり、欄干の部分をへし折りながらようやく停止する。 ようやく身を起こした鋼牙は、今起きた現象をいぶかしんだ。 「呪文の詠唱が早過ぎる。どういうことだ?」 少なくとも今の攻撃は、通常の魔法攻撃では間に合わないくらいの速攻だったはずだ。ましてエア・ハンマーの呪文ならば、三分の一程度唱え終えてようやくと言った状態だろう。これでは、まるで呪文詠唱の時間が三分の一になったような印象だった。 『なるほど、そういうことか』 左中指の《ザルバ》が納得した、と顎を鳴らした。 『その通りだ鋼牙。奴は三つの頭に呪文を三つに分けて詠唱させているんだ。これならば詠唱時間は三分の一で済む』 「ならばこちらも、通常の三倍の速度で攻撃を仕掛ければ良いのか?」 『まあ、理論上はな。だが、厳しいぞ』 再びホラーと向き合う鋼牙。確かに三つの顔がそれぞれ口を動かしている。長い呪文の詠唱も、これならば短い時間で済むだろう。しかも自由に飛びまわる腕が、容易に鋼牙を近づけさせない。 「あれは?」 ラゴラを取り巻くように浮いている腕のうち、三本が他と異なる動きを見せていた。まるで呪文の詠唱に同調するかのように、掲げ持った杖の先が上下に揺れている。 それを見て、鋼牙にもう一つの考えが浮かんだ。 「ならば腕だ。杖を持った腕を叩き落す」 『なるほど、その方がマシだろうな』 魔戒剣を構え、鋼牙は狙いを定めた。遣い手の精神の高ぶりに伴い、左掌のルーンが輝きを増してゆく。不規則な軌道を描くラゴラの腕が、ほんの一瞬だけ至近距離に並ぶ時を待ち構えて。 「今だ!」 感覚疾走! 一陣の風となって鋼牙はバルコニーの端から端まで駆け抜けた。 通常の人間の認識では把握できない時の流れに、今の鋼牙は存在した。 ルーンを発動させた彼には、全てのものが停止して見える。 実際の時間が停止したわけではない。鋼牙の神経の伝達速度が異常に高速化し、認識そのものが加速しているのだ。 肉体そのものの強化ではないが、加速化した神経が筋肉を通常限界を超えて駆使するため、相対的に全体が加速することになる。むしろ、自分自身の動きさえ今の鋼牙にはもどかしいくらい遅く感じられるのだが。 浮遊する腕を掻い潜り、目指す目標は三つ。 「一!」 まず、ラゴラの右斜め前方にある、杖を持った腕の一つを叩き落す。 「二!」 切り下げたきっ先を跳ね上げ、逆袈裟に斬り飛ばす。 「三!」 最後に残る一本の杖を持つ腕に飛び掛ったところで、相手の呪文が完成した。 「ライトニング・クラウド」 青白い電光が走り、空中の鋼牙を捕らえる。眩い輝きが魔戒騎士を包み込み、吹き飛ばした。金気臭いオゾン臭が立ち込め、砕けた石畳が辺りに舞い散る。 「く!」 守護の力を持つコートのおかげだろうか?どうやら、全身黒焦げの状態は免れたらしい。だが、身体全体がほぼ麻痺している。疾走した神経自体のダメージも大きいのだろう。もはや、立っているのもやっとの状態だった。 『ヤバイな。どうやら魔法の行使そのものは、杖一本で足りるらしい』 見れば、ラゴラは再度呪文の詠唱を始めていた。杖一本では、三人同時の呪文詠唱はできないらしく、ずい分と時間がかかっている。どうやら水系統の魔法らしく、ホラーの周囲に次第に巨大な水球ができつつあった。 .だが、一旦できた水球をラゴラはぶつける事無く、再度呪文を唱え始めた。やがて、その成果が水球の隣に産まれる。 『炎か?』 水と炎、二つの巨大な塊をラゴラは頭上に掲げ、鋼牙の方を向いた。 「奴め、水蒸気爆発を狙うつもりか」 相手の意図を察し、何とか動こうとする鋼牙。その背後に、水と炎、二つのボールが迫る。その、次の瞬間! 「アタシの鋼牙(遣い魔)に、ナニしようとしてるのよ!」 元気の良い声が弾け、同時に桃色の髪の少女が鋼牙と水球の間に立った。少女はためらう事無く二つの球体の間を杖で指し示し、「フライ!」の呪文を唱える。 水と炎、二つの球体の間で純粋なエネルギーが弾けた。二つの球体はぶつかる事無く、あらぬ方向へ向かう。水球は魔戒騎士の方へ、炎球はホラーの方へ一直線へ飛んでいった。。 「ルイズ!方向を考えろ!」 『まさに大洪水並みだな』 「うわっ!ちょっとタンマ!なんでこーなるのよっ!」 結果、鋼牙とルイズは弾けた水球から生まれた大量の水に押し流されてしまった。 そのままバルコニーの外へと放り出され、二人ははるか下方へと落ちてゆく。 「うっきゃああああっ!」 ルイズは、なにやらすっ頓狂な叫び声を上げて落ちていった。 ぐんぐんと地面が迫ってくる。 鋼牙は建物の壁を蹴ると、ルイズの方へ己を加速させた。掌を伸ばし、自分の腕の中に少女を抱きかかえる。自らがクッションとなることで、ルイズへの落下のダメージを減らそうとしたのだ。だが―。 「レピテーション」 淡々と呪文が響き、鋼牙の落下速度は急に遅くなった。 相対的な落下速度がほぼゼロの状態で、二人は地表に降り立った。 目の前には、自分より大きな杖を掲げた少女が居る。助けて貰ったことに対し、鋼牙は素直に感謝の意を伝えた。 「すまない」 「当然の事。仲間、だから」 蒼髪の少女 タバサは照れ隠しをするようにそっぽを向いた。そして「ついてきて欲しい」と、鋼牙の先に立って歩き始めた。 一方。 ホラー ラゴラは、炎球の炎をもろに浴びて吹き飛ばされた。壁を突き破り、屋内にめり込む。バルコニーを中心として、建物自体にも大きく陥没が生じ、全体が傾いていった。石造りの建造物全体にひびが走り、次々に倒壊してゆく。 建物の中にめり込んだホラーは、ようやく身を起こした。 周囲には瓦礫の山のみが残っている。幾多の悲劇を生んだモット伯の邸宅は、一晩のうちに廃墟と化したのだ。 瓦礫をエア・ハンマーとアイシクル・ウインドの魔法で跳ね除けると、ラゴラはかってモット伯の別邸だった跡から這い出た。魔戒騎士の姿を探し、周囲を見回す。 と、森の入り口付近に立っている人影に気がついた。 その特徴的な赤毛の少女は、ホラーに向かって思い切り舌を出して中指を突き上げた。 正確なジェスチャーに意味は分からなかったが、自分が挑発されていることを感じ取り、ホラーは森のほうへと向かう。 キュルケもまた、ニヤリと笑いながら森の奥へと分け入っていった。 どれだけ奥へ入ったのか。 やがて、ホラー ラゴラの前に空き地が広がった。 広大な森の中心を、切り開いて造られた更地だ。 その中に足を踏み入れた瞬間、ラゴラの身体を怖気のようなものが走った。 そんなことがあるはずがなかった。恐怖と憎悪の塊である自分自身が、恐れを感じるものなどこの世界にあるはずがない。 だが、確実に自分の身体には変調が訪れていた。 そのことが確実になったのは、目の前に一人の少女が立っているのを認識してからだ。 その、奇妙に露出度の高いメイド服をまとった少女は、腕に泥まみれの何かを抱えていた。 ゆっくりと、少女は顔を上げる。 黒髪の、清楚な少女だった。 シエスタは自分が汚れるのもかまわず、腕に抱えたものをホラーの前に差し出しながら、足を踏み出した。 なぜだ?なぜ、自分はこんなにも恐れているのだ? ラゴラは自分が感じる、初めての感情にいつの間にか後退していた。 やがて、シエスタが口が開いた。 「シャチー、さん」 その名前を呼ばれた瞬間、さらにラゴラの身体が震える。 やめろ!自分をその名前で呼ぶな! 黒い渦が生まれ、その中から伸びた腕が少女を襲った。だが白いコート姿の魔戒騎士がその前に立ち、腕を全てなぎ払って少女の身を守った。 魔戒騎士の姿が下がり、再び少女が一歩脚を踏み出す。 「シャチーさん、この子の事、覚えていますか?」 シエスタが腕に抱いているのは、幼い少女の亡骸だった。 土にまみれ、泥に汚れ、血と腐臭を漂わせ始めていても、まだ幼い容貌ははっきりと見て分かる。 