約 1,871,754 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2562.html
反省する使い魔! 第六話「ゼロの反省、使い魔の空腹」 ルイズの教室爆破で授業は中断され、シュヴルーズ含め気絶した生徒たち計三名は 医務室に運ばれた。後から来た教師たちは爆発の張本人ルイズに教室の掃除を 言い渡し、ほかの生徒たちを引き連れ教室を後にした。 「『ゼロのルイズ』……「魔法」が「使えない」から『成功率ゼロ』… くく…うまくいったもんだ」 「うるさいッ!はやく片付けなさいよ!」 どこぞの殺人鬼と似たような台詞を吐き捨てながら 音石は雑巾や箒を手に教室を片付けていた。 しかし元凶であるルイズは机に腰を下ろし掃除の様子を窺っているだけだった。 それどころか 「ちょっと!ここまだ埃ついてるじゃない!やり直し!」 などと言ってくる始末である。 「少しは手伝えってくれたっていいんじゃねぇーのか?…ってゆーか、 これ元々お前がやらかした罰だろーがよ?」 「主人と使い魔は一心同体!主の不始末は使い魔の不始末でもあるのよ!」 「そーかよ(ま、そんな事だろーと思ったぜ…)」 音石のぶっきらぼうの態度が癪に障ったのか、ルイズは爆発で散らばった石や木の破片を 投げてくる。音石がソレをかわすと続けて大量に投げてくる。 しかし所詮ルイズのような小柄な女の子が投げてくるモノの威力、スピードなど たかが知れている為、音石はちりとりでソレ全てを余裕でガードする。 「避けるんじゃないわよッ!!」 「いやに決まってるだろ~~がよ~~、オレはともかくギターが傷付きかねねェからな 大体おめーも余計散らかしてんじゃねーぞコラ!自分の尻拭いくらい自分でしろ!」 「うるさいうるさい!どうせアンタも私が『ゼロ』だから見下してんでしょう!! 私だってね!こんな自分にうんざりしてんのよ! 一生懸命勉強して練習しても全然魔法が成功しないからって周りから… 平民すらからも見下されバカにされるこの気持ち!アンタにわかる!」 「………」 「私の実家にいる家族はみんな優れたメイジなのよ! お姉様たちも!お母様も!お父様も!みんなみんなそこら辺にいるメイジとは ひと味もふた味も違った!!でも…わたしには何も無かった…実家の使用人ですら そんな私を小さい頃から影で馬鹿にした…ほかの姉上様方は あれだけ優秀なメイジなのにってね!!」 「お前は自分の事しか考えちゃいねーのか?」 「え?」 ルイズは目を見開きながら音石の顔を見た。 そして、息を飲んだ…、その時の音石の目は今まで見てきた 誰よりも殺気立った目をしているからだ。 「この際だからオレの事について少し話してやるぜ… オレはよぉ、…三年前にある罪を犯したんだ」 その時ルイズは音石を召喚したとき彼が 出所して自由になれたのに と言っていたのを思い出した。 「ジジイくさい事を言うようだがな、あの時のオレは若かったぜ 自分のしてー事がうまくいかなくて、そんな世の中にイライラしてたんだ そんな時だ…オレが罪を犯したのは…」 「…一体、なんなのよ?」 「殺人だ」 「!!」 ルイズは耳を疑った、そして理解した… 音石のあの目は、本気で人間を殺したことがある人殺しならではの目なのだと… 「殺した奴に特に恨みがあったわけじゃねー…、ただそいつがあるおもしろいモノを 持っていてよぉ、ソレさえあればオレの人生はずっとおもしろくなる… 自分のことしか考えてなかったオレは初めて人を殺した…、 だが、そんなオレを裁いてくれた奴らがいたんだ…、 牢屋に入ったオレは初めて自分がどれだけ馬鹿だったか気付くことができたんだ マジでバカみてーな話さ、人生を面白くする以前に オレ自身がオレの人生を狂わせちまってたんだからな…」 「………」 「お前さんの気持ちはわからなくもない、できる家族と比較されるなんてよくある話だ、 だがな…今お前がやるべき反省はもっと違うところにあるんじゃねーのか?」 「……え?」 「確かにお前は自分の失敗を人一倍に反省しているかもしれねェ… だがお前、あの爆発で周りに迷惑をかけたことに対しての反省をした事あんのかよ? 例えば…お前をゼロと馬鹿にしたクラスの連中とか…」 「!」 「それどころかお前こう考えたことがあるんじゃねーのか? 『いい気味だ』ってな」 「……ッ!!」 図星である、ルイズは自分がクラスメイトに迷惑かけていることに自覚はあった しかしルイズは自分をバカにした相手が自分の爆発で痛い目にあえば いい気味だ、と心のなかで無意識に呟いていた。 音石に告げられルイズは初めてそれに気付いた。 しかし…、ルイズにも譲れないプライドがあった。 「そうね、確かにアンタの言うとおりだわ…、認めてあげる…、反省するべき所は ほかにあったのかもしれない…………でもね!!」 ビシッ!とルイズは音石を指差し睨み付けた。 「私が自分の事しか考えていない…、それだけは絶対に認めないわ!! そんなもの、私が目指す貴族なんかじゃない!私は私の為だけに 魔法が使えたいわけじゃない!病を患っているカトレアお姉様を 救いたいからでもあるのよ!!」 ルイズには二人の姉がいた、エレオノールとカトレアである。 しかし次女のカトレアは幼い頃から体が非常に弱く、メイジでも手の施しようが無い とまで言われるほどである、しかし長女エレオノールはルイズ以上の頑固者で そんなカトレアを救いたいという思いの一心で魔法を学び、 魔法研究機関アカデミーに勤めるほどのまでの実力者である。 ルイズもまたそんな姉を慕い、カトレアを救いたいが為に この魔法学院にいるのだ! 音石はそんなルイズの強い思いが宿った眼差しに感心していた。 ただのわがままなガキだと思ったが…下手したら化けるぜぇコイツ と考えながらも何かが納得した音石は掃除を再開しようとする、 しかしルイズから意外な一言が飛んできた。 「ありがとうオトイシ、あんたのおかげで私…大切なことを見落としてたかもしれないわ」 「…いいって事だぜ~~、ルイズ」 「でも、ご主人様に対して偉そうにしたからお昼抜きね」 「おいコラァッ!!?」 これがこの二人がはじめて互いの名を言った、ほんのひと時… しかしこのひと時は、ルイズにとっても音石にとっても とても貴重なモノだった…………。 教室の掃除が完了するとルイズはちょうどいい時間と言って食堂に向かおうとしたが さすがに音石も昼飯抜き空腹状態であの豪勢な食事が置いてある食堂に 行きたくはなかった、追い討ち同然である。 その為、音石はルイズに許可をもらい、昼休みの間だけの自由時間をもらった。 そんなわけで現在音石は学院の食堂になるべく近づかないように 学院内や中庭、広場などを散歩していた。それでも空腹を紛らわすことはできない。 「まさか、あんな味気ない刑務所の飯が恋しくなるなんてよぉ… こいつはますますやばいぜぇ、ガリガリの俺なんて俺じゃねぇ! う~ん、でもどうすっかな~…こんな遅れた文明の世界じゃあ 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を使っての盗みもできねーし…」 一度、学院を抜け出して野生の動物でも狩るか? 却下!こんなファンタジー世界じゃあ動物以上のもっとやばい生き物に 出くわす可能性があるし、そもそも素人のオレが狩りができるか怪しいもんだ。 思考と空腹を張り巡らしながら音石は空を見上げた。 すると一匹の巨大なドラゴンのような生き物が学院を飛び回っているのがわかった、 『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の目を使い、よく観察してみると その背中には一人の小柄な少女が跨っているのがわかった。 (つまりアレも使い魔なのかよ?やれやれ、ルイズの奴が期待するのも無理ねーな) 彼が納得すると同時に、彼の体に一人の少女がぶつかった。 「キャッ!!」 小さな悲鳴と同時に、少女が持っているコップや皿の山がぶつかった衝撃で 空中に散らばった!音石は即座にソレを認識する。 (な~んか、すんげーデジャヴ感じんだけど…仕方ねぇな) 【シュバババババババババババッ!!!】 彼は落ち着きながら『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の手だけを発現させ その自慢のスピードで今朝の洗濯物と同じように空中に散らばった 皿やコップなどの食器類をすべて掴み取り、一瞬で少女の体と食器を まるで時を戻したのかのように一寸の狂いなしに元に戻した! 「あれ?あれれ!?ま、また……」 「…通りでデジャヴ感じるはずだぜ、またお前かよ」 音石は半分呆れた様子でその少女が今朝と同じ少女だと理解した、 その少女、シエスタも音石の顔を見た瞬間、あっ!と声を上げた。 「あ、あの…ありがとうございます、使い魔さん!また助けていただいて…」 「そういう呼び方はダサいからやめてくれよ、音石明だ」 「ご、ごめんなさい!わたしったらつい……、えっと…わたしシエスタと申します あ、あのそれでオトイシさんはここでなにを?」 「いやよぉ、ご主人様が随分とご立腹でな~ 飯抜きにされちまったんだよ」 「まあ!それはひどい…あの、よろしければ 余りモノでよければお料理をお出ししましょうか?」 「おお!こいつは思ってもない救いが来たぜ! 是非ともそうさせてもらうぜ!」 「フフッ、ではこちらにいらしてください」 シエスタは上機嫌になった音石に微笑みながら 彼を厨房に案内した。 貴族が食事を楽しむ食堂の裏の厨房 食堂でコックやメイドが忙しそうに働いている、 シエスタに聞いた話だがついさっきまではもっと忙しかったらしく、 これでもまだ落ち着いたほうであるらしい。 厨房の隅の椅子に案内され席につき、音石は彼らの働きぶりを眺めていると すぐにシエスタがうまそうなシチューを持ってきてくれた。 「あまりものですが…どうぞ召し上がってください」 「マジ助かるぜシエスタ、んじゃま…お言葉に甘えていただくとするか」 匂いからしてこれは確実にうまいと思いながら、音石は シチューを一口たいらげるが予想通り!その味は絶品だった! 「あ~~~こいつはうめぇ、こんなうまいもん食ったのは久しぶりだな」 「ふふ、どうぞいくらでも召し上がってください おかわりもありますので」 お言葉に甘え、音石はおかわりを要求しそれをさらにたいらげる。 「オトイシさんはトリスティンの出身なんですか?」 「…いや、ここからもっと遠く離れた別の国からだな」 「やっぱり…」 「?」 「あ、いえ!その…オトイシさんが持っているソレ、楽器みたいですけど ここら辺じゃ見たことありませんから、つい…」 またそれか、と音石はシエスタに軽くギターの説明をすると シエスタだけでなく周りのメイドやコックもいつの間にか感心していた。 「ありがとよ、うまかったぜ」 「どういたしまして、お腹がすいたらいつでもいらしてくださいな、」 「助かるぜ、改めて感謝するぜシエスタ」 音石はそう言い残すと厨房を後にし、 そろそろルイズのところに戻ろうかなと彼女を探すことにした。 食堂にいるのだろうと予測していたが、ルイズの姿はどこにも無い。 教室で見かけたルイズのクラスメイトが何人かいたが どうせ尋ねても使い魔の平民と見下されている自分など相手にされないだろう、 すると後ろからシエスタがデザートを乗せたトレイを手に厨房から やって来たので彼女に尋ねることにした。 「シエスタ、ちょっといいか?」 「はい、なんですか?」 「ルイズの奴を探してんだが、食堂にはいないみたいなんだ…心当たりねーか?」 「ひょっとしたら外にいるかも…、外にもテーブルが置いてあるんですよ」 「なるほどな、それって何処だ?」 「あちらの扉から外に出て右に行ったところですよ」 「わかった、感謝するぜ」 シエスタはデザートを配りに行き、音石は外にでる。 右側を見てみると、確かに大勢の生徒が使い魔を引き連れて 紅茶やデザートを楽しんでいた。 音石がそこへ向かうと生徒たちが音石の存在に気付き、騒ぎ始めた。 先程の授業での件もあるが、もともと音石の格好はかなり目立つため いやでも注目を浴びてしまう。 「おい、見ろよ…『ゼロのルイズ』の使い魔が来たぞ」 「あの使い魔、改めて見ると変な格好してるよな…、大体なんだ、あのぶら下げてるの?」 「キュルケから聞いた話じゃあ、楽器の一種らしいわよ」 「楽器?あいつ音楽家かなんかなのか?」 「まあ、どうせ『ゼロのルイズ』の使い魔じゃ、たかが知れてるわね」 「はっはっは、違いない!」 そんな生徒たちの会話が聞こえてきたが、音石は所詮ガキの寝言だ、と相手にせず ルイズを探すことに専念した。 ルイズみたいな派手な髪色ならすぐに見つかると考えていたものの 見つからない。どうやらアテが外れたらしい。 一旦、先程の食堂に戻ろうと考えたが 周辺の生徒たちが騒ぎ始めているのに気付いた。 音石にではない、ソレは向こうのテーブルで なにやら怒鳴っているギーシュに対してのものだった。 しかもよく見ると、ギーシュが怒鳴っている相手となんとシエスタだった! どうやら音石がルイズを探している間に、外にいる貴族にもデザートを 配ろうといつの間にかやって来ていたらしい。 怒鳴るギーシュとは対照的に、シエスタは異常なまでにビクビクし、 半泣きになりながら頭を下げている。 (シエスタが何かやらかしたのか?) と考えたが、それでも今にも泣きそうな恩人を黙って見ているほど 音石は落ちぶれてはいない、笑って眺めている野次馬を無理やり通り抜け 二人の間に割って入った。 「なんだね君は?…ああ、ルイズの使い魔の平民か 僕は彼女に用があるんだ、そこを退きたまえ…一体なんのつもりだい?」 「そいつはコッチの台詞なんだよ小僧、理由は知らねーが こいつはこんなになってまで頭を下げてるんだぜ、 いい加減許してやってもいいんじゃねーのか?」 「そういうワケにはいかない、そこのメイドはこの僕に恥をかかせた挙句 二人のレディの名誉を傷つけたんだ、ただで許すわけにはいかないよ」 「……本当なのかよシエスタ?」 音石がシエスタのほうを見る、シエスタはおびえながらも恐る恐る答えた。 「わ、私はただ…ミスタ・グラモンが香水を落としになったので それを拾ってグラモン様にお届けしようと……」 「やれやれ、低脳な平民はコレだから困る… いいかい?僕はあの時、コレは僕のじゃない、と言ったんだぞ 君はその時点で場の流れを察し、その香水を手に早々に去るべきだったんだ」 「そのせいであのケティって娘にモンモランシーとの二股がバレちゃったもんな!」 周囲の野次馬の一人が大声でそう言うとほかの生徒もドッと笑い始めた、 ギーシュは周りを睨み付けながら怒鳴った。 「今言ったのは誰だ!?出てきたまえ!!」 周りがシンっと静まり返るが当然、出てくる者などいなかった。 ギーシュは舌打ちをすると、シエスタを見たまま音石が静かに口を開いた。 「つまりおめーは二股がバレた罪をシエスタに無理やりなすりつけてるわけか……」 「口の利き方に気をつけたまえ!…まあ、所詮『ゼロのルイズ』が呼び出すような平民に言ったところで無駄【ドゴォッ!】うがぁっ!!?」 「関係ねー奴の話なんて引っ張り出してんじゃねーぞクソガキ!!」 ギーシュは最後まで言い切らなかった。否、音石が突然ギーシュの腹に強烈な蹴りを 炸裂させ遮られたのだ!ギーシュはそのまま蹴られた衝撃で学院の壁に激突した。 平民が貴族を蹴り飛ばした、この事実だけでも 周りのギャラリーたちは大いに盛り上がった。 なぜなら、この世界では平民が貴族に手を上げるのは絶対的タブー それがこの世界の法則なのである。 当然、周りの生徒もそんな音石の行動を黙ってはいなかった。 「お、おい!あの平民、ギーシュに蹴りをかましたぞ!」 「平民が貴族にこんな事をしてタダで済むと思っていますの!?」 「ギーシュ!大丈夫!?」 「おい平民!さっさと地に這いつくばって謝罪したほうが身のためだぞ!」 生徒たちの殺気が音石に襲い掛かった、既に杖を抜いている者までいたが 所詮、音石からしてみれば彼らなど 「ロクに人を殺したことも無いくせに馬鹿みてーにいきがっているガキ」 である。人殺しの壁を越えている音石にはどことなく余裕があった。 音石は黙ったまま壁に激突し、倒れこんでいるギーシュに歩み寄る。 ギーシュは腹に蹴りをモロに受けてしまったため、さっきからずっとむせているが 音石が近づいてきていることに気付き、力を振り絞り何とか立ち上り音石を睨む、 それでも、やはり苦しいらしく目からちょっと涙が流れている。 「グッ…たかが平民の分際で…ゲホッ…、よくもこのギーシュ・ド・グラモンを…! どうやら君には…貴族に対しての礼儀を身をもって教える必要があるようだな!!」 「クックック、コイツは傑作だ、貴族って肩書きがなきゃ ロクに威張れもしねークソガキがオレに何かご教授してくれるのかよ?」 「……先程、君はモンモランシーを救ってくれた、その働きに免じ 多少は加減してやろうと思ったが……、もう許さん!!」 ギーシュは屈辱と怒りで煮えくり返っている震えた手で 手袋を投げつけた! 「決闘だ!貴様に決闘を申し込む!!半殺しで済むと思うなよ!!」 そのギーシュの発言に、周りの生徒がオオーーーッ!! と歓声をあげた。 「おもしれぇ、ロクに反省もできねぇ物分りの悪いガキには 鉄拳制裁が一番だな、ちょうどいいぜ……ここでやんのか?」 「貴様のような野蛮で礼儀知らずな平民の血で食堂を穢せるか! ヴェストリ広場へ来たまえ!そこを貴様の墓場にしてやる!!」 ギャラリーがギーシュの道筋を割って作り、ギーシュの後に続く。 ほかの生徒たちも移動を開始した。 おもしろい余興が始まる、と一同はワクワクしている様だ。 しかし中には、貴族としてのプライドが高く、平民の分際で貴族に楯突いた音石に 敵意を向けている者も何人かいるようだ。 そして、そんな人ごみの中から飛び出してきたのが探していたルイズである。 どうやら騒ぎに気付いてやってきたようだ。 「ちょっとオトイシ!アンタ自分がなにやらかしたかわかってんの!? いきなり貴族を蹴りつけて、あまつさえ決闘なんて…」 「そ、そうですよ!オトイシさん……こ、殺されます! 謝りにっ……!元々私がすべて悪いんです!だ、だから…… 私がミスタ・グラモンに謝りに行きます!わ、私さえ罰を受ければいいだけの話ですから」 ドギュアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!! 「「!!?」」 音石が無言のまま、ギターを力強く弾き、 完全に興奮混乱状態だった二人を止めた。 いや、無理やり落ち着かせたと言ったほうが正解かもしれない、 「落ち着いたかぁ?な~に、心配することぁねーよ ようは勝てばいいだけの話なんだろ?」 「はぁ?アンタ本気で言ってんの!?…あのね? 平民が貴族に勝つなんて絶対にありえないのよ!」 「そ、そうですよオトイシさん!そんなの無茶です!!」 「だから落ち着けっての、 まあまずはそのヴェストリ広場ってのは何処か教えてくれよ」 「あんた、本気で死ぬわよ……」 「……死なねーよ、まあ見てろよルイズ もしかしたら…面白いものが見れるかもしれねーぜ?」 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4188.html
