約 1,871,759 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2692.html
前ページ次ページZERONATORオーガン 第三話「約束のオーガンランサー」 爆発騒ぎのせいで授業は中止となり、生徒たちとその使い魔たちは教室を出ていた。 オーガンが代わりの教卓を取りに行ったので、教室にはルイズとシュヴルーズの二人だけが残っていた。 壊れた教卓を屋外へ放り出した直後、ルイズはうなだれていた。 「どうして…、サモン・サーヴァントは一回で成功したのに…、爆発しなかったのに…、オーガンを召喚できたのに」 そんなルイズを、シュヴルーズは見守る事しか出来なかった。 そこへ、新しい教卓を抱えたオーガンが戻ってきた。 「教卓を持ってきました。……御主人様」 ルイズに声をかけようとしたオーガンは、途中でシュヴルーズに止められた。 「ミス・シュヴルーズ、何を!?」 「もう少しそっとしてあげなさいな」 二分ほどして、ルイズはオーガンたちのほうを向いた。 目の周りが少しはれていた。 「どうしてかな…、昨日は成功したのに…、今日もうまくいくと思ったのに…」 オーガンは、ルイズをそっと抱きしめた。 「オーガン!?」 「御主人様、こうすれば、泣いている顔を見られる心配はありません」 ルイズは抱きしめられた状態で泣いた。 シュヴルーズはその光景を見て、そっと教室を後にした。 ルイズが泣き止んだのは、それから数分後であった。 時間は過ぎて、お昼時。 オーガンは再び人間の姿に化け(オーガンは人間に化けないと飲み食いが出来ない)、厨房で昼食にありついていた。 (メイジが魔法を失敗するところは何度も見たが、主のように爆発が起きた事は無かった。こんな時、フレッシュ・オスマンがいてくれたら…) マルトー親方の料理に舌鼓を打ちつつも、悩むオーガンであった。 そんなオーガンの悩みをよそに、シエスタがオーガンに話しかけた。 「オーガンさん、お味はどうですか?」 「今朝同様とても美味しいよ。中でも「テンドン」は格別だ。親方さんの腕には感服するよ」 人間に化ける能力を習得してから、色々なものを食べてきたオーガンだったが、あいにく「天丼」にはお目にかかっていなかった。 「あらら…」 「まいったなぁ…」 オーガンの正直な感想に、シエスタとマルトー親方は困ったような笑顔を見せた。 「? シエスタに…、親方さん?」 「その、実はな、お前さんに出したメシの中で、テンドンだけは半分以上シエスタに手伝ってもらったんだ」 マルトー親方のその一言で、オーガンは見事に固まった。 「おーい、どうしたー!」 しかし、マルトー親方の必死の呼びかけですぐに正気に戻った。 「はっ!」 「おお、元に戻ったかぁ!」 「すまない、必要以上に驚いてしまった」 「まぁ、気にするな」 「それにしても、親方さんの腕でも難しいものなのか、テンドンは…」 「難しいどうこう以前だな。ダルフ村の名物料理の中でも、作り方が特殊なことで有名な「ドンブリモノ」の代表格でな、まだコツを掴みきれていないんだ。特に「ベイハン」と「コロモ」は未だに一人じゃろくなモノが作れねぇし。自信失くすぜ…」 普通に落ち込むマルトー親方に、オーガンもシエスタもどう声をかけていいのか分からなかった。 「えーっと、ごちそうさまでした。そうだ、親方さん、シエスタ、何か手伝う事は無いか?」 オーガンのその言葉が、場に流れる気まずい空気から退散するためのものだと瞬時に理解したシエスタは即答した。 「それでは、デザート運びを手伝ってください」 マルトー親方と他の面子を残し、オーガンとシエスタはデザート配りのためにアルヴィーズの食堂へと向かった(逃げたとも言う)。 その途中、シエスタは今朝から気になっていた事を口にした。 「オーガンさんって、ずいぶん変なジャケットを着ているんですね」 「変なジャケット? これが?」 自分が着ている「ボマージャケット」の襟を指差すオーガンに、シエスタはきっぱりと答えた。 「そうですよ」 「どこが?」 「ポケットがいっぱい付いているところが、です」 ちなみに、(人間に化けている)オーガンの服装は執事服にボマージャケットという、まさかの組み合わせである。 そんな会話を終わらせ、二人は食堂の中に入り、デザートを配り始めた。 地味にテキパキと配っているシエスタとは対照的に、踊るように軽やかなステップで手早く配るオーガンの姿は、生徒たちの視線を釘付けにした。 その光景を、ルイズとキュルケは呆然と見ていた。 そんな光景を他所に、デザートを食べ終えたギーシュ・ド・グラモンは友人たちと談笑していた。 「ギーシュ、いったい誰と付き合っているんだ?」 「そうだそうだ、教えろよ」 「おいおい、そんなことできるわけ無いだろ。第一、僕は大勢の女性を楽しませる薔薇だ。故に、特定する事は出来ないなぁ」 友人たちの質問をのらりくらりとかわすギーシュ。 そんな彼のポケットから紫色の液体が入った小瓶が落ちたが、当のギーシュ本人はそのことに気付いているのに、気付いていないフリをした。 さらに、その一部始終を見てしまったシエスタは小瓶を拾ってギーシュに声をかけた。 「あの、落としましたよ」 聞こえないフリをするギーシュだったが、友人たちの言葉であっさり無駄なあがきに終わった。 「その紫色の液体、モンモランシーの特製香水じゃないか」 「本当だ。ということは、ギーシュ、お前モンモランシーと…」 はやし立てる友人たち、あせるギーシュ。 そして一人の少女が近づいてきた。 どこで調達したのか、堅そうな棒切れを手に持っていた。 「やぁ……ケティ…」 ギーシュの呼びかけにも答えず、ケティ・ド・ロッタは棒切れをギーシュ目掛けて振り下ろした。 「さよなら」 ケティがそういって去った頃には、ギーシュは顔面をアザだらけにして倒れていた。 何とか立ち上がった直後、今度はモンモランシーがギーシュに近づいた。 何故か両手にメリケンサックを装着して。 「や、やぁ、麗しのモンモランシー…」 「ギーシュ、今の子はだぁれ?」 そう言い終った直後には、ギーシュの鳩尾に鉄拳を叩き込み始めたモンモランシーであった。 数十発の鉄拳を叩き込まれたギーシュは、再び倒れた。 「この……浮気者ォッ!!」 そう叫んだ直後に、倒れているギーシュの顔面を蹴ったモンモランシーはそのまま食堂を後にした。 数分後、気合で起き上がったギーシュは、自分を心配そうに見るシエスタに食って掛かった。 「き、君は…ゴホッ、自分が何をしたのか分かっているのかい!? 君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか! ……ゴホゴホッ!」 どう見ても八つ当たりである。 シエスタの方は思わず涙目になっている。 「も、申し訳ありません!」 「謝ったぐらいで……、な!?」 シエスタを庇うように、オーガンは彼女とギーシュの間に割って入った。 「やめたまえ。君のしていることは完全な八つ当たりだ」 「何だと!」 「事実を言ったまでだ。見っとも無い真似をする暇があるなら、さっきの二人に謝るべきだ」 「君は貴族への礼儀がなっていない様だな…」 「礼儀どうこうは関係ないだろう」 「うるさい! 決闘だ! 決闘を申し込む!」 もはや半狂乱状態のギーシュの絶叫にオーガンは即答した。 「いいだろう」 「では場所を変えよう。ついてきたまえ!」 トリステイン魔法学院、学院長、オールド・オスマンはボーっとしていた。 秘書のミス・ロングビルは公用で外出中である。 「暇じゃのう…。あいつらが生きておった頃は毎日が騒がしくてよかったがのう…。オーガンを向こう側に戻してから散り散りになって、一人ずつあの世に逝ってしもうて…。いまや『バンビーナ団』で生きておるのはわし一人。ハァ…」 昔を懐かしむオスマンだったが、急に学院長室のドアが開けられたことで現実に引き戻された。 「失礼します、オールド・オスマン!」 「コルベールか、ノックしてから入らんかい。まったく、人が昔を思い出している時に…」 「昔を懐かしんでいる場合ではありません。これを見てください!」 そういってコルベールが出した、二冊の本に目を通したオスマンは即座にこういった。 「何じゃ、『バンビーナ団戦記』と『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。これがどうかしたのか?」 このページを見てください。 そういってコルベールは二冊の本をめくり、あるページを見せた。 それは、それぞれ「ショコルナの使い魔」と「始祖の使い魔のルーン」のページであった。 「昨日ミス・ヴァリエールが召喚したゴーレムのような生物と、彼のルーンの事が気になったので調べてみたのです。まずはバンビーナ団戦記のこの記述を見てください」 それには、ショコルナの使い魔の特徴が記されていた。 ゴーレムのような外観と体躯、内部に蠢く肉の塊、そして「オーガン」という名前。 「この本の表紙や押絵のそれとはかなり姿が違いましたが、それ以外は殆どこの本の書かれている特徴と一致し、名前まで同じです。この事を踏まえると、ミス・ヴァリエールの使い魔は「デトネイター・オーガン」としか考えられません」 コルベールの説明を聞くうちに、オスマンの表情は見る間に変わっていった。 「それと、始祖ブリミルの使い魔たちのこの記述も見てください」 そういって、コルベールはあるルーンの模様を指さした。 「これは、ガンダールヴのルーンではないか」 「そうです。彼のルーンの模様は、ガンダールヴのそれと見事に一致していました」 「何と…」 そんなやり取りの途中で、激しくドアがノックされた。 「入れ」 「失礼します!」 オスマンがそう言った直後、年配の教師が慌てて入ってきた。 「何じゃ、騒々しい」 「実は…」 年配の教師は、食堂で起きた騒動と、これから起きる決闘のことをオスマンに説明し、「眠りの鐘」の使用許可を求めた。 「バカバカしい、ほっとけ」 その一言で一蹴し、オスマンは鏡に向かって杖をふった。 それと同時に、鏡にヴェストリア広場の様子が映し出された。 「見物といくかの」 一方、ヴェストリア広場。 「諸君、決闘だ!」 ギーシュの声に、周囲が歓声を上げる。 当のギーシュの眼前には、他の生徒に両脇をガッチリと固められたオーガンがいた。 そして、両脇を固めた生徒が手を離し、後退すると同時に決闘が始まった。 「僕の二つ名は「青銅」だ。それ故、僕はこれで戦わせてもらう」 そう言いながら、ギーシュは薔薇の花を模した杖から花びらを一枚とって、錬成魔法をかけて青銅のゴーレムに変貌させた。 「行け、ワルキューレ!」 オーガンは、ワルキューレの攻撃をのらりくらりとかわしながらギーシュを直接攻撃するチャンスを窺っていた。 しかし、ギーシュはそれに気付いたようだ。 「隙を見て僕自身を攻撃するつもりか。させるか!」 その言葉と同時に、ギーシュは六枚の花びらをとって、全てワルキューレに変貌させた。 一気に激しくなった攻撃を避けるのが精一杯で、オーガンは攻勢に出れなくなった。 そんな光景を見ていたルイズは思わず怒鳴った。 「何やってんの! 元の姿に戻ればすぐにカタがつくでしょ!!」 その指摘を受けたオーガンは、すぐに元の姿に戻る事にした。 薄い影がオーガンの周りに集まって重なり、消えるのと同時にオーガンは元の―ゴーレムの如き―姿に戻った。 「なっ、何だとおぉぉっ!?」 ギーシュの絶叫に続いて、周囲の生徒たちも叫んだ。 『ゼロのルイズの使い魔だったのぉっ!?』 そんな周囲の状況などどこ吹く風らしく、オーガンは気にせずにオーガンランサーを取り出した。 ワルキューレの内の一体を切り刻むオーガンの姿を見たギーシュは、恐れおののくのと同時にあることを思い出した。 「ゴーレムの如き姿、オーガンという名前、そして…剣のような双頭槍……。まさか、『バンビーナ団』のデトネイター・オーガン!??」 ギーシュの言葉を聞いた周囲は更に騒然となる。 そしてオーガンはギーシュの疑問に答えた。 「君の言うとおり、私はかつて『バンビーナ団』のデトネイター・オーガンだった」 「だった? どういう意味だ?」 「既に私はデトネイター・オーガンにしてデトネイター・オーガンにあらず。君や他の生徒たちが「ゼロのルイズ」と呼ぶ少女の使い魔。故に、わが主に付けられたあだ名への怒りからこう名乗らせてもらう」 オーガンはランサーを前に突き出し、叫んだ。 「私はゼロネイター・・・、ゼロネイター・オーガン!!」 その直後、残りのワルキューレたちも瞬く間に切り刻まれた。 「ひいいぃぃっ!!!」 オーガンのあまりの強さに恐怖したギーシュは、「参った」と言おうとしたが、言う前に杖を取り上げられてしまった。 「負けた…」 あまりの早業ぶりに、ギーシュはそう言うしかなかった。 「当たり前じゃ、おぬし如きがかなう相手ではないワイ」 「オ、オールド・オスマン!」 いつの間にかオスマンがそこにいたので、周りのどよめきが激しくなった。 「ホッホッホ、まさか、また会えるとは思わなかったぞい」 オーガンを見ながら、オスマンは言葉を続けた。 「コルベールの言ったとおりじゃの。ショコルナと死に別れ、おぬしを元いた世界に返してからニ百と数十年。本当にお互い変わり果ててしまったモンじゃ」 目の前にいるオスマンが何者かである事をオーガンはすぐに気付いた。 その声、その眼の色、あの時と変わらない声を聞き、その瞳を見たから。 「オスマン……、フレッシュ・オスマン!!」 「ホッホッホッホ。ブリミルに感謝すべきか」 オスマンはそう言いながら、嬉し泣きしていた。 前ページ次ページZERONATORオーガン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4071.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば多くの実を結ぶ》 (新約聖書『ヨハネによる福音書』第十二章より) アルビオン大陸へ侵攻したトリステイン軍は、謎の反乱とゲルマニアの裏切りに遭い、完全に崩壊した。 そしてゲルマニアの貴族、『ガンダールヴ』のダニエル・ヒトラーが放った魔弾によって、 松下・ルイズ・シエスタの三人は同時に胸を撃ち抜かれ、混沌と怒涛の渦巻く奈落の底へ、真っ逆さまに落下していった。 狂信者、第二使徒シエスタは、まだ松下の体を抱きかかえている。 目の前にはピンク色の髪をした貴族、第一使徒のルイズ・フランソワーズも一緒に堕ちていっている。 ついでに第八使徒の占い杖も。 シエスタは、ごふっ、と血反吐を吐いた。おお、私はまだ息がある、生きている。 たかが胸の肉がえぐれて肋骨が数本へし折れて、左肺に穴が開いただけだ。意識だってはっきりしている。 メシアと第一使徒の体が、あの銃弾の威力を弱めてくれたのか。だがメシアは、心臓を正確に貫かれているようだ。 彼の小さな体から、体温がどんどん失われていく。鼓動も脈拍も呼吸も、ない。 いや、メシアがただで死ぬはずはない。たとえ死んでも生き返るのがメシアだ。彼は自らそう語っていたではないか。 私が、使徒が、メシアの忠実なる『はした女』が、彼を信じないでどうするのだ。どんな時でも絶望は禁物だ! たとえこれから落ちゆく先が、海の底でも冥土でも、地獄の底でも。 やがてシエスタの周りに、恐ろしげな光景が無数に現れ始めた。 降り注ぐ砲弾と鉄の雨、飛び散る肉片と血しぶき。爆発と火炎、おぞましい悪魔や亜人どもの哄笑。 必死に守るはずだったタルブやスカボローが破壊され蹂躙され、女子供まで虐殺される。 やがて、王都トリスタニアにも外国の兵隊が攻め込んで来た。ガリア、ゲルマニア、アルビオンが連合したのだ。 あの時タルブがアルビオンに焼き尽くされたのよりも、さらに徹底した破壊が行われる。 祖国はバラバラに分割されて滅亡し、女王陛下や枢機卿も断頭台に送られ、民衆の怒号の中で首を刎ねられる。 ……人間が死ぬときは、それまでの人生が幻のように現れて見えるというが、これは一体何なのだ。 幻か、夢か、あるいは現実か。 続いて現れた光景は、冥土のようだ。