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クリフトのアリーナの想いはPart11 164 名前 デイジー Mail sage 投稿日 2010/04/08(木) 22 07 22 ID l+7s1aBPO 小休止をするために馬車を小高い野原に留めたソロは、ふいと目線を泳がせた先に雛菊が固まって咲く野原を見つけた。 デイジーよ、綺麗! そんな声がしたかと思えば、アリーナが一目散に雛菊の群へと走り出して花の中へ飛び込んでいった。 雛菊の中で屈託無く笑うアリーナを見て、パーティー随一のアタッカーもやっぱり何だかんだ言って年頃の女の子なんだな…と少々こんな考えが浮かんだソロは、複雑な表情のまま自分の横にぼんやり立つクリフトをちょっとだけからかった。 「お前、愛しの姫君をデイジーに取られて悔しくないのか?」 「え、いやっ、あの……」 多分クリフトの奴また煮え切らない返事しかしないんだろう、あいつはいつもそんなもんだから。 ソロはそんな不器用な友人の返答を、ニヤ付いた顔を隠すこともなくのんびり待っていた。 しかししばらくして返ってきたクリフトの返事はソロのそんな予想とは裏腹に非常にはっきりしたものだったので、彼は少々面食らってしまった。 「いいえ、私もデイジーは好きですし何より姫様にとてもお似合いだと思うのです、ですから嫉妬などはこれっぽっちも……」 「ふうん、そっか」 確かにアリーナにはデイジーが似合ってるなあ、などとソロは呑気にそんなことを思ったのだが、では何故に何かを押し留めた表情のままなんだろう……クリフトの言動の奥に少しだけ引っかかる何かを感じた。 詮索するべきではないとはわかっているもののやっぱり気にはなるなあ……聡いクリフトは友人の悶々とした疑問の表情に気が付いたようで、ああ成程といった笑顔の後にとても穏やかな、ただちょっとだけ影の落ちたような笑いを浮かべて話を続けた。 「デイジーの花言葉をご存知ですか」 「花言葉?いや知らない」 「純潔、だそうですよ。まるで姫様そのものですよね」 「クリフト、お前」 クリフトはアリーナとあのデイジーを重ねているのだろう、紛れも無く恋焦がれた瞳を花畑に向けていた。 ソロ自身にも、いつも花畑で微笑みながら自分を見守ってくれた愛しい存在が居た事を思い出していた。 今はもう昔の話であったが全て失ってしまった。 花に決して触れられない想い人を投影する友人を見たソロは、胸の奥にチクリと痛む何かを感じた。 誰にも汚されない、という白い花はまるで彼女みたいだ。 そう、自分みたいな人間なんかには不釣り合いなんだ。 命を簡単に操る呪われた術を持っている自分、そして彼女に身の程知らずの恋慕と汚れた熱情を抱いてしまった身には決して手折る事の出来ない白い花。 クリフトは大方そんな事を考えているのだろう、決して想いを打ち明ける事など出来ない辛さ、にいつかこの真面目な男は押しつぶされてしまうのか。 何とも言えない屈折した考えを随分とぐるぐる繰り返していたのだろう、アリーナが一輪の雛菊を携えクリフトの側に駆け寄って来る軽やかな音がしてようやく、ソロは現実に帰って来たのであった。 当のアリーナは明るい澄んだ声でクリフトにじゃれつくように話し掛けていた。 「ねぇほら素敵でしょう!私ばっかり独り占めじゃいけないからクリフトにもおすそ分けしに来たの!」 「……え?」 「本当はクリフトも一緒にって思ったんだけど、ソロとお話してるみたいだから邪魔したら悪いかなって」 「そうですか……ありがとうございます」 「うん。私まだあと少しあそこにいるから、もしよければクリフトも来て!」 純粋無垢な笑い声が花畑へと遠ざかっていった、あちらからはアリーナを呼ぶ姉妹の声も聴こえる。 賑やかなもんだなぁと苦笑いしたソロは、クリフトに視線を黙って移す。 当の彼はぼんやりと指先で雛菊を持ったまま立ちすくんでいる。 「ほら、アリーナも誘ってくれたんだし俺達も行こう」 先程の切なさを振り切るようにして明るい声を上げたソロの声の大きさに、クリフトは少し驚いたのだろうか。 一呼吸置いて「えぇ」と少しだけおぼつかない返答が返ってきた。 ソロは「そう来なくっちゃな!」とニヤリと笑った後すぐ花畑に振り向き、「おーい」と大声で大きく手を振りながら丘を駆けだした。 だからソロは見ていなかった。 だからクリフトは見られていなかった。 指先の花にひとつ、慈しむようなキスを落として白い花びらをそっと指先でなぞった仕草を。 *
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クリフトのアリーナの想いはPart12.5 662 名前 人気投票1/3 Mail sage 投稿日 2013/01/21(月) 22 32 54.92 ID XX9PyRYU0 「こんな…ありえません…。」 クリフトは、無機質な文字が並んだ書面を凝視して呟いた。 ここは、サントハイム城の賓客用の間。 大きく開け放たれた窓際にはティーテーブルが用意され、そこでは 客人である緑の髪の青年がのんびりと午後のお茶を楽しんでいた。 「ん?今メイドさんが持ってきてくれた手紙か?何かあったのか?」 勇者はテーブルから立ち上がると、クリフトの手元を覗き込んだ。 「ああ何だ、人気投票結果のお知らせか。ずいぶん遅いな。 俺のところには、確か先週あたりには届いてたぞ。」 「え…。」 勇者はクリフトの顔を見てニッと笑った。 「栄えある1位獲得、おめでとさん!」 クリフトは慌てた様子で手にした紙をくしゃりと握りしめた。 「い、いえ、そんな、この結果はおかしいですよ!」 「どこがおかしいんだよ。」 「だって、私が1位なんて…ソロさんの方が上のはずなのに…。」 肩を落としてうつむくクリフトの背中を、勇者はポンポンと叩いた。 「ああ、そっちか。いいんだよ、俺は何位だろうが。 むしろ下位の方が気楽でいいや。」 「ソロさん…。」 長い間、世界を救う勇者であり、天空の民であるという特異な存在として 計り知れない重責を背負い続けた青年は、現在の「単なる村人」としての 平凡な日常を、心行くまで満喫しているようだった。 しかしクリフトは大きく首を振った。 「やはり駄目です!」 「な、何だよ、耳元で大声出すなよ!」 勇者は耳に手を当てるとクリフトから飛びのいた。 「ソロさんの順位以上に、姫様が私などの下にランキングされるなんて あり得ません!この投票には何か手違いがあったに違いないんです!」 「…俺の順位以上に、って、おい。…まあ、分かってたけどね…。」 馬鹿が付くほど姫様大事の神官が、キャラクターの人気投票で その姫よりも上の順位を獲得してしまったらどうなるか。 「あのな、お前は認めたくないかもしれないが、 これは商業雑誌が主催した公正なる投票の神聖なる結果だからな。」 勇者が諭すように言うと、クリフトは蒼ざめた。 「そんな…私は姫様に何と失礼なことをしてしまったんでしょう…!」 「だーかーらー、お前自身が何かしたわけじゃないだろーがっ! それより、お前、その通知よく読めよ。人気投票は他にも…。」 そのときバン、と扉が開く音がして、明るい声が客間に響いた。 「ソロ!久しぶりね!来てたんだったら言っ…て…。」 満面の笑みを浮かべて部屋に入ってきたアリーナは、そこで固まった。 その視線の先には蒼ざめたクリフトが立ちすくんでいる。 