約 1,352,989 件
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/380.html
クリフトのアリーナの想いはPart11 445 :従者の心主知らず さえずりの塔 前編 2/8 :2010/12/02(木) 06 15 11 ID gn7Vs5mP0 「お父さまが大変ってどういうこと!?」 砂漠のバザーで楽しい時間を過ごしている中、突然私たちを呼び止めたお城の兵士。 次に出てきた言葉はお父さまが大変だという一言。 「も、申し訳ありません。急使を承り、すぐに城を出たもので、私も詳しくは、存じないのです……。 とにかく、すぐにお城に戻るようにと、承っております……」 息を切らして答える兵士。よっぽど走り回って私たちをさがしてたんだということがいやでもわかった。 「もしや、王さまの身に何かあったのではっ!?ここはいったんお城に戻るべきではないでしょうか?」 「おお!わが王が!?これはいかん。いかんですぞ。のんきに旅をしている場合ではございません。すぐに城へ戻りましょう!」 じいとクリフトも口々にまくし立てる。荷物をまとめる音。落ち着かない空気。私は…… 「お父さま……」 「王さまは国のかなめ。王に一大事あらば国もまた……ひ、姫さま!?」 クリフトが言い終わらないうちに私はもう走り出してた。お城へ、早くお城へ。 「姫さま!お待ちください!!」 「姫!!待たれよ!!」 「姫さま!!」 私は走りながら考える。お城からここに来るまでどれくらいかかった?今から走って帰れば何日でお城につける? 早く、少しでも早く。 「姫さまーーっ!!!」 クリフトの声は聞こえないふりをした。 遠い。まだフレノールに着かないの?私はずっと走り続けた。疲れて少し歩いてはまた走って。 まだ見えない。私、知らない間にこんなに遠くに来てたのね……。 途中で足がもつれて何回も転んだ。転んでる場合じゃない。急がなきゃ。急がなきゃ……。 「姫さま!!お待ちください!!!」 起き上がって砂を払ってたら声が聞こえた。もう顔を見なくてもわかる。クリフトの声。なんでだろう、泣きたくなってきた。 「なによクリフト、待てるわけないでしょ!お父さまが大変だっていうのに」 私は振り返らないで言った。 「ひ、姫さ……ちょ……ま……っ」 クリフトはなかなか次の言葉を言わない。私はイライラして振り返った。 「こうしてる間にもお父さまはっ!……クリフト?」 クリフトはかがみこんでた。やけに息切れしてせきこんで。とっても苦しそう。片手を上げてるのは待っての合図? そっか……。クリフトも休まずに走ってきたんだ。私より足が遅いのに、体力もないのに、私を追いかけてきたんだ。 ばかクリフト……。私はクリフトの息が整うまで待った。少ししてクリフトは顔を上げる。 「姫さま、申し訳ありません……。お城へですが、走って戻るより早い方法がございます」 「え?」 「こちらを」 渡されたのは1枚の翼。 キメラっていう魔物の翼の力を封じ込めたもので、一度行ったところならどこへでもひとっとびで行けるっていう。 ああ……。テンペの村の道具屋さんで初めてこれを見たとき、そんなのうそよねって笑って、 でもこれがあれば今度はかんたんにお城を抜け出せるわねってふざけて言って、じいもクリフトも困ってて。 それが今目の前に……。 「こんなのうそよ!」 「このような大変なときにうそなどつきませんよ」 「うそ、だってこんな……本当にこんなのですぐお城に帰れるの……?」 「はい。ですからこうして追いかけてきたのではありませんか」 「っ…………」 もうなんでもよかった。早くお城に帰れるのなら。一日でも早く帰りたい。帰りたい……。 私はクリフトから翼の使い方を教わった。 鳥が空を飛ぶみたいに山を超えて一直線に行けるんですって。 でも使い方を間違えると違う場所にもいっしゅんで行ってしまうんですって。 私はいっしょうけんめい説明を聞いた。なんでかこれは自分で使いたかったから。 私は翼をぎゅっとする。 「よかった……本当にこれですぐ帰れるんだ……よかった……。私、もしお父さまの身に何かあったらって……」 お父さまの身に何かあったら。自分で言っておいてはっとした。もしお父さまの身に何かあったら……? ううん、ダメよ。大丈夫。それにこういうときこそ私がしっかりしなくっちゃ。大丈夫。 そう、たとえ何があってもびっくりしない私でいるのよ。うん。よし。大丈夫。 気づいたらクリフトの説明が終わってた。クリフトは……なんでかうつむいてた。小さくため息をついた気がする。 ため息っていうか、なんだろう。よくわかんない。クリフトもお父さまのこと、心配してくれてるのかな。 「クリフト?」 「……姫さま……」 クリフトが私を見た。なんで……なんでそんなに寂しそうな顔してるんだろう。少しだけ胸がずきっとした。 クリフトが私に手を伸ばしてきた。でも、つかむようでつかまない、宙ぶらりんの手。なんだろう。 「クリフト、どうしたの?」 「…………」 クリフトの伸ばした手をつかもうとしたら先に手をとられた。何かささやいてる。最後に聞こえたのはホイミ。あ。 「あせりは禁物です。この上われわれまでケガをしてはなりません」 「うん……ありがと……」 さっき何回も転んで手のひらにできたすり傷がいっしゅんで治った。クリフトはひざにもホイミしてくれた。 からだがほわっとあったかくなる。クリフトがホイミしてくれるときはいっつもそう。魔法ってほんとに不思議だなー。 きっとクリフトは、私やお父さまのことを心配してくれてたのね。 ちっちゃなころから自分のことより人のことばっかり優先するクリフト。私のことばっかり優先してくれるクリフト。 優しいクリフト……。 なんだかさっきまでの緊張がうそみたいにとけてからだが軽くなった。少しだけ元気も出てきた。 「っもう、せっかくこれから旅が面白くなるっていうところだったのに!でもしかたないわ。お父さまのほうが大事だもの。 旅はいつでもできるんだから、今はがまんよね!」 ちょっと大げさに言ってみせる。 「旅はいつでも…………そうですね」 「そうよ!」 あ、やっとクリフトが笑った。少しだけだけど。でもそう、その笑顔よ。私最近クリフトが笑ってくれないと気になるんだから。 じいはもう先にお城に戻ってるんですって。気を取り直して私たちもお城に向かった。そう、キメラの翼で! 久しぶりに戻ったお城。いつもの風景。変わらない兵士たち。よくぞ戻られましたって言われた。 私にお説教しないし閉じ込めようともしない。お父さまはほんとうに私が外に出るのを許してくれたんだってわかった。 お父さま……。 まっすぐお父さまのもとへ向かう。勇気を出して階段を上がったら、玉座にお父さまの姿を見つけた。 お父さまがゆっくりこちらを向く。いつものお父さま……? なんだ……なんだ!お元気そうじゃない!私は心からほっとした。 大臣や兵士がよくぞご無事でって私たちを迎える。でも、かんじんのお父さまが私たちに話しかけてくれることはなかった。 お声が……お父さまのお声が出ない。出なくなった。突然。前触れもなく。 どんなにお父さまに話しかけても、お父さまは何かを言いたそうにこっちを見るだけ。なんて苦しそうなお顔なの? 大臣が筆談で少しお話したみたいなのだけど、風邪ではないんですって。原因はわからないんですって。 もう、3日もたつんですって……。 そしたらじいが。じいが、何者かのしわざかもしれないって。お父さまのまわりにまがまがしき気配が見えるって言って。 私は思わずお父さまの手をぎゅっとした。お父さまも私の手をぎゅってしてくれた。ごつごつしてておっきなお父さまの手。 でも、お父さまは何も言ってくれない。何も……。 いっつもお説教とお小言と難しい話。でもたまにお優しい言葉もかけてくれる。あんなにうるさかったお父さまなのに……。 なんだかたまらなく寂しくなってきた。私は思わず大声で叫ぶ。 「お父さまはどうして何もおっしゃってくれないの?何があったの?ねえ!」 「……………………がはっ!げほっ!!」 「王様!!」 お父さまが何かを言おうとしてせきこんだ。手で口を押さえて。お顔を押さえて。とっても苦しそう。苦しい。お父さま……! 「王様、ただ今原因を調べているところです。今しばらくご辛抱を……」 大臣がかけ寄ってきてお飲み物を渡す。私…… 私、どうすれば。どうすればいいの?どうすれば……。教えて。教えてお父さま……。 私はまた叫んでた。 「悪いやつらも私だけをねらえばいいのよ!私は強いもの。私なら……。お父さま……っ」 気づいたら私は泣いてた。後ろでじいか誰かが何かお話してたみたいだけどもう耳に入らなかった。 私はずっとお父さまを見てた……。 お父さまは私を見たあと、ぼんやりと遠くをながめた。寂しそうな、つらそうなお顔……。 お父さまは今、何をご覧になっているの?何をお考えになっているの?何を伝えたいの?何を…… 「……姫さまは私が命にかえてもお守りいたします!」 ふいに聞こえたのはクリフトの声。私ははっとした。振り返るとクリフトが片ひざをついてお父さまを見てた。 やけに真剣な顔。お父さまもクリフトを見てた。まるでその声にご返事しているかのような、真剣なお顔……。 私はなんでか顔が熱くなった。 「ち、ちがうわ!私がクリフトを守るのよ!」 「姫さま……」 すっかり現実に戻った。そうよ、悲しんでる場合じゃないわ。私はもう一度お父さまの手をぎゅっとして言った。 「お父さま。もう少しだけ待っててね。次に帰ってきた時はきっと。きっとアリーナがお父さまのご病気を治してさしあげます!」 