約 1,871,622 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/282.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 絶好の洗濯日和。ヴィオラートは元の世界の習慣どおり朝のうちに洗濯を済ませてしまおうと、フライングボードに乗り、空の上から洗い場の目星をつける。 「おっせんたく~、おっせんたく~。」 歌いながら降り立ったそこには先客がいたが、まあ、多分メイジだから驚きはしないだろう。そう思っていたヴィオラートだったが、しかし、彼女は黒檀のような美しい瞳を驚愕に見開き、 「こ、このような所に貴族様が…あ、あの、洗い物なら私がしますから…」 ヴィオラートに、それだけで滑稽に見えてくるほど頭を下げていた。何回も、何回も。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師3~ 洗濯物を洗いながら、二人はとりとめのない話を始めた。 「貴族様では…ないんですか?」 彼女はシエスタ。この学院で奉公しているメイドだという。 「うーん、この世界の貴族様とかよくわからないけど、あたしはヴィオラート。錬金術師だよ。」 「れんきんじゅつしさん、ですか?」 何かひっかかっているような、不明瞭な表情を見せるシエスタ。 「うん、ルイズちゃんの使い魔、ってことになってるみたいだね。」 「あ、ミス・ヴァリエールの使い魔さん?」 「知ってるの?」 「ええ。ミス・ヴァリエールが平民を召喚したって、噂になってますわ。」 くすりと笑うと、何かを思い出したのか、ぽんと手を打つ。 「あ、そうだ。うちの祖母が、話して聞かせてくれていましたわ。れんきんじゅつしさんのこと。」 「え、あたし以外にも錬金術師が?」 「いえ、別の世界で、れんきんじゅつしさんと一緒に旅をしたと。昔の話をする時の祖母はいつも楽しそうでした。」 シエスタは遠くを見つめながら、亡き祖母の名誉が守られたことに感謝する。 祖母のれんきんじゅつしさんは、本当にいたんだと。 「とっても強かったんですよ。引退するまで、ずっと村を守っていたって聞いてます。」 シエスタと同じ黒目黒髪だったこと。古代竜を倒した話を事あるごとに聞かせてくれたこと。そして、錬金術師という人を探していたということ。 「もしかしたら、ヴィオラートさんと同じ世界から来たのかもしれませんね。」 洗濯物をすすぎながら、井戸端会議の花を咲かせていると、 「きゃ…」 水で濡れた地面がモコモコと盛り上がり、見たこともないような巨大なモグラが顔を出した。 「わあ、かわいい! あなたも誰かの使い魔なの?」 モグラはきゅーきゅー鼻を鳴らすと、ヴィオラートの秘密バッグのにおいをかぎ始めた。 何かが不思議なのだろうか、時折首をかしげてヴィオラートの様子をうかがっている。 「よしよし。ゼッテルの匂いが好きなのかな?」 ヴィオラートは、優しくモグラの頭をなでてみた。 なでられると満足したのか、モグラは鼻をひくひくさせながら土の中に消える。 「へ、平気なんですか?」 「大丈夫だよ、怖くなかったし、危ない魔物さんは見ればわかるしね。」 「…」 それを聞いたシエスタは、ヴィオラートを眩しがるような笑みを浮かべる。 「ヴィオラートさんはすごいですね。やっぱり、私とは…違いますよ。」 「あたしは、貴族か平民か、って言われると…生粋の平民だと思うんだけどなあ。」 気の抜けたようなヴィオラートの表情に安堵を憶えながら、 「…ヴィオラートさんは、貴族様よりもっと、貴族様ですね。」 シエスタは、自分の好感情を、頭に浮かんだ原石のままヴィオラートに伝える。 「なんだかそこまで言われると照れちゃうなあ。もー。」 「ふふっ、何を言ってるのか自分でもわかりません。でも、私はそう思います。」 二人とも互いに懐かしい何かを見つけたような、心地よい時間が流れてゆく。 シエスタは最後まで、ヴィオラートをただの平民とは認めてくれなかったけれども。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9192.html
前ページ次ページ暗の使い魔 太陽は西に沈みかけ、空が茜色に美しく染まる。煌く星々がその空に顔を覗かせようとしていた。 そんな刻限、モット伯の屋敷へと続く道を、一つの奇妙な物体が疾走していた。 薄茶色に汚れた球体が、土埃を舞い上げながら高速回転する。この奇妙な物体こそ、黒田官兵衛の変じた姿。 その速度たるや、並みの馬では追いつけぬ程であった。 『災い転じて』。黒田官兵衛が得意とする奥義の一つである。 繋がれた鉄球にしがみ付き、共に転がる事で馬以上の速度と突進力を得る技である。 その猛牛のような突撃を止める手立ては無いが。 「ありゃあっ!」 木や壁に激突すると、即座に身動きが取れなくなってしまう欠点があった。 どしいん、と官兵衛がカーブを曲がりきれず木に激突する。鉄球から投げ出された身体が、激突した木に逆さに貼り付く。 バンザイした状態の、なんとも間抜けな格好のまま、官兵衛はへなへなと地面に崩れ落ちた。 「……時間が無い」 官兵衛は即座に起き上がり、鉄球にしがみ付く。そして再び鉄球と共に高速回転し疾走した。 官兵衛は今、一直線にモット伯の館を目指していた。 暗の使い魔 第九話 『メイド奪還戦』 「全く、あの使い魔ったら、一体何処に行ったのかしら。」 一方学院では、自室から忽然と姿を消した官兵衛をルイズが探していた。 あの後、ルイズたちはその熱意をくまれ、見事探索隊への志願を認められたのだった。 最初は教師一同学生を送り出す事に難色を示していたが、彼女らが敵を見ている事。 彼女ら自身(ルイズを除く)が、折り紙つきの実力者であることを理由に、渋々承諾された。 また、コルベールなどは、官兵衛の事に対してしきりに何かを訴えようと興奮していたが、 オールド・オスマンに口止めされていた。 二人の様子が妙に引っかかったルイズであったが、ひとまずこれでよしと、官兵衛を連れに部屋へと戻った訳である。 しかし戻ってみれば、部屋はもぬけの空であり、置手紙の一つも無い。 もっとも官兵衛はまだこちらの文字を習得していないので、仕方の無いことであったが。 そのためルイズは憤慨し、今に至る訳である。 「この時間だし食堂にでもいるかしら?」 ルイズは急ぎアルヴィーズの食堂へと向かった。 「ああモンモランシー、いつ見ても君は美しい!例えるならラグドリアンの湖面に浮かぶ精霊の輝きのように!」 「ふーん、そのセリフはもう何回目かしら?」 「ええと、そうだなそれじゃあ――」 ギーシュ・ド・グラモンは、食堂で恋人のモンモランシーと優雅に夕食を楽しんでいた。 歯の浮くようなセリフをだらだらと並べ立てるギーシュ。 その言葉に対してツンと澄ましたまま、あれこれ文句をつけるモンモランシー。 「(はぁ。彼女の機嫌を取るのも楽じゃないよ……)」 心の中でごちるギーシュ。 そんな彼の元に、一人の男が現れたのは、ルイズが部屋に戻る30分程前の事だった。 「お、丁度いい。おい金髪の!」 食堂で食事をしているギーシュを見つけるやいなや、突如官兵衛はギーシュに詰め寄った。 「なっ、君は!ルイズの使い魔の……えーっと」 「官兵衛だ」 「カンベエ、そんな名前だったね。一体何の用かね?僕らは見ての通り忙しいんだ。」 ギーシュは困った顔をしながら、官兵衛を見やった。だが官兵衛は意にも介さず続ける。 「悪いが小生も急ぎでね。ちょいとお前さんに尋ねたいことがある。モット伯ってのの館にはどうやって行けばいい?」 「モット伯だって?」 ギーシュが突如出た人物の名に首を傾げた。 「別に教えてもいいが、一体モット伯爵に何の用だい?」 「答える必要は無いが、まあヤボ用だ」 あっけらかんとした様子で答える官兵衛。 ギーシュは怪しんだが、このままここに居座られても困る。 そう思うと、官兵衛に大まかな方角と道順を教えた。 「成程な、助かる」 「いや、いいとも。これでいいかい?」 自分の役目は終わっただろうとばかりに言うギーシュ、しかし。 「すまん、最後に一つ」 「まだ何かあるのかい?」 やれやれといった様子で、ギーシュは官兵衛に聞いた。 「ああ、確認しておきたい事があってな。そのモット伯爵ってのは――」 「それがさっきなのね?」 今度はルイズに官兵衛の事を問いたざされたギーシュ。 「そうだよ、まだそんなに時間は経っていない筈だ」 目の前のテーブルで不機嫌そうにこちらを睨みつけるモンモランシーに、 ギーシュは冷や汗を垂らしながらルイズに受け応えしていた。 「あのバカ使い魔!」 ルイズはそういうと、官兵衛と同じように急いで後を追っていった。 一体何の騒ぎなんだろうか。気にかかるギーシュであったが、今は目の前の彼女の機嫌を取り戻す事が先決である。 「すまないモンモランシー、二度も邪魔が入ったね。それで、どこまで話したかな。 そうそう!火竜山脈に住まう極楽鳥の話だ――」 彼女に向き直ると、ギーシュは再び歯の浮くようなセリフを交えた無駄話を披露し始めた。 「全くあのバカ犬ったらなに考えてるのよ!」 ルイズはモット伯邸へと続く道を馬で疾走していた。 ルイズは、官兵衛が一足先にモット伯の館に出向いてフーケを迎え撃とうとしている。そうに違いないと考えていた。 官兵衛がギーシュの元に来てから30分が経過している。まだ館には到着していないとルイズは踏んだ。 「間に合ってよ」 ルイズはギリと歯を噛み締めながら、勢い良く馬を駆けさせた。 モット伯爵の館の前にて、官兵衛は泥汚れを最低限手で叩き落としながら、館を見据えていた。 「ふぅ、やっと着いたか。全身泥まみれだ」 モット伯爵の館は、王宮勅使の館だけあって、見渡す限りの豪邸であった。 門から館までは、300メイルから400メイル程もある。広々とした庭園を物々しい柵が囲っている。 甲冑を着込み槍を携えた衛士達が辺りを見回り、そして庭園には、背中に悪魔のような羽を生やした猟犬が無数に放たれている。 フーケ騒ぎの為か、警備はかなり厳重にされているようだった。 「で、着いたはいいが……どうしよう」 館に近い位置にある林の陰に隠れながら、官兵衛はシエスタ奪還の為の策を講じた。 まず、自分のこの成りである。この枷と鉄球では、シエスタを取り戻す交渉は難しいだろう。 ただでさえフーケ騒ぎで物々しい警備の中、あからさまに怪しい自分など門前払いだ。 交渉材料が無い訳ではなかったが、モット伯爵に会う事は現実的ではない。 「いっそのこと強行突破してシエスタを掻っ攫うか?」 「いやいやいや、それじゃあ尚更ダメだろうぜ、相棒」 突如、官兵衛の背後からカチャカチャと唾鳴り音とともに声がした。 官兵衛の背中に背負われたデルフリンガーが、独りでに鞘から抜け出て喋り始めたのだ。 「相手は貴族のお偉いさんだ。強引なマネしたらすぐに手が回るって。 そうなったら相棒はおろかあのメイドの娘っ子だってどこでも暮らしちゃあいけねぇよ。 今回の目的はあの娘っ子を連れ戻す事だろう?もっと慎重にいかにゃあ」 「ぐっ、小生だってそれくらい考えてるわっ」 やかましく喋るデルフリンガーをキッと睨みつける官兵衛。が、やがて官兵衛は肩を落とすと。 「やれやれ、仕方無い」 静かに木陰から身を表し、のしのしとモット伯爵邸の正門へと歩き出した。 「お、どうしたい相棒?とうとう万策尽きて投降でもすんのかい?」 「誰がするかっ。そもそも小生は投降する理由も覚えもないわっ。」 デルフの戯言に、官兵衛はニヤリと唇の端を歪ませ静かに答える。 「まあ丁度いい。小生の培ってきたこの頭の冴えってやつを、お前さんにみせてやる。」 クックックと不敵に笑む官兵衛。 「ほほう、なにか考えがあるんだな?相棒」 「おうとも!」 その瞳に満々の自信をたたえ、彼は再び歩き出す。重厚に構えられた門扉に向かって。 と、その時であった。 「ぐぎゃあああああああっ!!」 突如、モット伯爵邸の敷地内に、異様な叫び声が響き渡った。 「なっ、なんだ!?」 「何の騒ぎだ一体!?」 辺りを警備していた衛士に緊張が走る。悪魔の猟犬が次々に吼えたてあたりは騒然となった。 何があった、悲鳴の元はどこだだの、数のみで集められた衛士達は口々に騒ぎ立てる。 そして次の瞬間。 「敵襲ーーッ!!敷地内に侵入者だーーッ!!」 怒号が発せられ、衛士達は一斉に駆け出した。目指すは声の方角、屋敷の左手方向であった。 「侵入者は何人だ?メイジか?」 「わからない!とにかく現場に急行してくれ!」 一人また一人と衛士達がいずこへと走り去る。そんな様子を、官兵衛は鉄柵の向こう側からひっそりと窺っていた。 デルフがこそこそと唾を鳴らして喋る。 「なにやら、穏やかじゃないね相棒」 「ああ」 官兵衛がキョロキョロと辺りを確認する。 「この厳戒態勢の中、進入しようなんて輩が居るとすれば……」 「ああ、よっぽどの自信家か大馬鹿か、あるいは『本人』か、だねぇ。相棒はどれだい?」 「とりあえず大馬鹿はご遠慮願いたいねぇ」 デルフの問いかけに、官兵衛は薄く笑いながら頷いた。 「まあ相棒、なんにせよコレは」 「ああ、そうだな」 じゃらりと鎖が持ち上がる。ぎしりと木枷を軋ませながら、官兵衛は上体を後方に捻った。 そして鉄球を手短に構えると。 「機が巡ってきた!」 そう叫びながら、黒金の塊を鉄柵に叩きつけた。 次の瞬間、ガシインと金属音を響かせ、高さ数メイルはあろう鉄柵の一部が吹き飛んだ。 「……なあ相棒」 「あん?どうした?」 崩れた柵を飛び越え、敷地内に降り立った官兵衛にデルフが言う。 「混乱に乗じようってのはわかるんだがなぁ」 やれやれと口を開く。 「こんだけド派手にやっちゃあ、すぐに衛士は戻ってくるぜ?」 「ああ、そうだな」 それがどうした、とばかりに官兵衛は首を捻る。 騒ぎを聞きつけ、衛士の一団らしき輩が掛けてくるのが見えた。 「まあ心配するな……」 官兵衛は鉄球を手繰り寄せ、目前にひょいと浮かせると。 「少なからず敵さんは薙ぎ倒す予定だからな!」 鉄球にむかって強烈なドロップキックを放った。鉄塊が、まるで砲弾のごとく一直線に一団に向かって飛んだ。 衛士の一団は、予想だにしない攻撃に対応できず、真正面から鉄球を喰らい吹き飛んだ。 その様は、ボウリングのピンを散らすかのごとく、敵を四散させた。 「まあ、気絶で済むようには努力するさ」 地面に倒れ伏した衛士達を眺めながら呟くと、官兵衛は即座に館へと駆け出した。 官兵衛が館への突入を敢行する頃、モット伯は、執務室でペンを片手に書類をしたためていた。 「どうだ、仕事には慣れたか?」 自室の机に肘をつきながら、モット伯は目の前に立つメイド、シエスタに語りかけた。 彼女は、小刻みにその肩を震わせ小さく、はいと呟く。 モット伯は満足そうに頷くと、立ち上がりシエスタの傍に寄る。 「そうか、それは何よりだ。だがあまり無理はせぬように、な」 シエスタの背後に立ちながら、モット伯は彼女の耳元で静かに囁く。 「私はお前をただの雑用の為に雇ったわけではない。わかるだろう?」 彼女の肩に手を置き、身体を密着させる。そのまま彼女の匂いを愉しむかのごとく、鼻先をうなじへと近づける。 シエスタの背筋に悪寒が走った。ぞわぞわと生理的嫌悪を催す、モット伯の行動。 「あ、あの……」 嫌とも言えず、離れる事も適わず。シエスタは恐怖と悲しみに包まれながらも、じっとその場に佇んでいた。 なぜ、平民は貴族に逆らえないのだろう。なぜ、こうも嫌な思いを重ねなければならないのだろう。 「(わたしに、あの人のような勇気が一片でもあれば、こんな思いをしなくてもすんだのかな?)」 シエスタは、ここに来る前に出会った男性の事を思い出していた。 力強く優しく、何があってもめげずに逞しい。彼のように生きられたらどんなに素敵だろうか。 泣きたくなる気持ちを抑え、シエスタはぐっと拳を握り締めた。 「(会いたい。私、またカンベエさんに会いたい……)」 それはもう適わないと知りつつも、彼女は思いを馳せる。とめどなく感情があふれ出てくる。 そんなシエスタの心情を知ってか知らずか、次にモット伯はその身体に手を廻し、抱きすくめようとしてきた。 「(嫌ッ!カンベエさんっ!!)」 感情が昂ぶる。脳裏に彼の姿が浮かんだとき、彼女は咄嗟にその体を動かした。 「や!おやめ下さい……ッ!」 力任せにモット伯の腕を振りほどくシエスタ。 そのまま一歩二歩と伯爵と距離をとり、向き合う。自らの腕で守るように、彼女は自分の身体を抱きすくめていた。 動悸がし、呼吸が乱れる。 「(わ、私一体……!)」 ハッとして目の前の状況を見やる。 そこには彼女同様、呆気にとられ立ちすくむモット伯の姿があった。 即座に状況を理解し、青ざめるシエスタ。それとは対照的に、見る見る顔を赤らめ、怒りを露にするモット伯。 「貴様……なにを嫌がる?」 「あ……」 青ざめた表情のまま、シエスタは唇を震わせていた。自分は何て事をしてしまったのか、と。 「貴様の、主は誰だ?」 怒りに顔を歪ませながらも、静かな口調で語りかけるモット伯。彼は、カツンカツンと一歩ずつ詰め寄る。 それにあわせ、怯えたように、一歩一歩と後ろへと下がるシエスタ。そんな彼女の様子に、彼は益々表情を歪ませた。 「貴様の、雇い主は、誰だと聞いている」 ゆっくりと、噛み締めるかのように言葉を口にするモット伯。その手は固く握り締められ、微かに震えている。 「何だ、その態度は。何だ、その表情は。この私を拒絶するのか?平民の、ちっぽけな小娘が」 「い、いえ私は……」 彼女の言葉は、モット伯の机を叩く拳に遮られた。ドンと乾いた木の音が響き、シエスタは肩を震わせた。 モット伯から逃げるように後ずさる彼女の背中に、固い壁の感触が触れた。 シエスタは狭い執務室の中、逃げ場も無く壁際に追い詰められのだ。 モット伯は静かに机の上の杖を取り、傍にあったマントを羽織った。 貴族の威厳を示すようなその一連の行動の後、彼は、スッとシエスタにその杖先を向けた。 「貴様には『教育』が必要そうだな」 口調も表情も変えず、モット伯は威圧的に呟いた。恐怖で、シエスタの瞳が大きく開かれる。 「お……お、許し、を……」 シエスタの口から、絞り出るように言葉が紡がれる。体を大きく震わせ、彼女は精一杯の許しをこうた。 しかしそれに答えず、モット伯は杖を向け続ける。睨みを利かせ、今にでも魔法を放てるとばかりに。 もはやこれまで、とシエスタが観念した、その時であった。 「伯爵様!大変でございます!」 激しく扉が叩かれ、執事風の男が部屋に駆け込んできた。モット伯が声を荒げる。 「何事だ!」 モット伯は、苛立ちを隠そうともせずに男を睨みつけた。 「侵入者でございます!黒いローブに身を包んだ妙な男が館内に!」 「なんだと?」 シエスタがハッと顔を上げた。 「土くれめ、とうとう現れたか!ええい!外の衛兵はなにをやっておる!」 「はっそれが未だ呼びかけに応じず……」 「これだから平民は当てにならん!」 モットは執事の男に怒鳴り散らしながら廊下を歩く。 「旦那様、王宮衛士隊への連絡は本当によろしいので?」 「くどい!たかが盗賊など、私一人で十分だ!」 そういうと、モットは執事の男を置いて、侵入者の現れた方角へと進んでいった。 「どういう事だ、こりゃ一体」 官兵衛は、館に入るやいなや、目の前の惨状に、開いた口が塞がらなかった。 彼の計画では、ドサクサに紛れてモット伯爵に謁見する予定であった。 そしてその上で、自分の持つ交渉材料でシエスタを開放する。そんな腹積もりであった。 しかし館に入ってみればどうであろう。 館の壁一面にベットリとこびりついた血痕。 エントランス中には、斬り殺された多数の衛士の死体が転がっているではないか。 あるものは首をはねられ。あるものは肩から胴に掛けて斜めにバッサリと切り裂かれ、見るも無残な光景であった。 「こいつは……」 「尋常じゃねえ奴が入り込んだみてぇだな、相棒」 デルフの言葉に、官兵衛は再び駆け出した。兎に角このままではモット伯もおろか、シエスタも危ない。 「くそっ。急かせてくれる!全く!」 官兵衛は、死体から続く血痕の足跡を辿った。 広い館内を駆けずり回る。ゼイゼイと息を切らしながら、官兵衛は足跡の主を追った。 『災い転じて』を使えば、手早く追いつけそうであったが、狭い廊下内で扱うにはコントロールが難しく扱いづらい。 こういった室内では向かなかった。 いくつもの廊下と曲がり角を通り過ぎた頃、足跡がある部屋の前で途切れているのが見えた。 「相棒!その部屋だ!」 「おうよ」 重厚な作りの扉であり、何かしら特別な部屋であることが見て取れる。 そして耳を澄ませば、中から物の壊れる音と、人の怒鳴り声が響くのが聞こえた。 すでに何かしらの戦闘が繰り広げられてるようであった。 即座に鉄球で扉をぶち破り、中へと転がり込む。 するとそこでは、黒ずくめのローブに身を包んだ男と、刺繍の入ったマントに杖を構えた貴族が机を挟んで対峙していた。 恐らくは、この貴族の男がモット伯であろう。そして黒ずくめの男が、館内を荒らした張本人。 黒ずくめの男は、何やら筒状のものを抱えており、逃げ出す隙を窺っているようであった。 官兵衛に気がついた貴族の男が、杖を官兵衛へと向ける。 「なんだ貴様は!」 すると一瞬の隙をついて、黒ずくめの男が手にした物を置き、近くの窓へと駆け出した。 「おのれ!逃げるか!」 杖先から水の鞭が男へと伸びる。しかし、寸でのところで狙いがそれ、男のローブを掠っただけであった。 男は身を屈めると、窓をぶち破り、外へと躍り出る。そして、そのまま夜の闇の中へと消えていった。 後に残ったのは、官兵衛とモット伯の二人であった。 「くそっ。土くれめ」 モット伯が忌々しげに、破られた窓から外を見やった。それからゆっくりと官兵衛に向き直り、再び杖を向けた。 「貴様は一体何だ!ヤツの仲間か!」 「ちょっと待て、小生は今の奴とは関係ない。そうだな……」 官兵衛はやや思考の後、思いついたようにデタラメを口にした。 