約 1,871,631 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4800.html
前ページ次ページゼロのロリカード 「あれがそうですよ」 「あ~あ、安置されてるんじゃお宝もくそもないわね~」 キュルケら一行はシエスタの家から寺院が目視で確認できるところまで歩いていた。 タルブの村に到着し、シエスタを訪ね事情を話す。すると『竜の羽衣』は呆気なく見つかることとなった。 『竜の羽衣』はシエスタの曾祖父の物だそうで、村の近くに立てられた寺院に飾られているらしい。 そのまま帰るのも難だったので、とりあえず見るだけ見て帰るという話になった。 寺院の中に入ると竜とは似ても似つかない金属の塊があった。大きさはかなりのもので固定化の魔法がかかっている。 「なにこれ?」 キュルケが浮かび上がった疑問の言葉をそのまま呟く。キュルケだけではなくただの一人を除いて全員が疑問に思った。 そのただの一人であるアーカードだけは驚きの表情の後に笑みを浮かべた。 「む、誰かいるのかね?」 寺院の奥の方の陰になってる方向から人影が近付いてくる、顔が見えた瞬間全員が驚いた。 「コ・・・コルベール先生ッ!?」 いち早くギーシュが見知った顔の人物の名を叫んだ。 「き・・・君達、何をやっているのかね?」 「それはこっちの台詞ですわ、ミスタ・コルベール」 素直に答えてはマズいと思い、咄嗟にキュルケは問い返す。 「私は研究だよ、ミス・ツェルプストー。この『竜の羽衣』の所在を知ったので是非とも調べたいと思ってね、勿論休暇も貰っている」 コルベールは答えたあと、眉間に皺を寄せながら再度問う。 「それで、君達はなんでここにいるのかね。授業は一体どうしたのだ」 そう言ったあと、コルベールは全員を見ながら誰がいるのかを確認する。 「いやぁ~・・・その~・・・」 ギーシュが口ごもる、キュルケはなんて言い訳をしたらいいか必死に考え、ルイズはバツが悪そうに目をそむけていた。 タバサはいつも通りで、アーカードはぺたぺたと『竜の羽衣』を触っていた。 「なるほどなるほど・・・・クク・・クックック、くはッはははははッ!」 突然アーカードが笑い出す、アーカードがこうまで感情を顕にして笑うのは珍しい。 コルベールも含め、思わず全員がアーカードを注視した。 「どうしたい、相棒」 デルフリンガーが鞘から顔を出しアーカードに聞いた。目尻に溜まった涙を指で拭いながらアーカードは口を開く。 「ははっ、いやなに。『これ』がここにあるとは思わなくてな」 アーカードがポンポンと『竜の羽衣』を叩く。それに呼応するかのように左手のルーンも光っていた。 「ミス・アーカード・・・これを知っているのかね?」 コルベールの言葉にアーカードはギラっと笑って答える。 「ああ、知っている。これは私がいた世界のモノだ。SR-71、ブラックバードと言われた超音速高高度偵察機。そうだな・・・クク、私にとってはこれもある意味『武器』に違いない」 コルベールは頭だけでなく瞳も輝かせた。アーカードの世界の産物をと聞いて、驚きつつも興奮が抑え切れていない様子である。 ルイズとキュルケは改めて『竜の羽衣』を見る、破壊の杖よりも遥かに大きくそれ以上に用途がわからない。 アーカードのいた世界とは一体どんなところなのか、そもそもなんでこんなところにあるのか、ハルケギニアでは見られないその塊を見つめる。 タバサも知的好奇心が多少なりと疼いたのか、『竜の羽衣』を興味深そうに見つめていた。 一方、事情が全く飲み込めていないギーシュとシエスタは、アーカードがいた世界のモノと言われても意味がわからずただポカンとしていた。 「なんと!おお・・・これは君の世界のモノなのか!」 そう言うとコルベールは我を忘れて再度『竜の羽衣』を観察し始める。 そのコルベールの様子を見て、キュルケは言及を回避できたとほっとしつつ口を開く。 「それで、アーカードの世界ではこんなもん何に使うわけ?」 「言ったろう、偵察機だ。これで高高度を超音速で飛行して地表を撮影したりする」 「ほほお!これが飛ぶのかね!?」 コルベールが興奮しながら叫ぶ。飛ぶと言われてキュルケ達も凝視し始める。 ハルケギニアの住人である彼女達には、当然目の前の金属の塊が飛行するなんて到底信じられない。 「シエスタ、曾祖父の遺品とかはあるか?」 「あっ・・・はい、ありますよ」 「少し見せて欲しい」 ◇ シエスタの曾祖父はアーカードが元いた世界の日本人であった。 アーカードとシエスタの最初の出会い、血を少し飲んだ時に感じた違和感の正体はそれであった。 自分が吸った命の中には日本人も含まれている、それ故に感じたほんのわずかな差異。 シエスタの曾祖父が残した遺書には英語と日本語の二言語で書かれていた。 日本人だがアメリカで訓練し、SR-71に乗っていたということ。しかしテスト飛行中にいつの間にかこの世界に迷い込んでしまっていた。 複座型である為、当然パイロットと偵察機器操作担当がいて、シエスタの曾祖父は後者であった。 なんとか草原に不時着するものの、たった二人でSR-71を動かすことは到底不可能である。 二人の異邦人は、言語や文化の違いに四苦八苦しながらも暮らし始める。しかしパイロットの方のアメリカ人は帰る為の情報を収集すると言って旅立った。 一方シエスタの曾祖父はタルブの村に住むことを決め、必死に働いてお金を稼いでSR-71に固定化をかけたのだ。 アメリカ人の方はタルブへと帰ってくることはなく、一人待ち続けながらもシエスタの曾祖父はその人生を終えることとなった。 そしてもし自分の残した遺書を読める者が現れたら、SR-71を譲り渡すという遺言を残したという。 遺書の他にも、丁寧に描かれた手書きの図面や操作方法などの様々な資料が残されていた。 「異世界の住人だったとはなぁ、なるほど僕が負けるわけだ」 「いやアンタが弱過ぎただけよ」 キュルケの容赦のないツッコミにギーシュは言い返せず呻く、キュルケの実力は今回の宝探しで嫌になるほど実感した。 キュルケと特にタバサは同期の中でも飛び抜けた実力を持っている、魔法だけでなく戦術にも長けていた。 「・・・私のひいおじいちゃん、アーカードさんの世界の人だったんですねぇ」 しみじみとシエスタが呟く、横でコルベールが口を開いた。 「それでこの『竜の羽衣』はどうするのかね?」 遺書を読んだものにこれを譲渡するとの遺言である、つまりその権利はアーカードにあった。 「とっても大きいし管理も大変ですし、何よりもひいおじいちゃんの意思です。アーカードさんが貰ってくれていいと思いますよ」 シエスタにそう言われるも、アーカードは考える。 「ん~む・・・、そうは言われても使う予定もなければ置く場所もない。こんなもの貰っても困りものだ」 「ならば!」 コルベールが嬉々とした表情で叫ぶ。すぐにはっとして咳払いをしてから、コルベールは再度口を開いた。 「これほどのものを譲渡してくれると言うんだ。素直に貰ったほうがいいと私は思うんだが・・・。 ・・・いや、正直に言おう。是非とも私が研究したい。場所は学院長に言ってなんとかしてもらおう、運搬も管理も全て私が請け負う。 だからその、ミス・アーカード。この通り!『竜の羽衣』を譲り受けてもらえないだろうか!」 頭を下げて懇願するコルベールを見て、アーカードは再度思考する。 「いいんじゃない?コルベール先生が全部責任持ってくれるって言うし」 ルイズがアーカードに言う。腕を組んで右手の人差し指をトントンと叩きながらアーカードは考える。 『ガンダールヴ』が教えてくれる。おかげで残された資料を見ずとも整備方法は完璧にわかるし、現在の状態を見るにSR-71は動かせないことはない。 当然一度乗ってるから操縦法はわかっていた、それでなくとも『ガンダールヴ』の能力で操縦できる。 固定化がかけられた与圧服も二着残されていたが、吸血鬼の頑強な体には特に必要ない。 シエスタの曾祖父らはSR-71から漏れ出す残りの燃料を予め別途保存し、そちらにも化学変化が起きないように固定化をかけていた。 しかしお金を稼いで固定化をかけるまでにある程度時間が経過していたようで、かなり劣化していたのである。 仮に使用できても長時間飛行するには心許ない残量であった。偵察機器を使っても現像する手段もない。 つまるところ使い道のないデカブツなのだ。 シエスタの曾祖父は、自分たちの世界からハルケギニアにやってきた者の為にこれを残し、譲り渡すという意思を伝えた。 だのにコルベールの研究心を満たす為に譲り受けるのは、曾祖父の本意とは違うだろう。 とは言っても、燃料が少ない上に劣化している。資料が残されてるとはいえSR-71を動かすなんて素人が出来るわけがない。 また一応SR-71内にしまわれているようだが、一度使用されたパラシュートは着陸の際の再度使用には信頼性に欠ける。 そもそも現在SR-71は退役している、まともに動かせる人材がたまたまこれを見つける可能性など限りなく低い。 なればシエスタも管理が面倒と言っていることだし、譲り受けるのもよいのかもしれない。 アーカードが思考を巡らせている中、キュルケが何かを思いついた表情を見せる。 次にニヤ~っと笑うとアーカードに近付き耳打ちしてきた。アーカードは聞きながらうんうんと頷く。 「コルベール」 考えを決めたアーカードはコルベールの名を呼ぶ。コルベールは頭髪の寂しい頭を上げアーカードを見る。 「実は我々は授業をサボって宝探しをしていた、このまま帰れば恐らく叱られることになるだろう。 まぁ私には直接関係のない話なのだが・・・。とりあえずその際にフォローをして欲しい、とのことだ」 突然のカミングアウトと持ちかけられた取引に、コルベールの顔が葛藤で歪む。 コルベールは少しの間考え、そして決めた。 「・・・・・・わかりました、私の方から学院の方に言っておきましょう。恐らくこのまま帰ればあなた達には相応の罰が待っているでしょうしね」 コルベールのその受諾の言葉に、やった!とキュルケが小さくガッツポーズをする。 ギーシュとルイズもほっとした顔になる、タバサは相変わらず表情が読めなかった。 「ただし!今この場であなた達にお説教をします。私は教師です、宝探しなどという動機で授業をサボタージュした生徒を黙認することなどできません」 「そんな!」 キュルケが抗議の声をあげようとするも、コルベールは遮った。 「取引の内容は、『竜の羽衣』の研究と学院への弁解です。私個人が教師としてあなた方を叱るのは含まれていません」 「ぐっ・・・」 キュルケは言葉に詰まりさきの会話の内容を思い出す、・・・やられた。 「諦めなさいキュルケ。悪いのは私達なんだから、この場で叱られるくらい当然よ」 そうルイズが口を開く。ギーシュもそれに続き、タバサも無言でキュルケを促した。 さすがにキュルケも諦めたのか、四人は立ったままコルベールの説教を黙って聞き始めた。 そんな様子にアーカードは声に出さず笑いながらSR-71へと飛び乗る。はしっこに腰掛け、足を組んでふんぞり返る。 長くなりそうな説教に、シエスタは夕食の準備をしてきますと言って家に戻って行った。 普段から温厚で滅多に叱ることのないコルベールの説教は陽が落ちるまで続き、四人はもう二度とコルベールに叱られることはしないと心に誓った。 前ページ次ページゼロのロリカード
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4078.html
前ページ次ページゼロの軌跡 第十話 蝕、繋がる世界 「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」 「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」 「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」 「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。 「来たぞ、われら平民の救世主!」 「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」 「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」 「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」 「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」 「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。 「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」 「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。 「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」 「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」 「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。 「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」 「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、 レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。 「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」 「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」 「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。 「大丈夫かしら…」 「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」 「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。 「なんていうか…」 「良くも悪くも田舎よねぇ…」 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。 「なるほど。覚悟、ね」 思わずレンは一人ごちる。 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。 「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。 「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。 「有難う、レン。助かったわ」 「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。 「ねぇ、レン」 「なあに、ルイズ」 「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。 「どうかしらね。よくわからないわ」 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。 「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」 レンの答えはそこで途切れる。 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。 「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。 間違いない。あれだ、あの石碑だ。 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。 「ちょっと、レン。どうしたのよ」 「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。 「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」 それでも石碑は何の反応も見せなかった。 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。 「…エステル!ヨシュア!」 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。 「あの人がエステル…」 「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。 「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」 その時、エステルが振り向いた。 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。 「来ないで。…しばらく一人にしておいて」 前ページ次ページゼロの軌跡
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/3175.html