お父さまももう一度私を見て、手をぎゅってしてくれた。少しだけ目がうるんでるように見えた。 悔しい。なんでだろう、悔しい。なんだかもやもやする。落ち着かない。 私は今じいといっしょに裏庭に向かってる。大臣が裏庭のゴンじいなら何かわかるかもしれないって言ってくれて。 じいがゴンじいのこと知ってるみたいだったからいっしょについてくことにしたの。 でもクリフトは他に手がかりがないか探してきますって言って。何か進展があったらお互いに報告しようってことで別れた。 私が今もやもやしてるのはきっとクリフトのせい。 クリフトが大きな声を出さなければ私はきっとずっとお父さまを見てた。何があってもびっくりしないって決めてたのに……。 クリフトにお守りいたしますなんて言われたのもいやだった。私がクリフトを守るんだから。そう、私が守るんだから……。 「フム。ごくつぶしの詩人もたまには役に立つと。マローニに会いにゆきますか」 気づいたら私はゴンじいのとこにいて話が勝手に進んでた。 「マローニってあのサランの町にいるマローニ?歌ばっかり歌ってるあの人が何か知ってるとでもいうの?」 「ひとつの可能性ですがのう。しかし、姫さまもなかなかおっしゃいますな」 あ、ちょっと失礼な言い方になっちゃってたかな。でも今はあんまり気分がすぐれないの。 ゴンじいにもう一度くわしく聞いたら、マローニも昔のどを痛めたことがあって、でも今はこの国いちばんの美しい声だから、 もしかしたら何か知ってるかもしれないんだって。うーん。微妙。 「……でも他に手がかりはないわね。行ってみましょう!」 ゴンじいにお礼を言って私たちはサランへ向かった。クリフトは呼ばなかった。 「フム。この者の声はエルフの薬のせいだったと。まあ多くは語るまいて。今は砂漠のバザーにてさえずりの蜜を手に入れるが先」 マローニに話を聞いたら、さえずりの蜜というエルフの薬を飲んだために美しい声になったんですって。 その蜜は昔砂漠のバザーの道具屋で見つけたんですって。 砂漠のバザーって……あそこじゃない!だって世界中を旅してるからあそこでバザーを開くのはひさしぶりだって……。 「そうですね。もう5年以上は前のことですよ」 「5年以上も前……?」 「ええ。またあそこでバザーが開かれているのですか。なつかしいですね」 そんなに前のことだなんて……私はやっぱり運がいいのね。 マローニにもお礼を言って私たちは教会をあとにした。 「他にお父さまを治す手がかりはないわ。さえずりの蜜にかけてみましょう。じい、キメラの翼をちょうだい」 さっきゴンじいの部屋に行ったとき、何かのお役に立つかもしれないからってキメラの翼をもらったの。 さっそく役に立つわ。もうその効力は実証ずみだもの。悔しいけど、うそでもいんちきでもなかった、魔法のアイテム。 「キメラの翼?ほっほっ。そのような道具に頼らずともこのじいめの魔法でひとっとびですぞ」 「うそ!じいったらそんな魔法使えるの!?」 「姫さまが城へ戻る決意をしてくださればすぐにでも披露できたんですがのう……」 「っもう、お説教はいいわよ。じゃあ早く行きましょう」 「はて、姫さま。金の管理はクリフトのアホめに任せております。あやつを連れてこなければ買えませんぞ」 「え?」 クリフトの名前を出されてドキッとした。って、なんでドキッとするのよ。 「えっと……そっか。ただで手に入るわけじゃないものね」 「詩人など何の役にも立たぬと思っておりましたがたまには良いこともしますな。ささ、早くクリフトのアホタレを呼びに行きますぞ」 じいのほうがもっと失礼ね。じいも気分がすぐれないのかな。 お城に戻ったときには日がもう傾きかけてた。早く行かないと道具屋さんがしまっちゃうかも。 クリフトは教会かしら。私は勢いよく扉を開けた。 「おや姫さま。クリフトでしたら奥の部屋にいますよ」 「あ、ありがとう神父さま」 「いえいえ、お元気そうで何よりです」 いつもと変わらないやりとり。でもすっごく久しぶりな気がする。そう、神父さまは私が行くと真っ先にクリフトの居場所を教えてくれるの。 神父さまもお元気そう。うん、何も気にすることはないわ。私は奥の扉も勢いよく開けた。本が散らばってる先にクリフトがいた。 「ひ、姫さま!扉の開閉は静かにと常々申し上げているでは……ああ、また入り口もそのような勢いでお開けになったのですね?」 「しょうがないじゃない、こうなっちゃうんだもん」 いつもと変わらないやりとり。でもすっごく久しぶりな……あ、いつものお説教クリフトだ。 少しだけほっとした。だってさっきのクリフトはまるで別人みたいに見えたから。うん、ほんとに何も気にすることないわ。 「クリフト、バザーに戻るわよ」 「え?……何か手がかりが見つかったのですね!?」 「そう、早くバザーに戻るわよ」 「ああ、お待ちくださいすぐに片づけますので」 クリフトはバタバタと本を片づけ始めた。ちらっとタイトルを見ると「聖歌の歩み」とか「解呪の手引き」とか「信仰と祈り」とか。 ああ、難しそうなのばっかだわ。どうせならこう「格闘技の歩み」とか「護身術の手引き」とか「パンチとキック」とか。 そういうのなら私だって読んでみようかなって気になるのに。 片づけを手伝おうとして一番手前の「信仰と祈り」って本を取ろうとしたらクリフトに先にとられた。すぐ終わるから大丈夫だって。 だからって私が取ろうとしたのを取らなくてもいいじゃない。ちょっと気分悪いわ。 「クリフト、私も少し調べ物をしたいので書物はそのままにしておきなさい」 神父さまがひょいっと顔を出して言った。 「神父様、ですが」 「それよりも、何やら急ぎのようではありませんか。さあ、早く出かける準備をなさい」 「は、はいっ」 急いで荷物をまとめるクリフト。あ、そうだ。そうだった。私は神父さまに頭を下げる。 「神父さまごめんなさい。もう少しだけクリフトをお借りしていきます」 「姫さま、人を物みたいに言わないでください」 「ええ、ええ、構いませんよ。クリフトのひとりやふたり、どんどん持ってゆきなさい」 「神父様……」 「ですが、また東に行かれるのですね」 あ。そういえばお城を出る前神父さまは東の空からあやしげな気配がどうのこうのって言ってたんだっけ。 神父さま、近ごろは胸さわぎがして眠れないんですって。もしかして、神父さまは何か知ってるのかな。 大臣がお父さまのことは他のみんなには知られないようにしたって言ってたから神父さまも知らないはずだけど。 お父さまのことはみんな知らない……心配をかけないように気をつかうだなんて。お父さま……。 お父さまはきっと私が治してみせるわ。ぜったいに治してみせるわ。 教会を出るとき神父さまは気をつけて行ってらっしゃいって言ってくれただけで他にはなんにも言わなかった。 私たちに事情も聞かなかった。 だから私たちもお父さまのことは話さなかった。 「ほほう、ニブい神父でも何かを感じとっているというわけですな。これ以上国のものを不安にさせぬためにも王さまを!」 「ブライ様、神父様はニブくありませんよ。むしろとても鋭い方です。 ですが、エルフの薬ですか。なるほどそれなら王の病気も!さあ行きましょう。砂漠のバザーへ」 準備は万端。時間はギリギリ。でももし道具屋さんが開いてなくても実力行使でさえずりの蜜を売ってもらうわ。 「お父さま、すぐにアリーナが病気を治してさしあげます。だからそれまでお元気でいてください……」 「さあさ、急ぎましょう!」 じいが何かささやいた後、大きく叫んだ。ルーラ。私たちは再び砂漠のバザーへ。 さあ、目指すはさえずりの蜜! ただひとつ気になったのは、さっきまで喜んでたクリフトがまた寂しそうな顔でうつむいたことだった。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/366.html
クリフトのアリーナの想いはPart11 186 名前 姫と、勇者と、神官と。part1 Mail sage 投稿日 2010/04/29(木) 14 50 48 ID 4kfPzw390 (男勇者ソロ、アリーナ、クリフトの三角(?)関係話です。 あらかじめご了承下さい。ストーリー上設定のため、ライアンが出てきません) 「‥‥ん‥‥」 ベッドで横たわっていた男は、たった今目覚めたような眠気まなこで、辺りを見回した。 「(ここは‥‥宿屋?私は一体‥‥)」 「‥‥クリフト!気が付いたのね!よかったぁ‥‥」 「姫、さま‥‥?」 そんな彼をベッドのすぐ脇で座っていた彼の敬愛する主君アリーナは、ほっと胸を撫で下ろしたかのように嬉しそうな溜め息をついた。 「全く、いきなり倒れて高い熱出したりして‥‥ホントに心配だったんだからね‥‥」 「そのようなことが‥‥。姫を御守りするべく立場にある私が、なんという愚かなことを‥‥」 「何言ってるの?どうせクリフトのことだもん、本当はつらいのに無理してたんでしょ?わたしに迷惑かけないようにって‥‥」 「姫様‥‥」 「‥‥よかったなぁアリーナ。つい先日まで死にかけるくらいの重病を患っていただなんて、信じられないくらい彼、元気になって」 「‥‥!」 一瞬クリフトの意識が飛ぶ。 自らが仕える姫君の名を、まるで親しい間柄であるかのように呼ぶその声。 声の主を探すのに、時間は掛からなかった。その主もまた、アリーナと同じようにクリフトのベッドの脇で控えていたから。 驚きの眼差しを隠せないクリフトに変わって、翠玉のように鮮やかな髪をしたその若者は告げた。 「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はソロ。