「お前さん達を助けに来たんだよ」 「何?」 モット伯が顔をしかめる。何のことだ、といった風に官兵衛の言葉を待った。 「そうさ、用があって館を訪れたんだが、怪しい人影が入っていくのを見た。 こりゃまずい、と思い駆け込んでみればこの惨状。とっさにお前さんの元に駆けつけたわけだ。」 それを聞いて、モット伯は眉を吊り上げた。妙な事を言う男だ、といった顔である。 「そうか、それはご苦労だったな。で、お前自身は何者だ?」 警戒を解く様子も無く、彼は杖を構えたままであった。呪文の詠唱を済ませ、いつでも魔法は放てるとばかりだ。 しかし、官兵衛は平然とした様子である。静かにモット伯を見据え、官兵衛は驚愕の台詞を口にした。 「小生は、ミス・ヴァリエールが使い魔、黒田官兵衛。魔法学院より使者として参った」 「ヴァリエール?魔法学院だと!」 モット伯が驚き目を見開いた。 「(この男が使者だと?)」 モット伯は疑いの眼差しを強めた。 どうみても囚人然とした男ではないか。服は薄汚れ、醜き手枷をはめられ、身なりも整っていない。 彼は信じられないといった顔で、官兵衛を問い詰めた。 「貴様のような使者がいるか!どうみてもただの囚人ではないか!」 モット伯の当然の指摘である。官兵衛は仕方なさげに口にする。 「すまんね、あいにく主人の酔狂でこんな格好をさせられている。なんたって小生の主はヴァリエール家の三女だからなぁ」 「ぬぅ?」 それを聞いてモット伯は眉をひそめた。ヴァリエール家の三女といえば良くも悪くも有名である。 曰く、魔法の仕えない落ちこぼれ。曰く、貴族の例に漏れずプライドが高く、気性も荒い。 そんな娘であれば自分の従者への扱いなど目に見えているだろう。そう言われれば納得できないでもない。しかし―― 「使者だというなら、身分を明かす物がある筈だ。それを差し出せ」 果たして、こんなぞんざいな扱いをされる男が使者として立てられるだろうか? 少なくとももう少しマシな者を使者として選ぶはずだ。モット伯はそう考え、官兵衛に使者としての証を求めた。 しかし勿論、官兵衛はそんなものは持ち合わせていない。 彼が此方に来てから、身分を示すような持ち物は何一つ持たされていなかった。しかしそれでも官兵衛は、臆する事は無い。 「残念だが小生はただの使い魔だ。身分を証明するものは持ち合わせていない。まあ、このルーンくらいだな」 官兵衛が左腕のルーンを掲げて見せるが、モット伯はそれを鼻で笑って返した。 「それ見た事か!このみすぼらしい囚人め。ええい!衛兵は何をしておる!早くこの男を取り押さえろ!」 「だが!」 それでも官兵衛が力強く言い放つ。 「小生は今宵特別な品を持って此方にやって来た。これは我が主人から託された物」 そういうと、官兵衛は懐から、ある物を取り出した。それは…… 「『召喚されし書物』ゲルマニアの名家からヴァリエール嬢へ譲り受けし品」 「なっ!」 モット伯が驚きのあまり杖を落とした。 官兵衛が取り出したそれは、昨晩キュルケから受け取った、家宝の本であった。 震える手で杖を拾いながら、モット伯は官兵衛が手にした本に釘付けになった。 「『召喚されし書物』だと?あのゲルマニアのフォン・ツェルプストーの家宝がなぜここにある!騙されんぞ!」 「疑うんなら、見てみるといい。」 官兵衛は、書物をすっと目前に差し出した。 モット伯はよれよれと官兵衛に近づき、広げられた書に目を通す。 「ふ、ふん!どうせ偽物に決まっておる。偽物に、ニ、ニセ……こ、これは!」 それは実に奇怪な書物であった。本の形式はハルケギニアにあるような形ではない。 それは、遥か東方の地の書物。いわゆる巻物の形式を取っており、そこには見たことも無い文字列がずらりと並んでいた。 フォンツェルプストー家の家宝として名高い異国の書物。 その実物に関する情報を、書物コレクターであるモット伯が、知らない筈は無かった。 そして書の端には、丁寧にもツェルプストー所有の証である魔法の印が押されていた。 モット伯は書を眺める内に、それが本物である事に確信を得ていった。 官兵衛の唇がニヤリと持ち上がる。 官兵衛はパタンと書物を閉じると、モット伯に向き直った。 「こ、これを私に託すというのか!何を企んでおる!何が目的だ!」 声を震わせ、官兵衛に食って掛かるモット伯。奪い取ろうとするモット伯からひょいと書物を遠ざける。 官兵衛は、モット伯をまあまあと宥めた 「まあ落ち着くんだな。確かにこれを唯で差し上げるわけにはいかない。その交渉のために小生はやってきたんだからな」 官兵衛はもったいぶってモット伯に向き合う。 「ふん、一体どんな条件だと言うのだ」 モット伯が興味深々に官兵衛に尋ねた、しかし官兵衛は。 「といっても小生、この成りだ。先程も言ったがとても使者として信じてもらえる訳が無い。 身分を証明するのはこの書物くらいだからな」 「ええい!何を言っている」 官兵衛の言葉に、モット伯は苛立った。そして口をついてある言葉を口走った。 「はやく条件を言え!お前が何者だろうと知ったことか!それは私のものだ!」 「それは小生を使者として認める。ということでいいんだな?」 それを聞き、モット伯はうっ、と言葉に詰まった。この男と交渉をする、即ちそういうことに繋がる。 もっとも使者として認めず、強引に侵入者としてここで書物を奪い取ってしまう事も出来た。しかし。 「言っておくが小生をここで捕まえれば小生の主人が黙っていないぞ?近いうちに主人もこちらにやってくるだろうしな」 官兵衛が自信満々にそういった。 モット伯はむぅと口ひげを弄りながら考える。モット伯はこの男の自信満々な態度が妙に気になった。 もし本当にこの男がヴァリエール公爵家と繋がりがあるのなら、たしかにここで捕まえてしまうのは危険である。 「……わかった。お前を使者と認めよう」 モット伯は渋々頷いた。官兵衛は表情を変えずすっと頭を下げた。 「それを証明する証として一筆頂戴したい」 それを聞き、モット伯は短く舌打ちをすると、すっと杖を軽く振るった。と、部屋の片隅からペンと羊皮紙が飛んできた。 するするとしたため、それを官兵衛に渡すモット伯。 「これで満足か?」 「ああ、これでようやく交渉に移れる」 官兵衛はニンマリと笑みを浮かべた。 「では本題に移ろう。小生らは、この屋敷に使えるある人物の解雇を望んでいる」 「解雇だと?」 モット伯は首を傾げた。一体どういう了見だ、といった表情である。 「学院からの要望、それは……」 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。モット伯が二の句を今か今かと待つ。 「シエスタを、あのメイドを学院に戻すこと。 その親族への手出しをしないこと。そして、今後一切あのメイドに関与しない事、だ」 へっ?と拍子抜けした様子でモット伯が言う。 「それだけか?」 「ああ、確実にそれらが約束されるならば、な」 しばしの沈黙。やがてモット伯は我に帰ると。 「ははっ!ははは!よかろう!あの小娘と引き換えなら!いくらでものもうではないか!その条件を!」 そう言って高らかに笑った。 官兵衛は、モット伯が本のコレクションに目が無いという情報を、あらかじめ学院のメイド達から仕入れていた。 そして、ギーシュにもその事を確認する事で、官兵衛は自分の交渉が上手くいく事を確信した。 あとは、キュルケからプレゼントされた書物を携え、モット伯と直接対峙するのみ。 彼の目論みは、まんまと成功したのであった。 しばらくすると、遅れてやってきた衛士の生き残りが部屋に入ってきた。 到着するなり、お怪我はありませんか、とモット伯を気に掛ける。そして、部屋に残った官兵衛を見るや否や、武器を構えた。 しかし、そんな衛士にすぐさまモット伯が命令を下す。 「シエスタをここに連れて参れ」 面食らった様子で、衛士はモット伯の命令を聞いていた。この非常時に一体メイドに何用か、と。 しかしモット伯が怒号を飛ばすと、衛士は駆け足で部屋から出て行った。 「カンベエさんっ!」 衛士に連れられ、モット伯爵の元へ連れられたシエスタ。彼女は部屋に着くやいな官兵衛の姿を目にし、驚きの声を上げた。 「さて、学院の使い。これで良いな?この書は渡してもらう」 シエスタを渡してやれ、と衛士に命令を下す。すると、訳も分からないまま解放されたシエスタは、官兵衛に駆け寄った。 一体どういう事なのだろうと、目を白黒させる。襲撃があったと聞き、そのまま執務室で待機していたシエスタだった。 しかし、騒ぎが収まったと思いきや、突如衛士があらわれ自分をモット伯の元へ連れて行くではないか。 そして、モット伯の元に来れば、そこには会いたいと願っていた官兵衛が。 賊はどうなったのだろう。一体なぜここに官兵衛がいるのだろう。なぜ自分は解放されたのだろう。 様々な疑問が彼女の頭の中をグルグルと回った。 そんな風にシエスタが混乱している最中、モット伯は踵を返すと、残った衛士に、館内の処理と賊の追撃を命じた。 「もう用は済んだか?済んだならその娘を連れてとっとと出て行け。今は忙しい」 官兵衛とシエスタを残して、モット伯は衛士の後を追った。しばしの間、静寂が辺りを支配した。 やがて落ち着いたのか、シエスタが口を開く。 「あの、私。まだ良く状況が分からなくて。一体どういうことでしょう? 侵入者が出たって聞きましたけどどうなったんですか?官兵衛さんは何故ここに?」 恐る恐る様子を聞く。そんな彼女を落ち着かせようと、ポンと肩に手をやる。 「落ち着け、落ち着け。侵入者らしいやつは逃げて行った、ひとまずな。 それと、小生がここにいるのは話せば長くなる。だが一番大事なのは――」 官兵衛がゆっくりと落ち着いて言葉を発する。 「お前さんは、ここに仕えなくて良くなった。学院に帰れるってこった」 官兵衛が唇の端を持ち上げながら、シエスタに言った。彼女は呆然として、その言葉を聞いていたが暫くすると。 「本当に?学院に、みんなの所に帰れるんですか?」 そう口にして、こらえきれなくなった様に涙を流した。 顔を伏せて、真っ赤になりながら、シエスタは号泣した。 「おいおい、泣くほどか?」 官兵衛が頭を掻きながら、彼女のそんな様子を暫くの間眺めていた。 粗方泣き止んだシエスタが、官兵衛を見つめる。 「もしかして、官兵衛さんが助けてくれたんですか?」 「まあそうなるか。小生が持っていた書物と引き換えにお前さんを解放してもらった」 「そんな、私の為に?」 シエスタは驚いた様子で口元を押さえた。 そんな二人の様子を見て、デルフが口を開く。 「相棒、積もる話もあるが一先ず引き上げようぜ。ここは危険だ」 「ん、そうだな」 賊は逃げたとはいえ、危険人物が辺りに潜んでいる事は明白だ。官兵衛はエントランスの死体が転がる光景を思い出した。 シエスタを伴って部屋から出ようとする官兵衛。 「と。その前にだな」 官兵衛は思い出したかのように、部屋の片隅を見やった。 見るとそこには、黒ずくめの男が置いていった、謎の筒のようなもの。 「こいつは一体何だ」 その物体を持ち上げながら、官兵衛は中を拝借しようとして蓋を開けた。 その時、官兵衛は信じられない物を見た顔で、筒の中の物体を凝視した。 「ば、馬鹿な!こいつは……!」 「どうした相棒?」 「どうしたんですか?カンベエさん」 シエスタが官兵衛の持つそれを覗き込もうとした、その時であった。 どおん!と大地を揺らすような地響きが、館全体に響き渡った。 「きゃあっ!」 倒れそうになるシエスタを官兵衛が支えながら、彼は彼方此方を見回す。 「こいつは……」 官兵衛は、この振動には身に覚えがあった。あの時ルイズ達と一緒にその現場を目撃していたのだから。 「シエスタ、こいつを持ってくれ。一旦外に出るぞ!」 「は、はいっ」 官兵衛が筒のような容器をシエスタに持たせる。 そして、彼女の手を引きながらエントランスを目指した。 長い長い廊下を駆け抜ける二人。 幸い、途中にある衛士の死体はすでに残った衛士達によって片付けられていた為、シエスタがそれを目撃する事は無かった。 階段を降り、エントランスの広間を抜る。巨大な玄関の扉を破り、そのまま庭に飛び出た。するとそこで、彼らが見たものは。 「っ!?」 シエスタが驚きのあまり声を詰まらせる。やはり、と官兵衛は苦々しくその光景を見やった。 「こいつは、あの時の!」 そう、それは天を覆いつくさんばかりに巨大なゴーレム。巨大な土のゴーレムが、館の傍に屹立している光景だった。 巨大な土の塊が、ゆっくりとモット伯爵の館に迫って来ていた。 前ページ次ページ暗の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8144.html
前ページ次ページ機械仕掛けの使い魔 機械仕掛けの使い魔 第4話 再びぬいぐるみを着込んだところに、轟音に驚きやって来た、近くの部屋に住む女生徒たち。 彼らをお得意の猫スタイルでかわしたクロは、洗濯物を放り込んだ籠を背中に乗せ、器用にバランスをとりつつ、中庭に来ていた。 「あなた喋れたでしょ!」 と、召喚の儀式の場にいた女生徒全員からのツッコミ重奏が響いたが、完全にシカトを決め込み、澄ました顔でここまでやって来た、 というワケだ。余談だが、背中の籠はジェスチャーを駆使し、褐色の肌に燃えるような赤い髪、ナイスバディの生徒に乗せてもらった。 「…困った」 周囲の様子から、洗濯機がないのは解っていた。そして、使い魔に頼む仕事となると、手段として魔法が使われる事は、まずないはず。 という事は、洗濯の手段は手洗いとなる。さらにジーサンバーサンと一緒に見ていた時代劇では、洗濯場所は井戸端と相場が決まっていた。 だが、肝心の井戸が見当たらない。クロのいる場所からは死角になっている場所もあるが、クロの身体の大きさに比して、この中庭はあまりにも広すぎる。 「虱潰ししかねーかなぁ…。メンドくせー…」 バランスをとりつつ、ゆっくりとした足取りで中庭を歩くクロ。 ちなみにここトリステイン魔法学院は、その構造上、鬼のように中庭が広い。 中央の本塔と、学院外壁の頂点にそびえ立つ各塔を結んだエリアに、個別に名前が付いているレベルである。 クロの体躯に比して、学院の中庭はあまりにも広大すぎるのだ。 クロが女子寮のある寮塔を出た時点で足を踏み入れていたのは、本塔・土の塔・寮塔・水の塔を結んだ、アウストリの広場。 クロがハルケギニアに召喚された場所でもある。 「お、案外近くにあるじゃねーか」 結論から言えば、クロは最短ルートで井戸――と言うよりも、水場を発見出来た。 たまたま寮塔を出て左方向へ歩いたからであるが、もし逆方向の左へ歩き出したとしたら…1時間以上は経過していたであろう。 恐るべし、トリステイン魔法学院。 + + + + + + 「あら? あれは…」 1時間半くらい前に、ルイズに紅茶を入れたメイド『シエスタ』は、同僚のメイドと共に、世にも珍しい光景を目の当たりにしていた。 2人は、寮内の生徒達から頼まれていた紅茶を届けた帰りであった。寮塔から中庭に出て、ふと土の塔方面に目を向けると、水汲み場の傍に座り込む黒猫がいたのである。 シエスタも見覚えのある、桃色の髪の生徒が連れていた使い魔のようだ。 黒猫の横には、籠が1つ。よく見ると、黒猫は何度も首を傾げている。 「ごめんなさいアイナ、先に厨房に戻ってもらっていい?」 「え、それは別に良いけど…。どうしたの?」 「あの黒猫さん、何か困ってるみたいなの」「黒猫ぉ?」 アイナの返事も聞かず、シエスタは駆け出した。後には、アイナのぼやきだけが残っていた。 ゆっくり、こっそりと黒猫に近づくシエスタ。ここで気づいたが、籠の中身はどうやら、あの生徒が着ていた制服のようだ。 彼女が、この黒猫に洗濯を頼んだのだろう。 「黒猫さん、お洗濯ですか?」 「あぁ、ルイズのヤツに頼まれてよ」「…へ?」 何の気なしに、ただ聞いてみただけだった。もちろん、返事が返って来ない事など解り切っている。 しかし、シエスタの問いかけに、誰かが応えた。 「だっ…誰ですか!?」 シエスタが辺りを見渡すが、黒猫と自分以外には、誰もいない。 「オイラだよ」「おいら…?」 先程は驚きのあまり、声のした方向も解らなかったが、今度はハッキリと解った。 自分の足元から聞こえる。そして今、自分の足元にいるのは… 「さっきはありがとな、メイドの姉ちゃん。紅茶、うまかったぜ」 「黒猫さんが…喋った…?」 足元にいた黒猫は、シエスタの目を見ながら、二本足で立っていた。 + + + + + + 「噂は本当だったんですねぇ…」 仕事場から運んだ桶に水を溜め、ルイズのシャツを洗いながら、シエスタはまじまじとクロを見つめた。 「噂?」「はい、ミス・ヴァリエールが喋る猫を召喚したって…」 クロも同じ桶に手を突っ込んで、スカートを洗っていた。夕闇の中、洗濯をしているメイドと黒猫。なかなかに異様な光景である。 「そうだ、自己紹介がまだでしたね。私はこの学院で、貴族の方々のお世話をさせていただいています、シエスタと言います」 ニッコリと笑うシエスタ。鼻のてっぺんに付いた泡が、そこはかとなくキュートだった。 「オイラ、クロってんだ。…鼻に泡付いてっぞ」「あら、いけないっ」 こしこしと鼻をこするシエスタ。頷くクロを見て、また顔を綻ばせた。 「喋る猫さんなんて、初めて見ました…」 「そうかぁ? オイラのいたトコだと…最低でも100匹くらいはいたぜ?」 「ひゃくっ!?」 無論、その大半がサイボーグだが、修行して喋れるようになった猫も2匹ほどいる。 どんな修行かは…ここで語る事ではない為、原作あるいはアニメ参照の事。 「喋る猫さんがいっぱい…。素敵な場所なんですねぇ」 「しょっちゅう喧嘩売られる程度にはなー」 目を輝かせるシエスタとは裏腹に、クロはうんざりしたような表情を作っていた。 洗った制服を十分に脱水し、籠に戻す。石鹸のいい匂いが立ち上り、クロの心にも、わずかながらの充足感が顔を見せた。 「助かったぜ。オイラ1人だったら、どうしていいか解んなかったわ」 「いえいえ。ミス・ヴァリエールのお部屋に干すまで、私もお手伝いしますよ」 「おぅ、何から何まで済まねーな」 クロは先程までの2本足ではなく、普通の猫同様の4本足で立ち上がり、身体をブルンブルンと振って、洗濯の際に濡れた身体を軽く脱水した。 「よっし、それじゃよろしく頼むわ」「はいっ」 元気一杯に返事したシエスタと共に、クロはルイズの部屋へと向かった。 行きと違い、籠はシエスタが抱えている。道中、彼女は何度かクロに話しかけたが、返事は猫語ばかりだった。例えば。 「お洗濯物、綺麗になりましたねー」「ニャっ!」 「部屋干しでも大丈夫なように、普段とは違う石鹸なんですよー」「ウニャ?」 「ミス・ヴァリエールのお部屋、覚えてますか?」「に、ニャア…」 「くすっ、私が覚えてますから、安心して下さい」「ニャンニャンっ!」 シエスタも何となくだが、クロの心情を察していた。 生徒が行き来する寮塔の廊下。もうじき夕飯だから、それほど人がいるわけではない。 だが、この少ない人の前であっても、自分が喋れる猫だという事を、明かしたくないのだろう。 と、ここで1つ疑問が起こる。なぜ私の前では、あんなに簡単に話してくれたのだろうか。私が平民のメイドだから…? 「洗濯の仕方、解んなかったからな」「え?」 唐突に、クロが喋った。シエスタの顔を見ている。辺りに人影は、なくなっていた。 「それに――紅茶、うまかったから」 ぶっきらぼうに言葉を続けるクロ。 シエスタにとっては、貴族である生徒に紅茶を淹れるのは当然の仕事だった。 だが例え当然の事であっても、クロにとっては、”恩”であった。”恩”は必ず返す。 それがクロの――オス猫の、誇りであった。 「…はいっ!」 なぜか無性に嬉しくなったシエスタは、笑顔でクロの礼に応えたのだった。 ルイズの部屋。そのドアの前には、2人の女生徒がいた。 「はぁい、猫ちゃん」「…」 1人は、先程クロの背中に籠を乗せた赤髪の女生徒、 もう1人は、ルイズとさほど変わらない身長の、青い髪とメガネ、長い杖が目を引く女生徒だった。 「ミス・ツェルプストーに…ミス・タバサ?」 「あら、メイドも一緒なのね」 コツコツと足音を響かせ、ミス・ツェルプストーと呼ばれた女性とは、クロに近づいた。 そして、前後左右、視点を変えて、クロを観察し始めた。 「どこからどう見ても、普通の猫よねぇ…」 顎に右手の指を添えるミス・ツェルプストー。そんな彼女をよそに、ミス・タバサは分厚い本を読みふけっている。 「そう言えばオメーら2人って、さっき広場にいたよな?」 「あら、やっと喋ってくれたのね?」「…!」 クロの発言を受け、待ちくたびれた、といった様子で髪を掻き上げるミス・ツェルプストーと、パッと見では解らない規模で目を見開いたミス・タバサ。 見る者が見れば、ミス・タバサは怯えていると取っただろう。 「どうしたの、タバサ?」 『見る者』がここにいた。横目で見ただけで、タバサの異変に気づいたのだ。 「ば…化け猫…」 よーく見ると、ミス・タバサはうっすらと汗をかき、小刻みに震えている。そしてその瞳は、クロに釘付けだった。 「化け猫ぉ? 何だ、こっちの世界にも化け猫なんていんのか?」 「聞いた事ないわねぇ。メイド、あなたは?」 「祖父から聞いた事はありますが、さすがに見た事は…」 「これ…」 ほんのりと青ざめた顔で、ミス・タバサが、持っていた本の題名を指さした。 「何て書いてあんだ?」 「『ハルケギニア妖怪伝承』…。ほとんど古文書じゃないの。よくこんな骨董品、見つけたわね」 「妖怪は…、人類の敵…」 震える声で言いながら、杖をクロに向けるミス・タバサ。よくよく見てみると、眼の焦点が合っていない。 「ちょっ…! タバサ!?」 「おいおい、この嬢ちゃん、目がマジだぞ…」 そうこう言っている間に、ミス・タバサがルーンの詠唱を始めた。 「ラグーズ・ウォータル…」 ここまで聞いた時点で、ミス・ツェルプストーは、ミス・タバサが本気だという事に気づいた。 ミス・タバサは風のメイジ。しかし彼女の詠唱には、水のルーンが組み込まれている。 つまり、単純な風の魔法ではなく、風と水を組み合わせた氷の魔法。氷の魔法は、そのいずれもが高い殺傷能力を有している。 ミス・タバサは…殺る気だ。 「やめなさい、タバ「ホイ、っと」サ…?」 ミス・ツェルプストーが、その詠唱を止めようとした矢先…クロの右手が”ポンッ”と軽快な音と共に射出され、杖を持つタバサの手に命中、その杖を弾き飛ばした。 「や~れやれ…」 呆気にとられる3名をよそに、クロはミス・タバサの足元に落ちていた右手を拾い上げ、再び装着した。 「あ、あなた…ててて手が…今…」 「くくくクロちゃん…? 見間違えかもしれないですけど、手が…ととと取れませんでした…?」 「や…やっぱり化け猫…!」 驚き、怯える3人。とっさの事とはいえ、ロケットパンチはまずかったか、と思いつつ、クロは頭をポリポリと掻いた。 「わーった、わーったよ。オメーらにも説明してやっから、その前に洗濯物干すの手伝ってくれ」 + + + + + + 眠っていたルイズは、不機嫌極まりない表情で目を覚ました。先程まで静かだった自室が、やにわに騒々しくなった為だ。 「アンタたち…何やってんの?」 眠りについてから、3時間程度経っているだろうか。外は夜の帳を下ろしている。 「ミス・ヴァリエール! すみません、騒々しかったですか!?」 「あぁ、いいのよ気にしなくて。こんな時間からグースカ寝ていたヴァリエールが悪いんだから」 「って、何でアンタまでいるのよ、ツェルプストー!」 学院の中でも視界に入れたくない人間ダントツ1位のミス・ツェルプストーの姿を認めたルイズは、顔を真赤にして怒鳴りつけた。 「何でって…、あなたの制服を干すために決まってるでしょ? そこの猫ちゃんに頼まれて、ね」 「おぅ、起きたかルイズ」 ミス・ツェルプストーの指差す先を見てみれば、カーペットに寝そべっている使い魔の姿が。呑気に耳掃除などやっている。 「まぁ、気にすんな。オイラの身長じゃ、ロープもかけれねーからな」 「気にするわよ、このバカ猫っ!」 「誰がバカだってんだ!」 「あー、もうヴァリエール! あなたも手伝いなさい! 自分の制服でしょう!?」 「化け猫…退治しなきゃ…」 「あ、ミス・ツェルプストー、シャツはもうちょっと張って頂けますか?」 「こんな感じかしら?」「はい、ありがとうございます」 「ア ン タ た ち は ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ルイズも加わり、寮塔の一室は、過去類を見ないほどの喧騒に包まれたのであった。 前ページ次ページ機械仕掛けの使い魔
