約 1,871,626 件
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4315.html
552 名前:『魔法戦隊メイガスファイブ』1〜5話ダイジェスト[sage ] 投稿日:2006/10/27(金) 19 15 59 ID NWW1LrkC 第1話『五人目の戦士』 ある日、トリステイン魔法学院に突如襲い掛かったアルヴィーの群れ。それは、暗黒神聖帝国ガリアの放った尖兵だった。 それを迎え撃つは、ガリアに対抗するべく編成された『魔法戦隊メイガスファイブ』の五人。 『微熱』のキュルケ。『雪風』のタバサ。『青銅』のギーシュ。『香水』のモンモランシー。 そして、『ゼロ』のルイズ。しかしルイズだけは、魔法が全く使えないために変身できない。 四人で戦うことになるメイガスファイブ。しかし、ガリアの尖兵は巨大なゴーレムを繰り出し、それに対抗する。 ピンチに陥る四人。しかしそこに、変身できないルイズの代わりに、キスによって彼女の魔力を受けた才人が現れる。 第2話『妖精のシエスタ』 ガリアの尖兵を破ったメイガスファイブ。しかし安心したのも束の間、街にアルヴィーの大群が現れたとの報告が。 才人たちが街に着くと、アルヴィーたちと戦う妖精たちに出会う。 妖精たちはガリアからトリステインの魔法の使えない一般市民を守るために作り出された『人工妖精』。 妖精たちの助けもあって、一般市民を避難させることに成功する才人たち。 そこに現れる、ガリア最強を名乗る暗黒騎士ワルド。ワルドの猛攻に、次々倒れるメイガスファイブ。 トドメを刺そうとしたワルドの攻撃を防いだのは、『人工妖精』の一体、シエスタの張ったバリアーだった。 第3話『香水のモンモランシー』 遠方の町がガリアに襲われているという情報が魔法学院に届けられる。 単独で助けに行く、と名乗り出るギーシュ。それに猛反対するモンモランシー。 しかし、コルベールの考えでは、メイガスファイブを二人以上、辺境に送るのは王都の警護上できない、という。 モンモランシーの説得をギーシュに依頼される才人。 モンモランシーに理由を尋ねると、「ギーシュは選ばれていい気になっているだけ」と語る。 才人は一計を案じ、モンモランシーにギーシュの実力を見せる作戦を立てる。 第4話『ルイズの変身』 今日もトリステインに現れたガリアの尖兵を倒したメイガスファイブ。しかし、常に見ているだけのルイズは、不満でしかたない。 自分も戦う、とコルベールに申し出るルイズ。しかし魔法を使えないものを前線に出すわけにはいかない、とあしらわれる。 次の日、ルイズは王都に呼び出される。王都では、ルイズをメイガスファイブに選出した、アンリエッタ女王が待っていた。 女王はルイズに、「今こそあなたを魔法戦隊の一人に選んだ意味をお教えしましょう」と一冊の本を渡す。 それこそが『始祖の祈祷書』。それを読んだルイズは、封印を解かれ、虚無の力に目覚め、変身を果たす。 そして現れたガリアの尖兵に戦いを挑むが、彼女の力には決定的な弱点があった。 第5話『幻の大合身』 度重なる敗北に、業を煮やした神聖皇帝クロムウェルは、ついにガリア最終兵器を送り込む決定を下す。 トリステインを襲う、巨大な石のドラゴン。これがガリア最終兵器、ゴーレム・ドラゴンであった。 巨大すぎる敵に、手も足もでないメイガスファイブ。しかし、コルベールはメイガスファイブにはまだ隠された力がある、という。 それこそが『大合身』。スクウェアの奥義『合身』を超える、幻の奥義である。 それは、魔力を極限まで高め、己が使い魔とともに、巨大な魔神と化す魔法であった。 『大合身』を果たしたメイガスファイブは、ゴーレム・ドラゴンを易々と打ち破るのだが…。 601 名前:魔法戦隊メイガスファイブ6〜10話ダイジェスト[sage ] 投稿日:2006/10/29(日) 20 16 47 ID G4a+YxuG 第6話『シエスタの決意』 先の戦いで本来ありえないはずの才人への『恋心』に目覚めたシエスタ。それ以来、かいがいしく才人の世話をしている。 本来の役目を離れるほどの感情を持ちえたシエスタに、魔法研究所が目をつける。 魔法研究所は、彼女の心の力を使い、彼女をさらに強力な『兵器』へと変える、という。 当然才人は反対するが、そこへ暗黒騎士ワルドが現れ、メイガスファイブはピンチに陥る。 才人の危機にシエスタは決意し、己が身をより強く変えてくれと、研究所所長エレオノールに申し出る。 才人たちのピンチに現れたのは、『妖精獣』となった、シエスタであった。 第7話『雪風のタバサ』 普段ずっと本を読んでいて、めったに話さないタバサ。才人はそんなタバサに興味を持つ。 何度もアプローチしてみるが、すげなくかわされる。それどころか、アプローチがシエスタとルイズにばれ、ぼこぼこにされる始末。 一番の親友であるキュルケになぜタバサが話したがらないのか聞いてみるが、彼女にもわからない、という。 ちょうどその時、才人とルイズとタバサの3人に、出動命令が下される。 いい機会と思い、何度もタバサに話しかける才人。むくれるルイズ。 しかし、タバサから返ってきたのは、「深く関わらない」という、謎めいた台詞だけだった。 第8話『暗黒騎士の秘密』 街に出たルイズと才人の前に、暗黒騎士ワルドが現れる。変身して戦うことを主張する才人だったが、何故かルイズはしぶる。 あわやというところでシエスタの加勢が入り、ワルドは撤退する。 なぜ変身をしぶったのか、ルイズに問い詰める才人。応えないルイズ。 学院に帰って、才人はギーシュにそのことを話す。ギーシュの話した内容は、驚くべきものだった。 ワルドは元ルイズの婚約者で、メイガスファイブの隊員に選出される可能性の最も高い騎士だったのだ。 彼が何故裏切ったのか。再び現れたワルドに、才人はその疑問をぶつける…。 第9話『孤島の決闘』 トリステイン辺境の孤島で、ガリアが何かを探しているらしいという情報が学院に入る。 それが古代の超兵器かもしれない、ということで、ルイズと才人、そしてシエスタが派遣される。 ここぞとばかりに才人にモーションをかけまくるシエスタ。べべべべつに犬がどうしようと知ったこっちゃないけど!と邪魔するルイズ。 調査の結果、その島に眠るのは、『恋愛成就の秘宝』だという。 シエスタとルイズの、血で血を洗う戦いの幕が、今切って落とされた。 第10話『銀麗の騎士』 突然襲ってきた暗黒騎士ワルドと、土くれのフーケの波状攻撃に、ピンチに陥るメイガスファイブ。 しかし、そのピンチに、銀色に輝く鎧を身に纏った戦士に、助けられる。 戦士は『銀麗銃士アニエス』と名乗る、女性騎士であった。 彼女はトリステイン魔法研究所の生み出した新兵器、『銀銃』の使い手で、以降、メイガスファイブの補佐と、戦術指導を行うと言う。 彼女曰く、メイガスファイブの動きには無駄が多すぎる、とのこと。 それに激昂したキュルケとモンモランシーとルイズが、珍しく共闘し、アニエスに戦いを挑むのだが…。 602 名前:せんたいさん[sage ] 投稿日:2006/10/29(日) 20 19 25 ID G4a+YxuG 腰が痛くて死にそうでつotz 風邪の次は腰痛かよorz しかも今日日曜で病院やってねえし明日早番だしorz まあそれはともかく、6〜10話です。 こんなかんじで、5話ずつ考えていっております。 気に入ったエピソードはひょっとするとフルに書くかもしれんけど、エロは一切ないので…。 いかんな、そろそろエロいのかかんとここが何のスレか忘れてしまうorz ではノシ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1636.html
前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~ やや落ち着きを取り戻しつつある食堂奥の厨房内、そこで空になったシチュー鍋を前に 一人と一不定形が満足そうな表情を浮かべていた。 「馳走になった」 「てけり・り!」 無論、九朔とランドルフである。 そしてそんな彼等の前にはシエスタがにこにこと頬杖をつき、初めて見る恰幅の良い男が 腕を組んで笑っていた。 「いやあ、お前さん達の食いっぷりを見ているとまったく清清しいぜ。しかもシエスタ達の 洗濯の手伝いまでしてくれてたとか言うじゃねえか。いやぁ、本当にお前達はいい奴だ!」 「そうでもないと思うが」 「いいや謙遜するない。お前さんは良い奴だ、いい男だ!」 がははと笑いながら恰幅の良いコック長マルトーは九朔の肩をたたきランドルフを 揉みしだく。 「てけり・り」 本来ならば見るだけでトラウマっぽいものを植えつけるはずのショゴス。 だがしかし、どうやらここの人間は総じて耐性が高いらしく、少し暇のできたメイド達が こちらにやってきてはランドルフのぷるぷるむっちりバディをつんつん突っついたりして 遊んでいた。 「てけり・りぃ」 そして、そんな彼等の好奇心の対象である当の本人(?)はと言うと、マルトーの指使いが よっぽど心地よかったのかさっきからずっと気持ちよさげに揉まれた箇所を蠕動させている。 「しっかし坊主も大変だな。貴族に召喚だったか? そんな事で呼び出されて使い魔に されちまうなんて悲劇以外のなんでもねえや」 首を振り苦々しく言うマルトー、周りも同情の表情でうんうんと頷く。 「だが俺たちもお前さんと同じ平民、もし飯とか何かで困ったらここに来い。平民同士 協力できる事は何でもするぜ!」 そういってガッシリと九朔の手を握るマルトー。 それに続くようにシエスタもその手を握る。 「そうです! 私たちもお洗濯手伝ってもらいましたし何か手伝えることがあったら いつでもぜひ!」 「あ、ああ………何かあったら……頼むとしよう」 真剣な表情で力説する二人に少々たじろぎながら答える九朔。ただ昼食を恵んでもらおうと 思っていただけなのに、余りの好待遇に悪い気がしてならない。 無論、彼等としてはただでさえ貴族に虐げられている平民なのに、それがよりにも よって貴族本人に召喚されて使い魔にされてしまった九朔に同情の念を 禁じえなかったという理由があるのだが知る由もない。 「っと、そういや貴族の坊ちゃん達にデザートを配る時間だな。運んでくれるか」 「はい、分かりました!」 立ち上がる二人、周りに居たメイドや料理人たちもそれぞれの仕事に戻ろうとする。 そこに取り残される九朔とランドルフだが、彼等もまた立ち上がる。 これほどの好待遇を受けておきながら何もしないではいられない。 食器の洗い場へ向かうランドルフとは別に九朔はシエスタへと歩み寄った。 「シエスタ、我にもデザート配りを手伝わせてくれぬか?」 「そんな悪いですよ! 朝あんなに手伝っていただいたのに!」 申し訳ないといった顔で首を横に振るシエスタだが、九朔も引き下がるつもりはない。 「あれくらいどうという事はないさ。むしろ昼時に汝等より先に昼食を頂戴したのだ、 手伝わないでは夢見が悪い」 肩をすくめて笑む九朔にシエスタはマルトーにどうしたものかと目配せする。 「坊主よ、俺たちの仕事をまた手伝ってくれると言うのか?」 「ああ、もちろんだ。汝等から受けた恩、返さずにはいられぬよ」 平然と、しかも淀みなく言ってのける九朔に真剣な顔をしたマルトーは再び破顔した。 「そうかそうか!」 心底嬉しそうに九朔の肩を叩いて笑う。 「良し、分かった! だったらシエスタ達を手伝ってやってくれ!」 「良いんですかマルトーさん?」 「構わねえ。こんな良い奴がやると言ってくれてるのを無下にできねえ!」 シエスタににやりと笑むマルトー、変わった口ぶりに奇妙な装束をした平民の少年だが その心意気は彼の眼鏡にかなったようだ。 「それじゃ、坊主。ここにあるケーキをあの小憎ったらしい貴族の坊ちゃん連中に もってってやってくれ。シエスタ、運び方とか色々教えてやりな」 「あ……はい、分かりましたマルトーさん。九朔さんこっちですよ」 「あ、ああ」 機嫌の良いマルトーにつられて上がったテンションはシエスタにも伝染したらしい。 にこにこ笑いながら九朔の手を引っ張りケーキへと案内する。 そんな彼等のやりとりの向こうではランドルフが触手を数十本にも伸ばして蠢かして 食器を洗っていた。 その見事な洗いっぷりに、後ほどメイドと料理人たちからランドルフは 『我等の洗濯王』と呼ばれ唄まで作られたのだが、それはまた別の話。 * アルヴィーズの食堂、並ぶ料理は昼食に食するには充分に過ぎた豪華なものであり、 それを見れば毎日の料理がどれだけ無駄に消費されるか手に取るようにわかる。 さすが貴族、何処の世界においても無駄と豪華にかけては右に出る者はないのだな、と 嘆息し九朔は食堂内をシエスタと共に歩く。 しかしこう言う場を実際に眼にするのは初めてではない気がするのはなぜだろう、そして これよりもっと豪華絢爛な料理を見た気がするのも何故だろうと首をかしげる九朔だが 今の彼には思い出せるはずもない。 両手に持ったケーキのトレイからシエスタがはさみでそれを生徒達に置いていく。 九朔自身は気づいてなかったが、この時多数の女子と男子が共に彼の顔を見て良からぬ 感情を抱いたのは不幸だったか幸福だったか。 男子は九朔を『可愛い平民の子女』もしくは『衆道の友』として。 女子は『中性的な平民の男子』もしくは『女装をさせてみたい』として。 双方からそのように思われていたのだが不幸だったか幸福だったか。 「ふぅ……」 そんな己の身と貞操の危険に気づくことなく、この既視感が何かを考えつつ九朔は シエスタと共に食堂内を練り歩く。 そして、耽っていたその思考はある驚きの声で途切れる事になった。 「ん?」 気づけば、目の前では金髪巻き髪の少年に友人タチがやいのやいのと騒ぎ立てているところ。 「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 香水? むしろその怪しげと言うか致命的っぽいアレな色は毒薬か何かでは と思うが口にはしない。 金髪巻き髪の少年は落ち着いてはいるが必死で否定をしていた。 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたと言う事は、つまりお前は今 モンモランシーとつきあっている。そうだな?」 「違う。彼女の為に言っておくが――――――おごばぁぁぁっ!?」 彼の弁明は最後まで綴られる事なくその綺麗な顔面をストレートされた。 顔を中心に一回転して石床に叩きつけられたギーシュと呼ばれた少年、その顔には見事な までに拳の痕がくっきりついており実に痛々しい。 そして倒れた少年の眼前、一人の少女が仁王立ちをしていた。 「お、おごご……ケ……ケティ。これは、誤解で………」 「さよなら!」 彼を思い切りぶん殴ったと思われるケティと呼ばれた少女は涙を流しながら去っていく。 ここにいるのは全員魔法使いだそうが、あの娘は格闘家あたりになったほうが良いのでは と九朔は思った。 きっとムエタイ選手ならどんな者でも1ページ見開きで倒せる。 そんな彼女と入れ違うように今度は修羅の如き怒りの焔を纏い、金髪の少女がギーシュと 呼ばれた少年の前にやって来た。 その表情が見事なまでににこやかなのはある意味恐怖である。 ギーシュの周りに居た友人達が生命の危機を感じてズザザザと後ずさり、取り残された ギーシュの目の前に彼女が仁王立った。 「モ、モモモ、モンモランシー、こ、これは誤解なんだ。彼女とはただいっしょに ラ・ロシェールの森に遠乗りをしただけで………」 頬に刻まれた拳の痕が痛々しい彼はごく自然に、そして至極冷静に答えたつもりだったが 顔が引きつっていた。 「やっぱり、あの一年生に手をだしていたのね?」 「お願いだよ『香水』のモンモランシー……咲き誇る、その、えと、薔薇のような顔を そのような無表じょ………え?」 モンモランシーが微笑んだ、そう思った次の刹那、 「うそつき」 ギーシュの頭にワインの瓶が音速激突した。 砕け散るワイン瓶、ギーシュの頭蓋骨も一緒に粉砕したのではと思わせんばかりの激音に 九朔を除いた全員がひぃと呻いた。 「お………おぉ…………ぐぉぉぉ………」 床でぴくぴく痙攣するギ-シュを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らしモンモランシーはそのまま 食堂を去った。 ぴくぴく震えるギーシュを中心に沈黙する一同。 約1分ほど経っただろうか、突然ギーシュは立ち上がり何事もなかったようにハンカチを 取り出すと顔をゆっくり拭いた。 何か頭のてっぺんあたりから致命的な量の血が溢れてきているような気がするのは眼の 錯覚ということにしておく。 ギーシュはワインを拭うと、シエスタにその瞳を向けた。 「さて、どうしてくれるんだねそこのメイド? 君が香水の壜なんかを拾い上げたおかげで 二人のレディの名誉に傷がついたんだぞ?」 それは自分のせいだし何よりその前に、既に絶命一歩手前の自分自身の身体をどうにかした方 が良くないか、と思う九朔。 しかしシエスタはといえば貴族からの言葉とあり顔を真っ青にしてまるで壊れたおもちゃの ように何度も何度も頭を下げている。 「も、も、もも、申し訳ありません貴族様! 私、貴族様の物かと思って……!」 「それで許されると思っているのかい? 君のお陰でこのざまだよ? この傷の治療だって 馬鹿にならないんだ、どうしてくれる?」 「っそそ、それは……それは………!」 「ああ分かっている、少なくともこれは全て君の責任だからね。これから先、君にはこの傷の 治療費を払い続けてもらわなければならんなあ! それも僕が完治するまで、そして それから賠償もだ!」 「そんな! ああ……お、お許しください貴族様!」 ギーシュの前に跪き謝罪するシエスタ、それを彼は見下す。 その間も延々と自分は悪くないだの、君の責任だの、君の気配りができていないだのと のたまってシエスタを罵っている。 まったく、この手合いはいつもこうだ。 胸糞悪い。 「申し訳ありませんでした、申し訳ありませんでした!」 「許してほしいのかい? まさか! 許すはずがないだろう!? この責任は全て 君のせいなんだ、君は―――」 「……いい加減にせよ、汝」 シエスタを守るように、九朔はギーシュの前に立ちふさがった。 「クザクさん!?」 「ほう、何だね給仕? 君はもしかしてこのメイドをかばうつもりかい?」 シエスタは余りの事に驚き固まっている。 突如目の前を塞いだ給仕の少年、ギーシュは上から下へと視線を向ける。 なるほど、マントを羽織ってはいるが杖を持たないので平民だ。 その驕りが彼を強気にさせる。 「まさか君は貴族であるこの僕に口答えするつもりなのかね? 平民である君が」 「ああ、そのつもりだ。汝のような、己の失態を他人に擦り付ける者は気に食わぬ。 ましてや、与えられた地位をもって他者を脅す手合いは更に、だ」 ぴくりとギーシュのこめかみが震えた。 「ほう? それはつまり僕を侮辱しているととっても良いのかな?」 「本当のことであろう? それくらい、汝でも分かると思うが」 九朔の言葉に周りにいた人だかりがどよめく。互いに顔を見合わせ、九朔に眼をやり 哀れむ視線を送る。 彼等にとって九朔は平民、そんな彼が目の前で貴族に楯突いたのだ。 無力な平民が貴族に歯向かうことが意味するのは死だ。 恐れを知らぬ蛮勇に侮蔑の視線が飛ぶ。 己で己の首を吊る愚者を嘲笑う声が飛ぶ。 だが彼等は知らない、人は決して『無力』ではないことを。『無力』に思えるものが 如何なる力を秘めるかを。 「どうやら君は、貴族に対する礼を知らないようだ」 「汝のような下郎に持つ礼などない」 互いの視線が交錯した。 「……君は、この僕が悪いとでも言うのか?」 