空は黒雲に覆われ、言い知れぬ妖気が漂い、遠雷が轟いている。 無人の荒野、原野、岩山、深い夜の森、廃墟となった古代都市の遺跡。 大鴉や禿鷹や大蝙蝠が飛び回り、野犬が死人の骨を齧っている。 地面には蛇やヤモリや蟲が蠢き、人魂が浮かび、蛆のたかった骸骨たちが醜悪な怪物たちと輪舞している。 向こうに見えるのは、無数の死体が浮かぶ煮えたぎった川。暗い森の中で魔物に追われ、貪り食われる哀れな罪人。 さらに獄卒が彼らを切り刻み、燃える穴に頭から突っ込む。まさしく地獄だ。 見ていると、腕の中にいるはずのメシアがそこへ現われ、地獄の魔物どもを瞬く間に従えて地上へ登っていく。 《地獄も地上も一つの世界にしてしまうのだ!》 魔物どもは大地を突き破って地上に現れ、巨大な都市を襲い、占領する。 するとメシアに似た姿の子供たちが数人現れ、こちらも悪魔や魔物を従えてメシアと戦い始めた。 かと思えば七万人ものルイズが一斉に召喚呪文を唱え、七万通りの使い魔が召喚される奇怪な光景。 老若男女、人間も幻獣も亜人も動物も精霊も、何かの機械らしきものもいる。 彼らはてんでばらばらに動き回り、あるいはギーシュをぶちのめし、ゴーレムや悪い貴族と戦うのだった。 ―――恐れるものか! あれらは皆、幻だ! 私とメシアを引き離し、地獄へ引きずり込もうとする、悪魔の罠だ! この腕の中に聖なるメシアを掻き抱いている限り、悪魔どもは私をどうすることもできまい! いや、メシアを狙っているのなら、このシエスタから先に殺せ! 殉教者として天国に入ってやる! やがて猛烈な風が吹き、三人から衣服のように『肉体』をはぎとった。 霊魂のみの亡者となった三人は、さらに冥土の奥底へと落下していった。 《黎明の子、明星よ。お前は天から落ちた。諸々の国を倒した者よ、お前は斬られ、地に倒れた。 お前は以前に心のうちに言った、「私は天に昇り、私の王座を高く神の星の上におき、 北の果てなる集会の山に座し、雲のいただきにのぼり、いと高き者のようになろう」と。 しかしお前は陰府(よみ)に落とされ、穴の奥底に入れられる》 (旧約聖書『イザヤ書』第十四章より) 「ん…………ふわぁあ~………」 外から聞こえてくる子供たちの騒ぐ声と、差し込む鮮やかな陽光で、少女は目を覚ました。 長く繊細なブロンドの髪、それに合わせたかのような細い体。だが胸だけは異様に大きく、歪な印象を与える。 顔立ちからは15、6歳ほどに見えるが、神が造化の妙を集めて作ったかのような美貌のためか、確とした年齢は分からない。 欠伸を一つつき、ぐうっと伸びをすると、彼女は部屋の窓を開けた。 「テファ姉ちゃん!」「ティファニアお姉ちゃん!」「おはよう! よく眠れた?」「わーーっ」 次々に子供たちが駆け寄り、妖精のように美しい少女、ティファニア(テファ)に親しげに纏わりつく。 ここは森の中の小さな集落で、彼女は子供たちのアイドルらしかった。 ふと、一番小さな女の子が、何か言いたそうな顔でもじもじしているのに気づく。はにかみ屋の彼女はいつもこうなのだ。 「あら、どうしたの? エマ。何か私に言いたそうね」 「あ、あの……」 「ほら、怖くないわ。言ってごらん」 「森で、さっき、いちご摘みに行ったらね」 「うんうん」 「……ち、血まみれの、人が、倒れてたの。さ、三人」 テファは、さっと顔色を変えた。子供たちが騒ぎ出す。 「せんそーだ、せんそーだよ!」「アルビオンとトリステインと、ゲルマニアがせんそーしてたってさ!」 「アルビオン側が勝ったそうだから、そいつらよその国の連中だろ?」「なあエマ、どんな奴だった?」 エマは震えながら、見てきたことをありのまま話す。 「ええとね、お、女の人がふたり。テファお姉ちゃんぐらいの年のひとだったよ。 それとね、あたしより少し上ぐらいの、男の子もいたの! む、胸から血が出てたの、三人とも!」 テファは薄絹の上着を一枚羽織ると、窓から飛び出した。 「急いで案内して! まだ間に合うかも!」 自分の庭のように遊び慣れた森を、少女と子供たちは跳ねるように進んだ。 倒れていたのは、確かに三人。女子供までが戦争に巻き込まれるなんて、戦場に近づいて流れ弾でも浴びたのだろうか? 一人はピンク色の髪をした貴族らしき少女、一人は黒髪の平民らしき少女。 そしてもう一人は、テファの半分ほどしか生きていないであろう、小さな男の子だった。三人とも、おそらく外国人であろう。 「これは……すでに事切れている? ……いいえ、まだ何か、命の動きを感じるわ。 母さまが遺した、あの指輪があれば、肉体の損傷は治せるかも……みんな、この人たちを家に運んで!」 テファは男の子の体を抱き上げる。自分の目の前で、子供を見殺しにするなんて真似は決してできない。 ぐい、と身を起こした拍子に、テファの繊細な髪の間から、先の尖った耳が見えた。 ……どれぐらい時間が経っただろうか。 一週間、いや一か月も落ち続けていたようでもあるし、ほんの数十分かもしれない。 いずれにせよ、ここではあまり時間は意味をなさないだろう。 シエスタが目を覚ました時、そこは雪山のようだった。うつ伏していたのは、斜面に積もった雪の上。 周囲は猛吹雪で闇夜のように暗く、見通しはあまり利かない。胸の中には、冷たくなったメシア。 数メイル先には、ピンク頭と占い杖。その他に人影はなく、魔女のホウキもないようだ。 「……雪山、ですって? ここはまさか、アルビオンのどこか?」 胸の傷は、いつの間にか塞がっている。いや、死んで魂だけになったとしたら、傷口も消えるのだろうか? 身を起こす程度の力は残っている。目が闇に慣れてくると、シエスタはあたりを見回した。 どうやら、自分たちは底知れない断崖絶壁の縁近くにいるらしい。近くには高さ数十メイルはある巨石が林立している。 断崖の遥か彼方、深淵の中心部へと、轟々と音を立てて吹雪が吸い込まれていく。 目を凝らすと、そこには何か、途方もなく大きな山のようなものがあるらしい。その山の上の方は三つに分かれている。 シエスタはそれを見て、ブリミル教の寺院にある両手を広げたような『始祖像』を思い出した。 ああ、神よ、始祖よ! なぜ我らを見捨てて、このような場所に送り込んだのか!? メシアは神の御子であり、ルイズは始祖ブリミルの転生、『虚無の担い手』ではないのか!? ならば、ここから救い出して、彼らを生き返らせてみよ!! やがて、ざくっ、ざくっ、と足音が聞こえてきた。二本足だ、人間だ。 ひょっとして悪魔か亜人か何かかも知れないが、何者かはいるようだ。そして、その者の声が聞こえた。 「……そこにおられるのは、メシアですか?」 メシアですか、だって? ああ、『千年王国』の生き残りか! この声は誰か、男性信者のようだ。 「そうよ! 私は第二使徒シエスタ、ここにメシアもおられるわ!! ついでに第一使徒のミス・ルイズ・フランソワーズもね! あなたは誰?」 シエスタは湧き起こった力を振り絞り、喜んで叫ぶ。 だがその返事を聞いた男の声は、震えてかすれた。 「……おおおお、メシア! いずれここに来られるであろうことは聞かされていましたが、 何というところで、何という再会でしょう!! おお、おおお……」 彼は近づいて来ると、メシアの枕元にがっくりと膝をつき、顔を手で覆って嘆き悲しみ始めた。 聞いたことのない声、見たことのない男だった。変わった厚手の服を着ているし、水玉模様のネクタイをしているが、 マントを着けていないということは平民なのだろう。 涙に濡れた顔は、どうやらかなりの年寄りのようだ。 目がぎろりとしていて鼻が異様に長く、側頭部や後頭部に長めの白髪は残っているが、禿げあがった頭をしている。 よく見れば、その頭頂には、小さな角のようなものもあった。シエスタの警戒心が強まる。 「……あなたは、誰なの? 鬼? 悪魔? いいえ、このメシアを知っているということは、『千年王国』の生き残りなのでしょう?」 「おおお、『千年王国』! 確かに、確かにそうです! でも私は、生き残りじゃない! 私は死人なのです、第二使徒のシエスタさん!」 『自分は死人』。男は涙ながらに、そう叫んだ。 「……死人? つまり、亡者?」 「ええ、しかもかつてメシアを、松下一郎を裏切った、大罪人です!」 「う、裏切り者、ですって!?」 男は涙を拭くと、シエスタに顔を向け、真剣な表情で名乗った。 「ここは地獄の一番奥底、《反逆地獄(コキュトス)》の手前です。 神に逆らった罪人や巨人族が幽閉され、虚無の深淵の中で永久に、悲嘆と極寒に苦しめられる場所なのです。 そして私の名は《佐藤》。かつてメシアを裏切って死に至らしめたのち、悪魔に騙されて全てを失い、 20年以上も病苦と悔恨の人生を送らされた、世にも哀れな男です!」 ごおおぉ……ぉおおう、と吹雪が奈落へ吸い込まれる音が、激しさを増して響いた。 (第二部・完) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/5640.html
小林明子 楽曲 コメント 日本の歌手・作曲家・作詞家・アレンジャー。 楽曲 レシラム:真実 ラブカス:恋に落ちて-Fall in love ムンナ:心のシエスタ ねむる必須 シンボラー:HAND IN HAND(sing with杉田二郎・鈴木雄大・佐藤竹善・井上大輔) ソウルオリンピック公式テーマソング ファイヤー:こころの炎 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る ↓追加しました。 -- (管理人) 2012-09-16 11 36 03 草案 ラブカス:恋に落ちて-Fall in love ムンナ:心のシエスタ ねむる必須 シンボラー:HAND IN HAND(sing with杉田二郎・鈴木雄大・佐藤竹善・井上大輔) ソウルオリンピック公式テーマソング ファイヤー:こころの炎 -- (ユリス) 2012-09-15 11 27 17
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6718.html
前ページ次ページゼロの最初の人 飛び立ってすぐ、太公望の腕にかかる力がいきなり増した。 腕の中のルイズが気を失っていることに気付いた太公望は、ひとまず地面に降り立ちルイズを見た。 「なんだ? 今は寝とるだけかのう」 様態を確認して首をかしげる。見たところ――実際は"見た"より"感じとった"の方が正確だが――病気を患っているわけでもなければ、体が弱いわけでもないようだ。あたりまえだがショックで気を失ってしまうような外的ショックがあったわけでもない。 しばらくルイズのほほをペチペチと叩きながら、なぜ気を失ったのかを考えてみたものの、ルイズという少女のことに詳しくない彼には、まったく理解できなかった。 しかし、このままルイズをはたいてるわけにもいかない。 いまだに眠ったままのご主人を彼女の部屋なり休める場所に寝かしておくべきだろう。 しかしながら、召喚されたての太公望がルイズの部屋の場所を知ってるはずもない。 そんなわけで困った太公望が、あたりをキョロキョロ見渡すと、塔の影に体の半分を隠した状態の少女と目があった。 「おーい! そこの、ちょっと」 「ひゃっ!」 なぜだかわからないが、太公望が声をかけると少女は逃げ出した。 「……ここでは、わしはそんなに変なのかのぅ」 やっぱり文化が違うのかの? とついでに呟いて、ルイズを抱え直し、地面を蹴った。 飛行するために地面から足を離したのであるが、今度は先のように飛び上がることはせず、真横にすっ飛んだ。走るよりよっぽど速いので太公望の主な移動手段はこれである。 広場の中心付近にいた太公望らとその少女との距離は人間的な尺度で測るとけっこうなものがあったが、短距離馬クラスの速度で移動する者の場合、話になる距離ではなかった。 すぐに太公望は少女に追いついて肩を軽く叩く。 「少し聞きた」 「ひ?! ひあぁぁあ!! も、もも、申し訳ありません貴族様!!」 肩に手が当たった瞬間、すさまじい速さで反転し土下座する少女。 なんだこやつは? と、あっけにとられる太公望であったが、コルベールから聞いた「貴族は魔法を使役し、平民を統治する」という話を思い出し、合点がいった。 ようするにこの少女は統治される側、すなわち平民であろう。 程度の差はあれど、支配する者と支配される者の間にはこのような"恐怖"の感情が付きまとうものである。 ここは、その程度が"ヒドイ"のだとすれば、目の前の光景もなるほどうなづける。現在腕の中で眠る主人にも貴族と間違えられたのだし、彼女の目にも自分はそう映ったのだろう。 まぁ、「なに」を怒られると思っているのかは全くわからないが太公望にとってはどうでもいいことであった。 「とりあえずおちつけ、そして顔を上げい。わしは貴族ではないし、なにも咎めるつもりはない。ちょっとばかし尋ねたいことがあるだけだの」 顔を上げた少女は、目に涙を湛えながら上目づかいで太公望を見つめる。 ――その少女の顔は整っており、一般的に美少女と呼ばれる者のそれであった。鼻の周りにそばかすは、清純そうな雰囲気を醸し出す黒髪とあいまって、整った"綺麗"なその顔を、親しみやすさのある、"かわいらしい"顔へと変えていた。 ――さらに、その中にどこか古風な日本女性の奥ゆかしさをも感じさせる顔とは対照的な、胸。着衣を持ち上げ、さあ出るぞ飛び出すぞ、と言わんばかりに自己主張するそれはまさに凶器、二丁拳銃、やニ丁バズーカ。 ――服の上からでもわかるくらいに、出るとこは出る。引っ込むとこは引っ込む。そんなスタイルがさらにその凶器の殺傷能力を底上げする。 ――そして、極めつけは少女の服と体勢である。言わずと知れた"メイド服"を身にまとい、きっちりと武器の"顔"、"胸"を見せる体勢。 ――その目に涙なんてもんが浮かんだ日にゃ、男の庇護慾やら加虐欲やら、いろんな本能に根付く欲望をくすぐってしまう。つまりはもう、この世の八割の男は落ちてしまう。そりゃもうきっと堕ちてしまう。 しかし、太公望はそんな男心をくすぐる振る舞いを意に会した風もなく、少女に手を差し伸べた。 少女は礼を言いながらその手を取り立ち上がる。 涙をぬぐい、裾についた泥や土を軽く払った後、姿勢を正して口を開いた。 「お見苦しい所をお見せしました。私はこの学院で貴族の方々に奉公させていただいてる、シエスタと申します」 「そういえば、自分は貴族じゃないって言ってましたけどなんであの場所にいたんですか?」 「んー……サモン・サーヴァント……だったか? まぁそんなので召喚されたらしいのぅ」 現在、太公望はルイズを抱えながらシエスタにルイズの部屋に案内してもらっている。 あのあと、太公望が自分の名前を告げ、事情を話し案内を頼んだ。急なことだったがシエスタはそれを快く受諾した。 しかしなぜ一奉公人でしかないシエスタが、一生徒であるルイズの部屋の部屋を知っていたか、それは学院で勤務する平民内でのシステムが関係する。 学院の奉公人は貴族の頼まれごとなら可能な範囲で何でもやる、いわゆる何でも屋のようなものだという。 とうぜん、もろもろの用事で貴族の部屋に呼び出される事もあり、そんなときはあらかじめ決められた担当の者が出向くらしい。 偶然シエスタは、ルイズを担当していたため部屋を覚えていた。というわけだ。 太公望もあっさり案内しだしたシエスタに、ふと湧いて出たその質問をぶつけたが、その説明で納得していた。 「えっ?! じゃあ、タイコーボーさんって使い魔なんですか?!」 「使い魔といっても、なにをすればよいかまったくわからぬがのぅ」 「へえ~人間が使い魔になるってことがあるんですか?」 「あるんですかもなにも、こうしてわしがいるのだからあるんだろうのぅ。周りを見るかぎりは相当まれなケースのようだが……」 そこで太公望の頭にひとつの疑問がふっと湧いて出た。 「そういえばお主はあそこで何をしておったんじゃ?」 太公望を先導するような形で歩いていたシエスタの肩が大きく跳ねた。擬音で表現するのであれば「ギクッ」が相応しいような跳ね方であった。 