約 1,871,653 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4527.html
前ページ次ページS-O2 星の使い魔 メイジと使い魔。 メイジは使い魔を扶養し、その所業等の一切に責任を持つ。 使い魔はメイジを、その一命を賭して守護する義務を負う。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 クロードの主にして、魔法の使えぬメイジ。人呼んで『ゼロのルイズ』 そのことを思い知っているからこそ人一倍努力し、誇り高き貴族たらんとする少女。 クロードにとってルイズはかつての自分であり、なりたかった自分そのものだった。 失意に打ちのめされながら、それでも歯を食いしばって立ち上がる。 諦めずに光を求めて手を伸ばし続ける姿が、ひどく眩しく見えた。 彼女には自分のように逃げて欲しくなかった。折れて欲しくなかった。 彼女と一緒なら、自分ももう一度立ち上がれるような気がした。 そう、思っていたつもりだった。 「……さっきの言葉、気にしてんのか、相棒?」 「……だろうな。きっと、気にしてるんだろう」 懐からの声に他人事のような言葉で答え、自嘲じみた笑みを浮かべるクロード。 空には双月が穏やかな光を湛えている。 夕食を終えてからずっと、クロードは一人ヴェストリの広場に佇んでいた。 ルイズには何も話していない。 きっと、帰ったらお説教が待っていることだろう。 もしかしたら今頃はキュルケ辺りに言いがかりをつけて怒鳴り込んでいるかもしれない。何しろ前科持ちだ。 何はともあれ、しばらく一人になりたかった。 ルイズのことを恨んでいるつもりはない。 きっかけや経緯はどうあれ、彼女は自分を新しい世界を連れ出してくれた人だ。 一人の人間として尊敬しているし、魅力的な女性だとも思う。 まあ、その、いわゆる女性的な色気という点においては若干のハンデがあるかもしれないが。 それらクロードの感情は全て、思い過ごしだったのだろうか? そう思うように、知らず知らずのうちに誘導されていたのだろうか? 「俺が言うのもなんだがよ、相棒。 何でもかんでも真面目に考えすぎなんじゃねえのか?」 「……ああ。そうかもな」 そう言ってクロードは天を仰ぐ。 今更デルフに言われるまでもない。これまで散々言われてきたことだ。 自分自身のこと。クロード=C=ケニーとしてのアイデンティティ。 対象が父から主に摩り替わったとは言え、これまでずっと抱え続けてきた悩みそのものである。 今日一日で解決するには話が大きすぎる。 今晩くらいは安酒でも喰らって、何もかも忘れるくらいに潰れてしまおうか。 そうすれば明日は少しはマシな顔になっているだろうか。 そんなことばかりを考えながら、クロードは重い腰を上げる。 「なあ、デルフ」 「ん、どうした?」 「……」 何となしに問いかけたクロードであったが、言葉が続かずに黙り込んでしまう。 聞きたいことはいくらでもあるはずなのに、喉に引っかかって声にならない。 足は進めど口は動かず、クロードの足音ばかりが夜の学園に響いていた。 (……もう少し、気楽に考えられないモンかね) デルフは静かに思う。 何かにつけて、この相棒は問題を自分一人で抱え込んでしまう。 相手に気を遣っているのか、それとも意地っ張りなのか。おそらくは両方なのだろう。 年齢の割には落ち着いているくせに、逆にひどく子どもっぽく見えることもある。 要するにアンバランスなのだ。 その辺が解決すれば、使い手と一人の男としても文句の付けようがない男となるだろうに。 と、不意にクロードの足が止まる。 「おい、どうしたよ相棒?」 「しっ!」 不平をこぼすデルフを黙らせ、顎で方向を指示する。 10メイルほど離れた先には黒い外套に身を包み、辺りを伺う人影一つ。 フードを目深に被ったその表情は夜の闇に紛れて見えない。 「……怪しいってレベルじゃねーぞ」 「……ああ、怪しいな」 いかにも不審人物でござい、と言わんばかりの出で立ちにクロードも迂闊に手を出せず、様子を伺っている。 ここまで来ると、逆にいっそ清清しいと言えぬこともない。 どうする。それとなく呼び止めて職務質問でもしてみるか? それとも不意を付いて実力行使に出るか? だが、状況はクロードにそこまでの余裕を与えてくれなかった。 「───ッ!」 懐から杖を取り出すのを確認し、クロードの顔色が変わる。 弾かれるように飛び出し、併せて足元の小石を拾って前方へと投げつける。 これは攻撃のためではない。狙いはあくまで相手の気を引くためのフェイクだ。 果たして効果は覿面、石つぶての風切りと大地を跳ねる音に、相手は極端なほどびくりと反応する。 これだけハッキリと反応してくれるのならば話は早い。 「うっ……」 ドスッ、という低い音とくぐもった呻き。 クロードの右手が侵入者の腹に深々と突き刺さった。 そのまま正体を失って力無く崩れ落ちるところを左手で抱きとめる。 「っと、すいません」 「お美事。やるじゃねえか、相棒」 懐のデルフが賞賛の声をあげた。 さて、これからどうしたものだろう。 腕にかかる体重の思わぬ軽さと線の細さ、そして声の質からしてどうやら女性らしい。 レディ相手にちょっと乱暴だったかと思わないでもなかったが、 土くれのフーケと言う前例があった以上、仕方が無いことだろうと自分を納得させる。 とりあえず、人目に付くと面倒なので建物の影へと移動する。 そして顔を覆うフードを外すと、思わずクロードは息を呑んだ。 「ほー、こりゃまた別嬪さんだな。 いいとこのお嬢さんか何かじゃねーか?」 デルフの言うとおり、黒衣を除けて月明かりに下に晒されたその素顔は、美少女だった。それもとびきりの。 年の頃はルイズ達とさほど違わないくらいだろうか。 艶やかな紫髪は肩口で切りそろえられ、慎ましくも滑らかなシルクのドレスに包んだ華奢な肢体は、 まさに深窓の令嬢という言葉に相応しい気品を備えている。 先ほどの魔法を使おうとした素振りといい、ド素人そのものと言える反応といい、 デルフの言うとおり、どこかの貴族のお嬢様だろうか。 (……早まったかもしれないな) ここに来てクロードのこめかみにたら~りと汗が流れる。 気付かなかったとは言え、貴族のお嬢様に手を上げてしまったとなれば、これはもう大問題だ。 果たして説教ン時間コースで済むかどうか。下手をすれば肉体言語がセットで付いてくるかもしれない。 もっとも、こんな夜中にこんな怪しい格好をしていた相手だから情状酌量の余地はあるだろう。 とりあえず、こんなところを目撃されてはマズいので、人目につかないように建物の影へと運び込む。 既に自分が不審人物になっている気がしないでもないが、まあそれはそれ。 「で、これからどーするよ、相棒」 「僕一人じゃどうしようもないな。この人が何者なのかも解らないんだ。 誰かに聞かなきゃどうしようもないし、力になってくれる人が居るといいんだけど……」 そう言って辺りを見回すクロード。 と、ちょうど見知った顔が通りかかった。 「シエスタ、ちょっといいかな?」 「え、ちょ、ク、クロードさんっ!?」 煌々と月の輝く夜更け、建物の影にメイドを引きずり込む男が一人。 ますます不審人物一直線である。 「いけません、こんなところで……! あ、でも、こういうのも───」 「ごめんね、シエスタ。この人、誰だか解る?」 軽くトリップしかけたシエスタを鮮やかにスルーして自分の話題に持ち込むクロード。 流石と言うか何と言うか。その一方でちょっぴり残念そうなシエスタであった。 さて、改めて人目につかぬように建物の隙間に運び込んだ黒衣の女性と対峙する二人。 クロードに手を引かれたシエスタの顔がさっと青ざめる。 「このお方は……!」 「シエスタ、知ってるのかい?」 「……アンリエッタ王女殿下じゃないですか……」 「……マジ?」 「……はい」 「……本気と書いて?」 「……はい」 冷や汗が背中を滑り落ちる。顔面中の筋肉が引き攣って歯がカチカチと鳴る。 顔面の筋肉が引き攣るあまり、表情はまるで笑っているかのよう。笑うしかないとも言う。 一方のシエスタも言葉の意味こそ解らなかったが、クロードのただならぬ様子にうんうんと頷いた。 ヤバイ。ヤバイヤバイよマジヤバイ。 どのくらいヤバイかって言うと、電子レンジの中のダイナマイトくらい。 今のクロードは屈んで待ち受ける軍人に飛び込むレスラーのようなものだ。 このままでは月の子が集う暇すら与えられずに塵一つ残さず消滅させられてしまう。 「あのう、何があったんですか?」 クロードの全身から漂う『やってもうたオーラ』を感じ取りつつ、恐る恐るシエスタは尋ねる。 聞かない方が良かったんだろうと解ってはいたのだが。 果たして、ギギギ、という音がしそうな勢いで首を向け、泣きそうな顔のクロードが口を開いた。 「……お姫様、殴って気絶させちゃった……」 「……はい?」 今度はシエスタの表情が凍りつく。 もともと緊張のあまり青白くなっていた顔からはますます血の気が引き、 微かに差し込む月夜に照らされた土気色のその顔色は、まさに死人のそれ。 うっかり人が通りかかれば恐怖のあまり叫び出すこと請け合いだ。 既に初夏の足跡の聞こえる季節だというのに、吹き抜ける風が嫌に寒々しく感じられたのは、 きっと彼らの気のせいではなかっただろう。 「いや、何しろこんな格好してるからさ、てっきり賊か何かだと思ったんだ」 「……はい」 「こう、貫手で肋骨の隙間を抜いて肺を、ね?」 「……はい」 「あ、あはははは…… どうしよう?」 「……はい」 「とりあえず目を覚ますまで待って、頭下げて話を聞いてもらうしか……」 「……はい」 「あの、シエスタ、大丈夫?」 「……はい」 「もしもし、シエスタさ~ん?」 「……はい」 反応が嫌な方向に怪しいことに気付き、思わずクロードはシエスタの瞳を覗き込む。 シエスタの瞳は死んだ魚のように濁り、ぽかんと虚空を見つめていた。 何度呼びかけてみても、頬をぺちぺち叩いてみても、反応に変化は無し。 うわ言のように、壊れた人形のように生返事を繰り返すばかり。 どう見ても魂があっちの世界に旅立ってます。本当にありがとうございました。 「アッー! 待ってシエスタ! 僕を一人にしないでーっ!!」 立ったまま真っ白な灰と化したシエスタの肩をがっくんがっくん揺するクロード。 彼らの明日はどっちだ。 前ページ次ページS-O2 星の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4321.html
630 名前:1/4[sage] 投稿日:2006/10/31(火) 21 51 38 ID lYEsVthX 最近ミス・ヴァリエールは虚無の曜日のたびになんだかんだと、サイトさんに用事を頼む…… 『側に居て』 たったそれだけの事が言えないあの方らしいけど。 ……口実がお茶会だと、準備するのちょっと大変。 「シエスタ、だから持つって」 「いいえ、サイトさん。わたしのお仕事ですもの」 ……シュヴァリエにお茶運ばせるメイドになるのは嫌です。 「ルイズもシエスタも頑固だよなぁ……」 …ミス・ヴァリエールほど頑固な方は居ないと思いますけどね。 そんな返事をしようとしている途中に、メイジの方々の使い魔が数匹、寄り集まって移動していた。 「……ここって、毎日ハロウィンだよな」 サイトさんが変なことを言った。 「『はろうぃん』ですか?」 「ん、あぁ地球の風習で、そうだな……モンスターに化けた格好で近所を回って、小さい子がお菓子を貰う。そんな感じのお祭りだよ」 「変わった風習ですね。ひいひいおじいさんには聞いたことも無いです」 どうしてかサイトさんが苦笑いをしてる。 変な事言ったのかしら? 「はろうぃん、はーろうぃん、はろうぃーん」 サイトさんの故郷の言葉は、皆不思議な語感です。ヨシェナヴェとか。 「あーシエスタ『トリック オア トリート』って言ってお菓子貰うんだ、ハロウィンじゃないよ」 ……お菓子が欲しかったんじゃ有りませんけど。 折角だから 「『とりっくおあとりーと』?」 「そうそう」 「『とりっくおあとりーと』、『とりっくおあとりーと』」 唱えながら目で、運んでるお茶請けの中のクッキーを示す。 「『とりっくおあとりーと♪』」 「………えーーっと」 きょろきょろとサイトさんが周りを見渡す。 ミス・ヴァリエールは居ない。 恥ずかしそうなサイトさんが、 両手の塞がっているわたしの目の前にクッキーが運ぶ。 お行儀は悪いけど…… あーんって空けてる口の中にお菓子が差し込まれる。 ゆっくり味わう。食べたことあるお菓子だけど……いままでで一番美味しい。 「いい風習ですね」 「……俺も今日知ったよ、こんな良いものだって」 赤くなったサイトさんが可愛い。 ミス・ヴァリエールの部屋に着くまでに、何度か 「『とりっくおあとりーと♪』」 唱えたおかげで、随分喉が渇いたけど…… 幸せ、サイトさんの故郷ってきっと素晴らしい所ですね。 631 名前:2/4[sage] 投稿日:2006/10/31(火) 21 52 15 ID lYEsVthX ……遅い。 良く考えるとお茶運ぶのに二人も行く必要ないじゃない? サイトはわたしと部屋で待てば良かったのよっ。 ……べべべ別に二人っきりに成りたい訳じゃないわよ。 窓の外にシエスタとサイトが見える。 ……もうすぐそこまできてるのねーって。 あ――――――――なにあれっ!! シエスタが、あーーーんって……サイトも…… ………そう、お茶一つ運ぶのに随分時間がかかるわけね。 私の目の届かない所で、そーーーんなに楽しかったのかしら。 杖の準備。 始祖の魔道書……光らない。エクスプロージュンで十分ってことね? 「……物騒だなぁ、娘っ子」 「うるさいわ、棒っきれ、わたし今、機嫌が悪いの。」 「サイトったら、わたしにも『あーーん』ってしてっ!!てか?」 「……サイトに魔法使うために精神力温存したいの。黙ってね?」 にっこり笑ったルイズの顔は……それはそれは美しかったが…… 「……こえーって娘っ子」 「あらあら、棒っきれ、伝説の癖に臆病ね?」 「笑うたびに凄みが増してるぞ?」 「おほほほほほほほほ、そうかしらぁぁぁぁ?」 サイト早く帰ってこないかしら? わたしサイトが待ちどうしくて、おかしくなりそうっ。 カチリと小さな音がしてドアが開く。 「おかえりなさーーい。サ・イ・ト。」 「ひぃっ」 あら? サイトがドアを開けた姿勢のまま固まってる。 「あ、ミス・ヴァリエール今戻りました。そこに置きますね。」 ……良い度胸ねシエスタ。 「駄目ですよ、サイトさん。」 「そうねー駄目な犬よね。」 「まてっ、ルイズ、何で怒ってるのか分からんぞ」 おほほほほ、どーしてかしらねー 「あ、サイトさんそれはですね。」 シエスタ? 「さっき、『とりっくおあとりーと』って言った時ここの窓から見える場所だったからですよ?」 「何よ『とりっくおあとりーと』って。」 「ミス・ヴァリエールはサイトさんの帰ってくる方向、ずっと見ながら待ってたに違いなんですから」 「あぁぁぁぁあれをルイズに見られたぁぁぁ……死ぬ……もうすぐ……コロサレル」 「だから『とりっくおあとりーと』ってなによ?」 「大丈夫ですよ、ミス・ヴァリエールがサイトさん殺せるわけないですよ」 「殺す寸前までいたぶられるぅぅぅ」 「だからぁぁぁぁぁぁ『とりっくおあとりーと』ってなんなのよぉぉぉ!!」 結局、サイトをボコボコにするまで…… (恩赦により魔法は使わないことにした。) 分からなかった。 632 名前:3/4[sage] 投稿日:2006/10/31(火) 21 52 58 ID lYEsVthX 「へー、チキュウの風習ねぇ」 ルイズがやっと納得してくれた。 「変な風習ね」 「まぁ、日本じゃマイナーだけど、そんなのも有るんだよ」 「良い風習ですよね?」 「そ、そうねっ」 赤くなったルイズが暫く黙り込んで……やがて 「『とりっくおあとりーと』」 ぼそりと小さな声で呟く。 「え?」 「『とりっくおあとりーと』って言ったのよ!!貴方の故郷の風習なんでしょう?」 あ、そっか。 クッキーを手渡そうと…… 「何で、わたしだと手渡しなのよっ!!!」 ……ルイズの手が塞がってないからです…… どうやらこの二人にとって、ハロウィンは呪文を唱えると、 あーんってして貰える日に成ってます。 ………ま、いいか。 ルイズの口にクッキーを差し込む。 小さな口ではむはむとクッキーを齧る。 ……なんか小動物の餌付けみたいで可愛い。 「『とりっくおあとりーと』」 気に入ったようだ。 シエスタがお茶の準備をする間、ルイズの口に幾つもクッキーが消えていった。 機嫌が治ったルイズがニコニコとお茶を飲んでる。 「面白い呪文ですよね『とりっくおあとりーと』って」 「あ、呪文て言うか、意味が有って」 「そうなんですか?」 地球の話をすると、いつもシエスタは興味深そうにしてくれるから嬉しい。 「うん。お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!って意味なんだ」 「そうなんですか……」 シエスタが暫く考え込む。 「ねぇサイトさん、お一ついかがです?」 シエスタがクッキーを摘んだまま聞いてくる。 うぁ、ルイズが鬼のような顔で睨んでる。 「貰うよ」 「…………」 ……いわないと駄目らしい。 「『とりっくおあとりーと』これで良い?シエスタ」 にっこりと微笑んだシエスタが、俺の側によってくる。 クッキーは何故か皿に戻した。 「?」 「サイトさん……いいですよ?」 ルイズも俺も何が起きてるのか分からない。 「えっと……シエスタさん?」 「イ・タ・ズ・ラ……してもいいですよ?」 シエスタが俺の手を取って………ふにゃんと柔らかい感触がぁぁぁぁぁぁあ 「なあぁぁぁっぁ、待ちなさいシエスタぁぁぁっぁあ」 ルイズが叫んでる。 「ミス・ヴァリエールも言えばいいじゃないですか?」 「なぁぁっぁぁ」 その間にも俺の手はシエスタの谷間に飲み込まれていく。 暫く考え込んでいたルイズが深呼吸をして…… 「あ、でも今言うと、サイトさんにイタズラしてーって事ですよね?」 あ、そのまま息吐いた。 「なななななな、ひ卑怯!!シエスタ卑怯!!」 ルイズが叫んでるが、俺の視界は……シエスタに塞がれていた。 「サイトさん、こっちの手……空いてますよ?」 頭に血が上ってクラクラした。 633 名前:4/4[sage] 投稿日:2006/10/31(火) 21 53 28 ID lYEsVthX シエスタの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ ズルイズルイズルイズルイズルイズルイ 自分だってサイトにあーんってして貰った癖にぃぃぃぃ サイトも笑ってんじゃないわよっ。 大きいのがいいのか? そうか、死にたいのか! 杖に手を掛ける。 って、シエスタぁぁぁぁ 「あ、サイトさんすいません」 とかってよろめきながらベットの方に行くなぁぁぁぁ 「う、うん」 サイトもついて行くなっ!! あまりの展開に…… 「あ、あうあうあうあうあ」 呪文がぁぁぁ 集中できるはずも無く、魔法なんて…… あ、目が合ったシエスタが笑った。 今のは笑った!!絶対笑った!! 杖を投げ捨てる。 魔法が使えないんじゃ、こんなの邪魔っ!! わたしもサイトに駆け寄る。 サイトとシエスタと絡み合ってベットに倒れる。 頭に血が上って、全然何も考えられなくなった。 そう、ドアがカチリと鳴るのも聞こえなかった。 「わたしにもイタズラしなさぁぁぁぁぁぁいっ!!サイトォォォ!!」 い、言えたっ!! 「……大胆ねーヴァリエール」 「ルイズ……あんた、大事にしなさいってアレほど……」 「まだ昼」 「……サイトっ!!凄いぞっ!!」 ……みんな、お茶会に呼んでたっけ? 「あ、さっきお声をお掛けしてたんですよ、サイトさんが。」 シエスタぁぁぁ?どゆこと?一体どゆこと? 「たまにはミス・ヴァリエールの素直な所が見たいなって、ちょっとやってみました。」 「すすすすす素直って何よぉぉぉ」 「「「「イタズラしなさーい」」」」 ……四重奏って、タバサまでぇぇぇぇ!! 「さ、みなさんお茶の準備できましたよー」 この後わたしを肴に話が弾んだ…… 「な、何?さっきの幸せはもう終わり?」 いつまでも腑抜けてるサイトに、八つ当たりしても…… 「逆よねー」 「ルイズがイタズラしてるわねー」 「……」(うらやましい) 「両方いけるんだなっ!!」 誰も真面目に取り合ってくれない…… 「ミス・ヴァリエール、お茶冷めますよー?」 ……なんだか思ってたよりシエスタが手ごわそうだしっ!! ―――――『はろうぃん』なんて…… ………夜にもう一度やろうかしら? 719 名前:1/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 25 04 ID SP1qeiv/ ……昼間は大失敗だった。 わたしの繊細な心は随分傷ついたわっ。 サイトに……慰めてもらってもいいよね? あのままからかわれながら過ごしたお茶会で、はろうぃんに付いての情報収集は完璧。 ○モンスターの扮装をした方が、呪文を唱える。 ○お菓子を食べさせるか、イタズラを甘んじて受ける。 ……サイトの世界って……変。 でも……この風習は……悪くないわね。 「風習じゃ仕方ないよね?」 サイトにあーんってしてもらうなんて…… 「し、仕方ないわよね?別にやりたくてやるわけじゃないんだしっ」 もし、サイトがお菓子を持ってなかったら…… 昼間のシエスタを思い出す。 ………お菓子を持って無さそうな時を狙おう。 サイトのことを考えて、サイトのためにできる事をする時はドキドキする。 「えっと、モンスターの扮装って……」 何か有るかな? わたしに相応しい……ユニコーンとか、………馬の格好?却下。 水の精霊……どうやるのよ? ドラゴン………可愛くない。 グリフォン………縁起悪い、瞬殺されそう。閃光ぽいし。 ……サイトの世界のモンスターってどんななのよ? わたしが扮装しても問題なくて、可愛いの!! 何かないかしら? 一生懸命考える………無理、仕方ない…… 困った時の伝説頼み。 「よう、娘っ子」 「知恵を貸しなさい」 「………いいけどよー、おりゃあ剣だぜ?なんだか最近みんな忘れてるみたいで、デルフ切ない」 「や、役に立つんならいいじゃないっ」 「まぁ、ずーーっと鞘に入れっぱなしよりゃ良いけどよ、何が有った?」 ……わたしはかいつまんで、はろうぃんと、昼間の出来事を話した。 「ぎゃはははははははは、大胆だなー娘っ子!!」 「……溶かす?」 「今溶かしたら、そっちが困るんじゃねーか?」 ……足もとみてぇぇぇ 「まぁ、そういう事情なら、簡単だ」 え、簡単なの? 「人型のモンスターに化ければいい」 「あ、そか……えっと、ワーキャットとか?」 「そうそう、あの耳また使えや」 「……アレには苦い思い出が有るんだけど?」 「文句が多い娘っ子だなぁ、じゃ仕方ない、おれの発案でよければ一個あるぞ?」 「どどどど、どんなの?」 「準備は少なくて良いし、ばっちりそそるぞ?」 「早く話しなさい!!」 「ヴァンパイア」 「ヴァンパイア――――?なんでそんな物騒なのに化けるのよ?」 会いたくないモンスターのトップクラスじゃない。 「いや、人型だしよ。それにほれ、それ使えばそれっぽいぞ?」 マント……? 「これつけるだけ?」 「それじゃあ、芸がないだろ?だからだな……」 わたしが側によるのを待って、ぽしょぽしょとデルフが…… 「えぇぇぇぇぇぇっぇえ、何の冗談よぉぉぉぉ!!」 720 名前:2/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 25 36 ID SP1qeiv/ 「スースーするっ」 「そりゃあなぁ……」 あんなミスがないように、ドアにはロックが掛かってるとはいえ…… 「かなり恥ずかしいわよ?」 マントの下は……裸だ。 「いや、相棒それに気がついた途端に飛び掛ってくるぜ?」 「ほ、本当?」 「おぅ、保障してやらぁ」 …………まぁ、サイトが……って 「べ、別に飛び掛ってなんかっっっ」 「そうだよな、ま、どうなるかはその時のお楽しみだ」 なんだか剣にあしらわれた…… 窓に駆け寄って、そっと下を覗き込む。 サイト……まだかな? そんなことを考えていると、風が渦巻く。 「きゃぁぁぁぁあ」 いきなりマントがまくれ上がる。 「きゅい?」 ……ドラゴンがつぶらな瞳でわたしを見てた。 (なにしてるの?なにしてるの?きゅいきゅい) そんな感じだ。 「ど、どっか行きなさい!!」 ドラゴンにだって見られるの恥ずかしい。 「窓から覗くなんて、非常識よっ!!」 (人間にしては非常識な格好してるのに、何か言われたよ) 「あぁぁぁぁ、なんか今ドラゴンに馬鹿にされたきがするぅぅぅ」 「む、娘っ子……そりゃあ…気のせい……でもないか、風韻竜か?」 「なんでも良いわよっ、立ち去りなさい、タバサに言いつけるわよっ」 (その格好じゃ言いつけにいけないくせに、きゅいきゅい) 「あぁぁぁぁ、やっぱり馬鹿にしてるっ!あの目は馬鹿にしてる目だぁぁぁ」 「……無理なくねーか?」 「サ、サイトの故郷の風習なんだから、仕方ないじゃないのっ!!」 (風習?) 「今日は、サイトがご主人様にゃん!!」 「……混ざってる混ざってる」 「いいのよ、今日は使い魔が主で、主が使い魔なのっ!!」 (そうなの?そうなの?きゅいきゅい) 「そうよっ、サイトの故郷の風習なのっ、モンスターが偉いの、あーんってしてもらえるし、いたずらOKなのっ」 (いい事聞いたーーーーきゅいきゅい) すごい勢いで何処かに飛んでいってしまう。 気まぐれな竜ね。 「やっと何処かに行ったわね」 「……やべーきがするけどなぁ……」 「なにがよっ?」 「いや、良いけどよ、ところで娘っ子、メイドはどうする気だ?」 「あ、」 「今日は外出でもするのか?いたら絶対何もできないと思うぜ?」 「わ……」 「その格好見られるのもアレだし……」 「忘れてたぁぁぁぁぁぁぁ」 「……降臨祭の二の舞か?」 「あんたも何か考えなさぁぁぁぁい!!」 シエスタの追い払い方なんて……そんなに簡単に思いつくはずなかった。 