「それ以外に在る訳なかろうが」 「言ってくれる」 そこに見えるは両者の怒りの情、不退転の意思。 「そうか、ならば口を知らない君に僕が礼儀というものを教えてやろう。その愚かさを 身を持って知ると良い」 「ああ、そうしてもらおうか。もっとも、貴様如きにできるか不安だがな」 闘う理由は既に充分、互いが互いを敵と認識した。 ギーシュにとっては平民が貴族に逆らうその態度への怒りが、九朔にとっては己のものでは ない力を振るう横暴への怒りが胸にある。容認できぬ怒りを持って互いを敵と為した。 「宜しい―――ならば、決闘だ!」 ギーシュの宣誓に食堂内に歓声が沸きあがる。 バサと、音を立てて彼の手からハンカチが宙へと投げられた。 落ちるそれを九朔は受け取り、ギーシュと視線を交わす。 「構わないな?」 「ああ」 その言葉にギーシュは不敵に笑んだ。 「では、この決闘は《ヴェストリの広場》で行う事としよう。僕の友人が案内してくれる はずだ、逃げるなよ?」 「それはこちらの台詞だ、汝」 それで良い、ギーシュは九朔に背を向けて食堂を去った。 それを見送る九朔をシエスタは顔を青ざめて見ている。 貴族に歯向かうことはつまり死ぬ事を意味する、それは想像を絶する恐怖だ。 なのに、彼は自分の為に身を挺してくれた。 「クザクさん……何で? 私のせいなのにどうして……」 「汝を見捨てるのは後味が悪い、ただそれだけだ」 「それだけで!? そんな……クザクさん、あなた殺されちゃう!」 「なに、どうとでもなるさ」 「でも……でも!」 しかし、怯えるシエスタの肩に手を置きクザクは微笑む。 「安心しろシエスタ。 ――我を、信じろ」 そう言って九朔は食堂の出口へと向かう。 その時シエスタは彼の背中に、言葉で表せない熱さを見た。苛烈なまでに気高い、 清らかな流れに似た透明な何かを感じた。 そして気づく、胸にあったはずの不安と恐怖がゆっくりと和らいでいく事に。 「クザクさん、貴方はいったい………」 呟くシエスタの先、九朔の姿は既にそこにはない。 食堂の出口へ向かう九朔、それに追いつくようにルイズが駆け寄ってきていた。 「あんた何してんのよ! 見てたわよ!」 「そうか」 「そうか、じゃない! なに勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」 「放っておけなかったのでな。ああいうのは胸糞悪い」 「それだけで!?」 手で頭を抑えつつ、歩みを止めない九朔をルイズは後ろから追いかける。 「謝りなさい。怪我したくなかったら今すぐによ」 「断る」 「あんたね!」 九朔は一向に聞こうとしない、自分の使い魔なのに。 しかし、止めなければ。 無力な平民がメイジに勝てる道理などありはしないのだ。何をしても無駄だと言うことを 分からせなければ。 「無理よ。平民は絶対に貴族に勝てないの、メイジだからよ? 魔法を使う相手に 平民が勝てる道理なんてないの、絶対無理なの!」 「だから何だ?」 「無駄なの。平民がメイジに勝つなんて無理なの、そんな無駄な事しても無意味なのよ!」 「無意味……か」 「そうよ。良い? あんた達平民は無力よ、どんなに力を合わせたって勝てない。 何度も言うけどそんな無駄な事をしても無意味なの、分かる?」 納得させるように強く言うのだが、しかし九朔は答えず真直ぐ進む。 何度も何度も言いきかせるのだが止まる気配もない。 「汝が案内役か」 「ああ、こっちだ」 ギーシュの友人に従いついて行く九朔。ただ真直ぐ、歩みを止めない。 ルイズの胸は理解できない事柄でいっぱいになる。 どうしてコイツは止まる事をしない? どうしてこいつは抗う? なぜ平民なのに貴族に歯向かう? 平民は貴族に従うのが道理なのだ、虐げられていたとしてもそれに抗う術はないのだ。 それなのに、この使い魔は何故闘おうとする? ――この使い魔が本当に異世界から来たから? ………まさか。 しかし、たとえそうだとしても決してメイジには勝てない。 そういうものなのだ、それは覆らない事実なのだ。 「ねえ、あんた。どうして無駄だって分かってるのに闘うのよ?」 諦めの気持ち混じりに、振向かない背中にルイズは尋ねた。 まるでさっきの教室と同じことをしているのだが、構いやしない。 はるか奥にヴェストリの広場が見えてくる、余り時間はない。 ややあって、九朔が口を開く気配があった。 「我にも分からぬ」 「はぁ!?」 「だがな」 そこで九朔は振り返る。その翡翠の瞳がまっすぐにルイズを射抜く。 そして、初めてルイズに微笑んで見せたのだ。 「たかが無意味なくらいで何もせぬなど、そんなこと我にはできぬよ」 「え?」 「たとえ無駄だとしても、足掻かずにいられるか。何もしないまま見てみぬふりして 後悔する方がよっぽど後味が悪いさ」 たったそれだけのことで? そんなことでこいつは闘うのか? それは奇しくもシエスタが抱いた感情のそれ。 それだけのことでこの使い魔は貴族と、つまりメイジと闘う。 無駄だからと足を止めない。 何もしないなど、そんなことできない。 それはただの無謀だ、ただの愚だ。 ルイズは思う。 だが、九朔のその言葉にルイズは微かな胸の熱を覚えていた。 それは自覚することのないほどの小さな火。その意味も理由も今のルイズは 知る事はない。 ただ、今は目の前の九朔の決闘を見守るしかない彼女がいるだけ。 九朔は歩む、その場所へ。 ――決闘場はすぐ目の前に 前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7742.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 決闘騒ぎも終わり、学院に普段と同じ平穏が戻る。 なんとかルイズをなだめ、教室へ送り届けたエツィオは、傷の手当てをすべく、水汲み場へと向かった。 エツィオが水汲み場へ向かっていると、ふと視線を向けた先に見知った顔が一人、おろおろとしているのが見えた。 「おや? シエスタ?」 「エツィオさん!」 エツィオがその人物、シエスタに声をかける、彼女はエツィオを見るとすぐに駆け寄ってきた。 「さっきはどうしたんだ? 急に逃げ出して……」 「エツィオさん! 私っ! 心配してたんです! 貴族の方と決闘だなんて!」 「あぁ、あれか、何、たいしたことじゃないさ」 「その怪我っ……! あぁっ、あの時私が止めていれば……こんな……」 エツィオの口元の傷を見てシエスタがぽろぽろと涙を流し始めた。 自分のせいでエツィオがひどい目に遭わされてしまった、と言わんばかりである。 「ごめんなさい……私、怖くなって、逃げてしまったんです。本当に、貴族は怖いんです、私のような魔法が使えないただの平民にとっては……だからっ……!」 「おい、なんだよ、まるで俺が負けたみたいな言い草だな」 「だって貴族の方とっ! ……え?」 シエスタはきょとん、とした表情でエツィオの顔を見る。 エツィオは肩をすくめると、笑いながら言った。 「決闘を見ていてくれなかったのか? それはひどいな!」 「えっ!? う、うそっ! そんなっ!」 シエスタは両手で頬を押え、顔を真っ赤にしながらうろたえる。 エツィオの勝利が信じられないと言った様子だ。 「決闘なら俺の勝ちで終わったよ、誓って本当さ、なんならギーシュでも呼んでくるか?」 「えっ……? ほ、本当に?」 「何度も言わせないでくれよ、それともそんなに俺が信用ならないか?」 「や、やだっ、私ったら何かとんでもない勘違いをっ!?」 耐えきれなくなったのか顔を両手で覆い、シエスタがしゃがみ込む。 それを見たエツィオはわざと落胆した様子で呟いた。 「なんだ……見ていてくれなかったのか、せっかくこの勝利を君に捧げようとしていたのに……残念だ」 「わわっ、私のためにだなんて! とっ、とんでもないです! それにエツィオさんを信じ切れなかった私が悪いんです!」 「いや……いいんだ、勝利の女神に浮気した俺が愚かだったんだ、いっそ負けてしまえば、君という女神が俺に慈悲を垂れてくれたかもしれないのに……」 「そっ! そそそ、そんな! そんなこと言わないでください! お願いします!」 エツィオのいちいち芝居がかった台詞にシエスタがいちいち大仰に反応する。 それが楽しくてエツィオの調子がますますエスカレートする。 「決闘に勝って、勝負に負けるとはこのことか……胸にぽっかりと穴があいた気分だよ」 「ごっ、ごめんなさい! エツィオさん! 私! なんでもしますからっ! どうかそんな事を言わないでくださいっ!」 「なんでも?」 からかわれ半泣きになったシエスタがエツィオの身体にすがりつく。 エツィオはフードの中でニヤリと笑うと、シエスタの腰に片手を回し、きつく抱きよせた。 突然の出来事にシエスタが目を白黒させる。 「えっ? あぇっ? そ、その……え、エツィオ……さん?」 「そうか……なんでもか。なら、今から君は俺の専属メイドだ」 「ふぇっ!? せっ、専属! ……ですかっ!?」 突然の要求にシエスタが素っ頓狂な声を上げた。 エツィオは空いた手でシエスタの顎をしゃくり、瞳の中を覗き込む、シエスタの胸の鼓動が益々早くなるのを感じる。 シエスタは面白いほど動転している、そんな彼女にトドメを刺すべくエツィオが耳元で囁いた。 「よろしいかな……? シエスタ」 蕩けそうなほどの、情熱的で甘い声、みるみる顔が赤くなり、かくん、とシエスタの全身から力が抜ける。 毒牙にかかった瞬間だった。 「よ……喜んで……」 「決まりだな」 「はひ……」 うっとりとした表情でシエスタが頷く。 エツィオはにっと笑うと、腰にまわした手を離した。 シエスタはそのままぺたんと地面に座り込んだ。 その様子はもはや心ここに在らずといった感じだ。 「おいおい、大丈夫か?」 ちょっとやりすぎたかな、とエツィオが苦笑しながら手を差し伸べシエスタを引き立たせる。 シエスタはふらふらと立ち上がると、ぺこりとお辞儀をした。 「はっ、はい、あのっ……ふ、ふつつか者ですがどうぞよろしくおねがいします!」 「あぁ、これで君を他の男に取られる心配はなくなったわけだな」 「あの、呼び方はどうしましょう?」 「呼び方?」 「はいっ! 私は専属メイドなので、やはりエツィオさんじゃ何かと……その……、ですからご主人様とかっ!」 「いや、いつも通りに接してくれ、万が一ルイズに知られたら大変だ。あの子はそう言うのに一々うるさくてね。 主人に対し、配慮をするのもメイドの仕事、そうだろ? この関係は二人だけの秘密、いいかな?」 「秘密のカンケイ……、わかりました、ちょっと残念ですけど、いつも通りエツィオさん、ってお呼びしますね」 「よろしい、さてシエスタ、早速で悪いが、ちょっと傷の手当てをしたいんだ、薬があったら分けてくれないか?」 「はいっ、それじゃあ、厨房へ行きましょう、あそこなら薬箱もありますから」 「よし、では行こうか」 エツィオは小さく笑みを浮かべると、シエスタを連れ、厨房へと向かった。 「おいシエスタ! どこに行ってたんだ!」 「あっ、マルトーさん!」 二人が厨房へ足を踏み入れると、一人の恰幅のいい中年男が現れた。 服装からしてこの厨房のコックであろう。 マルトーと呼ばれた男は、呆れたように言った。 「まったく、まだ話の途中だったろうが、すぐに逆転したって言おうとしたら、 急に顔を青くして走って行っちまうんだからよ……」 「す、すいません……」 シエスタが恥ずかしそうにうつむく。 どうやら、途中経過だけを聞いてエツィオが負けたと早とちりして厨房を飛び出したようだった。 エツィオは小さく笑い、シエスタの肩に手を置く。 「だろう? 君の勘違いさ」 「は……はい……」 「ん? お前さんは……おおっ!」 シエスタの横に立っていたエツィオに気がついたマルトーは頓狂な声を上げる 「誰かと思えば『我らの刃』じゃないか! なんだシエスタ! 連れてきてくれたのか!」 「『我らの刃』?」 突然出てきた言葉に首をかしげる、まるでセンスのない吟遊詩人がつけたようなネーミングだ。 「おうよ! お前さんはもう学院じゃ有名人だぜ! 高慢ちきな貴族を打ち負かした、我ら平民の希望! 『我らの刃』だ!」 「ははっ、それはどうも……」 肩を竦め、なんとも微妙な反応を返す。 それを謙遜と受け取ったのか、マルトーはエツィオの肩を力強く叩いた。 「なぁに! 謙遜することは無いぞ! さぁ『我らの刃』よ! こっちに来てくれ!」 「なっ、おい、ちょっと……」 「おおい! 『我らの刃』が来たぞ! 英雄の凱旋だ!」 マルトーが厨房に響くように怒鳴った、それを聞いた若いコックや見習い、メイド達がどっと押し寄せる。 「おおっ! この人が!」 「貴族を打ち負かしたってホントか!」 「俺は見たぞ! 蝶のように舞い、蜂の用に刺す! 次々ゴーレムを切り裂いていったんだ!」 「素敵な方……」 厨房中から歓声が沸き起こる、もみくちゃにされながらエツィオが苦笑する。 「お、おい、まずは落ち着いてくれ、俺はただ……」 「え、エツィオさんは傷の手当てをしたいそうなので! そのっ、後でお願いします!」 「おおそうか! おい! 何やってる! 早く救急箱持ってこい!」 エツィオの言葉を引き継ぐようにシエスタが進み出る、 それを聞いたマルトーが見習いを怒鳴りつけ救急箱を取りに行かせた。 エツィオは厨房の奥にある椅子に腰かけると、小さく息を吐いた。ギーシュを倒したくらいで大変な騒ぎである。 救急箱を受け取ったシエスタが手際よくエツィオの傷口を消毒し、手当をした。 そうして手当てを終えたエツィオにマルトーが話しかける。 「いやぁ、悪かったな『我らの刃』よ、お前が貴族を打ち倒したもんだから、あいつらみな興奮してんだ、って、俺もなんだけどな!」 「いや、別に気にしてはいないさ、えぇと、ミスタ・マルトー」 「おいおい、『我らの刃』よ、ミスタ、だなんてつけてくれるな! そのまま呼んでもらってかまわんよ!」 マルトーはエツィオの首に太い腕を巻きつけた。 「そうか、俺はエツィオだ、そちらも『我らの刃』だなんて呼ばずに、名前で呼んでくれ」 「どうしてだ?」 「他人行儀で寂しいじゃないか、俺は君らと同じ平民だ、仲間だろ?」 エツィオはマルトーと肩を組むと、人懐こい笑顔で語りかける。 その言葉に感極まったマルトーが大声を上げ、さらにエツィオの首を締めあげた。 「なんて奴だ! お前みたいないい奴見たことがないぞ! エツィオ!」 「ぐぉっ、く、苦しいって!」 「おぉすまんな! ははっ! つい感激しちまってな! 俺はお前の事が益々気に行った! どうしてくれる! お前の額に接吻するぞ!」 「おい、勘弁してくれ! 俺の身体は女の子の物だ!」 「言ってくれるじゃねぇかこの野郎!」 マルトーが豪快に笑い飛ばし、シエスタの方を向いた。 「おいシエスタ! 俺の代わりにこの勇者にキスしてやれ!」 「はい! って、えぇっ!?」 そんな二人の様子をニコニコしながら見守っていたシエスタが元気よく返事を返したが、 とんでもないことをさらりと言われていたことに気がつき、顔が真っ赤になった。 「ええっと、その! あの、私! まだ初めてでそのっ! で、でもエツィオさんなら! よ、よろしくおねがいします!」 しどろもどろになりながらシエスタはエツィオに口づけをすべく、目をつむった。 エツィオは小さく笑うと、人差し指を立てシエスタの唇にそっと触れる。 驚いたシエスタが目を開けた。 「ファーストキスか、なら君の口元を血で汚すわけにはいかないな、キスはお預けだ、シエスタ」 「は、はぁ……わかりました」 果たしてどちらに対しての『お預け』なのか、エツィオはそう言うと軽くウィンクした。 どことなく落胆した様子のシエスタが小さく肩を落とす。 「まぁそう気を落とすなシエスタ! なら、せめて我らの勇者にアルビオンの古いのを注いでやれ!」 すぐに気を取り直したシエスタは、満面の笑みになると、葡萄酒の棚から、言われたとおりのヴィンテージを取り出してきて、 エツィオのグラスに並々と注いでくれた。香りを愉しんだあと、まずは一口ワインを口にする。 「へぇ、うまいな、朝にもワインを頂いたが、あれとは大違いだな、かなりいいワインじゃないのか?」 「その味がわかるか! 貴族のガキ共に出すよりお前に飲んでもらった方がそのワインも幸せってもんだ!」 一気にグラスを傾け、飲み干したエツィオを、シエスタは、うっとりとした面持ちで見つめている。 マルトーは社交的で機知に富んだエツィオの人柄を気に入り、惚れ込んだようだ。 「ごめんなさい、エツィオさん、マルトーさんがはしゃいじゃって……」 「なに、気にしてはいないさ、少し驚いたけどな」 しばしの談笑を楽しんだエツィオは、ルイズのいる教室へ向かうべく、厨房を後にする。 これから夕食の準備だと言うシエスタは厨房の入口までエツィオを見送った。 彼女も学院に勤めるメイドである以上、学院での仕事はきちんとこなさなくてはいけない。 専属とエツィオは言ったが、彼女を拘束するつもりは毛頭なかった。 「それじゃあ、私は仕事に戻ります、何かあったら言ってくださいね、お力になりますので」 「ありがとう、また寄らせてもらうよ」 教室へ向かうエツィオの後ろ姿をうっとりとした表情で見つめていたシエスタは、 緩んだ頬を引き締め、仕事に戻るべく厨房へと戻る。 その時、柱の陰にいる影に気がついた。 「あら? 何かしら?」 赤い影はきゅるきゅると鳴くと、消えていった。 エツィオが召喚されてから一週間ほど経とうとしたある日。 午後の授業を全て終え、教室から出てきたルイズと合流したエツィオは、例によって彼女を食堂までエスコートする。 常に彼女の歩調に合わせ、半歩後を歩く、その姿はまさしく、お姫様につき従う騎士のようである。 「さ、どうぞ」 エツィオが椅子を引きルイズが腰かける。相も変わらず、見事なエスコートであった。 テーブルにはやはりというべきか、豪勢な食事が並んでいる。 エツィオが視線を下に向ける、するとそこには、いつもと同じスープが置いてあった。 「なぁルイズ……」 「なに?」 「やっぱり、なんとかならないのか?」 「なによ、ギーシュに勝ったご褒美に食事抜きの罰を帳消しにしてあげたんだから、ありがたく思いなさいよね」 エツィオがつらそうな表情で言うと、ルイズがすました顔で言った。 「はぁ……、外で食べてくるよ、君らの食事を眺めながらだとつらいものがある」 エツィオは大仰に肩を竦めると、大きくため息を吐く。 そして退出しようと踵を返した時、ルイズに呼び止められた。 「待ちなさい」 「ん? 何か?」 「ワインとグラス、置いて行きなさい」 「……ばれてたか」 流石に気付いたか……エツィオは苦笑しながら懐からワインボトルとグラスを取り出し、ルイズのテーブルに置いた。 「次やったら本当に食事抜くわよ? いいわね?」 「はいはい、肝に銘じておくよ」 ルイズが静かに睨みつける、エツィオは手のひらをひらひらと振りながら食堂を後にした。 「まだ甘いな……」 食堂の外に出たエツィオは小さく呟くと、懐からスプーンとフォーク、ナイフ等の食器を取り出す。 全てルイズの手元に置いてあったものだ、今頃彼女は慌てふためいているだろう。 その顔を見る事が出来ないのが残念だ。 溜飲が下がったエツィオは、薄く笑みを浮かべ、厨房へと向かおうとした、その時。 咄嗟に振り向き、手に持っていたナイフを振り向きざまに投げる。 一瞬左手のルーンが光り、投げたナイフは恐ろしい速度で石柱に当たりぽっきりと折れてしまった。 「……さて、かくれんぼは終わりにしようか、いい加減飽きただろ?」 一週間ほど前からずっと感じていた視線に対し声をかける。 警戒しながら、石柱付近を注意深く観察する、すると、きゅるきゅると鳴き声が聞こえてきた。 聞いたことのある鳴き声にエツィオが首をかしげると、柱の陰から赤い影がのっそりと現れた。 キュルケのサラマンダーである、どうやら今までの視線の正体はこのサラマンダーであるようだった。 