約 1,871,617 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8547.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 新型のアサシンブレードと写本の断片を受け取り、コルベールの研究室を後にしたエツィオは、一人、広場へと向かって歩いていた。 するとふと視線を向けた先に、しばらく会えなかった人物が歩いているのを見つけた。 エツィオはニヤっと笑みを浮かべると、気配を殺し、ゆっくりとその人物の背後に近づき、背後から目隠しをする。 「だーれだ」 「ひゃっ!?」 突然背後から視界を覆われたその人物……、メイドのシエスタは頓狂な悲鳴を上げ、背後を振り返る。 「やあシエスタ!」 「え、エツィオさん!」 にこりと魅力的な笑みを浮かべるエツィオを、シエスタは心底驚いた様子で見つめていたが。 やがて、その顔が、ふにゃっと崩れた。 久方ぶりの再会に感極まったシエスタは、そのまま泣きだしてしまった。 「えっ……えぐっ……、ど、どこに、どこにいってたんですかぁ……!」 「ちょっとしたお使いでね、昨日戻ったんだが、少しバタバタしてしまったんだ」 「うっ……ひっく……、ミス・ヴァリエールに尋ねてもっ……なにもっ、教えてくれなくて……、ひぐっ、わたしっ……わたしっ……!」 「心配をかけてしまったようだね、すまなかった、寂しい思いをさせて」 泣きじゃくるシエスタの涙を指先で拭ってやりながら、エツィオはにこりとほほ笑んだ。 シエスタは再び顔を崩すと、エツィオの胸に飛び込んだ。 しばらくそうやって涙を流していたシエスタであったが、しばらくして落ち着いたのか、少し気恥ずかしそうにエツィオから離れた。 「あっ、ご、ごめんなさい、わたしったら……、こんなに泣いちゃうなんて……」 「すまなかったな、きみに寂しい思いをさせた分、これからたっぷりときみの相手をさせていただくよ」 シエスタの顎を指でなぞりながらエツィオが嘯く、するとシエスタは頬を赤く染めながら口を開いた。 「もう……エツィオさんったら……、それに、言い方が違います」 「ほう? 違うというと?」 「わたしはエツィオさんの専属メイドなんですよ? もっと命令するような感じで言って下さらないと……」 もじもじとしながらシエスタが呟く。 エツィオは口元に笑みを浮かべると、シエスタの顎を持ち、ぐいと自分の方へ引き寄せた。 「そうだったな、それじゃシエスタ、きみの気が済むまで、俺の相手をしてもらおうか」 「はい……」 エツィオが耳元で甘く囁くと、シエスタはうっとりとした表情で頷いた。 それから、何かを思い出したかのか、シエスタはぽんと手を打った。 「そ、そうだわ、是非エツィオさんに御馳走したいものがあったんです!」 「御馳走というと?」 「なんでも東方から運ばれてきたとても珍しい品だそうですよ、『コーヒー』って言うんです。 わたしはまだ飲んだことがないんですけど、ものすごく高級なんですって! 今お持ちしますね!」 また『コーヒー』か。と一瞬苦笑しそうになったが、そこはエツィオ、あえて表情には出さず、厨房へ戻ろうとしているシエスタに、声をかける。 「ああシエスタ、なら砂糖とミルクも一緒に頼むよ」 「え? 砂糖と、ミルク、ですか?」 首を傾げるシエスタに、エツィオは小さく笑みを浮かべた。 「そのままだと、きっときみは飲めないだろうからな」 『コーヒー』を取りに厨房へと小走りで駆けてゆくシエスタを見送った後、 エツィオは中庭の隅にあるガーデンチェアに腰かけ、コルベールから受け取った写本の断片に、目を通し始める。 その顔は、先ほどまでシエスタに見せていた顔とは違い、真剣そのものだ。 一枚一枚じっくりと目を通し、やがてそのうちの一枚へと視線を落とす。 「ん? これは……」 エツィオはその一枚には見覚えがあった。 それは、アサシンの技術……、つまり暗殺技術について書かれた指南書であった。 何か新しい技術はないか、と少々期待したものの、残念ながら、それらは既に、全て身に付けたものであった。 つまり、今のエツィオにとっては必要のないものと言える。 「うーん……、以前の俺だったら助かったんだろうけどな……」 頭をぽりぽりと書きながら、エツィオは少々残念そうに呟いた。その時だ。 「エツィオさん! お待たせしました!」 その声に、写本を見ていたエツィオが顔を上げる。 見ると、シエスタがティーポットとカップ、そして小さな壜が乗ったトレーを持って、こちらに歩いてくるのが見えた。 エツィオは、今までの真剣な表情を一変させ、顔をほころばせる。 「ああ、ありがとう」 エツィオは礼を言うと、写本の断片をまとめ、懐にしまい込んだ。 ティーカップにコーヒーを注ぎながら、横目でそれを見ていたシエスタが尋ねる。 「何をお読みになってたんですか?」 「宿題だよ、コルベール殿のな。ありがとう、いい香りだ」 エツィオはウィンクしながら肩を竦める。 それからコーヒーが注がれたカップを受け取ると、ミルクと砂糖を入れた。 「ミスタ・コルベールですか?」 「ああ、彼に宿題を出していてね、その採点さ」 「まあ、先生に宿題を出すだなんて!」 エツィオの冗談にシエスタはころころと笑う。 そして自分の分のカップにもコーヒーを注ぎ終えたシエスタが、向かいの椅子に腰かけた。 「それじゃ、いただくよ」 エツィオはコーヒーを口に運んだ。 コルベールの研究室で飲んだコーヒーよりも甘くまろやかな味わいに、エツィオは頬を緩めた。 「うん、思った通りだ、これはいけるな」 「エツィオさんは、コーヒーを飲んだことがおありなんですか?」 「実は先ほど、コルベール殿の研究室でも御馳走になってね」 「そうだったんですか……」 そんなエツィオを見つめながら、シエスタもカップを口に運ぶ、そしてその苦さに思わず顔をしかめた。 「にっ! にっがぁ~い……」 「はははっ、びっくりしたか? だから砂糖とミルクを頼んだんだ。きみも入れてみるといい、きっと飲みやすくなる」 エツィオが笑いながら、砂糖とミルクがそれぞれ入った壜を手渡す。 シエスタはそれらを入れ、もう一度カップに口を付けた。口の中に甘い香りと風味が広がってゆく。 「わぁ、本当ですね、すごく飲みやすくなりました! 甘くてまろやかで……、なんだか落ち着きます」 シエスタは、ほぅ……っとため息をつくと、エツィオを見つめた。 「ねえ、エツィオさんの国ってどんなところなんですか?」 「俺の国か?」 「はい、聞かせてくださいな」 身を乗り出し、シエスタは無邪気に聞いてくる。 こうやって身近で見ると、シエスタはとてもかわいらしい顔立ちをしていることに改めて気づく。 黒真珠の様な艶やかな黒髪に、同じく大きな黒い瞳、低めの鼻も愛嬌があってとても可愛らしい。 「そうだな……、学問と芸術が栄える、美しい都だよ。フィレンツェっていうんだ」 「フィレンツェ……ですか」 「花の都って呼ばれるくらいだ、イタリアの中でも特に美しい、華やかな都さ」 「まぁ! きっと素敵な所なんでしょうね……」 エツィオは、フィレンツェの事を話した。由緒ある大聖堂や、その横にそびえる大鐘楼、その頂上から眺めるフィレンツェの美しさ。 シエスタは、目を輝かせて、その話に聞き入った。 あまり大した話はしていないと思うのだが、シエスタは一生懸命に聞いている。 いつしかエツィオは、時を忘れて故郷の話をしていた。 しばらく経つと、シエスタは立ち上がり、エツィオにぺこりと礼をした。 「ありがとうございます。とても楽しかったです、エツィオさんのお話、とても素敵でしたわ」 シエスタは嬉しそうに言った。 「また、聞かせてくれますか?」 「勿論さ。でも、今度はきみの話も聞きたいな」 エツィオはにっこりとほほ笑んだ。 シエスタはそれから、頬を染めて俯くと、はにかんだように、指をいじりながら言った。 「は、はいっ……! え、えっと……あの、エツィオさんのお話も、とっても素敵だけど……一番素敵なのは……」 「ん?」 「あなた……かも」 「きみの魅力には及ばないさ」 思い切って言った言葉が、エツィオにさらりと返され、耳まで真っ赤になったシエスタは、居た堪れなくなったのか、逃げるように去って行った。 エツィオはそんな彼女の背中を見送った後、再び写本を取り出し、目を通し始めた。 一通り写本の断片を読み終え、ルイズの部屋に戻ると、ルイズはベッドの上でなにかをやっていた。 エツィオの姿を見るや、慌ててそれをシーツで覆うとその上に本を乗せ、隠した。 「やあルイズ、何をやってるんだ?」 「な、なんでもないわ。ど、読書よ、読書!」 僅かに頬を赤くしながら、取り繕う様にルイズは言った。 本当にこの子はわかりやすいな。と、両腕に付けたアサシンブレードを取り外しながら、エツィオは思った。 俺を見て慌てて隠す位だ、ということは、十中八九、俺関連だろう。 ならば、これ以上聞いても教えてはくれないだろうし、機嫌を損ねてしまう可能性もある、こういう時は無理に詮索しないのが一番だ。 確かにルイズが自分の為に何をしてくれるのかは気になるが……、今はそれよりも……。 「ふぅん、ところで、きみ、いつからアサシンになったんだ?」 エツィオはからかう様に笑いながら、ルイズの顔を覗き込む。 言葉の通り、ルイズは、エツィオのアサシンローブを着ていたのであった。 朝食の後、エツィオはルイズの提案通り、アサシンのローブを脱ぎ、部屋においていたのだ。 血の匂いが染みついていないかと心配したが、ルイズの様子を見るに、どうやらそんなことはないようだ。 ルイズは、おそらく下着の上に直にローブを着ているのだろう。ご丁寧にも腰のサッシュベルトまで捲いている。 しかし、袖も丈もぶかぶかなので、見ようによっては妙なワンピース姿にも見えた。 ルイズはベッドに正座すると、フードを頭にかぶった。なんだか言いにくそうに、ルイズは言った。 「だって……、着るのなくなっちゃったんだもん」 立てた指でシーツをこねくりまわしながら拗ねたように呟くルイズを見て、かわいいやつめ、とエツィオは内心ニヤついた。 「こんなに可愛いアサシンになら、殺されてもいいって奴が出てきそうだな」 「な、何言ってんのよ……もう」 「何って、俺がその一人だからさ」 気恥ずかしそうに俯くルイズの顎を、指でなぞりながらエツィオが嘯く。 ルイズはびくっと震えると、身体をこわばらせ、う~~っと唸った。 「で? そんな凄腕アサシンは、一体何を読んでいるのかな?」 エツィオはそう言うと、ルイズが慌てて何かを隠した本を見つめる。なにやら古ぼけた、大きな本である。 「『始祖の祈祷書』よ」 「『始祖の祈祷書』?」 エツィオがその本を手に取ると、ルイズは少しだけつまらなそうに口をとがらせながら答えた。 「姫殿下が、今度ゲルマニアの皇帝とご結婚されるのは知ってるでしょ? その結婚式で、わたしはその書を手に詔を詠みあげなきゃいけないの」 「へえ、大役じゃないか。で、その詔は出来てるのか?」 ルイズは首を横に振った。 「全然……、だからわたしは、式の日までに、その『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩いて、詔を考えなきゃいけないの。 あとそれ、トリステインに伝わる国宝だから、あまり雑に扱わないでよ」 「国宝の書物か……、どんな内容なんだ?」 「見てみたら? きっと驚くわよ」 そう言われ、エツィオは何気なく『始祖の祈祷書』を開く、そしてその中身をみて、目を丸くした。 「なっ……! なんだ……これ……?」 「ね? 驚いたでしょ?」 驚いたような表情のエツィオを横目に、『始祖の祈祷書』の中身を覗き込みながらルイズはつまらなそうに呟く。 エツィオがめくる『始祖の祈祷書』のページには何も書かれてはおらず、文字一つさえ見当たらない。どこまでめくっても真っ白なページが続くだけであった。 「何も書いてないなんて、酷い出来よね。そんなのを国宝だなんて……」 ルイズがそう呟くと、エツィオは信じられないと言った表情でルイズを見つめた。 「なにも書かれていないだって? きみ……これが見えないのか?」 「えっ!?」 エツィオのその思いがけない言葉に、ルイズは心底驚いたような表情でエツィオの顔を見つめる。 いつもの冗談……ではない、エツィオの表情は、至って真面目だった。その目は、とても嘘をついているようには見えない。 「え? あ、あんた、もしかして見えるの?」 「あ、ああ……でも……」 「なに? 何が書いてあるの?」 ルイズの心臓が早鐘を打つ。 そうだ、エツィオには"タカの眼"があったんだ。もしかしたら、『始祖の祈祷書』を読み解けるかもしれない。 そんな期待に胸を躍らせながら、ルイズはエツィオを急かす。 エツィオは再び『始祖の祈祷書』に視線を戻す、だが、エツィオはすぐに眩い光を見つめるように目を細めた。 あまりの眩さにたまらずエツィオは『始祖の祈祷書』を閉じてしまった。 「ど、どうしたの?」 「凄い魔力だ……、タカの眼で見るには、文字に込められた魔力が強すぎる……」 エツィオは、目を擦りながら、呻くように呟く。 どうやらエツィオの"タカの眼"では、始祖の祈祷書を読み続ける事は出来ないらしい。 ルイズは、辛そうな様子のエツィオを心配そうに見つめた。 「大丈夫?」 「眼が焼かれそうだ……。書き写してあげようにも、これじゃあな……」 「そう……」 「すまないな」 「な、なにもあやまらなくても……」 どこか落胆した様子のルイズにエツィオが謝る。 ルイズは僅かに頬を赤らめて俯いた。 「しかし……、こんなに魔力を込めて書くなんて……、一体、これには何が書かれているんだ……?」 「せめてあんたの"タカの眼"でも読めるくらいに加減して書けばいいのにね」 「そうだな。書いていて思わず力むくらいだ、きっと恥ずかしい内容なんだろ?」 エツィオの冗談に、二人はくつくつと笑いあう。 それからルイズはごそごそと布団に潜り込んだ。 「もう寝るのか?」 エツィオが尋ねると、「うん」とだけ返事が返ってきた。 エツィオはにやっと笑みを浮かべると、ルイズのベッドに潜り込む。 それから何を思ったか、ルイズの肩に手を回すと、ぐいと抱き寄せた。 「ひゃっ! な、なにすんのよっ……!」 突然エツィオに抱き寄せられたものだから、ルイズは目を白黒させて驚いた。 互いの息がかかるくらいに顔を近くに寄せると、エツィオはにっこりとほほ笑んだ。 「おやすみをまだ言ってなかったからな」 「あ……」 文句を言おうと思っても、頭が回らない、まるで麻酔にかかったかのように頭がじんわりと痺れてくる。 「あわ、あわ、あわ」とわめくうちに、額にキスをされた。 「おやすみ、ルイズ」 顔を真っ赤にしたルイズに、エツィオはニッと笑う。 相も変わらず、自信たっぷりな使い魔の笑顔に、文句を言おうにも言葉が出てこない。 「ばっ……ばかっ! な、なにしてんのよ! も、もう……」 かろうじてそれだけ言うと、ルイズは毛布を頭から被って丸くなってしまった。 ルイズは布団のなかで落ち着きなくもぞもぞと動いている。たまに中から「なによもう……」とか、「いきなりあんなことするんだもん……」とか ぶつぶつと文句が聞こえてくる。この調子では当分眠ってはくれなさそうだ。 これから毎晩やってやるかな、なんて事を考えながら、エツィオは天井を見つめる。 そう言えば、先ほどルイズが言っていたように、そろそろアンリエッタ姫殿下とゲルマニア皇帝の結婚式である。 気がかりは、それに先駆けた、アルビオンによる親善訪問の名を借りた先制攻撃だ。 そろそろマチルダから報告が届きそうなものなんだが……。とアルビオンで内偵を行っているマチルダのことを考える。 そうしばらくしているうちに、もぞもぞと動いていたルイズが、おとなしくなった。どうやら眠ったらしい。 とにかく、今はあまり考えても仕方が無い、まずはマチルダからの報告を待とう……。 エツィオはそう考えながら、静かに目を閉じた。 ルイズが眠り、エツィオが目を閉じてから数時間後……。 突然エツィオが目を開け、むくりと起き上がる。 そして頭を振り、目頭を押さえると、彼には珍しく、少々イラついた様子で小さく呟いた。 「くそっ……全然眠れない……なんでだ?」 首を傾げるも、理由がわからない。 目を閉じていればいずれ眠れるだろう……そう考えながらもう一度横になり、目を瞑る。 だが、どういうわけかその後も全く眠りにつけず、結局、エツィオがようやく眠りにつけたのは、空が明るみ始めた頃だった。 ――写本の断片を入手 『私が助け、そして私の命を救ってくれた青年は、『オスマン』と名乗ってくれた。 (『オスマン』……記憶が正しければ、アナトリア地方に住む人間が名乗る名だ。ということは、ここはアナトリア地方なのだろうか?) 驚くべきことに、彼は『魔法』という力を行使する者(彼らが言うには『メイジ』と呼ばれる)らしい。 彼が私を助けるために行使した癒しの力、それが『魔法』なのだという。 最初、彼の口からそれを聞いた時、私は俄かには信じられなかった。 ……魔法、私が知る限り、千夜一夜の物語に登場するような荒唐無稽なおとぎ話の中の力の筈だ。 しかし私はその魔法によって命を救われている。こうしてその力を目の当たりにした以上、信じないわけにはいかないだろう。 未だ半信半疑だった私は、別な魔法を使って見せるように彼に依頼をする。 彼は怪訝な表情をしたものの、私に様々な『魔法』を見せてくれた。 彼が杖を振るだけで、炎が噴き出し、風が巻き起こり、ただの土が金属へと変化する。 私は驚愕し、戦慄した。これは人が持ちえる技なのか? この力をテンプル騎士達が行使したらどうなる? この力は騎士団のような連中に知られるわけにはいかない……。 ――その心配は全て杞憂に終わったことは幸運なことだった。 慄く私に、彼は首を傾げていたが、命を救ってくれた礼に宿を提供させてくれと申し出てきてくれた。 土地勘のない場所だったためにこの申し出は私にとって非常にありがたい話である、私は彼の申し出を受け入れ、彼の世話になることに決めた。 異国の友に感謝を。』 『私は推測していた、『果実』の暴走によって、私は遥か遠いところへ、それこそ別の大陸へと来てしまったのだと。 そしてその推測は、半分が当たっていて、半分は大きく外れていた。 結論から言おう、私が飛ばされてきたこの場所は、私が本来いるべきはずの世界から遥か遠くに隔絶された世界であった。 言わば別世界、異世界とも呼べる場所だ。 私はその事実に至った時、即座に『エデンの果実』を調査した、私をこの世界に導いたのがこの果実ならば、元の世界に戻す手段も当然これに限られるはずだ。 正直、使いたくはないが、他に手段がない、背に腹は代えられない。だが、果実は何も反応を示さない、戸惑う私に答えを教えてくれたのは、皮肉にも果実であった。 この果実の持つ空間転移と呼べる力、それ自体は多用できるものではなく、再び使用するためにはある程度時間を置かなくてはならないというのだ。 