2日目 マダム 狼「埋めちゃおうね~」Navi子は地中深くに埋められました マダム 2日目スタートです 1 (マダム村) カルシファー えぐいw 1 (マダム村) デュビア まさに地下アイドルに・・・ 1 (マダム村) すいさい えぐいwww 1 (マダム村) アリスイ 【占いCO】私が占い師です 1 (マダム村) カルシファー 【霊媒CO】 1 (マダム村) とよよ うめられてしまった 1 (マダム村) xバーバラx 狼の仕業だw 1 (マダム村) トガリ 占いCO 1 (マダム村) みむっちゃ 普通に悪い狼だ 1 (マダム村) すいさい 2-1 1 (マダム村) とよよ 2-1かな 1 (マダム村) すいさい 役かけなしかな 1 (マダム村) みむっちゃ 2-1天界はやいな 1 (マダム村) ゆっくりふと 1年後地下帝国Navi子村がそこに! 1 (マダム村) アリスイ そのようですね 1 (マダム村) カルシファー またなんですけど! 1 (マダム村) デュビア 村人か狩人が欠けたかな? 1 (マダム村) すいさい かるさんまたれいばい・・・ 1 (マダム村) シエスタSS トガリさんもか 3 (冥土) サイア お手入れ? 1 (マダム村) とよよ 霊軸で。 1 (マダム村) デュビア 吊るしふぁじゃないなんて・・・ 1 (マダム村) xバーバラx 2-1 1 (マダム村) デジュー あれ、初日から占えなかったっけ 勘違いしてました 1 (マダム村) アリスイ ツルシファーできない悲しみ 1 (マダム村) すいさい 役賭け無いと見ていいかな 1 (マダム村) カルシファー え・・・ 1 (マダム村) ストーマー 層とも限らない 1 (マダム村) ゆっくりふと また霊であるか 2-1なら占い欠け率は低そうであるな 1 (マダム村) すいさい 霊軸賛成 1 (マダム村) デジュー 切り替えてグレー指定でいきましょう・・・ 1 (マダム村) xバーバラx 霊媒はありえるかも 1 (マダム村) みむっちゃ 霊媒かけてる可能性もなくはないよね 1 (マダム村) xバーバラx 占いはまずないかと 1 (マダム村) すいさい ああ、そうか・・ 1 (マダム村) アリスイ 初日霊欠けもないことはない・・・か 1 (マダム村) デュビア 狼と狂人が占いに出た可能性が・・・?まぁ2狼でそれはないか・・・? 1 (マダム村) すいさい 狂人狼占い 霊真の可能性は? 1 (マダム村) カルシファー そうなったら偽の私が牛耳る形になりますねw 1 (マダム村) アリスイ まあでもしばらく軸でいいでしょうね 1 (マダム村) デジュー 欠けあるからっていきなりビクビクしててもどうにもならないんですよね 1 (マダム村) シエスタSS 冷媒でもツルシファーしてもいいよ? 1 (マダム村) ゆっくりふと 真狼ー狂 真狂ー真 狂狼ー真 1 (マダム村) xバーバラx 霊媒軸賛成で 1 (マダム村) カルシファー はえーよ! 1 (マダム村) みむっちゃ 霊真の可能性の方がずっと高いけどね 1 (マダム村) とよよ ううむ、欠けもあるから霊軸もだめなのか 1 (マダム村) すいさい んー 1 (マダム村) xバーバラx あ~ そうか欠けもありえるか 1 (マダム村) ストーマー いや、霊軸で今日はいきまっしょ 1 (マダム村) すいさい 霊欠けわからない状況で 1 (マダム村) とよよ なれないから、ちょっとまよう 1 (マダム村) ストーマー どうせ言いがかりじゃないか 1 (マダム村) すいさい 狂が霊にいくとはおもえないしね シエスタSS おはよう あかみさと 1 (マダム村) みむっちゃ これせめて公開投票とかじゃないときつくないかw 1 (マダム村) すいさい 霊は真目でいいか 1 (マダム村) ゆっくりふと 真狂ー狼はロラ覚悟で来るかどうか見ておらぬ 1 (マダム村) すいさい 今日は霊軸賛成 1 (マダム村) シエスタSS ほらほらぁ カル子気に入らないやつ言ってみな? 1 (マダム村) デジュー 霊媒COしようとする狼あんま以内と思うんだよね 1 (マダム村) デジュー 狂人は知らん 1 (マダム村) カルシファー 私が偽かどうかは指定者で判断したらいいと思いますよ 1 (マダム村) xバーバラx 霊媒CO複数いるとローラーされそう 1 (マダム村) アリスイ まあ対抗でたらロラられちゃいますからな 1 (マダム村) とよよ ううむ、霊が狼で無い限りは大丈夫だし、その可能性も低そうですね 1 (マダム村) デュビア まぁ まだこの時点じゃ判断できんわなー 1 (マダム村) とよよ 霊軸でいいか 1 (マダム村) ゆっくりふと 狂人ならロラ期待で来る可能性は高いであろ 狼が霊乗っ取りならおめでとうで済ますぞ 1 (マダム村) デジュー 狂人が霊媒乗っ取ったところでそんな怖くないって 1 (マダム村) みむっちゃ 今日は霊軸いきますか 1 (マダム村) xバーバラx 霊媒軸でいいかと 1 (マダム村) カルシファー 残り2分になったら指定しますね 1 (マダム村) みむっちゃ そだね。仮に霊媒が狂人でもいいか 1 (マダム村) デジュー 今日明日とグレー 1 (マダム村) デジュー 指定していけるんで 1 (マダム村) デュビア 今日は軸でいいかー 1 (マダム村) すいさい 5吊りか マダム 5分経過 1 (マダム村) デジュー 初日の吊りなんでCO聞かずとも指定先吊っておけばいいかなっと 1 (マダム村) カルシファー 【指定】とよよさん 1 (マダム村) カルシファー COありますか? 1 (マダム村) とよよ coなし 1 (マダム村) デュビア 把握 1 (マダム村) すいさい 把握 1 (マダム村) みむっちゃ 把握 1 (マダム村) シエスタSS よ、よくもとよよさんをー! 1 (マダム村) カルシファー ごめんね! 1 (マダム村) xバーバラx 指定了解 シエスタSS おはよう あかみさと 1 (マダム村) トガリ 指定把握 1 (マダム村) アリスイ 把握しました 1 (マダム村) シエスタSS 把握 1 (マダム村) カルシファー じゃぁシエスタさんに・・・ 1 (マダム村) カルシファー 冗談冗談 1 (マダム村) ゆっくりふと 占いは複数おるし発言、占い先しっかり見るから張り切っていくがいいぞ 1 (マダム村) xバーバラx え? 1 (マダム村) ストーマー ん? 1 (マダム村) デジュー え 1 (マダム村) シエスタSS やめたほうがいいよ 1 (マダム村) カルシファー 冗談ねw マダム 残り1分 1 (マダム村) シエスタSS 村から鼻がなくなるもんね! 1 (マダム村) カルシファー ・・・ 1 (マダム村) デュビア 鼻が 1 (マダム村) すいさい 占い両偽の可能性もあるからねぇ・・・ 1 (マダム村) デジュー 鼻はなくなっていいけど・・・ マダム 20秒前 1 (マダム村) ゆっくりふと 酷い拷問であるな 1 (マダム村) マダム ---------STOP-------- 1 (マダム村) マダム ---------STOP-------- マダム 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) マダム 投票は直接私にtellでお願いします 制限時間は3分です (T) ゆっくりふと > 投票:とよよん (T) みむっちゃ > とよよさん (T) カルシファー > とよよさんでお願いしますー (T) すいさい > 投票:とよよさん (T) デュビア > とよよさんでお願いします 2 (暴食) とよよ もうしわけないですー 2 (暴食) xバーバラx いきなり指定くるとは 2 (暴食) xバーバラx これはどうしようもないですね (T) シエスタSS > とよよさんで! (T) デジュー > とよよさん投票 (T) トガリ > とよよさんでー (T) ストーマー > とよよんシュート 2 (暴食) とよよ カルシファーさん、うちをよく指定してくる。 2 (暴食) xバーバラx シエスタSSさんによせてみます? (T) アリスイ > トガリさんに投票します 2 (暴食) とよよ なんとなく予想できてた 2 (暴食) とよよ そうしましょうか 2 (暴食) xバーバラx ではしてきます (T) xバーバラx > シエスタSSさんで 2 (暴食) とよよ ただ、coしないことで偽の芽は残しておきました 2 (暴食) xバーバラx はい (T) とよよ > シエスタSSさん とよよ9 トガリ1 シエスタSS2 2 (暴食) xバーバラx 噛みたい人います? マダム 残り1分 2 (暴食) とよよ 占いかなぁ、かむとしたら。ばくち要素はありますが 2 (暴食) xバーバラx そうですね マダム 20秒前 2 (暴食) とよよ とりあえず、そのあたりはおまかせです 2 (暴食) xバーバラx 霊媒は守ってそうですし 2 (暴食) xバーバラx わかりました 1 (マダム村) マダム ---------STOP-------- 1 (マダム村) マダム ---------STOP-------- マダム さよならとよよさん…あなたの勇姿は忘れない マダム 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です マダム 役職の方は私にTellお願いします とよよ ふにー (T) カルシファー > 霊媒です!とよよさんの墓を荒らしにきました! (T) > カルシファー かえれー (T) カルシファー > え!? (T) > カルシファー とよよさんは悪い子狼でした (T) カルシファー > そんなストレートすぎる[ウワーン] (T) カルシファー > ぶw (T) トガリ > アリスイさんを前にいるからという理由で占う! 3 (冥土) とよよ おじゃましますー (T) カルシファー > 了解しましたw 3 (冥土) サイア おつかれさまー (T) > トガリ アリスイさんは村人です (T) デュビア > 狩人です カルシファーさんでお願いします 3 (冥土) マダム いらっしゃい (T) トガリ > はーい 3 (冥土) とよよ カルシファーさん、なんだかうちを指名する確率が異様に高い (T) > デュビア ガッツリ守ってね (T) すいさい > あれ?初日役職有りって結局いつもと一緒です? 3 (冥土) サイア あら 3 (冥土) とよよ 恨みでも買ったかなぁ 3 (冥土) とよよ 身に覚えが全くありませんが (T) > すいさい 何が割り振られているかわからないだけで進行は同じです 3 (冥土) サイア 前にショートケーキに乗ってたイチゴ取ったことあるっしょ (T) すいさい > なるほど、ありがとうございます 3 (冥土) とよよ 瑣末なことです (T) > すいさい でも初日役職有なので偽物が2名3名と出る可能性が高くなります 3 (冥土) サイア あれ、最後に食べるのすっごい楽しみにしてたらしいよー (T) すいさい > 初日に役職行動があるわけではないのですねー (T) > すいさい ですです (T) すいさい > わかりました!ありがとうございますマダム美しい (T) xバーバラx > トガリさんをがぶがぶします 3 (冥土) とよよ なんというせこさなのか。いちごくらいで (T) > xバーバラx おいしく召し上がれ 3 (冥土) サイア 血の涙を 3 (冥土) マダム イチゴの恨み・・ マダム 残り1分 2 (暴食) xバーバラx トガリさんに特攻 3 (冥土) とよよ というか、それ、わたしじゃないし 3 (冥土) とよよ むじつでござる マダム 20秒前 3 (冥土) サイア あら 3 (冥土) サイア これは人違い勘違いすぱいらる 1 (マダム村) マダム ---------STOP-------- 1 (マダム村) マダム ---------STOP-------- 1日目へ 3日目へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/711.html
「……駄目よ、殺される。アズマさん、殺されちゃうわ」 「そこのメイドの言う通りよ! さっさとあやまりなさいってば!」 アズマの背後でがたがたと震えながら言うシエスタの言葉に乗り、ルイズは言ったのだが、返って来たのは憮然とした態度での一言だった。 「やだね」 「ちょっと! あんた……」 「大体俺は決闘なんてするつもりはないよ」 「「へ?」」 続けざまのアズマの言葉に、一同は間抜けな声を上げ、ポカンと固まってしまった。 いつもの冗談めかした口調に戻ったアズマは、さらに言葉を続けた。 「道理がないだろ。俺はただ、こいつに対してシエスタにあやまれ、と要求してるだけなんだ。恥とかは知らないよ」 そう言ってへらっと笑ったアズマに、あからさまな落胆の溜息が投げかけられる。既に場は白けつつあった。 だが、そう言われて納得出来ない人間がいるのも事実。一部の生徒達の中には、「腰抜け野郎」「弱虫野郎」と言った誹謗中傷をアズマに投げかける者もいた。 「決闘、なんて言葉は、軽々しく使うもんじゃあない……殺したり殺されたり、おまえにそういう覚悟があるのか? 怖くないのか? 感情の昂ぶりに任せて物を言うのはよくないぜ」 今度はふざけた様子を見せず、真剣な面持ちで言い放ったアズマの言葉に、感じ入った者も多少はいたようで、場は白けから重苦しい空気を放ち始めた。 だが、目の前にいるギーシュは違った。アズマの言葉を、更なる侮辱のそれと捉えたのだ。 「貴族に覚悟の是非を問うとは、君も愚かな男だ。ヴェストリの広場で待つ。臆病風に吹かれないのなら来るのだね」 敢えて表面上は感情を見せず、ギーシュはそう言い残してアズマの前から去った。 どよめくギャラリー達は、最初はおずおずと言った様子だったが、やがて再び盛り上がり始め、ギーシュの後を追った。 「やれやれ」 ギーシュの言う覚悟と、自分の言う覚悟との認識の食い違いに、アズマは肩を竦めて呟いた。 だが、あそこまで言ってしまっては引き返せないのも、何となくは分かる。 「ねぇ、アズマ……あんた行く気?」 「……どうしようかな。正直、あの鼻っ柱は一度叩き折った方がいい気はするけど」 人気の少なくなった食堂に残った三人。 ルイズはアズマの服の裾をつまみながら、尋ねるのだが、微妙に自信ありげな彼の言葉に、若干の期待が無くもなかった。 だが、やり取りの最中、終始おろおろしていたシエスタは、かぶりを振ってアズマに言う。 「む、無理ですよそんなの! アズマさん、決闘なんて止めてください!」 「んー、シエスタに言われたら、止めた方がいいんかなぁ、って思っちまうな」 「何よそれ!」 シエスタの心配げな言葉に、とぼけた声で答えたアズマの頭をルイズは思わずはたいた。どうもシエスタに対しては甘いではないか、この男は。 「……ま、これはきっと決闘なんかじゃないから、そう心配しないでくれ」 そう言って、アズマは何でも無い、と言った風に手を振って食堂を後にしようとし、 「って、なぁ、ルイズ?」 「?」 「ヴェストリの広場って、どこだ?」 「ちょ……締まらないわねぇっ! もうっ!」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/68.html
「くっ、まさかこんな事になろうとは....」 オルステッドは大量の洗濯物を抱え、広大な学園の中をうろうろしていた。 話は昨日まで遡る。 「あ~、これ洗濯よろしく」 「・・・・・!これは......こんな物を洗濯しろと....?」 「何よ....着た物を洗濯するのは当然でしょ?」 「いや、そういう訳じゃないんだが....私は一応男だぞ....?」 「何よ....アンタは私の使い魔でしょ?私の命令だから大人しく聞きなさいよ」 「はぁ......分かった....痛っ、急に腕の付け根が......」 「私は怪我人に甘くないわよ?」 「・・・・・・・・」 数日前までは魔王と言われた男がこんな事をするはめになるとはな..... 立ち止まり、冷静に考えていると、 「あら?そこのお方?」 突然後ろから声を掛けられる、振り返ると大きな洗濯籠を抱えたメイドが立っていた 「ふぅ、何でも世話になってすまないな....」 満腹になった腹をさすりながら私は彼女に礼を言う 「気にしないでください、私が好きで勝手にやっているだけですから」 シエスタは顔を赤らめながら答える。 「そういえば、一つ聞きたい事があるんですが....」 「?」 「オルステッドさんは何故、そんな酷い怪我をされていたんですか?」 「・・・・・すまない....この事は....誰にも話したくないんでね.....」 「!、すいません......私、無神経で....」 失礼な事を聞いてしまったと思ったのか、急いで頭を下げるシエスタ 「気にする事は無いさ....、そんな事より、なんでも世話をかけっぱなしというのは なんだかスッキリしないな....手伝って欲しい事はないか?遠慮せずに言ってくれ」 そんな彼女の健気さに思わず微笑みながら、私は答える。 「う~ん、そうですね....もうすぐ学生さん達のお昼御飯の時間なので お食事を運ぶのを手伝ってくれませんか?」 「あぁ、分かった、喜んで引き受けさせて貰おう.....」 「ふぅ....これで終わりか.......」 全てのデザートを配り終えて、食堂の隅に座り込む。 「ふふふ....人の役に立つのも....悪くないな....」 そう呟きながら一休みしていると、いつの間にか人垣が出来ているのが見えた。 (・・・・何かあったのか....?) 少し興味をそそられ、見物しに行くと、そこには、顔を赤く張らせた男と、 恐怖で顔を引き吊らせるシエスタの姿があった。 「どうした?シエスタ!?」 人混みをかき分け、シエスタの元に駆け寄る。 「ん?おやおや、君はゼロのルイズが喚びだした、死に損ないの平民じゃないか? 君には関係無い話だ、これから僕がそのメイドに貴族に対する正しい礼儀を教えて上げよう としてる所だ、邪魔物は引っ込んでいたまえ。」 後ろで喋り続ける男を無視し、シエスタに事情を聞く 「何があったんだ?」 「・・・私が香水の瓶を拾って渡そうとしたら、女学生の方が二人、 あの方に詰めよって叩いて走っていったと思ったら、私、私、私....」 軽くパニックになっているらしく、所々分かりにくかったが、簡単な話は読み込めた。 「・・・・ふん、貴様の愚行が引き起こした、自業自得の事じゃないか.... それで彼女に八つ当たりするのか?貴様には貴族として、いや男としてのプライドが無いのか....?」 この言葉に相手の男が激高する 「平民がごときが貴族に向かって・・・!もういい!! 君には身を持って貴族の恐ろしさを知って貰う必要があるようだな!!」 「ふん....というと?」 「簡単な事だ....決闘だ!!....といいたい所だが、どうせ怪我を理由に断るんだろう?この臆病も......」 「・・・いいだろう」 この言葉に周りを取り囲んでいた群衆が急に黙り込む。 「ちょっとアンタ待ちなさいよ!!!」 様子を見ていたのか、人混みをかき分け、ルイズが抗議の声を上げながら近づいて来る。 「何考えてるのよ!!平民がメイジに勝てる訳無いじゃない!!」 ルイズの話を無視し、話を進める。 「ハハハッ!ルイズ!君の使い魔は随分聞き分けがいいじゃないか! 場所はヴェストリの広場だ、逃げるなよ!」 そして男はその場から去って行った。 「オルステッド、今からでも遅くないわ、謝って来なさい」 「・・・ここまでしておいて逃げろと?」 「そういう訳じゃない!それにアンタ、怪我治ってないじゃない!!」 「・・・リハビリ程度には丁度いい小物だ」 「・・・・こんだけ忠告したからね!!もう知らない!!!」 業を煮やしたのか、ルイズは怒りながら、走り去って行った。 突然、シエスタに手を握られる 「オルステッドさん......私のせいで....」 「・・・・気にするな....貴方のせいじゃない....それに心配しないでくれ.... 私はあの程度の男にやられはしないから.....」 そう言い、オルステッドはシエスタの手を放し、広場に向かった。 決闘が始まると聞き、野次馬が大勢広場に向かった。 この後、目を覆いたくなる惨劇が起こると誰も知らずに....