「あれ? お前は確か、キュルケって子の……あっ、おい!」 エツィオが声をかけると、サラマンダーは尻尾を振り、口から僅かに炎を上げて、去って行ってしまった。 「……まぁいいか」 今までの視線の正体が、サラマンダーであることに拍子抜けしたのかエツィオが肩を竦めた。 その日の夜……。 ルイズはエツィオの毛布を廊下にほっぽり出した。 「なんのつもりだよ」 「手癖の悪い使い魔が何か盗んだら困るでしょ?」 食器類を掠め取ったことを根に持っているらしい。 「これじゃ何かあったときに君を守れないぞ?」 「そう、なら何か起きないように外で見張っておいて」 ルイズは眉を吊り上げて言い放った。 つくづく根に持つ少女だ。今夜はどうあっても部屋では寝させてくれないようだ。 エツィオは諦めたように外へと出る、中からガチャリと鍵を開ける音が聞こえてくる。 試しにドアノブを捻るがやはりというべきか、うんともすんとも言わない。 「やれやれ、締め出されたか……」 小さく呟きながら、壁に寄り掛かる。 窓から風がびゅうと吹いてエツィオの身体を凍えさせた。 シエスタの所にいって温めてもらうかな、なんてことを考えていると、キュルケの部屋の扉がガチャリと開いた。 出てきたのは、サラマンダーのフレイムだった。 燃える尻尾が温かそうだ。 エツィオはフッと笑うと、手を差し伸べる。 「お前は……、あぁ、さっきは悪かったな、ちょっと気が立ってたんだ、仲直りしよう」 エツィオが優しく語りかけると、サラマンダーはちょこちょこと近づいてきた。 きゅるきゅる、と人懐こい感じで、サラマンダーは鳴いた。どうやら害意はないらしい。 「へぇ、なかなか人懐こい……ん?」 サラマンダーはエツィオのローブの袖を咥えると、ついてこい、というように首を振った。 「まてまて、大事な形見なんだ、燃やさないでくれよ」 エツィオは言った。しかし、サラマンダーはぐいぐいと強い力でエツィオを引っ張った。 キュルケの部屋のドアは開けっぱなしだ。どうやらそこに引っ張り込むつもりらしい。 「入れってことか?」 エツィオがサラマンダーに尋ねると、肯定の意味なのか、きゅるきゅる、と鳴いた。 サラマンダーが自分を監視していた事が腑に落ちないが、どうやら害意は無いらしい。 エツィオはキュルケの部屋のドアをくぐった。 入ると、部屋は真っ暗だった。サラマンダーの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。 暗がりからキュルケの声がした。 「扉を閉めて?」 エツィオは扉を閉めた。 「ようこそ、こちらにいらっしゃい」 その一言だけでエツィオは全てを察したらしい。 口元に微笑を浮かべ、一歩一歩ゆっくりと歩を進めていく。 キュルケが指をはじく音が聞こえた。 すると、部屋の中に立てられたロウソクが一つずつ灯っていく。 エツィオの近くに置かれたロウソクから順に火は灯り、キュルケのそばのロウソクがゴールだった。 まるで道のりを照らす街灯のように、ロウソクの火が灯っていた。 ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰かけたキュルケの姿があった。 ベビードール一枚というなんとも悩ましい姿である。 「お招きいただき光栄だ、ミス・キュルケ」 エツィオは優雅に腰を折り一礼する。 キュルケはにっこりと笑って言った。 「座って」 「では失礼」 エツィオはキュルケの横に腰かける。 彼女の目的は大体察しているが、あえて問いかけた。 「さて、本日は何の用があって俺を呼び出したのかな?」 燃えるような赤い髪を優雅にかき上げて、キュルケはエツィオを見つめる。そして大きくため息をつき、悩ましげに首を振った。 「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」 「……」 「思われても仕方がないの、わかる? あたしの二つ名は『微熱』……」 キュルケは切なげな声でフードの中を覗き込む、エツィオは優しい笑みを浮かべ彼女の顎を持った。 「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの、だからこんな風にお呼び立てしてしまうの。わかってる、いけないことよ」 「なるほど、だからあの子を俺の監視につけたのか」 エツィオが部屋の隅のサラマンダーを顎でしゃくる、キュルケは潤んだ瞳でエツィオを見つめ、すっと顎にあてられた手を握る。 そして一本一本、エツィオの指を確かめるようになぞり始めた。 「監視だなんて……! あたしはただあなたのことをもっと知りたかっただけ……。 あなたがギーシュを倒した時の姿……とってもかっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだった」 「それで? 俺の何がわかったのかな?」 「誰よりも紳士的で、それでいて野性的、その上こんなにもハンサムだなんて……。知ってるんだから、あなた、一人メイドを誑し込んでるみたいね、 その子はもうあなたの事ばかり見てる、ずるいわ、そのメイドに嫉妬しちゃう……。でも仕方ないわ、貴方の魅力に惹かれない女なんていないもの……あたしもその一人。 あの日からあたしはぼんやりとしてマドリガーレを綴ったわ、マドリガーレ、恋歌よ。あなたの所為なのよエツィオ。 あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探らせて……」 「お褒めいただき光栄だ、キュルケ……、でも君だけが俺の事を知っているだなんて、ちょっと不公平じゃないか?」 「そうね……恋の駆け引きはいつも公平であるべき、だからあたしはあなたをお呼びしたのよ? エツィオ。あなたにあたしをもっと知ってもらいたくて……」 「あぁ……是非とも君の事を知りたいな、マドリガーレ、聴かせてくれるんだろう?」 「もちろんよ、エツィオ……」 キュルケは、エツィオの口元の古傷を指でなぞり、ゆっくりと目をつむり、唇を近付けてきた。 エツィオがキュルケと唇を重ねようとしたその時、窓の外が叩かれた。 そこには、恨めしげに部屋の中を覗くハンサムな一人の男の姿があった。 「キュルケ……。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」 「ペリッソン! ええと、二時間後に!」 「話が違う!」 ここは三階、どうやらペリッソンという男は魔法で浮いているらしい。 キュルケは煩そうに、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、 そちらの方を見もしないで杖を振った。 ロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹き飛ばした。 「うるさいフクロウね」 「それだけ君が魅力的だという証拠さ」 「彼はただの友達、勘違いしちゃってて困ってるの」 まったく動じないエツィオも流石である、悲鳴を上げ落下していく男を気にも留めずに、再び目をつむったキュルケへと唇を近付ける。 すると……今度は窓枠が叩かれた。 見ると、悲しそうな顔で部屋を覗き込む、精悍な顔立ちの男がいた。 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」 「スティックス! ええと、四時間後に!」 「そいつは誰だ! キュルケ!」 怒り狂いながら、スティックス、と呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。 キュルケは煩そうに、再び杖を振る。例によってロウソクの火が太い炎へと変化し、男を外へと吹き飛ばした。 「随分な扱いだな、友達にそんなことしていいのか?」 「彼は、友達というより知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜は長いだなんて誰が言ったのかしら! 瞬きする間に太陽はやってくるじゃないの!」 「それについては同感だ」 キュルケとエツィオは再び唇を近付ける。 窓だった壁の穴から悲鳴が聞こえた。 またまたキスを中断されたエツィオはうんざりしながら振り向いた。 窓枠で、三人の男が押し合いへしあいしている。 三人は同時に同じセリフを吐いた。 「キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ってたじゃないか!」 「マニカン! ギムリ! エイジャックス! ええと、六時間後ね」 キュルケはめんどくさそうに言った。 「朝だよ!」 三人が仲良く唱和した。 キュルケはうんざりした声でサラマンダーに命令した。 「フレイムー」 きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたサラマンダーが起き上がり、 窓際で争っている三人に向かって炎を吐いた。 三人は仲良く地面に落下して行った。 「今のは?」 エツィオは意地悪な笑みを浮かべながら尋ねる。 「さあ? 知り合いでもなんでもないわ。 とにかく! 愛してるわエツィオ!」 キュルケはエツィオの顔を両手で挟み、まっすぐに唇を奪った。 エツィオはそんな彼女の肩に両手を置くと、そのままベッドに優しく押し倒した。 「ふぅっ、荒っぽいキスだな、でも嫌いじゃない」 「……あなた、責めないの?」 跨られる形になったキュルケがエツィオに尋ねる。 「責める? これからさ、じきに君は俺の事しか見えなくなる」 サディスティックな笑みを浮かべ彼女の耳元で甘く囁く。 ゾクゾクゾクッ! っとキュルケの全身に電撃が走るのを感じる。 途端に心拍数が跳ね上がり、顔が火照ってきた。 「君は遊びのつもりで俺に手を出したんだろうけど……」 エツィオに瞳を覗きこまれる、キュルケは思わず目をそらす。 甘く見すぎていた、ちょっと遊んでやるだけ、それだけのはずだったのに、心臓が狂ったように高鳴っている。 いつの間にか彼を直視することができなくなった、直視すればするほど、彼に惹きこまれてしまいそうで。 このまま彼に身を任せていたら、自分はどうにかなってしまいそうだ。 エツィオの手がキュルケのベビードールへと伸び、優しく、焦らす様に脱がしていく。 「あっ……」 切なげな吐息を洩らし、キュルケはエツィオの成すがままになっていた。 「俺は彼らのようにはいかないということを、じっくりと君に教えてあげ――」 最後の一枚にエツィオの手が伸びた、そのとき……。 ドアが勢いよく開け放たれた。 また男か? いいところなのに……。と思ったら違った。 ネグリジェ姿のルイズが立っている。 「げっ……!」 その姿を見たエツィオがキュルケから飛び退く。 幾多の死線を潜り抜けたエツィオが思わず身構えるほど、今のルイズからは怒気と殺気があふれ出ていた。 ルイズは忌々しそうに部屋に立てられたロウソクを一本一本蹴り倒しながらエツィオとキュルケに近づいた。 「キュルケ!」 ルイズはキュルケの方を向いて怒鳴った。 ぽー……っと上の空だったキュルケが、我に返り振り返った。 「……あら? ヴァリエールじゃない、いまいいところだったのに……」 「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」 ルイズの鳶色の瞳は爛々と輝き、烈火のような怒りを示している キュルケがシーツを手繰り寄せ胸元を隠した。 「あぁ……それね、うん……それが、好きになっちゃったの、本当に……」 キュルケはうっとりとした表情で言った。 ルイズの手がわなわなと震える。 「エツィオ、来なさい」 ルイズは窓だった壁の穴からこっそりと逃走を図ろうとしているエツィオを睨みつけた。 ビクっとエツィオの身体が硬直する、ルイズはずんずんと近づくと、エツィオの襟元をがしりと掴んだ。 「そ、それじゃキュルケ! また会おう!」 ルイズに襟元を掴まれ、ズルズルと引きずられながら退出していく。 バタン、と部屋のドアが閉まる、その様子を上の空で眺めていたキュルケがぼんやりと呟いた。 「ふふっ……うふふふふ……ルイズ、彼はあなたの手に余るわよ……くしゅん!」 窓だった壁の穴から吹き込む風に体を冷やしたのか、小さくくしゃみをする。 「はぁ……、この窓どうしましょ……」 部屋に戻ったルイズは、慎重に内鍵をかけると、エツィオに向き直った。 唇をギュッと噛みしめると、両目がつりあがった。 「まるでサカリがついた野良犬じゃないの~~~~~~ッ!!」 声が震えている。ルイズは怒ると口より先に手が動き、手よりも先に足が動く。 この一週間生活を共にして、その辺はエツィオも承知していたが。 もっと怒ると、声が震えるのは初めて知った。 ルイズは顎をしゃくった。 「そこにはいつくばりなさい、わたし間違ってたわ、あんたを一応人間扱いしていたみたいね」 「この扱いで人間って、君にとって人間ってどんな存在なんだよ」 「ヘラヘラ笑うなッ! ツェルプストーの女に尻尾を振るなんてぇーーーーーーッ! 犬ーーーーーーッ!」 ルイズは机の引き出しから何かを取り出した。鞭である。 「ははっ、薄々感づいてたが、君にそんな趣味があるなんてね……ちょっと意外、でもないか」 それを見てもエツィオは余裕の態度を崩さない、それが益々腹立たしい。 ルイズは怒りにまかせピシッっと床を叩いた。 「ここここ、この、ののの野良犬! 野良犬なら野良犬らしく扱わなくっちゃね。いいい今まで甘かったんだわ」 「本気でそういう趣味なのか? 困ったな、俺はどっちかっていうと責める方が好きなんだけどな」 エツィオはルイズの持った見事な鞭を見つめて茶化した。 いやぁ、立派な革製の鞭である。 「じょじょじょじょじょ、乗馬用よ! ソッチの鞭じゃないわよ! この馬鹿犬ーーーーッ!」 「おわっ!」 ルイズは鞭を振りかぶりエツィオを叩こうとする、紙一重で回避し、テーブルを挟むように逃げた。 「おい、落ちつけよ! えっと、その、さっきのは彼女が困ってたんだって! ……多分」 焦っているように見えて、口元がニヤついている、完全にナメている。 その態度がルイズの怒りにさらに油を注いだ。 「そこに直りなさい! 今日という今日はあんたに自分の立場ってものを文字通り叩きこんでやるわ!」 「ははっ、そればかりは……!」 「なによ! あんな女のどこがいいのよッ!」 エツィオは振り下ろされた鞭を手甲ではじき、ルイズから奪い取る。 目にもとまらぬ早業、ルイズは何が起こったのかわからないと言った表情でエツィオを見つめた。 エツィオは小さく笑うと、鞭を振い、ルイズと同じようにビシッ! と床を叩いた。 これから何をされるのか察したのか、ルイズの顔がみるみる青くなる。 「かっ……返しなさいよ……ッ!」 「おや? 言葉使いがなっていないな、攻守逆転だぞ、ご主人様。いや、この場合、ご主人様は俺か」 「ひっ……、あ、あんた、な、何する気よ……! や、やめなさいよ! 何考えてるのよ!」 「君と考えてることは一緒さ、立場ってものを教えてあげようと思ってね」 とってもサディスティックな笑みを浮かべたエツィオにルイズがへたり込む。 どうしよう……このままじゃ本当に……。 エツィオが手に持った鞭を振り上げ、ルイズを叩く、と思いきや。 そのまま後ろ手に鞭を放り投げた。 「なんてな、冗談さ、君相手にそんなことしたら俺は世界中の男どもに命を狙われるだろうな。五年後の楽しみとして取っておくよ」 エツィオは、笑いながら肩を竦める。 そして腰を抜かし、床にへたり込むルイズに手を差し伸べた。 「なんだよ、この程度で怯えるだなんて、可愛いところもあるじゃないか」 ルイズはエツィオの手を取り立ち上がる。 そしてぎゅっと、手を握り締め、目に涙をため、上目づかいにエツィオの事を見つめた。 今までの態度から一変してしおらしくなったルイズに少々驚いていると、 ルイズがぼそぼそと呟き始めた。 「あ、あの……その……エツィオ……」 「ん? 何だい?」 僅かに自分の名前を呼ぶのが聞こえる、 エツィオは怪訝に思いつつもルイズに近寄った。 それがいけなかった、逃がすまいと掴まれた手に力がこもりエツィオの動きを封じる。 「死ねッ!!」 ルイズの右足が疾風のように動き、エツィオの股間を蹴りあげた。 「ぐっ……ぬぁ……」 エツィオは地面に膝をつき悶絶する。 衛兵達を相手にしているときも何度かもらった事はあるが、 これほどまでに見事な金的は食らったことがない……。 やはり男性同士、どこかで遠慮というものがあったのだろう……。 「ふ、ふふふ、つ、捕まえたわよ……この馬鹿犬……!」 ルイズは不気味に笑うと、床に落ちた鞭を拾い上げる。 もちろん手は握ったままだ。指が食い込んでいる、何があっても逃がすつもりは無いらしい。 「なっ……お、おい、やめろ……」 「ごごご、ご主人様をこんなに、かかか、からかうなんて、これは一から躾けないとだめなようね……!」 息も絶え絶えなエツィオを見下ろし、ルイズが鞭を振り上げる。 それを見たエツィオの顔が青くなった。 「お……落ち着け……! は、話せばわかるって!」 「問答無用よこの馬鹿犬ーーーーッ!!」 夜はまだ始まったばかり、ルイズのお仕置きは空が明るむまで続き……、 さらにその後、朝までヴァリエール家とツェルプストー家の長年の因縁についての講義が続いたという。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/zeromoon/pages/47.html
