約 1,871,758 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6627.html
前ページ次ページゼロの社長 今を遡る事数十年前。 タルブの村に3つの悪魔が呼び出された。 赤い炎の悪魔『神炎皇ウリア』 黄金の雷の悪魔『降雷皇ハモン』 蒼き最強の悪魔『幻魔皇ラビエル』 世界を破滅に導こうとした者が呼び出した3体の悪魔の出現は、タルブを中心に黒い雲を呼び出し、世界を闇に包み込んだ。 村人達は、これが世界の終焉かと思い絶望した。 だがそこへ、不思議な光とともに一人の青年が姿を現した。 青年は幾多の亜人を呼び出し、見たことも無い魔法でその悪魔と悪魔を呼び出したものに向かっていった。 中でも2体の亜人…青年が呼び出す幾多のモンスターと融合を繰り返しそのたびに姿を変える白い亜人の戦いに、村人達は目を奪われた。 3体の悪魔の攻撃を全て受け流し跳ね返す黒い亜人の力に、村人達は助けられた。 一体、また一体と悪魔達が白と黒二人の亜人によって倒される。 そして、その二人が融合した亜人…いや『超人』によって全ての悪魔は倒され、世界に平和が訪れた。 「そして、その青年はタルブの村に英雄として称えられ、末永く平和に暮らしましたとさ…ってあれ? すみません。退屈だったでしょうか…?」 シエスタが語ったタルブの過去の物語。 シエスタの祖父という、遊城十代のハルキゲニアでの物語。 しかし、聞いていたメンバーの殆ど(タバサだけはやけに興味津々で聞いていた)がほうけた顔をしていた。 「あのねぇ、数十年前とはいえそんな世界が滅びるかもしれない出来事が、 トリステインで伝わっていないわけ無いでしょう。現に私は初耳よ。」 「う~ん…シエスタ君のおじいさんの年齢からすると…流石に私も生まれていないからねぇ。 オールド・オスマンならもしかすれば…しかし、私もその話は初耳だねぇ。」 ルイズ、コルベールは苦い顔をしていた。 「で、シエスタのおじいちゃんが戦いのときに使っていたカードのうちの1枚が、この『ハネクリボー』なのよね?」 キュルケが、海馬の手元に預けられている『ハネクリボー』のカードを覗き込みながら言った。 「ハネクリボー。俺のまだ見たことの無いカードだが、これに似たカードは良く知っている。」 「じゃあやっぱり、おじいちゃんは瀬人さんと同じ国の出身という…」 「まだ詳しくはわからん。他のカードは残っていないのか?」 そう言いながら海馬はシエスタにハネクリボーのカードを返した。 シエスタは、メイド服の胸元のポケットにハネクリボーのカードをしまいながら答えた。 「残りのカードは、ユベルさん…あ、さっきのお話の黒い亜人というのが、ユベルさんなんですが。 その人がおじいちゃんから預かっています。今は村から少し離れた山の中に住んでいるので、会おうと思えばいつでも…」 「良し、今から行くぞ。」 そそくさと食堂を飛び出そうとする海馬に、ずっこけながらもブレーキをかけるルイズ。 「ちょっと待ちなさい。そもそもここに集まったのはその話をするためじゃないわ! ってタバサ、アンタもどこ行こうとしてんのよ。」 見ればタバサまでもが海馬とシエスタの手をつかんで外へ行こうとしている。 「物語の英雄…会いたい。」 「いやあの、どっちかといえばユベルさんは英雄って言うよりも、行き過ぎた恋する乙女って言う感じが…」 わけのわからない事をぶつぶつというシエスタを余所目に、ルイズが主題に戻す。 「そんな事よりも、セトは今度の使い魔品評会をどうにかする事が先でしょう!」 ルイズが怒号を上げながら強引に海馬を席につかせる。 そもそも、フーケの事件やらトリステイン城殴りこみ事件のせいで、そのことをすっかり忘れてしまっていたのはルイズのほうであるのだが この際誰のせいとかいっている場合ではない。 「良いじゃない、セトに出てもらえば。ただの平民なら兎も角、ギーシュを倒すくらいのドラゴン呼べるんだし、 出して馬鹿にされるような事も無いでしょう?」 「本人が素直に出てくれるなら苦労はしないわよ!」 品評会のことを思い出したルイズは、その場で海馬に出場を頼んだのだが、当然の如く拒否された。 「誰が好き好んで見世物になるものか。タバサのように出場しなければ良いだろう。」 「そう言うわけには行かないわよ!姫様が見にいらっしゃるのよ!」 「だから、あの学芸会のようなくだらん見世物に参加しろというのか。 カエルやモグラと同列に扱われるなど、不快極まりない。」 「うぅ~…姫様に会わせる顔が無いわ…。」 だれたように机に突っ伏すルイズ。 と、そのルイズに後ろから声がかけられた。 「あら、別にそんな気を張って考えなくてもいいわよ、ルイズ。」 呼ばれてふと振り返ると、見慣れないメイドがいた。 紫がかった髪の毛と大きな瞳、そしてキュルケほどではないが、ルイズでは到底敵わない程度のバストを持った、一言で言うなら可愛いメイドだった。 「ちょっと、メイドが気安く話し掛けてるんじゃないわよ。あぁ、ついでに食堂から何か飲み物を持ってきて頂戴。」 「…はい、かしこまりました~♪」 何かを考えるように少し間を置いた後そう言うと、そのメイドは食堂のほうへ向かっていった。 と、ふとルイズが周りを見ると、コルベールとシエスタが真っ青な顔をしていた。 「……目がおかしくなったかな?そんな馬鹿な事が…」 「って言うか、アレ…いえあの方って…」 「なによ、どうかしたの?」 と、いうと食堂のほうからガシャーン!という皿が大量に割れる音がした。 と、同時にさっきのメイドが逃げるように走ってくる。 流石に冷静な頭でさっきのメイドを見れば、ルイズもアレが誰か理解できる。 「ひっ…姫様ぁぁぁぁぁぁ!?????」 で、場所が変わってここはルイズの部屋。 「ひ、ひどい騒ぎなってしまったわ…」 「それもルイズがお姫様に飲み物もって来いなんて言うからじゃない。」 「うっさい!って言うか、揃いも揃ってなんで私の部屋に逃げてくるのよ」 アンリエッタが学院に忍び(?)こんで来ていたことがばれてしまい、匿うようにルイズの部屋に案内したのだが、 結局あの場にいたメンバー全員がついてくるという不思議な状況が成立してしまった。 と、いつもの調子で口喧嘩をはじめかけるが、アンリエッタの前で醜態を晒すまいと冷静を装うルイズ。 「ひ、姫様。汚いところですが、どうぞ…」 「それは部屋に入れる前だろ。」 海馬の的確な突っ込みが入るが無視。 と、それまで後ろにいたコルベールが前に出て跪き、アンリエッタに話し掛けた。 「あの…失礼ながら姫殿下、学院にいらっしゃるのは明日の予定のはずだったと…」 「あなたは…?」 「本学院で火の講義を担当しております、ジャン・コルベールと申します。」 「コルベール教諭、本日私がここに来たのは全くの私用です。 ……できれば、人知れずにルイズと瀬人さんにお会いして用事を告げたかったのですが。」 そう言いながら、アンリエッタは窓のほうへと歩いて行く。 そして全員に振り返り、毅然とした姫の顔で告げた。 「私はこれよりウェールズ皇太子よりあるものを返していただきに、アルビオンへと赴きます。 その道中の護衛として、ルイズさんと瀬人さんに付いて来て貰おうと思いここまで来たのです。」 「アルビオンって、戦争の真っ只中じゃない!!」 驚きのあまりキュルケが口を開く。 興味なさげに本を読んでいたタバサでさえも顔を上げていた。 信じられないという表情で、コルベールが立ち上がってアンリエッタに問う。 「気は確かですか姫殿下。今のアルビオンに向かうなど自殺行為。 まして姫殿下だけでなく学生のミス・ヴァリエールと、海馬君を連れて行くなど!」 「確かに、危険なことは承知しています。アルビオンの現状についても、言い方は悪いですが、コルベール教諭よりも存じているつもりです。」 「ならば…」 「おそらくアルビオン王家は滅びるでしょう。そして反乱軍…レコン・キスタの次の目標はこのトリステイン。 国力の乏しいトリステインではレコン・キスタに対抗できる力はありません。 そのためにトリステインは、ゲルマニアとの同盟を結ぶ事にしました。」 「ゲッ…ゲルマニアって、あんな野蛮な成り上がりの国と!?」 「悪かったわね、野蛮で。」 いつもならここで口喧嘩でもはじめるところだが、流石に空気を読んだのかそれ以上二人が続ける事は無かった。 「ゲルマニアが同盟に提示した条件は、私がゲルマニア皇帝に嫁ぐこと。 ですが、ウェールズ皇子の持つ手紙には、その婚姻を妨げる材料となりえるもの。 それがアルビオンの貴族の手に渡れば…」 「同盟は成らず、トリステイン、ゲルマニア両国は独力で自国防衛をしなければならなくなる。 2本の矢でも1本づつなら容易く折れる。」 こくん、とアンリエッタはうなずく。 「その通りです。そして先ほど、アルビオン王家に対する再度進攻が行われたという連絡が入りました。 事は一刻を争います。一刻も早く、その手紙を手に入れなければなりません。」 「しかし、それは姫様自らや、学生の彼らでなくても。王国の騎士隊の精鋭を使えばすむ事ではありませんか。」 「これは、私の行いが招いた失態です。私の手で手紙を返してもらわなければ意味がありません。 それに…トリステインの中には、すでにレコン・キスタの息のかかっているものが入り込んでいるようです。 そして、先日、療養中のはずのグリフォン隊隊長のワルド子爵が姿を消しました。」 「ワルド子爵が!?」 ルイズは先日自分が黒焦げにした男の事を思い出した。 まさか?と思いたかった。 幼少の頃憧れたあのワルドが国を裏切って敵に回るなど、ルイズには考えられない。 「姫様、それは何かの間違いです!先日だってワルド様は!」 「私も、そうは思いたくありません。ですが彼が行き先も残さずに姿を消し、 そのタイミングでアルビオン軍が進攻を開始する。私には、関わり無い事とは思えません。」 室内を沈黙が包み込む。 その静寂を破ったのは、海馬だった。 「事は一刻を争うのだろう。ならば、こんなところでだらだらとしている場合ではない。 一刻も早くアルビオンに向かい、その手紙を回収してくれば事は済む。」 「私も行くわ。姫様のためなら、私はどんな命であろうと成し遂げて見せます。」 二人の様子を見て、コルベールはストップをかける。 「ダメだ!いくら海馬君が強いデュエリストだろうと、危険には変わりない。 ましてミス・ヴァリエールや姫殿下が行くなど持っての他。」 「私が行かなければ、おそらくウェールズ皇太子は手紙を渡してはくれないでしょう。」 アンリエッタの言葉は嘘だった。 アンリエッタが書いた手紙でも渡せば、ウェールズはきっと手紙を返してくれるだろう。 だが、アンリエッタが戦禍から守りたかったのは手紙だけではなかった。 たぶん、戦争を境にウェールズは帰らぬ人となるであろう。 だからこそ、自分自身で最後に彼に会っておきたいと思った。 姫としてではなく、一人の少女としての淡い気持ち。 姫としては失格だろう。 だがそれでも、自分の思いだけは譲れなかった。 「私もいくわ。トリステインとゲルマニアの同盟が成立しなかったら、ゲルマニアも危険だもの。」 「…………」 無言だがタバサも行く気のようである。 「ミス・ツェルプストー!ミス・タバサまで…」 「コルベール。心配ならば、貴様が付いてきて守ってやればいいだけだ。 もっとも、身を守ってやらねば成らないのは、そこのルイズだけだろうがな。」 「なっ!どういう意味よ!?」 「…………」 「コルベール教諭、できれば力を貸して下さい。トリステインの人々を戦禍から一人でも救うために、 この作戦は必要不可欠なのです。」 「姫殿下…わかりました。この炎蛇のコルベール。姫様の剣としてお使いください。」 これでここにいるメイジの全員参加が決まった。 しかし、若干一名、この緊張した空気でどうしていいかわからない人物がいた。 シエスタである。 (アレ…?変な空気になってる。ど、どうしよう。平民の私なんかが聞いちゃっていい話じゃないはずなのに 変な緊張感から結局退室する事もできなくて話がどんどん大きくなってるし あぁ、どうしよう。秘密を聞いたからには打ち首!!!なんてことになったりしたら…) 混乱しているシエスタを尻目に、どんどん話はすすんでいく。 と、アンリエッタがシエスタに目を向ける・ 「それでは、出発は今夜です。それと…そこのメイドのあなた。」 「はっ!はい!?」 急に声をかけられ、その上その声の主がアンリエッタだったことで、声がひっくり返りながら返事をするシエスタ。 「あ、そんなに気負わなくっても…えっとお名前は?」 「シッ…シエスタと申します。」 「そう、シエスタ。ひとつ、あなたにお願いしたいことがあるの。」 「…はい?」 日も暮れ夜もふけた頃、トリステイン街中の武器屋の扉を酔っ払いが鼻歌を歌いながらくぐっていく。 「ふ~んふ♪ふ♪ふ♪ふ~んふ~♪ぅお~いデル公、い~ま帰ったぞ~」 その武器屋の店主は店番のデルフリンガーに声をかけた。 店主の言葉に声を返すのは、会計の前に立っている椅子のうえに突き刺さった錆びついた剣。 「もう今更のことだからつっこまねぇけどよぉ、親父。剣の俺をレジにおいて飲みに出かけるのやめたほうが良いぜ?」 「なーにいってんだ。