From るいず げんきですか。こるべーるせんせいから ぱそこんとさいとのことばをならいました。 きょうこうさまのまほうをつかえました。 めーるがちきゅうにとどきますように。 from ルイズ とどいたみたいね。ちゃんとげんきでやってる? こちらはジョセフをたおしました。タバサをおういにつけるため アンリエッタさまにつかわれてる。 だいじょうぶ サイトがいなくたってへいき。にないてはつよいの。ギーシュもしっかりしてきたわ。 シエスタがごはんをちゃんとたべてるかとかいってるけど あんたなんかえさでじゅうぶんよね! わたしは げんき。 from ルイズ もう3年になりますね。元気ですか? アンリエッタ様は心をつかれさせて退位してしまいました。おかげで私が女王。信じられない。 でもタバサやキュルケのおかげで国の話し合いがうまくいっています。 サイトはまだ学校に通うの?そちらの世界はずいぶんと長く通うのですね。 学生時代に戻りたいな。 from ルイズ シエスタが玉の輿に乗ったよ。ギーシュやモンモンよりずっと豊かな家柄の貴族に見初められたの。 さすがシエスタよね、隙も何もあったもんじゃない。あんたもぼやぼやしてると逃しちゃうわよ? from ルイズ ギーシュとモンモンが遂に結婚。ま、意外性も何もあったもんじゃないけど。さすが派手な式だったわ。 借金していったけど。みんな、早いわよね。 from ルイズ 今日はマザリーニ卿の葬儀でした。老衰で眠るように亡くなったわ。悪くも言われていたけど、国葬は涙 で一色に染まりました。 from ルイズ コルベール先生とキュルケが結婚するの。あんた先生と仲良かったから、何か伝言ある? from ルイズ 結婚はまだ。だいたいねー、私の心配する暇があったら自分の心配しなさいって。シエスタなんて3人も 子供いるし、タバサだって陣痛で会談キャンセルしたんだから。 あんたが結婚してないのに、私が間に合わなくなるわけないじゃない! from ルイズ 今日はあなたの誕生日ね。おめでと。私たちもそろそろ、歳が増えるの素直に喜べないよね。 from ルイズ ねえ、結婚なんかしなくてもいいと思うの、私。私と釣り合う男なんているわけないわ。 from ルイズ だから独りで大丈夫。 from ルイズ もう耐えられない。 from ルイズ 奇跡を起こしてみせる。鏡の前に立って、受け止めて。始祖ブリミルのご加護のあらんことを。 「捜索は無駄です」 アンリエッタの言葉にアニエスは眉をひそめた。だがアンリエッタは小さく笑うと、ルイズが大切にしていたパソコンのメールを開いてみせる。 ハルケギニアでは到底建てられない塔を背にした、花嫁姿のルイズと、彼女を抱き寄せるサイトの写真が次々と画面にこぼれ落ちた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1251.html
夜刃の使い魔 第五夜『四夜の行間。そして決闘へ』 「で、どうしてそれが食堂で給仕の真似をしてる事に繋がるのよ?」 ホークアイからの話を聞いたルイズの反応は、至極尤もだった。 (異世界云々の部分は、ホークアイがルイズへ話す必要性無しと判断した為単に交流の一切無い遠い国程度の無いように変えられている) 確かに、学園にとどまるという流れは理解できるが、それ以後が語られていない。 「それにオールド・オスマンが何でアンタの願いを聞くの?理由が無いじゃない!」 「それは・・・まぁ、秘密だ」 「何よそれ!?」 確かにルイズの言うとおり、生徒の呼び出した使い魔に対して学長が全面的に責任を取るというのは、少々内容的に極論といえる。 そもそも使い魔召喚の儀はメイジと使い魔同士の契約だ。 他人の口出しすべき物では、本来は無い。 ・・・実は学長室やり取りには、まだ語られていない部分があった。 「あせらん事じゃな。ワシもその件については調べてみるつもりじゃ。今は見つからずとも何か方法はあるかも知れぬからの」 「そうか。ま、期待せずに待ってるさ」 そう言うとホークアイはデスストロークを懐に入れ、立ち去ろうとする。 その背中へオスマンが呼びかけた。 「古い文献を調べれば何かつかめるかも知れん。じゃが・・・お前さんの頼みを聞くのはかまわんが、交換条件が欲しい所じゃの」 「なんだ?金なら今無いぞ。時間さえあれば(盗みで)用立てるくらい出来るけどな」 「金なんぞ要らんよ。それよりもじゃ・・・此処に忍び込んだお前さんの力を見込んで頼みがあるんじゃ」 手招きするオスマン。 ホークアイが訝しげに耳を寄せる・・・その目が見開かれるのに数秒の時間がかかった。 「し、下着だと!?アンタの秘書の!?」 「こ、こら、声が大きい!!誰かに聞かれたらどうする!?」 「お断りだ!!俺はそんな物は盗まない!いや、其処まで自分を堕としたくない!!」 「元の世界に返りたくは無いのかのう?ワシ以外で調べられるのは、人体実験が趣味のイカレた連中くらいの物じゃが」 「・・・くそっ!」 ホークアイがその条件を(しぶしぶながら)呑んだのは言うまでも無い。 更に昨夜のうちにその仕事を果たしていたり、追加の依頼として今後も何度か盗む約束をさせられていたりもする。 ちなみに、昨夜の獲物は結構派手な柄の黒でした。 当然人には言えない内容だ。ルイズどころか他の誰にも言えない。 同時にその『仕事』とその後の自己嫌悪で、気が点くと朝になっていたのはホークアイだけの秘密だ。 むしろホークアイにとっては、イーグルを救えなかった事並に人生最悪レベルの汚点と言える。 まぁ、それはともかく。 「・・・平民の使い魔なんて珍しいから、オールド・オスマンが興味持ったのかもしれないわね」 「・・・使い魔って所以外はそういう事にしてくれ・・・」 横で疲れ果てていたキュルケのそんな呟きで、オスマンの件はルイズも納得したようだ。とは言え全てを納得した訳でもなく 「でもまだ此処で給仕してる理由がわからないわ!」 「あの・・・」 「ん?誰よアンタ」 始めの疑問を更にぶつけようとした所で、横合いからおずおずと投げかけられた声にルイズは首をかしげた。 見ればこの食堂でよく見るメイドの一人だ。緑色の髪を肩の辺りで切りそろえている。 「ああ、シエスタ。こっちは全部配り終えたよ」 「ありがとうございます、ホークアイさん」 「大げさだな。大したことはしていないぜ?」 シエスタと呼ばれたそのメイドは、ホークアイに頭を下げる。 ホークアイは、そんなシエスタに微笑みながらルイズの問いに答えた。 「給仕をしてる理由だけどな、まかない食を分けてもらう代わりにここの仕事を手伝っていたのさ」 実際の所、ホークアイは食堂で何か簡単に食べられるパンなどを拝借しようと考えていた。 普段から隙だらけの貴族である。朝のまだ頭の働いていない状態なら尚更、ホークアイにとってはまさしく寝ていても出来るだろう。 だが食堂にはホークアイ単身では、服装の違いや外見年齢(ホークアイは一応成人。実年齢は20を超え)の事もあり入りにくい。 そうやって入り口近くの物陰で考えている所、 「あの、そんなところでどうしました?」 一人のメイド・・・シエスタが話しかけてきたのである。 「何か食べる物が無いかと思ったんだけどね。でも、どうにも入りにくくて」 「そうなんですか・・・あれ?その格好・・・もしかしてミス・ヴァリエールの呼び出した平民の使い魔ってあなた?」 「・・・使い魔になった気は無いけど、呼び出されたのは確かだよ」 難しい顔で答えるホークアイ。だが内心ではひそかに驚いていた。 物陰に隠れていたつもりは無くとも、気配は何時もの癖で消していた。 そのホークアイを見つけるとは、この緑の髪の少女は余程注意力に優れているのだろう。 「やっぱり・・・召喚の魔法で平民が呼び出されたってみんな噂してますから」 「噂か、有名になるのは考え物だね・・・俺はホークアイ。よろしくな」 「私はシエスタです。ところで、おなか空いているんですか?」 「考えてみると昨日から何も食べていなくてね」 「あの、良かったら・・・」 そこで厨房に案内され、まかない食のシチューを馳走になったのである。 「それで、食事の恩を返そうと思ってな。給仕の手伝いをしていたんだ」 「ホークアイさんって凄く素早くて器用で、あっという間に料理を配り終えちゃうんですよ」 「朝から数えてこれで二回目だからな。手馴れもするさ」 ホークアイからの一通りの説明とシエスタの補足をまとめれば、つまりはそういうことだ。 ある意味わかりやすい話でもある。しかしルイズの表情は険しい。 「・・・貴族の下で働きたくないって言ってたのは何処の誰よ」 「俺は貴族のしもべとして手伝ったわけじゃないぜ?一生懸命働く女の子を助けただけだ」 「それよ!なんであのメイドの言う事は聞いて私の言う事は聞かないのよ!!」 貴族の自分の言う事は聞かず、平民のシエスタを助けたのが気に食わないらしい。 だがホークアイにとっては必然でもある。 元々ナバール盗賊団の獲物は悪徳商人や横暴な貴族。一般の一生懸命働く人々は獲物にせず、買い物も普通に行う。 それどころか一般的な商人にとってナバール盗賊団は、気前の良い支払いで良客の内に入っていた。 同時にナバール地方を民衆を他国の侵略から守ってもいたのだ・・・美獣が来るまでは。 よってホークアイにとって、懸命に働く学園の使用人達を手伝う事に一切躊躇いは無いのだ。 「それが解らないからお嬢ちゃんだって言うのさ・・・シエスタ、後何か手伝う事はあるかい?」 「あ、いえ・・・あとはデザートだけですけど・・・ミス・ヴァリエールが」 「いいから、厚意は受け取るものだよ?・・・じゃあな、ルイズ。まだ忙しいから、文句は後で聞かせてもらうよ」 そのままルイズを放置しシエスタと立ち去るホークアイ。 残されたルイズは怒りを始めとした無数の感情で小刻みに震えている。 (何よ、あの平民!私のこと馬鹿にして!なんで私の言う事を聞かないのよ!?) その様子を見てキュルケはため息をついた。これは午後もルイズの機嫌は最悪だろう。 彼女の好敵手を自認するキュルケとしては、彼女をからかうにもからかえないこの状況はいかんともしがたい物がある。 何時もの打てば響くようなルイズの反応が好きでたまらないと言うのに。 (今下手なことを言えば冗談にもならないものね・・・あの平民の彼が使い魔って認めてくれれば、冷やかしようもあるのに) 同時にキュルケは、今彼女に出来る事は無いと言う事も承知していた。 しかたなく、その問題のホークアイが運んできたデザートを口に運ぶ。 程よい甘みが心地よい・・・が、問題は何も解決しない。 同じくデザートに手を伸ばしやけ食いするルイズと、何時の間にか横に来て、同じようにデザートを(凄まじい勢いで)パクつくタバサを眺める。 どれほどそうしていただろう? そのなんともいえない微妙な時間は、突如として上がった声と歓声に中断される。 何かと思って振り向いたキュルケたち。その先には・・・ 「な、何してるのよ、ホークアイ!?」 『青銅』のギーシュと、先刻まで話をしていたホークアイが対峙していた。 ホークアイの背後には、先刻見たメイドのシエスタが今にも泣きそうな表情になっている。 そして・・・ 「ならば礼儀を教育してあげよう。ヴェストリの広場に来たまえ!」 ルイズたちが何かする間も無く、ギーシュの声が食堂全域に響き渡ったのだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2506.html
ディオは一人考える。主人が『ゼロ』なら使い魔の評価もそれに準ずる。ルイズはともかく 自分の事を周囲に認めて貰うには贄が必要であると… おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第六話① 時は遡る。ルイズは昼までかかって部屋を片付けた。ディオに命令してやらせようかとも思ったが、殴られた恐怖は簡単に消えず、 結局自分で片付ける事にした。だが掃除が昼前に終わったのは、いつの間にかディオが手伝ってくれた為である。 最もディオが掃除を手伝ったのはディオは主人を見捨てる使い魔であるといったようなマイナスイメージを避けるためのものであったが。 昼食を取る為に食堂に行くルイズ。ディオは相変わらず姿を消したようだ。いつまでその態度が持つか、ルイズはディオと根競べをする事に決めた。 ディオもまた人間である以上兵糧攻めをすれば勝のはこちらなのだ。ルイズは勝利を確信してほくそ笑んだ。 「…フンッ!」 ディオもまたルイズに屈する気はなかった。使い魔に身を窶しても床で食事を取るくらいなら餓死を選ぶ、それがディオである。 誰もいない廊下を歩きながらディオは考える。 (そう、今朝纏めたようにおれに今必要なのは必要な時に利用できる『友達』だ。だが、あのガキは『ゼロ』のあだ名の通り 生徒どもから馬鹿にされているッ!その『ゼロ』の使い魔であるこのディオがきっかけを掴む為には誰か適当なメイジを倒し おれの株を上げる事が一番いい。だが、いきなり喧嘩を売るわけにもいくまい。どうすればこちらに後を引く非がなく 適度な強さのメイジを皆の目の前で倒す状況に持っていくか…) 考えていると腹の虫が鳴る。悲しいかな、いくら鍛えていても人間である以上腹は減る。 「くそッ!忌ま忌ましいッ!本来だったら今頃、おれは人間を超越した存在になっていたはずだッ!それが今、 ガキの我が儘ごときに我慢しなくてはならないこの状態が気に入らないッ!」思わず壁を叩く。 「あの…」 どこかで聞いたような声がしたので振り返ると、今朝会ったメイドがいた。 「ふむ、なかなか…いや、とても美味しいよ」 数分後、ディオは厨房で食事を取っていた。朝出会ったメイド、シエスタは厨房で働いていたのだ。 (今朝の縁がこんなところで生きてくるとはな…。) ディオの顔に黄金色のお菓子を目の前にした悪代官のような笑みが浮かぶ。 (だが!それよりもルイズの鼻を明かしてやった事がなによりも愉しいッ!ンッン~~♪ 実に! スガスガしい気分だッ! 歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ~~フフフフハハハハ…) そんなディオをシエスタは料理を喜んでくれていると思い、ニコニコと見つめる。 やがて、そんな二人を見つけて太った中年のオヤジが近づいてくる。料理長のマルトーだ。 「あ…私、デザートを配ってきます!」 マルトーを見つけたシエスタは思い出したように立ち上がると、デザートを乗せたお盆を持って厨房を出ていき、 代わってマルトーがディオの隣に座る。 「あんたが貴族に召喚されたって平民か?シエスタに聞いたよ。しかも主人は高慢ちきだって話じゃないか。 ついてないもんだな。確かディオだったかな?自己紹介が遅れたが俺はマルトー、ここで料理長をしている」 握手を求めるマルトーを上手く避けながらも慇懃に答えるディオ。 「マルトー…さんがこの料理を作ったのですか?」 「ああ、そうとも!この料理は賄い物だがあの食堂でくっちゃべってる貴族サマとおんなじモノだ。 奴ら、自分で言うのもなんだがこんな美味い料理を三食食って当たり前ってツラしてやがる。理不尽だとは思わねえか?」 どうやらこのマルトーとかいうコックは貴族を嫌っているらしい。 「あいつらは、なに、確かに魔法はできる。土から鍋や城を作ったり、とんでもない炎の玉を吐き出したり、果てはドラゴンを操ったり、 たいしたもんだ!でも、こうやって絶妙の味に料理を仕立て上げるのだって、言うなら一つの魔法さ。そう思うだろ、ディオ」 完全に自分の世界に入っているマルトーにおざなりに同意すると続いて大笑いする。忙しい男だ。 「気に入った!お前さんわかってるじゃないか!いつでも食べに来てくれ!大歓迎するぞ!」 これで食の問題は解決した。