ルイーズ「(黒いとげとげのフルフェイスヘルメットを被って)ゼロと!」 ランサー「ランサーと」 シエスタ「シエスタの!」 「「「コードゼロはんぎゃく日記!!」~」!」 ゼロ「人々よ!私を恐れ、求めるがいい!我が名は、ゼロ!! でもゼロって呼んだらエクスプロージョンで吹っ飛ばす」 ランサー「原作ギアス以上の暴君だなオイ」 シエスタ「こんにちは、魔法学院でメイドのお仕事をさせていただいております、シエスタと申します。 ......それで、ランサーさん、ミス・ヴァリエールは何をしてらっしゃるんですか?」 ゼロ「違うな、間違っているぞシエスタ。我が名はゼロ、胸《チカラ》ある者への反逆者である!」 ランサー「......だそうだ。ま、どうせ変なアニメでも見たんだろ。まったく、最近すっかり金持ちニートに浸食されちまって」 ゼロ「ふ、そんな口をきいていいのかなランサー。 この私の左腕のギアスにかかれば、オマエは3回までどんな命令でも絶対に......」 ランサー「いやいやいや、それフツーに令呪だから。しかもオレ以外に効かないから。 大体、強制《ギアス》は違う魔術だろ」 シエスタ「強制《ギアス》については、詳しくは原作FateのHFルートか、Fate/Zero三巻をご覧になって下さいね」 ゼロ「黙れ!それでもゼロの騎士団0番隊隊長か?!」 ランサー「いつからそんな役職についたんだよ!てかゼロの騎士団って何だ?!」 ゼロ「我々ゼロの騎士団は、胸《武器》を持たない全ての者の味方である! エルフだろうと、ハルケギニア人であろうと! ギーシュ・ド・グラモンは、卑劣にもモンモンより胸の大きなケティと浮気して二人の女性を無惨に傷つけた。 このような残虐行為を見過ごす訳にはいかない。故に制裁を加えたのだ。 私は巨乳を否定しない。しかし、巨乳が微乳を一方的に虐げることは、断じて許さない! (巨乳を)自慢していいのは、(虚無魔法で)撃たれる覚悟のあるヤツだけだ!」 シエスタ「あの、ミス・ヴァリエールは何の話をしてるんでしょう?」 ランサー「あー、判らなくていい」 ゼロ「我々は、胸《チカラ》ある者が胸《チカラ》なき者を虐げる時、再び現れるだろう。 たとえその敵が、どれだけ胸革命《おおきなチカラ》を持っているとしても! 胸《チカラ》ある者よ、我を恐れよ。 胸《チカラ》なき者よ、我を求めよ! 世界は、我々ゼロの騎士団が、裁く!!」 ランサー「はあ、いい加減本題に入りたいんだが......」 シエスタ「その前に私のアニメ準拠設定についての話をするようにってこのカンペには書いてありますよ」 ランサー「あー、じゃあさくっと終わらせてくれ」 シエスタ「はい、それでは一応ご説明いたしますね。 ゼロ魔の原作小説中では、私ことシエスタの容姿については『低めの鼻と、ソバカス』と描写されてますが、 アニメ版では『脱がなくてもスゴい巨乳+ソバカス無し』という主役を狙えるビジュアルに変更してもらっちゃいました」 ゼロ「くっ、戦術的勝利などいくらでもくれてやる!最後に全てを手にするのは、この私だ!!」ゴゴゴゴゴ シエスタ「(ニッコリ笑って)あら、負け惜しみにしか聞こえませんよミス・ヴァリエール」ドドドドド ランサー「やれやれ......てかよ、そもそもこの説明って必要なのか?」 シエスタ「あ、それがですね、このSSの作者はゼロ魔をアニメで初めて見たせいで、 Wikipediaの私についての項を読むまで、私にソバカスがある事すら気付いていなかったそうです。」 ゼロ「そんなバカ、この作者以外に居ないだろう」 ランサー「......もういい加減本題に入るぞ。 今回は四系統の『錬金』がどれだけデタラメな魔法かについてだったな」 ゼロ「ん?『魔法』じゃなくて『魔術』じゃないの?」 ランサー「ハルケギニアの文明レベルならまだ十分に魔法だろ。 だがまあ、タイガーころしあむの限定版に付いてたドラマCDでも 凛『物質変換なんて、どんな大魔術よコレ?!』 って言ってた通り、コッチの現代ではもう魔術に過ぎないがな」 ゼロ「魔術という事は、金と時間さえあれば再現可能ということか?」 ランサー「まあ、ここ最近の話だがな。 銅に中性子なんかの放射線が当たるとニッケルに変化するらしいんだが、 ソレを利用して広島原爆がどの程度の破壊力かが判るんだそうだ」 ゼロ「げ、ゲンバク?チューセイシ???」 シエスタ「ヒロシマって町の名前はおじいちゃんから聞いた様な......」 ライダー「詳しくは、98年の広島原爆投下の日に放送されたNHKスペシャル『原爆投下 10秒の衝撃』をご覧になってください。 NHKスペシャルセレクションとして書籍化もされていますので、そちらは今でも手に入ると思います。 書籍の方は未見ですが、映像の方は当時リア○だった作者にも理解しやすい内容でしたので、気軽に読めるのではないかと。 まあ、内容は重いですが」 シエスタ「へ~、そうなんですか」 ゼロ「ん?誰と話しているシエスタ」 シエスタ「え?こちらの女性と......あれ?居ない。おかしいですね、さっきまで確かに...」 ランサー「...何かあまり突っ込まないほうがいい気がするぞ」 ゼロ「フン、まあいい。 だが、その例は物質変換を目的として行った結果ではないのだろう?」 ランサー「ああ、純粋に物質変換のみをやろうとしたらサイクロトロンでも使わねえ限り無理だな」 シエスタ「さいくろとろん?」 ランサー「ああ、正式名称はサイクロトロン高エネルギー重イオン加速器。 電磁石で光速の50%まで加速した粒子をぶつけて新しい元素を生み出すんだと」 シエスタ「こうえねるぎい?じゅういおん?」 ゼロ「......で、要するにソレを使えば『錬金』と同じく物質変換が可能なのか?」 ランサー「金と時間さえあれば、な。 金1モル(175g)作るのに必要な原子の数は10の23乗個」 ゼロ「じゅ、ジュウノニジュウサンジョウ個って......」 ランサー「100000000000000000000000個。日本の命数法で言えば1000垓個だな。 2001年当時のサイクロトロンでは毎秒10の13乗個=10兆個の原子が作れるから、 金1モル作るには10の十乗秒、つまり100億秒必要になる」 シエスタ「100億秒?それって長いんですか?」 ゼロ「ええっと、10000000000÷60÷60÷24÷365だから...... さ、317年!人間だったら死んでるじゃないの!」 ランサー「つーか電気代だけで確実に1モル以上の金が買えるな」 シエスタ「じゃあ全然意味無いんですね」 ゼロ「だからこそ物質変換は『大』魔術と分類されるのだな」 ランサー「ま、そんな大魔術を小源《オド》のみでやっちまう『錬金』がどれだけデタラメか解ったろ?」 ライダー「ちなみに、今回使用した数字は某徳間書店アニメ雑誌01年8月号に掲載された 伊藤伸平の『バンザイ☆アタック』を参考にしています。数値はあくまで概算だそうですので悪しからず。 単行本化されていないようなので、興味のある方はブックオフなどで探してみてもいいでしょう。 店舗にもよりますが、少し大きめの所なら昔のアニメージュが腐る程置いてあります。 特に3月号がオススメですね。その年の全アニメ作品がデータベース化されていて、意外な発見があったりします。 そう、凛の中の人が黒歴史アニメでは琥珀役だったとか」 ランサー「待て、アレの話題はやめとけ」 シエスタ「あ、さっきの方」 ゼロ「何故解説に出ばって来ている?さっさと『魔眼の使い魔』に帰れ」 ライダー「失礼な方たちですね。私は元々読書が趣味の痴的キャラですよ」 ゼロ「...知的の『知』が間違ってないか?」 シエスタ「ダメですよミス・ヴァリエール、ツッコんだら負けです! ココは作者お得意の誤植ということにしてスルーするんですよ」 ライダー「聞こえてますよ。いいでしょう、その主役を狙える設定とやら、存分に堪能させていただきましょう。 あちらの静かな場所で、じっっっくりと、二人っきりで、ね」ジャラジャラジャラ シエスタ「ああっ、鎖が!やめて、百合の上にいきなりそんなアブノーマルなプレイなんて~!」 ライダー「フフ、大丈夫、痛いのは最初だけですよ」 シエスタ「い~~~~ゃーーー......」(悲鳴が遠ざかって行く) ゼロ「...いいのか?助けなくて」 ランサー「女同士はノーカウントだ。むしろお嬢ちゃんが助けろよ。正義の味方なんだろ?」 ゼロ「いや、彼女は友達のようで肝心な時にいっつも敵として立ちふさがる属性のような気が......」 ギーシュ「そこは中の人が同じなボクのポジションだろう!」 ゼロ「五月蝿い女の敵!どこから湧いて出た?! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが命じる。オマエは、死ね!! エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ......」 ギーシュ「ちょ、ちょっと待てルイズ、それギアスじゃなくってエクスプロージョ......アーッ!」 ズドオォォォ......ォォン ランサー「...それは確実にオーバーキルだろ、勝利する黄金の剣《カリバーン》じゃあるめぇし」 ゼロ「ああ、それで思い出した。wikiについての件なんだが」 ランサー「何でこの流れで思い出すんだよ!」 ゼロ「それが、SSが上手く書ける様になるには、自分の書いた文章を何度も読み直せって某所で言ってたから 作者はそれを実戦していたらしいんだが、一読する度にあまりの駄文っぷりに悶死するんだそうだ。この間なんか 『これはこのオレが作り出した妄想に過ぎん。所詮は二次創作。真作とは成り得ぬSSだ。だが、しかし―――― その妄想も侮れぬ。よもやただの一読で、この身を七度滅ぼすとはな......』 とか嘯いてまっ白になってたぞ」 ランサー「んなコト言ってるウチは大分余裕あんだろ。 ま、要するにwikiにまとめる前に手直しがしたい、と?」 ゼロ「ああ、迷惑な話だ。 奈須先生も言ってただろうに。作品は世に出した時点で死を迎えて、作者の物ではなくなると」 ランサー「ま、欠陥が判っていて放置する方が、作り手の責任放棄と言えなくもないが」 ゼロ「フン、そんな屁理屈通用するか。所詮は作者の愚かさだ。 まあ、このスレ専用まとめwikiも未だ作られていない状況なのだ。まだ時間もあるし、問題無――――」 ランサー「あ~、それなんだが......」 ゼロ「何だ、はっきり言え」 ランサー「作者のリアルが忙しいそうで、1月一杯は更新は無理だそうだ」 ゼロ「なっ、何ですって!?」 ランサー「まあ作者もFate/Zero4巻もゼロ魔最新刊もお預けで仕事(?)してる予定らしいから、勘弁してやれ」 ルイーズ「仕方ないわね...こうなったら、最終回一話前に予定していた嘘最終回予告をやってしまいましょう!」 ランサー「いや2月になったらまた再開するんだが――――」 ルイーズ「いいのよ、一度打ち切りで雑誌《スレ》を移って連載のほうが納まりがいいでしょ? ま、ギーシュを一ヶ月放置っていうのも悪くないし、 ソレ以前にひと月もこの作者の駄文を待ってくれる人自体居ないかもしれないんだから、最終回っぽくしとくのよ!」 ランサー「なんかイロイロと突っ込んではいけない気がするな...それで、嘘最終回って何なんだ?」 ルイーズ「決まってるじゃない、コレよ!」 Zero/stay night 完結編? ルイズ「もしもし、『ルイズが聖杯戦争に殴り込むスレ』のルイズよ、お疲れ様」 作者「え、ルイズさん?」 ルイズ「今日から私が『Zero/stay night』の担当になったわ。」 作者「え?あの、前の担当のギーシュさんは?」 ルイズ「死んだわ」 作者「うそーーーーー!な、何で?!」 ルイズ「実は、初めて出来た彼女に初デートの前にフラレて」 作者「えぇ!それで自ら命を!?」 ルイズ「いえ、ショック死よ」 作者「ショック死?!」 ルイズ「なんか授業中に彼女から別れの手紙が来て、『ありえないんだゼ』とか叫んでバタンとぶっ倒れたわ」 作者「最後までその喋り方だったんですね......」 ルイズ「それで仕事の話に戻るけど、『Zero/stay night』次回で最終回よ」 作者「うそーーーーーー!」 ルイズ「悪く言えば打ち切りね」 作者「わざわざ悪く言わないで下さい!」 ルイズ「もともとあまり人気がなかったけど、前回はぶっちぎりで不人気だったのよ。設定厨全開だったし。 『魔眼の使い魔』より人気なかったわ」 作者「マジすか?てか2つしか投下されてないのに人気投票も何も無いでしょう?! 大体、急に最終回とか言われても困りますよ。私のSS、これから盛り上がって来るトコなのに、他のサーヴァントとか出て来て」 ルイズ「戦いはこれからも続くー、みたいな終わり方でいいんじゃないの?」 作者「二次創作SSでそんな終わり方ってどんだけナメてんですか?! ゼロ魔SSの場合、敵のボスのジョゼフに、タバサの母親が人質に取られてるじゃないですか。 しかもエルフの水の秘薬で心を狂わされて」 ルイズ「『魔眼の使い魔』と被ってるわね」 作者「いや、ゼロ魔原作がそうなんですよ! とにかくそんなワケで、ジョゼフを倒さないと、スッキリしないって言うか......」 ルイズ「そうね」 作者「しかもその為には、いろいろ条件があって、 ガリア王宮の扉を開く為には、サーヴァントを全員倒さなきゃいけないし、ジョゼフを倒すには、始祖の秘宝が必要だし、 しかも今度戦うサーヴァントのバーサーカーは、別名『ザ・フジミ』と呼ばれる程、妙にタフネスで、 11回殺さないと死なないんですよ」 ルイズ「なんでそんな設定にしたのよ」 作者「奈須先生に言ってくださいよ! あとルイズが幼い頃憧れていた婚約者がいて、ゼロ魔原作でも2巻で出て来るんですけど、ソレどうしましょう?」 ルイズ「さあ?まぁ、うまくまとめて頂戴」 作者「はあ......(新しい担当、やたらとツンだなあ......) で、最終回のレスは、何レスもらえるんですか?」 ルイズ「1レスでお願い」 作者「うそーーーーーーー! 何で私そんなにヒドい扱いなんですか?!」 ルイズ「ホント人気無くって」 作者「いや単発の『魔眼の使い魔』だって、毎回1レスなのに」 ルイズ「『魔眼の使い魔』も次回で最終回よ」 作者「えぇ!う、嘘でしょ?(アホ毛王「はい、その通り、嘘ですが」) 『魔眼の使い魔』の最終回は何レスなんですか?」 ルイズ「4レスよ」 作者「チキショーーーーーーーー! も、もうこのスレでは書きませんからね!」 ルイズ「いいわよ、もうこのスレ埋まるし」 最終話 希望を(無い)胸に すべてを終わらせる時...! wikiへのまとめは、未定です。 作者(すいません、登録しました。 まとめ人) ランサー「チクショオオオオ!くらえバーサーカー!新必殺音速火炎死棘の槍《ゲイ・ボルク》!」 バサカ「さあ来いランサァアー!私は実は5回殺されただけで死ぬぞオオ!」 (ザン) バサカ「グアアアア!こ、このザ・フジミと呼ばれるサーヴァントのバーサーカーが... こんな小僧にただの一度で、この身を7度滅ぼされるとは...バ...バカなアアアアアア」 (ドドドドド) バサカ「グアアアア」 ライダー「バーサーカーがやられたようですね...」 ハサン「ククク...奴はサーヴァントの中でも最弱...」 金ピカ「雑種ごときに負けるとはサーヴァントの面汚しよ...」 ランサー「くらええええ!」 (ズサ) 「「「グアアアアアアア」」」 ルイズ「ハァハァ......やったわ...ついにサーヴァントを倒したわ...これでジョゼフのいるガリア王宮の扉が開かれる!!」 ジョゼフ「よく来たなサーヴァントマスタールイズ...待っていたぞ...」 (ギイイイイイイ) ルイズ「こ...ここがガリア王宮だったのね...!感じる...ジョゼフの魔力を...」 ジョゼフ「ルイズよ...戦う前に一つ言っておくことがある。 お前は私を倒すのに始祖の秘宝が必要だと思っているようだが...別に無くても倒せる」 ルイズ「な、何ですって!?」 ジョゼフ「そしてタバサの母はやせてきたのでエルフの水の秘薬で治しておいた。 あとは私を倒すだけだなクックック...」 (ゴゴゴゴ) ルイズ「フ...上等よ...私も一つ言っておくことがあるわ。 この私に幼い頃憧れていた婚約者がいたような気がしてたけど別にそんなことはなかったわ!」 ジョゼフ「そうか」 ランサー「ウオオオいくぞオオオ!」 ジョゼフ「さあ来いルイズ!」 ルイズの勇気が世界を救うと信じて...! ご愛読ありがとうございました! 続くけど......待っててもらえるなら back / Zero/stay night / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5284.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ トリステインの某所。かつて開拓民が森を切り開いて作り、今は誰一人として住む者が居ない村。 その中に、廃墟と化した寺院があった。普段は明るい日差しに照らされ、牧歌的な雰囲気が漂う場所だ。だが今は、 そんな雰囲気は霞のように消し飛んでいる。なぜなら今、その場所は 「ぷぎっ、ぴぎぃ、んぎぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」逃げ惑うオーク鬼達の悲鳴と 「あはははは、ブタのような悲鳴をあげろ~!」追掛ける魔弾の射手の歓声が ゴチャマゼに入り混じった、まさに混沌と呼ぶに相応しい状況となっているから。 「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」 どこぞの撲殺天使みたいな歌を響かせながら、リップは手にしたシャベルに力を込める。寺院に辿り着く時に拾った、 先が尖った物だ。一頭のオーク鬼に追いつくと、飛び上がってシャベルを振り払う。切断され、オーク鬼は頭と胴体が オサラバした。 即座に次の標的を捉え、一気に間合いを詰める。横合いからオーク鬼の脇腹に目掛けて、シャベルの先を叩きこんだ。 数本の肋骨が折れ、オーク鬼はその場に倒れた。その直後、振り上げられたシャベルによって頭を叩き潰され、絶命した。 仲間が次々と殺されていく非常事態に、生き残った二頭のオーク鬼達はパニック状態となった。もはや縄張りに 入って来た人間を喰い殺すなどと言う考えは吹っ飛び、黒髪の女から逃れようと、森の奥へ向けて走り出す。 シャベルを地面に突き刺すと、リップは一本の木に向かって叫んだ。 「セラス、直接火砲支援!」 木の上に隠れていたセラスは、ハルコンネンを構えた。逃げるオーク鬼の二頭の内、一頭に狙いを定める。 「ヤー!」 返答の叫びと同時に、徹鋼弾を発射した。背後から腰に直撃を受け、オーク鬼は上半身と下半身が引き千切れる。 数秒ほど呻き声をあげ、絶命した。 即座に薬莢を排出し、弾薬箱から劣化ウラン弾を取り出す。薬室に装填し、残りの一頭に照準を合わせる。最初の一頭を 仕留めるまでの間に、かなりの距離が開いている。だがそんなものは、吸血鬼には大した問題では無い。 「距離500・・・600・・・・・・今!」 発射された弾丸は木や枝などを容易に貫通し、標的の心臓を撃ち抜いた。オーク鬼はうつ伏せに倒れ、生い茂った 雑草の中に血溜まりを作り即死した。 魔法の援護を受けず、リップとセラスはオーク鬼の群れを殲滅した。微塵の躊躇も、一片の後悔も無く・・・。 上空を旋回していたウィンドドラゴンが地上に着地する。背中からキュルケが降りると、驚きの顔を二人に向けた。 「凄いわね二人とも、流石は吸血鬼だわ。私達の出番が無いのは、ちょっと残念だけどね」 「全くだよ。僕のワルキューレの出番が無いのは、とても残念だ」 そう言いながら後から降りてきたギーシュは、ホッとしていた。キュルケは即座にツッコミを入れる。 「なに言ってるのよ、さっきまで怯えながらオーク鬼を見下ろしてた人がよく言うわ」 「キュルケ、出来ればその話は止めてほしいんだが・・・」 言い合いをする二人に気付かれないよう、セラスは口元を抑えて小さく笑った。リップはオーク鬼の血と脂で汚れた シャベルを、ポイッと野原に捨てた。背中に布で縛り付けていたマスケット銃を手にし、弾丸を銃口に入れた。 「えっと、あの、その・・・や、やっぱり吸血鬼って強いんですね。凄かったです、本当に・・・・・・」 キュルケの背後で震えていたシエスタが、リップを怯えた目で見ながら呟いた。リップは黙ったまま、シエスタを見返す。 セラスに背負われているデルフリンガーが、口を開く。 「そりゃそうだろ娘っ子、なんてったって黒服と相棒はハルケギニアの吸血鬼より強いんだからな」 「心臓を貫かない限り、死なない・・・」 デルフの説明に、本を読んでいたタバサが補足を加えた。セラスが歩み寄り、シエスタに頭を下げた。 「すいませんシエスタさん、本当は出会った時に言うべきだったんですけど・・・この世界じゃ、吸血鬼は恐れられる存在 だと聞いたんで」 「そんな、セラスさんが謝ること無いですよ! 立場が逆だったら、私だって正体を言ったりしなかっただろうし・・・」 シエスタは両手を左右に振りながら、ペコペコと頭を下げる。そこへリップが近づくと、軽くウィンクをした。 「これからも貴女と友好な関係を続けたいんだけど・・・よろしいかしら、シエスタさん?」 「あ、はい。これからも、宜しくお願いします!」 握手をしながら今後の交友を確かめ合うシエスタ達に、寺院の入口の階段に足を乗せたキュルケが手招きする。 「三人とも、早く来なさい。もうすぐ日が暮れるわ、さっさと宝物を確認しましょう!」 走って来る三人を見ながら、隣に立つギーシュが尋ねる。 「所で、この寺院にはどんな宝が有るんだい?」 「えっとね、『炎の黄金』で作られたと言われる首飾りが有るらしいわ。場所は、祭壇の下みたいね」 その言葉に、ギーシュは唾を飲み込む。 「これで七件目なんだ、今度こそ宝を見つけて姫殿下に・・・」 ◇ 二つの月によって照らされる、村の寺院。