確かに、果実をよく"見る"と心なしか輝きを失っているように見える、しかし私の問いに答えたということは、機能を完全に停止するということは決して無いようだ。 なんとも間抜けな答えに、私は落胆しつつも安堵と一抹の不安を覚える。 これほどの力を行使したとしても、『エデンの果実』は決して機能を止めることはない。果たしてこの果実を止める、或いは破壊、封印する手立ては存在するのだろうか? ……兎も角、果実のエネルギーの充填を待つ間、私はこの世界に足止めとなる。 幸運なことに果実は私の手元にある、ということはテンプル騎士達に奪われる心配は少なくとも存在しないのだが、それだけに今は、マシャフに残る兄弟達だけが気がかりだ。 私が果実と共に消える時、傍にマリクがいた事を覚えている、兄弟達の不安を煽らぬよう、彼がうまく立ちまわってくれるのを祈るしかない』 『(冶金法の解説書及び設計図:エラーにつき閲覧不可)』 『成功だ! かねてより研究を進めていた、極めて小さな弾丸を戦闘に用いる方法が分かった。 弾丸を用いた戦闘は前例のあることではない、東方の国々では既に使われていることは広く知られている。 だがそれはずっと大型の武器で、それこそ攻城戦に用いられるようなものであったため、我々の目的には合わなかったのだ。 今回、私はそれを大幅に小型化し、手首に装着できるように作りなおす方法を考えついたのだ。 その威力は人を死に至らしめるに十二分であり、遠く離れていても使える。……正直に告白しよう、私がこの発見を得たのは、控えめに言っても危険な方法によってだ。 精神を集中させ、ほんの短時間だけに限るなら、『リンゴ』を使っても大丈夫のようだ。 だが、ここは異世界であって、マシャフではない。魔法という手段があるとはいえ、ブレードに使用される合金の錬金は、所謂スクウェアクラスのメイジであっても不可能だ。 全体的に見て、この世界の冶金技術は全く進んでいないと言っていい。しかし、私のもつ……否、『リンゴ』がもたらした知識は、 この世界を根底からひっくり返しかねない技術であることもまた事実だ。速すぎる技術革新がもたらす混乱、それは私の望むところではない。 故に、この書物に封印することに決めた。願わくは、心ある者がこれを読み解かんことを』 『"英知がもたらすは悲嘆のみ。真実を知るほど、悲しみはいや増す"という哲学者の言葉が、今では十分に理解できる気がする。 そう、これは確かに正しい、鉄を作る知識を得れば、鉄は剣へと変わり、剣は戦いを生み出す。 これはこの魔法の世界でも同じことだ、現に魔法は戦いに利用されている。 四つの系統すべてに、戦いに対応した攻撃魔法が数多く存在していることから、それは最早自明の理だ。 人は何故戦いを求めるのだろうか? 手を取り合って生きるということはできないのだろうか。 この世界は神によって創造されたものなのだというが、果たしてそうなのだろうか。 暴力に飢えたおぞましい存在が創造したとしか私には思えないのだ、この魔法が支配する異世界も、……私のいた世界も』 『(ピストルの設計図:焼失したため閲覧不可)』 『この世界にも、我々の世界と同じように神として、または神の代理人として崇拝される人間がいた、その者はブリミルと名乗っていたそうだ。 降臨、信徒、数々の奇跡、彼もまた、かの大工のようにこの世界の人々に崇拝、信仰されている。 しかし私の知る神話とは異なる点がいくつかある。彼に関しての逸話が、ほぼ存在しないのだ。 だが、最も注目すべき点は彼の死後だ。 彼の死後、6000年間の間、誰一人として宗教的指導者が現れていない。まるで『ブリミル教』以外の教えを全て排除したかのような。 彼もまた、『エデンの果実』を利用したのだろうか? 概念を世界に浸透させ、根づかせたのだろうか。 ただ一つ異教と呼べるもの、それはブリミル光臨の時より敵対していたとされる『エルフ』と呼ばれる者たちだ。 『エルフ』……先住……。 だとすれば、『彼』……『彼ら』はどこから来たのだ? 『かつて来たりし者』との関係は? 考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ』 『(手製爆弾の設計図:画像エラーにつき閲覧不可)』 『dx/dt= -10x +10y dy/dt= 28x -y -xz dz/dt= -8/3z +xy (方程式のグラフ:画像ファイル破損につき閲覧不可) "ليس هناك ما هو صحيح ، كل شيء مسموح به" Laa shay a waqui n moutlaq bale kouloun moumkine』 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1685.html
朝日もささぬような時間帯に、学院を出ようとしている者達がいた。 ルイズたち一行である。 昨日、王女アンリエッタから密命を受けたルイズは、 誰にも見咎められることなく学院を出るべく、この時間を選んだのだ。 人数は五人。こういう時勢に旅をする人間としては、多くもなく少なくもない人数だろう。 ルイズ、ギーシュ、J、桃、虎丸、そしてシエスタの六人であった。どうやらJは、桃と虎丸に同行を頼んだようだ。 その選択を、ルイズは黙っている。 内心多少の不満はある。虎丸より役に立ちそうなやつは他にもいっぱいいるのに。 そうルイズは考えていたが、自分よりも付き合いの長いJが虎丸を選んだのには理由があるのだろうと納得していた。 それよりも不思議なのはシエスタである。 どうして自分がアルビオンに出かけることを知ったのか不思議に思ったルイズはシエスタに尋ねた。 すると 「オールド・オスマンに教えていただきました。それに、私ではお役に立てないでしょうか。」 そう逆に聞き返されたルイズは言葉につまる。 シエスタ自身の戦闘力もさることながら、一向に女性が一人だけ、というのは少し嫌だったのだ。 ルイズとて、年頃の女性であることに変わりはないのだ。 それに、ちらりとシエスタを見て思う。 何も見返りを求めることなく自分を慕ってくれるシエスタの気持ちはほんとうにうれしかったのだ。 ようやく準備が終わったころ、ギーシュが声をかけてきた。 「さて、みんな!ぼくの使い魔を紹介しよう!」 その声に、全員の注目が集まる。 「あんた、使い魔いたの?」 というかいるならどこにいるのよ。そうルイズは続けた。 自分の予想通りの反応が返ってきたことにギーシュは気を良くした。 この中でギーシュの使い魔を知らないのは、実はルイズだけなのだ。 他のものたちには、実はルイズのいない時に「新男根寮」で紹介していたのだ。 「それでは紹介しよう!ぼくの使い魔ヴェルダンテだ!」 その掛け声とともに、地面が大きく盛り上がり、巨大なモグラが飛び出してきた。 ジャイアントモールのヴェルダンテである。 その登場姿に思わずルイズはおどろく。ルイズの記憶が確かなら、ジャイアントモールはもっとおとなしい生き物のはずだ。 「ああ!堂々とするようになった君はほんとうに立派だね。」 どうやらギーシュが仕込んでいたようだ。 ふと脳裏にその光景が浮かんだ。感極まったかのように泣いて抱きしめるギーシュの姿に刺激を受けたようだ。 夕日を背景に、殴りあうギーシュとヴェルダンテ。 そして二人はついに和解して、抱き合い、夕日を見上げる。 (……忘れよう。) 思わず変な方向に考えが進んでしまったルイズは、思わず自分を恥じた。 どうやら、最近使い魔に毒されているようだ。 そのとき、一陣の風が舞った。 ルイズが気づいた時、自分の前にはシエスタが立っていた。 桃もJも虎丸も戦闘体勢に入っていた。 「待ってくれ!僕は敵じゃない。」 そう言って、ゆっくりと姿をあらわした男は説明した。 自分は姫殿下より頼まれてきたのだと。そう言って長身の男は帽子を取ると優雅に一礼をして名乗った。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。」 そんなワルドの様子に、ルイズは懐かしい光景を思い浮かべた。 しかし、 「お久しぶりですわ。ワルド様。」 そんな様子を微塵も見せずに、優雅に一礼する。 今のルイズは、昔のルイズではない。さらに今は、親友アンの思いをその小さいに背中に負っているのだ。 しかし、ワルドはそんなルイズの様子を微塵も気にすることなく、話を続けようとする。 婚約者だという彼にはその資格があるかもしれない、桃はそう思わなくもない。 しかし、今の自分はこの誇り高い少女の使い魔であるのだ。 そう考えた桃は、ワルドを止めに入る。 ルイズとの間に割り込まれたワルドは、一瞬目を吊り上げるがすぐにもとの表情に戻る。 そうしてルイズに向き直ると、彼らを紹介してくれるように言った。 「こちらの三人がわたしの使い魔です。」 その台詞に思わずルイズを凝視してしまう。 ルイズが人間の使い魔を呼んでいたのは知っていたが、複数だとは思ってもみなかったのだ。 また、シエスタの紹介のところで、思わず不審な目をしてしまった。 どうしてメイドが?言葉に出さずとも顔に表れていた。 そんな様子を気にする素振りも見せずにシエスタはいう。 「失礼ながら、貴族の方々とルイズ様の使い魔方だけで、満足にルイズ様のお世話ができましょうか。 わたくしめは、そのことを心配なされたオールド・オスマンに付けられた一介のメイドです。 どうぞお気にせずご出立下さい。足手まといになるようなまねはいたしません。」 普段のシエスタを知っている人間からすると、明らかに外向けの仮面を被ったシエスタが言った。 あまりに堂々と自分に意見するメイドに、ワルドは少しペースを崩されたが、気にしないことにした。 一方、シエスタは感じていた。 彼がルイズにとってはプラスになりそうにないことを。 それは、女の勘とでも言うべきものであった。 ちらりとルイズの方を見やると、シエスタは覚悟した。 (もし、この男がルイズ様に何かするようなら、その時は私が。) そうしてそれぞれの紹介を終えた六人は旅立つことになった。 向かう先はアルビオン。黒雲渦巻く天空大陸だ。 その様子を、窓の中からオールド・オスマンとアンリエッタは見つめていた。 (異世界から来たという使い魔の方々。どうかルイズを守ってください。) アンリエッタは親友の無事を祈り続けていた。 いつまでも……。 男達の使い魔 第七話 完 NGシーン 外伝 雷電「ま、まさかアレは!」 虎丸「知っているのか雷電!」 雷電「あれこそまさしく、古代より中国に伝わるという蛇威暗斗猛瑠(じゃいあんともうる)!」 ハルケギニアの代表的生物の一つ、ジャイアントモールの起源を知るものは少ない。 かつて黄帝の御世、ある化け物が黄河の上流で猛威を振るっていた。 体は竜(古代中国では蛇も同等とみなされる)よりも大きく、暗闇を好み、 人を襲い、瑠璃などの財宝を奪っていくというその化け物は、周辺住民から大変おそれられていたという。 しかし、いかなる軍であろうともその化け物を倒すことはできなかった。 当時の軍では、空を飛び地に潜るその化け物を打ち倒すことは不可能だったのだ。 そうして絶望していたという住民達のところに天の使いが現れた。 当時、仏教などまだ存在しなかったはずだというのに、神拳寺という寺の僧侶と男は名乗ったのだ。 その男は、村人達の嘆きを聞くと、単身化け物に挑んだ。 戦闘は苛烈を極めたという。 ついに己の不利を悟った化け物は空を飛んで逃げ出した。 人は空を飛べない、そう思って後ろを振り返ったその化け物はぎょっとした。 なんとその僧侶は、持っていた棒のようなものを頭上でまわして空を飛んでいたのだ。 慌てて速度を上げようとした化け物だったが、時既に遅し。 追いついた僧侶に、その羽を切り落とされ地に落とされた化け物は最後の力を振り絞って地にのがれた。 その潜った後を追いかけた僧侶だが、穴の先には何もいなかった。 ただ、不思議な光だけがあったという。 そう、諸君らの想像の通り、ハルケギニアにやってきたのだ。 こうしてハルケギニアに訪れたこの生き物は、極度に大人しく地底に住む種族となったのだ。 なお、かつての中国での名は、蛇威暗斗猛瑠がどうしてかハルケギニアに伝わり、ジャイアントモールに なったのは有名な話である。 最後に一言だけ付け加えよう。この蛇威暗斗猛瑠を打ち倒した男は、王大人と名乗ったそうだ。 民明書房刊「蛇威暗斗猛瑠の全て」(ギーシュ・ド・グラモン著) ギーシュ「という本を今度発行することになったんだが、読んでみての感想はどうだい?」 ルイズ「……ギーシュ。あんた文才ないわねぇ。」 ケティ(ああ。そんなギーシュ様もす・て・き) その様子を、モンモランシーは柱の影から見つめていた。 なぜか涙が止まらなかった。 いつまでも……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/432.html
「壜で……香水で……二股で、決闘!?」 シュトロハイムから事の経過を聞いたルイズは、そのあまりのアホらしさに頭を抑えた。 「一度ギーシュの頭の中を覗いてみたいわ。 ピクニックするのに絶好の素敵なお花畑が広がっているに違いないもの」 「あの、申し訳ありませんシュトロハイムさん。私が小壜を拾ったせいでこんなことに」 対照的に恐縮しているのがメイドのシエスタ。 「先に私がミスタ・グラモンの二股に気が付けていれば、メイジの方との決闘などという事態にはならなかったのに」 「自分の非を素直に認められることは、優れた人間である条件の一つだ。 だがありもしない過ちを恥じるのは、自分を下卑することにしかならんぞ」 恥じ入る彼女に、シュトロハイムは言った。 「第一、あの状況から奴の次の台詞が『決闘だ』だと予想するなど、たとえジョセフの奴だとしても不可能だろう」 「ジョセフ?」 「……俺の召喚前にいた世界での知り合いだ。それよりルイズ、メイジというのはああいった奴ばかりなのか?」 「じょ、冗談じゃないわ! あそこまで脳がふやけているのは例外中の例外! ギーシュの女好きはキュルケの男狂いと並んでこの学院の名物みたいなものだもの!」 顔を赤くしたルイズが否定、肩まで伸びた長髪を掃い上げる。桃色の髪が、ふわりと宙を舞う。 「でも今回ばっかりは、さすがにおふざけが過ぎるわよ。 付いて来なさい、シュトロハイム。私があいつに話をつける」 「いや、何故だ?」 うんざりしながらも歩みだそうとしたルイズに、シュトロハイムは心底不思議そうに聞いた。 ハルケギニアのドイツ軍人 第四話 誇り 「何故だ?」 シュトロハイムの問いに、ルイズはその柔らかに整えられた眉をピクリと吊り上げさせた。 考える――この使い魔は、いったい何様のつもりなんだろう。 そりゃあ、決闘の約束をさせられたのは仕方がない。何しろ相手は、あのギーシュだ。 学院一のキザ男、女にもてる事をなによりも優先する、ツェルプストー一族に匹敵する色気狂いだ。 その口車に乗せられることは、ある意味では避けようがない。 それにいくらギーシュとはいえ、貴族が使い魔にしたこととはいえ、今回ばかりはやっていることが滅茶苦茶だ。どう考えても、非はギーシュのほうにある。 そう考えたからこそルイズは、儀礼に反する形での『決闘』への横槍を決めたのだ。 なのに、それを『何故』? こいつは、何も分かっていないのか? ああ、きっと分かっていないのだろう。 貴族の恐ろしさも、決闘の危険性も、その決闘に第三者が口を出すということの意味も。 なぜならこのシュトロハイムという使い魔は、『別の世界』から来たらしいから。 だから、常識が通用しない。なまじ言葉を喋れる分、それはとてつもなく厄介だ。 そしてその厄介を背負わされるのは、彼の主人である私…… 湧き上がる頭痛を抑えて、ルイズは大きく息を吸い込む。 「いい? よーく聞きなさい!」 シュトロハイムが興味深げに視線を正面へと向けた。 「あんたのいた世界じゃどうだったかは知らないけどねえ、この世界では決闘っていうのはとっても危険なものなの。 なんでもありの真剣勝負、終わる方法は二つだけ。片方が負けを認めその『認めた』ことをもう片方が認めるか、 それとも当事者のどちらかが命を失うか! しかも決闘の結果にはいかなる法も介入できない。 一時期は最も合理的な殺人方法とすら言われていたわ!」 「ほう」 「だから、悪いことは言わないわ、私に任せなさい! たかが色恋沙汰のためにあんたをいいように利用しようだなんて、そんな理不尽は気に食わないもの!」 「気に食わない、か」 ルイズの言葉に、シュトロハイムは同意する。 「なるほど、たしかに気に食わなくはあるだろうな」 「そうよ、気に食わない。だから私はこの決闘をやめさせる」 「だがそれは、余計なお世話だ」 「なんですって!?」 シュトロハイムの言葉に、ルイズは目をひん剥く。 「気に食わない気に食わないと貴様は言うが、奴のことが最も気に食わんでいるのはこの俺だ。 ならばこそ、その決闘とやらで糞生意気なあの餓鬼を取っちめてやらんでどうするのだ!」 「それは……」 「シュトロハイムさんはメイジの恐ろしさが分かってないんです!」 言葉を詰まらせるルイズに代わり、激高するシエスタ。 「メイジの恐ろしさか、たしかに俺は分かっていないな」 「そうです、分かってない! だからそんな無茶が言えるんです! 決闘なんて何の利益にもならないのに、下手をしたら、殺されちゃうんですよ!」 シエスタの言葉に、どこか引っ掛かりを覚えるルイズ。 彼女に同意するかのように、シュトロハイムが首を横に振る。 「利益ならば、存在する!」 「……どういう、意味?」 興奮を収めた声で、ルイズがシュトロハイムにきいた。 「肉体面だけで見た場合、人間とはひ弱な生き物だ」 答える代わりに、シュトロハイムは言った。鋼鉄で作られた、自身の右腕を伸ばす。 「走る速度は馬にかなわん。魚のように泳ぐことも鳥のように飛ぶこともできん」 この世界、ハルキゲニアにおいても基本的にはそれは同じだ。 力はオーク鬼に及ぶべくもないし、幻獣の中には人以上の知能を持つ種族も決して少なくない。 「だがそれでも、人類はこの世界に霊長の種として君臨している。何故か?」 シュトロハイムの伸びた手が、地面に落ちていた小石を拾う。 「それは、人には『欲』があるからだ。 より知りたい、より強くありたい、より優れた存在でありたいという『心』を持っているからだ」 小石を手にした右手を握る。 1950kg/c㎡の握力を加えられた石は、破壊され、破砕され、一部が手からこぼれる。 「俺のこの手は、この足は、一度失われながらナチスの科学力により作り直されたもの。 何故これをナチスは作ることができた? 欲したからだ、作りたいと」 ゆっくりと、手を開く。鋼鉄の掌の上にあるのは、完全に粉砕され砂と化した石。 「より良くありたいと、願う。より詳しく知りたいと、思う。それが、ヒトをヒトたらしめている精神だ。 