そんなガラでもないけど、周りからは勇者って呼ばれてるよ」 「ソロたちはね。パデキアの種を探して持ってきてくれたのよ。わたしたちの‥‥命の恩人よ」 嬉しそうに告げる姫君を見て、クリフトは心にぽっかりと穴が空いてしまったような、そんな感覚に襲われた。 それから数日した後、クリフトの病の完治を見計らったところで新しい頼もしい仲間、アリーナ、クリフト、ブライの三名を迎えた勇者ソロ一行の旅は再開された。 「いやはや‥‥馬車の旅、というのもなかなか快適でよいものですな。わしは若いモンと違って歩いて魔物どもと戦ってなど苦痛以外の何ものでもなかったから久しぶりに楽ができるわい」 「もうじいったら!そんなことなんだかんだ言ってついてきたのは何処の誰なのよ、全く!」 相変わらず小言の絶えない教育係ブライに、アリーナは呆れ顔で呟いた。 その様子を見て、ソロとトルネコが笑う。 「ブライさんとアリーナさんは本当に仲がよろしいんですね。例えが悪いかもしれないですけど、まるで親しい祖父と孫娘みたいに見えますよ」 「だよな。ケンカするほど仲がいいとも言うし、なぁミネア」 ソロはその隣を歩く占い師のミネアに話を振った。 彼女は姉のマーニャと共に生きてきた立場であるが、なんせ性格もまるきり違う姉妹。意見の衝突も多かったという。 「冗談言わないで下さいソロさん。姉さんたらお金にも男の人にもだらしなくって苦労させられるばかりだわ」 「実の本人がいる前でその言い方は酷くなくって?ミネアちゃん」 妹の告げる言葉に流石にむっときたのか、彼女の姉マーニャは、挑発的な態度でミネアに食ってかかってきた。 「しっかしさぁ、びっくりよねぇ。女の子なのにこんなに強いだなんてさ。初めて見たわよ。頑丈な扉をとび蹴り一発で突き破るお姫様だなんて・・・」 「姫様のそのご趣向のためにわしはどれだけ苦労させられたか数えても数えきれませんぞ‥‥全く、一国の姫君だというのに嘆かわしい‥‥」 ブライはやれやれと溜め息をつく。 「まーまーいーじゃないのおじいちゃん。アリーナちゃんてカワイイし、あたし正直妹が増えたみたいで嬉しいわ、ねえミネア」 「姉さんたら。仮にも王家からいらした高貴な方々なのよ、あんまり軽い口をきくのは‥」 「ううん、気にしないで。わたし、今まで女の子のお友達っていなかったから二人に会えてすごく嬉しいんだ!マーニャとミネアは姉妹なのよね?いいなぁ、わたし独りっ子だったから二人が羨ましいな」 嬉しそうに告げるアリーナに、マーニャは彼女の肩にポンと手をかけて言った。 「羨ましいなんてとんでもないわよ!一緒におしゃべりしたりエンドールにカジノしに行ったりして、お互い仲良しになろーね!」 「うん!」 「ちょっと姉さん!」 すかさず、「カジノ」の単語に反応したミネアが横槍を入れた。 「ふふふ。まるで妹のような存在が増えてマーニャさんたちも嬉しそうですね」 「実を言うとな。わしも正直嬉しい気持ちじゃよ。姫様は幼い頃にお母上を亡くされてからは女性の身寄りが無くての‥‥。 いつも御側にいたのはあのクリフトだけだったものでな」 マーニャとミネアと親しくなることで、少しでも女性らしくなってくれるに違いないと、長年彼女のもとで生きてきた彼はそう考えていたようだ。 それを聞いたソロは、今日1日体調が優れないらしく馬車内にいるクリフトのことを思い出した。 「クリフトさんがねぇ‥‥。そういえば、何故か知らないけど今日は馬車の中に居させて貰うと言ったっきりだなぁ。本当に大丈夫なんだろうか」 「ソロ殿、どうか気になさらずに。あいつは昔から身体の弱い輩でな。気にせんでも直ぐに元気になって出てきましょうぞ」 その頃、女性陣は会話を楽しんでいた。 若い女性が三人も集まれば、話題は当然恋愛話に向く訳で‥‥ 「‥‥そういえばさぁアリーナちゃん。アンタのお供のあの神官、名前クリフトって言ったっけ?二人ってさぁ、ひょっとしてデキてるの?」 「え?」 「姉さん!なんて話題を引っ張ってくるのよ!」 真面目なミネアが、当然素通りする訳がない。 「だーってホントでしょ。若い男女二人が同行してんのよ?おじいちゃんに内緒で想い合ってたり、とかアンタは考えない訳?」 「ねえっ、二人とも!」 「わたしとクリフトができてるって、一体何が??」 その言葉に、二人は唖然とした。 しばらくの沈黙の後、マーニャは苦笑しながら必死に話題を逸らした。 「あっはは!そっかー!じゃああたしとクリフトが仮に好き合ってもアリーナは怒ったりしないよね、あーよかったー」 「姉さんたら、納得するとこが違うでしょ!全く」 「?」 その日の晩。戦闘の疲れもあり、一行は早めに宿をとった。 「今日もアリーナの蹴りは絶好調だったなぁ!俺なんか遠く及ばないよ」 「そんなことないよ!ソロって剣も呪文も使えるし、すごいなぁ」 「‥‥」 その様子を離れたテーブルから静かに見つめる影が1つ。神官のクリフトである。 命を助けて下さった方なのだ、礼を言わなければならない。分かっている‥‥。 だが、彼の足は動かない。 それどころか、気が付けば訳の分からない感情にかられて命の恩人を睨み付けるような瞳で見つめてしまうのだ。一体、私はどうしてしまったのだろうか‥‥ 「クリフトぉ!」 「のわっ!」 突然抱きすくめられクリフトの思考は現実に戻された。 「あなたは‥‥確かマーニャさん?」 「そーよ!よろしくね!うふふ。アリーナはへなちょこって言ってたけどなかなか整った顔立ちしてんじゃん、思ったよりハンサムかも」 若い男を見るとじっとしていられないのも彼女ならではのこと。 アリーナとクリフトが深い仲でないと知ると、すぐさまクリフトに感心が向いたようだった。 「あ、あのっ‥‥!そんなに顔を近付けてジロジロと見ないで下さい!」 「あーら、案外シャイなのね。でもあたし、そんなタイプも嫌いじゃないわよ?」 「姉さんっ!!」 声を聞くなり、マーニャは罰の悪そうな顔を浮かべて振り返った。 そこにいるのは、勿論妹のミネア。 「姉さん、クリフトさんは神に仕える身の方なのよ。そんなふしだらなことをしてると天罰が下りますよ?」 「失礼ね!ただおしゃべりしてるだけでしょ!どこら辺がふしだらって言うのよ!」 ミネアはすかさず姉の手を思い切り引っ張りクリフトから引き離すと、申し訳なさそうに頭を垂れた。 「本当にごめんなさい。うちの姉ときたら男の人を見るとどうも黙っていられないらしくって‥‥」 「いえ、私は気にしませんよ。トルネコさんから伺ったんですが、マーニャさんとミネアさんはご姉妹だそうですね」 「そーよ!ソロに会う前までこんの真面目でつまんない妹のミネアとずっと一緒だったから退屈してたのよねー」 「姉さんはお酒とカジノがあれば退屈どころじゃなかったじゃないの!」 「あたしらとはうってかわってアンタはアリーナちゃんと一緒だったんでしょ?いーよなー若い男女二人ってさ」 マーニャの言葉に、クリフトの顔はみるみる赤くなっていく。 怪訝そうに見つめる二人の視線から逃れようと、小さくなりながら言葉をついた。 「わ、わ私と姫様は、決してそのようなっ‥‥!臣下として当然のことを‥‥」 さっきの落ち着いた大人の表情とはうってかわってしどろもどろに小さくなる神官を見て、マーニャはふふと笑った。 ますます追い討ちをかけるかのように質問をかける。 「あーら、お顔が真っ赤。あたしなんかマズイことでも言ったかなー?もしかして、クリフト。気になってるヒトがいたりして。うーん‥‥そーだな。クリフトに近いヒトといえばぁ‥‥」 「そっそっそのような方はいませんっ!断じてっ‥‥決して‥‥!わ、わた私は神に仕えているのですからっ‥‥!」 明らかによそよそしいその態度。 鋭いマーニャは悪戯を思い付いたかのような笑顔で、確信したのだった。 「(こいつ、明らかにお姫様にメロメロね‥‥)」 「(今日こそ勇者殿に礼を言わねば‥‥。常に恩義の心を忘れぬようにと天にいらっしゃる神も仰せなのだから‥‥)」 翌日。クリフトは決心していた。 今日こそソロに感謝の心を伝えようと。姫や老師と旅をしていた頃から早起きが日課だった彼は、旅立ちの支度の後、ソロに声をかけた。 「あの、ソロさん‥‥」 「クリフトじゃないか。一体どうしたんだこんな朝早くに」 「あなたにお話がありまして。ご迷惑でしたか」 「?別に迷惑ってことはないけど。なんだ?俺に話って」 「この間は‥‥」 と、その時である!二人の間に紅いふわっとした巻き毛の少女が割って入った。 「おはよっソロ!」 突然現れた女神のようなその笑顔にクリフトは心を奪われた。 「あれぇ、クリフトもいたの?」 「ひ、姫様。御早うございます‥‥」 「アリーナ。今俺はクリフトと話があるんだ。悪いけど少し待ってて貰えないか?」 「それならいいよ。わたし、ここで待ってるから。クリフト、一体ソロに何の用があるのよ」 「いえ、あの‥‥」 クリフトは戸惑った。ソロへの礼を述べると、姫はきっと彼を褒め称えるだろう。 本人はあくまで、感じるままに思って言うのだろうがクリフトには心から慕う姫君が他の男性を褒めることなど耐えられそうにない。 「いえ、大したことではありません。失礼致しました‥‥」 「何よクリフトったら。わたしがいたら話しにくいことなの?」 「そうだ。なぁクリフト、俺達これから色んな武器屋を見て回ろうと思ってんだけどさ、一緒に来ねぇ?俺のルーラなら、例え何人だろうと行きたいトコにひとっとびだぜ?」 「武器屋?」 状況の分からない表情をしているクリフトに、ソロはことの敬意を説明しだす。 「アリーナがさ、いい加減武器を変えたいって言うんだよね。