「あなたの中に、居るヒトです」 シエスタが、また一歩進み出た。ホラーは二歩下がった。 「あなたの中で、悲しいって泣いた子です」 シエスタが、二歩足を踏み出した。ホラーは一歩だけ下がった。 「あなたの胸の中で、ようやく安らぎを得た子です」 シエスタが、三歩足を踏み出した。今度はホラーは後退しなかった。 ただ、ただ嘆き悲しむように己の頭を抱え、天の月に向かって遠吠えした。 朗々と、どこまでも澄んだ月の光を浴びて啼く遠吠えは、いつしか嫋々(じょうじょう)たる女の嘆く声と変わり、それに連れてホラーの姿も変わっていった。 己の頭部に張り付く、三面のメイジを剥ぎ取り。 月の光を浴びて、たおやかな女性の姿を取り戻す。 胸の、浮彫になった少女達の面が涙の雫に濡れ、小さく、低く嗚咽していた。 少女の遺骸を抱き締めて、シエスタは悲しそうに、ただ悲しそうにもとの姿を取り戻したシャチーを見つめた。 全ての少女の不幸を飲み込んだ、紫髪の女はシエスタの腕の中を覗き込み、ひっそりと笑う。 そうして、彼女は口を開いた。 「お願い、します」 それは、幾つもの意味を含んだ懇願。 「はい」 それは、幾つもの意味を含んだ答え。 それに安心したように、シャチーは目を閉じ、魔戒騎士に向かって両腕を広げた。 シエスタの傍らに立った、鋼牙がうなづいて一歩前へ進み出る。 光の輪を描き、黄金の鎧を召喚し、まといて振るう剣はただ一太刀。 虚空の闇を引き裂いて、駆け抜けた剣の軌跡の中に。 穏やかな笑みを浮かべた少女『たち』は光の粉となって消えた。 光に包まれた意識の中、少女は笑っていた。 いつの間にか故郷に帰っていた。 両親が居て、祖父母が健在で、村の人々もみんな笑って自分を出迎えてくれている。 長い間の奉公を終えて帰ってきた彼女を、迎えに来てくれたのだ。 今年の村の収穫は豊作の様で、畑には金色の小麦がゆさゆさ揺れている。 遠くの山々は青く、蒼くけぶり懐かしい香りで彼女を包んでくれた。 ふと、前を見ると村人に押し出されるようにして少年が進み出てきた。 自分が奉公へ出たときより、ほんの少しだけ大人びた少年は、頬を紅く染めながら彼女の名を呼んだ。 自分も少年の名を呼ぼうとした。 思い切り抱きついて、その胸の中に顔を埋めようとした。 その、少年の名前は。 「結局、あのシャチーってヒトは実在しなかったのよねえ」 蒼き月に飲み込まれる光の粉を見送りながら、キュルケは呟いた。 「それはどういうこと?誰かが、ホラーがあの女のヒトを仮の身体として作り出したということかしら?」 モンモランシーが首を傾げながら推論を述べた。 「なら、まず最初にどの少女にホラーが取り憑いてたのかしら?」 『ひょっとしたら、シャチーって子ができたこと自体は、ホラーとは関係ないかもしれないな。シャチーが生まれて、それにラゴラが憑いたのかもしれない』 「えーと、それはつまり幽霊にホラーが取り憑いたってことかしら?《ザルバ》あんたも幽霊って信じてるのね?」 ルイズの口から『幽霊』の言葉が出るたび、タバサの身体がビクリと震えるが誰も気がついていない。 『まあ、いずれにせよホラーは倒して一件落着だ。結果論だがシエスタも帰ってきたし、いいんじゃあないか?』 再び、少女の亡骸を土に返そうとしているシエスタの肩に鋼牙は掌を置いた。 「最後の約束を果すよう、俺も力を貸そう」 まずは帰って、その後オスマンに掛け合い、場合によっては王宮を動かして犠牲者の亡骸を葬り直す。これがシエスタがシャチーに約束した事の一つである。 そして、もう一つ―。 「ま…mAっTくRぇ」 鋼牙たちの背後に、くぐもった声が響く。 振り返れば、一抱えほどの肉塊が三つ。泥土の上を蠢いている。 良く見ればそれは、三人のメイジの顔をしていた。 「TあスKェて」 「Iたィ、イTi、痛I」 「O前tち、わsらWo助」 シャチーが鋼牙に斬られる寸前、自ら切り離した三人のメイジの成れの果てである。 「そー言えば、まだ残ってたわね」 「これも『約束』の一つよねえ」 「天罰」 「待ちなさい!特大の爆発をお見舞いして上げるわ」 キュルケが耐熱金属のリボンを掲げ、モンモランシーが水のドリルをまとう。タバサが身の丈より大きな杖を構え、ルイズが長い呪文を詠唱し始めた。 「俺たち魔戒騎士が斬るのは、ホラーだけだ」 肉塊に向かい、歩み寄りながら鋼牙は魔戒剣を抜き放った。 「そしてここに居るのは、人間じゃあない」 肉塊たちの面に、恐怖と絶望の色が浮かぶ。 それを見下ろし、鋼牙は冷徹に告げた。 「もはやお前たちは、陰我にまみれた醜い獣……ホラーだ」 石造りの塀の間を、鋼牙は歩いていた。 「こちらで間違いなのか?」 『ああ、この方向から気配を感じる。間違いないだろう』 時折、左中指の《ザルバ》に確かめつつ、何処かヘ赴こうとしていた。 既にモット伯別邸の事件から、一週間余りが経っている。 出処不明の通報により、王宮から調査のための近衛師団が派遣されて数日。 邸宅の跡地からは横領や禁制の薬物の取引などの証拠が次々発見された。 それと同時に背後の森の中から、大量の人骨や遺体が発見されてそれも調査に加えられている。そちらの方は今更身元を調べる事は不可能に近く、しばらくして共同墓地に葬られるらしい。ただし比較的最近殺されたらしい幼女の遺体が一体。こちらの方は調査目的で固定化の魔法がかけられ、程なくして身元が判明した。ラ・ロシェール近郊のとある村から誘拐されたらしい。 シエスタは学院に戻ったが―今更元の部署に戻るわけにもいかず―ルイズが一つの提案をした。 「自分の遣い魔が役に立たないからね。身の回りの世話をしてくれる人が必要になったわけよ。プラス遣い魔本人の世話も必要。という事でシエスタ、あなたにはアタシ付きのメイドになってもらうわよ」 元々公爵位の三女の立場である。学院の中でも召使を持つことは可能だった。だが、それをあえて用いない事がルイズの矜持だったし、意地でもあったわけだ。 しかしながら今は状況が変化してきている。ルイズの隣室には鋼牙が居り、その管理も必要だと考えた。ましてやキュルケ、モンモランシー、タバサ等難しい面々が隣近所に引っ越してきたのだ。そういうのをまとめて面倒する人間が必要となったわけだ。 シエスタ本人はその提案を喜んで受け入れた。鋼牙の部屋に清掃に入るとき、少し不穏な気がするが大丈夫だろう。うん、きっと―。 そうして、全てが一段落ついたこの日。鋼牙はトリステイン魔法学院の一画に来ていた。 周りは三方が塀に覆われ、完全な一方通行の道筋である。 『鋼牙。ここだ。ここに間違いない』 《ザルバ》がとある壁の一角を鋼牙に示した。 鋼牙は周囲を見回し、誰も居ない事を確認すると、壁の面に腕をついてそのまま前進した。 鋼牙以外には見えない、漆黒の空間が口を開ける。 「なるほどな」 鋼牙はうなづき、闇の中に足を踏み出した。 はるか後方の塀の角から、鋼牙のその様子を探る四人の影が居た。 彼女たちは、鋼牙が何もないはずの塀の中に姿を消したのを見て、大騒ぎを始めた。 「嘘!ダーリン消えちゃったわよ!?」 「超常現象」 「単純に、隠し扉とかじゃないの?まあ、コウガだったらなんでもありな気がするけど」 口々に言い合うキュルケ、タバサ、モンモランシーを見て、だがルイズは訝しげに首を傾げた。 「みんな、何を言ってるの?出入り口がちゃんとあるじゃない。鋼牙はあの中に入っていったんでしょう?」 「え、えーと」 素で真面目そうなルイズの言葉を聞いて、キュルケが額に汗を浮かべた。 ルイズの額に手を当て、自分の体温と比べて。 「大丈夫。熱はないわね」 「あによ!馬鹿にしてるの?