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1950.html
7日目 Navi さわやかな朝がやってきました 自宅にて ごとくさん の遺体が見つかったようです… 2 (ゾンビ部屋) Zono あー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 僕が真でしたキリッ Navi 村人の皆様、今日もがんばってください Navi 昼の部スタートです 1 (なび村) ヨロイモグラ 【占いCO】リヴァインさん●です。ここしか占い先が残っていなかったためです。動きも怪しく見えなかったのですが狼でした 1 (なび村) エミテヴィア もうこわいもうこわい 1 (なび村) jinjahime [占いCO:シエスタ人狼●] 1 (なび村) トガリ 霊媒結果:サイアさん○でした! 1 (なび村) jinjahime 私の候補としてはシエスタorエミテヴィア 1 (なび村) メクトン 占い結果:シエスタさん○ ごとく わお、ネタ遺言用意してなかったよ 1 (なび村) リヴァイン モグラさん終了か 1 (なび村) ヨロイモグラ 霊媒偽だったのか・・・ 2 (ゾンビ部屋) おおかみん 1ダイス目は良いケモノでした 1 (なび村) トガリ またゼブラ・・・ 1 (なび村) ヨロイモグラ この段階まで来たらしまうまばっかりですよ 2 (ゾンビ部屋) cozy あれ、占いが噛まれない 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ ね、噛まないねw 1 (なび村) エミテヴィア ここで可能性として 2 (ゾンビ部屋) ごとく お邪魔します 1 (なび村) リヴァイン いや メクトンさん妄信でもいいかな 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ お疲れさまw 2 (ゾンビ部屋) ワルノス らっさい 2 (ゾンビ部屋) Zono お疲れサマー! 1 (なび村) エミテヴィア さいあさまは狩人? いあん ですね 2 (ゾンビ部屋) らぷ お疲れ様ですー 2 (ゾンビ部屋) いえろう おつかれさまあ 1 (なび村) リヴァイン キツネと予想 1 (なび村) いあん ですね 1 (なび村) シエスタSS 狐だったら 1 (なび村) エミテヴィア もぐらさまかじんじゃさまのローラー提案したいです 1 (なび村) シエスタSS 占いが確定するな 2 (ゾンビ部屋) Jareky ゼブラばっかり 1 (なび村) ヨロイモグラ それは困るな 1 (なび村) リヴァイン どっちが●かねぇ 2 (ゾンビ部屋) Zono ゼブラ祭り・・・ 1 (なび村) jinjahime 私視点、残りの狼は対抗とシエスタさん 1 (なび村) シエスタSS エミさんに同意 1 (なび村) エミテヴィア じんじゃさま先ほどから申してることが少々支離滅裂です 2 (ゾンビ部屋) cozy サイアさんが狐なら、問題なく占い噛みにいくはず。 1 (なび村) リヴァイン トガリさんメクトンさん妄信だなぁ 1 (なび村) jinjahime 吊るなら、もぐらさん 1 (なび村) ヨロイモグラ いやいや 2 (ゾンビ部屋) Zono サイアさんは狩人であった。。。きっとそうだ。。。。 1 (なび村) リヴァイン ジンジャさん狂目か・・・? 1 (なび村) いあん シエスタさんメクトンさんの○だね 1 (なび村) jinjahime じぶんでもよくわからん 1 (なび村) メクトン ジンジャさんもう破綻してるよ 1 (なび村) いあん とがりさん真ならもぐらさんも (T) サイア > なので吊り数的に明日しかなかった・・ 2 (ゾンビ部屋) cozy もぐらさんは、トガリさんに○出しているから、どうするんだろう (T) サイア > ごばくー 1 (なび村) メクトン 真なら自分の○吊りってなんかおかしくない? 1 (なび村) メクトン 昨日の発言だけど 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん先吊りたい 1 (なび村) ヨロイモグラ うーむ 偽霊媒ではあるんだけど、そうすると、狐まで役職にいるねぇ 1 (なび村) jinjahime 余裕のあるうちに色見せるっていったじゃん 1 (なび村) リヴァイン 狂じゃねジンジャさん 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 残り三本か 1 (なび村) メクトン モグラさん先かな 1 (なび村) リヴァイン 先に●くさいモグラさん吊っていいと思う 2wだし 1 (なび村) ヨロイモグラ そんな馬鹿な 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん狂人だと 1 (なび村) エミテヴィア しえすたさまか私を候補とあげたあと 1 (なび村) シエスタSS ヨロイさん狼になるよな? 1 (なび村) リヴァイン サイアさんキツネで見てます 1 (なび村) エミテヴィア 対抗としえすたさま狼って 1 (なび村) シエスタSS それだと 1 (なび村) シエスタSS サイアに黒だししたのが 1 (なび村) シエスタSS 速すぎじゃね? 1 (なび村) エミテヴィア なんか一貫していない気が致します 2 (ゾンビ部屋) cozy jinjahimeさん狼かなー 1 (なび村) リヴァイン ふむ 1 (なび村) シエスタSS なので 1 (なび村) jinjahime 占い理由として、囲い候補見るなら、エミテヴィアさんorシエスタさんの2択 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん先に狼と見て吊りたい 1 (なび村) エミテヴィア そして 2 (ゾンビ部屋) ワルノス なんか一匹オオカミ足りないのだけど 1 (なび村) エミテヴィア さいあさま狐でみるなら 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 計算ミスしてる臭い 2 (ゾンビ部屋) ワルノス どこにいるのー 2 (ゾンビ部屋) ごとく メクさん視点だと狼ドコになるんだ 1 (なび村) エミテヴィア じんじゃさまともぐらさまは占いでありえないです 1 (なび村) ヨロイモグラ なぜ? 1 (なび村) ヨロイモグラ ああ Navi 5分経過(後2分) 1 (なび村) エミテヴィア 何故銃殺できてないのですか? 1 (なび村) ヨロイモグラ 自分で言ってるね 1 (なび村) リヴァイン うむ 1 (なび村) メクトン ○出て死んでる 1 (なび村) いあん エミテヴィアさんてメクトンさんの○だけだっけ 1 (なび村) ヨロイモグラ いや 狐が役職にいる 1 (なび村) エミテヴィア はい 2 (ゾンビ部屋) おおかみん 占い2狼じゃね 2 (ゾンビ部屋) cozy シエスタさん? 1 (なび村) メクトン ですね>エミテさん 1 (なび村) リヴァイン それならなおのこと占い削りカナ 1 (なび村) エミテヴィア めくとんサマから○いただいてます 1 (なび村) jinjahime 気づいてない人いないかもしれないけど、私視点、呪殺候補はcozyさんありえるからね? 2 (ゾンビ部屋) ごとく シエスタさん今日白出してる 1 (なび村) メクトン 俺占ったよ 1 (なび村) リヴァイン 狩り生きてると思う? 1 (なび村) jinjahime 私視点って言ってます 1 (なび村) メクトン というか噛まれて死んだよ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 狐さんだったんですねcozyさん 油揚げどうぞ 1 (なび村) jinjahime 呪殺+噛みでかさなった可能性 1 (なび村) トガリ 銃殺さえあれば確定できたんだろうけど・・・ 2 (ゾンビ部屋) cozy トガリさんになるね Navi あと1分 1 (なび村) エミテヴィア どっちにしても私は 1 (なび村) リヴァイン レアケ追う余裕ないので却下 2 (ゾンビ部屋) ワルノス だわに 1 (なび村) エミテヴィア めくとんサマ以外の占いをきりたいとおもいますが 1 (なび村) エミテヴィア いあんさまどうなさいますか? 1 (なび村) jinjahime えー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス でもさ それさ 1 (なび村) シエスタSS ジンジャさん希望 1 (なび村) ヨロイモグラ jinnjaさん吊かなー Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ラスさんに●だすん? 1 (なび村) jinjahime レアケとかよくあるのが陣狼 2 (ゾンビ部屋) cozy 私が狐なら、もうちょっと大人しくします 1 (なび村) jinjahime モグラさん 1 (なび村) jinjahime つり 1 (なび村) リヴァイン 追う余裕があるなら追うけどねぇ 1 (なび村) いあん モグラさん先にしたい 1 (なび村) エミテヴィア もぐらさまはもう破綻してますし 1 (なび村) リヴァイン あいよ 1 (なび村) メクトン モグラさんね 1 (なび村) トガリ 把握 1 (なび村) ヨロイモグラ いやいや Navi 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) 2 (ゾンビ部屋) ワルノス あ 冗談ですよ!! 1 (なび村) シエスタSS まあ従うけど 3 (GREEN) Navi 会話可能時間スタート 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ これは勝てる流れナはずだったんだけどなー、、、負けそうw 3 (GREEN) Navi ---------------------------------------- Navi 投票は私に直Tellでお願いします 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi 7日目終了 1 (なび村) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) サイア どうなることやらー (T) リヴァイン > ヨロイモグラさん でよろろー (T) シエスタSS > ヨロイさんで Zono こんばんは Zono (T) メクトン > ヨロイモグラさんに汚い一票を 3 (GREEN) トガリ メクトンさん食べる? 2 (ゾンビ部屋) Zono ふむ・・・ (T) エミテヴィア > ヨロイモグラさまを吊りたいです。 みすりーどしてたらどうしよう 2 (ゾンビ部屋) ごとく モグラさんは狂人っぽいかな 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ってことはいえろうさんあたりが霊媒なんかぬ (T) ヨロイモグラ > メクトンさんでお願いします~ 2 (ゾンビ部屋) cozy jinjahimeさんが真に思えてきた・・・。 (T) いあん > ヨロイモグラさんで 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT とりあえず 2 (ゾンビ部屋) サイア 普通にメクトンさん真視なんだけどねー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT パンダから順につろうず 2 (ゾンビ部屋) ワルノス え 2 (ゾンビ部屋) Zono ww 2 (ゾンビ部屋) ワルノス パンダは良いよ! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT まじで? 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ほ・・・ほら 2 (ゾンビ部屋) ワルノス えっと 3 (GREEN) トガリ 反応がない・・・ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT あやしい 3 (GREEN) jinjahime んー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ミントさんにイクシオンの爪①枠分を格安で売りつけるよ!! Navi あと1分 2 (ゾンビ部屋) ワルノス だから 吊らないで>< スリスリ 3 (GREEN) トガリ 占い先が霊媒まできたら危ないと思うのだけど 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT マジデー 2 (ゾンビ部屋) cozy メクトンさん真なら、トガリさんが狼? 3 (GREEN) jinjahime メクトンさんたべてヨロイさんに黒かね 3 (GREEN) トガリ かな 3 (GREEN) トガリ それが一番かと 2 (ゾンビ部屋) ワルノス すり寄り成功 勝ったな 3 (GREEN) jinjahime だねー Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT すりよりって (T) トガリ > メクトンさんで~ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT なんかかわいくね? (T) jinjahime > ヨロイモグラ ヨロイモグラ6 メクトン2 2 (ゾンビ部屋) ワルノス なるほど つまりかわいパンダですね Navi さよなら ヨロイモグラさん …あなたの勇姿は忘れない 3 (GREEN) トガリ リヴァインさんがなぁ・・・ ヨロイモグラ ひあ あぢぢ~~!! ひいひィ~火っ火っ火~ た・・・助けて~~えっえっ えろばっ!! Navi 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT パンダはちょっと・・・ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス え Navi 役職の方は私にTellお願いします 2 (ゾンビ部屋) ワルノス かわいいよ!! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ほらパンダつれた! 2 (ゾンビ部屋) サイア ミクかわがすりよる 3 (GREEN) トガリ メクトンさん信じちゃってるから・・・ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス あーーー 2 (ゾンビ部屋) Zono ; 2 (ゾンビ部屋) サイア みんたんがすりよる 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ども~ 2 (ゾンビ部屋) サイア どっちがかわいい? 3 (GREEN) jinjahime エミラヴィアさんにしろだしておくか 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ミクかわがすりよってくると 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 貴重なパンダ成分が。。。。 2 (ゾンビ部屋) Zono お疲れ様ー! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ある意味それは怖い 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 両方吊りましょう 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ 心が折れそうだった! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT おつw 2 (ゾンビ部屋) サイア 這い寄るミクかわ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス いいパンダでした (T) メクトン > トガリさんの材質チェック 3 (GREEN) トガリ ですかねー 3 (GREEN) jinjahime メクトンさん噛みでおくりますね 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ こわいよー 村人ちょーこわいよー 3 (GREEN) トガリ はい 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT よしよし 2 (ゾンビ部屋) サイア ヨロイさんはウチより先に釣るべきだったー。たー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス さてここで 2 (ゾンビ部屋) サイア いらっしゃいまし (T) jinjahime > メクトン>役職行動 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 霊媒は●ですな 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ サイアさんとの殴り合いとか生きてる心地が 2 (ゾンビ部屋) ワルノス この狼パンダめ! 2 (ゾンビ部屋) サイア でもウチは負けた 2 (ゾンビ部屋) サイア 早い段階のゼブラいやーん 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ただの村人なら仕方ない (T) > メクトン トガリさんはダンボール風の毛でできた狼だったのです!● 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 白黒か! (T) > jinjahime おいしくたべてね! 2 (ゾンビ部屋) すもでんぱ サイアさんが白黒なら吊るしかない。 