これからはもっと強い魔物も出るだろうからって」 「別に反論はないでしょクリフト。だってこの鉄の爪、武術大会の時からずっと使い込んでいるのよ?もう、あちこち錆び付いてきてるわ」 「こんなに錆び付いてちゃアリーナも上手く戦えないだろうし、いっそお金に変えて貰えればなぁと思ってさぁ」 「‥‥」 クリフトは寂しそうな顔をした。無駄金を出すなとかそういう感情が絡んでいたのではない。 ただ、悲しかった。 あの鉄の爪はまだ、三人で旅を続けていた頃、クリフトが必死になって金を貯め、姫に授けた物である。 武術大会出場が楽しみで仕方なく、早く試合をとせがむ姫に何度も言い聞かせ、クリフトが二人に内緒で必死にお金を集め姫に授けた鉄の爪。 だからこそ、悲しかった。 あのボロボロに錆び付いてこれから売り払われる運命にある、鉄の爪が自分の姿を写し出しているような気さえして。 「姫様、それほど錆び付いていては、高値では取り引き出来ないのでしょうが‥‥」 「クリフト?」 「姫がそう願われるならば、私は幸せですよ‥‥」 気が付けば、クリフトは走り出していた。二人の呼ぶ声も、もう耳に入らない。 姫君に尽くすことが、神が自分に課せた使命なのだと思っていた。その中で、姫をいつしか思慕の目で見つめながらも‥‥。 その想いも絶ちきられる。もう、姫の御側にいられないと思った。いたくないとも思っていた。 「まさかあんなに落ち込むなんて思わなくてさ‥‥。言いたいことがあるなんて言っといて黙りこくったりするし、一体俺が何をしたというんだか」 ソロはあれほど思い詰めた顔をして駆け出していったクリフトのことを気にかけるあまり、アリーナとの武器屋巡りを断念することにした。 当然、アリーナは苦い顔をしていたが、また後日ということで了承してくれた。 「お人好し過ぎかな、俺。へへっ」 話し相手のマーニャがやけに冷たい視線を送ってくることに照れ隠しをしたのか、ソロは翠玉色の髪をかきあげながら笑う。 「へへっ‥‥じゃないでしょ。あのアリーナもそうだけどさ、アンタもそーとードンカンだわ」 「なっ‥‥!なんでそうなるんだよ!」 「よく考えて御覧よ?あの子はあたしらと会う前はずっとお姫様と一緒だったんでしょ?まぁおじいちゃんが御付きだったけどさ。 ひょっとして、アンタが売ろうなんて考えた鉄の爪は、あの神官からのプレゼントなんかだったりしたら‥‥」 「それがなんだっていうんだよ!」 「あの神官はお姫様に恋してるのよ!それもあの娘のことしか見えないくらい、一途にね」 ソロは思わず吹き出した。あの、冷静で真面目なクリフトが? 「何、それ‥‥?マジで?どういうこと?」 「だから、アンタが余りにお姫様と仲良くしてるの、あの神官にはちっともおもしろくないわけ! 要するに嫉妬って奴!」 「はぁぁ!?」 ソロは考えた。 なんでそんなことになっているんだよ!?俺はただアリーナと話をしたいだけだのに‥‥けど、仲間同士やれ嫉妬だのでむしゃくしゃされるのも気分がいいものじゃないしな・・・。 そこでクリフトの誤解を解くために呼んだのが、 「なぁに?クリフトに伝えて欲しいことがあるの?」 張本人のアリーナ。彼の誤解を解いて貰えるのは、恐らくクリフトが密かに想いを寄せる彼女しかいまい。 「そうなんだよ。彼には‥‥えぇと、俺は別にアリーナのこと狙っているだとかそういうつもりは一切なくて。 それからいくら俺とアリーナが仲良さげにしてたって、お前のことどう想っているかだなんて当の本人にしか分からない訳で‥‥」 「待って。なんか話がよく分かんなくなってきた。もっと分かりやすく最初から言ってくれない?」 「ま、まぁとりあえず、「クリフト、大好き。わたしにはクリフトしかいないの」とでも言ってやってくれ。あいつの誤解を解いて貰うにはお前の口からそう言ってやったほうが早いから。はははっ」 「?‥‥分かったわ」 アリーナは、馬車の外、ただ1人ぽつんとかがえこんで座っているクリフトを見つけた。 「クリフト探したわよ、何でこんなとこにいるのよ」 「姫様、私は‥‥私は、もう貴方の御側におれません・・・・」 「なんで?」 「このまま、ソロさんと仲良くされている姫様を見るのは・・・私にはもう・・・」 「ねえ、クリフト・・・大好き!」 「えっ!?」 姫君が満面の笑顔で告げる真実に、クリフトは驚愕のあまり目を丸くした。 「わたしには、クリフトしかいないよ!」 ――――ま、まさかまさか姫様も私のことを!?これは夢であろうか、夢ならば覚めないで欲しいとクリフトは心から願う。 「姫様‥‥私もずっと、姫様のことが‥‥!姫様っ!!」 感激のあまり、嬉し泣きをするクリフトだが‥‥ それもつかの間の幸せ‥‥ 「ってね、ソロが言ってたよ!」 「!!」 クリフトはそれからショックのあまり気を失ってしまった。 「あ、ソロ!聞いてよ、クリフトったらあの後倒れちゃったの」 「そりゃお前に大好きって言われるんだもの。嬉しいに決まってるだろうよ」 「え‥‥どういうこと?」 「だから、アリーナがクリフトのこと大好きって言ってやったんだ。今頃嬉しくてはしゃぎまわってるに違いないよ!」 「え、そうなの?わたしてっきり、ソロがクリフトのこと、大好きなのかと‥‥」 「え〝‥‥‥!」 その時、ソロは後ろから感じる凄まじいまでの殺気を感じた。 「ソロさん‥‥」 「うわぁぁっクリフト!誤解だっ!俺にはそんなヘンな趣向はないからなっ!」 「私がうかつでした‥‥。世界を救う勇者様と聞いたものですから姫様にとってどんな存在になることかと思っていたら、まさか‥‥私をからかうつもりだったとは・・・」 「違う違う!俺はただアリーナがお前のことについて‥‥!」 「この期に及んでまだ言い訳をなさるつもりですか?」 「だから!・・・うわあ!即死呪文やめて!!」 普段は真面目で、滅多に人と言い争いなどしないクリフトの様子を見て、アリーナはそんな彼がおかしく思えたのか、クスクス笑っていた。 その後、一行はアリーナがたまに馬車に待機している時、不器用ながらも必死で鉄の爪を磨き上げ、また、道具袋に大事に大事にしまってとっているのを見かけることが多くなったとか。 ―おしまい―
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/191.html
クリフトとアリーナの想いはPart7 225 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2007/03/29(木) 19 35 18 ID fD0wWhMX0 「よっしゃー、お題!初めてのキス!」 酔っ払ったマーニャが叫んだ。 宿屋で皆で酒を飲みながら、いつの間にかゲームが始まっていた。 お題を決めて、カードを皆で一斉に引き、ジョーカーを引き当てた者が お題についての自分の体験を告白する、という他愛もないゲームである。 カードを引いた勇者が、げっ、と声を上げた。 「あ、ジョーカー引いたわね!さあ、初キスについて語ってもらうわよ!」 「マジかよ、勘弁してくれよー。」 と、勇者が目を上げると、教会に行っていたクリフトとアリーナが戻ってきた。 「パス!俺、このお題クリフトにパスする!」 「そんなルールは、ありませんじゃ。」 「男らしくありませんぞ。」 ブライとライアンは抗議したが、マーニャはしばし考え、にまりと笑った。 「よし、採用!そっちの方が面白そう!」 マーニャに呼び止められたクリフトとアリーナは、面食らった顔をした。 「はあ?初めてのキスの思い出?」 「何なの、いきなり?」 「いいから!そういうゲームなの!クリフト、とっとと話しなさいよ!」 酔っ払ったマーニャ姐さんに叶う人間はいない。 「なんで私が。どういうルールですか、それは。」 ぶつぶついいながらもクリフトは昔を思い出しているような遠い目になった。 皆は、興味津々でクリフトを見守っている。 アリーナも、息を詰めるようにしてクリフトを見上げていた。 ふいに、クリフトがほっこりと、幸せそうな笑みをもらした。 「おお!!!」 皆が激しく反応する。 「何、何ですか今の!クリフトさん、何を思い出したんですか!?」 「【初キス】お題であんたにそんな楽しい思い出があるわけ!?」(←大失礼) 「クリフト殿も隅に置けませんな。」 「相手はどんな女だ、どんな!」 アリーナは、言葉を失っていた。 (クリフトの初キス…?私、そんなの知らないよ?) 急に周囲の空気が薄くなったように、息が苦しくなった。 皆の大騒ぎに、思い出に浸っていたクリフトが我に返った。 「どんな女とは、失礼な。私は母のことを思い出していたんです。」 「・・・母?」 一気に下がった周囲のテンションに気付かずに、クリフトは懐かしげに語った。 「はい。私の母は早くに亡くなりましたが、毎晩寝る前に、良く眠れるようにと、 優しくおでこにキスをしてくれたことは、今でも良く覚えてます。」 「いい話ですねえ。」 トルネコが家族を思い出したのかしんみりうなずいた。 「いや、いい話なんだけど、ちょっと違う…。」 勇者が横から小さく突っ込みを入れた。 アリーナは、ほっと息をついた。 また、普通に呼吸ができるようになっていた。 そこに、クリフトから声がかかった。 「さあ、姫様。もう夜も遅いですし、寝る時間ですよ。」 クリフトに連れられて2階に上がりながら、アリーナは首をひねった。 (さっきは、何で急に息ができなくなったんだろう?) 考えたが、答えは分からなかった。 アリーナが、自分の気持ちに気づくのは、まだだいぶ先のことになりそうだ。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/317.html