次はメイジの件だが… その時、少年の怒号とシエスタの詫びる声が聞こえた。 「どうしたんでしょう。ちょっと見てきます」 とディオは立ち上がる。丁度良く向こうから機会がやってきたらしい。ディオは罠にはまった獲物を見つけた猟師のような笑みを浮かべると、 騒ぎの現場へと足を向けた。 「どうしてくれるんだ!君のせいでボクの制服が汚れてしまったじゃないか!」 先ほどから怒っているのはトリステイン王国屈指の名門であるグラモン伯爵の四男、ギーシュ・ド・グラモンである。 どうやらデザートを配っていたシエスタが向こうから取り巻きとやってきたギーシュにぶつかってしまったらしい。 ぶつかったとは言っても軽く触れただけだが、その少し前に付き合っている相手、ケティから他に交際相手がいるのではないかと 問い詰められていた為、機嫌が悪かったのが災いした。平民とメイジの階級の違いの故かギーシュの取り巻きはもちろん、 他の生徒も遠巻きに囲んで眺めているだけであり、誰もギーシュを制止しようとしない。 「お願いします!どうかお許し下さい!」 シエスタは必死に懇願する。経過はどうであれ平民がメイジを怒らせた以上、最悪殺されるかもしれないのだ。 その様子を見てギーシュは内心たじろぐ。相手は若い女の子でしかもなかなか可愛い。女の子を泣かせるのはギーシュとしては苦手な事であったし 今は何も言わない周りもこの状況が続けばギーシュの味方でいつづける確証はない。ちょっと怒ったら向こうがオーバーリアクションを取った。 うん、これで大丈夫。そう考えるとギーシュはその場を納めようとし、 パリン 何かが割れる音が響き渡る。 「おっと、すまないね。きみのポケットから香水の瓶が落ちたんでね、拾おうとしたんだが誤って踏んでしまったよ」 振り返ると最近『ゼロ』のルイズが召喚したという使い魔がニヤニヤしながら片足を上げており、 その下には見るも無惨に割れた紫色の瓶「だったもの」が散らばっていた。 「おい、あれはモンモランシーの香水じゃないか!」 「ギーシュはモンモランシーと付き合ってたのか!」 周りから声が上がる。 「なっ、し、知らない!」 とたじろぐギーシュだが、その時周りの生徒から一年生の女の子、ケティが飛び出してくると 「ギーシュさま…やはりミス・モンモランシーと付き合っていていたんですね!この…大嘘つき!」 と叫び、ギーシュの頬を引っぱたく。 そして女の子と入れ替わりにモンモランシーがギーシュに近づくと、無言でワインの瓶を掴んで逆さにしてギーシュにかけ、 おまけとばかりに向こう脛を思いっきり蹴りつけて去っていく。この三文喜劇の三枚目のようなギーシュに周りの生徒達は大笑いする。 ギーシュは暫く屈んで呻いていたが、やがて起き上がるとまだにやついているディオを睨み付け 「いいだろう、僕を侮辱した事を後悔させてやる。ヴェストリの広場にて待つ!死ぬ覚悟ができたらこい!」 と叫び、見張りの一人を残すと取り巻きを引き連れて立ち去った。 「ちょっと!あんた何してるのよ!」 ルイズが叫びながらやって来る。 最初ギーシュが叫んでいた時は無視していたが、あまりにも騒がしいので振り向くと自分の使い魔がギーシュに喧嘩を売っていたのだ。 だがルイズの身体では人混みの中なかなか二人に近づけなかったのだ。 「なにってこれから高慢ちきなメイジを『少し』懲らしめるのさ」 「あ…あんた…」 呆れたような声をあげるルイズ。 「わかってるの!?メイジに喧嘩を売ったのよ!」 「…それで?」 「なんであんなことしたの!?遅いかもしれないけど私も謝ってあげるからギーシュに謝りなさい!」 とディオの袖を掴み、引っ張っていこうとする。シエスタも我に返ると必死でディオを押しとどめようとする。 だがディオはルイズの手をゆっくりとふりほどく。 「勘違いしてもらっちゃ困るな、ルイズ。ぼくはああいう中身がない癖に威張り散らす手合いが大嫌いでね。それに借りは返す必要がある。」 なぜかシエスタはぽっと赤くなる。 「ばっ馬鹿!いい?平民はメイジに絶対に勝てないの!ってちょっと聞いてるの?」 とルイズはなんとか決闘をやめさせようとするが、ディオはそれを無視して見張りに 「武器を持ってくる時間くらいはくれるだろう?」 と聞き、許可を得るとシエスタに2,3訊ね、厨房へと消えていった。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2058.html
ジャイロが、正体不明の敵から攻撃を受ける、ほんの僅か前の出来事。 ルイズと才人と、才人の後ろで喋り続けるデルフリンガーは学院に戻る平坦な野道を喧々諤々と、騒がしく進んでいた。 「ほー。そーか相棒、おめーも大変な目に遭ってんだな」 デルフリンガーが、才人の境遇を聞いては、相槌を打ったり同情したりする。 「ああそうだよデルフ。俺はこれまでずっと大変だったんだ。そりゃもう、絶望に打ちひしがれる毎日を過ごしていたわけだよ」 才人が感情を込めて今までの苦悩の日々を語る。時には涙あり、時には怒りありの毎日を、講談家のように話しては、デルフリンガーに感想を述べてもらう。 「そーさな。相棒の歳でその苦労はなかなかねえな。いや、立派だよ。立派だよ相棒は」 「だろ? 俺頑張ってるだろ? なあ俺頑張ってるよな?」 「あー、頑張ってる。相棒はものすごく頑張ってる。そのぐれー頑張ってるなら、誰かから褒美もらってもいいくれーだ」 「……だよな。だよな、そうだよな! そのぐらいは許されるよなあーーーー!」 ……ちらり。 そんなことを言っては、才人はルイズに視線を向ける。こんなことを道中、何度も繰り返していた。 「うっさいわね! また突き落とすわよ!」 ルイズが後ろで騒ぐ連中を怒鳴りつける。それに、デルフリンガーは、ふぅ、と溜息のように一息つくと。 「相棒の主人は、すげえ怒りっぽいね。……おい貴族の娘っ子。そんなに怒ってちゃ可愛げなんて一欠けらもありゃしねえよ。もう少し節度ってもんを……」 「 ア ?」 そう剣に言われて振り向いたルイズの目には、なんとも形容しがたい、 何か が宿っていた。それに直視され、才人は真っ青になり、さすがにデルフリンガーも、口をつぐんでしまった。 「……ま、まあなんだ相棒? 辛いことばっかりでもねえんじゃねえか? なんかこー、楽しかったもんとかはねえのかね?」 話題を変えようと、剣は才人に尋ねる。 「いやー……、正直、あったのかどーか。だってこっちに来てから、テレビも映画も見たことねーし。パソコンも動かねーし」 「テレビ? ……映画? 相棒、そりゃなんだね?」 「そうね……。サイト、それ、わたしも気になる。ねえ、それってどういうの?」 剣とルイズが、同時に才人の言葉に興味を持った。 「ああー……、テレビも映画も、いつでも見れる芝居みたいなものかな。テレビは箱の中に舞台があるように映って、映画は巨大なスクリーンで眺められる」 「箱? スクリー……? 相棒の見た芝居ってのは、ずいぶん変わってるやね」 「ああ、うん。……なんて説明したら、わかってくれんのかな。とにかく、そーいうもんなんだって」 才人が、頭を掻きながら慣れない説明をする。 「要はお芝居なんでしょ? そういうものなら、城下町でも見れるわ。別に珍しいものじゃないわよ」 テレビや映画の正体が芝居だと言われ、ルイズは興味をなくしたようだった。 「いや、見れるのは芝居じゃないんだって。ニュースもあるし、バラエティーだって……。テレビなんか、最近じゃ超薄型プラズマってのが出てきてさ……。映画だってビッグタイトルが……」 才人が語るその言葉は、ルイズにとっては呪文のように聞こえる。 彼にとっての現実が、ルイズにとっては虚構に聞こえる。それが何故か、才人には悔しく思えて、いつの間にか説明にも熱が篭っていた。 「それじゃいつか、連れてってあげるわ」 ルイズの突然の言葉に、才人は目をぱちくりさせた。 「あんたがそんなに芝居好きだなんて思わなかったわ。そんなに好きなら、ちゃんとわたしのいう事聞いていたら、連れて行ってあげる」 「……あ。ああ。あ、ありがと」 別にそんなに好きなわけじゃないけど、と、つい言ってしまいそうだったが、なんとか才人は礼だけ言えた。 「そんかわし今すぐは駄目よ! あんたには剣買ってあげたばかりだし。ちゃんと言う事聞いてからだかんね!」 それっきり、ルイズはぷいっ、と前を向く。 「相棒。こりゃ話が変な方向にいっちまったね」 デルフリンガーが、呆れたように言った。 「いや、デルフ……。これは、……チャンスだ」 才人が、剣の耳と思わしきところで、ぼそぼそ呟く。 「チャンス? なんの?」 「フラグ成立の」 「フラグってなんだ?」 「愛だろっ、愛!」 思わず、大きな声をあげてしまう。悲しいかな、才人もしっかりゲーム脳であった。 「つまり、どういうことさね?」 「これをきっかけに、ルイズは俺になびく」 「へえ。そうなるもんかね」 「なる。絶対させる」 現実を見ろ。そう見えない誰かに言われた気がするが、気にしない。 「相棒の腕の見せ所だね。応援する」 「ああ。まかせとけ」 となれば、まずはスキンシップとばかりにルイズの体を触ろうと、才人がじりじりと腕を伸ばす。密着してもおかしくない距離だというのに、それが何故かとても長い。 あと少し、もう少しでルイズの体に、才人の指が触れるというところで。 「そういえばサイト。さっき言ってたパソコンって、一体どんなの――」 ルイズが振り向く。 才人の姿は、消えていた。 「…………サイト?」 さっきまで後ろにいたはずの才人が、消えていた。 「サ、サイト!?」 愛馬の足を停め、ルイズが周りを見渡す。 「ど、どこよサイト! どこ!? どこにいるのよーーっ!?」 落馬!? サイト、落馬したの!? ルイズは周りを探す。才人の姿を見落とさぬように注意しながら。だが、才人の姿はどこにもない。 どこにもいない!? こんなに見晴らしのいい、平坦な道の上で、サイトが消えた!? ルイズはその現実が信じられない。 まさか、地面に裂け目でも? その中に落ちた? まさか!? 「サイト! 返事しなさーーい! どこよーー! サイトーーーーッ!」 大声を上げながら、ルイズは才人を呼ぶ。返事は、一向に無い。 がらん、と、何かが落ちる音がした。 音のした方向を向く。そこにも、才人はいない。だが。 「つ~……、いってて。いや、衝撃が身に染みるね。おい。おい聞こえるか、貴族の娘っ子」 さっきまで散々聞いた声。 「その声……、インテリジェンスソード!? どこ! サイトはどこにいったの!?」 「落ち着け娘っ子! いま危ねえのは相棒じゃねえ! おめえだ! 娘っ子!」 デルフリンガーが、ルイズに危機を伝える。 「え?」 「貴族の娘っ子! 逃げろ! 相棒はもうやられてんだ! 俺は相棒が連れ去られる途中で抜けたんだ!」 「や……、やられたって……誰に!? 誰が!? なんのために!!?」 「知らねーよ! それよりも逃げろ! そんなとこに突っ立ってると格好の餌食だ!」 ルイズの頭は、正直言って、パニックを起こしかけていた。 サイトを一瞬で倒した敵。それが、次は自分を狙っているということに。 「逃げろ!」 剣の一喝が、彼女を後押しする。愛馬に鞭を入れ、風が巻き起こり勢いのままに、馬は駆け出す。 しかし。一瞬だけ感じた、無重力。 減速する速さ。力なく垂れる手綱。 ルイズの愛馬は、ルイズが見ている目の前で、消えてしまった。 「そ……そんな。わたしの、わたしの馬も。 消えるなんてっ……!」 地面に無造作に投げ出され、ルイズは体を打ちつけた。痛みに、呼吸が数瞬止まる。 「娘っ子! 無事か!」 デルフリンガーの声が、まだ近くで聞こえる。 「上だ! 上から来る! 逃げろ! あそこの雑木林まで!」 ルイズが目を向ける。その方向には、木々が密集する林があった。 あそこまで行ければ……、助かるかも、知れない。 でも、その望みは今すぐにでも、断たれてしまう。 ルイズの真上――、高く雲が浮かぶ、青空の中。 一羽の鳥だけが、悠然と泳ぐように飛んでいた。 そしてそこから、鏃のように何かがルイズ目がけて降ってくる。 それに追いつかれたら、わたしも、サイトのようになるのだと。彼女は理解した。 咄嗟の判断だった。躊躇したらやられてしまう。だから、思わず。 右手で掴んだ杖を高く振り上げて、呪文を呟く。 彼女の直前で、爆発が起きる。 そこからはもう、ひたすらがむしゃらに。 巻き上がる砂埃が、幸運にも、彼女の体を覆い隠し。全力で、駆け抜ける。走った。林まで、一直線に。 その途中で、後ろから強烈な力で、引っ張られる。 ルイズは、それを間近で見てしまう。 水が、水が強固なカギ針と、ロープと化していた。それが、空を漂う鳥から繋がって。まるで釣りをするかのように、ルイズのマントに食いついていた。 マントの結び目をほどく。紐が首をなぞるように後ろにすり抜けた瞬間、もう一本のカギ針が、マントを突き刺し、空高く連れて行く。 間一髪で、林に飛び込んだルイズは、それをただ呆然と眺めることしかできなかった。 「なによ……。あれ。 あれも……、魔法、なの?」 あんなのは、あんな魔法は、聞いたことがない。 いったい誰が、あんな力を、どうして、なんでわたしに!? 考えても考えても、余計に混乱するばかりで。そしてそれしか考えていなかったから――、見落とした。 「逃げろ! 相棒の相棒!」 はっとして、ルイズは見た。 けれどそのときには、もう遅く。 彼女のもう一人の使い魔も、あっけなく――、空に消えていく。 どうしようもない絶望感で、ルイズは膝をついてしまった。 次々と、空に消えていく。 ジャイロが乗っていた老馬も、ルイズの愛馬の鞍も。 「お、おい!? 俺もかよ!」 デルフリンガーも、とうとう空に連れ去られた。 そして、誰もいなくなった平原に、再び、水で出来たカギ針と、ロープが二本。 林の中にいるルイズを取り囲むように、ゆらゆらと動いていた。 「とことん……。わたしまで連れ去るつもりなのね」 ルイズは林の中で、外を見つめたまま、動けずにいた。 「最近巷を騒がせてる盗賊……にしては、ずいぶん理解不能ね。荷物は全部奪われたし、馬も、鞍だって……」 はっ、と、ルイズは気付く。 「『荷物』……『馬』……。『鞍』 ……」 まさか、敵は。 「敵は捜して、いるの? 敵の『目的』は!?」 ルイズは、今まで自分でも、忘れていたものを、じっと見つめた。 『 捜している――――――!? 』 「わたしの、わたしの左腕にある『ミイラの腕』! これなの!? 敵は、敵はまさか、これを――狙っている!?」 この状況で、敵の目的が。 「わかりかけてきた……。どうしてわたしが持っているのか、わかったのはわからないけれど……。敵は、それを知って!」 ――襲ってきたんだ。 「なんなの……、この『腕』! 誰の腕なの!? いったい! このミイラに! どんな秘密があるっていうの!?」 木々の隙間から、空を見上げる。 木漏れ日だけが、優しくルイズを照らしていた。 「どぉぉこおぉぉだぁぁぁぁぁーーーーーー。 ゥィーーン」 書斎部屋と思われたその部屋は、異様な造りだった。 部屋の中央に、噴水と見まごうばかりの大きな水鏡が置かれ、主――モット伯は、その中を楽しそうに眺めていた。 その部屋に乱暴に連れ込まれたシエスタは、いきなりその水鏡の前に立たされる。 「見るんだシエスタ。水面を見ろ!」 伯爵に言われるまま、水面を見つめる。 するとどういうわけか、水面に部屋とは違う景色が映し出された。その中心にいたのは。 「……っ」 この屋敷に連れてこられたとき、無意識に助けを求めた人達の姿が、写っていた。 「は、伯爵様! これは……、これは何かの間違いです! この人達は、この人達は何も関係ありません! ですから――」 シエスタは必死に弁解する。 だが、当の主は。 「ふっ……、ふっふっふ。ふひふひフヒフヒフヒフヒ。ヒィーーッヒッヒッヒッヒ!」 彼らの姿を見るなり、狂ったように笑い出す。 そして。 「みぃーーーーつぅけぇたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁッ!!!」 絶叫して、歓喜した。 「シエェェェスタ! みつけたよぉ! つぎをさがすまでどれだけかかるかとおもっていたのに! こんなところでみつかったあ!」 抱きかかえるように掴んでいたシエスタの腕をいきなり突き放すと、モット伯はおもむろに杖を手に取った。 そして鳥かごに入っていた小鳥を一羽かごから取り出すと、なにやら唱え、水鏡へ沈める。 その途端、小鳥の姿は水の中から消え、水鏡の景色は、流れるように動き出した。 鳥が空を飛ぶように、景色は動いていく。 「さあ。さっそく手に入れよう」 伯爵はとても嬉しそうに、杖を振った。 「伯爵様!」 シエスタが次に見た光景は、まるで悪い夢を見ているかのようだった。 モット伯が眺める水面が、突如波立ったかと思えば、それは割れるように開き、誰かがその中から引き上げられた。 「……サ、サイトさん!?」 それは、シエスタがよく知る少年、平賀才人だった。 あわてて駆け寄る。ぐったりとしている才人だったが、息はある。 その次に水から現れたのは、立派な毛並みの馬。次は魔法学院のマントが、姿を現す。 そして。 「ジャイロさん!」 ジャイロまで、水面から姿を現したのだった。 「ジャイロさん! サイトさん! しっかり! しっかりしてください!」 「やかましいぞシエスタ! いまいいところなんだ! 邪魔するな!」 シエスタの絶叫に、主が激昂する。 「やはりこいつらは持っていない……。となるとさっきの女だ。あのガキがもっているんだ!」 手に入れてやる! 手に入れてやるぞ! そう嗤いながら叫ぶ伯爵の姿に、シエスタの恐怖心は限界に達していた。 それでも。 「お止めください伯爵様! こ、この方達の主人は、トリステインの名門、ヴァリエール家の方です! いくら伯爵様でも! あの方と諍いを起こしては!」 シエスタは必死に止める。 才人のためでもあり、ジャイロのためでもあり、そしていま窮地に陥っているルイズのために。 そして道を踏み外そうとしている主人のために。 「だからどうしたぁっ!」 だがシエスタの言葉は、彼には届かない。 否、この男には、誰が、何と言おうと。 そう、例え――この国の王が言ったとしても。 「あいつはもっているんだ! もっているんだよシエスタ! いかなる権力より! いかなる財宝より待ち望んだものを! どんなものよりも優先されるんだ! あれを手に入れることが! 正しいことなんだ!!」 そう断言したモット伯が、なにやら呪文を唱えると、才人、ジャイロ、そしてシエスタの四肢が、まとわりついた水によって拘束される。 「……えっ、やっ。なに、動けないっ……」 「黙って見ていろ!」 次々と引き出される。岩、木、動物。植物……。 ルイズを引き上げるまで、無差別に引っ掛けては釣り上げる。 そして、シエスタの隣に、ずごん、と何かが突き刺さった。 「ほー……いててて。いくら見てくれが悪いって言っても、まったく扱いが乱暴だぜ」 何かが、喋る。でもそれは人の姿ではないことに、シエスタはどんな反応をすればいいのかわからなくて、悩んでしまった。 「おや? 相棒がいるってことは、ここが敵の居場所かね? なあそこの娘っ子」 「あ……、貴方、は?」 「俺か? 俺さまはデルフリンガーってんだ! よろしくな、娘っ子」 呑気に挨拶をするデルフリンガーに、シエスタは呆然としながら、会釈だけする。 「さーーーーあ。どこにいるんだああぁぁーーーー。 ウィーン。 ガシャーーーーン」 嬉々としてルイズを追い詰めるモット伯の声だけが、高らかに響いていた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8147.html