ツェルプストー」 「いや、本当に見えてるの?私たちには何にも見えないんだけど」 睨み合う二人の間に立ち、モンモランシーがとりなそうとする。そんな三人にため息を付きながら、タバサが告げた。 「黒の指令書と同じ」 「え?」 「ああ、あの時もルイズだけ読めたのよねえ」 「つまり、ルイズには鋼牙に関する事が分かる能力があると?遣い魔と主のリンクみたいなものかしら?」 無理矢理そのように納得し、モンモランシーはルイズのほうを見た。 「ルイズ・ヴァリエール?」 「なに?」 「貴女には、あの壁に開いた穴が見えてるわけだ」 「ええ!アタシだけ!にねー」 自分だけには見える、そのことを強調するルイズの肩に両腕を置き、実にいい笑顔でモンモランシーは告げた。 「じゃあ、案内はお願いね」 見通せぬ闇に四方を包まれた空間に、鋼牙は立っていた。 目の前には、裁判官の席のような高い壇が設けられており、白い衣をまとった人物が着いていた。 「まさか、貴様が番犬所の神官だったとはな」 「その話は後にしよう。今は剣の浄化が先じゃ」 その人物は、鋼牙に身振りで指し示した。 指差した方向には、狼の頭部を模した彫像がある。 「分かった」 鋼牙はうなづき、取り出した魔戒剣のきっ先を狼の彫像の口部に差し込んだ。 白い霧が渦巻き、鋼牙が魔戒剣を引き抜いた瞬間、彫像の口から何かが飛び出した。 それは、三振りの剣だった。 宙に浮いたそれを、いつの間に現われた白い執事服姿の美童が慎重に取り上げる。 まっ白な手袋が摘み上げたそれを、白衣の老人は眼を細めて見入った。 細い、S字を描くような曲がりくねった刀身の短剣。 「魔界の伝令“シャックス”」 環状の周囲に針のような尖った刃が、二十三本並んだもの。 「破滅の累乗“グレンデルの託卵”」 まっ直ぐな刀身から、さらに団扇の骨のように刃が放射状に伸びた形。 「千手を持つもの“ラゴラ”」 それらを柔らかな布が敷き詰められたケースに収めて、白き美童は退出していった。 「ご苦労だった。魔戒騎士 サエジマ・コウガ。これからもよろしく頼んだぞ」 「待て!」 一方的に話を終わらせようとした老人に対し、鋼牙は激しい口調で問い詰めた。 「まだ、何の説明もされていないぞ!どういうことだ?この世界には、ホラーがいないはずじゃあなかったのか?なぜ、お前が神官をしている!?」 「ふん……どうしても、知りたいか?サエジマ・コウガ」 「当たり前だ!」 「良いだろう。それほど望むならば……」 老人が語ろうとしたその時、闇の彼方から声が聞こえてきた。 「なんだ?」 『この声は……お嬢ちゃんたちじゃあないのか?』 「まさか、普通の人間があの入り口を見つけるはずがない」 そうこうしている内に声が近づき、やがて鋼牙の前に四人の少女が姿を現した。 「窓に!窓に!じゃあなくってなんか見えた~」 「……名状しがたい何かを味わったぜ……」 「キュウ」 「なに?何騒いでるよ?三人とも。アタシには何にも見えなかったけど」 ルイズに手を引かれるように、キュルケ、モンモランシー・タバサの三人娘がいささかグロッキーな様子で入ってきた。 こちらへ来る途中、何かが見えたらしく著しくSAN値が低下した状態だ。タバサなど完全に意識を喪っていた。平気なのはルイズくらいである。 「あ!鋼牙。そこにいたのね。説明しなさい!ご主人様に対して、秘密を持つなんて大変いけないことよ!」 へたり込む三人娘を置き去りにし、ルイズは鋼牙の方へと駆け寄っていった。 そうして、鋼牙の傍まで来て始めて、その場に自分以外の第三者が居る事に気付いた。 「え?どうして、こんなところに……」 最初、その人物がどうして『ここ』に居るのか、彼女は理解できなかった。 白髪美髯、一体何歳なのか分からないほど齢をけみした権威あるその姿。 常日頃、学長室で見慣れたはずのその人物の名は……。 「オールド・オスマン!」 「異界の魔戒騎士 サエジマ・コウガよ。そして、未来の魔戒法師たちよ」 トリステイン魔法学院 学長 オールド・オスマンは二人を迎えるように大きく腕を広げた。 「我が名はオールド・オスマン。ハルケギニア最後の『番犬所』神官である」 第5話 虜囚 終了 例え明日が 終わっても 君はくじけず 前を見続ける 悲しみはいつか消せるはず 僕はかならず 君を守りぬくよ たとえ全てをなくしても もう一度 きみの微笑みを 見るその日まで 僕が愛を伝えてゆく ~予告~ ザルバ『聖剣、魔剣、神剣。この世には名刀と呼ばれるものがごまんとある。だがとどのつまり、やることはただ一つだ。人を斬り命を絶つ。そう思うと、我らが魔戒騎士の剣はその正反対だってことが分かる。魔を斬り、魔を断ち、人の魂を救う!それが魔戒騎士の剣だ!次回『封剣』。鋼牙……新たなる力で、闇を断ち切れ!』
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1795.html
寺院がある。立派な大きさではあるが、手入れをされていないので屋根や壁は錆でくすみ、門柱は崩れ、鉄の柵は歪んでいる。 ここはとうの昔に廃墟となった村、いまはオーク鬼と呼ばれる亜人の巣と成り果てていた。 森林を開拓して作り上げたのはいいのだが、近くにそいつらが住み着いていたので襲われてしまったのだ。 領主に兵の派遣を要請しても無視をされたので村人はとっくに出て行っている。 タバサはそっと木の陰に隠れ、寺院を覗いた。もうすでに作戦は始まっているので、まもなく中から豚に似たオーク鬼が来るはずだ。 その証拠にさっきから悲鳴がこだましていた。 やがて、戸が乱暴に開け放たれ血だらけになったオーク鬼が外へと走ってきた。 ンドゥールの水でやられた仲間の血だ。そいつらはそのまま門を開けようとする。 だが、そうはさせない。 『ウインディ・アイシクル』 タバサの魔法、氷の槍がいくつも彼らの前方に突き刺さる。オーク鬼の先頭が足を止め、次々とぶつかっていく。 そこに大きな炎が飛び込んでいった。 キュルケのファイアーボールだ。 オーク鬼は見かけとは裏腹の俊敏さでそれを避けるが、炎が地に着いた途端、彼らはより大きな炎に包まれてしまった。 これはギーシュが錬金で作り上げた油、地に染み渡らせていたのだ。 しかし、それでも全滅とはいかない。まだ数頭生き残っている。 そいつらはタバサ、そしてキュルケが隠れている木に向かって走り出した。と、その姿が消える。 ぷぎい、ぴぎい、と声がする。ギーシュの使い魔、ヴェルダンデが掘った穴に落っこちたのだ。 「やったわね」 キュルケがタバサの隣に降り立ち、別のところに隠れていたギーシュも彼女らに近づいた。 そして三人で穴を覗き込む。 必死に登ろうとしている様が見えたが、ギーシュは錬金で作った油を大量に中に注ぎ、キュルケが使い魔のフレイムに火を吹かせた。 夜、寺院の中庭で火を起こし、シエスタが料理を作っていた。なにかのシチューのようである。 その傍らではンドゥールたちが寺院に残されていたものの物色をしていた。 「やっぱりろくなもんがなかったわねえ」 「見つかったのは、銅貨と真鍮のネックレスぐらいか。ま、こんなものだろうね。 ンドゥール、君はいるかい?」 「いらん」 「だろうね」 とはいえ戦利品ではある。ギーシュは記念にそれらを袋に包んだ。 ちなみにこれで七件目であるため少々荷が嵩張ってきていた。そろそろ捨てるか魔法に使うかしなければならない。 ギーシュでもやろうと思ったらナイフにするということもできる。 ちと疲れるが。 「みなさんできましたよ。どうぞ、お食べください」 シエスタが出来上がった料理を配っていく。 パンとシチューという、学院にいたころでは考えられないほど質素な食事ではあるが不満はない。