その欲求に忠実に、恐怖も危険も乗り越えて行動する。それが人間を霊長たらしめている行為だ。 だから俺も、それに従い行動する。 俺はこの世界についてまだ何も知らん。魔法も、メイジも、その恐ろしさも。 ゆえに知りたいと思う。ゆえに知る必要がある。 知るために、メイジ――ギーシュ・ド・グラモンとの決闘は有益だ」 「たとえそれで、命を落とすことになっても?」 「無論、結果としての落命の覚悟は当の昔にできている。最もこのシュトロハイム、貴族の力を知らぬとは言ったがそれで負ける気などないがな」 シュトロハイムの返答に、ルイズは一つ長く息を吐くと、極めて控えめに盛り上がった双胸の前で両腕を組んだ。 「分かったわ、勝手にしなさい」 「ミス・ヴァリエール!!」 咎めるような、シエスタの声。だがルイズはそれを聞き入れない。 「しょうがないでしょ、そこまで言われたら。 さっきこいつを止めようとしたのは、決闘がギーシュだけの意思によるものだと思っていたから。 でもこいつにも決闘を受け入れる覚悟があるのなら、彼の意思は誰にも止められない。 こいつが使い魔で私が主人だとしても、私はこいつを止めることはできないし止める気もないわ」 シュトロハイムに向き直り、付け加える。 「でもね、さっきも言った通り使い魔の恥は主人の恥にもなるのよ。 だからこの私の使い魔として、無様な戦いだけは許さないわ。その自信はあるんでしょうね」 「当たり前だ。この世界の、メイジとやらの実力は知らん。だが俺の体はドイツ科学の結晶、 一対一での戦いならば、もとの世界で俺に勝てる『人間』はいない……ただし」 「ただし?」「ただし、なによ」 「腹が減っては戦はできん!!」 ――グゥゥゥーーー シュトロハイムの言葉に応じるようにして、彼の腹部が待遇改善を求める悲鳴をあげる。 「しょうがないわねえ、じゃあまたミス・シュヴルーズに頼んで鋼鉄の錬金を……」 「だから、俺は人間だ! 鉄など食わん!」 「冗談よ。あなた……確か、シエスタって言ったわね。こいつに何か食べ物を頼める?」 「は、はい! 厨房の賄いでよろしければ」 「なら悪いけど、それお願い」 「分かりました!」 シエスタが、シュトロハイムを連れて中庭を去る。 彼等を見送ったルイズは、もう一度長く溜息をつく。 中庭に一人残り、シュトロハイムの言ったことを反芻する。 ――知りたい、その欲求のために決闘を行う。 知る、その目的のために恐怖も危険も乗り越える。 「なによ、それ。使い魔の癖に生意気言っちゃって」 自身の桃色ブロンドを乱暴に梳いて、ルイズはふてくされたように呟いた。 「ほー、あんちゃんがメイジと決闘やらかすことになった使い魔さんかい!」 シュトロハイムがシエスタに連れられて訪れた厨房には、既に彼の噂は広がっていた。 「気に入ったぜ、その根性! よーし、これは俺のおごりだ! たんと食って、あの青銅野郎をぎゃふんと言わせてやれ!」 「マルコー料理長、あんまり焚き付けないでください!」 「いいじゃねーかや、シエスタ。硬いこと言うな!」 マルトー親方自らの手で、皿にたっぷり盛られるシチュー。いまだ決闘に反対であるらしいシエスタが、浮かない顔ながら運んでくれる。 スプーンで掬い、口に運ぶシュトロハイム。 美味い。湯気の立つ飯を食べるのが、一ヶ月ぶりであることを考慮に入れても尚。 「ありがたい」 「なあに、あんちゃんが勝ってくれないと俺も困っちまうんでなぁ」 とぼけた笑いを浮かべつつ、顎で何かを示す親方。 シチューをすすり、パンを頬張りつつ、シュトロハイムはマルコーの言葉に顔を上げてみる。 マルコーが指しているのは、コインで出来た大小二つの山。 双方の上には、シュトロハイムには読めないこの世界の文字がそれぞれ記されている。 恐らくは彼とギーシュの名前、そして数字――つまりは決闘を対象とした賭けのレートだ。 「ということは親父さんは、この俺に賭けてくれたってわけだ」 ニヤリと笑う、シュトロハイム。 「おう、あたぼうよ! 当たっても二倍にもならない本命なんぞに誰が賭けるかい!」 「親方、あんま大穴狙いばっかしてると続きませんぜ、たまには手堅く行きましょうよ」 「バッキャロー、男ならいつだって狙うのは一発逆転よ!!」 厨房の奥からの声が自身の置かれた立場を示し、シュトロハイムを打ちのめす。 今の彼は、競馬で言うならハルウララ。まず確実に負けが見込まれている存在。 つまりそれだけこの世界では、メイジの力とは絶対といえるものなのだろう。 「でも親方、一発逆転一攫千金って言う割りにゃあ、今回は慎重じゃないですけー? どうです、もう一ゲーム?」 「あ、じゃあ俺も、グラモンの餓鬼の勝利にもう50エキューでどうっすか、親方」 「ぬうぅぅ、ならばよかろう。賭けよう、俺の安月給を!!」 「Good!!」 食事を終えるその間に、更に交わされる会話。 はっきりと表されるギーシュとシュトロハイムの格の違い。 シュトロハイムもこうまで言われては、不安を抱かずにはいられない。 ――相手が単独行動中ならT34中戦車くらいには負ける気はしないのだが、それでもこのボディーでは、メイジには勝てんのか? 自信は、ある。だが、勝負に絶対はない。 しかも今回は相手の力が、全く持って予想できない。 それがどれだけ危険なことであるかは、メキシコの『柱の男』実験でいやというほど体験している。 揺るぐ、心。ないと決めかかっていた敗北の可能性が沸きあがり、覚悟していたはずの死の恐怖さえ漂ってくる。 「あの……本当にごめんなさい」 シュトロハイムの変容に気付いたシエスタが、その原因が全て自分にあるかのように謝罪の言葉を口にする。 「非がないことで軽々しく頭を下げる必要などない!」 不安と恐怖は苛立ちとなり、内から外へと向けられる。 シエスタを咎め答える声にさえ、必要以上のとげとげしさが生じてしまう。 「……ご馳走になった。それでは、いく。第一演習場はどこだ?」 「こちらです、案内します」 すっかり萎縮したシエスタが、厨房の戸を開けた。 「あー、いたいたシュトロハイム!」 シエスタの案内で演習場に向うシュトロハイムに声をかけたのは、赤褐髪の少女―― キュルケ・フォン・ツェルプストーだった。 「もー、どこいってたのよ、探したのよ」 言いつつ懐から取り出す手紙。 「ギーシュからよ。決闘前に渡してくれって」 「決闘前に?」 受け取り、広げるシュトロハイム――文面を覗き込むにつれ、手紙を持つ両手が震えだす。 「あ、あの、シュトロハイムさん。なにが書いてあるんですか」 「…………さあ、な」 「え?」 「あの貴族のボンボンめ! この世界に来たばかりの俺が、こっちの文字を読めるわけなかろうが!」 そういえば、聞けて喋れても読むことは出来ないんでした。 手紙を渡され、代わりに読み上げるシエスタ。 「ええと……『やあ、シュトロハイム君。君はなかなかに気が効くねえ』?」 「は?」 「いえ、手紙にそう書いてあって……『香水の壜に対する対応、なかなか気に入ったよ。あの気の効かないメイドなどとは大違いだ。 だけど少々詰めが甘い、危うくモンモランシーを怒らせてしまうところだったじゃないか。 まあ、それはいいとしよう。僕の機転で誤魔化すことが出来たのだからね』……」 「続けろ」 内容に戸惑うシエスタに、シュトロハイムは静かに告げる。 先ほどまでとは別種の感情が、彼の中に湧き上がりつつあった。 「『ところで先ほどした決闘の約束だが、ああ言ってしまった以上僕も後には引けない。とはいえ、無力な君を痛めつけるのも気が引ける。 よってだ、手加減して痛めつけるふりをしてあげるから、適当なところで降参してくれたまえ。 なに、君が怪我をしないようには出来る限り注意してあげよう。 何せ君は使い魔だ、何かあったらミス・ヴァリエールにも申し訳がないからね』――以上、です」 読みきったシエスタは、ほっと息を吐いて顔を上げる。横では、キュルケが声を殺して笑っている。 シュトロハイムは、無言で手紙をシエスタから受け取った。 「ミスタ・グラモンも、この決闘で命のやり取りをする気はなさそうですね」 安堵の気持ちを込めた口調で、シエスタが言う。 「で、どうするの? 手紙を預かったものとしてはあなたの返事を聞いておきたいんだけど」 キュルケがきく。こちらの態度は完全に、傍観者として楽しむ気満々。 「断る」 何のためらいもなく、シュトロハイムは返答する。シエスタが目を丸くし、キュルケが面白くなってきたと笑う。 「このシュトロハイムは手加減なし、真っ向からの決闘を望む――ギーシュ・ド・グラモンにはそう伝えろ」 「そうそう、そうこなくっちゃ」 返された手紙を受け取って、頷くキュルケ。 「でも気をつけなさいよ。ギーシュって見てるだけなら単なる愉快な奴だけど、あれでなかなか強いのよ。 模擬戦の授業で私に勝ったことがあるの同学年男子中では、あいつだけだもの」 無責任な口調でそう言うと、一足先に演習場へ消えていく。 「どうして、ですか?」 キュルケが去って残された二人。理解不能なものを見る目で、シエスタはシュトロハイムにきいた。 「どうして、とはどういうことか」 「だって、どうして断っちゃうんですか? せっかく『命はとらない』って言ってくれているのに」 「言って『くれている』、からだ。 俺が『怪我をしないように注意してあげよう』だと? 何故怪我をするかしないかの決定を、やつが一方的な意思で下せる! それを許すということは、やつへの精神的な服属だ。『命』と引き換えに『誇り』を売るということだ。 俺には絶対に認められない決定だ」 「誇り、ですか? それが、そんなに大事なんですか? その……命よりも」 「ああ、そうだ」 「じゃあシュトロハイムさんは、誇りを守るためならば死んでもかまわないのですか?」 「ああ、そうだ」 シエスタの問いに、シュトロハイムは頷く。 「優秀なるゲルマン民族の一員としての誇り。精強なるドイツ軍人の一人としての誇り。 それがあるから、俺がいる。誇りを失ったなら、俺は俺でなくなる。俺にとって、それは死よりも恐ろしいことだ。 だから俺は、この俺の誇りを侮辱しようとするような奴には、絶対に屈せん!!」 そう言い切るシュトロハイムの顔にあるのは、ギーシュ・ド・グラモンに対する怒り。 もちろんメイジの力への、恐れが消えたわけではない。だが怒りは、その源である誇りは、恐れを容易に乗り越える。 勝てると思っているわけではない、死なないと思っているわけではない、だがたとえ負けてもたとえ死んでも、シュトロハイムには絶対に譲ることの出来ないものがある。 そして彼の考えを、今のシエスタは理解出来ない。 命を賭けても譲れないというシュトロハイムの言うものが、何であるのかが分からない。 それは世界の差、時代の差、生まれ育った立場の差。 貴族として育てられたルイズならば、シュトロハイムの言う『誇り』は理解できるものだ。 平和な時代に生きていた島国の学生ならば、誇りより命を重んずるシエスタに共感できたはずだ。 だけれど今の、シエスタとシュトロハイムには、その価値観は納得できない。 「やっぱり、私には分かりません。私は、ちがうと思います。誇りのために、死んでもかまわないなんて」 悩ましげにそう言ったシエスタは、そのままくるりとシュトロハイムに背を変える。 「まっすぐ行って、大樹に突き当たったところを左に曲がってください。演習場は、その先です」 それだけ言うと、義務は果たしたとばかりに厨房のほうへと引き返す。 フウと息を吐き肩を竦め、シエスタに言われた道に従って、シュトロハイムは演習場へ。 そこにはもう、噂を聞いて駆けつけた見物人、ギャラリーで、人の輪が形成されていた。
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4376.html
344 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 23 47 ID exjjRXTL 女王アンリエッタの執務室で才人とアンリエッタは話しをしている。 「・・・ルイズが一礼してわたくしに平手打ちを・・・・」 アンリエッタは先日、ルイズの部屋で起きた事を才人に話している。 才人は恐縮しながら聞いていた。 「サイトさんが謝る必要はないのですよ?悪いのはルイズの気持ちを考えない わたくしなのですから」 アンリエッタはもう誤解されないように才人から手を引く覚悟を話し、ルイズに手紙を届けるように才人に頼んだ。 「そうだわ!サイトさん、珍しいお茶とお菓子が手に入りましたの」 話しが終わった後、アンリエッタは才人を寝室のバルコニーに通して二人はお茶とお菓子を楽しんだ。 「ちょっとここで待ってて下さいね」 女王らしくない言葉づかいになってアンリエッタは席を外した。 才人が待っていると、すぐにアンリエッタは戻ってきた。 「ひめ様・・・・その格好は?」 アンリエッタは平民が着るようなシャツとスカート、髪はポニーテールにして纏められていた。 345 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 24 32 ID exjjRXTL 「わたくし・・・いえ、わたしはひめ様じゃないですよ?アンといいます」 アンリエッタの戦略は女王アンリエッタは才人に手を出さないが、お城に住むアンという少女は才人に恋をする、という二重戦略だった。 「バレバレじゃないですかひめ様」 あきれる才人を気にせずにアンリエッタは才人の隣りに座る。 「気にしないで下さい、アンリエッタ女王としてのわたしは約束を守るといっているのです。今はお城に住むアンと言う名の女です」 にこやかに才人に詰め寄って腕を絡ませるアンリエッタに才人はたじろぐ。 「アンとよんで下さいまし・・・いえ、下さい」 言葉づかいまで変えて ふふふっと短く笑うアンリエッタは魅力的だった。 「アン」 「はい?」 「ルイズに知れたら二人ともひどい目にあいますよ」 才人は舞踏会の件でルイズに頭が上がらなくなっていた。 「では知られないようにしましょう」 才人の頬にアンリエッタの唇が触れた。 「ひ、姫さ・・・」 「アンです」 アンリエッタは拗ねた顔で訂正し、また唇で才人をつつく。 「アン、俺は嘘つくの下手だからルイズに知られてしまうと思うんです」 346 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 25 20 ID exjjRXTL アンリエッタは少し考えて黙り、才人の顔を見てから ふふふっと笑う。才人にはいたずらっ子がとびきりのいたずらを考えた顔に見えた。 「わたしに考えがあります」 才人の唇はアンリエッタの唇によってふさがれた。 「アン、考えって?」 才人の質問はアンリエッタの唇が耳たぶまできた時に答えがきた。 「サイトさんには秘密です」 アンリエッタはポケットから白く長い手袋を出して両手につけて、才人にキスした。 才人はわけがわからず固まっているとアンリエッタの手袋はいつの間にか才人のズボンのホックを外していた。 「そのまま座っていてくださいね」 手袋をつけたアンリエッタは才人のソコを取り出し、触り始めた。 アンリエッタの白い手袋が才人のソコを撫で、握り、しごき、焦らすように止まる。 才人が んっと声を漏らすとアンリエッタの顔が才人のソコに近づき、ズボンと下着をすべて脱がされ、下半身だけ裸にされた。 347 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 26 13 ID exjjRXTL アンリエッタの顔がさらに近づき、アンリエッタの顔が才人のソコにうずまる。 才人は自分のソコにあたる体温と息と感触に驚く、くすぐったいような感覚、何かがソコに塗りたくられるような感覚、アンリエッタが才人のソコをくわえていた。 アンリエッタの愛撫は容赦がなかった。例えるなら知識だけは豊富で経験のない少女特有の荒々しい愛撫、相手の快感より自分の欲望を満たすための強い愛撫だった。 才人が痛みを我慢する顔をして声を出す。 才人の声でアンリエッタの力が弱まり、心地よい感覚がやがて快感に変化する。 アンリエッタの口は深いストロークを繰り返し、そのたびにポニーテールが前後にゆらゆらと揺れる。才人は少し声をだす。 才人の声に嬉しくなったアンリエッタは先端部分をグラインドする。ポニーテールは左右にゆらゆらする。才人の息が荒くなり、ポニーテールは速さを増す。ゆらゆら、ゆらゆら。 アンリエッタはちらりと才人の呼吸を読んで白い手袋をつけた手でしごきながら唇をすぼめて先端部分のみをピストンする。 才人が少し大きな吐息を出してアンリエッタの口の中に熱いものが断続的に爆発を始める。 348 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 27 01 ID exjjRXTL 爆発の最中にアンリエッタはさらに才人を追い詰める、才人はたまらず体をくの字にして逃げる。才人のソコがアンリエッタから離れて上下に律動させ爆発しながらアンリエッタの頬を汚す。 アンリエッタもソコを逃がすまいと深く飲み込みなおし、腕を才人の腰にまわして二度とソコが口から外れないように固定する。 才人は最後まで逃げられなかった。才人のソコはアンリエッタの口によって根元まで飲み込まれ、逃げようとすると腰にまわった腕がぎゅっと ちから込めていて。逃げれば逃げる程才人のソコは深く飲み込まれたからである。 ポニーテールが才人の律動にあわせてゆらゆら揺れる。やがてゆらゆらがおさまりアンリエッタの顔がソコから離れる。 アンリエッタは才人の精を全て飲み込んでいた。 頬についた精を手袋をしたままの手ですくいとり口へ運ぶ。才人の視線を感じて んふふふっと頬を朱に染めて笑う。 才人は精を飲まれて感動しながら恥ずかしがっていた。目の前のアンリエッタがとてもいとおしく見えた。 「もうしばらく座っていてくださいね」 アンリエッタはシャツをはだけて、スカート、下着を脱いで才人にまたがる。 349 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 28 52 ID exjjRXTL アンリエッタは熱い湯船につかるようにゆっくり腰を落としいく。 才人の正面にアンリエッタの胸が降りてくる。降りてくる胸がとまり、才人のソコがアンリエッタのソコに飲み込まれたのを告げるようにアンリエッタの口から熱い吐息が漏れる。 才人の顔はアンリエッタの胸の双球にうずまり、才人のソコはアンリエッタの中に吸い込まれていた。 アンリエッタが熱い吐息を才人の耳にかけながら動く、アンリエッタの胸も形を自在に変えながら才人をはさみ込む、アンリエッタのソコが潤みを増しながら才人のソコをしごきあげる。 才人にとって天国であった。 才人の唇が胸の先端を吸い上げる。アンリエッタの吐息が大きくなり、押し付けられる。 