前ページ次ページTALES OF ZERO 第八話 メイドの危機 前略、お袋様…俺は今日も異世界で使い魔生活を送っています ルイズは可愛いけど嫌な奴で苦労が多いですが、クラースさんがいるのでそれ程苦ではありません 何時帰れるか解りませんが、帰れる事を願っています 願って…いますが…… 「動くな…動くと頭に風穴が空くぞ。」 俺は今、黒服の男に銃剣を突きつけられています…命の危機って奴です 何でこうなったのか…それは昼の事です …………… 「えっ、シエスタが辞めた!?」 時間は遡って昼頃…王都から帰ってきて数日が経っていた 今日も才人はルイズを怒らせてご飯抜きになり、厨房にごはんを貰いにきていた その最中に、マルトーからシエスタが学院のメイドを辞めた事を聞かされた 「何だ、シエスタから聞いてねぇのか…モット伯って貴族に仕える事になったんで、今朝迎えの馬車でいっちまったよ。」 「そんな、俺全然…それより誰です、そのモット伯って?」 「王宮の勅使で、時々用事で此処に来る貴族だ…運悪く、見初められちまったんだろうな。」 シエスタ、止めちまったのか・・・持っていたスプーンをテーブルの上に置く 彼女とはこの世界に来てから、随分と親しくなってきたのに… 「…でもまあ、もう二度と会えないって訳じゃないし。機会があれば会いに行きたいな。」 「そいつは無理な話だな。」 「どうしてですか?」 「モット伯は王宮の勅使を勤める大貴族だ、平民如きがシエスタに会う為だけに屋敷へ入れてくれる訳がねぇ。」 それにな…とそこまで言うが、マルトーはその先を言うのを渋る 「それにって…何かあるんですか?」 「ああ…モット伯は女に対して節操が無くて、気に入った平民の女を無理矢理屋敷に連れ込んでいるらしい。」 「ええっと…つまり?」 「つまりだな…モット伯はシエスタを自分の女にするつもりなんだよ、色んな意味でな。」 よく理解できなかった才人は、その言葉でようやくマルトーの言いたい事が理解できた …色んな意味ってのは、つまりあんな事とかそんな事とかするんだよな… そう言うのって、漫画の話だけかと思ったけど… 「…って、それって大変な事じゃないですか。何とか出来なかったんですか?」 「無茶言うな、コックの俺がとやかく言えるもんじゃねぇ…ま、所詮平民は貴族に適わねぇのさ。」 既に諦めた口ぶりと表情…そして溜息を残し、マルトーは仕事に戻っていった そんな話を聞かされては、もうこれ以上食べる気も起きなかった 「シエスタ……と、取り合えずクラースさんに…。」 才人は食事を止めると、クラースに相談する為彼の元へと走った 今の時間なら、図書館にいる筈である 「(あの時…あんな顔をしていたのは、こういう事だったのか。)」 この前の王都で占いをしてもらった時の事を思い出す 今思えば、あの時既にモット伯の所に行くのは決まっていたのだろう 「(シエスタ、どうして…どうして何も言ってくれなかったんだよ。)」 あんな顔をしていたという事は、本当は行きたくなかったんだろうに クラースなら良い知恵を出してくれると信じて、才人は図書室へ急いだ 「では…初め!!」 図書室では、クラースの合図と共に二人の少女が羽ペンを動かしていた ルイズとタバサ…二人はクラースから出された簡単な課題を解いている 今回は、アセリアの文章をハルケギニアの言葉に訳すというものだった 「………はい、終了。」 しばらくして時間が来た…二人は答えを書いた紙をクラースに渡す クラースは二人が訳した文を見て、正しいかどうか確認する 「………ルイズ、五番目の所を口答で言ってみろ。」 「えっ、えっと…彼女の料理は最高に美味しかった?」 「残念だが、此処は『美味い』ではなく『不味い』だ。単語の綴りが似ているから気をつけろよ。」 ルイズに注意すると、今度はタバサの用紙を確認する 「タバサはちゃんと訳せているな。試しに最後の文を口答で言ってみてくれないか?」 「この世に悪があるとすれば…それは人の心。」 「そうだ、そういう意味になる…よく出来たな。」 「………。」 クラースがタバサを褒めるのを見て、ルイズはムッとなった 「(何よ、あれ位で…大体何でタバサと一緒に先生の授業を受けなきゃいけないのよ。)」 タバサと一緒に勉強するようになったのは昨日から… クラースが別々に教えるよりも二人一緒の方がやりやすいという事でこうなった 彼女がクラースから師事を受けているのは、前から知っていた だが、一緒に…となると話が違ってくる 「(クラース先生は私だけの先生で良いのに…。)」 彼女は人一倍プライドと独占欲が強い 今のようにタバサが自分よりも上手く課題をこなし、クラースに褒められる… それがルイズの心を刺激し、このように不機嫌になるのだ 「ルイズ、そう怒るな…私はタバサだけでなく、君の事もちゃんと評価しているぞ。」 此処で、ルイズがふてくされる事に気付いたクラースのフォローが入る 「君が夜遅くまで勉強している事も魔法の練習をしている事も私は知っている…君は十分頑張っているさ。」 「でも…結果が出なきゃ、意味がないじゃない。」 でなければ、自分はゼロのルイズのまま…一生周囲から馬鹿にされ続ける 今度は自分のコンプレックスを意識し、落ち込みそうになるが… 「努力しても結果がすぐに出てくるとは限らん…ずっと出ないかもしれない。」 「………。」 「だが、諦めたらそれまでだ…自分を信じ、努力を続けていけば良い。」 結果は出ると信じて…クラースは最後の言葉に繋げる …そういえば、クラース先生も努力したから召喚術を体得したって言ってたっけ… …自分を信じて、結果は出ると信じて、か… しばらく色々と考えた後、クラースに向けて顔を上げてルイズは答える 「……解ったわ。タバサと一緒でも、すぐに結果が出なくても、やってやろうじゃない。」 「そうだ、その調子だ…さ、話が纏まった所で次を…。」 「クラースさん、大変です!!」 その時、向こうから才人の声が聞こえてきた 何事かと三人が振り向くと、本棚の間を走って才人がやってくる 「ん、どうした才人?そんなに血相変えて…。」 「あんた、部屋の掃除はどうしたのよ。こんな所で油売ってる暇があるなら…。」 「そんな事してる場合じゃねぇんだよ!!!」 普段通りのルイズに対し、才人は大声で怒鳴った それにルイズは驚き、周囲で読書をしていた生徒達も何事かと此方を見る それでも、才人は気にせずに叫ぶようにしゃべりだした 「クラースさん、大変なんです。モット伯が学園を辞めて、シエスタに雇われて…。」 「才人、落ち着け…何を言ってるのか解らんから、まずは深呼吸しろ。」 「あっ…はい、すいませんでした。」 クラースの言葉に才人は一度大きく息を吸い…そして、吐き出す 何とか自身を落ち着かせると、先程厨房で聞いた事を話し出した 「成る程、シエスタがモット伯という貴族に見初められ、学院を辞めた…というわけか。」 話を聞き終えて、クラースが簡潔に纏める 「シエスタって、あのメイドの…何か一大事かと思ったけど、その程度なわけ?」 もっと重大な事かと思ったので、才人の話を聞いてルイズは呆れた タバサに至っては顔色を変える事なく、本を読んでいる 「そうなんです…どうしましょう、クラースさん。」 「そうだな…大抵、貴族の男が若い平民の女に手を出すという事は、妾になれっていう事だろうしな。」 元々頼りにしてないルイズよりも、クラースだけが頼りだった きっと、クラースなら何か良い案を出してくれると信じていた才人だったが… 「………才人、こればかりはどうしようもない、諦めろ。」 「そんな…どうして!?」 しかし、返ってきたのは才人の期待を裏切る言葉だった その返事に納得出来る筈もなく、すぐに理由を問いかける 「相手は王国の勅使を勤める大貴族だ…何かコネでもない限り、シエスタを学園に戻すのは不可能だ。」 「先生の言う通りね…諦めて、さっさと掃除に戻りなさい。」 ルイズが才人を見ずにそう告げる その言葉にイラッと来たが、彼女の家の事を思い出して頼み込む 「なあルイズ、お前なら何とか出来ないのか…お前の家だって凄い貴族なんだろ?」 「馬鹿言わないで。たかだかメイド一人くらいでヴァリエール家が動くわけないでしょ。」 これもまた至極当然な意見である…が、やはり納得出来なかった うーっと唸った後、彼はクラース達に背を向けて歩き出した 「才人、どうする気だ?」 「俺、モット伯って貴族の所に行きます…そんなに言うなら、俺一人だけでも…。」 そう言って、出て行こうとする…が、クラースは才人の腕を掴んだ 「クラースさん、何を…離してください。」 クラースの手から逃れようとするが、彼の握力が強くて振り切れない 「才人、無茶は止めろ…問題を起こせば君だけでなく、ルイズとルイズの家が危なくなるんだぞ。」 クラースの言葉に、才人は疑問を抱いて暴れるのを止める その様子にクラースは一度才人の腕を放し、疑問に答える 「考えてみろ、大貴族の屋敷でルイズの使い魔である君が問題を起こせばどうなるか…。」 「運が悪ければ、その場で処刑…そして、ヴァリエール家にも厳正な裁きが下される。」 クラースの言いたい事を、本を読みながらタバサが答える 「今の私達の立場は、君が考えている以上に重いものだ…後先考えずに行動すれば、弊害が出る。」 「でも…このままじゃシエスタが…。」 「じゃあ、改めて聞こう…君は己の命を捨て、ルイズと彼女の家を危険にさらしてまでシエスタを救う覚悟があるのか?」 「そ、それは……。」 真剣な表情で問いかけられ、才人は言葉を失う 正直シエスタを助ける事しか考えていなかったので、そんな事になるなんて考えもしなかった そんなの、即答出来る筈が無い…答えが出せないので、クラースは切り上げる 「ないのなら、諦めろ…今回は運が悪かったとな。」 「くっ…畜生!!!」 誰にもぶつけられない怒りを抱え、才人はそう叫んで走り去ってしまう クラースは追いかける事無く、去っていく才人の後姿を見続けた しばらく、そっとしといた方が良いだろう…そう判断したからだ 「珍しいわね…先生ならあいつの肩を持つと思ったのに。」 「どうにも出来ない事がある事くらい、分かっているつもりだ。」 そう答え、才人の姿が見えなくなるとクラースは椅子に座り込んだ 「…本当は先生だって、メイドの事が心配なんでしょ?」 「そりゃあ、彼女には世話になったからな…だが、こればかりはな。」 自分は英雄などと呼ばれるが、所詮はただの人間… 彼女の為に何も出来ない事で、改めてそれを思い知らされる 「考えても仕方ない…さ、続きをやるとするか。」 シエスタの件を割り切って、クラースは授業を再開する その後、二人はこの件に関して何も言わずに、授業を受け続けた 時間は過ぎて夕食…食堂に人が集まってきた 夕食を食べようと生徒や教師達が席に着き、クラース達も食堂に来ていた 「夕食に来ないなんて…何処で油を売ってるのかしらアイツ?」 床に置いてある才人用のご飯を見下ろしながら、ルイズは才人が来ないかとあちこち見回す 入り口からは何人かの生徒がやってくるのが見えるが、才人の姿はない 「昼の事があるからな…そうすぐには来ないとは思っていたが、遅いな。」 「全く…折角今日は少しだけ豪華にしてあげたのに。」 ルイズの足元にある才人の食事は、普段よりかはマシな物だった それは、今日の事で傷ついているであろう才人への、彼女なりの気遣いなのだろう 「あら、クラース先生、こんばんは。」 そんな時、キュルケが二人の前へやってきた 彼女は配膳用のカートを使っており、そこには食事が幾つも並んでいる 「ああ、キュルケか…こんばんは。」 「ちょっと、私を無視するなんていい度胸じゃない。」 「あら、ルイズいたの?色々小さいから全然気付かなかったわ。」 ふてぶてしく言うキュルケに、ルイズは地団駄を踏む 「それよりキュルケ、才人を見かけなかったか?」 「見てないですわ。私もサイトの事探しているのですけど…。」 折角、ご飯用意したのに…と、持ってきた料理を見る どうやら、才人の為にこうして持ってきたようだ 「ちょっと、あんた。勝手に人の使い魔に餌あげないでよ。」 「だって、貴方ったら彼にまともに食事を取らせないじゃない。」 「躾けよ、主人である私の事を敬わない使い魔はちゃんと躾けないと。」 「ゼロのルイズじゃ仕方ないんじゃない。」 「なんですって~~~!!!」 何時ものように口論…というより、ルイズが一方的に叫ぶ やれやれと呆れると、クラースは立ち上がった 「少し、才人を探してくる…もしかしたら、部屋に戻っているのかもしれない。」 「じゃあ、私は不本意ながらルイズの相手をしながら待っていますわ。」 隣で叫ぶルイズの言葉を聞き流し、キュルケは微笑みながら手を振る 早速女子寮へ行こうと、クラースが食堂の出入り口へ差し掛かった その時、外から来た生徒と軽くぶつかってしまう 「おっと、すまない…ああ、ギーシュか。」 「これはクラース先生…失礼しました。」 相手はギーシュで、自分がぶつかった非礼を詫びる 君にまで先生と呼ばれるとは…取り敢えず、才人の行方を尋ねてみる 「所でギーシュ、才人を見なかったか?昼間から姿を見せないのだが…。」 「サイト?彼なら一時間ほど前にホールの方で見かけましたが。」 「本当か?」 ギーシュは頷くと、その時の事を話し始める 「僕がモンモランシーと話している時に、『モット伯の屋敷は何処か』と尋ねてきましてね。」 「何だって!?」 だが、その内容はクラースに嫌な予感を抱かせるのに十分なものだった 大きな声を出したのでルイズとキュルケ、他の生徒達がどうしたと此方を見る が、構わずにクラースはギーシュから続きを聞きだそうとした 「それで、どうしたんだ?」 「学園から少し離れた所に屋敷があると場所を教えたら、そのまま何処かに行ってしまいましたけど。」 「何という事だ…才人の奴、馬鹿な真似を。」 話を聞いたクラースは走り出し、外へ向かっていった 何をそんなに慌てているのだろう…事情を知らないギーシュは首を傾げる 「ギーシュ、クラース先生どうしたの?」 「何か走っていくのが見えたけど…。」 ルイズとキュルケがギーシュに駆け寄り、何があったのか尋ねる ギーシュは先程、クラースに話した内容を二人に話した ……… 「はぁ、はぁ、はぁ…あの野郎、歩いて一時間だなんて、聞いてねぇぞ。」 一方、才人はモット伯の屋敷前まで来ていた 長い道のりに疲れ、傍の木にもたれかかって少しばかり休む その背中には、クラースが武器屋で買ったデルフリンガーを背負っていた 「しかし、坊主…貴族様の屋敷まで来て、何をやろうってんだ?」 「坊主じゃねぇ、才人だ…当然、シエスタを助けるんだ。」 クラースにああ言われたが、やはりシエスタの事を諦めきれない ギーシュからモット伯の屋敷を教わり、こうして乗り込もうとしている 「んで、何で俺っちなんかを連れてきたんだ?」 「仕方ねぇだろ、ロングソードはクラースさんが管理してるし…お前しかいなかったんだ。」 相手はメイジなので、万が一にと武器としてデルフリンガーを持ってきた こんな調子では、本当にクラースの言ったように大事になりかねない だが、この時才人は事態をそんなに真剣に考えず、楽観視していた シエスタを助ければ、何とでもなるだろう…と 「んにしても、変だな…相棒だけでなくお前さんまで使い手なんてよ。」 「使い手?何だよ、それ?」 「忘れた…けど、お前さんが刻んでいるルーンは本来一人だけしか刻まれねぇ筈だ。」 