721 名前:3/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 26 08 ID SP1qeiv/ 「しくしくなの、しくしくなの」 変な泣き声が聞こえた…… 「なんだぁ?」 ルイズの部屋に帰る途中……人気のない寮の廊下で泣き声が響く。 「……ホラーか?」 足を止めて声に意識を集中させる。 「だまされたの、ひどいの、人間なんて死ねばいいの」 物騒だな…… 泣き声の主を求めて廊下を進む。 「女の子の声だし……ほっとけねぇよな。」 人気のない廊下の端に、誰かうずくまっていた。 タバサの部屋の前? 側まで……ってぇぇぇぇぇ 「は、裸ぁぁぁ」 全裸の女の人が廊下の端ですすり泣いてるって、なんだぁぁ?? 「あ、アイト?サイトだっけ?サイフ?」 「真ん中のでって、わぁぁぁぁぁ立ち上がるなぁぁぁ」 「あ、サイトなのね?きゅいきゅい。どうして、こんなところにいるの?」 「うあぁぁぁぁ、無造作にすたすた寄って来るなぁぁぁ」 「サイト、テンション高いね、やっぱりお姉さまとバランス取れてるね」 頭が真っ白になる。 「赤いね、赤いね、面白いね、男の子ってみんなこうなの?遠くで見るのと違うね」 そんなことを言いながら目の前には二つの山……はっ 「こ、これでも着てぇぇぇぇぇ」 り、理性が……理性が…… 「えー嫌、窮屈だしっ」 「お願いだから着てくれぇぇぇぇ」 無理やり羽織らせる。ほっ一安心。 「いらない、邪魔だもん」 脱ごうとする。 「だ、だめだぁぁっぁあ、そんなことはゆるさぁぁぁん」 「なにするのぉ、いい人だと思ってたのにっ、騙したの?騙したの?」 「良いから、ゆうことをきけぇぇぇ」 「いやなのぉぉぉぉぉ」 「えぇぇぇぇいっ、こうなったら力ずくだぁぁぁ」 「あーれーなのっ、酷いの、ずるいの。こんなの嫌、助けてお姉さまっ」 「良いから、大人しくしろぉぉぉ」 722 名前:4/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 26 39 ID SP1qeiv/ 廊下の向こうの方にサイトさんの後姿が見えた。 今日のお仕事は一段落で、サイトさん達の部屋に帰るだけ。 「サイトさーん」 ……あら、気づかなかったのかしら? 結構離れてるし、仕方ないのかしら。 あれ?部屋の方に向かってない? ……どこに行くのかしら? こっそり後についていく。 (まさか他の女の子の所?最近……もてるし) これは突き止めないと。 ……女の声………やっぱり? ドキドキしながら付いていく。 ……あれ、この先は行き止まり? 十分距離をとって……向こうを覗く。 やっぱりサイトさんの向こうに人影が…… ……うふふふふふ、良かったですねぇ、サイトさんもてて。 どこまでの仲なのかしら? もう少し様子を見ましょうかしら? 踏み込むのとミス・ヴァリエール呼んでくるのどっちが良いかしら? そんなことを考えていると…… 「だ、だめだぁぁっぁあ、そんなことはゆるさぁぁぁん」 「なにするのぉ、いい人だと思ってたのにっ、騙したの?騙したの?」 「良いから、ゆうことをきけぇぇぇ」 「いやなのぉぉぉぉぉ」 「えぇぇぇぇいっ、こうなったら力ずくだぁぁぁ」 「あーれーなのっ、酷いの、ずるいの。こんなの嫌、助けてお姉さまっ」 「良いから、大人しくしろぉぉぉ」 って……何事ぉぉぉ? 慌ててサイトさん達の方に向かうと…… サイトさんが女の人の服を掴んで、必死の形相で引き剥がそうと…… 「サイトさん?」 大きな声を出したつもりはないのに、サイトさんも見たことがない女の人も、弾かれた様にこちらを見た。 「楽しそうですねぇ?」 「ひっ、シ、シエスタ?」 「だれ?」 ……へぇ、わたしなんて眼中にないんですね? 「こんな所で何してたんですか?」 「え、いやその、泣き声がっ」 「騙されたの!騙されたの!!騙されたの!!!」 「待てぇぇぇぇぇ」 サイトさんを見る。 「ひぃっ、ち、違う。誤解だシエスタ。」 「主従そろって、酷いから、やっちゃえやっちゃえ」 ……? 「主従?」 「うん、二人ともシルフィ騙したから、不幸になってしまうの」 ……… 「何が有ったんです?」 「今日は甘えてもいい日だって聞いたから、こんな格好までしたのに、お姉さまはそれは嘘だって言ったの、きゅい」 「そのあとここで泣いてたら、いきなり酷い事されたの」 「ひどくねぇぇぇぇ」 723 名前:5/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 27 10 ID SP1qeiv/ 「つまり、ルイズが甘えても良いって言ったんだよな?」 「そう、シルフィ聞いたし、間違えてないはずなのに、違うって言われたから、騙された。」 サイトさんと、シルフィさんが話してる。 口裏を合わせている様子はなかった。 ちょっと安心。 ……でも。 「ミス・ヴァリエールが『今日は、サイトがご主人様にゃん!!』って仰ったんですね?」 「そうなの、間違いないの、シルフィ大きなお耳で聞きました。間違いなく聞きました。」 ……大きい? それはさておき……また、降臨祭の時のアレね……どうしようかしら? 「ところで、お姉さまってだれ?」 サイトさんが普通に話を始めてる……良いけど。 「お姉さまはお姉さまなの。」 「……どんな人?ってか学生?知ってる人?何してる人?」 「シャルロットって言うの、綺麗よ、可愛いよ、お勧めよ」 ……ドサクサでサイトさんにアピール……敵かしら? でも、この階の貴族の方にシャルロットさまって居たかしら? メイドにもいないし…… 「何してる方なんですか?」 「……んー騎士様?」 なんで騎士様の妹がこんな所にいるのかしら? 「姉妹で仲良いんだな、やっぱり二人とも美人なの?」 ……へーサイトさん興味ですねぇ。 「お姉さま、可愛いのに強くて、こっそりと優しいの、誤解されやすいけど、シルフィ知ってるもの、誰か良い人がいたらいいなって思ってるの、サイトどう?」 なぁぁぁぁ 「だめですっ!!」 「えーなんで?なんで?お姉さま可愛いよ?お勧めよ?きゅいきゅい」 「きゅいきゅいとか言ってる人にサイトさんはあげません」 「……俺の意見は?」 「お姉さまはきゅいきゅい言わないよ?」 「却下です」 騎士同士なんて、ある意味ミス・ヴァリエールより手ごわいじゃないですかっ。 「………姉妹って日頃どんなことしてるの?」 わたしが睨んでるせいか、サイトさんが話をそらす。 「……んーーーー?日頃、毎日してること?」 「そうですねっ、貴族の方の生活って興味有りますねっ」 悪い予感がするからわたしもそれに乗る。 「お姉さまと、毎日する事……お姉さまは毎日シルフィに乗るの」 ……は? 「乗らない日も有るけど、大体毎日乗るの」 「……の、のる?」 「うん、そして飛ぶの」 ……のって……とんで? 「その……どんな感じに?」 「感じ?気持ち良いの、お姉さまも気持ち良さそうなの」 「な……ななななな」 「……シ、シルフィさん、具体的にっ詳しく、詳細にぃぃぃぃ!!」 「サイトさんっ!!!」 「詳しく?」 「是非にっ!!」 ……その……わたしもちょっと興味があったり……… 「シルフィがじっとしていると、お姉さまがシルフィの身体押さえつけて、無理に上に乗るの」 「シルフィが最初ゆっくり動かすの」 「な、なにを?」 「決まってるの、サイト分からないの?お馬鹿さん?」 こ、これは…… 724 名前:6/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 28 01 ID SP1qeiv/ 「ゆっくりのときは、ちょびっと飛んで、そのまま少し動いて良い場所を探すの」 ……うぉぉぉぉ、すげえぜ、シルフィさんのお姉さま!! 「いいところを見つけたら、強く動いてもっと高く上がるの。」 ゴクリって…何か聞こえた…おぉ…シエスタも聞き入ってる…… 「どんどん高く上がるととっても気持ちよくなるの、お姉さまとぴったりくっつけて嬉しいの、きゅいきゅい」 ぴ、ぴったり…… 「ぐ、具体的にはどこがぴったりくっ付くんでしょうか?」 「そこに決まってるの、きゅいきゅい」 ……もちろん股間を指差された…… 「うぉぉぉぉぉ、シルフィさん最高!!」 「は、はしたないですっ!」 エロイ、エロイよシルフィさん。 「と、ところで何で裸だったの?」 「シルフィいつも裸だよ?きゅいきゅい」 え? 「お姉さまが服くれないと、着るものないの、きゅいきゅい」 ……ずっと裸ですかっっっGJお姉さま!! 「そ、そのぉ……飛ぶ時って……どこで?この辺りにいい所があるんですか?」 シエスタ……聞いてどうするんだ……って、潤んだ目で見つめられてるぅぅ。 「きゅい?飛ぶのはいつもお外なの」 「そ、外なんですか?」 「道とか、お姉さまのお家とか、お城でも飛ぶの、どうかしたの?きゅいきゅい」 「しょ、初心者にはきついです……でも……サイトさんが……」 ……レベルたかっ凄いぜお姉さま。 「す、凄いお姉さまですね」 「お姉さまは凄いの、あ、でも……」 「で、でもぉぉぉ?」 こ、これ以上があるのか? 「言うこと聞かないと、ご飯抜きで辛いかも。」 「うぉぉぉぉ、躾けられてるぅぅぅ、調教?調教なのかぁぁぁ?」 「す、すごい、本当にこんな人居るんですね……」 「あれ?でもサイトも一緒に飛んだこと無かったっけ?」 え? 「なんですってぇぇぇぇぇ」 シエスタが睨んでる…… 「ま、待って、心当たりがねぇぇぇぇえ」 そんな時どこからか口笛が聞こえた。 「あ、お姉さまが呼んでる」 シルフィさんマントを着たまま、何処かに行こうと…… 「ま、待って……」 誤解を解いていってくれぇぇぇぇシエスタこえぇぇぇっぇえ 「あ、これ返さないと、はい」 あっさりマントを脱ぎ捨てて俺に手渡す。 凹凸のはっきりしたラインについ見入ってしまう。 「サイトさぁぁぁぁぁぁん?」 はっ、やばっ 「じゃぁねー、きゅいきゅい」 裸のまま走り去るシルフィさん…… 「ちょ、まって……何か一言ぉぉぉぉ」 今のままだと本気でヤバイ 「んーーーーーサイトーーー」 「はいっ!!!」 何とかして行ってくれぇぇぇぇぇ 「また一緒にとぼうね、きゅいきゅい」 ぎゃぁぁぁぁあ、シルフィさんルイズ並に空気読めねぇぇぇぇ!! 「またって何ですかぁぁぁ、サイトさん!!」 725 名前:7/7[sage] 投稿日:2006/11/05(日) 02 28 32 ID SP1qeiv/ 「なんだか二人とも遅いわねー」 「服着るのが間に合ってよかったじゃねーか?」 そうなんだけどねー 「いたいって、誤解!!誤解なんだよシエスタっ」 サイトの声が遠くから聞こえてくる。 何事? 「ただいま帰りました、ミス・ヴァリエール」 「お帰り、サイトのて、引っ張ってどうしたの?」 シエスタのオーラが黒い……何か有ったのかしら? 「『今日は、サイトがご主人様にゃん!!』?」 「なぁぁぁぁぁぁ」 「何かたくらまれた様ですね?」 何でばれてるのぉぉぉぉ? 「あーやっぱ誰かに喋ったか……」 「ぼ、棒っ切れどういうことよ?」 こ、怖いシエスタ怖い…… 「それはさておき、サイトさんが……よそで女性に手を出してます」 「な、何ですってぇぇぇぇぇ」 「誤解だって」 「何度も、一緒に、飛んだ、そうです」 「飛ぶ?」 何のことかしら? 「それはサイトさんに説明してもらいましょう……ね?」 「……そうね……サイト説明しなさい」 なんだか分からないけど、浮気したみたい。 「ご、ごかいだぁぁぁぁぁあ」 「じゃあ、ちゃんとご主人様に報告なさい!!」 「わたしも聞いてますね?」 「ひぃぃぃぃぃ、なんかモンスターが二匹居るぅぅぅぅ」 「……丁度良かったじゃねぇか、相棒、はろうぃんなんだろ?」 「こんなん、ハロウィンじゃねぇぇっぇぇえ」 サイトの言い訳は……一晩続いたという…。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2310.html
「わたしが、姫様の結婚で詔を?」 トリステイン魔法学院の最上階に置かれた学院長室で、ルイズはミス・ロングビルに始祖の祈祷書を手渡されながら聞き返した。 「ええ。アンリエッタ王女の御指名ですわ。来月のゲルマニア皇帝との結婚式の場で詔を読み上げる巫女に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを、と」 秘書席で右手にペンを持ったまま座り、書類の山を片付けながら王宮からの急使の言葉をそのままに伝えたロングビルは、ちらりと学院長の席に視線を送る。 そこには歯も噛み合わず、熱い茶の入った湯飲みを震える手で持ち上げている今にも死にそうな老人の姿があった。 セクハラという生き甲斐を奪われたオールド・オスマンの、晩年の姿である。 「本来なら、学院長から通達されるべきことなのですが、土くれのフーケの事件からあの調子で……。学院の業務や公務も、私が代行している有様ですわ」 はぁ、と溜め息を吐いて優雅に憂いの表情を見せるロングビルを、ルイズは同情心の篭った目で眺めた。 いろいろと苦労しているのだなあ、と。 「ああ、そうそう。大切なことを言い忘れていました」 「……?なんでしょうか」 ペンを置いて向き直ったロングビルに問い返すと、ロングビルはルイズの手に収まっている始祖の祈祷書を手で指し示して、中身を見るように促した。 始祖の祈祷書とは、その名の通り、始祖ブリミルが神への祈りの文を書き記したものだ。 ただ、同じ名前の祈祷書が世界各地に存在しており、それぞれが自分が持つものこそ本物であると主張しているために、真に本物の場所は知られていない。 ルイズに渡された祈祷書もまた、本物である可能性は低い。王宮から送られたものであれば本物であるようにも思えるが、学院にも祈祷書と銘打った本が何冊か図書館に紛れ込んでいる。 王宮直下の機関である魔法学院でこれなのだから、王宮所有のものだって疑ってかかるべきだろう。 結婚式で詠み上げる詔は自分で考えなければならないが、その多くは祈祷書に書かれた文面を抜き出して引用すれば良い。ただ、無数にある祈祷書の中には、通常の言葉としての意味を持たないルーン文字や、訳の分からない記号の羅列だったりするものもある。 詔を考えるのに参考になるようなものでありますようにと祈りつつ、ルイズが祈祷書の表紙を開くと、ロングビルは申し訳なさそうに苦々しい笑みを浮かべ、ルイズは目を丸くして表情を固めた。 「ま、真っ白!?」 祈祷書の中身は、全てが白紙だった。 ぱらぱらと頁を捲ってみるが、そこには文字一つ書かれておらず、記号すらない。 ロングビルはそのことを分かっていたのか、席の後ろに置かれた本棚からいくつかの書物を取り出すと、ルイズにそっと差し出した。 「見ての通り祈祷書は白紙でして、ミス・ヴァリエールには自力で詔を考えていただかなくてはなりません。最終的には王宮の方々が草案を推敲して下さるとはいえ、一人で考えるにも限界があるでしょうから、こちらで過去の詔を集めたものと、参考となりそうな偉人達の詩集を用意いたしました。余計なお世話とは思いましたが、宜しければお使い下さい」 「余計なお世話だなんて、そんな……、是非とも使わせていただきますわ」 正直言って詩のことなど欠片も分からないルイズとしては、ロングビルの申し出は始祖ブリミルの助けとも思えるものだ。教養として詩の勉強もしていないわけではなかったが、厳格な母が匙を投げるほどに酷い結果を出して以来、欠片も接点を持っていない。魔法学院で詩の勉強が求められていたら、間違いなくルイズは魔法だけでなく勉学でもゼロ呼ばわりされたこと だろう。 差し出された本を始祖の祈祷書以上に大事に抱きしめたルイズは、ロングビルに深くお辞儀をして学院長室を退出した。 大命を拝してしまった緊張で、胸がきゅっと苦しくなる。 名誉なことだとは思うが、果たして期待に答えられるかどうか、ちょっと、いや、かなり心配だった。 本当に詩は苦手なのだ。 習い始めてばかりの頃に、魔法がまるで上達しないことを母や上の姉に叱られたとき、その心情を詩に綴ったことがある。だが、その詩を優しくて暖かくて、自分のことをなんでも受け入れてくれる笑顔を絶やさない下の姉に見せたところ、今までに身が事が無いほど微妙な顔をされた。 しかし、今は過去とは違う。あれから世の中のことを一杯勉強したし、本も沢山読んだ。語録も増えたし、気の利いたこともいえるようになったと思う。 詩の一つや二つ、作れないことは無いはずだ。 アルビオンに乗り込んで手紙を回収するという任務に比べれば、楽なことではないか。 そう思いつつ螺旋階段をゆっくりと下りて行く傍ら、祈祷書を抱える右手に視線を向ける。 そこには水の魔法でも治しきれなかった小さな傷跡が、赤みを帯びた状態で薄く残っていた。 アルビオンでワルドと戦ったときの怪我は既に治っている。優秀な水のメイジを派遣してくれたアンリエッタのお陰だ。だが、今もまだあのときの痛みを思い出すことがあった。 ワルドのエア・ハンマーが右手の形をまったく別のものに変えてしまった瞬間。あの時は任務のことやワルドに対する怒りでそれほど痛く感じなかったが、やっと治療が受けられる状態になったとき、気絶してしまいそうな痛みが全身に走った。 完治した筈の右手は、その時の痛みを思い出すとじわりと痺れたような感触を伝えてくる。 この手を見る度に、良く生きていたものだとルイズは改めて思う。 「でも、おかしいわね。手紙は奪われたはずなのに……」 結婚は予定通りに行われる。詔の巫女を指名されたということは、そういうことなのだろう。 ワルドに奪われた手紙はどうしてか、ゲルマニア側には渡っていないようだ。逃げたワルドがどのような経緯を持って自陣に戻ったのか知る由も無いルイズには、そのことがどうしても不思議で仕方が無い。 だが、それはもう考えても意味は無いのだろう。それよりも、もっと大切なことがある。 女子寮の塔に戻ったルイズは、自分の部屋に才人の姿ないことを確認した後、学院長室で受け取った祈祷書と参考資料をテーブルの上に置くと、ベッドの下に潜り込んで何かを引っ張り出した。 予備のマントに包まれたそれは、アルビオン王ジェームズ一世から託されたアルビオンの王権を移譲するのに必要なものだ。これがここにある限り、レコン・キスタはアルビオンの真の王にはなれない。 でも、コレを使うときは来るのだろうか。 そんな思いを胸に、ルイズはテーブルに置いた始祖の祈祷書に視線を移す。 姫殿下とゲルマニア皇帝との結婚。しかし、アルビオン王はそれが成る前にレコン・キスタがトリステインの地を攻めるだろうと言っていた。 それが真実なら、わたしの役目は詔を考えることではなくて、王宮の赴いて危険を知らせることではないのだろうか?いや、王宮も馬鹿ではない。レコン・キスタがトリステインを攻めると分かっているから政略結婚を考えたのだ。一歩時期を早くして、レコン・キスタが攻めてくる可能性くらい、考えていないはずが無い。 「やっぱり、起こるかどうかのことなんて考えないで、起こらなかったときのことを考えて行動しろって事かしら」 包みをベッドの下に戻し、ルイズは祈祷書を抱えてベッドに横になる。 自分が考えるようなことは、他の誰かも考えている。なら、心配するだけ無駄なのかもしれない。しかし、万が一のこともある。 もしも、誰も対処していなかったら? 自分が動くことで、救える人が居るかもしれない。助けれる命があるかもしれない。 「……うっ!?」 突然込み上げて来た奇妙な吐き気に、ルイズは口持ちに手を当ててそれを押さえ込んだ。 救う。 そんな言葉から連想したのは、ワルドとの戦いの中で見た真っ赤な光景だった。 血に沈む幾つもの死体。それを踏み躙るワルドの姿。圧倒的な力の差を見せ付けられ、無様に転がる自分。 手が、また痺れ始める。 自分にもっと力があれば。もっと気をつけていれば。あの惨劇は防げたかもしれない。 でも、もう一度ワルドと戦えといわれて、戦えるだろうか。 右手の痺れは広がり、脇腹や足の先まで痺れ始め、頭が割れるような酷い頭痛が考えることを放棄させる。襲い来る全ての感覚が恐ろしくなって、悲鳴を上げたくなった。 震える喉を息を通して、必死に呼吸する。 息苦しさが止まらない。空気が欲しい。 強い恐怖だ。 ワルドに対して、ルイズはどうしようもないほどの恐怖を抱いていた。 実戦という意味では、ルイズはラ・ロシェールの宿襲撃事件で一度体験している。だが、そのときは頼りになる仲間がいたし、誰一人として怪我もしていない。それに、敵は平民だった。 自分よりも強い力を持った存在と本当の意味で戦ったのは、ワルドが初めてだったのだ。 運が悪い、としか言いようがない。 一方は魔法もまともに成功させられない落ち零れのメイジ。一方は、歴戦の勇士であり、才能と努力によって大勢に認められるほどの戦士だった。 あの時、ルイズが受けた重圧は、本来なら普通の人間が耐えられるようなものではない。 目の前にちらつく死の気配は、逃げることも戦うことも許さないほど強いものだったのだ。 生来の気の強さと、背負った責任の重さ、その二つが無ければ、何も出来ずにワルドに殺されていたことだろう。 巨象に踏み潰される蟻の気分。そう言い表すことも出来る。 生きていたことは奇跡なのだ。 その事実を再認識するごとに、ルイズは全身が冷えるような感覚に襲われていた。 助けて。寒い。ここは、怖い。 なにかを求めるように左手を伸ばして、その先に浮かぶ黒髪の少年の姿に縋りつく。 その少年だけは自分を裏切らない。自分のために戦ってくれる。自分と共に生きてくれる。 そんな確信が少年に触れた部分から全身に伝わって、息苦しさがウソの消えていった。 頭痛も、痺れも無くなって、心地よい感覚が全身を抱き締めるよう包む。 母の胸の中のように、父の腕に抱かれているときのように、言いようの無い安らぎを感じる。 自分の中の何かと少年の間に、見えない絆がある。 もう、怖くない。 そう思ったところで、ルイズはハッと目を開いた。 「……あれ、寝てた?」 ふらふらと伸びた左手が、いつの間にか薄暗くなった部屋の中に浮かんでいる。 学院長室に呼び出されて祈祷書を受け取ったのが昼頃だから、外が暗いところを見ると、もう六時間か七時間は経っているはずだ。夕食も食べ損ねたことになる。 むっくりと体を起こして、ルイズは部屋の中を見回すと、そこに本来いるべき人間の姿が無いことに気が付いた。 「こんな時間まで、どこほっつき歩いてるのかしら。使い魔なら夕食の時間を見計らってご主人様を起こしなさいよ、もう」 異世界から召喚した黒髪の少年の姿を脳裏に浮かべつつ、始祖の祈祷書をベッドの上に放り出して自分の使い魔を探しに出かけようとする。 なにか酷い夢を見た気がしたが、なんとなく悪い夢でもなかったような、そんな不思議な感覚だけが残っていた。 内容はまるで思い出せない。 「一体、なんの夢だったのかしら」 以前にも奇妙な夢を一度見た覚えはあるが、その内容までははっきりと記憶していない。ただ、そのときの夢はガオンッ!だった。自分でも意味が分からないが、それだけは確かだ。 あと、キュルケやタバサも出てきた気がする。自分の使い魔の少年も、居たような、居ないような……。 「まあ、いっか」 深く考えたところで、夢は夢。現実には何の影響も及ぼさないのだ。 そう思い直して、ルイズは部屋の扉を開けるために左手を伸ばした。 唐突にフラッシュバックする、黒髪の少年の姿。 夢の内容が一気にルイズの頭の中に浮かび上がった。 「ああっ!あ、ああ、ひゃあああぁぁぁっ!ウソ!ウソよ!な、ななな、なんでわたしがあんな犬に助けを……!!あ、そういえば、ワルドと戦った後目が覚めたら、サイトの腕に抱かれてて……、ああでもそんな!違うのよおおおおぉぉぉぉ!!」 夢の内容の、特に後半部分を強く思い出したルイズは、顔を真っ赤にして扉を両手で何度も思い切り叩き、大きな音を立てて冷静になれと自分に訴えかけた。 「違うわ!違うのよ!あんなやつ、なんとも思ってないんだから!!そ、そりゃあ、ちょっとはカッコイイかなって、思っちゃったことも無いわけじゃないけど……、いや、でもそんなあああああぁぁぁ!!」 赤くなるだけでは足りず、熱まで持ち始めた頭を扉に打ち付け、何度も何度も否定の言葉を繰り返す。だが、否定する度に脳裏に浮かぶ少年の姿は色濃くなり、頭を扉に打ち付ける数に合わせて美化指数も上昇する。 がん ごん どん ごっ がっ めき ドコ ゴシャ ミシ メリ グキャ 様々な音を立てて確実に変形し始める扉の破損指数とルイズの中にある才人の美化指数が急上昇し、やがて両方のカウントが天井を突いてストップがかかった頃、やっと隣の住人が迷惑な音を聞きつけて現れた。 「なにやってんの、ルイズ」 「うひゃあぁぁっ!?え、き、キュルケ?あ、いや、なんでもないのよ!うん、なんでも」 原型を留めなくなった扉の向こうから顔を出したキュルケに、ルイズの全身が跳ねる。誤魔化すように乾いた笑いを浮かべるものの、キュルケの目は不審な色に染まっていた。 「なんでもないって、あなた、頭突きで扉壊しといてなんでもないってことはないでしょ」 キュルケの言葉でやっと気が付いたかのように、ルイズは自分の頭を打ち付けていた扉の状態に顔を青くさせる。 キュルケの姿がはっきり見えているが、別に扉が開いているわけではない。ルイズが何度も頭を打ちつけて壊したせいで、大きな穴が開いているのだ。 キュルケの姿は、その穴から見えていた。 「額から血が出てるけど、先生呼ぶ?」 「う、ううん、いいわ、本当になんでもないから!あ、あらイヤね、扉がちょっと老朽化してたみたい。職人を呼んで直さなくっちゃ。オ、オホホホホホホ」 ルイズが手を放すと、扉はゆっくりと蝶番を巻き込んで部屋の外側へと倒れる。キュルケはそれをひょいと避けながら、さらに強くなった疑念の篭った視線をルイズに向けた。 「老朽化って、ありえないわよ?あなた、三日に一度はダーリンを爆発して、その勢いで扉も壊してるじゃない。多分、この学院で一番新品よ、コレ」 と、見る影も無く廊下に倒れた扉を指差すキュルケ。 だが、ルイズはそんな言葉も笑って誤魔化し、部屋を出て廊下を下りの階段のある方へと向かって歩き出した。 「きっと、アレよ。