どうせお客なんか稀にしかこねぇし夜ぐらいだいじょうぶだいじょうぶ」 「とは言うがな、まさにお客さんがお待ちだよ。」 「あん?」 振り返ると奥の鎧とかの置き場所に数人、店主の帰りを待っていた。 武器屋という場所には似つかわしくないメイド服の少女が数人に、頭の禿げた背の高い男が一人。 そして店主はその中にルイズと海馬を見つけると、上機嫌に声をかけた。 「おや、この前の旦那とお嬢様じゃねぇですか。いや~この前はどうもすみませんでしたねぇ。 ついでにあの猫に取られちまった筆とかも取り返してもらっちゃって。」 少し薄い頭を掻きながら、店主が海馬たちに話し掛けると、メイド服の少女の内一人がそれに反応する。 「あ、その件はうちの飼い猫がご迷惑をおかけしました。」 「おぉ、あの猫はお嬢ちゃんの飼い猫だったのかい。いやいや、戻ってくりゃあこっちも文句なんかねぇって。 って…それにしてもお嬢ちゃんの顔、どっかで見たことがあるような…」 「おいおい親父よう、今時そんな口説き文句はねぇだろうよ。」 カチャカチャとデルフリンガーが鍔を鳴らしながらツッコミを入れる。 「ちげぇよデル公!ん~…酔ってるからか思い出せねぇ。」 などといっている間に、ルイズと海馬が奥のほうにあった兜や剣などを持ってレジのほうに現れた。 「この辺を貰っていくぞ。」 「別にデル公に置いていってもらっても良かったんですがねぇ。しかし、こんな時間に買い物なんて、何かあるんですかい?」 「あんたが知る必要なんて無いわよ!」 そういってドンと金貨の入った袋をレジに置く。 中身を確かめると店主は笑顔で対応する。 「こいつは失礼しました。ほい、確かに頂戴しました。」 「よし、行くぞ。」 海馬のその一言を合図に、全員が外へ出て行く。 猫の飼い主のメイドの少女が、愛らしい笑顔で手を振ってくるので、店主は鼻の下を伸ばしながら笑顔で返した。 ぞろぞろとその不思議な集団は外に止めていた馬車にのってどこかへ向かっていった。 「ん~…どっかで見たことがあったんだがなぁ。」 「気のせいだろ。それより、もうとっとと店閉めちまえよ。」 一方その頃のトリステイン城。 「……どうして、こんな事に…」 布団の中にいるアンリエッタはぼそっと愚痴る。 アンリエッタにとっては普段使うベッドではあるが、今その上に寝転がる彼女にとってはそのやわらかさも暖かさも 緊張を生みとてもではないが安らかに眠れるものではなかった。 「でも、姫様の『お願い』を断る事なんかできないし。」 そう、その布団の上にいるアンリエッタはアンリエッタにあらず。 シエスタであった。 アンリエッタのお願いとは、自分が戻るまでの数日自分の代理をしてくれというものだった。 『むっ、無理です無理無理。私が姫様の代わりなんて!』 『大丈夫よ。どうせたいした事はしていないわ。どこかに行くときも、窓の外に向かって笑顔で手を振っていればいいよ。』 『いえいえいえいえ、確かに魔法で顔は変えられても、立ち振る舞いとかでばれてしまいます!』 『なるべく早く戻ります。どうか、私の影武者となってください。』 (安請け合いするんじゃなかった。) 後悔の念でいっぱいになりながら、ベッドの天井を眺めていると、不意におなかの音が鳴るのに気づいた。 (それにしても意外だったなぁ…。お城の料理があんなにも…) 一言で言えば不味かった。 学院で賄いとはいえマルトーが作っている料理を普段から口にしているシエスタでは有るが、 平民である以上そんなに豪華な食事は今までしたことが無かった。 そして実際に口にした宮廷の豪華な料理は、想像とは程遠い味だったのだ。 まず、毒見を行った上に料理場から食卓までに無駄に長い距離があるために酷く冷めている。 しかも人数を考えていないのか大量にある料理の数々。 (あんな量…見てるだけでおなかいっぱいになっちゃう。しかも総じて全てが美味しくないなんて…。 もったいないお化けが出ちゃいますよ。…ダメだ。おなかすいた。) 遠めに見れば美味しそうに見えるのに、冷めて油が浮かんでいたりする料理を思い出す。 流石の不味さに少し吐き気を催したほどだ。 シエスタは緊張と空腹を紛らわせようと、布団を頭から被り強引に眠りにつこうとする。 (いつまで続くのかなぁ…) シエスタはマルトーの作ってくれた料理や故郷の料理を思い出しながら、見知らぬ天井の部屋で夜を過ごすことになった。 前ページ次ページゼロの社長
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1424.html
貴族らしく死ね その① 爆風にブッとばされたミスタが目を覚ますと、惨状を呈している教室に落ち込んだ様子の ルイズが佇んでいた。 「教室の掃除を命じられたわ…あんたも手伝いなさい」 「わかったよ…しかし、よく寝れたぜ、ありがとよ…」 痛む頭をおさえつつミスタが立ち上がる。 「これで分かったでしょ。アンタの思ってたとおり、私は魔法の使えない『ゼロ』の ルイズなのよ…」 酷く落ち込んだ様子でルイズが言う。 「何言ってんだオメー?おまえなかなかスゲー魔法使えんじゃねーか。あの爆発かなり ヤベー威力だったしな。おめーの横にいたエラソーな教師もどっか逝っちまったんじゃ ねーか、ウケケケ」 きっとボロ雑巾のようになったであろうシュベルーズを想像して笑うミスタ。外道だ 「まあなんにせよちょっと『魔法』って奴を見直したぜー。あれって何系統なんだ?火か?」 「あれは、失敗魔法よ…」 かなり落ち込んだ様子のルイズ。 「失敗?魔法ってーのは失敗しただけであんなスゲーのができるのか!成功してたら オレ死んでたな」 さっきの3倍の爆発を想像するミスタだが、ルイズは突然叫びだした。 「違うわよ!失敗してこうなるのは私だけ!だから、みんな私のこと『ゼロ』って バカにするのよ!どんなに簡単な魔法も使えない『ゼロ』って!」 肩を震わせ、何かを吐き出すように叫ぶ。なんだかやばそうな雰囲気だ。 「え?なに?どーした?なんで泣きそーなんだよ?」 「泣いてなんかいないわよ!」 半分涙声で叫ぶ。 (どーやら、魔法が下手なんでイジメられてんだな…キュルケとかが言ってた 『ゼロ』っつーのもそれか。どーしたもんかねー) 「なんだかよくわかんねーけどよ…魔法がつかえねーなんてことは ねーんじゃねーのか?オレを『召喚』したのも魔法だろ?だいいち、その失敗魔法 とやらも、できんのはオメーだけなんだろ?だったらそいつがお前の 『才能』っつーことなんじゃねーのか?」 「『才能』?」 「ああ、そーだ。テメーだけができるっつーことは、それはテメーの『才能』っつー ことだろ?まあ他の魔法が使えねーのはザンネンだが、オレに言わせりゃあ 『四』大系統とかいう縁ギの悪ィー魔法より爆発のほうがよっぽどイカしてるぜ! まあ、さっきのはちょーっとイカしすぎてたがな。見ろこコレを。コブになっちまってる」 気楽な口調で言うミスタ。きっとバカにされると思っていたルイズは、 ミスタの言葉を呆然と聞いていた。それはたしかに励ましの言葉だったからだ。 「なな、な、なによ!つ、使い魔の癖して偉そうなこと言ってるんじゃないわよ!」 素直ではないルイズの言葉だが、機嫌は直ったようだ。 「へーへーすいませんね。じゃあとっとと掃除を終わらせるとするぜ!」 教室の片付けは、ルイズもちゃんと手伝ったこともあり意外と早く終わった。 ルイズが見ていないスキにピストルズたちが細かい瓦礫の破片を弾き飛ばしたりして 手伝っていたから、ということもあるが。 「そろそろ昼食の時間ね。いくわよミスタ」 「オレ、あのブタ用の餌ならいらねーぜ」 固いパンと味の無いスープをおもいだしげんなりするミスタ。厨房にに行こうとする。 「ど、どこいくのよ?」 「シエスタのとこだ」 「…シエスタって?」 「厨房で働いてる娘だよ」 ルイズの眉がつりあがっていく。 「…いつ知り合ったの?」 「朝、洗濯の場所を教わったんだ。メシもくれたしな。親切ないい子だぜ。 オメーと違ってムネもあるしな」 ウケケケと笑うミスタにルイズはプッツンきた。 「ここ、この犬ー!」 「うごぅあー!!」 ルイズの蹴りがミスタの大事なピストルに炸裂!しばらくはスタンドできないだろう 「て、てめー…なにしやがる…」 大事な部分を押さえて呻くミスタ。 「うるさい!あ、あんたみたいな犬、去勢されちゃえばいいのよ!」 呻くミスタを教室に残してルイズは去っていった… しばらくして立ち直ったミスタ。 (くそ!なんてことしやがんだあいつは!再『起』不能になったらどうするつもり だったんだ!全力でやりやがって!…ムネのことを言うのはやめておいたほうがいいな…) まだ痛む部分を押さえつつ、厨房へ向かうミスタ。 「あ!ミスタさん!来てくださったんですね!」 「ああ、手伝いに来たぜ。なにをすりゃーいいんだ?」 「あとしばらくしたら、デザートを運んでいただけますか?」 「承知したぜ!」 巨大な食堂でデザートをくばるミスタ。当然ルイズもいるので、ルイズにも配る。 「…なにやってんのよ、犬」 「見てのとおりデザートを配っているぜ」 「へー。平民の娘はどうしたの?」 ジト目で見てくるルイズ。 「なんだかカン違いしているようだが、別にシエスタとはなんにもねーぜ!」 「どうだか…」 どうしたものかとシエスタのほうを見る。すぐ近くにいた。 「ミスタ・グラモン。何か落とされたようですが」 なにかの瓶を金髪の少年に差し出している。だが金髪は眉をひそめる。 「これは僕のじゃあない。なにを言っているんだ?」 「ですが…」 金髪の友人らしき人物たちが騒ぎ出す。 「その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが調合している香水だぞ!」 「つまりギーシュは今、モンモランシーとつき合っている。そうだな?」 「違う。いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが……」 どうやら金髪の名前はギーシュというようだ。 「違う。いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが……」 ギーシュが何か言おうとすると茶色いマントの女子生徒がやって来た。 「ケティ。君は誤解をしている…」 だがケティは突然掌底でギーシュのあごを吹っ飛ばした。 「(女の)敵だなてめー」 「なに!」 もう一人の女子生徒がやってくる。 「モ、モンモランシー…」 「(女の)敵か!」「(女の)敵かッ!」「(女の)敵かッ!」「(女の)敵かッ!」 ギーシュに蹴りを叩き込んで二人は去っていった。 しばらくして友人たちの笑い声に囲まれて立ち直ったギーシュはシエスタに向き直る。 「君が軽率に香水のビンなんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。 どうしてくれるんだね?」 「も、申し訳ございません!」 青ざめた顔で謝罪するシエスタだったがギーシュの怒りは収まらない。 客観的に見ても原因はギーシュにあるが、平民であるシエスタはギーシュの責任転嫁の 矛先を向けられることになったようだ。 「さて、どうしてくれようか」 「お、お許しを!」 周囲の空気も『平民』であるシエスタが槍玉にあがることを容認しているようだ。 ただ一人、ミスタだけはゆっくりとリボルバーに弾丸をこめていた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2267.html