「い、いや、別に覗いてななんかいませんですよ」 気が動転して、正確で正解な答えを言ってしまったシエスタは、ルイズに聞かれていないかどうか確かめるためゆっくり首を回す。 太公望は太公望で、貴族の神聖な儀式とやらを覗くのは大罪なのか? と、考えたりしていた。 ルイズがまだ気を失っていることを確認したシエスタは、ササッと太公望の後ろにまわり背中に手を置き力を込めた。 「まぁまぁまぁ、そんなことどうでもいいじゃないですか、もうすぐミス・ヴァリエールの部屋ですから急ぎましょう。さぁ! さぁさぁ!!」 別にそんなに急がずとも、と太公望は文句を言うが、シエスタはそれを聞かず背中を押し、走り続けた。 ただ、ルイズの部屋が近かったというのは本当のことだったらしく、ものの30秒で部屋に着いた。 「そういえば、この部屋に鍵はかかっておるのだろうか?」 「はぁはぁ…………へ? えっとなんて?」 「いや、この部屋は施錠されいるのだろうかと」 ああそれでしたら、とメイド服のちょうど帯のような部分をまさぐりだすシエスタ。 「ん~っと……あ、あったこれです」 太公望は少しあきれた様子でそれを見ていた。 「それは……だれでもそうなのかの?」 「え? どういうことですか?」 「いや、どの奉公人もそのように担当している貴族の部屋の鍵を持っているのかの?」 「あ、いえいえ! 自慢じゃないですが貴族様の鍵を持たせていただけるのは奉公人のなかでも私くらいですよ!」 ちょっとだけ胸を張るような体制で言ったシエスタの顔はなんだか誇らしげだった。 「ミス・ヴァリエールはよく夜食を頼まれるのですが、私の手があく時間でミス・ヴァリエールが指定する時間に届けようとすると、どうしてもミス・ヴァリエールがお風呂に出かける時間になってしまうんです」 「なるほど、それで鍵をのぅ」 「はい! 私のことをそれだけ信用してくださるのです。奉公人冥利に尽きますよ」 いいながらガチャガチャっとシエスタは鍵を開けた。 部屋に入った太公望はすぐにルイズをベットに寝かせようとしたが、シエスタがそれを止めた。 どうやらベットメイクがしたかったらしく、軽くシーツを整えると、太公望に場所を譲った。 「いよっと、これでまあよしだろう」 ルイズをベットにおろした太公望が呟いた。 「では、わたしはこれで失礼しますね」 「あ、ちょっとついでにもひとつ頼まれてくれんかの?」 行こうとするシエスタを太公望が引きとめる。 「え? なんですか?」 「いや、これから少し出たいのだが、このままでわしが出て行ってはルイズが目を覚ました時誰もおらぬであろ? そこでちょっとお主に代筆を頼みたいのだが……字は書けるかの?」 「ああ、それならいいですよ。紙とペンはありますか?」 あたりをキョロキョロと見わたし紙とペンを探す太公望。そんな様子を見て微笑みながらシエスタが別の案を出した。 「なんでしたら私がミス・ヴァリエールをみておきますよ。どうせ戻ってやることも特になかったですし」 「うーむ、まぁそう言うのならお言葉に甘えるとしようかの。ではルイズが目を覚ましたら、日が落ちる頃には戻る。とだけ伝えておいてくれ」 それだけ伝えると、窓辺に歩き、窓を開く太公望。 しかし、その足が窓枠にかかったところで急に太公望が振り返った。 その振り返り方が、なんというかそりゃもう"ぐりんっ"と、人外な動きだったのでだったので、シエスタの口は小さな悲鳴を漏らしてしまった。あと、シエスタにはそのときの太公望の顔がえらく簡略化されて見えていた。 「あ、ここから一番近い町はどの方向にあるかの?」 「あ、ああはい。ここからですと……東の方向にトリスタニアがありますね」 すまぬ、と礼を告げると、太公望は今度こそ飛び去った。 だんだんと小さくなるその背中を眺めながらシエスタは思う、やっぱりタイコーボーさんはメイジなのかな? 杖持ってたし、飛んでるし……だとしたら没落貴族? でも、使い魔のこと全く知らないって言ってたし……というかあの動きができるのは人なのかしら? そんなふうにルイズが起きるまでまったく不明瞭な太公望の身の上について一人思考を巡らせるシエスタであった。 部屋を出た太公望は、まず学院の真上、ハルケギニアの単位で約3000リーグ上空へ飛んだ。 「んーっと、沈む太陽が向こうにあるのだから、東はだいたいこっち……お、あったあった」 そのまま町の影が見えた方に太公望は行く。 だんだんと町の姿が目に大きく映る。 「あれは城か? ふむ、とするとトリスタニアとは城下町なのかの」 そのまま地面に降り町の入り口から入っていった。 「ここの道は歩きにくいのぅ」それが太公望のトリスタニアに対する感想であった。 入り口からまっすぐ城の方へと延びる道であるから、おそらく主要な道なのであろうが、その道幅は5メートルに満たない。 その道幅に対して歩く人が、妙に多いもんだから4、5歩も歩けばすぐ人と肩をぶつけることになる。 とくに行くあてがあるわけでもなかったので適当に歩き、人の流れに流され流され押し出され、一軒の店の前に出たので、そのまま入っていった。 「おや、これはこれは、貴族……様?」 気の良さそうな店主が太公望に話しかけてくる。どうやらこの店は服屋のようだが、この国のお金なんて持っていないし、何よりこの町に来た目的は別のところにあった。 「わしは貴族ではないよ。ついでに言うと何か買いに来たわけじゃないしのぅ」 その言葉で、店主の態度が、がらりと変わった。 「ひやかしならお断りだよ、帰った帰った。金を落とさない客なんて客じゃねぇやな」 「いやいや、ちょっと尋ねたいことがあっての、それくらいはかまわんだろう」 「……はぁ、とっとと終わらしてくれよ」 太公望は店主に礼を言い、じゃあと商品の一つを指さし言葉をつづけた。 「あの服はいくらかの?」 「了承得てからひやかしかい? あんた、たち悪いなぁ…………まぁいいや、えっとあれはな――」 そのあと太公望は、店主に貴族向けの服や平民の服の値段を一通り尋ねていった。 太公望がわざわざ町に出向いた目的は、ここの物価や土地柄などを知ることであった。 召喚された時点でコルベールに聞いておくことも考えたが、あのとき知りたいことは、自分が"いつのどこに"来たかであり、こういった類の情報は二の次であった。 まあ結局、コルベールが言うことの全ては太公望の脳内にある記憶たちのどれとも合致しなかったのだが。 それに情報の価値は、鮮度が良ければ良いほど上がるものだ。あそこでコルベールに聞くよりも現地で聞き込みをした方が、手に入れれるものはやはり大きい。 さて、予定では太公望は、このあと何件か店をわたり同じように聞き込みをするつもりであった。 しかし、ここの店主が口こそ悪いもののじつに気さくな人物で、聞くこと聞くことなんでも答えてくれたので、物価や土地柄に関して太公望が知りたいことほとんどすべてを店主が教えてくれた。 「いやぁ聞きたかったことはもう出しつくしたわ、時間とらせてすまんかったのう」 「まったくだ……っていうかホントに何も買わねぇし、迷惑な客だよ」 「そうは言ってもわしは文無しだからのぅ。まぁしかし恩は返さなければならんのう……」 店主は、顎に手を当てながら考え込む風にする太公望に取り繕うように言った 「あ、いや、別にかまいやしねぇよ。俺んとこも見ての通り暇だったしよ」 「うぬ……確かにわしが来てからしばらく経っておろうに、まったく人が来る気配がないの」 太公望がここを訪れてから、おおよそ40分。言葉の通り一人として店を訪れる客はいなかった。 「はぁ……商品に手抜きしてるわけでもないんだがなぁ……できるだけ素材も職人も選んでるつもりだしよ、この俺だって他の服屋の奴らに仕立ての技術で負けてるとは思わねぇんだ、ただ……立地条件が明らかに悪いんだよ」 確かにこの店が建っている場所は、日の当たり様なところではなかった。 だんだんと暗い表情になりながら店主は言葉を続ける。 「まったく……町の奴らはやっすいちゃっちい服売ってる店に流れるし、かといって貴族の偉いさんがたは "見栄張りたい"つってブランドもんのべらぼうに高い服ばっか売ってる店行きやがるし……高けりゃ良いってもんじゃねえんだよ!」 言いたいことを言いきったらしい店主はカウンターに突っ伏しうなだれる。そんな店主に太公望は聞いた。 「……では、服の良さが分かるような者が来てくれればよいのだな?」 「ん? まぁほんとにそんな奴が来てくれればリピーターにする自身はあるさ」 んー、と太公望はしばらく考えたあと、ポンと手をたたき、こう言った。 「よし、ここの店がこれから儲かるのか、このわしがひとつ占って進ぜよう」 「は?」 その言葉に呆然とする店主。そんな店主をしり目に太公望はいつのまにか桃を取り出していた。 「……えっと、それは? なんだ?」 「ん? 桃だが」 「いや、それは分かる。いったいなにを始めるつもりなんだ?」 「そんなもの桃占いしかなかろう」 ため息をついて、もう勝手にしてくれ、と手をひらひらさせる店主。 「ではではでは……」 一拍置いて何かわからない、少なくともハルケギニアの公用語には聞こえないような奇声を発し始め、その勢いで手に持っていた桃を宙に放る。 投げられた桃は、ハルケギニアにおいても適応されるらしい万有引力に引きずられ落ち行くが、ある高さでちいさなつむじ風に巻き込まれ静止した。 太公望の手を見ると、これまたいつのまにか棒、打神鞭が握られている。どうやらそれを使って桃を浮かす風を起こしているようであった。 「あ、あんた……メイジだったのかい? っていうか何叫んでんだ」 店主の言葉に耳を貸すことなく、順調に、順調に順調に、太公望は狂っていった―― 「キエエェェエェエエェイ!!!」イタコに死霊が舞い降りたときのごとき狂声を発した瞬間、宙に浮く桃が真っ二つになった。 「むっ! これは!」 桃の断面を眺め、太公望は何かを悟ったらしい。 「この店を出て右にまがり、2つ目の左に曲がる角のあたりに迷子がいるはすだから、その子の親を探してやれ。そしたら親があんたの店の商品買ってくれるはずだからのぅ」 言い終わると太公望は、割れた桃の一方をカウンターに置き、もう片方を自分の口に放り込んだ。 わけのわからないことを言い残して帰ろうとする目の前の男を呆然とした面持ちで見る店主。 そんな店主を気に留めるとこもなくモリモリと桃を咀嚼しながら太公望は出口へと歩いて行く。そして、戸に手をかけたときもう一度口を開いた。 「あ、わしが出て行ったらすぐ行くようにのー」 残された店主は少し混乱していたが、パタンという戸が閉まる音で正気に戻り半信半疑ながらも太公望の言葉に従うことにした。 「えーっと2つ目の角、つったらここだよな?」 そっと曲がり角の先をのぞき見る店主。ゴミ箱、ゴミ袋、そして単なるゴミ。そんな異臭漂う裏路地と表通りの境目あたりに小さな男の子がほほを涙で濡らしながらチョコンと座っていた。 そこはほんとに盲点とも呼べるような場所で普通に生活していれば通ることもないだろうし、見むきもしない場所であった。 「え、えっとおぼっちゃんどうしたんだ?」 太公望の言葉通りの展開に、店主は驚き少し声が上ずりながらも、なんとか男の子に話しかけた。 「ふぇ……え、えっとおとっさん……はぐれっちゃって」 男の子の言葉に、思わず店主の口から言の葉が漏れ出る。 「……マジかよ」 前ページ次ページゼロの最初の人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/17.html
>>back >>next 食堂でナニが起きたのか。 まずはそこから説明しよう。 事態は食後の談笑(バカ話とも言う)中にギーシュがポケットから香水の小瓶を落とした事に端を発する。 それを、運の悪い事にデザートの給仕を行っていたシエスタが見てしまったのが2番目のステップ。 シエスタは学院に通う貴族の子弟に奉仕するために働いているわけだから、 当然拾い上げてギーシュへ渡そうとする。それが3番目。 さて、シエスタがやったのは以下の通り。 『貴族が落としたものを使用人が拾った』 以上それだけである。本来何の問題もないこの行動だが、その香水そのものが問題をつれてきた。 ギーシュと会話をしていた中にいたのだ、それが【香水】のモンモランシーが 「自分のために」調合したものであると気づくヤツが。 『女性が、自分が身につけている香りを男に渡し、男がそれを持ち歩いている』 こりゃぁもう完璧だ、ギーシュが付き合っているのはモンモランシーに違いない、 とみんなが思ってもそりゃしょうがない。ぶっちゃけ事実だし。 で、ここで騒ぎが起きる。カズマが聞いたのはまずこれ。 ちなみに、この時点まではまぁ今後ギーシュが標榜する 「薔薇は多くの人を楽しませるために咲く」とかいう行動に差障りが出る以外の問題はないわけで まだよかった。コトが大きくなったのは不幸にも現在進行形で その薔薇とやらに魅せられた者がいたことによる。 一つ下の学年のその少女はせめてもギーシュのそばに居たかったのかギーシュのすぐ後ろの席にいた。 そのせいで今の一部始終が聞こえてしまったのである。 その少女、ケティはギーシュの元に歩いて来たと思うとポロポロと泣き始めてしまった。 「ギーシュ様、やはり、ミス・モンモランシーと…」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」 懸命になだめようとするギーシュであるが、ケティには通じなかった。 「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 ギーシュを思い切りひっぱたいてそう言うと泣きながら早足で立ち去っていった。 このとき響き渡った平手打ちがカズマが聞いたその2。 同じ学年のモンモランシーにも当然今の騒ぎは伝わり、当たり前だが二股がばれる。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで…」 いやいや、本当に遠乗りに付き合っただけで他意はないのだとしたら、 ケティに「君だけ」とか言わなきゃいいんだが、それができないのがギーシュという男である。 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」 モンモランシーは金髪ロールを揺らしてお怒りである。 「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでおくれよ。 僕まで悲しくなるじゃないか!」 芝居がかった大きな身振り手振りで言うが、すっかり聞く耳持たずなモンモランシーは テーブルに置かれたワインの瓶をつかむとギーシュの頭にぶちまけ、そして 「うそつき!」 と怒鳴って、食堂から出て行ってしまう。 さて、ギーシュは基本的に女性に優しい。が、あくまで『基本的には』であり、 時と場合によってそれが適用される範囲が変わる。 機嫌が良い時には酒場のお姉ちゃんに声をかけもするが、 都合が悪い時には自分の責任を棚に上げて女性を非難する場合もある。 そう、今回のように。 「そこの君、待ちたまえ。君のせいで二人のレディの名誉に傷がついた。どうしてくれるのかな?」 犠牲というか生贄になったのは香水の瓶を拾ったシエスタだ。 くどいようだが彼女は自分の仕事をしただけである。当然最初自分のこととは思わなかった。だから再度 「そこのメイド、君だよ」 と言われるまで気づかず、そして気づいたときにはそりゃもうびびった。 軽くパニックを起こして、手に持っていたデザート盆をひっくり返すほどに。 (ちなみに、これがカズマが聞いた三つ目) 自分が何を責められているのかわからず、とにかく貴族にとがめられているというだけで ひたすら謝りたおすシエスタと、その態度に溜飲を下げるギーシュ。 その頃になると、周囲の連中も『この平民にどんな罰を与えるのか』に興味がシフトする。 とはいえ、実のところギーシュとしては話題がそらせられればよかったのだ。 そこまで相手を追い込むつもりはなかったのに、 しかし入った横槍のために引っ込みがつかなくなってしまった。 「なによみっともない、二股かけてるアンタが悪いんでしょ」 別にルイズはシエスタをかばおうとしたわけではない。 