何度も替えてるから、不良品に当たっちゃったのよ。うん、そうに違いないわ。ちょっと業者に文句を言ってやらなきゃいけないから、わたしはこれで失礼させてもらうわね。ごきげんよう、ミス・ツェルプストー」 また、オホホホホ、などという気味の悪い笑い声を上げながら階下に消えていくルイズの姿を見送ったキュルケは、先ほどまで眠っていたために乱れている髪を軽く撫で付けて、一体なんだったのかと、口を大きく開けてあくびをした。 「まあ、ルイズが変なのは今に始まったことじゃないか」 かなり失礼ではあるが、あながち間違いでもないことを呟いて、キュルケは様子を見に現れたほかの生徒を適当にあしらいながら、寝直すために自分の部屋へと戻っていった。 ハルケギニアの月は満ち欠けはあるのだろうか。自分が見たところ、二つの月は満月の形を変えていないように思える。 そんなことを才人が思ったのは、久しぶりに湯船に浸かってゆっくり出来たからだろうか。 平民は総じてサウナ風呂を使うのだが、才人は生まれ育った故郷の風呂が特に前触れも無く恋しくなり、厨房で働く料理長のマルトーから古くなった大釜を譲ってもらって、学院の中庭の隅に五右衛門風呂を造っていた。完成したのは、つい先ほどだ。 ただ、湯船に入った状態では火の調節が出来ないため、釜の下の火は万が一のことを考えて弱火になっている。この火が消えて湯がぬるなってきたら上がり時だろう。 冷めてしまう事を前提としていたために少し熱くしてあったお湯は、慣れない生活によって溜まった体の疲れを程よく吹き飛ばしてくれている。懐かしいからと作った風呂は、労力に見合った効果を上げているようだ。 体に伝わる熱に心地良さを感じて両腕を空に向けていっぱいに伸ばした才人は、肺の中の空気を吐き出して、ぼんやりと空を眺めた。 「そういえば、あの人にきちんと聞かないとな」 「聞くって、なにをだ」 鍔をかちゃかちゃと鳴らして、五右衛門風呂の傍の壁に立てかけられていたデルフリンガーが才人の呟きに問い返す。 「元の世界に帰る方法だよ。タバサの知り合い、っていうか、お尋ね者だったんだっけ?船の上で酷い目に遭った原因を作った人。名前は……、なんだったっけ」 「あの変なおっさんか。確か、ホル・ホースってんじゃなかったか?」 「そんな名前だったか」 剣よりも記憶力が低いのはどうかと思わないでもないデルフリンガーだったが、相棒は元々人の話をあまり聞かないタイプだからどうせ今回も聞いていなかったのだろうと判断して、話を続ける。 「相棒は、故郷に帰りたいか?」 聞かなくても分かる答えだが、聞いておいて損は無いだろう。 帰りたいに決まっている。普通は誰だって、納得する理由も無く故郷から突然引き離されたら、恋しくなって当然だ。 そう思っての言葉だったが、思いのほか答えが返ってくるのには時間がかかっていた。 唸り声を溢して首を捻り、両腕を胸の前で組んだ才人が必死に普段使わない脳味噌を使って自分の気持ちを探る。だが、そこまでして出した答えは、要領の得ないものだった。 「帰りたい気もするし、帰っちゃいけない気もする。ルイズのことは放っておけないけど、向こうに残してきた家族にも連絡したいし……、よく分かんねえや」 きっと家族は自分のことを心配しているだろう。いつものように出かけたと思ったら、突然居なくなったのだから、普通の親なら心配しないはずが無い。 母ちゃん、泣いてるかな。 そう思うと、今すぐにでも帰りたくなる。だが、そんな望郷の念に匹敵するくらい、才人にはこちら側に心配事が残っているのだ。 意地っ張りで、我が侭で、それでいて泣き虫で……、それなのに諦めることを知らない可愛いご主人様のことが、どうしても放っておけないのである。 自分が居なくなったら、ルイズはどう思うだろうか。 人間の使い魔が居なくなって清清したと言うのだろうか。それとも、寂しくて泣いてしまうのだろうか。あるいは、どうでも良いと思うのだろうか。 考えれば考えるほど、板挟みの感情に悩まされる。 帰りたいと思う気持ちと帰れないと思う気持ちの二つが絶妙なバランスで才人の心に存在しているために、答えが出てこない。どれだけ思い悩んでも、天秤は水平を保ち続けていた。 なら、あの人は、ホル・ホースって人はどうなのだろうか。 やはり故郷に帰りたいと思っているのだろうか。それとも、こっちに残る決心をしているのだろうか。 本人に聞いて見なければ分からない答えに、悶々と頭を悩ませる。あの時に交わした短い会話では、どう思っているかなんて分かるはずも無い。 そこで唐突に、才人は疑問を抱いた。 「そうだ。そういえば、俺達はなんで言葉が通じるんだよ?あの人、どう見ても日本人じゃないのに……、普通に話せるなんておかしいじゃないか!」 今更な疑問だが、思い返してみると確かに不思議だった。何故、今まで疑問に思わなかったのか。そっちの方が不思議なくらいだ。 才人は日本語を喋っている。だが、ハルケギニアの人間はハルケギニアの言語で当たり前のように会話をしている。二つの間に何の問題も無く意思疎通が出来ていることは、どう考えても不自然だ。 ハルケギニアの言葉が日本語と同じ、という可能性も無いとは言えないが、日本とはかかわりの薄そうなホル・ホースという人物が日本語をペラペラと喋るとは思えなかった。 「なんか問題でもあるのか?」 そんなデルフリンガーの問いに、才人は立ち上がった。 「おかしいだろ!俺、“異世界”から来たんだぜ!?なのに、なんでお前たちの言葉がわかるんだよ!お前達も、なんで俺の言葉が分かるんだっての!?」 才人から投げかけられた疑問の答えを探すべくデルフリンガーはしばし黙ると、鍔をカチャカチャと鳴らして心当たりを一つだけ示した。 「相棒は、どこを通ってハルケギニアに来たね?」 「どこって……、変な光ってるやつだよ。ゲートっていうのか?あれ」 「だとしたら、そのゲートに答えが隠されてるんだろうさ」 デルフリンガーの曖昧な答えに不服なのか、才人はむっと口をへの字に曲げると腰に手を当てて声を荒げた。 「じゃあ、あのゲートはなんなんだよ!」 「そんなことをしがない剣でしかない俺に聞かれても、わかんねえよ」 あっという間に放り出された問いの答えに気が抜けて、才人はそのまま空を見上げた。 ゲート。それを通ってハルケギニアに来た自分。なら、ホル・ホースもゲートを取ってこちらに来たのだろうか。 なら、あの人も誰かの使い魔なのか? ラ・ロシェールの“女神の杵”亭で会った時は、確か布で体を隠した小さな女の子と、大きな羽根帽子を被ったひょろっとした男を連れていた。見た感じ、誰か上で誰が下という扱いでもなかったから、あの中には彼の“ご主人様”は居なかったのかも知れない。いや、国王を暗殺しかけた、なんて話からすると、主はもう処罰されて亡くなっていることも考えられる。 「行き場を失って、ああやって旅して回ってるのかな……」 召喚されたときは自分と同じように理不尽な目に遭いつつも、頑張って生きていたのではないか。なんて、才人は見当違いも甚だしいことを考え、一人表情を暗くした。 「ああ、でも、そうか……」 ホル・ホースの境遇に同情する一方で、自分には少し嬉しい事実を見つけた才人は、顔を上げて手を強く握った。 「俺だけじゃないんだ。こっちには、俺以外にも仲間がいるかもしれない。一人見つけたんだから、探せば、きっと他にも見つかるはずだ。それで、みんなで力を合わせれば、きっと元の世界に帰る方法も……」 あるはずだ、と言いかけたところで、才人は肌寒さを感じて体を震わせた。 夏が到来したとはいえ、夜は少々冷える。肌についた水滴は気化して体温を奪うし、そよ風も知らない間に全身を冷やしていくのだ。 せっかくの風呂だというのに、風邪を引いては意味が無い。 もう少し温まろうと思い、腰を屈めたその時、少し離れたところで何かが割れる音がした。 「わ、わわわ、ば、バレちゃう、バレちゃう!夢中になってて、傾いてたことに気付かないなんて……」 外壁に沿って植えられた木の陰で、誰かが何かを拾っている姿が月夜に浮かぶ。その影の形と声から、才人はそれが誰なのかをすぐに理解した。 学院で働く黒髪のメイド、シエスタだ。 「し、シエスタ?なんでそんなところに……、うわあぁぁ!って、あっちいいぃぃ!!」 股間の部分が丸見えだったことに気付いた才人は、両手でそれを隠して湯の中に潜ろうとするが、その勢いで足の一部が底に敷いた木の板で覆われていない金属部分に触れてしまう。 股間のブツを隠そうと湯の中に隠れては火傷をして、火傷をしては湯から出る。そんなことを何度も続けている様子に、シエスタは顔を赤くしながらも心配そうに駆け寄った。 「だ、大丈夫ですかサイトさん!」 「うわあ!こ、こっちに来ちゃだめだシエスタ!て、熱い!」 風呂釜の中で踊るように飛び跳ねる才人を落ち着かせようと、シエスタは五右衛門風呂の縁に手をかけて身を乗り出す。だが、予想以上に熱かった金属部分に驚き、体勢を崩した。 「熱っ!き、きゃああぁぁぁっ!?」 風呂釜からお湯が溢れ、飛び散った水がデルフリンガーに降り注ぐ。 ただでさえ錆びてるのに、これ以上酷くなったらどうしてくれるんだ!という剣の抗議も届くことは無く、才人とシエスタは同じ風呂の中に絡まったような状態で沈んだ。 肺の中の空気を吐き出し、なんとか水面に顔を出そうとする才人。だが、腹の上にうつ伏せの状態のシエスタが乗っているために、上手く動けない。シエスタはシエスタで突然水の中に入ったせいで混乱していて、起き上がるという選択肢が頭に思い浮かばないようだった。 「ががぼ、がぼ、がぼぼぼっ!?」 漏れ出る空気を押さえようとしても、シエスタの体で押さえられているために肺は小さくなるばかり。口から漏れる空気は留まらず、才人の体からは確実に酸素が失われている。 そんな時、ぐにゅ、と何かが自分の股間に押し付けられたことに才人は気が付いた。 「ご、ごばばあばばぁっっ!!」 感触の位置を辿って向けられた視線の先には、黒髪の少女の頭がある。湯の温度のせいでシエスタの体温までは分からないが、間違いなくこれは触ってしまっているだろう。 顔面直撃だ。セクハラというレベルではない。 才人も年頃の若い男。可愛い女の子と接点を持てば色々と盛り上がってしまうこともある。 だが、このままでは別の意味で盛り上がってしまう。 とにかく抜け出さなければと、才人は全力で両腕を動かし、水を掻いて湯の中から脱出した。 「ぷはっ!し、シエスタ!そこはいろんな意味でマズいって!!」 足りなくなった酸素を一息で補給し、股間の辺りに埋もれたシエスタを湯の中から引き摺りだす。メイド服がびしょびしょに濡れ、肌にぴったりと張り付いている。ピンク髪のご主人様には無い大きな膨らみがはっきりと浮かぶ姿は才人の脳髄に高圧電流を流していたが、ここで暴走するわけにも行かないため、その辺りは見ないようにして目を回しているシエスタの頬を叩いた。 「なにか、柔らかいものが頬に……、いや、硬いものだったような……」 「き、きき、気のせいだよ、シエスタ。ほら、目を覚まして!」 ペチペチと頬を叩いている内に焦点の合わなかった目が少しずつ戻り、才人の姿を映し出す。 「あ、あれ、才人さん?なんで、わたし」 自分の見に何が起きたのか分かっていないのか、迷子の子供のように周囲を見回したシエスタは、目の前の肌色を見つけてカッと頬を赤くした。 「あ、そ、その、ごめんなさい!覗き見るつもりは無かったんです!あ、でも、ちょっと得したなーとか、いいもの見ちゃったなー、とか思っちゃったのも確かなんですけど……」 ハルケギニアに来て右も左も分からない才人を甲斐甲斐しく世話してくれた少女は、言わなくても言い事を口にして顔を下に向けた。 なんともコメントし辛い台詞に、才人はどう反応すれば良いものかと悩みつつ、目の前の少女をじっと眺める。いや、正確には目が離せなくなっていた。 普段つけているカチューシャは今は取り外され、湯で濡れた黒い髪は月明かりを受けて艶やかに輝いている。肌に張り付く服は、同年代の中でも発育の良いシエスタのボディラインを強調していて、妙に色っぽい。だが、それ以上に、羞恥に赤くした頬を隠そうと、顔を逸らす仕草が才人の男心を刺激していた。 どきどきと高鳴る胸を押さえて、才人は自分に冷静になれと訴えかける。だが、お湯の熱が容赦なく体温を上げて脳を沸騰させ、なぜか寄り添ってくるシエスタの柔らかい肌の感触が興奮を高めていた。 なんとかしてこの場を切り抜けなければ、なにかが危ない! このまま襲い掛かっても責める人間は極少数だろうが、逃げ道は確実に塞がれる。引き返せない場所に突撃するには、才人の覚悟はまだ十分ではなかった。 「そ、そそ、そうだ、シエスタ。シエスタは、な、なんであんなところに居たんだ?」 適当な話で場を誤魔化す作戦に出た才人に、シエスタは下に向けて何かをじーっと見ていた顔を上げて、激しく狼狽した。 「あ、え?いや、別に何も見ては……、じゃなくて、そ、そうです!と、とても珍しい品を手に入れたものですから、是非ともご馳走しようと思って!今日、厨房でお出ししようと思ったんですけど、おいでになられないから……」 姿の見えない才人を探して、直接渡そうと考えたらしい。 視線をそっと先ほどまで隠れていた木陰に移したシエスタは、そこに転がるティーセットを見て、はぁ、と溜め息を吐いた。 「その……、粗相をしてしまいまして、中身を全部溢しちゃったんです。ああ、また叱られてしまいます……、くすん」 「珍しい品って、なんだったんだ?」 ティーセットということは、珍しい品、というのは飲み物なのだろう。溢してしまったのは残念だが、せめて名前だけでも聞いてみようと思った才人に、シエスタは顎先に指を当てて名前を思い出そうとした。 「えっと、確か、“お茶”っていうそうです。淹れると、薄い黄緑色に色づいて綺麗なんですよ。少しだけ飲ませてもらったんですが、ちょっと青臭い気がしましたけど、不思議な香りがして美味しかったです」 お茶のどこが珍しいのかと疑問を抱く才人だったが、シエスタの説明から思い浮かぶお茶の姿に、それが自分の良く知る緑茶の類であることに気が付いて、思わず目元を拭った。 さっきも故郷のことを考えていたのに、ほんの少し故郷を思い出す材料が目の前をちらつくと、どうしようもなく恋しくなってしまう。 「だ、大丈夫ですか!?」 突然目を潤ませた才人を見てシエスタが慌てるが、才人は大丈夫だというように笑って首を振った。 「い、いや、ちょっと懐かしくなっていただけだから。平気だよ、うん」 風呂の中に女の子と一緒に入っている状況で、故郷を思い出して涙が出てくるなんて、奇妙な話だ。情けないやら、恥ずかしいやらと、居心地が悪くなってしまう。 「それより、シエスタ。その、言い難いんだけど、俺の格好がアレだからさ。出来れば風呂から出てくれない、かな?」 適度に緊張も解れただろうと、才人は話を戻して事態の解決に乗り出した。 シエスタも自分の状況がやっと分かったのか、両腕で胸元を隠して身を捩る。才人の目から体を隠そうという意図なのだろうが、水に濡れた服は体の動きに更に肌に密着し、より一層にエロティックな状態になっていた。 鼻の奥の方に血が溜まってくる感覚を覚えた才人は、そんなシエスタの姿を見ないようにと目を手で隠して顔を逸らす。だが、ここからのシエスタの行動は、才人がまったく予測し得ない方向に向かっていた。 「これ、お風呂……、なんですよね?貴族様が使っているような。でしたら、服を着て入っているのは変じゃないですか?変、ですよね」 何か一人で納得し始めたシエスタは、才人が止める間もなく着ているエプロンドレスに手をかけて、ボタンを外し始める。 ぽんと、白い布が一枚湯船の外に放り投げられた。 「え、ちょっと、なにしてんのシエスタ!」 「服を脱ぐんです。ほら、服もびちょびちょになっちゃったし、このまま帰ったら部屋長に叱られてしまいますから。火で乾かせばすぐに乾くと思うし」 そう言って、シエスタはブラウスのボタンやスカートのホックを外し、衣服を脱ぎ捨てていく。しかし、濡れた服は脱ぎ辛いのか、時折止まって困ったような声を漏らし、才人の耳を刺激していた。 目を覆う手の隙間から、そっとその向こうを覗き見てしまう才人の気持ちは、青少年として正しいのかもしれない。湯船の中で脱衣する少女の姿は月の光と白い湯気で幻想的に浮かび上がり、湯の熱を受けて桜色に染まった肌は異性を積極的に誘惑している。 耐えろ。耐えるんだ、才人!ここで暴走したら、俺はもう二度と故郷の土は踏めないぞ! やっと元の世界に帰る筋道が見えてきたというのに、このままでは行き着く先が暗い牢屋の中か、明るい家庭になってしまう。シエスタの性格からすれば、どちらかというと後者のほうが可能性は高い。 しかし、それでも高鳴る鼓動は期待の強さを示している。肌と肌とが触れ合う光景を想像してしまい、どっくんどっくんと元気に流れる血液が股間に生える陸生哺乳類で最大の動物に似ている物体に熱膨張を起こさせていた。 だって男の子だもん、下半身が元気でも仕方が無いさ。むしろ健康的で実によろしい。 苦しい言い訳を自分に告げて、才人は下着にまで手をかけたシエスタの姿を指の間から凝視していた。 だが、世の中そんなに甘くは無いようだ。 視界の端に映るピンク色の何かが、どす黒い空気を纏っていたのである。 恐る恐る目から手を離し、シエスタから距離を取る才人。突然様子がおかしくなったことに気付いたのか、シエスタは才人の視線の先を追って振り返った。 「……ヒッ!み、ミス・ヴァリエール!?い、いつからそこに……」 吹き上がる闘気が髪を揺らし、般若の如く顔を憤怒で歪めたルイズが、その爛々と輝く瞳をシエスタに向ける。 温かい湯に浸かっているというのに、シエスタはルイズに視線を向けられた瞬間、全身に氷水をかけられたような寒気を感じて身を震わせた。 「いつから、ですって?……ついさっきよ。だから、なにか事情があるのなら、わたしは聞いていないことになるわ。そうね……、このまま折檻したんじゃ、無実の者を痛めつけることになるかもしれないから、言い訳の機会をあげようかしら」 ぱし、ぱし、と一定の間隔で右手に握った杖を左手の平に打ちつける。 こめかみのあたりが痙攣しているところを見ると、ブチ切れる一歩手前といったところだろうか。ここで選択を間違えれば、即座に自慢の爆発魔法が飛ぶことだろう。 言い包めるチャンスは、今しかない。 説得するのに必要な材料は無いが、時間を遅らせればその分怒りは強くなるだろうと判断したシエスタが、ルイズの気を落ち着けさせるために口を開いた。 「ミス・ヴァリエール、これはわた……」 「はい、終了!言い訳する時間は上げたわ、五秒だけね……。十分でしょう?泥棒猫とエロ犬にくれてやる時間としては」 五秒。何の宣言も無く決められた制限時間は、余りにも無慈悲だった。 ルイズの口元には薄く笑みが浮かんでいるものの、目は一切笑っていない。その迫力に抗議の声を上げることも出来ず、シエスタは才人の傍に寄って、ただ閻魔の裁定が下されるのを待つしかなかった。 「ご主人様がこんなにも世の中のことで思い悩んでいるって言うのに……、その使い魔は鼻の下を伸ばしてメイドとお風呂?へ、へえぇ、い、いいい、良いご身分じゃないの!い、犬の分際で!」 杖が振り上げられ、ルイズの全魔力が込められた雷光が夜の闇を照らす。口ずさむ詠唱は協力無比な炎の魔法。ファイアーボールだ。当然、その効果はルイズに限っては炎の玉を生み出すことではなく、爆発仕様となっている。 「ま、まま、待てルイズ!誤解……、じゃないけど、誤解なんだ!」 「才人さん、わたし怖い!」 「シエスタ!?いや、今くっついたら逆効果だよ!」 怯えるように抱きついてきたシエスタを引き離そうとする理性。だが、本能に突き動かされた両腕は、彼女の肩を、腰を、しっかりと抱き締めていた。 「遠慮はいらないみたいね……!死んじゃえ、このエロ犬ううぅぅぅっ!!」 「う、うわああぁああぁああ!!?」 振り下ろされた杖の先から膨大な魔力が迸り、風呂釜ごとシエスタと才人を吹き飛ばす。湯船に溜められたお湯は四方に散り、釜の下にあった焚き火も爆風に乗って空を舞った。シエスタの服と思しき布切れは焼け焦げてボロ布に成り果て、才人の衣服と共に木の上に引っかかる。 余波を受けて弾き飛ばされたデルフリンガーは、理不尽過ぎる、と相棒とそのご主人様に心の中で愚痴を溢していた。 「今後、わたしの部屋への出入りは禁止するわ!二度と戻ってくるな!あんたなんて、そのへんで野宿でもしてればいいのよ!!」 怒りに赤く染まった顔で頬を膨らませたルイズは、地面にぐしゃりと落ちた才人に向かってそう告げると、肩を怒らせてその場を去っていく。 全身の痛みに耐えながらご主人様の後姿を見送った才人は、今回は自分が悪かったかもしれないと反省する。シエスタに押された形とはいえ、それを看過したのは自分なのだ。 湯にのぼせたでもしたのか、珍しく自分の非を認めるというまともな思考回路を形成した才人は、ルイズのことは後でなんとかフォローしようと考え、近くに落ちた焚き火用の木片で股間を隠した後、もう一人落ちてくるべき人間が落ちてこないことに首を傾げた。 「シエスタ?シエスター!どこだ、シエスタ!」 一応、下着まで脱ぎきっては居ないはずだが、それでも肌を晒していることには変わりない。 下手に人目につく場所に落ちては大変だと、デルフリンガーを拾ってガンダールヴの力を解放した才人は、木の上に引っかかった自分とシエスタの服を回収しようと枝に飛び移る。その時、何かが派手に壊れる音が耳に届いた。 「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!!」 「な、空から女の子ですと!?いや、その、ご、誤解だああぁぁぁ!!」 シエスタのものと思われる悲鳴と少し年齢を感じさせる男の声が、魔法学院の周囲を囲うように立つ五つの塔の一つ、火の塔の方向から聞こえて来る。ついでに、何かを叩いたような乾いた音もしていた。 恐れていたことが現実になったらしい。 なんとか衣服を回収した才人は、とりあえずパンツとズボンを履いた後、声の聞こえてきた方向に向かって全速力で走る。誰かに見つからないように、と祈りながら。 ただ、残念なことにその祈りは天には届かなかったようで、シエスタと合流するまでの間に数人の女生徒に発見され、翌日話題の的になってしまうのだが……、それはあくまでも余談である。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1389.html