勇者はどこか面白がっているような表情を浮かべて2人を見比べた。 「~~~!」 次の瞬間、アリーナの顔がパパパ、と熟れたリンゴのように紅くなった。 そして何も言わずにくるりと踵を返すと、脱兎のごとく部屋から出て行った。 「姫様!?姫様!!お待ちください!」 クリフトはアリーナを追おうとしたが、部屋の扉は目の前で音を立てて 閉められてしまった。 「…姫様…。」 クリフトは絶望的な表情でその場に崩れ落ちた。 「おーい、大丈夫か?」 勇者はクリフトの横によっこらせ、としゃがみこんだ。 クリフトは床に両手をついて頭を垂れていた。 「あのご様子…。姫様もあの結果をご覧になられたんですね…。 姫様がお怒りになるのもごもっともです。私は何と不遜なことを…。」 「……ん、まあ、あの反応は、『結果』を見たんだろうなぁ…。」 勇者は呟くとクリフトを覗き込んだ。 「で?どうすんの?こんなとこでへたり込んでる暇があったら、 アリーナのこと追いかけた方がよくね?」 ハッとクリフトが顔を上げた。 「そ、そうでした!とにかく、姫様にはお詫びを申し上げなければっ!」 クリフトがすごい勢いで部屋を飛び出して行ったあと、勇者は、 やれやれとため息をつきながらテーブルに戻っていった。 テーブルの上には、くしゃくしゃに丸まった紙が放り出されている。 勇者はそれを手に取ると、丁寧に皺を伸ばした。 「クリフト…あの馬鹿、単独キャラの投票結果でパニックになって こっちの方に全く気が付いてないな…。」 単独キャラの投票結果の下方には「カップリング人気投票結果」との記載があり 一番上には、ダントツで1位を獲得したカップリングの名が印字してあった。 「クリフト×アリーナ」 「まーったく、俺とシンシアより上ってのはなぁ…。」 ブツブツ言いながらも、勇者の顔は微笑んでいた。 「いずれにせよ、あいつらがどんな顔で戻って来るか楽しみだ。」
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クリフトとアリーナへの想いはPart.9 837 名前 737  Mail sage 投稿日 2009/03/27(金) 06 02 51 ID KMT3cko50 勇者一行はモンバーバラの町に辿り着いた。 自由解散し、各々が町で好きなことをやっている。 勇者(男)は町に入らず、ひたすら剣を振るっていた。 ミントスの町で仲間が一気に3人増え、勇者は7人もの仲間のリーダーになった。 “導かれし者たち”は全部で8人。あと一人で全員揃う。 “勇者”としてもっと、もっと強くならなければいけない。 無心に破邪の剣を振るう。剣を振るう度に勇者の汗が散った。 日没が近いのか景色が赤く染まり始めている。 そんな勇者の姿をアリーナはずっと見つめていた。 「勇者、私と勝負して!」 「はぁ?」 勇者は剣を振るう手を止める。 「私と勇者、どっちの方が強いのか確かめたいのよ。」 「これから一緒に戦っていく仲間なのに、どっちが強いとか関係ないだろ。」 「あるわよ!」 「何?言ってみろよ。」 アリーナが自分にライバル心を燃やしているのは気づいていたが、 あえて聞いてみた。正直、面倒なことは避けたい。 納得する理由がなければ勝負を断ろうと思った。 アリーナは言葉に詰まっている。どうやら断れそうだな。 踵を返して剣の練習に戻ろうとした時、アリーナが叫んだ。 「あなたが私に勝てたら、何でも一つ言うことをきくわ!」 「・・・何でも?」 アリーナは頷いた。 なんだかちょっと面白そうだ。 「・・・二言はないな?」 アリーナはもう一度頷く。 「いいよ。勝負しようぜ!」 勇者は剣を離し、ひのきの棒を持って身構えた。 「何よそれ?ハンディのつもり?」 「違うよ。実力の差を測るなら条件を同じにしないとダメだろ。 お互い装備は布の服のみ。オレは普段素手では戦わないからひのきの棒だけは使わせてもらう。」 「いいわね。望むところよ。」 アリーナも身構えた。 「じゃあ今から3つ数えたら戦闘開始だ!」 「1」 「2」 2人の姿は残像を残して消えた。 次の瞬間空中でひのきの棒と拳がぶつかるにぶい音が響く。 「ぐっ」 すごい力だ。まともに食らったら致命傷になる。 隙をついて一気に勝負を決めよう。 勇者はいったんアリーナから離れる。 アリーナは離れた分だけ即座に間合いを詰めてきた。 拳の猛攻。勇者は防ぐのに精一杯だった。 腕とひのきの棒を交互に使ってアリーナの拳をかわす。 その時、アリーナの拳を防いでいたひのきの棒が無残に折れてしまった。 (まずいっ!!当たる!) 勇者はアリーナの拳を無理に避けようと体を反らし、 バランスを崩して仰向けに倒れてしまった。 アリーナの拳の追撃がふりかかる。 (やられるっ!!) とっさに勇者は叫んだ。 「ギラ!!」 閃熱がアリーナを襲う。 「きゃぁぁああぁぁ」 アリーナはひるんだ。と同時にアリーナの喉元に折れたひのきの棒が突きつけられた。 「・・・・・私の負けね。」 「いや、魔法を使わなければオレが負けてた。魔法は使わないつもりだったんだ。」 「あら、魔法も実力の内よ。」 勇者はアリーナにホイミをかけた。みるみる傷が癒えてゆく。 「ありがとう。」 アリーナは薄く微笑んだ。 「私の完敗ね。勇者は回復魔法も使えるんだもんね。 約束どおり何でも言うことをきくわ。何がいい?」 その時のアリーナが普段より大人しく、上目遣いで妙に色っぽかったので、 「・・・じゃあオレとデートして。」 と、とっさに言ってしまった。 自分の発言に少し焦る。 「わかったわ。・・・今夜でいい?」 え、いいのかよ。 「あ、ああ・・・・。」 「それじゃあ、後で部屋に迎えにいくわね。」 夜。 宿の勇者の個室。 勇者は落ち着かない様子でベッドに寝そべっていた。 アリーナの奴、本当に来るのかな。 まぁアリーナは可愛いしそれならそれでいいんだけど。 ていうかオレ、変に意識し過ぎだよな・・・。 と、その時ドアがノックされた。 来たか!? 息を呑む。 「開いてるよ。」 ガチャっとドアが開いた。しかし入って来たのはクリフト一人だった。 「勇者さん、一晩語り合おうじゃありませんか!」 クリフトの手にはワインボトルが三本とグラスが2つ、 それに何種類かのつまみが握られている。 「はぁ!?」 出会ったばかりで特に親しくもないのに何なんだこの誘いは。 ・・・まさかクリフトの奴、夕方のやりとりをどこかで見てたのか? もしかしてクリフトはアリーナのことを・・・・・。 なるほどね、このままここで一晩陣取って オレとアリーナのデートを阻止しようってわけか。 クリフトの顔をじっと見てみると 今にも泣き出しそうな顔をしているように見えなくもない。 「・・・ぷっ」 勇者は吹きだした。 「いいよ。今夜はオレと飲み明かそうぜ。ただし、 オレ、クリフトの恋バナが聞きたい!」 その晩、結局アリーナは勇者の部屋には来なかった――――― 次の朝。 勇者のもとへアリーナがやって来た。 「ごめんなさい!昨日私、疲れてすぐ寝ちゃって 約束のこと、すっかり忘れてたわ!」 「あぁ・・・」 二人のやりとりをこわばった表情でクリフトが見ている。 「あの約束はもうナシでいいよ。 そのかわり、今度何か奢って。」 勇者はニヤリと笑う。 「クリフト!昨日は一緒に飲み明かして楽しかったよな!?」 アリーナが怪訝そうな顔をする。 