前ページ使い魔エイト *エイト、つかいまのしごとをする 夜が白々と明け始めた頃―― ニワトリはコケコッコーと鳴き、使用人たちは忙しく動き始めている時間であるが、上流階級のお坊ちゃん、お嬢様はまだまだ夢の中。 ルイズもその例に漏れず、まだベッドの上ですやすやと眠っていた。 が、しかし、その安眠はいきなり打ち切られることになる。 <日の出を確認、日の出を確認――朝と判断します> ルイズは当然聞こえていなかったが、不思議な声が部屋に響いた。 すると、その直後―― 「あさー!」 能天気な声と共に、ルイズは夢の世界から叩き落された。 「うひゃあ!」 跳ね起きると、真横にいかにも能天気な黒髪の男の子が立っていた。 「ごしゅじんさま、あさだよ」 「あんた、誰……って、昨日召喚した使い魔よね……」 ルイズはまだ眠い目をこすりながら、 「っとに、まだ暗いじゃないの……。朝っていっても、朝一番に起こすことないでしょう」 能天気な顔して、融通の奇怪な使い魔だ、とルイズはぼやく。 「……私、もうちょっと寝るから……籠の服、洗濯しときなさい」 命令してから、ぼふん、とルイズはベッドに顔をうずめる。 ルイズの命令――それに、エイトの球が反応した。 <メイドから洗濯のスキル学習。後に洗濯開始> 「うん、メイドにおそわってせんたくする」 そう言って、エイトは洗濯籠をかつぐ。 「いってらっしゃ~い……」 二度に入りながら、ルイズはベッドの中から手を振る。 しかし、エイトはすぐに出て行かず、 「メイドって、な~に?」 とんまなことを言った。 「あんた、わからないで教わるとか言ってたの?」 ルイズは不機嫌そうに顔を上げて、ついに頭を抱えてしまった。 「ようするに、使用人の女のことよ……。使用人もわかんない? つまり、粗末なかっこして働いてる女の子……いや、それだけじゃわかんないか……」 メイドを知らない、見たこともない、どんなものかもわからない。 そんな相手に、言葉だけでどう表現すればいいのだ。悩んだ末、 「そうだ!」 ルイズはぴこーんと閃き、ベッドから降りると、部屋の中にある本をごそごそとあさりだす。 その間、エイトは洗濯籠を担いでまぬけな顔をさらしていた。 「これよ!」 ルイズは、ある本に描かれたイラストを指差して叫んだ。それは色んなタイプのメイド服の一覧であった。 「色々あるけど、大体似たようなかっこうした女がメイドだと覚えておけばいいわ」 エイトはじっとイラストを見ていたが、 「おぼえた! じゃあいってくる」 元気に叫ぶと、部屋を飛び出していった。 「ちょっと、ドアくらいしめていきなさーい!」 「メイド!」 「ひゃあ! すみませんっ!?」 いきなり大声で呼び止められ、シエスタは思わず身をすくませた。 何か貴族を……メイジを怒らせるようなことを? そんな心配を振り返るが、 「あの……?」 立っていたのは、まず自分より年上とは思われない、見たこともない変な格好をした少年……男の子であった。 「きみ、メイド?」 洗濯籠をかついだ少年は、にこにこした表情でそう尋ねてくる。 「そうです……けど」 他の何に見えるんだろう? と思いながらも、シエスタはうなずく。 「せんたくおしえて」 「え?」 「ごしゅじんさまにいわれた。せんたくしろって。だから、せんたくおしえて」 「ご主人様……? あ……もしかして、ミス・ヴァリエールが召喚されたっていう使い魔?」 ルイズが平民っぽい男の子を使い魔にしたとの噂は、使用人たちにも届いていた。 「うん。ぼくはルイズのつかいま」 エイトはこくんとうなずいた。 その答えに、シエスタはほっとしながら、 「そうなんだ……ええと、あなたの名前は?」 腰をかがめて、エイトに尋ねた。 自分よりも年下相手なので、敬語ではない。 「エイト」 「エイトくんね……。私はシエスタ。この学院で使用人をしているの」 「しようにん? メイドじゃないの?」 きょとんとするエイト。 それにシエスタは少し驚いた顔をするが、すぐに笑い出し、 「女の使用人のことをメイドっていうのよ?」 「ふーん」 「その洗濯籠は……ミス・ヴァリエールの?」 「うん。せんたくしろってめいれい。だから、せんたくおしえて」 「洗濯だったら、ついでにやってあげるわよ?」 エイトの顔を見て、ちょっとかわいいかも……と思いながら、シエスタは笑いかける。 その言動のせいか、見た目以上に幼い印象を受ける。 「メイドにおそわってせんたくしろっていわれた。だから、せんたくおしえて」 エイトは首を振るでもなく、子犬みたいなまっすぐな瞳でそう言った。 「そっか。じゃあ、ばっちり教えてあげる。こっちへいらっしゃい」 見た目は可愛いけど、けっこう頑固なのかも、と思いながら、シエスタはエイトを水場のほうへと案内した。 「うーん……大丈夫かしら」 部屋の中で、ルイズはもんもんとしていた。 元気よく飛び出していったのはいいが、果たしてあの使い魔、ちゃんと洗濯してくるのか? 知能障害というわけではないようだが、一般常識とかそういうものがずぼっと抜けている。 洗濯しても、衣服をぼろぼろにする危険性もある。 ――探しにいこうかしら? いえ、うーん……。 ひとしきり悩んだ後、 ――あ、感覚の共有をやればいいんじゃない。 やっと、そこに気づいた。 人間相手だし、当初は無理かと思われたが、すぐに可能であることがわかっている。 ルイズは瞳を閉じ、意識を集中した。 ばしゃばしゃ。 ぎゅっぎゅっ。 水の音と、もう一つは洗濯する音。 ――一応、洗濯はできてるみたいね……。ん……。 『……ああ、だめだめ』 女の子の声が聞こえる。 それに、黒髪の少女の横顔がちらちら。 ――この子は……たしか、シエスタとかいうメイド。そうか、この子に教わってるのね? 『それは、そういう風にやったら痛んじゃうでしょ? こう、優しい感じで……』 洗濯するエイトを、女の子の手が上から包んで、洗濯の動作をさせる。 まさに手取り、足取りという感じであった。 『そう、そういう感じ。うまいうまい』 楽しそうな声。 ――……。 何となく不愉快になって、ルイズは感覚共有を停止させる。 「っとに、あの馬鹿使い魔、ちびのくせに女の子にでれっとしちゃって……」 ルイズはぶつくさ言いながら、ベッドの上に寝転がる。 「でも……覚えさせなかったら私の服が危ないし……」 だったらエイトに洗濯なぞさせないでおけばいいのだが、ルイズはそのへんをすっかり失念していた。 というより、意識の隅へ放り出していたとすべきか。 そのうちに――まだ睡眠量が不足していたのか、ルイズは再び眠ってしまった。 前ページ使い魔エイト
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6592.html
前ページ次ページzeropon! 第三話 get a breakfast 早朝…トリステイン学院の裏手、そこをうろうろする二つの影があった。 彼らの名は、シタ・パンとザッツ・ヨー。いつもは巫女であるメデンのそばについているパタポンなのだが、ルイズに召喚された時からルイズのそばにつくようメデンに命じられた。 そんな彼らの今日の任務は『ルイズの服の洗濯』である。しかし…迷っていた。彼らは水場を求めさまよっていた。このままだと任務が果たせない。 そうなると後に待っているのは、メデンからの『お仕置き』である。最早、絶望のふちにあった彼らに、天の使いが現れた。 「あの…なにか探してるの?」 シタ・パンとザッツ・ヨーが振り返るとそこに神・ルイズや、神のご学友達とはまた違う格好をした人物が立っていた。 「洗濯場を探しています!」 「洗濯しないと怒られるのです!」 「ふえ?!しゃべ…あ、もしかして貴方たちがミス・ヴァリエールが召喚された使い魔さん?」 「ミス?」 「ヴァリエール?」 「ええと、ルイズ様のことです」 「そうです!」 「その通りです!」 元気良く、無駄に元気よく返事をする二匹。 「貴女は?」 「誰?」 「私ですか?私はここの学園で給仕をしているシエスタです」 「給仕?」 「メイド?」 「メイド萌え?」 「残念ながら私はメガネっ娘派だ」 「私はポニーテイルだ。」 「需要はないが」 「洗濯場までの案内を」 「お願い!」 「します!」 …途中に紳士か変態が混じっていた気がするが気のせいだろう。シエスタは二匹を井戸端の洗濯場に連れて行った。 洗濯場についたシエスタは二匹に並んで一緒に持ってきた洗濯物を洗うことにしたのだが…シエスタは驚いた。協力して井戸の水をたらいに入れて、一匹が洗濯板を持って一匹が洗う。 彼らの行動には淀みなく行われ、時間にして三分ほどで彼らは 「ありがとー!シエスタさん!」 「感謝ー!」 と言うと、そそくさとどこかへ行ってしまった。 「…あれ?あれって」 シエスタはふと、思い出していた。祖父が語った昔話。それは一つ目の生き物の昔話。 「まさかね…」 「…さま」 「ふにゅう…ふにょう…」 「……さま、ルイズ様」 「うーーん?」 「ルイズ様、朝でございます」 「ふえ?」 自分を起こす声にうっすらと目を開けるルイズ。そこに見えるはいつもの部屋で無く、特大の目玉があった。 「うひゃあああ!?」 ベッドから跳ね起きるルイズ。 「なななななななななな??!」 「ルイズ様朝でございます」 再びその言葉を繰り返す目玉。驚きでパニックに陥ったルイズだがなんとか頭を落ち着けその目玉が自分の使い魔であることを思い出す。 「…朝から心臓に悪いわ」 明日からの起床について少し考えるルイズであった。 ルイズはベッドから降りると、メデンたちに顔を洗う水を持ってくるように命じ… 「お顔をどうぞ」 …る前に二匹のパタポンがスっと水の入った桶を抱えてきた。 「…ごくろう」 それで顔を洗ったルイズ。続いて服を着せようとしたが…先ほどのパタポンが肩車をしてふらふらしながら服を持ってきていた。 「おき…が…えを…」 …下のパタポンが死にそうだったので服は普通に自分で着替えることにした。 着替えをしていると、部屋の前が騒がしい。着替えを終えて部屋を出てみれば、部屋の扉の前で先ほどの二匹のパタポンが赤毛の女に槍を突きつけていた。 「何者だ!」 「名を名乗れ!」 「ルイズ様に害を為す気か!」 「やっつけろ!」 「…フレイム」 パチンっと女が指を鳴らすと廊下の奥から、炎を灯した尻尾、赤い鱗を持つ大型のトカゲが現れた。 「うわわわ?!」 「なんだこれ?!」 突然現れたそれに驚くパタポン。 「…やりなさい」 ぼう!女が命令するとフレイムと呼ばれたトカゲは口から火を吐く。 「ふぎゃあああ!」 「あっち!あっち!」 もろにそれを浴びたパタポン達は体についた火を必死に転がりまわって消す。 「ちょっとツェルプストー!ひとの使い魔になんてことしてんのよ!」 「あら、ごめんあそばせルイズ。あなたと同じ不躾な使い魔だったものだからちょっとお仕置きしちゃったわ」 胸元を開いた服になまめかしい身体を包んだツェルプストーと呼ばれた女は悪びれもせず言い放った。 「ルイズ様、こちらの方は?」 ルイズの脇に控えていたメデンが尋ねる。ジタバタしている二匹のパタポンには一瞥もくれなかった。 「あら?あなたは確かメデンだったかしら?大変ねえ、こんなやかましい主人に召喚されちゃって。私の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわ。よろしくね」 「これはご丁寧に。部下の者が失礼を致しました。ルイズ様のご友人とは知らなかったもので。」 「メデン!こんな牛乳女友達でもなんでもないわ!敵よ敵。敵で十分よ!」 「牛乳なんて失礼ねえ。自分がないからって」 「きいいいいい!言わせておけばああ!」 「あら、ルイズをからかうのが楽しすぎて、長居しちゃった。早くしないと朝食食べ損ねちゃう。行くわよ、フレイム」 フェロモンを撒き散らしながら歩き去っていくキュルケとくるるる、と喉を鳴らしながらそれについていくフレイム。 「あ・の・おんなああああ!レアなサラマンダーを召喚したからわざわざ見せつけに来たわねええ!」 「あの獣はそんなに珍しいんですか?」 「好事家ならかなりの高値をつけるものらしいけど、くううう、むかつくわ!ふん!いいわ!忌々しいけど今は朝食よ。…って」 ルイズは傍らのメデンに目を落とす。 「あんたたちの食事どうしようかしら、というかあんた達は何食べるの?」 「お肉が好きです!」 「かったいのもやわかいのも好きです!」 いつの間にか復活していた先ほど燃やされたパタポンたち。焦げてはいるものの平気なようだ。 「肉食なの?」 「野菜も食べますよ」 メデンが答える。基本雑食のようだ。しかし問題は量である。五十匹近いパタポンを満たす量である。かなりの量が必要だ。 「仕方ないわね、給仕の人間に頼むしかないか。ついてきなさいメデン、あとそこの負け犬は朝ごはん抜きね」 「「なん…だと!?」」 その言葉に炎にすら耐え切った二匹のパタポンは真っ白に燃え尽きた。 メデンと二匹の真っ白なパタポンをつれて食堂に来たルイズはさっそく給仕に頼もうと思い周りを見渡す。ちょうど良くメイドがいたので呼び止める。 「ちょっと」 「はい?なんでしょうか?…ミス・ヴァリエール」 「なんで私の名前って、…まあ『ゼロ』なんて呼ばれてたらそりゃ有名にもなるわよね」 自分につけられた不名誉な二つ名を思い出しため息をつく。 「あ、いえ!ちがいます!あの、今朝、ミス・ヴァリエールの使い魔の方とお話したので」 「あ!シエスタ!」 「あ!ほんとだ!」 ルイズの後ろをついてきていた白パタポンどもがいつの間にか復活していた。 「なんであんた達、この娘を知ってんのよ?」 「今朝、洗濯場を教えてもらいました!」 「ありがとー!」 「そうなの?悪かったわね、迷惑かけたみたいで」 「いいえ、お気になさらずに、それで、あの御用のほうは…」 「あ、そうだった。こいつらに食べさせる食事をお願いしたいから調理場まで案内してくれない?」 「分かりました。どうぞこちらへ」 シエスタに案内されてルイズは調理場に入った。 「マルトーさーん」 「ん?なんだシエスタ…そちらの方は?」 あからさまにいやそうな顔をするマルトーと呼ばれた男。 「こちらはミス・ヴァリエールです。ミス・ヴァリエール、こちら調理長のマルトーさんです」 「ああ、あの『ゼロ』の…っとこいつは失礼を…」 思わず口走ってしまったのをあわてて訂正するマルトー。 「いいわ、気にしないで。そう呼ばれてるのは事実よ。…いつか見返してやるけどね」 にやりとマルトーに笑うルイズ。それを見たマルトーは 「ハッハッハ!こいつは頼もしい!気に入ったぜ貴族様!で、用ってのはなんですかい?」 豪快に笑うマルトー。そしてぞんざいな口調で貴族に話すマルトーにあたふたしているシエスタ。 しかしそんなマルトーを咎めもしないルイズ。根本的なところで今まで接してきた貴族と違うことを感じ取ったマルトーはルイズに好意を持った。 「こいつらの食事を頼みたいんだけど…五十匹分」 「五十匹ですかい!?」 結構な数に驚くマルトー。 「やっぱり無理かしら?」 少し不安そうに尋ねるルイズ、しかし 「確かに多いですが、コックが食事を出せなかったなんざ末代までの恥でさあ!お任せをミス・ヴァリエール!」 ドンッと胸を叩くマルトー。 「ありがとうミスタ・マルトー、ほらあんたたちも礼を言いなさい。」 「ありがとうございます。」 「「ありがとうございます!」」 「うをお、しゃべった?!」 いままで黙っていたパタポンたちが普通にしゃべったので驚くマルトー。 「くははは!こいつはゆかいな奴等の食事を作れるもんだ!お前らとっとと残りを呼んできな!」 「「はーい!」」 ぱたぱたと、マルトーに言われ残りのパタポンを呼びにいく二匹。 「これで一安心だわ、私も朝食を…」 しかし無情にも鳴り響く始業の合図。 「…ううう。使い魔は食べれて私は食べれないなんて…ごめんなさい、あいつらの事頼むわ」 ふらふらと、揺れながら調理場を出て行ったルイズ。そんなルイズを見送るマルトーとシエスタとメデン。 「…?お前さんは行かなくていいのかい?」 「朝ごはんを食べませんと」 至極当然に言い放つメデンだった。 前ページ次ページzeropon!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8149.html