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7134.html
前ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 「あれが主人のためを想って、ですって?」 ようやく衝撃から立ち直ったのか、慧音を召喚した女生徒が声を上げる。気の強そうな 顔立ちであり、性格もその通りのようだ。 慧音はその睨み付けるような厳しい眼差しを、正面から受け止めた。 「恋愛沙汰から身代を潰した例など、歴史を見れば枚挙に遑がない」 「それがあの使い魔のやりようと、どういう関係があるっていうの?」 「そういう悪い癖は、若いうちから矯正しておいた方がよい、ということだ」 「大きなお世話よっ」 より一層肩を怒らせる少女。それが慧音には虚勢だと分かっていた。アリスの行動 自体に怒っている、ということもあるが、自分の生活に踏み込まれるのが不安なのだ。 もちろん、その気持ちも分かる。幻想郷において、妖怪と共存している事を理解しつつも、 妖怪を排斥しようとする人間達がいたように。 それはある意味自然な感情なのだ。 「別に私は、貴女の行動を制限するつもりはない」 「あたりまえよ」 「だが……」 そういいながら、じっと目を細める。何かを見通そうかというように。 「……貴女は嫡子だ。この学院を卒業した後は自分の領土に戻り、 婿を取るまで 領民を指導していくのではないか?」 「……それが何の関係があるっていうのかしら?」 「人々の上に立つ者ならば、自分の一挙手一投足に責任が生じるということを 理解した方がよい」 「だから、大きなお世話よ」 その語句とは裏腹に、口調は力のないものだった。それは逆を返せば、慧音の 言葉の意味を理解しており、普段もその事を考えることがある、ということだ。 とりあえずはこんなところか、と慧音は視線を外した。時間はたっぷりある。早急に 事を運ぼうとすることは苦手なのだ。慧音も半分は妖怪なのだから。 一方、そんな小難しいことを全く考えていない者もいる。 「なんだ。もう終わっちゃったの? ちぇっ」 「不穏なことを言うな!」 その男子生徒は自分の使い魔となった妖精に向かって叫んでいた。周りの友人達の 同情を帯びた視線と、使い魔達の心配そうな視線が集まるのにも、もう慣れた。 最初は喜んでいた。彼が呼び出したチルノという名の使い魔は、自身のことを 氷の妖精だといったのだ。自分の属性にぴったりじゃないか。 しかしどうにもこの妖精、愚かだ。いや、馬鹿と言ってもいいかもしれない。 「あたいだったら、もっとすごいのをどっかーんとやっちゃうのに」 「……自分の主人に、何をするつもりなんだ、お前は」 「あ、そっか」 そのあっけらかんとした妖精の言い方に、彼は大きく溜め息をつく。万事がこの 有様だ。悪意はなさそうなので、怒るに怒れない。しかし困ったことに、馬鹿だ。 本人は、『あたいってば最強なんだから!』などと大言壮語を吐いているが、それ 自体がもう、馬鹿の証拠だ。いや、もちろん最強だったら嬉しい。だけど、こんな 小さな子供っぽい生き物が最強なわけがないじゃないか。 「あに?」 「いや、なんでもない」 チルノは気にした風もなく、自分の食事を再開した。両手で握ったフォークを、 えいやとばかりに振り下ろし野菜に突き立てる。不作法ではあるが、この体の 大きさとフォークの大きさだ。とても微笑ましい。 「にがっ! なにこれ!」 突然顔を歪め、叫びをあげるチルノ。どうやらハシバミ草をかじったらしい。苦みが 強く、あまり好む人はいない。特にお子様には、厳しい食べ物だろう。 「こんなの、こうだ!」 憎々しげに見つめたかと思うと、チルノは両手でハシバミ草を握りしめた。 「えっ?」 思わず声が漏れた。彼の予想に反し、ハシバミ草は砕けたのだ。まるで凍って いたかのように。 恐る恐る指を伸ばし、ハシバミ草だったものの破片をつまみ上げた。 冷たい。本当に凍っている。 彼も氷の魔法を使えるから、その異常さはよく分かる。氷の魔法とは主に、 空気中の水分を凝固させる魔法だ。対象が生物になると、とたんに難易度が上がる。 魔法に対する抵抗力があるから、らしい。 それをこの妖精は、あの一瞬でこのハシバミ草だけを凍結させたのだ。 しかも周りの空気には一切影響を与えずに。 「すごいな……」 「ふふん。あたいにかかれば、これくらい簡単よ」 そういうなり、自分のサラダに手を向け、上から手のひらで押しつぶす。 いつの 間に凍っていたのか、パキパキと音を立て砕けていく。 思わず感嘆の声が漏れた。なるほど、これは確かに自ら最強と言うだけのことは あるかもしれない。ということはこんな使い魔を呼び出した自分もまた―― 「ほら、こんな大きいのだって」 「……ちょっと待て!」 慌てて止めるがもう遅い。ちょっと自分の考え(*22)に囚われていた隙に、色々と 凍っていた。彼の分のサラダも、熱かったはずのスープも、メインの料理も。魚の ムニエルをフォークの先でつつくが、カチカチという堅い感触しか返ってこない。 持ち上げようとしたら、皿ごとくっついてきた。実に見事だ。見事なんだが…… 「おい」 「あによ」 「僕は何を食べればいいんだ?」 「…………あ」 彼は溜め息をつきつつ、チルノの頬を痛くない程度に抓り上げた。きゅーっと(*23)。 「にゃにぃをしゅるーっ」 「それはこっちの台詞だ」 彼はため息を吐きつつ言葉を吐くと、さらにチルノの頬をみょーんと引っ張って みた。その妖精の頬は冷たく、そして柔らかかった。 「それで、ケロちゃんは何が出来るの?」 目を輝かせての問いかけに、諏訪子はげっそりした顔で自らの主人となった 女子生徒に向き直った。 「なんでケロちゃんなの?」 「かわいいから」 真顔で答えられてしまい、途方に暮れる。曰く、帽子が可愛いとか。ちっちゃくて 可愛いとか。この女生徒も決して大きい方じゃないのに。神奈子が本気で羨ましがって いるのが視界の端にちらちらするのが、また腹立たしい。こんな事なら、蛙の化身だ、 などと説明を適当に済ませようとするんじゃなかった。 まあ、親交は得られてるけどね、と気を取り直し、主人となった人間の質問を考える。 何が出来るか。改めて問われると実に難しい質問だ(*24)。どの程度まで、何を伝えれば いいのだろう。 腕を組んで考え込んだ諏訪子をしばらく眺めていた女生徒は、ひょいと諏訪子の 被っている帽子を取り上げた。そして諏訪子と帽子を交互に見つめる。 「なに?」 「帽子を取ったら、本性を現すのかなーって」 「……本性って、一体何を期待してるの?」 「んー、おおきなおおきな蛙?」 こーんなの、と両手を大げさに広げてみせた。周りの人間があからさまに怪訝そうな 顔をする。中には会話が聞こえたのか、諏訪子から椅子を遠ざけようとする女生徒も いた。ちょっと悲しい。ちょっとだけ。 「えー、大きな蛙でも、ケロちゃんなら絶対に可愛いと思うんだけどなぁ」 自分の主人となった少女は、そう言ってはくれている。しかし、自分の本当の姿を 知って、なお同じ態度でいてくれるのだろうか。祟り神のミシャグジをとりまとめ、 恐れと畏れによって諏訪地方を治めていた土着神。それが洩矢諏訪子だというのに。 「それで、ケロちゃんは何ができるの?」 話が最初に戻った。視線は斜め向こう、氷の妖精が起こした騒ぎに向いている。 あれはわかりやすい力だ。もちろん、妖精とはそういう生き物なのだから、当然 なのだが。自分とは違う。何しろ自分は神なのだから。 「……何が出来て欲しい?」 ちょっと卑怯だが逆に聞き返してみた。自分の主人となった人間が、どれほど 自分の力(*25)に期待をしているのか興味があったのだ。 しかし。 「別に、何も出来なくてもいいよ」 「あれ?」(*26) 首を傾げる諏訪子から視線を外すと、その女子生徒は口を尖らせ呟いた。 「……私、魔法が得意じゃないって、自分でも分かってるし」 「それとどういう関係があるの?」 彼女の説明によればこの世界では、メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、と言われて いるらしい。その話に従えば、魔法が得意ではない彼女には、大した使い魔はこないの だろう、ということになる。 普通ならばそうなのだろうが、妖怪達についてはどうだろうか。無理矢理に紫が 儀式に割り込んだのだ。果たしてその法則に従っているかどうか。もちろん、 従っていようがいまいが、諏訪子は諏訪子だ。となれば、その話を最大限活用 すべきだろう。 諏訪子は女生徒の手から帽子を取り返すと頭に被り、不敵な笑みを浮かべた。 「そう自分を卑下するもんじゃないよ」 「あはは、いいよいいよ。気を使ってくれなくても」 そういって笑みを浮かべる。痛々しげな笑みを。神の主人となった者に、そして神の 信者(*27)にそんな表情をさせてよいものか。もちろん、良いわけがない。 ならば、やることは決まっている。 「やる気になったようね」 「おや、神奈子じゃない」 「何よ、白々しい」 振り返るとそこには神奈子が、その後ろには、豊穣と終焉を司る姉妹がいる。 そして彼女たちの主人達も、どことなく納得がいかないという表情で付き添っていた。 特にこの二人の小さな神々は、理解されるのは難しいだろう。その能力はある意味、 人間にとってもっとも重要なものだが、それを妖精のやるようにこの場で一瞬に見せて やるというのは酷な話だ。 「ねぇ、何をするつもりなの?」 怪訝そうな顔で問いかけてくる自分の主人に、諏訪子は片目をつぶって応じた。 「このままだと、鬼の酒しか飲めなくなりそうだしね」 「うーん、わけわかんないよ」 頭を抱える諏訪子の主人。その上を、別の人物の言葉が飛び越えた。 「なるほど、それは面白そうですね」 「さすが天狗、酒の話になると早いね~」 「もちろん、酒の話じゃなくても速い(*28)んですけどね」 言わずとしれた射命丸文と、その脇には疲れた笑みを浮かべるシエスタの姿が あった。先程から延々と取材と称して引きずり回されていたようだ。 うきうき、といってもいいような様子の文の機先を制するように、神奈子が釘を刺した。 「でも取材は禁止だよ」 「……まぁ仕方ないですね(*29)。あまりに派手すぎるでしょう。 本当に出来るのならば、ですけど」 「おや、天狗が神々の力を疑うのかえ?」 「滅相もない。でももう時間がありませんよ」 「十分だよ。今から日没まで使えるなら、ね」 あまりにも端から聞いていると要領の得ない会話。その会話に口を挟んだのは、 神奈子の主人となった男子生徒だった。 「しかし、午後の授業が」 「気にしない気にしない」 「そんなわけには行かないわよ」 「もう、お堅いな、ご主人様ってば」 穣子とその主人のやり取りを眺めていた文は、今思い出したというように声を上げた。 「そういえばミス・ヴァリエールでしたか、あの霧雨魔理沙の主人の。 彼女も使い魔と共に出かけたようですね」 「なら問題ないわね」 えー、あんなのと一緒にしないでよ、などと抗議の声をあげながらも、四人の貴族は 四人の神々に引きずられていった。後に残るのは、二人だけ。 「あの……」 「はい、なんですか?」 シエスタは文に恐る恐る問いかけた。 「一体何が起きるんですか?」 「そうですねー」 一瞬考え込んだ文は、いいことを思いついたばかりに手を叩いてみせた。 「そうだ、シエスタさんも来るといい」 「え?」 「取材に付き合ってくれたお礼ですよ」 「はあ……」 「じゃあ、私は別の取材(*30)があるんで、これで」 一体何がどうお礼なのか、ということを聞く間も与えず、挨拶もそこそこにいなくなる文。 あとには、何が何だかわからないシエスタだけが残された。 一瞬、行かずにおこうかとも考えたが、後のことを思ったシエスタは、深くため息を吐いた。 昼食の片付けを終え、雑用をこなしていると、時間は終業時刻になっていた。 「南、でしたよね」 具体的な場所は分からないが、門番の人にでも聞いてみれば何か知っているだろう。 同僚に断りを入れ、まずは門に向かう。南の門の外は確か街道がある他は、特に何も なかったはずだ。一体何がどうなっているというのだろう。 しかし門まで近づいても、特に何もない。知り合いの門番も、退屈げにあくびをしながら 突っ立っている。どうしよう、と途方に暮れたシエスタだったが、その門番が、シエスタの 姿を見かけると声をかけてきた。 「お、シエスタ、人が待ってっぞ」 そして声を潜め、ついでに眉も顰めて問いかけた。知り合いか、と。名前は、と尋ねると、 門番はさらに眉を顰めた。テングの使い、と名乗ったという。 シエスタは溜め息を吐き ながら答えた。知り合いです、と。 「で、その人はどちらにいるんですか?」 「ほら、そこにいるじゃないか」 門番の差す方を見ると、見慣れない服を纏った少女が門の支柱に寄りかかるように 立っていた(*31)。この人も、呼び出された使い魔だったろうか。 シエスタが近づくと、声をかけるより早く身を起こし、じゃあ行きましょう、と踵を返した(*32)。 慌てて追い掛け、横に並ぶ。 「あの……」 「はい?」 シエスタの呼び声に振り返り、人の良さそうな笑みを浮かべる。 「あなたも、ヨーカイなんですか?」 「ええ、そうよ」 「……普通の人間みたいです」(*33) 「あはは、よくそう言われるわ」 まぁ、妖怪にも色々といるから、とその女性は照れくさそうに頭を掻いた。 その紅美鈴(ホンメイリン)という名前の妖怪は、使い魔として召喚される前は門番を やっていたという。