「クリフト、あなたお酒飲めないんじゃなかったの?」 勇者はクリフトの顔を見る。 なんだって!こいつ、飲めないのに無理して飲んでたのか。 クリフトの顔は真っ赤になっていた。 ――――――ったく、大したヤツだな。 「ぷっ・・・あっはっはははは・・・!」 勇者は屈託なく笑った。 勇者一行は見事[天空の兜]を手に入れ、 スタンシアラ城下町で休息していた。 明日からは、天空の盾を求めてバトランドへ旅立つ。つかの間の休息だ。 町の外で勇者はブラシを使ってパトリシアの手入れをしている。 頭には天空の兜を装着していた。 少しずつ前へ進めていることが勇者の自信になる。 「よしよし、今日の毛並みも艶々だな!」 パトリシアの背をぽんぽん叩く。 その時、背後から強い語調で声をかけられた。 「勇者さんっ!!私と勝負してくださいっ!!」 「はぁ?」 声の主は全身を武装に身を固めたクリフトであった。 またか。 しかも今度はクリフトかよ。 クリフトがオレに突っかかってくるということは 絶対に・・・・・・・・アリーナ絡みだな。 勇者はため息をつく。 クリフトは以前勇者がアリーナと決闘した時の一部始終を見ている。 あの時の勇者はクリフトとアリーナの関係をよく知らなかったとはいえ、 “じゃあオレとデートして”あの発言は失言だった。 その晩クリフトと2人で飲んだ時も、クリフトの恋心はたっぷり聞いたが、 なんとなくその話題には触れられずに終わってしまった。 誤解されてもしょうがない。 (―――――自分で蒔いた種か。) 「なんでオレと勝負したいの?」 勇者は丁重に尋ねた。 「男の・・・・・意地ですっ!!」 「・・・・・・・・・・・・・・。」 今までも嫉妬の視線をチリチリと感じることは何度もあったが、 この切羽詰まった感じは尋常じゃない。 誰かに何か吹き込まれたのか? 誰に・・・・・・って考えるまでもないな。 マーニャが茂みの陰でニヤニヤしながらこちらを覗いている。 「クリフト、悪い。この話は保留な。ちょっと待ってて。」 勇者は茂みのほうへ歩み寄る。 「・・・・・マーニャ、ちょっと話があるんだけど。」 「あら、バレてた?」 「2人きりで話せる?」 勇者は睨みのきいた冷笑をうかべた。 勇者とマーニャは馬車から離れ、人気のない茂みへと移る。 「お前、クリフトに何吹き込んだんだよ!?」 「吹き込んだなんて、人聞き悪いわねっ。 私は何も言ってないわよ!ただ・・・・・。」 マーニャの話によると、ついさっきの昼食の最中に 好みの異性の話題になり、アリーナは「自分より強い男」と答えたらしい。 もちろんその場所にはクリフトも居合わせていたそうだ。 「・・・・・・言いそうだな。あいつなら。 でもだからって、なんでその相手がオレになるんだ?」 「知らないわよ。クリフトがそう判断したんでしょ。 でも実際、2人仲良くない?勇者もまんざらじゃなさそうだし。」 少し口ごもってしまった。 「確かにアリーナは強いし戦闘のメンバーとして気に入ってはいるけど、 それ以外で特別視してないし、それに、あいつが勝手に慕ってくるだけだ!」 マーニャがあきれた顔をする。 「あら、『勝手に』ですって!クリフトに言ったらそれ、火に油よ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」 (めんどくせええええええええええぇぇぇぇ~) 勇者は頭をかきむしりたい気分になった。 「・・・大体さ、恋愛なんて当の本人達だけで 水面下で勝手にやっていくものだろ!? なんで関係ないオレが巻き込まれなきゃいけないんだよ!?」 「傍から見たら三角関係だから、無関係じゃないんじゃない?」 「アリーナは別にオレのこと、恋愛対象として見てないだろ!」 「予備軍てことなんじゃないの。」 「ハァ~~~~~~~~」 勇者は肩を落として深くため息をついた。 「マーニャ。オレどうしたらいいと思う?」 「あら、お姉さんに相談しちゃう?いい心がけね!」 勇者とマーニャは馬車に戻った。 馬車の傍にはクリフトと――――アリーナがいた。 「あ、勇者!聞いたわよ。クリフトと決闘するんですってね!」 アリーナは無邪気にはしゃいでいた。 人の気も知らないで。 「あぁ・・・・そのことなんだけど・・・。」 勇者は突然頭を下げた。 「クリフト!悪い!お前にはザキがあるから正直戦闘じゃ敵わない! だから別のことで・・・・・チェスで勝負しないか?」 「「チェス?」」 クリフトとアリーナが同時に口を開いた。 天気のいい穏やかな昼下がりに、 一人の女性をめぐってチェスの勝負が始まった。 ―――――当の本人は少し退屈そうだが。 なぜチェスなのかと言えば、 クリフトと何か互角に戦えるもので全力で勝負しろ、 というマーニャの提案からである。 これでどちらが勝っても、文句いいっこなしだ。 お互い一言も会話することなく暫く対局は続く。 戦局は、かなり勇者にとって不利なものになっていた。 (・・・クリフトの奴、チェスは本当に強いな。 オレも山奥の村でそこそこ強かったから、わりと自信あったんだけど。) 勇者は目を細め、あごに手を当てる。クリフトは微動だにしない。 じりじりと汗が出る。 「チェック!」 クリフトの声が響いた。 勇者は目を見張る。 ―――これ、絶対ビショップ(聖職者)でチェックメイトになるよう狙ったな。 ビショップがキングを倒してクイーンを護り抜くわけだ! ・・・大した演出じゃないか。 クリフトは盤面を見つめたまま、表情を変えない。 勇者は少しだけ悔しくなった。 「・・・・・・・参りました。」 「え、終わったの?」 アリーナは戦局を全く分かっていなかったようだ。 「クリフト勝ったの?すごいじゃない!」 ―――・・・クリフトのやることは解りづらいんだよ。 勇者は鼻でため息をついた。 「いやぁ、オレは弱いよ!まだまだだな。 “強さ”っていうのは、単純に武術だけじゃないんだな。」 我ながらフォローめいた白々しい発言だ。 「そうそう、頭の良さとか、陰で支える心の強さとか 一概に測れるものじゃないわね!」 マーニャがさらに白々しくまとめる。 「そうね。」アリーナはにっこり笑った。 クリフトはそんなアリーナを真剣な目で見つめている。 すると、アリーナが思いついたように口を開いた。 「あ、そうだマーニャ! さっきはいまいちピンとこなかったけど、 私、あなたが言ってた理想の男性像もいいなって思ったわ。」 「「え?」」勇者とクリフトの声が揃う。 「い、いいわよ、別にリピートしなくったって!!」 マーニャは動揺する。 「ど、どんな理想像なんですかっ!?」 ここはクリフトが食い下がった。クリフトも知らないようだ。 アリーナは空を眺めながら答えた。 「・・・『自分を一番愛してくれる人』がいいんじゃないか?って。 オンナは愛されてキレイになって幸せになる、のよね? お母様もすごくキレイな人だったし、きっと幸せだったのね・・・。」 「ひ、姫様・・・・!」 クリフトは手を組んで感動していた。 勇者はマーニャを見る。 少し照れくさそうに髪をいじっていた。 なんだかんだ言ってマーニャの奴フォロー入れてたのか。 いや、フォローじゃなくて本当にマーニャの理想なのかもしれないけど。 「マーニャ。」 「な、何よ?」 マーニャはたじろぐ。 勇者はニヤリと笑いながら言った。 「『ケツがかゆくならあっ』!」 マーニャの華麗な蹴りを一発、尻に食らう。 「あ、クリフト!」マーニャに絡まれながら叫んだ。 「オレの完敗だったよ。だからもっと直球で行こうぜ!」 勇者は笑った。 アリーナはきょとんとしている。 「?・・・なんの話?」 「・・・いえ、なんでもありません。」 クリフトも笑った。 《おわり》