そう言われて、才人はマジマジと自身のルーンを見つめる 自分とクラースに刻まれた、ルイズの使い魔の証を… 「こいつが…けど、そんなの今は関係ねぇし。早くシエスタを助けないと。」 「上手くいくのかねぇ、本当に。」 「もうお前黙ってろよ…行くぜ。」 それで話が終わり、才人は一歩前進して屋敷に入ろうとした… 「あ、坊主、待て。」 が、その直前にデルフがまた口(?)を開いた 出鼻を挫かれた事に苛立ちながら、才人はデルフに怒鳴る 「だから坊主じゃねぇって、才人だ…何だよ、待てって?」 「いや、それ以上動かねぇ方が良いぞ。」 「どうして?」 「いや、だってお前…後ろから狙われているから。」 え…と後ろを振り返ろうとするが、それは出来なかった 何故なら、後頭部を冷たい何かが触れていたからだ 「な、何だ…。」 「動くな…動くと頭に風穴が空くぞ。」 自分に触れる物と同じくらい、冷たい声が才人の耳に響く 才人の背後は完全に、何者かに奪われていた 「(…ってな感じで、俺ピンチな訳だけど…。)」 回想を終え、才人がゆっくりと後ろを振り返る 相手は自分より大きな男だった…黒服を身に纏い、長髪で手には銃剣のついたライフルを持っている その先が、男の鋭い眼光と共に此方に向けられているのが解った 「全然気付かなかった…一体何処にいたんだ?」 「気配を殺して俺達の様子を見ていたんだろうぜ…こいつ、プロだ。」 お前さん以上にな…と、デルフが相手の力量を才人に教える 自分が弱いと言われた事にムッとなった才人だが、男がライフルを突きつける 「それ以上喋るな…命が惜しいなら、質問に答えるだけにしろ。」 その言葉に偽りは無かった…その事は才人でも相手の口調で解った 才人は口を閉ざし、デルフもそれ以上何も言わなくなった 少しばかりの沈黙が続いた後、男は口を開く 「最初の質問だ…貴様の名は?」 「えっと…才人、平賀才人…。」 「ヒラガサイト?変わった名だな…まあ、それはどうでも良い。此方を向け。」 男の指示に、才人はゆっくりと男の方へと振り向いた 改めて見ると、髭面で額に大きな傷のあるのが特徴の男だった 男は才人の事をその鋭い目でじっくりと見回し、何か確認を取り始める 「………『土くれのフーケ』ではなさそうだな、貴様の気配は素人そのものだったしな。」 「土くれのフーケって?」 「次の質問だ。何をしに此処に来た?剣を持って…此処が貴族の屋敷だとは知っているだろう?」 才人の質問を無視し、男は次の質問をしてきた 仕方なく、才人は此処にきた目的をこの男に話し始めた ……………… 「…ってな訳なんです、だからモット伯に会わせてくれませんか?」 「成る程、そういうわけか…。」 事情を聞き終え、ライフルを肩に背負いながら男は考える これで、何とかなるかも…と思った才人だが、すぐに返事は返ってきた 「許可無き者は誰も通すなとの命令を受けている…お前を中に入れる事は出来ん。」 結果はノー…そう言われても、はいそうですかと才人は引き下がるわけにはいかない 「お願いです、ほんの少しだけで良いですから…。」 「すぐに立ち去れ。」 必死になって頼んだが、男は全く聞こうとしなかった 話は終わりだ、と男は才人に背を向けて屋敷に戻ろうとする こうなったら…功を焦った才人はデルフリンガーを握った 「実力行使に出るか…止めておけ、怪我をするだけだぞ。」 後ろを向いていても、男は才人が何をしようとしているのかが解った だが、男の忠告を受けても才人は止めようとはしない 「相手の言う通りだ…止めとけ、坊主。」 「才人だ…そんなの、やってみなくちゃわかんねぇだろ!!!」 デルフの制止も聞かず、啖呵を切る才人…その時、左手のルーンが輝きだした デルフを抜くと同時に、才人は男に向かって一気に接近する その素早さは、一瞬で相手との間合いを詰める 「でやっ!!」 一閃…デルフの峰の部分を男に向かって大きく振り下ろした 並の人間なら一撃で敗れる攻撃だが、男は後ろ向きにままで、横に避ける 「スピードは速いな…だが、それだけだ。」 「ちっ、くそ!!!」 続けてもう一閃…これもまた避けられる 焦った才人は我武者羅にデルフを振り回すが、男はそれを悉く避けた 無駄のない、最小限の動きによる回避である 「全然当たらねぇ。何でだ!?」 「そんな俄仕込みの剣術と焦りでは、当たらないのも当然だ。」 「うるせぇ!!!」 才人が渾身の力で横切りを放つと、急に男が視界から消えた えっ…と思う才人だが、直後に足に衝撃が走り、視界が反転する それは男が足払いを仕掛けたからで、才人は地面に倒れる 「くそ…わわっ!?」 悔しがる才人だが、それはすぐに焦りへと変わった 男がライフルを振り上げ、才人を銃剣で突き刺そうとしたからだ 才人は横に転がる事で回避し、すぐに立ち上がる 「だから言ったのに…坊主、お前じゃあいつに敵わねぇぞ。ここらで逃げた方が良いんじゃねーか?」 「才人だ。んな事出来るわけねぇだろ。」 才人はデルフを構えたまま、男の様子を伺う 男は自分から攻めるつもりはないらしく、ライフルを片手に持って立っている 「…あんた、何で撃ってこないんだ?それ、ライフルだろ?」 「騒ぎを大きくすると、後処理が面倒なのでな…それに、弾代が勿体ない。」 相手は本気を出していない…悔しいが、自分はそれ程の相手ではないという事だ だが、相手が本気を出していない今の内に倒す事が出来れば… 「隙を突けば良いんだろうけど…どうやって隙を付けば…。」 「自分で作り出すって手もあるぜ。例えば相手が見た事のない手を出すとか…。」 デルフの助言を聞いて、才人の頭にある作戦が閃いた そうだ、アレを使えば少しだけ隙が出来るんじゃないか… 「終わりか?なら、とっとと立ち去れ。今ならこの事は不問にしてやる。」 「んな事出来るかよ…これでも喰らえ!!」 才人は剣を大きく振りかぶり、剣圧を放った…魔神剣だ 男は少しばかり驚いたようだが、才人の魔神剣を簡単にかわす だが、動きに隙が出来ている…それが才人の狙いだった 「いまだ!!!」 才人は一気に駆け出し、男に向かって突進する これで決める…男の間合いを掴み、デルフを振り上げた 「これで!!」 「……瞬迅槍」 攻撃が当たる直前、男がライフルを突き出してきた キィンと金属がぶつかる音が聞こえ…気が付けば手にはデルフが無かった デルフは弾き飛ばされ、弧を描きながら地面に突き刺さる 「敵の意表をついての強襲…中々いい作戦だったが。」 「くっ…うわっ!?」 男は蹴りを放ち、腹部にもろに当たって才人は地面に仰向けに倒れた すぐに起き上がろうとするが、眼前に銃剣を突きつけられる 「相手の力量を見誤っていたな…チェックメイトだ。」 男が涼しい顔で宣言する…才人の敗北を 「ま、負けた………。」 自分が負けた事を自覚し、才人はそれ以上の闘志を失った 顔を上げて自分を負かした男を見る…相手は鋭い眼差しと共にライフルを此方に向けている 俺はどうなるんだろう…銃剣で突き刺されるか、弾を撃ち込まれるか どちらにしろ、これだけやっておいて無事に帰れる筈がない 「(俺、何にも出来なかった…ごめん、シエスタ。)」 心の中でシエスタに謝り、才人は自分の最後を覚悟した しかし… 「…ヒラガサイトと言ったな。己の愚行に懺悔する暇があるなら、最後の質問に答えてもらうぞ。」 男は引き金を引くことも銃剣を突き刺すことも無く、そう言った 才人が驚いて顔を上げたと同時に、男が最後の質問を口にする 「モット伯が連れてきたシエスタという女…貴様の何なんだ?」 「えっ、シエスタが俺の…。」 「さっさと答えろ、時間はそんなにはやらん。」 引き金に掛けている指が動く…慌てて才人は、自分の意見を率直に伝える 「え、えっと、出会って日は浅いんですけど同じ職場の仲間というか…仕事は全然違うんですけど。」 「知人レベルか…それ位でしかないというのに、お前は危険を冒してまで俺に挑んだのか?」 「だって、こんなのあんまりじゃないですか。シエスタが逆らえない事をいい事に、貴族の力を行使して…。」 才人は理不尽な事が許せない性質だった 貴族だから何をしても良い訳がない、こんなの間違っている…と その思いが、才人をこうして突き動かしている 「だから、だから俺は……。」 そこまで言うと、才人はそれ以上何も言えなくなった 二人の間に沈黙が流れる…男は相変わらずライフルを構え、才人は動かない それがしばらく続いた後、急に男がライフルを下ろして歩み寄ってくる 「………貴様の持っている鞘を渡せ。」 説明も無く、突然そう言われたので才人はすぐに対応できなかった 早くしろとの声に、慌てて才人は背中に背負っている鞘を外し、男に差し出す 男は才人から鞘を受け取ると、向こうに地面に突き刺さっているデルフに歩み寄る 手を伸ばすと、地面に突き刺さっていたデルフを引き抜いた 「お前、予想以上に強いな。それにこの感じ、普通の人間とは違う…。」 「お喋りな剣だ…少し黙っていろ。」 「えっ、おい、ちょ……。」 デルフの言葉を無視し、男は鞘にしっかりと刀身を納める そして、近くの茂みに向かって放り投げ、デルフの姿は見えなくなった 「剣など持ったまま屋敷に入れるわけにはいかんからな…あの剣にはあそこにいてもらうぞ。」 「えっ、それって…。」 「貴様の思いに免じて、モット伯に取り次いでやる…会えるかどうかは保証出来んがな。」 その言葉に、才人はその意味を理解するのに時間が掛かった やがて、屋敷に入れると解り、急に笑顔になる 「ほ、本当に…ありがとうございます、おじさん。」 「おじさんと呼ぶな、俺の名はリカルド・ソルダートという名がある。」 男、リカルドが訂正するが、そんなの才人にはどうでも良かった 色々あったが結果オーライだ…無茶をしたのは無駄ではなかったのだ 「だがな、ヒラガサイト…一つだけ忠告しておくぞ。」 「はい?」 そんな才人の思いを見透かしたかのように、再度リカルドは口を開く 「貴様の行動は無謀すぎる…何時までもそれでは、何時か命を落とす事になるぞ。」 それだけだ…そう言うと、リカルドは屋敷の方に向かって歩き出した 遅れないよう、才人は早足でその後に続く この時、シエスタの事しか考えてない才人はリカルドの言葉を深く考える事は無かった それから…リカルドの進言もあって才人はモット伯に会える事になった 屋敷の中をリカルドの後を追って、モット伯の部屋へと向かう 「それにしても…何だか凄い警備ですね。」 此処に来るまでの間、何人もの武装した兵士達を見かけた 館の周りには、羽を生やした犬のような番犬が何匹もいたし… 「土くれのフーケがモット伯の宝を狙っているらしいからな…警戒が厳重になっている。」 「そう言えば、さっきも言ってたけど土くれのフーケって?」 「最近世間を騒がせているらしいこそ泥だ…貴族専門に盗みを働くと聞く。」 リカルドは傭兵として、モット伯に雇われて屋敷の警護をしていたらしい そういう事情だったのか…大変な時に着ちゃったなと才人は思った 「ついたぞ、此処だ。」 やがて、二人は奥の部屋の前へと到着した リカルドがドアをノックすると、奥から「入れ」と男の声が聞こえてきた そして扉を開け…中に入ると、そこには二人の人間がいた 「貴様か、私に会いたいという平民は?」 一人は中年の男性で、自身が貴族である事を言っているような衣装をしており、杖を持っている それに左手には、海の色をした宝石がついた指輪を嵌めている この男がモット伯だ…もう一人は、そのモット伯の隣にいる 「シエスタ!?」 「サイトさん、どうしで此処に!?」 シエスタだった…学院のメイド服ではなく、この屋敷の物であろう赤いメイド服を着ている そのシエスタは、才人が此処に来た事に驚いていた 「シエスタの知り合いだそうだが…こんな時間に平民が面会とは、何用で此処に…。」 「お願いします、シエスタを学院に返してください。」 モット伯が言い終える前に、才人がモット伯に向かって頼み込んだ しかし、頼み方が不味かったらしく、モット伯は眉をひそめる 「無礼だぞ、貴様。リカルドが進言したので会ってやったというのに、いきなり私に頼みこむとは。」 「お願いします、シエスタを学院に返してくれるなら俺なんでもします、だから…。」 この機会を無くせば、もう二度とこんなチャンスは来ない 一歩も下がらずに、才人は必死になって頼み込んだ 「(サイトさん…私の為に…。)」 そんな才人の姿を、シエスタは悲痛な想いで見つめる 別れが辛くなるからと、彼には何も言わずに学院を去ったというのに 私の為に、才人さんは此処まで来て一生懸命頭を下げている… 「(ああ、神様……。)」 シエスタは胸につけている黒の宝石を握った…それは才人から貰ったブラックオニキスだ ヒルダから言われたように肌身離さず付けているその宝石を手に、シエスタは祈った 私はこのままでも構いません、でも才人さんが何事も無く帰れますように…と しばらく、沈黙が続く…その沈黙を最初に破ったのは、モット伯だった 「ふむ、何でもするとな…確かお前はシエスタと同じ学院に勤めているのだそうだな。」 「えっ…はい、まあ。」 モット伯は笑みを浮かべると、壁際にある本棚へ向かった かなりの蔵書量で、幾つもの本が並べられている 「私は珍しい本のコレクションが趣味でね、例えばこの本などは…。」 「伯爵、用件は率直に言えばよろしいかと?」 「うん、そうか?残念だな、この本の素晴らしさを語れんのは。」 モット伯が本の薀蓄について語ろうとするのを、リカルドが阻止する ただの傭兵にしては、リカルドは結構発言力があるらしい 気を取り直して、モット伯は本題に入る 「それで、私には欲してやまない本がある…『召喚されし書物』だ。』 「召喚されし書物?」 何処かで聞いたような…才人が記憶を辿ろうとする前に、モット伯が続きを喋る 「ある魔法使いが魔法の実験中に偶然呼び出したものらしいが…今はゲルマニアのツェルプストー家が家宝にしていると聞く。」 「ツェルプストーって……ああ、あれか!?」 才人は大声を出しながら、本の正体が解った 王都に行く前の夜、キュルケがクラースに差し出そうとしたあの本だと 「知っているなら話が早い…召喚されし書物をもって来る事、それが交換条件だ。」 「よりによって、キュルケが持ってる本を持って来い…かよ。」 その後、学院までの道を走る才人の姿があった キュルケの持っている召喚されし書物を手に入れる為に 「早くした方が良いんじゃねーか?貴族の気は変わりやすいっていうしな。」 「解ってるよ、そんなの。」 デルフにそう答え、才人はもっと早く走る キュルケが易々と本をくれるだろうか、本を渡して本当にシエスタが帰ってくるのか… 上手くいくとは限らないが、折角掴んだチャンスだ、絶対に逃さない そんな想いで走り続けていると、向こうから馬が走ってくる音が聞こえてきた 「ん、何だ…馬?」 「才人!!!」 此方から馬の姿が見えたと同時に、自分を呼ぶ声も聞こえてきた 馬には当然人が乗っているのだが、その搭乗者はクラースだった 「あっ、クラースさん!?」 「才人、無事だったか。」 学院の馬を借り、クラースは急いでモット伯の屋敷へと向かう途中だった 馬を落ち着かせると、クラースは降りて才人の下へと駆け寄る 「クラースさん、聞いてくださいよ。俺シエスタの為に…。」 才人がクラースにモット伯邸での事を報告しようとした矢先、突然頬に衝撃が走った 突然の事に対処が出来ず、才人はその場に尻餅をついてしまった 最初何があったか解らなかったが、やがて自分がクラースにぶたれた事に気付いた 「クラースさん?」 「この馬鹿、あれ程無茶をするなと言ったのに!!」 クラースは怒っていた…此処まで才人が考えなしに無茶をしたのだから 「それに、デルフを勝手に持ち出して…お前の耳は唯の飾りか、何の為にああも言い含めたと思っているんだ!?」 「で、でも、その無茶のお陰でシエスタが帰って来られるかもしれないんですよ?」 才人の言葉にクラースは才人の首元を掴み、無理やり立ち上がらせた 服が破けそうな勢いだったが、クラースは構わず言葉を続ける 「だからこれで良かったと本気で思っているのか?なら、私は君を軽蔑するぞ。」 「クラースさん………。」 クラースがこんなに怒ったのは初めてだった…その怒りの目が自分に向けられる事も その様子に才人は何も言えなくなり、恐怖さえ感じた しばらくしてクラースは首元から手を離し、その拍子に才人は地面にぺたんと再び尻餅をついた 「…なぁ、才人。私には責任があるんだ…君を召喚し、このような目に合わせてしまった責任が。」 クラースも地面に座り込み、同じ目線で才人に語りかける 先程のように怒りを含まず、落ち着いた口調だ 「だから、私は帰る方法を見つけなければならない…最悪、君だけでも元の世界に帰したい。」 「………。」 「だが、その前に君に万一の事があれば…私は君のご両親に何と言えば良いんだ?」 そうだった…この人は俺の為に、色々と手を尽くしてくれているんだ なのに、俺はクラースさんに迷惑を掛けて…心配掛けさせて… 「ごめんなさい、クラースさん……ごめんなさい…。」 クラースの思いを知り、気付けば才人は涙を流していた 涙を流しながら謝り、それを聞いたクラースはポンと才人の頭の上に手を置く 「解れば良い…今度からは一人で勝手にこんな無茶はしないでくれよ。」 「…はい。」 「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが、何とかなったみてぇだな。」 涙を拭う才人の背中で、デルフが一安心する 「デルフ…そもそもお前が才人の事をちゃんと止めてくれればよかったんだぞ。」 「俺は剣だからな…言葉は喋れても使い手を止めるってのはちょっと無理だな。」 