あろうはずもない。 シエスタが作るものが旨いためだ。なんでも実家に伝わる料理であるらしい。 「しかし、あなたもよくやるわよね。私たちだけじゃあどうなっていたことか想像したくもないわ」 「大したことありませんよ。罠とかなら簡単に作れますし、ンドゥールさんも捕まえるのを 手伝ってくれましたから」 「いやいや謙遜することはないさ。これも一種の才能だよ。うん、今日も美味しい!」 ギーシュは口を大きく開けてシチューを食べる。 彼は以前、シエスタに理不尽な言いがかりをつけていたこともあるが、すでにわだかまりはとれているようであった。 五人は夕食を食べ終えた後、これよりあとのことを話し始めた。 「僕はね、そろそろ学院に戻ったほうがよくないかと思うんだ」 「そうよねえ。誰にも言わずに出てきちゃったんだもん。きっとカンカンだわ。そういえば、シエスタはいいのよね」 「ええ。マルトーさん、料理長からンドゥールさんを手伝うんだったらかまわないって言われてますから。 なんならそのまま帰省してもかまわないって」 「そうなの。じゃあ、シエスタを実家に送り届けてから学院に戻るとしましょうか」 「い、いいんですか?」 「いいわよ。亜人との戦いにも慣れちゃったからこれ以上の進歩はなさそうだし。 三人もいいでしょう?」 肯定の返事が返ってきた。 「それで、実家はどこなの?」 「タルブっていう村です」 五人がシエスタの地元であるタルブの村に着くと、それはそれは大騒ぎになった。 貴族が三人もやってきたのでシエスタの家族は急ぎご馳走を用意し、村長さえも挨拶をしに出向いてきていた。 ンドゥールはやれどう紹介すればよいものかシエスタは悩んだが、結局奉公先で世話になっている人ということで落ち着いた。 そうして食事を終えると、ンドゥールたちはシエスタに案内され村を回ることにした。 夕日で赤く染まった草原。彼女は、はにかんだ笑顔で、これがこの村のもう一つの宝であると言った。 「でも、ンドゥールさんには見えないんですよね」 「ああ」 「………すいません。こんなこといっちゃって」 「かまわん。それに、風は感じることができる。いいものだ」 シエスタは心の底から嬉しそうに笑った。 「……あちゃー」 「ん、どうしたんだいキュルケ?」 「見なさいよあの子の顔、恋する乙女じゃない」 言われギーシュもシエスタを見る。確かにどこか熱っぽくンドゥールを見つめていた。 そうか、好きなのか。きっかけはなんだったんだろう、と、思ったらすぐさまわかった。 自分の醜い行いである。ちょっと死にたくなった。 「で、どうするんだい?」 「どうするもねえ、今からどっかに消えるのは不自然でしょ。それに、私もダーリンを譲る気は毛頭ないわ」 ふふ、と、キュルケは笑った。 「シエスタ、もう一つの宝だってことは、まだ名物みたいなものあるんでしょ? 案内してくれない?」 「あ、は、はい。こちらです」 シエスタは見えないようにため息をつき、歩き出した。ギーシュはンドゥールの後ろを歩きながらキュルケに向かって言った。 「君は本当に意地が悪いね」 「お黙り」 道中のシエスタの説明によると、その宝というものは奇妙な張りぼてであるとのことだった。 なんでも『竜の羽衣』というたいそうな名前はついているものの、鉄の板やらが組み込まれただけのもので、実際はただの大きな置物と化しているとのことだった。 シエスタの曽祖父がそれで空から飛んできたとのことだが、本当に飛ぶ姿を見た人物は一人もいないので嘘つき扱いをされ、そのうちどこにも行くあてがなかったので村に住み着き始めたのだそうだ。 「ここにそれがあるんです」 シエスタは四人を奇妙な形をした寺院に連れてきた。 丸木で組み立てられた門に石ではなく板と漆喰で作られた壁、木の柱、白い紙と綱で作られた紐飾り、とても一般的なものとはいえなかった。 「どうぞ。お入りください」 シエスタに促され、足を踏み入れようとしたギーシュたちだったが、ンドゥールの手にさえぎられた。 「な、なんだい?」 「……中に一人いるな」 「え、そういえば、お父さんがこれに興味を持った旅人が泊まっているって言ってましたけど、その人でしょうか」 「恐らくそうだろう。しかし、この足音は……」 ンドゥールはそう言ってすたすたと中に入っていった。シエスタたちもそれを追って中に入る。 すると、ンドゥールの言ったとおり、一人の男が『竜の羽衣』らしきものの前に立っていた。 彼は深緑のコートを羽織り、黒い眼鏡をかけていた。 じっとその『竜の羽衣』を見つめていたがンドゥールたちに気づき、こちらに振り返った。 「すみません。勝手に入ってしまって。すぐに出て行きます」 小さく頭を下げ、彼は外に出て行こうとしたがンドゥールの目前でとまった。 その瞬間、二人の間に奇妙な空気が形成された。ギーシュは鳥肌が立った。キュルケもつばを飲んだ。 のどかな村の中であるというのに、一瞬にして戦場になったかのようであった。 「なあ、そこの人」 男のほうが口を開いた。彼はンドゥールに向かっていっている。 「僕は君に出会ったことがあるかな? どうも初見の気がしないんだが」 「一度、会ったことがある。いや、正確ではないな。やりあったことがある。 それが正解だ」 「……失礼だが、名前を尋ねてもいいかな?」 「ンドゥールだ。花京院典明」 空気があまりの緊張に固まった。シエスタは気を失いかけ、ギーシュもキュルケも全身を汗で濡らしていた。 身も凍るほどの殺気がぶつかり合っているこの場に耐えられない。 「念のために尋ねよう。エジプトの砂漠で出会った、水と一体化するスタンド使いか?」 「そうだ。法王の緑。目は治っているようだな」 「ああ。君につけられた傷は完治したよ。跡は残っているけどね」 ずず、と、花京院と呼ばれた男の背後に人型の像のようなものが浮かび上がった。 ンドゥールも腰につけた水筒の蓋を外す。 まさに一触即発。 だが、爆発は封じられた。 「なにやってんだいあんたら!」 喝が入った。その怒声で充満していた殺気が掻き消え、花京院とンドゥールは臨戦態勢を解いた。 おかげでギーシュたちは呼吸が楽になった。 九死に一生を得た気分だったが、それをした人物を視認すると、礼を言う場合ではなくなった。 なぜならその人物は、ギーシュにとって苦い思い出のある女だったからだ。 「お前、『土くれ』のフーケ!」 「やあ」 彼女は包帯を巻かれた手を上げた。 「奇遇だね。言っとくけどやりあう気はないから、杖は出すんじゃないよ」 ふざけたことをぬかされた。 とはいえ、こんなところで戦いをおっぱじめるわけにも行かないのでギーシュもキュルケも杖を出すことはなかった。 「上出来。それで、あんたたちはなんでこんなことにいんの? その、ンドゥールまで連れて」 「マチルダ、彼らと知り合いなんですか?」 花京院が少し戸惑っているような彼女に尋ねる。どうやらこの二人は知り合いのようであった。 「ま、顔見知りみたいなもんさね。ほら、あんたらも積もる話があるようだし、とりあえずここを出ようじゃないか。 話ぐらいなら聞いてあげるよ」 突如現れたフーケに言われ、各々は寺院を出て村に戻っていった。 シエスタはどういうことなのか説明を求めていたが、ンドゥールは答えず、ギーシュもキュルケも事態がよくつかめていなかった。 六人はタバサのいるシエスタの家に向かった。 すると客人が増えたとまたてんやわんやになるところであったが、フーケがシエスタの父に挨拶すると彼は、村長のとこにとまってた人たちか、と言って落ち着いた。 『竜の羽衣』に興味がある旅人というのはフーケと花京院の二人のことだったのだ。 「それで、どっから話そうかね」 「まずは、どうしてここにいるか。