カズマのことで頭を悩ませていたところに騒がれたのが疎ましかっただけなのだが 今回はタイミングが悪かった。 「なんだねルイズ、このメイドをかばうのかい? 僕は平民に貴族に対する作法を教えていただけだが」 「どこがよ。アンタがさらした恥をその子にすり替えてるだけじゃない」 ギーシュはギーシュで、ルイズの発言で周りが『そうだ二股じゃん』とか騒ぎはじめたので ここで引き下がるわけにはいかなくなる。 「だがね、彼女がもう少し気を利かせてくれればあの二人にこんな不幸が訪れることはなかったのだよ」 「『こんな不幸』ですって? アンタみたいなのに引っかかってる方がよっぽど不幸だわよ」 ルイズの家庭は厳格な『古いタイプ』の貴族である。最初はただうるさいと思っていただけだが、 こうなってくるとギーシュの態度そのものが気に入らなくなってくる。 「あぁ、君も僕という薔薇の価値がわからない不幸な女性なのだね」 「薔薇? あんたなんか水仙で十分よ」 水仙、すなわちナルシスト。これにはギャラリー全体がドッと沸く。 「フン、所詮ゼロでは僕の魅力はわからないようだね」 「今はそんなこと関係ないでしょ」 「良いのだよ? 僕は君が自身とそのメイドの名誉をかけて僕と決闘したいというのなら」 「貴族同士の決闘は禁止されているわ」 「君は“ゼロ”じゃないか。君が『魔法で』決闘できるとは思えないがね」 悔しい! 一瞬その思いにとらわれてルイズの言葉が止まる。その間に会話に割り込んだ者がいた。 「テメー、激しくムカツクぜ」 「「カズマ(さん)!」」 ルイズとシエスタの声がハモった。 自分の胸ぐらをつかんでいる『ルイズの平民の使い魔』を呆れた風に見ながら、 「やれやれ、自分の使い魔のしつけも満足にできないのか? ゼロのルイズ」 と平然と言い放つギーシュ。 「ルイズもシエスタも関係ねぇ。オレはテメーのその女子供をいたぶる態度が気にいらねぇ」 「ふむ、彼女はシエスタというのか。ならば君が受けるかね? 僕との決闘を」 それを聞いてルイズが悲鳴を上げる。 「カズマ、ダメ!」 「いいぜ、受けてやるよ。遠慮無くボコらせてもらう」 「やめて、カズマ。お願いだからギーシュも」 「よろしい、ならばヴェストリの広場で待っている。負けるのが怖くなければ来ればいい」 結局、二人ともルイズの言葉など聞かず、まずギーシュが去っていく。 「このバカ、何勝手な事してるのよ。今からでも頭下げてきなさい」 「断る。オレはアイツにむかついた、だからボコる。ただそれだけだ」 「アンタはメイジの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるのよ」 それまでギーシュが去った方を見ていたカズマがルイズの方を向く。 「ルイズ、今お前が考えてるそれは『弱い考え』だ」 「違うわ、ただの事実よ」 「弱い考えに反逆しろ。そうすれば強くなれる。オレが兄貴と慕う男に教わったことだ」 そう言うとカズマはギーシュを追いかけるように立ち去っていく。 「何よそれ、ワケわかんないわよ。もうどうなっても知らないんだからー!」 残されたルイズの声がむなしく響いた。 >>back >>next
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1090.html
ルイズはベッドの中で、今日の授業を思い返していた。 小石を材料に練金するというもので、一般のメイジならほぼ100%成功する程の簡単なものだ。 しかしルイズにはそれすら難しい。 いつものように魔法を使い、いつものように失敗し、いつものように爆発した。 爆発の後に聞こえた、ミセス・シュヴルーズの悲鳴が耳に残っている。 ルイズははじめ『爆発に驚いて悲鳴を上げたのだろう』と考えたが、机の下から顔をのぞかせた生徒達まで悲鳴を上げ始めたのを見て、おかしいなと思った。 ふと自分の杖を見てみると、杖を持った右手が酷く焼けただれているのが見えた。 その手で自分の顔を触ると、ぺちゃりと水の感触がした、顔も同じような惨状なのだろう。 しかしルイズは慌てない、今の自分なら、この程度の火傷はすぐにでも再生できる… と思ったが、人前で皮膚を再生させたら吸血鬼だとバレてしまう。 このまま何食わぬ顔で立っていたら怪しまれる、そう考えて、ルイズは気絶するフリを選んだ。 気絶した(フリ)のルイズを真っ先に抱き起こしたのはキュルケだった。 キュルケに続いてタバサが火傷を冷やし、モンモランシーが治癒の魔法をかけてくれた。 レビテーションで私を浮かせ、部屋まで連れて行ってくれたのはギーシュ。 どこからともなく包帯や薬草を持って駆けつけてくれたのは、マリコルヌ。 そして他の生徒達も、交代で治癒の魔法をかけてくれた。 不思議なきもちだった。 『ゼロのルイズ』と言って、ルイズをからかう連中ほど、怪我をしたルイズを心配して治癒の魔法までかけてくれたのだ。 ルイズは『気絶したフリも悪くないな』と思った。 ただ、教室の後ろから「自業自得だぜ」とか「散々爆発に巻き込んでくれたんだ、いい気味だよ」という声も聞こえてきのだが、そいつらには後でお仕置きをしてやろうと心に決めた。 それにしても…と、ルイズはベッドから降りて窓に近づき、月を見上げた。 吸血鬼になってしまったというのに、何の焦りも感じない、むしろ『私は吸血鬼になるのが運命だったのだ』と思わせるほど、ごく自然にこの現実を受け入れていた。 それに、吸血鬼は太陽の光に弱いと言われるが、太陽の光を浴びても、特に何も感じなかった。 太陽の光を浴びても平気な吸血鬼など聞いたこともないが、実に幸運だ。 今日の授業で起こったアクシデントも、考えてみれば幸運かもしれない。 今までは、自分の起こした爆発で自分が怪我することなど無かったが、今回は一時的にとはいえ酷い火傷を負ってしまった。 魔法が失敗して爆発するなど、古今東西の話で聞いたことはない…ということは、自分の弱点を自分だけが持っていると分かったのだ。 なんて都合の良いことだろうと、ルイズは笑みを浮かべた、 気分を良くしたルイズは、大きめのローブを身に纏うと、地面に耳を当てて物音を聞いた。 足音は皆無だが、サイレントの魔法を使われている可能性があるので、皆が寝静まったからと言って油断は出来ない。 再生した顔を見られたら、いくら何でも怪しまれるだろう。 ルイズは髪の毛をセンサーのように働かせて、空気の流れを読みつつ、廊下を歩いていった。 さて、なにを食べようか。 寮塔を出たルイズは花壇の側で空を見上げた、くんくんと鼻をふくつかせ臭いを捕らえる…すると、使用人達の宿舎から、新鮮な排泄物の臭いを感じた。 普通の人間には分からない程微量な臭いだが、吸血鬼の五感なら十分に感じることが出来る。 その臭いが若い女性の臭いだと気づき、ルイズは口を半開きにして、臭いのする方へと歩いていった。 「こんばんは」 「!?」 トイレから出てきた使用人の少女は、突然声をかけられただけでなく、その声の主が包帯まみれなのを見て驚いた。 よく見るとピンク色の髪の毛にマントを羽織っている、声の主がメイジだと気付き、飛び上がるほど驚いた。 それこそお漏らししかねない勢いだったが、残量がゼロだったのが幸いした。 「ねえ…ちょっと、包帯を分けて貰えないかしら」 顔をフードと包帯で隠したルイズ、ハッキリ言ってかなり怪しい。 「ほ、包帯、ですか?」 少女が震えた声で聞く。 「ええ、ちょっと顔を火傷しちゃって…」 そこで少女は、今日貴族の一人が魔法を失敗して、顔に大やけどを負ったという話を思い出した。 「わ、わかりました、すぐお持ちします」 そう言って、使用人の少女は廊下の奥へと歩いていった。 ルイズはその後を追いながら、使用人の少女が右足を引きずっているのに気づいたが、なにも言わなかった。 使用人の部屋はルイズの部屋と同じぐらいの広さだったが、ベッドは五個並んでいる。 共同部屋らしいいが、荷物は一人分しか置かれていない。 おそらくこの少女は数にあぶれて、この部屋に一人で寝泊まりしているのだろう。 「こちらの包帯でお気に召すでしょうか」 「ちゃんと洗ってあるんでしょう?綺麗なら文句は言わないわ」 少女は包帯を巻くのを手伝おうとしたが、ルイズは困ってしまった。 なにせ怪我はもう治っているのだ、怪我を装うために包帯を借りるのだから、顔を見られるのは困る。 「一人で出来るからいいわ」 と言って、フードを被ったまま、器用に包帯を巻きつけた。 「そういえば、名前を言ってなかったわね、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、貴方に何かお礼をしたいわ」 ルイズがフルネームを名乗ったので、その少女は驚いて跪いた。 「平民などに名乗り頂けるなど、も、勿体ないです、あの、私は、この学院で厨房付きのメイドをしている、シエスタと申します」 「そう、シエスタって言うの…ねえ、あなたの右足、怪我しているの?」 「お見苦しいものを見せてしまって申し訳ありません、これは、子供の頃木に登って遊んでいたのですが、ある日脚を滑らせて足の指を折ってしまったのです、水のメイジ様に治療を依頼するお金もありませんでしたので…歪んだまま固まってしまいました」 「そう」 ルイズはシエスタの身体をひょいと持ち上げると、ベッドの上に乗せた。 そして、シエスタの右足を、何かを確かめるように撫でた。 突然のことに驚いたシエスタは、『犯される!』とでも思ったのか、思わず目を固く閉じた。 「もう大丈夫よ、ほら」 ルイズがシエスタの右足から手を離し、今度はシエスタの手を取って、立ち上がるように促す 訳の分からないまま直立するシエスタは、足の感覚がおかしくなっていると気づいた。 …と言うよりは、おかしかった足が、元に戻っていたと言うべきだろう。 「え?えっ?あれ?足が…足が!」 「しーっ、静かに、他の人が起きちゃうわ」 「あっ、ごめんなさい…あの、私、どんなお礼をしたらいいか…」 ルイズに注意され、シエスタは声のトーンを落とすが、興奮は冷めない。 「お礼なんていいわ、あなたの足は骨がちょっとズレていただけ、だから簡単に治せたの」 もちろんルイズの言葉は嘘だ。 血を吸うのと同じ感覚で指を突っ込み、歪んでいた骨の形を矯正した。 実験のつもりだったが、正直、ここまで綺麗に治るとは思っていなかった。 (それに血を少し貰ったしね…) 「?」 「何でもないわ、他の人には転んだら治ったとでも言っておきなさい」 「はい、あ、廊下はお暗いでしょうから、このランプをお使い下さい」 「いらないわよ、だって私、意外と夜目が利くのよ?」 そう言って笑うルイズの瞳が、一瞬、金色に輝いた気がした。 To Be Continued → 2< 目次
https://w.atwiki.jp/moejinro-log/pages/91.html
BBL は言った さわやかな朝がやってきました 村の川辺に無残に引きちぎられたROWLEYSさんの死体が見つかったようです… BBL は言った /chjoin ベンチ裏 BBL は言った 村人の皆様、今日もがんばってください ROWLEYS は言った ♪すすめ すすめ ものども ♪じゃまな てきを けちらせ ♪めざせ てきの しろへ~ ♪オ ゴ レ ス たおすのだ BBL は言った 昼の部スタートです 1 (BBL村) エルレイナ 霊媒CO!オペこくん白!わたし視点では狂人 1 (BBL村) Mrチキン 【占いCO】Jarekyさん●です、ごめんなさい、勘なんです 1 (BBL村) すねすき おお 2 (バッテリー) Jareky 【共有CO】トラップできるかのギリギリまで粘ってみた。すねすきさん噛まれるのに備えて朝一CO準備、 二回連続共有だったのですねさんに出てもらいました。 1 (BBL村) jinjahime そこで黒打ちね 3 (ベンチ裏) オペこ まぁ 1 (BBL村) Jareky 【共有CO】トラップできるかのギリギリまで粘ってみた。すねすきさん噛まれるのに備えて朝一CO準備、 二回連続共有だったのですねさんに出てもらいました。 1 (BBL村) すねすき Jarekyさんは共有です 3 (ベンチ裏) せんこ さー共有トラップは・・・!? 1 (BBL村) エルレイナ 黒でた! 3 (ベンチ裏) せんこ きたー!w 3 (ベンチ裏) シキワロス あ・・・ww 3 (ベンチ裏) オペこ ジンジャさん残ってるし大丈夫か 3 (ベンチ裏) ミクかわいい ぉーヒット 1 (BBL村) Jareky きたーーーーーーーーーーーーーーー 1 (BBL村) jinjahime うっほwwwww 3 (ベンチ裏) オペこ HAHAHA 1 (BBL村) エルレイナ とりあえず昨日の投票わたしはオペこくんいれたよ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ おー、綺麗にw 1 (BBL村) KT なん・・・だと・・・ 3 (ベンチ裏) シキワロス 共有の大勝利 3 (ベンチ裏) シエスタXX トラップきた 1 (BBL村) すねすき トラップきたよーヽ(・ω・)ノ 1 (BBL村) Mrチキン そっちかぁ・・・・ミスった 3 (ベンチ裏) オペこ ひれ伏せよ!!! 1 (BBL村) MB あぁ じゃあ私も灰ですね 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エルさんひあぶりじゃーああああ! 3 (ベンチ裏) せんこ うっは 3 (ベンチ裏) オペこ 共有最高 愛してる んーチュッチュ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ だが断る!w 3 (ベンチ裏) デジュー ヒットしたけどオペこさんはすでに霊界 1 (BBL村) jinjahime トラップかー 3 (ベンチ裏) シエスタXX エルさん死んだ 1 (BBL村) Jareky とりあえずエルさんが狼ですね 3 (ベンチ裏) せんこ いやー 3 (ベンチ裏) オペこ 村が勝てばいいのさ 1 (BBL村) エルレイナ ジャレさん共有! 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エル散飼いましょう 1 (BBL村) Mrチキン 夜中中悩み続けました・・・ 3 (ベンチ裏) せんこ 共有GJだなー 3 (ベンチ裏) BBL チキンさん銃殺対応と化してたのに惜しかったね 1 (BBL村) jinjahime じゃ、エル→チキンで吊り 3 (ベンチ裏) シキワロス ジャレさん2連続共有だったのか・・・ 1 (BBL村) エルレイナ いあ。わたし真霊媒 1 (BBL村) エルレイナ まってまって 1 (BBL村) jinjahime 終わらなければグレーから 1 (BBL村) KT エルさんとチキンさん黒?エルチキ? 3 (ベンチ裏) デジュー これはFOしなかった共有の勝ちだな 1 (BBL村) すねすき まず吊りはエルレイナさんですかねー 1 (BBL村) エルレイナ なんでわたし吊り? 