色々とそつのない力が、当時の主人に買われたそうだ。 「それで、一体どこにいくんですか?」 二人は門を出て、さらに道を外れて歩いていた。この先には特に何もあるようには 見えない。後ろを振り向くと、門番が二人を気にした様子もなくあくびをしているのが 見える。 「そうね、ちょっと目を閉じててくれる?」 「え?」 「三つ数える間だけ。ね?」 美鈴はそういうとシエスタの瞼の上に手のひらをかぶせてきた。慌てて目を閉じる。 次いで、肩にも手をかけてくれたので、歩くのに支障はない。 「一つ、二つ……」 数を数えながら歩を進める。 「三つ。はい、いいわよ」 言われて目を開ける。そこに広がっていた風景は、先程とは一転していた。 それは一言で言えば、金色の絨毯。つまり、実りの季節を迎えた畑であった。 もちろんそれ自体は、シエスタも見たことはある。しかし今は春。それにここは 昨日まで、何もない荒れ地だったはずだ。 それに大体、先程まで――美鈴に言われて目を閉じるまでは何も無かった筈だ。 幻でも見ているのだろうか? しかし、風が金色の穂を揺らす音までも聞こえてくる。 香ばしいような、どこか郷愁を誘われるような匂いは、この作物のものだろうか? 僅か三歩進んだだけで、どこまで来てしまったのだろう。シエスタは恐る恐る 後ろを振り返った。が、そこには普通に学院の建物が見える。門の脇に立っている 門番も、何事もないようにあくびをしている。 「あれ? なんで分かっちゃったの?」 その声に振り返ると、そこには小さな姿があった。妖精が三人、不満気に シエスタを見上げている。その様子に、美鈴が口を挟んだ。 「だから、あなたたちの力は私には効かないって、何度言ったらわかるの?」(*34) もー、反則よ、などという美鈴と妖精達のやり取りだが、シエスタはむしろ目の前の 風景自体の方が反則だと思った。昼間に漏れ聞いた会話が事実なら、あれから 今までの時間に、実らせてしまったのだろう。それがあり得るかどうか、ではなく、 起きてしまった事実なのだ。 ただ風に揺れているそれは、シエスタが見慣れているものと微妙に違う。 麦だったら、もっと天を向いて穂が立っているはずだが、これは重そうに頭を 垂れている。もしかして妖怪達の食べ物なのだろうか。だから速く育っただろうか。 「そこのあなた!」 不意にシエスタに声がかけられた。 畑に気を取られていたが、その手前には昼に出会った四組の貴族と使い魔がいた。 この声は、その貴族の一人からかけられたものだ。ずいぶんと必死な形相だ、と シエスタは他人事のように思った。 「あなたには、これは何が……どんな風にどうなってる様に見えるの?」 なんともよく分からない質問だが、シエスタは言われた通り、目の前の風景を答えた。 「はい。何か、麦のような作物が、実っているように見えます」 「やっぱり……そうなのね……」 そのまま崩れ落ちるように膝をつく女生徒。一方その横で胸を張る、人間の子供の ような使い魔。その後ろではよく似た使い魔が、自分の主人であろう男子生徒に、 ほら幻覚じゃないでしょ、と話しかけていた。 「魔法で幻覚でも見せられてる、って方がまだ納得できるのに」 「だから、本当に穣ってるのよ。さっき自分でも触ったでしょ」 「まったくだ。お陰で靴が泥まみれになってしまったじゃないか」 どうやら、目の前の風景が幻覚かどうか、ということらしい。先程のシエスタへの 問いかけも、自分以外の人間に同じ風景が見えているかを確認したかったようだ。 「だがこの作物は見たことがない」 別の男子生徒の問いに、この中で一番威厳のある使い魔が答えた。 「これは米よ。ここ(*35)にはないのかもしれないね」 そういうと、意味ありげにシエスタに視線を向ける。 「そんな名前の食べ物、聞いたことはない?」 「いえ……どこかで聞いた気もするんですが……」 「曾祖父に関係することよ」 「……そういえば曾祖父が亡くなる直前に、コメが食べたかった、と 何度も言っていたとか聞いたような気がします」 それが何なのを確認できないくらいに、曾祖父が老いたころの話だった。シエスタも、 他の話のついでに聞いただけのこと。だから別に感慨とかはない。 「それが、これなんですか」 それにこれだけを見ても、まったく美味しそうには見えない。そもそも、どうやって 食べるものなのかも検討がつかない。これも小麦と同じように、臼でひいたりするの だろうか? 「そうよ!」 突然、膝をついていた女生徒が立ち上がり叫んだ。そしてピシリ、と、またあくびを している門番を指差す。 「なんであの門番は平然としてるのよ! そうよそうよ。きっと私達だけ幻覚を見てるんだわ」 「……いい加減、現実を受け入れたら?」 先程から、ケロちゃんすごーい、と、自分の使い魔(*36)に抱きついていた女生徒が、 溜め息をつきつつ叫んだ女生徒の肩を叩いた。 「よくわかんないけどすごい力を持ってることが分かった。これでいいじゃない」 「あなた、よくもそう簡単に割り切れるわね」 「割り切ってないよー。 結局、何がどうなって、こういう状況になってるのか、さっぱりわかんないし」 とはいえ、その顔はどこか嬉しそうだ。 「でも、こんなすごいことができるのが知れたら、大騒ぎになっちゃうかな?」 「大丈夫よ。妖精に誤魔化すように頼んであるし、結界も張ったから。 普通の人間には、何も無いように見えるのよ」 「へぇ、よくわかんないけど、ケロちゃんすごいねぇ」 「あぁ、もう、それはいいから。それに……」 「それに?」 諏訪子は意味ありげに神奈子を見た。神奈子もそれにうなずき返す。 「普通じゃない人には見えちゃうから。ねぇ?」 「そのようね」 そういうと二人の神々は、中空に対して手を振った。 学院長室で遠見の鏡を覗いていた二人は、この神奈子と諏訪子の様子に引きつった 笑いを漏らすことしかできなかった。 「やれやれ、とんでもないの」 「あれも、この使い魔のルーンが関係しているんでしょうか?」 コルベールの言葉に、オスマンは頭を振った。 「ここにはキリサメマリサはおらん」 「しかし、仲間のようですし……」 「それにその本に書かれていたじゃろ。全ての魔具を使いこなす、と。 あれは私が知ってるどんなものとも違うわい」 そういうと視線を遠見の鏡に移した。未だ、コメの畑を映している。そして手元の 本に視線を落とす。コルベールが先程持ち込んだ本だ。 「神の頭脳、ミョズニトニルン。伝説の使い魔。 確かに本当だとしたらすごいことじゃがな」 「しかし、ミョズニトニルンが関係ないとすると、あれだけのことをやってしまう ヨーカイとは一体……」 その後二人の会話は、王宮に報告する、しない、といった内容に移っていった。 ヨーカイが大量に呼び出されたと言うことは、もはや衆目の事実だ。何も連絡しない のは不自然だろう。ヨーカイについてだけ、報告のみ行おう、と話がまとまったところで、 不意にコルベールが声を上げた。 「誰ですかっ!」 しかし応えはなく、ただ一度、バサリと羽音が聞こえたのみ。窓の外を見ると、一枚の 黒い羽根が風に舞っていた。 その羽音と羽根の主である文は、十分に学院長室から距離を取ると懐からメモ帳と ペンを取り出す。 「なるほど、伝説ですか。これは特大スクープの予感ですね」 要追加調査、と書きこみつつ、文はにんまりと笑うのであった。 夜。シエスタは疲れた顔を隠そうともせず、蒸し風呂へと続く通路を歩いていた。 ふと立ち止まり、服の臭いを嗅ぐと、眉をしかめる。そして溜め息をついた。先程まで 洗っていた鍋の臭いが移ってしまった気がする。 全てはあの、キリサメマリサの所為だ。まさか貸した鍋が、こんな臭い付きで返って くるなんて。何とか臭いを落とそうと努力はしたものの、逆に自分の方に臭いが移った 気がする。 明日マルトーさんになんて言い訳しよう。そう考えながらサウナの入り口にたどり着いた シエスタは、中の様子に怪訝な顔になった。 なぜこんなに騒がしいのだろう。 脱衣所を覗き込むと、色とりどりの服が辺りに脱ぎ散らかされている。服のサイズも 様々だ。そのいくつかに見覚えがあることを思い出し、シエスタは後ろを向いてそのまま 帰ろうかと思った。が、数秒の逡巡の後、のろのろと脱衣所に入りメイド服を脱ぎ捨てる。 さすがにこの臭いを部屋にまで持って帰るわけにもいかない。 素肌にタオルを巻き付け、意を決して蒸し風呂へと続くドアを開けた。 ムアッとする蒸気と共に、歓声のよう笑い声が響く。 「えー、しんじられなーい」 「月が一つだけなんて、おとぎ話にもないわよ」 「あたしからすれば、月が二つもあるってのが驚きだよ」 大げさに肩を竦める様子に、また笑い声が起きる。笑っているのは学院で奉公して いるメイドたち。その輪の中心にいるのは、見覚えのない女性であった。いや、どこかで 見たような気もする。その豊かな胸回りにシエスタは微妙な敗北感を感じた。 「それでコマチさんは――」 「ああ、小町でいいよ」 そんなに他人行儀じゃなくて、と親しげに笑う様子につられ、また笑いが起きる。 シエスタもその笑いの輪の端に腰を下ろした。 あたりを見回すと、このコマチの他にも見慣れない者達の姿が見える。猫の耳と 尻尾を持った少女が、「水に入らないお風呂っていうから騙されたー」とへたり込んで いる。(*37) 妖精たちが、我慢競べをしている。身じろぎもせずに座っている少女の 周囲には、白っぽい固まりがまとわりついている。宝石のような飾りのついた羽を 背負う少女が、興味深げに蒸気の元を覗き込んでいる。そんな者達をなにやら熱の 籠もった視線で見つめる同室の同僚に気がついたが、シエスタは見なかったことに して目を逸らした。 「それでコマチは召喚されるまで何をやってたの?」 「ああ、あたしは船頭をしてたよ」 「船頭……?」 「こんな小さな船なんだけどね。客を乗せて川を渡るのさ」 身振り手振りでその船の大きさを示したり、実際に櫂を漕ぐ様子をやってみせる。 「いろんな人を乗せたよ。男も女も、老いも若きも」 「へぇ、流行ってたのね」 「いやー、そうでもなかったなー」(*38) 大して儲からなかったしね、と、おどけた様子に、また笑いが広がる。 周りを見れば、他の妖怪たちもこちらの様子をうかがいながら、笑みを浮かべていた。 微笑みから苦笑まで、いろいろな笑みだが。 「あの、コマチ……さん」 そんな空気の中、シエスタがおそるおそる声をかけた。そして言葉に詰まる。 問いたいことはある。しかし、なんと聞けばいいんだろう。 しかし小町はシエスタを振り返ると、 「ん? ああ、シエスタだっけ? なんだい」 と、名前を呼ぶではないか。固まるシエスタに気づいたのか気づいてないのか、 同室のメイドが不思議そうな声を上げた。 「あれ? シエスタのこと、知ってるの?」 「ああ、ちょっと昼間、あたしの上司……いや、元上司に絡まれてたみたいだったから」 「えーっ?」 「いや、あの人、ちょっと説教好きっていうか、首を突っ込むのが好きっていうか」 いったい何をやったのよ、と隣に座ったメイドが腕を突っつく。 みなの注目を集めていることにも気づかず、シエスタは問いを放った。 あの四人の中の一人の部下、ということはつまり―― 「じゃあやっぱり、コマチさんもヨーカイなんですか? 人間じゃなくて?」 人間ではなく、のところで喧噪が止まった。シエスタに向かっていた視線が、 今度は小町に向かう。その視線に気づかないのか、小町は暢気そうに答えを返した。 「んー、まぁ、人間か人間じゃないか、っていったら、人間じゃない方に入るかね」 その言葉の意味をみなが理解するより早く、小町は次の言葉を続けた。 「でもそれは、平民か貴族かって違いぐらいしかないよ」 それを聞いていた妖怪たちは、心の中でツッコミを入れた。それは違う、と。 もっともそれを口に出さない程度の分別があったのは幸いだった。 そんな周囲の反応に気づかず小町は、生きとし生けるものはみんな同じさ、と 呟くと目を閉じ、上を見上げた。 「生まれ育ち、競い争い、愛し愛され、疎まれ惜しまれ、死んでいく」 詠うかのような言葉。流れるようなその一言一言が奇妙に重い。シエスタは、肌を 流れる汗が妙に冷たくなったように感じた。 しかし、小町が目を開け再び笑みを浮かべると、その重い空気は一気に払拭される。 「一番楽しいのは、愛し愛され、のところだね」 そして聞き手であるメイドたちを見回し、問いかけた。 「みんなにもいるんだろ、お目当ての人くらいさ」 一瞬の間が開き、黄色い声が響いた。厨房の誰がよい、馬小屋の誰がよい、などと いったとめどもない話で盛り上がる。小町はその様子を、楽しげに眺めていた。 そしてシエスタはそんな小町のことを、不思議そうに見つめていた。 夜。シエスタは自室のベッドで眠れずにいた。寝返りを打つと、同僚が怪しい笑顔を 浮かべた寝顔のまま枕に抱きついているのが目に入る。 「うふふー、ふらんちゃんー」 フランとはあの七色の飾りのついた羽を持つ吸血鬼の少女のことらしい。 そう、吸血鬼なのだ。だけど彼女は、寝言に出してしまうほどその吸血鬼のことが 気に入ってしまったようだ。 他のメイドたちも、この奇妙な使い魔たちを受け入れてしまっている。昨日までは こんなことになるなんて思ってもいなかった。今日も昨日と同じような、普通の日々が 続いていくと思っていた。 すべてはこの、祖父のおとぎ話の中にしかいないと思っていた妖怪の所為だ。 しかし祖父の話とは違うこともある。決して恐ろしいだけの存在ではないということだ。 メイリンという妖怪も、コマチという妖怪も、人間と変わりがない様子だった。少なくとも、 身の危険を感じないくらいには。