前ページ次ページゼロのアトリエ ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師29~ 魔法学院の片隅、空き教室を利用して作られた錬金術工房の中で。 ルイズは一生懸命設計図とにらめっこして、カリヨンオルゴルの製作にいそしんでいた。 周りでは、他の五人がめいめいの作業に精を出している。 ルイズは手を休め、結局ものにならなかったかつての趣味の事を思い出した。 魔法が駄目ならせめて器用になるようにと仕込まれた編み物であったが、 複雑に毛糸が絡まりあったオブジェを無駄に生産するだけに終った。 天はルイズに編み物の才能は与えなかったようである。 だが…不思議とこれが金属や宝石となると話が変わってくる。 自分でも驚きだった。自分にこんな細やかな細工を作り上げる力があったなんて。 錬金術…いや、自分の才能に気付かせてくれたヴィオラートには本当に感謝している。 そんなことをつらつらと考えながら、ルイズはふと『始祖のオルゴール』に目を向けた。 そういえば、結婚式の詔も考えなくてはならない。 以前は…無能と蔑まれた時には暇を持て余していたというのに、 自分が何かをなそうと足を踏み出した瞬間から、そんな怠惰な時はどこかに吹き飛んでしまった。 いつも何がしかを考え、考えていない時は手足が動いている。 気の効いた詔というのは一体どんなものだろうか…まわりを見渡し、相談できそうな人を探す。 コルベールに…は期待できそうにもない。 ヴィオラートもなんというか実用派で、文章を装飾するという考えからは程遠いだろう。 キュルケは…儀式とか礼飾をあまり好きではない。タバサ…はどうだろうか。 いつも本を読んでるし、案外あっさりと良い言い回しとか過去の名文を教えてくれるかもしれない。 そんなことを考えながらタバサを漠然と見ていたルイズに、キュルケが声をかける。 「ルイズ、それは何?」 キュルケは、ルイズの傍にある『始祖のオルゴール』が気になっているようだ。 「これは『始祖のオルゴール』っていう国宝なのよ」 ルイズは説明した。 「なんでそんな国宝をあなたが持ってるの?」 ルイズはまた、キュルケに説明した。アンリエッタの結婚式で、自分が詔を読みあげること。 その際、この『始祖のオルゴール』を用いる事…等々。 「なるほど。この前のアルビオン行きの成果ってわけね。こないだ発表された、 トリステインとゲルマニアの同盟が強化され、二つの国は名実共に同盟国となる、と」 ルイズはちょっと考えたが、ほぼばれているのに隠す意味はないと思い、こくりと頷く。 「アルビオンの新政府は不可侵条約を持ちかけてきたそうよ?あたし達がもたらした平和に乾杯」 ルイズは気のない声で相槌をうった。その平和の為に、アンリエッタは好きでもない皇帝の下へ嫁ぐのである。 仕方のないこととはいえ、明るい気分にはなれようはずもない。 「ところで…それは何を作ってるのかね?」 愉快なヘビくんによる自動水汲み装置と描かれた設計図を弄り回していたコルベールが問いかける。 コルベールの指差す先には、何かの設計に頭を悩ますルイズの姿があった。 「カリヨンオルゴルっていうアイテムです。周囲の敵を魅了したり、破壊したり… 高度な技術を必要とするだけあって、強力な効果が得られるようです」 「ほう。ミス・ヴァリエールはいつのまにか高度な技術を身につけているようだね」 「…褒めたって何も出ませんよ」 照れているのか、わずかに顔を赤らめながら顔を背けるルイズに、コルベールは確信を持った声で言った。 「わずか数ヶ月で、このような装飾品を…複雑な機構を持った細工に挑戦しようなどという生徒など、 私の知る限りにおいて存在しません。自信を持ちなさい、ミス・ヴァリエール」 「そ、そうですか」 言うべきことを言ったコルベールと、黙り込んだルイズ。工房の中に、おのおのの作業する音だけが響き渡る。 静寂を破ったのはまたもキュルケだった。 「ところで、ヴィオラート」 「なに?」 「明日から休みだし、行きたいところがあるんだけど」 「行きたいところ?」 「ゲルマニアではね…平民でも、お金さえあれば 貴族になることができる。 でもそれは、裏を返せば貴族でも文無しは用なしっていうことでもあるの」 「?」 「だから、宝探しに行こうと思ってるんだけど…」 「宝探し?」 「ええ。遺跡とか、洞窟とか…」 「遺跡…」 ヴィオラートはかつて遺跡を巡り、錬金術書を集めた体験を思い出した。 「一緒に行かない?あなたがいれば心強いし、何ならゲルマニアで本当の貴族になっちゃうのもいいかもしれないしね」 キュルケは返事を待たずに、テーブルの上に地図を並べ始めた。地図の山盛りがテーブルに現れる。 「それで、これがその候補地なんだけど…どこから行く?」 「…これから調べる?」 タバサがあきれて、キュルケに向き直った。 「だって…売れないから処分するって言うから、まとめて金貨十枚で引き取ったやつだし…」 キュルケはばつが悪そうにそう答える。 「大丈夫なの?」 改めて考えると、だんだん不安になってきた。 「うーん そう言われると…これなんか見るからに新品の紙だし…」 キュルケが地図の山に手を突っ込んで、確認を始める。 作業に戻ろうと思っていたヴィオラートの目に、飛び込んだものがあった。 「あ…」 不審に思ったキュルケがヴィオラートに問いかける。 「どうしたの?」 ヴィオラートは珍しく動揺した様子で、震える指先を地図に向けた。 「そこに…あたしの名前が書いてある」 「え?…どこ?ざっと見たけど、貴女の名前はなかったような気がするんだけど…」 「違うの、あたしの世界の文字で書いてあるんだってば!」 五人の視線がその地図に集中する。 「え?これって、ヴィオラートさんの世界の文字なんですか?」 シエスタが反応し、目を見開いてヴィオラートを見つめた。 「え、何、まさかあなたも何かあるって言うんじゃ」 「これ…私、見たことあります!」 「え?」 「この…ヴィオラートさんの名前の下にある文字のどこかに、竜の砂時計って書いてありませんか?」 「え、ええと…あるみたいだね。竜の砂時計って…」 「はい、ただの壊れた砂時計…だと思うんですけど…祖母が大切にしていたものなんです」 シエスタのその言葉に、ヴィオラートたちは思わず顔を見合わせた。 「ふーん、この地図には『謎の古代文字』ってあるけど…これはけっこう信憑性高いんじゃない?」 「ええ、ヴィオラートさんの世界の文字ということは、祖母の世界の文字ということですから… この、『竜の砂時計』って文字は、私が祖母から唯一教えてもらった文字なんです!」 興奮気味に語りだしたシエスタ。この文字について共有できる初めての人ができた事が、 よほど嬉しかったのだろう。 「まさか全部本当の事だっただなんて…この文字が書かれたものは他にもありますから、 ヴィオラートさんの助けになると思います」 そこまで効いたキュルケが皆を見回して、宣告するように発言した。 「決まりね。タルブへ行こうか?」 その言葉にヴィオラートはしっかりと頷き、ルイズに問う。 「ルイズちゃん、一緒にタルブへ行こうか」 すると、ルイズはカリヨンオルゴルの設計図とにらめっこしながら答えた。 「すぐに帰ってくるんでしょう?私はとりあえずこれを完成させることにするわ。詔も考えなくちゃいけないし」 「とりあえず、私も作業があるので…それに、私が残ってないと学院的にはまずいらしいですからね」 コルベールは、新発明の設計図ににこまごまとした線や注意書きを付け加えながら、そう答える。 「一人だって、完成させて見せるわ」 出会った当時とは全く違う、まっすぐなルイズの瞳に見つめられたヴィオラートは、 心の中でルイズに祝福を贈りつつ微笑んで、決めた。 「じゃあ…行こっか?」 「そうこなくちゃ!じゃあ準備して、出発よ!」 翌朝、一行は空の上でシエスタの説明を受けていた。 シエスタの説明は、あんまり要領を得なかった。 とにかく、村の近くに寺院があること。そこの寺院に『竜の砂時計』が存在している事。 「『竜の砂時計』って…マジックアイテムなわけ?」 キュルケの問いに、シエスタはいいにくそうに答える。 「そんな…大したものじゃないと思ってたんですけど…しょせん壊れた砂時計ですし、 何でもドラゴンの角が使ってあるらしくて、それだけでも珍しいってありがたがって… 拝んでるおじいちゃんとかいますけど」 「へぇええ」 「祖母はある日ふらりと私の村に現れたそうです。そしてその…『竜の砂時計』を持って、 『神の浮船』で私の村にやってきたって、みんなに言ったそうです」 「『神の浮船』?」 「ええ。誰も信じなかったらしいですけど…祖母は頭がおかしかったんだって、皆言ってます」 「どうして?」 「誰かが言ったんです。じゃあ、その『神の浮船』を見せてみろと。でも、 もう呼べないとかれんきんじゅつしはどうとか色々言い訳して、その後は私の村に住み着いちゃって。 剣が使えたので、頼まれては魔物退治とか護衛とかの仕事をして一生懸命お金をためて… そのお金で貴族にお願いして『竜の砂時計』や自分の持ってきた道具に『固定化』の呪文までかけてもらって、 大事に大事にしてました」 「変わり者だったのね。さぞかし家族は苦労したでしょうね」 「いえ、それ以外では働き者のいい人だったんで。村の皆には変わり者扱いされながらも、頼りにされてました」 「うーん、できればその『竜の砂時計』を触ってみたいんだけど…大丈夫かな?」 話を聞いていたヴィオラートが、とりあえず聞いておこうと発言する。 シエスタはちょっと考えた後、破顔して答えた。 「ええ、それだけなら全然問題ないと思います」 「なら…作り方がわかったら、真っ先にシエスタちゃんに教えるからね」 「え、ええ!?私にですか!?」 「うん。この村で錬金術がわかるのはシエスタちゃんだけでしょ?」 「そ、そうですけど、私なんかが…」 「嫌なの?」 「そ、そんな、嫌ってわけでは…」 「なら、決まりだね。頑張って、竜の砂時計を村の名産品にしちゃおう!」 「は、はい!頑張りますっ!」 ヴィオラートの誘導に見事に操られ、 シエスタは未来を決めるような誓いを立てさせられたのであった。 さて一方、こちらは魔法学院。 ルイズは完成させたカリヨンオルゴルをひっくり返して、しきりに不思議がっていた。 「何で…鳴らないのよ。ドラムは回ってるし、振動板もちゃんと弾かれてるのに…」 以前のルイズならばただ落ち込んでいるだけだっただろうが、 今のルイズは結果には原因があり、少なくとも大まかな原因なら自分が解明できるはずだと考えていたのだ。 少なくとも失敗の原因を調べようとする気概があった。 「どこか不具合でもあるのかしら…妙な魔法効果でも発現しちゃったかな…」 そう呟いて何気なくドラムを指でなぞった時、何か懐かしい音が聞こえたような気がして、 ルイズは思わずあたりを見回した。 「…気のせいかしら。ヴィオラートが戻ってくるまでには、失敗の原因ぐらい解明しておきたいけど…」 コルベールが既に退出し一人になった工房の中で、ルイズはもう一度カリヨンオルゴルを総点検し始めた。 ヴィオラートは目を丸くして、『竜の砂時計』を手に持っていた。 ここはシエスタの故郷、タルブの村の近くに建てられた寺院である。 そこにこの『竜の砂時計』は祀られていた。 『固定化』のおかげか、かつての姿…輪の一部だけが欠けた姿を、『竜の砂時計』は保っている。 キュルケは興味なさそうにその『竜の砂時計』を見つめていた。 好奇心を刺激されたのか、珍しくタバサは興味深そうに見つめている。 ヴィオラートがあまりにも、呆けたように『竜の砂時計』を見ているので、シエスタが心配して言った。 「ヴィオラートさん、どうしたんですか?何か、まずいことでも…」 ヴィオラートは答えない。ただ、感動したように『竜の砂時計』を見つめるばかり。 「ルーンが教えてくれた。これは…時間を越えるアイテムだよ…」 あたりを、重い静寂が包み込んだ。 「時間を越える!?」 驚愕したキュルケの声が響く。 「ちょっと…時間を越えるって、そんなのありなの?」 「うん…あたしも信じられないけど、時間を止めたり、未来や過去に行ったりできる。壊れてるけど…直せると思う」 そこまで言うと、ヴィオラートはシエスタに向き直って、言った。 「シエスタちゃん」 「は、はい?」 呆然としていたシエスタははっとなって、ヴィオラートを見つめ返す。 「あなたのおばあちゃんが残したものは、他にあるの?」 「えっと…後は大したものは…お墓と、たしか日記があったはずですけど…」 「それを見せて」 シエスタの祖母のお墓は、村の共同墓地の一角にあった。墓石には、墓碑銘が刻まれている。 「祖母が自分で書いた銘を元にこの文字が彫られたそうです。何て書いてあるのか、わからなかったんですけど」 シエスタが呟いた。ヴィオラートはその銘を読み上げる。 「剣士エスメラルダ、異界に眠る」 「!!やっぱり!祖母の名前です!これで、間違いありませんね!」 シエスタははしゃいでヴィオラートの手を握ると、振り返って言った。 「じゃあ、日記も持ってきますね!ちょっと待っててください!」 「ふう、予定より二週間も早く帰って来てしまったから、皆に驚かれました」 シエスタはいそいそと手に持った日記をヴィオラートに手渡す。 シエスタの祖母がつけていたものだろう。 『破壊の像』の持ち主と同じ、過去の異世界からの闖入者。ヴィオラートと同じ、異邦人。 ヴィオラートはシエスタから受け取った日記を、注意深く、しかし手早く調べ始める。 「あった、神の…浮船…」 「神の浮船って、知ってるんですか?」 「知ってるよ。この世界だと小さな船は普通にあるみたいだけど…すごい大きな空飛ぶ船なんだ」 「そんなに大きいんですか?」 「アルビオンで見た船の…何倍だろ?あたしの世界の、神の食卓っていう山の上に降りてくるだけなんだけど」 ページをめくりながら、ヴィオラートは懐かしむように言った。 「近づいたらいきなり大砲を撃ってきて…死ぬかと思ったなあ」 「え…その…そんな巨大な船と戦ったわけ?一人で?」 キュルケがあきれて、ヴィオラートに問いかける。 「さすがにそれはないよ」 「ああ、そうよね。いくらあなたでも、それほど無謀ではないわよね」 「うん。友達二人と一緒に戦ったんだ。逃げられちゃったけど」 「…三人で?」 「三人で」 キュルケとタバサは絶句して、この錬金術師の言う事は本当なんだろうか…いや本当なんだろうな…と、 今までのヴィオラートの行いを勘案しながら、自分を納得させた。 その間もヴィオラートは日記を斜め読みして、世界や自分に関わる記述がないかどうか調べ続ける。 ふと、ヴィオラートの目が止まる。 「あたしの名前がある…!」 日常の中に、突然ヴィオラートの名前が現れたのだ。日付は…ちょうど八年前、今日のこの日。 「未来から来たという錬金術師、ヴィオラートに託した…壊れたものでも、直せるという… 彼女は『これで帰れる…』と呟いて砂時計の光の中に…あの壊れた鈴が彼女の役に立った事を祈る…」 その日の日記はそこで終っていた。次の日は、またいつもの日常生活が綴られているようだ。 「帰れるかもしれない…」 今まで漠然としか見えなかった希望が、現実となった。 「決めたよ」 ヴィオラートは皆を見渡して、力強く言い放つ。 「この『竜の砂時計』を直して、エスメラルダさんに会いに行く」 ルイズのいない今、ヴィオラートは自分の世界に帰る決意を固めた。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/191.html
次の日の朝、ジェラールは目を覚まして周りを見渡し、これからはこの生活に慣れなければ無いことを 実感し活動を始める。ちなみに未だルイズは夢の中のようだ。まあ今までも一人でやってきただろうから 大丈夫と判断してジェラールは彼女の洗濯物を抱えて外へ出かけていく。自分でできない(ことにしている) のだから、適当な人物を探すのが先である。まさかすべての使い魔が家事一般をこなせるとは思えないので、 使用人もちゃんといることだろう。そんなことを考えていると、向こうから昨日部屋にいた-キュルケといったか -少女というよりも、ご立派な女性がこちらに向かってくる。 (アレで年は大して変わらないのだから、残酷だな…) などとルイズにばれたらタダではすまないことを思っていると、キュルケもこちらに気付いたらしい。 「あら、おはよう。ジェラール…だっけ?」 「そうだよ、キュルケさん」 「キュルケでいいわよ、ジェラール。朝早いのね、あなたの主人とは大違い」 「やらなければならないことがあるからね。そうだ、コレを頼める人はどこにいるのか教えてくれないかい?」 「それならさっき向こうに一人メイドがいたから頼むと良いわ」 「ありがとう。そっちの…えーと名前は…」 「きゅうきゅう」 「ああフレイムだったね、君も元気そうで何より」 「あれ?私この子の名前説明したかしら?」 「今、彼?が教えてくれたじゃないか」 「ちょっと、何であなたがこの子の喋ってることが分かるの?」 「こういうことだよ。ゴホン、あーあー。グゴゴンゴン、グゴゴ、ゴングゴン」 「きゅう!?きゅきゅ、きゅう!」 「……あなた、なんなの?知り合いにサラマンダー評論家でもいるの?」 「実は…ひいじいさんがサラマンダーなんだよ。こっちと向こうでは微妙にアクセントが違うだけみたいだから会話に大した支障は無いみたい」 間をおいて、キュルケが笑い出す。 「あはははは!面白いこと言うわね!分かったわ、そういうことにしといてあげる。それにあなた、よく見ればかなり男前だしね。これからもよろしく、ジェラール」 「きゅう~♪」 そういうとキュルケとフレイムは去っていった。実際、ジェラールは嘘はついていないわけだが いきなり先祖が爬虫類ですといって、信じろというほうが無理だろう。まだルイズのように 機嫌を悪くしないだけ有難い。 「ふう、物分りのいい人で助かる。いっそあっちが主人になって…う!」 そういった途端に左腕から力が抜けていく。まるでサルの妖怪が頭にはめている輪か、犬の半妖が している首飾りのような効果が、このルーンにはあるようだ。 「主人がその場にいなくても効果が変わらない…遠隔操作型か?うぅ、とにかく本題に戻るから もう勘弁してくれ」 ジェラールがそう言ってキュルケが教えてくれた方向に歩き出すと、そこに一人のメイドがいた。 どうやら彼女も他の貴族から頼まれた洗濯物を持っているが、あまりの量の多さにどうやって運ぶか 思案中のようである。 「あの、ちょっといいかい?」 「はい?」 彼女=シエスタが振り向くと、そこには見覚えの無い若い男が一人。見た目は貴族のようだが、わざわざ 貴族が自分で洗濯物を持ってくるはずはないし、来ているものは自分たちとそう変わらない(無論メイド服ではない) そこでシエスタは昨日同僚から聞いた、あのゼロのルイズが召喚した使い魔の話を思い出した。 「あの、もしかしてミス・ヴァリエールさんが召喚した使い魔というのはあなたのことですか?」 「ああ、そのとおりさ。ちなみに名前はジェラール」 「あ、これは失礼しました。私の名前はシエスタといます。ところでご用件は何でしょうか?」 「コレを洗っておくように頼まれたんだけど、この手の生地はやったことがないんでね。できれば お願いしたいんだけれど…」 「はい、わかりました。でも…これだけあるので多少時間がかかりますが、それでもよろしいですか?」 「もちろん。そうだ、せめて荷物運びぐらいは手伝うよ」 「そんな!大丈夫ですよ!」 「いいんだよ、これぐらい。それに女性が困っていたら手伝うのは当然だしね」 「あ、ありがとうございます…」 シエスタは、自分の顔が赤くなっている事に気付き、それがジェラールにバレていると思うと 余計に赤くなっていった。 (聞いた話と全然違ってすごくいい人じゃない…それにすごくカッコいいし、優しいし…こんな人が あんな噂…デリカシーの無い人だなんて信じられないわ!どうせこの人の見た目に嫉妬した貴族の 誰かが嫌がらせで言っているのよね、きっと) 残念ながらシエスタ、噂通り自分の主人に対して暴言を吐き、フルボッコにされた阿呆は 君の目の前にいるその男で間違いないんだよ。 この後、ついついシエスタと談笑していたジェラールがルイズを起こすのを忘れてしまったり、 それと昨夜の事とが相まっていつもより寝坊したルイズがジェラールと揉めているのをキュルケに 笑われて豪快に廊下で喧嘩を始めたり、その間にジェラールとフレイムがお互いの世界の サラマンダー事情について知識を深め合ったりしていたが、それはまた、別の、お話。 「はいジェラールさん、よければこれもどうぞ」 「ありがとう、シエスタ。でも、こんなに貰っていいのかい?」 「いいんですよ、貴族の人たちはお喋りに夢中でせっかくの料理を残したり、手をつけないことも あるから料理長もむしろ喜んでくれていますよ」 「じゃあお言葉に甘えて。うん、このスープもうまい!後で料理長にも御礼を言っておかないと」 「そうですか、きっと喜びますよ、料理長。御礼を言われるなんてめったに無いことですから」 ここは食堂内、厨房の片隅。なぜこんな所にジェラールがいるのかというと、今朝の一件(自力で 起きれないルイズが悪いのだが)でルイズから朝食抜きといわれ途方にくれていたところ、シエスタに 「じゃあこっちへ」と言われ案内されたのが厨房だったというわけである。その頃ルイズは、 周りから昨日の召喚の儀式の件で冷やかされて口論の真っ只中であるが、そんな声が聞こえるほど 食事時の厨房は静かではない。仮に聞こえたとしても空腹のジェラールからしたら知ったことではない。 腹が減っては何にもできぬ、である。そこへ一人の体格のいい壮年の男がやってくる。 見たところ、この人が料理長のようだ。 「よお、兄ちゃん!どうだいここの料理は!なかなかうまいだろう?」 「ええ、とても美味しいです。特にこのスープ、コンソメはかなり手間のかかる物と聞いていますが、 この大人数に振舞うのは大変ではないですか?」 「おお、分かるかい兄ちゃん!確かにこれだけのコクと透明感を両立させるにはそれなりに手間がかかっちゃいるが、 貴族の連中はそんなことも知らずイチャモンばかりつけて、挙句の果てに一口も手をつけない奴までいやがる! ったく、すこしは兄ちゃんを見習えってもんよ」 「いや、このレベルの料理を毎日食べているからこそ気付かないのかもしれませんよ。人はその環境に慣れていくのですから」 「はっはっは!兄ちゃん口もうまいねぇ、乗せられておくとするか。おいシエスタ、お前もなかなかいい人を 連れてきたじゃねえか、お前に頼まれて許可したが、最初は見た目にやられたのかと思ったぜ」 「ちょっ…料理長!」 「なんだシエスタ、顔が赤いぞ。当たらずとも遠からず、って所か?」 「なっ……ほ、ほらそろそろデザートの準備をしないと!料理長早く戻って!」 「はいはい、おっさんは戻るとするか。じゃあな兄ちゃん、ゆっくりしてけよ!」 そう言って料理長=マルトーはまた持ち場へ戻っていった。彼の表情からは久しぶりに 味の分かる相手に料理を作れたと言う満足感がにじみ出ていて、ジェラールも安心する。 「もう本当に…すいませんジェラールさん」 「いやいい人じゃないか、気さくな感じで。それと、シエスタが頼んでくれたんだね。どうも ありがとう、何か御礼をしないとね」 「そんな…御礼だなんて…わたしはたいした事はしてませんから…あ、デザートを配る用意が できたみたいです。すいませんこれで失礼します、後片付けは私がやりますからそのままでいいですよ」 そう言ってシエスタは小走りで向こうへと去っていく。しかし少しフラフラしていたり、 時折ボーッとしているようにも見受けられるが、その元凶はシエスタの予想とは異なり まるで艶っぽくない事を考えていた。 (しかしああは言ったものの、今の私には物も金も無いしな…何か役に立ちそうな物は… そうだ、一つ護身術でも教えてあげようか、少なくとも全くの無意味にはならないだろう。 それに体を動かせば息抜きぐらいにはなるだろうし) このジェラールの行動と、数年後に悪徳貴族達 を襲撃する謎のメイド戦士との関連性については分からない。 その人物の決めゼリフが 「ジェラール様の名に誓い、すべての不義に鉄槌を…!」 というのも、偶然の一致である。…多分。
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/2113.html
8日目 Navi さわやかな朝がやってきました 自宅にて Emulaさん の遺体が見つかったようです… 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ほうー・・・ Navi 村人の皆様、今日もがんばってください 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT そこかあ・・・ Navi 昼の部スタートです 1 (人狼推進委員会) BBL 私視点狂人か狐 1 (人狼推進委員会) BBL 霊媒CO シエスタSTさんは○でした 1 (人狼推進委員会) デュビア 【占いCO】あまるさん●です。グレー吊りに賛否を示さず、狩りを探しているような言動もしていたため占いました 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 役職噛まないんだ 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ 確定白つぶしですねぇ 1 (人狼推進委員会) せんこ 白噛みにきたー Emula アァンヒドゥイ! 1 (人狼推進委員会) あかみさと おはよ 1 (人狼推進委員会) シキワロス おー 1 (人狼推進委員会) あかみさと ほう 1 (人狼推進委員会) せんこ おー 1 (人狼推進委員会) リゾルート おはようですー 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka ファラリスのうし 1 (人狼推進委員会) シキワロス じゃあSEIさん吊ろう。 1 (人狼推進委員会) リゾルート おー 1 (人狼推進委員会) あまる グレーつりに賛否示しませんでしたっけ? 1 (人狼推進委員会) あかみさと じゃあ今日はSEIさん吊りましょう 1 (人狼推進委員会) BBL 昨日の誤爆込ですがSEIさん吊りたいなと 2 (ゾンビ部屋) Navi 拷問じゃないですかw 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS 私つっちゃうの? 2 (ゾンビ部屋) レイリエル ファラリスの雄牛だったはず 1 (人狼推進委員会) BBL リゾさんが狼ならSEIさんの結果を見たい 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ 黒でましたしねぇw 1 (人狼推進委員会) あかみさと 中身不明のSEIさんのこすより確定のあまるさんのこしのが安定するからね 2 (ゾンビ部屋) Emula ジャーンジャーン 2 (ゾンビ部屋) シエスタST おつ~ 1 (人狼推進委員会) リゾルート あぁ、なるほど 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS ぇー 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit いらっしゃいませー 1 (人狼推進委員会) BBL シエスタさん視点ほぼ狼 1 (人狼推進委員会) シキワロス SEIさん吊る⇒霊釣り切る⇒あまるさん吊る 1 (人狼推進委員会) せんこ りぞさんのあれは独り言に思うけどなぁw 2 (ゾンビ部屋) リュファ おつかれさま。 1 (人狼推進委員会) BBL なら私視点を今確定させたい 1 (人狼推進委員会) シキワロス 多分これでいいはずだよなぁ 1 (人狼推進委員会) デュビア SEiさん狐の可能性もあるからね 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT いらはいー 2 (ゾンビ部屋) レイリエル (っ*´∀`*)っ冥土カフェにようこそ!ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ 1 (人狼推進委員会) リゾルート 私はそれでもOKです。誤爆は事実ですし 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ リゾさんの発言はきにしなくていいかと 1 (人狼推進委員会) BBL リゾさんはほぼ狼でしょうし 2 (ゾンビ部屋) シエスタST しかしなんかBB子は 2 (ゾンビ部屋) シエスタST 魔性だなぁ 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit 詰みかな? 1 (人狼推進委員会) リゾルート どのみち今日までに占いさん生存してくれたから 1 (人狼推進委員会) デュビア リゾさん狼はありえないでしょう BBLさん視点で 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS 出来ればいきてたいんですけどー 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit わかります>BBLさん 2 (ゾンビ部屋) Emula 自分の思ったことを先に言われたりタイミング逃したりでどうしても寡黙になるのが悲しい(・ω・`彡 )з三 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ましょうってw 1 (人狼推進委員会) BBL うーん 気にしない方向ならそれでいいです 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ あまるさん吊ってシキワロス君かリゾさん占い 1 (人狼推進委員会) リゾルート 今度こそ詰みにもってこれたとおもってます、自分が吊られても。 