キュルケ達は入り口の階段に座り、燃え盛る焚き火を眺めていた。 ギーシュは薔薇の造花を指先で揺らしながら、毛布に仰向けになって溜息をつく。 「キュルケ、確認のため聞きたいんだが・・・『炎の黄金』で作られた首飾りとは、それかね?」 ギーシュが見つめる先には、キュルケの手に握られる色褪せた装飾品。それは、安物の真鍮で出来たネックレスだった。 足元に置かれたチェストと呼ばれる宝箱には、耳飾りや銅貨が入っていた。 キュルケは黙って首を縦に振ると、ネックレスをチェストに入れる。そして懐から化粧道具を出すと、爪の手入れを始めた。 その様子を、タバサは本から視線を外して見つめている。セラスとリップは、隣り合って階段に腰を下ろしていた。 「どうするんだいキュルケ、これで君の持っていた宝の地図は全て外れたよ。僕はもう、帰った方が良いと思うんだけどね。 他の皆も、廃墟や洞窟で化物や猛獣と戦ったりしたから、疲れてるだろうし・・・」 化粧道具を懐に戻しながら、キュルケは振り向く。 「そりゃそうだけど、だからと言って手振らで帰る訳にもいかないわ」 「じゃあ何かい、帰りに土産でも買っていくのかい? 銅貨が何枚かあるから、それを使えば良いけど」 「あの~、それでしたら」 二人の会話に、焚き火でシチューを作っていたシエスタが割り込んだ。お玉を使い、鍋のシチューを器に入れ皆に配る。 「私の生まれ故郷、タルブ村って言うんです。そこはワインの原産地なんですけど、宜しければ、皆さん行ってみませんか? 港町のラ・ロシェールから近いんで、ここからでも近いですし」 それを聞いたキュルケは、ポンと手を叩く。 「ワインか、良いわねそれ。学園に帰ったら一杯やりたいし、どうするギーシュ?」 「別にかまわないよ、何も無しで帰るってのもなんだしね」 「タバサは?」 「・・・問題無い」 「お二人は異論は無いかしら?」 セラスは笑顔で答える。 「良いですよ、ワインは好きですから。リップさん、良いですよね」 「良いわよ」 風に揺れる髪を優しく撫でるリップの姿に、セラスは心臓がキュンと震えた。そんな事に気付く訳も無く、キュルケは器を 持って立ち上がる。 「じゃあ決まりね、明日の朝タルブ村に出発よ! それにしても美味しいわね、このシチュー」 ◇ その頃、魔法学園ではルイズが部屋に籠って始祖の祈祷書(以後、始祖本と略する)と睨めっこしていた。 食事と入浴と睡眠、それ以外はずっと椅子に座って始祖本と睨めっこ。このルイズ、とても頑張り屋さんである。 「う~ん、なかなか良いのが思いつかないわね」 腕を組んで、素晴らしい詩を思い浮かべようとする・・・その時、ルイズに電撃が走った! 「そうだ、何かの文面を書き換えて詩っぽくしちゃえば良いんだわ! そうと決まれば図書室に直行!」 始祖本を掴んで扉を開けて、廊下を全力で疾走。階段を駆け降り、図書館へ突撃。図書委員は不在のため、勝手に入る。 すると、そこで見知った人物に遭遇した。 「オスマン校長?」 そこに居たのは学園長のオスマンだった。椅子に座って、何やら分厚い本を読んでいたようだ。ルイズに気付くと、席を 立った。 「誰かと思えば、ミス・ヴァリエールじゃったか。何か調べ物かね?」 「はい。詔の詩を考えるのに苦戦してまして、何か参考になる資料が無いかと。オスマン校長は何を?」 「君と同じじゃよ。姫様や偉いさんの前で、喋る事になっておっての。そのために、良い言葉が見つからないかと図書室に 来とる訳なんじゃ」 ルイズは関心した。普段は秘書に対するセクハラしかしないエロジジイだと思っていたが、やる時はやる人らしい。 学園長が頑張っているのだから、生徒である自分も頑張らなくてはならない。 始祖本を持たない左手を握り締めていると、オスマンに肩を叩かれた。顔を上げると、オスマンが優しい目で自分を 見つめていた。 「ミス・ヴァリエール、ちょいと肩に力が入り過ぎておるようじゃぞ。肩を回して、リラックスしなさい」 「あ、すいません。姫殿下の事を思うと、つい力んでしまって・・・」 両型を交互に回すルイズに、オスマンは笑顔を浮かべる。 「それは、お主が友達を大事にしておる良い証拠じゃ」 そう言うと、オスマンは机に置いてある本を持って図書室を出て行った。残されたルイズは、ボソリと呟く。 「頑張ろう」 始祖本を机に置き、本棚の前に移動する。フライが使えないため、上の方には手が届かない。下にある本に出来る限り目を 通し、詩に使えそうな材料を集める。 「さて、いっちょやりますか・・・あ、面白そうなの発見」 目の前にあった『ロードス島戦記』と書かれた本を、ルイズは手に取った。 シチューを食べた次の日の朝、キュルケ達はウィンドドラゴンに乗ってタルブ村に向かっていた。 シエスタの説明によると、タルブ村で生産されているワインは位の高い貴族や軍人も好んで飲んでいるらしい。 魔法学園の食事に出されるワインより値が高い一品と聞いて、キュルケのテンションは2~3倍に高まった。 「楽しみだわ、着いたら真っ先にワインを味見させてもらうわよ」 子供みたいに騒ぐキュルケに、シエスタはコッソリと笑う。前に座って地表を見下ろしているタバサが振り返った。 「見えてきた・・・」 キュルケ達は、前方に目を凝らす。その先には、整然とブドウ畑が連なる村が有った。その中の一つの家を指差して、 シエスタはタバサに尋ねる。 「あれが私の家です、近くに降りられます?」 「任せて」 タバサはウィンドドラゴンの頭を杖で軽く叩き、シエスタの家に降りるよう声をかける。了承を意味する鳴き声を一声 あげると、高度を下げ始めた。その時、シエスタが呟く。 「あれ?」 「どうかしたの?」 キュルケが問う。 「いえ、自宅の庭に見慣れない物が有ってビックリしまして・・・」 「見慣れない物?」 キュルケに習って、ギーシュやセラス、リップも庭を見る。そこには、大きな布で覆われた馬車ほどの大きさを持つ物体が 有った。 「雨除けのために、馬車を布で覆ってるんじゃないのかね?」 「恐らく違うわね、平民が使う馬車より遥かに大きいわ」 ギーシュの予想をキュルケが否定している内に、ドラゴンは地面に着地した。シエスタは一番に飛び降りると、自宅の 扉を叩く。室内からガタゴトと音がして、扉が開いた。出てきたのは、シエスタの父親であった。 「おや、シエスタじゃないか。予定より早く休みを貰えたのかい?」 「そうなの、だから長く家に居られるわ。あ、お客様を紹介するわね」 「こんばんわ。私、トリステイン魔法学園から来ましたキュルケと申しますわ」 いきなり現れたキュルケに、父親は驚いた。見ると、他にも四人の客が来ている。娘に目を向けると、シエスタは微笑んだ。 「村のワインを購入したいって、わざわざ村に来てくれたの。まだワインは残ってる?」 娘の問いを聞いて、父は急いで家に戻って行った。 布が取り去られた物体を、キュルケ達は取り囲んで見つめていた。 全体を漆黒で覆われた物体を、ギーシュやタバサは不思議そうな顔をしながら、見たり触ったりしている。そんな二人の 後ろ姿を、キュルケはコップにワインを注ぎながら眺めていた。そしてセラスは唖然とした顔で、リップは呆然とした顔で、 その物体を見ていた。シエスタが近寄り、心配そうに声をかけた。 「あの、お二人とも大丈夫ですか? これって、何か悪い物なんでしょうか?」 「・・・・・・」 「おい相棒、質問されてるぜ。どうしたんだよ、ヘンテコな物体にボ~ッとしちまって」 デルフの声に、セラスはゆっくりと顔を右に向ける。シエスタの父親に向けて、たとたどしく尋ねた。 「あの、ちょっと聞きたいんですけど・・・これ、どうしたんですか?」 キュルケとセラスの胸を交互に凝視していた父親はハッとした顔をすると、思い出すかのように説明を始めた。 「一月ほど前にですね、この物体を馬車に乗せた行商人が村を訪れまして。それで手綱を握る男に『この物体を食糧と 交換してくれないか』と言われたんです。珍しそうな物だったんで、リンゴやワインと交換して・・・そしたら後ろから 狼の耳と尻尾をもった亜人が現われて『何をしとるんじゃ、早くエーブを懲らしめに行くぞ!』と叫びながら男の首を 絞めて言い争いをしまして。それで、あっと言う間に馬車は村を去って行ったんです」 どこかで聞いたような説明に、セラスは何とも言えない気持ちになっていた。そうこうしている内に意識が戻ったのか、 リップは物体に手を触れる。凹みを掴み、横に引っ張る。ガララララ~ッと言う音と共に、扉らしき物が開いた。 中を覗き込み、鼻を抑える。 「リンゴと獣の臭いがするけど、異常は無いみたいね。まさか、異世界で『ドーファン』に再び出会うなんてね・・・」 「リップさんは、これが何か知ってるんですか!?」 シエスタに顔を向け、リップは物体の正体を明かす。 「この物体の名はAS365、フランスのユーロコプター社が開発したヘリコプター。ドーファンとは、フランス語で イルカのことよ」 「えーえす? へりこぷたー? え~と・・・」 脳内が混乱しているシエスタに、セラスが補足する。 「簡単に言えば、空を飛ぶ機械みたいなものです。所でリップさん、何故ヘリの名前を?」 両腕を左右に広げ、リップは苦笑いで答える。 「理由は簡単、これは私の物だから。ライミーの帝国海軍空母『イーグル』を乗っ取る時に用いたのが、このヘリだからよ!」 「「「「「「な、なんだって~!?」」」」」」 リップの衝撃の事実に、キュルケ達は大声で叫んだ。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4190.html
225 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 17 07 ID 7ecvSydb 「そうか、我が姪はそのような事になっておるのか」 「はい、ジョゼフ様」 そこはガリア王宮の北側に存在する、小さな、花のない花壇。 まるで意味のない建造物のようなそこは、ある騎士団が非公式に存在する、という事を臣下に知らしめるためだけに存在した。 ガリア北花壇警護騎士団。闇の仕事を請け負う、闇の騎士たちによる、闇の軍隊。 いや、軍隊という呼称はこの場合相応しくないであろう。 彼らは個々に連携を取る事はない。個人が個人として、ガリア王より闇の命を賜り、その命を人知れず遂行するのだ。 従って彼らには規律も、命令系統もない。 あるのは、ただ王の命に従うという唯一つの理のみ。 そして。 現ガリア王ジョゼフの姪、シャルロット・エレーヌ・オルレアンは、その北花壇警護騎士団の一員で『あった』。 母を取り戻し、トリステインに亡命した彼女には、最早ジョゼフの声が届く事はない。 しかし。 ジョゼフが、彼女に対する興味を失ったわけではなかった。 確かに、彼女はジョゼフの手駒ではなくなった。むしろ相手方の手に落ち、自陣に刃を向ける敵となって盤上に立っている。 しかし、そのすぐ脇には、ジョゼフが最も欲する、最大の駒がある。それさえ落とせば、トリステインの戦力は半減し、そして、自分の持つ鬼札で圧倒的優位に立てる。 それは『虚無』の力に他ならない。 ジョゼフの姪はそのトリステインの『虚無』に極めて近しい場所にいる。 しかも、ミョズニトニルンの報告によれば、シャルロットはその『虚無』の盾たるガンダールヴに、深く関わっているという。 面白い。実に面白い。 ここでシャルロットに揺さぶりをかければ、周囲に布陣された『虚無』と『盾』も動くだろう。 なれば、どうする。無能王。 我が手にある『頭脳』を以って、勝負を賭けるか? いや、今はその時期ではない。今『頭脳』を使うべき時ではない。 陣はまだ拮抗している。先の読めない布陣に、鬼札を使うわけにはいかない。今ここで鬼札を失えば、後半で自分の首を絞めることになる。 ジョゼフは考えた。 そして、花のない花壇を眺め、脇に控える神の頭脳に言う。 「…ミューズよ。奴は使えるか?」 「…は。まだ意思までは操作できませんが」 「よいよい。意のままに操るだけが手駒の使い方ではないぞ」 言ってジョゼフは懐から木製のサイコロを取り出し、石畳に放り投げる。 それは乾いた音を立てて転がり、停まる。 『1』の目を指していた。 「これは、運試しだよ。上手くいけば、トリステインの虚無を消せる。 上手くいかなくとも、『盾』を落とすだけでもよい」 「…は。では、仰せのままに」 「うむ。奴を起こせ。そして、『盾』の下へ送り込め。 路銀と身体はいいものを与えておけよ」 「御意」 頷いて、シェフィールドは花壇の北へ。 ジョゼフは花壇の南、王宮へと帰っていく。 残された木製のサイコロが、小さな音を立てて真っ二つに割れた。 226 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 17 47 ID 7ecvSydb その日。 晴れ渡った虚無の曜日。 才人は、使い魔の一人と街に買い物に来ていた。 黒髪の二人組は、厨房から頼まれた買い物リストを手に、人ごみの市場を回る。 サイトさーん、塩はもう買いましたか? ん、こっちはあらかた終わったぜー。 二人は別々の場所で買い物をしながら、才人とシエスタは心の中で会話する。 こういう時、使い魔の心のつながりは便利である。 電源のいらない、携帯電話のようなものだ。 二人はあらかじめ決めておいた集合場所に戻る。 そこはこの街の外縁、入り口そばの衛視所脇にある馬小屋。 そこに才人の馬と荷馬車が預けてある。 この衛視所はトリステイン王国軍の管轄だったため、シュヴァリエの証を見せたら、簡単に使わせてくれた。 才人にとって、普段はめんどくさいだけであまり役に立たないと思っていたシュヴァリエの地位だったが、こういうときは確かに役に立つ。 二人は山と買い込んだ買い物を荷馬車に放り込むと、ちょうど時間もいいので昼食を採りに街中へ向かう事にした。 「お二人も、来れればよかったんですけどねー」 「…まあ二人とも試験だって言うし。しょうがないよな」 街中を歩きながら、二人は学院に置いてきたルイズとタバサの事を気にかけながら、適当な食堂を探す。 さすがに二人とも試験なので無理やり着いてくることもなかったが、二人とも、出掛けに心の声でシエスタに釘を刺していた。 …二人っきりだからって、抜け駆けしたら怒るわよ。 …帰ってきたら、チェックするから。 しかしシエスタとて遊びで街に行くわけではない。 厨房の買出しの手伝いで街に行くのだ。 まあでも、お食事をご一緒するくらいは、かまいませんよねー。 などと思いながら、普段着のシエスタは、隣を歩く才人の腕に自分の腕を絡ませる。もちろんそのふくよかな胸を押し当てながら。 「シエスタさん?」 「はい、あててますよ♪」 半分お決まりになった掛け合いをしながら、二人はまるで寄り添う恋人同士のように街中を行く。 そして、二人は一件の食堂に目をつけた。 古ぼけてはいるがそこそこ繁盛している大きな食堂で、昼時の喧騒と香ばしい香りが絶え間ない客足とともに入り口の扉を出入りしていた。 「あそこで食べようか」 「はい、そうしましょう」 そして、二人がその入り口を潜ろうとしたその瞬間。 その扉が物凄い勢いと音を立てて開き、中から人が転がり出てきた。 年のころは十代の、後半くらいだろうか。中途半端に伸びたくすんだ金髪。けっこういい絹製の服に身を包んでいる。泥に汚れたブーツを見るに、旅人だろうか。 その人物は通りに出た瞬間にくるん!と反転すると、埃塗れの整った顔を食堂の中に向けて、叫んだ。 「ファック!お前ら、ママの腹ん中に人の情けを忘れてきたんだろう!」 整った顔を思い切り歪ませて、右手の甲を食堂の中に向けて、左手で右ひじの内側を音を鳴らして叩き、右手の中指だけを天に向けて立てる。 果たしてそのジェスチャーは向けられた人間には何のことかさっぱりだったが、言葉の意味は通じたようだ。 まさか…!?少年の台詞を耳にした才人の中を、予感が駆け巡る。 227 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 19 15 ID 7ecvSydb 食堂の扉の内側から、ごついのだの、細いのだの、ふとっちょだのと、流れの傭兵らしきむさ苦しい男の団体が姿を現す。 「ガキぃ、人様にたかる時はもう少し言葉選べや」 「乞食風情が口の利き方に気をつけろよ?」 男達は既に怒りで出来上がっており、どうやら先ほど転がり出てきたのも、この男達に押し出されたのが原因のようだ。 才人トシエスタの見守る前で、金髪の少年は男達の迫力に屈することなく、今度は高々と挙げた右拳の親指を立て、それを地面に突き立てるように振り下ろす。 「誰が乞食だ!俺は財布をすられただけだっての! てめえら、他人への施しを忘れると、サンタさんにプレゼントもらえないってパパに言われなかったのか!」 …間違いない。才人の予感が確信に変わる。 そして、今度のジェスチャーは流石に男達にも通じた。どこの世界でも、地獄は地面の下にあると信じられているものだからだ。 「オラガキ。いい加減にしとけ?あ?」 「今謝れば一人イッパツで済ませてやるよ」 傭兵達は拳でバキバキと物騒な音を立てて、少年に詰め寄る。 しかし少年は一歩も引かない。 「てめえらなんてまとめてマックの包み紙みたいに丸めて」 「悪ぃ、コイツに悪気はないんだ」 少年の台詞を止めたのは、シエスタの腕から抜け出した才人だった。 あっという間に男達と少年の間に入ると、いつでも抜けるようにデルフリンガーに右手を掛けて、立ち塞がる。 「お、おいお前何邪魔」 文句を言おうとする少年の言葉を手で遮り、今にも飛び掛ってきそうな傭兵達に、才人はマントに刺繍されたシュヴァリエの証をわざと見せつけるように翻す。 傭兵達の動きが、止まった。 「すまねえ、俺の顔に免じて、許してやってくれないか?この通り」 傭兵達に向けて、左手だけで謝る仕草を見せて、才人は言う。 傭兵達には、その仕草の意味が痛いほど伝わっていた。 シュヴァリエの頼みが聞けないなら、この場で抜くぞ。 さすがに場数を踏んでいる傭兵達らしく、若いながらも度胸と技量を見せる才人の立ち居振る舞いに、渋々折れる。 「…まあ、シュヴァリエ様にお願いされたとあっちゃあな…」 傭兵達が拳を引いたのを確認すると、才人はそこでようやく、デルフリンガーから手を放す。 「ありがとう。お礼と言っちゃなんだけど、エールの一杯もおごらせて貰うよ」 「お、話がわかるじゃねえか」 才人の事後のフォローに、傭兵達は相好を崩した。 どやどやと食堂に戻っていく傭兵達に、才人はほっとする。 228 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 19 48 ID 7ecvSydb そして振り向くと。 不機嫌そうな顔の金髪の少年が、シエスタの止めるのも構わずに、噛み付いてきた。 「てめえ、何勝手に止めてんだよ!シット!」 映画やドラマの中で聞きなれた外国の言葉が、才人の郷愁を誘う。 汚い言葉で罵られていると分かってはいるが、それでも才人は嬉しかった。 「あはは。久しぶりに聞いたなあ…それ」 「なんだよソレ。わけわかんねえ」 才人の笑顔に気を殺がれ、少年はばつが悪そうに頭を掻いた。 「あの、サイトさん?」 シエスタはそんな二人のやり取りに、才人に疑問符をぶつけた。 才人はそんなシエスタには応えずに、少年に言った。 「よかったら奢るよ。…同郷のよしみでさ」 才人は確信していた。 この少年は、地球人。それもおそらく、米国人。 それをシエスタに心の声で伝えると、案の定声を出して驚いた。 少年はよほど腹をすかせていたのか、料理がテーブルに並ぶや否や、物凄い勢いで食べ始めた。 「すごい勢いですねえ」 シエスタは自分で食べるのも忘れて、少年の食欲に魅入っている。 