昼に取り囲まれた四人はちょっと怖かったけど。 明日からどんな日々になるのだろう? 少なくとも、今までの日常とは違うだろう。 でも、どんな日々? そんな風にいろいろと考えているうちにシエスタは眠りにおちて いた。 もっとも眠りに落ちる直前に鍋のことを思い出してしまったシエスタは、なぜかキノコの お化けに襲われる悪夢を見てしまうのだが、それは別の話。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 悪魔の犬 *3 な、なんだってーっ *4 げげっ、人間!? *5 小町の能力的に *6 縦回転もあるよ *7 言わずと知れた竹取物語 *8 因幡の白ウサギの話は不名誉だろう *9 目をつけられた、ともいう *10 アリスしか分からない差異 *11 中には入れてくれなかったらしい *12 色んな意味で *13 懼れてくれるという反応が心地よい *14 妖怪としては最年少。この場では *15 そして貧乏貴族でなかったら *16 お仕置きもブレインよ、といったところか *17 ある晴れた昼下がりに、市場に続く道で起きた出来事を歌ったもの *18 弾幕ごっこで覚えたか *19 アリスの介入が無くともギーシュが一方的に殴られて終わるのだが、そんな別世界の出来事は分からない *20 宝物庫が襲撃されても、相手がトライアングルだと躊躇するような人たちですから *21 ルーミアやチルノですら、弾幕ごっこの取り決めを理解し、守っていた *22 妄想 *23 ⑨っと *24 坤を創造する程度の能力 *25 可愛さではなく *26 心情的には、*おおっと* *27 親交=信仰であるならば、十分に信者 *28 ありがちな言葉遊び *29 映季様が見ている *30 別の面白いこと *31 シエスタを待ちつつシェスタ *32 垂らした涎が見えないように *33 涎の後を発見しての発言と考えると面白い *34 気を操れれば、見えずとも聞こえずとも問題なし *35 この世界/この地域 *36 使い魔は迷惑顔 *37 自分の汗で水浸しになるのは馬鹿馬鹿しいだろう *38 働いてなかっただけ 前ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4299.html
135 名前:1/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 42 00 ID EbOQI9el 使い魔さんともう一度きちんと話したい…… そう思っていた。 「お手伝いいたします。」 アニエスはそう言ってくれた。 今、学園に、使い魔さんを迎えに行ってくれている。 入念なリサーチの結果、アニエスが予約したのは 『魅惑の妖精』亭、使い魔さんとルイズが働いたこともあるお店。 過密スケジュールで空けた今日という日…… この一月、どれだけ仕事が大変だったことか…… ここに来るのも、アニエスがサポートにサポートを重ねて…… ドキドキする。 心地よい緊張感。 軽い足音がドアの前まで跳ねる。 トントンと、小さなノック。 「ど、どうぞっ」 やだ…声が詰まる。 ドアが開くと……そこには……黒髪のメイド? 136 名前:2/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 42 32 ID EbOQI9el 学院長の部屋に、アニエスが入っていった。 (珍しい客ね) 私とサイトが戦争に行っている間は、結構来ていたらしいけど。 お行儀は悪いけど……こっそり近づいて聞き耳を立てる。 「後ほど、シュヴァリエ・サイトをお借りしたいのですが……」 なぬ? 「ほう、また何故?」 「戦争の現状について、聞きたい事が有ると陛下が仰せですので。」 ……ひーめーさーまー、またかっ、またなのかっ? 「ふむ、では後ほど使いをやって、向かわせましょう、先にこの書類ですが……」 「はっ、そちらにつきましては……」 こんな事してる暇はない。 部屋まで走る。 「サイトっ」 「うぁっ、なんだルイズいきなり。」 「出かけるわよ」 「は?」 「すぐに……遠く……あ、馬用意なさい」 「へ?」 「どれくらい上達したか見てあげる」 「まて、ルイズ、俺今から隊の集会が…………」 「用意するのっ!!!」 「はいっ」 最初からそう言って。 「馬小屋前に、5分後急ぎなさいっ」 サイトはぶつぶつ言いながら走り出した。 私も出かける支度をする。 ……シエスタも……あれ? …あぁぁぁぁぁ、二人っきりで……おでかけっ? ……櫛、櫛どこっ、あぁぁぁぁぁ服も…… 乗馬だったら動きやすくて……かわいいのっ。 ……この辺に……あれ? あーーーっもうっ、どこに仕舞ったのよ、サイトのバカーーー。 うーーーっ、あ、そうだ……し、下着……とか…も? ルイズがサイトと落ち合ったのは、実に30分後であった。 137 名前:3/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 43 04 ID EbOQI9el 「あの……貴方は?」 「あ、私、シエスタと申します。シュヴァリエ・サイト付のメイドをやらせて頂いております。」 あ、貴方が……あの時の命令で付いたメイドなのね。 「その……サイトさまは?」 「シュヴァリエ・アニエスからの言伝です。『ミス・ヴァリエール逃亡、直ちに追撃に入る。しばしのお待ちを』との事です」 ……使い魔さん、連れて行かれたのね…… 肩の力が抜ける。 「はぁ……」 「あの………」 私の落胆を見た、……シエスタが心配そうにしている。 「あら、失礼、サイトさんに用事があったものだから……」 「あの……」 「あぁ……私は……アン、アンよシエスタ。」 少し遊び心が出てくる。 「そのっ……貴族の方ですか?」 「私は、貴族に使える身よ、そして貴方達にもね。」 今の私の実感。 「えっと……」 「それよりシエスタ、学園でのルイズや……サイトさんのお話、聞きたいな」 「はいっ、良いですよ。」 アニエスが来るまでの時間も、退屈はしなくてよさそうだ。 138 名前:4/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 43 39 ID EbOQI9el 「もっと力を抜いて……そうそう」 「……なぁ……」 「なによ?」 「遅れてきて、何も言わないのは……まぁいいや」 「……こ、これでも急いだのよっ」 「教える側なのに、前に乗ってるのも……いいか……」 「だっ、だって……前見えないじゃないっ」 「なんで……こんな獣道を、こっそり動くんだ?」 「………追っ手が……」 「追っ手ってお前、なにしたんだよ?」 「う、うるさいわねー、良いから前向いてっきゃっ」 足場が悪い所為で、少しゆれて……サイトの胸に飛び込む。 ………あ 「わ、悪い……そのっ」 サイトのドキドキが……聞こえる。 「どこか打ってないか?痛いところ無い?」 サイトが恐る恐る聞いてくる…… 「平気……」 緩みそうな顔を、一生懸命引き締めながら答える。 「良かった……」 安心したサイトが、私の頭をクシャっと撫でた。 「あっ」 「えっ、痛かった?」 ………… 「うん、痛かった」 「うそっ、どこっ、ちょっと……」 「だから……撫でて」 「は?」 「痛くないように……さっきみたいに撫でなさい」 うれしかったんだから。 139 名前:5/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 44 12 ID EbOQI9el 「もーミス・ヴァリエールったら、サイトさんにメロメロな癖に、一生懸命とぼけ様としてるんですよ。」 ルイズらしい。 「それで、いつもはどんな風なんですか?」 「サイトさんがいる所だと、強きな癖にですね」 「えぇ」 暫く溜めたシエスタが、一気に喋る。 「姿が見えなくなると、子猫みたいにオロオロ探すんですよっ!!」 「まぁ」 ルイズ……かわいい。 「しかもっ」 「まだ有るの?」 「えぇ、もちろん、見つかるとまた目を逸らしてっ」 「強情ねぇ」 「声掛けて貰えるの待つんです。」 「もぉ、あの子ったら……」 「声掛けて貰った途端に、表情変わるんですけどっ、サイトさんのほう向くときは一生懸命無表情!!バレバレなんですけどねっ!!」 くすくす笑う私に、シエスタはまだまだ喋る。 「もし用事なんかで声かけて貰えなかったときなんかっ」 思わず身を乗り出す。 「こーーーんな顔するんですよっ」 今にも泣きそうな顔の真似をしてくれる。 「かっ、かわいーーー、ルイズかわいーーー」 一緒になって笑う。こんな時間は始めてかも知れない。 ひとしきり笑ったところで気が付いた。 「喉渇いたわね、シエスタ」 「えぇ、何か用意しましょうか?」 素早く立ち上がるシエスタ、使い魔さんのメイドは優秀みたい。 「いいえ、ここに用意してありますわ」 各種の飲み物と、軽い食事。 「食べちゃいましょう」 「そうですねっ、飲み物は……これですか?」 「えぇ、好きなだけどうぞ」 結構良いお酒らしいけど、使い魔さん飲むか分からないですし。 「空けちゃいましょうね」 シエスタが手際よくグラスを二つ用意して、ワインを注ぐ。 「あーお酒かぁ……」 「飲めないの?」 「んー、飲めないというか……」 「のめるなら良いじゃない?」 「……そうですかね?」 「そうよ」 「………いいかっ、アンさんいい人だしっ」 ちょっと照れる。 「では、シエスタ、二人の出会いに」 「「かんぱーい」」 140 名前:6/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 44 43 ID EbOQI9el サイトにぺったりとくっ付いたまま、馬で獣道を進む。 サイトの体温が背中に残る……幸せ。 さっき頭を撫でてもらってから……お互い意識して、何も喋ってないけど…… 沈黙が気持ちよかった。 少し開けたところに出た、今だ。 「サイト」 「な、なんだルイズ」 「お昼にしましょう」 「……お前が作ったの?」 ……なによ、その沈黙。 「そんな時間無かったから……でがけに食堂で買ったの、お弁当」 ……ほっとするなぁぁぁぁぁぁ 「いっ、いつかっっっ」 おいしーの作ってっ 「うん、待ってるな」 サイトが何もかも分かってるように笑って…… 見とれた私は、サイトがキスするまで動けなかった。 141 名前:7/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 45 16 ID EbOQI9el 陛下に申し訳ない…… サイトは結局見つからなかった、中間報告をしに『魅惑の妖精』亭に訪れた。 陛下の部屋の前で、宿の主人が蒼白の顔で立ち尽くしていた。 「なにごとっ」 思わず、主人を押しのけて部屋に踊りこむ。 「あらー、あにえしゅしゃん、いらさーい」 「あーあにえすだー」 は? 世界が真っ白になる、へ、へいか? 「シ、シエちゃんが……シエちゃんが……飲んでる……」 「なぁぁぁぁんですってぇぇぇぇ」 宿の娘が走ってきた。 「ひぃぃぃぃぃ、ダメじゃないパパっ、シエスタに飲ませたら……」 「お、おわりよぉぉぉぉ」 「あーおじしゃま、じぇしかたん〜、げんき〜?」 青ざめた顔で、ガクガクと首を振る店主達……… 「おい、そんなにまずいのか?」 思わず、娘のほうを捕まえて聞いてみた 「そのっ、悪気は無いんですけど……あの状態のシエスタって……人の弱点をズバッと一言で付くんです、言われたくないことを……そのっ」 「あーすかろんおじしゃま、じぶんのぉ、したぎと、じぇしかのを一緒に買った時、混乱していた店の人、お元気でしゅかぁ?」 「わ、わすれてぇぇぇぇぇぇ」 なるほど 「じぇしかぁ〜」 「な、なあにぃ?シエスタ」 「こないだのぉ、男の子と上手く行きましたか〜?」 「何だとぉ、どこの馬のほねだぁ?」 いきなり店主の声が太くなった。娘が逃げ始めて、私一人になる。 ……悪い予感がする。 「シエスター、さみしーの、わたしのあいてもしてー」 「もー、あんちゃんったら、あ・ま・え・ん・ぼさんっ」 い、いちゃいちゃしてる……陛下と平民がいちゃいちゃしてる…… 凄いぞシエスタ……いい具合に、シエスタの気もそれたし…… 「あーしってるぅ?あんちゃん」 「なーにぃ、しえちゃん」 「そこの、あにえすさんねー」 え? 「このあいだーさいとさんみつけたときー」 ……まさかっ 「いっしょにーむらでー、ごにょごにょしながらー」 まてーーー、ヘンな隠し方をするなー剣の稽古だっ稽古っ 「さいとさんといっしょにぃ、おしごとさぼってたんですよー」 ……………へ、い……か 「ず」 ず? 「ずるーーーい、アニエスばっかりするぅぅぅぅい」 は? 「んーーーアニエス」 シエスタがわたしを睨んでいる 「お前も飲め」 陛下が向こうで叫んでいた…… 「のめー、あにえすー、のむのだー」 ……何?この地獄絵図。 溜息をついて……ワインを飲み干した。 142 名前:8/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 45 48 ID EbOQI9el 「おー」 獣道を踏み越えると、小さな水場に付いた。 「素敵……」 ルイズが見とれていた…… 少し開けた森の中に、憩いの場所のような水場、向こうのほうで小さな動物達が水を飲んでいた。 「綺麗ね……」 見惚れているルイズの瞳に、水場で跳ね返った陽光が映っている。 「うん……綺麗だな……」 「来て良かったわよね?