1 (人狼推進委員会) BBL メタ推理ですしあんまり強く言えない 1 (人狼推進委員会) シキワロス 素直に考えて欲しい。人外数的意味で 2 (ゾンビ部屋) シエスタST BB子はなんか存在だけで 2 (ゾンビ部屋) シエスタST 新って感じがずるい! 1 (人狼推進委員会) デュビア 俺が二人●出してて BBLさんの内約だとペパさんとSEIさん● 1 (人狼推進委員会) シキワロス 内訳を殴り捨ててみるとして 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ ああ違うセイさん先吊り 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka あの子はまじめで賢い。それゆえ道化にはなりづらい 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka 私といっしょ 2 (ゾンビ部屋) シエスタST ホモが? 1 (人狼推進委員会) せんこ デュビアさんの占える場所ってあとどこ? 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ セイさん吊りーシキワロス君かリゾさん占いー霊吊りー占ってないほう占いかな 1 (人狼推進委員会) BBL とりあえずSEIさん吊る余裕がありますし判定見たい 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit 僕は最初に全てを見透かした狼に見えていましたガクブル(((;゚д゚)))ガクブル 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ホモの素養が? 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ シキワロス君とリゾさん 1 (人狼推進委員会) デュビア SEIさん吊に賛成です あまるさんのほう飼いましょう 1 (人狼推進委員会) リゾルート うん、2人だけなのです<グレー 1 (人狼推進委員会) デュビア シキワロスさん リゾルートさん がグレー 1 (人狼推進委員会) せんこ だけか 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS 飼ってくれないのーやだー 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka 今余計なことを言ったのはアホの子 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ わたしはシキワロス君おすすめだよ 1 (人狼推進委員会) シキワロス SEIさん・ペパさん・すもさん・霊どっちか・あらぐむさん・あまるさん・(シエスタさん真なら)あきぐもさん 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT しえすたんはあほの子、と 1 (人狼推進委員会) デュビア うちじゃ2匹は飼えないの! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT メモメモ 1 (人狼推進委員会) BBL グレー残り2なら占い先宣言もありかと 1 (人狼推進委員会) リゾルート だから、グレー処分されても吊り足りるはず。 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ シキワロス君占い指定でいいとおもう 2 (ゾンビ部屋) シエスタST うらぎんなよw 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS 飼ってよパパー 1 (人狼推進委員会) BBL 生きてたら狐ではない 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT しっしっ 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit ミントさんもあほの子と・・・メモメモ 1 (人狼推進委員会) シキワロス 6人は確定 1 (人狼推進委員会) あかみさと ダンボールで川に放流しておこう 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS イヤアアアア 1 (人狼推進委員会) せんこ ならせいさん→グレー片方 あまるん でいける・・・? その間にわろすんかリゾさん占う で 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT うらぎるなようさたん 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS 虐待イクナイ! 2 (ゾンビ部屋) マダム レイナはシキ君村よりで見てるのに占い先にするのか 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ リゾさん占ってほしくない理由ぶっちゃけていい? 2 (ゾンビ部屋) シエスタST ていうかBB子は釣らないの? 1 (人狼推進委員会) リゾルート うん、それでジエンドのはずです。 1 (人狼推進委員会) あかみさと いいよ 1 (人狼推進委員会) デュビア 俺が食われなければイケル! 1 (人狼推進委員会) シキワロス いいよ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT びびこつろうずー 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ リゾさん狩人だと思ってる 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit 僕、クールダンディなもので/(*^ x^)\ 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ 発言的に 1 (人狼推進委員会) あかみさと お、おう 1 (人狼推進委員会) あまる はぁ 1 (人狼推進委員会) BBL まあ誤爆なければ村で見てました 1 (人狼推進委員会) シキワロス それは割とどうでもいい・・・かな 1 (人狼推進委員会) あかみさと まぁそうだとしても今更今更! 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit 吊るべきだと思うのですが・・・ 1 (人狼推進委員会) せんこ なんとなく分かるw 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ リゾさん狩人ならCOしておkよ 1 (人狼推進委員会) BBL 詰みますしね 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS かりんちゅさがしは村としてどうなのさと私が言う 1 (人狼推進委員会) あかみさと 今生きてる時点でほぼ詰みだからね 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ うん 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ 出れば詰みナノヨ 1 (人狼推進委員会) リゾルート そう思ってもらえたならうれしいけど、申し訳ない、COしませんw 1 (人狼推進委員会) シキワロス いや、生きているか、そうでないかだけだから誰が狩人かは重要ではない。今の村的にね 1 (人狼推進委員会) せんこ ふむ・・・? 1 (人狼推進委員会) ソルレイナ ミスリードだったかなw 1 (人狼推進委員会) あかみさと おkおk Navi 5分経過(後2分) 1 (人狼推進委員会) デュビア 出てこなかったら俺カマレチャウジャナイデスカー 1 (人狼推進委員会) BBL とりあえず占い先宣言の提案はどうします? 1 (人狼推進委員会) あかみさと あー 1 (人狼推進委員会) あかみさと 宣言してもらっておこうか 1 (人狼推進委員会) あかみさと そこが狐じゃないことだけはわかる 1 (人狼推進委員会) BBL レイナさんは真の私偽で見てる時点でミスリーだったり・・・ 1 (人狼推進委員会) せんこ あと二日は占いに生きててもらいたいけどなー占いは 1 (人狼推進委員会) デュビア シキワロスさんで 1 (人狼推進委員会) あかみさと 了解ー 1 (人狼推進委員会) シキワロス うん。問題はない。 1 (人狼推進委員会) せんこ ん そこを吊るのかな 1 (人狼推進委員会) デュビア あぁ 宣言しとくと狐がよけられるのか 1 (人狼推進委員会) シキワロス のかなぁ。うち視点でも大丈夫だとはおもうが 1 (人狼推進委員会) あかみさと いや、吊るのはSEIさん 1 (人狼推進委員会) せんこ 占指定? 1 (人狼推進委員会) あかみさと そうそう 1 (人狼推進委員会) せんこ kkk 1 (人狼推進委員会) デュビア 吊はSEIさん シキワロスさんは占い先 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS シキ君を吊るんだねうんわかったー(・・・) 1 (人狼推進委員会) シキワロス 占い指定がうち、吊りは別々 Navi あと1分 1 (人狼推進委員会) リゾルート 了解。で、明日私吊ってあまるさんの順。 1 (人狼推進委員会) デュビア SEIさん・・・・ウッ; 1 (人狼推進委員会) シキワロス まー 1 (人狼推進委員会) あかみさと SEIさんもあの世から占い頑張ってください!! 1 (人狼推進委員会) BBL ですね 1 (人狼推進委員会) シキワロス 間に合うっしょ。 1 (人狼推進委員会) リゾルート うん、間に合う 1 (人狼推進委員会) シキワロス まにあうよね? 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS こんな可愛いこぐおを飼わないなんて! 1 (人狼推進委員会) シキワロス 俺視点でも。 1 (人狼推進委員会) せんこ リゾさんがCOしないのはなんの理由からなんだろうなぁ 1 (人狼推進委員会) あまる リゾさん猟友会だ… Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit ん~シエスタさんを吊ったのに先にセイリオスさんかぁ 1 (人狼推進委員会) シキワロス ちなみにうちもCOはしない。するものといったらたけのこの里うまいCOだ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT だよね! 1 (人狼推進委員会) あまる たけのこおおお 1 (人狼推進委員会) せんこ 同士よ 1 (人狼推進委員会) あまる 同志だ 1 (人狼推進委員会) SEIRIOS たけのこぉ 1 (人狼推進委員会) リゾルート 同士だ 1 (人狼推進委員会) あかみさと なんだ同士か Navi 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) 1 (人狼推進委員会) デュビア 対抗きのこCO 1 (人狼推進委員会) せんこ でもきのこもpすき 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT やくしょくは!ぜんぶつるべき! Navi 投票は私に直Tellでお願いします 3 (GREEN) Navi ---------------------------------------- 3 (GREEN) Navi 会話可能時間スタート 1 (人狼推進委員会) Navi -------------------------- 1 (人狼推進委員会) Navi 8日目終了 1 (人狼推進委員会) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit そんなものかな?/(・ x ・)\ 3 (GREEN) あまる つんだ… (T) せんこ > せいさんでー (T) ソルレイナ > セイさんで~ (T) あかみさと > SEIさんへ投票ー 3 (GREEN) SEIRIOS まああがくだけあがく方向で (T) BBL > SEIRIOSさんに投票します (T) デュビア > SEIRIOSさんでお願いします (T) シキワロス > SEIさんにいれます。 (T) リゾルート > SEIさんで。 3 (GREEN) SEIRIOS といっても入れる先がないな!ワロス君に入れるか 3 (GREEN) あまる 吊りは、もう寄せられないかな 3 (GREEN) あまる ああ、そうしよう 2 (ゾンビ部屋) シエスタST なんか (T) あまる > シキワロスさんに投票します (T) SEIRIOS > シキワロスさんに投票します SEIRIOS7 シキワロス2 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka SEIさん吊ってグレー潰してけばほぼ終わるし (T) BBL > 明日6 シキさんが呪殺なければリゾさんが狐 シキさん呪殺ならあまるさん吊りで終わり 2 (ゾンビ部屋) シエスタST 村の意見がよくわかんないんだが 3 (GREEN) あまる この村こわい 3 (GREEN) SEIRIOS せんこさんが間違ったままならいいのに・・・シクシク (T) BBL > そしてレイナさんは私疑い・・・ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT まあ・・・ 3 (GREEN) SEIRIOS ちと運が悪かったかんじかな~ 2 (ゾンビ部屋) あきぐも 役職吊らない=決めうちですから 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT あの占いが 3 (GREEN) あまる トラップとか?w 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit 詰みの段階ですね 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 真なら終わるよなあ 3 (GREEN) SEIRIOS ブラックマダム事件と名づけよう 2 (ゾンビ部屋) シエスタST BB子真視なのか・・・ 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit BBLさんは明日吊られると思いますよ 3 (GREEN) あまる ww (T) BBL > レイナさんとオペこさんが敵対する法則と同じように真の私をレイナさんが必ず偽で見る法則も作っていいと思うんです・・・ (T) BBL > シクシク 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT まあ今日はもう Navi あと1分 2 (ゾンビ部屋) マダム 霊媒は どっちが真でもおかしくないんだが 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ブラックマダムデーだな 3 (GREEN) あまる あとシエスタのスライドとかね。 2 (ゾンビ部屋) マダム 怪しさのレベルがなぁ 3 (GREEN) あまる あれはすごいタイミングだった 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 略して 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT BMD 3 (GREEN) SEIRIOS しえたんのはそうでもないような 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit 僕はシエスタさん信じてましたよ! 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka グレー潰してって最後にあまる⇒BBLでおしまい 2 (ゾンビ部屋) マダム わからんw 3 (GREEN) あまる ん、占った瞬間、っていう。 Navi 20秒前 2 (ゾンビ部屋) シエスタST さすがウサギさん 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit BBLさん最後? 3 (GREEN) SEIRIOS あー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 1/2はブラックマダムデーに制定されましたー 2 (ゾンビ部屋) シエスタST うさぎ好きに 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT パチパチパチー 2 (ゾンビ部屋) シエスタST 悪い奴はいない Navi さよなら SEIRIOSさん …あなたの勇姿は忘れない Navi 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間です 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit /(*^ x^)\ありがとうございます Navi 役職の方は私にTellお願いします SEIRIOS 虐待イクナイ! (T) デュビア > 占いです!シキワロスさんでお願いします! (T) あまる > ソルレイナさんかんでやるーーー!!! 2 (ゾンビ部屋) すもでんぱ うさぎそのものが悪 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ひどいw 2 (ゾンビ部屋) マダム w 4 (パリっ子) あかみさと 残り3吊り (T) > デュビア シキワロスさんはごく普通の村人だったのです!○ (T) BBL > 霊媒です SEIRIOSさんはどちらのチームのマスコットですか? 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS ただいまー (T) デュビア > 了解です! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT おつかれー 2 (ゾンビ部屋) マダム いらっしゃい 2 (ゾンビ部屋) シエスタST おつ~ 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit /(・ д ・)\ナンダトー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT あやしいやつがきたぞー 2 (ゾンビ部屋) TeaRabbit いらっしゃいませー 4 (パリっ子) あかみさと 明日まで占いが生きてたらグレーが1になるから・・・ 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS フェヒヒヒヒ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ちかよらんとこ・・・ (T) > あまる 今日はソルレイナの雑炊よ! 2 (ゾンビ部屋) リュファ そういえばあしたは13年の1月3日。 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT つまり 2 (ゾンビ部屋) シエスタST また「滅亡するん? 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS こんな可愛いこぐおに酷い仕打ち 2 (ゾンビ部屋) すもでんぱ 世界は滅亡する! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 滅亡か?! 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS 滅亡ラッシュやな 2 (ゾンビ部屋) シエスタST まったくまたかよー (T) > BBL SEIRIOSさんはアフリカウルフスターズのエースでした!● 4 (パリっ子) あかみさと やっぱ霊吊りてーなー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 滅亡饅頭うらなきゃ。 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka え 2 (ゾンビ部屋) リュファ 来月には(平成)25年の2月5日も。 4 (パリっ子) あかみさと 霊→誰か→● 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka みんな 2 (ゾンビ部屋) シエスタST 滅亡すると洗濯物がかわかないよねー 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka まだ (T) BBL > マスコットでありエースとは参りましたw ありがとうございます 2 (ゾンビ部屋) Pertsovka 精神だけ電子の海に避難させてないの? 2 (ゾンビ部屋) Jareky デュビアさんが、BBLさんの霊媒結果の勘違い(ぺルさん●と誤認)。解いてあげてないかも (T) BBL > これってアメリカ対アフリカだったのか・・・ 4 (パリっ子) あかみさと もし明日の段階で占いが死んでたら 2 (ゾンビ部屋) シエスタST なにそのマトリックス・・・ 2 (ゾンビ部屋) リュファ そんな器用なことはできません。 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT こわい・・・ 2 (ゾンビ部屋) シエスタST あんだーそん君? 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 器用とか関係あるのw 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS 電子の海いけるならいきたいです 4 (パリっ子) あかみさと 霊→●→誰か、かな? 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS 多分悟ったら行ける 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ていうかみなさんきいてくださいよ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ニンジャー今日オサレなんですよ 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS どうしましたみんとん 2 (ゾンビ部屋) リュファ ていうか、外の機械が壊れたらおわりじゃないですか。 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT おきづきになられてました? 4 (パリっ子) あかみさと いや普通に狐ケアでグレーか? 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS リボンがちがうなーって遠めで見てたらまあ! 2 (ゾンビ部屋) Jareky デンコの海。デンコちゃんには早く復帰して欲しい(人妻だけど) 2 (ゾンビ部屋) マダム スローでもう一度 2 (ゾンビ部屋) シエスタST ツインリボンなかったので 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT あー 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT デンコちゃんには 2 (ゾンビ部屋) シエスタST だれかなと・・・ 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS カチューシャ(しかも染色済み)じゃないか! 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 私も復活してほしいとおもう 2 (ゾンビ部屋) リュファ お正月なので倉庫からなんとなく。 2 (ゾンビ部屋) レイリエル キャーカッコイイー Navi あと1分 2 (ゾンビ部屋) SEIRIOS でんこちゃん人妻って聞いたとき衝撃だった 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT そりゃあ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT そうでしょう 2 (ゾンビ部屋) リュファ 子供かと思ってました。 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT でんこちゃんにも生活があるのよ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT ある意味 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT でんこちゃんが復帰したときこそ 2 (ゾンビ部屋) PEPPERMINT 震災復興の旗印なのかもしれないな・・・ 2 (ゾンビ部屋) Jareky SEIさん確実に○っぽい。狐っぽい 1 (人狼推進委員会) Navi -------------------------- 1 (人狼推進委員会) Navi -------------------------- 2 (ゾンビ部屋) リュファ ペパーさんがいきなりまじめなことを・・・ 7日目へ 9日目へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3542.html