クリフトとアリーナの想いはPart10 54 名前 隣で 1/6 ◆/Vo4sINk9g  Mail sage 投稿日 2009/06/08(月) 01 45 07 ID +8EX44LNO その町にも、夏が訪れようとしていた。 武器や防具を買い揃えた一向は、また明日からの厳しい旅路に備えて宿をとり、身体を休めることにした。 「……あ」 その一室。その日の支出の記録をつけようと帳面を開いたクリフトは小さく声を洩らした。 「何?どうしたの?」 アリーナはガシャガシャと新しい武器を調整していたが、その声を聞き逃さなかった。 アリーナの好奇心に輝く瞳を見たクリフトは、思わず苦笑する。 「今日、この地方では流星群が見られるはずなのですよ。五十年程の周期で現れるのですが、ちょうど今年がそれに当たるのです」 「じい!見に行ってもいい!?」 「お好きなようになさってくだされ…… まったく、買い物は戦闘よりもこたえますわい」 窓際の椅子に腰掛けたブライがぐったりと返した。 「えー、ブライは行かないの?」 「ここからでも空は見られますからな。 ところでクリフト、今回は何時頃から始まるのじゃ?」 「一時間程前に始まっているはずですから、もうそろそろ終わってしま」 「行きましょうクリフト!」 「あああ姫様、お待ちください!」 二人の出ていった扉を見つめて、ブライは溜め息をついた。 「もう、どこ行ったのかしら。せっかくみんなで見ようと思ったのに」 夕食の後、仲間たちは各々宿を出たようだった。町を探し歩くが、その姿は見当たらない。 「仕方ないわ。早く良い場所に落ち着かないと見逃しちゃう!」 「あの丘の辺りはどうでしょう。高い建物がありませんから、きっと空全体が見渡せますよ」 「そうするわ。ほらクリフト、はやく!」 「足下にお気をつけください!」 アリーナは一気に小高い丘をかけ上がり腰を降ろすと、クリフトの方を振り返る。クリフトもその隣にゆっくりと座る。 そわそわと身体を揺らすアリーナを見兼ねて、クリフトが口を開いた。 「一点に集中すると見つけにくいですよ。空全体を、ゆっくりと見渡すのです」 「ありがとう、そうしてみる」 アリーナは足を抱えていた手を地面に付け、後ろへ仰け反った。 「……夜空って大人しくてつまんないって思ってたけど、そうでもないのね。色とりどりで綺麗だわ」 クリフトが空からアリーナに視点を移す。 「色までお分かりになるのですか?」 「え?見えるわよ!」 アリーナは少し驚きながらも、得意気に言った。 「クリフト、目悪いの?」 「良くはないですよ。一応気を付けてはいるつもりなのですが、本を読む機会が多かったもので……」 「そうね。よく図書室に遊びに行ってビックリされたわ……」 楽しそうに語る横顔の端にふと哀惜の影が過るのを見て、クリフトの胸が痛んだ。 「あの星、明るくて綺麗!色はね……青っぽいわ。見える?」 「はい、三つ明るい星が並んでいますね」 「もう片方の端っこは白で……真ん中は赤ね」 「赤ですか。……赤は、大好きな色ですよ」 「へえ、意外。もっと落ち着いた色が好きなのかと思ってたわ」 アリーナは大きな目を見開いた。 「身に付けることが少ないからですかね。私には似合いませんから…… ですが見ていると励まされて、幸せな気持ちになるのです」 クリフトが穏やかに目を細める。彼の見つめる赤は、もう夜空に向けられていた。 「あ!」 突然、アリーナが叫ぶ。 「今流れたわ!あそこ!見えた!?」 「えっ、申し訳ありません、見えませんでした……」 「また流れるかしら?あんなに速くちゃ三回唱えるなんて絶対無理だわ!」 「唱える?」 「願い事。流れ星が消える前に三回唱えたら、叶うんでしょ?」 クリフトの脳裏に、城の図書室が浮かんだ。幼い頃、活字を読むのが嫌いなアリーナにせがまれて読んだ本に、そんな話があった。 「ええと……多分一回でも大丈夫だと思いますよ。要は願いの強さではないでしょうか」 「分かった。力一杯お願いするわ」 珍妙な言い回しだが、何故かアリーナが言うと違和感がないから不思議だ。 「次に見れたら、終わりにしましょうね。風が冷たくなって来ました」 本当は、少しでも長く凛々しい横顔を見つめていたかった。だがこのままでは、ずっと帰る気になれないだろう。 クリフトも夜空を見上げた。 「あ!」「あ!」 二人の頭上を、白い光が駆けた。 「見えた!?見えた!?」 「はい!見えました!」 上気した顔を見合わせる。 「ああっ!願い事言うの忘れてたわ……!」 「今なら大丈夫だと思いますよ。きっとどこかの流れ星が聞いてくださいます」 アリーナは頷くと、立ち上がった。 一つ深呼吸をすると、胸に手をあて、空を見上げる。 …が、またクリフトに視線を戻した。 「一つじゃないとだめ?」 クリフトはくすりと笑うと、一つだけです、と返した。 アリーナは腕を組んで考え込んでいたが、漸く顔を上げると、言った。 「次の流星群までに、クリフトの目が悪くなってませんように!」 クリフトはしばらくぽかんとアリーナを見上げていたが、慌てて立ち上がるとありがとうございます、と礼を述べた。 「……サントハイムのみんなのことを願おうかと思ったの。でもね、きっとそれは願うことじゃないわ。私が頑張らなきゃ!」 ぐっと拳を握りしめるアリーナに、クリフトは胸が熱くなるのを感じた。 「そうですね。私も粉骨砕身、力の限り闘います」 いつか、世界中の人々が本当の平和を手に入れられるように。 アリーナの大切な人達を取り戻すために。 そしていつか来る別れの時まで ――そう、それがほんの一時だったとしても―― アリーナの傍で穏やかなサントハイムの明日を迎えるために。 次に流星群が現れるのが五十年後であるということなど、アリーナは忘れているのだろう。だが、故郷の次に自分のことを願ってくれた、そのことが何よりもクリフトを励ました。 宿に向かって歩く背中は、一つの国を背負うにはあまりにも小さく見えた。自分にはどれだけのことが出来るだろう。いつまでこの背中を支えることが出来るだろう。……きっとそれも問うことではないのだ。自分が為し遂げなければ。この小さく気高い王女のように。 クリフトが足を踏み出したその時、アリーナが振り返った。 「そうだクリフト!動体視力も鍛えておいてね! 五十年後は、もっとしっかりさがしてもらわなきゃ!」 「……姫様、それは……」 クリフトは夜空に一礼すると、アリーナに駆け寄った。
https://w.atwiki.jp/1548908-tf3/pages/1145.html
首領・ザルーグ(DU):蠍の毒 合計42枚 上級1枚 黒蠍-強力のゴーグ×1 下級18枚 異次元の女戦士×1 黒蠍-棘のミーネ×3 D.D.アサイラント×2 首領・ザルーグ×3 ならず者傭兵部隊×2 番兵ゴーレム×3 クリッター×1 黒蠍-逃げ足のチック×1 黒蠍-罠はずしのクリフ×1 メタモルポット×1 魔法17枚 大嵐×1 黒蠍 愛の悲劇×2 サイクロン×1 死者蘇生×1 収縮×2 増援×2 団結の力×1 突進×2 早すぎた埋葬×1 ハリケーン×1 光の護封剣×1 ライトニング・ボルテックス×2 罠6枚 追い剥ぎゴブリン×3 激流葬×1 聖なるバリア-ミラーフォース-×1 ダスト・シュート×1
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/82.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 668 :【姫様がいっぱい!?】1/5 ◆cbox66Yxk6 :2006/03/22(水) 21 24 13 ID 6JsiJkcp0 アリーナとクリフトの仲を邪魔したいサントハイム王は今日も玉座で唸っていた。 「・・・なんか、こう、あやつをぎゃふんと言わせられるような・・・」 眉間に寄せられたしわの深さに、苦悩の一端が垣間見える。 しばし、うんうんと唸っていた王だったが、急に立ち上がるとブライを呼びつけた。 何事かと慌ててやってきたブライに、王はにこやかに告げた。 「ちと悪いが、勇者殿を呼んできてくれんかのう」 ブライは、また陛下のご病気が始まったと内心ため息をついたが、賢明にも表情に出すことはしなかった。 「陛下、準備が整いましてございます」 「うむ」 ブライの声に重々しく頷いたサントハイム王は、傍らに控える人影に視線を送る。 「頼みましたぞ、勇者殿。いや、アリーナたちよ」 「は~い、お父様」 サントハイムの傍らに控えていたのは、アリーナにモシャスをした勇者ソロと、そのソロの口添えでピサロから借りてきたマネマネ数匹。こちらもアリーナにモシャス済みだ。 サントハイム王が画策したこと。それは偽のアリーナをたくさん仕立てて、クリフトに本物を当てさせようというものだ。しかも、その中には本物はいない。 単純な思いつきとはいえ、王は自分の考えに悦にいっていた。 アリーナにモシャスした勇者を見たとき、王は本人と思わず間違えかけた。さすがに長く共に旅をしてきただけのことはあり、アリーナの癖や仕草もよく知っている。その他のマネマネ集団は若干不安が残るものの、見た目は完璧だ。 王は内心高笑いをしていた。 父親である自分でさえこうなのだから、クリフトなどひとたまりもないだろう。 (やっとクリフトのすまし顔に泥を塗ってやれるわい) 王の表情から何を悟ったのか、ブライが深々とため息をついた。 そして頭を振ると、疲れの滲む声で奏上した。 