3 (ベンチ裏) せんこ やばいえるりんかわいいwwwwww 3 (ベンチ裏) ソラモニー えるちきー 3 (ベンチ裏) クバリャーナ 粘りがちかぁ 1 (BBL村) エルレイナ わたし真霊だよ 1 (BBL村) MB 真占いの●だからですね 1 (BBL村) Jareky チキンさんが偽者です 3 (ベンチ裏) シエスタXX エルさんかわいそうになるなw 1 (BBL村) jinjahime チキン偽=おぺこ真で 3 (ベンチ裏) シエスタXX これはw 1 (BBL村) エルレイナ いやいや 1 (BBL村) エルレイナ あれだよ 3 (ベンチ裏) オペこ 共有FO賛成しないでよかった 今回の共有大好き 3 (ベンチ裏) デジュー 言い訳が明らかに偽っぽいwww 1 (BBL村) エルレイナ デジュー君が潜伏占いだったんだよ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ しかし、おぺこさん占いでもがんがん突き進むのねぇ 1 (BBL村) Jareky そうするとオペこさんが真 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エルさんきっといま超ハイテンション 1 (BBL村) Jareky そしてえるさんが● 1 (BBL村) MB 今7人ですかね 1 (BBL村) エルレイナ 今はやりの3日目COやろうとしたら 3 (ベンチ裏) リュファ jareさん初日からなんか潜めてそうだったんですけど・・・ 3 (ベンチ裏) デジュー 占いCO!! 3 (ベンチ裏) せんこ 本人の望む偽確状態wwwwww 3 (ベンチ裏) ミクかわいい 必死にログ流そうとしてる 1 (BBL村) エルレイナ かまれちゃったんじゃないかな 3 (ベンチ裏) ROWLEYS お疲れ様ですー 3 (ベンチ裏) デジュー ってアホかww 1 (BBL村) すねすき 霊媒は早々に死んでたのかねぇクマ 1 (BBL村) エルレイナ だって対抗でなかったんだよ? 3 (ベンチ裏) シエスタXX やばいゾクゾクするなw 1 (BBL村) jinjahime デジューさん? 3 (ベンチ裏) シキワロス 霊媒どこいった説www 3 (ベンチ裏) デジュー おつかれ~ 1 (BBL村) エルレイナ おかしいっしょ 3 (ベンチ裏) オペこ エルさんいますごい興奮してそう ハァハァしてそう 1 (BBL村) KT とりあえず二人とも吊りですね 3 (ベンチ裏) クバリャーナ おつかれさま~ 3 (ベンチ裏) オペこ お お疲れ様です! 1 (BBL村) エルレイナ みんなおちつくんだ! 3 (ベンチ裏) せんこ ぁんもう・・・えるりん・・・かわいい・・・・ 1 (BBL村) エルレイナ 冷静になろう霊性に 1 (BBL村) jinjahime まぁ、ローラーする予定だったし 1 (BBL村) エルレイナ 誤字ったw 3 (ベンチ裏) シキワロス おつかれさまです 3 (ベンチ裏) シエスタXX 萌える萌えるw 3 (ベンチ裏) オペこ もう冷静じゃないwwwwww 1 (BBL村) KT 霊媒は黙って吊られるのが(ry 1 (BBL村) エルレイナ わたしが一番冷静じゃなかった[ガーン] 3 (ベンチ裏) ROWLEYS いやぁ、ちと今回はいろいろやらかしましたorz 1 (BBL村) Jareky 霊媒候補:デジューさん、にせむらさきさんあたり? 1 (BBL村) エルレイナ 2COならロラもわかるんだよ 3 (ベンチ裏) せんこ いらしゃりーん 3 (ベンチ裏) シエスタXX おつ~ 3 (ベンチ裏) ROWLEYS |ω )おつかれさまですー 3 (ベンチ裏) せんこ 鼻血でそう 1 (BBL村) エルレイナ 1COで真霊確定してるのに吊りはひどい! 3 (ベンチ裏) ミクかわいい いらしゃんせ~ 3 (ベンチ裏) せんこ やっぱうちドSだわwwwww 3 (ベンチ裏) オペこ さてネタバレは禁止だが霊媒は誰だ 1 (BBL村) jinjahime 霊媒ってね、悲しいお仕事なのよ? 1 (BBL村) KT 真狼ー狂 ってことだったのかな 3 (ベンチ裏) ミクかわいい [ニコッ]ノハーイ 1 (BBL村) すねすき エルレイナ→チキン は確定として 3 (ベンチ裏) クバリャーナ いやもうデジューさんしかw 3 (ベンチ裏) シエスタXX ほぼ確定してんじゃない 3 (ベンチ裏) せんこ 霊はあれでしょ 1 (BBL村) エルレイナ いやいやw 1 (BBL村) MB このまま噛みが通るとしたら共有→共有となって私 KT Jinjahime の3人がのこるんですかね 1 (BBL村) KT ちがうか・・・●だから 1 (BBL村) エルレイナ 確定しちゃだめでしょ 3 (ベンチ裏) オペこ (^ω^)・・・・ 1 (BBL村) すねすき それで終わらなかったらどうしようかねクマ 1 (BBL村) jinjahime あとはグレー考察か 3 (ベンチ裏) せんこ 霊媒の伝道師でしょう 1 (BBL村) エルレイナ わたしつったらPPされるよ 3 (ベンチ裏) シエスタXX ファッションセンスがアレな人です 3 (ベンチ裏) BBL ネタヴェレ前に約確定が多すぎるなあ 3 (ベンチ裏) デジュー えっ? 1 (BBL村) エルレイナ 残り7だよね? 3 (ベンチ裏) オペこ エルレイナさんもがきすぎwwwwww 1 (BBL村) jinjahime 寡黙潜伏ならKTさんって感じだけど 3 (ベンチ裏) シキワロス PPされるよってww 3 (ベンチ裏) クバリャーナ と思わせておいて、ココで霊媒の伝道師、私が霊媒です(迫真 1 (BBL村) Jareky シエスタさんどうだったのかな?無抵抗すぎた 3 (ベンチ裏) せんこ COなしのときがちょっとひっかかったんだよねぇ 3 (ベンチ裏) オペこ この前もすごかったらしいけど今回もすごい 1 (BBL村) jinjahime あからさまか 3 (ベンチ裏) ソラモニー でっじゅー霊媒ー 1 (BBL村) エルレイナ シエスタさん狼だって 1 (BBL村) MB やっぱりJinjaさんの色が分からない 一般論が多すぎる 1 (BBL村) Jareky デジューさんが真占いだったらあきらめる 1 (BBL村) KT 私寡黙じゃないんだが・・・まぁ中身無い発言ばかりとみれたのかな 1 (BBL村) エルレイナ わたし吊りはほんとやめたほうがいい BBL は言った 5分経過 3 (ベンチ裏) せんこ まぁ無理にあがいて狼に透けるよりかは黙って吊られたほうがいいかー 1 (BBL村) jinjahime 印象だけどね 1 (BBL村) エルレイナ チキンさんがわたし占って白だしたら残して! 1 (BBL村) すねすき 自分jinjaさんは村っぽいかなと思うクマ 1 (BBL村) Jareky エルレイナさんノイズです。あとの話にしましょう 1 (BBL村) KT わたしより神社さんのが寡黙というか色見えない 1 (BBL村) jinjahime MBさんほど目だってない感じ 1 (BBL村) エルレイナ ひどいwwww 3 (ベンチ裏) デジュー 狼1は吊ってるのかな。PPないし 3 (ベンチ裏) シエスタXX www 1 (BBL村) エルレイナ みんな騙されるな! 1 (BBL村) エルレイナ これは陰謀! 1 (BBL村) KT エロレイナさんはおいといて 1 (BBL村) Jareky 自分はjinjaさん、MBさん村視です 3 (ベンチ裏) クバリャーナ エルさんかわいいなぁw 3 (ベンチ裏) こるくびん いやでもこの土俵際の粘りは見習うべきかもww 3 (ベンチ裏) ミクかわいい エルさん錯乱してる 1 (BBL村) jinjahime 今日は私おとなしいと思うけどね 1 (BBL村) エルレイナ ってかあれだけ2日目に潜伏やめてっていってるのに 1 (BBL村) エルレイナ なんで真占い潜伏してるの… 3 (ベンチ裏) シエスタXX これさー 1 (BBL村) Jareky 先週の自分の姿を見るようだ>エルレイナさん 3 (ベンチ裏) クバリャーナ そして出る、嗚咽に近い本音w BBL は言った あと1分 1 (BBL村) エルレイナ いや…みんなまってorz 3 (ベンチ裏) シエスタXX 万が一デジューさん占いだったら 3 (ベンチ裏) シキワロス ww 1 (BBL村) すねすき ムラサキさんだったら潜伏しそうな気配がしていたような 1 (BBL村) エルレイナ わたしは村人だ! 1 (BBL村) Jareky ですね 3 (ベンチ裏) シエスタXX みんなエロさんみたいになるかもねw 1 (BBL村) KT 吊余裕ってもうないよね あったら私吊ってくれればグレー減らせるけど 1 (BBL村) エルレイナ もうこの段階でわたしつったら詰むよ… 3 (ベンチ裏) リュファ ・・・潜伏? 3 (ベンチ裏) デジュー いや、占いとかないからww 1 (BBL村) Jareky 今日はエルさんでしかないとおもう BBL は言った 20秒前 1 (BBL村) jinjahime 役職両方偽だから 1 (BBL村) エルレイナ 霊わたししかいなかったんだよ? 1 (BBL村) MB KTさんは昨日灰が減るからっていって共有COを要求していたのが村目かなと思ってます 偽に地雷踏ませたくない狼なら言いづらい気もしますし… まだ決め打てるレベルではないですが 3 (ベンチ裏) デジュー え、視線が痛いんだけど・・・? BBL は言った ---------STOP--------- BBL は言った ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) エルレイナ オペこさんが村騙りもあるんじゃね? 3 (ベンチ裏) リュファ ・・・残り狼わからない・・・ですよね? 3 (ベンチ裏) ソラモニー ・ω・ BBL は言った 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) BBL は言った 投票は私に直接Tellでお願いします 1 (BBL村) BBL -------------------- 1 (BBL村) BBL 7日目終了 1 (BBL村) BBL -------------------- 3 (ベンチ裏) シキワロス 村騙りwww 3 (ベンチ裏) オペこ だめだエルレイナさん面白すぎる 死ぬ MB は BBL に言った エルレイナさんに投票します 2 (狼打線) jinjahime エルレイナ 2 (狼打線) エルレイナ トラップこわいから共有出したかったのにいいいい 3 (ベンチ裏) クバリャーナ やめたげてよぉ!w 3 (ベンチ裏) オペこ 夜中なのに夜中なのに 2 (狼打線) エルレイナ もう自分に投票したいわこれww KT は BBL に言った エロレイナさんもといエルレイナさんでお願いします。 3 (ベンチ裏) せんこ えるりんはうちのじゃ!← 2 (狼打線) シエスタXX (必死乙w 2 (狼打線) jinjahime 狂人のおばかあああああああ 3 (ベンチ裏) せんこ お持ち帰りするのおおおおおお 3 (ベンチ裏) こるくびん 壮絶な嗚咽だった すねすき は BBL に言った エルレイナさんに今度こそ投票! Jareky は BBL に言った エルレイナさんに投票 3 (ベンチ裏) ROWLEYS お持ち帰りっΣ(´∀`;) 3 (ベンチ裏) オペこ エルレイナさんなら今私の上空2mにいるよ 3 (ベンチ裏) ミクかわいい フワッ 2 (狼打線) jinjahime 黒引けない占い師で最後まで通ればよかったのに・・・ 3 (ベンチ裏) シキワロス 届きそうで届かない 2 (狼打線) jinjahime 一応、チキンさんにいれますか 2 (狼打線) エルレイナ うむ… 2 (狼打線) エルレイナ 了解w 3 (ベンチ裏) ROWLEYS せんじょうがはらさんですね、わかります jinjahime は BBL に言った 投票>チキン 3 (ベンチ裏) デジュー MVPエルレイナ異論は認める 3 (ベンチ裏) イクさん ミクかわさん私にお持ち帰りされませんか? 3 (ベンチ裏) オペこ でも 3 (ベンチ裏) シエスタXX まあもうすぐベンチ入りするだろ 3 (ベンチ裏) ミクかわいい (([ガーン])) 3 (ベンチ裏) オペこ どう見ても真っ黒なのにあがく姿勢は 3 (ベンチ裏) オペこ 格好いい 3 (ベンチ裏) せんこ あぁもう・・・えるりん・・・はぁはぁはぁ エルレイナ は BBL に言った 自分いれたいですorzでも鶏肉パンダに投票~ 3 (ベンチ裏) クバリャーナ やっぱりメモは大事だなぁ、推理のピントががっつりはずれるw Mrチキン は BBL に言った Jarekyさんで BBL は言った あと1分 3 (ベンチ裏) シエスタXX で、残り狼はどこか 3 (ベンチ裏) せんこ やばい相当暴走してきた BBL は言った 20秒前 投票結果 エルレイナ 4 Mrチキン 2 Jareky 1 3 (ベンチ裏) オペこ うん それですね エルレイナさんの影で全然見えませんが 3 (ベンチ裏) せんこ 落ち着けうち 3 (ベンチ裏) オペこ まだいるんでしょうかね 3 (ベンチ裏) シエスタXX 2~1になるんかな 2 (狼打線) jinjahime 噛みは、すねさまいくかー BBL は言った さよならエルレイナさん…あなたの勇姿は忘れない 3 (ベンチ裏) デジュー たぶん1かな 3 (ベンチ裏) ROWLEYS 次でLWってことでしょうね BBL は言った /chjoin ベンチ裏 BBL は言った 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です エルレイナ は言った わたしは無実よぉぉぉぉぉぉぉ[ウワーン] 3 (ベンチ裏) せんこ キター BBL は言った 役職の方は私にTellお願いします 2 (狼打線) BBL -------------------- 2 (狼打線) BBL 会話可能時間スタートです 3 (ベンチ裏) せんこ かわいいwwwwwwww 3 (ベンチ裏) シキワロス くる・・・ 3 (ベンチ裏) こるくびん 残念だが当然 3 (ベンチ裏) デジュー 英雄が・・・来る! 2 (狼打線) jinjahime グレーのこしで両方ヘイト私かよ・・・ 3 (ベンチ裏) デジュー なかなかこないの 3 (ベンチ裏) ミクかわいい いらしゃんせ~待機 3 (ベンチ裏) エルレイナ ぞんびいーn 3 (ベンチ裏) せんこ えるりん愛してるぅうううううおつかれさま! 3 (ベンチ裏) ミクかわいい いらしゃんせ~ 3 (ベンチ裏) リュファ いらっしゃい。霊界はエルさんの話題で大賑わいでした。 3 (ベンチ裏) オペこ ようこそWWWWWWベンチ裏へWWWWWWさぁWWWWWW 3 (ベンチ裏) シエスタXX エロさんハアハア 3 (ベンチ裏) イクさん できちゃったみたい・・・? 3 (ベンチ裏) デジュー いらっさー 3 (ベンチ裏) こるくびん ようこそwwwwwwwww 3 (ベンチ裏) クバリャーナ おつかれーーーー 3 (ベンチ裏) シキワロス いらっしゃい! jinjahime は BBL に言った 役職行動>すねすきさん捕食 クマーーーーprpr 3 (ベンチ裏) エルレイナ 真占いどこだよぉぉぉぉぉ 3 (ベンチ裏) ROWLEYS |ω )いらっしゃいましあ~ 3 (ベンチ裏) デジュー あがき乙 3 (ベンチ裏) せんこ えるりんまじかわいい 3 (ベンチ裏) イクさん ベンチ裏総出でお出迎えですね 3 (ベンチ裏) クバリャーナ すごい、かわいかったですwwww 3 (ベンチ裏) オペこ もがきが壮絶すぎてめちゃくちゃ笑いました 夜中なのに BBL は jinjahime に言った 噛み先了解しました 3 (ベンチ裏) エルレイナ いや 3 (ベンチ裏) ROWLEYS (*´Д`)ハァハァ 3 (ベンチ裏) エルレイナ わたし真霊だって 3 (ベンチ裏) シエスタXX もうね、ご飯3杯いけちゃう 3 (ベンチ裏) ソラモニー ・ω・ 2 (バッテリー) すねすき |ω・)ふぃー 3 (ベンチ裏) ミクかわいい ちょっと電波が悪くて聞こえませんね 3 (ベンチ裏) エルレイナ ちょw 3 (ベンチ裏) せんこ しかしえるりんはうちのだ← 3 (ベンチ裏) エルレイナ あれはひどいww 3 (ベンチ裏) シキワロス 本当に真霊だったら 3 (ベンチ裏) こるくびん 苦しむにゅたこはぁはぁ 3 (ベンチ裏) シキワロス おもしろいなー 3 (ベンチ裏) ソラモニー じゃあ占い二人偽物ー 3 (ベンチ裏) オペこ 「オペこさん村騙りあるんじゃね?」