サイトっ」 「そうだな」 はしゃぐルイズを馬から下ろして、自分も降りる。 馬を繋いでいる間に、ルイズはあちこちを嬉しそうに見て回っている。 森の中の楽園ではしゃぐ、魅惑の妖精の様だった。 「天国って……こんなところなのかなぁ……」 「サイトーーー、早く来なさいよ、水っ、気持ち良いわよ」 「おうっ」 ルイズに向かって走り出す…… 側まで付くと、少し水をすくってルイズの方に…… 「きゃっ、もうっ、サイト、やったわねっ」 力尽きるまで、二人ではしゃいだ。 143 名前:9/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 46 30 ID EbOQI9el 「だいたいーミス・ヴァリエールはぁずるいー」 「ずるいー」 「いっつも、さいとさん、ひとりじめー」 「じめー」 ……どうしよう……これ。 陛下は楽しそうに、シエスタと……何本空けてるんだ? 数えるのが怖い…… 「あにえしゅー、のんでますかー」 「はっ、陛下」 「うむ、よしっ」 「へいかー?」 「んー、わたしへいかー、でもーおんなのこなのー」 「おーわたしも、おんなのこー」 「「おんなじー、イエー」」 息ぴったり…… 「きいてーしえちゃぁぁん」 「きくよー、あんちゃん」 「わたしぃ、おともだちいないのぉ」 「えーうそぉ」 「こないだね、ルイズにもきらわれたの」 「だいじょうぶよぉ」 「?」 「ミス・ヴァリエール、きらいっていっても、うそだってぇ」 「そ、そうかなー」 「それにぃ」 「んー?」 「もーわたしも、おともだちだよー」 「え……ほんとー」 「うん」 陛下が楽しそうだから……いいか。 「あー、あにえしゅしゃん、よってねい」 「うみゅ、よってねぃ」 「「のめー」」 ま、まって……… 私、実は下戸――――― 144 名前:10/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 47 02 ID EbOQI9el 俺はルイズのほうが見れなくなっていた…… 水を掛けたせいで……服が…… 「どしたの?」 「いやっ、なんでもない」 ルイズは気づいてないみたいだけど…… 「ほんとーになんでもないの?」 「う、うん、なんでもない」 「じゃあ、何でこっち見ないの?」 「いやっ、そのっ……」 気づいてない……はずだ。 「サイト……」 「なに……」 常に上を見ながら答える。 「サイトなら………見てもぃぃょ」 何か聞こえる。 濡れてる俺の服にぴったりと暖かいルイズの身体が当たる。 「こうしたら……寒くない……わよね?」 「そ、そうだなっ」 「風邪引かないためには、仕様がないわよね」 「そうだよなっ」 いつの間にか町の側まできていたので、 『魅惑の妖精』亭に着替えを借りに行くことになった。 ……ゆっくりと向かう道中で、たっぷりルイズの体温を堪能した。 145 名前:11/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 47 34 ID EbOQI9el 私たちが『魅惑の妖精』亭に付いた途端、店に上げられて…… 「なに?これ?」 シエスタと……アニエスと……ひめさまぁ? 「あーやっときたー」 「おー、ヴァリエール、お前も飲め」 シエスタが……変。 「私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて」 部屋の隅っこで、アニエスは三角座り……なんで? 「るっいっずっ、のみましょーよぉ」 ……姫さまは壊れてるし………… 「どうする?」 サイトが後ろから聞いてくる…… 「……どうしよう……」 結局潰れるまで相手するしかなかった。 146 名前:12/12[sage] 投稿日:2006/10/17(火) 23 48 05 ID EbOQI9el 頭は痛いけど……… みんなで飲むお酒がこんなに楽しいとは思わなかった…… 新しいお友達の、シエスタ……また、皆で騒ぎたいね。 「アニエス」 「はっ、陛下」 ……返事は格好良いけど……斜めに立ってるわよ? 「帰る」 「申し訳有りませんでしたっ」 ちょっと笑う。 「いいえ、アニエス。稀に見る有意義な休日だったわ。」 私は私の戦いのため、王宮へと向かった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8666.html
前ページ次ページ使い魔は四代目 意識を取り戻したシュヴルーズはあっさりとルイズの謝罪を受け入れた。 幸いにして怪我が無かった事、キュルケが制止したのにやらせたという負い目があった事、等もあり自分が爆発に巻き込まれ気絶した事に関しては叱責したりせずに不問にした。 が、それで終わり、とは流石に行かなかった。シュブルーズはそれとは別に教室を破壊した罰としてルイズに後片付けを命じた。 そして、その上で片付けの際に魔法を使う事を禁止したのである。 もっとも、まだ魔法を使えないルイズにとっては無意味なペナルティであったのだが、だからといって事態が好転するわけでもなかった。 今こうして、皆が去った教室でルイズがただ一人、散々溜息をつきながら後片付けを行っているのはそういう経緯があったのである。 ルイズとて流石に一人では惨憺たる現場と化した教室を片付けるのはきついだろうとは薄々感づいていたのだが… 迂闊にも、この程度まぁ一人でもどうにかなるわ等と見得を切ってしまい、じゃあ任せたとばかりにリュオが手伝いをあっさり放棄してどこかへ行ってしまった以上、一人でやるしかなかった。 「あー、しんどい…しっかし全然終わらないわ…これは予想以上にキツいわね… こんな事なら何としてでもリュオに手伝ってもらうんだったわ」 片付けの手を止めて、げんなりとルイズが呟く。始めてから結構時間がたつが残念な事に余り進んでいない。 が、それも無理も無く、もともと良家の子女であるルイズはこういった作業とはとんと縁が無く、掃除のような雑事は全て使用人に任せていたので、手際も悪ければ手順も悪いのだ。 この後、ここで授業が行われるのなら片付けの途中でも有耶無耶のまま終わる可能性もあったのだが…ルイズにとっては残念ながら、今日はもうこの教室を使用する予定は無かったのである。 「えぇと、やっと半分ってとこかしら…やっぱり、一人じゃ辛いわね…かといってリュオ以外に当てはないし… 悔しいけれど、もしこれがキュルケ辺りだったら鼻の下を伸ばした男達が我先に手伝ってるわよね… くっ…これだからツェルプストーの女は…リュオもリュオよ。全く、形式上は私は主人なんだから察して手を貸してくれても良いじゃない…」 疲労や片づけが進展しない苛立ち、そしてそれを手伝ってくれる友人や、恋人もいないという事が重なり、ルイズの独り言はどんどん恨み節になっていった。 そもそもキュルケはこんな失敗はしないし、こんな事で恨まれてもキュルケだって困るというものだろうが…まぁ、こんな理不尽な恨み言の前では現実は関係無いのである。 そんな不毛な呟きを中断させたのは、教室に近付く足音だった。 それを聞いたルイズはリュオが手伝いに戻って来たのか?と一瞬喜んだのだが、果たして現れたのはルイズが予想だにしなかった人物、シエスタであった。 「あ、あれ?シエスタ?何で?」 「失礼します。ミス・ヴァリエール様。リュオ様から昼食を届けるよう申し付けられたので参上いたしました」 「昼食?ああ、もうそんな時間だったんだ…え?リュオが?」 ルイズは予想もしていなかった差し入れに驚いた。素っ気無く手伝いを断ったからこっちの事はどうでも良いのかと思っていたが、何だかんだで、少しは気に掛けてくれていたようだ。 そう思うと、先程まで散々リュオへ愚痴っていたのが恥ずかしくなったが、態度がはっきりしないリュオが悪い、と自分を無理やり納得させるルイズであった。 「そう…とにかくありがとう。もうくたくたよ…」 割れた窓ガラスの張替えは魔法を使わずに行うと危険だから、という理由で免除されたものの、 煤だらけになった箇所を拭いたり、教壇の残骸を片付けたり…と、肉体労働に慣れていないルイズにとってはそれでも充分ハードであった。 この上に、木っ端微塵となった教壇を新しい物に取り替えねばいけないが、それはまだ手付かずである。 あの重い教壇を倉庫から引っ張り出してここまで持ってくる、その労力を考えると、ルイズは暗澹たる気持ちになるのだった。 「それで、如何いたしましょうか、ミス・ヴァリエール様。お食事は…お部屋まで運びましょうか?」 「ええ、そうしてちょうだ…って、部屋でかぁ…うーん、ちょっと待ってて」 シエスタのその言葉に相槌を打ちかけたルイズは、今から自室まで移動する事を考えて顔をしかめた。はっきりいって億劫なのだ。 勿論食堂か、せめて自室で食べるべきだ。その事は充分承知している。 教室で食事を取るなどはしたない…までは言わないかもしれないが、マナー的に考えて褒められた物ではないだろう。 ここは学ぶ場所であってくつろぐ場所ではない。もしクラスメイトに見られたらまたからかわれるであろう、という思いもある。 しかし、心身ともに疲れきったこの状態で食堂、或いは自室まで移動するのは御免だった。マナーと、疲労とを天秤にかけ、そしてルイズの中では疲労が勝った。 ま、自室まで往復する時間も勿体無いし、この後はこの教室を使う予定も無いし、片付けついでに最後に掃除しておけば問題ないわね、 と内心で幾つか言い訳を並べて自己弁護しながら、ルイズはシエスタに答えた。 「…いいえ、ここで構わないわ。早速だけど用意してくれるかしら。ええと…この席で良いわね。そうそう、冷えた水、ある?」 「ええ、充分に冷えていますわ」 「それは良いわね。じゃぁ、食事の前にまずは一杯頂戴」 「畏まりました。どうぞ」 食事を並べられそうな適当な場所に陣取ると、ルイズの言葉を受けて水の入ったグラスが差し出された。 受け取ったグラスは、シエスタの言葉通り充分に冷えていた。それを額に押し当てて、少しの間その冷たさを味わう。そして一気に飲み干した。 飲み終えてふぅ、と一息つくと、やっと生き返ったような感じがした。乾いて火照った体によく冷えた水がこの上なくありがたかった。 水が体に染み込むような感覚を存分に味わっているうちに、シエスタは手際よく食事を並べ終えていた。 そこから漂う芳香と、今飲んだ水が先程まで感じなかった空腹を猛烈に意識させた。 食堂で出される食事がこれほどまでに美味しそうに見えたのは初めてだった。 ブリミルへの祈りもそこそこに用意された昼食に手を伸ばす。そして、猛烈な勢いで食べ始めた。 そのスピードはルイズが内心呆れ気味だったタバサのそれに匹敵するほどであったが、その事にルイズは気付いていなかった。 やがて、大半の皿が空になる頃には、空腹はほぼ解消されていた。そうなれば多少は気も晴れてくる。 それを見計らったかのように、黙って控えていたシエスタが口を開いた。 「ミス・ヴァリエール。実はリュオ様より言伝を預かっております」 「はひ?ひゃんて?…あう」 何の気なしに聞き返したルイズであったが、すぐに赤面し、口に手を当てた。 気が緩んでいた為に食べながら話すという普段なら絶対にしない失策を犯したからである。 何か溢したわけでも無いし、シエスタも気にした様子が無いのが幸いであった。 (…ここが学院で良かったわね。もしこれが母様の前だったらと思うと、ぞっとするわ… 慣れない事をやって疲れきっていたから、ノーカン…駄目だ、母様がそんな言い訳で納得するはずが無いわ。 大体、魔法の失敗で教室を破壊したって時点で駄目駄目じゃない。一体、どんなお仕置きが待っていたか…) 「ヴァリエール様?」 しばしの間、そういった事に厳しい母親からのお仕置きを連想してしまい、冷や汗を流していたルイズだったが、シエスタの呼びかけで何とか戻ってくると、軽く咳払いして続きを促した。 「分かったわ。聞くから言って頂戴」 はて、リュオの言伝って何かしら。言伝という事は急用や重要な用件ではない筈だけど…、と思いを巡らしていたルイズにシエスタはちょっと逡巡しつつ、続けた。 「ええとですね、そのまま言うので…その、怒らないでくださいね? 『疲れたじゃろうから昼食は用意してやる、精々感謝するが良い。 それでは続きを頑張るのじゃぞ。それと、シエスタにはまだ別の仕事があるゆえ、捗らぬからといって手伝わせるのは禁止じゃ』 だそうです。あ、あの、私の言葉じゃないですよ?これはあくまでリュオ様の言伝をそのまま言っただけでして」 「…そ、そう…他に何か言ってなかった?」 「いいえ、特には何も…申し訳ありません」 …先程は感謝したが、やはりリュオはリュオのようだ。この先も一人でやるしかないようである。 まぁ、応援してくれただけマシといったところだろうか。 だが、誰かの助けなくして教壇を持ってくるのは無理だ。そして、現実問題として助けてくれそうなのはリュオしかいない。と、なると… 「…はぁ、解ったからそんな怯えないで。大丈夫よ、分かっているから。 …まぁ、シエスタはリュオのメイドって扱いだし、リュオならそう言うわよね、あんな調子だし… ああもう、仕方ないか。シエスタ、リュオがどこに居るかわかる?」 「ええと、食堂のロフトでミスタ・コルベールとミス・ロングビルの三人で歓談していらっしゃいましたが…ただ、今も居るかどうかは」 「解ったわ。取り合えず食堂に行ってみるしかないようね。それじゃ、食器の後片付けは頼むわよ」 シエスタにそう声を掛けると、ルイズは立ち上がった。リュオに頭を下げてでも手伝ってもらうしかない、と決意したのである。 