才人が腰使う。アンリエッタの腰も上下運動から前後運動にかわる。 才人が首を伸ばしてアンリエッタの胸元から首筋を舐めあげる。アンリエッタの吐息が大きくなり、アンリエッタの腰がグラインドを始め、搾る強さが増す。 「アン」 「なんですか」 「そろそろ離れないと・・・・」 「かまいません、我慢せずに出してください」 「でも・・・」 言葉はアンリエッタの胸によってふさがれた。 350 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 30 05 ID exjjRXTL アンリエッタは才人の顔を胸にはさみ込み、搾りを強くして前後運動を始めた。 才人の吐息が胸に伝わり、才人の陥落までもう一息という呼吸が伝わってくる。 アンリエッタの前後運動は止まらない。 前後運動から逃げようにも椅子に座った状態では逃げられなかった。 アンリエッタが前後運動の最中にふるふる震えた時に才人はアンリエッタの胸の匂いをすいながらソコを爆発させた。 アンリエッタのソコも律動を始めていた。 アンリエッタの唇が才人の唇に触れ、才人は解放された。 「学院に帰る時はお風呂に入ってからにして下さいね」 才人とアンリエッタはキスしながらしばらく語りあったがアンリエッタの作戦は才人には秘密とのことだった。 甘いひと時がおわり、アンリエッタはアンからアンリエッタ女王に戻り、才人に手紙を渡した。 「仲直りの手紙です。必ず届けて下さい」 才人もシュバリエ・サイトの顔をして受け取り、城を出た。 才人が学院に到着する少し前、ルイズとシエスタが部屋にいる所に1羽のフクロウが舞い降りた。 351 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 31 16 ID exjjRXTL 「わわわっっミス・ヴァリエール!窓にフクロウがっ!!」 ルイズはフクロウの足についた手紙と小さな袋を受け取る。 『宣戦布告』という始まりの言葉が書いてある手紙だった。 手紙の最後には、『サイトさんがどちらかを選ぶまでサイトさんには秘密にしましょう』と締めくくられていた。 小さな袋の中には白い手袋が入っていた。 「手袋・・・ですか?」 シエスタは意味がわからないという感じで手袋を見つめる。 「サイトの匂いが付いてる」 ルイズは気づいた。 「そういえば指のあたりがシワになってて汚れてますね」 ルイズもシエスタも才人の身に何がおきたか理解した。 「ただいま」 才人が部屋に帰って来ると二人はあわててポケットに何かしまい込んでいた。 才人は気にせずに手紙を渡す。 「姫さまが仲直りしようってさ」 ルイズもシエスタも手紙を読む。 『女王アンリエッタとして・・・』 内容は謝罪だったがルイズもシエスタもアンリエッタの戦略に気がついた。 「ありがとう、サイト。わざわざご苦労様」 「ミス・ヴァリエール、こちらも手紙をだしましょう」 才人を珍しく労うルイズと笑顔のシエスタをみて才人も笑顔になる。 352 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 32 19 ID exjjRXTL 「手紙なら俺が届けるよ」 才人の言葉にルイズとシエスタはさらに笑顔になる。 「当たり前じゃないの、あんたが届けないと意味がないのよ」 「そうですよ、サイトさんじゃなきゃダメなんですっ」 言葉に含まれた毒に才人は気づかない。 二人は顔を見合わせて目で語り合う。 (協力します。 ミス・ヴァリエール、あなたが三番になるといろいろやっかいなので) (なんであんたが二番なのよ!!あたしの使い魔なんだから一番二番とか関係ないでしょ!!) 三人はそれぞれ別の理由で笑顔だった。 「ミス・ヴァリエール、夕食が終わったら作戦開始です」 「そうね、それまでに準備するわよ」 才人は二人の会話がわからなかったが、二人は才人には秘密といってごまかした。 夕食が終わり、才人は少したってから部屋に入るように言われて、それに従う。 「サイトさん、入ってください」 才人が扉を開けると、ルイズは制服姿、シエスタはセーラー服姿だった。二人ともベッドに座っている 「い、い、い、い、犬、脱いでそこに座りなさい」 「なんでだよ!」 「今は何も聞かないでミス・ヴァリエールの言うとおりにしてください!!」 353 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 33 27 ID exjjRXTL セーラー服姿のシエスタがルイズを援護する。 才人は文句をいいながらも下着一枚になり、二人の前に正座する。 (ミス・ヴァリエール、こういうことは思い切りが大事です) (わかってるわよ!やればいいんでしょ!やれば!) ルイズの黒いニーソックスが一本だけが才人の肩にかかり、ゆっくりと胸、臍、まで降りてくる。 「な、な、何を・・・ルイズ」 才人は突然の攻撃に立ち上がろうとする。 「動いちゃダメです。サイトさん」 シエスタの目が怖い。 座りなおした才人のソコに黒いニーソックスが触れる。 才人がぴくんと動く。ルイズも真っ赤になって才人の動きにたじろぐ。 黒いニーソックスはソコをほじくるようにつつく。 才人が真っ赤になって耐える。 「ミス・ヴァリエール、もっとやさしく」黒いニーソックスは大きくなり始めたソコを土踏まずで撫でる。 ルイズの息が荒い。オトコノコの証はルイズに挨拶するように脈を打ち始める。 黒いニーソックスは挨拶にこたえるように二本になり、才人のソコをやわやわ包む。「んうぉっ」 才人が声をあげるとルイズは真っ赤になってはさみこんだソコを左右にゆらす。やわやわ、やわやわ。 354 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 34 29 ID exjjRXTL 「サイトさん、下着も脱いでください」 シエスタも真っ赤だった。 才人が下着を脱ぐ。ゴクリと二人から音が聞こえた。 再び黒いニーソックスが才人に襲いかかる。今度は直にやわやわと。 才人は強い快感に声を出し、からだを引っ込ませる。黒いニーソックスはソコを逃がさない。 右の黒いニーソックスは触手のようにソコを指で上からつかみ、左の黒いニーソックスは横からソコを支える。 引っ張り出されて上から握られた才人のソコは指でよってうにうに揉まれて先端を磨き上げる。 才人はソコを鎮めようとするがルイズの下着の奥を見てしまい、余計に大きくなる。ルイズの下着は湿っていた。 ルイズの下着に気をとられてるとシエスタの裸足が才人のソコを横から指で握る。 下着をつけてないシエスタも湿っていた。 シエスタの茂みとスリットを見ながら興奮し、ルイズの黒いニーソックスが上からうにうにされて才人はたまらず声を出す。 「サイトさんの声、かわいい」 シエスタが嬉しそうに足の指で強く握る。 ルイズも息を荒くして動きを加速させる。 「ルイズ、もう止めてくれ!」 「ミス・ヴァリエール、指ではさんで強くしごいて下さい」 355 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 35 34 ID exjjRXTL ルイズは才人の言葉で一瞬とまったがシエスタの声に従った。 ルイズの黒いニーソックスが才人のソコを強くはさみ込み、しごく、しごく。 ルイズの下着が露わになり、才人に湿った部分を見せつけながら、しごく、しごく。 才人はルイズのソコを凝視しながらしごかれて、爆発した。才人の白い精がルイズの黒いニーソックスに飛びかかる。黒いニーソックスは白い精を受け止めるべくソコを押さえに動く。 才人の白い精は勢いを増し、黒いニーソックスを超えてルイズの太ももまで届く。 ルイズが太ももの精を熱いと感じて足を引っ込めた時、才人はルイズの腰に飛び込んで抱きついた。 押し倒されたルイズは才人をはねのけようとするが力が入らない。 才人はルイズの下着のスリットを舐めまわしていた。 才人の舌がルイズのスリットをほじくる。 ルイズは手を才人の頭にのせてどけようとするがルイズの腰は快感にぴょこぴょこ勝手にくねり始めて力が出ない。 才人は下着をずらしてスリットを舌でなぞる。 ルイズの口から艶のある吐息が始めて漏れる。 シエスタがルイズの服を脱がせて裸にすると、ルイズのスリットは潤みを増して開き始めた。 356 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 36 40 ID exjjRXTL 才人はルイズのスリットに舌を挿入してルイズの胸のポッチをつまみあげる。 ルイズが腰を浮かして才人にこたえる。 サイトは浮いた腰を腕で固定し、スリットの穴の奥を何度もほじくる。 ルイズの足が開き、吐息が大きくなる。 才人は舌を硬くさせて小突起の付け根を形をなぞるように舐める。 ルイズのからだに変化が起きた。白い肌が赤く染まってゆき、スリット全体の体温があがる。 黒いニーソックスはルイズの腰を才人の口の前で固定する。 才人の舌はスリットをとらえたまま速度をゆるめない。 「だめぇーー」 ルイズの声に才人は舌をさらにめり込ませていじめる。 スリットが熱くなり、ルイズの声が一瞬止んだ後、スリットから熱いおしっこを出していた。 シーツを汚すまいと才人は舌で吸い続ける。おしっこが終わるとスリットから粘液が出てきたので舌を差し込み吸う。 「やぁん」 すごいかわいい声がルイズから漏れる。 ルイズのからだは真っ赤だった。 「ミス・ヴァリエールってわかりやすいですねぇ」 ルイズのからだは赤く熱くなり、絶頂が引いた後もルイズが気をやったことをまわりに知らせていた。 357 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 37 47 ID exjjRXTL ルイズが才人にまたがり、腰を落とす。 ルイズが才人の上にちょこんと座った状態になり、才人の動きが止まる。 シエスタが才人の顔をまたぎ、クレバスを才人の口の上におき、小突起を才人の鼻にくっつける。 「わたしも・・・」 才人がその言葉の意味を理解したとき、すべてが遅すぎた。 クレバスからおしっこが噴き出して才人の口の中に侵入し、小突起と茂みは鼻の前でメスの匂いをかがせていた。 シエスタのスカートの中はメスの匂いでいっぱいで、おしっこは香ばしくて興奮して、ソコはルイズが根元まで飲み込んでいて、とにかく才人は腰をふり続けた。 メスの匂いをかぎながら、ソコはルイズと繋がり、快感が高まってゆく。 シエスタの匂いが強くなり、ルイズが押しつける動きを繰り返し始めた時、才人はルイズの中に精を注いだ。 ルイズも精が注がれたのを感じて動く、乗馬の得意なルイズの独特のリズムと動きは才人のソコを搾り、こすりあげる。 メスの匂いを鼻と口に詰め込んだ才人の腰がゆっくりとなり、やがてルイズをくっつけたままベッドに沈む。ルイズはまだ離れない。シエスタの腰が才人の顔の上で前後に動く。 358 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 19 38 47 ID exjjRXTL ルイズのソコの中で精を注いでおとなしくなった才人のソコがまた膨らみ、暴れ出す。 ルイズはその感覚が気に入ったらしく、暴れ馬を乗りこなす様に腰を激しく使い、またすぐに果てた。 果てたルイズが才人から退くと顔にくっついたシエスタの腰が才人のソコを飲み込もうと降りてきた。 スカートに隠れて繋がりは見えないが才人のソコは熱い何かに包まれた。 シエスタがグラインドを始める。たまに前後運動を混ぜたグラインドは才人を追い詰める。 たまらずペースを落としもらおうと手で押さえようとするとルイズの手が才人の手を握って離さない。 シエスタのグラインドが才人のソコを丹念に擦り回す。搾りはきつくなってゆき、才人が あっと声をあげる。 才人の限界を呼吸から読み、シエスタの腰は深いストロークを繰り返す。 才人はルイズの手をぎゅっと握り、シエスタの深いストロークにベッドが深く沈んだ時に精を放った。 精を搾りながらシエスタの腰は奥でグラインドをさせて才人のソコからすべてを奪う。ルイズの舌が才人の喉から顎を舐めあげて才人に労をねぎらう。 才人の腰は抜けていた。 369 名前:乙女達の戦争 ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 21 52 24 ID exjjRXTL 才人の両腕に二人の頭が降りてきて川の字になり、才人の両方の頬をルイズとシエスタの唇がつついた。 やがて両腕から寝息が聞こえると才人もすやすやと眠り始めた。 翌日、太陽が黄色いとぼやく才人はアンリエッタに手紙を届ける為に出発する。 「この手紙は仲直りの手紙だかんねッ ちゃんと届けるのよ!」 「ガンバッテくださいね」 ルイズはまるで決闘状を渡す顔で手紙を渡し、シエスタはガンバッテの部分に毒を含ませるが才人は気づいていない。 「それじゃいってくる」 お使いをたのまれた純真な子のような顔をして才人は馬の手綱を操り足でとトンと腹を叩く。 馬は才人をのせて走り出しす。 才人の姿が小さくなる頃、シエスタは空をみて口を開く、 「いそがしくなりそうですね」 ルイズも空をみてかえす。 「のぞむところよ」 才人は馬上で手紙の入った懐を手で確認し、空を見上げて 仲直りができてよかったなぁと嬉しそうにつぶやく。 才人のゆく遥か空に黒いニーソックスと本当の手紙を運んだフクロウがいそいでお城に飛んでゆく。 才人の預かり知らぬ所で、才人を舞台にした乙女達の戦争は火蓋を切ろうとしていた。 おしまい 370 名前:あとがき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/11/28(火) 21 53 33 ID exjjRXTL 乙女達の戦争 この物語はこれでおしまい。 次の物語は、またいづれ。 それではっ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4803.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ 勝負は数秒で決した。セラスは持ち前の反射神経や運動能力を駆使し、一撃も喰らうことなく全てのワルキューレを破壊した。 一体は振り払った右の脚で上半身を砕き、一体は振り上げた左の手で頭から真っ二つに切り裂き、一体は勢いづけた左の脚で 蹴り飛ばし、一体は右の手で頭を握り潰した。あっと言う間の出来事に、ギーシュはゴーレムに命令する暇すら無い。 いまやセラスとルイズがニコニコ顔で、ギーシュが顔面蒼白と言う状況で向き合っている。 「もう騎士は出さないんですね、と言う事はこれで終わりですか?」 「え? あ、まぁ・・・これ以上は出せないから、僕の負けだね」 そう言って杖を落とし、両手を上げて降参を示した。平民がニコリと笑い、尖った二本の歯がギーシュの眼に写る。 「君・・・まさか吸kむぐぅ!?」 「そうですよ、ミスタ・グラモン。今の私は何も恐ろしくありません、だから黙っててくれないと・・・ね♪」 「ムグ、ムグ!」 口元を右手で塞がれたまま、ギーシュは何度も首を縦に振った。セラスは手を離すと振り返り、主人に敬礼した。 「任務成功、ギーシュを倒しました」 「よくやったわ、騎士十字章ものよ。あとで・・・しょ、処女の血を奢ってあげるわ」 「気持ちだけ受け取らせていただきます」 「じゃあ帰りましょう、部屋で着替えるわ。ギーシュ、後でモンモランシーとケティって子に謝っときなさいよ!」 振り向きざまに注意して、ルイズは使い魔と共に広場を去って行った。モンモランシーが駆け寄り、ギーシュに声をかける。 「ねぇギーシュ、あの女って何者なの!? 貴方のゴーレムを素手で壊すなんて、マトモじゃないわよ!!」 「悪いけど、愛しのモンモランシーでもそれは言えないよ。早い話が、禁則事項ってやつさ」 「はぁ?」 金髪バカップルを眺めながら、キュルケはセラスの正体を考えていた。タバサは本から目を離し、顎に手を当てている。 「まるで化物ね、さっきの女。何者なのか、後でルイズに聞いてみようかしら・・・タバサ、どう思う?」 「奈落の底のような目・・・危険人物」 そう言うと、タバサはキュルケを連れて学園へと戻って行った。 『遠見の鏡』で一部始終を見送ると、オスマンとコルベールは顔を見合わせた。 「オールド・オスマン、あの少女が勝ちましたね・・・」 「そりゃ吸血鬼じゃからな、『ドット』メイジでは相手にならんじゃろ。先住魔法すら使っとらんし」 「それに、あの動きを見ましたか。ゴーレムを素手で殴り倒したり、素足で蹴り飛ばしたり。少なくとも、我々の知る吸血鬼は あんな事は出来ません。新種の吸血鬼だと言う事が分かった訳ですね、ガンダールヴかどうかは分かりませんでしたが」 「で、君の結論は?」 「彼女はガンダールヴで、ほぼ間違いないかと」 「そうか・・・・・・」 腕を組み、座椅子に背を預ける。木が軋む音が、部屋に響く。 「オールド・オスマン、すぐにでも王室に報告して指示を仰いでください!」 「だが断る!」 「どうしてですか、これは世紀の大発見なんですよ!?」 「分からんかね、コルベール君」 重々しく、オスマンは椅子から立ち上がる。白く長い髭が、大きく揺れる。 「もし彼女がガンダールヴだとして、王室に知られたらどうなると思う。宮廷で暇を持て余した連中がすぐにでも 戦を引き起こし、彼女を前線に立たせるじゃろ。だからじゃ、この件は私が預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」 「・・・はい、かしこまりました」 コルベールは頭を下げ、オスマンは窓の外を眺めた。広大な草原が、どこまでも広がっている。 「やれやれ、どうやら忙しくなりそうじゃなぁ・・・・・・」 朝の眩しい光を受け、ゆっくりと目蓋を開ける。そこには、石で造られた天井が見えた。 「あれ・・・?」 顔だけを動かし、周りを見回す。ベットが並んでいる所から、医務室らしき場所だと分かった。 そこで、左手の違和感に気付く。手袋を剥がして見ると、奇妙な文字が浮かび上がっている。 右手で擦ってみたが、消すことが出来ない。 「・・・これは?」 「あ、お目覚めになりましたか!」 窓際に寄り添って広場の喧騒を聞いていたシエスタが、ベット脇に歩み寄る。 「・・・誰?」 「私はシエスタって言います。このトリステイン魔法学園で貴族の方々をお世話するために、ここで御奉仕してるんですよ」 「トリステイン?」 「はい、貴族の貴族による貴族のための学校です。ご存知ですか?」 首を横に振った。相手が黙っているためか、シエスタは説明を続ける。 「召喚されたのは二年の生徒で、ミス・ヴァルエールと言う方なんです。