「全く…まあいい、それよりモット伯の屋敷で何があったのか、報告を聞こう。」 クラースの言葉に、才人は改めてモット伯邸で何があったのかを話し始めた 「…あっ、帰ってきた。」 魔法学院の門前…そこにルイズとキュルケの姿があった クラースが飛び出してしまった後、此処で彼が帰ってくるのを待っていたのだ そして今、クラースは才人を乗せて帰ってきた 「クラース先生、それに才人も…無事だったのね。」 事情はルイズから聞いていたキュルケは、二人が無事帰ってきた事に安堵した 二人が馬から降りると、真っ先にルイズが駆け寄ってくる 「この馬鹿犬、モット伯の屋敷乗り込むなんて何やってんのよ!?」 「ルイズ……ごめん。」 「ごめん、で済む問題じゃないでしょ!!!」 才人の行いにはルイズも怒っていた…謝る才人に、ルイズは手を上げようとする 敢えてそれを受けようとする才人…しかし、その手はクラースが間に入って止めた 「私がちゃんと言っておいたからな…それ以上は止めておいてやってくれ。」 「先生は甘いわ。主の言葉を守らない使い魔はキチンと御仕置きを…。」 そう言ってもう一度才人を見ると、彼の頬が赤くなっている事に気付いた クラースの言葉が嘘ではない事が解ると、ルイズは手を引っ込める 「…まあ、クラース先生に免じて、私からのお仕置きは保留にしといてあげるわ。」 「すまんな…所でキュルケ、折り入って話があるんだが…。」 「私?」 クラースは才人から聞いたモット伯からの条件を、キュルケに話した 「………というわけで、すまんがあの本を渡してくれないだろうか?」 「あの本を…うーん、どうしようかしら?」 クラースの頼みに、キュルケは少し意地悪な笑みを浮かべる すぐに返答を返さず、こうした態度を取るのが彼女の悪い癖である 「頼むよ、キュルケ…あの本がないとシエスタが…。」 「……嘘よ、そんな顔しないで。人助けだと思って貴方達にあげるわ。」 才人があまりに情けない顔で頼んだので、クスクス笑いながらそう答える 「すまんな、君の家の家宝を二つも貰う事になってしまって…。」 「気にしなくても良いですわ、どっちも私には不要なものですし。」 今すぐ取ってきますわ、そう言ってキュルケは女子寮の方へと向かった 十数分後、あのケースを抱えたキュルケが戻ってくる 「はい、どうぞ…それと鍵もね。」 「感謝する。」 差し出された『召喚されし書物』とその鍵をクラースが受け取る クラースの横で、才人が珍しい物を見る目で見つめる 「あのヒヒ親父が欲しがる本か…一体どんな本なんだ?」 「確か男性の欲情をかき立てる効果があるらしいけど…何なら見てみる?」 「良いのか…なら、少しばかり拝見させて貰おうか。」 キュルケの言葉に、クラース自身も中身は気になっていたので鍵をケースに差し込んだ 鍵を開け、ケースを開くと中には一冊の本が入っていたのだが… 「なっ、これは…。」 「これが召喚されし書物って…マジかよ!?」 中身を確認し、才人とクラースは顔を見合わせる 本の中身は、二人が予想だにしないもので、二人が良く知っている物だったからだ 「…キュルケ、中身はこれで間違いないんだな。」 「ええ、そうですわよ。それが召喚されし書物ですわ。」 「ふむ…色々言いたい事はあるが、先にこれをモット伯に届けるか。」 召喚されし書物をケースに戻し、再び鍵を掛ける クラースは再び馬に跨り、才人もその後ろに跨る 「では、ルイズ、キュルケ…行ってくる。」 「早く帰ってきなさいよ。」 「期待通りの成果が出る事を祈っていますわ。」 クラースは馬を走らせ、才人と共に再びモット伯の屋敷へと向かう その姿を、見えなくなるまでルイズとキュルケは見送った 「………。」 モット伯の屋敷の前には、門番をするリカルドの姿があった 煙草を吸いながら、空に浮かぶ二つの月を見る 「ふぅ…あのガキ、上手くやってくれるだろうな?」 煙を吐きながら、才人の動向を気にするリカルド 煙草の煙で、二つの月が曇ったように見える 「………来たようだな。」 向こうから馬の走る音が聞こえてくる…リカルドは煙草を地面に捨てて踏み潰した 丁度その時、クラースと才人を乗せた馬が彼の前に止まる 「早かったな…その様子だと、上手くやったようだな。」 「リカルドさん。」 二人は馬から下りると、リカルドの元へと歩み寄った ライフルを肩に携えながら、リカルドは才人の隣にいるクラースを見る 「一人増えてるな…あんたは?」 「人の名を尋ねる前に、まずは自分の名を名乗るのが礼儀ではないか?」 「ふっ、これは失礼した…俺はリカルド・ソルダート、モット伯に雇われた傭兵だ。」 「私はクラース・F・レスター…家の才人が世話になった事、感謝している。」 初対面の二人は、簡単に自己紹介を行う 律儀に挨拶する二人にある意味才人は感心する。 「礼なら良い…そいつが上手くやったお陰でこっちは賭けに勝てたからな。」 「賭け?」 「貴様が上手くやれるか、警備の奴らと賭けをした…俺以外は全員失敗に賭けたがな。」 才人は目を丸くした…自分の必死の行動を賭けの対象にされた事に そして、その事に怒った才人はリカルドを非難した 「ちょっと、俺の苦労を賭けの対象にするなんて、酷くないですか?」 「悪いな、こっちで色々やってく為には金が必要なんでな…貴様には一応感謝している。」 今度、機会があれば奢ってやる…と、怒っている才人をリカルドは宥めた 無駄話は此処までにして、そろそろ話は本題に入る 「で、問題のブツは何処だ?」 「ああ、此処にある。」 クラースは懐に入れていた召喚されし書物と鍵をリカルドに渡した 彼はそれを受け取ると、軽く確認を取る 「ふむ、これが…確かに持ってきた事は確認した、モット伯の所に案内しよう。」 「本当にシエスタを帰してくれるんですよね?」 「さあ、それは伯爵様次第だな…だが、あの男はそれなりに約束を守るから大丈夫だろう。」 そう言うと、リカルドは確認した召喚されし書物をクラースに返す こうして、リカルドが二人を案内しようとした…その時だった 突然、予告もなく轟音が鳴り響き、三人を赤い光が照らした 「な、何だ!?」 音がした方を見ると、モット伯の屋敷から煙が上がっているのが見えた 続いて、二度目の爆発が起こる…屋敷の方も慌しくなっていく 突然の事に才人達は動きが止まっていたが、すぐにリカルドが口を開く 「ちっ、敵襲か…土くれのフーケの仕業か?」 館の方を苦々しく見つめるリカルド…傭兵として、敵襲を許した自分に腹を立てる 同じく煙の昇る館を見つめる才人は、焦燥に駆られる 「屋敷が…シエスタが危ない。」 「あ、おい、才人…一人では危険だ。」 才人はクラースの制止も聞かず、屋敷に向かって走り出した 無茶をするなと言ったのに…仕方なしにクラースもその後を追う 「本当に無謀な奴だな…だが、俺も此処で門番をやっている場合ではないようだな。」 リカルドは持っているライフルを調整し、すぐに戦闘準備を整える 先に行った二人を追って、彼も館の方へ走っていった 前ページ次ページTALES OF ZERO
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6600.html
――これが最後の(逆)オークションです。 ――ここに金貨200枚あります。 ――貴方はこの金額で人を殺せますか? 『YES・殺ス』 ――人様に迷惑をかける悪い子は……。 「はい、これでよし」 ルイズが召喚した平民の女性・詩織は、シエスタの服の背中側にあるリボンを結び終えた。 「それじゃシエスタちゃん、気をつけて行ってくるのよ」 「はい、ミス・シオリ」 「今日はいっぱい楽しい事ばかりだけど、人様に迷惑や悪い事したら私はもう許さないんだから」 「はい、ミス・シオリ。私絶対にしませんよ!」 「いい子……、シエスタちゃんは本当に『いい子』ねえ……」 「それではミス・シオリ、いってきます」 「はい、行ってらっしゃい」 シエスタを見送って室内に戻った詩織にルイズが声をかける。 「シエスタも今日は休みでしょ?」 「ええ、故郷のタルブ村に里帰りするんですって」 「そうなの……、シエスタはいい子ね……。元気で優しくてまっすぐで……。昨日コックのマルトーも言ってたわよ……。シエスタの事……、本当にいい子だって……」 「そう……、私も嬉しいわ。こんな物騒な世の中でもシエスタちゃんだけは……」 (――……だから、放っておけない) 「みんなシオリのおかげよ」 「もう……、何言ってるの、ルイズちゃん……」 (――悪い子は……) 「来んな……」 モット伯はパイプの煙を吐き出しつつそう呟いた。 「ノーザとセントラ……、あれから3日経つがまったく連絡が取れん……。いったいどうなっておるのだ?」 「え……、本当ですか?」 「1度連絡はあったのだがな……。『美女に誘惑されました 連絡を待ってください』……。それっきり何ら音沙汰無しだ」 「え、本当ですか!? 2人ともずるいですよ! 今頃お楽しみですよ!」 「とにかく……む?」 その時、モット伯達は黒眼鏡をかけた赤髪の少女が物陰から自分達を手招きしている事に気付いた。 「ま、待たんか!」 「伯爵様、あの女きっとノーザとセントラを誘惑した女ですよ。きっと迎えに来たんです」 「馬鹿が! それよりもあの娘を逃がすな!」 「はいい!」 しばらく走ってモット伯と部下は少女を袋小路に追い詰めた。 「やっと追い詰めたぞ! 手間を掛けさせてくれる。ノーザとセントラはどうした? 黙っていないで答えんか!」 しかし少女は答えない。 「貴様……、酷い目に遭いたいようだな……」 「酷い目に遭うだって? このあたしが……? 馬鹿言ってんじゃないわよ、そんな事ばっかピーピーほざく『悪い子は』――」 少女は黒眼鏡を外し、ぞっとするような視線と共に手にした鎌をちらつかせて宣言する。 「――地獄に堕ちなさい」 「うっ……っああああ!」 ――蜘蛛だ……。その時私は桃髪の蜘蛛を見た……。 ――それから何がいったいどうなったのか……。訳がわからん……。ただ覚えているのはあの娘の言葉……。 『悪い子は地獄に堕ちなさい』 「む……?」 目を覚ましたモット伯の視界には、薄暗い厨房と料理をしている女性の後ろ姿が映っていた。 「尻だ……」 「あら……、目が覚めたみたいね。はい」 「あ……、え?」 「シチューよ。待ってて、少し冷ましますから。……はい、あーん」 女性・詩織はそう言ってシチューをすくったスプーンをモット伯の口に運ぶ。 「あーん……ではないぞ、おい!」 「あら、シチューはお嫌い?」 「いや、そうではない……。む……、ちょっと待て。何から話したものか……」 その時両足に鈍い痛みが走り、モット伯は思わず呻き声を上げた。 「あら? どうしたの? どこか痛むの? まあ……」 「いや、その……、何か急に……!」 そこでふと自分が女性に尋ねるべき事を思い出し、 「ここは……、どこだ? 私は家臣と2人で紅い娘を追いかけていたのだ。ノーザと……セントラを誘惑した娘だ。追い詰めたのはいいのだが、突然黒い影が落ちてきて目を開けたらこんな場所だ。何だここは?」 そこまで一気にまくし立てたかと思うと今度は突然、 「……っき、貴様何者だあ!? なぜ私がこんなくらい場所でシチューを食べねばならんのだあ!」 自分が座っている椅子を激しく揺らして暴れまわる。 「こらあ、明かりを点けんかあ!」 「ああ、駄目、動いちゃ」 「ぐわあ!」 その勢いで椅子がひっくり返り、モット伯は体で扉を押し開けて眩い光溢れる隣室に転がり込んだ。 「っく、いたたた……。なぜ私がこのような目に……」 ようやく光に慣れてきたモット伯の視界に入ってきたのは、巨大な寸胴や何本も並べられた包丁といった厨房の風景だった。 「え? 何だ、ここは?」 「地獄よ。あんたは地獄に堕ちたのよ……」 その言葉と共に、モット伯の背後の暗がりからキュルケが姿を現す。 「は? ……あ! 赤い娘!」 「じ……、地獄だと? 何を言っておる? 厨房だろう?」 「ふん、厨房ね……。言われてみればやっぱりそうかもね」 「ふう……、やれやれ。なかなか大変なものなのね……、こういうのって……」 続いて現れたのは、顔に蜘蛛の刺青が浮かび上がったルイズ。 (もっ、もっ、桃髪の蜘蛛……!) 「いつもはただ殺しちゃうだけなのに、後始末なんて」 「仕方ないでしょ、逆オークションで落札した人が応援を求めた時、『それ』に『参加した人』はヘルプしくちゃいけないんだから……。ルールは守らないとね、職業・殺し屋。は」 「しょ……、コロ……」 「そう、殺し屋なの。職業・殺し屋。それが私達のお仕事なの。人を殺す事が……」 回転ノコギリを手にモット伯を見つめる詩織。 「……っな……」 「だからね……、頼まれたのよ。『あんた達を殺せ』ってね……。あんた達が権力に物を言わせてさらった女達の家族からよ……。その中には婚約してた女もいたって話よ」 「自殺したそうよ……。慰みものにされたショックで……。崖からポオオン……」 「あなた……、悪い子ね」 詩織は身を屈めかすかに笑みすら浮かべてモット伯の顔を覗き込んだ。 「っひ!?」 「人様に迷惑ばかりかけて。あなたって本当に悪い子……。そう……、私のお姉さんみたい」 詩織は淡々と語り始める。 「……私にはね、双子のお姉さんがいたの……。私もお姉さんも双子だから、姿……形……みんなそっくりなの……。でもね……、私とお姉さん、1つだけ大きな違いがあったの。それは、お姉さんは『悪い子』だったの。お姉さんは悪い子だから、悪い事をしたらみんな私のせいにするの……。だから私……、いつもお父さんとお母さんに叱られて泣いていたの。私はいい子なのに……、いい子なのに……。……だから落としちゃったの、村外れの用水路に……。お姉さんが……、私にそっくりな悪いお姉さんがどんどん沈んでいくの……。……死んじゃえ、悪い子なんか。悪い子はみんな死んじゃえ……」 「依頼人はこう注文しててね。殺る時は『とっても厳しいやり方』で……ってね」 中身の煮立った寸胴から目を離したくても離せない。 尋ねてはいけない、尋ねてはいけないと思いつつもモット伯は詩織に尋ねてしまった。 「……ノ、ノーザ達……は……」 「煮ちゃった……」 「ひいいいいっ!」 そこから一目散に逃亡しようとしたモット伯だったが、それは不可能だった。 ……なぜなら彼の足は足首から先が切り取られていたからだ……。 「え、きひ、ひいいやああああああいいいいい」 半狂乱になって首ももげよとばかりに激しく振り乱して絶叫するモット伯の声が、室内に響き渡る。 「あしいいひいひ、あし、はあはあ、ひ、あっ、ひいはあひ、あひい、あしいい、ああはああ、なひい、はあー、あひいあしあし、はあひいい」 「駄目よ、男の子がそんなに痛がっちゃ……。本当に仕方がないんだから」 最早意味をなさない音の羅列を口から放っているだけのモット伯を冷たく見据える3人の殺し屋。 「ふんいいいいい、ふんいいいいいいっ、あし、ひ、はああ、はあ、はあ……」 「あなた達が悪さをしなければ、連れ去られた女性も幸せな人生を遅れたでしょうに」 「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ……」 「ほんとに悪い子」 回転ノコギリのスイッチが入る。 「さあ、次はあなたの番よ……ね」 微笑みを浮かべてモット伯を見つめそう言ったのだった。 ――そうだ……。 ――私は聞いた……。 ――暗闇の中で……。 「ねえ、これどうするのよ? こんなに煮込んじゃって。ミス・シオリが始末するの?」 「フフ、まさか。キュルケちゃん、いかがですか?」 「要らないわよ、馬鹿!」 「ルイズちゃんは……?」 「川に流せば……?」 「うフフ、そうね」 ――川か……。やはり悪い子は地獄に堕ちるのだな……、 「まったく怖いわね、『死織』は」 ――ミス・死織……。 「それじゃ行ってくるわね」 「はい、ルイズちゃん」 「ミス・シオリ、行ってきます」 「はい、シエスタちゃんも行ってらっしゃい。今日もいい子で頑張るのよ。人様に迷惑や悪い事をしたら私はもう許さないんだから」 「はい、ミス・シオリ。私絶対にしませんよ!」 「本当にシエスタちゃんはいい子ね」 「私いい子ですよ!」 「私もいい子は大好きよ。……でも、悪い子は大嫌い。だからシエスタちゃん、いい子でいるのよ」 「はい!」 「うふふ……、うふふふふふ……」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2692.html