前ページ次ページゼロのミーディアム モット伯の屋敷の中にある豪華な造りの浴場。 シエスタは沈んだ顔でそのだだっ広い風呂の中、たった一人湯浴みをしていた。 学院でメイド姿の人形が怪訝な顔でこちらを見ていた事を思い出す。 それは最近できたちょっと不思議な友達だった。 意地っ張りでワガママで、素直ではない友人。 お茶の時間にぷいっとそっぽを向いてケーキを頬張る少女。 だけど、その背の翼がその本心を表し、パタパタと嬉しそうにはためいていた事を思い出した。 それが可笑しくて、プッ、と思い出し笑いをする。 「さよならも言えなかったなぁ…水銀燈」 シエスタはその少女の名前を名残惜しくつぶやいた。 「シエスタ、モット様がお呼びです」 浴場に使用人の声が反響しシエスタを呼ぶ。 諦めの入った顔でシエスタは湯船を後にした。 服に着替えを終え、シエスタはモット伯の寝室の扉の前に立つ。 諦めた筈なのに、やはり躊躇ってしまう。 だが、貴族の言い付けは平民にとって絶対であり逆らう事など許されれない。 「し、失礼いたします……」 震える声と手で扉を開け意を決してシエスタは中に入った。 「遅かったな、待ちわびたぞ」 ゆったりとした椅子に座り、グラスを揺らしモット伯はシエスタを睨む。 「は、はい!申し訳ありません!」 モット伯の機嫌を損ねた事に、青ざめた顔でシエスタは必死で頭を下げた。 平民が貴族の機嫌を損ねれば最悪命に障る。メイジならば片時も放す事なき魔法の杖を無論モット伯もすぐにでも抜けるよう腰に差していた。 シエスタの必死の謝罪と、恐れの浮かぶ顔に気を良くしたのかモット伯は表情を一転させ非常にいやらしい顔つきになった。 「まあよかろう。それだけ念入りに準備したのだろう?…幸い夜という時間は長いのだしな」 フッフッフと下品な含み笑いをしてグラスをテーブルに置くと彼はシエスタに歩み寄る。 「では始めるとしよう」 何を?などと言う野暮な質問は謹んでいただきたい。 正直記す事すら忌諱したい、反吐の出る所業だ。 はあはあ息を荒く息をつきシエスタへとにじり寄るモット伯。 その卑下た姿は、貴き一族という理念を真っ向から否定する下賤な物である。 「いやぁ……」 シエスタはガタガタと体を小刻みに震えさせるが、逃げる事はかなわない。 「誰か…助けて……」 何度も自答した事なのに、いざ事実に直面すると諦め切れなかった。 助けになど誰も来ないと分かっているのに、思わず救いを求めた。 涙に濡れた怯えた瞳で、彼女はモット伯を見つめる。 涙にぼやけた視界。その時、後ろの窓から遠目に見える夜景が突然、フッと現れた何かの影に遮られた。 次の瞬間! ガッシャーン!と窓ガラスを派手に蹴破り何者かが寝室に進入する! 「な、何事か!?」 「必殺!クーゲルシュライバー!!」 「ぽげっ!?」 進入者は飛び込んだ勢いを殺さず、下衆男の顔面に背面から回し蹴りを放つ。 加速と遠心力、そしてガンダールヴによる力の向上がこめられたローリングソバットを受け、 モット伯は間抜けな声を上げ部屋の壁に叩きつけられ意識を刈り取られた。 なお、「クーゲルシュライバー」とは何かの必殺技っぽい響きだが、 ドイツ語でボールペンと言う意味であり、ローリングソバットとは一切関係は無い。 モット伯をノックダウンさせた謎の影は蹴りの反動で宙返りをして着地し、シエスタに背を向け屈みこむ。 闇夜を背負ったような漆黒の双翼をはためかせその黒塗りの羽を部屋中に舞い散らせる謎の(?)人影。 彼女は片手に細身の剣を携え、何よりシエスタが友に送ったメイド服を着込んでいた。 「どうにか間に合ったみたいねぇ……」 振られた剣が羽となって散り、彼女は屈んだままシエスタに顔を向ける。鮮やかな銀色の髪がサラリと揺れ、振り向…… …え?……あれ? 黒翼と同じくらい特徴的な彼女の銀髪が見あたらない。 それもそのはず。 ……何故ならその顔は、覆面のように被り込んだ大きな紙袋にすっぽりと覆われていたからだ。 袋の目に当たる部分にぽっかりと二つの小さな穴があき、赤みを帯びた紫紺の双眸がかろうじて覗いている。 要は顔が割れなきゃOK!とでも思っているのだろう。 「シエスタ!助けに来たわぁ!」 ニトロをレンジでチンしてルイズに錬金してもらったような怪しさ大爆発な容姿でシエスタの危機を救った水銀燈。 凛としているのにくぐもって間の抜けた声で告げた。 おーい、遥か故郷で妹達が泣いてるぞー もはやどこの世界でも薔薇乙女達には恒例の御挨拶と化している、窓ガラスを突き破っての御登場。 当然、その長女たる水銀燈も例に漏れない。 このオモロい格好をしたお人形さんを誇り高き薔薇乙女と言って良いのだろうか? と、はたはた疑問が残る所ではあるが、この際今は非常時と言う事もあり置いておくとしよう。 「水ぎ……」 驚きの顔で自分の名前を呼ぼうとするシエスタの唇を水銀燈は人差し指を当てて止める。 「はいそこまで。話は後よぉ。そんな事より早く逃げましょ!」 そしてシエスタの手を引っ張って廊下に出ようとする。 「なんでこんな事を!」 ぐいぐいと引っ張られながら、何故こんな危険な真似をするのかと抗議するシエスタ。 自分が助かって安堵する前に相手を気遣うところが実に彼女らしい 。 水銀燈は率直に己の心のままに言った。 「アリス(完璧な少女)を目指す薔薇乙女たるもの、乙女の危機をほおっておけるものですか!!」 言い切ってからその言葉の恥ずかしさに顔を赤らめる。 とても可愛らしい様子なのだが、被った紙袋で全く見えないのが悔やまれるぞ畜生!! 「つ、つまり、理屈じゃないのよぉ!」 オロオロしながら言うその言葉にシエスタは涙を頬に流して微笑んだ。 「ありがとう…水銀燈…」 「とにかく後は全力で逃げるのよ。遅れないでシエスタ!!」 「はい!」 黒い翼の覆面メイドに手を引かれ、黒髪のメイドが涙を拭い元気に返事をした。 水銀燈は、ガックリと壁に体を預け俯いているモット伯を横目に、 乱暴にドアを蹴り開けるとシエスタを連れてとっとと部屋を後にした。 「お、の、れぇぇぇぇ…!」 たった一人部屋に取り残され、壁に体を預けたモット伯から呪詛を思わせる怒りの言葉がもれた。 「許さん…」 うなだれた頭があがり怒りに顔を歪ませる。そしてふらふらしながら立ち上がり杖を掴んだ。 「絶対に許さんぞ!盗人め!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!」 その怒髪が天をつき、拳を震わせて叫んだ。 何事かと召使いが寝室に駆けつける。モット伯はギロリと血走った眼を向け怒鳴って命令した。 「屋敷に賊が侵入した!!あまつさえこの私を足蹴にするとは万死に値する!!探せ!見つけたら殺してもかまわん!!」 あまりの剣幕に召使いも「ひっ…」とたじろぐと、大慌てでその事を屋敷の各部に伝達しに行った。 水銀燈がシエスタを連れて逃げ出したころ、 彼女のミーディアムはモット伯邸の近くの木の陰からコッソリと館の様子を伺っていた。 館の様子は静かだ。 ルイズは「水銀燈がどうかまだ侵入してませんように…」と心の中で祈り、周辺から使い魔の姿を探そうとしたその時。 館が途端に慌ただしくなった。 けたたましく上がる番犬の吠える声や衛士達の騒ぐ声、そして警笛。 これはまさかと、隠れて門を見やる。 中から出てきた男が、門番にルイズにまで聞こえる大声で言った。 「モット様が賊に襲われた!!」 「なんだと!?」 驚きに満ちた門番の声。 (なんですって!?) ルイズもまた同じ事を思った。 「今日連れてきたメイドを攫って現在逃走中だ。お前らも探せ!!」 間違い無い。水銀燈とシエスタだ。 (ダメだ…遅かった……) 地面に両手をついてルイズはガックリと肩を落とした。 そんな少女がすぐ近くに居るとも知らず、持ち場を離れて賊の探索を行えとの事に門番がうろたえながら言った。 「しかし、ここを疎かには!」 門番の言う事は当然の事、だが切羽詰まった衛兵は怒鳴りつける。 「馬鹿!賊が見つからなきゃ俺達の首が飛ぶぞ!!だいたい正面の門から堂々と出ようとする阿呆がどこにいる!!」 「そ、それもそうだな!」 ムチャクチャな意見に押し切られ結局門番も館の中へと入っていった。 無人となり手薄どころか、一切の守りが無くなってしまった館への入り口。侵入する絶好のチャンスだ。 ルイズは腕組みして考え始めた。 (あの子の事は気になるけど…流石に貴族の邸宅に押し入って助けに入るのは……) 賊の手助けをしたとなれば彼女はおろかその親族にまで責任は及ぶ。 最悪、取り潰しなんて事を考えると震えが止まらない。 それに、大して魔法の使えぬ自分が助けに入って何になる? (だからってあの子を見殺しにはできないし…) ルイズの使い魔は、危険を省みず自分のためにギーシュに、フーケのゴーレムと戦った。ルイズの心を汲み取って、戦ってくれた。 家族の顔と、使い魔の顔が交互にルイズの脳裏に映り彼女を悩ます。 「うーん」と頭を抱え考えに考えた彼女の結論。それは! 「あーーー!やっぱりほっとけない!!真の貴族たる者、己の使い魔を見捨てる訳にはいかないわ!!」 殆どヤケクソ気味に叫びゴソゴソと懐から何かを取り出す。 「ようは顔が割れなきゃいいのよ!顔が!!」 ルイズの掲げた右手にの有ったは蝶々を模した眼鏡のようなたマスク。 怪しいデザインの、いろんな意味で素敵なデザインだ。 こんな物で素性を隠そうとするとは… あの使い魔にしてこのミーディアムありと言ったところだろうか。 「装ちゃーく!デュワッ!!」 ルイズは掲げたマスクを奇妙な言葉を発して装着した。 「待ってなさい水銀燈!そしてシエスタ!あんたのご主人様が今行くわ!!」 そうして杖を引き抜きブンブン振り回して意気揚々と…。て言うかむしろ当たって砕けろ! みたいなテンションでバタバタと無人の門に入っていった。 さて、ここにかけつけたのは何もルイズだけではない。 館のこの位置と反対側の木の上に、目深なフードにローブをまとった人影が立っている。 「おや?何やらえらく騒がしいじゃないか」 隠れた顔の奥にかけられた眼鏡がキラリと光った。 「私の獲物を先に狙ってた奴がいたみたいね。こりゃまた物好きがいたものだわ!」 自分の事棚に上げてよく言うものだ。 先日の呟き通り、フーケがモット伯の館に忍び込もうとした矢先のこの騒ぎ。 彼女は同業者の仕業に違いないと踏んだ。 「面白い!どこの誰だか知らないがその面、是非とも拝んでみたい物ね!!」 唯一外から覗ける口元に笑みを浮かべると、フッとフーケはその場から姿を消した。 どこの誰だか知らないと言った物の、その正体は彼女もよくしる人物。もとい、人形である事は無論言うまでもない。 場面は戻って館の内部。逃亡者二人はいくつもの長い廊下を抜け、階段を 下りる。 「ああもう!無駄に広い屋敷ねぇ!!」 紙袋を被った翼のメイドがイライラしながら言った。 「待って!こっちです!」 来た道を思い出した黒髪のメイドが指差した通路を抜けた先。 そこは大きな階段の踊場だった。階段から先には大きな扉のある玄関、つまりは出口。 一目散に広い階段からホールに駆け下り、豪華な扉をこれまた蹴破る。 後は庭を抜け、門を突破してさようなら!! と、行くはずだったのだが…… 扉を抜けた先の広い庭園で水銀燈とシエスタを待っていたのは十数人の衛兵達。 剣や槍などの思い思いの武器をメイド二人に構えている。 どうやら迷ってる間に、逃げ出した事が早く伝達されてしまったらしい。 「そこまでだ。薄汚い賊めが…」 玄関ホール、階段の踊場からモット伯が杖をその手に持って現れた。 水銀燈はシエスタを自分の背に預けてそちらを睨む。 「薄汚い?貴族の癖して人攫いみたいな事してる男に言われたくないわねぇ?」 「人聞きの悪い事を!シエスタとは正当な手続きを経て私に仕える事になったのだ!断じて人攫い等ではない!」 フン、とそれを鼻で笑い水銀燈は肩を竦めた。 「よく言うわぁ!平民が貴族の言いなりなのをいいことに同意の上だなんてぇ。 人攫いも同然じゃない!ちゃんちゃらおかしいわぁ!」 「黙れ!それのどこが悪いか!!平民が貴族に奉仕するのは至極当然の事。 むしろ私のような高貴なる者に仕える事ができるのを感謝して欲しいものだな!!」 「高貴なる者ですってぇ?ふふ……あはははははははは!!」 その言葉に水銀燈は片手で顔を押さえ、天を仰ぎ壊れたように嘲笑った。 「何が可笑しい!!」 モット伯のヒステリックな怒声に彼女の狂ったような笑いがピタリと止む。 「自分の顔もろくに見えない馬鹿なのね…。それともこの屋敷には鏡が一枚も無いのかしら?」 そして袋の奥からは冷ややかな視線でモット伯を睨みつけた。 「己の権力を傘に乙女の純情を犯し、悪びれも無く手篭めにする…… おまけにそれを感謝しろだなんてどこまで傲慢なのよ」 酷く冷めた低い声で水銀燈は右手をかざす。 「救えないわ。アナタ」 羽の集まった右手に剣が現れ、水銀燈はそれをモット伯に向けた。 ……クールな仕草も間抜けな覆面でぶち壊しなのがやっぱり惜しい。 突然現れたその剣に面食らうモット伯。杖も無しに剣を創造する魔法等、水のトライアングルメイジたる彼も初めて見た。 知らないわ♪そんな魔法♪ 「錬金…?いや、違う!先住魔法だと!?貴様何者だ!?」 紙袋に穿たれた2つの穴の奥で紫紺の瞳がキラーンと妖しく光る。 その言葉を待っていた!と水銀燈は覆面の中でニヤリと笑った。 「…夜空の星が輝く陰で、ワルの笑いがこだまする。身分の違いに泣く人の、涙背負って乙女を救う!!」 実は前もって用意していた口上を唱えだし、剣を優雅に掲げて更に続ける。 「無垢なる祈りが私を呼んだ!私はアリス。救いのヒロイン!人呼んでアリスSOS!! 今日また誰か乙女のピンチ!お呼びとあらば、即参上!!月に変わって~」 翼を広げて身を翻し、くるりと横に一回転。 ビシィッ!と、モット伯を指差した。 「ジャンクにしてあげる!!」 アリスSOS。奇妙奇天烈な名前だが、アリスを目指す水銀燈がシエスタのSOSを受信してやって来たのだからアリスSOS。 別段どこも間違ってはいない。 決して彼女にネーミングセンスが無いのではない!素人は誤解しないで頂きたい!! いかに水銀燈と言えども女の子。正義のヒロインを夢見たっていいじゃないか。 永遠のヒーロー、くんくんの大ファンだし。 だが、モット伯はおろか衛兵やシエスタまでもがあんぐりと口を開け、決めポーズをとっているお人形に目を向けていた。 刺すような痛々しい視線に、彼女も自分の口上が外れた事に気づく。 (くっ…。何よ…。何よ!何よ!何よ!人が苦労して考えた台詞をこのお馬鹿さん達はぁ!) 隠れた顔を真っ赤に染め上げ、恥ずかしさに体を震わせた。 「…どうやら盗人では無く道化者であったらしいな。つきあってられん」 モット伯は興醒めしたとばかりに眉間を押さえ部下達に命令を下す。 「もうよい。始末しろ。だがシエスタは傷つけるな。…なにしろ久しぶりの上物だからな?」 舌なめずりをしていやらしい目つきで、怯えるシエスタに視線を送った。 「シエスタ。狙いは私だけみたいだけど危ないから下がってなさい」 シエスタは言われた通り庭の隅に下がり水銀燈を見守る。 途端に槍を構えて三人の衛兵が走り込んできた。水銀燈の背後から勢いに任せ迫る三本の槍、それが翼の生えたむき出しの背に突き出された。 穂先が人形を貫いた光景を想像し、シエスタは思わず目を覆う。 だが槍が突き出されたのは何もあらぬ空虚な空間。呆気にとられる槍を持つ兵士。突如その後ろから声がした。 「クシュン!…あ~スローすぎてくしゃみが出るわぁ」 一瞬でその後ろに回り込んだ水銀燈が一つくしゃみをして含み笑いをする。 でもそれを言うなら欠伸ね、欠伸。ゲップとかよかマシだけど。 驚愕の表情でもたもたしながら槍を引き後ろを振り向こうとした男達に漆黒の閃光が走った! 「…ノロマは嫌いよ。秘剣!フューラーシャイン!!」 天使の左手が輝きその剣が踊る。その太刀筋は獲物の瞳に幾重もの光跡と映った事だろう。 遅れて襲い来る凄まじい衝撃に全身打ちつけられ、ドサッと三人は寸分狂わず操り糸の切れた人形の如く前のめりに倒れこんだ。 あと、フューラーシャインとはドイツ語で「免許証」と言う意味であり、 やっぱり、眩い閃光煌めく光速の必殺剣などでは断じてない。 「安心なさぁい…峰打だから…」 水銀燈がトントンと自分の肩を剣の峰で軽く叩き澄まし顔で言った。 「ひるむな!かかれぇーーっ!」 モット伯の号令のもと、さらに数人の衛兵と蝙蝠のような翼を生やした番犬が襲いかかる。 水銀燈の、その真っ黒な翼が細かく針のように逆立った。 「まとめてお相手してさしあげるわぁ。シュタウプザウガー(電機掃除機)!!」 かけ声と共に数え切れないほどの羽がその背より放たれ、黒い嵐となってその一団を飲み込む。 もはや説明するのも億劫なので必殺技みたいなドイツ語の横に括弧で日本語訳をつけさせて頂く。メンドクセ。 彼女も薔薇乙女(ドイツ製)である以上、この言語に心得があってもおかしくは無いのだろうが… ただ響きがカッコイいいからみたいな感がするのは気のせいだろうか? とにかく向かい来る敵を、名前通りあっという間に掃除した水銀燈。まさに圧倒的だ。 日頃ルイズから力を引き出して目立たないが、ガンダールヴのルーンだけでも十分強い。 「こぉんな、一山いくらのお馬鹿さん達では満足出来ないわぁ。 アナタが遊んでくださらない?…自称高貴な伯爵様」 (調子にのりやがって…) そうして余裕ぶる水銀燈を、物陰から弓をつがえた兵が狙っていた。 彼女はそれに気付いていない。 (死ね!) それにほくそ笑んだ弓兵がその引き絞った弦を放そうとしたその時! 「あびばぁぁぁっ!?」 ドカン!と轟音を立てて衛兵のいた空間が弾けた。 「危なかったわね!」 まだ少女ととれる高く愛らしい声が、上から聞こえてくる。 その場にいた全員が一斉に声のかかった方向を向いた。 声の主は屋敷を囲った高い塀の上で杖を片手に腕組みして中庭を見下ろしている。 隠れた双月が雲から出でて、その姿を照らし出した。 そこには黒いマントを羽織り、怪しい蝶々のマスクをかけた少女の姿が。 彼女は片割れの月と同じ桃色の髪を風に靡かせ眼下を見据える。 「まさかあの人…」 「ルイズ、何で来ちゃうのよ…!」 シエスタと水銀燈の言うとおり、門から入ったルイズが、何故か城壁のような塀の上から使い魔を救ったのだった。 さて、カッコつけて颯爽と登場したルイズだが、実は水銀燈が庭に突入するとこから一部始終見ていたりする。 しかもその決まったポーズと裏腹に出て来たことをちょっと後悔していた。 (やっちゃった。やっちゃったわ……) 正直使い魔と、ついでにシエスタを連れてとっとと逃げるつもりだったのに。と心中で呟く。 平民が貴族に従うのはこの世界の道理。ルイズもまたトリステインの貴族でありこれは常識である。 だが水銀燈の、口は悪いが少女の純真を賭けたモット伯への抗議と、その決意表明たる口上。 それが少しだけルイズを動かしたのだ。 貴族と平民のこの関係が間違っているとは言わない。 だが少なくともモット伯の横暴を黙認する気は無くなった。 (えーい!こうなったら成るようにしかならないわよ!!) 「今度は何だ!?」 苛立つモット伯の言葉に、ルイズは無理やりテンションをMAXにまで引き上げる。 「い、いかに平民を支配する貴族と言えど目に余るものがあるわね!そ、そ、そんな事だからあんたモテないのよ!!」 出来るだけ動揺を見せないようモット伯に言い放つ。 頑張れルイズ。ちょっと腰引けてるけど立派だから! 「私をモテないと言ったか貴様ァッ!!!」 それに対しモット伯は眉をひくつかせ、青筋立てて怒鳴り返した。 うわ、今までで一番マジキレしてるよこの人。 どうやら水銀燈のジャンク、ルイズのゼロばりのブロックワードだったらしい。 「そうよ!モテないからって無理やり若い子を手篭めにするなんて最低よ! 身分以前に女の子を何だと思ってるのよ!バーカ!バーカ!バーカ!!」 「言わせておけば!そもそも貴様は誰だ!名を名乗れ!!」 「えっ?」 思いも寄らぬ一言にルイズは言葉を詰まらせた。 ルイズは何も考えずに勢いに任せてステージに立ったのだ。仮の名前など考えてるはずも無い。 素直に「我こそはヴァリエール公爵家が三女!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!! 何か文句あるの?この女の敵!エリマキトカゲ!不気味な眉毛!!」 なーんて言った日には家名ごと罰せられる。と言うかお母様直々にぶっ転がされる。 「うーん、その…あ~」 ルイズは固まったままだらだらと冷や汗をかき始めた。 「あ、あんた達に…」 「言っておくが『貴様達に名乗る名は無い!』は無しだ」 「うぐっ!」 どこかで聞いた気がする名言でごかまかそうとする彼女に、モット伯の無慈悲な言葉が突き刺さる。 なす術も無くおろおろとうろたえていたその時。 「えっと……あ!!」 ルイズの頭上にランプが灯る。その脳裏にブリミルの天啓が舞い降りたのだ。 始祖よ、感謝します!と胸でつぶやき彼女は叫ぶ! 「わ、私は謎の怪傑、マスク・オブ・ゼロ!!」 手にした杖で、でたらめに横・斜め・横と空気を切って宣言する。 ルイズは知る由もないがは奇しくもそれは我らの世界の『Z』の軌跡。ZEROの頭文字のZである。 ゾロじゃないよ?ゾロじゃ。 なかなか心憎い演出であるが、残念ながらハルケギニアに英語のスペルは無いのでここでは全く意味は無い。 (まさかこの私が忌み嫌うゼロの名前を使うとは誰もが思わないはずよ。やっぱり顔がバレなければ大丈夫!) 自分のとっさの機転と始祖の恵みに、背中に冷や汗を流しながらもルイズは口元を釣り上げた。 だが各々方の反応を見て、それが始祖の天啓ではなく堕天使の囁きだったと気づく。 水銀燈の啖呵の時と同じかそれ以上に、皆さんアホの子のようにポカンと口を開けこちらを見ていらっしゃるのだ。 誰もが一度は経験する、一時のテンションに身を任せた後の虚しさ。 嗚呼、後悔先に立たず。 (ああ、そう言えば私堕ちた天使にとりつかれてたのよね……) 体の熱が急に冷めだし、ルイズはその堕ちた天使に遠い目を向けた。 「あははははははは!!」 紙袋をかぶった使い魔は自分を指差しておもいっきり大笑いしていた。 冷え切った体が怒りで再び熱を持ち始める。ピシリと手にした杖に稲妻が走った。 「……あんたみたいな恥ずかしい名乗りとカッコしたようなのに、 大笑いなんか……されたく、ないわよぉぉぉぉーーーーっ!!」 やたらめったら杖を振りルイズは怒りに任せて爆撃を開始! 標的など定めぬ無差別攻撃である。目に映るものすべてを爆破するつもりだ。 怒りに上乗せされた彼女の魔法で空気が弾け、屋敷の壁が壊れ、高そうな彫像が砕け散る! あちこちで衛兵が、番犬が吹き飛んで失神する! 大して魔法が使えないどころの騒ぎではない。 これじゃ怪傑じゃなくて爆破テロだ。何しに来たんですか貴女。 「私を守る身でありながらこやつら、なんたる様だ!」 やりたい放題のルイズ無双。水銀燈もそうだったが、道化者の賊の分際でなんたる暴れっぷりかとモット伯はその惨状に爪を噛んだ。 おまけに上方からバカスカ魔法を撃たれては手も足も出ない。 古来より戦いにおいて頭上、背後をとられることはすなわち死を意味する!! ……って、世紀末のチンピラかなんかが言ってた。 「弓兵!前へ!」 射殺してでもあのメイジを止めようと弓使いの兵を呼ぶ。 「弓兵ってこの人達の事ぉ?」 だがこのドサクサで弓使いを全員のしてしまったらしく、折り重なって倒れた兵士達に腰掛け、黒翼のメイドが愉快そうに言った。 なんだかんだ言って連携とれてるようだ。このミーディアムと使い魔。 「ええい!かくなる上は貴様らの出番だ!!」 マントを翻し後ろに控えた側近達を呼ぶ。主の命により出てくる数人の影。 その手にはメイジの証たる魔法の杖が握られている。これがモット伯お抱えの側近のメイジ達、言うなれば彼の切り札。 「あの小娘を落とせ!!」 主の命令の下に、ルイズを狙って攻撃魔法が雨霰と放たれた。 「わ!わ!」 ルイズは殺到してくる氷の矢を身を大慌てで飛んで避け、風の刃を海老反に体を反らしてよける。 だが身を反らしすぎてバランスを崩し、頭をモロに打ち付けてしまったのはご愛嬌。 「ハァハァ…うぅ~。ざっとこんなものよ!」 後頭部を押さえつつ涙を目尻に浮かべ、ルイズ息を切らして強がった。 だがその矢先、火のメイジが放った火球がルイズの立っている足場に命中し爆発させた。 ルイズが「へ?」と疑問の声を上げたの束の間、破壊された足場から、彼女は真っ逆様に地面へと落ちていった。 「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ルイズ!!」 水銀燈が助けに向かうもまだまだ残る雑兵達が行く手を阻む。 「どいて!邪魔よ!!」 水銀燈は舌打ちして、邪魔する衛士達を纏めて薙ぎ倒す。 ――だが、間に合わない。 彼女は歯噛みし、なす術なく大地に引かれ落ちていくミーディアムを見送るしかなかった。 ルイズの命運も、もはやこれまでなのか? 「やれやれ…。……レビテーション」 誰かが放つ一言。その言葉と共に落ちていくルイズが魔法による力場に包まれ、落下が緩やかになった。 そのまま地面に着地すると、ルイズはそこにへたり込む。ぼけーっと呆け意識ここにあらずといった様子だ。 「ベルリンの赤い雨ーー!!」(べるりんのあかいあめ) 剣を一閃させ衛士の壁をなぎ倒し水銀燈はルイズに駆け寄った。 こんな状況でも技の名前を叫ぶのは忘れていないらしい。 と言うかそれ、もうドイツ語じゃないよね。 「ルイズ!大丈夫?」 「うん…なんとか…。でも誰が助けてくれたの……?」 そうだ。この四面楚歌の状況で一体誰がルイズを助けるような真似を? キュルケ?それともタバサか?ギーシュ……無いね、うん。 「ええい誰だ!もう少しのところで勝手な真似をしおって!!」 モット伯は怒りうち震え辺りに怒声を撒き散らす。 お抱えのメイジ達は互いに顔を見合わせ困惑の表情を浮かべていた。裏切り者が出た訳では無いらしい。 「私がやったのよ」 水銀燈やルイズとは違う、妙齢の女性の声がそれに答えた。 モット伯が、再び声の聞こえた暗がりに向き直る。 いつの間にか何者かが、ルイズによって半身を吹き飛ばされた彫像に片膝を曲げて腰掛けている。 彼女は静かに、そして不気味に顔を俯かせ、フードを目深に被りローブの裾を夜風になびかせる。 水銀燈やルイズのような派手な出現では無い。だがそれが放つプレッシャーは二人以上。 モット伯はそれに戦慄した。 「つ、次から次へと!何者だ!」 モット伯自ら魔法を唱え三人目の賊に氷の矢を放った。 自分の顔めがけて飛んでくる氷の矢を、ローブの女性は軽く顔を動かし紙一重で避ける。 かすった魔法でフードが切り裂かれその顔が露わになった。 「何者かって?まあ、別に、名乗るほどの者じゃあないんだがね」 「嘘……」 「何であいつが……」 現れた顔を見て水銀燈とルイズが絶句した。 「強いて言えば……そうね、『土くれ』とでも言っておこうかしら?」 眼鏡の奥に光るのは理知的かつ猛禽類を思わせる切れ長の瞳。 人形とその主人をチラリと見やり、そしてモット伯に不敵に笑いかける。 土くれのフーケがこの修羅場に突如乱入したのだった。 前ページ次ページゼロのミーディアム