後でお会いなさってください」 「ミス・ヴァリエール?」 「簡単に言えば、ご主人様の事ですよ」 「ご、ご主人様!?」 ベットから起き出ようとして、目眩を起こしてしまう。床に倒れそうになったが、手を着いて何とか体勢を崩さずに済んだ。 シエスタが上半身を支え、ベットに座らせる。 「まだ動いては駄目です、貧血を起こされていますから。ミス・ヴァリエールを呼んで来ますので、待っててください」 そう言ってドアへ向かおうとしたが、途中で足を止めて振り返った。上目遣いで両手を摩り、何か言いたげな顔をしている。 「・・・何?」 「あの・・・失礼でなければ、お名前を聞いてもよろしいですか?」 「名前・・・名前は・・・・・・」 「ありがとうセラス。貴女が来てくれなかったら、私は今ごろ医務室のベットで絶対安静だったわ」 「今回は間に合ったから良かったですけど、もう決闘なんかしないでくださいね」 「分かってる、今度からはセラスに戦ってもらうことにするから♪」 医務室へと続く廊下を歩きながら、二人は話し続けていた。水場で顔を洗い、部屋で着替えてから、ずっとルイズは喋っている。 助けてくれたのが、よほど嬉しかったらしい。いまやルイズはセラスの事を、伝説のイーヴァルディの勇者と思っているのだ。 光り輝くルイズの瞳にセラスがタジタジしている内に、医務室が見えてきた。扉を開けようとして、先にシエスタが出て来た。 「セラスさん! 大丈夫でしたか怪我はありませんか殺されませんでしたか殺してませんか!!」 「ちょ、ちょっとシエスタさん落ち着いて。大丈夫ですよ、怪我とかは無いですから安心して」 シエスタの言葉の弾幕に、又もタジタジなセラス。この吸血鬼、押し出しに弱いと見た。 「そうでしたか、ホッと一安心です」 「ちょっとアンタ、医務室に入れないんだけど」 ルイズの言葉に、シエスタは二人の進路を邪魔している事に気付いた。後ろに三歩ほど下がり、深々と頭を下げる。 「すいません、失礼しました。眠っていた方は、すでに目を覚まされております」 「起きたんですか! 良かった、キスしなきゃ目覚めないのかと思ってましたよ・・・」 「シンデレラじゃあるまいし・・・ほら、さっさと入りなさい」 セラスの背を押しながら、ルイズは部屋に入る。後ろから、シエスタが影のように着いて来た。ベットに座っている人物が三人に 目を向け、体が硬直したかのように固まった。 「あの、どうかされました?」 「・・・・・・・・・」 セラスが声をかけてみたが、相手は黙って停止したままだ。そのまま数秒ほどすると、ベットの横の台に手を伸ばした。置かれて いる眼鏡を掛け、再度セラスに目を向ける。すると、全身がガタガタと震えだした。 「あ」 「はい?」 「あ―――――――――――――!?」 「くそみそ?」 ルイズがツッコミを入れるが、眼鏡は聞いていない。と言うか、聞こえていない。プルプルと震えながら、ピンと伸ばした 右手の人差し指をセラスに向けている。そして、大声で叫んだ。 「セ、セ、セラス・・・セラス・ヴィクトリア!」 「私のこと知ってるんですか!? もしかして警察の人? それともヘルシング機関の方とか?」 「ほざくな、ヘルシングのオモチャめ!! 王立国教騎士団の犬に成り下がった貴女に、吸血鬼としての『五月蝿い!』あが!?」 部屋の隅に飾られていた黒い犬の置物が、時速160kmで眼鏡の頭にHITした。投げつけた張本人のルイズは、得意気な表情で 右肩を回している。セラスとシエスタは、突然の事に驚いた。 「全く、ここは医務室なんだから静かにしなさいよ。大声ださなくても聞こえるんだから、落ち着いて話しなさい」 「その通りじゃ、話し合う時はお互い穏やかな心でなくてはならん!」 「良かった、目を覚まされたようですね」 そう言って部屋に入ってきたのは、学園長のオスマンと教師コルベールだった。 「嫌な奴が来たわ!」 「本当だ、嫌な奴が来ましたね」 「嫌な奴が来ちゃったわ」 貴族・使い魔・眼鏡の声が、見事に並んだ。因みに三人は本棚は作らない、シエスタは三人の暴言に驚いている。 「なんじゃ、いきなり」 「三人とも、悪口は本人の前で言ってはなりませんぞ。こう言う時は、影でコッソリ言うものです」 「・・・お主がワシをどう思うとるのか、よく分かった」 シエスタが椅子を二つ持って来て、ベットの脇に置いた。ルイズ・オスマン・コルベールが座り、セラスとシエスタは 横に立つ。ベットと壁の隙間から出て来た眼鏡に、オスマンが話しかけた。 「あ~っと、まずは自己紹介しなくてはならんな。私はこの学園の長をしておる、オスマンと言う者じゃ」 「教師のコルベールです、よろしく。こちらの少女は君の主人であるミス・ヴァリエール、隣は使い魔のセラス君だ」 紹介をされてが、眼鏡はピクリともしない。耳には入っているが、頭には入っていないようだ。ただじっと、セラスを 見ている。その視線に気付いたルイズが尋ねた。 「そう言えば貴女、セラスのこと知ってるみたいね。どういう関係なのか、教えなさいよ」 「あ、そうです! それを聞きたかったんですよ!! なんで私を知ってるのか教えてくれませんか」 「そ、それは・・・あの、えっと・・・・・・」 二人の質問と三人の視線に、少女は自分を抱き締めるような格好で震えだした。そこへ、コルベールが質問を重ねる。 「その前に聞きたいのですが・・・名前は何とおっしゃいますか、お嬢さん」 「私は、猟師・・・リップバーン、ウィンクル・・・・・・」 その後、リップバーンは全てを語った。 セラスが属する組織と、敵対する組織に属していた事 海軍の空母を乗っ取った後、大型偵察機に乗ったアーカードに攻撃された事 部下を皆殺しにされ、自身も心臓にマスケット銃を突き刺され喰われた事 そして、気付いたら医務室のベットで眠っていた事 なぜか眼鏡や時計は元に戻っていて、貫かれた心臓も治っていた事 そしてオスマンとコルベールが説明し、時にルイズやセラスが補足した。 地球などとは違う別世界である事 ハルケギニア大陸のトリステイン国である事 魔法が存在する世界で、学生の召喚によって 呼び出された事 一人の少女に使い魔として生きていかなくてはならない事 セラスはすでに使い魔として生活している事 「つまり、あんたも私の下僕だって事! 別の世界じゃ敵同士だったかもしれないけど、今日からセラスと一緒に雑用しなさいよ」 「い、一緒って・・・そ、そんな事いきなり言われても・・・」 ベットの上で体育座りのような格好をして、リップは更に震え続けている。原因は、目の前でセラスに上から目線されてるからだ。 どうやら空母での戦いが元で、見下ろされる事がトラウマになっているらしい。因みにセラスは相手をビビらせる気など無いし、 睨み殺すような眼もしていない。ただ単に、リップを見ているだけだ。 「突然の事に混乱するのも、無理は無いわい。まぁ、何日か生活すれば慣れるじゃろうて」 「今日からは、ミス・ヴァリエールの部屋で寝起きして下さい。何か有りましたら、彼女に聞くように」 「ほら、分かったらさっさと靴を履く! あと時計と、マスケット銃だっけそれ? それ持って着いて来なさい」 学園長や教師の助言を尻目に、ルイズはリップの腕を掴んで急がせる。それを眺めていると、シエスタが話しかけてきた。 「大丈夫ですかセラスさん、初対面とはいえ敵だった人と生活って」 「ん~まぁ何とかしてみますよ、見た所そんな害は無い人みたいですし」 「そうですか・・・でも、気をつけてくださいね。あの人、銃を持ってますから」 「そうですよね、気をつけることにします」 「セラス、部屋に帰るから来なさい!」 ルイズはリップを引きずって、扉の前まで移動していた。セラスとシエスタが後ろを、その後ろをオスマンとコルベール が続いて部屋を出る。途中で教員と別れ、四人はルイズの部屋に辿り着いた。中に入り、ルイズが振り向く。 「私は午後の授業があるから、教室に戻るわ。シエスタ、その子に色々と教えといてね」 そう言うと、ルイズはさっさと部屋から出て行ってしまった。残ったのは、リップを見つめるセラス シエスタを見つめるリップ セラスを見つめるシエスタ の三人。三角関係みたいな状況で最初に口を開いたのは、シエスタだった。 「え~と・・・それじゃあリップバーンさん、これから雑用を教えますけど・・・良いですか?」 その日、シエスタのリップバーンに対する教育は全く進まなかった。教えようとしたら部屋の隅に座り込み、ブツブツと物言う 欝モードに入ってしまったからだ。そのため、急遽シエスタによる慰めタイムが始まったのだが・・・ 「ほら、しっかりしてくださいリップバーンさん。セラスさんなんか、立派に使い魔として頑張ってるじゃないですか」 「頑張りたくなんか無いわぁ・・・帰してよ、私を元の世界に帰してよぉ・・・・・・」 「それは無理なんですよ。マスターが言うにはですね、使い魔を元の世界に戻す呪文は存在しないらしいですから」 「そんな・・・」 グスグスと泣きながら、リップはセラスを見上げた。マスケット銃と時計を抱き締めて涙を拭う姿を見て、セラスの心にチクリと 痛みが走る。でも、自分にはどうしようも無い。戻れない以上、この世界で上手くやっていくしか無いのだ。 「残念ですけど、帰郷は諦めてください。どんなに願っても、元の世界に帰る事は出来ないんです」 「そうですよリップさん、諦めも肝心です。それにトリステインも結構良い所ですよ、住めば都って言いますし」 シエスタが慰めの言葉をかけるが、余計に落ち込ませてしまった。そして何時の間にか、名が省略されて『リップ』になっている。 「・・・シエスタさん。すいませんけど、ちょっと席を外してもらえませんか」 「あ、はい。分かりました」 シエスタが廊下に出ると、セラスはリップの前に立つ。相手が怖がるのも気にせず、セラスはリップの足元に腰を下ろした。 そして左手で頭を、右手で顎を掴むと、無理やり口を開かせた。ギザギザとした歯が、セラスの視界に入る。 「・・・やっぱり、リップさんも吸血鬼ですか」 「にゃ、にゃひをいきにゃり!?」 「いや、ちょっと気になったんで確認をと」 すぐに手を離すと、セラスは立ち上がった。溜息をつくと、一つ注意をする。 「いいですかリップさん、この世界で吸血鬼は恐れられる存在なんです。周りに知られたら、面倒な事になります。ですから、 吸血鬼だと言う事は絶対にバレないようにしてください。もちろん、私が吸血鬼だってことも。もし言ったら、その時は」 立ったまま、セラスは右手をリップの頭に当てる。少し力を入れ、後頭部を壁に押し当てた。 「頭を紅葉卸しますから、注意してください・・・リップバーン・ウィンクル中尉」 「は・・・はい、了解しました・・・・・・セラス・ヴィクトリア婦警・・・」 マスケット銃を強く握り締め、リップな何度となく頭を縦に振る。目の前に立つ者は、事前に目を通した資料とは全く違う 別人と化した吸血鬼。今の自分では、絶対に勝てない相手。ミレニアムも部下も存在しない、後ろ盾を失った魔弾の射手。 その立場を言い表すならば『俎板の上の鯉』『蛇に睨まれた蛙』が、まさにピッタリであった。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/193.html
机を拭いて、床を掃き、爆発の結果により起こった惨状の後始末をしたルイズとペットショップ まあ、足で箒を使ったり塵取りを運んだりとペットショップが掃除の大部分をやったのだが 主人の不始末は使い魔の不始末。それ故にルイズの頭にはペットショップの行動など勘定に入ってない、そんなこんなでアルヴィーズの食堂に到着した一人と一羽。 三列の食卓には絢爛な飾りつけがされており、その上には飾りに負けず劣らずに豪華な食事が並んでいる。 始祖ブリミルと女王陛下にお祈りをしてから、モグモグと食べ始めるルイズ。朝に食べられなかったからか、かなり幸せそうだ。 だが、ある程度食べ進めてから、隣をキッ!と見るルイズ。その先には使い魔ペットショップの姿 「ペットショップ! あんたはご飯抜きって言ってるでしょ!そんな物欲しそうな目で見たってあげないんだからね!」 ルイズとしては格好良く決めたつもりだろうが、使い魔は食堂の外で待機するのが普通だ。 (食堂の中に入ってる事に注意しろよ!)と、割と色々な生徒が思ったが、ペットショップの目を恐れて口に出せずに居た と言うか、近くに居ると飯が不味くなる所の話ではないので、ルイズとペットショップの周囲の席がガオン!されたみたいに開いている。 食事に集中するあまりに、この異常事態に気付かないルイズは本当に大物である。 ルイズが食事に集中している時。 彼―――ペットショップは食事が欲しい等とは欠片も思っていなかった。食事抜きはマスターから与えられた罰でありそれを理不尽とは感じてない 彼が今考えているのは『下僕を如何にかして調達する必要がある』それだけである キュルケとタバサの間で起きた朝の1件もそうだが。 『それよりずっと前から』彼は、自分は何かを守りながら戦うのは苦手であると分かっていた。 自分だけでマスターを守れるとは自惚れていない。だから早急に、マスターを守る盾となる奴隷が彼には必要であった。 それなりに力があってタフであり、そして一番重要な事だが命令には絶対服従する下僕。それをどうやって捜すか彼は悩む マスターを置いて旅に出る訳にはいかない、予期せぬ幸運が入り込むのを期待するほど神経は図太くは無い どうやって奴隷を獲得するかペットショップが悩んでいる時、食堂の端で何か騒ぎが起こってるのが彼の目に見えた 距離は結構離れているが、彼の目は数km先の虫も軽く見える、故にその騒ぎを至近距離から見ているがごとくに鮮明に視認できていた 騒ぎは、ギーシュと言う名の金髪の少年が香水の瓶を落とした事から始まった それを黒髪のメイド、シエスタと呼ばれる少女が拾い、純粋な親切心からギーシュに渡そうとした だが、ギーシュはそれをガン無視、疑問に思うシエスタだが、ギーシュの友人がその疑問を解消してくれた。ギーシュにとって最悪な形で その香水の瓶はモンモラシーと呼ばれる少女の物!だが、今ギーシュは下級生のケティと言う少女と付き合っているはず! つまりそれが意味する事はただ一つ、ギーシュが二股を掛けていると言う事実! それから話しはトントン拍子で進んだ 「・・・・・・・・・・・・」 「ち、違うんだよケティ!これは誤解だ!」 オラァッ!バチンッ! 「一体全体どういう事よギーシュ!?」 「モ、モンモランシー!」 ムダァッ!ビシャッ! ケティから強烈なビンタをくらい、モンモラシーから香水の瓶を頭にぶちまけられたギーシュ 踏んだり蹴ったりだが、元の原因は二股を掛けた彼にあるのだから同情は出来ない。 しかし、肝心のギーシュの怒りは止まらなかった。 「き、き、君ぃぃ!な、ななな何て事をしてくれたんだい!」 こめかみを引き攣らせながらシエスタに詰め寄るギーシュ。 シエスタは恐怖のあまり何も言えずに頭を下げる事しか出来ない。殆ど土下座である。 ギーシュもそこで止めておけばよかった、だがしかし、周りの生徒達の視線が彼の恥を刺激して怒りを更に上昇させた。 割と洒落にならないぐらい切れたギーシュが無言で薔薇の造花を振る すると、花びらが宙を舞い、甲冑を着た女戦士の人形が現れた。ギーシュのゴーレムである 貴族が平民に魔法を使う、その恐怖のためなのか、シエスタの歯がカチカチと音を立てる。 「ひぃ・・・・・・!」 腰が抜けたらしく、地面に尻餅を突いた形でそのまま後退りを始めたシエスタ 恥も外聞も無く、ただ貴族と人形の恐怖から逃れるために逃走する哀れなメイド そんなシエスタの背に何かが当たった。 怯えたように後ろをゆっくりと振り向く、するとそこには。 「・・・・・・・・・・・・」 ギーシュが生み出した二体目のゴーレムの姿 それを見たシエスタは完全に静止していたが、半秒後、メイド服を汚して床に生暖かい液体が流れた『失禁』ってやつである そして大声で泣き始めるシエスタ。かなり可哀想である だが、それに一番慌てたのは元凶のギーシュ。 ちょっとビビらせようと思ってゴーレムを出したのだが、失禁してマジ泣きを始めるとは血が昇った頭では考え付かなかった 一気に頭が冷え、落ち着いて周りをゆっくり見るギーシュ。 男子からは「おいおい、相手が平民だからってそれはやりすぎだろ」と生暖かい視線 女子からは「サイテー」と分かり易い侮蔑の視線。 彼は、拙い事をやったのに今更ながら気付いた この事が広まるとモンモラシーやケティに本気で絶縁されるかもしれない 慌ててシエスタに優しく話しかけるギーシュ。 「あ、あの大丈夫かい?僕はもう怒ってないから安心しなよ」 だが、シエスタの目は完全に恐怖に染まっており、ただ「ごめんなさい」と連呼するだけ 自業自得だが、どうすればいいんだとギーシュは頭を抱えかけた、その瞬間。 「キョキョッ!」 甲高い泣き声。 慌てて声の元を見ると、ルイズの使い魔がこっちに飛んで来るのが見えた 私はその騒ぎを注意深く見る。初めはただのくだらない痴話喧嘩と分かって幻滅しかけた、が。 男が出した騎士の存在が、私の興味を引いた。脳裏に浮かぶのは、先程考えていたマスターの盾となる下僕の調達 マスターを見る、昼食を食べ終わったのか、机に突っ伏して眠っている。 周りを見る、マスターに害をなす存在の気配は感じない。 今、この空間に危険は一切無い!ならば今がチャンスだ! 『あれ』がマスターの盾に相応しい物か試してみよう 私は一声鳴くと、あの男に向かって飛んで行った。 目の前にはルイズの使い魔が見える。確か名前はペットショップだと思い出す 「ペットショップ君かい?見世物じゃないんだよ、こっちは忙しいんだ。どっか行ってくれ!」 割とテンパっているので声に何時もの余裕が無いギーシュ その一瞬、ペットショップが自分目掛けて恐ろしい勢いで氷柱を飛ばしてきたのに彼は気付いた! 「え?うわぁぁぁぁぁ!?『ワルキューレ』!」 ギーシュの叫びに青銅の女騎士が動く。 ドガッ!バゴンッ! 氷柱とギーシュの間に入る事が精一杯だったのか、防御行動すら取れずに氷柱をまともにくらって吹っ飛ばされる。 そんなワルキューレを冷めた目で見るペットショップ。 ギーシュの背筋に冷や汗が流れる 「何するんだ君ぃ!」 対するペットショップは返答の代わりに再度氷柱を発射! ブン!ガキィィィン! しかし、これは攻撃を予測していたワルキューレが防御 ワルキューレの装甲は少々凹んだが、発射された氷柱は砕かれ周囲に破片を撒き散らす (何でルイズの使い魔が僕に攻撃してくるんだぁぁぁぁ!?) と、錯乱するギーシュ。だが、次の瞬間これはチャンスだと思い直す それは―――――メイドを嬲った事を有耶無耶にするチャンス! 「今の行為・・・・・・僕への挑戦だと判断した!決闘だ!『ゼロ』の使い魔如きに舐められてはグラモン家の名が廃る!」 さっきの醜態を忘れて、良く言えば気障に、悪く言えば優雅に決めるギーシュ 「ヴェストリ広場で待っているぞ!」 とペットショップに伝えるとワルキューレを伴い、急いでその場を抜け出す。 ペットショップもそれに続こうとするが。 「あ、あの、ありがとうございます!」 シエスタの感謝の言葉。涙で潤んだ彼女の目にはペットショップは救いの手を差し伸べた勇敢なる騎士として映ったようだ。 勿論、ペットショップにはそんな気など一切無かった。下僕となるべき者の性能をテストしてみようとしただけである。 何か勘違いしているシエスタを一瞥しただけで済まし、ペットショップはギーシュの後を追って飛んで行った。 そして 「zzz・・・・・・もう・・・・・・食べられない・・・zzz」 ルイズは幸せそうにまだ寝ていた