前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) タルブの村に鎮魂の鐘と空砲の音が鳴り響く。 メンヌヴィル小隊の襲撃は、駐留している銃士隊に大きな被害をもたらした。 駐留五個小隊中二個小隊が壊滅し、他の二個小隊も損耗が激しい。 だが、ほとんどの隊員が初めての実戦、しかも完全な奇襲にもかかわらず 村人の死者は一人もいないという功績がなしえたことは、記録されなければ ならない。 しかし、この戦いの記録を知る者は、そこに奇妙な記述があることに 気づくだろう。 そう。最初の奇襲で居住区を警邏していた第五小隊が自らの命を省みず 村人を守る中、そして休養中だった第四小隊が即時集結して反撃と占拠された 村長の館などの奪還を試みる中、彼女たちを陰から支える異国の軍服に 身を包んだ男たちの姿があった、という記述に―― 「やっぱり、掩体壕がなまってそう言われるようになったんだ」 「そう。武雄さんの発音が村のみんなにはそう聞こえちゃったみたいで。 私を含めて誰も正そうとしなかったし~」 太陽が中天に昇る頃。銃士隊による後片付けもまだ終わらぬうちに、 あかぎとシエスタはルイズたちを『竜の羽衣』が安置されている 『イェンタイ』こと掩体壕に案内していた。 二つある掩体壕のうち、最初に作られた規模の小さい方は、今は倉庫として 使われているということで、彼女たちがいるのは三十年前に作られたという 大きい方の前。巨大な鉄の防爆扉や人が出入りするサイズの鉄の扉には、 今朝までの戦闘の傷跡が生々しく残っている。とりわけ目立つのが、 ふがくの機関短銃の弾痕だった。 「あっちは大日本帝国式の掩体壕だからそれほど大きくないけれど、 こっちはブリゥショウ中将が監修したドイツ第三帝国式。そもそも格納する 数が違うから、比べてもあまり意味はないかもしれないわね」 「それにしても驚きの連続ですな。我々からは、すでにここまでベトンを 使いこなす技は失われています。劣化防止の『固定化』以外で魔法が 使われていないというのがまだ信じられません」 「私たちの歴史でベトン……コンクリートが使われなくなった時期が あったのと、同じ理由でしょうね。きっと。でも、あまり吹聴されても 困りますから……」 「分かっていますよ。あ、ははは」 あかぎの説明に一番聞き入っているのはコルベールだ。 そもそも二千リーブルを超える重さの砲弾の直撃に耐える施設など、 魔法を使ってもそうそうあるものではない。フル装備のあかぎと さえない風貌のコルベールを見比べて、タバサが神妙な顔をする。 「……信じられない」 「どうしたの、タバサ?」 「今朝とギャップが激しすぎる」 「ああ……でも、そのギャップがいいわ。影のある殿方って、惹かれると 思わない?」 親友の熱っぽい視線の先に、タバサは再び「信じられない」とつぶやいた。 あかぎが飾り気のない鉄の鍵で扉を開ける。中は薄暗く、奥に何かあると いうことがかろうじて分かる程度。コンクリートで固められた床が独特の 靴音を立てる。あかぎは入ってすぐの壁に取り付けられたレバーを上に 引き揚げる。その動作で天井付近にあるトーチカのような形状の明かり窓から 光が差し込み、掩体壕の中を明らかにする。 「それじゃあシエスタちゃん、お願いね」 「はい。いい運動になるんですよね、これ」 シエスタはそう言うと、掩体壕奥の小部屋に入っていく。前回キュルケたちが ここを見たときには入らなかった小部屋に、全員が興味を持った。 「三十分ほど待ってもらうことになるけど、いいかしら」 「どういうこと?」 あかぎのその言葉に、ルイズが問い返した。 「今シエスタちゃんに発電機を回してもらっているの。入り口の防爆扉と 奥の昇降機を動かすのに必要だから」 そう言って、あかぎは入り口に目を向ける。今入ってきた扉と違い、 とても人の手で開けられそうにない巨大な鉄の扉が、説得力を持って 立ちふさがっていた。 「『ハツデンキ』?それに『ショウコウキ』って……何?この前見せて もらったあの『竜の羽衣』のほかに、何かあるわけ?」 キュルケはそう言って掩体壕の中央に鎮座する『竜の羽衣』――濃緑色と 銀色に塗り分けられ、胴体と翼に日の丸が描かれた大型の四発機――を 指さす。がらんとした中にただ一機だけ鎮座するそれは、見方によっては 奇妙にも映る。まだ見たことのないルイズがそれに興味を示した。 「あれが『竜の羽衣』なの?言われてみれば色といい形といいふがくの 翼に似ているけど、知らない人が見たらこれが飛ぶなんて絶対思わないわね。 大きな鳥のおもちゃと思ったりして」 「あたしたちもそう思ったわよ。ふがくを知っているからこそ、 飛ぶんだろうなーって」 「ふがくちゃんにはこれが何か判るわね?」 「ええ。十八試陸上攻撃機『連山』。大日本帝国で開発中だった、 大型爆撃機。完成していたのね」 ふがくはそう言って『連山』を見る。大日本帝国では実現が難しかった 陸上四発機。それが完璧に整備された状態でたたずんでいた。 「そう。武内少将と加藤中佐がこれに乗ってこの村に来たのよ。三十年前にね。 …………で、普通はこれを見せただけでお仕舞い、ってなるのよね~。 ふがくちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」 あかぎはそう言ってふがくを掩体壕の奥に連れて行く。そこにはワインを 詰める木箱が山積みされており、あかぎとふがくは手分けしてそれを 除いていった。 「これ、全部空箱?」 「擬装のためのものだから~。さあ、ちゃちゃっと横に片付けちゃいましょう」 ルイズたちはあかぎとふがくが大量の木箱を片付ける様子を、真剣に 見つけている。そうして全部片付けたとき、ふがくが驚きの声を上げた。 「……なんで、こんなものがここに……?」 それは黄色で描かれた、いわゆる表示帯だった。横十六メイル、 縦十三メイルの角を丸められた長方形を縁取るそれに、ふがくは驚きを 隠せなかった。 そこに、シエスタが汗をタオルで拭きながらやってくる。 「あかぎおばあちゃん、準備できました」 上気したシエスタの頭を優しくなでながら、あかぎはルイズたちに 向き直った。その表情はそれまでと違い、真剣そのもの。ルイズたちには、 あかぎの左腕の盾に配置された高角砲群が鈍く光ったように見えた。 何故彼女がフル装備でここにいるのか、その理由が分かった気がする。 「さて、ここから先は本来部外者立ち入り禁止。特に外国の方には防諜上の 理由で本当ならここに昇降機があることすら知らせたくはありません」 「あかぎおばあちゃん?」 シエスタが驚きの声を上げる。 「今はなきフィリップ三世陛下やヘンリー陛下。それにマリアンヌ太后陛下と アンリエッタ姫殿下、タルブ領主アストン伯爵閣下の許可が必要なのよ。 本当はね」 挙げられた面々にルイズたちは思わず息をのむ。その様子をひとしきり 眺めた後、あかぎは相好を崩す。 「で・も~、今回はと・く・べ・つ・に、お見せしちゃいま~す。 もし咎められたら『あかぎが許可した』って言えばいいことだから~。 ささ、みなさ~ん、こっちに集まって~」 「な……び、びっくりさせないでよね、まったく」 胸をなで下ろしたルイズを先頭に、手を振るあかぎがいるところに 集まる。何が起こるのかと思っていれば、シエスタが表示帯の角の一つに 跪き、隠された蓋を開けて中にある赤青のボタンのうち、赤いボタンを押す。 すると小さく揺れたかと思うと、チン……チン……と軽快な音とともに ゆっくりと床が沈み始めた。 「何?何?」 慌ててふがくにしがみつくルイズ。タバサも驚きながらも表情には 出さず、床とすれ違って上がっていく錘に目を奪われた。 時間にして一分ちょっと。真っ暗闇に特殊な塗料で描かれた足下の 表示帯だけが淡く光る中に昇降機が降り立っても、ルイズたちは動けずに いた。 「これは……」 驚くコルベールに、あかぎが答える。 「これが昇降機。私の飛行甲板に付いているものと構造は同じね。 私が模型を組み立てて、それを参考に設計図を起こして職人さんたちに 作ってもらったの。部品ごとに発注したから、これの全体像を知っているのは、 組み立てた私とルリちゃん、それに職人さんたちを手配していただいた フィリップ三世陛下だけね。 表示帯の蓄光塗料は私の持ち合わせ。さすがにこれはこっちじゃ再現 できなかったわ」 「確かに……これだけのものは『錬金』では出せませんが……しかし……」 絶句するコルベール。『土』メイジであるギーシュなど、自分など 足下にも及ばない高度な技術にさっきから声も出せない。モンモランシーも 未知なるものと暗闇の恐怖からか、先程まで自分を助けなかったと けんもほろろだったギーシュにしがみついたままだった。 あかぎはそんな様子を楽しむように眺めた後、まるで見えるかのように 壁に向かって歩き、ぱちんと音を立ててスイッチを動かす。天井に設置された 明かりが灯り、そこにあるものに、ルイズたちは驚きのあまり声も出せなかった。 「……何……これ。これ、全部『竜の羽衣』なの?それにこの明かりは ランプとも違う……?」 「電球ね。こっちでも作れたんだ……」 ルイズとふがくのつぶやきに、あかぎが答えた。 「タングステンなんて手に入らないから、サハラのオアシスに自生している 竹をエルフの統領様とお話しして分けてもらったの。不活性ガスも簡単に 手に入らないからエジソン式の電球よ。球自体はランプ職人さんの手作りね。 不活性ガスはルリちゃんに空気を『錬金』して窒素ガスを抽出して もらおうとしたけれど、うまくいかなくて諦めたの」 「でも、こんなのここ以外で見たことないわ。……まさか、その職人って……」 ルイズの問いかけにあかぎは笑みを浮かべるだけ。それですべてを 悟ったキュルケがあきれるように言う。 「……この村がワインと秘薬の村なんて、とんだカムフラージュね。 魔法衛士隊や銃士隊が駐屯する本当の理由が分かった気がするわ」 「いいの?わたしたちはこの国の人間じゃない」 タバサの言葉にあかぎは笑顔で即答する。 「ひ孫が信頼する人たちですもの。それに、私にもあなたたちが悪い 人間だとは見えないわね。誰にも話さないって信じてるから」 その言葉がタバサには痛かった。そんな心情を知らないルイズは、 シエスタを連れて『竜の羽衣』を見て回る。 地上にあった『竜の羽衣』――『連山』とは異なり、ここに安置されている 四機はすべて単発機だった。ちょっとしたホールのような広い空間に 並べられ、昇降機に機首を向けたそれらの機体形状はすべて異なり、 特に奇抜な色で塗られたものはルイズの興味を強く引いた。 「ほかのは全部灰色とか緑とかの地味な色だけど、これだけ真っ赤ね」 「モモ隊長……モモヤマ飛曹長の『シデンカイ』ですね。どうして こんな色に塗っているのか詳しい理由は聞けませんでしたが、いつも 『オレは誰かを守るために生かされている』って言って、その通りに 行動する人でした。 あ、『モモ隊長』っていうのは、私が教えを請う時にそう呼べって 言われていたんです。名前のヨウジ先生って呼ぼうとしたら怒られて。 でも、半年前、暴走した貴族の馬車から子供を守って……」 「ふうん。シエスタの先生だった人か……会ってみたかったわね。 あっちの灰色のは?」 「あれはブリゥショウ中将の『グスタフ』です。…………」 シエスタの説明を熱心に聞くルイズをほほえましく見ながら、あかぎは コルベールたちを濃緑色に塗られた別の機体の前に案内していた。 黒く塗られたエンジンカウルに書かれた真っ白い『辰』の文字が、 それを読めないコルベールたちには神秘的に感じられる。 「これだけ椅子が二つあるわね。二人乗りってこと?」 キュルケの問いかけに、あかぎは懐かしむように答える。 「これは複座零戦。一人乗りの零戦をラバウル基地で二人乗りに改造 したもので、武雄さん……佐々木少尉と、水島整備兵長が乗っていた 機体よ。これだけが六十年前からこの村にあるのよ」 「なるほど。『レイセン』というのがこの『竜の羽衣』の名前で、 二人乗りだから複座、ということですか。