2 (ゾンビ部屋) サイア もう吊られて当たり前のタイミングでゼブラになったので (T) メクトン > そこかよw 了解です 2 (ゾンビ部屋) サイア みじめたらしく、命乞いをした 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ふむw 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ すごかったw 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 素晴らしいと思いました 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ぬこびはなんか 2 (ゾンビ部屋) サイア このサイアには、吊り逃れをする理由がある 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 命乞いとか好きだなw 2 (ゾンビ部屋) Zono wwwwwww 2 (ゾンビ部屋) ワルノス カコイイ! 2 (ゾンビ部屋) サイア なんとか2回逃れたんだけど 2 (ゾンビ部屋) おおかみん 名言だね 2 (ゾンビ部屋) サイア 三度目の正直・・・ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT けっこう逃れてた・・・ 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ジョルノっぽいな!ってつっこもうとして雰囲気にまけた 3 (GREEN) トガリ 後は私がどれだけ安全な位置にいるか・・・ 2 (ゾンビ部屋) サイア わは 3 (GREEN) jinjahime で、明日は私つりで最終日はシエスタさんと殴り合ってください 2 (ゾンビ部屋) サイア じつは、最近JoJo見始めてね 2 (ゾンビ部屋) サイア 名言多いなーって思った 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ですなー 2 (ゾンビ部屋) リュファ メメタァとか。 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 5部こそ至高 2 (ゾンビ部屋) サイア ふむー 3 (GREEN) ラスフィーノ あ 2 (ゾンビ部屋) サイア まだ最初しか 3 (GREEN) ラスフィーノ g0おば区 3 (GREEN) トガリ 狂人無視でほかに矛先いかないかな 2 (ゾンビ部屋) Jareky ニンジャー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ あ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ニンジャー 2 (ゾンビ部屋) ワルノス らっさいー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ よろいさん、おつかれー 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ニンジャー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ がんばりました! 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ おつかれさま~ 3 (GREEN) jinjahime 候補がいない 2 (ゾンビ部屋) サイア おつかれねー 2 (ゾンビ部屋) Zono お疲れ様ー! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT おつぽー 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ 敢闘賞あげます!(上から目線 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ w Navi あと1分 3 (GREEN) jinjahime シエスタさん釣れば勝てるけど 2 (ゾンビ部屋) ワルノス パンダから吊ろうぜ村はもういやだお。。 2 (ゾンビ部屋) Jareky メクトンさん視点、占い先もう役職しかない? 3 (GREEN) トガリ けど狂人なら吊る意味もないですし・・・ 3 (GREEN) jinjahime 偶数だからね 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 首を鍛え吊られても生き残るすべを考えねば 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ですな 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ですよん Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 霊媒対抗占い吊って 2 (ゾンビ部屋) ワルノス おしまひ 3 (GREEN) トガリ それよりはグレーねらう、かなと 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ メクトンさんしえすたさん占った? 2 (ゾンビ部屋) ワルノス ええ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス 五日目で 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ●だしてなかったっけ 2 (ゾンビ部屋) ワルノス いいえ ○で 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ ちがった 2 (ゾンビ部屋) ヨロイモグラ 神社さんの●か (T) リヴァイン > 狩】トガリさん護衛でー メクトンさん破綻してない? 2 (ゾンビ部屋) ワルノス でっすね 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ うわー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ていうか 2 (ゾンビ部屋) ラスフィーノ まけるじゃんw 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT もう4時半か・・・ (T) > リヴァイン しっかりまもってね! 1 (なび村) Navi -------------------------- 1 (なび村) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 5時コースなのはけっこう久々かも・・・ 2 (ゾンビ部屋) Zono もうそんな時間だった。。。 6日目へ 8日目へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6055.html
前ページ次ページ谷まゼロ ルイズは学院長室に呼び出されていた。 用件は言わずもがな、谷がしでかした大事件についての言及である。 オスマン氏が、後ろで手を組んで窓の外を見つめながら言った。 「ミス・ロングビル、本日昼ごろ起こった騒ぎの詳細な損害報告をしてくれたまえ」 言い渡された秘書のロングビルは、手に持った書類に目を落とし、淡々と言った。 「あの騒ぎによる、怪我人の総数は84名。内、教師が3名です。奇跡的に重傷者、死者はいません。 加えて、学院内における定着物を含む建造物の修繕必要箇所は、24ヵ所です」 ルイズの顔は血の気が引き真っ青になっていた。 だがオスマン氏は報告を聞くと、実に楽しげに笑った。 「ほっほっほっ。実に凄まじい損害であると言ってよいだろう。清々しいぐらいじゃ。 何せ、魔法を使えぬ平民が実質84名のメイジを倒してしもうたんじゃからのう。 それにあの振り回した像の末路は、なかなか趣がある。あのままオブジェとして飾って置いてもよいと思うのだが?」 オスマン氏が言っている像とは、谷が残らず一切合財吹き飛ばすのに使った銅像のことであった。 谷は振り回した後、学院に向って放り投げたのだった。 そして、投げられた銅像は頭から外壁に突き刺さり、足だけが天に向って外に出ていた。 コルベールはオスマン氏の冗談交じりの言葉対して、苦々しく言った。 「笑い事じゃありません!学院を臨時休校にせねばならないほどの惨事ですぞ!オールド・オスマン」 まさに笑い事ではなかった。特にルイズにとってはこれは一大事と言えた。 自分の使い魔がしでかしたことは、あまりにも事が大き過ぎた。 何故なら、学院にいる生徒や教師は皆貴族であるからだ。 その者たちを、谷が全員銅像で殴り飛ばしたのだ。 責任問題が、ルイズの身に降りかかることは火を見るよりも明らかであった。 そして、自分の使い魔である谷の処遇に関しても、何を言い渡されるかわからない。 ルイズは戦々恐々の顔で、まるで死刑宣告を待つ咎人のような、憔悴しきった顔をしている。 そんなルイズを見て、オスマン氏は、どこか穏やかさを感じさせるようなそして飄々として言った。 「のう。ミス・ロングビル。あの騒ぎのとき、授業は始っておったかの?」 「時刻的にはすでに。ですが多くの生徒が騒ぎを聞きつけ、ヴェストリの広場に向ってしまったため、 始業の時間が来ましても、始めることができなかったようです」 「……だそうだ。ミス・ヴァリエール」 ルイズはオスマン氏が何を言おうとしているかわからなかった。 オスマン氏は、誰にでもなく独り言のように言った。 「つまりはじゃ、生徒たちは、ちゃんと教室にいて学生の本分たる学業に専念しておれば、 怪我なんぞせずに済んだわけじゃ。ある意味、自業自得だと思わんかね?」 オスマン氏が言っていることは、まさにルイズにとってはこの上なく有り難いものであった。 学院側は、今回のことについて責任の追及を行わずに目を瞑ると言っているのである。 「まあ、君が騒動を起こすのは初めてのことではあるまい。 生徒たちも慣れている……というのも変な話じゃがの」 思い当たる節があるルイズはバツの悪そうな顔をした。 ルイズは、魔法を失敗すると授業が行えなくなるほどの爆発を起こすことがあるのだった。 一回や二回のことではなく、周りの生徒たちからも魔法の使用を止められるほどであり、 今日も、その失敗をしでかし教室で爆発を起こしていた。 「とりあえずはじゃ、学院の修繕に関しては、まあ……払って貰うしかあるまい。 だが、ミス・ヴァリエールとその使い魔に関して『学院は責任は問わん』、それでいいかな?」 オスマン氏は、『生徒の親たちなどが、何か文句言ってきても庇うことはできない』と言っているのだった。 だが、ルイズにとっては目を瞑ってくれるだけで十分であった。 ルイズは恭しく礼をした。 これは後々の話ではあるが、被害に遭った生徒たちが親に言いつけるなどして、 学院にルイズたちに何かしらの処分を与えるように求めてくる事態にはならなかった。 これは皆誰しもが、平民になす術もなく負けたという事実をひた隠しにしようとしたせいでもある。 誰か一人や二人なら、話は違ったであろう。 だがしかし、谷によって負かされたのは大勢のメイジである。 統治する側の人間たちにとって、たった一人の平民に、そうされたとあっては面目が立たない。 不満がある生徒は確かに居た。だがどうしようもないとわかると、今度は忘れるように努力した。 報復するにも、あれほどの不死身さを見せられ、あれほどの圧倒的な力を見せられては、 そんな気も失せてしまい、皆諦めを覚えていた。 この谷がしでかした一大事は、平民たちの間で嬉々として語られる噂話程度のものとなって、事態は収束していった。 それに、ギーシュが決闘を谷に持ちかけたことも、結果的にではあるがルイズたちの助けになった。 何故なら、谷はあの決闘がなくとも、いつか感情を抑える限界が訪れ、爆発していたであろうからである。 もし、あの場が双方の同意で成り立った決闘という形式のものでなかったら、責任問題はさらに重大であっただろう。 もしかしたならば、谷は処刑になっていたかもしれない。勿論できるかどうかは別としてだが。 オスマン氏は思い出したように、部屋を見渡しながら言った。 「ところで、肝心の使い魔がおらんようだが?」 痛いところを突かれたルイズであった。 この騒ぎを起こした当事者がいないのだから本来であれば、お話にならない。 ルイズは俯いて言った。 「スミマセン。連れてこられませんでした……」 正直に答えたが、果たしてこれでいいのかとルイズは思った。 だが、そんなルイズの心情とは裏腹にオスマン氏は明るく言った。 「まあよい。誰も責めてはおらん。だがしかしじゃ、これからこのようなことが続くようであれば、 こちらとしても、対応に苦慮する事態になるであろうことは肝に銘じておいて欲しい。わかったかの?」 「はい。重々承知しています……」 オスマン氏に、そう返事はしたものの、ルイズには自信がなかった。 退出を命じられ、谷のいる所に向うルイズの足取りは重い。 谷をこれから自分がどう扱えばいいのかまったく見当がつかないからだ。 あいつは『シマサン』にしか興味がない……わたしのことなんて視界の端にもいない。 言うことを聞かせることができるのも、たぶん『シマサン』だけ……。 『シマサン』?……あっ! ルイズは何かを閃いた。 その時導き出した答えは、確かに有効なものかもしれなかった。 だが、一歩間違えれば一気に奈落の底に落ちてしまうようなものであった。 しかし、ルイズには他に方法がなかった。それに、……谷を思うがためでもあった。 ルイズは、廊下を歩く足を速めて、谷のいる場所へ向かった。 @ もう太陽が山の向こうに沈みそうになっている時刻。 一方の谷は厨房の隅で膝を抱えて座り込んでいた。 そのあたりだけ負のオーラが充満している。 谷は、メイジたちを全員なぎ倒し、ひとしきり泣いた後、 誰に言われたわけでもないのに、厨房に足を運んでいた。 そして今の今まで、一言も喋りもせず、ずっと蹲っている。 谷の近くでイスに座るシエスタは、見るに痛々しい谷の姿を、寂しげな顔を向けながら、 ボロボロになった谷のガクランの上着を針で縫って修繕していた。 そこに、ヴェストリの広場の惨状を見に行っていた料理長のマルトーがやってきた。 マルトーは、決闘で平民である谷が貴族であるメイジたちを打ち負かしたことを伝聞で知り、 自ら飛ぶようにして、その現場をこっそり見に向っていたのであった。 興奮冷めやらぬマルトーが、ズカズカと谷に近づいて行った。 「おお!オレは見たぞ!!!人生これまで生きてきた中でもあれほど爽快な光景はお目にかかったことがねぇ! あの生意気な貴族のガキ共が、揃いも揃って、地べたに口づけしてやがった!流石は……っ!むぐっ!」 谷に歩み寄って、豪快な口調で捲し立てるマルトーの口をシエスタが、慌てて塞いだ。 小声でシエスタはマルトーに責めるように言った。 「マルトーさん!!ダメです!今タニさんに喋りかけちゃダメです!!」 眉毛をへの字に曲げたマルトーがシエスタの手を下ろさせると、 冗談じゃないぜ。と言わんばかりにシエスタに詰め寄った。 「シエスタ。もしかして『我らの拳』を独り占めにするつもりか?ん? そういうことをしたくなる気持ちもわかるが、ちょっとぐらい分けてくれてもいいじゃないか!」 シエスタの意に反して、マルトーは大きな声でそう言った。 だが、シエスタはそんなマルトーの様子に危機感を覚えていた。 谷の方をチラチラと見ながら言った。 「ち、違います。そんなのじゃないんですっ!」 「何が違うんだ?」 シエスタはマルトーに事の詳細を伝えようとした。 無言の谷が厨房に来てから少し後に、その谷を追ってきたルイズが厨房を訪れたのだ。 その時、シエスタはルイズから、谷ついて色々聞いたのだった。 ルイズが言うには、谷は今混乱状態にあって、話が出来る状態ではないこと。 召喚されたことにより想い人と離れ離れになっていることがその要因になっていること。 慰めの言葉も、称賛の言葉も、今は煩わしいものでしかないであろうこと、 下手につつくような真似をして怒りを買えば、ルイズ自身も止めることができないということ。 そして学院長室から呼び出しがあったルイズから、 何やら谷と面識があるらしきシエスタへ、谷を見ておいてくれないかと依頼があったこと。 それらを掻い摘んでシエスタはマルトーに説明した。 「マルトーさん。厨房が、そのヴェストリの広場みたいになっちゃいますよ?いいんですか?」 シエスタはまるで脅すかのようにマルトーに言った。 マルトーの頭の中にヴェストリの広場の光景が蘇る。 もし、自分の大事な厨房があのような有様になったとしたら……そう考えたら背筋に悪寒が走った。 「お、おう。そうか、それじゃあしょうがないなっ。……また今度にするか!」 マルトーは少し引きつった笑顔をシエスタに投げかけた後、厨房の奥へ消えていった。 シエスタはホッと胸をなでおろした。 確かに、この場で暴れられでもしたらという心配もしていなかったわけでもない。 だが、今はただ単に谷をそっとして置いてあげたかったというのが本当の理由であった。 それは単純に谷が、かわいそうに思えたからだ。身も心もボロボロで、儚く、 そして誰が見ても憐憫の情を抱くに違いないと断じていいほど、谷はその身に寂しげな暗さを帯びていた。 シエスタはそれほど『シマサン』に会えないことが辛いのだとわかった。 そして、それほど谷に好意を寄せられている『シマサン』が羨ましいとも思った。 シエスタは、先ほど座っていた椅子にまた座り、黙ってチクチクと裁縫を再開した。 おそらく、自分が谷にしてあげられることはこれぐらいであろうと思ってシエスタが勝手にやっていることであった。 そんな様子を、外から厨房の窓を覗きこんで見ていたのはルイズであった。 どのタイミングで入って行っていいのか分からず戸惑っているようにも見えた。 そこに後ろからとある男から突然声をかけられた。 「どうだい?彼の様子は?」 吃驚して振り返ったルイズは、その男の姿を見てさらに驚いた。 「ギーシュ!?あんた生きてたの!?」 そこには、谷の決闘相手であったギーシュが立っていた。 ルイズは、谷によってギーシュは学院の遥か彼方に飛ばされ、空中分解したものだとばっかり思っていた。 ギーシュはどこか気不味そうにしている。 「その言い草は、ヒドイな……まあそう思っても仕方がない状況であったことは確かだが」 ルイズは、そう言うギーシュを頭から足先まで視線を泳がし、じっくりと見た。 そして有り得ないものを見たかのように驚き入った声で言った。 「……何で無傷なの?」 「……はっはっは!僕はどうやら悪運だけは強いらしい!あー……もしかして笑いごとじゃなかったかね?」 ギーシュはいち早く地面に伏せていたおかげで、運良くあの惨劇から免れていたのであった。 ジト目でルイズに見られているのに気がついたのか、ギーシュは申し訳なさそうに言った。 「僕はこれでも本当に反省しているんだ。彼が抱えている問題を知らずに不躾なことをしてしまったとね」 ギーシュの顔は真剣になっていた。窓から見える谷の姿を見ながら言った。 「詳しい事は勿論知らない。だが、彼が灯台の光を見失い、暗き海を彷徨う難破船であることはわかる」 谷の魂の咆哮。それを聞いていたギーシュは、谷に対して身震えるほどの恐怖を覚えながらも、 ある種の親近感を抱いていた。誰かを愛することに情熱を傾ける男として。 「……償いというのも変だとは思うが。このギーシュ・ド・グラモン、 何か助けになれるのであれば、出来得る限りの助力を与えることを惜しまない。 そう彼に……まあ伝えられる時に伝えておいて欲しい。 僕が直接言っても、言い終わる前に殴り飛ばされるのがオチだろうしね」 言い終わるとギーシュは、ルイズに別れの言葉を言って、その場を去っていった。 ギーシュを見送ったルイズは、唇をきつく結んだ。覚悟を決めているのだった。 ギーシュが言うように、下手をすれば話しかけただけで殴り飛ばされるであろう。 それは、もちろんルイズも例外ではない。例外はただ一人なのだから。 しかしルイズは引くわけにはいかない。 意を決して厨房のドアに手をかけた。 ルイズが厨房に入ると、まずシエスタと目が合った。 何か変化があったかシエスタに目で聞く。だが、シエスタは黙って首を横に振った。 谷は今もまだ、固い殻に閉じこもったままであった。 ルイズは腹をくくった。谷に近づき、喋りかけた。 「ねぇタニ。……話があるの」 谷はルイズの言葉に応えない。 だが、ここまでは予想通りであった。 次にルイズは、谷が絶対に何かしらの反応を見せるであろう事柄を言い放った。 「もし……、もしもよ?あんたを元の場所に帰す方法があるかもしれない……っていったらどうする?」 そのルイズの言葉を聞いた瞬間、 まるで、獲物に飛びかかる狼のような俊敏さで、 谷は物凄い勢いで立ち上がり、ルイズの襟口を体ごと持ち上げるようにして掴んだ。 のっぴきならない必死さでルイズを捲し立てる。 「おい!!!なら早く帰せ!!!島さんがいる世界に俺を帰せ!!」 切実な願いであった。 何故なら谷は島さんが居なければ生きている意味がなくなるのだから当然といえる。 ルイズはぎりぎり足先が付く程度に持ち上げられていた。 喋り辛くなるほど、息苦しかったが懸命に堪えた。今この時が正念場だと自分に言い聞かせて。 「……っあ、あくまでも『可能性』よ。呼び出す魔法があるなら、逆に送り返す魔法があるんじゃないかっていう……。 ……でも、無いと決めつけるのは早すぎると思うの。色々調べればもしかしたら……わたしも一緒に探すから」 谷はルイズから一度視線を外し、そのことについて考えてみた……。 そして再び視線を戻した谷は、当然の疑問をルイズに投げかけた。 「見つからなかったらどうすんだ?」 その言葉には、言い表せないほどの迫力と殺気が込められていた。 ルイズは、挫けそうにな心を奮い立たせ、喉から絞り出すようにして言った。 「……見つからなかった時は……わたしを好きにしていいわ。煮るなり焼くなり、殴り飛ばすなり」 谷はルイズの目の奥に宿る決意を見た。 