「陛下、姫様がただいま城を抜け出したとのことですじゃ」 わざわざ警備まで甘くして、何も知らないアリーナの脱走を促す。 本来なら部屋にでも閉じ込めておければよいのだろうが、あの『アリーナ』がおとなしく閉じ込められているとは考えにくい。というか、閉じ込めることすら不可能である。 ならば、いっそのこと城から出ていてもらおう、というのが王の考えであった。 (普段ならば、姫様が脱走しただけで怒鳴り散らすというのに) ブライはその報告に嬉々としている王を見つめ、複雑な顔をした。 (はたして、うまくいくものかのう) ブライの呟きはサントハイム王の喜びの前にむなしくかき消された。 「のう、クリフト。ちょっとわしの座興に付き合ってくれんか」 なに、お前にとってはそんなに難しいことじゃなかろうて。 含み笑いをするサントハイム王にクリフトは何やらよからぬ予感を覚えたが、それを押し隠し王の次なる言葉を待った。 「そなたがどの程度アリーナのことを理解しておるか、知りたくてな。この中から本物を見つけてほしいだけじゃよ」 ずらりと並ぶアリーナにクリフトは軽いめまいを覚える。 偽者とわかっていても、愛する人がずらりと並ぶ光景は圧巻である。 仕方なく、ひととおり視線を送ったクリフトは、おもむろに口を開いた。 「申し上げます。この中に本物の姫様はいらっしゃいません」 クリフトの声と同時に、アリーナの怒鳴り声が響き渡る。 「ひどいわ、クリフト!!」 目を吊り上げて怒る『アリーナ』にクリフトは冷たい視線を向ける。 そしてにこやかに笑った。 「こんなところで何をなさっておいでです?ソロさん」 「げ、ばれてる」 思わず呟いたソロに、クリフトは追い討ちをかけるように言い募る。 「わざわざピサロさんに『マネマネ』までお借りしてきたのですか」 クリフトの言葉にモシャスを解くと、ソロは両手を上げた。 「降参」 クリフトは満足げに頷くと、王に向かって礼をとる。 「用件は以上でございますか?」 あまりにもあっさりと見破られてしまい、あっけに取られていた王は「うむ」と応じると、クリフトに退室を促した。が、クリフトが扉の前まで行ったとき、躊躇ったように呼び止めた。 「クリフト、そなたはそこまでアリーナのことを・・・いや、なんでもない。行ってよいぞ」 王の言葉に扉の前で優雅に一礼すると、クリフトは静かに退出した。 「あ、クリフト、待ってくれよ」 ソロは、王にぺこりと頭を下げるとクリフトのあとを追いかけていく。その後姿を見つめながらブライが口を開いた。 「陛下、いかがですじゃ」 ブライの言葉すら耳に届いていないのか、王は片手を額に当ててうつむくと、深々とため息をついた。そして少し切なげに呟く。 「あんなにあっさりと見破られたのでは、認めるしかないではないか」 自分ですら一瞬戸惑ったというのに、あやつは躊躇いもしなかった。 それはすなわち、それだけアリーナのことを理解しているわけで。 悔しいと思いつつも、そこまで娘をわかっていてくれるとなると、男として認めざるを得ない。 非常に不本意だが、王はすこし感動していた。 だが・・・・・・。 「えぇい、かわいげがなさすぎるわ!!!」 急に声を荒げた王にびっくりしたマネマネの何匹かがモシャスを解き、まごまごした。 「やっぱり、いやじゃ、いやじゃ、いやじゃ・・・認めとうないわい」 泣きじゃくる王を、はじめのうちは遠巻きに見ていたマネマネたちだったが、次第に一匹、二匹と集まってくると、代わる代わる王の肩をぽんぽんと叩いた。 「おぉ、そなたたちはわしの気持ちをわかってくれるのか」 魔物に同情され、あまつさえ慰められてしまった王にブライは頭痛を覚えた。 「陛下、頼みますからそろそろ大人になってくだされ」 アリーナの姿を保ったままのマネマネをわざわざ選んで、縋り付いて泣く王は、なんだかすこし幸せそうであった。 「お~い、クリフト、待ってくれよ」 長い廊下の先で立ち止まり振り返ったクリフトに、ソロは不思議そうに訊く。 「なぁ、お前さ、どうしてわかったんだ」 おれ、結構自信あったんだぜ? ブライから話を聞いたソロは、実は密かに何度も練習を積み重ねてきた。 そして、ブライにさえお墨付きをもらえるようになったというのに、ああもあっさりと見抜かれたのでは納得できない。 ソロの問いにクリフトは頷いた。 「そうですね。ソロさんはとても上手に化けていらっしゃったと思いますよ」 「じゃ、何でだよ?」 ソロが繰り返して聞くと、クリフトはすこし悪戯っぽく笑った。 「ヒントをあげましょう。外出された姫様はそのあと、どこへ向かったのでしょう」 お城の外に一度出たからといって、お城の外だとは限りませんよね。 クリフトの言葉に、一度は首を傾げたソロだったが、その意味に思い当たって吹き出した。 「そういうことか」 「そういうことですよ」 そうじゃなかったら、結構危なかったかもしれませんね。 照れたように付け足したクリフトに、ソロは微笑んだ。 「そっか」 うまくやってるんだな。 旅の間、ぜんぜん進展しないふたりにやきもきしたこともあったけど、それは杞憂だったようだ。 「よろしかったら、私の部屋でお茶でもしていきませんか?」 「おう」 勢いよく答えたソロだったが、次の瞬間「あっ」と口を押さえた。 「どうしたのです?」 クリフトが驚くと、ソロは少し顔を赤くした。 「もしかして、おれ、お邪魔虫?」 ソロの言葉にクリフトは声を上げて笑った。 「大丈夫ですよ。今日はまだ、そこまでいっていませんから・・・って何て顔をなさっているので す。冗談ですよ、冗談」 おいおい、全然冗談に聞こえないんですけど。 (終)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/405.html
クリフトのアリーナの想いはPart12.5 73 名前 1/8 Mail sage 投稿日 2012/01/18(水) 02 33 13.25 ID PE5bo6oc0 冒険後の話で一つ書きました。 ちょと長くなりましたが。 アリーナたちがサントハイムに帰還してから半年。 着々と復興は進み、城は元通りの美しさを取り戻しつつあった。 だがそこに、頭を抱える人物がいた。 「足りませんな」 「足りぬか」 サントハイム王、ブライ、それに大臣たち。 「失業者も増えておると言うのに」 「しかしこれ以上国民に負担はかけられん」 「うーむ…」 復興は進んでいたが、空白の数年間、ほぼ国としての機能が停止していたのだ。 その間に職を失った者、整備されなくなった道路、廃墟と化した関所など、 まだまだ問題は山積みだった。 アリーナとの結婚と引き換えに、多額の寄付を申し出る有力者も少なからずいたのだが、 これまで苦労をかけっぱなしだったアリーナに、そのようなことはさせたくないと サントハイム王は親心から縁談を断り続けていたのだが。 「…やはり、アリーナ様に…」 「…」 大臣が何か言いかけたが、王はまだ決心がつかなかった。 「そのことなんですが、陛下」ブライが口を開く。 「私にひとつ、案があるのですが」 「なあに、話って」 アリーナの格好ときたら、旅をしているときよりも酷いものだった。作業着に安全靴。 本人たっての希望で、彼女はあちこちの現場で復興作業に追われていた。 ブライも王もいい気はしなかったが、一人で10人分の仕事をこなすのだから文句は言えなかった。 「今度、武道大会を開きたいと思う」 「あら、素敵ね!」アリーナが目を輝かせる。 「私も出ていいのかしら」 「いや、お前は主催として見物していてもらう」 「えー。つまんない」 ふくれっつらになるアリーナの横には、一緒に呼び出されたクリフトが立っていた。 (姫様らしい)アリーナの顔を見たのは1ヶ月ぶりだった。自然と笑みがこぼれる。 「大会では参加費を徴収し、これと観戦チケット代を財源にあてようと思っている」 「ふーん。たくさん集まるといいわね」 自分が出られないと分かった途端、アリーナの興味は削がれたようだった。 「優勝商品なのだが、現金か、アリーナとの結婚か、どちらかを選べるようにしようと思う」 「ふーん…って、え!?」 「は!?」 アリーナとクリフトの声が響く。 「ななな何勝手なこと言ってんの!冗談じゃないわよ!」 「へへへ陛下。それは、本気で仰っているのですか?!」 「落ち着け2人とも。これは、復興資金を集めるのが目的。 エンドールの大会は実に多くの参加者が集まったと聞く。要はそのパクリだな。 それでだ、クリフトには、サクラになってもらおうと思う」 「サクラ…ですか?」 「うむ、クリフトには出場してもらい、ぜひとも優勝してもらいたい」 「えええっ!?」 今度はアリーナとクリフトの声がハモった。 「まあ待て。クリフトには賞金の方を選んでもらってかまわん。当然ながら賞金は受け取ったフリになるわけだが」 「…セコ」アリーナがつぶやく 「参加費は集まるわ入場料は取れるわサランには人が集まるわで経済効果が期待できるだろう、ん?」 「…」(ああ、そういうことですか…) 一瞬胸が高鳴った自分のなんと愚かなことか。 「しかし陛下、私が優勝するとは限らないのでは…いえ、全力は尽くす所存ではありますが」 「うむ。念のため、勇者殿とライアン殿にも使いを出した。」 「ふーん。どうせ賞金はあげないんでしょ。ずるがしこいっていうかなんていうか」 「まあまあ。もちろん、参加費は受け取らないし、最大限のもてなしで迎えるつもりだ。」 「ブライでしょ、これ考えたの。まったくもう。」 「ほほほ。まあ、もし万が一どこの誰とも知らないものが優勝しても、よいではありませんか。 