上にあった『レンザン』も そうですが、名前の付け方が神秘的な響きですな。 ところで、どうして士官と整備兵長が同じ機体に?あなたたちの国では、 整備兵も前線に出るのですか?」 従軍経験のあるコルベールの問いかけに、あかぎの表情が曇る。 それから躊躇う様子で、静かに語り始めた。 「機上整備員って言って、搭乗員と一緒に乗り込んで作戦行動中の故障や 被弾の修理をするのが建前。でも、実際には搭乗員と一緒にそのまま 敵艦に体当たりすることになったそうよ」 コルベールは言葉を失う。キュルケは理解できないと言わんばかりに あかぎに問う。 「敵艦に体当たりって……それじゃこれは空飛ぶ棺桶だったってこと? 特に機上整備員って……あたしの国じゃ、そういうのは無駄死にって いうのよ!」 キュルケの剣幕を聞きつけたルイズたちも複座零戦の前に集まってくる。 二人が目の前に来るのを待って、あかぎは言葉を継いだ。 「最初からその目的のために造られたとしたら、そんな不幸なことは ないわね。 私がミッドウェイで沈んで、その後に行われたことだから、武雄さんたちに 聞いた以上のことは知らないのだけれど、『特別攻撃』として行われた その一度きりだけだったはずが、敗色濃厚になって常態化したそうよ。 武雄さんと水島整備兵長も、ラバウル基地が敵の攻撃で孤立化した後、 ある参謀の命令でレイテ島奪回の大作戦を行う聯合艦隊を支援するために 死んでこいって言われたそうよ。いくら零戦が航続距離が長いからって、 届くわけもないのに。 精神論の空砲で敵は倒せないって、開戦前から私はそう言い続けてきた けれど、精神論を声高に唱えて拳を振り上げる人で実際にそれに参加した人は ほとんどいなかったって。私が副官を務めていた司令官殿は、決戦の時に 志願して部隊を率いたそうだけれど、それは例外だったみたい。 ……けれど、経緯はどうあれ実際に敵艦に突入した人たちは、みんな 祖国を守りたいから、愛する人たちを守りたいからって思っていたはずよ。 きっとね」 「だけど、それって悲しすぎるわ。死んだら、もう何も守れなくなるじゃない」 「ルイズ……」 悲しげに語るあかぎの言葉に、ウェールズ皇太子を思い出しぽつりと 漏らすルイズ。ふがくはそんな彼女にかける言葉が見つからなかった。 あかぎはそんなルイズを見て、寂しげに、そして慈しむように言った。 「確かに、そうかもしれないわね」 あかぎの言葉に空気が沈む。それを破ったのは、佐々木少尉たちの 愛機の横に安置されている機体の向きを奇妙に感じたタバサだった。 「……あの『竜の羽衣』だけ、反対向きに置かれている」 タバサが指さした先には、プロペラが後ろにある、やけに脚が長い 『竜の羽衣』があった。尾翼が前、主翼が後ろにあるため、確かにこれだけ 前後逆に安置されているようにも見える。他の機体と異なりコルベールの 背丈よりも高い位置にある操縦席に乗り込むために、はしごがかけられていた。 あかぎはゆっくりと首を振り、タバサの言葉を否定する。 「あれで向きは間違っていないわ。あれはエンテ式の航空機で、 『震電』。ここだとカナール式って言う方が通じるかしらね。 三十年前に白田技術大尉が乗ってきた機体で……そうね、ここにある中で 高高度を全速で飛ぶふがくちゃんを撃墜できる可能性が一番高い機体かしら。 桃山飛曹長の紫電改や武雄さんの零戦だと高高度はちょっと厳しいし、 ブリゥショウ中将のFw190G『グスタフ』は地上攻撃用の戦闘爆撃機だから」 あかぎのその言葉にあかぎとふがく以外の全員が目を丸くした。 その中で最も早く現実に戻ったのは、誰の手も借りずに独学で初歩的な レシプロエンジンを完成させた、コルベールだった。 「……なるほど。『エンテ』はゲルマニアの、『カナール』はトリステインや ガリアの古語でどちらも『鴨』を意味します。『シンデン』でしたか、 この優美な『竜の羽衣』にふさわしい名前ですな。シラタ技術大尉には、 個人的に一度お話を伺ってみたい。 ところで、これらの『竜の羽衣』はまだ飛べるのですか?」 コルベールの問いかけに、あかぎは首を振った。 「空母型鋼の乙女の私が行った整備は完璧だし、ルリちゃんに『固定化』を かけてもらっているから機体そのものは問題ありません。けれど、彼らは もういないの。武雄さんが五年前に死んで、最後に残っていた桃山飛曹長も、 シエスタちゃんの話だと半年前に亡くなったそうだから」 コルベールは、その言葉に三十年という時間の長さを思い知る。 キュルケも小さく肩を落とした。 「あたしたちの最初の目的は『竜の羽衣』を譲ってもらうことだったけど、 こんな風に隠してあるんじゃねぇ……上にある『レンザン』は大きすぎるし」 「そうね。その要求にはお応えできかねます。 さて、これで『竜の羽衣』のお披露目はお仕舞い。ここで見たことは あなたたちの胸の内だけにしまっておいてね。今朝の一件から解るように そう簡単には制圧や強奪はできないでしょうけど、私はあなたたちに 砲口を向けたくないから。 それから、ふがくちゃんはもう一晩この村に泊まって行きなさい。 整備してあげる」 あかぎはそう言って見学を終了させる。傭兵メイジを消し飛ばした あかぎの主砲の威力を彼らは見ていない。それでも、ふがくの機関短銃より 遙かに威力が高いと思われるあかぎの装備は、笑顔の裏で彼らに言外の プレッシャーを感じさせていた。 ルイズはあかぎの言葉を聞いて、コルベールを見る。自分たちが ここに来たのはタバサの助命のためだ。あまり長居をしていいものでも ない。 コルベールはルイズの視線に気づくと、彼女が言葉を発する前に こう言った。 「わたしたちが馬で学院に戻るより、ふがく君が飛んで帰る方が遙かに早い。 せっかくの機会だから、お言葉に甘えなさい。わたしたちが先に学院に 着いたら、わたしから学院長に話をしておこう」 そうして。コルベールたちを見送ったルイズたちは、シエスタとともに 彼女の家にいた。なお、タバサは実家に戻る途中だったので、彼女の 使い魔である風竜シルフィードに乗ってコルベールたちとは逆の方向に 飛んでいった。飛び立つときにシルフィードの機嫌が悪いように見えたのは、 たぶん気のせいだろう。 ルイズとふがくは、あかぎが手料理を振る舞ってくれるということで 食堂のテーブルについている。シエスタはあかぎを手伝うために台所へ。 シエスタの家族は今朝の後片付けに出かけており、家には彼女たちしか いなかった。 「いったいどんな料理なのかしらね?『ヨーショク』って」 「一銭洋食って言ってね、あかぎの生まれた帝国海軍の拠点、日本一の 工廠都市呉でよく食べられていた料理よ。水で溶いた小麦粉を焼いて、 その上にうどん……小麦粉で作った麺と肉とたっぷりの刻みネギを乗せて 焼くの。それが焼けたらひっくり返して鉄板に割った卵の上に乗せて、 いい感じに焼き上がったらもう一度ひっくり返して半分に折って、 ソースを塗って食べるのよ」 「へぇ。なんか、すごい料理ね。そんな食材使ってたら平民じゃ口に できなかったでしょう?」 ルイズは興味深そうな顔で台所に視線を送る。言われたふがくは一瞬 何のことか理解できなかったが、ああそうか、と思い立った。 (こっちじゃ卵もさらさらの真っ白い小麦粉も、庶民の口にはなかなか 入らなかったっけ……日本じゃ庶民の味なんだけどね) 食堂でそんなほほえましい会話が行われている頃、台所ではシエスタが 真剣な表情で鉄板と格闘していた。 「えいっ!」 気合い一閃。鉄のへらで鉄板から浮き上がった一銭洋食が綺麗に裏返る。 シエスタはへらを握りしめたまま感極まった表情であかぎに向き直った。 「あかぎおばあちゃん!わたしにもできたよ!」 「ええ。うまいわ~シエスタちゃん。五年前はすごかったものね~」 そう言ってあかぎは思い出す。一銭洋食はひっくり返すのに失敗すると 大惨事になる。小さい頃からおやつに食べていたシエスタは見よう見まねで 幾度となく挑戦し……結果は推して知るべしであった。 なお『ヨシェナヴェ』と違って『ヨーショク』がタルブ名物にならなかったのも、 貴族向けの上質の小麦粉を使ったりと食材が高い上にうまくひっくり返せないと いう『事故』が多発したためだった。 「ジェシカちゃんはうまかったのよね~。大きくなったでしょうし、 今は魅惑の妖精亭の看板娘でしょうね、きっと」 あかぎは懐かしそうに思い出す。ちなみにシエスタの母方の従妹で あるジェシカがあかぎにせがんで覚えた一銭洋食はそのまま『ヨーショク』として、 事前予約なしでは食べられない、魅惑の妖精亭の知る人ぞ知る 高級裏メニューになっていることは、余談である。 「……ごめんなさいね。せっかく帰ってきたのに」 「え?」 突然のあかぎの言葉に頭に『?』を浮かべるシエスタ。しかしその 理由に思い当たると、隣のあかぎにだけ聞こえるように言った。 「仕方ないです。貴族の皆様がいらっしゃるのに、『竜の羽衣』に 乗れることを知られたくないし。でも、補助発電機に乗るのも いい運動になったし、全然気にしてないから」 「それならよかったわ。それに、基礎訓練も欠かしていないみたいだし。 でも、まさか水飴製造所の水車の一部が水力発電機で、掩体壕の動力も 本来はそこから取っている――このことに思い当たる人なんてそうそう いないわ。それを知っているのは私たち以外ではトリステイン王家と ごく一部の方々だけで十分。本当は水飴製造所も全部電化したいところ だけど、出力が足りないから仕方ないわね」 あかぎは嘆息する。 これこそが、タルブの村最大の秘密。海軍士官である前に飴屋の 三男坊だった武雄と鋼の乙女であるあかぎは、『土』のトライアングル メイジであるルーリーとともにこの地で『ミジュアメ』と呼ばれる水飴を 製造、献上し、その利益で村に大規模な治水工事などを行ったが、 それらはあかぎが武雄やルーリーたち、自分を愛する者たちの生活が 苦しくならないようにするためだった。それは時を経て変貌したものの、 三十年前のある事件をきっかけにトリステイン王家の利害と一致し、 その秘密はより強固に守られていく。 今回はシエスタの頼みもあって大幅に手の内を明かしはしたものの、 巧みな誘導と即応性がないと見せかけることで、秘密の根幹はその片鱗すら 垣間見せることはなかったのである。 「さて、料理もできたし、シエスタちゃんの新しいご主人様に食べて もらいましょうね~」 あかぎのその言葉に、シエスタは赤面した。 「そんな、ご、ご主人様って」 「あら、いいじゃない。私から見ても、いい娘だと思うわよ。素直じゃ なさそうなところも、あの娘にそっくり」 血のつながらないひ孫娘のシエスタをいじりながら、あかぎは一銭洋食が 載せられた皿をテーブルに運ぶ。 目の前に並べられた『ヨーショク』にルイズがご満悦になるのは、 それからすぐのことだった。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
https://w.atwiki.jp/4423/pages/340.html
編集する。 カウンター - 2024-08-31 01 59 46 (Sat) 主人公ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 平賀才人(ひらが さいと) デルフリンガー トリステイン学園関係者シエスタ ティファニア・ウエストウッド トリステイン王室関係者 リンク 主人公 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 声優・釘宮理恵 ヴァリエール家の三女で平賀才人を使い魔にしている。 魔法が使えないので「ゼロのルイズ」と呼ばれていた。 才人に対してツンデレにあたっている。 平賀才人(ひらが さいと) 日本の秋葉原からこの世界に召喚された。 デルフリンガー トリステイン学園関係者 シエスタ ティファニア・ウエストウッド トリステイン王室関係者 [[]] [[]] リンク コメントログ 名前 コメント 編集する。 出典、参考
https://w.atwiki.jp/whentheycry3-4/pages/230.html
キャスト右代宮戦人古戸ヱリカドラノール・A・ノックスラムダデルタベルンカステルベアトリーチェ右代宮金蔵(ゲーム開始以前に死亡)右代宮蔵臼(第一の晩に死亡)右代宮夏妃(ゲーム中断時には生存)右代宮朱志香(第一の晩に死亡)右代宮絵羽(ゲーム中断時には生存)右代宮秀吉(第二の晩に死亡)右代宮譲治(第一の晩に死亡)右代宮留弗夫(ゲーム中断時には生存)右代宮霧江(ゲーム中断時には生存)右代宮楼座(第一の晩に死亡)右代宮真里亞(第一の晩に死亡)南條輝正(ゲーム中断時には生存)呂ノ上源次(第一の晩に死亡)紗音(ゲーム中断時には生存)嘉音(ゲーム中断時には生存)郷田俊朗(ゲーム中断時には生存)熊沢チヨ(ゲーム中断時には生存)ワルギリアロノウェガァプガートルードコーネリアルシファーレヴィアタンサタンベルフェゴールマモンベルゼブブアスモデウスシエスタ00シエスタ45シエスタ410山羊の皆さん5th game"End of the golden witch"
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/459.html