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 長編1/12 506 :1/10:2006/03/09(木) 20 15 43 ID 3amH8IjL0 サントハイムの若いメイドたちの間で流行っているという恋愛小説がある。 その小説はスタンシアラに住むある小説家が書したものであり、サントハイムだけでなくエンドールやガーデンブルグでも大流行中なのだとか。 今ではお城の中でそれなりに『お姫さま暮らし』をしているアリーナも、その程度の噂や流行くらいは知っている。 仲のよい何人かのメイドたちに薦められ、その小説を読むことにしたアリーナ。 今まで散々読まされてきた作法や歴史の分厚い本とは違う、手のひらに収まってしまうほど小さくて軽い本は、外側だけでなくその内容も当然今までのそれとは違っていて、アリーナの読書に対しての意欲を高まらせた。 『姫様には少々、つまらないかもしれませんけれど』 まさか自分が仕えている姫君に対して嫌味を言うようなメイドなどいない。 ただ、そう言って本を渡したメイドに『姫様に恋愛はわからない』と言われているような気がして、どこか悔しく思ったのも事実。 アリーナは少しむきになって、日当たりのいい窓辺のテーブル席でひとり読書に励んでいた。 「おや、姫さま。ご機嫌麗しゅうございます」 「クリフト」 そこへ偶然、クリフトが通りがかった。 サランの町の教会で神学の授業をした帰りだろう、専門の本を数冊手にしていた。 教会に戻る途中なのだろう。勇者たちとの冒険が終わった後、クリフトは元の王宮付きの神官として忙しく働きアリーナの元に仕えていた。 「読書とは、よい心がけですね。何を読んでいらっしゃるのです?」 「うん。これ、イリナとメロが面白いっていうから」 自分にその小説を教えてくれたメイドたちの名前を告げながら、アリーナは本の背表紙を脇に立つクリフトによく見えるよう軽く掲げるようにして見せた。クリフトも城の中の流行と言うものを多少は耳にしている。 アリーナが手にしている小説は最近、若いメイド達を虜にしているものだとか。 「これは…姫さまにしては、珍しいですね。私はてっきり、武術の本かと」 「もう、クリフトまでそんな風に言うのね。あたしだってたまにはこういう小説を読んでみたいと思うわ」 「ああ、申し訳ありません姫さま。決してそんなつもりで言ったのではないのですよ」 「じゃあどんなつもりよ」 「姫さまも、…恋愛に興味をもたれておかしくないお年頃です」 「子ども扱いして欲しくないわ」 「はい、申し訳ありません」 アリーナはふて腐れてそっぽを向いた。両手に持った本をテーブルの上に乗せたまま。 でもその本はまだ3分の1も読めている様子はない。 こんなとき、アリーナの機嫌を直す方法をたちまち思いつかないクリフトはいつも困ったように微笑んでいる。視界の隅にその表情を盗み見て、しばらくしてから再びクリフトを見上げる。 「一生懸命読んでるけど…、あんまりよくわからないわ」 しばらく黙った後、アリーナは素直にそう呟いた。 勇者たちとの旅の中で、アリーナは多くの人々に出会ってきた。 サランのマローニ、ボンモールのリック王子など、多くの女性に慕われている男性とも関わってきた。そのときのことを思い出してみても、今アリーナが手にしている小説に書かれているような気分の高揚感や切ない気持ち、相手をひたすら想ってやまない感情の在り処を自分の中に見出すことはできなくて。 「どうやったら、あたしにもわかるようになるのかな」 そう続けるアリーナに、クリフトは苦笑するしかない。胸の奥がキシキシと痛む。 世界を救った英雄のひとりが、ある国のお姫様と結ばれるなど、昔々の御伽噺。 時々自分でも嫌になるほどの冷静さでその場に立ったままのクリフトは、アリーナに促されようやくテーブルの向かい側の椅子に腰を落ちつけた。 「姫さまも誰かを好きになれば、きっとおわかりになりますよ」 クリフトはそんな風にうわべだけの言葉をかけることで精一杯だ。 揺らぐ気持ちが声に表れないように注意を払いながら。 「誰かって誰よ。そんな曖昧な言い方じゃわからないわ」 「恋愛は人に決められてするものではありません。その『誰か』とは、姫さまが出逢われたときにおわかりになるはずです。…神に仕える身である私が恋愛を語るなど、本来はおこがましいのでしょうが…私はそう思っていますよ」 「出逢うって言っても…じゃあ、いつ? 前みたいに世界中を冒険していたなら違うけど、こうやってお城の中で過ごしていたら決まった人にしか会えないじゃない」 「大臣殿が姫さまにふさわしいお相手をお探しでらっしゃいますよ。 以前からお見合いの話があるではありませんか」 「それは、そうだけど…」 言葉に詰まったアリーナはまたふい、と視線をはずした。 お見合いの話をまともに聞こうともせず王や大臣たちを困らせていることをたしなめられると思ったからだ。クリフトはいつも冷静沈着で耳の痛いお説教をする。 王様を困らせてはなりません。 ブライ様のお話はきちんと聞いてください。 大臣殿の言うこともおわかりになるでしょう。 「………」 アリーナはすっかり黙り込んでしまった。自分が説教を始めるといつもそうだ。 黙りこくったままでこちらの話が終わるのをただ待っているのだ。 しかしクリフトにはわかる。わかるからこそ『聞いてらっしゃるのですか?』とは言わない。 アリーナは自分の立場や国のことをよくわかっている。わかっているから黙っているのだ。 わかっているからクリフトの当たり前の説教をおとなしく聞いている。 旅に出る前まではまったく聞く耳を持たずにただひたすらに自由だけを追い求めていたアリーナだったが、世界を見てきてさまざまなことを知ってからは一国の姫としての自覚を認識している。 「お見合いしたら、あたしはその相手のことを好きになるのかな」 アリーナは本を閉じてため息混じりに言った。 クリフトは何も言わずに哀しげに微笑むだけ。 「好きになったらどうなるのかな。この本みたいに、毎日会いたいと思うのかな。 毎日おしゃべりしたいと思うようになるのかしら」 そういうアリーナの言葉を聞きながら、クリフトは相槌のような生返事のような返答をするだけ。 そんなことは想像すらしたくない。いつか来るだろう現実を受け止めるのはまだ早すぎる。 あとわずかな時間であっても、アリーナのそばでひとりの家来として静かに想っていたいのだ。 いつかアリーナが、どこかの国の王子と結婚をするそのときまでに、もっともっと優秀な神官にならなくては。 その時風のない湖面のように少しのざわめきもない心で、アリーナを祝福しなくてはならないのだから。 「その時になったらきっとわかりますよ、姫さま。私はそろそろ失礼しますね。 もう戻らないといけない時間です」 「ねぇ」 「はい」 「クリフトには、わかるの?」 椅子から立ち上がったクリフトにアリーナは声をかける。 幼いころから一緒に過ごすことの多かったクリフト。いつしか自分の教育係りとなり、神学や歴史の勉強を教えてくれてきたもっとも身近な兄のような存在の彼は、恋する感情を知っているのだろうか。 