「全く…なんでご主人様が使い魔に用を頼むのに一々頭を下げなきゃなんないのよ」 等と、口に出しては見たものの、実際ルイズはそれほど不機嫌なわけでもなかった。 他に道は無いのは分かっていたし、それにリュオは筋を通して頼めば何だかんだで手伝ってくれるだろうと確信していたからである。 「…さて、どう切り出したものかしらね…」 悩みつつ食堂へと足を速めるルイズは、その顔が僅かに楽しそうに見える事には気付いていなかった。 さて、シエスタがルイズに伝えたとおり、リュオは食堂のロフトでデザートを食べていた。コルベールとロングビルは既に退席しているので一人であった。 あの後、シエスタに用を頼んだリュオが戻ってきてみれば、何故かおかしな雰囲気になっていた。 コルベールとロングビルの間に微妙な空気が流れていた。それだけでなく、リュオを見る二人の視線にも妙な物を感じた。 どうにも気まずく、三人の間にしばし沈黙が流れる。それを打開しようとコルベールが色々と話題を切り出してみるが、すぐに途切れてしまう。そして、 「そうそう、ミス・ロングビル。もう一品デザートなど如何ですかな?なぁに、僕はマルトー親父に顔が利きまして、メニューに無いような珍しいデザート等も…」 と言いかけた所で、訪れたメイドが、 「どうぞリュオ様、マルトーさんから新作のデザートの試作品だそうです。いやぁ、リュオ様が来てるって知ったら是非『我等が杖』に味見してもらうんだ、って聞かなくて」 と、見た目にも豪華なデザートを持ってきたものだから、この上なく微妙な空気になった。それが止めであった。 その沈黙に耐えかねて、リュオは 「あー…何じゃ、その、そういう事らしいんじゃが…二人とも食べるかね?試作品という話じゃから、意見は多い方が良いじゃろうて」 と言ってみたものの、それで空気がどうなるわけでもなかった。だから、 「…ははは、いやいや。どうぞ、お食べ下さい。私はもう、満腹でございまして、ええ。おっと、そろそろ次の授業の用意をせねば!失礼します」 「それでは私も失礼いたしますわ。そろそろ仕事に戻りませんと…」 と、気まずそうに次々二人が席を外した時はリュオは心底ほっとした。が…その事をすぐ後悔する事になろうとは、この時リュオは予想だにしなかったのだ。 ロフトに上がったルイズは目指す姿を見つけると、早速声を掛けた。 「随分と、豪勢な物を食べているのね、リュオ」 「全くじゃ。毎回こう豪華じゃ贅沢に染まりそうじゃなぁ。文句を言うのもおかしな話じゃがな。 それはそうと、何の用かな、ルイズや」 「お気楽でいいわね…こっちは大変だったんだから…。でも、昼食を届けてくれた事に関しては素直に礼を言うわ。ありがとう。とても助かったわ」 「なぁに、届けたのはシエスタじゃよ。礼ならシエスタに言うべきじゃな。全く、熱心なのは良いが食事はしっかりとらねばいかんぞ?全ての活力の元じゃからな」 「分かってるわよ。終わったら食べようとは思ってたんだけど」 「で、全く終わらなかったというわけじゃな?」 「…さ、さすがはリュオね!私の事良く分かってるわ!」 「顔を引きつらせつつもお褒め下さるとは実に光栄じゃな。それじゃぁご主人様、続きを頑張るのじゃぞ」 「ちょ、ちょっと待ってリュオ」 話を打ち切られそうだったので、慌ててルイズは食い下がった。ここで終わっては何の意味も無い。 「…待つも何も、食事中じゃからどこにも行きはせんわい。それで、何じゃ?」 「そのね、私一人ではどうにもならない問題があるのよ」 「ほう?というと?」 「壊れた教壇を新しいのに取り替えなければならないんだけど、私一人じゃ重くて動かせそうにないのよね」 「ふむ。確かにルイズ一人で持ってくるのは辛かろうな。それで?」 「…もう。解ってるくせに。意地が悪いわね…あのね、そういうわけだから是非手伝って欲しいの。 お願いします」 そういうと、ペコリと頭を下げるルイズであった。 「ふっふっふ、そうじゃろうそうじゃろう。でなければわざわざここまで来る事も無かろうな。 それはそれとして、手伝ったら世界の半分をくれるのか?」 「……え…?何を…?」 「ふぉっふぉっふぉっ。冗談じゃ。うむ。よろしい。手を貸してやろう。全く、始めからそうやって頼めばわしとて最初から手伝っていたものを…で、教壇はどこにあるんじゃ?」 「そりゃ、やっぱり…倉庫じゃないかしら」 「倉庫…か。そのうち行くつもりじゃったが、意外に早く行く事になったな。よし、早速行こうじゃないか」 「え?倉庫に何の用が?」 「おいおい、忘れおったのか?このルーンに効き目があるかどうか何かの武器で試そうという話になっとったじゃないか」 「…ああ、そうだったわね。思い出したわ。でも、今は片付け優先で頼むわよ。あの時のリストも無いしね」 「それぐらいは心得ておるわい。しかしちょっと物色するぐらいなら構わんじゃろう?面白そうじゃしな」 「はいはい。好きにして頂戴。けど、その代わり教壇の方はしっかり頼むわよ?」 「うむ、任せておけい。だがちと待て。この皿を片付けてからじゃ。…そうじゃ、ルイズも食べるか?」 「え?良いの?始めて見るケーキだし、美味しそうだから気になってたんだけど。じゃあ遠慮なく貰うわよ…う~美味しい!」 「はっはっは、そりゃ良かった。確か試作品の…バーバーロアだかババアロアーとか言ったかな。 わしは始めて食べたんじゃが、何でもソースが今までのと違うとか…まぁとにかくどんどん食べてくれ…と?」 「…何その年寄りか理髪店みたいな名前って…え?」 ルイズにデザートを進めていたリュオの顔が言葉の途中で渋いものになった。怪訝に思い、リュオの視線を追うと、 教室から食器を下げて戻ってきた笑顔のシエスタがクリームたっぷりのパフェを載せた皿を持って近づいて来るところだった。 「リュオ様、これも試作品ですが」 「シエスタよ…確かに美味しいがもう満腹じゃ、そう伝えてくれとさっき言ったはずじゃが?」 「はい!ですからこれで最後です!」 満面の笑みで答えるシエスタ。そこには他意は全く感じられない。 「…そうか、最後か…ふう…」 溜息を吐くリュオをみて、ルイズは何となく察した。テーブルの上を改めて見渡せば、甘い香りの漂う空の皿が、ちょっとした山のように積まれている。 匂いから判断すれば、クリーム系、チーズ系、パイ系、フルーツ系…と、種類も豊富だ。 うわ、いくら美味くてもこれでは流石に… そう思ったルイズは、シエスタに聞こえないよう小声でリュオに尋ねた。 「リュオ、ミス・ロングビルやコルベール先生と一緒って話じゃなかったの?何で一人なのよ」 「いや、何故かどうしようもなく場の空気が気まずくなったんでな、一皿目が出てきた時点で逃げられた」 「そ、そう…じゃぁ、これを全部、一人で?」 「うむ。そういうわけじゃから、ルイズ。お主もしっかり食べるのじゃ、残すでないぞ」 「ちょ、ちょっと…!私ももうキツイんだけど!」 「辛抱せい。タイミングが悪かったと諦めるんじゃ。その代わりばっちり片づけの方は手伝ってやるから、な?」 「あああ…これじゃ一人でやった方がマシだったかも…」 ルイズの嘆きの言葉が虚しく響くのであった。 実際、そのパフェは美味であった。例え満腹であってもまだ食べたくなる魅力があった。 しかし、もう限界の二人にとっては苦行でもある。半ば涙目になって二人は食べ続けた。 「お、美味しい。本当に美味しいけど、お腹が…うぷっ…」 「…なぁルイズ。提案があるんじゃ。片付けは食休みを取ってからにせんか?」 「…異議無し。絶対に異議無し」 どうにか食べきった後、テーブルに突っ伏して燃え尽きた二人がそこにいた。 「…ぐふっ…」 と、一声リュオが呻いた時、皿を下げに来たシエスタが陽気に声を掛けた。 「リュオ様、マルトーさん喜んでましたよ。まだまだ暖めているネタはあるから次の試作品も楽しみにしてくれ、だそうで…どうかしたんですか、リュオ様?」 「シエスタや…その時はせめて量は半分にしてくれ、と強く言っておいてくれ」 突っ伏したままげっそりと呟くリュオであった。マルトーに対し、ある意味二度目の敗北であった。 前ページ次ページ使い魔は四代目
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4527.html
前ページ次ページS-O2 星の使い魔 メイジと使い魔。 メイジは使い魔を扶養し、その所業等の一切に責任を持つ。 使い魔はメイジを、その一命を賭して守護する義務を負う。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 クロードの主にして、魔法の使えぬメイジ。人呼んで『ゼロのルイズ』 そのことを思い知っているからこそ人一倍努力し、誇り高き貴族たらんとする少女。 クロードにとってルイズはかつての自分であり、なりたかった自分そのものだった。 失意に打ちのめされながら、それでも歯を食いしばって立ち上がる。 諦めずに光を求めて手を伸ばし続ける姿が、ひどく眩しく見えた。 彼女には自分のように逃げて欲しくなかった。折れて欲しくなかった。 彼女と一緒なら、自分ももう一度立ち上がれるような気がした。 そう、思っていたつもりだった。 「……さっきの言葉、気にしてんのか、相棒?」 「……だろうな。きっと、気にしてるんだろう」 懐からの声に他人事のような言葉で答え、自嘲じみた笑みを浮かべるクロード。 空には双月が穏やかな光を湛えている。 夕食を終えてからずっと、クロードは一人ヴェストリの広場に佇んでいた。 ルイズには何も話していない。 きっと、帰ったらお説教が待っていることだろう。 もしかしたら今頃はキュルケ辺りに言いがかりをつけて怒鳴り込んでいるかもしれない。何しろ前科持ちだ。 何はともあれ、しばらく一人になりたかった。 ルイズのことを恨んでいるつもりはない。 きっかけや経緯はどうあれ、彼女は自分を新しい世界を連れ出してくれた人だ。 一人の人間として尊敬しているし、魅力的な女性だとも思う。 まあ、その、いわゆる女性的な色気という点においては若干のハンデがあるかもしれないが。 それらクロードの感情は全て、思い過ごしだったのだろうか? そう思うように、知らず知らずのうちに誘導されていたのだろうか? 「俺が言うのもなんだがよ、相棒。 何でもかんでも真面目に考えすぎなんじゃねえのか?」 「……ああ。そうかもな」 そう言ってクロードは天を仰ぐ。 今更デルフに言われるまでもない。これまで散々言われてきたことだ。 自分自身のこと。クロード=C=ケニーとしてのアイデンティティ。 対象が父から主に摩り替わったとは言え、これまでずっと抱え続けてきた悩みそのものである。 今日一日で解決するには話が大きすぎる。 今晩くらいは安酒でも喰らって、何もかも忘れるくらいに潰れてしまおうか。 そうすれば明日は少しはマシな顔になっているだろうか。 そんなことばかりを考えながら、クロードは重い腰を上げる。 「なあ、デルフ」 「ん、どうした?」 「……」 何となしに問いかけたクロードであったが、言葉が続かずに黙り込んでしまう。 聞きたいことはいくらでもあるはずなのに、喉に引っかかって声にならない。 足は進めど口は動かず、クロードの足音ばかりが夜の学園に響いていた。 (……もう少し、気楽に考えられないモンかね) デルフは静かに思う。 何かにつけて、この相棒は問題を自分一人で抱え込んでしまう。 相手に気を遣っているのか、それとも意地っ張りなのか。おそらくは両方なのだろう。 年齢の割には落ち着いているくせに、逆にひどく子どもっぽく見えることもある。 要するにアンバランスなのだ。 その辺が解決すれば、使い手と一人の男としても文句の付けようがない男となるだろうに。 と、不意にクロードの足が止まる。 「おい、どうしたよ相棒?」 「しっ!」 不平をこぼすデルフを黙らせ、顎で方向を指示する。 10メイルほど離れた先には黒い外套に身を包み、辺りを伺う人影一つ。 フードを目深に被ったその表情は夜の闇に紛れて見えない。 「……怪しいってレベルじゃねーぞ」 「……ああ、怪しいな」 いかにも不審人物でござい、と言わんばかりの出で立ちにクロードも迂闊に手を出せず、様子を伺っている。 ここまで来ると、逆にいっそ清清しいと言えぬこともない。 どうする。それとなく呼び止めて職務質問でもしてみるか? それとも不意を付いて実力行使に出るか? だが、状況はクロードにそこまでの余裕を与えてくれなかった。 「───ッ!」 懐から杖を取り出すのを確認し、クロードの顔色が変わる。 弾かれるように飛び出し、併せて足元の小石を拾って前方へと投げつける。 これは攻撃のためではない。狙いはあくまで相手の気を引くためのフェイクだ。 果たして効果は覿面、石つぶての風切りと大地を跳ねる音に、相手は極端なほどびくりと反応する。 これだけハッキリと反応してくれるのならば話は早い。 「うっ……」 ドスッ、という低い音とくぐもった呻き。 クロードの右手が侵入者の腹に深々と突き刺さった。 そのまま正体を失って力無く崩れ落ちるところを左手で抱きとめる。 「っと、すいません」 「お美事。やるじゃねえか、相棒」 懐のデルフが賞賛の声をあげた。 さて、これからどうしたものだろう。 腕にかかる体重の思わぬ軽さと線の細さ、そして声の質からしてどうやら女性らしい。 レディ相手にちょっと乱暴だったかと思わないでもなかったが、 土くれのフーケと言う前例があった以上、仕方が無いことだろうと自分を納得させる。 とりあえず、人目に付くと面倒なので建物の影へと移動する。 そして顔を覆うフードを外すと、思わずクロードは息を呑んだ。 「ほー、こりゃまた別嬪さんだな。 