「いやあ、前の宿場町でスられちまって。二日もなんも食ってなくてさ」 〆のお茶で料理を流し込んで、満足そうに腹をさすりながら少年は笑顔で言う。 「助かったぜ、日本人」 やっぱり。才人の確信は確実なものになった。 そして才人は少年に尋ねる。 「…で、一個聞きたいんだけど」 「何?何でも聞いてくれよブラザー」 「…あんたさ、アメリカ人?」 その質問に、少年はあっさりと応えた。 「その通り。名前は…そうだな、マキシマム。マキシマム・ロングバレル」 「『そうだな』?」 あからさまに偽名くさいその名乗りに、才人は疑念を露にする。 その疑念に、マキシマムと名乗った少年は笑顔で立ち上がり、そして言った。 「とりあえず、腹も膨れたし。 続きは外で話そうか、ヒラガ・サイト」 少年の言葉に、才人とシエスタの動きが止まる。 まだ、才人はマキシマムに自分の名前を名乗っていない。 マキシマムは笑顔のまますたすたと食堂の外へ歩いていく。 「じゃ、支払いは任せたぜサイト。 ここの裏通りで待ってるからな、早く来いよ」 229 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 20 32 ID 7ecvSydb マキシマムは、言ったとおり裏通りで待っていた。 才人は油断することなく、尋ねる。 「さっきの、偽名なのか?」 才人の言葉に、マキシマムは、建物の隙間から覗く青空を見上げながら、言った。 「偽名じゃないなあ。俺さ、自分の名前知らないんだわ」 言いながら、後頭部をぽりぽりと掻く。 そして続ける。 「この世界に呼ばれた時、俺は精神だけの状態でさ。 地球にいた時の事が、かなり抜けてんだよ」 基本的な知識や考え方などは残っていたが、自分の名前や出自をはじめ、いろいろな部分がまるで虫食いのように抜け落ちているのだという。 そして、才人はその言葉に更なる疑問を持つ。 「あんたをこの世界に召喚したのは誰なんだ?」 その質問に、待ってました、と言わんばかりの笑顔でマキシマムは応えた。 「俺をここに呼んだヤツはシェフィールドって言ったぜ」 その名前は。 ガリアの虚無、無能王ジョゼフの使い魔、神の頭脳ミョズニトニルンの名前。 才人はその名前を聞いた瞬間、デルフリンガーを抜いてシエスタを建物の陰に下がらせる。 「お前、まさか…!」 「察しがいいねえ。その通り。 俺はアンタを殺すように言われてここに来たんだ。ヒラガ・サイト。あんたをな」 言ってマキシマムは腰の後ろに両手を回す。 マキシマムがそこから取り出したのは。 才人には見慣れた、シエスタには見慣れない、鉄の塊。 回転式の弾倉を持つ、二丁の銃。俗にリボルバーと呼ばれる、拳銃。 ハルケギニアには存在しないはずの、地球の銃。 そして、満面の、狂喜を湛えた笑顔で、マキシマムは言った。 「『仲間』と戦りあえるなんて最高だぜ…! Welcome to Garden Of Madness! ようこそ、狂い咲きの園へ!」 その言葉と同時に、彼の両手に握られたリボルバーが、火を噴いた。 230 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 21 18 ID 7ecvSydb 才人は辛うじて初弾をデルフリンガーで弾くと、すぐ後ろの建物の陰に隠れる。 「なんだ、あの鉄砲は?見たことねえぞあんなの」 デルフリンガーの言葉に、シエスタからの心の声が重なる。 サイトさんっ?お怪我はありませんかっ? シエスタはここより少しマキシマムに近い建物の陰に隠れている。 才人は無事をシエスタに伝えると、その場を動かないよう指示して、そして考える。 ハルケギニアの銃と違い、リボルバーは連発できる。 さらに、地面に穿たれた弾痕から、あの銃弾を体のどこかに当てられれば、どこに当たったとしてもまともに行動できなくなりそうだ。 しかし、その弾数には限りがある。 見たところ、あのリボルバーの弾倉は六発。 つまり、片手につき六発、合計十二発を打ち切れば、リロードせざるをえない。 先ほどマキシマムが放った銃弾は二発。あと十発の銃弾を避ければ、才人に勝ち目が出来る。 「あと十発かあ…」 避けきれるかどうか。 矢や魔法との戦闘経験はある才人だったが、さすがに亜音速で飛んでくる鉛の塊との戦闘経験はなかった。 そんな才人に、デルフリンガーは軽く言う。 「やってみろよ相棒。なんとかなるって」 「軽いなあお前は…」 「まあぶっちゃけ、俺っちにも対策がわかんねえからな。当たって砕けろってこった」 確かにデルフリンガーの言うとおりだった。 降り注ぐ銃弾に剣士が対抗する手段…それは、ただ『避ける』。それだけ。 「んじゃ行ってみるかぁ!」 そして、才人は裏通りに身を躍らせる。 その真正面の奥で、マキシマムが右手のリボルバーを構えていた。 「正面から来るとはいい度胸だぜ! Come n Let s DANCE!」 最初の銃弾が飛んでくる。 銃口からその軌道を予測した才人は、右斜め前へのステップでそれを避ける。 そしてそのステップが終わる前に、休むことなく次の銃弾が襲ってくる。 その銃弾は的確に才人の着地点を狙っていた。 才人は咄嗟の判断で地面に飛び出し、転がる。 二発目の銃弾が地面を穿ち、そして。 立ち上がった才人の左肩を、三発目の銃弾が貫く。 その衝撃に才人は、すぐ近くの壁に叩きつけられる。 血しぶきが木の壁に飛び散り、そしてそこへ容赦ない追い討ちの次の一発。 しかし、それは才人に当たることはない。 231 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 21 56 ID 7ecvSydb その壁の脇の路地から伸びた白い手が、あっという間に才人を路地に引き込んだからだ。 「大丈夫ですかっ?サイトさんっ!」 その手はシエスタの手だった。 才人の左肩からは夥しい血が流れ、その腕はだらんとして動きそうもなかった。 「ミスったよ…」 ガンダールヴの力のお陰か、痛みはそれほど感じていなかったが、この状況で片腕が使えないのは痛い。 さらに、片腕が使えないことで身体のバランスがおかしくなっていることも才人には分かっていた。 進退窮まるとはまさにこのこと。 困窮する才人。 しかし、希望を捨てない者が、そこにいた。 「サイトさん!私の『力』、使えませんか?」 「へ?」 シエスタの申し出に、才人の目が点になる。 「ミス・タバサにしたみたいに!きっと私にも何かできると思うんです!」 シエスタは胸元をはだけ、鎖骨の間にある、黒い五角形…シエスタの『使い魔の印』を出す。 否定しようとした才人を、デルフリンガーの言葉が止めた。 「試してみなよ、相棒」 「え?だってシエスタは…」 「…たぶんだけどな。そのガンダールヴの『使い魔の印』は、『武器』になれる人間の証なんだと思うぜ。 この嬢ちゃんにも、何か『力』があるはずだ。じゃなきゃお前さんの『ガンダールヴ』が契約しないと思うぜ」 デルフリンガーの説には、何か妙な説得力があった。 そして。 胸元をはだけるシエスタを見る才人の中に、かつて感じた感覚が蘇る。 武器を取れ。武器を取れ。 汝は神の盾、ガンダールヴなり。 あらゆる武器は、汝が意のままに。 その声に導かれるまま、才人はシエスタの黒い盾の刻印に、口付けた。 232 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 22 34 ID 7ecvSydb マキシマムが弾倉に銃弾を込め終わると、路地から、黒髪の少女が現れた。 ベージュのワンピースに身を包んだその黒髪の少女は、先ほど才人と食事を採った時に一緒にいた少女。 「おいおい…俺は女子供も容赦しないぜ? とりあえず撃っちゃうぜ?答えは聞いてないけどな!」 言ってマキシマムは遠慮なく、四発の銃弾を、次々にシエスタに放つ。 その直後、シエスタの姿がゆらり、とゆらめいた。 「見えている直線の打撃が当たるとでも?」 次の瞬間、マキシマムの隣に彼女はいた。 「何っ!?」 そして、驚くマキシマムの横で一瞬屈むと、一気に伸び上がりつつ踏み込み、背中から肩にかけての、『靠』と呼ばれる部分による打撃を、マキシマムに浴びせる。 マキシマムは一撃で吹き飛ばされ、土と木でできたすぐ後ろの壁に派手な音を立ててめり込む。 「ぐはっ!」 衝撃にマキシマムの肺の中の空気が全て吐き出され、意識が一瞬遠のく。 その隙に、シエスタはマキシマムの前で、腰を軽く落とし、左手をマキシマムめがけて開けて、右拳を腰溜めに構えていた。 正拳の構えである。 そして、その手首には、黒い炎のようなものが纏われていた。 「我が拳に…穿てぬ物なし」 その言葉と同時に、空気を切り裂いてシエスタの右拳がマキシマムの腹部に、文字通り突き刺さる。 血を吐いて絶命するマキシマムから拳を引き抜き、シエスタはまるで人が変わったかのような冷酷な声で、言い放った。 「さようなら。サイトさんと同じ世界の人」 233 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 23 27 ID 7ecvSydb 才人達の立ち去ったその裏道には、なぜか野次馬が一人も来なかった。 あれほどの轟音を立て、銃が乱射されていたにも拘らず、である。 それは、周囲に張られた結界のせい。 あらかじめシェフィールドに渡されていた結界装置で、マキシマムは周囲に人払いの結界を築いていたのだ。 しかし、その結界は、術者の死亡と共に消えるはずだった。 つまり。マキシマムは、腹部を拳で貫かれ、なお生きているのだ。 しかし。壁にめり込み、口から腹から血を流す金髪の少年は、どう見ても死んでいた。 そこへ。 一人の女が現れる。 長い髪をなびかせ、その女は金髪の少年の握り締める、銀色のリボルバーを手に取る。 「情けないわね。身体を与えられておきながら」 全てのマジック・アイテムを操るミョズニトニルンの心に、そのリボルバーから声が流れ込む。 なぁに。次は上手くやるさ! あぁ、凄ェゾクゾクしてきた!またやりてえ!アイツとやりてえ! そう、このリボルバーこそが、マキシマムの本体。 精神だけでハルケギニアにやってきた、マキシマムそのものであった。 「…次は油断せずにやりなさい。 我が主はともかく、私はそこまで寛容ではないわ」 ミョズニトニルンはそう言って、手にした皮袋にリボルバーを詰め込む。 その間も、マキシマムは心の声で喚いていた。 ヒリヒリしたぜ!あの感覚!最高だ!これが『充実感』ってヤツだな! シェフィールドは、その声に応える代わりに、呆れたように呟いた。 「…どうしようもない中毒者ね、この男」 234 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21 23 48 ID 7ecvSydb 二人が学院に帰ったのは、才人の応急処置を済ませ、一晩休んだ後。 もちろん学院に残してきた二人の使い魔にこれでもかと詰め寄られ。 正直に応えたシエスタのせいで、ルイズに左肩の傷以上の重症を負わされたが。 それを聞いたタバサの表情が、一変した。 「…許さない」 静かな、しかし確かな殺気を纏い、タバサは決意を口にする。 「…ガリアに行く」 才人は、そんなタバサに尋ねる。 「ど、どうして?」 母を取り戻し、縁者をゲルマニアにかくまって、もう縁のないはずのガリアに、何故今更戻るというのか。 タバサは才人の質問に応える。 「…ガリア王にもう恨みはない。 でも、彼は、サイトを狙った。そして今も狙っている。 虚無であるルイズも、たぶんその対象になっているはず。 私の一番大切な人を。大切な人達を。 それだけは、絶対に。許さない」 ふだんよりも饒舌にそう語った。 雪風の中で静かに燃える殺意の炎が、心を介して才人達にも伝わっていた。 そして、その一週間後。 長期の休みをオールド・オスマンに申請し、四人は学院を発つ。 ガリア王を倒すための旅路が、今始まったのである。〜fin
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3886.html
前ページドSな使い魔 決闘から日が経つにつれ、ルイズの二つ名、いやあだ名は多様な物になっていった。 例を挙げると、鋼鉄の腕を持つ女、「豪腕」のルイズ、「強肩」のルイズ、鋼の魔法術士、鉄腕ルイズ、まさにレーザービーム…… 一体あの場に何人人が居たのかと思うほど、好き勝手に呼ばれている。話の伝播速度も当然凄まじく、今では学年を超えて、学院のほぼ全員が噂のことを知っている。 とはいえ、直接現場を見ていない者には信じがたい噂なだけに、噂自体も形を様々に変えている。 「私が聞いたのなんて、広場にクレーターを作って半殺しにしたギーシュを生き埋めにしたっていうヤツよ?」 「……熊相手に素手で立ち向かって倒した」 「そんなのすぐに嘘だって分かりそうな物じゃない!」 激興するルイズに呆れたような視線を送り、キュルケはポツリと漏らした。 「いや、貴女のやった事も十分嘘っぽいんだけど……」 「ちょっとネウロ! 一体どうしてくれるのよ! 完全に色物扱いじゃない!」 「元々色物だったのだろう。大して変わらないではないか」 ――自室にて、ネウロを責めるルイズ。しかしネウロは馬耳東風といった感じで、軽くいなす。 「大体、もう蔑称で呼ばれることなどないぞ? それに、皆に力を認められたではないか。十分すぎるだろう」 「どこがよ! 変な噂が変わりにたったんじゃ、意味ないじゃない! それに、あれは私の力じゃないわ。ネウロ、あんたが何かしたんでしょ!」 「ほう、よく気がついたな。あれも我が輩の能力の一つだ。ゾウリムシの割にはやるではないか」 涼しい顔で火に油を注ぐネウロ。だがルイズは別の箇所に反応を示した。 「ゾウリムシってなによ! よくわかんないけど、絶対良い意味で使ってないでしょ! それと、あの状況で変な事をできそうなのは、あんたしかいないじゃない。これくらい、すぐ気付くわよ! 全く……。いいわ、とりあえず洗濯物を渡してこなきゃ……」 そう呟いて、立ち上がるルイズ。本当はネウロにやらせたいとこだが、そんな事をすると洗濯物が悲惨な事になるのは間違いない。 部屋を出て、顔見知りのメイドを探す。だが、探し人はなかなか見つからない。そうこうしてる内に、とうとう厨房まで来てしまった。 ここならば、シエスタの居場所も分かるはず。そう思って中を見回すが、一向に見つからない。 尚も見回していると、逆に、コック長マルトーが話しかけてきた。 「何か、用ですかい?」 「あ……。シエスタはどこ? 頼みたい事があるのよ」 「シエスタ……シエスタはここにはいませんよ」 何故か憂鬱そうな顔で答えるマルトー。 「そう。そうみたいね。で、どこなの? もしかして、病気で寝てるの?」 「いや、そうじゃないんでさ。シエスタは学院を辞めて、ジュール・ド・モットとかいう貴族の許に連れてかれちまったんでさ」 「モット伯!? よりによって……。あそこで働いていたメイドは、高給にもかかわらずすぐ辞めてくって噂になってるじゃないの」 いきり立つルイズに、マルトーは冷水を浴びせるかのごとく声をかけた。 「そうは言いますがね、結局、平民は貴族の言いなりになるしか無いんですぜ?」 「……ああ、ネウロか。どうしたんだい。あんたのご主人様なら、さっき妙な顔して出て行ったぞ? 寸胴のことなら、一月は待ってくれんと交換の予定は……」 「いえ、寸胴な先生の為に都合してくださって、ありがとうございました」 そのまま厨房を出ると、ネウロは辺りを見回し、超人的なスピードで何処かへ駆けていった。 その頃、モット伯邸の前で、ルイズは今まさに屋敷に乗り込まんとしていた。 (なんであたし、シエスタの為にここまでしてるんだろう。平民の、メイドなんかの為に。 ……あの娘のことなんて、ちょっと前まではたまに洗濯を頼んだりするだけのメイドとしか思っていなかったのに。 でも、あの決闘の後、周りが異星人を見るような目付きで私を見てくる中、あの娘が本来だったら私が香水を拾っていた筈だったなんて言ってきて、その顔が余りに必死だったので―― そうよ。私は私のやりたい様にやるだけだわ。細かい事なんてゴチャゴチャ考えなくても良いじゃない。 どうせ、これ以上何かしでかしたとしても、今の噂に新しいものが混じるだけよ。だったら……) そうしてルイズは一歩、足を進めた。 ――いざ、モット伯。 30分後、ルイズは屋敷の応接室で考え込んでいた。 途中、衛兵とちょっとしたいざこざがあったものの、何とかモット伯に会うことはできた。だが、既に雇用契約を正式に結んでいた為、感情論をぶつけても、契約書を盾にされて埒が明かなかった。 唯一交渉条件となりそうなのは、話の中で出てきた召喚されし書物というフレーズだ。ゲルマニアの貴族が所有しているという事も漏れ聞こえてきた。 ゲルマニアの知り合いは、ルイズの周りには一人しかいない。だが、その一人が都合良く情報を持っているなんて事は、小説じゃ無いんだし有り得ないだろうと半ば諦めていた。 そうなると、実力行使で連れ帰るという方法に辿り着くのだが、相手は水のトライアングルメイジで、王宮の勅使だ。いくら後先考えずに行動する事の多いルイズでも、その場の勢いでも無ければ迂闊に挑めない。 これからどうするべきか手を拱いている時に、誰かが入ってくる気配を感じてルイズは顔を上げた。 「ルイズ様……」 そこにいたのは、シエスタだった。 「シエスタ! 大丈夫だったの!?」 急いで駆け寄るルイズに、シエスタは儚げな笑顔を見せて、 「はい。今はまだ何も。ただ、これから寝室に呼ばれて……」 「だ、駄目よ! そんな事される前に、早く何とかしないと」 「仕方が無いんです。平民は、そういう存在なんですから……」 「そんな……そんな、事は……」 「では、失礼します。――私のことを気にかけて下さって、本当に嬉しかったです」 (まさか、ここまで追いかけてきて下さるなんて……。貴族にも、こういう方はいるんですね。でも、私はもう……) シエスタは、ゴクリと唾を飲み込むと、寝室の扉を開けた。 そして、室内のメイド達の様子に絶句した。 (貴族……こんな事する者が、貴族なんておこがましい。貴族っていうのは、領民の手本となる存在よ。こんなことを繰り返していては……) 「……たか…度は………って………だ?………」 考え込んでいたルイズだったが、ふと隣の部屋から話し声が聞こえてくるのに気付いた。 「……が……魔して………いかと…………まし………」 「………と?……………フム…………」 「………………の…………は…………いう訳なんですよ」 ――ネウロ? まさしくその声は、ルイズの使い魔、ネウロだった。 (まさか、私を追って?) 急いで聞き耳を立てるルイズ。会話の内容はあまり聞こえないが…… 「……従順な……より………的な………そそる…ですよ…………を僕は………ンデレと……付けて……」 「ほう! して、そのツン…………一体…ういう………だ…」 「……とは、つまり………の………た態度か………転し………デレデ…………た状態………で……… 例え………ルヒ…ョン………シャ…………院ナ…………かが…………釘………山ゆか……… 別例に……原雄山…烈海………藤巻十………も…」 「…るほど……れは………な。しか…実物を見な………には…」 「ネウロ! 何しに来たのよ! 助けに来てくれなんて、言ってないじゃない! ……何二人して顔見合わせてるのよ」 扉を開けて乱入してきたルイズに意味深な視線を向ける二人。ネウロに至っては指差しして何事か囁いている。 「……どいい所に……………あれが………」 「…ほど……れが……」 「…つ実例を…て………」 「貴様は我が輩の主人だからな。何かあっては困るのだ。探しにいくのは当然だろう」 「え? え? ……な、なによ。