「いえ…私は、神に仕える身なので……恋愛ごとは、あまり…」 澄んだ瞳でまっすぐに見つめてくるアリーナに、嘘をつくことの罪悪感が倍になる。 失礼します、と頭を下げて教会へと続く道を歩き出そうとしたその時。 「きゃ…」 「きゃあ! 誰か…!」 女性の悲鳴が重なり合った。それはクリフトとアリーナの上からのもの。 吹き抜けになっている2階をつなぐ渡り廊下を歩いていたメイドのひとりが、運んでいたリネン類の重さのためか脚をとられ、バランスを崩しまさにその身体が落ちかけているところだった。運の悪いことにその渡り廊下は修理中で、一方にはまだ手すりが設置されておらず頼りないロープが渡されているだけの状態。 2階からの高さとは言え落ちたらただでは済まされない。 「危ないっ…!」 アリーナも弾かれたように立ち上がる。勢いで椅子が後方に倒れ派手な音を立てる。 上から降ってくるシーツやカバー。次の瞬間にはそのあたり一面が真っ白で洗いたてのそれに覆われていて。 「クリフト…」 その中には落ちてきたメイドを地面に落ちる前に何とか抱きとめたクリフトの姿があった。 手にしていた本はとっさのことに投げ出すように床の上に落ちて散らばり、衝撃のためにかぶっていた帽子も散らばったシーツの上に飛ばされていた。 クリフトの髪が跳ねる。 「大丈夫ですか?」 そのメイドはアリーナがあまり目にしたことのない者だった。 おそらくはまだ城に仕えだして間がないのだろう。アリーナよりもまだ年下の小柄で華奢な少女だった。名前も知らない。クリフトに抱きかかえられ、何も言えず真っ赤になってしまっている。何が起こったのかもまだはっきりとわかっていない様子で、自分が散らかしてしまった辺りの様子にどうしたらいいのかわからないらしい。 「申し訳ありません、クリフト様!」 渡り廊下のほうから声がする。一緒に仕事をしていたらしい先輩のメイドが大慌てで頭を下げている。 「いいえ、私は平気です」 空を仰ぐように2階を見上げそう言うと、クリフトは腕の中のメイドを静かに立たせた。 その手をとったときに見つけた傷に、低く優しい声で回復呪文を詠唱する。 落ちる際にロープの結び目で擦ってしまったのだろう。メイドの手の甲に生々しい皮の裂けた傷があった。クリフトが手をかざすと見る間に滲んでいた血が薄らいで皮膚が再生していく。 「もっ、申し訳、ありませんでした!」 そう言うとメイドはあせった様子でリネン類を拾い始めた。クリフトもそれを手伝う。 とくん、とくん。 アリーナは人が恋に落ちる瞬間を目にしたのだ。恋に落ちたのはあのメイドなのに、なぜかアリーナの鼓動は早くなる。あの瞳あの表情、あれが小説にあるような想いを抱くと言うことなのだろうか。 とくん、とくん。 いつもと変わらないクリフト。みんなに優しいクリフト。毎日顔を合わせるその存在が、今この瞬間別人のように見えた。あふれたシーツの海の中、クリフトの横顔が一瞬だけ。 2階から降りてきた先輩メイドも手伝い、その場はあっという間に片付いた。 あたりは少しの間騒然としたが、事態の収拾が早く大きな騒ぎにもならずすぐに落ち着いた。 未だに顔の赤みが引ききらないメイドは両手いっぱいにシーツを抱え、クリフトに頭を下げた。そしてその後方にいるアリーナにも気づくと更に身を正してより深く一礼し、エプロンの裾を翻してその場を去っていった。 「申し訳ありません、姫さま」 「あ、うん。あの子は大丈夫だったの?」 「ええ、たいした怪我もないようでした」 クリフトは帽子をかぶり直し、アリーナのそばへと近づくとその足元に散らかした本を拾い上げる。その表情は先程見たものとは違う、もう何年もの間見続けてきたそれだった。 さっきのあの一瞬は夢か幻か、そう思えてしまうほどに。 「ごめんね、わたし、手伝えばよかったね」 「いいえ。驚かせてしまって申し訳ありません」 「ううん、そんなことないわ」 すぐそばに立つクリフトをまっすぐに見据える。 「姫さま、読書をするなら、栞があったほうがいいでしょう」 「栞?」 「ええ、途中でやめなくてはいけないときに本の間に挟むのですよ。 栞とはカードのような感じの、小さな厚紙です。ページを折るなどして、悪戯に本を傷めてはいけませんからね」 そう言うとクリフトは拾い上げた本の間から挟んでいた栞を取り出してアリーナに手渡した。 「ありがとう、クリフト」 「いえ。姫さまの本に対する熱意はずっと続いて欲しいですからね」 栞を挟むクリフトの指の、なんと長くしなやかなことか。 こんなに大きな手をしていたのかと、心の中にめぐらせながら栞を受け取る。 もうずっとずっと前に、自分の手を引いて歩いてくれたあの少年の手はこんなにも大きくなり、身体もたくましくなり、ひとりの女性を抱き上げるくらいなんと容易いことだったのかと。 自分が成長するのと同じようにクリフトもまた成長してきたのだ。 一生懸命大人になりたいと思っていても、恋愛のことすらまともにわからないただのこどものままの自分。 「ねぇ、クリフト」 「はい」 「わたしのこと、おいていかないでね」 「え…?」 「わたし、なんだか自分がいつまでたっても大人になれないような気がするの」 急に大きな不安に襲われた。遅ればせにやってきた思春期とでも言おうか。 周りに親しく何の隔てもなく話せる友達などいない、それが当たり前のアリーナは抱え込んだ大きな不安をひとりでどうにかするしかない。 うまく言葉にすることすらできない漠然さを、ずっとそばにいたクリフトならきっと理解してくれる。 アリーナはそっと静かにクリフトに近づいた。 その肩口に額を乗せ身体を預けるようにして彼の大きな手をとった。 優しい暖かさが伝わってくる。 「大丈夫ですよ、姫さま。私がずっとおそばにおりますから」 首筋に触れるアリーナの髪がくすぐったい。クリフトは片手でその髪を撫でる。 ざわつきだしたアリーナの心が静まるように。 自分がどのようにあればいいのかまだわからず、ただ月日だけは流れた。 何にも変化しないように感じる自分自身に突然不安になったのだろう。 アリーナのことなら手に取るようにわかる。 「そんなの思いつめなくても、大丈夫ですから…」 想いは決して悟られぬように。打ち明けるなどもってのほか。 ただたまらなくいとしいあなたが、姫として、一国の主として、そしてひとりの無邪気な娘として幸せに生きていけるように。 その一生を添い遂げられるお方に出会うまで、私はそばにいますから。 武術を好み強さを求めるおてんば姫の心の内側は繊細だ。 ひとりの男として守ることは許されない。だからひとりの家臣として。 「お守りしますから、姫さま」 低く優しい声にはただお幸せに暮らして欲しいという切ない願いが込められている。 しばらくして落ち着きを取り戻したアリーナは、少し照れくさそうに自室へと戻っていった。 そろそろブライの講義が始まる時間だ。 その後姿をクリフトは穏やかな笑顔で見送る。泣きだしそうな心を隠して。 クリフトの鼻をくすぐったアリーナの髪の匂い。しなやかなその手触り。 それは身体に刻み付けられた傷のように、いつまでも離れなかった。 END 続き2006.04.26