それだけ強い者であれば、相手に不足はないでしょう」 それまで黙っていたブライが高らかに笑う。 「冗談やめてよ。もう。」 時は流れ、大会当日。 「久しぶりだな、クリフト。」 「ソロさん。ライアンさん」 出場者控え室でそわそわしていると、懐かしい2人がやってきた。 「お前も出るんだって?ザキはやめてくれよ」 「公衆の面前で唱える勇気ありませんよ」 「随分と参加者が多いようだな」ライアンがつぶやく。 「はい。やはり、姫様と結婚…というので話題を呼んだようで」 「…ふーん。アリーナってけっこうモテるんだな」 「どうなんでしょうね。腕試しや、賞金が目的の方もいるでしょうし」 「クリフト、それでお前は何が目的なんだ?」 「分かってるくせに聞かないでください」 クリフトがむっとした声で答えた。はいはい、とソロが笑う。 「マーニャさんたちは来てるんですかね」 「2人とも、サランで遊んでるよ。出店とか色々出てたから」 「トルネコも家族で来ると言っていたから、後で来るだろう」 「そういえば、ソロさんは一人ですか?」 問いかけられて、ソロは下を向く。 「それがさあ。朝ふざけて俺アリーナと結婚したらサントハイムの王になるのかなーとか言ったんだよ。 そしたらシンシア怒っちゃって、勝手にしろって追い出された」 「…」 クリフトが笑いをこらえる。 「不用意だったな」ライアンが笑って言う。 「負けないぜ、二人とも。」 「ああ」 「…ええ」 「あーあつまんない。私も参加したかったなあ」 久しぶりにドレスに身を包んだアリーナは、特設スタジアムに用意された高台の特別席から、 リングをぼうっと眺めていた。 「何を仰いますやら。姫様をダシにしたおかげで、ほれ、この参加者と観客の数。 笑いが止まりませんな」 満員になったスタジアムを見渡しながら、ブライがほくそ笑んだ。 「ま、いいけど」 (つまんない。出たかったなー。誰が優勝だろ。やっぱりソロかな?でも、力だけならライアンよね。クリフトは…どうなんだろ) 「魔法の使いどころや戦法で、勝者が決まるでしょうな。さて、誰が優勝しますやら」 アリーナの考えを読んだのか、ブライが呟いた。 大会はトーナメント方式で、順調に3人が勝ち進んだ。 クリフトは難無く準決勝戦の相手を倒した。もう一つの準決勝戦である、ソロ対ライアンの試合はもうすぐ始まる。 (クリフトって、こうやって見ると、強いのよね) アリーナは旅の間はソロやライアンといった達人を見慣れていたため、クリフトのことはそこそこ戦える回復役、 くらいにしか思っていなかった。 「…いつの間にかあんなに強くなってたんだなあ」 「おし。行くか。」「本気で戦わせてもらうぞ」 ソロとライアンは気合十分だ。 クリフトはリングの下から、「2人とも頑張ってください」と声をかけた。 試合開始の合図が鳴る。剣で打ち合う2人。 (ソロさんもライアンさんも強いもんな…決勝でどっちとあたっても、勝てる気がしない) 少しソロが押されているように見えるが、即座に回復し、反撃する。 (魔法がある分、一対一ではソロさんが有利なのかも) 一進一退の攻防が続く。 客席から、聞きなれた声で「ライアン行けー!」「ソロさんもがんばってー!」という声がする。 ライアンの放った一撃が、ソロの剣を床に落とした。 「!やべ」 ソロが剣を拾おうとしたそのとき、ライアンがすかさず剣を繰り出してきた。 「ライデイン!」 閃光が走り、ライアンの剣を直撃する。 「ぬわっ」 ライアンも剣を取り落とした。 その瞬間、ソロは剣を拾い、反撃に出る。 「…参った」 ソロの剣を喉元に突きつけられ、ライアンが唸った。 「お疲れ様でした。すごい試合でした。」 リングから降りた二人にクリフトが駆け寄る。 「はぁはぁ、めっちゃ疲れたわ・・・」 「さすがでしたな、ソロ殿…はぁはぁ」 「なんか、これが決勝戦でよくない?」 客席で勝手なことを言っていたのはマーニャだった。 決勝戦は1時間の休憩を挟んでからだ。 (勝っても負けても、何が変わるってわけじゃないんですよね) クリフトが勝とうが負けようが、賞金が出るわけでも、アリーナが結婚するわけでもない。 それに、ソロ相手に勝てる気もしない。 (でも、勝ちたい。) 「全力で行くぜ」 「はい。よろしくお願いします。」 試合が始まった。 (速いな…)魔法を唱えるのが速いし、次の動作に移るのが速い、とソロは思った。 一撃一撃は重くは無いが、なかなか隙が無い。 (ダメージ与えるそばから回復されちゃあ、たまんねえな) 「一気に決めてやるぜ、クリフト!」 ソロが畳み掛ける。 (やっぱり強い) クリフトは必死でソロの攻撃を受け流す。 (まともにくらったら、まずい…) 勝ちたい。姫様にいいところを見せたい。我ながら、子どもみたいな理由だ、とクリフトは思う。 「クリフトがんばれー!!!」 ふいにアリーナの声が会場に響き渡った。 2人は剣を構えたままにらみ合った。2人とも、だいぶ息が上がっている。 「往生際悪いぜ、クリフト」 「ソロさん、こそ…」 「俺もシンシアとの仲がかかってるからな。負けるわけにはいかないんだよ」 「それと試合と何の関係が…」 「うるせーな。優勝して、アリーナとは結婚する気ありません!って宣言しないといけないんだよ、俺は!」 その瞬間。 「隙ありいいいいい!!!」 ソロの放った一撃が、クリフトの剣を叩き落した。 「あっ!」 「どりゃあああああ」 ソロの渾身の一撃が、クリフトを盾ごと吹き飛ばした。 「疲れたあ…」 「良い試合だった。クリフト殿も惜しかったな」 「いえ、私なんて全然…」 「何を言う。最後の一瞬の隙が実に惜しかった。ソロ殿の集中力もだいぶ切れていたし、持久戦に持ち込めば勝てたのではないか?」 「とんでも、ないです…」 「クリフト、お前さ…」 ソロが何か言いかけたそのとき。 「みんなお疲れ様!」アリーナが駆けてきた。 「よーアリーナ。これで俺と結婚だな」 「バカ言わないで。3人とも、すごいかっこよかったよ!」 クリフトが目を伏せる。 「おい、何テンション下げてんだよ!」 「べ、別に」 「おいアリーナ、こいつお前にかっこいいとこ見せたかったんだぜ~なのに悪かったな!な!クリフト!」 クリフトにヘッドロックしながらソロが笑う。 「ちょ、な、何言ってるんですか」 「…うん。かっこよかったよ、クリフト」 「あ、ありがとうございます…」消え入りそうな声でクリフトは答えた。 「この後ね、優勝者へのインタビューがあるから。くれぐれも私と結婚するなんて言わないでよね」 「ああ、そんな冗談今度こそシャレにならん」 その後、ソロは高らかに家でかわいい彼女が待っているので結婚はしません! 賞金はサントハイム復興のため寄付します!などと宣言していた。 「皆の者、今日は遠路はるばるご苦労だった。おかげで大会は大成功だ。 心より感謝する」 マーニャとミネア、トルネコ一家も加わって、 約束したとおり、その夜はソロたちを労っての晩餐会が開かれた。 「意外に盛り上がったわね、決勝戦」 「クリフトさん、あんなに強かったのね」 「そりゃあ、いいとこ見せたかったんですよ。ね、クリフトさん。あれ、クリフトさん?」 トルネコが声をかけた先にクリフトはいなかった。 「あれ?さっきまでいなかったあ?」マーニャが首を傾げる。 「なんか教会に用事がとか言ってたけど」ソロが答える。 「俺ちょっと見てくるわ」 サランの街には多くの旅行者が訪れ、街灯が明るく街を照らしていた。 その様子は城からもよく見える。 「大成功だな、ほんと。よかったよかった」 教会の扉を開けると、椅子に腰掛けるクリフトの背中が見えた。 「何やってんだ?」 「あ。ソロさん…」 言いながら、ソロはクリフトの隣に座る。 「どうしたんだよ」 「いえ、なんだか気まずくって」 「なんでだよ。俺に負けたくらい、どうってことないだろ」 「いや、そうじゃなくて…なんというか」 「…お前さ。途中で手抜いたろ?」 「え?」 「ふっとお前から戦意が消えたんだよ。そこで一発叩き込んだわけだけど」 「…あー…」 「俺を勝たせようとか思ってくれたわけ?」 「いや、別に…大体、優勝しなくたって、誤解くらい解けるでしょう、あなたたちなら」 「ま、そーかもな。早く帰って謝らねーと」 クリフトが視線を落とす。 「なんだってんだよ。お前」 「ふと、思ったんですけど」 「ん」 「私がもし優勝してたら、姫様ではなく賞金を選ぶと宣言しなければいけなかったわけですよね」 「…まあ、そうなるな」 「あ、そうなるか、とか思ってしまって」 「なるほど」 「いや、別に元々、結婚なんて出来るわけないですし、宣言したところで、姫様にとってはそれが当たり前なのは分かってるんですが」 「…」 「そしたらなんだか、姫様の顔を見るのが辛くなってしまって」 うーん、とソロは腕組みして唸った。 「…あんまり思いつめんなよ。とりあえず、アリーナはしばらくは結婚とか考えなくてよくなったんだし。 戻って飲もうぜ」 「…はあ…」 ゆっくりと2人で立ち上がる。 「サントハイムの料理、俺けっこう好きかも。けっこう香辛料とか効いてて…」 突然、ソロが言葉を失った。 「ソロさん?」クリフトがソロの視線を追う。 そこにはアリーナが立っていた。 「姫様。どうしました?」 涼しい声を取り繕って口を開いたが、は、と我に返る。 ―いつから。どこからどこまで聞かれていた? 「あ、あのいつからそこに」 「…」 アリーナは答えない。みるみる真っ赤になる顔色から、全て聞かれてしまったんだとクリフトは悟った。 「…」 なんて。 なんて、言い訳したら。 (こうなったら) 「あの、姫様、その、行きましょうか。