それを教えてもらいたいわ」 キュルケが物怖じせず言った。フーケはよどみなくすらすらと答える。 「なに、ちょっとヨシェナベっていう珍しい料理があるって聞いてね。食べに寄っただけさ。 言っておくけど、盗みをするつもりはないからね。討伐隊が組まれちゃたまんないし」 「たしかに。それで、その彼とはどういう関係なのかしら。お仲間がいるなんて知らなかったけど」 「そりゃね。だってこいつと知り合ったのはあんたらと別れたあとだったんだ。知ってるわけがないさ」 「そう。で、そっちのノリアキ? あなたと私のダーリンはどういう関係なの?」 「ダーリン?」 キュルケの言葉を聞き、花京院はンドゥールに目を寄せた。 「そいつのことであってるよ。といっても、全然相手にされちゃいないようだがね」 「うるさいわよ」 むすっとキュルケはむくれた。 この旅の途中も、どんなにアタックしたところでちっともなびきはしなかったので自信を失いかけていたりする。 「ああ、僕と彼とはね、一度戦ったんだ。そのときは僕の負けだったけども」 「それだけ?」 「それだけだ」 ンドゥールも肯定したのでそれ以上の追求はできなかった。フーケも何か聴きたそうにしていたが、口をつぐんでいる。 「質問は終わりましたか?」 花京院がキュルケに尋ねた。 「ええ、こっちからはね」 「それでは僕からも聞かせてもらいます。というより、お願いがあります。 あの寺院に飾られてある御神体、譲ってはもらえませんか?」 「えっと、それは、なぜなんでしょうか。父によると、あれは墓碑銘が読めるものがいればその人に譲るようにと、おじいちゃんが遺言を遺したらしいのですけど」 「僕は読めます。海軍少尉、佐々木武雄、それがあれの持ち主」 シエスタは花京院の剣幕に押されながらも尋ねた。 「あ、あの、理由を教えていただきませんか? なぜあんなものが必要なのか」 「あれは、僕の生まれた国で作られた機械です。あなたの曽祖父が乗ってきたという話を聞きました。墓も遺品も確かめたので間違いありません」 「本当なのか?」 ンドゥールが尋ねる。花京院は肯定した。 「君は見えていないからわからないだろうが、御神体と言うのは飛行機だ」 「ひこうき?」 ンドゥールと花京院以外のメンバーが疑問符を並べた。そんな言葉を始めて聞いた。 「要は空飛ぶ機械。誰にも信じてもらえなかったみたいだけどね」 「なぜだ?」 「ガス欠さ。調べさせてもらった。たぶん飛び立ったものの気づいたらこんなところにいたんだろう。途方にくれただろうね」 花京院はやれやれというジェスチャーをした。 「そういえば、お前はどうやってこの世界に来た」 「僕は気づいたらここにいたよ。君の主人に殺されたあとにね」 「俺も似たようなものだ。お前の仲間に倒され、自害したあと気づいたら召喚された」 「つまり、互いにどうやってここに来たのかわからないと」 「そのようだな」 はあ、と、二人そろってため息をついた。話からして敵同士だったようだが、いまは同じ身の上であるようだった。 キュルケは情報を交換し合う二人を眺め、なんかこの世界とかわけがわからないけど別にいいか、と思った。 「それで、飛行機に乗ってどうするのだ?」 「あれの持ち主は東からやってきたらしいからね。東に飛んでいけば、なにか戻るための手がかりが見つかるかもしれない」 「そうか」 ンドゥールが小さな声で答えた。まるで胸に何かが詰まっているみたいだ。 「君は戻りたいとは思わないのか?」 「戻れば『あの方』のためにお前とお前の仲間たちと戦う。それは誇りが失われる。 まけたのだ。俺は。それを覆そうとする行為など、許せん」 「しかし、もう決着はついているはずだ。確かめてみたくはないかい? 僕は、君の主人に倒されたのだからね」 「そうなのか。となると、もうすんでいるか。『あの方』か『あの男』のどちらが勝利しているものか、もう一度会いたいものだ」 翌朝、ギーシュたちは荷を纏めて出発の準備をしていた。学院からふくろうが飛んできてお叱りを受けたのだ。 おまけに罰則も。予想していたことなので生徒の三人はしょうがないかと受け入れた。 シエスタはそのまま残っていてかまわないとのことだった。 ンドゥールは、花京院とフーケを御神体の飛行機に連れてきていた。彼は左手で機体に触れる。 すると、ぼうっと彼の左手に刻まれているルーンが淡く光った。 「それはなんだ?」 「ガンダールヴという使い魔のルーンであるらしい。これのおかげで、この飛行機の情報も知ることができる。日本で作られたゼロ戦、らしい」 「ゼロ戦。第二次世界大戦の代物か。すごいものが落ちてるものだ」 「なんなんだいそれ」 ちんぷんかんぷんのフーケが花京院に尋ねた。 「戦闘機ですよ。こっちだと竜に乗って空を飛ぶでしょ? 僕のいた世界は、これに乗って戦うんです」 「へえー」 じろじろとフーケはその『ゼロ戦』を見つめる。とても空を飛ぶようには見えない。 いいとこカヌーに羽をつけた大きなおもちゃである。 「でも、これをどうやって運ぶんだい? ガソリンとかいうのがなくて動かないんだろ?」 「ギーシュのコネで学院に運んでもらう。花京院、お前も来るか?」 「ああ。僕もいく。調べ物もしてみたいからね」 「じゃ、私とはここでお別れだね」 それは仕方のないことだ。学院に戻れば彼女の顔を知るものが大勢いる。 そんなところにいけば捕縛されてまた処刑を待つ身になる。それは勘弁願いたいのだ。 マチルダは乾いた息を吐いて二人に言った。 「達者でね」 学院に『竜の羽衣』とともに帰ると、軍人から運送代を請求された。 そのことについてはまったく考えていなかったンドゥールは困った。 花京院は金を持っていたものの全然足りなかった。 しかし、コルベールという教師が代金を肩代わりすると申し出てきた。 「いいのか?」 「かまわないさ。ただ代わりに研究させてくれ。こんな興味深いものを見たのは生まれて初めてだよ」 花京院は興奮している彼を見て、少し驚いているようだった 「それで、どうやって空を飛ぶんだね? ささ、早く飛ばしてみてくれたまえ。おお、好奇心でこんなに震えてきている」 「ガソリンがないのでできん。これと同じものがあれば空を飛ぶことができる」 ンドゥールはタンクに残っていたガソリンをコルベールに渡した。その匂いはやはり独特であったようだ。彼がすぐに鼻をつまむ。 「わかった。わかったよ。すぐに錬金してみるからね。それまで待っていてくれたまえ」 コルベールはそういい、走ってその場を離れていった。 「すごい人だな」 「ああ、この世界では珍しい人物だ。初歩的なエンジンをも作っていたので協力してくれるだろうとは思ったが、まさかここまでとはな」 「……そういえば、僕はここにいていいのか? 入る許可なんかもらっていないんだけど」 「そうだな、一応学院長のもとにいったほうがいいだろう。案内してやる」 そう言ってンドゥールが歩き出したところ、宿舎から一人の少女が走ってきた。その足音に彼は気づき、花京院もそちらを見やる。 疾走してきているのは桃色の髪をした少女、ルイズであった。 彼女は勢いを弱めることなく二人に近づき、どん、と、ンドゥールに飛びついてきた。 「どうした。いきなり」 「うるさいうるさいうるさい! ようやく帰ってきたと思ったらこんなところでのんびりしてて、すぐに私のところに来なさいよ! 私の使い魔だって自覚あるの!」 「……」 「考え込むな!」 ルイズはその小さな手でンドゥールを叩いた。怒っているようだが力は入っていない。 なぜかぼろぼろと泣いていた。 「どうなっているんですか一体」 蚊帳の外にいる花京院はそんなことを呟いた。 