確かに、可能性についてのいい分には嘘が含まれていないようではあるし、 もし、目的が達成されなかったときは責任をとるという覚悟もあると、谷にもわかった。 あらゆる感情が含んでいるであろう威圧的な谷の言葉がルイズの耳に届いた。 「見つからなかったらぶっ殺すからな」 そこに冗談の響きはない。 「ええ……わかってるわ」 谷はルイズの額に人指し指を突き立てて言った。 「だけどな、オレはそんなに待てないぞ!今すぐにでも!!本当なら今すぐにも島さんに会いたいんだからな!!」 「ど、どどど、どれくらいなら待てるの……?」 ルイズは焦っていた。何故なら、使い魔を送り返す魔法を見つけるというのは、 誰も聞いたことも、そして誰も試みようとしたことがないことを、一から探すという気の遠くなるような苦行であるからだ。 手がかりという手がかりも全くないし、そもそもそんな魔法があるかもどうかすらわからない。 そんな、広大な砂漠の中から一粒の宝石を探すような作業に、谷がどれだけ付き合うかルイズにはわからなかった。 まず、学院の書庫を漁って、城下町にも調べに行って……とてもじゃないけど短期間は無理だわ。 谷はどれくらい待ってくれるかしら? 一年?いやそんなに待てるわけがないわ。半年?もしかして一か月なんて無茶言わないわよね? 谷はキッパリと言いきった。 「1分だ!!!」 「いっぷっ!?なっ!ええええ!!!?無理無理無理無理!!」 あまりの谷の無茶ぶりにルイズは驚き慌てふためいた。 まさか、靴下を履くだけで過ぎてしまうような時間を言うとは思いもよらなかった。 いくらなんでも、谷が言うような時間では何もできないので、 仕方がないと言わんばかりに、ルイズは切り札を出すことを心の中で決めた。 本当に最後の切り札であった。だが必ず効果があると確信があった。 ルイズは谷を責め立てるように言った。 「そんな堪え性がない男は『シマサン』に嫌われるわよ!?」 突然、谷のルイズを掴む手から力が抜けた。 谷にとって、島さんに嫌われるということは、心臓を銃弾で撃ち抜かれるより致命傷となり得ることであった。 これほど恐ろしいことはない。 谷に言うことを聞かせる方法として、ある意味これ以上姑息な手はないとルイズ自身も思ってはいたが、 なす術がこれしか残っていないのだから、仕方がないと自分に言い聞かせていた。 だが、これほど効果があるとは思わなかった。 魔法がほとんど使えないルイズにとっては皮肉ではあるが、それはまるで魔法のようであった。 「っお、お前……なんでそんなこと言えるんだ?」 「わ、わたしも、同じ女だからよ。と、とりあえずすぐキレるような男をいいと思う女はいないはずよ、ねえ?」 ルイズは、シエスタに顔向けた。 突然振られたシエスタは、慌てふためいていた。 だが、ルイズの顔がまるで藁にもすがるような表情になっているのを見てしまったシエスタは協力するしかないと思ったのだった。 「え、ええ。そうですわ!私もそう思います」 「だ、そうよ!シマサンに嫌われるわよ!それでいいの!?」 「タニさん!頑張ってください!シマサンに嫌われないために!」 「そっそうか。……そうだな。それにしてもオマエら、怖いこと言うな」 谷は、いつも通りというわけには行かなかったが、少しでも希望が見えてきたことにより。 なんとか前を向けるようにはなっていた。 っそ、そうか……そうだよな……まだ諦めるのは早いよな。 谷はルイズから手を離した。 ルイズはニンマリと笑顔になった。ここまで上手く行くとは思ってなかったからだった。 そして、つい調子に乗ってしまった。 突然ルイズは拳を握りしめ、体の前に持ってきて、谷に向って力強く言ってのけた。 「いい?タニ。これは言わば、あんたに課せられた『恋の試練』なのよ!!!」 「『恋の試練』!!?……なんだソレ」 ルイズの背景に稲妻が走ったような幻覚が見えた気がした。 「……」 「……」 自分の発言のあまりの恥ずかしさにルイズの顔は耳の先まで真っ赤になっていた。 な、なななにわたしこんな恥ずかしいこと口走ってんの!?バカじゃないの!?? もう……穴があったら入りたい……。 シエスタが慌てて助け船を出した。 「あの!あ、あれですよ!ほら、あの、えーと……ミス・ヴァリエールが仰りたいことというのは……。 そうっ!これを乗り越えられれば、お互いの心の距離が縮まるという意味ですよ。 も、もしかして、シマサンもいなくなったタニさんを心配してヤキモキしてるかも……?」 谷は、先ほどのルイズの発言を忘れて、シエスタの言葉に反応した。 「っし、心配してくれるってことは!脈があるってことだよな!!?」 「え?……ええ!!」 たぶん、と心の中で付け加えたシエスタであった。 というよりも、相思相愛ではないのを今初めて知ったので、そのことを驚いていた。 よもや、片思いでこれだけ思いつめることができるのかと、シエスタはある意味感心した。 小さくガッツポーズする谷を眺めたまま、顔がまだ赤いルイズが、シエスタにこっそりと喋りかけた。 「助かったわ……あんた名前は?」 「シエスタと申します……」 「覚えておくわ……」 奇妙な友情が芽生えた瞬間であった。 前ページ次ページ谷まゼロ
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/463.html
忠告:この物語内部のキャラ達は全員頭のねじがふっとんでます、超外伝としてお楽しみください 世界観注意:取り合えず色々起こって各国が平和のために同盟を結んだ後のハルケギニアです。 その結果シンとサイトがシュヴァリエだったりティファニアが居たりします。 サイトは取り合えずルイズとバカップルVerツンデレで、シンは未だに彼女なし状態です。 ハルケギニアにはクリスマスの習慣が無いと言う前提で書いています、悪しからず。 始まりはほんの三日前の 12/22 サイトとギーシュ、そしてシンの男三人で食堂で会話をしていたときの事だ。 サイト「そういえばもうすぐクリスマスかぁ…」 シン「そういえばそうだな、もうすぐ25日か」 ギーシュ「クリスマス? なんだいそれは、君たちの国の風習かい?」 サイト「おぅ、キリストっていう神様が生まれた日だったかな? まぁ、親が子供にプレゼントをあげたり恋人同士がいちゃつく日なんだよ なぁ~」 シン「サイト、其れはちょっと偏りすぎだろ、ギーシュにわかりやすく言うなら… こっちでの始祖ブリミルの誕生祭みたいなものさ」 その言葉にギーシュはなるほどねぇと頷きながらも新しいワインを注ぎ会話を続ける。 サイト「でもさ~、やっぱり恋人と二人っきりで過ごすクリスマスって憧れだよな~」 ギーシュ「あ~、わかるね、僕もモンモランシーと誕生祭を二人っきりで過ごしてみたいと思うからね」 シン「憧れ…ね」 盛り上がる二人をやや冷めた目で見ているシン、全員酒が進んでいるらしくどんどんワインが消費されていく。 サイト「だからさぁ~、やっぱりあれだろ、女の子から「私がプレゼント♪」なんてされたらもう、死んでもいいとおもうだろ?ヒック」 ギーシュ「いや~ヒック、同感だねぇ~、特に自分が愛している女性からされたら… もう我慢できないよねぇ~」 シン「………おまえらなぁ、もう少し冷静になれよ」 サイト「にゃにを!? シンだって想像してみろい、上目遣いで潤んだ瞳で「私がプレゼントです、好きにしてください」っていわれる光景を!!」 ギーシュ「いやぁ……たまらない、実にたまらないね、そこまでされて我慢するのは男じゃないよ……!!」 シン「…まぁ、そりゃ、俺も男だから少しは嬉しいだろうけど…」 想像してみたのか、少し顔を真っ赤にしながらそう告白するシンに「そらみたことか~」と絡んでいく男二人。 そしてシンもその二人をさばくので精一杯だったために気付かなかった、この会話を盗み聞きしていた存在達の事を…… 12/25 当日 サイトとシンの世界で言うクリスマスのある日、シンはアンリエッタの呼び出しで王城へと登城していた。 シン「以前の苦労を労うための食事会…ね、まぁ、戦争がおきたって言うんじゃないならいいんだけど…」 アンリエッタの呼び出しは実は何度も経験しており、もはや耐性が出来ていたシンだったが、今回は見事に其れが災いする。 シンをアンリエッタの寝室まで案内したメイドから呼び出した理由を聞き、完全に気の抜けたシンはアンリエッタと食事が来るのをじっと待っていた。 それからしばらくしてとても大きな料理が運ばれてきたが、メイド達は蓋を取らないまま怪しげな笑みをシンに向けて立ち去っていく。 じっと待っていたシンだったが、元々そう気は長くない性格である、アンが遅いのが悪いんだと自分に言い聞かせ、その料理の蓋をあける、するとそこには… アンリエッタ「サイトさんに聞きました、今日がシンの世界で特別な日であると、そしてその日にはケーキを食べる習慣があると言う事も そして、その、殿方がとても喜ぶ料理があると言う事も…… ど、どうぞ、遠慮せずに召し上がってください」 危険な、もとい大事なところは隠れてはいるがまさにこれぞ「ケーキの女体盛」と言わざるを得ない姿のアンリエッタがその中に入っていた。 シン「……アンリエッタ姫、お一つだけ聴いておきたいことがあります」 アンリエッタ「は、はい、なんでしょうか?」 シン「この話をしたのは、どこの、どんな立場の、なんという名前の人間でしょうか?」 アンリエッタ「先ほども言いましたとおり魔法学院の、ルイズの使い魔である、サイトさんから聞いた事なのですが……」 シン「ご協力、感謝します」 シンはそれだけ言うと、料理の蓋を開けたときから硬直したままの笑顔そのままにもう一度蓋を閉めると汗をぬぐうしぐさを取り…… シン「アイツは俺が倒すんだ、今日、学院でぇええええええええええ!!」(パリパリパリリリィィィン!!) なぜか三重に種割れした後、人間を越えた速度で魔法学院へと全速前進していった。 そう、其れはサイトへの怒りの為であって、決してアンリエッタ姫の「甘美な罠」が怖くて逃げたのではない、多分、きっと、おそらく。 そしてまた蓋を閉められて置いてけぼりのアンリエッタ姫は「之が放置プレイと言うものですか?之もシンの愛情なのですね……」と激しくトリップをしていたのは余談である。 シン「サイトぉおおおおおおおおおおおおおお!!」 夕暮れになる頃にようやく魔法学院に到着したシンは鬼気迫る勢いで学院中を駆け回り、もはや親友から仇敵にランクチェンジしたサイトを探し回る。 シエスタ「シンさん!! こっちです!!」 シン「シエスタ!? そこか、サイト!!」 その時、ちょうど部屋から―シンの記憶が正しければ誰も居ない無人部屋―から頭だけを出しているシエスタの呼びかけに反応し。 シンは標的であるサイトがその部屋に居ると思いその部屋へと飛び込むように入った、が、其処にはサイトは愚か誰の姿も無かった。 シン「あれ?サイトが居ない…って、何で鍵を閉めてるんだシエスタ? って、その格好は……」 サイトが居なかった事で頭が一気に冷えたシンは、鍵を閉める音を聞きシエスタのほうを振り返り、ようやくシエスタの異変に気付いた。 シエスタ「私だけじゃありませんよ」 ティファニア「こんばんわ、シン」 シエスタと同じ格好をした―ミニスカートサンタクロースルックの―ティファニアが、シエスタの言葉に反応するようにしてシンの目の前に出てくる。 シン「…で、鍵を閉めたりして一体何なんだ?」 シンは、自分の本能が「ニゲロニゲロドアヲアケロー!!」と叫んでいる事実から必死に目をそらしつつシエスタ達に問いかける。 シエスタ「その、聞いてたんです、食堂でシンさんがギーシュさん達とお話してた事を」 ティファニア「でも私達じゃあ三日だけでシンに立派なプレゼントなんて買って渡せないから…… だから、シエスタと相談して決めたの」 シン「へ、へぇ… 相談して決めたんだ」 シエスタ「はい、二人とも同じ意見でして…」 ティファニア「私達はシンに何度もお世話になっているから、最高のプレゼントがしたいって思って…だから」 シエスタ&ティファニア「私がプレゼントです、シン(さん)の好きにしてください♪」 シン「は、ハハハ…(ば、馬鹿な!? この俺が、赤服でエースだったこの俺が逃げ場を見つけられないだと!? ま、まずい、このままでは全年齢の 壁が……!!)」 じりじりと歩み寄ってくる二人に対し、必死に窓から逃げようとするシンだったが、魔法でロックがかかっているらしく逃げられない。 かといって女性に、しかも自分を慕ってくれる女性に手を上げられるほどシンは薄情ではないためにじりじり追い詰められていたのだが…… シルフィード「きゅいきゅい~~~!!」 タバサ「…シン、早くこっちに」 だが、神はシンを見捨てては居なかった!! タバサがシルフィードに乗り、窓のロックを解除してシンに救いの手を差し伸べたのだ。 シンはまさに藁にも縋る心境でその救いの手を取り、無事鍵の閉められた部屋から脱出し、タバサとともに空の旅に出る。 その後、シルフィードは軽く空のお散歩を楽しんでいるのか学院の周囲を飛び回り。 日が落ちて夜の帳が降りた頃にシンと同居している学院近隣にある森の小屋へと降り立っていく。 シン「あれ、これって…」 シルフィードから降りたシンは、小屋の前に存在する馴染み深い品物である「クリスマスツリー」をみて驚きの表情を見せる。 タバサ「……先生が作った、そして、私からのプレゼント」 タバサはシンを降ろすと再びシルフィードを高く飛び上がらせ、風と水の魔法を使って粉雪を作り、小屋の周辺に降らせていく。 シン「雪… ホワイトクリスマス、か」 シンは魔法によって生み出される雪と、其れを生み出すタバサとシルフィードの二人が生み出す幻想的な光景に魅入っていた。 しばらく雪を降らせ続けられるように空中に簡易的な魔法陣を描いたタバサは、全身雪まみれになりながらシンが待つ小屋へと降りていく。 シン「タバサ」 雪を払いながら、シンのその言葉に反応してタバサは其方側を振り向く、そしてシンは片手を差し出しながらこういった。 シン「メリー クリスマス、これからもよろしくな」 その言葉にタバサは微笑を浮かべながら、少し赤くなった顔を隠すようにその手を受け取り、こう返したのであった。 タバサ「メリークリスマス、これからもずっと、よろしく」 そんな初々しいカップルを思わせる二人を祝福するかのように、粉雪は二人の間を静かに降り注ぎ続けていた…… お ま け その後、タバサとシンは小屋の中で小さなパーティを開き、そのまま小屋で眠る事となった。 途中お酒に酔ったタバサがシンに寄りかかったり、シルフィードが構ってくれなくて寂しいとシンに甘噛みしたりしていたが。 神に誓ってタバサとシンの間では全年齢の壁を越えてしまうイベントは存在していなかった、のだが……… シン「お、みんな頼む、落ち着いてくれ」 シエスタ「私は落ち着いていますよシンさん、だからはっきりその女性との関係をいってください、今なら許してあげますから」 ティファニア「そうだよ、はっきりいってくれないと私、思わずシンの記憶を消しちゃいそうだよ…」 アンリエッタ「…あぁ、そんな…… 始祖ブリミルよ、之が私の罪なのでしょうか、私は、愛する人を得る事は出来ないのでしょうか……」 タバサ「………」(極寒の眼差し) シンは四人の美女に囲まれ、その四人が生み出す極寒のブリザードの中で唯ガタガタと震えるしかなかった。 そして、その極寒のブリザードを生み出す原因になったのはシンと同じ毛布で寝ていた全裸の長い青髪の美女の存在である。 青髪の美女「ん~…もうむりなのね~… きゅいきゅい~~」 その美女がころりと転がりながら呟いた寝言により、その凍り付いていた空気は酷く鈍い音を立て、砕け始める シン「こ、こらシルフィード!!こんな時によりにもよって誤解されるような寝言を……!!」 シエスタ「へぇ、シルフィードさんっていうんですか…」(笑ってない笑みを浮かべながらシンに近寄る) ティファニア「タバサちゃんの使い魔さんと同じ名前だね」(杖を取り出しながらシンににじり寄る) アンリエッタ「始祖ブリミルよ、罪深き私に今一度チャンスを、愛しき人の心を取り戻すための…」(トリップしながらシンの背後に歩み寄る) タバサ「シン、御仕置き……」(杖を振りかざし魔法を詠唱し始める…!!) シン「だ、誰か助け… ち、近寄るな…俺に、俺に近寄るなぁああアアアアアア!!」 ????「終わりの無い女難こそが終わり、これが、ジョナンエクスペリエンスレクイエム……」 シンは、意識が刈り取られる寸前に、そんな声を聞いたと、この後の全治三ヶ月の入院生活で語る事になるのであった…… 一覧へ
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/3866.html
340 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 45 34 ID vk/5MgKm 暖かな陽気が差し込むヴェストリの広場を才人は散歩していた。 タバサをガリア王国から救出して以来とくに事件という事件は発生せず、トリスタニアには平和が訪れていた。 「まぁ、平和なのはいいんだけどさ」 才人は中庭を見渡し呟いた。 「なんかおきねぇかなー・・・」 今日は虚無の曜日なので水精霊騎士隊の訓練も無く、部屋にいても特にすることが無いため中庭に来てみたものの 結局なにもすることが無く、才人は空を見上げた。 「もう帰るかな・・・」 ルイズに無断で出てきたためそろそろ帰らないとお仕置きされるかもしれないと思うと自然と体が震えた。 そして行き先をルイズの部屋に向けて一歩踏み出そうとした瞬間、 「ま、待ってくれ、僕の麗しのモンモランシー!!」 「だ・れ・が!あなたのモンモランシーなのよ!!」 才人は咄嗟に振り向いて、すぐにまた前を向いて歩き出した。 あの二人はいつも同じような事を言い合っているため、才人はすでに飽きていた。 一応付き合っているんだったらもう少し仲良くしろよと思いながら、才人は溜息をついた。 後ろからギーシュの必死の言い訳が聞こえてきたが才人は勝手にやっててくれと言わんばかりに再び歩き出す。 すると、今度は爆音とともにギーシュの叫び声が聞こえてきた。 「うわああああああああ!サイト!そこをどいてくれ!!」 才人はなんだよと思い、振り向いた。 そして飛んできたギーシュと衝突して―――― あれ。 なんだこれ。 なんか柔らかい感触が唇に・・・・・・ でも気持ちいいというよりは気持ち・・・悪い・・・? 才人が恐る恐る目を開いた瞬間、絶句した。 なんとぶつかった衝撃でギーシュの唇が才人のそれに押し付けられていたのだ。 才人の顔が見る見る青ざめていく。 才人は慌ててギーシュを突き飛ばし、地面を転がりながら奇声を上げた。 「うぎゃjbkjfだgくdgdbkvふじこw」 ショックを受けたのはギーシュも同じで、地面に突っ伏したまま泣いていた。 「ああ・・・僕の情熱の薔薇のような唇がサイトに・・・・ああ・・・あああああああ」 「もうこれ死ぬしかねぇな、この事実を背負って生きていく自信がない・・・じゃあなみんな生まれ変わったら会おうぜ」 「さらばモンモランシー、僕はこの永遠という名の時計仕掛けの摩天楼を・・・・・」 才人達が地面を転がったり悶えたりしていると、騒ぎを聞きつけたシエスタが才人の下へやって来た。 341 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 47 22 ID vk/5MgKm 「サイトさん!大丈夫ですか!!」 「ううっ・・・・シエスタ・・・・」 「いったい何が、何があったんですか!」 「オイラ・・・オイラ汚されちまったよぅ・・・」 「???」 シエスタは何が何だかわからないというように首を傾げると唇を押さえたまま白目を剥いているギーシュが 目に飛び込んできた。 そして才人に目を戻す。 時々801がどうとかボーイズラブとかギーシュエンドとかシエスタにとってワケのわからない単語が才人の口から漏れていた。 いやな予感がシエスタの頭の中を駆け巡る。 まさか・・・まさかサイトさん・・・。 ミスタ・グラモンと・・・。 時既に遅し。 才人の顔は既に生気を失っていた。 「サイトさん、しっかりしてください!」 「ダメだよ・・・シエスタ・・・俺は毒を受けちまった・・・・もう先は長くない・・・・最後に夕日が見たかったなぁ・・・ シエスタ、俺の最後の願いだ・・・俺の死体は土に埋めてくれ、モグラだから・・・・」 才人の遺言の毒という単語にシエスタは閃いた。 シエスタはなぜか顔を赤らめ、才人に覆いかぶさる。 「シエスタ・・・?」 「サイトさん、毒なら私が吸い出して差し上げますね♪」 えっ、それってどういうこと?と言おうとした才人の唇は、シエスタによって塞がれていた。 あー・・・そういやシエスタって大胆になる時多いんだよなぁ・・・・。 じゃなくって!!やばいってこれ!ルイズに見られたら間違いなく死刑だよこれ。 心ではそう思っていても体がいうことをきかず、されるがままになっていると口の中に、にゅるっ、としたモノが入ってきた。 才人はそれがシエスタの舌だと気づくのに時間はいらなかった。 「ん・・・んむっ・・ちゅ・・・っ・・んんっ・・」 それはさっきシエスタが言った吸い出すという表現がよく合うキスだった。 いつのまにかギーシュもそんな熱い口付けを正座して見入っている。 ちょ・・・ギーシュそんなに見るんじゃねぇよと思っていると、 ギーシュが爆発して吹き飛んだ。 342 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 48 43 ID vk/5MgKm 「え?」 シエスタはおもわず口を離しギーシュの行方を追った。 才人もギーシュがいた場所からゆっくりと視線をずらし、ギーシュを探した。 