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クリフトのアリーナへの想いはPart5 205 :【神官服】1/5 ◆cbox66Yxk6 :2006/05/12(金) 19 14 48 ID 6M0hqCC90 「隣、よろしいでしょうか?」 夜の酒場に場違いな神官服を、これでもかというほどきちんと着込んだ青年が、穏やかな微笑を浮かべて訊ねてきた。 「・・・・・・いいわよ」 どうぞ。 琥珀色の液体で満たされたグラスを手に、少し身体をずらして見上げると、彼は生真面目に「ありがとうございます」と言いながら、優雅に腰を下ろした。 鄙びた町の酒場は人気が少なく、彼ら以外は数えるほどしかいない。それ故、さほど注目を浴びるということはなかったものの、こういった場で神官服は妙に浮き上がって見えた。 マーニャは鼻の頭にしわを寄せると、カウンターの隣の席に座る青年に向けて呆れたように呟く。 「クリフト・・・こういっちゃなんだが、その神官服はどうかと思うよ」 「そうですか?」 マーニャの抗議を柔らかな笑みでさらりとかわし、クリフトは目の前に運ばれてきたグラスを手にした。そしてマーニャの方へ向き直ると、グラスを目の高さに掲げる。そのままグラス越しにマーニャを見つめると、穏やかな声色で続けた。 「でも、似合っているでしょう?」 クリフトの言葉に思わず吹き出しかけたマーニャだったが、クリフトの真摯な瞳に何を思ったのか、ふいに視線を逸らすと僅かにうつむいた。 長く艶やかな紫色の髪がさらりと流れ、マーニャの顔をベールのように包み隠す。 クリフトはゆっくりと身体をカウンターに向けると、一口だけ飲みグラスを置いた。 そして視線をグラスに固定したまま優しく語りかけた。 「泣いても・・・。泣いてもよろしいのですよ」 クリフトの言葉にマーニャは小さく肩を震わせ、心もち顔を上げた。いつも勝気な姉御といったマーニャが、奇妙に顔をしかめていた。 「なんで、あんたが、そんなことをいうのよ」 しかめられたその顔の中で瞳だけがかすかに揺らいでいた。それはひどく儚げで、頼りなげだった。 しばし沈黙をまもっていたクリフトだったが、やがて澄んだ青い瞳を伏せると、ふうっと吐息を漏らした。 「それは、私が、神官だからです」 そう言い切って双眸を開くと、マーニャの瞳を覗き込んでやんわりと微笑んだ。 「よく、頑張りましたね」 その穏やかで透明な微笑を見つめていたマーニャだったが、ふいにクリフトの神官服を掴むと己の顔を彼の胸に押し付けてきた。 「迷惑なら言って。でないと、私・・・」 大泣きするわよ。 食いしばられた歯の間から漏れた言葉に、クリフトは瞳を和ませるとマーニャの背に手を回し優しく擦ってやった。 「辛かったですね」 よく頑張りましたね。 繰り返される言葉と優しい抱擁。 マーニャはこらえきれず溢れた涙もそのままに、クリフトの胸に身を預けていた。 「父さん・・・父さん・・・・・・・・・バルザッ・・・ク・・・」 嗚咽と共に吐き出される魂の叫び。 本当はずっと泣きたかった。 父が殺された時も、キングレオでオーリンを失った時も、そして今日、サントハイムの城で、変わり果てたバルザックと対峙した時も。 涙が溢れることはあった。だけど、声に出して泣くことはできなかった。 (ずっと、ずっと・・・・・・) 緑の神官服にいくつものシミを落としながら、マーニャは幼子のように泣きじゃくった。 バルザックは父の仇だった。父の弟子でありながら、父を殺し、そしてその研究を奪った。 憎んでも憎み足りない男。それがバルザックだった。 だが、同時に彼は、マーニャが初めて本気で愛した男だった。幼かった自分にとって兄であり、そしてかけがえのない人だったのだ。 「・・・・・・愛していたのよ」 どんなに極悪人になろうとも、どんなに醜悪な姿になろうとも。己自身が命がけで憎み、そして全身全霊で、愛していた。 でも、ミネアには・・・ミネアには言えなかった。 多分、自分の気持ちを知っていたと思う。でも、それでも自分からミネアに告げることはできなかった。言えば、彼女が苦しんだであろうから。 だから、泣けなかった。どんなに辛くても、悲しくても、・・・恋しくても。 ずっと、なんでもないかのように、そっけなく振舞ってきた。 (なのに・・・) 濁流のように押し寄せる様々な感情に翻弄されながら、マーニャはクリフトの神官服を握り締めていた。 どれくらいの時間が経ったのだろうか。 マーニャはそっとクリフトの胸を押して身体を離すと、ぐいっと目元を拭い破顔した。 「ありがとう」 すっきりしたわ。 いつもの調子でそう告げたマーニャにひとつ頷くと、クリフトは、いつもは見せない心からの笑みを浮かべた。 「ね?神官服が役に立ったでしょう?」 イタズラっぽく片目を瞑ってみせる。 その少し得意げな様子に目を丸くしたマーニャだったが、クリフトをまじまじと見つめるとぷっと吹き出した。 「そうね。そうやってみると、意外とイケているわね」 ま、踊り子の服には敵わないけどね。 声を立てて笑うマーニャに気付かれないように、ほっと息を漏らすとクリフトはゆっくりと立ち上がった。 「さてと、神官の役目はここまでです」 そう言うと、少しだけ躊躇ったものの、マーニャの頭にそっと手をのせた。 「もう、大丈夫ですよね?」 思っていたよりも大きくて温かい手の感触にマーニャは不思議な心地よさを覚えながら、大きく頷いた。そして背の高い神官を見上げると、まぶしげに目を細めた。 「あんたが・・・神官でよかったわ」 本当は少し苦手だった。クリフトが、ではなく、心の深淵までも見抜くような聖職者がマーニャは苦手だった。それは、自分の気持ちを悟られまいとする己の防衛本能だったのかもしれない。 酒場のランプに照らし出された緑の神官服が妙に鮮やかで、目に沁みて。マーニャは瞬きを繰り返していた。 そんなマーニャをやさしい微笑で包み込みながら、クリフトは一度だけ、幼子をあやすかのように頭をくしゃりと撫で、そして静かに手を離した。 「あ・・・」 離れてゆくぬくもりにかすかな寂しさを覚え、マーニャは思わず声を上げた。 慌てて口元を押さえたものの、クリフトの耳には届いてしまっていたようで。 「え?」 マーニャの声を聞いたクリフトが振り返った。 その顔はいつものクリフトのもの。自国の姫を恋い慕う青年のもの。 マーニャはそのクリフトの顔に、心の奥が軋むのを感じながらも、精一杯何気なさを装い笑った。 「ごめん。アリーナのこと心配だったろうに」 私のために時間を割かせちゃってごめん。 そう言ったマーニャにクリフトは頭を振ると、春の日差しのように優しい微笑を浮かべた。 「姫様にはブライ様がついていらっしゃいますから。それに・・・・・・」 真っ直ぐに向けられる視線にほんの少しだけ優しい痛みを覚えながら、マーニャはクリフトの言葉を遮った。 「クリフト。アリーナの前では、神官服を脱ぎなさいね」 神官としてではなく、一人の男としてアリーナと向かい合いなさい。 マーニャの言葉に僅かに目を見開いたクリフトだったが、踵を返すと無言で扉の前に歩いていった。そして立ち止まると半身だけ振り返り、目を伏せた。 「姫様が、それを望むならば」 クリフトの消えた扉をじっと見つめていたマーニャは大きく息をつくと、紫の髪をかきあげた。 「あんた、いい男だわ」 ふと漏れた一言に自嘲しながら、マーニャはクリフトの手の感触を思い出す。 大きくて温かい手。それは父のような・・・・・・否、恋人のような心地よさ。 「あんたが神官服を着ていなかったら」 私は、どうしていたのだろう。 新しい恋に落ちていたのだろうか? 脳裏を過ぎった考えに、マーニャは僅かに睫を震わせた。 「馬鹿ね」 クリフトはアリーナを・・・。 マーニャはグラスから滴り落ちていた水滴を指でなぞり、その冷たさに微笑む。 緑色の神官服。いつもは趣味が悪いと思っていた。でも、その神官服に救われ、そして阻まれた。 (アリーナ、あんたちょっと贅沢よ) 望めば手に入るんだから。 それは、誰の耳にも届かない心の声。 マーニャはぬるくなったグラスの中身を呷ると、口の端をあげた。 「バルザック・・・・・・私ってとことん男運がないと思わない?」 (終)