目を丸くしている。 ルイズはここしばらく授業に身が入らなかった。朝起きるのもかったるく、食事もあまり摂ることはなかった。 それでも惰性で出席はしていたのだが教師の言葉もほとんど耳に入らず、毎日毎日外を眺めていたのだった。 おかげで集中しなさいと怒られることがしばしばあった。 ところが、今日、亜人退治に出た連中が帰ってくると知って心が躍った。 いつもいつも自分の後ろから響く音が戻ってくる。そりゃあ嬉しかった。 しかし、迎えに行かずに自室で報告を受けようなんて思ったのにいつまでたってもきやしない。 貧乏ゆすりをしながらも辛抱強く待っていると、なんだか中庭がざわつきだしていた。 いらいらしたのでそちらを見やると、ンドゥールがコルベールと知らない男の三人で話し込んでいた。 腹が立った。あいつは主人の下に来ないでなにをしているのかと。なんでそんな知らないやつと親密になっているのかと。 メラメラと嫉妬が燃え上がった。相手は男だがそんなことは関係なかった。男色は珍しいものではないのである。 走った。走ってンドゥールの下に駆けつけた。 視界に入れると、なんだかもう久しぶりにあったから胸の中が爆発しそうなぐらい切なくなった。 だから飛びついてそれから殴った。 けれど隣の緑の男はその自分をなんだかおもしろそうに見ていて余計に腹が立った。 なんなのよと憤りたかったが、彼女は目から出所不明の涙が出てきてなにも言葉にならなかった。 それから緑の男、花京院はコルベールの助手ということでこの学院に居座り変な置物をンドゥールと一緒に調べ始めた。 それがまたルイズにとって腹立たしいことだった。 洗濯や掃除などはやってくれるのだが、授業にンドゥールはついてこずにずっと中庭で作業をしている。 つまり一日の大半、せっかく帰ってきたのに離れて生活しているのだ。近くにいるというのに顔を合わせることがほとんどない。 それは彼がいなかったときより辛く、寂しさが染み入ってきた。 それに、理由が理由だった。 東に元の場所に戻る可能性があり、あのヘンテコな置物であれば飛んでいける。 それはつまり――、帰りたい。そういうことじゃないのか。 と、色々あったおかげで、ルイズはすねた。 「いや、ここに来られても困るわよ」 「……」 ルイズがいるのはキュルケの部屋。深夜、いつまでたってもンドゥールが来ないもんだからならこっちも出て行ってやるとばかりに駆け込んだのだ。 隣に。 そんなことをしたところで彼なら簡単に居場所がわれるというのはわかっているのに。 キュルケは大仰にため息をついてベッドに倒れこみ、窓に張り紙をする。 今日は密会は中止と書いたものだ。念のためサイレントもかけて声が漏れないようにもした。 「ルイズ、あなたね、言いたいことがあったらはっきり言いなさいよ。私は心の中を読めるほど器用じゃないんだから」 「……わかってるもん」 「じゃあ言いなさいよ。なにか言いたいことがあるからここにきたんじゃないの?」 「………どうやったら、」 「んん?」 「どうやったら、男はなびくの?」 「はあ?」 さすがにこの質問には面食らった。キュルケは確かに男漁りが趣味であるため他の女子よりかはこの手の事は詳しい。 けれども、いくらなんでもそんなことを、しかも仇敵ともいえる間柄の相手から尋ねられるとは考えもしなかった。 なにしろ一般的には貴族も平民も関係なくはしたないことなのだから。しかし、相手は想像がついた。そんなのただ一人しかいない。 「ダーリンを誘惑するのなら協力しないわよ」 「な、なんであんなの誘惑しなくちゃいけないのよ!ばっかじゃないの! ばっかじゃないの!」 「そうだからここに来たんじゃないの。それともなに? 彼以外の、そうね、あのカキョーインとかいう男でもたらしこむつもり?」 「いやよ! そんなわけないじゃない!」 こりゃ会話にならない。キュルケはルイズの首根っこを捕まえて部屋からぽいっと出した。 付き合ってられないのだ。 それでもちょっとした助言をくれてやる。 「ルイズ、なびいてほしいのなら本人に直接いきなさい。回りくどいことをせずにね。 あなたにできるのはそれぐらいでしょ」 猫のようにつまみ出されたルイズは、結局自分の部屋に戻るしかなかった。 けれどもいまだにンドゥールは中庭にいて戻る気配はなかった。 あの変な置物を使いどこへ飛んでいくのだろう。 空を飛ぶなんてことは全然信じていないが、仮に本当だとしたら、彼はやはり『あの方』のもとへ戻るつもりにちがいない。 いくらなんでも目の前に餌がぶらさがっていたら誰だって飛びつくものだ。 それが、いくらどんな騎士より誇り高い男であろうとも。 ルイズはベッドに飛び込み毛布を頭から被った。涙が頬を伝っていった。シーツでぬぐっているうちにいつしか鼻水もでてしまった。 初雪のように白い肌は真っ赤になってしまった。あまりに、あまりに悔しかったのだ。 存在の価値が違いすぎる。自分では『あの方』には勝てない。 ルイズはキュルケに色仕掛けの方法を学んでも無意味だってのはわかっていた。 彼がそんな単純な男であったなら心の葛藤は消えていることだろう。 でもそれは彼ではない。彼でなければ駄目なのだ。彼だからこそこんなに苦しんでいるのである。 ルイズは静かに、一人、寂しく、孤独に、泣いた。行ってしまうのか、やはり、と。 彼女には友達がいる。キュルケやタバサ、ギーシュ、あまり親交を深めているわけではないがシエスタというメイドだってそうだ。 それに教師だって己の努力を認めてくれている人たちがいる。 だが、ンドゥールは、影のように付き従い、何度も命を助けてくれたあの使い魔は、いつしか彼女たちよりさらに一線越えた存在になっていた。 だから悲しい。だから、キュルケの言ったように『本人に直接いく』というようなことはできない。 反対できない。きっと命令すれば、恩義に厚い彼はここに留まるだろう。ルイズにはそれがなんとなくわかっていた。 だが、そうするとンドゥールの心に喜びは生まれない。彼の意思でここに留まってもらいたいのだ。 仕方ないからとか、命を救ってくれたからとか、そんなんじゃあ駄目なのだ。 大事な存在だから、自由にさせてあげたいのだ。 ルイズは泣いた。泣いて泣いて、泣き崩れた。 そのためドアが開く音も、聞きなれた杖の音にも気づかなかった。 ギッと、ベッドが軋んだ。どうしたのかとルイズが思うより早くごつごつした指が彼女の頭をなでてくれた。 それをしてくれたのは、他の誰でもないンドゥールだった。 彼は湿った布巾をルイズの手に握らせた。 「顔を拭け」 「……いらないわよ。風呂に入ったんだから綺麗なままよ」 「涙で汚れてるだろ」 ルイズはぐっと歯を噛んだ。泣き声を彼は聞いたからここにやってきたのだ。 もう隠すこともできないので諦めて顔を拭く。 痛かった。 「俺は、お前を慰めるようなことはできない」 ンドゥールが急にそんなことを語りだした。毛布からわずかに顔を出してルイズは彼を見上げる。低い声。 「以前にも言ったが、俺にできることは戦うことだけだ。お前の命を脅かすものを排除する。 それだけしかできん。しかし、生きていくにはそれだけでは不足ということも知っている。 それも俺のように欠落した人間でないならなおさらだ。戦う以外で、俺は手助けができない。 お前が何に苦しんでいるのかはわからない。どうやったら癒すことができるのかわからない。 すまないな」 謝られた。ンドゥールにはなにも悪いことない。 なのに気に病んでいる。 心配させてしまっている。 ルイズはそれが心苦しかったが、嬉しかった。 醜い感情、負担になっているのに。殺したかった。暗部を消したかった。 「………もうやだ」 「なにがだ?」 「自分がいやなの。もうすっごくいや。かっこわるいし、馬鹿だし、」 「魔法が使えないからか?」 「違うもん。そんなのどうでもいいもん」 「そうか」 ンドゥールは優しく、慣れてない手つきで頭をなでた。 しばらくそうしていると、ルイズは泣きつかれたためゆっくりと眠ってしまった。 彼女はその日、自分が誰かの盾になっている夢を見た。 誰かを、大事な誰かを守っていた。守られてばかりじゃない。 嬉しかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1249.html