昼休みのアルヴィーズの食堂は昼食を取る生徒達で一杯だった。 「何だこりゃ」 床に置かれていたのは隅っこにパンが二切れ置かれたスープの皿。 申し訳程度に肉の欠片が浮かんでいるのが切ない。 「見て分からない? あんたの食事」 ルイズはテーブルの椅子に腰掛けていた。ちなみに椅子は巧が引いた。 テーブルにはでかい鳥のローストや、鱒の形をしたパイなどの豪華な食事。 しかも、ワインつきと来ていた。 「おい」 何だ、この扱いの差は。 禿頭にもらった朝飯のほうがまだマシだったぞ。 「ここで食事が取れるだけ感謝しなさい。 ホントは使い魔は外で食事することになってるんだから」 「そういう問題じゃねぇだろ」 「嫌なら食べなくてもいいのよ」 「……」 こんなモン食わされるのも今回だけだ、今に禿頭の奴がお前を…… その頃、その日の職務を全て片付けたコルベールは嬉々として 「ばいく」の保管してある馬小屋にステップを踏んで歩いていた。 使い魔の夢 「も、申し訳ございません! 」 謝罪の叫び声が聞こえたのは フーフーして冷ましたスープを口につけようとした時だった。 「ルイズ」 「大方、ドジな給仕が貴族の誰かにそそうでもやらかしたんでしょ。 あんたが気にすることじゃないわ」 そう言ったルイズの手には、鳥の皮がつかまれていた。嫌いなんだろうか? 「そんなことより……って、ちょっと、何処行くのよ!? 」 無視する事はできなかった。 スープの皿を床に置いて、声がしたほうに足を向ける。 あの声は…… 「シエスタの声だ」 学院に奉公している平民のメイド。 早朝の洗濯の時に道に迷っていた巧を洗濯場に案内してくれたり、 下着の洗い方も親身になって教えてくれた。 『イヌイタクミさん……タクミさんって呼んでいいですか? 』 この世界に来て初めて巧を名前で呼んでくれた。 知らない仲ではなかった。 既に人が群がっていた。 近くにいた太っちょに話を聞く。 マリコルヌとかいう授業の始めにルイズと揉めてた奴だ。 何でもシエスタが貴族の男の落とした香水を拾ったことで 男の二股がばれてしまい、その二人からまとめてビンタを喰らってそっぽを向かれたらしい。 そしてあろうことか男はその責任を香水の瓶を拾っただけのシエスタに なすりつけようとしているというのが話の大元だ。 なんて野郎だ。 女に罪をなすりつけようとする根性もどうかと思うが ガキの癖に二股か。 俺にすら彼女がいないのに! 人ごみを掻き分けて、男に言ってやった。 「そのへんにしとけ」 「君は」 男が巧の方に振り向いた。 顔を見て思い出した。あいつだ。 今日の朝、トカゲに追われていた時、巧を笑いものにしたカップルの片割れ。 ギーシュとか呼ばれていた金髪のいけ好かないガキ。 「ルイズの使い魔の平民で火トカゲの恋人君か。君には用はない、下がっていたまえ」 誰が恋人だ。と喉まで出掛かったが 今言うべき事はそれではなかった。 「話は聞いた。二股掛けたお前の自業自得じゃねぇか」 「そのとおりだ、ギーシュ! お前が悪い! 」 友人たちがドッと笑い、ギーシュの顔に赤味が差した。 シエスタの方に顔を向けた。あくまで責任をシエスタになすりつけるようだ。 「いいかい給仕君、香水の壜をテーブルに置いた時、僕は知らないフリをしていたんだ! 話を合わせる位の機転があってもいいだろう!? 」 叱責を受けたシエスタの目に涙が浮かぶ。 巧が横から言った。 「そんなものに頼んなきゃ二股の一つもできねぇのか、お前は」 ギーシュの目が光り、巧に再び向き合った。 「さっきから聞いていると、君は貴族に対する礼儀というものを知らないようだな」 「んなもん知るかよ」 これからも知りたくないね。 「よかろう、君に礼儀を教えてやろう。決闘だ! ヴェストリの広場で待っている」 ギーシュはクルリと体を翻し、去っていった。 シエスタがぶるぶる震えながら巧を見つめている。 「タクミさん、あなた……」 シエスタは涙を滲ませた顔で言った。 「あなた……殺されちゃう……、貴族の人を本気で怒らせたら……」 シエスタはだーっと走って逃げてしまった。 ああなるのも当然かもしれない。今朝出会った時に言っていた。 『私達、魔法の使えない平民にとってはメイジである貴族が何よりも怖いんです』 回想している内にルイズがやってきた。 「見てたわよ、何勝手に決闘なんか約束してんのよ! 」 「何でだろうな」 「とぼけてないで今すぐ謝ってきなさい! メイジに平民は絶対に勝てないんだから! 」 巧はもうルイズを見てなかった。ギーシュとのやりとりを見ていた一人に聞いた。 「ヴェストリの広場って何処だ? 」 「こっちだ、平民」 そいつの顎をしゃくった方に足を進めた。 「まったくあっちこっちフラフラして、勝手な事ばかりするんだから! 」 ルイズは巧の後を追いかけた。 「とりあえず逃げずに来た事は誉めてあげようじゃないか」 待ち構えていたギーシュが薔薇の造花を揚げ、うぉーっ!と歓声が巻き起こる。 『風』と『火』の塔の間の中庭にあるヴェストリの広場は噂を聞きつけた生徒達で溢れかえっていた。 「では、始めるか」 ギーシュは薔薇の花を振った。 花びらが一枚、宙に舞い…… 「何だ!?」 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はないね?」 甲冑を着た女戦士の形をした人形になった! 形を成してすぐに、巧に向けて突進した。 クソッ、こっちだって生身でもオルフェノクと何度も渡り合ってきた身だ。 メイジだの人形モドキだのに舐められてたまるか! 女戦士の人形より先に、右でボディーブローを放った。 しかし、硬い金属製のボディは巧のパンチを物ともせず、 「がはぁっ! 」 逆に一撃を喰らい、巧は地面に倒れ込んだ。 「言い忘れていたよ、僕の二つ名は『青銅』、『青銅』のギーシュだ。 今の君が相手をしているのは青銅のゴーレム、美しき『ワルキューレ』! 」 青銅か、道理で拳じゃ歯が立たない訳だ……! 距離を稼いでいる巧に追い討ちを掛けるべく、ワルキューレが迫る。 巧は素早くポケットから携帯を取り出し、銃の形に変形させ、 コード103をプッシュする。 『Single Mode』 電子音声のアナウンスが聞こえた。 フォンブラスター。 携帯電話型マルチデバイス・ファイズフォンのもう一つの姿。 今の巧が所有する唯一の武器である。 ワルキューレに光弾が命中した。 大きく仰け反った隙を巧は見逃さなかった、続けてプッシュするコードは106。 『Burst Mode』 連発式で打ち出された光弾がワルキューレの四肢に撃ち込まれる。 間接の繋ぎ目を砕かれて、人形はバラバラになった。 際どい相手だった。息をつく暇もなかった。 少しの手順でも遅れていたら、バラバラになっていたのは自分だっただろう。 心なしかいつもより速く動けたのが幸いだった。 予想外の平民の勝利に周囲から歓声がとんだ。 傷に触ったので巧は周りを睨みつけ、静まらせた。 そして、静まりきった場に一つの拍手が響く。 拍手の主はギーシュだった。 「なかなかやるね、正直意外だったよ」 「何言ってやがる」 次はテメエだ。そのナヨナヨした顔に一発叩き込んでやる。 巧は駆け出した。 「焦ってはいけない、勝負はこれからだ」 笑みを崩さずにギーシュは始めの時と同じように薔薇を振った。 花びらが舞い、巧を囲む形で新たなワルキューレが六体現われた! (……嘘だろ!) あの化け物が同時に六体も……! 巧はメイジの力に戦慄した。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6429.html
前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリステイン9 前編 虚無の日 トリステイン魔法学院 学院内の広場にいつものメンツが集まっていた。 「いい天気ね、町までは遠いから、雨とか降らないと本当に助かるわ」 キュルケが、同意を求める訳でも無くつぶやいた。 「本当ですね」 私服姿のシエスタがキュルケに応える。 「アンタ達が居なければ、もっと良かったんだけどね、何でシエスタもいるのよ……」 ルイズが、予定より増えた人数に不満を言う。 「いいじゃないかルイズ、シエスタも今日が休みだと言うのだし、皆で行っても構わないだろう。」 ニューが問題ないと言う風に、ルイズに応える。 「シエスタはいいけど……これだけの人数の馬は、どうやって借りるのよ!」 「……有料なのか?」 ダブルゼータが金銭に関わるかを問う。 「アンタって、何かそればっかりね……さすがに7人となると無理よ」 大人数の行動の難しさに頭を抱える。 「……大丈夫」 タバサが、可能性を提案する。 「どうするのだタバサ、二人で一つの馬にするのか?」 ゼータの答えに首を振る。 「……友達を呼ぶ、シルフィード」 タバサが名前を呼ぶと、遠くから、風の音とともに巨大な竜が飛んできた。 「すごいじゃないタバサ、これ風龍よ!」 キュルケが興奮する。 「すごい……」 ルイズも近くで見る、見事な風龍に言葉を失う。 (私も、こんなのが使い魔なら良かったのに……) 「ルイズ、私も、こんなのが使い魔なら良かったのに……なんて考えてないか?」 「なっ、考えてる訳ないじゃない!」 (……図星だな) ルイズの考えが的中し、ニューは少し肩を落とす。 「成程、全員でこれに乗る訳か」 ゼータが納得する。 「違う、あなた達は別、定員オーバー」 タバサがニュー達三人を見る。 「きゅいきゅい」 そうだと言わんばかり、ゴーレムは同意する。 「仕方ない、我々は馬で行くか……」 シルフィードに乗りたいのを少し我慢しながら三人は厩舎に向かった。 トリステインの首都、トリスタニアは学院から約3時間で行ったところにある。 騎士の国アルガスでもある三人は、当然、馬の扱いにたけている。 おかげで、2時間で着いてしまった。 「2時間で着くとはねぇ……」 ルイズが3人の乗馬技術、特にゼータの腕を感心する。 「私だけなら、もう少し早く着く事が出来る。」 ゼータが当然と言わんばかりに応える。 「しかし、龍とは早いものだな」 自分達を追い越して、先に待っていた。 ニューはルイズ達を見て、更に乗りたい気持ちを強くした。 「ペガサスがあれば、俺達も空を飛べるのにな……」 ダブルゼータが事も無しに呟く。 「ペガサスって、ニューさん達の国っているんですか!?」 「実際に乗っていたよ、我々6人が乗っても大丈夫なくらい大きかった」 「普通いないわよ!どこにいるのよ、そんな巨大生物」 「たしか、アルガスの厩舎にいたような………」 ユィリィ姫が乗ってくる際には、そこに置いておく事をおぼろげに思い出す。 「なんて言うか、あなたの国ってすごいのね……」 ペガサスに対する扱いにキュルケも驚く。 「アンタ達の非常識は今に始まった事じゃないものね……武器屋に行くんでしょ?こっちよ」 ルイズが、自身が行く秘薬屋の近くの武器屋に向けて歩き出す。 少女達に付いていく、しゃべるゴーレム達を通行人達が物珍しそうに見ていたが、ルイズ達は慣れてしまった為にそれに気づかなかった。 「ここが武器屋よ、私も初めてはいるけどね」 「いらっしゃいませ、これは貴族様、どういったご用件で?」 胡散臭い風貌の店主がルイズ達を見るなり、態度を変える。 「この者達に、武器を買いたいの」 ルイズが貴族らしく、三人を紹介する。 「これは珍しい方で、どうぞ店内をご自由にご覧ください。御用の際には一声おかけ下さいね」 そうして、三人と少女達は店内を見回し始めた。 「店主よ、杖はないのか?」 ニューが店主に問う。 「お客さん、杖なんか、うちで販売したらお縄になってしまいますぜ」 「本当か?ルイズ」 「本当よ、杖は後で専門の店に行くわ、そこで注文するわ」 ルイズがそう答える。 「けど、杖は高いわよ、お金はどうするの?」 キュルケが、ルイズの支払い能力に疑問を示す。 「仕方ないから、家で払ってもらうわ、必要経費だし」 ルイズは、仕方ないと言った表情をする。 「あなたも結構大胆ね……ダブルゼータは、どんな奴にするの?」 キュルケが隣にいるダブルゼータに問う 「斧がいいな、出来れば片手の奴があればそれでいいのだが、良さそうな物はないな」 店に置いてある斧を手に持って、不満を示す。 「片手で扱うにしては、軽すぎる、親父、もっと重いものはないのか。」 「ダブルゼータさん、それ片手で扱うのじゃありませんよ」 長さは片手用には少し大きいくらいだが、明らかに両手で扱うはずの斧を軽々振り回す光景に、シエスタが指摘する。 「それを軽いと言われますと……これなんかどうでしょうか」 「何これ……使えるの?」 ルイズがそれを見て感想を口にする。 片刃の斧であり先程のサイズは変わらないが、柄の部分まで金属であり、刃の長さと厚さが2倍近くある。 重厚という形容がその斧の存在を表していた。 「この前偶然手に入れたのですが、ただでさえ人気のない斧なのに、そんな物扱える奴なんかそうはいないと思ったのですが……お客さんなら問題ないでしょう、500エキューでお売りいたしますよ」 店主が具体的な値段を掲示する。 「確かに、こんなの普通は使わないわよね、けど高くない300くらいじゃない?」 キュルケが、妖艶な態度で店主に迫る。 