別にあんたなんかに心配されなくても、平気なんだからねっ!」 「……がツン……の第…段階で………」 「………ど……かに………」 「どうでしょうか?」 「素晴らしい! いいねそのプレイ。こんな世界があったとは……。大変勉強になったよ」 「お役に立てて光栄です。このジャンルの典型例にお嬢様型というのがありますが、貴族の方なら、そちらから入ってみるのも良いんじゃないでしょうか」 「なるほど。試してみよう。いや~、君とは本当に気が合うな。見込んだとおりだったよ」 「僕も初めて会った時から同志だと思っていました。ところで、例の話ですが……」 「おお、そうだったな。いいだろう。まだ家具は余裕がある。連れて帰りたまえ」 「そういうわけだ。帰るぞ」 そう言って、踵を返すネウロ。 唐突な展開についていけないルイズは、戸惑いながらも質問を返した。 「はぁ? どういう流れよ。全然わかんないわよ!?」 「なに、新天地を教えただけだ。それより、シエスタを連れて帰るぞ」 「え、だって……いいの? モット伯は……」 「問題無い。許可は取った」 「でも……強引に人を連れてった人のことなんて信じれないわよ?」 「ほう? 強引に我が輩を呼んでおいて、使い魔になるよう強制したのは貴様ではないか。人の事を言えるのか?」 「う……。だけど、メイドを手篭めにするような人なのよ?」 尚も納得しきれない様子で食って掛かるルイズ。だが直後、新たな人物の登場で気勢を一気に削がれた。 「あの……」 「シ、シエスタ!?」 「シエスタ、どうしてここに? モット伯に何かされなかった?」 唐突に現れたシエスタに、無事を確かめるルイズ。だが、シエスタはいたって平気そうで、僅かに不安が顔に表れている程度だ。 「えっと、モット伯が来客で行ってしまわれて、なかなか帰ってこないので様子を見に……」 「そうなの? ってことは、まだヤられてないのね。間に合った……」 その言葉に顔を赤らめるシエスタ。 「ルイズ様、そんな、ヤるだなんてはしたない……。 それに、その、先輩のメイドの方に聞いたんですけど、ルイズ様が想像されている事とは少し違うみたいなんです」 一方のルイズも違った意味で顔を赤らめ、必死になって否定の言葉を吐く。 「えっ、な、ななな何いってるのよ! べっ別に変な事想像したわけじゃないわよ! ……で、どんな事されるの? アレをされるのかしら。それとも、アレを使ってあんな事をされるのかしら。ねえ、どうなのよ」 十分変な事想像してますよ。という言葉を飲み込み、真相を語ろうとするシエスタ。 「その、所謂性的な事をされる訳じゃないんですけど、どちらかというと、もっと酷い事を、数々の悪評に納得がいくほどの事をされるというか……」 だが、その言葉を耳にしたモット伯が反応を示した。。 「何もしてねーよ。土下座させてクッション敷いてイスになれって言っただけさ。」 「え……。は?」 (涼しい顔して……。やっぱりこの人外道だ。辞めたい……) (初見から感じていたが、やはり同属か……) 三者三様な感想だが、モット伯の性格については全員一致で把握したようだ。 そう。基本ドSだ。 「ってことは、ここのメイドがすぐに辞めてくっていうのはつまり……」 ようやく状況を理解したルイズの言葉に、モット伯が答えた。 「ああ。あいつら雇用欄の待遇見たときはサイコーって言うくせに、いざ現場に入るとサイテーって言ってすぐ辞めてしまう。 ったく最近のメイドは……。家具になる根性もないのか」 「ねーよ!」 即答の突っ込みに、シエスタもこっそり頷く。 「まったく。今まで来たメイドの内、半分は夜逃げして、半分は二期目の契約の更新をせずに辞めていきおった。 これでは執務室の家具フルセットが揃わないではないか!」 「自業自得じゃない!」 「どんだけ揃える気だったんですか!」 モット伯の嘆きには全く共感できない。そんな思いは共通のようだ。 そんな叫びを半ば無視し、モット伯は終了宣言を口にする。 「まあ、最低限の家具は居ることだし、ネウロ君が言ったとおり、そのメイドはこの場で雇用契約を白紙に戻そう。これで良いかね?」 「ありがとうございます。そうして頂けると、こちらとしても非常に助かります」 「なに、助かったのはこちらのほうだよ。私としたことが、こんな一大ジャンルに気付かなかったとは……」 「ネウロ、最後の台詞の意味が分からないんだけど?」 「つまり病気に感染したということだ」 「余計に分からないわよ。……でも、シエスタを助け出せたって事は確かみたいね。や、やややればできるじゃない。ととと特別に、ほ、褒めてあげるわ」 顔を赤らめて、つっかえつつ話すルイズを見て、モット伯が何事かネウロに話しかける。 「……あの落差がいいという事だな? 段々分かってきた。さすがくぎみー」 「流石です。では、これからもよしなに……」 モット伯邸からの帰路、不意にシエスタが口を開いた。 「ネウロさん。それにルイズ様。本当にありがとうございました。でも、私これからどこに行けば良いのか……」 「大丈夫よ。皆あなたの事を気にかけていたから、経緯を話せば必ず元の職に戻ることができるわ」 「え? 何ですか先生? 働く場所が無いのなら、私専属のメイドになればいい? さすが先生。おっしゃることが違います」 その言葉にどうしていいか分からず、シエスタは何とも言えない表情で当たり障りの無い言葉を返した。 「えっ……。はっ、はい。ありがとうございます、ルイズ様……」 「…フガ…フガフガ……(勝手に変な事を決めるんじゃ……ってか、この手をさっさと離せー!)」 応えるべきルイズは口を塞がれて何も言えず、ただ暴れるばかりだった。 結局、シエスタと(ルイズの代弁という形の)ネウロとの間で、様々な取り決めが起こり、ルイズに対して最大限のサポートを行う旨を一筆認めることとなった。 ルイズは一頻り怒りを振りまいたものの、シエスタとの契約内容を聞くと少しおとなしくなり、壮絶な舌戦を繰り広げるだけにとどまったようだ。 その後、喫茶店経営に手を出したモット伯は、一部の固定客をガッチリ掴み全国チェーン店化を成し遂げたという。 その勢いは、店員の育成に時間を取られなければ国外進出も夢ではなかった程だ。 今日も喫茶店「ツンデレラ」には貴族平民問わず多くの客が詰め掛けている……。 「ところで、なんで私の行動が分かったの?」 「我が輩の魔界777ツ能力は世界一ィィィだからな」 そう言って、額のルーンを光らせながら、目玉のついた奇妙な生き物を見せた。 「……何これ、バグベアーの子供?」 おまけ NGシーン Take 5 ある学院のメイドが貴族の許に身請けされたと聞いて、様子を見にやってきたルイズ。何故かキュルケとタバサもついてきている。 だって面白そうじゃない、とはキュルケの談だ。 「何を期待してるのよ、アンタは! 大体、身請け許のモット伯は、私費で孤児院を経営している篤志家なのよ? 子供好きとも聞くし、変な事なんて起こるわけないじゃない」 「やぁ~ねぇ。トラブルメーカー行く所、トラブル有りよ。それに、問題が無いのなら、わざわざ様子を見に行く必要は無いんじゃない?」 「それは……何となく、虫の知らせと言うか……」 そんなこんなでたどり着いたモット伯邸。先日来たメイドの知り合いだと告げると、門番は快く中に通してくれた。 「流石はモット伯邸ね。門番の対応もしっかりしてるわ」 「……そんなに褒めてると、かえって不気味ね」 「何か言った?」 「何も~? あ、ほら、あそこじゃない? 言われた部屋って」 確かにそこは説明を受けたとおり、シエスタのいる部屋だった。 すぐさま何気なくノックして扉を開けたルイズ一行は、その場に泣き崩れるシエスタに出くわして硬直した。 「ど、どうしたのよ、ちょっと。……ま、まさか、モット伯になにかされたの!? あの好色ジジイがっ! いつかこんな事やると思ってたわ!」 「……言ってることがさっきと180度違ってるんだけど?」 「ル、ルイズ様~」 ルイズの呼びかけに反応し、涙を眼に溜めながら抱きついてきたシエスタ。しばらくしてようやく落ち着いたのか、慌てて身体を離した。 「す、すみません。取り乱してしまって……」 「いいのよ。それより、泣いていた訳を話して頂戴」 「は、はい……。私、私モット伯に……」 「年老いた、発育過剰の家政婦の相手なぞしないって言われたんですっ!」 「――は?」 「私、お屋敷での仕事なんて初めてで、よく分からなかったから……本に書いてあったみたいに、その、つまみ食いされるんじゃないかって心配で。 だから、冗談めかして聞いてみたんです。そしたら――」 「よ、よく分からないけど……年老いたとか、発育過剰とか、酷い言い草よね。何か気に障るようなことでもしたの?」 「全然心当たりはありません。なんであんな事を言われたのか、サッパリで……」 「だったら直接本人を問いただしましょ! モット伯は何処なの?」 「キュ、キュルケ? ちょっと力が入りすぎじゃない?」 「何よ、貴女は何とも思わないの? 発育過剰だの何だのと酷いことを……。 ああ、そうね。発育過剰なんて無縁なワケね。いいわ、私だけで――」 「何言ってるの! そ、そんな事無いわよ! シエスタ、モット伯の居場所を教えなさい! 文句言ってやるわ!」 「こ、こちらです。この書斎に居られると思います」 「分かったわ。……頼もーっ! モット伯、いるのは分かってるのよ!」 「何じゃ、煩い」 言って、一人の老人が現れた。見る限り人畜無害そうで、その顔はさしずめ某チキン屋のサンダース軍曹といったところだ。 本当に彼がそんな発言をしたのだろうか? ルイズ達の脳裏にそんな疑問がよぎった。 「あの……あなた、シエスタに酷い事を言ったって……」 「酷い事? ――何のことじゃ。わしは本当の事を言ったまでじゃが」 さも当然のごとく返答する老人。偽りでなく、心から本気で言っているようだ。 その様子に戸惑いを覚えるものの、暴言を吐いたこと自体は認めているため、一気に攻めの姿勢に入るルイズ。 「やっぱり言ったのね!? 年頃の女の子にそんな事言うなんて、信じられない!」 「年頃? フン、そんなの、わしの好みから大幅に外れておるわい」 「なっ! じゃあ、貴方のストライクゾーンは何処なのよ!」 「決まっておる。わしは子供が大好きなんじゃ。君のような老婆に用は無い」 ゴォッ ――この瞬間、ルイズは確かに炎の立ち昇る音を聞いた。 「……じゃあ、貴方は彼女みたいなタイプが好みだと?」 「なっ、キュルケ! アンタ――」 「君は、初老だ。 なんでわしが年増の相手するんじゃ。ゴーレムの方がまだそそるわい」 この言葉を聞いて、ルイズの怒りは臨界点まで達した。次に何かが起きたら一気に爆発してしまうだろう。 続いて老人――モット伯は、タバサに視線を巡らせ…… 「そこそこじゃが、適齢期過ぎじゃな」 ビキッ その場の空気を凍結させた。 般若の顔となった三人に気付かず、モット伯は続けた。 「全く、勝手に人の書斎に入り込んで戯言を言いおって……」 「……」 「……」 「……」 「「「トリプルブレイカー!!!」」」 その日、モット伯の領地内で大規模な水蒸気爆発が発生し、モット伯の屋敷があった場所はペンペン草一本生えない更地となった。 当時屋敷内にいたと思われるモット伯の行方は、今以て要として知れない。 「とんでもない趣味の人も、世の中には居るのね。勉強になったわ。 ……どうしたの、タバサ?」 「……年より大人に見られたのは初めて」 「……(私も、否定できない)」 前ページドSな使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1330.html
前ページ次ページ使い魔のカービィ ルイズは意気揚々とミセス・シュヴルーズの『錬金』の授業を受けていた。 それもそのはず、先程カービィの意外な能力を発見し、役立たずではないと証明されたのだ。 カービィのあの吸い込み、風力だけならかなりの物だ。 何に使えるかは未知数だが、色々道はあるだろう。 風っぴきが教室に入ってきたとき野次を飛ばしてきたが、今まで感じていた劣等感を感じずに済んだ。 カービィが凄い力を秘めた使い魔だったことの嬉しさが、ルイズを苛んできた劣等感を上回ったのだ。 (優しくて、特殊な能力も持ってて、珍しくて……最高じゃない! 私の使い魔!) あとは強ければ……とも考えたが、それは流石に望みすぎだ。 とにかく、自分が理想としていた使い魔より若干劣るものの、カービィは使い魔として申し分のない存在だ。 あの食欲には驚かされたが、その辺はしっかり躾ればきっと最高のペアになれるだろう。 そんなことを考えながらニヤつくルイズだった。 一方ルイズの隣の席では、カービィがミス・シュヴルーズの話を熱心に聞いていた。 真面目に授業を受けているのか、というとそうではない。 ただ単に、カービィは周りの生徒達の真似をしているのだ。 第一カービィに魔法のイロハが分かるはずもなかった。 段々真似をして授業を聞くのにも飽き、睡魔が彼を襲いつつあった。 そんな2人に関係なく、授業はどんどん進んでゆく。 「……と、言うわけで。一年生の時に出来るようになった人もいるかと思いますが、もう一度おさらいしてみましょう」 そう言うと、ミセス・シュヴルーズは石ころをいくつか取り出した。 その動作が気になったのか、夢の世界へ旅立とうとしていたカービィの意識がゆっくり覚醒する。 ミセス・シュヴルーズがルーンを唱え、小さく杖を振った。 するとどうだろう、ただの石ころが輝きだし、光沢ある金属へと変わったではないか。 生徒達から感嘆の声が上がり、キュルケが興奮のあまり立ち上がた。 「ゴ、ゴ、ゴ、ゴォルドですか!? ミセス・シュヴルーズ!?」 「いえ、ただの真鍮です」 「なんだ」 熱を失うと、キュルケはつまらなそうに席に着いた。 「ゴールドが錬金金出来るのはスクウェアのメイジだけです。私はまだトライアングル……って、あ、あなた! 授業中ですよ!」 その声に教室中の視線が一点に注がれた。 授業を真剣に聞いていた者も、居眠りしていた者も、トリップしていたルイズも注目した。 追記しておくと、ルイズは今にも顔から火が出そうだった。 「カービィ!」 「ぴぃよ、ぽよぉ♪」 なんとミセス・シュヴルーズがたった今錬金した真鍮を、カービィがおもちゃにして遊んでいるのだ。 「やっぱりルイズの使い魔だな! やってくれるぜ!」 「主人が主人だからな!」 教室から湧き上がる爆笑。 ルイズは先程の考えも吹き飛び、穴があったら入りたい思いでいっぱいだった。 そうこうしている内にミセス・シュヴルーズはカービィを捕まえ、ルイズの下へ運んできた。 「コホン。ミス・ヴァリエール、使い魔の躾はちゃんとして下さいね?」 「すみませんでした……」 「ぽよ?」 主人が怒られているというのに、カービィは相変らずボケた顔をしている。 ルイズは初めて己の使い魔が恨めしいと思った。 しかしルイズの不幸はまだ続く。 「それでは、丁度良いですね、錬金のおさらいをあなたにやっていただきましょう」 ミセス・シュヴルーズがそう口にしたとたん、教室中が凍り付いた。 生徒達の顔からは血の気が引き、一部机の上を片付け始めた者もいる。 「わ、私がですか!?」「ええ、そうですよ。石ころを望む金属に変えてみなさい」 「あの、先生……やめておいた方がいいと思います……」 ミセス・シュヴルーズがルイズを教壇へ連れていこうとしたとき、キュルケが何かに怯えるようにそれを止めた。 「何故です? ミス・ツェルプストー」 「危険だからです」 キッパリと答える。 他のほとんどの生徒も大きく首を縦に振った。 しかし、昨年ルイズを教えていなかったミセス・シュヴルーズは、生徒達の忠告を嫌がらせだろうと捉えてしまった。 それにこれは錬金の授業、余程のことがなければ危険はない。 そう高を括ったのが彼女の不運であった。 「さあ、ミス・ヴァリエール。失敗を恐れずやってみなさい」 「………はい!」 ミセス・シュヴルーズと共に教壇へ上がったルイズは、杖を石ころへと向けた。 「やめて、ルイズ!」 キュルケが叫んだが、もうルイズは杖を構えていた。 (『サモン・サーヴァント』が成功したんだもの……錬金だって!) ルイズが自分にそう言い聞かせ、ルーンを唱え始める。 その様子を見ていたカービィは、視界が急に広くなったことに気が付いた。 「ぽよ……?」 周りを見回すが、誰も席に着いている者はいない。 机の下に隠れ、まるで『何か』を怖がっているようだ。 「カービィ!」 「ぽょ?」 カービィが後ろを振り向くと、キュルケが必死で手招きをしている。 その様子から、とても焦っていることが伺えた。 「悪いことは言わないから、早くこっちにいらっしゃい!」 「ぽぉよ?」 言われた通り、席から降りてキュルケの下へ向かうカービィ。 しかし、カービィがあと少しでキュルケの下へ『避難』できる寸前。 教室が爆光と爆煙と爆音と爆風に包まれた。 「ぽよぉぉーーーーー!?」 「あ……遅かったわね」 爆風に飲み込まれたカービィは、教室の扉に勢い良く激突。 頭の打ち所が悪く、そのまま気絶してしまった。 爆心地にいたルイズとミセス・シュヴルーズにいたってはもっと被害が酷かった。 髪はアフロになり、衣服はボロボロ。 おまけに黒板に後頭部を強打し、脳震盪を起こして授業時間中に目を覚ますことはなかった。 「はぁ………」 ようやく目を覚ましたルイズは、1人寂しく荒れ果てた教室の片付けをしていた。 カービィはまだ気絶しており、教室の隅に寝かせてある。 「また失敗……」 カービィの召喚が成功していただけに、ルイズにとってこの失敗は手痛かった。 いつもの失敗ならばこれほど落ち込むこともなかっただろう。 しかし、自分の使い魔を得、自信を持った矢先の出来事だっただけに、ショックも大きい。 (カービィが来たから全部うまくいく、なんて……甘かったのかな………) 人間、一度気分が沈むと、底に辿り着くまでなかなか立ち直れなくなるものだ。 特にルイズは今まで罵られ続けたせいもあり、こういうネガティブになりがちな一面があった。 「はぁ……」 ルイズは何度目か分からないため息をく。 「あの……」 その時、ルイズは不意に後ろから声をかけられた。 どこかで聞いたような声に後ろを振り返ると、シエスタが教室の出入り口に立っていた。 「シエスタ……どうかした?」 「お手伝いしましょうか? ミス・ヴァリエール」 「えっ、でもあなた仕事は……」 ルイズはシエスタからの意外な申し出に一瞬戸惑った。 確かにメイドに手伝いを頼むのは禁止されていない。 だからと言って、忙しいメイドの身である彼女に頼ってしまっていいのだろうか。 しかし、シエスタはルイズに向かってにっこりと微笑んだ。 「少し余裕がありますので、お掃除くらいでしたら手伝えます」 「……また世話になっちゃうわね」 「いえ、私は使用人ですから。お気になさらず」 「……そ、そうよね。あなたはメイドなんだし、当然よね! …………………でも、ありがと」 最後の方は小さすぎて、シエスタには聞こえていなかった。 シエスタという強力な助っ人を手に入れ、片付けの速さは驚くほど早くなった。 さすが現役メイドである、素人貴族とは格が違う。 そして、やっと片付けが終わりそうになってきた頃。 「あの、さっき落ち込んでいたようですが……」 シエスタが急に口を開いた。 しかもルイズが一番触れてほしくない内容について。 「………ええ、また失敗しちゃってね……」 いつもの彼女なら『関係ないでしょ』と怒鳴りつけそうなものだが、今の精神状態では無理があった。 自嘲気味に今日の失敗や、今までもそうだったことを堰を切ったように話すルイズ。 シエスタはルイズが話し終えるまで、黙ってそれを聞いていた。 そしてすべてを一通り聞き終えた後、シエスタはゆっくりと語りかけるように話し出した。 「私のような平民が、貴族様にこのようなことを言うのは厚かましいと思いますが……ここはトリステイン魔法学院です」 「?」 何を言っているのだろうかと、ルイズは作業をする手を休め、シエスタの話に聞き入った。 シエスタもそれに気が付いたのか、同じく手を止め、話しに集中する。 「つまり、勉強できる場所ということです。ですから、『今』は出来なくてもいいんじゃないでしょうか? ここでもっともっと勉強して、『いつか』使えるようになれば。」 「それに、ミス・ヴァリエールはカービィさんを召喚出来たじゃないですか。なら、他の魔法も使えるようになります。いつか必ず。……出過ぎた事を申しました。申し訳ありません、ミス・ヴァリエール」 シエスタは自分の非礼をルイズに詫び、深々と頭を下げた。 貴族を恐れているシエスタがこんなことを言えたのは、魔法を使うことができないルイズに何か近いものを感じたのかもしれない。 だからこんな少し無理があるようなことも言えたのだろう。 しかし、それは決してルイズを卑下しているという意味ではない。 普段の生活から垣間見える努力の姿から、ルイズは立派な貴族だとシエスタは思っているのだから。 「………本当に、そう思う?」 やはり不安があるのか、ルイズは躊躇いがちにシエスタに問った。 シエスタは穏やかな笑みで答える。 「はい。ミス・ヴァリエールなら大丈夫です」 「ぽよ!」 「ほら、カービィさんもそう言ってます」 「そうね……って、いつ起きてたのよ」 「ぽよ?」 「まったくもう……」 今更出て来て美味しい所を持っていった使い魔に苦笑いを浮かべるルイズ。 その顔からは先程の暗い雰囲気は感じられなかった。 「分かったわ、もう少し頑張ってみる! そして私のことをバカにした奴らみんなを見返してやるんだから!」 「その意気ですよ、ミス・ヴァリエール!」 「ぽよ! ぽぉよ!」 やる気も新たにルイズは拳を握りしめ、使い魔とメイドに自分の目標を公言した。 果たして、彼女がこの目標を実現することが出来る日は来るのだろうか。 それは神のみぞ知るところだが、意外にも、それは遠い未来ではないのかもしれない。 前ページ次ページ使い魔のカービィ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1125.html