「ムゥ~~ッ!! フゴムゴォ! ングゥ~ッ!」 部屋に響くのはギーシュのくぐもった声であった。 言い訳や状況説明をする暇なくルイズによって簀巻きにされ、 DIOに足首を掴まれて逆さ吊りにされているのだった。 口には猿ぐつわがしてあり、何を言っているのか明瞭ではない。 ルイズはギーシュの足を持っているDIOの上着をまさぐり、 ナイフを一本取り出した。 そして、逆さ吊りで視界が反転しているギーシュに視線を合わせるため、 ヤンキー座りになった。 豚でも見るかのような冷たい目で、 ルイズはギーシュの横っ面をナイフでペチンペチンと叩いた。 ナイフに嫌な思い出があるのか、 それを目にした途端ギーシュは激しく身を捩った。 「これどうします、姫様? なますにしてラグドリアン湖にバラまきますか?」 「フ、フガッ…!?」 まさかの死刑宣告である。 かろうじて自由な目をせわしなく動かして、ギーシュが呻いた。 アンリエッタは事の展開のあまりの早さに、 頭がまだ追い付いていなかった。 いきなり生死の審判を委ねてくるルイズが、 純粋に怖かった。 今ルイズがギーシュに向けている目に、 見覚えがあったからであった。 まだ二人が幼かった頃だった。 ルイズは侍従のラ・ポルトに、 時折りあんな目を向けていた。 ラ・ポルトは魔法の使えないルイズを『ゼロ』『ゼロ』と 散々陰で馬鹿にしていたのだった。 ……そういえばラ・ポルトは宮中を去った後、 プッツリと消息を絶ってしまっている。 元気にやっているであろうかと、アンリエッタは少し気になった。 しかし今重要なのは、目の前で逆さ吊りになっているメイジを どうするかということである。 死の恐怖にガタガタと震ている姿は、 痛ましくて見るに耐えない。 その光景が、部屋を訪れたときの自分と重なり、 アンリエッタはギーシュに同情せざるを得なかった。 「あ、あのルイズ。 もうそのあたりで許してあげては……」 ルイズはギロリとアンリエッタの方に振り返った。 腰が抜けてしまいそうなほどの威圧感だったが、 なけなしの勇気を振り絞って、アンリエッタはルイズを見返した。 数瞬の沈黙の後、ルイズはつまらなさそうに DIOに目配せをした。 「ブギャッ!!」 DIOがパッと手を離し、ギーシュの頭が床に墜落したのだった。 そしてルイズは無造作に、手にしたナイフをギーシュに向けて投擲した。 ギーシュに突き刺さるかと思われたナイフはしかし、 紙一重でギーシュを避け、彼を拘束していたロープを切断した。 こうしてようやっと束縛を解かれたギーシュは、 覗き見をしたことを必死で謝罪した。 『薔薇のように見目麗しい姫様のお姿に心奪われ、 ついつい後をつけ、覗き見をしてしまった』 要約するとこんな感じである。 ……つまり、アンリエッタの変装がチャチだったのが原因だった。 しかし、まさかギーシュ如きに一発で見抜かれてしまうほどだとは。 ルイズは頭が痛くなってきた。 これではもうどうしようもない、こいつも連れていくしかない。 もしギーシュを学院に残したら、口の軽いこいつのことだ、 ペラペラと話してしまうに違いない。 はぁ、御荷物が増えた…… とルイズは胃がキリキリする思いだった。 しかし、アンリエッタに巻き込まれる犠牲者が また一人増えただけなのだと考え直すことにした。 ルイズは健気で前向きな少女だった。 「姫様、致し方ありません。 この者も同行させます。 名はギーシュ・ド・グラモン、『土』のドットメイジにございます」 「グラモン? あの、グラモン元帥の?」 ギーシュは慌てて立ち上がり、一礼した。 「ありがとう。 お父様も立派で勇敢な貴族ですが、 あなたもその血を受け継いでいるのですね。 では、お願いします。 この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん」 「姫殿下が僕の名前を呼んで下さった! 姫殿下が! トリステインの可憐な華、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んで下さった!」 ギーシュは顔を真っ赤に赤らめて、 感動のあまり後ろに仰け反って失神した。 やれやれこいつアンリエッタに惚れたのか、 とルイズは推察した。 しかし、こいつはちょっと前に浮気騒ぎを起こしたばかりの、 札付きの信用無しである。 その被害を被った女生徒の一人……モンモンだったか、確かそんな名前だった…… は、最近になってようやく立ち直ったとか。 いっそ去勢でもした方が学院の、引いては人類の平和に繋がるんじゃないかと思って、 ルイズはチラッとギーシュの切ない部分に目をやった。 もちろんわからないようにしたつもりだが、 薄ら寒いものを感じたのか、ギーシュの肩が若干震えた。 ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直り、 話を進めることにした。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」 「了解いたしました。 以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、 地理には明るいかと存じます」 「旅は危険に満ちています。 あなた方の目的を知ったら、アルビオンの貴族達は ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」 アンリエッタは真剣な眼差しをDIOに向けた。 「頼もしい使い魔さん。 よければお名前を教えて下さい」 声を掛けられDIOはしかし、アンリエッタを一瞥しただけで、 彼女の言葉を無視した。 意外な反応に、アンリエッタは怪訝な反応をした。 気まずい沈黙が場を支配し始め、ルイズは慌てた。 「こ、こら、姫様の御言葉よ! ちゃんと名乗りなさい!」 ルイズの命令を受けて、DIOは小さな声で名乗った。 「……DIOだ。 そこのルイズの執事の真似事をやっている」 声を聞いて、ルイズはDIOの機嫌がよろしくないことを悟った。 ルイズにしか分からないくらいの変化だったが、 確かに、DIOの声は不機嫌そうだった。 何故だろうとルイズは疑問に思った。 しかし、アンリエッタはそれに気付かず微笑んだ。 「わたくしの大事なお友達を、これからもよろしくお願いしますね」 民衆に見せる営業スマイルでにっこりと笑ったアンリエッタは、 そのままルイズの椅子に座った。 そして、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、 さらさらと手紙をしたためた。 アンリエッタは、自分が書いた手紙をじっと見つめた。 やがて決心したように頷き、末尾に一行付け加えた。 密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情を、 ルイズは怪訝に思った。 しかし自分がとやかく言う領分ではないので、 ルイズはだんまりを決め込んだ。 