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4203.html
682 名前:王様の御命令[sage] 投稿日:2008/01/29(火) 01 58 32 ID 2yHCo7TK 「……で、これは何?」 才人は呆れ果てた顔でつぶやいた。 目の前には、至って真剣な眼差しで見つめてくる、ルイズとシエスタ。 二人が突き出す手には、各々こよりの紙が握られている。 「王様ゲームのくじに決まってるじゃない」 「同じくです」 二人は先程うっかり才人が意味ごと教えてしまった言葉を示す。 「いや、それは流れ上わかってるけどさ……。なんで二人とも作ったんだよ、くじ?」 そう、王様ゲームなら、くじは一組あれば済むはずだ。 「だ、だって! シエスタってばイカサマしようとしてたんだもん!」 「私はただ、全部に王様のしるしをつけただけですわ」 「だってそれサイトと二人でやるつもりだったんでしょ!」 「……うふふ。ばれちゃいました?」 「と、いうわけよ! だから私もくじつくったのっ」 「あのね、君たちね。王様ゲームは複数人でやる事に意味があってだね……」 「知らないわそんな事」 わざわざ識者ぶった物言いをしたのを、ルイズはあっさり切り捨てた。 「さあ、はじめるわよ。ご主人さまの私が先よね。ひきなさい」 「あ、ズルいです、ミス・ヴァリエール!」 こうなったルイズは止まらない。もう、それは痛いほどにわかっている。 だから、才人は抗うことを諦めて、素直にルイズの持つくじをひいた。 三人の目が、引き抜かれるこよりの先に集中する。 …………その先は赤く染まっていた。 「……ミス、私と同じことしました?」 「ち、違うわよ! ほら」 シエスタにジト目で見られて、ルイズはかっと頬を染めた。 そしてぱっと手を開いたが、確かに他に赤いこよりは一つもない。 シエスタは愕然とした顔でそのくじをあらためる。 「……あのぅ、ミス・ヴァリエール。バカ正直って言葉は、ご存知ですか?」 「うぅうるさいわね! ふん、これはあれね。ご主人さまと使い魔のキズナってやつよね」 「そんなの聞いたことありませんわ」 「いいの! とにかくサイトが王様のくじひいたのは間違いないでしょ!」 「まあ……そうですけど」 「あー、ストップストップ。そろそろ王様命令していいですか?」 争っている間にずいと割って入る。 すると二人は口論をぴたりとやめて、才人をじっと見詰めた。 あまりの真剣さに少しばかり罪悪感を感じないでもないが……。 「じゃ、王様はー……、 ……王様ゲームをおしまいにすることを命令します」 「はあ!?」 「ええっ!」 「王様はナンデモ命令できるの。これルールだから」 「……なによそれ」 ルイズは頬を膨れさせて拗ねた。 あぁ、ごめんよ。でも俺あとでシエスタに延々冷たくされるのイヤだし。 「私なんてまだ引いてもらってないじゃないですか」 シエスタは哀しげな目をした。 あぁ、ごめんよ。でも俺あとでルイズに何度も虚無打たれるの目に見えてるし。 「それじゃ俺、水精霊騎士隊の訓練あるから。二人ともごゆっくり!」 「あ、ちょっとサイトっ!」 「あぁっサイトさん、待ってください!」 言い捨てて、才人はデルフリンガーを引っ掴み部屋を飛び出した。 廊下を走る背中にはまだ二人の文句が届く。 「いやあ、色男ってなあ大変だ。おりゃあ剣でよかったなあってしみじみ思うね」 「うっせえ。黙ってろ」 笑いながら言うデルフを、才人は思い切りにらみつけた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4937.html
前ページ次ページZERO A EVIL 無事に裏口から脱出したルイズ達は、船が停泊している桟橋に向かっていた。 貴族派の妨害があった以上、一刻も早くアルビオンに辿り着かなければならない。 長い階段を駆け上がり丘の上に出ると、四方八方に枝を伸ばした巨大な樹が現れる。枝の部分には船が木の実のようにぶら下がっていた。 後ろを振り返ってみても、追っ手が来る様子はない。どうやら、フーケはうまく敵をひきつけてくれているようだ。 「よし、こっちだ!」 ワルドに促され、ルイズ達は樹の根元にある空洞の中に入っていく。 空洞の中には各枝に通じる多くの階段がある。ルイズ達はアルビオン行きの階段を見つけると、再び長い階段を上り始めた。 階段をしばらく上り続け、踊り場付近に辿り着いた時、ルイズは背後からこちらに近づいてくる足音を耳にする。 慌てて振り向くと、白い仮面という怪しげな風貌の男がこちらに向かってくるのがわかった。 どう見ても船に乗りに来た客には見えない。貴族派の刺客とみてまず間違いないだろう。 そう考えたルイズがワルドとシエスタに知らせようとした瞬間、仮面の男は走るスピードを上げ黒塗りの杖を取り出すと魔法を詠唱し始める。 すると、仮面の男の杖の先端が白く光る。一撃で相手を刺し貫くことができる威力を持つ魔法、エア・ニードルだ。 仮面の男は最後尾のシエスタに目をつけたようで、一直線にシエスタの方に向かっている。シエスタも仮面の男に気付いたようだが、その時には男はすぐ側まで迫っていた。 それを見たルイズは、背中に背負っていたデルフリンガーを抜き、一気に仮面の男との距離を詰める。 そして、シエスタを貫こうとしたエア・ニードルをすんでのところで受け止めた。 「シエスタには指一本触れさせないわよ!」 「やっと俺の出番がきたぜ! さあ相棒、一気にやっちまえ!」 デルフリンガーは自分の出番がきたことに喜んでいるようだが、ルイズの心はそれどころではなかった。 あと一歩でも遅かったらシエスタは命を落としていたかもしれないのだ。そう考えると、この仮面の男を許すわけにはいかなかった。 憎しみと怒りの感情が溢れそうになるのを抑えつつ、ルイズはデルフリンガーを構えて仮面の男と対峙する。左手のルーンは僅かに光を放っていた。 「シエスタ、今のうちにここから離れて!」 「は、はい!」 「ワルド様、シエスタをお願いします!」 ワルドにシエスタのことを任せたルイズは、仮面の男に向かって高くジャンプするとそのまま勢いよく斬りかかる。 オルステッドが使っていた技である『ジャンプショット』。シンプルだが強力な技だ。 仮面の男はとっさに杖でガードするが、勢いを殺しきれず、鍔迫り合いでルイズにおされる形になる。 ルイズはその隙を見逃さず、渾身の力でデルフリンガーを仮面の男に叩きつける。剣をハンマーの代わりにして相手を叩く力技『ハンマーパワー』。峰打ちだが威力は申し分ない。 ルイズの攻撃をまともに喰らった仮面の男は、回転しながら後ろに吹き飛ばされる。 その時、いつの間にか側まで来ていたワルドが追い討ちをかけるようにエア・ハンマーを放つ。直撃を喰らった仮面の男は階段から落下していった。 その後しばらく待ってみても仮面の男が戻ってくる気配はない。どうやら撃退に成功したようだった。 「どうやら、もう大丈夫のようだね。さすがルイズ、見事な剣さばきだったよ」 「そんな。敵を撃退できたのはワルド様のお陰ですわ」 「謙遜することはない。君の力は僕の想像以上だよ! この力があれば貴族派の妨害など恐れることもないさ!」 「ワルド様?」 どこか興奮気味に語るワルドを不思議に思ったが、戦いに勝って気分が高揚しているのだから無理もないと気にしないことにした。 シエスタにも怪我はなさそうなので、ひとまずは安心といったところだろうか。 「あれ? ひょっとして俺の出番、もう終わり?」 そんなデルフリンガーの呟きをよそに、ルイズ達はさらに上を目指す。 階段を上りきり、桟橋に着いたルイズ達は、そこに停泊している船に乗り込む。 いきなり現れたルイズ達に船員は驚くが、ルイズとワルドが貴族だとわかるとすぐに船長を呼びに行った。 船長との交渉の末、ワルドが風の魔法で風石の代わりをすることで話はまとまり、船はアルビオンに向けて出港する。 「二人ともよくがんばったね。空に出てしまえばしばらくは安全だろうから、今のうちに休んでおくといい」 ずっと走りっぱなしで疲れていたルイズは、ワルドの言葉に甘えて客室で休むことにした。 シエスタはルイズと一緒の部屋で休むのをためらっていたが、ルイズに強引に引きずられていってしまう。 そんな二人の姿をワルドは微笑みながら見送っていたが、その目はシエスタの後姿を鋭く射抜いていた。 翌日、アルビオンが目に見える位置まで近づいた時にそれは現れた。 舷側から大砲を突き出した大きな黒い船が近づいてきたのだ。旗も掲げていないところを見ると、どうやら空賊のようだ。 その船にルイズ達の船はあっけなく停船させられてしまう。この船の武装は貧弱で、頼みのワルドも船を浮かすために精神力をほとんど使っていたのだから無理もなかった。 甲板に降り立った派手な空賊の男が船長と交渉している。どうやらこの男が空賊の頭のようだ。 そんな中、ルイズは大人しくしていた。ここで暴れればワルドやシエスタが危険な目に遭う可能性があるからだ。 もちろん二人に危害を加えるようならただでは済まさない。そんなことを考えながら、ルイズは怯えるシエスタを背中に隠し、成り行きを見守っていた。 男と船長の交渉はすぐに終わり、船長は命を助ける代わりに船と積荷を全て渡すという一方的な要求をのむことになった。 うな垂れる船長をよそに、上機嫌な男はルイズ達に目をつけると、船倉に閉じ込めるよう部下に指示を出す。後で身代金をたんまり取る腹積もりのようだ。 こうして、杖とデルフリンガーを取り上げられたルイズ達は空賊の捕虜になってしまうのだった。 「ルイズ様、これから一体どうなってしまうんでしょうか……」 「心配しなくてもいいわ。待っていれば、必ずチャンスは来るはずよ」 ルイズ達は、空賊が持ってきた水と食事のスープを飲みながら今後の事を話し合っていた。 シエスタにはああ言ったものの、ルイズも不安なのに変わりはない。だが、ワルドやシエスタの手前もあるので、冷静を装っていた。 そんな中、ワルドは一人落ち着いている。今は船倉の積荷を見て回る余裕すら見せていた。 その時、扉が開き空賊の男が入ってくる。男は三人を見渡すと、楽しそうに喋りだした。 「あんたらも運が悪かったな。まあ、大人しくしてりゃ悪いようにはしねえからよ」 「いや、そうでもないさ。目当ての人物にこうも早く会うことができるなんて思わなかったからね」 「あん? お前、一体何言ってんだ?」 「頭に伝えてくれないかな。我々はトリステインの大使で、アンリエッタ姫殿下から密書を言付かっているとね」 「……てめー、そんなことばらしちまってただで済むと思ってんのか?」 「いいから早く頭に伝えてくれないかな」 「いいだろう。ちょっと待ってな」 そう言うと空賊の男は船倉を出て行った。 二人の会話を聞いていたルイズとシエスタは唖然とした表情をしている。大事な任務をあっさり喋ってしまうワルドの真意がわからなかったからだ。 何か言いたそうな二人の表情にワルドは気付いていたが、特に気にする素振りもなく、ただ黙って男が戻ってくるのを待っていた。 しばらくして、男が船倉に戻ってくる。先程とは違い、表情は真剣そのものだった。 「来い。頭がお呼びだ」 男に連れられて、ルイズ達は船長室に通される。そこには、あの派手な空賊の男がいた。 「お前か、トリステインの大使ってのは」 空賊の頭の質問に、ワルドは優雅に一礼してから答える。 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵です。先程伝えましたとおり、アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」 「そんな大事なことを空賊なんかにぺらぺら喋っていいのかい? お前らを貴族派に売り飛ばすこともできるんだぜ」 「あなたがそんなことをするはずがないでしょう。ウェールズ・テューダー皇太子殿下」 その瞬間、その場にいた空賊全員の目がワルドを睨みつけるように鋭くなったのをルイズは見逃さなかった。 派手な空賊の男をウェールズ皇太子と結論付けたワルドの真意はわからないが、この反応を見るとまったくの見当違いにも思えない。 「俺がアルビオンの皇太子だっていう確証でもあるのかい?」 「殿下が指にしているのはアルビオン王家に伝わる風のルビーではありませんか? もしそうなら、トリステイン王家に伝わる水のルビーと共鳴し、虹色の光を作り出すことができるはずです」 その言葉を聞いたルイズは、アンリエッタから渡された水のルビーをワルドに手渡す。 「ワルド様、これを」 「ありがとうルイズ。殿下、よろしいですかな?」 空賊の頭は自分のしていた指輪を外すと、ワルドの持っている水のルビーに近づける。 すると、ワルドの言ったとおり二つの宝石が共鳴し、虹の光が作り出された。 「どうです、殿下」 「まいったな。まさかこんな形で見破られるとはね。君の言うとおり、私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ウェールズは苦笑いを浮かべながら変装を解く。それを見た周りの空賊達は一斉に姿勢を正した。 シエスタは突然の展開に驚いていたし、ルイズはウェールズの変装を見破ったワルドを尊敬の眼差しで見つめている。 そのため、二人はワルドの手際が良すぎることを疑問に思うこともなかった。 その後、ワルドから手渡された手紙を読み終わったウェールズは、アンリエッタから送られた手紙を返すことを了承した。 だが、手紙はニューカッスル城に置いてあるとのことなので、ルイズ達はウェールズと一緒にニューカッスル城に向かうことになる。 ワルドがウェールズから手紙を受け取れば、今度はルイズの任務が始まる番だ。 ニューカッスル城に着いたルイズ達は、ウェールズの自室に通される。 ウェールズは机の中から宝石箱を取り出すと、中に入っている手紙を読み返し始めた。すでに何度も読んでいるのか、手紙はぼろぼろであった。 手紙を読み終えたウェールズは、それを丁寧に折り畳み、封筒に入れワルドに手渡す。 「姫からの手紙は、この通り確かに返却したぞ」 「ありがとうございます」 頭を下げ、ワルドが手紙を受け取る。 ワルドの任務が終了し、いよいよルイズの出番がやってきた。 「恐れながら、殿下に申し上げたいことがございます」 「君は?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。幼少の頃、アンリエッタ姫殿下の遊び相手を務めさせていただきました」 「ほう。よし、何なりと申してみよ」 「ありがとうございます」 ルイズは一つ息を吐くと、意を決したように話し始めた。 「私は姫様から重大な任務を受けてここにやってきました。殿下、姫様は殿下がトリステインに亡命することを望んでいます! 私達と一緒にトリステインにいらしてください!」 「それはできない。私はアルビオン王家の誇りをかけて、最後の最後まで戦い続けるつもりだ」 「お願いでございます! 姫様は今でも殿下のことを愛しております! 私にも愛している人がいます。ですから、姫様のお気持ちがよくわかるのです! もし、殿下が亡くなられるようなことがあれば、姫様は悲しみに打ちひしがれてしまいます! それに、このまま勝ち目のない戦いを続けるより、トリステインに亡命して再起を図る方がきっといい結果が得られるはずです! ですから、どうか、どうかお願いします!!」 ルイズの熱のこもった説得を聞いたウェールズは静かに目を閉じる。どうやら頭の中で考えをまとめているようだ。 ルイズはウェールズの返答を緊張した面持ちで待っている。やがて、ウェールズは目を開けるとルイズへ答えを出した。 「亡命はできない。例えそれが姫の望みであってもだ」 「殿下!」 「明日、ニューカッスル城への総攻撃が始まる。朝には非戦闘員を乗せた船が脱出する予定だ。君達もそれに乗って帰りなさい」 「待ってください!」 「そろそろパーティーも始まる時間だ。王国が迎える最後の客として、是非参加してほしい」 「まだ話は!」 「よせ、ルイズ!」 淡々と話すウェールズに、なおも食ってかかろうとするルイズだが、ワルドに止められてしまう。 「このまま君が取り乱してしまっては、ますますいい結果が得られなくなる。ここは僕に任せてくれないか」 「ワルド様、でも!」 「ルイズ、僕を信じてくれ」 「……わかりました」 「ありがとう。シエスタ、ルイズを連れてしばらくここから離れてくれないか」 「は、はい。ルイズ様、行きましょう」 ルイズはシエスタに連れられて部屋の外に出て行く。 ウェールズの説得に失敗した自分を情けなく思うが、まだ全てが終わったわけではない。 ワルドがきっといい方向に話をもっていってくれることを信じて、ルイズは待つことにした。 夜になり、城のホールではパーティーが始まる。 明日、貴族派の総攻撃があるというのに、パーティーに参加している者達の表情は明るかった。皆が楽しそうに食事をしたり、踊ったりしている。 一方、ルイズは用意された客室でシエスタと一緒にワルドの帰りを待っていた。 城のメイドからパーティーが始まるという知らせを受けたが、自分の代わりにウェールズを説得してくれているワルドを置いて、パーティーに参加できるわけがない。 「それにしても遅いねー。何かあったんかね?」 「ウェールズ殿下を説得するのは、いくらワルド様でも簡単にはいかないわ。あれだけ強い意志を持っていらっしゃるんだもの」 デルフリンガーの呟きに答えるルイズの声には不安の色が混じっていた。あのウェールズの強い意志をどうやって曲げさせるのか、ルイズには想像もできない。 もし、ワルドの説得が失敗すれば、明日の総攻撃でウェールズは命を落としてしまうかもしれない。そう考えると気が気でなかった。 その時、ドアをノックする音と共にワルドが部屋に入ってきた。 「遅くなってすまない」 「ワルド様! ウェールズ殿下の説得はうまくいきましたか?」 「ルイズ、落ち着いて聞いてほしい。説得はうまくいかなかったが、ウェールズ殿下の意志を変えることができるかもしれない妙案があるんだ」 「その案とは何なのです?」 ルイズは緊張した面持ちでワルドの返事を待っている。ワルドはルイズが落ち着いているのを確認した後、口を開いた。 「僕達がここで結婚式を挙げるんだ」 「け、結婚式ですか!?」 「そうだ、お互いに愛し合っている僕達の結婚式を見れば、きっとウェールズ殿下の考えも変わるはずだ」 確かに、ウェールズがアンリエッタを愛しているのなら、幸せそうな結婚式を見ることで心に迷いが生まれる可能性はある。 ワルドと結婚することで自分だけ幸せになるのはアンリエッタに申し訳ないが、これでウェールズの命を救うことができたならアンリエッタも喜んでくれるはずだ。 こんな形で結婚式を挙げるとは思わなかったが、ワルドと結婚することに不満はまったくない。 「わかりました。私、ワルド様と結婚します」 「ありがとう、ルイズ。ウェールズ殿下にはすでに明日の結婚式の媒酌を頼んである。大丈夫、きっとうまくいくさ」 「はい!」 ルイズの返事に満足そうに頷いたワルドは、続いてシエスタの方に視線を向ける。 「シエスタ、君はその剣を持って先に船で脱出しなさい。僕とルイズはウェールズ殿下を連れてグリフォンでトリステインに帰る」 「え、でも……」 「待ってください、ワルド様。シエスタには私の結婚式に出席してもらいたいんです」 「しかし、グリフォンにはそんなに大勢は乗れないんだ」 「それなら、船が出発する前に結婚式を挙げましょう。ウェールズ殿下を説得する時間も必要なのですから、早くても損はないはずですわ」 ルイズは世話になっているシエスタに自分の晴れ姿を見てもらいたかったし、自分の結婚式に親しい人間が一人も出席しないのは嫌だった。 この状況では、姉のカトレアもアンリエッタも出席することはできない。だから、せめてシエスタだけでも出席してほしいと思ったのだ。 「わかった。ウェールズ殿下には僕から連絡しておくよ」 「すみません、ワルド様」 シエスタが結婚式に出席するのを認めたワルドは、ウェールズに連絡するために部屋を出て行った。 「ありがとうございます、ルイズ様。私なんかがルイズ様の結婚式に出席できるなんて夢のようです」 「私の一生に一度の晴れ舞台なんだから、シエスタには出席してもらわないとね。デルフ、あんたも出席すんのよ」 「おう、相棒の勇姿を拝ませてもらうぜ」 その後、ルイズ達は明日に備えるため早めに寝ることにした。 今日は興奮して眠れないと思っていたルイズだが、疲れていたせいもあり、ベッドに入るとすぐに眠ることができた。 ルイズは夢を見ている。 夢の中のルイズは、日の本という国でとある城の城主をしていた。 ルイズには大きな野望があった。混乱状態にある日の本を戦乱に巻き込み、その戦乱に乗じて自分が日の本を支配しようと企んでいたのだ。 そのために人外の力を手に入れ、異形の者達を手下にするなど着々と準備を進めてきたルイズだが、それを邪魔する者が現れた。 ルイズの野望を成功させるために捕らえていた男をある忍びが救出にやってきたのだ。 忍びの力はかなりのもので、捕らえていた男を救出されただけでなく、異形の手下達も倒されてしまう。 そして、忍びと捕らえていた男がついにルイズの所までやってくる。 だがルイズには人外の力がある。負ける気は毛頭なかった。 天守閣の屋根の上で、ルイズはカエルとヘビの姿に変化する。この姿こそ、これからの日の本を治めるのに相応しい気高き姿だとルイズは思っていた。 しかし、忍びと捕らえていた男にルイズは敗れ、天守閣の屋根の上から落下する。 こうしてルイズの野望は脆くも崩れ去ったのだった。 場面が切り替わり、ルイズの姿が変わる。 次のルイズは、鳥の顔をした大仏の姿をしていた。だが、これはルイズの本当の姿ではない。 この姿は、ある寺の池に捧げられた2000人の液体人間の憎しみという感情から生まれたルイズが、池の中央に建っている大仏に宿っただけなのだから。 ルイズの目の前には、自分と同じくらいの大きさのロボットが立っている。 液体人間の強い憎しみの感情に突き動かされるように、ルイズは目の前のロボットに戦いを挑む。 だが、圧倒的な強さを持つロボットにルイズは敗れてしまう。 ルイズは敗れたが、それで液体人間の憎しみが消えるわけではない。 液体人間は自分達をこんな姿に変えた者達を飲み込み、ルイズを倒したロボットさえも飲み込もうとするのだった…… 再び場面が切り替わる。 今度のルイズは、以前見た夢と同じように山の頂上で下にいる者達を見ているだけだった。 だが、今回の夢は下にいる人物が違っている。下にいたのは背格好がまったく違う4人の人間と魔王だった。 やがてオディオと名乗った魔王と人間達との間に戦いが始まる。魔王の力は恐るべきものだったが、戦いは人間達の勝利で幕を閉じた。 戦いに敗れた魔王は真の姿を現す。そこに現れた姿を見たルイズに衝撃が走った。 魔王の正体は、ルイズもよく知っているオルステッドだったのだから…… その時急に場面が切り替わり、ふと気が付くと、ルイズは別の場所に立っていた。自分の姿を見てみると、魔法学院の制服を着たルイズ本人の姿なのがわかる。 辺りを見回してみると自分の周りに7つの石像があるのがわかった。石像を見ようと近くによるが、その姿を見たルイズは驚いてしまう。 「こ、これって!」 その7つの石像にルイズは見覚えがあった。 翼のないドラゴン、頭だけの姿をしたマザーコンピュータ、坊主頭の格闘家、ガトリング銃を持った大男、武道家、カエルとヘビの変化、鳥の顔をした大仏。 全て夢の中でルイズが体験した姿だった。 その時、奥に見える扉から一人の男が現れる。オルステッドだ。 オルステッドが現れたことでルイズは激しく動揺する。7つの石像とオルステッドは、自分もここにいる者達と同じ末路を迎えるということを示しているように感じられた。 だが、それを認めるわけにはいかない。 「私はあなた達と同じにはならないわ! 結婚式だってうまくいくし、ウェールズ殿下の命だって救ってみせるんだからッ!」 そう叫んだ瞬間、7つの石像の目が光を発し、周りの風景がぼやけていく。 ルイズが最後に目にしたのは、悲しそうな表情を浮かべるオルステッドの姿だった。 やがて、ルイズはゆっくりと目を覚ました。窓の外は薄暗く、まだ夜が明けていないのがわかる。 「大丈夫。きっとうまくいく、きっと……」 だが、いくら大丈夫と呟いてみても不安が晴れることはなかった。 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1226.html