← 3 (ベンチ裏) エルレイナ 2日目にあれだけ潜伏やめてっていってるのに 3 (ベンチ裏) エルレイナ 最後のはネタだよ! 3 (ベンチ裏) オペこ めっちゃ笑いましたw 2 (バッテリー) すねすき MBさんに囲いの線もあるんじゃないかと思ったけど、チキンさんが狼かは分からないクマねー 3 (ベンチ裏) オペこ うーんそれにしても私の信用度はどうしてこうも低いのだろう 3 (ベンチ裏) エルレイナ 最近3日目に占いCOするのが多すぎなんだよorz 3 (ベンチ裏) シエスタXX え、アレだけ真実かと・・ 2 (バッテリー) Jareky エルレイナさんの粘りは見上げたものがありました(過去形 3 (ベンチ裏) オペこ ↑??????????????? 2 (バッテリー) すねすき とてもねばねばでした! 3 (ベンチ裏) オペこ 結構心っぽい子といっていると思うんだけどなぁ 3 (ベンチ裏) オペこ 真 3 (ベンチ裏) シエスタXX なんだちがうのか 3 (ベンチ裏) デジュー さて、残り狼はどこだろなー? 3 (ベンチ裏) オペこ せんこさん銃殺もあの文はさすがに用意できないとおもうんだけ・・・・あー 3 (ベンチ裏) オペこ マクロか 2 (バッテリー) Jareky ホントにデジュー潜伏占いだったら初っ端噛みの狼に完敗でOKです BBL は言った あと1分 3 (ベンチ裏) オペこ 長文用意したからって信じてもらえるわけでもないか 3 (ベンチ裏) デジュー 中身も大切 3 (ベンチ裏) クバリャーナ チキンさんどっちなんだろ 3 (ベンチ裏) シキワロス 呪殺がある以上真いるしなー 3 (ベンチ裏) オペこ おいいww 2 (バッテリー) Jareky KTさん,jinjaさん、MBさんがグレイ 2 (狼打線) jinjahime これで狩人はないよなぁ 2 (バッテリー) すねすき それならもう色々と諦めるしかない 3 (ベンチ裏) シキワロス 狂かな? 3 (ベンチ裏) リュファ でも先にチキンさんがソラモニーさん○とか言ってましたから。 BBL は言った 20秒前 2 (バッテリー) Jareky それは考えない。村人騙りが出た時点偽確信 3 (ベンチ裏) オペこ あれ? 3 (ベンチ裏) ソラモニー ソラ○っていわれたっけー? 役職行動 噛み すねすき BBL は言った ---------STOP--------- BBL は言った ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 1 (BBL村) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- 2 (狼打線) BBL ---------STOP--------- [[6日目へ 2012-3-17 BBL村 Part6]] [[8日目へ 2012-3-17 BBL村 Part8]]
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1517.html
前ページ次ページゼロのアトリエ その日、ヴィオラートたちはシエスタの生家に泊まることにした。 貴族の客をお泊めするというので、村長までが挨拶に来る騒ぎになった。 最初は緊張して、必要以上に丁重な態度をとっていた両親だったが、私が奉公先でお世話になっている人たちよ、とシエスタが紹介するとすぐに相好を崩し、いつまでも滞在してくれるようにと言った。 久しぶりに家族に囲まれたシエスタは幸せそうで、楽しそうで、ヴィオラートは何だかシエスタがひどく羨ましくなってしまった。 兄は元気だろうか。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師30~ 砂時計の修理は、少なくともルーンの力を得たヴィオラートにとっては簡単だった。 固定化の呪文がかけられていたので、部品そのものは全て揃っていて、ほぼ完全な状態を保っている。 いつも通り赤いバッグの中から必要な道具を取り出して、ヴィオラートは砂時計の修理を試みる。 その日の夜半、竜の砂時計は早くも往年の輝きを取り戻した。 翌朝。完成した竜の砂時計をちらりと見て、キュルケが言った。 「あたしも行くわ」 しかし、ヴィオラートは黙って首を振ると、その申し出を否定する。 「この竜の砂時計で過去に行けるのは一人だけなんだ」 「そうなの?」 「それに、日時、場所、その限られた条件下でしかこの…時間を越える効果は発動できない。 それに日記にある…過去に行ったとされるのはあたし一人だから、あたし一人で行かないといけない。 でなければ、過去が変わって現在に思わぬ影響が出るかもしれない」 「そっか…じゃあ、あたしたちは先に学院に戻ってるわね」 そう言ってタバサを見たキュルケに、タバサはただこくりと頷いて答える。 キュルケとタバサは、一足先に魔法学院へと帰ることにした。 「…さて。じゃああたしは、これからエスメラルダさんに会わないといけないんだよね」 ヴィオラートはそう言って、シエスタに視線を向ける。 「は、はい?なんでしょう、ヴィオラートさん」 「この近くに、人気のない廃屋はないかな?何年も、人通りすらなかったような… エスメラルダさんだけが、通っていたような…」 「え?えーと…」 シエスタはちょっと考えて、記憶の糸を手繰り寄せた。 「たしか、森の中に私が生まれる前からあるっていう廃屋があったと思います…あそこなら、 祖母以外は誰も近づかないんじゃないでしょうか。そもそも危険だし、八年前には既に壊れかけてたらしいって」 シエスタがそこまで言うと、シエスタの父が言葉をついで答える。 「たしかもう何十年も前になりますか。元貴族の盗賊か何かが作った隠れ家だったって話ですが… まだ若かったうちのばあさんが追っ払いまして。まあ、めぼしいものはばあさんが取り返してきたし、なにしろ元貴族の盗賊が作ったものなんでどんな罠があるやら…壊すのも手間だし、今まで何となく放置されてるって感じですかね。 あそこなら、うちのばあさん以外誰も近づかないんじゃないでしょうか」 ヴィオラートは頷いて、シエスタに案内を頼んだ。 村からわずかに外れた森の中に、なるほど、たしかにそれらしい廃屋があった。 最後に人が入ったのは何年前の事だろうか、廃屋は既に朽ち果て、雨露さえもしのげないほどに崩れ去っている。 「ここが、例の廃屋です」 「うん。それじゃあ行ってくるね」 ヴィオラートはそう言って、朽ちた廃屋の扉を壊して開ける。 「え…これは!?」 その瞬間目に入った光景に、思わず動きを止めて、ヴィオラートは声を上げる。 床に、何回も何回も書き直された魔法陣が描かれていた。 「これは…そっか、エスメラルダさんが…でも…これじゃ、発動するわけないよね」 全く意味のない文字が大量に描かれているし、年月の為か、ところどころかすれて来ている。 さすがに、知識もなしに竜の砂時計の効果を発動させる魔方陣を再現するなど土台無理な話だったのだろう。 しかし、やらずにはいられなかった事は理解できた。わずかな記憶を頼りに、いつか帰れると信じて。 「でも…おかげで、どうすれば時間を遡れるのか、完全に理解できた」 ミョズニトニルンの力を得た今なら、竜の砂時計の構造やシステムと照らし合わせ、正しい文字や式を付け足して魔法陣を完成させることができる。 この日記に今、この場所が書き残されていたことも、やはり意味はあったのだ。 魔法陣を修復する作業を始めたヴィオラートを前に、シエスタが迷いながらも言伝を頼んだ。 「あ、あの、元気で…今も皆、元気でやってるって。それだけ伝えてください」 ヴィオラートは微笑んで、承った。 「うん。しっかり伝えるつもりだよ」 どのみち、エスメラルダとは初対面になる。 シエスタの名を出さないと、始まる話も始まらないかもしれない。それは予想していたから。 そして完成した魔法陣の上に立ち、ヴィオラートは砂時計を掲げる。 砂時計とルーンの光が共鳴し、数瞬ののち、ヴィオラートは跡形もなく消え去った。 「本当に…本当に、あの砂時計で、時間を越えられるんだ」 シエスタは呆然と、ヴィオラートの消え去った魔法陣を見つめていた。 八年前…過去に遡行したヴィオラートの目に最初に飛び込んできたのは他でもない。 ヴィオラート自身。そう、もう一人のヴィオラートの姿。 「あたしは…あなたから見て未来のヴィオラート、ってことになるのかな?」 未来のヴィオラート。そうだ、想定しなかったわけではない。 竜の砂時計をその手にした時から予測していた事態が、現にここに現れたのだ。 「具体的には…この世界から去って自分の世界に帰る直前のヴィオラート。だね。 確実に二人きりになれて、絶対に他の人にばれない、それでいて時間を越えられる…そんな条件の時はここしかないから、今ここで会ってる」 未来のヴィオラートは、ゼッテルを束ねた冊子をヴィオラート… 現在のヴィオラートに手渡して、言った。 「ここに、あなたの『今』からあたしの『今』までの出来事が記されてる。これを渡すためにあたしは来た」 現在のヴィオラートは、未来の自分の真意を量りかねて、ただ呆然と未来のヴィオラートを見た。 「あたしは…あなたは、『これ』を渡されて悩む事になる。そしてその選択の結果、あたしがここにいる」 「でも。これが、竜の砂時計を持つということ。時を越える術を手にした時に背負うもの」 そこまで言った未来のヴィオラートは、無言で過去の自分を見つめる。 現在のヴィオラートも、ようやくまともな平常心を取り戻して、未来の自分を見つめ返した。 「…あなたは、過去のあたしだから、これ以上の言葉を重ねる必要もないと思う。 でも、あたしが過去…今ここで、未来の自分に言われた事は言っておかなきゃいけない」 今ここで…この廃屋で、『未来のヴィオラート』もこれと同じ体験をした、という事だろうか。 「既にあたしがこうして介入したこの世界では、何もしないということは、何もしないという選択をしてることになるってこと。 『これ』を読まないことこそが、未来を書き換える事に繋がるという事」 「…わかってる。」 現在のヴィオラートはさすがに緊張して、震える手で紙束を受け取る。 「…あたしと同じ選択をしろとは言わない。でも多分、あなたもあたしと同じ道を歩む事になる」 未来のヴィオラートは後ろを向いてから、過去の自分に言葉を残した。 「それと…あたしが後悔してないって事だけは…教えておくよ」 それだけ言って、未来のヴィオラートは、砂時計の光の中に消える。 今現在を生きるヴィオラートは、無言で紙束を見つめ続けた。 十分すぎる時間が過ぎ去った後、残されたヴィオラートは小さな一歩を踏み出した。 エスメラルダに会うために、未来への一歩を踏み出すために。 竜の砂時計を持った者として、確かに一歩を踏み出したのだ。 外に出ると、日記に書かれていたとおり、廃屋の前に立ってエスメラルダを待つ。 こちらでも朝、陽はようやく南中の半分まで達したところだ。 しばらくすると、老齢の女剣士が歩いてくるのが見えた。 「…貴女は誰?」 「あたしはヴィオラート。錬金術師です」 ヴィオラートはそう答えると、日記と…竜の砂時計を見せた。 「そう…錬金術師が、ついに…」 既に頭部を白髪に覆われたエスメラルダは、 ようやく求め続けた錬金術師に巡り会えた深い感動に打ち震えつつも、言った。 「いつか…いつかめぐり合えると信じていました。このために私は…」 しかし、次いで出てきた言葉は予想通りの…いや、 既に決まっていたことを確認するかのような、澄みきった一言であった。 「私は既にこの世界の者。だから、戻ろうとは思わない。日記を見た貴女なら、わかってくれると思うけど」 それも予想していた答えだった。この日の後も日記が続いているという事は、彼女はここに残ったという事… エスメラルダは、まだ機能している廃屋の扉を開けると、中から粗末な箱を取り出して、ヴィオラートに手渡した。 「これが私が元の世界から…グラムナートから持ってきた全て。 できれば元の持ち主に返したかったのだけれど…あなたに渡しましょう」 かなり大きい箱だったが、ヴィオラートは中身を分散整理して、腰の秘密バッグに詰め込む。 「あら、それはあなたが作ったの?最近は錬金術も色々進化してるのね」 エスメラルダは初めて見る奇妙な道具に驚き、そしてその驚きそのものを懐かしみ、遠い目をして言った。 「私はこの世界に来て幸せだった。自信をもってそう言える。だから…」 「私は、ここにいる」 そう言ったエスメラルダの目には、深い充足と自らの辿ってきた道への自信が溢れていて。 だから、ヴィオラートは無言で、ただ微笑んで、シエスタの言伝だけを伝えることにした。 「シエスタちゃんがよろしくって…皆元気でやってるって。そう伝えてくれってだけ、言われました」 「あら、シエスタが?あの子、元気でやってる?」 「ええ、最近はあたしが錬金術を教えてるんです…ちょっと、引っ込み思案な所はありますけど…」 「シエスタが錬金術を…これも、何かの縁でしょうか。そう、あの子が錬金術師に…」 そこまで言ったエスメラルダは、何かを思い出したのか、真剣な表情に切り替わって話し始めた。 「…その…あなたがシエスタの…あの子のことを少しでも大切に思ってくれているというなら、話しておかなければいけないことがあってね?」 「何ですか?」 「あなたの…その、額のルーンにかかわることなのだけれど」 ヴィオラートは目を見開いて、エスメラルダを見つめる。 昇りかけであった陽は既に南中し、傾き始めていた。 魔法学院。錬金術工房の中で、ルイズが首を傾げつつ、戻ってきたキュルケとタバサを迎えている。 「ヴィオラートはどうしたの?」 ルイズの問いに、キュルケは「ちょっとあってね」とだけ答える。 「うーん、この『カリヨンオルゴル』が鳴らない原因を一緒に調べて欲しかったんだけど…」 「あら、調べるぐらいならあたしでも協力できるんじゃない?」 「貴女じゃダメ。第一、貴女って装飾品作ったことないでしょ?」 それもそうだ。キュルケは納得し、ルイズのことはヴィオラートに任せ、自分は自分の勉強に戻ることにした。 日が傾き、空が夕焼けに染まる頃、ようやく当のヴィオラートが姿を現した。 「ただいまー」 待ち構えていたルイズは、さっそくヴィオラートに質問をぶつける。 「ねえ、ヴィオラート。この『カリヨンオルゴル』が鳴らないのよ。ちゃんと作ったはずなのに…」 「そう。ちょっと見せてね」 ヴィオラートはそう言って、ルイズの作ったカリヨンオルゴルを手に取る。 そして、一旦カリヨンオルゴルを置くと、今度は何気なくルイズの傍に置かれた『始祖のオルゴール』を手に取り、何かに納得するように頷くと、言った。 「この『カリヨンオルゴル』は、特定の人にしか届かない音を出してるみたいだね。奏者って、聞いた事ない?」 「奏者?ちょっとわかんないかな…特定の人にしか届かないとか、それって一体全体どういう話になってるの?」 「そのうち…そうだね、あと三日もすればわかるから、その時話すよ」 何かを隠しているような、ヴィオラートの態度。 ルイズは少し不満げな顔をしたが、ヴィオラートの言う事ならばと納得し、 「じゃ、三日だからね?その時までに説明してよ?」 そう言って、期限の迫った詔をこねくりまわす作業を始めた。 「なにをしてるの?」 ヴィオラートの問いに、「詔」とだけルイズは答えて、途中まで何かが書かれた紙に向き合うが…羽ペンを持ったルイズの手は、一行たりとも進もうとしない。 「姫様の結婚式はもうすぐなのに…詔がまだ完成しなくて。いい言葉が思いつかなくて困ってるの」 「そうなんだ。ルイズちゃんなら大丈夫だと思うよ。頑張ってね」 ヴィオラートの気のない返事に、ルイズはちらりと視線を向けて言った。 「…ちょっと来なさい、一緒に考えてもらうわ。他に、話もあるし」 それからルイズは、ずるずるとヴィオラートを部屋まで引っ張っていった。 