前ページ次ページZERONATORオーガン 第三話「約束のオーガンランサー」 爆発騒ぎのせいで授業は中止となり、生徒たちとその使い魔たちは教室を出ていた。 オーガンが代わりの教卓を取りに行ったので、教室にはルイズとシュヴルーズの二人だけが残っていた。 壊れた教卓を屋外へ放り出した直後、ルイズはうなだれていた。 「どうして…、サモン・サーヴァントは一回で成功したのに…、爆発しなかったのに…、オーガンを召喚できたのに」 そんなルイズを、シュヴルーズは見守る事しか出来なかった。 そこへ、新しい教卓を抱えたオーガンが戻ってきた。 「教卓を持ってきました。……御主人様」 ルイズに声をかけようとしたオーガンは、途中でシュヴルーズに止められた。 「ミス・シュヴルーズ、何を!?」 「もう少しそっとしてあげなさいな」 二分ほどして、ルイズはオーガンたちのほうを向いた。 目の周りが少しはれていた。 「どうしてかな…、昨日は成功したのに…、今日もうまくいくと思ったのに…」 オーガンは、ルイズをそっと抱きしめた。 「オーガン!?」 「御主人様、こうすれば、泣いている顔を見られる心配はありません」 ルイズは抱きしめられた状態で泣いた。 シュヴルーズはその光景を見て、そっと教室を後にした。 ルイズが泣き止んだのは、それから数分後であった。 時間は過ぎて、お昼時。 オーガンは再び人間の姿に化け(オーガンは人間に化けないと飲み食いが出来ない)、厨房で昼食にありついていた。 (メイジが魔法を失敗するところは何度も見たが、主のように爆発が起きた事は無かった。こんな時、フレッシュ・オスマンがいてくれたら…) マルトー親方の料理に舌鼓を打ちつつも、悩むオーガンであった。 そんなオーガンの悩みをよそに、シエスタがオーガンに話しかけた。 「オーガンさん、お味はどうですか?」 「今朝同様とても美味しいよ。中でも「テンドン」は格別だ。親方さんの腕には感服するよ」 人間に化ける能力を習得してから、色々なものを食べてきたオーガンだったが、あいにく「天丼」にはお目にかかっていなかった。 「あらら…」 「まいったなぁ…」 オーガンの正直な感想に、シエスタとマルトー親方は困ったような笑顔を見せた。 「? シエスタに…、親方さん?」 「その、実はな、お前さんに出したメシの中で、テンドンだけは半分以上シエスタに手伝ってもらったんだ」 マルトー親方のその一言で、オーガンは見事に固まった。 「おーい、どうしたー!」 しかし、マルトー親方の必死の呼びかけですぐに正気に戻った。 「はっ!」 「おお、元に戻ったかぁ!」 「すまない、必要以上に驚いてしまった」 「まぁ、気にするな」 「それにしても、親方さんの腕でも難しいものなのか、テンドンは…」 「難しいどうこう以前だな。ダルフ村の名物料理の中でも、作り方が特殊なことで有名な「ドンブリモノ」の代表格でな、まだコツを掴みきれていないんだ。特に「ベイハン」と「コロモ」は未だに一人じゃろくなモノが作れねぇし。自信失くすぜ…」 普通に落ち込むマルトー親方に、オーガンもシエスタもどう声をかけていいのか分からなかった。 「えーっと、ごちそうさまでした。そうだ、親方さん、シエスタ、何か手伝う事は無いか?」 オーガンのその言葉が、場に流れる気まずい空気から退散するためのものだと瞬時に理解したシエスタは即答した。 「それでは、デザート運びを手伝ってください」 マルトー親方と他の面子を残し、オーガンとシエスタはデザート配りのためにアルヴィーズの食堂へと向かった(逃げたとも言う)。 その途中、シエスタは今朝から気になっていた事を口にした。 「オーガンさんって、ずいぶん変なジャケットを着ているんですね」 「変なジャケット? これが?」 自分が着ている「ボマージャケット」の襟を指差すオーガンに、シエスタはきっぱりと答えた。 「そうですよ」 「どこが?」 「ポケットがいっぱい付いているところが、です」 ちなみに、(人間に化けている)オーガンの服装は執事服にボマージャケットという、まさかの組み合わせである。 そんな会話を終わらせ、二人は食堂の中に入り、デザートを配り始めた。 地味にテキパキと配っているシエスタとは対照的に、踊るように軽やかなステップで手早く配るオーガンの姿は、生徒たちの視線を釘付けにした。 その光景を、ルイズとキュルケは呆然と見ていた。 そんな光景を他所に、デザートを食べ終えたギーシュ・ド・グラモンは友人たちと談笑していた。 「ギーシュ、いったい誰と付き合っているんだ?」 「そうだそうだ、教えろよ」 「おいおい、そんなことできるわけ無いだろ。第一、僕は大勢の女性を楽しませる薔薇だ。故に、特定する事は出来ないなぁ」 友人たちの質問をのらりくらりとかわすギーシュ。 そんな彼のポケットから紫色の液体が入った小瓶が落ちたが、当のギーシュ本人はそのことに気付いているのに、気付いていないフリをした。 さらに、その一部始終を見てしまったシエスタは小瓶を拾ってギーシュに声をかけた。 「あの、落としましたよ」 聞こえないフリをするギーシュだったが、友人たちの言葉であっさり無駄なあがきに終わった。 「その紫色の液体、モンモランシーの特製香水じゃないか」 「本当だ。ということは、ギーシュ、お前モンモランシーと…」 はやし立てる友人たち、あせるギーシュ。 そして一人の少女が近づいてきた。 どこで調達したのか、堅そうな棒切れを手に持っていた。 「やぁ……ケティ…」 ギーシュの呼びかけにも答えず、ケティ・ド・ロッタは棒切れをギーシュ目掛けて振り下ろした。 「さよなら」 ケティがそういって去った頃には、ギーシュは顔面をアザだらけにして倒れていた。 何とか立ち上がった直後、今度はモンモランシーがギーシュに近づいた。 何故か両手にメリケンサックを装着して。 「や、やぁ、麗しのモンモランシー…」 「ギーシュ、今の子はだぁれ?」 そう言い終った直後には、ギーシュの鳩尾に鉄拳を叩き込み始めたモンモランシーであった。 数十発の鉄拳を叩き込まれたギーシュは、再び倒れた。 「この……浮気者ォッ!!」 そう叫んだ直後に、倒れているギーシュの顔面を蹴ったモンモランシーはそのまま食堂を後にした。 数分後、気合で起き上がったギーシュは、自分を心配そうに見るシエスタに食って掛かった。 「き、君は…ゴホッ、自分が何をしたのか分かっているのかい!? 君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか! ……ゴホゴホッ!」 どう見ても八つ当たりである。 シエスタの方は思わず涙目になっている。 「も、申し訳ありません!」 「謝ったぐらいで……、な!?」 シエスタを庇うように、オーガンは彼女とギーシュの間に割って入った。 「やめたまえ。君のしていることは完全な八つ当たりだ」 「何だと!」 「事実を言ったまでだ。見っとも無い真似をする暇があるなら、さっきの二人に謝るべきだ」 「君は貴族への礼儀がなっていない様だな…」 「礼儀どうこうは関係ないだろう」 「うるさい! 決闘だ! 決闘を申し込む!」 もはや半狂乱状態のギーシュの絶叫にオーガンは即答した。 「いいだろう」 「では場所を変えよう。ついてきたまえ!」 トリステイン魔法学院、学院長、オールド・オスマンはボーっとしていた。 秘書のミス・ロングビルは公用で外出中である。 「暇じゃのう…。あいつらが生きておった頃は毎日が騒がしくてよかったがのう…。オーガンを向こう側に戻してから散り散りになって、一人ずつあの世に逝ってしもうて…。いまや『バンビーナ団』で生きておるのはわし一人。ハァ…」 昔を懐かしむオスマンだったが、急に学院長室のドアが開けられたことで現実に引き戻された。 「失礼します、オールド・オスマン!」 「コルベールか、ノックしてから入らんかい。まったく、人が昔を思い出している時に…」 「昔を懐かしんでいる場合ではありません。これを見てください!」 そういってコルベールが出した、二冊の本に目を通したオスマンは即座にこういった。 「何じゃ、『バンビーナ団戦記』と『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。これがどうかしたのか?」 このページを見てください。 そういってコルベールは二冊の本をめくり、あるページを見せた。 それは、それぞれ「ショコルナの使い魔」と「始祖の使い魔のルーン」のページであった。 「昨日ミス・ヴァリエールが召喚したゴーレムのような生物と、彼のルーンの事が気になったので調べてみたのです。まずはバンビーナ団戦記のこの記述を見てください」 それには、ショコルナの使い魔の特徴が記されていた。 ゴーレムのような外観と体躯、内部に蠢く肉の塊、そして「オーガン」という名前。 「この本の表紙や押絵のそれとはかなり姿が違いましたが、それ以外は殆どこの本の書かれている特徴と一致し、名前まで同じです。この事を踏まえると、ミス・ヴァリエールの使い魔は「デトネイター・オーガン」としか考えられません」 コルベールの説明を聞くうちに、オスマンの表情は見る間に変わっていった。 「それと、始祖ブリミルの使い魔たちのこの記述も見てください」 そういって、コルベールはあるルーンの模様を指さした。 「これは、ガンダールヴのルーンではないか」 「そうです。彼のルーンの模様は、ガンダールヴのそれと見事に一致していました」 「何と…」 そんなやり取りの途中で、激しくドアがノックされた。 「入れ」 「失礼します!」 オスマンがそう言った直後、年配の教師が慌てて入ってきた。 「何じゃ、騒々しい」 「実は…」 年配の教師は、食堂で起きた騒動と、これから起きる決闘のことをオスマンに説明し、「眠りの鐘」の使用許可を求めた。 「バカバカしい、ほっとけ」 その一言で一蹴し、オスマンは鏡に向かって杖をふった。 それと同時に、鏡にヴェストリア広場の様子が映し出された。 「見物といくかの」 一方、ヴェストリア広場。 「諸君、決闘だ!」 ギーシュの声に、周囲が歓声を上げる。 当のギーシュの眼前には、他の生徒に両脇をガッチリと固められたオーガンがいた。 そして、両脇を固めた生徒が手を離し、後退すると同時に決闘が始まった。 「僕の二つ名は「青銅」だ。それ故、僕はこれで戦わせてもらう」 そう言いながら、ギーシュは薔薇の花を模した杖から花びらを一枚とって、錬成魔法をかけて青銅のゴーレムに変貌させた。 「行け、ワルキューレ!」 オーガンは、ワルキューレの攻撃をのらりくらりとかわしながらギーシュを直接攻撃するチャンスを窺っていた。 しかし、ギーシュはそれに気付いたようだ。 「隙を見て僕自身を攻撃するつもりか。させるか!」 その言葉と同時に、ギーシュは六枚の花びらをとって、全てワルキューレに変貌させた。 一気に激しくなった攻撃を避けるのが精一杯で、オーガンは攻勢に出れなくなった。 そんな光景を見ていたルイズは思わず怒鳴った。 「何やってんの! 元の姿に戻ればすぐにカタがつくでしょ!!」 その指摘を受けたオーガンは、すぐに元の姿に戻る事にした。 薄い影がオーガンの周りに集まって重なり、消えるのと同時にオーガンは元の―ゴーレムの如き―姿に戻った。 「なっ、何だとおぉぉっ!?」 ギーシュの絶叫に続いて、周囲の生徒たちも叫んだ。 『ゼロのルイズの使い魔だったのぉっ!?』 そんな周囲の状況などどこ吹く風らしく、オーガンは気にせずにオーガンランサーを取り出した。 ワルキューレの内の一体を切り刻むオーガンの姿を見たギーシュは、恐れおののくのと同時にあることを思い出した。 「ゴーレムの如き姿、オーガンという名前、そして…剣のような双頭槍……。まさか、『バンビーナ団』のデトネイター・オーガン!??」 ギーシュの言葉を聞いた周囲は更に騒然となる。 そしてオーガンはギーシュの疑問に答えた。 「君の言うとおり、私はかつて『バンビーナ団』のデトネイター・オーガンだった」 「だった? どういう意味だ?」 「既に私はデトネイター・オーガンにしてデトネイター・オーガンにあらず。君や他の生徒たちが「ゼロのルイズ」と呼ぶ少女の使い魔。故に、わが主に付けられたあだ名への怒りからこう名乗らせてもらう」 オーガンはランサーを前に突き出し、叫んだ。 「私はゼロネイター・・・、ゼロネイター・オーガン!!」 その直後、残りのワルキューレたちも瞬く間に切り刻まれた。 「ひいいぃぃっ!!!」 オーガンのあまりの強さに恐怖したギーシュは、「参った」と言おうとしたが、言う前に杖を取り上げられてしまった。 「負けた…」 あまりの早業ぶりに、ギーシュはそう言うしかなかった。 「当たり前じゃ、おぬし如きがかなう相手ではないワイ」 「オ、オールド・オスマン!」 いつの間にかオスマンがそこにいたので、周りのどよめきが激しくなった。 「ホッホッホ、まさか、また会えるとは思わなかったぞい」 オーガンを見ながら、オスマンは言葉を続けた。 「コルベールの言ったとおりじゃの。ショコルナと死に別れ、おぬしを元いた世界に返してからニ百と数十年。本当にお互い変わり果ててしまったモンじゃ」 目の前にいるオスマンが何者かである事をオーガンはすぐに気付いた。 その声、その眼の色、あの時と変わらない声を聞き、その瞳を見たから。 「オスマン……、フレッシュ・オスマン!!」 「ホッホッホッホ。ブリミルに感謝すべきか」 オスマンはそう言いながら、嬉し泣きしていた。 前ページ次ページZERONATORオーガン
https://w.atwiki.jp/gensouutage_net/pages/6429.html
序盤2枚でスペルが2枚止まったのから見ればいくらかましだと思う。 エイジア割れないというか、そもそもシーンなんて積む余裕がなかった びく//夢で逢えたら//紅 美鈴-紅 美鈴-紅 美鈴-小野塚 小町- モルガ//最近の抱き枕の引き//慧音(人間)-慧音(人間)-レミリア-慧音(妖怪)- びくは山札をシャッフルしました。 モルガがデッキ(f65fe1a1)をロードし、ニューゲームが始まりました。 モルガは山札をシャッフルしました。 びくの呪力は今1(+1)です。 賽が投げられて、びくの先攻になった。 モルガ どぞ びく いきますが びく ちょっとまってね モルガ ほいさ びくの呪力が-1 (0) びく おk モルガ ほい 配置:舟符「河の流れのように」 Turn 2 - モルガ//体力20( 21) 呪力1( 0) 手札7( 6) 山33( 34) スペル0( 1) タイマー00 07(00 47) 配置:新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 Turn 3 - びく//体力21( 20) 呪力2( 1) 手札6( 6) 山33( 33) スペル1( 1) タイマー00 48(00 18) 手札:連環撃//シエスタ//連環撃//紅砲//三華「崩山彩極砲」//肉弾戦// 配置:三華「崩山彩極砲」 Turn 4 - モルガ//体力20( 21) 呪力3( 2) 手札7( 5) 山32( 33) スペル1( 2) タイマー00 18(00 53) 配置:未来「高天原」 Turn 5 - びく//体力21( 20) 呪力5( 3) 手札6( 6) 山32( 32) スペル2( 2) タイマー00 53(00 23) 手札:連環撃//シエスタ//連環撃//紅砲//肉弾戦//明鏡止水// Turn 6 - モルガ//体力20( 21) 呪力6( 5) 手札7( 6) 山31( 32) スペル2( 2) タイマー00 23(01 11) 配置:葵符「水戸の光圀」 起動:新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 Turn 7 - びく//体力21( 20) 呪力8( 1) 手札7( 6) 山31( 31) スペル2( 3) タイマー01 12(00 51) 手札:連環撃//シエスタ//連環撃//紅砲//肉弾戦//明鏡止水//紅砲// 起動:三華「崩山彩極砲」 びくは連環撃をびくの三華「崩山彩極砲」につけました。 Turn 8 - モルガ//体力20( 21) 呪力4( 1) 手札7( 6) 山30( 31) スペル3( 2) タイマー00 52(01 38) 戦闘:モルガ - 新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」(相手スルー) 結果:モルガ - === 4 dmg - びく モルガはリーダーを慧音(妖怪)・上白沢 慧音に設定しました。 配置:倭符「邪馬台の国」 モルガは倭符「邪馬台の国」を場から手札に戻しました。 配置:倭符「邪馬台の国」 起動:葵符「水戸の光圀」 Turn 9 - びく//体力17( 20) 呪力3( 2) 手札7( 6) 山30( 30) スペル2( 4) タイマー01 42(01 38) 手札:連環撃//シエスタ//紅砲//肉弾戦//明鏡止水//紅砲//彩符「極彩颱風」// 戦闘:びく - 三華「崩山彩極砲」 vs 葵符「水戸の光圀」 - モルガ 結果:びく - Dmg 2 5 Dmg - モルガ 配置:彩符「極彩颱風」 Turn 10 - モルガ//体力15( 15) 呪力6( 3) 手札7( 6) 山29( 30) スペル4( 3) タイマー01 40(02 42) 戦闘:モルガ - 新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」(相手スルー) 結果:モルガ - === 4 dmg - びく 配置:必殺「ハートブレイク」 Turn 11 - びく//体力11( 15) 呪力7( 6) 手札7( 6) 山29( 29) スペル3( 5) タイマー02 44(02 01) 手札:連環撃//シエスタ//紅砲//肉弾戦//明鏡止水//紅砲//投銭「宵越しの銭」// 配置:投銭「宵越しの銭」 起動:投銭「宵越しの銭」 起動:三華「崩山彩極砲」 Turn 12 - モルガ//体力15( 11) 呪力11( 1) 手札7( 6) 山28( 29) スペル5( 4) タイマー02 02(02 53) 戦闘:モルガ - 新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 vs 投銭「宵越しの銭」 - びく モルガ ok 結果:モルガ - Dmg 1 4 Dmg - びく 配置:葵符「水戸の光圀」 起動:葵符「水戸の光圀」 シーン:プレインエイジア モルガ ミス モルガはプレインエイジアを場から手札に戻しました。 モルガの呪力は今9(+4)です。 