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2585.html
前ページ次ページゼロと聖石 聖堂。 テンプルとも言うニューカッスル城のそこは、城にふさわしい規模を誇っていた。 絢爛豪華に造られた其処は、アルビオンにおける生誕から葬儀まで喜びと悲しみを見届けた場所。 ここだけ空気が澄んでいる気がする。 同時に死者の臭いも感じることが出来る不思議な空間だ。 そんな神聖な場所の祭壇前にウェールズ皇子が祈りを捧げていた。 私もそれに習い、始祖に祈りを捧げる。 祈るのは私にとっての平穏な日常。 ちょうど、あの時のやさしい夢。 全員がほほえましく笑いながら過ごしたあの夢を。 不意に、ウェールズ皇子が立ち上がり、指から指輪を抜いた。 それを私に握らせ、 「これを、アンに。これを渡せば分かってくれるはずだから」 泣きそうな私を叱責し、その指輪を懐に収める。 必ず、アンリエッタ様に、何があっても渡そう。そう決心した。 そして、ワルド様遅いなとか考えていたら――― 空を裂く音が響く。 私は反射的にウェールズ皇子を弾き飛ばした。 音は聞こえない。 私の体に風の刃が食い込む。 痛みを堪え、詠唱をしようとした瞬間、私はワルド様に抱えられていた。 「私の目的を何か教えよう、プリンス・ウェールズ」 次の瞬間、ワルド様が三体現われる。 風の偏在だ。 「一つは密書の奪取、もう一つは君を殺すことだ!」 「貴様、レコンキスタか!!」 私を抱えたまま偏在をけしかけるワルド様、いや、ワルド。 おそらく、聖石とその使い手を同時に手に入れて手柄としようとしているのだろう。 そんな彼に気が付かれないようにケアルを詠唱。 止血程度に傷が回復。同時に私はある一つの魔法を詠唱。 「ひるがえりて来たれ、幾重にもその身を刻め…ヘイスト!」 対象を地点に設定し、ワルドに掛からないように私だけ時間の流れが速くなる。 即座にテレポで脱出し、アルテマで偏在を一体消す。 「やってくれたわね、そう簡単に死ねると思わないことね、ワルド!!」 その言葉に反応したのかは分からないが、偏在が二体追加、これで五対二、いや、 「コイツ偏在か? おでれーた、こんなに偏在見たの久しぶりだぜ」 偏在の一体にデルフが刺さっている。 背後のステンドグラスにヒビと剣一本分の穴。 その穴を中心にステンドグラスが割れる。 降り注ぐ乱反射した光とガラス片。 シエスタがデルフを床から引き抜いて構える。 「さぁて、皇子様を狙う悪役を倒すヒロイン様の登場だぜ!」 「あ、あの、お助けにきました!」 以前やった大跳躍で飛び込んできたのだろう。 それにしてもなんてタイミングのいい。 ワルドも一瞬だけ驚きの表情を浮かべ、すぐに余裕を取り戻す。 シエスタが一度戦い、勝利した相手だからだろう。 その自信という名の慢心を、ぶち壊そう。 三人が突撃するのに合わせ、ワルドが更に偏在を追加。 そしてシエスタにはワルド本体、ウェールズ様と私に二体が付いた。 さあはじめよう、死の舞踏を。 シエスタが盾を捨て、鎧の内側から剣を抜いてワルドの剣を受け止める。 私は瞬発的な詠唱でサンダラを詠唱、牽制しつつテレポで隙をうかがう。 ウェールズ皇子は剣に真空の刃を纏わせ、偏在と打ち合っている。 シエスタに向かって風の刃が飛ぶ。それをデルフで打ち消しながらワルドを追い詰める。 偏在が詠唱したのに合わせてブリザラで障壁を作り、ウィンドブレイクを弾く。 さすがに二対一は厳しいのか、防戦一方のウェールズ皇子。 そして、シエスタがワルドを壁際に追い詰める、これで詰みだ。 こっちも仕上げとばかりにウェールズ皇子が苦戦している偏在の真後ろにテレポ。 それを追いかけるように私について来た偏在が射程に入る。 その直後にテレポ、一気に指定範囲から離れる。 「鏡なす心に問いて魔の流れ鎮めん…ミュート!」 魔力を失った偏在が掻き消え、シエスタが剣を突きつける。 そしてワルドの杖を落そうとして、 後ろから現われた偏在に腹部を刺される。 声を上げる暇すらない。 駆け寄ろうとして、ウェールズ様が偏在に杖を破壊され、刺される。 怪我自体は深くなさそうだが、戦闘に参加できるような状態ではない。 髪をかきあげ、更に偏在を二体追加。 これで形勢は逆転。 私の魔法は発動が遅いから唱えても先手は確実に向こう。 覚悟を決めるしかない。 突進してくる偏在に私は、あの時の訓練を思い出す。 ―――サンダラを外してしまい、シエスタが突撃してくる。 私は本能で詠唱を必要とせず、即座に効果があり、威力が高い魔法を選んでいた――― 突進してくる偏在の杖にはエアスピアーという接近戦用の魔法だ。 アレに刺されたら確実に傷はえぐられるだろう。 だから、私は迷わなかった。 たとえ、これを使った事で再び、 「ゼロと呼ばれようが、私は生きるのよ! 錬金!!」 錬金の魔法が偏在の杖に作用、昔のように魔法が失敗し、爆発。 衝撃は凄まじく、偏在をかき消す。 「やはり君の魔法は聖石の力か、残念だが君を殺して聖石をいただいていくよ!!」 偏在が三方向から襲い掛かる。 幸いにも偏在に力を注いだのか魔法は使ってくる気配は無い。 私はコモンマジックで偏在の一体を爆破。 そのままその偏在に近づいて杖ごと爆破。 残り二体。 振るってくる剣にタイミングを合わせ、杖でガード。 お返しとばかりに帽子を錬金。 偏在はそれに反応、即座に帽子を投げて回避。 もう一体がこちらに対して振りかぶってくる。 テレポで跳び、更に追加で偏在の手袋を錬金。 手を中心に偏在が吹き飛ぶ。 残り一体。 即座にテレポで飛びながらワルド本体に向かってテレポ。 一瞬で目の前に来たことに驚いたかどうか知らないが、即座に範囲指定して離れる。 タイミングを伺い、再度ワルドに接近。今度は真横。 杖で脛を思いっきり叩く。 横に偏在が迫ったところでテレポ。 そこでミスしてしまった。 跳んだ先は先ほどワルドから離れるときに跳んだ場所。 そこにテレポで着地。 目の前には新たに作られた偏在。 エアスピアーで思いっきり腹部を刺される。 同時に錬金で爆破。 これで、ワルドの偏在は残り一体。 しかしこちらは重傷。 あのワルドがこちらの詠唱を許すわけが無い。 錬金を警戒して、ある程度の距離をとって、エアニードルを連打。 急所はかばったが、このままだと確実に死ぬだろう。 そこで偏在を解除し、悠然と歩み寄ってくる。 朦朧とする意識の中で、私は必死に呟いた。 「君は確かに強かったよ、ルイズ。しかし、『ゼロ』ごときが『閃光』に挑むなど無謀だった。 あのメイドもたかが平民のくせに貴族に歯向かうからこうなった。我々レコンキスタに歯向かうとこうなるのだよ」 「―――恨み、あります」 「まぁ、ゼロごときにこの石はもったいないな」 「―――呪い、あります」 ワルドが私の体に手を伸ばす。 「レコンキスタが有効活用してあげよう。なに、君は尊い犠牲となるだけだ」 「―――貴方にあげます! ライフブレイク!」 間一髪で詠唱が間に合う。 ルイズの体から放たれた暗い魔力の波動がワルドを包み込む。 「こ、これは!?」 「貴方が散々いたぶってくれたおかげでこの術の効果は抜群よ、 私が受けた痛みを、この恨みを、すべて受け止めろ! ワルド!!」 その魔力波動は容赦なくワルドの体を蹂躙しつくす。 圧倒的な破壊の渦に飲み込まれたワルドは、立っていた。 「こ、の…ゼロがぁああああ!!」 残った魔力を振り絞った偏在なのか、若干存在感の無い偏在が三体。 私に襲いかかろうとした瞬間、 「大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突き!」 凛々しいシエスタの声が、響く。 偏在が、地面から空に落ちる雷の刃に突かれて消え去る。 そのことに驚いている間も無く、ワルドの左腕が切り落とされる。 「これが、平民が戦うために鍛え上げた、牙の力です―――!」 更に冥界恐叫打で杖を破壊する。 「く、引くしかないのか―――貴様だけはこの私が倒してくれる、平民!!」 そう言って、シエスタが割ったステンドグラスから外へと飛び出していった。 「覚えておけ! 私はシエスタ。シエスタ・デュライ! 貴様の首を貰い受ける者の名だ! そして、刻め! 私は幾多の騎士の頂点に立つ『剣聖』を目指すものだと!!」 そう、シエスタは叫んでいた。 「覚えておきなさい! 私は『ゼロ』にして全てを極めんとする無限の知識の体現者! 『ゼロのグランドマスター』ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! その使い魔聖天使アルテマの名を!! 私達二人が、貴方と『レコンキスタ』に無間地獄を見せるものだと!! 心に刻め!!!!」 この場において、『ゼロ』と呼ばれたメイジも、平民の給仕など居なかった。 其処には、勇壮なまでの騎士と、全ての知識を極めようとするメイジが二人で立っていた。 その直後、二人は仲良く床に仰向けになった。 前ページ次ページゼロと聖石
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5294.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ タルブの村の地理なら把握している。 トリステイン軍の規模、レコン・キスタ軍の規模の情報も得られる。 戦術を練る事はできるが、ハクオロはトリステイン軍を動かす力を持たない。 ――持っている事に気づいていない。 彼は無力な使い魔にすぎなかったが、だからといってタルブの村を捨て置けない。 なぜなら、学院長室にハクオロを呼んでくれたオールド・オスマンが、 暗澹たる表情で話したその情報から考えれば、 あのウェールズ皇太子がトリステイン軍を指揮しようと、勝機は皆無に等しかった。 また、ハクオロも戦術を考えはしたが、すでに事が始まった今、成すすべがない。 ――タルブの村が乱に巻き込まれかねない危険は承知していたはずなのに。 だからこそよりいっそう、ハクオロはタルブの村に行きたいと願った。 しかしオールド・オスマンは首を横に振る。 「恩人の同郷の者を、むざむざ死地に赴かせたくはないのでは」 「その恩人の同郷の者が、シエスタがタルブの村にいるんです」 「仮に天照らすもの……クスカミの腕輪を持って行ったとしても、 軍が相手では数という絶対的な力の差に押し潰されるだけじゃ。 どんな稀代の名称でも、今からタルブの村を救うなど不可能。 最終的に戦争に勝利する、いずれタルブを取り返す、とうならまだしもな。 タルブが占領下に置かれたからといって、民すべてが殺される訳ではない。 捕虜となり下働きをさせられる事で生き残る者もいるじゃろう。 シエスタがそうなる事を祈るしかあるまい。 そうなれば、機を見てシエスタを救い出す事も可能だろうて」 「しかし」 ハクオロは自らの拳をきつくきつく握りしめる。 「シエスタと約束したんです」 ――ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね。 ――ああ、絶対に助けに行くよ。 「だから、自分は……!」 約束と、かつて失ったヤマユラの里を思い出して。 第19話 滅びゆくもの 人気のない場所を探して、気がつくとハクオロは、いつぞやギーシュと決闘をした広場にいた。 陽射しはあたたかく、小鳥がさえずり、風は心地よい。 しかし鬱屈とした気分は少しも晴れない。 壁の前に座り込み、ぼんやりと地面を眺める。 「シエスタ……」 いくら考えても、タルブの村を救う方法が考えつかない。 仮に考えついたとして、その考えを通せる権力もない。 ルイズの使い魔としてすごしてきた日々が無為だったなどと思わない、しかし、 タルブの村を救うための力を得るために何かを積み重ねる事はできなかっただろうか。 人の上に立ちたかった訳ではない。 人の上に立たなければならなかった。 次第に自分の下に集まる人間が増えていった。 果ては皇となり國まで支える事になった。 権力を望んだ訳ではない。 家族である彼女達と、ただ平穏に暮らしたかっただけだった。 けれど、もしハクオロが今、皇のような力を持っていたら、 タルブの村を救えたかもしれないのに。 戦乱を望む訳ではない。しかし戦乱を収めるためには、戦乱に身を投じねばならぬ過酷な現実。 数多の戦場から傷を負わずに帰還するような一騎当千の力もなければ、 一声で幾千幾万の兵を動かすだけの権力もない。 「タルブの村?」 ハッと顔を上げると、ルイズがいた。 「やっぱりそうなのね。あのメイドが気になるんでしょ」 「ルイズ、なぜ……」 「シエスタのお母さんのお話、夢の中から覗き見してたから。 戦争になって、あんたがほっとける訳ないじゃない。だから助けに行きましょう」 「しかし、どうやって」 「忘れたの? 何でかは解らないけれど、私はもう、魔法が使えるのよ」 そう言って杖を握って見せ、ルイズは微笑んだ。 「ハクオロ。あの幻を見せる魔法……イリュージョンがあれば、何ができるかしら」 「イリュージョン……そうか、あれなら、大軍の幻を見せる事もできるし、 タルブの人々が村に残っているように見せ、その隙に逃がす事も可能だ。 いくらでもやりようはある」 湧き上がる希望に、ハクオロは立ち上がった。クスリとルイズが笑う。 「じゃあ、決まりね」 「しかしいいのか? タルブの村はすでに戦場となっているかもしれん」 「いいわ。私は確かめたいの、私が何者なのか、ハクオロが何者なのか。 私達は何を間違ってしまったのかを……。 その答えは……戦場にある気がする。 あの時、アルビオンで、私は答えを見ていたはずだから」 「教会で何があったのかを思い出したのか?」 「思い出した訳じゃない。ぼんやりと、夢のように不確かなものだけど。 でもほんのわずかな手がかりがあるのなら、私はそれに賭けてみたい。 ……動機が不純ね。自分勝手な理由で戦場に行きたがってる。 ハクオロはシエスタやタルブの村を救うために行きたいと思っているのに」 「……ルイズ、だが……」 「行こう、ハクオロ」 ルイズはハクオロの手を取って引っ張り起こすと、力強い笑みを見せた。 だがハクオロの表情は冴えないままだ。 「ルイズ、君の気持ちは解った。しかしだな」 「そんな顔しないでよ。せっかくやる気になってるんだから」 「そうじゃなくて」 「何よ」 「どうやってタルブの村まで行くんだ?」 風が吹いた。冷たい風が。 笑顔のままルイズは凍りついている。 あれだけ格好よく言ってのけておいて、肝心なところが抜けていた。 考えてませんでしたなんて言えない。 風が再び吹く。今度はちょっと強い風だ。 桃色の風がなびいて、不自然な強風を見上げる。シルフィードがいた。 そしてもちろん、その背中にはタバサが騎乗している。 「タバサ、まさか」 「貴方が望むなら」 それ以上、言葉はいらなかった。 トリステイン魔法学院から一頭の風竜が飛び立つ。 タルブの村という戦場へ向けて。 陣を敷くため、タルブの村を蹂躙するレコン・キスタの軍勢。 村を護るための領主の兵はすでに壊滅し、また逃げ遅れた村人も骸となっていた。 生き残ったのは、森に逃げ込んだ村人だけ。 その中にシエスタ親子の姿もあった。 「お父さん……畑が、ハクオロさんのおかげで実った畑が……」 「……収穫までまだ時間がかかる畑なんか、奴等にとっちゃただの地面と同じだ。 踏み荒らした畑の上にあぐらをかいて、また戦場にしちまうんだろうよ」 故郷を失う悲しみ。 それと同じくらい、ハクオロが一生懸命豊かにしようと手伝ってくれた土地を失うのが悲しい。 ――ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね。 今がその時だ。 ――ああ、絶対に助けに行くよ。 きっとハクオロが助けに来てくれるとシエスタは信じている。 いつ助けに来てくれるのかは、解らない。 もしかしたら以前タルブの村に来た時のように、ミス・タバサの使い魔の風竜に乗って、 今まさにここへ到着しようとしているのかもしれない。 でも、そんな不確かな希望を悠長に待っている暇はなかった。 タルブの村に降り立ったレコン・キスタの兵達はすでに何隻かの船を着陸させ、 戦線の拠点とすべく畑を踏み荒らしている最中だ。 それがシエスタには許せなかった。 だから。 落胆して木陰にうずくまる父に気づかれぬよう、ひっそりと、シエスタは姿を消した。 森の奥へ。母の形見の元へ向かって。 帰ってきて早々の出来事だったため、アヴ・カムゥはまだ移動させていない。 まだ何隻かの船を空中に浮かべるレコン・キスタに発見されるのは時間の問題だった。 だったらいっそという思いを込めながら、シエスタはアヴ・カムゥの背中に登る。 大きな球のようなものに吸い込まれるようにして入り、 中身を満たす赤い液体の流動を感じながらシエスタは目を開く。 森の向こうに、故郷が見えた。 フーケは陰鬱な気持ちだった。 報酬のためとはいえ、戦争に手を貸すなど、土くれと恐れられた自分のする事ではない。 しかし素性を調べ上げられ、今はもう戦死してしまったワルドに脅迫まがいの真似をされ、 レコン・キスタという組織に身を投じてしまった今では、出奔するリスクも大きい。 内情をかなり知ってしまった自分を、レコン・キスタは逃がさないだろう。 だからもう割り切って報酬のために戦争をしようと決めたのだけれど、 心というものは割り切れないものだと感じ入っていた。 そんなフーケに出撃命令が下る。 自分が出る間でもなくこの地方に配備されていた敵軍は排除したはずだ。 トリステインの本隊が駆けつけたのであれば、さすがはウェールズと褒めるべきか。 しかし敵は単騎。 トライアングルかスクウェアクラスと思われる、鋼鉄のゴーレムが現れたと言う。 そんなの砲撃で潰してしまえばいいと進言したが、 すでにタルブの村には多数の兵が上陸しており、巻き添えにしてしまう。 やれやれと呟きながら、フーケは甲板に出ると、タルブの村を見下ろした。 なるほど、鋼鉄の鎧を持つ巨大ゴーレムが、 着陸していた船に巨大な剣を食い込ませていた。あれは一筋縄ではいくまい。 レビテーションの魔法を使って甲板から飛び降りたフーケは、 降り立った畑の土の質のよさににんまりと微笑んだ。 