「じゃあ、とりあえず考え付いた分だけでも読み上げてみたらどうかな?」 部屋に着いたルイズは、こほんと可愛らしく咳をして、自分の考えた詔を読み上げる。 「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る…」 それだけ言うと、ルイズは黙ってしまった。 「続けないの?」 「これから、火に対する感謝、水に対する感謝…順に四大系統に対する感謝の辞を、 詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげなくちゃいけないんだけど…」 「韻を踏みつつ詠みあげればいいんじゃないの?」 とぼけた顔で言い放つヴィオラートに、ルイズは拗ねたように口を尖らせて言った。 「なんも思いつかない。詩的なんて言われても、困っちゃうわ。私、詩人なんかじゃないし」 「うーん、とりあえず、思いついたことから言ってみたらどうかな?」 ルイズは困ったように、頑張って考えたらしい『詩的』な文句を呟いた。 「えっと、炎は熱いので、気をつけること。風が吹いたら、桶屋が儲かる」 「えっと…この世界の詩って、そんななのかな?」 全く詩の才能がないらしいルイズはふてくされると、ぼてっとベッドに横になって、「今日はもう寝る」と呟いた。 ごそごそと着替え、ランプの明かりを消したあと、しばらく黙り込んでから、自作のベッドに潜り込んだヴィオラートを呼んだ。 「ねえ、タルブで何があったかって話」 「うん」 「キュルケもタバサも、はっきりと言わなかったけど」 ルイズはそこまで言うと、しばらく逡巡し、 「帰れるんでしょ?」 とだけ、言った。 「うん」 ヴィオラートも、必要最低限の回答だけをした。 「…」 黙り込んだルイズに回答を重ねるように、ヴィオラートが続ける。 「あたしは…もうすぐ、帰れるかもしれない」 押し潰されそうな沈黙が、ルイズの部屋を覆いつくす。 「私が行っちゃダメって命令しても、行くの?」 ヴィオラートは黙ってしまった。ルイズは、そうよね、とつぶやいた。 「ここは…あんたの世界じゃないもんね。そりゃ、帰りたいわよね」 しばらく、二人は黙っていた。 ヴィオラートは喋らないし、自分もそれ以上、何を言えばいいのかわからなくなったのだろうか。 ルイズはヴィオラートの反対側を向いて、目をつぶる。 「イヤね。あんたが傍にいると、私ってば何だか安心して眠れるみたい。それって頭にきちゃう」 そこまで言うと、限界を迎えたのか、ルイズは規則正しく寝息を立て始めた。 ルイズの寝息を耳にしながら、ヴィオラートは考えた。 この異世界で出会った人たちのこと…。 たった何ヶ月かの滞在に過ぎないが、色んな人たちに出会った。 意地悪だった人もいたけど、ほとんどの人は優しくしてくれた。 困ったことがあったら力になると言ってくれたオスマン氏。 自分の思惑はあるにせよ、ヴィオラートが自由に活動できるように取り計らってくれたコルベール。 毎日地面を掘り返して、菜園作りに大いに貢献してくれた上に材料まで調達してくれたヴェルダンデ。 人間じゃなくて剣だけど、頼りになる『相棒』デルフリンガーくん。 綺麗で賢しそうなお姫様、アンリエッタ。 勇敢で、それゆえに死んでしまった王子、ウェールズ。 無口だけど、心の中には人並み以上の感情を秘めたタバサ。 ルイズをからかいながらも、いつもそばにいるキュルケ。 ヴィオラートと同じ世界にルーツを持つ、黒い髪の女の子…シエスタ。 その祖母で、長い長い人生の末にこの世界に残る選択をした、エスメラルダさん。 そして、そばにいるだけでなんだか嬉しくなって、思わず顔がほころんでしまうご主人様。 桃色がかったブロンドと、大粒の鳶色の瞳を持った女の子…。 いつか帰ることは心に決めていた。 でも、本当に帰れる日が現実に見えてきた今、この人たちと… ルイズと、笑って別れることができるんだろうか? わからない。 でも…と、ヴィオラートは思うのだった。 優しくしてくれた人たちに、できる限りのことをしてあげたいと。 嬉しかった分だけ、親切にしてくれた人のために…せめてこの世界にいる間は、自分にできることをしてあげたいと思うのだった。 あとわずかの間に、自分にどれだけのことができるのかわからないけど。 とりあえず、ヴィオラートは寝ているルイズの頭をなでてみた。 寝ぼけたルイズは、むぎゅ、と唸って寝返りを打つ。 ヴィオラートは窓に差す二つの月の光を悠然と見つめ、故郷を想った。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2040.html
前ページ次ページ『虚無と金剛石~ゼロとダイアモンド~』 その参.懐古 (前編) 夜が明けきるほんの少し前の時間帯。春先とは言え、この時間は、まだいくぶん肌寒い。とくに、学院の裏手にあるこのような林の中に来ればなおさらだ。 それでも、彼女は歩みを止めず、林の中にあるやや開けた場所まで来ていた。 年齢の頃は、16、7歳といったところか。この辺りではやや珍しい黒髪を肩くらいで切り揃えた、穏和でやさしそうな顔だちの少女だった。 黒を基調としたワンピースと白いエプロンを着用しているところから見て、おそらくは学院のメイドのひとりであろう。 手に緑色の布で包まれた何か棒状のものを持っているが、木の実でも落としに来たのだろうか? この辺りの木々で春先に実をつけるものはないようだが……。 土で踏み固められた、広場と言うには少々小さい空間の中央まで来ると、少女は布をほどいて中にしまわれていた棒状のものを取り出した。 それは、樫の木でできた杖だった――いや、もし知識のある者が見れば、それは”木刀”と呼ばれる、練習用の”武器”であることが分かっただろう。 少女は、両手で木刀を握り、正眼と呼ばれる構えから素振りを始めた。 10回、20回、30回……。やがて、その回数が100回を数えるころ、今度は足裏を地面から離さない、専門用語で”すり足”と呼ばれる歩法を使って、前後、左右に動きながら、木刀を縦横無尽に振るい始めた。 左右の袈裟斬りから、斬り上げ、唐竹割り、胴薙ぎ、神速の連続突き……一連の動作には淀みがなく優美で、少しでも心得がある者が見たなら、感嘆の溜め息を漏らしただろう。 そうやって十分に身体をほぐしたのち、少女は再び木刀を正眼に構え、呼吸を整えた。 そのまま、3メイルほど先にある背の高い雑草の葉先を見つめる。 静かに、しかし大きく息を吸い込んで肺の中に溜める。 頭の中から雑念を追い出し、剣先に意識を集中する。 ひゅっ! 鋭い呼吸音とともに、少女が木刀をそれまで以上の速度で振り下ろした。 そして次の瞬間。 ――ハラリ………。 決して木刀が触れてはいないはずなのに、雑草の一番上の葉が両断されて、風に舞っていたのだ。 「お見事!」パチパチパチ……。 「えっ、誰!?」 背後から聞こえてきた拍手と賞賛の声に、少女は慌てて振り向いた。 小広場の縁に生えた樹の影から、少女の見慣れぬ若い男性が姿を見せる。 「いや、驚かせたのならすまない。私は、アラビク。昨日からこのトリステイン魔法学院で世話になっている者だ」 青年―アラビクが素直に謝罪するのを見て、少女は慌てて腰を折った。 「い、いえ、私こそ不躾な態度をとってしまい申し訳ありません。私は、この学院に奉公させていただいております、メイドのシエスタと申します」 と、そこで、ハッと何かに気づいたかのように、口元を両手で押さえる。 「も、もしかして、アラビク様は……昨日、ミス・ヴァリエールが召喚なされたという、遠い異国の王子様なのでしょうか?」 (王子様、か……) 確かに、客観的に見れば彼は王位継承権第一位のリルガミン王家の嫡子であり、従って、そう呼ばれて然るべきなのだろうが……どうも違和感がある呼び方だ。 王宮で暮らしたのは10歳までで、反乱を逃れてからは地辺境の旧家で育った身だ。 半年前に反乱軍を組織してからは、”殿下”と呼ばれる機会も増えたが、冒険者暮らしが長かったせいか、王子様と呼ばれるような上品な振る舞いは、どうにも苦手だ。 無論、しかるべき場所(たとえば宮廷)に出れば、それ相応の言動が出来るよう、躾られてはいるが。 「……あのぅ?」 つい、らちもない思索にふけってしまったようだ。アラビクは頭を振って答えた。 「ああ、すまない。確かに、その通りだ」 「し、失礼致しました! 恐れ多くも、王族の方に……」 ほとんど土下座せんぱかりのシエスタの恐縮ぶりに、かえってアラビクのほうが慌てた。 「いやいや、いまの私は、国に戻ることもかなわない、言わば出奔同然の身。元王子と言ったほうがいいようなハンパな存在だ。そんなに畏まることはないさ」 「はあ、ですが高貴な身分の方に……」 「ああ、それより聞きたいんだけど、先程の剣術は、誰に習ったんだい?」 途端に、一層深く頭を下げるシエスタ。 「も、申し訳ございません。平民の分際でお目汚しを……」 どうやら、余計に萎縮させてしまったらしい。 「あ、いや、別に咎めているわけじゃないんだ」 慌ててそう言ったアラビクだが、頭を下げたままの目の前のメイドの様子に、ふぅと小さく溜め息をついて、意識を切り替えた。 「――確かに、俺は一応リルガミン直系王族の男子だし、いわゆる"王子"と呼ばれる身分だったことも間違いないけど、別にそんなふうに過分に畏まる必要はないぜ」 意識的に”一介の冒険者の戦士・アラン”だったころの口調で、シエスタに語りかける。 「え……!?」 それが功を奏したのか、思わず、といった様子で顔を上げるシエスタ。 「なにせ、王宮で育ったのは右も左もわからない10歳のガキのころまで。 それ以降は、薄汚い簒奪者に国を追われて、王都から逃げ出し、貴族と言うより殆ど豪族といったほうがよさそうな辺境の小貴族の館に匿っててもらったんだしな」 まだ、こちらでは誰にも詳しく明かしたことのない自身のかつての身の上を語る。 「で、15歳になる直前に一念発起して、魔術師である姉さんと一緒に修行の旅に出たわけだ。それから5年近くは、放浪の冒険者……と言えば聞こえはいいが、実際は隊商の護衛やモンスター退治、古代遺跡の探索、盗品の奪還まで引き受ける何でも屋稼業さ」 「はぁ……大変だったんですねぇ」 やや粗雑な、しかし親しみやすい”アラン”の口調に警戒心を解かれたのか、シエスタのおびえたような雰囲気も、多少は緩和されているようだ。 それを確認したうえで、改めて彼はシエスタに質問した。 「ま、それでだ。俺のその冒険者稼業時代の仲間に、あんたと似た剣術を使うヤツがいたから、ちょっと気になったってわけだ」 「えっと……そういうことでしたら。私のこの剣術は、お爺ちゃんに教えられたんです」 彼が倒木に腰かけ、すぐ傍らをポンポンと手で叩くと、多少躊躇しながらもシエスタも頭をチョコンと下げて隣りに座った。 「そいつは、俺達のいた国では、たしか”居合”とか呼ばれている侍の奥義だよな」 「! ご存知なんですか?」 「さっき言ったとおり、仲間にウィードって侍がいたんだ。そいつが居合の使い手で、盲目の優男なんだけど、すごく強かったよ」 この際、そのウィードがエルフであったことは黙っておくことにする。彼の世界では、エルフは確かに頭がよく多少孤高を好む傾向はあるものの、この世界のように人間と敵対していたわけではないのだが……。 「私はトリステインの辺境にあるタルブの村の出身なんですが、私の祖父母は元々村の人間ではなかったそうです。ある日、馬に乗ってフラリと現われ、そのまま村に住み着いたんだとか」 シエスタが身の上話を始める。 「祖父はたいそう強い剣士で、祖母は博識で魔法を使えたことから、村人たちは、どこかの貴族のお嬢様とその護衛が駆け落ちして来たんでは、と噂したそうです。 ただ、ふたりとも気さくで、働き者だったし、村が盗賊やモンスターに襲われたときに身に着けた技術を使って撃退してくれたことから、ほどなく村に溶け込むことができたそうです」 「そのお爺さんが”自分はサムライだ”とか言ってたとか?」 「はい、ふたりの間に生まれたひとり娘が私の母なんですけど、母にはサムライとなるだけの素養がなかったそうで、祖母から魔法を教わっていました。 でも、何人かいる孫の中でも、唯一私にはサムライとなりうるだけの能力があったそうで……」 買いかぶりだと思うんですけどね? と微笑って見せるシエスタ。 「――もしかして、”リルガミン”とか”トレボー城塞”と言う言葉に聞き覚えはないか?」 「!! 知ってます! お爺ちゃん達は、若い頃は”トレボーじょうさい”と言うところで修行していたんだって言ってました。そこで”ワードナー”って言うメイジや、”トレボー”って悪い王様と戦ったそうです」 (やっぱりそうか……) 間違いない。シエスタの祖父母は、アラビクと同じ世界、それも極めて近い時代から来た冒険者なのだろう。トレボーが魔除け奪還のお布令を出してたのはアラビクたちが冒険に出る数年前のことなのだから。 「どうやらご同郷のようだな。まだおふたりはご存命かい?」 「はい、祖父はすでに70歳を越えているんですけど、いまだ村で敵う者がいないほどの腕利きです。祖母もまだまだ元気ですよ」 「そうか。機会があればぜひ会ってみたいな。紹介してもらえるか、シエスタ?」 「は、はい、勿論です!」 と、そこまで話したあたりで、ふたりとも空がだいぶ明るくなってきたことに気づいた。 「おっと、すっかり話しこんだしまったみたいだね。すまない」 貴族口調に戻るアラビク。 「い、いえ。私こそ、お耳汚しを……」 再びシエスタが恐縮しようとするのを手で制する。 「あ~その~……なんだ。ふたりきりの時だけでもいいから、なるだけフランクに接してくれないか? さっきも言ったとおり、元々冒険者稼業が長かったんで、礼儀正しく振る舞うってのは疲れるんだ。あまり肩肘張らない話し相手がいてくれると助かるんだが……」 アラビクとしては、言った通りの意味で、とくに他意はなかったのだが、シエスタの方はえらく感激したようだ。 「は、はいっ! 私なんかでよければ、ぜひお話し相手を務めさせていただきます!!」 ……念の為に言っておくと、アラビクは王家の人間の常に漏れず、かなりの美形青年である。 それでなくても、王族と言う非常に高い身分の男性が、自分を平民と侮ることなく真面目に対応してくれ、さらには「時々、話し相手になって欲しい」と言ってきたのだ。 同年代の従姉からは「お堅い娘」と称されるシエスタだが、この年ごろの娘にありがちな恋愛に関する妄想癖もそれなりに持ち合わせている。多少は”そういう”夢を見ても致し方ないだろう。 「もしよければ学院長室に案内してもらえないか? 朝一番で顔を出して欲しいと言われてるんだ」 「はいっ、喜んで(はぁと)!」 自分がメイド少女へのフラグを立てたことには全く気づかず、アラビクはなぜか上機嫌のシエスタに案内されて、オスマンの待つ学院長室へと向かうのだった。 * * * 「なるほど、学院長殿のおっしゃることは、よく分かりました」 学院長室で、こんな早朝から執務を行っていたオスマンに迎えられたアラビクは、そこで昨日オスマンがコルベールに提案した事項――アラビクに学院の講師をしてもらうと言う案を、彼自身から説明されていた。 「正直、私としても無為徒食のまま、ここでお世話になることは、心苦しく思っていましたので、講師を引き受けることはやぶさかではありませんが……」 「おお、殿下の待遇に関しては、できるだけご希望に沿うように致しますぞ」 と下手に出つつも、じつは結構戦々恐々としているオスマン。何せ相手は、王族・凄腕・異邦人という厄介事の集大成のような人物だ。聞いた限りでは、さほど無理を言うような性格ではなさそうだが……。 「では、みっつの質問とみっつのお願いが」 「何ですかな?」 「まずひとつ。トリステインにも王家が存在していてると聞きましたが、私の存在を王室もしくはそれに準じる所へ連絡されましたか?」 「いえ、まだです。王子のご意志を確認してから、と思いましたので」 まぁ、厄介事は、なるだけ先延ばしにしたかった、と言うのが本音だが。 「ありがとうございます。それでは、ひとつ目のお願いです。