(音声のみお楽しみ下さい) 「……ねえホワイトスネイク」 「ドウシタマスター」 「これはどういうことかしら?」 「昼食ハ既ニ、ホトンド食ベラレテシマッタヨウダナ。 スープトカモキット冷メテイルダロウ」 「……誰のせいなんでしょうねー」 「ソレハ錬金ニ失敗シタマスt」 ドグシャアッ! 「オゴォォッ!」 「あんたが『でぃすく』だの『魔法の才能』だの話し始めたからでしょうがぁあああああああああああ!!」 5話 つまり、こういうことである。 片付けをやっとこさ終えたルイズとホワイトスネイクは、他の生徒より大分遅れてアルヴィーズの食堂に入った。 そしてそこでお腹を空かせたご主人様ことルイズが目にしたのは―― もうほとんど食事が残っていない大皿と、湯気一つ上がらない、きっと冷え切っているであろうスープである。 もちろんお腹をすかせたご主人様はこんなものを見せられた日にはカンカンである。 まあ元はと言えば錬金を派手に失敗して教室を悲惨な状態にしたルイズにこうなった原因はあるのだが、 上記の通りルイズはそれをホワイトスネイクになすりつけた。 責任転嫁である。 その上ホワイトスネイクのスネを蹴っ飛ばしている。全力で。 ルイズとしては、しょうがないんだもん、あたしは魔法が使えないんだもん、みたいな感じでスネてるんだろうが、 責任転嫁された挙句蹴りを食らわされたホワイトスネイクとしてはたまったものではない。 しかし……相手が自分の主人である以上手を上げるわけにもいかず、結局堪えるホワイトスネイクであった。 スタンドの悲しい定めである。 蹴っ飛ばされた方の脚を抱えてケンケンしながら、 ヨーヨーマッもこんなかんじでいつもDアンGにぶん殴られてたに違いない、と思った。 そして一瞬ヨーヨーマッに同情しかけるが、ヨーヨーマッがドMだったことを思い出してすぐに止めた。 こうしてルイズが一人で怒っていて、ホワイトスネイクがケンケンしているところに―― 「あの……ミス・ヴァリエールでしょうか?」 いくらか遠慮のかかった声がした。 その声にルイズとホワイトスネイクが振り向く。 はたして、声の主はメイドであった。 彼女の髪の色は黒。 他のメイドや生徒と比べれば、ここでは珍しい色である。 「何? メイドがわたしに何の用?」 ルイズが思いっきり不機嫌な声でメイドに応える。 腹へっていても多少の愛想は必要だと思うホワイトスネイク。 そしてメイドの方にも、ルイズの不機嫌が分かったらしく、 「あ、あの! その……も、申し訳ありません。 ミス・ヴァリエールが昼食の席に現れなかったもので、お腹が空いてるんじゃないかと……」 「そーよ! もう食事はほとんど無くなっちゃってるし……おかげでこっちはお腹がペコペコよ!」 「で、ですから、大したものは用意できないかもしれませんが、昼食の方を用意しましょうかと……。 他の貴族の皆様がお召し上がりになったものと同じものは用意できませんが……」 これはありがたい。 今朝のようなアホみたいに豪華な食事は期待できないだろうが、それでも十分だ。 お腹をすかせた我が主人たるルイズにとって単純にプラスになることだし、 またこのままルイズが不機嫌なままだと、いつスネを蹴っ飛ばされるか分かったものではないので自分にとってもプラスである。 そうホワイトスネイクが考えていた矢先。 「イヤよ。わたしがいつも昼食で食べてるのと同じのじゃなきゃ、イヤ」 ホワイトスネイクはため息をつきたくなった。 腹減ってるのはしょうがないとして、何故そこで意地を張る。 どうせこのワガママなご主人様のことだ。 貴族はこんなもの食べないとかなんたらかんたら言うんだろうな、とホワイトスネイクは思った。 でもそれを言うとまたスネを蹴っ飛ばされるだろうから、口には出さない。 そう思っていたそのとき―― ぎゅるるるるるるるる……… ルイズのお腹が盛大な悲鳴を上げた。 そしてその音を出したのが自分だと分かると、ルイズは羞恥心で顔を真っ赤にして周囲を見回す。 周りの生徒が聞いていなかったのを確認してルイズはほっと一息ついた。 今のお腹の音を聞かれるのがイヤだったようだ。 食堂に残っている生徒達は皆談笑に夢中で、ルイズには気づかなかったことが幸いした。 まあ、あまり上品な音じゃなかったからな、と思うホワイトスネイク。 そして確認作業を終えたルイズはメイドの方に向き直ると、 「さ、さっきのは取り消し! あと、えっと、で、出来るだけ上品なものを作りなさいよ! 貴族が食べるものなんだからね!」 と、これまた顔を真っ赤にしていった。 何もそこまで恥ずかしがらずとも、と思うホワイトスネイク。 メイドの方もそんなルイズを見て困ったような笑みを浮かべながら、 「かしこまりました。スープの方は今から温め直しますので、そちらで少しだけお待ち下さい。 あ、あと使い魔さんの分も用意させていただきますね」 と言ってお辞儀すると、ぱたぱたと厨房の方へ走っていった。 「何故、マスターハアノ小娘ノ提案ヲ最初ニ断ッタ?」 「貴族は平民が食べるようなものは食べないのよ。下品だから」 「平民? アノ使用人ノ小娘ノコトカ?」 ホワイトスネイクが聞き返す。 「そう、平民。魔法を使えない平民は、あのメイドみたいにわたしたち貴族に奉仕するのよ」 「ナルホド、ナ」 ホワイトスネイクは朝食の席で、自分の姿が使用人に見えていないことは分かっていた。 そして一方、貴族――つまりメイジだが、そいつらには自分の姿が見えている。 (メイジニハ私ノ姿ガ見エル。シカシ使用人、ツマリ平民ニハ私ノ姿ハ見エナイ、トイウコトカ) そのように、ホワイトスネイクは納得しかけて――先ほどのメイドの言葉を思い出した。 (イヤ待テ。サッキアノ使用人ハ『使い魔さんの分も用意させていただきますね』トカ言ッタナ。 ダガ、アノ使用人ハマスターノ言カラシテモメイジデハナイ。 ダトスレバ……) ホワイトスネイクに、興奮に近い感情が湧き上がってくる。 (アノ使用人……スタンドノ才能ヲ持ッテイルノカ?) そして数分後。 ルイズ以外には誰も席に着いていないがらんとした食堂に、ルイズのためだけの食事が並んだ。 ……とは言っても、スープの他にあるのはシチューとローストした鶏肉だけだが。 しかし、量だけは十分ある。 というか二人分は十分ある。 やっぱりホワイトスネイクが見えているらしい。 「どうぞ、お召し上がり下さい」 メイドが笑顔で言う。 ルイズはメイドの声にそっけなく頷いて応えると、目の前のシチューをスプーンですくって、口に運ぶ。 料理の方も見た目には気を使って皿に盛ってはあったが…… やっぱり見た目がボチボチだったからそれが不満なんだろうか、と思うホワイトスネイク。 それでも、突き返さないだけまだマシだと思うことにした。 やっぱり腹減ってると怒る気力もなくなるんだろうか。 しかし、シチューを食べたルイズの感想は―― 「あら……美味しいじゃない!」 感嘆した調子で、ルイズは言った。 「そう言っていただけると嬉しいです」 メイドが嬉しそうに顔をほころばせて言う。 だがルイズは、一口食べて美味しいと分かったからだろうか、 それすら聞こえない様子で、ひたすら食事を口の中に運んでいた。 とはいえ、ガッつくような真似はしない。 由緒ある家柄の出であるルイズは、どんなにお腹が空いていてもテーブルマナーは守るのだ。 その分食事の時間は長くなるが。 そうしてルイズが食事を取っていると―― 「あの……使い魔さんは、お食事をなさらないんですか?」 メイドが、ホワイトスネイクに声をかけた。 「イヤ、イイ。私ハコウイッタ形式ノ食事ヲ取ラナイノダ」 「じゃあどんな食事をなさるんです?」 当たり障りの無いように断ったホワイトスネイクだったが、メイドはさらに深く聞いてきた。 「そうですか、分かりました」で収めればいいものを、と思うホワイトスネイク。 さて、どうするべきか。 自分がスタンドであることを話せば、このメイドにスタンドの才能があるところまで話さなければならなくなるだろう。 まだこちらの世界に来たばかりで、まだ状況のいまいち掴めていないホワイトスネイクとしては、 出来るだけ不要なトラブルは避けたい。 「スタンド使いとスタンド使いは引かれあう」というルールもあることだし、 今の段階でヘタにこの使用人に、スタンドのことは話したくない。 しかし……他の平民の使用人には見えない自分の姿が、この使用人の小娘には見えているのだ。 いずれこの使用人自身も、自分が他の平民とは異なることを知るだろう。 どうするべきか。 彼女にスタンドの才能があることを伝えるべきか、それとも言わずに置くべきか。 しばらく考えたホワイトスネイクは―― 「私ハ空気ヲ食ベル」 誤魔化すことにした。 勿論大嘘である。 空気食って生き延びる人型生物なんているわけ無いだろ常識的に考えて。 しかしこのメイドは―― 「そ、そうなんですか……」 真に受けた。 純真なのか、だまされやすいのか、いずれにしても、 「はいそうですか」で信用するのはどうかとホワイトスネイクは思った。 まあ深く突っ込んでこないのはこちらとしてもありがたいが。 ホワイトスネイクがそんなことを考えていた、そのときだ。 「ごちそうさま」 食事をしていたルイズから声が上がる。 どうやら食べ終わったらしい。 そしてさっきホワイトスネイクが適当なことをメイドに言ったことに反応しなかったあたり、 かなり集中して食事していたようだ。 よほど、お腹がすいていたんだろう。 そう思って、ホワイトスネイクが下を見下ろすと―― 「……全部食ベタノカ」 「だってお腹すいてたんだもの」 メイドがホワイトスネイクの分にと用意した食事まで、さっぱりなくなっていた。 つまり、二人分をきっちりルイズは食べたのである。 いくらなんでもあれだけ食べたら太りそうなものだ。 というか、あれが普通なのか? 「食ベ過ギジャアナイノカ、マスター?」 「別に食べすぎじゃないわよ。いつも歩いてるから太らないし」 そういう問題じゃないだろう、と思うホワイトスネイクであった。 「あなた、名前は何ていうの?」 ルイズがメイドに尋ねる。 「シエスタといいます」 「そう。じゃ、ありがと、シエスタ。おかげで助かったわ」 「い、いえ! そんな、滅相も無いです!」 「いいのよ、そんなに縮こまらなくて。あと、今回の恩は覚えておくわ」 「ミス・ヴァリエール……」 メイド――シエスタと名乗ったが、彼女が嬉しそうに言う。 「そんなに驚かないで。ヴァリエール家の女が恩知らずだなんて思われたら、 私の方が恥ずかしい思いをすることになるもの。 別に特別なことじゃないわよ」 「そ、そそそうですか。あ、ありがとうございます!」 シエスタがかなり恐縮しながら頭を下げる。 その様子から、 (ココマデ卑屈ニナルトハ……ヨホド、平民ニトッテ貴族、イヤ、メイジハ恐怖スベキ対象トナッテイルノダロウナ) そんなことをホワイトスネイクは考えた。 「で、でででは、わわ私はこれで失礼します!」 そんなことを言って、メイドがまた深々と頭を下げると厨房の方へ走って行った。 ちょうどそのとき。 「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつき合っているんだよ!」 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「つき合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 こんな会話が聞こえた。 声の方向に目を向けるホワイトスネイク。 するとそこには金髪の優男と、それを取り巻く数人の男子学生が歩きながら談笑していた。 場所はちょうどシエスタが向かった厨房の近く。 「マスター、アレハ誰ダ?」 「あいつはギーシュよ。色んな女の子のところを、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしてるナヨナヨしたヤツ。 わたし、あんまりあいつのこと、好きじゃないのよね」 「アレニ惚レル女ハアマリ幸福ニハナラナイダロウナ。 アレハ女ニ気苦労ヲカケルタイプダ」 「でしょうね。まったく、モンモランシーも何であんなのにゾッコンなのかしら……」 ギーシュを眺めながらそんなことをルイズとホワイトスネイクが話していると。 ぽとり、とギーシュのポケットから何かが落ちた。 何か小瓶のようなものだ。 そしてちょうど厨房に入るところだったシエスタがそれを見つけて拾い上げる。 「これ、落としましたよ」 そう言ってシエスタがギーシュに小瓶を差し出す。 だがギーシュは取り巻きとの会話に夢中で気づかない。 いや、今のシエスタの声はそんなに小さなものではなかったし、「気づかないフリをしている」とするのが正しいだろう。 しかしシエスタは、自分の声が小さかったからギーシュは気づかなかったのだと、誤解した。 そしてもう一度、 「あの、すいません。これを落としましたよ」 そう言って、改めてギーシュに小瓶を差し出すと、 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 ギーシュはそれを否定した。 しかし自分のポケットから落ちたものを自分のものじゃないと否定するとは、無茶もいいとこである。 そして実際、それは裏目に出た。 「おお? その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分だけの為に調合している香水だぞ!」 「そいつがギーシュ! お前のポケットから落ちてきたってことは、 つまりお前は今モンモランシーと付き合っている! そうだな?」 「違う違う違う! いいかい、彼女の名誉の為に言っておくが……」 取り巻きたちに問い詰められたギーシュがそこまで言ったところで…… 一人の女子生徒がギーシュの元へぱたぱたと走り寄ってきた。 女子生徒のマントの色は、ギーシュやルイズのそれとは違う。 (ソウイエバ朝食ノトキ、アノ色ノマントヲ来タ連中ハ右側ノテーブルニツイテイタナ。 左側ニハ紫色ノマントヲ来タ連中ガイタ。 アノ小娘ガ茶色ノマントトナルト……1年生ハ茶色、3年生ハ紫色、トイッタトコロカ) そんなことを考えながらホワイトスネイクが見ていると、 「ギーシュさま……」 そういって、女子生徒がボロボロ泣き始める。 二股かけられてたことを、今のやりとりで理解したらしい。 「やはり、ミス・モンモランシーと……」 「違うんだよ、ケティ! 彼らは誤解してるんだ。 僕の心の中に住んでいるのは君だk」 ブワッシィィーーーーン! 「ぶげぁっ!」 有無も言わさぬ強烈なビンタが、ギーシュの頬に叩き込まれたッ! そして―― 「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ! さようなら!」 そう言うと、女子生徒は泣きながら行ってしまった。 女子生徒の姿が見えなくなった頃、騒ぎを聞きつけたのか、女子生徒がもう一人現れた。 顔つきを見る限り、おおよその状況は理解しているらしい。 というか、間違いなくギーシュをぶん殴るなり何なりするつもりの顔だ。 「あれがモンモランシー。 あの子、おだてられるのが好きなのかしらね。 いっつもギーシュの歯の浮くようなお世辞で顔を赤くしてるのよ」 テーブルに着いたまま、ホワイトスネイクと一緒に様子を見ていたルイズが、興味なさそうに言う。 「シカシマスター。コノママ放ッテオイテイイノカ?」 「どういうことよ?」 「アノ小僧……確カギーシュトカ言ッタナ。 ギーシュハ今カラアノモンモランシートヤラカラモ、何ラカノ制裁ヲ受ケルダロウ」 「でしょうね。で、それがどうかしたの?」 「私ガ言ッテルノハ、ソノ後ノコトナノダ。 状況ヲ簡潔ニ整理スレバ、ギーシュハ友人タチノ目ノ前デ二股ガ露見シ、アノヨーニフラレタ事ニナル。 果タシテ、コノママ自分ガ惨メナママデ済マセラレルカナ……?」 「え……ちょ、ちょっと待って! じゃあシエスタが……。でも、そんなのムチャクチャよ! フられたのはギーシュのヤツが二股かけてたからじゃない!」 「ダガ、元ヲ辿レバシエスタノ親切ガ招イタ事ナノダ。 ギーシュガシエスタニ責任ヲナスリツケナイ、トハ言イガタイナ」 「…………」 ちなみに、ホワイトスネイクにここまでの推測ができたのは、冒頭のルイズの理不尽な制裁があったからに他ならない。 ホワイトスネイクはあの一件で、この世界の理不尽を理解していたのだ。 貴族ならこれぐらいはやるだろう、と。 そのように考えられるようになっていたのだ。 何とも皮肉な話である。 そして現場では―― 「誤解だよ、モンモランシー! 彼女とはただ、一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」 ギーシュが首を振りながら疑惑を否定する。 だが、額には冷や汗が伝っている。 今時分が置かれた状況がディ・モールトヤバイことは自覚しているようだ。 「やっぱり……あの一年生に手を出してたのね」 「お願いだよ、『香水』のモンモランシー! 咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれ! 僕まで悲しくなってくるじゃあn」 ドグシャアッ! モンモランシーの蹴りが、ギーシュの股間に炸裂したッ! 「おごおおぉぉっ……」 呻き声を上げて、がっくりと膝を突くギーシュ。 なんというか、ギーシュはもうアワレすぎて何も言えない状態になってしまった。 それをモンモランシーは上から見下ろして、 「嘘つき!」 そう叫ぶと、肩を怒らせながら去っていった。 「お、おい。大丈夫か、ギーシュ」 取り巻きが心配そうにギーシュに言う。 ギーシュは荒い息をしながら、取り巻きの手を借りて立ち上がると、 額にびっしり浮いた冷や汗をハンカチでぬぐい、 「あの、レディたちは、ば、薔薇の、存在の、意味を、理解して、いないようだ」 やはりキザったらしい、芝居がかった口調で言った。 そのまますらすら言えたならもう少しマシだったんだろうが、 それほどにモンモランシーの放った金的は強力だったらしい。 そうして、ギーシュが股間の痛みに耐えながら立っていたとき。 「あ、あの……し、失礼します」 いきなり訪れた修羅場に、呆然と立ち尽くしていたシエスタが声を上げた。 ホワイトスネイクはそれを聞いた瞬間、シエスタが地雷を踏んだことを理解した。 そしてシエスタが背を向けて去ろうとすると―― 「待ちたまえ」 ギーシュがその背中に声をかけた。 その声に、びくっとシエスタは震えると、そろそろと振り向き、 「な、何でしょうか?」 震える声で、シエスタが言った。 「君が軽率に……香水の瓶なんか拾い上げてくれたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたぞ! ……どうしてくれるんだね?」 「も、申し訳ありません! お許し下さい!」 シエスタはひたすら頭を下げる。 だが、仲間の前で恥をかいたギーシュは収まらない。 「どうやら君には、貴族へ無礼を働くとどうなるか、身をもって知る必要があるみたいだな……」 そう言うと、ギーシュはシャツに刺した薔薇の造花を抜く。 薔薇の造花はギーシュの杖である。 早い話、ギーシュはシエスタに魔法を使おうとしているのである。 その様子をテーブルから見ていたルイズは、 「信じられない……ギーシュのヤツ、シエスタに責任をなすりつけるどころか、魔法まで使うなんて!」 マスターが言えたことじゃないな、とホワイトスネイクは思ったが、そこは黙っておいて 「私ノ言ッタ通リニナッタナ。サテ……ドウスル、マスター?」 ルイズに決断を促した。 シエスタには申し訳ないが、仮にルイズが「何もしない」と言ったなら、ホワイトスネイクは放置するつもりでいた。 偶然にも見つけたスタンドの才能の持ち主を失うことにも多少厳しいものがあるが、 それでもスルーする選択肢も頭の中に入れていた。 しかし、ルイズはホワイトスネイクの言葉に頷くと、 「命令するわ、ホワイトスネイク。シエスタを助けなさい。 でも、ギーシュに攻撃しちゃダメ。あんたが攻撃されるまではね」 そう命令した。 その内容でさっきまでの自分の心配が杞憂だったことが分かり、ホワイトスネイクは内心に苦笑した。 そして、もう一度命令の内容をなぞる。 ギーシュに攻撃するな、とわざわざ言うということは、ルイズ自身になにか考えがあるということ。 その点に関しては、自分が考える必要はないだろう。 そう察したホワイトスネイクは、 「了解シタ、マスター」 と、それだけ言うと、ルイズの元から、風のようなスピードで離れる。 そして、杖を抜いたギーシュに跪いて怯えていたシエスタの前に、音も無く降り立った。 「……何だ? お前は」 ギーシュが訝しげにホワイトスネイクを見て、言う。 そして数秒後、授業中にペリッソンをぶちのめした、ルイズの使い魔だと分かると―― 「お、お前は……ルイズの、使い魔か! な、何だ! 何の用だ!」 瞬く間に取り乱し始めた。 ほんの一言、ルイズのことを「ゼロ」と言っただけのペリッソンを有無も言わさず叩きのめした、 このホワイトスネイクの恐ろしさは、ギーシュも自分の目でよく分かっていた。 「マスターノ命令ヲ遂行スルタメダ。『シエスタを助けろ』ト命令サレタノデナ」 ホワイトスネイクの言葉で、ギーシュは長机に着いていたルイズを見つけると、そちらへ目を向ける。 「どういうことだ、ルイズ! 何で君が首を突っ込むんだ?」 「あら、そんなの決まってるわ。私はそのシエスタに恩があるもの。 たとえシエスタが平民だろうと変わりは無いわ。受けた恩は、返すものよ」 当然の事と言わんばかりの調子で言うルイズに、ギーシュはますます苛立ちを募らせる。 そして、ルイズの言った「受けた恩は、返すもの」と言う言葉に、シエスタははっとしたようにルイズを見る。 「大体悪いのはあんたよ、ギーシュ。 二股なんてかければ、いずればれるに決まってるじゃない。 なのに、あんたはその責任を自分で取らないばかりか、シエスタにその責任をなすりつけようとした……。 貴族のすることじゃないわよ、ギーシュ」 そのルイズの言葉で、ギーシュは完全に頭に血が上った。 常日頃から「ゼロ」と呼んでバカにしているルイズに、ここまで言われたのがガマンならなかったのである。 「……いいだろう。そこまで言うのなら、ルイズ。君も覚悟できてるんだろうね?」 「覚悟?」 「『決闘』だ、ルイズ! 僕は君に、決闘を申し込む!」 きた、とルイズは思った。 シエスタを私刑に処しようとするギーシュの前に立ちはだかるということは、 真っ向からギーシュと敵対することを意味する。 そしてこういう場合、互いに決着をつけるには……決闘しかない。 決闘で、互いが納得するまで戦うしかないのだ。 たとえ「貴族同士の決闘を禁じる」ルールがあったとしても、 昼食の後に授業が控えていても、それ以外の決着は無い。 「いいわよ。場所は?」 「ヴェストリの広場だ。用意が出来たらすぐに来てもらおう!」 「用意? そんなの、いらないわよ。 杖はここにあるし、わたしにはやる気もある。 準備が必要なのは、あんたの方じゃないの?」 「まさか。君がレディだから、ほんのちょっぴり気遣っただけさ。 だが、それも必要ないというなら、今すぐにでも始めようじゃないか。 でも……」 そこでギーシュは言葉を切ると、 「君にはその不躾なメイドを慰めるなり何なりする仕事が残ってるだろう? それが終わったら、来るといい。僕は先に行っているよ」 そう言って、取り巻きたちと一緒に行ってしまった。 やがて、食堂にはルイズとシエスタ、ホワイトスネイクだけが残った。 「あ、あの、ミ、ミス・ヴァリエール……」 シエスタが震えた声でルイズに声をかける。 「心配しないで、シエスタ。あんなキザったらしいことだけしか脳が無いヤツに、わたしは負けたりしない。 それに、約束したでしょう? 『恩は返す』って。 わたしは約束は破らないわ」 「そ、その、でも……」 「大丈夫よ。あなたは何も間違ったことはしちゃいないし、後悔する必要も無い。 だから、あなたは今までどおりでいいのよ」 「は、はい! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」 シエスタが声を震わせて、何度もルイズに頭を下げる。 ルイズはそんなシエスタを尻目に、ホワイトスネイクを引き連れて食堂を出た。 食堂を出たところで、不意にホワイトスネイクが、 「ソウイエバ、ダ。マスター」 「何よ?」 「何故、先ホド『ギーシュに攻撃するな』ト命令シタ?」 「『決闘』でぶちのめさなきゃ、意味が無いからよ」 「…………ナルホド、ナ。了解シタ、マスター」 正直、ホワイトスネイクにはよく分からない話だった。 敵がいるなら倒せばいい。 どんな方法を使ってでも、奇襲でも、だまし討ちでも、何でも。 それが、プッチ神父とともにあったころのホワイトスネイクだったからだ。 障害を突破するのに、手段は選ばない。 「目的」に到達さえ出来れば、その過程で何が起きようと関係の無いこと。 それが、プッチ神父の信条であり、ホワイトスネイクの信条だった。 しかし……今の主人であるルイズは違う。 過程を大事にして、その上で結果に到達しようとする。 過程においてさえも、プライドを高く保ち続ける。 プッチ神父とは逆の考え方だ。 だからこそ、ホワイトスネイクにはよく理解できない。 授業の片づけで、DISCによって魔法を使えるようになることを、拒んだことも含めて。 (今ハ……理解スル必要ハナイ。後デ、分カッテクルハズダ。 私ハマスターノ元ニ来テカラ、マダ1日ト少シシカ経ッテイナイノダカラ……) そう考えながら、ホワイトスネイクはルイズの後を追った。 二人の行き先は、ヴェストリの広場。 二人の目的は、決闘。 To Be Continued...