>>back >>next 「なな、なによっ! ばかばかばか、とらのバカ! 変態! いい、いやらしい、いやらしいわ!」 さっきからルイズが手当たり次第に物を壁に投げつけるせいで、ルイズの部屋は竜巻が通ったあとのように惨憺たる状況となっていた。 ルイズの目は真っ赤になっている。鳶色の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。 「……恋だったんだねえ娘っ子」 「うっさい!」 一声さけぶと、ルイズはデルフをぶん投げ壁に叩きつけた。ゴトンと床に落ちたデルフリンガーは「ぐえ」と一声呻いて、それっきり動かなくなった。 手に届く範囲のものを全て投げたルイズは、ふー……ふー……と荒い息をつきながら周りを見渡す。 ……だが、そのうちにくにゃりと体から力が抜け、ルイズはベッドにへたり込んだ。嗚咽がこみ上げてくる。 シーツをぎゅっと握り締めて、ルイズは枕に顔を押し付ける。 (違うもん……恋じゃないもん……) とらへの気持ちは、デルフの言うような『恋』ではない、とルイズは思う。 (そそ、そりゃあ、ちょっとだけ……どきっとしたりとかはあったわよ……でも、結局人間と幻獣だもの。それぐらい分かってるわ……) ルイズにとっては、あの金色の使い魔はもっと大切なものだったのだ。 魔法が使えず『ゼロのルイズ』と呼ばれて馬鹿にされてきた自分を変えてくれたものなのだ。今ではもう、『ゼロのルイズ』と呼ぶものは一人もいない。 そのとらが、自分の手を離れることが怖いのだ。 強力な使い魔がいなくなれば、魔法の使えない自分は、再び『ゼロのルイズ』に逆戻りしてしまう……そう考えるのは、ルイズにとって何よりも苦痛だった。 ……だから、あの竜に嫉妬しているのではなく――ましておっぱいが大きいからうらやましいとか、そんなことを考えているわけではないのだ、断じて。 ルイズはプライドにかけてそう自分を納得させた。 (……やっぱり、キュルケの言う通りだった。私、甘えてたのかしら……) そう思いながらも、ルイズの涙はとめどなく溢れる。自分では気がついていない心のどこかで、やはりとらに憧れていたのだろうか。 人語を解する韻獣であり、風竜よりも速く空を飛び、スクウェア・クラスのメイジを越える炎と雷を放つ。 (その上、髪の毛で剣を自由に操り、呪文の詠唱なしで人間の姿に変化し、壁をすり抜け姿を消し……って、なにそれ。何でもありじゃない!?) 改めてとらの有能さに打ちのめされるルイズ。自分はどうだろうか……少しは成長しているだろうか……? 答えは否であった。 ルイズは机に頭を打ち付けはじめた。 そんなルイズを見かねたように、デルフリンガーが声をかける。 「おい、娘っ子……そんなに自分を責めるもんじゃないぜ……相棒の強さは並じゃねえ。そんな使い魔を召喚できたのはおまえさんぐらいだろうよ。 だから……胸を張りな」 「デルフ……」 額を赤く染めながら、ルイズはデルフリンガーを見つめる。ルイズはそっと立ち上がると、インテリジェンス・ソードを拾い上げ、ベルトを自分の肩にまわした。 「おでれーた、何のつもりだ、娘っ子?」 「とらは使わないでしょ……せっかくだから、あたしが使ってあげる。もったいないし。いいことデルフ……」 ルイズは決意した表情で、すう、と深呼吸した。いやな予感がデルフの脳(どこかにあるとしてだが)をよぎる。 「今日からわたし、魔法剣士になるわ……!」 ……まったく突然の宣言であった。 部屋に気まずい沈黙のカーテンがするすると下りる。やがて、言いにくそうにデルフリンガーが口を開いた。 「……冗談きついぜ。おまえさんじゃ、満足に振ることもできねーよ……」 「う、うるさい! これから鍛えればなんとでもなるわよ。女剣士ならいくらでもいるじゃない! それとも、このまま埃かぶってるほうがいいってわけ!?」 どっちもどっちだなあ……、と嫌そうにぼやくデルフ。苦情には取り合わず、ルイズはごしごしと涙を拭くと、散らかした部屋の片付けを始めた。 「あらまあ……どうする?」 「どうしましょう……?」 「……どうしようもない」 ドアの外では、キュルケとタバサ、シエスタの三人が困ったように顔を見合わせていた。いや、あなたのせいでしょ、とキュルケがタバサの頭をポカと叩く。 シエスタは『お茶』を入れたティーポットにカップを持っている。タバサはキュルケに叱られ、ガリア王家の任務について白状させられた上で、ここまで引きずられてきた。 そして、ドアの前で鉢合わせしたところで、ルイズの『魔法剣士』宣言を聞いたのであった。 (ルイズ……あなたってバカね……ほんとに) 自分のアドバイスが友人をさらに迷走させていることに頭を痛めながら、キュルケはドアをコンコンとノックした。 タバサがカップをシエスタに差し出した。 「……おかわり」 「は、はい……どうぞ、ミス・タバサ」 「タバサ……あなた、それもう五杯目よ?」 「美味しいから」 まあ……ならいいけど、とキュルケは溜息をつく。シエスタの『お茶』は、大いにタバサの気に入るところとなったようであった。 キュルケはシエスタのほうを向いて、一つ咳払いをした。シエスタの『相談事』のほうは、さっきからタバサに腰を折られているのだ。 「コホン……それで、村に出る妖魔ってどんな奴かしら、シエスタ。続けてちょうだいな」 「はい……オーク鬼なんですが……少し様子がおかしいらしいんです」 シエスタは故郷届いた手紙に書かれた内容について話し始めた。 ラ・ロシェールを越えた草原が広がる中に、シエスタの故郷タルブの村はある。そして、オーク鬼は出没するのは村はずれの寺院であると言う。 その寺院は扉が閉ざされ、どうしてもあけることができないため、「開かずの寺院」などと呼ばれて近づく人もいない。 そんな見捨てられたような寺院の周りに、最近になってオーク鬼がうろつくようになったのである。 本来、オーク鬼は人を襲う。しかし、どういう訳か、その寺院の周りを囲むように集まるだけで、タルブの村を襲ってくる気配はない。 そのため、王宮に出した討伐依頼も、犠牲者が出ていないこともあって、かんばしい答えが返ってこないのであった。 しかし、日に日にオーク鬼の数は増え、村人は怯えている。一説には、その寺院が―― 「……おかわり」 「タバサ。邪魔しないの」 カップを差し出すタバサの頭をポカリと叩くキュルケ。シエスタがタバサのカップに、ポットから『お茶』を注ぐ。 「一説には、その寺院の扉が開かなくなったのは、そこに女の『幽霊』が住み着いてからで――きゃあ、み、ミス・タバサ? ど、どうしたんです、カップをひっくり返して!?」 「……な、なんでもない」 カップのお茶を零し、カタカタと震えながら顔色を青くするタバサ。首をかしげながらも、テーブルを拭き、シエスタは説明を続けた。 「それから、寺院には誰も入れなくなったと言います。とにかく、そこにオークが集まってきて……もう五十匹近いって、手紙では知らせています」 「ご、五十ですって……」 「お、お願いです、助けてください! ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ! 村を、私の故郷を救ってください!」 そう言ってシエスタは必死に頭を下げた。ルイズとキュルケは顔を見合わせる。正直、一生徒の手に負える数でもなかった。 ただ一人、戦闘経験の豊富なトライアングル・メイジの彼女を除いては…… ルイズはじっとタバサを見つめる。 「……どう、タバサ。私たちで戦えるかしら……?」 「無理。私行かない」 即答である。 「タバサ、あなた……オーク鬼のところよりも、幽霊の話で怖がってないかしら……?」 「ない」 「ひょっとして、タバサって怖がりなわけ? 呆れた……トライアングル・メイジなのにユーレイが怖いの?」 「違う」 口では否定するものの、よほど幽霊が怖いのか、頑として譲らないタバサである。シエスタが心配そうに見つめる中……キュルケとルイズがどうにも説得しあぐねていた、その時―― ――どこからか、声が聞こえてきた。 『やーれやれ、心配ないぞう……』 『お役目さまは幽霊でも綺麗なお方だよぅ……』 「ひ」とタバサが声を漏らす。 「ル、ルイズ……どこから聞こえるの?」 「わわ、わかんないわよ……! ちょっと! 誰だか知らないけど、でで出てきなさいよ……!」 声を震わせながらも、ルイズとキュルケはキョロキョロとあたりを見回した。……と、壁から、ぬ、と細い腕が現れる。 唖然とするルイズたちの前で、まるで霧をぬけるようにやすやすと、『それ』は壁から現れて見せた。 その姿は、まさに妖魔――という言葉しか見つからなかった。 腕と足は三日月状の胴体から突き出ている……のだが、あろうことか、胴体は真ん中から真っ二つに分かれており、そこから二つ、頭が覗いているのだ。 『あたしは時逆……』 『そして、あたしが時順だよう。時の狭間を旅する妖怪さーあ』 その『頭』がそれぞれ自己紹介して、シエスタ、ルイズ、キュルケの三人は唖然とした。タバサに至っては、既に失神して意識は闇の中である。 「な……なにをしにきたの……何の……用……」 に、と時順が笑う。 『……そこにいるシエスタ嬢ちゃんと同じ用さぁ』 「え、え? な、なんで私の名前を……!」 『なーに、なんでも知ってるさ……生まれたときからずっとなあ。わしらは「時」を旅すると言ったろう……』 慌てるシエスタに時逆が言う。続けて時順が口を開いた。 『さーて、ルイズ嬢ちゃん、お前さんの「時」が来たよう。見るべきものを見、知るべきことを知る「時」がなぁ……』 そう言って、時順はルイズに向かってニヤリと笑って見せた……。 ごぉぉおぉおぉおおおぉう…… タルブの村に、唸りをあげて風が吹いた。 オーク鬼たちの間を吹き抜ける風は小石を巻き上げ、寺院の壁にパラパラと音を立てる。 ぶごぉっ……ぶぎぃ…… 異形に取り付かれ、片目が巨大に膨れたオーク鬼たち――いや、かつてオーク鬼だったもの、というべきだろうか――は、村はずれの寺院の周りをうろつく。 ――いるぞ……ここにいるぞ……壊せ、壊せ、白面の御方の御為に…… ――嫌なもの、恐ろしいものがここにいる。この中にいる…… おぞましい婢妖たちの呟きが夜の闇を震わせ、やがて風に消えていった……。 >>back >>next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5458.html
前ページ次ページゼロの超律 「うーん……」 太陽の光と、何か大きなモノでわき腹をつつかれたような衝撃を受けることで、その日マグナの意識は覚醒した。 ぼやける視界をそのままに、大きく伸びをして野宿による肩のこりをほぐす。 あくびをしようと口に手を当てたところで、再び背後から、今度は頭を小突かれた。 マグナはうるさいなあ、と思いながら視線を衝撃の元凶に向けた。 「きゅい」 ……。 沈黙するマグナ。 ようやく鮮明になった彼は、何か、とてつもなくでっかい生き物とばっちり目が合っていた。 からみあう視線と視線。好奇の色を隠そうともしない、でっけえ生き物の瞳。 「……?」 「きゅい?」 首をかしげるマグナ。つられて首をかしげるでかいの。 目の前のそれは、立派な翼に堂々とした体躯をもち、見事なまでに青い鱗が鮮烈で、パッと見、トカゲのような顔だった。 ドラゴンである。 朝、目覚めたら目の前にドラゴンがいた。しかも目が合った。 悩むマグナ。寝ぼけているので、即座に状況が理解できなかった。 具体的には、ドラゴンの好奇の瞳が自分に対する食欲なんじゃないかなー、と想像するのに十秒ほどかかった。 「うわーっ!???」 「きゅいきゅいー!?」 きっかり十秒。ようやく音をたてて、「ずざざ」と後ずさるマグナ。 ドラゴンびっくり。 マグナは反射的に腰の剣に手を伸ばしたが、まくら代わりにしていた剣は、鞘に入ったままドラゴンの足元に転がっていた。 色々とダメである。 「きゅいきゅい」 「ははは……は、話し合おう!」 「きゅいきゅい」言いながらジリジリと迫ってくるドラゴンに、わりと本格的に生命の危機を感じて後ずさるマグナ。 その実、ドラゴンは突然の大声に文句を言っているだけなのだが、あいにくマグナはドラゴン語を解さなかった。 しかし、ついに壁にまで追い詰められたマグナが、話し合おうと言った瞬間、ドラゴンは前進を止め、なぜかキラキラと目を輝かせて三倍速で「きゅいきゅい」鳴き始めた。 もちろん、三倍速だろうが三分の一だろうがマグナには「きゅいきゅい」としか聞こえない。 なので、まだ朝も早く、野宿と言うこともあっていい加減に眠いマグナは、増大する睡眠欲に引っ張られた。 (危険は、なさそう、だよな……) そう楽観的に判断し、マグナはゆっくり目を閉じて睡魔の甘美な誘惑に身を任せ……。 「きゅいっ!!」 「あぐっ!??」 そして、ドラゴンの強靭な顎で額を一撃され、問答無用に覚醒したのであった。当然、涙が出るほど痛い。 マグナが鼻の奥のきな臭さと、額部の鈍痛に目を白黒させていると、ドラゴンは機界ロレイラルの銃器「ガットリングガン」のような勢いで「きゅいきゅい」と鳴き始めた。 突然ドラゴン語が翻訳されるような都合の良い事はなかったが、話はちゃんと聞けと抗議していることは、マグナにも想像できた。 「ごめん、まだ眠くてさ」 「きゅい……」 よく居眠りを注意されていたことを思い出して、マグナが小さな言い訳をしつつ謝ると、ドラゴンはしょぼんと頭を下げてしまった。 「あ、落ち込むなって。……起きちゃったから付き合うよ、それと今度はちゃんと聞くから」 そう言いながら、マグナが鼻先をなでてやると、ドラゴンは再び目を輝かせて「きゅいきゅい」言い始めた。 やはりマグナには「きゅいきゅい」としか聞こえないのだが、今度は聞く姿勢をとったためか、感情のようなものを感じることができた。 その感情に応じてマグナが適当に相槌を打つと、ドラゴンの方も素直な反応を返してくれる。そうなると、少し楽しくなってきた。 頭いいなお前などと言いつつ、その奇妙な「会話」を続けるうちに、マグナは自分の周りの景色が変化していることに気が付く。 いつの間にか、複数の幻獣や大型動物の類が、うるさそうにしながらもマグナの周囲の地面でくつろいでいたのである。 どうやら、自分が彼らの住居に寝床を求めたらしいことをマグナが気付くのに、それほど時間は要らなかった。 「あ、あの」 「うん?」 マグナがドラゴンの相手をしていると、背後から控えめな声がかかった。 厩舎に入ったことをとがめられるかと、マグナが覚悟をして振り向くと、背後には一人の少女が立っていた。 黒髪とメイド服が特徴の、清楚な感じがする少女だった。少女は幻獣が怖いのか、マグナから十歩ほど離れた位置にいる。 「君は?」 「は、はい。 学院でご奉公をさせていただいております、シエスタと申します。そ、その、厩舎が騒がしかったので……」 「あ、ごめん! もしかして起こしたのかな?」 「い、いえっ! そんな、貴族の方にご心配をいただくほどのことではなく……あうあうあう」 早朝から騒ぎすぎたのかと思ってマグナが頭を下げると、おどおどしていたシエスタは、今度は怒涛の勢いで恐縮しはじめた。 彼女の言葉によって貴族と勘違いされたことを知って、マグナは自分の姿を確認する。 くたびれた着衣はわらまみれで、触れてみた髪には寝癖がついていた。 貴族とは間違えようがない格好だった。 「ええと、シエスタさん?」 「し、シエスタとお呼び下さい!」 「はあ、じゃあシエスタ。俺は貴族じゃないよ?」 「え?」 ポカンとした様子のシエスタを前にして、マグナはとりあえず立ち上がると、まずは衣服についたわらくずをポンポンと払った。 「そもそも、こんな朝早くからわらまみれでドラゴンと遊んでいる貴族なんて居るわけないって」 「は、はあ……でも、それならあなたは一体?」 「名前はマグナ。昨日召喚されたルイズ、様の使い魔ってことになると思う」 マグナがとってつけた「様」とともに主人の名を告げると、シエスタはようやく納得したように表情を和らげた。 ゼロのルイズが平民を召喚したことは、同じく平民であることも手伝って、使用人の間でも有名だったのである。 「ミス・ヴァリエールが平民の使い魔を呼び出されたことは聞いていましたけど、本当だったんですね」 「はは。呼び出された日の内に部屋からたたき出されて、ご覧の通りだけどね」 おかげでわらまみれ、と肩を落としたマグナの様子に、シエスタはくすくすと可愛く笑った。 きゅいきゅいと鳴き声が聞こえたので、「友達は出来たけど」と付け足すと、ドラゴンが嬉しそうに鳴いた。 「竜になつかれちゃうなんて、マグナさんは不思議な方ですね」 「うーん、同じ使い魔だからかな?」 一瞬、自分が召喚師だからかなと考えたマグナであったが、口には出さずに別のことを言った。 それは、マグナの中に召喚師を名乗ることへの抵抗感があったためなのかもしれない。 「ところでシエスタ。顔を洗いたいんだけど、水の使えるところを教えてもらえないかな?」 「はい、いいですよ。そのままでミス・ヴァリエールにお会いになったら、マグナさん怒られちゃいますから」 クスクスと笑うシエスタに、マグナは恥ずかしそうに頬を指でぽりぽりとかいた。 「こっちです」ときびすを返したシエスタを追って、マグナは目覚めたばかりの右足を前に出す。 背後から聞こえる、名残を惜しむようなドラゴンの声に手を振って返しながら、マグナは昇ったばかりの太陽を見上げて、一日の始まりを噛み締めた。 ゼロの超律4「夜、明けて」 了 前ページ次ページゼロの超律