すでに国に戻れないことでもありますし、私のことは”遠方の国から偶然召喚された貴族”とでもしておいてください。 無論、あの召喚の場に居合わせた者は真実を知っているでしょうが、どの道我がリルガミンとここトリステインには交流がないのです。不必要に面倒な事態を起こす必要はないでしょう」 「それは、我々としても願ったり適ったりですが……よろしいのですか?」 実際、他国の王族が一介の生徒(いかに公爵家の令嬢とはいえ)に召喚されたとあっては、宮廷に報告すれば、ひと騒動起こることは目に見えていた。 「ええ。ニルダ神じきじきに戻れないと宣言されているのです。この地に骨を埋める以上、王家の身分を主張しても意味はありません。 リルガミンの名前を出さないためにも、念のため、名前はアラン・ファールヴァルトと変えて名乗りましょう。今後は、そちらの名前でお願いします」 「よろしいでしょう。ところで、その偽名に、何か意味はあるのですかな?」 「アランは冒険者時代に名乗っていた名前です。偽名と言うよりは通称に近いですね。 ファールヴァルトの方は、辺境で潜伏していた頃に世話になった先生がいたのですが、彼の故郷がそういう地名でした。確か”森の彼方の国”と言う意味だったはずです」 「なるほどなるほど」 青年の懐かしそうな顔を見て、「よい師であったのだろうな」とオスマンは想像する。 いやしくも教職のはしくれにいるものとしては、できれば生徒たちに後年そういう表情で思い出してもらえるような指導をしていきたいものだ。 (オスマンの場合、セクハラを止めない限り、無理かもしれない) 「ふたつめの質問は、私が講師を引き受けたとして何を教えさせるおつもりですか?」 「その点についてはお任せします。ただ、学生たちとさほど変わらぬ歳ごろから激戦をくぐり抜けて来た貴方の経験と知恵を、できれば彼らに伝えてやってください」 無言で視線がぶつかり合い、青年は老人が意図しているだろうことをおおよそ察した。 (やれやれ、スパルタなことだ) とは言え、「実戦こそ最良の教材」「習うより慣れろ」をモットーに自らを磨いてきたアラビク―いや、アランとしても、オスマンが目指す方向性は嫌いではない。 「そうですか……そういう事でしたら、協力できるでしょう。ただ、私の授業に関しては、必修ではなく選択講義という形で、生徒の側に受講するかどうか任せたいと思います。 私の身に着けた技術を教えるとしたら、こちらではある意味異端にほかなりませんから」 「ご賢察とご配慮、感謝致します。それで三つ目は何でしょう?」 「先にお願いからですが、この学院に奉職しているシエスタと言うメイドがいますが、彼女と頻繁に接触していても不自然でない名目が欲しいのですが……」 つい先程まで謹厳実直に対応していたオールド・オスマンだが、アランのその言葉を聞いた途端、内心ニヤける。 (ほほぅ。王子様と言っても、やはり若い男か。それにしても意外に手が早いのぅ) 一応言っておくが、完全にオスマンの誤解、”下衆の勘繰り”と言うヤツである。 ただ、相手が相手だけに、そのあたりを敢えて指摘しない”大人の対応”をオスマンは選んだ。そのことが後の悲劇、いや喜劇を生むのだが……。 「確か食堂付きのメイドですな。では、彼女はアラビク…おっと、アラン殿の身の回りの世話をメインで行う係としておきましょう」 「ご過分なお心遣い、いたみ入ります。では、最後の質問ですが……私を召喚した女生徒は、いまどうしているのでしょうか?」 「………………は?」 <後編に続く> 前ページ次ページ『虚無と金剛石~ゼロとダイアモンド~』
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/152.html
前ページ次ページシロウが使い魔 第4章 「く、くふふふふふふふ」 妙な笑い声を出しながらルイズはもだえていた。 自室のベッドの上で、枕を抱きしめて顔をうずめながら足をバタバタしながら 笑いを押し殺していた。 それは、先ほどのことである。 ─回想─ 「サーヴァント・衛宮士郎。 ───これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。 ───ここに、契約は完了した」 一瞬、呼吸を忘れるくらいにルイズは己が使い魔に見とれてしまった。 周囲の景色も、時間も、全てが消え去った瞬間…… < ぐぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ > 台無しである。いくら昼食をまだ摂ってないにしてもである。 士郎は自分の失態を顔色に顕著に表していた。火竜山脈の万年マグマと比べても なんら遜色ないくらいに真っ赤になっていた。 「…………!」 ルイズは吹き出すのをこらえる事に精一杯だった。何とか呼吸を整えて 「遅いけど昼食にしましょ。私の部屋へ運んできて」 と声を掛けてそのまま部屋に戻ってきたのだった。 ─回想終了─ 今もルイズの顔色は真っ赤である。先ほどの名乗り。 実はそれだけでもルイズは、悶えるには十分だったのだ。 (私、何を使い魔にこんな気持ちになっているんだろう……) そして、名乗りの直後のお腹の音も思い出し、今度は笑い悶える。 実は士郎のお腹の音に隠れて、ルイズもお腹を鳴らしていたのだが、それを士郎が知ることは無かった。 ────────────────────────────── お腹の音を聞かれて、逃げるように部屋へ戻ったルイズに取り残され、 しばらく士郎は立ち尽くしていた。 気を取り直して、厨房へ食事を調達しに向かう。 「…………」 ルイズとは、しばらく恥ずかしくて口も利けないだろう。 厨房に入ると、なにか大きな物体がもの凄い勢いで衝突してきた。 「シロウさん! 無事だったんですか?!!」 シエスタだ。先ほど別れてから、ずっと泣いていたような顔である。 「わだじ! わだじ! じゅっどジロヴざんのごど、じんばいじで……」 言葉にならなくなってきている。 周りのメイドに訊いたところ、 シエスタがトラブルに巻き込まれたようだと聞いて、見に行こうとしたところ 泣きながらシエスタが帰ってきた。 訳をきいても、「シロウさんが……、シロウさんが……」 としか言わない。 決闘騒ぎがあったとひとりの学院の教師が教えてくれた。 そして今度はギーシュと名乗る生徒が厨房のシエスタを尋ねてきた。 シエスタは視線で呪い殺してやるというくらいに、ギーシュを睨みつけた。 「さきほどはすまない。あれは全面的に自分の非であった」 と、ギーシュが謝っても、けしてシエスタは睨むのをやめなかった。 そして士郎が登場したというわけである。 (そうか、ギーシュは早速謝罪したのか)と、ギーシュの潔さを認めようかとも思った。 「ジロヴざ~~~~ん!!!」 泣きついて離れないシエスタを周りの助けも借りて引き剥がして、料理長に賄いを2人分頼む。 なにがあったかはどうせ明日には噂でわかるだろうと思い、詳しい説明はしないでおいた。 ────────────────────────────── <コンコン> ルイズの部屋の扉がノックされる。 「開いているわ」 士郎が食事を二人分運んできた。 「……!、じゃあ早速食べましょ」 笑いを堪えつつ、食事を始めるルイズ。同じく食事を始める士郎。 「なにこのシチュー!! 凄く美味しい!!」 士郎が持ってきたシチューの皿と、粗末な麦で作ったパン。これが今まで食べた料理の中で 一番旨く感じたルイズ。 「なに? 厨房の平民たちって自分たちだけでこんな美味しい料理を独り占めしているの?」 さすがにそのようなことを言われていると反論せざるをえない。恥ずかしさを忘れて口を開く。 「違うよ。それはルイズがこれをはじめて食べるからだろう。 あと昼間、掃除で働いたって理由もあるはずだ」 「どういうこと?」 「普段から働いて体を動かしている人間は、体が塩分の濃いものを欲しがるようにできてる。 このシチューだって、普段体を動かしていない人間には、濃すぎる味付けだと思う」 ルイズは神妙に話を聞く。 「厨房の賄いは余り物を食材として作られるんだ。だから大体シチューになる。 なんでも煮込めばいいんだからな。 料理長の腕は抜群だろうけど、それは自由に食材を使えるときにこそ発揮されるはずだよ」 それほど多くこの学院で食事をしたわけではない士郎だが、大体見当を付けて話していた。 「ふ~~ん、そうなの……」 相槌を打ちつつ、またそのうちに賄い料理を食べさせてもらおうと企むルイズだった。 <コンコン> 扉がノックされる。ルイズが入室を促す。 「ミス・ヴァリエールとシロウさん、 ミスタ・コルベールがお呼びらしくてお部屋の方に来るようにと……」 言伝を持ってきたのは顔を真っ赤にしたシエスタだった。 「わかったわ。あ、丁度良かった。食器をついでに片付けてもらえる?」 シエスタは、士郎に何かを言いたげな視線を向けていたが、 「はい、わかりました。では、失礼致します」 と告げ、そのまま戻っていってしまった。 「なにかしら?ミスタ・コルベールの用件って……」 ……… 「シロウのルーンが始祖ブリミルの使い魔のルーンですって!?」 「声が大きい!ミス・ヴァリエール」 始祖ブリミルとは、ぶっちゃけ世界の創始者みたいな扱いの偉人である。 「それだと、ルイズはそのブリミルって人と同じ属性って事ですか?」 ルイズの魔法を気にしていた士郎がコルベールに尋ねる。 「それはわからない。まぁ否定する根拠も乏しいが。なにせ≪伝説≫だからね」 属性がわかるかもと一瞬思ったルイズだが、これに少し肩を落とす。 「がっかりさせるようだが、例えばだ。 シロウ君が『ガンダールヴ』としてこの世界に呼ばれる。 そして『虚無』の使い手となる人物がこの世界に現れる。シロウ君は忠誠心をもって その『虚無』の使い手に仕える。 ということにならないとは言い切れない」 用は、『サモン・サーヴァント』『コントラクト・サーヴァント」に付随している忠誠効果が ルイズの召喚の場合あらわれなかったことを問題視しているのだ。 「だが、単純にミス・ヴァリエールが《虚無》という可能性ももちろんある。畏れ多いが。 ミス・ヴァリエールの魔法の失敗による爆発は、 なんらか《虚無》と関連付いているからというふうに見る方法も無くも無いような気がないでも……」 ルイズはコルベールを睨む。遠回りに否定したがっていることがありありとしているからだ。 「じゃあ俺が『ガンダールヴ』とか言うものだとしたら、調べる書物は始祖ブリミル関連を 中心に漁ればいいんですね?」 「そういうことになるな」 「意外と帰る方法を見つけるのも早く済むかもしれない」 士郎はまだ見ぬ帰還方法を期待してテンションがあがった。 それと反対にルイズは意気消沈。でも、士郎の前ではその素振りを隠すのだった。 このあと、コルベールは一連の会話を誰にも言わないように釘を刺す。 この事を知っているのはコルベールと学院長のオールド・オスマン、ルイズと士郎の4人だけ。 下手に『ガンダールヴ』の事が世間に知られると、軍が黙っていないと思われるからだ。 士郎がやった“強化”の魔術だが、この世界において該当するのは『硬化』らしいこともわかった。 ……… 翌朝 士郎はシエスタの猛アタックを受けることになった。 といっても、洗濯のことである。 「さあシロウさん、まずはこれに着替えてください!」 と、男性物の簡素な服を上下分手渡される。 「ではシロウさんの服も一緒に洗っちゃいましょう!」 たくさんの洗濯物が山積みの桶とは別に、水を張った桶が合った。 そこへシエスタは袋に入った灰を入れて、溶かし始める。 「物(繊維)によっては生地を傷めるので、気をつけてくださいね」 洗濯物を灰の水に沈めていくシエスタ。ある程度の洗濯物を浸けると足で踏みつけ始める。 「まんべんなく染み込ませたら、今度は同じように水洗いしてください」 桶から灰汁を捨てると、代わりに水を入れる。そしてまた踏む。 水が汚れるとそれを捨てて、新しい水を入れる。これの繰り返しである。 「水が濁らなくなるまで、きちんと繰り返してくださいね」 士郎は教わったとおりに洗濯の作業をする。小一時間もするとたくさんあった洗濯物は 残りわずかとなる。 「こっちの洗濯物は作りが細かいものとかなので、足で踏むやり方はできないんです」 女生徒の下着だろうか。そちらは手もみ洗いで作業している。 「こっちは私が洗濯するので、シロウさんは洗濯物を干す作業してもらえますか?」 学院の一角に干し場があり、洗濯ばさみで乾かしていく士郎。 自分の服が乾くのはまだだろうから、今日は一日シエスタに渡されたこの服で過ごす事になるだろう。 ……… ルイズを普通に起こす士郎。朝食を摂った後、教室へ。 授業中、何もしないで居るということに居心地の悪さを感じた士郎は、ルイズに筆記用具を用意してもらう。 自分なりにこの世界の魔法の勉強をしつつ、文字も勉強しようと努力する。 士郎の書く文字に興味を示したのが他の生徒たちだった。 「なにこの文字?」「ロバ・アル・カリイエの字?」「僕の名前書いてみてもらえるかな?」 休憩時間に入ると、ちょっとした騒ぎに。 士郎がそれぞれのノートに適当に当て字をした漢字で名前を書いてやる。 昨日の騒ぎで、士郎に対して微妙な空気があったが、これによりちょっとした人気者になる。 そして授業が終わり昼食。 昼食が終わるとデザートの時間。 ギーシュが士郎に声を掛けてきた。 「君、ちょっといいかな?」 士郎はギーシュに付き従う。 人気の無いとこに来たとたんに 「君には本当~にすまないことをしたッ!!」 ギーシュが謝罪をする。彼が言うには、昨日のシエスタへの暴言は引っ込みがつかなくなったものであり、 その場で割り込んできた士郎にこれ幸いと八つ当たりをしたものであったらしい。 平民に対して弱気な態度を見せられないという貴族の体質は根深いものでありそうだ。 「あと、君が取り出した剣ってあれは『錬金』によるものだろう?」 と、突然衝いてきた。 「え?なんのことだ?」 「この青銅ギーシュの目をごまかす事はできないよ。最初の君は寸鉄帯びていなかったのは明白さ。 あと戦闘終了と同時に君の武器は掻き消えたしね。という事は、君はメイジなんだね!?」 ギーシュの口封じをするわけにもいかない士郎はどうしたものかと一瞬悩む。 「あぁ、メイジという事はもちろん誰にも言わないよ。ただ一つだけお願いがあるんだ」 先にギーシュが口を開く。 「君の『錬金』した武器。あれが非常に気に入ってしまったんだ。自分でも『錬金』できるように なりたいから、ぜひそのやり方を指南してくれないかな?」 片刃の剣のデザインが気に入ったらしい。その位ならそれほど大変なことでもなさそうなので了承する。 「俺がメイジとかなんとかって噂が立ったらお前のとこを襲いに行くから気をつけとけよ」 と、脅しを入れるのはもちろん忘れない。 ……… 午後、ティータイムの終わったルイズは図書館へ向かう。 始祖ブリミル関連の書物を漁りにいくのだ。6000年も歴史があると、それは膨大すぎる蔵書量となる。 ルイズは『レビテーション』など使えないため、とりあえずは手の届く高さの書物に限られるが、 それでも数日で目を通すことなどは不可能であった。地道な作業となる。 士郎は書物は読めないが、同じく図書室で文字の勉強をする。 ちなみにコルベールにも『フェニアのライブラリー』でブリミル関連の書物を調べてもらう。 主に探す資料は、“ガンダールヴ”“始祖の使い魔”“虚無の呪文”“異世界”の4つである。 これらの目ぼしい記述が見つかった場合、ノートに書き写し、それを後ほど報告するというものである。 夜になり、コルベールの部屋で報告会を行い、それでその日は終了である。 ルイズを部屋まで送り届けるときに、ルイズが言った。 「明日は虚無の曜日だから、街に出るわ。前に言った買い物とかするからね」 (そんなみすぼらしい格好なんて私の使い魔にさせてられないわ) ルイズは今日一日士郎が着ていた服が気に入らなかったらしい。 「それじゃシロウ、おやすみ」 「ああ、おやすみ。ルイズ」 士郎の異世界3日目が終了する。 前ページ次ページシロウが使い魔