これほど上質な土なら、いつも以上に上等なゴーレムを作り上げられる。 目算通り、強度も再生能力も高いゴーレムを作ったフーケは、 その肩に乗り鋼鉄のゴーレム――アヴ・カムゥへと迫る。 村を護るためとはいえ、侵略者とはいえ、人殺しはしたくない。 戦場に無用な情けから、シエスタは敵艦を壊す程度の事しかせず、 その時に不幸にも巻き添えを受け負傷した人を見ては心を痛めていた。 船をひとつ潰したシエスタは、次の船に向かって歩き出す。 畑を踏み潰さないよう、敵兵を踏み潰さないよう、 注意を払って歩いていると、背後から足音が迫ってきた。 振り向くと、アブ・カムゥほどもある土くれのゴーレムが拳を振り上げていた。 「キャッ……!」 慌てたシエスタは振り向き様に剣を払うが、剣の腹に握り拳が振り下ろされる。 軌道をそらされた巨刃はゴーレムの足元に深々とめり込む。 次いで、ゴーレムのもう片方の手がアヴ・カムゥの顔面に打ち込まれた。 「キャウッ!」 尻餅をついたアヴ・カムゥから少女の悲鳴が漏れ、フーケは眉根を寄せる。 どうやら自分同様ゴーレムに乗って戦っているらしいが、 それにしてはどこにいるのかが解らない。 視界を確保するためには、メイジ本人が顔を出さねばならないはず。 鎧の隙間にでも隠れているのか。 しかしそれでは、衝撃を受けた時に鎧に叩きつけられてしまい、ろくに戦えまい。 殴った手応えから、フーケはアヴ・カムゥはスクウェアクラスのゴーレムと判断した。 これほどの硬度、並のメイジにできる事じゃない。 土ではなく鉄からゴーレムを作ったのだとしてもだ。 だがアヴ・カムゥの動きは素人同然だった。 「あんたが何者かは知らないが、命が惜しかったらそのゴーレムを解除しな」 「こ、この村から……出てってください!」 立ち上がったアヴ・カムゥの頭部を土くれのゴーレムの肩に向け、 そこに乗るローブをまとった女――フーケを認めた。 もちろんシエスタはフーケの名前を知っていたが、 ハクオロ達が捕まえたけど逃げられたと聞いた程度で、 実際のその姿を見た事はなかった。 だからゴーレムに乗る女がフーケだだとは少しばかりも思わない。 「ミス・ロングビル……?」 そしてシエスタは、オールド・オスマンの秘書を最近辞めた女性の顔は覚えていた。 名前を呼ばれてフーケは思考をめぐらす。 わざわざロングビルの偽名の方を呼ぶとは、学院関係者か。 それもロングビルがフーケだという事を聞かされていない程度の。 心当たりがまったくなかった。 学院の生徒ならフーケとロングビルの事情を知らない奴もいるだろう。 だがこれほどのゴーレムを操るとなればスクウェアクラスの実力が必要。 学院の教師達にも間違いなく無理。 オールド・オスマンならもしかしたら、とも思うが、聞こえてきた声は少女。 不気味だとフーケは思った。 得たいが知れない。 天照らすものに舐めさせられた苦汁の味を思い出す。 だから。 「死にたくなかったら、ゴーレムを解除して逃げ出すこったね。 得たいの知れない鉄くれはッ! 徹底的にぶち壊させてもらうよ!」 土くれの拳とアヴ・カムゥの拳とが正面から激突し大地を揺るがした。 壊れた拳を引きながら、反対の拳をアヴ・カムゥの胸元に返す。 激しく揺れるアヴ・カムゥの中でシエスタはあえいだ。 ――ハクオロさん―― ――危ない時には―― ――絶対助けにきてくださいね―― ――ハクオロさん―― これは何だろうとフーケは首を傾げた。 やはりただのゴーレムではない。鋼鉄の他に、いったいどんな材料を使ったのか。 殴っても殴ってもへこみもしない鎧に業を煮やしたフーケは、 アヴ・カムゥの使っていた巨剣を持ち上げ、 うつ伏せに倒れるアヴ・カムゥの背中に深々と突き刺した。 すると、まるで人間を刺し殺したかのように赤い液体が噴出した。 血ではない。 この液体は何だ。ゴーレムを動かすための特殊なポーションのようなものだろうか。 まるで鮮血を浴びてしまったような気がして、フーケは顔をしかめる。 そして、遠くから悲鳴が聞こえた気がして、その方向、空を見た。 飛翔する蒼い翼と、 先手を打たれてしまった。すでにラ・ロシェールが落とされた今、 このままタルブの村まで取られては、トリステインの勝ち目は皆無に等しい。 今、ここで、食い止めねば。 強力な空軍戦力を持つアルビオンの元皇太子は、 レコン・キスタと空中でも戦えるようトリステイン空軍の戦力を再編成していた。 戦艦を引き連れ、竜騎士隊やグリフォン隊は接近を気づかれぬよう迂回させ、 ここタルブの村についてみれば、地上に降りた敵船はすべて破壊されており、 それを成したであろう鋼鉄のゴーレムは、土のゴーレムにより葬られていた。 奇襲でゴーレムの主を倒し、地上にいるレコン・キスタ兵を捕縛すれば盾となるだろう。 だがそれを見捨てて空中に残った艦が砲撃してくる可能性もある。 先に空中艦を叩くべきか。竜騎士隊とグリフォン隊がタルブの村に到着するまであと少し。 だが、気配を感じて空を見れば、一騎の竜騎士が隊から離れて飛んでいた。 目を凝らすが、竜騎士隊にしては妙だ、目印をつけていない。では、あれは? 飛翔する蒼い翼と、 シルフィードの上で、ハクオロは震えていた。 身を切る風の寒さのせいではない。 返り血を浴びた土くれのゴーレムの足元に、 墓標のように剣を突き立てられたアヴ・カムゥの姿を確認した。 剣は、シエスタがいるであろう場所を貫いている。 ――ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね。 「あ、ああ……」 嗚咽が、 ――ああ、絶対に助けに行くよ。 「アアァッ……」 絶叫に。 「アアアアァァァァァァァッ!!」 その時、フーケやウェールズのみならず、ただならぬ気配を感じて、 トリステイン軍も、レコン・キスタも、貴族も、平民も、すべて者が空を見上げた。 飛翔する蒼い翼と、憎悪を内包する黒い闇の流出。 薄れゆく意識の中、赤く染まった視界の中、悲しみと絶望の中、シエスタは見た。 天空から大地へと降り立つ黒い霧。 それは質量を持っているかの如く、着地の衝撃で大地を揺るがした。 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」 人ならざる獣の咆哮に、シエスタは理由も解らず安堵する。 「約束……守って、くれ……た……」 力弱きシャクコポルの血は、異世界ハルケギニアの地にあっても、 滅びゆく宿命だったのだ。 しかし。 暗黒の中で開く禍々しき双眸に、哀と憎が入り混じる。 それがハクオロだと、なぜかシエスタには解ってしまって、 死に顔の唇は微笑みの形を作っていた。 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1318.html
「…とまぁ、それがワシとリサリサ先生の出会いだったんじゃよ」 オールド・オスマンが水パイプを取り出しつつ、感慨深そうに話す。 「へぇ、その人の血を、シエスタは一番濃く受け継いでる訳ですか、何ともまぁ…」 マルトーが驚き半分、呆れ半分といった感じで呟く。 オールド・オスマンの話では、シエスタの曾祖母リサリサは、波紋という先住の魔法を使って吸血鬼を打ち倒したと言う。 念のためにとディティクト・マジック等で調査させて貰ったが、特に反応はない。 話を聞いてみると、リサリサは東方のロバ・アル・カリイエからやってきた人間であり、エルフではないということだ。 だが、いくら人間とはいえ先住魔法の使い手が注目されないわけはない。 オールド・オスマンは、魔法アカデミーにリサリサの魔法を報告した場合、エルフに対抗するためののサンプルとして拉致され、タルブ村にもその被害が及ぶであろうと考えた。 命の恩人を危険にさらすのは忍びないとして、誰にも報告せずにいたのだ。 「マルトーや、彼女が先住の魔法を使うからといって恐れずにいてくれんか」 「はい、そりゃもう。…それよりもシエスタにも危険な目に遭わせないでやって下さい」 「分かっておるよ、なあに安心せい、王宮を煙に巻くのはワシの得意技じゃからのう!」 話が終わり、マルトーは厨房へと戻っていったが、その横でロングビルは頭を悩ませていた。 話を聞く限りでは、シエスタはルイズの天敵なのかもしれないのだ。 「ミス・ロングビル、浮かない顔をしとるの」 「あ、いえ……ただ、ミス・ヴァリエールが気にかけていたシエスタに、そんな魔法の才能があったという話が、運命の悪戯のようで……」 「うむ、そうじゃろうなあ」 そこでロングビルは考える。 一介の秘書に過ぎない私に、それも家名を失った私に、こんな重要な話をしたのは何故? 嫌な予感がした。 重々しく、オールド・オスマンが口を開く。 「ときに、ミス・ロングビル」 「ミス・ヴァリエールが生きているとしたら、君はどうするね」 その頃、タルブ村では突然現れた風竜に村人が驚いていた。 「ここがタルブ村?」 「そうです、ここが…あ、お父さん!」 広場に降り立った風竜の背に、マントを着けた貴族が乗っているのを見て、村人は仰天した。 お父さん、と呼ばれた人物が風竜を見ると、その背から貴族の格好をした娘が降りてくるのを見て、再度驚いた。 シエスタは父に駆け寄ると、抱きついた。 「お父さん!」 「シエスタ!?お前、いったいどうしたんだ、そんな格好をして」 「あ、あのー、これは……オールド・オスマンが曾祖父の件だって言えば分かるって」 それを聞いたシエスタの父は、ああ、と呟いて、シエスタを見た。 「お父さん、ひいお婆ちゃんは、気が触れて村を飛び出したって言っていたのは、嘘だったの?」 「許してくれ、これを他言できない理由は聞いただろう、そちらの貴族様もご存じなのかい?」 シエスタの父はちらりと、キュルケとタバサを見る。 「うん…」 「そうか…」 久々の父娘の再会に水を差すようだが、このままでは話が進まない。 キュルケはワインを要求し、タバサはシルフィードに寄りかかって読書を再開した。 シルフィードはこんな所でも本を手放さない主人に呆れたが、いつものことだと思って諦めた。 「あの、ミス・タバサ」 読書しようとしたタバサに声をかけたのは、シエスタだった。 いつも通り無言で済まそうと思ったが、シエスタの傍らにいる少女に目が移る。 年の頃10歳ほどだろうか、少女の持つカゴには野草がたくさん摘まれていた、もちろんハシバミ草も入っている。 「何?」 興味を牽かれたタバサは、思わず返事をした。 「ひいお爺ちゃんが伝えた料理で、ヨシェナヴェという料理があるんです、お口に合うかどうか分かりませんが、よろしければ一緒に昼食を」 「止めて」 「あっ、ご、ごめんなさい、村の料理を薦めるなんて、私無礼なことを…」 「違う、かしこまらないで」 「え?」 「あなたもメイジ、私のことは呼び捨てでいい」 シエスタはタバサの言葉に、タバサはハシバミ草を使うであろう料理に心を打たれ、二人して笑顔を見せた。 「お前ら、よっぽど王党派のことを嗅ぎ回ってたみてぇだな、噂になってるぜ」 ルイズとブルリンは目隠しをして、椅子に座らされている。 宿屋で捕縛され、猿ぐつわを噛まされて二人は連行された。 ルイズはここに連行されるまでのことを考えていた。 それなりの距離を歩いた歩かされた気がするが、曲がり角を二十カ所以上曲がった上に、周囲の気温が微妙に変化していた気がする。 足の裏から伝わってくる感触は、均整のとれた石畳の感触だった。 日陰と日向を歩かされたのも分かっているので、まだアルビオン首都の中にいるのだろう。 ある点から石畳の感触が変化し、繋ぎ目がほとんど感じられなくなった。 そして更に歩くと石畳は微妙に柔らかい感触になる、これは倉庫などに使う湿気を吸収する石だろう。 おそらく、大きな屋敷の倉庫に監禁された状態だ。 「おいおい、だんまりじゃわからねえよ、まあしばらく頭を冷やすんだな、貴族派に付くなら解放してやってもいいんだぜ」 「誰が、誰が貴族派なんかに付くかってんだ」 隣でブルリンが言う、威勢がよいとは言えないが、いつ殺されるか分からない恐怖の中でこれだけ言えるならたいしたものだと思う。 「そっちのお嬢ちゃんも考え直すんだな」 ルイズ達を尋問していた男は、部屋から出て行った。 「ちくしょう…」 ブルリンが悔しそうに呟く。 「あんたよっぽど目立ってたのねえ」 「そ、そんな事言われてもよぉ、すまねえ姉御、迷惑かけちまって」 ミキッ ブチン 「あ、あれ?手かせが外れたぞ?」 ブルリンは慌てて自分の目隠しを外す、するとルイズがブルリンの手かせを握って立っていた。 手かせは、無惨にも引きちぎられている。 「………すげえ」 「鉄じゃ役に立たないわよ」 「でも姉御、ここからどうやって逃げるんですかい」 ブルリンの言葉ももっともだ、この部屋はルイズが睨んだとおり倉庫らしい、窓には格子がはめられている。 ルイズは地面に耳を当てて、周囲の音を拾い始めた。 「…外に見張りはいるけど、少し離れてるわね、今足を組み替えたかな…椅子に座ってるのかしらね」 「すげぇ、姉御、何でもできるんだなあ」 「静かにしなさい」 ルイズに注意され、ブルリンは慌てて自分の口を手で塞いだ。 「………一人………四人………十一人…ん?」 足音からこの建物内にいる人数を数えようとしたが、廊下から奇妙な音が聞こえるのに気づいた。 ただの足音だが、どうもその足音が気になる、上手く表現できないが、何か奇妙なのだ。 「…。…。…。…。…。…。」 地面に耳を当てたまま、ルイズは小声で何かを呟いている。 ブルリンは心配そうにそれを見ていたが、ルイズが立ち上がったのを見て、口から手を離した。 「ブルリン、傭兵に従軍経験のあるメイジって、けっこう見かけるもの?」 「いや、そんな奴ら滅多にいねえよ」 「そう…なら安心ね、たぶんこいつら王党派よ」 「えっ!?」 「足音の間隔が揃いすぎてるのよ、ちょっと歩くぐらいならまだしも、廊下を歩く音のほとんどは足並みをそろえるように歩いてるわ、たぶん60サンチ程度の間隔でね」 「ど、どうしてそれが王党派だと分かるんで」 「儀仗隊よ、王族や貴族の親衛隊は能力が高ければいい訳じゃ無いわ、統率された行動のとれる者でなければ親衛隊にはなれないの」 「それが足音から分かった…って事か」 「そうよ、奴らが貴族派の兵隊なら、傭兵のフリなんかしないはず…自分たちは傭兵だと偽ったのは、貴族派の目をくらませるためでしょうね」 「すげぇなあ、姉御、ホントにすげぇや」 「とりあえず、ここで待ちましょう、今外に出ても騒ぎを大きくするだけよ」 「わかったよ」 ルイズは椅子に座り直し、大きく深呼吸した。 足音を聞くと、母親の姿が思い出される。 規律を重んじる母は、マンティコア隊隊長として隊員から強く慕われていた。 何度かマンティコア隊の姿を見たことがあるが、突風が吹いても微動だにしない儀仗隊にこれ以上ない程、一糸乱れぬ規律の採れた動きだった。 ルイズは久しぶりに、自分の生まれの良さを思い返し、母に感謝した。 [[To Be Continued …… 仮面のルイズ-16]]
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2482.html
木々の向こうで何かが崩れる音が響いた。 風に揺れる葉が森の外の音を吸収して届かなくしているが、耳を済ませて小さな音さえ聞き逃さないように気をつけていれば、絶対に聞こえないものでもない。 とはいえ、常に音ばかりに意識を集中していられる人間など多くは無く、その音を聞いていたのは極一部の人間だけであった。 「建物が崩れた……?ということは、そろそろ終わりかしら」 五感そのものは人間と大差は無いものの、多少鋭くはある。そのお陰で遠く響いた小さな音を聞き取ることに成功したエルザは、何が起きたかを悟って小さく呟いた。 音は、竜騎士隊の攻撃によって炎上した建物が崩壊する時のものだろう。 指揮官であるワルドを失ったアルビオンの竜騎士隊ではあるが、指揮系統が崩壊したというわけではない。こういう時のために副隊長は存在しているし、階級という上下関係がある。そのため、任務の遂行に支障は無く、タルブの村の制圧は順調な様であった。 「空さえ飛んでなければ、逃げ隠れしないで止めに行けるんだろうけど……」 言っておいて、詮無いことと肩を竦める。 竜騎士の恐ろしい所は、一撃離脱の戦法と竜の火力だ。空を縦横無尽に飛び回る生き物を仕留めることは容易ではなく、急降下と急上昇の合間に行われるブレスの攻撃は、地上を這うしかない人間達を簡単に炎の海に沈めることが出来る。 対空兵器なんて存在しないハルケギニアでは、地道に魔法で撃ち落すか、それとも大砲に散弾を詰めて面制圧をするか、あるいは、同じ空を戦場に出来る部隊で対抗するしかない。それにしても、魔法は滅多に当たらないだろうし、大砲は高価であるにも関わらず射程の問題から大した戦果を上げてはくれないだろう。結局の所、竜騎士と戦うなら同じ空で決着を付けるしかないというわけだ。 まったくもって、厄介な相手である。 地上に引き摺り下ろすことさえ出来れば、話は違ってくるのだが。 「余程の間抜けでもない限り、戦場で地上に降りてくる竜騎士なんて居やしないか」 ゴーレムに叩き潰された間抜けの存在なんて知るはずも無いエルザは、独り言を終えて膝を抱える少女の顔をちらりと覗き見る。 すん、と鼻を鳴らして、泣きながら籠に入れられた木苺を食べ続けるシエスタがそこに居た。 「アンタもいい加減泣き止みなさいよ。馬鹿みたいに心配してるときほど、心配されてる方は退屈持て余してバカ面晒してるもんよ?それに、アンタが何を思ってたって、別に何かが変わるわけじゃないでしょ」 「ひょれは、ひょうかもひれないけど……」 シエスタが、木苺を沢山詰めた口を動かして返事をする。 餌を頬袋に大量に詰めたリスのように頬を膨らます様は可愛らしいものだったが、内情は意外と切実だ。何せ、エルザが持ち込んだ薬の苦さが余りにも酷く、こうでもしないと泣いている理由が変わってしまうくらいなのだから。 視線を少し動かして村人達の様子に目を向ければ、皆が揃って何かしら甘いものや刺激の強い食べ物を口に詰め込んでいる姿が確認できる。水を飲んで苦さを洗い流そうにも、舌の上で苦味が張り付いて取れないのだ。偶然、ティファニアが配り歩いていた木苺の甘さで多少は誤魔化せることが判明してからというもの、自生している実を穫り尽くしそうな勢いでかき集めて、こうして実を食べまくっているのであった。 「……んー」 あっちでもぐもぐ、こっちでもぐもぐ。そうやって食べている姿ばかり見ていると、自分も同じ事をしなければならないのではないのかと思ってしまうのが集団心理。 触発されたエルザは、シエスタの傍らに置かれた籠から木苺を一つ掠め取り、それを口の中に放り込んで仄かな甘味に頬を緩めた。 だが、浮かんだ笑顔も長くは続かない。 「ぐすっ……、すん……」 「まだ泣くか」 激しく泣くわけではないが、目元の涙と鼻水は止まらないらしい。 