ギーシュは先ほど正座していた所から数十メートル離れた場所に、栽培マンに自爆されたヤムチャのごとく横たわっていた。 ま・・・まさかこれは・・・・ 全身から冷や汗が、どっ、と溢れてくる。 ガチガチと体を震わせながら視線を元に戻し、なおも首をギーシュが吹き飛んだ反対方向に向ける。 そして、想像通りの人物の姿が視界に入った。 「こ、ここここここの使い魔ったら真っ昼間から中庭でメイドとななななななにやってるのかしら? 中々帰ってこないから心配して来てみれば・・・・」 まずい、殺られる・・・・・ こうなってしまったルイズにはなにを言っても無駄なことは今までの経験上わかっていた。 才人は怯えるシエスタをよそに猛ダッシュで逃げ出した。 「た、助けてくれぇええええええ!!」 「こらぁーー!逃げるな!待ちなさいこの、馬鹿犬ーーーーーっ!!!」 結局ギーシュとモンモランシーだけじゃなく、この二人も同じようなことを繰り返しているのであった。 「さて、馬鹿犬?」 「は・・・・はい・・・・」 才人は逃げ出したまでは良かったものの、壁際に追い詰められ籠の中の鳥となっていた。 「大丈夫よそんなに怯えなくても、別に怒ってないわ」 「えっ、そうなの・・・?」 「ええ、怒ってないわ」 「ホ・・・ホントデスカ?」 「ええホントよ、怒ってないわ、怒ってないけど・・・・・死ねぇえええええ!!!!!!!!!」 ルイズはそう叫ぶと杖を振り下ろした。 すると、杖の先から放たれた力が才人の目の前で爆発した。 そして無音の空気に包まれていた中庭を、爆発音と才人の叫び声だけが響き渡った。 343 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 50 37 ID vk/5MgKm 「ふぅ・・・・」 ルイズのおしおきフルコースを受け、才人は痛む頭を擦りながら廊下を歩いていた。 まったく少しぐらいは手加減して欲しいよ。 でも、俺が悪いんだよな・・・・。 あんだけ好き好き言いながら他の女の子とキスなんかしちゃったからな。 でも、しかたがないの。 オトコノコだもん♪ そこで初めて才人は今の自分がとてつもなくキモかったことに気づき、辺りを見渡した。 そして、なんか悲しそうな表情でこちらを見つめているシエスタと目が合った。 才人はその場の空気に耐え切れなくなりこっちから話しかけた。 「ど、どうしたんだシエスタ?」 「あ、いえ、その・・」 シエスタは少し俯いて、さっきとは意味の違う悲しそうな顔をして才人の目を見つめた。 「あの、さっきはすみません。わたしのせいでミス・ヴァリエールに・・・・」 「え、ああ別にいいって。慣れてるから」 シエスタは上目遣いで才人の顔を覗き込んだ。 「ホントですか?怒っていませんか?」 「ホントにホント。それに怒ってなんかいないって」 すると急にシエスタの顔が明るくなり、がばっ、と才人の胸板に顔を押し付けた。 「シ・・・シエスタ?」 「よかった、嫌われたと思っていました、ホントによかった・・・・」 シエスタはそういいながらぐいぐいと顔を胸を押し付けてくる。 才人はもうそれだけでおかしくなりそうだった。 ちょ、なんでシエスタはこうなのかなぁ〜。 どうして俺のツボを的確に刺激してくるのかなぁ〜コノヤロー。 才人はさっきのルイズのお仕置きを忘れシエスタの感触を楽しんでいると 「あ、そうだわ、わたしサイトさんにお願いがあったんです」 お願い? え、もしかしてお願いってあれですか!? この状況でお願いってあれしかないですよね!? 才人はドキドキしながらシエスタの言葉を待っていた。 「実は・・・・」 344 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 55 05 ID vk/5MgKm そのころルイズはというと、 「ああああああんの馬鹿犬ったらまたどこほっつき歩いているんだか、シエスタとまたキキキキキキスなんかしてたら今度こそ・・・・」 とたいそうご立腹な様子であった。 誰が見てもかわいらしいという顔を怒りで鬼の形相に変え、杖を片手に節操のない使い魔をさがしていた。 「ほんっとにあの馬鹿犬ったらどこにいるんだか、ご主人様に探させるなんてそれだけで罪よ罪!」 もうあれね、例え一人でいたとしてもご飯抜きじゃすまないわね。 さてどう罪を償ってもらおうかしら。 ルイズは鬼の形相に不敵な笑みを足して見るもの全てを圧倒するオーラを放ち、女子寮の階段を登ると、 「いたいた、ちょっとサイ・・・・」 才人を見つけ、呼ぼうとした口を慌てて抑えた。 なんと才人の奴、懲りずにまたシエスタといちゃいちゃしているではないか。 あああああの馬鹿犬まままままたシシシシシシエスタとなにくっちゃべってんのかしらぁああ? 的確に才人をロックオンしたルイズは、いつ飛び込むかタイミングを計っていた。 うーん、いま行ってもサイトに適当に言い訳されるわね。 どうせなら証拠を掴んでからボコボコにしたほうがよさそうね。 ルイズは慎重に作戦を立て、足音を立てないようにゆっくりと近づき物陰に隠れた。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・!?」 んー、ちょっと聞こえづらいわね。 ルイズは息を殺し、聞こえてくる会話に耳を傾けた。 「・・・それで・・・結婚・・・・」 「それって・・・俺が・・・・」 ルイズはところどころ聞こえてくる結婚という言葉に驚愕した。 え、結婚ってどういうことよ!あのメイドったらサイトにプロポーズしたの!? 最初は混乱していたルイズだったが、しだいに笑みをこぼし始める。 ふ、ふふん、そんなの断るに決まってるじゃない、サイトはね、わたしのこと好きっていいましたからー残念! 『結婚してくださいサイトさん』 『それはダメだよシエスタ』 『なぜですかサイトさん!』 『俺はルイズが好きなんだ、だからシエスタとは結婚できない』 『そんな・・・・』 『アンタなに言っちゃってんの?馬鹿じゃないの?このダメイド!』 ルイズは自分の妄想の中で才人に寄り添いながらシエスタを見下していた。 アンタなに考えてんのよ、サイトはね、わたしの使い魔なの。 だからわたしと一生一緒にいなくちゃいけないの。 もうちょっと物事を考えてからいいなさい。 しかし、妄想とは180度違う才人の発言にルイズは一気に現実に戻された。 「わかったよ、シエスタにはいろいろ恩があるから、俺でよかったら喜んで」 「本当ですか!?サイトさん」 え・・・・ 「じゃあ、今後の詳しい話もあるので厨房でゆっくり話しませんか?」 「そうだな、ここじゃあちょっとあれだしな」 何言ってるの・・・?サイト・・・・・・? 予想を遥かに超える才人の言葉にルイズはひどく困惑した。 そして、考えるより先にルイズは二人の前に飛び出していた。 345 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 56 47 ID vk/5MgKm 「だ、だめぇーーーーーーー!!絶対だめぇーーーーーー!!!」 「うわっ、ルイズ!?」 「ミ、ミス・ヴァリエール!?」 才人は急に目の前に飛び出してきたルイズに駆け寄った。 「ど、どうしたんだよルイズ?なにがあって・・・」 才人はそこでルイズの頬を雫が伝っているのに気が付いた。 「お、お前っ・・・・なんで泣いて・・・・」 才人の問いに、ルイズはゆっくりと口を開く。 「・・しちゃやだ・・・・・」 「え?」 「わたし以外の人の結婚しちゃやだーーーーー!!!」 そうルイズは叫ぶと、才人に抱きつき大声で泣き始めた。 「うぇっ・・・ひっく・・なんでよぉ・・・わたしのこと好きって言ったくせにぃ・・・」 「ルイズ・・・・?お前まさか・・・」 才人は、こいつすげぇ勘違いしてやがる、と思った。 しかし、正直今のルイズはかわいかった。 才人がそんな甘ーい感情に浸っていると、ルイズの口からとんでもない言葉が出てきた。 「サイトは・・・サイトはわたしと結婚するの!!!!」 ぐはぁ!!!! 「えっ、ちょ、おま・・・」 「な・・・ミ、ミス・ヴァリエール!?何を言って・・・」 シエスタがルイズを止めようとすると、ルイズはキッとシエスタを睨んだ。 そして、おもむろに才人の唇に自分のを押し付けた。 「んっ・・・」 「ん、んんんんんーーー!?」 「ああああああーーーっ!!!」 ルイズはそっと唇を離すと、才人の目を潤んだ瞳で見つめた。 才人はこのまま押し倒してやろかと思ったが、ぶんぶんと首を振る。 落ち着け俺、こいつは今勘違いをしているんだ。 才人は深呼吸を一つするとルイズの肩を掴み、真剣な眼差しでルイズの真っ赤な顔を見つめ返した。 そして慎重に説明を始めた。 「あのな、ルイズ。お前は今ものすごーく勘違いをしてるんだ」 「勘・・違・・・い?」 「ああ、勘違いだ」 346 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/03(火) 18 58 00 ID vk/5MgKm 不安そうな顔をして見つめてくるルイズに一瞬ドキッとしたが、無理矢理続きを話した。 「お前、俺がシエスタと結婚すると思っているだろ?」 「うん」 「それが勘違いなんだよ、別に俺は結婚なんてしないから」 「えっ?」 「そうだよな、シエスタ?」 急に話しを振られ少々戸惑ったが、慌てて才人の言葉をつないだ。 「そ、そうなんですよミス・ヴァリエール」 「で、でもそれならなんでさっき結婚って・・・・」 「あれはわたしの友達が結婚するんです、それでわたし司会を頼まれたんですけど一人じゃ心細くて サイトさんにいっしょに司会をしてくれるように頼んでたんです」 「そ、それで俺はシエスタの頼みだし今までお世話になってるしまあいいかなーなんて思って」 そして二人は顔を見合わせて、ねー、と頷きあった。 ルイズはただ呆然と立ち尽くしていた。 え、何?全部わたしの勘違い? なーんだ、心配して損しちゃった。 そうよね、馬鹿犬がご主人様をほっといて結婚するはずないわよね。もうわたしったら。 あれ? わたし勢いにのってなにかすごいことを言ったような。 えーと・・・確か・・・・ 「ル・・・・ルイズ〜〜、お〜い・・・」 いきなり黙り込んでしまったルイズが心配になり、ルイズの顔の前で軽く手を振る。 しかしルイズはまったく反応しなかった。 ルイズはそんな才人の顔を見て、全てを思い出した。 わわわわわたしったら勢いとはいえなんてことを・・・!!! けけけけけけ結婚するってわたしが!!!サイトと!!!! いいいいいいっちゃった、いっちゃったよぉーー!!! 急にぷるぷる震えだしたルイズに再度才人は呼びかける。 「おい、おい!ルイズ!!どうしたんだよ!!!」 才人の呼びかけに我に返ったルイズはたっぷり顔を赤らめたあと、言葉にならない声と共に強烈なボディーブローをかまし、 ものすごい勢いで走り去ってしまった。 「あれ、何これ・・・天井と意識が遠のいていく・・・・・」 理不尽なお仕置きを受けた才人はその場に倒れこんだ。 506 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 05 09 ID QCEh6mop 「なぁ、ルイズ・・・・」 しかし返事は無い。 「そろそろ出て来いって」 才人はそういいながらベッドに腰掛け、布団にくるまったまま出てこないご主人様を促す。 さっきからずっとこの調子だった。 才人が部屋に戻ってきてからもう数時間が経ったが、ルイズは一向に顔を見せようとはしなかった。 だがそれもしかたあるまい。 なぜなら先程勢いとはいえ才人にプロポーズまがいの発言をしたため、恥ずかしいやら貴族のプライドやらいろんな 気持ちが混ざり、出ようにも出れない状態が続いているのだった。 しかしそれは唯の言い訳に過ぎない。 本当の気持ちは、普段ルイズが心の底で思っていることを口に出してしまったから恥ずかしいのだ。 才人がルイズの事を好きなように、ルイズだって才人のことが好きなのである。 だからこそ余計に布団の中から出れないわけで・・・・・。 「ルイズ、いいかげん出て来いって。別にさっき言った言葉が気になるんだったら俺忘れるからさ、ほら。」 ――何忘れようとしてんのよバカ犬。 「まぁお前の気持ちもわからなくはないって。勢いとはいえあんなこと言っちゃったんだしな。」 ――なにが「お前の気持ちはわかる」よ。全然わかってないじゃない。 「俺、お前に好かれてるなんて思ってないからさ、気にしないしもうこの話題は出さないからさ。」 ――違う。 「独占欲っていうかなんていうか、そんな感じで俺を繋ぎ止めておきたかったんだろ?」 ――違う。そんなつもりで言ったんじゃない。 「だからさ・・・もう俺」 「違う!!!」 ルイズは一気に跳ね起き、才人を睨みつけた。 いきなりルイズが叫びながら起きたため、才人は転げ落ちそうになった。 507 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 05 39 ID QCEh6mop 「ル・・・・ルイズ・・・どうしたんだよ、急に・・・」 「違うって言ってるでしょ・・・」 「違うって・・・何がだよ」 「そんなこともわかんないのに何が『お前の気持ちはわかる』よ。ばか・・・・」 急に怒鳴ったりしおらしくなったりするルイズに才人は困惑したが、今にも泣きそうなルイズを見て とりあえず頭を撫でてやる。 ルイズの呼吸が落ち着いたのを見計らって、才人はゆっくりとルイズに語りかける。 「なぁ、どうしたんだよ。俺、なんか気にさわること言ったか?だったら謝るからさ。」 「そうじゃないわよ・・・」 「じゃあなんで」 「わたしが冗談であんなこと言うと思ってるの!?」 才人はハッとした。 ルイズが怒っているのは恥やプライドのせいじゃない、ルイズの気持ちをわかってやれなかった俺自身に 腹を立てているんだ。 でも・・・それってもしかしなくても・・・ 「じゃ、じゃあさ、さっきのってもしかして・・」 才人が期待に胸を膨らませながら尋ねた。 するとボッ、とルイズの顔が一瞬にして真っ赤になった。 そして慌てて布団の中に潜り込むが、才人に引っ張り出されベッドの上に座らされた。 「な、なにするのよ!」 言うが早いかいきなり才人に抱きすくめられ、呼吸が止まる。 しばらく才人の抱擁力にうっとりしていたが、暴れだす。 「な、ちょ、離しなさいってばぁ。馬鹿犬!!」 「嫌だ」 「な、なんでよぉ・・・」 最初は激しかったルイズも段々語彙が貧弱になってきた。 そんなルイズを才人は愛おしく思い、腕にさらに力を込める。 「ルイズが好きだから」 「・・・・・・!?」 160キロの直球をど真ん中に受け、ルイズの顔はますます赤く染まっていく。 才人は言葉を続けた。 「好きだからそばにいたいって思った。もっと抱きしめて、くっついていたいって思ったから 抱きしめたんだ。俺の言ってること変か?」 「別に・・・変じゃないわよ、ばか・・・。」 ルイズはそういうと自ら才人の胸に顔を埋めた。 508 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 07 26 ID QCEh6mop やばい。 今の俺、超かっこいい。 今ならどんな女でも落とせるような気がするぜフハハハハ。 しかし。 才人はゆっくり深呼吸をした。 まずいな、非常にまずい。 才人は軽く体を離し、ルイズにばれないように股間を覗き込む。 するとそこは既にどんな兵器でも壊せないような塔がそびえ立っていた。 おお我がムスコよ、頼むから静まってくれ、あやまるから、とりあえずあやまるから。 ごめん、興奮しちゃってごめん。 そんな才人の訴えに対し、反抗期真っ只中のムスコはせまいよーと言わんばかりにズボンを押し上げる。 くそっ、落ち着け、落ち着くんだ、奇数を数えて平常心を保つんだ。 奇数は物事を2で割り切れない優柔不断な数字。俺に力を与えてくれる。 1,3,5,7,9,11,12,あ間違えた,13,15・・・・・ 才人が精神統一をしていると、ルイズから鼻腔をくすぐるいい匂いが漂ってきた。 ああもうどうして女の子ってなにもしてないのにこんないい匂いがするんだよ。 ヤッベ、もう限界。 ついに限界に達した才人は抱きしめていたルイズを離し、見つめる。 そしてゆっくりと唇を近づけた。 これでルイズが拒否ったらもう潔く諦めよう、もし拒まなかったら・・・・ええいもう知るか!! 驚くべき事が起こった。 才人の唇からルイズまでの距離はまだあったはず、それなのに才人の唇は何か柔らかいもので塞がれていた。 才人が恐る恐る眼を開くと、照れながらもしっかりと才人の頭を掴んで自分のそれを押し付けているルイズの姿が飛び込んできた。 つまりそれはルイズからしてきたというわけでして・・・・。 「・・・っ、ルイズ!!!」 耐え切れなくなった才人はルイズを強引にベッドに押し倒した。 そして乱暴に口の中を貪る。 「っつ・・・ちゅ、ん・・・はぁ・・っ、ルイズ・・・ルイズ・・」 「んむ、はぁっ・・ちゅ・・ちゅっ・・サイトぉ・・・」 二人の口の間からは情愛の吐息が漏れ、二人を一つにしていく。 名残惜しげに唇を離すと、銀色に輝く糸が繋がっていた。 それから先は、よく覚えていない。 気が付いたら、お互い全裸で、俺はルイズの上に覆いかぶさっていた。 いつの間にこんな事になったんだろう。 思い出そうとしても押し倒した辺りから思い出せない。 でも、照れながらこっちを見ているルイズを見たら、そんなのどうでもよくなってきた。 「ルイズ・・・・・」 才人はルイズの首筋に吸い付き、そのまま口先を胸の先端へと持っていく。 「ひゃあっ、ああん」 そして強く吸い上げ、硬くなったそこに軽く歯をたてる。 さらに下半身への攻めも忘れない。 左手を伸ばし、ルイズの秘所に指を差し込む。 「んふっ、あっ、そこは・・・」 「どうしたんだよ、もう濡れてるぜ?」 グチュグチュと卑猥な水音をたてるそこは、才人の指を待っていたといわんばかりに締め付ける。 才人が指を動かすたびにどんどん蜜が溢れてくる。 大分ほぐれたことを確認すると、指を2本3本と増やしていった。 「んんっ・・やぁっ・・ああっ・・・」 与えられる快楽が増えた事により、経験の無いルイズはすぐに達してしまった。 509 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 07 57 ID QCEh6mop 正直才人は焦っていた。 ここまではなんとなくで進めてきたものの、もちろん童貞だった彼はどうすればいいのかわからなく なってしまったのだ。 大丈夫だ才人、さっきルイズをイかせてやれたじゃねぇか、何を怯えている。 こんな時のために日本で説明書(エロ本)を何度も読んだだろ!! そんなこんなで知恵を振り絞っていた才人に、完全に放置されていたルイズが不安げに口を開いた。 「サイト・・・どうしたの・・・・?」 「いや・・・やっぱり俺も初めてだからな・・・・さすがに・・・その・・・」 「緊張してるの?」 「えと・・・まぁ、そんな感じ・・・・」 それを聞いたルイズは上体を起こし、才人の頬にそっと口を付けた。 そして才人に尋ねる。 「どうして?」 「えっ?」 「どうして緊張してるの?」 まさかそうくるとは思っていなかったため、言葉に詰まる。 少し考えた後、才人は思った事を素直に語った。 「なんていうかさ・・・・・その、ルイズの事を大事に思ってた分、本当にこんなことしていいのかなって思ったり 好きだからこそ自分の手で汚したりするっていうのがなんていうかその・・・」 ルイズは心の中で軽くため息をついた。 この使い魔はもうちょっと気のきいたセリフが言えないのかと思ったりもした。 しかし、自分をそこまで大事に思っていてくれた事に少しドキドキもした。 「わ・・・わたしも・・・その・・・・」 「ルイズ?」 ルイズは才人の耳元で、ずっと自分が言えずにいた言葉を、言ってしまったら才人が元の世界に帰る時の足枷に なると思い、心に留めていた言葉を、今にも消え入りそうな声で囁いた。 「好き・・・・だから・・・わたしも・・・」 「・・・・・!?」 「大事かどうかはわかんないけど、アンタといたらドキドキするし・・・・だから」 「ルイズ・・・・お前」 「アンタがしたい事全部していいから、だから・・・」 次にルイズが放った言葉は、才人にとって忘れる事ができないモノとなった。 「ずっと・・・・・わたしのそばにいて」 ずっと・・・・・そばにいて・・・か。 ずるいよ・・・ルイズ、俺、異世界の人間なのに・・・。 いつかは、帰るつもりだったのに・・・。」 なのに・・・そんなこと言われたら・・・・・・。 「当たり前だろ?今更何言ってんだよ。」 つい、こんなこと言っちまうじゃねぇか。 510 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 08 28 ID QCEh6mop 窓から辺りを見る限り、限りなく夕方に近い夜だということが判別できる。 ランプを付けていないため薄暗い部屋の中で、二人の男女がまさに今交わらんとしていた。 才人は自分のモノをルイズの秘所にあてがい、鼓動の高鳴りを落ち着かせる。 『ルイズ、いいのか本当に?』などというヤボなことはあえて聞かない。 自分だってそれなりに空気は読めるはず・・・だと思う。 そういや今までいろんな事があったなぁと思い出にふけっていたが、すぐにやめた。 大切なのは過去じゃない、今実際に起きている現実こそが大切なんだ。 今俺いいこと言ったぞ。メモっとけ。 「いくぞ、ルイズ」 ルイズは何も言わずに頷いた。 それが合図。 才人は躊躇わずに、一気に最奥まで貫いた。 「――――――っ!!」 途中何がが千切れる音がした。 先程の愛撫でかなり濡れていたものの、とてつもない激痛がルイズを襲う。 「いっ・・・ああっく、ふぅん・・あっ・・・」 しかし才人は止まらない、いや、止まれなかった。 容赦なくギュウギュウと締め付けられ、軽く暴走ぎみの才人は自分の快楽を高めるためだけに 腰を動かしてしまう。 「っっつ・・はぁ、くっ」 「ああっ・・いっ・・・サイ・・・ト・・・つぁあ・・・」 しかし何度も腰を打ち付けていく度にルイズにも段々と快楽が込みあがってきた。 才人はルイズの頬に手を添えた。 「くっ・・はぁ・・・・ルイズ、俺・・・・もう・・・」 「ああっ・・んん、はっ、わたしも・・いっちゃ、イっちゃうっ・・・」 そして、次の瞬間―――。 「ああああああああっ!」 ルイズの大きな喘ぎ声が、辺りに響き渡った。 511 名前:桃色の花[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 09 02 ID QCEh6mop 「ごめんなさいまじですんませんもうしないんでほんとかんべんしてくださいわたしがわるうございました」 「・・・・・・・・」 ベッドの上でペタンと座っているルイズの眼前に、全裸で土下座している才人の姿があった。 股間のムスコもさすがに悪い事をしたと反省しているのかシュンとしていた。 なんとも情けない姿である。 「犬、アンタ自分が何をしたかわかってるの?」 「はい」 「わたしね、初めてだったの。だからね、もんのすごく痛くて苦しかったの。それなのにこの犬ってば!」 ルイズは立ち上がると才人の頭をぐりぐりと踏みつけた。 「犬、今からアンタに『罰』を与えるわ」 「やっぱりっすか・・・」 才人は頭を上げてルイズの顔を覗き込んだ。 するとなぜかルイズは顔を赤く染めるとそっぽを向いた。 「もう一回しなさい」 「は?」 「ききききき聞こなかったの?もももももももう一回しなさいと言ったの!!」 才人の頭はスパークした。 「でも、つ、次痛くしたらアンタ覚悟しなさいよね!!」 もうルイズの声など聞こえるはずがない。 才人は勢いよくルパンダイブした。 「ぃよろこんでぇえええええーーー!!!」 結局この日ルイズが満足するまで才人は頑張ったとさ。 第一部、桃色の花 終 512 名前:さんざむ[sage] 投稿日:2007/04/06(金) 21 11 20 ID QCEh6mop くっ、やはりへんたいさんとは比べ物にならないか・・・・orz だがいつの日にかへんたいさんと肩を並べて投下できる人物となってやる! 次回予告 「どこいったんだろ、シエスタ」 ―――消えたシエスタ――― 「シエスタ?さぁ、最近見かけねぇな。どうかしたのか?」 「彼女ならさっき火の塔に向かって走っていったよ。なんだか泣いてるようにも見えたなぁ」 ―――高まる不安――― 「それはサイトさんのほうがよく知ってるんじゃないですか?」 「わたしが、何も知らないと思ってたんですか?」 ―――真実を知った黒髪のメイド――― 「苦しいんなら苦しいって言ってくれよ!嫌なんだったら嫌って言ってくれよ!!じゃないと・・・俺・・」 「どうして嫌がらないといけないんですか?」 ―――優しき心を持った二人の男女の結末は――― 『真実(まこと)の黒』 近日公開予定 14-8