「いっ、いやぁこちらも商売なので、450ですかねぇ」 店主を相手に、キュルケが交渉を始める。 「ゼータさんはどんなのにするんですか?」 シエスタがゼータの要望を聞く。 「盾はこれでいいかな、後は剣だな……正直、良い物があまりないな」 剣を見ながら、自分の期待に、応えられる剣がないかを探す。 手には以前、自分の愛用していた物と似た盾と同じ形状の物を手に持っていた。 「ちなみにタバサ、予算はいくらだい?」 「必要経費だから、大丈夫」 タバサにしてみれば、仕事の危険を考えれば剣の予算くらいはこだわらない。 「大した物がねぇとは、てめぇの目は節穴か!」 「誰だ、でけぇ口叩く奴は!」 売り言葉に相手も確認せず、ダブルゼータがそれに応じる。 「ここだよ、木偶の坊!」 声の方を見回すと、そこには古びた一本の大剣が置いてあった。 「デルフ、てめぇ、ちったぁ黙ってろ!」 「うるせぇ、てめぇみたいなヘボにはそこのヘボ客がお似合いだよ!」 鞘を鳴らしながら、その剣は罵声を浴びせる。 「ずいぶん口の悪い、インテリジェンスソードね……」 そのやり取りを聞いて、ルイズは呆れる。 「インテリジェンスソード?何だい、それは?」 「意志を持った剣、マジックアイテムの一種」 ニューの疑問に、タバサが答える。 「このナマクラ馬鹿にしやがって、ここでへし折ってやる」 ダブルゼータがデルフと呼ばれた剣をつかみ取る。 「ん!なんだテメェは、ゴーレムでも人間でもねぇ「うるせぇ」痛っ、何しやがる」 端と端を掴んで、ダブルゼータが本当に二つに折ろうとする。 「やめなさいよ、そんなの弁償したくはないわ」 ダブルゼータの蛮行に、キュルケが呆れて制止に入る。 「痛ぁ、テメェ、訳分からねぇ力はあるけど「使い手」じゃねぇな、 そもそも、武器なんてデリケートな物てめぇには似合わねぇよ! てめぇみたいな馬鹿力は、その辺の木でも振り回してろ!その方がお似合いだ!」 デルフが、ダブルゼータに噛みつく。 「もう、振り回したけどね」 「確かに、振り回していましたね」 ルイズとシエスタが、その姿を思い出して呻く。 「コイツの力で折れないなんて、なかなか丈夫そうだな」 ゼータが興味を持ち、デルフを握る。 「なんだ、おめぇもこいつと同じかよ、おめぇさん「使い手」じゃないが、かなりの腕だな、しかも、アイツと同じでよく分からねぇ何かを感じる」 デルフリンガーがダブルゼータの時とは違い高評価を下す。 「「使い手」とは何だ?」 ゼータがデルフに聞く。 「俺もイマイチ思い出せねぇんだ………けど、おめぇさんなら問題ねぇ俺を買え!」 デルフがゼータに購入を薦める。 「そんな物買うの、もっと良いのがあるんじゃない?」 口の悪さと見た目から、キュルケが否定的な意見を口にする。 「切れ味は後で磨くとして、それほど悪くはないだろう、親父、いくらだ?」 ゼータが購入を決意して、値段を聞く。 「それでしたら、200エキューで結構です。そいつはうちの厄介者ですから」 「なら、もっと安くしてよ」 タバサに変わり、キュルケが自身の買い物を含め交渉を再開する。 「そいつはまけて150ですねぇ、うちも商売なので」 店の親父も食い下がる。彼からしてみれば厄介払いが出来るのは有難かったがそれでも、商売人としての考えもあり、おいそれと売る訳にはいかなかった。 「ふむ、親父、試し切りついでに賭けをしないか?この石を空中に投げて、デルフで切れたら先程の斧と含めて、500で売ってくれ」 そう言って、森に会った練習用の石を渡す。 「これをですか、まぁ実際できればすごいですけどね、出来なかったら700で買って下さいよ」 グレープフルーツ程の大きさの石を見て、勝算を確信したのかその賭けに応じる。 「タバサ、キュルケ殿、それでよろしいか?」 「面白そうだし、いいわよ」 キュルケが認め、タバサも頷く。 「どうせなら、ただ切るんじゃなくて、アレをやれよ」 「そうだな、見世物なんだ、客を喜ばしたらどうだ」 観客が、ゼータに芸を要求する。 「アレか………まぁ、いいだろう」 そう言って、石を上に放り投げる。 「ゼータ乱れ彗星」 それは、名の通り彗星群の雨であった。剣が彗星となって、石に降り注ぐ。 バラバラになった石が地面に零れ落ちた。 「さすがに少し重いな、親父これでいいか?」 ゼータは、デルフが完璧に馴染んでないのか自信の出来に納得しない。 (本当に、すごい………) 自身の使い魔の腕を見て、タバサが改めて評価を上げる。 「いや、凄いもんだ、どうぞ500で結構、いやぁ、すごい物を見せてもらった」 かなりの戦士を見てきただけに、店主が本気で感心している。 「大したもんだ、俺はデルフリンガーだ、デルフでいいぜ相棒」 「馴れ馴れしい奴だ、私は剣士ゼータだ」 新しい主の腕に満足なのか、デルフが嬉しそうに自己紹介する。 そうして、500で砥石と武器を購入しルイズ達は店を出た。 一通り周り、全員は昼食をとっていた。 「アンタ達って、本当に非常識よね」 「ルイズ、この町で俺はまだ何もしていないぞ!」 ダブルゼータがルイズの言葉に文句を言う。 「違うわよ、一人でいろんな魔法を使えたり、木を振り回したり、剣で石を粉々にしちゃうなんて、アンタ達って本当に非常識だわ」 これまで見てきた三人の能力を見て改めて思う。 最初は自分だけが当りだと思っていたら、どうやら三人とも当りだったらしい。 「たしかに、皆さんすごいです」 シエスタも同意する。 「そう言えば、あなた達の団長がいるって言ってたけど、やっぱりあなた達みたいなの?」 キュルケが興味本位で聞く。 「アレックス隊長は魔法が使えないが、ダブルゼータの力と、ゼータの技を併せ持っていた。我々三人で互角といった所だ、ナイトガンダム殿にも引けを取らん」 誇らしげに、ニューが説明する。 「一人でアンタ達三人と互角だなんてどんな非常識よ、しかも、それが二人もいるなんて」 彼らのいた世界の凄さを、改めてルイズは感じた。 「午後はニューと杖を買いに行くから、アンタ達はここら辺にいてね」 「おう、解った」 ダブルゼータが、立ち上がったルイズ達に返事を返す。 「何で一番分からなそうなアンタが答えるのよ、シエスタちゃんと見張ってね」 「はっ、はい」 (それは無理だと思います) ルイズの申しつけだが、自身がその任をこなす事は無謀な事に感じた。 「行くわよ、ニュー」 ルイズが、ニューを連れて大通りに歩いて行った。 「ルイズはもう少し、俺達を信用してくれてもいいのにな」 ルイズが居なくなった後、ダブルゼータが信用の無い事に愚痴をこぼす。 「私達じゃなくて、あなただけよ、ルイズじゃないけど衛士に見つかると面倒よ、あなた達は珍しいんだから」 キュルケが間違いを指摘する。 「テメェは見るからに、トラブルメーカーだもんな」 デルフが鞘から口を出す。 「何だと、このナマクラ!」 「そんな事だから、信用ないのよ」 デルフにつかみかかろうとするダブルゼータを見て溜息をつく。 「あの皆さん、少し寄りたい所があるんですけどよろしいですか?」 会話が切れた後、シエスタが行動方針を示す。 「私の母方の従妹がやっている店で、今日は休みだから顔を出そうかと思っていたんです」 「どこなの?」 「ここからすぐ、近くなんです」 「じゃあ、行きましょ」 キュルケが立ち上がる。 「でもニューさん達は、いいんですか?」 「問題ないでしょ、どうせ、しばらくは帰ってこないし」 ウェイトレスに伝言を頼み、全員が歩き出した。 シエスタの言っていた店は、大通りをまたいだ少し裏通りにあり『魅惑の妖精』という名前の大衆酒場件宿屋であった。 「これは……」 「すげぇな、こりゃぁ」 ゼータとダブルゼータが感想を述べる。 「ジェシカ、この人たちが私がお世話になっている人達よ」 「あなたが、シエスタの言ってた人達ね、私はジェシカよろしくね」 黒髪の活発な印象の少女が自己紹介をする。 彼女の格好はフリルのついたエプロンドレスのウェイトレスの制服であったが、 ルイズやタバサには出来そうにない胸の谷間があった。 「貴族の方々も、むさ苦しい所ところですが、どうかお寛ぎ下さい」 「そんなに、硬くならなくていいわよ、私はキュルケ、こっちはタバサよろしくね」 フランクにキュルケがジェシカに自己紹介をする。 「いいわ、今は準備中なの、聞いたけどシエスタを助けてくれたのって、あなた達?」 「違うわ、あれはフーケの仕業よ」 キュルケが知らないと言った素振りで否定する。 「まぁ、そう言う事にしてあげる、こちらに座って」 奥の方の空いた席に案内し、全員が談笑する。 約1時間後、準備中の門を開ける者がいた。 「すいません、今はまだ準備中です」 ジェシカが客に準備中である事を伝える。 「徴税官が訪れたのに、もてなしも無いとは、この店も偉くなったな、ジェシカ」 小柄な男が皮肉をこめて、不満を漏らす。 「チュレル様、店長は不在でして……」 「なら、スカロンが帰るまで、ここで待たせてもらうとしよう」 そう言って手近な椅子に腰かける。 「誰、アイツ」 店の奥にいたキュルケが隣のシエスタに聞く。 「この辺りの徴税関だそうです。役人だから、だれも逆らえないんです」 シエスタがキュルケの問いに答える。 「気に入らんな」 「だからって暴れないでね、ルイズじゃないけど役人に捕まるのは嫌よ」 キュルケがゼータとダブルゼータを制止させる。 「ごめんね、アイツの相手は私がするから」 ジェシカがチュレルに酒とツマミを運ぶ。 「先程は申し訳ありません、私がお相手いたしますわ」 そう言って、隣に腰かける。 「ジェシカはやっぱりいい娘だな、徴税関に対する態度が分っておる」 近づきながら肩に手を回す。その様子に表情は出さないがジェシカも嫌そうな事が簡易jられた。 「あの野郎…………」 硬く拳を握りながら、ダブルゼータが歯を食いしばる。 「やめてください、ここで暴れたらジェシカにも迷惑がかかります」 シエスタが二人を制止させる。 「お前がいつも、可愛い態度だと私も「お待たせいたしました」」 チュレルの声を、褐色の肌のウェイトレスが遮る。 「何やってんだ、あいつは………」 「キュルケ様………」 ダブルゼータとジェシカもそのウェイトレスに驚く。 それは、ここの店の制服に包んだキュルケと同じ格好をしたタバサであった。 「氷アイスお持ちしました」 やはり、いつも通りの無表情でタバサが器に入った氷を置く。 「私達もチュレル様のお相手をさせて戴きますわ」 そう言いながら、腕に抱きつき自身の胸を押し当てる。 「ここの店は教育が行き届いてるのぉ、これはどの様なメニューだ」 喜色の顔を浮かべながら、出された料理の食べ方を聞く。 「それは、こうですわ」 そう言ってキュルケが、あいた方の手で、チュレルの顔を氷の器に押しあてる。 「何をする、冷たいではもごあこあ」 「当店自慢のサービスです」 もう片方の腕をキュルケと同じように、タバサがロックする。 「もがはがあ………お前たちこんな事をして、ただで済むと思うなよ!」 杖を取り出し、魔法の詠唱をする。しかし、杖は手元から先がなかった。 「デルフ、切れ味もなかなかだ」 「そう言ってもらえると嬉しいぜ」 切断した杖の断面を見ながら、ゼータがデルフを褒める。 「貴様ら、こんな事をしてただで済むと思うなよ!私には「見つけたわよ!アンタ達!」」 扉をあけ、ルイズとニューが中に入ってくる。 「何だ小娘ひっこ「アンタは黙ってなさい!」」 ルイズが気迫で黙らせる。 「あれほど問題を起こすなと言ったのに、早速居なくなって現在進行形で問題起こして!」 気のせいか、ルイズの髪が逆立っているようにも見える。 「小娘、私は徴税関のチュレンヌだぞ!」 無視されて、チュレンヌの矛先がルイズに向く。 「私は、ヴァリエール侯爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」 ルイズが自分の身分を淀む事無く言いあげる。 「ヴァ、ヴァリエール!も、申し上げございません、失礼しました!」 名前を聞いて、脱兎のごとく逃げ出す。 それには目もくれず、ルイズは店内に視線を固定する。 「さて、アンタ達また問題起こして……」 大団円とはならず、ルイズの説教が20分ほど店内に響き渡った。 「ありがとう、シエスタ、みんなもまた来てね」 夕方になり、ジェシカがルイズ達との別れを惜しむ。 「騒がせてごめんね、ジェシカ」 「ジェシカ、あの服、また着たいわ」 キュルケはあの格好を気に入ったようだ。 「私は、もういい」 タバサはお気に召さなかった。 「ジェシカ、また来るぜ」 「ジェシカ殿、お元気で」 二人も別れの言葉を告げる。 「アンタ達、帰るわよ。日が暮れるわ」 ルイズが、帰宅を促しジェシカの店を離れた。 「あー、面白かった。」 シルフィードの上でキュルケが伸びをする。 「きゅいきゅい」 自分も連れてって欲しかったと言わんばかりに、不満の声を上げる。 「楽しかったじゃないわよ!言ってるそばから問題を起こして!」 ルイズが声を荒げる。 「すいません、ミス・ヴァリエール……ところで、ニューさんの杖は見つかりました?」 シエスタがルイズの話題の矛先を変える。 「無かったわ、あの馬鹿ゴーレム、やたらと注文が多くて……後、シエスタ、そんない堅苦しくしなくていいわ、ルイズでいいわよ!」 「じゃぁ……はい、ルイズ様」 少し間をおいて、シエスタが答える。 