巻いた手紙に封蝋をなし、花押を押して、 アンリエッタは手紙をルイズに手渡した。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。 すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」 それからアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、 これもルイズに手渡した。 「母君から頂いた『水のルビー』です。 せめてもの御守りにこれを。 路銀が心配なら、売り払って旅の資金にあてて下さい」 無自覚トラブルメーカーであるアンリエッタの私物を頂戴したとあって、 ルイズはこっそり嫌そうな顔をした。 厄介事を招き寄せる呪いでも掛かっていそうだ。 彼女の言う通り直ぐに売っ払ってしまおうかと、 ルイズは思った。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風を、 幻影のように鎮めて下さいますように」 アンリエッタは静かな祈りを捧げた。 ―――――――――― 朝靄の中、ルイズ一行は馬に鞍をつけていた。 いつもの制服姿だが、長時間の移動に備えて乗馬用のブーツを履いているルイズ。 密命に燃え、気合いの入ったセンス最悪の衣装に身を包んだギーシュ。 デルフリンガーを背に、ハートの飾りが頭に光るDIO。 そして…………いつものメイド服姿で、 当たり前のようにDIOの代わりに雑務をこなしているシエスタ。 ついてくる気満々である。 ルイズは乗馬用の鞭を片手に、 腰に手を当ててシエスタを睨みつけた。 「なんであんたがここにいるわけ? 今回ばかりは引っ込んでなさい、事情が違うわ」 苛立ちも露わに言い放つルイズだが、シエスタは涼しい顔で一礼した。 これ見よがしに胸が揺れる。 ルイズの顔面の青筋が増えた。 「旅の間、DIO様の御世話をさせていただきます。 光栄なことに、DIO様より直々の指名をたまわりました」 何とDIOの命令らしい。 ルイズは即座に、その怒りの矛先をDIOに向けた。 しかし、ルイズが怒り出すのは承知の上なのか、 ルイズが口を開く前にDIOが理由を説明した。 「ルイズ。見誤っているようだから言っておくが、 私はまだ万全ではないのだ。 降りかかる火の粉を払うのに、余計な労力を消費するわけにはいかん」 ぐっ……とルイズは言葉に詰まった。 確かに、付き合いが浅いので正確には知らないが、シエスタは有能だ。 匂いで分かる。 少なくともギーシュの百倍は役に立つだろう。 しかし、ルイズにはシエスタのあの澄ました態度が 癪に障って仕方がないのだ。 頭では納得できても、割り切ることは出来ないものがある。 そしてシエスタもまた、ルイズの内心を悟っているかのように、 鋭くルイズを射抜いた。 「……失礼ですが、ミス・ヴァリエール。 私は、例え仮初めといえども貴女がDIO様の主人であるなどと、 認めてはおりません」 それっきりシエスタはルイズに背を向けて、自分の仕事に戻った。 一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとした顔をしたルイズだったが、 見る見るうちにその顔に黒い怒気が浮かんだ。 「……あぁ? 今、なんつったの?」 肩を掴んで、シエスタを無理やり自分の方に向かせるルイズ。 しかし、ドスの利いた声でシエスタに詰め寄っても、 顔面がぶつかるくらいに近寄ってメンチをきっても、 シエスタは眉一つ動かさない。 「貴女には主人としての資格などありませんと、 申し上げたのです」 使い魔の主人である資格が無いなどと言われることは、 貴族の沽券に関わる問題である。 決して聞き逃すことの出来ない侮辱であった。 ルイズは片手でシエスタの胸倉を掴み上げた。 片手であるにも関わらず、 シエスタの足は地面を離れた。 だが、それに怯むことなく、シエスタもルイズに牙を剥く。 「URYYYY……!!」 「KUA ッ!!!」 一触即発の状態で、二人はバチバチと火花を散らした。 事の成り行きを見ていたギーシュには、まさか口出しなんて出来るはずもない。 彼は必死で目を合わせないようにした。 あんな連中に、自分の使い魔を連れていってもいいか などと聞けるはずもない。 ギーシュは自分の使い魔を連れていくことを渋々諦めた。 しかしこの修羅場な空気を断ち切る存在が現れた。 ルイズの横の地面がモコモコと盛り上がり、 茶色の大きな生き物が顔を出したのだ。 血で血を洗う肉弾戦に突入しそうな勢いだった二人は、 突如現れたその生き物に目を向けた。 その茶色い生き物は、ギーシュの使い魔のヴェルダンデであった。 「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」 自分が溺愛する使い魔の登場に、ギーシュは感極まった声を上げた。 それとは対照的に、ヴェルダンデを見る二人はどこまでも無言だった。 その激しい温度差に、ギーシュは気づかない。 「あんたの使い魔って、ジャイアントモールだったの?」 場の流れを無理やり変えられて、ルイズが不機嫌そうに聞いた。 主人のもとに駆け寄ったヴェルダンデを抱きしめながら、 ギーシュは目を輝かせた。 「そうさ、僕の可愛い使い魔のヴェルダンデだ! ああ、ヴェルダンデ! 君はいつみても可愛いね!!」 暫く主人の熱い抱擁を受けていたヴェルダンデだったが、 やがて鼻をひくつかせた。 くんかくんかと匂いを探るヴェルダンデは、何故かルイズ…… 正確には、ルイズの右手の薬指に光る指輪……に狙いを定めた。 ヴェルダンデは宝石が大好きなのだった。 だからこそ、『土』系統であるギーシュにとっては最上の協力者であった。 つぶらな瞳を輝かせて、ヴェルダンデはルイズに突撃した。 ルイズは自分めがけて走ってくるモグラを無感情に見下ろした。 「それ以上近づいたら蹴るわよ?」 モグラ相手にバカみたいだが、ルイズは一応警告した。 しかし、やはりモグラがその突進を止めることはなかった。 「あはは、噛みつきやしないさ。 とっても賢いやつなんだ!」 気さくな笑みを浮かべるギーシュ。 やがて距離が縮まり、一直線に駆けたヴェルダンデは、 そのままの勢いでルイズの胸に飛びつこうとした。 ―――が 「フンッ!!」 "ボギャア!"という鈍い音と共に、ルイズの膝蹴りが ヴェルダンデのアゴに炸裂した。 勢いがついていた分、ダメージは相当のものだった。 ヴェルダンデはもんどり打って倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。 愛する使い魔に対するあんまりな仕打ちに、 ギーシュはプッツンした。 「な、なにをするだァーーーッッ! 許さんッ!」 懐から、杖として使っている薔薇の造花を取り出して、 ギーシュは鼻息荒く目を血走らせた。 この場で決闘でも始めかねない剣幕だ。 「警告したでしょうが。 殺さなかっただけ感謝しなさいよ」 だが、ルイズはそんなギーシュを宥めるどころか、 逆に挑発したのだった。ルイズはシエスタとの一件で、まだ気が立っていた。 そんなルイズに対する怒りで身を震わせるギーシュは、 何の躊躇もなく薔薇を振った。 薔薇の花弁が二枚宙を舞い、たちまちそれは青銅で出来たゴーレム、 『ワルキューレ』に姿を変えた。 ギーシュの十八番、錬金であった。 「け、け、けっけっけっ決闘だァ! このビチグソがぁあああッッ!!」 錯乱状態のギーシュが薔薇を振るうと同時に、二体のワルキューレがルイズに踊り掛かった。 to be continued…… 52へ 戻る 54へ