モルガは月下美人をモルガのリーダーにつけました。 モルガ これも無いな・・ モルガは月下美人を場から手札に戻しました。 モルガの呪力は今9(+3)です。 起動:新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 Turn 13 - びく//体力7( 14) 呪力5( 4) 手札7( 6) 山28( 28) スペル4( 6) タイマー02 58(04 08) 手札:連環撃//シエスタ//紅砲//肉弾戦//明鏡止水//紅砲//華符「破山砲」// 戦闘:びく - 三華「崩山彩極砲」 vs 葵符「水戸の光圀」 - モルガ モルガは慧音(妖怪)・上白沢 慧音の1番目の特殊能力を使いました。 イベント(びく):肉弾戦 結果:びく - 回避 7 Dmg - モルガ びくは肉弾戦を場から捨札に送りました。 配置:華符「破山砲」 起動:投銭「宵越しの銭」 Turn 14 - モルガ//体力7( 7) 呪力7( 0) 手札7( 5) 山27( 28) スペル6( 5) タイマー04 16(03 37) 戦闘:モルガ - 新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 vs 投銭「宵越しの銭」 - びく 結果:モルガ - Dmg 1 4 Dmg - びく 配置:未来「高天原」 起動:新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 モルガは新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」を準備状態にしました。 モルガの呪力は今7(+5)です。 起動:葵符「水戸の光圀」 Turn 15 - びく//体力3( 6) 呪力5( 5) 手札6( 6) 山27( 27) スペル5( 7) タイマー03 41(05 17) 手札:連環撃//シエスタ//紅砲//明鏡止水//紅砲//幻符「華想夢葛」// 配置:幻符「華想夢葛」 びくは明鏡止水をびくのリーダーにつけました。 Turn 16 - モルガ//体力6( 3) 呪力12( 2) 手札7( 4) 山26( 27) スペル7( 6) タイマー05 17(05 39) 配置:産霊「ファーストピラミッド」 モルガは月下美人をモルガのリーダーにつけました。 シーン:プレインエイジア モルガは倭符「邪馬台の国」を手札から捨てました。 Turn 17 - びく//体力3( 6) 呪力8( 5) 手札5( 3) 山26( 26) スペル6( 8) タイマー05 43(06 04) シーン プレインエイジア 手札:連環撃//シエスタ//紅砲//紅砲//投銭「宵越しの銭」// イベント(モルガ):頭突き モルガは頭突きを場から捨札に送りました。 びくは紅砲を手札から捨てました。 びくは紅砲を手札から捨てました。 戦闘:びく - 三華「崩山彩極砲」 vs 葵符「水戸の光圀」 - モルガ イベント(モルガ):パターン避け 結果:びく - Dmg 2 回避 - モルガ モルガはパターン避けを場から捨札に送りました。 起動:三華「崩山彩極砲」 Turn 18 - モルガ//体力6( 1) 呪力9( 3) 手札2( 3) 山25( 26) スペル8( 6) タイマー06 10(07 16) シーン プレインエイジア モルガ あ、エイジア びく あ、しつれい びくは連環撃を手札から捨てました。 モルガ okok 藤原 刻が観戦を始めました。 鳥月が観戦を始めました。 あやき@ハカンが観戦を始めました。 配置:虚史「幻想郷伝説」 起動:虚史「幻想郷伝説」 Turn 19 - びく//体力1( 6) 呪力9( 4) 手札3( 1) 山25( 25) スペル6( 9) タイマー07 22(07 02) シーン プレインエイジア 手札:シエスタ//投銭「宵越しの銭」//彩華「虹色太極拳」// 裏鍵が観戦を始めました。 taroが観戦を始めました。 CJが観戦を始めました。 戦闘:びく - 三華「崩山彩極砲」 vs 虚史「幻想郷伝説」 - モルガ 結果:びく - 回避 回避 - モルガ びくは彩華「虹色太極拳」を手札から捨てました。 Turn 20 - モルガ//体力6( 1) 呪力12( 4) 手札2( 2) 山24( 25) スペル9( 6) タイマー07 04(08 49) シーン プレインエイジア w・が観戦を始めました。 モルガ あれ、私捨てたっけ? びく いや、捨ててなかったみたい びく ログ確認してきた モルガ およ モルガ すまん モルガ とりあえず、手札公開して一番上捨てるわ モルガは天罰「スターオブダビデ」を手札から捨てました。 戦闘:モルガ - 虚史「幻想郷伝説」 vs 三華「崩山彩極砲」 - びく モルガは虚史「幻想郷伝説」の2番目の特殊能力を使いました。 びくは明鏡止水の1番目の特殊能力を使いました。 びくは投銭「宵越しの銭」を手札から捨てました。 結果:モルガ - 回避 回避 - びく モルガはプレインエイジアを手札から捨てました。 Turn 21 - びく//体力1( 6) 呪力10( 10) 手札2( 0) 山24( 24) スペル6( 9) タイマー09 01(09 21) シーン プレインエイジア 手札:シエスタ//肉弾戦// 起動:彩符「極彩颱風」 Turn 22 - モルガ//体力6( 1) 呪力18( 6) 手札1( 2) 山23( 24) スペル9( 6) タイマー09 19(10 33) シーン プレインエイジア taro びくさん手札~ びく あ、 モルガ あぁ びく わすれるなぁ びくはシエスタを手札から捨てました。 モルガ エイジアなんて久々だから私も忘れる 戦闘:モルガ - 虚史「幻想郷伝説」 vs 彩符「極彩颱風」 - びく モルガ ミス? びく いや モルガ ならok 結果:モルガ - 回避 4 Dmg - びく びく ありがとうございました モルガ ありがとうございましたー モルガ ふぅ、エイジアあってよかった モルガ さて、戻りますかな びく はい モルガ ノシ びく ノシ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4071.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば多くの実を結ぶ》 (新約聖書『ヨハネによる福音書』第十二章より) アルビオン大陸へ侵攻したトリステイン軍は、謎の反乱とゲルマニアの裏切りに遭い、完全に崩壊した。 そしてゲルマニアの貴族、『ガンダールヴ』のダニエル・ヒトラーが放った魔弾によって、 松下・ルイズ・シエスタの三人は同時に胸を撃ち抜かれ、混沌と怒涛の渦巻く奈落の底へ、真っ逆さまに落下していった。 狂信者、第二使徒シエスタは、まだ松下の体を抱きかかえている。 目の前にはピンク色の髪をした貴族、第一使徒のルイズ・フランソワーズも一緒に堕ちていっている。 ついでに第八使徒の占い杖も。 シエスタは、ごふっ、と血反吐を吐いた。おお、私はまだ息がある、生きている。 たかが胸の肉がえぐれて肋骨が数本へし折れて、左肺に穴が開いただけだ。意識だってはっきりしている。 メシアと第一使徒の体が、あの銃弾の威力を弱めてくれたのか。だがメシアは、心臓を正確に貫かれているようだ。 彼の小さな体から、体温がどんどん失われていく。鼓動も脈拍も呼吸も、ない。 いや、メシアがただで死ぬはずはない。たとえ死んでも生き返るのがメシアだ。彼は自らそう語っていたではないか。 私が、使徒が、メシアの忠実なる『はした女』が、彼を信じないでどうするのだ。どんな時でも絶望は禁物だ! たとえこれから落ちゆく先が、海の底でも冥土でも、地獄の底でも。 やがてシエスタの周りに、恐ろしげな光景が無数に現れ始めた。 降り注ぐ砲弾と鉄の雨、飛び散る肉片と血しぶき。爆発と火炎、おぞましい悪魔や亜人どもの哄笑。 必死に守るはずだったタルブやスカボローが破壊され蹂躙され、女子供まで虐殺される。 やがて、王都トリスタニアにも外国の兵隊が攻め込んで来た。ガリア、ゲルマニア、アルビオンが連合したのだ。 あの時タルブがアルビオンに焼き尽くされたのよりも、さらに徹底した破壊が行われる。 祖国はバラバラに分割されて滅亡し、女王陛下や枢機卿も断頭台に送られ、民衆の怒号の中で首を刎ねられる。 ……人間が死ぬときは、それまでの人生が幻のように現れて見えるというが、これは一体何なのだ。 幻か、夢か、あるいは現実か。 続いて現れた光景は、冥土のようだ。空は黒雲に覆われ、言い知れぬ妖気が漂い、遠雷が轟いている。 無人の荒野、原野、岩山、深い夜の森、廃墟となった古代都市の遺跡。 大鴉や禿鷹や大蝙蝠が飛び回り、野犬が死人の骨を齧っている。 地面には蛇やヤモリや蟲が蠢き、人魂が浮かび、蛆のたかった骸骨たちが醜悪な怪物たちと輪舞している。 向こうに見えるのは、無数の死体が浮かぶ煮えたぎった川。暗い森の中で魔物に追われ、貪り食われる哀れな罪人。 さらに獄卒が彼らを切り刻み、燃える穴に頭から突っ込む。まさしく地獄だ。 見ていると、腕の中にいるはずのメシアがそこへ現われ、地獄の魔物どもを瞬く間に従えて地上へ登っていく。 《地獄も地上も一つの世界にしてしまうのだ!》 魔物どもは大地を突き破って地上に現れ、巨大な都市を襲い、占領する。 するとメシアに似た姿の子供たちが数人現れ、こちらも悪魔や魔物を従えてメシアと戦い始めた。 かと思えば七万人ものルイズが一斉に召喚呪文を唱え、七万通りの使い魔が召喚される奇怪な光景。 老若男女、人間も幻獣も亜人も動物も精霊も、何かの機械らしきものもいる。 彼らはてんでばらばらに動き回り、あるいはギーシュをぶちのめし、ゴーレムや悪い貴族と戦うのだった。 ―――恐れるものか! あれらは皆、幻だ! 私とメシアを引き離し、地獄へ引きずり込もうとする、悪魔の罠だ! この腕の中に聖なるメシアを掻き抱いている限り、悪魔どもは私をどうすることもできまい! いや、メシアを狙っているのなら、このシエスタから先に殺せ! 殉教者として天国に入ってやる! やがて猛烈な風が吹き、三人から衣服のように『肉体』をはぎとった。 霊魂のみの亡者となった三人は、さらに冥土の奥底へと落下していった。 《黎明の子、明星よ。お前は天から落ちた。諸々の国を倒した者よ、お前は斬られ、地に倒れた。 お前は以前に心のうちに言った、「私は天に昇り、私の王座を高く神の星の上におき、 北の果てなる集会の山に座し、雲のいただきにのぼり、いと高き者のようになろう」と。 しかしお前は陰府(よみ)に落とされ、穴の奥底に入れられる》 (旧約聖書『イザヤ書』第十四章より) 「ん…………ふわぁあ~………」 外から聞こえてくる子供たちの騒ぐ声と、差し込む鮮やかな陽光で、少女は目を覚ました。 長く繊細なブロンドの髪、それに合わせたかのような細い体。だが胸だけは異様に大きく、歪な印象を与える。 顔立ちからは15、6歳ほどに見えるが、神が造化の妙を集めて作ったかのような美貌のためか、確とした年齢は分からない。 欠伸を一つつき、ぐうっと伸びをすると、彼女は部屋の窓を開けた。 「テファ姉ちゃん!」「ティファニアお姉ちゃん!」「おはよう! よく眠れた?」「わーーっ」 次々に子供たちが駆け寄り、妖精のように美しい少女、ティファニア(テファ)に親しげに纏わりつく。 ここは森の中の小さな集落で、彼女は子供たちのアイドルらしかった。 ふと、一番小さな女の子が、何か言いたそうな顔でもじもじしているのに気づく。はにかみ屋の彼女はいつもこうなのだ。 「あら、どうしたの? エマ。何か私に言いたそうね」 「あ、あの……」 「ほら、怖くないわ。言ってごらん」 「森で、さっき、いちご摘みに行ったらね」 「うんうん」 「……ち、血まみれの、人が、倒れてたの。さ、三人」 テファは、さっと顔色を変えた。子供たちが騒ぎ出す。 「せんそーだ、せんそーだよ!」「アルビオンとトリステインと、ゲルマニアがせんそーしてたってさ!」 「アルビオン側が勝ったそうだから、そいつらよその国の連中だろ?」「なあエマ、どんな奴だった?」 エマは震えながら、見てきたことをありのまま話す。 「ええとね、お、女の人がふたり。テファお姉ちゃんぐらいの年のひとだったよ。 それとね、あたしより少し上ぐらいの、男の子もいたの! む、胸から血が出てたの、三人とも!」 テファは薄絹の上着を一枚羽織ると、窓から飛び出した。 「急いで案内して! まだ間に合うかも!」 自分の庭のように遊び慣れた森を、少女と子供たちは跳ねるように進んだ。 倒れていたのは、確かに三人。女子供までが戦争に巻き込まれるなんて、戦場に近づいて流れ弾でも浴びたのだろうか? 一人はピンク色の髪をした貴族らしき少女、一人は黒髪の平民らしき少女。 そしてもう一人は、テファの半分ほどしか生きていないであろう、小さな男の子だった。三人とも、おそらく外国人であろう。 「これは……すでに事切れている? ……いいえ、まだ何か、命の動きを感じるわ。 母さまが遺した、あの指輪があれば、肉体の損傷は治せるかも……みんな、この人たちを家に運んで!」 テファは男の子の体を抱き上げる。自分の目の前で、子供を見殺しにするなんて真似は決してできない。 ぐい、と身を起こした拍子に、テファの繊細な髪の間から、先の尖った耳が見えた。 ……どれぐらい時間が経っただろうか。 一週間、いや一か月も落ち続けていたようでもあるし、ほんの数十分かもしれない。 いずれにせよ、ここではあまり時間は意味をなさないだろう。 シエスタが目を覚ました時、そこは雪山のようだった。うつ伏していたのは、斜面に積もった雪の上。 周囲は猛吹雪で闇夜のように暗く、見通しはあまり利かない。胸の中には、冷たくなったメシア。 数メイル先には、ピンク頭と占い杖。その他に人影はなく、魔女のホウキもないようだ。 「……雪山、ですって? ここはまさか、アルビオンのどこか?」 胸の傷は、いつの間にか塞がっている。いや、死んで魂だけになったとしたら、傷口も消えるのだろうか? 身を起こす程度の力は残っている。目が闇に慣れてくると、シエスタはあたりを見回した。 どうやら、自分たちは底知れない断崖絶壁の縁近くにいるらしい。近くには高さ数十メイルはある巨石が林立している。 断崖の遥か彼方、深淵の中心部へと、轟々と音を立てて吹雪が吸い込まれていく。 目を凝らすと、そこには何か、途方もなく大きな山のようなものがあるらしい。その山の上の方は三つに分かれている。 シエスタはそれを見て、ブリミル教の寺院にある両手を広げたような『始祖像』を思い出した。 ああ、神よ、始祖よ! なぜ我らを見捨てて、このような場所に送り込んだのか!? メシアは神の御子であり、ルイズは始祖ブリミルの転生、『虚無の担い手』ではないのか!? ならば、ここから救い出して、彼らを生き返らせてみよ!! やがて、ざくっ、ざくっ、と足音が聞こえてきた。二本足だ、人間だ。 ひょっとして悪魔か亜人か何かかも知れないが、何者かはいるようだ。そして、その者の声が聞こえた。 「……そこにおられるのは、メシアですか?」 メシアですか、だって? ああ、『千年王国』の生き残りか! この声は誰か、男性信者のようだ。 「そうよ! 私は第二使徒シエスタ、ここにメシアもおられるわ!! ついでに第一使徒のミス・ルイズ・フランソワーズもね! あなたは誰?」 シエスタは湧き起こった力を振り絞り、喜んで叫ぶ。 だがその返事を聞いた男の声は、震えてかすれた。 「……おおおお、メシア! いずれここに来られるであろうことは聞かされていましたが、 何というところで、何という再会でしょう!! おお、おおお……」 彼は近づいて来ると、メシアの枕元にがっくりと膝をつき、顔を手で覆って嘆き悲しみ始めた。 聞いたことのない声、見たことのない男だった。変わった厚手の服を着ているし、水玉模様のネクタイをしているが、 マントを着けていないということは平民なのだろう。 涙に濡れた顔は、どうやらかなりの年寄りのようだ。 目がぎろりとしていて鼻が異様に長く、側頭部や後頭部に長めの白髪は残っているが、禿げあがった頭をしている。 よく見れば、その頭頂には、小さな角のようなものもあった。シエスタの警戒心が強まる。 「……あなたは、誰なの? 鬼? 悪魔? いいえ、このメシアを知っているということは、『千年王国』の生き残りなのでしょう?」 「おおお、『千年王国』! 確かに、確かにそうです! でも私は、生き残りじゃない! 私は死人なのです、第二使徒のシエスタさん!」 『自分は死人』。男は涙ながらに、そう叫んだ。 「……死人? つまり、亡者?」 「ええ、しかもかつてメシアを、松下一郎を裏切った、大罪人です!」 「う、裏切り者、ですって!?」 男は涙を拭くと、シエスタに顔を向け、真剣な表情で名乗った。 「ここは地獄の一番奥底、《反逆地獄(コキュトス)》の手前です。 神に逆らった罪人や巨人族が幽閉され、虚無の深淵の中で永久に、悲嘆と極寒に苦しめられる場所なのです。 そして私の名は《佐藤》。かつてメシアを裏切って死に至らしめたのち、悪魔に騙されて全てを失い、 20年以上も病苦と悔恨の人生を送らされた、世にも哀れな男です!」 ごおおぉ……ぉおおう、と吹雪が奈落へ吸い込まれる音が、激しさを増して響いた。 (第二部・完) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