「ルイズも寛大になったわね」 「アイツらよりも、シエスタの方が遥かにいいわ」 (あのトラブルメーカー達と会ってから、何かしら問題ばかり起こっている気がするわ) さすがに、今日はもう何も起きないだろう…… 「あら、学園が騒がしいですね」 音に気づき、シエスタが学園に目を向ける。 そこには、巨大なゴーレムが学園の塀を超える所だった。 「なによ、あれ……」 ルイズ達とほぼ変わらない高さの目線のゴーレムを見て、ルイズは唖然とした。 「多分、土くれのフーケ」 タバサが特徴から推測する。 「フーケってあの?」 自身が借りた名にキュルケが聞き返す。 「どうするのよ!逃げられちゃうわよ!」 ルイズが杖を向けて吠える。 「どうもできないわよ!あなたは飛べないし、シエスタもいるのよ」 キュルケがルイズの無謀な行いを制止させる。 迂闊に近づく事が出来ず、周辺を飛び回るのが、関の山である。 「ちっ!厄介なのに見つかったね」 (アイツ等が、帰ってくる前に完了したかったんだけどね) 心の中で、自身の手際の悪さに、土くれのフーケが舌打ちする。 学園を出た所で、自身のゴーレムを元の土に戻す。 「今よ!あれだけのゴーレムそう何度も作れないわ、見つけ出すのよ!ダバサ、シルフィードを下げて」 キュルケがダバサとシルフィードに指示を出し、降下させようとする。 「だめ、砂ぼこりで視界が見えない、迂闊に降りるのは危険」 大量の土が崩れ落ちて、周囲に多大な量の砂埃が舞う。 「魔法を戻すと同時に、着地した。おそらく、探す事は不可能」 タバサが、安全な少しは離れた路道に、シルフィードを降下させる。 「タバサ、大丈夫か」 「ゼータさん、土くれのフーケが現れたんです。」 シエスタが、状況を説明すると遅れて二人がやってくる。 「遅いわよ、ニュー!」 「ルイズ、なに八つ当たりしているの、ニューのせいじゃないでしょ!」 八つ当たり気味なルイズの罵声に、キュルケも怒りを覚える。 「とりあえずは、学院に戻りましょう、明日になれば、今日の事を聞かれるわ」 キュルケが学院に戻る事を提案し、みんな無言で戻って行った。 (私、何もできないのに、ニューに酷い事を言っちゃった……) 自身が何も出来ず、挙句、ニューに当たってしまった、ルイズの表情は誰よりも暗かった。 「秘宝の一部、確かに領収いたしました。怪盗 土くれのフーケ」 壁が壊された宝物庫から見える。その文字は学院にとって何よりも屈辱だった。 「17おめぇ、使い手じゃないな」 魔剣 デルフリンガー 魔剣Xとは関係ない HP +200 (攻撃力が上がる。) 「18いらっしゃいませ、魅惑の妖精にようこそ」 町娘 ジェシカ 今回、急遽出演する。 HP 50 (相手の動きを止める) 前ページ次ページゼロの騎士団
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4358.html
前ページ次ページZERO A EVIL お腹いっぱいに朝食を食べて満足したルイズは、使い魔の様子を見に行くことにした。 召喚場所に行ってみると、昨日と同じ場所に石像の姿が見える。 ひょっとしたら、あの変な夢はこの石像と何か関係があるかもしれないとルイズは考えていたが、石像には何の変化もない。 昨日契約のキスをした時、一瞬石像の目が光ったように見えたが、やはり気のせいだったらしい。 ルイズはしばらく石像を眺めていたが、もうすぐ授業も始まるので教室に向かうことにした。 教室に入ると多くの生徒が使い魔と一緒に授業が始まるのを待っていた。 その中にはキュルケとフレイムの姿も見える。 すると、フレイムがこっちを不思議そうな表情で見てくる。 どうやら、もうルイズを怖がってはいないようだ。 席に着こうとすると何人かの生徒が自分を見て笑っているのが目に入った。 いつもの事だと思い、無言で席に着くルイズ。 そんな中、一人の生徒がルイズに対し、侮辱の言葉を投げかける。 「ゼロのルイズ! 使い魔を召喚できないから、土のメイジにゴーレムを作ってもらえるように頼んでたんだろう!」 この小太りの生徒の名はマリコルヌ・ド・グランドプレ。いつもルイズを馬鹿にする生徒の筆頭だった。 頭にきたルイズは思わず立ち上がり言い返してしまう。 「違うわ! 間違いなく私が召喚したのよ!」 「嘘付け! ゼロのルイズに使い魔が召喚できるわけないじゃないか!」 また、あの言葉だ。 ルイズを馬鹿にする生徒が必ず口にする言葉。 『ゼロのルイズ』 その言葉を聞いた瞬間、マリコルヌに対する怒りと憎しみが膨れ上がり、爆発しそうになるルイズ。 だが、丁度そこに教師のシュヴルーズが現れたため、ルイズは黙って座ることしかできなかった。 今日の授業は、魔法の基礎のおさらいをするらしい。 だが、シュヴルーズが授業で話している内容は、ルイズにとっては何の意味もなかった。 魔法の基礎は、すでに一年生の時に必死になって頭に叩き込んであったからだ。 その努力の成果は使い魔を召喚することができたのみだったが…… 授業は何の問題もなく進んでいき、どうやら錬金の魔法の復習に入ったようだ。 「それでは、どなたかに錬金の魔法をやっていただきたいんですが。……ではミス・ヴァリエール、お願いします」 シュヴルーズがルイズを指名したことに生徒達は猛反発する。 「ミセス・シュヴルーズ!それは危険です!」 「ルイズなんかにやらせたら大変な事になりますよ!」 「そうです! ルイズはゼロなんですよ!」 生徒達は反対するが、シュヴルーズは指名を変更する気はなかった。 学院長から出来るだけルイズの手助けをするように言われているし、ルイズが勤勉な学生なのも知っていた。 昨日、使い魔の召喚に成功していることだし、自分の授業で何かきっかけでも掴んでくれればとシュヴルーズは考えていた。 「お友達のことをゼロなどと言ってはいけませんよ。さ、ミス・ヴァリエール、やってみてください」 生徒達は観念したのか、一斉に机の下に隠れ始めた。中には教室から出て行く生徒もいる。 そんな光景を尻目にルイズは教壇に向かう。 自分は使い魔を召喚できた、ということは魔法を使えたということだ。 この錬金の魔法も成功するのではないかという期待がルイズにはあった。 それに夢の中の自分は、最後に敗れはしたが圧倒的な力を持っていた。 自分にだって何か特別な力があっても不思議じゃない。 そんなことを考えながらルイズは教壇の前に立った。 「ゼロのルイズ! どうせ爆発するだけなんだから、やるだけ無駄だよ!」 が、まだルイズに対して文句を言っている生徒がいる。 マリコルヌだ。 やる気になっている自分の邪魔をするマリコルヌに、ルイズは再び怒りと憎しみの感情を抱く。 その時、今朝と同じように左手のルーンが僅かな光を発する。 | こいつはいつも私の邪魔ばかりする!教室に入った時も私を侮辱した!私が魔法を使えないからって、あんたに文句を言われる筋合いはないわ!なんでこんな奴が神聖な魔法学院にいるのよ!ここは魔法だけじゃなくて、貴族としての礼儀や作法を学んで立派な貴族になるための場所でしょ。こいつの行為は、この魔法学院の使命に反しているわ。そうよ……こいつは魔法学院の調和を乱し、私の行動を妨げる…………チョウワヲ ミダスニンゲンハ_ ……ショウキョ シナケレバナラナイ_ ルイズは杖を振り上げた。 …………………… ルイズは一人で教室を掃除していた。魔法を失敗し、教室を爆発させたからである。 だが、教壇の辺りは爆発によって壊れた形跡はない。 その代わり、ある場所が爆発により粉々に吹き飛んでいた。 そこはマリコルヌが座っていた席だった。 ルイズは教壇の上の石ころに錬金の魔法をかけるつもりだったが、気が付くとマリコルヌの座っていた席が爆発していた。 爆風で吹き飛ばされたマリコルヌは重傷を負い、医務室に運ばれていった。 その後、ルイズはシュヴルーズに叱られ、一人で教室の掃除をする罰を受けた。 シュヴルーズが怒ったのはルイズが教室を爆発させたからではない。 ルイズがマリコルヌに向けて、小さな声でサイレントと呟くのが聞こえたからだ。 確かにマリコルヌに苛立ちを感じ、我を忘れそうになっていた。 だが、ルイズにはサイレントの魔法を使おうとした覚えはない。 自分は錬金の魔法を使ったはずだと説明したが、聞き入れられることはなかった。 一向に片付かない教室を見て途方に暮れていた時、通りがかった一人のメイドが声をかけてきた。 「大丈夫ですか? ミス・ヴァリエール」 「あんたは?」 「私はシエスタと申します。良かったら私にも掃除を手伝わせてください」 そう言うとシエスタは教室の掃除を始めた。 命令したわけでもないのに、なぜこのメイドが自分を助けてくれるのかわからなかったが、一人より二人の方が掃除も早く終わる。 そう考えて、特に気にしないことにした。 ルイズは学院で働く平民達から良く思われていない。 なにしろルイズは、自分達と同じように魔法が使えないのに貴族を名乗っているのだ。 平民から妬ましいと思われても仕方がなかった。 貴族に対する不満の捌け口として、陰でルイズの悪口を言う者も少なくない。 魔法が使えないルイズには、自分達が悪口を言っているのを気付かれる心配はないのだから。 だが、シエスタは違った。 彼女はルイズが他の生徒達から馬鹿にされながらも、めげずに努力していたのを知っていたからだ。 ある日の夜、シエスタは妙に目が冴えてしまい眠れなかった。 だから気晴らしに外を少し歩く事にした。 外に出てみると、辺りは静かなもので、多くの生徒達で賑わう昼間とは別世界のように思える。 しばらく歩いていると、学院から離れた所で音がしているのに気が付いた。 不思議に思い音がする方に向かうと、そこには一人の生徒がいた。 シエスタはその生徒と面識はなかったが、生徒が誰なのかは知っていた。 桃色がかったブロンドという特徴的な髪を持ち、同年代の生徒と比べて小柄で細身の体型。 そして、公爵家の三女という立派な肩書きを持った少女。 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールだ。 シエスタは休憩時間に仕事仲間のメイド達としていた会話を思い出していた。 「今日昼食の時に一人の生徒に文句言われちゃってさー」 「どんなことを言われたんですか?」 「それがね。料理の味付けが濃すぎるとか言われたのよ」 「だからマルトーさんご機嫌斜めだったんですね」 シエスタは昼食後にコック長のマルトーの機嫌が悪かったのを思い出す。 「マルトーさんが怒るのも無理ないよ。これで何回目だろ?」 「貴族様はわがままばっかりで困るよね。礼儀作法にもうるさいし」 「そうそう。私もこの間、デザートのケーキを置く場所が悪いとか文句を言われたよ。お皿の真ん中からちょっとずれただけなのに……」 その話を聞いていた他のメイド達も口々に生徒達への不満を漏らす。 「いくら魔法が使えて偉いからって、限度があるわよね」 「そういえば、貴族なのに魔法が使えない生徒がいなかったっけ?」 「いるいる!態度だけは立派なピンク頭の幼児体型が!」 「そんなことを言ってるのが貴族の方にばれたら大変ですよ!」 平民は貴族には絶対勝てない。 悪口を言っているのがばれたら、貴族にどんな目に遭わされるか考えるだけでも恐ろしかった。 「へーきへーき。魔法が使えなきゃ、私達が何言ってるかなんてわかりゃしないって」 「それに他の生徒達からも馬鹿にされてるみたいだし、友達とかいなそうだよね」 「私、ゼロのルイズとか言われてるの聞いた事ある」 「そういや、ちょっと前まで夜が騒がしかったじゃない。あれ、ゼロが魔法を使おうとして失敗してたらしいよ」 「でも良いわよねー。魔法が使えないゼロでも貴族の暮らしができるんだもん」 他のメイド達はルイズの悪口を言う事によって、貴族への不満を解消しているようだった。 ルイズの事をよく知らなかったシエスタは悪口には参加せず、みんなが話しているのを聞いているだけだった。 やがて休憩時間も終わり、メイド達は仕事に戻る。 ルイズに対し好き放題言えたお蔭なのか、みんな妙にすっきりしているようにシエスタには見えた。 そんな事を思い出しながら、しばらく遠くから眺めていると、急にルイズのいる辺りで爆発が起こった。 驚いたシエスタはルイズに駆け寄ろうとしたが、よく見ると地面が爆発しただけでルイズに怪我はないようだった。 そういえば休憩時間に、ルイズが夜に魔法を使おうとして失敗していたと聞いていたのを思い出す。 その後もルイズは何度も失敗し、爆発を起こしていたが、一向に諦める気配は無い。 そんなルイズの姿を見ながら、シエスタの脳裏にある考えが思い浮かぶ。 ルイズはこうやって夜遅くまで、魔法が使えるようになるため練習していたのだ。 それもみんなに迷惑をかけない様に、わざわざ学院から離れた場所で。 (この方は、あれだけみんなに馬鹿にされながらもめげずに頑張ってるんだわ) そう考えると、ルイズに対して好意的な感情が沸いてくる。 自分が見ている事でルイズの邪魔になっては悪いと思い、シエスタは学院に戻ることにした。 もしルイズが困っている事があれば、出来る限り手助けをしようと思いながら…… 夜空には、二人の少女を優しく照らす様に二つの月が輝いていた。 前ページ次ページZERO A EVIL