よくもそこまで感情が長続きするものだと感心するが、親しい身内や想い人の危機ともなればそんなものかもしれない。ただ、どこか気まずそうな、それでいて申し訳なさそうな雰囲気も感じ取れるから、泣いている理由は心配ばかりでは無さそうであった。 シエスタが己の欲望に負けて、才人とジェシカを元に邪な妄想を抱いていた、などということがエルザに分かるはずもなく、疑惑の視線はすぐに消える。 このまま泣き虫に長く付き合う気になれないエルザは、適当に切り上げることを決めていた。 ジェシカの使った獣道を逆走してきたために話しかけられたのが縁の始まりだが、言ってしまえばそれだけの関係。耳障りな泣き声を聞き続ける理由にはならない。 このまま適当に理由をつけて逃げ出そう。 そう思ってエルザが立ち上がろうとすると、スカートが何かに引っ張られた。 「……スカートが脱げそうなんだけど」 「あ、ごめんなひゃい」 そう謝りはしたものの、シエスタはエルザのスカートを放そうとはしない。 これは、引き止められているのだろうか? 泣き腫らして後に落ち着いてくると、一人が寂しいと感じるときがある。誰かに傍に居てもらいたいのに、避難民達は皆忙しく動き回っている。だから、その場の流れとはいえ、傍に居てくれたエルザを放したくないのかもしれない。 エルザにしてみればいい迷惑なのだが、それを言って泣かしでもしたら、余計に面倒なことになる。 はぁ、と溜め息を付いて、エルザは再びシエスタの横に並んで座り込むと、また籠から木苺を取って口に放り込んだ。 「ねえ、ちょっと訊いてもいい?」 「ん?」 「サイトって、どういう奴?」 ラ・ロシェールで、ホル・ホース同様に異世界から来た人間であることはエルザも知っている。逆に言えば、それしか知らない。だから、あえて見知らぬ相手であるかのように、シエスタに問いかけていた。 ごくり、と頬を膨らませていた大量の実を無理矢理飲み込んだシエスタは、遠い空を見上げて記憶を掘り起こす。 ああ、これが恋する乙女の目って奴なのね。 才人のことを聞かれた瞬間、キラキラと輝きだしたシエスタの瞳を見て、早速エルザは聞く気を無くしていた。 「そうね……、とっても勇敢で、貴族様が相手でも一歩も引かず、メイジだって倒しちゃう凄い人よ」 「へえ、それは凄いわね」 「でしょ?ちょっと無鉄砲な所もあるけど、誠実っていうか、素直って言うか……」 「うんうん」 ぽっと頬を赤くして、ペラペラと喋るシエスタに、エルザが適当な相槌を打つ。 泣く子を黙らせるには、やはり興味のあることや好きなことをやらせるのが一番だ。想いを寄せている相手のことを語らせれば、年頃の女なんて一時間以上も平気で喋り続けるもの。 若干、邪魔臭さが増したものの、泣かれるよりはいいだろうというこの作戦は、早速効果を上げ始めていた。 「美味しそうにご飯を食べてる姿がとっても可愛いのよ?あっちこっちに手を出して、すぐ口の中をいっぱいにするの。それでもぐもぐって、一生懸命噛んでるところを見ると、小さい動物みたいで……」 「へぇ、なるほどなるほど」 「食べ終わると、必ず美味しかったって言ってくれて……、それがもう、マルトーさん達が気に入っちゃって気に入っちゃって。隠してたワインまでポンポン開けちゃうんだから。で、舞踏会なんかで出した食事なんて、こんなに美味しいものを捨てるなんて、ってお腹いっぱいなのに無理して食べて……、また気に入っちゃって、ミス・ヴァリエールの使い魔じゃなかったら俺の養子にしてるところだ!なんて言い出すのよ?それでね、それでね……」 「はぁん、へぇ、ふぅん」 「ミスタ・グラモンとの決闘だって、ボロボロになっても一歩も引かず、剣を握った瞬間、こう、風みたいに動いて、ずばー!ばさー!って、凄い早かったんだから!で、剣をこう突きつけて、貴族様に謝らせちゃったのよ。凄いでしょ?ね、ね!それから……」 「へえ。ほー。あー、はいはい」 想いを寄せている相手のことを語らせたら、年頃の女なんて一時間以上も平気で喋り続けるもの。 そう、そのことはあらかじめ分かっていた。分かっていたのに、実際に聞かされる身になると、それがどれだけ辛い立場なのか、エルザは理解していなかった。 自分の興味が多少でも重なれば、この苦痛も半減するのだろう。しかし、他人の好いた男のことなど心底どうでもいいエルザにとって、シエスタの口から次から次へと飛び出てくる惚気話は延々と鞭打ちされるのに匹敵する拷問であった。 「それでサイトさん、ご主人様のミス・ヴァリエールと喧嘩しちゃってね、わたし、これは神様が与えてくれたチャンスだと思ったの!サイトさんってば、普段からなんだかんだと言っていても、ミス・ヴァリエールのことばかり考えてて……。だから、これ以上二人の絆が深くなる前に、きちんと既成事実を作ってしっかり掴まえておこうと思って……」 「わかった!分かったから!アンタがサイトのことをどれだけ好きか、よーっく分かった!でも、なんか段々と生々しくなってきたし、この辺にしておきましょう!」 自分で話を誘導しておきながら、耐え切れなくなったエルザが強引に話の中断を切り出す。 このまま聞いていたら、一時間どころか日が暮れるまで続いてしまう。実際、適当に相槌を打っているだけで空に上っている太陽がいくらか傾いていた。 意気揚々と話していたシエスタは、まだ語り足りないのか、不満そうに表情を変える。それでも泣きながら木苺を食べていた時の陰鬱な雰囲気は消えて、いくらかすっきりとした顔で深く息を吐いていた。 「と、とりあえず、目的は達したわね……」 肩で息をしながら、エルザはシエスタの様子にニヤリと笑う。 泣き虫は旅立ち、代わりに幸せの青い鳥が飛び回っている。高揚した気分を抱えたシエスタが再び泣き出すことは、多分、無いだろう。 少し重い帽子を被り直して、気を取り直したエルザは、さっさとこの場を離れようと立ち上がった。 つん、と腰が後ろに引っ張られ、移動していた上半身は腰を基点に半回転して地面に落ちる。 擬音を並べるとしたら、ずるっ。べしゃ。だろうか。 顔面から地面に飛び込んだエルザは、見事にずり下がったスカートと端を掴むシエスタの姿を睨むと、何事も無かったかのように元の位置に戻ってスカートを直し、シエスタの胸倉を掴み上げた。 「なに?まだ、なんか用があるわけ?」 「えっと、そういうわけじゃないんだけど……。凄い下着つけてるのね?」 「ンなことはどうでもいいから。用件を言え」 ちら、とエルザの機嫌を伺うように上目遣いに見て、シエスタは少し恥ずかしそうに笑った。 「まだ、名前も聞いてなかったから」 「……ああ、そういえばそうだっけ」 状況に流されて放している間に、自己紹介をする機会を失っていたのを思い出す。 名前を言う必要は特に見当たらなかったが、コレも一つの縁だろう。人脈は築いておいて損は無い。多少の手間は将来への投資だと割り切るのが世の中を上手く生きるコツだ。 しかしながら、築いた縁も忘れられては意味が無い。折角名乗るのであれば、しっかりと記憶に焼きつかせておかなければ。 時間と共に草臥れていくドレスの皺を伸ばし、ぱん、と大きな音を立てて土汚れを払ったエルザは、少し考えて、くるっとその場で一回転した。 「わたしは美幼女戦士☆エルザちゃん!純な小さなお友達も汗ばんだ大きなお友達も、みんな仲良くしてね!」 舞い上がるスカート。ふわりと浮く金髪。そして、顔の横で作られた横向きのVサイン。最後にはウィンクまで飛ばしていた。 ハルケギニアには特撮ドラマも無ければ、漫画もアニメもヒーローショーも無い。いったい何処でこんなポーズを覚えてきたのか、何故か妙に様になる機敏な動きで決めたエルザは、ぽかん、と呆けたシエスタの反応に顔を真っ赤にすると、激しく咳き込んで言い直した。 「わたしの名前は、エルザよ。好きに呼んでいいわ。それと、今のは忘れて」 「あ、うん。わたしはシエスタ」 何か鬱憤でも溜まっていたのだろうかと首を傾げたシエスタは、自分が原因だなどと考えもしないでエルザと握手を交わす。こういうとき、深く追求せずにさらりと流すのが、気難しい貴族の子供を相手に働くメイドの必須技能であった。 「それで、エルザちゃんのお父さんとお母さんは……?」 「話はそこまでにして貰おう」 低い声が言葉を遮り、シエスタの細い首に銀色の光を添えた。 肩に落ちる赤い液体に悲鳴を上げることも出来ず、全身を硬直させるしかないシエスタの後方で、血塗れのワルドが右手に握ったレイピアを突きつけている。その体は満身創痍と言うに相応しく、左腕は肩の辺りで削げ落ち、右の足も引き摺るようにして立っていた。 「幼女とか言った瞬間に出てくるとか……、流石はロリペド子爵」 「……俺を覚えていたか、吸血鬼。だが、減らず口には気をつけることだな。お仲間や友人が死ぬことになるぞ?……勿論、貴様自身も、な」 エルザが背後で何かが動く気配を察したときには、既にもう一人のワルドがレイピアをエルザの後頭部に向けていた。 首の裏筋に向けられる冷たい視線に冷や汗を垂らし、そうと悟られないように横目に後ろの気配を探る。 「風の遍在ね……。他にもいるのかしら?」 「見ての通り、余裕がなのでね。これで精一杯だ」 言い終えると同時に、シエスタの背後に立つワルドが咳と一緒に血を吐いた。 なにかのカモフラージュに重傷を演出している、というわけではないらしい。本人のコピーを作る遍在が示すように、エルザの背後に立つワルドも左腕は無く、全身が傷だらけだ。 誤魔化しは無いと見ていいだろう。しかし、そうなると何を目的にこの場に現れたのかが分からなかった。 ワルドは、あと十分か二十分か、その程度放置するだけで失血死する。最も大きい傷口である左肩の部分は焼いて出血を止めているようだが、それ以外の部分の出血も酷いのだ。立っているだけで足下に血の滴が落ちて小さな水溜りが出来ていた。 さっさと味方に合流して治療を受ければいいものを、自分の命と引き換えにしてでも欲しいものがあるのか。それとも、ここに生き延びる為の手段が存在しているとでもいうのか。 どちらにしても、エルザやタルブの村人達にとって、厄介な存在であることに変わりはなさそうだった。 「吸血鬼……?エルザちゃん、どういう……」 首筋の冷たさに頬を引き攣らせて顔を真っ青にしたシエスタが、迷子の子供のようにこの理解出来ない状況の説明をエルザに求める。 だが、それに答えている余裕はエルザには無かった。ワルドの突きつけるレイピアと殺気は本物で、邪魔になると判断されれば、自分もシエスタも一瞬で命を落とすことを確信していたからだ。 ワルドも余計な話に付き合うつもりは無いらしい。 レイピアの刃をシエスタの首に押し付けて無理矢理黙らせると、また一度咳をして、何かを探すように周囲を見回した。 「そこのお前、何をしている!」 エルザたちの状況に気付いた村人の一人が、ワルドに向けて怒声を上げる。 それをきっかけに、ワルドの存在に気付いた村人達が大小さまざまな悲鳴を響かせた。 「少々五月蝿くなってきたが……、これは好都合だ」 最初に怒鳴った男が近付いて来ると、ワルドはシエスタの首筋から一瞬だけレイピアを離して、風の魔法の詠唱を一息で完成させる。 「エア・カッター」 注視しても見ることの出来ない風の刃が、男の首と胴を切り離した。 「イヤアアアアァァァァァァァッッ!!」 血の飛沫と一緒に足元に転がってきた男の頭部を直視したシエスタが、悲鳴を上げた。 連鎖的にあちこちで鼓膜を刺すような叫びが飛び出し、我先にと逃亡を始める。小さな子供は大人の足に蹴られ、転がり、力の無い女は男の腕に捻じ伏せられて地面に倒される。まだ体調の戻らない病人達を助けようとする手は少なく、多くは置き去りになっていた。 そんな中、散り散りになるタルブの村人達の間を縫って、前に出てくる人影がある。 年は二十を越えたばかりか。長い黒髪の幼い顔立ちをした素朴そうな女性だ。それが、顔をぐちゃぐちゃにして、もはや何も反応を示さない亡骸にしがみ付いた。 繰り返される男の名前。 女性は、男の妻であった。 「静まれ!逆らわなければ生かしておいてやる!それとも、この男のようになりたいか!」 死者に縋る女に目もくれず、ワルドは空に向けて光を放つ。 “ライト”の魔法を応用した閃光弾だ。 空がオレンジ色に染まり、光の欠片が木々の頭上でキラキラと輝く。それを目印に、タルブの村を焼いていた竜騎士隊が集まり始めた。 「女を……、エルフの女を連れて来い!ここに居るのだろう!?」 「アンタ、なんでティファニアを……!?」 事前に示し合わせたように竜騎士隊が森の周囲を焼き、逃げ場を失った村人達が怯えながらワルドを見る中、エルザは背後の殺気に当てられながらも疑問を口にする。 それに、ワルドはニタリと粘つくような笑みを浮かべ、ほう、と息を零した。 「やはり居るようだな?サウスゴータの娘がモード大公の娘を保護している事は知っていたから、もしやと思ったが……」 鎌をかけられたとエルザが気付き、口を抑えた時にはもう遅かった。 ティファニアの存在に確証を得たワルドは、シエスタの首にレイピアを押し付け、要求を告げる。 「ティファニアという、エルフの女を連れて来い!耳は長く、金髪の若い女だ!早くしろ!」 ワルドが声を張り上げると、様子見をしていた村人達が一斉に動き出して、病人達の並ぶ一角へと殺到した。 すぐに悲鳴が聞こえてくる。声質からして、間違いなくティファニアのものだ。 「……もうすぐ死ぬくせに、何が狙いなわけ?」 恐怖に取り付かれた民衆を制するには強力な力が要る。今の自分にはティファニアを守る術が無いことを知っているがために、エルザは服を強く握り締めて憤りを耐え、ワルドから情報を引き出そうと問いかける。 しかし、そんな行動すら狙っていたように、ワルドは見下した目をエルザに向けると、逆に質問をぶつけた。 「我慢強いが、感情的でもある。少なくとも、友人や知人を傷付けられることを簡単に許容できるタイプではないようだな?」 「だからどうだって言うの?」 努めて冷静に振舞い、相手に自分の情報を与えまいと仕草の一つにすら気をつける。 そんなエルザの努力が、ワルドの中にあった疑いを確証に変えていた。 「生きているな?忌々しく、認め難い事実だが……!ホル・ホースとか言う傭兵と、ウェールズ王子の二人は!」 「……!」 一瞬強張ったエルザの顔に、ワルドは笑みを深めた。 「クッ、ハハハ、分かりやすい反応だ……!決戦の後に見つけた魔法人形の件で、疑念が生まれた。サウスゴータの丘に調査隊を向けたが、死体は回収されず、埋められた形跡も無い。この手に残った肉を貫いた感触は生存の可能性を否定していたが、時折聞く生存を臭わせる噂話が気にかかったのだよ。そこで、昔読んだ本の記述を思い出した……」 ティファニアの悲鳴と子供の泣き声、それを覆い尽くす様な罵声と悪態。 近付いてきた喧騒にちらりと目を向ければ、数人の大人に両手を引き摺られたティファニアが、亡き夫に縋りつく女性の隣に放り出された所だった。 「先住の魔法には、瀕死の者さえ瞬く間に癒す力があるそうじゃないか?あの場には、それを使える人間、いや、エルフが居た!そう、だからこそ、生きていたからこそッ、お前は俺を見ても冷静で居られるのだ!違うか吸血鬼ッ!?」 「ティファニアは、そんな魔法使えないわ!」 「いいや、使えるね!あのエルフの母親が強力な治癒の力を持っていたことは、使用人の残した手記に書かれていた!それに、娘も先住魔法を使うことは、既に知られているのだよ。始祖の残した魔法には無い、記憶を削る魔法を使うのだろう?」 何処まで執念深く調べたのか。 真相にまで辿り着いてこそ居ないものの、そこに至る材料は揃っている。ただ、ティファニアの力の根幹について誤解があるだけだ。 「この人殺し!アンタのせいで!夫を……、あの人を返してよ!」 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」 夫の亡骸に縋り付いていた女性が、今はティファニアを責め立てている。まったく非の無い筈のティファニアは、それを甘んじて受け、ただ謝罪を繰り返すのみ。 周囲の村人達は悲壮な表情を浮かべながらも、幾人かはエルフを村に受け入れたことが過ちだったと賛成に回った人々を口々に罵り、箍の外れた人間はティファニアへ石を投げつけようとしていた。 「あっちの娘は吸血鬼らしいぞ」 「あの見た目で騙して、俺たちを食うつもりだったのか?」 「さっきの薬も偽物かもしれない!」 「そうだ、あの苦さは毒かも……」 矛先が自分にも向けられ始めたことにエルザは表情を苦々しいものに変え、苛立ちと物哀しさに混じった感情を腹の底に押し込める。 故郷を追われ、蔓延する病に精神的に追い詰められていた村人達が、こうして烏合の衆と化すことは想像するに難しくない。見知らぬ相手、特に亜人に対して同情するなんて事は普通はありえないのだ。だから、これは予測の範疇。誤解は後で解けばいいし、どうせ根無し草なのだから、村一つに拘る理由も無い。 今はただワルドの動向に注視し、生き残ることがエルザの全てであった。 「エルフ、こっちに来い!」 血の混じった唾を吐いて、ワルドがティファニアを呼ぶ。 元々気の弱いティファニアは、その声に怯えた様子を見せると、助けを求めるように村人達の集う背後を見て、頭に小石をぶつけられた。 「きぅっ……、痛い」 痛みの走る部分を押さえてふらふらと歩き出したティファニアは、ワルドの前に立って緊張した様子で血に濡れたワルドの顔を見詰める。 村人達は緊張した面持ちで様子を眺め、先程まで夫に縋り付いていた女性は胸を押さえて顔を俯かせていた。 「さあ、俺を先住の魔法で治療しろ。このまま戻って生きる屍に変えられるわけにはいかんからな」 レイピアをシエスタの喉元から離さず、ティファニアに詰め寄ったワルドは治療を急かす。 それに対し、ティファニアは首を振って、小刻みに震える体の前で祈るように両手を重ねた。 「わたし、使えません。先住の魔法なんて……」 「下らない言い訳を聞く気は無い」 言い終える前に、ワルドの遍在が握るレイピアの先端が白い肌を切り裂いた。 「っああああぁ!このっ、やりやがったわね!!」 背後から足首を斬られたエルザが地面に転がり、痛みに声を嗄らしてワルドを睨む。 踵の上、アキレス腱の部分が綺麗に二つに分かれ、大量に出血を始めていた。 「な、なんてことをするの!?」 「貴様がさっさと治療すれば、こうはならなかった。次は、この娘の首を掻っ切るぞ?」 白刃がシエスタの喉を浅く裂き、走る痛みにシエスタが呻きに似た悲鳴を漏らした。 「だから、出来ないの!もう指輪の力は残っていないのね!」 「指輪?……指輪だと!?見せろ!!」 シエスタを押し退けて、ワルドがティファニアの指を凝視する。 左手の中指に嵌った台座だけを飾った指輪。ワルドの記憶にあるそれは台座に美しい水色の石が乗っていたが、それを除けば同じものと思ってしまうほどに酷似していた。 「まさか……、クロムウェル!」