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1636.html
前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~ やや落ち着きを取り戻しつつある食堂奥の厨房内、そこで空になったシチュー鍋を前に 一人と一不定形が満足そうな表情を浮かべていた。 「馳走になった」 「てけり・り!」 無論、九朔とランドルフである。 そしてそんな彼等の前にはシエスタがにこにこと頬杖をつき、初めて見る恰幅の良い男が 腕を組んで笑っていた。 「いやあ、お前さん達の食いっぷりを見ているとまったく清清しいぜ。しかもシエスタ達の 洗濯の手伝いまでしてくれてたとか言うじゃねえか。いやぁ、本当にお前達はいい奴だ!」 「そうでもないと思うが」 「いいや謙遜するない。お前さんは良い奴だ、いい男だ!」 がははと笑いながら恰幅の良いコック長マルトーは九朔の肩をたたきランドルフを 揉みしだく。 「てけり・り」 本来ならば見るだけでトラウマっぽいものを植えつけるはずのショゴス。 だがしかし、どうやらここの人間は総じて耐性が高いらしく、少し暇のできたメイド達が こちらにやってきてはランドルフのぷるぷるむっちりバディをつんつん突っついたりして 遊んでいた。 「てけり・りぃ」 そして、そんな彼等の好奇心の対象である当の本人(?)はと言うと、マルトーの指使いが よっぽど心地よかったのかさっきからずっと気持ちよさげに揉まれた箇所を蠕動させている。 「しっかし坊主も大変だな。貴族に召喚だったか? そんな事で呼び出されて使い魔に されちまうなんて悲劇以外のなんでもねえや」 首を振り苦々しく言うマルトー、周りも同情の表情でうんうんと頷く。 「だが俺たちもお前さんと同じ平民、もし飯とか何かで困ったらここに来い。平民同士 協力できる事は何でもするぜ!」 そういってガッシリと九朔の手を握るマルトー。 それに続くようにシエスタもその手を握る。 「そうです! 私たちもお洗濯手伝ってもらいましたし何か手伝えることがあったら いつでもぜひ!」 「あ、ああ………何かあったら……頼むとしよう」 真剣な表情で力説する二人に少々たじろぎながら答える九朔。ただ昼食を恵んでもらおうと 思っていただけなのに、余りの好待遇に悪い気がしてならない。 無論、彼等としてはただでさえ貴族に虐げられている平民なのに、それがよりにも よって貴族本人に召喚されて使い魔にされてしまった九朔に同情の念を 禁じえなかったという理由があるのだが知る由もない。 「っと、そういや貴族の坊ちゃん達にデザートを配る時間だな。運んでくれるか」 「はい、分かりました!」 立ち上がる二人、周りに居たメイドや料理人たちもそれぞれの仕事に戻ろうとする。 そこに取り残される九朔とランドルフだが、彼等もまた立ち上がる。 これほどの好待遇を受けておきながら何もしないではいられない。 食器の洗い場へ向かうランドルフとは別に九朔はシエスタへと歩み寄った。 「シエスタ、我にもデザート配りを手伝わせてくれぬか?」 「そんな悪いですよ! 朝あんなに手伝っていただいたのに!」 申し訳ないといった顔で首を横に振るシエスタだが、九朔も引き下がるつもりはない。 「あれくらいどうという事はないさ。むしろ昼時に汝等より先に昼食を頂戴したのだ、 手伝わないでは夢見が悪い」 肩をすくめて笑む九朔にシエスタはマルトーにどうしたものかと目配せする。 「坊主よ、俺たちの仕事をまた手伝ってくれると言うのか?」 「ああ、もちろんだ。汝等から受けた恩、返さずにはいられぬよ」 平然と、しかも淀みなく言ってのける九朔に真剣な顔をしたマルトーは再び破顔した。 「そうかそうか!」 心底嬉しそうに九朔の肩を叩いて笑う。 「良し、分かった! だったらシエスタ達を手伝ってやってくれ!」 「良いんですかマルトーさん?」 「構わねえ。こんな良い奴がやると言ってくれてるのを無下にできねえ!」 シエスタににやりと笑むマルトー、変わった口ぶりに奇妙な装束をした平民の少年だが その心意気は彼の眼鏡にかなったようだ。 「それじゃ、坊主。ここにあるケーキをあの小憎ったらしい貴族の坊ちゃん連中に もってってやってくれ。シエスタ、運び方とか色々教えてやりな」 「あ……はい、分かりましたマルトーさん。九朔さんこっちですよ」 「あ、ああ」 機嫌の良いマルトーにつられて上がったテンションはシエスタにも伝染したらしい。 にこにこ笑いながら九朔の手を引っ張りケーキへと案内する。 そんな彼等のやりとりの向こうではランドルフが触手を数十本にも伸ばして蠢かして 食器を洗っていた。 その見事な洗いっぷりに、後ほどメイドと料理人たちからランドルフは 『我等の洗濯王』と呼ばれ唄まで作られたのだが、それはまた別の話。 * アルヴィーズの食堂、並ぶ料理は昼食に食するには充分に過ぎた豪華なものであり、 それを見れば毎日の料理がどれだけ無駄に消費されるか手に取るようにわかる。 さすが貴族、何処の世界においても無駄と豪華にかけては右に出る者はないのだな、と 嘆息し九朔は食堂内をシエスタと共に歩く。 しかしこう言う場を実際に眼にするのは初めてではない気がするのはなぜだろう、そして これよりもっと豪華絢爛な料理を見た気がするのも何故だろうと首をかしげる九朔だが 今の彼には思い出せるはずもない。 両手に持ったケーキのトレイからシエスタがはさみでそれを生徒達に置いていく。 九朔自身は気づいてなかったが、この時多数の女子と男子が共に彼の顔を見て良からぬ 感情を抱いたのは不幸だったか幸福だったか。 男子は九朔を『可愛い平民の子女』もしくは『衆道の友』として。 女子は『中性的な平民の男子』もしくは『女装をさせてみたい』として。 双方からそのように思われていたのだが不幸だったか幸福だったか。 「ふぅ……」 そんな己の身と貞操の危険に気づくことなく、この既視感が何かを考えつつ九朔は シエスタと共に食堂内を練り歩く。 そして、耽っていたその思考はある驚きの声で途切れる事になった。 「ん?」 気づけば、目の前では金髪巻き髪の少年に友人タチがやいのやいのと騒ぎ立てているところ。 「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 香水? むしろその怪しげと言うか致命的っぽいアレな色は毒薬か何かでは と思うが口にはしない。 金髪巻き髪の少年は落ち着いてはいるが必死で否定をしていた。 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたと言う事は、つまりお前は今 モンモランシーとつきあっている。そうだな?」 「違う。彼女の為に言っておくが――――――おごばぁぁぁっ!?」 彼の弁明は最後まで綴られる事なくその綺麗な顔面をストレートされた。 顔を中心に一回転して石床に叩きつけられたギーシュと呼ばれた少年、その顔には見事な までに拳の痕がくっきりついており実に痛々しい。 そして倒れた少年の眼前、一人の少女が仁王立ちをしていた。 「お、おごご……ケ……ケティ。これは、誤解で………」 「さよなら!」 彼を思い切りぶん殴ったと思われるケティと呼ばれた少女は涙を流しながら去っていく。 ここにいるのは全員魔法使いだそうが、あの娘は格闘家あたりになったほうが良いのでは と九朔は思った。 きっとムエタイ選手ならどんな者でも1ページ見開きで倒せる。 そんな彼女と入れ違うように今度は修羅の如き怒りの焔を纏い、金髪の少女がギーシュと 呼ばれた少年の前にやって来た。 その表情が見事なまでににこやかなのはある意味恐怖である。 ギーシュの周りに居た友人達が生命の危機を感じてズザザザと後ずさり、取り残された ギーシュの目の前に彼女が仁王立った。 「モ、モモモ、モンモランシー、こ、これは誤解なんだ。彼女とはただいっしょに ラ・ロシェールの森に遠乗りをしただけで………」 頬に刻まれた拳の痕が痛々しい彼はごく自然に、そして至極冷静に答えたつもりだったが 顔が引きつっていた。 「やっぱり、あの一年生に手をだしていたのね?」 「お願いだよ『香水』のモンモランシー……咲き誇る、その、えと、薔薇のような顔を そのような無表じょ………え?」 モンモランシーが微笑んだ、そう思った次の刹那、 「うそつき」 ギーシュの頭にワインの瓶が音速激突した。 砕け散るワイン瓶、ギーシュの頭蓋骨も一緒に粉砕したのではと思わせんばかりの激音に 九朔を除いた全員がひぃと呻いた。 「お………おぉ…………ぐぉぉぉ………」 床でぴくぴく痙攣するギ-シュを一瞥すると、ふんと鼻を鳴らしモンモランシーはそのまま 食堂を去った。 ぴくぴく震えるギーシュを中心に沈黙する一同。 約1分ほど経っただろうか、突然ギーシュは立ち上がり何事もなかったようにハンカチを 取り出すと顔をゆっくり拭いた。 何か頭のてっぺんあたりから致命的な量の血が溢れてきているような気がするのは眼の 錯覚ということにしておく。 ギーシュはワインを拭うと、シエスタにその瞳を向けた。 「さて、どうしてくれるんだねそこのメイド? 君が香水の壜なんかを拾い上げたおかげで 二人のレディの名誉に傷がついたんだぞ?」 それは自分のせいだし何よりその前に、既に絶命一歩手前の自分自身の身体をどうにかした方 が良くないか、と思う九朔。 しかしシエスタはといえば貴族からの言葉とあり顔を真っ青にしてまるで壊れたおもちゃの ように何度も何度も頭を下げている。 「も、も、もも、申し訳ありません貴族様! 私、貴族様の物かと思って……!」 「それで許されると思っているのかい? 君のお陰でこのざまだよ? この傷の治療だって 馬鹿にならないんだ、どうしてくれる?」 「っそそ、それは……それは………!」 「ああ分かっている、少なくともこれは全て君の責任だからね。これから先、君にはこの傷の 治療費を払い続けてもらわなければならんなあ! それも僕が完治するまで、そして それから賠償もだ!」 「そんな! ああ……お、お許しください貴族様!」 ギーシュの前に跪き謝罪するシエスタ、それを彼は見下す。 その間も延々と自分は悪くないだの、君の責任だの、君の気配りができていないだのと のたまってシエスタを罵っている。 まったく、この手合いはいつもこうだ。 胸糞悪い。 「申し訳ありませんでした、申し訳ありませんでした!」 「許してほしいのかい? まさか! 許すはずがないだろう!? この責任は全て 君のせいなんだ、君は―――」 「……いい加減にせよ、汝」 シエスタを守るように、九朔はギーシュの前に立ちふさがった。 「クザクさん!?」 「ほう、何だね給仕? 君はもしかしてこのメイドをかばうつもりかい?」 シエスタは余りの事に驚き固まっている。 突如目の前を塞いだ給仕の少年、ギーシュは上から下へと視線を向ける。 なるほど、マントを羽織ってはいるが杖を持たないので平民だ。 その驕りが彼を強気にさせる。 「まさか君は貴族であるこの僕に口答えするつもりなのかね? 平民である君が」 「ああ、そのつもりだ。汝のような、己の失態を他人に擦り付ける者は気に食わぬ。 ましてや、与えられた地位をもって他者を脅す手合いは更に、だ」 ぴくりとギーシュのこめかみが震えた。 「ほう? それはつまり僕を侮辱しているととっても良いのかな?」 「本当のことであろう? それくらい、汝でも分かると思うが」 九朔の言葉に周りにいた人だかりがどよめく。互いに顔を見合わせ、九朔に眼をやり 哀れむ視線を送る。 彼等にとって九朔は平民、そんな彼が目の前で貴族に楯突いたのだ。 無力な平民が貴族に歯向かうことが意味するのは死だ。 恐れを知らぬ蛮勇に侮蔑の視線が飛ぶ。 己で己の首を吊る愚者を嘲笑う声が飛ぶ。 だが彼等は知らない、人は決して『無力』ではないことを。『無力』に思えるものが 如何なる力を秘めるかを。 「どうやら君は、貴族に対する礼を知らないようだ」 「汝のような下郎に持つ礼などない」 互いの視線が交錯した。 「……君は、この僕が悪いとでも言うのか?」 「それ以外に在る訳なかろうが」 「言ってくれる」 そこに見えるは両者の怒りの情、不退転の意思。 「そうか、ならば口を知らない君に僕が礼儀というものを教えてやろう。その愚かさを 身を持って知ると良い」 「ああ、そうしてもらおうか。もっとも、貴様如きにできるか不安だがな」 闘う理由は既に充分、互いが互いを敵と認識した。 ギーシュにとっては平民が貴族に逆らうその態度への怒りが、九朔にとっては己のものでは ない力を振るう横暴への怒りが胸にある。容認できぬ怒りを持って互いを敵と為した。 「宜しい―――ならば、決闘だ!」 ギーシュの宣誓に食堂内に歓声が沸きあがる。 バサと、音を立てて彼の手からハンカチが宙へと投げられた。 落ちるそれを九朔は受け取り、ギーシュと視線を交わす。 「構わないな?」 「ああ」 その言葉にギーシュは不敵に笑んだ。 「では、この決闘は《ヴェストリの広場》で行う事としよう。僕の友人が案内してくれる はずだ、逃げるなよ?」 「それはこちらの台詞だ、汝」 それで良い、ギーシュは九朔に背を向けて食堂を去った。 それを見送る九朔をシエスタは顔を青ざめて見ている。 貴族に歯向かうことはつまり死ぬ事を意味する、それは想像を絶する恐怖だ。 なのに、彼は自分の為に身を挺してくれた。 「クザクさん……何で? 私のせいなのにどうして……」 「汝を見捨てるのは後味が悪い、ただそれだけだ」 「それだけで!? そんな……クザクさん、あなた殺されちゃう!」 「なに、どうとでもなるさ」 「でも……でも!」 しかし、怯えるシエスタの肩に手を置きクザクは微笑む。 「安心しろシエスタ。 ――我を、信じろ」 そう言って九朔は食堂の出口へと向かう。 その時シエスタは彼の背中に、言葉で表せない熱さを見た。苛烈なまでに気高い、 清らかな流れに似た透明な何かを感じた。 そして気づく、胸にあったはずの不安と恐怖がゆっくりと和らいでいく事に。 「クザクさん、貴方はいったい………」 呟くシエスタの先、九朔の姿は既にそこにはない。 食堂の出口へ向かう九朔、それに追いつくようにルイズが駆け寄ってきていた。 「あんた何してんのよ! 見てたわよ!」 「そうか」 「そうか、じゃない! なに勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」 「放っておけなかったのでな。ああいうのは胸糞悪い」 「それだけで!?」 手で頭を抑えつつ、歩みを止めない九朔をルイズは後ろから追いかける。 「謝りなさい。怪我したくなかったら今すぐによ」 「断る」 「あんたね!」 九朔は一向に聞こうとしない、自分の使い魔なのに。 しかし、止めなければ。 無力な平民がメイジに勝てる道理などありはしないのだ。何をしても無駄だと言うことを 分からせなければ。 「無理よ。平民は絶対に貴族に勝てないの、メイジだからよ? 魔法を使う相手に 平民が勝てる道理なんてないの、絶対無理なの!」 「だから何だ?」 「無駄なの。平民がメイジに勝つなんて無理なの、そんな無駄な事しても無意味なのよ!」 「無意味……か」 「そうよ。良い? あんた達平民は無力よ、どんなに力を合わせたって勝てない。 何度も言うけどそんな無駄な事をしても無意味なの、分かる?」 納得させるように強く言うのだが、しかし九朔は答えず真直ぐ進む。 何度も何度も言いきかせるのだが止まる気配もない。 「汝が案内役か」 「ああ、こっちだ」 ギーシュの友人に従いついて行く九朔。ただ真直ぐ、歩みを止めない。 ルイズの胸は理解できない事柄でいっぱいになる。 どうしてコイツは止まる事をしない? どうしてこいつは抗う? なぜ平民なのに貴族に歯向かう? 平民は貴族に従うのが道理なのだ、虐げられていたとしてもそれに抗う術はないのだ。 それなのに、この使い魔は何故闘おうとする? ――この使い魔が本当に異世界から来たから? ………まさか。 しかし、たとえそうだとしても決してメイジには勝てない。 そういうものなのだ、それは覆らない事実なのだ。 「ねえ、あんた。どうして無駄だって分かってるのに闘うのよ?」 諦めの気持ち混じりに、振向かない背中にルイズは尋ねた。 まるでさっきの教室と同じことをしているのだが、構いやしない。 はるか奥にヴェストリの広場が見えてくる、余り時間はない。 ややあって、九朔が口を開く気配があった。 「我にも分からぬ」 「はぁ!?」 「だがな」 そこで九朔は振り返る。その翡翠の瞳がまっすぐにルイズを射抜く。 そして、初めてルイズに微笑んで見せたのだ。 「たかが無意味なくらいで何もせぬなど、そんなこと我にはできぬよ」 「え?」 「たとえ無駄だとしても、足掻かずにいられるか。何もしないまま見てみぬふりして 後悔する方がよっぽど後味が悪いさ」 たったそれだけのことで? そんなことでこいつは闘うのか? それは奇しくもシエスタが抱いた感情のそれ。 それだけのことでこの使い魔は貴族と、つまりメイジと闘う。 無駄だからと足を止めない。 何もしないなど、そんなことできない。 それはただの無謀だ、ただの愚だ。 ルイズは思う。 だが、九朔のその言葉にルイズは微かな胸の熱を覚えていた。 それは自覚することのないほどの小さな火。その意味も理由も今のルイズは 知る事はない。 ただ、今は目の前の九朔の決闘を見守るしかない彼女がいるだけ。 九朔は歩む、その場所へ。 ――決闘場はすぐ目の前に 前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6924.html
前ページルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ! さわやかな朝であった。 キュルケ・フォン・ツェルプストーはたっぷりと時間をかけて身支度を済ませると 朝食を摂りにゆくため自室のドアに手をかけた。 いつもの朝との違いは使い魔召喚の儀式で呼び出したサラマンダー・フレイムが従っていることだ。 インパクトでは級友タバサの引き当てた風竜に一枚譲るが、 『火』系統に秀でたメイジである自分にふさわしい使い魔として彼女は大いに気に入っている。 使い魔といえばやはり級友のヴァリエール家のルイズは人間、それも平民を召喚して昨日は結構な騒ぎになった。 (今日はそのことで少しからかってやろうかしら?) この思いつきはキュルケの熱帯の花のような美貌をほころばせたが、本当に嬉しいのはありふれた日常が今日も続いていること ──ルイズが進級に関わる召喚の儀式にまで失敗したら、今の憎まれ口を叩き合うような関係ではいられなくなるかもしれなかったから── なのは彼女自身も自覚しているのかどうか。 キュルケは扉を開き、隣室の様子を伺った。いや、伺おうとした。 死にたい人にお勧めの危険な学校トリステイン魔法学院 自室から徒歩1分の廊下で隣人の使い魔が頭から血を流して倒れていた←今ココ 「いやぁぁぁぁっ!!」 生徒たちが揃って席についた中にルイズと薬師寺天膳の姿もあった。 寝乱れた髪もそのままに朝から憔悴した様子のルイズに対し 使い魔天膳はモミアゲの上らへんを今日も元気にぴょろりと跳ね上げ、何食わぬ顔で床に正座している。 昨日の疲れのためにすっかり寝入っていたルイズはキュルケの叫ぶ声でようやく目を覚まし、 寝ぼけまなこで血溜まりにブッ倒れた自分の使い魔と対面する羽目になった。 天膳本人は呑気にも「あアあ!」と一声あげて起き上がってきたからいいとして 殺人現場そのものの廊下を捨て置くわけにもいかぬ。 腰を抜かしたキュルケを無理やり隣室へ押し戻し、必死になって血痕をぬぐうこと数分。 他の生徒たちが騒ぎを聞いて集まってくる前に証拠を隠滅できたのは半ば奇跡であったろう。 「あんたは使い魔なんだから本来はこの食堂にも入れないのよ。飢え死にしたくなかったら我慢なさい」 腹立ちまぎれに残飯同然の食物を放るルイズ。 天膳は不平を言うでもなく、ただ生徒たちの前に並べられた豪勢な食事を見回してひとりごちる。 「飢え死にか。飽食の時代には新しいやもしれぬな」 (何なのよ……) 天膳はとうとう食事に手をつけなかった。 朝食を終えれば次は午前の授業である。 各々の使い魔を連れた生徒たちが人間を呼び出したルイズに好奇の目を向けるが、 露骨に避けるように教室の反対側に座ったキュルケが時折向けてくる視線がなにより痛い。 授業自体はテンプレ通りに何事もなく進み、シュヴルーズに『錬金』の実技を命じられたルイズが教室を吹き飛ばして終わった。 術を見極めようとひとり身を乗り出した天膳は爆音で両鼓膜を破られたついでにショックで心停止したが、 主人が一人で教室の片付けを終える頃を狙ったように息を吹き返すに至って ルイズは疑問をさしはさむ努力を放棄した。 昼休み。 (ふむ……わしを呼びつけたあの娘がよもや魔法を満足にあやつれぬとはな) 「一人になりたい」と言い出したルイズに暇を出され、天膳は独り学院内を歩いた。 ゼロのルイズ。 『ゼロ』の意味するところは江戸時代の人間である天膳には理解できなかったが、 貴族に生まれながら魔法を使えぬルイズの苦しみを察することはできた。 何たる奇縁であろう! 伊賀鍔隠れの跡取り・朧は祖母お幻のあらゆる仕込みも無効無益にてクナイひとつ放てぬ娘であった。 忍法を知らぬ忍の頭領に仕えたこの忍者は今また魔法を使えぬ魔法使いに使われる身となったのだ。 「力なきゆえの苦しみ、か」 くだらぬ。 忍者は闇に生まれ落ち闇にて死する定め。 忍の闘いには名誉も報酬もなく、いかに力があろうとその異形ゆえ忌み嫌われ決して世に出ることはかなわぬのだ。 それにひきかえ魔法という力の有無によって尊貴の決まるこの世界はよほど幸福ではないか! 伊賀者としての天膳は忍者の宿命と鉄の規律に縛られてはいたが、同時に強者が弱きを駆逐する下剋上の時代を知っている。 (あの娘がわしを望んだというのなら、わしがきゃつの欲する力となってやろう。そして) ──かりそめの主を至尊の位へ押し上げ、わしが天下をいただくも面白かろう。 冷たい双瞼に野望の火をともし、大忍者は口の端をつり上げた。 「もし……ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですよね?」 昼食を終えた生徒たちと使い魔が憩うている時間、黙想にふける天膳に声を掛ける者があった。 学院勤めのメイド、名をシエスタと言う。 「いかにもわしが薬師寺天膳じゃ。何ぞ用かの」 ぶっきら棒に返しながらも天膳の忍の眼は観察を怠らない。 素人がするようにジロジロと見ることはせず、一瞬で対手の姿を目の裏に焼き付け頭の中で吟味するのである。 ここの人間では珍しい黒髪に柔らかい顔立ち。 加えて桃色の髪の主人と違って出るところはしっかりと出たしなやかな体つきは上級に属するものであろう。 (具合良し!) 天繕違いである。 「いいえ、用事ということではないんですが……ミス・ヴァリエールが平民を呼び出されたと聞いて、その、気になって」 恥ずかしそうに口ごもるシエスタ。 要領を得ない相手に苛立ちかけた天膳だったが不意に顔を上げたシエスタと目があい、息を呑んだ。 「おお──」 黒々としたつぶらな瞳が天膳をとらえた。 その目は水底のように深く黒い太陽のようにかがやき、あらがえぬ吸引力をもって見るものを呪縛する。 ──目をそらせぬ。 天膳の手があやうく刀の柄にかかろうとしたところでシエスタはふたたび目を伏せる。 「貴族の方々はあなたを平民だと言いますが、あなたは私たちとは違います。 あなたはもしかして『ブシ』なのではないですか?」 「なに」 今朝の朝食時、人間を召喚した生徒の噂に興味を持ったシエスタは何気なくその姿を探した。 自分と同じ瞳と髪の色をした奇妙な服装の男は召喚主の少女に恭しく従っており、なるほど貴族に隷属する平民そのものに見える。 だが男は貴族の少女が犬に対するようにあたえた食物に手をつけることなく、 ただ主人が食事を終えるのを待ったのだ。 忠節と矜持にみちみちたその姿勢はシエスタの幼い日の記憶から一つの言葉をよみがえらせた。 「『ブシ』……」 いうまでもなく薬師寺天膳は忍者だが、身分の上ではれっきとした士分であり 任務に際しても忍装束をつけないのは彼の鍔隠れの副首領格としての地位の高さゆえである。 「粗末なものですが、どうか」 シエスタは施しと受け取られないよう苦心した様子で食事を勧めた。しかし天膳はそれを断る。 並の忍者であっても一日二日食を絶った程度でこたえはしないのだが、 何よりシエスタの向ける無心の瞳から離れたいという奇妙な衝動があった。 「──シエスタ殿、持ち物を落とした者がおるぞ。あの花飾りをもった男じゃ」 苦し紛れに目についたことを口に出し、ようやく少女は離れていった。 一つの集まりの中心にいた男子生徒に近づき、足下の小壜を拾い上げる。 「あの瞳は──。わからぬ」 シエスタからは何の害意も感じられなかった。 しかしその瞳に見つめられた天膳は深い霧が日差しに照らされて雲散霧消するかのような感覚にとらわれ、動くことができなかったのだ。 「まさか、じゃ。──む?」 見れば件の男が肩をいからせて立ち上がり、シエスタに向かってなにやらまくし立てているようだ。 「何ごとかの」 「申し訳ございません!どうか、どうか……」 「謝ったところで仕方ないじゃないか。君の無思慮な行為で大事なレディたちが傷ついたのだよ。 一体どうしてくれるんだい?」 頭から水ならぬワインをしたたらせたいい男はギーシュ・ド・グラモン、『青銅』の二つ名をもつ学院生徒である。 プレイボーイを自認する彼は周りを囲む同輩連中に恋の遍歴を吹聴し、 またきざったらしく追及をかわすなどしていい気分になっていた。 ところがシエスタの拾った香水壜から同級の女生徒モンモランシーと交際していること、 さらに下級生にも手を出していたことまでもが明るみに出てしまった。 醜態をさらしたギーシュはやむにやまれぬ怒りの矛先をシエスタへ向けたのだった。 「待たれよ。話は聞かせてもらった」 「何だい?君は……誰かと思えばルイズの使い魔の平民じゃないか」 シエスタを庇うように割って入った天膳にギーシュは不審の目を向ける。 「例の小壜を拾うようシエスタ殿に言うたのは──わしじゃ」 「ほう?ならば君が彼女の代わりに責任を取るとでもいうのかい。 貴族の面目をつぶした罪、軽くはないよ」 ギーシュの口ぶりははたから見ても横暴きわまるものではあったが、すでに振り上げた拳は下ろすことはできぬ。 また周囲の者たちもギーシュに理があるとは考えていないがあえてその行動を止めるものはいない。 トリステインにおける貴族と平民の関係とはつまるところこのようなものだからだ。 「その前にそなたに申し上げたきことがござる」 「純愛……誠意……。皮肉にもこのところ男の口よりよう耳にする言葉じゃが、拙者にはその意味するところが──皆目わかり申さん」 「な、なに……?」 あっけに取られるギーシュ。ずいと顔を突き出して天膳が続ける。 「より良い、より多くのおんなにいのちの精をそそぎこまんと欲するは男子(おのこ)として当然のこと そなたは何を取り繕っておられる!たかが女子二人、心のおもむくままおのが物となさるがよい!」 「い……いのちの精……?」 色男ギーシュといえどもやっていることはしょせん子供同士の恋のさや当てにすぎぬ。 あまりに直接的な言葉に圧倒されずにはおれない。 「──うぶなお前には、ちと早いか」 とどめに意味不明の優越感を叩きつけられ、ギーシュはくず折れた。 このままでは駄目だ。ここで退いたら僕は男として再起不能だろう。 「決闘だっ……男らしく決闘で白黒つけてやる!ヴェストリの広場へ来たまえ」 (どうだっ……言ってやったぞ!いくら口が回ろうが平民が貴族には勝てないんだ!) 「それには及び申さぬ」 「ええ!?」 天膳はこともなげに言うと腰の差料に手を伸ばし、小刀を抜いた。 「まさかここでやる気か!?」「何て無法な」 「シエスタ殿……目をふさいでおられよ。何があろうとも決して開かぬように」 抗議の声を気にも止めず、小刀を逆手に構えるとおもむろに衣服の前を開く天膳。 「こたびの不祥事は、すべて拙者の不徳のいたすところ」 言葉とは裏腹の獰猛な笑みを浮かべて天膳は続ける。 「死んでおわびを申し上げる」 周囲が意味を理解する暇もなく、天膳は己の腹に刃を突き立てていた。 「お……おおお……あああぁぁぁ」 腹膜が破れるとともに口から腹からおびただしい血が吹き出し、固まったままの生徒たちの顔や衣服を汚す。 天膳は奥へ奥へと抉り込んだ白刃で腹を十文字に割り裂くと真っ赤な塊を掴み出し 菓子や飲み物の並んだテーブルの上へ放り出した。 「シエスタぁ!見るんじゃねぇ!!お前ら全員ここから離れろ!」 コック長のマルトーら度胸の座った男数名がその場を収拾すべく動き出した。 しまいに頸の動脈を切って己の血の海に溺れた天膳ひとりを残して生徒たちを連れ出していった。 「これは……一体……」 急報を受けたコルベール以下教師陣が生徒の収容を済ませ現場へ駆けつけた数十分後。 そこにはあまりに酸鼻な痕跡が残されていたが、かかる惨状の主役の姿のみが忽然と消えていたのである。 前ページルイズ殿の使い魔がまた死んでおるぞ!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5000.html
前ページ次ページ蒼い使い魔 一方その頃、モット伯邸内では… モット伯は自室のソファに腰掛け優雅にワインを味わっていた 久しぶりの上物だ、どのようにして愉しもうか、 数多くの若い娘を召抱え味わって来たがあの娘はそのなかでもいい体つきをしている 顔も悪くない、そう考え一気にワインを煽る その時、モット伯のドアがコンコンッとノックされ先ほど呼びつけた若い娘の声がする 「シエスタでございます」 「入れ」 そう命ずるとかなり際どい格好をしたシエスタが入ってきた その顔は何かに怯えるように青くなっている。 「おぉ来たか、待っておったぞ、こっちだ」 そう嬉しそうにモット伯はシエスタを手招きする シエスタが覚悟を決めモット伯に近づいて行く、その時、ドンドンとドアが激しくノックされた 「なんだ?」 これから久しぶりの上物を愉しもうとしているところを邪魔され不愉快そうにドアを見る 「大変です!賊がッ!ばっ化け物が侵入しました!」 「化け物だと!?どういうことか報告しろ!」 報告では突如死神の様な化け物が現れ使用人や衛兵を殺している、 それを蒼いコートを纏った長身の男が衛兵もろとも斬り倒しながらこちらに向かって進んでいるとのことだった。 蒼いコート、その言葉を聞きシエスタが呟く 「まさか…バージルさん…?」 そんなはずはない、だってあの時バージルさんを怒らせてしまったんだ、それなのに助けに来てくれるはずはない…。 そうシエスタが俯きバージルのことを考えるその横でモット伯は狼狽していた。 「はっ、早くなんとかしろ!化け物と賊を食い止めろ!」 そうドアの前の使用人に言い放ち杖を取る。 だがその返答が返ってくることはなかった、 ドアを破るように飛び込んでくる使用人の死体 その体には無数の鎌が突き刺さっている。 「キャアアアアアア!!!」 部屋にシエスタの悲鳴が響き渡る、その声に反応するかのように部屋に悪魔が入ってくる その姿は手に大鎌を携えまさに死神の姿をしていた。 外では腰をぬかし立ち上がれないルイズを庇う様にタバサが一人悪魔の群れを相手に奮闘していた 氷の槍を飛ばし悪魔を串刺しにし、風を巻き起こし吹き飛ばす。 「何よ…私だけ…」それを見てルイズは呟く ―守ってもらってばかりじゃない、あの時バージルは私を見ずタバサにここは任せると言った つまり数にもいれられてない、貴族として助けにいく、そんな大見得切っておきながら戦いもせず腰を抜かしている そう考えると情けなくなる。 討ちもらした一体がタバサに襲い掛かる、鎌がタバサに突き刺さるその刹那 「フライ!」 その詠唱と共に悪魔が爆発した タバサが驚いて後を見る、そこには杖を構え立つルイズの姿があった 「私だって…戦うわ!バージルはあんただけに任せるって言ったんじゃないんだから!」 タバサは小さく頷くとルイズと共に悪魔へと向き直り魔法を放った。 「なっ、なんなんだコイツは!」 部屋へ入って来た悪魔を見てモットが叫ぶ、 ゆっくりと歩み寄ってくる悪魔に向かい杖を向ける、その瞬間 ―キィンッ!「ギャアッ!」 歩み寄って来た悪魔が真っ二つになり崩れ落ちる、そこには蒼いコートを羽織った男が立っていた 「だっ、誰だ貴様は!」 「バージルさん!どうして!?」 二人は一瞬で悪魔を斬り殺した男に向かって叫ぶ 「貴様がモットだな?死ね」 バージルはそう言うと閻魔刀に手をかける 「なっなんだと!?この化け物どもを呼び寄せたのは貴様だな!?」 「フン、あれは貴様の欲望が呼び寄せただけだ、奴らが消える方法は貴様が死ぬことだけだ」 「たわごとを!貴様のような平民に殺されるような私ではない! 私の二つ名は『波涛』!『波涛』のモット!トライアングルのメイジだ!」 「だからどうした、貴様は死ぬ、それだけだ」 その挑発に反応しモットは水を生み出す 水が竜の如く舞い上がり、渦を巻きながらバージルに殺到した。 ズッバァーン!とバージルに水がぶちあたる 「まだ終わらんぞ!」 そうモットは吠え水を氷の槍に変えバージルに向け発射する 部屋の壁は崩壊し土煙りが上がりどうなったかは確認できない だが、あれほどの攻撃を受けたのだ、普通の人間ならメイジであろうと無事ではいまい それを見たシエスタは気を失ってしまう。 「ハァハァ…、フン!平民が貴族に敵うとでも―「それで終わりか?」」 土煙りが収まると腕を組み詰まらなそうにモットを見るバージルの姿があった。 「ばっ、バカな!あれほどの攻撃を受けてなぜ立っていられる!?」 それを見たモットは驚き声をあげる。 「あれが攻撃?失望だな…」 そう言うとモットに向かってバージルは悠然と歩きながら距離を詰める 向かってくるバージルにモットは魔法を放つもそのすべてがバージルにかすりもしない、 ―ゴッ! モットの目の前に立ったバージルは閻魔刀の鍔でモットの頭を打ち抜く 予備動作なしで飛んできたバージルの攻撃にモットが反応できるはずもなく もろに一撃をもらい錐揉み状態になりながら壁に叩きつけられる。 「ぐっ…うっ…」 モットが顔をあげると目の前には案の上閻魔刀の切っ先が突き付けられていた。 「ま…待ってくれ!助けてくれ!」 「それは無理だ」 必死に命ごいをするモットを冷たい目で見ながらバージルは答えた 「そうか!金だな?いくらだ?幾らでも払うぞ!」 「だめだ、気が乗らん」 「この屋敷にあるものならなんでも持って行ってもいい!だから助けて―」 そう言い切る前に閻魔刀をモットの心臓に深く突き立て、捻る。 「ぐぁっ…あぁっ…」 そう短く呻くとモットはあっけなく絶命した。 モット伯の絶命と同時に邸内の悪魔の気配が急速に消えていくのがわかった 「ひゅ~相棒、相変わらずえげつないねぇ、でも貴族殺しちまったな?どうするんだ?」 「フン、こうすれば問題ない、おそらく屋敷から逃げだせた人間も存在するだろう、 状況を見れば下手人は悪魔、そう言うことになる」 そう言いながらヘル=ラストが握っていた鎌をモット伯の遺体にドッ!と突き立てる。 「死人に鞭打つか…おめーはどこまでも悪魔だな…」 「…帰るぞ」 そういうと気を失っているシエスタの首根っこを持って引きずるようにその場を後にした。 「来た」 「バージル!」 庭に出たバージルをルイズとタバサが出迎える。 「フン、生きていたか」 「生きてるわよ!っていうかあんたはっ!?っ・・・シエスタは無事だったの!?」 「この通りだ」 そう言いながら気絶したシエスタを放り投げる 「うっ…うぅ~ん」 「ちょっ!どこの世界に気を失ってる女の子を放り投げるやつがいるのよ! もうちょっと丁寧に扱ってあげなさいよ!」 そう言いながらルイズはシエスタを抱えると放り投げられた衝撃かシエスタが目を覚ます。 「あれっ?ミス・ヴァリエールにミス・タバサ…バージルさん…あの…これは一体?」 「目を覚ましたわね、あんたを助けにきたのよ、散々な目にあったけどね」 「えぇっ!?そんな!私のために!あのっ!モット伯は!?」 「そうよ!モット伯は!?まさかあんた…」 最も重要なことを思い出しルイズはバージルに訪ねる、まさかこの男殺してはいないだろうか? もし殺していたら一大事だ。 「フン、当ぜ―「あぁー、いやいや、モット伯ならあの化け物共に殺されちまってたよ!おでれーたなあれはー!」」 と急いでデルフがハッタリを利かせる。 「そっ、そう!ならいいんじゃない?あんたが殺してないならね… でも…なんだったのかしら?あの化け物…急に砂になって消えちゃうし」 「さっきも言ったが、あれは色欲を司る下級悪魔だ」 「消えたのは?」 「奴等の目的、モットが死んだからだ、今頃モットは地獄でよろしくやってる所だろう」 その話を聞き三人は押し黙る 「あんなの…いままで見たことなかったわ…タバサは?」 「見たことない」 「そこまでだ、貴様らはあの竜に乗って帰れ、俺は歩いて帰る」 そう言うとさっさと邸宅の門に向かってバージルはさっさと歩きだす その背中にシエスタが声をかけた 「あのっ!バージルさん!助けてくれて…ありがとうございました!」 「……」 無言のまま立ち去るバージルに向かいシエスタは深々と頭を下げた。 「まぁ、アイツはあーゆーやつだから…あんまり気にしないで」 とさすがにフォローに回るルイズであった。 「なぁ、相棒、思う事があるんだ」 「なんだ」 学院へと戻るバージルにデルフが話しかける。 「お前さんのそのルーンのことだが、どうもお前さんにあまり力を貸してないみたいだな」 「どういうことだ」 「通常使い魔のルーンってのは、元々主人に従順になるように働きかける力があるんだ、相棒のルーンはそれプラス なんらかの特典がついてくるはずなんだがね、だが相棒の場合、そのルーンの力の大部分が従順になる力に費やされているみたいだな」 「何が言いたい」 「お前さん、あの娘っ子に全然心を開いてないだろ?」 「…」 図星である、事実バージルは召喚されてからルイズのことを一度も名前で呼んでいない。 自分から語りかけることすら稀である。形式上従っているだけであり心を開いているわけではない。 「つまり、このルーンの本当の力を引き出したければあの小娘に心を開けと?」 そう言うと忌々しい表情でルーンを見つめるバージル 「そういうことにならぁね、ま、相棒がいらないっていうなら俺はなんとも言わんよ? 相棒はこのルーンの力なんざなくったって恐ろしく強い、俺っちを使ってくれれば文句はないしな。」 そうカチカチと笑うようにデルフは音を立てた。 「いい機会だ、もう少しあの嬢ちゃんに少し心を開いて見た―「気にいらん」」 一蹴されてしまった。 「ハァ…しっかし、主人も主人なら、使い魔も使い魔だぁね…」 と、デルフが小さくぼやいた。 「しかし相棒、どうしてあのメイドの嬢ちゃんを助けようと思ったんだ?いつものお前さんなら無視しそうなもんなんだが」 「フン、奴がいなくなったら誰があの小娘の洗濯をするんだ」 「まさか…それだけの理由…?」 「あぁ…」 「…おでれーた…それだけで何人殺したんだよ…おでれーた…」 さすがにその発言にはデルフも思わず絶句せざるを得なかった 翌日、学院はモット伯邸宅で起こった何者かによる襲撃事件についての噂でもちきりだった 噂は、謎の化物の襲撃で邸内にいたほとんどの人間が殺害されてしまった。モット伯もその一人であり 自室で心臓に大鎌が突き刺さった状態で発見された、という内容だった、 蒼いコートを纏った人物が、という言葉が出てこず心の底から安堵するルイズ、これなら面倒毎にはなるまい。 シエスタも雇われた先の人間が殺されたとあって、学院に再配属になった。 さらにシエスタのバージルに対する認識が変わり、わだかまりも消えた バージルに至ってはいつもと同じだが… 全ては元の鞘に戻り、いつもの学院生活にもどったのだった。 バージルが廊下歩いていると、向こう側からタバサが近づいてくる 「悪魔との戦い」 先日とは違い、今度はバージルが話しかける 「楽しめたか?」 その問いにコクリと頷く 「いい経験になった」 あの悪魔の群れとの戦い 悪魔は手強く、狡猾で、残忍だ、そんな化け物と戦いそして生き残った それは今まで以上にタバサを成長させた。 「もっと力が欲しい…」 そう呟く、この男について行けば、より大きく自身の成長につながり 目的へと前進する、この男の技術を自分のものにできれば…。 そう思いながら歩き去るバージルを見送った。 前ページ次ページ蒼い使い魔