いいとこのお嬢さんか何かじゃねーか?」 デルフの言うとおり、黒衣を除けて月明かりに下に晒されたその素顔は、美少女だった。それもとびきりの。 年の頃はルイズ達とさほど違わないくらいだろうか。 艶やかな紫髪は肩口で切りそろえられ、慎ましくも滑らかなシルクのドレスに包んだ華奢な肢体は、 まさに深窓の令嬢という言葉に相応しい気品を備えている。 先ほどの魔法を使おうとした素振りといい、ド素人そのものと言える反応といい、 デルフの言うとおり、どこかの貴族のお嬢様だろうか。 (……早まったかもしれないな) ここに来てクロードのこめかみにたら~りと汗が流れる。 気付かなかったとは言え、貴族のお嬢様に手を上げてしまったとなれば、これはもう大問題だ。 果たして説教ン時間コースで済むかどうか。下手をすれば肉体言語がセットで付いてくるかもしれない。 もっとも、こんな夜中にこんな怪しい格好をしていた相手だから情状酌量の余地はあるだろう。 とりあえず、こんなところを目撃されてはマズいので、人目につかないように建物の影へと運び込む。 既に自分が不審人物になっている気がしないでもないが、まあそれはそれ。 「で、これからどーするよ、相棒」 「僕一人じゃどうしようもないな。この人が何者なのかも解らないんだ。 誰かに聞かなきゃどうしようもないし、力になってくれる人が居るといいんだけど……」 そう言って辺りを見回すクロード。 と、ちょうど見知った顔が通りかかった。 「シエスタ、ちょっといいかな?」 「え、ちょ、ク、クロードさんっ!?」 煌々と月の輝く夜更け、建物の影にメイドを引きずり込む男が一人。 ますます不審人物一直線である。 「いけません、こんなところで……! あ、でも、こういうのも───」 「ごめんね、シエスタ。この人、誰だか解る?」 軽くトリップしかけたシエスタを鮮やかにスルーして自分の話題に持ち込むクロード。 流石と言うか何と言うか。その一方でちょっぴり残念そうなシエスタであった。 さて、改めて人目につかぬように建物の隙間に運び込んだ黒衣の女性と対峙する二人。 クロードに手を引かれたシエスタの顔がさっと青ざめる。 「このお方は……!」 「シエスタ、知ってるのかい?」 「……アンリエッタ王女殿下じゃないですか……」 「……マジ?」 「……はい」 「……本気と書いて?」 「……はい」 冷や汗が背中を滑り落ちる。顔面中の筋肉が引き攣って歯がカチカチと鳴る。 顔面の筋肉が引き攣るあまり、表情はまるで笑っているかのよう。笑うしかないとも言う。 一方のシエスタも言葉の意味こそ解らなかったが、クロードのただならぬ様子にうんうんと頷いた。 ヤバイ。ヤバイヤバイよマジヤバイ。 どのくらいヤバイかって言うと、電子レンジの中のダイナマイトくらい。 今のクロードは屈んで待ち受ける軍人に飛び込むレスラーのようなものだ。 このままでは月の子が集う暇すら与えられずに塵一つ残さず消滅させられてしまう。 「あのう、何があったんですか?」 クロードの全身から漂う『やってもうたオーラ』を感じ取りつつ、恐る恐るシエスタは尋ねる。 聞かない方が良かったんだろうと解ってはいたのだが。 果たして、ギギギ、という音がしそうな勢いで首を向け、泣きそうな顔のクロードが口を開いた。 「……お姫様、殴って気絶させちゃった……」 「……はい?」 今度はシエスタの表情が凍りつく。 もともと緊張のあまり青白くなっていた顔からはますます血の気が引き、 微かに差し込む月夜に照らされた土気色のその顔色は、まさに死人のそれ。 うっかり人が通りかかれば恐怖のあまり叫び出すこと請け合いだ。 既に初夏の足跡の聞こえる季節だというのに、吹き抜ける風が嫌に寒々しく感じられたのは、 きっと彼らの気のせいではなかっただろう。 「いや、何しろこんな格好してるからさ、てっきり賊か何かだと思ったんだ」 「……はい」 「こう、貫手で肋骨の隙間を抜いて肺を、ね?」 「……はい」 「あ、あはははは…… どうしよう?」 「……はい」 「とりあえず目を覚ますまで待って、頭下げて話を聞いてもらうしか……」 「……はい」 「あの、シエスタ、大丈夫?」 「……はい」 「もしもし、シエスタさ~ん?」 「……はい」 反応が嫌な方向に怪しいことに気付き、思わずクロードはシエスタの瞳を覗き込む。 シエスタの瞳は死んだ魚のように濁り、ぽかんと虚空を見つめていた。 何度呼びかけてみても、頬をぺちぺち叩いてみても、反応に変化は無し。 うわ言のように、壊れた人形のように生返事を繰り返すばかり。 どう見ても魂があっちの世界に旅立ってます。本当にありがとうございました。 「アッー! 待ってシエスタ! 僕を一人にしないでーっ!!」 立ったまま真っ白な灰と化したシエスタの肩をがっくんがっくん揺するクロード。 彼らの明日はどっちだ。 前ページ次ページS-O2 星の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8697.html
トリスタニア・某街道の某交差点。 横断しようとする人々を遮断する棒が下り、その外側には人だかりができている。 その中、それも遮断機のすぐ前に黒髪メイド服の少女・シエスタの姿があった。 反対側にある遮断機のすぐ向こうに、1人の少女の姿があった。シエスタがいる位置からでは、顔は棒で隠れて見えない。 するといつの間にかその少女が遮断機の内側に侵入し、シエスタの方に接近してきた。 「あ、渡れますね」 「え!?」 一緒にいた同じくメイド服の少女の声も気にせず、シエスタは遮断機をひょいとくぐって街道を横断しようとする。 ──シエスタは後にこう語っている。 『向こう側から女の子がごく自然に渡り始めたのが見えたんです。だから私も誘われたようについつい渡ってしまったんです。……え!? 女の子は確かにいましたよ。……誰も見ていない? そんなはずはありません』 と──。 シエスタとすれ違いしばらく歩いたところで、少女は目を見開いて振り返った。 ……首を半回転させて。 「馬車に轢かれてぺっしゃんこ、馬車に轢かれてぺっしゃんこ」 街道アンジー 以前この交差点で轢かれた少女が地縛霊となったものである。 「アンジー」は本名ではない──という噂もあるが、詳細は定かではない。 アンジーが伸ばした腕は蛇のようにうねりつつ伸張し、シエスタの頭部をわしづかみにしようと迫る。 ……が、その直前、少女のものと思しき手がアンジーの手首をつかみその動きを封じる。 「そこまでよ、この悪霊め!」 桃髪の少女・ルイズがアンジーの腕をひねり上げた直後、ルイズの傍にいた少年がシエスタを抱き寄せる。 そのシエスタの額をかすめて、数十台の馬車の列が高速で通過していった。 「あ……、わわわわああー!?」 目の前を高速で通過していく馬車の列に、シエスタは驚愕の声を上げた。 「失敗!? 失敗失敗失敗失敗失敗失敗──ちっ」 アンジーは忌々しげにそうまくし立てると、ごそりと体が崩壊していった。 「逃げたわね」 「いいさ。お前など敵ですらない」 ルイズ・少年がそう言った次の瞬間、遮断機が上がり人々が3人の元に殺到する。 「わ……、うあーっ! 何をやってるんだ、君達は!」 「え? え?」 「シ……、シエスタ、大丈夫? 怪我は無い?」 「い、いえ、あの……」 「いきなり遮断機をくぐるなんて……。自殺でもする気だったのか!?」 「そ……、そんなあ」 シエスタは何が何だかわからず、ただ狼狽するばかりだった。 「し……、知りません。私知りません」 一方、ルイズ・少年は集まってきた人々とは別の方向に視線を向けていた。 (そうよ、彼女は知らない事なのよ。少女のふりをした地縛霊の仕業なのだから) (これが起こる事を知っていたのはボクとルイズ、そうしてもう1人) 2人の視線の先には、新聞紙が集まって形成されているような巨大な女性の頭部が空中に浮遊し、2人をじっと見下ろしているのだった。 「あんたは全部知ってるのよね、恐怖新聞!!」 「お前には負けない!! 『予言』は全て覆してやる!! 『鬼形礼』のような犠牲者はもう出させない──そう誓ったんだ!」 2人の名はルイズ・ヴァリエールと鬼形冥。恐怖新聞に取り憑かれたメイジと使い魔だ。 その夜、2人は14歳になったばかりだった。 「シンブーン!!」 声と共にルイズの部屋の窓を突き破って、新聞が室内に飛び込んできた。 「うわっぷ! な……、何よ!?」 眠っている自分達の顔面に覆い被さってきた新聞を、ルイズは慌てて払いのける。 「し……、新聞!? 誰だよ、こんな悪戯するのは~」 目を擦りつつ2人は枕元の時計に視線を移し、うんざりした表情になる。 「……夜中の12時!?」 だが、1面に掲載されている記事の内容に2人は思わず目を見張る。 『恐怖新聞 深夜刊 現代の予言書 恐怖新聞が再び!! 鬼形一族の1人である鬼形冥と彼を召喚したルイズ・ヴァリエールは、本日14歳となったため恐怖新聞を購読する資格を得たと判断された。 そのため、35年間発行停止となっていた恐怖新聞が再刊となった模様である。 恐怖新聞の購読料は100日分の寿命であり、これは何人たりとも例外無く漏れなく徴収されるものである! (恐怖新聞は予言が外れた場合、代金とされる100日分の寿命は頂きません)』 時間は進んで2人がシエスタを助けた日の深夜、2人は寮の自室で就寝準備を整えていた。 「今日は何とか覆す事ができたけど、守るだけじゃきついわよ。まったく!」 と言いつつ2人がベッドに入った直後、枕元の時計が12時を示し……、 「シンブーン!!」 声と共にルイズの部屋の窓を突き破って、新聞が室内に飛び込んできた。 降り注いだ新聞紙と窓ガラスの破片に布団から這い出す2人。 「くそっ、ゆっくり眠る事もできないのか! で……、明日は何があるってんだ!?」 舌打ちしつつ配達された恐怖新聞に目を通す冥だったが、すぐにルイズ共々顔色が変わる。 直後、2人は寮を飛び出し町へと駆け出していくのだった。 (人の不幸を予言する恐怖新聞は、書かれている事に外れる事が無いわ。つまり不幸のみをもたらす新聞よ。だから──) 深夜の住宅街を全力疾走するルイズ・冥。2人の脳裏には先程配達された恐怖新聞の見出しが浮かんでいた。 『鬼形冥とルイズ・ヴァリエール、予言の阻止失敗!? 2回目の事故を見逃した』 (予言は今回2回目があったんだ! 午後6時と午前1時と! 昨日の新聞には午後6時の分1つしか出ていないから、騙されたんだ。くそっ、でもそれは詐欺だろ) その先にあるのは、2人が夕方事故を防いだ街道の交差点。 (──だから私達はその予言を外れさせるのよ。不幸を止めるのよ) 一方その頃、件の交差点では……。 「んっ、んっ」 若い女性が1人、石畳の間の隙間に足首を挟まれ立ち往生していた。 「やだあ、抜けない! もう、何で……? 馬車が来ちゃうよ。誰かいないの!?」 「きゃはははははははははは! そうよ、あたしが邪魔してるから抜けないのよ。大好きよ大好きよ、もう放さない!」 必死で足を引き抜こうとする女性には、アンジーの長く伸張した四肢が幾重にも絡みついていた。 幾つもの馬車の前照灯が交差点を照らし始める。 「ほらほらほらほらほらほら! 轢いて轢いて轢いて轢いて! 轢け轢け轢け轢け! 一緒に轢かれてぺっしゃんこ!!」 女性が絶望の表情で光に視線を向けたその時、 「恐怖新聞と共謀してボク達を騙したのか。力の無い地縛霊のくせにやるじゃないか。だけどな」 「確かに私達には霊能力は無いけど、悪霊に対抗する知恵はあるのよ!」 そう言いながら、ルイズ・冥が花束片手に息を荒くして到着した。 そしてアンジーの横っ面に花束を叩きつける。 「!? ンギギギギギギギ……」 すると花束の花が吸い寄せられるようにアンジーに突き刺さり、さらに高速回転してえぐり始める。 「痛いだろう! 当然だ! その花はお前が死んだ場所に供えられていた花だ。みんなの『心からの善意の花』だもの!」 「あんたがここで死んだ時、みんなが悲しんだわ! だけどあんたはそんなみんなに逆に嫌がらせを始めたのよ! 『もっと同情しろ』『もっと優しくしろ』っていうねじくれた根性があんたを悪霊にしたのよ。悪霊の身に『善意』は辛いでしょう」 「ガガガ……、ギギギギ」 花にえぐられる苦痛に堪えきれず、アンジーは身をよじって女性から離れかける。 「あんたの不幸は馬車に轢かれた事じゃないわ。生きてる人間を妬んだ事よ!!」 「他人を巻き添えにするな! 迷惑だ!!」 この機を逃がさず、ルイズはアンジーを女性から引き剥がし、冥はその女性を抱え街道の外に跳び退く。 (あんたのような甘ったれた悪霊がいるから、恐怖新聞みたいな悪霊(やつ)までが図に乗ってはびこるのよ!!) アンジーを正面から馬車に叩きつけた後、ルイズも遅れて街道から跳び退いた。 その場に取り残された女性の鞄が馬車に引きちぎられて、中身が路上に散乱する。 「あ……、悪霊なんか、『へ』でもねーや!!」 「あああああ! また邪魔をまた邪魔をまた邪魔を! しかも私を馬車にぶつけたな2度轢きしやがったなあああ──」 馬車の正面に貼り付いたアンジーの声が次第に遠ざかっていく。 その上空では、夕方にも出現した新聞紙で形成された女性の頭部が忌々しげに2人を見下ろしていた。 (『ちっ、失敗か』って顔をしているわね) ──今は亡きキガタレイへ。 私とメイは毎日が恐怖新聞との戦いです。神経が磨り減る事ばかりです。大変です。 でもやめません。あなたのような犠牲者を出さないためにも戦い続けます。 私とメイが無事生き残れるよう、あなたも見守っていてください。 ルイズ・ヴァリエール──