みなさん待ってますよ」 (シラを切り通す!) アリーナの横をすり抜け、歩き出したそのとき。 アリーナがクリフトの服の裾を掴んだ。 「姫様?」 「…クリフト、今日かっこよかったよ」 「あ、ありがとうございます」 「がんばれーって、言ったの、聞こえた?」 「え。…幻聴かと思っておりました…」 「やだ。違うよ」 アリーナが笑った気がするが、クリフトは振り返れない。 ソロはアリーナとクリフトの顔を交互に見ると、 「あー俺、さ、先行くから!」 猛ダッシュして見えなくなってしまった。 (…ソロさん、ひどい…) クリフトはしばしこの状況に絶望したが、そうも浸っていられない。 「さ、行きましょう姫様。しかしソロさんは何一人で走って行ったんでしょうね」 クリフトはあくまでもシラを切り通すつもりだ。 「待って」 「…はい」 「さっきの言葉の意味、ちゃんと教えて」 クリフトの背筋が凍りつく。 「な、何のことでしょう。私は何も」 「聞き間違いじゃなかったら、とっても嬉しいことだったと思うの」 「…え?」 「だ、だからあの、やだもう、恥ずかしい」 アリーナはクリフトの背中に顔を埋めた。 「何ー遅くない、あの2人」 「なあマーニャ、賭けないか」 「何が?」 「戻ってくる二人がどんな顔してるか」 「えー?」 俺は真っ赤な顔してくるに一票だな、そうソロが言ったとき、静かに扉が開いたのだった。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/28.html
本当はクリアリが好き 270 名前: とびねずみ ◆NezmymcE 投稿日: 02/06/05 10 07 ID ??? アリーナのケーキ この間、台所を覗いたら、クリフトが、エプロンをしてケーキを作っていた。 教会のバザーに出して、お金を集めるんだって。メイドに一所懸命教わって、 額に汗いっぱいかいてた。普段は女性の前では涼しい顔してるのにね。メイドだ って女の子なのに、その前であんなに汗をかいて、しかもその汗をふいてもらったり してさ……。あ、ええと、そんな事はどうでもよくって。 それがね、味見したら、すごく美味しかったの。びっくりするくらい。 だから、私はコックにケーキ作りを教わったの。クリフトに(どんな事でも) 負けるのは悔しいし。それに、クリフトに教えたメイドに教わるのも悔しかった んだもん。 だけどねえ、なんだか、やきあがったのって、真っ黒なの。クリフトのは綺 麗なきつね色に焼き上がっていたのにな~~。コックも不思議そうな顔してた。 でも、いいわ。クリフトが作った時よりもいい材料だって言ってたもの、きっと 美味しいはずよね。 「クリフト、食べてみて? クリフトのケーキに負けないはずよ」 「姫さまがこれを? 私の為に作ってくださったのですか?」 「う~ん……クリフトの為に作った、といえなくもないかな~」 「感激ですっ。もちろんいただきますっっっ」 がちっ。 クリフトのケーキにフォークを入れた時とは、随分違う音がしたわね……。 「ぐわっっ」 「な、なに??? どうしたの???」 「ひ、姫さま、これは薬用なんですか??」 ……………。これって、どっちの勝ちなのかしら?
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/102.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 909 :【暑がり・寒がり】1/2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/14(金) 17 33 26 ID 1LJiWNv+0 「う~、あーつーいー・・・」 真夏の行軍は、かなり過酷である。 暑さしのぎのためにピンクのレオタードを装備したアリーナがうんざりしたように天を仰ぎ、ぎらぎらと照りつける太陽を恨めしげに睨む。暑がりのアリーナにとっては辛い季節だ。 「ほんと、暑いわね」 同じく暑がりのマーニャが鉄の扇をパタパタさせながら同意する。こちらもアリーナと同じくピンクのレオタードを装備していたが、踊り子の服に比べると布地が多いため、暑さしのぎといってよいのか微妙なところだ。 ふたりでさんざん暑い暑いと呻いていると、見ているだけで暑苦しいクリフトが水筒を差し出した。 「ありがと」 「あら、気が利くじゃない」 お礼を言いつつ水筒を受け取ったアリーナだったが、ふと目の前の青年の服を掴んだ。 「ね、クリフト、暑くないの?」 真夏の日差しの中でも神官服。それも全く着崩したところがない。 「いくらあなたが寒がりだからって、これじゃ暑いわよね」 脱いじゃえばいいのに。 アリーナの言葉に、クリフトはやんわりと笑うとわざとらしく祈りのポーズをする。 「これも神のご加護・・・ではなく、慣れですね」 精神修練のひとつですから。 事も無げに言い切る。 その言葉を聞いたマーニャが、鼻の頭にしわを寄せた。 「精神修練ね」 ふ~ん、私が一番苦手なことだわ。 何気なく聞き流しかけたマーニャだったが、はたとクリフトの衣に視線を移した。 そしてしげしげと分厚い神官衣を見つめると、にやりと笑う。 その笑いになにやら不吉な予感を覚えたクリフトが、知らず身を引く。 マーニャはそんなクリフトの腕を取ると、からかいの色を滲ませて耳元で囁いた。 「もしかして『あの状態』を隠すために厚着してるんじゃないの?」 視線だけでアリーナを指し示し、マーニャが聞いてくる。 瞬間、クリフトの顔がこわばる。が、それこそ精神修練の賜物か。即座に笑顔を作るとシラをきる。 「まさか」 「嘘」 「違いますよ」 「ほんとに?」 「本当です」 クリフトのその言葉に、マーニャはにんまりとする。 「じゃ、証拠みせて」 言うや否や、アリーナを呼び寄せる。 「なぁに」 小首をかしげてやってきたアリーナにマーニャが微笑む。 「アリーナ、ちょっと膝に手を当てて屈んでみてくれる?」 「こう?」 腕に押し上げられ強調されたアリーナの胸が、クリフトの視界に映し出される。 同時に、クリフトの笑顔が凍りつき、身体が硬直した。 マーニャはその様子を満足げに眺めると、満面の笑みを浮かべた。 「じゃ、見せてもらいましょうか?」 力なく歩み去るクリフトの背を見送りながら、マーニャは思った。 「そういえば」 ステテコパンツってクリフトとソロ、つまり『若者』は装備できないのよね。 「つまり、そういうことか」 ―――いま、ドラクエ世界の、最大にしてどうでもいい謎が解けた。 (終)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/91.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 797 :隙間風1/1:2006/04/04(火) 16 16 19 ID wPcTlD/d0 ー隙間風ー その日は夕方から風が強かった。 そんな中山小屋を見つけられたのは幸運だった。 資材置き場として使われていたのだろうが生憎と火を起こせる様な場所は無かったが この強風が避けられるだけでもありがたいことだった。 「ふ~すごい風~」 アリーナ姫の美しい髪も今日は砂埃や葉っぱが絡みついている。 ようやく風を避けられ、ほっと一息つきながら手串を通して必死に髪を整えていた。 何とか3人が横になれる場所はあったのだが粗末なつくりの山小屋隙間風が吹き込んでくる。 季節外れの強風、寒さ対策をするには早い季節で手持ちの防寒具が少なかった。 クリフトはお歳を召してるブライ様を心配して自分の分を渡して就寝した。 「クッシュン」 深夜可愛いクシャミで目を覚ました。 いまだに風が吹き止まずギシギシを山小屋を揺すり、隙間風が体温を奪っていく。 「姫さま眠れませんか?」 クリフトが毛布を渡したかい合ってか、寝息を立ててるブライを起こさぬようにそっと声をかける。 声をかけられたアリーナはマントと毛布を自分の体に巻きつけながらモゾモゾと身を起こした。 「そうね、小屋なのにけっこう風吹き込むわね」 動きにくいと言って厚着を嫌うアリーナは薄着なのでこの隙間風は堪える様だった。 「私どもの準備が悪く、姫さまにご不便をおかけして申し訳ございません。」 「ん、クリフトのせいじゃないわよ。」 そう入ったもののアリーナの肩は小刻みに震えていた。 自分の毛布はすでにブライに渡してしまっいて他に渡せるようなものはない。 何か方法は無いかと考えをめぐらせるクリフト。 あっ、この自分のコートみたいな上着なら姫さまを包めるかもしれない。 必着することになってしまうけど、ここは仕方ありません! そう他に方法が無いんだし、不本意ではありますがこの不肖クリフトが姫様を あっためて差し上げるしかないんです!!! クリフトはプチプチと早急に上着のボタンを外していく 「ちょっ、ちょっと、な、なに!?」 「ひ、ひめ・・・」 明らかに暴走した考えに取り付かれてるクリフト いきなり服を大きく広げ、覆い被さって来ようとする。 その姿はなんというか・・・・コートを広げて見せてくる変態っぽかった。 しかしクリフトがアリーナまで達することは無かった。 「なに考えてるのよーー!!!」 ドガッ!! アリーナの強烈な鉄拳が決まってクリフトは壁まで吹っ飛ばされた。 「ぐ、ぐえ・・・」 断末魔を残してクリフトは気絶した。 「ったく、突然なにしようとするのよ!」 大きく肩で息をしながらアリーナは突然のクリフトの行動に今でもドキドキして胸が熱かった。 クリフトの本意とは違ったがとりあえずアリーナは暖まったようだった。