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クリフトのアリーナの想いはPart12.5 634 名前 キウイが導くハーモニー(後編) 1 Mail sage 投稿日 2013/01/05(土) 23 51 42.10 ID dubNSjM00 ある日、アリーナは王に呼び出された。 「え、他国の式典に私が参加するの?」 王に言われて、アリーナは驚いた。 「王子が行く場面だが、王子がいないのだから、王女が行くのだ。」 「今までそんなこと、なかったわよ。」 「今までのお前では任せられなかった。だが今のお前なら大丈夫だ。 サントハイムを代表しての参加だ、任せたぞ。」 国王は多忙のため具体的な説明を全くせず、ブライに任せた。 アリーナの部屋で、ブライが説明をする。 「ワシが同行しますゆえ、迷うことはありますまい。 行き先はブランカの城ですな。」 「ブランカなんだ…」 「サントハイムの城よりも小ぶりな城ですな。」 アリーナは、ブライとは別のことを考えていた。 「ブランカに行ったらクリフトとソロに会ったりして…懐かしいな。」 懐かしいと思うほどに、アリーナは彼らと会っていなかった。 「二人は王宮仕えのはず。会うかも知れませんな。」 「1週後になりますゆえ、予習を行いますぞ。 社交辞令の予行演習を中心に、徹底的に行いますぞ。」 気合十分のブライに、アリーナも応じた。 「当然よ。完璧にこなしてみせるわ!」 「各国の王子や王女の顔と名前の暗記も、完璧にしていただきますぞ。 当日はワシも含め、常にお側でお教えできる者がいるとは限りませんゆえ。」 「誰も側にいなくて大丈夫よ。完璧に暗記してみせるわ!」 そして式典の当日。 各国の代表者を招いて、パーティー形式で行う式典。 開始前の会場は、参加者同士の挨拶の場と化していた。 「アリーナ姫様、ご機嫌麗しく…」 「お会いできて光栄ですわサージュ王子、初めまして。」 こういう場に初参加のアリーナには、挨拶しようと行列ができていた。 アリーナは、次々に来る王子たちとの挨拶を無難にこなしていった。 やがて自席に着くようアナウンスがあり、会場のみんなが着席した。 やっと落ち着いたアリーナは、小声でブライに聞く。 「そういえば、何の式典か聞いてなかったけど。」 「すぐに分かります。」 照明が落とされ、明るく照らされた舞台にブランカ王が登場した。 ご列席の皆様への謝辞など一通りの前置きを述べ、本題に入る。 「皆様に親書で内々にお知らせした通り、養子を迎えることとなりました。」 そこから先の展開には、さすがのアリーナも呆気に取られた。 紹介されて出てきたのはクリフトだった。 クリフトも挨拶や謝辞など述べていたが、アリーナの耳には入らなかった。 式典が終わり、会場から出たアリーナは、めまいに襲われていた。 「ブライ…何なの、これ…」 「見たままですな。クリフトはブランカの王子になったのじゃ。」 「私には何が何だか、事情が飲み込めないわ。どういうことなの…」 「そのまま、見たままですな。 その気になれば、姫様はクリフトと結婚することもできるのですぞ。」 「そういう重要なことは後で言って… 今は頭がゴチャゴチャしてて、何も理解できないわ…」 アリーナは、ふらふらと壁にもたれかかった。 「アリーナ姫様、ご気分が優れないのですか?」 声をかけてきた兵士は、一般兵の格好をしたソロだった。 「ソロ…その格好…似合ってないわ…」 ソロの笑顔のまぶしさに、アリーナはさらにめまいを感じた。 「悪かったな、一般兵に紛れ込んで警備してんだよ。」 「ちょうどいいわ、ソロ。今日の式典の趣旨を簡単に説明して。」 「クリフトはブランカの王子になりました。以上!」 「分かりやすいわ… これから私は、ブランカのクリフト王子として接していくのね。」 「そゆこと。」 頭を押さえながら、アリーナが問う。 「私はもう帰るけど、クリフトと会っていくべきなのかしら…」 「クリフトは今日の主役で、これから国民向けの式典だ。 会う時間なんてないけど、ちょっとだけなら会えるぜ。 つか俺、アリーナを連れてこいって言われてるし!」 ソロはニッと笑ったが、アリーナのテンションはどこまでも低かった。 「せっかくだけど、私、このまま帰るわ… 今日は、クリフトと話しても、何も頭に入らないと思うから… クリフトによろしく伝えといて…」 「へっ?」 外へふらふらと歩きだすアリーナ。 「…大事な話は後日とお伝えくだされ。 今の姫様のご様子では、何を言っても頭を素通りするだけじゃ。」 アリーナと一緒に出て行くブライ。 去っていく二人を見送って、ソロは天を仰いで呟いた。 「こんな展開、あり得ないだろ…」 サプライズの直後に感動のプロポーズだろーが…! ソロの気合は激しく燃えていた。 俺を養子にしたいと言うブランカ王に、俺はクリフトを推した。 渋るブランカ王に、クリフトの人柄や能力を見せつけた。 それでこの日までこぎつけたんだ。 サントハイム王への根回しも万全だ。 最後の詰めをしくじったら、泣くに泣けん。 つーか、一刻も早く婚約させて、HOMO疑惑を払拭しなければ! クリフトが王宮のテラスからブランカ国民への演説を行う直前。 「クリフト…演説でアリーナへの告白をぶちまけろ…」 目が血走っているソロに対し、クリフトは冷静だった。 「無理です。物事には順序があります。」 「チャンスは今だぜ…」 諦めの悪いソロに、クリフトは時間を告げた。 「さあ、時間です。持ち場についてください、衛兵さん。」 「くっ…」 クリフトの後ろからテラスに出たソロは、歓声の大きさに驚いた。 世界を救った英雄であり、世界で最も有名な神官だからな… そんな好感度抜群のクリフトが王子になったら、国の誇りだよな… 静止しようとしても、歓声はなかなか収まらなかった。 「クリフト王子ー!」 「ソロー!」 「お幸せにー!」 おかしな声援が多いことに気づいたソロは焦った。 「おい、クリフト、歓声を止めろ!」 クリフトの後ろから呼びかけるが、大歓声にかき消され、届かない。 クリフトは振り返り、ポーカーフェイスでソロを見た。 「止めろーっ!」 ソロは必死に叫ぶが、声がクリフトの耳まで届かない。 クリフトもソロに何か言うが、ソロの耳には届かない。 もどかしくなって、ソロは至近距離に走り寄った。 そこで顔を真っ赤にして叫んだが、大歓声に消され、声は届かない。 ソロはクリフトの耳元で叫んだ。 より一層の歓声が二人を包んだ。 「国民の前でキスだなんて、大胆ね…」 帰らずに見ていたアリーナは、呆気に取られていた。 「あのアホ共が…結婚の約束どころか、遠ざけおって…」 隣のブライは頭を抱えていた。 新たな王子の誕生と幸せを願う歓声は、鳴り止まなかった。 クリフト王子に栄光あれ!
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M.A.イングリット:勝利のよくばり方程式4(禁止デッキ) 攻略 合計40枚+09枚 上級01枚 ナチュル・ハイドランジー 下級20枚 ナチュル・クリフ×3 ナチュル・コスモスピート×2 ナチュル・トライアンフ×2 ナチュル・ドラゴンフライ×3 ナチュル・ナーブ×2 ナチュル・フライトフライ×3 ナチュル・ホーストニードル×2 ナチュル・ローズウィップ×3 魔法11枚 大嵐 禁じられた聖杯×2 サイクロン 死者蘇生×2 増草剤×2 天使の施し ハリケーン 光の護封剣 罠08枚 神の宣告×3 激流葬 聖なるバリア-ミラーフォース- 奈落の落とし穴×2 破壊輪 エクストラ09枚 ナチュル・ガオドレイク×3 ナチュル・パルキオン×3 ナチュル・ビースト×3
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名前…ノース・コルトニムス 性別…男性 年齢…25歳 身長…178cm 体重…68kg 使用武器…長剣 声優…森川智之 『切り込む……止めてみろっ!』 エードル王家に仕える、近衛隊の隊長を勤める人物。 (彼自身がクリフの部下にあたる。) 銀の甲冑に身を包み、剣術の腕前も高いことから"銀の閃光"という異名を持つ。 また、その数こそ少ないものの風属性魔法を使いこなすこともできる。 サブイベントで限定的に操作可能になり、その後は 自由に戦闘を挑むことが出来る。 ~外見~ 赤い髪を短く刈り込んでいる。 銀色に赤いラインの入った鎧を着込んでいる。
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前のゲーム | 次のゲーム クリア条件:EDを見る 開始時間: 終了時間: 参加人数: 「きょうはむりだな、クリフ」 同名の映画を原作としたゲームだが、この手にありがちなオリジナル展開は一切ない。 映画と同じ展開でゲームが進むので、場面ごとでゲームジャンルが変わる変わる。 どこぞのスレでジャンル縛りしすぎたばっかりに、「レースゲーだから」「アクションだから」と騙されて配信させられる事もしばしば。 レース(1回目) レース(2回目) ガンシューティング(1回目) レース(3回目) ガンシューティング(2回目) 横スクロールシューティング(1回目) 横スクロールシューティング(2回目) アクション という流れなので、ここまで来たお前らなら6時間もあれば余裕のクリアですよね!?
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クリフトとアリーナの想いはPart7 662 :小ネタその2 1/3 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/08/27(月) 16 51 49 ID V2p7I76F0 「ソロって、眉も、睫も、緑色なのねぇ。」 船旅の途中、アリーナは、所在なさげに甲板をぶらぶらしていたが、 ふと、天空の剣を研いでいる勇者の隣にしゃがみこみ、その顔をしみじみと眺め始めた。 「今さら何言ってるんだよ。ていうか、気が散るから、そんなにジロジロ見るなよ。」 勇者が、武器から目を上げずに答える。 アリーナは、勇者のそっけない対応にも、全く動じない。 「うーん、ソロの髪って、本当にきれいよねえ。」 「!!!」 勇者は、思い切り手を滑らせてしまい、悲鳴を上げた。 そして、涙目になりながら、自分に回復呪文を施すと、アリーナに向き直った。 「何なんだよ一体!俺は剣を研いでるの!お願いだから、あっち行ってくれ!」 勇者が必死になっているのは、気が散るからだけではない。 斜め後ろにいる神官が放つ、どす黒いオーラを先ほどからひしひしと感じるのだ。 「だってさー。」 アリーナは、勇者の必死の懇願にも頓着せずに続ける。 「ソロとか、クリフトとかみたいな、珍しい色の髪ってうらやましいんだもの。」 クリフトの名前が出たことで、勇者は少しほっとした。 そして、この機会を逃すまいと、急いでクリフトに向き直った。 「おい、クリフト!アリーナがお前の髪の色、うらやましいってよ!」 勇者に呼ばれたクリフトは、いかにもしぶしぶといった感じに腰を上げた。 「まったく、人の読書の邪魔をしないでくださいよ…。」 勇者は、クリフトのその言葉に内心100回くらい突っ込みを入れたかったが、 身の安全のため口には出さなかった。 と、いきなりアリーナがクリフトに近寄り伸び上がると、その髪を撫でた。 「いいなークリフトも、きれいな青い髪。しかも、さらっさら~。」 クリフトは耳まで赤くなって固まった。 「ひ、ひ、姫様、何をなさるのですか!!!」 勇者はいい気味だとばかりに、面白そうにそれを眺める。 「だって、うらやましいんだもの。私のは単なる赤毛のくせっ毛だし。」 その言葉に、クリフトはとたんに我に返り叫んだ。 「そんなことはありません!姫様の御髪は、輝く太陽のようだと皆申しております!」 「皆って言うより、お前が、だろ~。」 勇者にわき腹をつつかれて、クリフトは再び赤くなる。 そこへ、マーニャとミネアが通りかかった。 「何よ~楽しそうじゃない、混ぜて混ぜて~。」 「そういえば、マーニャとミネアの髪の色も珍しいわ。」 「ふっふっふ、何を今さら。宵闇の輝きといわれたこの美髪を捕まえて!」 「誰がそんなことを…でも、確かに、紫の髪は珍しいと言われますわね。」 若者でワイワイやっているところに、トルネコとライアンが参加する。 「いやー、それよりも、皆さんの髪質がうらやましいですね、私は。 こう見えて剛毛なので、寝癖が付くと大変なんですよ。」 「おお、トルネコ殿もか。拙者なぞ、それが面倒で短く刈ってしまったわ。」 皆であーだこーだ盛り上がっているうちに、クリフトははっと気が付いた。 ここに、仲間の1人が足りないことに。 嫌な予感がして、恐る恐る、後ろを振り向くと―――。 そこには。 涙目でふるふると震えているブライがいた。 「これ以上…これ以上、髪の話はやめてくだされーーー!」 ブライの悲痛な叫びは、大海原に響き渡ったのだった。 ―――その後クリフトは、ブライの機嫌が治るまで、毛根に良い薬を調合し続けたらしい。